IS~平凡な俺の非日常~ (大同爽)
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プロローグ

はじまるよ♪


 二月中旬。行きたい高校も推薦を貰い、同級生たちがうんうん唸りながら勉強してる中、俺は毎日をぐうたら生きていた。

 学校では入試対策がほとんどのため、推薦で進路の決まった俺にはほぼ関係ない。最後の定期テストも先週終わった。家に帰ればパソコンでゲームしながら深夜アニメの録画を見る。まったくもって天国だ。

 そんな俺の元に届いた知らせ。なんでも女性にしか動かせないはずのISを動かした男性が現れた。

 ISの正式名称は『インフィニット・ストラトス』。宇宙空間での活動を想定して作られたマルチフォーム・スーツ。

 だが製作者の意図とは別に宇宙進出は一向に進まなく、とんでもないスペックを持っている機械は兵器へと変わってしまった。戦略兵器と呼ばれるほどに。だがそれは各国の思惑によりスポーツへと落ち着いた飛行パワードスーツとなっている。

 そんなISを動かした男性が現れたことで全国の未成年者を対象にISの起動実験を行うらしい。ちなみに強制参加。成人男性は希望者のみ参加らしい。

 そんなわけで今日、俺は自分の通う中学校の体育館にて全校男子生徒の並ぶ長蛇の列に並んでいた。いい加減立ちっぱなしで足が痛くなってきた。

 

「へい、颯太。どうするどうする?もし俺らがIS動かしてみ?一躍時の人になれるぜ?」

 

 俺の後ろから声をかけてきたのは親友の山本卓也。この学校でよくつるむメンバーの一人。ちなみに俺が特に仲がいいのはこいつを入れて三人。後の二人は、

 

「卓也、そんなマンガみたいなこと起こると思うか?」

 

 俺の前に並んでいる眼鏡をかけた少しぽっちゃりとした体形の大下信久が言った。後の二人のうちの一人だ。

 

「ちょっとは考えるんじゃね?だってIS動かせば、あのIS学園に入学だぜ?女の園だぜ?こんな片田舎の高校じゃなくて、各国のエリートたちが集まる超名門だぜ?しかも今なら男子は自分とあの織斑なんたらってやつだけだぜ?ハーレムじゃん」

 

「確かにな。IS学園に来るやつは各国のエリート、しかも大金持ちな奴だっている。代表候補生や国家代表になればそれだけで収入があったりするらしいから。そんなやつと付き合えば、逆玉だな」

 

 卓也の言葉に同意したのは、卓也の後ろに並んでいる加山智一だ。俺の仲のいい友人最後の刺客。

 

「でもまあ、現実的に考えれば普通の高校に行く方が楽しいだろうけどな。IS学園に行けば確かにハーレムだけど、その分勉強とか大変だと思うぞ。普通の高校の勉強に加えてISの勉強も出てくるんだからさ」

 

「「ですよねー」」

 

 俺の言葉に後ろ二人が落胆の顔をする。

 

「勉強を取るべきか、ハーレムを取るべきか。そこが問題だ」

 

「……うん、まあまずは動かせないと意味ないけどな」

 

 本気で苦悩する卓也に信久が呆れ顔で言う。

 

「でも、夢ではあるよな。女の園のハーレム」

 

「「「なー」」」

 

 俺たち四人は毎日だいたいこんな感じだ。思春期真っ只中な男子四人。昨日見た深夜アニメの話で盛り上がったり、どのアニメのどのキャラがかわいいだとか、こんな漫画の主人公みたいになりたいだとか、このラノベが面白いだとか。

 何も非日常なことなど起きない。起きるといえば誰か(主に卓也)がフラれ、それを他三人で慰める。その程度のことだ。平凡だけど楽しい毎日を送っている。ちなみに四人とも彼女いない歴=年齢だ。

 さて、そんな馬鹿話をしているといつの間にか順番は信久の番になる。

 

「では、次の方」

 

「はい」

 

 監視員の女性に呼ばれて一歩前に出る信久。

 そこにあったのはまるで鎮座するように置かれたIS。日本の量産型IS『打鉄』だ。

 

「これに手を置いてください。適性があれば起動します」

 

「はい」

 

 説明を受けた信久が手を伸ばし、打鉄に触れる。

 もちろんうんともすんとも言わない。

 

「まあ、そりゃそうだ」

 

 俺たちの方を向き、笑いながら言った信久。

 

「はい。ありがとうございます。では、次の方」

 

 信久が指示に従って避ける。そして、俺の番が来る。

 

「では、これに手を置いてください。適性があれば起動します」

 

 目の前にやってくるとそのISのなんとも言えな雰囲気を感じる。

 

「えい」

 

 冗談めかして手を伸ばし、ISに触れる。

 

「へ?」

 

 てっきり先ほどの信久のように何も反応がないと思っていた俺の頭の中に突然、キンッと金属質の音が響いた。それと同時に頭の中に流れてくる膨大な量の情報。

 ISの基本動作、操縦方法、性能、特性、現在の装備、可能な活動時間、行動範囲、センサー精度、レーダーレベル、アーマー残量、出力限界等の情報が入って来る。

 そして、その情報を理解し把握できる。視覚野に接続されたセンサーが直接意識にパラメータを浮かび上がらせて、周囲の状況が数値で知覚出来た。

 

「こ、これは!」

 

 横にいた監視員の女性も驚愕している。

 

 

 こうして俺の平凡な日常は終わりを告げた。




さあ始まりました。
これからお付き合いのほど、お願いします。


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IS学園編 第1話 突き刺さる視線の入学式

(こ、これは…なかなかにきつい!)

 

 俺は今新たなる学校生活を開始。希望に胸膨らむピカピカの一年生だ。しかし、俺にはその喜びをかみしめる余裕はない。

 なぜか。それは俺と俺の右横に座る男子以外、全員が漏れなく女子だからだ。しかも自意識過剰とかそんなのじゃなく本当にほぼ全員の視線を背中に受けている。誰だよ俺の席ここにしたやつは!!最前列だし真ん中だし、後ろからも横からも見やすいしさ!!

 

「全員揃ってますねー。それじゃあSHRはじめますよー」

 

 黒板の前でにっこりとほほ笑む女性副担任の山田真耶先生。

 どうでもいいけどこの人凄いな。どことは言わないけど、まああえて言えば胸部。しかも名前が真耶。重巡か!?字が違うけど…。しかも胸部装甲だけ見れば高雄。しかもメガネだから鳥海。これで金髪だったら高雄型要素フルコンプだな。

 

「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」

 

「よろしくおねが…い…します…」

 

 山田先生の言葉に返事をしたのは俺だけだった。え?こういうのって返事するもんじゃないの?

 

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」

 

 俺が返事したことが嬉しかったのか、若干微笑みながら言う。

 てか自己紹介!?ここでミスするわけにはいかない。ここで変な挨拶をすればこれから待ち受ける輝かしい三年間が灰色になってしまう!

 

「じゃあ、次は井口君」

 

 もう俺の番だと!?って、そうか!俺の名字は「いぐち」だから結構初めの方なんだ。

 

「は、はい」

 

 返事をしつつ立ち上がる。こういう場合はあれかな?後ろ向いたほうがいいのかな。

 

「うっ!」

 

 後ろを向いた途端、先ほどまで背中に受けていた視線を真正面から受けることになる。もしも視線に殺傷能力があれば今頃俺はハチの巣になっていただろう。

 落ち着け俺。こういう時は…あれだ!黒人神父が言っていたやつだ。素数を数えるんだ。えっと、1,3,5,7,9,11……

 

「あの、井口君?どうかしましたか?」

 

「ひゃい?」

 

 あ、声が裏返った。

 それによってクラスでクスクスと笑いが起こる。う~、ハズイ。

 

「す、すいません。ちょっと緊張してしまって……」

 

 山田先生に言い訳しつつ、姿勢を正す。

 

「えっと…。井口颯太です。なぜかISを動かすことが出来てしまったのでこのIS学園に入学しました。出身は京都の海の方です。勉強は得意って程ではないです。運動もまあ人並です。趣味は読書です。これからよろしくお願いします」

 

 そう言って俺は頭を下げる。頭を上げて着席。

 

「んー。イケメンでもないけどブサイクでもない。フツメン?」

 

「平凡な感じだね」

 

 はいはい、わかってますよ。自分の顔のレベルくらい弁えてますよ。

 他の女子たちが俺のことを評価したのを聞いて自虐しつつ、ぼんやりとしていると気づけばいつの間にかもう一人の男子の番になったのだが、

 

「……お、織斑一夏くんっ」

 

「は、はいっ!?」

 

 順番になっても何も言わない彼に山田先生が呼び掛ける。それによって俺のように声を裏返らせてしまっている。俺の時のようにクスクスと笑いが巻き起こる。

 

「あっ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる?怒ってるかな?」

 

 副担任の山田先生はなぜかあたふたとしている。先生なんだからもっとどっしりと構えていればいいのに。

 

「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 立ち上がって自己紹介をするもう一人の男子――織斑一夏。だが、いかんせん。そんな自己紹介では十代女子たちは満足するわけがない。見ろ。もっと喋ってオーラが半端ないじゃないか。

 

「…………………」

 

 織斑は無言。お?深呼吸した。何か言うのかな?

 

「以上です」

 

 がたたっ。驚いて思わずずっこける女子が数名+俺。勢いよく頭を机にぶつけてしまったせいで額が痛い。

 

「あ、あのー」

 

 顔を上げた俺が見たのはどうしていいかわからないといった顔の織斑と、その背後に立つ黒のスーツにタイトスカートで鋭い吊り目の女性。ちなみに美人。

 あ、手に持ってる何か(たぶん出席簿)を振りかぶった。

 

「あ、あぶ――」

 

 パアンッ!

 

「いっ――!?」

 

「――ないよ」

 

 忠告が遅かった。無慈悲にも振り下ろされた出席簿により織斑は頭を押さえる。

 

「げえっ、関羽!?」

 

 パアンッ!無慈悲な一撃その二が振り下ろされる。そりゃそうだよ。女の人のこと関羽って。まあさっきからの叩く力は相当だもんな。

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

 

「すまなかったな、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてしまって」

 

 おろ?さっきまで人の頭叩いてた人とは思えない変容だな。

 

「い、いえ、副担任ですから、これくらいはしないといけませんから……」

 

 山田先生は先生ではにかんでいらっしゃるし。

 

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になるIS操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は若干十五歳を十六歳までに鍛え抜くことだ。逆らっても構わんが、私の言うことは絶対に聞け。いいな?」

 

 なんという無茶苦茶な。これが教師のセリフか?

 

「キャ~~~~~! 素敵ぃ! 本物の千冬様をこの目で見られるなんて!」

 

「お目にかかれて光栄です!」

 

「私、お姉様に憧れてこの学園に北九州から来ました!!」

 

 ええぇぇぇ!?今の言葉のどこに歓声を上げる要素がありましたか?

 

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しくも本望です!」

 

「私、お姉さまの命令なら何でも聞きます!」

 

 あまりの声援に当の本人も鬱陶しそうにしている。

 

「……はぁっ。毎年毎年、よくもこれだけ馬鹿者共がたくさん集まるものだ。ある意味感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者だけを集中させるように仕組んでいるのか?」

 

 え?毎年これ?大変っすね先生。てか、これだけ言われれば女子たちも目が覚めるかな?

 

「きゃあああああっ!お姉さま!もっと叱って!罵って!」

 

「でも時には優しくして!」

 

「そしてつけあがらないように躾をして~!」

 

 ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?みなさんそれでいいの?いいならいいけど。でも、ええー。もしかしてこの学校の人間って全員こんな感じなん?まともな人もちゃんといるよね?

 

「で?挨拶も満足に出来んのか、お前は」

 

「いや、千冬姉。俺は――」

 

 パアンッ!本日三回目。これで織斑の脳細胞は一万五千個死んだな。

 

「織斑先生と呼べ」

 

「……はい、織斑先生」

 

 てか今のやり取りからして、もしかして二人は姉弟なのかな?

 そう考えたのは俺だけじゃなかったらしく、他の女子たちもこそこそと話し始める。

 

「え……?ひょっとして織斑くんって、あの千冬様の弟なの……?」

 

「それじゃあ、世界で男で『IS』を使えるっていうのも、それが関係してるのかな?あ、でも、もう一人いるよね」

 

 はい、いますよ~。

 

「ああっ、いいなぁっ。立場を代わってほしいなぁっ。そうしたら私がお姉様の妹に……」

 

 そんなにうらやましいのか。そこまで行くとあの織斑先生のこと知りたくなってきたな。何者なんだあの人。

 

「さあ、SHRはもう終わりだ。あまり時間が無いので、諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらうぞ。その後実習だが、基本動作は半月で身体に染みこませてもらうぞ。いいか、いいなら返事をしろ。文句があっても返事をしろ、私の言葉には絶対に返事をしろ。いいな?」

 

 「イエス・マム!」と心の中で言いつつ素直にはいと言うしかなかった。

 俺の高校生活、一体どうなるんだか。




ん~、もう一個書いてるほうは原作に沿ってやってるんで、こっちはもうちょっと気を抜こうかと思います。


ー追記ー
何度かご指摘を受けたので……
この話の中で颯太君が素数を数えるシーンで奇数を数えてますが……わざとです


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第2話 小腹がすいた

「…………」

 

 一時間目も終わり、俺は今ボーっとしている。なぜかって?現在我が一年一組には他学年他クラスから大勢の女子が来ているうえに、クラスの女子も含めてその場の視線が突き刺さるように向いているからだ。動物園のパンダになったようだ。

 

「なあ、井口」

 

「ん?」

 

 呼ばれて顔を上げた俺の前には隣の席の織斑が立っていた。

 

「お互い珍獣みたいで大変だよな」

 

 そうにこやかに言う織斑。笑った顔が爽やかでイケメンでしかも優しそう。あれだな。ラノベやギャルゲーの主人公みたいなやつだ。さしずめ俺はそんな主人公の愉快な友達ポジションだな。決していやな奴ではないのになぜかモテない的なあれだ。ちなみに俺がモテないのはフツメンだからだ。

 

「おう。珍獣同士仲良くしようぜ。俺のことは颯太でいいから」

 

「そうか。よろしくな颯太。俺のことも一夏でいいからな」

 

 お互いに差し出した手を握り、握手をする。

 

「ちょっといいか?」

 

 と、そこに声をかけてきたポニーテールの女子。確か篠ノ之だか東雲だかって人だ。

 

「すまないが一夏を借りてもいいだろうか?」

 

「ど、どうぞ」

 

 俺が返事をすると、二人は廊下の方に出て行ってしまった。

 一人取り残された俺。……よし!ラノベ読もう。

 それから俺はずっとラノベを読んで時間を過ごし、二時間目の始業のチャイムを迎えた。

 ちなみに一夏たちは始業のチャイムに間に合わず、なぜか一夏だけが叩かれた。

 

 

 ○

 

 

「――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ――」

 

 すらすらと教科書を読んでいく山田先生。内容がどっさり詰まった教科書五冊が俺の目の前に積まれている。付け焼刃ではあるが、事前に電話帳サイズの参考書で勉強したおかげである程度分かる。何か所かわからないところもあるが、そこは後で先生に聞こう。

 

「井口君。何かわからないところはありますか?」

 

 ノートにシャーペンを走らせている俺に山田先生が訊く。男の俺を心配してくれたのだろう。いい先生だ。

 

「じゃあ、質問いいですか?ここのところなんですが……」

 

「ああ、ここは少しややこしいんですよ。えっとですね――」

 

 そしてすらすらと解説しだす山田先生。しかもわかりやすい。すごい。この人オドオドしてるから頼りないと思っていたけど、いい先生だった。

 

「っと、こんな感じですけど、どうですか?わかりましたか?」

 

「はい」

 

「他に何かわからないところありますか?」

 

「えーっと…。いえ。今のところはないです。ありがとうございました」

 

 

「そうですか。何かわからないところがあったら行ってくださいね。なにせ私は先生ですから」

 

 そう言って胸を張る山田先生。それによって揺れる大きく実った二つのメロ――ごっほごっほ!うっうん!…なんでもありませんよ。

 山田先生にお礼を言いつつ席に座る俺。そんな俺のことをじっと見ている一夏。その顔はまるで『お前天才か!?』と言ってるようだった。なんでやねん。

 

「織斑君はどうですか?」

 

「えっ!?」

 

 山田先生に呼ばれ教科書に目を落とす一夏。そして何かの覚悟を決めた顔をする。

 

「じゃあ、先生!」

 

「はい織斑君!」

 

「ほとんど全部わかりません!」

 

 おい!素直に言ってんじゃねえよ!見ろよ、山田先生涙目じゃないか!

 

「え、えっと……織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はどれくらいいますか?」

 

 シ~ン。誰も手を上げない。いやいや、一夏。そんな『マジで!?』みたいな顔されても。

 

「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」

 

 教室の端にいた織斑先生が問いかける。

 

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 

 パァンッ!

 

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者」

 

 織斑先生が呆れた表情を浮かべる。

 

「あとで再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな」

 

「い、いや、一週間であの分厚さはちょっと……」

 

「やれと言っている」

 

「……はい。やります」

 

 ギロリと睨む織斑先生。それは実の弟を見る目じゃないですよ織斑先生。

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解が出来なくても答えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」

 

 まったくもって正論。だが正論だからと言って納得できるわけじゃない。

 

「おい、織斑、井口。貴様等、『自分は望んでここにいるわけではない』と思っているな?」

 

 ギクッ。なんでわかった!?さては…織斑千冬、貴様見ているな(俺の心を)?

 

「望む望まざるにもかかわらず、人は集団の中で生きなくてはならない。それすら放棄するなら、まず人であることを辞めることだな」

 

 まあこれが俺の新しい日常だ。これから三年続くこの日常に俺は早く慣れるしかないのだろう。

 

 

 ○

 

 

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「へ?」

 

「はい?」

 

 二時間目も終わり、休み時間。一夏とだべっていた俺たちの元に一人の女子生徒が現れた。なんか偉そうな金髪巻き毛の女子。腰に手を当てたポーズもなんか偉そうだ。

 

「聞いてます?お返事は?」

 

「あ、ああ。聞いてるけど……」

 

「何か用か?」

 

「まあ!なんですの、そのお返事。わたくしに話し掛けられるだけでも光栄なのですから、相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 

「「……………」」

 

 あ、わかった。こいつめんどくせぇ。何こいつ。有名人なの?知らんのだが。

 

「悪いな。俺、君のこと知らないし」

 

 織斑の返事に、気に入らなかったのか吊り上げた目を細めて見下したように続ける。

 

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリス代表候補生にして、入試首席のこのわたくしを!?」

 

 あー、めんどくせぇ。こいつあれだ。今時の女尊男卑な世間を具現化したみたいなやつだな。こんな奴が代表候補生なのか。おい、智一。俺、こんなのと逆玉とかいやだよ?

 

「あ、質問いいか?」

 

「ふん。下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 

「代表候補生って、何?」

 

 がたたたっ。聞き耳立ててクラスメイト数名と俺がずっこけた。また額ぶつけた。痛いっす。

 

「まあ、あれだ。読んで字のごとく、国家代表のIS操縦者の候補生のことだ」

 

「なるほど」

 

「まったく、信じられませんわ。極東の島国にはテレビもないのかしら……」

 

 失礼な!テレビくらいあるに決まってんだろ!でなきゃアニメも見れんわ!

 

「まああれだ。エリートなんだよこのセシリア殿は」

 

「そう!エリートなのですわ!」

 

 うわ!元気になった。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運ですのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

 

「そうか。それはラッキーだ」

 

 一夏の気のない返事。俺は無言。正直そろそろ本題に入ってほしい。いい加減飽きてきてオルコットの縦ロール見て、空腹を感じてきた。なんかあれだ。この人の縦ロール見てるとチョココロネ食べたくなる。ここの学食に置いてあるかな?

 

「ちょっと、あなたはどうなんですの!?」

 

 バンッ。っとオルコットが机を叩いたことで俺は我に返る。あ。机に置いてたラノベが落ちた。

 

「あーあー、俺のラノベが」

 

「ちょっと聞いてますの!?」

 

 落ちたラノベを拾ってパンパンと埃掃った俺にオルコットが怒鳴る。

 

「あ、ごめん。考え事してて聞いてなかった」

 

「わたくしの話を聞かずに何を考えていましたの!?」

 

「え!?」

 

 素直に、お前の縦ロール見てたらチョココロネ食べたくなった、なんて言ったら怒られるに決まってる。

 

「えっと……フェルマーの最終定理について?」

 

「ウソおっしゃい!」

 

 バンッ。とまた机を叩かれた。

 

「あーあー、俺のラノベが」

 

 また落ちてしまったラノベを拾う俺。

 

「で?俺のラノベを二回も落とすほどお前が訊きたかったことって何?」

 

 と、俺が訊いたところでチャイムが鳴る。

 

「っ………! またあとで来ますわ!逃げないことね!よくって!?」

 

 いや逃げないよ。かったるいけど。

 結局この休み時間は変なクラスメイトに絡まれて、小腹がすいたのを感じた休み時間だった。




てなわけでセシリア登場。
セシリアファンの方、ごめんなさい。チョココロネとか言って。


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第3話 オタク魂

「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」

 

 一、二時間目と違って織斑先生が教壇に立っている。よっぽど大事なことなのか、山田先生までノートを手に持っていた。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな。クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更は無いからそのつもりで。誰か立候補はあるか?推薦でも構わんぞ?」

 

 へー。つまり学級委員か。うん、めんどいな。絶対立候補しない。俺を推薦する人もいないだろうから黙って誰かがやるのを持っていよう。まあ、この場合はきっと一夏が推薦されるんだろうな。

 

「はいっ!私は織斑くんを推薦します!」

 

 ほらな?

 

「私もそれがいいと思います!」

 

 おおー。どんどん一夏に票が入る。

 

「では候補者は織斑一夏……他にはいないか?」

 

「お、俺?」

 

「織斑。席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか?いないなら織斑に決まるが」

 

「ちょっ、ちょっと待った!だったら俺は颯太を推薦する!」

 

「おいっ!」

 

 何巻き込んでくれてんだよ!

 

「他にはいないのか?いないならこの二人の多数決で決めさせてもらうが」

 

「いや、俺は――」

 

「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」

 

「ええ~」

 

 せめて最後まで言わせてよ。

 

「待ってください!納得がいきませんわ!」

 

 あり?オルコット?もしかして俺らのことを思って?嫌な人かと思ったけどいい人なのか?人は見かけによらないっていうしね。

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 ……ん?

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

 代表候補生が実力あるのは認めるけど……俺ら猿ですか?

 

「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」

 

 ……ああん?今なんつった?

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

 

 俺がむっとしている間に一夏が言った。

 

「なっ……!?」

 

 一夏の言葉にオルコットが真っ赤な顔して怒っている。こういうのを怒髪天を衝くって言うのかな?

 

「あっ、あっ、あなたは!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

 いやいや、先に侮辱したのアンタだから。見ろ。教室内の日本人みんな怒ってるよ。織斑先生とか無言だけど、あれ絶対怒ってるよ。

 

「決闘ですわ!」

 

 バンッと机を叩いて叫ぶオルコット。

 

「いいぜ。やってやるよ」

 

 オルコットの言葉に一夏が頷く。あーあー、かったるいことをよくやるよ。

 

「一夏ガンバー」

 

「何を言ってるんですのっ?あなたもやるんですのよ!」

 

「は!?」

 

 え?なんで俺まで。

 

「何自分は関係ないって顔してますの!?あなたも推薦されているんですから決闘に参加するのは当たり前でしょう!」

 

「ええ~」

 

 なにそれかったりー。でも――

 

「……まあ確かに。お前が俺らのこと猿呼ばわりしたことには腹が立つし、自分の祖国を貶されたのもいい気がしないしな。戦う理由としては十分だ。決闘を受けてもいい」

 

「だったら――」

 

「だが断る」

 

「な!?」

 

 俺の言葉にオルコットの顔が驚愕で固まる。

 

「この井口颯太が最も好きな事のひとつは、自分で強いと思ってるやつに『NO』と断ってやる事だ……」

 

 俺の言葉にオルコットはおろか教室内の全員がポカーンとした顔をする。

 いやー、一度言ってみたかったんだよ、このセリフ。

 

「な、な…」

 

オルコットが肩をわなわなと震わせている。

 

「あなたは私を馬鹿にしていますの!?」

 

「いやいや、馬鹿になんてしてないさ。あえて言えば小馬鹿にしてるんだよ」

 

「一緒じゃないですの!」

 

 バンッとまたもや机を叩くオルコットさん。

 

「だって俺争い事とか嫌いだし。女の子と戦う趣味もないし。第一かったるい。そんなことするくらいならラノベでも読むほうがよっぽど楽しいし」

 

「~~!!」

 

 俺の言葉が相当気にくわなかったのかオルコットが顔を真っ赤にしている。あははー、タコみたい。

 

「ラノベって先ほどあなたが呼んでいた本のことですわよね!?あなたはわたくしとの決闘より、そんなものの方が大事だと言うんですの!?」

 

「うん」

 

 だからそう言ってんじゃん。

 

「ラノベとか漫画とかゲームはいいよ~。あれは日本が世界に誇る文化だね。今やクールジャパンっていう一つの文化として世界からも注目されてるし」

 

 今やオタク文化は最高のジャパニーズカルチャーだな。うん。

 

「あんなもののどこがいいんですの!?あんなもの将来の何に役に立つっていうんですの?先ほどあなたの本の表紙見ましたけど、あれが本と言えるんですの?いやらしいイラストが描かれて、まったくいかがわしい。気持ち悪いですわ」

 

「…………」

 

「以前テレビで見ましたわ。あなたのようにそういった趣味を持った方が現実と創作の世界の境が分からなくなって犯罪を犯すんですのよ!」

 

「………」

 

「大体そういうものを仕事にしてる方はいったいどういうお考えなんでしょうね。自分の作ったものが犯罪者を作っているということについて」

 

 俺が黙っていることで、オルコットは気分よさそうな顔をしている。

 

「今後、あのような下劣なものを持ち込んでほしくないですわね」

 

 ふふんと勝ち誇った顔で腰に手を当てるオルコット。

 

「………言いたいことはそれだけか?」

 

「え?」

 

 俺が笑顔で訊くと、オルコットが困惑顔になる。

 

「じゃあ俺からも言わせてもらおう――」

 

 そこで言葉を区切った俺は大きく息を吸い込む。

 

「われ、誰にものぬかしとんじゃ!!!」

 

 俺が口を開いた瞬間教室内の女子が全員びくっと震える。

 だが、そんなことを気にしている暇はない。ゆっくりと立ち上がる。

 

「おい、チョココロネ」

 

「ちょ、チョコ!?」

 

「さっきから黙って聞いてりゃあ言いたい放題言いやがって。まあ俺のことを馬鹿にするなら黙って聞き流そうと思ったが。おめぇ、言っちゃいけないこと言いやがったな」

 

「ひっ」

 

 俺が睨むとオルコットが引き攣った顔で一歩後ずさる。

 

「てめぇオタク文化馬鹿にするだけじゃなくて、全人類のオタクとそれに類する仕事にかかわってる人間全部を侮辱しやがったな」

 

 言ってたらますます怒りが増幅してきた。

 

「おい、チョココロネ。お前、一度でも自分の目で耳でアニメや漫画やラノベ見たことあんのか?」

 

「そ、そんなものあるわけありませんわ!あんな下劣なもの」

 

「つまりてめぇは自分の目で見て感じたことじゃなく、ネットやらテレビで聞きかじった程度の知識で俺の好きなものを貶したってわけだ」

 

 さらなる怒りポイントだな。

 

「俺のことをいくらバカにしてもらっても構わない。でもなあ、さっきから聞いてりゃ、お前日本のことを〝文化としても後進的な国〟って言いやがったな?」

 

「そ、それが何だっていうんですの?」

 

 このアホ、自分の発言の意味も分かってない。

 

「おい、お前の頭の中にはチョコレートかカスタードクリームでも詰まってんのか?」

 

「なっ!?何が言いたいんですの!?」

 

「自分の立場を理解しての発言なんだろうなって言ってんだよ」

 

「た、立場!?」

 

「〝イギリス〟の代表候補生が他国の〝日本〟を貶して、外交問題に発展するかもしれないってことを理解してんのかって言ってんだよ」

 

「っ!」

 

 そこでオルコットは遅まきながら自分の発言の意味を理解したようだ。

 

「イギリスの代表としてここにいるアンタはさっきの言葉に責任持てんのか?日本を極東の島国と言い、文化的に劣っていると貶し、自分で見てもいないものを他人の意見に左右されて馬鹿にしたことに、責任持てんのか?」

 

「………」

 

 オルコットは何も言えずに黙って俯いている。

 

「………やってやるよ」

 

「え?」

 

「決闘、やってやるって言ってんだよ!争い事は嫌いで、理由のない戦いも嫌いだが、これ以上ないって理由が出来たんだ。相手してやるよ。ハンデもいらない」

 

 俺の言葉に周囲が少しざわつく。そりゃそうだ。今はISの存在のせいで、男が女より強かった時代ではない。しかも相手は代表候補生だ。素人の俺が太刀打ちできるとは思えない。でも、だからこそハンデなんてもらっても意味はない。

 

「ハンデもらって戦って勝っても納得いかないからな。全力のお前と真正面からぶつかってやるよ!」

 

 俺はオルコットをびしっと指さして宣戦布告する。

 

「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑と井口、オルコットはそれぞれ用意をしておくように」

 

 そう言って、織斑先生が一連の出来事にとりあえずの収拾を付けた。




はい、というわけで颯太君のぶちぎれした話でした。
実際今の世でオタクん文化が結構普及していますし、外国からも注目されていますけど、オタク文化ここまで貶す人っているんですかね?
まあいたら僕も颯太君くらいぶちぎれるかもしれないですね。


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第4話 灰色の青春と漢の魂

「うう………」

 

 隣の席で一夏が項垂れている。でも俺はそれを気にする余裕はない。なぜなら……

 

「あー………」

 

 頭を抱えて肘ついて自分の席に座る俺。気分的に言えば「へたこいたー」といった感じだろうか。

 

「ああ、織斑君、井口君。まだ教室にいたんですね。よかったです」

 

「はい?」

 

 山田先生が現れたが、正直俺にはそれも気にする余裕はない。

 

「ど、どうしたんですか井口君」

 

「はっはっはー。なんでもありませんよ山田先生。強いて言うなら俺の青春が終わっただけですよ」

 

「は、はあ……」

 

 俺の言葉に山田先生が首を傾げている。

 

「何でもないです。で?どうしたんですか山田先生」

 

「あっ。えっとですね、二人の寮の部屋が決まりました」

 

 へー。ちょっとの間は政府の用意したホテルから通うって話だったはずだけど。

 

「俺らの部屋、決まってないんじゃなかったですか?前に聞いた話だと、一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど」

 

「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです。ただ、とにかく寮に入れることを最優先にしたみたいで、お二人は別々の部屋になってしまったんです」

 

「え?てことはルームメイトは女子ですか?大丈夫なんですか?」

 

「一ヶ月もすれば部屋割りの調整もできると思うので」

 

 俺はいいけど、その子はいいのかな。同室が俺みたいなオタク野郎で。

 

「部屋はわかりましたけど、荷物は一回家に帰らないと準備できないですし、今日はもう帰っていいですか?」

 

「俺もホテル戻らないと」

 

「あ、いえ、荷物なら――」

 

「私が手配しておいてやった。ありがたく思え」

 

 そう言いながら織斑先生が教室にやってきた。今頭の中でダースベイダーのテーマが流れた。しかも超似合う。

 

「「ど、どうもありがとうございます……」」

 

「まあ、井口はホテルにあったものを全部移動させただけだし、織斑の方も生活必需品だけだがな。着替えと、携帯電話の充電器があればいいだろう」

 

 うっわ、大雑把ー。

 

「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。ちなみに各部屋にシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年毎に使える時間が違いますけど……えっと、その、お二人は今のところ使えません」

 

「え、なんでですか?」

 

「パンチッ!」

 

「あてっ」

 

 一夏の後頭部を軽く殴る。

 

「何するんだよ」

 

「いや、だって、同年代の女子と一緒に風呂に入りたいとか、思ってても口に出すなよ」

 

「あー……」

 

 俺の言葉に一夏が後頭部を撫でながら気付いたようだ。

 

「えっ、織斑君、女の子とお風呂に入りたいんですか!?だっ、ダメですよ!」

 

「い、いや、入りたくないです」

 

 一夏が全力で首を振ってる。

 

「ええっ?女の子に興味がないんですか!?そ、それはそれで問題のような……」

 

 山田先生の言葉に教室に集まっていた女子たちが沸き立つ。

 

「織斑くん、男にしか興味ないのかしら……?」

 

「織斑×井口……いや、井口×織斑?どっちにしろアリね!」

 

「中学時代の織斑くんの交友関係を洗って!すぐにね!明後日までに裏付けとって!」

 

 女子たちの言葉に俺は寒気を感じてお尻を隠しながら一夏から距離を取る。

 

「お、おい!なんで距離置くんだよ!」

 

「いやー、人の趣味嗜好は人それぞれだからとやかく言うつもりはないし、基本BでLな趣味を持っていても否定はしないが……俺はノーマルだし……」

 

「俺もノーマルだよ!!」

 

 一夏の否定が教室に響いたのだった。

 

 

 ○

 

 

 

「1033室……あっ、ここか」

 

 寮にやって来た俺は先生から渡された鍵を取り出す。

 

「さて、俺の同室は……っと、その前に…」

 

 コンコン。

 

「……どうぞ。開いてるから」

 

 俺が部屋をノックすると返事が返ってくる。ドアノブに手をかけて部屋に入る。

 

「失礼しまーす……」

 

 部屋に入ると、まずその豪華さに目を見張る。

 俺が政府から貸し与えられていたホテルよりも豪華だ。二つ並んだ大きなベッド。見ているだけでふわふわなのが分かる。こんなベッドうちにもほしいね。窓側のベッドには先客の荷物が乗っていた。

 

「…………」

 

 横に設置された机に座って空中投影ディスプレイを睨んでパチパチとキーボードを叩いている眼鏡の少女がいた。

 空中投影ディスプレイって確かそれなりに値がするよな。俺も欲しいけど残念ながらそんな金はない。俺が使っているのはそれほど値の張らないノートパソコン。まあスペック的にもゲームや動画見る程度ならそれで充分なんだけど。

 

「あのー……」

 

 俺の言葉にキーボードを叩く手を止め、少女がこちらを見る。

 髪はセミロング。癖毛のハネが内側に向いている。制服姿のままで、リボンの色から俺と同学年だと思われる。どこか暗い印象の少女だった。

 

「…………」

 

「えッと……井口颯太です」

 

「………更識簪…」

 

「よ、よろしく……」

 

「……………」

 

 なぜかじっと見つめられている。な、なんだろう。俺の顔に何かついているんだろうか。

 

「な、何か?」

 

「…………」

 

 返事がない。まるで――とかはいいや。えっと、どうしよう。

 

「あ、荷解きしよう」

 

 更識からの視線から逃れるように廊下側のベッドの近くに積まれた段ボールに体を向ける。

 

「………ねえ…」

 

「ん?」

 

 積まれた一番上の段ボールを開けたところで後ろから声をかけられる。顔を向けると、体ごとこちらを向いた更識がいた。

 

「な、何か?」

 

 はっ!もしかしてあれか?お前みたいなキモオタとは同室になりたくないってか?まあ更識は真面目そうだし、そういうオタク文化嫌いなのかも。

 

「………教室でオタク文化馬鹿にされて怒鳴ったって本当?」

 

「うん、まあね」

 

「……………」

 

 うっ。無言の視線が痛い。目を逸らせない。というか、俺は自分の趣味が恥ずかしいとは思っていないので逸らすつもりはないけど。

 と、更識が立ち上がる。何をするのかと思ったら窓側のベッドに置かれたカバンに歩み寄る。中身をごそごそと探っている。

 どうやらお目当てのものを見つけたらしい。何かを持って俺の方にやってくる。

 

「こ、これ……」

 

「ん?っ!こ、これは!!」

 

 更識が持っていたのはアニメのブルーレイボックス。表紙には大きさの異なる四体のロボット。そのアニメの題名は――

 

「『天元突破グレンラガン』!」

 

 なぜこれがここに!?はっ!まさか…!!

 

「……無茶で無謀と笑われようと意地が支えの喧嘩道」

 

「っ!」

 

 目の前の更識がおよそ見た目のキャラとは一致しないセリフを言う。しかし俺はそのセリフに覚えがあった。ここで俺が言うべき言葉は――

 

「壁があったら殴って壊す…道が無ければ、この手で作る!」

 

 俺の言葉を聞いて更識がうれしそうに口元に笑みを浮かべる。

 

「「心のマグマが炎と燃える!超絶合体!グレンラガン!!」」

 

「俺を!」

 

「俺たちを!」

 

「「誰だと思っていやがる!」」

 

 二人ともきりっとした顔で言う。

 

「「………………」」

 

 数秒の間無言で見つめ合い、がしっと力強い握手をする俺たち。

 

「あらためてよろしく、更識」

 

「……簪でいい」

 

「そうか。よろしくな、簪。俺のことも颯太でいい」

 

「うん……よろしく…」

 

 どうやら俺の青春はまだまだ捨てたものでもないらしい。素晴らしい友人ができた。

 

「よし!親睦を深めるためにこれからこれ見ようぜ!」

 

「…うん!」

 

 力強く頷く簪。

 

「あっ!でもブルーレイ対応の機器がない!」

 

「大丈夫」

 

 俺の言葉に簪が設置されたテレビの下の棚を開ける。

 

「な!これは!!」

 

 そこにはブルーレイ、DVD、VHSの機器が設置されていた。これもしかして全部屋に置いてあるのか?流石政府の学校。国立万歳!税金万歳!

 

 その後、俺たちは夜通しグレンラガン観賞会を行った。二人でこのシーンのここがすごい、ここが感動的だ、と盛り上がった。それからそれぞれが好きなアニメや漫画の話題でも盛り上がった。結果、俺たちが寝たのは日付が変わってから、時計が2時を示した頃だった。




新しい環境になった時、僕が一番心配だったのは同じ趣味の友人ができるかどうか。
まあ結果的にはできたんですが。

そんなわけで颯太君にもオタ友誕生です。
ヒロインになるかは…未定です。

実はこのキャラをヒロインにしようってキャラはいるのですが、そこまで行くのが長くなりそうなのでここからは巻きで行くかも……。


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第5話 居眠り

「お……ぐち……おき……いぐ……」

 

 まどろみの中から誰かの声がする。途切れ途切れで何を言ってるのかは聞こえない。正直気にしてない。なんだかぼんやりとしていて何も考えたくない。

 

「起きろと言っているんだ、井口!!」

 

 パアッン!

 

「いったー!!!」

 

 頭に走った衝撃で机に突っ伏していた俺は勢いよく跳ね起きる。

 

「やっと起きたか」

 

 見ると俺の横に出席簿を構えた織斑先生が立っていた。

 

「もう休み時間は終わっている。まだ目が覚めんようならもう一発いっとくか?」

 

「い、いえ。お気持ちだけで結構です。ちゃんと目が覚めたんで」

 

「今回は初回だったからこれで終わらすが、次はないぞ」

 

「イ、イエス・マム」

 

 冷汗が止まらん。あの織斑先生の顔見てたら眠気もとんだ。まさか昨日の夜更かしがここで響いて来るとは。まあ楽しかったから悔いはないけど。

 

「で、だ。織斑、井口。お前たちのISだが準備まで時間が掛かる」

 

「へ?」

 

「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」

 

 せ、専用機……だと…?俺に?まじで?

 

「せ、専用機!?一年の、しかもこの時期に!?」

 

「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」

 

「ああ~。いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなぁ」

 

 クラスメイトが羨ましそうにしている理由が一夏はまだわからないようだ。見かねたのか、織斑先生がため息をつく。

 

「教科書六ページを音読しろ」

 

「え、えーと『現在、幅広く国家・企業に技術提供が行われているISですが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機、そのすべてのコアは篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、未だ博士以外はコアを作れない状況にあります。しかし博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家・企業・組織・機関では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。またコアを取引することはアラスカ条約第七項に抵触し、すべての状況下で禁止されています』……」

 

「つまりはそういうことだ。本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解できたか?」

 

「な、なんとなく……」

 

 一夏がうなずく。

 

「ただし、井口。お前の専用機だが、来週の試合には間に合いそうにない。そこで、学園側にある訓練機を期間限定で貸し出すことになった」

 

 ええ~、ぬか喜びさせやがって!

 

「とりあえず訓練機の資料を後で渡す。『打鉄』『ラファール』どちらがいいか今日中に選んでおけ」

 

「は、はい」

 

 専用機持ち相手に訓練機での戦いを挑む。わかってはいたが、改めて考えるとものすごい難易度だな。

 

「あの、先生。思ったんですけど、篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか?」

 

 クラスメイトの一人がおずおずと手を上げて訊く。

 でも、そんな個人情報話すわけが……

 

「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」

 

 って、ちょい!!

 

「ええええーっ! す、すごい! このクラス有名人の身内が二人もいる!」

 

「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!? やっぱり天才なの!?」

 

「篠ノ之さんも天才だったりする!? 今度ISの操縦教えてよ!」

 

 授業中にもかかわらず篠ノ之の元に女子が集まる。

 

「あの人は関係ない!」

 

 突然の大声に、さっきまで空気が一変した。

 

「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」

 

 う~む。なんか事情がありそうだな。

 

「さて、授業をはじめるぞ。山田先生、号令」

 

「は、はいっ!」

 

 織斑先生の言葉に返事をし、山田先生が授業を始める。

 

 

 ○

 

 

 

「おい、颯太」

 

 昼休みになり、一夏が俺に声をかけてくる。

 

「颯太は試合までどうするんだ?俺と同じで素人だろ?」

 

「おう、まあな」

 

 一夏の問いに頷く俺。

 

「もしよかったらなんだが、俺も知り合いにISのコーチを頼もうと思うんだ。颯太もどうだ?」

 

 思わぬ提案だった。数秒間俺は考える。

 

「…………いや、遠慮しとくよ。俺らも戦うことになるんだ。そこは正々堂々、敵に塩を送ることなくいこうぜ」

 

「………そうか。まあ、そうだな。うん、わかった」

 

 俺の言葉に一夏が納得したように頷く。

 

「じゃあ。お互いに頑張ろうぜ」

 

「おうよ」

 

 一夏とお互いに鼓舞し合い、一夏は篠ノ之と共に教室から出ていった。あてって篠ノ之ことか。

 

「さて、俺はどうしようか……」

 

「ねえねえ、ぐっちー」

 

 俺が今後日て考えていたところで背後から誰かの声がする。

 

「ん?」

 

 後ろを振り返るとだぼだぼの制服を着た女子が立っていた。数秒間その少女と見つめ合った後、俺は周りをきょろきょろと見る。ぐっちーって誰ぞ?

 

「ぐっちー?」

 

 だぼだぼの制服の少女が首を傾げながら俺を見ている。って――

 

「ぐっちーって俺か!?」

 

「うん。井口だからぐっちー」

 

 なるほど、俺のあだ名らしい。

 

「ぐっちーの正体はわかったが、えっと……」

 

「私は布仏本音だよー」

 

 と、にぱーっと微笑む布仏。なんかこの子の顔見てると癒される。

 

「えっと、布仏さん。なにかな?」

 

「うん。えっとね、ぐっちーってかんちゃんと同室なんだよね?」

 

「かんちゃん……ってもしかして簪か?」

 

「うん。かんちゃん」

 

 なるほど。確かにかんちゃんか。

 

「そうだよ」

 

 俺の返事にうんうんと頷く布仏。

 

「これからかんちゃんとお昼なんだけど、一緒にどー?」

 

「え、何?布仏さんって簪と知り合いなの?」

 

「うん。私、かんちゃんの専属の使用人だからねー」

 

「使用人!?」

 

 マジか。簪って実はいいとこのお嬢様?

 

「で、どうするー?」

 

 俺が驚いているところに布仏が訊く。

 

「えっと、じゃあせっかくだし一緒に行こうかな」

 

「よーし、そうと決まったら、さっそくレッツゴー」

 

 そう言って俺の手を取って進み出す布仏さん。俺は布仏さんに引っ張られるままに移動し始めた。

 

 

 ○

 

 

 

「お待たせーかんちゃん。ついでにぐっちーも連れて来たよー」

 

「ども」

 

 学食に着いて入口のところで簪と合流。その後券売機で食券を買って三人でそれぞれ自分の昼食を購入し、空いた席に座る。

 

「そういえば、ぐっちーは試合どうするの?」

 

 日替わり定食をぱくつきながら布仏が訊く。

 

「…………どうしよっか?」

 

 俺は豚骨ラーメンを食べる手を止めて考える。

 

「試合って…あのイギリス代表候補生の人と戦うっていう…あれ?」

 

 かき揚げの乗ったうどんを啜る手を止めて簪が訊く。

 

「おう。来週の月曜に試合するんだけど、俺素人だし。誰かにコーチしてもらわないと多分一方的に負けるだろうな」

 

 言いながら俺は豚骨ラーメンを啜る。うん。うまし。

 

「あっ。じゃあさー。かんちゃんにコーチしてもらえば?」

 

「簪に?でも、簪って俺と同じ一年生だろ?」

 

「大丈夫だよ。かんちゃんって、何を隠そう日本の代表候補生だからねー」

 

「えっ!?そうなの!?」

 

 俺は驚き、簪の顔を見る。

 

「う、うん。……まあ」

 

 急に俺にガン見されて、簪が少し照れた表情を浮かべる。

 

「え?じゃあお願い出来る?」

 

「うーん。……ちょっと難しいかも」

 

 俺の言葉に数秒考えた後簪が答える。

 

「実は私……代表候補生だけど専用機がまだ出来てないの…」

 

「あらら。そうなの?」

 

「うん……だからちゃんと教えてあげられるか……」

 

「そっかー」

 

 簪の言葉に俺は落胆しつつもしょうがないと諦める。

 

「じゃあ…お嬢様に頼むのは?」

 

 そこに布仏が口を開く。え?お嬢様?

 

「え?お姉ちゃんに?」

 

「うん。今私たちが紹介できる最高のコーチだと思うよー?」

 

「それは……」

 

 布仏の言葉に簪は頷きつつも、納得していない表情を浮かべている。

 

「あの、その人がどんな人か知らないけど、気が進まないならいいぜ?俺も自分でどうにかするしさ」

 

「………ううん。大丈夫。やっぱり…お姉ちゃんにお願いしよう」

 

 俺の言葉に簪が言った。

 

「あとでメール送っておくから……放課後にでも会って。居場所は本音に聞けばわかるから……」

 

「まっかせーなさーい」

 

 なんかどんどん話が決まった。でも――

 

「いいのか?言ったら悪いが、俺と簪って昨日知り合ったばかりだろ?なんでそこまでしてくれるんだ?」

 

 俺は気になったことを訊く。

 

「別に…いい…。できれば私は…お姉ちゃんにあまり頼りたくないけど…。でもあなたが困ってるし…昨日一日であなたがいい人だってわかったから……」

 

「簪……」

 

 俺は今猛烈に感動しています。めっちゃいい奴だな簪は。

 

「それに――」

 

 さらに簪は続ける。

 

「グレンラガン好きに悪人はいない」

 

 簪の言葉に俺も大きく頷く、固い握手を結ぶ俺と簪。それを見てにぱーっと笑う布仏。

 

「あ、ところでさ――」

 

 それから昼食に戻った俺はふと気になったことを口にする。

 

「そのお嬢様とかお姉ちゃんって言われてる人って、いったい何者?」

 

「それは――」

 

 簪が口に入れたうどんをしっかりと噛んで飲み込む。

 

「その人は私のお姉ちゃんで、この学園の生徒会長」




はい、というわけで颯太君のコーチはあの人になりそうです。
なんか書いてて思ったけど、簪の喋り方って難しい。


次回!あの人が遂に登場!……すると思う、たぶん。


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第6話 手土産持参

「…………」

 

 放課後。とある教室前で、俺は立ち尽くしていた。扉の上には「生徒会室」の文字。

 手ぶらでお邪魔しては失礼だと思い、本日最後の授業の後急いで学食に走り、事前に聞いていた生徒会の人数+俺の分の4人分のシュークリームを購入。そこからシュークリームが無残にぐっちゃぐちゃな状態にならない程度に急いでここまでやって来たのだ。

 ………よし!ここでうだうだやってても何にもならん。とっとと入ろう。

 いや待った!!ここで不用意に扉を開けると大抵のラノベなら――

 

『失礼しまーす』

 

『きゃあ!!(着替え中の生徒会役員)』

 

 ~覗きの現行犯で警察のお世話END~

 

 アウト~!!ノックは大事。うん、大事だな。まあ、俺はラノベの主人公じゃないから多分そんなことにはならないけど。そうだな、一夏なら起こりうるかも。

 コンコン。

 

「どうぞ~」

 

 ん?今の声…。

 

「失礼しまーす」

 

 生徒会室の扉を開け、入る。

 

「って、やっぱ布仏さんかいっ!」

 

 そこにいたのは机にぐでーんと突っ伏している布仏さんだった。

 

「いらっしゃーい、ぐっちー。遅かったねー。どっか寄り道?」

 

「うん、まあ」

 

 何だろう、この出鼻をくじかれた感じは。てか、ここが生徒会室か。なんかアニメなんかマンガで見るようなままの雰囲気だな。やっぱ現実でも二次元でもこういうのは一緒なのかな。

 

「あ、いらっしゃいませ。話は聞いていますよ」

 

 と、生徒会室の中をぼんやりと見ていた俺に横から声が聞こえた。見ると三年生の女子だった。眼鏡に三つ編み、いかにも『お堅いが仕事ができる』風の人。片手に持ったファイルがよく似合っている。はっ!もしや!

 

「は、はじめまして!井口颯太です!よろしくお願いします生徒会長!これ、つまらないものですが、学食で買ったシュークリームです!」

 

 びしっときれいに90度にお辞儀しながら手に持っていた袋をその先輩に差し出す俺。

 

「え、えっと……違うんですよね」

 

「え?」

 

 顔を上げるとその先輩が苦笑いを浮かべている。

 

「私は布仏虚。生徒会役員ではありますが会長ではありません。布仏本音の姉です」

 

「あーっと、これは失礼しました」

 

 あー、超恥ずかしい。

 

「えっと、じゃあ生徒会長さんは?」

 

「あ、今部活からの申請を片付けに行っています。すぐに戻ってくると思うのでそちらの椅子にかけてお待ちください」

 

「あ、はい」

 

 示された椅子に座る俺。向かいには布仏(妹)。

 

「こら本音。お客様の前よ。しっかりしなさい」

 

「は~い、お姉ちゃん」

 

 返事をして体を起こすが、椅子の背もたれに体を預けてダラーっとしている。

 

「えっと、布仏さん」

 

「「はい?」」

 

 俺が呼びかけると二人同時に返事する。

 

「あ、すみません。妹の方の布仏さんです」

 

「あ…はい」

 

 俺の言葉に布仏先輩が少し照れながら頷く。

 

「えっと、ややこしいんで、これからは妹の方はのほほんさんって呼びますね」

 

「うーい」

 

「わかりました」

 

 俺の言葉にダブル布仏が頷く。

 

「どうぞ」

 

 ちょうどそこでお茶を入れ終わったらしく、布仏先輩が俺の前にカップを置いてくれる。

 

「どもっす」

 

 すごい。めっちゃ高そうなカップ。壊したらどうしよう。

 

「で?どったのぐっちー」

 

 カップの見た目に驚いていた俺にのほほんさんが訊く。

 

「あ、ああ。なんで俺と同じ一年ののほほんさんが生徒会にいるにいるのかなーって」

 

「ああ、それはねー。生徒会長は自分の役員を定員数になるまで好きに指名できるんだよー」

 

「布仏の家は代々更識家の使用人の家系なんです。なので、会長は幼馴染みでもある私たちを指名したんです」

 

「へー、なるほど」

 

 聞けば聞くほどすごい家みたいだな更識家。

 

「あ、おいしい」

 

 出された紅茶を一口飲むと、花の香りとともに口の中に今までに味わったことのない紅茶の味が広がる。

 

「俺紅茶って普段あまり飲まないんですけど、これおいしいです」

 

「ふふふ。ありがとうございます」

 

 俺の言葉に布仏先輩が微笑む。その顔を俺はついジッと見つめてしまう。

 

「えっと、なんでしょうか」

 

「あ、すいません」

 

 その後、今度はのほほんさんに視線を向ける。

 

「ん?何ー?」

 

「あ、いや、その、ねぇ?」

 

 俺は苦笑いを浮かべながらごまかそうとする。

 

「私たちの顔に何か?」

 

 うーん。ごまかせそうにないみたいだ。

 

「その…なんというか、この姉あってこの妹ありだなーって思って。上がしっかりすると下がのんびりするんだなーって」

 

「あー…」

 

「えへへへ~。まあねー」

 

「本音。照れるところではありませんよ」

 

 照れて頭を撫でるのほほんさんとそれをたしなめる布仏先輩。

 と、そこでいきなり俺の視界が暗転。え、何!?何!?

 

「だーれだ?」

 

 どうやら誰かが後ろから俺の目を手で塞いでいるようだ。

 どうしよう。まったく聞き覚えのない声だ。当たり前だが声の感じからしても相手は女性。同級生よりも大人びた声。そのくせとても楽しそうな、まるでイタズラをする子供のようにも聞こえる。

 

「ぶっぶー。はい、時間切れ」

 

 そう言って開放してもらえたので、俺は声の主を確認しようと振り返る。

 

「………えっと、誰ですか?」

 

「んふふ」

 

 目の前の女子――リボンの色から二年生――は俺の困惑の表情を見てとても楽しそうな笑顔を浮かべつつどこからか扇子を取り出して口元に持って行く。

 ものすごく不思議な雰囲気の人だった。全体的に余裕を感じさせる、しかしそれが嫌味ではない。どこか人を落ち着けるような雰囲気のある人。けれどその笑みはイタズラっぽく、なんとも落ち着かない気分にさせる。なんというか、何かされそうな不安を感じる。

 そして、何よりも不思議なのが、まったく雰囲気が違うのに、どこか簪に似ている気がする。

 

「えっと、もしかしてあなたが…?」

 

「ええ。はじめまして、井口颯太君。私があなたたち生徒の長、更識楯無よ」

 

 

 ○

 

 

 

「さて――」

 

 生徒会長が椅子に座る。

 

「あらためまして、井口颯太君。私が生徒会長の更識楯無よ」

 

「ど、どうも、井口颯太です。よろしくお願いします、生徒会長」

 

 ファーストコンタクトの印象が驚きすぎて萎縮してしまう。

 

「あははははー。そんな硬くならなくてもいいわよ。気軽に楯無でいいわよ。たっちゃんでも可」

 

「えっと、じゃあ俺も颯太でいいですよ」

 

 なんともつかみどころのない人だ。

 

「で、えっと、私にコーチをしてほしいんだっけ?」

 

 そう言って布仏先輩が入れた紅茶に口を付ける楯無先輩。

 

「は、はい。来週の月曜に試合をするので、コーチしてくれる人を探していたらのほほんさんと簪に紹介してもらって…」

 

「うんうん。本音ちゃんと簪ちゃんから聞いてるわよ。イギリスの代表候補生ともう一人の男子とクラス代表をかけて戦うんだって?」

 

「ええまあ。本当はクラス代表とかキャラじゃないんですけど…、なんか流れでそういうことに」

 

「そういえば、日本を貶したイギリス代表候補生に怒鳴り散らしたと聞きましたが?」

 

 布仏先輩の指摘に昨日教室でオタク文化のことで怒ったことを思い出す。

 

「うっ。……ええ、まあ。たぶんそのことであまりいいことは言われてないでしょうが」

 

 今や女尊男卑な世だ。教室で怒鳴ったなんて女子受けは悪いだろう。

 

「いいえ、そんなことはありませんよ?」

 

「え?」

 

 布仏先輩の言葉に顔を上げる。

 

「確かに一部の女生徒からはあまりいいように言われていませんが、他の女生徒、特に日本人の生徒からはなかなか好評なようですよ」

 

「ま、マジっすか?」

 

 俺の青春はまだ終わっていないらしい。っと、話がそれた。

 

「まあその話は後にして……。というわけで楯無先輩にコーチをお願いしたいんですが――」

 

「でも断るわ!」

 

 俺の言葉を遮るように楯無先輩が言う。ついでに手に持っていた扇子を開くと、そこにも「でも断る!」と書かれている。しかもめっちゃ達筆。

 生徒会室内の空気が微妙なものになる。一人だけ楯無先輩がものすごくドヤ顔を浮かべている。

 

「………ソウデスカ。アリガトウゴザイマシタ。デハ、他ヲアタルコトニシマス」

 

 そう言って俺は席を立ち上がりって一礼し、ドアの方に向かう。

 

「ちょっとちょっと!冗談よ冗談!あなたが教室で言ったってことを真似したのよ!」

 

 楯無先輩が焦ったように立ち上がって俺を止める。

 

「……先輩、その扇子貸してもらっていいですか?」

 

「え?あ、うん。はい」

 

 頷いて俺に扇子を渡す楯無先輩。

 

「布仏先輩、ペン貸してください」

 

「あ、はい。……どうぞ」

 

 布仏さんから油性ペンを受け取る俺。

 

「えいっ」

 

 キャップを外して扇子の文字、「でも断る!」の「!」の部分に大きく×をする。

 

「「「あ!」」」

 

 俺の行動に他の三人が驚きの声を上げる。

 

「俺の言ったこのセリフ――『ジョジョの奇妙な冒険』第四部の登場人物『岸部露伴』のセリフはビックリマーク付けないんですよ。しかも使い方間違ってるし」

 

 言いながら扇子を楯無先輩に、ペンを布仏先輩に返す。

 

「正しくは、いったん相手の要求に肯定しかけてからの『だが断る』です。今の先輩の使い方じゃあ、でもも何もないですよ。ただ断ってるだけなんですから」

 

「あ、はい。ごめんなさい」

 

 俺の言葉に楯無先輩が素直に頭を下げる。

 

「まったく、ちゃんと意味を知らずに使うにわかには困ったもんですよ」

 

「「「…………」」」

 

「はっ!」

 

 やべぇ!調子に乗ってやっちゃった~!!

 

「す、すいません!俺好きなもののことになるとつい饒舌になってしまって…」

 

「ぷっ」

 

 俺が謝ると、楯無先輩が噴き出し、笑い始める。

 

「颯太君、君面白いね」

 

 ひとしきり笑った後、楯無先輩が口を開く。

 

「簪ちゃんが君のこと気に入った理由がわかったかも」

 

「え?」

 

「ううん。さて、コーチのことだったわね。もちろんいいわよ」

 

「え?本当ですかっ?」

 

「うん。普段私に頼らない簪ちゃんの頼みだもの。聞いてあげるのが姉の務めよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「その代わり、私甘くはないからね?」

 

 そう言って笑いながら扇子を開く楯無先輩。その扇子には「熱烈峻厳」と書かれていた(後で調べたところ「厳しく情熱を傾け、妥協を許さない厳しさを持つこと」という意味らしい)。てかいつの間に扇子入れ替えたんだよ。

 

「は、はい!頑張ります!」

 

「うんうん。いい返事」

 

 楽しげに頷く楯無先輩。

 

「じゃあ、これが明日からのメニューね。これの通りに訓練していくから」

 

 そう言って渡されたメモには鬼のような特訓メニューが書かれていた。

 

「………これを?」

 

「うん。試合まで毎日」

 

 そう言って笑う楯無さんの笑顔が俺には鬼のように見えた。




と言うわけで主人公のコーチが決定しました。
といっても、たぶん特訓内容はキングクリムゾンします。
次回からいきなりクラス代表決定戦になると思います。


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第7話 バトル開始

キングクリムゾン!
特訓過程をとばす!


 時間はあっという間に過ぎ、気付けば試合当日となっていた。

 試合の順番は事前に行ったくじ引きで決まっており、オルコットVS一夏、俺VSオルコット、俺VS一夏の順番となっている。自分以外の試合は公平になるように観覧禁止となっている。

 そして現在オルコットVS一夏の試合が行われている。俺は別室待機中。この場には俺以外に誰もいないので正直暇を持て余している。かといって寝るほど暇でもない。てかそもそも緊張で眠れない。

 俺はふと、右手首に巻かれたブレスレットの黒いリングに目を向ける。これは俺が借りているIS『打鉄』の待機状態だ。

 学園から借りるISを俺は『打鉄』を選択し、メイン武器は近接ブレードにした。聞くところによるとオルコットのISは中距離射撃型らしい。そんな相手に近接武器で、なんて間抜けかもしれないが、これにはそれなりに理由がある。

 そもそも俺はど素人だ。そんな俺が一週間で銃火器の扱いをマスターし、まともに戦えるレベルに持って行けるだろうか?答えは『NO』だ。それだったら近接メインにし、一週間の間に近接格闘の訓練をした方がいいと考えたのだ。そのことを楯無師匠に言うと、師匠も同意してくれていた。

 

「井口君。そろそろです。準備はいいですか?」

 

「はい」

 

 待合室にやって来た山田先生に頷き、第三アリーナのAピットに向かう。

 

「おう」

 

 俺と入れ替わりで一夏がピットから出てくる。

 

「頑張れよ」

 

「おう」

 

 一夏の言葉にピットに入る。そこには織斑先生もいた。

 

「現在、オルコットは織斑とのバトル後の装備の回復などを行っている。あと五分もあれば終わるだろう。今のうちにお前もISを展開して待機しろ」

 

「はい」

 

 織斑先生の言葉に頷き、右手のリングに目を向ける。

 

「こい、打鉄」

 

 つぶやくように打鉄の名を呼ぶと、俺の体は軽い浮遊感とともにISを纏う。

 試しに両手をグッパッと開いたり閉じたり、両方の膝を交互に曲げて伸ばす。うん、問題ない。

 この一週間、ISの操縦面では楯無師匠に、知識面では簪にコーチしてもらった。そういえば二人同時に教えてもらったことなかったな。なんかお互いがお互いを避けるようだった。まあ俺がとやかく言うのも悪い気がしたので何も言わなかったが。

 

「向こうも準備ができたようだ。お前の方はどうだ?」

 

「はい、大丈夫です。問題ないです」

 

 織斑先生の言葉に頷き、ピット・ゲートに進む。

 ゲートに立ったところで俺は特訓最終日、昨日別れ際に言っていた師匠の言葉を思い出す。

 

『この一週間よく頑張ったわね、颯太君。これは最後の私の教え。明日は思いっきり戦いなさい』

 

(ありがとうございました、楯無師匠。俺、どこまで出来るかわかりませんが、頑張ります)

 

 心の中で師匠にお礼を言いつつゲートの向こうに目を向ける。その先にオルコットがいる。

 

「井口颯太、行きます!」

 

 

 ○

 

 

 

「待っていましたわ」

 

 アリーナに出てきた俺を出迎えるオルコット。その姿はまるで中世の王国騎士のようだった。

 鮮やかな青色の機体『ブルー・ティアーズ』。その外見は、特徴的なフィン・アーマーを四枚背に従えている。さらに目を引くのはオルコットの手にある二メートルを超す長い銃器、六七口径特殊レーザーライフル≪スターライトmkⅢ≫が握られている。

 アリーナ・ステージの直径は二〇〇メートル。オルコットのライフルは発射から目標到達までの予測時間は〇.四秒。すでに試合は始まっているので、いつ撃ってきてもおかしくない。

 

「試合を始める前に、少しよろしいでしょうか?」

 

「………なんだ?」

 

「先日、教室でのこと。日本のこと、あなたの好きなもののことを貶してしまい――」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

 俺はオルコットの言葉を遮る。

 

「謝罪をするつもりならやめてくれ。お前が謝ったらこれからの試合の意味がなくなる。そういうのは全部終わってからにしようぜ」

 

「………そうですわね。この試合が終わったら…ですわね?」

 

 この一週間でオルコットにも何か思うところがあったのだろう。自分の発言についてよく考えたのだろう。

 

「もちろんだ」

 

 オルコットの言葉に俺が頷く。

 

「それでは――」

 

「おう――」

 

 オルコットがレーザーライフルを構え、俺も近接ブレードを展開する。

 

「「行くぜ(きますわよ)!」」

 

 二人同時に言ってどちらも行動を開始する。

 打鉄の警告音声に従って、素早く屈んだ状態で地面すれすれを前進する。さっきまで俺がいた空間に耳をつんざくような独特な音とともに閃光が走る。

 まずは相手の出方を確かめるために逃げと防御に徹する。

 オルコットは手に持っているレーザーライフルで、そして展開した四基のビットで俺を狙い撃つ。すごい精度の攻撃だ。避けるのも一苦労だ。かすった時の衝撃もなかなかだ。正直少し怖い。でも――

 

「師匠ほどじゃない!」

 

 俺はオルコットの攻撃を避けながらこれまでの師匠との特訓を思い出す。

 

 

 

『それじゃあ、これから特訓を始めましょうか』

 

『はい!楯無先輩!』

 

『ノンノン。どうせなら〝師匠〟って呼んで?』

 

『はあ、じゃあ師匠?』

 

『うんうん。素直な子はお姉さん好きよ』

 

 俺が師匠と呼ぶと楯無先ぱ――師匠が嬉しそうに頷く。

 

『じゃあ、まずはISの防御からの衝撃がどれくらいのものなのか体験してみましょうか。銃器で攻撃される恐怖に慣れることも兼ねて』

 

『はい?』

 

 打鉄を展開した状態の俺をアリーナの壁に固定し、自分はアサルトライフル二丁を俺に向ける笑顔の師匠。

 

『ちょ!まっ――』

 

『ファイヤッ!』

 

 言葉と共に俺に向けて両手のアサルトライフルを発砲。

 

『アハハハハハハハハ!!!』

 

『ギィヤァァ~~~~!!!』

 

 師匠の笑い声と俺の叫び声、そしてアサルトライフルの断続的な発砲音がアリーナに響く。

 全弾発砲後。初めて銃で撃たれたことへの恐怖でぐったりとする俺と、

 

『快っ感っ!♡』

 

 と、めちゃくちゃいい笑顔を浮かべる師匠の姿が数人の生徒に目撃され、「生徒会長が男子の井口颯太にアサルトライフルを使った公開SMプレイを興じていた」という噂が流れた。

 

 

 

 その時のことを思い出し、ブルリッと背筋に寒気を感じながらオルコットの動きに目を向ける。

 さっきからオルコットの攻撃には共通点がある。それは――

 俺の周りで飛んで攻撃をしてくるビットの攻撃が止む、と同時にオルコットのレーザーライフルの攻撃が飛んでくる。

 

「おっと!」

 

 すんでのところで避ける俺。

 やっぱりだ。オルコットはビットで攻撃している間は自分では攻撃してこない。自分で攻撃をしてくる瞬間、オルコットのビットはその動きを止める。つまり、ビットを操作しながらだとオルコットはそちらに集中するために他の攻撃ができないということだ。

 

「そろそろ頃合いか……」

 

 俺は近接ブレードを握り直し、オルコットに向かって行く。

 

「うおおお!」

 

「っ!」

 

 俺の急な方向転換にオルコットが驚きながらもレーザーライフルで対応。俺に向かって飛んでくる閃光を避けながらオルコットとの距離を詰めていく。

 

「くっ!インターセプ――」

 

「せいっ!」

 

 左手を伸ばして何かをしようとしたオルコットの行動よりも早く俺が斬りかかる。咄嗟にオルコットはレーザーライフルで防ぎ、すぐさま俺との距離を離す。

 

「…なかなかいい動きですわね。いいコーチを見つけたんでしょうね」

 

「まあな。この一週間何度痛い目に合ったか……」

 

 打鉄で出せる最大速度でアリーナ内を延々飛び回ったり、師匠の用意した様々な障害物を最大速度のまま素早く認識し避けたり、最後には師匠とISで鬼ごっこしたりした。ロシア国家代表にして学園最強の師匠から逃げるとかマジで無理ゲーだった。一回捕まるごとに生徒会役員三人分のシュークリームを買わされた。おかげで随分と財布が寒くなった。これらの特訓で壁や障害物にぶつかった回数は両手足の指でも足りないくらいだ。

 

「まだまだ行くぜ!」

 

 特訓の記憶を頭の端に押しやり、近接ブレードを構え直し、オルコットへと向かって行く。

 

 

 ○

 

 

 

「はあ……はあ……」

 

 試合開始から三十分ほどが経った。ここまで俺もオルコットもお互いに相手に決定打を当てることなく、お互い攻撃をかすらせることしかできていない。途中俺の攻撃によってビットは二個になっていた。

 

(そろそろ奥の手を出さないと、いい加減俺の方が追い込まれてるな……)

 

 現在シールドエネルギーで見れば俺もオルコットもそれほど変わらない。しかし、疲労の具合で言えば圧倒的に俺の方が疲れている。息が上がってきている俺に対してオルコットは多少の疲労は見えるもののまだまだケロッとしている。

 

「………っ!」

 

 気合いを入れ直し、今日何度目かもわからない最大速度での突撃をかける。おそらく俺の疲労度、集中力からしてこれが最後のチャンスだ。

 

「くっ!」

 

 オルコットのビットから、レーザーライフルからの攻撃が俺に向かってくる。それを避けながら俺はオルコットに向かって行く。

 しかし、俺の目の前にオルコットのレーザーライフの銃口が見える。背後にはオルコットのビット。囲まれたのだ。このままのスピードで行けば三つの攻撃が俺に当たり、俺は負けるだろう。でも――

 

「うおおおお!」

 

 そこでおれは俺は奥の手、師匠に教えてもらった技を発動させる。その技の特性上、通用するのは一度だけ。一回きりのチャンスだ。

 背中のスラスター翼からエネルギーを放出。それを内部に一度取り込み、圧縮して放出する。押し上げるような力を感じながら俺は加速する。

 

「なっ!」

 

 俺の急な加速にオルコットが驚愕する。すぐさま攻撃をするが、オルコットの攻撃は俺にかすりもせず何もない空間を素通りする。

 これが俺の奥の手――『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』だ。

 

「だあああああっ!!」

 

 叫びながら近接ブレードを大きく振りかぶる。オルコットの斜め上で止まる。

 

「せいっ!」

 

 振りかぶった近接ブレードをオルコットに振り下ろす。

 

「きゃあっ!!」

 

 俺の一撃を受け、オルコットが地面に向けて落下していく。が――

 

「まだだ!」

 

 まだ終われない。オルコットのシールドエネルギーを削りきるにはまだ足りない。

 そこから俺は落下するオルコットに体を向け、背中のスラスター翼からエネルギーを放出。それを内部に一度取り込み、圧縮して放出。二度目の『瞬時加速』だ。

 

「うおおおおおお!!」

 

 落下するオルコットを途中で追い抜き先に地面に着地。上空のオルコットに向けて近接ブレードを構え直す。

 

「はああああああ!!」

 

 落ちてくるオルコットにタイミングを合わせてブレードを斬り上げる。

 

「このっ!!」

 

 しかしオルコットも奥の手があったようだ。オルコットの腰部から広がるスカート状のアーマー。その突起が外れ、動いた。さっきまでのレーザー射撃のビットじゃない。これは『弾道型』だ。

 

「うおおおおお!!」

 

「はあああああ!!」

 

 最後の瞬間に俺が感じたのは俺の体にぶつかり、盛大に爆発した二基のビットの衝撃と右手に伝わる確かな近接ブレードが何かを斬ったの感触だった。

 爆発の煙が晴れたとき、俺の間横には地面に降り立ったオルコットの姿があった。

 

『両者シールドエネルギー0。勝者無し!引き分け!』

 

 アリーナに響く放送。俺の横で屈んでいたオルコットが立ち上がる。

 

「おつかれ」

 

 オルコットに声をかけつつ打鉄の展開を解く。

 

「あなたも」

 

 オルコットもブルー・ティアーズの展開を解く。ISの装甲が光の粒となりパッと弾ける。

 

「……ありがとうございました。いい試合でしたわ」

 

「おう。やっぱ代表候補生は強いな」

 

 俺の言葉にオルコットが首を振る。

 

「そんなことありませんわ。今のはわたくしの負けですわ」

 

「そんなこと――」

 

「いいえ。実際あなたの最後の加速、あれは予想外でしたわ。もしもあなたと私の条件がもっと対等だったなら、きっとこの試合はもっと違った結果になっていましたわ」

 

「そこまで評価してもらえてありがたいね」

 

 オルコットの言葉に俺は少し照れる。

 

「……井口さん。今度こそ言わせてください。先日の教室でのこと。日本のこと、あなたの好きなものを貶してしまい、申し訳ありませんでした」

 

 そう言ってオルコットが頭を下げる。

 

「あなたの言うとおりでしたわ。わたくしは自分の目で見たものではなく、人の意見に影響されていましたわ。本当に申し訳ありませんでした」

 

 オルコットは頭を下げたまま続ける。

 

「……じゃあさ、自分の目で確かめてみようぜ?」

 

「え?」

 

 俺の言葉にオルコットが顔を上げる。

 

「自分で見て、面白くなければそれでいいさ。だから今度、俺のおすすめを見てみないか?」

 

「……ええ、お願いしますわ」

 

 俺の言葉にオルコットが笑顔を見せる。

 

「これからは仲良くしようぜ、オルコット。大抵の漫画やアニメではこんだけ戦った相手とは友情が芽生えるもんだ」

 

 言いながら俺の差し出した右手をオルコットが握る。

 

「ええ、もちろんですわ。それとセシリアでいいですわ」

 

「そうか。俺のことも颯太でいいぜ」

 

 そしてお互い笑顔になる。

 

「そうだ。一夏ともちゃんと話せよ?」

 

「えっ?一夏さんですかっ?…そ、そうですわね。一夏さんにもちゃんと謝罪しなければいけませんわね…」

 

「セシリア……お前……」

 

 セシリアが真っ赤にしてきょどる様に俺は驚愕する。もしかして、こいつ一夏に…?

 

「い、いや、その……」

 

 顔を真っ赤にしたまま慌てた様子で言い訳を言うセシリアだったが、それらはどれも要領の得ない薄っぺらーいわかりやすいものだった。

 戦った相手を惚れさせるとか、どこまでラノベの主人公なんだよ一夏は。




戦闘描写がへたくそな僕の文章にお付き合いいただきありがとうございました。
やっぱりあれですね戦闘シーンの描写は難しいですね。
次回は一夏との戦闘ですね。頑張ります。


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第8話 VS一夏

苦手な戦闘描写。
変な場面があったらごめんなさい。


「よお、待たせたな」

 

 アリーナに出て来た俺は先に来ていた人物――一夏に声をかける。

 俺も一夏もISを展開した状態だ。一夏のISは白。まるで翼を広げたような背中のスラスター翼がかっこいい。俺の専用機もこんなのがいいな。

 

「なかなかかっこいいISだな」

 

「ありがとよ」

 

 俺の言葉に一夏が嬉しそうにニッと笑う。

 

「よお、聞いたぜ。セシリアと引き分けたんだってな?」

 

「まあな。いい師匠に巡り合えたからな。お前の方は負けたんだって?いいとこまではいったとは聞いたけど」

 

「ははは。まあな」

 

 一夏が苦笑いを浮かべる。

 

「――さて、おしゃべりはこの辺にするか」

 

「――おう」

 

 俺の言葉に一夏が顔を引き締める。

 

「「行くぜ!!」」

 

 お互いに近接ブレードを展開。いっきに距離を詰める。

 

「はあああああ!!」

 

「やあああああ!!」

 

 気合いとともにお互いの近接ブレードがぶつかり合う。

 キンッキンッキンッ!

 近接ブレード同士がぶつかり合い、甲高い金属音がアリーナに何度も響く。ブレードとブレードがぶつかり合うたびに一瞬の火花が散る。

 数秒の鍔迫り合いの後、俺たちはいったん距離を置く。

 

「すげえなお前。剣道とかやってたのか?」

 

「小学生のころにな。中学ではやってなかったけど、俺のコーチがISのこと教えずに剣道ばかりさせてたからな。最近はずっと剣道ばっかりやっていた」

 

「へえ、道理で」

 

「お前だってすごいじゃないか。お前も剣道とかしてたのか?」

 

「ははっ、まさか。素人の我流だよ。強いて言えば、飛天御剣流だ」

 

「マンガじゃねえか」

 

 一夏の呆れ顔に俺が笑う。

 

「マンガの知識をバカにすんなよ?マンガ読んでたら人体の急所とか武術の動きだって覚えられるぜ?」

 

 おかげで広く浅く変なところに詳しく色々な知識を蓄えた。

 

「………しっ!」

 

 短く息を吐き出しながらいっきに距離を詰めて下から斬り上げる。

 

「くっ!」

 

 キンッ!

 俺の近接ブレードを一夏は受け止める。が、勢いを殺しきれなかったらしく上に逃げる一夏。

 

「まだまだ!!」

 

 一夏の上速度より早く、最初から最高速度で上昇。ブレードを担ぎ上げるような状態で一夏より上で停止。そこからさらに落下の勢いに逆らわずに振りかぶったブレードを振り下ろす。

 

「だりゃああああ!!!」

 

「ぐぅぅ!!」

 

 俺の上段からの一閃を受け、一夏が地面に落下し数メートル転がる。

 

「ふぅー」

 

 大きく肺の中の空気を吐き出しながら地面に着地。一夏の方も起きあがる。

 

「まったく、今の技のどこが素人だよ」

 

 一夏が苦笑いを浮かべている。

 

「素人だよ。その証拠に今のは見よう見まねの龍槌閃だ」

 

「やっぱマンガか」

 

「マンガだぜ。でもかっこいいだろ?剣心」

 

「ふっ、まあな」

 

 一夏がニッと笑い、俺も笑う。

 

「で?お前はいつまで近接ブレードだけで戦うんだ?専用機なんだから他にもなんか武器があるんだろ?俺が訓練機だからって遠慮すんなよ?」

 

「………だけだよ」

 

「は?なんて?」

 

「これだけだよ!近接ブレード一本!以上!俺の武器はこれだけ!」

 

「……はあ!?なんだそのふざけた専用機は。欠陥機か?」

 

「欠陥機とかいうなよ!」

 

「ごめん!!」

 

「いいよ!!」

 

 なんだこのやりとり。漫才か!てか近接一本ってどんな専用機だよ。そんな逆境まじでラノベやアニメの主人公みたいじゃん。

 

「せっかく教えてくれたんだ。俺も教えてやる。俺も近接ブレードしかない!」

 

「そっか。じゃあお互い真正面からのぶつかり合いだな」

 

「とか言って、こういう場合なんかすっごい技とか奥の手があるんだろ?」

 

「お前エスパーか!?」

 

「マジであるんかい!!」

 

 確定だ。こいつアホだ!そんなの素直に言うなよ。警戒されるに決まってるだろ。

 

「じゃあ、ばれちまったわけだし奥の手行かせてもらうぜ!」

 

 そう言うやいなや一夏が一気に俺へと距離を詰めてくる。もしかしたら打鉄の最大速度よりも速いかもしれない。そのスピードのまま一夏が近接ブレードを振りかぶる。と、一夏のブレードに変化が起こる。

 振りかぶったの近接ブレードの刀身が光る。それと同時に一夏のブレードの刃渡りや幅が伸びる。なんだろう。すごくヤバイ気がする。

 俺は咄嗟にバックステップで一夏の攻撃を避ける。何とか躱したが、刃渡りが伸びたせいで少しかすってしまった。でも、この程度ならそれほどのダメージは――

 

「って、ウソォ!!?」

 

 俺は自分のシールドエネルギーを見て驚愕する。かすっただけとは思えないほどシールドエネルギーが減っていた。

 

「って、あれ?」

 

 次に一夏のシールドエネルギーを見た俺は首を傾げる。減っているのだ。俺は攻撃を当てていないはずなのに一夏のシールドエネルギーも俺と同じくらい、いやそれ以上に減っていた。

 

「なるほど。こりゃ奥の手だな」

 

 おそらく一夏の奥の手は自身のシールドエネルギーを消費して発動させるタイプのものだ。しかもさっきの感じなら食らったらひとたまりもない。残りのシールドエネルギーを全部持って行かれる。こんなリスキーで一撃必殺な技を使うなんて、とことん主人公タイプの能力だな。

 俺は気を引き締めるよう近接ブレードを握り直す。

 

「確かに厄介だが、絶対に負けないぜ!」

 

「おう!俺だって!」

 

 お互いに近接ブレードを握り直す。

 

「「行くぞ!」」

 

 お互いに一気に距離を詰め、お互いのブレードがぶつかり合う。最初と同じ、でも最初よりも俺が不利な状況でのチャンバラ。一夏は俺と違って一発かすろうがまだまだ余裕がある。だが、俺はかすっただけでエネルギーが吹き飛ぶ。一夏の攻撃を受けずに俺の攻撃を当てるとか…無理ゲーだな。でも――

 

「無理ゲー最高!!!」

 

 叫ぶように言いながら一夏との距離を取る。

 

「一夏!さっきの礼だ!俺の奥の手も見せてやる!」

 

 そう言って俺は大きく身を沈めるように屈みこみ、左腰に近接ブレードを添え、左手でブレードをつまむように掴む。

 

「行くぞ……」

 

 そのままの体勢で背中に意識を持って行く。スラスター翼からエネルギーを放出。それを内部に一度取り込み、圧縮して放出。そう、『瞬時加速』だ。これで一夏のシールドエネルギーを削りきれない、もしくは避けられれば、きっと俺は勝てない。頭の中を空っぽにし、考えることはただ一つ。一夏へと叩き込む一撃のイメージだけ。

 

「っ!!!」

 

 小さな気合いの一息とともに大きく右足からの一歩を踏み出す。その瞬間背中のスラスターからエネルギーを解放。打鉄で出せる最高速度に『瞬時加速』を乗せて今出せる最高速度で一夏へと向かって行く。

 

「!!」

 

 一夏の驚愕の息遣いが聞こえるが、そんなもの気にする間はない。体にかかるものすごい圧力に歯を食いしばりながら一息に一夏の目の前に。そこで一時停止しそれまでの勢いを左足で踏み込み、右手の近接ブレードに乗せる。

 

「うおおおおおお!!!」

 

 そのまま十字傷の剣士の抜刀術の要領で左足で踏み込み、下から斬り上げる。

 

「ぐっ!!」

 

 一夏が俺の一撃を受け、苦しげな声を漏らす。だが、まだシールドエネルギーが残っているらしい。

 

「もう一つおまけに!」

 

 そこからさらに踏み込んだ左足に力を乗せ、『瞬時加速』の勢いのまま上に跳躍。それと同時斬り上げているブレードの峰を蹴り、足刀の威力をのせる。

 

「これでどうだあああ!!!」

 

 バッと顔を上げると、そこには苦しげに、しかしまだあきらめていない顔の一夏の顔があった。どうやらまだ終われないようだ。

 

「うおおおおおお!!!」

 

 気合いとともに上に両手で振り上げている一夏の近接ブレードが俺に向かってくる。俺はその軌道を見つめていた。

 体感としては数十秒の、しかし実際には一瞬の出来事だったのだろう。俺の体に一夏の攻撃が叩き込まれる。確認するまでもない。きっとシールドエネルギーがすごい勢いで減少していることだろう。

 一夏の攻撃の後、地面に倒れ伏せている俺が聞いたのは

 

『シールドエネルギー0。勝者、織斑一夏!』

 

 アリーナに響いた放送だった。




というわけでクラス代表決定戦、これにて終了です。
バトルシーンは毎度毎度難産です。
頭の中でイメージできてもそれを言葉にするのが難しいです。

ちなみに最後に颯太君が出した技はるろうに剣心に登場する倭刀術のひとつ、「蹴撃刀勢」のイメージです。
知ってる方はあんな感じだと思ってください。

さらにちなみになぜこんなにるろうに剣心の技を出したかというと、ただ思い浮かんだ出来そうな剣術がそれだっただけです。


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第9話 反省会とクラス代表決定

 コンコン。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

 ノックの返事を聞き、俺は生徒会室のドアを開ける。まず目に入ったのは机にぐでーんっとなっているのほほんさん。この人生徒会役員だよね?仕事しようよ。

 

「こちらにどうぞ」

 

 言葉とともに以前来たときに俺が座った椅子を指す布仏先輩。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 布仏先輩にお礼を言いつつ、俺は椅子に座る。

 

「いらっしゃい。待ってたわよ」

 

 以前と同じ席に座り、傍らには書類の山、手元には数本のペンと判子と朱肉が置かれ、優雅に紅茶を飲んでいる楯無師匠が言った。

 

「見たわよ、試合映像。どっちの試合も惜しかったわね」

 

「ありがとうございます」

 

 楯無師匠の言葉にお礼を言いながら俺は頭を下げる。

 

「どうだった?試合をやってみて」

 

「そうですね。とりあえず悔しかったです」

 

 どちらもあと一歩のところまではいった。それでもあと一歩足りなかった。セシリアの奥の手の最後のビットや一夏のあの謎のブレード。思わぬ攻撃にあと一歩が届かなかった。

 

「でも、初心者なのによくやったと思うわよ」

 

 楯無師匠の言葉も慰めにしかならない。今回の戦いは単に俺の実力が足りなかったのだ。

 

「負けっぱなしは悔しいんでこれからも頑張ります」

 

「その意気よ。じゃあこれから反省会と行きましょう。まず、試合映像を見ていて思ったことだけど――」

 

「会長。反省会もいいですが、今日中の仕事を終わらせていただきませんと」

 

「うっ」

 

 布仏先輩の言葉に師匠が嫌そうな顔をしながら傍らの書類の山に目を向ける。どうやらそれ全部が今日中の仕事らしい。

 

「で、でも、反省をするには客観的な視点からの意見が必要だし――」

 

「いや、俺のためにそこまでしていただけるのはありがたいですが、師匠は生徒会長なんですから仕事を優先してもらったらいいですよ。反省会なら後日でいいので」

 

「くっ」

 

 俺の言葉に師匠が悔しそうな顔をする。はっは~ん、俺をダシに仕事をほっぽりだすつもりだったな?

