<<Chrono Drive Online>>(仮) (Wisadm)
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0Chapter//Reality
プロローグ1


<<Chrono Drive Online>>...

 

このゲームが出来たのは、VR技術が一般に普及してから3年後、絶対の安全性を約束されたフルダイブシステム対応型端末<<Attraction-Ω>>が完成し、発売されてすぐのことだった。

 

フルダイブシステムというのは、一般的に脳が発する身体への命令を遮断し、その命令をシステムが受信してVR空間内のアバターへの命令に書き換え、その逆に、VR空間内のアバターが受ける五感の情報を、脳へと直接伝えることにより、まさに今、自分がそこにいるように感じることが出来ると言う画期的なシステムのことだ。

 

このシステムが確立されたときは、世界中の人々が熱狂していたのを俺はよく覚えている。しかしながら、このゲームの開発が決まったときの世界中のゲーマー達のそれにはとても敵わないだろう。

 

実際、そのときの俺は、ものすごく近所迷惑なレベルで浮かれていた。というか、ご近所さんに「うっさいわ、ボケェ!!」と怒られました。

…スイマセン、反省してます。

 

と、とにかく…世界中のゲーマー達もきっと、俺と同じレベルで浮かれていたに違いない。

きっとそうだ、うん!

なぜなら、この<<Chrono Drive Online>>は、世界初のVRMMORPGだったからだ。

だったからという言い方をしているのにはちゃんと理由がある。

この話事体が10年前のことだからだ。

 

なんで10年も前の話をこの場でしたかというと、このゲームがもうすぐリニューアルするらしいからだ。

案外根深いファンが多かったこのゲームのことだから、これを期にまた始める人や、ご新規さんも増えるかもしれない。

というか、そうでないと困る。

 

人が増えないと困る理由は簡単なことで、今現在、このゲームを遊んでいるプレイヤーは俺しかいないからだ。

3~4年前までは、かなりの人数が遊んでいたはずなのだが、2年前の春までにはほとんどの人が他の会社のゲームに流れていき、

今では、独り寂しくソロプレイに励んでいる俺しかいない。

 

まあ、おかげさまで俺のアバターはレベルにパラメータ、すべてのスキルをカンストさせるという当初の目的も達成できたので文句はない。

文句はないが、俺以外に人がいない為、自慢できないのが悔やまれた。

 

しかし、その苦悩もあと少しだ!! 昨日、ゲームの運営からメールが来て、最後の最後まで遊んでくれた礼にと、リニューアル版のゲームを優先して頂けることになったからだ。

 

こうしちゃいられない!! 今日もさっさと家に帰って素材と資金の調達だぁ!!

 

 

 

「…と、思っていたのですが、

          本日、正式にリニューアルを発表しました為、

   本日よりリニューアルするまでの間こちらのサービスはご利用いただけません。

                 期間 4/9~5/9   運営スタッフ

                                   だ、そうです。マジか?」

 

どうしよう…することがない…今日は学校も早く終わったから、リニューアルに備えて素材と資金の調達をするつもりだったのだ。

俺、リアルの遊び友達とかいないもんな。

 

「あ、そうだ。正式にリニューアル発表したんなら、新しい情報とかサイトにないかな…」

 

俺はその日、妹が帰ってくるまでの間、寂しさを紛らわせるため独り言を呟きながら、公式サイトを眺めていた…

 

この後、俺は日がな一日独り言を呟きながら公式サイトを見ていたので、ここいらで自己紹介しようと思う。

 

--------------------------------------

 

俺の名前は、琴見(ことみ) 影斗(えいと)

ゲーム大好きな高校1年生 6歳のときにこのゲーム<<Chrono Drive Online>>にはまり、最後の一人になっても遊び続けた。

あまりにもゲームばかりし続けたためか家族、特に妹あたりから嫌われている。

学校が終わるとすぐに家に帰っていたため親しい友達はいない…というか、友達がいない。

あと、ゲームのし過ぎで目つきが悪いが、それ以外はいたって普通の目立たない人物。

自分で言ってて泣きそうになるな、これ…

 

--------------------------------------

 

そうこうしてるうちに、玄関でドアの開く音が聞こえた。 たぶん、妹が帰ってきたのだろう。

はぁ、今日は何言われるんだろ…憂鬱でしかない…

 

「たっだいま~!」 …テンション高いとか、嫌な予感しかしない。

 

「…おかえり。」 「ちっ、クソ童貞だけか。ブッて損した…。」

 

あって一言目がそれかよ。 

この口の悪い美少女が俺の妹、琴見(ことみ) 光瑠(みつる)だ。 

妹は、めんどくさそうに言い捨て部屋へと向かう。

途中、思い出したかのようにこんなことを言い出した。

 

「あ、そうだ。クソ童貞お兄様、金くれね?」

 

こいつは、俺を何だと思ってるんでしょうか?

 

「いくら?」 「一万程」 「嫌だ…といったら?」 「テメーの大事なパソコンを粉々にすんぞ?」

 

横暴すぎるっ!! と、言えたらどれだけいいだろうか… 残念ながら俺は妹には勝てない。 

妹が美少女なのもあるが、こいつは、俺以外の前では常にブッているのだ。

 

つまり、俺の味方はいないも同然。 妹に言わせれば、「戦おうすること自体がおこがましい」とのこと

昔は、こいつも可愛かったんだがなぁ おにぃちゃ~んて、それも今では昔の話です。  

 

その後、財布の中身をむしりとられた俺は、朝になるまで部屋に篭るのであった。 シクシク…

 



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プロローグ2

あれから一ヵ月後...

 

俺は教室で、今日から始まるリニューアル版のキャラ構成に思いを馳せていた。 

 

「おぅ、影斗。おまえも今日からリニューアルするって言う<<CDO>>やるんだろ? 俺にレクチャーしてくれね? 頼むわ。」

 

話しかけてくる声に顔を上げると、最近よく話をするようになった、安達(あだち) 友輔(ゆうすけ)が人のよさそうな顔でこっちを見ていた。

 

「…いや、いいけど何で俺?」

 

こいつは、校内でも友達が多いことで有名なやつだ。 正直、俺みたいな根暗に頼む理由がない。

 

「うん? あぁ、おまえが<<CDO>>をやりこんでるって聞いたんだよ。」

 

「聞いたって…誰に?」 

 

俺の疑問に安達が、親指を立てて教室の入り口を指差す。

見ると、快活そうな短髪の少女がこっちに近づいてくるのが見えた。

 

「やあ、琴美君。 少しぶりだねぇ。 ボクも話に混ぜてもらえるかな?」

 

まためんどくさいのが…

 

「あ、今めんどくさいなって思っただろう!? 失礼な!!」

 

そう言って笑いながら叩いてくるこのボクっ娘は、風音(かざね) 愛理(えり)何の因果か俺の幼馴染だ。 

 

「ちょ、やめて!? 痛い、謝るから…謝るからやめて!?」

 

「まったく、つぎはないからね」 

 

次はないって… あれ?確か俺めんどくさいって声に出してなくないか?

何で分かったんだ?

 

「あのさ、影斗も風音さんもさ、イチャイチャするのは時と場所をわきまえよう、な?」

 

「「してないよっ!?」」

 

安達の的外れな発言に二人の否定の声がする。

その後も抗議をしてみたが、安達は取り合ってはくれなかった。

 

おい、安達察しろよ。

いくら何でも俺が相手じゃ愛理がかわいそうだろ…

俺は満更でもないけど、愛理が顔を赤くして怒ってるじゃないか!

その怒りをくらうのは俺なんだぞ…

 

「それで? 俺は何時にどこにいればいいんだ?」 これ以上の反論はあきらめて話題を戻す。

 

「お、引き受けてくれんの? じゃあ、5時半から、場所は…始まってすぐってどこに出んの?」

 

「始まりの場所って言うありきたりなステージの石碑前だったはずだよ。」

 

いや、なんで愛理が知ってるの?

 

「じゃそこで。」

 

「きまりだね。」

 

いや、だからなんで愛理が答える。

そこで俺は、ある可能性に気がついた。

 

「あのさ、さっきから気になってたんだけどね。愛理もくるの?」

 

「もちろん。」

 

前途多難だ…

 

 

 

 

 

家に帰るとそれはあった。

それというのはつまり、俺宛の荷物だ。

それを手に俺は部屋へと向かう。

妹に気づかれないように…

 

妹の部屋の前を通り過ぎようとしたときによく知っている音が聞こえた。

端末、それもおそらく<<Attraction-Ω>>の起動音だ。

でもそれは妙だ。

妹は、ゲームなんか興味もないというようなやつだったはずだ。

中を見たい衝動に駆られるが、ばれた日には何をされるかわからない。

ハイリスク過ぎてやれる気がしない。

俺はまだ死にたくない。

 

チキンと呼びたければ呼べばいい。

俺はまだ死にたくない。

大事なことなので二回言いました。

 

部屋に戻ると俺は早速ゲームを始めることにした。 

 

 

 

 

 

ログインするとすぐに視界が暗転し、少しして元に戻る

 

  Now Loding......

 

  オンラインゲーム <<Chrono Drive Online>> ヲ 起動シマス...

 

  プレイヤーネーム ヲ 入力シテクダサイ<<  >>

 

プレイヤーネームか…前はシェイドとか入れたな。 今思うと恥ずかしいよな… 厨二病かと。

今回は、そうだな… リュートにしよう。 琴見からとって。

 

  プレイヤーネーム ハ <<リュート>> デ ヨロシイデスカ?

  キャラクターエディタ ヲ 起動シマス...

 

キャラクターエディタか、どうしようかな? 体型とかは現実どおりで、顔は自分の顔が最適化されたものが勝手に貼り付けられる様に設定して。

あとは、髪の色か。う~ん、黒と銀のグラデーションとかどうだろう。 お、案外いいな、これ。 よし決定っと。

 

  前回 ノ ゲームデータ ヲ 読ミ込ンデイマス...

 

  キャラクターデータ <<シェイド>> ヲ 読ミ込ミマシタ

 

能力継承か、どれくらい引き継げるんだろう? さすがにレベルは無理だろうし、所持金とスキルが少しだろうか?

 

  以下ノモノヲ引キ継ギマス...

  ・所持金 ・装備品 ・スキルレベル ・譲渡不可アイテム 

 

おいおい、これゲームバランス危ういんじゃね? 前回の装備品て…

 

  尚、ステータスにボーナスを振ルコトガデキマス

 

ステータスボーナス? あぁ、自分でステータス組むのか。 前はなかったな。

 

  ステータスボーナス100 

 

Int.とAgi.Dex.に30ずつ、残りをStr.End.Mce.Vit.Luc.に2ずつ振り分ける。 レベル1でステータス30は高すぎる気がするが、

初期値が100なんだから大丈夫だろう。 それ以外は紙も同然なステータスだからな…

 

  <<リュート>> 無職Lv.1   

  Str.攻撃力   2   

  Int.魔力   30   

  End.物理耐性  2  

  Mce.魔力耐性  2  

  Vit.生命力   2   

  Agi.俊敏性  30   

  Dex.器用さ  30

  Luc.幸運    2 

 

  職業 ヲ 設定シテクダサイ

 

職業も何も、思いっきり魔法使いビルドだぜ。と、思っていた頃が僕にもありました。

職業すんごい増えてた…

リニューアル前のものは職業は上位職を合わせて10職しかなかったから結構びっくりした。

 

 

 

魔法系だけでも、メイジ、ウィザード、エンハンサー、ジャマー、エンチャンターの五種類があった。

どうするか悩んだ末、扱いの難しそうなエンチャンターにした。

エンチャンターは支援専門の職業だ。攻撃魔法がほとんどない。

後で変えることも出来るので、二人の支援の為に使ってみることにした。

 

  <<リュート>> エンチャンターLv.1

  Str.攻撃力   2

  Int.魔力   30

  End.物理耐性  2

  Mce.魔力耐性  2

  Vit.生命力   2

  Agi.俊敏性  30

  Dex.器用さ  30

  Luc.幸運    2

 

  以上デ ヨロシイデスカ?  Yes/No?

 

  プレイヤーネーム <<リュート>> Good Luck !!

 

そして再びの暗転の後、目を開けると俺は始まりの場所、石碑前にいた。

 

0Chapter//Reality・完



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1Chapter//Changed System
1.初めの一歩はスキップで


 

始まりの場所。

この世界の中心といわれる<<王都・ユグドラシル>>の外れにある、異様に弱いポップモンスターの出るチュートリアルのためだけにあるような場所。

その概要は草原に神秘的な木とその木に埋まるようにして石碑があるだけのフィールドだ。

 

約束の時間よりかなり早く着いてしまったのでこれから約束の時間までソロで狩にでも行こうと思う。

ここでチュートリアルを受けてもいいのだがチュートリアルは時間がかかりすぎるし、何よりめんどくさい。

 

さっきも言ったがここは、チュートリアル専用と言ってもいいほどのステージで、あまり経験値効率もよくない。

これはリニューアル前を知っている奴なら誰でも知っていることだ。

行くなら…そうだな。ここを出てすぐの草原にちょうどいい所があったはず、そっちに行こうっと。

 

「まぁ、まずは装備だよな… コール、メニューウィンドウ。」

 

そう言って開けたウィンドウには初期装備と共に愛用のレジェンダリ装備がある。

補足すると、レジェンダリというのはレア度のひとつで、5級、4級、3級、2級、1級、レア、レジェンダリという風に上がっていく。

レジェンダリにはたとえば、俗に言うエクスカリバーや、ロンギヌスなどの伝説上の武器が上げられる。

実はこの上もあるのだが、『アレ』はな…

 

ま、要するに、リニューアル前を遊んでいたプレイヤーがレベルをさっさと上げられるようにという運営側の配慮なのだろう。

 

「危なくなるまで、初期装備だな。」

 

初期装備にした理由は装備品やマップの装飾に耐久値が設定されていて、強い武器の修理費がバカにならないからだ。

実際は所持金を引き継いでいるので困りはしないのだが。 なんか俺が嫌だからなんて理由もある。

 

「さて、スキルは…なんだこりゃ? うわぁ、ほとんどのスキルレベルがマックスじゃないか…」

 

そういえば、キャラクターエディタでスキルレベルを引き継ぐって言ってたけどまさか全部引き継ぐとは…

 

「あ、チュートリアル出てきた。 スキルスロット? スキルをはめる?」 

 

なるほど、スキルに使用制限が出来たのか。

それで、スキルスロットは、これだな。

スキルスロットのくぼみが6個と真ん中に職業スロットがひとつ。

ここには、エンチャンターのカードがはめられている。

職業スロットの周りを囲うようにスキルスロットがある。

 

「まずは、スキルをはめてみよう。とりあえず、武器が壊れたときとか無手格闘いるし、魔法を使うには杖か魔道書は必須だろ…

残りは気になる新規スキルを端からだな」

 

そんなこんなでスロットはこんなふうになった。

 

  -Skill Slot-

 

   ・無手格闘Lv.200

   ・ジャンプLv.1

   ・杖Lv.200

   ・幸運Lv.1

   ・交渉術Lv.1

   ・クロノドライブLv.1

 

「よし、こんなもんだろ」

 

幸運はマジで気になった。

幸運はVRにおいてどんな効果が見込めるのか…楽しみだ。

ジャンプは名前からある程度は分かるんだが、いるかどうか迷った挙句いれた。

交渉術は迷わず入れた。いるだろ? 交渉術だぜ? ネゴシエーション。

効果が分からんでも絶対入れるわ。

だって、カッコいいじゃないか。

そして最後に、クロノドライブ…明らかに怪しい。だって、このゲームの名前そのものなんだぜ?

怪しすぎるだろ…まぁ、入れたけど…

 

決定すると、予想外のことが起きた。

職業スロットにあるエンチャンターのカードにⅠ.魔術師と表示されるようになった。

 

「このⅠはレベルか? なら、この魔術師というのは職業の系統とかかな? チュートリアル無しじゃ、よくわかんないな。」

 

少し考えてみたけれど、一向に分からないので無視することにした。

 

「それじゃ、ジャンプのスキルレベル上げながら行くか。」

 

そう言って俺は新しい『この世界』を歩き出した…スキップで。

 



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2.『G』の恐怖

王都西街道 草原

 

スキップで来たおかげか、ジャンプのスキルレベルがひとつ上がった。ちょっと嬉しい。

ついでにジャンプの効果はやはりというか、ジャンプ力の補正だった。

あれからこっち、ジャンプのレベル上げをしながら来たけど、キャラクターのスタミナがもたないことが分かった為、休憩を挿みながら来たので10分もかかってしまった。

 

時間もあまりないので、獲物を探そうとすると、ちょうど目の前を通るゴブリンLv.3(しかも一匹)を発見した。ラッキー。

 

「休憩も終わったし、いっちょやりますか!」

 

休憩時間中に魔法の構成も覚えたし、かたならし、かたならし。

 

杖を構えて詠唱を開始する。本来なら詠唱破棄のスキルを使うのだが、付けてないものはしょうがない。

ばっちり詠唱する。唱えた魔法は、『バインド』。エンチャンターの初期魔術で一定時間相手の動きを止めるというもの。

 

詠唱を終えると何かが体から抜ける感じがして、魔法が完成しターゲットした敵を狙い発動する。

いまだ気づきもしないゴブリンが、こちらに気づいたのは発動する寸前だった。

こちらを振り返り飛びかかろうとした瞬間に硬直したようだった。宙に浮いて固まっている。

これ… 面白いな!!

 

「ま、気は抜かないけどね」

 

もう一度バインドを唱えてゴブリンの後ろに距離をおいて待つ。理由は簡単、硬直時間を調べるためだ。

それに殴ってる最中に『バインド』が切れて、不意打ちされるとかはごめんだ。

 

6秒程して再び動き出したゴブリンに留めておいたバインドを放ち動きを止める。やっぱりこれ、面白いな…。

 

効果は今のところ6秒程で固定のようだが、レベルが上がれば硬直時間は増える可能性もある。 

 

とどめに攻撃魔法と思ったが、よく考えると現状『バインド』以外の魔法がないので、杖で殴る。

杖のレベルが200もあるので、杖で1回叩けばヒットポイントが無くなり、キラキラしたブロックになって、霧散した。

 

前より綺麗に散るんだな…

俺は、『この世界』の変更点を、後どれだけ見つけられるんだろうか?

忘れてしまったこともあるだろうし…

 

これは…予想以上にクサイ台詞だな。声に出さないでほんとよかった。

 

考え込む時間も無限ではないので感傷に浸るのはまた後にします。

 

 

  ◆

 

 

一匹でいたゴブリンを封殺した30分後...

 

俺は今、ゴブリンの大群から逃れるため、全力で走っていた。え?なぜかって?

