アカメが斬る!~罪人の正義~ (祇園)
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俺が好きなのは『酒・金・女』

このサイトで初投稿デス

よろしくデス


帝都

 

文字通り帝国の首都

 

だが、この千年も続いている帝国は既に腐っている

 

人が次第に朽ち行くように国もいずれは滅びゆく

 

今や腐敗し生き地獄と貸している帝都は人の形の魑魅魍魎が、我が物顔で跋扈している

 

その代表といえるのが政治の実権を幼き現皇帝に代わって、握っているオネスト大臣

 

重税はモチロンの事で、自分に害のなす者には罪をでっち上げ処刑し、自分に賄賂を渡す者には相応の地位を与たり、悪事をもみ消したりと思うがまま

 

貴族も貴族でオネスト大臣に賄賂を渡して自分達のしていることを闇に葬っている

 

そして、帝都を守る警備隊も同様である

 

賄賂を貰えば目を瞑り、ありもしない罪で民を捕まえたりと散々である

 

そして、その帝都警備隊の副隊長室

 

書類は山積み、酒瓶は転がり、室内はタバコの煙が充満している

 

まさに、帝都の堕落の一部を表現している部屋であった

 

「失礼します」

 

そんな部屋に一人の女性が入ってきた

 

「副……くさっ!」

 

「あぁ、セリューか」

 

「なんなんですか!この部屋は!!神聖なる帝都警備隊副隊長の部屋をこんなに汚くするなんて悪です!」

 

「おいおい、帝都の平和を守る警備隊の副隊長が悪なわけがないだろ」

 

キセルをくわえながら笑うこの男

 

堕落したこの部屋の主

 

つまり、帝都警備隊副隊長のカグラである

 

「いや、すまんな。立て込んでた仕事があって一日泊まりがけでやっていたもんなんでな」

 

「だからって、ここでお酒を飲まないでください」

 

「そんな硬いこと言うなよ」

 

カグラはセリューの胸を揉もうと右手を伸ばすが、なにやらヌイグルミ的な犬?に右手を噛まれた

 

「あだだだだだだだだだだだ!!」

 

「コロ、そのまま補しょ……「いや、スマン!悪かったから、それは勘弁してくれ」

 

セリューは「やれやれ」という格好をとるとコロに命令し、カグラの右手は無事解放された

 

「おー、痛ぇ。ところで、俺に何かようがあったんじゃないか?」

 

「そうでした。貴族のアリアさんという方からカグラ副隊長への手紙を預かっていたのでお届けに参りました」

 

カグラは手紙を受け取り、中を確認した

 

「ーーーふーん」

 

「あれ?カグラ副隊長にしては珍しいですね。女性から手紙を貰ったら『ひゃほい』とか言いそうなんですけど」

 

「お前の俺のイメージ酷くねぇか?」

 

「それは日頃の行いが悪いからです。お酒に女遊びにギャンブル。副隊長じゃなかったらとっくにコロのお腹の中ですよ」

 

「そんなんだからお前は……いや、何でもない」

 

カグラは自分がこの続きを言ったらコロにまた噛まれる事になるので言うのをやめた

 

「まぁ、とにかくだ。俺は帰る」

 

「え!?まだ、終業時間じゃないですよ!!」

 

「面倒だが貴族にお呼ばれしてるんでな」

 

カグラは笑いながらセリューの頭を撫でるとそのまま帝都の街とへ消えていった



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コレガ闇ノ一部ダ

「ここか……」

 

カグラは手紙を元にアリアの住む屋敷に着いた

 

門番に招待されたこととアリアから差し出された手紙を見せると門番はカグラを屋敷へと案内した

 

カグラは中に入るとこの場に合わない田舎から出てきたばかりのような少年が目に入った

 

門番に「『新入り』かい?」と聞くと、目を合わさず「えぇ」とだけ答えた

 

屋敷の部屋へ案内されると、そこには招待主がいた

 

「これはこれは、カグラ殿。急な招待で申し訳ありません」

 

「いやいや、お嬢様直々に招待状を届けていたただいたのですから、ここは無理をしてでもね」

 

「では、今日は楽しんでいってください」

 

それからは普通の晩餐会だった

 

たわいもない話だが、お嬢様であるアリアはカグラの仕事の話は余程、お気に入りなのか次々と聞いてくる

 

夫人はそんなアリアを諌めるが主人は笑って「許してやりなさい」と言う

 

だが、そんな楽しい時間もすぐに終わってしまった

 

「では、私はこれで」

 

「私はタツミのところへ行くわ」

 

「おや?夫人はどちらへ?それと、タツミとは?」

 

「今日の『日記』でしょう。妻も今日は楽しいことがありましたので、早く記したいのでしょう。タツミとは、アリアが連れてきた宿無しの少年のことです」

 

「なるほど、それでは私もそろそろ」

 

「おや?もうお帰りになられるのですか?」

 

「えぇ『仕事』がありますので」

 

そう言うと主人は縦に真っ二つになった

 

「お前達に殺された者の怨みを晴らすためのな」

 

部屋から灯りが消えると外から人の恐怖の叫び声が聞こえてきた

 

「さて『ナイトレイド』も来たことだし、いくか」

 

カグラは真っ二つにした死体を横目に一服すると部屋から出ていった

 

廊下からは警備の者、使用人の断末魔がそこら中から聞こえてくる

 

ナイトレイド言わせればこの屋敷で『行われていた事』を見て見ぬふりをしていたことも抹殺の対象ということらしい

 

(さて、生きているやつがいればいいが)

 

カグラは屋敷を出ると離れの倉庫へ向かった

 

カグラが向かっている屋敷の倉庫には、この屋敷の闇、帝都の闇の一部が収められている

 

「っと、いい塩梅に揃っているな」

 

倉庫が見えてくるとそこにはアリア、タツミ、アカメ、レオーネの姿があった

 

だが何故かタツミとレオーネが言い争ってる

 

カグラが近付くとタツミはレオーネに「金返せ!」と言っている

 

(レオーネのやつ……またか。仕方ねぇ、ここは俺が何とかするか)

 

「おい、タツミ。ナイトレイドに何かされたの?」

 

ナイトレイドとは顔見知りでも一応、帝都警備隊であるカグラは初見のフリをしてタツミの近くに行った

 

「カ、カグラさん。このお姉さん、俺から金を騙しとったんですよ!」

 

カグラは「またか」という顔をし、レオーネは悪びれもせず笑っていた

 

「ナイトレイドは詐欺までやるようになったのか……とりあえず、『国家反逆罪』『殺人』に『詐欺』も追加して極刑だな」

 

カグラは二人に対して構え

 

「ーーーえ?」

 

だが、カグラは銃を引き抜くとアリアの眉間を撃ち抜いた

 

「カ、カグラさん!何でアリアを!?」

 

「何って、俺の『仕事』。まぁ、何をされたか分からないまま死ねるようには「あんた!帝都の警備隊なんだろ!!なんでナイトレイドのように人を殺すんだよ!!」

 

目の前でアリアを殺されたタツミはカグラに食って掛かる

 

カグラは言葉で言っても分からないと踏んだのか銃口を倉庫に向けて鍵を壊した

 

「タツミ、俺もナイトレイドも理由もなく人を殺すわけじゃない。その理由はその『倉庫の中』にある。それでも納得しないなら俺を殺せばいい」

 

新入りはカグラの言われるまま、倉庫へと向かった

 

そして、扉を開くと

 

「ーーーうっ!」

 

そこには、死が満ち溢れていた

 

倉庫の中には死体の山

 

体中に痣のある死体、体の一部を失い吊るされている死体、顔を皮を剥がされた死体、水槽に浮かぶ死体、ホルマリン漬けにされた死体

 

拷問器具には夥しい血が付着し、檻の中には生きているのか死んでいるのかも分からないような人がすし詰め状態で入れられていた

 

そして、数ある死体の中にはタツミの友人であるサヨとイエヤスもいた

 

「絶叫もせず、吐物も飲み込んだか……いい肝の座り方だ。これで、理由が分かっただろう?」

 

タツミは両手で口を押さえながら頷いた

 

「この屋敷の一家は身元不明者や地方から出てきた奴らを甘い言葉で誘い、自分達の趣味である拷問にかけて死ぬまで弄んでいた。まぁ、それもこの帝都の闇の一部でしかないんだがな」

 

「闇の一部……」

 

「そうだ。賄賂に人身売買、この一家と同じかそれ以上のことをしているやつもいる。警備隊にあってはそれに目を瞑り、自分達もありもしない罪をかけて民を拷問にかける者もいる」

 

「そんな……」

 

カグラの言葉にタツミは絶句するしかなかった

 

「っと、そろそろ撤収しねぇとうちのやつらが来るぞ」

 

「分かった」

 

「いつもサンキュー」

「それとタツミも連れてけ。ここに残すと面倒だし、何よりお前らの戦力になれば万々歳だろ」

 

カグラはタツミの襟首を取って、レオーネに投げ渡した

 

「お、おい!放せって!!俺はサヨとイエヤスの墓を!!」

 

「タツミ、心配するな。あとは俺に任せておけ。あと、二人ともナジェンダによろしく伝えとしてくれ」

 

「俺の意思はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

タツミはレオーネに抱えれ、屋敷からいなくなった

 

夜は明けるが帝都の闇は未だ晴れることはない



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全て灰にして隠す

ナイトレイドの襲撃から一夜明け、カグラは警備隊として屋敷の惨劇あと片付けに勤しんでいた

 

屋敷の者の死体、倉庫にあった身元不明の死体は庭の角に集め、まだ息のある者は『とある』医者に運び込んだ

 

「カグラ副隊長、焼却部隊が到着しました」

 

「すぐにこっちに案内してくれ」

 

そして、一番厄介なのが死体の処理である

 

ただの殺されただけならいいのだが、夫人が薬漬けで人為的に病を発症させて殺した者がいる

 

その病を帝都で流行させないための焼却処理ーーーというのが建前で、本当は拷問の死体を残さないためである

 

この貴族が行っていた所業の証拠隠蔽

 

息のあるものはそのまま医者のところで安楽死させる

 

(あぁ……『建前上』でも、この仕事はイヤなもんだね)

 

そんな事を考えていると焼却部隊が部下の案内で到着した

 

「休日なのに悪いな。ボルス」

 

カグラは部隊の前に立つ覆面を着けたボルスに話かける

 

「いえ、構いませんよ。でも、カグラさんの方がお辛いでしょう」

 

「仕事とはいえ、この悪事を隠蔽。そして、記者には『また善良な貴族がナイトレイドに殺されました』と公表しないといけねぇ」

 

「でも、それは誰かやらないといけないですから。それがたまたま私でもあり、カグラさんでもあった」

 

カグラはやりきれない気持ちになるが、すぐボルス達に焼却を始めるよう促した

 

焼却部隊の面々は普通の火炎放射器であるがボルスだけは違う

 

帝具『煉獄招致 ルビカンテ』

 

この帝具から出る炎は対象が燃え尽きるまで消えることはなく、消火することは不可能

 

そして、その炎は死体の山に発射された

 

人の焼ける臭いが屋敷の敷地に広まる

 

あまり、こういう事になれていない警備隊員の中には吐く者もいた

 

「いくら死体でも気持ちは痛みますね」

 

「だが、これは生きている人のためだ。あまり気に病むな。あとの処理は警備隊でやっておくから、早く家族のとこに帰ってやれ」

 

ボルスはカグラに一礼すると部隊を率いて帰った

 

「カグラた……じゃなかった。副隊長」

 

「ここにオーガいたらお前、大変な目にあっていたぞ……まぁ、いい。で、なんかあったか?」

 

「屋敷の前で金髪の美女がお呼びです」

 

それを聞いたカグラは直ぐ様、屋敷の外へと向かったが

 

「オイッスー!カグラ」

 

「チェンジで」

 

その美女が残念美女のレオーネだと分かった瞬間、カグラの気分は一気に萎えた

 

「ちょっとー!何だよ、その反応は!?」

 

「美女と期待していったらお前だったからだよ。それより、俺の部下だったからいいが、オーガの方の部下だったら危ねぇだろ」

 

「ちゃんと『匂い』で判断しているから大丈夫だよ。それと、この『臭い』って……」

 

「あぁ、倉庫にあった死体を焼いてる。病の元にならないようにするってのもあるが、上からは証拠隠滅ってことで片付けろと」

 

「そうか…伝言がある。ボスが明後日帰ってくるから来いってさ」

 

「了解した」

 

レオーネは伝え終えると獣の姿になって姿を消した

 

カグラは一服し、紫煙をくぐらせるが気持ちが晴れることはなかった




サブタイ見て気付いた方もいたかもしれませんがボルスさん登場デス


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アジトへご案内

ーーー襲撃から3日

 

帝都から北へ10kmの場所にナイトレイドの隠れ家がある

 

そして、アジトには簡素ではあるが二つの墓があり花が備えられており、その前にはタツミがいた

 

「よう、タツミ」

 

「カグラさん」

 

「うじうじすんな。死んだやつは戻ってこない。生きているお前はそいつらに恥じないように生きろ」

 

そう言うと、カグラはキセルに火を着けた

 

「ありがとうございます。それと二人の遺体も、ここまで運んでくれたことも」

 

「気にするな。そのままにしてたら今頃、灰にしていたからな」

 

「灰って……また、隠蔽ですか」

 

タツミはまた暗い顔になった

 

「そういうことだ。だが、そんな帝都も内側変えようとしている者もいる。それだけは忘れないでくれ」

 

カグラはタツミの頭を撫でるとアジトへ向かった

 

そして、入れ替わりでレオーネがやって来た

 

「オイッスー!私達の仲間になる決心はついたかー?」

 

「だから、俺は殺し屋には!」

 

レオーネはタツミの言葉を遮るように抱え込んだ

 

「まぁまぁ、このお姉さんが素質を保証してあげる。じゃっ、今日はアジトを案内してやろう」

 

レオーネはタツミを抱えたままアジトに向かった

 

途中、アジトの位置を教えるとタツミに「殺し屋なのに、そんなオープンでいいのかよ!!」突っ込みを入れられた

 

「まずは会議室だ」

 

会議室には眼鏡をかけた女性が本を読んでいた

 

「……まだ、仲間に入る決心ついてなかったんですか?」

 

「そうなんだよ。シェーレ、何かコイツに暖かい言葉をかけてやってくれ」

 

シェーレは顎に指をあてて思考し

 

「そもそもアジトの位置を知った以上、仲間にならないと殺されちゃいますよ?」

 

バッサリ一刀両断にした

 

「よく考えた方がいいですよ」

 

シェーレは読んでいた本に目を戻す

 

タツミは気になって本のタイトルを除いてみると『天然ボケを直す100の方法』と書かれていた

 

(……やっぱ変人の集まりなのか)

 

「あーっ!!ちょっとレオーネ!なんでソイツをアジトに入れてんの!?」

 

ピンク髪のツインテールが眉間にシワをよせながらレオーネ達に近づいてきた

 

「そーいうなよ、マイン。だって、仲間だし」

 

「まだ仲間じゃないでしょ!いくら、カグラの見立てがあるからって、ボスの許可も下りてないんだから!」

 

レオーネに言うだけ言うとマインはタツミを睨んだ

 

しばらく品定めするようにタツミを見ると

 

「不合格ね。とてもプロフェッショナルなアタシ達と仕事出来る雰囲気ないわ……顔立ちからして」

 

こちらはタツミの堪忍袋を撃ち抜いた

 

「まぁ、そう気にするな。マインは誰にでもこうなんだよ」

 

