士郎君は、メディアさんに恋をする (zeke)
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彼らの聖杯戦争の始まり

 赤い閃光と青い閃光が学校の校庭で走る。

 赤い閃光は褐色で赤い服を着た男性が双剣で青タイツを着た赤い槍を持った青い髪の男性に攻撃して出来た閃光で、青い閃光もまた褐色の赤い服を着た男性に青タイツの赤い槍を持つ男性が攻撃を防ぎ、反撃した時に生じた。

 

 高校の校庭に不相応の武器と武器のぶつかり合いによって生じる金属音が響き渡る。

 

「あれは……」

 

 そんな光景を衛宮 士郎は、友人の間桐 慎二に頼まれて弓道場を掃除し終えて、時間は夕方を過ぎて夜となった時間帯に目撃した。

 

 不自然に赤い閃光と青い閃光がぶつかり、金属音が校庭に響き渡る。

 それだけで彼は刺激された。

 

 よくよく目を凝らして二つの閃光を見てみると、それは二人の男性が戦っている状況であった。

 片方は赤い槍を。

 もう片方は双剣をもって戦っていた。

 

 そんな状況を見て彼の心は決まった。

 その時、頭の中に語り掛けてくる声があった。

 

(介入して良いの?上手くすれば相打ちに成るかもしれないのよ?そのチャンスをみすみすと逃すの?)

 

 その言葉に彼はフッと笑みを浮かべ、口には出さずに返事をする。

 

(まさっか。こんなビックチャンスは二度とないだろう。でもな、この学校は親友の柳洞 一成が管理しているんだ。親友の管理下にある神聖な学び舎に部外者に、それも武器を持つ無粋な輩に侵入してほしくないんだよ)

 

(そう。それじゃあ……)

 

(……ああ、始めよう俺達の聖杯戦争を。援護を頼むよ。俺らの悲願の為に。祝福される未来のため、生贄となる聖杯戦争を。これより武力介入に移行するよ)

 

(良いわ。私達の悲願達成のため、あなたには生き残って貰わないといけないから全力でサポートさせて貰うわよ)

 

(ああ、ばれない程度にお願いするよ。俺の愛する伴侶)

 

(もう!それは聖杯戦争中に言わないって約束でしょ!?)

 

 そのやり取りを終えた後、彼の中に魔力が溢れ出るように湧いて来るのを感じた。

 そして、視線を赤い閃光と青い閃光を発する二人の男性に向ける。体の内から湧き出る魔力が指先まで通うのを確認すると彼はその場をかけて二つの閃光のもとへと走る。

 

 彼にかけられたのは強化の魔術。

 拳はおろか、目や体全体に強化の魔術が施されている。

 強化の魔術が施されているため、赤い閃光と青い閃光しか見えなかった相手がスローモーションで見えるように目が強化された。

 

 赤い服を着た褐色の男性と青タイツの男性が互いに得物を持ち、移動しながら攻撃しあう場面を捉え拳を握ると脚に力を込める。

 

 そして、二人の男性が戦っている場所まで走る。走る。

 

 一般人ならあり得ない速度。

 100m1秒いくかもしれない速度で戦う二人の男性との距離を詰める。

 

 二人の男性が走り寄ってくる足音に気付いたのか士郎に視線を向けるより、士郎の方が速かった。

 

「こんな所で喧嘩すんじゃねえ!!」

 

 二人の男性は強化の魔術を施された士郎の拳を顔面に食らった。

 捩じり込むように士郎の拳は二人の顔面を殴り、全身の筋肉というバネをフルに使った渾身の一撃を二人に繰り出した。

 

 二人は顔面にモロ士郎の強化された拳を食らい、二人仲良く吹き飛ばされる。

 その様はまるで人間がダンプカー跳ねられた様に吹き飛ばされ、グラウンドのフェンスに激突してようやく止まった。

 

「痛てえじゃねえか坊主」

 

 暫くしてからフェンスに激突した二人の男性のうち、赤い槍を持った青タイツの男性がゆっくりとフェンスから立ち上がり士郎を見る。

 そして、ペッと口から血を吐き出して士郎を観察するようにじっくりと見る。

 

「察するに坊主……魔術師か?」

 

「!」

 

士郎の反応を見て青タイツの赤い槍を持つ男性は、面白そうに笑った。

 

「ハッ!何で分かったと言いたげな表情だな坊主。んなもん簡単だ。英霊を殴れるような人間なんざそうそう居ねえ。ましてや俺、ランサーのクラスを殴れるような奴なんざ魔術師でもなきゃ無理だろうよ」

 

 そう解説する青タイツの男性、ランサーの解説を聞きながら士郎は内心ほくそ笑んだ。

 

(まだキャスターの事は、ばれて無いみたいだな)

 

 彼ー衛宮 士郎には強化の魔術が掛かっていた。

 この彼にかかっている強化の魔術は彼、衛宮 士郎の魔術ではなく彼が使役するサーヴァント キャスターの魔術による物だった。

 

「あんたが何者かは知らない。でもな、早々にここ…学校から立ち去ってくれ。ここはそんな物騒な物を持ち込んで喧嘩をしていい場所じゃない。やるなら柳洞寺辺りの人がいない裏山でやってくれ。兎に角、あんた等は邪魔なんだ」

 

 真摯に青タイツの赤い槍を持つ男性、ランサーに訴える。

 だが、

 

「悪いな坊主。聖杯戦争に関わった人間を生かしておいちゃいけねえのさ」

 

 ランサーは赤い槍の矛先を士郎に向け構える。

 撤退しようとしないのは明らかだった。

 

「仕方ないか」

 

 そう言って士郎は握っていた強化された拳を解き、自身の胸に置くと詠唱を始めた。

 

――――体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)

 

――――私の剣は勝利の為に(My sword for the victory.)

 

 

 その時、不意にランサーが顔をしかめた。

 

「何!?……解かった」

 

 そして、構えを解くと士郎を背にする。

 

「命拾いしたな坊主。マスターからの撤退指示だ」

 

 そう言ってさっそうと士郎の前から駆け、姿を消した。

 ふうと息を吐き、次にフェンスに倒れている褐色の男性に視線を向けると問う。

 

「それで、あんたはどうすんだよ。起きているんだろ?」

 

 フェンスにもたれかかる様に倒れていた男性は、フッと笑い閉じていた眼を開いた。

 

「気づいていたか。だが、そんな!?……しかし」

 

 一人悩む褐色の男性に再度士郎は問う。

 

「だ~か~ら~!あんたはどうするんだよ!この学校からとっととさっきの奴みたいに消えてくれるのか?」

 

「………」

 

 一人悩む白髪で褐色の男性。

 そんな彼に士郎とは別の声がかかる。

 

「アーチャー、大丈夫!?って、え、衛宮君!?」

 

 声の主に士郎は視線を向けるとそこには、赤い服に黒髪のツインテール同学年の遠坂凛がいた。

 

「遠坂!?……クラブか何かの帰りか?だとしたら夜遅くまでご苦労様」

 

「違うわよ!ったく。よりに寄って何であんたなのよ」

 

「ハア?」

 

「まあ良いわ。それよりこれから時間ある?貴方を巻き込んじゃったんだし、説明しなきゃね」

 

「説明?ここじゃダメなのか?」

 

「ちょっとここじゃ、ねえ。話しづらい話なのよ」

 

「えっと~、遠坂の家じゃダメか?」

 

「あんた。レディーの家に上がろうとする、普通?」

 

 呆れたように溜息を吐く遠坂の横で士郎は冷や汗を滝のような冷や汗を流した。

 

(拙い拙い拙い!今、家にはキャスターがいる!このまま家に遠坂を連れていくのは悪手だ!俺がマスターだってばれる!!どうする!?……そうだ!)

 

「悪い遠坂!今、家には二万冊ものエロ本があるんだ!絶賛整理中だから俺の家は無理だ!」

 

 士郎がとった行動。

 それは、女の子が躊躇うようなものがある事を提示することで家に近づけさせないようにする事。

 無論、エロ本二万冊どころか、一冊も士郎の家にはないのだが……

 

 士郎の目論見通りの遠坂は笑顔で引きつり、身を一歩後ろに下げた。

 そんな遠坂の後ろに立っていた白髪で褐色の男性は、

 

「良し。私が処分しておこう」

 

 と何やら家に来る気満々のご様子。

 更にピンチの状況に追い込まれた士郎は

 

「あ、手前!さては処分するとか言っときながら俺からエロ本取り上げて一人で堪能するつもりだろ!!」

 

 何かを失いながら必死に遠坂が家に来ないように白髪で褐色の男性が家に来ないようにする為非難した。

 

 士郎の非難が功をなしたのか遠坂は今度は白髪で褐色の男性を見る。

 しかし、士郎の時とは違い今度はまるでゴミ虫を見るような眼で。

 

「そう言えば、アーチャー。あんた、自分の事解からないと言ってたわね。もしかして、性犯罪sy「違うからな、凛!私はれっきとした英霊だからな!?」……本当かしら」

 

「無論だ!性犯罪者が英霊になれる筈が無いだろう!」

 

「いいえ。その後に何か偉大な功績を残してもみ消したとか、歴史の陰から消えたとかありそう」

 

「信じてくれ、凛!」

 

「騙されるなよ、遠坂。理由も根拠もなしに信じてくれなんて……まるで浮気がばれた亭主みたいじゃないか」

 

「お前は黙ってろ!」

 

「……それもそうね」

 

「こいつみたいに訳の解からない奴よりかは、エロ本二万冊があるから家に来るなと公言している俺の方がまだ信用あるぞ。何せ女子の視界には入れるべきでない物があると正直に言ってるんだからな」

 

「それもどうかと思うけど」

 

「兎に角!話なら明日昼休みか、放課後学校の屋上で話せばいいだろう。じゃあな。俺は今から夕飯を作ってエロ本二万冊の整理に忙しいんだからな!……それとも遠坂、エロ本見たいのか?」

 

「んなわきゃ無いでしょうが!!」

 

「なら良かった。それじゃあな!」

 

 そう言って士郎は颯爽と遠坂の前から逃げるように後にすると弓道場の入り口に置いておいた荷物を持つと帰路に就いた。




士郎君の無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)の詠唱を一部を残して変更しました


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こうして彼女はマスターを得る

(どうだ?敵は周囲に居るか?)