 

「会長。井口君もこう言っていることですし、今日は反省会は無しにしましょう。それに、初めての試合で彼も疲れているでしょうし」

 

「………それもそうね」

 

 布仏先輩の言葉にしぶしぶながらも師匠が頷く。

 

「じゃあ颯太君。これ、私が試合映像を見て感じた反省点とその改善ポイントをまとめたメモよ。映像データも一緒にあげるから自分で見ながら確認しなさい」

 

「ありがとうございます」

 

 師匠から数枚のA4サイズの紙とディスクを受け取る。

 

「あ、それと、これから生徒会の仕事が忙しくなりそうなの。だからこれまでは一週間つきっきりで特訓してきたけど、これからはできて一週間に一回くらいになりそうなの」

 

「あ、そうなんですか」

 

「ごめんね。コーチを引き受けたのに」

 

 申し訳なさそうな顔になる師匠。

 

「いいんですよ。ここまでやっていただけただけでありがたかったです。これからは手が空いているときだけでいいので。仕事の方を優先させてください」

 

 俺はその場に立ち上がる。

 

「楯無師匠、布仏先輩、のほほんさん。この一週間、お世話になりました。ありがとうございました。何か手がいるときは言ってください。何でもお手伝いさせていただきます」

 

「じゃあさっそくこの仕事を――」

 

「お嬢様?」

 

「ごめんなさい」

 

 布仏先輩の圧力にすぐさま謝る楯無師匠。

 

「では、また何かあったらお願いします」

 

「じゃあ私には今度学食で何か奢ってー」

 

「おう。俺の財布と相談してもらうけどな」

 

「本音?無理な注文しないようにね?」

 

「はーい」

 

 姉の言葉に頷く妹。まじでお願いだよ、のほほんさん。

 

「まあとりあえずお茶でも飲んでゆっくりしていきなさい。私は仕事に戻るけど」

 

「あ、はい。いただきます」

 

 楯無師匠の言葉に頷き、椅子に腰を下ろす。それと同時に俺の目の前に紅茶の入ったカップが置かれる。

 

「ありがとうございます」

 

 布仏さんにお礼を言いつつカップに口を付ける。うん、おいしい。

 

 

 ○

 

 

 颯太が紅茶を飲みきり、生徒会室を後にしてから、

 

「しっかし、ぐっちーはすごいねー。専用機相手に訓練機であそこまで戦うなんて。やっぱりお嬢様たちのコーチがよかったのかなー」

 

 机に突っ伏したままぶかぶかの制服の袖をゆらゆらと揺らしながら本音が言った。

 

「それは違うわよ」

 

「「え?」」

 

 そんな本音の言葉に書類に顔を向け、手を動かしたまま楯無が言った。それに対して本音だけでなく虚も首を傾げる。

 

「確かにISの操縦や格闘の基礎は私が、知識面では簪ちゃんが教えてたけど…彼の戦いはそれ以上よ」

 

 てきぱきと手を動かし、時にペンで書類に何かを書き込み、判子を手にとって判を押す。しかしその顔は楽しそうに笑っていた。

 

「私が教えたのはあくまでも基礎。あんな剣術は教えていないわ。そのことをさっき聞いたら、『るろうに剣心の真似です』って言っていたわ。漫画の中の技を実戦で使って、しかも相手に確かなダメージを与えたのよ、彼は」

 

 楯無の言葉に唖然とする二人。

 

「今年の一年生は面白そうな子たちばかりね」

 

 

 

 ○

 

 

 

「ふぁ~~~」

 

 翌日の朝。ベッドの上に起きあがった俺は頭をかきながら大きな欠伸をする。

 昨日は夕食後に部屋で試合の映像を簪と共に見ていたはずなのだが、どうやらいつのまにか寝てしまったらしい。映像を見る前に寝間着には着替えていたので服装は変わっていないのだが、布団をちゃんと掛けて寝ていた辺り簪が寝てしまった俺にかけてくれたのだろう。

 時刻は七時半。部屋の中を見渡すが俺以外の人の気配を感じない。おそらく簪は朝食に先に行ったのだろう。

 

「ん?これは……」

 

 着替えて朝食を食べに行こうと思った俺の目に机の上に置かれた数枚の紙が写る。楯無師匠からもらったものとは別のもの。それを手に取った俺はそれが何かをすぐに理解した。それは試合の映像を見て、簪が簪なりに感じたことを書いてくれたアドバイスだった。しかも、そこには見せていないはずの楯無師匠のアドバイスと似たところを指摘していた。

 

「これは、俺の課題が誰の目にも明らかだってことなのか、それとも、やっぱり二人が似ているってことなのか……どっちなんだろうな」

 

 自分の口角が少し上がっているのを感じつつ、俺はそれをカバンにしまい、着替え始めた。

 

 

 

 その後、教室では一組のクラス代表が一夏になったことが発表された。セシリアは辞退したそうだ。

 一夏自身は不満そうだったが、俺としては一夏が向いていると思うのでよかったと思う。山田先生も言っていたが、一年一組代表は織斑一夏で一繋がりでなんともいい感じだ。

 発表後にはセシリアが正式に自分の発言について謝罪。クラスメイトたちも納得していたようなのでこれでクラスとも確執が残らないだろう。まあ、その後一夏のコーチを名乗り出たことで一夏のコーチの篠ノ之さんとは険悪になっていた。

 ちなみにセシリアは俺のコーチも名乗り出てくれたので楯無師匠の特訓が無い時はお願いすることにした。

 さらにちなみに、セシリアには「鋼の錬金術師」の漫画を貸してみた。理由は以前ネットで外国人にお勧めの日本のアニメの中に見た気がするからだ。比較的読みやすいと思うし、気に入ってくれるといいのだが……。




というわけでこれでクラス代表は決定。
セシリアには鋼の錬金術師を勧めておきました。
他にもこれを外国人に勧めたいなどありましたら感想にでも書いていただけるとありがたいです。
最近感覚がマヒしてきたのか、人に勧めるのにどれがセーフでどれがアウトかの線引きが難しいです。


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第10話 中途半端な……

来る!………何かが。


「そうだ、言い忘れていた。おい、井口」

 

「はい?」

 

 四月も下旬。遅咲きの桜も散り始めたころ。今日一日の授業も終わり、放課後を迎えて一組クラスメイト達もクラブ活動や遊びのためにちらほらと立ち始めた時だった。

 

「井口君の専用機の準備ができました。明日の実技でフィッテングを行います。これが専用機についての書類です」

 

 とんっ、と俺の手に数枚の紙の挟まれたファイルを置く山田先生。

 

「で、これがISのルールブックだ。ちゃんと読んで、全部覚えろ」

 

 どさっ、と俺の手にすごく分厚いうえに一枚一枚がペラペラの紙でできた本が乗せられる。どさって……。

 

「それと、お前は企業所属のIS操縦者という扱いになる。それで問題ないか?」

 

「えっと、問題はないですが、その企業ってどこなんですか?」

 

「ああ。お前がこれから所属となり、お前の専用機の開発をしたのは日本のIS企業、〝指南コーポレーション〟だ」

 

 その会社の名前を聞き、俺は驚愕。クラスメイト達も少しざわつく。

 

「え?〝指南コーポレーション〟って言ったら日本でもトップクラスのIS関連企業じゃない?」

 

「確か世界的に見てもISの関連のシェアで上位にあるんじゃ…」

 

「いいなー、そんな有名な企業の所属なんて」

 

 そう。〝指南コーポレーション〟は日本屈指のIS関連の会社だ。ISについてあまり詳しくない俺でも以前から何度かテレビ番組や新聞で見ていて覚えていた。

 

「な、なあ、颯太」

 

 と、〝指南コーポレーション〟について思い出していたところで、横から一夏が俺の二の腕のあたりをつつく。

 

「ん?どうした?」

 

「……〝指南コーポレーション〟ってそんなに有名なのか?」

 

 ドガガガッ

 と、一夏の言葉に数人のクラスメイトと俺がずっこける。

 

「え?なんで?」

 

 その反応の理由が分からないようにずっこけて俺たちをきょろきょろと見ている。

 

「お前…前にセシリアが言ってたこと、俺も言ってやる。お前の家にはテレビがないの!?」

 

「テレビくらいあるぞ!見ないけど」

 

「はあ。いいか?〝指南コーポレーション〟ってのはISが登場する以前から日本でも屈指の企業だったんだ。そこからISが登場し、IS関連の製品に着手してからその規模を拡大。数年前には社長が代わって、敏腕女性社長になってからはその社長がテレビにも露出するようになってさらに有名になった。しかも仕事面でも優秀でその人が社長になってからIS関連の製品のシェアで世界でも屈指の企業になったんだ」

 

 ちなみに裏事情だが、その女社長は幼なじみで副社長の男性と社長就任の翌年に結婚してさらに話題になった。

 

「へ~」

 

「はぁ…。とりあえず、詳しくはググれ」

 

 同じ日本人とは思えない一夏の知らなさにため息をつく。

 

「まあ、このバカの無知さは置いておいて。今夜お前にその企業から連絡が来る。詳しくはその人物と話せ」

 

「はい、わかりました」

 

 姉の辛辣な言葉に少しショボーンとする一夏を尻目に俺は頷いた。

 

 

 ○

 

 

 

「はい、もしもし、井口です」

 

 夜8時ごろ。夕食も終わり、部屋で今日渡されていたISルールブックに目を通していた俺は、自分の携帯に出る。

 

「もしもし。俺は指南コーポレーション開発部主任、貴生川といいます」

 

 電話口に聞こえてきたのは男の声だった。知的でどこか優しげな雰囲気のある、イメージで言えば理数系教師と言った感じだ。

 

「こんばんは、井口颯太です。お話は聞いています。ありがとうございます。僕なんかをそちらの企業所属の操縦者に選んでいただいて」

 

「いやいや、そんな礼を言われることじゃないさ。それにこのことはほとんど社長の独断だったんだ。君のことをテレビのニュースで見た社長が『この子をうちの所属操縦者にする』と言い出して、そんな時に井口颯太と織斑一夏の専用機を作るという話がIS学園から出たものだからこれ幸いにと」

 

 その言葉に以前テレビで見た女性の笑顔を思い出す。その顔は大会社の社長と言うよりは天真爛漫な子供の顔だった。

 

「まあ、詳しくは何かの機会で社長にあった時にでも本人から聞けると思うよ。では、そろそろ君の専用機についての話をしよう」

 

「はい」

 

「えっと、学園に井口君宛に資料を送ったはずなんだけど、受け取っているかな?」

 

「はい、あります」

 

「それには目を通してくれた?」

 

「はい、受け取ってからすぐに」

 

「そうか。では資料を元に話を進めていこう」

 

 貴生川さんの言葉に返事をしつつ俺はそのファイルを開く。

 

「確認するんだけど、君の専用機はうちで作る装備の実験台にもなってもらうことになるんだが、それでもいいかな?こちらの送る装備を使ってもらってその状態や性能を見るということになるんだけど」

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

「そうか、よかった。では次に君の専用機についてなんだが――」

 

 

 

 ○

 

 

 

「今日の実践訓練は井口の専用機のフィッティング。そして専用機持ちによる演習だ」

 

 織斑先生の言葉。俺たち一組の生徒たちはそんな織斑先生の前に並んでいる。織斑先生の横には山田先生、そして見たことのない白衣でメガネの男性が立っており、その傍らにはコンテナが置かれていた。

 男性は髪を肩のあたりまで伸ばし、それを後頭部のあたりで括っている。長身でその見た目の雰囲気は温和で知的。見た目だけで見れば理数系教師と言った感じの人だ。

 

「IS学園一年一組のみなさんはじめまして。俺は指南コーポレーション開発部主任、貴生川巧です。井口君のISの開発の責任者です」

 

 その人物は俺の予想した通り、昨日の電話口の人物だったようだ。

 

「それではこれから井口にはフィッティングを行ってもらう。井口、織斑、オルコットは前に出ろ」

 

「「「はい」」」

 

 織斑先生の言葉に俺を含めた三人が前に出る。

 

「やあ、井口君。改めてはじめまして。貴生川巧だ。昨日の電話以来だな。これからよろしく」

 

「よろしくお願いします」

 

 すらっと背の高い一夏に比べれば俺は小柄な方(それでも身長的には平均的)なので長身の貴生川さんを若干見上げつつ握手をする。

 

「それじゃあさっそくだけど井口颯太君、これが君の専用IS――」

 

 そう言いながらコンテナに視線を向け、リモコンのようなものをコンテナに向ける貴生川さん。ピッという音とともにコンテナが開く。

 

「――『火焔(ほむら)』だ!」

 

 貴生川さんの言葉とともにコンテナが開ききる。まるで鎧のようにそこに鎮座する一機のIS。赤と白をメインカラーとするそれがまるで俺のことを待っていたかのようにそこにいた。

 

「これが……俺のIS」

 

 言葉とともにその側面に俺はそっと手を置く。

 

「井口君、フィッティングを始めようか」

 

「はい」

 

 貴生川さんの言葉とともに俺は『火焔』に背を向け、体を預ける。

 俺を包み込むように『火焔』が装着され情報が頭に流れ込んでくる。

 

「君のデータはあらかじめ『火焔』に送ってある。後はそのデータと現在の君との誤差を修正し、更新するだけだ」

 

 そう言いながら手元の投影ディスプレイにキーボードで何かを打ち込んでいく貴生川さん。

 

「これで……よし!これでフィッティングが終わったから後はすぐに一次移行が――」

 

 貴生川さんの言葉を遮るように俺の体が――というか『火焔』が発光する。そして、『火焔』の形状が変わっていく。

 

「これが、俺の専用機、『火焔』の本当の姿…」

 

 その姿は数秒前とは違うものになっていた。

 まず、色合いが変わった。メインの色が赤と白だったのが、赤と黒になっていた。

 形状も変わり、背中のスラスター翼の形状も変わった。しかし、翼というような形状ではない。なんというか、枠だけだ。半透明の蛍光グリーンのまるで昆虫のような形の枠が左右に二対の計四枚。ヘッドギアにもスラスター翼のような蛍光グリーンの飾り。

 

「これで名実ともにそれは君のIS、井口颯太専用機『火焔』だよ」

 

 貴生川さんの言葉が俺の心に染みわたっていく。

 両手を開いて閉じてを繰り返し、全身を見渡す。

 

「何か問題はあるかい?」

 

「いえ。むしろ、なんか…馴染む感じです」

 

そう馴染むのだ。まるで自分のからだの一部のように。

 

「それじゃあ、次に武装を展開しよう。武装の一覧のなかに近接ブレードがあるだろう?それを展開するんだ」

 

 貴生川さんの言葉に頷きながら一覧を開く。そのなかに三つ並ぶ文字列の中から近接ブレードを選ぶ。それと同時に俺の左腰に鞘に収まった近接ブレードが展開する。まるで長い日本刀のようだった。

 

「それが『火焔』のメイン装備《火人(ひと)》だ。君の試合の映像を見て、居合斬りしやすいように鞘もつけてみた。いらなければ外すけど?」

 

「いえ、こっちの方がカッコいいんでこのままで」

 

「了解」

 

 俺の言葉に貴生川さんが笑う。

 

「では、次に――」

 

「貴生川さん、少しいいですか?」

 

「はい?」

 

 さらに装備の解説をしようとする貴生川さんの言葉を織斑先生が口を開く。

 

「ここからは『火焔』の性能を知るために軽く模擬戦をするのはどうでしょう?」

 

「なるほど。確かにその方がいいかもしれませんね」

 

 織斑先生の言葉に貴生川さんも頷く。

 

「では、試合はオルコットと井口で行う。両者準備をしろ」

 

「「はい」」

 

 返事とともにセシリアがISを展開。青い鎧とともにその場に浮かぶ。俺もコンテナから出る。

 

「よろしくな、セシリア」

 

「手加減はしませんわよ」

 

 コツンとお互いの拳をぶつけ合う。

 

「それでは、両者、はじめ!」

 

 織斑先生の言葉とともに空中へと飛び立つ。と、同時に腰の鞘から《火人》を抜刀。セシリアに斬りかかる。

 

「はああああ!」

 

「させませんわ!」

 

 斬りかかる俺の斬撃をよけ、俺にスターライトmkⅢを俺に向ける。

 

「おっと!」

 

 撃たれる前にその銃口を蹴り上げ、セシリアから距離を空ける。そんな俺を追いかけるようにセシリアのビットが飛んでくる。

 

「よっ!ほっ!」

 

 流石は専用機。訓練機とは出せるスピードが違う。訓練機よりも動きやすい。

 

「せいやっ!」

 

 気合いの一閃とともに俺に向かってきたビットの一つを斬り裂く。以前の近接ブレードとは比べ物にならないほどの切れ味。

 さらに近くに来ていたビットをもう一基切断する。

 

「うん。流石は専用機のメイン装備」

 

 セシリアから距離を置き、長刀の近接ブレードを眺める。

 それから一度《火人》を鞘に収める。

 

「あら?もう終わりですの?」

 

「ははっ、まさか。ここからだぜ?」

 

 俺の行動に首をかしげるセシリアに笑う。

 

「それじゃあ行くぜ!――《火ノ輪(ひのわ)》!」

 

 俺の呼び出しとともに俺の両手の甲に直径30センチの円形の装備が展開する。

 

「はああああ!」

 

 掛け声とともに俺の手の甲で円形の装備――《火ノ輪》が高速回転を始める。

 

「せいっ!!」

 

 掛け声とともに《火ノ輪》が回転しながらセシリアに向かっていく。

 

「くっ!」

 

 《火ノ輪》をすんでのところで 回避したセシリアが残っている二基のビットを展開し、レーザーライフルをこちらに向ける。

 

「なかなか面白い武器ですが、当たらなければどうということはありませんわ」

 

「当たらなければ…な」

 

 俺の言葉に訝しげな表情を浮かべるセシリアの顔が驚愕に変わったのは自分の横でビットが二基、爆発したからだ。

 確かに、いくら《火ノ輪》の速度が速く、威力が高くても、当たらなければどうということはない。しかし、《火之輪》真骨頂はその軌道を操り、自分の手元に戻ってくることだ。

 ガチンガチンという接続音とともに俺の手の甲に《火ノ輪》が回転したまま接続された。

 

「当たらないなら当てればいいんだよ」

 

「…………」

 

 俺の手の甲で回転する《火ノ輪》を見たまま唖然とするセシリア。

 

「それじゃあこれでフィニッシュ!」

 

 両手に《火ノ輪》を回転させたままセシリアへと瞬時加速を使わずに最大速度で接近する。

 

「甘いですわ!」

 

 接近する俺に向け、レーザーライフルを向けるセシリア。

 

「わたくしの射撃を避けるつもりです?」

 

「違うぜ。避ける必要がないんだよ。《火打羽(ひうちば)》!」

 

 セシリアの射撃が飛んでくる前に俺は最後の装備を呼び出す。

 それと同時に俺の両肩から半身を覆うように半透明のシールドが展開。シールドが肩の接続部分で駆動し、俺の体の前を覆う。それによりセシリアのビーム攻撃がシールド――《火打羽》に当たり、弾ける。《火打羽》は無傷。

 

「なっ!?」

 

 セシリアは驚愕の表情。しかしすぐに顔を引締める。

 

「ならば、これはどうですの!?」

 

 セシリアの言葉と同時に腰部から広がるスカート状のアーマーの突起が外れ、動いた。俺が前回の試合で最後に食らったセシリアの奥の手、『弾道型』のビットだ。でも――

 ドドンッ!

 大きな爆発音とともにセシリアのビットが《火打羽》にぶつかって爆発。が、残念ながら《火打羽》は無傷だ。

 

「なっ!!?」

 

 本日何度目ともわからないセシリアの驚愕の表情を見ながら俺は右手を大きく振りかぶる。

 

「とどめ!!」

 

 そのまま振りかぶった右手とともにセシリアに《火ノ輪》を叩きこむ。

 

「きゃああああ!!」

 

 悲鳴とともにセシリアが落下。

 

「おっと」

 

 そんなセシリアに瞬時加速とともに接近し、追い越す。先に着地した俺は落下して来たセシリアをキャッチする。

 

「先生、これくらいでいいんじゃないですか?」

 

 キャッチしたセシリアを下ろしながら織斑先生に顔を向ける。

 

「そうだな。では、模擬戦は以上だ」

 

「ふう」

 

 織斑先生の言葉に肺の中の空気を吐き出す。と、そこでたくさんの視線を感じ顔を向けると、クラスメイト達が唖然とした顔で俺のことを見ていた。

 

「え?えっと……何?」

 

 何が何だかわからない俺はとりあえず笑いつつ首を傾げる。

 

「いや、なんていうか、すごいなお前の専用機」

 

 一夏が代表するように口を開き、それに賛同するかのようにみんな(山田先生含む)が頷く。

 

「いやいや、今のはあれだから。一度戦ってるからコツとかわかってるし、セシリアは初見だったからってだけで、お互い条件が対等だったらまた違ったと思うぞ?」

 

 俺の言葉にみんな疑わしそうにジト目になっている。

 

「はははは。まさかあそこまで使いこなしてくれるとは思わなかったよ」

 

 その状況を見て、貴生川さんが笑う。

 

「いえ、そうでもないですよ。特に《火ノ輪》はコントロールが難しいですね。普通に自分のところに戻すだけなら勝手に戻ってくるんですよね?」

 

「ああ、そうだね」

 

 《火ノ輪》はある程度持ち主――この場合は俺から離れると自動的に持ち主のもとに戻るようになっているらしい。簡単に言えば手の甲の接続部分と《火ノ輪》本体同士には特殊な電波通信が行われているらしいが…いかんせん、俺は頭にはあまり自信がないので理解できたのはここまでだった。

 

「今のコントロールだけでものすごく疲れました」

 

「うーん、もう少し調整をした方がいいのかもしれないな」

 

 貴生川さんが今の試合データと思われる数値とにらめっこをし始める。

 

「あの…貴生川さん」

 

「あ、はい。なんでしょうか?」

 

 数値の表示されている投影ディスプレイから顔を上げる貴生川さん。貴生川さんに話しかけたのは山田先生だった。

 

「一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

「はい、俺でお答えできることなら」

 

「井口君のISは第何世代なんですか?」

 

 あ、そう言えばそうだ。そこは俺も気になっていたんだ。

 

「ん~、強いて言うなら2.5世代…ですかね」

 

「2.……」

 

「…5?」

 

 貴生川さんの言葉にその場の全員(織斑先生以外)が首を傾げる。

 

「彼のISは基本性能で言えば第二世代型ISなんですが、試験的に第三世代相当のうちの装備をいくつか使ってもらうことになっているんです。だから、実を言うと彼の『火焔』の固有の装備は《火人》だけで、今回使った《火ノ輪》と《火打羽》は本来なら『火焔』の装備ではないんだ」

 

 そこまでなら俺も昨日の電話で説明を聞いていたので知っていた。

 

「しかも、今のところ彼に使ってもらう予定の装備は全部で四つ。つまり後二つ用意されてるんだ。まだ調整段階で、使えるようになるのはもう少し後になると思うけどね」

 

「こんな特殊装備が…」

 

「あと二つも…」

 

 現在俺は《火ノ輪》も《火打羽》も展開状態だ。その二つにその場の全員の視線が注がれているのを感じる。

 

「ちなみにそのデータは俺もまだ見てないんだけどね」

 

「ははは。まだ調整段階だからね。でも、うちの会社でもなかなかに自信作なんだよ」

 

 楽しそうな笑みを浮かべる貴生川さん。実は俺も少し楽しみだったりする。

 

「まあとりあえず、これから他の装備も含めて何かおかしなことがあったらいつでも連絡してくれ。こちらからもたまに連絡をすることもあると思うけど」

 

「はい、わかりました」

 

「あ、そう言えば社長も君と話したがっていたよ。今日大事な会議が無ければ一緒に来る気みたいだったけど。そのうち社長からも連絡があるかもしれないからそのつもりでいてくれるかい?」

 

「りょ、了解です」

 

 大会社の社長から連絡が来るとか、緊張してまうわ。

 

「ん。そろそろ時間だな。では、今日の授業はここまでだ」

 

「それじゃあ、みなさん。これからも学園にお邪魔することもあると思うんで、その時はよろしく」

 

 織斑先生の言葉の後に貴生川さんが手を振りながら言った。

 そこから授業は解散となり、俺も『火焔』を解除。俺の右腕に待機状態の赤いリング状のブレスレッドとなる。

 

(これからよろしくな、『火焔』)

 

 俺はそのリングをそっと撫でた。

 




はい、というわけで颯太君の専用機がとうとう登場です。
え?何かに似ている?
てかそのものじゃないかって?
………まあモデルにしましたよ。あの革命機たちを。


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第11話 チャイナ娘は突然に

「ふい~。今日も頑張ったなー俺」

 

 と、自分を労いつつ俺はアリーナを出た。今日届いた俺の専用機『火焔』のスペックを測りつつ、このISに搭載されている武装――特に《火ノ輪》――の扱いに慣れるために今まで練習していたのだ。

 現在の時刻を確認した俺は、今日の夕食後のパーティーのことを思い出す。

 何でも一夏のクラス代表就任を祝うものらしい。さらに俺の企業所属IS操縦者就任も祝ってくれるらしい。うちのクラスの人たちはそう言う騒がしいのが好きらしい。まあ、俺もそう言うのは嫌いではない。あと祝ってくれるのも嬉しいし。

 

「ねえ、そこのアンタ。ちょっといい?」

 

「ん?」

 

 寮に向かっていた俺は急に背後から呼び止められる。振り返った先には一人の少女が立っていた。

 肩にかかるかかからないかくらいの黒髪を左右それぞれを高い位置で金色の留め金で留めていた。背中には小柄な体に不釣り合いなボストンバックを背負っていた。

 

「ちょっと本校舎一階総合事務受付って所に行きたいんだけど、教えてくれない?」

 

「ああ、いいぜ。えっとな――」

 

 少女の質問に俺はできるだけわかりやすいように説明する。

 

「――て感じだ」

 

「なるほど。ありがとう、助かったわ」

 

「いえいえ、どういたしまして。……一つ聞いてもいいか?」

 

「ん?何よ」

 

「転校生か?」

 

 俺は疑問に思っていたことを一応聞いてみる。

 

「そうよ。中国から来た凰鈴音よ。代表候補生をしているわ。一年生よ」

 

「そっか。俺は井口颯太。企業IS操縦者だ。ちなみに俺も一年生だ」

 

 凰の差し出した手を握り握手をする。

 

「俺は一組だ。同じクラスになったらよろしくな、凰さん」

 

「鈴でいいわよ」

 

「そうかい?じゃあ俺のことも颯太でいいぜ」

 

「あたしからも一つ聞いていい?」

 

 握手していた手を離したところで鈴が訊く。

 

「俺に答えられることなら」

 

「織斑一夏って何組?」 

 

「一組だ。俺と同じクラス」

 

「そう」

 

 俺の言葉にうんうんと何かを確かめるように頷く鈴。

 

「一夏と知り合いか?」

 

「んー、まあちょっとね」

 

 俺の質問に鈴が曖昧に答える。

 

「まあでも、違うクラスになっても一組にはきっと行くから、その時にまた会いましょ」

 

「おう」

 

「じゃあ、私はもう行くわ。また会いましょ」

 

 そう言って鈴は俺の教えた道を歩いて行った。

 

 

 ○

 

 

 

「というわけでっ!織斑君クラス代表決定&井口君企業IS操縦者就任おめでとう!」

 

「おめでと~!」

 

 ぱん、ぱんぱーん!!と、俺たちの周りのクラスメイト達が手に持ったクラッカーを鳴らす。大人数で鳴らすとクラッカーもなかなかに大音量だな。

 

「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」

 

「ほんとほんと」

 

「ラッキーだったよねー。同じクラスになれて」

 

「ほんとほんと」

 

 おい、ちょっと待て。今相槌打ってたの他クラスの子じゃないか?てかおかしいだろ。なんでクラスのパーティーなのに参加者が明らかにクラスの人数超えてるんだよ。まあ楽しげでいいけど。これなら簪も誘えばよかったかも。いや、やっぱり誘っても来なかっただろう。簪は一夏のこと、ある意味苦手だろうし……。

 ちなみに俺はあまりコミュニケーション能力が高い方ではない。むしろ若干コミュ障だ。なので早々にすみっこに移動しよう。

 俺がすみっこに移動してもとりあえずは誰も何も言わない。みんな楽しそうにジュース飲んでお菓子を食べている。

 ちなみに一夏の横では篠ノ之がぶすーっとした顔で座っている。聞いたところによると篠ノ之は案の定一夏の幼なじみだそうだ。しかも同室。さらに初日にシャワーあがりの篠ノ之に遭遇してしまったらしい。え?それなんてギャルゲー?と思ったのは言うまでもない。

 

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君と井口颯太君に特別インタビューをしに来ました~!」

 

 突然の取材に一同が盛り上がる。

 

「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名刺」

 

 名刺を受け取る俺と一夏。いいね「黛」。前にやったギャルゲーでそんな武士娘が出てきてた。

 そこから俺と一夏はいくつかの質問に答えたりし、インタビューをこなした。ちなみに質問の答えが面白くないときなんかは黛先輩が、「適当にねつ造しておくか」なんて言っていた。それでいいのか新聞部。

 その後、セシリアと一夏のツーショットを取るという時になって、全員が一瞬で集合。俺も引っ張り込まれ、ただのクラスの集合写真が出来上がった。普段のんびりしているのほほんさんまでもがちゃっかり入り込んでいた。う~む。実は意外とやるのかもしれない。

 

 

 ○

 

 

 次の日の朝。教室では転校生の噂でもちきりだった。おそらく俺が昨日会った鈴のことだろう。

 

「俺その子に昨日会ったな」

 

「え?井口君それ本当!?」

 

 俺の言葉にクラスメイト達が興味を持つ。

 

「確か中国の代表候補生だって言ってたな」

 

「うん、そうらしいね。噂でもその話は出回ってるよ」

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」

 

 セシリアが腰に手を当てながら登場。絶対違うと思う。昨日聞かれたのは一夏のクラスだし。

 

 話題の転校生は一夏も気になっているようで興味深そうに話に加わってくる。そんな一夏が面白くなさそうな篠ノ之。

 

「……気になるのか?」

 

「ん? ああ、少しは」

 

「ふん……今のお前に女子を気にしている余裕があるのか?来月にはクラス対抗戦があるというのに」

 

 箒の言葉に教室内の話題は一気にクラス対抗戦のものになる。まあ一位のクラスには優勝商品として学食デザートの半年フリーパスが配られるし、甘いもの好きの女子にはたまらないだろう。もし手に入ったらコーチお礼として簪や師匠にも何か奢ってあげようかな。

 

「まあ、やれるだけやってみるか」

 

「やれるだけでは困りますわ!一夏さんには勝っていただきませんと!」

 

「そうだぞ。男たるものそのような弱気でどうする」

 

「織斑くんが勝つとクラスみんなが幸せだよ!」

 

「おりむー、がんばってねー」

 

「フリーパスのためにもね!」

 

「今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだから、余裕だよ」

 

 みんなの勢いに一夏も頷くしかない状況だ。

 

「――その情報、古いよ」

 

 と、教室の入り口から声が聞こえた。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

 見ると入口のところにかっこつけて腕を組み、片膝を立ててドアにもたれていた鈴だった。

 

「鈴……?お前、鈴か?」

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

「何格好付けてるんだ?すげえ似合わないぞ」

 

「んなっ……!?なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

 あ、急に雰囲気が変わった。昨日会った時の雰囲気に戻った。どうやらかっこつけていただけのようだ。

 

「おい」

 

「なによ!?」

 

 パシンッ!

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

 

「ち、千冬さん……」

 

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」

 

「す、すみません」

 

 すごすごと入口の前からどく鈴。ものすごいビビってる。一夏だけじゃなく織斑先生とも面識があったようだ。

 

「またあとで来るからね!逃げないでよ、一夏!」

 

 なんか三下みたいなセリフだな。「勝負はお預けだ!覚えてろ~!」みたいな。

 

「さっさと戻れ」

 

「は、はいっ!」

 

 相当織斑先生が恐ろしいらしく、鈴は二組へ猛ダッシュしていく。

 

「っていうかアイツ、IS操縦者だったのか。初めて知った」

 

「……一夏、今のは誰だ?知り合いか?えらく親しそうだったな?」

 

「い、一夏さん!?あの子とはどういう関係で――」

 

 箒とセシリアが詰めより、更にはクラスメイトからの質問集中砲火を喰らう一夏。俺もそれなりには気になるので横で話を聞いている。と――

 バシンバシンバシンバシン!

 

「席に着け、馬鹿ども」

 

 織斑先生のありがたーい出席簿攻撃が容赦なく振り下ろされた。泣きそうなほど痛かった。というかちょっと泣いた。

 




今回の話はあまり見せ場なかったっすね。
もうちょっと頑張ります。


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第12話 兄弟姉妹

「待ってたわよ、一夏!」

 

 昼休み。昼食食べに学食にやって来た俺たちを出迎えたのは、ラーメンの乗ったトレーを持って仁王立ちする鈴だった。

 

「まあ、とりあえずそこどいてくれ。食券出せないし、普通に通行の邪魔だぞ」

 

「う、うるさいわね。わかってるわよ」

 

「のびるぞ」

 

「わ、わかってるわよ! 大体、アンタを待ってたんでしょうが! なんで早く来ないのよ!」

 

 そんな会話をしつつ俺たちは昼食を注文する。俺は今日の気分で麻婆豆腐定食。

 

「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年ぶりになるのか。元気にしてたか?」

 

「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよ」

 

「どういう希望だよ、そりゃ……」

 

 とかなんとか会話をしながら空いた席へ移動。ちなみに俺と一夏以外にもクラスメイト達が数名ついて来ている。もちろん篠ノ之とセシリアも。

 

「そう言えば昨日はありがとね」

 

「いえいえ、どういたしまして」

 

「あらためてよろしくね、颯太」

 

「おう。よろしくな、鈴」

 

 昨日で俺に礼を言う鈴。話してみてわかるけどたぶんいい奴だ。なんというかいい意味でさばさばしている感じだ。

 

「鈴、いつ日本に帰ってきたんだ?おばさん元気か?いつ代表候補生になったんだ?」

 

「質問ばっかしないでよ。アンタこそ、なにIS使ってるのよ。ニュースで見たときびっくりしたわよ」

 

 席に着いた途端一夏が訊く。なんとも楽しげな会話だ。すごく親密な感じ。あれかな?彼氏彼女の関係なのかな?そう思っていたのは俺だけじゃなかったらしく、

 

 

「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」

 

「そうですわ!一夏さん、まさかこちらの方と付き合ってらっしゃるの!?」

 

「べ、べべ、別に私は付き合ってる訳じゃ……」

 

「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼なじみだよ」

 

「………………」

 

「?何睨んでるんだ?」

 

「なんでもないわよっ!」

 

 あっ…そういうことか…なんかこれは修羅場りそうだ。

 一夏の言っていたことを要約するとこうだ。

 鈴とは幼なじみ。篠ノ之とも幼なじみだが、篠ノ之が引っ越していったのが小四の終わり。鈴が転校してきたのは小五の頭で中二の終わりに帰ったので、会うのは一年ちょっとぶりらしい。こちらにいた時は両親が中華料理屋を経営していたらしく、よく晩御飯をごちそうになったそうだ。

 ちなみに、お互いが一夏の幼なじみ同士だと知って、篠ノ之と鈴の間に火花が散ったのは言うまでもない。

 

「一夏、アンタ、クラス代表なんだって?」

 

「お、おう。成り行きでな」

 

「ふーん……」

 

 どんぶりをもってごくごくと豪快にスープを飲む鈴。そういう豪快な女の子、嫌いじゃないぜ。

 

「あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」

 

 コーチを名乗り出る鈴を遮るようにバンッとテーブルを叩いて篠ノ之とセシリアが立ち上がる。

 

「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ」

 

「あなたは二組でしょう!?敵の施しは受けませんわ」

 

「あたしは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」

 

「か、関係ならあるぞ。私が一夏にどうしてもと頼まれているのだ」

 

「一組の代表ですから、一組の人間が教えるのは当然ですわ」

 

 わかってはいたが一夏はモテモテだな。まるでハーレム系主人公だな。チッ

 

「まあいいや。今日の放課後って時間ある?あるよね。積もる話もあるでしょ?」

 

「――あいにくだが、一夏は私と一緒にISの特訓をするのだ。放課後は埋まっている」

 

 おい、篠ノ之。一夏が『そんなの聞いてねえぞ』って顔してるぞ。

 

「そうですわ。クラス対抗戦に向けて、特訓が必要ですもの。特にわたくしは専用機持ちですから?ええ、一夏さんの訓練には欠かせない存在なのです」

 

 おお、セシリアまで援護射撃。

 

「じゃあそれが終わったら行くから。空けといてね。じゃあね、一夏!」

 

 そう言い残し、飲み干したラーメンのどんぶりを片付けて鈴は去って行った。

 

「なんというか……お疲れ、一夏」

 

「お、おう」

 

 俺のねぎらいに一夏が苦笑いとともに頷いた。

 

 

 ○

 

 

 

「ただいまー」

 

 放課後。なぜか俺まで特訓に参加させられ、いつの間にか俺&一夏VS篠ノ之&セシリアのタッグ戦をさせられた。まあ師匠との特訓に比べたら軽いものだったので何とかなったけど。

 その後、バテバテの一夏をほっといて俺だけ寮に戻ってきたのだ。途中鈴にあったので今頃一夏もあっているころだろう。

 自分の部屋に戻ってきた俺はルームメイトに向けて話かける。が、返事はない。見ると無言で何かをキーボードで打ち込んでいる。

 

「ただいまー」

 

「………おかえり」

 

 一応もう一度言うと数秒の間を空けて返事があった。

 ここのところずっとこの調子だ。いつも何か思い悩んだ様子で何かのデータ見ながら画面とにらめっこしてキーボードを叩いている。まあ別に四六時中そうしてるわけじゃないし、ちゃんと以前と同じように会話もする。アニメ鑑賞会だってするし、一緒に一狩り行ったりもするし、その他色々なゲームに興じたりもする。が、何かにつけてこのように難しい顔してキーボードを叩いている場面には遭遇する。

 原因はわかっている。簪がこういう風になったのはちょうどセシリアとの試合があって二日後だった。なんでも簪の専用機製造がストップしたらしい。理由は簡単。簪の専用機の製造元が倉持技研だからだ。

 倉持技研は現在総力を挙げて絶賛一夏の『白式』の解析と新たな武装制作に躍起になっている。そのあおりで簪の専用機製造の人員まで『白式』に回され、結果的に簪の専用機製造はストップしてしまった。

 そこから簪は、自分だけで専用機を完成させようとしているらしい。何でも彼女の姉、師匠こと更識楯無は自分の専用機を一人で組み上げたらしい。すごい人だとは思っていたがそこまでとは思わなかった。そんな師匠に簪は対抗心を燃やしているらしく、自分も一人で組みあげようと躍起になっているらしい。

 やはりというかなんというか、この二人の間にある溝はなかなかに深そうだ。何とかしてあげたい気持ちはあるが、二人を見ているとなんとも聞きずらい。今の簪を見てるとなんとかしたいところだが……。

 

「そろそろ夕飯の時間だけど、一緒に行かないか?」

 

「……うん」

 

 動きやすい部屋着に着替えた俺は、とりあえず簪を誘って食堂に行く。

 夕食。俺はかつ丼を、簪はかき揚げのうどんを注文。それが好きらしく、簪はよくこれを注文してかき揚げを全身浴させて食べている。今もおいしそうにうどんをすすっている。おいしいもの食べてる時はほっこりして話しやすいかもしれない。

 

「なあ、簪」

 

「?…何?」

 

 俺がかつ丼を食べる手を止めて口を開くと簪が首を傾げる。

 

「俺さ…弟いるんだ」

 

「………」

 

 俺の様子に何かを感じたらしく、簪も手を止める。

 

「五才ほど年は離れてるんだけどさ、面白い奴だぜ。俺の影響もろに受けて小学五年生なのにもうすでに立派なオタクだ。むしろ俺よりもオタクだ。アニメの声優とか俺よりも詳しいし、俺の見てないアニメも見てる。アニメ見すぎて親に見るのストップかけられたアニメまであるくらいだ」

 

 はがないとかそらおととか。

 

「でも、今じゃ仲いいけど、俺、昔はお兄ちゃんだってことが嫌だった時期があるんだ」

 

「…………」

 

「お兄ちゃんらしくしろとか弟の手本になるようにしろとか、親がうるさくてさ。弟は弟で俺より先に読んだ漫画とかドラマのネタバレするし、そのことに関してはまじでふざけんなって思ったね」

 

 ネタバレは重罪だよ。

 

「でもさ、どれだけいやだいやだって思っていても、結局俺はあいつの兄貴で、あいつは俺の大事な弟だ」

 

「………」

 

「たぶん、師匠もそう思ってんじゃないかな」

 

「…お姉ちゃんも?」

 

 おずおずと訊く簪に、俺はにやりと笑う。

 

「ああ。だって前にあの人の携帯の壁紙盗み見たとき、簪の写真だったぜ?」

 

「え?」

 

「昔ふたりの間に何があったかは知らないし、訊かない。でも、少なくとも嫌いな人間の写真をよく見る携帯の壁紙にはしないんじゃない?」

 

「……それは…」

 

「まあこれは俺の主観だ。本当のところなんて俺には分からない。俺はエスパーじゃないから師匠がどう思っているかもわからない。でも、あんまり根詰めすぎるより、本人とちゃんと話した方がいいんじゃないか?」

 

「……考えとく」

 

「おう」

 

 そこからは俺たちは無言で夕食に戻った。これで二人の関係がどうにかなるとは思っていない。でも、少しは考え方を変えることはできていれば幸いだ。

 ちなみに、師匠の携帯の壁紙の簪の写真。あれは絶対盗撮だ。だって簪の目線がカメラに向いていなかったんだから。本当は簪のこと、盗撮写真撮るほど好きなんだろうな、師匠は。




颯太君の話を聞いて簪ちゃんがどうするか、まあ仲直りの方向に持って行けるといいですが。


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第13話 ハーレム主人公なんて××ばいいんだぁぁぁ!!!

 カチ…パチ…カチ…

 夕食後、部屋に帰ってきた俺たちはそれぞれ自分のしたいことをしている。俺はなんとなく気分でジョジョを一部から読み返し、簪は夕食前と同じようにキーボードを叩いている。しかし、あまり集中していないのかキーボードを叩く速度が明らかに遅い。ふたりとも無言なため、ゆっくりとしたタイプ音が部屋に響いている。

 

「………あ~、あれだな。ずっとマンガ読みっぱなしって意外と疲れるな」

 

「………」

 

 俺の言葉に簪は無言。もしかしたら聞こえていないのかもしれない。

 

「俺、ちょっと自販機で飲み物買ってくるよ。奢るよ。何がいい?」

 

「…………」

 

 無言。これ…余計なお世話しすぎて嫌われたかな?やっぱおせっかいは一夏みたいな主人公タイプの専売特許だしな。主人公の友人ポジションの俺には無理だったか……。

 

「……私のは…何か果物のジュースで」

 

 あ、よかった。ちゃんと返事してもらえた。

 

「おう。じゃあなんかよさそうなの買って来るわ」

 

「……うん」

 

 簪の返事を聞きつつ俺は近くの自販機へ。と――

 

「あっ……」

 

「おう……」

 

 自販機までやって来た俺が見たのは、横のベンチに座っている鈴だった。見たとこ落ち込んでいるように見える。今朝やお昼に見た元気さがない。

 ピッ、ガコンッ。

 

「鈴。ほれ」

 

「えっ?」

 

 俺は買った缶、コーヒー(ブラック)を鈴に投げる。咄嗟のことにも流石は代表候補生。落とさずしっかりと缶をキャッチした。

 

「ちょっと、私ブラック飲めないんだけど」

 

「え?マジで?ごっめ~ん。代表候補生なんだし飲めると思ってた。見た目通り舌までおこちゃまだったんだね~wwww」

 

「なによ!いいわよ、飲んでやるわよ!!」

 

 怒りながらプシュッと缶のプルタブを開ける鈴。俺もコーラ(ペットボトル)を買って鈴の隣に座る。

 

「う~、苦い~」

 

 横で一口飲んでべーと舌を出している鈴を俺はじっと見る。

 

「……何よ」

 

「泣くほど苦かったか?」

 

「え?」

 

 俺の言葉に鈴は自分の頬に手を当てる。そこには数粒の雫が流れ落ちている。

 

「やっぱり、鈴ちゃんはおこちゃまだね~」

 

「誰がおこちゃまよ!コーヒーが飲めなくて泣いたんじゃないわよ!これは……」

 

 そこで鈴が黙る。

 

「こういうのは誰かに話した方がすっきりするぜ。何があったかは知らんがな。……まあどうせ一夏がらみだろうけどな」

 

「なんでわかるのよ!」

 

「マジか!テキトーに言ったら当たってしまった!」

 

「テキトーだったの!?」

 

「テキトーだよ。あの出会うもの皆惚れさせそうな、THE主人公な奴がかかわってる気がしただけだ。今までの二人のやりとりを見ていたら鈴は一夏のこと好きそうだけど、一夏は仲のいい友人くらいにしか思ってなさそうだったんでな」

 

「…………」

 

 『アンタはエスパーか!?』みたいな顔で俺を見る鈴。ふっ、だてにアニメや漫画を見てないさ。

 

「で?何かあったのか?」

 

「……………」

 

 しかし鈴は口を開かない。その顔は迷っているようだ。まあ、昨日今日あった奴に話しずらいかもな。

 

「よし!こうしよう」

 

「え?」

 

 俺はそこから上に羽織っていたジャージの上着を脱ぎ、顔に被る。

 

「………あんた何やってんの?」

 

「ここに井口颯太はおろかお前以外のやつは誰もいない。あるのは使い古されたジャージがベンチにかけてあるだけだ。だから――」

 

 俺はジャージを顔にかけたまま鈴に顔を向ける。

 

「今からお前が何かひとりごと言っても誰も聞いてない」

 

「………ぷっ。何よそれ」

 

 俺の言葉に鈴が噴き出したようだ。見えないからわからないけど。

 

「……じゃあ、誰もいないことだしひとりごとでも呟こうかな」

 

 おう、呟け呟け。

 

「あたしさ、昔一夏と約束してたんだ」

 

 約束?と思ったが俺は今はここにいないので声は出さない。

 

「あたし、昔は料理ができなかったの。今は頑張って練習したおかげでそれなりにはできるようになったけど」

 

 ほほう。その要因はおそらく一夏がらみなんだろうけど。

 

「私、昔から一夏のことが好きだったから一夏に言ったんだ、『私の料理が上手くなったら毎日私の酢豚を食べてくれる?』って」

 

 それってプロポーズじゃないですか!!へ、返事は?

 

「その時は了承してくれてたんだ。だから、てっきりあたしは一夏もそういう風に思っててくれてたんだって思ってた。でも、違ったんだ。あいつ私との約束忘れてた。いや、違うわね。覚えてはいたの。でも、あいつは違う意味にとっていたの」

 

 違う意味?さっきの約束はプロポーズ以外のなんだというのだ?

 

「アイツは、あたしとの約束を『タダ飯食べさせてくれる』くらいにしか思ってなかったの」

 

 ………はぁ!?その発想はないわ!あったとしても逆だろ!プロポーズだと思ったらタダ飯だった、だろう普通!

 顔を隠している俺の驚愕の表情が分かったのかクスッと鈴が自嘲気味に笑う。

 

「あーあ!やんなっちゃうわよホント。一夏にとって私はただのセカンド幼なじみ。恋してたのは私だけだったのよ」

 

 声は明るく振る舞おうとしているように聞こえる。でも、その雰囲気はとても悲しげだった。見えないと視覚以外の感覚が冴えるっていうが本当らしい。

 

「………もういいわよ」

 

 そう言って鈴は俺の被っていたジャージを引っ張り、俺の目元までずらす。

 

「ありがとうね。聞いてくれて」

 

「……何の話だ?俺は今までここにいなかったんだぜ?」

 

「……そうだったわね」

 

 俺の言葉にニッと笑う鈴。しかしその目尻には涙が光っていた。

 

「……これは俺のひとりごとだし、別に誰かに向けて言ってるわけでもないが」

 

 そこで俺は鈴とは逆の方に顔を向ける。

 

「プロポーズも分からないような鈍感野郎はボッコボコされても文句は言えんな。好きなだけボコッて、好きなだけ罵ってくればいい」

 

「でも……」

 

「思いっきりボコッて、思いっきり罵ったら、あとは仲直りすればいい。はたから見ても仲いい誰かさんたちならすぐ仲直りだろうな」

 

「…………」

 

 鈴は無言で俺の顔をじっと見ていた。数秒俺の顔を見つめたあと、両手に握っていたコーヒーの缶の飲み口をじっと見る。

 

「……よしっ!」

 

 掛け声とともに缶をあおり、残っている中身を一気に飲む。さっき一口しか飲んでないからほとんど残っていたはずだ。

 俺が驚いている横で鈴はゴクゴクとのどを鳴らしながら苦しげな顔してコーヒーを飲んでいる。

 

「…んっく…んっく…んっく。あ~!苦い!苦くて涙出てくる!」

 

 一滴残らず一息に飲み切った鈴は渋い顔して立ち上がる。

 

「でも、元気出た!絶対一夏ボッコボコにして口汚く罵って、その後絶対仲直りしてやる!」

 

 そう叫んだ鈴の顔は吹っ切れた顔をしていた。

 

「ありがとうね、おかげですっきりした」

 

「俺は何もしてないし何も聞いてない。鈴が勝手に助かっただけ」

 

「ぷっ。じゃあそういうことにしとくわ」

 

 俺の言葉に鈴が笑いながら頷く。

 

「アンタいい奴よね。優しい奴はモテるんじゃない?」

 

「残念ながらいい奴どまりだよ」

 

 鈴の言葉に肩をすくめながら笑う。

 

「あたしが保証してあげる。アンタはこれからモテてモテてモテまくるわ!一夏なんか目じゃないわ!」

 

「そうかい。代表候補生様の保証なら期待しとくよ」

 

 俺の返事に鈴は笑って自販機の横に設置されたゴミ箱に空き缶を投げる。

 カンッ。

 空き缶の当たる音がして空いている穴に入った。

 

「フュ~」

 

 俺はならない口笛を鳴らす。

 

「じゃ。今日はありがとうね」

 

「どういたしまして」

 

 俺に手を振って鈴が去って行く。

 

「はぁー」

 

 俺は一つため息をすると、手に持ったペットボトルの蓋を開けて口を付ける。コーラのシュワシュワとした感触が口の中に広がる。

 

「………さて!」

 

 ペットボトルの蓋を閉め、立ち上がる。横の自販機でグレープジュースを購入。片手にコーラ、片手にグレープジュースを持った状態で歩き始める。

 

「よ~し、いつか一夏×るか~!!」




一夏いつか後ろから刺されるんじゃないかな。
そうなっても仕方ないかもしれないけど。


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第14話 小さなお節介大きなお世話、とは言うものの…

 鈴が独り言をつぶやき、俺もいつか一夏に…まあ何かしら痛い目を見させてやろうと決意した次の日。クラス対抗戦の第一回戦の組み合わせが発表された。幸か不幸か一夏の一回戦の相手は二組代表凰鈴音となった。

 その日から一夏も鈴にコンタクトを取ろうとしていたのだが、鈴も試合まで会う気がないのか一夏を避け続けている。俺にどうしようと相談してくる一夏に「自業自得だ!」と蹴っ飛ばしてやった。正直一夏の悩みなんて気にしている間はない。それよりも俺にはもっと大事な案件がある。それは……

 

 

 ○

 

 

 

「………ただいま」

 

「お、おう。おかえり」

 

 見るからに落ち込んだ様子でどんよりと帰ってきた簪を俺は出迎える。

 

「…………」

 

 ボフンッとベッドにうつぶせに倒れ込む簪。ここのところ帰宅後はずっとこんな感じだ。相当お疲れのようだ。

 

「今日も会えなかったのか?」

 

「………」

 

 簪は無言で枕に顔を押し付けたまま頷く。

 あの日俺の話を聞いてずっと考え込んでいた簪は、自分の姉、楯無師匠と会ってちゃんと話すことを決めた。それから一週間ほどたった今日、いまだに簪は姉に会うことができていない。楯無師匠の教室に訪ねても、生徒会室を訪ねても、寮の部屋に訪ねても、いつ行っても楯無師匠は不在。ここまでだとアホな俺でもわかる。楯無師匠は簪と会わないように避けている。

 

「……やっぱり、お姉ちゃんは…私と会いたくないのかな……」

 

 いや、それはない。見てればわかる。あの人は多分極度のシスコンだ。何かにつけて携帯の電源入れて、かといって何かをするわけでもなく画面をじっと見ている場面をよく見る。しかも時々にやけている。以前こっそり画面を覗いたが、そこには簪の写真が写っていた。しかも携帯のそういう機能を使っているのか、画面の写真がどんどん切り替わっていく。その写真が全部簪、簪、簪、である。これでシスコンでないならなんだというのだ。しかも全部目線があってないのでおそらく盗撮写真ばかりだろう。さらに途中で妙に肌色分の多い写真とか出てきた。どうやって手に入れたその写真!と思いながらも紳士な俺はちゃんと目を背けましたよ?

 まあそんなわけであの人が簪のことを嫌っているとは思えない俺としては、何とかしてこの二人を仲直りさせたいのだ。

 これはまたお節介を焼くしかないかもしれない。

 

「……なあ簪。明日は俺が行ってみるよ」

 

 俺の言葉に簪はずっと枕に押し付けていた顔をこちらに向ける。

 

「ちょうど聞きたいこともあったから、放課後にでも行ってくるよ」

 

「………うん」

 

 俺の言葉に頷き、簪はまた元通り枕に顔を押し付ける体制に戻ってしまった。

 さて、同室のよしみだ。できる限りのことをやってやるか。それが大きなお世話でも。

 

 

 ○

 

 

 

「失礼します」

 

 放課後。生徒会室に入室した俺を出迎えたのはいつも通りピシッとし、いかにも仕事の出来そうな布仏先輩、そしていつも通り机に突っ伏してぐでーっとしているのほほんさん。布仏先輩の顔には若干の疲れが見えた。

 

「どうしたんですか?布仏先輩少し疲れているように見えますけど」

 

「ええ。溜まっていた仕事が先ほどとりあえず片付きまして。ここのところその仕事を片付けるために忙しかったもので」

 

 なるほど。簪が楯無師匠に会えなかったのはそのせいでもあるのかな。

 

「それで、今日はどいった御用で?」

 

「あ、えっと、師匠いますか?」

 

「お嬢様ならここだよー」

 

 先ほどまでぐでーっとしていたのほほんさんが指さした先には机に突っ伏して眠る師匠の姿があった。

 

「会長も仕事で疲れていたらしく、終わった途端少し眠ると言って……」

 

 その寝顔はいつもの大人っぽさや人のことを見透かしたような雰囲気はなく、年相応の少女の寝顔だった。口元にはよだれが垂れてる。

 

「……チャ~ンス」

 

「はい?」

 

 俺の言葉に首を傾げる布仏先輩に、しーと口の前に人差し指を当てて「静かに」とジェスチャーで示す。

 

「え~っと、ペンーペンー♪ペンはどこだったかなー♪」

 

 鼻歌まじりに歌いながら持っていたカバンの中を探り、水性ペンを取り出す。そこからこそこそと師匠に近づく。その過程でのほほんさんに鞄にあったお菓子を渡す。

 机に突っ伏して規則正しい寝息を立てる師匠の横に立ち、ペンのキャップを付けたまま頬を突っつく。

 

「……えへへへ~、簪ちゃ~ん。くすっぐたい~」

 

(寝言で簪の名を言うとは。やっぱりアンタはシスコンだよ)

 

 とか思いつつしっかりと寝ていることを確認した俺はペンのキャップを外す。

 

「フフフフフ~ン♪」

 

「ちょ、ちょっと何してるんですか?」

 

 師匠の顔にペンを向けたところで布仏先輩が慌てる。

 

「いいじゃないですか。今まで色々師匠のおかげで変なことになったんですから」

 

 師匠との特訓のおかげでドM疑惑かけられたりもした。その恨みを晴らすのは今しかない!

 

「布仏先輩もこれまで何回も迷惑かけられてたんじゃないですか?協力してくださいとは言いません」

 

「お姉ちゃんおねえちゃん。私お姉ちゃんの紅茶飲みたーい。ほら、お茶うけに買ってあったケーキも食べよー」

 

 俺の言葉の後になぜか脈絡なく言ったのほほんさん。

 

「お姉ちゃんがお茶を入れている間に誰かが何かをしても、それはしょうがないことだよー」

 

 なるほど、俺への援護射撃なわけですな。買収は成功していたようだ。

 

「俺も先輩の紅茶飲みたいです。俺たちに紅茶を準備してくれている間に何かが起きても、それはあなたに責任はありません」

 

「……じゃあお茶を入れましょうか。私がお茶を入れている間に何か起こっても私にはそれを止めるすべはありませんね」

 

 そう言ってお茶を準備しに移動する布仏先輩。これで完璧だ。

 

「では改めて、フフフフ~ン♪」

 

 改めてペンを構える。

 

「さて、どうするか……よし、あれで行こう」

 

 にやっと笑い、ペンで師匠の顔に落書きを開始。

 

「ここをこーしてこうやってー♪」

 

 つぶっている瞼に目を開けているような絵を描く。イメージは少女漫画の恋する乙女。ついでにほっぺたにハットリ君のようなグルグルほっぺ。

 

「でーきーたっ」

 

 うむ。満足のいく出来だ。ついでに写メっとこう。

 パシャッ。

 フラッシュとともに撮った写真を確認するとものすごく笑えてくる。寝てるのに目を開けてるように見えるし、目がものすごくキラキラしてるし、タイミングよく笑ってるし、ほっぺグルグルだし、なによりこの垂れてるよだれが……。

 

「っ……っ……っ……」

 

 俺とのほほんさんが口をつぐんで、全力で笑うのをこらえる横で布仏先輩が紅茶を運んでくる。

 

「あ、先輩。師匠が気付くまでないしょでお願いします」

 

「はぁ、わかりました」

 

 苦笑い気味で俺の定位置に紅茶とケーキを置いてくれる。

 

「さて、用事もあるしそろそろ起こしますか」

 

 ペンをしまって師匠の肩を揺らす。

 

「師匠。師匠!しーしょ~!」

 

「んあっ」

 

 俺が何度か揺らすとやっと目を覚ます。

 

「あ~いらっしゃい、颯太君」

 

「こんにちは、師匠。まずはよだれ拭いてください」

 

「えっ!?」

 

 顔真っ赤にして師匠が口元を拭く。

 

「んんっ!で?何か御用かしら颯太君」

 

 しきり直したように背筋をしゃんとして師匠が俺に顔を向ける。俺も自分の定位置に座る。

 

「はい。実は俺の今使ってる装備を使いこなすのに何か特訓メニューにアドバイスをいただけないかと思って」

 

「ふーん。その装備のデータはある?」

 

「これです」

 

「どれどれ~」

 

 俺が渡した数枚の用紙を真剣な顔でじっと見つめる師匠。しかし俺ものほほんさんも布仏先輩もそれどころではない。師匠が真剣な雰囲気を出せば出すほど俺の描いた落書きが雰囲気をぶち壊す。やばい、腹筋が崩壊しそう。

 

「なるほど」

 

「な、なにかいい特訓メニューあります?」

 

「ええ。この装備なら――」

 

 そこからの師匠の説明を俺は笑いをこらえながらなんとか聞く。なるほど。聞く限りならとてもよさそうだ。

 

「――って感じなんだけど、どうかしら?」

 

「はい。それをやってみます」

 

「そう。あとでそのメニューを詳しくまとめておくわ」

 

 そう言って俺に持っていた資料を返す。

 

「で?何か他にもあるかしら?」

 

「……はい。あります」

 

 師匠の言葉に俺は頷く。

 

「単刀直入に言います。なんで師匠は簪を避けてるんですか?」

 

「…………」

 

 俺の言葉に楯無師匠は黙って顎にとんとんと扇子をあてる。目をつぶっているのに瞼に目を描いてあるので目を開けているように見える。うわ~真面目な顔してるのにシュール。誰だ!これを描いたのは!……あっ、俺か。

 

「………私には簪ちゃんと会う資格なんてないのよ」

 

「どうして!?」

 

 俺の言葉に師匠は押し黙る。

 

「……更識の家はこの国の暗部にかかわっている家なの。代々更識の家の当主は『楯無』の名を継ぐの。私も更識の当主を継ぐと同時に『楯無』の名を継いだわ」

 

 前々から『楯無』という名は女性的ではないと思っていたが、そんな裏話があったとは。

 

「当主を継いだ時、私は完璧であろうと、弱点をなくそうと努力したわ。そして気付いた。私の一番の弱点は最愛の妹の存在だったの」

 

 師匠の言葉に俺は何も言えなかった。つい二、三か月前まで一般ピーポーだった俺には理解できない世界だ。弱点があってはいけないなんて、自分の最愛の妹を弱点と思わなければいけない世界なんて、俺には想像もつかなかった。

 

「だから私は当主を継いだ時、あの子に言ったの。『あなたは何もしなくていい。私が全部してあげる。だから、あなたは無能なままでいなさい』って」

 

 俺はそのことで納得した。あそこまで頑なに師匠に頼らない簪。師匠どころか誰にも頼らずに自分一人で専用機を組み上げようとする簪。それらはすべて、彼女の姉からの言葉が彼女の胸に絡みついているのだろう。

 

「その言葉であの子がどれだけ傷ついたのか、どれだけあの子に重石を背負わせてしまったのか、私は理解している。だから、私はあの子と和解する資格なんてない。何より私は更識の当主だから。私は強くないといけないの。それが当主の責任だから。だから私は……」

 

 そう言ってうつむいてしまう師匠。俺は立ち上がり、師匠の横へと歩み寄る。そして師匠の頭にポンと左手を置き、

 

「ていっ!」

 

 その手をめがけて右手を振り下ろし、直前で左手を退ける。

 

「あいたっ!」

 

 左手を退かしたことで俺の右手に叩かれる師匠。まあ叩かれるって言っても、やってるの俺なんだけどね。

 

「何するのよっ?」

 

「バーカ!師匠バーカ!バーカバーカ!!」

 

 子供みたいにバカを連発する俺にその場の全員がポカーンとした顔になる。

 

「なにが当主の責任だ!なにが弱点だ!このシスコンが!」

 

「シ、シス!?」

 

「シスコンだろ!俺知ってますよ!あなたの携帯に簪の写真がたくさん入ってること!しかもそのほとんどが盗撮写真なことも!」

 

「ドキッ!」

 

「しかもそれ以外にも、自分の部屋に戻ったら『簪ちゅわ~ん』とか言って特注の簪人形に頬擦りしていることも知っています!」

 

「ぐはっ!」

 

「それだけじゃ飽き足らず、夜な夜な簪の半生を綴ったアルバムを見て『グへへ~、簪ちゃ~ん』とか言いながらよだれ垂らしてることも知っています!」

 

「ぐべらっ!」

 

「あと、師匠の部屋にある机の引き出しの中に――」

 

「ぐっちー、もうやめてあげて!お嬢様のライフはもう0だよー!」

 

 見ると、机に突っ伏して扇子を掲げている師匠の姿が。扇子には「いっそ殺して」と達筆に書かれている。

 

「んんっ!まあ何が言いたいかというと、こんな重度シスコンな師匠が完璧なわけがないってこと。完璧じゃない師匠は無理して簪を遠ざける必要はないってことです」

 

 俺の言葉に顔をあげた楯無師匠。その顔は困惑の表情を浮かべていた。

 

「でも…私なんかが……」

 

 さらに言い訳じみたことを言おうとする師匠にいい加減俺もイライラしてきた。

 

「だが!しかし!BUT!けど!けども!YET!次にこれらの言葉を言ってみろ!ケツひっぱたきますよ!」

 

 俺の言葉に師匠がびくっと震える。

 

「わかったらとっとと簪のところに行く!今なら整備室にいるはずです!」

 

「はっ、はいっ!!」

 

俺の言葉にビシッと敬礼して楯無師匠は全速力で出ていった。

 

「ふぅ、これでよし」

 

「……本当によかったのかな」

 

のほほんさんが困惑ぎみに呟く。横に座る布仏先輩も頷いている。

 

「いいんだよ。あの人はあのくらい強く言わないとダメなんだよ」

 

「いや、そうじゃなくて」

 

「ん?」

 

のほほんさんの否定に俺は首をかしげる。

 

「だってお嬢様……」

 

「顔に落書きされたまま行ってしまいましたよ」

 

「…………あっ」




すいません、またやってしまいました。
また完成しないまま投稿していたした。
本当はもっと書くつもりだったのに、結果きりのいいところまでになりました。


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第15話 黒い涙

 私――更識簪は送られてきたメールを眺めながらぼんやりと座っていた。

 現在私は整備室にいる。目の前には私の専用機『打鉄弐式』が鎮座している。本当なら今日もお姉ちゃんに会いに行くつもりだったのだが、この一週間会うことができていない。そろそろ心が折れそうになったところで同室の颯太が代わりに行くということで、今私は未完成の『打鉄弐式』の整備をしようとやって来たのだが、色々と気になって手が動かない。整備室に来てからそれなりに時間は経っているのに作業は全く進んでいない。

 そんなときに私の携帯がブブッと震えた。見ると颯太からメールが届いていた。急いで開いてみると

 

【これからどんな変なのが来ても驚かないで

 健闘を祈るd(=ω= ;)

 

 追伸

 犯人は俺です】

 

 とのことだった。正直ちんぷんかんぷんだった。お姉ちゃんには会えたのだろうか。お姉ちゃんにはちゃんと私のことを伝えてくれたのだろうか。このメールだけでは何もわからない。一体何が言いたかったのか…。

 と、思っていたところに、私の背後で整備室のドアの空く音がする。誰かが入ってきたようだ。

 

「簪ちゃん!」

 

 名前を呼ばれ、私はびくっと少し震えてしまった。その声は聞き覚えがあった。聞き覚えどころではない。何度も思い出す。私の胸の内の深いところずっとあり続け、聞こえ続けた声。私の姉、更識楯無の声だ。

 どうやら颯太はうまくお姉ちゃんに会い、私のもとに向かわせることができたらしい。私では会うことができなかったお姉ちゃんに…。

 

「簪ちゃん…」

 

 背後でもう一度私の名を呼ぶお姉ちゃん。あんなにも会って話したかったのに、会う覚悟を決めたのに、私は振り返ることができない。怖い。ただ後ろを見るだけのはずなのに、ただ首を回して顔を後ろに向けるだけなのに、それが途方もなく大変な事のように思える。

 今振り返れば、そこにお姉ちゃんがいる。そのことがただ振り返るだけというそれだけの簡単な動作を私にとても難しいものにさせる。

 

「……簪ちゃん、そのままでいいから聞いて」

 

 振り返らない私に向けてお姉ちゃんが言った。

 

「私ね、更識の家を継いだ時に決めたの。完璧であろうって、弱点をなくそうって。そのための努力は惜しまなかったわ。そして、そうやって自分の弱点を見つめ直していて、私は自分の一番の弱点を見つけた」

 

 そこでお姉ちゃんは言葉を区切る。

 

「…それがあなたよ、簪ちゃん」

 

 その言葉を聞いた時、お姉ちゃんの言葉が胸に刺さる。

 

「あなたは私の最愛の妹だもの。あなたのことを好きでいればいるほど、あなたがそばにいればいるほど、あなたは私の弱点になる。そうなったら更識の家の人間は許してはくれない。私は当主なんだから強くなければいけない。だから私はあなたを遠ざけた。でも――」

 

 お姉ちゃんの声がそこで一瞬途切れる。

 

「でも、そのために言った私の言葉はあなたを傷つけてしまった。傷つけるつもりなんてなかった。私はあなたを守りたかったのに、私の存在があなたを傷つけて重しになってしまった」

 

 お姉ちゃんの言葉は震えていた。少しだけ鼻声だった。声だけでもわかる。お姉ちゃんは今泣いている。 

 

「本当は…ずっと一緒にいたい。……本当は…もっと仲良くしたい。あなたは…大事な妹なんだもの。いろんなことを話したい。いろんなことをしたい。もっともっと仲良くしたい!」

 

 お姉ちゃんが涙声で言う。お姉ちゃんの言葉一つ一つが私の胸に染みわたっていく。

 

「……ねえ、お姉ちゃん」

 

 私は口を開く。

 

「……私…無能じゃ…ないよ?」

 

 私の声も震えていた。目の前がぼやける。

 

「……私…頑張ったよ…?あの日…お姉ちゃんに『無能』って言われた日…あの日から私頑張ったよ…。優しかったお姉ちゃんがあの日から変わっちゃって…私のこと…嫌いになったんだと思った……」

 

 私の中から涙と一緒に色々なものがあふれてくる。

 

「…前みたいに、優しいお姉ちゃんになってくれるように…私が無能じゃないって証明するために……お姉ちゃんにとって自慢の妹になれるように……」

 

 泣きながら言う私を温かいものが包む。

 

「ごめんね、簪ちゃん。私はあなたを傷つけてしまった。あなたにひどいこと言った。更識の当主らしくいなきゃいけない。でも、あなたを遠ざけるなんてやっぱり無理。だって…だってあなたは私の、世界で一人の、たった一人の最愛の妹なんだもの」

 

 お姉ちゃんに抱きしめられ、ずっと胸の内にあったものが涙としてどんどんあふれてくる。

 

「お、お姉ちゃん…!」

 

「これ以上無理しなくてもいい。あなたは無能なんかじゃない。あなたは私の大事な大事なかわいい自慢の妹よ」

 

 たまらず私はお姉ちゃんに抱き着く。私の頬に涙があふれて流れていく。おでこのあたりにも温かいものが落ちてくる。

 整備室で私たちは抱き合って涙を流していた。

 

「本当にごめんね…簪ちゃん。私はこれまであなたを守ろうとしてきた。けど、それももう終わり。あなたは強い子よ。私の自慢の妹、更識簪」

 

 お姉ちゃんが体を離し、目元の涙をぬぐう。

 私も涙でぼやけてが見えない。眼鏡を外し、目元をぬぐう。

 

「私、もっと頑張るから。もっとお姉ちゃんの自慢の――ぶふっ」

 

 お姉ちゃんの顔を見据えて言おうとした私の言葉は最後まで言うことができなかった。お姉ちゃんの顔が予想外の顔だったからだ。

 瞼にはまるで少女漫画の主人公のようなキラキラとした目が描かれ、頬にも何か描かれていたようなのだが、涙で溶けたらしく両頬が真っ黒でぐちゃぐちゃになっている。

 

「えっ?えっ?何?何かあったの?」

 

 状況が読み込めずに首を傾げるお姉ちゃん。瞬きをするたびに瞼に描かれた眼が登場し、ずっと目を開けているかのように見える。私はたまらず笑い出してしまう。

 

「え?ちょっと簪ちゃん?」

 

 混乱するお姉ちゃんをよそに私はお腹を抱えて笑う。今まで完璧な存在だと思っていた姉が、会うのが怖いと思っていた姉が、思わぬ姿でそこに立っている。それがどうしようもなく可笑しかった。

 

「アハハハハハっ。…お、お姉ちゃんこれ…顔……」

 

 笑いながらもお姉ちゃんにポケットティッシュとともに手鏡を渡す。

 

「え?顔…?――えっ!」

 

 不思議そうな顔をしながらティッシュと手鏡を受け取ったお姉ちゃんは鏡に映った自分の顔に驚く。

 

「な、なにこれ!!」

 

 ティッシュで頬の黒くなったところをこするお姉ちゃん。

 

「お、お姉ちゃん、瞼も……」

 

「えっ?…あ!ホントだ!」

 

 私の言葉に片方の瞼をつぶり、そこにも描かれているのを見つけ、急いでこする。

 

「まったく、誰よこんなの描いたのは」

 

「今まで気づいてなかったの?」

 

「ええ。簪ちゃんに早く会わなきゃって急いでたから……。今思えば廊下ですれ違う人全員驚いた顔で私のことを見てたのはこのせいだったのね……」

 

「あ、あははは……」

 

 お姉ちゃんの言葉に私は苦笑いを浮かべる。と、そこにふとあることに気付く。

 

「……もしかして…」

 

「ん?どうしたの?」

 

 私が急いでポケットを探っているのお姉ちゃんが顔をこすりながら首を傾げている。

 

「…初めは意味わからなかったんだけど…もしかしたらこれって……」

 

 数分前に私の携帯に届いたメールをお姉ちゃんに見せる。

 

「これって……」

 

「お姉ちゃんが来る少し前に颯太から送られてきたメール…」

 

 このメールの中にある〝変なの〟とは顔に落書きをされたお姉ちゃんのことだったのではないだろうか。

 そして、最後の部分。犯人は自分だと書かれている。つまり、お姉ちゃんの顔に落書きしたのは颯太なのだろう。

 

「はっは~ん、なるほど。つまり犯人は颯太君なわけね」

 

 私と同じ答えに辿り着いたらしいお姉ちゃんが目元をぴくぴくさせながらつぶやく。

 

「まったく。私を怒鳴ったりして、ちょっとは頼りになるかな~とか思ってたのに。まさかこんなイタズラをお姉さんにしているとは……」

 

 そうつぶやくお姉ちゃんの顔は少し楽しげだった。心なしかその頬も赤くなっているようだった。

 

「お姉ちゃん?」

 

「ん?どうしたの?」

 

「すこし顔が赤いよ?」

 

「え?」

 

 私が指摘した瞬間、少し焦ったような反応を示すお姉ちゃん。

 

「これはあれよ…こすりすぎて赤くなっちゃったのよ。どう?もう大体落ちた?」

 

「う、うん。大丈夫」

 

 慌てたように私に顔を近づけ、確認するお姉ちゃんに私は頷く。

 

「そう。ならいいわ」

 

 そう言って、少し安心したように胸をなでおろすお姉ちゃん。

 

「……ぷっ」

 

 なんだかさっきまでの雰囲気が消え、少し可笑しく感じた私は吹き出してしまう。

 

「な、何よ。まだどこかについてる?」

 

「ううん。そういうんじゃないけど……アハハハハハッ」

 

 たまらず私は声をあげて笑う。

 

「何よもう……」

 

 お姉ちゃんは疑問符を浮かべながらも、自分も可笑しそうに笑っていた。

 ついこの間まで会うことも話すこともなかった私たちの仲を取り持った彼、井口颯太。

 私は笑いながら、自分の中で彼という存在が大きくなっているのを感じた。

 

 

 ○

 

 

 

「ん?メール?」

 

 生徒会室でゆっくりとお茶を飲みながら出されたケーキを食べていた俺のポケットで携帯が短く振動する。どうやらメールが来たようだ。開いてみると簪からだった。

 

【あなたのおかげでお姉ちゃんと仲直りできた。

 本当にありがとう。

 このお礼はいつか必ずするから。

 

 追伸

 驚かないのは無理だったよ】

 

 と書かれていた。どうやらうまくいったみたいでよかった。と、納得していたところにもう一通のメールを受信。見ると楯無師匠だった。

 

【あなたに叱咤されたおかげで妹と仲直りできたわ。

 弟子にここまでされるなんて、師匠として情けないかもね。

 本当にありがとう。

 

 追伸

 それはそれとして、お姉さんに落書きするのはちょっといただけないわね。

 お礼に今度の特訓ではこれまで以上に厳しくしてあ・げ・る♡

 それが嫌なら今度買い物にでも付き合ってね】

 

 やっぱり落書きのことは行ってしまう前にちゃんと言った方がよかったかもしれない。これは買い物に付き合って荷物持ちでもなんでもした方がいいかもしれない。

 でも、何とか二人の仲がうまく行ってよかった。

 

「どうしたの、ぐっちー?なんだかすごくうれしそうな顔してるよー?」

 

 携帯の画面を見ていた俺の顔を覗き込み、のほほんさんが不思議そうな顔をしている。

 

「今連絡があったんだけどさ。師匠と簪、うまくいったみたいだよ」

 

「お!やったねー!」

 

「そうですか。本当によかったです」

 

 俺の言葉を聞いてのほほんさんと布仏先輩が安堵する。

 

「いやー、よかったよかった。あの二人の仲直りさせるためにいろいろやったけど、うまくいってよかった」

 

 俺は額の汗を拭くような動きをして、ふぅーっと息を吐く。

 

「……そういえばさー、ぐっちーはなんでお嬢様の情報をあんなに持っていたの?」

 

 ふと思いついたようにのほほんさんが訊く。

 

「それは私も思っていました。どうしてなのですか井口君」

 

 布仏先輩も疑問に思っていたようだ。

 

「情報の出どころは教えられませんよ。まあ、強いて言うなら知り合いのジャーナリストさんです」

 

 俺はもったいぶってお茶を濁す。

 言ってしまえば新聞部の黛先輩を頼ったのだ。師匠の恥ずかしい情報を何か知っていればと思ったのだが、思いのほかいろいろな情報が出てきた。交換条件として、俺は鈴から聞いた一夏の昔の恥ずかしい話を先輩に教えることで利害一致で教えてもらった。すまない一夏。世の中には必要な悪というものがあるのだよ。

 

 

 まあなんにしても、あの姉妹を仲直りさせることができて本当によかったと思う。結局今回俺がしたことは話し合いの席に二人を着かせたくらいのことだけだった。どこかのアロハ着たおっさん風に言うなら、「俺は手助けをしただけ。もしも助かったとしたら彼女たちが勝手に助かっただけ」である。




何とか更識姉妹の関係修復はできたかな?
ちょっと強引だし、ご都合主義ではあるかもしれないけど…。


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番外編 四月は彼の嘘

エイプリルフールという事で思いつき書いてみました。
本当は昨日のうちにあげたかったんですが……

作中の日付は四月一日ですが、今のところこの作品に登場した人は出てきます。
作者がエイプリルフールに絡んだ話を書きたかっただけです。
本編には全く関係ないです。
あれです。
メイド・イン・ヘブンでできた似た世界線ってやつです。


「というわけで、君には現在うちの会社で作った新装備のテストを行ってもらう。装備は届いているよね?」

 

「はい、ここに」

 

パソコンにテレビ電話で映っている貴生川さんに俺は頷きながら手元の箱を見せる。

 

「じゃあ早速開けてみてくれる?」

 

「はい」

 

頷きながら手元の箱を開け、中身を取り出す。

 

「……なんですか、これ?」

 

それは変わった形の装備だった。片耳のヘッドホンにそのまま左目を覆うような緑色のサングラス。それをカチューシャのような頭に固定するようになっている。

 

「スカウターだけど?」

 

「ですよね!?ドラゴンボールですよね!?」

 

「そう。それの機能がスカウターそのままだったからデザインも同じものにしたんだ」

 

「てことは……」

 

「そう。それを使えば人のおおよその戦闘力がわかる」

 

「すっげぇ!!」

 

男のロマンが今俺の手の中に!!

