アギトが蹴る! (AGITΩ(仮))
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第1話 テンプレ

初めましてAGITΩです。今回が初めての投稿です。駄文ですが、どうぞ最後までお付き合い下さい。


 

目を開けると、其処は“空白”だった。

どうやら俺は死んだらしい。その時の事ははっきりと覚えているさ。

助かりようがなかった。走ってくる大型トラックに飛び込んだのだから。

 

「目が覚めたかの?」

 

全然気づかなかった。人の視線や気配には敏感だと自負しているが、

言葉から察するに、どうやら最初から居たらしい。

声の人物に目を向ける。彼は人間が思い描きそうな文字通り、否、

見た目で判断できる程分かりやすい『神様』だった。

 

「その通り。儂は神じゃ。よく眠れたかの?」

「えぇ、おかげさまで。それにしても自殺の俺がなんでこんな所に居るんです?普通なら地獄とか地縛霊とかになるんじゃないんですか?」

 

俺が自殺したのは、なんとなくという本当にくだらない理由からだ。生きたいと願う人に申し訳ないだとか、そんな綺麗事は思考に現れない。まぁ、強いて言うなら、疲れた、かな。

 

「お主がここに居るのは、転生してもらうためじゃ。」

 

「へぇ、俗に言う神様転生ってやつですか。転生の理由も暇潰しとかそんなモンですかね?」

 

「まぁ、そんなモンじゃ。ちなみに転生する世界は、『アカメが斬る!』じゃ。」

 

「すいません。即効で死ぬ気しかしないんですが…」

 

「安心せい。簡単に死んで貰ったら困るから、特典を授けよう。」

 

「ずいぶんテンプレ通りですね。ちなみに限りは?」

 

「ないな。俺TUEEEEEでも俺YOEEEEEEでも好きにするがよい。」

 

「そいつはありがたい。ならひとつ目は、『仮面ライダーアギト』への変身能力。マシントルネイダーも付属で。

その次は、どんな傷や病気もその相手に触れるだけで治す能力が欲しいかな。」

 

まぁ、怪我人や死人がバッタバッタと出る世界で、治療くらいできた方がいいよな…。後、アギトは俺が一番好きだった仮面ライダーだ。

別にこんくらいでいいよな。

 

「後、他の転生者が来ないようにして欲しいです。」

 

「分かった。他の転生者に比べ、お主は無欲な奴じゃな。」

 

「そうですか?コレだけでも結構チートだと思うんですけど」

 

そうだったっ!!大変な事を忘れていた!!

 

「すいません、この世界で修行させて欲しいんですけど!!」

 

危ない危ない。このまま転生しても肝心の戦闘が出来ないんじゃ話にならない。せめて、ブラートのアニキくらいの戦闘力は欲しい…

 

「良かろう。なら、ロード怪人とでも修行しなさい。」

 

「了解です。では、あの精神と時の部屋っぽいとこで10年くらい頑張ってきます。」

 

10年後

 

 

キツかった…ロード怪人強過ぎだろ…。最初からフルボッコですよ。最初のジャガーロードで倒すのに1年かかるし、よく10年で倒しきったよ。

でもその分、力はついた。後はあの世界に行くだけ。

 

「お疲れ様じゃの。お主の特典少な過ぎたから、年上キラー付けといたから。ちゃんと、恋愛もがんばれよ。」

 

「マジですか。どうもありがとうございます。それじゃ、行ってきます。今までお世話になりました。」

 

本当に世話になったな。

…よし、頑張るか!俺の目標はただ一つ。絶対に仲間や大切な人を死なせない。胸糞悪い展開は好きじゃないからな。

後、せっかくアギトになるんだ。津上翔一みたいに、できるだけ明るく行こう。

 

そんな事を思っていると、足元の感覚が無くなる。正確には、穴が開いて落ちて行ってるのだが…そこもテンプレなんだな。

 

あの世界で、生きて行けるのだろうか。今更になって不安が募って来たところで、俺は目を閉じた。

 

 




くぅ〜疲れました。更新は不定期ですが、勉強の息抜きで投稿したいと思います。
こんな駄文にお付き合い下さり本当にありがとうございました。
また次回もよろしくお願いします

後、感想、批評どんどん送って下さい。アドバイスとして受け取らせて頂きます。でも、暴言、罵倒は作者が豆腐メンタルなのでお控えください。


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第2話 さっそく…

できるだけ空いてる時間に投稿したいと思います。
では今回も駄文にお付き合い下さい。


目を開けると、もう夜だった。辺りは寝静まり、野良犬やホームレスがちらほら。

俺の第一目標は原作介入。取り敢えず、ここは帝都の街中っぽいから辺りを探索する。

 

 

すると夜には似合わない、銃声や刃と刃が重なり合う金属音が聴こえてきた。

 

 

「…始まったか。」

 

若干厨二クサい事を言ってしまったが、顔色には出さず、俺は音が聴こえてきた場所に走り出した。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

タツミside

 

「くっ…。強い。恐らく俺が闘って勝てる相手じゃないけど、アリアを逃がさないとッ‼︎」

 

「…お前は対象じゃないが、邪魔をするならーーーー葬る。」

 

たった一晩の恩だが、アリアだけは逃さなきゃな……。

俺の後ろで腰を抜かしているアリアは今にも泣きそうだ。

……それもそうだよな。平和に暮らしていたら急に誰かも分からん奴らに襲われて、家族を殺されちゃあな。

けど、どうしたらいい?

 

そんな時、ふと近くに人の気配を感じた。

 

 

タツミside out

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

コウタロウside

 

原作介入をするにしても、俺がこの後の未来を知っていると他人に知られたら、トンデモない事になってしまう。

ならばどうすればいいか。決まっているだろう。

一般人のフリだ。

 

「なっ、なにしてるんですか‼︎そんな刀振り回して、危ないじゃないですかッ‼︎」

 

「「「っな、何でここに一般人がッ‼︎」」」

 

俺の突然の登場にタツミ、アカメ、レオーネは声を上げて驚く。

一瞬、否、数秒レオーネの豊満な谷間に目が釘付けになった。だが恐らくバレていない……と思いたい。

 

「レオーネ、どうする?」

 

「見られたからには仕方ない。気絶させて持って帰るぞ。」

 

冷静さを取り戻したナイトレイドの2人。一方、タツミとアリアは開いた口が塞がらない。

……流石はレオーネ姐さん。普通なら始末されるところを勧誘だけに済ましてくれる。決めた。俺はあのおっぱいに忠誠を誓う。

 

アカメはタツミ達を見張っているのか、此方には近づいて来ない。

となると、

 

「悪いね〜。見られたからには、着いてきてもらうんだけど、その前にちょっと眠ってて貰おうかな〜」

 

指から嫌な音を立てながら、俺に近づいて来る。相手は姐さんか…。

闘いざまにおっぱい触ってやる……。

 

「そんじゃ、おやすみ〜」

 

口では軽やかに言っているが、その腕から繰り出されるストレートは殺人級だ。……気絶させる気ないよね。俺はそれを紙一重で躱す。風を切ってるな……。

 

「っと、今のを躱すなんて、少年、なかなかやるね〜〜」

 

はい。褒められてメッチャ嬉しかったです。

だが俺は、切り替える。

 

両手を左腰に素早く持っていき、手を組む。

左手はそのまま、右手を前に勢いよく突き出し、今度は右胸に引っ込める。

すると、俺の腰辺りは歪み始め、ベルト〈オルタリング〉が発現する。

 

「っな、帝具持ちかッ‼︎」

 

オルタリングの発現により、レオーネは困惑する。帝具じゃないんだけどな。

 

そして俺は、静かに息を吐きながら、また右手を、今度はゆっくりと前に突き出す。

 

「変ちんッ‼︎」

 

盛大に噛んでしまった。

折角の初変身が……。それでも、俺の体はアギトへと変わって行く。

 

突然現れたと思った一般人が帝具持ちという事実に驚きを隠しきれないレオーネと、仮面の下では涙を流している俺の闘いが、今、始まる




くぅ〜疲れました。
次回は戦闘回です。こんな駄文でしたが、お付き合い頂き本当にありがとうございました。

それではまた次回。


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第3話 ケッチャコ

携帯で書いてるんですが、携帯の調子が悪いみたいなので更新が不定期になるかもしれません。
今回も駄文ですが最後までお付き合い下さい。


俺とレオーネはお互いに目を合わせながら近づく。

アギトは基本的に接近特化、否、接近しか出来ないので今回の相手、レオーネとは相性がいい。相手がマインなら一方的な虐めだよな…。

しかもお互いに素手だ。

これは非常に助かる。

フォームチェンジという奥の手はできるだけ多いに越したことはない

 

 

俺達は歩みを止め、それぞれの構えに入る。

先手を打ったのはレオーネだった。

百獣の王の瞬発力で一気に間合いを詰めてくる。

 

(……なかなか速いけど、捌けないわけじゃない)

 

俺は繰り出される拳や蹴りを捌く。

戦闘に関すれば、ブラートのアニキより少し強いくらいである。

言っちゃ悪いがレオーネに負けたりするほどではない。

 

そうは言いつつも、俺はなかなか攻撃を当てれない。

 

(攻撃しちゃってイメージ下げたくないな……)

 

そう。いくら問答無用で攻撃されたからと言って、美女を殴るなんてしたくない。

ここはレオーネの無力化しかない。

けど、このままだとジリ貧だ。

 

「ちょこまかとっ‼︎いい加減殴られろよォォっ‼︎‼︎」

 

レオーネの猛撃は更に激しくなる。

 

(……3発だ。3発の拳だけで決める。)

 

俺は最低限の攻撃だけでレオーネを無力化することにした。

 

「……ハッ‼︎」

 

レオーネの右ストレートにカウンターを決める。

結構鈍い音がしたが、大丈夫だよな……。

 

「ガハッ‼︎…………やっと本気を出してきたか?」

 

結構効いてるな…。あと2発。

俺はわざと避けれるようなパンチをレオーネの首元に放つ。

当然レオーネは避ける。

だが、避け方が問題だ。

普通の戦闘や武稽古では、相手の攻撃はできるだけ動かずに避ける。

だが、レオーネは別。

ライオネルによって強化された肉体と五感は、獣の感により普通より速く回避行動をとってしまう。

俺の狙いはそこだ。

 

