神様は食料DEATH (グレーガンス)
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適性試験は痛い

ムクロキュウビ体力多すぎワロタ。BR3回使うって何なの?

初手愚痴失敬。本編どうぞ。


 「人類最後の砦、”フェンリル”にようこそ――」

 

 分厚そうな鉄板の壁にぐるりと囲まれた広い部屋。頑丈な檻のようにも思える部屋でかけられた第一声は歓迎の言葉だった。

多分かなり偉いであろう人からの声かけに背筋が勝手に反応して姿勢を正した……どうやら俺は柄にもなく緊張しているらしい。

 

 「今から対アラガミ討伐部隊。”ゴッドイーター”の適性試験を始める……が、少しリラックスしたまえ、その方がいい結果が出やすい」

 

 緊張を見抜かれているのかそんな言葉がかけられたけれど、あんなに離れた窓から俺の様子なんてわかるんだろうか?

ちょっとした疑問が浮かぶがおそらく無理だろうなという結論がすぐに脳内表示された。

代わりに出てきた答えは定型文だろうという何とも味気ないもので。正直、いらない考察だった。

 

 「心の準備が出来たら、中央のケースの前に立ってくれ」

 

 そんな益体も無いことを考えていたらもうすでに適性試験を進める段階に入っていた。

部屋の真ん中に我が物顔で鎮座しているケースとやらは、非常に物々しい。

どうも剣らしきものが納まっていて、それの柄を俺が握ればいいのだろうが……受け皿のような形状のケースの下半分。そしてちょうど手首が収まるだろう窪みのもう半分がケースの上部に付いている。

 

…………どう考えても落ちてくるよな、上半分。

 

 正直、印象が最悪最低クソッタレである。ゴッドイーターに見慣れたゴツイ腕輪を装着する装置なのだろうが、見た目手首用ギロチンである。

大丈夫なのだろうが、手首と泣き別れしそうで手を置く気にならなかった。

 

――が、しかしゴッドイーターになるのなら避けては通れない必須項目だ、我慢する他無いのだろう。覚悟を決めて手を置き、剣の柄を握る。

……俺、偉くなったらこの試験の装置改良するんだ。

 

次の瞬間。かかったなっアホがっ! と言わんばかりにケースの顎がガシャンっ、と勢いよく噛みついてきた。そして手首からグチャグチャと租借音の様NAaaaaaaaaAAAAaAAAaaAaaaAAAAAaaaaaaaaaa!!!!

 

―――気持ち悪い。

 

細胞一つ一つが作り変えられる。幼虫が成虫になるために蛹の中身が一度ドロドロに液状化して変化するかのように、俺は俺という外見を保ちながら中身がごっそり書きかえられていく。

全身の筋肉、神経、内臓、骨格、関節、鼻も耳も口も眼も果ては脳味噌までその影響は及んでいるように思えた。多分、思えた、筈だ。

 

 

 

 

 しばらくして、もしかしたらほんの少しだったかもしれないが俺的にしばらくして、ようやく俺は自分が手を挟まれたままうずくまっていることに気づき、乱れた呼吸を整えながらゆっくりと立ち上がった。

試験用ケースは俺の復調に合わせたかのようにぱっくりと口を開けた。

 

 剣を握ったまま腕をあげる。見た目持ち上げられなさそうな剣は予想に反して羽毛のように軽く、至極あっさりと持ち上げることが出来、拍子抜けであった。

……ハリボテなのだろうか、この剣。

しかしその予測は外れていたのか、剣の根本辺りから黒い触手のようなものが俺の腕に取り付けられた赤い腕輪と接続した。

 

 何これ気持ち悪っ。

 

 「……おめでとう、君がこの極東支部初の”新型”ゴッドイーターだ」

 

 新型……? 支部初? 駄目だ何の話か全く分からない。というかこの試験のどこがアルコールパッチテスト並みにお手軽な検査なのか小一時間問い詰めたい。

 

 「この後はメディカルチェックが予定されており、その時間まで扉の向こうで待機していてくれたまえ。ああ、気分の悪い時にはすぐに申し出るように」

 

 とにかくあれだ。なにはともあれ、

 

 「期待しているよ――」

 

 俺、偉くなったら絶っっっっっっ対――

 

 「――神薙クウ君」

 

――この試験改良するっ!!

 

 

 

 

 





 ユウじゃなくてクウです。作者の間違いじゃありませんあしからず。


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メディカルチェックは怖い

 適性試験が終わり、メディカルチェックを待つようにと言われ向かった部屋には試験を受ける前に話した受付に立っている赤毛の人と黄色いニット帽が特徴的な俺と年の変わらなそうな少年がベンチに座っていた。

 

 ……とりあえず疲れたし座ろう。

 

 「やあ、こんにちは。ベンチの隣良いかな?」

 「ん? ああ、どうぞどうぞ全然いーよ」

 

 着ている黄色い服のイメージに違わず明るそうな少年だった。話しやすそうな相手で実に助かる。

 

 「あ、そうだガム食べる?」

 

 しかも、彼はこちらと親睦を深めるつもりがあるのかいきなり貢物を差し出してくれるようだ。

たかがガムに釣られる程安いつもりはないが、こちらも親睦を深めたいし、正直嬉しいのでありがたく受け取ろうとすると、

 

 「あ、ごめん切れてた。今食べてるのが最後だったみたい。ごめんごめん」

 

――――とんだガム野郎である。いや待て俺。

……疲れているな、流石にその感想はない。

 

 「いやいや、切れてたなら仕方ないよ。わざわざありがとな」

 

 とりあえずお礼を述べておいた。物資が貴重な現代において物を分け与えようとする人はかなり珍しい。間違いなく彼は良い人だろうから。

ただ、残り個数の把握が甘いまま人にあげようとするぐらいにはうっかりマンであることは俺の脳髄に焼きついた。

 

 「君も試験受けたの?」

 「到底アルコールパッチテスト程度とは思えないあの詐欺試験のことか?」

 「ぶはっ、確かに詐欺並みだよなー、そうそうその試験。てことは君も新人さんか」

 

 どうやら彼も俺と同じくあの試験を先ほど受けた新人の様だ。

 

 「そうだよ。新人ゴッドイーターの神薙クウ。よろしくな」

 「俺は藤木コウタ、よろしくな! ちなみに歳は15で、銃型の神機使いなんだ。クウは剣と銃どっちなんだ?」

 「えーとな、どうも俺は”新型”らしいんだよ、よく知らないけど。あと歳は16になる」

 「新型ぁ? なんだ、それ? 聞いたこと無いなぁ」

 「俺もよくわからなくて困惑してる。なんなんだろうな、説明は後であるだろうけど、気になって仕方ない」

 

 本当に説明不足にも程がある。働きだしても同じような対応なら簡単に死ねそうだ。

考えてて不穏にも程があって全く笑えなかった。

 

 「ふーん、まあでも新型ってことは強いんじゃないか? いいじゃん。……むしろ羨ましいかも」

 「そうであることを祈ってるよ」

 

 と、同期のコウタと親睦を深めていると、部屋の扉が開き一人の女性が入ってきた。

第一印象はキツめの美人だ。黒髪の長髪、やや釣り目だが整った容姿をしていた。

……ただその強いまなざしから厳しい人物であろうことが予測できた。あと露出スゴイ。

 

 「立て」

 

 この一言は一体何であろうか、そう。俺とコウタの前に立った美人さんの第一声である。

正直意味がわからない。俺たちは揃って困惑していたがそれを許してくれるほど女性は優しくなかった。

 

 「立てと言ったんだ。さっさと、立たんかっっ!」

 

 あまりの剣幕にコンマ秒レベルの反応で俺達は立ち上がった。

その様子に満足したのか、うむ。とひとつ頷くと彼女は口を開いた。

 

 「私は貴様らの訓練教官になる雨宮ツバキだ。貴様らをアラガミとの戦いで使い物になるようにするのが私の仕事だ」

 

 どうやら美人さん――ツバキさんは教官であるようだ。諸々の説明は雨宮教官がしてくれるのだろう。

説明のアテが出来て一安心である。

 

 「そして、貴様らが実戦で死にたくなければ、私の言葉には全て――YESで答えろ」

 「」

 「返事は?」

 「「はいっ!」」

 「……よろしい」

 

 説明のアテが出来たはいいが訓練で俺は死ぬのではないだろうか。

 

 「ではまず神薙、貴様のメディカルチェックが先となる。一五○○にラボラトリにて榊博士のメディカルチェックを受けること、藤木はその三十分後だ。何か質問があるならば今聞こう」

 「では、質問があります雨宮教官」

 「ふむ、構わないが神薙、次から私のことはツバキ教官と呼べ。雨宮では被る奴がいるからな」

 

 姓が被るということは兄弟か姉妹でもいるのだろうか? まあそれはいつかわかるだろう、今はそれよりも聞きたいことがある。

 

 「わかりましたツバキ教官。そして、質問ですが俺はどうやら新型神機使いだそうですが新型とは一体何なのでしょうか?」

 「あぁ、一般にはまだほぼ公開されていないから当然の疑問だな。詳しく話すと長くなるから要点だけ話すが、従来の剣型、銃型の旧型神機とは異なり、剣型と銃型どちらにも可変する新しいタイプの神機のことだ。これを我々は新型と呼んでいる」

 「両方に……可変?」

 

 確かにそんな神機は聞いたこともないし、見たこともなかった。

 

 「そうだ。詳しいことは訓練と座学で行うので今は得した程度に考えておけ」

 「……わかりました」

 「では、以上だ。他に質問は――――無いようだな。では、二人共メディカルチェックに遅れず行くように、いいな!」

 「「はい!」」

 

 元気よく返事を返すとツバキ教官は特に振り返ることもなく颯爽と去っていった。

できる女は斯くあるべき。と言った風情だった。

 

 「っはーー! お前すげぇな!!」

 「は?」

 

 唐突に大声で俺を讃えるコウタだが、褒められる理由がわからない俺は少々面食らっていた。

 

 「は? って、あんな空気の中ツバキさん? ツバキ教官の方がいいか。その、ツバキ教官の前でいきなり質問できるなんて度胸あるな。って思ってさ」

 「あー」

 