マインと別れる次に案内されたのは外

 

そこには二人の男が汗を流していた

 

「ここは訓練所という名のストレス発散所だ。んで……あそこにいる見るからに汗臭そうななのがブラート。そして、オッサンがカムイだ」

 

ブラートは槍を軽々と振り回し、カムイはその槍を全て受け流していた

 

タツミから見ても二人の実力はかなり高いものだと分かるほどであった

 

「レオーネ、オッサンではない。私はまだ33だ」

 

「いや、十分オッサンだよ」

 

「レオーネとこの間の少年か」

 

「なんで俺のことを?」

 

「あぁ、この姿は初めてだったか。鎧に包まれていた奴だよ」

 

タツミは思い出し、納得した

 

「ブラートだ。ヨロシクな!」

 

「ド……ドモ」

 

タツミとブラートは熱い握手を交わしたが

 

「少年、そいつは男色だぞ」

 

「つまり、ホモだ」

 

それを聞いたタツミはブラートから二、三歩引いた

 

「オイオイ、誤解されちまうだろ?なぁ」

 

ブラートはブラートで否定せず、若干頬を赤く染めた

 

次に案内されたのは水浴び場

 

緑髪の変態が覗きを画策していたが、レオーネによって、指を二本持ってかれた

 

だが、中々にしぶとく腕も持っていく手前まで行ったが、気絶したので次に向かった

 

「なんかもう、お腹一杯なんだが……」

 

「アハハ、次は美少女だから期待しろって!ホラ、あそこにいるのがアカメ。可愛いだろ?」

 

レオーネが指を差した方向には特級危険種エビルバートを丸焼きにして食べているアカメがいた

 

「お、タツミも食うか?」

 

先程、別れたカグラもアカメと一緒にエビルバードの丸焼きを食べていた

 

「カグラ、コイツは仲間になったのか?」

 

「いや、なってない」

 

「じゃあまだその肉はやってはいけない」

 

アカメはカグラから肉を奪い取るとそのまま口に入れた

 

「そうだ、タツミ。ナジェンダもいるぞ」

 

カグラは男装の麗人にしてナイトレイドのボスであるナジェンダを紹介した

 

レオーネはナジェンダを見た瞬間、顔が青ざめ逃げ出すが、ナジェンダはそれを許さず、右腕の義手が飛ばしてレオーネを捕まえた

 

「レオーネ、カグラから聞いたぞ。また金を騙しとったそうだな。そして、前の仕事で作戦時間をオーバー。その二つの癖はなんとか直すんだ」

 

「分かったからそのキリキリ音止めてくれ」

 

「ところでカグラ。お前が言っていた少年はコイツか?」

 

ナジェンダはタツミの顔を見て品定めをする

 

だが、シェーレとマインのように言うわけでもなく「ふむ」と、一言だけ言う

 

「あ、あの……」

 

「とりあえず、詳しい話はアジトでしよう。アカメ……会議室に皆を集めろ。この少年の件を含めて前作戦の結果を詳しく聞きたい」



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闇ノ世界ヘヨウコソ

会議室にナイトレイドのメンバーとカグラ、タツミが集合していた

 

ナジェンダは前の作戦の報告を聞くとタバコに火をつけ、一服入れた

 

「なるほど……事情は全て把握した。タツミ、ナイトレイドに加わる気はないか?」

 

「断ったらあの世行きなんだろ?」

 

「いや、それはない……だが、帰すわけにもいかないからな。我々の工房で作業員として働いてもらうことになる」

 

ナジェンダはそれを踏まえた上で入るかと問うが、タツミは帝都の現状を語り嘆い

 

「中央が腐ってるから地方が貧乏で辛いんだよ。その腐っている根源をとっぱらいたくねぇか?男として」

 

ブラートはタツミを励ますように声をかける

 

「ブラートは元々は有能な帝国軍人だった。だが、帝都の腐敗を知り我々の仲間になったんだ」

 

「俺達の仕事は帝都の悪人を始末することだからな。腐った連中の元で働くよりずっといい」

 

「でも……悪い奴をボチボチ殺していったところで世の中は大きく変わらないだろ?それじゃあ辺境にある俺の村みたいな所は結局救われねぇよ」

 

「ならば、余計にナイトレイドがピッタリだ」

 

タツミがナジェンダに質問をするとナジェンダは、話し始めた

 

帝都のはるか南に反帝国勢力のアジトがあり、その中で情報の収集は暗殺などの日の当たらない仕事をこなす部隊こそがナイトレイド

 

今は帝都のダニを退治しているが軍の決起の際には混乱に乗じて腐敗の根源であるオネスト大臣を討つことを目的としている

 

「……大臣を討った後の新しい国は……ちゃんと民にも優しいんだろうな?」

 

ナジェンダは「無論だ」と言ってタツミを見据える

 

「じゃあ、今の殺しも悪い奴を狙ってゴミ掃除してるだけ……いわゆる『正義の殺し屋』ってヤツじゃねぇか!」

 

ナイトレイドの仕事を知ったタツミは、好感をもった

 

しかし、『正義の殺し屋』って単語に、アカメとナジェンダ以外は笑い出した

 

「な、なんだよ……何が可笑しいんだよ!!」

 

「いやいや、悪い。でもな、タツミ……俺達がやっている事は『殺し』なんだ。それに『正義』なんてものはない修羅の道。そして、ここにいる全員がいつ報いを受けて死んでもおかしくないんだ」

 

カグラはキセルを吸うと紫煙を潜らせた

 

「カグラの言うとおりだ。戦う理由は人それぞれだがら皆覚悟は出来ている…………それでも意見は変わらないか?」

 

タツミは報酬について聞くと、しっかり働いていけば故郷の1つは救えるほどとのこと

 

それを聞くとタツミはナイトレイドに入ることを決意した

 

「ふ~ん……村には大手をふって帰れなくなるかもよ?」

 

マインはタツミに辛辣に当たるがタツミは「村の皆が幸せになるならいい」と答える

 

「決まりだな……修羅の道へようこそ。タツミ」

 

ナジェンダはタツミに握手をしようとしたが、ラバックの糸が反応した

 

つまり、ナイトレイドのアジトに侵入者が現れたということ

 

「人数と場所は?」

 

「俺の結界の反応からすると……恐らく8人!全員アジト付近まで侵入しています!」

 

「手強いな。ここを嗅ぎ付けてくるとは……恐らく異民族の傭兵だろう。仕方ない、緊急出動だ……全員生きて帰すな」

 

さっきまでの雰囲気から急に変わったことにタツミは身震いした

 

そして、気がつくとナジェンダとカグラ以外はいなくなっていた

 

そんな呆けているタツミにナジェンダの右腕が喝を入れた

 

「さぁ、初陣だ。行って始末してこい」

 

「え?あ、あのカグラさんは?」

 

「一応、帝都警備隊の人間ってこと忘れてないか?とにかく、行ってこい!!」

 

タツミはカグラに更に喝を入れられると他のメンバーを追うようにアジトから出ていった

 

「……大丈夫なのか?タツミは」

 

ナジェンダはタバコを吸いながらカグラに聞く

 

「俺の見立てが間違ったことがあったか?アカメと斬りあって生き延びていることもある。それに、お前は見てないから分からないが、タツミはかなりいい師に恵まれていたようだ。鍛え上げれば将軍級……いや、ブドーに匹敵するほどだ」

 

カグラはにやけながらタツミをそう評価した

 

「ほぅ、元インペリアルガードがそこまで評価するか」

 

「それに、『1000年前』の俺にもそっくりだったしな」

 

それを聞いたナジェンダはむせて咳き込んだ

 

「スマン、さすがに今のは嘘だ。だが、実力については偽りはない」

 

「そうか……それとカグラ。帝具によって1000年程生きたお前から見て今の帝都をどう思う?」

 

ナジェンダの言うカグラの帝具とは『輪廻炎呪 カグツチ』

 

1000年前、帝国最強の騎士であったカグラ

 

しかし、カグラは帝国建国後の大戦によって重傷を負い生死の境をさ迷っていた

 

始皇帝は親友でもあるカグラを失いたくない一心でカグツチによってカグラを蘇らせた

 

帝具の名を現すように、カグツチは呪いであり、カグラは1つの例外を除き『死ぬこと』が出来なくなっており、このことは代々皇帝のみに伝えられていたが、オネストによって皇帝に仕立て上げられた今の幼き皇帝はそのことを知らない

 

ナジェンダがこのことを知っているのは、カグラがナイトレイドと信頼関係を結ぶために全てを話したからである

 

「ゲン……始皇帝と今の皇帝にゃ、悪いが1回ぶっ壊れた方がいいとしか言えねぇな」

 

「お前がそう思うくらいならこの国は終わっているな」

 

「1000年程生きて、今ほど『依頼』を受けることはなかったからな……さて、錆び付いた話はここで終わりだ」

 

カグラはそう言うとアジトを後にした

 

そして、カグラが帰る時と同じくナイトレイドの侵入者迎撃を終わりを告げていた



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鬼ヲ斬ル

タツミがナイトレイドに加わってからしばらく経った

 

カグラはというと警備隊の仕事をこなす毎日

 

オーガは見回りや訓練(という名のしごき)こそするが事務仕事をしないため、大体の事務仕事はカグラがしているのである

 

「えっと……この報告書はセリューか」

 

カグラはセリューの報告書を見ると苦虫を潰したような顔になった

 

その内容は

 

『飲食店にて無銭飲食をし、逃走。その際、通行人数名に傷害を負わせたため、コロに片足を補食させました』

 

(まぁ、それでも前よりはマシにはなっているんだよな……)

 

カグラは警備隊に入りたてのセリューを思い出していた

 

セリューは異常なほど正義を盲信していた

 

父親が凶賊に殺されたということが要因であり、『正義であった父が殺された。ならば、正義であった父の娘である私も正義。悪は正義が裁く。正義である私が裁く』という根幹が出来ていた

 

セリューの思いは清かった

 

むしろ、清すぎる

 

だからこそ歪んでしまった

 

だからこそ、カグラはセリューの根幹を矯正した

 

『そんなに悪人を裁きたいなら、裁判官か処刑人になれ!警備隊なら殺さず捕まえろ!民を守れ!』

 

時間はかかったものの『罪を犯した=死刑』という構図を矯正はしたが、この報告書を見る限り元に戻らないという確信は持てなかった

 

(やっぱ、アイツ一人で見回りさせないでストッパーを一人つけるか……)

 

そんなことを考えていると窓からネコが入ってきた

 

「…………………………」

 

ネコはずっとカグラを見ている

 

カグラは気にせず仕事をするが、ネコはカグラから目を離さない

 

カグラはタメ息をつくと、部屋を出た

 

そして、部屋に戻ってくると紅茶とケーキを来客席に置き、ドアに『来客中』の札を立て掛けた

 

「……もう、いいぞ。『チェルシー』」

 

「あはは、いつもありがとうございま~す」

 

ネコは煙をあげ、茶髪の女の子に変わると来客席に座りケーキを頬張った

 

これがチェルシーの帝具『変身自在 ガイアファンデーション』の能力

 

生物ならどんなものにでも変身が可能であり、チェルシーのような潜入には持ってこいの帝具である

 

「う~ん。やっぱりカグラの依頼受けて正解だったな~。報告のたびにこんな美味しいケーキとお茶を用意してくれるんだから」

 

「それで、依頼した件の方はどうだ?」

 

カグラが聞くとチェルシーはフォークを置いた

 

「全然、見つからない。消息が一向に掴めないから、隠れているのか移動し続けているのかもしれない。もしかしたら国外にいるのかもしれない。もしくは死んでいるのかもしれない。予想を上げればキリがないよ」

 

チェルシーはタメ息をつくと紅茶に口をつけた

 

「そうか……鎧騎士の噂を聞いてもしかしたらと思ったが……」

 

「元インペリアルガード筆頭『ムサシ』またの名を『黄金騎士』ブドー大将軍と同等かそれ以上の実力者にして帝具使い。是非とも革命軍に入ってほしいなぁ~」

 

「それは見つけてからにすることだ」

 

「はいはい。それじゃあ、引き続き探してみるよ」

 

チェルシーはケーキを食べ終わるとカグラが贔屓にしている行商人に変身した

 

そして、去り際にオーガとガマルの暗殺が今夜決行することをカグラに伝えた

 

そしてその翌日、オーガとガマルが殺害された報告がカグラの元に上がってきた



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カムイが斬る~日常編~

ーーーナイトレイド アジト

 

タツミはアカメとのコンビ、マインとのコンビが終え、カムイとコンビを組んでおり、今日は鍛練に励んでいた

 

「ふん!」

 

タツミとカムイは通常の重く巨大な剣を振っている

 

だが、回数をこなしていくうちにタツミの振る速度はどんどん遅くなり、ふらつくことも多くなってきた

 

一方、カムイは全くぶれることなく振り続けている

 

「はぁ、はぁ……ど、どうしてこんなに差が……」

 

「無駄が多いからだ。無駄を少しでも落とすことが出来れば、鉄を斬ることも可能だ」

 

カムイはおもむろに訓練用に刃引きしている剣を持ってくると刀で一刀両断にした

 

その切り口は綺麗で、カムイの技量の高さを実感するタツミであった

 

「おいおいおい、小僧。こんくらいで驚いてねぇで、さっさと振りやがれ」

 

タツミは聞きなれない声を聞き、辺りを見回してみるが訓練所にタツミとカムイ以外には誰もいない

 

それでも「こっちだ」という声が聞こえてくる

 

「タツミ、こいつだ」

 

タツミはカムイが指し示す方向を見てみるとそこには人はいないが、鳥がいた

 

「え?インコ?」

 

「誰がインコだ!我輩はオウムだ!!」

 

「インコが喋った!?……あ、インコは喋るか」

 

「だから、我輩はオウムだ!!」

 

タツミはカムイの腹話術ではないかと疑ったがカムイはそれを否定した

 

「まぁ、折角だ。ありがたい話を聞かせてやろう。このカムイはな、帝都から遥か東にある島国の出身だ」

 

タツミはどこがありがたい話なのかさっぱりだが、東の島国は未開の地であり、帝都としては喉から手が出るほどその島国の情報を欲しているわけである

 

「ていうか、東の島国って何?」

 

このタツミの発言にオウムはずっこけた

 

「オメーさん。かなりの田舎者だなオイー!!」

 

「そこまでにしておけ。ツチナガ」

 

オウムことツチナガはカムイに止められると「アバヨ」と言って飛んでいった

 

タツミはカムイにツチナガについて質問するとツチナガは過去の催された祭りで売られていたのを買い、名前はフィーリングで決めたとのこと

 

だが、ツチナガがあそこまで人間くさい理由は分からないとのこと

 

「まぁ、それはさておき。朝の訓練はここまでだ。汗を流しに行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂に行くと変態(ラバック)が浮いていた

 

「生きて……はいるか」

 

いつものことなのでカムイは無視し、風呂に浸かった

 

「あの……カムイさん。ラバは大丈夫なんですか?」

 

「大方、レオーネの風呂を覗こうとして制裁を受けたのだろう」

 

「姉さんの裸を見るならこの命を擲っても「いっそ、カグラに依頼して殺してもらおうか?」ごめんなさい」

 

復活したラバックだが、カムイの一言で黙った

 

「ラバ、覗きなんてやめろよ……」

 

「うるせぇ!これが俺の生きる道だ!!」

 

ラバックは清々しいほど変態であった

 