答えよう。実はあの後すぐ、宝箱が置いてあるのに気がついたんだ。

そしたら…

 

  ◇◇◇

 

初めてゴブリンを倒してすぐ、俺は林の少し奥に宝箱を見つけた。

 

「お、ラッキー。宝箱じゃん。今日はついてるな…恐くなるくらいに」

 

俺は基本、運が悪いんだ。だからかな、すごく不安になった。

宝箱に罠とかあったりするんじゃないか…

暗がりなこともあいまって、恐い想像をしてしまった。

思い過ごしであってほしい…

 

「………」

 

「ステータス、見てから開けるか…ま、ゴブリン一匹倒した程度じゃレベルは上がらねーんだけどな」

 

気丈を装おうとした声は、若干上ずっている気がした。

 

案の定レベルにもステータスにも変化はなかった。しかし、スキルには小さな変化があった。

幸運のスキルレベルがひとつ上がっていたのだ。調べてよかったかも。そんなことを思っているとなぜかまた、幸運のレベルが上がった。

 

とりあえず、幸運のスキルは戦って上げるタイプではないようだ。これが分かっただけでもステータスを見ておいてよかったと言えるんじゃないだろうか。

 

スキルスロットから幸運を取り外して、罠解除のスキルをつけた。もちろん、安心のLv.200である。よし、これで箱にトラップがあっても大丈夫、そう思った。しかし、この予想は大きく外れることになる…

 

なぜならそのとき、いつの間にか居たどう見ても初心者な奴が、その問題の宝箱に手をかけていたからだ。 

 

「ちょっと待て、早まるなっ!!」

 

俺の必死の制止を聞いた初心者野郎は、何を思ったのか、してやったりとヤラシイ笑みをこちらに向けて箱を開けちまいやがった。

 

そうして、この箱の罠が発動したのである。挙句、この箱の罠はなぜか、普通こんなレベルの低い場所にはあるはずのないアラームだった。

アラーム…数あるトラップの中でも最も厄介な種類のひとつ。

このアラームと言うトラップ、実際に開けたとたんになにかあるわけではないのだが、鳴っている間中モンスターを呼び出し続けるという迷惑極まりないものなのだ。

 

「ありえねぇ…」

 

この状態になって俺の口から漏れた呟きだ。まったく、幸運をはずしたとたんこれだよ。ありえねぇ…と言いたくなるのも分かってほしい。

しかも、あの初心者野郎何が起こったかわかりませんって顔してやがる。

あれじゃ助からないな、まったく何しに出てきたんだよ、オマエは。

こいつ、大量にタゲられればいいのに…

 

ま、今はどうでもいい。俺は、いまやれることをしよう。 

こうゆうときは、やれることが決まっているのだから。

単純な二つの選択肢、逃げるか、戦うかだ。

 

逃げるのなら、宝箱を壊してここから一目散に離れる。それもできるだけ早くするべきだ。

逃げ遅れると、大量にポップしたモンスターに飲み込まれて目も当てられない惨状になる。

 

戦うのなら、自分の強さに応じて方法を変えるといい。自分達ではつらいと感じているなら、早々に宝箱を壊してアラームを止めて殲滅。

余裕があるなら、宝箱をしばらく放置して敵の増援を待つと効率よく経験値が稼げる。

 

俺はと言うと、思いっきり逃げるつもりでいた。でもさ、遅かったみたい。だってね?目の前に、ゴブリンの大群が見えてるもの。

 

  ◇◇◇

  

そして今に至る訳です、ハイ。

 

まぁ、俺は『バインド』で迎撃しながら逃げてるだけなんですが、面白いくらいトレイン(大量のモンスターを引き連れて逃げる迷惑行為)してしまって、

何人かMPK.(モンスターにプレイヤーを襲わせ殺す行為)してそうで恐い。

 

え?戦えよ? フザッケンナ!!!!んなことできるか!!ゴブリンなめんな!!

想像してみろよ。茶色の肌した、角のついた3歳くらいの背格好のおっさんが涎たらして、群れなして襲ってくんだぞ!?

これに向かって行けってか?トラウマになるわ!!

 

とりあえず、エリアをまたげば追ってこないだろう…

 

ここからしばらくは、語ることがない。強いて言うなら、この後10分間カッコ悪く逃げ回った、とだけ言っておきます。

 

 

 

「ぜぇ…はぁ…、やっと始まりの場所まで戻ってこれた…」

 

あの二人との約束もあったので、こっちに逃げてきました。

途中擦れ違った人たちゴメン。

 

とりあえず、二人らしき人影を探してみたが見当たらない。どうやら、まだ来ていないようだった。そういえば、重要なことを忘れていた。実はこのゲームは現実より時間が早く流れているのだ。

正確には、このゲーム内で3時間遊んだとしても、現実では1時間しか経っていないということである。

何でこんなことができているのかは、このゲームを作った会社が技術を秘密にしているらしく、様々な仮説が渦巻いている。

なんだか怖い気もするが、国が直々に安全保障しているし、大丈夫なんだろう。たぶん。

 

それはさておき、「あいつら、どんなアバター組んで来るんだろうな…」

 

走り回って少し疲れた俺は物思いにふけりつつ、この神秘的な木…多くの人が世界樹と呼ぶ木を背にして座り込み、急いで罠解除と幸運のスキルを付け替えた。

正直、これ以上の不幸は下手をすればトラウマになること請け合いである。

何処かの誰かのように「不幸だぁー!」とか叫びたくない。

 

俺はそのまま目を閉じ、しばらく体に風を感じて休むことにした。火照った体に吹き付ける風が気持ちいい。 

面白いことにこのゲームの中でも走り回ると体が火照ったりする。

あまりにも風が心地よく、下手するとこのまま寝てしまいそうになる。

 

それにしてもいい気持ちだ…やばい…うとうとしてき…た… まず…ねむ…

 



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3.実力の一端

 

ズッダーンッ!! と、ものすごい爆発音がして俺は飛び起きた。

 

「おわっ!?なんだ?何の音だ?敵襲か!?」

 

見るとなぜか誰もいなくなっていた草原で筋肉ムキムキな半ズボンのマッチョメンと、中学生くらいの歳の魔女帽子をかぶった金髪ツインテール少女が戦っていた。 

いや、正確には、見た感じレベルが高いマッチョメンが、少女を大剣で襲っている様にしか見えない。

よく見なくても、いろんな意味で犯罪だった。

 

それにしても、このゲームにはPK.はなかったはずなのだが、攻撃をガードした少女のヒットポイントが減っているということは、どうやらPK.ができるようにシステムが変更されたようだ。

次からは俺も気を付けるべきかな。

 

さて、助けるにしても問題がある。

「いやいや、さっさと助けろよ」という人もいるかもしれないが、しかし、少し考えてみてほしい。

確かに俺はあの少女を助けること“は”できるんだろう。

しかし、例えばあれは実はパーティプレイの不和から来る私情のもつれかも知れない。

もしそうだとすれば、俺が助けたせいでそれ以上にめんどくさい事態にならないとも限らない。

最悪俺まで巻き込まれるだろう。 

そんなのはごめんだと心からそう思う。

そうさ、別に俺は心優しいスーパーヒーローなんかじゃないんだから。

 

しかし、そんな如何でもいいことを考えている余裕があったのはそこまでだった。

またしても、ズッダーンッ!!という音がして、俺はすぐにそっちに向き直った。

すると向こう側からものすごい勢いで金色っぽい何かが飛んでくるのが見えた。

避けられないと思いとっさに受けの体制をとったのはいい。

でも、飛んできたものを見た瞬間、俺は唖然としてしまった。

 

飛んできたものが、さっきまでマッチョメンと戦っていた金髪ツインテな魔女っ娘だったからだ。

とりあえず、今からは避けられないのでしっかりと受け止める。あまりの衝撃に肋骨が何本かヤバイ感じがしたが、ゲーム内なので、まあ大丈夫だろう。

HPが半分消え去ってはいたが…

 

「お、おい。大丈夫か…?」

 

恐る恐る声をかけて、ゆすってみる。

同時に少女のHPバーも確認するが、数ドットしか残っていなかった。

よかった…ダメージの受け損は嫌だよ俺は。

 

「え、う、はい、なん…と…か…ッ!?」

 

なんだかよく分かてないような戸惑ったような反応だったが、なぜか顔を赤くして俯いてしまった。

 

「え、あの、俺なにかした?」と、心配になって聞いてみるが、「ひゃ、いや、あの、その、うぅ… と、とりあえず、降ろして…」とさらに顔を赤くしていく。

 

そして、俺は気付いてしまった。この少女がなぜ赤面していたかに。

飛んできた少女を受け止めたとき、なんというか、その、

 

――お姫様抱っこのような形になってしまっていたようだ。

 

そら、赤面もするはな…恥ずかしいもんなぁ。俺はそう思いつつ、急いで、かつ慎重に少女を降ろした。

きっと俺も顔が赤いんだろうな。

 

「おいこら、テメェら… なにイチャついてやがんだぁ?ああぁ!?」

 

突然の大声に驚きそちらを振り返ると、そこにはさっきのマッチョメンがいた…

 

「おい、にぃちゃん。その女こっちによこして、さっさとどっかいけや。そしたらにぃちゃんは見逃したるさかい」

 

あんたは、どこのちんぴらだよとツッコミたくなるセリフだが、無視して少女に向き直り、聞きたかったことを聞くことにした。

 

「あのさ、助けてほしい?」

 

こんなことを聞くって事は、俺はきっと助けたいって心のどこかで思ってたんだろう。

まあ、巻き込まれたくないのも事実なんだけど、今回はもう遅いしな。

 

すると少女は少し何かを迷うようなしぐさをした後、口を開いた。「助けて」と。

 

そう言われた時、誰かを助けられるのは意外と嬉しいと思ってしまった。

どうやら俺は、スーパーヒーローになりたい人種だったらしい。

 

「わかった」そう言って少女を安心させようとして不敵に笑った。

それから、アイテムポーチから初期装備の杖を取り出そうとして思い直し、切り札のひとつである『指輪』を取り出して自分の右手の薬指にはめ、マッチョメンと少女の間に立つようにして振り返った。

 

「それで?なに?その娘にほだされて俺とやるの?参考までに言っとくけど、俺はもうレベル15だぜ?にぃちゃん今レベルいくつよ?」

 

現状でレベル15、自分より14もレベルが上だと聞いて俺が思ったのは、それくらいなら計算上何とかなるだろうということだけだった。

 

「俺か?さっき始めたばかりだからまだ1だけど?」

 

それを聴いた瞬間、マッチョメンの強面な顔が我慢できないという顔になった。

 

主に笑いを…

さて、ぶっ殺しますか…

 

レベル1だと伝えた後笑い続けるマッチョメン…

さすがにウゼェぞ…

 

「ぷ、おいおい、にぃちゃん? それで勝てるとか本気で思って…「バインド」」

 

まあ、そういう反応が欲しくて言ったんだけど、笑い方がムカついたので、俺はその声をさえぎるように呟いた。

マッチョメンがそのまま硬直しているところを見るとバインドが成功したようだった。

このマッチョメンが、何を思ったのかは知らないが大剣持ちの重装備なのにStr.特化型ではないはずだ。

 

これは俺の予想なんだが、もし予想通りならこのマッチョメンはAge.特化型だ。

相手のAgi.が高いとどんな攻撃をしようと避けられてしまうことがあり、少し心配していたがきっちり利いているからよしとする。

 

俺がAge.特化型だと思った理由はマッチョメンの攻撃にある。

もし仮にこのマッチョメンがStr.特化型なら少女がマッチョメンの攻撃をガードした時点で勝敗が決しているはずである。

この時点でStr.特化型でないのは確実なのだ。

そしてもうひとつ、大剣を振ったときの剣速が速かった事だ。

武器を振る速度はStr.とAge.で決まるので、Str.特化型でないならほぼ確実にAge.特化型のはずだ。

 

時間もないのでこのまま攻撃に移ろうと思う。素早く近づき軽く拳を握り相手の鳩尾の辺りに拳を当て、『絶招』と呟き一気に打ち込む。

握った拳にシステムアシストがかかり、凶悪な威力の突きが人体の急所に入り、めり込む。

しかもそれだけでは終わらず、完全に硬直しているためにその威力が逃げずに対象を襲う。

さらに、このゲームにはあまり知ってる人がいないが、『侮り』というバッドステータスが存在する。 

このバッドステータスは、まず中々かかることのないものなのだが、相手を侮っていると陥ることがあり、相手を侮っていれば侮っているほど発生確率は上がるらしい。

発生すると相手が強いと認めるまでHPとMP、SP以外の全てのステータスが30%下がるのだ。

いくらレベル1の攻撃だろうとこれだけの補正の嵐に、無手(つまり武器無し)の時に力を発揮するスキル無手格闘のレベル200の補正と無手格闘の奥義『絶衝』を併用すれば一発で終わらせられるはずだ。

その証拠にマッチョメンは声を上げることもなく、ポリゴンになって砕け散った。

 

これが今回レベル15の相手を一撃で沈めた切り札のひとつ、『指輪』を使ったコンボの全容である。

今の説明のどこに指輪が使われているのかは、魔法を使うためにである。

魔法を使うためには杖か魔道書が必要なのだが、この指輪はそれらを装備しなくても魔法が使えるようになるという効果が付与されているのだ。

 

(さて、勝利宣言といくか。この場合なんて言えばいいだろ?俺は目つきが悪いから少女を怖がらせないようにネタかギャグだろうか?

何か小粋なやつは…うん、これがいい。これにしよう。)

 

 

 

「…汚ねぇ花火だ」

 

うん、なんだろ、ほんとなんなんだろ。

もうね?馬鹿かと。死ぬのかと。

もう、あれだね 穴があったら墓にしたい。

…ゴメン、何言ってるのか自分でも分からなくなってきた。

 

いや、そんなことより、マズイぞ。

助けたのは良いけど相手は『女性』なのだ。

あの鬼畜な妹の光瑠や、腹黒幼馴染の愛理と同じ『女性』なのだ。

きっともうあの少女の中では今回の騒動で得た情報で俺のことをどうやって強請(ゆす)るかを考えたりしているんだ…

 

普通の人がまず至ることのない思考に至るあたりに、影斗の苦労の歴史がうかがい知れる。(主に妹と愛理に関すること)

 

「あ、あの…!」

 

「は、はい!?ごめんなさい!強請らないでください!」

 

突然話しかけられたので、つい思っていた言葉が飛び出してしまった。

 

「え?」少女は何言ってんのこの人といった顔で見てくる。

 

「あれ?」

 

神よ、俺は何を間違えたのでしょうか?

きっと生きてることとか言われるんじゃないだろうか…

 



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S1.実力の一端 Side.シラナギ

 Side シラナギ 

 

えっとその、私の名前は白穂(しらほ) 凪(なぎ)といい、プレイヤーネームを<<シラナギ>>と名乗っています。

その日、私は友達に誘われて<<Chrono Drive Online>>というゲームを始めました。

前々から、よく友達と話しているときに話題に上がっていたVRMMOというものをやってみたいと思ったのが始まりです。

私がやってみたいと言ったのをかわきりに、それならみんなで一緒にやろうという話になりまして、予約までみんなでしてこのゲームをすることになったのです。

 

キャラクター作成で私はエルフという種族を選びました。やはり説明書というのはしっかり読むものですね。

エルフは魔力、俊敏性、器用さ、に上昇補正がかかるそうなので、魔法職や特殊魔法職なんかをしようと思っている私には都合がよいですし。

種族変更は端っこのほうにあり、危うく気付かずに設定を終わってしまうところでした。ですが、私にかかればこのくらいはちょれぇのですよ。

 

「さて、職業は…ふむ、サモナーなんか楽しそうですね。」

 

始めてからの数時間は、友達とパーティを組んで一緒に楽しんでいたのですが、一度町で装備を整えて少しレベルを上げてからの再集合ということになりまして。

町でこの魔女っ娘帽子というものを買ってしまいお金がなくなってしまいました。

この町物価がバカ高ぇです。初心者の足元見て吹っ掛けてやがりますね。帽子だけで1万円とか金銭感覚狂ってるとしか思えねぇですよ。

 

後、さっき気付いたのですが、このゲームの通貨は円です。ファンタジーなのに…夢も希望もねぇですね。

 

「これは、お金を稼がねぇとです。他にも欲しいものたくさんありますし、やはりクエストですかね」

 

「おい、お嬢ちゃんいい儲け話があるんだが、乗るかい?」

 

お嬢ちゃんとは失礼な!と思いつつ振り返るとスキンヘッドの筋肉がいました。

どうやら私はナンパされたみたいです。まあ、私に目をつけるとはなかなかですが、正直趣味じゃねぇですし、お嬢ちゃん呼ばわりも気に食いません。

儲け話の方だけ聞いて逃げましょうかね。

 

話を聞いたところによると始まりの場所には、極端に人が少ないときにだけ現れるユニークモンスターがいるらしく、そのモンスターを倒すと経験値が入らない変わりに大量のお金をドロップするらしいのです。

しかも、発生条件が難しいため強さもそこまでではないらしく初心者向けだそうです。

 

その言葉を信じて人がいなくなるのを待ってそこへ行くと、確かにそこにそのユニークモンスターが存在しました。

 

「おお、本当にいました。胡散臭いなとか思いましたが、まさかマジ情報だとは。しかし、本当に似ていますね…」

 

探していたのはメタルアメーバというモンスターで、水銀に顔を取り付けたような姿をしていました。

実はこのモンスター、あるゲームのはぐれたメタルなスライムにとてもよく似てまして。

経験値が入らない仕様なんて当て付けもいいところだと思うです。

 

「まあ、そんなことはどうでもいいですし、さっさと狩るですよ。『サモン』ブルージェム」

 

サモナーの固有魔法『サモン』は契約したモンスターをMPを使い呼び出すもので、単純に戦力が増える魔法である。

単純に戦力が増えるといっても、敵を確認後に呼び出すことができるので使い勝手がいい。

反面消費魔力が高くあまり多く呼び出すことはできないので、冷静な判断が求められる。―――説明書より

 

呼び出したのはコブシ位の大きさの青い宝石のようなモンスター。

常に浮かんでおり、魔力があることが分かる。

攻撃方法は体当たりのみだが、先端が異様に尖っているため攻撃力は高い。

 

「さあ、やっちまうですよ! いくですブルージェム!」

 

その声とともにブルージェムが、はぐれm――もといメタルアメーバに飛び掛る。

どうやら強さは均衡しているようだが、均衡しているだけでは倒すには至らない。

ならどうするか。簡単だ、もう一体呼び出せばいい。

上限ももちろんあるし、デメリットもあるが呼び出せないわけじゃない。

そう作戦方針を決めるとデメリットである倍のMPを消費しブルージェムを呼び出す。

 

途中ブルージェムが一体減ってしまいましたが取りあえずの勝利を収めました。

メタルアメーバを倒すと、総額百万円が得られました。

 

私は思いました。「やっぱりこのゲームは金銭感覚狂ってんですよ」と。

 

さて帰ろうかと今来た道を振り返ると、さっきのスキンヘッドの筋肉がいました。

 

「よう、お嬢ちゃん。奇遇やなぁ。」

 

奇遇とか、どの口が言いやがりますか?

後ろからつけて来ていたくせに…気付いていないとでも思っているのでしょうか?

ミニマップにカーソルが映っていたというのに…

 

「それで?何の用なのですか?」

 

「そんな怖い顔するなよ。おとなしく有り金全部置いて行けば何もしないでやるよ」

 

「ふざけねぇでくださいよ!どうせモンスターだってリポップするんですから、そっちを倒せばいいじゃねぇですか!!」

 

私はふざけているとしか思えないようなそのセリフに怒りを覚えた。

 

「いや、実はな?あのモンスター、レベル1で倒さないと金が出ねぇんだよ。

だからよ、初心者のレベル1プレイヤーにこの情報流して狩るっていうPKプレイヤーは結構多いんだよ…俺みたいな、さ!」

 

筋肉男の顔がげひた笑みに彩られる。瞬間、私の隣を浮いていたブルージェムが筋肉男の振り抜いた大剣によって爆音とともに砕けて消えた。

…このヤロウ、私を殺して所持金を奪い取るつもりですか。

 

「キャ!!来ねぇでください、気持ち悪い!!」

 

「…言いやがったな?今、気持ち悪いって言いやがったな!!」

 

筋肉男は、怒りを隠そうともせず、大上段の全力で単純な攻撃を仕掛けてきました。

威力は高く、振りも早いですが、怒りで単純化しているので私でもガードすることはできました。

 

ですが、ガードに成功したにもかかわらず、HPが3割ほど削れていました。

困りましたね…MPは使い切ったから『サモン』は使えないですし、逃げようにもキャラのスタミナが低すぎて逃げ切れない。

そんなことを考える間にも敵は向かってくる。

 

まずい、まずい、まずい…

 

振り下ろされる刃を寸前で避ける、避ける、避ける… 

 

しかし、いくら現実でなくとも、それをいくら避けようとも、振り下ろされる刃に精神は削り取られて、怖い、とただその思いだけが増してゆく。

 

そして恐怖は、頭と体の動きを止める。

 

「あっ…」

 

その攻撃は、簡単なもので、大剣を横に薙いだだけのものだった。

でも、避けようとして足がもつれた…

 

そこからはスローモーションの様だった。ゆっくりと大剣が私に迫ってくる。 

それこそ、まるで死刑宣告でもするかのように…ゆっくり、ゆっくり…

もう少しで私に当たるというところで、偶然、前に出していた杖に大剣が当たり、そのまま私ごと吹き飛ばした。

幸運だったんだろうか? それとも不運だったんだろうか?私はその攻撃では死ななかった。

 

でも、このままだと、何かにぶつかって結局はHPが全損してしまうだろう。

もう諦めよう…怖いけど、我慢すればいい。そう思って目をつぶった。

そして、長い浮遊感の後、何かにぶつかった…

きっと私のHPはもうなくなるだろう…そう、思った…

 

でも、そんな私の予想は裏切られた。

 

「お、おい。大丈夫か…?」

 

控え目に安否を聞いてきたこの人によって

 

「え、う、はい、なん…と…か…ッ!?」

 

最初は何が起こったか上手く理解できなかったけれど、理解すると今度は顔が赤くなっていくのがわかった。

なぜだか、お姫様抱っこだった…

 

「え、あの、俺なにかした?」

 

その人は心配そうな顔で覗き込んできた。

 

「ひゃ、いや、あの、その、うぅ…と、とりあえず、降ろして…」

 

あまりの恥ずかしさにどもってしまった…

しかし、意味は通じたようでその人は顔を赤くして、慌てていながらも丁寧に降ろしてくれました。

 

しかしながら、私は赤くなったその人をみて、不覚にも可愛いと思ってしまいました。本当に不覚です。

 

「おいこら、テメェら…なにイチャついてやがんだぁ?ああぁ!?」

 

怒声のしたほうを振り向くと、私を殺そうとした筋肉男がいた。

 

「おい、にぃちゃん。その女こっちによこして、さっさとどっかいけや。そしたらにぃちゃんは見逃したるさかい」

 

するとその人は、脅しのつもりで言ったのであろう男の言葉を完全に無視し、

 

「あのさ、助けてほしい?」

 

突然私にそんなことを言い出しました。

 

正直に言うなら私は今、すごく助けてほしかった。例えこれがバーチャルで、殺されても町に死に戻りするだけだとしても、殺されるのは怖い。

でも、このステージにいて、いまだに初期装備のこの人はきっと初心者なのだと思う。

いったいどうやって私を助けるつもりなのだろうか?それになぜ私を助けようとしてくれているのだろうか?助けてどうしようというのか?