 

「簡単に仕組みを説明すると、そのスカウターが対象の肉体をスキャン。その人物の筋肉のバランスや神経などを瞬時に計測し、それらのデータから相手の戦闘力を数値化するんだ」

 

「な、なるほど……」

 

今の科学技術を使えばそれも可能なのか。科学バンザイ\(^-^)/

 

「でも、これはあくまでも試作なんだ。最終的にはISの性能を瞬時に測るのを目的としているんだ。まずは第一段階として対人間用で作ってみた」

 

貴生川さんが誇らしげに胸を張る。でも実際これが本当に説明の通りなら、すごいものを作ったことになる。

 

「君に頼みたいのはそれの性能が正しいかどうかなんだ。それを着けて君の知り合いで試してほしい。君の認識でいいからその数字が正しいかどうか試してくれ」

 

「なるほど」

 

確かにこの学園なら強い人はたくさんいる。試すにはもってこいだろう。

 

「今日一日でいいんだ。大体あってるかあってないかでいいから」

 

「わかりました。やってみます」

 

「そうか。じゃあ、よろしくね」

 

「はい」

 

画面の向こうの貴生川さんに頷き、パソコンの電源を落とした。

 

 

 

 

 

「さて、誰のところに行こうかな~」

 

スカウター片手に俺は寮の廊下を歩いている。

これでわかる数値の上限がどれだけのものか分からないので基準になるような、強い人のところに行きたいところである

 

「あら、颯太君」

 

そんなことを考えていたところに楯無師匠に会った。

 

「こんにちは、師匠」

 

「やあ。ところでその手に持っているのは何?」

 

「あーこれは……あ、丁度いい。手伝って下さいよ師匠」

 

「ん?」

 

首をかしげる師匠に俺はスカウターのことを説明する。

 

「面白そうね、いいわよ」

 

楽しげに笑いながら頷く師匠。

 

「じゃあさっそく……」

 

左耳に取り付け、横のスイッチを押す。

ピピピピピ……

電子音とともに左目のグラスに数字が点滅する。

ピー!

音とともに数字が止まる。

 

「えっと……20000。これはすごい数字っぽいですね」

 

「でも私の数字だけじゃわからないわね」

 

「そうですね。とりあえずこれをまずは基準にしましょう」

 

さて、他に誰か……

 

「ん?颯太に生徒会長じゃない。こんなところで何してるの?」

 

そこに現れたのは鈴だった。

 

「ああ、実は……」

 

俺は鈴にも同じように説明する。

 

「へぇー!すごいじゃない!私も見てよ!」

 

「もちろん」

 

興奮ぎみの鈴に俺は頷く。

 

「ちなみに楯無師匠は20000だったから」

 

「私のはどのくらいかしらね~」

 

楽しそうな鈴を画面越しに見つめつつスイッチを押す。

ピピピピピ……ピー!

 

「えっと……はっ!?」

 

マジで?

 

「どしたの、どしたの?もしかして会長の数字超えちゃった?」

 

「…………5」

 

「「は?」」

 

「だから、鈴の数字は……5」

 

「なっ……5!!?」

 

俺の言葉にふたりが驚愕の表情を浮かべる。

 

「……とりあえず鈴。あの台詞言ってもいい?」

 

「なによ!どの台詞よ!?」

 

「……戦闘力たったの5か。ゴミめ」

 

「ぐはっ!」

 

俺の言葉に鈴が崩れ落ち、膝立ちで両手をつく。

 

「いくら生徒会長が学園最強って言っても、そんなに差があるものなの?」

 

俺も師匠も鈴に何て言っていいかわからない。どうしよう、背中が可哀想すぎる。

 

「おう。こんなところでなにしてんだ?」

 

「……なんで…鈴は崩れ落ちてるの?」

 

そこに現れたのは一夏と簪だった。

 

「実は……」

 

俺はここまでのことをかいつまんで説明する。

 

「なるほどな。よし、俺のことも見てくれよ」

 

「わ、私も……」

 

一夏と簪も乗り気みたいだ。とりあえずやってみよう。

 

「いいぜ。そのまま立っててくれればいいから」

 

ピピピピピ……ピー!

 

「えっと、まず一夏が………あれ?」

 

「ん?どうした?」

 

スカウターを一旦外して左目を擦り、つけ直す。うん、見間違いじゃないらしい。

 

「……1」

 

「は?」

 

「だから…1」

 

俺の言葉にその場の全員が言葉を失う。一人を除いて。

 

「ぷっ!え?一夏、1?ホントに?戦闘力1?ふっ、ゴミが!!(笑)」

 

「ぐはっ!」

 

鈴の言葉が突き刺さったらしい。今度は一夏が崩れ落ちる。

 

「………えっと……じゃあ次は簪」

 

「…あ…うん」

 

崩れ落ちた一夏をとりあえず放っておいて簪に顔を向ける。

ピピピピピ……ピー!

 

「えっと、簪は……10」

 

「なっ?」

 

俺の言葉に一番驚いたのは鈴だった。多分簪には勝っていると思っていたのだろう。

ふと見ると一夏が膝をつくどころか地面にうつ伏せに寝ていた。

 

「い、一夏?」

 

「………………」

 

返事がない。まるで屍のようだ。

 

「……どんまい」

 

一夏の肩にぽんと手を置きつつ俺は言う。

みなその様子を見てなんとも言えない顔をしている。

 

「ん?どうしたんだ、こんなところに勢揃いして」

 

「なぜ一夏さんは地面にうつ伏せになっていますの?」

 

そこにやって来たのは箒とセシリア。

 

「なんというか、今このメンバーで俺をのぞいて一夏が最弱らしくて」

 

「…?話が見えんな」

 

「どういうことですの?」

 

「実は……」

 

俺はふたりにもここまでの経緯を話す。

 

「なるほど」

 

「そんなことがありましたの……」

 

ふたりは事情を知ったことでなんとも言えない顔をしている。

 

「……とりあえずふたりも見てみようか?」

 

「で、では……」

 

「お願いしますわ」

 

ふたりが頷いたのを確認してまずはセシリアを見る。

セシリアの実力は恐らくは鈴と同じくらいだろう。つまり5くらいかな……

ピピピピピ……ピー!

 

「えっと、セシリアは……なっ!?」

 

画面に表示された数字に俺は驚愕する。

 

「………8000」

 

『はっ、8000!!!』

 

その場の全員(一夏をのぞく)が驚愕の表情を浮かべる。一夏は壁の隅によっている。その肩はプルプルと震えている。誰も一夏には触れない。触れてはいけないと理解しているのだろう。

 

「ちょっと!なんで私は5でセシリアは8000なのよ!」

 

「知らねえよ!俺も驚いてるわ!!」

 

「やはりわたくしの実力はそれほど大きいということですわ」

 

結果にご満悦なセシリアと納得のいかない鈴。

 

「え、えっととりあえず次は箒」

 

「お、おう」

 

ピピピピピ……ピー!

 

「箒は………はぁ!!!?」

 

画面を見た俺は顎が外れるほどあんぐりと開ける。イメージはアラジンのジニーだ。

 

「何々!?どんな数字が出たの!?」

 

師匠が訊き、みな興味津々の様子だ。

 

「……30000」

 

『さっ30000!!!!?』

 

一夏をのぞく全員がセシリアの時以上に驚愕する。俺も多分こんな顔をしていたのだろう。

ちなみに一夏はもう完全に泣いていた。

 

「おかしい!!絶対におかしい!!箒が会長を超えるとか絶対におかしい!!壊れてるわよそれ!!」

 

「そ、そういわれても……」

 

確かにこれは壊れているとしか思えない。みな不思議そうな顔をしている。ただひとりを除いて

 

「……ちょっと確かめたいことがあるの。いいかしら?」

 

師匠が提案する。

 

「はい。任せます」

 

「よし、ちょっと待って。電話するから」

 

そう言って師匠は携帯を取り出す。

 

「………あっ、もしもし本音?」

 

 

 

 

 

「来たよーお嬢様~」

 

数分後、師匠に呼ばれたのほほんさんがやって来た。

 

「詳しくはさっき言った通りよ」

 

「アイアイサー」

 

「じゃあ颯太君、よろしく」

 

「は、はい」

 

師匠の言葉にスカウターをのほほんさんに向ける。

ピピピピピ……ピー!

 

「えっと………ふぁ!!!?」

 

これは顎外れる。そのくらい驚いた。今世紀最大の驚愕キタコレ。

 

「どう?」

 

師匠の問にブリキの玩具のようなぎこちない動きで顔を向ける。

 

「………50000…です」

 

『ごっ50000!!!!?』

 

「やっぱり……」

 

その場の全員が驚愕し、師匠は納得している様子だ。

ちなみに一夏は真っ白な灰になって燃え尽きていた

 

「ど、どういうことなんですか師匠!?やっぱりこれが壊れてるってことですか!?」

 

俺の疑問に師匠はもったいぶったようにため息をつく。

 

「簡単な話よ。数字の低い人と高い人の違いを考えてみなさい」

 

「え?」

 

えっと……低いのは鈴、一夏、簪。高いのは楯無師匠、セシリア、箒。…………あれ?もしかして………

 

「あら?みなさんどうしたんですか?」

 

俺以外にも(一夏はのぞく)全員が答えに気付きかけたとき、山田先生が現れた。

これは俺の仮定を確かめるのに丁度いいかもしれない。

 

「実は……」

 

山田先生にもここまでのあらましを説明。

 

「というわけなんで、山田先生もよかったら協力してくれませんか?」

 

「はぁ、いいですけど……」

 

山田先生が頷いたのでスカウターのスイッチを押す。

ピピピピピ……

 

「なっ!!?」

 

途中経過から俺は驚愕する。

 

「20000……30000……40000……50000……まだまだ上がっていく!」

 

あまりの速度で数字が変わってくので目がチカチカしてくる。

 

「80000……90000……100000!!」

 

ボンッ!!

 

「うわっ!」

 

俺の顔の横でスカウターが爆発する。

それにより全員が驚く。

 

「……爆発したよ…」

 

みな呆然としている。一夏もあまりのことに復活している。

 

「なあ……これってそういうことかな?」

 

『………………』

 

誰も何も言わないがみな頷いている。山田先生と一夏はよくわかっていないらしく、首をかしげていた。

 

 

 

 

 

「そろそろ気付いたかな?」

 

職場のデスクでコーヒーを飲んでいた貴生川はニヤリと笑う。

 

「あれですか?『OPPAIスカウター』」

 

「ああ、それだ」

 

貴生川の横の席のおかっぱ眼鏡な青年の言葉に楽しそうに貴生川は頷く。

 

「しかし、主任も暇ですね。エイプリルフールのためだけにあんな高性能なもの作って…」

 

「やるならとことんやるのが面白いんじゃないか」

 

楽しげに笑う貴生川に青年も苦笑いを浮かべる。

 

「今頃どうなってますかね?漫画みたいに爆発してたりして……」

 

「そんなわけないだろ」

 

冗談めかした青年の言葉にさらに貴生川は笑う。

 

「そんな胸の女性がいたら、是非会ってみたいね」




以上、番外編でした。
ただの思いつきなんで半分は冗談でできています。
出てくる数字も適当です。

普段はパソコンで書いているのに、今回は手の空いているときにスマホで打ちました。
やっぱり普段と違うやり方では難しいですね。
これからまた少し忙しくなるのでまた間が空きます。
早めに更新できるようにはしたいですが……


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第16話 お買い物♪お買い物♪

クラス対抗戦を書こうかと思ったのですが、今書いておかないと忘れそうだったので……。


 日曜日。俺は寮の玄関に立って待ち合わせをしていた。

 俺の今日の服装は下はジーパン、上は赤いTシャツの上に白の半袖カッターを前を留めずに羽織っている。

 時刻は九時半。集合時間は十時。実を言うと十五分ほど前、九時十五分ごろには待ち合わせ場所に来ていた。てか、誘われたのは俺の方なので待ち合わせに遅れたら昼食を奢るなどのペナルティが発生しかねない。むしろあの人ならもっとおかしなペナルティだってかしてくるだろう。

 しかしそう考えると不思議だ。そんなあの人なら俺が来るより前にここに来ていてもおかしくはない。

 待ち合わせ時間の四十五分前に来た俺に、あの人のことを見透かしたイタズラっ子のような笑みを浮かべ、「遅かったわね、待ちくたびれたわ」なんて言いかねない。その姿は容易に想像できる。

 

「…………」

 

 腕時計を確認すると、現在の時刻は九時四十分。そろそろ来る頃ではないだろうか?

 

「お、お待たせー!」

 

 と、背後から女性の声が聞こえてくる。見ると少し慌てたように走りながらやってくる楯無師匠だった。今日の俺の待ち合わせ相手だ。

 

「ごめんね、遅れちゃって」

 

「いえいえ。まだ待ち合わせの二十分前なんですから、遅れてないですよ」

 

「でも、颯太君はもう来てるんだから結局は待たせちゃってるよ」

 

 俺が早めに来てただけなのに…。このセリフを俺が言う日が来るとは思っていなかったけど…。

 

「いえ、俺も今来たところですから」

 

「フフ、じゃあそういうことにしときましょうか?」

 

 俺に笑顔を見せながら微笑む師匠。そこで俺は改めて師匠の服装に注目する。

 全体的には水色を主体としている。袖が短く裾も膝上太もも半ば辺りまでのワンピース。白い肌に対比するような黒のタイツがなんとも男心をそそられる。紺色の丸い帽子も似合っている。もともと美人な師匠がさらにきれいに見える。まるでどこかのモデルのようだ。

 

「その服、似合ってますよ」

 

「あら、ありがとう。言われる前に褒めてくれたのはポイント高いわよ」

 

「この手のことはラブコメで学んでますよ。俺は鈍感で難聴なラブコメ主人公ではないんで」

 

 俺の頭の中にふと一夏の顔が浮かぶ。ラブコメ主人公みたいなやつなんて絶対に現実にはいないと思っていたけど…世界は広いなぁ。

 

「さて、それじゃあそろそろ行きましょうか」

 

「あ、はい」

 

 歩き出した師匠の後をついて俺も歩き出す。

 

「で?今日はどこに行くんですか?俺この辺の土地勘ないんでお任せするしかないんですが」

 

「うん。駅前に『レゾナンス』っていう大型のショッピングセンターがあるの。そこならいろんな店もあるから色々揃うわよ。今日はいい荷物持ちがいるから色々見て回れるわ」

 

「そうですか。まあお手柔らかにお願いします」

 

「フフフ、どうしよっかなー」

 

 笑顔の師匠と苦笑いの俺はとりあえず駅に向けて歩き出した。

 

 

 ○

 

 

 

「……見た?」

 

「もちろんだよー」

 

 寮の玄関の陰から歩いて行く楯無と颯太を見つめる人物が二人出てくる。

 

「どうするの、かんちゃん」

 

「……本音――」

 

 眠たげにのほほんとした少女、本音が隣の眼鏡の少女、簪に訊くと、簪は歩いて行く二人を見ながら口を開く。

 

「今日の予定は全部キャンセルして。あの二人の後を付けるわ」

 

「ラジャー」

 

 真剣な表情の簪と、簪の言葉に笑顔でだぼだぼの長い袖の腕で敬礼をする本音。

 そのままふたりはこそこそと楯無と颯太の後を付け始めた。

 

 

 ○

 

 

 

「とうちゃーくっ!」

 

 師匠とともに俺は大きな建物、ショッピングモール『レゾナンス』へとやって来た。

 

「ここですか。確かにでかいですね」

 

 入り口に置かれた簡易的な地図を手に取って開く。

 服の店が多い。他にも書店や家具家電、食料品や喫茶店もある。本当に何でもあるようだ、ここは。

 と、地図を見ていた俺の目が一か所で止まる。

 

「こ、これは…!」

 

「ん?どうかしたの?」

 

 震える手で地図を凝視する俺を不審に思った師匠が首を傾げながら聞く。

 

「ここ……アニメイトがある!しかもそこそこ規模がでかい!」

 

 地図の中のアニメイトのスペースは他の店のスペースよりも広かった。書店や食料品とスペース的には同じくらいだろう。

 

「これは行くしかないですね!」

 

「行ってもいいけど最後にしましょう」

 

「はい!」

 

 行かないとかじゃないからいいや。しかも今の俺は数か月前の俺ではない!企業所属のIS操縦者として少なからずお給料が出ている。以前は買うことを躊躇った高額なDVDBOXもBDBOXも買うことができる。ありがとう指南コーポレーション。

 

「じゃあさっそく行きましょうか」

 

「そうですね。どこから行くんですか?」

 

「そうね、まずは……」

 

 俺の持つ地図を覗き込みながら師匠が数秒考え込む。

 

「よし、決めた!ここに行きましょう」

 

 師匠が地図を指さしたところを覗き込む。

 

「はい、了解です」

 

「頼んだわよ、荷物持ちさん」

 

「はいはい。こうなったらどんとこいですよ」

 

 そう言いながら俺たちはショッピングモールの中を進んでいく。

 

「ところで、なんで来るときにあんなに慌ててたんですか?」

 

 移動しながら俺はふと訊く。

 

「あ~、それは……」

 

 師匠が苦笑い気味に頬をポリポリとかく。

 

「実は今日、生徒会の仕事があったんだけど……虚ちゃんに全部押し付けてきちゃった。テヘ♡」

 

 ペロッと舌を出しながら自分の頭にコツンと拳を当てる師匠。

 

「その仕草かわいいっすよ師匠♪」

 

「でしょ~?」

 

 グッと親指を突き立てながら笑顔を向ける俺と、同じように親指を突き立てながら笑顔の師匠。

 

「でも――」

 

 すっと、突き立てていた親指を手とともに下ろしながら師匠をジト目でにらむ。

 

「かわいい仕草してもダメっすよ。仕事しなくていいんですか?」

 

「だって……颯太君と買い物行きたかったから……」

 

「え…?」

 

 しおらしくしょぼんとしながら師匠のつぶやいた言葉に俺は足を止める。

 

「だって…」

 

 師匠も足を止め、俺の方に顔を向ける。その顔は少し赤く染まっていた。

 

「だって…颯太君をちょうどいい荷物持ちにして存分に買い物したかったから」

 

「でっすよねー」

 

 だと思った。一瞬「え?この人俺に気があるんじゃね?」とか思った自分が恥ずかしい。そりゃそうだ。フツメンな俺がこんな美人にモテるわけがない。危なく勘違い野郎になるところだった。

 

「まあそれはいいですよ。じゃあとっとと買い物して、早めに戻って布仏先輩に謝りに行きますか」

 

「一緒に謝ってくれるの?」

 

 俺の言葉に師匠が訊く。

 

「謝りますよそりゃ。俺だって師匠と一緒に買い物するんですから、同罪ですよ」

 

「……そっか。ありがとう」

 

「……どういたしまして」

 

 師匠の言葉に頷きつつ俺は目的の店へと歩き始めた。

 

 

 

 ○

 

 

 前を歩く颯太君の背中を見ながら私、更識楯無は微笑む。

 彼はこういう少年だ。私と簪ちゃんとのことも、今回のことも、本当なら彼には全く関係がないことだ。それに自分から関わるというのは、結局彼は優しいのだろう。それもとことん、不器用なまでに。

 そんな彼の言葉だからこそ、私は素直に簪ちゃんに会いに行けたのだろう。

 そんな彼だったからこそ、私は大事な生徒会の仕事を虚ちゃんに押し付けてここまで来たのだろう。

 そんな彼だからこそ、私は――。

 

「言えないよ。本当は君と出かけたかったから…デートしたかったから、なんて……」

 

 私の呟きは日曜の人混みの中に紛れ、彼の耳までは届かなかった。




はい、というわけで楯無さんとの買い物デートです。
颯太君はデートとは思わず、自分はただのていのいい荷物持ち、くらいにしか思っていないですけどね。


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第17話 キーホルダー

気付けばお気に入り件数が200超え。
まだ20話にいってないのに200を超えるとは、もう一つの方よりも早いっすね。
嬉しい限りでございます。


「ねえ、これはどう?」

 

 体の前に紺のワンピースを掲げた師匠が俺に訊く。

 

「そうですね……それよりさっきの白の方が似合ってたと思いますよ」

 

 俺は先ほど同じように見せられた服を指さす。

 俺と師匠はモール内の店のひとつに来ている。

 楽しげに服を選びながら俺に見せ、俺に意見を聞く。師匠は美人なのだから何を着ても似合う。そう言ったら、俺の好みや主観でいいから意見を言ってほしいそうだ。なんでも、そうやって俺の意見を聞くことで俺の好みを知り、お互いのことを知り合うのだそうだ。

 そんなこんなで、今はお昼前なのだがここまで数件の店を回り、いくつか服やアクセサリーを購入した。もちろん運んでいるのは俺。まあそんなに量はないので平気だ。ひとつの店でせいぜい一商品くらいだ。もっと買うと思っていたので少し拍子抜けだ。

 

「うん、これにしよーっと」

 

 楽しそうに笑いながら師匠が服を掲げた。それは俺が似合うといった白のワンピースだった。

 

「いろいろ見て回ってますけど、あんまり買わないんですね」

 

「うん。まあね」

 

 俺の問いに師匠が頷く。

 

「師匠ならもっと豪快に買うかと思ってました」

 

「ほしいものを全部買ってたらきりがないじゃない」

 

 そりゃそうだ。ほしいものを好きなだけ買ったんじゃお金がいくらあっても足りないだろう。

 

「じゃあ買ってくるわね」

 

「はい」

 

「そろそろいい時間だし、お会計終わったらお昼にしましょう」

 

「了解っす。先に店の外にいますね」

 

 俺の言葉に頷いて師匠はレジへと歩いて行った。

 

「ふう」

 

 両手に袋を持ったまま俺は店から一旦出て一つ息を吐き出す。服一枚一枚は軽いがこうして袋に入って何種類か持つとそれなりにかさばる。

 店の前のベンチに腰を下ろそうとした俺はふと隣の店先に置かれたものが目に入る。

 

「これは――」

 

 俺が見つけたのは二つのキーホルダーだった。

 親指ほどのサイズの猫でそれぞれ紫と青。紫の猫はイタズラっぽく人懐っこい笑みを浮かべ、青の方ははにかんだ笑みを浮かべている……ように見える。そう、あくまで見えるだけで作った側は違うイメージなのかもしれない。

 この店は手作りの商品を扱っているらしく、この二匹の猫もこの一点ものらしい。

 

「…………」

 

 数秒考えた後、俺は二つとも手に取ってレジに向かう。

 

「いらっしゃいませ」

 

 レジにやって来た俺に笑顔を見せる店員の女性にキーホルダーを渡す。

 

「分けて包んでくれますか?」

 

「はい」

 

 店員の女性が紫と青の猫をそれぞれ別々に包装紙で包み、袋に入れる。

 

「彼女へのプレゼントですか?」

 

 財布からお金を取り出そうとする俺に店員が笑顔で訊く。

 

「いえ。残念ながら友達へのプレゼントですよ」

 

 お代を渡しながら苦笑い気味に言う。

 

「そうですか」

 

 ほほ笑みながら店員の女性が袋を俺に渡す。

 

「ありがとうございます」

 

 店員の女性にお礼を言いながら俺は店を出る。

 

「お待たせ~」

 

 店を出てベンチのところに来た俺に師匠がやってくる。

 

「いえいえ。そんなに待っていませんよ」

 

 師匠の言葉に笑顔を見せながら右手を差し出す。

 

「ありがとう」

 

 師匠は俺にお礼を言いながら手に持っていた袋を渡す。

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

 師匠は俺の横に並んで歩き出す。

 

「お昼はどこで食べます?」

 

「そうね――」

 

 

 

 ○

 

 

 一方その頃簪と本音は――

 

「かんちゃん。かんちゃんにはこの服が似合うんじゃない?」

 

「ほ、本音…お姉ちゃんたちが移動するから…早く……」

 

 ふたりの監視をしながらも買い物を楽しんでいた。

 

 

 ○

 

 

 

「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」

 

 店員に迎え入れられながら俺と師匠は案内された席に座る。

 

「では、ご注文が決まりましたらそちらのボタンでお呼びください」

 

 そう言って店員がさがる。

 

「どれにしよっかな~」

 

 楽しげにメニューを眺める師匠。俺もメニューに目を向ける。

 

「ここはパスタがおすすめみたいですね」

 

「そうね。色々な種類があるわね」

 

 メニューには写真付きで数種類のパスタが載っている。どれもおいしそうだ。

 

「じゃあ~私は~これ~♪和風キノコスパ♪」

 

「じゃあ、俺はカルボナーラにします」

 

 ふたりともメニューが決まったのですぐに店員を呼び、注文をする。

 数分待って注文したメニューが届く。

 

「「いただきまーす」」

 

 ふたりで声を合わせて合掌し、フォークを手に取って食べ始める。

 

「……今日はありがとう、買い物に付き合ってくれて」

 

 カルボナーラをすすっていた俺に師匠が笑顔を浮かべながら口を開く。

 

「別にいいですよ。俺が師匠の顔に落書きした罰でもあるんですから」

 

「まったくよ。おかげであの日から『会長が新しいメイクを始めた』なんて噂が流れたんだからね。簪ちゃんにも笑われちゃうし」

 

「ホントすいません」

 

 笑いながら俺は頭を下げる。

 

「……でも、あなたには感謝してるわ。おかげで簪ちゃんとも仲直りできた」

 

「そうっすか……その後簪とはどうですか?」

 

「良好良好。今度一緒に買い物行くのよ」

 

「お!よかったじゃないですか。じゃあ今日の買い物はその予行練習も兼ねて見て回ってるんですか?」

 

「んー、まあそれもあるかな。それが100%じゃないけど」

 

 ふーん。荷物持ちがいるから普通に買い物楽しみたかったってのもあるのかな?

 

「まあなんにしてもよかったじゃないですか」

 

「ええ」

 

 俺の言葉に師匠は嬉しそうに微笑む。

 

「本当にありがとうね、颯太君。これは何かお返ししないとね。ねえ颯太君、私にしてほしいことはないの?」

 

「してほしいことですか?」

 

「そう。なんだっていいわよ。私にできることならなんだってやってあげる」

 

「やってほしいこと…か……」

 

 師匠の言葉に俺は数秒考える。

 

「………んー、今のところは特にないですね」

 

「そう?なんだっていいのよ?どんな願いでも一つだけ叶えてあげるわ」

 

 フォークをいったん置いて考える俺に師匠が微笑む。

 

「世界征服でも永遠の命でもこれから地球にやってくるサイヤ人を倒してほしいでも」

 

「師匠は神龍をも超える力を持っているというのか!?――って!これは『化物語』の戦場ヶ原のセリフじゃないですか!」

 

「あ、ばれた?」

 

 師匠がペロッと舌を出す。

 

「最近簪ちゃんの好きなアニメやヒーローものを見るようになってね。話題のアニメはいろいろ見てるわよ。颯太君が前に真似したっていうジョジョも全部読んだわ」

 

 ふふん、と誇らしげに胸を張る師匠。

 

「まあそれは置いておいて、本当に何かないの?なんだっていいのよ?」

 

「う~~~ん。……今ぱっと思い浮かばないですね」

 

 俺は考え込むがやっぱり思い浮かばないので、素直にそう伝える。

 

「じゃあ何か私にしてほしいことができた時に言って」

 

「はい。そうします」

 

 頷いて食事に戻る。

 

「話は変わるんだけど、そのカルボナーラおいしそうね。一口ちょうだい」

 

「いいですよ」

 

 師匠の言葉に頷いて皿ごと師匠に渡そうとすると

 

「ああ、いいわよ皿はそのままで」

 

「え?じゃあどうやって?」

 

 俺が首を傾げると師匠がにやりと笑う。

 

「あーん」

 

「は?」

 

 突然大きく口を開ける師匠。これは……そういうことか!?そういうことなのか!?

 

「ほらほら。早く早く。あ~ん」

 

「え、えっと……」

 

 これはしないといけないのだろうか。

 

「ほらほら。ずっと口開けてるのは少しつらいのよ」

 

「わ、わかりましたよ!やればいいでしょやれば!」

 

 くっそ、恥ずかしいけど、やらないと延々催促し続けるだろう。ここは腹をくくるか…。

 

「あ、あーん」

 

「あ~ん。うん、おいしい」

 

 嬉しそうに微笑む師匠と少しぐったりする俺。

 ものすごいまわりからの視線を感じる。この店の全男性客の視線を受けている気がする。自意識過剰とかじゃなくマジで。心なしか妙に殺気のこもった視線も感じる。フォークでグサグサ刺す音も聞こえる。

 

「はあ……」

 

 俺は姿勢を正してフォークを握り直す。気を取り直して俺も食事を再開――

 

「ねえ、こっちの和風キノコもどう?おいしいわよ」

 

「…………」

 

 なんだろう。勧めてくれただけなのに何か嫌な予感がする。

 

「……えっと…じゃあ…いただきます」

 

「うん。じゃあ――あーん」

 

 満面の笑みで俺に向けてパスタの巻かれたフォークを差し出す師匠。

 ちくしょう、やっぱりか!!

 

「……自分で食べられますよ?」

 

「いいからいいから」

 

 断ろうとする俺の言葉を満面の笑みで断り返す師匠。これも腹をくくるしか…。

 

「あ…あーん…」

 

「あーん」

 

 差し出されたフォークを口に入れる。キノコの食感とパスタのつるりとした食感が和風のソースに絡んでおいしい…のだが…

 

「おいしい?」

 

「お、おいしいです…」

 

 味を感じるほどの余裕はないさっきよりも視線を感じる。しかもその中にはやはりものすごく殺気のこもった視線がある。なんかフォークで刺す音が大きくなってないか?

 

「うんうん。ここのパスタはどれもおいしいみたいね。またこよーっと」

 

 なぜかさっきよりも機嫌がいい師匠と

 

「…………」

 

 あーんされたときよりもぐったりする俺であった。

 

 

 ○

 

 

 

「さーてっと、これからどうしようかしら?」

 

 パスタの店から出た俺と師匠。師匠は地図を開きながら地図に視線を巡らせる。

 

「じゃあ、午後からは――」

 

「見つけましたよ、お嬢様!」

 

「「!!」」

 

 突然背後から聞こえてきた声に俺も師匠もびくっと震える。ゆっくりと振り返った先には

 

「う、虚ちゃん…」

 

 そこに立っていたのは制服姿の布仏先輩と

 

「や、やっほー、ぐっちー」

 

「ど、どうも…」

 

 布仏先輩の背後からのほほんさんと簪が現れる。

 

「今日の仕事はとても大事なものだって…私言いましたよね…?」

 

 普段温厚な布仏先輩。今の言葉も笑顔のまま普段のトーンで言われた言葉だったはずなのに…。なぜだろう、先輩の背後に般若が見えるようだ。ま、まさか…これがスタンド!?

 普段とは違う布仏先輩の雰囲気に本音も簪もまるで生まれたての小鹿のようにプルプルと震えている。

 

「い、いやー、これは…その……」

 

 師匠もたじたじだ。

 

「あ、あの、布仏先輩。これは俺の――」

 

「颯太君いいの」

 

 俺の言葉を師匠が遮る。

 

「虚ちゃん、わがままを言ってごめんなさい」

 

 師匠が素直に頭を下げる。

 

「お嬢様の気持ちはわかりますが、やらなければいけない仕事を投げ出されては困ります。私にもフォローできないことはあるんです」

 

「ええ、その通りね。本当にごめんなさい」

 

 しおらしくしゅんとしている師匠。

 

「では行きましょう、お嬢様。今日中に終わらせなければいけない仕事もありますので」

 

「ええ」

 

 布仏先輩の言葉に師匠は頷き俺に向き直る。

 

「ごめんね、颯太君。そういう訳だから私は学園に戻らないと」

 

「いえ、仕事なら仕方がないっすよ。てか、布仏先輩に全部押し付けてもダメだったんじゃないですか。仕事サボるのもほどほどにしてくださいよ」

 

「は~い」

 

 苦笑いを浮かべながら師匠が頷く。

 

「じゃあ荷物もらうわ。このまま私が持って帰るから」

 

「俺がこのまま持って帰りましょうか?」

 

「いいわよ。あなたにもいきたい店があったんでしょ?私も一緒に行きたかったけど…」

 

 師匠が一瞬寂しそうな顔になる。

 

「また一緒に行きましょ」

 

「……はい」

 

 俺は師匠の言葉に頷く。

 

「あ、そうだ。師匠、これどうぞ」

 

 俺はポケットにしまっていた袋を取り出し、その中から紙に包まれたものを一つ取り出して渡す。

 

「これは?」

 

「まあ記念みたいなもんですよ」

 

「そう…ありがとう」

 

 嬉しそうに微笑んだ師匠に俺もニッと笑う。

 

「井口君、今日はお世話になりました。お騒がせしてすみません」

 

 ついで師匠の横にやって来た布仏先輩が俺に頭を下げる。

 

「いいんですよ。これはもともと俺の罰ゲームだったんですから」

 

 俺は笑って言う。

 

「それでは……お嬢様行きましょう。本音。あなたも手伝って」

 

「え~私もー?」

 

「そうよ。普段仕事を手伝わないあなたにもうやってもらわないと仕事が終わらないわ。猫の手だって借りたいのよ」

 

「は~い」

 

「それじゃあね」

 

「それでは、失礼します」

 

「ばいび~」

 

 そう言って三人は去って行った。残されたのは俺と

 

「……えっと…」

 

 簪だけだった。

 

「……なあ簪」

 

 俺が声をかけると簪がビクッと震える。

 

「な、何…?」

 

「これ、やるよ」

 

 俺は袋に入っていたもう一つの包装されたものを簪に渡す。

 

「たいしたもんじゃないけど、師匠とおそろいのもの買っといた」

 

「お姉ちゃんっと…?」

 

 簪は受け取って包装紙を解く。

 

「これは……」

 

 中から出てきたのは紫の猫のキーホルダー。

 

「その猫、楯無師匠になんか似てる気がしてさ。もう一個師匠にあげた方はなんとなく簪に似てる気がしたんだ。だから両方買ってお互いがお互いに似た方にしてみた」

 

「……え、えっと…」

 

 簪がそのキーホルダーを見つめながらモジモジとする。

 

「……そ、その…ありがとう…。大切にする…」

 

「おう」

 

 嬉しそうに笑った簪に俺も笑いかける。

 

「さって!」

 

 俺はその場でグッと伸びをする。

 

「簪はこれからどうする?何か予定とかあるのか?」

 

「え?と、特にないけど……」

 

「じゃあさ、アニメイトいかね?」

 

「……え…?」

 

 俺の言葉に簪きょとんとする。

 

「ここアニメイトあるんだよ。本当は今日最後に行くつもりだったんだ」

 

 俺は手に持ったこのモールの地図を開いて見せる。

 

「どうだ?今からふたりで行かないか?」

 

「……え、えっと…」

 

 簪が少し慌てたように少し顔を赤くする。

 

「う、うん……行く…!」

 

「おう、そうか」

 

 一人で行くのも寂しかったし、よかった。

 

「じゃあ行くか」

 

「…うん」

 

 

 

 こうして俺たちはアニメイトで買い物を楽しんだのだった。

 ついでに帰りにケーキショップでいくつかケーキを見繕って生徒会に差し入れしたところ、いつもの倍以上積み上がった書類の山に埋もれる三人の姿があった。

 ………お疲れ様です。




てなわけで、これにて楯無さんとの買い物デートは終了です。
食べさせ合いっこって男の浪漫だと思うのは僕だけでしょうか。
あと、ISって妙にあーんが多いっすよね。
原作者の趣味でしょうか…。

それはさておき
次からはまた原作に戻ります。
そろそろクラス対抗戦かな。


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第18話 襲撃者

いつの間にか無い物~よりもお気に入り件数が増えてる
やったね(^ω^)♪


「あっ!!!」

 

 という間に時間は流れ、気付けばクラス対抗戦当日となった。

 

「ぐっちーどうしたの?急に大きな声出して」

 

「コホン。……なんでもない。気にするな。こっちの話だ」

 

 俺の横でのほほんさんが不思議そうな顔で俺のことを見ている。よく見ると周りのクラスメイト達も俺のことをおかしなものを見るような目で見ている。

 第二アリーナ第一試合。対戦は一夏VS鈴。俺はアリーナの観客席でクラスメイト達とともに試合開始の時を待っていた。

 アリーナ内にはもうすでに一夏と鈴の姿がある。

 アリーナ内の声は聞こえないが、ふたりの口が動いているので何かしゃべっているようだ。

 

「何話してるのかなー?」

 

「さぁ?きっとお互いに挑発し合ってんじゃないか?」

 

 ふたりの表情を見ていればわかる。どちらもふてぶてしい笑顔を浮かべている。

 

「ねえ、井口君はどっちが勝つと思う?」

 

 俺の背後にいた女子たち、相川と谷口が身を乗り出して訊く。隣ののほほんさんも興味深そうだ。

 

「ん~。一夏の『白式』も鈴の『甲龍』も、どちらも同じ近接型。単純に考えれば起動時間の多い鈴の方が有利かもしれない。でも、ここぞという時の一夏の強さはそういう経験の差を一気に埋めるだろうし……」

 

 なかなかに難題だ。

 

「……てかなんで俺にそれを聞くんだ?」

 

「そりゃ……ねえ?」

 

「井口君の師匠は生徒会長だから」

 

 なるほど。

 

「まあどっちが勝つかなんて話はともかく…みんなにとっては一夏が勝って学食フリーパス手に入れてほしいんだろうね」

 

『そりゃもちろん!』

 

 話を聞いていたその場の全員が頷く。

 

「だったらそんなの気にせず応援すればいいんじゃないか?」

 

「それもそうだね!」

 

「頑張れ織斑くーん!」

 

「私たちの幸せのために!」

 

 周りの女子たちはそろって一夏を応援しだし、観客席は織斑コールが巻き起こる。

 同じ一組として、同じ男として一夏を応援したいが、鈴の気持ちを知っている俺としては鈴の応援もしてやりたいところである。

 ここのところぎくしゃくしていたふたりだが、きっとこの試合が終われば勝敗に関係なくふたりは仲直りすることだろう。いや、鈴が勝てばふたりの関係は変わってしまうかもしれない。ことによっては篠ノ之とセシリアは黙っていないだろう。

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

 俺の思考を遮るようにアナウンスが聞こえ、同時にふたりが動く。

 一夏の《雪片弐型》と鈴の異形の青竜刀がぶつかり合う。

 まるでバトンのように異形の青竜刀を振り回す鈴に一夏も手が出しずらいようだ。いったん距離を置こうとしているようだが、その瞬間に一夏の体が殴られたように吹き飛ぶ。

 

「な、何今の!?」

 

「織斑君は何されたの!?」

 

 周りのクラスメイト達がざわつく。そうしている間にまたもや一夏の体が吹き飛ばされ、アリーナの地面に叩きつけられる。

 

「なるほど。あれが資料で読んだ『衝撃砲』か」

 

「しょ、『衝撃砲』?」

 

「それは何なの?」

 

 俺の言葉にクラスメイト達の視線が俺に向く。

 

「空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す兵器。セシリアのブルー・ティアーズと同じ第三世代型兵器だよ」

 

 俺の言葉にみんなは息をのむ。

 

「簡単に言えば、鈴は見えない砲弾を見えない砲身で撃ったってことだ。しかもあの衝撃砲は砲身斜角がほぼ制限無しで撃てる。真上だろうが真下だろうが真後ろだろうと。ただ、射線はあくまで直線だ」

 

「どうにか感知はできないの?ハイパーセンサーとかでさ」

 

「無理だな。空間の歪み値と大気の流れを探らせる事は出来るけど、感知しても既に撃っているから手遅れだ」

 

「そんな……」

 

 心配げな表情でみな一夏を見ている。

 

「……どっちにも負けてほしくないから、どっちかを応援しないでいようとは思ったが……一夏はこの状況でどう出るのかな?」

 

 俺の呟きはどうやら誰にも聞こえていなかったらしい。みな真剣な表情で二人の試合を見ている。

 アリーナ内では一夏が何かを仕掛けようとしているのか、《雪片弐型》を握りしめた。何かを仕掛けようとしているらしく、体勢を変えた時

 

 ズドオオオオオンッ!!!

 

 アリーナ全体が揺れ、アリーナの中心に土煙が立ち上る。

 俺たちが確認できたのはそこまでだった。すぐに目の前が防御壁に包まれる。一瞬の暗転の後、非常灯の赤い光がぼんやりと灯る。

 

『きゃあああああ!!!』

 

 観客席内は一瞬にして混乱状態となりみな出口へと走り出す。が、なぜだか誰一人ここから出ることなく押し固められたように押しくらまんじゅう状態が出来上がる。

 

「早く出てよ!」

 

「扉があかないの!!」

 

「何がどうなってるの!?」

 

 観客席は阿鼻叫喚状態だ。聞こえてくる声や現状から見るにどういう訳か扉があかなくなってしまっているらしい。

 俺はすぐさま『火焔』のISコアネットワークを起動。ピットにいる織斑先生と山田先生に通信を繋ぐ。

 

『織斑先生、山田先生!聞こえますか!』

 

『井口か!』

 

『はい!聞こえています!』

 

 俺の通信にすぐさま返事が聞こえてくる。

 

『今俺は観客席にいます!防御壁が下りてきたり扉が開かないんですが、今何が起きてるんですか!?』

 

『それが、防御シールドを突き破って謎のISが侵入してきたんです!そちらの救出に向かいたいのですが、なぜか遮断シールドがレベル4に設定されて扉がすべてロックされているんです!』

 

『どうやらその侵入してきたISの影響らしい』

 

『そんな……』

 

『現在も三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除できれば、すぐに部隊を突入させる』

 

 くっ!このまま待っていればいつかクラックは成功するだろうが、悠長に待っていたらけが人が出てしまう。

 

『織斑先生!後で反省文でもなんでも書くんで扉ぶった切ってもいいですか!?』

 

『ちょっと待て井口!』

 

『このまま待ってたら取り返しのつかないことになるかもしれないんで!じゃっ!』

 

『待て井口!!――』

 

『井口く――』

 

 織斑先生と山田先生の言葉の途中で俺は通信を切る。

 

「みんな!落ち着け!」

 

 俺は大声をあげながら立ち上がる。

 

「扉の前にいるやつ!どいてくれ!今からこじ開ける!」

 

 叫ぶと同時に俺は右手を前に突き出す。右手に着いている赤いリングが眩く光り、浮遊感とともに俺の体を『火焔』が包む。

 扉の前に集まっている全員がすぐさまどく。

 

「ちょっと離れてろよ!」

 

 扉の前に移動しながら右手に《火人》を展開。両手で握り、扉の前で構える。

 

「せい!!」

 

 気合いとともに一閃。扉に斜めの切り口が走る。

 

「はあ!!!」

 

 切り口に蹴りを叩きこむと大きな音とともに扉が倒れる。

 すぐさま俺は扉からどき、向き直る。

 

「開いたぞ!ゆっくり順番に行け!絶対に前のやつ押したりして事故とか起こすなよ!」

 

 俺の言葉に全員が素直に頷き、迅速に観客席から出て行く。それを見届けながら俺は『火焔』の展開を解く。

 全員が脱出できるように俺は奥に行き、避難の誘導をする。人がいなくなっても逃げ遅れた人物がいないかを探していく。

 奥へ奥へ行くと、一人の少女が蹲っていた。

 

「簪!?」

 

 その少女は驚いたことに簪だった。まわりには簪の他に誰もいない。

 

「大丈夫か簪!」

 

 すぐさま駆け寄る。

 

「あ……颯太……」

 

 顔をあげた簪の顔は苦痛に歪んでいた。見ると左足を押さえている。

 

「どうした!?何があった!?」

 

「逃げる人に押されて転んじゃって……その時に足ひねっちゃったみたいで……」

 

「見せてみろ!」

 

 俺はすぐさま左足に視線を向ける。簪の手を退け、手を当てていたところを触診する。

 

「っ!!」

 

 俺が触れると、痛そうに顔をゆがませる。

 

「……折れている感じではないけど、すぐにちゃんと診察しないと……。歩けるか?」

 

「う、うん……。やってみる」

 

 俺が手を貸しながら簪は立ち上がるが

 

「くっ!」

 

「あぶない!」

 

 すぐに顔をしかめ、バランスを崩す。そんな簪を受け止める。

 

「歩いては無理だな。それなら……。簪、悪いけど少し我慢してくれ」

 

「え?」

 

 すぐに『火焔』を展開。簪の返事を聞かずに俺は簪を抱え上げる。俗にいうお姫様抱っこだ。

 

「えっ!?えっ!?」

 

「しっかり掴まっててくれ!このまま急ぐぞ!」

 

 簪を抱えたまま俺は走り出す。

 他の人は無事脱出できたらしく進む先には誰もいない。すぐに先ほど俺の切り裂き蹴り開けた扉のところまでやってくる。

 

「あ!井口君!」

 

「かんちゃん!」

 

 出口のところにはまだのほほんさんや相川、谷口など一組のクラスメイト達が数名残っていた。

 

「足を捻ったらしい。すぐに医務室に連れて行ってやってくれ」

 

「う、うん!」

 

 俺の言葉にその場にいた全員が頷き、簪を受け取る。

 

「俺はまだ逃げ遅れたやつがいないか見てくる!簪を頼んだ!」

 

「まかせて!」

 

 頼もしく頷くみんなに笑顔を見せる。

 

「颯太!」

 

 逃げ遅れたやつの捜索に向かおうとした時、簪が俺の名を呼ぶ。

 

「その……ありがとう!気を付けてね!」

 

 

「…………」

 

 俺は無言のまま親指を立ててニッと笑い、俺は走り出した。

 

 

 ○

 

 

 俺は『火焔』を纏ったまま走り回っている。

 逃げ遅れた人がいないか。何か事故が起きてないか見て回る。

 走り回ったがどうやら問題ないようだ。簪の様子を見に医務室に向かおうとした俺の視界に影をとらえた。

 

「あれは……篠ノ之か?」

 

 走る背後に長いポニーテールが見えた。あの後ろ姿は間違いないだろう。

 俺はすぐに追いかける。

 篠ノ之が曲がった方に俺も曲がると、ちょうど一つの扉に篠ノ之が入って行くところだった。

 追いかけて扉に手をかけるが開かない。

 

「なんでだ?確かに今篠ノ之が入ったはずなのに。……こうなったら――」

 

 俺は先ほどの観客席と同じように《火人》を展開し、扉を斬る。そこから扉を蹴りつけ、扉を破壊する。

 

「篠ノ之!いるか!?」

 

 部屋の中に声をかけるが返事はない。間違っていたのだろうか。

 そう思って俺の耳に篠ノ之の声が聞こえた。

 

「今のは!」

 

 すぐさま声の聞こえた方向に行くと、すぐにアリーナ全体を見渡せる場所に来た。

 

「男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

 箒がアリーナの方に向かって叫んでいた。

 アリーナには一夏と鈴の他に両腕の大きな全身装甲の黒いISがいた。その黒いISがじっと箒の方を見ながら右手を上げる。

 

(まずい!)

 

 なんとなく嫌な予感がし、すぐさま状況を確認する。見渡すと近くに誰もいない。

 すぐさま俺は箒に接近。箒を包むように《火打羽》を展開する。

 

「なっ!お前は井口――」

 

 篠ノ之の驚愕はビームが飛んできて《火打羽》に当たった衝撃に掻き消される。強い衝撃に俺の体が揺れる。それでも俺はその場にどっしりと構え、腰を落としながら篠ノ之を庇う。

 

『一夏!いけ!』

 

『おう!』

 

 オープンチャネルで一夏に向けて通信を飛ばし、一夏の返事が返ってくる。

 ビームがやんだところで見ると、一夏の雪片が敵ISの右腕を切り落とすが、反撃を食らい、そのまま左手が一夏に向けられる。どうやら先ほどのビームをゼロ距離で放つつもりらしい。

 

『……狙いは?』

 

『完璧ですわ!』

 

 よく通る声とともに客席からブルー・ティアーズの四機同時狙撃が敵ISを打ち抜いた。敵ISは小さな爆発を起こして地上に落下した。

 

「ふう」

 

 俺は息を吐きながら『火焔』の展開を解く。

 

「お、おい井口。なぜおまえがここに――」

 

 パシンッ。

 

 篠ノ之の言葉を俺はビンタで遮る。

 

「な、何をする!」

 

 怒った篠ノ之が俺に掴みかかるが俺はその篠ノ之を真正面から睨む。

 

「てめぇふざけんなよ!死にたいのか!」

 

 俺の言葉に篠ノ之がビクッと震え、掴んでいた手を放す。そのまま今度は俺が篠ノ之の胸ぐらを掴む。

 

「俺があと数秒遅れていたらお前今頃消し炭になってたぞ!」

 

「…………」

 

 俺の言葉に篠ノ之は黙って俺の目から顔を逸らす。

 

「死にたきゃ勝手に死ねばいい!だがな、俺の目の前で死のうとするな!目の前で誰か死ぬところなんて見せられても迷惑だ!!それが知った奴なら尚更だ!!」

 

「っ!」

 

 俺の言葉に篠ノ之はさらに俯く。

 そんな篠ノ之を俺は突き飛ばすように放す。

 そのままアリーナに目を向けると気が抜けたように笑っている一夏たちと、ぎこちなく左手を持ち上げる敵ISの姿が見えた。

 

『ダメだ一夏!そいつまだ動いてるぞ!』

 

 俺の通信と同時に一夏は敵ISに視線を向け、すぐさま雪片を構え直して敵ISに向かって行った。

 一夏は敵ISの放ったビームを受けながらも最後にやつに一撃叩き込んだ。

 一夏の一撃を受け、敵ISは今度こそ動かなくなった。

 一夏も意識を失ったらしくその場に連れ落ちる。

 

「一夏!」

 

 立ち尽くす篠ノ之をその場に残して俺は一夏のもとへと走った。

 その後、一夏は医務室へ運ばれ、教師が声をかけるまで篠ノ之は立ち尽くしていた。




誰だ!簪を突き飛ばしたのは!
断罪してくれるわ!!


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第19話 専用機持ち

「おう、颯太」

 

 四人掛けの席に一人で座り、夕食を食べていた俺のもとに一夏とセシリアと鈴がやって来た。

 

「一緒に食べていいか」

 

「おう。四人掛けの席を一人で使ってて若干罪悪感を感じてたところだ」

 

「ありがとう」

 

 俺に礼を言いつつ三人が座る。

 

「そういえば、お前ら仲直りしたんだな」

 

 一夏と鈴を見ながら俺は言う。

 

「ま、まあね……」

 

「おう。おかげさまでな」

 

 一夏は嬉しそうに笑っているが、鈴は若干苦笑いだ。

 関係はこれまで通り友達で落ち着いたようだ。まあ、本人がそれでいいならいいんだろう。

 

「まあ、今日はお互いお疲れ様」

 

「あの襲撃者には驚いたな」

 

「セシリアの攻撃カッコよかったぜ。こう、スナイパーって感じで」

 

「ありがとうございますわ」

 

 俺の言葉にセシリアが嬉しそうに笑う。

 

「でも、一夏には肝を冷やしたぞ。相手がビーム撃ってくるところに突っ込むとか」

 

「ホントよ、まったく」

 

「見ていたこちらの気持ちにもなってほしいですわ」

 

「あ、あははは……。悪かったよ」

 

 俺とセシリア、鈴のジト目を受け、一夏が苦笑いを浮かべる。

 

「そ、そういえば聞いたぜ。お前の壊した扉とかは特に処罰の対象にはならなかったんだってな」

 

「おう。まあな」

 

 今日の一件での俺の破壊行動(扉を壊すなど)は、その場でできる最善の行動だったと判断され、また、俺の行動で助かったと申し出た人物が多数出たため、俺の行動はお咎めなしとなった。

 

「ホントよかったよ。反省文くらいは覚悟してたんだけど」

 

 俺は頷きながら箸を進める。

 

「……ところでさ…箒のことって聞いてるか?」

 

 一夏が言いずらそうに俺に訊く。

 

「懲罰部屋一週間だろ?」

 

「聞いてたか……」

 

 俺の答えに一夏が少し浮かない顔になる。

 

「ちょっと厳しすぎると思わないか?」

 

「そうか?妥当……むしろ軽いくらいじゃないか?」

 

 俺はデザートのバナナの皮を剥きながら言う。

 

「でも、箒は何も悪い事なんてしてないだろう……」

 

 納得がいっていない顔の一夏。

 

「一夏、お前それ本気で言ってるのか?本気で篠ノ之が何も悪くないと?」

 

 バナナを口に運ぼうとしたところで俺は手を止める。

 

「そ、そりゃちょっとは悪いことだとは思うけど……」

 

「ちょっと?本当にちょっとだと思ってるんだったら、甘いと思うぞ。少なくとも俺以外にも鈴やセシリアは彼女がやったことのでかさは理解しているぞ」

 

「えっ?」

 

 俺の言葉に一夏は鈴とセシリアの顔を見る。ふたりとも微妙な顔をしている。一夏にどう言っていいかわからないといった顔だ。

 

「あいつは、お前と鈴が襲撃者との戦闘中にアリーナのピットで大声を上げて敵に狙われた。しかも生身で。その結果死にかけた」

 

「でもそれは颯太が助けたから……」

 

「確かに俺は助けた。でも、そんなものたまたまだ。彼女は運が良かっただけだ。俺があの時篠ノ之を助けに入るのがあと数秒遅れていたら…そもそも廊下で彼女を見かけていなければ、今頃彼女がいるのは懲罰部屋じゃなく死体安置所だっただろうさ」

 

「そ、そんな……」

 

 俺の言葉に一夏は絶句する。

 

「ISってのは今やスポーツになっているが、とんでもない。あれは一歩間違えれば大量殺戮兵器だ」

 

 篠ノ之束が何を思ってISを作ったのかは知らないが、あれは宇宙での活動を目的としたマルチフォーム・スーツなんて領域のものじゃない。

 

「前に俺も師匠に言われたよ。俺も一夏も他の専用機持ちの人みたいに努力の末専用機を手に入れたわけじゃないんだ。俺たちはISの危険性を他の人よりも理解してなきゃいけない」

 

「……………」

 

 俺の言葉に一夏は何も言えないようだ。俺も師匠に言われたときは驚きつつも納得したものだ。

 

「お前も篠ノ之もそのことを理解してない。はっきり言って甘いんだよ、お前らは」

 

 一夏だけでなく、セシリアや鈴も何も言わない。

 

「まっ、二か月前まで何も知らなかった俺がそんな説教しても説得力ないかもしれないけどな」

 

 俺は食べ終わった食器を片付けるために立ち上がる。

 

「ごちそうさん。悪いけど先行くよ。ちょっと用事もあるんでな」

 

 三人とも俺の顔を見るが何も言わない。

 俺の悪い癖だ。言わなくてもいいことまで言ってしまって空気を悪くする。まあ、これだけは言っておかないとと思ってしまったからしょうがない。

 

 

「……なあ颯太!」

 

 歩いて去ろうとする俺に背後から一夏が呼ぶ。

 

「……俺、いまいちその辺理解してなかった。勉強不足だった」

 

 一夏の言葉を聞きながら一夏の方を向く。

 

「知らなかったならこれから勉強していけばいい。ここはそういう学校なんだからさ。一緒に勉強していこうや」

 

「…おう!」

 

 俺の言葉に一夏が力強く頷く。その姿に俺はニッと笑いながら、簪の分の定食を受け取って学食を後にする。

 

 

 ○

 

 

 

「――て、事があったんだよ」

 

「そう……」

 

 俺の運んだ定食を食べる簪に食堂でのことを俺は話していた。

 

「うん…間違ったことは言ってないと思う」

 

「ハハハ、そうかな。まあ何様だよって感じだけどな」

 

 冷蔵庫の中からドクペを取り出しながられは苦笑いを浮かべる。

 

「ところで、足の調子はどうだ?」

 

「うん…平気。あなたのおかげ」

 

 簪は少し微笑みながら答える。

 簪の足の怪我は幸い骨折ではなかったらしいが、当分は少し引きずったりと歩きづらいかもしれないらしい。せいぜい二週間ほどで治るとのことだが、それまで不便だ。というわけで同室のよしみでできることは手伝ってやろうと思う。まずはできるだけ移動しなくてもいいように夕食を運んできたのだ。

 

「ありがとう」

 

「俺は何もしてないよ」

 

 笑顔で答えつつドクペを飲む俺。

 

「ううん。あの時すごく不安だった。それを助けに来てくれたのは…あなた。本当に感謝してるの」

 

「そうよそうよ。もっと誇っていいのよ」

 

 そんなふうに言われると照れる。………ん?あれ?

 

「……いたんですか?」

 

「ええ、ずっと」

 

 クローゼットの中から顔を出している楯無師匠に俺はため息をつく。

 

「このことを簪は?」

 

「えっと……颯太を驚かせたいから黙っててって言われて……」

 

「そうか……」

 

 逆に考えるんだ…姉妹仲が良くなったんだと。

 

「まあまあ、いいじゃない」

 

 クローゼットから出てきて俺のベッドに腰掛ける師匠。

 

「二人に話があったんだけど、颯太君いなかったから。どうせならドッキリしかけようと思ったの」

 

「そうですか」

 

 ドッキリの割にあんまり脅かそうとしてなかったな。なんかいつの間にかいた感じでぞくっとした。

 

「で?どうかしました?」

 

「何が?」

 

「何か用があったから来たんでしょ?」

 

「用事がないと来ちゃだめなの?」

 

 寂しそうな顔をしながら俺の顔を見つめる。

 

「別にいつでも来てくれて構いませんけど。……てかさっき自分で言ったんじゃないですか。俺たちに話があってきたって」

 

「あれ?そうだっけ?」

 

 俺の言葉に師匠が首を傾げる。でも顔が笑顔だからわかってて言ってる。

 

「まあそれはいいや」

 

 いいのかよ。

 

「実は二人にお知らせがあった来たの。本当は山田先生あたりが来るはずだったんだけど、今回の事件で色々と忙しいらしくてね。代わりに私が来たのよ」

 

「はい…」

 

 俺も簪も首を傾げる。どんな話だろうか。

 

「実は……」

 

 勿体付けたように師匠は言葉を区切る。

 

「部屋割りの調整ができたから、二人は別々の部屋になるのよ」

 

「「……へ?」」

 

 とうとう部屋割りが完了か。

 

「まあ、簪ちゃんもその足だから今すぐじゃなくていいらしいわ」

 

 それは一安心だ。すぐに変わらなければいけなかったら大変だった。

 

「そっか……部屋変わるんだ……」

 

 少し簪が寂しげだ。俺との同室気に入っていてくれたのかな?俺も同じオタクで簪との同居は過ごし易かった。

 

「とりあえず私の方でも少しづつ荷物移動させるの手伝うから」

 

「うん……」

 

 簪は少し元気がない。

 

「簪…」

 

「うん…?」

 

「ありがとうな」

 

「えっ?」

 

 俺の急な礼に簪がきょとんとする。

 

「俺実家遠いから知らない人だらけのここでうまくやって行けるか心配だったけど、簪が同室でよかった」

 

「えっ?えっと……うん。私も颯太が同室でよかった……」

 

 俺の言葉に簪は顔を赤く染めながら頷く。

 

「部屋変わってもいつでも遊びに来てくれ。またアニメ見ようぜ」

 

「……うん!」

 

 簪が笑顔で頷き俺も笑う。

 

「うん、まあ今すぐじゃないんだけどね」

 

「「……あっ」」

 

 師匠の言葉に俺たちは二人して顔を見合わせるのだった。




はい、というわけでこれにて一巻の内容は終わりです。
次は二巻の内容。
今のところ主人公の機体あまり出てないし、二巻の範囲ではもう少し出そうと思います。


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第20話 指南コーポレーション

なんとなく企業の人のこと書いておきたかったので……


「――ここか……」

 

 六月頭の日曜日。俺はIS学園を離れ、指南コーポレーション本社に来ていた。契約したときは向こうがIS学園に出向いてきたので本社に来たのはこれが初めてだ。

 目の前には本社ビルが建っている。一言で言えば――

 

「でかいな…!」

 

 見上げればあまりのでかさに首が痛くなる。

 てっぺんが見えない。真下から見上げると雲の上まで伸びているようだった。

 

「さて、行くか」

 

 俺は正面に視線を戻し、目の前の自動ドアをくぐる。

 

 

 なぜ俺が今ここにいるかというと、話は一週間ほど前に戻る。

 

 

 ○

 

 

 

『――ところで、来週の日曜日、颯太君は予定空いているかな?』

 

 俺の専用機、『火焔』の製作元の企業〝指南コーポレーション〟の開発部主任、貴生川さんに定期報告をしていた時、ふと思い出したように貴生川さんが言った。

 

「来週の日曜ですか?はい、空いてますよ」

 

 俺は手帳を開いて予定を確認し、パソコンの向こうの貴生川さんに言う。

 

『そうか。実は前々から言っていたことなんだけど、うちの社長が君に会いたいそうなんだ。これまでなかなか予定が空かなかったんだけど、今度の日曜の十五時ごろに空くそうなんだ。もしよかったらその日にうちの会社に来てくれるかな?』

 

「まじっすか!?」

 

 あの指南社長と会う機会が来るとは。

 

「え?俺どんな服着て行けばいいんですか!?スーツとか持って無いですよ!?」

 

『ハハハ。普通でいいんだよ、普通で』

 

 画面の向こうで俺の慌てるさまを見ながら貴生川さんが笑う。

 

『私服が嫌なら制服でいいんじゃないかな?』

 

「そ、そうします」

 

 制服は学生の正装だもんな。

 

「あ!制服クリーニングに出した方がいいですかね!?」

 

『そこまで気にしなくてもいいんじゃないかな?』

 

「あ!手土産とか!」

 

『いらないいらない。彼女ならそんなこと気にしないと思うよ』

 

 笑いながら顔の前で手を振る貴生川さん。

 

『まあ、そういうわけだから、あまり気負わずに来てくれればいいからね』

 

「は、はい」

 

 気負わずには無理です。

 

 

 ○

 

 

 

 そんなわけで現在俺は都心近くの指南コーポレーション本社に来たのだ。

 

 

「やあ、来たね」

 

 ビルに入り、受付で要件を告げると数分待った後に受付に現れたのは貴生川さん、そして、経理部部長の犬塚さん、総務部部長のミハエルさんがやって来た。

 

「久しぶり。契約の時に会って以来だね」

 

「はい。その節はどうも」

 

 爽やかに片手を挙げて笑う犬塚さんに俺は会釈する。

 専用機をもらった数日後に詳しく契約書にサインし、本格的に指南コーポレーション所属IS操縦者になった時に犬塚さん、ミハエルさんには会っている。

 一夏にも負けず劣らずな爽やかイケメンの犬塚さんとイケメンだけどどこか冷徹そうな仕事人間なミハエルさん。どちらもいい人だというのは以前会った時に感じている。

 ちなみにその時契約書に書かれていた俺の契約内容の給料の額は両親の月給の合計を軽~く飛び越える月給だった。公務員志望な俺にあんな数字自分の給料で見る日が来るとは思わなかった。

 

「どうだ、その後『火焔』の調子は?」

 

「はい、問題ないです。問題があればすぐに報告していますよ」

 

「いつもそう報告してるだろ?」

 

「使っている本人の口から聞くのも大切だと思ってな」

 

「さようで」

 

 ミハエルさんの言葉に貴生川さんがおどけたように肩を竦める。

 

「さて、ここで話すのもなんだし、そろそろ行こうか。社長も忙しいらしいし」

 

「はい」

 

 犬塚さんの言葉に俺は返事をし、ふたりも頷く。

 そこから四人で移動し、エレベーターに乗り込む。

 

「ところで、指南社長ってやっぱりテレビで見たままなんですか?」

 

 俺はふと思い、三人に聞いた。

 

「あのままだね」

 

「むしろ機嫌がよければもっとテンション高い時があるよ」

 

「不機嫌でもテンション高くなるな。仕事が溜まってる時は特に」

 

 苦笑い気味の貴生川さんと犬塚さんと嫌そうな顔のミハエルさん。どうやら相当クセのある人らしい。

 

「まあ会ってみればわかる」

 

 ミハエルさんの言葉に他の二人が頷いたところで、チンッという音とともにエレベーターの扉が開いた。

 

 

 ○

 

 

 本社ビルの最上階。廊下を少し進んだところにその部屋はあった。 

 扉の上には社長室の文字。

 

「ここだ」

 

 ミハエルさんが俺の顔を見ながら言った。

 

「君を迎えに行く前に連絡を入れてあるから、君が来ていること知っているよ」

 

「う、うっす」

 

 俺は若干緊張しながら頷く。この先に大会社の社長が。そう思うと心臓が高鳴る。

 

「緊張するほどの相手ではない。むしろ話していると肩透かしにあうぞ」

 

 ミハエルさんがため息まじりに言う。

 

「とりあえず、ここまで来たんだから、とっとと入ればいいだろ」

 

「はい」

 

 犬塚さんの言葉に俺は頷く。

 

「それじゃあ、準備はいいかい?」

 

「は、はい。大丈夫です」

 

 俺が頷いたのを確認して貴生川さんが扉をノックする。

 

「失礼します。井口颯太君を連れて来ました」

 

『はーい、どうぞー!』

 

 貴生川さんの言葉に扉の向こうから元気のいい返事が聞こえる。

 返事を聞き、俺を含めた四人が入室する。

 そこは広い一室で、いかにも高そうなソファーとテーブル。その向こうにはいかにもな社長椅子に座る一人の女性とその横に立つスーツ姿の男性がいた。どちらも二十代中ごろ。テレビで何度も見かけた指南コーポレーション社長の指南翔子さんと、その夫にして副社長の時縞春人さんだ。

 ちなみに夫婦で苗字が違うのは、社長の翔子さんが仕事の時には指南を名乗り、プライベートでは時縞を名乗っているそうだ。

 

「やあ。初めましてだね、井口颯太君。私が指南翔子です」

 

 テレビで見たままの笑顔で俺に指南さんが言った。

 

「初めまして。井口颯太です。俺なんかをこちらの所属操縦者に選んでいただいてありがとうございます」

 

 俺はその場で頭を下げる。

 

「いいのよ、そんな畏まらなくても」

 

 椅子から立ち上がり、指南社長が俺のところへやってくる。

 

「立ち話もなんだし、座って話しましょ。お茶でも出すわ。春人、こないだ買ったクッキーってどこにあったけ?」

 

 後ろを振り返り、さっきと同じところに立っている時縞さんに訊く指南さん。

 

「それならこの間甘いもの食べたいって翔子が食べたじゃないか」

 

「えー、ないのー?じゃあ前に私が作った羊羹は?」

 

「それなら隣の部屋の冷蔵庫にあるんじゃないかな」

 

「じゃあお茶請けはそれにしよう。私が淹れてくるから」

 

 言うが早いか部屋から飛び出していく指南さん。

 

「ごめんね、慌ただしくて」

 

 時縞副社長が苦笑いを浮かべながら言った。

 

「すぐ戻るから座って待っててくれればいいよ」

 

「はい」

 

 時縞さんの言葉に頷きながら示された一人掛けのソファーに座る。ビックリするくらい座り心地がよかった。

 俺の横には貴生川さんが座り、テーブルを挟んで前の三人掛けのソファーには時縞さんと犬塚さんが座った。ミハエルさんは空いていた横の丸椅子に座る。

 

「ただいま~」

 

 そうこうしているうちに人数分の湯飲と急須、大き目の皿に盛られた羊羹を乗せたお盆とポットを持った指南さんが戻ってきた。

 

「はいどうぞー。これ私が作った羊羹なんだー。どうぞ召し上がれ~」

 

 お茶の入った湯飲とともに羊羹の乗った皿を俺に方に向ける。

 

「いただきます」

 

 添えられていたフォークで一口大に切られた羊羹を刺して口に運ぶ。

 

「あ、おいしい」

 

「でしょ?」

 

 俺の言葉に嬉しそうに笑いながら皿をテーブルに置き、時縞さんの横、俺の正面に座る。

 

「それでそれで?どう、ISを動かしちゃったご感想は?IS学園での生活はやっぱり大変?もう一人の男性操縦者ってどんな感じ?」

 

「え、えっと……」

 

 さっそくどんどん質問する指南さんに俺は随時答えていく。

 学園のこと。ISを動かしてしまった時のこと。地元のこと。学園の生活での不便なところ。同室だった簪や楯無師匠こと。一夏の鈍感具合。

 俺の話に皆さん(特に指南さん)反応をしてくれ、その中でも皆さんが反応を示したのが一夏の鈍感話。

 一夏と篠ノ之のこと。一夏に惚れたセシリアに気付かない一夏の話。鈴のプロポーズに気付いてなかった話。

 皆さん苦笑いしながらも笑って聞いていた。

 そうやって話しているうちに気付けば二時間ほど話していた。

 

「――翔子。そろそろ次の予定の時間だよ」

 

「ええー!まだいいじゃない!」

 

「ダメだよ。今からある仕事はどうしてもキャンセルできない重要な仕事なんだから」

 

「ちぇー」

 

 不満げに頬を膨らませる指南さん。

 

「ごめんね。大したおもてなしできなくて」

 

「いえ。楽しかったですよ」

 

 指南さんの言葉に笑顔で答える。

 

「またよかったら会いましょ。今度はもうちょっと長く予定空けるから」

 

「はい、是非」

 

 俺は頷きながら立ち上がる。

 

「あっ、そうだ。ひとつお願いがあるの」

 

 ふと思い出したように指南さんが言う。

 

「IS学園の中でこの人はIS操縦上手いとか、この人は整備とか上手いって人がいたら教えて。人材強化のためにスカウトしたいの」

 

「わかりました。そういう人がいたらご連絡します」

 

 

 

 ○

 

 

 

「ただいまー」

 

 俺は寮の自室のドアを開けながら言うが、それへの返事はない。それどころか部屋の中は真っ暗だ。

 少し前に完全に引っ越しもすみ、俺は二人部屋を一人で使っているのだ。

 部屋割りの調整が済んだって話だったので、てっきり一夏と同室になったのだと思っていたが、なぜか俺も一夏もお互いに一人で二人部屋を使っている。

 そのことについて山田先生に訊くと

 

『ちょっと待ってくださいね。実は颯太君には転校生のだんs……ってなんでもないです!これはまだ言っちゃいけないことでした!』

 

 ………めちゃくちゃ不自然で怪しかった。まあ深くは追及しないでおこう、と思ったのだった。

 

「ふう」

 

 俺は制服からジャージに着替え、制服をクローゼットに仕舞い、ベッドに座って一息つく。

 簪が部屋変わってからなんだか部屋が広くなったように感じる。時々気付いたら洗面所で着替えてる時がある。

 ……実は若干寂しかったりする。

 

 コンコン。

 

「はーい」

 

 ドアがノックされ、俺は確認のために立ち上がりドアに向かう。

 

「こ、こんばんわ…」

 

「一緒に夕食食べに行きましょ~」

 

 やって来たのは簪&楯無師匠だった。

 

「………」

 

「どうしたの、颯太君?」

 

 無言の俺に二人が首を傾げる。

 

「………いえ、何でもないです。いいですよ。行きましょう。俺も今帰ってきたところで、お腹すいてたんです」

 

 俺は首を振りながら笑顔で答え、ふたりとともに食堂に向かったのだった。




この話に出てくる指南コーポレーション社員の名前は作者の創作であり、似た名前の登場人物が他のアニメに出ていたとしてもそれは気のせいです。
気のせいったら気のせいです。
そんな気がするだけです。
幻覚です。
まぼろし~~!


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第21話 天国と地獄と転校生

今回は若干の下ネタがあります。
あらかじめご了承ください。


 教室に入った俺と一夏はクラスメイト達が何かワイワイとカタログを見ながら話しているところに遭遇した。

 詳しく聞いたところ、どうやらISスーツの申し込みの話らしい。

 

「そういえば織斑君と井口君のISスーツってどこのやつなの? 見たことない型だけど」

 

「あー。特注品だって。男のスーツがないから、どっかのラボが作ったらしいよ。えーと、もとはイングリッド社のストレートアームモデルって聞いてる」

 

「俺のはISがもらえるまでは一夏と同じのだったけど、『火焔』もらうのと同時に指南が作ったやつ貰ったからそれ使ってる」

 

 IS関連の製品には大きなシェアを持ってるだけあって、指南のISスーツは着心地がいい。

 

「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検地することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要な動きを行います。また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止めることができます。あ、衝撃は消えませんのであしからず」

 

 そうすらすらと解説しながら山田先生が現れた。

 

「山ちゃん詳しい!」

 

「一応先生ですから。……って、や、山ちゃん?」

 

「山ぴー見直した!」

 

「今日が皆さんのスーツ申し込み開始日ですからね。ちゃんと予習してきてあるんです。えへん。……って、や、山ぴー?」

 

 入学からだいたい二か月たったが、山田先生のあだ名は現在8つほどあるらしい。ちなみに俺は陰ながら「高雄型先生」と呼んでいるが、このあだ名は誰にも言ったことはない。

 

「なあ、前から気になっていたんだけどさ。なんで織斑先生にはあだ名付けないの?」

 

 俺の素朴な疑問に教室の空気が凍り付く。

 

「い、井口君は私たちに死ねというの?」

 

 近くにいた相川が真っ青な顔で訊き、他の女子たちもうんうんと頷いている。

 確かに織斑先生は怖いし、元モンドグロッソ優勝者でもある。でも、凄さで言えば山田先生も負けていないのではないだろうか。何せ元日本代表候補生なのだから。

 

「でもさ、織斑先生も意外とあだ名で呼ばれたがっているかもよ?あだ名がつく先生って生徒からそれなりに人気があるってことなんだから」

 

『ええ~……』

 

 クラスメイト達は俺の言葉に半信半疑の表情を浮かべている。

 

「じゃあ、ここは俺が織斑先生に何かあだ名を考えてみよう。何がいいかな~」

 

 普通に考えれば「鬼軍曹」だけどそれじゃあな……。リーダーという意味と重ねて千冬だから「チーフ」とか?織斑の斑を逆さにして「ラム」?

 俺が考えているのをクラスメイト達(山田先生と一夏を含む)が見ていたが、突然その顔が恐怖に固まる。

 

「ん?どうか――」

 

「ほほお?この私にあだ名をつける?いったいどんなあだ名をつけてくれるんだ?」

 

 なぜだろう。肩にポンと手を置かれただけなのに、背筋に悪寒が。

 

「こ、これはこれは織斑先生。おはようございます」

 

「ああ、おはよう」

 

 とりあえず挨拶する俺。声だけ聴いていたらいつもの、むしろいつもより優しい織斑先生だ。なのになぜだ。なぜこんなにも振り返ろうとすると頭の中に警笛が聞こえるんだ?

 

「それで?お前の考える私のあだ名は…いったいどんなものか、聞かせてはもらえないのかな?」

 

「え、え~っと………」

 

 周りを見るとクラスメイトの女子たちが涙目だ。数名の子は泣いてる。なんなんだ!?俺の後ろに何があるっていうんだ!?いるのは織斑先生だろ!?

 

「そ、そうですね…。お、『鬼軍曹』というのは――いったっ!!」

 

 グリっと右肩に置かれた手に力が入る。まるで万力のようだ。

 

「っていうのは冗談で!!」

 

「そうか。冗談か」

 

 俺の右肩を掴む手の力が緩む。

 そうだよね。織斑先生だって女性なんだから「鬼軍曹」はないよな。もっとかわいいのがいいよな。

 

「じゃ、じゃあ、『ちーちゃん』っていうのは?」

 

「……断罪してくれる」

 

 言葉からの織斑先生の行動は速かった。

 俺の方に置かれていた右手が俺の首に絡みつき、その右手を自分の左手で肘で包むように挟み、俺ののどを締め上げる。

 

「がはっ!?」

 

 ギリギリと締め上げられ、一気に呼吸ができなくなる。

 

「な、なんで……?」

 

「私を『ちーちゃん』と呼ぶな。あの天災を思い出して不快だ!」

 

 さらに俺の首に巻かれた手に力がこもる。

 

「ノー!ノー!」

 

 俺はもがくが織斑先生の首絞めは緩まない。

 

(ふっ、だが甘い!)

 

 呼吸ができない程度どうということはない。なぜなら俺は小学校のころから水泳を習っていたために呼吸に関しては一分間止めていても大丈夫だからだ。水泳だけは俺の数少ない特技と言えるだろう。

 

(ある程度苦しそうな演技をすれば、織斑先生も諦めてくれるはず――)

 

 そう思っていた俺の思考はある感触が遮る。

 

 ポヨン。

 

 そう。形容するとすればそんな効果音。そんな感触が俺の後頭部を押し返すように、そして、俺の頭を包み込むように感じる。

 

(な、なんだこの感触は!?なんだこの今迄に感じたことのない心地良い感触は!!?)

 

 織斑先生に首を締め上げられ、織斑先生に密着されるほどにその感触は強くなる。

 

(ま、まさかこれは!!)

 

 俺は気付いてしまった。その感触の正体に。それと同時に悟った。そのことを意識してはいけないということに。

 

(ダメだ!考えるな!DTで思春期男子の俺がそれを意識したら!)

 

 動悸が激しい。顔が熱い。考えないようにしようとすればするほど意識してしまう。速く織斑先生が手を放してくれるように、首に巻かれた腕を急いでタップする。

 

(くそっ!こんな時こそ素数だ!2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,37,41――)

 

 素数を数えることで若干意識を逸らすことができた。しかし、集中を切らしたことが悪かった。

 今度は首絞めの影響がやってくる。

 

(前門の虎後門の狼どころじゃない!全方位囲まれた!)

 

「ち、千冬姉!それ以上はまずいって!颯太の顔が色々と凄いことになってる!」

 

「おっと」

 

 一夏の言葉に織斑先生は腕を話す。そのまま俺はその場に四つん這いに倒れる。

 

「お、おい、大丈夫か颯太!?」

 

「一夏……」

 

 顔をあげると一夏が心配そうに俺を見ていた。まわりの女子たちも心配そうに見つめている。

 

「だ、大丈夫だ」

 

 俺は立ち上がり、一夏を含め、周りのみんなに笑顔を向ける。

 

「ホントに大丈夫か?なんか危ない薬やってるみたいな顔になってたぞ?」

 

 一夏はまだ心配げだ。

 

「大丈夫だよ。……ただちょっと天国と地獄を同時に味わっただけだ」

 

『???』

 

 俺の言葉の意味が分からないらしく、一同首を傾げるのだった。

 

 

 ○

 

 

 

 

「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように」

 

 きりっと引き締めた顔で教壇に立つ織斑先生。

 先ほどの出来事はとりあえずは解決。

 あの後、俺の脈拍を測ったり瞼をきゅっと指で開いたりその他俺もよくわからないいいろいろをされ、特に体に異常は起きていないことが確認された。

 俺の無事が確認された後、織斑先生からは『気を付けろよ』とのお言葉をいただいた。いや、あんたが言うなよ。

 

「各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもないものは、まあ下着で構わんだろう」

 

 いやいやいやいやいや!!構う構う構う!俺と一夏は〝男〟ですよ!!

 ちなみにIS学園の指定水着は紺色のスクール水着、体操服はブルマーだ。これを決めた人とはいい酒が飲めそうだ。

 

「では山田先生、ホームルームを」

 

「は、はいっ」

 

 山田先生にバトンタッチして織斑先生と山田先生が入れ替わる。

 

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!しかも二名です!」

 

「え………」

 

「「「えええええっ!?」」」

 

 いきなりの転校生発表にクラスメイト達が驚く。もちろん俺も。こういう時は鈴の時のようにクラスメイト達が情報を入手しているものじゃないのだろうか。

 

(あれ?でもなんでいっきにうちのクラスに二人も?普通分散させるんじゃないのかな?)