「それより、タツミ。お前ウチの女子連中ならぶっちゃけ誰が一番好みだ?」

 

アカメ・・・素直クールの文字通りの肉食系女子

とぼけたところもご愛敬

 

マイン・・・絵に描いたようなツンツン娘

デレは……あるかは不明

 

レオーネ・・・大人の色気あり

サバサバした性格

カグラ曰く、残念美女

 

シェーレ・・・おっとりメガネ

ナイトレイドの中では一番優しいお姉さん

 

「さぁ、誰を選ぶよ!ぶっちゃけろよこの野郎!!」

 

「そんなこと言われてもな……今、俺は強くなる為に夢中だから……選ぶとかそんな身分じゃないよ」

 

「こんだけ女が揃ってる中で誰にも興味を示さない……つまり!隠された選択肢が出てくるわけだな!!」

 

突如、ブラートも風呂へとやってきた

 

入る前だというのに若干頬が赤くなっていたが、カムイは気にしないようにした

 

「俺もさ、はじめは興味なかったんだけど従軍中に色々あってな」

 

「なんだか兄貴の様子が変だな。ラバ……」

 

タツミは振り返るがラバックはいなくなっていた

 

「あ、あのさ……兄貴は本当に…その…男が好きな訳じゃない……よね?」

 

若干、間があったがブラートは否定した

 

「で、話の続きだけどさぁ……」

 

「ブラート、人の恋路を聞くのは野暮だぞ。タツミ、上がるぞ」

 

カムイはタツミに上がるように促し、アジトへ戻った

 

「カムイ、仕事だ」

 

アジトに戻って早々ナジェンダが仕事を持ってきていた

 

標的はトーマという医師

 

表向きは善良な医師で通っているが、裏では麻薬など危険薬物の密造と密売、薬物の人体実験を行っている

 

「私がやるということは……」

 

「あぁ、派手にやれ。加担した屋敷の人間は全て殺せ。依頼人である息子は既にこちらで保護している」

 

「派手にやれって、暗殺者としてそれはどうなんですか?」

 

「タツミ、カムイの仕事を見れば分かる。どういう意味なのかな」

 

タツミは訳も分からないまま、カムイと一緒に仕事に向うこととなった



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カムイが斬る~仕事編~

トーマの屋敷は帝都から東へ1kmと少し離れたところにあった

 

屋敷の回りを囲む塀は外からの侵入を拒むように高く、門は鉄の扉で閉ざされ門番が二人いる

 

そして、今日はトーマとその仲間達が月に一回集まる日であるため、屋敷にはその護衛もいる状態である

 

「あ、あの、カムイさん……大丈夫なんですか?」

 

「何がだ?」

 

「いや、前みたいに狙撃するわけでもないし、他のみんなだっているわけでもないのに、この人数をどうやって殺すんですか?」

 

タツミの疑問はもっともである

 

この任務の暗殺対象は30人

 

ナイトレイド全員でならとにかく、カムイとタツミの二人になるといささか不安である

 

だが、タツミはこのあとナジェンダの言っていた理由を知ることになる

 

 

 

 

 

 

「お~い、カムイ」

 

タツミは空を見上げるとツチナガがやってきた

 

「よぅ、偵察してきたぜ」

 

「鳥なのに、よくそんなこと出来るな」

 

「ふふふ、出来る鳥はな。そんなことは関係ねぇのさ」

 

「それで、中はどうだった?」

 

「あいつら宴会をおっ始めてるぜ。護衛達も中に入っちまってるから、やるなら今だぜ」

 

「関係ない者は?」

 

「いない。全部の部屋を確認してあるから問題はないぜ」

 

中の状況を聞いたカムイはそのまま屋敷の門へと歩き出す

 

タツミはカムイの後を追いかけようとするがツチナガにつつかれ、歩みを止められた

 

「小僧、黙って見ていろ……死にたくなかったらな」

 

ツチナガの最後の言葉に重みを感じたタツミはその場に留まることとなった

 

そうこうしている内に、カムイは門の前まで来ていた

 

門は固く閉ざされており、そう簡単には開かないようになっているがカムイには関係なかった

 

カムイは腰を落とし、刀の柄を握る

 

それは居合い抜きの体勢

 

カムイほどの実力なら門を斬ることは容易いが、これからカムイが斬るのは門ではない

 

 

 

 

「万物、悉く斬り刻めーーーーー『地獄蝶々』!!」

 

 

 

 

一閃

 

カムイの居合い抜きは横一文字で斬り払われた

 

「あ、あれ?」

 

タツミは目を疑った

 

カムイは刀を鞘に納めるとそのまま帰ってきた

 

「あ、あのカムイさん……仕事は?」

 

「あぁ、終わったぞ。ツチナガ、帰ったら飯にするぞ」

 

「おう、それならデザートランナーの唐揚げを頼む」

 

「えぇー……」

 

タツミは普通に帰っていくカムイとツチナガに不信感しか持てなかったが、何かが崩れる音が聞こえてきた

 

タツミが振り返るとトーマの屋敷が崩れ、瓦礫の山と化していた

 

「え?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

タツミは理解出来ていないわけではないが目の前でそれが起きている事実を飲み込めなかった

 

そう、カムイは一回の居合い抜きでトーマの屋敷全てを斬ったのである

 

中にいた標的も斬り、斬り損ねた標的はあのように崩れた屋敷に押し潰されて圧死している

 

仮に生きていたとしても、重症は免れず帝都から離れているこの場所から医者のいる帝都までに死ぬのがオチである

 

「ボスが『派手にやれ』って言っていた理由はこういうことだったのか……」

 

「な~に放心してんだ。小僧」

 

「痛っ!何すんだよ!!」

 

「終わったんだ。帰るぞ」

 

「は、はい!」

 

月明かりに照らされながら、カムイ達はアジトへと戻っていった




ーーーナイトレイドアジト

「ところで、何で俺着いていくことになったんですか?あれだけで終わるなら俺、いらないんじゃ?」

タツミはアジトに帰るとナジェンダに聞いてみた

「あぁ、カムイは元インペリアルガードの一員でな。そいつの実力を間近で見るのも一つの勉強かと思ったんだが?」

「いえ、凄すぎて参考にすらならないです……」

この数日後、カムイとのコンビは解消することとなった


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首切りを狩る

オーガが殺害されてから二週間が経った

 

最初は悲しみに暮れていたオーガ派の警備隊員も活気が戻り、職務に励んでいた

 

むしろ、無理矢理にでも戻らなければならない理由があった

 

『オーガを殺したのは最近、現れた辻斬りにして元帝国処刑人のザンクである』

 

と、いう噂が流れたからであった

 

オーガの殺害前から深夜に帝都を出歩いてる一般都民、警備隊員を問わず殺さており、オーガが殺害出来るほどの実力者となるとザンクしかいないと

 

「カグラ『隊長』がそう流したんでしょ」

 

チェルシーは笑いながら紅茶を口に含む

 

カグラはオーガが殺されたため副隊長から隊長に昇格していた

 

とは言ってもやることは副隊長の時と変わらず、変わったといえば部屋とコネを売りにくる業者が来るということくらいである

 

「本当はナイトレイドの新人に殺されたのに、みんなザンクに殺されたって信じて疑わないなんてね」

 

「まぁ、ちょうどザンクが帝都に出てくれたおかげでそんなことが出来たんだがな」

 

カグラは裏工作としてザンクの仕業に見せるためにオーガの首を斬り、頭部は発見されないように食人植物が棲息している森に捨ててきている

 

「でも、帝都警備隊としてはザンクはほっとけないでしょ?」

 

「まぁ、今回ばかりは被害の3割が警備隊員だし、面目を保つためにも警備隊としてザンクを取っ捕まえるのが理想だ」

 

「が」とカグラは話を続ける

 

上からザンクは帝具持ちという報告が入っている

 

帝具『五視万能 スペクテッド』

 

元は獄長の帝具であったが、ザンクは獄長のスキをみて盗んで辻斬りとなった

 

『五視』というだけあって

 

心を視る『洞視』

 

天候に関係なく遠くを視ることが出来る『遠視』

 

見えないものを透かして視る『透視』

 

筋肉の機微で行動を視る『未来視』

 

その者にとって一番大切な者を目の前に浮かび上がらせる『幻視』

 

といった五つの能力があり、戦闘において使用者に絶対的な情報アドバンテージをもたらす帝具なのである

 

(確かこの帝具って、1000年前のとあるバカが覗きに使っていたが結局はバレてボコボコにされていたな)

 

そんな思い出を思い出しながらカグラはキセルに火を着け、紫煙をくぐらせた

 

「そうそう、ナイトレイドも今夜動くみたいだよ」

 

「そうか、いつも情報寄越してくれて助かる。こっちも、今夜にはザンクとケリを着けるとするか」

 

カグラは刀を取ると隊長室から出ていった

 

「あ、黄金騎士のこと伝えるの忘れてた…………まぁ、今度でいいか」

 

チェルシーは紅茶を飲み干すと猫の姿になり、窓から隊長室から出ていった

 

そして、夜

 

帝都警備隊とナイトレイドのザンク狩りが始まった



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オーノーだズラ。お前もうダメズラ。既に葬られちまっているズラ。呪毒を体に流し込まれちまってるズラ

どうも、帝都警備隊隊長のカグラです

 

さて、何から話せばいいのだろうか?

 

俺はザンクを捕らえるために警備隊全員で捜索したが結局のところ、警備隊では見つけることは出来ずに終わった

 

ザンクもザンクで標的を警備隊ではなく、ナイトレイドに変えていたようだ

 

それを証拠に朝にはザンクの死体が見つかったとの報告が入ってきた

 

ザンクの首もとには横一文字の刀傷があり、帝具も見当たらないことから部下の連中はナイトレイドの犯行と断定

 

報告書で詳しい内容を確認していると、チェルシーからもザンクが討ち取られたとの報告という名のたかりにやってきた

 

そして、俺はチェルシーの口から『黄金騎士』の名を聞く

 

最近になって地方から帝都にむけてその噂が広がっている

 

地方の町や村を襲う危険種をいとも簡単に倒した

 

村を襲っていた野盗を一人も殺さずに捕まえた

 

人を家畜のように扱い村人から怨まれていた領主と皇皇寺の師範代であった護衛を殺し、その村を救った

 

噂だけでもその実力は黄金騎士と言っても過言でもない

 

チェルシーは『黄金騎士を革命軍にスカウトしてくる』と言って出ていくが、ムサシなら単身で皇拳寺羅刹四鬼、親衛隊やブドーを倒して大臣を討ち取るのは容易だろうが……まだ、あの『裏切り者』がいる

 

元インペリアルガードのあの男がーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ーーん、ーーーグラさん、カグラさん」

 

カグラは声に気付くと鎧姿でびちょ濡れのタツミとシェーレが目の前にいた

 

「終わったか。どうだ、鎧を着けて泳ぐとかなりキツイだろ?」

 

「かなりハードでしたよ……」

 

今回の上司はシェーレのため暗殺者養成カリキュラム(ゴズキの鍛錬とオーガの鍛錬をカグラが更にハードにしたもの)で集中的に鍛えられているタツミ

 

ちなみにタツミの着けている鎧は普通の鎧に比べて1.5倍というのは内緒の話

 

「それにしても、カグラさんは帝都警備隊だから仕方ないにしてもなんでシェーレって役割がないの?」

 

「タツミ、それは聞かないでおくのが男だぞ」

 

「いいんです……料理は焦がしてアカメをクールに怒らせて、掃除は逆に散らかってブラートを困らせて、買い出しでは塩と砂糖を間違えてレオーネに笑われて、調査でははぐれて危うく警備隊に捕まりそうになってカムイに迷惑をかけて、洗濯は……うっかりマイン本人も一緒に洗ってしまいました」

 

過去を話していくシェーレはだんだんとしゅんとなっていき、タツミは「ドンマイ」としか言えなかったが、心の中では「最期は良くやった」と思っていた

 

「でも、なんでシェーレはこの稼業に?」

 

「俺がスカウトした」

 

「でも、初対面ではナンパしてきました」

 

タツミは覗きをしたラバックを見る目でカグラを見た

 

「おい、タツミ引くな。シェーレは天然で頭のネジが外れているとはいえ、ボン!キュ!ボン!のナイスボディ!そして、男に尽くしてくれそうな外見!そりゃ、ナンパしない方がおかしいっての!!」

 

「あの……力説はいいんですけど、シェーレをどうしてスカウトしたんですか?」

 

「あぁ、話が逸れたな。まぁ、初対面はさっき話したとおりなんだが、次に会った時は取調室だ。その時は『麻薬をやっていた友人の元彼氏が暴れて刺した』って事を感情がぶれることなく淡々と話していた。淡々と話すもんだから友人を庇っているのかと思って、友人にも話を聞いたら『刺したのは間違えなくシェーレです』って震えながら答えたよ。それで、正当防衛ってことは立証された」

 

カグラはキセルを取りだし、火をつけようとしたが、シェーレに嫌がれたため懐にしまった

 

「で、三度目は暗殺現場だ。俺の標的のところに行ったら、シェーレが殺していてな。普通、殺しに慣れていないやつは興奮したり、震えるやつもいる。俺はシェーレに問いただしたら、シェーレはいたって平常心で『社会のゴミ掃除をしていました』って言った瞬間、スカウトを決めたってわけだ」

 

「それから私はカグラさんのところで少しお世話になってからナイトレイドに入ることになりました」

 

「そこで、シェーレもこんなカリキュラムをやったわけか」

 

「はい、私はタツミのように即戦力ではなかったので……」

 

「さぁ、話は終わりだ。鍛錬を続けるぞ」

 

「はい!」

 

タツミは元気よく返事をするがその数時間後、そんな返事すら出来なくなるほど鍛錬された



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はじめての帝具

カグラとシェーレによる特訓から数日が経った日、タツミたちナイトレイドのメンバーは会議室に集められた

 

「さて、カグラは仕方ないとしてそれ以外の全員は揃ったな。タツミ、早速だがザンクから奪取したこの帝具……お前がつけてみろ」

 

「いいの!?皆は?」

 

「帝具は体力と精神力を摩耗させる代物だ。それ故に一人につき一つだ。だから、お前がつけろ」

 

タツミは内心「あまりカッコ良くない」と思いながらもその能力は身に染みて分かっているため、迷うことなく額につけた

 

「文献に載っていない帝具ならカグラに聞けば分かるのだが、あいつは『野郎がつけたら絶対に悪用される確率が高い帝具』としか言わなかったのでな……」

 

「タツミ、心を覗ける能力があったろう。私を視てみろ」

 

「夜は……肉が食いたいと思っている」

 

「完璧だな」

 

「それ、アカメを知るやつなら誰でも予想出来ることだろ」

 

いつの間にかカグラ会議室におり、タツミツッコミを入れてきた

 

「カグラか、警備隊のこともあるのにすまんな」

 

カグラは「気にするな」と言うとタツミからスペクテッドを取り上げた

 

「な、なんで取るんですか!?」

 

「コイツの能力が知りたいんだろ?コイツは『洞視』『遠視』『透視』『未来視』『幻視』の5つだ」

 

「それって、つまり覗きに最適な帝具じゃないですか!!」

 

透視能力に喜ぶラバックだが、マインの容赦ない怒りとそれに乗っかったレオーネが襲いかかる

 

「まぁ、いつものことだからいいとして。これは搦め手を得意とするやつや偵察向きでタツミのようなタイプには向かない帝具だ」

 

カグラはそのままナジェンダにスペクテッドを投げ返した

 