 確かに独特の圧迫感を発する人ではあったが同時に自分で質問を許可しておきながらちゃぶ台返しするような人でもなさそうだったからというのが大きい。

 

 

 という旨を話すと、

 

 「いや、そんなふうに観察できないって。やっぱクウは度胸あるよ!」

 

 との返答である。どうもコウタは俺を持ち上げたいらしかった。

 

……悪い気分ではなかったのでそのまま新型についてもスゲースゲー言ってもらってから一旦コウタとは別れた。

 

 

 

 十五時のメディカルチェックまでに一通り回れるところを回っておきたかったからだ。

 

 受付では、

 

 「こんにちは、本日よりお世話になる神薙クウです。よろしくお願いします」

 「はい、こんにちはオペレーターを務める竹田ヒバリです。新型神機の適合者の神薙クウさんですね。ミッションの受注等は私を通して行われるので、よく顔を合わせることになると思うのでよろしくお願いしますね?」

 

という、当たり障りのない挨拶をしたり。

 

 よろず屋では、

 

 「こんにちは、なんかスゴイ色々置いてますね……」

 「うん? あぁ新人さんか、そうだね品揃えの良さは自慢だよ。回復錠類にデトックス剤とかスタングレネードとかゴッドイーターにはあんまり関係ないけどRPG弾薬とかショットガン・サブマシンガン・アサルトライフル等の格銃器類にそのマガジンから、繊維類に娯楽物品嗜好品になんでもござれさ」

 

 よろず屋と言っても余りに物騒かつ節操のない品揃えだった。

 

 とりあえず食べたくなったのでガムを買った。

 

 

 

 そろそろ時間に余裕がなくなってきたのでラボラトリを目指して移動を始めた。

その途中台場カノンというピンクの髪の女の子に道案内をしてもらった。彼女もゴッドイーターのようだが正直戦っている姿が想像できないタイプの人柄をしていた。

顔に出ていたのか、衛生兵なんです。との補足を頂きなるほどそれなら合点がいく、と解決した筈なのだが、なぜだかは知らないがそれは違うと第六感が囁いていた。

理性面では全面肯定だというのに。

…………何故だ?

 

 

 

 

 カノンさんに見送られながら俺はラボラトリと書かれている扉をノックした。

 

 「入りたまえ」

 

 適性試験の時にも聞いた声で入室の許可が降りたので、一言失礼しますと言って扉を開けると、

中には立ってこちらを向いている金髪の美丈夫と、椅子に座りいくつものコンピュータを操っている白髪の男性がいた。

 

 「予想よりも325秒も早い。申し訳ないが、神薙クウ君。見ての通り、準備がまだ出来ていないんだ。だから先にヨハンの話でも聞いていてくれたまえ」

 「博士。いい加減公私の区別はつけて頂きたい」

 

 このやり取りを見る限り白髪のほうが博士らしく、少々ズボラながらも研究者っぽい発言をしているなぁと脳に情報が書き込まれた。役に立たなそうな情報だった。

 

 「あなたに研究は任せたからこそ私はその分野からは手を引いたのだから」

 

 美丈夫――ヨハンと呼ばれた男は元研究者だったらしいという、役に立ちそうな情報が脳に書き込まれた。

……できる男はくれる情報も役に立つものらしい。

 

しかしその発言に何か含みがあるのか博士は細い目をスッと開き、

 

 「本当に手を引いたのかな?」

 

 と、疑いの眼差しを向けた。

それに対して不敵な笑みを浮かべて答えないのは明らかになにかあると言っているようだった。

 

 

 

…………いや、新人の前で何やってんだあんたら。

怪しすぎて踏み入りたくないわ。

等と考えていることが表情に出たのか、それとも胡乱な視線を向けられていることに気づいたのか、俺を無視したやり取りはここで終わるようだった。

 

 「いや、すまない。説明を忘れていたな。まずは自己紹介からといこうか。私はヨハネス・フォン・シックザール、このフェンリル極東支部の支部長を務めている。そして彼はペイラー榊博士だ。極めて優――「おおっ、この数値はぁぁ!!」

 

 支部長の説明の途中でぶった切ったのは博士の奇声だった。しかしすごい驚きようだ、目玉飛び出るんじゃないかあの人。

 

 「……極めて優秀な研究者だ」

 

 静かに言い直す支部長は少し哀愁が漂って見えた。

 

 「そして君にはこの支部初の新型ゴッドイーターとして働いてもらうことになる。まだ世界的にも数の少ない新型には期待をしているので、是非とも頑張って――「こ、この適合率はぁぁぁ、スゴイっ! これが新型!! いや、新型にしてもこの数値の高さはっ!!」

 「ペイラーっ! 騒ぎすぎだ!」

 

 又しても説明は博士のリアクションによって粉砕されたわけだが、しかし博士の表情は驚愕と興奮に彩られており、非っっ常ーーに嫌な予感がする。

 

 さっきから騒がれてる新型って俺のことだよね。なに? そんなに驚きの結果なの? 俺。

というか支部長も止めてくれるかと思いきや画面見た瞬間に顔がマッドっぽいそれになっているけれど大丈夫なのだろうか。

――主に俺の身の安全が。

 

 とりあえず、二人をマッドネスな研究界から引き戻さなくては。

 

 「えーと、シックザール支部長に榊博士。興奮しているところ申し訳ないのですがメディカルチェックはよろしいんですか?」

 

 俺の申し出は二人を我に返すことが出来たようで、榊博士は眼鏡を直しながら、シックザール支部長は咳払いなんかをして佇まいを直した。

 

 「すまなかった、驚いただろうクウ君。このあとは博士にメディカルチェックをしてもらってくれ。私はこれで失礼する。クウ君、君には期待している。ぜひ頑張ってくれたまえ」

 

 そう言い残すとシックザール支部長はラボラトリを出ていった。

 

 「やあ、新型くん。先程も紹介があったが私はペイラー・榊。この極東支部での研究者のまとめ役をやらせてもらっているよ」

 「こんにちは、榊博士。俺は神薙クウといいます。よろしくお願いします」

 「ふむ。よろしくねクウ君。さて、早速だがメディカルチェックを行わせてもらうよ。そこのベッドに横になってくれ」

 

 そう言われて俺はベッドに横になる。

うん、安眠を約束する類ではないんだろうけど外部居住区だったら望めないレベルの感触だ。

 

 ベッドの寝心地に気を取られていると気づいたら榊博士が注射器を持ってベッドの横に立っていた。

 

 「あ、あの、その注射器はなんなんでしょうか?」

 

 先ほどの支部長とのやり取りもあり警戒心あらわに尋ねる。恐怖からかやや怪しい言葉遣いになってしまった。

 

 「うん? ああ、心配しなくてもいい。身体に害はないよ。さっきは悪かったね少し予想以上の適合率だったから驚いてしまったんだ」

 

 榊博士の様子から本当に害はないだろうとわかり、注射をしてもらった。

 

 

……すると、段々、眠く、な……って、きた…………

 

 「ゆっくり眠っててくれて構わないよ。つかの間の戦士の休息というやつだ。目覚めは予定では10800秒後だ」

 

流石に、3、時間と……言い、ません……か?

てか、寝てる、間に、何、されるか……わからな…………

 

 眠りに落ちる俺の頭の中は次の目覚めがちゃんとやってくるかの心配だった。

 

 

 



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身体能力はヤバイ


 書き始めてから二日目。RBのメインシナリオ終わっちゃった♪テヘペロ

嘘やん、こんなはずでは……

でもこの小説をエタるわけじゃないよ。もうちょっとだけ続くんじゃよ?




 

 見知らぬ部屋で俺は目を覚ました。どうやら俺の嫌な予感は嬉しいことに外れてくれたようで、俺は快適な目覚めを迎えることができた。

先ほどの検査用とは異なる睡眠目的のベッドは実にふこふことしていて心地よい。

先程まで眠っていたというのにまた眠りにつくという誘惑に負けてしまいそうなくらいにベッドの柔らかさは殺人的だった。

 

 「って、そうじゃない。ここ何処だ?」

 

 部屋の正体が気になった俺は周囲を見渡した。

ベッド以外にも一通り生活が出来そうな設備の揃った部屋だった。

 

……誰かの私室か? いや、もしかすると――

 

 何気なく胸ポケットに手を当てるとカサリ、と紙の擦れる音がした。

ポケットを探ると折りたたまれた紙が入っていた。

紙を広げてみるとそこにはこう書かれていた。

 

――神薙クウ君。お目覚め如何かな? 良い夢の一つでも見れただろうか? まあ、それは置いておいてね、君の寝ていた部屋はこれから君の自室として使ってもらう部屋だ。好きに使ってもらって構わないよ。あとこの後の予定だが、部屋に付いているものでもエントランスのものでも良いからターミナルを使用して確認してくれ、メールが来ている筈だ。連絡はメールで行われるはずだからね。では、君の活躍を期待しているよ。

 

                         ペイラー・榊

 

 P.S まず最初に力加減を覚えるところから始めるといいだろうね――

 

 

 ということはやはり、この部屋は俺の自室になるということらしかった。

ゴッドイーターが所属してすぐに得られる待遇の良さに正直眩暈がしそうだった。

つい昨日までの生活とのギャップがすごすぎて言葉も無い。

明日の生活の心配がないという感覚はここまで安らぎと嬉しさを生んでくれるものだったのかと一人呆けるが、その待遇を維持するためにはとにかくゴッドイーターとして不足なく活躍できてこそだと思い至る。

 

 「とにかく、メールの確認をしなくちゃな」

 

 口に出して、目的を確かにしてベッドから立ち上が……る? と、

 

…………あれ? 身体が、軽――い?