少し考えただけでいやな想像があふれ出す。怖い、助けられるのなら助けてほしい。

そして私は、頭で考えるよりも先に、その人に助けを求めていました。

 

「助けて」気が付くと私は短く、しかし切実にそれを口にしていたのです。

 

「わかった」と、その人は自身ありげにそう呟き、アイテムボックスから剣や杖でなく、指輪を取り出し自分の右薬指にはめて私を殺そうとした男に向き直りました。

 

「それで?なに?その娘にほだされて俺とやるの?参考までに言っとくけど、俺はもうレベル15だぜ?にぃちゃん今レベルいくつよ?」

 

レ、レベル15ぉ!?ま、まあ、あの人が涼しい顔をしているってことはそれ以上か同じくらいってことですよね…

 

「俺か?さっき始めたばかりだからまだ1だけど?」

 

だめです、私はここで終わりのようです…勝てっこないじゃないですか。

なのに、絶対に勝てないはずなのに、その人は少しも気にした様子もないのです。

 

「ぷ、おい、にぃちゃん?それで勝てるとか本気で思って…「バインド」」

 

その人が、そう呟くと男はそのまま動かなくなり、そのままその人は男の胸に手をかざし「絶招」と呟き、かざした手を握り打ち込みました。

 

その人がしたことはそれだけでした。たったそれだけのことでしたが、男は声を上げることもなくそのままポリゴンを撒き散らして弾けてなくなりました。

 

その瞬間、私の目は彼に釘付けで、ポリゴンの中に悠然と立つその姿は、今まで見た誰よりもかっこよく見えたのでした。

 



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4.用法と用量

 

あのマッチョメンを倒した数分後、何故こんなことになったかを話し合っていた。

 

「要訳すると、寝てたら私が襲われているのを発見し、こっちに飛んできたから止むを得ず助けたと、つまりはそういうことですね。」

 

みもふたもない言い方で金髪のロリ体型な魔女っ娘|(プレイヤーネームは<<シラナギ>>というらしい)は俺の話を要訳してくれていた。

 

「み、みもふたもないな…」

 

「女性を助けるのにあれこれ考えてほったらかしにしていたわけですし、それはしょうがねぇのでは?」

 

「うっ…」

 

紅い少しつり上がった瞳をジト目にして見てくるシラナギ。

…その通り過ぎて何も言い返せない俺がここにいます。

 

「しゃぁねぇですから今回は許してやりましょうです。…最後はちゃんと助けてもらいましたし」

 

そこまで言って何かを思い出したのか、少し悩むような顔をして聞いてきた。

 

「そういえば、どうやってあの筋肉倒したんですか?レベル1じゃ勝てなかったと思うんですが…」

 

「ま、まあ、今はそれは置いといて、この後どうするかを考えよう、そうしよう!」

 

自分でも強引だと思うし、これで追及を逃れられるわけはないのだが、人との触れ合いを避けまくってきた俺には、これが限界である。

 

「…要するに、答えたくないんですね。」

 

またしてもジト目である。

ある特殊な人には、むしろご褒美と言わしめるジト目ですが、ちょっとした女性恐怖症の俺には正直マジで怖い…

ゾクゾクきたのはきっと気のせいだ。間違いない。

 

「それで、この後、如何すんの?」

 

もうこのまま強引路線で行こうと思います。

 

「はぁ、もういいですよ。このまま町に帰っても、さっきの筋肉にまた目をつけられそうなのでリュートさんと居ようと思うのですが…駄目ですか?」

 

さっきまでのジト目とは打って変わり、上目遣いに見つめてくるシラナギ。

シラナギさん、それは卑怯だと思います…なんと巧みな飴と鞭、一般男性にはその攻撃に抗う手段はありません。

やめて、俺のライフはもうゼロよ!?

 

「うぅ…わかったよ。ほかに二人ほど来るけどそれでいいなら」

 

「えっ!?友達いるんですか!?」

 

すごく意外そうに言われた…

 

リュートは精神的に9999のダメージを受けた

 

目の前が真っ暗になった…

 

「ちょっ!?そこまで深刻なことなんですか!?」

 

「初対面の人に『お前友達いねーだろ』って言われたようなものだよ?」

 

「…ごめんなさい」

 

シラナギ ハ 心からの謝罪 ヲ ツカッタ

 

「…ぐはっ!!」

 

会心の一撃 リュートは 息絶えた…

 

優しさは人を傷つけることがあります。

用法用量を守って正しく使いましょう。

 



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5.○○はステータスです!

 

あの後、息を吹き返した俺とシラナギは、始まりの場所の世界樹付近で談笑していた。

 

「それで、あと二人来ると言ってたですけど、その二人はどういう人たちなんですか?」

 

「う~ん、そうだな…学校一友達の多い奴と、学校一ファンの多い腹黒だな…」

 

「…リュートさん、遠い目をしてますよ。何があったんですか」

 

気付かぬうちに遠い目をしていたようだ…

まあ仕方ないと言えば仕方ないことなんだが、いろいろあったからな…

 

俺の腹黒な幼馴染さんはね、事あるごとに『あの』妹を脅し文句にしてくるんだ。

しかも、内容がすべて無茶振りでさぁ…

画鋲がたくさん入った靴を履かせるんだ…笑顔で…

腐った牛乳を飲ませて観察してくるんだ…笑顔で…

中でも一番はアレだな…

あいつの家に泊まったときだ…

睡眠薬で眠らせられて、下着を大量に被せられて、

あいつ何したと思う?

あいつの両親を呼んできたんだよ…俺が起きるタイミングにジャストで…

それも勿論、極上の笑顔で…

 

「頼む…聞かないでくれ、思い出したくないから…」

 

俺のトラウマダイアリーである。

 

しばらくこんな感じの会話が続き、

 

「おーい、影斗ぉ、どこだぁ。いるなら返事しろぉー」

 

なんか龍っぽい安達ともう一人、なんかグラマーなネコミミが来た。

 

龍っぽい安達は、背や顔はそのまま、髪が赤茶けた短髪で、頭の横から後ろに向かって2本の角が生えている。

グラマーなネコミミさんは、なんか誰かに似ている気がするが、ボンッキュッボンッにものすごい違和感を感じる。

髪の色は栗のような茶色で、目が黄色く全体的に猫っぽい。

 

「おい、安達。リアルネームを大声で叫ぶんじゃない。マナー違反だぞ」

 

まあ、俺も呼んでるけどな…

 

「おう。悪い悪い。これが一番早そうだと思ってな」

 

爽やかにイケメンスマイルで謝ってきた。

なぜだ…謝られているのに腹が立ってきた。

 

「いやまぁ、いいけど…安達、愛理は来てないのか?」

 

「ん?そこにいるだろ?」

 

そう言って安達は一緒に来ていたネコミミさんを指差した

 

「グラマーなネコミミさんしかいないけど?」

 

「?それが風見さんのアバターなんだが」

 

何を言ってるんだ?と言う顔で見てくる安達

 

「いやっ!?だってっ!?愛理だよ!?あのつるぺたペッタンだよ!?むしろ絶壁どころかくぼんでると言う噂の愛理だよ!?」

 

ふと、安達を見ると、不自然なくらいにガタガタ震えていた。

そして理解した。後ろに、形容しがたい殺気の塊がいる…

 

「言いたいことは…それだけかい?」

 

スゥ…と、首筋に冷たい感触が添えられる。あまりの恐怖に、後ろを振り向くことができない。

 

「言いたいことはそれだけかい?」

 

感情を一切感じさせない合成音声のほうが違和感のない様な声がする。

あ、もう助からないね、コレは。どうせ助からないのならば、最後まで…言い切る!!

 

「…いや、ひとつだけ、言っておかなければいけないことがある!」

 

そうだ、これだけは!!この事実だけは…!!

 

「貧乳はステータスですっ!!」(キリッ!!

 

言い切った直後、俺の体には首から上がなかった…

この後の詳しいことは、死体がスプラッタになり過ぎて、表記不可です。

ゲームって怖いな。

 

 

 

五分後

 

死に戻りして戻ると、愛理(どうやら、胸を元に戻したようだ)と安達が手を振っていた。

機嫌は戻ったようだ…よかった。心底そう思う。

 

「ま、まったく、リュートさんがいきなり死に戻りするからビックリしたんですよ!?私まで殺されんじゃねぇかと思ったです」

 

ちょっと、泣きそうな顔をしたシラナギが訴えかけてきた。

 

「いや、悪いなホント。だけどな、後悔はしているが、反省はする気がない」

 

「この人、性質悪ぃですっ!?」

 

さて、4人で自己紹介といきますか…

 



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6.自己紹介は自分でするから自己紹介

 

今俺達は世界樹の前に座り込み自己紹介を始める所である。

 

「じゃあ、俺からでいいか?」

 

「「「異議なーし」」」

 

取り敢えず、プレイヤーネームと職業、レベル、得手不得手くらいでいいかな。

 

「プレイヤーネーム<<リュート>>、職業はエンチャンターで、レベルはさっき3になった。主な役割は味方の補助や支援、あと、防御面は紙装甲なんで前衛頼んだ」

 

俺は言いつつ安達の方を向く。安達は爽やかなイケメンスマイルを浮かべている。

 

「次は、ボクかな?ボクは<<風理>>、職業はアサシンだよ。レベルはまだ2だけど腕の方はさっき見たよね」

 

さっきと言うと、アレか、俺を後ろから殺った時だよな。

確かに気付かれずに俺の後ろに回りこんで一撃で仕留めてたな…

 

「Str.とAge.にステータス振り分けているから、遊撃に向いているはずだよ。同じく装甲は紙だから前衛よろしくね」

 

愛理(今は風理か)、もそう言って満面の笑みで安達の方を向いた。安達は笑顔を引きつらせている。

 

「じゃ、じゃあ、つぎはおr「はいはい!次は私がやるです」………ぇ」

 

最悪の想像をした安達は、次に自己紹介をして少しでも状況を良くしようとした様だが、その希望は悪気の無い一言に踏み潰されたようだ。

 

「<<シラナギ>>と言うです。職業はサモナーで、しかも種族がエルフなので私自体はとても弱いんですよ。前衛の人よろしくですっ!あと、レベルは2です」

 

シラナギの自己紹介が終わる。安達の方を見ると、少し涙目になっているのが窺える。

 

「じゃあ満を持して、安達の自己紹k「うわぁぁあぁぁぁあぁぁ…!!」………なん、だと」

 

今聞こえた悲鳴で、わかる人にはわかるかもしれないが、結論から言おう。

 

「アイツ、耐え切れずに逃げ出しやがった」

 

パーティを組むのに前衛がいないとか致命的である。

なお、パーティに前衛が一人しかいない場合、その人物にかなりの無理を掛けることになる。

しかも、このゲームはVRゲームだから、能力的にはどうにかできる人は多いのだが、精神的にはそれはそれは辛いと言う。

さらに、パーティ全員からのそれを期待する期待の眼差し…

やりすぎたかな…

 

「大丈夫だよ。今おどs…メール送ったから、すぐ戻ってくるとも」

 

そう言って笑う風理は心底嬉しそうだ…ってか脅したんですか、風理さん。

 

「ついでに、安達君の自己紹介は僕がやってしまうよ。帰ってきたときに後悔…じゃなくて、すぐに出陣できるようにしとかないとね。うふふ」

 

「なるほど!時間は有限ですしいい考えですね。」

 

イヤ、安達の自己紹介を風理がしたら、もはや自己紹介じゃないよね?ってかそれよりシラナギよ、オマエはそれでいいのか?

 

「まず、プレイヤーネームは<<ユースケ>>で、職業はウォーリアーらしいよ。レベルは1、そして、パーティ唯一の前衛なのさ。」

 

「ほぅ、これは期待大ですね!」

 

逃げたユースケが悪いのだとしても、さすがに哀れとしか言いようがない。

彼はこれから前衛として生きていくのだろう、強く成長(主に心が)してくれることを祈りつつ黙祷…

 



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7.え?俺って要らない子?byリュート(影斗)

 

「お、あそこにスタンダードオークLv.8が一匹だけで行動してるぜ。最初の獲物にちょうどいいんじゃないかリュート」

 

声をかけてきたのは、うちのパーティ唯一の前衛であるユースケ。

現在、俺達は始まりの場所を出たところにある草原の端、オークの森と呼ばれる場所のすぐ近くにいる。

 

スタンダードオーク――身長が2メートル強の豚の亜人。

頭が悪く攻撃は単調で力任せ、魔法も使わないので初心者によく力試しとして討伐される。

 

確かに、このパーティがどこまでできるか確かめるのにはスタンダードオークはちょうどいい相手かもしれない。

 

「そうだな…二人もそれでいいか?」

 

二人、シラナギと風理も首を縦に振ってくれた。

 

「よし、なら辺りに他のアクティブなモブがいないか確認後、ユースケは最大火力でヘイトを稼いでくれ」

 

「了解だ、リーダー」

 

…ユースケ、リーダーはやめろ。なんというか恥ずかしいから

と言うか俺は万年ソロプレイヤーだぞ?人を纏め上げる才能なんかない

 

「風理は遊撃、隙が出来次第強力なスキルでダメージを、シラナギは複数の召喚獣で撹乱を頼む」

 

「OK.まかせてよ」と、ノリノリな風理

 

「はいです。ですが、複数召喚はMPがかなり掛かりますから、連用は無理ですよ?」

 

「それもそうか。じゃあ、できるだけでいいから頼むね。あと、これを渡しておくよ」

 

そういって、あるアイテムを手渡す。

MPポーション、その名で呼ばれるこのアイテムは、魔法職ご用達の品であると同時にそのレア度から高額で取引されるという。

魔法職なら相手を殺してでも一本は持っておきたいと言うアイテムだ。(ストレージに200本所持してるけど)

 

「え?…これ、MPポーションですか!?もらっていいんですか!?後で返してほしいって言っても返しませんよ?」

 

喜んでくれたようでよかった。笑顔で頷いておく。

ユースケがニヤニヤして、風理が一切笑っていない笑顔でこっちを見ている。

俺なにかしったっけ?

 

「さて、作戦も決まったし、いっちょやりますか!」

 

「「「おぉー!」」」

 

まずは、レベルが上がって覚えた強化魔法をユースケと風理に掛ける。

 

「『ストレンジアップ』、『ストレンジアップ』」

 

ストレンジアップ――対象のStr.を一定量上昇させる魔法。上昇率は職業により変わり、エンチャンターが使用したときの上昇率は3%だ。

なかなか使える魔法だと思うが、如何せん燃費が悪い。レベルが上がって増えたはずのMPが今の二回の使用でなくなった。

 

「よし、二人とも、これ三分しか持たないから突撃開始っ!!」

 

ユースケを盾…もとい、先頭にして走り出す。

走り出してすぐにオークと目が合う。どうやらオークもこちらに気がついたようだ。

 

接敵時、先に攻撃を繰り出したのはオークだった。

丸太のような腕で、同じく丸太のような棍棒(というか、もはや丸太そのもの)を振りかぶってきた。

 

そしてそのまま棍棒は地面に当たり、辺りの砂を巻き上げた。

前に出ている二人がどうなったのかここからじゃよくわからないが、「うぉ!?」とか、「あぶないなぁ」とか聞こえるから大丈夫だとは思う。

 

俺の隣では「『サモン』プチジェム」シラナギが小さい召喚獣を3体召喚している。

…俺、いらなくね?

 

というか、この職業不遇過ぎだろ。まともにダメージを喰らったら即死だし、攻撃力は皆無、かと言って補助ですらコストが高すぎてまともに使えない。

あ、駄目だコレ、泣けてくるほどに不遇職だわ。

 

まあ、MPの方はさっきMPポーション使ったから回復してるし、『バインド』でちょこまか支援するかな。

 

でもなぁ…正直あの3人だけで既にスタンダードオークを翻弄してメッタ刺しにしてるんだよなぁ…

プチジェムに構ってる間にユースケが足に『スラッシュ』を使って体制を崩し、すかさずそこに風理が『バックスタブ』。

うん…なに?この完成された連携は?俺要らない子じゃん?

 

見ている限り至って順調に連携は決まっていた。相手のHPは残り一割ほどだろうか…

問題点を敢えて挙げるとすれば、油断しすぎではないか?ということぐらいだ。

 

少し離れて見ているから良く判るのだが、ユースケと風理はその場所からあまり動こうとしなくなったし、シラナギはシラナギで少しずつ向こうに近づいて行っている。

 

俺が「危ないな、あいつら」なんて思っている間に二人の後ろにシラナギが近づいて行き三人が同じ場所に固まっていった。

そこでちょうどタイミング悪くオークが三人を見つけ、三人を踏みつけようと足を振り上げた。

さっきまでならユースケも風理も避けられたであろう緩慢な攻撃、バックステップで避けようとする。

しかしながら後ろに人がいるのに気付かずそんなことをすれば…あ、コケた。

 

このままだと起き上がって逃げ切る前に足が振り下ろされるな。

…ようやく俺の出番だよねコレ!良かった!!俺は要らない子じゃなかった!!

じゃなくて早く止めないと…

 

「『バインド』」そう唱えるとオークの高く振り上げた足は振り下ろす寸前で停止した。

うん、綺麗に停止しましたよ。足は。

他は普通に動いてる。

 

何で足だけ?『バインド』の説明にはこんな事書いてなかったぞ…

もしかしてある一定の大きさしか止められないとかか?

 

ま、いいや。後で考えよ…

 

さて、突然ですが皆さんは足を振り下ろす瞬間に振り下ろそうとした足が固まったらどうなると思いますか?

答えは簡単で、前に移した重心によって体が前に引っ張られ、しかし振り下ろすはずの足は固まったままなので――コケるんだよねなかなか派手に。

 

後さ、コケた時、倒れたとこに何か落ちていると痛いよな…

ん?オーク?岩に強かに頭打ちつけて消えたけど?

 




ラジオ≪C・D・O≫!

