ドラゴンクエストⅤ~紡がれし三つの刻~ (乱A)
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一の刻・少年期編
第一話「港の別れと約束」


 

 

ザザーン、ザザーン

 

波の音が風と共に潮の香りを運んで来る中、一人の少年が目を覚ました。

 

「…ん、うぅ~~ん。ふあ~~あ、良く寝た。けど、さっきの夢は何だったんだろう?」

 

大きな欠伸をし、目を擦りながら少年はベッドから降りる。

寝癖の付いた髪を軽く梳かすと紫色のターバンで纏め、扉を開いて部屋の外へと歩き出す。

 

 

ザザーン、ザザーン

 

クエーェ、クエーェ

 

部屋の外、船の甲板に出ると波の音と海鳥の鳴き声が出迎え、潮風を浴びた少年に微かに残っていた眠気を消していく。

 

「今日も良い天気だなぁ『ドンッ』って、うわぁっ!」

 

潮の香りを吸い込みながら背伸びをしていると行き成り背中を蹴飛ばされ、前のめりに倒れた。

 

「い、痛いなあ。今日も乱暴だね、デボラ」

「寝ぼすけなアンタが悪いんでしょ、リュカ」

「姉さんったら…。大丈夫ですか、リュカさま」

「まったく、貴女はリュカに甘いわね、フローラ」

 

転んだままの少年、リュカを見下ろしているのは二人の少女。

黒髪で少々?威圧的なのが姉のデボラ、青い髪で気弱そうなのが妹のフローラ。

今、乗っている大海原を行く船の持ち主、大商人ルドマンの娘達である。

 

「ほら、いつまでも寝転んでないでさっさと起きなさい。フローラが心配するでしょ」

「自分が転ばしたんじゃないか」

「男が細かい事を気にしないの!」

 

「これデボラ、いい加減にしなさい」

 

其処に二人の男がやって来た。

少々小太りな男、デボラとフローラの父親ルドマン。

まるで鎧の様な引き締まった体の持ち主、リュカの父親パパス。

 

リュカは父親のパパスと共に長い旅をしていた。

パパスは何かを探している様だが、とりあずは一段落したらしく故郷であるサンタローズに帰る事になった。

しかし、サンタローズがある大陸には海を渡らねばならず、一足遅く定期便も出たばかりで次の船まで数ヶ月は待たなければならなかった。

どうしたものかと悩んでいる所に剣士パパスの噂を聞き付けた商人ルドマンがビスタ港まで乗せる代わりに道中の護衛を依頼して来た。

まさに、渡りに船だったのでパパスは快くその依頼を受けて航海の間に襲って来る海のモンスターを相手に闘って来たのである。

 

それも今日までで、もうすぐ彼等の目的地であるビスタ港へと到着する。

 

「今日はまた随分と寝坊をしたものだな、リュカ」

「ヘンな夢を見たからかな」

「変な夢?」

「うん。僕がどこかのお城で生まれる夢なんだ。そしてお父さんは王様だったよ」

「…何?」

 

リュカの言葉にパパスは一瞬驚いた表情を浮かべるが…

 

「あっはっはっはっは!ないないない、それはない!」

 

突然デボラが大きな声で笑い出し、パパスのその顔は誰にも見られる事は無かった。

 

「な、何だよデボラ」

「だってそれじゃリュカは王子様って事になるじゃない。パパスおじさんが王様って事なら解るけどリュカが王子様?……ぷっ、あはははははははははっ!」

「これ、デボラ」

「姉さんってば。わ、私はちっとも可笑しくないと思いますよ、リュカさまが王子様でも」

 

照れながらそう言うフローラ、そして其処にこの船の船長のゼブルがやって来た。

 

「はっはっはっ、賑やかですね、ルドマン様」

「おおゼブルか、どうかしたか?」

「はい。今日は良い風が吹いていますので、昼頃にはビスタ港に到着出来そうです」

「そうか、ではパパス殿達とももうお別れですな」

「……え?」

 

ルドマンのその言葉にさっきまでの笑顔が一転し、フローラは表情を曇らせ、デボラもまたそんなフローラを心配そうに見つめている。

 

「そうですな、長い様で短い船旅でした。リュカ、そろそろ荷物をまとめておきなさい」

「う、うん」

 

そう言われ、フローラ達を横目で見ながらもリュカは自分達の部屋へと戻っていった。

呆然とその姿を見つめていたフローラだが、視界からリュカが消えるとその瞳からぽろぽろと涙が零れて来た。

 

 

―◇◆◇―

 

 

ビスタ港に到着し、船と港の間に掛けられた桟橋代わりの板を渡るリュカとパパス、その後ろでフローラは泣き続けていた。

 

「ちょっとフローラ、いい加減泣き止みなさいよ」

「だ、だって、だって…、らってぇ~~。ふえぇぇ~~ん」

 

リュカはデボラに慰められても泣き止まないフローラに近づくとそっとその頭を撫でてやった。

 

「ふえ?」

「泣かないでよフローラ、きっとまた会えるからさ」

「…ほんろ?」

「うん、ホントに。僕はおっきくなったら父さんの様に世界中を旅して回るのが夢なんだ。フローラにもその時会いに行くよ」

「ほんろに…ホント?」

「約束するよ」

 

そう言いながらリュカが小指をフローラへとさし出すとフローラはその指に自分の小指を絡めた。

 

「約束…ですよ、リュカさま」

「うん、また会おうねフローラ」

 

指切りを交わす二人を周りの皆は暖かな目で見守る、流石のデボラも此処ではからかう様な事はしなかった。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

 

「リュカさまーー!リュカさまぁーーーっ!」

「元気でねーーー!フローラーー!」

 

港を離れ、遠ざかって行く船の上からフローラは何度もリュカの名を呼びながら手を振る、リュカもまたそれに応えて手を振る。

お互いの姿が、船が港が見えなくなるまで二人は手を振り続けた。

 

 

「今度はいつ会えるかなぁ?」

「少しの辛抱だ。暫くはサンタローズに腰を落ち着ける予定だが次の旅にもリュカを連れて行ってやろう。その時はフローラの住むサラボナにも寄ろう」

「うん!約束だよ、父さん」

 

もう一度海へと目を向けるが既にフローラ達の乗った船は水平線の向こう側へと消えていた。

 

「さあ、そろそろ行くとしよう。サンタローズに帰るのも二年ぶりだし、サンチョが待ちくだびれているぞ。今からならば夕暮れ時には辿り着けるだろう」

「はーーい」

 

 

 

そしてリュカとパパスの親子は桟橋を後にして歩き始める。

懐かしき、サンタローズの村へと向かって。

 

 

 

=冒険の書に記録しました=

 

 

《次回予告》

 

フローラ達と別れた後、サンタローズへと歩いていると行き成り襲って来たモンスター。

戦っていると聞こえて来た助けを呼ぶ小さな声、仲間の筈のモンスターに虐められている小さなスライム。

かわいそう、助けなきゃ。

 

「もう大丈夫だよ」

「ピイ、ピイ~~」

 

 

次回、第二話「出会った友達と再会の幼馴染」

 

ただいま!サンタローズ

 

 




(`・ω・)と言う訳で改訂版の第一話でした。
旧版ではフローラとの出会いは顔見世程度でしか無く、一目ぼれと言う事にしても後のヒロイン候補としては少し説得力が弱いかな?と思い、こんな形にしました。
つまり、ビスタの港で出会ったのでは無くビスタの港で別れたと言う訳です。


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第二話「出会った友達と再会の幼馴染」

 

 

サンタローズへと続く街道を駆けているリュカに、草むらの中から魔物が道を塞ぐかのように飛び出して来た。

 

『ピキーーーッ!!』

「わっ!な、何だ、スライムか」

 

リュカの目の前には三匹のスライムが並んでいて、その内の一匹がリュカを睨みつけたかと思うと行き成り飛びかかって来る。

 

「何だこの位、負けないぞ」

 

リュカは背中にしょっていたひのきの棒を掴むと一気にスライムに向けて振り下ろした。

 

『ピギャーーッ!!』

 

リュカの一撃は"会心の一撃"と言うべき威力でスライムは地面に落ちると弾け飛び、その場所には赤い宝石が残されていた。

 

魔王の邪悪な波動を受けたモンスター達はその影響を受けて魔力を結晶化させた宝石をその身に宿している。

倒されて命が尽きても宝石は消える事無くその場に残り、その宝石の価値はモンスターの強さに比例してその純度を増し、強力なモンスターであればあるほどより高額で取引される。

 

「う~~ん、これなら2ゴールドって所かな」

 

宝石を日の光に翳しながら鑑定していると他のスライムを退治したパパスがやって来てリュカの頭を撫でる。

 

「中々見事な一撃だったぞリュカ、これは将来が楽しみだ」

「えへへ、そうかな?はい、父さん」

 

少し照れながらもリュカは手に入れた宝石をパパスに渡そうとするが彼はそれに手をかざして止めた。

 

「それはお前がスライムを倒して手に入れた物だ。お前が持っていなさい」

「いいの?」

「ああ、無駄遣いはするんじゃないぞ。それに……」

「それに?」

 

パパスは厳しさと優しさの入り混じった目でリュカを見つめ、頭を撫でながら言葉を続ける。

 

「その宝石はお前が奪った命である事は忘れてはならん。たとえモンスターの命であろうともだ」

「……うん、モンスターだって生きてるんだもんね」

「分かっていればいいんだ」

 

宝石を袋にしまい込み、リュカとパパスは再び歩き出す。

それからも何度かモンスターの襲撃を受けるが左程大した相手でも無く、リュカも少し怪我をしたりしたがパパスのホイミによって瞬く間に治療される。

 

それから暫く歩いた所で遅めの昼食を取っているリュカの耳に何やらか細い声が聞こえて来た。

何処と無く、泣いている様な助けを求めている様なそんな声だ。

 

「どうしたリュカ?」

「誰かが助けてって言っているみたい」

「助けを?お、おいっ、リュカ!」

 

そう言うとリュカはパパスが止める間も無く走り出した。

 

 

 

 

 

「ピキィ~~、ピキィ~~」

『ピキャーーー!ピキャーーー!』

 

リュカが駆け付けた場所では一匹の小さなスライムが数匹のスライムに取り囲まれて攻撃を受けていた。

 

「…ひどい、仲間のはずなのに大勢でいじめるなんて。こらーーっ、やめろーーー!」

 

『ピキャアッ!?』

「ピ、ピキュゥ~~?」

 

突如、乱入して来たリュカの攻撃を受けたスライム達は一瞬たじろいだが、すぐに立ち直ると其々リュカに襲い掛かって行く。

傷付けられていた小さなスライムはそんなリュカを不思議そうに見ていた。

 

「このぉ、このぉ!負けるもんか!」

 

攻撃を続けるリュカだが、スライムとはいえ多数が相手なので徐々に追い詰められていた。

 

『ピキャアーーーーッ!』

「うわっ!」

 

背中に不意打ちの体当たりを受けたリュカは体勢を崩して倒れ、残ったスライム達が一斉に襲いかかろうとした。

 

(うむ、此処で限界だな)

 

リュカの資質を見極めようと、あえて木陰で見守っていたパパスが飛び出そうとすると"それ"は起こった。

 

「ピキイィィーーーーッ!」

 

何と、驚いた事に先程まで震えていた傷だらけのスライムがリュカを守ろうと飛び出して来たのだ。

 

「な、何だとっ!?」

 

その行動にパパスは驚き、他のスライム達も虚を衝かれたらしく、その隙にリュカも起き上がって体勢を立て直していた。

 

「ありがとう、助けてくれたんだね」

「ピイ、ピイ」

「ようし、コイツらなんか僕達でやっつけちゃおう!」

「ピイーーーッ!」

 

そしてリュカとスライムは敵スライム達を迎え撃ち、パパスもその戦い振りを見て感心する。

スライムは先程までの怯えを微塵も見せずに素早い動きで敵スライム達を翻弄し、その隙にリュカが次々と倒して行くのは即席コンビとは思えない程見事なチームプレイである。

 

「とおりゃぁーーーっ!」

「ピキイーーーーッ!」

 

そして最後の一匹をひのきの棒の一撃と体当たりで倒すのであった。

 

「はあ、はあ。や、やったぞ~~」

「ピキュゥ~~」

 

敵スライム達を全滅させた二人は流石に疲れたらしく、そのまま地面にへたり込んだ。

 

「見事だったぞ、お前達」

「あっ!と、父さん」

「どれ、傷を見せてみろ。《ホイミ》」

 

パパスの唱えた回復呪文《ホイミ》によってリュカの傷口は瞬く間に塞がっていく。

 

「あの、父さん。この子も…」

「分かっている、リュカの相棒も治してやらねばな。《ホイミ》」

 

そう言うとパパスはリュカの傍らでへとへとになっていたスライムにもホイミをかけてやり、傷の癒えたスライムはリュカに縋り付いて甘えだした。

 

「もう大丈夫だよ」

「ピイ、ピイ~~」

「あはは。無事でよかったね」

 

そんな光景を見つめているパパスの口元には自然に笑みが浮かんでいた。

 

(やはりマーサの子供だな。同じ力を受け継いでいたか)

「さあ、少しばかり遅れてしまった。先を急ぐぞ」

「父さん、この子も連れていっていい?」

「ああ、良いとも。リュカを守ろうと一緒に戦ってくれたのだからな、悪いモンスターでは無いだろう」

「わーーい、やったぁーー!」

「ピイ、ピイーーー!」

 

リュカはスライムを抱き抱えて歩き出し、スライムはリュカの腕から抜け出すと頭の上に攀じ登り、嬉しそうに声を上げる。

 

「えっと、名前を付けてあげなきゃね。どんな名前がいいかな?え~と、え~と」

「…トン」

「そうだ!絵本で読んだ事のある剣士の名前でピエールがいいな。今日からキミはピエールだよ」

「ピイ、ピイ、ピイーーー♪」

「よろしくね、ピエール。ところで父さん、何か言った?」

「い、いや。別に…何も」

「ん~?」

「ピィ~~」

 

何故か残念そうに肩を落とすパパスにリュカは小首を傾げ、ピエールは不思議な安堵感を感じていた。

 

 

 

 

そして空が茜色に染まり始めた夕暮れ時、二人と一匹は懐かしのサンタローズへと帰って来た。

 

「やっと帰って来たんだね父さん!」

「そうだな、リュカ」

 

村の入り口には見張りの村人が立っていて、二人を見つけると警戒するがそれがパパスだと気付くと満面の笑みで二人を迎える。

 

「パパスさん、パパスさんじゃないですか!帰って来たんですね!!」

「おお、エーじゃないか、長い間留守にしたな。これから暫くはこの村に腰を落ち着けるつもりだ」

「それは皆が喜びますよ。……それはそうと、その子の肩に乗ってるのは…スライム?」

 

門番のエーはリュカの肩の上のピエールを見るや否や、槍を向けようとするがパパスは笑みを浮かべながらそれを手で制す。

 

「心配は要らぬぞ。このスライムには邪気は無い」

「ピエールは僕の友達なんだ。悪い事はしないから怖がらないで」

「ピッピィーー」

「君は…リュカくんか、大きくなったな。パパスさんやリュカくんが大丈夫と言うのなら心配はいらないな。じゃあパパスさんが帰って来た事を皆に報告しなきゃ」

 

そう言うとエーは村へと駆け出し、喜び勇んで村中にパパスが帰って来た事を叫んで回った。

 

「おぉーーーいっ!パパスさん達が帰って来たぞぉーーーーっ!」

「お帰り、パパスさん」

「やあ、良く帰って来たな!今夜は一杯飲みながら旅の話を聞かせてくれ」

「わあーーいっ!パパスさんが帰って来たぁーーー♪」

 

村人達は皆笑顔で二人を迎え、パパスも笑いながらそれに応える。

そして家が見えて来ると玄関の前に少し小太りで、召使いのサンチョが待っており、人当たりの良い笑顔で二人を迎えてくれた。

 

「坊っちゃまーーーーーっ!坊っちゃん、坊っちゃんではないですか!」

「ただいま、サンチョ」

 

サンチョはリュカに駆け寄ると抱き抱えながらクルクルと回る。

 

「おお、坊ちゃんは大きくなられましたな」

「うん。僕、大きくなったでしょ」

「留守の間ご苦労だったな、サンチョ」

「パパス様、このサンチョ、パパス様とリュカ様のお帰りを一日千秋の想いでお待ちしていました」

「うむ、心配をかけて悪かったな」

「さあ、家の中へ」

 

そしてパパスとリュカは懐かしの我が家へと入ると其処には金色の髪を両側で纏めた一人の女の子が待っていた。

 

「お帰りなさい、おじ様」

「君は確か…」

「リュカ!私の事、覚えてる?」

「うん、覚えているよ」

 

リュカがそう応えると女の子の顔には満面の笑みが浮かんだ。

 

「ただいま、ビアンカ!」

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

《次回予告》

 

幼馴染の女の子、ビアンカ。

久しぶりの再会なのにやっぱり少し乱暴だった。

病気だという彼女のお父さんの薬を作る為に薬師のおじさんをさがして洞窟の中を探検だ!

そこで出会ったのは……

 

第三話「洞窟の中の小さな冒険」

 

「大丈夫、いじめたりしないよ」

 

 




(`・ω・)書き換え版、二話目でした。
旧版とは違い、ピエールは倒されてから仲間になるのでは無く、最初から魔王の邪気に犯されていないと言う設定に変えました。
資質は在ったとしても今だ魔物使いの力に目覚めていない子供の頃だからこっちの方がしっくり来る感じがするのですよ。

( ;ω;)それと、モンスターとの戦闘くらい今までの旅の間にもあったんじゃないか?というツッコミは無しの方向でお願いします。


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第三話「洞窟の中の小さな冒険」

 

 

「覚えていてくれたのねリュカ。でも、2歳年上のお姉さんを呼び捨てにしてもいいのかしら?」

 

そう言いながらビアンカはリュカの口を掴み、思いっきり両側に引っ張る。

 

「いひゃい、いひゃい、ほめんなはい、ヒアンファおねへひゃん!!」

「解ればいいのよ。でもやっぱり呼び捨てでいいわよ」

「…だったら、ほっぺた引っ張らなくてもいいじゃないか」

「「「ははははは」」」

 

大人達はそんな子供達を微笑ましそうに笑っていた。

 

「リュカ、おじ様達は大人の話があるだろうから私達は二人で遊びましょ」

「うん、遊ぼ」

 

ビアンカとリュカはそう言いながら二階へと上がって行った。

 

「それでマミアよ、何の用事なのだ?私達が帰って来る事を知っていた訳ではあるまいに」

「実はウチのダンナが病気になって寝込んでしまってね。だから薬師のビーに薬を調合してもらいに来たんだけど洞窟に材料の薬草を取りに行ったまま戻って来ないんだよ」

「う~~む、そうか。私もあの洞窟には用事がある。ついでと言っては不謹慎かもしれないが明日にでも探してみよう」

「頼んだよパパスさん」

 

 

―◇◆◇―

 

「ところでリュカ、さっきから気になっていたんだけどそのスライムはどうしたの?」

「帰ってくる途中で友達になったんだ、名前はピエール。ピエール、この女の子はビアンカ、僕のお姉ちゃんみたいな人なんだよ」

「ピィ、ピッピィー」

「魔物と友達になるなんて、アンタはホントふしぎな子ね。まあいいわ、私はビアンカ、よろしくねピエール」

「ピィーー♪」

 

笑いながらピエールの頭を撫でてやるとピエールは嬉しそうに鳴きながらビアンカの手に頭を擦りつける。

 

「挨拶は終りだね。じゃあ、何して遊ぶ?ビアンカ」

「そうね、なら本を読んであげるわ。この本なんか良さそうね」

 

ビアンカは本棚から一冊取り出してペラペラとめくるとそのまま本棚に戻し絵本を取り出す。

 

「やっぱりリュカには絵本の方がいいわよね」

「読めないんなら素直にそう言えば…」パコーーンッ!!

「良く聞こえなかったけど何か言ったかしら?」

「……何も言ってません…」

「ピィ~~」

 

リュカは涙を滲ませ、叩かれた頭を擦りながらビアンカと絵本を読んでいく。

ピエールは何やら怯えてる様だ。

 

 

―◇◆◇―

 

「ビアンカーー、そろそろ宿に帰りますよ」

「はーい、ママ。じゃあリュカ、またね」

「うん、またねビアンカ」

 

ビアンカ達は宿へと戻り、リュカは一階へと下りて行く。

 

「さあ、坊っちゃん。今日はこのサンチョが腕によりをかけて御馳走を作りますからね」

「わーい、楽しみだなーー!」

 

その日の夕食は思った以上に豪勢で、リュカは久しぶりに腹一杯の食事に満足したようですぐに眠りこんでしまった。

 

 

 

翌日

 

「ふあぁ~~~、お早う」

「お早うございます、坊っちゃん。朝食の用意は出来てますよ」

「さあリュカ、早く顔と手を洗って来なさい」

「は~~い」

 

リュカがまだ食べている時、いち早く食事を済ませたパパスは立ち上がるとリュカに話しかける。

 

「リュカよ、私はこれから用事があるので出かけるが決して一人で村の外へは出てはいかんぞ」

「うん、分かったよ。行ってらっしゃい、父さん」

 

 

食事を続けるリュカをサンチョは懐かしそうに見ながら呟く。

 

「本当に坊っちゃんはだんだんとお母上に似て来ましたなぁ。お母上のマーサ様もお優しい方で魔物さえもマーサ様の前では子猫の様に大人しくなったものです。ちょうどこのピエールの様に」

「ピイ?」

「そうなの?」

「ええ、本当ですとも。(あんな事さえなければ今頃リュカ様もお城で何不自由無く、幸せに暮らしていたものを……)」

 

「ごちそうさま!じゃあ、遊びに行ってくるね。行こう、ピエール」

「ピッ、ピィーー」

 

昔の事を思い出し、暗い表情になっていたサンチョだが元気に駆け出すリュカを穏やかな顔で見送る。

 

「気を付けて下さいね、危ない事はなさらない様に」

「分かったーー!」

 

村の中を歩くリュカだが、もう春も間近だというのに肌寒さに震えていた。

畑にも作物は実らず、焚き火で暖を取っている村人も居る。

 

「うう~、寒い寒い。どうしたっていうんだろうね今年は?」

 

「皆も寒そうだな。早く春が来ればいいのにね」

「ピイ、ピイー」

 

そして、宿屋に着くとリュカは二階に上がりビアンカ達が泊っている部屋へと入って行く。

 

「ビアンカ、お早う!」

「おや、パパスさん所のリュカじゃないか」

「お早うおばさん。ビアンカは?」

「折角遊びに来てくれて悪いんだけどね、ビアンカはまだ寝てるんだよ」

「まだ?僕は朝ご飯も食べて来たのに」

 

そう言いながらベットで寝ているビアンカを覗き込むが、マミヤは寝ているビアンカの髪を優しく掻き分けながらリュカに言う。

 

「この子は病気の父親が心配でね、昨夜も中々寝付けなかったみたいなんだよ」

「そうなんだ、ごめんなさい」

「ははは、いいんだよ。だからもう少しビアンカを寝かしてやってね」

「うん。じゃあね、ビアンカ」

 

そう言いながら部屋を出て、扉を閉めようとするとマミヤの呟きがリュカの耳に聞こえて来た。

 

「はあ~、パパスさんも忙しそうだしね。誰か捜しに行ってくれたらねぇ」

 

宿屋を出て、少し歩いた所でリュカは足を止めるとピエールは不思議そうにリュカを見上げる。

 

「ピイ?」

「そうだ!ピエール、僕らで薬師のおじさんを探しに行こうよ」

「ピイ、ピイピイ」

 

そして、いざ洞窟に乗り込もうとするのだが流石に武器がひのきの棒では心許無い。

そこで武器屋で新しい武器を買おうとしたら店の親父は。

 

「ほう、ビーの奴を捜しに行くのか。だったら特別サービスだ、今あるゴールドとひのきの棒を買い取った分を足して銅の剣を売ってやろう。それでもゴールドは足りないんだけどな、坊やの勇気に免じてだからな。他の皆には内緒だぞ」

 

と、銅の剣を売ってくれた。

 

「ありがとう、おじさん!頑張って来るね」

 

リュカはそう言うと買ったばかりの銅の剣を腰布に挿し、喜び勇んで駆けて行った。

 

「ははは、冒険ゴッコか。俺も小さい頃はよくやったものだ」

 

どうやら彼はリュカは冒険ゴッコのつもりで銅の剣を買おうとしてると思ったらしい。

だから、リュカが洞窟に入って行くのが視界に入ってもそれに気付かなかった。

 

 

 

~サンタローズの洞窟~

 

 

洞窟に入ると流石に薄暗くなって来て、ピエールが一緒とは言え不安に駆られて来る様だ。

なのでリュカは歌を歌いながら先に進む事にした。

 

歌を歌っているリュカの前の方から何やら物音が聞こえて来た。

そして、暗闇の中から出て来たのはスライムとおおきづちの二匹だった。

 

「ピエール、同じスライム相手だけど戦える?」

「ピィッ!ピッピィーー!」

 

ピエールは任せろと言う様に身構えている。

おおきづちは初めて見る魔物だが、パパスからその特徴などは聞いているので驚く様な事は無かった。

 

だが、ピエールとは違うその赤く濁った瞳を見ると何処となく寂しくなるリュカであった。

 

「本当なら友達になれるかもしれないけど、かかって来るんなら手加減は出来ないよ!」

 

『ピキィ~~、ピキャーーーッ!!』

「ピィ、ピキーーーイ!!」

『ピキッ……ピギャァッ』

 

スライムはピエールに襲い掛かるがピエールはその突進を軽くかわし、逆に体当たりをかける。

ピエールの体当たりをまともに受けたスライムはそのまま壁にぶち当たり弾け飛んだ。

 

『フガーーー!』

「このぉーーーっ!!」

 

リュカの頭ほどの大きさの木づちを振り上げながら突進してくるおおきづちにリュカは慌てる事無く振り下ろして来る木づちをかわし、銅の剣を振り抜いた。

 

『フギャーーー!』

 

おおきづちは悲鳴を上げながら真っ二つになり、地面に落ちると溶ける様に消えて行き、宝石だけが後に残った。

 

その宝石を拾い上げるリュカの所にピエールが倒した相手の宝石を咥えてやって来た。

 

「ごくろうさま、ピエール」

「ピィ、ピィ」

 

ピエールから宝石を受け取るとリュカはピエールの頭を優しく撫でてやると、それが気持ちいいのか体を揺らしながら喜んでいる。

 

そしてリュカは手の中にある宝石を見つめると寂しそうに呟いた。

 

「僕が奪った命……」

「ピィ?」

「ううん、何でもないんだ」

 

宝石を袋の中にしまい込むとリュカは再び歩き出し、そして次々と襲い掛かってくる魔物達。

 

蝙蝠の様な姿をした「ドラキー」

丸い体に何本ものとげを生やした「とげぼうず」

大きめの体で頭に鋭い角を生やした「いっかくウサギ」

突然足元の地面から攻撃して来る「せみもぐら」

 

此処まで襲って来た魔物達に共通するのはその瞳が赤く濁っている事、思い返せばピエールを襲っていたスライム達も瞳は赤く濁っていた。

リュカは青く澄んだピエールの瞳を見つめながらはそんな事を考えていた。

 

 

 

奥へと進み、地下に続く階段を下りると岩が崩れている所が見えた。

近づいてみて見ると更に下の階に岩が落ちている様だ。

 

「危ないな、僕達も気を付けようねピエール」

「ピイ、ピイ」

 

更に奥へと進み、何度目かの戦闘の際にピーエルが傷を受けてしまった。

 

「だ、大丈夫、ピエール?」

「ピ…ピィ~~」

 

ピエールはリュカに心配をかけまいと平気そうな振りをするが、それがやせ我慢だと言う事は誰が見ても分かる事であった。

 

「こんな時、父さんだったら《ホイミ》でピエールを治せるのに……、あれ?」

 

リュカが《ホイミ》と口にした際、手から何か温かな力を感じ、自分の体の傷が癒えている事に気付いた。

それはパパスにホイミをかけてもらった時と同じ暖かさだった。

 

「…ひょっとして……、ホイミ」

「ピ?…ピィ~~~♪」

 

ピエールに手をかざしてホイミと唱えると、リュカの手から光が零れてその光はピエールの体の傷を癒して行く。

 

「ホ、ホイミだ!ピエール、僕にもホイミが出来たよ!」

「ピイ、ピィーー♪」

 

カサリ

 

そうやって喜んでいると、後ろの方から物音が聞こえて来た。

神経が過敏になっているリュカはすぐに振り返り、銅の剣を構えながら叫んだ。

 

「ま、魔物!? かかって来るならかかって来ーいっ!!」

「ピキーーィッ!!」

 

振り向いた先には一匹のスライムが居り、怯えながら叫んで来た。

 

「まっ、待ってよ!虐めないでよ、僕は悪いスライムじゃないよーー!!」

「ス、スライムがしゃべった?」

「ピイ?」

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

《次回予告》

 

薬師のおじさんを探して洞窟の中を冒険していると突然現れたしゃべるスライム。

でも目はピエールと同じで青く澄んでいる、悪いスライムじゃないね。

一人ぼっちなんて寂しいよ、友達になろう!

 

次回・第四話「二人目の友達、スラリン」

 

「友達、嬉しいな」

 

 

 



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第四話「二人目の友達、スラリン」

 

スライムが喋った事に驚くリュカだが、その瞳がピエールの様に青く澄んでいる事に気付くと構えていた銅の剣を下ろし鞘の中へと戻した。

スライムはその行動に驚きながらも少しづつリュカへと近づいて行く。

 

「僕の事、悪いスライムじゃないって信じてくれるの?」

「うん、君の目はピエールみたいにキレイだからね。悪いモンスターならもっと嫌な色をしてるよ」

「ピィ、ピィ」

 

リュカがスライムの問いに答えると、ピエールもまた「その通り」と言わんばかりに頷いている。

 

「へぇ~~、君の名前はピエールって言うのか」

「ピイ、ピィピィ。ピィ~~?」

「うん、とてもいい名前だね。僕?僕の名前はね…」

「君はピエールと話せるの?」

「そりゃ、僕もピエールも同じスライムだもん」

「あ、そう言えばそうだったね。あはは」

「ピィ~~…」

 

照れくさそうに頭を掻きながら笑うリュカをピエールは呆れた様に見つめ、スライムはそんな二人を不思議そうに眺めながら語りかける。

 

「君は人間なのに何で魔物のピエールと仲良くしてるの?ピエールって名前も君が付けてくれたってピエールが言ってるし」

「何でって、友達と仲良くするのは当たり前だろ?」

「友達……」

 

自分と同じスライムのピエールを当たり前の様に友だちと言うリュカをスライムは少し眩しそうに見つめる。

 

「ピィ、ピィピィ」

「そうだね、忘れていた。僕の名前はスラリン、よろしくねピエール。そして…」

 

スラリンは自己紹介をすると少し不安そうにリュカに目を向ける、すると。

 

「僕?僕の名前はリュカ。仲良くしようね、スラリン」

「ピィッ、ピィ~~」

「あ……う、うんっ!」

 

暗い洞窟の中で一人ぼっちだったスラリン、人見知りで寂しがり屋だった彼に初めて友達と言う光が射した瞬間だった。

 

 

~スラリンが仲間になった~

 

 

洞窟の中ではスラリンが先頭になって道を案内している。

流石に洞窟の中を住処にしていただけはあって魔物の少ない所を選んで進んでいる。

 

「ところでリュカ」

「ん、何だいスラリン?」

「リュカはどうやってピエールと友達になったの?」

「サンタローズに帰る途中でピエールは他のスライム達に苛められてたんだ。だから僕はピエールを助けてそれで友達になったんだ。ね、ピエール」

「ピイ、ピイ」

「でもなんでピエールは苛められてたんだろ?」

「それはピエールが"染まっていなかった"からだよ」

「…染まっていなかった?」

「うん。襲って来る魔物を倒した後、宝石が残るだろ?」

「……うん…」

 

リュカはそう答えながら袋の中から宝石を取り出す。

 

「それは僕達の体の中にある魔力が魔王の悪い波動で魂ごと結晶になったものなんだ。魔王の波動に"染まりきってしまえば"もう元のふつうの魔物には戻れないんだ。ピエールはまだ魔王の波動に"染められて"なかったから他のスライム達から襲われたんだと思う」

「そうなんだ。悪いスライムにならなくて良かったね、ピエール」

「ピィーーー♪」

 

そんな風に話をしながら進んでいると、地下に続く階段がありリュカ達は地下に降りると何処からかうめき声が聞こえて来たのですぐに駆け寄って行く。

其処に居たのは一人の男で上の階から落ちて来たであろう岩に足を挟まれていた。

 

「うう~~、だ、誰か~~。誰か助け…」

「ピィピィ」

「うわぁーーーーっ!! ま、魔物…もうダメだぁ~~~~っ!!」

「落ち着いて、おじさん」

「わあぁ~~……、へ?」

 

近づいて来たピエールに慌てふためく薬師だが、続いて聞こえて来たリュカの声に幾分落ち着いた様だ。

 

「こ、子供?何で子供がこんな所に?」

「もしかしておじさんはは薬師の人?」

「あ、ああ、そうだが」

「よかった、探してたんだ。ビアンカのお母さんが薬が来るのを待っているんだ、早く帰ろうよ」

「そ、そうか。ならこの岩をどかしてくれないか、身動きが取れないんだ」

「分かった、ピエールとスラリンも手伝って」

「ピイッ」

「分かったよ、リュカ」

 

リュカとピエール達は岩を力一杯に押して行くと、岩はゆっくりと動き出し薬師のビーはようやく解放された。

 

 

―◇◆◇―

 

「そうか、君はパパスさんの息子のリュカくんか。しかしその魔物達は一体……」

「ピエールとスラリンは僕の友達なんだ。悪い魔物じゃないよ」

「ピイーーー♪」

「友達……、嬉しいな」

 

岩の下から解放された薬師のビーはリュカのホイミで傷を癒してもらい、皆で話をしながら洞窟から出る為に歩いている。

歩いて行く先には光が射して来てようやく洞窟から抜け出した。

 

「さて、早速ダンカンさんの薬を作らなくてはな。リュカくん、ありがとうな」

「どういたしまして。早く薬を作ってあげてね」

「ああ、任せておきなさい」

 

ビーは笑いながら親指を立て、仕事場へと走って行った。

 

「さて、僕達も帰ろう。スラリンの事も父さんとサンチョに紹介しなきゃいけないしね」

「本当にいいのかな?」

「いいに決まってるだろ。僕達はもう友達なんだから」

「ピイーー」

「うん、ありがとうリュカ」

 

そして、リュカ達も家へと帰って行く。

 

 

 

翌日。

 

ビーが慌てず急いで正確に頑張った為、薬は明け方には完成し、マミヤとビアンカはさっそく薬を持ってアルカパへと帰る事になった。

 

「女二人だけでは何かと危険だからな、私が護衛して行くとしよう。リュカよ、お前も来るか?」

「うん、もちろん僕も行くよ」

「ピイッ」

「僕はまだ外の人間が怖いから留守番してるよ」

 

ピエールはもちろん自分もついて行くと張り切り、スラリンはまだ外が怖いと留守番しようとする。

そんな二人にパパスは。

 

「ピエールには悪いがお前も留守番だ」

「ピィーー?」

「どうして、父さん?」

「アルカパはこの村より幾分大きな町だからな。そんな所にピエールを連れて行くと騒ぎになりかねん」

「ピエールは悪い魔物じゃないよ!」

「それはよく分かっている。だが、人は魔物というだけで怖がるのだ。それにダンカンの家は宿屋だからな、悪い噂が立つと客が泊らなくなるやもしれん」

「ごめんなさいね、リュカ」

「ううん、仕方ないよ。ピエール、スラリン、そういう事だから留守番しておいてね」

「ピィ~~」

「うん」

 

 

―◇◆◇―

 

「坊っちゃま、パパス様、お気をつけて行って来て下さい」

「ピィ~~」

「気をつけてね、リュカ」

 

サンチョにピエール、スラリンの見送りを受けてパパスとリュカ、そしてマミヤにビアンカはアルカパへと歩いて行く。

 

「ところでリュカ?」

「何?ビアンカ」

「その頭のタンコブどうしたの?」

「……お尻ペンペンとゲンコツ、どっちがいいかって父さんに言われたから……。さすがにもうこの年でお尻ペンペンはかんべんだよ」

 

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

《次回予告》

 

やって来たアルカパ、ビアンカの家の宿屋も凄く大きい。

でもそんな村の中で……

あいつら、なんて酷い事をするんだ。

離してほしければオバケ退治?

いいよ、やってやるさ!