タツミは少し残念そうにするが1つの希望を見いだした

 

「でも、これみたいにスゲェ能力がある帝具なら死んだ人間を生き返らせる帝具もあるかもしれねぇ!!」

 

タツミは希望を見つけたような発言はその場を凍てつかせた

 

「タツミ、帝具であろうと死んだ人間は生き返らねぇ……命は、一度きりだ」

 

タツミは声を荒げてブラートの言葉を否定しようとするがカグラに頬を叩かれた

 

「タツミ、人は生き返らない。そんな甘い考えを持っているなら捨てておけ。でないと……死ぬぞ」

 

カグラがタツミを冷たい言葉で突き放すとタツミは呆然とすることしか出来ず、そのままアジトの外へとフラフラと出ていった

 

「厳しいな。カグラ」

 

「変な希望を持てばそれが隙になる。タツミにはそれを知ってもらわないとな。それに、生き返ったからっていいことばかりでもねぇよ……」

 

カグラはキセルをくわえるとそのまま帝都へと戻っていった



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帰ってきたドS

帝具のことがあってからしばらくが過ぎた

 

帝都警備隊にいるカグラには色々な情報が入ってくる

 

反乱軍にナカキド将軍とヘミ将軍が合流したことや北を制圧したエスデス将軍が帝都に戻ってくること、竜船が完成間近ということ

 

そして、それよりも辛い報告があった

 

『シェーレが死んだ』

 

辺境の警備隊視察のため帝都を離れていたカグラは提出されていた報告書でそれを知った

 

セリューがシェーレ、マインとの交戦し、セリューは両腕を失いながらも、マインに重症を負わせ、シェーレはコロによって捕食され死亡

 

帝具『万物両断エクスタス』はオネスト大臣お抱えの帝都諜報部によって回収され、宮殿の帝具保管庫へ保管されることとなった

 

「辛ぇなぁ……」

 

いつ死ぬかも分からない裏家業

 

帝具によって死ねないカグラでもそれは理解しているが、シェーレをスカウトして気にかけていた分、帝都警備隊の部下が死ぬよりも堪えていた

 

 

 

 

 

 

 

ーーー帝都宮殿地下 拷問部屋

 

 

拷問部屋

 

それは大臣であるオネストに逆らった者、見せしめに囚われた者、罪をでっち上げられた者

 

性別、年齢、人種、階級も関係無く、元貴族、元政治家もいる

 

拷問官達はそんな事は関係無く嬉々として拷問を続ける

 

『人をいたぶること』こそが彼らの存在意義であり、喜びであるように

 

「お前達を見てると気分が悪くなる」

 

冷たく、凛とした声が拷問官の耳に入った

 

睨みを聞かせる拷問官だが、声の主を見ると言葉を失った

 

その声の主はエスデス

 

北の異民族40万人を生き埋め処刑、バン族の殲滅と生来のドSにして、帝都最強であるブドー大将軍と並ぶ強さを持つ女性

 

そんなエスデスを前に拷問官達は平伏すしかなかった

 

「本当に気分が悪い……貴様らの拷問は下手すぎる」

 

エスデスは囚人の入った大釜を見るやいなや氷塊を入れ、大釜の温度を下げた

 

「少し温くした。これですぐには死なず一番長く苦しむぞ」

 

そう言うとエスデスは配下である三獣士を引き連れて拷問部屋を出ようとしたが、何かを思い出したかのように歩みを止めた

 

「そういえば、アイツを忘れていたな」

 

エスデスは拷問を受けている中で一人の女性の前に立った

 

女性は全裸で体には至るところにおびただしい拷問の跡があり、息をしているのかすら分からない状態であった

 

「エムエム、約束より一ヶ月早く帰ってきたぞ」

 

だが、エムエムと呼ばれた女性は反応しない

 

エスデスは拷問官に鞭を持ってこさせるとエムエムを鞭で叩いた

 

「~~~ッ!はぁ~……この鞭の叩き方。やっぱりエスデス様が最高です~」

 

エムエムは恍惚な表情で目を覚ますと張り付けから開放された

 

「やっぱり、エスデス様の言うようにここの拷問は下手すぎますね~。ならんなら、私が拷問官に戻って一から調教した方がいいですかね~」

 

「それもいいが、そろそろお前にも働いてもらうぞ」

 

「分かりました。エスデス様」

 

エムエムは三獣士と共にエスデスの後ろを歩き拷問部屋から出ていった

 

その素肌から拷問で受けた傷を消して

 

 

ーーー宮殿内

 

 

エムエムは拷問部屋から出るとまずは風呂に入った

 

エスデスと三獣士が北の異民族を制圧するまでの間、ずっと拷問部屋で拷問を受けていたため血と汗の匂いが染み付いており、それを洗い流していた

 

「ふぅ……」

 

エムエムは風呂から上がり、久しぶりに制服に身を包んだ

 

黒い服に黒いチョーカー

 

これこそがエスデスの下僕の証であり誇りである

 

中庭に出ると久しぶりの太陽を浴び、背伸びをした

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!経験値をいただくぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

そんな中、三獣士であるダイダラがエムエムに突っ込んできた

 

さすがに、帝具を所持していないが体格から見てもエムエムが圧倒的に不利だと思われる状況だが、エムエムはダイダラが放つ拳をよけるとダイダラの顔面を掴み、力を加えた

 

「いでででででででででで!割れる!割れる!!」

 

「相変わらずの強さだな。エムエム」

 

静観していたリヴァがエムエムに声をかける

 

「ダイダラが弱いだけでしょ。弱いなら、エスデス様の配下にいらないし、このまま殺そうかな?」

 

エムエムは更に力を加えようとしたが、エスデスの姿を見るやいなやダイダラから手を放して、エスデスの前に跪いた

 

「エスデス様~!このエムエム、お待ちしておりました~!!この後は拷問ですか?誰かを攻めますか?それとも私を攻めますか~!!」

 

「それもいいが、お前達に新しい命令をやろう」

 

それを聞くとエムエムは三獣士と共に真面目に跪いた

 

「なんなりとお申し付けください」

 

「僕達三人と他一名はエスデス様の忠実なる僕」

 

「いかなる時いかなる命令にも従います」

 

「例え、火の中、水の中、毒沼の中、ジャングルの中でも命をかけて(ニャウ、あとで拷問してやる)」

 

「よし」

 

三匹の獣とドMは主の命令によって散った

 

偽物の梟となって



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金色の帰還

ーーー帝都近郊の村

 

他の地域と同じく、貧困に喘いでいた

 

民は痩せ細り、目も虚ろなものもいる

 

そんな村をある一行が通っていた

 

元大臣のチョウリとその娘のスピア

 

ブドー大将軍の庇護下で地方で隠居をしていたが、国の行く末を案じて帝都に向かっていた

 

「ひどいものだ……国というものは民があってこそだというのに……」

 

「そんな民を憂い。毒蛇の巣窟である帝都へ戻る父上を私は誇りに思います。私は父上の身を必ず守ります」

 

皇拳寺を皆伝し槍の達人であるスピアの言葉に頬を緩めるチョウリだが「嫁の貰い手がない」という禁句を言ってしまったため、スピアの気分を下げてしまった

 

そんな中、馬車が止まるとその前に四人の男女が立っていた

 

「また盗賊か!?治安の乱れにも程がある!!」

 

チョウリは怒りをあらわにし、スピアや護衛のものは蹴散らすために馬車の前に出た

 

「ひー、ふー、みー……三十人のザコとお持ち帰りしたいのが一人か……ダイダラ、三十人はアンタにあげる」

 

「おう」

 

エムエムは品定めを終えるとダイダラに任せた

 

スピアはダイダラは強いと感じたが、数がいることに慢心したのか一斉にダイダラに飛びかかった

 

ダイダラは自身の帝具『二挺大斧ベルヴァーク』で一振りのもとに護衛のほとんどを殺し、スピアに重症を負わせた

 

「へぇ……お姉ちゃんやるぇ。ダイダラの攻撃で死なないなんて……」

 

ニャウは懐からナイフを取りだそうとしたが、エムエムに後ろに引っ張られた

 

「何で止めるのさ!?拷問するよりコレクションに……」

 

ニャウはエムエムを睨むがエムエムの顔には焦りが見えていた

 

ニャウはエムエムとの付き合いはそんなに長くはないが、エスデスに対しては下僕の顔、それ以外に対しては敵対、もしくはゴミを見るような顔をする

 

だが、今のエムエムは見たこともない顔

 

ニャウはエムエムの見る方向を見る

 

ニャウとエムエムがその先に見るのは

 

「黄金の……鎧……」

 

雪が降る白い景色に金色の光を放つ鎧が一歩一歩、こちらに歩いてくる

 

「全員、撤収!!」

 

標的はまだ生きているが、エムエムは撤収を選んだ

 

「何でだよ!」

 

ダイダラはエムエムの指示に対して反論するがエムエムはそんなことを許さず、ダイダラの髪を掴んで逃げ出した

 

リヴァとニャウもそのあとに続き逃げ出した

 

「助かった……の?」

 

「無事……ではなさそうですね。ですが、命があって何より」

 

黄金の鎧を纏った者とは別に目隠しをした人物がスピアに近付き、傷口を触って確認する

 

「傷は……内臓には達してませんね。縫合して近くの村でしばらく養生するしかないようだ。イオリ、この子を頼む。私はチョウリ殿に会う」

 

「あ、あの貴方は?」

 

「私か?私はーーー」

 

 

ーーーエムエムside

 

 

エムエムは黄金の鎧が追ってこないことを確認すると逃げるのを止め、ダイダラを放り投げた

 

「ってぇな!つうか、何で逃げたんだよ!!」

 

「ダイダラ、エムエムの判断は正しい。今、私達の目の前に現れたのは『黄金騎士』だ」

 

「『黄金騎士』!?…………って、誰だ?」

 

「元インペリアルガード筆頭にして『帝都最強』だった人物だ。エスデス様やブドー大将軍以上の強さの持ち主だったが、現皇帝に変わる時に部下を殺して帝都から姿を消したと聞いていたが、まさかこんな所で出会うとは……」

 

「そんな相手だから、標的を殺したところで私達が生き残れる可能性はゼロってことよ」

 

エムエムはチョウリの暗殺は不可能と考え、次の的に狙いを変えた

 

偽物の梟は着実に梟の罪を積み上げていく



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カグラの休日

「親父、いつもの」

 

「あいよ」

 

カグラは久しぶりのオフを帝都の飲み屋で過ごしていた

 

出された酒のボトルの一本目はイッキ飲み、追加で二本目、三本目も同じように頼んで飲む

 

この飲み屋では見馴れた光景ではあるが、始めて見る客はドン引きする光景である

 

「相変わらず、凄い飲みっぷりだな」

 

カグラが三本目のボトルを飲みきるタイミングでレオーネが声をかけてきた

 

「レオーネか……お前がこの飲み屋に来るなんて珍しいな」

 

それを言われたレオーネはハッと気付いたが店の出入口、窓といった外への逃走経路となるところは塞がれていた

 

「さて、貯ってるツケ払って貰おうか?」

 

店長がレオーネに迫る

 

ナイトレイドであるレオーネが店長相手に青ざめている

 

なぜなら、この店長

 

昔、帝都の裏賭博で行われていた闇試合を拳一つで勝ち上がり王者として君臨していたほどの実力者

 

裏賭博の大元が潰れてからは飲み屋の店長ではあるが実力は衰えるどころか、益々磨きがかかっているとの噂があるほど

 

「ヤ、ヤダなー……店長、支払うから来たに決まってるじゃ~ん」

 

本当は別の理由で来たが、レオーネは泣く泣くツケを払うこととなった

 

「で、レオーネ。何か用か?」

 

カグラはレオーネのことを気にせず、四本目の酒を開けていた

 

「なぁ~、カグラ~……私にも酒くれよ~……それなら話すからさ~」

 

「なら、三回回ってワンと言ったあとに裸踊りでも「それでいいなら!」

 

その発言は回りの客も驚いた

 

レオーネの目と言葉はマジであり、三回回ってワンと言うと服を脱ごうとする

 

レオーネの酒に対する欲はプライドすら無いに等しかった

 

「やめろ、冗談だから脱ぐな。ほら「サンキュー!カグラ」

 

脱ぐのを止めるとレオーネはグラスに入った酒を一気に飲んだ

 

「ぷはぁ~……やっぱ、酒はいいなぁ~」

 

「それで、用はなんだ?」

 

「実は「入るぞ」

 

凜とした声と共に白い軍服を纏った女性と黒い軍服を纏った女性が飲み屋に入ってきた

 

エスデスとエムエムである

 

「ふむ、小汚ない所ではあるが客はいるな」

 

「まぁ、こういう所が隠れた名店っていいますからね~」

 

「……注文は?」

 

エスデスとエムエムの突然の来店に客には緊張感が生まれているが店長はそんなことには関係なく注文を聞いた

 

「私に物怖じしないとは中々の男だな。そうだな……名物でも貰おうか」

 

店長は注文を聞くと調理場に戻る

 

(店長すげぇ!)

 

(まぁ、命のやり合いではないからこの程度は平気なんだろ)

 

「おい、警備隊隊長。女を連れて昼から酒とはいいご身分ですね」

 

エムエムがカグラ達の前に現れた

 

「お前達の仕事がなっていないせいでエスデス様自らが特殊警察を組織し、指揮を執らねばならなくなった事態……どうしてくれる?」

 

エムエムはカグラを威圧し、その手をカグラの顔に近付けようとするが

 

「エムエム、名物が来たぞ」

 

「はい、ただいま戻ります~」

 

料理が来たおかげでその手は引っ込められた

 

「本日のランチ、ホーク豚のしょうが焼きだ」

 

「うわ~……まさに庶民向けのものですね」

 

「だが、名物には変わりない。いただこう」

 

エスデスとエムエムが食事を始めるとレオーネはこそこそとカグラと話し始めた

 

「カグラ、あの二人はマジでヤバイんだよ」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

「エスデスは禍々しい殺気を出すし、エムエムは本能で察した……アイツだけは絶対勝てないって」

 

「エムエムは元インペリアルガードだ。確実に殺すなら俺とアカメ、ブラート、マイン、カムイがいないと無理だ」

 

カグラは「シェーレがいたらもっと楽だったんだが」と付け加えると酒を飲んだ

 

「店主!」

 

エスデスの声に店内は更なる緊張感に包まれた

 

呼ばれた店長はそんな事は気にせず、エスデス達の席に向かう

 

「なんでしょう?」

 

「実に美味い料理だ。部下にも食べさせてやりたいのだが、持ち帰りは可能だろうか?」

 

店長は「出来る」と答えると持ち帰りの注文をとると、また厨房へ戻った

 

店長は手際よく調理を終え、持ち帰りの品をエムエムに渡した

 

「また機会があればくる」

 

そう言ってエスデス達は店から出ていき、店の客は緊張感から解き放たれた

 

それと時を同じくして、竜船では激戦が始まっていた



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金色の参上

お気に入りにいれてくださっている方ありがとうごさいます

これからも頑張っていきます


ーーー竜船

 

それは大運河を出発点に停泊する巨体豪華客船であり、タツミとブラートはその完成セレモニーに参加している良識派の政治家の護衛で乗っているが、その政治家は自分で雇っている護衛がいるため、暗殺は不可能かと思っていた

 

しかし、竜船が陸から離れてしばらくすると笛の音が流れ、パーティーの参加者は次々と倒れ始めた

 

タツミは辛うじて意識を保ち倒れまいとする

 