 

 遠坂から逃げるように帰路に就いた士郎は、自宅近くで念話でキャスターに話しかける。

 

(居ないようね。普通に帰ってきて頂戴)

 

(了解)

 

(それと、どうしても耳に入れておきたい事があるのよ)

 

 そう言うキャスターの声はどこか疲れた声だった。

 

(解った)

 

 そう言って念話を終えると士郎は10分程歩いて帰宅した。

 

「ただいま~」

 

 玄関の扉をあけながら挨拶すると……

 

「な、何だお前は!?」

 

 入口に上半身裸の巨体の男性が正座して士郎を見ると頭を下げた。

 

「■■■■■■■■■」

 

 その様子はまるで挨拶をしている様子にも見える。

 

「えっと~、挨拶してくれてるのか?」

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

 まるで自己紹介をしているような上半身裸の男性。

 その男性を見ていると……

 

「お帰り~士郎♡」

 

 的確にボディーブローを食らったように鳩尾に衝撃が走る。

 

「グフッ!!」

 

 衝撃が走った腹部から原因のもとを除ける。

 

「やっぱり、あんたかイリヤ姉!」

 

 銀髪赤い眼をした妖精のような小さな少女の肩を掴み、腹部から離す。

 

「だって、だって!アイリったら酷いんだもん!士郎のお嫁さんに成る!とか言って私を爺ちゃんの所に置いたまま城から出て行っちゃったんだもん!」

 

「ハア!?あの人は何言ってんだよ。爺さ……切嗣の妻だろ!人妻が何言ってんだか」

 

「だから、私リズとセラと一緒に城から逃げ出して来ちゃった♡」

 

「来ちゃった♡じゃない!ハア~何やってんだよ。俺がアハト爺さんにまた逆恨みされるじゃないか」

 

「だって~、爺ちゃん加齢臭するし」

 

「おい、それアハト爺さんが聞いたら泣くぞ」

 

「まあ、それはそれで面白そうね!」

 

「切嗣…爺さんとアイリの件でただでさえ爺さんの関係者で逆恨みされているのに、これ以上逆恨みの要因を作らないでくれよ」

 

「そうよね~。切嗣がアイリと駆け落ちして前回の聖杯戦争の戦いでアイリを死なせて、それで結局お爺様に頼んで魂を別のホムンクルスに繋いで貰ったのよね~」

 

「いや、元からアイリの心臓を聖杯の核にしてたらしかったんだけれども、まあいつの間にかアイリLOVEにアハト爺さんがなって聖杯戦争に参加させる気がなくなって城の中に閉じ込めといたんだっけ?んで、アハト爺さんもボケが進んでアイリの心臓の処置をするの忘れて、爺さんとアイリが駆け落ちしてアイリを人間にする為に前回の聖杯戦争に参加したんだっけ?」

 

「うん、そうそう。全くお爺様の認知症にも困ったものよねえ。魔術は健全だけど」

 

「イリヤ姉、頼むからアハト爺さんが俺に逆恨みする要因を作らないでくれ。流石にまだこの年で死にたくない」

 

「え~、それじゃあ、イリヤと結婚して~」

 

「ダメだって。俺にはキャスターという伴侶がいるんだし」

 

「愛人でもいいから~お願い~士郎」

 

 ポカポカと士郎の胸を叩くイリヤの反応に士郎は吹いた。

 

「ブハッ!?イ、イリヤ姉いつの間にそんな単語を覚えたんだよ」

 

「んと~、セラとリズから昼ドラを見して貰いながら教えてもらった」

 

「おい~、セラ!リズ!!」

 

 イリヤの後ろに来て突っ立っていたリズとセラを睨んだ。

 

「……イリヤが教えてと言ったから教えた」

 

「セラは悪くない」

 

 無表情で抗議する二人のホムンクルスメイドに士郎は頭が痛くなった。

 これで、またアインツベルン当主のアハト翁にまた命を狙われる逆恨み要因が増えたのだ。

 

「ハア、近い将来胃潰瘍に成るか剥げそうだ」

 

 自身の近い将来のことを考えると眩暈がしそうになる。

 

「士郎~」

 

 ガラリと閉めた筈の玄関扉が開き、一人の女性が士郎の背中に抱き付いた。

 

「ア、アイリ母さん!?」

 

「んもう!アイリって呼びなさい士郎」

 

 腰に手を当てプリプリと怒るイリヤの母 アイリス・フィール。

 ホムンクルスゆえ、若く見えるがれっきとした衛宮士郎の義母であり、義父である衛宮切嗣の妻である。

 

「あんたもこっちに来たのかよ!城はどうした!?アハト爺さんがいる城は!」

 

「そんなもの抜けて来たに決まってるじゃない!」

 

 堂々と胸を張って言うアイリ。

 そんなアイリを前に士郎は溜息を吐いた。

 

「ハア、頼むから俺の命を散らす要因は作らないでくれよ~。アハト爺さんこの前城を訪れた時なんか涙目で俺を睨んでたじゃないか!あの眼、絶対に殺してやる!って眼だったぞ」

 

「大丈夫よ。士郎を殺そうとしたら私とイリヤでお爺様と縁を切って城から出ていくから。絶縁状でも叩きつけようとすれば大丈夫よ。士郎を殺そうとすればイリヤと私がお爺さまと縁を切るって解っておけばあの方も士郎に手を出そうとする事を躊躇うでしょうし」

 

「何だか急にアハト爺さんが可哀想に思えてきた……」

 

 ぼやく士郎のもとにフードを被った魔術師の英霊キャスターが廊下を歩いて近づく。

 

「お帰りなさい、士郎……準備は出来ているわ」

 

「そうか、解った。すぐ行くから待っててくれ」

 

 そう言うと士郎は抱き着くイリヤとアイリスフィールを引きはがした。

 

「どうしたの士郎?何をするの?」

 

 引き剥がされたイリヤが士郎の顔を覗き込むように問う。

 

「ああ、ちょっとな。義母さん、あんたが前回の聖杯戦争で使わなかった蔵の魔法陣使っても良いか?」

 

「?良いけれども何をするの?士郎、あなたキャスターと契約しちゃってるわよ」

 

「ちょっとな。まあ、OKくれてサンキューな」

 

 士郎はそう言うと玄関で靴を脱ぎ、廊下を歩いて自分の部屋に行き鞄を置いた。

 そして、そのままの足取りで庭にある土蔵まで行くと

 

「来たわね」

 

 土蔵の中にある魔法陣の前でキャスターが待っていた。

 

「ああ。それじゃあ、始めようキャスター。宝具の使用を許可する。手筈通りにやってくれ」

 

「解ったわ」

 

 そう言うキャスターの手には稲妻を形にしたような短剣が握られていた。

 その短剣をキャスターは自分の胸に突き刺した。

 

 その結果、士郎の手にあった令呪と呼ばれる痣のような模様、自身が使役する英霊を絶対命令権が消えうせた。

 

「良し!始めよう」

 

 自身の手に令呪が無くなった事を確認すると士郎はそう言って土蔵の中の魔法陣に視線を向ける。

 キャスターもそれに頷くとマントを翻し、消えた。

 

 制服のポケットからカッターナイフを自分の左手首に突き立てて、左手を斬りつける。

 左手から鮮血が迸り、魔法陣にかかると魔法陣に変化が現れた。

 

 魔法陣が徐々に赤くなり、やがて真っ赤に反応すると

 

「来てくれ!セイバー!!」

 

 声高らかに叫んだ。

 

 やがて魔法陣の上に一人の鎧を纏った少女が現れた。

 

「サーヴァント セイバー。あなたの呼びかけに応じ参上ち……噛みました。参上しました」

 

 セリフの途中で噛んだのがよほど恥ずかしかったのかセイバーと名乗る彼女は、顔を赤く染めた。

 士郎の手には先程無くなった令呪と呼ばれる痣が再び出現している。

 

「来てくれたか、セイバー。早速で悪いんだくれども…」

 

 士郎がそう言うとセイバーの後ろに、フードを被った魔術師の英霊 キャスターが現れた。

 そして、キャスターの手には先程自身の胸に突き刺した稲妻を形にしたような短剣が握られており、容赦なくセイバーの背中に突き刺した。

 

「……マスターチェンジだ」

 

 セイバーの出現によって現れた令呪も消え、逆にキャスターの手に令呪が出現する。

 そして、セイバーのマスターは目の前の衛宮士郎という男性から突如現れた魔術師の英霊 キャスターへと主を変えられた。

 

 そして、キャスターはセイバーの背中から短剣を抜くと今度は士郎に手を向ける。

 すると、士郎の手には先程失われた令呪が現れた。

 

「!!??」

 

 突然の事に驚くセイバー。

 召喚され、背後からブッスリと短剣を突き付けられた挙句、マスターチェンジをされた事に驚きを隠す事は出来なかった。

 

「上手くいったな、キャスター」

 

「ええ、勿論よ」

 

 セイバーの目の前にいる二人は驚く様子はなく、寧ろ事が済んだ事に喜んでいる様子だ。

 コホンと一つ咳払いをすると士郎はセイバーに向かって状況を説明する。

 

「突然の事ですまない、セイバー。俺は衛宮士郎、見習い魔術師だ。んで、こっちが俺の伴侶で魔術の先生 キャスターだ。俺はキャスターを手に入れてから聖杯戦争の事を知った。そして、自分の今の実力を。今のままじゃ、聖杯戦争で苦戦するという事を知り、キャスターと一つの策を思いついたんだ。俺がキャスターのマスターとなり、魔術に秀でたキャスターがセイバー。君のマスターになるという事。これで聖杯戦争を乗り切ろうと思う」

 

「……」

 

「すまない。だまし討ちのような形で事を運んで」

 

 頭を下げて謝る士郎。

 そんな彼の前で立つセイバーは……

 

グウウウウウウウウウウウウ

 

 お腹から凄い音をだし、顔を赤く染めて無言で立ち尽くしていた。

 

「セイバー?」

 

「士郎、ご飯にしましょう。お腹がすきました。先程から話が一つも頭の中に入ってきません。最早、話等どうでも良い。腹の足しにも成りません。私はご飯を要求します」

 

「そ、そうか」

 

 呆れる士郎。

 三人は土蔵から出て衛宮邸の中へと入って行った。




マスター
士郎=(キャスター)

(キャスター)=(セイバー)

解りづらいかも知れないので書きました


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学校にて……

【ライダー陣営】

 

「ちくしょう!何で僕はこんな家に生まれてきたんだ!!」

 

 間桐 慎二は、自室のベッドの中に入った状態でガタガタ震えていた。

 何故なら………

 

『ぬほおおおおおお!!良いぞ桜。流石儂が見込んだ女ぞ』

 

『黙りなさい!この薄汚い虫が!!』

 

『ああ、そのゴミ虫を見るような眼……わしゃあ、果報者じゃ~』

 