回避した先で避けたパンチより断然速いチョップを受けたら怖いよな

俺はレオーネの頭上にチョップを振り下ろす。

 

「ニャァッ⁉︎痛ってええええ‼︎」

 

レオーネは両手を被爆した頭を庇う様にして俺との間合いを離す。

 

あと1発。今度はとっておきをお見舞いしてやる。

今度の目的は、懐に入る。

俺達は近接格闘型。最後はやはり拳だ。

ライダーキックもいいが、それだとレオーネが死んでしまう。

 

 

俺はクロスホーンを6本に展開させる。

 

「なっ⁉︎ツノが増えた⁉︎」

 

ライダーキックを放つ構えに入ると、俺の足元にアギトの紋章が浮かぶ。だが、放つのはライダーキックではない。

俺は溢れるエネルギーを両手に流し込む。

 

「……ハァッ‼︎」

 

息を吐き、さっきレオーネが間合いを詰めた速度の倍近い速さで

レオーネの懐に入る。

 

「嘘っ⁉︎速すg……」

 

全てを言い終わる前に、俺は握り締めた拳を広げる。

 

辺りはさっき俺が出した土煙によって、非常に視界が悪い。

だが、“あの場所”はちゃんと覚えている。

今更視界なんて不要。

 

レオーネの懐で、俺は両手を前にゆっくりと突き出す。

全ては、思い出の丘へ。

俺はその懐かしくもあり、色気を漂わす双丘に手をつける。

 

最後の1発。

そして俺は、力強くもあり、けど優しくそっと、レオーネの乳を揉みしだいた。

 

吉井孝太郎ことコウタロウは、鎧とベルトの間の黒い部分に勢いよく振り下ろされるレオーネのエルボーによって、またもや意識を手放した。




前書きにも書いた通り、不定期更新になりそうです。
ですが、書けるウチに書きたいと思いますので、よろしくお願いします。今回も駄文にお付き合い下さり本当にありがとうございました。

p.s
春休みの宿題が終わらない。


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第4話 治療

いつも通りの駄文とマッハ並の短さです。

感想やお気に入りに追加して下さった方々、本当にありがとうございます。
皆さんのメッセージが作者の養分ですので、何卒…



甲高くとも、錆び付いた金属製の扉を開ける音で目が覚める。

 

「…俺は、気絶していたのか…」

 

「気がついたみたいだな。」

 

起き上がる俺に、アカメが声をかける。

辺りを見回すと、アリアがレオーネに追い詰められていた。

どうやらアリア家の悪事がタツミにバラされたらしい。

まあ、タツミにとってはショックだよな。イエヤスやサヨが酷い目にあって殺されて、憧れていた帝都の闇に直面したのだから。

俺だったら田舎に引きこもるわ。

 

 

「俺が斬る!」

 

直後に肉を立つ音が聴こえる。タツミがアリアを斬った。

 

俺はナイトレイドの2人に敵意がないことを見せ、タツミとイエヤスの方へ向かう。

サヨは…もう死んでいるから駄目だ。だが、まだイエヤスは生きている。

俺の力なら、ルボラ病の末期でも治せる。

 

「ソイツはルボラ病の末期だ。もう無理だ。」

 

レオーネは冷酷にそう告げる。涙ぐむタツミ。

俺はタツミの間に割って入って、イエヤスに触れる。

 

「なにすんd」

 

「もう大丈夫。」

 

タツミは意味が分からないといった表情で俺の顔を見上げる。

 

「コイツの身体を見てみろよ」

 

「なに言って……は、斑点が、消えてる⁉」

 

「なんだと!どういうことだッ!!」

 

タツミとレオーネは驚く。誰だってそうだろう。目の前で奇跡とも呼ぶべき光景を眼に入れたのだから。

 

「レオーネ、そろそろズラかるぞ。」

 

「あ、あぁ。詳しい事はアジトに帰ってからだ。着いて来てもらうぞ。」

 

「了解です。」

 

今周囲には、散らばって仕事をしていたナイトレイドが集合していた。

いくら強くても、流石にナイトレイド全員と闘って生き残れる自信はない。

それを察したのか、誰も何も言って来ない。

アジトに行ったらどんな尋問をされるのだろうか……

 

インクルシオを装着したアニキはタツミとイエヤスを両脇に抱えて飛び立つ。次々と闇に消えて行くナイトレイド。俺も後を追う。

 

俺はアギトへの変身能力や、特典の治癒能力の言い訳を必死に考えていた。アギトは帝具の力ってなんとか誤魔化せるが、治癒能力は……

正直に転生特典です。なんて言えない。

 

溜め息を吐いていると、いつの間にかアジトの近くまで来ていた。

やっぱり結構広いな…。

 

「ブラっちはその田舎者2人を部屋まで運んどいて。そこの少年は私達と一緒に食堂で尋問会だ。その鎧をつけた人が戻ってきたら始める」

 

「……分かりました。」

 

いくら原作が分かると言っても、緊張感を解くわけにはいかない。

必死な言い訳が頭をよぎるなか、俺は頷く。

 

 

食堂のみんなが俺を見やすい席、つまり真ん中に座らせられる。

ブラートが戻ってくるまであと数分程余裕がある。

 

「ところでお前、無駄な抵抗は止めとけよ」

 

緑髪の少年、ラバックが俺に話しかける。

 

「抵抗なんてしませんよ。もう貴方達への敵意はないですし」

 

ポーカーフェイスに自信はないが、至って冷静を装う。

………顔に出てないよな?

 

「……そうらしいわね。」

 

と、マイン。

ゆ、ゆかりひm……ゲフンゲフン。

俺がマインの声に感動していると、扉からブラートのアニキが入ってくる。

 

分かってはいた事だが、いざ実際に身に起きてみると、俺の脳内は真っ白になる。

 

アニキが席に着くことで、皆一斉にこちらを見る。

 

主な質問をするのは……アニキか。

まぁ、この中で一番の実力で年長者だからか。

分かってはいるが、今この場にボスことナジェンダさんは居ない。

 

俺はごくりと唾を飲み込む。

俺は顔に出やすいタイプだからな。取り敢えず、この場を乗り切ってみせる‼︎

 




見事なご都合主義。
病気はルボラ病で合ってましたっけ?



それでは次回、第5話 目覚めろ、俺の文才

次回もよろしくお願いします。



※次回予告は嘘です。本当はコウタロウの尋問です。


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第5話 かけひき

書ける内に書こう。
短くて駄文ですが、頑張ったんで許して下さい。


「単刀直入に聞く。お前、ナイトレイド《ウチ》に入らないか?」

 

え?いいの?

普通は名前だとか、アギトや治癒能力の説明を求められると思っていた俺は拍子抜けする。

そりゃぁ、願ったり叶ったりな勧誘だが、ちょっと怪しく思えてきた。

 

「な、なに言ってんだよ⁉︎いきなりすぎだって!最初はかけひきだろ‼︎」

 

案の定、ラバックの待ったがかかる。

 

「気にすんなよ。それに、俺の漢の勘が叫んでんだよ。

コイツはいいヤツだって…………。」

 

アニキ……。俺は涙を堪えてアニキを見つめる。

 

「名前は?あと、どうする?ナイトレイド《ウチ》に入るか?」

 

「はい。俺もナイトレイドに入ります。あと、俺の名前はコウタロウです。」

 

「そうか……。ヨロシクな、コウタロウ。」

 

何故か頬を赤く染めながら、握手のためアニキは手を差し出す。

……え?年上キラーって、こういうことなの?

なにそれ要らない……。

 

だが俺は手を差し出す。折角の好意(笑)を卑下したりはしない。

 

「よ、よろしくお願いします……。」

 

 

その後俺は、他のメンバーを紹介される。

 

「よし、ならコウタロウ。今日はもう寝ろ。詳しい説明はまた明日、あの田舎者2人が起きた時だ。」

 

レオーネに催促され、俺は席を立つ。

どうやらシェーレが部屋まで案内してくれるらしい。

俺はシェーレの背について行く。

 

 

 

転生初日から結構なハードスケジュールだった。

これからこの世界で生き残れるのだろうか。

否、生き残るだけではない。守らなければならないのだ。

俺の切り札は、アギトの力でも治癒能力でもない。

原作を知っていて結末が分かる。つまり、これから起こる未来が分かるということだ。

記憶を消されなかったのは本当に幸いだったな。

これから起こる悲劇。

俺はそれを必ず変えてみせる。俺にとってはもう、このナイトレイドのメンバーはかけがえのない仲間だ。

誰一人として、失わせない。

俺は誓いをたてるのと同時に眠りに就いた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

目を覚ますと、もうすっかり日は昇っていた。

 

部屋のカーテンの隙間から木洩れ陽が差し込んでくる。

俺はうっとうしさを感じながらも、渋々体を起こすことにした。

 

目を擦りながら部屋を出る。

 

「おっ、起きたか。ちょうどいい。私の名前はレオーネ。今からアジトを案内するからついて来てくれ。」

 

「分かりました。」

 

レオーネの後ろにはタツミとイエヤスがいた。

どうやら本当にタイミングが良かったらしい。

 

「俺の名前はタツミ。こっちがイエヤスだ。なんかよく分からんが兎に角よろしくな。」

 

「イエヤスだ。昨日は助けてくれてありがとうな。よろしく頼むぜ」

 

タツミとイエヤスが話しかけてくる。2人と俺は年齢が近い。俺が1、2歳年上ってところだ。

 

俺も軽く自己紹介する。

俺たちは談笑しながらも、着々とアジトを進んで行く。

アカメ以外のメンバーの紹介も終わり、滝の方へと進んで行く。

 

 

滝に着くと、アカメはエビルバードを焼いて、頬張っていた。

 

「アカメー。新入り連れてきたよ〜」

 

「そうか。……仲間になるのか?」

 

「俺はナイトレイドに入るよ。これからよろしく、アカメちゃん」

 