 

 今にも宙に浮きあがってしまうんじゃないかと錯覚してしまうくらいに俺の身体が軽く感じた。

立つという感覚が起きる前と後で全く違っていたために、突っ立ったまま動いていないはずなのに自分が立ったままなのか信じられないというちょっとあり得ない経験に俺は困惑しつつも、手紙に書いてあった追伸を思い出す。

 

 「力加減を覚えるところから始める……」

 

 榊博士が手紙にそう書いたのは俺のこの状態を予測していたということだ。

 

――つまるところ、おそらくだが、俺はメディカルチェック時に何かされたのか、それともゴッドイーターになったことが原因なのか、筋力が恐ろしく強化された状態になっていると考えるのが一番自然なのだろう。

例えるならば運動不足なモヤシ人間がいきなりムッキムキのゴリラ筋肉を手に入れたようなものだろうか?

滅茶苦茶だが、考え方はそう的外れではないと思う。

 

 感覚の差異に気をつけながらとにかくメールを確認、しな、けれ、ばっ!?

自分の感覚ではおっかなびっくりと歩いていたつもりなのだが踏み出す力が強すぎて壁へと顔面から突っ込んでしまった。

普通なら鼻骨の骨折や脳への影響とか悶絶ものの痛みが俺を襲うんだろうが、全くそんなことは無く、せいぜい軽くぶつけたとき程度の痛みしか感じなかったことと擦り傷の一つも傷がつかなかった事実に俺は愕然とした。

これは、強化され過ぎではないだろうか? 自分が化物になったようで少し、血の気が引く思いだった。

ちょうど倒れたすぐ横にターミナルがあったのでターミナルの腕置きをつかんで立ちあがる。

 

グシャゴシャ……バキッ 

 

そんな音が俺の手の中で弾けて俺は今度は尻もちをつくハメになってしまった。

まさかと思いつつ、恐る恐る指を開いて見ると、俺の手がジャストフィットする形に変形してしまったターミナルの腕置きの破片が俺の手のひらにちょこんと乗っていた。

 

 「……ははは。ふっ、え? はは、ハッハッハッハッハ」

 

 中々にいいぶっ壊れ方をしていたと思う。俺が。

 

 

 

 本当に加減を覚える方が先だと実感した俺は座ったまま身体の感覚を確かめた。二時間ほど。

そうしてようやく最低限の力加減を覚えた俺はやっとメールの確認をすることが出来た。

メールによると本日は既にやることは無いようで、明日からの訓練予定が書かれているばかりだった。

ただ、一つの注意書きが眼を引いた。というか吸い寄せられた。

 

※夕食はニ十時までに食堂で取ること。

 

 さて確認するに現在時刻ニ十時五分である。

 

 

――――ニ十時、五分、なのである。

 

 どうやら俺は、初の夕食を食べそびれたようだった。

 

 

…………ガムでも食べるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日からは俺とコウタの訓練が行われる。

始めに行ったのは身体能力テストだった。

 

 「項目ごとに貴様らの記録を取る。それらが一通り終わったらとにかく限界まで走れ」

 

 これがツバキ教官のありがたいお言葉である。

一時間ほどはコウタもゴッドイーターになったために強化された身体能力で楽しんでいたのだが……

 

 

 三時間後

 

 「はぁーっ、はぁーっ、も……無理。死、ぬ」

 「まだまだだぞ藤木! あと二十周はしてこい!」

 「…………マジ、っすか」

 「私の言葉にはなんて答えろと言ったか覚えていないのか。藤木!」

 「はっ、はいぃっ!!」

 「よし。しかし、神薙。貴様随分と余裕だな」

 「はい、自分でも分かりませんがやたらと強化されているみたいでして」

 

 それこそ、我を失い混乱するくらいにな!

 

 「ああ、博士から話は聞いている。おそらくかなり身体能力が上がっているだろうとな」

 

 それをもっと早く聞きたかった。

 

 「だから、安心しろ。その分貴様の訓練は厳しくする。とりあえず神機を取ってこい」

 

 安心できる要素ねえ! と心中叫ぶが決して表には出さずに、はいとだけ返事して神機を置いてあるケースに向かう。

俺の神機はとりあえずバスター/ブラスト/タワーシールドの編成になっているのだということを訓練前に聞いていた。

……一番重い奴全部載せじゃねーか、と脳内突っ込みが炸裂していた。

 

 ケースを開けると、いかにも、『俺は重いぜBOY。持ち上げられるカイ?』という煽りすら感じられるほどにデカくてゴツい神機がのさばっていた。

昨日までならこんなものを持ちあげられるなど夢にも思わないが、今なら大丈夫なんじゃないかと感じられる程度には自身の強化っぷりを昨日の握撃と今日の訓練で実感していた。

 

だから――そこらへんの鉄パイプ程度の重さにしか感じなかったのは全部オラクル細胞とかってやつのせいなんだ。

 

 

 

 

…………もう俺の身体能力に関しては、なんて言うか、あれだ。――アキラメヨウ。

 

 

ア、ツバキキョウカン。コノジンキ、メチャカルイデスネ。アア、ソレニクンレンナイヨウカイテアルンデスカ、ジャアカタッパシカラヤリマショウソウシマショウ。

 

 そして、俺は伝説となった。

 

 

今日の一番の収穫はツバキ教官のあっけにとられた顔だった。スゲェ貴重なもの見せてもらった気分だった。

 

 

 

 そんな訓練?が終わり、今は夕食の時間となった。

昨日行きそびれ、今日の朝始めていった食堂に来ているがメニューは朝と同じくジャイアントトウモロコシだ。食えるだけありがたいので特に文句は無い。だが今はどうやら配給が厳しいだけらしく平常時ならばもっと色々あるそうだ。

食堂のおばちゃんに新しく入ってきたのについてないねぇ、とか言われたが今後の楽しみとなっているので個人的には全然OKだった。

 

 「あ゛あ゛ーーーーー、疲れたぁーーー。こんなのが毎日あんのかよ、俺、大丈夫かな?」

 

一日の疲れを全て放出するかのように机に突っ伏しているのは散々しごかれたコウタだ。

なにかおどろおどろしいオーラのようなものが全身から滲み出ており、隣にいる俺にまで悪影響が無いか心配になった。

 

 「大丈夫か? コウタ」

 「大丈夫じゃねーよ! てか何でクウは全然疲れてねーんだよっ! 神機持ちながらバク宙とか三回転半捻りとかわけわかんねーことやってたじゃんかよぉっ!!」

 

 がばりと起き上がって俺を問い詰めるコウタ。

……いや俺も変なテンションになっておかしなことやってるなぁ。

 

 「出来たからね。仕方ないね」

 「いや、ねーよ」

 

二人で文句なんかを言い合いながらトウモロコシにムシャムシャとかぶりつく。

夕食は結局コウタとぐだぐだと話して終わった。

 

 夕食後はコウタの部屋に誘われてバガラリーを見た。疲れていたコウタが途中で寝てしまったので奴をベッドに放り込んでから自室に戻る。

改めて自分の力と体力、さらには視力等の感覚器まで数段どころか数十段すっ飛ばして強くなっているのが確認出来た。

その滅茶苦茶さには呆れるばかりだが、自身の強力な武器になってくれることは間違いない。

素直に感受して訓練に励もうと心新たに床に就いた。

 

……明日も頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

ラボラトリ階層の一番奥の部屋。

その部屋で幾多のディスプレイの前で思案に暮れている人物がいた。

 

――ペイラー・榊。彼はある人物から上がってきた報告書に書かれている記録と所感、そして先日に自身が取ったデータを並べて、一人唸っていた。

 

 「……素晴らしい、素晴らしいが実に不思議だ」

 

褒め称えてはいるが実に悩ましくもあった。

彼が悩んでいるのはこの極東支部では初になる新型神機使い、神薙クウのことだった。

 

 「新型とはいえ他支部や本部の新型と比較してもクウ君の適合率は高すぎる。正直なぜアラガミ化していないのか不思議なくらいだ」

 

神機に適合するということはより人を外れてアラガミに近くなるということだ。

クウの適合は試験のあの場で即座に強力なアラガミに変化してもまるで可笑しくない程の数値を叩きだしていた。

だからこそ榊は悩んでいる。神薙クウは果たしてこのまま人間のままでいられるのだろうか、

と。

 

 「いつ、何のきっかけでアラガミになってしまってもおかしくない。これは厳重な注意が必要だね」

 

神薙クウは気づいていない。自身がどれほど危ぶまれているかを。

 

 「しかし、報告書の記録は他のゴッドイーターに対して頭抜けている。……戦力としては申し分ないだろう」

 

神薙クウは知らない。戦力として如何に期待されているかを。

 

 「どちらにせよ、彼のことはよく見ていないといけないようだ。元からそのつもりではあったけれどいやはや、嬉しい誤算になることを願うとしようかな」

 

神薙クウは知るはずもない。この考えを持った人物が極東支部に”二人”いることを。

 

 

 

――彼はまだ知らない。

 

 

 

 





 



 クウは強く生きることを決めましたまる


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訓練終了は早い

 

 「神薙、お前は明日から実戦配備になる。今日はその仕上げをするぞ」

 

 心を新たにした日から数日が過ぎ去ったある日の訓練の始めに、賜ったツバキ教官の第一声はそんな言葉だった。

 

 「……もう、ですか? 早いですね」

 「お前の訓練結果からもう十分やれると判断したし、上も許可を出したからな」

 

どうやら俺はついに戦場デビューを果たすことになるようだ。とうとう俺もアラガミとドンパチやらかすことになるのだと思うと少し感慨深いものがあった。

 

 「……特に緊張などはしていないのか、図太い神経をしているヤツだ」

 

 ツバキ教官は呆れ気味だ。この数日ですっかり見慣れた表情になってしまったが、自分でも呆れていたから仕方ないと思う。もう俺は諦めたがな、考えることを。

 しかし、精神性は大して変っていないつもりなのだが……

 

 「いけませんか?」

 「構わない、どうせ明日のことだからな。今は訓練に取り掛かるぞ」

 

俺のほんのちょっとした心配はツバキ教官にバッサリと両断された。

 

 そして俺は訓練室へと移動し、アナウンスでツバキ教官の指示が飛ぶ。

 

 「今日は実戦に近い形態で訓練を行う。ダミーアラガミを複数展開しお前にけしかける、好きに戦ってみろ」

 