『虫に人権も発言権はありません!』

 

 地下からピシャリピシャリと鞭を打つ音が聞こえ、その後に年老いた男性の歓喜の声が絶え間なく間桐 慎二の部屋に聞こえるからだ。

 歓喜の声を上げる年老いた男性の名は、間桐 臓硯。間桐家の館の主だ。

 この間桐 臓硯、本来はその容姿と同じく醜く歪んだ外道へと落ちてしまった。

 しかし、彼が鞭に打たれ歓喜を上げるようになったのには、訳があった。

 

 それは、数年前の事だ。

 間桐 臓硯に鞭打つのは、間桐 桜。間桐 慎二の血の繋がっていない妹。

 彼女が遠坂家から間桐家に養子として引き取られた時に起こった。

 間桐 臓硯は、間桐家に来た桜を地下の虫蔵に連れて行き、桜の魔術回路を強引に変える為、刻印蟲による凌辱が行われようとした時、事態は起こった。

 桜が口に入った刻印蟲を噛み殺したのだ。

 刻印蟲は、その形状男性性器に似ている。

 

 その様子を見た間桐 臓硯は、年甲斐もなく頬を赤く染め恍惚とした表情で呟いた。

 

「―――良い」

 

と。

 この時に彼の中にあった何かが瓦礫の如く崩れ落ちた。

 そして、桜を蟲蔵から解放すると逆に自分を縛り付け蟲蔵の中に入っていき桜に鞭を持たせ、自分の体に鞭を振るわせた。

 この瞬間、彼の中で新たな生き甲斐が生まれた。

 今までの長い年月、魂まで疲弊しきり、醜く歪んだ彼に一つの生きる希望が生まれたのだ。

 それは―――

 

 

―――幼女に凌辱される事。

 そして、彼はそれから今日に至るまで毎日のように桜を蟲蔵に連れてくると自分を縛らせ、鞭を震わすようになった。

 

 

「ああ!畜生、普通の家に生まれて来たかった!」

 

一方の桜の兄 間桐慎二は心からの叫びを布団の中であげていた。

幼少期から聞こえてくる年甲斐も無く歓喜の声を上げる爺。

 

鞭のぶんぶんと振るわれる音。

 

幼少期から聞こえてきて何か変だな~とは、思っていたが中学の頃からあれ?やっぱり可笑しくないか、うちの家?と、疑問を持つようになり。

そして、高校に入り、やっぱり変だ!?と思う様に成ったのである。

 

「……マスター?外に出ます?」

 

「あのさ、気遣いは嬉しいんだけどやめてくれる?その天井からぶら下がるの。僕の部屋の天井が穴だらけに成ってんじゃん!?」

 

【セイバー&キャスター陣営】

 

バリンという窓ガラスが割れる音共に青い閃光が衛宮家の食卓に突撃してきた。

部屋の中には窓ガラスの破片が宙を舞い、青い閃光は一人の人間の形を作るとその手に赤い槍を持っていた。

ソファーに座りテレビを見ていたアイリとイリヤ。せっせせっせと作られる夕食を運ぶ上半身裸の巨体 バーサーカー。リズとセラと共にトランプをするセイバーが突入してきた青い閃光に一斉に視線を向ける。

 

 

「こんちわ~、お届け物にあがりました~。言峰運送会社の者なんですけど~……あ、イリヤさんって、います?」

 

脇に小包を抱え、片手で槍を持ち、帽子をかぶった青タイツを来ている青髪の青年がそこに居た。

 

「イリヤなら私だけど?」

 

キョトンと首を傾げるイリヤ。

 

「あ、そっすか。ハンコあります?無いんならサインでも良いすけど?」

 

イリヤのもとに寄ろうとしたその青年の首を軽々と猫の様につまみ上げる者が居た。

バーサーカーだ。

 

「あ、おい!こらでかぶつ!!仕事の邪魔すんな!俺はこの仕事をおわらさなきゃいけないんだよ!じゃなきゃ、今日から俺の飯が試作激辛麻婆豆腐に成るんだよ!聖杯戦争が始まる以前に俺が誰とも戦わずにリタイアに成っちまうんだよ!!」

 

 喚く青年をそのままつまみ上げた状態で門の外まで運ぶとポイッと放り出すバーサーカー。マスターであるイリヤを守るため、敵かも知れないサーヴァントは、お外へポイである。

 「ちょっ、おい!この荷物渡さねえと帰れないんだって」と門をドンドンと叩く青年。

 しかし、門はがっちりとバーサーカーによって施錠されてしまっている為、開く事が出来なくなっていた。

 

 

 アイリとイリヤは、突然のことに一体なんだったのかしら?と親子そろって首を傾げる。

 

 

 

 

 

 一方、士朗とキャスターは

 

「ほら、キャスター。こうやって、こうするんだ」

 

「あ、マスター」

 

そんな、ちょっとしたハプニングがあったことなど気付かずに終始、士郎が抱き着く様にキャスターの背後に回り、イチャコラしながら懇切丁寧に今日の夕食のメインであるハンバーグの作り方を教えていた。

 

 

 

 

「衛宮君、おはよう。早速で悪いんだけれども、ちゃ~んときっちりかっちり説明してくれるかしら?昨日の事を」

 

翌日の早朝、校門で待ち構えていた遠坂凛に衛宮士郎は捕まっていた。

 

朝が弱いのか少し不機嫌そうな彼女を見て、士郎は「ゲッ!?」と遠坂に聞こえないように呟いた。

 

 

「遠坂……あいつは、やっぱり性犯罪者だったんだな!?」

 

遠坂凛が連れていた褐色の男性英霊が性犯罪者で目の前の遠坂凛が自身の貞操を守るため、朝まで苦戦し遂に先程勝利を持って貞操を死守したと言う構造が脳内に浮かび上がっていた。

そんなビジョンが思い浮かんだため凛を見る士郎の視線が労りと心配の色を含んでいた。

 

「マスター、すまないがこいつを始末して来る」

 

額に青筋を立て、霊体と成っていた遠坂凛の弓兵サーヴァントアーチャーが姿を現して衛宮士郎を始末しようとする。

 

 

ハアと溜息を吐く遠坂凛。

 

「落ち着きなさい、アーチャ―。衛宮君、心配してくれてどうもありがとう。でも、恐らくあなたが思っていた事は何も無かったわ」

 

 

「朝起きたら部屋、もしくは家がイカ臭く無かったか?」

 

心配そうに凛に尋ねる士郎。

 

「ほう!貴様はどうあっても私を性犯罪者扱いしたいらしいな衛宮士郎」

 

そして、そんな遠坂を心配する士郎にブチ切れの弓兵の英霊。

ぶっちゃけ、大人気無い様にも思える。

 

「だってお前、遠坂と一緒に住んでいるんだろ?」

 

「…ああ」

 

「なのに、一つ屋根の下で暮らしているのに名前を名乗らないなんておかしいじゃないか!?」

 

「!?あ、いや、私には記憶が「はいはい、自演乙」……」

 

「っていうか、お前なあ。都合よく記憶喪失とかSNG(それ、なんてエロゲ)だよ。在り来たり過ぎんだろ。もうちょっと説得力のある言い訳をしろよ。そんな言い訳中二病患者の中学生でも思いつくわ」

 

弓兵の英霊アーチャ―のプライドはズタズタだった。

英霊として聖杯戦争のよるべに従い現界したのに、現れてみれば性犯罪者呼ばわり。

召喚の時に凛が予定より速い時間で、しかも英霊の召喚触媒と成る聖遺物無しでの召喚の為、記憶が混濁し自分が誰だかわからない状態で召喚された。

そんな、どうしようもない状況で事実に程近い言い訳すれば、中二病患者の中学生以下の言い訳だとダメ押しされるありさま。

 

しかも、目の前の人物に喧嘩なら余所でやれと命を賭ける神聖な儀式とも言えるこの戦争、言わば聖戦中に乱入してきて自分と殺しあってたランサーの二人を殴り飛ばした。一般人に。否、厳密にいうなら一般人では無く魔術師見習いである衛宮士郎に殴り飛ばされた。一般人に程近い存在の相手に英霊と呼ばれる功績まで昇華した自分が殴り飛ばされた。幾らランサーと殺しあっていた最中油断があったとはいえ、殴り飛ばされた。その事実のみだけでも消し去りたい過去を作られた一般人に程近い魔術師見習いに。

ぶっちゃけ、英霊としてのプライドがズタズタにされたのだ。

 

今すぐにでも殺したいのだアーチャ―は。

 

そのせいで、頭はプルプルと怒りで震え額には青筋が3つほど更にできていた。

 

 

ぶっちゃけ、怒りの臨界点を突破しようとしていた。

 

「……アーチャ―。あなた、今日から家の外で寝てね。後で魔術で犬小屋を作っとくから」

 

そんな彼の様子を見た凛は、彼が真実を指摘されて焦りで怒っているのと勘違いしていた。

 

「凛!?君は、自分のサーヴァントの言う事を信じずに、見ず知らずの男の言う事を信じるのかね!?しかも、犬小屋!?私は君にとって犬扱いなのか!?」

 

「俺ならこんな図体のデカいかつ不細工な犬はいらないな」

 

「お前は黙ってろ!お前の所為で私の存在は犬扱いなんだぞ!!」

 

「遠坂……流石に犬小屋は木製で人間の家と同じ造りにしてやれよ」

 

「ええ。私がやらないから 綺礼にやらせるから心配しないで。そこら辺は大丈夫でしょう。あ、アーチャ―。この前首輪貰ったからあげるわ。これを付けなさい。付けないって言うんなら令呪を使うから」

 

「……遂に私は犬扱いか」

 

遠坂凛はポケットから首輪を取り出すとアーチャ―に渡した。

アーチャ―はその首輪を受け取ると自身の首に付けた。

 

因みに、その首輪にはred one chanseと書かれた銀のプレタブがあった。

 

★★★



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キャスターとの遭遇

「…何なんだよあれは!?」

 

「マスター?」

 

学校に来ていた士郎の友人であり、此度の聖杯戦争の参加者であるライダーのマスター間桐慎二は、廊下の端で信じられないものを見たと言いたげな表情を浮かべていた。

 

彼の背後には霊体化したライダーが彼を警護しており不思議そうな表情でマスターである間桐慎二を見ていた。

 

彼の視線の先にあるのは学校のアイドルとも言われる遠坂凛が士郎と楽しそうにしゃべっている様子が窺える。

 

「……ふざけるな、ふざけるなよ!!」

 

「あの、ま、マスター?」

 