 

次回・第五話「オバケ退治にレヌール城へ」

 

オバケなんか怖くない!ゲンコツよりは怖くない。

 




(`・ω・)洞窟に入った筈のパパスがビーに気付かなかったのは、彼しか知らない近道を通った為です。


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第五話「オバケ退治にレヌール城へ」

 

 

~アルカパ~

 

サンタローズから半日ほど歩いた所にアルカパの町はあった。

元々、アルカパとサンタローズは「レヌール」という小国に属していたがレヌール王家は後継者を得る事が出来ずに断絶、王家は滅びレヌール城も今は廃城となり訪れる者は無いと言う。

 

それにより、現在アルカパとサンタローズは大国「ラインハット」に併合されている。

 

そして漸くリュカ達はアルカパに辿り着いた。

 

「ただいまー、やっと帰って来たわ」

 

ビアンカは元気に叫びながらアルカパの町の門を駆け抜け、門番をしている男はそんなビアンカに笑顔で話しかける。

 

「お帰り、ビアンカちゃん。薬は手に入ったかい?」

「ええ、これでパパもすぐに元気になるわ」

「それは良かった。さあ、早く薬を持って行っておあげ」

「うん、じゃーねー」

 

ビアンカは家でもあるこの町一番の宿屋へと駆けて行き、マミヤとリュカにパパスも漸くアルカパに辿り着いた。

 

「全く、ビアンカったら。少し急ぎ過ぎよ」

「はははは、いいじゃないか。それだけダンカンの事が心配だったんだろう」

「お帰り、マミヤさん。それにアンタは…パパスさんじゃないか。久しぶりだな」

「ああ、久しぶりだな。シーよ」

 

「父さーーん、早く行こうよ」

 

何時の間にか先に進んでいたリュカが飛び跳ねながらパパスを急かしている。

そんなリュカにパパスは微笑ましそうに笑いながら答えてやる。

 

「分かった分かった、そう急かすな。ではな、シー」

 

門番をしているシーに挨拶を済ませるとパパスとリュカはマミヤに連れられて宿屋へと入って行き、ダンカンが寝ている寝室に案内される。

 

「ダンカン、久しいな。具合はどうだ?」

「おお、パパスじゃないか。何時帰って来たんだ?ゴホゴホッ」

「起きずともよい。マミヤ、早くダンカンに薬を」

「ありがとうパパスさん。さあアンタ、薬だよ」

 

ダンカンは薬を飲ませてもらうと楽になったのか、顔色も若干良くなって来た。

 

「もう大丈夫だろう。リュカ、私達は少し話があるからお前は町でも歩いて来なさい。ビアンカちゃん、リュカの案内をたのめるかい?」

「ええ、任せておじ様。行こう、リュカ」

「うん。お願いするね、ビアンカ」

 

そうして二人は町へと出かけて行く。

パパスと一緒にいろんな所を渡り歩いて来たリュカだが、立ち寄るのは小さな村や町ばかりであった為、アルカパはリュカには初めての大きな町であった。

ビアンカと一緒に色んな店などを覗いたりしていると何処からか小さな悲鳴みたいな声が聞こえて来たので、その声の方に向かってみると、池の中にある小島で、二人の子供が小さな動物を苛めていた。

 

「ほらほら、もっとちゃんと鳴いてみろよ」

『キュ~ン……、ガウゥ~~』

「違うだろ、猫ならニャーンて鳴かなきゃダメだろ」

『ギャンッ!』

 

小さな動物は怪我をしているのか抵抗も出来ずに蹲り、力無く呻き声を上げているが、それでも子供達は構わずに面白がって苛め続けている。

 

「あの子達、なんて酷い事をしてるんだ?」

「あいつ達は近所でも有名な悪ガキよ」

「こらーーっ!弱いものいじめはやめなよっ!!」

「な、何だよお前は。コイツは俺達が見つけたんだ、どうしようと俺達の勝手だろ」

「そうだそうだ、邪魔するなよ。それに面白いだろ、コイツ鳴き声がへん……」

 

リュカはすぐさま駆け出して苛めを止めさせようとするが子供達は耳を貸さずに苛めを続けようとしていた。

だが、リュカの後ろから近づいて来るビアンカの姿を見つけると、とたんにオロオロとしだした。

 

「鳴き声が……何だって?」

「ビ、ビアンカ……」

 

いじめっ子の少年は少し顔を赤くしたが、すぐ頭を振りビアンカに向き直す。

 

「何の用だよ?」

「猫ちゃんを放してあげなさいよ」

「そうだよ、可哀想じゃないか」

「嫌だね」

「どうしても嫌なの?」

「ぐっ……、い…嫌だ…」

 

いじめっ子兄弟は猫?を放せというビアンカとリュカにあくまでも嫌だと言って譲らない。

正直、ビアンカに淡い思いを寄せている為、言う通りに放してやろうとも思ったが、男としての最後の意地が勝っている様だ。

彼等の足元には木に紐で繋がれた猫?が辛そうに蹲っている。

 

猫?と表記してるのはその動物が見た目、猫には見えない為だ。

この動物…否、この魔物の名は「キラーパンサー」その幼生体の「ベビーパンサー」である。

 

本来なら大人達がそんな恐ろしい魔物を町に入れる事を許す筈もなかったのだが本来「キラーパンサー」はこの地方と言うよりこの大陸には住んでいない魔物なので大人達もそれと気づかずにいたらしい。

 

「じゃあ、どうやったら放してくれるの?」

「そうだな……、じゃあ噂のレヌール城のオバケを倒したらこの猫はお前達にやるよ」

「レヌール城のオバケ?それって何、ビアンカ?」

「此処から少し離れた所にある古いお城で、もうずっと昔から誰も居ない筈なのに夜になるとお城から灯りが漏れ出して気味の悪い笑い声なんかが聞こえて来るのよ」

「そ、そっか…。なら、そのオバケを倒して来たら猫さんを放してくれるんだね」

「よし、約束だ。オバケ退治が出来たらこの猫はお前達の物だ」

「決まりね!リュカ、さっそく今夜出かけるわよ」

「うん!と、その前に……“ホイミ”」

 

リュカは辛そうにしているベビーパンサーに近づくとホイミを唱えてその体に付けられた傷を癒して行く。

 

「ガゥ?」

「もうちょっとの辛抱だよ。すぐに助けに来て上げるからね」

「グゥ…、クゥ~~ン」

 

ベビーパンサーはリュカの言う事が分かったのか、しきりに頷きながらその尻尾をパタパタと振っていた。

 

「リュカ、あなた魔法が使えたのね」

「まだホイミだけだけどね」

「とにかく、オバケ退治がすんだらその猫は私達の物になるんだからね。もし、また苛めて傷が増えてたらタダじゃ済まさないわよ」

「わ、分ったよ」

「じゃあリュカ、行きましょ。ちゃんと準備しておかなきゃ」

「うん、そうだね」

 

それからリュカとビアンカは武器屋へと行き、戦力の強化を計った。

リュカは新たにブーメランを、ビアンカには茨の鞭を買い、防具も革の鎧に革のドレスを購入。

 

それらはばれない様に宿屋の裏に置いてある樽の中に隠しておいた。

準備は万端、後は夜になるのを待つだけなので体力を温存する為にゆっくり休んでおこうと宿屋の中に入るとパパスは帰る準備をしていた。

 

「戻ったか、リュカ。ダンカンの見舞いも済んだ事だしサンタローズに帰るぞ」

「え…ちょ、ちょっと待ってよ父さん」

「ん?どうしたリュカ」

「今から帰るの?」

「ああ、今からなら夜になる前に帰り着けるだろうからな」

「そ、そんな…猫さんが…」

「リュカ……」

 

今帰ったらレヌール城のオバケ退治は出来ず、猫を助けるという約束が果たせない。二人共、どうしようかと悩んでいるとそこに助けの声が聞こえて来た。

 

「ちょっとパパスさん。そんなに急いで帰る事もないだろう、一日位泊って行きなよ」

「そ、そうよおじ様!私ももう少しリュカと遊びたいわ」

「僕もビアンカともう少し一緒にいたいよ」

「そ、そうか。ならば少し甘えさせてもらうとするか」

「わーーい。(何とか助かったね、ビアンカ)」

「今日は一緒に寝ましょうね、リュカ。(危ない所だったわ。ママには感謝ね)」

 

両手を繋ぎ、飛び跳ねながら喜ぶ二人をパパスとマミヤは微笑ましそうに見つめている。

まあ、傍から見ると仲の良い二人が一緒に居られる事を喜び合っている様にしか見えないのだから。

 

だからこそ………

 

「これで家の宿屋も将来は安泰だね。リュカなら良い婿になれるよ、ねえパパスさん」

「マミヤはそんな風にリュカの事を狙っていたのか……」

「あら、当たり前じゃないか。ほほほほほほほ」

 

幸か不幸か、そんな大人達の会話は子供達の耳には届かなかった。

 

そして、大人達も眠りについた深夜、ビアンカは隣に寝ているリュカを起こし家から抜け出して行く。

念の為、パパスが寝ている所も覗いて見たがぐっすりとよく寝ていた。

それでも「マーサよ、私達のリュカは真直ぐに成長しているぞ」と、寝言を言った時には黙って行く事に罪悪感もあったが猫を助ける為だと自分達に言い聞かし、隠してあった武器と防具を身に付けてレヌール城へと歩き出した。

 

 

 

―◇◆◇―

 

「見えて来たわ、あれがレヌール城よ」

「うっわ~~。薄気味の悪い城だなぁ」

 

リュカとビアンカの視線の先に佇むのは、嘗ては壮観な白亜の宮殿で在ったであろうレヌール城。

しかし現在はその外見に当時の面影を残すのみで、暗雲に包まれ時折雷鳴が轟く怪しげな城と化していた。

 

「さあ、今更逃げるだなんて言う選択肢は無いからね。覚悟を決めなさい」

「に、逃げるつもりなんてないけど、気味悪い事には変わりないよ」

「グダグダ言わない。ちゃっちゃっと進みなさい」

「は~~い」

 

そして二人は城の正門から入ろうとするが、巨大な上要所要所が錆びついているらしくその扉は開かない。

何処か他に入る場所が無いかと探し回る内に、城の裏側に上へと登れる鉄梯子を見つけた。

 

「とりあえず、入れそうな場所は此処しか無い様ね」

「そうみたいだね。じゃあ、僕が先に上るからビアンカは後からついて来てよ」

 

登り終えた先にはアーチ状の門らしき場所、その先には城の中へと招き入れる様に扉が開いていた。

 

「あそこから入れるわね、行くわよリュカ」

「でも、何だか嫌な予感がするよ」

 

周りを警戒しながら進み、扉から城の中に入ろうとした瞬間、突如門らしき場所のアーチ状の部分から鉄格子が降りて来て二人は閉じ込められてしまった。

 

「…やっぱり」

「い、今更言っても仕方ないでしょ。こうなったら先に進むしかないわ」

「そうだね。城の中からなら他に出口があるかもしれないし。オバケを倒してから探そう」

「その意気よ」

 

半開きの扉を開いて中に入ると其処には幾つかの棺桶が並び、おどろおどろしい雰囲気の中、二人は身を寄せ合いながら進んで行く。

そして目の前に下の階に降りる階段が見えて来た時、リュカはすぐ隣に居た筈のビアンカの気配が消えている事に気が付いた。

 

「あれ?ビアンカ、何処に行ったの?いたずらは止めようよ」

 

しかし、何度呼びかけてもビアンカの返事は無い。

 

「もしかしてビアンカ……、オバケに攫われちゃったんじゃ…。た、大変だぁーーー!」

 

オバケに攫われた(と思ってる)ビアンカを探そうとリュカはとっさに駆け出した。

走り続けていると両端に石像が並ぶ廊下に出た。

驚きながらもビアンカを探す為に進んでいると、その中の一体が突如動き出し、リュカの行く手を阻む。

 

「な、何だよ、僕はビアンカを探さなきゃいけないんだ。邪魔をするならやっつけるぞ!」

 

『ゴォォーーー』

 

 

《動く石像》

 

人が作った石像に暗黒魔力が込められ、何も知らずに近づいて来た者に襲い掛かって来るトラップモンスター。

 

 

石で出来ているだけあって攻撃力はあるが、その分動きは鈍い為リュカは何とか攻撃をかわしつつ何とか倒す事が出来た。

 

「はあ、はあ。勝ったぞ、待っててねビアンカ」

 

廊下を進み、階段を上ると扉があり、その扉を開くと、其処は城の屋上の一角で庭園みたいな場所に墓が二つあった。

その墓石には「リュカのはか」「ビアンカのはか」と書かれていて、リュカは慌てて「ビアンカのはか」と書かれている墓石を動かし、中で寝かされていたビアンカを助け起こした。

 

「ビアンカ、ビアンカ、大丈夫?」

「う…うぅ~~ん」

 

何度か体を揺さぶっているとビアンカは目を覚ました。

 

「リ、リュカ!」

「ビアンカ、よかった…」

「わ、私…」

「どうする、今日はもう帰る?」

「そんな訳にはいかないでしょ!猫ちゃんを助けなきゃ」

「でも」

「私は大丈夫よ!さあ、先を急ぐわよ」

「ま、待ってよビアンカ」

 

少し怯えながらもビアンカは先へと進み、城の中へと入って行きリュカもその後に続く。

 

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

《次回予告》

 

 

捕まっている猫を助ける為にレヌール城にやって来た二人。

その城の中をさ迷い続けている王と王妃の魂。

リュカとビアンカはそんな王妃達も一緒に助けようとする。

そしてそんな二人に王妃達は……

 

次回・第六話「廃城の戦い」

 

「王様も王妃様も僕達が助けてあげるよ」

 

 




(`・ω・)モブの名前は考えるのが面倒なので適当です。


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第六話「廃城の戦い」

 

 

 

ビアンカを墓の中から助け出した後、リュカ達は再び城の中へと進んで行く。

下の階に降りると其処は嘗ては図書室だったのか、本棚が乱立し、その内幾つかの本棚は倒れ伏している部屋だった。

 

「……もうみんなボロボロで読めないわね」

「そうだね、もったいないな……。あれ?」

「どうしたの、リュカ?」

「いや、誰かそこにいた様な気が」

「もしかして、噂のオバケ?」

 

そう言い、少し怯えながら辺りを窺っていると淡い光に包まれた一人の女性の姿を見つけた。

 

「うわっ!」

「きゃっ!」

 

突然の事に驚いた二人だが、その女性の悲しそうな顔を見ると不思議と恐ろしさは感じなかった。

女性は二人を見つめた後、ゆっくりと歩き出し倒れていた本棚の中へと消えて行った。

 

「ビアンカ」

「ええ、あの本棚の下に何かありそうね」

 

 

―◇◆◇―

 

「「よいしょ、よいしょ」」

 

二人は力を合わせて倒れていた本棚を押すとその下から隠れていた階段を見つけ、下の階へと降りて行く。

少し進んだ場所に立派な扉があるので中へと入ってみると其処には天蓋付きのベットがあり、此処が嘗ては王と王妃の寝室であった事が分かる。

 

「ここは王様達の寝室だったのね」

「もうボロボロだけど立派なベットだったんだろうね」

 

『そうです。王族としての激務が終わった後、此処で王である夫と過ごす時間は私達にとって掛け替えのない穏やかな時でした』

 

二人が部屋の中を見回していると、何処からともなく女性の声が聞こえて来て、その方向に目を向けるとソファーにさっきの女性が座っていた。

 

「あ、貴女はひょっとして……お、王妃様ですか?」

『はい、私がレヌール王妃、アリナです』

「えっ、じゃあ王妃様が噂のオバケだったの」?」

「そんな訳ないでしょ!」

「ふぎゃんっ!」

 

ビアンカに拳骨を受けたリュカが頭を擦っているとアリナはゆっくりと語り出す。

 

『私とあの人との間には何時まで経っても子供が出来ませんでした。そして、何時しか私は何処からか流れて来た謎の病に倒れ、そのまま命付きました。それから後、あの人もまた同じ病にかかり死んでしまわれました。この城に尽くしてくれた家臣たちも同様に。その為、レヌール王家は途絶えこの地は隣国ラインハットに併合される事となりました』

 

「そうだったんですか…」

「王妃様達、かわいそう。ぐすん」

 

ビアンカとリュカはそんなアリナの話を聞きながらもその悲劇に涙を零していた。

 

『あなた達は優しい子供ですね、その綺麗な涙で私の悲しみも少しは癒されます。私達にもあなた達の様な子供がいれば…』

「でも、王妃様達は何故幽霊のままさまよってるの?」

 

ビアンカは疑問を聞いてみた。

アリナは目を瞑りながら顔を伏せ、少し考えてみたのか徐に顔を上げながらビアンカ達に答える。

 

『私達の体はこの城に葬られ、安らかな眠りの中に居ました。しかし、ある日突然その眠りは遮られました。何者かがこの城を牛耳り、私達の魂を呼び起こしたのです。その日から私の魂はこの城を彷徨い続け、同じ様に彷徨っているであろう王の魂とはその何者かの邪魔によってすれ違い続けているのです』

「酷い……」

「安心して、僕達はそのオバケを退治しに来たんだ。王妃様達も助けてあげるよ!」

「そうね、リュカと私でそんな奴コテンパンにしてやるわ」

「「えいえいおーー!」」

 

アリナのそんな二人を見つめる瞳には涙が浮かんでいた。

 

『ありがとう二人共、あなた達は本当に勇気がある子供ですね。あなた達に神の御加護がありますように』

 

そう言って送り出してくれたアリナを残して二人は再び城の中を捜し始めたが、その間も廃墟になった城に住み着いた魔物達が襲って来る。

 

大蛇の骨が邪悪な波動を受け、仮初の命で動き続ける「スカルサーペント」

まるで蛇の様に怪しげな炎の様な幽体の「ナイトウイプス」

長い舌を持つ見た目その物の「ゴースト」

捨て置かれた蝋燭に邪霊が取り憑いた「おばけキャンドル」

 

次々と襲い掛かってくる魔物達だが、幼いながらも幾度もの実戦でレベルアップを重ねているリュカ、そんな彼に負けじと闘うビアンカの前に魔物達も倒されて行った。

 

歩き続ける二人の前にアリナの時の様な淡い光の中に一人の男性の姿が浮かび上がって来た。

立派な服装に頭に乗っている王冠から、彼が王妃のアリナが言っていた王様だと言う事が見てとれる。

 

「すみません、あなたが王様ですか?」

『ん?おお、これは可愛らしいお客様達だ。……それにしても私の様な幽霊を目の前にして怖くないのかい?』

「全然、ねえリュカ」

「うん、王妃様と同じでぜんぜん怖くないよ」

『な、なんと、お前達は王妃に…アリナに会ったのかい?』

「ええ、王様の事も心配してたわ」

 

王妃の霊とも出会い、同じ様に彷徨っている事を伝えるとレヌール王は悲しい顔をして涙ぐんでいた。

 

「安心してよ王様、僕とビアンカが悪いオバケを倒して王様達を助けてあげるから。王妃様ともそう約束したんだ」

「そうよ、大船に乗った気持ちで任せておいて!」

『あ、ありがとう、勇気ある子供達よ。お礼と言っては何だが君達の現在のレベルを調べてあげよう』

 

レヌール王はそう言うとリュカとビアンカの頭の上に手をやり、何か呪文の様な言葉を呟くとその手に灯った光が二人の体を包んだ。

 

『ふむ、坊やのレベルは年齢からみても結構高いな』

「王様は神父様じゃないのにそんな事がわかるの?」

「こら!分かるんですかでしょう」

『はっはっはっ、構わぬよ。儂も神父達と同様に精霊の声を聞く修行はしておるからの、王座に着く者の嗜みと言う物じゃよ。坊やのレベルなら“バギ”が使えるだろう』

「バギ?バギってあの手から風がビューンって飛んでいくヤツ?やったーー♪」

 

レヌール王に調べてもらい、“バギ”が使えると知ったリュカは喜んで走り回るが、そんなリュカを見て面白くないのがビアンカである。

 

「王様、私は?私は何も呪文は使えないんですか?」

『落ち付きなさい、君もレベルアップしているからね。君は“メラ”と“マヌーサ”が使える様だ』

「メラとマヌーサ?」

『メラは炎を飛ばす呪文、マヌーサは霧の中に幻覚を見せる呪文だ』

「炎を飛ばす?……いいわね、ソレ。今の私に丁度いい呪文だわ」

 

ビアンカはちょっと危ない眼をして「くっくっくっ」と嗤う。

そんなビアンカを見てレヌール王は後頭部に大きめの汗を流し、リュカは涙目で怯え、王の体にしがみ付いていた。

 

『あ、あの娘は何かあったのかね?』

「オバケにさらわれて、お墓の中に閉じ込められたんだ」

『な、なるほどな…』

「さあ、リュカ。先を急ぐわよ」

「は、はひっ!」

 

先を急ぐと言うビアンカの言葉にリュカは怯えていたのか少し返事を噛んでしまう。

振り返ったビアンカの目が一瞬赤く光ってた様に見えたのだから仕方ないであろう。

 

「じゃあ王様、少し待っていてね。すぐにオバケ達を倒して王様も王妃様も助けてあげるから」

「僕もがんばるよ!」

『ありがとう子供達よ、私も力になりたいのだが命無きこの体では何も出来ぬ』

 

すまなそうに首を垂れるレヌール王に「気にしないで」と笑いながら答え、リュカとビアンカは城の中を進んで行く。

その間も襲い掛かってくる魔物達を撃退しながら先を進むと今迄で一番立派な扉を見つけた。

 

扉を開き、中に入ると玉座に緑色にくすんだフードを被った何者かが座っていた。

その者から感じる気配は今までの魔物とは明らかに違い、リュカとビアンカはこいつが王と王妃を苦しめている元凶だと直ぐに察した。

 

 

《親分ゴースト》

 

ゴーストとはいってもこの男は魔物では無く、れっきとした魔族である。

魔族、それはこの人間界とは別の次元にある魔界の住人でその保有する“暗黒魔力”を用いて魔物達を操る事が出来る。

この城に住み着いている魔物達もこの親分ゴーストに操られているのであろう。

 

 

「アンタが王様達を苦しめている一番悪い奴ね!」

『ひひひひひひ、だとしたらどうするね?』

「僕らがやっつけてやる!!」

『おお、勇ましい勇者様だ。ところでお腹は空いてないかい?』

「お腹?」

 

言われてみれば二人は武器や防具は用意していたが、夜食になる食べ物を用意しておく事にまでは頭が回らなかった。

そして、その事に気付いた途端二人のお腹は「ぐ~~」と鳴った。

 

『ひひひひひひ、どうやら腹ペコの様だな。ならば食事に御招待するとしよう』

「う…、い、いらないよっ!」

「そうよ、誰がアンタ達になんか御馳走になるもんですか!」

『何か勘違いしてる様だな。…食事になるのは、お前達だよ』

 

親分ゴーストはそう言い放ち、コンコンと足で床を鳴らすと二人の足元の床が抜け、そのまま下へと落ちて行った。

 

「うわーーーっ!」

「きゃあぁーーっ!」

 

ベチャッ!!

 

「な、何だ?ベチャベチャする所に落ちた……くっさい~~!」

「何よこれ!? お肉に魚に野菜、みんな腐ってるじゃない!」

 

魔物は大抵が雑食であり、何でも食べる。

だが邪悪な意思に目覚め、知恵を付けた魔物は何故か腐った物を好んで食べる傾向がある。

 

『何だ?何か落ちて来たぞ』

『こりゃあ、何とも旨そうなガキ共じゃないか』

『へへへへ、丁度腐肉の汁がミックスされて味付けも完璧だな』

『さあ、お前達は踊れ踊れ!もっと俺様達を楽しませるんだ!』

 

『そんな、あんなに小さな子供達を食べるなんて…』

『嫌だ!これ以上お前達の為になんて踊りたくない!』

『もういい加減、儂らを安らかな眠りに戻してくれぇ』

 

食卓を囲む魔物の周りにはおそらくはこの城に仕えていたであろう者達の幽霊が強引に踊らされていた。

その皆が悲壮な表情をしており、若い女性や男性だけでは無く年老いた老人の幽霊もいて、涙を流しながらもその踊りは止まる事は無かった。

 

『ひゃはははっ!さて、お前達も美味しく頂いた後はこいつ等と一緒に踊りに加わってもらうぞ』

 

魔物達は舌舐めずりをしながら二人にそう言うが、リュカとビアンカは脅えるどころか逆にその目には怒りの炎が灯っていく。

 

「リュカ、行くわよ」

「うん。くさがってる場合じゃないよね。僕も頭に来たよ!」

 

剣を振り回しながら近づいて来る「オバケキャンドル」

怪しい炎に包まれている「ナイトウイプス」

 

襲いかかって来る魔物達にリュカは渾身の勢いでブーメランを投げ付ける。

数体はそのまま両断され、何とかかわした数体も腕や、体の一部を失っていて続けてリュカが唱えた“バギ”によって切り裂かれていく。

 

「ゴースト」や「スカルサーペント」はビアンカに襲い掛かるが、ビアンカは覚えたての“マヌーサ”をさっそく唱えてみる。

霧に包まれた魔物達はその目も虚ろになり、同志討ちを始めた。

ビアンカはそんな魔物達に“メラ”を放つと魔物達は炎に包まれ灰になっていく。

残った魔物も既に息は絶え絶えで、茨の鞭の前に倒されていく。

 

 

『おお、やっと踊りが止まった』

『体の自由が戻って来たぞ!』

 

 

場の魔物達が一掃された為か、踊り続けさせられていた幽霊達はようやく体の自由を取り戻す事が出来た。

 

『ありがとう、坊やたち。助かったよ』

『本当に苦しかったの。ありがとう、ありがとう』

「安心するのはまだ早いわ。まだボスが残ってるからね」

「あんな卑怯者、僕とビアンカでやっつけてやる!」

 

心配しながらも応援してくれる幽霊達、そしてリュカとビアンカは親分ゴーストを倒す為に玉座の間へと駆けて行くのだった。

 

=冒険の書に記録しました=

 

 

《次回予告》

 

親分ゴーストとの再戦で勝利し、そして彼の余りにも身勝手な言い訳に武器を振り上げる二人。

しかし、それを止めたのは…

 

次回・第七話「倒す強さ、許す強さ」

 

強さとは力だけの事じゃない。

 

 




(`・ω・)たいまつを探す所はあえてカットしました。
あくまでもゲームを進める上でのアイテムであって小説でもどうしても必要なアイテムだと言う訳でもないので。


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第七話「倒す強さ、許す強さ」

 

 

 

心配しながら見送ってくれた幽霊達に手を振りながら二人は先を進み、再び玉座の間に戻って来た。

親分ゴーストは戻って来た二人を睨み付けるが恐れもせずに睨み返してくる二人相手に正直怯えていた。

 

『ば、馬鹿め!お前達の様な子供が儂に勝てるとでも思っているのか?』

「その子供相手にあんな姑息な罠を使ったのは誰よ?」

「言っとくけど僕達は怒ってるんだからね、覚悟しろっ!」

『身の程知らずめ、ギラ!』

「うわっ!」

「きゃあっ!」

 

先制攻撃は親分ゴースト、いきなり閃熱呪文(ギラ)を放って来るがここまで闘って来た魔物の中にも呪文を使って来た相手はいたのでそれほど慌てずにかわす事が出来た。

逆に親分ゴーストは先制攻撃をかわされた事で動揺し始めた。

魔族は人間よりは強い体と魔力を持ってはいるが、親分ゴースト自身はそれほど強い訳では無かった。

武器を持っても攻撃力は高くなく、呪文も強力な攻撃呪文は持っていなかった。

 

つまり、親分ゴーストは生者が居ないこの城だからこそボス気取りの出来た、いわゆる「張り子の虎」であったのだ。

 

そんな彼の一番の武器でもあったギラもあっさりとかわされ、今度はリュカ達が呪文攻撃をかけて来た。

 

「バギ」 

「メラ」

 

『ぎゃああーーーーっ!』

 

リュカのバギに引き裂かれ、ビアンカのメラに燃やされ、のた打ち回りながら服に燃え移った火を消す為に転げまわる。

そんなあまりにも無様すぎる親分ゴーストを見て、二人はただ呆然とするしかなかった。

 

「……あ、あれ?」

「何なのよコイツ。少し弱すぎるんじゃない?」

 

『ひいぃ~~~、助けてくれい。わ、儂が悪かった…勘弁してくれ、許してくれぃ~~~~!』

 

親分ゴーストはひぃひぃと泣き、床に頭を擦り付けながら二人に許しを請うてくる。

二人は顔を見合せながらどうしたらいいのか分からなくなって来た。

何しろ強敵との一大決戦を覚悟してやって来たというのに、呪文を二発当てただけで泣き喚きながら謝って来るのだから。

 

「と、とにかく!許してほしいのならまず、王様達を苦しめている呪いを解きなさい!」

『は、はい!今直ぐに!』

 

親分ゴーストは両手を上に上げ、何やら聞き慣れない呪文を唱えると、城の中に漂っていた嫌な感じがゆっくりと薄れて行った。

 

『これでこの城に浸透させていた儂の魔力は消えました。城の中に残っていた魔物達にも立ち去るように命じておきましたからじきに元の静かな城に戻る筈です。こ、これで許してもらえますね?』

 

親分ゴーストは相も変わらず土下座をしているがそんな彼の前にリュカは立ち、睨みつけながら見降ろす。

くすぶっていた怒りが再燃して来たらしい。

 

「まだ話は終わってないよ!何でこんな事をしたんだ!」

「そうね、許すか許さないかはその事を聞いてからの話ね」

『はい!話します、話します。実は……』

 

 

そして彼は語り始めた。

彼は元々魔界の辺境で小さな集落を作り、魔物や若い魔族達と共に村長(むらおさ)として暮らしていた。

そんなある時、今までに無い強力な魔力を持つ大魔王「ミルドラース」が魔界全土を掌握した。魔物達や魔族達はその強力すぎる暗黒魔力の波動を受け、より強力な魔物や魔族へと変貌していった。

 

だが何故か自分だけは大魔王の影響を受けずにいた。

やがて、集落に住んでいた者達は大魔王に仕える為に村を離れて行く。

行かないでくれと頼んでみても見下した目で冷ややかに見返して来るだけで次々と去って行く。

 

従えていた筈の魔物達も自分よりも強力な力を得て、逆に攻撃を仕掛けてくる始末だ。

同じ様に大魔王の元に行ったとしても下手をしたら魔王軍の一員では無く魔物の一匹として扱われるかもしれない。

彼なりの小さな誇りがそれを許さなかった。

 

完全に行き場を失った彼は未だ大魔王の影響下に無い人間界に逃げる事にし、旅の果てに辿り着いたのが此処レヌール城だった。

 

その後はリュカ達の知っている通り、王様気取りで城に君臨していた訳だ。

 

「……随分とまあ、身勝手な話ね」

「いくら行く所が無くなったからって、死んだ人達を苦しめた事は許せない!」

『ひいいっ!ゴメンなさい、ゴメンなさい!』

 

あまりの身勝手さにビアンカとリュカが茨の鞭とブーメランを振り上げた時、扉の方から声が聞こえて来た。

 

『小さな勇者達、もう其処までにしてあげなさい』

『それ以上は退治では無く虐めじゃ』

 

その声に二人が振り向いてみると、其処にはレヌール王と王妃が立っていた。

 

「王様に王妃様、何で止めるの?」

「そうだよ、コイツのせいで王様達は苦しんだんじゃないか!!」

 

怒りが治まらないといった感じの二人に王と王妃はゆっくりと近づいて行き、王はビアンカの、王妃はリュカの頭を其々優しげに撫ると二人の怒りも徐々に落ち着いていく。

 

「王様?」

『儂等の為に怒ってくれるのは嬉しいし、正直儂等も此の者の行いは許し難い。だがな小さな勇者達よ、それでも「許す」という心の強さは必要だと儂は思うのじゃ』

『此の者が誤ってしまったのは力と心が弱かったから。此の者をこのまま倒すのは「力」の強さ、しかし私達はあなた達に此の者を許すと言う「心」の強さを持ってほしいのです。その強さはいずれあなた達が大人になった時に正しい道を示してくれるでしょう』

 

レヌール王と王妃がリュカ達に語りかける言葉を聞きながら、親分ゴーストはその瞳から涙を零していた。

こんなに大きな心を持つ二人に比べて自分は何と小さな存在だったのだろうと。

頭を下げ続けながら涙をボロボロと零す親分ゴーストを見ながら、リュカとビアンカもその怒りを霧散させていった。

 

「もう、悪い事はしないわね?」

「約束するんなら許してあげるよ」

「約束します!二度と悪事は働きません、貴方達の心に答える為にも頑張ってやり直してみます!」

「……じゃあ、仲直り」

 

リュカはバツが悪そうにそっぽを向きながらも親分ゴーストに手を差し伸べる。

彼はその手を両手で包み込む様に握り締め、泣きながら何度も「ありがとう、ありがとう」と繰り返し、その体はリュカの手から零れて来る光の粒に包まれていた。

 

 

―◇◆◇―

 

夜明けも間近に迫って来て、親分ゴーストは精神修行の旅に出ると言い、城を立ち去ろうとしていた。

レヌール王と王妃は心を入れ替えたのならこの城に留まって良いと言ったのだが彼は、

 

「いえ、ワシがこの城に留まっておると貴方様方はともかく、ワシが苦しめていた臣下の方々が安らかに休めぬでしょう。それにワシも世界を見て回りたいのです」

 

と言い、王やリュカ達も快く見送る事にした。

 

「おっと、そうじゃ。実は以前、この様な宝玉を見つけたのじゃが」

 

彼は懐に手を入れ、手の平大の黄金色に輝く宝玉を取り出した。

 

「これは王様達の持ち物では無いですかの?」

『いや、我が城に伝わる物では無いな』

 

王と王妃もその宝玉を眺めて見るが心当たりのある物では無かった。

 

「ふむ、ではどうするか……。そうじゃ、リュカ殿がもらってはくれまいか?」

「僕が?」

「うむ。ワシの様な者が持っておるよりもリュカ殿が持っておる方がふさわしいじゃろう」

「そうね、リュカの方が強かったもの。リュカが持っておくべきだわ」

「分かった、僕が持ってるよ」

 

宝玉を受け取ったリュカは大事そうに袋の中にしまう。

 

「じゃあ、ワシはそろそろ行くとしよう。王様、それに王妃様、色々とすみませんでした。リュカ殿にビアンカ殿もお元気で」

『うむ、今度こそ道を誤らない様にな』

『新たな道を進み始めた貴方に神の御加護があらん事を』

「今度悪さしたら何処までも追いかけて行くからね」

「ははは…肝に銘じておきますじゃ」

「おじいちゃんも元気でね」

 

「リュカ殿、ワシの名は「マーリン」と申します。何時か再び出会えた時、貴方のお力になれる様に頑張りますじゃ」

 

歩き出した親分ゴーストに手を振りながら別れを告げるリュカ。

そんなリュカを振り返りながら彼は眩しいモノを見る様な目で自分の本当の名を告げたマーリンは笑顔で手を振りながら朝焼けの中に旅立って行った。

 

「とにかく、これで約束のオバケ退治は終了ね。これで猫ちゃんも……」

 

そこまで言ったと思ったらビアンカの顔は段々と青くなって行き、ダラダラと汗も滝の様に流れて来た。

 

「ど、どうしたの、ビアンカ?」

「あ、あはは、あはははは……、どうしようリュカ!? もう朝よ、ママやパパスおじ様達も起きている時間よ」

「あーーーーっ!すっかり忘れてたーーっ!」

 

ビアンカがそこまで言うとリュカもようやく理解出来た様で同じ様に青くなり、汗を流しまくる。

 

『これを使いなさい』

 

そんな二人にレヌール王が両手を差し出したと思ったら、その手の中には光と共にキメラの翼が現れた。

 

『アルカパの町の教会には私達がお告げと言う形で今回の事を伝えておきます。少しは怒られるかもしれませんがそれ程酷く責められる事は無いでしょう』

「ありがとうございます王妃様!」

「それならきっと父さん達も許してくれるよ」

 

二人は王妃に抱き着いて涙ながらに感謝をする。

王と王妃もそんな二人の頭を『いいんですよ、助けられたのは私達なのですから』と愛おしそうに撫でながら笑顔で告げる。

 

 

「王様ーー、王妃様ーー!ゆっくりと休んでねーーー」

「王様に王妃様ーー!バイバイーー、お休みなさいーー!」

 

リュカとビアンカは王と王妃に別れを言いながらキメラの翼を使い、飛び去って行く。

王と王妃もそんな二人を見送りながら朝の日差しの中に消えて行く。

 

アルカパへと飛んで行く二人がふと振り返って見ると、暗雲に包まれていたレヌール城はその戒めから解き放たれ、その白亜の姿を取り戻していた。

 

 

―◇◆◇―

 

さて、アルカパに戻った二人だが、王妃の言う通りレヌール城が二人の活躍により解放された事は村中に知れ渡っていて、町の入口にはマミヤとダンカン、そしてパパスが二人の帰りを待っていた。

 

その足元には例のいじめっ子兄弟が頭に大きめのタンコブを着けて正座をさせられていた。

どうやらこの騒動の大元が彼等だと言う事がばれ、キツイお仕置きを受けた様だ。

その傍に居た猫(ベビーパンサー)はリュカの姿を見つけると駆け寄って飛び付き、リュカの顔を舐めまくる。

 

「あはははは!こら、くすぐったいよ」

「ガゥ~~、クゥ~~ン♪」

 

一連の騒動がようやく落ち着き、リュカ達もダンカンの宿屋へと戻っている。

約束通り、猫(ベビーパンサー)はリュカ達に渡され今はリュカの膝の上で丸くなっている。

 

「良かったわね、猫ちゃん。さっそく名前を付けてあげなきゃね。え~と、ゲレゲレは「グルルルル」…嫌みたいね。じゃあ、女の子だからリンクスはどう?」

「クゥ?…クゥーーン」

 

どうやら気に入ったらしく、頭を撫でていたビアンカの手を舐め出した。

 

「喜んでくれたみたいね。じゃあ、これもあげるわ」

 

ビアンカは髪をまとめていたリボンを一つほどき、リンクスの首に巻いてやる。

 

「わあーー、似合うね。可愛いよリンクス」

「ガゥ~~~~ン♪」

「さてと、名前も決まった事だしそろそろ」

 

パパスはそう言いながら徐にリュカを抱え上げると膝の上に乗せ、ビアンカもまた、同じ様にマミヤの膝の上に乗せられている。

 

「と、父さん?」

「マ、ママ?…どうしたの?」

 

膝の上に乗せられた二人はこれから何をされるのか薄々感づいた様で青い顔をしていた。

 

「お前達のした事は確かに立派だ。…だがしかしっ!夜中に勝手に抜け出し私達に心配かけた事も事実だ。よって」

 

そこまで言うとパパスとマミヤは自分の子供達のパンツを捲り、お尻を剥き出しにする。

 

「ちょ、ちょっとママ、何をするの?やめてーー、お尻がリュカに丸見えじゃない!」

「父さーーん、それだけはカンベンしてよ、せめてゲンコツにしてーーっ!」

「二人共いい加減に覚悟を決めなさい」

「其処まで嫌がるからこそ罰になるのだ」

 

 

そして、振り上げられたその手は……

 

 

「え~~ん、ゴメンなさいママーー!」

「ゴメンなさい~~、許して父さん~~!」

 

アルカパの町にパーン、パーンとお尻を叩く音が暫く響いていたとか。

 

後、ついでにいじめっ子兄弟の家からも……

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

オマケ

 

「ねえ、父さん」

「ん、何だリュカ?」

 

赤くなったお尻を擦りながらパンツを穿くリュカはパパスに気になる事を聞いてみた。

 

「その顔の引っかき傷はどうしの?」

「ああ、これか。……どうやら名前が気に入らなかった様でな。ははは…」

「??」

 

 

《次回予告》

 

未だ春の訪れが来ないサンタローズ。

そんな中、村の中で起こるイタズラ騒動。

そしてリュカが出会う不思議な青年、そして精霊の少女。

 

次回・第八話「来ない春とイタズラ妖精」

 

…幸せな思い出。だからこそ辛い思い出……

 

 




(`・ω・)と言う訳でアルカパレヌール城編終了です。
ここでまた設定変更、レヌール王が魔物退治を依頼するのではなくリュカ達が自分達から率先して退治に行きます。
呪文習得も王の助言で使えるようになりました。

親分ゴーストは最初はあのまま魔界に帰ってジャハンナで人間になっての再会を考えていたんですが途中から「このキャラ、勿体ないな」と後のマーリンへとフラグを立てました。

ベビーパンサーはメスという事にして名前もリンクスにしました。
そしてパパスさんはいい加減に諦めましょう。


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第八話「来ない春とイタズラ妖精」

 

リュカがビアンカと共にレヌール城のオバケ退治をした翌日、リュカとパパスはサンタローズへと帰って来た。

 

「ピッ?ピッピピィ~~ッ!!」

「リ、リュカ……、それは……どうしたの?」

「アルカパで友達になったリンクスだよ。リンクス、この二人は僕の友達のピエールとスラリン、仲良くしてね」

「ガゥン」

 

サンタローズの家に帰ってさっそく、ピエールとスラリンにリンクスを紹介するが二人共リンクスを見て怯えている。

 

まあ、当然であろう。魔物の中では最弱に位置するスライムの前に居るのは……

 

「リュカ!そ、そいつは魔物だよ!地獄の殺し屋って呼ばれているキラーパンサーの子供だよ!」

「ピイピイピィ~~~」

「ふ~~ん。でもスラリン達だって魔物だろ、なら仲間じゃないか」

「ピイ?」

「リュカ……、ぷっ!あはは、そうだよね。僕等は皆リュカの友達なんだった、よろしくねリンクス、僕はスラリン」

「ピイピィ……ピエール」

「あれ?ピエール、喋れる様になったの?」

「うん、僕と一緒に言葉の練習をしてるんだ。もっとも、まだ自分の名前だけしか話せないけどね」

「僕が皆の言葉が解ればいいんだけどな」

「 !! ガ、ガウガウ!クウーーンッ!」

「わっ!ど、どうしたのリンクス?」

「あはは、リンクスもリュカとおしゃべりしたいんだって。リンクスも僕達と一緒に練習しよう」

「ガウーーンッ♪」

 

そんなリュカ達の会話を聞きながらパパスとバークは複雑な気持ちでいた。

魔物達と心を通わすリュカ、その姿に嘗てのマーサがどうしても重なるのだから……。

 

 

―◇◆◇―

 

春は既に訪れている筈で、夏も間近だと言うのにサンタローズ…いや、どの国も未だ冬の寒さの中にあった。

 

そんなある日、村のあちこちで妙な事件が頻発した。

事件と言うよりどちらかと言うと子供のイタズラっぽいのだ、もちろんリュカはそんな事はしないと村の皆は解っているので疑われる事は無かったが、だからこそ犯人は解らないままであった。

 

「坊っちゃん、少しお使いを頼まれてくれませんか?」

「うん、いいよ」

 

パパスは朝から調べ物があると部屋に籠りっきりなのでリュカはそんな父の邪魔をしない様に部屋から降りて来るとサンチョからお使いを頼まれた。

 

「すみませんね、実はまな板が見当たらないもので捜している最中なんですよ。酒場に頼んでおいたグランバニアの地酒が届いていますので受け取って来ていただけますか」

「了解!いってきます」

 

リュカが元気よく飛び出して行くとリンクス達もその後を付いて行く。

 

暖炉で暖かかった家の中から外に出ると途端に寒くなる。

焚き火で暖を取っている人、震えながらも畑仕事をしてる人、皆この寒さに震えていた。

 

「いつになったら春が来るのかな?早く来てほしいな」

「ほんとに変だよね」

「ピィ~~」

「ガゥ~~、ク~ン」

「ん、どうしたのリンクス。寒いの?」

「キュ~~ン」

 

リュカは寒そうに擦り寄ってくるリンクスを抱き抱えてやる。

 

「あはは、甘えん坊だねリンクスは」

「キュゥ~~ン♪」

 

そんな彼等が酒場のある宿屋に向かっていると其処に見慣れない一人の青年が居た。

紫色のマントを身に付け、長い黒髪は根元で纏め、頭にはターバンを巻いていた。

青年はリュカを見つけると優しく微笑みながら近づくとしゃがみ込んで目の高さを同じにする。

 

「今日は、坊や」

「こ、今日は…」

「そのベビーパンサーやスライム達は坊やの友達かい」

「そうだよ!皆僕の友達なんだ、悪い魔物じゃないよ!」

「ははは、心配しなくても苛めたりしないさ。こんなに綺麗な眼をしてるんだ。悪い子達じゃない事は一目で解るよ」

 

青年はそう笑いながらリュカの腕に抱かれているリンクスの頭を撫でてやり、リンクスも別に抵抗せずに大人しく撫でられている。

 

「ガウ?」

「ピイ?」

(この人の目、リュカとそっくり……。いや、全く同じだ。何で?)