 好きに、か。

相変わらず最重量級構成の神機を右手一本に下げ、左足と左手を前に出し正面に対して横向きに構える。

ツバキ教官にはバスターでそんな構えはしないし出来ないと言われたが、俺にとってはこう構えるのが一番楽だった。

 

 「では始めるぞ、くれぐれも全力を尽くすように!」

 

 ツバキ教官からの激が飛んだ瞬間にオウガテイルを模した水銀色のダミーアラガミが俺の前に形成される。

 

 出現数は三体で、三体ともこちらを認識して威嚇のポーズをとろうとしていた。

 

――だが、それでは遅すぎる。

 

既に俺は動いていた。

勢いよく踏み込み一番近くにいたオウガテイルの目の前で神機を横に薙ぐ。その結果、ダミーアラガミは神機の軌跡の上と下とで両断され、ぐしゃりと地面に横たわり、形状を保てなくなったのか霧散した

 

 だが、俺はその様を確認していない。

 

なぜなら俺はダミーアラガミをぶった切った直後に、仲良く横並びしている残り二体のダミーアラガミの前に立っていたからだ。

 

――アドバンスドステップ。一般にショートと呼ばれる一番軽量な刀身の神機でのみ可能な行動で、自身の斬撃の直後にステップと呼ばれるゴッドイーターの短距離高速移動法を行うことだ。

俺の怪物的身体能力を持ってすればこんな真似が可能なのである。

自身がゴッドイーターのアベレージを大きく超えていると言われたのが納得できる事実の一つだ。

 

 つまり、一体目を切り捨てた俺はアドバンスドステップを使用して残り二体の前に躍り出たわけだ。

横薙を振り切った態勢のままこいつらの前にいるわけだが、欠片の問題も無い。

鉄パイプ程度の重さの代物を右から左へ、左から右へ切り返すなんて――訳無いだろう?

 

 

――結果、上下分断死体が三つ作られたわけである。

すぐに霧散したから並んだわけではないがな!

 

 「ふむ、良い調子だな。だが調子に乗るなよ、もっと無駄のない動きを心掛けろ。貴様はアドバンスドステップなんてものを使ったが使わなくとも殲滅出来た筈だ。貴様は何のための新型だ」

 

 勝ったはずなのにツバキ教官に改善点を指摘されてしまった。悔しいが指摘は正しかった。

俺が新型神機使いである強み、つまりは銃型神機も使うことが出来るという点だ。

一体目を切り捨てたあと俺は無理な態勢となるステップをするのではなく、ブラストに切り替えてモルター弾でも撃ってやつらを爆砕すれば良かったわけだ。

確かにそちらの方が隙の少ない立ち回りと言えよう。 

当然のことだが俺にはまだまだ改善の余地があるということだった。

 

 だが、改善の余地があることは俺が未熟で良い理由ではない。

自身の未熟というものは無性に腹が立つものだった。俺はつい歯を食いしばってしまっていた。

 

 「くくく。神薙、悔しいか? 確かにベストでは無かったとはいえ決して悪いものではなかったぞ?」

 「わかってて言ってますよね、それ。すでに滅茶苦茶悔しいので別にいいんですよ?」

 「馬鹿ものが、上官の意図を汲んでいるなら黙って取りかからないか、次の訓練の催促でも構わないぞ?」

 「じゃあ、早速次に移ってもらって良いですかね? 絶対に次はベストな結果出してやりますからっ」

 

 わざと慰めるようなこと言って俺のプライド刺激しに来るとか意外に性格悪いことするな、あの人。

だがあとで指摘したら訓練には必要だろう?とか涼しい顔で言いそうだ。

 

 ともかく次の訓練に集中しよう。次は絶対にミスしねぇっ!!

新たに構成された十体のダミーどもに俺は引導を渡しにかかった。

 

 

 

 

 訓練後の夕食は美味い。

そう感じるのは俺だけではあるまい、どんな人でも身体を動かし頭を使った後のご飯は最高だ。

そう思わないか? コウタ。

 

コウタは 机に 突っ伏して 精魂尽き果てている。 起こしますか?

 

 はい

 いいえ

→脇腹にフック

 

 「起きろコウタ」

 「ぐはぁっ!?」

 

 うむ彼を起こすには十分な一撃だったようだ。ぬおお、なんて呻きながら元気に騒いでいる。

 

 「なにすんだよクウっ! 俺にとどめを刺す気かっ!!」

 「いや、とりあえず飯食わないと元気出ないからな手荒く起こしただけ」

 「……優しく起こしてくれても良いじゃんかよ」

 「いや、地味に俺何回か話しかけてたからな?」

 「え゛っ……それマジ?」

 「マジ」

 

実はご飯云々の下りはちゃんと発声しているがコウタの反応は無かった。

それ以前にも話しかけていたのだが全て俺の悲しい独り言になっていた。

 

 「うわあああ、ごめんっ」

 「構わないよ、いいからご飯食べよう。不味くなるぞ?」

 

そうして食事に取り掛かる俺たち。

食べる合間合間の会話で明日俺がついに戦場に立つことを話した。

 

 「マジでっ!? クウもう実戦なのかよっ」

 

コウタの驚きは妥当だろう、何せコウタもかなり優秀な結果を出しているとはいえまだ訓練期間は十日以上ある。そのコウタもゴッドイーターの平均期間より短いのである。

俺の訓練が如何に短いかよくわかるというものだ。

 

 コウタのリアクションに肯定しようとすると……

 

 「ええっ! クウさんもう訓練終わっちゃったんですか!?」

 

意外なことに俺の後ろから声がかけられた。

振り向くとそこには初日にラボラトリに案内してくれたカノンさんが驚きを顔に貼り付けて立っていた。

あと他にも二人、俺の見知らぬ二人がカノンさんの後ろにいた。赤い服に黒髪の男性と、青い服に銀髪の男性だ。前者からは明るい、そして後者からは真面目そうな印象を受けた。

 

 「ええと、そうですけどカノンさん。後ろの方々はどちらさまでしょうか?」

 

とりあえず肯定するとともに気になった知らない人たちのことを聞く。

すると赤い服の男が自己紹介するから食事の相席をいいかと切り出してきた。

どうやら彼らはまだ食事を取っていないようだった。当然断わる理由も無い、俺は一応コウタに確認をとってから相席を承諾した。

 

 「いやいや、悪いね。俺は大森タツミ、カノンとそこの青いブレンダンと一緒の防衛班なんだ、ちなみに俺そこの隊長ね」

 「青いのとはずいぶんな言い方だが、俺はブレンダン・バーデルという。防衛班のメンバーの一人だ。二人は任務の仲間だな。よろしく」

 「ええと、そちらの方とは初対面ですよね。台場カノンといいます。私も防衛班でお仕事をやらせて頂いているんです。よ、よろしくお願いしますねっ」

 

 どうやら防衛班の面々の様だ。このあと俺とコウタも自己紹介をして、話は明日の戦場デビューについてになった。

 

 「訓練始めて五日ぁ!? 何だそれ早すぎるだろ。担当教官誰だよ!」

 「雨宮ツバキ教官ですよ」

 「ツバキ、さんが? じゃあ本当に大丈夫なのかもな。あの人メッチャ訓練厳しいけど教官としての腕は確かだし」

 「しかし、それにしても早い。新型とはそんなにすごいのか、頼もしい限りだな」

 「だ、駄目ですよブレンダンさんプレッシャーかけるようなこと言ったらっ。」

 「いやカノンさん、大丈夫だと思いますよ。クウの奴今日も元気にダミー殲滅してたみたいですし、気にするほど繊細な性格してないですから」

 「……おい、コウタ。ちょっと組手しないか? 食後の運動がてらさ」

 「やめてください、死んでしまいます」

 

 ぎゃいぎゃいと騒ぎ、いらんことを言うコウタをいじりつつも楽しく会話が出来た。

タツミさんは明るい性格でコウタと似ているが、コウタよりも包容力を感じられる人だった。重ねた年齢分の差なのかもしれない。

ブレンダンさんは生真面目な人みたいだった。タツミさん曰く堅物だそうだが、良い人であることに違いはなさそうだった。

カノンさんは丁寧な人だが天然らしいことが今回の席でわかった。あと先日の俺の第六感は正しい事が二人の証言から得ることが出来た。

 

カノンさんと任務に行くことがあれば重々に気をつけるべきだと俺の脳髄にはっきりと焼きつけられた。

 

 「ああ、そうだ聞いてなかった。明日の同行者は一体誰になるんだい?」

 

 タツミさんの何気ない質問に、ええーと、とツバキ教官が言っていた名前を思い出した。

 

 

 

 

 「――リンドウさんですよ」

 

 





 本当は最初のオウガテイル戦まで行くつもりだったんですが、防衛班出したら意外と長くなってしまった。

何故だー。

 カノン出したのにイチャイチャ出来ていない。
いつになったら主人公はイチャイチャを見せつけられるのか。はぁ。

多分いつかはしますよ(白目)


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初実戦はチョロい


 ペース的に遅くなってすいません。エタるフラグとかじゃありません。
ようやく実戦だよ。戦闘描写書くの時間かかるなぁ。

 じゃあ本編どうぞ。


 

 

 此処、フェンリル極東支部は通称で”アナグラ”と呼ばれている。

そのアナグラに住み着いた神喰らいの戦士たちが戦場へと向かう最後の場所が、このエントランスだ。

 

俺こと神薙クウも今日。その仲間入りを果たすために、エントランスのベンチで人を待っていた。

 

 その人の名前は雨宮リンドウ。昨日タツミさんから聞いた情報によると同行者の生存率が断トツトップの滅茶苦茶強いゴッドイーターらしい。

 

その生存率たるや脅威の九十パーセントを誇るんだそうだ。

アラガミ最前線、この世の地獄、魔窟、アラガミ動物園等と世界で言われているこの極東支部で、だ。

しかも名字からわかるように俺の訓練を見てくれたツバキ教官の親族だ。どうやら弟らしい。

姉弟揃ってこの極東支部における重要人物、すごい姉弟がいたものである。

 