英霊であるライダーも恐れる様な覇気を纏い、慎二は憤怒の表情を浮かべる。

実際にライダーは見る者全てを殺さんとする様な覇気を出す慎二に怯えて2,3歩後ずさっている。

 

生物としての本能がライダーを後ずらさせたのだ。

 

それほどまでに慎二は怒れ荒ぶっていた。

 

狂戦士という言葉はまさにこの時の慎二の為に作られていたのかもしれない。

 

慎二から発せられる英霊であるライダーすらも後ずらせる異様な覇気に彼の近くを通る人は立ち止まり廊下の隅へと移動しびくびくと怯えながら慎二の為に道を作った。

 

その様子はモーゼの十戒を人で歴史再現させたの如く人が割れた。

 

 

「来い、ライダー!」

 

「マスター、どちらに行かれるのですか?もうすぐ授業とやらが始まりますよ?」

 

士郎と凛が楽しそうに談笑している様子を見た慎二は覇気を纏い踵を返すと向かっていた方向と180度旋回して疾風の如く廊下を駆け抜ける。

 

ライダーもその後に続いて慎二の後を追う。

 

時間はもうすぐ8時45分。

あと5分で予鈴が鳴る。

 

だと言うのに慎二は来た道を戻っていく。

 

 

 

「んな物は後回しだ!授業なんて今の僕にはどうでも良いんだよ!!」

 

どうでも良くは無いけどとぼそりと呟く慎二。

しかし、そう呟いている間も走っており今の彼ならばランサーと徒競走でいい勝負が出来るかも知れないほどの速度な為ライダーはついて行くのがやっとといった状況だ。

 

人間やればできる物なのだ。

 

 

慎二はライダーを引き連れ学校の校舎を出ると駐輪場に走った。

 

「乗れ、ライダー!お前の名がライダーに相応しいならばその力を見せてみろ」

 

「……はい!」

 

ライダーに駐輪場に止めてあった自分の自転車を乗せると自分は荷台に跨った。

自転車に乗ったライダーの目が輝き慎二にライダーの名に相応しい力を見せる事と成る。

 

大きく前輪が浮き、慎二は地面に引っ張られるような感覚に陥るが地面に落ちる事は無く、宙に浮いた前輪が地面に着地するとともに自転車は加速の一方となる。

 

学校の校門が閉まり始めようとする時に土煙を上げながら校内を爆走する自転車に気づいた校門を占めていた警備員のオッチャンが驚いて作業を中断させたために校門は自転車がちょうど一台分ぐらい入れるスペースで停止した。

 

そのスペースをライダーは見事な自転車さばきで減速する事無く通過する。

見事な神技。まさにライダーに相応しい名を持つだけある。

 

土煙を巻き上げながら慎二は学校を後にした。

 

◆◆◆

 

「それじゃあね。衛宮君」

 

銀のプレタブを自身の英霊に渡した遠坂は予鈴が鳴ったため俺の前から姿を消した。

 

「ハア、少し憂鬱だ」

 

昼休み屋上で待ち合わせを約束したんだが何処から話していい物か悩んでしまう。

 

恐らく予測ではあるが遠坂には未だ俺が契約しているキャスターの事に気づかれてはいないだろう。

 

遠坂から見れば俺がセイバーのマスターだと思うように見えるはずだ。

 

そう、その方が都合がいいのだ。

何故なら、俺とキャスターの令呪を合わせると全部で6つ。

つまり、他の人よりも令呪多いのだ。

 

令呪とは、物理的に不可能な距離を聖杯が令呪を使用する事によって可能にしてくれると言う素敵アイテムであり、絶対命令権。

 

つまり、無茶が利く素敵アイテムがマスター一人に聖杯から3回だけのその素敵アイテムが支給されるのだが、俺とキャスターの策略により令呪が普通の人よりも3つ多い。

 

無論、令呪はその特性上無茶ぶりな為そのマスターの技量にもよるが、普通は永続的な物は効果が薄く一回だけの単発的な命令は叶い易いらしい。

 

まあ、今この学校内でセイバーが必要と成り令呪を使用してセイバーを召喚するとなるならば、俺→(令呪使用)キャスター→(令呪使用)セイバー召喚と、一度に2つも令呪を使用しなければならないが、それは、他のマスターの眼を欺くために必要な儀式だと割り切るしかない。

 

それに、キャスターが例え裏切ったとしても俺の願いは成就する。

 

つまり、どの道キャスターが裏切ろうと裏ぎまいと聖杯への願いは成就する。

キャスターが生き残ってくれさえすれば。これは、キャスターすらも知らない事だ。

無論、男として最後の一画の令呪を残したままこの聖杯戦争に無事勝利し、聖杯が顕現した時に令呪を使いたいがどうなるか分からない。

だが、キャスターが生き残ってさえすればこの聖杯戦争は勝ちだ。

 

ふと瞼を閉じると、思い出される幼い日の記憶。

 

『僕はね、正義の味方に成ろうとしたんだ。正義の味方は期間限定だったけどね』

 

かつて爺さん衛宮切嗣は、俺、衛宮士郎にそう言った。

だから、俺は、

 

『なら、俺が正義の味方に成ってやるよ』

 

そう約束した。

幼い日の約束。

 

あの灼熱の地獄から救われた衛宮士郎と言う幼い子供の約束。

それは、その日灼熱の地獄で救われた恩を感じたのかもしれない。

それとも、あの地獄で命を救ってくれた恩人にあこがれを抱いていたのかもしれない。

 

今と成っては解らないし、忘れたが衛宮士郎は確かにそう約束した。

 

 

場所は移り、雨が降る人気の少ない通り道で初めてキャスターと出会った時彼女は酷く傷ついていた。

 

ローブの下から所々切り傷があり、

 

「おい、大丈夫か?」

 

 

俺が声をかけると彼女は

 

「誰!?」

 

警戒心MAXでこちらを見た。

その吐息は息切れをおこし、瀕死の状態なのは素人の俺の眼から見ても明らかだった。

 

「お、落ち着け。俺は敵じゃない」

 

彼女の周囲に浮かぶビームの弾丸の様なものが浮遊する中俺はその場で右手に傘、左手に学生バッグを持った感じで万歳をして彼女に敵意が無い事を現した。

 

「……追手ではなさそうね。良いわ。今見た事は忘れなさい坊や」

 

彼女はそう言って踵を返すとろかたのかべを使ってゆっくりと移動を開始した。

素人の眼から見ても彼女は重傷だった。

 

何せ、脚を一歩動かすたびにの彼女の足元に血が一滴、また一滴と流れていっているのだから。

 

「ほら、しっかりしろ。肩を貸してやるから歩け。俺の家がもうすぐだからそこまで歩けば応急手当位は出来ると思うぞ」

 

気が付けば衛宮士郎は彼女に肩を貸していた。

当時の俺にとって正義が何なのか解らない為、困った人を助けると言う事に専念していた。

 

命を助けられた衛宮士郎にとって正義の味方に成るという目標が衛宮士郎の存在価値だと言う強迫概念にかられたからだ。

 

「……」

 

彼女は驚いた表情で衛宮士郎を見た。

 

「何が目的なの?」

 

何が目的なの?と聞かれてもどう答えていいか反応に困るわけでして、まさか正義の味方に憧れて頑張ってます!って言えるはずも無く…ただ、

 

「困っている人を助けるのに理由なんていらないだろ?」

 

あああ!!思い出しただけでも恥ずかしい!!

あの時の俺に出会えるならば殴りたい!

 

何が困っている人を助けるのに理由なんていらないだろ?だよ!恥ずかしすぎて涙が出そう。

 

でも、彼女はその言葉を聞くと倒れた。

おれはただ、彼女がけがを負わない様に倒れる彼女の体を抱きとめた。

 

 

「……ここは、何処?」

 

その後、自分の荷物を片手に持ち、彼女を背負いながら俺は家まで帰ると彼女のローブを悪いと思ったが剥ぎ取り傷に消毒液を塗って液体ばんそうこうで傷止めをすると布団を敷いて彼女を寝かせた。

 

こんな時に女手が居ると彼女の濡れた服を着替えさせてやる事も出来たんだろうが俺がやると犯罪臭がする、というか犯罪に成るため俺は布団に寝かせる事しかできなかったのだが、布団に寝かせて二時間半ぐらいたち、近くのコンビニでスポーツ飲料を買ってきて彼女の様子を見に行くと彼女は目を覚ました。

 

彼女の起きる姿に息をする事を忘れた。

 

ローブを脱がさせて貰った時に彼女が普通の人と違うと言うのがすぐに分かった。

何故なら彼女の耳が、漫画とかでたまに出て来るエルフ耳だったからだ。

 

だが、彼女の起きる姿に更に神秘とも言える美しさがあった。

 

「…ああ、すまない。ここは、俺の家。せめて応急手当だけでもしたかったんでな。俺の家に連れ込ませてもらった」

 

その姿に一瞬我を忘れてしまった。

 

―――欲しい

 

 

(はっ!!!何思ってんだ俺は!?)

 

その姿に心を奪われそうになった。

 

(ああ!クソッ!クソッ!!一体どうしちまったんだ俺は!!!)