「そうか。なら食え。」

 

そう言って焼いた肉を俺に差し出す。

ごめん。いらない。

けど、おばあちゃんが言ってたもんな。

男は女を泣かすのと、飯を残す事だけは絶対にしちゃいけないって。

 

俺は苦笑を零しながらエビルバードを頬張る。

案外いける。

 

タツミとイエヤスは、案の定要らないと言っていたため、肉は貰えない。勿体ないな……。

 

「あとはボスだけかー。あ、ボス〜‼︎お帰り〜‼︎お土産は?」

 

どうやらナジェンダさんが帰ってきたらしいな。

俺たちはレオーネに紹介され、軽く会釈と名前を言う。

 

 

これから食堂に行くらしい。

ということは、とうとう説明する時間がやってきたってことか。

俺は腰の辺りが熱くなるのを感じる。

これが緊張ってやつだ。

 




短くて駄文ですが、1日に5回更新してやりました……。

本当にもう俺のカラダハボドボドなんで、ちょっと休みます。
まぁ、元気になったらまた書きますが。

次回こそはナイトレイドのみんなに説明します。

アギト、ウソツカナイ


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第6話 御披露目

今回はいつもより長いです。

まぁ、いつもが短すぎるから普通なんですけど。

そんな事より、アギトの帝具としての名前を考えてて、古傷をえぐってしまいました。


まずはタツミとイエヤスに帝具の説明をすることから会議は始まった。

ボスの帝具の紹介で、一人一人己の帝具を披露する。

タツミとイエヤスはインクルシオにベタ惚れだ。

俺だってめっちゃ格好いいと思う。

やっぱり男ってのは、変身するヒーローとかに憧れるモンだよな。

 

「ところでコウタロウ。レオーネとアカメの報告によるとお前も帝具を所持しているらしいな。それに、イエヤスのルボラ病も触れるだけで完治したらしいじゃないか。詳しい説明をして欲しのだが」

 

ボスことナジェンダさんは、ふと思い出したように俺に質問する。

 

「あ、それ俺も気になってた!アニキみたいな鎧は帝具って分かったけど、病気を治す帝具なんてあるのか?」

 

タツミはボスに質問する。アニメしか観てないんだがそんな帝具あったか?

 

「いや、そんな帝具は存在しない。文献に載ってない奴かもしれんが、帝具は1人一つまでなんだ。だからこそ、コウタロウの治癒能力がなんなのか解明する必要がある」

 

まぁ、そりゃ無いよな。そんなのあったとしてもそんな都合のいい帝具はきっと帝国が牛耳るだろうし。

 

「確かにあの鎧は俺の帝具です。治癒能力に関しては………生まれつき宿っていたとしか言いようがないですね。俺もよく分かりませんし、神様の贈りものなんじゃないんですかね…」

 

ひとまずはこれでいい。

案の定、アギトを帝具と勘違いしてくれた。

治癒能力の嘘も、納得とはいかないものの信じるしかあるまい。

誰かが言っていた。

嘘は、本当の事を混ぜるとよりリアルになるって。

…………誰か忘れたけど。

 

「それではコウタロウ。治癒能力はともかく、その鎧の帝具を見せてくれないか?」

 

まぁ、百聞は一見にしかず。

実際に変身してみせた方が早いよな。

 

「分かりました。」

 

俺は席を立ち少しテーブルから離れる。

みんなこっちを凝視しているため、額に脂汗が浮かぶ。

 

……よし、切り替えだ。

一同の変身プロセスを行い、オルタリングを発現させる。

おおっ、と数人が声をあげる。

 

「……ハァ〜〜。……変身ッ‼︎‼︎」

 

静かに息を吐き終えて、俺は叫び両腰のボタンを叩くように同時に押し込める。今度は噛まずに言えたな……。

ベルトの中央から金色の光が目を眩ませる。

轟音と共に俺の身体は変化し、一瞬の光の後、俺の身体は完全にアギトとなった。

 

「…光炎神人《こうえんしんじん》アギト。それがこの帝具の名前です。」

 

うん。自分でも厨二な名前だと思う。それは自分が一番痛感しているさ。

 

「…カッケェェェェッ‼︎」

 

「…変身って……やべぇ…」

 

「ヒーローみたいだな……」

 

「アギトか‼︎‼︎お前からもだが、アギトからも熱い漢のオーラが滾って見えるぜっ!!」

 

やはり男子達はこういう特撮が好きみたいだな。

それはいつの時代や異世界であろうとも共通のようだ。

 

「…こうも神々しいとはな。やはり帝具を造った始皇帝は偉大だったということを痛感させられる。それに比べ、今の帝国は腐りきっている。」

 

ボスは顔を強張らせ呟く。

俺は変身を解き頷く。

一連のやりとりの後でタツミとイエヤスはこのナイトレイドを、『正義の殺し屋』と称賛した。

原作通りにタツミとイエヤスは説教を受ける。

……確かに俺達のすることは殺しだ。だが、津上翔一ならこう言うだろう。

 

「俺はそうは思いませんけど。」

 

アニキの熱い説教を受けた2人が俺の方を向き、レオーネは問いかける。

 

「ふーん。どういうこと?」

 

「確かに俺達のすることは、正しいなんて…胸を張って陽の道を歩けるようなことじゃありません。けど、結果的に困っている誰かを助けられたら……そこに正義くらいあってもいいんじゃないんですかね」

 

ま、俺の持論ですけど。

にこやかに付け加える。翔一ならこんな時にでもマイペースな笑顔を浮かべるのだろう。

 

「…フッ。面白い。気に入ったよ!」

 

レオーネは笑いながら、俺と肩を組んでくる。

……その際にわがままパイオツと俺の顔がごっつんこしそうになったのは言うまでもない。

みんなもさっきまでの空気とは一変、笑いあう。

そんななかラバックの顔色が変わる。

 

「ナジェンダさん‼︎侵入者だっ!それも複数の‼︎」

 

「大方、隣の異民族かスパイだろう。みんな、侵入者を生かして帰すなッ‼︎ナイトレイド、出動ッ‼︎」

 

その声と共に俺達は一斉に窓や扉から出て行く。

早くしないとボスにどやされるからな……。

 

俺はレオーネこと姐さんと同じ方向にいる敵を目標に出撃する。

姐さんはライオネルを発動し、敵と闘えると聞いたのか、尻尾を左右に乱舞させている。

俺はそんな姐さんを追いながら地を駆けるのだった。

 






それでは次回もよろしくお願いします。


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第7話 殺し

今回はちょっとシリアス。

でも駄文だから、シリアスと感じれないです。


みんなが散らばって行って、俺達は今、アジトの裏側にいる。

敵が居た。

敵を探していた俺達を待ち構えていたようだ。

 

「ここがナイトレイドのアジトね。で、お前ぇらがそのメンバーってワケか。オンナとコスプレ男じゃねぇか。」

 

そう言いながら髭面の男は剣を抜く。

続いてその後ろにいる男達も剣を抜く。敵は3人。

 

「…コウタロウ。私が2人貰うから、コウタロウはリーダーっぽい奴お願いね。」

 

「分かりました。お気をつけて!」

 

「敬語は堅苦しいからやめてよ。そんじゃ、いくぞっ!」

 

そう言って姐さんは駆け出して行く。

 

「分かった。お気をつけて!」

 

本当にお気をつけて!

俺は姐さんを見送りながらずっとお気をつけてと連呼する。

 

既にここに向かう途中で変身しているため、俺は構える。

男は剣を力強く振り下ろす。

俺は軽く避ける。

俺をナメているようだが、この男は大したことはない。イエヤスでも撃破できるレベルだろう。

俺はアッパーをその巨体にぶち込む。男は悶絶しながらも、戦闘中ということで自分の腕を無理やり上げて構え直す。

 

「や、やるじゃねぇかコスプレぇ」

 

無言の俺。

どうやら痛み隠しの様で、実際は動けないようだ。その証拠に剣を構える腕は大きく震えている。

 

(……決めるか)

 

クロスホーンを展開し、ライダーキックの構えに入る。

腰を低く落とし、左手は腰につくように。右手はゆっくりと左胸に持っていく。

そして足首にアギトの紋章の力が流れ込んでくるのを感じ、俺は飛び上がろうとした。

そんな時にふと迷いが生じた。

 

(……ここで人を殺していいのか?あの男は恐らくまともに戦闘はできない。無抵抗に近い人間を殺してしまって、本当にいいのか…)

 

俺の一瞬の気の迷いのせいなのか、紋章の力が消えゆくのが感じる。

男は飛び立とうとしてやめた俺を見て、不思議に思っている。

 

 

思えば、俺は一度も人を殺した事はない。

ロード怪人との訓練だって、倒すだけで殺してはいない。あいつらは俺に殺意なんて持ち合わせてなかったし、単純に俺を鍛えてくれた。

戦闘の師匠はロード怪人達と言うのが真実だ。

 

前世も含め、俺は初めての人殺しをこれから行うのだろう。だが、それに待ったをかける自分がいる。

そんな考えもしなかった突然の葛藤により俺の戦意はなくなってしまう。

いつの間にか男は逃走していた。

と言っても、既に大ダメージを負っている身なので、数歩程しか進んでいない。

男は涙を流しながら、ゆっくりと歩いている。

痛み隠しも辞めたのだろう。俺の止まった時をチャンスと思い必死な形相で逃げようとしていた。そこに異民族の戦士という顔は存在しない。男は強いものから必死になって逃げようとしている、ただの人間だった。

 

(ただの、人間か……。)

 

俺は男を見つめる。

今思えば、俺は調子に乗っていたのかもしれない。否、間違いなく乗っていただろう。

 

「く、来るなァ‼︎嫌だァ‼︎」

 

醜い叫び声をあげながら男は逃げ続ける。

 

この男だって人間だ。……けど、それでも、俺はこいつを殺さなくてはならない。今のように迷っている間に失ってしまうものもあるかもしれない。だから、俺は殺す。

俺の殺しに正義はない。けど、俺の殺しを正義と呼んでくれる誰かがいるのなら…………俺は闘う。

 

(……もう、迷わない‼︎)

 

俺はもう一度クロスホーンを展開する。

ライダーキックの構えに入り紋章の力を足元に込める。そして、今度こそは、飛び上がる。

 

俺は逃げ続ける男の背中に、ライダーキックを叩きこんだ。

男は数十メートル程吹っ飛ぶ。もう立ち上がれない。そんな男の顔は苦痛に支配されていた。男はありったけの声で叫び、助けを求める。

 

 

刹那、男は爆発した。

 

殺した。殺してしまった。けど、悔いはない。俺は自分のこの行為を絶対に忘れないと誓う。

 

爆発を背に残心を続ける。

 

 

 

 

 

初めての殺し。

それは俺を1段階成長させた。

 

 

 

 




背後からライダーキックって……とんだ畜生ですね。

ウラ設定ですが、修行の長さには理由があります。

単純なんですが、最初は弱かったってのと、コウタロウはロード怪人達に怒りという感情は持ち合わせていないので、バーニングフォームなどにはなれないからです。



……よくトリニティで倒せたな。


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第8話 日常


3日坊主?