リュ「というわけで、始まりました!ラジオ≪C・D・O≫!MCはワタクシ、リュート(影斗)と」
シラ「何が、というわけか分かんねぇですが、天才サモナーことシラナギがお送りするです」
リュ「天才とか自分で言いますか」
シラ「本当のことですから」
リュ「さいですか。えぇ、それでは一つ目のお題に参りましょう」
シラ「おぉ、何でも来いです!」
リュ「それでは、今回のお題は…これだ!」

最近のテストどうでした?最低点をどうぞ!

リュ「本編に全然関係ないな…」
シラ「…」
リュ「ん?どうかしたのか?」
シラ「…いえ」
リュ「?まあいいか。最低点だよな?俺は75点だったかな。シラナギは?」
シラ「…ひゃ、百点ですよ。もちろん」
リュ「ほぅ、それは凄いな」
シラ「え、ええ。と、当然ですよ。ええもうそれはそれは」
リュ「で?本当は?」
シラ「……ぅ…ん」
リュ「え?」
シラ「30点ですよ!!悪いですか!?」
リュ「いやいや、それならまだマシだよ」
シラ「へ?」
リュ「だって、風理(愛理)なんて一桁台だったよ?」
シラ「それって言って良かったんですか?」
リュ「…あ」

――オボエテロヨ♪

リュ「ヒッ!?」ガタガタブルブル…
シラ「あぁ、もう今回は終わりですかね?それでは、また次回です!」

感想ご質問等お待ちしています。


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8.カネと浪漫なら、俺は○○を取る

「うんうん、初めて組んだパーティにしてはなかなかの戦果だと思うよ、俺は」

 

ソロ狩りしかしたこと無いから適当だけどな。

 

「だよなだよな!?結構頑張ったからな俺ら!」

 

「フフン!あのぐれぇは余裕なのですよ!!」

 

シラナギが得意げに踏ん反り返りつつ何か言っているが、後にも先にもお前だけだよ。ミスしたやつは…

 

「最初にヘマしたけどね…」

 

「姉御ぉ、その話はしねぇで欲しかったですよぉ…」

 

「だ、誰が姉御だよ!?ボクは姉御肌じゃないよ!?」

 

おぉ、あの風理がうろたえている。珍しい…

いやそれより…

 

「「姉御て…」」

 

ユースケとハモった。

 

数時間後…

 

ギルドの運営する酒場、その一角で俺たちは今日一日の成果の確認と分配をしていた。

 

「さっさと分配して打ち上げでもしようぜっ!」

 

「ユースケの言う通りだな。さっさと分配してしまおう」

 

「それで、結局アイテムはどんなものがドロップしたのさ?」

 

「えぇと、亜人の腰布×12 樫の木×3 木片×5 伸縮する皮×2 鍵?【???】×1とお金が23,516円だな」

 

取り敢えず一人頭5,879円と亜人の腰布3枚が配られた。

もう判ったと思うけれど、このゲームの通貨は円だ。

しかも、日本だけならわかるけど、他の国のサーバーでも通貨は円らしい…

何で円にしたのか、制作陣の意図がいまだにわからない。

 

「さて、残りのアイテムなんだけど、みんなは欲しいものある?」

 

「その前に質問したいことがあるんですが」

 

シラナギが手を上げていた。

 

「その如何にも『鑑定が必要ですよ』な鍵のグレードは何級ですか?」

 

「え、言わなきゃダメ?」

 

渋々ながら鍵のグレードが最低の5級であることを告げると、

 

「「「鍵以外で!!」」」

 

そんな拒否しなくても…

確かに、5級のアイテムだと鑑定代の方が確実に売値より高くなるし、これに合う鍵穴が無いと実益が一切無いよ。

だけど、この鍵の持つ有り余るロマンを判らないのだろうか?

いったい何の鍵なのかとか、何でオークがとか、こういう気持ちがわからないのかね~?

 

「じゃあ、鍵は俺が貰っとくよ」

 

俺は、鍵を手に取りアイテムストレージに放り込んだ。

取り敢えず、しばらくはアイテムストレージの肥やし決定だな。

 

「それで、他のはどうす…る……」

 

ほんの数瞬のことだが、俺は絶句した。

そこには風理がシラナギを使ってユースケを無力化し、残りのアイテムすべてを奪い取りシラナギと分け合っている姿があった。

なんというか、ユースケがすごく情けなく見え、それとは対照的に、風理は生き生きしているように見えた。

 

もう、何も言うまい…そう思った。

 

余談ですが、打ち上げのときの食べ物はなかなかうまかったです。

ユースケはちょっと塩味がきつくないかとか言ってましたが…ハハハ…

 

 




ラジオ≪C・D・O≫!

リュ「はい!またしても始まってしまいました。ラジオ≪C・D・O≫!MCはワタクシことリュート(影斗)と」
シラ「天才サモナーことシラナギがお送りします。…いつまで続くんでしょうねこれ」
リュ「さあ?作者が飽きるまでじゃないの?」
シラ「はあ、あの人も存外にめんどくせぇですね」
リュ「それでは気を取り直してお題と行きますか」
シラ「それで?今回のお題は何ですか?前回みたいなのは嫌ですよ」
リュ「それは俺も勘弁。今回はこれだ!」

ズバリ!得意料理は!

リュ「…また、本編には全く関係ないな」
シラ「料理なら私でも出来ますよ!」
リュ「そうなのか。ちょっと食べてみたい気もするな」
シラ「そういうリュートさんはどうなんですか?」
リュ「俺か?卵焼きを絶賛されたことがあるな」
シラ「やりました!初めてリュートさんに勝った気がします」

…簡単な料理ほど味に差が出にくいものなんですよね。


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9.人を信じることは誰かと友達になる為の一歩だと思うんだ。by.この場にいない人

 

「おっと、もうこんな時間か。そろそろ戻らないと妹にコンセント抜かれそうだな…晩御飯作れって」

 

さっと辺りを見渡すと少し日が傾いてきていた。

 

「へぇ、リュートさんは妹さんが居るんですか。私は1人っ子だから少し羨ましいですよ」

 

シラナギが楽しそうに言う。

 

「今のセリフのどこに羨ましい部分があったのか、甚だ謎なのですが?」

 

実際、自分のことを一切考えてくれない鬼畜な妹様に晩御飯を作らないといけないことのどこに羨ましい所があるというのか…

 

「私には、羨ましいですよ…」

 

「え?何か言った?」

 

うまく聞き取れなかったそれは一瞬のことだったが、寂しそうな声だった気がして、気付いたら聞き返していた。

 

「え、いや、あ、そうです!忘れてました!フレンド登録してないですよ、私たち!!」

 

わたわたと手を振りながら言うシラナギ。

どうやらフレンド登録のことだったらしい。

本人がそう言うのだし、寂しそうな声に聞こえたのは俺の聞き間違えなんだろう。

 

「でもそういうのは友達同士でするものじゃないのか?」

 

「?もう友達だと思ってたんですが、違うんですか?」

 

そう言って悪戯に成功したような顔で見てくるシラナギ。

リアルでもVRでもソロプレイヤーの俺に友達と言ってくれるなんて…やばい、嬉し過ぎて泣きそうだ…

 

『友達』その言葉が嬉しかったことなんて数えるほどしかない。

唯一遊んでくれていた愛理でさえ小学校に入った頃には俺の方から離れていった。

愛理まで友達が出来なくなるなんて嫌だったから…

 

今まで友達なんていなかった。

確かに友達だって近づいて来るやつもいたさ。

でも、すぐに裏切られた…

何度信用を示しても、排斥された。

そのせいで人間不信になったこともある。

それでも、なんでかシラナギに言ってもらった『友達』は、嬉しさが消えなくて…

 

「あぁ、そうだね。ありがとう、シラナギ」

 

泣かないように気をつけたけど、声が震えて困った。

 

「おいおい、シラナギちゃんだけかよぉ。俺たちもだろ?」

 

「そうだよ、ボク達も友達じゃないか」

 

二人もそう言ってくれる。

本当に泣く寸前の俺は、なんとかフレンド申請を三人に送り、三人の名前がフレンドリストに登録されるのを確認すると逃げるようにログアウトした。

 

 

 

視界がブラックアウトし、だんだんと意識が体に戻ってくるのを感じる。

<<Attraction-Ω>>のヘッドギアを外して机の上に置く。

 

俺は、気が付くと涙を流していた。嬉しいと涙が出るというのは本当だったらしい。

気付くと涙が止まらなくなって、声を上げて泣いていた。

それこそ人目もはばからずに泣いた。

 

でもそれは、すぐに終わりを告げることになる。

妹の手によって…

 

「うるせーぞ!さっさとご飯作れ、馬鹿兄!!」

 

この涙が止まったのは良くも悪くも、妹様のおかげでしたとさ。

 

 

 

「そういえば、兄貴何いい年して泣いてたの?小指でも打ったの?」

 

妹と飯を食べていると珍しく向こうから声をかけてきてくれた。

にしても、小指打った位で泣くとか、君は俺を何だと思ってらっしゃるのか、妹よ。

 

「ん、ああ。初めて友達が出来てさ。嬉しくて泣いてた」

 

言ったとたん、妹は怪訝な顔でこっちを見てきた。

 

「兄貴、精神科行ってきた方がいいと思う」

 

「…さすがにそれは酷いだろ」

 

「兄貴に友達なんて出来る訳ないだろ!」

 

言い切りやがった!?

その後は、「ちゃんと、精神科行けよ」と言われただけで、会話らしい会話はないままその日は終わった。

 

 

 

翌日、学校では昨日と同じように安達が喋りかけてきた。

 

「おっす、影斗!今日も<<CDO>>するんだろ?入る時間とかも合わせたいし、携帯の番号交換しとこうぜ」

 

「うん、わかった」

 

そう言って赤外線で情報を交換する。

 

「…初めて自宅以外の連絡先手に入れた」

 

「おいおい、マジかよ…」

 

少し呆れた感じに言われたが、腹が立つどころか嬉しくなってきた。

 

「あ、そういえば聞いたか?」

 

何をだろうか?取り敢えず聞いてみることにする。

 

「この学校、高等部は夏までに部活に入らないといけないらしいぜ。意味がわからん、なんで高等部だけなんだ?嫌がらせか?」

 

「いや、嫌がらせではないだろ。…多分」

 

と、冷静なツッコミはともかく。

 

「で、影斗はどうするよ。体育会系には入らねぇんだろ?」

 

…本当にどうしよう。

 

「…ゲーム部でもあればいいのにな」

 

「まったくだ」

 

まあ時間はあるんだ、ゆっくり悩もう。

まだ春も始まったばっかりなんだからな。

 



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10.闇色の裏側

今回は少しシリアス?です。
リュート(影斗)たちは登場しません。


同日――某所の制御室にて

 

「ここか、『あのシステム』の制御室とやらがあるのは」

 

今この場には5人の人がいた。

そのうち3人は黒い服に身を包み顔を隠していた。

残りの2人は白衣を着て地面に寝転がっている。

敢えて共通点を探すとすれば、服が汚れていることだろうか…

白衣の2人は自分の血で、黒服の3人は返り血でという違いはあるが。

 

「こいつらの格好からして間違いないはずです」

「じゃ、開けるぞ」

 

そう言ってその場所への扉を開ける。

中は薄暗く、奥で道が2つに分かれているようだ。

 

「ヴェル、どっちだ?」

 

リーダー格らしき体格のいい黒服が問う。

 

「右よ」

 

他の黒服より少し小柄な、ヴェルと呼ばれた黒服は短く答えた。

 

「そうか。注意して進むぞ、遅れるなよ?」

「はいはい、先輩は心配性ッスね」

 

それに対して、最後の1人がふざけた様に答える。

 

「…ハァ。もういい、いくぞ」

 

センサーや監視カメラに注意しつつ、慎重に進む。

実際彼らはここに忍び込む為に、慎重にし過ぎてちょうどいいぐらいだと、それぐらいの注意が無いと駄目だと、体が覚えるまで訓練してきた。

そして、それももうすぐ報われる。

目の前に大きな扉、性格には国防レベルの電子ロックにカードキー等の防犯装置が掛けられている頑丈で大きい扉があるからだ。

 

「この中で間違いないだろう…ウルズ、やってくれ」

「しゃあないッスね。ちゃっちゃとやらさせていただきますよ」

 

そう言うとウルズと呼ばれた黒服は後ろのかばんからノートパソコンを取り出し瞬く間に電子ロックを解除してしまう。

 

「なんか、ざるッスねぇ。えらく簡単でしたよ?」

 

ウルズの言うことはもっともだ。簡単に行き過ぎている。

だがしかし、いまさら他を見に行く余裕も、ここ以外に有力な情報も無いのだ。

罠だとしてもやるしかない。

 

「入るぞ」

「はい」

「OKッスよ」

 

ハンドガンを利き手で持ち、扉を開ける。

彼らは迅速に中にいた人間を1人を残して全員殺した。

そして、最後の1人も情報を聞きだした上で始末した。

 

「それでウルズ、これで、計画は何とかなるか?」

「何とかはなるッスけど、今のヤツの話だと計画に移るのに二、三ヶ月は掛かっちまうッスね」

 

血に塗れて見辛くなったスクリーンを拭きつつウルズが答える。

 

「まあいい、それよりシステムのデータやら、機材の情報とかは吸い出せたのか?」

「バッチリッスよ先輩。でもなんか、ゲームのデータも一緒にあったんスよね…なんでッスかね?」

「別にどうでもいいだろそんなこと。…なんてゲームだ?」

「えぇと、確か――

 

 

                ――<<Chrono Drive Online>>ッス」

 

 

1Chapter//Changed System・完

 

 

 




ラジオ≪C・D・O≫!

リュ「はい、始まりました。今回出番が一切無かったので、ラジオでの登場です。いつものように司会はワタクシことリュート(影斗)と」
シラ「天才サモナーシラナギでお送りするです」
リュ「それでは早速お題に行きましょう」

この後の展開はどうなるの?

「「えぇ…」」
リュ「これ言っちゃうの?」
シラ「もはや、ていのいい予告ですね」
リュ「えと、次は夏休みのお話になる予定です」
シラ「私、またしばらく出番無いです」
リュ「後、新キャラも多数登場予定」
シラ「新キャラ?…また私の出番が」
リュ「そして、いつになったら俺は主人公最強のタグにふさわしくなれるのか」
シラ「それは置いといて…最後に、ここで使われるお題を募集しているです。文才の無い憐れな作者に何か恵んでやって欲しいです」

「「それではまた次回(です)!」」


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2Chapter//VR Research Club
1.ある暑い夏の日


 

 

 

夏、陽光が焼けるように熱く、実際に焼けたアスファルトが陽炎を発生させている中を三人の学生が歩いていた。

俺こと琴美(ことみ) 影斗(えいと)、友達の安達(あだち) 友輔(ゆうすけ)、幼馴染の風音(かざね) 愛理(えり)の三人である。

俺たちは夏休みまでにどの部にも所属しなかった為に、夏休みにもかかわらず担任に呼び出されていた。

 

「暑い…何故、夏というものはここまで暑いのか?」

 

友輔が心底絶望した様な声で言う。

 

「確か、夏になると地球の傾きの関係で他の季節よりも太陽との位置関係が垂直に近くなるからだったはず…」

 

それに答える俺。

 

「どうでもいいよ…。早くクーラーで涼みたい」

 

それに対して冷たいツッコミを入れる愛理。

そのツッコミが周囲の気温を下げてくれるのならどれだけいいか…

 

ただ、言ってることは全くもってその通りだと思う。

あまりの暑さに会話が続かず、さっさと学校を目指した。

 

 

 

 

 

「はい、コレ持って生徒会室行って来なさい」

 

職員室に入ってすぐに担任にそんなことを言われた。

(クーラーがよく効いている)

渡されたのは『入部届け』と書かれた紙だ。

(クーラー気持ちいい)

意地でも部活に入れということらしい。

(もう少しここに居たいけど、)

何を言っても聞いてもらえそうに無いのでさっさと職員室を出た。

(クーラーを独占している教職員に殺意を覚えた)

 

 

「生徒会室ねぇ。そういえば、俺自分の通ってる学校なのに生徒会の人とか誰も知らないな…」

 

人がいない静かな廊下を移動しながら呟く。

 

「「え!?」」

 

すると、二人に驚かれた。なぜ?

 

「い、いや。この学園の生徒会って言えばかなり有名だからな。知らないとは思わなかった」

「へぇー、そうなんだ。初めて知った。でも、何でそんなに有名なんだ?」

「ほら、この学園は小学校から、大学までの一貫校だろ。しかもOBは意外と、大きく社会に貢献している人が多い有名校だ。そんな所の生徒会が有名じゃない訳ないだろう」

「そんなもんか?」

「そんなもんだ。それにだ…」

 

友輔はそこで言い難そうに話を一旦止め、ちらりと愛理を見て耳打ちしてきた。

 

「現生徒会長はこの学園の理事長の娘で、才色兼備、んで―――『巨乳』だ」

 

友輔は少しニヤけていたが、俺は気付いてしまった。

 

「それって、今日は居たりしないよな?」

 

セリフだけ聞くと思春期の高校生らしい会話だと思う。

顔色が青や白でなければ、だが。

どうやら、友輔も気付いたらしい。

 

「…いないよな?頼むよ、頼むからいないと言ってくれ!!」

「クソッ!!世界は何処まで俺たちに厳しいんだ!?」

 

そんな中、2人が絶望している元凶はと言えば、

 

「どうしたのさ?速く行こうよ」

 

と、元気におっしゃっている。

 

理不尽だ。と、俺達は思った。

思ったが、それを面と向かって言えるわけも無く…

黙って、愛理の後に付いていった。

 

 

 

「ここか…」

 

目の前にあるのは生徒会室の扉だというのに、今の俺には地獄の門に見えそうだ。

なんというか、あれだ。

初めて入る迷宮で何かあるのは分かっているのに何が起こるか分からない様な焦燥感とも不安ともつかないあの感覚…

ゲーム脳になってるな、ゲームやらない人には分かりにくいかもしれないが俺にはこれが限界なんだ。

分かってはいたけど、我ながら凄いコミュ障だ…

 

「さぁ、行こうじゃないか2人とも」

 

そんな現実逃避も虚しく、愛理に引っ張られ俺達は生徒会室に足を踏み入れた。

 

「失礼しまーす!」

 

生徒会室の内装は意外と厳かで、奥に1人だけ座っている人影のせいか、まるで王城の謁見のm…もうやめよう。

自分がどれだけゲーム脳か暴露しているみたいで心が痛い。

 

「ム?あぁ、入部しなかった子達だね?初めまして、生徒会長の天戯(あまぎ) 菜月(なつき)だ。わざわざ生徒会室まできてもらって悪いね」

 

天戯 菜月と名乗った先輩は、友輔からの前情報で予想していたよりも大人っぽい、美少女というよりは美女という方がしっくりくる人物だった。

髪はベルベットのような艶やかな黒、背が高く胸も大きい…

 

「――牛乳(うしちち)はモゲればいい」

 

何も聞こえなかった…

それでいいじゃないか?な?

 

愛理から発生している黒い何かで胃に穴が開きそうだ…

さっさと終わらせて帰りたい。

 

「それで?どんな部がいいんだね?何もなければ入ってほしい部があるのだが」

「入ってほしい部って、どういう部なんですか?」

「ム?聞いてくれるのかね」

 

興味を持ってくれて嬉しいのか先輩は少し口角を上げた。

 

「私の妹のような子が、作りたいと言っていた部なのだがね?何分人数が集まらなかったらしく、私のところに打診に来ていたのだよ」

「あの、どういう部かを聞いたんですが」

「ン、すまないね。どういう部か?だったね。簡単に言えば――そう、VR研究部だよ」

 



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2.地雷職のち、死にスキルときどきカフェ

 

「VR研究部…ですか」

「正確にはまだ部ではないんだがね」

 

VR研究部か、俺は入っても良いんだけどな…

2人はどうするんだろう?

 

「どうだろう入ってもらえないだろうか?」

 

う、上目遣いだとっ!?