 そんなすごい人に俺は付き添ってもらえる訳で実にありがたいことだった。

昨日もリンドウさんなら大丈夫だと先輩三人から太鼓判を押してもらったし、ついでにリンドウさんについて色々教えてもらった――のだが、それらを思い返そうとした時エレベーターの扉が開いた。

 

 扉から出てきたのはツバキ教官と似た容貌をしていた。彼がおそらく雨宮リンドウさんだろう。

容姿とは異なり雰囲気がツバキ教官と違い少々軽い空気を纏っているように感じられるが、昨日先輩方に聞いた話的にはその方がそれらしかった。

彼もこちらに気づいたようで俺に話しかけてきた。

 

 「よお、お前が新入りか?」

 

砕けた口調だ。どうやら本当に姉弟では性格がずいぶん違うらしい。

 

 「はい、今日が初めての実戦になる新入りの神薙クウです。今日はよろしくお願いします」

 「おーおー、よろしく。俺は雨宮リンドウ、第一部隊の隊長なんかをやらして貰ってる。まあ、今日はとりあえず生き残れば大丈夫だからあんまり緊張なさんな」

 

特に緊張はしてなかったのだが堅めの言葉が緊張と取られてしまったのかもしれない。

まあどうでもいいことだ。

リンドウさんもカウンターに向かってヒバリさんから今日の任務を貰おうとしていた。

 

 「リンドウさん、支部長から見かけたら呼んでくれと言われているのですが……」  

 「あー、わかった、見なかったことにしてくれ。それよりちょうどいい任務は無いか?」

 

それでいいのかリンドウさん。てか支部長の扱いひどいな。

 

 「……まったくもう、こちらの任務になっています。確認してください」

 「了解っと。――――、ん。まあこれぐらいなら何とかなるだろ、じゃあこれ頼むぜ」

 「はい、ではミッション受注完了ですお気をつけて行ってきてくださいリンドウさん、クウさん」

 

準備は終わったようでリンドウさんがこっちに来た。

 

 「よし新入り、これからミッション内容を伝える」

 「はいっ」

 「よーし、良い返事だ。ミッション名は悪鬼の食卓、場所は贖罪の街で、内容はオウガテイル五体の討伐だ。詳しくは現地で話す。行くぞ新入り」

 

そうして、俺は初の出撃を果たした。

 

 

 

 

 贖罪の街が一望できる高台の上に俺とリンドウさんは立っていた。風は乾き、ボロボロのビル群は言い知れぬ哀しさのようなものを感じさせる。中心近くにある一際巨大な穴が開いたビルが嫌に象徴的だった。

 

 「この辺もずいぶんボロボロになっちまって……昔はもっと綺麗だったんだぜ?」

 「昔の街を知っているんですか?」

 

この昔が指すのはアラガミ出現以前のことだ。俺は生まれた時から世界が修羅っていたから映像記録でしか知らないが、リンドウさんはその頃の世界を知っているのだろう。

街を見る目に少しだが懐かしみの色を感じた。

 

 「ああ、まあ俺がガキの頃の話さ……。それはともかくとしてミッション前に命令を言っとく、よ~く聞いとけよ。

 命令は三つ。死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ、運が良ければ不意を突いてぶっ殺せ。あ……これじゃ四つか」

 「ふはっ、はは」

 

リンドウさんの様子はちょっと間が抜けていて、

集中していた俺はちょっと気が抜けてしまって少し吹き出してしまった。

 

 「――とりあえず死ぬな、それさえ守れば万事どうにでもなる」

 

俺はリンドウさんの教えを不思議なくらいすんなりと受け入れて気負いのない返事をしていた。

やれやれ、この人は本当にすごい人だ。と、俺は思ったのだった。

 

 

 

 

 高台で陽気なひと時を過ごした俺達は今、教会の陰に身を隠していた。

 

 「あー、連中固まってやがるよ。散らばってくれてる方がありがてぇんだけどなぁ」

 

俺達が覗く先には討伐対象のオウガテイルが五匹全部集まっていた。

リンドウさんとしては俺に各個撃破させたかったのだろうが、思惑が外されて悪態をついている。

だが、リンドウさんは仕方ねぇか。と一言つぶやいて俺に向き直る。

 

 「新入り、わかってるな?」

 

俺は頷いて神機を構えた。

 

 高台でありがたい命令を貰った後、今日の任務は俺の思うように動いていいとリンドウさんに言われていた。「ケツは持ってやるから好きなようにやれ、もちろん大前提の命令は踏まえて、だけどな」男らしいことこの上なかった。

 

 普通こんなことは新人には言われないのだろうが、俺は新型故の期待があるのかもしれなかった。

 

――ならば期待に応えてこそ男が上がるというものだ。

 

俺はリンドウさんの前に出ると、オウガテイルどもの内一番手前の奴だけがこちらを向くのを見計らって一気に教会の陰を飛び出した。

 

 

 

 一番手前のオウガテイルまでの距離は目算三十メートル程あったが人類を超越した速度でぶっちぎる。

まだ俺を認識しているのは一番手前の奴だけだ。

そいつは鳴き声をあげようとしている。俺の事を他の個体に知らせたいのだろう。

 

だが残念。他の奴らが俺のことを知るのはお前が喰われてからだよ。

 

神機を捕食モードに変える、ミキミキと音を立ててバスターの長い刀身を喉の奥にしまいながら、真っ黒な(あぎと)が姿を現わす。

俺はその作業が完遂する一呼吸の間に距離を詰め切り、オウガテイルの頭を神機で喰い千切ってやった。

 

喰い千切る音か、俺の足音かどちらかは知らないが他の奴らはこちらに気づく。

奴等は驚いただろう。振り向いたら仲間の一匹が首無しになってるんだからな。

これで一匹は仕留めた…………と言いたいところだが、残念ながらマスクロストオウガとなっているこいつはまだ死んだわけではない。

 

 アラガミという奴はいわゆるオラクル細胞の塊、単細胞が集まった群体生物に過ぎず頭が急所というわけではないのだ。

だから首無しも時間がたてば再生するだろう。そこがアラガミが厄介な点である。

 

だが、アラガミとて絶対無敵の不死身の存在などでは無い、もしそうなら人類はとっくに餌として消費されつくしていただろう。

奴らの急所はコアと呼ばれる部位で、それによって奴等はオラクル細胞を自身の形に留めている。そのコアをぶち抜かなければアラガミにとどめはさせないのだ。

 

……が、頭にある聴力視力等の機能は当然無くなるし、捕食した俺は――

 

 

 神機は元の形を取り戻し、俺の体は力が漲っていた。

アラガミを捕食することによりオラクル細胞が活性化するバースト状態に移行したからだ。

 

溢れる力をそのままに、こちらに気づいたオウガテイル共に切りかかる。

 

一体目は突撃捕食直後の前傾姿勢から切り上げ逆袈裟の形でナナメに両断してやった。これで二体はしばらく戦闘不能だ。

二体目は振り抜いた姿勢の俺に噛みついてきたが、この状態は俺にとってなんら行動が阻害される姿勢等ではない。腕を縮め真っ直ぐに突き出して後ろにいるやつ諸共串刺しにしてやった。

串刺しになった時コアごとぶち抜いたのか、串団子になった二体のオウガテイルの動きが停止した。

まあ頭からケツまで貫通しているからそんなこともあるだろう。

 

残る一体は尾を上げる独特なポーズでこちらに向いていた。

これは尾の針を飛ばすオウガテイル独特の攻撃だ、いくら小型アラガミでも直撃を貰えば即死までありうる。俺はいったん距離を取るためにバックステップを踏んで奴の針を躱す。飛んだ針の間隔は広く、到底当たりはしないものだった。俺はその間に刺さった死骸を捕食で神機に喰わせた。

 

 オウガテイルは離れた距離を詰めようと走り出す……が、俺は奴に合わせて距離を詰める気なんてさらさらなかった。

 

――神機の形態を変える。新型の俺に許された特権、剣から銃への変形だ。

 

撃ち出されるのはブラストに合ったモルター弾――――そら、吹っ飛べ。

 

 

弾丸が鼻先に触れたオウガテイルは爆砕してバラバラになった。行動不能の連中にも止めを刺して俺の初陣は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 「適合率は前例が無いほど高く、必要とした訓練期間は五日。身体能力は人類を超えていて、人格はやや好戦的で負けず嫌いだが上司に対する態度は心得ているな。しかも新型の前代未聞ルーキーだ。支部長も博士も期待をしている。それを頭に入れておけ」

 

 それが我が尊敬する姉君から教えてもらった今回俺が面倒をみる新入りの評価だ。

正直最初に聞いたときは冗談かと思ったが、姉上はこういうことでは嘘は吐かない。つまりはそんな化物みたいな奴が今回俺がみる新入りということだった。

……よく俺も化物みたく強いなんて言われるが俺はベテランだから良いんだよ。経験ってやつだ。

 

まあ、なにはともあれ支部長にも博士にもさらには姉上にも期待されているなんて可哀想なやつだ。新入りにとって大きな期待なんてのは肩に乗った大荷物、足に繋がれた大鉄球てなもんで、戦場で動きを鈍らせる原因になる劇物なのだから。

 

 だから俺は新入りの緊張は出来るだけ解いてやろうと色々言ったし、好きにやれ後は俺がなんとかするということも言った、んだが…………

 

――――まさか超スペックを利用しての一方的な殲滅劇を見せられることになるとは思わなかった。

 

俺の助けがいらないというケースはほとんどないのがこの新入り同伴ミッションだが、極めて一方的な展開になるなんてのは初めてだ。こりゃ、姉上達が期待するってのも無理無いわ、俺も期待したいぐらいだからな。

それに期待に気づいてんのか気づいてないのか知らないが新入りの動きに迷いは無かったし、良い動きが出来てた。

前代未聞のルーキーってのも間違いないだろう。

 

……だが、これからどうなるかはわからねぇ。期待をかけるだけになったらあいつは何時か身動きが取れなくなっちまう、なんてこともあるだろう。

そういう時は俺が気にしてやんなきゃ駄目だろうからな。

 

 「やれやれ、これも隊長の役目ってな」

 