 

スラリン達も目の前の青年の違和感に…否、"違和感の無さ"に驚いていた。

そしてリュカを見るその目の寂しさ、そして哀しさにも。

 

青年はリュカの腰にある道具袋を見つめ、其処から淡い光が零れているのを確認すると笑いながら語りかける。

 

「坊や、何か綺麗な宝玉を持ってるね」

「え、これはダメだよ!……お兄ちゃんひょっとしてドロボウ?」

「はははは、違うよ。僕も同じ様な宝玉を持ってるからちょっと気になっただけさ、ほら」

 

リュカは袋を隠すようにしながらゆっくりと後ずさっていくが青年は自分の袋から黄金色に輝く宝玉を取りだした。

 

「わ、ホント。僕のとそっくりでキレイ」

 

そう言いながらリュカは袋から自分の宝玉を取り出す。

並べて見比べようとすると青年の宝玉が日の光を受けて光り、リュカ達は目を眩ませ一瞬目を閉じると躓いたのかよろけて倒れそうになり、それを青年が支える。

 

「大丈夫かい、坊や?」

「う、うん、へいき」

 

青年は立ち上がりながら宝玉を自分の袋にしまい込み、リュカも自分の袋に入れた。

青年はそんなリュカの頭に手を乗せ、優しく撫で付ける。

 

「何?お兄ちゃん」

「坊や、お父さんの事は好きかい?」

「当たり前だよ、僕の父さんは世界一なんだ」

「そうか……、だったらその父さんに誇れる男になれ!負けるな!挫けるな!何があっても前に進め!……いいな」

「う、うん!分かったよ、お兄ちゃん!」

 

リュカはそう叫び、青年が差し出していた拳に自分の拳をぶつける。

青年はそんなリュカを見て優しそうに、そしてやはり哀しそうに微笑んだ。

 

「さ、お使いの途中だろ、早く行きな」

「そうだった!ありがとね、お兄ちゃん!」

 

青年に背を向け駆け出すリュカ、その後をスラリン達が付いて行く。

ふと、スラリンが青年を振り向いてみると…

 

「まだまだ子供のリュカを頼むな、『スラリン、ピエール、リンクス』」

 

そう小さな声で呟いていた。

 

「あれ?何で僕達の名前を知ってたんだろ」

「ピイ?ピイピイ」

「ガウン」

「村の人達に聞いてたんじゃないかって?(でも何であんなに何もかもがリュカと同じだったのかな?)」

 

歩き続けていると宿屋の近くの民家の前で女性が何かを捜している感じでウロウロしていた。

 

「おばちゃん、どうしたの?」

「ああ、リュカくんかい。いえね、仕舞ってあったお菓子が無くなっていて代わりにゴールドが置いてあったんだよ。おじいさんが何時もみたいに摘み食いしたのかと思ったけど」

 

女性がそんな風に溜息を吐いていると家の奥から「ワシャ、摘み食いなどしておらぬと言うておるのに」とおじいさんの呟きが聞こえて来た。

 

「じゃあ、僕おつかいの途中だからもう行くね」

「じゃあね、リュカくん」

 

酒場は宿屋の地下にあり、リュカは挨拶をしながら入って来る。

魔物のスラリン達はこの村ではすっかり顔馴染みの為、今更怖がる面々は居らず他所の旅人が居ない店の中に入って来ても文句は出なかった。

 

「おや、リュカくんどうしたんだい?」

「お使いに来たんだ、酒場に下りるね」

「立派だな、リュカくんは。それに比べて、ブツブツ……」

「どうかしたの、おじさん?」

「ああ、誰か宿帳に落書きしている奴が居てね、昨日も誰も泊まっていない筈なのに宿帳の名簿に「ベラ」と書かれてるんだ。妙な事にゴールドまで置かれていてね。何だか気味が悪いよ」

「そうなの、何か変だね」

 

受付の親父に手を振り、リュカは酒場のある地下へと降りて行く。

まだ昼間の為、さすがに客は居らず酒場のマスターは準備に追われているのかあくせくと動き回っていた。

 

「マスター、お使いに来たよ。父さんのお酒をちょうだい」

「おお、いらっしゃいリュカくん。…それがね、どう言う訳かパパスさんに頼まれたお酒が見当たらないんだよ」

「え?父さんのお酒、無いの?」

「どうもこの所変な事ばかりあるんだ。グラスの位置が変っていたり、今みたいに何かが隠されていたり」

 

マスターは話しながら酒を探し続ける。

ふと、リュカが辺りを見回すとカウンターの上にちょこんと座っている女の子が居た。

ただ、その女の子は少し変っていた、耳が少し長く、そしてレヌール城の王様達みたいに半透明なのだ。

 

「ねえ、君は誰?」

《えっ?…あなた、私が見えるの?》

「うん、でも何だか透き通ってるみたい」

《やっと、やっと見つけたわ。ねえ、あなたの名前は?》

「僕?僕の名前はリュカだよ、この子達はスラリンにピエール、そしてリンクス。僕の大切な友達だよ」

《魔物と友達になれるの?凄いわ、あなたなら間違い無さそう》

「何が?」

《此処じゃゆっくりお話しが出来そうにないわね。たしかこの村には地下室がある家があった筈》

「それ、僕の家だよ」

《ならちょうどいいわ、そこで待っていてちょうだい。詳しい話は其処でするから》

「分かった。マスター、僕帰るね」

「ああ、ごめんなリュカくん。お酒は見つかったら家に届けるからそう伝えておいておくれ」

「うん、じゃあまたねーー」

 

 

リュカが家に帰ろうと教会の前を通りかかるとシスターが何やら赤い顔をして話しかけて来る。

 

「リュカくん、先ほどこの前で男の人と話をされてましたが一体あの方はどなたですか?」

「さあ?僕も見た事ないお兄ちゃんだったから誰かは分からないよ」

「それは残念ですね。お話がしたかったんですが何処に行かれたのでしょう?」

 

シスターと別れて家に着くとサンチョにお酒が見つからないでいると伝えた。

 

「そうですか、本当に最近は妙な事が続きますね。でも幸いに先ほど旦那様にお客様が来て、滅多に手に入らないルラフェンの地酒を持って来て下さったので旦那様も大層喜んでいましたよ。マスターには後で然程急がないと私が伝えておきましょう」

「そのお客さんってまだいるの?」

「いえ、坊っちゃまが帰って来る少し前にお帰りになりました。でもどうかしたのでしょうかね、凄く寂しそうで哀しそうな顔をしてらっしゃいました」

 

そんなサンチョの言葉を聞きながらスラリンはさっき出会った青年の事を思い返していた。

 

(もしかしてさっきのあの人なのかな?あの人の目も凄く寂しそうで哀しそうだった。誰なんだろう?)

 

「サンチョ、僕ちょっと地下室にいるね」

「地下室ですか?寒いですから風邪を引かない様に気を付けて下さいね」

「大丈夫、リンクスを抱いていれば暖かいから」

 

リュカはリンクスを抱き抱えるとスリスリと頬擦りをする。

リンクスは行き成りの事に少し驚いたが、それでも嬉しそうに自分もリュカに頬擦りをし返す。

 

地下室に降りると何時の間に先回りしたのか既にベラがリュカ達を待っていた。

 

「あれ?随分早いんだね」

「えっへん、これ位の事朝飯前よ。じゃあリュカ、これから妖精界に来てちょうだい。詳しい話は其処でするから」

「でも、かってに何処かに行くと父さんに怒られちゃうよ」

「その心配なら要らないわよ。~@*#$+~」

 

ベラが妖精の言葉なのか、聞き慣れない呪文を唱えると何処からともなく光の階段が降りて来た。

 

「この“妖精の道”を通れば人間界と妖精界の時間の差は無くなるの。つまり妖精界でどれだけ時間を過ごしても今と同じ時間に人間界に帰って来れるという訳よ」

「そっか、なら安心だね。じゃあ、皆で行こう」

「ガウン」

「ピッピィーー!」

「うん、今度は僕も着いて行くよ」

 

そうしてリュカ達はベラの後を追って、光の階段を昇って行った。

其処でリュカはまた新たな闘いに身を投じる事となる。

妖精の国に、そして世界に春を呼び戻す為に。

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

《次回予告》

 

ベラに連れられてやって来た妖精の国。

でも、この国も雪に埋もれてとても寒そう。

何でも宝物の春風のフルートを盗まれて春が呼べないんだって。

そんな悪い事をする奴は僕等がやっつけてやる!

 

次回・第九話「取り戻せ!春風のフルート」

 

さあ、行っくぞぉーー!

 



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第九話「取り戻せ!春風のフルート」

 

 

~妖精界~

 

其処は人間界とは空間を隔てた場所にあり、人間が此処を訪れる為には迷いの森と呼ばれる迷宮を抜けねばならず、余程心が清い人間か妖精に認められた人間でなければならない。

 

そしてリュカは妖精族のベラに連れられて此の妖精界にやって来た。

春を取り戻す勇者として。

 

リュカが辿り着いた場所、其処は未だ雪が舞う一面の銀世界だった。

池には氷が張り、その池の中央には巨大な樹木が立っておりその樹には窓や入口であろう立派な門が備え付けられていた。

 

「ここが妖精の国なの、ベラ?」

「ええ、そうよ」

「もっとお花でいっぱいの暖かい所だと思ったんだけどな。どこもみんな雪でまっ白だ」

「其れも之も、春を呼ぶ春風のフルートが奪われた為なの」

「春風のフルート?」

「うん、ともかくまずはポワン様の元へ行きましょう。あの巨木がそのままポワン様の居城になってるの」

「わ~、不思議な木だと思っとったらお城だったんだね」

 

リュカ達は歩き出したベラの後を追い、巨木へと進んで行く。

途中、何人かの妖精に会ったが彼女達のリュカを見る目はお世辞にも良いとは言えなかった。

 

「ねえ、ベラ。皆、僕の事ヘンな目で見るけど僕、何か悪い事したのかな?」

「いいえ、リュカは何も悪い事はしてないわ。皆の態度が悪いのはその魔物達を連れている事が原因なのよ」

「何で?リンクス達は何も悪い事してないんだよ!」

「妖精族には偏屈な者が多いのよ、リンクス達がどうこうより魔物を連れていると言う事を疎ましく思ってるんだわ」

「……もしかしてベラもそうなの?」

 

リュカは立ち止まるとベラを悲しそうな眼で見つめるが、ベラはそんなリュカを見つめるといきなり彼の頭を叩く。

 

「痛い!」

「あまり私を馬鹿にしないでよね。もしそう思っておるのなら初めからリンクス達を連れては来させないわよ。それにポワン様も魔物だからといって疎む様な事はされないわ」

「う、うん…。疑ってゴメンね」

「いえ、分かってくれたのならそれで良いわ。じゃあ、行きましょう」

「うん、早く行こう」

 

リュカはニコッと微笑むとベラの手をギュッと掴む。

ベラはベラで、そんなリュカの笑顔にキュンッとなった様で頬を赤らめていた。

 

 

―◇◆◇―

 

「ポワン様、人間界よりリュカとその仲間をお連れしました」

「待っていましたよベラ。ようこそおいで下さいました小さな勇者殿」

 

村の中央にある巨木の中に入り、階段を昇って行った先にある玉座の間に妖精の村の長、ポワンは座っていた。

 

「それにしてもベラ、私は此処から貴女の行動を見守っていましたが……はあ、もう少しやり方は無かったの?」

「い、いえ、しかし正攻法では中々気付いてもらえずやむなくあのような方法を」

「言い訳はよろしい。それはともかくとして、リュカ殿、私達の話を聞いてもらえますか?」

「うん。僕に出来る事なら力になります」

「ありがとうございます。それでは……」

 

ポワンはリュカに語って聞かせた。

 

この村の長は代々季節の移り変わりを司る妖精で、代替わりしたばかりの自分も春を呼ぶ儀式を間近に控えていた。

そんな時、儀式において最も重要な神具の春風のフルートが何者かによって奪い去られ、雪の女王の手へと渡ってしまったのだ。

その為儀式を執り行えなくなってしまい、世界は何時までも冬のままで春へと季節を移せなくなっていた。

 

「このまま春の訪れが無ければ自然界のバランスは崩れ、どのような事態になるか分かりません。ですから一刻も早く春風のフルートを取り戻し春を呼ばねばならないのです。しかし私達妖精族は闘う力の無い弱い存在、私達だけでは春風のフルートを取り戻せないのです」

「そこで私が人間界へと赴き、私と共に闘ってくれる勇者を捜していたの」

「そうだったんだ」

 

ポワンは玉座から立ち上がるとリュカの元へと歩いて行き、その肩に優しく手を置き語り掛ける。

 

「貴方の様にまだ年端もいかぬ少年にこの様な事を頼むのも心が痛みますが最早ほかの人間を捜す時間は無いのです。このベラと共に春風のフルートを取り戻す為に雪の女王と闘っては下さいませんか?」

「分かったよ、レヌール城のオバケも僕らが懲らしめたんだ。そんな悪い奴なんか僕達がやっつけてあげるよ」

 

リュカは胸を叩きながら誇らしげに引き受け、その足元ではリンクス達も元気よく鳴いている。

 

「ガウーーンッ!」

「ピイッピイピイ!」

「友達の為だもん、僕達だってリュカと一緒に闘うよ!」

「まあ、それは素晴らしい!あの事件を解決したのは貴方だったのですか。それに頼もしい仲間もいるのですね」

「えへへ、うん!僕の大事な仲間で友達なんだ!」

 

リュカはそう言いながらリンクス、ピエール、スラリンの順に頭を撫で、リンクス達もそれが気持ちいいのかリュカに擦り寄って行く。

 

「そろそろ出発しましょう、リュカ」

「そうだね、早く春を呼ばないと。リンクス、ピエール、スラリン、行こう!」

「ガウッ!」

「ピイッ!」

「分かったよ!」

「ではまず、宿屋の中にあるよろず屋で装備を整えなさい。私の使いと言えば無料で用意してくれるでしょう」

「ありがとう、ポワン様」

「ベラ、リュカ殿をしっかりとサポートするのですよ」

「任せて下さい。さあリュカ、大船に乗ったつもりで私について来なさい」

「…その大船、氷山にぶつからないといいんですけど」

「……ヤな事言いますね、ポワン様」

 

そうしてリュカはリンクス達を引き連れて元気に駆け出して行く。

 

 

玉座の間を後にして階段を下り、一階の図書室に来ると妖精達が話しかけて来た。

 

「まあ!貴方がフルートを取り戻す為に呼ばれた人間の戦士ね」

「うん、そうだよ」

「でもベラ、この様な子供で大丈夫なの?」

「その心配なら無用よ。貴女達もレヌール城を占拠していたた魔族の話は聞いてるでしょ。その魔族を撃退したのは他でもないこのリュカなんだって」

「ベラ、それよりも雪の女王が居る氷の館の入口は鍵で閉ざされているわ。おいそれとは中に入れないわよ」

「あ、そう言えばそうだった」

「扉を開く鍵があれば…」

 

妖精達が言うには雪の女王の城である氷の館は常に閉ざされたままで中の様子を知る妖精は一人もいないらしい。それがフルートを取り戻す難点となっている理由の一つでもある。

 

「…よろず屋のディーなら何か知ってるかも」

「ええ、彼はガイルの友達だったから」

「ちょうど今からディーに会いに行く所なのよ。詳しく聞いてみるわ」

「教えてくれるといいんだけど」

「何の話?」

「いえ。さ、行きましょうリュカ」

 

ポワンの居城を出て、少し進んだ場所に宿屋はあり、よろず屋はその中にあった。

 

「こんにちわ、ディーはいる?」

「おっ!ベラ殿。話は伺ってますよ、一応装備は整えておきました」

「ありがとう、助かるわ」

 

ディーが持ち出して来たのはピエールとスラリンに「石の牙」リンクスには前足に取り付ける「石の爪」そしてリュカには「鉄の杖」を用意していた。

 

「それでねディー、聞き辛いんだけど…」

「分かってますよベラ殿。ガイルの奴は今、西の洞窟に居を構えてます。アイツも最初は先代を恨んでた様ですがポワン様に代替わりした事で落ち付いた様ですわ。まあ、亡くなった方を何時までも恨み続けるというのも愚かだと言ってましたからな」

「そう、なら会いに行ってみるわ」

「ただ…」

「ただ、どうしたの?」

「……春風のフルートを盗み出したのは、どうやらザイルの奴らしくて」

「な、なんですってっ!!」

 

「ザイル?誰?」

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

《次回予告》

 

ガイルというお爺ちゃんに鍵の秘密を教えてもらいに洞くつに来たんだけど、そこで僕はお爺ちゃんにザイルって奴を助けてくれって頼まれたんだ。

ザイルは雪の女王にだまされてフルートを盗んだんだって。

だます雪の女王は許せないけどあんなにいいお爺ちゃんを心配させるザイルって奴も許せない。

 

次回・第十話「ガイルと鍵の技法」

 

よ~し、捕まえてお尻ペンペンだ!

 

 



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第十話「ガイルと鍵の技法」

リュカ達は妖精の村を離れ、一路西の洞窟へと向かっている。

その洞窟の中で暮らしている、ガイルというドワーフに鍵の技法を授けてもらう為に。

 

「ふう、ようやく着いた」

「流石はレヌール城解放の勇者、中々の闘いぶりだったわね」

 

ドワーフのガイルが住むと言う洞窟の入口に辿り着いたリュカ達、当然此処に来るまでにはかなりの戦闘を繰り返した。

普段は地中に潜んでいるが、獲物が通りかかると集団で襲いかかって来る「つちわらし」

人面樹の果実で、自ら獲物を求めてさまよい歩く「ガップリン」

同様に、自ら動き回る食肉植物の「マッドプラント」

魔物化したサボテンの「サボテンボール」

ゴーストが、魔王の魔力を受けて進化したと言われる「魔法使い」

 

そんな中でも、リュカが驚いたのは二種類のスライム。

 

天敵から身を護る為に自らの体を毒化した「バブルスライム」

その強い毒のせいでその体は流体化している。

 

傷付いた体を癒す為に回復系魔力を身に付けた「ホイミスライム」

体の下部に幾つもの触手を持ち、どういう原理なのか空中に浮遊している。

 

スラリンに聞いた所、スライム族は自らの意思で進化の方向性を決める事が出来るとの事だ。

 

「なら、スラリン達も別のスライムになれるの?」

「そうだね、まだどんな進化をするかは決めてないけど」

「ピイピィ~~」

 

洞窟に入るとそれ程離れてない場所に簡素な扉があり、ノックをすると「どうぞ、お入りなさい」と返事があった為、リュカ達は扉を開いて入って行く。

 

「どなたかな?おお、ベラ殿ではないか。久しぶりじゃな」

「…久しぶりです、ガイルさん。あの時はかばって上げる事が出来ずにごめんなさい」

「もう過ぎた事じゃ、何とも思ってはおらぬよ。それよりも今日は…「わあっ!妖精と人間だ!」…人間?」

 

洞窟の中で共に暮らしているスライムが叫ぶ声に気付き、声の方に目を向けると其処にベビーパンサーのリンクスとスライムのピエール、スラリンを連れたリュカが腰を屈めてスライムを覗き込んでいた。

 

「ぼ、ボクじゃないよ。春風のフルートを盗んだのはボクじゃないよ!ザイルがやったんだ!…で、でも悪いのはガイルさんを村から追い出した妖精達だ!だからザイルはガイルさんの為に…」

 

「ダイルよ、其処までじゃ」

「でも!……はい、ガイルさん」

 

スライムのダイルは言葉を続けようとするが、止めろというガイルの目を見てそれ以上何も言えなくなった。

 

「じゃあガイルさん、やはりザイルがフルートを」

「うむ、あれはあれなりにワシの事を思うてやった事なのだろうが。まったく、ワシは先代への恨みなどとうの昔に捨てたというのに」

 

「ねえ、ベラ。どういう事なの?」

「さっきから気になっておったんじゃがその子は誰じゃ?何故妖精界に人間の子供がおるんじゃ?」

「ああ、この子はサンタローズのリュカ。春を呼び戻す手助けをしてもらうために来てもらったの。子供だけどかなりの力を持っているわ」

「ほう、そうか。…ならば」

 

ガイルはリュカに近づき、その肩に手を置くと申し訳なさそうに語り掛ける。

ガイルは言う、かつて自分は簡単な構造の鍵ならば直ぐに開けてしまう「鍵の技法」を編み出してしまった事を。

その事が厳格な性格だった先代の長の怒りに触れ、村を追放されてしまいこの洞窟に隠れ住む様になってしまった。

初めの内は先代への恨み事を言いながら過ごしていたが、じきに自分が編み出した鍵の技法の危険性に気付き、その怒りを収めて行った。

 

だが、祖父思いだった孫のザイルはその怒りを受け継いだまま育ち、今回の暴挙に出たという訳らしい。

 

「ザイルは一度此処に戻って来てワシに言いおった。『雪の女王の手助けで春風のフルートを盗み出せた。これであの村にひと泡吹かせられる』と。あの子は利用されておるだけなんじゃ、それがどの様な結果を招く事になるか気付きもせずに。じゃから頼む!あの子の目を覚まさせてやってくれ、あの子を助けてやってくれ!…お願いじゃ」

 

ガイルは涙ながらにリュカに頼む、そしてリュカは当然笑顔で頷きながらその願いを受け入れる。

 

「任せといて、おじいちゃん!僕とベラ、そしてリンクス達とでザイルを連れ戻して来てあげる」

「その意気よ、リュカ。ガイルさん、その為にも鍵の技法を私達に教えて」

「うむ、鍵の技法は悪用されぬ為に宝玉に込めて洞窟の奥に隠しておる。ワシは最近体の調子を壊しておるのでな、悪いが捜しに行っては貰えぬか」

「了解、じゃあリュカ、行きましょう」

「うん!行こう、リンクス、ピエール、スラリン」

「ガウッ!」

「ピイッ!」

「頑張ろう!」

 

 

―◇◆◇―

 

鍵の技法を手に入れる為に洞窟の中を進むリュカ達、魔物達はそんな彼らを引っ切り無しに襲って来る。

「スカンカー」が巻き上げる砂煙に視界を奪われるがリュカが放つバギによって砂煙は晴れ、その体はリンクス達に切り裂かれる。

 

メラを使って来る羽根と角を持つトカゲ型の魔物「メラリザード」

サンタローズの洞窟にも居たとげぼうずがより強くなった「スピニー」

赤い外皮に覆われた巨大な芋虫「ラーバキング」

 

中々の強敵ぞろいだったが、全員の協力プレイで危なげなく倒して行く。

そんな中、ベラは補助魔法で手助けをしたり、樫の杖でリュカに襲い掛かる敵を撃退したりしていた。

 

そして、それを羨ましげに見ているのがピエール。

自分もあの様に闘えたら、自分にも手足が有ったら。

もっと、もっと、リュカの役に立てるのに。

彼は、そう強く願った。

 

そして辿り着いた洞窟の際奥、其処に在った階段を下りると淡い光を放つ宝箱が有り、その蓋を開くと青く光る宝玉が置いてあった。

リュカがその宝玉に触れると宝玉の光はリュカの体に吸い込まれる様にして消えていき、宝玉はひび割れ粉々に砕け散る。

 

「リュカ、鍵の技法は手に入ったの?」

「うん。何て言うか、呪文みたいな感じだな」

 

 

《鍵の技法》

 

それはいわゆる“解錠呪文(アバカム)”の様なもので自身の魔力を錠に浸透させ、解錠を施すという物だった。

ガイルが伝え聞いたアバカムを独自に再現した為、少しの魔力しか必要としない反面、簡単な構造の鍵しか開けられない。

 

 

「これで雪の女王の城に入れるわね。さあ、急ぎましょう」

「え?ガイルのおじいちゃんに挨拶は?」

「そんな暇は無いわよ。一刻も早く春風のフルートを取り戻さなきゃ」

「うん、そうだね。分かったよ、急ごうベラ」

 

こうして何とか鍵の技法を手に入れたリュカ達は春風のフルートを取り戻す為に雪の女王が居る氷の館へと進むのであった。

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

《次回予告》

 

手に入れた鍵の技法、後は雪の女王を倒して春風のフルートを取り戻すだけ。

でも、氷の館に向かってる最中にモンスターが呼んだ敵に囲まれしまった。

そんな時、僕達の前に現われたのは……

 

次回・第十一話「勇者気取りの小っちゃなヒーロー達」

 

「リュカ、強い」

「リュカ、優しい」

「リュカ、好き」

「リュカ、友達」

 

「「「「やーーーーー!」」」」

 

「何だろう?何なのかな、この気持ち?」

 

 




(`・ω・)ピエールにナイトフラグが完全に立ちました


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第十一話「勇者気取りの小っちゃなヒーロー達」

 

 

鍵の技法を手に入れたリュカ達は春風のフルートを取り戻す為に一路、雪の女王の城である氷の館を目指していた。

 

 

 

『キュアァァァァァァァ!』

「うわっ!」

「しまった、仲間を呼ばれた」

 

魔物の群れと戦っていたリュカ達だが、あともう少しで倒せる所でスカルサーペントは仲間を呼んでしまった。

 

『『『『キュアアァァァッ!』』』』

 

「うわぁ!いくら何でもこの大群はズルイよ!」

 

運悪く別の群れが近くに居たのか、仲間を呼ぶ一鳴きは魔物の大群を呼び寄せてしまったらしい。

 

「ど、どうするリュカ?」

「ピュイィ~~」

「どうするったって、逃げられそうにないから戦うしかないよ」

「ガウガウガウッ!」

「いくら集まったって所詮は烏合の衆、私達の敵じゃないわよ。…とは言う物の、流石にこの数は」

 

襲い掛かってくる相手を倒していくリュカ達だが、余りにも多い敵に何とかして逃げ出そうと考えていると、突然敵の一角がざわめき出した。

 

「一体何だろう?」

「ガウ?」

 

『ギャワ!』

『グアオォッ!』

『キュアア!』

 

警戒を新たにした瞬間、魔物の何体かが吹き飛び、小さな何かが飛び出して来た。

 

「あ、あれは!」

「知ってるの、ベラ?」

「うん。あれは妖精族の一種、コロフェアリー族よ」

 

 

 

《コロフェアリー》

 

普段は独自の集落に身を潜め、余り外界とは接触をしようとしない小型の妖精族。

その反面、好奇心旺盛な者も多く、時たま妖精の村やドワーフの村などに希少な薬草などを食料などと交換しに来る事がある。

 

 

「何だか小っちゃくてかわいいな~」

「リュカ。今はそんな事を言ってる時じゃ…」

「わ、私だってもう少し着飾れば」

「ベラまで~」

「ピイィ~~」

「ガウ~~」

 

そんな中、剣を持つ者・斧を持つ者・十字架を持つ者・杖を持つ者・四人のコロフェアリーは横一列に並んで喋り出す。

 

「お前達、暴れる」

「お前達、悪い奴」

「お前達、邪魔」

「お前達、倒す」

 

「「「「やーーーーー!」」」」

 

四人のフェアリー達が其々のセリフを口にした後、其々の武器を頭上に掲げて雄叫びを上げる。

 

「か、可愛い…」

「く、悔しいけど確かに…。こ、これが人間界で言う《萌え》とか言う奴なのかな…?」

「…皆、今の状況解ってる?」

「ピイィ~~」

「そ、そうだね、こんな事してる場合じゃなかった。皆、僕たちも行こう!」

 

コロフェアリー達に見惚れていたリュカ達だが、スラリンの呟きとピエールの溜息で漸く我に返った。

 

「僕たちも戦うよ!ええい~~~!」

「コロフェアリーの妖精達、私達も加勢するわ!」

「ガオオーーン!」

 

彼等に加勢すべく魔物達へと戦いを挑むリュカ達。

そんな彼等にコロフェアリー達は…

 

「ん、誰?」

「ん、人間?」

「ん、何故此処に?」

「ん、謎?」

 

「「「「や?」」」」

「「ぐふっ!」」

 

不思議そうに小首を傾げ、それを見たリュカとベラは鼻を押さえて蹲る。

 

「だから真面目に戦おうよ…」

「ピィ…」

「ガウ…」

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

それから何とか落ち着きを取り戻したリュカ達はコロフェアリー達と連携しながら魔物の群れを撃退した。

コロフェアリー達は共闘した事からか、リュカ達を敵とは見なさずに武器を収めて話し掛けていく。

 

「何故、ヒー達助けた?」

「何故、人間此処に居る?」

「何故、魔物と一緒に居る?」

「何故、妖精と一緒に居る?」

 

「「「「や~?」」」」

 

「僕はサンタローズから来たリュカだよ」

「ガウッガウガウ」

「彼女はリンクス、そしてボクはスラリン」

「ピイ、ピエール」

 

「俺、ヒー」

「俺、ファイ」

「俺、プリー」

「俺、マー」

 

「「「「やーーーーー!」」」」

 

リュカ達が其々自己紹介をするとコロフェアリー達も剣を持つのが「ヒー」、斧を持つのが「ファイ」、十字架を持つのが「プリー」、杖を持つのが「マー」と名乗った。

 

「それでヒー達はどうして戦いに出て来たの?」

 

「ヒー達、村の勇者」

「ファイ達、村で一番強い」

「プリー達、村が好き」

「マー達、村を守る」

 

「でも、何時まで待っても春来ない」

「でも、何時まで待っても寒いまま」

「でも、何時まで待っても果物育たない」

「でも、何時まで待っても花咲かない」

 

「春が来ないの、おかしい」

「春が来ないの、変」

「春が来ないの、困る」

「春が来ないの、何故だか聞きに行く」

 

「そしたら、魔物暴れてた」

「そしたら、お前達居た」

「そしたら、お前達も戦った」

「そしたら、魔物達倒せた」

 

「だから、お前達敵じゃない」

「だから、お前達とは戦わない」

「だから、お前達と話する」

「だから、お前達にも聞く」

 

「何故、人間此処に居る?」

「何故、お前達一緒に居る?」

「何故、お前達仲良くしてる?」

「何故、マー達助けた?」

 

「「「「や?」」」」

 

どうやら何時まで経っても春が来ないのを不思議に思った彼等が妖精の村まで理由を聞きに行く途中だったらしい。

 

「春が来ないのは春を呼ぶ神具の《春風のフルート》が盗まれたからなんだ、僕達は春風のフルートを取り戻す為に氷の館に行く途中だったんだよ」

 

そう言ってリュカはヒー達に自分達の行動の説明をする。

 

「なら、ヒー達も行く」

「なら、ファイ達も手伝う」

「なら、プリー達も戦う」

「なら、マー達も仲間」

 

「「「「やーーーーー!」」」」

 

「うん!これから僕達は仲間で友達だよ、よろしくね!」

 

「リュカ、強い」

「リュカ、優しい」

「リュカ、好き」

「リュカ、友達」

 

「「「「やーーーーー!」」」」

 

~コロフェアリー達が仲間になった~

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

 

《次回予告》

 

遂に辿り着いた氷の館。

其処に居たザイルは絶対に春風のフルートは渡さないって言うんだ。

この分からず屋!こうなったら対決だ!

次回・第十二話「氷の館の対決」

 

もうおしりペンペンじゃ許さないよ!

 

 




(`・ω・)と言う訳で、コロシリーズが一時とはいえ仲間になりました。
コロシリーズは魔物では無く、妖精族の一種という設定です。


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第十二話「氷の館の対決」

 

鍵の技法を手に入れたリュカ達は漸く雪の女王の城である氷の館へと辿り着き、今は閉ざされた扉の前に立っていた。

 

「じゃあリュカ、扉を開けてちょうだい」

「うん、“扉よ、開け”」

 

扉の錠に手を当て、そう念じると錠はカチリと音を立てて外れ、扉はゆっくりと開いて行く。

 

リュカ達は雪の女王との決戦の場へと一歩足を踏み入れ、扉を開いて館の中に入る。

すると其処は一面の氷の床で出来ていて、一歩進もうとするだけでツルツルと滑り、歩く事さえままならない。

 

何かを思い付いたのか、リュカは床に向けてバギを唱えると氷の床はたちまちひび割れて行き、歩く事に支障は無くなり、ザラザラになった氷の床を歩いて行く。

その間も魔物達は絶え間なく襲い掛かってくる。

 

「アルミラージ」の群れをリンクスが石の爪で切り裂いて倒して行き、空中を飛び回りながら飛びかかって来る「ドラキーマ」をリュカはバギで切り裂いて行く。

 

「カパーラナーガ」は“冷たい息”で攻撃をして来るが、ベラの閃熱呪文(ギラ)によって、まるで溶ける様に消えて行った。

ピエールとスラリンもヒー達と見事な連係プレイを見せ、次々と敵を倒して行く。

そんな中、ベラはふと疑問を感じた。

 

「ん~~、何か妙ね?」

「何が、ベラ?」

「この氷の館は雪の女王の居城、なのに何故此処まで魔物共が溢れかえってるのかしら。この内部の壮観さからしてどうにも腑に落ちないのよ」

 

リュカも言われてみればと思い、辺りを見回す。

丁度レヌール城がこんな感じだった、優雅さを思わせる城の中を魔物達が荒らし回っている様な。

 

「とにかく、先に進みましょう」

「うん」

 

 

魔物達と闘いながら先に進んでいると開けた部屋に出た。

部屋の中央にある豪華な椅子から此処が玉座の間だと言う事が分かり、さらに近づいて行くと其処に一人の少年が居た。

玉座の前に陣取り、こちらに気付くと斧を振りかざしながら威嚇して来た。

 

「お、お前はベラ!くそぉっ、春風のフルートを取り戻しに来たな」

「ザイル、もう止めなさい!これ以上はガイルさんを悲しませるだけよ、今ならまだポワン様も許して下さるわ。さあ、私達と帰りましょう」

「うるさい!黙れ黙れ黙れぇーーーっ!誰がお前達の言う事なんか聞くものかーーっ!」

 

ザイルは聞く耳持たないと喚きながら斬りかかって来た。

 

「くっ、この分からず屋!」

 

ザイルの攻撃をベラは樫の杖で受け止めながらかわして行くがその実力差は明らかでベラは徐々に追い詰められて行く。

 

「とりゃーーーっ!!」

「「「「やぁーーーーー」」」」

 

リュカとヒー達はそんなザイルに飛び掛かって行き、驚いたザイルも後ずさりベラから離れる。

 

「お前、悪い奴」

「お前、敵」

「お前、嫌い」

「お前、やっつける」

 

「「「「やーーーーー!」」」」

 

「うわっ!な、何だお前達は!?」

「お前みたいな分からず屋は僕が相手だ!」

「誰が分からず屋だ!お前の方こそこんなに大勢で来やがって。この卑怯者!」

「僕は卑怯者じゃない!皆は手を出さないで、男同士一対一の決闘だ!」

「よく言った!行くぞぉーーっ!」

「来いーーっ!」

 

ザイルは斧を振り下ろし、リュカは鉄の杖でそれを受け止める。

リュカが鉄の杖を横に薙ぎはらうと、ザイルは後ろに飛んでかわし、再びリュカに斬りかかる。

 

そんな一進一退の攻防を幾度か繰り返し、リュカもザイルも傷だらけになって行く。

リュカの攻撃がザイルを打ち据えたかと思うと、ザイルの斧が一閃し、リュカのその頬に一筋の傷が刻まれる。

 

「ガウッ!」

「ダメだよ、リンクス!」

「ピイッ!」

「「「「やっ!」」」」

 

堪らず駆け寄ろうとしたリンクスをスラリンとピエール、ヒー達が押し留める。

リンクスは何故邪魔をするのかと攻め立てるが彼等は言う。

 

「リュカの邪魔をしちゃいけないよ。きっと怒られる」

「ピイピイ」

 

「リュカ、約束した」

「リュカ、一対一」

「リュカ、勝つ」

「リュカ、信じる」

 

「「「「やっ!」」」」

 

そんな皆の目を見てリンクスも気付く。

彼等だってリュカを助けに行きたいのだ、でも男同士の決闘だから手を出せない、皆辛いのだと。

ふと横を見ると、ベラも拳を握り締めながら歯をギリギリと強く噛み締めている。

だったら自分も見守り信じよう、リュカが勝つ事を。

 

 

ジャキーンッ、キンッ、キィーーンッ!

 

 

何度目かの斬り結びの時、ベラは気が付いた。

ザイルの目の色が変わって来ている事に。

赤く濁っていた目の色が何時の間にか青く澄んで来ているのだ。

 

「はあ、はあ、はあ…な、何でお前は俺の邪魔をするんだ!俺は爺ちゃんの為に妖精の村に復讐してやるんだ!」

「はあ、はあ…僕はね、そのおじいちゃんに頼まれたんだ!お前を助けてくれって!」

「爺ちゃんが?何で爺ちゃんがそんな事を……」

「馬鹿ーーっ!お前の事が心配だからに決まってるだろ!」

 

ガツンッ

 

「痛ぇーーっ!!」

 

リュカの拳骨がザイルの頭に決まり、ザイルは頭を擦りながら涙目で蹲る。

 

「何しやがる!!」

「あんなにいいおじいちゃんを泣かせるほど心配させたからだ、もう少し反省しなよ!」

「…爺ちゃんが…泣いてる?」

「そうだよ、ザイルは騙されている、取り返しがつかなくなる前に助けてくれって」

「俺が騙されてるだと?」

「お前、このまま春が来なかったらどうなると思うんだよ」

「どうなるって……、俺はただ爺ちゃんを追い出した妖精の村の奴らを困らせてやろうと…」

 

「困るだけでは済まないのよ」

 

リュカとザイルの勝負が止まった事を見計らい、ベラはザイルへと話しかける。

 

「困るだけじゃないって…どう言う事だよ」

「このまま春の訪れが無いと自然界のバランスは崩れ、人間界も、そしてこの妖精界にも甚大な被害が及ぶ事になるの」

「な、何だって!? そんな、雪の女王様はそんな事、少しも言わなかったぞ」

「でも事実それが事実よ。だからお願い、春風のフルートを返して。もう一刻の猶予も無いのよ!」

 

「フルート、返す」

「フルート、無いと春来ない」

「フルート、必要」

「フルート、皆の物」

 

「「「「やっ!」」」」

 

ベラとヒー達の嘆願にザイルは困惑している。

しかしベラはザイルが素直に話を聞いてくれると確信していた。

 

ザイルの目は先程とは比べ物にならないほど落ち付いているのである。

リュカとの全力でのぶつかり合いが彼の体に纏わり憑いていた邪気を撃ち払ってしまったらしい。

ベラは改めてこのリュカという少年の力に感心していた。

 

「どうするの?まだやるんなら相手になるよ」

「…いや、もう止める。まだ妖精達の言う事は信じられないけど、お前の言う事なら信じられる気がする」

 

そう言ってザイルは斧を下ろすと玉座の後ろに置いてある宝箱を開けた。

 

「ほら、これが春風のフルートだ。これを持って…」

『愚か者が』

「え、うわあああーーーーーーっ!!」

 

ザイルがフルートを手にした瞬間、何処からともなく声が響いて来て、ザイルは凍り付く様な冷たい風に吹き飛ばされた。

ザイルの手から零れたフルートは青白い姿の女性の手に握りしめられ、そのまま凍り付いてしまった。

 

『ふふふふ、これで私を倒さぬ限りは春風のフルートを手にする事は誰にも出来ぬ。つまりは不可能という訳です』

「じょ、女王様……な…んで?」

『子供だと思って手を抜いたのが失敗でしたね。やはり魂の奥底まで邪気で染め上げておくべきでした』

 

雪の女王はそう笑いながら凍り付いたフルートを放り捨てる。

その笑みはまるで見る物すべてを凍らせる様な冷たい笑みだった。

 

 

=冒険の書に記録しました=

 

 

《次回予告》

 

ザイルは悪い奴じゃ無かった。

騙されていただけだった。

ねえ雪の女王、もう止めてよ!

このままじゃ僕、冬を嫌いになっちゃうよ。

 

次回・第十三話「悲しき、冬との戦い」

 

ねえベラ、僕は……

 




Q:氷の館の鍵ですが、城門なのに単純な構造の鍵というのはおかしくないですか?

