黒の狩人~転生者狩りの旅~ (ポルポル君)
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借り物の力
こちらに関しては、リメイク前の設定が気に入らなくなった事ために、リメイクをさせて頂きました。
ある都市の上空、深夜の二時にも関わらず暗さを感じない都会の夜空の上から二つの影が降りてきた。
片方のマゼンタの鎧を着た少年はコンクリートの大地に隕石が如きスピードで叩き落とされると、着地点にまるで花のように広がるクレーターを生み出し、人々を混乱の渦に陥れる。
もう片方の無機質な姿の黒い怪人は、まるでそれが平気な事のようにひょいと百数メートルのビルから風邪を切りながら飛びおりると、こつん、という靴音のような軽い音とその軽さとは反比例した重く冷たい風圧を起こし、右手に持った赤い武器……良質かつ強力な銃であるという事以外はよく分からないそれを掲げ、ゆっくりと少年の元へと歩み寄る。
「くッ……くそうッ」
今悪態をついた少年にとってこれは予想外の事態、神を名乗る男からもらいうけたこの鎧『仮面ライダーディケイド』の力があればこの『インフィニット・ストラトス』の世界で自分に敵う者はいないと確信していた。
だが今、どういう訳か姿を現した『原作』に存在しない筈のこの黒い怪人の圧倒的な戦闘能力に『無敵』で『チート』であった筈の自分の力はまるで通用せず、自分自身も窮地に立たされている。
絶体絶命、だが、少年にはまだ残されたカードが何枚も存在していた。
「だったらこれだ!」
少年がどこからか取りだしたこの黒く小さな端末は『ケータッチ』、その画面を特定の順番でなぞってゆくと、ピンクの装甲は変形を開始し、端末をベルトのバックルに当たる部分にはめ込むと、ディケイド最強の形態『コンプリートフォーム』が完成する。
「自身はついたか?だったら来い。」
黒い怪人から発せられた若く爽やかでありながら不気味な声は、敵とは思えぬ丁寧語で少年に語りかけつつも空いた左手を前後に振り、少年に突撃を煽る。
姿が変わって自身を手に入れたからか、少年は自分の片隅に落ちた『ライドブッカー』を拾い上げ、そこから瞬時にカードを抜き取り腰の左のドライバーに慣れた手つきで挿入する。
怪人の方向に走る少年の横に現れたのは金のライダー『ブレイド』、剣を掲げる少年と全く同じポーズを取りながらブレイドもまた金色の大剣を持って黒い怪人に切りかかる。
「では、私も……。」
怪人が手の中に隠し持ったカードを燃やし、『何か』を使った事も知らずに。
マゼンタと金の二つの刃が降りおろされた時、黒い怪人は突如出現した金色の光から飛び出した赤と白の盾を振りあげ、その刃を軽々と弾き飛ばす。
「き……効かないッ、ロイヤルストレートフラッシュがッ」
「キャプテン・アメリカの盾に、その程度の技が通じるとでも?」
原典では不死身の怪物さえも完全に殺害したこのロイヤルストレートフラッシュでさえもはじき返すという事は、それがレプリカや模型ではなく、本当に特殊金属ヴィブラニウムでできた凄まじい硬度の盾である事を意味していた。
そうして少年が怯んだ隙に怪人は盾をフリスビーのように水平に投げつけると、傍らのブレイドの身体をその凶悪な回転で上半身と下半身に二分し、爆発四散させた。
「あれって、
前世、少年が見ていたアニメのキャラクターの能力を、あろうことかこの怪人は使っていた。
それでも通じない自身の……いや借り物の力、自身の敗北をの予感を感知した始めたがそれを認められず、少年は再びカードを使う。
「これでどうだッ!」
今度現れたのは赤と銀の姿をしたライダー『カブト』、少年と共に構えた銃から発せられた光の竜巻が到達する直前、怪人の背後に金色の影が現れた気がしたが少年はそれを特に気に留めず、怪人が姿を消した事から勝利を確信していた。
「やった!」
「そうか、それは良かったな。」
少年の意識に驚愕の感情が芽生える直後、隣にいたカブトの胸部から金色の腕がヒヒイロノカネでできた胸部が突き破られると爆発し、姿を消した直後少年は背後を振り返ると、消し飛ばした筈の怪人と金色の腕の正体を目撃した。
「『ザ・ワールド』……どうして?」
「見えているのか?」