 

 俺の疑問は

 

「失礼します」

 

「……………」

 

 教室に入ってきた人物の姿に吹き飛ばされた。

 なぜならその転校生のうち一人が、男子の制服だったからだ。

 

 

 ○

 

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 転校生の男子の方。デュノアはにこやかにそう言って礼をした。

 クラス全員があっけにとられている。

 人懐っこそうな顔。礼儀正しい立ち振る舞いと中性的に整ってる顔立ち。髪は濃い金髪を首の後ろで丁寧に束ねている。男子にしては華奢な体型。まるで『貴公子』と言った雰囲気だ。

 

「お、男……?」

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方々がいると聞いて本国より転入を――」

 

「きゃ……」

 

「はい?」

 

「きゃあああああああああーーーーーっ!」

 

 いきなり歓喜の叫びをあげる女子達。

 

「男子!三人目の男子!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「美形!守ってあげたくなる系の!」

 

「地球に生まれて良かった~~~!」

 

 

 うん、あれだね。前から思っていたがこの学園は変な子ばかりを集めているんだろうか。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

 山田先生の言葉に俺はデュノアの隣の人物に目を向ける。

 そこにはデュノアよりも小柄な、女子の中でも小柄な体躯の銀髪の女生徒だった。

 白に近いような銀髪のロングストレートヘアー。そして何よりも目を引くのは少女の左目を覆う眼帯。医療用でもなく、軍隊映画で見るようなものだ。そして、もう片方の右目は赤色だが、その温度は限りなくゼロに近いような冷めたものだ。

 その赤い右目でじっと教室中を見渡し、その過程で俺と目が合う。ゾクリと来た。背筋に嫌な悪寒が走った。まるで剥き出しの刃物を目の前に突き付けられたような一瞬の殺気。しかし、それも束の間で、すぐに少女は視線をずらし、織斑先生に向ける。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

 いきなりその佇まいを直した転校生。それに対して織斑先生は面倒臭そうな顔になる。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」 

 

「了解しました」

 

 そう答えた少女はピッと伸ばした手を体の真横に付け、足をかかとで合わせて背筋を伸ばしている。以前見た軍隊映画で見た敬礼だ。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「……………………」

 

 続きがあるのかと黙っているが、ボーデヴィッヒは口を閉じたままだ。

 

「あ、あの、以上……ですか?」

 

「以上だ」

 

 ボーデヴィッヒの返答に泣きそうな顔になる山田先生。ものすごくかわいそうだ。

 

「おい」

 

「ん?」

 

 そんな中、ボーデヴィッヒが席に着いてる俺に話しかける。

 

「貴様が織斑一夏か?」

 

「え?……違うけど…」

 

「そうか」

 

 突然のことにどもりながらの俺の返答にボーデヴィッヒは俺に背を向け一夏を見る。

 

「ん?」

 

 一夏は自分の名が出たことでボーデヴィッヒの顔を見上げている。

 

「貴様が…!」

 

 バシンッ!

 

「……………」

 

「う?」

 

 一夏へのいきなりのビンタに、誰もが唖然とする。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

 えーっと……どゆこと?一夏はボーデヴィッヒに何したっていうんだよ。

 

「いきなり何しやがる!」

 

「ふん……」

 

 一夏の言葉に返事することなくボーデヴィッヒはスタスタと歩いて行き、空いてる席に座り、腕を組んで微動だにしなくなる。

 

「あー……ゴホンゴホン!ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

 そう言って行動を促す織斑先生。

 いまいち話は見えないがとりあえず俺は腰を上げる。急がないと女子たちが着替え始めるからだ。

 

「おい織斑、井口。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

 

「君が井口君?初めまして。僕は――」

 

「悪い、今は自己紹介よりも移動が先。急がないと女子が着替えだすから」

 

 急いでデュノアを連れて一夏と三人で教室を出る。

 

「ああっ!転校生発見!」

 

「しかも織斑君と井口君と一緒!」

 

 チッ。見つかったか。てか情報速いな。

 

「いたっ!こっちよ!」

 

「者ども出会え出会えい!」

 

 時代劇かっ!?

 

「黒髪もいいけど金髪もいいわね!」

 

「しかも瞳はアメジスト!」

 

「日本に生まれて良かった!ありがとうお母さん!今年の母の日は河原の花以外のをあげるね!」

 

 もっといいもの毎年あげろよ。

 

「な、なに?何でみんな騒いでるの?」

 

「そりゃ男子が俺たちだけだからだろう」

 

「……?」

 

 一夏の言葉にデュノアが首を傾げる。

 

「いや、普通珍しいだろ。今のところISを操縦できる男子って俺らだけだし」

 

 しかも、一夏もデュノアもイケメンだし。え?俺?フツメンですが何か?

 

「あっ――ああ、うん。そうだね」

 

 まあ今はそんなことはいい。まずはこの包囲網をなんとかしないとな。

 

「一夏。遅れないようにとりあえず正規ルートじゃなくても何でもいいから急がないとな」

 

「ああ、そうだな」

 

 俺の言葉に一夏が頷く。

 

「まあ、デュノア。これから大変かもしれないけどよろしくな」

 

 俺は逃げながらデュノアに言う。

 

「俺は井口颯太。颯太って呼んでくれればいいから」

 

「俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」

 

「うん。よろしく颯太、一夏。僕のこともシャルルでいいよ」

 

「おう、シャルル」

 

「わかった」

 

 そう言ってる間になんとか包囲網を突破できたらしく、無事目的のアリーナの更衣室にやって来た。

 

「さっさと着替えよう」

 

「おう」

 

 一夏と俺は急いで着替え始めるのだが、

 

「わあっ!?」

 

「「?」」

 

 なぜかシャルルは着替えない。

 

「どうした?何か問題が起きたか?」

 

「荷物でも忘れたのか?って、なんで着替えないんだ?早く着替えないと遅れるぞ。シャルルは知らないかもしれないが、うちの担任はそりゃあ時間にうるさい人で――」

 

「う、うんっ? き、着替えるよ? でも、その、あっち向いてて……ね?」

 

「???」

 

「そりゃ、着替えをじろじろ見る気はないけど……って、シャルルは見てるんじゃん」

 

「み、見てない!別に見てないよ!?」

 

 両手を突き出し、慌てて顔を床に向けるシャルル。なんか反応が女子みたいだな。

 

「まあ、本当に急げよ。初日から遅刻とかシャレにならない――というか、あの人はシャレにしてくれんぞ」

 

 一夏の言葉に朝の首絞めを思い出し俺は身震いしながら着替えを続ける。

 指南のISスーツは着やすくて助かる。

 

「……………」

 

 やっぱり視線を感じる。

 

「シャルル?」

 

「な、何かな!?」

 

 気になって視線を向けると、シャルルはこっちに向けていた顔を慌てて壁の方に向け、ISスーツのジッパーをあげた。

 ちなみに俺も胸元のジッパーをあげれば終わりだ。

 

「すごい。颯太は前から着替えるの早かったけど、着替えるの早いな。なんかコツでもあんのか?」

 

「い、いや、別に……まだ着替えてないの?」

 

「俺のは着やすくできてるんだよ」

 

 毎回着替える時には助かっている。

 

「てなわけで一夏。悪いが先に行く。行こうぜ、シャルル」

 

「う、うん」

 

「ちょ!?」

 

 俺の言葉にシャルルが頷き、一夏が焦る。

 

「ま、待っててくれてもいいだろ!?」

 

「しょうがないなー。じゃああと十秒な。い~~ち、に~~い、さ~~ん……」

 

 俺のゆっくりとしたカウントに焦りながら着替えを進めていく一夏。

 

「4,5,6,7,8,9,10!はい十秒。あばよ!」

 

 俺はシャルルの手を取り、走り出す。

 

「ちょ!急にカウントはやめるなよ!」

 

 袖に手を通した状態で俺たちの方を見て叫ぶ一夏。

 

「悪いな一夏!遅れて織斑先生に怒られたくはない!今朝の件で懲りた!てなわけでまたな~一夏~!」

 

「ま~て~、颯太~!シャルル~!」

 

 某三代目怪盗のごとく特徴的な声で去って行く俺に一夏も某警部のような声で叫ぶのだった。




てなわけで、とうとう彼女たちの登場です。
颯太君は今後どうなるのか。
彼女たちにどうかかわっていくのか。
頑張れ颯太君!


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第22話 昼食

お気に入り件数が300を超えた!
あまりの嬉しさにもう一つを更新するはずがこっちを更新していました。


「そ、颯太……そろそろ手を放して……」

 

「おっと、悪い」

 

 一夏から逃げつつ第二グラウンドに向かっていた俺はシャルルの言葉にずっと手を握ったままだったことに気付く。なんかシャルルの手って柔らかいな。まるで女子みたいだ。

 

「…………」

 

「…………」

 

 あれ?何この沈黙。なんでシャルルは恥ずかしそうにもじもじしてるの?

 

「……あー……そのー……なんだ。そういえばさ、シャルルのISスーツってどこの?」

 

「あ、うん。デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけど、ほとんどフルオーダー品」

 

「へー………。デュノアってもしかして実家?」

 

「うん、そうだよ。父がね、社長をしてるんだよ。一応フランスで一番大きいIS関連企業だと思う」

 

「すっげぇ!じゃあシャルルって社長の息子なのか。なんか納得」

 

「納得?」

 

「いや、なんていうか気品っていうのか、いいところの育ち!って感じするからさ」

 

「いいところ……ね」

 

 俺の言葉にシャルルは顔を曇らせる。

 

「颯太のところは?」

 

 シャルルは話題を変えるように言った。なんとなく触れてはいけない気がしたのでそれに乗っかる。

 

「俺んちは平凡な一般家庭だよ。両親とも公務員。あと弟が一人。母方父方両方の祖父母は健在。父方の祖父母と同居してた。金持ちではないけどいい家族だぜ」

 

「そう……」

 

 どうやら家族の話題はあまりよろしくないようだ。少し空気が重い。ここはどうにか空気を変えねば。

 

「……なあなあシャルルー」

 

「ん?何、そう――ぶふっ!」

 

 俺の方を見たシャルルが噴き出す。

 

「ちょっと……颯太……その顔……」

 

 笑いながら俺の顔を指さすシャルル。それもそのはず。俺は今全力で変顔中だ。

 

「難しい顔してたぞ、シャルル。眉間にしわよせるより笑って過ごそうぜ」

 

「颯太……その顔で言われても……」

 

「ですよね~」

 

 変な顔したやつに真面目に言われてもね。

 

「ぷっ……あははっ!颯太は面白いなぁ」

 

「そうか?じゃあ続きまして、プレデターの顔マネを――」

 

「ほほお?遅れてやって来て随分と楽しんでいるようだな」

 

 ゾクリと背筋に悪寒がゆっくりと前を向くと、鬼軍曹織斑先生が立っていた。

 

「……ちゃ、ちゃうねん」

 

 なぜかエセ関西弁になってしまった俺。

 

「何か言い訳はあるか?」

 

「シャルルとの距離を縮めようと思いまして」

 

「他に方法があるだろうが!」

 

 パアンッ!

 

 千冬さんの的確な突込みとともに振り下ろされた出席簿の音が第二グラウンドに響き渡った。

 

 

 ○

 

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

『はい!』

 

 織斑先生の言葉に一、二組合同の全員が返事をする。

 あれから遅れてきた一夏が出席簿を食らったり、朝の件を追求したセシリアと鈴が出席簿を食らったりはしたものの、おおよそ時間通りに授業が始まった。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。――凰! オルコット!」

 

 織斑先生からのご指名にぶつくさ文句を言いつつ前に出りふたりに織斑先生が耳元で

 

「お前らすこしはやる気を出せ。――アイツにいいところを見せられるぞ?」

 

 と言った途端、ふたりのやる気が一気にMaxに。流石だぜ一夏。彼女たちをあそこまでやる気にさせるなんて。

 

「それで、お相手はどちらに?別にわたくしは鈴さんでもよろしくてよ」

 

「ふふん。こっちの台詞。返り討ちよ」

 

「慌てるな馬鹿ども。お前らの相手は――」

 

 キィィィン……。

 

 ん?なんだこの音は。音の発信源を探して空を見上げた俺の目に映ったのは

 

「ああああーっ!ど、どいてください~っ!」

 

 ものすごい勢いで落下してくる山田先生。

 そこからのみんなの行動は速かった。すぐさま落下地点になると思われる場所から避難する。ただ一人、一夏を除いて。

 

 ドカーン!

 

 落下して来た山田先生とともにゴロゴロと転がっていく一夏。

 

「一夏!大丈夫か!?」

 

 土煙のあがる一夏のもとに行くと、そこには山田先生を押し倒し、山田先生の胸を鷲掴みにしている一夏の姿だった。

 

「そのですね・・・あの、困りますこんな場所で。いえ、その場所という問題ではなく、私と織斑君はその教師と生徒というもので・・・あ、そしたら織斑先生が義理のお姉さんということで、それはそれで魅力的といいますか」

 

 相変わらずの妄想癖を発揮する山田先生。

 一夏はその状況で慌てて体を起こすが、さっきまで一夏のいたところをレーザーが通過する。

 

「ホホホホホ……外してしまいましたわ」

 

 いや、当てちゃいかんだろ。

 

「…………」

 

 ガチーンという接続音とともに鈴が《双天牙月》大きく振りかぶって投げた。一夏へ向かって行く。すんでのところで一夏は避けるがそのまま後ろに倒れる。そして、《双天牙月》の性質上ブーメランのように返ってくる。

 

「危ない!」

 

 ドン!ドン!

 

 一夏を助けようと『火焔』を展開したところで二発の銃声が俺の動きを止めさせた。

 見るとアサルトライフルをしっかりと両手でマウントする山田先生の姿と、その銃撃によって軌道の変えられた《双天牙月》だった。

 

「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」

 

「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし」

 

 山田先生は謙遜しているが十分すごいと思う。

 

「さて小娘どもいつまで惚けている。さっさとはじめるぞ」

 

「え?あの、二対一で……?」

 

「いや、さすがにそれは……」

 

「安心しろ、今のお前たちならすぐ負ける」

 

 織斑先生の言葉にむっとしながら二対一の模擬戦が始まる。が、さっきまでの威勢とは裏腹に、セシリアも鈴も手も足も出せていない。

 連携もできていない。動きは読まれ、いいように誘導されている。

 最後には山田先生の射撃がセシリアを誘導し、鈴とぶつかったところでグレネードを投擲。爆発の煙から二つの影が地面に落下した。

 

 

 そこからは専用機持ちをリーダーとしたISの装着と歩行の訓練を行った。

 なぜか一夏とシャルルのグループは告白大会に発展していたが、織斑先生の出席簿アタックによっておさめられた。ちなみに俺のところでは告白大会が無かったからって、別に悲しくないですよ?……泣いてないからね?

 

 

 そして現在昼休み、俺たちは屋上にやって来ていた。みんなで昼食を囲んでいる。と言ってもそれぞれメニューはばらばらだが。しかももともとは篠ノ之が一夏のみを誘ったはずだったのだが、そのことを知らない俺とシャルル、そして、セシリアと鈴が誘われてホイホイと着いてきたのだ。

 むっとしている篠ノ之の顔を見てるとものすごく申し訳なかった。しかもそのことに一夏は気付いていない。

 

「本当に僕たちお邪魔してもよかったのかな?」

 

「いいじゃん。みんなで食った方がにぎやかで楽しいぜ」

 

 篠ノ之の気持ちを分かっていない鈍感野郎一夏の言葉に俺は篠ノ之に同情するしかなかった。

 

「よし。じゃあ食おうぜ」

 

「あ、ちょっと待って」

 

 一夏が全員を見渡しながら言ったのを俺が遮る。

 

「どうかしたか?」

 

「実はもう一人――お、来た来た。おーい!簪!」

 

 言葉の途中で俺はあらかじめ読んでおいた最後のメンバー、簪に手を振る。簪も気づいたらしくこちらにやってくる。

 

「みんな初めてだよな?俺の前の同室だった簪」

 

「更識簪です…よろしく……」

 

 少し恥ずかしそうにしながら簪がお辞儀をする。

 そこからは自己紹介が行われ、簪は俺の隣に座る。

 

「そういえば、二か月くらい経ってたけど、更識さんにあったのは今日が初めてだな」

 

「まあいろいろあったからな」

 

 主に一夏と簪の関係がややこしかったから。

 本当は今日誘った時も来ないかと思っていたけど、話したらやって来た。一夏のことも折り合いをつけたのだろう。

 

「あ、ちなみに簪は日本の代表候補生な」

 

「へえ、すげえな」

 

 俺以外の全員が感心した顔をする。

 

「そう考えると、この場の代表候補生率すごいな。俺と颯太、箒以外みんな代表候補生だもんな」

 

 しかも篠ノ之以外は専用機持ち。

 

「まあ、それはいいや。全員揃ったし食べようぜ」

 

「そうだな」

 

 俺の言葉に一夏が頷き、昼食会が始まる。

 メニューは俺とシャルルと簪は学食のパン。鈴は酢豚。箒は自製の弁当。セシリアはサンドイッチ。一夏は箒たちからもらっている。女子の手作り弁当もらうと羨ましい。

 

「あっ、おいしい」

 

 鈴の酢豚を(一夏の分から)少しもらって食べた俺は素直な感想が口から洩れる。

 

「でしょ?」

 

 鈴が嬉しそうに笑う。

 

「一夏さん、颯太さん。よかったら私のサンドイッチもいかがかしら?」

 

「お、おう……」

 

「いいのか?」

 

「ええどうぞ。よければデュノアさんや更識さんも」

 

「え?僕らもいいの?」

 

「ええ。もちろんですわ」

 

 セシリアがバスケットを開くと、サンドイッチが綺麗に並んでいる。おいしそうだ。

 

「じゃあ遠慮なく。……一夏はいらないのか?」

 

「お、おう。もらうぜ」

 

 なぜか挙動不審な一夏がサンドイッチを手に取り頬張る。その瞬間一夏の表情が凍り付く。

 

「???」

 

 頭に疑問符を浮かべながら手に取った卵サンドを俺は頬張る。

 その瞬間、俺の口の中にこれまでに感じたことのない衝撃が走った。

 

「まあまあ、泣くほどおいしいんですの?」

 

 セシリアに言われて頬に触れると確かに涙を流していた。

 セシリアのサンドイッチはすごかった俺にもっとこの味を言葉にするほどの語彙力があればわかりやすく説明することができただろう。

 口に含んだ瞬間の風味。噛みしめるたびに口に広がる味。

 なぜだろうか。悲しくないのに涙が出る。

 

「なんじゃこりゃあ!!」

 

 俺は叫びながら手元に置いていた牛乳を手に取り飲み干す。

 

「シャルル!簪!食べるな!セシリア!これ味見したか!?」

 

「え?……そういえばまだでしたわ」

 

「じゃあ食べてみろ」

 

「???」

 

 セシリアが首を傾げながらも自分のサンドイッチを頬張る。

 

「っ!」

 

 その瞬間セシリアの表情が固まる。

 

「わかったか?」

 

「……もっと精進しますわ」

 

 がっくりとうなだれるセシリア。

 

「いったいどうしたの?」

 

「そんなに変な味だったの?」

 

 シャルルと簪が訊く。

 

「まあ、強いて言うなら、泣くほどまずい」

 

「ぐはっ!」

 

 俺の言葉にセシリアがダメージを受ける。

 さっきの反応を見る限り一夏はセシリアの料理の腕を知っていたようだ。知ってたなら指摘してあげろよ。教えてあげなきゃかわいそうだろ。

 

 

 そこからは特に問題もなく。楽しい昼食となった。

 俺と簪の共通の趣味のこととか、それで仲良くなったことなども話した。

 セシリアの料理の腕を除けば、和気あいあいとしたいい昼食になったと思う。

 

 




セシリアの料理。
あなたはそれを食べた時、素直に指摘してあげられますか?


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第23話 フェチ

「ここが俺たちの部屋な」

 

「うん」

 

 放課後。俺とシャルルは俺たちの部屋、1033室にやって来た。途中まで一緒だった一夏とは一夏の部屋の前で別れ、ここまでやって来た。

 山田先生に確認したところ、シャルルは俺の同室になったらしい。一夏は相変わらず二人部屋を一人で使用するそうだ。

 

「今日からよろしくな、シャルル」

 

「うん。よろしく、颯太」

 

 ふたりで改めてあいさつし合い、俺はドアに鍵を刺し込み回す。

 

 ガチャ。

 

「お帰りなさい。ご飯にします?お風呂にします?それとも、わ・た・し?」

 

 バタン。

 

「どうかしたの?」

 

 開けてすぐにドアを閉めた俺の行動にシャルルが首を傾げる。どうやらシャルルには角度的に見えなかったらしい。

 

「いや、うん。………幻覚かな~」

 

 ドアを開けたとき、ドアの前に裸エプロンの師匠がいたような気がしたんだが……。

 

「………うん、部屋は合ってる」

 

 部屋の番号は1033室。表札には俺とシャルルの名前。間違いなく俺たちの部屋だ。

 

「……よし!」

 

 もう一度気合いを入れ直し、ドアノブを握る。

 

 ガチャ。

 

「お帰りなさい。私にします?私にします?それとも、わ・た・し?」

 

「選択肢がない!」

 

「あるよ。一択なだけ」

 

「…………」

 

 今度はシャルルにも見えているようで、俺の横で絶句している。

 

「……何してるんですか、師匠?」

 

「新婚ごっこ♡」

 

「……はあ」

 

 もうため息しか出ない。

 

「てか、まずは服着てくださいよ。男二人の前でそんなあられもない格好してないで下さいよ」

 

 さっきから師匠を直視しない俺とどうしていいかわからないといった表情で混乱しているシャルルを見ておかしそうに笑った師匠は、その場でくるりと後ろを向見た。っておい!

 

「じゃん♪水着でした~」

 

「……………………」

 

「んふ。残念だった?」

 

「は、はあっ!?ちげえし!残念とか思ってねえし!俺あれだから!いまどき二次元で使い古された裸エプロンより、俺の今のトレンドは手ブラジーンズだし!」

 

「へえ、手ブラジーンズが好きなんだ」

 

「しまった!墓穴掘った!」

 

 ニヤニヤ笑う師匠に言われ、俺は自分の失敗に気付く。

 

「くっ!ああそうさ!手ブラジーンズが好きさ!それの何が悪い!」

 

「あ、開き直った」

 

「そもそも手ブラジーンズって何なの?」

 

 シャルルが訊く。

 

「簡単に言えば、手や腕で胸を隠す『手ブラ』を、ジーンズを穿いた状態で行うことだよ」

 

「へー」

 

 なぜか、シャルルが俺から距離を取りながらジト目で見つめる。あれ?おかしいな。どうやらシャルルは手ブラジーンズダメな人だったようです。いいと思うんだけどなー、エロティックで。

 

「んんっ!それはともかく、なんで師匠がここにいるんですか?」

 

 俺は大きく咳払いして師匠に訊く。

 

「ん?ん~………あっ!そろそろ久しぶりに特訓の相手をしてあげようと思って、その相談に」

 

「嘘つけ」

 

 あきらかに今考えただろ。

 

「アハハ。まあ本当に特訓の相談はしようと思ったのよ?あとはまあ新しく来たっていう転校生がどんな子かっていうのも見たかったし……」

 

 そこで師匠はシャルルをじっと見つめる。

 

「ふーん……君が……」

 

 まるで品定めするようだ。先ほどまでのふざけていた雰囲気は影を潜め、真面目な表情でじっとシャルルを見つめている。シャルルも緊張しているようで少し怯えているように見える。

 

「私の名前は更識楯無。君たち生徒の長にして、颯太君の師匠よ。以後よろしくね」

 

「しゃ、シャルル・デュノアです。よろしくお願いします」

 

 一瞬でいつもの人を食ったような雰囲気に戻った師匠に少し気圧されながらもシャルルは会釈する。

 

「………で、なんで裸エプロンなんですか?」

 

「颯太君が喜ぶかなーって思ったんだけど……手ブラジーンズだったか。ちぇっ」

 

 悔しそうに指パッチンをする師匠。

 

「次は手ブラジーンズで来るわ」

 

「…………いや、もういいですから」

 

「フフ。今の間。少し期待したでしょ?」

 

「そ、そんなわけないじゃないですか……」

 

「颯太、目が泳いでるよ」

 

 ジト目で俺を見るシャルル。

 

「さて!用事もすんだしお暇しようかな。洗面所借りるわね~」

 

 そう言って手提げ鞄を持って洗面所に入って行った師匠。

 と思ったら、閉まったと思ったドアがまた開き師匠が顔を出す。

 

「覗かないでね」

 

「覗きません!」

 

 俺の返事にニヤニヤしながらドアが閉まる。

 

「なんていうか、変わった人だね」

 

「よくからかわれてます」

 

 苦笑いしながら言うシャルルに俺もため息まじりに頷いた。

 

 

 ○

 

 

 

「そんなことがあったのか」

 

 夕食後。俺たちの部屋に一夏もやって来て、三人でお茶を飲みながら今日の出来事を話した。

 

「一夏は会長さんに会ったことはあるの?」

 

「ああ、まあな」

 

「一夏の時も似たような感じだったぞ」

 

 あれは、そう、部屋割りが変更になって俺も一夏も広い二人部屋を一人で使い始めたころだった。夕食後にお互い暇だったから俺の部屋でゲームをしようということになり、一夏とともに部屋に帰ってきたら部屋に師匠がいたのだ。なぜかメイド服で。

 

「あの時は驚いたぜ。颯太について行ったら『お帰りなさいませご主人様』だもんな」

 

「安心しろ。俺も驚いたから」

 

 あの時はそれから軽く話してから帰って行ったんだっけ。メイド服のまま。

 

「ちょっと話しただけだけど、なんていうか人たらしって感じの人だったな」

 

 一夏は苦笑いを浮かべている。

 

「あの後のほほんさんに聞いたけど、お前の師匠って現IS学園最強らしいな」

 

「もともと生徒会長になる条件がそうらしいからな。しかも最強の生徒会長はいつでも襲っていいらしい。それで勝ったならその人が生徒会長になるんだとさ」

 

「「へ~」」

 

 俺の説明に一夏とシャルルが感心したように頷く。

 

「つくづくすごい人に特訓してもらってるんだな」

 

「まあ成り行きでな」

 

 あの時は何も知らないままに簪とのほほんさんに紹介してもらって特訓してもらえることになったけど、今にして思うとこれ以上ないっていう心強い師匠だよな。

 

「そういえば、ふたりは放課後にISの練習してるって聞いたけど、そうなの?」

 

「おう。まあな。師匠は生徒会の仕事忙しいし、一夏の特訓に俺も混ぜてもらってる」

 

「俺たちは他の人より遅れてるから、地道に訓練時間を重ねるしかないからな」

 

 今日はシャルルの引っ越しがあったので放課後の特訓はなかったが、明日からはまた再開だ。

 

「僕も加わっていいかな?専用機もあるから少しくらいは役に立てると思うんだ」

 

「おお、それはありがたい話だ」

 

「ぜひ頼みたいな」

 

「うん。任せて」

 

 

 

 ○

 

 

 

「それじゃあおやすみ」

 

 一夏が自室に引き上げ、俺とシャルルは使った湯飲を片付けた。

 

「あ、颯太。シャワーどうする?」

 

「先入ってくれていいぞ。今日は俺はこれの後に入るから」

 

 そう返事をしながら俺は椅子に座り、机にノートと教科書を広げる。

 

「勉強?」

 

「おう。どうしたって体動かすだけじゃわからないこともあるし、予習復習しないと俺は頭にはあまり自信ないからな」

 

 簪が同室の時はよく勉強を見てくれていた。日本の代表候補生だけあって知識は豊富だし、簪自身教えるのがとてもうまかった。

 

「よかったら手伝おうか?わからないところとかあったら教えるよ?」

 

「お?いいのか?」

 

「もちろん。僕もフランスの代表候補生だし、力になれると思うよ」

 

「ありがとう。助かるよ」

 

 こうして日常生活でも特訓でも勉強面でも強い味方ができたのだった。




大同爽「手ブラジーンズの魅力。それは、上半身裸になることで否応なく露わになる柔らかな女体と、ぶ厚くて頑強なジーンズのミスマッチ、ガーリーとボーイッシュの融合にこそ、その真髄がある。また羞恥心の少ない昨今の女子にも強制的に恥じらいのポーズを取らせる手ブラは、同時に、見ようによっては、自ら乳房を揉んでいるがごときエロティックさも演出する」

颯太「…………(こいつできる!)」ゴクリ。


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第24話 黄色の雷鳴と漆黒の雨

「お待たせー」

 

「おう、遅かったな」

 

 シャルルが転校してきてから五日が経った土曜日。

 IS学園は土曜だろうが平気で学校がある。まあ授業自体は午前中の理論学習だけで、午後からは完全に自由。土曜日はアリーナが全開放されるためほとんどの生徒が実習に使うので、俺たちもこうしてアリーナを使用しているわけだ。が、いつもなら初めから一緒に練習しているところを、今日は俺は少し遅れてきた。

 

「新装備のインストールは済んだの?」

 

「おう。だから今から性能実験だ」

 

 シャルルの問いに俺は頷く。

 

「やあ、アリーナの先生に許可取ってきたよ」

 

 そうしているうちに貴生川さんと師匠、簪がやって来た。

 新装備のインストールを師匠と簪には手伝ってもらった。ふたりともISを自分で組み上げているだけあってとても助かった。

 

「許可って何の許可なんですの?」

 

 セシリアが訊く。

 

「『火焔』の新装備を試すのに場所を空けてもらう許可」

 

「許可が必要なほどの規模なの?」

 

「まあな。俺の専用機初の射撃装備だからな」

 

 鈴の疑問に俺は頷きながら答える。

 ちなみに今この場には俺と一夏、シャルルの他にはセシリア、鈴、篠ノ之、そして師匠と簪と貴生川さんがいる。

 俺の装備の話になったことで皆俺の周りにいるが、その集まりの一番外側で微妙な顔して俺を見つめる人物がいた。篠ノ之である。

 先日の襲撃者騒動の時危うく死にかけた篠ノ之を叩いて説教したことで篠ノ之にどうやら嫌われたようだ。一緒に特訓していても、話しかけても妙に距離を置かれるし、《火人》を使う関係で剣術について質問するのだが、あの一件以降からそれも大分よそよそしい。前はもう少し積極的に教えてくれたのに。

 ちなみに、俺が関係しているかはわからないが篠ノ之と一夏の関係もなぜかぎくしゃくしている。

 まあそれは置いておいて、そんなわけで篠ノ之には多分嫌われたのだろうが、それはしょうがないと受け止めるしかないだろう。なんにしても、女子から嫌われるというのは誰からであれ、精神的にきついものがある。

 

「どうしたの、颯太?」

 

「いや、なんでもない」

 

 シャルルが俺に訊くが、俺は首を振る。

 

「さて、ぱぱっとやって早めに終わらせますか。アリーナはみんな使いたいだろうし」

 

「そうだね」

 

 俺の言葉に頷いた貴生川さんは投影ディスプレイを出し、キーボードで操作する。

 

「それじゃあ始めようか。『火焔』を展開してくれるかい?」

 

「はい」

 

 貴生川さんの言葉に頷きながら、頭の中で『火焔』を呼ぶ。一瞬の浮遊感とともに体が軽くなる。

 今の俺は両肩に《火打羽》を装備し、左腰には鞘に収まったままの《火人》、両手の甲には《火ノ輪》がついている。最近は基本的に『火焔』を展開すればこの状態だ。

 

「こうしてみると……なんというかすごいな。うまく言葉にできないけど、とりあえずかっこいいと思うぜ」

 

「だろ?」

 

 一夏の言葉に笑う。

 

「さて、それじゃあ新装備《火神鳴(ひかみなり)》を展開してみようか」

 

「はい」

 

 俺が頷くと同時に師匠と簪が他のみんなを少し遠ざける。この《火神鳴》、そこそこ規模がでかいのである程度離れておいてほしいのだ。

 

「《火神鳴》!」

 

 まだ慣れていないのでコールしないとまだ展開できない。

 俺のコールによって背中に新たな重みが加わる。粒子が集まり黄色い塊が形成される。

 

「これが……」

 

「颯太の新装備……」

 

「でかい……手?」

 

 一夏の言葉が一番しっくりきたのだろう。その場の全員が頷いた。

 俺の背中には大きな黄色の手が二本付いている。長さで言えば俺の腕の倍はある。太さも四倍はありそうだ。前方には四本の指。それが背中側から、《火打羽》の下を通っている。下へはアーム、上へは二つの四角い砲門。

 

「問題なく使えるかい?」

 

「えっと……」

 

 試しに右側のアームを上にゆっくりと動かすイメージ。ゆっくりとした動きで上へと上がる。

 今度は左側のアームを上げるイメージ。それと同時に左アームが上に。

 

「問題なさそうだね」

 

「そうですね」

 

 頷きながら今度は地面にアームを地面に着き胡坐をかく。アームはどっしりと地面に立ち、俺の体を支える。

 

「おお、こんなこともできるのか」

 

 感心しながら足を地面に戻し、アームを地面から離す。

 

「鈴、掛け声頼む。右上げて、とか、左上げてって、旗上げゲームみたく頼む」

 

「う、うん」

 

 鈴が頷く。

 

「右上げて」

 

 鈴の言葉とともに《火神鳴》の右アームが俺の命令に応じてすばやく上がる。

 

「左上げて」

 

 今度は左がすばやく上がる。

 

「右下げないでー、左下げる」

 

 左のみが下がる。

 

「右下げないで~左あーげない」

 

 どっちのアームも動かさない。

 

『おお~』

 

 その場の全員がそれを見て拍手する。篠ノ之も感心している。

 

「うまく動きそうだね」

 

 貴生川さんが嬉しそうに笑う。

 

「それじゃあ次の性能テストいってみようか」

 

「はい」

 

 俺が頷くと、貴生川さんがキーボードを操作する。それと同時に十五メートルほど前方に四つのターゲットサークルが出現した。

 

「あれを的に撃ってみようか」

 

「はい」

 

 頷いてターゲットの方に向き直る。

 

「それの射撃装備って上の二つの砲門ですか?」

 

「それもそうだよ。でも、それだけじゃない」

 

 シャルルの質問に貴生川さんが楽しそうに答える。

 

「それだけじゃって……」

 

「まあ見ていればわかるよ。颯太君、さっそく撃ってみよう」

 

「はい」

 

『アリーナ内の人に連絡します。これより一年一組井口颯太君のISの新装備の性能テストを行います。少し離れていてください』

 

 俺が頷き、貴生川さんがアリーナ内のスピーカーに繋がれたマイクで放送する。みな指示に従って俺の背後に回る。射線上からもアリーナ内の全員が離れる。放送したから周りからの視線を集めて正直むず痒い。

 

「よし、準備完了だ。いってみようか、颯太君」

 

「はい」

 

 貴生川さんの言葉に頷き、俺は射撃体勢に入る。足を肩幅に開き、アームを《火打羽》の下から出し、アームの指を開く。イメージ的に言えばUFOキャッチャーのアームがものを取るために開くイメージだ。

 

「カウント5で行くよ。5,4,3――」

 

 貴生川さんのカウントを聞きながらターゲットを見つめ、その瞬間を待つ。

 

「――2,1…発射!」

 

「テー!!」

 

 掛け声とともに発射。両肩の二つの砲門から、そしてアームの両方の先から黄色い閃光とともにターゲットへと向かって行く。

 

 ズドドン!

 

 ターゲットサークルに当たると同時に爆発、衝撃による風が俺たちのいるところまでやってくる。

 

「うーむ、真ん中二つは狙いやすかったけど、やっぱアームが鬼門だな」

 

 ターゲットがこちらにやって来て、結果を見る。真ん中二つは肩の上の砲門二つで狙った結果、真ん中近くに被弾していた。が、アームで狙った外側二つは真ん中から逸れて円の一番外側のサークルに当たっている。

 

『……………』

 

 みな呆気にとられたように口を開いて見ている。

 

「でも、初めてでここまでの精度はなかなかだと思うよ」

 

「そうですかね」

 

 投影ディスプレイに表示されたデータを見ながらターゲットを見る。

 

「射撃精度の前に……今の何!?」

 

 鈴が呆気にとられた顔で訊く。

 

「何って……荷電粒子砲」

 

「出力がわたくしの上でしたわよ!?」

 

「いやいや両肩のやつはセシリアの《スターライトmkⅢ》より低いぜ」

 

「アームの方は?」

 

「セシリアより上」

 

「…………」

 

 セシリアが唖然としてる。

 

「お前の装備ってホントとんでもないの多いな」

 

「とんでもないって言うけど、まだまだ試作品ばっかりなんだけどね」

 

 貴生川さんが苦笑いを浮かべる。

 

「彼の装備でちゃんと完成してるのは《火人》と《火打羽》くらいだよ。《火ノ輪》とこの《火神鳴》はまだ試作段階だからね」

 

「これで試作段階って……いったいどこを目指してるのよ」

 

 師匠も苦笑い気味だ。

 

「《火ノ輪》は本当ならオルコットさんのブルー・ティアーズみたいに自由自在に操作できることが目標なんだけど、せいぜい射出して手元に戻ってくるのが限界だから。《火神鳴》もまだまだ出力が安定しないんだ。今と同じレベルの射撃を連続ではできないね。出力抑えないと」

 

 貴生川さんは画面のデータを睨みながら難しい顔をしている。

 

「やっぱり第三世代兵器は難しいよ」

 

 貴生川さんは頭をがりがりと掻きながら笑う。

 

「そういえば、颯太の装備ってもう一つあるんじゃ……」

 

 簪がふとつぶやく。

 

「あー、あれもなかなか調整が難しくてね。開発部でも苦労してるよ。お披露目はまだまだ先になりそうだよ」

 

「それも含めて第三世代相当の兵器っていくつあるんですの?」

 

「第三世代は『操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載を目標とした世代』なんだけど、彼の装備では《火ノ輪》、《火神鳴》、そしてまだ調整中のもう一つの計三つがそれだね。この中で颯太君の使用でうまくデータとれて、一番いい出来になったものをうちの押し出す第三世代機のメイン装備にしようと思ってるんだ」

 

「ここまで来ると最後のひとつがすごく気になってくるな」

 

 篠ノ之も興味を持ったようだ。

 

「颯太はどんなものか知ってるのか?」

 

 一夏の問いに頷く。

 

「資料としてしか知らないけどな」

 

 資料で見た限り完成形がすごかった。あんなものマジで作れるのだろうか。

 

「まあできてからのお楽しみってことで」

 

 貴生川さんは楽しそうにニヤッと笑った。

 

「とりあえず今日のところはこんなものですかね?」

 

 投影ディスプレイの画面を見ながら俺は貴生川さんに訊く。

 

「そうだね。これから《火神鳴》のデータ収集もよろしくね」

 

「はい」

 

 投影ディスプレイを消し、

 

『これにて装備の性能テストは終了です。ご協力ありがとうございました』

 

 アリーナへと放送をし、みな各自の練習に戻っていく。

 

「お二人もありがとう」

 

「いえいえ。なんせ颯太君の師匠ですから」

 

「これくらいどうってことないです……」

 

 師匠と簪が笑顔で頷く。

 

「ますます強くなるな、颯太は」

 

 一夏が苦笑い気味に言う。

 

「性能だけはな。これを使いこなせるようにならないとな」

 

 しかもいくつかは未完成品だからな。

 

「シャルル。射撃のこと教えてくれよ。シャルル射撃上手いだろ?」

 

「うん、もちろんだよ」

 

 笑顔で頷くシャルル。ああー、いい奴だー。これ以上ないっていうくらいいい奴だー。その分時々よそよそしくなるのが気になるけど。

 と、そんな話をしていたところ

 

「ねえ、ちょっとアレ……」

 

「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」

 

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……」

 

 急にアリーナ内がざわつき始めたので、俺たちはその声の主たちの見つめる方を見る。

 

「………………」

 

 そこにいたのは真っ黒な機体に身を包んだドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

「おい、織斑一夏」

 

 ISのオープン・チャネルで声が飛んでくる。もちろんその声はラウラ・ボーデヴィッヒだ。

 

「……なんだよ」

 

 いやいやそうに一夏が答える。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

 

「イヤだ。理由がねえよ」

 

「貴様にはなくても私にはある」

 

 冷たい視線で見下ろすボーデヴィッヒ。

 

「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を――貴様の存在を認めない」

 

「…………」

 

 ボーデヴィッヒの言葉は俺たちには理解できないが、一夏は思い当たることがあるらしく、無言でボーデヴィッヒを見ている。

 

「また今度な」

 

「ふん。ならば――戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

 言うや否や、ボーデヴィッヒさんの漆黒のISが戦闘状態へシフトし、その瞬間、左肩に装備された大型の実弾砲が火を噴いた。

 

「「「!」」」

 

  ゴガギンッ!

 

「……こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人はずいぶん沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」

 

「貴様等……」

 

 シャルルが一夏を庇うようにシールドを展開して実弾を弾き、それと同時にシャルルの右腕に六一口径アサルトカノン《ガルム》を展開してボーデヴィッヒに向ける。

 師匠は貴生川さんと簪を庇うように師匠の専用機『ミステリアス・レイディ』を展開している。

 俺は俺で近くにいたセシリアと鈴と篠ノ之を《火打羽》で包むように庇い、同時に《火神鳴》の四つの砲門をボーデヴィッヒに向ける。

 

「フランスの第二世代型と日本の半端物ごときで私の前に立ちふさがるとはな」

 

「未だに量産化の目処が立たないドイツの第三世代型よりは動けるだろうからね」

 

 俺とシャルルと一夏に対してボーデヴィッヒという形で睨み合う。

 

『そこの生徒!何をやっている!学年とクラス、出席番号を言え!』

 

 睨み合いの膠着状態が続く中、突然アリーナにスピーカーからの声が響いた。さっきの騒ぎを聞いて駆けつけた担当の教師だろう。

 

「……ふん。今日は引こう」

 

 言葉とともにボーデヴィッヒは戦闘体勢を解いてアリーナゲートへ去っていく。

 

「一夏、大丈夫?怪我とかなかった?」

 

「あ、ああ。助かったよ」

 

「お前らも大丈夫だったか?」

 

「え、ええ」

 

「庇われなくても自分で何とかできたわよ」

 

「………」

 

 素直に頷くセシリアと強がる鈴、無言の篠ノ之。篠ノ之は前のことを思い出したのか微妙な顔をしている。

 

「簪や貴生川さんは……大丈夫に決まってますね」

 

「もちよ」

 

「うん」

 

「君の師匠さんのおかげで」

 

 ドヤ顔の師匠、頷く簪と笑っている貴生川さん。どうやら全員無事だったようだ。

 

「今日はここまでにしておこう。今の騒ぎでみんなこっち見てるし」

 

「そうだね。それに四時を過ぎたし、どのみちもうアリーナの閉館時間だしね」

 

 俺の言葉にシャルルが頷きながら言い、全員が頷く。

 

「えっと……じゃあ、先に着替えて戻ってて」

 

 いつものセリフだ。なぜだかシャルルは俺たちと着替えたがらない。それに対していつも一夏も

 

「どうしてシャルルは俺たちと着替えたがらないんだ?」

 

「どうしてって……その、は、恥ずかしいから……」

 

 この感じのやりとりは毎度だ。

 

「慣れれば大丈夫。さあ、一緒に着替えようぜ」

 

「いや、えっと、えーと……」

 

 視線を泳がせているシャルル。

 

「なあ、シャル――」

 

「はい、そこまで」

 

「はいはい、アンタはさっさと着替えに行きなさい」

 

 俺と鈴に両脇から抱えられ、一夏を引きずって行く。

 

「で、でも……」

 

「引き際を知らないやつは友達なくすわよ」

 

「親しき中にもってやつだよ、織斑君」

 

 まだまだ食い下がる一夏に鈴と貴生川さんの言葉が効いたのか黙る。

 

「こ、コホン!……い、一夏さん。どうしても誰かと着替えたいのでしたら、そうですわね。気が進みませんが仕方がありません。わ、わたくしが一緒に着替えて差し上げ――」

 

「こっちも着替えに行くぞ。セシリア、早く来い」

 

「ほ、箒さん!首根っこを掴むのはやめ――わ、わかりました!すぐ行きましょう!ええ!ちゃんと女子更衣室で着替えますから!」

 

 セシリアはセシリアで箒に引き摺られていく。そういえばイチカスキーな人たちはお互いを名前で呼び合うようになったようだ。同じ人を好きになったもの同士変な結束ができたようだ。

 

「じゃあ、師匠、簪。更衣室行くから今日はここで」

 

「ええ。《火神鳴》用の特訓考えておくわ」

 

「それじゃあまた」

 

「今日はありがとうございました。じゃあシャルル、先着替えてるから」

 

 ふたりに手を振りつつシャルルに言う。

 

「う、うん。僕もすぐ行くから」

 

 頷いたシャルルを確認しつつ鈴と交代した貴生川さんとともに一夏を引きずって更衣室に向かう。

 

「なあ、シャルルってなんで俺らと着替えたがらないんだろうな。他ではいい奴なのに」

 

 更衣室で着替えつつ一夏が呟く。

 

「なんか理由があるんだろう。人のいいシャルルが嫌がるんだから相当な理由が」

 

 俺も着替えつつ答える。

 

「例えば、背中とかに大きな傷とかあって人に見せたくないとかさ」

 

「……その可能性を考えてなかった」

 

 一夏が唖然とする。

 

「お前いろいろ考えてるんだな」

 

「逆にあそこまで嫌がるんだからなんか理由があるって考えるだろ」

 

 汗を拭きつつ着替える。

 

「ふう」

 

 着替え終わってから近くにあったベンチに座る。

 

「まあそんなわけだから、これからはもうちょっと考えた方がいいぞ」

 

「颯太君の予想があってるかはわからないけど、あれだけ嫌がるんだったらそれなりの理由だろうからね」

 

「そっか……これからは気を付けないとな」

 

 俺と貴生川さんの言葉に納得したように頷く一夏。

 

「あの、織斑君と井口君とデュノア君いますかー?」

 

 と、そこに山田先生の声が響く。

 

「はい、デュノア以外はいますよ」

 

「着替え中とかではないですかー?」

 

「はい。俺も一夏も着替え終わってます」

 

「そうですかー。それじゃあ失礼しますねー」

 

 ドアが開いて山田先生が入ってくる。

 

「デュノア君は一緒ではないんですか?」

 

「まだアリーナにいますよ。やることがあるらしくて。呼んで来ましょうか?」

 

「いえ、それほど大事な話ではないですから、お二人から伝えてください。実は、今月下旬から大浴場が使えるようになります。時間帯を別にすると問題が起きそうだったので、男子は週に二日の使用日を設けました」

 

「本当ですか!」

 

「やっとですか」

 

 長かった。ずっとシャワーばかりだったから嬉しい。

 

「大浴場使えてなかったんだね」

 

「ええ。使用時間の兼ね合いでいろいろ大変だったらしいです」

 

「いや~助かります。ありがとうございます、山田先生」

 

「い、いえ、仕事ですから……」

 

 感激して山田先生の手を取って喜ぶ一夏。

 

「一夏は何やってるの?」

 

 そこに戻ってきたシャルルが首を傾げる。

 

「おう、シャルル。実は男子の大浴場の使用が今月下旬から解禁だってさ。それを一夏が山田先生の手を握ってしまうほど喜んでるのさ」

 

 俺が言葉にすることで現状を自覚したようで、慌てて二人は手を放す。

 

「なんというか、ほどほどにね」

 

 シャルルも苦笑いだ。

 

「あ、それでですね、井口君と織斑君には他にも用事があるんですよ。ちょっと二人には書いてほしい書類がありまして井口君の方の書類は今回の新装備に関するものなので貴生川さんにも一緒に来てくださると助かるんですが」

 

「俺もですか。わかりました」

 

「わかりました」

 

「了解です。――シャルル、そういう訳だから先にシャワー使ってていいから」

 

「うん。わかった」

 

「じゃあ行きましょうか、山田先生」

 

 

 

 ○

 

 

「終わった終わった~」

 

 書類自体の量は思ったよりもなく、またほとんどが名前を書く程度のものだったので簡単に済んだ。一夏はもう少しかかるようで先に寮に戻ってきた。貴生川さんはそのまま別れ、会社に戻った。

 

「ただいまー。って、あり?シャルルは……」

 

 と、思ったのだが、よく聞くとシャワーの音が聞こえるので、まだシャワー中のようだ。

 俺は制服からジャージに着替え――ようとしたところでいつも羽織っている上着がないことに気付く。

 

「あれ?どこやったっけ…………あっ」

 

 そういえば昨日シャワー浴びた時にシャワー上がりで暑かったから着なかったことを思い出す。

 汗は先ほど着替える時にしっかりと拭いたのだが、体が少し冷えて来たので半袖半ズボンでは少し肌寒い。これは取りに行った方がいいだろう。

 

「WAWAWA忘れ物~♪」

 

 鼻歌まじりに洗面所の扉を開ける。

 

 ガチャ。

 

(ガチャ?)

 

 おかしいな今開けたはずなのにそのあともう一度扉を開けた音が。って、ああ。シャルルがシャワーから上がったのかな?

 

「ああ、悪いなシャルル。ちょっと忘れ物が――」

 

 扉を開けた態勢で俺はフリーズしてしまった。なぜかって?それは

 

「そ、そ、そう……た……?」

 

 シャワールームから出てきたのが、見ず知らずの全裸ブロンド美少女だったからだ。




きゃあ、颯太さんのエッチー

というわけで颯太君が遭遇してしまいました。
次回もお楽しみに~。


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第25話 ラブコメ的展開?

シャルルの問題はちょっと長くなります。
と言っても二話くらいを予定しています。


 みなさん、どうやら俺は青春ラブコメの主人公になったようです。

 

 

 現在の俺の状況は、なぜか男二人部屋の寮の自室の脱衣所兼洗面所に入ったところ、なぜかシャワールームから出て来た全裸のブロンド美少女に遭遇してしまうという、なんとも青春ラブコメにありがちなワンシーンに出会っています。

 相手も同じなのか、呆然とした顔で立っている。その顔はどこかで見た気がするが、混乱して思い出せない。

 マジでどうしよう!こんな状況アニメやラノベでしか見たことねえよ!………ん?ちょっと待て!アニメやラノベでよくある場面ならば、アニメやラノベの真似をすれば現状打開ができるのではないか!?

 そこから俺は記憶をフル検索し、この現状に似た場面をピックアップ。そこから一番スマートに、かつ、お互いに大惨事になっていないものを検索。

 やるしかない!選択した物語の主人公になりきるしか他に道はない!

 ちなみに現状彼女と遭遇してから、体感としてはとんでもなく長く感じたが、実際には数秒だったようだ。

 

「――っ!」

 

 俺は大きく息を吸い込み、第一声を口にする。

 

「誰だ俺の部屋にストリッパーを呼んだのは?今日は俺の誕生日じゃないぞ」

 

「っ!きゃあっ!?」

 

 ガチャ!

 

 俺の言葉に相手も我に返ったようだ。慌てて胸を隠してシャワールームに逃げ込む。

 

「………」

 

「………」

 

 俺も、ドアの向こうの彼女も無言。とりあえず俺は当初の予定通り上着を回収する。

 

「………失礼しました」

 

 ドアを閉め、そそくさと退室する。

 えっと、何がどうなっていたのだろうか。シャワールームにいると思ったシャルルは、出てきたら美少女だった。

 って、あれ!?さっきの美少女誰かに似てると思ったらシャルルに似てないか!?こう、普段結んでいる髪をほどいたらああなりそうだ。

 てか、あの子がつけていたペンダント。あれはシャルルのISの待機状態と同じものだった気が。

 ん!?じゃあさっきのはシャルルだったのか!?

 いやいやいや。でもおかしいだろ。もし仮にあれがシャルルだったとしたら。あの胸はどう説明する。さっきの子は明らかに………胸…OPPA――

 

「うん!夢だ!」

 

 思考の途中でそう結論づけ、目覚めるためにベッドにもぐりこむ、が、眠れない。

 

「……眠れよ!寝て起きて全部夢オチにしようよ!どうすればいい!?お腹を満たせば眠れる!?じゃあなんか食うよ!」

 

 設置された冷蔵庫のところにダッシュで向かう。と、冷蔵庫の上に買い置きしておいたバナナが四本。

 

「バナナはいいよね~、バナナは!栄養価高いしね!」

 

 四本のうち三本をすぐに完食し、すぐさまベッドにリターン。と――

 

 ガチャ……。

 

 気持ち控えめに脱衣所のドアの開く音が聞こえた。ビクッと思わず飛び起きてしまう。

 

「あ、上がったよ……」

 

「オ、オウ」

 

 あまりの緊張に声を裏返しながら返事をした。声だけを聞けばシャルルの声だった。俺はゆっくりと声のした方を向くと――

 

 そこには、先ほど脱衣所で遭遇した女子がいた。

 

 

 ○

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 気まずい。会話がない。なんて言っていいかわからない。さっきから無言でお互いベッドに座って向かい合っている。

 

「………えーっと…」

 

「っ!」

 

 緊張に耐えかねた俺が口を開く。

 

「……一縷の望みに掛けて訊くんだが、シャルルの双子の妹…なんてオチは……」

 

「……残念ながらシャルル・デュノア本人だよ」

 

「……だよなー………」

 

 そんな都合よくはいきませんわな。

 

「えっと、じゃあなんで男のフリなんか……」

 

「それは……実家の方からそうしろって言われて……」

 

「実家って…デュノア社?」

 

「そう。僕の父がそこの社長。その人から直接の命令なんだよ」

 

「命令って……なんでそんな――」

 

「僕はね。愛人の子なんだよ」

 

 シャルルの一言に、俺は絶句してしまった。

 

「引き取られたのが二年前。ちょうどお母さんが亡くなったときにね、父の部下がやってきたの。それで色々と検査をする過程でIS適正が高いことがわかって、非公式ではあったけれどデュノア社のテストパイロットをやることになってね」

 

 おそらくあまり言いたくないであろう話をけなげに話すシャルルの姿に、俺は黙って聞く。

 

「父にあったのは二回くらい。会話は数回くらいかな。普段は別邸で生活をしているんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。あのときはひどかったなぁ。本妻の人に殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。参るよね。母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね」

 

 そう言って笑ったシャルルの目は笑っていなかった。俺も笑い返すことはできず、むしろ会ったこともないデュノアの社長と本妻への怒りと嫌悪感が沸き上がってきた。

 

「それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ったの」

 

「え?だってデュノア社って量産機ISのシェアが世界第三位だろ?」

 

 俺の疑問にシャルルが答える。要約すると――

 

 デュノア社は確かにISのシェアは第三位だが、それはあくまで第二世代型リヴァイヴでの話らしい。デュノア社でも第三世代型を開発していたが、元々遅れに遅れての第二世代型最後発だったために圧倒的にデータも時間も不足。政府からの通達で予算を大幅にカットされ、次のトライアルで選ばれなかった場合は援助を全面カット、その上でIS開発許可も剥奪するって流れになったらしい。

 なんとしても成果の欲しかったデュノア社が思いついたのがシャルルに男のフリをさせることだった。自分の会社の宣伝のために、またそれとともにIS学園に入学することで一夏や俺のデータ、また、第三世代IS白式のデータを盗み出すために。

 

 

「とまあ、そんなところかな。でも颯太にばれちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は、まあ……つぶれるか他企業の傘下に入るか、どのみち今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいいことかな」

 

「…………………………」

 

「ああ、なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今までウソをついていてゴメン」

 

 深々と俺に頭を下げるシャルル。

 

「………で?お前はこれからどうするんだ?」

 

「どうって……時間の問題じゃないかな。フランス政府もことの真相を知ったら黙っていないだろうし、僕は代表候補生をおろされて、よくて牢屋とかじゃないかな」

 

「それでいいのか?」

 

「良いも悪いもないよ。そもそも僕には選ぶ権利がないから、仕方がないよ」

 

「………そうか」

 

 シャルルの返答に俺は

 

「お前、つまんない嘘つくね」

 

 正直な気持ちを言った。

 

「……え?」

 

 シャルルが呆然とする。

 

「シャルル、お前は本当に仕方ないって思ってるのか?」

 

「そ、それは……」

 

 俺の質問にシャルルはどもる。

 

「俺はお節介な方だとは思うけど、その人がしてほしくないことまでやるつもりはない。大体本人が諦めてることを手伝うのもバカらしいし」

 

「…………」

 

 シャルルは黙って俯いている。

 

「もう一度だけ訊くぞ。このままだとお前は代表候補生を下ろされ、よくて牢屋行きだ。……それでもいいのか?」

 

「……………」

 

 シャルルは膝の上で手を握りしめ、ぎゅっと強く瞼を閉じている。

 

「できるとかできないとかは抜きにして、今お前がどうしたいのかで答えろ」

 

「僕は……」

 

 シャルルは絞り出すように、しかし、しっかりと前を見据えて顔を上げる。

 

「僕は……僕は女だよ。ちゃんと女の子として生きたいよ……。このままじゃいやだ……。僕は……僕は……」

 

 最後の方は嗚咽まじりで言葉にならない。それでもシャルルは言葉にしようと口を動かす。

 

「……ほら、やっぱり嘘だった」

 

 俺はシャルルの前に膝立ちになって視線を合わせ、肩に手を置いてできるだけ優しく笑う。

 

「俺がどうにかする」

 

「え?」

 

「このおかしな現状を俺のできる限りの力を使ってどうにかする」

 

「で、でもどうやって……?」

 

 不安そうな顔でシャルルが俺を見るめる。

 

「大丈夫だ。策はある」

 

 心配そうなシャルルに向かって、俺は自信を込めた笑顔を向けた。

 

 

 ○

 

 

 現在、俺とシャルルはとある人物が来るのを待っていた。

 

「ねえ……本当に大丈夫なの?」

 

「……まかせろ」

 

 シャルルには俺の策は教えていない。心配そうなシャルルに笑いかける。と――

 

 コンコン。

 

 部屋のドアがノックされる。

 

「っ!」

 

 

「……………」

 

 ビクッと震えたシャルルを尻目に俺は立ち上がり、ドアを開ける。

 

「こんばんは、颯太君」

 

「いらっしゃい、師匠」

 

 ドアの前で制服姿で扇子を構えた師匠。と、パンと扇子を開く。扇子には『ただいま参上』の文字が。

 

「どうぞ」

 

「おじゃまするわね」

 

 師匠を招き入れてイスを示し、俺は自分のベッドに、シャルルはシャルルのベッドに座っている。

 

「もう男装はやめたのね」

 

 師匠の言葉にシャルルは驚いた顔をする。

 師匠を呼んだとき、俺は詳しい事情を話していなかったのだ。

 

「やっぱり師匠は知ってたんですね」

 

「まあね」

 

 以前この部屋に裸エプロンでやって来た時、あの時の師匠はシャルルに尋常じゃないほどの警戒をしていた。今思えば知っていたからこその行動だったのだろう。

 

「それで?彼――いや、彼女が男装をやめてるっていうことは、私が呼ばれたことと何か関係があるのかしら?」

 

 師匠がにやりと笑いながら訊く。きっと俺の返事なんてお見通しなのだろう。

 

「シャルルを助けます。手伝ってください」

 

 俺は師匠の目をしっかりと見据えて言った。

 

「彼女はこのままいけばきっと自由にはなれないでしょう。彼女のこれからの人生からデュノア社を完全に断ち切ります」

 

「…………」

 

 俺の言葉を師匠は黙って聞いている。その顔はいつものふざけた雰囲気は無く、鋭い雰囲気だった。

 

「……彼女の件は彼女が入学する時からなんとなく把握していたわ」

 

 師匠が口を開く。

 

「学園としても彼女の件はどうにかして解決したいと考えている。でも――」

 

 そこで師匠は言葉を区切る。

 

「ことはそう簡単じゃないの」

 

「………それはフランス政府が関わっているからですか?」

 

「あら、知ってたの?」

 

「いえ。でも予想はつきますよ。シャルルはフランス代表候補生です。シャルルの性別が偽りだったんですから、ここに代表候補生に任命したフランス政府が関わっていないわけないじゃないですか」

 

「まあそりゃそうね」

 

 俺の言葉に師匠が頷く。

 

「IS学園はどこの国にも所属していない。下手に動けばフランスとの国際問題に発展しかねない。だからIS学園でも対応に一歩引かざるを得なかった、と」

 

「まあ概ねそんな感じよ。だから、今回の件はそう簡単に、それこそ君がどれだけ彼女を助けたいと言っても、学園側としてはそう簡単に手が出せないの」

 

「でしょうね」

 

 ここまでは全部予想通りだ。だから

 

「でも……動くのが学園ではなく、井口颯太個人だったらどうですか?」

 

「っ!」

 

「……………」

 

 シャルルは俺の言葉に驚愕し、師匠にとっては予想通りだったようで、しかし、片眉をピクリと動かす。

 

「IS学園として動いて問題になれば学園全体の問題だ。でも、俺個人で動けば結果的に失敗しても俺を切り捨てれば学園には被害はありません」

 

「……それを私が黙って見過ごすとでも?」

 

 ゾクリとするほどの、言葉じりに怒気を孕んだセリフ。その眼は殺気を感じるほど鋭かった。

 

「師匠ならきっと止めると思ってましたよ」

 

 生徒の長たる師匠――更識楯無ならば、こんな選択を黙ってスルーしてくれるとは思っていない。――だからこそ、ここで俺は切り札をだす。

 

「……『どんな願いでも一つだけ叶える』」

 

「っ!」

 

 俺の言葉に師匠が顔を強張らせる。

 

「前に約束しましたよね?あの時はしてほしいことなんてなかったから特にお願いはしませんでした。その時に師匠は言いましたよね?『何か私にしてほしいことができた時に言って』と」

 

「そ、それは……」

 

 いつもの余裕の表情の消えた師匠。どうやら完全に想定外だったようだ。

 

「その願い事、今使わせていただきます。師匠、〝今から俺のやることを見逃してください。そして、もしそれが失敗したら容赦なく俺を切り捨ててください〟」

 

「…………」

 

「…………」

 

 俺の言葉に師匠も、シャルルも呆然としている。

 

「………どうして?」

 

 師匠が口を開く。

 

「どうして君は彼女のためにそこまでするの?」

 

「…………」

 

 そのことはシャルルも気になっていたようで、俺に視線を向ける。

 

「………困っている友人を見捨てられない……じゃあ納得しませんよね?」

 

「ええ、そうね」

 

 俺の問いに師匠が頷く。

 

「友達のためってだけじゃリスクが大きすぎるもの。下手すれば国際的な犯罪者として残りの人生牢屋の中かもしれないわ」

 

 そう。今回俺のしようとしていることはそれだけのリスクのあることだ。

 

「……友達だからっていう理由がないわけじゃありません。でも、師匠の言う通り、それじゃあリスクが高すぎる」

 

「じゃあ?」

 

「まあ詳しくは言えませんが、強いて言うなら、青春ラブコメの主人公みたいなワンシーンの謝罪……ですね」

 

 俺の言葉に師匠は首を傾げ、シャルルは察したらしく顔を赤くする。

 

「颯太のエッチ」

 

「くっ、否定できない」

 

 シャルルが顔を赤く染めながら言い、俺もそれに頷くしかない。

 

「ちょ!いったい何があったのよ!?」

 

 師匠が今までにないくらい狼狽して訊く。

 

「……ないしょです」

 

 こればかりは言えないので、口元に人差し指を当て、秘密、とジェスチャーする。

 

「くっ!絶対に聞き出してやるんだから」

 

 むーっと拗ねたように言う師匠。

 

「それはともかく……で?どうなんですか、師匠?」

 

「………わかったわよ」

 

 ため息まじりに師匠が言う。

 

「私の負け。好きにしなさい。私はこれから君がすることを黙って見ているし、もし失敗したら君を切り捨てるわ」

 

「ありがとうございます」

 

 師匠の言葉に俺は頭を下げる。

 

「お礼なんて言わないでよ。今ほど自分の無力さを感じてる時なんてないんだから」

 

 師匠はつぶやくように言う。

 

「それじゃあ、すぐに決行しますか」

 

 俺はゆっくりと立ち上がる。

 

「っと、シャルル。携帯貸してくれ」

 

「え?うん、いいけど……」

 

 シャルルは自分のポケットから携帯を取り出す。

 

「ありがとう。ちょっと操作するけどいいか?」

 

「う、うん」

 

「よし。じゃあえっと………お!あったあった」

 

 シャルルの携帯を操作していき、目当てのものを見つける。

 

「それじゃあ、最終確認。シャルル、お前はどうなりたい?」

 

 俺の問いにシャルルは覚悟に満ちた瞳でしっかりと俺を見据え

 

「僕は……自由になりたい。一人の女の子として生きたい」

 

「それにはデュノアの家と完全に縁を切ることになると思うぞ?」

 

「願ったりだよ」

 

「フランス代表候補生の地位もなくなるよ?」

 

「構わない」

 

「……よし」

 

 そこからシャルルの携帯を操作し、耳に当てる。

 数回のコールの後、相手と繋がる。

 

『×××××××××――』

 

 電話口では意味不明の言葉――おそらくはフランス語が聞こえてくるがガン無視し、俺は口を開く。

 

「あっ、もしもし、こんばんは。夜分遅くすみません――デュノア社長」




長くなりそうなんでここで切ります。
次回はできるだけ早く、今日中にあげると思います。
お楽しみに~。


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第26話 井口颯太という男

ピンポンパンポン♪
この物語の作者のメンタルは豆腐並みです。
その事を考慮し、温かい気持ちの読んでいただけると幸いです。


 毎日の座りなれた椅子に座り、机に向かい、彼――アルベール・デュノアは書類に目を通していく。

 この人物こそ、デュノア社の社長にして、シャルル――シャルロット・デュノアの父親である。

 彼の見る書類にはどれもこれもかんばしい結果は書かれていない。ずっとこの調子だ。このままでは本当に費用を全面カットされるだろう。

 

(それを回避するためにもやつにはしっかりと働いてもらわなくては――)

 

 彼のそんな思考は、机に置かれた携帯が鳴ったことで掻き消える。

 見ると、そのディスプレイには今思い浮かべていた人物の名前が表示されている。

 

「…なんだ?定時連絡の時間ではないが……何か問題でも起きたか?」

 

 いぶかしく思いながらも携帯を手に取り、耳にあてる。

 

「私だ。どうした、何か――」

 

『あっ、もしもし、こんばんは。夜分遅くすみません、デュノア社長』

 

 電話口から聞こえてきたのは予想を反して見知らぬ少年の声、しかも日本語だった。

 

『…………あれ?もしもし?もっしもーし!おっかしいな。聞こえてないのかな?あれ?…あっ!もしかして日本語わかんないのかな?どうしようかな……』

 

 黙ってしまったアルベールに対し、電話口からはどんどん声が聞こえてくる。

 

『あっ!じゃあ……でぅーゆーすぴーくいんぐりっしゅおあじゃぱにーず?』

 

「………日本語で大丈夫だ」

 

 電話口でつたない英語が聞こえてくるが無視し、アルベールは日本語で電話口の少年に言う。

 

『あっ!よかった~。通じてないかと思って焦りましたよ』

 

 電話口の少年は朗らかに言う。

 

「君は誰だ?なぜシャルルの電話を持っている?」

 

 アルベールは少年に訊く。

 

『ああ、これはすみません。自己紹介がまだでしたね。初めましてデュノア社長。IS学園一年一組所属、井口颯太です』

 

「っ!」

 

 少年――颯太の自己紹介にアルベールは驚愕する。

 

『なぜシャルルの携帯を使ってるかという質問ですが、そんなの〝彼女〟の秘密を知ったからに決まってるじゃないですか。やだな~』

 

「貴様……」

 

 おどけたように言う颯太の言葉にアルベールは苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「……それで?私に電話をかけてきたのは、何が目的だ?」

 

 

 アルベールはできるだけ語調を押さえ、颯太に訊く。

 

『いやいや、わかりきってるじゃないですか。そんなもの――』

 

 そこで颯太の口調が変わる。

 

『彼女の今後のことですよ』

 

 寒気がするほどの冷たい声だった。

 

『回りくどいのは嫌いなんで単刀直入で言いますね』

 

 語調は冷たいままに颯太は続ける。

 

『こちらから提示する要求は、シャルル・デュノアとデュノア社、ひいてはデュノアの家との縁を完全に絶縁すること。また、フランス代表候補生の地位を解除し、専用機はそのままに日本の会社、指南コーポレーションへの移籍です』

 

「何!?」

 

 颯太の要求内容にアルベールは驚きの声をあげる。

 

「そんな要求が飲めると思うか?」

 

『いやいや。飲めるか飲めないかとかではなく、飲んでもらいます。シャルルの性別偽装がばれた時点で詰みなんですよ、あなた方は』

 

 颯太の言葉に唇を噛む。

 

『で?どうなんですか?要求を飲んでくれるんですか?てか飲むしかないですよ?飲まなきゃデュノア社どころかフランスの世界での地位すら危うくなりますよ~』

 

 おどけた態度に戻った颯太の言葉にアルベールはイラつく。

 

「ふざけているのか!?」

 

『いやいやいや~。ふざけてませんよ~。むしろふざけてるのはそっちじゃないですか。女の子を男のフリさせて学園に入学させるとか正気の沙汰じゃないですよ。ホント――人の人生なんだと思ってんですか?』

 

 そこでまたもや空気の温度が下がるのを感じる。

 

『シャルルの人生はシャルルのものでしょう?アンタたちの身勝手な目的のために彼女は生まれたわけじゃない』

 

 声は冷たいままに、しかしどこか感情のこもった声で颯太は告げる。

 

『まっ!そんなわけなんで、さくっとシャルルを自由にしてやってく~ださ~いな~』

 

 またもやおどけた声に戻った颯太。その変化にアルベールは困惑しながらも確かな怒りを感じていた。

 

「たかが一介の学生が、言ってくれるじゃないか」

 

『オ?』

 

 突然のアルベールの言葉に電話口で颯太がおかしな声を出す。

 

「貴様はそれで我々を脅しているつもりか?こちらにはフランス政府だっている。それに対してそちらは何の後ろ盾もない一介の高校生。お前の言葉などいくらでも捻り潰せるぞ」

 

『……………』

 

「それとも指南コーポレーションにでも頼るか?なんならあの会社ごと潰してやっても構わんぞ」

 

『……………』

 

 アルベールの言葉に颯太は無言。そのことがアルベールの気をよくしていく。

 

「所詮は15歳のガキだな。ISを動かせたと言うだけでヒーロー気どりか?調子に乗るなよ。もっと現実を見ることをお勧めするよ」

 

『………くっ』

 

 電話口から颯太の何かを噛み殺すような声が聞こえてくる。

 

(勝った……)

 

 颯太の反応にアルベールは勝利を確信した。が――

 

『くっ……くくっ……くはっ!あーダメだ!もう堪えられん!アハハハハハハハハハハハ!』

 

 電話口から颯太の笑い声が聞こえてくる。

 

「なんだ!?何がおかしい!!?」

 

 突然のことにアルベールは困惑する。

 

『いやいや。なんていうか、アンタ社長向いてないっすよ』

 

「なっ!?」

 

 突然の侮辱にアルベールは顔を真っ赤にする。

 

『だって……あなた、俺のことを調べたみたいですけど、くくっ、その結果俺は平凡なただの一介の学生だと?』

 

「違うというのかっ?」

 

『もしそう感じたのなら、アンタはそんな社長なんて地位じゃなく、誰かに顎で使われる、なーんにも自分で考えなくてもいい地位の方がいいんじゃないですか?』

 

「なにっ!?」

 

 人を小バカにしたように笑う颯太の言葉にアルベールは怒りをむき出しに叫ぶ。

 

『……おかしいと思わなかったんですか?デュノア社の情報網で、もしかしたらフランス政府の情報網も使ったのかな?まあそれは置いておいて、それだけ手を尽くして何もおかしなことが出てこなかった人物が、なぜISを使える世界で二人目の男性操縦者になりえたのか、と』

 

「っ!?」

 

『おかしいと思わなかったんですか?何の後ろ盾もない平凡な少年が、ロシア国家代表にして現IS学園生徒会長、現IS学園最強の更識楯無にコーチをしてもらえたのか、と』

 

「………」

 

 颯太の指摘はアルベールにも身に覚えのあることだった。

 颯太のことを調べ上げた段階で少し違和感を覚えたのだ。

 元世界最強の織斑千冬の弟にして、ISの生みの親篠ノ之束の知人である織斑一夏。

 彼の経歴に比べ、驚くほどに何もない。経歴、家系、その他井口颯太という人物に関するすべての情報の奇妙なまでの平凡さ。

 それらに違和感を覚えながらも、アルベールは無理矢理に自分を納得させた。彼が――井口颯太がISを動かせたのはただの偶然、何万何億という確率の中で織斑一夏と何かが同じだったという風に。

 

『こうは考えなかったんですか?井口颯太には自分の使い得る情報網すべてを使っても見つけることのできない、むしろそこに干渉できる後ろ盾が――隠された何かが井口颯太にはある、と』

 

「き、貴様…いったい……」

 

 電話の向こうにいる人物の異様さに一抹の恐怖を感じながら、アルベールは問う。

 

『調べたアンタがよくわかってるんじゃないですか?アンタは調べてどんな結果が出た?アンタが調べた結果〝平凡〟という結果が出たんだったら、俺は〝平凡〟な〝一般人〟の井口颯太なんじゃないですか?』

 

 嘲るように、しかし冷徹に言い放つ颯太の声に携帯を持つ手が震える。

 

『さて、話を戻しましょうか』

 

 嘲るように、そして冷徹に続ける颯太。

 

『こちらの要求は最初に言った通り。シャルル・デュノアとデュノア社、ひいてはデュノアの家との縁を完全に絶縁すること。また、フランス代表候補生の地位を解除し、専用機はそのままに日本社の指南コーポレーションへの移籍です。……受け入れてくれますか?』

 

「…………断るとどうなる?」

 

 数秒の間の後にアルベールは問う。

 

『そうですね。まず確実に日本、中国、ロシア、ドイツ、イギリスはフランスの敵になるでしょうね。敵対した後は各国に任せるんでどうなるかは知りませんし興味ないですけど』

 

「…………」

 

 颯太の言葉にアルベールは何度目ともわからない苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「………わかった。その要求を飲もう」

 

 

 

 ○

 

 

 

「はい……はい……。じゃあ数日後に指南の人間と一緒にシャルルがそちらに行くと思いますんで、詳しくはその時に。はい……、それでは。フランス政府への説明お願いしますね~。ご決断ありがとうございました~♪失礼しまーす」

 

 ピッと通話を切る俺。

 

「………だー!!死ぬかと思った!!!」

 

 そこで緊張の糸がプツリと切れ、ベッドにダイブする。

 

「あーもー、見てよこれ。今更手が震えて来ちゃったよ」

 

 携帯を握り手が震えるのをシャルルと師匠に見せたところで、ふたりの顔が唖然としていることに気付く。

 

「………どうしたんですか?」

 

「そ、颯太……」

 

「……颯太君…君はいったい……」

 

「???」

 

 ふたりの反応の意味が分からない。何をそんなに驚いているのだろうか。

 ちなみに先ほどのデュノア社長との会話はふたりにも聞こえるようにスピーカーにしてました。

 

「更識の情報網でも何も引っかからなかったのに……君にはいったいどんな後ろ盾があるっていうの?」

 

「???………あー!なるほどそういうことか!」

 

 ふたりの反応の意味にやっと気付いた俺。

 

「二人とも。ウソですよ?」

 

「「……は?」」

 

 俺の言葉に師匠もシャルルも同じ角度で首を傾げる。

 

「だから、大ウソ、ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション。俺に後ろ盾なんて何もありません」

 

「え?でもさっきまであんなに自信満々に……」

 

 シャルルが困惑気味に訊く。

 

「手札がショボい時はとりあえず掛け金をレイズするのが俺の主義だ」

 

「じゃあ、要求を飲まなかったら日本、中国、ロシア、ドイツ、イギリスがフランスの敵になるっていうのは……」

 

 師匠も唖然としながら訊く。

 

「それこそハッタリですよ。適当に知ってる代表候補生の国言っただけですよ。あ、師匠だけは国家代表なんでしたね」

 

 俺の返答にふたりはさらに呆然とする。

 

「無茶するわね。君はもうちょっと慎重派だと思ってたわ」

 

「普段はそうですよ。ただ今回は俺も結構キレてましたしね」

 

「だからって、あんなに次から次へとでまかせを――」

 

「あっ、でも今思うと、全部あながち間違いじゃないんですよね」

 

 俺はふとつぶやく。

 

「俺はさっきのウソって、全部具体的には言ってないんですよね。俺に後ろ盾があるって話も相手がそう思い込むように『~~とは思いませんでした?』って投げかけてましたし」

 

「「あっ」」

 

「日本、中国、ロシア、ドイツ、イギリスがフランスの敵になるっていうのも、それぞれの国の代表候補生のみんなに頼めばある程度動かせたかもしれないし」

 

「「あっ!」」

 

 俺の言葉にふたりも納得したように声をあげる。

 

「つまり厳密には俺はウソは言ってなかったわけですね」

 

「………なんていうか、君には驚かされてばかりな気がするわ」

 

「颯太って普段自分のことを平凡だって言ってるけど、全然平凡じゃないよ」

 

 笑顔の俺にふたりは苦笑いを浮かべていた。

 

「でも、なんにしてもさ――これで自由だろ?シャルル」

 

「……あっ」

 

 俺の言葉にシャルルが今更ながらに気付く。

 

「これから同じ指南所属のIS操縦者としてもよろしくな」

 

「……うん!」

 

 シャルルは目に涙を浮かべながらも嬉しそうに笑って頷いた。

 

「その事だけど、勝手に決めてよかったの?」

 

 師匠が訊く。

 

「ああー、それなら大丈夫ですよ。師匠に連絡入れる前に社長には了承取っておいたんで」

 

 

 師匠に電話する前に指南社長に直接電話して事情説明したときは――

 

『何よそれ!そんな親がいるなんて信じられない!もちろんOKよ!すぐに手配するわ!えっ!IS?そのままでいいわよいいわよ!えっ!?なによ、春人!………国際問題!?知ったこっちゃないわよ!困ってる女の子がいるんだから私たちが助けなくてどうするのよ!しかもうちの所属IS操縦者の颯太君が頼って来てるのよ!?やらなかったら女が廃るわ!』

 

 てな具合に乗り気で了承してくれた。

 

 

 そのことを話すと師匠も苦笑いを浮かべ、

 

「あなたのところの会社の社長さんってパワフルね」

 

「テレビとかのそのままの人ですよ」

 

 師匠の言葉に俺も頷く。

 

「まあそんなわけだからそのうちシャルルも一緒に指南に行かなくちゃいけなくなると思うから」

 

「うん、わかった」

 

「それから――」

 

 他に何かあったかと、考えている途中で大きな欠伸が出る。

 

「ふあ~っ。なんか疲れた」

 

「あれだけの交渉を全部ブラフだけでやったんだから精神的疲労がとんでもなかったんでしょう」

 

「そうかもしれませんね。とりあえず今日は俺寝ようかと思います。言っとかないといけないこともだいたい伝えたと思うんで」

 

「あれ?でも颯太、夕食は?」

 

「さっきバナナ三本食べたからいいや」

 

 そう答えつつまた大きく欠伸が出る。

 

「他何か聞いておくことありますか?」

 

「特にないわ。問題が一つ解決して万々歳よ。学園側には私から伝えておくわ」

 

「僕も特にないよ」

 

「そうっすか……」

 

 返事を聞きつつもだんだん瞼が重くなってくることを自覚する。

 

「それじゃあ、私はそろそろお暇するわ。早めに学園側にも報告したいし」

 

 そう言って師匠が立ち上がる。

 

「それじゃあね、颯太君。シャルルちゃんと何があったかはまた今度根掘り葉掘り聞かせてもらうわ」

 

「お、お手柔らかにお願いします……」

 

「ウフフ。さーてどうしよっかな~」

 

 そう言って不敵な笑みとともに師匠は去って行った。

 

「……それじゃあ、シャルル。悪いが俺は先に寝るわ」

 

「あ、うん」

 

 俺はベッドにもぐりこみ、瞼を閉じる。

 

「あっ、颯太!」

 

「ん~?」

 

 若干まどろみに片足を突っ込んだところでシャルルが言う。

 

「今日は……今日は本当にありがとう」

 

「……礼を言われることじゃない……ってことでもないかもしれないけど、強いて言うならあれだ。今日のシャワールームの件はこれで勘弁してください」

 

「……うん」

 

 シャルルが頷いたのを見届け、

 

「おやすみ」

 

 と呟き、俺は意識を手放した。




そうです。
無理矢理です。
でもこれが一番手っ取り早かった気がするんですよ。

このシャルロットの件の話が他と比べて長かったのは
この解決方法はもともともう一つの作品で考えていた解決方法だったからです。
途中まで考えたはいいが、この解決方法がその話の主人公のキャラではなかったので変更しました。
颯太君ならこのやり方でいけると思ったのでその時考えたやり方で書いてみたところ思わぬ長さに……。

読んでいただいた皆様にはそれぞれ思うところはあるかもしれませんが、どうか寛容な心でなにとぞお願いします。


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第27話 某長寿アニメの主題歌

GW最終日。皆さんはいかがお過ごしですか?
僕は家でぼんやりと深夜アニメ見たりマンガ読んでます。


「――じゃあ、シャルルの件は後はそちらに任せても大丈夫ですか?」

 

『ああ、確認をしたがある程度は君の電話で決着がついているようだ。あとはどれだけこちらにとって好条件にするかだ。ここからの交渉は我々に任せてくれればいい』

 

 デュノア社長にブラフの交渉をした次の日、俺は昼休みになると同時に指南コーポレーションのミハエルさんに電話でこれからのことを確認していた。in屋上。

 

『まあ、交渉ごとは俺の得意分野だし、フランス政府には知人もいる。その知人も昨日電話してからすぐに、つい先ほど到着した。もうすでにこの件は成功したも同然だ。お前もそのシャルルとかいうやつも安心してどっしり構えていればいい』

 

「ずいぶんな自信ですね」

 

 ミハエルさんの言葉には不思議な自信があり、訊いているだけでそうなりそうな気がしてくる。

 

『君から電話をもらってからこちらでもできる限りデュノア社については調べた。すると、ボロボロと黒い情報が出てきた。それだけでこちらが主導権を握るには十分だ』

 

「なるほど。じゃあ――」

 

『エルエルフゥゥゥゥ!!』

 

 これからのことお願いします、と続けようとした言葉は突然の叫び声に遮られる。あまりの音量に俺は顔をしかめて携帯を耳から離す。

 

『聞いていないぞエルエルフ!久々にお前が頼ってきたと思ったら、なんだこれは!』

 

『はぁ……。また連絡する』

 

「あ、はい。了解です」

 

 ミハエルさんの言葉に頷いたところで電話が切られる。てか、今のがミハエルさんの知り合いか。

 そういえば前に聞いたな。ミハエルさんは親しい人からは〝エルエルフ〟って呼ばれてるらしい。理由はミハエルさんのフルネームが〝ミハエル・エルフリード〟らしい。

 まあ、それはともかく。ミハエルさんは自信満々だったし、任せても大丈夫だろう。

 

「さて、昼飯食べに行くか」

 

 俺は屋上を後にしようと扉のところに行くと、自分であける前に扉が開いた。え?あれ?数分前にはこの扉は手動だったよね?この数分の間に何が起きた?と、驚愕していた俺の疑問は、扉の向こうから人が現れたことで納得する。というか、それしかないわな。ただ問題のは――

 

「い、井口……」

 

 その人物が篠ノ之だったことだ。

 

「よっ、篠ノ之。一人でどうした?」

 

 少しぎくしゃくしている相手ではあるが、できるだけ平然と聞く。

 

「す、少し気分転換のようなものだ」

 

「そうか……」

 

「う、うむ……」

 

 き、気まずい!セシリアや鈴は俺も友人であるが、篠ノ之はこのふたりと少しが違う。俺と篠ノ之の間には織斑一夏というワンクッションがある。わかりやすく言えば篠ノ之は俺の友達ではなく、俺の友達の一夏の友達、お互い友達の友達なのだ。

 しかも先日俺はこいつを怒鳴りつけている。俺としては特訓を共にやっているわけだし、仲良くはしたいのだが。

 

「………」

 

「悪い。ここにいたら邪魔だな」

 

「え?」

 

 首を傾げる篠ノ之に俺は脇に避け、道を開く。

 

「あ、ああ。すまない」

 

 礼を言いながら俺の前を通る篠ノ之。

 

「……篠ノ之」

 

 そのまま進んでいく篠ノ之の背中に俺は声をかける。篠ノ之も俺の方に振り返る。

 

「その……前は怒鳴って悪かったな。でも――」

 

 篠ノ之を真っ直ぐに見据えて俺は言葉を続ける。

 

「あの時言ったことを俺は間違っていたとは思わない」

 

「…………」

 

「それで俺のことを気にくわないって思うんだったら、それは仕方がない。好きにしてくれ。………まあそれだけだ。じゃあな」

 

 それだけ言って俺は篠ノ之に背を向けて屋上を後にした。

 篠ノ之がどんな顔で聞いていたかは知らないが、とりあえず言いたいことは言ったし、これで十分だろう。

 

 

 ○

 

 

「あっ、おかえり……」

 

 教室に戻ってきた俺を迎えたのは簪だった。一夏やシャルルには野暮用があると言ってあったので先に食堂に行ったのだろう。

 

「どうした?」

 

「一緒にお昼どうかな…って」

 

「おう、いいぜ。俺もまだだったし」

 

 そう簪に頷きながら言ったところで俺はふと気付く。自分のポケットがいつもより軽いことに。

 

「……………」

 

 ズボンの前のポケットを上からポンポンと叩き、それから手を突っ込む。当然ではあるが空。今度はお尻のポケットを叩いてから手を入れる。もちろん空。上着のポケットを探り、そこから往生際悪く上着の内ポケットも探す。もちろんどちらにもない。

 

「………んがっ!」

 

「どうしたの?」

 

「……財布がない」

 

 朝の記憶を探る。

 ――確か今朝は昨日の疲れで遅刻ギリギリに起床し、大慌てで着替え、朝食を食べて全力疾走しながら登校したのだ。

 ちなみにシャルルに訊いたところ、何度も声をかけてはくれたらしいが、そのたびに定番の「あと五分~」を言っていたらしく、最後にはすぐ起きるという俺の言葉を信じ、誘いに来た一夏とともに登校したらしい。

 どうやらその時に財布を持ってくるのを忘れたらしい。そんなどこぞの長寿アニメの主題歌みたいな失敗をするとは。

 

「は、ははは~。今日は飯抜きかな~。こうなったら、お茶とか飲んでお腹を満たすしかないかな」

 

 もう笑うしかない。そんな俺に簪がどこか照れたように、しかし、しっかりと覚悟を決めたような表情で口を開く。

 

「な、なら……これ食べる?」

 

 そう言って後ろ手に持っていたカバンから取り出したのは一人分のお弁当だった。水色の巾着に入れられた弁当を差し出す簪。

 

「え?でもそれ貰ったら簪の分が……」

 

「大丈夫。颯太にもと思って……その、二人分作ってきたから」

 

 そう言ってカバンからもう一つピンクの巾着を取り出す簪。

 

「じゃあ……貰ってもいいのか?」

 

「う、うん」

 

 俺の言葉に嬉しそうに笑った簪から弁当を受け取り、そのまま俺と簪は教室で昼食を取ることにした。

 簪は料理が上手いらしく、無茶苦茶美味かった。しかもグレンラガンのキャラ弁だった。

 親を除けば人から、しかも異性からもらった手作り弁当なんて初めてだったので、とてもうれしかった。




今回は少し短めでした。
アニメ見てて思ったのが、簪クオリティーのキャラ弁を食べてみたいと思ったのでそんな感じで書いてみました。

ちなみにミハエルさんを〝エルエルフ〟と呼んでいた電話口のミハエルの友人ですが……いったい誰だったんでしょうね(笑)


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第28話 漆黒の強襲者と赤い一閃

今回は軽く戦闘描写があります。
苦手なんで温かーい気持ちで読んでください。


「お待たせ、一夏」

 

 放課後。俺とシャルルは教室で待っていた一夏と合流し、特訓の場へと向かい始めた。

 

「ふたりは今までどこに行ってたんだ?」

 

 一夏が訊く。

 

「ちょっと織斑先生のところにな。シャルルが報告と相談があったんだ」

 

「報告と相談?」

 

「うん。実は急な事なんだけど、僕ちょっと実家に帰らないといけないんだ」

 

「え!?本当か!?どうしたんだよ急に」

 

 シャルルの言葉に一夏が驚いたように訊く。

 

「実家の方で問題があってね。詳しくは言えないんだけど、その問題が僕にも関わることだから、僕も一度戻らないといけないんだ」

 

 あながちウソでもないが、これは事情を知っている人間の間で決めてある表向きの理由だ。ちなみに織斑先生は事情を知っているらしい。さっき会いに行ったらめんどくさそうに頭を抱えていた。

 

「じゃあ、シャルルは学年別トーナメントはどうするんだ?」

 

「トーナメント開始三日前くらいに出発して数日かかる予定だから、残念だけど出られないかな」

 

「そうか。シャルルには特訓で世話になってるし、その成果を戦って見せたやりたかったんだがな」

 

「それはまたの機会だな」

 

 悔しそうに言う一夏に俺は笑いながら言う。

 

「その分フランスに戻るまでは特訓に付き合うし、帰ってきたらまた協力するよ」

 

「ああ、ありがとう。さっそく今日の特訓頑張るか」

 

「そうだな。えっと、今日使えるのは――」

 

「第三アリーナだ」

 

「「「わあっ!?」」」

 

 俺の言葉にかぶせるように現れた篠ノ之に三人で驚きの声をあげる。

 

 

「……そんなに驚くほどのことか。失礼だぞ」

 

「お、おう。すまん」

 

「す、すまん…」

 

「ごめんなさい。いきなりのことでびっくりしちゃって」

 

「あ、いや、別に責めているわけではないが……」

 

 折り目正しく頭を下げて謝るシャルルに、さっきまで眉をひそめていた篠ノ之が申し訳無さそうな顔になる。

 

「と、ともかく、だ。第三アリーナへと向かうぞ。今日は使用人数が少ないと聞いている。空間が空いていれば模擬戦も出来るだろう。……そ、それと、井口」

 

「ん?」

 

「そ、その……だな。お前の動きは前から思っていたがいろいろと技を使う割に剣術の基礎がなっていない。だ、だから、私がお前の剣術を見てやる」

 

「…………」

 

「な、なんだ?」

 

 呆然としている俺に篠ノ之が少しまごつきながら聞く。

 

「い、いや、なんでもない。ぜひよろしく頼む」

 

「う、うむ」

 

 頷いた俺に篠ノ之も照れ臭そうに顔を逸らす。

 どうやら篠ノ之も俺を許してくれたようだ。これから仲良くして行ければいいが。

 と、やっていたところに、第三アリーナへと歩いていた俺たちはふと騒がしくなってきたことに気が付いた。どうやら騒ぎの元は第三アリーナのようだ。騒ぎの原因を見ようと、観覧席に入った俺たちが見たのは――

 

「あ、あれは!」

 

「鈴!セシリア!」

 

 アリーナ内では鈴とセシリアが二人で一人の相手との模擬戦を行っていた。相手は――

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」

 

 漆黒の機体『シュヴァルツェア・レーゲン』を駆るボーデヴィッヒの姿があった。

 二対一であるにもかかわらず鈴もセシリアも苦戦を強いられている。

 何よりも不思議なのは二人の攻撃がボーデヴィッヒに届かないことだ。右手を突き出しただけで衝撃砲を完全に無力化している。ボーデヴィッヒに向かって行くセシリアのビットも空中で急に動きを止める。

 

「くっ!」

 

 鈴は衝撃砲を展開し、その砲弾エネルギーを集中させる。

 

「甘いな。この状況でウェイトのある空間圧兵器を使うとは」

 

 その言葉通り、衝撃砲は弾丸を射出する寸前にボーデヴィッヒの実弾砲撃によって爆散した。

 

「もらった」

 

「!」

 

 肩のアーマーを吹き飛ばされて大きく体勢を崩した鈴に、ボーデヴィッヒさんがプラズマ手刀を懐へ突き刺す。

 

「させませんわ!」

 

 間一髪のところで二人の間に割りに行ったセシリアは、《スターライトmkⅢ》を楯に使って一撃を逸らす。同時に以前、俺と一夏に使った弾頭型ビットをボーデヴィッヒさんに向けて放出する。

 

 ドガァァァァンッ!