 

 

キャスターの前で自分を落ち着え思考を正常にさせる為に畳みにがんがんと頭を打ち付ける士郎。

 

「あ、あの、坊や?」

 

その奇行を少し引きながら士郎の顔を見ると

 

「……!!!」

 

士郎は顔を真っ赤にさせてズザザーと座ったままの状態で驚いて引き下がる。

何故なら、キャスターと顔を上げた士郎の顔の距離が近く、キャスターを意識してしまう士郎にとっては意識するなと言うのが無理な話だったからだ。

 

「ああ、すまない。目の前に凄い美人が居たもんだからつい意識してしまった」

 

「お世辞でもありがとう…と言うべきなのかしら?」

 

「お世辞なんかじゃないさ。実際凄い美人だしな。それよりもお前、傷の具合は大丈夫か?」

 

「ええ、お陰様で。でも坊や、貴方馬鹿ね」

 

そう言うとキャスターは士郎の目の前に左人差し指を突きだした。

 

「貴方が私に介入したせいで貴方の記憶を消さなきゃいけないじゃない」

 

それが何らかの魔術か暗示であることは解るが半人前の魔術師である衛宮士郎には何をされそうになっているのか解らない。

もしかしたら骸に成るかもしれないし、廃人に成るかもしれない。

 

だが、半人前の魔術師である衛宮士郎でも今理解できる事がある。

 

それは―――

 

「こら!怪我人なんだから休んでなきゃ駄目だろうが」

 

目の前にいる美人が怪我人であると言う事と動こうとしている事。

キャスターの両肩を掴み押し倒す様に敷き布団に寝かせる。

 

キョトンとするキャスター。

 

それもそうだろう。

何せ記憶を消そうとした相手に逆に気を使われたのだから。

 

「何が食いたい?刺身か?あ~、でも見た目外国人っぽいしな~。生魚食うか怪しい所だ。あ、外国人って言えば箸も使えないかもしれないだとしたら箸を使わない料理が良いか?箸を使わない料理…ラーメンは箸を使うけどフォークで食えなくもない。しかし、今からラーメンを作るとなるとチャーシュー作りから始めて麺を生地から作らなきゃいけなくなる。ん~と~、そうなると食事は22時ぐらいに成りそうだな。うん、ラーメンは無理。他に特異な料理は……肉じゃが、ピザ、カレー、オムライス、パエリア、餃子、から揚げ、炒飯。ハンバーグは誰でもできるだろうし、スパゲッティ―も楽だから作った気がしないので却下。鍋…は、具材をぶち込むだけだから楽かつ、処理する人数が居ないので却下」

 

あ~だこうだとキャスターの為に今日の献立を考え思考を張り巡らす士郎を見て、キャスターは顔を半分だけ布団から出した状態でクスリと笑った。

 

「どうした?」

 

不思議そうに尋ねる士郎を見てキャスターは

 

「坊やって……馬鹿よね」

 

「五月蠅い。ほっとけ」

 

図星を突かれ、子供みたいに拗ねたようにそっぽを向く士郎。

そのままそっぽを向いた状況で

 

「怪我人は大人しく俺に世話をやかれてろ。それと、俺の名前は士郎。衛宮士郎だからな!坊やって言われるような年じゃないし、言われて喜ぶようなそんな特殊性癖も無いからな!?」

 

顔を真赤にさせながらキャスターを寝かせている部屋から出て行く。

今日の献立も決めてないまま。

 

 

「……誰もそこまで言ってないし、深い意味なんてなかったのだけれども」

 

ハアと布団に横に成った状態で溜息を吐くキャスター。

キャスターからしてみれば別に他意は無く、士郎の事を癖で坊やと呼んでいただけなのだ。

 

でも、

でも、と思ってしまう。

 

(―――気持ちが良い)

 

サーヴァントとして現代の魔術師によって聖杯戦争に勝ち残るための道具として召喚された。

無論、それが正しいのだろう。

だが、意志を持っている。自我を持っている。例えその命が、仮初の命であろうと身体であろうと自我を意志を持っているのだ。

 

道具として扱われていた少し前の記憶と今の現状を比べてみると、人間扱いされている。

 

天と地ほどの差だ。

 

(―――相手は半人前の魔術師みたいだし、特に脅威には成りにくそうね)

 

神代の魔術師である彼女からしてみれば現代の魔術師は特に脅威に感じない。

子供が精いっぱい大人に見えようと頑張って爪先立ちで経っている様にしか思えない。

 

(まあ、助けて貰った恩もあるし名前で呼んであげても良いわよね。うん、不自然では無いわよね?)

 

半分自己便宜をするように自分に言い聞かせ、取りあえず小さい声で「……し、士郎」と呼んでみる。

 

(ええ、変では無いわね!?彼も坊やと呼ばれるのは嫌いみたいな口調だったし、士郎と呼んでも構わないわよね?)

 

そして、もう一度

 

「……士郎」

 

と呼んでいると当の士郎本人が「え~と~、カレーにしようかと思ったんだが食えるかな~」と呟きながらキャスターの横に成っている部屋に入って来た。

 

ばったりと視線が合う二人。

キャスターの「士郎」と呼んだ奇麗な音色の声は士郎の耳に入り、士郎はその声を聴いて顔を真赤にさせる。

キャスターもキャスターで士郎に聞かれた事が分かると顔を真赤にさせて布団の中に潜り込んだ。

 

士郎は士郎でキャスターの部屋から逃げるように出ると部屋の扉を背にした状態で互いの姿が見えないようにすると、

 

「あ、あのさ、今日の夕食の献立はカレーにしようかと思うんだけれども米って食えるか?」

 

「え、ええ!!勿論よ!ありがたく戴くわ!」

 

互いに顔を真赤にさせた状態で気まずい空気が流れる。

士郎は、キャスターの様な美人に「士郎」と呼ばれた事で嬉しくて顔を真赤にさせ、キャスターはキャスターで当の本人である士郎に名前を呼ぶ練習をしていた所を見られ恥ずかしさがキャスターを支配していた。

嬉しさと恥ずかしさが入り混じり気まずい空気が二人の間を流れる。

 

その様子を見ていた衛宮邸に植えられている観葉植物ソテツさん(♂16歳)は、イチャイチャしやがって!こちとら観葉植物なんだから俺の前でイチャイチャしてんじゃねえよ!根を張って動けない独り身の俺に対する嫌味か、こら!?と負のオーラを醸し出し、電線で一休みしていた永遠の一匹烏、通称孤高の八咫烏さん(♂24歳)は、カー!こちとら24年の歳月を生きてるのに雌が寄ってこず、逆に強い雄が己が強さを証明するために寄ってくる状況なのに高々18位の餓鬼に春が着やがって!!糞喰らえ!と逆恨みで士郎目掛けて糞を落とした。

 

無論、糞は衛宮邸の屋根に落ちるだけで士郎に掛る事は無く、その様子を見た孤高の八咫烏さんは、絡んでくる雄で憂さ晴らしするカ―!とその自慢の翼を羽ばたかせ衛宮邸を後にした。

 

これは、遠坂とそのサーヴァントと遭遇する3週間前の出来事だった。



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リア魔

お久しぶりです。
少ない文字数ですがどうぞ


 キーンコーンカーンコーンとお昼の鐘がなり、午前中の授業が終わると俺はすぐ教科書とノートを片付けて急いで屋上へと向かう。

 あの学園のアイドル遠坂の事だ。優等生の鏡と言われるアイドルを相手に遅刻すれば何を言われるかわかったもんじゃない。

 

「ハアハア」

 

 急ぎ屋上の階段を駆け抜け屋上の扉を前にする。

 呼吸を整え、ガチャリと音をたてながら扉を開くと

 

「誰も居ないみたいだな」

 

 どうやら遠坂はまだ来てないみたいだった。

 

「だったら都合が良い」

 

 遠坂が来るまでの間に修行…というか課題をするとしよう。

 俺の師であるキャスターから出された課題、それは二つの魔術を理解する事。

 

 キャスター曰く、爺さん…衛宮切嗣の魔術と俺が本来持つ魔術が俺の体の中にあるらしい。爺さんと約束して後日、衛宮の血を俺は受け継いだ。魔術刻印と呼ばれる物を俺は爺さんから引継いだのだが、キャスターという師を得て問題が発覚した。

 俺も元来魔術の素質があったみたいで衛宮の魔術と俺独自の魔術が相互作用しあっているみたいなのだ。

 養子である俺は衛宮の血を引き継いでなど居ないため、今後どうなるか解らないらしいのだ。歪で危うい状態と言うのが専門家のキャスターの見解だ。

 

 なので自分自身を知らなければいけないらしく、俺は座禅を組んで目を閉じて精神統一をし魔術回路に魔力を流す。

 

 歪み、淀み、複雑に交わり絡み合った魔術回路。

 それらに魔力を流すことで今の状態を探る。絡み合った糸の如く混濁した魔術回路。

 

「!?」

 

 魔術回路に魔力を流すのをやめ、意識を体内から戻す。

 汗がびっしりと体のあちこちから流れ、体は熱を帯びている。

 

「…不味いな」

 

 魔力を通して解ったことがある。

 爺さんの家系の魔術と俺が本来持つ魔術、それらが一部混濁し結合している。

 これは、俺の生い立ちに関係することだろう。8年前のあの出来事で俺はPTSDになった。あの時の過剰なストレスにより俺は自分を忘れてしまったのだ。

 

 気がつけば俺はあの出来事以前の記憶を無くしたのだ。爺さんに助けられてからの記憶はあるのだがそれ以前の記憶が全く無い。思い出そうとすると激しい頭痛に苛まれるのだ。

 

 ガチャリと扉が開く音が聞こえ、俺は視線をそちらに向けると

 

「あら?衛宮君、もう来てたの?」

 

そこには学園のアイドルがいた。

 

「時間前に来るなんて感心感心」

 

「別に普通だろ。そんな事よりも遠坂、用件を済ましてくれ」

 

「まあ、良いわ。早速で悪いんだけど衛宮君、私と組む気は無い?」

 

 それは突然の出来事だった。

  

「俺が遠坂と組む?」

 

「ええ、そうよ。一人より二人の方が良いでしょうしね」

 

「……」

 

「何よりも駒が多い事の方が良いもの」

 

 そうか。遠坂は、こいつは俺の俺らの事を駒としか見ていないのか!?

 英霊という強力な存在を駒と考え、聖杯を得ようとしているのか…

 

「衛宮君、貴方半人前の魔術師でしょう?私が-―」

 

「その前に一つ聞かせてくれ、遠坂」

 

「何?」

 

「お前は聖杯に何を望むんだ?」

 

「え?特に無いけれども」

 

 予想外の事を聞かれたのか不思議そうな表情をする遠坂。

 

「ほら、私個人としては特に願いは無いけれども聖杯手にすることは遠坂の悲願なの」

 

 そうか。遠坂は、こいつはー

 

「だからね」

 

ー何の願望も無く、ただ家系の為に動いているだけなのか!?

 

「私はー」

 

ならば、

 

「聖杯を」

 

俺は

 

「手に入れる」

 

 倒す!

 己の欲望も無い人間に勝利を譲ってやる程のお人好しではない。キャスターの為にもこいつは倒さなければいけない。

 

「そうか……すまない、遠坂。だったらお前に協力は出来ない」

 

「……」

 

「俺には叶えたい夢がある。願望が……だからお前に協力をしてやる事は出来ない。ただただ、家系に縛られてこの戦いに参加するお前に聖杯を譲るつもりはない!!」

 

俺がそう宣言すると遠坂はハアと溜息を吐きながら「仕方ないか」と呟いた。

 

 

「まあ、あなたも魔術師みたいだしね。令呪が現れたのもあなたに願望があり聖杯があなたを選んだから。当然っちゃ当然か~。まあ良いわ。次に会った時は敵だから覚悟しておいてね、衛宮君」

 

 遠坂はそう言い残して屋上を後にした。

 一人になった屋上で俺は

 

「って事なんだが、良かったか?キャスター」

 

 俺がそう何もない所に話しかけるとキャスターが現れた。

 紫のローブを頭まですっぽり被った俺のエルフ耳の魔女妻(仮)さん。この姿も良いがやはり頭を隠すのはやめにして貰いたいな。折角のエルフ耳が台無しだ!