体から徐々に力を抜かれて行く様な感覚に襲われながら耳を塞ぐが、それでも笛の音は聞こえてくる

 

帝具『軍楽無想 スクリーム』

 

聞いた者の感情を自在に操作する笛の帝具、戦場の士気昂揚用として知られているが、実の所操れる感情は何十種類にも及ぶ

 

しかし、難点があり何度も聞くと耐性が出来てしまう

 

「あ~……隠れてんのダルかったぜ。お!?この状況でまだ頑張っている奴がいるじゃねぇか」

 

タツミの後ろから大柄で背中に斧を背負った男、ダイダラが現れた

 

「催眠で倒れてりゃ記憶は曖昧、生かしておいてやったものを…」

 

「その言い方、てめぇが偽物のナイトレイドか」

 

「そっちは本物さんかい!こりゃいいな…ほらよ!」

 

ダイダラは倒れている黒服の男から剣を拾い上げタツミに投げ渡す

 

「何のつもりだ?」

 

「俺はさ、戦って経験値が欲しいんだよ。最強になる為に……だから、かかって来いよ。この位置なら人も倒れないしやりやすいだろ?」

 

ダイダラは背中からベルヴァーグを手に取り構え、タツミも鞘から剣を抜く

 

「いい経験させてやる。地獄巡りをな!!」

 

タツミがダイダラに向かって走り出すがタツミを遮るように白いコートを着た少年が前に現れた

 

「やめておけ、君とあいつじゃ力量が違う」

 

「何だよ!急に出てきて」

 

「あいつに用事があるからね。まさか、こんなところで会うとは思っていなかったけど」

 

白いコートを着た少年はタツミを背にするとダイダラと相対した

 

「お前は誰だ?どこかで会ったことあったか?」

 

「チョウリさんとスピアさんを覚えているかい?」

 

少年は質問するが、ダイダラは覚えていなかった

 

「経験値になったやつらのことをいちいち覚えてねぇよ!」

 

ダイダラはベルヴァーグを二つに分け、白いコートを着た少年に目掛けて投げつけた

 

白いコートを着た少年は剣で少し軌道を変えて、ベルヴァーグをいなしたが、ベルヴァーグは回転力を失うことなく白いコートを着た少年へ軌道を変えた

 

帝具『二挺大斧 ベルヴァーグ』

 

一挺でも凄まじい攻撃力を持つ斧の帝具であるが二挺の斧に分離させ投擲することで勢いの続く限り敵を追跡する

 

そんなベルヴァーグを白いコートを着た少年は剣で叩き落として勢いを殺した

 

「やるなぁ……お前。名前を聞かせろよ」

 

「イオリだ。そして、インペリアルガード筆頭ムサシの息子にして、『天魔伏滅 アマテラス』を受け継ぐ者だ!!」

 

イオリは剣を地面に突き刺し帝具の名を叫ぶと、黄金の鎧が装着される

 

「思い出したぜ……お前、あの時の鎧野郎か!エムエムに邪魔されたが、今回は殺らせてもらうぜ!!」

 

ダイダラはイオリに向かって走り出す

 

体格に似合わない俊敏さであり、まるで大砲の如く突進

 

そして、イオリを仕留めるようにニャウ、リヴァも現れた

 

三方向からの攻撃にタツミは声をあげるが、イオリはダイダラを剣でベルヴァーグごと、ニャウを鞘、リヴァを蹴り、吹き飛ばした

 

「おいおい、俺の出番は無しかよ」

 

「兄貴」

 

「タツミも無事だったか。にしてもあいつはスゲェな。あれがお前に言った周囲に気を配るってやつだ」

 

アマテラスを受け継いだイオリ

 

その実力は父ムサシを超えている



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船上のレクイエム

「スゲェ……」

 

タツミはイオリをそうとしか言い表せ無かった

 

「いや、まだだ」

 

イオリがそう言うと三獣士が起き上がってきた

 

多少、ダメージを受けているが戦闘には支障はないようである

 

「……リヴァ将軍!?」

 

ブラートは三獣士の一人に覚えのある顔があった

 

「ブラートか……」

 

リヴァも同様にブラートに覚えがあるようだ

 

「もう、私は将軍ではない……エスデス様に救われてからはあの方の僕だ」

 

リヴァとブラートは共に数々の戦場を戦い抜いた戦友にして将軍と部下

 

誰よりもその強さ、勇猛さを共に知る仲

 

「味方なら再会を祝して酒でも酌み交わしたかったが……敵としてなら、あんたを斬って任務を完遂させてもらう」

 

「それはこちらの台詞だ。主より授かったこの帝具でな」

 

リヴァが手袋を外すと指には指輪の帝具『ブラックマリン』がはめられていた

 

水棲危険種が水を操作する為の器官を素材としており、装着者は触れたことのある液体なら自在に操れるようになる帝具である

 

「お前達と戦う場所がここであることが幸運だ」

 

リヴァの言う通り、竜船には水の入った樽が大量にあり、そして大運河という大きなアドバンテージがある

 

ブラートは「氷使いの部下らしい帝具だ」と挑発する

 

だが、それはリヴァの逆鱗に触れる発言であった

 

「無から氷を生成出来るエスデス様と同格にするなど恐れ多いわ!!」

 

ブラックマリンで操作された水はブラート達に襲いかかる

 

「インクルシオォォォォォォ!!」

 

ブラートはインクルシオを纏うと水を弾き飛ばした

 

「俺もいるのを忘れるなよ!!」

 

ダイダラも起き上がり、ブラートに向かってベルヴァーグを振るうがイオリに止められた

 

「あんたの相手は俺だ」

 

「俺も手伝うぜ!」

 

「いや、君はもう一人を頼む」

 

イオリはニャウの方を見るとスクリームを吹こうとしていた

 

「俺ならともかく、他の人にはあれは厄介だ」

 

「分かった!」

 

タツミにニャウを任せたイオリはダイダラと対峙する

 

「リヴァから聞いたぜ。お前の親父は帝国最強だったらしいが部下を殺したらしいじゃねぇか。しかも、現皇帝の姉を拐ったとかも言っていたな。そうなると、最低の野郎だな」

 

イオリはダイダラの話を黙って聞いているが、頭にきていた

 

イオリはムサシを尊敬していることもあるが、ダイダラの言っていることは全て間違っているからである

 

現皇帝の姉は拐ったのではなく、オネストの手の者に殺される前に助け出し、ムサシが殺したと言われている部下は生きており、その部下こそがインペリアルガードの裏切り者であり、ムサシの両目の光を失わせた人物である

 

「ーーー構えろ。親父を侮辱した罪は重いぞ」

 

イオリの言葉は怒気を孕んでおり、ダイダラは挑発に乗ったと思った

 

ダイダラはイオリをアマテラスごと真っ二つにする気でいたが、イオリの姿を見失った

 

インクルシオのように姿を消す能力はアマテラスにはない

 

「ーーー振り向くな」

 

ダイダラは背後から聞こえてきた声に反応し、振り返った瞬間、視界が下へ転がり落ち、ダイダラは首のない自分の体を見ることとなった

 

声帯から斬られたため、ダイダラは一言も発することなる息絶え、体も血を吹き出し倒れた

 

丁度、タツミとブラートの戦いも終わりを迎えており、二人ともボロボロではあるが、三獣士に勝利していた

 

「よう、お互いに生き残れたようだな」

 

ブラートはタツミに担がれながらではあるが笑顔でイオリを出迎える

 

しかし、その笑顔は一瞬にして消えた

 

突然だった

 

人の心の隙間を上手くすり抜けたとしか言い様がなかった

 

ブラートの心臓がある位置にナイフが突き立てられた

 

そして、それは意外な人物の登場によって行われた

 

「どうも、帝都諜報部のハバキと申します。お疲れのところ申し訳ありませんが、貴方達には死んでもらいます」

 

帝都諜報部 ハバキ

 

元インペリアルガードであり、裏切り者の男である



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私の戦闘力は53万ですよ(嘘)

「さてさて『百人斬りのブラート』は戦闘不能。あとは貴方達二人」

 

ハバキはナイフを取りだして獲物であるタツミとイオリを品定めするように見る

 

「テメェ!」

 

タツミはブラートの仇を取ろうと剣を抜き、ハバキに斬りかかった

 

だが、タツミの剣はハバキを捉えることは出来ず、逆に蹴りを顎に食らった

 

「青いですねぇ。そういう奴が真っ先に死ぬんですよ。まぁ、そうでなくても死んでもらうんですけどね」

 

「お前がな!」

 

イオリはハバキの死角から斬りかかったが、ハバキはナイフでいとも簡単にイオリの斬撃を受けきった

 

「さすがムサシの息子。いい太刀筋ですが経験が足りませんね」

 

「まだだ!」

 

イオリは剣を振る

 

だが、ハバキは全てを受けきりイオリに手傷を負わせる

 

「致命傷だけは避けているようですね」

 

「くそ……『アマテラス』!!」

 

イオリはアマテラスを纏い、再度ハバキに攻撃を仕掛ける

 

ナイフはアマテラスによって防がれるため、ハバキが不利な状況になる

 

「やはり、鎧型の帝具は厄介ですね……仕方ありません」

 

ハバキはイオリとの間合いを潰すとアマテラスに向けて拳を放った

 

イオリはアマテラスを纏っているため平気だと思い、そのままハバキに剣を振り下ろすが拳がアマテラスに当たった瞬間、強い衝撃がイオリを襲った

 

ハバキが拳を振り抜くとイオリは竜船の壁に吹き飛ばされ、アマテラスは解除された

 

「くそ……アマテラスが解除されるなんて……」

 

「元インペリアルガードのジンから教わった川神流『無双正拳突き』という技です。まぁ、本人に比べたら威力は多少弱いですが使い物にはなりますがね」

 

ハバキはタツミとイオリの息の根を止めようとナイフを取り出すが、黒装束に身を包んだ男によって阻まれた

 

「誰ですか、貴方は?」

 

「ドーモ、ハジメマシテ。オールベルグの『影』です」

 

「オールベルグ……まだ、壊滅していなかったんですか」

 

「私達を甘く見るな。そして、ナイトレイドもな」

 

影はハバキの視界から一瞬にして消えた

 

だが、ハバキも元インペリアルガード

 

影の攻撃の気配を察知し、回避しようとする

 

だが、察知したところで回避出来なければ意味がない

 

「川神流『無双正拳突き』」

 

影が放ったのはハバキと同じ無双正拳突き

 

だが、ハバキの無双正拳突きとは速さ、威力共にケタが違う

 

「テメェ……まさか!?」

 

「残念だが、私は貴様が思っているような者ではない!」

 

影は無双正拳突きを振り抜き、ハバキを大運河へぶっと飛ばした

 

「うっ……」

 

タツミが目を覚ますと全てが終わっていた

 

立っているのは影のみ

 

イオリは意識はあるがボロボロになって壁にもたれ掛かるように座っていた

 

「あんた、一体……」

 

「ドーモ、ハジメマシテ。オールベルグの『影』です」

 

「は、初めまして。タツミです……って、どうして挨拶!?」

 

「マスタージンから挨拶は大事なものだと教わったからだ。それより、ここから去るぞ」

 

「でも……」

 

タツミはブラートを見る

 

ナイトレイドに入ってからずっと世話になり、自分を鍛え、三獣士との死闘を潜り抜いた仲

 

短いながらも強い絆で結ばれた二人であるからこそ、タツミはブラートを忘れることが出来なかった

 

「何を思っているか分からぬが、ブラートならまだ息がある」

 

「ほ、本当か!?」

 

「だからこそ急ぐのだ。帝具とナイトレイドの回収が私がボスから受けた任務だ」

 

影は三獣士の帝具を回収するとブラートを背負い、タツミとイオリを担いだ

 

「何故、俺まで?」

 

イオリは影に問いかけるが影は答えなかった

 

「喋ると舌を噛むぞ」

 

影は竜船から飛び降り、大運河を沈むことなく駆け抜けた

 

そして、そのままスラム街のとある医者の元へ

 

その医者の名はジン

 

元インペリアルガードである



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受け継がれる魂

「終わったぞ」

 

ブラートの手術を終えたジンはタツミ達にブラートが一命をとりとめたことを伝え、ブラートが戦場に立つことは不可能と宣告した

 

日常生活には問題はないのだが心臓のダメージが大きく、一度戦えば命の保障はないという

 

「なんでだよ!あんた医者なんだろ!!兄貴を……兄貴を戦えるようにしろよ!!」

 

タツミはジンに怒りをぶつけると鉄拳が飛び、タツミは文字通り外に殴り飛ばされた

 

「おい、小僧。よく聞け!俺は医者だが神じゃねぇんだ。あの男は死んでもおかしくはない致命傷を負って一命をとりとめたのは奇跡なんだ。生きているだけでもありがたいと思え……死んだら二度と会うことは出来ねぇんだからよ」

 

「医者が怪我人を作るのもどうかと思うが?」

 

「……ふん、怪我人にすらならない化物は来てほしくはないんだがな。カグラ」

 

酒瓶を片手にカグラがやって来た

 

「ドーモ、ボス」

 

「よう『影』任務ご苦労さん」

 

「え、ボス?」

 

タツミはキョロキョロとしてナジェンダを探してみたがその姿は無く、カグラを見直した

 

「ま、まさか……カグラさんがボスって……」

 

「あぁ、タツミは知らなかったな。俺がオールベルグのボスってことを」

 

「カグラさんって、ナイトレイドのメンバーじゃ……」

 

「ないね。まぁ、単独行動が多いからそう思われても仕方ないか」

 

カグラはカラカラと笑い飛ばした

 

それを横目にタツミはガックリとしていた

 

「カグラ!?貴方が!!」

 

診療所から驚いた顔をしてイオリが出てきた

 

「お会いできて光栄です。『黒騎士』カグラ」

 

「その名はやめてくれ。俺、一応は死んだことになってんだから……って、お前さん誰よ?」

 

「申し訳ありません。俺はムサシの息子のイオリと申します」

 

「マジかよ……息子がいたのは知っていたが……いや、よく見ればあいつの面影があるな」

 

カグラはイオリをまじまじと見て感心する

 

チェルシーからの情報もあったがイオリは既に強者の雰囲気を纏っていた

 

「まぁ、傷をつけられているってことは実戦経験の少なさってことか」

 

「カグラ、その腹部の痣と切り傷をつけた人物はあの『ハバキ』だ」

 

カグラはハバキの名を聞くと酒瓶を握り潰した

 

「おい、それは本当か?」

 

「『影』が相手したからいいが、あいつのことだ」

 

ジンは地面に手を突き刺し、何かを引っ張りあげた

 

「やっぱり、つけていたか」

 

ジンの手には刺客が握られており、ジンはそのまま首の骨を追った

 

「この気配だと、あの6人いるな」

 

「今のを除いて俺、ジン、影、イオリ、タツミで十分だな」

 

「え?俺、武器ないんですけど……」

 

「診療所に何かしらあるからとってこい」

 

ジンにそう言われるとタツミは診療所へ戻った

 

「えっと、これって……」

 

タツミが目についたのはブラートの帝具であるインクルシオの鍵である剣

 

タツミはそれに手を伸ばすとブラートが眠っている部屋から物音が聞こえてきた

 

タツミはそのまま部屋へと走り出し扉を開けた

 

「兄貴!」

 

部屋には刺客とブラートがいた

 

いつものブラートならこの程度の刺客なら難なく倒せるが、今の状態では体を動かすのがやっとの状態

 

タツミは叫んだ

 