 

 ミサイル攻撃の爆発はセシリアと鈴を巻き込み、二人を床にたたきつける。

 

「やった!」

 

 歓喜する俺。が、煙の晴れた先にほぼ無傷状態の漆黒のISが姿を現す。

 

『なっ!?』

 

 その場の俺を含めた四人が驚きの声をあげる。

 アリーナの中でも鈴とセシリアも驚愕している。

 

「終わりか?ならば――私の番だ」

 

 その言葉と同時ボーデヴィッヒがふたりに向けて瞬時加速をする。

 そこからは試合でもなんでもない、圧倒的な暴力だった。ボーデヴィッヒの攻撃になすすべなくされるがままな鈴とセシリア。

 

「一夏!」

 

「おう!」

 

 同じことを考えていたらしく、一夏は瞬時に『白式』を展開、同時に《雪片弐型》を構築し、『零落白夜』を発動させる。俺も『火焔』展開する。

 

「おおおおおっ!」

 

 掛け声とともに本体の倍になった実体剣から放出するエネルギー剣を一夏がアリーナを取り囲むバリアーへと叩き込む。

 そのまま二人で一夏の空けた穴からアリーナに侵入。

 

「一夏!二人の方は任せろ!お前はボーデヴィッヒを!」

 

「わかった!」

 

 俺の言葉に一夏は頷き、ボーデヴィッヒへと向かって行く。

 

「その手を離せ!!!」

 

「ふん……。感情的で直情的。絵に描いたような愚図だな」

 

 一夏の刃が届くその寸前。一夏の体がびたっと止まる。

 

「だりゃ!!」

 

 そんな一夏の背後から《火ノ輪》をボーデヴィッヒに向けて放つ。

 

「くっ!」

 

 一瞬の逡巡の後にセシリアと鈴を放し、一夏とも距離を離す。

 その隙に《火ノ輪》を手の甲に戻し、セシリアと鈴を抱える。ダメージが一定を超えたのか、ふたりの体からISが消えている。

 

「う……。颯太……」

 

「無様な姿を……お見せしましたわね……」

 

「喋るな。そんなのはいいから」

 

 そのままふたりを安全なところまで運び、保健室に連れて行くように手配する。

 戦っている一夏たちの方を見ると、一夏とボーデヴィッヒ、そしてシャルルも加勢し二対一の戦いを繰り広げている。

 一夏と剣を交え、シャルルの銃撃の雨を避けるボーデヴィッヒ。その余裕綽々とした雰囲気を見ていると、俺の中で怒りが沸き上がってくる。俺の目の前にはボロボロのセシリアと鈴。そしてそれをしたのはあそこにいるボーデヴィッヒだ。

 

「よくもっ…!」

 

 腰に構えた鞘に収まった《火人》に手を添え、腰を落とす。

 

「……しっ!」

 

 一歩目から最大速度で走り出し、さらに瞬時加速も加え、狙うはボーデヴィッヒただ一人を標的にし、一心不乱に向かって行く。

 

「っ!」

 

 完全に意識外だった俺が猛スピードで向かってくることを感じたボーデヴィッヒだったが、シャルルや一夏に気を取られていたせいか俺への反応が圧倒的に遅い。

 こちらに顔を向けた時には俺はボーデヴィッヒの目の前にいた。

 突進の勢いを殺すことなく、《火人》に勢いすべてを乗せて一閃する。

 

「ぐあっ!」

 

 左手に持った鞘に《火人》を収めると同時に俺の渾身の一閃を受け、俺の背後でボーデヴィッヒが苦しげな声を出す。

 

「き、貴様……!」

 

 意識外からの攻撃とはいえ、不意打ちで食らった俺の一撃が悔しかったのだろう。ボーデヴィッヒは憎々しげに俺を睨む。

 

「やるか?三対一だぞ」

 

「面白い。世代差というものを見せてつけてやろう」

 

 俺の言葉に獰猛な笑みを浮かべ、ボーデヴィッヒが構える。

 

「行くぞ……!」

 

 ボーデヴィッヒがまさに飛び出そうとする瞬間、俺たちの間に影が入ってきた。

 

 ガギンッ!

 

 金属同士が激しくぶつかり合う音が響き、ボーデヴィッヒさんは割り込んできた相手を見るとすぐに加速を中断する。

 

「……やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 

「千冬姉!?」

 

「織斑先生……」

 

 それはつい先ほどあった織斑先生だった。服装も先ほど会った通りのスーツ姿。しかしその手には一七〇センチはある長大なIS用近接ブレードを握っていた。

 

「模擬戦をやるのは構わん。――が、アリーナのバリアーまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

 

「教官がそう仰るなら」

 

「お前たちもそれでいいな?」

 

「はい」

 

「あ、ああ……」

 

 呆けていた一夏が素で返事をする。

 

「教師には『はい』と答えろ。馬鹿者」

 

「は、はい!」

 

「僕もそれで構いません」

 

 俺たち三人が頷いたのを見て、織斑先生は改めてアリーナ内すべての生徒に向けて言う。

 

「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」

 

 

 

 ○

 

 

 それから、セシリアと鈴の運ばれた保健室に向かった俺たちだったが、ふたりはむすっとした顔でベッドに腰掛けていた。

 

「別に助けてくれなくてよかったのに」

 

「あのまま続けていれば勝っていましたわ」

 

「お前らなぁ……。でもまあ、怪我がたいしたことなくて安心したぜ」

 

「こんなの怪我のうちに入らな――いたたたっ!」

 

「そもそもこうやって横になっていること自体無意味――つううっ!」

 

 無理して動こうとするので、ふたりとも痛みに顔をしかめる。

 

「ほら。ちゃんと安静にしてろよ。先生は落ち着いたら帰っていいって言ってたんだから、しばらく休んで――」

 

 そんな俺の言葉は徐々に大きくなってくる地響きに遮られる。

 

「な、なんだ!?」

 

 廊下から響いている音に一夏が戸惑い、俺たちは保健室のドアに視線を向ける。

 すぐにドカーンッ!と保健室のドアが吹き飛んだ。

 

「織斑君!」

 

「デュノア君!」

 

「ついでに井口君も!」

 

 雪崩れ込んできたのは大量の女子たちだった。それが一気に俺たちを囲む。

 

「な、な、なんだなんだ!?」

 

「ど、どうしたんだ!?」

 

「みんな……ちょ、ちょっと落ち着いて」

 

「「「「これ!」」」」

 

 状況が呑み込めていない俺たちにパン!と女子生徒一同が出してきたのは緊急告知文の書かれた申請書。

 それによると、どうやら今回の学年別トーナメントはタッグマッチになったようだ。そのため、是非とも学園に三人しかいない男子……のイケメン枠と組みたいがためにここまで押し寄せてきたようだ。

 

「私と組もう、織斑君!」

 

「私と組んで、デュノア君!」

 

 流石の人気だ。これは俺は関係なさそうだ、と、この状況をどうにかしようとしたところで、俺も数名の女子に囲まれる。

 

「井口君!私と組んで!」

 

「いやいや、私と!」

 

 なんと!とうとう俺にもモテ期到来か?

 

「俺でいいのか?」

 

「いいのいいの」

 

「井口君強いし」

 

「織斑君やデュノア君よりは競争率低いし」

 

「妥協案かよ!」

 

 だと思ったわ!

 実際この場の女子を100とするなら割合で言えば一夏&シャルル:俺=9:1くらいの割合だな。

 まあそれはともかく。

 

「悪いみんな!俺たちもうタッグ決めてんだ!」

 

 俺は一つ手を叩き、大声で言う。

 

「あと、実はシャルルは今度の学年別トーナメントに出られないんだ!」

 

 俺の言葉に少しざわつく。

 

「一夏も俺と組むから!」

 

 俺の言葉を聞いて納得したらしく、女子たちはぞろぞろと引き上げていった。

 

「ふう……」

 

「助かったぜ、颯太」

 

「いいってことよ」

 

 女子の勢いに圧倒されていた一夏が俺に礼を言う。俺も笑顔で頷く。

 

「一夏っ!」

 

「一夏さんっ!」

 

 解決したと思ったら、鈴とセシリアが一夏に詰め寄る。

 

「あ、あたしと組みなさいよ!幼なじみでしょうが!」

 

「いえ、クラスメイトとしてここはわたくしと!」

 

 怪我人のくせに動き回りすぎだろこのふたり。

 

「ダメですよ」

 

 と、山田先生が現れる。

 

「おふたりのISの状態をさっき確認しましたけど、ダメージレベルがCを超えています。当分は修復に専念しないと、後々重大な欠陥が生じさせますよ。ISを休ませる意味でも、トーナメント参加は許可できません」

 

「うっ、ぐっ……!わ、わかりました……」

 

「不本意ですが……非常に、非常にっ!不本意ですが!トーナメント参加は辞退します」

 

 素直に引き下がるふたり。まあダメージレベルがC超えちゃってたらしょうがないな。

 一夏はちんぷんかんぷんだけどな。

 

「一夏、IS基礎理論の蓄積経験についての注意事項第三だよ」

 

 シャルルが一夏に言うが、一夏はまだ首を傾げている。

 

「……『ISは戦闘経験を含むすべての経験を蓄積することで、より進化した状態へと自らを移行させる。その蓄積経験には損傷時の稼動も含まれ、ISのダメージがレベルCを超えた状態で起動させると、その不完全な状態での特殊エネルギーバイパスを構築してしまうため、それらは逆に平常時での稼動に悪影響を及ぼすことがある』……だっけ?」

 

「あってるよ、颯太。流石だね」

 

「この間シャルルに教えてもらったところだしな」

 

 シャルルが笑顔で頷いたことで、俺は安堵する。

 

「しかし、何だってラウラとバトルすることになったんだ?」

 

「え、いや、それは……」

 

「ま、まあ、なんと言いますか……女のプライドを侮辱されたから、ですわね」

 

 ………ああ、そういうことね。

 

「ああ。もしかして一夏のことを――」

 

「あああっ!デュノアは一言多いわねえ!」

 

「そ、そうですわ!まったくです!おほほほほ!」

 

 シャルルをふたりがすごい勢いで取り押さえた。ふたりから口をふさがれてもごもごともがいている。

 

「こらこら、やめろって。シャルルが困ってるだろうが。それにさっきからケガ人のくせに体を動かしすぎだぞ。ほれ」

 

 そう言って一夏は鈴とセシリアの肩を指でつつくと、

 

「「ぴぐっ!」」

 

 おかしな声かつ甲高い声をあげてその場に凍り付く鈴とセシリア。

 

「………………」

 

「………………」

 

「あ……すまん。そんなに痛いとは思わなかった。悪い」

 

 恨めしそうな顔でふたりが一夏を睨む。

 

「い、い、いちかぁ……あんたねぇ……」

 

「あ、あと、で……おぼえてらっしゃい……」

 

 あーあー、こりゃ後でなんかさせられるかもな。なんか奢らされるとか。

 ドンマイ、一夏♪




はい、というわけで颯太のタッグは一夏となりました。
シャルロットもフランスに行きますし。

もうすぐタッグトーナメントと思うと戦闘描写の苦手な僕は難産が予想されます。
今から憂鬱ですが頑張ります。


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第29話 対戦相手は……

「……はい、……はい。よろしくお願いします」

 

 夕食後、シャルルは電話口へ向かって話していた。電話の相手は指南社長だ。ちなみに携帯は俺のだ。シャルルの連絡先はまだ指南コーポレーションには伝えていなかったので、俺のところにかかってきたのだ。先ほど本人が教えていたので次回からシャルルに直接かかってくるだろう。

 

「えっ?……はい、ぜひ」

 

 どんな会話を繰り広げているのかはわからないがとても楽しそうだ。電話に出る前は指南社長だと伝えた途端に緊張した面持ちだったシャルルが今やニコニコ笑顔だ。指南社長はもしかしたら師匠以上の人たらしかもしれない。

 

 

「……はい、……はい。それでは、これからお世話になります。……はい。失礼します」

 

 電話は終わったらしくシャルルが通話を切る。

 

「ありがとう、颯太」

 

「おう」

 

 シャルルが俺に携帯を差し出すのを手に持っていたシャーペンを置いて受け取る。

 シャルルが電話中手持無沙汰だったので昨日できなかった分も含めて勉強をしていた。範囲自体はそこまで広くなかったので十分今日だけで二日分復習しても大丈夫だった。まあ一人では何か所か理解が追い付いていないので

 

「シャルル、これってどういう意味なんだ?」

 

「ん?ああ、これはね――」

 

 自力ではわからなかった部分をシャルルに教えてもらうことで今日のところはこれくらいでいいだろう。

 

「おーわりっと」

 

 机に置いた筆記具を筆箱に仕舞い、教科書やノートを片付ける。

 

「ありがとう、シャルル。毎回助かってるよ」

 

「いいんだよ、これくらい。………それに助けられてるのは僕の方だよ」

 

「……俺シャルルに勉強教えたことないよ?」

 

「そうじゃないよ」

 

 シャルルが首を傾げる俺にクスリと笑う。

 

「颯太のおかげでもうすぐ僕はあの家と縁を切ることが出来そうだよ。本当にありがとう」

 

「ああー、その事ね。別にいいさ。困ってる友達は見捨てられんさ。……謝罪って面もあったし」

 

「う、うん……」

 

 俺の言葉にシャルルが顔を赤らめる。あの時のことを思い出させてしまったようだ。

 

「……………」

 

「……………」

 

 ふたりの間に沈黙が流れる。

 

「んんっ!じゃあ俺はそろそろ寝ようかな。シャルルはどうする?」

 

「う、うん。僕は移籍に必要な書類が送られてきてるから、それを完成させておかないといけないんだ」

 

「そっか。じゃあお先におやすみ」

 

「うん、おやすみ」

 

 シャルルが笑顔で頷いたのを見ながら俺は布団にもぐりこみ、瞼を閉じた。眠気はすぐにやって来て、俺は深いまどろみの中にもぐりこんでいった。

 

 

 ○

 

 

「ふう。これでよし」

 

 書き終えた書類を確認し終え、シャルルは筆記具を置く。

 この書類が指南コーポレーションにわたり、デュノア社、フランス政府との話し合いが済めば、彼女は晴れて颯太と同じ指南コーポレーション所属のIS操縦者となる。

 書類を封筒に片付け、自分のベッドに向かう。その途中でふと自分のベッドの隣のもう一つのベッドで眠る人物に目を向ける。規則正しい寝息を立てて眠る少年、颯太に。

 吸い寄せられるように颯太の枕元へ立ち、颯太の顔を見つめる。昨日のデュノア社への電話の時に見せたふてぶてしさも狡猾さも影を潜めている。

 颯太の寝顔を見つめると彼女の胸中に様々な感情があふれてくる。

 

「颯太……」

 

 寝顔を見つめながらその人物の名を呟く。

 

「颯太は何でもないことみたいに振る舞うけど、颯太のおかげで僕は………」

 

 呟くが、深い眠りの中にいる颯太には聞こえない。

 

「謝罪だって颯太は言うけど、颯太にだったら僕は別に……」

 

 言いかけたところでハッと我に返り顔を振る。シャワールームから出て来た時の出来事を思い出し、しかし、今自分が続けようとした言葉を自覚し、顔を赤く染める。

 

(も、もう寝よう!)

 

 今まで頭にあった思考を振り払い、部屋の残りの照明を消す。真っ暗な灯りのない暗闇の中で、その暗闇に慣れてきた彼女は颯太の顔を覗き込む。わずか五センチ足らずの距離。颯太の呼吸も体温すらも感じる距離。

 

「ありがとう、颯太」

 

 そう呟き、優しい表情を浮かべ、颯太の額へとキスをする。

 

「おやすみ、颯太……」

 

 

 

 ○

 

 

 六月最終週になり、待ちに待った学年別トーナメント当日。シャルルは五日前に指南の人と一緒にフランスに向かった。少し予定より早まったが、解決は早い方がいいだろう。

 

「シャルルからなんか連絡有ったか?」

 

 俺と一夏だけの貸し切り状態の更衣室でISスーツに着替えながら一夏が訊く。

 

「昨日連絡有った。飛行機が間に合えば一試合目から見れるってさ」

 

「そっか。結局シャルルの用事って何だったんだ?颯太は知ってるのか?」

 

「知ってるけど、そのうちわかることだから今は秘密」

 

「そっか……まあそのうちわかるならいいか」

 

 一応はそれで一夏も納得してくれたらしい。

 

「さて、そろそろ組み合わせが発表されるんじゃないか?」

 

 俺の言葉に一夏も備え付けられたモニターに顔を向ける。そこにはいまだ観覧席の模様が映っている。各国のお偉いさんやいろんな企業のスカウトが来ているらしく、外部の人間で観客席の一部は埋め尽くされている。ちなみに指南社長も来ているらしい。

 

「お。言ってたら決まったみたいだな」

 

 モニターがトーナメント表に切り替わる。そこに移される名前の中から自分と一夏の名前を探す。

 

「――なっ!?」

 

「――えっ!?」

 

 見つけた俺たちの名前の横に表示された名前に俺と一夏はぽかんと口を開く。

 俺と一夏の一回戦の対戦相手はラウラ・ボーデヴィッヒと篠ノ之箒ペアだった。




次回、タッグトーナメント開幕!


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第30話 4本でダメなら……

な、難産だった……。

颯太「はいはい、オツカレオツカレ」

なんだよ!もっと労えよ!
僕の作品の主人公だろ!?

颯太「こっちはお前がなかなか最新話更新しないせいで久々の出番だったんだぞ!!」

ホントすいませんでした~!!!


 カチカチカチッ。

 

「これで……よし」

 

 目の前に表示された投影ディスプレイに示された数字をいくつか変更していく。

 

「これは後で怒られるかもな~。でも――」

 

 俺は苦笑いを浮かべながら、しかし、画面をじっと見つめて言う。

 

「これは必要なことだから……許せよ、『火焔』……」

 

 俺はそっと右腕の赤いリングを撫でた。

 

 

 ○

 

 

 

「お待たせ」

 

 装備フル展開状態の『火焔』を展開し、少し遅れてアリーナへと出てきた俺は先客の三人に声をかける。

 

「遅かったな。なんか問題でもあったか?」

 

「いや、ちょっとな」

 

 一夏の問いに曖昧に返事しながらあとの二人へと視線を向ける。

 

「……………」

 

「………ふんっ」

 

 篠ノ之は集中しているのか無言で、ボーデヴィッヒは嘲るように鼻を鳴らす。

 

「怖気づいて逃げ出したのかと思ったぞ」

 

「怖気づく?お前とは絶対に戦わないと、と思ってたんだ。怖気づいてる暇はない」

 

 ボーデヴィッヒの挑戦的な言葉にも俺はじっとボーデヴィッヒを睨みつけて言う。

 

「…………」

 

 挑発に乗ってこなかったことに若干眉を反応させながらもボーデヴィッヒは俺から視線を動かし、一夏を睨む。

 

「一回戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたというものだ」

 

「そりゃあなによりだ。こっちも同じ気持ちだぜ」

 

 と、試合開始のカウントダウンが始まる。

 5,4,3,2、1――

 

「「叩きのめす」」

 

 試合開始とともに一夏とボーデヴィッヒが同じ言葉を叫んで動く。

 一夏は瞬時加速でボーデヴィッヒへと突進。それに向けてボーデヴィッヒは右手を突き出す。

 

――来る!

 

 そう思ったと同時に一夏の動きが止まる。ボーデヴィッヒの装備〝AIC〟だ。

 一夏はまるで見えない腕に抱えられているように停止している。

 停止した一夏に向けてボーデヴィッヒは肩の大型カノンが一夏に向けられる。このままでは一夏はやられるだろう。――これが一対一の試合だったならば、だが。

 

「はあぁぁ!」

 

 一夏に向いていた意識を俺に向ける意味も込め、叫びながら一夏を飛び越えて斬りかかる。

 

「ちっ……!」

 

 俺の斬撃を避けるために砲撃をやめ、俺と一夏から距離を置くボーデヴィッヒ。

 

「逃がさねぇ!」

 

 さらに追撃を加えるために斬りかかる、が

 

「私を忘れてもらっては困る」

 

 ボーデヴィッヒへの斬撃を防ぐように俺とボーデヴィッヒの間に篠ノ之が現れ、近接ブレードで俺の《火人》を受け止める。

 

「じゃあ俺も忘れられないようにしないとな!」

 

 一夏は言いながら瞬時加速で箒へと突進する。一夏の動きに合わせて舞うように一夏と入れ替わるように避ける。

 

 ガギンッ!

 

 一夏と篠ノ之のブレード同士がぶつかり、火花が散る。

 何度も鍔迫り合いをしながら後部のスラスターの勢いを上げながら篠ノ之を後方に押しやって行く一夏。

 

「くっ!このっ……!」

 

 押され続けたことで焦れた篠ノ之が大きく振りかぶる。

 

「颯太!」

 

「おう!」

 

 篠ノ之の一撃を受け止めた一夏。その脇から《火ノ輪》を篠ノ之に向けて射出する。この距離なら外さない。が――

 

「「!?」」

 

 確実に当ったと思った《火ノ輪》は虚しくなにもない空間を通る。

 

「邪魔だ」

 

 入れ替わるように急接近してくるボーデヴィッヒ。どうやらボーデヴィッヒのワイヤーブレードが篠ノ之の足に巻き付き、アリーナの脇まで投げ飛ばされていた。

 

「なっ、何をする!」

 

 ボーデヴィッヒの行動は仲間を思っての行動というより、本当に邪魔だったからなのだろう。床に叩きつけられた篠ノ之が不満そうに怒声を発する。

 

『一夏っ!こいつらやっぱり!』

 

『ああ!やっぱり作戦通りで行こう!』

 

 プライベートチャネルで呼びかけ合い、俺たちは同時に動く。一夏は急接近するボーデヴィッヒへ。俺はアリーナの脇に飛ばされた篠ノ之へ。

 

「悪いがお前の相手は俺だ!」

 

「くっ!」

 

 立ち上がったところを斬りかかってきた俺に悔しげな声を発しながら転がるように俺から距離を空ける。

 

「まだまだっ!」

 

 篠ノ之がブレードを構え直す前に《火ノ輪》を射出する。

 

「このっ!」

 

 一瞬早く握り直したブレードで《火ノ輪》を弾く。

 俺たちの作戦、それは簡単なもので相手の戦力を削ぐことが目的だ。例え連携が取れていなくても相手は少ない方がいい。恐らくボーデヴィッヒは篠ノ之のことを戦力としてカウントしていないだろう。それでも一対二と二対二ではやはり違う。ボーデヴィッヒが初めから一人で戦うつもりだったとしてもだ。

 

「やあぁぁぁ!!」

 

「はあぁぁぁ!!」

 

 お互いに叫びながら近接ブレードで鍔迫り合いで斬り合う。が、俺と篠ノ之で決定的に違うものがある。

 

「はあぁぁぁ!!」

 

 俺の左側から斬り上げるような篠ノ之の一閃が飛んでくる。俺の《火人》は間に合わない速度だ。でも――

 

 ガギンッ!

 

 その鋭い一閃を俺は左肩の《火打羽》で防ぐ。と同時に《火神鳴》で逆に篠ノ之へ向けて殴る。

 

「っ!」

 

「だりゃっ!」

 

 《火神鳴》を受け吹き飛ぶ篠ノ之。それによって篠ノ之のシールドエネルギーが減る。

 そこで一瞬一夏の方に視線を向ける。一夏の方も苦戦しているようだ。

 

「これはこっちの決着は速くつけないとな」

 

 《火人》を握り直し、篠ノ之に向き直る。

 

「行くぞ、篠ノ之!」

 

「来い、井口!」

 

 言葉と同時に互いに動き、斬り合う。ブレードとブレード、ブレードと《火打羽》がぶつかり甲高い音が何度も上がる。《火打羽》がある分俺の《火人》が、《火神鳴》が篠ノ之にダメージを与えていく。

 

「くっ!このっ!」

 

 焦った篠ノ之は大きく振りかぶる。

 

――ここだ!

 

 振り下ろされたブレードを両肩の《火打羽》防いで勢いを殺し、二枚の《火打羽》を開くと同時に《火人》で篠ノ之のブレードを斬り上げる。

 

「っ!」

 

 振り下ろしたまま手も上がった篠ノ之のボディはがら空きだった。

 

「はあぁぁぁ!!」

 

 気合いの咆哮とともに背中の《火神鳴》を両方篠ノ之に向け、さらに両肩の二つの砲門も篠ノ之に向ける。

 

「オープンファイヤー!!!!」

 

 ズドドドドン!!!!

 

「ぐあっ!」

 

 超至近距離から《火神鳴》の荷電粒子砲を受け、篠ノ之が吹き飛ぶ。

 

「くっ!」

 

 立ち上がろうとする篠ノ之だったが、今の攻撃でシールドエネルギーが切れたらしく、立ち上がれずに片膝をつく。

 

「よっし!」

 

 喜びの声をあげた俺の視界の横に、ふと見慣れない数字が目に入る。

 

(これは……なんだ?23/100?いや、ゆっくりだけど少しづつ数字が上昇してる。こんなの今まで見たことなかったのに……なんだこれ)

 

 そこまで考えたところで無理矢理思考を切り替え、視線を一夏たちに向ける。

 そこにはAICに動きを封じられた一夏と一夏へ向けて大型カノンを向けるボーデヴィッヒが見えた。

 

(今はそんなこと考えてる場合じゃない!)

 

 両手の《火ノ輪》をすぐさま回転させ、構える。

 

「このっ!!」

 

 ボーデヴィッヒへ向けて《火ノ輪》を射出、と同時に加速し二人のもとへ。

 

「ちっ……!」

 

 AICから一夏を解放し、《火ノ輪》を避けるボーデヴィッヒ。《火ノ輪》を避けたことで一夏と少し距離が開く。

 

「はあぁぁぁ!!」

 

 大きく振りかぶった右のアームでボーデヴィッヒに殴りかかる。

 

「くっ!」

 

 既のところで避けたボーデヴィッヒにさらに追い打ちで左のアームで殴りかかる。

 

「甘いな」

 

 あと数十センチで当たると言うところで、まるで透明な手に掴まれたようにアームが動かなくなる。

 

「腕の数が倍でも、何の意味も持たんな」

 

 ニヤリと冷たい笑みを浮かべながら俺に大型カノンの砲門を向ける。

 

「ならもっと増やすまでだ!」

 

 俺の言葉と同時に右のアームがバカッと開き、一本だった右のアームが四つに分裂する。

 

「何っ!?」

 

 その光景にボーデヴィッヒが驚愕する。

 

「おらぁっ!」

 

 四本のうち二本で大型カノンの向きを変え、残りの二本でボーデヴィッヒを殴る。

 

「くっ!」

 

 俺のアームに殴られながらAICを解除し、俺から距離を置く。

 

「悪い。助かった」

 

「どういたしまして」

 

「箒は?」

 

「向こうでダウンしてるよ」

 

 左手で親指を立てて指す。

 

「ここからは作戦第二段階だな」

 

「おうっ!」

 

 俺の言葉に一夏は≪雪片弐型≫を握り直し、俺は左側のアームも分裂させる。

 

「しかし、聞いてはいたけど、実際見るとすごいな」

 

 一夏が俺の背中に視線を向けて言う。

 もともと俺の腕の四倍はありそうな太さだったアームが二本とも四分割し、結果俺の元々の二本の腕と同じ太さの腕が八本増え、計十本の腕となる。増えた八本は長さはそのままなので俺の元々の腕のリーチの倍はある。

 

「全部自由自在か?」

 

「全部自由自在だぜ」

 

 一夏の問いに頷きながらアームを八本とも違う動きをさせる。

 

「二本の時よりパワーは落ちるが、一本一本の動きはより一層スムーズに動かせる。多分こっちの方がボーデヴィッヒ向きだ」

 

「なるほどな」

 

 雑談はしつつも俺たちの集中はボーデヴィッヒから途切れることはない。

 ボーデヴィッヒも俺たちをじっと睨んでいる。

 

「そのアーム。分裂するとはな。少し驚かされた」

 

「お前に対策を立てられないように隠してたからな」

 

 ボーデヴィッヒを睨み返しながら答える。

 

「お前のAICにはこれはちょっと面倒だろ?」

 

「…………」

 

 俺の言葉に、ボーデヴィッヒは無言で、しかし視線はさらに鋭くなる。

 

「さて、篠ノ之は俺が倒したし」

 

「ここからは第二ラウンドだな」

 

 一夏は言葉とともに零落白夜を発動させ、ボーデヴィッヒへと直進する。

 

「触れれば一撃でシールドエネルギーを消し去ると聞いているが……それなら当たらなければいい」

 

 突進してくる一夏に向けてボーデヴィッヒほAICを発動させるが、右へ左へと避け、一向に捕まらない。また、要所要所で《火ノ輪》や両肩の砲撃でボーデヴィッヒの集中を一夏だけに向けさせない。それだけでなく、隙を見て俺も近接で攻撃を仕掛け、俺に意識が向くと一夏が攻撃を仕掛ける。これを繰り返す。

 

「このっ!ちょこまかとっ!」

 

 苛立ちまじりに吠えるボーデヴィッヒ。

 

「そこっ!」

 

 ボーデヴィッヒに向かって八本のうち二本で殴りかかる。

 

「甘い!」

 

 言葉とともに俺の体が不可視の手によって拘束される。アームも八本とも動かない。

 

「どうだっ!腕が何本になろうが私の敵ではない」

 

「確かにすげえ。でも、俺本体に加えてアーム八本も動きを止めさせるなんて相当集中力がいるはずだ。それに、――俺たちは二人組だぞ?」

 

 俺の言葉と共に俺を飛び越えて一夏がボーデヴィッヒに斬りかかる。

 

「くっ!」

 

 俺へのAICを解き、すぐさま離脱。一夏の攻撃はあと数センチというところでボーデヴィッヒにはかすりもしなかった。

 

「悪い。外した」

 

「大丈夫。惜しかった。この調子で行くぞ」

 

「おう!」

 

 俺の言葉に一夏が再度《雪片弐型》を構え直す。が――

 

 キュゥゥゥン………。

 

 そんな音とともに一夏の《雪片弐型》がもとのサイズに戻る。

 

「なっ!?ここにきてエネルギー切れかよ!」

 

「おいっ、ウソだろ!?このタイミングでっ!?」

 

 なんというバッドタイミングだ。ボーデヴィッヒに勝つには一撃必殺が望ましかったってのに。

 

 

「残念だったな」

 

 言葉とともに両手にプラズマ手刀を展開したボーデヴィッヒが一夏の懐に飛び込む。

 

「限界までシールドエネルギーを消耗してはもう戦えまい!後一撃でも入れば私の勝ちだ!」

 

 おそらくボーデヴィッヒの言葉は真実だ。このままだと一夏は一発でも受ければアウトだろう。そうなったら非常にまずい。俺一人でボーデヴィッヒの相手は非常にまずい。

 

「させるかっ!」

 

「邪魔だっ!」

 

 援護に入ろうとした俺だったが、ボーデヴィッヒのワイヤーブレードを使って牽制され、それをなんとか回避しつつなんとか接近する。

 

「こんのっ!!」

 

「無駄だ!!」

 

 接近し、《火人》で斬りつけようとするも、ボーデヴィッヒの方が一瞬早く、回し蹴りが飛んできて俺は数メートルほど弾き飛ばされる。

 

「颯太!」

 

「次は貴様だ!堕ちろっ!」

 

 蹴り飛ばされた俺に意識がいったせいでボーデヴィッヒのプラズマ手刀が一夏を確実にとらえる。

 

「ぐあっ……!」

 

 ダメージを受けた一夏は力が抜けたように床へと落ちる。

 

「は……ははっ! 私の勝ちだ!」

 

 高らかな勝利宣言とともにとどめを刺そうとするボーデヴィッヒ。が、その瞬間彼女の意識から俺は消え失せる。

 

「まだだっ!」

 

 俺はすぐさま姿勢を直し、分解されていたアームを元の太い二本に戻す。

 

「こんのっ!!!」

 

 走り出すと同時に後ろに向けて《火神鳴》の荷電粒子砲を後ろに向けて発射。と、同時に背中のスラスター翼にそのエネルギーを吸収させ、推力へと変換する。今までに感じたことのないGを感じながら、これまでで最速の瞬時加速でボーデヴィッヒに迫る。

 

「っ!!」

 

 ボーデヴィッヒが反応するが、もうすでに遅い。俺は《火人》を構えて急接近する。

 

「はあぁぁぁ!!!!!」

 

 雄叫びと共に横薙ぎの一閃をボーデヴィッヒに向けて放つ刹那、俺は《火人》を空中に置くように手を放す。俺の手から離れてあらぬ方向へ飛んでいく《火人》。

 

「っ!!?」

 

 俺の行動の意味の分からないボーデヴィッヒは驚愕の表情を浮かべる。

 困惑の表情のボーデヴィッヒに向かって俺はボーデヴィッヒの目の前に真っ直ぐ右手を突き出した状態で最接近し、

 

「これは一夏の分!!」

 

 パァン!!!

 

 遅れてやって来た左手を右手に少しずらして叩きつけた。

 

「!!!!」

 

 ボーデヴィッヒがその瞬間一瞬怯む。その隙を見逃さず、俺は右手の甲で高速回転する《火ノ輪》を右手ごとがら空きの腹に叩き込む。

 

「これはセシリアの分!!」

 

「ぐはっ!!」

 

 さらに右手を引くと同時に左手の甲で高速回転する《火ノ輪》を左手ごと腹に叩き込む。

 

「これは鈴の分!!」

 

「ぐううっ!!」

 

 さらにさらに、俺は《火神鳴》を八本に分解し、それぞれの腕で殴って行く。

 

「これもセシリア!!これも鈴!!セシリア!!鈴!!これもこれこもこれもこれもこれも!!!」

 

 徐々に徐々に連打の勢いを増す。

 

「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ――!!」

 

 両手と八本のアームすべてを全身全霊で叩きこむ。俺の連打の勢いでボーデヴィッヒの体が持ち上がる。

 

「アリーヴェデルチ!!!」

 

 最後に一発一番の力を込めた一撃を叩きこむ。

 

「ぐはぁっ!!」

 

 アリーナの端の壁まで吹き飛ぶボーデヴィッヒ。

 さらに追撃として《火ノ輪》を両方放つ。

 

「おらぁっ!!」

 

 ボーデヴィッヒに被弾したのを確認すると同時に再接続させた《火神鳴》をボーデヴィッヒに向ける。

 

「これで、どうだぁぁぁ!!!!」

 

 四つの砲門から最大出力で発射する。四つの閃光がボーデヴィッヒへ向かって行く。

 

 ズドドドドン!!!

 

 《火神鳴》の荷電粒子砲が被弾するとともに爆発が起こる。爆発によって舞い上がった土煙でアリーナの一画が隠れる。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 いっきに疲労が来て、肩で大きく息をしながら両手の甲に《火ノ輪》を戻す。

 

「や、やったった……」

 

 ふと、視線を横にやると先ほどの謎の数値。数字は90/100。先ほどよりも大幅に増えていた。いったい何なんだろうかこれは。

 

「颯太……お前……」

 

 ぼんやりと謎の数値を見ていると、一夏がやって来た。

 

「何?」

 

「……お前、もう何でもありだな」

 

「なんだよそれ?俺のどこが――」

 

 一夏の言葉に首を傾げた俺だったが、そこから先の言葉は

 

「ああああああっ!!!!」

 

 突如アリーナに響いた声によって遮られた。

 そこにいたのは、土煙を晴らし、シュヴァルツェア・レーゲンから激しい電撃を放ちながら雄たけびを上げるラウラ・ボーデヴィッヒの姿だった。




あー、久々の投稿がバトルシーンからって言うのは、なんとも疲れました。
ない文才絞って書き上げました。
しかしあれですね。
ネタ入れすぎましたね。
もう颯太君何でもありですね。
って、作者僕なんで僕のさじ加減ですけどね。


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第31話 井口颯太は動かない。

「ああああああっ!!!!」

 

 アリーナに叫び声がこだまする。

 ラウラ・ボーデヴィッヒを包む漆黒のISがグネグネと、まるで粘土をこね直すように形を変え、主であるボーデヴィッヒを飲み込んでいく。

 俺も一夏もその光景を呆然と見ている。

 ISは本来変形することはない。これは俺たちにとっての常識とも言えることだった。そんな俺たちを嘲笑うかのようにシュヴァルツェア・レーゲンだったものは形を変え、うねうねと、そしてまるで心臓のように脈動しながら地面へと降り立つ。

 そこに立っていたのは先ほどまでと全く様相の変わった一機のIS、黒い全身装甲のISのような何かだった。

 ボディラインはボーデヴィッヒのまま表面化したようなもの。最小限のアーマーが腕と足についている。その頭部はフルフェイスのアーマーに覆われ、目の部分には装甲の下にラインアイ・センサーが赤く光っている。

 そして、その手には唯一の武器が握られていた。

 

「《雪片》……!」

 

 背後から一夏が呟きながら前に歩み出る。参考までに何度か見た織斑先生の試合映像の中で織斑千冬の駆るISに握られていたものと同じものが、その漆黒の何かの手に握られていた。

 

「なんなんだよ、あれは……」

 

 俺の前で一夏が呟くとともに《雪片弐型》を中段に構える。

 

「――!」

 

その瞬間、一夏の懐に黒いISが飛び込んでくる。そのまま必中の間合いからの一閃が一夏へ向けて飛ぶ。

 

「ぐうっ!」

 

 構えた《雪片弐型》が弾かれる。敵ISはそのまま上段に構える。

 

「危ない!」

 

 咄嗟に後ろから一夏を引っ張る。

 一夏の目の前を振り下ろされた一閃が走る。が、完璧に回避とはいかず、残り少なかった白式のシールドエネルギーがかすめただけの一撃で完全に0となる。

白式の展開が解除された一夏をそのまま後方に放り投げるように押しやり、《火人》を構える。

それによって敵ISの標的が俺に移ったらしく、敵の視線がこちらに向く。

 

「やあぁぁぁぁ!!」

 

 叫び声とともに《火人》で斬りかかる。

 

 ガキンッ!

 

 火花を散らしながら俺の斬撃を雪片もどきで受け止める敵IS。

 数秒の鍔迫り合いをしながら、俺は右の《火神鳴》で殴る。が、一瞬早く回避される。

 

「くそっ!今度は荷電粒子砲で――」

 

 《火神鳴》を構え、敵ISへと向いた俺の動きを阻害したのは、突如のアラームだった。

 咄嗟に見ると、視界の横に表示された謎の数値がちょうど100になったところだった。

アラームの音とともに視界に飛び込んできた赤い三角形のマーク。

 

「『CAUTION』、警告って……なんでっ!?」

 

 俺の疑問に答えることなく『火焔』が重みを増す。まるでそれまでされていたISの補助が切られ、補助なしでISを纏っているかのように思い通りに動かない。

 

「な、なんだよ急に!」

 

 俺は焦る。その隙を突くように敵ISが急接近してくる。

 

「――っ!」

 

 咄嗟に体を傾け、《火打羽》で受け止める。が、踏ん張ることもできずに吹き飛ばされる。

 

「くっ!なんなんだいったい!」

 

 重い体を無理矢理に、不器用に動かしながら敵ISから距離を置く。奇しくも吹き飛ばされた先には一夏と篠ノ之がいた。

 

「どうした井口!急に動きが悪くなったぞ!?」

 

「わからない!なんか急にアラームと一緒に『CAUTION』って文字が……」

 

 篠ノ之の言葉に返事を返しながら見える限りで『火焔』を見渡すが異常は発見できない。最後に先ほど見た謎の数値に目を向ける。

 

(あれ……?)

 

 先ほどまで○/100だった数値がなぜか、132/666となっていた。しかも数値は徐々に上昇している。上昇する速度も先ほどよりも早い気がする。

 

(なんなんだこれ――)

 

「………がどうした……」

 

「え?」

 

 俺の思考は横でつぶやかれた一夏の言葉に遮られる。

 

「それがどうしたああっ!」

 

 叫ぶと同時に握りしめたこぶしを振り上げ、生身で敵に向かって行こうとする。

 

「馬鹿者!何をしている!死ぬ気か!?」

 

「離せ!あいつ、ふざけやがって!ぶっ飛ばしてやる!」

 

 篠ノ之に止められながらも漆黒のISに向かって行こうとする一夏。俺もそこまでで思考を止め、動かない『火焔』の展開を解除し、ふたりに歩み寄る。

 

「何やってんだよ、一夏!」

 

「うるさい!箒も颯太も邪魔しないでくれ!邪魔するならお前らも――」

 

「っ!いい加減にしろ!」

 

 言葉とともに篠ノ之が一夏をひっぱたく。

 

「落ち着け一夏!」

 

「篠ノ之の言う通りだ。あのISに何があるかは知らないけど、今のお前に何ができるっていうんだ」

 

「……あれは、あれは千冬姉のデータだ。あれは千冬姉だけのものなんだよ。それに、あんなわけのわからない力に振り回されているラウラのやつも気に入らねえ。とりあえずアイツはぶん殴らないと気が済まない。そのためにはまず正気に戻してからだ」

 

 一夏は真剣な表情で言う。

 

『非常事態発令!トーナメントの全試合は中止!状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに避難すること!繰り返す!』

 

「今の聞いただろ?ほっといてもあいつは教員たちがなんとかする。それでもお前がどうにかするってのか?」

 

「ああ。俺が『やらなきゃいけない』んじゃないんだよ。これは『俺がやりたいからやる』んだ。他の誰かがどうとか、知るか。大体、ここで引いちまったらそれはもう俺じゃねえよ。織斑一夏じゃない」

 

「ええい、馬鹿者が!ならばど――」

 

 一夏に詰め寄る箒を手で制し、俺は一夏に一歩、歩み寄る。

 

「お前……本気なんだな?」

 

「……ああ」

 

 俺の問いに一夏は真剣な表情で頷く。

 

「一夏――歯ぁ喰いしばれ!」

 

 俺は一夏の胸倉を掴んで拳を振りかぶる。

 

「!?」

 

 状況が読み込めず、しかしちゃんと言葉通りに歯を喰いしばって顔を庇うように手を上げる。

 俺はそんな一夏のがら空きのボディに

 

「ふんっ!!」

 

 全力で拳を叩きこむ。

 

「げふっ!」

 

「い、井口っ!?お前何を……」

 

 一夏が苦しげな声を漏らしながら蹲る。それを見た篠ノ之が驚愕する。

 

「篠ノ之は少し黙っててくれ」

 

 篠ノ之を見つめて言った俺は視線を一夏に戻す。

 

「甘ったれた理想抱いてんじゃねえよ。ラノベの主人公にでもなったつもりか?」

 

 俺は一夏を見下ろしながら言う。

 

「何が『やりたいからやる』だ。そういうことは現状をしっかりと理解してから言え。今のお前じゃいくらやりたくてもその手段がないじゃないか。そんな状態で戦いを挑むなんて、お前死ぬぞ」

 

 一夏は俺の言葉にぐうの音も出ないようだ。

 

「理想を抱くのはいい。でも現実感の伴わない理想なんてただの妄想だ。それでもこのまま妄想し続けるのなら、そのまま理想を抱いて溺死しろ」

 

「…………」

 

「もう一度訊くぞ。お前の目の前にある選択肢は二つ。一、このまま生身であいつに挑んで何もできずに死ぬ。二、何もせず教員が解決するのを見守る。……この選択肢しかない今、それでもお前は『やりたいからやる』のか?」

 

「………ああ。それでも、やっぱり俺はあいつのこの現状は許せねえよ」

 

「何度も言うが、今のままでは何もできずに死ぬぞ」

 

「それでも、俺はやりたい。お前らは何もしなくていい。見ていてくれればいい」

 

「ナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナアナア。行けば確実に死ぬ。俺たちにお前が無残に死ぬところを見てろって言うのか?どれだけやりたくても、その手段がないのに、それでもお前はやりたいって言うのか?」

 

「ああ、やりたいんだ」

 

「だから気に入った」

 

 一夏の返事に俺はにやりと笑いながら答える。

 

「お、おい、井口!?一夏を止めるんじゃないのか!?」

 

 俺の返事に篠ノ之が驚いて声をあげる。

 

「『白式』のエネルギーだってないんだぞ。お前だってさっき言ってたじゃないか。あの二つの選択肢でどうするって言うんだ?」

 

「選択肢がないなら新しい選択肢を作ればいい」

 

 俺は二人に見せるように右腕を掲げる。

 

「俺のIS、『火焔』はどういう訳か不調をきたした。でも、これはエネルギーが切れたせいじゃない。つまり――」

 

 俺は二人に向けてニヤリと笑う。

 

「俺のISにはまだエネルギーが残ってる。これを一夏の『白式』に移せばいい」

 

「そんなことできるのか!?」

 

 一夏が訊く。篠ノ之も驚いたように目を見開いている。

 

「普通は無理だ。でも、シャルルのISはできるらしくてな。会社に確認取ったら俺の『火焔』でもできるらしい。必要な時が来るかと思ってシャルルからやり方は習っておいた」

 

「じゃ、じゃあ……」

 

「ああ。俺の『火焔』から一夏の『白式』へエネルギーを移せば、一夏はまだ戦える」

 

「だったらすぐに頼む!」

 

「だけど!」

 

 びしっと一夏を指さして俺は口を開く。

 

「絶対に勝てよ」

 

「ああ、もちろんだ。ここまでお前にやってもらって戦うんだ。負けたら男じゃねぇ!」

 

「へ~……じゃあ負けたら一夏はこれからずっと女装な。制服も私服も水着もその他全部の服を女物にしてもらうからな?」

 

「うっ……!もちろんいいぜ!なにせ負けないからな!」

 

 一夏の言葉に頷きつつ、再度俺は『火焔』を展開する。

 相変わらず体にはずっしりと装甲の重みを感じる。動かそうとする命令にも反応が薄い。いつもならなんともない動きができない

 俺は原因と思われる謎の数値に目を向ける。今の数値は154/666。

 

「颯太?」

 

「あ、ああ。悪い」

 

 数値を見つめてぼんやりしてしまった俺はすぐに視線を一夏に向け、火焔からコードを伸ばし、一夏のガントレットに繋ぐ。

 

「それじゃあ開始するぞ。あ、それと一夏。俺の火焔もそれほどエネルギーがあるわけじゃない。白式は一極限定にするんだ。そうすれば移すエネルギーの量でも零落白夜が使えるはずだ」

 

「おう、わかった」

 

 そう言っている間もコードを伝って火焔のエネルギーが白式に流れていく。

 

「……よしっ!完了だ。これでいけるぞ」

 

 俺が言うと同時に俺の体から火焔が光の粒子となって消える。

 それと同時に一夏の右腕にのみ白式と雪片弐型が展開される。

 

「やっぱり俺の残ったエネルギーじゃそれだけで限界か。……そんな装備で大丈夫か?」

 

「充分さ」

 

「………あ、うん」

 

「???」

 

 俺の言葉に一夏が首を傾げるが、お茶を濁す。

 欲しいセリフはそれじゃなかったんだけどな。

 

「い、一夏っ!」

 

 敵ISに向かって行こうと体を向けた一夏に篠ノ之が声をかける。

 

「死ぬな……。絶対に死ぬな!」

 

「何を心配してるんだよ、バカ」

 

「ばっ、バカとは何だ!私はお前が――」

 

「信じろ」

 

「え?」

 

「俺を信じろよ、箒。心配も祈りも不必要だ。ただ、信じていてくれ。必ず勝って帰ってくる」

 

 そう爽やかなイケメンスマイルとともに篠ノ之に言う一夏。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「あ、ああ!勝ってこい、一夏!」

 

「負けた時は約束守れよ。それが嫌なら絶対に勝て」

 

 篠ノ之は真剣に、俺も一夏にニッと笑いながら言う。

 俺たちの言葉に頷いた一夏はゆっくりと歩を進め、敵ISへと歩み寄って行く。

 それと同時に一夏の腕の中で雪片弐型がその大きさを変える。

 その雪片弐型を腰に添え、居合の構えで黒いISに向かう。

 一夏を認識した黒いISが刀を振り下ろす。が、腰から引き抜いた一夏の一閃で弾く。

 そしてすぐさま上段に構え、一夏は相手を断ち切るように縦に振り下ろす。

 

「ぎ、ぎ……ガ……」

 

 紫電が走り、黒いISが縦に真っ二つに割れる。そこから気絶寸前のラウラ・ボーデヴィッヒが姿を現す。その左目からはいつもの眼帯が外れており、金色の瞳が見える。

 その瞳にはいつもの鋭さはなく、まるで捨てられた子犬のように儚げだった。

 

 倒れ込んでくるラウラを一夏が何かを呟きながら受け止めた。

 俺はその光景を見ながら満足感を感じながら呟く。

 

「これにて一件落着……だな」




………これは夢ですか?
昨日何の気なしにこの小説の情報見たらいつの間にやらお気に入り件数が530こえてましたよ。
試しにランキング見たら25位。
それからもお気に入り件数はどんどん増え、ランキングも最終的に11位。
今やお気に入り件数600ごえ。
もう一度言いましょう。これは夢ですか?

実はここだけの話、お気に入り件数500こえたら番外編を書こうと思ってたんですよ。お気に入り件数500件記念に。
それがどうですか。今や600。
今更投稿しても何記念かわからなくなりますよ。
とりあえず原作二巻の内容終わったら番外編書きます。
一話だけの予定ですし、内容にも全く関係ないこと書くつもりです。


さて、今回の話ですが、僕はこの時の原作での一夏の行動がどうしても腑に落ちなかったんですよね。
なんで死ぬってわかるような状況で、生身で得体のしれないISに立ち向かって行けるの?
そんなわけで今回の颯太君にはそれを全力で止めてもらいました。
まあ敵ISと戦うのは颯太君にはできなかったので、結局一夏に協力する形にはなってしまいましたが。

最近思ったのですが、もしかしてこの作品ってタグに一夏アンチとかって入れた方がいいんですかね?
よく一夏の行動を批判しちゃってますし。
まあそのことは追々考えていきます。


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第32話 ラーメンと風呂と勘違いと……

「――そんなわけで、今回のトーナメントは中止。ただ、今後のための個人データ指標のために一回戦は全部やるそうよ。変更日時や情報は各人に通達らしいけど、あなたたちは試合が終わったから関係ないわね」

 

「なるほどなるほど」

 

 俺は醤油ラーメンをすすりながら師匠の説明に頷く。

 試合後、俺たちを待っていたのは教師陣からの事情聴取だった。ついでに不調の『火焔』を指南コーポレーションへメンテナンスに送ってもらい、事情聴取自体もつい先ほど解放され、食堂にやって来た時には夕食時間ギリギリ。とりあえず晩飯を食べようとしていたところに師匠とシャルル、簪と出会ったので、今回の最終決定を師匠から聞きながらの夕食となったのだ。

 ちなみに俺の事情聴取は少し早めに終わったらしく、一夏たちとは合流できなかった。さっき確認したところ師匠から説明を受けている途中で食堂に入ってきた一夏を見かけたが、セシリアと鈴とともに別のテーブルへ行ってしまった。

 

「大体のことの顛末はこんなものだけど、何かほかに訊いておくことはあるかしら?」

 

「特にないっす。とりあえずは俺や一夏はこれ以降に予定されてた試合はないってことですよね?」

 

「まあ、そういうことね」

 

 師匠が頷く。

 

「てことは、あとはもう他の人の試合を見るしかできないってことですか。………完全に暇じゃないですか。あとの試合って他に知り合いでないですし」

 

「あれ?でも簪さんは?」

 

 俺の言葉にシャルルが首を傾げる。

 

「あれ?言ってなかったっけ?そもそも簪は今回の試合に出てないんだよ」

 

「えっ!?そうなの!?」

 

 俺の言葉にシャルルが簪の方を見る。紙パックのジュースをストローですっていた簪が口を放しながら頷く。

 

「私の専用機……まだできてないから……」

 

「え?でも専用機持ちなのに専用機が完成していないって……」

 

「実は――」

 

 ~~颯太説明中~~

 

「――てなわけだ」

 

「なるほどね。そんなことが……」

 

 俺の説明に納得したようにシャルルが頷く。

 

「で、どうなんだ?進行具合は」

 

 俺は麺をすすりながら訊く。

 

「武装の方は何とか……。ただプログラミングの一部でどうしても上手くいかないところが……」

 

「どうも同じところで上手くいかないのよ。どこかに不備があるんだろうけど、それがどうしてもわからなくてね」

 

 師匠にもお手上げとは、これは本格的に難題なようだ。

 

「まあ整備課の子たちにも応援頼んでやってみるわ」

 

「そうですか……」

 

 何かいい手はないだろうか。例えばプログラミングものすごく詳しい人とか……あっ!

 

「あの人がいた!」

 

「「あの人?」」

 

 師匠とシャルルは声に出して、簪は声に出さずに首を傾げる。

 

「指南コーポレーションの開発部の人です。『火焔』のプログラミングもほぼ一人でやったそうですよ」

 

「それは……すごいね」

 

「颯太君のISって相当複雑なんじゃないの?」

 

「俺はその辺のことはよくわかんないけど、一度作業してるところは見たことはありますよ。なんていうか……〝すごい!〟の一言ですよ」

 

 あの指の動きはまじぱない。

 

「まあ会えばどのくらいすごいかわかりますよ。一応その人に頼んでおきます」

 

「お願い……できる?」

 

「おう。任せろ」

 

 簪の言葉に笑顔で頷く俺。

 

「あっ、指南コーポレーションといえば」

 

 と、そこで師匠が口を開く。

 

「今日の試合にも来ていたのね、指南社長たち。避難誘導の時に軽く話したわ」

 

「はい、そう聞いてます……って、〝たち〟?」

 

 師匠の言葉に俺は口へと運んでいたラーメンを口の前で止める。

 

「ええ。噂の女社長さんの他にふたりいたわよ」

 

「へ~、誰だったんだろう?」

 

 師匠が社長以外の名前を言わないってことは、貴生川さんはいなかったのだろう。

 

「社長さんの他にいたのは、一人は黒髪で小柄な女性だったわよ。なんだか眠そうな半眼の人だったわ」

 

「あ、野火さんか」

 

 野火さんこと野火麻里絵さんは指南社長の秘書をしている人だ。なんでも指南社長とは高校の時からの友人だそうだ。口数の少ないマイペースな人だが気配りのできる有能な人だ。ときどき無表情で人をからかったりするが……。

 

「あともう一人は白衣着た赤毛の女性だったわ」

 

「白衣で……赤毛?」

 

 どうしよう、一人しか思い浮かぶ人いないけど、一番ありえない気がする。

 

「その赤毛の人は他に何か特徴はなかったですか?」

 

「ん~、そうね~……あっ!そうそう。なんだか挙動不審な人だったわ」

 

「……アキラさんですね」

 

 今ので確信した。間違いなくアキラさんだ。

 

「珍しいな。アキラさんは絶対にこういう場には来ないと思ってました」

 

「どんな人なの?」

 

 師匠が訊く。

 

「さっき言ってた人ですよ。連坊小路アキラさん、俺の専用機をプログラミングした人です」

 

「あっ。あの人だったんだ」

 

「ええ。でも、いつもだいたい研究室か会社内からできるだけ出たがらない人なんですよ。だから珍しくて。そっかそっか、アキラさんが……」

 

 初めて会った時もできるだけ俺に目を合わさないように、きょどりながらの対面だったな。ここだけの話、あの人は軽く対人恐怖症なんだそうだ。

 そこまで話したところで何かの放送がかかる。詳しく聞いたところ、先ほどの師匠の説明と同じ内容だった。

 俺はもうすでに聞いていたので特に衝撃はなかったが、なぜか周りでは女子たちがざわついていた。

 

「……優勝……チャンス……消え……」

 

「交際……無効……」

 

「……うわああああんっ!」

 

 バタバタバターっと数十名が泣きながら走り去っていった。

 

「なんなんだろう?」

 

「さぁ……」

 

 俺とシャルルが首を傾げり中、師匠と簪は苦笑いだった。どうやら何か知っているらしいがあの様子では教えてくれないだろう。

 そうやって騒ぎながら去って行く女子の中に呆然と立っている人物がいた。篠ノ之箒氏だった。心なしか口から魂が抜け出てる気がする。

 

「何やってんだ、篠ノ之は?」

 

「さぁ……あっ。一夏だ」

 

 シャルルの言葉に目線を動かすと、篠ノ之に向かって歩いて行く一夏の姿があった。

 

「そういえば箒。先月の約束だが――」

 

「ぴくっ」

 

 ふたりの会話に耳を傾けていると、一夏の言葉に篠ノ之が反応する。

 

「付き合ってもいいぞ」

 

「――。――――、なに?」

 

 ――なに?

 

「だから、付き合ってもいいって……おわっ!?」

 

 突然バネ仕掛けのように大きく動き、身長差のある一夏を篠ノ之は締め上げる。ぶっちゃけ俺もすぐさま飛んで行って追求したい。

 

「ほ、ほ、本当、か?本当に、本当に、本当なのだな!?」

 

「お、おう」

 

「な、なぜだ?り、理由を聞こうではないか……」

 

 パッと一夏を離し、腕組しながら咳払いをする篠ノ之。俺も聞きたいです。

 

「そりゃ幼なじみの頼みだからな。付き合うさ」

 

「そ、そうか!」

 

「買い物くらい」

 

「………………」

 

 ………絶対違う!話の前段階を知らない俺でも断言できる。これは絶対に買い物じゃない!それを物語るように篠ノ之の顔から表情が消える。

 

「………だろうと……」

 

「お、おう?」

 

「そんな事だろうと思ったわ!」

 

 どげしっ!!!

 

「ぐはぁっ!」

 

 腰のひねりを加えた正拳が一夏の腹に叩き込まれる。

 

「ふん!」

 

 追い打ちの蹴りが一夏を襲い、箒のつま先が一夏のみぞおちに刺さる。

 

「ぐ、ぐ、ぐっ……」

 

 ずかずかと去って行く篠ノ之を視線ですら追うことのできない一夏。相当のダメージなようでその場に崩れ落ちる。

 

「一夏って、わざとやってるんじゃないかって思う時があるよね」

 

「わざとだったらいつか刺されるな。むしろ俺が刺す。夜道には気を付けろよ一夏」

 

「お、お前ら見てたのか……てか、シャルルは帰ってたんだな」

 

「うん。ただいま~」

 

 蹲る一夏にシャルルは笑顔で手を振る。

 

「あ、織斑君に井口君、デュノア君。ここにいましたか。さっきはお疲れ様でした」

 

 そこへ、山田先生がやって来た。

 

「山田先生こそ。ずっと手記で疲れなかったですか?」

 

「いえいえ、私は昔からああいった地味な活動が得意なんです。心配には及びませんよ。何せ先生ですから」

 

 そう言ってえへんと胸を張る山田先生の動きに合わせて山田先生の胸が躍る。俺は目のやり場に困って視線を逸らす。

 

「颯太のエッチ」

 

「ちょっと待て。一夏も目逸らしただろ」

 

「ふん」

 

 ぼそっとシャルルの口ら呟かれた言葉に俺は小声で反論するが、なぜか不機嫌なシャルルさん。なんで?

 

「?どうかしましたか?」

 

「いいえ、なんでもありません」

 

「そうですか。それよりも、朗報です!」

 

 グッと山田先生が両手拳を握りしめてガッツポーズ。それによってまたもやダンシングバスト。……もう何も言うまい。

 

「なんとですね!ついについに今日から男子の大浴場使用が解禁です!」

 

「おお!そうなんですか!?てっきりもう来月からになるものとばかり」

 

「それがですねー。今日はボイラー点検があったので、もともと生徒たちが使えない日なんです。でも点検自体はもう終わったので、それなら男子の三人に使ってもらおうって計らいなんですよー」

 

「ありがとうございます、山田先生!」

 

 山田先生の手を取って喜ぶ一夏を尻目に、俺もシャルルも完全には喜びずらかった。だって……シャルルどうするんだよ。

 

 

 ○

 

 

 妥協案。俺たちが早めに上がって、シャルルに後から入ってもらうことに決定。なおかつ長湯が予想される何も知らない一夏をどうにかして早めに上がらせるというミッション付。

 デッデッデッデッ♪デーデンッ♪デッデッデッデッ♪デーデンッ♪(ミッ○ョンイン○ッシブルのテーマ)

 

 

「ふううぅぅぅ~~~……」

 

 一夏の間の抜けた声が風呂場に響き渡る。その響き具合はこだまが聞こえるほどだ。広すぎだろ。サウナもあるし、そっちも広いし。地元の銭湯の方がもっとこじんまりしてたぞ。

 ちなみに現在一夏は湯船。俺はシャワーを浴びながら体を洗っている。

 

「シャルルも一緒に来ればよかったのにな~」

 

「実家に帰ったことについての報告しなきゃいけなかったんだからしょうがないだろ」

 

 ということにしてある。

 

「よし!体洗い終わったし、湯船にドボーン!」

 

 と言いつつもちゃんと飛び込まずに湯船に入りましたよ?

 

「はああぁぁぁ~~~……」

 

 一夏同様間の抜けた声が出る。

 

「こう……いろいろとどうでもよくなる気持ちの良さだな~」

 

「なあ~」

 

 俺の間延びした言葉に一夏も間延びして答える。

 

「そう言えば、シャルルは実家に何しに帰ってたんだろうな~」

 

「……そうだな~。でも、どうでもいいじゃないか~、そんなことは~」

 

「そうだな~」

 

 説得力のかけらもない俺の言葉に一夏は頷く。ナイスだ風呂。

 風呂のへりにうつ伏せになってぷかーっと浮かぶ。あ~、このたゆたう感じ好き。

 

「あ~、このまま寝てしまいたい」

 

「激しく同意~」

 

 一夏の言葉にぼんやりと頷く。

 

「はああぁぁぁ~~~……あぁぁぁ!!!」

 

 間延びした声が漏れる中、そこから急に一夏の声が絶叫に変わる。

 

「どうした~?」

 

「千冬姉に後で来いって言われてたのすっかり忘れてた!」

 

「別にどうでもいいじゃないかそんなこと~」

 

「……そうだな。どうでもいいか――ってならないから!」

 

 俺の罠に引っかからなかった一夏。

 

「悪いけど先上がる!」

 

「おお~。織斑先生によろしく~」

 

 慌ただしく出て行く一夏に手を振りながら俺はぼんやりと目を閉じる。

 

(あ~、マジでこのまま寝られそう)

 

 カラカラカラ……。

 

(ん?誰かはいってきた?あ、一夏が忘れ物でもしたかな?……いや、それはないか。アイツが持って入ったものなんてタオルくらいなものだし、そのタオルもちゃんと持ってあがってたし)

 

 ぴたぴたぴた。

 

 そう思考する間にも入ってきた謎の人物は徐々にこちらに近づいてくる。

 

「お、お邪魔します……」

 

「……!?」

 

 その声とともに俺は目を開けると、目の前にはなぜかシャルルがいた。全裸で。いや、全裸だと誤解が生じる。ちゃんとタオルは装備している。

 

「って、シャルルっ!?」

 

「……あ、あんまり見ないで。颯太のえっち……」

 

「はい!すいません!」

 

 なぜか謝りながら回れ右する俺。

 

「どっ、どっ、どぅおしたっ!あれか!?一夏が上がって勘違いしちゃったか!?悪いけど俺まだ上がってなかったんだ!今すぐ上がるから待ってくれ!だから訴訟だけは!訴訟だけは何卒!」

 

「ま、待って!落ち着いて!訴訟とかもないから!ちょっと二人っきりで話したいことがあったの!……それとも、僕とじゃイヤ……?」

 

「そんなことないです!」

 

 つい元気よく言ってしまった。

 

「じゃ、じゃあいいかな?大事なことだから、颯太に聞いてほしいんだ……」

 

「お、おう」

 

 そんなふうに言われたら頷くしかない。俺はシャルルを背にしたまま聞くことにした。

 シャルルはシャルルで湯船に入り、俺のすぐ後ろで背中合わせになる。

 

「その……実家のことなんだけどね……」

 

「お、おう」

 

「昨日無事に解決したんだ」

 

 そこでシャルルは言葉を区切る。

 

「颯太のおかげで、僕はここに残れることになったんだ…女の子として」

 

「そっか……よかったな」

 

「うん。全部颯太のおかげだよ」

 

 シャルルの言葉に少し考え、口を開く。

 

「……俺のしたことなんて些細なことだぞ。結局最後は指南の人に丸投げしたし」

 

 俺がしたことなんてブラフとハッタリだけで電話しただけだ。

 

「そんなことない。颯太にはたくさん助けてもらったよ。颯太が僕に選択させてくれたんだよ。颯太が一歩踏み出す勇気をくれたんだよ。僕は…たくさん颯太に感謝してるんだから」

 

「そ、そうか」

 

「僕がここにいるって決められたのも、僕が残れるようになったのも……」

 

「…………………ん?」

 

 あれ?なんで黙るんですかシャルルさん?

 

「しゃ、シャル――」

 

 急に黙ったシャルルに声をかけようとしたところで背中に手を置かれ、そのまま抱きしめられる。背中に華奢な、しかし柔らかい感触が密着して、心臓が痛いほど、それこそ口から飛び出そうなほど早鐘をうつ。

 てか、おぱっ!おぱっ!おぱっ!おぱぱっ!あたっ!あたっ!背中に当たって!俺の脳内がピンク色に!!

 

「ふんっ!!」

 

 バチン!

 

「な、なんで自分で殴ったの?」

 

「気にするな」

 

「鼻血出てるけど……」

 

「……気にするな」

 

 はたしてこの鼻血は……いやこれ以上は考えまい。

 

「………颯太がいてくれたから、颯太が相談にのってくれたから、僕はここにいたいって思えた。ここに残れるようになったんだよ。これは……まぎれもなく颯太のおかげなんだ。だから、颯太のしたことは些細な事なんかじゃないんだよ」

 

 そう言って抱きしめる手に力を込めるシャルル。

 

「お、おう。そう……か」

 

 なんとか返事するが、正直もう無理。限界。いっぱいいっぱいアウトです。なんか頭も痛くなってきた気がする。てか痛い。なんか目もまわってきた。

 

「ねえ。これからは、僕と二人きりの時は、シャルロットって呼んでくれる……?」

 

「シャル…ロット?」

 

「そう、僕の名前。お母さんがくれた、本当の名前」

 

「そ、そうか。じゃあ――シャルロット」

 

「ん」

 

 嬉しそうなシャルロットの返事が耳元で聞こえた。

 

「えっと、それでだな、シャルロットさん」

 

 俺は咳払いとともに口を開く。

 

「俺としてはいろいろとやばいので、そろそろ離れていただけると……」

 

「あっ!う、うん!そうだね!ぼ、僕、髪と体洗っちゃうから!」

 

 そう言いながら俺の背からシャルロットが離れる。それによって俺の背中に押し付けられていた柔らかな感触も去って行く。………これを残念に思うのはいけないことでしょーーか~~~~~!?いけなくないと思います先生!

 

「お、おう!じゃあ俺は上がるから!」

 

 そう言ってシャルロットが向かった方とは別のシャワーで水を浴び、のぼせあがった頭を冷やし、そそくさと着替えたのであった。

 

 

 ○

 

 

 翌日。教室にはもうすぐ始業時間だというのにシャルロットの姿はなかった。

 朝はいつもと同じく同じ部屋で起きたのに、『先に行ってて』といわれ、俺は一夏と登校した。

 他にも関係あるかどうかはわからないがボーデヴィッヒの姿もなかった。まあこっちは昨日の負傷と事情聴取あたりだろうが。

 

「み、みなさん、おはようございます……」

 

 なぜかものすごく元気のない山田先生がやって来た。漫画で言えばどんよりとした縦線が何本も顔に出ているだろう。顔文字で言えばこんな→ (´c_,`lll)。

 

「今日は、ですね……みなさんに転校生を紹介します。けど紹介は既に済んでいるといいますか。ええと……」

 

 山田先生の言葉にクラスがざわつく。そりゃそうだ。要領を得ない説明だもんな。でも俺は今の言葉でなんとなーく状況を理解した。そしてこれから阿鼻叫喚で無法地帯になるであろうことに不安を感じていた。……逃げる準備だけはしておくべきだろう。

 

「じゃあ、入ってください」

 

「失礼します」

 

 山田先生の言葉に聞き覚えのある声が返事をする。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 ぺこりとスカート姿のシャルロットが礼をする。

 

「ええと、デュノア君は本当はデュノアさんでした。ということです。……はぁぁ……また寮の部屋割りを組み立て直す作業がはじまります」

 

 山田先生……心中お察しします。さて、逃げるか。

 コマンド入力、逃げるヲ選択。

 

「おい、どこへ行く。授業中だ、席に着け」

 

 バシンッ!

 

 颯太は織斑先生の出席簿アタックを受け、強制的に席へ。颯太は逃げられなかった。

 はい、詰んだ!

 

「え?デュノア君って女?」

 

「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったわけね」

 

「って、井口君、同じ部屋だったから知らないってことは――」

 

「ちょっと待って!昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」

 

 バシーンッ!

 

「一夏ぁっ!!!」

 

 突然教室のドアを蹴破って鈴が登場した。

 

「待て待て!俺もシャルルのことは知らなかったんだ!」

 

「問答無用!!」

 

 ISを展開し、それと同時に衝撃砲が…って

 

「これ俺も危ないじゃん!」

 

 『火焔』を展開しようにもメンテに出したまま。……辞世の句何にしよう。

 

 ズドドドドオンッ!

 

「ふーっ、ふーっ、ふーっ!」

 

 発射後、怒りのせいで肩で息する鈴。まあ怒りも何もこのことに関しては誤解なんだけどね。

 ………って、あれ?生きてる?