いや、二人と相談をしてからだ。

 

「すいません、2人に相d「はい!むしろこちらからお願いしますです!!」…ん、を」

 

友輔お前というやつは…

なら、愛理に相談を

 

「…うは死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね巨乳は死ね雄介も死ね巨乳は死ね巨ny…」

 

何これ怖い

 

「それで、入ってくれるのかね?」

 

この後、結局というか何というか気が付くと三人ともVR研究部に入ることになっていた。

活動は明日からということらしい。

 

 

その日の午後 王都・ユグドラシル

 

「さて、今日はどうしようかな」

 

俺は、職人街をぼやきながら歩いていた。

なにしろ今日はあの三人がいない。

 

まあ要するにソロである。

じゃあ、誰かに頼めよとか言う人もいるかもしれないが、残念ながらそれは無理だ。

別にコミュ障だからとかそんなんじゃない。

椅子にでも座って回想しよう。

実は、リニューアルから数日後あるスレッドが立った。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

これはヒドイ!な地雷まとめスレ

 

1名前:名も無き地雷発見器 投稿日:XX/05/22 18:27:00 ID:********

 

このスレは、<<CDO>>の地雷職または、スキルの専用スレです

 

2名前:名も無き地雷発見器 投稿日:XX/05/22 18:30:34 ID:********

 

死にスキルでも良いなら

 

◆泳ぎ 現状泳ぐ場所が発見されず、どう頑張っても無理

    広場の噴水ですら不可でした

◆薬師 薬は作ることは可能

    しかし、容器が作れない

◆罠師 現地でしか作成できない

    作成に時間がかかりすぎ、作成中に襲われて死ぬ

◆クロノドライブ こればっかりは、今まで発動させた人を見たことが無い

 

確認したのはこのぐらい

 

3名前:名も無き地雷発見器 投稿日:XX/05/22 18:31:57 ID:********

 

噴水ェ…

よくそんな恥ずかしいこと出来るな

すごいよお前…

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

など、こんな感じで進んでいくのだが…

問題はこの後だ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

23名前:名も無き地雷発見器 投稿日:XX/05/22 19:02;45 ID:********

 

意外と地雷も死にスキルも多いんだな

駄菓子菓子、エンチャンターより地雷な存在が無いことを俺は断言しよう

 

あれは本当に使い物にならない

支援魔法はエンハンサーの方が効果が高いくせにMPの消費が五倍ぐらいある

唯一使えるのがバインドくらい

攻撃魔法など無いので相手を動けなくして撲殺するぐらいしか出来ない

 

あんな不遇職なかなか無いと思う

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

これが乗ってからあの三人以外誰も相手にしてくれなくなった。

確かに間違ってないけど!!

その内真価を発揮するかもしれないじゃないか!

これだから最近の若者は短気だとか言われるんだ。

 

…もうやめよう。

虚しくなってきた。

 

昨日行った狩りで手に入れた素材でも売るか。

そう思って立ち上がったときのことだ。

 

ギルドハウスの前に人だかりが出来ているのを発見した。

何かあったんだろうか?

ちょっと聞いてみようかな…NPCにでも。

 

「あ、あの…、何かあったんですか?」

「ん?あぁ、なんか地雷スキルを付けてたのをクランメンバーに申告してなかったのがばれてクランを追い出されたらしい」

 

なるほどね。

最近よく見かけるなそういうの。

まともに使えないスキルなんて開発陣が作らないのはリニューアル前からよく知っているから、その内ちゃんと使えるようになると思うんだけどな。

それか他のスキルと一緒に使うものだったりとか。

 

それにしても、このゲームのNPCは相変わらず凄い。

リニューアル前からこんな感じで、まるで生きてるみたいだ。

そういえば昔、実はNPCじゃ無くて運営の人が演じているんじゃないか?なんていう説があったけど、運営に聞いてみたらあくまでもNPCだと公式にまでアップされたっけ。

 

っと、それよりも追い出されたって言うのはあそこで倒れてる種族が悪魔の子と、天使の子でいいのかな。まだ小学生位じゃないか?ま、アバターだから外のことは分からないけど。

追い出されるような地雷スキルって、何取ったんだろ?

 

「君等、大丈夫?」

「ふ、ふん、何よ!笑いたければ笑えば良いでしょ!」

「あ、あい…だ、大じょ、大丈夫…でず。えぅ…」

 

1人は元気だけど、もう1人は顔が涙や鼻水でグジュグジュになってるな。

本当に大丈夫か?

 

「取り敢えず立てる?場所が場所だから他の人の邪魔になるからさ」

「な!?誰が邪魔ですって!?」

 

な、何で俺が怒られてるんだ?

というか、何で女性ってこんなに怖いんだ…

 

「メイ…」

「うぅ、わかったわよ。私が悪かったわよ」

 

うおぅ、悪魔の子が収めてくれた…

天使のこの方はメイっていうのか。

何というか、天使が悪魔に説教されてるのって変な感じだな。

しかも、この2人双子なのか顔が良く似てるから余計にそう思うのかもしれない。

 

「まあまあ、取り敢えず場所を移そうか」

 

 

 

王都路地裏・個人店舗CAFE黒豆

 

「さ、座ってよ」

 

窓際の席に座り、出来るだけ緊張させないように笑顔を心がける。

 

「は、はい。失礼します」

「それで?私達に何か様なわけ?」

 

本当にこの2人、瓜二つの容姿してるのに性格が真反対だな。

 

「いや、君等が地雷スキルを取ったって聞いてね。それで…」

「なによ!馬鹿にしに来たの!?」

「メイ…」

「だっ、だって…!」

「このゲームを始めるときにそういうこともあるって分かってたじゃないか」

「でも、コイツは…!」

 

いや、あのね?2人で盛り上がってるとこ悪いんだけどね?馬鹿にしに来たとかじゃないんだよね。

むしろ、地雷スキルのよしみで解決策でも考えようと思ってたんだけど。

 

「あのさ」

「「なんですか(なによ)」」

「何か勘違いしてない?」

「「え?」」

「俺は地雷スキルの解決策一緒に考えようと思って君等に声掛けたんだよ?」

「「…え?」」

「なのに、馬鹿にするだのなんだの…俺が何をしましたよ」

 

おぅおぅ、ポカンとしてるポカンとしてる。

口がパクパクしだしたよ。

 

「あ、…ご、ごめんなさい!その、僕達あなたが僕達を馬鹿にしに来たと思ってました。本当にごめんなさい!」

「ミコト!こんなヤツの言う事を信じるっていうの!?」

 

それは確かに、信じられないだろうな。

俺もそう思う。

 

「メイ、このお兄さんは嘘をついていないよ。それに何よりお兄さんが嘘をつく意味が無いよ」

「そ、それは…ッ!ご、ごめん、なさい…」

 

うぅ、俺は悪くないはずなんだけど、なんとなく居た堪れない…

 

「ま、まぁ、何か頼もうか?何でも好きなものを言ってくれ。不快な気分にしてしまったお詫びに奢るよ」

「そ、そんな!?悪いでs「ほんとに!?何でもいいの!?」…メェイィィ?」

「あぅ」

「まあまあ、本当に何でもいいよ。こっちのお金は生活するだけなら5回くらい人生をやり直して豪遊し続けてもなくならない位あるから」

「「なにそれ!?」」

「クククッ…そんなわけだから、好きなものを頼んでくれ。すいません!オーダーいいですか」

 

その辺を歩いているNPCにオーダーを取ってもらう。

この店のNPCはフォクスラインという種族で、狐耳のしっかりしたお姉さんだ。

この人が入れるコーヒーが最近のお気に入りの1つだ。

 

「はい、ご注文はお決まりですか?」

「ウインナーコーヒー1つ」

「えぇと、私DXエターナルパフェとDXメロンフロート」

「もぅ、メイってば。すいません、僕はコーラを」

「オーダーの確認をさせて頂きます。ウインナーコーヒーが御1つ、DXエターナルパフェが御1つ、DXメロンフロートが御1つ、コーラが御1つ。以上でよろしいですか?」

「はい、お願いします」

 

そう言うと、NPCとは思えない程の営業スマイルを浮かべてカウンターへと向かう。

さて、そろそろ切り出すかな?

 

「それで?2人はいったいどんなスキルを取ったんだ?」

「「シンクロニシティ」」

 

…マジでアレを取ったのか。

スキル大好きっ子の俺が、余りの発動条件の悪さに今回のリニューアルで唯一断念したスキル。

 

「それって、発動したことあるのか?」

 

気になって聞いてみたが、二人して罰の悪そうな顔をしたので成功したことが無いんだろう。

 

「まぁ、あれは、効果はかなりいいからな。発動さえすればかなりの戦力だろうさ」

「はい、僕達もあそこまで発動条件が難しいと思わなかったので取ってしまったのですが…」

「まったく使えなかったのよ。アレ」

「やっぱり無理だよな…同じスキルを持った二人で10秒間も75%以上同じ動きとか」

 

何と言うか、これだけはな。

1人で使えないスキルは、俺じゃアドバイスの仕様も無いし、どうするか…



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3.DXエターナルパフェ 税込み¥38,000

 

 

アレから色々話し合った結果、後日また話し合いという事になった。

そのときまでにお互い解決策を探すという事に…

ついでにフレの登録も済ませた。

 

「すみません。お待たせいたしました。ご注文のウィンナーコーヒー、コーラ、DXメロンフロートです」

 

そして話が終わってすぐ、狙ったかの様に注文した品が届いた。

NPCのウェイトレスさん、確か、名前はカホさんだったっけ。

前に来たときに聞いた気がする。

あれ、そういえばもう1つ頼んでいたような…

 

「そしてこれが、…DXエターナルパフェです!」ドンッ!!

 

そう言って、ドンッ!!と、DXエターナルパフェを取り出すカホさん。

今、擬音じゃなくて、本当にドンッ!!って音がしたんだが…

いったい何キロあるんだ、アレは?

実は鈍器じゃないのか?

 

「フフフ…、これが我がカフェ自慢の一品。DXエターナルパフェだ!!」

 

突然の声に振り返ると、ウェイター用の服に身を包んだチビッ子がいた。

 

「あ。店長、お帰りなさい」

「て、店長言うなし!俺はマスターだって言ってんだろ!!」

「はいはい、店長店長(マスターマスター)」

「ヌッグゥ…こっち特有のツッコミ難いボケをかましやがって!」

 

え?アレが店長?黒髪のチビッ子じゃないか…

黒?チビ?…あ!

 

「だから店名が黒豆なのか!」

「誰がチビだコラッ!?」

 

何で分かるんだよ…

俺ってそんなに分かりやすいのか…

あ、そうか。言われ慣れてるのか。

可哀想に…

 

「多分お前の思ってる通りだから、その哀れんだ目付きをやめろ…!」

「まあまあ、店長(マスター)?いつものことじゃないですか?それではお客様ごゆっくり…」

 

そう言うとカホさんは子供店長(キッズマスター)の襟を掴み上げ店の奥へ持って行った。

 

「ちょ、ちょっと待て!俺はまだあのパフェのすばらしさを語ってないんだ!語らせろ!」

「ダメですぅ。店長(マスター)はまた決算報告書書き忘れてますね?書き終わるまでお店の方に顔出すの禁止です!」

 

子供店長(キッズマスター)は連行されてしまった…

残されたのは俺と双子の3人、そして、これで殴れば確実に人が殺せるであろう鈍器並みの重量を誇るDXエターナルパフェだけであった。

 

「さて、メイ…でいいよな?これ、食いきれるのか?」

「…仲良く三人で、じゃダメ?」

「すいません、リュートさん…こんな妹で…」

 

取り合えず、食うか…

 

5分後

 

「お。結構いけるな!これ!」

「ふふん!私の目に狂いは無いわ!」

「えへへ。おいしいですね?」

 

10分後

 

「まだまだ、いけるな」

「そうね。これだけ美味しいとね!」

「僕も結構小食なんですけど、これなら食べれますね」

 

30分後

 

「…さっきから、減って無くないか?」

「き、気のせいよ。あんたの食べるペースが下がったんじゃないの?」

「ちょっとしんどくなってきたよ…」

 

1時間後

 

…もう絶対アレだけは頼まないと決めた。

ゲームの中なのに、気を抜くと吐きそうになるぐらい胸焼けがする…ウゥ…

途中、パフェのHPバーを確認したところ、もの凄い速さでバーが増えていた…

しかも、食べ進めれば食べ進むだけスピードが増していった。

もう最後は意地だった…しばらく運動に出ていたミコトが帰ってくるのがもう少し遅かったら危なかったかもしれない。

 

その日は始めたのも遅かったので、そこでお開きになったが、晩御飯を食べる食欲(げんき)はもう残っていなかった…

 

 




パフェって美味しいですよね?
作者は結構好きです。後、クレープとか、ケーキとか。

1話の設定資料的なものや、人物紹介の様なものって需要ありますか?
あれば書くので、知らせてください?


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4.部活動初日の顔合わせ

 

「さて、行くかな…」

 

健康的な朝日がちょっと過剰に降り注ぐ中を行くのはつらいが…

今日から部活だしな、初日から遅れるのは避けたい。

そんなこと思って玄関に出たときだ。

 

「ん?あれ、兄貴今日もどっか行くの?珍しいね…二日続けて外出なんて」

「まあ、部活だからな」

 

妹の光瑠が声をかけてきた。

無難に答えておこうと部活と言ったが、彼女は心底驚いた顔をしている。

 

「天変地異の前触れじゃなきゃいいんだけど…」

 

相変わらずひどい言われようである。

まあ俺としても、逆にここで何も無いようならそれこそ天変地異の前触れだと思う。

 

「それじゃ、行ってきます」

「…行ってらっしゃい」

 

天変地異…起こるかもしれないな。

 

挨拶を返してくれた妹に対して、失礼なことを思う俺であった。

 

 

 

天戯学園 C棟 生徒会室

 

「予定の時間より少し早くついちゃったな」

 

時計を確認しつつ、生徒会室の扉を3回ノックして開ける。

こういうときのノック3回は鉄則だ。

多すぎても少なすぎてもダメなのだ。

 

「失礼します」

「ん?君か。今日は随分早いんだね」

 

生徒会長はもっとはやいんですね。

2人はまだか…

 

「じゃあ、2人を待ちまs「失礼しまあぁぁあぁぁぁぁす!」…コイツは本当に、もう」

 

野生の友輔が飛び出してきた。

 

たたかう ←

どうぐ

にげる

 

たたかう

どうぐ  ←

にげる

 

たたかう

どうぐ  ←

 お財布

 携帯  ←

 ペン

にげる

 

影斗は携帯を使った。

影斗のメール。

影斗は愛理にメールを送った。

 

「これで大丈夫だろ」

 

数秒もせずに友輔の携帯がなった。

どうやらメールのようだ。

 

「あ、愛理からだ。なんだ?」

 

見た途端に、友輔は血を吐いて沈んだ…

頼んだのは確かに俺だけど、もの凄い罪悪感でいっぱいになってしまった。

今度何かおごろう。

 

「琴美君?彼は大丈夫なのかい?見たところ吐血して倒れたが…」

「大丈夫ですよ。すぐ戻りますから」

「そうかい?なら後は風音君だけなのだが」

「愛理ならそこで写真撮ってますよ?」

 

こんな面白い場面にいない訳が無いと思っていたら、案の定近くまで来ていたらしく、吐血した友輔の写真を撮っていた。

学内のファンなんかに売りつけるらしい。

買うヤツいるのか?吐血写真。

 

「ふふっ…そうかね。では、部室に案内しよう。こっちだ付いてきてもらえるかな」

 

いい加減、友輔も元に戻ったのでさっさと行くことにした。

 

 

 

しばらく歩くと、目に見えて校舎の雰囲気が変わってきた。

どうやらいつの間にかC棟からE棟へ移動していたらしい。

確かE棟は、化学や工学、プログラミングなどの理系学部の施設だったはずだ。

VR研究部とやらは、結構本格的な部らしい。

 

「ここが、君らに使ってもらう予定の部室だ。部長はもう中で待って…いるといいな。あの子の事だから先に1人で機械弄りしているかもしれないけれど、仲良くしてやってくれ」

「は、はあ、どんな子なんですか?」

 

取り合えず、これから自分達の部活の部長になるであろう人物の情報を少しでも聞こうと思い聞いてみた。

すると、会長は言い辛そうに目をそらした。

 

「…この学校に来る優秀な人物はな、みんな何処かおかしいんだ。覚えておくと良い」

「え?」

 

そして、それだけ言うとさっさと扉を開けてしまった。

だが変だ。何かがおかしい…

扉の中には部屋があるはずだろう…

なのに、なのになんで…

 

「なんで、暗がりで光る魔方陣にたたずむゴシック少女が見えるんだ…」

「フ、ようこそ。我が研究所(ラボ)へ」

 

ガッタァーン!!と扉が閉まった。

閉めたのはどうやら会長のようだ。

うつむき扉を閉めたままの状態で停止している。

 

「「「「………。」」」」

「私は帰るから、後はよろしく頼む」

「ちょ、ちょっと!ボク達を置いていく気かい!?」

「だ、大丈夫だよ君たちなら…多分」

「せめて目を逸らさずに言ってくださいよ」

 

さすがに、何の説明も無しにあそこに放って行くのはひどいと思う。

 

「わかった、わかったよ。私もいるよ…」

 

諦めた会長の説明とさっきの状況をかんがみてわかったことはつまり、俺達の部の部長は現役厨二病だったわけだ。

 

まともな知り合いがほしい…割と真剣に。

 

 




ラジオ≪C・D・O≫!

リュ「はい!再び始まってしまいました。ラジオ≪C・D・O≫!MCはワタクシことリュート(影斗)と」
シラ「…」
リュ「あれ?シラナギ?どうかしたの?せっかくの出番なのに、珍しいね?」
シラ「…うるせぇです。主人公にはこの悩みはわからねぇんですよ」
リュ「俺、何か気に触ることでもしましたか?」
シラ「強いて言うなら出番がなくならないことです」
リュ「そればっかりは俺に言われても…」
シラ「こうなったら作者の野郎に直談判です!」

と、言うわけで、キャラクターの人気投票を開催します!
別にどのキャラクターに入れてもいいのでご投票くださいね?
そして、見事1位に輝いたキャラには副賞としてサイドストーリー枠をプレゼントしちゃいます!奮ってご参加ください。
期間は、2章の10話が投稿された日の23時59分までとします。

シラ「フッフッフ…、私の勝ちは決まったようなもんです!主人公なんかは負けて吠え面かけばいいのですよ!」
リュ「なんか、段々風理(愛理)に似てきたなシラナギ…」


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5.人はテンパるとまともな思考ができなくなる生き物である。

「それじゃ、開けるよ?」

 

コクコクと残りのみんなが賛同を示す。

あのままでは誰も入ろうとしないので、部室に入り部長と話をする人物をジャンケンで決めた。

くそぅ、あそこでチョキを出していれば…と後悔が駆け巡る。

まぁ今更何を言っても遅いのだから、しっかりしないとな。

そんなことを思いつつ、扉を開ける。

 

「失礼します…」

 

出来るだけ静かに入室すると、やはり部室の内部は暗く詳細は不明だった。

やっぱり、中に入らないとダメか…

少し憂鬱になりつつも中へと歩を進める。

取り敢えずの目標はこの部屋の電源だ。

このまま進むのは危険すぎる。

しかし、しばらく進むとすすり泣く様な声が聞こえる。

 

「ウゥ…別に、あそこまで…グスッ…拒絶し、なく、ても…」

 

あぁ、うん。

厨二病抜けると普通だね。

電気、点け難いなぁ…

 

「えぇと、この辺かな…イテッ!」

 

壮絶な物音と共にこけて顔を打ち付けた。

 

「!?誰…?誰かいるの…?」

 

やばいな、バレた…

余計に電気が点け難くなっちゃたな…

 

「へ、返事してよう…誰か、いるんだよね…?」

 

本当にどうすれば!

 

「うぇえぇぇぇ…怖いよぅ…電気何処ぉ…」

 

ついに泣き出しちゃったよ…

これ、会長に殺されないよね?

 

取り合えず、立ち上がるろう。

壁に手をつき、起き上がる。

 

パチンッ

 

「…は?」

 

電気がついた…何故だ?

壁についた手の下に何か違和感を感じる。

 

「まさかの自爆、だと…!?」

 

どうする、どうすれば、どうするとき、どうしろと!?