 爺さんと正義の味方になると言って何度見た事か!日曜の朝8:00のテレビ番組を正義の魔女である女の子達を!!

そう!おジャ魔女ド〇ミを!!

 リアル魔女――略してリア魔が俺の嫁(仮)となった今俺の元趣味はイリヤ姉に受け継がれている。

 俺はド〇ミちゃん達と過ごすであった時間を嫁さんとイチャコラとリア充生活をしながら過ごしています。さらば俺の正義の味方ド〇ミちゃん達!二次元も悪くはなかったが、俺が生きる世界は三次元なんだ!!すまない!君たちとは生きる次元が違うんだ!!

 

等と考えているとこつんとキャスターに頭を叩かれた。

 

「……ハア、あのそろそろしょうもない思考の海から帰って来てくれるかしら?」

 

呆れたようにそう話しかけて来るキャスターだが、心なしか顔が若干赤い。

 

「ああ、すまない」

 

あ~、流石先生。俺の思考がバッチリと読まれていますね~。

うん、自重せねば。

 

ごほんと咳払いをして気持ちを切り替える。

 

「それで、先ほどの件なんだが」

 

「ええ、マスターの判断は正しいかと。こちらにはセイバーとバーサーカーが居ます。アーチャー一人位ならどうにでもなると思いますが」

 

「ああ、だが他のマスターと手を組まれたら少し厄介だぞ?」

 

「ええ、ですから戦力を少しでも増やすために準備をしているんですよ」

 

妖しくローブの下から微笑むキャスター。

その笑みは背筋から嫌な汗を流す笑みで――

 

「さあ、帰ったら魔術と体術の特訓ですよ?マスター」

 

――俺の将来の人生を悟らせた。

 

拝啓、爺さんへ

 

どうやら俺は将来嫁さんの尻に敷かれそうです。

これも衛宮の魔術刻印を受け継いだ弊害なのでしょうか?

 

生きていればまた会いましょう――



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変態竜牙兵

「ねえ、衛宮君。私、昼休みにきちんと伝えたわよね?」

 

 放課後、俺は遠坂に会った。

 出会ってしまった。バッチシと階段で。

 青筋を浮かべ、良い感じの笑顔を浮かべる遠坂。うん、怒ってますね。ハイ、激おこぷんぷん丸です。

 

「あ、いや……やあやあ遠坂奇遇だな。うん、あ~いや~学園のアイドルと呼ばれる遠坂に出会うなんて今日の俺は運が良いな、うん!」

 

「衛宮君、あんたねえ……今日の昼もあったし、もう放課後じゃないの!お世辞言うにももう少し状況を考えなさいよ!!」

 

 

「あ、いや、なんかすまん!」

 

「あ~、もう!あったまに来た!」

 

そう言って遠坂は腕を捲るとそこには魔術刻印があった。

 

「魔術刻印!?」

 

「あら、やっぱりあなたも知ってるのね。これを。そう、これは魔術刻印。この中に組み込まれてる魔術を私は瞬時に発動できるの」

 

「凛、私が相手をしようか?」

 

 腕を捲り俺に魔術刻印を見せてくる遠坂と俺との間に割って入ったように現れるアーチャー。

 

「いいえ、その必要はないわ。アーチャーあなたは他のサーヴァントが現れた時に対処をお願い。サーヴァントの護衛をつけていないへっぽこなんて私一人でどうにかなるわ」

 

 

「へっぽこ!?」

 

 

「了解した。そんな半人前の魔術師以下のへっぽこ等君一人でどうにでも成るだろう。だが、まあ気を付けておいて損はあるまい」

 

 そう言い残してアーチャーのサーヴァントはニヒルな笑みを浮かべて霊体化して消えた。

 なんて奴らだ!半人前なのは間違いないが幾らなんでもへっぽこ呼ばわりとは…これは幾ら冬木の羊と呼ばれる士郎君でも激おこである。現在進行形でキャスターの下で修行中ではあるのでへっぽこ呼ばわりは頂けない。羊をなめてもらっては困る。温厚な羊が怒るとどうなるかこれは是非とも遠坂には骨の髄まで知ってもらう必要がある。

 

「遠坂、ここでの戦闘はまずいって。一般に知られちゃいけないんだろう!?」

 

「衛宮君、私は目の前にあるチャンスを逃す事はしないの」

 

「何を言って…」

 

「良く周りを見てみなさい」

 

遠坂にそう言われて周囲を見渡すと生徒はおろか先生すらいなかった。

 

「人払いの結界か!?」

 

「ご名答よ」

 

「そうか……なら、ありがとうよっと!」

 

 急ぎ階段を飛び降りる。

 着地の衝撃で足がじんじんするが、そんな事を気にしている場合ではない。

 

「な!?こら、待ちなさい!!」

 

 急ぎ俺の後を追ってくる遠坂。

 魔術に関しては俺は遠坂以下である。魔術戦では圧倒的に不利。なので、念話で助っ人を呼ぶことにしよう。

 

『キャスター、すまないがヘルプを頼む』

 

『だから聖杯戦争中は護衛もなしに学校に行くなんて無謀だと言ってのよ!この馬鹿!帰ったら説教は覚悟しときなさい!』

 

『あ、それは勘弁……あ、でも、怒るお前の姿を見る事が出来るなら……それもありか?』

 

『もう、馬鹿!強化魔術を全体にかけておくから竜牙兵が現れるまで持ちこたえときなさい』

 

 そう言って念話が切られ俺の体に強化魔術がかけられ階段を飛び降りるたびに着地の際の衝撃が消えた。

 良し、これで幾分か走る速度が速くなった。

 

「チッ、待ちなさい!!」

 

 そう叫ぶ遠坂の声が徐々に遠くなり幾分か距離を離す事に成功したのが解る。

 階段を飛び降り、遠坂と距離を離すと階段の隣の空き教室に入り込む。鍵をかけて出入り口をロック。

 

「間に合うか……」

 

出入り口の扉を中心に廊下側の壁に手を当てると

 

「トレースオン」

 

壁に強化魔術をかける。

 俺がやる役割は竜牙兵が現れるまでの時間稼ぎ。別に遠坂に魔術戦で勝利する事では無い。

 

 壁に強化魔術をかけ終わると教室の机の一つを倒し楯にして強化魔術をかける。

 

 

「もう逃がさないんだから!!」

 

やべ!遠坂の声が教室の扉越しに聞こえる。

 

「さあ、観念しなさい!!」

 

 その言葉と共に壁の向こうから機関銃の如き速さで放たれる魔術弾が強化した壁にぶち当たる轟音が鳴り響く。

 

「ああ、もう本当面倒くさいわね!!」

 

 

 あら、聞きました奥さん?遠坂さんの優等生の仮面が今はがれましたわよ?等とキャスターが居れば漫才をしたいところだが、まだ壁を貫いていないだけで轟音は現在進行形で鳴り響いており壁がいつまでもつか解らない以上更に防御を固めておく必要がある。一つの机に強化魔術を施し終えたらまた次の机を倒し楯にして強化魔術を施していく。

 

「フフ、さあもうすぐよ!」

 

遠坂の言葉にぎょっとし強化魔術を施した壁を見るとそこには亀裂が走り、まもなく壁が防御壁の役割を終えようとしていることを告げていた。

 

クソ!いざとなったら遠坂と戦うしかないのか!

 

 二つ目の机に強化魔術を施し終えると俺は掃除用具入れのロッカーの中から箒を取り出し強化魔術をかけて強化魔術を施した机の陰に隠れる。

 陰に隠れ終わると同時に壁が破壊され壁の向こうから無数の魔力弾が教室内に撃ち込まれる。

 

「グッ!」

 

強化した机を盾にしているが魔術弾を受ける度に振動が腕を伝い全身に走る。

こんなんを生身で受けていたんじゃあ命が幾らあっても足りやしないぞ!

 

徐々に徐々に伝わる振動が強くなっていく。

 

「このままじゃあジリ貧か」

 

何時キャスターの放った竜牙兵が到着するかわからない以上遠坂との戦闘も頭に入れておいた方がいいだろう。強化魔術で強化した壁が壊された以上戦闘は避けては通れない!

 

強化した箒を握りしめ、机を盾にし遠坂に強襲をかけようとしたその時、それは起こった。

 

 

「キャーー!?」

 

 

女子生徒の甲高い悲鳴が廊下を伝って教室内に響き渡る。

 

悲鳴の影響で遠坂から放たれる魔術弾が止まり俺は急いで遠坂の傍に駆け寄った。

 

「遠坂、今の!」

 

「ええ、悲鳴よ。まさかとは思うけど他のサーヴァントの襲撃!?」

 

「今すぐ悲鳴の下に行かないと!」

 

俺はそう言い残して廊下の窓をぶち破って1Fに降り立つ。そう言えば、よくよく考えてみれば俺が居たのは2Fなんだから1Fに窓を割って飛び降りればよかったんじゃないかと思ってしまったが後の祭り。

 

悲鳴のあった教室に行くとそこには

 

「フン!」

 

「……なんだこりゃあ!?」

 

パンティーを頭に被った竜牙兵とあれは、女子の体操服だろうか?を着た竜牙兵。

そして、極めつけはブ、ブラジャーをバスケットボールに引っ付けて遊んでいる竜牙兵達。そんな竜牙兵を駆除せんとばかりに黒と白の双剣で斬りかかるアーチャー。という奇妙な構図が出来上がっていた。

 

アーチャーが一体倒すたびに更に二体現れ、それが永遠と繰り返される。

しかも、竜牙兵は戦う意思がないのかその手に武器を持ってはおらず手を叩き、アーチャーを挑発しているのかブラジャーを付けたバスケットボールをこちらによこせととパスを誘っているのか分からない状態であった。

 

『……キャスター』

 

急ぎキャスターに念話をすると

 

『ええ、見てるわよ。だって、仕方ないじゃない!竜牙兵達に貴方が学校のどこにいるか伝え忘れちゃったんだもの!彼らもない頭を使って騒ぎを起こせばあの小娘が飛んでくると思ったのよ!』

 

上手いことを言ったつもりなのだろうか?だが、これでハッキリした事がある。

どうやら俺の未来の嫁さんはうっかり家さんみたいです。



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騎士王の願望

「そう言えばセイバーって聖杯に願う願望って何なんだ?」

 

スケルトン…俺がそう呼ぶ竜牙兵達による学校襲撃で遠坂とのこ競り合いは結局うやむやになり学校から下校途中にふとセイバーの願望を聞いてない事に気づいた俺は帰宅するとリビングにいたセイバーに問い開ける。

 

ソファーでテレビを見ながらポテチを食されていた騎士王様はお茶を飲みこんで口を開いた。

 

「私の願望…ですか?特にありません」

 

「あれ?いや、でも、ほら、ブリテンの滅びを変えたいとか無いの?」

 

アーサー王伝説。少しパラ読みした程度だがその結末はカムラン丘にて息子のモルドレッドとの一騎打ち。なんやかんやで結局ブリテン滅びちゃったんだが、この騎士王様はどうお考えなのだろうか?