 

「俺、生きてる!」

 

「………………」

 

 間一髪一夏(ついでに俺)を助けた人物はなんとボーデヴィッヒだった。

 その体は漆黒のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏っている。おそらく衝撃砲をAICで相殺したのだろう。しかしよく見ると以前のままではないようだ。あの大型レールカノンがない。

 

「助かったぜ、サンキュ――むぐっ!?」

 

「…………は?」

 

 助けられた礼を言おうとした一夏、が、その言葉は途中で遮られた。ラウラ・ボーデヴィッヒの唇によって。ようするに、織斑一夏はラウラ・ボーデヴィッヒにキスをされていた。

 突然のことに俺を含むクラスメイト達はおろか本人すら理解に及んでいない。

 

「お、お前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」

 

「……嫁?婿じゃなくて?」

 

「え?そこ?」

 

 一夏の冷静なつっこみに、つい俺もつっこんでしまう。

 

「日本では気に入った相手を『嫁にする』と言うのが一般的な習わしだと聞いた。故に、お前を私の嫁にする」

 

 ……どうしよう。間違った文化を学んでしまってるぞこのドイツ人。誰だよこいつにそんなこと教えたの。

 

 

 結果、その日のホームルームは俺とシャルロットを除く専用機持ち女子たちと日本刀を携えた篠ノ之によって轟音爆音斬撃飛び交う阿鼻叫喚地獄絵図なホームルームとなった。

 




気付けばいつの間にやらお気に入り件数が800ごえ。
次回は番外編だよ!
お気に入り件数500ごえとか(もはや800ごえ記念)、ランキング六位入りとかいろいろこめて書きます。
お楽しみに~。


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お気に入り件数800&ランキング6位記念番外編① ゲームスタート

ごめんなさい。
一話で終わらせるつもりだったのにネタ入れまくったら長くなりました。
二話に分けます。


 グラァァァァ!!

 

 俺たちの目の前で地を這う黒い一匹の大型龍、ジンレイウスが雄叫びを上げる。

 

「よし!弱ってきた!後は弱点のしっぽ切り落としてとどめと行こうか!」

 

「「おお!!」」

 

 俺の言葉に俺の仲間二人も返事をしながらそれぞれの武器を構える。

 

「行くよっ!」

 

 そう言いながらブロンドに黒のテンガロンハットをかぶった女性、シャーリーが手に持った大型の弓を空へと向ける。

 

「くらえっ!」

 

 言葉とともに引き絞られた弓が放たれ、数十本の矢が上空からジンレイウスへと降り注ぐ。

 

 グギャァァァァ!

 

 苦しげな雄叫びとともにジンレイウスのヘイトがシャーリーへと向く。

 

「今だっ、かんちゃん!」

 

「任せて!」

 

 シャーリーの言葉に返事したのは紺のローブに紺のとんがり帽子をかぶった眼鏡の女性、かんちゃん。

 かんちゃんはジンレイウスの背後に陣取り、手に握った杖を構える。

 

「ギガブレイザード!」

 

 かんちゃんの詠唱により杖の先が光る。その光はすぐさま大きくなり巨大な氷の塊となる。

 

「行きます!」

 

 言葉とともにかんちゃんが杖を振ると、それに呼応するように氷の塊がジンレイウスの尾へと向かう。

 

 グギャァァァァ!!!

 

 今までにないほどの雄叫びとともにジンレイウスの尾が吹き飛ぶ。

 

「よしっ!切り落とした!」

 

「今だよ、ハヤテ!」

 

「おう!」

 

 ふたりの言葉に頷きながら俺は手に握った真紅な長槍、ゲイ・ボルグを構える。

 

「これでとどめだ!」

 

 俺は現在のジンレイウスから十分距離のある位置から持てる俊敏性の最大限を発揮してジンレイウスへと向かって駆けて行き、目の前で大きく跳躍する。

 

「くらえ!!」

 

 俺は言葉とともにゲイ・ボルグをジンレイウスに向けて投擲。ゲイ・ボルグはまるで血のような真紅の輝きとともに一直線にジンレイウスの背中へと飛んでいき、そのままジンレイウスの背中を貫通し、その下の地面に突き刺さる。

 

 グギャァァァァァァァァ!!!!

 

 これまでで一番大きな雄叫びを上げ、ジンレイウスは地面に倒れ伏す。その衝撃に地面が揺れた。

 

「……やった。ランク5の黒龍ジンレイウスを三人で……」

 

「「「や、やった~~~~~~!!」」」

 

 俺たち三人は声を合わせてその場で大きくガッツポーズした。と――

 

『お前たち……いったい何をそんなに喜んでいるのだ?』

 

 そんな俺たちの喜びに水を差す声が聞こえた。

 

「「「へ?」」」

 

 

 

 ○

 

 

 

「お前たち……いったい何をそんなに喜んでいるのだ?」

 

「「「へ?」」」

 

 俺たち三人はそろって首を傾げながらパソコンの画面から顔を上げる。

 そこには不思議そうな顔で俺たちを見る五人の人物たちがいた。

 一夏、篠ノ之、セシリア、鈴、ボーデヴィッヒである。

 先ほどの言葉は先頭にいる篠ノ之のものらしい。

 

「お前ら何してんだ?ここ俺の部屋だぞ?」

 

 ついさっきまでいなかったはずの珍客五人の存在に俺は首を傾げるばかりだ。

 

「お前たちこそ何をやっているのだ?そんなに興奮した様子でパソコンの画面を食い入るように見て」

 

「何って……ゲーム……」

 

 篠ノ之の質問にかんちゃんこと簪が答える。

 

「三人でパソコンのオンラインゲームで遊んでたんだよ」

 

 と、シャーリーことシャルロットも答える。

 

「それで?お前ら五人はそんな大所帯で何してんだ?」

 

「俺らはあれだよ。休日に寮にいてもヒマだからみんなで何かしようってことで」

 

「どうせならアンタたち三人も誘おうと思って呼びに来たのよ」

 

「でも、簪さんもシャルロットさんも部屋を訪ねてもいなかったので最後に颯太さんを訪ねてみたら、部屋にいるはずなのに返答がなくて」

 

「おかしいと思って試しにドアノブを握ったら開いていたので入ってみたら、こちらに気付いた様子もなく何やらやっているお前たちがいたというわけだ」

 

「なるほどなるほど」

 

 まるでリレーのように行われた説明に納得しつつ俺は頷く。

 

「それとついでに、颯太さん。これ、お返ししますわ」

 

「ん?」

 

 と、セシリアが何かを差し出してきたのでそれを受け取る。

 

「お借りしていたDVDBOXですわ」

 

「あ~、はいはい、あれね。どうだった?面白かったか?」

 

「ええ!とても!」

 

 セシリアは興奮したように、そしてとても楽しそうに頷く。

 

「祖国へ復讐するために、そして妹を守るために大国へと反逆の狼煙を上げる主人公。その姿は他の作品とは逆、悪役側のアンチヒーローであり、その敵役となるのは『正しい力でもって中から国を変えたい』と模索する主人公の親友。お互いの思いのぶつかり合いが単純な正義と悪の話ではなくて、しかも、ロボットものでありながら政治的であり、かつ学園モノの要素も含んでおりとても楽しめましたわ!」

 

「おお!語るね~」

 

 セシリアにオタク教育を施してはや2ヶ月以上。まさかここまで染まるとは、正直颯太さんビックリですよ。

 

「また何か貸してくださいね」

 

「おう。考えておくよ」

 

 セシリアに頷きつつ、俺は他の四人にも視線を向ける。

 

「それで?ヒマって言うけどこの八人で何するんだ?」

 

「そういや、その辺何も考えてなかったな」

 

「うむ。全員で考えようということになっていたからな」

 

「あらら。それじゃあ今のところ全員で集まっただけというわけだ」

 

「ん~、まあそういうことだな」

 

 俺の言葉に一夏が苦笑いを浮かべる。

 

「なんかないの?颯太ってそういう大人数でできる娯楽って知ってそうだけど?」

 

「ん~………」

 

 鈴の言葉に俺は考え込みながら本棚に目を向ける。そこには本や漫画の他にDVDやゲームソフトなんかも入っているが――

 

「DVDはたいていアニメのだから好き嫌いによって楽しめないやつも出てくるだろうし……ゲームソフトも俺の持ってるのはたいてい複数プレイのやつも一対一だしな…………ん?」

 

 と、考え込みながら視線を動かしてくと、一か所で俺の視線が止まる。

 それは先ほどまで俺たち三人がやっていたゲームの画面だった。

 

「あっ、そうだ!これがあった!」

 

 

 

 ○

 

 

 

「――というわけで全員準備できたな?」

 

 俺は大きな丸机を囲むように座った七人に視線を向ける。全員が頷く。

 あれから、俺、簪、シャルロットがプレイしていたゲーム、「モンスタークエスト」を全員でプレイしようと提案し、全員が了承。そこから、この大人数で一つの部屋に籠ってパソコンゲームをやるのは狭っ苦しいということで食堂へと移動してきたのだ。

ちなみにこのIS学園、申請さえすれば一人に一台ノートパソコンが支給される。なんて素晴らしい学校だよ。これによって、パソコンを持っていない組な一夏と篠ノ之もゲームをすることができる。

 

「操作方法はさっき説明した通り。まずはこれからこのゲーム初の人はアカウントを作るところから始める。まあ言っても第一段階としては性別とキャラクターネーム入力するだけだから」

 

 俺の言葉に頷き、一夏、篠ノ之、セシリア、鈴、ボーデヴィッヒが頷きながらキーボードを叩く。

 

「できたぞ!」

 

 一番に声をあげたのは篠ノ之だった。

 

「お?一応不備がないか見ておこうか?」

 

「うむ」

 

「どれどれ……は?」

 

 篠ノ之のパソコンの画面を覗き込んだ俺は、唖然とする。

 

「……おい篠ノ之」

 

「ん?なんだ?」

 

「やりなおし」

 

「何っ!?なぜだ!」

 

「当たり前だろ!どこの世界にプレイヤーネームを本名の名字込みでフルネームにするやつがいるだよ!」

 

「だ、ダメなのか!?」

 

「ダメに決まってんだろ!リアル割れするわ!」

 

「じゃあどんな名前にしろと言うのだ!そんなものすぐには思いつかんぞ!」

 

「じゃあ………これでどうだ?」

 

 俺は篠ノ之のパソコンを操作し、ネーム欄の『篠ノ之箒』の文字を消し、『もっぴー』と入力する。

 

「ん~、どこか悪意を感じる気がしないでもないが……面倒だからこれでいい」

 

「そうかい」

 

 篠ノ之が納得したので篠ノ之にパソコンを返す。

 

「――あれ?」

 

 と、今度は途中まで作業していた一夏が首を傾げる。

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「プレイヤーネームを入力してたらこんなものが」

 

 見ると画面には『このプレイヤーネームはもう既に使用されています』の文字が。

 

「あ~、このゲーム人気あるから結構プレイしてる人いるんだよ。その中の誰かと被ったんだな」

 

「そっか。どうしようかな」

 

「別のにするか、少し細部を変えると使えたりするぞ。なんて名前にしようとしたんだ?」

 

「ブリュンヒルデ」

 

「………このシスコンが」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「いやなんでも。とりあえず他の考えたら?」

 

「おう。そうするわ」

 

 

 

 

 とかとか、そんな一幕がありつつアカウント作成はつつがなく終了し、全員のキャラネームが決まった。俺やシャルロット、簪も含め、以下のとおりである。

 

 一夏→『ワンサマー』

 篠ノ之→『もっぴー』

 セシリア→『ティア』

 鈴→『スズネ』

 ラウラ→『くろうさぎ』

 シャルロット→『シャーリー』

 簪→『かんちゃん』

 俺(颯太)→『ハヤテ』

 

 と、いうことになった。

 これでまずはアカウントは出来上がった。次はジョブの決定だ。

 このゲームの面白いところはジョブを決めるのにプレイヤーに五十の選択問題を出し、その結果からその人物に一番合った下位職を決定する。

下位職は全部で五つ。『戦士』『格闘家』『僧侶』『魔法使い』『盗賊』の五つだ。この初期職業から転職するにはそれぞれの職を育て、初期職業の上位職が解放されると他の下位職に転職できるようになる。

また、下位職には後で解放される六つ目がある。性別職だ。育てられるスキルには筋力、俊敏性、各種武器スキル、職業スキルの他に男性プレイヤーには勇気スキル、女性には魅力スキルが存在する。それらのスキルを育てることで男性は『遊び人』、女性は『踊り子』の職が解放される。また、これらの性別職は上位職がない職業だ。

さらに、下位職六つとそこから解放されたそれぞれの上位職五つを完璧に育て上げると最高職が解放されるが、これは後々説明するということで打ち切った。

そんな説明をしつつ五人は質問選択を終わらせる。

最初のジョブが決まった。俺たち三人のジョブも合わせると

 

 一夏→『戦士』

 篠ノ之→『戦士』

 セシリア→『魔法使い』

 鈴→『格闘家』

 ボーデヴィッヒ→『盗賊』

 シャルロット→『僧侶』の上位職『ハンター』

 簪→『魔法使い』の上位職『賢者』

 俺(颯太)→『僧侶』の上位職『ランサー』

 

 と、なった。

 その後はキャラクターメイクで自分のキャラの顔を設定する。

 体系は先の五十の質問とジョブによってランダムに変わる。体系の結果で言えばみな現実の自分の似たような体形になっていた。ひんぬーになった鈴が少し不満げだったが、女子はまだいい方だと思う。男の格闘家なんてガチムチの筋肉ダルマにしかならんのに。

 キャラクターメイクもつつがなく済む。結果顔もなんだかんだ全員リアルの顔にそっくりなキャラになった。

 

 

 ○

 

 

 

「全員準備できたな」

 

 俺が見渡すと全員が頷く。

 

「それじゃあ――ゲームスタートだ!」

 

 

 

 ○

 

 

 そこは誰もがファンタジー世界の人の住む町と言われて思い浮かべるような風景だった。

 煉瓦の建物や灰色の石畳。町の中央には大きな某夢の国にあるような真っ白な大きな城。

 その町の一画、白い建物から五人の人物が出てくるのを俺たち三人は待ち構えていた。

 

「よお、お待たせ」

 

 先頭の片手剣を背負った戦士の男性プレイヤー、ワンサマーが言う。

 

「それじゃあ、さっそく行くか。まずは装備を整えるのとレベルアップ、このゲームのことを知ることも兼ねてこの町の周辺を探索するか。ここは始まりの街だからその周辺はそこまで高レベルのモンスターも出ないし」

 

「おう、任せるぜ」

 

 一夏が言い、他の四人も頷く。

 

「じゃあ、行くか!」

 

『お~!!』

 

 

 

 ○

 

 

 

「そっち行ったぞ!もっぴー!くろうさぎ!」

 

「おお!」

 

「任せろ!」

 

 俺の言葉にもっぴーとくろうさぎが返事をしながらイノシシのようなモンスターに接近する。そのままもっぴーが構えた刀で一閃を加え、くろうさぎが短剣で突き刺し、上へと斬り上げる。

 

「今だ、ティア!」

 

「お任せを!」

 

 俺の言葉にティアが杖を構える。

 

「行きますわ!『ファイヤーアチャー』!」

 

 ティアの言葉とともに杖の先に魔法陣が発生。炎が放出され、イノシシを焼く。

 

 ピギィィィィィ!

 

 イノシシは断末魔の雄叫びを上げ、倒れる。

 

「よし、うまくいったな!」

 

「うむ。なかなかだったな」

 

「楽勝ですわね」

 

 三人は嬉しげに笑う。ちなみにゲーム中は気分を出すためにプレイヤーネームで呼び合うことになっている。と――

 

 テテーテッテッテー♪

 

 レベルアップを知らせる軽快な音楽が響く。

 

「あら?私レベルアップしましたわ」

 

 レベルアップしたのはティアだった。ゲームが始まってまだ一時間ほどだが順調に皆レベルアップしていく。

 

「レベルアップのスキルポイントは何に?」

 

「ん~、魔法を中心に俊敏性と魅力ですわ」

 

 そう言いながらティアが操作する。

 

テレレレッ♪

 

『ティアの〝魔法スキル〟が一定値を超えました。新魔法、「コールドツメチャー」を覚えた』

 

「新しい魔法を覚えましたわ!」

 

「おお!おめでとう!」

 

「うむ。よかったな」

 

 このように俺たちは初心者組に付き添って経験値稼ぎや装備新調のためのお金を稼いでいる。大人数でやると効率が悪いので4:4に分かれてパーティーを組んでやっている。ワンサマーとスズネにはシャーリーとかんちゃんが着いている。

 

「そろそろお金も大分溜まっただろうし町に戻るか」

 

「そうだな」

 

「そろそろ装備も新調したいと思っていたところだ」

 

「他の皆さんとも合流しましょうか」

 

「そうすっか」

 

 と、いう訳で俺たちは他四人と合流すべく移動を開始した。リアルでは顔を合わせてゲームしているのでメッセージを飛ばす手間もないのですぐに意思疎通ができる。

 移動中に二匹のイノシシと遭遇したが俺が手を出さなくても三人で倒してしまった。それによりくろうさぎもレベルアップする。

 

「おいっす、調子はどうだ?」

 

「あ、ハヤテ」

 

 他四人に合流すると、ワンサマーとスズネのみがイノシシと戦い、シャーリーとかんちゃんがそれを見守っていた。

 

「うまくやってるよ。ふたりとも近接だから危なくなったら二人とも遠距離な僕たちが支援してるしね」

 

 と、シャーリーが言ったところで二人がイノシシを倒す。

 

 テテーテッテッテー♪

 

 それによりレベルアップしたようだ。

 

「お!レベルアップだ!」

 

「あたしも!」

 

 どうやらふたり同時だったようだ。

 

「ようワンサマー、スズネ」

「おう、ハヤテ」

 

「調子はどうだ?」

 

「順調、順調♪」

 

 俺の言葉にスズネが嬉しそうに言う。

 

「今のレベルアップボーナスのスキルポイント振り分けたらどうだ?」

 

「おう」

 

「そうするわ」

 

 と、ふたりが操作していく。

 

テレレレッ♪

 

『ワンサマーの〝片手剣スキル〟が一定値を超えました。ワンサマーは「イグナイトパリング」を覚えた』

 

「おっ!なんかかっこいい!」

 

『しかしMPが足りない!』

 

「はっ!?えっ!?どういうこと!?」

 

 表示された文字に一夏が驚愕する。

 

「あ~、たぶんあれだ。レベルアップのMP上昇具合とお前の片手剣スキルの育て具合があってなかったんだな。速く育てすぎるとそうなるんだよ。俺も槍スキル上げる時に何にも考えずにやってそうなった」

 

「アハハハ~、バカね~。バランスが大事なのよこういうのは」

 

 ワンサマーを笑いながらスズネが操作する。

 

 テレレレッ♪

 

『スズネの〝魅力〟スキルが一定値を超えました。スズネは魅力技「ぱふぱふ」を覚えた』

 

「おお!」

 

『だがバストが足りない!』

 

「やかましいわっ!好きでこの体型じゃないわ!」

 

 スズネの悲痛な叫びが響くのであった。

 

 

 ○

 

 

 そんなこともありつつ、俺たちは始まりの街に戻ることにした。のだが――

 

「死ねや、ハヤテ!!!」

 

 突然の乱入者が俺を襲う。

 

「なっ!お前は!!」

 

 赤いコートに白髪の男性プレイヤーの二本の剣を咄嗟にゲイ・ボルグで受け止める。

 

「よく受け止めたな」

 

 俺から距離を離しながらその男性プレイヤーが言う。

 

「おい、久々に会ったってのに随分な挨拶じゃないか――ラブライバー」

 

 と、俺はその男性プレイヤー、ラブライバーにゲイ・ボルグを構えながら言う。

 

「ハヤテ、この人知ってるの?」

 

「ああ」

 

 シャーリーの言葉に俺は頷く。

 

「こいつの名はラブライバー。ジョブは『アーチャー』だ。俺のリアルでの知り合いだ」

 

 そう言いながらも俺はラブライバーこと中学時代の親友の一人、山本卓也から警戒を外さない。

 

「で?いきなり何の用だ?」

 

「何の用……だと?とぼけるな!てめえ、前までは俺たち四人で『非モテ男子パーティー』組んでたってのに…それなのに…今のお前は何だ!女性プレイヤー六人もはべらせやがって!あれか!新しい学校の知り合いか!?全員揃ってキャラと同じでリアルも美人揃いかちきしょうめぇ!!!」

 

 なんかすごくしょうもないことでキレらていた。

 

「ここで潰してやるよ、槍使いが!!」

 

「いい度胸だ、やってやるよ!こいや、弓兵風情が!」

 

 そこから死闘が始まった。

 ラブライバーの双剣をゲイ・ボルグで防ぎ、ゲイ・ボルグの攻撃をやつの双剣が防ぐ。一進一退の攻防戦である。

 

「てめえふざけんなよ!俺たちと同じ非モテ同盟のくせにネト充しやがって!どうせリアルも充実してんだろ!」

 

「してねえよ!してたら休日にゲームやってねえわ!お前こそ何カッコつけて『アーチャー』のくせに剣使ってんだよ!」

 

「うるせえ!お前と違ってこちとらネットもリアルも充実してねえんだよ!ゲーム内くらいカッコつけさせろ!出会いをよこせ!だから――!!」

 

 と、なぜかラブライバーは俺から距離を置き、シャーリーたちの方へと突進していく。

 

「お、お前何を!?」

 

「うおおおおおお――!!」

 

 俺の言葉も聞かず、ラブライバーは突進し、

 

「うおぉぉぉぉぉぉ友達からでもいいのでお願いします!!!!!」

 

 スライディングからの華麗な土下座を決めていた。

 ちなみに『土下座』は立派なプレイヤースキルである。男性の性別スキル、〝勇気〟をスキル上げしていくと覚えることができる。なぜそんな技があるのか、という質問に対して運営側は、『土下座をする勇気』と答えていたのを何かの雑誌で読んだ。

 

『……………』

 

 その場の全員何も言えずポカンとして、結果的にはその場の全員とフレンド登録をしたラブライバーはスキップをしながら去って行った。それでいいのか、卓也よ。




すいません長くて。
しかもなんだかよくわからない話で。
実はあれなんです。
若干スランプです。
こうやって気分転換にちょっと趣向を変えてみたくなったんです。
ちゃんとしたオチは考えてるんですが、何分ネタを込めすぎたんで長くなってしまいました。
書いてたら筆がのってしまって……。
予告では一話で終わるって言ってたのにすみません。
続きは明日……もう今日ですね。今日中にアップします。


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お気に入り件数800&ランキング6位記念番外編② ゲームは一日一時間

 あれから俺たちは街に帰って来て、装備を整えるためにプレイヤーの店やNPCの店の立ち並ぶ一画に来たのだが――

 

「むう……この装備とこの装備ではどちらの方がよいのだろうか……」

 

「ああ、それは強化していくとステータスが上がっていくからこっちの方がいいと思うぞ」

 

『……………』

 

「このアクセサリーはかわいいですが買って何か効果があるのでしょうか………」

 

「それは俊敏性にプラスのあるアクセサリーだな。後々他のアイテムと一緒に錬金できるから買っといて損はないぞ」

 

『……………』

 

 もっぴーとティア、その他初心者組の疑問に答える人物、それは俺でもかんちゃんでもシャーリーでもない。

 

「……みんなそれなりに気になっているだろうけど……俺が訊くってことでいいか?」

 

「私が聞こうか?」

 

「僕でもいいけど?」

 

「いや、知り合いだし俺が訊くから………で、なんでラブライバーがいるんだよ!」

 

 俺の言葉に買い物してるメンバーの横にいたラブライバーが振り返る。

 

「ん?」

 

「〝ん?〟じゃねぇよ!さっき帰って行ったじゃん!」

 

「いいだろ、別に!俺だって女の子と遊びたいんだよ!」

 

「知るか!」

 

「いいじゃん!俺も仲間に入れろよ!」

 

「次遊ぶ時には誘ってやるから!今日のところは初心者が多いから初対面のやつは帰れ!」

 

「ちぃぃぃきしょぉぉぉぉ!!」

 

 と、一昔前のお笑い芸人のように叫び

 

「バーカバーカ!!ハヤテのバーカ!!バーカバーカ!!!次誘ってくれる日を心待ちにしてます!!!!」

 

 という、怒ってるのかなんだかよくわからない捨て台詞とともに今度こそ走り去って行った。

 

「その……かわった友達だね」

 

「にぎやかな友達だね」

 

 苦笑いまじりのかんちゃんとシャーリーの言葉に俺も苦笑いしかできなかった。

 

 

 ○

 

 

 そんなことがありつつ、全員のメンバーの装備の新調が終わった。

 ワンサマーは全体的に白っぽい軽装備の鎧。頭にも同色の兜をかぶっている。武器は変わらず片手剣。

 もっぴーの装備は全体的に和服テイストだった。赤と白の着物がどことなく巫女服のような印象だ。わかりやすく言えば、某艦隊をコレクションするゲームの大飯食いな一航戦みたいな感じ。腰には刀を装備している。

 ティアはザ・魔法使いと言った感じの姿だ。青の全身を包むローブにとんがり帽子。背中には木の杖を持っている。

 スズネはチャイナ服のような格好だ。武器はなく、これまで同様素手で戦うようだ。

 くろうさぎの服装は全体的に黒を基調とした衣装。口元を隠す白のマフラー。イメージは某艦隊をコレクションするゲームの夜戦大好き軽巡の改二だな。武器は腰に携えた短剣。

 ちなみに俺たち経験者三人の装備は

 かんちゃんは紺のローブに紺のとんがり帽子。ティアに似た衣装だが、ティアの装備の何倍も防御力などのステータスは高い。武器は杖。なんでもこの杖、相当レアなものらしい。

 シャーリーの装備は全体的に西部劇のガンマンと言った姿だ。背中に背負った大型の弓が存在感を放っている。

 俺の装備は青い全身タイツのような超軽装備。あれだ、某魔術師のアニメの槍使いにそっくりな装備だ。武器の名前も同じだし。

 

「さて、次はどこに行こうか」

 

「そろそろもう少し強い敵が出るところでもいい気がするよ」

 

「そうだな。じゃあ――」

 

「ねえねえ、みなさん。皆さんのパーティーに踊り子はいかがですか?」

 

 これからのことを話し合っていたところに勧誘がかかる。

 見るとそこにはビキニのような布面積の少ない装備にいくつかのアクセサリーで着飾った槍を背負った女性プレイヤーがいた。というか――

 

「あ、たっちゃん。ログインしてたんですね」

 

 知り合いだった。

 

「もう!私をのけ者にして、みんなで楽しんで。私も誘ってよ」

 

「しょうがないじゃないですか。たっちゃん忙しいんですから」

 

「誘われたら全部の仕事ほっぽって参上したわよ」

 

「そんなことしたらまた虚さんに怒られますよ」

 

「えへへへ~♡」

 

 ダメだこの人まったく悪いと思ってない。

 

「なあ、ハヤテ。この人知り合いか?」

 

 俺たちのやりとりを見ながらワンサマーが訊く。

 

「うん。ていうかお前らも知ってる人だぞ」

 

「え?そうなの?」

 

「「「うん」」」

 

 三人で頷きながら答える。

 

「師匠」

 

「お姉ちゃん」

 

「楯無さん」

 

「えっ!楯無さんなの!?」

 

「やはろ~」

 

 五人が驚いているのを尻目にたっちゃんがふりふりと手を振る。

 

「たっちゃんはもう今日は大丈夫なんですか?」

 

「ええ。リアルの方の用事は全部終わってるわ」

 

「じゃあ、とりあえずこの九人で行くとして、どこへ行く?」

 

『ん~………』

 

 たっちゃんを含めた経験者四人で頭を抱える。

 

「我々もそれなりに経験を積んだ。それにこの人数ならどんな敵にも勝てるだろう」

 

「いっきに強い敵のところへ行こうじゃないか」

 

「どんな敵でも余裕よ、余裕」

 

『…………』

 

 このゲームに慣れてきてどうやらちょっと調子に乗ってきたらしい、初心者組。何も言わないがワンサマーやティアも同じようなことを考えているのだろう。

 

「どうしよっか。そこそこ強い敵が出て、今の俺たちのパーティーで安全性のあるところか……」

 

 俺たちが頭を抱えていると

 

「あれ?ハヤテじゃない」

 

 新たな知り合いその3が現れた。

 

「あ、RAINBOWさん」

 

「おひさ」

 

 赤毛に紫のローブ姿の魔術師、プレイヤーネーム『RAINBOW』さん。俺の知り合いだ。

 

「あ、みんな初めてだよね。知り合いのRAINBOWさん」

 

「RAINBOWです。よろしく」

 

 自己紹介しつつ皆フレンド登録する。

 

「で?ネト充よろしく女性プレイヤーはべらせて何してるの?」

 

「言葉じりに悪意を感じる気がしますけどそれは置いといて、初心者が五人ほどいるんですが、初心者向きの経験値稼ぎにいい狩場ってないですかね?」

 

「初心者向きか………」

 

 RAINBOWさんは少し考え込み

 

「D-2地区でどう?あの辺りはこの人数なら十分安全圏だと思うよ」

 

「なろほど、そこがありましたか……そうですね。そこにします。ありがとうございます」

 

「どういたしまして。また一緒に狩りしましょ」

 

「はい。リアルの方でもまた」

 

「あ、うん」

 

 そこでRAINBOWさんと別れ、俺たち九人はD-2地区へと向かった

 

 

「あっ。そう言えば忘れてた。最近のアップデートでD-2地区ってモンスターのポップ率上がったんだった。あの人数で大丈夫かな?」

 

 

 

 ○

 

 

 ウキギャァァァァァ!!

 

「ああああぁぁぁぁ!!!」

 

 俺たち九人は森の中を逃げ回っていた。背後からは人間サイズのゴリラのようなモンスターが数十匹追いかけてきていた。

 

「なんだよあの数!倒しても倒してもキリねえ!」

 

「しかも一体一体がそこそこ強いし!」

 

「経験者四人だけならまだしも初心者五人も一緒だとあの数はきつい!」

 

「一体と戦ってる間に邪魔されるし!」

 

「しかもある程度ダメージ食らったら回復するし!」

 

「どこが安全圏だ!」

 

 全員がいろいろ文句を言いながら逃げる。ときどき遠距離攻撃組が牽制をしつつ逃げるがキリがない。

 

「あっ!RAINBOWさんからメッセージ来てる!」

 

 俺はそう言いながらRAINBOWさんからのメッセージを開く。

 

『ごめん。最近のアップデートでそのあたりのモンスターポップや敵の強さが変更されたの忘れてた。

もしこのメッセージを呼んでいるとき、窮地だったら一言だけ言わせてもらう。

 

グッドラック!

 

RAINBOW』

 

「グッドラック……じゃねえ~~!!!!」

 

「マジでどうすんだよ!?」

 

「だ、誰か助けて!!」

 

 誰かがそう叫んだ時

 

 ズドン!

 

 大きな爆発音とともに背後で大きな爆発とともにオレンジ色の煙が広がる。

 

 ウギギャァァァァァ!!!

 

 ゴリラたちは苦しげな雄叫びとともに来た道を逃げていく。

 

「これ……肥やし弾だ!そっか!あのタイプの動物系モンスターは嗅覚がいいからあれで散らせるんだ!」

 

「でもいったい誰が……?」

 

「あっ!見て!あそこ!」

 

 スズネの言葉に全員が指さした方を見ると、大き目の岩の上に大型のランスを抱えた一人の男性プレイヤーが立っていた。

 

「あれはガンランスだ!」

 

「ガンランス?」

 

「簡単に言えば大型の槍でありながら大砲のように弾丸を発射できる装備だ。ただ、一発撃ってからの装填までが時間かかるうえに弾丸は自分で錬金しないといけないから、少し手間のかかる装備だ」

 

 俺が説明している間にその謎の男性プレイヤーがこちらにやってくる。

 俺たちを助けてくれた人物ではあるが一応少し警戒しつつ近づいてくる人物を見つめる。

 このゲームはプレイヤーキルが可能なのでどうなるかわかったものではない。

 

「…………」

 

『…………』

 

 俺たちの目の前までやってくる男性プレイヤー。上半身裸に手足や腰には動物の毛皮のような装備。頭には恐竜か何かの頭蓋骨のような装備をしている。

 

「あの、大丈夫でしたか?(笑) 大変そうだったのでつい手を出してしまいましたが、いらないお世話でしたか?(笑)」

 

「………い、いえ、ありがとうございました。助かりました」

 

 思いのほか物腰が柔らかかった。しかも語尾になんかつけてる。

 

「それはよかった。見たところ初心者の方が多そうだったので助けた方がいいと思いまして、助けになったのなら幸いです(笑)」

 

 なんとなくだがめっちゃいい人そうだ。

 

「この辺りは最近のアップデートで難易度が上がっていますので、街に戻るようでしたら、よければご一緒にどうですか?(笑)」

 

「ええ。もちろんいですよ。あ、俺、ハヤテって言います(笑)」

 

「かんちゃんです(笑)」

 

「シャーリーです(笑)」

 

「たっちゃんでーす(笑)」

 

「ワンサマーです(笑)」

 

「もっぴーだ(笑)」

 

「ティアですわ(笑)」

 

「スズネよ(笑)」

 

「くろうさぎだ(笑)」

 

 なぜか知らんが(笑)が伝染した。

 

「ははははは(笑) この(笑)って言うの僕の癖でして(笑)」

 

 笑いの上にさらに(笑)を付けている!何この人絶対いい人じゃん!

 

「以前ネット上でもめまして。文字だとこちらの感情が伝わりづらいでしょう?誤解を生まないように感情も書き込むようにしているんです」

 

 そういうエピソードはよく聞くことだ。ネットで気を付けないといけないことのひとつだろう。

 

「あっ、すいません。余計な話をして自己紹介遅れてしまった(笑) フルーツポンチ侍Gです(桂)」

 

 ………思いのほか変な名前のプレイヤーだった。てか(桂)って何!?

 

 

 そんなこんなでフルーツポンチ侍Gさんとともに俺たちはいったん町へと戻ることになった。

 

「――そうですか、みなさんリアルでもお知り合いなんですか(笑)」

 

「ええ。休日に揃って予定が無くて、みんなでできることってことで経験者が何人かいるこのゲームをやろうってことになりまして」

 

「いいですね、友人同士っていうのは(笑) 僕も仲のいい奴はいますがお互い忙しくて(悲) あ、よければ僕ともフレンド登録しませんか?(笑)」

 

「ええ、もちろんですよ」

 

 そんなことを話していると、森を抜け、川の流れる野原へとやって来た。

 

「どうやら危険域を脱したみたいですね(笑) ここからはもう少し進めばすぐに街に戻れます(笑)」

 

「そうですね。それじゃあもう少し頑張りましょ――」

 

「おい、ここには面出すなって言ったはずだぜ」

 

『!?』

 

 突然横の川辺にいた男性プレイヤーが言った。俺たちはそろってそちらを見る。

 その男性プレイヤーは黒い軽装備に逆立った髪。顔の周りと額を覆う鉄の額当てをしていた。背中には獣の毛皮の巻かれた大きな弓を備えている。

 

「来るならその名を捨ててから来いと言ったはずだ、フルーツポンチ侍G!」

 

「き、貴様は…(怒) フルーツチンポ侍G!!」

 

 なんか卑猥なプレイヤーネームの持ち主だった。てか名前がかぶっとるやん。

 

「貴様、まだこのゲーム内にいたのか?その紛らわしい名を変えろと何度言ったらわかるのだ?(怒)」

 

「名を捨てるのは貴様の方だ!フルーツの称号は誰にも渡さん!」

 

 なんかものすごくしょうもない気がするのは俺だけだろうか。

 

「すみませんがみなさん。僕はこいつと決着を付けなければいけない(怒) すみませんがここからは皆さんだけで進んでください(願)」

 

「……えっと、はい。了解です。頑張ってください」

 

「もちろんだ!フルーツの称号は誰にも渡さん!(燃)」

 

 そう言ってフルーツポンチ侍Gさんはランスを構え、フルーツチンポ侍Gへと向かう。

 

「「いくぞ!」」

 

 そこからよくわからないフルーツの称号とやらをかけた謎の戦いが始まったが、俺たちは関わらないようにさっさと町へと進んだのだった。

 

 

 ○

 

 

 

「ゲームの中にはいろんな人がいるんですね」

 

「ああいう人はまれだよ」

 

 ティアの言葉に俺は苦笑い気味に言う。

 

「すごい人はちゃんといるぜ。たとえば――」

 

 俺は言葉の続きを言う前に断続的な金属のぶつかる音を聞いた気がして咄嗟に周りを見る。

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「今何か……あ!あれだ!」

 

 見るとそこには数匹の武装したリザードマンと戦う男女の二人組がいた。

 

「噂をすればだ。あれはこのゲームでも結構有名なふたりだ」

 

「そうなの?」

 

「うん。間違いない」

 

 スズネの言葉にかんちゃんが頷く。

 

「どういうふたり組なのだ?」

 

 もっぴーも興味を持ったようだ。

 

「あの片割れの全身黒ずくめの真っ黒いロングコート着た二刀流使いの男性プレイヤーがいるだろう?あれはこのゲームの中でもトップクラスのプレイヤーだ。通称《黒の剣士》。ぶっちゃけ男性プレイヤーでもトップクラスの実力だ」

 

「そんなにか!?」

 

「ああ。そして、もう一人の方、《黒の剣士》と対照的な白い装備の細剣使い。あっちはこのゲーム最大規模のギルドの副団長をしている人物だ。その剣技のスピード、華麗さから《閃光》と渾名されてる」

 

「せ、《閃光》……」

 

 みな呆然としている。

 

「しかし、あの二人が有名なのはそれだけじゃない。あの二人が有名なのは、あの二人が夫婦だからだ。このゲーム最大知名度の夫婦だな」

 

『ふっ、夫婦~!?』

 

 初心者の皆さまが驚いたように叫ぶ。

 

「あれ?言ってなかったっけ?このゲームのプレイヤー間の関係の種類」

 

『???』

 

「簡単に言えば、プレイヤー間の関係は他人、フレンド、パーティー、ギルド、なんかの基本的のものの他に恋人、そして、結婚があるんだよ」

 

「結婚するとどうなるの?」

 

「お互いのアイテム欄が共通になる。だから、片方が手に入れてアイテム欄に仕舞ったものをもう片方もアイテム欄から取り出せるようになるってわけ。それくらいだよ。ステータス的に何かが変わるわけじゃない――でも、一番は気持ちの面だろうな。共通アイテム欄なんてギルドでもあるしな。ちなみに、これは俺の持論だが、このゲーム内で結婚する奴はリアルでもそれなりに深い関係にあるやつらだな………リア充爆発しろ」

 

『へ、へ~』

 

 なんか初心者組(ワンサマーを除く)がソワソワしだした。

 

「な、なあワンサマーよ。何事も経験ということで私たちも結婚してみんか?」

 

「は?」

 

 もっぴーの言葉にワンサマーが首を傾げる。

 

「ちょっと、もっぴーさん!抜け駆けはいけませんよ!」

 

「そうよそうよ!ワンサマー!試すなら私としなさいよ!幼なじみでしょ!」

 

「それ幼なじみ関係ないだろ!」

 

「おい、ワンサマー。リアルでもゲームでも夫婦になるのは当然の理だ。私と結婚しろ」

 

「リアルでも違うからな?」

 

 ゲーム内でも安定の一夏スキーの皆さまでした。

 

「………爆ぜればいいのに」

 

「アハハハ……みんなゲームでも相変わらずだね」

 

「リアルでも何度も見た光景」

 

 シャーリーやかんちゃんも呆れているようだ。

 

「ハ~ヤテ♪」

 

 と、なぜか後ろからたっちゃんに抱き着かれた。

 

「ねえねえ、君は〝結婚〟には興味ないの?興味あるなら私とどう?」

 

『えっ!?』

 

 その言葉に驚いたのは俺ではなくかんちゃんとシャーリーだった。

 

「は、ハヤテも興味あるの?興味あるなら別に僕もハヤテなら結婚してもいいよ?僕も興味あったし……」

 

「わ、私も。ど、どうせゲーム内のことだし……」

 

 なんと!?俺もモテ期が……なわけないか。どうせたっちゃんのはいつものからかいだろうし、シャーリーやかんちゃんはただ〝結婚〟というシステムに興味があっただけだろう。

 

「……遠慮しておきます」

 

 やんわりと抱き着くたっちゃんを解いて三人の申し出を断る。

 

「アイテム欄が増えたらって思ったことは何度かありますけど。そんなのギルド組めば解決だし」

 

「そう……」

 

「まあハヤテがそういうなら……」

 

「わ、私も別にそこまで興味あるわけじゃないし……」

 

 俺の答えを聞いて、三人は引き下がりはしたが、どことなく残念そうだった。

 

「ところでさ……今ふと思ったけど、このメンバーでギルド作りません?なんならラブライバーやRAINBOWさんも入れて」

 

「おっ!いいじゃない!」

 

「おもしろそうだね!」

 

「私も賛成」

 

 俺の提案に三人も乗ってくる。

 

「よし、そうと決まったらほかのみんなにも……ってまだやってるし」

 

 

 

 ○

 

 

 

「さ、というわけで、先ほど言ったように俺たちのギルドを作ることになったわけだけど、そのためにはギルド作成クエストをやらないといけません。というわけで今からクエスト条件のダンジョンに俺たち九人で潜りたいと思います!」

 

『おお~~!!』

 

 俺の言葉に九人全員が頷く。

 

「え~、このダンジョンは比較的に難易度は高くなく、またレア度の高い装備や武器がドロップする可能性が高い。今日はじめたメンバーも今使ってる装備のワンランクツーランク上の装備を手に入れられるかも。てなわけで頑張っていきましょ~!!」

 

『おお~~!!』

 

 というわけで俺たち九人はダンジョンに入る。と言っても洞窟系ではなく岩山のようなエリアダンジョンだ。

 ダンジョン探索も順調に進み、クエストと関係のないアイテムもどんどん集まっていく。おかげで武器や装備がランクアップした人も何人か出てきた。

 そうやって進んでいくと、このクエストで討伐条件となっているボスのもとへとやって来た。

 

 

 ○

 

 

 

 グルァァァァァァ!!!

 

 岩山の中のまるでコロシアムのようになった場所で、俺たちの目の前には一匹の白い大型龍、ティガレウスが雄叫びを上げる。その巨体は見上げるほどで俺たちの背はやつの膝のあたりまでだった。

 

「よし!あともう少しだ!後は弱点の角を破壊すればすぐだ!」

 

「行くぜ!」

 

 ワンサマーが言葉とともに背後からティガレウスの尾を斬り上げる。

 

 グギャァァァァ!!

 

 雄叫びとともにワンサマーに向くティガレウス。が、

 

「させん!」

 

「私の嫁に手は出させん!」

 

 もっぴーとくろうさぎが同時に飛び出しそれぞれティガレウスの右足と左足に刀とナイフを突き刺し切り裂く。

 

 グギャァァァァ!!!

 

 雄叫びをあげ地に膝をつくティガレウス。しかし俺たちの攻撃はそれでは終わらない。

 

「『火竜の鉄拳』!」

 

 スズネの叫びとともにティガレウスに向けて赤い一閃が走る。そのまま一発の弾丸のようにティガレウスの腹にスズネの拳が突き刺さる。

 

 グギャァァァァ!!!

 

 苦しげな声をあげて雄叫びを上げるティガレウスから鈴が離れると同時にティガレウスの頭へと、頭の角へと氷の礫が数十発と襲う。

 かんちゃんとティアの魔法コンビの攻撃だった。

 ティガレウスが地に膝をつき、スズネの一撃により体勢を崩したことで弱点の角が狙いやすくなったのだ。

 

「僕も行くよ!『アルティメットアロー』!」

 

 シャーリーの言葉とともに上空へと向けて放たれた数十発の矢がティガレウスの角に向けて降り注ぐ。

 それが最後のとどめになったようでティガレウスの角が砕け散る。

 

 グギャァァァァァ!!!!

 

 今までで一番の雄叫びを上げるティガレウス。

 

「これで締めよ、ハヤテ!」

 

「はいよ!」

 

 俺とたっちゃんは示し合わせてお互いに自身の槍を構えて走り出す。同時にたっちゃんの体が青白い光に包まれ加速していく。

 

「『颯の如く』!」

 

 加速状態のままティガレウスの腹に突き刺さり、貫くたっちゃん。

 それを見ながら俺は走っている状態から上へジャンプし、ゲイ・ボルグを投擲の体勢で構える。ゲイ・ボルグが真紅の光に包まれる。

 

「ゲイ!ボルグ!!」

 

 叫びながら投擲したゲイ・ボルグはティガレウスの胸へ突き刺さり、そのまま突き抜ける。

 

 グゲギャァァァァァァ!!!!!

 

 ティガレウスは断末魔の雄叫びを上げ、地面に倒れ伏す。

 

『ぃぃぃよっしゃ~~~~!!!!』

 

俺たちはその場でガッツポーズし叫ぶ。

 

「これでギルド作れる!」

 

「やったぜ!」

 

 近くにいたワンサマーと一緒になって喜ぶ俺。

 

「どうだった?ヒマつぶしにやったゲームは」

 

「すっげ~楽しかった!」

 

 俺の問いニッと笑いながら答えるワンサマー。他のみんなもとても楽しそうだった。

 とりあえず街に戻ることにした俺たちは急いで撤収準備を始めたのだが――

 

グギギャァァァァァ!!!!

 

 天を裂くような雄叫びが聞こえ、俺たちは咄嗟に身構える。

 

「ちょっと、今の雄叫びは何!?」

 

「わ、わからない!でも、今の声って――」

 

 俺の言葉が終わる前に空の雲を割って姿を現したのは、大きな赤い龍だった。その体は大きく、先ほどのティガレウスの倍はありそうなほどだった。

 

「おい、ウソだろ!?アマレイアじゃねぇか!」

 

「アマレイアって!?」

 

「さっき倒したティガレウスの倍は難易度の高い敵だよ!俺たち経験者四人がフル回復状態でだったらまだ勝負になったかもしれないけど、ほとんど回復薬もMPもない状態じゃどうしようもない!このままじゃやられる!」

 

 そう言っている間にアマレイアは俺たちの目の前に着地する。その姿は一種の神々しさを持っていた。

 

「これ逃げられないかな!?」

 

「ほぼ無理です!」

 

「これやばいだろ!」

 

「どうするのだ!?」

 

「どうにか切り抜けられませんの!?」

 

「転移アイテム的なものないの!?」

 

「あるけど発動まで時間差があるんだ!使ってる間にやられちゃう!」

 

「もうどうしようもないのか!?」

 

「どうしようも……ない!」

 

 俺たちが右往左往としている間にもアマレイアは身構え、翼と一体化した右腕を振りかぶる。

 

『ああああぁぁぁぁ!!!』

 

 全員で泣き叫んだ時――

 

 ズブシュッ!

 

 刃物が突き刺さるような音がした。

 それから待てども待てどもアマレイアの攻撃は来ない。

 

 ズドーンッ!

 

 恐る恐る視線を上げたのと、目の前にアマレイアが頭から倒れてきたのは同時だった。

 

「い、いったい何が……」

 

「あ、あれを見て!」

 

 たっちゃんが何かに気付き指さす。

 見るとアマレイアの頭の上に誰かが乗っていた。

 その人物はかがんだ状態から体を起こす、と同時に手に握っていた何かを引っ張り、アマレイアの頭に刺さっていた大きな、その人物の身長の倍はありそうな太刀を引き抜く。

 

「あ、アマレイアを一撃で……」

 

「いったい何者なんだアイツは……」

 

 俺たちの疑問の中その謎の人物は太刀を背の鞘に仕舞い、アマレイアの頭から飛び降りて俺たちの目の前に降り立つ。

 驚いたことにその人物は女性プレイヤーだった。女性プレイヤーの中でも長身な方で、長い黒髪の切れ長なまるで狼を思わせる吊り目。口元は黒いマフラーで隠されて見えない。装備は青白い鎧。その上から黒いマントを羽織っていた。どの装備も輝きからして超一級品だとわかる。

そして、何よりも目を引くのが、頭の上に浮かぶ光る輪だった。誰もが天使の輪と言われて思い浮かべるタイプの光輪。

 

「あ、あの光輪……まさか『ヴァルキリー』!?」

 

「なんだよその『ヴァルキリー』って!」

 

 俺の言葉にワンサマーが訊く。

 

「このゲームのジョブの一つだ。最初の説明で言っただろ。下位職六つ、上位職五つを育て上げると最高職が解放されるって。その最高職は男性女性で名前が違うんだ。男性なら『ジョーカー』。女性なら『ヴァルキリー』になる。『ヴァルキリー』の職が解放されるとプレイヤーの頭上にはあの光輪ができるらしい。まだ最高職まで行った人なんて男性女性でそれぞれ片手ほどしかいないから、俺も最高職まで到達した人なんて初めて見たけどな」

 

 ワンサマーたちに説明しながら謎の『ヴァルキリー』に視線を戻す。

 『ヴァルキリー』にまでなったプレイヤーは先にも言った通り片手ほどしかいない。それはつまり、『ヴァルキリー』の容姿は噂になっているのだ。

 今目の前にいる人物の姿は俺の記憶が正しければ……

 

「礼を言わせてくれ。あんたのおかげで助かった」

 

 とりあえず礼を言う。俺たち九人は頭を下げるが、

 

「礼には及ばん。私は私のやるべきことをしたまでだ」

 

 謎の人物にはそっけなく返されてしまう。

 

「なあ、あんた……もしかして、このゲームで最初に最高職に到達したっていう…プレイヤー名『ブリュンヒルデ』なんじゃ……」

 

「…………」

 

 俺の言葉に数秒黙ったのち、その場でくるりと踵を返す。

 

「あ、ちょっと待って――」

 

 呼び止めようとしたが、それよりも早く、ブリュンヒルデはものすごい跳躍力を発揮し、飛び去って行った。

 

「え?ねえ、今のプレイヤーってブリュンヒルデっていうの?」

 

 ブリュンヒルデの飛び去った方を呆然と見ていた俺にスズネが言う。

 

「ああ、そのはずだ。だよね?」

 

「うん、間違いないわね」

 

「噂通りの容姿だった」

 

「あの人は『ヴァルキリー』に到達した人の中でも活発にいろんなところで活躍してるから、三人より遅く始めた僕の耳にもあの人の噂は届いてるよ」

 

「ブリュンヒルデ……いったい何者なんだ……?」

 

 全員がぼんやりとブリュンヒルデの飛び去った方向を眺める中

 

「………ブリュンヒルデ…って織斑先生みたいだな」

 

 俺はひそかに画面を見ながら呟くのだった。

 

 

 ○

 

 

 

「ふう……」

 

 と、ため息とともに山田真耶は耳に当てていたヘッドフォンを外す。

 

「いあぁ、ここの所忙しかったからなかなかログインできませんでしたが、やっぱり息抜きにいいですね」

 

 そう呟く真耶の視線の先にあるパソコンの画面には青白い鎧と黒いマントに身を包んだ黒髪に狼のような吊り目の女性キャラクターが映っていた。

 

「そう言えば、さっきの人たちどこかで見たような………」

 

 そう考え込む真耶の思考は

 

 コンコン。

 

 扉を叩く音に遮られる。

 

「は~い」

 

 返事をしながら扉を開けた先には

 

「休日にすまないな。書類に君のチェックが必要なところがあってな。すぐ目を通してもらえるか?」

 

 織斑千冬が立っていた。

 

「はい、わかりました。あ、こんなところでは何なので、どうぞ中へ」

 

「うむ。すまないな」

 

 真耶は千冬を招き入れ、イスを示したのち、千冬の持ってきた書類に目を通し始めた。

 

「今日は休日だったが、君はどこにもいかなかったのか?」

 

 真耶の出したお茶を飲みながら千冬が訊く。

 

「ええ。ネットでゲームをしていました」

 

「ふむ……ゲームか。それでゆっくりできたか?」

 

「ええ。とても有意義な休日になりましたよ」

 

 そう答えた真耶の笑みは晴れやかだった。

 




もう少し仕上げるつもりだったんですが遅くなってしまいました。
番外編はこれで終わりです。
お付き合いいただきありがとうございました。
次回からは本編に戻りますのでお楽しみに~。


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第33話 夢?

どうも。
これもしかしてこの話でお気に入り件数1000行くんじゃね?
と、少しワクワクしている僕です。
いくといいな~。


「――ってなるから、つまりこれは……」

 

「ふむふむ。なるほど」

 

 夕暮れの教室で、颯太とシャルロットは机を合わせ、肩を並べてISについての勉強を行っていた。

 

「いや~、ありがとう。シャルロットのおかげで勉強がはかどるよ」

 

「いいんだよ。でも颯太こそ僕でよかったの?他にも楯無さんや簪さんだっているのに」

 

「それこそいいんだよ。俺は……シャルロットに教えてもらいたかったんだから」

 

「えっ!?」

 

「その……なんだ。嫌な勉強も好きな奴と一緒にやれば嫌じゃなくなるだろ?」

 

 そう言った颯太の顔は赤く染まっていた。それは夕日のせいだけではないだろう。

 

「颯太……」

 

「じゃあ……次はこれを勉強しようぜ」

 

 顔を赤く染めたまま颯太は傍らのカバンから新たな教科書を取り出す。それは――

 

「えっ、これって……!」

 

 その教科書の表紙には「保健体育」の文字が。

 

「シャルロット!」

 

「えっ!?」

 

 ドサッと机に押し倒されるシャルロット。

 

「そ、颯太!?」

 

「シャルロット、俺と保健体育の勉強をしよう――実技で」

 

「えっ?えっ?えっ?」

 

 困惑するシャルロットをよそに徐々に颯太は顔を近づいて行き――

 

「だ、ダメ!!」

 

 ガバッとベッドから飛び起きるシャルロット。そこは夕暮れの教室ではなく、見慣れた寮の自室だった。

 

「…………――っ!」

 

 自分が今まで見ていた夢に今更ながらに恥ずかしさを感じ、顔から火が出そうなほど赤く染め、布団を頭まで被る。

 

(きょ、教室でなんて、僕は何を考えているんだろうね……)

 

 ドキドキと痛いほどの早鐘を撃つ胸を押さえながら深く息を吐き出す。

 先月の学年別トーナメント以来、本来の性別に戻って生活するシャルロット。

 今はもう颯太とも別の部屋となっているが、なぜかそれ以来一週間に二度は似たような夢を見るようになっていた。が、ここまで過激なものは今までなかっただろう。

 

「あれ?」

 

 ふと、颯太はいないとわかっていても、隣のベッドに目を向けると、本来そこにいるはずの同室の少女の姿が無かった。

 

「……まあ、いいや」

 

 そんなことよりもさっきの夢の続きだ、とばかりに布団を被り、瞼を閉じる。

 

(今ならあの夢の続きを……保健体育の実技を――)

 

「な、何を考えてるんだろうね、僕はっ!」

 

 自分の思考に自分でツッコミを入れ、シャルロットは赤く染まった顔を隠すように頭のてっぺんまで布団を被った。

 

 

 ○

 

 

 現在俺は目覚めたはずなのに夢としか思えない奇妙奇天烈な状況に立たされていた。

 現在の時刻は六時半。今日は大事な用事があったので早めに起きた。

 朝を告げる枕元の目覚まし時計を止め、ベッドで上体を起こして、大きく伸びをした俺は、ふと隣のベッドに寝ているはずの同室の男、織斑一夏に目を向けた。

 そこには、確かに一夏はいた――全裸の銀髪美少女に押し倒されていたが。

 ………え?マジでどういう状況?

 

「そ、颯太!」

 

「悪いが井口、今は夫婦の時間だ。遠慮してもらいたい」

 

 俺に必死に助けを求める一夏と、顔を一夏に近づけながらこっちに目線だけを向けて言うボーデヴィッヒ。

 …………ふむ、なるほど。

 

「これは夢か」

 

 どうやら起きたと思ったらまだ夢だったらしい。こういうのなんていんだっけ?二重夢?しかも夢だって理解してるから明晰夢ともいうのか?……まあどうでもいいかそんなことは。

 

「おやすみ。夢の中の一夏、いい夢見ろよ!」

 

 某モノマネ芸人のごとき言葉とともに俺は布団を被り直す。

 

「いや、ちょっと待って!これ夢じゃないから!マジだから!」

 

「はいはい。夢はだいたい決まってそう言うんだよ。『これは夢じゃないからね~。現実だからね~』なんて言う時に限ってだいたい夢なんだから」

 

「いやそうかもしれないけど!じゃあもう夢でもなんでもいいから!見て見ぬふりだけはやめて!」

 

「……はあぁぁぁぁ」

 

 俺は大きくため息をつきながら起きあがる。ぶっちゃけ夢じゃないことくらいわかってましたよ。先月のキス以来妙にボーデヴィッヒが一夏に積極的だったし、その積極性も日増しにエスカレートしていってたし。そろそろこういうのもあるんじゃないかと思ってましたよ。全裸だったのは予想外だったけど。

 ではなぜ夢だと思おうとしたか。ただただこの状況に関わりたくなかっただけだよ。

 俺はベッドから起き上がり一夏のベッドの脇に立ち、一夏が使っていたであろうシーツをボーデヴィッヒに掛ける。

 

「ボーデヴィッヒ。夫婦の時間だって言うなら他所でやれ。ここは俺の部屋でもあるんだけど。てかなんで裸なんだよ」

 

「夫婦とは互いを包み隠さないものだと聞いたぞ」

 

「そうかもしれないけど、ここには俺もいるんだ。お前と一夏がどうかは知らないけど、少なくとも俺とお前はただのクラスメイトだろ?だったら包み隠せ」

 

「うむ。それもそうだな」

 

 俺の言葉に一応は納得したのかボーデヴィッヒが体を起こしながら体をシーツで包む。その姿はなんとなく色っぽかった。

 

「とりあえず、一夏はシャワーでも浴びてこい。冷汗やら何やらですごいことになってるぞ」

 

「お、おう」

 

 俺の言葉に頷いた一夏は着替えなどを持ってシャワー室に向かう。その後を当然のようについて行くボーデヴィッヒ。

 

「ボーデヴィッヒはここ。ちょっと話がある」

 

「ん?なんだ?」

 

「ちょっとお前ら夫婦の今後のこと」

 

「ふむ。まあいいだろう。嫁の友人と仲良くするのも夫の務めだ。貴様の話、聞いてやる」

 

 俺の言葉に素直に戻ってくるボーデヴィッヒ。

 

「俺、ラウラの嫁じゃないんだけど」

 

「うるせえ、話がめんどくさくなるからお前は黙ってシャワーでも浴びてろ!」

 

「お、おう」

 

 グチグチ文句を言う一夏をとりあえず追っ払い、俺は自分のベッドに胡坐をかき、目の前の一夏のベッドに座るようにボーデヴィッヒに示す。

 

「…………」

 

 俺の示す通り、素直にベッドに腰を下ろすボーデヴィッヒだったが

 

「………うん。服は着ようか」

 

 相変わらずのシーツにくるまった状態なので服を着てもらう。

 

「さて――」

 

 ボーデヴィッヒが服を着たことで俺は話を始める。

 

「まず、お前は日本の文化を色々履き違えてる。まあこの場合はお前って言うよりお前にその知識を教えた人物が、なんだろうけど」

 

 機会があればぜひその人物ともちゃんと話したいものだ。

 

「でも、今はそのことは敢えて置いておこう。かったるいから」

 

 本当はその辺しっかり解説したい。「気に入ったものを嫁にする」ってのはそういう意味じゃないってことを小一時間かけてしっかりと教えたいが、今は時間の関係上パス。

 

「ボーデヴィッヒ、確かにお前の積極的な恋愛に俺がとやかく言う資格はない。だがな、一夏にだって好みはある。一夏はもしかしたらここまで積極的なのは嫌いかもよ?」

 

「うむ。そう言えば先ほどあいつは奥ゆかしい女性が好みだと言っていたな」

 

「だろ?」

 

 どうやら一夏も俺と同じことを考えたらしい。これでいくらかこいつの積極性が削げないだろうか。

 

「だが、それはあくまであいつの好みだ。私は私だ」

 

 うわぁ、何この信念の塊。

 

「………確かにそれは一夏の好みだ。お前はお前であるというのは悪いことじゃないと思う。でもな、男女の関係ってのはそれじゃダメなんだと俺は思う」

 

「何?」

 

 俺の言葉にボーデヴィッヒがピクリと眉を動かす。

 

「日本で古来より、『長年連れ添った夫婦は趣味嗜好が似てくる』という現象がある。これはきっと、長く同じ時間を共に過ごすことでお互いのことを知り合い、お互いがお互いに影響し合った結果だろう」

 

 俺の言葉にボーデヴィッヒは何も言わず黙って聞いている。

 

「決してどちらかが自分の趣味嗜好性格を押し付けるってことではない。お互いがお互いを好き合い、気持ちを合わせた結果、何物にも代えがたい関係が出来上がるのだと俺は思う。だから、奥ゆかしい女性が好きだと一夏が言うのなら、私は私と答えるのではなく、その好みを受け入れ、取り入れることが大事なんじゃないか?そうすればお前と一夏はよりよい関係になると俺は思う。もちろん、お前という存在を一夏に影響を与えることも大事だ。そうやって付き合って行けばいいんじゃないだろうか。少なくとも、これが日本式の交際術だと思う」

 

「…………」

 

 俺の言葉を黙って聞いていたボーデヴィッヒはすっと俺を見つめる。

 

「……なるほど。互いが互いに影響し合う。そうやって互いの好みを取り入れ、良い関係を築く。どうやら貴様の言う通りのようだ」

 

 どうやら納得してくれたようだ。ちなみに、ぶっちゃけ男女交際したことない俺が恋愛について語れるわけがない。こんなもの全部憶測だ。

 

「お前に言われて私も目が覚めた。なるほど、私の行動は少し押し付けすぎていたのだな。夫失格だ」

 

 うん、まあ夫じゃないし一夏もボーデヴィッヒの嫁じゃないんだけどね。

 

「……うん、まあともかく。ボーデヴィッヒ、お前はちょっと…って言うか大分日本の知識におかしなところがある。よかったら俺がちゃんとした日本の知識を教えようか?というかむしろ教えさせてください」

 

 間違った知識を持たれたままでは日本人として嫌なのでちゃんとした知識を教えねば。

 

「ふむ……確かに嫁の故郷の国のことはちゃんと知っておかねばな。わかった。ぜひ私に日本のことを教えてくれ」

 

「ああ。とりあえずこれからよろしくな、ボーデヴィッヒ」

 

「ラウラと呼べ。これからいろいろと世話になるのだ。名前で呼んでくれ」

 

「そうか?じゃあ俺のことも颯太って呼んでくれ、ラウラ」

 

 そういってお互いに固い握手をした。

 これで前からちょくちょく気になっていたラウラの日本観を直すことができる。………ついでにオタク文化も広めるか。




あーやっぱりスランプです。
思ったことをうまく表現できてない気がします。
とりあえず頑張ります!


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第34話 変なシャツ

どうもお久しぶりです。
最近リアルの方が忙しくてなかなか投稿が出来ず悶々としながら過ごしておりました。
てなわけで今回はちょっと長めです。


 部屋での一夏とラウラのイチャツキを見せつけられた後、一夏に入れ替わりにシャワーを浴びて朝食をとった俺は制服に着替えて校門前に来ていた。

 現在の時刻は八時半。おいおい、学校はどうした学校は、完全に遅刻じゃないか、と思うかもしれないが、今日は休日だ。

 じゃあなぜ休日に制服着て校門に立ているのかと聞かれれば、答えは簡単。今日はそれなりにちゃんとした格好が必要な人物と会うからだ。本当はもう一人一緒に行く人物がいるのだが……約束の時間が八時半だったはずなんだけどな……。

 

「ご、ごめん、颯太!お待たせ!」

 

 と、噂をすればなんとやら。待ち合わせ相手のシャルロットがやって来た。俺と同じく制服姿、もちろん女子の制服だ。

 

「おう。気にしなくても俺も今来たところだけど、珍しいな。どうかしたのか?いつもは時間にきっちりなシャルロットが遅れてくるなんて」

 

「う、うん。ちょっと……その……うっかり二度寝しちゃって。そのまま……寝過ごしちゃった」

 

「ふ~ん………」

 

 まあ人間誰しも眠い時はある。誰もあの布団の温かさには抗えないのだよ。ただ気になるのことが一つ。

 

「なあ、シャルロット」

 

「う、うん?」

 

「なんか俺のこと避けてない?」

 

「えっ!?そ、そんなことは、ないと思うけど?うん、ないよ?」

 

 そういうシャルロットは間違いなく顔を若干赤く染めて俺のことを警戒していた。

 先月まで一ヶ月も同じ部屋で暮らしていたせいか、なんとなくシャルロットがごまかそうとしている雰囲気は分かるようになった。

 ………まあいっか。本人が否定してるんだ。しつこく訊くのも鬱陶しいし。例えシャルロットが俺のことをもうすでに嫌いで鬱陶しく思っていても、そのせいで俺を警戒してるんだったとしても……。

 

「ど、どうしたの、颯太?蹲って……」

 

「いや……うん……なんでもない……。ちょっと自分のネガティブな考えにテンションが駄々下がりになっただけだ。この程度のこと大丈夫だ。うん……大丈夫だ………ぐすんっ」

 

 べ、別に泣いてなんかないしっ!

 

「さて!」

 

 掛け声とともにその場に立ち上がり、シャルロットに顔を向ける。

 

「さっそく行くか。時間的に余裕があるとはいえ、早く着く分には問題ないだろう」

 

「うん」

 

 シャルロットが頷いたのを確認し、俺たちは歩き始めた。

 ………気のせいか?シャルロットと俺の間に三歩分くらい間があるような……。あれだよね?女性は男性の三歩後ろを歩くって言う日本の大和撫子を実践してるだけだよね?俺が嫌いで少し離れて歩いてるんじゃないよね?………ぐすんっ。

 

 

 ○

 

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 そんな二人を離れた位置から観察する人影がふたり。

 

「見た、簪ちゃん?」

 

「うん、お姉ちゃん」

 

 ふたりは顔を見合わせ頷き合うと

 

「Let’s尾行!」

 

「おー!」

 

 

 

 ○

 

 

 さて、目的地まで進むうちにシャルロットとの(物理的な)距離も縮み、目的地に着いた時には完全に俺の隣にはシャルロットが立っていた。

 

「俺は何度も来たけど、シャルロットはここに来たのこれで二回目くらいだっけ?」

 

「うん。前に来たのはフランスから帰った時だったね」

 

 そう返しながら俺とともにシャルロットの見上げる先には、俺は何度か訪れて見慣れた高層ビル、指南コーポレーション本社があった。相変わらずでかかった。

 

「んじゃま、入るか。入口につっ立ってても暑いだけだし」

 

「そうだね。通行の邪魔にもなるし」

 

 頷くシャルロットとともに入口の自動ドアをくぐると、空気が一変した。じりじりと肌を焼く日差しがなくなり、冷房の効いた涼しい空気が肌を包む。

 広々とした空間の中を俺たちは歩を進め、受付へと向かい、何度も来ているうちに顔見知りになった受付嬢の女性に声をかける。

 

「こんにちは、七海さん」

 

「あ、井口君。お久しぶり~」

 

 そう笑顔で返すのは指南コーポレーションで受付嬢をやっている七海リオンさん。年上だが気さくで話しやすく、こうして受付で会うたびに話し、いつの間にか仲良くなった。年上なのにどこか年上っぽい感じのしない人で、どことなく雰囲気が山田先生に似ている気がする。性格とか、あとはまあ、どことは言わないけど体型とかも。

 

「おやおや?隣にいるのはもしかして彼女?井口君も隅に置けないな~」

 

「か、かのっ!?」

 

 楽しそうに言う七海さんの言葉にシャルロットが顔を赤くしながらモジモジしだす。まあ急にそんなこと言われたら驚くわな。

 

「違いますよ。彼女は俺の友達で、先月から新しく俺と同じくここの所属IS操縦者になった子です。今日は一緒に社長に会うことになってるんですけど」

 

「あ~、そう言えば聞いてるよ。元フランスの代表候補生の子をヘッドハンティングしたって社長が嬉しそうに言ってたわ。あなたがその噂の子か。私はこの会社で受付とか事務仕事をしてる七海リオンです。よろしくね」

 

「はい。シャルロット・デュノアです。よろしくお願いします」

 

 笑顔で挨拶をしあうシャルロットと七海さん。

 

「ちょっと待ってね。あなたたちが来たことを報告するから。すぐ迎えが来ると思うわ。そこの椅子にでも座って待ってて」

 

「はい」

 

 七海さんに会釈をしつつ示された椅子に座る。

 七海さんの言葉通り五分もせずに見知った顔が数名やって来た。

 

「やあ、お待たせ」

 

 そう言いながら片手を挙げてやって来たのは貴生川さん。その後ろにはミハエルさんや犬塚さん、そして、俺も初めて出会う体格のいい男性が一人いた。

 

「あっ、そう言えばまだどちらにも紹介してなかったね。彼は営業部部長の――」

 

「サンダーだ!よろしくな!」

 

 そう笑顔で言う男性の顔はどう見ても日本人だった。日本人なのにサンダーさん?と俺もシャルロットも首を傾げていると

 

「ちゃんと本名を名乗らんか。お前の名前は山田雷蔵だろう」

 

 ミハエルさんがため息とともに指摘する。

 

「いいじゃねえか、営業の時とかはちゃんと名乗ってんだからよ。ここには今身内しかいねえんだし」

 

 なんか、豪快な人だった。

 

「えっと……とりあえず、よろしくお願いします、サンダーさん」

 

「おう!お前わかってんじゃねぇか」

 

 そう言いながら俺の背中をバンバンと叩くサンダーさん。正直そこそこ痛かった。

 

「挨拶はその辺にしてそろそろ移動しよう。社長が待ちくたびれて文句を言ってきそうだ」

 

 犬塚さんの言葉に全員頷く。あの人なら遅れてきた俺たちにブーブー文句を言いそうだ。

 

 

 

 さて、今日俺とシャルロットがここ、指南コーポレーション本社にやって来たのは多忙な指南社長とシャルロットの顔合わせのためである。その付き添い兼修理の完了した『火焔』の詳しい説明と新装備の件で俺もやって来たわけだ。

 そんな俺たちが会いに来た相手、指南社長は変わった人で、その変人っぷりを表すエピソードには事欠かない。ある時は『火焔』のメンテナンスに来たはずが開発部で紛失した工具を瓦礫の山から社員総出で捜索する手伝いをし(もちろん社長が率先して油まみれになりながら探していた)、またある時は夕食会にお呼ばれして手料理を振る舞われたところ、明らかに料理とは思えない社長曰くシチューとの紫色のスープをごちそうになり、しかもものすごくおいしかったり、社員食堂名物焼きそばパン大食い大会を突然開いて出場させられたり。

とまあそんなもろもろのエピソードにことかかない変人社長ではあるが、いくら自分たちの所属する会社とはいえ、大会社の社長に会うのだ。もちろん下手な格好はするわけにはいかないので制服でやって来たのだが……。

 

「やあやあ!いらっしゃい、颯太君!シャルロットちゃん!」

 

 そう満面の笑みで俺たちを出迎えた指南社長の格好はキッチリした格好で来た自分たちがあほらしくなるような、ものすごくラフなものだった。

 短パンのジャージに半袖シャツ。何より目を引くのがそのシャツの柄である。正直言って変だ。変としか言えない。コミカルな、笑ったような表情の牛の顔、その横には文字で「牛」、その下には加工済みのステーキ肉のイラスト。どこで買ったんだと言いたくなるようなシャツだった。

 その様に電話でしか話したことのなかったシャルロットは唖然とし、社長のそういうところを見慣れているであろう社員の皆さまは苦笑いを浮かべ、その中でもミハエルさんは大きなため息をついて頭を抱えている。

 

「おい、時縞副社長。社長のセンスは群を抜いて壊滅的だと何度も言っているだろう。こいつの暴走を止めるのがお前の役目だといつも言っているじゃないか」

 

「ア、 アハハハ……。僕も止めたんだけど……」

 

 ため息まじりに言うミハエルさんの言葉に時縞副社長も苦笑いだ。

 

「え~、この服のどこがダメだって言うの!?」

 

「全部だ。お前は仮にも社長だろう。柄のセンスはもちろん、ラフすぎるのもダメだ。もっと上に立つものらしいしっかりとした服装でいろ」

 

「いいじゃない。今は身内しかいないんだから。仕事の時にはちゃんとした服着るわよ」

 

「そう言いながら以前他の会社との会議に行こうとした時のお前の服装は何だ。どこの気違いな帽子屋かと思ったぞ」

 

「そんな~。私あれ結構気に入ってるのに。どうせならみんなおそろいにしようかとも思ったのに」

 

『却下』

 

「えぇ~」

 

 曰く気違いな帽子屋風の服装を見ていたであろう人物たち(ミハエルさん、犬塚さん、時縞副社長)の間髪いれぬ否定に不満げな声をあげる社長だった。

 

「えっと……とりあえず社長の服のセンスについては置いておいて――」

 

 そんな中、このままだと話が進まないと思い、俺は口を開く。

 

「お久しぶりです、指南社長。社長は顔を合わせて会うのは初めてですよね?こっちが――」

 

「シャルロット・デュノアです。お電話では何度もお話してますよね。デュノア社やフランスでの件、また、所属IS操縦者として雇っていただきありがとうございます」

 

 俺が示すと、一歩前に出てシャルロットが頭を下げる。

 

「いいのいいの。困ってる時はお互いさまよ。それに話聞いてると個人的にあいつらのやり方も気にくわなかったしね」

 

「うちとしては有望な操縦者に加え、デュノア社やフランスにいい交渉材料ができた。おかげでうちはぼろ儲けというわけだ」

 

「まったくエルエルフはまたそうやってなんでも損得勘定するんだから」

 

「事実を言ったまでだ」

 

 不満げな指南社長を尻目にミハエルさんは素知らぬ顔で言う。

 

「実際利益が無ければここまで面倒なことは二度とごめんだ」

 

「「本当にご迷惑をおかけしました」」

 

 俺とシャルロットは二人で声を揃えてミハエルさんに頭を下げる。

 

「ホントにいいのよ、気にしなくて。そこの仏頂面がなんて言っても私はこの方針を変えるつもりはないし、なんだかんだ言ってそいつも最後には協力してくれるんだから」

 

 ニヤニヤと楽しそうに言う指南社長の言葉に否定も肯定もせずふんっとそっぽを向くミハエルさんの姿に「ツンデレ」という言葉を思い浮かべたのはおそらく俺だけではないだろう。

 

「あ、そうそう。今日二人に来てもらったのはね、実はフランスやデュノア社のシャルロットちゃんの処遇に関する契約やらが先週やっと片付いてね。シャルロットちゃんには仮契約だったうちとの契約の更新と、颯太君には先月の『火焔』の件と新装備のことで呼んだわけだけど……実はもう一つお願いがあるのよ」

 

「「お願い?」」

 

 社長の言葉にふたりで首を傾げる。

 

「うん。と言ってもシャルロットちゃんにだけど。所属IS操縦者とか国家代表候補生にはIS関連だけじゃなく雑誌やCMに出てもらう仕事があるのは知ってる?」

 

「はい。なんとなくは」

 

「僕もフランスにいた時にそういう話は聞きました」

 

 国家代表その候補生には国の広告塔の面もあるせいかそう言う仕事もあるらしい。というか各国意図的に美人を代表に選んでる節はあると思う。

 

「そんなわけでシャルロットちゃんには今度うちで発売する新商品のスポーツドリンクのCMに出てほしいのよ」

 

「スポーツドリンクって……ISと関係ないですよね」

 

「そうでもないよ」

 

 俺の疑問に答えたのは貴生川さんだった。

 

「うちではISが人間に与える影響や人間に負担をかけないISスーツの開発のために人間の体のメカニズムも研究してたんだけど、その過程で体にいい栄養素の組み合わせを偶然見つけてね」

 

「どうせならとそれを元に提携を結んでいる飲料水メーカーと合同でスポーツドリンクにした、というわけだ」

 

「な、なるほど」

 

 前からいろんなことに手広く営業してる会社だと思っていたが、ホント色々やってるなこの会社。

 

「てなわけで、どうせなら大々的に宣伝しようってことでテレビCMもしっかりしたもの作ろうってなってね」

 

「で、でも、そんな大役、僕でいいんですか?」

 

「大丈夫よ。シャルロットちゃん可愛いしCMのイメージにもぴったりだわ」

 

「まあ確かにシャルロットみたいな可愛い子が出てるCMの商品なら買ってみようって気になるかもな」

 

「か、かわっ!?」

 

 俺や社長の言葉に顔を赤く染めるシャルロット。

 

「お、お世辞はいいよ、颯太」

 

「いや、事実だし」

 

「ふ、ふ~ん。そうなんだ………颯太がそう言うならやってみようかな……」

 

 と、照れたように呟くシャルロット。

 

「やってくれる?よかった!今日はその打ち合わせのために共演者の人も来ることになってるのよ」

 

「共演者?」

 

「うん。シャルロットちゃんの他にもう一人女の子の出演者がいるの。シャルロットちゃんとその子でダブル美人キャストで行こうと思って」

 

「へ~。ちなみに有名な人なんですか?」

 

「うちがスポンサーやってるアイドルの子でね、今人気沸騰中の流木野サキちゃんって子なんだけど――」

 

「る、る、流木野サキ!!?」

 

 社長の言葉に俺は社長に詰め寄る。

 

「マジっすかっ!?マジであの流木野サキですか!?」

 

「う、うん。マジだけど……」

 

 俺の勢いに社長もタジタジだがそんなもん関係ない。今はそれよりも

 

「てことはこれから流木野サキがここに来るんですよね!」

 

「う、うん」

 

「こうしちゃいられない!ちょっと近くのデパートで色紙買ってきます!」

 

「ちょ、ちょっと颯太!?」

 

 ダッシュで飛び出していこうとした俺を呼び止めるシャルロット。

 

「どうしたの急に慌てて」

 

「慌てずにいられるか!流木野サキだぞ!あの流木野サキだぞ!!このアイドル戦国時代にグループも組まず一人だけで圧倒的な人気!出す新曲はすべてオリコン上位入り!しかもアイドル業以外にも女優としても活躍!出る番組やドラマは軒並み高視聴率のあの流木野サキだぞ!!」

 

「へ、へ~……」

 

 俺の剣幕にシャルロットもタジタジだ。

 

「ん~、悪いんだけど颯太君はその打ち合わせに参加できないから、たぶん今日は流木野さんには会えないんじゃないかな」

 

「えっ!?なんでですか!?」

 

 苦笑いの時縞副社長の言葉に俺は足を止める。

 

「だって君はその時間は別件があるから」

 

「別件って何ですか!?すぐに終わらせて戻ってきます!」

 

「たぶん無理じゃないかな……。だってアキラちゃんが相手の説教タイムだから」

 

「ヴェッ!!?お説教っすか!?何の!?」

 

「先月のタッグトーナメントで君が勝手に装備の出力いじったことにお冠らしいよ」

 

「そ、そんな~……」

 

 貴生川さんの言葉に俺はその場にへたり込む。

 

「というわけで山田君、颯太君を連行して」

 

「サンダーだっ!オラ!行くぞ井口!」

 

「い~や~だ~~~!!!流木野サキに会いたい~~~!!!!お説教は嫌だ~~~~!!!!!」

 

 

 

 ○

 

 

 

「お疲れ様、シャルロットちゃん」

 

 本格的な契約の後、CMの打ち合わせを終えたシャルロットに隣に座っていた(ちゃんとしたスーツに着替えた)指南翔子がにっこりと微笑みながら言う。

 

「ごめんね、急にこんなお仕事頼んじゃって」

 

「いえ、全然問題ないですよ。指南社長や会社にはいろいろお世話になりましたし、企業所属の大事な仕事ですから」

 

「そう言ってくれると助かるよ」

 

 シャルロットの言葉に時縞春人は申し訳なさそうに笑う。

 

「しかし、すごかったですね、流木野サキさん」

 

 そう言いながら先ほどまで流木野サキの座っていた向かいの席に目を向けるシャルロット。

 

「オーラって言うんですかね、人気が出るのも分かる気がします」

 

「その分多忙だけどね。彼女は翔子以上に忙しいから」

 

「確かにそれは大変そうですね」

 

 打ち合わせが終わると同時に次の仕事現場へ向かって行った姿を思い出しながら三人で顔を見合わせ苦笑いを浮かべる。

 

「さて!それじゃあ颯太君たちのところに行きましょうか。アキラちゃんのお説教も終わってるかしらね」

 

「そうですね。あっ!」

 

 席を立ったところでシャルロットは声をあげる。

 

「ん?どうかしたの?」

 

「いえ、あんなに欲しがっていたんだから流木野さんにサインをお願いすればよかったと思って」

 

「ああ。でもまあいいんじゃない?うちがスポンサーしてるしそのうち会う機会もあるでしょう」

 

「……ですね」

 

 翔子の言葉に納得し、頷いたシャルロットは三人で颯太たちのいる部屋へと向かう。聞いている話によると開発部の一室にいるらしい。

 

「しかし、彼があそこまでサキちゃんのファンだったなんて知らなかったな~」

 

「ですね。颯太ってアニメや漫画だけじゃなかったんですね。しかもものすごく熱烈な……少し妬けちゃうな……」

 

「えっ?ごめん、よく聞こえなかった。なんて?」

 

「い、いえっ!何でもないです!」

 

 自分の呟きがまさか聞かれているとは思わず、つい大きな声になりながら否定する。

 

「ふ~ん。そういうことか。颯太君も大変だな」

 

 横にいた春人にはシャルロットの呟きがはっきりと聞こえていたらしく、苦笑いでつぶやくがその呟きは二人には聞こえていないらしい。

 そんなことを話しながら移動すると、三人はお目当ての部屋の前にやって来た。

 

「失礼するわよ~!どう?お説教は……おわっ……た……?」

 

「「……………」」

 