自分でも分かるくらいにテンパッて、支離滅裂な思考になってしまっている。

 

(そ、そうだ!これなら…いける!)

 

こういうときの思考回路がまともな答えを導き出せるわけがないが、それすらも分からないほどに焦っていたんだと思う。

 

「ふ、フゥーハッハッハ!どうだ驚いただろう!」

「…えぅ?」

「…ん?まさか泣いているのか?お前ともあろう者が」

 

そう、このとき考えた作戦とは…

 

「ふ、フッ…そ、そんなわけがないだろう?この我、が、な、泣いているなど」

「そうだろうそうだろう。今回のことは、全てこの俺がお前を試す為にやったことだったのだからな!」

 

自己の厨二病の発症による仲間意識の発生だ。

分かりやすく言えば、自分から厨二病に発症して理解があると示し仲良くなろうというもの。

一言で言えば、諸刃の剣。

 

「なっ!?我を試すだと?貴様、いい度胸だな…我が配下に加えてやってもよいぞ?」

「ふ、貴様にはその程度の度量しかないのか?ならば、俺は帰るが」

「え、や…う、そ、それなら…その、我のソウルメイトにしてやってもよいぞ…?」

「ふむ、魂の友か?ならば、俺と貴様はこれより魂によって繋がれた友だ!」

「そうだな。よろしく頼むぞ」

「「フゥーハッハッハッ!」」

 

その後入ってきたみんなにドン引かれたのは言うまでもない。




感想や一言、直したほうがいい場所などのアドバイス、評価等々お待ちしております。


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6.海イベント?

 

「それで、今日から部活動なんだよな」

 

晴れて魂の友(ソウルメイト)とやらになった俺は部長に声をかける。

 

「うむ。第一回の活動内容はもう決めてある。実はな?我の個人的な興味の産物である『ハッキングウィルス』が面白いものを拾ってきたのだ」

「相変わらずトンでもない物を平然と作ってくれる…」

 

自信満々に無い胸を張る部長と、それに対して呆れたと言う様にうな垂れる会長…

反比例してるな、見事に。

 

「それでな?実は二日後から魂達が共有する異次元で、狂宴が始まるらしい」

 

見事に厨二病を発揮しながら喋る部長。

もしかしなくても、俺が翻訳しないとみんなには伝わらないだろう。

 

「…ゲーム内でイベントがあるみたい」

 

しかし、自分で翻訳しながらも、頭の中でイベント?と疑問符が挙がる。

公式のホームページにもそんなこと書いてなかったと思うんだけど…

 

「え?でも、そんな告知はボク見なかったよ?」

「だよな。俺だけ見てないのかと思っちまったわ」

 

愛理と友輔も知らなかったようだ。

そして俺も知らないとなると、公式には載っていない情報という事になる。

 

「フッ!これはそう!隠されていたのだよ!SC社のデータベースにな!そう、これはおそらく何らかの陰謀が…」

「「「いや、それはない」」」

 

みんなの思いは一つだったようだ。

部が団結してきた証拠だな…

ついでに言うと、SC社と言うのは≪C・D・O≫を運営している会社で、正式名称はサテライトサイバー社だ。

とりあえず、うな垂れている部長をなだめつつ会議?を進めていく。

 

「それで、どういうイベントなんですか?」

「グスッ…う、うん。えっと、海エリアの開放イベントだよ」

「へぇ…海か、今ちょうど夏だからね。運営もたまにはいい仕事するんだね」

 

愛理よ、お前の中の運営像はいったいどうなっているんだ。

何か恨みでもあるのか…

 

「それで、そのイベントには――」

「――もちろん出るぞ!部員総出で事に当たる。確かめたいこともあるからな」

 

どうやら部長も復活したようなので、主な概要と必要そうなアイテムの調達、これからの活動内容をある程度まとめてその日はお開きとなった。

それらを決める中で一番意外だったのは、会長もイベントに参加することになったことだ。

「一応私も部員だからな」とかっこよく言って、参加が決まった。

ここに着いた時さっさと逃げようとした事は、なかったことにしたらしかった。

 

 

 

暑い日差しの中をやっとの思いで帰り、「ただいま」と言ってみるも、返事は返ってこず。

暑さとあいまって遣る瀬無さが心の底から湧いてくる。

フラフラとした足取りで自室に逃げ込み、クーラーを起動させ、やっとふぅ…と息を抜く。

少し休憩してから最早日課になっている≪C・D・O≫のアバターのレベル上げのために<<Attraction-Ω>>を起動させる。

視界が暗転して、気が付くと昨日あの双子を見送ったCAFE黒豆のすぐ前に出た。

 

「こっちも暑いな…」

 

ゲームと言ってもVRなので夏の日差しを再現していてかなり暑い。

夏用の装備に着替えないと正直まともに戦える気がしない。

 

「しゃあないか、着替えよ」

 

いつも着ている初期装備のローブをインベントリにしまい、炎熱耐性の高いローブと着替える。

炎熱耐性を上げると暑さに強くなるため、主に夏の装備として使用する人が多い。

今まで着ていた深緑色のローブはそれなりに気に入っていたが、この水色の水虎のローブもなかなか好きだ。

内側が黄色なのもオシャレっぽくて気に入っている。

 

「今まで着てたのより数段防御力が高いからか、緊張感でないな」

 

気を抜いていたからか、思ったことが口から出てしまった。

とりあえず、このまま店の前でじっとしていると営業の邪魔だと、カホさんに怒られそうなので、溜め息を吐きつつ露店街と呼ばれる町の入り口付近に向けて歩き出す。

 

「どうです?この辺じゃ手に入りにくい白水晶の武器ですよ!」

 

商人プレイヤーが叫んでいるのを聞き、オイオイと思う。

白水晶は確かに武器にするとStr.に補正、つまりは攻撃力を底上げしてくれる効果があり、切れ味、軽さといいとこ尽くしに見えるが、如何せん耐久値が馬鹿みたいに低く簡単に壊れる。

しかしこの武器、武器の詳細を開けば耐久力は普通の武器と同じくらいある。

ではどういうことか?

簡単な話だ。このゲーム、武器の耐久力は表示されるが使った鉱石の耐久値は表示されないのである。

このゲームだと、使うことによって減っていくのが耐久力で、耐久力の減り難さが耐久値。

この武器の耐久力が200でも、耐久値は-150なので切れ味を差し引いても、硬さが一定以上の敵を攻撃すれば一発で砕ける。

初めてこの武器を見る人は効果と耐久力を見て意外と安いとこの武器を買うが、いざ使ってみると数発攻撃を当てるだけで折れるのでお金を溝に捨てたかのような感覚に陥り、この武器を買った商人に食って掛かるが、商人は特に規約違反をしている訳でもないので罰則などは無い。

このゲームに多々ある、初心者キラーの1つである。

こんな始めの方の街で100,000円程で売ったら、知らない初心者は買うだろうから、元々珍しくも無い白水晶は原価が安くぼろい商売だろう。

 

しかしこの武器、消耗品とすれば意外と強い。

硬い敵を攻撃すれば一発で砕けるが、一発限定の高出力アイテムだと見る人も多い。

昔、よくこの系統の武器を使っている知り合いがいた。

あるスキルと組み合わせるとかなり凶悪になると、自慢してたっけ…

ある意味、運営が死にスキルや地雷なんかを作っていない、いい例だ。

 

仕方ない、忠告しといてやるか。

白水晶の武器を売り付けている商人に近付いて気楽に話しかける。

 

「どうも。売れてますか?」

 

すると一瞬呆けた様な顔をした後、普通に答えてくれた。

 

「正直、それほど売れませんね…かなりいいステータスだと思うんですけどねぇ」

 

その台詞に、俺は少し引っかかり詳しく聞いてみることにした。

 

「もしかして、この武器の事知らないで売ってる?」

「え?何のことです?」

 

どうやら知らなかったらしい。

なら転売させられてるのか?

 

「…その武器、誰かから買い取ったんですか?」

「え、そうですよ。親切な鍛冶師の人が、新規の商人プレイヤー限定で経験値ポットと交換してくれるって。売値も100,000円が妥当だとアドバイスもくれましたし」

 

いやー、いい商売させてもらいましたと言わんばかりに嬉しそうにしているのを、

 

「それ、騙されてますよ」

 

と、ばっさり切り捨てる。

すると、自分の恩人の批判と捉えたのか商人が怒り出したが、この武器の詳細を交えて説明していくと、最初は赤い顔だったのがどんどん青くなっていった。

俺は、これを計画した奴は相当な屑だと思う。

何しろ、自分は親切な人として、新規で入ってきた商人プレイヤーを騙し、貴重な経験値ポットを巻き上げ、白水晶の武器を売らせて商人たちの信用を下げた上で姿を眩ます…

商人たちがあいつだと犯人を指差しても既に信用は失墜しており、聞いてくれる人もいない。

なんとも陰湿で卑怯なやり口である。

 

「そ、そんな…ど、どうしよう、もう幾つか売ってしまって…あぁ…」

「お金を返して謝ればいいんじゃ…?」

「はは…それしかない…ですよね…」

 

ぐったりとうな垂れる商人さん。

こうなると被害者にしか見えず可哀想になる。

 

「そうだなぁ、ちょっとした儲け話があるんですが…どうです?乗りませんか?」

 

俺は助けてやろうと言わんばかりに商人に肩入れしてみることにした。

もちろん音声は内緒話モードという、聞かせたい人にだけ聞こえるようにするモードだ。

 

「へ…騙したりしませんよね…?」

「まあ聞いて…簡単な事だよ、今から出来るだけ多くの回復薬を集めるんだ」

「…何かイベントでもあるんですか?私の耳には入ってないんですが…」

「そりゃそうだ。とある情報筋からの情報だからね。公式にも載ってないホットニュースだ」

「へぇ、もしそれが本当なら楽しい商談になりそうですね」

 

俺達はお互いにフッと人の悪そうな笑顔を作り、名前を告げてフレンド登録を済ませた。

商人の名前は商屋(しょうや)と言うらしい。

お互いに自己紹介が一通り終わったので、説明を始める。

 

「まず、このゲームの他のゲームにはあんまり無い特徴から説明しようか。このゲームではゲーム内の一日でNPCが本物の人間の様に生きている。だから、店売りのアイテムは1つのサーバー内での一日の納品量が決まってるんだ。その数、一日100,000個だ。まあ100,000個はこの街だけで、なんだけどな」

「良くそんなこと知ってますね」

「(まあ、20年近く潜ってればある意味当然なんだが…)」

「すいません、何か言いましたか?」

「え!?いや、別に?」

 

そうですか?と訝しげにもう一度聞かれたが、独り言だとだけ返して説明に戻る。

20年と言うのはもちろん体感であるが、さすがに呆れられそうだと思いうやむやにしてしまう方がいい気がしたのではぐらかした。

 

「それでだ。この五千万円で回復アイテムを買えるだけ買うんだ。まだ中級の回復薬が解禁されてないから、これだけあればいけると思うんだけど」

 

話の途中で資金の心配をする必要が無いように、露店の上におもむろに五千万円と表示されたトレード枠を表示して続ける。

すると、商屋の顔が妙な物を見たという風に唖然としだした。

 

「どうかした?」

「リュートさんはコンバート組の人だったんですね」

 

コンバート組?聞きなれない単語だ。

おそらくリニューアル前からの引継ぎのことだよな。

 

「知らないんですか?剣聖を名乗る人が広めてるんですよ。リニューアル前からゲームやってた人たちの総称ですよ。剣聖の方は、どうせまた偽者だと思いますけどね…」

 

コンバート組はその解釈で合ってたのか…

剣聖って誰かの二つ名?それともプレイヤーネーム?またまた知らない単語である。

 

「剣聖?何それ?」

「…それ、本気で言ってます?」

 

何故だろう、凄くドン引かれた…

剣聖なんて厨二な名前の奴だから有名なのだろうか。

 

「この人、リニューアル前から伝説的な強さの一匹狼の様な人で、フレンドが一人も登録されてない最強のソロプレイヤーなんですって。すごいですよねぇ」

「へぇ、そんな奴が居たのか…残念ながら、会ったこと無いな」

「まあそうですよね。フレンドが一人も居ないなんて、中々ある事じゃないですし、人付き合いが苦手だったんじゃないですか?」

「そっか…」

 

一人もフレンドが居なかったなんて、なんというか凄く親近感が湧く話である。

でも変だな、そんな凄い人がいたなら当時の俺が知らない訳が無いはずなんだけど。

 

「そうだ、その人の逸話とか無いか?」

 

フレンドが一人も居なくてもイベントなんかには大概参加していたので、もしかしたら何か分かるかもしれないと、剣聖の逸話を聞いてみる。

商屋も興味を持ってくれたのが嬉しいらしく、いいですよと快く聞かせてくれた。

 

「やっぱり剣聖の逸話と言ったら討伐系クエストじゃないですかね。中でも、レイド級のボスを単独で、しかもスキルやアイテム無しで討伐した話とか有名ですね。私なんて、初めて聞いたときは100%嘘だと思いましたからね」

 

今、何て言った…?レイド級を一人で縛りプレイ?

レイド級と言うのは、1パーティだけでは倒すことが出来ず、複数のパーティで倒すことを推奨されているエネミーのことだ。

俺はそれが信じられず、思わず呟く。

 

「嘘だろ…」

「いえいえ、どうやら本当らしいですよ?すごい人も居たもんですよね、ホントに」

「…この話は終わりにして、話を元に戻そうか?」

 

ひたすら考えた挙句、話を逸らす事にした。

俺的にはこの話は信じられないと言うより信じたくないのだ。

商屋もそういえば儲け話の途中だったことを思い出し、続きを話し合う。

 

「とりあえず、五千万で回復薬を買い占めるんだ。それから――」

 

説明が終わってから、「これも十分に悪徳商法ですよね」とジト目で見られたが、お前も賛成なんだろ?と聞けば賛成したのでお互い様である。

その日は儲け話を二人で確認して、商屋に買占めを任せ、ある程度のレベル上げをしてゲームを切り上げた。

 

 

 

ゲームから戻ってくると、携帯にメールが届いていた。

珍しい事もあるものだとメールを確認する。

メールはどう見ても相手側のアドレスが無く、件名も無題だ。

件名が無題なのはいいとしても、送ってきた相手の情報が1つも無いのはどういうことだろうか?

少し薄ら寒いものを感じて、開けていいものかと悩む。

 

「開けてみるか…」

 

自分の心臓の音が聞こえるような静かな部屋で、決心を逃がさないように一人呟く。

恐怖に少し競り勝ってしまった好奇心が赴くままにメールを開けると、おそらく何かが危険だと言うことを知らせようとしている様な内容の物だった。

おそらくと曖昧な表現なのは、文字化けが酷くほとんどの内容が読み取れなかった為だ。

それでも何とか内容を調べようと、読める文字だけを抽出した結果が、危険を知らせる文面。

ちなみに文字化けしている所を省くと、

 

【   は 危 い。 す  めろ  もない 君 のせいで世   れ   。】

 

こんな感じになる。

普通こんな意味の分からないメールは消すに限るが、そのときは何故か消す気になれず、だからと言ってこのままにして置くのも気持ち悪いので、今度みんなに相談してみることにした。

それにしてもいったい誰がこんなもの――

 

「おーい!兄貴、晩ご飯!!」

「はいはい、今行くから待ってくれ!」

 

メールについて考えるのは後にして、妹に夕飯を作ることにした。

しかし、それっきり、俺はそのメールの事を思い出すこともなかった。

 

 

 




ラジオ≪C・D・O≫!

シラ「(えぇと、もう繋がってるですか?もう回ってるから急げ?)は、はい、またしても始まりやがりました!
ラジオ≪C・D・O≫!司会はこの私、天才サモナーシラナギが勤めます。え?リュートさんですか?よく知りませんが、作者の奴が気を回したんじゃねぇですか。
私、出番まだ先ですし…まあそれは置いといて、突然ですが現在のキャラクター人気投票中間結果を発表するです!現在順位は――」

1位 シラナギ
2位 それ以外…

シラ「ふ、ふふふふふ…ついに時代が私に追いつきやがったですね。それにしても我が軍は圧倒的じゃねぇですか!主人公などやはりまだまだということです。
…ん?何ですか作者。今いいとこ――へ…?私にも一票しか入ってない…?全体を通して人気投票が一票…?」

…………
………

「ちょ、それ、私がまるで痛い子じゃねぇですか!?ピエロじゃねぇですか!?!?…は!?ま、まさかリュートさんが来なかったのはそれが原因ですか!?ふざけんなですよ、あの主人公!!だいたい――」

放送に相応しくないと思われる内容なので放送することができません。
視聴者の皆様には申し訳ございませんが、本日の放送はここで終了させて頂きます。それでは次回の放送をお楽しみに…


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7.海イベント!

 

海の中を悠々と泳ぐ角の生えたアザラシの様なモンスターが俺を殺そうとこっちに突っ込んでくる。

陸の上ならまず間違いなく勝てる相手なのだが、水の中なので魔法も使えず、逃げようにも向こうの方が速く逃げられない。

武器も突く以外の攻撃方法はほとんど機能しているとは言えず、攻略が難航している。

確か、最高浸水度が15mだったはずだ。

正直、泳ぎスキルが無いとまともに戦えない。と言うか、有ってもまともに戦えているとは言い難い。

熟練した泳ぎスキルなら話も変わってくるかもしれないが、泳ぎスキルはここ海エリアでしかまだ使うことができない為に、熟練者はいない。

なら、戦わずにスキルレベルを上げればいいのだが…

 

(ここまだ水深1m強だぞ?なんという無理ゲー…)

 

俺はアザラシの角でゴリゴリHPを削られて、失意のままに陸に引き戻された。

 

「…うぅ、チクショウ何だありゃ。このイベントクリアさせる気無いだろ!?」

 

浜辺に打ち上げられ、まるでドゼウモン(水死体の事)の様に転がりつつも悪態を吐く。

 

「回復アイテムも買い足さなきゃいけないし…はぁ…出費がかさむな」

 

遠いけど、街の方まで回復薬買いに行くか…

転送ポータルはまだ開放されていないので使えずかなりの時間をかけて街まで戻ろうとした時だった。

 

「いらっしゃいませー!回復薬と一緒にドリンクは如何ですかー!」

「コーラにラムネ、メロンソーダもあるぞぉ!」

「はい、かき氷。いちご2にレモン1ですね?まいどありがとぉございます!」

 

露天で回復薬のついでに、冷たいドリンクやかき氷を販売していた。

これに精神的にまいっていた俺が抗えるはずも無く、気付いたときにはもう露天に並んでいた。

露天を開いているのはどうやらプレイヤーの様で、うち2人はヒューマンの男、もう1人はフォクスラインの女性だ。

あぁ、違うな。フォクスラインの女性はどうやらNPCだったらしい、残念だ…

 

「はい、お兄さんは注文は?」

「え、あ、ああ。回復薬20個…と、コーラも」

 

こんなところで無駄な金を使ってると、後で後悔するかもしれないとも思ったが、背に腹は代えられない。

無駄な出費ではあるが、必要な無駄だと割り切ることにした。

出費ついでに、攻略情報がないかとヒューマンの青年商人に聞いてみる。

 

「攻略の方ってどうなってるんだ?まだそんなに変わらないと思うが、教えてもらってもいいか?」

「ええ、いいですよ。今は…おお!もう水深23m付近ですね!さすがはコンバート組です」

「…?何でそんなこと知ってるんだ?」

「へ?そんなことって?」

「いや、最速攻略者がコンバート組って…」

「ああ、それはですね。この海の家は、実はその人がスポンサーなんですよ。おかげで儲けさせて貰ってます」

 

青年商人は実に気持ちのいい笑顔でそう言った。

彼が言うには、悪徳商法に引っ掛かって困っていた時に親切に助けてくれ、他の信用できる商人プレイヤーを紹介してくれたそうだ。

しかもこの露天も彼の案なんだとか。

イベントなんかのときは場所によっては回復薬の転売をすると売れ行きが上がるから、それと併せて海岸で海の家をやって欲しいと頼まれたらしい。

 

「すげーなその人、俺なら見て見ぬふりするわ…」

「ええ、自慢の友人ですよ」

 

その人はどうやってあんな難易度の海を移動してるんだ…?