 一言だけ呟いてから止めを刺してる新入り――クウのところへ向かう。

 

 「おいクウ、ずいぶん豪快な戦い方だったじゃねぇか。怪我はないか?」

 「大丈夫です、無傷ですよ。あと素材回収も終わりました」

 「よーし上出来だ。どうだ、初陣の感想は?」

 「正直に言えばあっけなかったです。これからもこうならいいなって思ってますよ」

 「おうおう、言うじゃねえか。だが残念なことにそいつらより強いのはたぁーくさんいる。だから油断しないで早く背中を任せられるようになってくれよ?」

 

単純にスペックなら俺の知る誰よりも高いかもしれないが、チームでの動き方なんてのはまだ分からんだろう。そういうのも覚えてもらわんと背中は預けられない。

 

 「出来る限りのことはしてみます。期待には応える主義なので」

 

あっさりと返しやがって、頼もしい限りだ。

こいつなら何時か俺の背中を守るどころか俺を超えて強くなる日が来るだろう。だがその日までは、助けてやるのが先達の務めってな。

 

 「威勢がよろしくて結構だ。あと言ってなかったがお前は俺の第一部隊配属になる。俺がお前の隊長って訳だ。何かあったら相談してくれてもいいぞ」

 

言った意味に気づくことはないかもしれねえ。だがいつか壁にぶち当たった時には相談の一つでもしてくれるだろう。

隊長発言には驚いたのか眼を少し見開いたクウを尻目に言う。

 

 「さあ、任務は終わりだ。警戒はしながらだがアナグラに帰るぞ」

 「――はいっ、隊長!」

 

一拍遅れた返事を返した大型ルーキーが俺に付いてくる。

今日は初任務達成祝いとでも言って飯を奢ってやるとしよう。

俺は飯と配給ビールを楽しみに戦場を後にした。

 

 





 ※うちのクウ君は超人です。

リンドウさんかっこいいですよね。あんな風に書けてたら嬉しいなぁ。
次はリンドウさんの恋人の露出ねーさんかなぁ。
待て次回!


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神機の扱いはぞんざい

 前回サクヤさん回と言ったな、すまん。ありゃ嘘だった。
まぁでも、女キャラは出るから勘弁ということで。

 あと更新の遅れについてですが、申し訳ありませんがこの作品は書き溜めしてないのです。
予定が入ると途端に更新ペースが落ちます。
ぶっちゃけ最初の3日で五話というのが頭おかしいんです。
作者にもリアルの生活があるのでまた勘弁してください。

 長々失敬。では本編どうぞ


 初陣終了後、隊長に昼ごはんを奢ってもらった。

普段食べてるご飯より量が多めで味も良かった。どうやら配給が元に戻ってきたらしく質が当初食べていたものよりも上がっている。いい傾向だ。この調子で美味しいものが増えたら生活にハリが出るというものである。

 

さらに昼ごはんを食べているときに橘サクヤという人ともご飯を一緒した。

俺と同じく第一部隊所属らしく俺の先輩ゴッドイーターだ。銃型神機でスナイパーを使っているらしい。極めて露出の多い人で、ツバキ教官を超える肌面積の持ち主だった。背中を全て出すトップスに下はホットパンツにパレオを斜めに巻いた服装で、美脚を惜しげもなく晒していた。

また、言動と仕草から隊長の恋人っぽかった。

 

 

 

そして俺は今またエントランスへと来ていた。俺に都合のいいミッションが無いか探しに来たのだ。

初陣が終わったばかりでなにを……と思うかもしれないが、地獄の極東支部には新人を遊ばせている余裕があるか微妙なところだと考えている。実際、外部居住区に住んでいるときは少し思うこともあったからな。

 

受付でエントランスのヒバリさんにミッション探しの旨を伝えると呆れた顔をされた。

 

 「クウさんは初ミッションから帰ってきたばかりですよね? 無理はいけませんよ。今日はもう自室でゆっくりなさるなりした方がいいかと思いますが……」

 「俺でも出来そうなものがなかったらそうするよ。さっきのミッションは呆気なかったから全然疲れてないし、だからちょうどいいミッション探してもらえないかな?」

 

 実際俺はメディカルチェック以降大して疲れたことが無い。ツバキ教官にどこまで動けば疲れるのかテストされた日ぐらいだ。あの時は止まらずにアクロバットな動きをし続けたり、重りを付けたまま全力疾走にステップ踏まされたりとなかなかハードな訓練で初めて疲労でへたり込んだのを覚えている。

 

そういったことや初陣の様子はオペレーターのヒバリさんにも伝わっているようで新人の無茶無謀と断じきれず駄目とすぐに言えないのだろう。

ヒバリさんには悪いが、俺はなるべく経験を積んでおきたいので少々の無理は通させてもらおう。

 

 「……しかたありませんね。本当に無理のないものだけですよ?」

 

少し考え込んでからOKを出してくれたヒバリさんにありがとうと言ってミッションを探すヒバリさんを待ちながら今日の初陣について少し思索する。

 

 俺の動きについては問題なかった。少々強引なところはあったが俺の場合化物身体能力を前提とした戦い方で問題無いからだ。あえて言うなら最初にブラストを撃ってなるべく吹き飛ばし数を減らすという戦法もとれたが、砂煙で視界が悪くなりそうだからやらなかった。

 

――いや、きっとそれは違う。俺はおそらく、捕食がしたかった。

初陣の焦燥や緊張は不思議なほど感じなかったし、自身の命の危険、そんなもの(・・・・・)より俺の体は奴等の殲滅と捕食を考えていたような気がする。

自分を大事にしないつもりなんて無い。けれど、それでも俺は捕食を優先して行おうとしただろう。

 

……これでは、これではまるで……俺が――――「えっ! シユウが西側方面に接近中!? 直近にいるのは――カノンさん。しかも小型アラガミ複数と既に交戦中。応援も今は人が出払っているし――――「ヒバリさん。俺が行きます」

 

考え事等吹き飛んだ。聞く限り中型種の登場みたいだが、誰かの危機を救う手段があって動かないなんてありえない――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 「カノンさん、戦闘区域に想定外のアラガミが接近中、中型種です。相手はシユウと思われます応援を送っていますのでそれまで持ちこたえてください!」

 

 無線から飛び出たヒバリさんの声は切羽詰まっているように聞こえました。

外部居住区はアラガミに複数の方向から襲撃を掛けられています。この西側方面と真逆の東側方面そして北側方面の三方向もです。最初はここにブレンダンさんもいたのだけれど北側方面で追加の襲撃があって、そちらの応援に行ってしまいました。

残ったのは小型だけですし、数もそれほど多く無かったので私一人でも何とかなるはずだったのですが――いえ今はそんなことを考えても仕方ないわぁ、とりあえず目の前の獲物を穴だらけにしなくちゃね!

 

私に喰らいつこうとするザイゴートをブラストの銃口を向けて吹き飛ばす。

ザイゴートは断末魔を上げることもなくバラバラになってしまった。

 

 「……あなたの悲鳴が聞けなくて残念だわぁ」

 

とはいえ言ってもいられない、シユウがこちらに向かっているのよ。普段なら新しい獲物に悦ぶところだけど流石に私一人では分が悪いわ。

考えながらもオウガテイルを消し飛ばす。残りはオウガテイル三体にザイゴート二体これなら何とかなるかしら。

神機を構えなおす、と

 

 「シユウ戦闘区域到着まで残り三十秒を切りましたっ早い! カノンさん応援も全速力で向かっていますっなんとか時間を稼いでください!!」

 「……余裕はないみたいですね」

 

Oアンプルを口に放り込みながら呟きました。

でも気にしていられないのも事実です。とにかく目の前の敵から――パズルのピースみたいにしてやらなくちゃね。

 

 「ほら、吹き飛びなァ!」

 

撃つ球は一体のザイゴートを微塵に砕いて、放射弾はオウガテイル二体は表面から削れていった。

このままいけば――そう思った束の間、残ったザイゴートがふわふわと外部居住区へと飛んで行こうとする。

外部居住区には民間人が……

 

 「後ろには通しませんっ!」

 

私はザイゴートを撃ち落とそうとして後ろを向く。

狙いをつけて引き金を引こうとした瞬間に突然の衝撃が背中を打ち据えて私はボールのように転がってしまいました。

地面を転がったせいなのか口の中から土の味と砂のジャリジャリとした感触がしますが気にしないよう努めて顔を上げるとオウガテイルが突進したんだろう事がわかりました。

そしてその後ろには青く私の三倍は高い身長のアラガミのシユウが掌から大きな火炎弾を撃ち出すのが見えました。

 

 そんな、このままじゃ私……死んじゃうかも――火炎弾が迫る。私は死なないことを祈って身体を丸めて……………………はれ? 熱く無い?