A:(`・ω・)それを言っちゃーおしまいよ。


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第十三話「悲しき、冬との戦い」

リュカとの戦いの中で落ち着きを取り戻したザイルは彼等の説得に応じ、春風のフルートを返そうとしたが、突如現われた雪の女王によってフルートは奪われ、氷の中に封じられてしまった。

 

「じょ、女王様……な…んで?」

『子供だと思って手を抜いたのが失敗でしたね。やはり魂の奥底まで邪気で染め上げておくべきでした』

 

倒れているザイルを冷やかに見下す雪の女王をべラは鋭い目線で睨みながら叫んだ。

 

「雪の女王!やはり貴女は邪に魂を売り渡したのね!」

『売り渡すとは人聞きの悪い。魂を委ねたと言ってもらえますか』

「……委ねた…ですって?」

『ええ、それにあのお方は決して邪ではありませんよ。冬の素晴らしさを分かってくださるお方です。貴方達も見たでしょう、純白に彩られた美しき素晴らしい世界を』

 

赤く染まった虚ろな目で、まるで作り物の様な笑顔でそう言う雪の女王を見てベラは悟った。

雪の女王もまた、ザイル同様に操られていると言う事に。

 

『さあ、もはや語る事などありません。貴方達は氷の彫像にしてこの館の永遠の住人にして差し上げましょう』

 

そして彼女の眼は赤一色になり、凄まじい形相をして襲い掛かって来た。

ベラは雪の女王より放たれた冷たい息を「フバーハ」で防御をし、リュカはその隙にザイルを柱の影に移動させホイミで治療をする。

 

「雪の女王、もう話通じない」

「雪の女王、もう駄目」

「雪の女王、もう敵」

「雪の女王、もう戦うしかない」

 

「「「「やあーーーーー!」」」」

 

「お、お前達…」

「アイツは僕たちに任せてここに隠れていなよ」

 

ザイルはベラ達の所に戻って行くリュカの背中を見ながら立ち上がり、斧を掴み取る。

 

「そんな訳に行くか、馬鹿野郎!」

 

 

ベラのギラやリンクス達の攻撃で雪の女王は傷付いていくが、周りの冷気が雪の女王に味方しているのか付けられた傷もたちまちの内に回復して行く。

 

「な、何よコイツ、切りが無いじゃない!」

「雪の女王はその名の通り雪の精霊なんだ。だから周りに冷気がある限りはきっと不死身なんだよ」

「じゃあ、どうするのよ!?」

「ピイ~~」

 

「どうするも、闘うしかないじゃないかーーっ!」

『ぐっ!この…人間風情が!!』

 

ベラ達が雪の女王の不死身さに悩んでいると、リュカが駆けて来て雪の王に鉄の杖で殴りかかる。

するとリュカが付けた傷はベラ達が付けた傷とは違い中々回復せず、そしてそれをベラは見逃さなかった。

 

「リュカが付けた傷だけ治りが遅い……。ものは試し、ギラッ」

『ぐわっ!お、おのれ!』

 

ベラが放った閃熱呪文は彼女の狙い通り、女王の傷を押し広げたばかりで無く、その治りも遅くなっている。

 

「まだまだーーっ!」

 

リュカは続けて雪の女王に殴りかかろうとするが、その攻撃を避けた雪の女王は冷気で作った剣をリュカに振り下ろす。

だがそれはリュカに届く事は無く、ザイルの斧に受け止められていた。

 

「…ザイル、何で?」

「助けられてばかりじゃ爺ちゃんに怒られるからな。騙されたお返しだ、俺も闘うぞ!」

 

「ヒーも戦う、リュカ守る」

「ファイも戦う、リュカ助ける」

「プリーも戦う、リュカ大事」

「マーも戦う、リュカ友達」

 

「「「「やーーーーー!」」」」

 

『何故、何故邪魔をするのですか!私はこの世界を汚れの無い雪で白く染めようとしているだけなのに』

「僕も冬は好きだよ」

『ならば何故!?』

「でもこのままじゃ嫌いになっちゃう。僕だけじゃ無い、みんなが冬を嫌いになる。雪

合戦したり、雪だるま作ったり、そんな風に楽しめるのは春や夏や秋があるから、だから冬も好きになれるんだよ!」

『…春や夏や秋があるから……』

 

リュカの言葉に雪の女王の体は動きを止め、その目はリュカを捉えたまま話さなかった。

 

「リュカの言う通りよ、四季の移り変わりがあるからこそ人々はそれらの季節一つ一つを愛する。それは例え春のみでも、夏のみでもきっと変りはないわ」

「(私……私は……しかし最早この体はもう…)…問答、無用です」

「(女王、貴女…もしかして)やはり言葉は届かないのね」

 

ザイルが加わり、闘いは一気に攻勢に転じた。

雪の女王はリュカの攻撃だけではなくベラ達からの攻撃をも回復しきれなくなって来た。

それだけでは無く、雪の女王の目からザイル同様に邪気が消えている事にベラとスラリンだけが気付いていた。

 

そして何を為すべきかも二人は気付いている、例えその事がどれ程リュカの心を傷つける事になろうとも。

だが、やるしかなかった。春を呼び戻す為にも、雪の女王を“救う”為にも。

 

「ギラッ!」

「くうっ!」

「今よ、リュカ!」

「リュカ、こいつを使え!」

 

ベラのギラで出来た隙をついてリュカはザイルから渡された斧で斬りかかる。

そんなリュカを雪の女王は受け入れる様に笑顔で両手を広げ……

 

「え?……」

 

そしてリュカの攻撃は雪の女王の体を深々と斬り裂いた。

 

「こ、れで…やっ、と……」

 

雪の女王はリュカの頬を優しく撫で、微笑みながらゆっくりと倒れていく。

その姿をリュカは呆然としながら見つめていたが、気を取り戻すと手にしていた斧を投げ捨て倒れた雪の女王を抱き上げる。

 

「何で?何でワザと倒されたの!?」

「わ…たしの体は…既に、魔王の魔力によっ…て、支配されてました。…でも貴方の力…が、心が、魂の奥…底に閉じ込められていた、わた…しの心を呼び覚まして…くれました」

 

リュカに抱えられた雪の女王は息も絶え絶えながらも答え、そんな彼女の言葉をベラやスラリン達も神妙な顔で聞き入っている。

 

「だったらザイルみたいに闘いを止めれば良かっただけじゃないか!」

「いえ…ザイルとは…違い、私の…魂は魔王の…邪気に…染められきってました。その呪縛から…逃れるには…この方法しか…ありませんでした」

「染められて……、染まりきる…」

 

そこでリュカは依然スラリンに教えられた事を思い出した。

魔王の魔力に染まりきった魔物は最早元には戻れないと言われた事を。

 

「そんな…そんなの、あんまりじゃないか」

 

潤んで行くリュカの瞳を見て、雪の女王は微笑んで彼の頭を、頬を撫でていく。

 

「優しい子ですね。悲しむ…事はありませんよ。貴方は…わ…たしを、助けてくれた…のですから」

「僕が、助けた?」

「ええ、あの…ままでしたら世界は…冬の寒さによって…人々は…冬を憎み…ながら…滅んでいたでしょう。それは私に…とって、何よりも…耐えがたい事。でも、貴方のおかげで」

 

そんな雪の女王の体はきらめきながらゆっくりと消えていく。

 

「ありがとう、これからも…冬を、好きでいて……」

 

そして後には何処までも透明な水溜りと、青く澄んだクリスタルが残されていた。

 

ベラは溶けた氷から解放されたフルートを手に取ると、リュカの元に歩いて行く。

スラリン達やヒー達に囲まれているリュカの肩に優しく手を置いてやり、声を掛けようとするとリュカが手を付けている水溜りにポツポツと零れる涙が波紋を広げていた。

 

「ねえ、ベラ」

「…何?」

「僕、いい事をしたのかな?」

「何故そう思うの?」

「だって、だって……雪の女王は悪い奴に操られていただけじゃないか。それなのに僕は」

 

ベラはそんなリュカを抱きしめ、背中を優しく擦ってやる。

リュカはベラにしがみ付いて小さな声で泣き始め、スラリン達やヒー達も心配そうに擦り寄って行く。

ザイルはそんな光景を見て、俯きながら「ゴメン」と小さな声で呟く事しか出来ないでいた。

 

「リュカ、貴方は間違いなく良い事をしたのよ。雪の女王も言っていたじゃない、「ありがとう」って」

「でも、でも…」

「今は泣いてもいいのよ、誰も笑ったりしないから」

「うっ、うっ、ベラ。うわあぁぁ~~~~ん」

 

泣き続けるリュカをベラはずっと抱きしめていた。

 

 

=冒険の書に記録します=

 

《次回予告》

 

春風のフルートは取り戻したけど、雪の女王は可哀想だった。

本当は悪い人じゃ無かった筈なのに…

でも、これで春が来るんだ、早くお城に戻らないと。

 

次回・第十四話「訪れた春」

 

「また会おうね、約束だよ!」

 




( ;ω;)雪の女王はミルドラースによって操られていたと言う事です。
リュカに成長を促せる為とはいえ、やはり辛い戦いでした。


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第十四話「訪れた春」

氷の館からの帰り道、ザイルは心配させた祖父に謝り安心させる為にも先に洞窟に帰ると言い出した。

もちろんその後、ポワンに謝る為に妖精の村に行く事は約束していた。

 

「リュカ、お前にも迷惑かけたし…その、悲しい想いをさせちまって…悪かったよ」

「もういいんだ。そのかわりお爺ちゃんやポワン様にもちゃんと謝るんだよ」

「ああ、それは約束するよ。じゃあまた何時か会えるといいな」

「きっとまた会えるさ。だってもう僕らは友達なんだから」

「ああ、じゃあ“またな”」

「うん、“またね”」

 

妖精の村と洞窟との別れ道で二人は握手を交わし、其々反対方向に歩いて行く。

そしてリュカ達は妖精の村へと帰り付き、今はポワンの前に立っている。

 

「リュカ殿、貴方達の闘いは私の心の目を通して見ていました。……貴方には辛い役目を押し付けてしまった様ですね、ごめんなさい…」

「うう…、ぐすっ」

 

ポワンは涙を零すリュカを優しく抱きしめ、リュカもポワンの胸の中で静かに泣き続けた。

そんな姿を心配そうに見ているベラ達だが暫くすると、目を真っ赤に腫らしながらもリュカは顔を上げてニコッと笑顔を見せた。

 

「さあ、ポワン様。早く春風のフルートで春を呼ぼうよ」

「ええ、そうですね。では皆、“春風の儀式”を行いましょう」

 

「「「「はい、ポワン様」」」」

 

ポワンが春風のフルートを吹き、妖精達はその音に合わせて踊る。

ベラも皆と共に踊っており、先ほどまで降っていた雪はそのまま桜の花びらに変わり、木々の蕾は一斉に芽吹いて花を咲かせる。

此処に、長い冬は終わりを告げ、命が芽吹く春が訪れた。

 

「春来た、暖かい」

「春来た、雪やんだ」

「春来た、花咲いた」

「春来た、マー達嬉しい」

 

「「「「やぁーーーーー♪」」」」

 

「では続けて、リュカ殿」

「何、ポワン様?」

「雪の女王が残したクリスタルは持っていますか?」

「うん、ここにあるよ」

 

リュカは仕舞っておいたクリスタルを取り出すとポワンに渡し、ポワンはそれを手にして何やら呪文らしき物を唱えるとクリスタルは光りを放ちながら空中に浮かび上がる。

 

ポワンが透き通る様な声で歌い出すと妖精達もそれに習って歌い出す。

するとクリスタルは光の粒になって広がり、そして再び一つの塊になるとその中から一人の赤ん坊が産声を上げながら現れ、ゆっくりとポワンの腕の中に降りて来る。

 

 

「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ」

 

「ポワン様、その赤ん坊はもしかして」

「ええ、雪の女王の生まれ変わりですよ。この子は私達が責任を持って、新たなる雪の女王として育て上げて見せます」

「そうかー、良かったね」

 

リュカは再び零れて来た涙を袖で拭うと、眠りについた赤ん坊の顔を覗き込みながら笑う。

 

「では、名残は尽きませんが別れの時が来たようです」

 

ポワンがそう言うとリュカは寂しそうにベラを見つめ、彼女も同じ様に見つめ返して来る。

本来、人間界と妖精界は交流を持たないのが当り前で事態が収拾された今、リュカ達も人間界へと戻らなければならなかった。

そしてそれは短い間とは言え、仲間として共に過ごしたベラ達との別離をも意味していた。

 

「寂しいね、ベラ」

「リュカ、私も寂しいわ」

 

二人は別れを惜しむように抱きしめ合う。

そんな二人を見つめながらポワンは告げる。

 

「リュカ殿、もし貴方が大人になり私達の力が必要になった時には私達は全力で貴方の力になる事をお約束しましょう」

「じゃあリュカ、暫くお別れね」

「うん。…ベラ、絶対また会おうね」

 

リュカは小指を立てて手を差し伸べるとベラも笑顔でその小指に自分の小指を絡めた。

 

「「「「リュカ…」」」」

 

その呼びかけに振り向いて見るとヒー達が寂しそうに俯いていた。

 

「リュカ、行っちゃう?」

「リュカ、帰る?」

「リュカ、お別れ?」

「リュカ、バイバイ?」

 

「ヒー、寂しい」

「ファイ、寂しい」

「プリー、寂しい」

「マー、寂しい」

 

「「「「やぁ~~~~~」」」」

 

リュカはうなだれている彼等に近づくと笑顔で話しかける。

 

「お別れなんかじゃないさ!」

「「「「や?」」」」

 

「今、ベラとも約束したんだ、また必ず会おうって。だからヒー達ともまた会おう、絶対に!」

「そうだよ、きっとまた会えるさ。だってボク達は仲間で友達なんだから!」

「ガウゥーーーン!」

「ピイピイ♪」

 

「「「「ホント?」」」」

 

リュカはニコッと笑うと拳を突き出して叫ぶ。

 

「男同士の約束だよ!」

 

それを見てヒー達も笑顔になってリュカの拳を握っていく。

 

「ヒー、約束する」

「ファイ、約束する」

「プリー、約束する」

「マー、約束する」

 

「「「「また、リュカと会う」」」」

 

「「「「「やーーーーー!」」」」」

 

そして光が辺りを包んだかと思うとリュカは自分の家の地下室に立っていて、その手には淡い香りを放つ「桜の一枝」が握られていた。

 

「約束したよ、きっとまた会おうね。ベラ、そしてヒー達も」

 

リュカはそう呟いて階段を昇って行った。

 

「サンチョー、おなか減ったーー!」

「はいはい、ではそろそろお昼にしましょう。旦那さまを呼んで来てもらえますか」

「うん、分かったーー!」

 

 

こうして長き冬は終わりを告げ、サンタローズの村にも柔らかな日差しが射す春が訪れていた。

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

《次回予告》

 

リュカに何があったのだろう、少し目を離した隙に何やら一段と成長している。

力だけでは無い、心まで成長している。

スラリンよ、教えてくれ。リュカに何があった?

 

次回・第十五話「スラリンとの語らい、そして運命の城へ」

 

リュカ、我が息子よ。

 



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第十五話「スラリンとの語らい、そして運命の城へ」

 

妖精の国での闘いは終わり、サンタローズもようやく訪れた春の陽気が包み込んでいた。

リュカも妖精の村から帰ってきた当時は暗い表情をする事が多かったが、最近は笑顔で村の中で走り回っている。

 

そしてパパスはそんな息子の事を不思議そうに見つめていた。

 

 

―◇◆◇―

 

「ふあ~~あ、父さん、おやすみ」

「ああ、お休みリュカ」

 

夜も更け、リュカは眠りに就く為二階の部屋へと上がって行き、リンクス達も後に続く。

一時してパパスが部屋を覗くとリュカはリンクスを抱きしめながらよく眠っていた。

スラリンとピエールはリュカの枕の横で寝ており、リンクスもリュカの胸の中で寝ているが、何処となく顔が赤い気がする。

 

パパスはそんな微笑ましい光景を笑みを浮かべて見つめると小さな声でスラリンの名を呼ぶ。

するとスラリンは目を開き、パパスと一緒に部屋を後にする。

 

 

―◇◆◇―

 

パパスは昼の内にスラリンに頼んでおいたのだ、夜リュカが寝静まった後に話がしたいと。

 

「すまないなスラリン、こんな夜遅くに」

「ううん、構わないよ。それで僕に話って何?」

「単刀直入に聞こう。…リュカに一体何があった?」

 

パパスの疑問は其処にあった。

サンタローズがようやく暖かくなって来たその日からリュカの様子が変わって来たからだ。

一見すると無邪気な子供の様だが数多くの闘いを潜り抜けて来たパパスからして見れば明らかに違って見えた。

何と言うか、戦士として一段階先に進んだとでも言うべき感じなのだ。

 

スラリンは少し悩んだが隠さずに全てを話す事にした。

妖精の国での出来事を、リュカが体験したあの悲しい闘いを。

 

 

―◇◆◇―

 

――スラリンが話してくれた事は私にとって驚愕に値する物だった。

私ですら何かを犠牲にしなければならなかった闘いは成人してからの物だった。

当然と言えば当然なのだろう、あの子とは違い私は王室で育ち成長して行ったのだから。

だがあの子はあの幼さでそんな闘いを経験し、苦しみ、悲しみ、それでも前を向いて進む事を選んだ。

あの汚れの無い笑顔がその証拠であろう。

 

そんな息子が誇らしくもあり、そして悔しかった。

あの時マーサを護れなかったばかりにリュカにこの様な運命を歩かせる事になった自分が情けなかった。

 

あのまま城に残しておけばその様な苦しみを味わせずに済んだのではないか?

しかし、マーサとの絆を離したくは無かった、傍に置いておきたかった。

我儘だとは解っていたがそれでもリュカを連れていく事を選んだ。

そんな後悔が顔に出ていたのだろうか、スラリンは言ってくれた。

『そんな事は無い』と。

 

「パパスさん。多分リュカを旅に連れて来た事を後悔してるんだと思うけどリュカはパパスさんと一緒に居られて良かったと思うよ。パパスさんと一緒だからリュカは真直ぐに育ったんだと僕は思うよ」

「そうか…そう思ってくれるのか。ありがとう」

 

スラリンが言ってくれた事に私は素直に感謝して頭を下げた。

ふふふ、私が魔物相手に頭を下げるとはな。

しかし悪くない気分だ、心の底からそう思う。

 

「それでパパスさん……、この事は」

「ああ、安心しなさい。勿論リュカには内緒だ。妖精の国での事はお前達しか知らない事なのだからな」

「うん。じゃあ、お休みなさい」

「お休み」

 

二階のリュカの部屋へと上がって行くスラリンを見送りながら私はあの青年が持って来てくれたルラフェンの地酒で喉を潤した。

そう言えばあのリュカに似た瞳を持つ青年は妙な事を言っていたな。

ラインハットでは気を付けろと、何やら語るべき事を語れないでいる様な感じがしたが。

それより何故私がラインハットに呼ばれている事を知っていたのか。

彼のあの悲しみに満ちた瞳が心に絡み付いていた。

息子と、妻マーサに似たあの瞳を。

 

 

―◇◆◇―

 

それから数日が経ち、パパスがラインハットへと登城する日が来た。

だが、朝からピエールの様子が変だった。

 

「ピエール、どうしたの?」

「ピイ~~、ピ~~…」

「スラリン、ピエールは大丈夫なのかな?」

「大丈夫。ピエールは「ナイト」への進化に入ったんだ」

「ナイト?」

 

 

《スライムナイト》

 

大型のスライムに騎乗する戦士型の魔物。

その生態は謎のままで、どの様な魔物は詳しい事は知られていない。

剣技だけではなく攻撃呪文と回復呪文をも操れる手強い相手である。

 

 

「スライムナイトか。何度か闘った事はあるが、まさかスライムの進化系の一つだったとな」

「でも何でこんなに苦しそうなんだろう?」

「ナイトへの進化は他の進化とは違うんだ。何しろスライムの体からもう一つのナイトの体を生み出すんだから」

 

 

スラリンの説明はこうだった。

 

・まず、ナイトの種と呼ばれる膨らみが出来る。

・その種が成長を続け、ある一定の大きさになると本体から分離。

・分離した種はそのまま「繭」になり、内部で人型のナイトへと姿を変える。

・スライムの体もナイトが乗騎するに相当する大きさまで成長する。

・その後はナイトが本体、スライムはナイトの目となり足となるもう一人の自分になる。

 

 

「なるほどな、そう言う訳だったのか」

「ただ、問題なのはナイトへの進化は他の進化とは違ってかなり長い時間を必要とするんだ」

「長いってどの位?」

「おそらく7~8年はかかると思う」

「そんなにかかるの!?」

 

リュカはピエールを心配そうに見つめるがピエールは心配はいらないとでも言う様に軽く笑みを浮かべるとそのまま眠ってしまった。

リュカは眠りについたピエールを以前、スラリンが隠れ住んでいた洞窟に連れて行った。

スラリンが言うにはこういったある程度湿気のある暗闇の中が丁度いいらしい。

 

「じゃあ、僕とリンクスは父さんと一緒にラインハットに言って来るからね。ピエールの事、頼んだよ」

「うん、任せておいてよ。気をつけてね」

「クンクン、ガウーン」

「あはは、リンクスが付いてるなら安心だね」

 

村の入り口でスラリンはリュカ達を見送っていた。

リュカが魔物を手懐けていると言う事は前もって伝えているが、やはりスラリンは村の外に出るのが怖いらしく、ピエールの事も心配という事で村に残る事にしたらしい。

 

「ではサンチョよ、留守は任せたぞ」

「はい、お任せ下さいませ」

 

パパスとリュカはサンチョや村人達の見送りを受けてラインハットへと歩き出した。

その道中には数多くの魔物達が襲ってきたが、もはやリュカの相手になる様な魔物はいなかった。

ポワンから貰った鉄の杖はすっかりとリュカの手に馴染み、リンクスの石の爪も相手の体を切り裂いていき、パパスはそんな二人の闘いぶりを笑顔で誉めている。

 

リュカはパパスに誉められるのが嬉しいらしく、自分の装備をパパスに内緒で変えている事に気が付いてなかった。

 

もっとも、パパスは当然最初から気付いていて、スラリンとの約束もあるのでそこを問い詰める気も無かった。

日が暮れ始める頃にようやく大河の傍にある関所に辿り着いた。

目を凝らせば対岸にも同じ様な関所があり、この大河の地下通路を通じて行きき出来るとの事だ。

 

「うわ~、大きな川だな~」

「うむ、この川を渡った先が正式なラインハット領だ。この関所はレヌール王家が健在だった頃の名残ではあるが今も関所としての役割は続いている」

「レヌール城か。王様達、元気で寝てるかな~」

「ははははは、何だそれは。お前達のおかげで静かに眠りについていらっしゃるさ」

 

パパスはそんなリュカの頭を一撫ですると詰め所に居る兵士に通行証を見せ、通行の許可を取ると泊まる為の部屋を用意してもらう。

泊まる部屋は対岸の関所の物を使う事にして宿泊許可証を受け取ると地下通路を通り、対岸へと渡りきった。

 

「リュカよ、今日は此処に一泊して明日の朝早くに立つとしよう。丁度夕暮れ時だから関所の上にある展望台に行こう、この時間の景色は圧巻だぞ」

「へ~、そうなの?楽しみだな」

 

パパスの言う通り、その光景は見事な物だった。

茜色に染まる空、そしてその空の色を川面が映し出し川の流れがキラキラと光る。

リュカは暫くの間その光景に目を奪われていた。

パパスはふと横を向くと一人の老人が川の流れを見つめている事に気が付いた。

俯き、溜息を吐きながらのそれは何かを耐え忍んでいる様な感じであった。

 

「御老人、何かあったのですか?」

「ん、ああ、旅のお人ですか。すまんがほうっておいてはくださらんか。儂はこの川の流れを眺めながらこの国の行方を考えておるのですよ。この国はこれからどうなって行くのかとな…」

「そうですか…。ならば、お風邪を引かれない様にお気をつけて」

「ああ、すまないね」

 

その背中に一抹の不安を感じたパパスだが、リュカを連れてその場を後にして宿となる部屋へと向かった。

 

翌日、朝日が照らし出した頃パパス達は関所を出発した。

そして此処から先には今までよりも強力な魔物が襲って来た。

 

おおきづちよりも一回り大きい「ブラウニー」

不気味な笑顔を浮かべながら力が抜ける様な笑い声で攻撃して来る「笑い草」

小型のドラゴンの「ベビーニュート」

地下に掘ったトンネルから攻撃して来て危なくなると仲間を呼ぶ「トンネラー」

魔族に作られた石人形に仮初の命を与えられた「土偶戦士」

 

そして何よりもリュカを驚かせたのは。

 

「と、父さん……」

「よく見ておけリュカよ。あれがスライムナイトだ」

 

リュカとほぼ同じ大きさのスライムに騎乗する戦士は何も言わずに襲い掛かってくる。

戦士が被っている鉄仮面からは赤い眼が光る様にこちらを睨みつけていて、スライムの眼は最早光りは宿って無く虚ろなままであった。

そんなスライムナイトを相手にしてリュカは中々攻撃に出れず防御するので精一杯だっが、パパスの剣が戦士をスライムごと真っ二つにした。

 

「あ、ありがとう、父さん」

「リュカよ案じるな、ピエールなら大丈夫だ」

「わかってるけど、何か急に怖くなって」

「ピエールはきっとお前の掛け替えのない仲間になる。何があろうとも彼が邪に堕ちる事などない」

「ガウガウ、クーーン!」

 

パパスに肩を叩かれ、リンクスに励まされ、リュカは立ち上がると笑みを浮かべる。

 

「そうだよね、ピエールはきっと大丈夫だ。ありがと、リンクス」

「ガウン、クーーン」

 

そしてリュカ達は再び歩き出す。

途中、再びスライムナイトが襲ってきたが今度は脅える事無く対処し、倒す事が出来た。

襲って来る魔物の中には宝石になる事無く逃げ出す魔物もいたがピエールの様に目が澄んでいる魔物は居らず、リュカは少し寂しそうであった。

 

その日は野営をして次の日の昼頃、パパスとリュカはラインハットへと辿り着いた。

 

 

 

全ての運命の分岐点である場所、ラインハットに………。

 

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

《次回予告》

 

ラインハットへとやって来たリュカ。

そこで出会った一人の少年、王子ヘンリー。

君はなんでそんなに寂しそうな目をしてるの?

え、決闘?なんで?

 

次回・第十六話「ヘンリー、孤独な目の王子」

 

くそーー、負けないよ!

 

 




(`・ω・)ピエール、ナイトへの進化開始。ナイトへの進化の描写は小説版を手本としています。
ちなみに、リンクスの装備が石の牙ではなく、石の爪なのは独自設定です。
実際、牙より爪の方が合っていると思うのですよ。


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第十六話「ヘンリー、孤独な目の王子」

~ラインハット~

 

滅びたレヌール国の領土を併合した為に北大陸のほぼ全土を統治する大国である。

その城下町もかなりの規模であり、城自体もレヌール城を遥かに上回る壮観さでリュカも辺りを見回しながら驚いていた。

 

「うわ~~、すごいね父さん」

「うむ、何しろこの北大陸の大半を治める国の城だからな」

 

リュカはリンクスを抱き抱えながらそう呟いた。

城下町で魔物が歩き回るのは目立ち過ぎると言う事でリュカがリンクスを抱きしめ、リンクスも大人しくしている事で危険は無いとアピールしている。

 

これはパパスの提案であった。

 

「では城へと赴くとしよう。城の中では大人しくしておるのだぞ。リンクスもな」

「うん、分かってるよ!」

「ガウ!」

 

 

―◇◆◇―

 

跳ね橋を渡り城門を前にすると門番の兵士が槍で門を塞ぎ詰め寄って来る。

 

「待たれよ!貴様等は何者だ、それにその子供が連れているのは魔物では無いのか?」

「私はサンタローズのパパス、ラインハット王・レナス陛下の要請で(まか)りこした。この子は私の息子のリュカ、連れている魔物も息子に懐いていて暴れる心配は無い。この事はレナス陛下にも御許可は頂いている、ご確認をいただきたい」

「そうか、ならばしばし待たれよ」

 

兵士の一人はそう言うと確認の為に城の中へと入り、しばらくすると駆けて来た。

 

「失礼しました、サンタローズのパパス殿。陛下がお待ちです、こちらへどうぞ」

「うむ、失礼する」

 

兵士の案内でパパスとリュカは城の中へと歩み出す。

城の中はやはりレヌール城よりも遥かに立派でリュカも目を輝かせながら見入っていた。

 

廊下を歩いている時にふと窓に目をやると中庭で一人、剣の練習をしている少年がいた。

その少年は剣を持ち、素早い動きで見えない敵と闘っているようだった。

 

視線に気付いたのか、その少年は動きを止めるとリュカを見つめたがすぐに目線を外し再び剣の練習に戻った。

 

「リュカ、どうかしたのか?」

「ううん、何でもない」

 

パパスに呼ばれ、リュカは歩き出したがさっきの少年の目が忘れられないでいた。

あの、孤独そうで冷たい目線が……。

 

「何だかあの子、僕の事睨んでいた気がする」

 

 

―◇◆◇―

 

案内をする兵士に連れられパパスとリュカは玉座の間に辿り着いた。

玉座に座っているレナス王はパパスを見ると懐かしそうに微笑むが、咳払いをすると厳しい目に戻りパパスを見据え、パパスもその玉座の前に膝を付いて平伏し、リュカも慌てて頭を下げる。

 

「そう硬くならずとも良い、お主の高名は儂の耳にも届いておるぞ。

そしてその子がお主の息子の」

「はい、陛下。我が息子のリュカです」

「こ、こんにちは、リュカです」

「成程な、既に何匹かの魔物を従えている筈だ。良い目をしている」

「違うよ、リンクス達は僕の大事な仲間で友達なんだ。従えているわけじゃないよ!」

 

「こら!国王陛下に対して何と言う口の利き方だ!」

「これ、リュカ」

「ははは、よいよい。その子の友達を侮辱した様な言い方をした儂が悪かった。すまぬな坊やよ」

「ううん、いいんです。僕の方こそごめんなさい」

 

激昂しかけた兵士もリュカが素直に謝った事で落ち着きを取り戻し、話は続いていく。

 

「ではパパスよ、そなたを呼んだ用事だがな……、すまぬが此処は儂とパパスの二人だけにしては貰えぬか」

「は?しかし…」

「この者は信頼が置ける人物だ。下がっていてくれ」

「御意。では失礼いたします」

「リュカよ、此処からは大人の難しい話だ。お前は城の中を見せてもらいなさい。一回り回る頃には話も終っているだろう」

 

国王の傍に控えていた兵士は命令通りに玉座の間を後にし、リュカも下の階へと降りて行く。

降りて行った下の階には豪華な扉があり、その扉が開くと一組の親子が出て来た。

母親の方は煌びやかなドレスに身を包み誇らしげな笑みを浮かべており、子供の方はいかにも王子様という様な格好だったが何処となく俯き加減で表情は暗かった。

 

「おや、そなたは?」

「は、はい。サンタローズから来たリュカです」

 

見た目からこの城の王妃だろうと察したリュカはパパスの為にも問題を起こさない様に丁寧口調で挨拶をし、頭を下げた。

 

「ほほほほほ、中々行儀の良い子ですね。その様に身の程をわきまえておけば将来、デールの良い部下になるでしょう。頑張って精進なさい、ほほほほほほ」

 

それに気を良くしたのか、王妃は笑い、息子の事を誉め立てる様に担ぎ上げて笑いながらその場を後にした。

デールと呼ばれたその子供はそんな母の傍で増長する訳でも無く、申し訳なさそうにリュカに頭を下げるとそのまま王妃の後についていく。

 

「何や、イヤな感じの王妃様だったけど、あのデールっていう王子様はどことなく寂しそうな感じだったな」

 

デールはリュカ達から離れる時にリンクスを抱きしめているリュカを羨ましそうに見つめていて、リュカはそんなデールの目を寂しそうだと感じていた。

 

実際にデールの傍にやって来る子供達は王妃によって厳選され、家臣としての態度しか取る事を許されてはおらず、動物と触れ合う事も汚らわしいと禁止されていた。

 

一階に降りて、兵士や城に仕えている人達と話をしているとこの城にはもう一人の王子が居るとの事だ。

その王子の名はヘンリー。

 

ヘンリーの父親は本来ならラインハットの王位を継ぐ者であったが、政事(まつりごと)には興味を見せずに武力のみを(みが)き、王位を弟のレナスに譲り渡すと修行だと言って旅立ったのである。

 

数年後、旅の途中に息子のヘンリーを連れて城に立ち寄った時、魔族による襲撃があった。

ラインハットの地を護る為にに先陣を切って闘ったヘンリーの父だが、敵を退けるのと引き換えにその命を落としてしまった。

 

既に母親を亡くしており、行く当ての無いヘンリーはレナスに引き取られ城で暮らす事となった。

だが、それを良しとしない王妃はデールの地位を奪いかねないヘンリーに辛く当り続けている。

実はレナス王がパパスを呼んだのもその事に関してであった。

 

 

―◇◆◇―

 

リュカが玉座の間を後にして少しした時、レナス王は態度を変えてまるで旧友にでもあった様な口調になる。

 

「はぁ~、お前相手にあの様な話し方は肩がこっていかん」

「ははは、仕方あるまい。何しろ今の私は少し名の売れているだけの一介の剣士にすぎぬのだからな」

「まったく…兄上とは違い、お前は一国の王だというのに……。困った男だよ、デュムパポス・エル・ケル・グランバニア国王陛下」

「……私にその名を名のる資格など無いよ。マーサを救う為とはいえ、国を捨てた男にはな」

 

ヘンリーの父がラインハットを出奔し、レナスが王位を継いだのと、パパスが前王崩御で王位を継いだのはほぼ同じ時期の為、二人は国王同士としての交流があった。

 

そしてサンタローズに戻ったパパスを呼び出したのは兄の遺児、ヘンリーの事であった。

兄の子で、息子デールよりも年上とはいえさすがにヘンリーに王位を譲る気は無かったが周りは気弱なデールより行動力に溢れ、性格はきつめだが隠れた優しさを見せるヘンリーを次期国王にと望む者は多かった。

 

だがそれが妻である王妃は気に入らないらしく、ヘンリーに辛く当たる事が多く見受けられていた。

なのでこのままヘンリーを城に留めて国を割る様な事になるよりはパパスに預けて国から離すのが得策だと思っていた。

 

何よりもヘンリー自身が城から離れる事を望んでいた。

このまま放っておけばいずれは兄の様に国を飛び出してしまうであろうし、それよりは勇猛で名の知られているパパスに預けるのならば周りの者達も反対はしないだろうと考えての事だった。

 

「なるほどな」

「あの子は本当に兄上そっくりだよ。国王となる資質は十分なのに身内同士での争いを良しとせず自ら身を引く。まあ、心から自由を求めているのも確かだがな」

「分かった、引き受けよう。どうせ暫くはサンタローズに腰を落ち着けるつもりだったからな。それにリュカにも良き友になるだろう」

「ああ、よろしく頼む」

 

 

 

その頃リュカは、何故か中庭でそのヘンリーと向き合っていた。

お互いに武器を握りしめて。

 

(何でこうなったんだろ?)

 

事の次第はこうである。

 

・給仕見習いの少女が運んでいた壺を落として割ってしまった。

・うろたえている少女の所にヘンリーが通りかかり、怒られると思った少女が泣き出してしまった。

・その声に何事かと駆けて来る兵士、その足音に怯えて余計に泣きだす少女。

・ヘンリーは手にしていた剣で割れた壺を更に粉々にし、やって来た兵士には力試しに壺を割ってしまい少女を泣かせてしまったと嘘の報告をして少女を庇う。

・兵士達は呆然としている少女とそっぽを向いているヘンリーを見比べて事態を悟るが、ヘンリーの思いを悟り割れた壺を片づけた後注意をしてそれで終わりにした。

・少女はヘンリーに何度も頭を下げ仕事場に戻っていく。

・そしてヘンリーがその場を立ち去ろうとしたら、一部始終を眺めていたリュカがニコニコ笑いながら立っていた。

 

 

「…何を笑ってやがる。馬鹿にしやがって…、決闘だ!」

 

 

=冒険の書に記録しました=

 

《次回予告》

 

と言う訳で決闘したんだけど、強かったなヘンリーは。

でもやっぱり一番は僕の父さんだよ。

そんな時、ヘンリーが攫われてしまった。

僕は男だ、絶対に助けてやる!

 

次回・第十七話「救え!攫われたヘンリー」

 

「待ってて、ヘンリー!」

 



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第十七話「救え!攫われたヘンリー」

ラインハットの王であるレナスに呼ばれ、城までやって来たパパスがレナスと話をしている間に城の中を見学していたリュカ。

そんな時、壷を割ってしまって困っている侍女を助けた王子のヘンリー。

一部始終を見ていたリュカはヘンリーに決闘をけしかけられてしまったと言う訳だ。

 

 

 

「と言う訳だと言われても」

「何グダグダ言ってやがる。かかって来ないならこっちから行くぞ」

 

そう言うとヘンリーはリュカに切り掛かり、リュカも剣で受け止める。

二人が使っているのは演習用の刃を潰した剣である。

 

我流のリュカとは違いヘンリーは父親に教わっていた為、ヘンリーの方が少し押し気味であった。

しかし、リュカの方も数々の実戦を潜り抜けてきており、逆にヘンリーの方はレナスに引き取られてからは実戦からは遠のいていた為リュカ程の急成長は無かったので、徐々にその差は縮まっていった。

 

「くそぉーーっ!何でお前なんかに!」

「どうしたんだよ?何でそんなに怒ってるんだよ?」

「うるさいっ!」

 

人にあまり見られたくない場面を見られ、笑われたのがきっかけとなり決闘をしろと叫んでいた。

 

父より教わった剣術、そして旅の中での魔物相手に繰り返して来た戦闘経験などから魔物をペットにしている様な相手に負ける筈が無いと決めつけていた。

だが実際に勝負をしてみるとかなりの強さであり、それが数多くの実戦経験に裏付けされたものだと言う事はすぐに分かった。

 

 

《お前を勇猛で名の知られているパパスに預ける事にする》

 

ヘンリーは事前に叔父であるレナスに告げられていた。

言ってみれば事実上の追放に等しいのだがヘンリーは笑みを浮かべてその言葉を受け入れた。

 

レナスがどの様な気持ちでこの判断を下したのかを知っていたし、何よりもこの狭い城から自由な大地へと解き放たれるのが嬉しかった。

 

パパスの名は父親からも何度か聞いた事があったし、その武勇から彼なりに父親の次に尊敬もしていた。

そんなパパスの元に行けるのだからヘンリーに否は無かった。

 

しかしそのパパスには子供が居た。

自分と同じ様に父親のパパスと旅をするリュカという子供が。

つまりヘンリーはリュカに嫉妬していた、自分とは違い今も父親と共に居られるリュカの事を。

城に来たばかりのリュカを睨み付けていたのもそれが理由だった。

 

「はあ、はあ、はあ…、くそっ!」

「はあ、はあ、やっぱり強いや」

 

十数分後、結局勝負は決着が付かないまま双方の体力切れで終わり、息を切らせながら横たわっていた。

そんな二人の対決をパパスとレナスの二人は城のテラスから眺めていた。

 

「さすがはパパスの息子だな」

「あの子は私の知らない所で勝手に強くなっていく。私の事など関係ないさ」

「ふっ、そうか」

 

リュカとヘンリーは起き上がると今度は何やら言い合いを始め、パパスとレナスは二人を見つめ微笑むと城の中へと戻って行く。

少し離れた場所で二人の子供を、特にヘンリーを憎々そうに見つめながらその口元に笑みを浮かべる王妃に気づく事無く。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

決着のつかなかったリュカとヘンリーの二人は互いに背をもたれさせながら座っていた。

 

「おい……」

「…何?」

「名前、何て言うんだ?」

「僕?僕の名前はリュカ」

「リュカか。俺はヘンリーだ」

 

そう言いながらヘンリーは振り返ることなく手を差し伸べる。

リュカも同じ様に振り返らずにその手を握り返した。

 

「俺の父さんは強かったんだ」

「ヘンリーの父さん?」

「この城を守る為に戦って、そして…死んだ」

「そっか。立派な父さんだったんだね」

「当然だ、父さんは世界一の剣士だったんだ!」

「何い、世界一は僕の父さんだよ!」

「俺のだ!」

「僕のだ!」

「「ううう~~~~~」」

 

「「決闘だ!」」

 

そして始まる第二ラウンド。

それを見ながら溜息を吐くリンクス。

 

「ガウ~~ン…」

 

 

 

結局、第二ラウンドでも決着はつかずに終った。

 

「もう、父さん達の話は終ったかな?」

「そうだな、俺も部屋に戻るとしよう。リュカも来るか?」

「うん、リンクスも行こう」

「ガウ!」

 

リンクスを抱き上げて、ヘンリーの部屋に行く為に城の中に入ると、突如裏庭へと続く扉から数人の男達が飛び出して来た。

 

「よし、この小僧だ。さっさとふん縛れ」

「へいっ!」

「了解でさあ、親方!」

「な、何だお前達は!? 何をする、離せ!」

「五月蝿えっ、大人しくしやがれこのクソガキ!」

「ヘンリーに何するんだ、離してよ!」

「お前には関係無いんだよ、眠ってろ!」

「ぐあぁっ!」

「リュカ!」

 

ヘンリーは襲い掛かってくる男達に抵抗しようとするがリュカとの決闘で力を使い果たしていていとも簡単に取り押さえられてしまった。

リュカもそんなヘンリーを助けようとするが彼もまた力を使い果たしており、男に壁まで蹴り飛ばされてしまった。

 

「へへへへ、一国の王子を攫う割には案外楽な仕事だったな。お頭、そこに転がってるガキと変な猫みたいのはどうしやす?」

「そんなのほっとけ。急がねえと城の兵士に気付かれるぞ」

 

男達はヘンリーに猿轡をして、縛り付けると入って来た扉から早々に逃げ出して行った。

 

「ま、待てよ…。ヘンリーを返せ!」

 

リュカは蹴られた腹を押さえながらも男達を負いかける。

しかし、扉から出た所で見たのは、外堀の川から船で連れ去られるヘンリーの姿だった。

 

「く、くそぉっ!」

「グルゥ…」

「リュカ、どうした!何があった!?」

 

パパスは騒ぎを聞きつけ掛け付けて来た。

 

「と、父さん。ヘ、ヘンリーが変な奴らにさらわれたんだ」

「何だとっ!そ奴等は何処に行った!?」

「あの川から船で逃げて行ったんだよ」

「おのれっ!逃がしはせぬぞ!」

「待ってよ父さん、僕も行くよ!」

 

パパスがヘンリーを攫った賊を追い駆けようとすると、リュカもまたパパスに付いて行くと言う。

 

「しかし危険だぞ」

「ヘンリーはもう僕の友達なんだ!友達を助けらなくて何が男だ!」

「……良く言った!それでこそ私の息子だ。行くぞリュカ」

「うんっ!」

「ガウッ!」

 

リンクスの鼻を頼りに追い駆け、辿り着いたその場所には雑草や蔦に覆い隠された古代遺跡があった。

 

「待っててねヘンリー、必ず助けてあげるからね」

 

そしてリュカはリンクスとパパスと共に、ヘンリーを助ける為に賊達の後を追う。

其処で起こりうる事を知る術をもたないままに……

 

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

《次回予告》

 

 

息子よ、お前は強い子だ。

 

息子よ、お前には仲間が居る、強い仲間が。

 

息子よ、願わくば私の使命を継いで欲しい。

 

息子よ、私は何時までもお前を愛しているぞ。

 

そう、何時までも。

 

例えお前の傍に居る事が出来なくても。

 

 

次回・第十八話「運命という名の悲劇と別離(わかれ)

 

 

リュカ、マーサを。母さんを……

 




(`・ω・)ゲーム本編から大幅な設定変更。ヘンリーは王の実の息子では無く、甥という事にしました。
これによってヘンリーはリュカと最後まで行動を共にする事になります。

次回は遂に少年期編の最後です。

では。(・ω・)ノシ


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第十八話「運命という名の悲劇と別離」

リンクスの鼻を頼りに追い駆け、辿り着いたその場所には雑草や蔦に覆い隠された古代遺跡があった。

 

~古代遺跡~

 

ラインハット城より北東の地にひっそりと佇む遺跡。

何時の時代に、どの様な目的で作られたのか今はもう知る由は無い。

訪れる者も無く、今では魔物の巣窟となっている。

 

「あいつらはここに居るんだねリンクス?」

「ガウガウ!」

 

リュカの問いにリンクスは大きく頷いて答える。

 

「よし、行くぞ!この中には魔物も居る様だ。くれぐれも油断はするなよ」

「分かったよ、父さん!」

 

遺跡の中に足を踏み入れたリュカ達だが、その中はまるで迷路の様に入り組んでいた。

 

「わぁ、道がグチャグチャだ?どうやって探せばいいのかな?」

「今は時間が惜しい、二手に別れよう。……出来るな、リュカ」

「当然だよ、僕にはリンクスが付いているからね。任せてよ父さん!」

「うむ、では行くぞ!」

 

パパスと分かれたリュカとリンクスは辺りを(うかが)いながら慎重に進んで行く。

 

白骨化した遺体が暗黒魔力によって魔物化した「骸骨兵」

天井にへばり付き、大きな一つ目玉から怪しい光を放ちながら触手で攻撃を仕掛けてくる「ダークアイ」

笑いながらパラメーターダウンの呪文を唱えてくる「笑い袋」

 

今まで見た事の無い魔物達が襲い掛かって来るが今のリュカ達の敵では無かった。

そうして進んでいると小部屋の様な場所があり、其処から数人の男達の笑い声が聞こえて来た。

 

「ぎゃははははっ!今回は楽な仕事だったな。何しろ王妃様直々のご依頼だったんだ。本来なら城の中に忍び込むにはかなりのリスクがあるっていうのにいとも簡単に忍び込めたんだからよ」