それは無意識だったのか

 

それとも必然だったのか

 

タツミは帝具の名を叫んだ

 

「インクルシオォォォォォォォ!!」

 

並みの帝具よりま負担が大きく即死する位の帝具であるがインクルシオに主と認められた場合、使い手に合わせた形に変え、進化していく帝具

 

「兄貴から、離れろぉぉぉぉぉぉ!!」

 

タツミの拳は刺客の胸を的確に捉え、診療所から殴り飛ばした

 

「はぁ、はぁ……」

 

タツミはインクルシオを解除するとブラートの元へ向かった

 

「兄貴!無事か!?」

 

「あぁ……お前の熱い愛の叫びでな……愛の」

 

「2度言わないでいいよ……」

 

頬を赤く染めるブラートに対して若干引くタツミであった

 

「それより、兄貴。これを」

 

「いや、タツミ。それはお前が使え」

 

タツミはブラートにインクルシオを返そうとするがブラートは受け取ろうとはしなかった

 

「俺の体は俺が分かっている。もう、俺は戦うことが出来ないってことを……タツミ、俺が戦えない分をお前に託す。忘れんなよ、一緒に戦えなくてもそれには俺の魂も入ってるってことを」

 

「兄貴……」

 

タツミのはブラートからインクルシオを受け継いだ

 

熱い魂と共に



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いつか、超える、あの背中を

かなり放置でごめんなさい

これからも頑張りますんでよろしくデス


竜船の死闘から数日が経った

 

ナイトレイド本部にある温泉にマインの姿が浸かっていた

 

ヘカトンケイルのコロに折られた右手を動かし手の平を開け閉めし、現状の回復具合を確かめ十分に手が動くと分かると温泉からあがった

 

シェーレは殺され、ブラートは生きているものの戦うことが出来ない体になってしまった

 

そんなピンチを切り抜ける

 

マインの思いは静かながらも熱く燃えていた

 

温泉を出て急いで何時もの服に着替えてある場所へ向かう

 

「誰か!アタシと訓練しなさい!」

 

勢い良く扉を開け大声でそう叫ぶが、目の前に広がる光景に顔を引きつらせる

 

ラバックとタツミがレオーネとアカメを背中に乗せながら腕立て伏せをしており、カムイは重りを足に乗せて片手逆立ち腕立て伏せをしているからである

 

「……えっと、何してんの?」

 

「鍛練以外何に見える?」

 

カムイは足の重りを器用に蹴りあげ、片手逆立ち腕立て伏せを止めた

 

「二人共、いきなり私に鍛練をつけてくれと言ったのでな、暇そうな二人にも手伝ってもらっている」

 

「まぁ、我輩から言わせればまだまだひよっこどころか卵程度だがな」

 

マインは冷めた目で「あぁ、そう」としか言えなかった

 

「でも、こうでもしないと兄貴みたいにインクルシオを長時間装着することも出来ねぇし、透明化だって一瞬で終わっちまう……インクルシオを受け継いだのに使いこなせないと意味がねぇ!!」

 

タツミのその姿に心の中でタツミに対しての評価を上げるマイン

 

まだ完全に認めたくないのかタツミから顔を逸らしラバックに話かける

 

ラバックはあまり、鍛練をする方ではないため珍しいといえば珍しいのだが、レオーネの尻の感触を密かに楽しんでいるのは内緒の話

 

「腕立て回数はタツミの半分以下でカムイの十分の一だからな」

 

レオーネの冷やかしに舌打ちするラバック、そこにアカメが冷静に言葉を発する

 

「それは仕方ない。私とレオーネでは体重に大きな差がある」

 

ピシッと何かが壊れる音と共に、この場の空気がアカメの爆弾発言に固まった

 

ラバックは青ざめ、タツミは冷や汗を流し、カムイとツチナガは呆れ、マインは開いた口が塞がらずにいた

 

次の瞬間、レオーネの怒り鉄拳がアカメの頭に直撃した

 

アカメは何故叩かれたかわからず涙目になりながらキョロキョロと見回すとナジェンダとブラートが大荷物を持って現れた

 

カムイはナジェンダに「もう出るのか?」と聞くと「あぁ」と答えた

 

ナジェンダはこれからブラートと共に革命軍本で三獣士から奪取した帝具を届けると共に欠けたメンバーの補充をしてくるのである

 

「みんな留守を頼むぞ。アカメ、カムイ。作戦は『みんながんばれ』だ。もしもの時は『いのちをだいじに』だ」

 

「だいたい分かった」

 

「どうでもいい」

 

「えー!?」

 

タツミは荷物の確認をしているブラートに近付いた

 

「兄貴…ゴメン、俺が弱かったばっかりに…」

 

「それはもう気にすんな。今、弱くてもお前は必ず強くなる。それも俺を超える男になるかもしれねぇくらいにな。だから、これからを後悔しないように強くなっていけ」

 

悲しげな顔をする弟分の頭を撫でるとブラートは荷物を背負った

 

(タツミ、強くなれよ)

 

タツミは目に涙を浮かべながらも兄貴分を見送った

 

いつかあの背中に追いつき、追い越せるようにとその姿を目に焼き付けた



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ドSの要求

ブラートとナジェンダが革命軍本部へ旅立ってから数日が経った頃、帝都警備隊隊長のカグラは窮地に立たされていた

 

エスデスが特殊警察イェーガーズを結成したため、警備隊隊長のカグラに挨拶にやってきた

 

というのは建前

 

本当はエスデスのとある目的のためにカグラに会いに来ていた

 

「それで、警備隊の中に『コレ』に該当する者はいるか?」

 

エスデスはカグラに何かが書かれた一枚紙を渡し、鷹のような瞳でカグラを睨みつける

 

カグラはそれを見ると「こんな奴うちにいるかー!!」と心の中で叫んだ

 

エスデスがカグラに渡した一枚紙にはエスデスが『恋人』としての好みを書き連ねられていた

 

1.何よりも将来の可能性を重視します。将軍級の器を自分で鍛えたい

 

2.肝が据わっており、現状でも共に危険種の狩りが出来る者

 

3.自分と同じく、帝都ではなく辺境で育った者

 

4.私が支配するので年下をのぞみます

 

5.無垢な笑顔が出来る者がいいです

 

一番目で殆どの人間がアウト

 

寧ろ、他の条件がクリア出来たとしても将軍級の器というのが難点なのである

 

「エスデス将軍……いくら何でも無理がある」

 

「そうなのか?今の警備隊なら出身、人種、階級関係なく実力のある者を登用すると聞いていたのだが」

 

「確かに、前警備隊隊長のオーガが亡くなってから登用方法を変えたが将軍級の器となるとな……」

 

カグラはキセルに火を着けようとしたが、エスデスによって凍らされた

 

「タバコくらい吸わせてくれないのか?」

 

「次に私の前で吸ってみろ。氷漬けにして粉々に砕くぞ」

 

カグラは『氷漬け』という言葉にゾクッとするとキセルを置き、棒付きキャンディーをくわえた

 

「中々いないものだな……」

 

(普通はいねぇよ!普通はな!!)

 

カグラはこの条件に当てはまる人物に心当たりがあるにはあるのだが、絶対に紹介をするわけにはいかない

 

タツミ

 

この条件にピッタリと当てはまるのであるが、タツミはナイトレイド

 

エスデスは大臣側の将軍

 

敵対する関係の二人は決して交わることはない

 

それは過去のカグラがそうであったように

 

ついでだが、イオリは絶対ありえない

 

最後の条件である『無垢な笑顔』

 

いつも仏頂面のため、カグラが「少し柔らかい表情とか出来ねぇのか?」と言ってイオリにやらせてみたものの全く変化がなかった

 

「で、だ……聞いているのか?」

 

「あ?あぁ……スマン。聞いてなかった」

 

その瞬間、カグラの瞳に刺さるか刺さらないかのギリギリに氷の刃が迫っていた

 

「私の話はちゃんと聞け。私は将軍でお前は警備隊隊長。私が上でお前が下だ」

 

「りょ、了解」

 

エスデスは氷の刃を消すと話し始めた

 

エスデスは以前、帝都に回収されたエクスタスの適格者を探しつつ余興をするという

 

「エスデス将軍主催の都民武芸試合ですか」

 

「あぁ、いい余興になるだろう?」

 

「まともな人材がいればの話でしょうけど」

 

「では、当日は警備の人材派遣を頼むぞ」

 

そう言うと、エスデスは隊長室から出ていった

 

そして、カグラは自分等の椅子に座ると酒を煽った

 

「あ~……敬語ダルかった……」

 

この後、チェルシーがやって来るが、隊長室に置いてあった棒付きキャンディーをカグラが勝手に食べていたため滅茶苦茶怒られ、バッグをたかられた




その後

「ちっ、チェルシーのやつ。キャンディー一つの対価がデカすぎるぞ」

この夜、色町に行って喧嘩の仲裁という名目のストレス発散をしていた

「ムシャクシャしていたのでやった。仕事も兼任してやったことなので後悔はしていない」

「それって職権乱用じゃない……」


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ドMにライバル登場!?

あ、どうも

 

私はエスデス様の下僕エムエムと申します

 

昨日はエスデス様が自ら指揮する特殊警察『イェーガーズ』が結成されました

 

ちなみに私は副隊長です

 

以下、新しくエスデス様の部下になるメンバーは

 

海軍出身の魚くさい田舎者のウェイブ

 

ナイトレイドのアカメの妹にして暗殺部隊出身のクロメ

 

焼却部隊の良心であるボルス

 

あの糞警備隊長の部下とは思えない正義キチのセリュー

 

絶対近寄りたくないオカマ……ドクターストロングでしたっけ?

 

一瞬、私の敵になると思うほどの美しさを持つラン

 

そして、諜報部隊出身のハバキが配属される予定だっのですが長期の任務中のため後日、合流するようです

 

いっそのこと、その任務で逝ってくれればエスデス様を取り巻く人数が減るので私は嬉しいのですけどね

 

まぁ、それはそれとして本日はエスデス様主催の武芸試合が開催されています

 

試合はエスデス様があくびを出すほどつまらない試合ばかり

 

鋏型の帝具『エクスタス』を使える人物を探すという名目で開催しましたが、これはハズレとしか言い様がないですね

 

ですけど、こんなつまらない試合のために警備に駆り出されている警備隊ザマァ

 

特に警備隊長はエスデス様の目が届くところにいるのでサボることが出来ないのでいい気味です

 

あぁ、このままつまらない試合ばかりで終わったら、エスデス様のフラストレーションが貯まって、私を……

 

『勝者!呉服屋ノブナガ』

 

ウェイブのアナウンスで私の楽しい妄想が止められてしまいました……ウェイブ、あとでオボエテイロ……

 

最後の試合は肉屋と鍛冶屋ですか、肉屋は体つきや動きから見て過去に何かしらの武術を学んでいたようですね

 

対する鍛冶屋はまだ少年か

 

これは勝負の結果は見るまでもないですね

 

ウェイブが『はじめ』と言った時に少年は八つ裂きになっているんでしょうね

 

おぉ、少年よ。逝ってしまうのは仕方ない

 

程よくボコボコにされたらウェイブと、そこの馬鹿警備隊長が止めに入ってくれますから見事に玉砕されてきなさい

 

いや、ここは私が助けに入ってエスデス様の怒りを買ってお仕置きされるのもーーー

 

『勝者!タツミ!!』

 

ーーーって、えぇ!?

 

いやいやいや、あの少年何者!?

 

肉屋の攻撃をかわすは受け流すは、被弾ゼロの完勝

 

最後のアレなんて肉屋の大振りの攻撃を足払いで体勢を崩して顔面に蹴りって……

 

「…………あの少年逸材ですね。隊長、副隊長」

 

ランの言う通り、あの少年は逸材ですよ

 

あ、あの無垢な笑顔は気に入りました

 

年相応の笑顔はいいものです

 

「エスデス様、あの少年はスカウト決定ですね」

 

いつもなら「あぁ」とか「拐ってこい」とか言うのですが、一向に返事が返ってこないのでエスデス様を見てみると

 

「エ、エスデス様!?」

 

なんか、私や死んだ三獣士にも見せたこと無い顔をしているんですけど!?

 

むしろ、恋する乙女

 

雌の顔ですよ!雌の顔!!

 

え?ということは……

 

「エ、エスデス様!?」

 

なんか、エスデス様が少年の方に向かって言ったんですけど!?

 

これって……これって……!?

 

いやいや、エスデス様に限ってあの少年に……いや、なんか胸元から取り出そうとしてますよ

 

「……え?え?え?」

 

カチャリと少年に首輪を付けちゃいました……

 

少年どころか観客まで唖然としちゃってますけど……私は気が遠くなってきました

 

「副隊長、大丈夫ですか?」

 

「ラン、気にしてくれるのはありがたいけど今はこの現実を受け入れられないから全然、大丈夫じゃない」

 

「ど、どうしましょうか?」

 

「とにかく、この武芸試合を閉めましょう。エスデス様は私が対応するわ。あと、少年に家族がいるなら事情を説明してきて」

 

「分かりました」

 

もう、何がどうなってるのよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!?




警備隊長の報告

「不審者なし。負傷者なし。武芸試合による負傷者は帝都総合病院の派遣医師によって治療完了。ただし、エスデス将軍により、武芸試合参加者の少年一人が連れ去られた」

「カグラ、この少年って大丈夫なの?」

「あー……救出するといってもリスクが高すぎるし、帝都の外に出たときに逃げ出してもらうしかないな」


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働くドM

エムエムです……

 

エスデス様主催の都民武芸試合はタツミという少年がエスデス様に拉致されるという波乱があったものの無事に終了しました

 

タツミが拉致されたという時点で無事というのもおかしいことですが……

 

「ーーーという訳でイェーガーズの補欠となったタツミだ」

 

全ての処理を終わらせて宮殿内にあるイェーガーズ部屋に戻ったら首輪を着けられ、椅子に拘束されているタツミがいます

 

先に戻りエスデス様から説明を受けていたであろうイェーガーズのメンバーもポカンとしています

 

そりゃ、市民をそのまま拉致してくれば誰だってそうなりますよ……

 

いや、若干訂正します

 

クロメは興味が無いのか一人だけお菓子を食べています

 

「エスデス様、タツミは地方からの成り上がりですけど鍛冶屋のお仕事があるんですから拉致したのはマズ……」

 

私が全てを言う前に氷塊が顔面に直撃します

 

いつもなら、ご褒美ですけど愛を感じないのでちょっと痛いです……

 

「口答えをするな、エムエム。タツミの暮らしに不自由はさせない。それに部隊の補欠にするだけじゃない……タツミは、私の恋の相手になると感じたんだ!!」

 

それはそうですよね

 

でなきゃ、あんな雌の顔になりませんもんね

 

嗚呼、あの冷徹冷酷なエスデス様が懐かしく感じます……

 

「副隊長は忠誠で首輪を着けているのは知っていますけど、なんで首輪させているんですか?」

 

「……愛しくなったから無意識にカチャリと」

 

「ペットじゃなく正式な恋人にしたいなら違いを出す為に外されては?」

 

イェーガーズの常識人二人に諭され、エスデス様はタツミから首輪を外しました

 

外すまでに若干の間があったような気がしますが、気にしないでおきましょう

 

「この中で結婚若しくは恋人がいる者はいるか?」

 

この質問に意味があるとは思えません

 

ランを除いて男女関係を結んでいそうなのが…………いました

 

長身筋骨隆々のマスクマンが静かに手を上げていました

 