『ザ・ワールド』は、少年が持っていた前世の知識には、『ジョジョの奇妙な冒険』という漫画のキャラクターである『DIO』の持つ能力として認識されていた物で、それは物理的な破壊力以外にも『時間を止める』という凄まじい性能をもったスタンドと記憶しており、怪人は時を停めている間にあの光線から逃れた事は想像に難くなかった。
それが何故『特典』にザ・ワールドと同じ『スタンド能力』を持たない筈のこの少年に見えているかは分からないが怪人にとってそんな事はどうでもいい様である。
それでも少年は反撃を試みカードを取ろうとしたが、どういうわけか地面にあったライドブッカーは消えている。
それだけではない、自身を包んでいたディケイドのアーマーは完全に消えうせ、変身が解けている。
一体何が起こったというのだろうか、少年は戸惑いながら周囲を見回した時、その『答え』を見つけ。
「ああ、やめ……。」
「これ以上、英雄の顔に泥を塗らないでもらいたい。」
怪人の手元でディケイドライバーが空き缶のようにくしゃりと潰れている事を発見し、絶望する。
「悔い改めろ。」
手の中の赤い光から実体化させた拳銃を少年に突きつけた怪人は、突如そう言い放つ。
自分が何をした?寧ろ自分は神の過失で死んだ被害者であり、この女尊男卑の世界をディケイドの力で改革する英雄であると信じて疑わぬ少年は、一瞬ぽかんとした。
理解できるまで言い聞かせてやろうという勢いで、怪人はまたも語りかける。
「……貴様の到来の余波で人格を捻じ曲げられ、ただの無能へと落とされた貴様の姉『織斑千冬』の分だ。」
「うがあああああッ!」
怪人の銃から吐き出された赤い光の弾丸は、まるで布を通る針のように少年の肉や骨を焼きながら直進し焦げた穴を右足に刻むのもつかの間、丸腰の足を切り離し、後にはそれが人体の断面とは思えぬ鉛色の傷だけが残る。
ない脚と残った両手を慌ただしくばたつかせ逃げだそうという少年の左手に飛んできた金色の拳が、その掌をまるでプレス機のような人知を越えた力で押しつぶすと、左手は一秒とたたぬ内にトマトのように激しく散った。
「いぎゃああああああああああああああああああ」
「……貴様の逆恨みから、罪もないのに陥れられた貴様の弟『織斑一夏』の分だ。」
手も足ももぎ取られ、最早這う事さえも出来なくなった少年……『織斑秋斗』の脳内に浮かび上がるのは、この世界で過ごした人生。
中学校時代、モンド・グロッソの勝敗を廻って人質にとられた自分と一夏、あの時千冬が自分を見捨てたのも?
『後で事情を知った』という理由でこの事件を「知らなかったのなら仕方ない」と許容した一夏に辛辣に当たったのも?
セシリアの傲慢な態度に怒り、彼女自身は愚かその周囲にまで敵意を示したのも?
本来この世界にはいなかった筈の『大ショッカー』の出現も?
全て自分が悪いのか?
「おれは!おれは!なんにもッ……」
何も悪くない、『余波』なんて訳の分からない物は信じない、そんなものがあるのならむしろこの不完全で矛盾だらけの『ISの世界』を完全で面白い物にしてやった俺は感謝されるべき、この暴力は罰でもなんでもなくただの理不尽だ。
そう言い切る事なく、秋斗の肉体は怪人の手から発せられた赤い光の含む溶鉱炉が如き高熱によって、不完全な人型をした黒とも灰色とも付かぬ炭へと姿を変えた。
怪人はそれを人差し指でつつくと、炭の塊はいとも簡単にボロボロと崩れ落ち、その内部から出現したのは長方形をした赤く光る小さな物体。
怪人はそれを左手に取ると、それを縮小し、しまいこむかのように握りしめる。
「さらばだ……『歪んだ物語』よ、一人の欲望に歪められた『哀れな世界』よ。」
怪人はそう呟き、目の前に出現した赤い門へと静かに歩いていくのは、黒から灰色、そして白へと変色し、まるで霧に巻かれたように曖昧になっていくビル群の輪郭。
怪人が門の中へと消えてゆく直前、まるで雫のような赤い光の粒子が、消えて無くなってゆくこの世界に流れた。
『余波』ってなんだ?なんで転生者は生まれるのか?何故主人公は他作品の力が使えるのか?
この謎は次回解く予定です。
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