……………今日が3日目だぜ?


数日後、タツミと俺はアカメと一緒に料理を作っていた。

イエヤスはどうやら革命軍の本部に連れて行かれたらしい。

ボス曰く、『革命軍本部も優秀な才能を欲していてな。3人ともナイトレイドに入れる予定だったが、1人だけでも欲しいと頼まれてな…』

だそうだ。

 

 

そんなこんなであれから数日が経ったと言うわけだが、みんなほとんど肉しか食べない。

シェーレやボスなどは女性で健康にも気をつかうが、アニキは勿論、女性であるアカメと姐さんは暴飲暴食のオンパレードだ。

ラバックやタツミの胃袋が女子力が高く見えてくる……。

 

だからそんな不健康な食事を止めさせるため、俺は野菜中心のメニューを作る。どうやら俺には、翔一並の料理スキルが加えられてあるようだ。

 

「みんな!できましたよ〜〜」

 

俺は巨大な皿に白菜の野菜炒めを乗せ、運ぶ。匂いに誘われたのか続々とメンバーが集まる。

 

「ゲッ、また白菜かよ……」

 

「……これで何日目だ?」

 

みんな飽き飽きしているが、そんなの知らん。

アカメは肉や魚。タツミはご飯やパン。俺はサラダといった風に役目があるのだ。

そんな俺の作った野菜炒めに手を付けない奴らがいる。

 

「アカメちゃん‼︎ちゃんと野菜も食べなきゃだめだよ!」

 

俺は野菜を食べないアカメちゃんに注意する。

 

「…いや、だって……もう飽きたと言うか……。」

 

最初こそは食べてくれたのだ。

だが、続けて出してる内に完全に手を付けなくなってしまった。

美味いって言ってくれたのにな。

 

俺も席に着き、食事を開始する。

今日のご飯はチャーハンか。いい匂いだな。

 

「あ、コウタロウ。そこのソース取って〜」

 

ラバックがマヌケ面でお願いしてくる。

 

「イヤだよ面はくさ〜い。」

 

その場が凍る。

エスデス将軍でも居たの?

 

「……なんちゃって」

 

申し訳なさそうに誤魔化す俺。

みんなは気を遣ったのか食事を再開する。

その優しさが俺の首を絞めるとは知らずに……。

 

 

食器を流し終えた俺とタツミはお茶を飲んでいた。

すると、姐さん以外のみんなが来る。そういや姐さん、今日はずっと居なかったな。

 

「あれ?皆どっか行くのか?」

 

「ええ。依頼でこれから帝都で殺しよ」

 

タツミの問いにマインが答える。

この2人のやり取りを見てると、こう、心が落ち着くのだが…。

 

「留守はよろしく頼んだぜ」

 

「えっ?俺たちは?」

 

「新入りは留守番に決まってんでしょ。アカメの言うことちゃんと聞きなさいよ」

 

「行ってらしゃーい」

 

俺は笑顔で皆に手を振る。

 

落ち込んでいるタツミにアカメが声をかける。

 

「そう落ち込むな。私達もこれから命を奪いに行くぞ」

 

魚獲りですね。分かります。と言うか分かってます。

タツミも気づいたらしく、気分は曇ったまま俺達は滝に向かった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

滝ではいろんなことがあった。

コウガマグロをタツミとアカメが獲りあっていたが、俺は呑気に水泳を楽しんでた。

水中であんな動きなんて俺にはできない。体力を消耗するくらいなら最初から参加しないほうがいいに決まっている。

どうせアカメが獲り過ぎるだけだし……

 

 

現在の刻は夕方。

帰ってきていた姐さんとボスが2匹しか獲れなかったタツミをおちょくっている。

 

「今日はマグロ丼だ。」

 

アカメが早速包丁を取り出し、刃を入れようとする。

 

「ちょっと待って‼︎」

 

俺は急いで呼び止める。

魚といったら、俺の技を使うしかないだろう。

 

「どうしたんだ?」

 

「こうするんだよ」

 

俺は小指をアカメに見せつけ、ゆっくりとコウガマグロの口に小指を突っ込んだ。

 




最後のコウタロウの行動は分かる人は分かるネタ。
次回解説入れますけど。


コウタロウは基本的には会話をする時は、翔一の様な喋り方をします。それ以外は、吉井 孝太郎としての思考です。

ややこしいですが、ご了承下さい。


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第9話 依頼

春休みの課題に手をつけてません。(直球)





小指を魚の口に入れた状態で俺は首を傾げる。

 

「……う〜ん。このコウガマグロ、ちょっと鮮度が落ちて来てるからハンバーグにしない?素揚げにしても美味しそうだし」

 

「なんで分かるんだよ⁉︎」

 

いや、なんとなくだし。

でも、こう……分かるんだ。新鮮かどうかってね。

おい、誰だ地味な特技とか言った奴。

 

「ならこっちは⁉︎こっちの鮮度はどうなんだ⁉︎」

 

アカメは普段の会話よりも興奮気味に俺に話しかける。流石アカメ。

皆がどうでもいいような特技を気にいるなんて。

そんなマイペースぶりにシビれる!憧れるゥ!

 

「…ん、こっちはいいね。早く三枚に下ろそうか。」

 

 

結局俺は全てのマグロを選別する。

この特技は本当のアギト、津上翔一の特技であったりする。

タツミは自分の獲ったマグロが全部ハンバーグ行きになったのにひどく落ち込んでいた。

 

「まさかこんな地味に便利な特技があったなんて、おねーさんビックリしちゃった。」

 

「ハハ、ありがとう姐さん。ハンバーグ大きくしとくよ。」

 

「さっすが!将来はおねーさんのトコに来いよ‼︎」

 

OK。

なら俺の純潔は姐さんに捧げよう。

 

そんなくだらないことを思いながら俺はハンバーグをこねるのだった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「レオーネ、数日前帝都で受けた依頼を説明してくれ」

 

時は変わって夜。

夕食も終わり皆は席でお茶を啜っている。

………そろそろ初任務か。

 

「標的は帝都警備隊の隊長オーガと油屋のガマルって奴だ。事実確認は済んでるよ」

 

ドサっと依頼金をテーブルの上に乗せる。

 

「その人、よくこんなに貯めたな」

 

「……その人からは性病の匂いがした。身体を売り続けて稼いだものなんだろう」

 

タツミは唇を噛み締める。

きっと皆だってそうだ。そのやるせなさや悔しい想いを力に変えるんだろう。

 

「……よし、我々ナイトレイドはこの依頼を受ける。悪行無動の屑共は新しい国に要らん。必ず天罰を下せ」

 

ボスも依頼を受ける気になったのだろう。オーガとガマルか…。

 

「ガマルを殺るのは簡単だけど、オーガはなかなかの難敵だぞ。普段は見回りに出ていて、それ以外は警備隊の詰め所で暮らしている。

狙うなら非番の日だ」

 

「よく分からねぇが、マインが帰るまでに俺達でやり遂げようぜ!」

 

タツミはマインへの対抗心なのか、机を叩き立ち上がる。

 

「…ほぅ。お前がオーガを倒すと言うのか?」

 

ほらきた。

その場のノリと空気だけでモノを言うとすぐこれだ。

俺は前世で嫌と言う程経験したからな……。

 

「今のお前では無理だ。死ぬぞ。」

 

アカメは初任務から帰って来ない以上トゲのある言い方をする。

またそこが可愛いんだが。

 

「なら、コウタロウも行けばいいじゃん。コイツ結構強いんだよ〜」

 

……姐さん?褒めてるのは嬉しいけど、余計な事は言わないで欲しいな。

 

「決まりだな。……タツミ、コウタロウ。お前らでオーガを消せ」

 

「了解っ‼︎」

 

「分かりました!」

 

決まったんなら殺るしかないな。

原作ではこの任務で死亡者は居ない。なら気をつけるのは俺か。

 

「アカメとレオーネは油屋を頼む」

 

「「了解!」」

 

その後、俺はキッチンに戻る。明日の仕込みをしないとな。

食堂ではアカメがタツミに説教してるが、俺は抜けてきた。

 

 

……初任務か。

タツミに任せてもいいかな?

 

 




と言うことで、オーガ戦はコウタロウは見てるだけです。
タツミの成長の邪魔をしたらいけませんし……
(戦闘模写が面倒くさいなんて言えない……)


それでは次回もよろしくお願いします!


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第10話 初任務

評価をつけて下さった方や感想を送って下さる方々。
それ以外にも読んで下さる皆様、ありがとうございます。

今回で10話目です。
駄文ですがこれからもよろしくお願いします!