「しかしあのガキも気の毒にな。王子だっていうのに王妃から殺してくれって頼まれるんだからよ。その事を教えてやった時のあの顔、悲しみの余り涙が零れるのを我慢するのに苦労したぜ」

「笑い出すのを我慢したの間違いだろ」

「バレたか。ぎゃははははははははっ!」

 

賊達の会話を盗み聞きしていたリュカの手は震えながらきつく握り締められている。

 

「グウゥゥゥゥゥ~~~~」

「落ち着いてリンクス。今はヘンリーを助けるのが先だ、あいつ等を叩きのめすのはそれからだよ」

「ガウゥ…」

 

憤りながらも唸りを上げているリンクスを押さえ、まずは早くヘンリーを助け出す事を考えていると部屋の中から盗賊の声が聞こえて来た。

 

「しかしあのガキ、一人にしておいて逃げ出しやしねえだろうな?」

「大丈夫だろ。何しろ地下深くの牢獄、しかも地下水路の向こう側だからな。一人じゃ何も出来やしねえさ」

「それもそうだな」

 

「いい事聞いた。早く父さんと合流しなきゃ」

「ガウッ」

 

ヘンリーが地下の牢獄に閉じ込められていると知ったリュカとリンクスはパパスを探す為に先を急いだ。

暫く進むと数体の魔物と闘っているパパスを見つけ、加勢しようとしたが駆けつけた時には既に勝負は付いていた。

 

「どうしたリュカ、王子は見つかったのか?」

「ううん、まだだけどヘンリーを攫った連中が酒飲みながら喋ってたんだ。ヘンリーは地下の牢屋に閉じ込めているんだって」

「そうか、でかしたぞ!その賊共の事は後回しだ、急いで王子を助けに行くぞ」

「うんっ!」

 

地下水路の先の牢獄にヘンリーは捕まっている。

リュカが探り出したその情報を頼りにパパスは地下に通じる階段を探して行く。

先に進んで行くと階段を見つけ、降りた先には水路が広がっていてちょうど筏もあった。

さっそく筏に乗り込んで水路を進むとその先に幾つかの牢獄があり、その中の一つにヘンリーが閉じ込められていた。

 

「ヘンリー、助けに来たよ」

「リュカ?」

「くそ~~、駄目だ。鍵が掛かってて牢屋が開かないよ」

 

リュカはこっそりと鍵の技法を使ってみたのだが牢屋の鍵には通じなかったらしい。

 

「退いておれリュカ」

「う、うん」

「くううう…、はああぁぁぁぁっ!」

 

パパスは牢の扉の部分を掴むと力任せにこじ開けた。

 

「さあ王子、城へと帰りましょう」

「何しに来たんだよ……?」

「王子?」

「ほっといてくれたら良かったんだ!どうせ俺なんかが居たところで城の連中の迷惑にしかならないんだ。今回の事で嫌になる位それが解った。そうさ、いっその事このまま死んでしまえば父さんの所に行けるし、あの王妃だって…」

「王子…、そなたは…「バカーーーーっ!」…リュカ?」

 

パパスはヘンリーを叩こうと手を振り上げるが一瞬早くリュカがヘンリーを殴り飛ばした。

 

「くっ、痛ってぇ~~。何しやがる!」

「うるさい、この弱虫!」

「弱虫だと?」

「そうだよ!僕らが何の為にここまで来たと思ってるんだ、お前を助ける為じゃないか!なのにかんたんに死ぬなんて言うなんて!」

「其処までだリュカ」

「父さん…」

 

パパスは怒りで頭に血が上っているリュカを撫でながら宥める。

 

「王子…、いやヘンリー。リュカの言う通りだ、私達はお前を助けに来たのだ。なのにお前がそんな悲しい事を言ってどうする?」

「だけど俺には…、もうあの城に居場所なんて」

「お前の居場所ならあるぞ、私達の家だ」

「えっ?」

「そもそも私が呼ばれたのはお前を預かる為なのだからな。お前もそう聞かされていた筈だが?」

「でも、俺が行くとリュカやパパス殿に迷惑が…痛てっ!」

 

俯きながらそう呟くヘンリーをパパスは拳骨で殴る。

 

「子供がそんなくだらない事を心配するものじゃない、それと預かる以上お前は既にもう一人の私の子供だ、王子として特別扱いなどしないからな。其処の所をよく覚えておけ」

「父さん、そんな分からず屋な奴にはお尻ペンペンがいいんじゃない?」

「ふむ、それもそうだな」

「な、なんだってぇーーーっ!じょ、冗談じゃない、分かったよ。パパスど…さん」

「はっはっは、それで良い」

「ちぇっ!」

 

結局ヘンリーが折れて、パパスは笑いながら彼の頭を撫でるがリュカはヘンリーがお尻ペンペンされなかった事に舌打ちをして剥れていた。

 

「さて、そろそろ戻るとするか。賊共の討伐はまた後にしよう。今は無事に戻るのが先決だからな」

 

三人と一匹は筏に乗って進み、遺跡の一階へと続く階段を上っていたが突如背後から魔物の雄叫びが聞こえて来た。

何事かと振り向いてみれば瞳を真っ赤に光らせた魔物の群れが襲い掛かって来る。

 

 

「くっ!リュカ、此処は私が食い止める。お前はヘンリーと一緒に逃げるのだ!」

「そんな、僕も一緒に闘うよ!」

「俺も呪文の一つや二つくらい唱えられる!」

「ガウウーーッ!」

 

「ならぬっ!言う事を聞け!」

 

「わ、分かったよ。ヘンリー、行こう」

「あ、ああ」

「グルルゥ」

 

滅多に聞かない怒鳴り声にリュカは渋々ながら言われた通りに逃げる事にした。

走り続け、ようやく出口が近付いて来た時、その声は何処からとも無く聞こえて来た。

 

『ほっほっほっほっほ、生憎ですが此処から先には行かせませんよ。さて、逃げ出そうとする悪い子にはお仕置きが必要ですね』

 

リュカ達の目の前には突如黒い霧の様な物から不気味なローブを纏った薄気味の悪い男が現れた。

 

「な、何だよお前は?」

『これは自己紹介が遅れましたね。私の名はゲマ、どうぞお見知りおきを』

「お断りだよ!お前みたいな気味の悪い奴、覚えたくないよ!」

「ガウゥゥゥゥゥゥッ!」

「くそっ!出口はもう目の前だって言うのに」

 

『さあ、いい子ですから牢屋に戻りましょう。お友達も一緒にね、ほっほっほっほっ』

 

「ヘンリー、リンクス、全員で一斉攻撃だ!」

「おうっ!」

「ガウッ!」

 

リュカの合図で一斉攻撃をかけるがゲマの背後に先程と同じ黒い霧が湧き出てきたと思うとその中から飛び出して来た二体の魔物、ジャミとゴンズがリュカ達を殴り飛ばす。

 

「ぐわっ!」

「がはっ!」

「ギャンッ!」

 

リュカ達はその衝撃で吹き飛び、地面を何度かバウンドして倒れ付す。

そして其処に、魔物の群れを倒したパパスが駆け付けて来る。

 

「こ、これは…。リュカ!ヘンリー!リンクス!」

 

パパスは傷付き、倒れ付しているリュカ達を見据えると薄ら笑いを浮かべているゲマをきつく睨み付ける。

 

「き、貴様は…、貴様はあの時の!」

『ほっほっほっほっほ。どうやら覚えていていただけたようですね。光栄ですよ、デュムパポス陛下。いえ、今は"ただの"パパスでしたね、ほっほっほっ』

「マーサを攫っただけでは無く、よくもリュカ達を……、許さぬ!」

 

『許さない?許さなかったら如何するつもりなんだ?』

『ちょうどいい。此処で皆殺しにしてその魂を生贄に捧げてくれる!地獄の闇の中で永遠に苦しみ続けるがいいわっ!』

 

剣で斬りかかって来るパパスをジャミとゴンズは薄ら笑いを浮かべながら迎え撃とうとするが、怒りに燃えるパパスの剣はそんな二体の魔物をいとも簡単に切り捨てる。

 

『がはあっ!』

『ば、馬鹿な!? 我等が脆弱な人間などにこうも容易く…』

 

パパスは倒れ付したジャミとゴンズに止めを刺そうとするがゲマの笑い声にその手を止める。

 

『ほほほほほほほほほ。流石はパパス殿、その程度の輩ではやはり相手にもならなかった様ですね。しかしこうすれば……、どうなるのでしょうね?』

 

ゲマは鎌の刃を倒れているリュカの首筋に宛がいながら怖気のする様な笑顔でパパスに語りかける。

 

「きっ!貴様ぁ!」

 

『ほほほほほ、では続きを始めましょうか。悩む事は無いでしょう、世界を救う為には如何すべきか貴方には解っている筈。さあ見事私達を倒して世界をお救いなさい、愛する息子の命と引き換えに』

 

「ぐっ、ぐぐぐぐぐ!」

 

『ジャミ、ゴンズ、何時まで寝ているつもりですか。パパスさんがお待ちかねですよ』

 

『ははっ!おのれ、よくもゲマ様の前で恥をかかせてくれたな』

『さあ、かかって来るがいい。正義とやらの為にな』

 

「お……、おのれぇ……」

 

近付いて来るジャミとゴンズを目の前にしながらもパパスは何も出来ないでいた。

 

『おりゃあぁぁっ!』

「ぐわぁっ!」

『そりゃあぁぁっ!』

「ぐうぅっ!」

 

ジャミとゴンズの容赦の無い攻撃はパパスを絶え間なく襲い続ける。

パパスは反撃する事が出来ずにその攻撃を耐え続けている。

その責め苦が数十分続いた時、リュカとヘンリーは目を覚ます。

 

『くそっ、なんて頑丈な奴だ。まだくたばりやがらねえ!』

「く…くうぅ、リ…リュカ……」

 

「と、とうさ……、父さん…」

「パパ…スさん…」

 

『おや、どうやら子供達の目が覚めた様ですね。ではそろそろ止めを刺させてもらいましょうか』

 

ゲマはそう言うとその手の中に紅く燃える火球を作り出しながらパパスへと近付いて行く。

 

『苦しいでしょう、今止めを刺して楽にしてあげますからね』

「ま、待ってくれ。せ…めて最後に、我が子にわ…別れを言わせて……くれ」

『まあ、いいでしょう。でも子供達の心配でしたら無用ですよ?彼等はこれから奴隷としての幸せな毎日が待っているのですからね。ほっほっほっほっほっ』

 

 

「聞こえるか、リュカよ」

「父さん…」

「今まで黙ってきたがお前の母親は生きている」

「か、母さんが?」

「お前には…、お前達にはこれから苦しい試練が待っている事だろう。だが、その試練に、運命に打ち勝ち、母さんを…マーサを救い出してくれ」

 

「父さん…、父さんは?」

「私は……どうやらこれ以上お前の傍に居てやる事が出来ぬ様だ」

「い、嫌だ、そんなの嫌よ。と、父さぁん」

 

リュカは涙を流しながらパパスへと手を伸ばすが、傷付いた体は思うように動かず近付く事すら出来ない。

 

「ヘンリーよ、約束を守れずにすまない。出来る事ならばリュカを…、がはっ!」

「パ、パスさん。分かった、分かったから、死なないで…」

 

体中傷だらけで息も絶え絶えに、それでも笑いながら自分に語り掛けて来るパパスにヘンリーは泣きながらもそう言う事しか出来ない。

 

『もういいでしょう?それではお別れの時間です』

「そうだな……、これで…最後だ!」

 

そしてパパスは最後の力を振り絞り、ゲマへと飛び掛る。

 

『な、何を!? 離しなさい!』

『貴様!ゲマ様から離れろ!』

『この死にぞこないがっ!』

 

ジャミとゴンズはゲマに組み付いたパパスを引き離そうとするがパパスは組み付いて離れない。

 

「父さん、父さあぁぁぁん!」

「パパスさん!」

 

「息子よ……いや、息子達よ。私は何時までもお前達を見守っている、何時までも……愛しているぞ。………さらばだ!」

『この魔力の波動。貴方…まさかっ!?』

「貴様等には地獄まで…付き合ってもらうぞ!」

『や、止めなさい!』

 

そしてパパスはその禁断の呪文を唱えた。

 

「メガンテ!」

 

その瞬間、辺りを眩い閃光と衝撃が唸りを上げる。

 

『ぐおおおおーーーーーーーーっ!』

『『ぎゃあああーーーーーーーーっ!』』

 

 

 

 

《自己犠牲呪文・メガンテ》

 

それは大気中の魔力(マナ)を体内に取り込み、己の命を起爆剤にして敵を道連れに自爆をするまさに最強の呪文の一つである。

 

 

 

「「うわああーーーーーっ!」」

 

リュカにヘンリー、リンクスは爆風で吹き飛ばされて再び意識を失ってしまう。

 

 

 

爆発が収まり、辺りに静寂さが戻ってきた時、倒れているリュカ達の下に一つの人影が歩み寄って来た。

 

『ほっほっほっほっほっ!流石は人間界最強の剣士と呼ばれた男。やはり一筋縄では行きませんでしたね。もしやと思い、人形を用意しておいて正解でした』

 

なんと、その人影こそが本物のゲマであった。

先程までのゲマは偽りの体を暗黒魔力で操っていただけに過ぎなかったのだ。

 

『まあ、おかげさまでこの子供達もそう簡単には死ねなくなりました。まさに最上の奴隷となって働いてくれる事でしょう。おや、この子が持っているこれはまさか…』

 

ゲマはリュカの持つ袋の中から淡い光が漏れている事に気付き、中身を取り出す。

 

『これはゴールドオーブ。何故この子がこの様な物を?ほほほ、まあいいでしょう。これさえ壊してしまえばもはや天空城の復活はありえません』

 

ゲマのゴールドオーブを掴むその手に黒い光が集まって行く。

その黒い光に黄金色の光は次第に失われて行き、皹が入ったと思うとゴールドオーブは粉々に砕け散ってしまった。

 

『これで良し。ではしっかりと働いて来て下さいね。《バシルーラ》』

 

ゲマの放ったバシルーラによって、リュカとヘンリーは光となって飛び去って行った。

 

『後はあの魔物ですが……、まあ捨て置けば何れは魔性を取り戻すでしょう。さて、邪魔者であったパパスが死んだ事をあのお方にご報告に行くとしますか。さぞお喜びになる事でしょう、ほっほっほっほっほっ』

 

高笑いを残したまま、ゲマの体は黒い霧の中へと消えて行った。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

その頃……

 

「はあ、はあ、はあ。何なのでしょう、この例え様も無い胸騒ぎは?待っていて下さい、パパス様、坊ちゃま!今このサンチョがお傍に参ります!!」

 

留守を任されていたサンチョはラインハットへとひた走る。

 

 

 

~アルカパ~

 

「どうしたのビアンカ?」

「ママ、リュカは大丈夫かな?」

「何よいきなり」

「何だか急に心配になって。胸がドキドキして止まらないの」

「大丈夫よ、何たってあのパパスさんがついているんだからね」

「うん、そうよね。(無事だよね、リュカ)」

 

リュカと共にレヌール城を冒険したビアンカの胸にも胸騒ぎがざわめいていた。

 

 

 

~名も無き修道院~

 

「フローラ、どうしたのですかフローラ!?」

「うっうっうっ…シ、シスター・ラルカ。うううう…」

「何を泣いているのですか?」

「私にも分かりません。ただ、夜空を見上げていたら一筋の流星が流れ、それを見たら涙が止まらなくなって」

「流星?何か災いの予兆でなければ良いのですが」

 

修道院で修行を始めたばかりの少女は空を流れた流星を見て涙を流す。その胸の中にビスタ港で再会の約束をした少年の笑顔が浮かんでいた。

 

そして流星が流れて行った先には天に届くばかりの雄大さを誇るセントベレスと呼ばれる山があった。

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

 

 

そして誰も居なくなり静寂さが戻った此処、古代遺跡では………

 

「ガ、ガウウ……」

 

ようやく目を覚ましたリンクスだが、既に其処には誰も居なくなっていた。

 

「グウ、ガウ?…キュオオーーン!」

 

辺りを見回しリュカを呼ぶリンクスだが、当然の事ながら返事は無い。

そしてリンクスはリュカ達を探す為に走り出した。

 

「ガウッ。キュ~ン、キュ~ン!」

 

リュカの匂いを嗅ぎ分けながらリンクスは遺跡の中を駆け回る。

そんな彼女の頭の中には今までの思い出が巡っている。

 

 

 

『”ホイミ”』

 

 

『ガゥ?』

『もうちょっとの辛抱だよ。すぐに助けに来て上げるからね』

『グゥ…、クゥ~~ン』

 

 

体を包む暖かな癒しの光。

 

目を覚ました先の優しそうな笑顔。

 

「キューン、キャン、キャンッ!」

 

 

『あはははは!こら、くすぐったいよ』

『ガゥ~~、クゥ~~ン♪』

 

レヌール城でのオバケ退治を終えて、約束通りに迎えに来たリュカ。

 

 

「キャンキャンキャン!」

 

 

『ガゥ~~、ク~ン』

『ん、どうしたのリンクス。寒いの?』

『キュ~~ン』

 

『あはは、甘えん坊だねリンクスは』

『キュゥ~~ン♪』

 

春が訪れない寒い日に優しく抱きしめてくれたリュカ。

 

 

「ガウガウ、キャーンッ!」

 

 

『ねえ、ベラ』

『…何?』

『僕、いい事をしたのかな?』

 

敵であった雪の女王の為にも涙を流す優しいリュカ。

 

 

「キャン、クウ~ン、…リ…リュカ…」

 

リュカに隠れてしていた言葉の練習。

ようやく名前だけ呼べるようになっていた。

サンタローズに帰ったら驚かせようと内緒にしていた。

 

「リュカ!リュカ!リュカァーーー!」

 

リュカの名を呼びながら同じ所を駆け回るが、辿り着くのはやはり此処。

パパスが最後を向かえ、バシルーラによってリュカとヘンリーが連れ去られたこの場所。

 

「リュカ、リュカ、リュ…キャンッ!」

 

石畳の地面を駆け回った事でリンクスの足はすでにボロボロになっていた。

駆けていた勢いのままリンクスは倒れる。

もはや起き上がる力も無く、倒れたままの彼女の目線の先には唯一つ残されたパパスの剣が鈍く光っていた。

 

思い浮かぶのは優しげなリュカの笑顔。

その胸の中で感じた暖かな温もり。

共に笑いあったピエールとスラリン。

そして優しく名前を呼んでくれたあの声。

 

『君の名前はリンクスだよ』

 

『サンチョの作ってくれたご飯は美味しいだろ』

 

『今日は寒いから一緒に寝ようね』

 

『はははは、こっちだよリンクスーー。早くおいでよーー!』

 

 

「リュカ…リュカ……、イヤ…ダ。リュカ、リュ…カ」

 

その瞳から涙が零れる。

何度呼ぼうとも返事は返って来ない。

そしてようやく理解する、リュカは何処にも居ないと。

彼が自分を置いて何処かに行く筈はない、ならばあの敵に攫われてしまったのだと。

 

「リュカ、リュカ、リュカ……リュカァーーーーーーーーッ!」

 

泣き叫ぶその呼び声はただ虚しく暗闇の中の遺跡に木霊する。

そしてこの日から、10年にも及ぶ暗い暗黒の日々が始まろうとしていた。

運命と呼ぶには余りにも残酷な日々が………

 

 

一の刻・少年期編 ~完~

 

 

=冒険の書に記録します=

 

《次回予告》

 

これは何だ?

此処は何処だ?

あの人々の笑顔は何処へ行った?

煌く川面は?

心地よい草花の匂いは?

彼は?

友と呼んでくれた我が主は?

教えてくれ、何があったんだ?

友よ、スラリンよ!

 

次回・第十九話「目覚めし騎士(ナイト)、二人の誓い」

 

護ってみせる!彼が、帰って来るその日まで。

 

 




(`・ω・)少年期編、遂に終結です。
パパスの最後は原作通りの嬲り殺しでは無く、メガンテによる自爆に変えました。
まあ、結局ゲマのズル賢さの方が一歩上手でしたが。
次回は番外編としてサンタローズでのピエールとスラリンの話です。
その次から二の刻・青年編前半が始まります。


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番外編1《サンタローズの戦士達》
第十九話「目覚めし騎士、二人の誓い」


 

此処はサンタローズの村。

いや、だった所。

 

あの悪夢の日より、地図からも消された場所。

そして今、一人の騎士(ナイト)が目を覚ます。

 

 

「う、うう……」

 

ペリ。

 

ペリ、ペリ、ペリ。

 

暗闇の中、何かを剥がす様な音が響き、くすんだ青色の膜の様な物の中から一人の男が出て来る。

立ち上がった男の傍らには人が乗る事が出来そうなほどの大きさのスライムが眠っていたが、男の目覚めと共にそのスライムも目を覚ます。

 

彼の名はピエール。

そう、少年リュカの最初の仲間にして魔物では始めての友達、スライムのピエールである。

 

8年にも及ぶ眠りから覚め、今こそ彼はスライムナイトとして目覚めたのだ。

その体はスライム独特のぷよぷよした体では無く、見た目も人間の身体その物であった。

ピエールは手を握ったり開いたりし、新たな足で歩き、走り、飛び跳ねたりしている。

 

「これが人の手足、これが人の身体。これでようやくリュカ殿の役に立てる。そうだ、リュカ殿は。我が主は何処に?」

 

人の身体を得た事によって、ピエールは言葉を流暢に話せる様になっていた。

尤も、ナイトに進化した為かその話し方は仰々しい物だが。

 

ピエールは目覚めた時の為にパパスが用意していた服を身に着けるとスライムの体と共に洞窟を出て行く。

友と呼んでくれた主、リュカや仲間のスラリンとリンクスに会う為に。

だが、洞窟を抜けた先に広がっていたのは記憶にあるあの穏やかな風景では無く、荒れ果てた廃墟の村であった。

 

「………、な、何だ?何なんだこれはっ!?」

 

日の光を受けて煌いていた小川は黒く濁り、草花の茂っていた大地は地面が剥き出しで粗末な墓が幾つか立っていて、その面影はもはや何処にも無い。

人々が住んでいた家々は打ち壊され、掘っ立て小屋の様なみすぼらしい家が数軒あるだけで、村の中心にあった教会もかろうじて原型を留めているにすぎなかった。

呆然と村の中を歩いていると、何処からか叫び声が響いて来た。

 

「うわあーーーっ!た、助けて。誰か助けてくれぇーーーーっ!」

 

ピエールが声を頼りに駆け付けて見ると其処には一人の村人を襲う「さまよう鎧」がいた。

 

「おのれ!やらせぬぞっ!」

 

ピエールは足元に落ちていた枯れ木の棒を手に取ると、さまよう鎧に殴りかかる。

 

『ガッ!?』

 

元からボロボロだった枯れ木の棒はその一撃で砕け散ったが、さまよう鎧に出来た隙を突いてスライムの巨体が体当たりをする。

 

『ガアァッ!』

 

その勢いでさまよう鎧が持っていた剣がその手から零れ、地面に突き立つ。

ピエールはすぐさまその剣を掴むとさまよう鎧に斬りかかる。

 

「そりゃあぁぁっ!」

『ガァッ!ガガガ……』

 

ピエールの攻撃を受けて、さまよう鎧はふら付きながら二歩、三歩と下がって行く。

其処に……

 

「止めだぁーーーーーっ!」

 

銀色の小さな塊みたいな物が声を上げながらさまよう鎧に激突する。

 

『ギャガアァァッ!』

 

その勢いでさまよう鎧の体はバラバラになって飛び散り、最後に落ちた仮面からは赤い目の光が消えて行く。

 

「やったぁーーっ!ざまーみろ!」

 

それを見て銀色の塊みたいな物は飛び跳ねながら叫ぶ。

いや、みたいな物じゃなくそれは一体のメタルスライムであった。

 

「た、助かったよ。ありがとう、スラリン」

「どーーいたしまして」

「ス、スラリン?」

 

村人がメタルスライムをスラリンと呼んだ事にピエールは驚く。

当然だろう、彼の知っているスラリンはごく普通のスライムだったのだから。

 

「ああ、あんたもありがとうよ。ところであんたは旅人なのかい?」

「い、いや。私は…「ピエール?」…え?」

「ピエールなんだろ、僕だよ、スラリンだよ。やっとナイトへの進化が終ったんだね!」

「スラリン…なのか?その姿は……」

「うん、僕はメタルスライムに進化したんだ。スライムのままじゃ弱すぎてこの村を守り切れなかったから」

「そ、そうだ。この村は何故こんな風になってるんだ?あれから一体何が、リュカ殿は?」

 

ピエールは捲し立てる様に聞くが、スラリンは辛そうに目を閉じながら俯いている。

 

「そうか、あんたはあのスライムのピエールだったのか。立派になったなぁ」

「あ、はい。そう言えば貴方は武器屋の…」

「…ああ、あの頃は良かったなぁ…。村も平和で、皆で…笑いあって…。なのに、なのに……、ううう~~」

「おじさん、泣かないでよ…」

 

泣き崩れる男を宥めるスラリン。

そして彼はピエールに語って聞かせる。

あの日の惨劇を。

 

 

―◇◆◇―

 

リュカとパパスがラインハットに行った後、サンチョは何か胸騒ぎがすると言って飛び出していった。

それからから数日後、突如城の兵士が押し寄せて来た。

彼らはパパスが王子ヘンリーを攫い、何処かへと連れ去ったと言うのだが、当然村人達はそんな言葉を信じなかった。

すると兵士達は行き先を教えぬのならお前達も同罪だと村の中を荒らし回った。

 

スラリンは何も出来ずに怯えていたが、荒らし回っている兵士が人間では無く、擬態した魔物であるという事には気付いていた。

 

村中の家という家は焼かれ、川と井戸には毒が撒かれ、田畑も念入りに潰された後に塩を撒かれた。

 

その後、すっかりと寂びれたサンタローズには何時しか魔物が徘徊する様になり、生き延びた村人達も傷付いていった。

スラリンはそんな彼等を守る為に強靭な体を持つメタルスライムに進化する事を選んだ。

 

進化自体は数日で済み、何時か帰って来るであろうリュカとパパスを待ち続けていたのである。

 

 

―◇◆◇―

 

「そうだったのか、私が眠りに付いていた間にそんな事が…」

「ピエールは悪くないよ!悪いのはラインハットを影で操っている奴等だ!」

 

拳を握り締めながら項垂れているピエールをスラリンは励ます。

そしてピエールは徐に立ち上がるとバラバラになったさまよう鎧の残骸を集めると武器屋だった男に頼み込む。

 

「な、なんだいピエール?」

「親父殿!この鎧、私に合わせて打ち直して貰えぬだろうか?」

「この鎧を?」

「ああ、私も闘う!本音を言えばこのままリュカ殿達を探す旅に出たい。だが村をこのままにはして行けぬ。私もこの村を守る為に闘う」

「ホント!? ホントにピエールも僕と一緒に闘ってくれるの?」

「もちろんだ!共に闘おう、何時か帰ってくるリュカ殿達を迎える為にも」

「うん!ありがとう、ピエール!」

「そう言う事なら任せときな!久々の仕事だ、腕が鳴るぜ!」

 

 

 

 

それから後、サンタローズでは魔物による被害は激減し、村人達にも僅かながらに笑顔が戻って来た。

彼等もまた待っているのだ、リュカ達が帰ってくる事を。

 

そして戦士達は今日も主の帰りを待っている。

廃屋と化した嘗ての家の横に咲き誇る、柔らかな匂いを放つ桜の木を見上げながら。

 

 

 

彼等の望みが適うまで、後二年………

 

 

=冒険の書に記録します=

 

《次回予告》

 

あの日から十年、時の流れは少年を青年へと成長させる。

苦しみを耐え忍ぶ彼等だが、その苦しみを和らげてくれる存在も居た。

その彼女に牙が剥かれた時、彼等は遂に研ぎ澄ましていた牙を剥く。

 

 

第二十話「闇の中より、希望への脱走」

 

そして紡ぐは二つ目の刻

 

 




(`・ω・)と言う訳で、今回は外伝としてピエールとスラリンの話でした。
スラリンは最強スライムに成長させようと思ってましたが、さすがにスライムのままあの村で戦わせるには無理があると言う事でメタルスライムに進化しました。
メタルだとHPが低いだろと言われましたが、手っ取り早く強くなるにはメタルが一番早かったんですね。
見た目のイメージは「DQI秘伝 竜王バリバリ隊」の彼です。

ピエールですがスライムの体とナイトの身体に分かれたと言う事でナイトの方は人間そっくりにしました。
小説版ではスライムからナイトの体が生えているような感じだったから。

ピエールが身に着ける鎧はさまよう鎧からの流用品。
ちなみに文章の中で、ピエールの「体」と「身体」を使い分けているのは仕様です。

そして次回からいよいよ青年編に突入です。


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二の刻・青年期前半
第二十話「暗闇の中から、希望への脱走」


 

~セントベレス~

此処には嘗て神を祭る神殿があったとされるがそれは既に打ち壊され、今は新たに大神殿を創る為の大工事が行われていた。

 

それを行っているのは今世界中にその手を伸ばし、信者の数を増やし続けている『光の教団』。

 

そして工事をさせられているのは世界中から攫われた者や信者からその身を堕とされた奴隷達。

 

その中にはあのリュカとヘンリーも居た。

あの絶望と苦悩、哀しみと苦しみの日から10年の刻が流れていた。

 

 

 

 

 

『そおら、働けぇーーーーっ!』

 

ピシャーーーンッ!

 

監視兵の怒鳴り声と共に鞭が地面を叩く音が響き、その音を聞く度に奴隷達はビクッと身を縮める。

 

「はぁ、はぁ…、い、何時までこの地獄は続くんじゃ?」

 

老人が大きな岩を転がしながら呟く。

それに答えようとする者は居ない、もはや答える気力も残ってはいないのだから。

其処とは別の場所、土を詰めた土嚢を持ち上げようとする少女が居た。

痩せ細ってはいるが、その愛らしい顔立ちには些かの衰えも無かった。

 

「よいしょ、よいしょ」

 

彼女なりに持ち上げようとはするが、身体に溜まった疲れからか中々持ち上がらない。

 

「はあ、はあ。も、持ち上がらないよ~~」

 

すると横から誰かの手が伸びて来て、その土嚢を持ち上げる。

 

「え?」

 

少女が誰かと見上げると、其処に居たのはすっかりと成長したリュカであった。

 

「大丈夫か、リリス?」

「リ、リュカさん」

「こいつは俺が運んでおくから隠れて少し休んでろ」

「で、でも悪いです」

「いいから任せといて。代わりに後で膝枕でもしてくれればいいからさ」

 

そう言いうとリュカは笑いながら彼女の頭を優しく撫でてやる。

 

「あ…は、はい」

 

頬を赤らめるリリスを周りから見えない岩陰に隠すと、リュカは両肩に土嚢を乗せて歩き出す。

其処に一人の青年が近づいて来る。

彼はリュカと共に攫われて来たヘンリーである。

 

「相変わらずリリスには甘いんだな」

「べ、別にいいだろ。ヘンリーこそ昨夜はマリアに膝枕をしてもらっていたじゃないか」

「くっ、……見ていたのか」

「しっかりとね。それにヘンリーだってマリアの分を持ってるじゃないか」

「仕方ないだろ」

「ああ、仕方ないさ」

 

リュカとヘンリー、二人の少年達は10年の刻を経て体付きもがっしりとした青年になっていた。

普通の子供ならば数十分で根を上げる様な奴隷生活だがパパスの壮絶な最後を見ていた二人は決して挫ける様な事は言わなかった。

何時かはこの地獄を抜け出して父の遺言を果たす為に、何よりもこの地獄を世界中に広げようとしている光の教団と闘う為にも今は生き延びるために奴隷の立場に甘んじている。

 

そんな彼らにもこの地獄の中で救いとも呼べる出会いがあった。

それが先程の少女、リリスともう一人の少女マリアである。

 

二人の少女は同じ村に住んでいた幼馴染だったが、光の教団が教義を広めようとした時、彼女達の村はそれを断固として断った為に滅ぼされてしまい、生き残った彼女達は奴隷として連れ去られて来たと言う事だ。

 

似た様な境遇の四人は共に助け合いながら今日まで生き延びて来た。

 

「あれから10年か。早くこんな所抜け出さないと……。パパスさんの最後の願いを果たす為にもな」

「親父…。俺達だけなら何とかなるだろうが、リリス達を置いて行く訳には行かないからな。何かいい方法が有ればいいんだが」

「ああ……」

 

リュカ達は何も無駄に奴隷の立場に甘んじている訳では無かった。

作業をしながらも体を鍛え、瞑想などで魔法力を上げていた。

幸いにゲマに飛び掛った時には呪文を使ってなかった為に呪文が使える事はばれてはいない。

監視兵から隠れ、攫われて来た神父や魔法使い達から呪文を教わったりしていてかなりのレベルアップをしている。

先程リュカが呟いた様に二人だけならば脱獄は何とかなるだろうが二人の少女を置いたまま逃げ出す事は出来ない、マリアとリリスはもはや二人にとってはかけがいの無い存在となっていたのだから。

 

 

―◇◆◇―

 

『よーーし、今日の作業は此処までだ。明日も仕事はたっぷりとあるからな、ゆっくり休んで疲れを取っておくんだぞ。取れれば、だがな。はははははははは!』

 

笑い飛ばしながら監視兵達は自分達の詰め所に戻って行き、奴隷達も疲れ果てた身体を引きずりながら部屋へと戻って行く。

 

「ああ~、疲れた疲れた」

「大丈夫ですか、リュカさん?」

「大丈夫だよ。…だからそんな顔をしないでよリリス」

「だって…」

 

リリスはさっき頼まれた通りにリュカを膝枕していて、その頭をゆっくりと撫でている。

その隣ではヘンリーがマリアに同じ様に膝枕をされていた。

 

「そこまで気にする事はないぞリリス、リュカが好きでやってる事なんだから」

「そうそう。ヘンリーが好きでやってる事なんだから気にしなくていいよ、マリア」

「うん」

「えへへ」

 

 

そして翌日、事件は起こった。

リュカとヘンリーが何時もの作業をしていると、地下の作業場の方から何やら叫び声などが聞こえて来た。

 

「何だ、何か騒がしいな」

「…嫌な予感がする」

 

その予感は的中し、聞こえて来た悲鳴に二人の感情は爆発する。

 

「きゃああーーー!す、すみませんーー!」

「痛ぁーーいっ!ごめんなさいーー!」

 

「リリス!」

「マリア!」

 

二人はすぐさま走り出し、駆け付けたその場所ではリリスとマリアが監視兵に鞭で打たれていた。

 

「おいっ!何があった!?」

「ああ、酷いもんだ。あの娘達が転んだ際に靴に泥がかかったと言って…。言い掛かりもいい所だよ。こんな場所なんだ、普段から泥だらけの癖に」

「くそっ!行くぞ、リュカ!」

「ああ。急ごう、ヘンリー!」

 

リュカとヘンリーは二人を庇う様に前に立ち、兵士達に殴り掛かる。

 

「止めろぉーーっ!」

『な、何だ貴様等。邪魔をするなら貴様達も…』

「上等だ、やってみやがれっ!」

『ぐわあっ!』

 

魔法を使えるという事がばれると何かと厄介なので通常攻撃だけに留めてはいるが、それでも二人と監視兵達では力の差は歴然で次々と倒して行く。

 

「何だ騒がしい!これは一体何の騒ぎだ!?」

 

其処に鎧を身に着けた兵士が現れた。

その兵士は倒れているリリス達を見ると驚いた様に目を見開いた。

それは彼女達も同様で二人共、信じられない物を見たように驚いている。

 

「お、お前達は……」

「そ、そんな…」

「何で、ヨシュア兄さんが此処に?それにその格好は…」

 

リリス達がヨシュアと呼んだ男、それは二人が住んでいた村が教団に襲われる少し前に別の町へと引っ越していった幼馴染で兄とも慕っていた相手だった。

 

「た、隊長…、こいつ等が突然反乱を」

「反乱だと?言い掛かりもいい加減にしやがれ!俺達は…」

「違います!この人達は私達を助けようと…」

「話は後で聞く、男共は牢獄へ繋げ。女達は手当てをした後、同じ様に牢獄へ繋いでおけ」

 

リュカ達とリリス達はお互いを庇おうとするが、ヨシュアは取り合おうとせず、兵士達に命令をすると踵を返しそのまま歩き去って行った。

 

 

そしてその夜。

 

「ごめんなさい、リュカさん、ヘンリーさん。私達のせいで」

「気にしなくていいよリリス。悪いのは二人じゃないんだからさ」

「そう言う事だ」

「で、でも、ヘンリーさん…」

「気にするなと言ってるだろ、マリア」

 

四人は牢獄に入れられ、リリスとマリアは自分達のせいだと言うが、リュカとヘンリーはその事で二人を責める様な事はしない。

そんな時、牢の入口の方から足音が聞こえて来て、リュカ達が顔を向けると其処にはあの兵士が立っていた。

 

「手前っ!何しに来た!?」

「待って、ヘンリーさん。ヨシュア兄さん…、何故兄さんがこんな所で?」

「知り合いなのか、マリア?」

「うん…、私達と同じ村で暮らしていた…お兄さんみたいな人」

 

二人の少女は辛そうにそう言うと、その瞳から涙が零れて来た。

 

「すまない二人共、許してくれとは言わない。むしろあざ笑ってくれ、この馬鹿な男を」

 

兜を脱ぎ、膝を突いて謝るヨシュア。

そして彼は語り出した、何故光の教団に入る事になったのか。

 

彼の家族が引っ越した先の街ではすでに光の教団の教えが広まっており、彼等が入信するのにあまり時間はかからなかった。

父と母は教団員として、ヨシュアは兵士としての生活が始まった。

初めは教団が奴隷と連れ去られて来る人々の事も教団の教えを理解しない愚かな連中と見て来たが、やがて次第にその事に違和感を覚える様になって来た。

 

その違和感は徐々に不信感へと変わって行き、そして数日前に奴隷の中にリリスとマリアを見つけた事で遂にヨシュアは漸く教団の正体に気が付いた。

何とか二人だけでも逃がそうと画策している時に今日の事件が起きた。

そう、彼にとってこの事態は不幸中の幸いでもあったのだ。

二人を無事に此処から逃がす為にも。

 

「其処の二人、確かリュカとヘンリーだったな。頼む、リリス達を連れて逃げてくれ」

「逃げろって言われてもだな」

「確かに二人を連れて逃げる方法は考えていたけど、どうやって?」

「この先に死んだ奴隷達の死体を捨てる場所がある。其処からなら逃げ出せる筈だ、付いて来てくれ。リリス達も一緒に」

 

ヨシュアはそう言うと牢の鍵を開けて歩き出す。

リュカとヘンリーは流石にいぶかしがるが二人が素直に牢を出るとお互いの顔を見合って頷き、先に歩き出している彼女達の後を追う。

 

ヨシュアの後を追って辿り着いた先には水路があり、其処には幾つもの樽が備え付けられ、水が流れる先は外へと向かっている。

 

「此処で奴隷達の死体を樽に入れて水路から外へと流すんだ。逃げ場所は此処からしかない、樽の中に少しばかりのゴールドとお前達から奪っていた持ち物を入れておいた。さあ、早く行け!」

「兄さんはどうするの?」

「俺は逃げない、兵士や教団員の中にも奴等の正体に気付いている者は居る筈だ。そんな連中を集めて内側から闘ってやるさ。…せめてもの罪滅ぼしにな」

 

ヨシュアはそう言って笑うと二人の背中を押して樽へと乗せる。

樽は小さい為、リュカはリリスと、ヘンリーはマリアと、其々別の樽に乗り込んだ。

 

「奴等の手先となっていた俺が言う事では無いのだろうが……、二人を…頼む」

「任せとけ!というか…、本当に一緒に行かなくていいのか?」

「ああ。どの道、水路を開くスイッチは俺が入れなければならないからな。お前達は俺が殺した事にしておく、後の事は心配するな。じゃあ蓋を閉めるぞ」

「「ヨシュア兄さん…」」

「二人共、今まで苦しんだ分幸せになれ。出来る事なら此処での事や俺の事も忘れてしまえ。…じゃあな」

 

樽の蓋が閉められるとガクンッと樽が震え、流され始めたのが解る。

そして徐々に速度を増し、やがてドドドドドと轟音が聞こえ出すと樽は物凄い速度で落下を始めた。

水路は滝へと繋がっていて落ち始めた様だ。

 

「うわあああっ!だ、大丈夫なんだろうなこの樽は?」

 

激しい振動の中、リュカはリリスを抱きしめてそう叫ぶ。

するとリリスはリュカの背中に手を伸ばし、その胸の中に顔をうずめながらそっと呟く。

 

「大丈夫だよ」

「リリス?」

「何故かな?すごく安心してるんです。だから解るんですよ、大丈夫だって」

「そうか、なら平気だね」

「うん、大丈夫………」

 

そして滝の轟音は激しさを増し、お互いの声も聞こえなくなった。

だが……

 

「絶対、大丈夫ですよ」

 

何故かその言葉だけは心の中に染み込む様に聞こえて来た。

 

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

《次回予告》

 

遂にセントベレスよりの脱出を果たした俺達。

流れ着いた修道院でおよそ10年振りになる穏やかな日々。

だが、親父の最後の願いを叶える為にも俺は旅立たなければならない。

 

次回・第二十一話「流れ着いた修道院」

 

だから俺は、俺達は……

 

 




(`・ω・)さて、新章の始まりです。
読んでて、ありゃ?と思った方も多いでしょう。
オリキャラとしてリリスと言う少女が出て来ました。
さて、彼女はどういった役割なのでしょうね?(棒)

前回の投稿では此処でエタってしまいました。
さて、続きは……

安心してください、書いています。


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第二十一話「流れ着いた修道院」

(`・ω・)前回更新が途絶えてから実に3年と4ヶ月、漸く続きが書けました。



 

ザザ~ン、ザザ~ン、

 

波の音が風と共に潮の香りを運んで来る中、一人の青年が目を覚ました。

 

「う、うう~ん。此処は?」

「よう、やっと目を覚ましたかリュカ」

 

彼が寝かされていたベッドの傍らではヘンリーが本を読んでいた。

どうやらリュカが目覚めるまで看病をしていた様だ。

 

「ヘンリー?此処は何処だ、俺達は一体…」

「此処はセントベレスから結構離れた岬にある修道院だ。滝からの落下の衝撃で気を失ってる間に此処まで流されて来たらしい」

「リリスとマリアは?」

「安心しろ、二人とも無事だ。むしろ中々目を覚まさないお前の事を心配していたぞ」

「そうか…」

 

リュカがベッドから起き上がると扉がノックされ、「どうぞ」と言うと一人のシスターが部屋の中に入って来た。

 

「あら、お友達はお目覚めになられたようですね」

「はい、有難うございます。貴女方の看護のおかげです、シスター・ラルカ」

「ヘンリー、この人が俺達を?」

「ああ、この人がこの修道院の修道長、シスター・ラルカだ」

「そうですか、有難うございます。おかげで助かりました」

「いいのですよ、困った時はお互い様です。聞けば、子供の頃に攫われて10年もの間奴隷として苦しめられたとか。無事に逃げ出せた貴方方がこの場所に辿り着いたのも何かのご縁なのでしょう」

 

リュカとヘンリーが頭を下げようとするも、シスター・ラルカは手を差し出してそれを押し留める。

 

「リュカさん、貴方の事はヘンリーさんに聞かせていただきました。どれだけ辛く、哀しい事だったでしょう、私などには推し量る事など出来ません。しかし、今貴方は生きて此処にいます。今まで苦しんだ分、戦いなどを忘れて幸せになる権利が貴方には誰よりもあるのですよ。きっと貴方のお父様もそれを望んでいらっしゃる筈」

「シ、シスター・ラルカ…」

「そうですね、ゆっくりと考えてみます」

「そうなさってください。では、私は仕事が残っていますので」

 

そう言い残すとシスター・ラルカは部屋を後にし、ヘンリーはバツの悪そうな顔でリュカに語り掛ける。

 

「あ、あのなリュカ。シスターは悪気があってあんな事を言った訳じゃ…」

「言われなくても分かってるよヘンリー。そんな事で怒ったりなんかしないさ」

「ああ、そうだな」

「さて、これからどうするかだが…」

「「リュカさん!」」

 

リュカがこれからどうするかと言い掛けると、扉がいきなり開かれて二人の少女、リリスとマリアが部屋の中に飛び込んで来た。

 

「リリス、マリア」

「よ、良かった。リュカさん、無事で良かった」

「本当に無事で安心しました」

 

リリスは泣きじゃくりながらリュカに抱きつき、マリアも流れる涙を指で拭き取る。

 

「心配させたみたいでゴメンね。もう大丈夫だよ、二人共無事で俺も安心したよ」

「うん、うん。えへへ、お互い様ですね」

 

リュカの無事を確認してようやく笑顔になったリリス、そんな彼女の頭を優しく撫でてやるリュカ。

そして、そんな二人を穏やかな笑顔で見ながら寄り添うヘンリーとマリア。

そんな彼等を見守る様に、爽やかな海風と柔らかな日差しが部屋の中に流れ込み、注ぎ込んでいた。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

それから彼等は畑仕事や海での魚釣り、掃除や壊れた箇所の修繕、親を亡くした子供達と遊んだりと修道院での穏やかな日々を送っていた、今まで奪われ続けていた日常を取り戻すかの様に。

そんな日々の中でセントベレスでの過酷な生活でやせ細っていた彼等の体も徐々に回復していった。

リリスとマリアも女性らしい体を取り戻し、リュカとヘンリーも逞しい体付きに磨きをかけていた。

 

その様な生活が二ヶ月ほど続いたある日、リュカとヘンリーは遂に決意する。

冒険へと旅立つ事を。

 

 

 

 

「決意は……、変わらない様ですね」

「すみません、シスター・ラルカ。俺はどうしても行かなけりゃならないんです。母さんを救う為にも」

「それに俺達が戦わなければあの大神殿での地獄がいずれ世界中に広がってしまう。この修道院も何れは…」

 

皆が寝静まった夜更け、旅支度を済ませた二人はシスター・ラルカへ別れの挨拶をしていた。

 

「解りました。貴方方二人の瞳に宿っている眩い限りの決意の光、私の説得など及ばない様ですね。しかし、リリスさんとマリアさんの二人は?」

「彼女達を連れて行く事は出来ません。どうか二人の事はお願いします」

「あの二人は俺達同様に苦しみ抜きました。傲慢な考えかもしれませんがこれからはせめて穏やかな日々を送ってもらいたい」

「…きっと怒りますよ」

「ははは、でしょうね」

 

そう寂しそうに笑うリュカをシスター・ラルカは責める事無く優しげな笑顔で見つめるのであった。

 

「じゃあ、俺たちはこれで」

「今まで有難うございました。此処でのご恩は決して忘れません」

「まずは此処から北にあるオラクルベリーの町を目指すと宜しいでしょう。貴方方の旅路に神々のご加護を。我等一同、ご無事をお祈りしています」

 

 

 

 

満天の星空、そしてシスター・ラルカに見送られ、リュカとヘンリーの大いなる旅路は今、始まったのであった。

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

《次回予告》

 

遂に始まった新たなる冒険の旅。

親父の無念を晴らし、母さんを救う為に。

だから二人共、平和を取り戻した時にまた会おう。

 

次回・第二十二話「オラクル屋とブラウニー」

 

さあ、10年振りの冒険だ!