ウェイブや正義キチも意外な人が手を上げたことに驚いています

 

しかも結婚六年目で娘までいるとは……

 

人は見た目によらないと言いますが、これは意外すぎます

 

ボルスのノロケ話をそっちのけで、タツミが私に話しかけてきます

 

「あ、あのー、俺を気に入ってくださったのは嬉しいんですが、宮仕えする気は全然無いんですけど」

 

タツミもこういうのなら、私は喜んで辞めてくださって結構と言いたいのですが、残念な事にアナタだけの氷雪の女王(エスデス)様はテコでも動かないので諦めてください

 

とにかく、「強く生きてください」という哀れみの目をしてタツミの肩を叩きます

 

それを察したのか、タツミも諦めたようです

 

「エスデス様!ご命令にあったギョガン湖周辺の調査が終わりました」

 

エスデス様は部下の手から資料を受け取り、にやりと微笑みました

 

「お前達、初の大きな仕事だぞ」

 

その一言で、私含めイェーガーズ全員の纏う空気が変わります

さっきまで和気藹々としていた空気はどこかへ消え、悪人を狩る狩人の目へと変わります

 

ギョガン湖周辺の地図を広げて作戦会議

 

目に見える賊からということで最近出来た悪人達の駆け込み寺であるココを選んだわけですが、情報によると数がいるだけで帝具使いはいないとのこと

 

ボルスが「降伏してきたらどうします?」と聞きますが、エスデス様に聞くのが間違いです

 

『弱肉強食』

 

弱い者は淘汰されるのが世の常

 

それがエスデス様の信条なのですから、殲滅しかありえません

 

正義キチは新しい玩具を与えられた子供のように大喜び

 

そんな正義キチに野郎二人はドン引きしています

 

「さて、出陣する前に聞いておこう。最低でも一人数十人は倒して貰うぞ。これからはこんな仕事ばかりだ。きちんと覚悟は出来ているな?」

 

エスデス様はイェーガーズのメンバーに『覚悟』を問います

 

まぁ、私は覚悟なんてものはとっくの昔に済んでいるのでいいですが、メンバーは各々の覚悟を口にします

 

皆さん、いい覚悟をお持ちですが…………スタイリッシュは覚悟というより信仰みたいにエスデス様を崇め奉ります

 

エスデス様に対してそういう心は大いに結構ですが、私にとってはそういう人物は邪魔なんですよね…………イツカコロス

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

さて、ギョガン湖に着きました

 

エスデス様はというとメンバーの実力を見たいということでタツミと一緒に見学です

 

えぇ、建前なのは分かっています

 

ここに着くまでのエスデス様の笑顔が冷徹ドS顔では無く、女の顔をしているんですもの…あんな幸せそうにしているエスデスを見るのは初めてです

 

まぁ、そんなこんなしていると他のメンバーは正面突破で攻めまくりです

 

まぁ、たかだか山賊ごときが帝具使いに勝てるわけがないですし、私が出る幕もーーー

 

「このクソがぁぁぁぁぁ!!」

 

あーあ、愚かにも私を狙う馬鹿がいましたよ

 

三下のセリフを吐いて向かってきますが、そういう奴に限って早々死ぬんですよね

 

それなら私も帝具を使いますか

 

「拷問執行ーーーエリザベート」

 

私がそういって取り出したのは1冊の本

 

これが『拷問執行 エリザベート』

 

本を開くとどこからともなく、アイアンメイデンが現れ山賊を飲み込んだ

 

山賊は悲鳴をあげる間もなく、アイアンメイデンの中にある無数の釘に串刺しにされて絶命した

 

次に現れたのは無数の巨大な車輪

 

逃げ惑う山賊達は無残にもその車輪に引き殺される

 

もちろん、イェーガーズには当たらないように配慮しています

 

それでも馬鹿みたいに私に立ち向かってくる相手には直々に首斬り包丁でまるで骨なんてものが無いようにスルリと斬り捨てる

 

「ば、化物だ!!」

 

山賊の一人がそう言うと私に向かってきた山賊達は逃げたした

 

「ウィッカーマン」

 

逃げる山賊達は私が出したウィッカーマンに捕らわれる

 

私の楽しみはこれからだ

 

ウィッカーマンが燃え始める

 

生きたまま燃やされるのを恐れ、山賊達は逃げ出そうとするがウィッカーマンからは出られない

 

次第に炎が山賊達を燃やし始めた

 

私しか聞けない悲鳴

 

私に向けての怒号

 

私だけへの罵詈雑言

 

嗚呼……イイ、最ッ高!!




エムエムの帝具紹介

拷問執行 エリザベート

本型の帝具であり、拷問執行という名の通り拷問器具を扱える帝具

ギロチン、車輪、首斬り包丁、ウィッカーマン、アイアンメイデン、鞭etc.

耐久力は帝具なので普通の拷問器具よりある程度だが、修復は可能

損傷によって修復の日数が変わり、ウィッカーマンのように燃やしきるような物は次に使えるまで1ヶ月かかる

元ネタは血の伯爵夫人エリザベート・バートリー


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ドMと殺し屋

「さて、どうしたものかな?」

 

カムイは思案していた

 

新設されたイェーガーズの戦力を測ろうと監視をしているとエスデスと共にいるタツミを発見した

 

エスデスを除くイェーガーズは出撃しているため、タツミを救出することは可能だが、カムイが救出してしまえばタツミがナイトレイドだとのがバレてしまう

 

かと、いってここで見逃せばチャンスはない

 

斬撃を飛ばすという手もあるがエスデスとの戦闘は避けることは出来ない

 

かといって時間をかけすぎればイェーガーズ八人対カムイ一人という構図が完成してしまう

 

「あら?懐かしい匂いがすると思ったらカムイじゃない」

 

「やはり、来たか。エムエム」

 

突如として現れたエムエムを予想していたのかカムイは動じることは無く、地獄蝶々に手をかけ、いつでも斬れる態勢を取っていた

 

「ちょっとちょっと!私は殺り合う気はないわよ」

 

「……信じられんな」

 

「タツミくんを助けたいんでしょ?協力するって言ってるの!!」

 

「どういうつもりだ?」

 

カムイはエムエムの発言により一層警戒を強める

 

「あ、やっぱりタツミはナイトレイドだったんだ」

 

エムエムは疑いに核心を持てたことに笑顔を浮かべたがその首には地獄蝶々が迫っていた

 

「そういったところも変わってないわね」

 

エムエムは鉄をも斬るカムイの一太刀を首で受け止め、何事も無かったようにカムイを払いのけた

 

「くっ……」

 

「まぁ、帝具を使わなくても痣が出来るくらいには成長したようね」

 

痣が出来た場所をエムエムは擦るがエムエムが手を避けると痣は消えていた

 

「まぁ、これで少しは話を聞く気にはなったでしょ?時間かけすぎると他のメンバーが私を探しに来るから手短に言うわよ。明日、フェイクマウンテンに来なさい。そうすればタツミをどこかに放り投げるから、勝手に持っていきなさい。それじゃあね」

 

エムエムはそれだけ言うとカムイの前から消えていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

あの、弱かったカムイがあそこまで成長しているとはね

 

次に会った時には傷くらいはつけられるかしら?

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー翌朝

 

エムエムは危険種狩りのためエスデスを起こしにやってきたが返事がないので部屋に入るとエスデスに抱き締められているタツミを見つけてしまった

 

「よし、殺そう」

 

タツミをナイトレイドに渡すことを忘れ、エスデスに抱き締められているタツミを殺そうとしたがエムエムの殺気によりエスデスが目覚め、エムエムは氷漬けにされてしまった

 

タツミも目が覚めて一番にエムエムの氷漬けが目に入り驚いたが、エスデスは「いつものことだから気にするな。数分の内に復活する」と言うとエムエムはそのまま放置された

 

そして、エスデスの言ったとおり数分後にエムエムはなにくわぬ顔で会議室にやってきた

 

エムエム曰く「いつものこと」なので別に平気とのことだ

 

「さて、エムエムが揃ったところでフェクマに狩りに出かけるぞ。エムエム、夕方まで私はクロメと東側を狩るからお前はタツミとウェイブと共に西側を狩れ」

 

「了解で~す。でも、タツミとじゃなくてクロメと一緒になんて珍しいですね」

 

「あぁ、今一つクロメは底が見えないからな。これを機に隊長としてその実力を見極めさせてもらうつもりだ」

 

「私はともかく、ウェイブはもう見極められちゃったことですか」

 

エムエムは笑い、ウェイブはエスデスに自分の力を見極められたことに肩を落としていた。

 

だが、エスデスはウェイブの完成された強さは胸を張るべきものであるという

 

「まぁ、それでも私より弱い二人が一緒なのはちょっと大変ですよ」

 

「心配するな。夜になったらタツミとクロメは交代だ。クロメと一緒ならお前も楽だろう」

 

「え!?ちょ、そういう意味じゃ……」

 

「さぁ、フェクマに行くぞ」

 

エムエムは言い訳をしようとしたが既にエスデスはタツミとの夜のことで頭がいっぱいなのかエムエムの声が届くことはなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーフェイクマウンテン

 

 

フェイクマウンテンに着いたエスデス一行は二手に別れて狩りを始めた

 

(なぁ、タツミ。副隊長どうにか出来ないか?)

 

(いやいや、どうすればいいか分からないって!!)

 

エムエムのテンションは会議室での出来事から駄々下がりとなっていた

 

(副隊長の強さは分かるけど、あんな状態じゃ……)

 

「エスデス様ぁ…………」

 

見るからに落ち込みすぎなエムエムにウェイブやタツミは心配になるばかり

 

「あ、あの、ここで妖しい奴やナイトレイドを捕まえれば」

 

「そうですよ!そうすれば隊長も副隊長に振り向いてくれますって!!」

 

「そうですね!そうと決まれば狩り尽くしましょう!!全てはエスデス様のために!!」

 

((うわ……この人、チョロい))

 

「さぁ、二人とも!ここには擬態している危険種がいる場所ですから観察眼を養うにはもってこいですから存分に暴れて存分に経験してください!!」

 

エムエムは副隊長らしくウェイブとタツミに言うと、二人の頭を鷲掴みした

 

「え?あの副隊長、一体何を!?」

 

「これから死んだ三獣士と同じ事をやってもらうから」

 

「え?え!?」

 

「私は遠くから見守ってるから頑張って自分の命を守りきってね。本当に危なくなったら助けるけど」

 

エムエムは力を込めて振りかぶりーーー

 

「さぁ、経験値稼いでこいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

ウェイブとタツミはエムエムによってフェイクマウンテンのどこかにぶん投げられた

 

「うん。これでタツミはナイトレイドの誰かに拾われるでしょ…………たぶん」

 

エムエムはそんな心配をするが、タツミは無事にアカメによって保護されることになった

 

しかし、それを追うようにスタイリッシュが三人の部下を連れていたことにエムエムは気付くことはなかった




フェイクマウンテン帰宅後


「あの……なんていうか……本当に申し訳ありませんでした。このウェイブ深く反省しております」

「ガボボボバゴ、ガボゴガボゴ(エスデス様、もっともっと)」

ウェイブは石抱き、エムエムは逆さ吊りによる水責めを
受けているがエムエムに関しては悦んでいた

「私がエムエムに全てを任せた責任もあるが、まさか三獣士と同じ事をやるとは思わなかったぞ」

「滅茶苦茶ハードでした……」

エムエムがウェイブを投げた先には危険種の巣があったため、ウェイブがそれを倒しきるのに夕方までかかっていた

「今回、ウェイブに関してはこの程度で済ませるが、エムエムはしばらく拷問室行きだ」

「ボ?バゴバガボボボ!?(え?本当ですか!?)」

「だが、今回は獄悔房に一週間だ」

「ブー!?(えー!?)」

獄悔房は天井が重さ200kgの釣り天井になっており、昼も夜も常に支え続けていなければならないが大抵、この場所に入れられた囚人は圧死している

しかし、エムエムにとっては少し重たい物を持っているだけだが、一週間という期間はエムエムにとってもいやなものであるようだ


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アナタノ恨ミ晴ラシマス

スサノオ「出番カットだそうだ」

すまない、本当にすまない

書いてはみたがイマイチの出来だったのだ

本当にすまない


タツミがイェーガーズから離脱してから1週間

 

ナイトレイドは帝都から姿を消していた

 

それはドクタースタイリッシュによってアジトを見つけられたからであるが、その代償にドクタースタイリッシュは私兵と共に物言わぬ屍となってしまった

 

これがドクタースタイリッシュの単独ではなくイェーガーズならナイトレイドは全滅を免れなかっただろうが、それは『もしも』の話

 

ドクタースタイリッシュが死んだという現実は変わることはない

 

「さて、これで厄介者が一人減ったな……」

 

カグラはナイトレイドのアジトの報告書を読みながらそう呟いた

 

「だが……」

 

次の報告書の内容にカグラは苦虫を潰したような顔をした

 

『人身売買』

 

報告書にはそう書かれていた

 

ナイトレイドがいなくなったのは表向き、帝都の恐怖が無くなったと民は喜ぶであろうが、裏ではナイトレイドによって抑制されていた闇が動き出してしまっていた

 

「これで10件目とは……警備隊じゃ限界があるか」

 

「ドーモ、ボス」

 

オールベルグの『影』は音もなく隊長室に入っていた

 

「人身売買の調査が終わりました。今回はブローカーの集団と貴族が三人。貴族は過去に何人も買っており、その後に買われた者のほとんどは死んでいます」

 

「ご苦労。『蛇』と『双子』の潜入は?」

 

「問題ありません。『蜘蛛』と『牛』も夜に仕掛けるとのことです」

 

「分かった……依頼人はどうなった?」

 

「マスタージンが治療しましたが……」

 

「そうか……そうか……」

 

カグラは目を伏せてそう呟いた

 

「なら、いつも通り依頼人の家族に金を渡してくれ」

 

影は「かしこまりました」と言うと部屋から姿を消した

 

 

 

 

 

ーーーとある屋敷

 

屋敷の主は下卑た笑い声をあげていた

 

屋敷の主は人身売買で得た新しい『おもちゃ』で遊ぼうとしていた

 

地方の者は帝都の闇を知らない

 

だからこそ、人身売買とは知らず使用人として子を売る親もいる

 

親は「きっと元気にやっているだろう」と思っていても、子はその闇に飲まれ命を落とす

 

それが帝都の闇

 

「さてさて、楽しい時間の始まりじゃ」

 

屋敷の主は勢いよく『おもちゃ』のいる部屋を開けた

 

「ーーーなっ!」

 

しかし、そこにいたのは彼が思うような『おもちゃ』ではなく

 

「いらっしゃいませ……主様」

 

今にも自分を食らうような『化物』のような少女であった

 

「ひぃぃぃぃぃぃ!!」

 

屋敷の主は一目散に逃げ出した

 

本能で自分が買った少女に『殺される』と悟った

 

『おもちゃ』で遊ぶ日には屋敷の警備は全員出払っているため助けはこない

 

だからこそ、彼はもしもの時に用意していた抜け道から逃げ出そうとした

 

「あぁ……何で逃げるのですか?主様」

 

いつの間にか少女は屋敷の主の後ろにいた

 

「私が欲しいから買ったのでしょう?なら最後まで楽しみましょう?……主様の命が尽きるまで」

 

少女はオールベルグの『蛇』

 

少女()の『毒』は屋敷の主の息の根を完全に止めた

 

 

 

 

ーーー双子side

 

「あらあら?もう終わりなの?」

 