レオーネside

 

私は今アカメ共に帝都での仕事を終え、帰路についていた。

今回の標的の一人、ガマルは楽に殺れたけど、難敵のオーガ担当のコウタロウとタツミが心配だ。

コウタロウは大丈夫かもしれないけど、タツミはまだ闘いにもあどけなさを感じる。

 

コウタロウは……今思えば最悪な出会い方だったな。私達が襲いかかったとは言え、戦闘中に私の自慢の胸を揉みしだくからな…。

イメージは…よく言えば面白い奴ってくらいだったけど、アイツが私達の言葉に反論した時。ーーーー困ってる奴を助けれたらそこに正義があってもいい、と言う言葉に魅せられるものを感じた。本当に面白い奴だ。おまけに顔もなかなかかわいい。

タツミもかわいいが、私はコウタロウの方が気に入ったな。

 

 

(……2人共、生きて帰って来てくれよ。)

 

夜も深まり丑三つ時。

私達は日の出を恐れるようにアジトへと足を速めた。

 

 

 

レオーネside out

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

コウタロウside

 

 

姐さんにメインストリートまで連れて来られた俺達はアカメの昔話を聞かされた。知っていたとは言え、元居た世界との違いを痛感させられる。

 

 

時は過ぎて夜。

俺達は深くフードを被り、非番で飲み歩いているオーガを待ち構える。オーガを見つけると背後から話しかける。

 

「あの〜、オーガ様ぁ」

 

「あ?」

 

タツミの呼びかけに振り返るオーガ。

本当に左眼がえぐれてんだな……。気持ち悪っ。

 

「是非お耳に入れたい話があるのですが……ちょっとここでは話しづらいので……」

 

俺がそう言うとオーガは面倒くさそうに俺達の後についてくる。チョロ過ぎだろ。

 

 

「おら小僧共!話ってのはなんだァ⁉︎」

 

俺とタツミは互いに目を合わせる。

そして急に体勢を変え土下座する。

 

「お願いします!俺達を帝都警備隊に入れて下さい!金を稼いで田舎に送らなきゃいけないんですぅ‼︎」

 

溜め息を吐きながら頭を掻くオーガ。

よし、上手く嘘に真実を混ぜたな。

 

予想通り相手にされずオーガは背を向け歩き出した。タツミは引き止める言葉を口にしながら剣を手にかける。だがそれと同時にオーガも腰の剣に手をかける。

 

やっぱ気づかれてたか……。

だがオーガの振り向く速さよりタツミの攻撃の方が速い。

 

(……よし、まずは一撃。)

 

オーガは倒れ、タツミはフードを外し振り返る。

 

「やったか⁉︎」

 

アカン。それフラグ。

 

案の定オーガは起き上がりタツミに猛攻を仕掛ける。

…え?俺?俺はタツミを見守る役目があるからな。

 

タツミはオーガの猛攻を弾く際に壁に叩きつけられてしまう。

俺は静かに変身する。そろそろ出番かな…。

 

オーガの重い一撃を受け止めながら2人は話している。依頼人に反省することもなく、悪役のセリフを吐きまくっているようだ。

 

その言葉にタツミはキレたのか、オーガの腕を切断し空中に飛び上がる。そしてそのままXの字にオーガを切り倒した。

 

「……お疲れ様、タツミ」

 

「おう!……ってお前何もしてねぇな!」

 

バレたか。そりゃバレるよね。

でもこれはタツミを想っての行為。馬鹿にしないで欲しい。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

俺達はアジトに戻りボスに報告して、労いの言葉を貰う。

タツミがアカメを偉そうな表情で見つめていると、突然アカメがタツミを裸にする。

 

「レオーネはコウタロウを」

 

「はいは〜い」

 

「え?俺は何もしてないって‼︎」

 

俺達は裸にひん剥かれアカメに凝視される。

 

 

「……良かった。」

 

頰を赤く染めながら俺達に言う。

その表情は、儚くとも慈愛に満ちている。

 

俺達はアカメと握手し、タツミはアカメと和解する。

本当にいい雰囲気なんだが、そろそろ服を着たい。そして姐さんに弄られる俺達。

 

「タツミは明日から、マインの部下だ。頑張れよ」

 

「えぇ⁉︎アイツかよ⁉︎」

 

タツミはマインとまだ仲が悪いのか急に嫌な顔になる。分かりやすい奴だな。

 

「…そう言えばコウタロウは今回の任務で何もしてないらしいじゃないか?」

 

「…そ、それは、た、タツミの成長を見守r」

 

「ペナルティだ。明日はずっとアジトの掃除をしてろ」

 

ボスは冷酷に告げる。

 

 

 

…………そんなのってねぇよ。




変身しかしてませんね。
まぁ、これでタツミが成長したからめでたしめでたしと言うことで。


次回からザンク戦です。


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第11話 首斬り 其の壱

イヲカル?
知らない子ですね(すっとぼけ)




タツミとマインは今帝都に市政調査に出かけている。

まあ、簡単に言うとマインのショピングなのだが……。それ以外のメンバーは各自訓練でもしているのだろう。アニキの槍を振る轟音が聞こえてくる。

 

一方の俺は、昨日ボスに言われた通りアジトを隅々まで、徹底的に掃除していた。

この日はタツミがマインを起こしに行った際、偶然マインのお着替えを拝見した日だ。マインはパンプキンを乱射。一発でも壁をぶち破る威力があるのにだ。

 

おかげで俺は壁の修復をも命じられてしまう。

……いや、いくら怪我や病気が治せたって物は治せない。

そんなこんなで俺は壁のパテ作りから始めるのだった。

………後でマインのパンツでも拝借するか。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

時は進み夜。

 

タツミはマインの荷物を抱えながら帰ってきた。マインは知らん風だが。

だが、そんな2人の仲は昨日より少し親密になったようだ。どうやらお互いに信頼しあったようだな。

 

食事も終わり会議室に俺達は集められる。

 

「今回の標的は、帝都で噂の連続通り魔だ。深夜に突然現れ、首を切り取って行く。もう何十人殺されたか分からん。」

 

恐らくザンクだろうな。

帝具所持者のキチガイだ。

 

「その中の3割が警備隊の奴らなんだろ?強ぇな…」

 

「間違いなく、あの首斬りザンクだろうね。」

 

ラバックが答える。

シェーレは忘れてるとして、この中で知らないのはタツミだけだ。

 

「で、どんな悪党なんだ?そいつ」

 

「首斬りザンク。元は、帝国最大の監獄で働いていた首斬り役人だったそうよ。大臣のせいで処刑する人数が増えて、毎日毎日、繰り返し首を斬り取る内にもう首を斬るのが癖になったキチガイよ」

 

タツミの問いにマインが答える。

さっきからキチガイキチガイってザンクさん可哀そう過ぎィ。

 

「で、仕事だけじゃ物足りなくなって通り魔として一般人も殺しているのさ」

 

「……危険な奴だな。探し出して俺達で倒そうぜ!」

 

「まぁ、待てタツミ。ザンクは帝具所持者だ。2人1組で行動しねぇと………お前、危ないぜ?」

 

そう言ってタツミの顎を持ち上げるアニキ。

あれ?2人の背後に薔薇のオーラが……。

 

マインがボスにザンクの帝具を聞くが知らないようだ。皆は知らないようだが俺は知ってたりする。

帝具スペクテッド。

詳しい説明は省くが、簡単に言うと心を読まれたり幻覚を見せられたりする帝具だ。

厄介な帝具で、殆どのメンバーと相性が悪い。勝てるのはアカメくらいだろうか。

 

「決まりだ。民を脅かすキチガイを狩れ!」

 

俺のパートナーはタツミ。

原作でザンクに遭遇するのはタツミが最初だからな。タツミによろしくと一言かけて俺達は闇へと繰り出した。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「俺達の区間はこの辺りだよね。」

 

「ああ。つってもなかなか現れねぇな。……っと、ちょっと小便行ってくらぁ」

 

「はいよ」

 

タツミは裏路地の方に入って行った。

にしても、帝都の夜は冷えるな……。もっと厚着してくればよかった。

 

「……タツミ、遅いな。」

 

タツミが小便に行って数分が過ぎた。

いくらなんでも遅すぎる。俺はベンチから腰を上げタツミが消えた方に向かう。

だが、タツミは居ない。

 

「あ、やべ。忘れてた……」

 

ザンクがタツミを襲いアカメが助けると言うのが原作だ。だが、今回はアカメの代わりに俺。

タツミが襲われるのは知っていたが、タイミングをすっかり忘れていた俺は急いでタツミを探しに行く。

幸いにも、場所の検討はついている。

待ってろよタツミ。俺が行くまで持ち堪えろよ‼︎

 




ザンクさんかわいそう過ぎィ。

3回もキチガイって呼ばれてたよ…。
だが私は謝らないっ‼︎。


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第12話 首斬り 其の弐

ザンク戦、決着です。


タツミside

 

俺の前には今、今回の標的の首斬りザンクが居る。

死んだはずのサヨを追いかけて行って抱きしめたら、急にサヨがザンクに変化した。

そう。まるでサヨは幻覚だったかのようにーーーーー。

 

 

俺はザンクと剣を重ねる。

が、相手は格上で手数も多い。その上俺の思考を読んでいるのかフェイントを混ぜても当たらない。

剣を重ねる内に俺の傷が増えてきた。

これ以上血を流すと危ないかもな……。

けど、絶対諦めねぇ‼︎こんな外道を狩れずに死んでたまるかよ!