 

「いえ、全く」

 

そうきっぱりと答える王様。

あれ?

 

 

「ブリテンが滅びたのは残念ですが、それも仕方ないこと。我が騎士や民草たちはよくやってくれたと思いますよ」

 

 

……あれ?益々おかしい事に成った。それじゃあ、セイバーは何のために戦っているのだろうか?女の子を戦場に立たせていては正義の味方の名が廃る。ここは是非ともその真意を聞いておかなければ

 

 

「えっと~、それじゃあ、セイバーは何のために戦っているんだ?」

 

「それはですね、ずばり聖杯が欲しいからですよ!士郎」

 

「……詳しく」

 

 

 そこから聞いたセイバーの本音。

 私はブリテンを治めた。マーリンっていうクソ野郎やモルガンっていうキチガイがいたけど私よくやったよね?少女時代のままで成長止まっちゃったし。

 え、羨ましい?ふざけんなクソが!貧乳じゃん!!私もうちょっと胸大きくなるはずだったんですけど?

 まあ、愚痴はともかく私よくやったよね?蛮族とかブリテンを守るために円卓の騎士達と頑張ったよ。たまにランスロットがなんか艶めかしい視線を向けてきたけど頑張ったんですけど。

 特に願いとかないけれども、今の時代で言うならば退職金の代わりに聖杯貰っても罰は当たらないよね?ってか、寄越せ!というのが本人の弁。成程、確かに分からなくもない。

 同僚から向けられるいやらしい視線、血を分けた子息との殺し合い。それは、女の子にとって余りにもひどい仕打ちであっただろう。

 

うん。だが、ここはセイバーに聖杯を譲ってもらおう。

特に聖杯に向けて叶える願いがないのならば交渉の余地はあるだろう。

 

 

「そうか、セイバーも大変だったな。俺の理解を超える苦労あったと思う。それは俺じゃなくセイバー自身が知っているはずだ。後世の人間がその人の苦労を知る事なんてできないと思う。そんなセイバーに鞭を打つようで悪いが、今回の聖杯戦争の聖杯を譲ってはくれないか?」

 

 

 ここで彼女に剣を突き付けられても仕方ないだろう。

 俺は彼女にそれだけの事をしただから。

 首を刎ねられたとしてもそれは仕方のないことだろう。それらは甘んじて受け止めよう。

 

 だが、そこにわずかな可能性があるのならばそれに賭けるべきだろう。

 

 それは神が与えてくれたチャンスかもしれない。だが、俺はそのわずかな可能性に賭けたい!

 

 

「俺はキャスターが好きだ。いや、好きなどというレベルを超えて愛している」

 

「……」

 

「俺の愛は狂っているかもしれない。君を傷つけるかもしれない。だが、あえて言おう。俺は、令呪を使って彼女の願いを叶えるつもりだ。この思いは間違っていると思うか、セイバー?だが、俺はこうも思うんだ。惚れた女の願いすら叶えられないで何が正義の味方だと!俺の願いは正義の味方に成る事だ。けれども、正義の味方を名乗ろうとする人物が惚れた女の願い一つすら叶えられないで正義の味方は名乗れないと思うんだ!だから、セイバーに言うよ。俺はこの聖杯戦争を制して彼女の願望を叶えるつもりだし、セイバーに今願う願望がないならば、聖杯を俺達に譲ってくれないか?」

 

 

それは、命がけの交渉だっただろう。

他の魔術師達からみれば異質で異様な光景だっただろう。だが、それで良いのだ。

 

俺はキャスターの横に生涯魔術師として並び立つ事は出来ない。

だが、それでも出来ることはあると思う。世界に対しての最大の嫌がらせと衛宮士郎としての思惑が出来ると思う。それが、令呪を用いてのキャスターの願望を叶えることだ。

 

 神代の魔術師であるキャスターならばうまい事出来そうだ。聖杯が汚染されいようがいまいが、どうでも良い。彼女の、惚れた女性の願いすら叶えられずに正義の味方は名乗ってられない。

 

 それが、切嗣、爺さんとの約束。魔術刻印を継承するうえで交わした約束。

 その内容とは、ただただ、自分の失敗した出来事を後世へと語り聞かせる事。その時の状況であれ、内容であろうとも、それを決めるのは自分達が決め、それが良くも悪くなろうとも一種の判断材料を残し伝えて行く事。それが、爺さん、衛宮切継から衛宮士郎に対しセルフギアスロールによる魔術刻印継承に対する対価であり、未来永劫伝えて行く契約である。

 

 その内容は後世へと養っていく判断材料を培っていくものであり、魔術師という言わば研究職を理解し爺さんが俺の与えた唯一無二の試練。

 

その問いのセイバーは、

 

「解りました。我が剣は貴方に奉げると誓った」

 

「……それじゃあ!」

 

「聖杯を使う予定もありませんので」

 

そう言って微笑むセイバーは女神のような笑みを浮かべていた。

セイバーは元々息をのむ様な美人だ。女神の様な微笑みを浮かべるセイバーについつい見惚れてしまい、聖杯を譲ってくれると言ってくれたので俺はついつい嬉しくなってしまい、

 

「そうか、ありがとうセイバー」

 

そう言って思わずセイバーに抱き着いてしまった。

背中から突き刺さる視線を感じ、

 

「あ~、士郎がセイバーに浮気をしてる~」

 

「士郎、浮気?」

 

「お嬢様、見てはいけません」

 

 そんな声を背中から浴びせられ急ぎセイバーから離れ声のする方向をみるとそこには、イリヤ姉とメイドのリズとセラがこちらを見ていた。

 ってか、いつの間に……

 

「キャスターに言いつけてやるんだから」

 

 

そう言って颯爽と走っていなくなるイリヤ姉。

 

「お嬢様、お待ちください!」

 

その後を追いかけるセラ。

 

「士郎、浮気ダメ。良くない」

 

そう言い残してセラの後を追うリズ。

 

「……終った。俺の人生おわた」

 

 がっくりと全身の力が抜け地面に四つん這いになる俺。

 これでキャスターに嫌われたかもしれない。

 俺の隣にキャスターの居ない世界なんて世界なんてもう、どうでも良い。

 

「どうしたのですか、士郎?」

 

「どうやら今回の聖杯戦争はもう俺達に勝ち目は無くなった。ってか、もう勝つ気が失せた」

 

キャスターに嫌われた世界なんてもうどうでも良いや。

 

地面に突っ伏した状態で悲嘆に暮れる。

 

「マジカル★アイリパーンチ」

 

「ガアッ」

 

突然の背後からの衝撃。

痛い。すごく痛い。死ぬほど痛い

 

「本当、あの子の悪戯にも困ったものよね~セイバー」

 

そして、俺の背中に乗る人物。

四つん這いで痛む頭を押さえながら視線を背中に向けるとそこにはアイリ母さんが俺の背中に座っていた。

母さんは俺の背中に座った状態でセイバーに指示を出す。

 

「ねえ、セイバー。キャスターを道場に呼んできてくれないかしら?」

 

「道場ですね、解りました」

 

そう言って俺と母さんの前から走り去るセイバー。速いな。

 

「さてと、士郎。キャスターちゃんが来たら貴方に少し説教をしないとね?」

 

母さんの美しい顔をこの時ばかりは直視できなかった。

 

「さあ、このあの人に似て女たらしのドンファンには肉体を交えたOSHIOKIが必要みたいね。フフ、腕がなるわ~」

 

「あ、ちょ、母さん!?」

 

 

爺さん、早く帰って来てくれ!!

俺は居ない爺さん、衛宮切嗣に助けを求めるが果たしてこの願いは爺さんに届くのだろうか……



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ゴッドマザー

「グ!」

 

 道場に着いた俺はアイリ義母さんに稽古でしごかれていた。強化した竹刀を持ってアイリ義母さんに襲い掛かるが…

 

「甘いわ、士郎!」

 

 俺の攻撃は義母さんに容易く回避され、逆に義母さんの竹刀が俺を襲う。

 スパーンと防具をつけていた俺の胴に目掛けて竹刀が振られ、衝撃と共に竹刀の良い音が俺の胴から発せられ俺は道場の壁に叩きつけられる。

 

「ッ!」

 

 衝撃が背中から生じ息が出来ない。拙い、先程の義母さんの一撃で壁に激突した瞬間後頭部も打ったみたいだ。頭がじんじんして視界が揺らぐ。視界が揺らぐ中竹刀を杖代わりに立ち上がろうとするが揺らぐ視界の中でイリヤ姉とバーサーカーを見たが、バーサーカーの奴本当に狂戦士なのか?イリヤ姉を壁にしてその後ろの隠れてやがったぞ!

 

……いいや。考えればバーサーカーは本当に狂戦士なのかもしれない。

 ただ、野生の感というか戦士の感みたいなのが働いてビクビクとマスターであるイリヤ姉の陰に隠れるほど怯えているのだろう。

 

 

そう、俺の対戦相手が規格外すぎるだけでバーサーカーの反応は至って普通の反応なのかもしれない。

アイリスフィール・フォン・アインツベルン。アインツベルンの結晶にしてアインツベルンの対聖杯戦争用ホムンクルス。円滑な聖杯戦争をする為に作られた史上最強のホムンクルス。過去の聖杯戦争のデータを元に英霊に襲われた際にでも円滑に聖杯戦争を進めれるように常に中立の立場を維持しながらも襲ってくるサーヴァントに対して厳格なルールの下でペナルティーとして鉄拳制裁を行う事も目標に創られたホムンクルス。

 

 第四次聖杯戦争でその役割を終えた義母さんなのだが、まあ切嗣が義母さんがホムンクルスであり聖杯戦争の重要な鍵である事をアハト翁に説明されていたにもかかわらず駆け落ちと言うか結婚旅行みたいな感覚で冬木市に来たわけだが、まあ冬木市っていったら霊脈とかも凄く良いわけで、しかも聖杯戦争を作ったアインツベルン以外の他の御三家もいる訳。そんな土地に聖杯戦争の鍵となる義母さんが冬木市に来ればもう聖杯戦争始まったんだと勘違いして第四次聖杯戦争が始まった訳だが……まあ、結果悲惨なものとなった。義母さん一回肉体が瀕死に成っちゃうし、中途半端な聖杯のせいで冬木市が何故か大量の津波の様な麻婆豆腐に襲われちゃって俺は勿論の事、麻婆豆腐によって全身の大火傷を負った人も少なくない。未だにひどい火傷のせいで意識が戻らない人もいるという。それにその麻婆豆腐が発生した冬木の公園は未だに麻婆豆腐臭いし。と言う散々な結果をもたらした第四次聖杯戦争も終了し、切嗣はアハト翁にこっぴどくなじられ弄られ怒られ罵倒されたらしい。

 んで、アインツベルンの技術を極限まで使った新たなる肉体が義母さんに与えられたわけだが……これがまた強いのなんの。並大抵の英霊じゃ太刀打ちできないほどの肉体を持ったわけなんだよ。なんでもアハト翁曰く、神話の時代のヘラクレス並みには強いらしい。

 

……んな訳あるか!そのヘラクレスがビビってんだけど!