 




(`・ω・)と言う訳で冒険の再開です。
リリスとマリアの二人は後に冒険のパーティーに加わる事は決定してるので洗礼を受けてシスターになる事はしませんでした。


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第二十二話「オラクル屋とブラウニー」

修道院を出発して半日ほど経ち、太陽も頭上に輝いている森の中でリュカ達は昼飯を食べていた。

 

「このまま順調に行けば明日にでもオラクルベリーとか言う街に着けそうだな」

「順調に行けば…な」

 

神の施設でもある修道院の近くには聖なる結界が張られていた様で魔物の襲撃は無かったのだが、距離が離れるにしたがって徐々にその数を増やしつつあった。

魔物の強さ自体ははっきり言って今の彼等相手には大した事はないのだが、何しろ武器自体が貧弱な物しか無いのである。

 

リュカが持っている鉄の杖は子供の頃に使っていた物である為、この10年の間に所々に錆が浮いており、打撃力もかなり落ちていた。

ヘンリーが修道院で譲ってもらったブロンズナイフも同様である。

 

「なるべく戦闘は避けながら進むしかないな」

「それしか無い様だね」

 

腹ごしらえを終え、再び歩き始めると何処からか悲鳴が聞こえて来た。

慌てて駆けつけて見ると案の定、一台の馬車がモンスターの群れに襲われていた。

しかし、其処で見た光景に二人は驚きを隠せないでいた。

それは……

 

「お、おい、リュカ。何だあれは?」

「まさか…、ピエールの時と同じなのか」

 

魔物の群れに襲われている馬車と一人の男性を守るように戦っている一匹のブラウニーであった。

 

『ガウッガウウーー!』

『ピキャアーーー!』

「あ、あああ…ひいぃ~~~っ!」

「クッ!キエエーーーッ!」

 

そのブラウニーは同属のブラウニーやスライム、ガスミンクの絶え間ない攻撃で傷だらけの体で、這い蹲って怯えている男を庇いながら戦い続けていた。

そして、その鋭い瞳は少しも濁ってはおらず、青く澄んだままだった。

 

「何であのブラウニーは同じモンスターと戦っているんだ?しかも人間を庇いながら」

「魔王の波動に"染まっていない"からだろうな」

「"染まっていない"…か。あのキラーパンサーやお前が言っていたスライム達と同じって訳か」

「それは兎も角、俺達も行こう!」

「おう!」

 

 

 

『キシャーーーッ!』

「クアァッ!」

『ピキューーッ』

「グッ、クウゥ」

『『『キシャアァーーーーッ!』』』

「おっと、其処までだよ」

 

ガスミンクの吐くすなけむりで視界を奪われたブラウニーはスライムの体当たりで体制を崩して倒れ付した所に一斉攻撃を受けようとしたが、其処に漸くリュカ達が駆けつけた。

 

「クウウ…ナニ?」

「よく頑張ったな、此処からは俺達に任せておけ!」

「そういう事、ゆっくり休んでいて」

 

襲い掛かってくる魔物相手に反撃する彼等だったが、肝心のその武器が遂に寿命を迎えてしまった、後数匹だと言う所で砕け散ってしまったのだ。

神殿の中での隠れながらの修行で強くなっているとは言え、奴隷生活が長かった為に今だ戦闘の勘が取り戻せておらず、頼りの綱でもあった武器を失った事で今までの様な余裕が無くなってしまった。

せめてあと一人仲間が居れば状況はもう少しマシだったかもしれないが。

 

「くそっ!後もうちょっとだって言うのに」

「仕方ない、呪文と生身の攻撃だけで何とかするぞ!」

「しかしこうも絶え間なくこられたら呪文を唱える暇も無いよ」

 

そんな時……

 

「カアアァーーーーーーッ!」

「うわっ!な、何だ?」

「お、おい、あれを見ろ!」

 

二人が慌てて振り向いて見ると先ほどのブラウニーが木づちを構え、雄叫びを上げていた。

そして魔物達を鋭い目線で睨み付けると勢いよく飛び掛かり、振り抜いたその攻撃は一撃で地面ごと数匹のモンスターを吹き飛ばしたのだった。

 

「マ、マジかよ…」

「…凄まじいね」

 

辛うじて攻撃をかわした数体の魔物はブラウニーに反撃しようとするが、ブラウニーは魔物達に向かって再び木づちを構える。

 

「マダ…ヤルカ?」

 

ブラウニーが睨み付けながらそう言うと、残っていた魔物達は一斉に逃げ出して行った。

それを見届けると力尽きたのか、ブラウニーは木づちを落として崩れ落ちた。

 

「お、おい。アイツ大丈夫か?」

「大丈夫な訳ないじゃないか!取り合えずホイミをかけてあげないと」

 

「ちょっと待ってくれ」

「え?」

 

リュカがブラウニーにホイミをかけようとすると馬車の持ち主の男が待ってくれといって来る。

 

「何だ?まさかアンタを守ってくれたコイツをモンスターだから治すなとか言うつもりか?」

 

ヘンリーが怪訝な表情でそう言い放つと…

 

「ぶわっかむおおーーーーーーーんっ!」

「「うわあっ!」」

「痩せても枯れてもこのオルタム、たとえ魔物であろうとも命の恩人にその様な事を言うほど落ちぶれてはおわぬわい!」

 

さっきまでの弱々しい姿は何処へやら、怒り心頭でヘンリーに食って掛かる男だった。

 

「だ、だったら何故止めようとするんだ?」

「何、この特薬草を使ってもらいたいと思ったまでじゃ。ホイミよりは回復量は上じゃぞ」

 

そう言って男が取り出したのは特薬草。

滅多に手に入らない回復効果の高い薬草であり、その分値段もかなりの高額になる。

 

「いいのか?たしかこれ一つだけでも200ゴールドはしたと思ったが」

「当たり前じゃ。先ほども言ったが、こやつはワシを守ってくれた命の恩人じゃ。ここで出し惜しみなんぞしたら遠き御先祖様に申し開きが出来ぬわい」

 

そう言われ、特に拒む理由も無いので受け取った特薬草をすり潰してブラウニーの口に流し込む。

するとその高い回復力によって傷だらけだったブラウニーの体は瞬く間に癒えて行き、穏やかな寝息を奏でながら眠りに付いた。

 

「これで取りあえずは大丈夫だな。後はと…、動かす事も出来ないから此処で一泊だな」

「仕方ないよ。流石にほっとく訳にもいかないからね」

「そう言う事ならワシの馬車を使ってくれ。後二、三人位なら余裕で寝泊り出来るぞ」

 

その馬車は見た目と比べて中は広く、他の街で買い付けたらしい道具などを入れても確かに後数人は寝れるであろうスペースがあった。

 

「正直助かる。遠慮なくこの馬車で休まさせてもらうよ」

「だね。そうと決まればまずはこの子を先に馬車に乗せよう…ん?」

 

リュカが眠っているブラウニーを馬車に乗せようとすると、馬車を引いていたであろう白馬に目が行き、よく見ればその白馬も所々に傷を負っていた。

 

「ブルルル、ヒヒン…」

「お前も馬車を守ろうと必死だったんだね。ちょっと待ってて、《ホイミ》」

「ブル?…ヒヒヒ~~ン」

 

リュカが唱えたホイミでその体についた傷はゆっくりと癒え、白馬は軽く嘶くとリュカに頬を撫で付ける。

 

「ヒヒン、ヒヒヒン♪」

「ほほう。気難しいパトリシアが傷を治してくれたとはいえ、そうも懐くとはな」

 

馬車と白馬の持ち主、オルタムの言う通りパトリシアはリュカがすっかりと気に入ったらしく、体を摺り寄せたり嘗め回したりとじゃれ付いている。

 

「こ、こら、ちょっと止めてよ。あはは」

「ヒヒ~~ン♪」

「ははは。そう言えばお前さん達は旅の途中の様じゃが行き先は何処なんじゃ?」

「ああ、俺達の取りあえずの目的地はオラクルベリーだ」

「ほほう、ならば丁度良い。ワシが送ってやろう」

「いいのか?」

「かまわんよ、どうせ帰り道じゃ。ワシの店、《オラクル屋》はその街にあるのじゃからな」

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

《次回予告》

 

偶然助けた男、オルタム。

彼はオラクルベリーでオラクル屋という謎のよろず屋を営んでいた。

そしてこの街で出会った一人の老人が言うにはリュカには魔物の心を癒す力があるらしい。

 

次回・第二十三話「目覚めよ、秘められし力」

 

全く大した奴だよ、お前は

 




(`・ω・)何気にパトリシア、ゲットフラグ。
後、特薬草についてはあまりツッコまないで下さい。

(`・д・)そして「遠き御先祖様」?一体、誰ネコの事なんだ!

ストック切れの為、此処からの更新は少しばかりゆっくりになってしまいます。
続きは頑張って書いていますので応援お願いいたします。


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第二十三話「目覚めよ、秘められし力(前半)」

(`・ω・)エタってないよ、投稿だよ。
まあ、思ったより中々筆が進まなかった為短めですが。


 

魔物達の闘いから一夜明け、リュカ達はオルタムの馬車に乗って一路オラクルベリーの街へと進んでいた。

ブラウニーは余程疲れていたのか、あれから一度も目を覚まさずに眠り続けている。

 

「しかし、悪い奴じゃ無いってのは解ってるがこのブラウニー、街の中に連れて行って大丈夫なのか?」

「なあに、心配はいらぬよ。街の中には魔物を手懐けて一緒に暮らしておる変わり者の爺さんがおるんじゃよ」

「ま、魔物を?」

「そうじゃ。街の者達は《モンスター爺さん》と呼んでおる。その爺さんに預ければ悪い事にはならぬじゃろうて」

「一緒に暮らしている…か」

 

そう聞いてリュカの脳裏にはあの頃の穏やかな日々が蘇える。

共に暮らした"三人の友達"、リンクスとピエールとスラリンの顔が。

 

「アイツ等、無事だといいがな。特に…リンクス……」

 

今も故郷、サンタローズに居る筈のピエールとスラリンとは違い、古代遺跡で別れたままのベビーパンサーのリンクス。

何時も一緒だった甘えん坊の彼女の事を忘れた事は片時も無い。

そんなリュカを見て、ヘンリーは申し訳なさそうに彼の名を呼ぶ。

 

「リュカ…」

「大丈夫だよ、あの娘はあれで結構強いんだ。無事で居るに決まってる」

「ああ、そうだな」

「よっしゃ!見えて来たぞ。あれがオラクルベリーの街、別名《眠らぬ街》じゃ」

 

オルタムの言葉に二人は馬車の窓から身を乗り出して進行方向に目をやると、まだ日が高いにも関わらず街の外壁からは眩い光が漏れ出している。

 

「何だ、あの光は?」

「そういやお前さん達は知らなかったんじゃな。あれはカジノのネオンの光じゃよ」

「カジノ?」

「ゴールドを換金したコインを使って、色々な賭け事をして増やしたコインを再びゴールドに戻すなり、貴重なアイテムと交換したりする場所じゃよ」

「ほう、中々面白そうな場所だな」

「じゃが、気を付けるんじゃぞ。うっかりとはまったりすると財布のHPが0になってしまうからの、ほっほっほっ」

「…それは危険な場所だな」

「まあ、カジノは後で覗くなり遊ぶなりすればええ。まずはこのブラウニーをモンスター爺さんの所まで運ぶとしよう」

 

そう言って門を潜ったオルタムは街の外れにあるモンスター爺さんの家に馬車を進める。

 

 

 

―◇◆◇―

 

其処は一見すると石造りの有り触れた家の様だが、魔物達が住処にしているのは地下らしい。

むやみやたらに街の中に出歩かない様にする為と、街の住人を怯えさせない為だという事だ。

 

馬車から降りたオルタムは扉に近づくと、《コンコンコン、コココココン》とノックをする。

 

「随分と面倒くさいノックの仕方ですね」

「これは魔物を連れて来たぞという合図じゃよ。この合図以外では爺さんは表には出ては来ぬからな」

「何故だ?」

「さっきのカジノの中には捕らえた魔物を戦わせる闘技場があっての、爺さんの魔物を手懐ける能力を利用しようとする輩がおるんじゃよ。そんな輩どもの相手をするよりも魔物と一緒に居る方が気楽らしくての」

 

そうして暫く待っていると扉がゆっくりと開いていき、一人の老人が出て来た。

 

「なんじゃ、オルタムか。…其処におる二人は誰じゃ?」

「実は街に帰る途中で魔物の群れに襲われてのう、この二人と一匹のブラウニーに助けられたんじゃよ。じゃが、そのブラウニーが怪我をしてしもうたんじゃ」

「怪我じゃと!無事なのか!?」

「うむ、幸いに以前仕入れておった特薬草があったからそれで治療をしておいた。今は馬車の中で寝ておるよ」

「そうか、なら地下への通路を開くから其処から入ってくれ」

 

そう言って老人は家の中へと戻り、何かの操作をしだした。

すると家の前の通路が坂道の様に下がっていき、其処から馬車ごと入れるようになった。

 

 

 

―◇◆◇―

 

=地下に下りると多種多様の魔物達が居て、檻の中に閉じ込められている訳でも無く、其々自由に動き回っている。

 俺達に気付くと物陰に隠れながらチラチラと俺達を…いや、俺達と言うよりリュカに視線が集中している様だ。

 そのリュカはブラウニーを寝床に移した後、モンスター爺さんと話しをしている。

 

 

「成程、お前さんがそのブラウニーを浄化した訳じゃないのか」

「浄化って…俺にそんな事出来るんですか!?」

「何じゃ、お前さんは自分の力に気付いておらぬのか」

「俺の力?」

「お前さん、魔物と仲良くした事はないか?」

「はい、子供の頃にスライムやベビーパンサーと一緒に暮らしてました」

「ほほう、その魔物達はどうやって仲間にしたんじゃ?」

「仲間にしたっていうより、普通に友達になったって感じですね。元々彼等は魔王の波動に染まっていなかったし」

「ほう…魔物達が魔王の波動によって悪意に染まっている事を知っておるのか」

「子供の頃にスライムのスラリンに教えてもらったんですよ」

「そうじゃ、魔王の波動に染まる。それこそが魔物達の凶暴化の正体なんじゃ」

「じゃあ、此処に居る魔者達は」

「魔王の波動から辛うじて逃れた奴らじゃよ」

 

 

=言われてみればさっきから此方をチラチラと見て来る魔物達には敵意は感じられない。

 寧ろ、好奇心ありありといった感じだ。

 

 

「さっきの浄化の力ってどう言う事なんですか?」

「うむ、ワシも以前に見ただけなんじゃがな、魔王の波動に完全に染まりきった魔物の魂を浄化して元に戻す事が出来るお人が居ったんじゃよ。ワシはそのお姿に感動し、弟子入りして修行した事で弱い支配なら何とか解除する事が出来る様になったんじゃ」

「成程、そしてこの場所を作ったのか」

「ああ、ある意味魔物達も被害者の様なものじゃ。元々魔物は今程では無くとも凶暴ではあったが、それでも獲物を捕らえて己の糧とする為の物。その獲物が時たま人であったりしただけの事。我等人とて、己の糧とする為にほかの動植物の命を奪うのじゃから彼等だけを悪とするのは間違っておるじゃろう?」

「まあ、理屈は解るけどな」

「じゃから、大人しくなっておる魔物ぐらいは助けてやりたいと思ったのじゃよ。そしてリュカとか言ったな、お前さんからもあのお方と同じ力が感じられるんじゃよ。魔物達の魂を癒す事が出来る力を」

「魂を癒す…俺が…」

「そのお方っていう人は此処には居ないのか?」

「ああ、もう十数年前になるか、どこぞの武人と相思相愛になられてその方と共に旅立ってしまわれた。ワシは此処に魔物達の住処を拵えたばかりで付いて行く事は出来なかったからの、それっきりじゃよ。今もお元気でおられるかのう、マーサ様」

 

「マ、マーサ!?」

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 




(`・ω・)スランプは続いていますが何とか此処まで書き上げました。
長い間更新が途絶えているので前半という事で、一旦話を切って続きは次回に持ち越します。


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第二十四話「目覚めよ、秘められし力(後半)」

オラクルベリーの街で大人しくなった魔物達と暮らしているモンスター爺さん。

彼がかつて魔物の邪気を抑える術を学んだという人物、彼は名の人の名をこう呼んだ。

 

《マーサ》と……

 

 

「マ、マーサ…。その人の名はマーサと言ったのか!?」

「あ、ああ、そうじゃがお主はマーサ様を知って居るのか?」

「…死んだ親父から聞いたんだ。俺の母親の名前はマーサだと、世界の何処かで生きている母、マーサを探し出してくれと」

「何じゃと!どう言う事なんじゃ、詳しく聞かせてくれい!」

 

慌てふためいて聞いて来る爺さんにリュカはこれまでの事を説明していく。

幼い頃から父と一緒に母の手掛かりを探して旅をしていた事、父の最期の願いが母を探し出して欲しいと言う事を。

 

「な、何と…マーサ様が行方知れずとは、そんな事があったのか」

 

説明が終わると爺さんは頭を抱え込みながら椅子に腰掛ける。

孫ほどの年の差があるとしても、マーサは敬愛すべき師であるのだからその落胆は如何程(いかほど)の物であろうか。

 

「親父は俺に余計な心配をかけさせまいとしたんだろうな、幼い頃は母さんは居ないと教えられて来た。だからこそ、今わの際に母さんの事を俺に託したんだ」

「リュカだけじゃない、血の繋がりは無いがパパスさんは俺をもう一人の息子と呼んでくれた。託されたのは俺も同じだ」

「ヘンリー…、有難う」

 

そんな二人を見た爺さんは俯いていた顔を上げ、リュカに語り掛ける。

 

「ならばワシも力を貸そう。マーサ様のお子と言うのならお主にもマーサ様と同じ力がある筈じゃ。魔物達を支配する魔王の波動を打ち消す力が」

「魔王の波動を打ち消す力…。俺にそんな力が」

「なればこそ、魔王の波動に染まっていなかったとは言え魔物達と心を通わす事が出来たのじゃ」

 

そう言いながら爺さんは壁にあるスイッチを動かすと隠し扉が開き、その中へと進んで行くのでリュカ達もその後へと続く。

 

「何処へ行くんだ?」

「この先には魔王の波動に染まり、凶暴化した魔物が居る。闘技場から逃げ出したんじゃろう傷だらけじゃったのでな、ワシが治療をしてやったんじゃが暴れるばかりでちっとも懐いてくれんのじゃよ。じゃが、お主ならば浄化出来る筈じゃ、マーサ様の血を受け継ぐと言うのが真ならばな」

「でも、どうやれば良いんですか?俺には解りませんよ」

「マーサ様が仰るには魔物と重なっている黒い濁りを切り裂く感じじゃと言う事じゃ。残念ながらワシにはその濁りが見えなかったからそれを成す事は出来なんだがな」

「なら、リュカがその濁りとやらを切る事が出来れば全ての魔物を魔王の波動とやらから開放出来るって事か」

「生憎じゃがそう上手くはいかんじゃろうな。マーサ様のお力でも全ての魔物を救う事は出来ぬと嘆いて居られたからの。この先に隔離しておる魔物ももしやしたら手遅れかも知れぬ」

 

そして通路の際奥にある扉を開くと其処には牢の中から鋭い視線を放つ小型のドラゴン族《ドラゴンキッズ》が此方を威嚇していた。

 

「どうじゃ?黒い濁りは見えるかの」

「…はい、あの魔物の体に纏わり付く様な感じで見えます」

「ならば、あ奴の体では無くその濁りを攻撃するんじゃ。濁りを消し去る事が出来れば浄化は成功する筈じゃ」

 

爺さんは銅の剣を渡し、リュカは頷きながらそれを受け取る。

 

「すまんな。ワシは戦いには疎いのでこんな物しか無いんじゃ」

「いや、かえって丁度良いですよ」

 

あまり強い武器だと加減が難しいと言う事なのだろう、銅の剣を掴むと牢に近づいて行き、開かれるとドラゴンキッズは脇目も振らずに襲い掛かって行く。

 

『ガアァァーーーーッ!』

「おっと、そこだ!」

『グアァッ!』

 

初撃をかわすとリュカは剣を振り下ろし背中から切り付けるとその体には僅かな傷しか付いてはいなかったがリュカの顔には笑みが浮かんでいた。

どうやら、濁りを削り落とす事に成功したらしい。

 

「どうじゃ?」

「はい、僅かにですが黒い濁りが減っている。この調子ならあと数撃で浄化出来そうですね」

『シャアァーーーー!』

「良し、来い!その濁りを削り取ってやる」

 

リュカに飛び掛るドラゴンキッズ、その攻撃を危なげなくかわし、逆に切り付けて行くと徐々にその動きは鈍くなって行く。

傷自体は付いては行くが攻撃の割にはそれほど酷い傷では無い、恐らく体に纏わり付く濁りが逆に攻撃の威力を引き受ける鎧になっている様だ。

 

「ク、クオォ~~ン」

 

ドラゴンキッズの動きが止まったかと思うと、まるで助けを求めるかの様に弱々しく吼える。

 

「我慢しろよ、今助けてやるからな」

 

リュカはドラゴンキッズの頬を撫でてやりながら最後の一閃を繰り出すと、その体から黒い靄の様な物が吹き出たかと思うと赤い瞳は青く変わった。

 

「やった…のかリュカ?」

「お、おお、おおぉ~~。み、見事、見事じゃ。まさしくあの時と同じ、魔物の心をも癒す浄化の力。マーサ様と同じ力じゃ」

 

浄化されたドラゴンキッズはゆっくりとリュカに近づき、その足に頬を摺り寄せ、リュカもそんな彼を抱きかかえる。

感極まったのか、爺さんは大粒の涙を流しながらその光景に見入っていた。

リュカはリュカで浄化したドラゴンキッズを抱きながら自分の手を見つめていた。

 

「クオン、クオン」

「さっきまで強暴だった魔物をこんなにも大人しくさせるとはな。まったく、大した奴だよお前は」

「自分でも驚いているよ、俺にこんな力があるなんて」

「さてと、まずは名付けじゃ。そ奴に名前を付けてやるんじゃ」

「名付け?」

「ただ、浄化しただけでは何れ再び魔王の波動に取り込まれてしまうじゃろう。じゃが、新たな名を付けてやる事でお主とこ奴の間には絆が生まれ、そしてその絆は悪しき波動から守ってくれるじゃろう」

 

リュカはそう言われてドラゴンキッズを見つめると名付けを待っているのだろうか、期待を込めた瞳で見つめ返して来る。

 

「どんな名前にするんだ?子供のドラゴンだからコドランなんて良いんじゃないか?」

「…ヘンリー、子供の名付けはマリアに任せるんだよ。絶対に」

「ならお前はどんな名前を付けるつもりなんだ?」

「そうだな。今はまだ小さいが何れは強く大きくなる筈だから…、シーザーって言うのはどうかな?」

「クオーン、クオーン♪」

「ははは、気に入った様じゃな。これから先も浄化した魔物には名付けの儀式をする事を忘れるでないぞ」

 

 

 

こうして浄化能力を身に付けたリュカは魔物使いとしての新たなる一歩を踏み出したのである。

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 




(`・ω・)何とか完成、難産でした。
まあ、と言う訳で青年編での最初の仲間モンスターはドラゴンキッズで名前はシ-ザーにしました。
ベビーパンサーのリンクスが成長してキラーパンサーになる様に彼も成長してグレイトドラゴンになりますからこっちの名前の方が後々丁度良いとの自己判断です。

次回は馬車入手イベントになりまね、今度はなるべく早くうp出来る様にがんばりまっしょい。
後、今回から次回予告は諸事情により封印します。


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第二十五話「闘技場にて」

(`・ω・)今回も少し短めです。中々に文章を作るのは難しいです。


魔王の闇の波動を限定的ながらも浄化する術を手に入れたリュカ。

浄化されたドラゴンキッズはシーザーと名付けられ、先程までの凶暴さは微塵も見せずにリュカの腕の中で甘えている。

 

「クオーン、クオォーーン♪」

 

「しかし、本当に変われば変わるものなんだな」

 

リュカの腕の中のシーザーを見ながらヘンリーは呟く。

 

「さてと、お前さん達はこれからどうするんじゃ?」

「そうですね。この町で旅の準備をしてその後は故郷のサンタローズを目指すつもりです」

「ならばその間、シーザーはワシが預かるとしよう」

「ク、クオン?クオーン、クォ~~ン」

 

その言葉を聞いたシーザーは嫌だ、嫌だと言う様にリュカにしがみ付いて首を振る。

 

「仕方ないじゃろう。町の中に魔物が居ると要らぬ騒ぎになる。下手をすると闘技場の連中に連れ攫われてされてリュカと別れ離れになってしまうぞ。旅の準備が終わるまでは此処で大人しく待っておるんじゃ」

「クオォ~~ン…」

 

説得に漸く納得したのか、シーザーは俯きながら爺さんの方に飛んで来る。

 

「そう言う訳じゃ、シーザーはワシが面倒を見ておく。お前さん達は旅の準備が終わったらシーザーを迎えに来るとええ」

「解りました、遠慮なく甘えさせてもらいます。後で迎えに来るから大人しく待ってなよ、シーザー」

「クオーーンッ」

 

早く迎えに来てねと言う様に鳴くシーザーを爺さんに預け、リュカとヘンリーは爺さんの家を後にした。

 

「中々、面白い物を見せてもらったな。さて、ワシはそろそろ店に戻るとしようか」

「世話になったな、爺さん」

「なあに、世話になったのはワシの方じゃよ。ワシの店はこの町の際奥にあるからの、良ければ後で寄ってくれ。もっとも、ワシの店が扱う商品は少々特殊な物ばかりじゃからな、薬草などは別の店で買う方が良いぞ」

 

そう言うオルタムと別れ、二人は町の中へと歩いて行く。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

「改めて見るとやっぱり賑やかな町だね」

「まあ、十年ぶりの大きな町だからな」

 

町中を見渡しながら話す二人、彼等が見るその光景にはあの大神殿での悲壮さは欠片も見られず、人々の顔には笑顔が満ちている。

だがもし、光の教団の魔の手が此処にも伸びて来たら?

そうなればこの町に満ちている笑顔も瞬く間に消え去ってしまう。

いや手を拱いていれば、この町だけでは無く何れは世界中が奴らの支配下に納まってしまう。

それだけは許さないと決意を新たにする二人であった。

 

 

「へっへっへっへ!さてと、今日こそは大もうけさせてもらうぜ!」

 

意気揚々とカジノの中へと入って行く男。

そんな男を見ていたヘンリーの目がキラキラと光りだす。

 

「俺達もちょっと遊んで行こうか?」

「…きっとヘンリーみたいな人が身を滅ぼして貧乏になっていくんだろうな」

 

そう溜息を吐きながらも一緒にカジノへと入って行くリュカであった。

 

 

 

 

カジノの中はまさに別世界であった。

煌びやかな内装は何処の宮殿かと錯覚する様な物であり、悲喜交々な喧騒も彼等が感じた事が無い物であった。

 

「おおおっ!」

 

そんな中、ヘンリーは客にワインを運ぶバニーガールの揺れるお尻に釘付けになっており、リュカはそれを冷ややかに見つめながら何やらメモを取っている。

 

「ヘンリー、兎の耳を着けた女性の尻を見ている…と」

「…おいリュカ、何をしているんだ?」

「何、マリアと再会した時の為に少しメモを」

「お、お前と言う奴は…寄越せ!」

「おっと、そうはいかないよ」

 

メモを奪い取ろうとするヘンリーから逃げようとするリュカだが、その拍子に一人の女性とぶつかってしまう。

 

「あっ、すみません」

「い、いえ…、お気になさらずに…ぽっ」

 

ぶつかった女性はリュカの顔を見ると頬を赤らめ、きゃーと走り去って行き、柱の影に隠れるとチラチラと顔を覗かせてリュカを見つめる。

 

「な、何だあの子は?」

「リュカ、偶然出会った女性に惚れられる…と」

「…何をしているの、ヘンリー?」

「いや、リリスに再会した時の為に少しメモを」

「……」

「……」

「交換しない?」

「交換しよう」

 

お互いがお互いのメモを受け取り熱い握手を交わす。

熱い友情……なのか?

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

カジノの中を見回すリュカは其処で地下へと降りる階段を見つけ、其処に取り付けられている闘技場と書かれている看板を見るとその目つきは鋭くなり、それはヘンリーも同様であった。

 

 

《闘技場》

 

捕らえられた魔物をお互いに戦わせ、その勝敗を賭け事にする場所である。

勝敗に関わらずに戦いが終わった魔物は処分され、其処までが見世物なのである。

 

 

 

「殺れーー、そこだーーー!」

「そんな攻撃かわせーー!くそっ、なにやってんだ!」

「てめえには100ゴールド賭けてるんだぞ、負けやがったらただじゃおかねえからな!」

「切れ!噛み付け!炎を吐け!とにかく死ねぇーーー!」

 

これも人の本性なのであろう、血だらけになりながらも戦い合う魔物達を見ながら叫ぶ者達。

中には賭けをするでも無く、ただ魔物が死ぬ所を見に来た者もいる。

 

「何と言うか…、さっきリュカがシーザーを懐かせた所を見ただけにこれは…酷いな」

「でも、俺には何も出来ない」

 

リュカは手すりを握り締めながら呟く。

戦っている魔物達には纏わりつく濁りは見えず、そしてそれは此処にいる魔物達が既に波動に取り込まれた悪意しか持たない魔物である事を意味しており、自分達もこの先の旅の中でそんな魔物を倒さなくてはならないのだ。

 

「行こう、リュカ」

「うん…」

 

ヘンリーに促され、狂気とも取れるような叫び声を背にリュカは階段を上がって行く。

魔物の全てが悪い訳では無いと知りつつも彼等を責める事も出来ないままに。

 

そしてそのままカジノを出ようとした二人の背後から彼等を呼び止める声がする。

 

「ちょっとお前さん達、少しお待ちでないかい」

 

振り向いて見ると其処には水晶玉を持っている小柄な老婆がいた。

 

「ん?何だ、俺達の事かい婆さん」

「ああ、お前さん達はかなり複雑な運命を持っている様だね」

「…何が言いたいんですか、お婆さん」

「おおっと、怒らなくてもいいじゃないか。少しばかりこの婆さんの話を聞いてみる気は無いかね?ひょっひょっひょっひょっ」

 

 

=冒険の書に記録しました=

 




(`・ω・)占い婆さん登場。


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第二十六話「占いの示す場所」

(`・ω・)遅くなりました。


 

 

「ああ、お前さん達はかなり複雑な運命を持っている様だね」

「…何が言いたいんだ婆さん」

「おおっと、怒らなくてもいいじゃないか。少しばかりこの婆さんの話を聞いてみる気は無いかね?ひょっひょっひょっひょっ」

 

 

闘技場から出ようとしたら水晶玉を抱えた、何やら怪しげな婆さんに話し掛けられた。

 

「いや、別に…」

「そうお言いで無いよ。こう見えてもアタシの占いは良く当たると評判なんだよ、ひょっひょっひょっ。さあ、遠慮しないで座りんさい」

 

婆さんは笑いながら広間の隅に備え付けてあったテーブルの上に水晶玉を乗せると自分も座り、俺には対面に座れと促して来る。

 

「どうしようか、ヘンリー?」

「まあ、何かの縁だ。占うだけなら良いんじゃないか」

「そうだね。じゃあ、占ってもらおうか」

 

そう言ってリュカは椅子に座り、占い婆さんと向き合う。

 

「じゃあ、始めるとしようかね。~#$%&~」

 

占い婆さんが何やら呪文の様な物を唱えると、水晶玉は淡い光を放ちながら顔の高さまで浮かび上がる、リュカからは見えないが占い婆さんは水晶玉に浮かび上がる映像を食い入るように見つめる。

 

「…なるほどのう。さっきは少しからかうような物言いをしてすまなかったねぇ」

「何か見えたんですか?」

 

水晶玉に浮かんだ映像を見た占い婆さんは先程までのヘラヘラした顔とはうって変わり、真剣な表情でリュカに謝って来る。

 

「ああ、軽々しい気持ちで見て良い物じゃなかったけどね。辛い思いをしたんだねぇ」

「くっ…」

 

そう言う占い婆さんを軽く睨むが、その表情から本気で悪いと思っている事が見て取れ、リュカは怒鳴りつける事はしなかった。

 

「さてと、占いを続けようか。せめてもの詫びじゃ、今回はタダで占ってあげるよ。これからの旅の助けにはなる筈だからね」

 

「そっちから占いをしてやると言っておきながら金を取るつもりだったのか!」というヘンリーの突っ込みは婆さんには届かなかった。

 

「まず向かうべき場所はお前さんの故郷じゃな、其処に一つ目の道しるべがあるらしい。それから…城。ラインハット城じゃな」

「故郷、サンタローズか。帰るつもりだったけど、まさか道しるべがあるなんて」

「そしてラインハット…。どのみち避けて通れる訳でもないしな」

 

占い婆さんは占いを続けようとするが、水晶玉の光は徐々に薄くなり消えてしまう。

 

「お前さんの進むべき道はどうやら遥かに険しいらしいのう。今は此処までが精一杯じゃ」

「お婆さん。母さんの、俺の母親の事は何か解りませんか?」

「ちょっとお待ち~#$%&~。うむっ!?こ、こりゃあ」

「何か、母さんに何かあるんですか?まさか…」

「落ち着きなされ。う~む、お前さんの母親は生きてはおる。じゃがしかし」

「しかし?」

「残念じゃがこれ以上は分からぬ。何やら得体の知れぬ力が邪魔をしておるんじゃよ」

「生きているんですよね」

「それについては間違いが無い」

「そうか…。良かった」

 

零れる涙を隠す様に顔を伏せるリュカの肩をヘンリーは軽く叩いてやる。

 

「お前さん達にはこれから数多くの困難と試練が待っておる事じゃろう。道に迷った時にはこの町に来るとええ。ワシが何時でも占ってやるからの」

「ありがとう、お婆さん」

「なあに、かわまぬよ。ひょひょひょひょひょ」

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

すっかりと調子を取り戻した占い婆さんに別れを告げ、武器や防具などの装備を買い揃える為に町中を歩く二人。

あの大神殿での地獄の日々、そして今も世界を混沌に沈め様とする光の教団の暗躍。

それらを思うとこの町の賑やかさに若干の違和感を感じるがそもそもがこの光景こそが本来あるべき姿。

この光景を奪わせない為にもと、決意を新たにする二人であった。

 

装備はリュカが刃のブーメランに青銅の盾・鉄の鎧・鉄兜、ヘンリーがチェーンクロスに同じく青銅の盾・鉄の鎧・鉄兜。

それに薬草や毒消し草などの消耗品や当面の食料などを買い揃え、旅の為の馬車を手に入れる為にまずはオルタムが経営すると言うオラクル屋へと向かう。

 

「おお、お前さん達か。待っておったぞ」

「待っていた?」

「旅の為の馬車を探して居るのじゃろう?詳しい話をするからまずは店の中へ入ってくれ」

 

町の際奥にある店までやって来ると、二人に気付いたオルタムは笑いながら店の中へと誘う。

店の中は閑散としており、どうやら商品などは別の場所に保管しているらしい。

 

「で、馬車の事なんだがな。いくらになる?」

「命の恩人じゃ、金など要らぬ」

「ほ、本当か!?」

「と、言いたいんじゃがな」

 

金はいらないと言うオルタムにヘンリーは目の色を変えるが、オルタムの返事には落胆の色を隠せなかった。

 

「ワシにも生活があるしの、さすがに馬車の様に高額な物をタダでやる訳にはいかんのじゃよ」

「まあ、当然だよな」

 

先を急ぎたいのに馬車を購入する為にはしばらくこの町に留まり、魔物を退治して宝石を手に入れるか、町で働いて報酬を貰うかするしかない。

さすがにカジノで一攫千金を狙うほど世の中を舐めてはいない様だ。

そんな溜息を吐く二人にオルタムは話しかける。

 

「そこでじゃ、もしかしたらの話じゃがタダで馬車を手に入れられるかもしれぬぞ」

「どういう事だ?」

「二人共、ついて来てくれ」

 

店の奥に進むオルタムについて行くと其処には朽ち果て、ボロボロになった馬車が佇んでいた。

 

「まさかタダの馬車ってこれの事じゃないだろうな」

「まさかも何もこの馬車の事じゃよ」

「馬鹿にしてるのか?」

「ちょっと落ち着きなよヘンリー」

 