 

俺はザンクの頰に一太刀入れた。

だが、それよりも深い傷を背中に受けちまった……。

 

俺は最後の力を振り絞りザンクを挑発する。

ザンクは意外にも怒りの沸点が低いのか猛スピードで迫ってくる。

 

「黙れえええええええええええっ‼︎」

 

ザンクの振り下ろす剣は速い。

だが、俺に向かって振り下ろされた剣は、俺を斬ることはできなかった。

 

 

金色のフォルムで下地は漆黒。

大きな紅い目を持つアギトーーーーーーコウタロウがザンクの刃を受け止めていた。

 

 

 

タツミside out

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

コウタロウside

 

危なかった。本当にギリギリのタイミングで間にあった。

 

俺はザンクの刃を手首の籠手で受け止めながら安堵の息を吐く。

 

「…なんだぁ貴様は?ソイツの仲間か?」

 

『あぁ。随分とやってくれたな』

 

「へっ。お前も俺の干しコレクションに入れてやるよ!」

 

俺達はお互いに大きく後ろに飛び、間合いを離す。

ザンクの刃なんかでは俺に傷一つ付けれない。だが、こちらにも武器は欲しい。

 

俺はベルトの右側のボタンを叩くように押し込む。

そしてベルトの中央部〈賢者の石〉から専用武器、フレイムセイバーを取り出す。

セイバーを完全に取り出すことにより、俺の身体は歪む。そして眩い光の後、俺の身体は紅く染まり、セイバーを持つ右側には力がこみ上げてくるのを感じる。

 

この世界での初めてのフォームチェンジ。

俺は仮面ライダーアギト。フレイムフォームに変身したのだった。

 

俺はフレイムセイバーを左側に居合いのような構えを取る。

 

「色が変わったぐらいで調子に乗るなよ‼︎」

 

刹那、俺達の斬り合いが始まる。

手数は向こうの方が上だ。だが、こちらにはそのハンデを覆すパワーとスピードかある。俺の圧倒的有利。

ザンクは剣の耐久を気にしたのか一度大きく距離を取る。

 

「ハァハァッ!なかなかやるじゃねぇか!名前は⁉︎」

 

『………アギト』

 

俺はフレイムセイバーのクロスホーンを展開させる。

次で決着だ。

 

「アギト‼︎お前は大切な奴を斬れるのか⁉︎幻視っ‼︎」

 

ザンクの姿が姐さんに変わっていく。

確かに姐さんは大切だが…何故姐さんなんだ?あ、俺が姐さんのおっぱいに忠誠を誓ったからか‼︎

…俺の大切な人で惑わすなんて……ゆ”る”ざん"っ‼︎

 

だが、いくらザンクでも姿が姐さんじゃ斬るのに抵抗を感じる。

俺は集中する。

 

 

「ハハっ‼︎次で決めようとしてたみたいだが、どうだァ⁉︎俺はお前の大切な人だぞ‼︎斬れねぇだr」

 

俺は姐さんの姿のザンクの上半身を切断する。フレイムフォームの力を使い、傷口を炙り止血して置いたから楽には死ねない。

 

「な、なんでだ⁉︎なんでお前は大切な人を斬れるのだ⁉︎」

 

ザンクは叫ぶ。

俺は剣に付いた血を払い答える。

 

『……確かに俺は姐さんを斬れない。だが、この姿の俺は知覚を強化されているからな。いくらお前が5視万能だろうと、ーーーー俺はそれを超越する。』

 

超越感覚の赤。

それがこのフレイムフォームの形容。

 

俺は言葉を続ける。

『お前が姐さんの姿を取ろうと、匂いは血臭に加齢臭が混ざった匂いだった。姐さんの匂いは言葉じゃ表せないくらいに……甘い匂いなんだよ』

 

「………意味が、分からねぇな。だが…愉快、ユカイ……」

 

 

そうだろうな。

ザンクは静かに息を引き取る。もう地獄からの声は聞こえないだろう。自分も地獄に逝くのだから……。

 

 

こうして俺はタツミを治療しアジトへと帰還するのだった。

 




フォームチェンジキター♪───O(≧∇≦)O────♪

やっとザンク終わりました。
次は……シェーレか……。

どうしよう……。


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第13話 帝具

シェーレ編を書くためにアニメを見直してたら胃が痛くなってきました………。


活動報告でアンケートとかした方がいいですかね?



「…シェーレさんが上司で大丈夫かな?」

 

ラバックはリンゴを口に入れ呟く。

現在は昼前。

俺は姐さんとの訓練を終え、今はボス、ラバ、姐さんと一緒にアカメが盛ったフルーツを食べている。

 

「大丈夫だろ。シェーレはタツミを気にいるだろうし」

 

ボスもリンゴを頬張っている。そんなタツミは今川で鎧泳ぎをしている。俺はパインの輪切りを口に入れる。

 

「その心は?」

 

「タツミとコウタロウは年上受けがいいんだよ」

 

あ、分かります?

確かに姐さんと一緒に帝都に買い出しに行く際、よくおばちゃんからオマケをもらう。……年上つっても枯れてますやん。

 

「はーい!コウタロウはずっと私の部下だからな!」

 

姐さんは手を上げボスに予約している。嬉しい事を言ってくれる。

ラバックが俺とタツミの年上キラーに嫉妬を叫ぶと

 

「……殺し屋だけに、年上キラー………」

 

謎の効果音。ボス?

姐さんとラバックの顔は一気に青冷め、後ろに下がる。

………やっちまったな。

 

「…おっ!ボス、なかなかやりますね〜。コイツは一本取られましたよ〜」

 

間髪入れずに俺はフォローを入れる。

俺だってボスの気持ちは痛い程分かる。フォローを入れたのも同情からだ。

 

「……コ、コウタロウぅ〜〜。お前って奴は……」

 

ボスは目をウルウルさせ俺を上目遣いで見てくる。

何この可愛い生き物。

ボスは皆からよくイケメンって言われるが…女神じゃねぇか。

 

「皆、昼は麻婆牛丼にしようと思うんだが、どうだ?」

 

アカメはピンクのエプロンを身につけ昼食のメニューを聞いてくる。

そのキュートな見た目から出る単語はヘヴィーだ。

麻婆牛丼て……重すぎだろ。

 

ラバックも俺と同じようで必死に説得に入る。

 

「皆女の子だろッ⁉︎ちょっとは美容の為に食生活にも気を配ってくれよ‼︎」

 

説得の仕方はアレだが同感である。

だが、どんなに暴飲暴食を繰り返しても絶対に体形を崩さない。それがナイトレイド女子メンバー‼︎

 

「美容の為に気を配る?いいセリフだ。感動的だな。だが無意味だ」

 

ニーサンのれ…………アカメの冷酷な蔑みで俺達は縮こまる。

俺は部屋を出るときラバに俺達用にあっさりした昼飯を用意して欲しいと頼まれた。……蕎麦でも作るか。

 

 

俺はボスとラバックに奇妙な親近感を覚えたのだった……。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

夕刻。

日が沈み始め夕焼けのオレンジが眩しい。

 

俺達は会議室に集まっている。

中央の玉座のように大きな椅子にボスが座ることで会議が始まる。

 

「タツミ、ザンクから奪取したその帝具。お前がつけてみろ」

 

ボスがタツミにスペクテッドを差し出す。

タツミは遂に自分にも帝具が、といった感じで嬉々として受け取った。

 

タツミは前髪を上げスペクテッドを装着する。

……うっわ、だっせぇ。

 

アカメがタツミに自分の心を覗くよう促す。

よく自分から覗かれに行けるよな……。

 

「……夜は……肉が食いたいと思っている‼︎」

 

「おおっ!」

 

図星かよ。

いや分かってはいたがヘヴィー過ぎる……。

ほうれん草のお浸しが食べたい。

 

 

 

その後、タツミは帝具の拒絶反応でスペクテッドを外された。

 

帝具の凄さを実感し、サヨが生き返ると思ったのだろう。

心にもない事を口にしてしまったタツミは部屋から出てサヨの墓に向かって行った。

 

「シェーレさんが行ったことだし、心配要らんでしょ」

 

「……そうだね。シェーレさんに任せようか」

 

シェーレなら今のタツミを抱きしめてくれる。

今のタツミにはシェーレの優しさが必要だ。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

その頃帝国の王の間では、雑務兵がナカキド将軍、ヘミ将軍の離反を報告していた。

 

狼狽えるほかの官僚や将軍。

だが、そんな迷いの声をまだ幼い皇帝は一喝する。

 

側から見たら将来有望な皇帝であるが、実はオネスト大臣の言うことしか聞かないなかなかの愚王であった。

 

「面倒くさいナイトレイド共ぉ。……エスデス将軍を呼び戻します」

 

肉を飲み込みオネストは皇帝に告げる。

その声に他の官僚から待ったの声がかかるが一掃する。

 

「もはや生死は問いませんっ‼︎一刻も早く賊を捕らえ始末するのです‼︎」

 

 

 

宮殿内にオネスト大臣の声が響く。

良識派の官僚は新たな問題に頭を悩ませるのだった……。




WHITE ALBUMってアニメはコケるけど、ストーリーやゲーム内容、曲がとても素晴らしい印象です。

本当にいい歌作りますよね。


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第14話 遭遇

か、課題が終わらないッ‼︎(泣)


「スラムは活き活きしてんだなー」

 

タツミが辺りを見回し呟く。

現在、俺は姐さんとタツミと一緒にスラム街を歩いていた。

確かに帝都の街に比べ街の人の顔は活き活きしている。

 

「雑草魂だね。生まれた時から貧乏じゃ逞しくもなるよね」

 

姐さんはスラム街の真ん中を堂々と歩いている。

周りの人々は姐さんを見つけると年齢に差別せず声をかけて来る。

本当に人気ものなんだな……。

俺が姐さんを飲みに誘うおっさんに、獣のようにガルルルと威嚇していたのは言うまでもない。

 

「でも、本当に人気ものなんだね」

 

「まぁね。なんてたって私の生まれ育った場所だからな。これでもマッサージ屋としては腕がいいと評判だったんだ。今度、コウタロウとタツミも揉んでやろうか?」

 

実に魅力的なお誘いだが、俺が姐さんを揉みたい。おっと、失礼。

 

「いたぞッ‼︎レオーネだッ‼︎貯まったツケ払ってもらおうかぁ‼︎」

 

いきなり大声で姐さんの名前が叫ばれる。

前方から走って来られたのは姐さんの被害者の方々である。

姐さんは後ろを振り返って走り出す。俺とタツミは出遅れ姐さんを追いかける。

 

「どうだ‼︎面白い所だろ⁉︎」

 

「姐さんが殺しの標的にならないか心配だよ〜」

 

タツミが姐さんを本気で心配しながら、俺達はスラム街を颯爽と駆け出すのだった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「……ハァハァッ‼︎ここまで来れば大丈夫だろ……」

 

タツミが後ろを振り返り、タツミの背中を追ってきた俺と目が合う。

 

 

「……あれ?姐さんは?」

 

しまった。

タツミの後を着いて行ったら姐さんと離れ、迷子になってしまった。

 

「……え?知らないよ?」

 

「……つーことは…迷子か」

 

タツミの眼から生気が失われていく。

それもそのはず。この無駄に広いスラムで迷ったのだから。

姐さんと一緒なら心配ないのだが、ペアはスラム初心者の俺とタツミだ。

 

俺は途方に暮れ、タツミはオロオロしている。

 

「そこの君達っ!」

 

後ろからいきなり大声が聞こえてきた。

君達って……俺達だよね?