謎は深まるばかりである。

 

 

 

水中用のランプが照らす明かりを頼りに、海の底へと泳ぐ。

途中、それなりの数のエネミーに襲われたが、それほど苦労しなくても数で押せば倒せる敵だったので余裕を持って進めている。

少しすると、海流が下向きに流れている、ここで言う階段の様な物が見つかった。

 

「もう結構潜ってるんだけど、まだ海底に着かないな」

 

真っ暗な海底を見ながら、段々疲れてきて弱音を吐(・)く(・)。

そう、海の中なのに喋っている。

何故か?見つけた潜水服を使っているだけだ。

実は、この海エリアには海の浅瀬に隠しダンジョンとして海底洞窟が用意されていた。

そこの一番奥で見つけたのが、この潜水服だ。

一定時間毎にMPを消費すれば空気が無尽蔵に吸える優れものだ。

 

「フッ、だらしがないぞ、リュート卿」

「頑張れ、リュート。パーティリーダーだろぉ?」

 

≪ユーリス・アルベルク≫こと、部長の四月朔日(わたぬき) 千代(ちよ)とユースケがからかう様に励ましてくれる。

と言うより、励ます様にからかって来ている様な気がしないでもない。

 

「それにしてもこのゲームはすごいよね。海の中に海流でダンジョン作るなんてさ…」

 

スケールがおっきいよねぇ?と、風理。

 

「フム、確かに素晴らしい技術力だ…文句の付け様が無い」

 

感心した風にうんうんと相槌を打っているのは我等が生徒会長、天戯(あまぎ) 菜月(なつき)さんだ。

なんと天戯会長はVR機器を持っていなかったらしく、VR部の活動の為だけにソフトとハードを買ったらしい。

プレイヤーネームは≪ツッキー♪≫で、種族はフォーリン。所謂、堕天使と言われる奴で会長の黒い髪も相まってかなり美しいアバターだと思う。

職業はナイトで、ユースケの負担がついに減ることとなった。

ちなみにユーリスの種族はエルフであり、シラナギと違って髪が銀色、目は赤と青のオッドアイという厨二仕様だ。

職業はアルケミスト、特質と言えばその土地特有の属性攻撃が可能なことと、アイテム製作に成功確立上昇が付くことだ。

 

「さて、あんまり長く休んでると雑魚が湧きそうだし、次の層に進もうか?」

「「「「おー!」」」」

 

前の層と同じく、海流に触れる。

さっきまでと同じ様に海流が俺を飲み込み海底へと誘う。

しかし、さっきまでと違うのはあまりにも移動する距離が長いことだ。

さっきまでなら2,3秒で止まったのに未だに引っ張られ続けている。

しばらく流され続けていると、不意に海底が見えてきた。

 

「お、やっと終点か…」

 

どうやら、海流ダンジョンはここで終わりらしい。

ただ――

 

「?あれ、止まらない…?え?ちょっ!?オイ、待てとま――」

 

そして目を瞑ったまま、海底に激突して死んだ。

 

 

 

――はずなんだけど…あれ?激突…してない、な…あれ?

気が付けば古い神殿の様な場所にいた。

ハッ!として後ろを振り向けば壁しかない。

 

「あ、あぁ…ワープ床、だったとか?」

 

なんて恐ろしいイベントを作ってくれやがるんだ運営め…と、心の中で呪っておく。

ここ半年で一番怖かったし、肝が冷えた気がする。

あ、そうだ、残りの4人もくるんだから退いておかないと。

そう思って通路の脇に退く。が、どれだけ待っても誰も来なかった。

ついでに、潜水服はいつの間にか消えていた。

帰りどうしたらいいんだろ…

 

「…パーティ分裂トラップ、かな」

 

まったく、手の込んだトラップだなぁ。

一周回って感心するよ俺。

溜息を吐きつつ奥に進もうと歩き出したときだった。

 

「あ、あはは…びっくりしました…」

 

後ろから人の声が聞こえ、距離を取りながら振り返る。

どうやら女性プレイヤーらしい、暗がりで顔はよく見えないが、装備から見るにおそらく前衛職、それもナイトだろうな。

ナイトは物理・魔法共に硬い防御とウォーリアよりは低いがそれでも高い攻撃が持ち味だ。

 

「誰だ」

「…貴方こそ誰です。見た所後衛職みたいですけれど、邪魔するなら斬りますよ」

 

声をかけた途端、その場で剣を抜いて構え、威嚇してきた。

お、おいおい…名前聞いただけなんだけど。

なんか…物騒じゃないか?と、戦々恐々とするも、何とか顔に出さないように表面上を取り繕った。

 

「…ゴメン、敵対の意思はないんだ。パーティメンバーとはぐれて少しピリピリしていたみたい」

 

言葉だけでは弱いかと、両手を上げて敵対の意思がないことを示す。

すると、渋々ではあったがこちらに向けていた剣を退けてくれた。

 

「そうですか。ですが、怪しい動きをしたら斬りますので」

「わかった。取り合えず状況把握からいこう」

「そうですね。パーティメンバーとはぐれた…でしたか?」

「ああ、どうやらここに来る時にランダムに飛ばされるワープ床が仕掛けてあったみたいで、俺はメンバーとはぐれたんだ。ここにいるんだ、君もだろ?」

「ええ。しかし、なるほど。だからみんながまだ来ていないのですか…」

 

メンバーとはぐれた、か。

自分で結論付けておいてなんだが、そう考えるとみんなが心配になってきた。

特に、ユーリス…あの子、戦闘になるとてんで駄目だからな。

 

「そうだな、両方のメンバーが見つかるまで共闘をお願いしても?」

 

そう聞くと、しばらく考え込んでいた様だったが、了承してくれた。

暗がりから出てきた彼女は、太陽を彷彿とさせる赤と黄色が入り交ざったかの様な色合いの長髪と瞳を持った美少女だった。

身長は160cm位で、利発そうな顔をしている。…何故だろうか、何処かで会った気がする。

こんな綺麗な子、見たら忘れないと思うんだけど…

 

「そうか、ありがとう。俺はリュートだ。よろしく」

「ミィよ。少しの間だけどよろしく」

 

軽く自己紹介を終えると俺が先頭でダンジョンの奥へ歩き出した。

普通は前衛職のナイトが先頭だと思うのだが、信用していない相手に背は向けられないらしい。

壁に1m程おきに設置されている燭台(しょくだい)の明かりを頼りに周囲を警戒しながら進む。

足元には所々に全身骨格の白骨が横たわっていて、正直かなり怖かったが幽霊(ゴースト)や屍鬼(グール)が出ても倒せることに気付くとそれ程でもなくなった。

しばらく進むと不意に前方でピチャリと何かが水を踏んだ様な音が聞こえた。

それだけでは何か判らないが、前方に何かがいることだけは分かった。

 

「ミィさん、この先に何かがいます。何かは判りませんけど」

「ひぇ!?そ、そ、そうですね…」

 

なんという、挙動不審…

喋り掛けただけでビクッとし、目が泳いで、どもりまくっている。

よく見れば顔色も悪い様な気がする。

 

「えぇと…どうかしたんですか?」

「どうにも、その…ホラー系が苦手でして。お恥ずかしい」

「あぁ、そう…ですか。じゃあ俺が見てきますね」

 

そう言って見に行こうとすると、

 

「ま、待ってください。私もいきます!…というより、置いて行かれる方が怖いですから」

 

今にも泣き出しそうな必死の形相で懇願されたため、二人して足音の主を警戒しつつゆっくりと進んでいく。

これがはぐれたパーティメンバーなら言うことはないんだが、アクティブなエネミーの場合、不意打ちを受ける可能性がある。

下手をすればクリティカルを貰って一発で死ぬことも考えると、あまり気を抜いてもいられない。

それに俺はレベルもそんなに高くないし、防御の面では薄っぺらい紙と同程度の防御力しかない。

いや、水虎のローブに着替えたから防御は多少はマシになったんだっけか。

一撃で死ぬのが、二発で死ぬ様になっただけかもしれないけど…

 

少し歩けば、ゆっくりとだが足音の主が見えてきた。

形は人間の様だけど、この吐き気を催しそうな悪臭は――

 

「…ゾンビか」

「あ、ははは、は、聞こえません聞こえません!聞こえませんし、見えもしません!!」

 

リアルすぎて気味が悪いゾンビ、未だこっちには気が付いていない様だが…

 

「も、もう無理…助けて、お兄ちゃん」

 

ミィと名乗った少女はガタガタと震えている。

そういえば、光瑠の奴もお化け怖がってたんだよな…

そのとき、俺にはこの子が光瑠と重なって見えた。

お兄ちゃん…ね。羨ましいよ、こんな妹持てるなんてさ。

 

「大丈夫。今回だけ、俺が君の…ミィの兄を代理するよ」

「え…ど、ういう…」

「まあ任せて、そこで待ってて?」

 

と言っても、あんなの素手で相手したくないしな…武器、使うか…

ステータスを開けて無手格闘と交渉術のスキルを外し、長剣と隠蔽をセットする。

武器ももちろん長剣に切り替えた。

 

 

<<リュート>>

エンチャンターLv.17

Str.攻撃力  11(-1)

Int.魔力   35(+4)

End.物理耐性  8(-1)

Mce.魔力耐性  8

Vit.生命力  12

Agi.俊敏性  42

Dex.器用さ  42(+4)

Luc.幸運   10

 

所持スキル

-Skill Slot-

・長剣Lv.200

・泳ぎLv.30

・魔道書Lv.200

・幸運Lv.10

・隠蔽Lv.200

・クロノドライブLv.1

 

 

「さて、リメイクしてから初めて使うな。いくら一番得意(・・・・)な(・)武器(・・)だからって練習無しだときついかな?」

 

取り出した長剣を軽く振って感覚を確かめながら呟く。

手に持った感じはいつも通りと言った所だろうか、悪くはない。

ただちょっと重いかな…

 

「ランク2はやっぱりまだ重いか」

 

ランク2からは武器にレベル制限がかかり、レベルが足りない場合は妙に重く感じたり、攻撃が当たっているはずなのにMISSと表示されたりする。

ぼやきつつも武器を手にして隠蔽を自分にかけ、ゆっくりとゾンビの後ろに回り込んで踏み込む。

 

「っ…!!」

 

踏み込みながらに剣で首を凪ぐ。

しかし、相手はテクスチャを貼り付けただけのデータなので首は落ちず、まだ普通に動く。

そのまま通り過ぎ、振り向き様に切り上げ、重さを乗せて切り下ろす。

振り下ろした直後に一瞬の硬直が生まれるも、できるだけ早く後ろに下がると、それから数瞬遅れて、目の前を腐った腕が横切る。

 

「ちぇ…今ので死んでくれればよかったんだけどな。でもまあ、試し切りにはちょうどいいか」

 

切った感触もあるし、遅いけど反撃もしてくる。

これが格好の試し切り対象じゃなくてなんだって言うんだ。

 

ゆっくりとゾンビの攻撃範囲に入って腕を振ってくるのを待つ。

狙い通りに右腕を振ってくるのに対し、剣を水平にして腕を上に逸らす、所謂パリィを行い。

ゾンビが攻撃を逸らされて硬直している所に腹を裂く様に剣を振るった。

さらに返す刃で足を切り、回り込むように左に移動して首を切る。

するとさすがに耐え切れなかったのか、ポリゴンを撒き散らしてゾンビは消えた。

 

「もう少し攻撃する必要があるかと思ったんだけど、難易度的には海流ダンジョンの方が高いのか?まあ、分断された状態で大群で来たら後衛職じゃ対処できないから仕方ないか…」

 

剣を腰の鞘に戻して、ミィを置いて来た所まで戻る。

 

「終わったよ…?」

「は、はい…その…すいませんでした」

 

何故か謝られてしまった。

 

「いや、なんで謝られるのさ?」

「私、前衛職なのに…何もできませんでしたから」

「…何言ってるのさ、俺は今、君の兄の代役なんだよ?妹が困ってるんだったら当然だろ?」

「え…はい。私の本当の兄もリュートさん位の事言ってくれたらいいんですけどね」

 

と、はにかむ様に笑ってくれた。

さっきからずっとしかめっ面だったからか、その笑顔はすごく印象的だった。

思わず見つめてしまう位に…

 

「あの、どうかしたのですか?」

「え!?あ、いや、さ、さあ、先を急ごうか?」

「そうですね」

 

ミィはそう言うと、先に歩き出す。

 

「あれ?怖かったんじゃ…」

 

すると彼女は少し顔を赤くして言った。

 

「そ、それは、まあ、怖いですけど…お兄ちゃんが、守ってくれるんですよね?」

 

正直、自分の妹と取り替えたくなったのは余談である。

 

 




ラジオ≪C・D・O≫!

リュ「はい、始まりました。ラジオ≪C・D・O≫!司会はわたk――「ドロップキーック!!!!」おっと、危ない」ヒョイ
シラ「え!?よ、避けっ!?――ふぎゃ!?」
リュ「ふぅ…まさかシラナギが飛んで来るとは思わなかった。気を取り直して司会は私リュートと、シラナギでお送りします」

シラ「酷い目にあったです…」
リュ「今のは、自業自得だと思うよ?」
シラ「リュートさんのせいですよ!?リュートさんが前回来なかったせいで、私は酷い目にあったんですよ!!」
リュ「え、えぇぇ…」

シラ「きっと私の出番がまだ来ないのも、リュートさんのせいなんです!」
リュ「酷い、言掛かりだ…」

シラ「この作品が駄目なのも全部リュートさんのせいです!」
リュ「いや、それは作者のせいじゃ…」

シラ「地球温暖化が止まらないのも全部全部、リュートさんのせいです!!」
リュ「いったい俺は何者に成ってしまったんだよ!?」

シラ「それにしても、また新キャラですか…私の出番ドンドン遠のいて行っている気がするのですが、気のせいですよね…?」

…そ、そんな事ないです、よ?あ、あはは…

シラ「ま、いいです。八つ当たりはリュートさんにいっぱいしたですから。
それに、人気投票は未だに他の投票はねぇですし、このコーナーでやって欲しい事や聞きたい事も募集してるですが、今まで一度も来た事ないですから、このまま放って置けば自動的に私が一番になるのです!フッフッフ…リュートさんの悔しがる姿が目に浮かぶです」
リュ「なんだかシラナギがトリップした様なので今回はここまで、それではまた次回」


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8.海イベント!!

「…!そらァ!!」

 

盾を構えゾンビを押し飛ばして、怯んだ所を身の丈ほどある大剣で斬り、また直ぐ盾を構える。

はぁ…これで何体目だったっけか?

ここ1時間ほどこの手のアンデット系のモンスターばかりが出てくる。

しかもこのどうにも贋物に見えないVR製のアンデットだ…あまり気分のいいものじゃない。

現に、段々と嫌気が差してきているし、精神的な疲労も蓄積されてきている。

はぐれたメンバーの安否がかなり気になってはいるが、今考えたってどうにもならない事は明白だ。

 

「あ、あ、あの…ユ、ユースケさん、ぶ、無事…ですよね?」

「ああ、平気だよ。はぐれた奴らが心配で、な?」

 

このオドオドした子は≪堂島(どうじま) 杏子(きょうこ)≫ちゃん。

ビックリすることにプレイヤーネームに本名を登録してしまったそうで、フレンド登録してちょっとビックリした。

ネットゲームは初めて…と言うか、ゲームをするのが初めてなんだと。

髪は緑のボブカットで瞳の色は薄い紫、縁の赤い眼鏡を掛けていて、プロポーションも高評価。

特に胸は天戯生徒会長には届かないが、確実にDはある!間違いない!!

 

「そ、そうですよね…ミィちゃん平気かな…」

 

実はこの子も俺と同様にメンバーとはぐれてしまったらしく、ダンジョンを当ても無く彷徨っていた所、偶然出くわしたので現在二人でメンバーを捜索中だ。

正直、俺はこのイベント企画したやつにお礼を言いたい。

こんな美人と二人っきりとかもう、テンションがヤバイ!

ついでに言えばこれだけで精神的な疲労感は、ほぼ完全に消え去ってるし、このまま二人っきりになったらとか妄想出来そうな位、余裕が出てきている。

 

「さ、行こっか?心配しなくても、次々に見つけてみせるって」

 

メンバーの1人であろう名前を呟いて、心配そうにしている杏子ちゃんを元気付けようとちょっと自信満々にかっこ付けて言う。

 

「う、うん…」

 

すると、彼女が頻りにこっちを気にしている事に気が付いた。

 

「ん?どした?顔が赤いけど…無理すんなよ?」

「へひゅ!?だ、大丈夫ですよ!?ななな、何でも、何でもないですから…!」

 

気になるので少しカマをかけてみると、慌てて顔を俯かせてしまった。

…????これってあれか…?ついに、俺にも春が来たって事なのか!?

女友達に付き合ってくださいと言い続け、「ごめんなさい、あなたとは友達でいたいの」と言われる事幾星霜……ついに…ついに来たのかッッッ!?

いや、いや待て、待つんだ俺。今まで強いては事を仕損じて来た…奥手を、奥手を装うんだ。

この子にアタックするチャンスを窺うんだ!

 

まあ取り敢えず、リュートを見つけるのは最後でいいよな?

そんなことを考えながら角を曲がったときだった。

少し離れたところにある大きな扉の前に、俺以外の全メンバーが揃っていた。

 

その時、俺は思った。

このイベント企画したやつは、絶対空気読めねぇんだろうな、と。

 

 

 

 

「よかった…これで全員揃ったね」

 

揃ったメンバーの顔を見て心底安心する。

 

「ミィ、そっちはどう?全員集まった?」

「いえその…まだ1人合流出来て無いです」

 

こっちのメンバーは無事合流できたが、ミィの方はまだ1人足りないらしい。

申し訳なさそうに言われるとまるで俺が悪いことをした様な気になってくるから不思議だ。

しかも仲間内と向こうのメンバーから向けられる視線が痛い…

 

「あと1人はどんな人なんですか?」

 

視線から逃れるために何とか話を逸らそうと話題を展開させる。

 

「そう、ですね…金髪のエルフで、サモナーをしているとてもいい子ですよ?少し独特の口調をしていますけど」

「へ、へぇ…そうなんですかぁ。あ、あはは…」

 

…何でだろうか。金髪のエルフでサモナーをやっている人だっていっぱいいるはずなのに、1人の少女の顔が頭から離れてくれない。

後ろを振り返って見れば、ユースケと風理も何とも言いがたい顔をしていた。

 

「シラナギ…」

「そうです。シラナギという名前で…あれ?私、名前教えましたっけ?」

「あれ?リュートさんじゃねぇですか!?こんな所でどうしたんですか?」

 

ミィの向こう側の通路から、良く見慣れた魔女ッ娘帽子の金髪エルフが現れた。

噂をすれば影という奴だろうか。

如何せん噂をする前に影が出てきた感があるが…

 

「あ、ミィちゃん何処行ってたんですか!?探し回ったじゃねぇですか!!まったく、迷子になるんだったら一言くらい言ってからですね――」

「迷子はお前だって…」

 

すかさず突っ込みを入れるが、最早誰もが苦笑いを隠せなくなっていた。

 

「それで、皆さんお集まりみてぇですけど、どうしたんですか?」

「あ、ああ、そうそう実はシラナギが来る前にも話してたんだけどな?今回はこの2パーティでレイドを組むことになったんだ」

 

さっきミィが申し訳なさそうにしていたのも、これが原因である。

大方、自分たちのせいで攻略が遅れるとでも思ったのだろう。

 

「へー、そうなんですか」

「悪意が無いのが余計に腹立つな…」

 

聞こえない様に言ったつもりだったが、近くにいたミィには聞こえていた様で、

 

「ま、まあまあ、それより早速レイドを組みましょうか?」

 

と、気を使わせてしまった。

こんな所で仲違いをするよりもよっぽど建設的な意見なので、メニューからレイド画面を開き、ミィのパーティにレイド申請を送る。

これをミィの側で受理することでレイドは完了。

ボス部屋にレイドパーティの全メンバーで入ることができるようになり、これをしないでボス部屋に入ると、どちらも別々に用意された同名ボスと戦う羽目になる。

 

「さて」

 

1拍おいて、ミィの方を見るとこくり、と頷きを返してくれた。

 

「「これより、レイド級ボスの討伐を開始する(します)」」

「「「「「「「「「おー!!―――ッ!?!?!!?!」」」」」」」」」

 

み、耳が…

さすがにこれだけいると声が反響してすごいことになるって気付かないのかな…

このダンジョンは今の所完全な密室なのだから、音の波も外に逃げずに全部帰ってくるのだ。

 

「…み、耳が直るまで休憩にしようぜ?」

「そ、そうですね。それがいいと思います」

 

ユースケと緑の髪の女の子が休憩を進言しているが、このゲームの仕様はそんなまったりとした空気を許しちゃくれない。

もう直ぐ音を聞きつけてやって来るだろう。

 

「いや、さっさとボス部屋に入ることを俺は勧めるよ」

「な、いったいどういうつもりで――」

「さっさとボス部屋に入るか、ここでアンデットの大群に襲われるか、どっちがいい?」

 

グゥゥゥオォォォォォ……

ケタケタケタケタケタケタ…

ぁあぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁ…

 

「お、もう来た」

 

グールにゾンビ、スケルトン系にゴースト?いや、上位種のスペクターかな?おっ、ゾンビ犬もいるのか。

すごいな。

 

「………そ、」

 

そ?