 三人が扉を開け、翔子は朗らかに訊くがその元気は徐々になくなり、シャルロットと春人は唖然としていた。

 三人の目の前には地べたに正座させられ首から「私は悪いことをしました」と書かれたプラカードを下げた颯太と、その目の前で仁王立ちするいかにも怒っていますと言った表情の小柄な赤毛の少女の姿だった。

 

 

 ○

 

 

 

「失礼するわよ~!どう?お説教は……おわっ……た……?」

 

「「……………」」

 

 指南社長の声と誰かの息を飲む気配(おそらくシャルロットと時縞副社長)がしたが、そちらを見る余裕は俺にはなかった。というか一ミリも動くことができない。なぜなら俺の目の前にものすごい威圧感とともに俺を睨む人物、連坊小路アキラさんがいるからだ。

 赤毛の髪を後ろで束ね、ダボダボのパーカーにショートパンツ。整った顔立ちだが目の下のクマのせいか睨みに凄味が出ている。

 

「で?自分がどれだけのことをしでかしたか、き、君のミジンコのような頭でわかった?」

 

「はい!勝手に出力をいじって、みなさんが心血を注いで作ってくださった機体に多大な負担をかけてしまい本当に申し訳ありませんでした!!」

 

 今までにここまでのマジの土下座をしたことがあっただろうかというほどの土下座をしながら俺は叫ぶ。

 

「あ、謝ってすむなら警察はいらない」

 

 俺の土下座でもアキラさんのお怒りは収まらないようで頭の上からアキラさんのお怒りの言葉が降ってくる。

 

「ま、まあまあ。アキラ君もそれくらいにしてあげたら?颯太君も反省してるようだし」

 

 そばにいた貴生川さんが止めに入ってくれる。

 ちなみにこの場には指南社長と時縞副社長シャルロットが来るまで俺とアキラさんの他に犬塚さんと貴生川さん、ミハエルさん、やま…サンダーさんがいた。が、各々説教中は何も言わずそれぞれ雑談に花を咲かせたり、ミハエルさんに至っては何かの書類を読みふけっていた。横でちゃんと話を聞いていたのは貴生川さんくらいだろうか。

 

「で、でも……」

 

 まだ言い足りないらしいアキラさんがどもる。

 

「ほ、ほら、み、ミハエルからもなんか言って!」

 

「ん?」

 

 アキラさんの言葉に書類から顔を上げてミハエルさんがこちらを向く。

 

「ふむ。まあ井口のやったことはうちの所属IS操縦者としては褒められたことではないな。そのせいで『火焔』にもしものことがあればうちとしても損害は大きい」

 

「で、でしょ?」

 

「ただ――」

 

 ミハエルさんの言葉に反応するアキラさんだったが、ミハエルさんは続ける。

 

「井口の報告書を読んでいると、一つ気になることがある」

 

『気になること?』

 

 俺を含めたその場にいる人全員が首を傾げる。

 

「連坊小路、貴生川、お前たちの話では『火焔』の不調は第三世代相当の装備の高出力による機体への異常発熱、要するに熱暴走だったな?」

 

「う、うん」

 

「颯太君から回収して解析した結果はそうだったよ」

 

「その熱量が一定値を超えて機体への負担から機体が強制的に機能の一部が停止した、というのがお前たちの見立てだったわけだ」

 

 ミハエルさんの疑問に二人が頷く。

 

「その一定値が井口の報告書にある○/100という数字だとするなら、その先、○/666はいったい何を表すというんだ?」

 

「そ、それは……」

 

 ミハエルさんの言葉にアキラさんは答えられないようで、それ以上言葉は続かない。

 

「……実はそこは俺たちにもわからないんだ。本当ならISの自己防衛で一定値を超えたら強制的に展開を解除されてもおかしくないはずなんだ」

 

 貴生川さんもそのことが気になっていたらしく、興味深そうにミハエルさんの見る書類(どうやら俺の提出した報告書)を覗き込む。

 

「ただの欠陥…といえばそれまでだが、ISはいまだにまだ完成しているとは言えないという話だったな。また、以前読んだ篠ノ之束のインタビュー記事に書かれていた言葉も気になる。曰く『私は完璧なものしか作らない。不必要と思えることも、それは無くてはならない重要な事』だそうだ。つまり主に作ったのは俺たち指南コーポレーションとはいえ、間接的には『火焔』というISは篠ノ之束の発明である以上この数字にも何か意味があるのではないかと考えられる」

 

『……………』

 

 その場の誰もミハエルさんの言葉に反論できるものはいない。

 

「実に興味深い。いつか時間を取って詳しく調べたいところだな」

 

「そうだね。IS学園が夏休みに入ったら詳しく解析してみよう」

 

 ミハエルさんの言葉に貴生川さんも賛同し、アキラさんも頷く。

 

「とりあえず、この件はこの辺にしておこう」

 

 貴生川さんの言葉でとりあえずは俺の勝手に装備の出力をいじった件はお咎めなしで落ち着いたようだ。俺とシャルロットは近くにあった二人掛けソファを示され、シャルロットともに座る。

 

「さて、次はお待ちかねの新装備の話だ」

 

 そう言いながら貴生川さんは資料の束を取り出す。

 

「これが新装備の詳細データ。今回のこれはアキラ君が主体で開発したものなんだ」

 

「へ~、アキラさんが……」

 

 そう呟きながら資料に目を通しつつアキラさんを見る。

 アキラさんは椅子に座りながら俺の方を見て

 

「正直この新装備も第三世代相当だから、機体への負担を考えると、君に渡すべきではないのかもしれない。というか無茶な使い方するなら私としては反対」

 

「うっ!」

 

「それに、この装備はあまり君向けじゃない」

 

「えっ?そうなんですか?」

 

 俺の問いにアキラさんが頷く。

 

「確かにこの装備の詳細データを見てると颯太君向きではないかもね」

 

 貴生川さんも頷く。

 

「まあ、以前ならまだしも今は井口以外にもデュノアがいる。もし井口に合わんようなら、デュノアがデータ取りをすればいい」

 

「うん、そうだね。というわけでいったんは颯太君にこの装備は渡すけど、もし合わないようだったらシャルロット君にお願いするかもね」

 

「だったらはじめからシャルロットに渡せばいいんじゃないですか?」

 

「そうもいかないんだよ。火焔用の装備として作っちゃってるからね。もしシャルロット君が使うならラファール用にシステムを書き換えないと」

 

「なんかいろいろと面倒なんですね」

 

「そぅ。だから……次からもうちょっと考えて使って」

 

「うっ………はい」

 

 アキラさんのジト目での言葉に俺は素直に頷くしかなかった。

 

「一応完成はしてるんだけど、最終調整がまだだから。近々現物は渡せると思うよ。確か君たちの学校もうすぐ臨海学校だったね?確か内容は各種装備の試験運用とデータ取りだったね」

 

「はい」

 

「そう聞いてます」

 

「じゃあそれに合わせて完成させるよ」

 

 俺たちの返事に貴生川さんが頷き、手帳に何かを書き込む。

 

「こちらとしてはそれくらいかな。あとは――」

 

「俺から井口に一つ伝えておかなければいけないことがある」

 

 そう言いながら体を預けていた壁から体を起こすミハエルさん。

 

「実は最近不穏な噂を聞いた」

 

「噂……ですか?」

 

「ああ。実は先月の一件以来女性権利団体が動いているらしい」

 

「女性権利団体……」

 

「知っているか?」

 

「まあ……それなりには」

 

「女性権利団体。団体自体はIS登場以前からあったが、ISの開発、女尊男卑な制度が各国で広まると同時にその権力を大きくしていった団体。その構成メンバーは軒並み女尊男卑思想の塊みたいな奴らばかりだろうな」

 

 ミハエルさんの説明、しかし、この場の全員はだいたい知っていることらしく誰もそれ以上何も言わない。

 

「この間のタッグトーナメントで井口、お前はどうやら目立ちすぎたらしい」

 

「目立ちすぎって……」

 

「事実だ。映像を見たが、優勝候補とまで言われていたドイツの代表候補生にして現役軍人を圧倒した事実は各国に影響を与えた、というわけだ。いい意味でも悪い意味でもな」

 

「圧倒って……俺の場合は機体の性能のおかげ、皆さんのおかげなんですけど……」

 

「火焔はあくまでISだよ。その性能を引き出し、それだけの結果を出したのは君の力だと僕は思うけど」

 

「買い被りすぎですよ。俺は一般人上がりの平々凡々な人間ですよ」

 

 時縞副社長の言葉に否定するが、俺の言葉にその場の全員が白けた目で俺を見つめていた。

 

「な、なんですか……?」

 

「だって……ねぇ」

 

「君みたいな人のことは平凡とは言わない」

 

「ええ~」

 

 アキラさんの言葉に俺は不満の声を漏らす。

 

「まあ井口が平凡か非凡かは置いておくとしてだ。――お前は今女性権利団体に目を付けられている。ISを持っているし、基本的には学園にいるだろうから心配はしてないが、やつらはあまりいい噂は聞かない。今日のように外出するときは十分気を付けろと言う話だ」

 

「はい、十分気を付けます」

 

 ミハエルさんの言葉に頷き、気を引き締める俺。

 

「こちらからは以上だ。お前たちからは何かあるか?」

 

「あっ!一つお願いがあるんです」

 

 俺はふと、思い出し、教室で発言するように手を上げる。

 

「実はアキラさんに相談があったんです」

 

「ん?何?」

 

「実は――」

 

 俺は専用機の完成していない簪の話をした。

 

「――というわけなんで、できれば暇な時でいいんで相談にのってやってほしいんです」

 

「よし、わかった!全面的に協力する!」

 

 俺の問いに答えたのはアキラさんではなく指南社長だった。

 

「むしろその専用機うちで完成させちゃいましょ!」

 

「いや、それじゃあ倉持といろいろと問題が起きるから!」

 

 指南社長の提案を止めたのは時縞副社長だった。全員同意見なのか頷いている。

 

「えっと……社長はああ言ってますけど、アキラさんはどうなんでしょうか?」

 

「……わ、私も協力してもいい」

 

「本当ですか!?ありがとうございます」

 

「べ、別にいい。開発に携わる研究者としては倉持の行いは納得できないし」

 

 俺がお礼を言うと照れたように顔を背けながらアキラさんが呟く。

 

「じゃあよろしくお願いします。これ、簪の連絡先なんで、時間があるときに連絡してやってください」

 

「ん」

 

 俺の差し出したメモをアキラさんは軽く頷きながら受け取る。

 

「何か困ったことがあったら私にも相談してね、アキラちゃん!会社の持てる力全面的に使って協力するから!」

 

「あ、ありがとう……」

 

「社長もありがとうございます!」

 

 変わった人ではあるが、社長はこれ以上ないほど頼もしい人だと再確認した瞬間だった。

 

 

 ○

 

 

 

「ふぅ」

 

 一階の玄関前まで降りて来た俺は肺から息を吐く。

 

「すごくいい人たちばっかりだったね」

 

 一緒に降りて来たシャルロットが隣で笑いながら言う。

 

「社長も電話で話してた通りのいい人だったし。ここに移籍できてよかった」

 

「そうか?それは何よりだ」

 

 シャルロットの言葉に俺も笑顔で頷く。

 

「さて、これからどうする?もういい時間だし、どっかで飯でも食って、ついでに買い物でもしていかないか?臨海学校の準備物も買っておきたいし」

 

「うん!そうしよう!」

 

 俺の提案にシャルロットが元気に頷く。

 

「お!やけに乗り気だな。なんか欲しいものでもあったのか?」

 

「う、うん。僕もちょうど水着とか買わないといけなかったし」

 

「そうか。じゃあ近くに大型ショッピングセンターがあるし、そこ行けば何でもあるだろう。さっそく行くか」

 

「うん!」

 

 頷いたシャルロットとともに俺たちは出口に向かって歩き出したのだが

 

「ん?」

 

「どうしたの?」

 

 俺はふと足を止め、周りを見渡す。俺の様子にシャルロットも足を止める。

 

「いや……今見覚えのある後姿があったような気がしたんだけど……気のせいだな。よし、行こうか」

 

 

 

 

 颯太とシャルロットがビルから出て行ってすぐに

 

「よし、私たちも行くわよ!」

 

「おお!」

 

 ソファに座り、新聞や雑誌を読むふりをして顔を隠していたふたりの人物が立ち上がり、颯太とシャルロットの後を着いて行ったが、ふたりはそのことを知らない。

 




というわけで、これで完全にシャルロットは颯太と同じ指南所属ですね。

はたして颯太は流木野サキに会える日が来るのか!
こうご期待!


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第35話 二度あることは三度ある

「いらっしゃいませ」

 

 俺とシャルロットは買い物のため、近くの大型ショッピングモール、『レゾナンス』にやって来たのだが、ちょうどいい時間だったので昼食を先に取ることにした。というわけでレゾナンス内にあったファミレスに入ったのだ。

 

「それでは、ご注文が決まりましたらお呼びください」

 

 店員女性の営業スマイルを尻目に俺たちはメニューを開く。

 

「やっぱりこういう店はメニューの幅が広いね。迷っちゃうよ」

 

 メニューに目を向けながら笑顔で言うシャルロット。

 休日ということもあってかどこのお店も混んでいた。初めは以前来た時に行ったパスタのお店に行くつもりだったのだが、ものすごい並んでた。結果、一番空いていたこの店にやって来たのだ。一番空いているとはいってもほぼ満席状態だったが。

 

「颯太は何にするか決まった?」

 

「ん?そうだな……俺はこの『デミグラスソースオムライスのハンバーグのせ』にしようかな。シャルロットは?」

 

「うん、僕は『具だくさんカレー』にするよ」

 

 二人共注文も決まったので店員を呼び、二人分の注文をする。

 注文を聞いた店員が去って行くのを尻目に見つつ、俺はお冷に口を付ける。

 

「そう言えば、打ち合わせは上手く行ったのか?」

 

「うん。撮影は夏休みくらいになりそう」

 

「ふ~ん、夏休みか……。じゃあ結構先なんだな」

 

 夏休みか……ちょっとは実家にも帰ろうかな。まだどうなるかわからんけど。

 

「……で?やっぱり流木野サキは………」

 

「うん。すごくきれいで、オーラもすごかったよ」

 

「だよな~!!あ~、俺も会いたかったな~!!!」

 

 俺は机に突っ伏す。マジで会いたかった。自分、大ファンですから。

 

「アハハハ。あんまりにもオーラがすごかったから、緊張しちゃったよ。僕なんかがあの人と一緒にCM出ていいのかな」

 

「大丈夫大丈夫。シャルロットはその……十分可愛いって。並のアイドルなんて目じゃないって」

 

「そ、そうかな?う、ウソついてない?」

 

「お、おうよ。ウソなんて言ってないから、信じろよ」

 

「う、うん。その……あ、ありがとう」

 

 嬉しそうに微笑むシャルロットにドキッとしつつ、俺は変に熱く感じる顔を冷ますためにお冷を飲む。女子に面と向かって可愛いなんて言ったことないから緊張する。

 てか前から思ってたけどIS学園の生徒ってみんなレベル高くない?かわいい子多くない?その中でも特に専用機持ちの子とか並じゃないよね。某アイドルプロデューサーの手でISS(インフィニット・ストラトス・スクール)48とか結成できるんじゃね?

 

「……そうなったら神7は専用機持ちメンバーと篠ノ之…いやのほほんさんあたりの可能性も……大穴で山田先生が………」

 

「どうしたの、颯太?」

 

「いや!何でもないぞ!」

 

 よく考えたら専用機持ってるやつの大半(一夏スキーな人たち)がアイドルとかムリじゃん。アイドルって恋愛禁止じゃん。結成したら超儲かると思ったけど、儚い夢だったね。

 

「そう言えば、前から気になってたんだけどさ……」

 

「ん?何?」

 

「なんで一人称『僕』のままなんだ?」

 

「え!?なんでって……」

 

「ほら、もう男のフリしなくてもいいだろ?男子の仕草や言葉遣いとかは抜けた気がするけど一人称だけは『僕』のままだなーって思って」

 

「その……僕も――私もそう思うんだけど、学園に来る前に徹底されたからどうしても抜けきらなくて。………そういうのって、女の子っぽくないかな?」

 

 落ち着かない様子で目を泳がせながらシャルロットが遠慮がちに訊く。

 

「ん~……別にいいんじゃないか?なんか理由があるならって思ったけど、それが悪いわけじゃないし。別に女の子っぽくないわけでもないし。俺の親戚には一人称『俺』の女の子とかいるし」

 

「そ、そうかな?」

 

「おう。その……シャルロットは今のままで十分女の子らしいから、安心しろって」

 

 本日二度目……いや、指南の時にも一回可愛いって言ってるから三度目か。本日三度目の恥ずかしいセリフ。キャラじゃないんだよな。こういうのは一夏とかの専売特許だろ。

 

「あ、ありがとう」

 

「おう……」

 

「「………………」」

 

 なんとも言えない沈黙。その沈黙を破ったのは――

 

「……ぷっ」

 

 シャルロットがなぜか吹き出した。

 

「な、なんだよ?」

 

「いや……だって、顔真っ赤だよ」

 

「しょ、しょうがないだろ!キャラじゃないんだって!」

 

 顔が赤いのは自覚している。だって冷房効いてるはずなのに顔だけ暑いし。

 

「あーもう、こういうのは一夏に任せときたいのに!絶対もうこういうことは言わない!」

 

「アハハハ、ごめんごめん」

 

「フンだ!せっかく人がキャラじゃないことまで言って元気付けようとしたってのに」

 

 そんなことを言ってるうちにいつの間にかそれなりに時間が経っていたらしく、俺たちの注文したメニューたちが運ばれてきた。

 それを受け取り、食べ始める。

 

「もう、ごめんってば。そんなムスッとした顔しないでよ」

 

「………別に怒ってないよ」

 

 俺はふっと息を吐きながら意識して作っていた表情を崩す。

 

「うましうまし」

 

 やっぱ仏頂面じゃ美味い飯も美味くないな。

 

「………ねえ、颯太って、ああいうこと他の人にも言ってるの?例えば……楯無会長とか更識さんとか」

 

「ああいうこと?」

 

「その……可愛い、とか………」

 

「………はぁ、言う訳ないだろ。言っただろ、キャラじゃないって。思ってても言えないよ」

 

「そっか……僕にだけ、か……」

 

「???」

 

 シャルロットが何か呟いたが、あまり聞き取れなかった。

 

「ごめん、よく聞こえなかった。『僕だけ』がなんだって?」

 

「う、ううん!なんでもない!それよりもはやく食べよ!」

 

「お、おう」

 

 なぜか焦ったようにまくし立てるシャルロットに首を傾げつつ俺たちは食事を再開したのだった。

 

 

 ○

 

 

 一方その頃、颯太&シャルロットの席の近くでは。

 

 グサッグサッ!

 

「何よ!思ってるなら私にも言いなさいよ!」

 

 グサッグサッ!

 

「私だって……!颯太に、可愛いとか言われたい……!」

 

 ふたりの少女が虚ろな目つきで自身の目の前の料理にフォークを突き立てていた。

 

 

 ○

 

 

 食事も終わり、レストランを出た俺たちはレゾナンス内の店を散策しつつ、水着などの販売スペースへと移動した。

 

「って、あれ?女性用ばっかり?なぜ?」

 

「どうやら女性用と男性用では売り場が分かれてるみたいだね」

 

「ホントだ。男性用はあっちか」

 

 よく見ると離れたところに男性用のスペースがあった。広さが全然違うが今の世ならそれも仕方がないだろう。

 

「じゃあ、いったんここで別れて、三十分後くらいにまたここに集合ってことでいっか」

 

「え?……う、うん。そうだね」

 

 俺の提案になぜか妙に心残りでもありそうな表情をしながらもシャルロットが頷く。

 

「それじゃあまたあとで」

 

「うん、あとでね」

 

 シャルロットと別れ、男性用水着のスペースに向かう。

 と言っても特にこだわりのない俺は無難な黒の膝上くらいまである水着を購入。十分とかからずに終わった。

 とりあえず集合場所に向かおうと店を出た俺は数歩進んだ先で変わった光景に出会った。

 そこには――

 

「ねえねえ、お嬢ちゃん可愛いね。いくついくつ?」

 

「もしかして中学生くらい?俺らと遊ばない?」

 

「あ、あの……」

 

 いまどき珍しいナンパである。まだああいうことする人って実際にいたんだ。下手すれば痴漢とかで訴えられかねないのに。

 女尊男卑の世に生きる俺たち男はなかなかに生きずらい。そんなものにも例外はある。顔がいい奴は優遇されるのだ。俗に言う「ただしイケメンに限る」が現実味を帯びているわけだ。

 それを勘違いし、自分たちは顔がいいから優遇される、と考える人なのだろう、あいつらは。

 大抵ナンパなんてよっぽどの運がよくなければ軽くあしらわれるのだろうが、今回は相手が悪い。明らかに相手の娘は怯えてる。

ナンパ二人組の言葉通り見た目は中学生くらいだろうか。長い赤毛にバンダナを巻き、雑誌にでも載っていそうな涼しげな真っ白なワンピース。手には二つ三つほどの小さめの紙袋を持っていた。

さて、君子危うきに近づかずなんて言葉もある。見て見ぬふりでもするのもひとつの手だ。それにシャルロットとも待ち合わせている。時間がかかっては困る。面倒事に巻き込まれたくない俺は立ち去る――そう、数か月前の俺なら。

 

「いや~、お待たせ」

 

なぜか声をかけてしまった。いや、わかってる。今回はその少女が中学時代に仲良くしていた後輩女子と被り、ついつい男二人を無視して少女に声をかけてしまった。

 

「ごめんね。いろいろ水着があって迷っちゃったよ」

 

 ダウト。ものの数分で買った。

 

「え?え?え?」

 

 俺の存在に混乱した少女の背に手を添え、こっそりと耳に口を近づける。

 

「(切り抜けるの手伝うから話を合わせて。OKなら俺の服を二回引っ張ってくれ)」

 

 俺の言葉の後に腰のあたりに二回ほど引っ張られる感覚を感じる。どうやら俺の意図を理解してくれたようだ。

 

「ちょっとちょっと、お兄さん誰?」

 

「今は俺らが話してるんだけど?」

 

「誰って、この子のツレですよ。ねぇ?」

 

「えっ?……あ、はい!そうです!」

 

 俺の言葉に少女が一瞬の間をおいて頷く。

 

「「へ~………」」

 

 まずい、怪しまれてる。

 

「じゃあさ、その子の名前は?」

 

「は?」

 

「だから、その子の名前だよ。知り合いならわかるでしょ?」

 

 くそっ。めんどくさいこと思いついてくれちゃって。

 

「いやいや、個人情報っすよお兄さん方」

 

「いいじゃん。それに本当に知り合いなら名前くらい言えるでしょ?」

 

 あー、やばい。めんどくさい。しかもこいつら俺が答えないもんだからニヤニヤと意地悪く笑いだした。こいつら確信しつつあるな。さて、ここは適当に答えるか?

 と、思っていると俺の背に隣の少女の手が添えられる。そのまま背中に指で何かを書く少女。えっと――『ご・た・ん・だ・ら・ん』?あ、ゴタンダラン、この子の名前か。

 

「……はあ、わかりましたよ」

 

 俺はいかにも根負けした、といった体でため息をつく。

 

「この子の名前は『ゴタンダラン』ちゃんだよ。はい、これでいいでしょ?それじゃあね」

 

 俺は少女を連れて立ち去ろうとするが

 

「いやいや、よく考えたら名前言われてもそれがあってるか証明できないじゃん」

 

 いや、あんたらが言ったんだろ、と思いながらも回り込んできた男たちにため息をつく。

 

「だいたい仮に君がその子のツレでも、君みたいな冴えないやつと一緒にいるよりその子も俺らと一緒にいる方が楽しいって」

 

「そうそう。ほら、そんなやつほっといて俺らと遊ぼうぜ」

 

 そう言いながら少女の手を掴んで強引に連れて行こうとする男たち。

 やばいな。普通諦めるだろ。マジでどうしようか。――と思っていると

 

「てんめぇ!うちの妹に何してくれとんじゃ!!」

 

「げふっ!?」

 

 叫び声とともに背中に衝撃を受け、床を転がりながら吹き飛ばされる俺。

 何事かと、痛む背中をさすりながら体を起こすと仁王立ちした俺と同世代くらいの赤毛にバンダナを巻いたの少年が立っていた。怒りの形相で。

 

「えっと……なんで俺?」

 

「てめえだろ!?うちの妹に手を出そうとしてたのは!!」

 

 見渡すと先ほどの男二人がそそくさと逃げていく姿が見えた。おいおい、このゴタンダ(兄)の迫力に逃げ出してるよ。てか残された俺にどうしろと?

 

「おうおう、兄ちゃん。とりあえずうちに来てもらおうか。じーちゃんに殺されないといいな」

 

「は?へ?ちょ、待ってくれない?俺の話も聞いてくれると助かるんだけど?」

 

「うるせえ!問答無用!いくぞ、蘭!」

 

 ゴタンダ(兄)に無理やり引っ張られながら連行されそうな俺。それを止めたのは――

 

「こぉんの、バカ兄が!!!」

 

「げふっ!!」

 

 ゴタンダラン氏の強烈なビンタだった。

 

「な、何すんだよ、蘭!!」

 

「それはこっちのセリフよ!何助けてくれた恩人に蹴りいれてくれてんのよ!」

 

「はぁ!?」

 

 

 ――数分後――

 

 

「ホントすみませんでしたぁぁぁぁ!!!」

 

 俺の目の前には土下座をする五反田弾氏。

先ほど改めて少女、五反田蘭とともに自己紹介を受け、彼女の説明により誤解を解くことに成功した。

 

「まったくお兄は!」

 

 土下座する兄の横で怒りの形相で立つ少女。その後すぐに申し訳なさそうな顔になり

 

「本当にうちバカ兄がご迷惑をおかけしました。せっかく助けていただいたのに」

 

「あ~、いいのいいの。見ず知らずの男が自分の妹と至近距離でいたらそりゃ勘違いするって。しかも少し前にはいなかったんだし」

 

 何でも聞いたところ、この兄妹は二人で買い物にやって来たそうだ。が、兄の方がトイレへ行っている間に一人でいた彼女がナンパに会い、それを助けようとした俺を勘違いした彼が蹴っ飛ばした、ということらしい。

 

「本当になんて言ったらいいか……ほら!お兄もちゃんと謝って!」

 

「すいませんでした!!」

 

 五反田(妹)の言葉にまたもや深々と額を床にこすりつける五反田(兄)。

 

「あの、もう頭あげていいから。ほら、周りも見てるし」

 

 土下座をする五反田(兄)をどうにか立たせる俺。

 

「ホントにもういいから。ね?」

 

「本当にすみません」

 

 深々と頭を下げる少女を尻目にちらりと時計を確認すると思ったよりも時間が経っており

 

「やばっ!人と待ち合わせしてたから俺はこれで!」

 

「あ!待ってください!うち定食屋やってるんでよかったら今度来てください!ちゃんとお礼したいんで!これ住所です!」

 

「いいのに、お礼なんて」

 

「そんなこと言わずに!」

 

 と、少女は無理矢理に俺にメモを握らせる少女。

 

「じゃあ、近くに行くことがあれば寄らせてもらうよ。それじゃ」

 

「あ、最後にお名前だけでも!」

 

「名乗るほどの者でもないよ」

 

「お願いします!」

 

「じゃあ……ジョン・スミス」

 

「え?明らかに偽名じゃ――」

 

「それじゃあね!」

 

 五反田兄妹に手を振りながら俺はシャルロットとの待ち合わせ場所に向かう。

 まだギリギリ約束の三十分は経っていなかったが、そこにはもう既にシャルロットが立っていた。なぜか少し周りをキョロキョロと見渡しながら。

 

「お待たせ!悪い、遅くなって」

 

「う、ううん!僕も今来たところだし!」

 

「あれ?買い物しなかったのか?」

 

 水着を買った俺は店の紙袋を持っているがシャルロットの手には何もなかった。

 

「う、うん。実はいいのがいくつかあって迷っちゃって。だから颯太の意見を聞きたいんだ」

 

「それは構わないけど……」

 

「じゃあこっち!」

 

 俺が頷くと、すぐさまシャルロットに引っ張られ、そのままシャルロットとともになぜか試着室に引っ張り込まれた。

 

「えっと、なぜに俺も一緒に?着替えるなら外で待ってるから……」

 

「だ、ダメ!」

 

 いや、ダメって。

 

「す、すぐ着替えるから」

 

「いやいやいや、いろいろと問題あるから――」

 

 俺の言葉が終わる前に目の前のシャルロットが服に手をかけたので、やむなくすぐさま回れ右する。

 

「な、なあシャルロットさん?なぜに脱ぐんですか?」

 

「だ、だって脱がないと着替えられないし」

 

「そうかもしれないけど!」

 

 そういうことじゃねぇよ!なんで俺の前で脱ぐんだよ!てか、シャルロットの裸に遭遇するのこれで三回目だぞ!多いわ!

 そんな思考を遮るように俺の背後で小さな、しかし存在感のある音が聞こえた。

 

 ぱさり

 

 そう。それはまるで軽い布のようなものが置かれた音。

 

(ま、まさか、下着!?下着っすかシャルロットさん!?)

 

 マジでシャルロットが何考えてるのかわかりません!

 

 

 ○

 

 

 そんな颯太の疑問の答えは簡単。シャルロットは気付いたのだ。自分たちを尾行する存在に。

 

(な、なんで楯無会長と更識さんがいるんだろう。――ってそれよりあの二人がいるのはマズい!確実にマズいよ!)

 

 颯太への思いに自覚すると同時に二人の思いにも気付いたシャルロット。

 大きなライバルである彼女たちが近くにいるということへの焦りから自分でも思わぬ行動をとらせていた。

 

(で、でも、流石に同じ試着室に入るのはやりすぎだったかな……)

 

 今更ながらに自分の行動を恥ずかしく思いながら背中越しに颯太を見る。

 

(ううっ……。へ、変な子だって思われてないよね?………ええい、もうどうにでもなれ!)

 

 羞恥で顔を赤く染めながら、しかし、一度脱ぎ始めてしまった手前引き返すこともできずに最後まで着替えることを決意する。

 脱いだ下着を服の上に置き、水着を纏う。

 

「そ、颯太。も、もういいよ」

 

「オ、オウ……」

 

 裏返った声で返事をしながら颯太がゆっくりとした動きで振り返る。と、颯太の目が見開かれる。

 

「ど、どうかな……?」

 

 恥ずかしさから視線を自分の足元に下げる。

 

「い、いい!うん!いいと思うぞ!似合ってる!」

 

「そ、そうかな?」

 

「あ、ああ」

 

 照れたように頬を掻きながら視線を泳がせる颯太に、お世辞ではないことを悟るシャルロット。

 

「じゃ、じゃあこれにしようかな」

 

「おう。じゃあ俺は先に出てるから――」

 

 そう言いながら試着室のカーテンに手を伸ばす颯太。が、それよりも先に勢いよくカーテンが開かれる。そこに立っていたのは――

 

「み~つっけたっ♪」

 

「………………」

 

 恐ろしいほどの満面の笑みを浮かべた更識楯無と、能面のような無表情の更識簪だった。

 

「生徒会長として、これはちょ~っと見逃せないかしらね~」

 

 背筋が凍るほどの笑みを浮かべて言う楯無に対して颯太の口から出たことばは

 

「ちゃ、ちゃうねん……」

 

 エセ関西弁だった。

 

 

 ○

 

 

 なぜその言葉が出たのかは俺にもわからない。でも、なぜか師匠の恐ろしいまでの笑みと簪の一ミリの表情の読めない無表情によって、俺の言葉を突いて出た言葉は

 

「ちゃ、ちゃうねん……」

 

 関西人のはずなのにエセっぽくなってしまった。

 

「うんうん。わかってる。わかってるわよ?」

 

 俺の言葉に笑顔のまま頷く師匠。

 

「し、師匠……」

 

「続きは帰ってから生徒会室で訊くわ」

 

 優しげな声ではあったが、俺には師匠の言葉が死刑宣告に聞こえた。

 

「とりあえずシャルロットちゃんはお会計してきてね。もちろんあなたも一緒に生徒会室ね?」

 

 俺の背後でもシャルロットが青い顔していた。

 

 

 

 その後、学園に戻った俺たちは床に正座させられ二時間近く説教をいただき、その後、延々と第一アリーナ内を百周ほど走らされた。俺が持久力ないの知っててやらせたんだろうなぁ、師匠は。

そう言えば走ってたのはなぜか俺一人だったな。シャルロットは何させられてたんだろうか。

 




この間見たらお気に入り件数が1111でしたよ。
ポッキーの日ですね。

お気に入り件数1000いったらまた番外編でも書こうと思ってましたが、流石にスパンが短いんで1200いったらにします。

ではではまた次回!


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第35.5話 一方その頃……

颯太がアリーナをマラソンさせられているころ、生徒会室では――

 

 

「で?」

 

「え、えっと……」

 

 生徒会室の椅子に座らされ、正面から楯無に睨まれるシャルロットは体を縮こませる。

 颯太と同じようにマラソンのような何かしらのペナルティをもらうと思っていたシャルロット。が、その予想に反し、生徒会室に残され、正面には楯無、その隣には簪、そして少し離れた位置に虚&本音の姉妹が待機していた。

 

(ど、どうしよう……。というか、これから僕はどうなるんだろう……)

 

 不安と恐怖とその他よくわからない感情を顔に浮かべたシャルロットは青い顔で震えていた。

 

「ま、まあまあ、お姉ちゃん。お、落ち着いて……。シャルロットさん、怯えてる……」

 

 背後に般若でも背負っているような様子の楯無を止めたのは楯無の横に座っていた簪だった。シャルロットを真正面から睨む楯無を宥めながら立ち上がり、虚とともにティーセットのもとに行く。

 

「簪ちゃん、甘いわよ。この子には颯太君とのことで不明瞭なことが多すぎるのよ。そこんとこも詳しくしておかないと。あなただって知りたいでしょ?」

 

 不満げに腕を組みながら簪に視線を向ける楯無。

 

「そりゃ、私だって知りたいけど……。でも、そんな高圧的な態度はどうかと思うし……。あ、シャルロットさん、お茶どうぞ。虚さんの淹れたお茶はおいしいですよ」

 

「あ、ありがとう……ございます……」

 

 恐る恐る目の前に置かれたお茶と横に立つ簪に視線を行ったり来たりさせるシャルロット。その様子に気付いた簪はぎこちないながらも笑みを浮かべる。

 その笑みにホッと安堵しながら出された紅茶に口を付ける。

 

(あ、ホントにおいしい。すごく落ち着く……)

 

「それで――」

 

 シャルロットが二口、三口と口を付けてカップを置いたところで簪が口を開く。

 

「――実際のところは……どうなの?」

 

「え………?」

 

 ニコリ、とシャルロットの正面、楯無の隣で笑みを浮かべながら言った簪の言葉に首をひねるシャルロット。

 

「どうって……それって……あの、もしかして……」

 

「二人は付き合ってるのかしら?」

 

「っ――!?」

 

 自分の言葉を引き継ぐように言われた楯無の言葉にシャルロットは息をのむ。

 ある程度予測していたとはいえ、こうまで真正面から問い質されるとは思っておらず、一瞬にしてパニックに陥る。

 

「え、えっと、私と颯太はまだそういう関係じゃない……と言いますか」

 

「「〝まだ〟!?」」

 

 シャルロットの言葉に間にある机を飛び越えんとする勢いで身を乗り出す楯無と簪にイスに座ったままさらに縮こまる。

 

「い、いや!〝まだ〟と言いますか……将来的にはそうなればいいなぁという願望はあるけど………つまりは……その、現在、僕と颯太はただの友達なわけで……」

 

 ごにょごにょと俯きながら指をいじるシャルロットの姿を見ながらふたりは安心しながらもひとつ確信する。

((あ、この子もライバルだな))

 

 ――と。

 

『…………………』

 

 三人の間に沈黙が流れる。

 その沈黙を破ったのは――

 

「………あの」

 

 シャルロットであった。

 

「やっぱりお二人も……その……」

 

 そこから先は少し言いずらそうにしているシャルロットの意図汲み取ったのか、楯無と簪が顔を見合わせて苦笑い気味に頷く。

 

「うん。言いたいことは分かるわ。そしてその通りよ」

 

「私たちの気持ちは……あなたと同じ……って言えばわかるよね」

 

 ふたりの言葉にシャルロットは頷く。

 

「まあ、つまりは私たちはライバルってわけね」

 

ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら楯無が言う。

 

「言っておくけど、お姉さん譲らないからね」

 

「………僕も負けませんよ」

 

「……私も……お姉ちゃんにもシャルロットさんにも負けたくない」

 

 三人の間に謎の結束と絆が生まれた瞬間であった。

 

「さて虚ちゃん、ロールケーキあったはずよね?出してちょうだい」

 

「はい」

 

 楯無の言葉に虚は頷き準備にかかる。

 

「あ、ごめんなさいねシャルロットちゃん。まるで尋問みたいに問い詰めちゃって。お茶のおかわりいる?」

 

「え、あ、はい。お願いします」

 

「私の分も……」

 

 先ほどまでの張りつめたような雰囲気が消え、和やかなお茶会のような雰囲気に変わる。

 

「「「ふう……」」」

 

 三人が同時に息を吐く。それが互いにおかしくなり、プッと噴き出した。

 

「シャルロットちゃん、お互い大変かもだけど、これからよろしくね。困ったことがあったらいつでも相談してね。私、生徒会長だからできる範囲で助けるわ」

 

「よろしく……」

 

「こ、こちらこそ」

 

 シャルロットと楯無、簪が握手し、互いに笑い合ったところで虚がロールケーキとお茶のおかわりを運んでくる。

 

「さ、食べましょ。ここのロールケーキは絶品よ。虚ちゃんのお茶との相性もばっちりよ」

 

「はい」

 

「いただきます……」

 

 虚と本音も席に着き、フォークを取る。

 和やかなお茶会の始まり――

 

「ところでさ~――」

 

 と、思いきや

 

「先月でゅっちーは結局ぐっちーやおりむーと一緒のお風呂に入ったの~?」

 

 本音が投下した爆弾によって生徒会室内の空気が張り詰める。

 

「………そう言えば……そのことも聞かなきゃいけなかった……」

 

「他にも颯太君がどうやってシャルロットちゃんの性別に気が付いたとかね」

 

 ゆらり、立ち上がる楯無と簪。俯き加減のせいかその表情はシャルロットの角度からはよく見えないが、なぜか背筋に悪寒が走る。

 

「え!?いや、あの!ええっ!?」

 

 尋問という名のお茶会はどうやらまだまだ終わらないようだった。

 

 

 

 ――一方その頃アリーナでは……

 

「はぁ……ひぃ……ふぇ……ふぇ……。あ、あと、……あれっ!?今って何周走ったっけ!?」

 

 フラフラになりながらマラソンを続ける颯太であった。

 




先週忙しくて登校できなくてすいません。
今週と来週も忙しくなることが予測されますので来週は更新できないと思います。
やっとできたと思ったら短くてすみません。

次の更新もお楽しみに。


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第36話 荷物

お久しぶりです!
いつの間にか前回の更新から三週間以上たってますね。
こんなに休むつもりはなかったんですけどね(;^ω^)


「海っ!見えたぁっ!」

 

 トンネルを抜けたバスの中でクラスメイトたちが声を上げる。

 だが、俺はそんな歓声の中――

 

「ねえ、大丈夫?」

 

「大丈夫じゃない。無理。気持ち悪い。吐きそう」

 

 心配げに俺の顔を覗き込むシャルロットにぐったりとしたまま答える。

 

「もう。だからバスの中で本読んじゃダメって言ったじゃない」

 

「だって読みたかったから……普段乗り物で酔うこともなかったし、大丈夫だろうと思ったんだけど……」

 

「ほら、外の景色でも見たら?遠くの景色見たら治まるって言うよ。それに、すっごくいい景色だよ」

 

「酔い覚ましにいいけど、実家のすぐそばも海だったし、学園も海に囲まれていたから、歓声を上げるほどでもないだろ――」

 

 そんな俺の言葉は窓の外の景色に視線を向けたところで途切れた。

 

「これは……すごいな……」

 

 無意識のうちに口をついて出た俺の言葉に横でシャルロットが笑った気配がした。

 

「ね?すっごくきれい」

 

「なんか実家の海思い出したよ」

 

「へぇ、颯太の実家にもこんな綺麗な海が見えるの?」

 

「おう。結構変わった地形らしくて日本三景なんて言われてるよ」

 

 シャルロットの質問に頷きながら答える。

 

「そっか。それならぜひ見てみたいな」

 

「そうだな。機会があったらな」

 

 頷きながらふと目線を前に向けると一夏の後頭部が見えた。どうやら隣の席のセシリアや通路を挟んでとなりのラウラと話しているようだ。なんだかラウラが照れたように一夏の顔を押しやっている。………何やってんだろ?

 

「――ん?どうかしたか、颯太?」

 

 俺の視線に気づいたのか一夏が振り返る。

 

「って、どうしたっ?ものすごく顔色悪いぞっ?」

 

「……大丈夫だ。問題ない。気にするな」

 

「聞いてよ一夏。颯太ったらバスの中で本読んで車酔いしちゃったんだよ」

 

「何やってんだよ、颯太……」

 

 シャルロットの言葉に一夏が呆れ顔で俺を見る。

 

「しょうがないだろ。途中のパーキングエリアでお気に入りのラノベの最新刊見つけちゃったんだから。強いて言うならこの本を売っていたあの店が悪い」

 

「どんな屁理屈だよ」

 

 答えつつ視線を窓の外に向ける。

 

「あぁ~、ちょっと治まってきた」

 

 俺は大きくため息をつく。

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」

 

 ちょうどそのタイミングで織斑先生の声がバスに響く。直後、先ほどまで騒いでいた女子たちがいっきに静かになる。流石織斑先生、抜群の指導能力ですね。

 織斑先生の言葉通りほどなくして目的地の旅館へと到着した。四台あるバスからわらわらと出てきて整列する。

 

「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

 

「「「よろしくお願いしまーす」」」

 

 織斑先生の言葉に一同姿勢を正して挨拶をする。

 俺たちの挨拶した先でこの旅館の着物姿の女将さんが綺麗にお辞儀をしている。

 

「今年の一年生も元気があってよろしいですね」

 

 見た目の年齢で言えば三十代(だが、ぶっちゃけ俺は女性の年齢を見抜くのは下手なので自信がない)の大人の雰囲気のある、優しそうな女将さんだ。

 

「あら、こちらが噂の……?」

 

 と、俺と横に並んで立っていた一夏に視線を向けた女将さんが織斑先生に尋ねる。

 

「ええ、まあ。今年は男子がふたりいるせいで浴場分けが難しくなって申し訳ございません」

 

「いえいえ、そんな。それに、ふたりともいい男の子じゃないですか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」

 

「感じがするだけですよ。挨拶をしろ、馬鹿者」

 

 ぐいっと両手にそれぞれ俺と一夏の頭を掴んで押さえる。

 

「い、井口颯太です」

 

「お、織斑一夏です「よろしくお願いします」」

 

「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です」

 

 そう言って女将さんはまた丁寧にお辞儀をする。

 

「不出来な弟と生徒がご迷惑をかけます」

 

「あらあら。織斑先生ったら、ふたりにはずいぶん厳しいんですね」

 

「いつも手を焼かされていますので――ほら、お前たちも荷物を取ってこい」

 

 織斑先生の指示に従い、俺と一夏はバスへと向かう。手元にあったのは最低限の荷物だけだったので大きな荷物はバスの荷物入れに預けてあったのだ。他のクラスメイト達はもう回収済み、もしくは回収中なのでその列の最後尾に並ぶ。

 

「えっと、俺らの荷物は……あった」

 

 俺と一夏が最後だったらしく他にめぼしい荷物は――

 

「あれ?颯太、これお前の名前が書いてあるぞ」

 

「はい?」

 

 自分の荷物を手に取ったところで、一夏が一つの段ボールを指さす。

 

「おかしいな。俺の荷物はこれだけなのに……」

 

 そう言いながら俺は肩にかけた緑色のボストンバッグから一夏の指す段ボールに視線を移す。

 それは大きな箱で、人一人なら優には入れるだろう。

 

「とりあえず出すか?」

 

「そうだな」

 

 一夏と示し合わせ、箱を荷物入れから引っ張り出す。

 

「よっ!……思ったより重いな」

 

 ゆっくりとその場に下ろし、箱の周りを調べるが、めぼしいものは特にない。強いて言うなら側面に『井口颯太の荷物』と書かれているくらいだ。

 

「………どうする?」

 

「………どうするって……とりあえず開けるか。なんかすごく嫌な予感しかしないけど」

 

 厳重に封をされているガムテープをベリベリとはが――

 

「ジャジャ~ンッ!中身は楯無さんでした~っ!」

 

「「おわっ!?」」

 

 勢いよく開いた段ボールの蓋に度肝を抜かれる俺と一夏。

 

「って、師匠っ!?」

 

「楯無さんっ!?」

 

「びっくりした?ねぇねぇ、びっくりした?」

 

 楽しげに、まるで悪戯の成功した子供のように笑う師匠。

 

「何やってるですか、こんなところで?楯無さんは二年生でしょう?」

 

「だって~、来たかったんだもんっ」

 

 一夏の言葉に師匠が答える。

 

「それに、颯太君には言ったはずよ?」

 

「え?」

 

「は?」

 

 師匠の言葉に一夏も俺も唖然とする。

 

「………俺聞いてませんよ?」

 

「言ったわよ~。思い出してみて、ほら昨日」

 

「昨日……?」

 

 えっと、昨日は確か――

 

 

 ○

 

 

 

「ねーえー、颯太くーん。私も臨海学校行きたいー!」

 

 明日の準備として愛用の緑のボストンバッグに着替えや必要品を詰め込んでいる俺の背後で、まるで駄々っ子のように俺のベッドで飛び跳ねる師匠が言った。

 

「無茶言わんでください。師匠は二年生でしょう」

 

「だって~、ずるいじゃない。颯太君や簪ちゃん、シャルロットちゃん、本音ちゃんは海で楽しんで。その間私は虚ちゃんと生徒会のお仕事よ!私だって海で遊びたいわよ!」

 

「ずるいって……師匠だって一年前に行ったでしょうに……」

 

 俺は呆れながら作業する手を止める。

 

「大体生徒会の仕事あるんだったら、それほっぽって遊びに行ったら布仏先輩の雷が落ちるんじゃないっすか?」

 

「うっ!………それは……」

 

「あとうちのクラスの担任は織斑先生ですよ?」

 

「…………………」

 

 俺の言葉に師匠の顔が青白くなる。

 

「それでも行きたいんですか?」

 

「……ふ、ふんだっ!いいもんいいもん!颯太君にはもう頼まないわよ!自力で何とかして着いて行ってやるんだから!」

 

「あっ!ちょっと師匠っ!?」

 

 捨て台詞とともに走り去っていく師匠を見送りながら

 

「なんとかって……どうするつもりなんだろう……?………まあさすがの師匠も織斑先生いるのに堂々と着いてきたりはしないだろ……」

 

 

 

 ○

 

 

 ――答え:気にせず着いてきた

 

「そういえば言ってた!!」

 

「言ってたのかよ!」

 

「だって勢いとか冗談だと思って……ぶっちゃけ忘れてた」

 

 まさかマジで着いて来るとは思わんだろ。

 

「さーて、せっかく来たわけだし遊びまくっちゃうわよ!とりあえず当面は教職員、特に織斑先生にだけは見つからないように――」

 

「あっ、織斑先生」

 

「「えっ!!?」」

 

 俺の目線の先を追うように一夏と師匠の視線が向く。

 

「うっそ~!」

 

 その隙に師匠を箱の中に押し込む。

 

「一夏!そこのガムテープ取って!」

 

「お、おう!」

 

 一夏が投げてよこしたガムテープを受け取り、すぐさま段ボールを完全に完璧に念入りに封をする。

 

「これでよしっ!」

 

「いや、いいのかっ!?」

 

 俺と一夏の目の前には厳重に封をされ、内側からは開けることもできずにその場で飛び跳ねている段ボール箱があるだけだった。

 ちゃんと呼吸はできるように四隅には小さな穴をあけてある。

 

「さて……ここからどうするか……」

 

 俺が飛び跳ねる段ボール箱を前にして腕を組んで考え込んでいたところに

 

「なんだお前ら、まだここにいたのか」

 

「あ、ちふ――織斑先生」

 

「あ、ちょうどよかった。織斑先生、手違いで持ってこられていたこの荷物をIS学園に送り返したいんですけど」

 

「荷物………って、何だこの飛び跳ねる段ボール箱は。中身は何だ?」

 

「ん~……強いて言うなら〝生モノ〟です」

 

「〝生モノ〟?」

 

「えっと………楯無さんです……」

 

「……………なるほど。事情はなんとなく察した。で?宛先は誰にしておけばいい?」

 

「三年の布仏虚先輩で。連絡しておくんで」

 

「うむ、手配しておこう」

 

「じゃあ、お願いします」

 

「ああ。お前たちは部屋へ向かえ。詳しい場所は山田先生に訊け」

 

「「はい」」

 

 俺と一夏が頷いたのを確認し、織斑先生は去って行った。――段ボール箱を片方の肩に担いで。あの段ボール箱、師匠だけじゃなくて師匠の荷物も入ってたのに……。

 

「おっと。今のうちに布仏先輩に連絡いれておかないと」

 

 俺はポケットから携帯を取り出し、登録してあった『布仏虚』を選ぶ。

 数秒のコールの後――

 

『もしもし、布仏虚です。どうしましたか、井口君?今は臨海学校のはずでは?』

 

「もしもし。すいません急に。今大丈夫でしたか?」

 

『ええ。まだ始業時間前なので。ただ、あまり時間はないので手短にお願いします』

 

「はい。実は色々手違いがあってそちらに荷物を送ったんです。で、その受取人の名前を先輩にしたので受け取りをお願いしたいんです」

 

『はぁ……。……それは構いませんが、その荷物というのは?』

 

「楯無師匠です」

 

『……………すみません、聞き間違いですかね?もう一度お願いします』

 

 数秒の間を空け、布仏先輩が言う。

 

「楯無師匠です。無理矢理着いて来てたんで段ボール箱に放り込んで厳重に封をして織斑先生に預けたんです」

 

『…………朝から見かけないと思ったら、お嬢様……』

 

 電話口から呆れたような大きなため息が聞こえてくる。

 

『わかりました。詳しい話はお嬢様から聞きますので、荷物の受け取りについては了解しました。ご迷惑をおかけしてすみません』

 

「いえいえ。それではお願いします」

 

 布仏先輩との電話を切り、携帯をポケットにしまう。

 

「さて、それじゃあ行くか、一夏」

 

「お、おう。………本当によかったのか?」

 

「……何が?」

 

 一夏の言葉に俺は首を傾げる。

 

「いや、だから…………あー、いや、うん。なんでもない」

 

「???」

 

 何か言いかけた一夏だったか口を閉じる。変な奴だな。

 




改めましてお久しぶりです。
更新しようと思っていたのですが色々と忙しく、気が付けば三週間もたってました。
いや~、時間の流れるのは速いですな。

知らぬ間にお気に入り件数も1200いってました。
投稿しようと思っていた番外編ですが、書いてる途中で一つ問題を発見しました。
まだ本編で出てないキャラが出てんですよね。
てなわけでそのキャラが出るまで番外編は延期します。

あとあれですね。
久しぶりって言うのもあるのか、なかなか思うように書けないってのもありますね。
カンを取り戻さねば……。


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第37話 世にも奇妙なウサミミ

今回のは短めです。


「あ、いたいた。颯太、一夏」

 

 部屋の場所を聞こうと山田先生を探していた俺と一夏の元にシャルロットと簪、のほほんさんがやってきた。

 

「おう。どうした?」

 

「颯太たちの部屋が……しおりに書いてない」

 

「だから二人の部屋がどこか聞いておこうと思ってー」

 

「ああ、なるほど」

 

 言われて納得する。しおりには全員分の部屋割りが記載されているのだが、なぜか俺と一夏の部屋だけ記載されていない。疑問に思って織斑先生に訊いたところ、とりあえずは当日現地で通達する、と言われていた。

 

「俺らも知らないから、今それを確かめるために山田先生捜してるところなんだ」

 

「ふーん、そっか。じゃあわかったら教えてね」

 

「遊びに行くからー」

 

「おうよ。トランプとかウノ用意してあるからみんなでやろうぜ」

 

 緑のボストンバッグからトランプとウノを取り出しながら言う。

 

「とりあえずこれから部屋を聞いて荷物置いて来るから、その後は海にでも行こうかな」

 

「俺もそうするつもりだ」

 

「じゃあ、僕らもそうするつもりだし、また後で海で」

 

「あとでね~」

 

「それじゃあ……」

 

 三人と別れ、一夏とともに山田先生探しに戻る俺。と、その後まもなく、

 

「あ、山田先生」

 

「あ、井口君、それに織斑君も。どうかしましたか?」

 

「織斑先生が用があるから山田先生に部屋を聞けって」

 

「ああ、なるほど。そういうことなら、こちらです。着いて来てください」

 

 そのまま山田先生の後を着いて行く。

 

「ここです」

 

 と、山田先生が示した部屋は――

 

「ここって……」

 

「『教員室』って書いてありますけど……?」

 

 ドアに大きく「教員室」という張り紙のされた部屋だった。

 

「はい、そうですよ。最初は個室という案もあったのですが、それだと就寝時間を無視した子たちが集まるのではないかという意見が出まして、結果それぞれ二人部屋に教員との相部屋で、ということになりました」

 

 苦笑い気味に解説する山田先生に頷きつつ俺は口を開く。

 

「なるほどなるほど。まあそれが妥当でしょうね。――で?俺と同室になったのは山田先生ですか?織斑先生ですか?」

 

「あ、井口君は私と一緒にこっちの部屋。織斑君は織斑先生とここの隣の部屋です」

 

 まあ、そうだろうと思った。

 

「そうですか。じゃあ臨海学校の間よろしくお願いします」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 

 

 ○

 

 

 その後部屋に荷物を置いて海に向かった俺と一夏だったが――

 

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

 俺と一夏、そして途中でたまたま合流した篠ノ之は呆然と庭の一画を見ていた。

 俺たちの目の前には異様なものが生えていた。――ウサミミである。ウサミミと言っても普通のものではなく、なんというかメカメカしいウサミミだった。しかもご丁寧にその横には『引っ張てください』という張り紙まである。

 

「なあ、これって――」

 

「知らん。私に訊くな。関係ない」

 

「???」

 

 首を傾げる俺の横で一夏と篠ノ之はこれについて何か知っているように話している。

 

「えーと……抜くぞ?」

 

「好きにしろ。私には関係ない」

 

 そう言ってスタスタと歩き去る篠ノ之。

 

「なあ、お前らはこれが何か知ってるのか?」

 

「ん―……まあ、たぶん」

 

 一人この状況に取り残されている俺は一夏に聞くが、一夏はあいまいに頷きながら屈みこみウサミミを掴む。

 

すぽっ。

 

「のわっ!?」

 

 勢い余った一夏が後ろにすってんころりんと転ぶ。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

「おお。まあ何とか」

 

「何をしていますの?」

 

「あぁ、セシリア」

 

「いや、このウサミミを――あ」

 

 一夏がセシリアへと顔を向けると、寝転がっている状態の一夏からはおそらくセシリアのスカートの中が見えてしまっているのだろう。

 

「!?い、一夏さんっ!」

 

 一夏の視線の先を理解したらしく、セシリアがスカートを押さえて後ずさる。

 

「ヘイヘーイ、一夏。とんだラッキースケベだな。さてはわざとだな?」

 

「ちがっ!ホントに偶然に!」

 

「でも見たんだろ?」

 

「うぐっ!」

 

「しかも見えてるのに気づいてからも見続けてたし」

 

「一夏さんっ!?」

 

「わ、悪かった!その、だな。ウサミミが生えていて、それで……」

 

「は、はい?」

 

 セシリアが首を傾げる。まあ普通そういう反応するよな。俺も実際に見てないと信じられない。

 

「いや、束さんが――」

 

 キィィィィン……。

 

「ん?」

 

 上空から謎の音が聞こえて来た。見上げるとそこには――って!?

 

 ドカ―――――ン!

 

 謎の飛行物体が目の前の地面に突き刺さっていた。しかも驚くべきことにその見た目は

 

「「「に、にんじん……?」」」

 

 俺たち三人は呆然と呟いた。なんというか、漫画なんかで見る感じの簡単なにんじんだった。しかし大きさだけで言えば人一人くらい余裕で入ってそうな大きさだった。

 

「あっはっはっはっ!引っかかったね、いっくん!」

 

 バカッと開いたにんじんが開き、妙にテンションの高い女性が飛び出してきた。

 その女性は青と白のワンピース。パッと見不思議の国のアリスを彷彿とさせる服装だった。そこからさらに一夏の手からウサミミをかっさらい頭に装着する女性。

 

呆然とする俺とセシリアの前で一夏はその人物と親しげに会話を始める。

 

「あ、ところでいっくん。箒ちゃんはどこかな?」

 

「えーと……」

 

 一夏が言いにくそうにしている間にその女性はキョロキョロと周りを見回したところで

 

「ん?」

 

 一夏の隣に立っていた俺と目が合う。

 一瞬鋭い視線を俺に向けた後、女性はまた満面の笑みで一夏に顔を向ける。

 

「まあ、この私が開発した箒ちゃん探知機ですぐにみつかるよ。じゃあねいっくん。また後でね!」

 

 俺とセシリアが呆然としている間に走り去っていく謎のウサミミアリスだった。

 

「な、なあ一夏……」

 

「今の方はいったい……」

 

「あーその、なんだ。束さん。箒の姉さんだ」

 

「「え……?ええええっ!?」」

 

 俺とセシリアの驚きの声が旅館に響き渡った。

 




どもども。
今回の話は短めな上に特に話が動くわけでもないので若干つまらなく感じたかもしれません。
すいません、キリのいいところで話を切ったのでこうなりました。

これまで忙しかった分ちょっと時間が取れたのでこれから更新頻度が上がると思います。
続きはまた近々更新しますのでお楽しみに。


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第38話 海!

「青い海!白い砂浜!照りつける太陽!――うぅ~みだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 着替え終わって外に出た俺と一夏を待ち受けていたのは輝かしいまでの青い海だった。

 

「あ、織斑君と井口君だ!」

 

「えっ、うそっ!?私の水着変じゃないよね!?」

 

 俺たちが出てきたことで女子たちがざわつく。

 とりあえずは気にせず俺たちは砂浜へと歩を進める。

 

「「あちちちっ」」

 

 ふたりして声を揃えて同じようにその場で足踏みする。燦々と照りつける太陽で焼かれた砂。が、そんな砂の熱にもすぐに慣れ、普通に歩けるようになる。

 

「とりあえずまずは泳ぐか。そのためには準備運動だな」

 

「おう」

 

 一夏と並んで劣化ラジオ体操のような動きで体の節々を動かし筋を伸ばす。

 

「い、ち、か~~~~っ!」

 

 と、準備運動中だった俺の横で同じように準備運動をしていた一夏によじ登る鈴。その姿はまるで猫のように身軽だった。

 

「相変わらず真面目ね。ほらっ、終わったんなら一緒に泳ぎに行きましょ」

 

 そう一夏の背中で言う鈴の水着は鈴らしいスポーティーなタンキニタイプ。オレンジと白のストライプでへその出ているものだった。

 

「こらこら、お前もちゃんと準備運動をしろって。溺れても知らないぞ」

 

「あたしが溺れたことなんかないわよ。前世は人魚ね。たぶん」

 

 そう言いながらスルスルと一夏の肩まで登る姿はまるで猿のようだった。絶対人魚じゃねえなこれ。

 

「おー、高い高い」

 

 周りを見渡して楽しそうに笑う鈴。

 

「あっ、あっ、ああっ!?な、何をしていますの!?」

 

 と、そこにやって来たセシリア。手には簡単なビーチパラソルとシート、そしてサンオイルのボトルを持っている。

 セシリアの水着はブルーのビキニ、腰にはパレオが巻かれている。

 

「何って、肩車」

 

「降りてください!一夏さんには私にサンオイルを塗ってもらうことになっているんですの!」

 

「「「え!?」」」

 

 セシリアの言葉に周りの女子たちが沸き立つ。

 

「私サンオイル取ってくる!」

 

「私はシートを!」

 

「私はパラソルを!」

 

「じゃあ私はサンオイル落としてくる!」

 

 いや、それはもったいないから。

 

「相変わらずの人気だねー、おりむーは」

 

「あ、のほほんさん。………えっと、それは水着なのか?」

 

「そうだよ~」

 

 そう言いながらパタパタと手を振るのほほんさんの姿は普段のパジャマのような(本人曰く)水着だった。あれで泳げるのだろうか。日焼けはしなさそうだが。

 

「コホン。そ、それでは一夏さん。お願いしますわね」

 

 そう言ってしゅるりとパレオを脱ぐセシリア。

 

「え、えーと……背中だけだよな?」

 

「い、一夏さんがされたいのでしたら、前も結構ですわよ?」

 

「いや、その、背中だけで頼む」

 

「でしたら――」

 

 セシリアはいきなり首の後ろで結んでいたブラの紐を解いて、水着の上から胸を押さえてシートに寝そべった。

 

「さ、さあ、どうぞ?」

 

「お、おう」

 

「長くなりそうだから、俺は先に泳ぎに行ってるぞ」

 

「お、おう……」

 

 俺の言葉に一夏が返事をし、セシリアへと向き直る。

 俺はそんな一夏たちを置いて、一人海に歩いて行った。てか、サンオイル塗ってもらうとかラノベとかでありそうなシチュだよな。

 

 

 ○

 

 

 

「――ん?」

 

 地元に海があったおかげで泳ぎが得意な俺は、少し深いところ、ブイの浮くあたりを泳いでいた俺は浜辺が少し騒がしくなったのに気づく。

 セシリアが怒ったように暴れ、そこから逃げるように一夏と鈴が海に入ってくる。どうせ一夏が何かやらかしたんだろうな。

 海に入った一夏と鈴は競争でも始めたのか俺のいる方向に向かって泳いでくる。

 

「……よしっ、ちょっとおどかしてやろーっと」

 

 泳いでいる真下から平行に俺が現れたらきっと驚くだろう。

 一夏と鈴に向けて泳ぎ始める俺。

 

(ターゲットは……鈴だな)

 

一夏より先を泳ぐ鈴を目標に定め泳いでいく俺は、ふと、様子がおかしいことに気が付く。

 

(なんか……焦ってる?というかもしかして……)

 

 俺の思考が結論に行きつく前に目の前にいた鈴がブクブクと沈んでいく。

 

(あいつ、溺れてるじゃんっ!)

 

 急いで水面に顔を出し、大きく息を吸った俺はそこから潜水。先に沈んだ鈴に向かって行く。

 

(とどけ!)

 

パニックになっているのか、もがいている鈴の手をなんとか掴み、抱えて水面へと急浮上。

 

「ぶはっ!」

 

「ごほっ!ごほっ!」

 

 水面から顔を出した俺の横で鈴が大きくむせる。

 

「おい、大丈夫か、鈴?」

 

「う、うん。なんとか……」

 

「鈴!颯太!」

 

 心配げな顔で横にやって来た一夏。

 

「二人とも大丈夫か?」

 

「俺は平気だ。鈴もとりあえずは大丈夫そうだ。意識もはっきりしてるし」

 

「そうか……」

 

 安堵の笑みを浮かべる一夏。

 

「とりあえず浜に戻ろう。一夏、鈴を頼む。今潜ってた俺よりお前の方が体力あるだろうし、鈴を連れてってやってくれ」

 

「おう。任せろ」

 

 鈴を背負った一夏の横に並び、浜へと向かう。

 

「……颯太」

 

「ん?なんだ?」

 

「………あ、ありがと……」

 

 ポソポソと、きっと隣にいなければ聞こえなかったであろう大きさではあったが、鈴が言う。

 

「まったく、とんだ人魚だよな。まあ気にするなよ。――今は一夏の背中でも堪能してろ」

 

「なっ!?」

 

 ニヤニヤと小声で言う俺の言葉に鈴が顔を赤く染めながらも、一瞬の間の後に一夏の首に回していた手に少し力を籠め、さらに密着する。

 

「ん?どうかしたか?」

 

 俺の言葉が聞こえていなかったらしく、一夏が首を傾げるが、鈴は

 

「……何でもない」

 

 と答え、そんな光景を俺はニヤニヤしながら見ていた。

 

 

 ○

 

 

 

「あ、颯太、一夏。ここにいたんだ」

 

 鈴をセシリアたちに任せた俺と一夏のもとにシャルロット、そして――

 

「な、なんだそのタオルおばけは」

 

 タオルを全身に巻いたミイラ状態の謎の人物がやって来た。タオルから出ている銀髪のツインテールや背格好からラウラだとは思うが、それにしたってこの格好はなぜに?

 

「ほら、出て来なって。大丈夫だから」

 

「だ、だ、大丈夫かどうかは私が決める……」

 

 タオルの中から聞こえるくぐもった声はやはりラウラだった。

 その声は弱々しいものだった。いつもの自信満々な雰囲気はどこ行った。

 

「ほーら、せっかく水着に着替えたんだから、一夏にも見てもらうでしょ?」

 

「ま、待て。私にも心の準備というものがあってだな……」

 

「もー。そんなこと言ってさっきから全然出てこないじゃない。一応僕も手伝ったんだし、見る権利はあると思うけどなぁ」

 

「「?」」

 

 俺も一夏も状況が飲み込めず首を傾げる。

 

「うーん、ラウラが出てこないんなんら僕だけで颯太や一夏と遊びに行こうかな」

 

「な、なに?」

 

「うん、そうしよう。颯太、一夏、行こっ」

 

 言うなりシャルは俺と一夏の手を掴んで歩き出す。

 

「ま、待てっ。わ、私も行こう」

 

「その格好のまんまで?」

 

「ええい、脱げばいいのだろう、脱げば!」

 

 そう叫びながら自分の体を包んでいた数枚のバスタオルを取り去ったラウラは

 

「わ、笑いたければ笑うがいい……」

 

 顔を赤く染め、モジモジとしていた。

 黒のビキニ。しかもところどころにレースのあしらわれた、まるで大人の下着のような水着。さらにいつもの飾り気のないストレートの銀髪は左右一対のアップテールにまとめられている。その姿はおかしなところはなく、一言で言えば可愛いと思った。

 

「おかしなところなんてないよね、一夏、颯太?」

 

「お、おう。ちょっと驚いたけど、似合ってると思うぞ。なぁ?」

 

「ああ」

 

「なっ……!」

 

 俺たちの言葉にさらに顔を赤らめるラウラ。

 

「しゃ、社交辞令ならいらん……」

 

「いや、世辞じゃねえって。普段と違う髪型ってのもあって可愛いと思うぜ」

 

「か、かわっ!!」

 

 一夏の言葉に、ボンッと音の出そうなほどの勢いで顔を赤く染めるラウラ。

 

「うん。僕も可愛いって褒めてるのに全然信じてくれないんだよ。あ、ちなみにラウラの髪は僕がセットしたの。せっかくだからおしゃれしなきゃってね」

 

 なるほど。道理で普段のラウラとは違うわけだ。

 

「そういえば、その水着は俺と一緒に買いに行ったやつだな。あの時も言ったけどよく似合ってると思うぞ」

 

「う、うん。ありがとう」

 

 少し頬を染め、嬉しそうに微笑むシャルロット。

 

「おーい、ぐっちー、おりむー!」

 

「さっきの約束!ビーチバレーしようよ!」

 

 と、少し離れた位置にあるバレーのネットの位置から本音とクラスメイト数人。そして簪がやってくる。

 簪の水着は黒のビキニタイプ。下はフリルがあしらわれ、ミニスカートのようになっている。腰や胸元には白いリボンがあしらわれている。

 

「へ~……」

 

「な、何……?」

 

 俺が簪をじっと見ていたせいか、簪が恥ずかしげに訊く。

 

「簪はもうちょっと控えめのを着るのかと思ってたからちょっと意外で」

 

「に、似合わないかな……?」

 

「いや、よく似合ってると思うぞ。可愛いと思う」

 

「そ、そう……。ありがとう……」

 

 恥ずかしそうに、しかし、嬉しそうに笑う簪。

 

「よーし、じゃあビーチバレーっするか!」

 

 一夏の号令にみんなでのビーチバレーが始まった。

 何度かチーム代えもし、お昼まで続いたビーチバレー。

 その後昼食を取り、午後からは回復して戻ってきた鈴やセシリアも入れてビーチバレーをしたり泳いだりして過ごし、あっと言う間に夕方となった。が、その日海で遊ぶ間俺も一夏も、篠ノ之に出会うことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――おまけ――

 

 

「あれ?颯太何してるの?」

 

「棒倒し」

 

 昼食後、満腹で気持ち悪くならぬように砂遊びに興じる颯太。傍らでシャルロットが訊く。

 

「よし、こんなもんかな」

 

 出来上がった砂山の頂上に旗を刺す。

 

「でも、一人で棒倒しやって面白いの?」

 

「見ててみ」

 

 颯太はシャルロットにニヤリと笑い、砂山に向き直る。砂山に手を刺し、ザクッと砂を削り取る。サラサラと崩れる砂山に――

 

「っ!」

 

 シュッシュッシュッ

 

「シュッシュッシュッ!?」

 

 傍らのカバンから取り出した霧吹きで砂山に水を吹きかける。横ではシャルロットが驚愕の表情を浮かべる。

 

「確かに水分で固めれば崩れにくくなるけど。でもそれ反則じゃないの?」

 

「まあまあ」

 

 呆れ顔のシャルロットをなだめつつ颯太は続きの作業に戻る。

 

 カリカリ シュッシュッ カリカリ シュッシュッ

 

「…………もう、男らしく一気にやればいいのに……」

 

「いやいや、まだまだこれからだよ」

 

 そう言いながら颯太は傍らのカバンから新たなアイテムを取り出す。

 それは片眼に着ける顕微鏡のような装備、そして先のとがったピンセット。

 

「何その装備!?」

 

 驚愕するシャルロットを置いておいて、装着した顕微鏡で拡大した視界でピンセットを使ってさらに削っていく。

 

 カリカリカリカリカリカリカリ……………

 

「ふぅっ……」

 

 どれくらいの間削っていたのだろうか。颯太は満足げに顔を上げ、装備を外す。

 

「あ、できたの……って、細っ」

 

 シャルロットが驚愕の声をあげる。

 それもそのはず。さっきまで砂山だったものは颯太が極限まで削ったことで細い棒状になり、頂きには先ほど刺した旗が刺さったままである。

 

「えっ!?これ本当に砂だけでできてるの!?棒倒しって言うかもう全体的に棒状になってるし!」

 

「いや~、前に読んだ漫画でやってたから、ホントにできるかやってみたかったんだ~。いや~うまくいった。さて、写メって――」

 

 颯太がカバンから携帯を取り出そうとすると

 

「復活っ!ほら一夏!さっきのリベンジにもっかい競争するわよ!」

 

「おい、待てよ鈴!」

 

 ドタドタドタッ!と颯太の目の前を走り去る二人。

 後に残ったのは平坦な砂浜と倒れた旗。

 

「ま″ぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 声にならない悲鳴を上げながらその場に崩れ落ちる颯太。

 

「そ、颯太?」

 

「………………」

 

「……その……大丈夫?」

 

「…………何色だ……」

 

「えっ?」

 

「一夏!鈴!てめえらの血はなに色だーっ!!」

 

 

 

 そこから怒りに我を忘れた颯太といまいち状況の理解できていない一夏&鈴の鬼ごっこが開始され、それを苦笑いで見守るシャルロットであった。

 




思ったように書けない節があるんで、もう開き直ってネタに走ってみました。
なぜこのネタを選んだかというと………なんででしょうね(^ω^)


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第39話 学校の日々

かぁぁぁぁなぁしぃぃぃぃぃみぃのぉぉぉぉ♪

むこぉぉぉぉぉぉへぇとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ♪



「はふぅぅぅぅぅ……」

 

「はぁぁぁぁぁ……」

 

 露天風呂なので学園の浴場ほど響かないが、それでも二人しかいない温泉に俺と一夏の間抜けな声は響いたように感じた。

 夜。夕食後に一夏と連れ立って温泉にやって来た。現在この旅館はIS学園の貸し切り状態なので男湯には俺たち以外の人間はいない。広く豪華な温泉をふたりで満喫している。

 え?男の入浴シーン見ても何も楽しくない?……まあそう言うなよ。俺も同意見だから。

 

「しかしまあ、つくづくすごい学校だよな、IS学園って」

 

 俺は横で風呂の縁に頭を乗せ体を預けている一夏に言う。

 

「こんな豪華な旅館を貸し切りって」

 

「確かにな。夕食もすっげえ豪華だったし、美味かったし」

 

 一夏もうんうんと頷いている。

 

「今まで生きてきた中でここまでのレベルの温泉旅館とか初めてだよ。この臨海学校だけでもIS学園に入学できた奇跡を噛みしめられるね」

 

 俺は笑いながら言い、ふと、自分の言葉に引っ掛かりを見つける。

 

「………ん?どうかしたか?」

 

 急に黙った俺を不思議に思ったのか、一夏が首を傾げながら訊く。

 

「いや、もうそろそろ四ヶ月経つんだな~って思ってさ……」

 

「ああ……」

 

 俺の言葉に一夏は理解したように頷く。

 半年前。二月の中旬に俺がISを起動したから今俺はここにいる。それまで一般的でごくごく平凡な日常を送っていた俺に突如現れた非日常。

 それから約一ヶ月半は政府の指定したホテルに籠ってほとんど参考書とにらめっこだった。まあ頼めば欲しいものはだいたい手に入ったから不自由はなかったが。

 そして、四月。今から約三か月半から四か月前、俺はIS学園に来た。

 

「ここまで来るの、あっという間だったよ。人間は慣れる生き物だ、なんて言葉は漫画やアニメでよく出てくる言葉だけど、……実際その通りだったな」

 

「そうだな……」

 

「半年前には思ってもみなかったよ。まさか俺が女の園IS学園に入学して……専用機まで貰えるなんてな」

 

 俺は右腕――赤いリングのブレスレッドを撫でる。一夏も感慨深げに白いガントレットを見つめている。

 

「………そういえば、女の園と言えば――」

 

「ん?」

 

「こっち来る前に友達に、『夏休みになるころにはお前にも彼女出来てるんじゃないか』みたいなこと言われたな」

 

「ああ、俺も似たようなこと言われたな」

 

 横で一夏が笑いながら言うが、俺はだらけていた姿勢から背筋を戻し

 

「なあ……一夏」

 

「ん?」

 

「お前って、好きな奴いる?」

 

「………はぁ!?」

 

 俺の言葉に一瞬の間を空けて一夏が驚きながら体を起こす。

 

「なんだよいきなり?」

 

「いや……なんとなく?」

 

 俺は苦笑い気味に答える。

 

「ほら、うちの女子ってみんなレベル高いし、お前の周りにいる人とか特に」

 

「ん~………今まで考えたことなかったな……」

 

「じゃあ……例えば篠ノ之は?」

 

「箒?箒は……幼なじみだな」

 

「…………えっ?それだけ?」

 

「おう」

 

 予想通りだな。予想通りすぎる。

 

「じゃあ、セシリアは?」

 

「セシリアは……いい奴だよな。クラスメイトとしてもそうだし、ISのことでもよく教えてくれるし」

 

「…………あ、それだけ?」

 

「ん?そうだぞ」

 

「そ、そうか……」

 

 えっとじゃあ……

 

「それじゃあ、鈴は?」

 

「鈴?鈴は……セカンド幼なじみだな」

 

「…………ん?またそれだけ?」

 

「おう」

 

「篠ノ之やセシリアもそうだけど、他にもっとねえの?鈴なら……ほら、毎日酢豚を~のこととか」

 

「あ~、毎日タダで酢豚くわせてくれるってやつだな。幼なじみとはいえいい奴だよな」

 

「………あ…そうですか……」

 

 いくら本人がそう言ったからって……いや、何も言うまい。

 

「じゃあこいつはどうだ!ラウラは!?」

 

「ラウラは……変わってるよな」

 

「…………えっ!?それだけ!?ラウラは一番思うところありそうだろ!?」

 

「えっ?」

 

「『えっ?』じゃねえよ!ほら!いきなりキスされたこととか!」

 

「あー、あれには驚いたな」

 

「だろっ!?」

 

「いくら外国ではキスは挨拶だからってまさかいきなり唇にされるとは思わなかったな。普通頬とかだよな」

 

「……あっ、じゃあ嫁宣言はっ!?」

 

「あれも驚いたな。テレビとかでは見たことあったけど実際いるんだな、オタク文化に変に影響受けた外国人って」

 

「じゃ、じゃあ朝裸で押し倒されたりはっ!?」

 

「あれも驚きだよな。ドイツにはああいう風習でもあるのかな?」

 

「………………」

 

 絶句。箒、セシリア、鈴は予想通りとは言え、一番アプローチを行っているラウラでさえこの程度の認識とは………。駄目だこいつ…早くなんとかしないと…。

 

「……ん?どうかしたか?」

 

「…………いや、うん、なんでもない」

 

 唖然としていたせいだろう。一夏が訊くがこれ以上言うのはやめよう。

 

「なあ一夏。頼むから後ろから刺されるなよ?」

 

「なんだよいきなり」

 

「いや、なんかお前って将来女性関係で大失敗しそうな気がして……。例えば複数の女の子といい感じになって、そのうちの一人が妊娠。その子に子供をおろせって言ったら刺し殺されて、刺した子も別の子に殺され、『やっぱり……中には誰もいませんよ』ってその子が刺した子の腹かっ捌いて言い残し、最後にはその子はお前の生首を抱えてヨットで大海原へと去って行く――みたいなことにはなるなよ?」

 

「なんだそれ。怖いしリアリティないのにやけに細かいな」

 

「知らないならいい」

 

 そうなったら『かぁなしぃみの~♪むこぉぉへと~♪』がお前の葬式のBGMだ。

 

「でもさ、そういう颯太はどうなんだよ」

 

「え?俺?」

 

 突然のことに俺は驚きながら訊く。

 

「俺はちゃんと一人の人を選んで、ちゃんと愛し続け――」

 

「いや、そうじゃなくて。お前は好きな人とかいないのかって話だよ。例えば今お前が名前を挙げたやつとか」

 

「いや、そいつらはないな。理由は言えないけど」

 

 好きな奴がいる(それは俺じゃない)ってのがあるから、どうしてもそういう対象には見れない。

 

「楯無さんとかその妹の簪さんとかシャルロットとか」

 

「師匠に簪にシャルロットか……」

 

 俺は呟くように三人の名前を言いながら上を向く。屋根がない露天風呂からは夜空を見上げることができる。満天の星空だった。

 

「………まあ俺はお前と違ってちゃんと考えてるよ」

 

「お?そうなのか?」

 

「いいなあ……とか、可愛いなあ……とか思う相手はいる。でもそれが付き合いたいほど好きかと言われればわからない。だから、その人たちとは今はこのままでいいかなぁって思う」

 

「へ~。ちなみに誰なんだ、その相手って?」

 

「言わない」

 

「なんだよっ!言えよ!」

 

「絶対言わねぇ!」

 

「俺に訊いといて自分は言わねぇのは不公平だろ!」

 

「黙れ朴念仁!大体お前にはそういう対象いないんだから言ってないようなもんだろ!」

 

「いないっていうのを言っただろ!」

 

「じゃあ俺もいねぇよ!」

 

「さっきいるって言ってたじゃん!」

 

 そんな感じで男湯は少しの間にぎやかになった。

 

 

 ○

 

 

 風呂から上がった俺は部屋に戻ろうと一夏と歩いていると

 

「ん?」

 

 マナーモードにしていた携帯が着信を告げる。

 

「悪い一夏。電話かかってきたから先行っててくれ」

 

「おう、わかった」

 

 一夏と別れ、廊下の端に移動する。画面を見ると電話の相手は楯無師匠だった。

 

「もしもし、師匠?無事帰れましたか?」

 

『もしもし。お陰様でね』

 

 電話口から若干不機嫌そうな師匠の声が聞こえてくる。

 

『虚ちゃんにものすごく怒られた。仕事終わるまで生徒会室から出してもらえなかった。やっとついさっき終わったところ』

 

「そ、そうですか……」

 

 今度は若干泣きそうな声になっている。相当怖かったんだろう。

 

「師匠。自業自得って言葉知ってますか?」

 

『ぶー!だって私も遊びたかったんだもん!』

 

「はぁ、二日後には帰るんですからおとなしく待っててくださいよ。夏休みになれば海でもプールでも行けるでしょう」

 

『みんなで遊ぶことに意味があるのよ!』

 

「いいこと風に言ってますけど、それだと臨海学校に来た俺らと師匠だけで、布仏先輩だけ除け者になっちゃいますよ」

 

『あっ……』

 

 師匠の間の抜けた声が聞こえてくる。

 

「どうせなら布仏先輩も入れてみんなで遊んだ方がいいでしょ。夏休みまでの辛抱ですよ」

 

『…………お土産買ってきてよ』

 

「生乾きの乾燥ヒトデでいいですか?」

 

『何そのチョイス!もっといいもの買ってきてよ!』

 

「アハハハ。冗談ですよ。適当に見繕って帰ります」

 

『もう、絶対だからね』

 

「はい。……それじゃあ、生徒会の仕事頑張ってくださいね」

 

『うん。颯太君たちもくれぐれも気を付けてね。特に事件とかは起きないとは思うけど』

 

 そう言って師匠は電話を切った。俺は数秒、切れて暗くなった画面を見つめてから携帯をしまう。

 

「あ、颯太」

 

 部屋に向かって歩いていたところで風呂上りらしく若干髪の湿っているシャルロットと簪に出会う。

 

「………………」

 

「ん?……どうかしたの、颯太?」

 

 一瞬二人をじっと見つめて黙ってしまった俺にふたりが不審に思ったらしく訊く。

 

「あ、いや、なんでもない。お前らも風呂上がりか?」

 

「うん……シャルロットと今上がったところ」

 

「颯太は一人?」

 

「さっきまで一夏と一緒だったんだけど、師匠から電話かかってきたから先に行ってもらったんだ」

 

「お姉ちゃんから?」

 

 俺の言葉にふたりは首を傾げる。

 

「あぁ……言ってなかったか。実は師匠、朝の時点では臨海学校にこっそり着いて来てたんだよ」

 

「「えっ!?」」

 

「でも、俺と一夏が見つけて織斑先生に引き渡したんだ。それで無理矢理学校に強制送還されて布仏先輩にこってり怒られたらしい」

 

「もう……お姉ちゃんったら……」

 

「アハハ……楯無さんらしいね……」

 

 簪は頭を抱え、シャルロットも苦笑いだ。

 

「で、今本人から電話があって、無事学園には戻ったらしい。お土産も頼まれた」

 

 俺も若干苦笑いになりながら言う。

 

「それで、ふたりはこれから暇?点呼までは時間あるし、部屋で一緒に遊ばないか?のほほんさんとかも呼んで」

 

「うん。僕は大丈夫だよ」

 

「私も……行く」

 

「じゃあいったんそれぞれの部屋に戻って俺の部屋に集合な」

 

 三人で頷き合いながら俺たちはいったんそれぞれの部屋へと向かった。

 




あー、何が楽しくて男同士の入浴シーンと書かねばならんのか。
でも、一夏と二人で語らいをさせようと思ったらここしかなかったのも事実……。

次回はとうとう颯太がやつと完全遭遇です。



――追記――
変更したはずのところが変更されずに投稿してしまったので編集しました。
編集前に読んだ方はすみません。


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第40話 天災と凡人

とうとうお気に入り件数が1300。
やりました!