「そうみたいだね。『姉様』」

 

「それは悲しいことね。『兄様』」

 

『双子』の仕事は終わっていた

 

屋敷にあった全ての命を狩り尽くし、血風呂(ブラッドバス)が出来上がっていた

 

「死体しか愛せないなんてかわいそうな人ね。『兄様』」

 

「でも死体になれたなら幸せなんだろうね。『姉様』」

 

『兄様』『姉様』と言っているが、屋敷にいるのはただ一人

 

オールベルグの『双子』

 

かつて、彼女も人身売買で買われた

 

双子の兄弟がいたが、兄弟は彼女の目の前で殺された

 

それは買った主が最も楽しむやり方で惨く殺された

 

彼女の精神はその時に壊れ、今は主が喜ぶ殺し方を覚えた殺人鬼

 

そして、カグラに拾われた

 

『自分達』と同じ様な子を生み出さないために『双子』は今日も『主』と同じ様な人間を殺す

 

 

 

 

ーーー蜘蛛side

 

「う~ん……こんなものかな?」

 

「貴様!私を誰だと思っているのだ!?」

 

「貴族様……とでもいいたいのかい?」

 

「分かっているなら、どうなるのか分かっているだろ!!」

 

「いやいや、貴族様なら何をしてもいいってわけじゃないんだよ?」

 

貴族の男は声を荒げるが蜘蛛の巣によって動くことが出来ない

 

蜘蛛は蜘蛛で男の怒号を気にせずマイペースに仕事を進めていた

 

「さて、これで最後っと」

 

蜘蛛は糸を引っ張ると血だらけの少女が出てきた

 

「貴様ァァァァァァァァァッ!!よくも娘を!!」

 

貴族の男は蜘蛛を殺さんばかりの殺意を向けるが蜘蛛の巣から離れることは出来なかった

 

「はっはっはっ……血も涙も無い貴族様でも娘が殺されれば怒りもするよね」

 

「殺してやる!殺してやる!!」

 

「僕達の依頼人も今の君と同じ気持ちなんだよ?いや……依頼人より、今まで殺した人達の方がもっと強い『恨み』があるよ」

 

「何を言っている。私は貴族だぞ!地方から来たゴミなんぞ貴族である私がどうしようと勝手ーーー」

 

蜘蛛は貴族の男を縛っていた蜘蛛の巣を纏め、全身の骨を折った

 

「いやはや、救いようのないというのはこのことだ。辛うじて息があるようだね。苦しみながら死ぬといいよ」

 

蜘蛛は人を殺した後とは思えないように笑いながら屋敷から出ていった

 

 

 

 

ーーー牛side

 

「ふんッ!!」

 

牛は道場破りのように正面の門を拳で壊し屋敷へと入る

 

もちろん、そんな入り方をしたせいで警備の者が牛を囲むように集まってきた

 

「ふむ……警備の者。俺の獲物はこの屋敷の主だ。邪魔をしなければ殺しはしない」

 

牛の言葉に耳を貸さないのか警備の者は牛へと襲いかかる

 

「忠告はしたぞ……」

 

牛は構えを取らなかった

 

だが、警備の者は牛から弾かれるように吹き飛んだ

 

「自分の器を知らぬからだ。そのまま倒れていろ」

 

牛は屋敷の主の元へと歩いていく

 

その途中で警備の者が牛の歩みを止めようとするが、牛の歩く速度は変わらない

 

しがみつく者もいるが止まらない

 

剣やナイフを突き立てようとするが折られる

 

銃や矢を放つが全て受け止められる

 

牛の前には全てが無意味であった

 

「ここだな」

 

ドアを破ると屋敷の主は部屋の隅で震えていた

 

「来るな、来るな!金ならやる!!お前を雇ったやつの倍の金額をやる!!だから、殺さないでくれ!!」

 

「殺される覚えがあるのなら、最初からせぬことだ」

 

牛はここで初めて構えた

 

「最後の慈悲だ。苦しまずに一瞬で終わらせよう」

 

「嫌だ!死にたくない!死にたくない!!」

 

「それはお前に殺された者も同じ事を言っていたはずだ!!」

 

一閃

 

牛の拳は警備の物の目にも止まらぬ速さであった

 

拳を振り抜ぬき、屋敷の主が壁に激突した後に鈍い音が響いた

 

それほどの速さと重さを持つ拳であった

 

「俺の仕事は終わりだ」

 

牛は先ほど来た道を歩いて帰っていった

 

警備の者はほとんど無力化されており、牛の帰りを遮るものは誰もいなかった

 

 

 

 

ーーーカグラside

 

「いやいや、まさか警備隊長が私の所に来ていただけるとは」

 

カグラは標的であるブローカーに『使用人の斡旋』を理由に近付いた

 

そして、カグラはブローカーの事務所で酒を交わしながら斡旋の話をしていた

 

「それで、どのような者を見積りましょうか?」

 

「そうさな……俺が欲しいのは……」

 

カグラはブローカーの腕を握ると帝具の力を解放し、ブローカーを燃やした

 

「お前の命だ」

 

ブローカーは叫び声をあげる暇もなく、炎に包まれ絶命した

 

「これくらい書いておくか」

 

カグラは筆を取ると壁に『オールベルグはまだ生きている』と描いた

 

これがナイトレイドに変わる抑止力になると信じて



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爆発ハ芸術デハナイ

「隊長、判子をお願いします」

 

「はいよ」

 

「隊長、これ今日までの決裁です」

 

「中身を確認するから午後には卸す」

 

「隊長、地方警備隊の演習参加の依頼がきています」

 

「参加すると報告してくれ」

 

「隊長、酒屋から隊長宛ての請求書がきています」

 

「それは俺専用の請求書棚に入れといてくれ」

 

「隊長、イェーガーズに転属したセリューが先月壊した建物の修繕請求書がきています」

 

「イェーガーズ宛て城に送っておけ」

 

「隊長、部隊長が過労で倒れました」

 

「俺に言う前に医者を呼べェェェェェェェェェェェッ!!」

 

「隊長!隊長に会いたいとべらぼうにめんこい娘が来ています!!」

 

「お前ら、もう出ていけよ!そして可愛い女の子は入れてこい!!」

 

カグラが全員、隊長室から全員出ていった

 

そして、警備隊員に連れられ一人の女の子が入ってきた

 

カグラは会ったことのない女の子に少し警戒をするが、その警戒はすぐ解かれた

 

「カグラ……」

 

女の子は煙をあげるとチェルシーの姿に戻った

 

チェルシーの服は焦げ付いており、所々出血もしていた

 

「チェルシー!何があった……いや、影!すぐにジンを呼んでこい!!」

 

天井裏に待機していた影は直ぐ様、ジンの元へと飛び出していった

 

カグラは部屋にある応急処置セットを取りだし、止血と

感染防止の被覆を行った

 

「チェルシー、気をしっかり持て。影がジンを「ダ…メ……」

 

意識を取り戻したチェルシーは影を呼び戻すように言うと再び気を失った

 

その瞬間、ジンがいるスラムの方角で爆発が起き、衝撃が警備隊庁舎にまで届き、窓ガラスを割った

 

カグラは直ぐに屋上に上がり、爆発のあった方角を見ると、爆発による煙が空に向かって昇り、爆発の起こった周囲には火災が発生していた

 

「くそっ!ジンは生きているだろうが、影は……」

 

「生きているぞ、クソ野郎。ちったぁ俺の心配もしろ」

 

ジンは所々白衣は焦げ付いているものも無傷であり、影を担いだ格好で屋上に現れた

 

「申し訳ありません。マスタージン」

 

「緊急事態とはいえ、尾行には気を付けろ。まぁ、今回のやつは仕方ないといえば仕方ないがな」

 

「とにかく、俺の部屋に来い。イェーガーズに見つかると厄介だ」

 

カグラはジンと影を部屋に招き入れると、カグラは警備隊長として、広間へと向かった

 

警備隊を五班に分け、スラムの被害確認、消火活動、救助活動を指示し、副隊長に現場隊長を任せるとカグラは隊長室へと戻った

 

「警備隊長としての仕事お疲れさん。お前も仕方ないとはいえ大変だな」

 

ジンはソファーに座り酒を飲んでおり、チェルシーは干し肉を食べていた

 

「それ俺の酒!俺の干し肉!!何くつろいでんだよ!狙われているの忘れてないか!?」

 

「忘れてはいないが、チェルシーの治療も終わってすることないんだから別にいいだろ」

 

「お前のそういうとこ昔っから変わらねぇな……」

 

「この干し肉美味しいけど、もしかして手作り?」

 

「カグラのやつは酒好きでな。お前が食ってる干し肉や酒のツマミも自分で作ってんだよ」

 

「それ、今関係あるか!?さっさと爆破犯の話するぞ!!」

 

カグラの一喝により、場は落ち着きを取り戻した

 

「それでチェルシー、爆破犯の顔は見たのか?」

 

チェルシーは「えぇ」とだけ言うと渋い顔をした

 

「……帝都諜報部のアルベルよ」

 

「あのハッピートリガーならぬボンバー野郎か。確かカグラがムショにブチ込んだと記憶しているが」

 

「大方、大臣と取引したんだろ。あの帝具をアルベル以上に使えるやつは早々いないしな」

 

「『変異爆破 キラークイーン』あれは俺でも厄介な帝具だ」

 

『変異爆破 キラークイーン』

 

見た目はただの手袋だが、適合者が使えば任意で触れたものを爆発物に変えることが出来る帝具

 

触れた時間によって爆発の強さが変わり、最大で半径1kmを爆破出来る爆発物を作り出すことが出来る

 

例えそれが『人間』であっても

 

「アルベルは俺がやる」

 

「任せるぞ。俺達は酒とツマミを嗜みながら待ってるからよ」

 

「祝杯分は残しとけよ」

 

カグラはそう言うと隊長室から出ていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、決着をつけようか……アルベルッ!」

 

隊長室を出るとそこにはアルベルが待ち構えていた

 

「お前の死をもってなぁぁぁッ!カグラァァァァァァッ!!」

 

「まずは外に出ようか!!」

 

カグラは一瞬でアルベルとの距離を詰めると外へと飛び出した

 

屋根を伝い、警備隊員やイェーガーズの目につかないよう、カグラは帝都の外へとやってきた

 

「っ痛ぇ、なぁ……」

 

「痛ぇで済むって……化物か……」

 

アルベルはカグラに引っ張られながらも、カグラを爆破して離れようとしたが、爆破してもカグラはカグヅチの能力によって再生するため意味を成さなかった

 

「さて、今回お前はうちの偵察班を……そして、スラムの連中を巻き添えにした」

 

カグラは持っている刀を引き抜いた

 

「『天上より赤く染め上げろ 曼珠沙華』今度の行き先は牢屋ではなく地獄だぜ」

 

アルベルはカグラの雰囲気が変わったことに粟立ちを覚えた

 

過去に自分を捕まえたカグラではない

 

エスデスやブドーといった絶対的強者と同じ人物が目の前にいる

 

「う、うああああああああああああああああッ!!」

 

アルベルはポケットから散銃弾を取りだしカグラに向けて投げつけるが、カグラは全て斬り落とした

 

「終わりだ」

 

カグラは一刀の元、アルベルを絶命させた

 

「よし、帰るか」

 

いつもの雰囲気に戻ったカグラは帝具を回収すると散歩気分で警備隊庁舎へと戻っていった




「帰ったぞ~」

「お~う、戻ったか~」

「お帰り~カグラ~」

隊長室には酔っぱらいが二名出来上がっており、カグラの秘蔵の酒五本と自家製の干し肉が全滅していた

「お前ら、バカか!?」


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ドMと新型危険種

エムエムは朝から不機嫌であった

 

それというのも

 

「いやぁ、皆さん。かなり遅れてしまって申し訳ありません。私、帝都諜報部のハバキと申します。これからよろしくお願いします」

 

ハバキが長期任務を終え、イェーガーズに合流したためである

 

「エムエムさん、お久しぶりです」

 

「死ねよ、今すぐ死んでくれ。頼むから死んでくれ(エェ、オ久シブリデスネ……)」

 

「本音が駄々もれで建前が隠れるとは、相変わらず僕は嫌われてますね」

 

嫌悪感をこれでもかと出すエムエムとその嫌悪感を笑って受け流すハバキ

 

「副隊長があんなに突っかかるなんて珍しいな」

 

「エスデス隊長が言っていましたが、元同僚だそうですよ」

 

「ふーん」

 

エムエムとハバキとこの場にいないエスデス以外のイェーガーズの面々は和気藹々と話している

 

しかし

 

「とりあえず、仕事の邪魔だけはしないでよ(ハッ、この猫かぶりの蛇野郎が何をほざいてるのよ。私は副隊長でアンタは平隊員だってことを忘れるんじゃないわよ)」

 

「えぇ、それはもちろん(テメェの方こそ、ほざいてんじゃねぇよ……クソマゾ女が。インペリアルガード時代の冷徹さの欠片もねぇお前がキャンキャン吠えてんじゃねぇよ)」

 

「じゃあ、よろしく(冷徹さ無くとも、アンタを今ここでなぶり殺すのは可能よ)」

 

「えぇ、こちらこそ(上等だ。やってみろってんだ)」

 

表面上では当たり障りのない会話をする二人だが、水面下では殺伐とした会話を続けており、青筋が出るほどであった

 

「殺す!!」

 

「え?何でイキナリ!?」

 

「やめんか、バカ者」

 

皇帝に報告を終えたエスデスが帰ってくるやいなや殺し合いを始めようしたエムエムを凍り漬けにした

 

「それと、貴様もだ」

 

「何の事でしょう?」

 

ハバキはとぼけるが、エスデスはハバキが手のひらに隠し持っているナイフに気付いていた

 

「まぁ、帝具を使わなかっただけでもよしとしよう」

 

エスデスはイェーガーズに大臣から聞かされた『新型危険種』について報告し、駆除もしくは生け捕りを命じた

 

(さて、貴様の実力を見せてもらうぞ。元インペリアルガード)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「噂に違わず怖いですねぇ。『新型危険種』は」

 

「何を言っている。帝具を使わず圧倒している貴様が言う言葉か?」

 

笑みを浮かべるハバキの後ろには腱を切られて身動きのとれない新型危険種が何体も横たわっていた

 

「いやいや、こちらが殺されないように、且つ新型危険種を殺さず捕らえなきゃいけないんですから、怖いに決まっているじゃないですか。さて、この辺りはもういないようですし帰りましょう」

 

ハバキは帰ろうと歩きだすと、横たわっている新型危険種を見つめ続けているクロメに気付いた

 

「あの……なんで見ているんですか?」

 

ハバキは新型危険種の生態に興味があるのかと思ったが、よく見るとクロメの口元からヨダレが出ていた

 

「あの、クロメさん。さすがに新型危険種は食べられないかと思いますよ。生け捕りが目的なんですから」

 

それを聞いたクロメはショボンとするが、ハバキは懐から非常食を出して、これで我慢するように言った瞬間

 

「いだだだだだだだだだだだだだだだ!手!手!手!」

 

クロメはハバキの手ごと非常食に噛みついていた

 

ハバキは離れるように言うがクロメは肉食獣の如く噛みつき離れようとしなかった

 

それを見ていたエムエムはハバキに茶々を入れるが、噛みついていたクロメを投げつけられ黙らされた

 

そんな姿を遠くで見ている男がいた

 

男はフードをかぶっており、顔はハッキリと見えないがイェーガーズを見てニタリと笑うとその場から姿を消した



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