 

「総員、ボス部屋へ退避ィィィー!!!!」

 

うおぅ、さっきの全員であげた合唱に勝るとも劣らない威力。

近くにいたせいか、耳が聞こえないんだけど…

 

「わ、我は怖くて逃げるんじゃないからな!違うんだからな!」

「そんな事言ってないでさっさと扉まで走らないか!」

 

仕方ない、俺がちょっと時間稼ぎを――

 

「は、早く!早く逃げますよ、リュートさん!!」

「いや、俺は足d――グエッ!?」

 

首!?首が絞まってる!!ギブ!!死ぬ、死んじゃう!!

そして俺は誰かに引きずられる様にして(と言うか、襟首を持って引きずられて)、ボス部屋に辿り着いた。

幸いHPは減っていない様だったが、そのときにはもうそんな事はどうでも良いくらいに、このボス部屋の凝り具合に見惚れていた。

 

今回のボス部屋は、さっきまでの薄暗いダンジョンが嘘に思えるような荘厳な様相をしていた。

例えるなら中世ヨーロッパのダンスフロアの様で、全面的に金や赤が映えるので目がちかちかする。

天井を見れば一つ一つが精巧なシャンデリア、柱を見れば掘り込みの美しい彫刻、床はフカフカの絨毯が敷かれている。

それでもってこの空間で異様なのは、中央に置かれている全長3メートルはある大きな人形(ドール)である。

レースをあしらった血の様に赤い(思い過ごしでなければ血そのもの)ドレスを着て今にも動き出しそうな…いや、おそらく動くんだろうな。

おそらくはあれが今回のボスだろう。

 

「怪奇!動きまわる人形ってか?」

「いや、どちらかと言えば()()()()()()()じゃないか?」

「どっちも恐怖ですよ。ホラーですよ!」

「そうかな?ボクは可愛いと思うけどなぁ、特にあの目が」

「え!?あの目が一番怖いところでは!?」

 

しかし、全員が全員変な感想ばかりである。

風理にいたっては可愛いとか言っている。

 

そのまま進み出て行くと、案の定奴がキリキリと音を立てて動き出した。

 

「まずは様子見だ。盾持ちの前衛は前に!それ以外は盾持ちの後ろに!後衛はタゲを取らないように援護!前衛は守り重視で行け!『エンデュランスアップ』!」

 

全体にとりあえずの指示を飛ばしてから味方全体に掛けられる様になった物理防御上昇(エンデュランスアップ)を掛ける。

まずは相手側の攻撃手段を見極める。

全体の陣形を見渡せば前衛が4、中衛後衛は7、内魔法職は4…なんと言うか、図ったようにバランスがいいな。

 

「さあ、楽しいお人形遊びと行きますか…」

 

手に持った剣に否応無しに力が篭る。

リニューアル後、初めてとなるレイド戦が今、幕をあげた。

 




今回はラジオはお休みです。
皆さん戦闘中で忙しいらしいので…申し訳ないです。

次回はレイド戦ですね。
上手く書けるといいのですが…自分の文才の無さが嫌になってきます。


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9.深海の児戯 前編

すいません、前回週1とかほざいた結果がこれです。
誠に面目ないです…

今回は前、後編に分けることにしました。
最初はこの話中にレイド戦は終わらせて次で次章への引きに…と思っていたのですが、如何せん書いては直し、書いては直し繰り返しモチベーションが下がりだしまして、ええ。
一度途中で切って前、後編にしてモチベーションをマイナスから0まで戻すことにしました。



 

 

どこから取り出したのか大きな鉈を振り横薙ぎに攻撃して来る人形(ボス)

それを盾を持った前衛たちが4人がかりで何とか押し戻す。

完全に守り切った様に見えるが、それでもやはりダメージはある様で、その度に目の端に移るユースケとツッキー♪のHPのゲージが僅かにだが、確実に減る。

しかしそれは相手側も同じで、少しずつだがダメージが入り、ゲージに目に見える形で現れ始めた。

さらに追い討ちとばかりに押し戻したことでよろめいた人形(ボス)にダメージディラーである中、後衛のスキル攻撃が殺到する。

もちろん俺自身何もしないのは沽券に関わるので、『ストップ』で鉈を持っている右手と左の足を地面に縫い止めている。

 

この人形はレイドボスとしては、かなりしっかりしたゲームバランスを感じられる。

油断しているとやられそうだけど、しっかり役割をこなしていれば最後には達成感を得られそうな、そんなバランスだ。

そして、ついにボスのHPの4分の1を削り取り、ボスのHPを表すバーが緑から黄色へ移ったときだ…

 

「よし、この調子で…」

 

勢い付いた誰かがそう口走った。

確かにこの調子なら、然程苦戦しなくても勝てるだろう。

――そう、終始(・・)この(・・)調子(・・)なら。

 

「な、なに…!?」

 

全員がハッとして構える。

呟かれ、漏れ出た声ではなく…足元に現れた、どす黒い血で書かれた様な不気味な魔方陣に反応して。

 

「これは…!全員一度前衛の後ろに集まれ!召喚系の魔方陣だ!」

「え、そうなんですか!?でも、私が使ってんのと違ってるですよ!?」

「当たり前だろ。シラナギのはゴーレム系の召喚魔法だけど、これはアンデット系だ」

 

全レイドメンバーが下がりきった頃には、足元から生えてきたとしか形容できない10体程のゾンビの群れが襲い掛かってきていた。

レイド級が厄介なのは何もやつら単体の能力だけじゃない。

もっとも厄介なのは、この取り巻き召喚然り、突然行動パターンを変えて来る所にある。

 

「前衛以外はゾンビを1体残して、各個撃破!スピード重視で殲滅!前衛は今まで通り奴のヘイト値を稼いでいてくれ!そっちの援護に回れそうもないから、攻撃よりも回復重視で頼む!」

「リュート!背中任せるから、できるだけ早く蹴散らしてくれよ!」

「わかった。それよりユースケ?」

 

信頼してるぞ、とでも言いたげな表情で軽口をたたいてくるユースケに妙な安心感を持ちながら、お節介に1つ忠告してやる。

 

「前、来てるぞ」

 

ユースケが言われたとおりに前を向くと、頭上から振り下ろされる1本の大きな鉈が…

 

「は?…早く言えぇぇぇぇ!?」

 

すると、ユースケは慣れた手つきで即座に防御の体制に入った。

文句より先に感謝の言葉をくれよと、言おうとしてやめた。

感謝の言葉を聞きたくてやったことじゃないからな。

 

「ユースケ君?よそ見とは随分と余裕な様だ。一人でやってみるかね?」

「は、ははは、ゴジョウダンヲ…」

 

まあ、ユースケは会長に任せておけばいいか。

そんなことを考えながらも、ほかのメンバーより少し遅いが遅れていると言う訳でもない速度でゾンビを屠って行く。

2分もかけず、ゾンビは1体を残し全滅した。

リニューアル前から、取り巻き召喚は取り巻きを全て倒しきっていないと、次の取り巻きは呼び出さない。

しかし、1体とはいえ取り巻きを放って置くと危険な為、大概は何人かでその1体の足止めをして、他のメンバーでボスの相手をするといった方法をとる。

今回は――

 

「我は創り出す者、我が思いに答え形を変えよ――『人形創造・ヘイトポーン人形』」

 

ユーリスこと、四月朔日部長にスキルで用意してもらった。

壊されない限り、人形にロックされているエネミーのヘイト値を僅かずつだが勝手に上げ続ける人形。

ちなみに軽い衝撃で効果が切れるため、投げたり落としたりしてしまうと効果が切れる。

…余談だが、スキル名以外は特に言う必要はない。

 

「風理よ!任せたぞ!」

「フフン、任せてよ」

 

人形を遠くに設置し、人形に相手が近づいて来たら人形を遠ざける。

この簡単な作業だけで、ゾンビは脅威ではなくなる。

Agi.の低いゾンビだからこそできる作戦だ。

 

「よし…後衛は余力を残しつつ攻撃開始!中衛も出来るだけヘイトを散らす様に固まらずに動け!」

 

作戦の成功を頭の隅に留めながら、ゆっくりゆっくりと時間をかけてボスを屠りにかかる。

これは目測だが、おそらく次の攻撃パターンの変化はHPが半分を切った時だろう。

 

「それにしても順調に行くな。『ストップ』もっと誰かから反対とかされたりするかと思ってたんだけど…」

 

ちょっとした余裕が生まれ始めたことで思考が脱線を始めてしまう。

そういえば何時からだったかな、こんな風に自分を卑下して考えるようになったのって。

思えば、このレイドを組むことになった時だって、俺はリーダーはミィやツッキー♪の方がいいって言った。

なのにみんなが俺をリーダーに押した。

 

「君の方がこういうのには慣れているだろ?私は初心者だぞ」「ボクはリュートが適任だと思うけどな」「そ、その、ホラーは苦手ですから…」「ミィちゃんがいいなら、私たちもあなたでいいです」

 

ちょっと前までソロでしか動いたことないって言っているのに、期待された…

今だって期待に応えられない事が怖くて、リニューアルする前に見た指揮官の指示を必死で模倣してるに過ぎないのに。

俺はそんなに立派な人間じゃないと、声を大にして言いたい。

 

少し前までは、人に嫌われるのが怖くて、自分からは極力関わらない様にしてたのに…今は友達がいて…

最近じゃあの妹も、少しだけ会話してくれるようになった。お金の打診以外で…

きっと、俺は変われていないだろう。

じゃあいったい、何が変わったんだろうか。

 

「そろそろボスのHPが半分を切るぞ!」

「サクッと殺っちまうですよ!」

 

仲間の声に脱線していた思考を振り払い、我に返る。

しかし、ボスのHPを見ると、おかしなことに気が付いた。

 

「え…?は?」

 

俺には、HPはもう半分を下回っているように見えるのだ。

そう、どう見てもHPは半分を下回っている。

そして、それ以上に目に付くのはいつの間にか増えている10体のゾンビ達…

 

「な、にが…」

 

俺は少しの間目を離していただけだったはずだ。

なのに、いったい何があった。

それに…何だろうか、この違和感は…

 

「まさか…気付いてないのか?」

 

ゾンビが段々と寄って来ているのに誰も見向きもしない。

誰も彼もがゾンビなんていないかのように動いている。

つまりは俺だけに見えている?

パッと思いつくだけでも幾つかの可能性が浮かんだが確実に言える事は、みんながおかしくなっているか、俺だけがおかしくなっているかの完全な二択であるということと、この状態異常が精神系の異常状態であるということだ。

だとすれば、まず怪しむべきは自分自身だ。

精神異常系の回復薬、これを飲めばいい。いい、のだが…この薬、とんでもなく不味い。

コーラを食パンに染み込ませて、上からチョコレートをかけた後、トーストにした物位不味い。

 

「う、ううっ…」

 

それを少しだが、ごくりと音を立てて一気に飲み下す。

すぐにみんなの方を見る。

どう見ても、さっきと何も変わらない光景だけがそこにあった。

 

「…ということは、みんながおかしいわけだ」

 

それにまともに見えなくなっているのはボスのHPとゾンビだけの様で、ボスの攻撃にはしっかり反応してるように見える。

 

「ならまずは――!!」

 

後衛に向かって進みだしているゾンビを倒す。

一番近くにいるゾンビに向かって『ストップ』を使い、剣で首の辺りを6回ほど切り裂き、ポリゴンになって消えるのを横目で見ながら、次のゾンビに切りかかる。

ゾンビが振り返るのに合わせて常に後ろに動き、止ることなく切り続ける。

そして、最後の1体に一度だけ切り付けて、そこから一番遠くにいたユーリスに『ストップ』をかけ、薬を口の中にねじ込む。

動けなくした少女の口に異物をねじ込むのは、絵的にも文章的にもやばい気がしたが背に腹は変えられず、躊躇わずにやった。

ストップで止まっていたユーリスが動き出すと薬の入ったビンを噴出し、ゲホゲホと咽(むせ)だした。

 

「ゲブッ!?何これ…酷い味だよ…」

 

涙目で(むせ)ながら抗議の目を向けてくるのはよしてほしい。

 

「早速で悪いけど、ボスのHPはどれくらいに見える?」

 

一応確認の為にボスのHPを確認してもらう。

 

「し、仕方ないな、友の頼みとあらば見てやr…あれ?い、いつの間にあんなに減って…」

 

仕方が無いと疑わしげにボスの方へ向くと、自分の目が信じられないのか目を擦ったり何度も瞬きしたりと忙しなく動き始めた。

 

「よかった。初級ので解除できるみたいだ。この薬渡すからみんなに飲ませてくれる?」

「よ、よくわからないけど、わかった、ぞ?」

 

どう見ても理解が追いついていない顔をしているのにやってくれるらしい。

そんな風に疑いもせずに言われると、暗に信用していると言われているかのようでこそばゆい。

自意識過剰かもしれないけど…

 

何はともあれ協力してくれるらしいユーリスに5本のビンを渡してすぐにその場を離れる。

長く話しすぎたのか振り返れば、すぐ後ろまでゾンビが来ていた。

次の目標はここから一番離れた中衛の子。

またしても『ストップ』をかけて、口の中にビンの口を開けて放り込む。

これまた、繰り返し作業よろしく確実に飲ませていく…

 

それにしたって俺以外の全員が状態異常になるなんていったい何が…

いや、まあおそらくだけど何が起こったかの予想は付いてはいる。

それが起こった瞬間は、俺が自問自答なんて馬鹿らしいことをしていたときで間違いない。

その間に起こったであろう事で俺が知っていることは――

 

・ボスのHPが半分以下になった

・俺以外のみんなが状態異常にかかった

・いつの間にかゾンビが再召喚されていた

 

――この3つ。

 

もうほとんど状況証拠と強引な憶測だけど、事の起こりはボスのHPが半分以下になったこと。

つまりは攻撃のパターンが変わり、何かしら違う行動を起こすようになった。

その何かしらの所に状態異常を引き起こす技があったと考えられる。

さらに、もしそうだとすれば状態異常を引き起こした方法も想像出来ない事はない。

 

俺になくてみんなにあったこと、もしくは俺しかしていなかったこと。

ボス戦中にボスから目を逸らす様な事は普通しない。

あの時俺は考える為に自分以外に目を向けていなかった。

だからこそ俺は状態異常にかかっていない。

 

俺はそういう風に結論付けることにした。

ウダウダと考えても動きが鈍るだけだし、何か強引にでも答えを得ているのといないのとでは考えられる範囲が違ってくる。

 

例えば、状態異常にする技は一度しか使えない、もしくは使ってくるのに制限がかかってるなんてことも考えられる。

そう思った理由は俺の後ろから付いてくるあのゾンビ。

1体だけ残していたにも拘らず、いつの間にか再召喚されていた。

しかし、再召喚されるには召喚されたものが全滅していなければならない。

そうなると、残しておいた1体を誰かが倒したとしか考えられず、この状態でゾンビを倒すなんてことをできるのは、このレイドのメンバーしかいないわけだ。

でも、1体だけ態々残しておいたゾンビを倒す様な馬鹿はいないので、状態異常にかかった誰かが何かと間違えて屠ったとするのが一番自然な気がする。

要するに、だ。あのゾンビが倒されない限りは、新しく状態以上になった味方はいないってことだ。

 

以上、考察終わり。

 

「よっと。…もう前衛以外で薬を飲んでないのはいないよな」

 

ようやく追いついた風理に『ストップ』をかけて、薬を流し込みながら回りを見渡して、苦虫を噛み潰した顔をしていない人物がいないことを確認する。

ユーリスも二人に飲ませてくれたようで中後衛には状態異常にかかっているメンバーは見受けられなかったので、後飲んでいないのは前衛だけだと見切りをつけて、前衛に1人ずつ後ろに引く様に指示をだす。

しかし――

 

「おいユースケ?聞こえてるだろ!後ろに引いてくれって!おい!」

 

どういう訳かこちらに視線を向けることすらしない。

…今までと同じように『ストップ』かけて無理やり飲ませよう。そうしよう。

 

「反応しないやつが悪いんだよな…中後衛で回復が使えるのはいるか!前衛に1人ずつ薬を飲ませるから残った前衛の回復をできるだけ優先してくれ!」

「は、はい。そんなに使ったことないから、ちょっと時間がかかるけどやってみましゅ!」

 

少し噛んだけれど、後衛の子に1人だけいたらしい。

自分が重要な所で噛んでしまったのを理解したのか、みるみる顔が赤くなっていく。

どうしよう。すごい不安だわ…

 

「背に腹は云々だな…」

「え?」

「いや、なんでもない。お願いするよ」

「ひゃ、ひゃい!」

 

……………

……

 

やっぱり不安だわ。

 

「さてと…」

 

ボスの攻撃が終わった瞬間を狙って、一番HPが減っていたユースケに『ストップ』をかけて引き摺る。

そしてさっきまでと同じように、無理やり口の中に薬を瓶ごとねじ込む。

6秒たってユースケが元に戻ると…

 

「エ゛!?グ ウッ?エェェェェ…!???!!!?」

 

相当不味かったのか、必死の形相で吐き戻そうとして失敗して気管に詰まりそうになったらしくもがいて酷いことになっていた。

とりあえず無事そうなので、他の前衛メンバーの方に振り返ると、さっきまでと変わらずに攻撃を防ごうとしていて、どう見てもユースケがいなくなっているのを気にしていない、もしくは気付いていない様に見えた。

 

「あぁ、いったいなんでこう…面倒くさいボスに当たるんだろうな…」

 

一瞬で全体に状態異常、しかも精神や五感にくる様なものなんて、普通はもっと高レベルなダンジョンで出るべきだろ?

もうこうなってくると初見殺しを疑うね。

初めてここに来たプレイヤーを全滅させてやろうという意気込みを感じるよ。

引っ掛からなかったプレイヤーがいないと、何が起こったのか分からないままにゾンビにゆっくり殺されそうな気がする…

 

「次はツッキー♪に飲ませるか…」

 

未だユースケがいないままでボスの攻撃を受け続けている残り3人の前衛を見ながら、次に飲まし易い人物を選んで薬のビンを取り出そうとしたときだった。

 

――ボスのHPが4分の1を切った。

 

きっとそのときその場にいた全員が――いや、前衛の3人を除いた。だろうか?

前衛の3人だけはその大きな異変に気が付いていない様だった。

その3人を除いた全員がきっと、一瞬訳が分からなくなっていたと思う。

 

まだボスのHPは残っているというのに、人形が――

 

――崩れ去っていた。

 




感想や言いたいこと、もっとこうしたら良いなどのアドバイス、果ては辛口なコメント、評価まで、心待ちにしておりますゆえドシドシ頂けると嬉しいです。

尚、キャラクター人気投票は次話掲載の1日後に締め切る予定なので、入れてくださる場合はなるべくお早く入れてくださるよう伏してお願い申し上げます。


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