 

 「――間に、合った。助けに来ましたカノンさん」

 

顔をあげた私の前には、大きな盾で私をかばう輝くクウさんがいました。

 

 

 

 

 全速力。足が地面を踏み砕く程の力強さで大地を駆ける。

人外のトップスピードは百メートルを僅か二秒フラットで駆け抜ける。

そんな速度で現地に足を進める俺はあっという間に外壁を視界に収めた。すると外壁の上からザイゴートがふわふわと侵入してくるのが見えた。

 

――ちょうどいい、餌になれ。

 

そう頭に浮かんだ瞬間俺は地を蹴った。

哀れザイゴートは壁を越えた瞬間、下の死角から身体の九割を喰い尽されて死んでしまいましたとさ。俺は可哀想とは思わんがね。

 

喰ったザイゴートで俺はバーストモードに変わる。それによって身体能力は更なる向上を見せ、ゴッドイーター特有の空中ジャンプを可能とする。

空を蹴って壁を越える。

そこには倒れているカノンさんに火炎弾が襲いかかるところだった。

俺は急いで壁を蹴り、カノンさんをかばう形で盾を展開しようとするが、間に合うかがかなり微妙なところだった。

間に合え、間に合え――――

 

ギリギリのタイミングを制したのは俺だった。カノンさんの前に立って火炎弾を受けとめる。

良かった、守れた。

 

 「――間に、あった。助けに来ましたカノンさん」

 

 神機をバスターに戻しながら敵を睨む。敵はオウガテイルとシユウが一体ずつ。あとはこちら陣営の戦力確認からかな。

 

 「カノンさん、まだやれますか?」

 「……」

 「カノンさん? 聞こえてますか?カノンさんっ!」

 「あっ、は、はいっ。大丈夫です。まだやれますっ!」

 

 敵から目を離すわけにはいかないから後ろは向けないが、立ち上がる物音がしたから大丈夫だろう。

 

 「じゃあカノンさんはオウガテイルを仕留めてください、その間は俺がシユウの足止めをします終わったら援護お願いします。行きますよっ!」

 「えっ、そんな、でも。ああっ待って下さい――」

 

俺はカノンさんの返事を待たずに駆けだした。

突進する俺に唸り声をあげるオウガテイルだが、お前はカノンさんに相手してもらってろ。

 

 俺の相手はシユウ(コイツ)だ。

 

オウガテイルをシカトして横を通り過ぎると、目の前ではシユウが拳法家のような構えをとって俺を待ち構えていた。

相手は徒手空拳が得意なのかもしれないが、足止めの役割としては接近戦を仕掛けるしかない。

俺は真正面からシユウに突っ込んだ。シユウが右腕を振りかぶり俺を薙ぎ払いにかかる、俺は薙ぎ払いが俺に命中する前にさらに加速して、奴の足を切りつけながら後ろに駆け抜けた。

 

 「ちっ、硬い」

 

思わず口に出てしまったがシユウの下半身はずいぶん硬いようで切りつけてもまともに刃筋が通らなかった。

シユウに振り返ると奴もこちらに振り返る途中だった。思わず神機を振りその羽根のような腕を切りつける。

どうやら足よりは柔らかかったようで傷を付けることは出来た。しかし浅い傷だ、腕をぶった切るには程遠かった。しかもあっという間に再生されて元通りだ。

柔らかいと言ってもオウガテイルと比べたらかなりの違いだな、豆腐とバター程も違う。

 

 つまりどういう事かというと――――もっと力を込めればぶった切れるという事だ。

 

俺は神器を持つ手に力を込める。より強く柄を握り、より速く腕を振る。

必要なのはたったそれだけ。

 

相手の攻撃? そんなものを飛ばさせる余地なんて与えねぇよ。

 

奴は分かっていないのだろう。先ほどまでの斬撃が加減されたものだったなんて、だからそんな簡単に俺に向かって拳を差し出せるんだ。

 

目の前に迫る拳を手首で切断してやった。

痛みで引っ込める間も与えてやらない。そのまま奴の右腕をぶつ切りにしてやる。

鮮血が吹き出る。

それすら躱して痛みに蹲ってしまったシユウの左腕も根本から切り取ってやった、今度はうつ伏せに倒れ込んできやがった。

 

あーあーみっともねぇ、両腕を失っても再生するんだからとりあえず逃げでもすればいいのに地面に五体投地しちまって。

 

いや、三体投地かな? どっちでもいいか。

 

奴の頭を捕食してやる。これでシユウは死にはしていないが活動停止状態になった。コアを摘出すれば死に絶えるだろう。

 

 まだ神機が旨そうにグチャグチャと頭を咀嚼していた。

神機も味を気にしたりするんだろうか、戦う相手もいないからかやけに時間をかけて食べている。

オウガテイルやザイゴートは一瞬で飲み込んだくせにな。

 

お、ようやく飲み込んだ。じゃああとは素材回収だな。神機をシユウに向けて構え、コアの回収を行った。

 

 そこで気付く、神機の柄にうっすらと俺の手形が出来てしまっていることに。

俺の握力は金属を素手で毟り取れてしまう。使った神機はおそらく大きく傷ついてしまっただろう。

整備をしてくれているリッカさんに見せるのが恐ろしいな。また怒られそうだ。

 

そんな考えを振り払いながら顔を上げると、オウガテイルを片付けたカノンさんがこちらをトロけた表情で見つめていた。

 

 

 

…………いやまて、なぜそんな表情なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 クウ君の性格が安定してないって?
彼は交戦時凶暴化してます(暴露)
口調が雑になるのは仕様です。
あとぞんざいなのはタイトルの方です(震え声)

 ちゃん様にフラグが立ってしまいましたね。クウの明日はどっちだ!
待て次回!


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幕間 憧憬と共感と考察

 今回話は進みません。
サクヤさんの出番は次回かなぁ

ごめんねサクヤさん、サクヤさんファンのみなさん。




 礼儀正しそうなまともな人。それが初めて会った時思ったことでした。

 

自室で一人ぼうっとする。

今日は危ないところだったけどなんとか無事帰ることができて安堵しているのかもしれませんでした。

 

そう、その今日危ないところを助けてくれたクウさんのことを考えていたんでした。

 

 

 

 クウさんはきっと凄いなんてものじゃなく凄い人なんじゃないかと思っています。

最初会った日、まだたった一週間前のことなんですよね。

ラボラトリの階で榊博士の研究室が分からないから道を聞いてきたのが知り合いになる切っ掛けでした。

その時は本当に他愛の無い話をしただけでした。

 

 それから数日の間は見かけることはありましたが特に話しかけはしませんでした。いつも同期のコウタ君と一緒に楽しそうにしてましたし、私からの用事も別にありませんでしたから。

……あと一度だけツバキさんと一緒にいるのを見ましたが雰囲気が怖くて近寄れませんでした。なんであんなに殺気立っていたんでしょうか?

 

 

 そして、昨日タツミさんとブレンダンさんと一緒に食事を取ろうとした時でした。コウタ君がもうクウさんが実戦に出るということを叫んでいたんです。

 

私は自分の耳を疑いました。

訓練期間たったの数日で実戦に出るなんて聞いたことも見たこともありませんでしたから。

だからそのときはつい声をあげて真偽を確かめようとしました。

 

 そうして色々とクウさんとコウタ君から話を聞いていたんですがクウさんの訓練の話は非常に滅茶苦茶でした。

私も適合率に関しては極めて高いと榊博士に言われたことがありますが、クウさんみたいな余りに人間離れしたことなんてできません。タツミさんに神機に慣れるのがとっても早いと言われたことがありますがせいぜいその程度なんです。

クウさんみたいにアラガミ顔負けな身体能力なんて普通、ないんです。

何かの冗談とも思える内容でしたが、今日彼の異常性は実証されてしまいました。

 

 

 

――――彼は実戦初日に中型アラガミ、シユウを極めて一方的に斬殺した。

 

 ヒバリさんに自身が応援に行くと発言してから到着までの時間は一分を切って、しかも走って――です。

これは到底人間業では成し得ないことでした。

極東支部は半径二キロメートルもの大きさです。エントランスを出て私のいたところに直線で向かったとしても二キロを一分未満で走破したことになる。

 

 つまりクウさんは私の想像をはるかに超える前代未聞のゴッドイーターなのです。

 

 

 

 思わず私をかばってくれた時のクウさんを思い出して頬が熱くなってしまいました。

もうダメかと思った瞬間に私をかばってあんなセリフ、かっこよかったぁ、バーストなんでしょうが輝いてもいましたし。

あの時の私には神々しいとも思っちゃいました。

 

そしてそのあとのシユウ戦。私は早々に――オウガテイルを微塵に吹き飛ばしてやってからあの子の援護をしようと思ったんだけれど、そんなものは必要なかったわ。

 

シユウの腕が切りやすいと見抜くや否や、シユウの片腕をバラバラにしちゃって、痛みで無様に蹲ったシユウに容赦も躊躇も無く追撃。

左腕ももぎ取って、倒れたシユウの頭を――パックン。って一口で食べちゃうんだもの。しかも相手が動けないのをいいことにゆっくりと磨り潰すように咀嚼していたわ……。

そして何より、あの眼、表情っ。どちらも相手をただの餌であるかのように淡々と、それでいて残虐に、冷たく侮蔑を隠さず、けれど嗜虐の炎を瞳の奥に灯していたわぁ。

 

 「ああ、ぁあっ……ふはぁっ! はぁ、はぁっ……ふふふ、ふふふふふ――――感じちゃうわぁ」

 

シユウを仕留めた直後。一瞬だけシユウに向けた視線のまま私の瞳を彼は射抜いたの。ゾクゾクしたわぁ、私も食べられてしまうかと思ったもの。

今も思い出しただけで身体が火照ってしまったわ…………今日眠れるかしら?

 

まあでも今日はいい日だわ。やっと、私の同類が見つかったのだもの。

いえ彼は確かに私の同類だけれども多分、いいえ間違いなく私以上の――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――――まるで、俺がアラガミみたいじゃないか。

 

 出撃前に考えていたことを自室で改めて考え込んでいた。

 

 俺は自分が何をおいても相手を捕食しようとすることと、余りに人間離れした身体能力からこんな風に自分の事を思ってしまっていた。――――あの時までは

 

今日俺はカノンさんのことをかばい、助けた。

これが切っ掛け、そして確信を得たのはシユウ(あいつ)を滅多切りにした時だ。

 

目の前で失われそうな命を助けたいと思うのは俺が俺である証だ。アラガミはそんなこと思わないだろうし、思ったらそいつは最早人類の敵なんかではないだろう。

それに俺がシユウを殺した時思ったことは、こいつはただの餌に過ぎず、なにより――無様に這いつくばった奴への嘲りと、そんなやつを切り刻めることへの快楽だった。

 

…………どうやら俺はアラガミみたいになったというより、戦闘時アラガミに対してのみドSになったと言った方が正しいようだった。

 

 

 

 

――――なんっだ、それっっ!!!!