 

「なにかお困りですかなー⁉︎」

 

俺達は声の方を振り向く。

声の主は、セリュー・ユビキタスだった。

Oh……クレイジーガール…。まさかこんな所でセリューと出会うとは最っ高に帰りたい気分である。

 

タツミはセリューの着ている服、警備隊の制服を目にし顔を強張らせる。

 

「帝都警備隊セリュー‼︎正義の味方です‼︎」

 

セリューは帝具のコロをリードで持ち、敬礼する。

タツミは警備隊と聞いてオーガでも思い出しているのだろう。俺が代わりに質問する。

 

「…あのー、それは……?」

 

俺はあからさまにこの場で異様な雰囲気を放つコロのことを尋ねる。

いや、マジでさっきからキュルキュル言ってるんだけど……。

 

「帝具『ヘカトンケイル』ご心配なく、悪以外には無害ですから‼︎」

 

とてもそうは思えません。

セリューもコロも普段は愛くるしいのだが、本性を知っている俺にはこの時間は苦痛以外の何ものでもない。

 

「ところでお困りなのでは?」

 

「あ、いやー、道に迷ってしまって。元いた場所の名前は分かるんですが……」

 

その言葉を聞いた途端腕で抱いていたコロを放り出し、俺達の手を取り走り出す。…ホントにコロは可愛がられてんの?虐待とかされてないよね?

 

タツミはセリューに手を取られたのか顔を赤くしている。それに気づきコロは暴れだす。

ごめん、マジでキュルキュルうるさいのだが……。

 

 

 

「えっーと、ここが元いた場所だと思います」

 

「「ありがとうございます」」

 

俺達は頭を下げる。

 

「なんの!これも正義の味方の仕事ですから!」

 

「アハハハ、それは心強いです〜」

 

俺は苦笑いをしながら適当に返す。

本当にあの娘だけは歪んじゃってて、今の帝都の政治より悪を裁く自分にしか興味がないのだろう。

しかも、セリューの悪を裁くときの顔はアリアのゲス顔とまったく同じだし………。

 

「行くよコロ!晩御飯は死刑囚5人です‼︎」

 

彼女は最後にトンデモないことを言葉を発しながらコロを引きずって去って行った。俺とタツミは溜めていた溜め息を吐き出す。

 

 

 

 

………胃が痛い。

 

 

 




そろそろですか……。


あと、いつもこのような駄文を読んで下さっている皆様。
是非、感想やアドバイスなどなんでもいいので送って下さい。
作者の養分になり書く意欲が増します。


というかお願いします‼︎


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第15話 潜入

最初に言っておく。




コウタロウは変態だッ‼︎


帝都の色町。

それは一見、江戸時代の吉原をイメージさせる町だった。

ピンク色のネオンが怪しくもあり色気を漂わす。辺りは着物を着崩した遊女が町行く男性を眺めている。

 

「ここが帝都の色町か…。ドキドキするな……」

 

「そうだね。気を抜くと前かがみになっちゃうよ」

 

俺とタツミは色町初心者。

タツミは田舎者でこんな場所は初めてらしく、俺は前世から童帝のため無縁であった。

 

「お、そのストレートな反応可愛いね〜。だけどコウタロウは自重しろよ」

 

姐さんは俺の反応を見て呆れている。

 

「さて、そろそろお仕事して借金返さないと!……確か、こうかな?」

 

姐さんは気合いを入れ腰に巻いているベルト〈ライオネル〉を整える。

そして、両手を素早く左腰に持って行き手首を交差させる。左手はそのまま、右手を前に勢いよく突き出し今度は右胸に引っ込める。

ま、まさか……その構えは⁉︎

 

「……ハァ〜………変身っ‼︎ライオネルッ‼︎」

 

姐さんの変身の掛け声と共に、姐さんの背後に気高き灼熱の獅子のオーラが浮かび上がる。まず変化したのは髪。肩にかからない程度の髪は獅子の鬣〈たてがみ〉のように伸びてゆく。

次に尾骨のあたりから尻尾がはえる。最後に猫耳と言っていいのか獅子耳と言っていいのか分からないが、とにかくネコ科の耳が生える。

 

姐さんは俺がアギトへと変身する際のプロセスを自身の変身に組み込んで俺達に披露してくれた。あぁ……感無量です。

 

「よし!この姿になると昂ぶる昂ぶるっ‼︎」

 

姐さんが決めポーズをとっている背後で俺とタツミは拍手をあげる。

自分で言うのもなんだが、これから潜入するんだよね?

 

「ほら!コウタロウも変身して!」

 

「……え?俺も?」

 

早く早く!と急かされる。

まぁ、いいもの見せて貰ったんだから俺はいつもよりキレのある動きで変身する。一瞬の閃光と轟音。やっぱりアギトだと燃えるな。

 

「なら、コウタロウがタツミを抱えて私に着いてきて!」

 

タツミは嫌々ながらも俺に捕まり頼んだぜ、と一言かける。

姐さんは脚に力を入れ飛び上がる。その際に、姐さんがいた瓦が砕け散ったのを見てタツミが震える。

 

姐さんは足音を立てず、その上タツミの全速力と変わらぬ速度で駆け出す。タツミに騒がれるのも面倒なので、脇に抱えるタツミの口を塞ぎ俺は姐さんの後を追った。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「ふぅ〜……到着」

 

姐さんは綺麗な笑顔で汗を拭う。

俺はタツミを降ろし一息つく。……タツミは酔ったのか口を手で塞いでいた。

 

それにしても足を止めることなく上手く護衛の目を掻い潜って来た姐さんは、本当に一流の殺し屋なのだろう。

 

「見てみろ」

 

姐さんは天井の板をずらし俺達を呼ぶ。

 

中を覗くと、部屋はたくさんの遊女が部屋の中央から炊き出されるクスリに溺れていた。

酷いな……。

 

タツミはまた口元を塞ぐ。

俺も吐き気を堪えながらも視線はずらさない。

 

すると部屋に2人の男がやってくる。

 

「おお〜やってるね。お前らもっと稼げばクスリを回してやるからな。」

 

部屋の遊女達は力が入ってない声で応える。

すると1人の男がある遊女に目をつける。

 

「ん?コイツ、完全に壊れてますぜ。魚臭えし、もうダメなんじゃないですか?」

 

「そうだな……廃棄処分」

 

廃棄処分と言われた遊女は、自分の事とは分かっておらず、1人の男にクスリを求め、手を伸ばす。

 

「おーらよっと‼︎」

 

男はその遊女を一切の加減もせず殴り飛ばす。

 

姐さんはそれを見て殺気を尖らせる。

もう姐さんの眼は、獣の眼と化している。俺だって我慢の限界だ。

 

「……今殴られた娘、スラムの顔馴染みだった。ムカつくッ‼︎さっさと標的を始末しよう‼︎」

 

「『了解」』

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「親分〜〜。もっとクスリのルート広げましょうよ」

 

「そうだな、明日チブル様のとこに相談しに行ってみるか」

 

そう親分と呼ばれた男が言い終わると突然天井が崩れ、3人の男女が降りてくる。その内の1人は仮面と鎧を纏っていて顔は分からなかった。

 

 

「『「お前達が行く所は……地獄だろう‼︎」』」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「なぁ、あの壊れた女の子達、これから一体どうなるんだ?」

 

夜道を街灯が照らすなか、タツミが姐さんに聞く。

 

「…そこは私達の領分じゃないだろう?」

 

でも、と何か言いかけたタツミは顔を下げ下を向く。

 

「…え?でも俺、あの娘達治してきたよ?」

 

「「……え?」」

 

そんなに不思議な事だろうか?

あの殴られた遊女を治していたら、クスリの中毒や性病も治ったのだ。それに気づいてからは全ての娘達を治して連れ出すのに少し骨が折れたが……

 

姐さんは俺を不思議な表情で見つめてくる。

その表情はどこか儚く、そして愛おしい乙女の顔だった……。

 

「…結局オイシイところは全部コウタロウかよ〜」

 

タツミは一安心といった顔で俺と拳を合わせる。

コツン、と音が鳴る。

 

「………コウタロウ、ありがとうな」

 

姐さんも俺に拳を突き出す。

俺はそれにはにかみながら拳を合わせるのだった。

 

 

「…ごめん2人共、ちょっとお腹が痛くなって来たから先に帰ってて。

俺は近所の民家でトイレ借りてくるから」

 

その場の雰囲気は台無しだが、それどころではない。

ろくな言い訳が思いつかず若干焦り気味2人に告げる。お大事にの言葉を貰い、2人を見送り俺はマシントルネーダーを呼び出す。

 

どこからともなく俺の元へ走ってくるその愛車に跨る。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はマインとシェーレの帰還ルートを目指し愛車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最近、文字数がバラバラになって来ています……。

今回の話は2000文字越しちゃった……。


次回、コウタロウは原作の悲劇を止めることができるのか⁉︎




次回、第16話 ご都合主義

デュエルスタンバイ‼︎


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第16話 彼の名前はコウタロウ

悲劇という結末を、捻じ曲げろ。


コウタロウ________アギトがタツミとレオーネと別れ、己の愛車に跨り風を切っていた頃。

 

 

 

帝都郊外にある時計塔。

今現在の時刻は丑三つ時を少し過ぎた頃を指している。人気の気配もなく街灯に集まる羽虫が夜の静けさを演出する。

 

夜の静けさ。

その言葉は、今宵の夜には全くと言っていい程似合わなかった。

 

 

「コロッ‼︎奥の手っ‼︎狂化ァァァァッ‼︎」

 