殺気すら感じる程に睨みつけるヘンリーだが、オルタムは何処吹く風と言う様に言葉を続ける。

 

「馬鹿にしてる訳でも騙している訳でもない。この馬車はな……」

 

馬車に近づいて愛おしそうに撫でると二人に振り向き、まるで品定めするかの様に見つめ、衝撃の告白をする。

 

「この馬車はな、遥かなる昔に世界を救った天空の勇者が、導かれし者達が旅に使った馬車なんじゃよ」

「て、天空の勇者?」

「導かれし者達だって?その馬車が何でこんな所に?」

「こんな所とはご挨拶じゃな。まあ良い、それはワシの御先祖様がその導かれし者達の一人、トルネコ様じゃからじゃよ」

「「はあぁっ!?」」

 

 

=冒険の書に記録します=

 




(`・ω・)と、言う訳で本作の馬車入手イベントはこんな感じになりました。


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第二十七話「新たな旅立ち。そして故郷へ・・・」

 

「この馬車はな、遥かなる昔に世界を救った天空の勇者が、導かれし者達が旅に使った馬車なんじゃよ」

「て、天空の勇者?」

「導かれし者達だって?その馬車が何でこんな所に?」

「こんな所とはご挨拶じゃな。まあ良い、それはワシの御先祖様がその導かれし者達の一人、トルネコ様じゃからじゃよ」

「「はあぁっ!?」」

 

その言葉に二人は驚愕する。

まあ、当然であろう。

長い時の中で、大陸などの形も変わり、嘗て存在していた国々なども全て滅びて久しい。

そして、天空の勇者と導かれし者達、それはただの物語などでは無く伝説の彼方に実在した世界の救世主達の事なのだから。

 

「あ、あなたが導かれし者の一人トルネコの子孫だっていうんですか?」

「まあ、伝説の商人トルネコ様の子孫がこんな質素な店を構えとるなど信じられぬのも無理は無いかのう。トルネコ様の孫、つまりポポロ様の息子が双子でのう、長男が店を受け継ぎ次男は冒険の旅に出たとされておる。その旅に出た次男の子孫がワシじゃと言う訳じゃ。ちなみに長男の子孫は何処かの町の大富豪らしく伝説にある天空の装備の一つを受け継いでおるらしい」

「付き合いは無いのか?」

「何しろ同じ血族とはいえ、何百年も前の事じゃからのう。噂話程度の事しか知らぬよ。ともあれじゃ」

 

オルタムは再び振り向き、馬車に向き直ると張り付いていた蔓や埃を振り払う。

すると其処には何やら竜の形をした紋章らしきものがあった。

 

「一見して朽ち果てた馬車に見えるじゃろうが、実はこの馬車はマスタードラゴン様の加護を受けておってな、相応しい持ち主が現われた時には往年の姿を取り戻すと言われておる。見事に認められればこの馬車はお前さん達の物じゃ」

 

場所を開け、リュカに紋章に触れるようにと促すオルタム。

ヘンリーと見つめ合い、頷くとゆっくりと近づきそして右手を差し出して紋章に触れる。

すると馬車は淡い光に包まれ、朽ち果てていたその車体は時が逆戻りする様に徐々に修復して行き、数分後には嘗て在りし日の姿を取り戻していた。

 

「うんうん、これで約束通りこの馬車はお前さん達の物じゃ。遠慮なく持って行くとええ」

「それは有難いが肝心の馬はどうする、リュカ?」

「どうすると言われても…、どうしようか?」

「安心せえ。パトリシア」

『ヒヒ~~ン』

 

オルタムが此処に来るまで彼の馬車を引いていた馬の名を呼ぶと、外へと繋がる通路から白馬、パトリシアが嘶きながら現われ、リュカに頬を摺り寄せ甘え出す。

 

「そやつはお前さんの事がかなり気に入った様なんでな、連れて行ってやってくれ。なあに、金を払えとは言わぬよ」

「いいんですか?」

「どうせ無理に繋ぎ止めていても今まで通りには働いてはくれぬじゃろう。ならば、お前さん達に預けた方が良い。幸い、馬は他にも居るからな」

「解りました、有難く預からせてもらいます」

 

そうして元の姿を取り戻した馬車にパトリシアを繋ぎ、買い揃えた装備や道具などを馬車に乗せる。

 

「さてと、流石に今から旅立つ訳にはいかないから今日は宿屋にでも泊まって出発は明日の朝にしよう」

「ならばモンスター爺さんの所で待っておれ。見送りついでにワシが馬車を其処に運んでやるわい」

「何から何まですみません」

「構わぬ構わぬ、ははははは」

 

 

 

―◇◆◇―

 

翌日、宿屋で一夜を明かした二人はモンスター爺さんの所へシーザーを迎えに来た。

眠らぬ町とはいえ、流石に夜が明けたばかりのこの時間には人々の行き来は無く、まだ町の人々は眠りの中にいる為に家の外に出て来たシーザーが騒ぎになる事は無かった。

 

「クオオ~~ン♪」

「これこれ、あまり騒ぐと周りの奴らが目を覚ますぞ」

 

ドラゴンキッズのシーザーがやっと迎えに来たリュカに飛びついて甘えているとモンスター爺さんが一匹のブラウニーを連れて来た。

 

「そのブラウニーはたしかあの時の」

「ああ、お前さん達が連れて来たブラウニーじゃよ。何やらお前さん達に頼みがあるらしくての」

 

するとそのブラウニーは二人の前にまで歩いて来ると木づちを地面に置いて頭を下げる。

 

「オレモ、ツレテイッテ」

「付いて来たいのかい?」

「オレノ、ナカマタチ、ミンナヘンニナッタ。タタカイタクナカッタ、デモタオサナイト、オレ、コロサレテイタ。トモダチ、コロシタクナカッタ」

 

まだ拙い言葉遣いだが、ブラウニーは拳を握り締め、涙を流しながらそう言って来た。

魔物ではあるが彼らなりに平穏な生活をしていたのであろう。

だが、魔王の邪悪な波動が彼の仲間達を殺戮や争いなどしか行えないモンスターへと変貌させた。

そして彼だけが邪悪な波動から逃れる事が出来たが、それは同時に今までの仲間が敵へと変わった事でもあり、生き残る為にはその嘗ての仲間達を倒さなくてはならなかった。

あの時も、仲間を変貌させた魔王を倒す為の旅の最中の出来事だったらしい。

 

余程悔しかったのだろう、握り締めた拳からは血が滲み出し地面に血溜りを作っていた。

 

「オレ、ヒトリジャ、ナカマノカタキ、トレナイ。オマエタチ、ツヨイ、オマエタチ、イッショナラ、キット、マオウ、タオセル。オネガイ、ナカマニ、シテ」

 

そんなブラウニーを見つめていると抱きかかえていたシーザーがペロリと頬を舐め、「クオン」と軽く鳴いた。

どうやらシーザーも彼を仲間にして欲しいと言っている様だ。

 

「答えは聞くまでも無いだろうが……、どうするリュカ」

 

軽く笑いながらそう言うヘンリーと軽く拳を合わせるとリュカはブラウニーの所まで歩いて行き、血が流れたままの手にホイミをかけてやると、ブラウニーは傷が癒えた拳を握ったり開いたりした後リュカの顔を見上げる。

 

「これからよろしくな、ブラウン」

「ブラウン?」

「君の名前だよ。仲間になった証に俺達はこれからそう呼ぶよ」

「ブラウニーだからブラウン。…お前の方こそ安直じゃないか」

「こまかい事はいいじゃないか」

 

ブラウニー、いやブラウンはそんな風に言い合う二人を呆然と見つめる。

頼んでは見たものの、本当に魔物の自分をこうもあっさりと仲間にしてくれるとは思っては無かったらしい。

 

「兎も角、俺の名はリュカ。そしてこっちはヘンリー」

「お前が悪意の無い魔物だと言う事はよく解った。俺もお前が仲間になる事に異存は無いよ」

「…アリガトウ、オレ、ウレシイ。マタ、ナカマ、デキタ」

 

ブラウンは感極まったのかポロポロと零れる涙を腕で拭いながら泣き、シーザーはそんな彼の肩にとまって慰める様に「クオンクオン」と鳴く。

その光景をモンスター爺さんとオルタムは微笑ましそうに見ている。

 

 

 

―◇◆◇―

 

「さてと、そろそろ行こうか」

「ああ、世話になったな爺さん達」

 

シーザーとブラウンを馬車に乗せ、リュカとヘンリーの二人は馬車を引きながら歩き出す。

 

「おお、忘れる所じゃった。これも持って行くとええ」

 

オルタムはそう言いながら一振りの杖をリュカに差し出す。

 

「これは?」

「見た目の姿を変える事が出来る《変化の杖》じゃ。仲間にした魔物達を町や村の中に連れて行く時に役に立つじゃろう」

 

導かれし者達が旅の中で手に入れた数多くのアイテムなどは商人であったトルネコに譲られ、幾つかのアイテムは長い歴史の中で再び世界中に散り散りになったが、手元に残ったままのアイテムもあった。

この変化の杖もその中の一つである。

 

「有難う、これは助かるよ」

「なあに、気にする事はない。所謂先行投資という奴じゃよ、お前さん達ならきな臭くなってきている世界を何とかしてくれるじゃろうからな」

 

そう言ってニヤリと笑うオルタムに二人はキョトンとするが、すぐに笑いながらサムズアップする。

 

「まかせてください!」

「まかせておけ!」

 

そろそろ動き出すのであろう、徐々に賑やかさを増すオラクルベリーの町を後にして二人と二匹は決意を新たに旅立った。

 

まず最初の目的地はサンタローズ。

故郷で彼らを待つモノ、それは……

 

 

 

=冒険の書に記録します=

 




(`・ω・)オラクルベリー編終了です。
馬車ですが、ただ単に命を救ってもらったお礼に安く売ってもらう…ではちょっとありきたりだなと言う事でこういう感じにしました。
仲間モンスターも町に入る際は馬車で留守番してれば良いんじゃないかなと思いましたがそれだと何だかおかしいし、オリジナルのアイテムを作ろうにも既に他の作品で別の方が書いている。
其処でふと思い出すとⅤでは変化の杖って出て来ないな、だったら使っちゃえと言う訳で仲間モンスターは町の中では人の姿に変化します。

そして次回、遂にリュカはサンタローズに帰ります。


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第二十八話「遥かなる故郷」

 

オラクルベリーを旅立って数日後、リュカ達は森の中で休憩がてらの食事をしていた。

 

「そう言えばこの辺りだったな」

「何がだ?」

「…子供の頃、旅から帰る途中のこの森でスライムのピエールに出会ったんだ」

「ピエール?ああ、確か初めて仲間になったスライムだったな」

 

ピエールの事を思い出して懐かしそうに、それでいて寂しそうに微笑むリュカにブラウンは「ハヤク、アッテミタイ」と言い、膝の上で食事をしていたシーザーは剥れた感じで彼の腕をペチペチと尻尾で叩く。

少しばかり甘えん坊でやきもち焼きのシーザーだが、一旦戦いとなれば火の息や体当たり、噛み付きなどで頼りに成る戦力でもある。

 

「それに此処まで来れば夕方にはサンタローズに着けるな」

 

そう呟くリュカの表情は懐かしさと寂しさが半々といった感じだ。

故郷に帰れる事は嬉しいし、懐かしい人達に会えるのも楽しみだが、どうせなら父のパパスと一緒に帰りたかった、その気持ちがどうしても拭えないでいたのだから。

 

 

 

―◇◆◇―

 

そして夕暮れ時になり、村へと続く小道へと差し掛かった時にリュカは違和感に気付く。

この場所からなら時間的にも家々の煙突から夕飯の仕度などで上る煙が見える筈なのだが、その気配が無いのだ。

 

「お、おいリュカ」

 

不安になったリュカはヘンリー達を残したまま駆け出した。

この不安は気のせいだ、きっとまだ食事の準備は始まっていない、家族総出での畑仕事が忙しいのだと、あの門番が守っている村の入り口を過ぎればきっとあの平凡な日常の光景が迎えてくれる筈だと。

 

だがしかし……

 

その願いは空しく打ち砕かれた。

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そんな……」

 

彼の目の前に広がる光景は一言で言えば廃村、彼は知らないが2年前からは幾分マシになった物の、まだ村と呼べる程の復興は成されてはいなかった。

 

「な、何で…、何でこんな事に?」

 

「貴様、何者だ!此処で何をしている!」

 

変わり果てた村の姿に呆然としていると誰かがそう怒鳴りつけて来た。

リュカがその声に引き寄せられる様に顔を向けると其処に居たのは一匹のスライムナイトだった。

 

「!!」

 

そのスライムナイトを見た途端、空ろだった彼の瞳は徐々に光を取り戻し、そして涙を零し始める。

何故ならばそのスライムナイトからは魔王に支配された魔物独特の邪悪な波動は一切感じられず、それどころかその気配からは懐かしさすら感じられる。

つまり、このスライムナイトは……

 

「ピ、ピエール?ピエールなのかい?」

「何故、私の名を?……ま、まさかそんな…」

 

スライムナイト、ピエールもまた言葉を失い、握り締めていた剣もカタカタと震えたかと思うとカチャリと音を立てて地面へと落ちる。

 

「ピエールなんだろう?」

「お、おお。リ、リュカ殿…リュカ殿ーー!」

 

ピエールは騎乗していたスライムから飛び降りるとすぐさまリュカの傍まで駆け寄って片膝を付き、鉄仮面を脱いで頭を下げる。

 

「我が主よ!貴方様のお帰り、このピエール一日千秋の想いでお待ちしておりました。良く、良くご無事でお戻りを」

 

俯いたピエールの瞳からは止め処無く涙が零れ地面に染みを作り、騎乗していたスライムの瞳もウルウルと潤んでいる。

ナイトの身体が本体とはいえスライムの体もまたピエールである事に変わりはないのだから。

 

「ピエール。何が、この村に一体何が起きたんだ?」

「それは…」

「リュカーーーーッ!」

 

リュカの問いにピエールが言い淀んでいると、彼の名を呼びながら近づいて来る銀色の物体。

否、それはメタルスライムに進化した彼のもう一人の仲間、スラリンである。

ピエールと共に村の防衛の為に見回っていた時にピエールが叫んだリュカの名を聞きつけて飛んで来た様だ。

 

「リュカ、本当にリュカだ。リュカが帰って来たぁーーーーっ!」

「スラリン?スラリンか」

「リュカーーーッ!うわあぁ~~~ん!」

 

リュカは泣きながら胸の中に飛び込んで来たその体をやんわりと受け止めると、涙腺が崩壊したのか、スラリンは更に大粒の涙を零してその体を彼の胸に押し付ける。

 

「おい、リュカ。いくら懐かしいからって…!こ、これは……酷い」

 

リュカに置き去りにされたヘンリーは馬車を引きながら追いついて来たが、その眼前に広がる光景に声を失う。

 

「リュカ…」

「クオォ~ン」

「ブルルル」

 

ブラウン、シーザー、そしてパトリシアも抱き合って泣くリュカ達に何もかける言葉が無いと見ている事しか出来ないでいた。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

そんな騒ぎを聞きつけた生き残りの村の人々はピエールとスラリンの傍に居る人物がリュカであると気付くと歓声を上げて駆け付けて来た。

村が襲われたのはパパスがラインハットの王子ヘンリーを攫ったのが原因だと兵士達は言っていたが、それを信じた者は村には一人もいなかった。

故に帰って来たリュカを責める者も居らず、ただ彼の帰郷を誰もが諸手を挙げて喜び、そして彼が連れて来た魔物達の事も拒む事無く歓迎した。

 

「リュカ、良く無事で…良く無事に帰って来てくれた!」

「お帰り!お帰りなさいリュカ!」

「おお神よ、感謝しますぞ」

 

その夜は少しづつ備蓄していた食糧やリュカ達が此処まで来るまでに狩った兎や鳥などを使ってささやかな宴会が行われる事となった。

 

「あれ、そう言えばサンチョは何処に居るの?」

 

村人の中にサンチョが居ない事に気付いた彼がその事を聞くと長老が答えた。

 

「お前達が旅立った後に何やら胸騒ぎがすると言ってな、止める間も無く後を追いかけて言ったんじゃ。てっきり、一緒に居るとばかり思っていたんじゃが」

「そうか…」

「そのすぐ後じゃよ。ラインハットの兵士共が攻め込んで来たのは」

「ラ、ラインハットが!?そ、そんな、何故!?」

「ん、お前さんは?」

「そ、それより詳しく聞かせてくれ!」

「ああ。突然の事じゃったよ」

 

長老は語り始める、あの悲劇の日を。

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 




(`・ω・)漸くリュカはサンタローズの村に帰りつく事が出来、スラリンとピエールに再会する事が出来ました。


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第二十九話「悲しみの過去。歩み出す未来」

(`・ω・)詳しい説明もなしに行き成り宴会に入るのはおかしいかなと思い、前話のラストを書き換えています。


何時もの日常を送っていた村に突如やって来た鎧を着込んだ兵士達。

何事だと道を塞ごうとした門番のエーを一刀の下に切り捨て、大挙して攻め込んで来た。

 

『この村よりやって来たパパスなる者がわがラインハットの王子ヘンリー様を(かどわ)かした。お前達が匿っているのであろう、大人しく差し出せ!』

『ば、馬鹿な!パパスさんがそんな事をする訳が無い!』

『『『そうだ、そうだ!』』』

『でたらめを言うんじゃねえ!』

『そうか、あくまでも庇い立てすると言うのならば貴様等も同罪だ』

 

隊長格であろう者が掲げた手を振り下ろすと残りの兵士達は怒涛の勢いで攻め込んで来た。

逃げ待惑う村人達を容赦なく切り殺し、家は打ち壊した後で火を放ち、畑も荒らした後で塩を撒き、井戸や川には毒を流し、そして全てを蹂躙し尽すと高笑いをしながら去って行ったのだという。

 

 

 

―◇◆◇―

 

「後でスラリンに聞いたんじゃが村を襲ったのはラインハットの正式な兵士じゃなく、人間の姿に擬態した魔物らしい」

「だが、それでも……ラインハットがやった事には変わりない」

 

ヘンリーは悲痛な表情を緩める事無くそう呟いた。

 

「お主、ラインハットと何か関わり合いがあるのか?」

 

その表情から何かを感じ取ったのか、長老は目線を強めながらヘンリーに尋ねる。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!彼は…」

「いいんだリュカ。これはハッキリと言っておかなきゃいけない事なんだ。…俺の名はヘンリー。ラインハットの王子だ」

「「「「なっ!?」」」」

 

ヘンリーの告白に驚き、一瞬言葉を失った村人達だったが直ぐにその目は怒りの炎に染まった。

 

「お、お前がラインハットの王子だと!」

「攫われたっていうお前が何で此処に居るんだ!?」

「やはり、パパスさんが王子を攫ったって言うのは出鱈目だったんだな!」

「ちきしょう!お前の、お前達ラインハットのせいで俺達は、この村はこんな目に!」

 

一度は折り合いをつけた村人達だったがラインハットの、それも当の王子本人とあって胸の中にずっと燻っていた怒りが爆発したのだ。

 

「皆、止めてくれ!」

「何故止めるんだリュカ、お前も見ただろうこの村の惨状を。コイツにだって責任が…」

「ヘンリーに責任なんか無い!ヘンリーだって俺と…、俺達と同じ奴等の被害者なんだ!」

「被害者?」

 

そうして彼は語り出す、ラインハット城での事、そして古代遺跡での戦いの事を。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

ラインハット城での出会い、ひょんな事から起こった決闘、そして和解。

城の中に戻ろうとした時に襲って来た盗賊達に攫われたヘンリーを助け出す為に父とリンクスと一緒に古代遺跡に潜り込む。

 

「そこで盗賊達が笑いながら言っていたんだ。ヘンリーを攫わせたのは王妃だって」

「王妃が?そんな、母親が自分の息子を攫わせるだなんてそんな馬鹿な」

「俺は王位を弟に譲って旅に出た王兄の息子で王妃は俺の母じゃ無いし王妃には実の息子が居る。旅の途中で城に立ち寄った時に襲って来た魔族との戦いで父は死に、俺は王子として城に残された。王妃は自分の息子に王位を継がせるのに俺が邪魔だったんだろうな」

 

そんな彼の独白に村人達の怒りも徐々に収まっていく。

 

「何とかヘンリーを救い出して遺跡の外に出ようとした時に俺達の前にアイツが現われたんだ。…ゲマが!」

「くそぅ!」

 

二人は拳を握り締めながらそう語り、爪が掌に食い込んだのかその手からは血が滲み出し、シーザーとスラリンが心配そうに擦り寄る。

 

「あっけなく倒されて、人質になった俺達のせいで親父は抵抗らしい抵抗すら出来ずに…」

「ま、まさか」

「そして親父、いや父は……死んだ。俺達を守って…」

 

リュカの言葉に村人達は皆、一様に言葉を失った。

 

「ま、まさか…。あのパパス殿が、信じられん」

「う、嘘だろ、パパスが…。なあリュカ、嘘だと言ってくれよ!」

 

長老が目を覆って俯き、武器屋の親父はリュカに詰め寄り、その両肩を掴んで揺さぶる。

 

「クオーンッ!クオオーーーンッ!」

 

シーザーはリュカを苛めるなとばかりに武器屋の親父を威嚇する。

 

「その手を離せ!」

「止めてよ、おじさん!」

「それ以上リュカ殿を責めるのなら例え親父殿と言えども見過ごす事は出来ぬぞ」

「リュカヲキズツケルナラ、ユルサナイ」

「ブルルルーーンッ、ヒヒーーンッ!」

 

ヘンリーにスラリンとピエール、ブラウンとパトリシアの声に親父も漸く落ち着いたのか掴んでいた手を離し、申し訳なさそうに俯いて謝罪を口にする。

 

「す、すまねえリュカ、少しうろたえちまった。お前の方がずっと辛いって言うのによ」

「いや、いいんだ。気にしないでよ」

 

素直に謝った親父に納得したのか、仲間達も落ち着いて座り直し、そしてピエールはさっきから気になっていた事をリュカに尋ねる。

 

「それでリュカ殿。先程からリンクスの姿が見えないのだがまさかリンクスもその時に?」

「いや、あの後気絶した俺達はゲマに連れ去られたんだが、リンクスは魔物だからあのままほって置かれたんだろう。だから行方は解らないけどきっと無事で居てくれる筈だ、きっと探し出す」

「さ、攫われたって、何処に?」

「セントベレスだよ。其処で光の教団の大神殿を作る為の奴隷として働かされていたんだ、10年もの間ずっと。そして教団の悪事に気付いた兵士の協力で何とか脱出する事が出来たんだ」

 

村人達は自分達と同じ位に…否、年齢を考えれば自分達よりも遥かに悲惨で厳しい日々を送って来た語り終え、俯いている二人に何も言う事が出来なかった。

 

「さて、暗い話はここまでにしよう。あーー、お腹が減った。ご飯、ご飯」

 

そんな空気を吹き飛ばす様にリュカは明るい口調で叫ぶ。

すっかりと冷めてしまったが、食事を再開しようするリュカの膝にシーザーが飛び乗り、そして同じ様に彼の膝に座ろうとしていたスラリンがシーザーを睨みつける。

 

「何だよ、リュカの膝には僕が座るんだぞ」

「クオンクオン、クオオ~ン」

 

いいえ、私よと言っているのか、シーザーは首を振りながらスラリンを無視しつつリュカの膝を独占する。

 

「どいてよーー!10年ぶりに会ったんだ、もっとリュカに甘えたいんだよ!」

「クオーン、クオン」

 

嫌よ、退かないわとシーザーはしがみ付いて膝に頬を摺り寄せ、そんな小競り合いを見ながらも村人達、そしてヘンリーも笑い声を上げていた。

確かにこの10年間は辛い日々の連続だった、しかし嘆いてばかりもいられない。

過去を無かった事には出来ないが、自分達にはまだ未来がある。

その未来を明るい物とする為にも歩き出さなければならないのだから。

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 




(`・ω・)と、言うわけでシーザーは女の子でした。モデルは誰にしようかな?
前回、はしょった場面を書き足してみたんですが、どうでしょう。


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第三十話「受け継がれる遺志と剣」

食事も終わり、夜も更けたと言う事でこれからの事は明日話し合おうと村人達は其々自分達の家へと帰っていった。

村の見た目から以前住んでいた家も壊されていると思ったリュカは旅の間と同じ様に馬車で寝ようとしたがスラリンとピエールが着いて来てと言うので後に続くと其処にあった建物を見て驚愕する。

 

「こ、これは…親父達と暮らしていた家。…何故?」

「何時か帰って来るリュカの為に村の皆と協力して建て直したんだ」

 

そう、其処にあったのはラインハットに行くまで自分達が暮らしていた家が以前の姿のまま其処にあった。

 

兵士に擬態した魔物達が攻めて来た時にこの家もまた打ち壊されたがピエールが目覚めた後、未来への希望を取り戻した村人達と一緒に少しづつ直し、つい数日前に完成したばかりなのだ。

その姿を見て嘗ての幸せな日々を思い出したのか、リュカは声を殺して泣き出し、ヘンリーはその肩を抱いてやる。

 

「まったく、自分達の家だって粗末なままなのにな」

「うん……」

 

そして改めて見直すと家の横には無かった筈の咲き誇っている桜の木がある事に気付く。

 

「あれ?この木は…前には無かった筈」

「それに春はもう過ぎてるっていうのに何故桜の花が咲いたままなんだ?」

「それはベラから貰った《桜の一枝》だよ」

「ベラがくれたあの?」

 

妖精界から帰って来た時に握っていた桜の一枝、その枝には紙が括り付けてあって『この花を見て私達の事を思い出してね。《ベラ》』と書かれていた。

その後、部屋の花瓶に飾ってもらったのだが、不思議とその花は枯れる様子を見せず、ラインハットに行く際もサンチョに世話を頼んでいたのだった。

 

家が打ち壊された時に部屋に飾ってあった桜の一枝は地面に転がり落ち、そのまま根付いてこの大樹に成長したらしい。

また、それだけでは無くこの木を中心に汚された地面や川の水なども徐々に浄化されていっているらしく、何れは元の綺麗な大地に戻る事を期待されているとの事だ。

 

「そっか、村人達だけじゃなくこの村の大地も頑張ってるんだな」

「うん!きっと何時か元の自然豊かな村に戻るよ」

「その為にも邪悪なる者共を倒さねば」

 

そう語り合うリュカ、スラリン、ピエールの三人をヘンリー達は少し離れた場所から眺めている。

何処と無く、何かを邪魔する感じがして彼等の中に入れないでいたのだ。

それはシーザーも同じらしく、少し悔しそうにブラウンの頭の上で「クオォ~ン」と悔しそうに唸っていた。

 

 

 

―◇◆◇―

 

一夜明け、軽い朝食を済ませたリュカは子供の頃には知らずに居たパパスの事を詳しく聞く為に長老の住む家へと向かった。

 

「パパス殿の事か…」

「うん、親父が死に際に母さんが生きている事を教えてくれた。それにオクラルベリーでの占いで此処に旅を進める為の道しるべがあると聞いたんだ。何か知っている事があるんなら教えてくれよ」

「そうじゃな、立派に成長したお前にならもう教えても良いじゃろう。パパス殿が世界を旅して探していたのは『勇者』、そして『天空の装備』じゃ」

「天空の装備?」

「そうじゃ、嘗て世界を救ったと言われる導かれし者達。そして彼等を率いた者こそが天空の勇者。天空の装備とは『兜』『鎧』『盾』『剣』からなる勇者のみが身に纏えるという武器、防具の事。パパス殿はその内の一つを探し出してこの村の洞窟の奥に隠したとの事じゃ」

「親父があの洞窟に?でも親父が洞窟に潜ったんなら薬師のおじさんも親父が見つけた筈だけど」

 

リュカは子供の頃に洞窟内を探検した事を思い出すが、薬師を見つけたのはリュカ達でパパスでは無い。

 

「ほっほっほっ、子供が容易く見つけられる場所に大事な物を隠す訳なかろう。筏を使わなければ辿り着けぬ最奥の更に地下にワシとパパス殿しか知らぬ秘密の隠し部屋があるんじゃよ」

「なるほど」

「筏は幸いにも隠しておいたお陰で壊されなかったからの、こうしてお前が帰って来たのも何かの掲示じゃろう。行って来るがええ」

 

そう言われたリュカは小さな筏だった事もありヘンリー、そして以前にも一緒に潜った事があるスラリンとピエールの四人で行く事になった。

 

 

 

―◇◆◇―

 

子供の頃に通った通路を横目に見ながら筏で水路を進んで行くと小さな小島に地下へと下りる階段があり、お互いの顔を見合って頷くとゆっくりと下りて行く。

子供の時にはさほど不思議には思わなかったが、洞窟の壁や天井には光る苔の様な物が生えていて進むのには支障は無かった。

 

「この洞窟には魔物は住んでいないのか?」

「いや、子供の頃に潜った時には結構いたぞ」

 

不思議と此方側の洞窟には魔物は居ない様で戦いに足を止められる事は無く、リュカは無事最下層にあった隠し部屋に辿り着き、扉を開くとギギギィ~と錆び付いた蝶番が音を立て、その部屋の真ん中辺りに布に包まれた一振りの剣が台座に突き立っていた。

リュカがその剣を良く見ようと近づくと傍にあった机の上に《リュカへ》と宛名が書かれた封書が置かれていたのでそれを手に取り中の手紙を読み出した。

 

《リュカ、我が息子よ。お前がこの手紙を読んでいると言う事は私はもはやこの世には居ないという事なのだろう。お前も気付いているだろうが私が世界を旅していたのは邪悪なる存在に攫われた我が妻マーサを探し出す為だったのだ。お前の母マーサには暴れ回る魔物の心さえ癒し大人しくさせる不思議な力があった。だが同時にその力は魔界にも通じる物だったらしい。どれ程探し回っても見つから無いと言う事はおそらくマーサはその力ゆえに魔界へと連れ去られたと見て間違いは無い。リュカよ、伝説の勇者を探し出すのだ。私が調べた限り魔界へと乗り込む事が出来るのは嘗て天空の装備を身に纏い、導かれし者達を率いて世界を救った伝説の勇者の血を引く者だけだ。私は旅の中で漸く天空の剣だけは手に入れたがそれを装備出来る者を見つける事は出来なかった。だが、世界が危機に瀕している以上必ず何処かに新たなる勇者は居る筈だ。残りの装備と共に必ず勇者を見つけ出し世界を、そして母マーサを救うのだ。信じているぞ、私とマーサの愛すべき息子、リュカよ》

 

「リュカ…」

 

ポツポツと手紙に涙の雫が零れる中、ヘンリーはリュカの肩に優しく手を置き、スラリンは慰めるかの様にリュカの足に頬を摺り寄せ、ピエールも嘗てのパパスの姿を思い出したのか肩膝を付き俯いているその顔からは同じ様に涙が零れている。

 

涙を拭いたリュカは剣へと歩み寄り、その布を剥ぎ取ると竜の顔を模した鍔と白銀の刃が其処にはあった。

 

「これが天空の剣か」

「この剣があったからこそ魔物は此方側の洞窟には居なかった訳だな」

 

四人は天空の剣を囲む様に立ち、改めてパパスの遺言を心に刻み込む。

 

「見ていてくれ親父。母さんは絶対に救い出して見せる」

 

その言葉に応えるかの様に刃に一筋の光が走った。

 

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 

 




(`・ω・)『待ちに待った時が来たのだ! 多くのエタりが無駄死にで無かった事の証の為に・・・ 再び二次小説の理想を掲げる為に! 作品完結の成就の為に! ハーメルンよ!私は帰って来た!! 』

(・ω・)どうせ直ぐまたエタるんだろなんて言っちゃイヤーン。
次話もなるべく早く投稿出来るように頑張ります。


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第三十一話「いざ、ラインハットへ」

 

「見ていてくれ親父。母さんは絶対に救い出して見せる」

 

その言葉に応えるかの様に刃に一筋の光が走った。

 

 

 

―◇◆◇―

 

「なあリュカ、もしかしてお前ならその剣を使えるんじゃないか?あの馬車だってお前が触れる事で元の姿に戻ったんだし」

「いや、俺が伝説の勇者だったんなら親父がその事に気付かない筈は無いだろう。でもまあ、試しに…」

 

そう言いながらリュカは天空の剣を手に取るが剣は何の反応も見せず、それを見たスラリンは残念そうに呟く。

 

「何にも起こらないね、リュカ」

「うん、まるでただの棒切れを持っているみたいだ。やっぱり俺も勇者じゃないな。ヘンリーはどうかな?」

「俺か?俺も違うと思うが…、うわっ!な、何だこれはっ!?お、重い……」

 

リュカは前言通り棒の様に軽々と持っていたがヘンリーが手にすると逆に重すぎて持てない様だ。

 

「やっぱりヘンリーも違うか。まあ、そんなに簡単に見つかるんなら親父も苦労はしなかっただろうしね」

「よいしょっと、ふう。取りあえず占い婆さんが言ってた道しるべはこの天空の剣の事だろうな。これからどうする?もう一度オクラルベリーに戻って婆さんに占ってもらうか?」

 

ヘンリーは重さにふら付きながら剣をリュカに渡すとこれからどうするかと尋ねる。

 

「いや、まずはラインハットを何とかする方が先だ。スラリンが言った様にこの村を襲ったのが魔物だとすると城や城下町の連中もこの村と同じ目にあっているかもしれないから放っておく訳にはいかないよ。それに親父ならきっとそうする筈だ」

「……すまない、リュカ」

 

あまり良い思い出は無いにしてもやはり父の故郷であり、そして父がその命を懸けて護った場所。

たとえどの様な理由があったにしても、たとえ魔物が行った事だとしても自分の故郷を滅ぼしたラインハットを救おうとしてくれるリュカにヘンリーは頭を下げ礼を言う。

 

「取りあえずこれからの事は地上に戻って皆で話をするか」

 

リュカはそう言うと父の手紙を懐へと仕舞い、部屋を後にする際にふと振り向いて見ると机で何かの作業をしていたパパスがこちらを見て微笑む姿を見た気がした。

 

「頑張るからな、親父」

 

そして閉じられた扉が開く事は二度と無かった。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

地上に戻ったリュカ達はこれからの事の話し合いをする為に教会へと村人達を集め、ラインハットへと行く事を語った。

 

「そうじゃな、リュカの言う通りパパス殿ならばラインハットを見捨てる事はしないじゃろうな」

 

リュカから渡されたパパスが残した手紙を読んだ長老は彼の決断を聞いた後、感慨深げにそう呟いた。

 

「し、しかし長老!ラインハットはこの村を…」

「落ち着かんか。確かに彼奴等(きゃつら)はこの村を無慈悲に滅ぼした。じゃが、ラインハットの全てが悪と言う訳でもなかろう」

「「「………」」」

 

長老の言葉に村人達は押し黙るが、やはり納得がいかないのかその目は険しいままだった。

リュカはそんな彼等を見回すと立ち上がって話し出す。

 

「俺は何も無条件でラインハットを許すと言っている訳じゃない。それに…」

「それに…、何だリュカ?」

 

ヘンリーは続きの言葉を言いにくそうにしているリュカの肩に手を置いて軽く頷き、それを見たリュカも頷くと改めて村人達に語る。

 

「こんな真似が罷り通ると言う事は国王はおそらく無事ではいない筈だ。スラリンが言った様に兵士に擬態した魔物がこの村を襲ったという事はラインハットを影で操っているのは光の教団に間違い無い。つまり……」

「つまり何だよ、リュカ?」

「ラインハットの城下町でもこの村と同じ様に苦しんでいる人達が居るかもしれないと言う事だ」

 

リュカが其処まで言うと村人達の中にもハッとした表情をする者が多数居た。

 

「だから俺達は明日にでも出発しようと思う」

「…じゃな。正直に言えばずっとこの村に居て欲しいがリュカにはリュカの目的がある。ワシらの我侭でそれを止めさせる訳にもいかぬな」

 

長老の言葉に何かを言おうとしていた村人達も思い止まった様に俯いていた。

 

「リュカ殿!何卒我等の同行をお許し願いたい!」

「うん、ボク達も連れて行ってよ!」

「いや、それはちょっと待って欲しいんだ」

 

共に連れて行って欲しいと言うピエールとスラリンだが、リュカは何故かそれを断る。

 

「ええ~~!何でだよ!?」

「リュカ殿…」

「二人には俺達が戻るまでこの村を守っていてもらいたい。そりゃあ二人が来てくれるなら心強いがこの村を無防備にはしたくないんだ」

「あ…」

「すみませぬリュカ殿、その事を忘れておりました」

 

同行を断るリュカに食い付こうとする二人だが、リュカの村を守って欲しいという要望に村の防衛を失念していた事に気付く。

 

「ラインハットを光の教団から開放すればこの村も守りやすくなる筈だ。そうしたら一緒に旅に出よう、だからそれまではこの村の事を頼む」

「御意、お任せあれ!」

「うん、任せといてよリュカ!」

 

必ず迎えに来る、その言葉に二人は頷きそれまで村を守り続けると誓う。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

「もうワシから言う事は何も無い。お前ならば必ず成し遂げてくれると信じておるぞ」

「リュカ、そしてヘンリーさん。貴方方に神の御加護を」

「頑張っておくれねリュカ。でも無茶だけはしちゃいけないよ」

「光の教団の奴らなんかぶっ倒してくれ!皆の、パパスさんの敵を取ってくれ!」

 

翌朝、準備を終えて旅立とうとしているリュカ達を見送る為に村人達は集まり、其々にエールを送っていた。昨夜ヘンリーとも話し合ったがラインハットに乗り込む前にもう少し詳しい情報が欲しいので、遠回りにはなるが先にアルカパに寄り情報収集をする事にしていた。

 

「皆の武器や防具は俺が鍛え直した物を用意しておいたぞ、頑張ってくれよ」

 

オラクルベリーから此処までの旅で使っていた武器は少々くたびれていたので武器屋を営んでいた親父がピエール達が倒したさまよう鎧などがもっていた武器などを鍛え直してくれ、シーザーには鉄の爪を作ってやり、ブラウンには以前自分が使っていたおおかなづちに棘などを追加したりして強化していた。

 

「うん、やはり剣の方が使い易いねヘンリー」

「そうだなリュカ。ありがとう親父さん、助かったぜ」

「けっ!そう思うんだったらさっさと手前(てめぇ)の国とケリをつけて来やがれ」

 

そう悪態を吐きながらもヘンリーを見る親父、そして村人達の目には以前の様な悪意は無かった。

 

「ああ、俺は俺のやるべき事をやって来る」

「じゃあそろそろ行くか」

「リュカ殿、しばしお待ちを」

「どうしたんだい、ピエール?」

「どうぞ之をお持ちください」

「これは…《桜の一枝》」

 

馬車に乗り込もうとしたリュカをピエールが呼び止め、差し出して来たのは子供の頃ベラにもらった《桜の一枝》と同じ物だった。

 

「先程、忘れ物が無いかと家に寄って見た所、桜の木から落ちて来たのです。まるで持って行って欲しいと言わんばかりに」

「そうか、なら何かの役に立つのかもしれないな」

「では行ってらっしゃいませ、リュカ殿。サンタローズは私とスラリンが守り抜いて見せます」

「うん、頼んだよピエール」

 

そう言ってリュカはピエールから《桜の一枝》を受け取り、ラインハットへと旅立った。

 

まず、向かうのはビアンカの住むアルカパ。

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 




(`・ω・)武器などは別に原作に拘る必要は無いだろうと色々弄って見ました。
リュカとヘンリーは鋼の剣、シーザーにはこの作品オリジナルの鉄の爪、と言っても牙を爪に変えただけですけど。
ブラウンのおおかなづちは公式ガイドブックに書いていた説明文を流用してみました。


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第三十二話「アルカパの町で」

故郷、サンタローズにてピエールとスラリンに再会し、父パパスの遺言と共に勇者の装備の一つ、《天空の剣》を手に入れ、光の教団に支配から開放する為にラインハットを目指すリュカ。

 

まず目指すはアルカパの町。

 

―◇◆◇―

 

子供の頃は半日程だったアルカパへの道のりだが、魔王から流れ出る暗黒魔力が増大したのか魔物達は凶暴さを増し、尚且つその数を増やしていたので一日程時間を費やして漸くリュカ一向はアルカパまで辿り着いた。

変化の杖はあるが、未だ人の住む場所に慣れていないブラウンとシーザーは念の為に馬車で留守番をさせ、リュカとヘンリーの二人で町を調べる事にした。

 

「此処がアルカパか。リュカ、昔と比べて何か変わった所はあるか?」

「いや、取り立てて変わった所は無いが何と言うか…、あの頃程の賑やかさは無いな」

 

そう言いながら辺りを見回すリュカ。

子供の頃に一度だけ訪れただけだが、それなりにこの町に溢れていた活気は忘れてはいなかった。

だが、今のアルカパからはその活気は欠片も感じず、逆に悲壮感すら漂っていた。

 

「やはりこの町も…」

「そう言う事なんだろうね」

 

このアルパカの町もサンタローズの様に滅ぼされないまでも、ラインハットの支配の下で色々と理不尽な事をされたりしたんだろう。

 

「たしかこの町にはお前の幼馴染の女の子が住んでいるんだったよな。名前は確か…」

「ビアンカ。俺にとって姉さんみたいな女性(ひと)だったよ」

「なら早く顔を見せてやらなくてはな。何処に住んでるんだ?」

「町の中心にあるあの宿屋だよ」

 

 

 

―◇◆◇―

 

「いらっしゃい、アルカパの宿屋へようこそ」

 

リュカが指差す宿屋へ歩いて行き、扉を開いて中に入るが其処で二人を迎え入れたのはリュカが見知っていた人物ではなかった。

 

「あ、あの、此処で宿屋をやっていたのはダンカンさんじゃなかったんですか?」

 

リュカがそう聞くと受付をしていた人の奥さんであろう、洗濯物を取り込んで来た女の人が答える。

 