 

真面目に悩んでた俺がバカみたいじゃないか。ターミナルやらなんやらで調べてゴッドイーターのアラガミ化もありうるって自分で結論出した時俺めっちゃ焦ったのにそんなくだらないことだったなんてなぁ。

一応人格に影響がある上にまだアラガミ化しないと決まった訳ではないがそんな危惧はどこかにすっ飛んでしまった。

 

まあ、今日はカノンさんも助けられたし変な懸念も気にならなくなったしでいいことばかりだっ…………いや、そういえば神機を痛めてしまってリッカさんに説教されてしまった。

 

柄に手形を作ってしまったこともそうだがおそらく俺の神機を振るう力が強すぎて全体、特にパーツの接続部分に負荷がかかっていると言われてしまった。

それでも大分手加減しているんだけどなぁ、まだ全然力籠めてないし。

と、ポロっと零してしまったら神機が俺の足枷になってしまっていると言って愕然としている様子だった。

 

 榊博士からも言われていたけどそこまでイレギュラーなんて。しかも訓練の時よりなるべく強靭になるよう手も加えてるんだよ? とのことだった。だがやはり俺の全力には耐えられそうもない。

もっと強化出来ないのかとも思ったが出来るならやっているだろう。リッカさんも同じことを考えていたし、これ以上は今後の研究次第だから申し訳ないけど今はそれで我慢してくれとも言われてしまった。

 

結論。なるべく力加減を覚えて戦うのを心がけることにした。

 

 

 

 考えをまとめてカップをテーブルに置く。温かいお茶を飲んでいた俺は気分がだんだん落ち着いていくのを感じた。

こんな風に一心地着くなんていうのは一週間前の俺では全く考えられなかっただろう。外部居住区ではその日を凌ぐので精一杯だった――特に一人だった俺みたいなやつは。

 

 「…………寝るかな」

 

――――独りだった、けど今は違う。

 

ベッドにモゾモゾと入りながら思う。俺は今幸せなんだなぁ、と。

 

 明日も一日頑張ろう。

 

毎晩俺がふと心に浮かべる一言だった。

 

 

 




 カノンさんをもっと色っぽく猟奇的に書きたいです安西先生。

今回でカノンの心境とクウの過去が少々見えてきましたね。
全貌が明らかになる時は来るんでしょうか? ←(おいっ)

ゆったり頑張ります。
読んでくれている方々もゆったり読んでください。

以上グレーガンスでした。
ではまた次回


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この展開はいい加減しつこい


 うん、まあタイトル通りだよ。
そろそろそういう描写は減らして物語を進めたいと思ってる。

……本編どうぞ。


 心地よい感触に包まれながら微睡む。

ふわふわと俺を逃さないよう包んでいるのは柔らかい掛け布団と柔らかで良い匂いの女性の腕――――――な訳がない。

 

脳内でツッコミを入れながら自分にかかっている毛布をひっぺがす。

 

 朝だ、今日も一日アラガミ討伐(もぐもぐ)頑張るかー。

 

しかし、さっきの妄想は何だ? 戦場明けで昂ぶっていたのだろうか? 確かに年頃の男子たる俺は見目麗しい女性とそうなりたいという願望は当然あるが、アナグラにやってきて僅か一週間程でそんな相手を作れるほど軟派で女性慣れしているわけではなかった。

 

うーむ、今度ターミナルでなんか探してみるのもありかもしれない。いや、何とは言わないが。

 

 

 それはさておき、とりあえずご飯にしよう。

朝食に誘おうとコウタの部屋をノックしてみるが返事は無い。

おそらくまだ眠っているのだろう、いつものことだ。何回かノックしてコウタを起こす。

今日は割とすんなり起きたほうだった。ひどい時にはあいつの端末を延々鳴らすハメになる。それでも起きない時は残念ながら放っておくことにしている。

まあ、そんなことになったことは無いけれどね。

 

 「おっはよーうクウ、起こしてくれてサンキューな」

 「おう、じゃあ食堂行こう」

 「了解! ああ、それで昨日ツバキ教官がさー――――」

 

といった風に俺達の朝は始まり、各々の近況報告やくだらない話が続く。

まだ一週間程でしかないが続いている俺達の日常だった。

 

 そして食堂にてカノンさんにバッタリ会った。

 

 「あっ! クウさん!……にコウタ君、おはようございます」

 「おはようカノンさん」

 「あっ、カノンさんおはようございます!」

 

挨拶をされたので普通に返す。コウタも俺に続いて挨拶をした。

しかし、俺を見つけた時とコウタを見つけた時のリアクションに差がある気がする。俺優位で。

昨日の今日だから仕方ないかもしれなかった。そして一緒にご飯を頂く。

その途中でコウタが 俺、席外した方がいい? と俺に小声で聞いてきたのが少々意外だった。

――――コウタにそんな気の使い方が出来るとは……

 

流石にコウタを舐め過ぎな意見だろうか、顔に出ていたらしくコウタに白い目で見られてしまったが正直そんな気遣いが出来ると思わせない普段のお前が悪い。

 

 ありがたい申し出だが別にいらないと断った。

確かにカノンさんは非常に魅力的な女性だ。顔立ちは整っているしスタイルも抜群。纏っている雰囲気も可愛らしく是非ともお近づきになりたい相手だ。

おそらく昨日の出来事で多少の興味を引いたのか彼女の対応は好意的だし俺も嬉しく思っている。

が、逆に言えばそれだけだ、変な気を回してもらうような関係では無い。

 

 という旨の話は当然コウタにしなかったが、頭の中に浮かべ三人で普通に楽しく朝食の時間を過ごした。

 

 あと今度一緒に任務に行こうという約束もした。戦闘時の性格は俺とベストマッチだと思うので恐ろしさより楽しみが上回る不思議な感覚だった。

タツミさんから話を聞いていたコウタは不安そうな顔をしていたが大丈夫だと背中を叩いておいた。

 

 

 

 そして、早速任務に行こうとエントランンスに顔を出す。

するとヒバリさんに呼ばれた。なんだろうか?

 

 「おはようヒバリさん。今日のミッションについてで合ってる?」

 「おはようございますクウさん。ええそうですよ。今日はこちらのミッションを受けてもらいます」

 

 そうして俺の端末にミッション内容が送られてくる。

えーと、内容は……と。

 

 ミッション名 鰐二号

 

 討伐対象 グボロ・グボロ オウガテイルの小集団(およそ5~8体程とみられる)

 

 場所 鉄塔の森

 

 同行者 橘サクヤ

     ソーマ・シックザール

     エリック・デア=フォーゲルヴァイデ

 

 

 ふむ、ミッション目的としては集団による動き方を覚えることも含まれる、と。

なるほどねぇ。あとサクヤさんがいるのか、他の二人は知らないなぁ。

 

 「了解したよ。ちなみに同行者の人は今どこに?」

 「同行者の内お二人は既に現地に向かっていますよ。サクヤさんはまだもうすぐ来るはずなのでサクヤさんと現地に向かってください」

 

 「というわけで、早速向かいましょうか」

 

 顔を上げるとそこには昨日リンドウ隊長に紹介してもらったサクヤさんがいた……何時の間に?

ちょっと驚いたが返事を返して一緒に出撃ゲートをくぐった。

 

 

 

 

 

 

 「…………今日の任務ね」

 「はい?」

 

 移動中周囲の警戒はしつつも他愛ない会話をしていたのだが、突然サクヤさんが黙ったと思ったらいきなり真面目な空気で話しだした。

 

 「今日の任務はね、実は急遽変更されたものなのよ」

 

……急な変更か――それはもしかして

 

 「昨日俺がシユウ倒したのと関係あったりします?」

 「……その通り。本当なら今日あなたは私と二人でコクーンメイデンを討伐するはずだったの、けどねあなたは昨日シユウを単独で倒してしまったわ、実戦配備初日にシユウを単独撃破なんて記録に無いわ。だから今日の任務の難易度が上がった、上はあなたにそれだけの期待をしているのよ」

 

正直、困惑している。

上に期待されているのはわかっていたつもりだが即日任務の変更を行う程の期待をかけられているとは思わなかった。

もしかしたら俺が思うよりも新型という肩書は重いものなのかもしれない。

俺の適合率の高さや異常性は大それたものなのかもしれない。

 

――――そして、それによって俺は、更なる死地へと、赴かされるのかも……しれない

 

 

 

 

 

 

 

 「――やっぱり期待は重いもの……かし……ら?」

 

 私の言葉が尻すぼみに小さくなって消えていく。最後の一音はちゃんと発声出来たかも怪しかった。

しかし、それも仕方のないことだと思う。

私はこの話をしたら目の前の彼は少なからず動揺を見せると思っていた。確かにそれは正しかったわ。

けれどそれはほんの最初だけ、その数瞬後。彼は笑って――いた。

 

――ぞくり、と背筋が冷えた。

彼の笑顔には挑むような積極性と満ち足りるような満足感が宿っていた。

彼が何を感じたのかは分からない。けれど彼にとって上からの期待というものは重みどころかカンフル剤にしかなっていないようだった。

 

 

 

 昨日のリンドウの話を思い出す。

 

――ねぇ、どこまで本当なの? リンドウ。

――ん? 全部だよ、全部。

――彼そんなにすごいの?

――ああ、そうさアイツは、クウは天才だよ。アラガミを殺す才能が天井知らずにぶっ飛んでやがる。アイツがもっと早くからいれば、って少し考えちまうくらいだ。

――……あんまりプレッシャーかけちゃ駄目よ?

――――大丈夫さ、あいつなら。

 

本当だったわリンドウ。この子はきっと規格外なのね。

そう感じ取れる。目の前の彼はそう感じさせるだけの凄みを私に感じさせた。

彼が口を開く。

 

 「大丈夫です。期待には応える主義ですから」

 

きっと今日のミッションはあっけないものになる。そう思った。

 

 

 

 

 

 





 クウが原作より強くなるということはこの世界線の展開も変わっていくということなのだ。
どこまで変わるんだろうね。←えぇ……

 次話上田君がついに登場。
上田君の運命や如何に!

 

 

やめて!上から来るオウガテイルに、エリック・デア=フォーゲルヴァイデがマミられたら、アラガミ動物園でアラガミと戦ってるエリックの意思まで食べられちゃう!

お願い、死なないでエリック!あんたが今ここで倒れたら、エリナやお父さんとの約束はどうなっちゃうの? チャンスはまだ残ってる。ここを生き延びれば、生き残る展開もありえるんだから!

次回「エリック死す」。デュエルスタンバイ!



うそうそwww


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