 詐欺もいい加減にしてほしいわ!

 

「あら、士郎。もうお昼寝かしら?」

 

 美しい規格外のバケモノが小首をかしげておりますよ。ったく、今度一発アハトの爺さんぶん殴らなきゃ割に合わんぞ!

 

「……んな訳あるか!」

 

 俺は竹刀を杖に立ち上がる。少し時間が経過したせいか、さっきよりも観やすい。若干ふらつくが、それでもなんとか動けるまでには回復した。

 

「良い子ね、士郎。それでこそ男の子よ」

 

 微笑を浮かべるアイリ義母さんは美しかった。

 母性と慈愛に満ちた表情とは裏腹に圧倒的強さを持つアインツベルンの最高のホムンクルス。流石、アハト爺さんがアインツベルンの技術は世界一イイイイイ!!と豪語するだけある。因みに、アイリ義母さん他のホムンクルスたちからもその畏怖と敬称を込めてゴッドマザーと呼ばれてたりする。

 

 ジンジンと痛む体に鞭打ちながら立ち上がる。

立ち上がる俺を見て義母さんはフフフと満足そうに笑う。

 

「うんうん、流石私の士郎ね。これでキャスターちゃんも惚れ直すわよ~」

 

「そ、そうかよ」

 

 義母さんはそう言うが、俺がキャスターを惚れ直すなら解るが、キャスターが俺を惚れ直すと言うイメージがわかない。

 まあ、キャスターが俺に惚れてくれるならば嬉しい事この上ないけれども、それでも聖杯戦争を生き残らなければ意味がない。

 

 立ち上がり竹刀を構えなおす。竹刀はアイリ義母さんへと向け息を吐き呼吸を整える。

 足の指先のみでアイリ義母さんとの距離を少しずつ詰める。体は動かさずに脚の指先のみでの移動。

 

「――!」

 

 アイリ義母さんの胴に目掛けて竹刀を振るう。

 

「良い子ね、士郎。貴方の真剣さ、それに応えて私がアインツベルンで監禁されていた時にジャンプの某主人公が使っていた技を再現してみたの。今こそ、その技を貴方に教えてあげる――九頭龍閃!!」

 

 アイリ義母さんの竹刀がぶれ、アイリ義母さんが持つ竹刀が俺に襲い掛かる。

 何かイリヤ姉が、え、嘘!?多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)とか言ってたけど何だよそれ?

 

 アイリ義母さんの技が防具を付けた俺の体に衝撃が走り俺が意識を失うのにそんなに時間はかからなかった。

 

 



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復讐者

「―――っ!」

 

 痛みと共に俺は目を覚ました。

 眼を開けると共に見慣れた天井が現れる。上半身を起こし周囲を確認すると、見慣れた部屋に敷かれた布団の上に俺は寝かされていたみたいだ。

 

「起きたみたいね、マスター」

 

 布団の傍にはキャスターが正座した状態で待機しており俺を看病してくれていたみたいだ。

 

「ああ、すまない。あれからどの位時間が経った?」

 

「そうね、あなたがお義母様と修行を始めてかれこれ5時間位経過したかしらね」

 

 何!?それじゃあもう夜じゃないか!いかん、急いで夕食の準備をせねば!!

 

「あ、動いては――」

 

 布団から立ち上がろうとすると突然の激痛が全身に走る。

 グッ、何だよこれ!?

 

 痛みで体のバランスを崩してしまう。

 

 

「ッ!」

 

「キャッ!」

 

 その拍子でキャスターを巻き添えにした状態で部屋の畳に倒れ込む。

 俺の顔の数cmの距離にキャスターの顔があり、澄んだ海の様な蒼い瞳に綺麗な紫色の髪がローブの下から見え隠れする。神話時代に生きた元王女という事もあってその顔立ちは神秘を含んでおり、エルフ耳を抜きにしても人間離れした美しさがローブの下に隠されている。

 

 吸い込まれるようにキャスターの蒼い瞳を見つめているとキャスターの瞳も俺の眼を見ており俺は徐々に顔が赤くなっていく。

 

 突き刺さるような視線を背中越しで感じ、その視線元に視線を向けるとそこにはアイリ義母さんが障子から顔を半分だけ出した状態でこちらを見ていた。

 

「士郎、子作りは計画的にね!予防道具が必要なら購入するから!!」

 

 グッジョブと言わんばかりに親指を立ててこちらに良い笑顔を向けて障子から覗かせていた顔を引っ込める。

 

「ば、馬鹿!何言ってんだよ、義母さん!!」

 

 益々俺の顔が熱を帯びて真っ赤になる。

 見ればキャスターも顔を真っ赤にして俺から顔を背けている。

 

「ま、全く義母さんにも困ったもんだな。キャスター」

 

「え、ええ。ま、全くね!」

 

 満更でもないのだけれどもとキャスターから声が聞こえて気がしたけれども気のせいだろう。キャスターもこんなに顔を真っ赤にしているし……

 

 キャスターと互いに背を向けあい気まずい雰囲気が部屋の中に漂う。

 気まずい。非常に気まずい。

 

「なあ、キャスター。俺、一体どうしたんだ?体がすごく怠くて思うように体が動かないんだけれども」

 

「アイリ義母様が放ったあの技。最早魔法の領域よ。対象を同時に斬りつけるあの技、習得すればサーヴァントと互角に渡り合える筈よ。それと、あなたの体が痛いのはあなたが無意識の内に慣れない自身への強化魔術をして自分の魔力を殆ど使ったからよ。はい、これ。飲んどきなさい」

 

 そう言ってキャスターは何かの塊を俺に渡してくる。

 

「これは?」

 

「魔術結晶の欠片よ。これを飲めば少しだけれども貴方の魔力が回復するはずよ」

 

 そうか……って、ちょっと待て!

 そう言えばさっきなんか嫌な事を言われた気がするんだが……まあ、藪蛇をつつく必要はないだろう。うん。こういうのは聞かないが吉が正解だ。この前慎二に借りたゲームで出てきた選択だ。

 

「ありがとうキャスター。これで多少は動ける筈だ」

 

 渡された魔術結晶の欠片を飲むと俺の中で魔力となって魔力が少し回復する。おお、凄いなこれ。

 

「そう、動けるようになったのね。それじゃあ、もう一度アイリ義母様と戦ってあの技を習得するのよ」

 

何でだろう、なあ~バッドエンドの選択肢を選んだはずではないんだが……

 

「ちょっと待て、待ってくれキャスター!お前今何て言った!?アイリ義母さんと再戦だって!?あんな攻撃再び受けるなんて御免だぞ!それならバーサーカーとやりあう方が良いぞ!それに飯はどうするんだよ!」

 

「甘えた事を言わないでマスター!あなた、そんなんでこの聖杯戦争に勝てると思っているのかしら?それと、食事の心配ならば大丈夫よ。セラさんから、食事は私達アインツベルンのメイドが用意します。ええ、アインツベルンの名に懸けて今度こそあの忌々しい衛宮士郎をぎゃふんと言わせますのでご心配なくですって。マスター、あなた何をしたの?」

 

 クッソ!セラの奴、未だにあの事を根に持ってやがるのか!!もう時効じゃないのか!?いい加減許してくれても良い頃合いだと思うんだが。

 ってか、うちの嫁さん候補が何かどす黒いオーラを体から出してるんだが何故に!?

 

「セラにさ、事あるごとにアインツベルンの自慢されて比較されたんだよ。んでさ、少しばかりカチンと来ちゃってアインツベルンの城に行った時にセラに料理対決を申し込んだんだよ。そんなにアインツベルンが凄いんならば、是非とも庶民の俺を唸らせる絶品の料理を作って見せてくれって。そしたら、セラが良い機会ですからアインツベルンの実力を庶民の貴方に教えてさしあげますって、それで料理対決が始まったんだが審査員アインツベルンの城にいるホムンクルス全員。まあ、セラからしたら俺が如何に劣っているか風潮する良い機会だわな」

 

「……まさか」

 

 良かった~。嫁さん候補からどす黒いオーラが出てたんだがそれが消えた。

 キャスターが引きつった顔をしているが、まあそうだろうな。

 

「まあ、キャスターのお察しの通り結果はセラの惨敗。アインツベルンの汚点となったセラは衛宮士郎に復讐を誓い、復讐の機会を狙う復讐者となったのでした」

 

「それじゃあ、セラさんに命を狙われてるんじゃないの?」

 

「それはない。セラが負けたのは料理対決での事で俺を殺してしまえばセラは一生出来損ないメイドとして語り継がれる事に成る。セラが望むのは汚名返上であって俺の命ではない」

 

「そう、それじゃあアイリ義母様との再戦に支障は無いわね」

 

 し、しまった!ここでキャスターを心配させとけばアイリ義母さんとの再戦を回避できたかもしれなかったのに!くそ、またアイリ義母さんと戦わなければいけないのか…

 

「――解ったよ。お前と出会い、お前をこの聖杯戦争で勝たすと決めた俺の運命だ。俺も男だ。腹を決めるさ」

 

 何かキャスターの顔が赤くなっているが気のせいだろう。

 

「期待しているわよ、マスター」

 

 ああ思う存分期待しておいてくれ。俺はそれに答えるだけだ。

 正義の味方を名乗る男が惚れた女すら守れないなんて格好が悪いからな。

 

 さあ、正義の味方はまずは狂戦士すらも恐れるゴッドマザーを打ち負かして見せましょうかね。



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