「おや、あんたはダンカンさんの知り合いかい?じゃあ、残念だったね。ダンカンさんはもうこの町には居ないよ」

「えっ!な、何で…?」

「もう7年前になるかねぇ。ダンカンさんの体の具合が悪くなって、ずっと西の方にある小さな村へ療養の為に引っ越していったんだよ。其処には体に良い温泉もあるらしかったからねぇ。その時丁度泊まっていた私ら夫婦がダンカンさんからこの宿屋を譲ってもらったのさ」

「西の村って何処にあるのか分かりませんか?」

「すまないねぇ。何処にあるとか村の名前とかは分からないよ」

 

リュカはその村の事を聞くものの、詳しい事は知らないらしかった。

 

「リュカ…」

「そうですか。分かりました、取りあえず二人で一泊お願いします。後は町の皆に聞いてみます」

「すまないな、役にたてんで。…待てよ、お前さんの名前、確かリュカ…とか言っておったな」

「ああ。俺の名はリュカですけど」

「おおっ、そうか。お前さんがリュカか」

 

受付をしていた宿屋の親父はリュカの名を聞くと顔を綻ばせた。

 

「ダンカンさんの娘さん、確かビアンカという名前じゃったな。もしリュカという男の子が来たらと伝言を預かっておるんじゃ。え~と、この辺に伝言を書いた手紙を置いてあった筈。あった、あった」

 

そう言いながら親父は机の引き出しの中から手紙を探し出し、リュカへと差し出す。

 

「ほれ、これがお前さん宛ての伝言じゃ」

「ビアンカからの…」

 

リュカは渡されたその手紙を読み始める。

 

 

《リュカ、サンタロ==が襲われたって聞い=けど貴方は大丈==ね。パパスおじ==が王子様を攫ったっ=聞いたけど私は信じてないからね。それと、折角尋ねて来て=れたのに居なくてご==ね。私達はずっと西の方にある小=な村にパパの療養の為=引越ししなけ===らなくなって、私だけでも残ろう==たけどパパとママが=配だから私も行かなければいけないの。あんまり小さいんでちゃん==た名前は無いけど少し離れた場所に===ナっていう==な町があるから其処を手掛かりに探してみてね。待ってる===対に来てね。『ビアンカより』》

 

「なんだこれは?所々掠れててまともに読めないじゃないか」

 

横から一緒に読んでいたヘンリーが呟くと女将さんは親父に怒鳴りつける。

 

「そ、そりゃすまないねぇ。アンタッ!なんでもっとしっかりと仕舞っておかなかったんだい!」

「だっ、だってよう、こんなに時間が経ってから来るなんて思ってなかったからよぅ」

 

どうやら直ぐに来ると思っていたらしく、きちんと保存していなかった為に文字などが掠れてしまったらしい。

 

「だ、大丈夫ですよ。とりあえず無事だって言う事は分かったんだし、どうせこれから旅に出るんだし後は俺達なりに探してみるから」

「そうかい、何だか悪いねぇ」

 

女将さんは親父さんを小突きながらそう言い、リュカ達は他の情報を探る為に町へと出かける事にした。

 

 

 

―◇◆◇―

 

宿屋を出て、まずはと教会に行くと一人のシスターが青い顔をして出て来た。

 

「大丈夫なのか、随分と顔色が悪いが」

 

そのまま教会を後にしようとしたシスターをヘンリーが呼び止める。

 

「心配をおかけした様ですいません。私には感じる事が出来るのです、かつて神が施したと言う魔界の扉の封印。その封印の力が弱まりつつある事が」

「魔界の封印が?」

「ええ、もし封印が破られる事にでもなれば世界は闇に蔽い尽くされるでしょう。私はその事が恐ろしい、ああ」

 

そう俯いたシスターだが、徐に顔を上げるとリュカを見つめて話しかける。

 

「貴方方からは何か不思議な力を感じます。何故でしょう、先程までの不安が嘘の様に消えていきます」

「まあ、信じられないかもしれないが…コイツ、いや俺達は魔界からの侵略を阻止する為の旅をしているからな。その為にもまずは勇者を見つけ出さなければいけないんだが…貴女は何か知らないかな?」

 

ヘンリーがそう言うとシスターは不安な表情から一転し、笑顔を浮かべる。

 

「まあ、そうなんですか、道理で。勇者様の事ですが私も修行中に伝え聞いた事ぐらいしか分かりませんが」

「それでも良い。教えてくれ、今はどんな小さな情報でも欲しいんだ」

「分かりました。それでは僭越ながらお教えいたします」

 

シスターはリュカの要望に応えて語り出す。

 

「遥かなる昔、世界が暗黒の闇に包まれようとした時に天空の勇者様が現われました。天空の勇者様は導かれし者達と共に世界中に散らばっていた天空の装備を探し出しました。魔界に乗り込む為には勇者様がその装備を身に着けねばならなかったからです。その装備とは《天空の兜》《天空の鎧》《天空の剣》《天空の盾》。天空の装備を身に着けた勇者様は遂に魔界の王、そして目覚めようとしていた地獄の帝王エスタークさえも打ち倒したそうです。その後の勇者様はどうなったのか、一人の人間として過ごされたのか、天空へと戻っていかれたのかは伝承には残されてはいません。ただ、天空の装備は再び世界中へと散らばり、その所在は明らかにはされていません。私が知っているのはこれだけですけどお役に立てたでしょうか?」

「ああ、ありがとう。参考になったよ」

 

リュカ達との会話で幾分気が紛れたのか顔色の良くなったシスターと別れて町の探索を再会した二人の耳に何処からか騒がしい声が聞こえて来た。

 

「おい、どうしたんだ。お前、ラインハットに徴兵された筈じゃ?」

「はあ、はあ。あ、あんな城に居たんじゃ何時死ぬか分かったもんじゃないからな。戦闘の中、死体に紛れて何とか逃げ出して来たんだ」

 

リュカとヘンリーは木の影に隠れてその会話を聞く。

何処と無く見覚えのあるその二人は子供の頃にリンクスを苛めていたあの兄弟の様だ。

 

「そんなに酷いのか?」

「ああ、特にレナス陛下の変わり様が酷すぎる。あんな王様じゃなかったのに今じゃ俺達国民の事なんか家畜としか思っちゃいねえ」

 

「叔父上が?」

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 




(`・ω・)ラインハット王、生存√。
ヘンリーがリュカと共に旅に出るのなら弟のデールを王に据えるよりはとこういう展開にしました。


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第三十三話「関所にて」

「おい、どうしたんだ。お前、ラインハットに徴兵された筈じゃ?」

「はあ、はあ。あ、あんな城に居たんじゃ何時死ぬか分かったもんじゃないからな。戦闘の中、死体に紛れて何とか逃げ出して来たんだ」

 

そんな声が聞こえて来たので二人は木の影に隠れてその会話を聞く。

何処と無く見覚えのあるその二人は子供の頃にリンクスを苛めていたあの兄弟の様だ。

 

「そんなに酷いのか?」

「ああ、特にレナス陛下の変わり様が酷すぎる。あんな王様じゃなかったのに今じゃ俺達国民の事なんか家畜としか思っちゃいねえ」

 

「叔父上が?」

 

ヘンリーはその男の言葉を聞いて驚愕する。

当時、子供心に見ても叔父は清廉潔白な人格者で彼自身も叔父を信頼し、尊敬もしていた。

その叔父がそんな事をする筈が無い、そう怒鳴り付けようと身を乗り出そうとするとリュカが腕を掴んで押し留める。

 

「何故止めるんだ!」

「落ち着きなよ。少し考えれば偽者がやってる事だって分かるだろう」

「あ…、そうだな。悪い、少し頭に血がのぼっていた」

 

リュカのその言葉に少し落ち着きを取り戻したヘンリーは両頬をパンパンと叩き、彼に向き直す。

 

「今日はこのまま此処で一夜を明かし、明日の朝一番でラインハットに旅立とう」

「そうだね。じゃあ、俺はもう少し話を聞いて回るからヘンリーは食べ物を馬車に持って行くついでにこれからの予定をブラウン達に伝えておいてよ」

「分かった、そっちはまかせたぞ」

 

ヘンリーと別れ、町の住民に話を聞いて行くリュカだが、聞こえて来るのは悪い噂話ばかりであった。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

「そうか…」

 

夜、用意された部屋の中でリュカは集めた情報をヘンリーに伝えたが、やはり彼の表情は冴えない物であった。

 

「やはり叔父上はもう」

「まだ分からないよ。洗脳されているだけかもしれないし、幽閉されている可能性だってある。諦めるのは死んだって事を確認してからでいいだろ」

「そうだな。ありがとうリュカ」

 

本当の事はまだ何も解らない、だからこそ諦める必要も無い。

父親を目の前で失った彼の言葉はヘンリーの心に響き、僅かな希望を灯させる。

 

「さあ、早く寝よう。ラインハットまでは軽く見積もっても二日はかかるからさ」

「ああ、おやすみリュカ」

 

 

 

翌日、まだ日が昇りきる前に彼等はアルカパの町を後にする。

途中、何度か魔物の襲撃を受けたが以前より強くなっている彼等の敵ではなく、早々に倒されるか逃げ出すかで然程旅の障害にはならなかった。

 

そして夕暮れになる頃には大河を挟んだ関所に辿り着いた。

 

「何とか此処までは来れたが無事に関所を通れるかどうか。どうせ此処の兵士にも偽王の息が掛かっているだろうしな」

「まあ、一応聞いてみよう。案外すんなりと通れるかもしれないし」

「だと良いんだがな」

 

不安に駆られながらも馬車を降りた二人は関所へと足を運び、警備をしている兵士へと話しかける。

 

「関所を通りたいんだが良いだろうか?」

「通行許可証は持っているのか?」

「い、いや、持っていないが」

「ならば通す訳にはいかん、引き返せ」

 

兵士はそう言い放ち槍を二人へと向けて威嚇すると、一人の少女の声がする。

 

「待ってください!も、もしや貴方様は…ヘンリー王子様では?」

「何だと!? この男…、いや、この方がヘンリー王子?」

 

奥の部屋から出て来たその少女の声に兵士は改めてヘンリーの顔を見直すと険しかったその表情は徐々に緩み、潤んで来た瞳からは涙が零れて来た。

 

「お、おお、確かに。王子、生きておられたのですねヘンリー王子!」

「そう言うお前は…確かトムだったな」

「覚えていて下さいましたか。はい、ラインハット城にて兵士をしていたトムでございます」

「それと君は?」

「私は以前、王子様に助けていただいた城の給仕です」

「ああ、あの時の…」

 

少女がそう言うと横で話を聞いていたリュカが思い出したのか顎に手を当てて答える。

 

「あの時って?」

「忘れたのかい、俺とお前の決闘の切欠になった」

「あっ」

 

リュカの言葉でヘンリ-も思い出す、壷を割ってしまった給仕の少女を庇った時の事を。

兵士トムもまた当時の事を思い出したのか、零れて来た涙を袖で拭き取る。

 

「あの時は良かったなぁ。誰も皆が笑いあい、幸せに暮らしていた。なのに今のあの城は……」

「トム、詳しく教えてくれ。俺達は今からラインハット城に乗り込む」

「ええっ!む、無茶ですよ、今のあの城に乗り込むなんて命を無駄に捨てに行く様なものです!」

「無茶は承知の上だ、それでも行かなければならない」

 

トムは何とか押し止め様とするがヘンリーの目に宿る光を見ると決意は変わらないと悟り、語り始める。

 

「最初は王子が攫われたという騒ぎが起こった時です。まず王妃様が怪しいのは剣士パパスだと言いましたがレナス陛下はそれを即座に否定なさいました。ですが、既に王妃の命によって兵士団がサンタローズへと送られた後でした。その事に激昂された陛下と王妃が言い合いをなされてましたが、兵士団が戻って来た時には陛下は兵士団を責める所か逆に褒め称えていました。まるで人が変わったかの様に」

「つまり、その間に何かがあったって事だね」

「ああ。叔父上がそんなに関単に考えを変える筈が無い。洗脳されたか、あるいは…入れ替わったか」

「その後、配置転換が相次ぎ、陛下に進言をした者達は辺境へと飛ばされるか、酷い時にはそのまま処刑を…。我々も目障りだったのか此処へと」

 

ヘンリーは伝えられた情報に眩暈を覚えた。

サンタローズでスラリンに聞いた話では村を襲ったのは兵士に擬態した魔物だと言う事は今、城に居る兵士達もその大半が魔物だと言う事になる。

 

「ぐずぐずしている暇は無いな。一刻も早く城に行かなくては。トム、通してくれるな」

「はっ、承知いたしました。しかし、もう夕暮れ時。せめて一晩の宿をおとり下さい」

 

本当はもう少し進んだ場所で野宿するつもりだったが、トムと給仕の少女の懇願に負け、今夜は此処で宿を取る事にした。

 

 

 

―◇◆◇―

 

「はあ…、本当に大人しいんですね」

「この目で見てもまだ信じられません」

「まあ、これが普通の反応だろうな」

 

関所を通過する時に何かの拍子でばれないとも限らなかったので馬車の中に隠れていたブラウンとシーザーの二人を紹介しておいた。

最初は怯えていたトム達だったが、黙々と食事をするブラウンとリュカの膝の上で丸くなっているシーザーを見た二人は邪気を持った魔物ではないという言葉を受け入れていた。

 

 

 

そして翌朝、トム達に見送られた二人は対岸の関所の兵士にトムから預かった手紙を渡すとその兵士はヘンリーに敬礼をした。

どうやらこの兵士も偽王に煙たがれてこの場所に送られたらしい。

 

 

そして馬車を疾走させ、太陽が真上に上がる昼にラインハット城に辿り着いた。

ヘンリーにとっては10年ぶりとなる帰郷であったが、その城下町の姿は二人が予想した通りの酷い物であった。

 

 

=冒険の書に記録します=

 




(`・ω・)原作とは違い、カエルいたずらイベントは無いので関所での会話はどうしようかな?と迷っていたら給仕の少女の壷イベントを思い出したので無理やり伏線として使用した件。
なので副題も捻りの無い物に……

(・ω・)ドラクエ11、買いました。
オイラは3DSでプレイしています、流石に正当派に回帰したこの11番目は面白い。
オンライン?知らない子ですね。
後、書き逃げ劇場で書き逃げたドラクエⅣ+Ⅱ、ひっそりと製作中。
エタり防止にある程度書き上げてからうp予定。


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第三十四話「突入!ラインハット」

 

あの日、王妃の手引きによって城に侵入した盗賊に攫われてから10年の月日が経ち、ヘンリーにとっては久しぶりの帰郷であったが、その城下町の姿は二人が予想した通りの酷い物であった。

 

 

 

「こ、これがあの華やかだった城下町…だと?」

 

城は煌びやかなままなのに城下町の建物の壁は薄汚れ、所々には皹さえ入っている。

町を歩く人の顔には笑顔は無く、何もかもをも諦めた絶望感しか見えない。

呆然としている二人の横を鎧に身を固めた戦士が憮然とした表情で歩いて来たので話を聞くと……

 

「この国が兵士を高い給金で集めていると聞きやって来たのだがな…はぁ。その為にこの国の民は高額の税金を搾り取られ、まともな生活すら出来ぬらしい。こんな国に仕える事などしたくない」

 

そう言い放ち、戦士は立ち去って行く。

何も言う事が出来ず、その後姿を見ていると地面に腰を下ろし、壁にもたれ掛かっている老人がふと此方を向いて語り掛けて来る。

 

「…お前さん達、何をしに来たのかは知らぬが…命が惜しければ直ぐに…立ち去りなされ。もうこの国は…人の住む場所では…無いからの」

 

明らかにもはや数日何も口にしていないという事が解るほどに弱りきっており、せめて何か口にと財布からゴールドを出そうとしたヘンリーだがその手は直に止まる。

老人の目が《施しなど受けたくは無い》と語っている事に気付いたからだ。

 

「ワシの事は…良い。じゃがせめて町の外れに居る…親子を助けてやって…くれぬか?」

 

老人の言葉に従って町外れにまで足を運ぶと其処にはボロボロの布を纏い痩せ細った子供を抱えた母親が居り、二人の姿を見つけると縋る様な目で見上げる。

 

「あ、あの、すみません。食べ物を分けてはいただけませんか?せめてこの子の分だけでも…。お支払いするお金はありませんが、この身体でも良ければ」

 

そう言い、布の下の何も身に着けてはいない裸身を晒そうとするとヘンリーが行き成り怒声をあげる。

 

「子供の目の前で何馬鹿な事を言ってるんだ!」

「ひっ!」

 

そう言いながら普段から常備している干し肉などの保存食を子供と母親に差し出す。

 

「金も身体もいらない!だから…早く食べろ」

 

母親は呆然としていたが、子供はヘンリーの手から奪う様にもぎ取ると一心不乱に食べ出した。

 

「あ…えっ?でも」

「良いから食べて。話はそれからにしよう」

 

リュカもまたパンや果物、飲み物などを差し出すと、それを受け取った母親は泣きながら食べ出し、子供にも水を飲ませてやる。

ヘンリーはその親子から目を逸らすと、拳を握り締めながら城を見上げる。

其処に居る敵に燃え上がる怒りを向けて。

 

 

 

―◇◆◇―

 

二人は親子に服を買うお金と食料を渡し、一先ず馬車に戻る。

城に潜り込むとなると戦力がリュカとヘンリーの二人だけだと心許ないのでブラウンとシーザーを連れて行く為である。

 

「しかし、どうやって連れて行く?流石にこの姿じゃ騒ぎになって乗り込むどころじゃないぞ」

「忘れたのかいヘンリー。コイツを譲って貰っただろ」

 

そう言いリュカは立て掛けてあった《変化の杖》を手に取る。

 

「これを使って兵士の姿に変化すれば怪しまれずに潜り込めるだろう」

「なるほどな。オマケにブラウンとシーザーも一緒に連れて行けるしな」

 

馬車を降り、人目に付かない場所に移動して変化の杖を発動させると四人の姿は兵士の姿へと移り変わった。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

兵士の姿になったリュカ達は邪魔される事もなく無事に城の中に入る事が出来た。

情報収集の為に城内を歩き回る彼等だが、其処に居る兵士達の姿は両極端であった。

明らかに魔物が姿を変えていると解る者や、高い給金に釣られて兵士になった野盗崩れの者達が居れば、家族を守る為に今のこの状況に耐え忍ぶ兵士も居た。

 

そうやって歩きながら城内を見回しているとヘンリーの目が一人の兵士を見つける。

その男は自分がこの城に居た時の兵士長の内の一人だった。

ヘンリーはその男に近づくと兜の仮面をずらして話しかける。

 

「ライオネット、俺が誰か解るか?」

「何だ貴様…、いや、貴方はまさ…か、ヘンリー王子?」

 

その顔を見た元兵士長ライオネットは一瞬顔を綻ばせるが直に険しい表情に戻る。

 

「だ、騙されんぞ!陛下や王妃だけでは無く、今は亡き王子の姿まで騙るとは!」

「…そうか、やはり今玉座に座っているのは偽者か」

 

ヘンリーは笑い顔を浮かべながら今度は兜を完全に外し、その顔を晒す。

 

「その顔、そしてその瞳、間違いなく貴方様は…ヘンリー王子!」

 

感極まったライオネットはヘンリーの前で膝を突いて平伏し、その目からは涙が零れていた。

 

「まさか、まさか生きておいでとは。良く…良くお戻りに!」

「今の城の状況は此処に来るまでに色々聞いて知っているが、まずはお前から詳しく教えてくれ」

「はっ!何なりとお聞き下さい」

 

人目に付かない場所に移動し、其処で語られたレナス王の変貌振りは関所でトムに聞いた通りだったが、その後の事はまさに驚愕に値するものだった。

 

「叔父上達は地下牢に監禁されているだと?」

「はい。奴等目を討伐しようにも陛下が人質にされていてはそれも出来ず、それにデール王子も…」

「デールも監禁されているのか?」

「いえ、拘束される事も無くこれ見よがしに自由にされています。王子を救おうとすれば逆に陛下達に危機が。奴等はそんな我等の姿を見て嘲笑っているのです」

 

あまりの悔しさにライオネットは拳を握り締め、食いしばった歯からはギリギリを音が聞こえて来る。

 

「ならば先ずは叔父上達を救ってからではないと何も出来ないな」

 

その時、何処からかガチャガチャと音が聞こえて来るとライオネットは急に立ち上がり、ヘンリーに早く兜を着ける様に促した。

何事かと思いつつ、ヘンリーが兜を着けると鎧を着崩した男がやって来て持っていた篭を押し付けながら言う。

 

「おい、餌の時間だ。奴等の所に持って行け。ん、何だそいつらは?」

「分かった、持って行く。それとコイツらは新しく配備された新兵だ」

「けっ!まあいい。早く持って行って仕事に戻れよ」

 

篭を押し付けた男はヘンリー達を一瞥するとそう言い捨てて去って行く。

 

「丁度良いタイミングです。王子、一緒に来て下さい。陛下の所へ案内します」

 

どうやら渡された篭の中にはレナス王達の食事が入っているらしく、ヘンリー達はライオネットに連れられて地下牢へと進んで行く。

 

 

=冒険の書に記録します=

 




(`・ω・)ゲームではデールが一応王座に居るので案外すんなりと話が進みますが、この物語では王と王妃は魔族が擬態しているので会う訳には行かず、こう言う展開になりました。
後、話の都合上リュカの出番はかなり少なめ。


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第三十五話「地下牢の再会」

カツーン、カツーン、カツーン

 

薄暗い地下通路に足音が響く。

ヘンリー達はライオネットに連れられてレナス王が幽閉されている地下牢へと歩いている。

以前、住んでいた城とはいえ流石に地下牢に近づいた事は無かった為にこの地下牢への入り方は知らなかったのでライオネットとの再会は正に幸運と言えた。

 

「陛下達が入れられている場所は其処の角を曲がった所です」

 

そしてヘンリーは遂にレナス王と王妃と再会する事となる。

だが、10年ぶりに見たその姿は以前、自分達が着せられていた奴隷服よりは幾分マシな程度の粗末な物であり、身体も痩せ細るなど余りにも変わり果てていた。

 

「陛下、王妃様、お食事をお持ちいたしました」

「おお、ライオネット。こんな所まで持ってこさせてすまぬな」

「そんな事は言わないで下さい陛下。私の方こそ陛下達を救えぬままで申し訳ありません」

 

レナス王は野菜屑が少し入っただけのスープと固くなったパンを受け取りながらそう言うが、ライオネットも未だに救い出せない事を謝罪する。

 

「さあルイナ、お前も食べなさい。こんな物でも食わなければ身体が持たないぞ」

「…いえ陛下。私は何時も通り半分だけで結構です」

 

王妃ルイナはそう言いながらパンを食いちぎり、スープをすすると前言通りに半分で止めてしまい、床に置いたと思うと何処からか現われたネズミが食い散らかし、そんな光景をヘンリーは驚愕した表情で見つめる。

これがあの威厳に満ちていた王妃かと、レナス王と息子のデール王子以外を見下していた王妃かと。

 

「ルイナよ、そうは言うがこの所更に痩せ細っているではないか。このままではもう数日と持たぬぞ」

「構いませぬ。それこそ私に相応しい最後でしょう」

 

俯きながらそう答えるルイナの瞳から数粒の涙が零れて来る。

 

「確かに最初の頃はこの様な扱いに憤っておりました。しかしこの苦しみの中で気付いたのです。我が子可愛さとはいえ私はヘンリーにこれ以上の苦しみを与えてしまったのだと」

「ルイナ…」

「私があの様な愚かな欲にかられ、あの様な嫉妬を抱いたばかりに何の罪も無いあの子はこの様な薄暗い地下牢で今の私以上の苦しみを味わった事でしょう。その上陛下までも巻き添えにしてしまいました。全ては…、全ては私の…、この私の罪。苦しみ続ける事こそが私の罰」

 

そんな王妃を見ていたヘンリーは心の中に燻っていた王妃への憎しみと恨みがゆっくりと消えて行くのを感じていた。

彼はこの10年の奴隷生活の中で人の心の光と闇を見ていた。苦しみながら助け合おうとする人も居れば、苦しみから逃れる為に仲間を裏切る者も居た。

それ故に王妃の涙ながらの懺悔が嘘偽りの無い物だと感じていた。

 

だからヘンリーはリュカが何かを言う前に牢に近づくと腰を下ろし、檻越しにルイナに語り掛ける。

 

「王妃…いえ伯母上。貴女の懺悔、このヘンリー確かに聞き及びました」

「…え?」

「な、なんとっ!」

 

レナスとルイナが顔を上げると其処には兜を外したヘンリーの顔があった。

成長しているとはいえ、この牢獄の中で何度も謝罪と懺悔を繰り返して来た相手故にルイナにはそれがヘンリーであると直ぐに分かった。

 

「ヘ、ヘンリー…ヘンリーなのですか?」

「お久しぶりです伯母上、それに叔父上も。ご無事で何よりでした」

「あ、ああ、あああああ。ヘンリー、本当にヘンリーなのですね。生きて、生きていてくれたのですね。良かった、良かったぁ~~~」

 

ルイナは檻を掴んでいたヘンリーの手を握り締めて号泣し、レナスはそれを呆然としながら見ていた。

 

「ヘンリーよ、お主あの状況でどうやって?…そうか、パパスが助けていてくれたのだな」

「いえ、父は俺達を助ける為に…亡くなりました」

 

レナスの問いに答えたリュカは兜を外しその顔を見せる。

 

「なっ!パ、パパスが、あ奴程の男が。…お主はまさか?」

「パパスの息子、リュカです」

「パパスの?おお、あの時の子か」

 

レナスは兜を外したリュカの顔を見ると、その顔には若かりし時のパパスの面影が確かに見て取れた。

 

「ヘンリーよ、教えてはくれぬか?この城から攫われた後の事を。今までどの様に過ごして来たのか」

「はい。古代神殿の地下牢に閉じ込められていた時、パパスさんとリュカが助けに来てくれました。しかし……」

 

ヘンリーの言葉をレナスとライオネットは愕然としながら聞き、ルイナは改めて自身が二人に負わせてしまった苦しみと犯してしまった罪の重さに涙した。

 

「そうか、パパスが…。あ奴らしいと言えばらしいが、馬鹿者め!」

「リュカ殿。私のせいで貴方のお父様を…、すみません」

「…正直、貴方を許すとはまだ言い切れません。ですがこのまま王妃を責め続けた所で父は還っては来ませんし、何よりもそれは父自身が許さないでしょう。ですから今は忘れておきます。全ては奴等を倒してから考えます」

 

身内である王妃に裏切られたヘンリー自身が彼女を許したのだからリュカも今は全ての憤りを捨てる事にした。

何よりも敵を目の前にしている現在では些細な事でしかないのだから。

 

「それよりも伯母上、今の貴女には苦痛ではあるでしょうがあの時から今までの事を詳しく教えてください」

「分かりました、全てを話しましょう。貴方がまだこの城に居た時、城の者達は次期王として貴方の即位を望む者ばかりでした。私から見ても次期王として相応しいのは我が子デールではなく貴方の方であるのは自明の理でした。しかし、私はどうしてもデールに王位を継がせたかった。…愚かにも私は其処を突かれたのです。邪魔者を排除してしまえと」

「だ、誰ですそいつは?」

「私へと宝石などの装飾品を献上して来た商人です。流石に甥である貴方を排除などと拒んではいましたが、あの者は何度も何度も私に話を持ち掛けて来て、そして遂にその言葉に耳を傾けてしまったのです」

「ヘンリー、そいつは間違いなく…」

「ああ、光の教団の手先だな」

 

人の弱み、心の闇に付け込むのは光の教団のやり方だと二人は身を持って知っている。

故に目の前に居る女性もまた教団の犠牲者でしかないのだと理解する他無かった。

 

「そしてヘンリーを攫わせる為に賊を招き入れた直後、私は何者かに襲われ気が付くとこの牢獄の中に閉じ込められていました」

「その後、ルイナ…いやルイナに成りすましていた者と対峙していたワシも同様に襲われてのう。デールが人質になっておる以上、情けないが何も出来ずにこのザマじゃよ」

「今、玉座に居座っているのはやはり…」

「見た目はワシ等の姿をしてはおるがその正体は醜悪な魔物じゃ。我等を嘲笑う為にわざわざ正体を晒しおったよ」

「と言う事はその正体を明らかにすれば公の場で倒す事が出来る」

「だがどうするヘンリー?この変化の杖とは逆に変化を解く道具があればいいんけど」

「…あるぞ、《ラーの鏡》がな」

 

 

=冒険の書に記録します=

 




(`・ω・)ずっとヘンリーのターンでしたね、事情が事情だし中々リュカの出番を入れ難かったです。
後の為にも王妃は心から改心している事になっています。
さて、そろそろ次回にはリリスとマリアとの再会をさせたいですね。
ちなみにブラウンとシーザーは地下牢への入り口の所で留守番しています。


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第三十六話「ラーの鏡を入手せよ」

「ラーの鏡?」 

「うむ、真実の姿のみを映し、偽りの姿を打ち消すと言われる神具じゃ」

「それは何処にあるのですか?」

「すまんが詳しい場所はワシにも解らぬ。何しろ随分昔に古文書で読んだ事があるだけなのでな」

「陛下、しかしこの城に伝わる古文書の全ては奴等に奪われてしまいました。もはや…」

 

ルイナは俯いてそう言うがレナスは口元に軽い笑みを浮かべる。

 

「その古文書は物語にもなっていてな、デールがかなり気に入っておったので譲り渡しておる。今もデールの手元にある筈じゃ」

 

この城に伝わる古文書や法具などは光の教団に奪われているが、デールが譲り受けたというその古文書は教団の目から逸れていた為に奪われる事はなかったのだと言う。

 

「ならデールにその古文書を見せてもらえれば在りかが分かるんだな」

「しかしヘンリー様、デール様はこの時間は何処かに篭っておいでで居場所が分からないのです。城からは出ていないのは確かなのですが」

「そうなのか?…いや、居場所というか隠れ場所には心当たりがある」

 

何処に居るか分からないと言われ、首を傾げたヘンリーだが何やら思いついた事があったのかニヤリと笑う。

どうやら彼等二人しか知らない隠れ場所があるらしい。

 

「叔父上、伯母上。俺達はこれからデールに会ってその古文書からラーの鏡の在る場所を特定してそのまま入手する為に動きます。必ず助けて見せますので今しばらくの辛抱を」

「あい分かった、全てお前に任す。きっと成し遂げてくれると信じて居るぞ」

「ヘンリー、そしてリュカ殿、決して無理はしない様に。私達より自分達の命を優先するのですよ」

「伯母上…、では行って参ります」

 

一礼をしてその場を後にするキョウヤ達をルイナは牢越しに、レナスもその肩を抱きしめて見送っていた。

 

 

 

―◇◆◇―

 

地下牢から出て来たリュカとヘンリーは見張りをしていたシーザーとブラウンに合流してデールを探す為に歩き出す。

 

「ヘンリー様、本当にデール様の居場所に心当たりが?」

「ああ、子供の頃は伯母上とは折り合いが悪かったがデールとはそれなりに仲良くしてたよ。とは言え、やはり伯母上に仲良くしている所を見られるとややこしくなりそうだったんでな、二人だけの秘密の隠れ場所で会っていたんだ」

「なるほど、時折お二人の姿が見えなかったのはその為でしたか」

「ところで俺の部屋は今はどうなっている?」

「申し上げ難いのですが今では物置代わりになっています」

 

ヘンリーの痕跡を消す為なのだろう、偽王と王妃によって彼の部屋の私物は全て処分されているらしい。

 

「…まあいいさ、隠れて会うには逆に丁度いい」

「と言う事はもしやデール様は其処に?」

「ああ、あの部屋の奥に隠し部屋があるんだ。ライオネットは話し合いの邪魔をされない様に見張りをしながら人払いを頼む」

「御意!お任せを」

 

 

 

ライオネットが先導している為にリュカ達はさほど怪しまれる事無くヘンリーの部屋だった場所に辿り着き、見張りをライオネットとブラウン達に任せて二人は中へと入る。

だが其処は思った程乱雑では無く、整理をした後さえ見て取れる。

おそらくデールが掃除をしたんだろうと考えながら奥に進み、床板をずらすと壁に偽装していた隠し扉が開いた。

 

「な、何者だ!」

 

隠し部屋の中から聞こえて来た声にヘンリーは軽く笑い、部屋の中へと進みながら答える。

 

「何者も何も、この部屋の事を知っているのはお前と俺だけだろう」

「え……、もしや兄上…なのですか?」

「長い間心配かけてすまなかったな、デール」

「あ、あ、あに…上。兄上ーーーーっ!」

 

部屋の中央で椅子に座っていたデールは入って来たのがヘンリーだと分かると抱きついて泣き出した。

 

「信じていました、きっと生きていてくれると、きっと帰って来てくれると」

「ああ、ありがとうな」

 

そう言いながらヘンリーはデールが泣き止むまでその肩を抱いてやる。

 

「そ、それで私にどんな用があるのですか?此処に私を探しに来たという事はそういう事なのですよね」

「その事だが、お前が叔父上から譲り受けたという古文書を見せてくれ。それにラーの鏡の入手法が書かれているらしいんだ」

「その古文書ならば奴等に奪われない様にとこの部屋に隠しております」

 

そしてヘンリーはデールに渡された古文書を読み出す。

 

「え~と、物語の部分が長いな。今在る場所を知りたいんだが」

「それならば、この城より南にある古い塔に祀られているとの事です。しかし」

「しかし何だ?」

「その塔に入る為の鍵は海辺に在る修道院の僧が持っていると書かれていました。それも実体を持たぬなどと曖昧な表現でどの様な鍵なのかは記されてはいませんでした」

「此処から南、そして海辺の修道院と言う事は…リュカ」

「ああ、あそこしかないねヘンリー」

 

そう言う二人は少々戸惑いの表情を浮かべる。

何しろラーの鏡が在る塔に入るには先ずは修道院に行かなければならず、つまりは其処に何も言わずに置き去りにしたリリスとマリアとも会わなければいけないという事なのだから。

 

「デール」

「はい、兄上」

「俺達はこれからその塔に行ってラーの鏡を手に入れて来る。そいつを使えば玉座に居座っている魔物共の正体を暴ける。奴等からこのラインハットを取り戻して見せるからな!」

「分かりました、兄上を信じます。今度もきっと無事に帰って来てくれると」

 

そう言うデールと別れたリュカ達は城から抜け出して馬車に戻り、修道院へと向かう。

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

一刻も早くラーの鏡を手に入れる為にとあえてオクラルベリーの町へは寄らずに急ぎ、そして修道院を眺める事の出来る丘の上で馬車を止める。

 

「さてと、どんな顔で会えば良いかだが……」

「怒っているよね、絶対」

 

流石に顔を合わせ辛いのか、そうぼやきながら数日振りとなる修道院を見下ろす二人。

 

「何時までも此処でダラダラしていても仕様が無いな。行こう、ヘンリー」

「そうだな」

 

カサリッ

 

「「ん?」」

 

怒られるのを覚悟で修道院へと進もうとすると背後から何かを落とす音が聞こえ振り向いて見ると…

 

「リ、リリス」

「マリア」

 

摘み取って来たのであろう、薬草やキノコなどが入った篭を足元に落とした二人の少女が呆然としながら此方を見ていた。

それはあの大神殿から共に逃げ出した二人の少女、リリスとマリアであった。

 

「あちゃ~」

「見つかっちゃったか」

 

ばつの悪い顔をしていると二人共、涙を流しながら駆け寄って来る。

 

「リュカさーーん!」

「リリス…」

 

リリスはリュカに抱き付くとその胸をポカポカと叩きながら泣きじゃくり、リュカもその肩を優しく抱いてやる。

 

「ばかばかばかぁ~~。リュカさんのばかぁ~~。何で私達を置いて行ったんですか!」

「ごめん。でも此処からは危険な旅だったんだ、だから二人には安全な場所に居て欲しかったんだ」

「私達にだって手助けぐらい出来ます!いくら安全でも二人の事を心配しながら泣いている方がずっと辛かったんだから!」

「そうか、悪かったよ」

 

そう言いながら頭を撫でてやると漸く落ち着いて来たのか顔を胸に擦り付け、鳴き声も小さくなり、ヘンリーとマリアの方も同様に喧嘩にはならずにすんだらしい。

 

 

そしてリュカとヘンリーは塔へと入る手段を聞く為に久しぶりとなる修道院へと足を運ぶのであった。

 

=冒険の書に記録します=

 




(`・ω・)神の塔へと入る為の方法が書いてある本を日記から古文書に変えてみたけれど余り意味は無かった件。


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第三十七話「出立、神の塔へ」

・ω・)チラッ
Ξササッ
・)ヒョコッ
ω・)「た、ただいま…」


 

無事に再会を果たしたリュカ達は話し合いをする為に修道院へと向かった。

大事な話があると言い、マリアとリリスには席を外してもらいシスター・ラルカの部屋で彼女と向かい合う。

 

「御二方共お久しぶりですね。さて、お戻りになって来たという事はこの修道院に何かの用事があっての事でしょう」

 

シスター・ラルカの質問にはヘンリーが答える。

 

「はい。今現在、ラインハットは王に化けた魔物によって内側から支配されています。その姿を暴き、騒動を治める為にもラーの鏡を入手しなければならないのです。そしてその鏡が収められている塔に入るに為の鍵はこの修道院にあるとの事で」

「…塔に入る為の鍵ですか?」

「はい、古文書にはそう記されていました」

「なるほど…。あの塔の事はこの修道院にも代々語り継がれて来ました。まず、結論から先に申し上げますと『鍵』その物は此処にはありません」

「そ、そんな!?」

「じゃあ、あの古文書は偽者だったのか?」

 

鍵は無いと聞き、動揺する二人だがシスター・ラルカは軽く微笑むと話を続ける。

 

「慌てないで下さい。塔に入る為の鍵は貴方方が思っている様な『物』ではないという事です」

「『物』じゃない…ですか?そう言えば鍵には実体が無いとか書いていたな、リュカ」

「ああ、確かに。では何を持って鍵と呼ぶのですか?」

「それは乙女の祈りです」

「乙女の…」

「祈り?」

「はい。あの塔は『神の塔』と呼ばれ、我々修道院の信者が神への信仰心を試す為の修練と洗礼の場所、故に乙女の神への祈りこそが扉を開く鍵となるのです。そして、ラーの鏡はその最上階に安置されています」

「では、シスター・ラルカも?」

「はい。私もあの塔で洗礼を受けました。しかし、その後から魔物達の動きが活発になって来てしまい、塔に辿り着く事すら出来なくなったしまいました。あ、そう言えば…」

「そう言えば、何でしょうか?」

 

そこまで語ると、シスター・ラルカは何かを思い出した様だ。

 

「10数年程前、旅の途中だと言う武芸者と女性の二人が訪れた際に当時のシスターの洗礼を受ける為の護衛を引き受けてもらった事があります。それが最後の洗礼でした」

(…旅の武芸者?)

 

その言葉に”もしや”と思うリュカだが、確証は無いので聞き返す事はせずにいた。

 

「つまり、俺達がその『神の塔』に入る為には洗礼を受ける事が出来る女性が一緒ではないと無理だという事ですか」

「はい。その上、(くだん)の時には塔の中にも魔物が跋扈していたとか」

 

本来ならば塔の中には魔物は居ない筈なのだが、魔王の力の影響なのか何時の間にか魔物が住み着いていたらしい。

 

「なら、俺達が護衛として一緒に入って魔物の相手をすれば良いって事だな」

「そういう事だが問題は誰に門を開けてもらうかになるな。いや、やはり危険すぎる、何か他の方法は…」

 

「「私達に行かせてください!」」

 

「「えっ!?」」

「まあ、貴女達」

 

リュカとヘンリーが誰に同行してもらうか、それとも他の方法を探すかと悩んでいると行き成りマリアとリリスが扉を開けて入って来た。

 

「い、一緒に行くって意味が分かっているのか?今、あそこはもうただの試練の場所じゃないんだぞ。魔物が居て危険で…」

「分かって言ってるんですリュカさん!待っているだけなのはもう嫌、力になれるのならなりたい、助けてあげたいです!」

「私もです、ヘンリーさん。今までずっとずっと心配だった、怖かった。二人共無事なのか、怪我していないのかなって。もう待っているだけなのは嫌!」

「ふ、二人共」

「困ったな」

 

マリア達は涙目で訴えかけ、リュカ達もその目を見て拒みきれないでいた。

シスター・ラルカはそんな彼等に微笑みかけながら語り掛ける。

 

「連れて行ってあげてはくれませんか?」

「シ、シスター・ラルカ?」

「しかし、余りにも危険では」

「貴方方二人だけでは心配です。それに護るべき彼女達が居れば二人共無茶な事はしないでしょう」

「「う…」」

 

自覚があるのか二人は反論が出来ないでいた。

 

「急いでいるんですよね、早く行きましょう。今度は幾ら駄目だと言っても付いて行きますから」

「それに私達がいなきゃ塔の扉は開かないんでしょう?」

「はあ、諦めろリュカ。何を言っても無駄らしい」

「仕方ないなぁ。無茶するようなら直ぐに連れ戻すからね」

「「はいっ!」」

 

諦め顔で溜息を付くリュカ達とは違い、マリアとリリスは満面の笑顔で返事をする。

 

 

 

そして翌朝、準備を終えたリュカ達はシスター・ラルカに出発の挨拶をする。

ちなみにマリアとリリスは馬車の傍で新たな仲間となるブラウンとシーザーにじゃれ付いている。

 

「では、シスター・ラルカ、行って来ます」

「二人は俺達が責任を持って無事に連れて帰ります」

「ええ、どうぞお気をつけて。私達は皆の無事を祈っております」

 

マリアとリリスを馬車に乗せ、リュカ達は神の塔へと歩き出す。

ラーの鏡を手に入れる為に。

そして、ラインハットを取り戻す為に……

 

 

=冒険の書に記録します=

 

 




(`・ω・)テレビゲーム総選挙2位記念。
さて、続きは何時になるのか……


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