 合宿二日目。昨日の自由時間とはうって変わり、今日は丸一日授業。内容はISの各種装備試験運用とそのデータ取りだ。特に専用気持ちは装備もたくさんあり、大変だろうと思われる。俺も普段の装備に加えてついにアレも……

 

「ようやく全員集まったか。――おい、そこの遅刻者」

 

「は、はいっ」

 

 織斑先生に呼ばれて身を竦ませたのは、意外や意外なラウラだった。

 

「そうだな、ISのコア・ネットワークについて説明してみろ」

 

「は、はい。ISのコアはそれぞれが――」

 

 織斑先生の言葉に頷いたラウラはすらすらと解説していく。流石は軍人。正確かつ分かりやすい解説だ。まだまだ知識の拙い俺ではこうはいかないだろう。

 

「さすがに優秀だな。では遅刻の件はこれで許してやろう」

 

 織斑先生の言葉にふうと安堵のため息を漏らすラウラ。ドイツで扱かれていた頃のことでも思い出しているのかな?

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

 生徒全員が返事をする。やはり一年生全員が並んでいるとなんとも迫力がある。

現在俺たちはIS試験用のビーチにいる。四方を切り立った崖に囲まれた、ちょっとした秘密のビーチ、まるで赤い飛行機に乗った豚が使っている秘密基地みたいだ。

 ここに搬入されたISと新装備のテストが今回の合宿の目的だ。

 ISの稼働を行うので当然みなISスーツ姿なのだが、海辺なだけに水着に見える。水着姿の女子に囲まれていると思うと……いいね。ISスーツだけど。

 

「ああ、篠ノ之。お前はちょっとコッチに来い」

 

「はい」

 

「お前には今日から専用機を――」

 

「ちーちゃ~~~~~~~~~~ん!!!」

 

 ずどどどど……!と土煙とともに人影が崖を駆け下りて来る。その姿は昨日大きなにんじんから飛び出してきた人物で――

 

 

「……束」

 

 そう。昨日突如として俺と一夏、セシリアの目の前に現れ、よくわからないうちに去って行った篠ノ之束博士その人だった。

 

「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さあ、今すぐにハグハグしよう! そして愛を確かめ――ぶへっ」

 

 とびかかって来た篠ノ之博士の顔面を片手でつかむ織斑先生。しかもその指は顔に思いっきり食い込んでいた。あの様子ではまったく手加減なんてしていない。

 

「うるさいぞ、束」

 

「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦ないアイアンクローだねっ」

 

 いつの間にか織斑先生のアイアンクローから脱出した篠ノ之博士。それだけでこの人物のすごさの片鱗を垣間見た気がする。

 アイアンクローから脱出した篠ノ之博士はそのまま篠ノ之の方を向き

 

「やあ!」

 

「……どうも」

 

 よそよそしかった。これが久々に会った姉妹の雰囲気なのだろうか。少なくとも俺が数年ぶりに弟と再会したらもっと感動的な再会となるだろう。

 

「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」

 

 ゴンッ!

 

「殴りますよ」

 

「殴ってから言ったぁ!しかも日本刀の鞘で叩いた!ひどいよ!箒ちゃんひど~い!」

 

 今のはしょうがないだろ。セクハラはいかんだろセクハラは。

 篠ノ之姉妹、そして織斑先生以外の全員がそんな状況を呆然と見ている。そりゃこんな変な人物が突然乱入してきたら唖然とするよな。

 

「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒たちが困っている」

 

「えー、めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ、はろー。終わり」

 

 めんどくさそうにテキトーな挨拶で済ます篠ノ之博士。今の自己紹介でポカンとしていた一同もこの人物の正体に気付いたようでこそこそと話し出す。

 

「はぁ……。もう少しまともにできんのか、お前は。そら一年、手が止まっているぞ。こいつのことは無視してテストを続けろ」

 

「こいつはひどいなぁ、らぶりぃ束さんと呼んでいいよ?」

 

「うるさい、黙れ」

 

 織斑先生と篠ノ之博士。この二人の仲はなんだかよくわからないものだな。仲がいいんだか悪いんだか。

 

「それで、頼んでおいたものは……?」

 

 ややためらいがちに篠ノ之が尋ねる。

 

「うっふっふっ。それはすでに準備済みだよ。さあ、大空をご覧あれ!」

 

 ビシッと空に向かって指差す篠ノ之博士。その指さす方向を篠ノ之を含め俺たち全員が見上げる。

 

 ズズーンッ!!

 

「おわっ!」

 

 突如、上空から銀色のコンテナが降ってきた。すさまじい衝撃とともに砂浜の砂が舞う。

 次の瞬間コンテナの正面が開き、その中身を表す。そこにあったのは――

 

「じゃじゃーん!これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製のISだよ!」

 

 真紅の装甲のISが篠ノ之博士の言葉に呼応するようにゆっくりと出てくる。

 ………ん?待って。今のセリフおかしくなかった?全スペックが現行ISを上回る?それってもしかして最強なんじゃ……?

 

「さあ! 箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズをはじめようか! 私が補佐するからすぐに終わるよん♪」

 

「……それでは、頼みます」

 

「もう~また堅いよ~。実の姉妹なんだから、こうもっとキャッチーな呼び方で呼んで――」

 

「早く、はじめましょう」

 

 篠ノ之博士の言葉にとりあわず、促す篠ノ之。

 

「ん~。まあ、それもそうだね。じゃあはじめようか」

 

 ピッとリモコンを押す篠ノ之博士。直後、紅椿の装甲が開き、と同時に操縦者を受け入れるように膝をつく。

 

「箒ちゃんのデータはある程度選考して入れてあるから、あとは最新データに更新するだけだね。さてと、ぴ、ぽ、ぱ、っと♪」

 

 コンソールを開いた途端に、高速で指を滑らせる篠ノ之博士。さらに空中投影のディスプレイを六枚ほど呼び出し、膨大なデータに目配りをしていく。それと同時進行で、先程と同じく六枚呼び出した空中投影のキーボードを叩いていた。アキラさんもすごいと思ったが、この人の指の動きはもはや人間のなせる動きではない気がする。

 

「近接戦闘を基礎に万能型に調整済みだから、すぐに馴染むと思うよ。あとは自動支援装備も付けといたからね!お姉ちゃんが!」

 

「それは、どうも」

 

 態度はおかしな人だがその技術は本物らしい。篠ノ之博士の技術に圧倒されている俺の横で数人の女子たちがこそこそと話し出す。

 

「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの……?身内ってだけで」

 

「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」

 

「………そうかな」

 

 そんな女子たちの会話に、俺はつい口を開く。

 

「強くなるために自分の使える手を使うってのは別に悪いことじゃないんじゃないかな。こうやって誰かからいろいろ言われるのは本人も分かってたことだろうし。それに――ずるいとか不公平って言えば、女に生まれただけで優遇されるこの世の中も十分不公平だと思うけど?」

 

 俺の言葉にもともと優遇されている側の女子たちは口を閉ざす。

 

「へ~、君面白いね」

 

 そんな中で反応したのは篠ノ之博士だった。

 

「そこの彼の言う通りだね。有史以来、世界が平等であったことなんか一度もないよ」

 

「………そんな平等じゃない今の世界を作る原因になったのはあなたですけどね」

 

 俺は聞こえるか聞こえないかの音量でつぶやく。篠ノ之博士に聞こえたのかは知らないが、博士はすでにどうでもいいことのように作業に戻っている。

 

「あとは自動処理に任せておけばパーソナライズも終わるね。あ、いっくん、白式見せて。束さんは興味津々なのだよ」

 

「え、あ。はい」

 

 一夏が返事をし、篠ノ之博士は展開された白式にコードを刺し、調べていく。

 

「本当に篠ノ之博士だったのですね」

 

 横でセシリアが感嘆の声をあげる。目の前であれだけの技術を見せられれば感嘆の一つもあげるだろう。

 

「わたくしのISも見ていただけないでしょうか……」

 

「俺もひとつわかってないことあるし、篠ノ之博士の意見は聞いておきたいな」

 

 俺が訊きたいことは666のことだ。

 

「一息ついたところでお願いしてみるか」

 

「そうですわね」

 

 俺たちがこそこそ相談している間に白式の解析も終わったらしい。俺とセシリアは頷き合い

 

「あの、篠ノ之博士!」

 

「博士のご高名はかねがね承っておりますっ。もしよろしければ私たちのISを見ていただけないでしょうか!?」

 

 ふたりして頭を下げる俺たち。が――

 

「はあ?だれだよ君たち。金髪と凡人は私の知り合いにはいないんだよ。そもそも今は箒ちゃんとちーちゃんといっくんと数年ぶりの再開なんだよ。それをどういう了見で君らはしゃしゃり出てくんの?理解不能だよ。って言うか誰だよ君たちは」

 

 辛辣な言葉が俺たちを襲う。その視線は冷たく鋭かった。

 

「えっ……」

 

「あの……」

 

「うるさいなあ。あっちいきなよ」

 

「う……」

 

「……行こう、セシリア」

 

 俺は呆然としているセシリアを連れてその場を立ち去る。正直想像以上だった。ある程度は変な人だとは思ったが、あの目を見た瞬間俺は悟った。あの目は俺たちを人間だと認識している目ではなかった。

背後ではもうすでに興味をなくしたらしく、一夏は織斑先生と話しながら『紅椿』の作業に入っていた。

 俺はそんな光景を見ながら胸中に広がる一つの感情を感じていた。これはそう――嫌悪感だ。

 

 

 ○

 

 

 それから数分後。俺たちはまたもや唖然としていた。

 セッティングを終えた『紅椿』。その性能は計り知れないものだった。

 近接だけかと思われた二本の刀型の近接ブレード『雨月』と『空裂』。

 振るわれ赤色のレーザーが球体を発現させる『雨月』。同じく振るうことで帯状の赤いレーザーを放つ『空裂』。

 それらを使って姉の呼び出した自身へと向かってくる十六連装のミサイルポッドからの攻撃をいとも簡単に跳ねのける。

 その場の全員がその圧倒的なスペックに驚愕し、言葉を失っていた。

 

「いや~、我ながらいい出来だね~」

 

 ただ一人博士だけは満面の笑みで満足げに笑っている。

 

「じゃあ次行ってみようか~」

 

「何?」

 

 これで終わったと考えていた俺たちは篠ノ之博士の言葉に驚愕し、織斑先生が眉をしかめる。

 

「どういうことだ?」

 

「どういうことも何も、ここまでは軽いデモンストレーションだよ。………へい、そこの凡人~」

 

 …………ん?凡人?誰のことだろう?あの人に比べたらみんな凡人だろうから誰のこと言ってんだろう?

 

「おい、私のこと無視するとはいい度胸じゃないか、凡人のくせに」

 

 ………何だろう、篠ノ之博士俺のこと見てない?

 

「あの……もしかして俺のことですか?」

 

「そうだよ。君以外に誰がいるって言うんだよ、凡人」

 

「おい、束。井口に何をさせる気だ?」

 

「まあまあ、いいじゃんいいじゃん」

 

 厳しい顔で博士を睨む織斑先生だが、暖簾に腕押しな雰囲気でへらへらと答える篠ノ之博士。

 

「………えっと…何ですか?」

 

「うん。やってもらうことはすっごく簡単なんだよ」

 

恐る恐る訊く俺に満面とは言わないまでも笑みを浮かべながらやってくる篠ノ之博士。

 

「ねえ、君も専用機持ってるよね?」

 

「ありますけど……」

 

 俺は頷きながら右腕を上げる。

 

「うんうん。機体データは見たことあるから大体の性能は知ってるよ」

 

「えっ?それどこで見たん――」

 

「そこで!」

 

 俺の言葉を遮るように篠ノ之博士が声のトーンを上げる。

 

「君には箒ちゃんの『紅椿』と模擬戦をしてほしいんだよ!」

 

「……………はぁ!?」

 

 ついつい素っ頓狂な声が出る。

 

「俺がっ?篠ノ之の乗る『紅椿』と試合っ?」

 

「そそっ。サクッとやっちゃおう!」

 

「お断りします」

 

「よし!じゃあさっそく準備して――ってっ、ええっ!?断るのっ!?」

 

 俺の返答に篠ノ之博士が見事なノリツッコミを披露する。

 

「そりゃ断りますよ。だって俺にメリット無いじゃないですか」

 

「え~~……」

 

 不満げに俺を睨む博士。

 

「じゃあこうしよう。試合してくれたら君のこと解剖しないから」

 

「それ逆に言えばやらなきゃ解剖するって脅しじゃないですか。絶対やですよ」

 

「じゃあなんだったらやってくれるのさ!」

 

「え~………」

 

 俺は一瞬考え込み

 

「じゃあ試合して、俺が勝ったら俺の言うことなんでも聞いてください」

 

「へ~……なんでもか……。でもそれだと今度は君の方が条件良すぎない?」

 

「もし俺が負けたら俺があなたの言うことをなんでも聞いてあげます」

 

「それは本当に何でもなのかな?たとえば――君の体を隅々まで調べ尽くすってのでも?」

 

 その言葉に一番に反応したのは織斑先生だった。

 

「おい!そんなこと認められると思っているのか!?」

 

「俺は構いませんよ?」

 

「おい、井口!」

 

「その代わり、他の条件ももっと詳しく俺が決めさせてもらいます」

 

「ふーん。例えば?」

 

 俺の言葉に篠ノ之博士が訊く。

 

「そうですね、例えば制限時間を決める。長々とやるのもかったるいんで」

 

「ふむふむ。他には」

 

「あとは、制限時間を設けたんで、その制限時間以内に相手のシールドエネルギーを削りきったら勝ち。制限時間以内にお互いがお互いのシールドエネルギーを削りきれなかったら引き分けとかでどうですか?そして引き分けた場合、俺は篠ノ之博士の、博士は俺の、些細な願いを叶える」

 

「ほほう?些細な?」

 

「そうです。お互い勝ったわけでも負けたわけでもない。だから何でも言うことを聞くわけにはいかない。だから〝些細な〟お願いです。ぶっちゃけ俺の専用機はまだまだ解明されてないところがあるんで」

 

「私にそれを解析しろってことかな?」

 

 俺はその篠ノ之博士の問いににっこりほほ笑む。

 

「そっかそっか。じゃあもし引き分けた場合、私は君から君の体の一部をもらおうかな。髪数本と献血で抜かれるくらいの量の血でいいよ」

 

「わかりました。それでいいです」

 

 そこで、俺と博士は織斑先生の顔を見る。

 

「…………はぁ。もういい、勝手にしろ」

 

「やったね!」

 

「ありがとうございます」

 

 織斑先生にお礼を言ってから俺は篠ノ之博士に向き直る。

 

「じゃあ最終確認です。制限時間あり。それ以内に相手のシールドエネルギーを削りきった方が勝ち。勝った方は何でも言うことを聞かせられる。この場合は俺が勝ったら博士が、篠ノ之が勝ったら博士の言うことを俺が何でも聞く。もし制限時間以内に決着がつかなかった場合お互いが〝些細な〟お願いを聞く。これで間違いないですね?」

 

「うん、問題ないよ。まあなんでもって言ってもちーちゃんが怖いから下手なことはできなさそうだけどね」

 

 笑って頷く篠ノ之博士は背後で睨んでいる織斑先生をちらりと見る。

 

「………井口。学園に帰った反省文の提出だ」

 

「は、はい」

 

 どすの聞いた声で言われ俺は身を震わせながら頷いたのだった。

 




ちょっと無理矢理でしたが次回は『紅椿』VS『火焔』です。
さてさてどんな結果になるか。
次回も楽しみに。


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お気に入り件数1300記念番外編 「KANZASI in Wonderland」

続きだと思っていた方、すみません。
戦闘描写の苦手なわたくしめに今しばらく時間を下さい。


 ある日の昼時。学園の中庭に設置された木陰のベンチに座り、少女――更識簪は文庫本のページをめくる。

 青い空に浮かぶ適度な量の雲が日差しを抑え、また、時折吹く風が読書に興じる少女の環境を心地良いものにする。

 

「~~~♪~~~♪」

 

 髪を揺らす心地良い風に、鼻歌まじりに顔を上げる簪。見上げると風が揺らす葉の隙間から見える太陽がキラキラと見えた。

 

「なんか……眠くなってくる……」

 

 簪は一つあくびをした後、手の中の本に視線を戻す。

 

 

 ○

 

 

 どれほどの時間が経ったのだろうか。

 本から顔を上げ、座ったままにその場で大きく伸びをした簪の視界の端に白銀色の何かが横切る。気になってそちらに顔を向ける簪。

 そこにいたのは一匹の銀色に近い白色の毛並みをしたウサギだった。

 

「あ……可愛いうさぎ……」

 

 呟きながらじっとウサギを見つめる簪。ウサギはそんな簪に気付いた様子もなく数歩歩いたところで

 

「もしもし、クラリッサ。私だ」

 

 どこからか携帯電話を取り出し話し始めた。

 

「わー……可愛い……。ウサギが携帯で電話し始めて……………っ!?おかしい!……えっ?……電話っ?」

 

 その光景に驚き、急いで腰を上げる簪。しかし、それでもウサギは気にした様子もなく通話を続ける。

 

「ああ、用事はすべて完了した。これより帰還する」

 

 そう言いながら通話を切り、またもや歩き始める謎のウサギ。

 

「あっ、待って……!」

 

 その後を急いで追いかけはじめる簪。が、なぜかぴょこぴょことした動きなのにウサギとの距離は一向に減らない。

 そのまま追いかけていくと、ウサギは一本の大きな木のもとへ。そのままウサギはその木の根元にあった大きな穴に飛び込みました。

 

「ああ……逃げられた……。それにしても、こんなところにこんな大きな穴あったんだ………あれ?」

 

 穴を覗き込んだところで、穴の入り口に何かが引っかかっているのを見つける。

 

「なんだろう……これ……」

 

 首を傾げながら謎の物体に手を伸ばす簪。と――

 

「あっ!」

 

 掴もうと手を伸ばしたところ、身を乗り出しすぎた簪は穴に頭から落ちてしまいました。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 ○

 

 

 ひょっとしたら地球の裏側まで続くのではないと思えるほどの穴の中をひとしきり転がり落ちたところ、広い場所に出ました。

 

「こ、ここは……?」

 

 体についたほこりをパンパンと掃いながら立ち上がった簪。ふと手の中を見ると、先ほど落ちる寸前に穴の入り口で拾ったもの――ウサギの持っていた携帯電話が手の中に納まっていました。

 

「さっきのウサギを追いかけないと……。これをなくして困ってるかも……」

 

簪は周りを見渡しますが、そこには白銀の毛並みのウサギはおらず

 

「扉……?」

 

 一つの扉がありました。ただし――

 

「小さい……」

 

 そう、驚くほど小さいのです。簪の腕や足が通るほどしかありません。

 他にここから出る道はないかと見回したところ

 

「これは……何かの飲み物……?」

 

 そこには机にのった小さな小瓶が一つ。中には謎の液体が。その横には「DRINK ME」の文字が。

 

「『私を飲んで』?……どういうことだろう?」

 

 首を傾げながらもその小瓶を手に取ってみる。栓をしていたコルクを引き抜き、恐る恐る匂いをかぐ。

 

「怪しいけど……飲んでみようかな……」

 

 試しにグイッと小瓶をあおると――

 

「ん?……あれ?……あれっ?」

 

 あれよあれよという間に簪の腰ほどの高さしかなかった机がぐんぐん大きくなり、いつの間にやら見上げるほどの大きさに。

 

「机が急に大きく……いや、違う。……私が小さくなったんだ」

 

 簪の言葉通り。見ると先ほどまで通ることはかなわないと思われた扉が十分な大きさになっていました。

 これ幸いと扉を通って進もうとドアノブに手をかけたところ、どうやら鍵がかかっているらしく扉は開きません。鍵を探してあたりを見渡すと、先ほどの机の端に鍵らしきものが見えました。でも、小さく縮んだ彼女には手が届きません。

 

「どうしよう………」

 

 さらにじっくりあたりを見回すと、机の下にケーキが一つ。

 

「これは……」

 

 そこには小さなメモが添えられ、「EAT ME」の文字が。

 

「『私を食べて』?さっき薬では小さくなったから……もしかして………」

 

 そう呟きながら簪がケーキを食べると――

 

「あっ!」

 

 予感は大当たり。簪の体は再び元通りのサイズに。机の上の鍵を手に取り、ドアのを空けました。が――

 

「今度はどうやって小さくなろう……」

 

 先ほど小さくなるのに使った薬はもうなく、ドアは通れない。つまり、現在使えうる出口は使えなくなったということです。

 

「どうしよう……さっきのもと来た穴を通るのはもう無理だし………もう戻れないのかな…………颯太……」

 

 簪は携帯を取り出しました。表示は圏外。しかしそんなことはわかっていた彼女は携帯の画面に目もくれず、そこにぶら下がるキーホルダーを見つめます。ゆらゆらと揺れる紫の猫。これにそっくりな姉を、ひいてはこれをくれた思い人の顔が思い出され、目から涙があふれてきます。

 

「颯太……お姉ちゃん……」

 

 自分がここにいることを知る人物は誰もいない。もしかすると一生このままかもしれない。数年ぶりに仲直りした大切な姉。その姉との仲を取り持ってくれた最愛の少年。そのどちらとも会えなくなるかもしれないと思うと少女の目からはどんどん涙があふれ出てきます。

 するとどうでしょう。少女の流した涙がみるみるたまり、気付けば簪は涙の池の中に浮かんでいました。

 簪は岸へと向かって泳ぎ始めました。

 

「でも……どうしよう。……このまま岸を見つけても服はずぶ濡れだし……」

 

 そう心配しながらも岸にたどり着いた簪。そこで簪を待ち受けていたのは

 

「虚……さん?」

 

「いえ、私はドードーです」

 

 と、虚改めドードーはその場でぺこりと頭を下げ、すぐさま簪をお風呂に連れて行きました。それから簪がお風呂に入っている間に簪の着ていた制服を乾かし、お風呂から上がってきた簪に温かい紅茶を出し、乾いた服を着せてやりました。

 

「ありがとうございます、うつ――ドードーさん。……ところで……この携帯電話の持ち主のウサギさんを知りませんか……?」

 

「携帯電話?……あっ、それでしたらこの先の侯爵夫人の家に向かった白ウサギさんではないでしょうか?」

 

 簪はドードーにお礼を言い、示された森へと歩き始めました。

 

 

 ○

 

 

 

「ここ……かな?」

 

 少し森を進んだ先に一件の家が現れました。

 

「ごめんください……こちらに……白ウサギさんはいらっしゃいませんか?」

 

 簪がドアをノックすると、数秒の間をおいてドアが開く。姿を現したのは先ほどの白銀の毛並みのウサギだった。

 

「なんだ?私に何か用か?」

 

「あの……これ、あなたの携帯電話ではないですか……?」

 

「ん?……おお!これは私の携帯!どこかで落としたと思って心配していたんだ。すまないな」

 

「い、いえ……」

 

「よかったらあがってくれ。携帯の礼にもてなそう」

 

「い、いえ、お礼を言われるようなことは……」

 

「遠慮はいらない」

 

 断ろうとした簪の言葉を遮りウサギは招き入れるので、簪は頷き後を着いて行くことにしました。

 

「白ウサギさん、お客さんはどなたでしたの?……あら?」

 

 と、家に入ったところで、青いドレスに身を包んだブロンド縦ロールの女性が現れました。

 

「侯爵夫人、客だ。私の落とした携帯を拾ってわざわざ届けてくれた。そこで、お礼をしようと招き入れたのだ」

 

「あら、そうですの」

 

 ブロンドの女性は頷き、ニッコリと微笑みながら簪に視線を向ける。

 

「紹介しよう。こちらはこの家の家主の侯爵夫人」

 

「か、簪です……。……よろしく、お願いします」

 

「ええ。よろしくですわ、簪さん」

 

 笑顔で差し出された手を簪はおずおずと握り、握手を交わす。

 

「友人の白ウサギさんの携帯を拾っていただいたそうで、わたくしからもお礼を申し上げますわ」

 

「い、いえ、そんな……」

 

「ご謙遜なさらず。ぜひお礼をさせてください。実はちょうどいまお料理をしていたところですの。ぜひ食べて行ってください」

 

 侯爵夫人が笑顔で勧める。その笑顔は決して悪意はなく、心からの申し出のようでした。が、なぜか簪は背筋が寒くなるのを感じました。

 

「あの……ちなみに侯爵夫人は、この家におひとりで……?」

 

「いえ。あ、ただ、いまは家政婦が休んでいますわ。先日わたくしの作った料理を食べた次の日くらいから体調を崩してしまいましたの」

 

「そ、そうですか……」

 

 自身の顔が引き攣るのを簪は感じました。

 

(この人、どことなくセシリアに似てる気がするけど……もしかして……)

 

 一瞬で思考をまとめた簪は

 

「いえ、お言葉に甘えたいところですが、私……そろそろ戻らないといけないので……」

 

「まあ、そうですの。それは残念ですわ」

 

 残念そうにする侯爵夫人。そんな侯爵夫人に簪は少し申し訳なく思ってしまいました。が――

 

「………ところで、簪は見ない顔だが、ここら辺のものではないな?帰り方はわかっているのか?」

 

「…………あっ!」

 

 白ウサギの指摘に自分の置かれている状況を思い出しました。

 

「あの……さっき白ウサギさんが行っていた場所が私の家の近くなんですが……ここからはどう行けばいいんでしょうか?」

 

「ふむ……あのあたりだったか。あそこまで行くには少し面倒な道順だから説明はしずらい。案内してやれればいいのだが、これから用があるんだ」

 

「そう……ですか……」

 

 白ウサギの言葉に落ち込んでしまう簪。

 

「その代わり――」

 

 白ウサギは言葉を続けたので簪は顔を上げました。

 

「代わりに案内してくれそうな人物を紹介しよう」

 

 

 

 ○

 

 

 と、いう訳で、白ウサギに紹介された人物のもとへ行くべく、簪は侯爵夫人の家の隣の森へと向かいました。

 侯爵夫人の家へ出るとき――

 

『そいつにあったらこれを渡せ。お前のことを書いておいた。これを読めばお前が困っている経緯などが分かるようになっている』

 

 と、白ウサギからは手紙を

 

『これも持って行ってください。その方はよく友人の方とお茶会をしていますの。きっと今日もお茶会をしていると思いますのでお茶菓子にわたくしの作ったスコーンを渡してください』

 

 と、侯爵夫人からは夫人お手製のスコーンの入ったバスケットを渡されました。

 それらを持って、紹介された人物の行っているお茶会へと向かいました。話によれば道なりに進めばすぐに見つかるという話でしたが……

 侯爵夫人の家を出て少し歩いて行ったところ、開けた場所に出ました。

 そこには大きなテーブルが置かれ、それを囲むように四人の人物がお茶会をしていました。

 そのうちの一人、大きな芋虫が怒ったような、悲しそうな声で他の三人にわめいていました。

 

「でね!あいつったらあたしとの約束覚えてなかっただけでなく、私のことを貧乳ってバカにしたのよ!ひどいと思わない!?」

 

 と、力強く語りながら側頭部に伸びる二本の長い、まるでツインテールのような触角を揺らします。

 それに対して他の三人のメンバーは

 

「そうか。それは確かにひどいな」

 

「でもまあ、唐変木な彼なら仕方ない気もするね」

 

「うんうん。芋虫かわいそ……く~」

 

「こらこら、ヤマネ。話の途中で寝ちゃったら俺たちがまともに聞いてないのがばれるだろ」

 

「うん、ごめんねー」

 

「ちょっと!まともに聞いてなかったの!?」

 

 眠たげにだらけているヤマネを諭すように言ったシルクハットにカラフルなスーツ姿の少年に食ってかかる芋虫。

 

「安心して、芋虫。今のは帽子屋の冗談だから」

 

「でも、三月ウサギ!」

 

 芋虫に笑いながら言う三月ウサギに帽子屋が頷きながら言います。

 

「流石は三月ウサギ。俺の冗談を分かってくれるのはお前だけだよ」

 

「そんな。僕は別に……帽子屋とは長い付き合いだしね」

 

「私もちゃんと冗談ってわかってるよー」

 

 照れたように頬を赤く染める三月ウサギ、そして、変わらず眠たげに言うヤマネ。

 

「あの………」

 

 簪はそんな四人、その中で一番近くにいた帽子屋と呼ばれたシルクハットの少年に声をかけました。

 

「ん?おやおや?見ない顔だね?俺らに何か用かな?あっ、一緒にお茶でもどうだい?知り合いのドードーからもらった茶葉なんだけどこれがとってもおいしいんだ」

 

 帽子屋の差し出したティーカップを受け取り、示された椅子に座りながら簪は白ウサギから預かった手紙をポケットから取り出しました。

 

「あの……実は私、家への帰り道が分からないんですが……白ウサギさんがあなたなら知ってるんじゃないかって……あなた帽子屋さんですよね?」

 

「イカにもタコにも、俺が帽子屋ですよ~。……ふむ、なるほどなるほど………」

 

 簪から受け取った手紙を読みながら帽子屋はふむふむと頷きました。

 

「事情は分かったよ。確かに俺は君を元いた場所に返せると思う」

 

「じゃあ……!」

 

「俺でよければ案内させてもらう」

 

 簪に向けて笑顔で頷きながら帽子屋はティーカップに口を付けました。

 

「ただちょっと待ってね。この紅茶くらいは飲み切ってから行こう」

 

「はい……。あ、実は……ここに来る前に侯爵夫人にも出会ったんですが……これを皆さんにって……」

 

 そう言いながら簪は預かっていたバスケットを差し出しました。

 

「あっ、スコーンじゃない。しかもおいしそう」

 

 一番に反応したのは芋虫でした。

 

「いただきっ!」

 

「あっ!ダメだよ、せっかく侯爵夫人がくれたんだからみんなで分けないと――」

 

 そんな三月ウサギの言葉を無視して机の上にあったイチゴジャムをスコーンに乗せてかぶりつく芋虫。と――

 

「げふっ!」

 

 突然顔を青くさせ、芋虫が座ったまま後ろに倒れてしまいました。

 

「「「芋虫(さん)!?」」」

 

「どうしたのー?」

 

 簪、帽子屋、三月ウサギが駆け寄り、そして間延びした声で訊くヤマネはのんびりとやってくる。

 

「………――っ!脈がない!三月ウサギ!すぐにAEDの準備を!」

 

「う、うん!」

 

「簪!このスコーン侯爵夫人からって話だけど、他に何か言ってなかったか!?」

 

「えっ!?………特に何も……強いて言うなら〝私が作った〟ってことくらいしか……」

 

「なにっ!?」

 

「それ本当!?」

 

「う、うん……」

 

 簪の言葉に帽子屋と三月ウサギが大声で訊き返し、簪はたじたじになりながらも頷きました。

 

「なんてことだ。あの侯爵夫人自ら作ったスコーンだったとは。あのひと自分では自覚してないけど料理が壊滅的なのに」

 

「聞いた話だと、今休みを取ってる使用人の病状も原因不明の食中毒らしいよ」

 

「まさかこれほどとは思わなかったがな……」

 

 帽子屋と三月ウサギの言葉に唖然とする簪。

 

「なんか……私の知り合いの料理みたい……」

 

 

 

 ○

 

 

 

「いや~、危なかった危なかった」

 

 森の中の道を歩きながら帽子屋がにこやかに言いました。

 あれから帽子屋や三月ウサギ(ヤマネは横でボケーっとしていた)の処置のおかげか、息を吹き返した芋虫。意識の戻った芋虫をヤマネに任せ、帽子屋と三月ウサギは簪の道案内をすることにしました。

 

「まさか侯爵夫人の料理があそこまでのレベルだったなんて……予想外だったね」

 

 三月ウサギも苦笑いである。

 

「他の皆にも侯爵夫人の料理には注意しろって伝えておかないとな」

 

「手分けして知り合いに伝えておかないとね」

 

 ふたりが相談しているのを横で訊きながら簪はふと疑問を口にしました。

 

「あの……ところで……私のいたところへの行き方を知ってる人って……あまりいないんですか?」

 

「ん~……たぶんね」

 

 簪の問いに三月ウサギが頷きました。

 

「よっぽどあっちに行く用事でもないと知ってる人は少ないだろうな。俺の場合はあっちにある物の方が面白いからよく行くし」

 

「あっちにある物……?」

 

「そっ。あっちの者は物珍しくて面白いからな。特に俗に言うオタク文化は大変面白い!」

 

「えっ……オタク文化……?」

 

「そう!こちらにはないものだからな!どれもこれも真新しい!」

 

「………ちなみに……好きなアニメは?」

 

「『天元突破グレンラガン』!あれは漢らしくて好きだ!」

 

「――っ!」

 

 帽子屋の言葉に簪は息を呑みました。そのタイトルがとても印象深いものだったからです。

 

「ん?どうかしたか?」

 

 簪にじっと見つめられ、帽子屋が足を止めました。

 

「……無茶で無謀と笑われようと意地が支えの喧嘩道」

 

 簪の呟くように紡がれた言葉に三月ウサギは首を傾げ、帽子屋は何かを悟ったように口を開きました。

 

「壁があったら殴って壊す…道が無ければ、この手で作る!」

 

「「心のマグマが炎と燃える!超絶合体!グレンラガン!!」」

 

「俺を!」

 

「俺たちを!」

 

「「誰だと思っていやがる!」」

 

「………………」

 

 ふたりの様子にポカーンと口を半開きにして見つめる三月ウサギ。

 

「一度言ってみたかったんだよこのセリフ!こっちでは話分かるやつは少ないからな~!」

 

 楽しげに笑う帽子屋。が、簪はそんな帽子屋を見つめて驚愕の表情を浮かべていました。

 

「………颯……太……」

 

「ん?〝ソウタ〟?俺帽子屋だけど?」

 

「――っ!な、何でもない……。ただ……知り合いもグレンラガン好きだから……」

 

 慌てて顔を赤く染めながら簪は否定しました。

 

「ふ~ん。そいつとはうまい酒――お茶が飲めそうだ」

 

 興味深そうに頷く帽子屋。

 

「と、ところで!」

 

 簪は勢い良く、話題を変えるために口を開きました。

 

「そんなにいろんなアニメとか見ようと思ったら……その……お金がいっぱいかかるでしょ?……帽子屋ってお金持ちなの……?」

 

「まあね~。これでも売れっ子帽子屋だからな!むしろオタク文化を知ったおかげで新たなインスピレーションが湧いて出たぜ!」

 

「帽子屋の帽子は人気もあるけどよくわからないもの多いよね」

 

「なんだとー?」

 

 三月ウサギの言葉に帽子屋が不満げな表情を浮かべました。

 

「だって……特に最近作ったのって変わり物ばっかりだったじゃない」

 

「いや~、読んだ漫画に影響うけてさ」

 

「どんな帽子作ったの……?」

 

「そうだな、最近作ったので言えば……かぶってボールを投げるといろんな効果を発揮する帽子とか、かぶると爪を回転させて弾丸みたいに打ち出せる帽子とか、かぶると他人からいろいろ奪えるシャボン玉が出せるようになる帽子とか」

 

「うん……何に影響受けたかわかった……」

 

「あとは、それをかぶってゴーグルかけると集中力のあがる帽子とか、かぶると体がゴムみたいに伸び縮みする帽子とか」

 

「……そんな帽子を作れるところが逆にすごいよね。変な機能付きの帽子はあまり売れないけど」

 

 呆れながらも笑みを浮かべ、三月ウサギが言いました。

 

「とか言いながら、前にあげたキャスケットは気に入ってよくかぶってるじゃないか。あれだって機能付きだぜ?」

 

「えっ!?ただの可愛いキャスケットじゃないの!?」

 

「おう。通称『蛇に巻き憑かれる帽子』。あれを被ると蛇に好かれるようになる」

 

「道理で最近白蛇に言い寄られたわけだ!」

 

「ああ、あの『ああん』が口癖のアイツね。嫌なら返品してもらってもかまわんぞ」

 

「………別に…嫌ってわけじゃ……。せっかく帽子屋が僕のために作ってくれた訳だし……」

 

「そうか?別にいつでも作ってやるけど?」

 

「あら?じゃあ今度私にも作ってもらおっかな~」

 

 と、突如どこからともなく声がかかりました。

 

「この声は……チェシャ猫だな?」

 

「あったり~」

 

 その言葉とともにニヤニヤとした笑みを浮かべ上から逆さまの顔が降ってきました。

 それは一本の大きな木の枝にしっぽ一本でぶら下がった一匹の猫でした。

 

「チェシャ猫、そんなところで何してるんだ?」

 

「何って、あなたのせいでここにいるんじゃない」

 

「へ?俺?」

 

 ジト目で睨むチェシャ猫に帽子屋は首を傾げました。

 

「今日はお茶会だって言うからいつもの場所に行ったのに、いたのはヤマネと芋虫だけ。話を聞いて急いで追ってきたのよ」

 

「それは……そう言えばチェシャ猫も来る予定になってたな。忘れてた」

 

「ひっど~い!」

 

 くるりとその場で一回転してチェシャ猫が地面に降り立ちました。

 

「へ~、君が簪ちゃんか~」

 

 と、降り立った目の前にいた簪にチェシャ猫は興味を持ったようでした。

 

「は、はい……。初めまして……」

 

「……可愛い」

 

「へっ?」

 

「かーわーいーい~!何この子超可愛い!」

 

 突如として簪に抱き着くチェシャ猫。突然のことに目を白黒させる簪。

 

「えっ?あの?ちょっと……」

 

「ねえ帽子屋!この子私の妹にしてもいい!?」

 

「いいわけないでしょ。ほら、簪に迷惑でしょ」

 

「あん♡」

 

 簪に抱き着くチェシャ猫を無理矢理引きはがす帽子屋。

 

「なになに?嫉妬?だったら帽子屋にも抱き着いちゃう。ギュッ♡」

 

「チェ、チェシャ猫!」

 

 その光景を見て三月ウサギが怒ったように声をあげました。

 

「そ、それは今度は帽子屋が迷惑するんじゃないかな!?」

 

「そんなことないわよ。ね、帽子屋?」

 

「………なあ、チェシャ猫」

 

「ん~?何、帽子屋?」

 

「毛がモフモフして熱い」

 

「ガーン!チェシャ猫ちゃんショック!」

 

 その場に崩れ去るチェシャ猫。

 

「………プッ」

 

 そんな光景を見て簪は思わず吹き出しました。

 

「どうかしたの?」

 

「い、いえ……その……なんだか、よく見る光景に似ていたので……」

 

 三月ウサギの問いに簪はおずおずと答えました。

 

「皆さんがそれぞれ私の知り合いに似てて……つい……」

 

「ふ~ん。それってさっき言ってたソウタってやつのことか?」

 

「はい」

 

「僕に似た人もいるの?」

 

「私にも?」

 

「はい。……三月ウサギさんは友達に……チェシャ猫さんは私の姉に……。もっと言えば……こっちに来てから出会った人たちもみんな……なんだか知り合いに似てて……」

 

「あら。じゃあそのまま私のこともお姉ちゃんって呼んでくれていいのよ?そのまま姉妹二人で仲良くこっちで暮らしましょうよ」

 

「いえ……やっぱり私の居場所は……あっちなので……」

 

「………………」

 

 簪のしっかりと紡がれた言葉に帽子屋は簪の顔をしっかりと見据えて口を開きました。

 

「……じゃあ、その大事な姉や知り合いのところに早く帰らないとな」

 

 そう言って優しく笑った帽子屋の笑顔に、簪は一人の少年の笑顔が重なって見えた気がしました。

 

 

 ○

 

 

 あれからチェシャ猫も仲間に入れ、森の中の道を進んでいく簪一行。そんな中でチェシャ猫が口を開きました。

 

「ねえ帽子屋。この子を連れて行くのはわかったけど、だったらどっちの道で行くの?いつも使っている方だと時間かかるでしょう?かといってあっちを使うのは……」

 

「………そうなんだよな~。でも、やっぱり早く帰してあげたいし……あっちを使うかな……」

 

 チェシャ猫の言葉にとてもとてもいやそうに帽子屋が頷きました。

 

「でも、あの人がタダで通してくれるとも限らないし……手を打っておいた方がいいかな……」

 

 何事かをぶつぶつと呟きながら帽子屋は三月ウサギに顔を向けました。

 

「三月ウサギ。ちょっと頼まれてくれないか?」

 

「うんいいよ。何をすればいい?」

 

「ちょっと会いに行ってほしい人がいるんだ。会って事情を話せばたぶん協力してくれるはずだ」

 

 そんな帽子屋の説明を聞き

 

「あっ、なるほど。あの人ね」

 

「確かにそうかもね。わかった、さっそく行ってくるよ。みんなは先に進んでて」

 

「おう、頼んだ」

 

 帽子屋の言葉に頷いた三月ウサギは一人別方向へと歩いて行きました。

 

「あの……私は別に遠回りでも……」

 

「いやいや、遠回りすると君が思ってるよりも時間かかるからこれでいいんだよ」

 

「そうよ。さっ、行きましょうか」

 

「は、はあ……」

 

 ふたりの言葉に曖昧に頷く簪。二人の言葉に納得したのはそれから数分後でした。

 三人の前には大きな大きなとてつもなく大きくて長い塀が続いていました。

 

「ね?これを避けていくと時間かかるのよ。一番いいのはここの家主が通してくれることなんだけど、ここの家主がね~……」

 

「はっきり言って変人だ。変人の俺が言うんだから間違いない」

 

「あ、帽子屋って自分が変人な自覚あったんだ」

 

 帽子屋の言葉にチェシャ猫が驚いたように呟きましたが帽子屋には聞こえていないようでした。

 

「とりあえず、ダメもとでお願いしてみるか。――すいませーん!!赤の女王様ー!!」

 

 そう叫びながら見上げるほどの扉を帽子屋がノックしたところ……

 

「はーい!私に何か用かなー?」

 

 と、一人の女性が現れました、足元から。

 

「「「わっ!?」」」

 

 よく見るとマンホールのようなふたを開け、赤いきらびやかなドレスを身に纏い、頭には黄金の冠を乗せた一人の女性が飛び出してきました。

 

「やあやあやあ。私が赤の女王だよ?それで私に何か用かな?面白いことかな?面白いことじゃないと……首、ちょん切っちゃうよ~」

 

「あの……実は――」

 

 冗談めかして言う赤の女王の目は全くふざけた様子はありませんでした。赤の女王の言葉に背筋を震わせながらも帽子屋は事情を説明しました。

 

「――という訳なんです。なので女王様のお城を横切らせてもらってもいいですか?」

 

「ふむふむ、事情は分かったよ」

 

「じゃあ――」

 

「お断りだね!」

 

「「「ええ~……」」」

 

 満面の笑みで答えた赤の女王の返事に三人は不満そうに言いました。

 

「あの……理由を聞いても?」

 

「だって全然面白くないんだもん」

 

 チェシャ猫の問いに不満げに赤の女王は答えました。

 

「わざわざ私を呼び出すなんて、よっぽど愉快な話かと思ったけど、つまんないや。首、ちょん切っちゃおっかな~」

 

「「「ええっ!?」」」

 

 赤の女王の言葉にさらに驚愕の声をあげたところ――

 

「待ってください姉さん!」

 

 突然声がして、重く低い音とともに扉が開き、中から一人の人物が現れました。

 それは真っ赤な紅に輝く鎧を身に纏った黒髪ポニーテールの少女でした。

 

「まったく、姉さんは。話を聞いていればなんですか。それくらい協力してあげればいいではないですか」

 

「あー、赤の騎士ちゃん。だってー、つまんないんだもん。どうせなら面白おかしい張りのある人生がいいじゃない?赤の騎士ちゃんのおっぱいくらいの張りが!」

 

 ガンッ!

 

「殴りますよ?」

 

「殴ってから言ったぁ!しかも剣の鞘で叩いた!ひどいよ!赤の騎士ちゃんひど~い!」

 

 ふたりのコントを呆然と見つめながら帽子屋が口を開きました。

 

「あの……結局通してもらえるんですか?」

 

「ん~……やっぱりダメだね!いくら赤の騎士ちゃんのお願いでもね~」

 

「「ええ~」」

 

「そんな、姉さん」

 

 簪とチェシャ猫は不満げに声を漏らし、赤の騎士も不満げに赤の女王を睨みました。帽子屋だけは

 

「やっぱりこうなったか………。あとは三月ウサギがあの人を連れてきてくれれば……」

 

 と、背後を振り返った時――

 

「お待たせ、帽子屋!連れて来たよ!」

 

 三月ウサギが一台の大きな馬車から顔を出してやってきました。

 目の前に止まった馬車の扉を開けて飛び出した三月ウサギを迎えた帽子屋は

 

「ナイスタイミングだ三月ウサギ。それで?あの人たちは?」

 

「うん、ここに」

 

 そう言いながら振り返った三月ウサギの視線の先の馬車からふたりの人物が下りて来ました。

 一人は真っ白なドレスに黄金の冠を頭にかぶった女性。すらりとした長身に、長い黒髪。狼を思わせる鋭い釣り目のキリリとした、まるで某女性劇団の男形のような女性。

 もう一人は真っ白な純白の鎧に身を包んだ爽やかイケメンの少年でした。

 

「事情は聞いたぞ赤の女王。彼らがまだここにいるということは概ね予想通りのようだな」

 

 鈴とした声で紡がれた言葉に赤の女王は

 

「白のじょーお~~~~~!!」

 

 ハイテンションに飛びかかっていました。

 

「やあやあ!会いたかったよ、白の女王!さあ、今すぐにハグハグしよう!そして愛を確かめ――ぶへっ」

 

 そんな赤の女王を白の女王は見事なまでのアイアンクローで受け止めました。

 

「うるさいぞ、赤の女王」

 

「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦ないアイアンクローだねっ」

 

 するりと白の女王のアイアンクローから抜け出た赤の女王は満面の笑みでした。

 

「やあ、白の騎士も元気そうだね」

 

「こんにちは、赤の女王。赤の騎士も久しぶり」

 

「う、うむ。久しむりだな白の騎士」

 

 爽やかな笑みを浮かべる白の騎士の言葉に赤の騎士が照れたように、しかしそれを隠すように若干の仏頂面で答えました。

 

「どうした、赤の騎士?そんな仏頂面浮かべて」

 

「べ、別に仏頂面なんかしていない。この顔は生まれつきだ」

 

「そうかな?昔はもっとぷりちーに笑ってたよ。いつも白の騎士白の騎士って――」

 

 ガンッ!

 

「そんなこと言ってなかったはずです!ウソを言わないでください、姉さん!」

 

「いった~い!また叩いた~!ねえねえ、どうしよう白の女王?妹がドメスティックでヴァイオレンスなんだよ。そっちの白の騎士を婿にしたらもうちょっと丸くなるかな~?」

 

「知るか。ほしければこんな愚弟、いつでもくれてやる」

 

 ふざけた様に泣く赤の女王をめんどくさそうに白の女王が睨みます。

 

「おいおい、白姉。そんなこと言って俺がいないと部屋の掃除もできないじゃないか。いっつもゴチャゴチャの部屋を掃除をしてるのは誰だと――」

 

 ガツンッ!

 

「黙れ、白の騎士」

 

「いっつ~……すみません、白姉」

 

 殴られた頭を抑え、涙目になりながら白の騎士が謝りましたが、白の女王は憮然とした表情で赤の女王を見つめながら言いました。

 

「で?どうすればこいつらが城の敷地を通ることを許すんだ?」

 

「う~ん……そうだな~………」

 

 白の女王の言葉に赤の女王は数秒考え込み

 

「そうだ!クロッケーだよ!」

 

『クロッケー?』

 

 赤の女王の言葉にその場の全員が首を傾げました。

 

「そう!最近クロッケーロボってのを作ったんだけど、使うタイミングが無くてね~。てなわけで赤チームに勝ったら通してあげるよ!カモン、クロッケーロボ!」

 

 赤の女王の叫びとともに大きく開いた扉の向こうからズシンズシンと地響きとともに真っ赤な装甲の大きなロボが姿を現しました。

 その姿にクロッケーの要素はなく、太い手足に丸っこい頭。右腕には申し訳程度に普通サイズのマレット(木槌)が握られていました。

 

「こ、これと勝負……ですか……」

 

「これは流石に……」

 

「ムリゲーでは……?」

 

「というか……どの辺がクロッケー……?」

 

 帽子屋一同が苦笑いを浮かべ呟きました。が――

 

「いいだろう。受けて立つ」

 

 白の女王だけは自信満々に頷きました。

 

「ただ、クロッケーをここでやるわけではないだろう?早く案内しろ」

 

「おっけ~。みんな着いて来てね~」

 

 そのままクロッケーロボに飛び乗り、意気揚々と進んでいく赤の女王。それを見送りながら白の女王は振り返り

 

「ほら、お前たちは行け」

 

『えっ?』

 

 白の女王の言葉に帽子屋一同が首を傾げました。

 

「あいつの相手は我々がする。お前たちは先に進め……いや、全員いなくなればいくらあいつでも気付くか。三月ウサギとチェシャ猫、お前たちだけ我々と一緒に来い」

 

「「は、はい。わかりました」」

 

 白の女王の言葉に呼ばれた二人は頷きました。

 

「あの……いいんですか?」

 

 簪が心配げに訊きます。

 

「構わん。あいつはいつもいい加減で身勝手だ。ちょっと相手してやればそれで気が済むだろう」

 

「ありがとうございます、白の女王。あなたを呼んで正解でした」

 

「構わん。あいつとは長い付き合いだ。面倒だがあいつの相手は私の役目だ。不本意だがな」

 

 頭が痛そうに抑える白の女王。

 

「ほら、帽子屋。お前はさっさとその子を送ってやれ。白の騎士、赤の騎士、お前たちはこの城の出口まで着いて行ってやれ」

 

「はい」

 

「わかったよ、白姉」

 

「では、行くぞ」

 

「あの!」

 

 三月ウサギとチェシャ猫を連れて赤の女王の後を追おうとしたところ、簪が声をかけました。

 

「その……ありがとうござしました、白の女王様。三月ウサギさんもチェシャ猫さんも、ここまで送ってくれて……ありがとうございました」

 

「………気を付けて帰れ」

 

「また機会があれば遊びに来てね」

 

「私に似たお姉さんによろしくね」

 

 白の女王は憮然と、しかし優しい目で答え、三月ウサギとチェシャ猫は笑顔で手を振りながら去って行きました。

 

「さて、俺らも行くか」

 

 そんな白の騎士の言葉が出るまで、簪はぼんやりとそれを見送っていました。

 

 

 ○

 

 

 

「ここだ」

 

 城の反対側の城壁の出口で簪と帽子屋は白の騎士と赤の騎士に見送られていた。

 

「助かったよ、赤の騎士、白の騎士。今度お礼に帽子を作ってプレゼントするよ」

 

「お、マジで?やったね」

 

「私は別に……」

 

 嬉しそうにニッと笑う白の騎士とは対照的に赤の騎士は仏頂面でそっぽを向く。

 

「そうか?まあいらないならいいけど。せっかく似合いそうな帽子の案いろいろ考えたのに。なあ、白の騎士、お前も見たいよな?」

 

「おう。どんな帽子も似合いそうだけど、見てみたいな」

 

「そ、そうか………まあお前がどうしても見たいというなら考えてやってもいいぞ」

 

「そっかそっか。じゃあ作って今度持ってくるよ。じゃあな」

 

 照れたように髪を触る赤の騎士をニヤニヤと見つめながら帽子屋はふたりに手を振る。

 

「あの、お世話になりました」

 

「おう」

 

「……気を付けて帰れ」

 

 頭を下げて礼を言う簪に笑顔で答える白の騎士と仏頂面ながらも優しい声で答える赤の騎士にもう一度礼をして簪と帽子屋は広い野原の中に続く一本道を歩き出した。

 

「どうだった?こっちの世界は楽しかったか?」

 

 少し進んだところで帽子屋が訊きました。

 

「………楽しかった。……知り合いに似た人もたくさんいて……とっても居心地よかった……」

 

「………でも、やっぱり戻るんだな」

 

「……うん。……やっぱり、私の居場所は向こうだから……」

 

「…………そっか……」

 

 簪の答えに帽子屋は頷くと、その場で立ち止まりました。

 

「ここから先、道なりにまっすぐ行けば見慣れた場所に行きつくはずだ。ここからは一人で行けるはずだ」

 

 野原のような道に一本だけ続く道の先を指さし、帽子屋は笑いました。

 

「気を付けて帰れよ」

 

「うん……ありがとう……」

 

 簪は頷き、歩き始めましたが、何かを思い出したように足を止めました。

 

「ねえ……」

 

「ん?」

 

 後ろを振り返り、帽子屋に顔を向けました。帽子屋は笑顔で首を傾げました。

 

「………あばよダチ公!」

 

「……………」

 

 簪の言葉に一瞬きょとんとした表情を浮かべて帽子屋はすぐにニッと笑い

 

「〝あばよ〟じゃねえよ。一緒だろ?」

 

 そう言って帽子屋が指さした先は簪の制服のポケットでした。中を見てみると、そこには一冊の文庫本が入っていました。タイトルは――「不思議の国のアリス」。

 

 

 ○

 

 

 

「――ん……」

 

 まどろみの中から意識の覚醒した簪はまわりに視線を向けました。世界が横向きに見えるのは自分が寝転んでいるせいだよ気付き、同時に自分の頭の下に何かがあることに気付いた。

 

「………――っ!?」

 

 視線を上に向けた先にあったのは真下から見上げた一人の少年、井口颯太の顔だった。

 

「おう、おはよう」

 

 颯太はニッと笑いながら読んでいた文庫本から視線を外し、本を閉じた。

 

「なんで、颯太が……?ここは……?帽子屋は……?」

 

「帽子屋?」

 

 寝ぼけたようにぼんやりと呟く簪の言葉に一瞬首を傾げながらも、自分の手の中の文庫本の表紙を見て笑った颯太は答える。

 

「ここはIS学園の中庭だよ。たまたまここに来たら気持ちよさそうに座って寝てる簪を見かけてな。起きるまで待ってようと思って隣に座ったらそのままずり落ちてきて……この状態だ」

 

 照れたように笑いながら言う颯太の言葉に今更ながらに今の自分の状況が俗に言う「膝枕」状態なことに気付き、慌てて頭を上げる。

 

「ほい、眼鏡」

 

 颯太の胸ポケットにひっかけられていた眼鏡を渡され、自分が眼鏡をしていなかったことに今更ながら気が付く。

 

「寝ずらいかと思って外したぞ。あとこれも。手から落ちそうになってたから。あ、栞は挟んであるぞ」

 

 と、読んでいた文庫本も添えて渡す颯太。

 

「『不思議の国のアリス』、なかなか面白いよな。いろんなアニメとかでも題材にされることあるから興味持って中学の時に読んだよ」

 

 本と眼鏡を受け取りながら、ニッコリと笑う颯太の表情に先ほどまで一緒にいた人物の顔を思い出す。

 

「………どうかしたか?」

 

「う、ううん。何でもない………」

 

 やっと目が覚めてきた簪は今までの自分の冒険が夢だったことを悟る。

 

「そっか……夢か……」

 

「夢?どんな夢だったんだ?」

 

 興味深そうに訊く颯太に顔を向ける簪。

 

「うん……実は――」

 

「颯太君、み~つけた!」

 

 突如背後から聞こえた声とともに颯太に後ろから抱き着く人物がいた。簪の姉、楯無だった。

 そして――

 

「あ、楯無さん見つけましたよ……って、なんで颯太に抱き着いてるんですか!?」

 

 楯無を探していたらしいシャルロットも現れた。

 

「ちょっと楯無さん!その……颯太が迷惑してると思うんで……離れた方が……!」

 

「そんなことないわよ。ね、颯太君?」

 

「………あの……師匠」

 

「ん~?何、颯太君?」

 

「熱いんで離れてくれません?」

 

「ガーン!たっちゃんショック!」

 

 そう言いながら崩れ去る楯無。

 

「あとはまあ……背中にぶつかる感触がやばかったんで……」

 

「颯太のエッチ」

 

「今のは俺のせいじゃないと思うんですけど?」

 

「ふんっ」

 

 怒ったようにそっぽを向くシャルロット、それを見て頬を掻きながら苦笑いを浮かべる颯太、そして、まんざらでもなさそうな楯無。そんな三人を見つめ、先ほどの夢の中の人物たちを思い出した簪は

 

「………プッ」

 

 吹き出してしまう。

 

「あ、簪。笑うことないだろ」

 

「ご、ごめん……。その……さっき見た夢に似てたから……」

 

『夢?』

 

 簪の言葉に三人が首を傾げる。

 

「夢って……そう言えばさっき帽子屋がどうとか言ってたな。どんな夢だったんだ?」

 

 颯太が簪に訊く。

 

「そうね、私も気になるし、生徒会室で虚ちゃんの紅茶でも飲みながらみんなで訊きましょう」

 

「僕も賛成です」

 

 楯無の提案にシャルロットが言い、颯太と簪も頷く。

 

「それじゃあ行きましょう!」

 

 そう言って楯無は進み始め、シャルロットと颯太も後を着いて行くが、簪だけは足を止め、先ほど夢の中で白ウサギの歩いて行った方に視線を向ける。夢の通り、その先には大きな木が立っていたが、ここからは角度的に穴があるかどうかはわからない。

 

「ん?どうした簪?行こうぜ」

 

 ついてこない簪に気付き、颯太が声をかける。楯無とシャルロットも足を止める。

 

「………うん!」

 

 颯太の言葉に頷き、簪は笑顔で歩き出した。

 




はい、というわけで番外編です。
今回も今回でカオスなものを書いたという自覚はあります。

思いついたのは某ロボットアニメのOVAを見た時
「あ、これをISでやったら面白いかも」
と思ってしまったのが始まりでした。
一番大変だったのは絵がないので描写だけでどれだけどのキャラがどの役になっているのかを分からせるかということ。
僕の気分的にこいつはこれとできれば明言したくなかったのでこんな感じになりました。

本編の方も現在難産ではありますが頑張っておりますので今しばらくお待ちください。


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第41話 紅VS五色の火

VS紅椿です
そしてとうとうあの装備も………


「まさかまず戦うのがお前になるとは思わなかったぞ、井口」

 

「ソーデスネ」

 

 空中、眼下には海が広がる位置で俺たちは互いにISを展開し、相対していた。

真剣な表情で、しかしどこか余裕を感じさせる声で篠ノ之が言う。それに対して俺は若干うんざりしながら答える。

 篠ノ之博士と賭けをした以上頑張るが、なんだってわざわざ現行IS最強と模擬戦せにゃならんのか………。

 

「ふう」

 

 俺は大きく息を吐き出し、気持ちを切り替える。うだうだ考えても仕方がない。今は俺にできることをするだけだ。

 俺は最終チェックとして各装備を手で触れ、目で見て確かめていく。

 

(《火神鳴》……問題なし。《火打羽》……問題なし。《火ノ輪》……問題なし――)

 

 黄色、青、緑と三色の各装備をチェックし、四色目、紫の装備――右腰に取り付けられたT字のまるで鳥の頭のような形の装備に視線を向ける。

 

(………問題……なし)

 

 ポンと一度手で叩き、最後に五つ目の赤い装備、《火人》を左腰の鞘から抜き取る。

 

「待たせたな。さあ、ちゃっちゃとやって、ちゃっちゃと終わらそう」

 

 《火人》を構え、篠ノ之に視線を向け、ニッと笑う。

 

「ああ」

 

 篠ノも頷き、二本の近接ブレード『雨月』と『空裂』を構える。

 

『それでは、これより篠ノ之箒、井口颯太による模擬戦を始める。5カウントで始める。5・4・3・2・1。試合開始!』

 

 オープンチャネルによる織斑先生の号令で試合が開始される。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

「だりゃぁぁぁぁ!!」

 

 同時に叫び、俺の《火人》が《雨月》と、片方の《火打羽》が《空裂》と交差する。

 

 

 ○

 

 

 

「始まったわね……」

 

 上空を見上げ、鈴が呟く。鈴の周りには一夏、セシリア、シャルロット、ラウラ、簪が揃っていた。

 

「颯太……あれを使うつもりなんだ……」

 

「〝あれ〟……って……?」

 

 シャルロットの呟きに簪が訊く。簪以外の皆も何のことかわからず首を傾げている。

 

「『火焔』最後の特殊装備《火遊》。さっき颯太は右腰を見てた。角度的に見えなかったけど、資料通りならあそこに吊ってるはずなんだ」

 

「それって……あの噂のとんでも装備の?」

 

 一夏の問いに頷くシャルロット。

 

「本当なら今日の授業で試運転とデータ採取をするはずだったんだ。だから、颯太自身使うのはもちろん展開したのも今が初めてだと思う」

 

「そんな状態の装備で大丈夫なんですの?」

 

 シャルロットの答えにセシリアが心配げに訊く。

 

「一応僕も颯太もあの装備の詳細データは見て覚えてあるから、今すぐ使ってみろって言われたら、僕でもある程度は使えると思う。でも――」

 

「でも?」

 

 シャルロットの言葉にラウラが訊く。

 シャルロットは一度言葉を区切り、周りを見渡す。皆一様にシャルロットの言葉の続きを待っていた。

 

「あの装備は……初めてとか関係なく、僕らじゃ100%の力は引き出せないと思う」

 

 

 

 ○

 

 

 《火人》と《火打羽》と《火ノ輪》と《火神鳴》、《雨月》と《空裂》がぶつかり合い、甲高い金属音を上げながら火花を散らす。

 その様はまるで一か月前のタッグトーナメントの一幕の再現のようだった。しかし、あの時と確実に違うのは――

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

「くっ!」

 

 俺が確実に押されているということだ。

 ていうかなんですかこの機動力の化け物は。加えて全国優勝した剣術の腕。強すぎです。流石は篠ノ之博士お手製のIS、一筋縄ではいかないな。

 

「こんの!!」

 

 俺の火神鳴による打撃、が、二本の刀を交差させ、ガードされる。が、と同時に篠ノ之は俺の打撃によって後方に飛んでいき、俺も後方に飛ぶ。

 

「………流石だな篠ノ之。その機体のとんでも機動力はもちろんそれによってさらに鋭くなった剣の腕。タッグトーナメントみたいにはいきそうにないや」

 

「ふっ。そうだろう。これが私と紅椿の実力だ」

 

 俺の言葉に嬉しげに、自信満々に頷く篠ノ之。ただ――

 

「おかげでこいつを使う決心ができたぜ」

 

 そう言いながら《火人》を左手に持ち替え、右手を右腰に添える。

 

「それは?」

 

「これはな……」

 

 右腰から外した装備、紫色のT字、まるで鳥の頭のような形の装備の末端部分から伸びる持ち手を掴む。

 そのまま上から下へ振ると、カシャンという音とともにロッド部分が伸びる。

 

「新しい俺の力だ」

 

 そう言いながら紫のロッド状の装備、《火遊(ひあそび)》の、その鳥のくちばしのようになった先端部分を篠ノ之へと向ける。

 

「………なんだかこれまでの装備に比べて小さいな」

 

「大きさは問題じゃない。問題なのは性能だ」

 

 篠ノ之の言葉に俺は不敵に笑みを浮かべながら答える。

 

「さあ、第二ラウンドだ」

 

 左手の《火人》を前に突き出し、右手の《火遊》を引き絞るように後ろへ。両足は開き、腰を落とす。

 俺が戦闘態勢に入ったのと同時に篠ノ之も姿勢を正す。

 

「「…………――っ!」」

 

 一瞬の間の後に同時に互いに向かって突進を開始する。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

 篠ノ之の気合いのこもった声とともに両方の刀による斬撃が俺に向かって振られるが、

 

「シッ!」

 

 寸前で上へと飛び、回転しながら

 

「せいっ!」

 

 ガラ空きとなっていた背中を《火遊》で一度叩く。一瞬黄緑色の電流が魔法陣のように広がる。

 

「くっ!はあぁっ!」

 

 俺の攻撃に一瞬面食らったものの《雨月》による斬撃が俺を襲うが《火打羽》でいなす。

 

「このっ!」

 

 悔しげな声とともにさらなる追撃を加えようと身構える篠ノ之。が――

 

「っ!?」

 

 その動きが突如として止まる。

 

「はあぁ!!」

 

 その隙をついて《火神鳴》で殴る。それによって海面すれすれまで落下する篠ノ之。

 

「くっ!」

 

 が、着水する寸前に篠ノ之の動きが回復。それと同時に篠ノ之が体勢を立て直す。

 

「今のは……いったい……?」

 

「まだ終わっちゃいないぞ!」

 

 驚愕の表情を浮かべ、混乱しているらしい篠ノ之にさらなる追撃をかけるべく『瞬時加速』で接近する。

 

「はあぁ!」

 

 左の《火神鳴》で殴る。が、それを刀で逸らす篠ノ之を

 

「そこ!」

 

 右側から《火遊》で狙う。

 

「くっ!」

 

 もう一方の刀で防御しようと動くが一瞬遅く、紅椿の左腕の装甲を《火遊》が叩く。先ほどの背中への一撃同様に一瞬の煌めきとともに魔法陣のような電流が走る。

 

「なっ!?」

 

 そしてまたもや紅椿の動きが緩慢になる。

 

「ファイヤッ!!」

 

 動かない――動けない篠ノ之に四門の《火神鳴》の砲門を向け、一斉射撃。

 

「がっ!」

 

 苦悶の声とともに吹き飛ぶ篠ノ之。

 

「このっ――あ、動く。なんなのださっきから!何かの不具合か何かか!?」

 

「いや、『紅椿』は正常だぜ」

 

 困惑の表情で全身を――紅椿の装甲を見て触って確かめる篠ノ之に俺はゆっくりとした動きで近づきながら答える。

 

「さあ、わからないなら考えろ。この試合が終わるまでに謎が解けるといいな」

 

 俺は不敵な笑みを浮かべながら右手の中の《火遊》をバトン回しの要領でくるくるとまわした。

 

 

 ○

 

 

 その光景は傍から見ている側からすれば異常な光景であった。

 一夏もセシリアも鈴もラウラも簪もその他一般生徒から教師の真耶、そして滅多なことでは驚きそうもない千冬、また、現状の理由を知っているシャルロットでさえ、息を呑む光景であった。

 唯一それほど驚いていなかったのは

 

「………………」

 

 ふたりの試合をじっと見つめる篠ノ之束のみであった。

 その場の全員の視線の先では空中で行われる篠ノ之箒と井口颯太による模擬戦。

 最初のうちは誰もが颯太の劣勢に、最後には箒が勝つと予想していた。が、中盤になって颯太の取り出した新たな装備《火遊》によって、今その予想が覆されようとしていた。

 颯太が《火神鳴》や《火人》、《火ノ輪》で攻撃し、それを防御する篠ノ之に生まれる隙。その一瞬の隙を見極め、おおよそダメージとは思えない《火遊》の一撃。が、見た目の軽さに反して、その直後篠ノ之の纏う紅椿の動きが緩慢になる。その隙を見逃さず攻撃を仕掛ける颯太。

先ほどからこれの繰り返し。一回一回の攻撃による紅椿のダメージは少なくとも、その回数により確実にダメージの差は広がっていく。また、颯太には絶対的な防御力を誇る《火打羽》が装備されている。そのことがふたりの差を広げる要因の一つとなっている。そして、箒を焦らせる原因にも。

 焦る篠ノ之に冷静に受け流す颯太。その様子はまるっきり颯太の掌の上だった。

 

「すごいな……」

 

「完全に颯太のペースね」

 

 一夏と鈴が感嘆の声をもらし

 

「さっきまでの劣勢がウソのようですわ」

 

「逆に言えばその劣勢を覆したあの紫の装備……あれはいったい……?」

 

 セシリアとラウラが驚愕の表情を浮かべ

 

「あれで……性能を100%引き出せてないの……?」

 

 簪が隣のシャルロットに訊く。

 

「うん。あれでも使いこなしてるほうだけど……あれの性能はあんなものじゃない」

 

 シャルロットが頷く。

 

「いったいあれはどういう性能なんだ?」

 

 唯一《火遊》の性能を知っているシャルロットにラウラが訊く。シャルロットは一瞬の逡巡の後、口を開く。

 

「あれは……あのロッド型の装備――《火遊》は近接格闘兵器として使用できるだけじゃなく、その先端から搭載されたナノマシン『ハミング・バード』を相手の機体や装備に打ち込むことで、対象をハッキングし、強制操作する装備なんだ」

 

「ハ、ハッキング!?」

 

 シャルロットの答えに鈴が驚愕の声をあげる。その驚愕にシャルロットが頷く。

 

「それはどの程度操作できるものなんですの?」

 

「一応理論上はある程度は思い通りにできるはずだよ。でも、その分この装備をフルで活用するためには搭乗者にも相応の情報処理能力が要求されるの」

 

「てことは……」

 

「そう。僕や颯太じゃあれを100%使いこなせない理由。それは、僕らにはハッキング知識がないからだよ。だから、今の僕らじゃせいぜい今颯太が使ってる程度。一回『ハミング・バード』を打ち込むたびに平均5秒程度自由を奪うのが限界だね」

 

「いや、それでも十分すごいから」

 

 シャルロットの解説に一夏が呆れたように呟く。

 

「これが井口颯太専用機『火焔』の五つ目の装備、《火遊》だよ」

 

 

 

 ○

 

 

 

「このっ!」

 

 気合いのこもった斬撃が飛ぶが、その一撃には冷静さが無かった。俺はそれを冷静に《火打羽》で防ぐ。

 計画通りだ。機動力や攻撃力で負けていても俺の『火焔』は防御力では負けていない自信があった。あとはその防御力を生かし、防いで防いで防ぎまくる。そして生まれた隙に

 

「そこっ!」

 

 《火遊》を叩きこむ。それによって動きの止まる篠ノ之に追撃する。

 

「くっ!」

 

 悔しげに声を漏らす篠ノ之。試合前に見せていた余裕と自信がなりを潜め、あるのは焦りのみ。

 それはそうだろう。姉からもらった最強ともいえるISと自身の剣術の腕。実際それを用いて一時的には俺を圧倒していたのだから。しかし、俺が新たに出した《火遊》によってその状況を覆された。しかも少量づつとはいえシールドエネルギーの差も開く一方。残り時間もまだ半分はある。その状況がさらに篠ノ之を焦らせ、俺に有利な状況になる。

 しかし、それでも流石は篠ノ之。焦っていても隙を見つけるのが難しい。おかげでなかなか紅椿のシールドエネルギーを削れない。

 

「くそっ!なぜだ!なぜ……!」

 

 思った以上に焦っている篠ノ之に違和感を覚えながら、俺は頭の片隅に少し希望を見出す。

 本当は引き分けに持ち込もうと思っていたのだが――もしかしたら俺でも……第二世代型に第三世代相当の武装を積んだ中途半端な機体の『火焔』でも現最強の機体『紅椿』に勝てるのではないか、と。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

「やぁぁぁぁ!!」

 

 互いに向かって何度目かもわからない突撃を仕掛けた俺たち。

 

『そこまで!!!』

 

そんな俺たちを遮るようにオープンチャネルから飛んできた声に

 

「「はっ!?」」

 

 受け身も取れずに互いに正面衝突をしてしまった。

 

「どうしたんですか先生!?まだ制限時間ではないはずじゃ……」

 

「そうです!まだ決着はついていません!」

 

 俺たちは互いに通信の相手、織斑先生に文句を言う。

 

「試合の決着がついていないのは重々承知だ。だが、今日のところは引き分けにさせてもらう。模擬戦よりも優先すべき重要案件が発生した。すぐに降りてこい。井口と篠ノ之は他の専用機持ちとともに我々教員と一緒に来い」

 

「重要案件?」

 

 俺と篠ノ之は首を傾げ、互いに納得していないながらも渋々砂浜へと向かった。




というわけで引き分けです。
ここで勝敗を付けることも考えましたが、結局こうしました。

そして今回からとうとう紫の登場です。
これでとうとう全装備登場ですね。
《火遊》の設定には頭抱えましたがこんな感じで落ち着きました。


-追記-
題名を一部変更しました。(2015/09/09)


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第42話 出撃そして……

祝!お気に入り件数1400突破!


「では、現状を説明する」

 

 旅館にある宴会用の大座敷、風花の間に、一夏達専用機持ち全員と教師陣+俺が集められた。

照明の落とされた薄暗い部屋の中、空中投影ディスプレイが浮かび上がる。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼動にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用ISである『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。そして監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

 …………は?………軍用ISの……暴走?正直突然すぎて頭がまだついていけてないけど、ここはちゃんと聞いておかないといけないようだ。その証拠に

 

『………………』

 

 周りはみな真剣な表情で聞いて――あ、一夏もついていけてない。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過する事が分かった。時間にして五十分後だ。学園上層部からの通達によって、我々がこの事態に対処する事になった」

 

 対処……ですか?なんだか嫌な予感が……

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

 やっぱり……。淡々と語る織斑先生の言葉に納得しながらも俺は一層気を引き締める。

 

「それでは作戦会議をはじめる。意見があるものは挙手するように」

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「わかった。ただし、これらは二ヵ国の最重要軍事機密だ。けして口外はするな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる」

 

「了解しました」

 

 ディスプレイに表示された情報を元に教員も含めて相談が始まる。俺もディスプレイに目を向ける。

 

「広域殲滅を目的とした――」

 

「攻撃と機動の両方を――」

 

「この特殊武装が――」

 

「しかも、このデータでは格闘性能が――」

 

(ふむふむ。つまり、機動力も攻撃力もあり格闘性能の未知数な曲射特殊武装持ち、アプローチも一度が限界……その一度しかないチャンスで確実に落とせるような、一撃必殺の攻撃力を持ったやつじゃないとダメってことか)

 

 俺はそこまで思考を持って行ったところでそれに該当すると思われる唯一の人物に目を向ける。みな同じ考えだったらしく、一人を除いてその場にいる人物の全員分の視線が集まる。

 

「……えっ!?俺っ!?」

 

『うん』

 

 驚いて訊く一夏に対して全員が頷く。

 

「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」

 

「それしかありませんわね。ですが問題は――」

 

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。エネルギーは全部攻撃に使わないといけないから、肝心の移動をどうするか」

 

「しかも目標に追いつける速度が出せるISでなければいけない。超高感度ハイパーセンサーも必要だな」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!お、俺が行くのか!?」

 

『当然』

 

 一夏の言葉に俺を含む専用機持ち組が頷く。

 

「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないなら、無理強いはしない」

 

 織斑先生の諭すような言葉に一夏が一瞬の間を空けて口を開く。

 

「やります。俺が、やってみせます」

 

「よし。それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

 

 織斑先生の問いに立候補したのはセシリアだった。

 セシリアのIS、ブルー・ティアーズにはちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』と言う換装装備が送られており、それには超高感度ハイパーセンサーも付いているらしい。

 セシリアの超音速下での戦闘訓練も二〇時間。この中で一番の適任だろう。織斑先生もそれで決定を下そうとしたとき

 

「待った待ーった。その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」

 

 突如天井から合われたウサミミアリスの天災、篠ノ之束博士が現れた。

 

「……山田先生、室外への強制退去を」

 

「えっ!?は、はいっ。あの、篠ノ之博士、とりあえず降りてきてください……」

 

「とうっ★」

 

 くるりと空中で一回転して着地。全員が唖然としている中で篠ノ之博士が口を開く。

 

「ちーちゃん、ちーちゃん。もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティングー!」

 

「……出て行け」

 

 頭を抑える織斑先生。織斑先生に篠ノ之博士を室外へ退出させるよう言われた山田先生は実行しようとするが、するりするりと逃げ回る篠ノ之博士。

 

「聞いて聞いて!ここは断・然!紅椿の出番なんだよっ!」

 

「なに?」

 

「紅椿のスペックデータ見て見て!パッケージなんかなくても超高速機動が出来るんだよ!」

 

 篠ノ之博士の言葉に答えるように数枚のディスプレイが出現し、織斑先生を囲む。

 

「紅椿の展開装甲を調整して、ほいほいほいほいっと。ホラね!これでスピードはばっちりだよ!」

 

 展開装甲?初めて聞いたんですけど。俺だけが初耳なのかと思いきや周りのみんなも首を傾げている。

 

「説明しましょ~そうしましょ~。展開装甲というのはだね、この天才の束さんが作った第四世代型ISの装備なんだよー」

 

 あれ?第四?今の最新のISって第三世代じゃなかったっけ?

 

 

「はーい、ここで心優しい束さんの解説開始~。いっくんのためにね。へへん、嬉しいかな? まず、第一世代というのは――」

 

 篠ノ之博士の解説を聞きながら俺は唖然としてしまった。

 この天災は各国が莫大な資金と膨大な数の技術者を集めて開発したものを一足飛びに飛び越え、さらにその上のものを作り出したわけだ。世の中にはいるもんだな、凡人がようやくたどり着いた境地にいとも簡単に到達する天才ってのが。

 

「具体的には白式の《雪片弐型》に使用されてま~す。試しに私が突っ込んだ~」

 

『え!?』

 

 専用機持ちのみんなや俺、さらには一夏が驚きの声をあげる。

 つまり、零落白夜発動で開く《雪片弐型》の構想がまさにそれ。言葉通りにとらえるなら、一夏の『白式』は第四世代型相当ということになる。

 

「それで、上手く行ったのでなんとなんと紅椿は全身のアーマーを展開装甲にしてありまーす。システム最大稼動時にはスペックデータは更に倍プッシュだよ★」

 

「ちょっ、ちょっと、ちょっと待って下さい。え?全身?全身が、雪片弐型と同じ?それってひょっとして……」

 

「うん、無茶苦茶強いね。一言で言うと最強だね」

 

 きっとこの場に今見ず知らずの第三者が来るといったい何の騒ぎかと思うだろう異様な光景が広がっている。みな一様に唖然としている、俺も含めて。

 

「ちなみに紅椿の展開装甲はより発展したタイプだから、攻撃・防御・機動と用途に応じて切り替えが可能。これぞ第四世代型の目標、即時万能対応機ってやつだね。にゃはは、私が早くも作っちゃったよ。ぶいぶぃ」

 

 作っちゃったって……んな簡単に言われても。

 

「はにゃ?あれ?何でみんなお通夜みたいな顔してるの?誰か死んだ?変なの」

 

 いたって普通の反応ではないでしょうか。

 

「……束、言った筈だぞ。やり過ぎるな、と」

 

「そうだっけ?えへへ、ついつい熱中しちゃったんだよ~」

 

 織斑先生の言葉に悪びれた風もなく笑う篠ノ之博士。

 

「あ、でもほら、紅椿はまだ完全体じゃないから、そんな顔しないでよ、いっくん。いっくんが暗いと束さんは思わずイタズラしたくなっちゃうよん」

 

 そう言いながらウインクをする篠ノ之博士。が、一夏はなんとも言えない顔をしている。

 

「まー、あれだね。今の話は紅椿のスペックをフルに引き出したら、って話しだし。でもまあ、今回の作戦をこなすくらいは夕食前だよ!」

 

 夕飯って……まあ朝飯って時間でもないしな……。

 

「それにしてもアレだね~。海で暴走っていうと、十年前の白騎士事件を思い出すねー」

 

 ニコニコと笑顔のまま話し出した博士。その横で織斑先生が『しまった』というような顔をする。

 

 

 

――『白騎士事件』

十年前、篠ノ之束によ