叫び声をあげたのは茶髪の少女。その少女は肘から先が無くそこから血が滲み出ていた。

彼女の名前はセリュー・ユビキタス。

帝都警備隊に所属する帝具使いである。彼女は今帝都の闇で暗躍するナイトレイドのメンバーの1人、シェーレに追い込まれていた。

彼女は人一倍正義感が強かった。それは同じく帝都警備隊で殉職した父や尊敬する隊長オーガの影響だろう。故に両腕を失い、人体改造で腕に仕込んだ銃が防がれても、彼女は命乞いをしなかった。

いや、まだ諦めていなかったのだ。

だからデメリットがある己の帝具、ヘカトンケイルの奥の手を発動させたのだ。

 

 

奥の手の発動を許可されたヘカトンケイルことコロは、目を充血させ牙を鋭く大きくし、体の体毛を赤く変化させる。

変化したのはそれだけではなかった。

全身の体格はナイトレイドの2人と交戦していたときの倍近くになって筋肉も肥大化していた。

 

コロは空に向かって吠える。

その光景は、普段の愛くるしいコロの面影などない。狂犬だ。

 

その鼓膜を破壊する程の遠吠えに耳を塞ぐピンク髪の少女、マイン。

彼女もまたナイトレイドのメンバーで帝具使いであった。

 

耳を塞ぐことに集中していたマインは、その太く肥大化したコロの腕に掴まれる。

 

「マインッ‼︎」

 

「握り潰せぇぇぇぇぇぇぇっ‼︎」

 

シェーレはセリューに止めをさす事を忘れマインの方へ走り出した。

セリューもセリューで、自身の帝具であるコロが悪を捕らえ粉砕しようとする様子に興奮し両腕の痛みを忘れている。

 

その顔はどこかのサド貴族の少女と酷似していた。

 

グキリと、片腕をへし折られ苦痛に顔を歪めるマイン。このようなピンチに火力が高まる自慢の帝具、パンプキンも今は構えられない。

コロのマインを掴む腕にチカラが入る。

 

一閃の後、マインを苦しめるコロの腕はシェーレによって切断される。血が噴き出し切断された腕は大きな音を立て地面に落ちた。

やっと苦しみから解放されたマインは、一安心からか自身の窮地を救った家族とも呼ぶべき仲間の名前を呼ぶ。

 

「…っう!……シェーレッ‼︎」

 

シェーレもマインの方へ振り返り笑顔で応える。

 

「間に合いました!」

 

刹那、銃声と共にシェーレの胸から血が噴き出した。

そこからマインとシェーレは全ての時間が遅くなったかのように体感する。飛び散る鮮血と共にゆっくりと倒れていくシェーレに、マインはまだ何が起こったのか理解できなかった。

 

銃声の聞こえた方を見ると、セリューの口に仕込んだ銃口から煙が出ていた。そこでやっとマインは理解する。自分のピンチを救うため止めをさすことも忘れて飛んできたシェーレが、追い詰めた相手に撃たれたのだと。

 

(……体が………)

 

倒れ行くシェーレに、大きく口を開けたヘカトンケイルの魔の牙が襲う_____筈だった。

 

口を開いたヘカトンケイルはどこからかやってきたナニカよって吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫⁉︎シェーレさん‼︎マインちゃん‼︎』

 

声の人物は金色と緋色のフォルムの鋼鉄の馬に跨るコウタロウだった。

 

 

 

 

 

____________________

 

コウタロウside

 

やっと見つけたシェーレ達にコロの魔の牙が迫っていた俺はマシントルネーダーを最大加速させ思い切り体当たりする。

流石のコロの巨体でも横から400キロ越えの速度でぶつかってきたマシントルネーダーは受け止めきれず20メートル程吹き飛ばされる。

 

俺は地面に崩れ落ちそうになっていたシェーレを受け止め治療する。

セリューの狂弾により受けた傷も元どおりになる。

 

「……へっ?コウタロウ?」

 

次にマインの元に駆け寄り骨折した腕を元どおりにし、パンプキンを拾い与えマシントルネーダーの元へ戻る。

 

マインを治療している間に、マシントルネーダーはスライダーモードへと変形させている。

俺はシェーレをお姫様抱っこの要領で抱き上げ愛車に飛び乗る。最初に言っておくが、お姫様抱っこしかスライダーモードでは乗せられない。マシントルネーダーはスライダーモードへと変形すると、「オルタバリアフィールド」と呼ばれるバリアが搭載者を空気抵抗から守るため発生する。普通に抱えて持つと、シェーレは搭載スペースからはみ出し直に風を直撃し最悪死ぬ。故のお姫様抱っこ。うん、仕方ない。

 

『早く乗って‼︎』

 

マインの腕を掴み後方部へと引き上げ乗せる。

コロは自分が吹き飛ぶ際に抉ったレンガの欠片を払いのけ、こちらに勢いよく走ってくる。

 

スライダーモードの最高速度は700キロを越す。

だがその速度を出すまでにも少し時間はかかる。オマケに先程セリューが呼んだであろう応援部隊も俺達を追ってくる。

 

『マインちゃん!敵来てる来てるぅ‼︎早く撃って撃ってぇぇぇぇぇぇぇっ‼︎』

 

「分かってるわよ‼︎集中できないじゃないっ‼︎」

 

焦りペースを見失う俺とマイン。

……いや、だってまだ動かない車に乗ってて後ろからゾンビ達が走って来ると怖いじゃん?

 

パンプキンを乱射するマイン。

俺も操縦に支障をきたすレベルで混乱している。ピンチを救った王子様も台無しである。

 

シェーレは俺達に気を遣ったのかエクスタスの閃光で敵の目を眩ませてくれた。敵が立ち止まっている間に俺はマシントルネーダーの全速力を持ってして、ナイトレイドのアジトこと我が家に逃げ帰ったのだった…………。

 

 

 




ウラ設定ですが、主人公の名前のコウタロウ。
この名前の由来は、某太陽の子の仮面ライダーがモデル……というかパクリであります。漢字は違うんですけどね。


この小説を書くにあたりどうしてもご都合展開は避けられないと思い、自然な感じのご都合展開にしたくてこの名前にしました。




……ほら?あの人ならどんな奇跡を起こしても自然でしょ?


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第17話 帰還

原作の漫画買おうか悩んでます。

今のままだとアニメしか見てないので終わり方はあんな感じになるんですけど、

やっぱり原作ルートの方がいいですかね?




ポツポツと降り始めた雨は強まり、雷を伴い始めた。

俺達3人はアジトに着くまで下らない雑談をして過ごした。不思議な事に、誰もあの出来事を話題に出さない。気を遣い合っているのだろう。

アジトが視界に入る頃には速度を緩め、雨はより一層体を冷やす。

 

 

 

ナイトレイドの皆は、シェーレとマインの帰還が予定より大幅に遅れていたためか迎えに外に出ていた。

この雨の中で、ずっと外で待ち続けていたとはなんとも仲間愛に溢れている。

 

「シェーレ‼︎マイン‼︎それとコウタロウ‼︎何があった⁉︎」

 

「すみません、ボス………」

 

俺はゆっくりシェーレを地上に降ろし、マインも手を貸して降りやすい様にさせる。2人がマシントルネイダーから降りると俺も飛び降り常時のバイク型に戻す。

 

「……帰還中に警備隊の定具使いと遭遇、交戦したのよ」

 

「なにッ⁉︎それでどうなった⁉︎」

 

アニキも含め、今の皆の顔は真剣そのもの。普段がマヌケ面のラバックも真剣な表情で俺達の話を聞く。

 

「後少しで殺されそうになったのですが……コウタロウが助けてくれまして。その変な乗り物で私達を回収してくれました」

 

「えぇ。悔しいけど、コウタロウが居なかったら死んでたわ」

 

マインは声のトーンがトルネイダーで3人で談笑していた頃より格段に低くなっていた。それ程あの出来事に恐怖という感情があったのだろう。シェーレも察する。

 

「そうか……。とりあえずはお疲れ様。今はゆっくり休め。明日また報告して貰うぞ」

 

 

その一言で皆は解散しそれぞれの部屋へと戻って行く。

 

「コウタロウ。本当にありがとうございました」

 

「本当に悔しいけど……助かったわ」

 

マインはブレない。

もうちょい感謝の気持ちを込めて貰いたかったが、流石にそんなことも言える空気ではない。

2人が部屋へと戻って行くのを見届けると、俺の愛車は何処かへと走って行く。……本当にお疲れ様。

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

「それで、昨日の続きだが……コウタロウ、お前も報告してくれ」

 

はい、と返事をし溜まった唾を飲み込む。

 

「俺は姐さんとタツミと帰還中に、急にトイレがしたくなったんで、先に2人に帰って貰って俺は近くの民家にトイレを借りようと思ったんですよ」

 

「あぁ。そこまでは私達と一緒に居たからな」

 

姐さんは腕を組んで壁にもたれかかる様にしている。ボスは机に肘をつき腕を組んで「それで?」と促す。

 

「トイレが終わって、帰ろうとしたら銃声や警備隊の応援の笛が聴こえたんです。何かな〜って思ってたらマインちゃん達の帰還ルートの近くだったんで一応変身して覗いて行こうかな〜って行ってみたら2人と会ったんだです」

 

なるほど、とボスは顎を抱える。

原作ではこの戦いでシェーレは死ぬのだが、前世で見た時に憂鬱になってしまったのはいい思い出。だが、実際に転生してこの世界にやって来たのだからその悲劇を変えたいの願うのが普通だろう。

 

「それにしても、本当に無事で良かった」

 

アカメは息を吐きおろし、椅子にもたれかかる様にする。

 

「そう言えば…コウタロウが乗ってたあの鉄の馬みたいなやつ、一体何よ?」

 

「あぁ。アレは『マシントルネイダー』って言って俺の相棒だよ。めちゃくちゃ速いんだよ〜」

 

「……ほぅ。アギトの副武装か……」

 

ちょっと違うが大体そんなモンだろう。

副武装と言えば、セイバーにハルバードがあるからカウントすると3つもある。……あれ?チートじゃね?チートでした……。

 

「なぁコウタロウ‼︎今度俺も乗せてくてよ‼︎」

 

タツミとラバックはマシントルネイダーにべた惚れでだった。

流石男子。よく分かってるが乗せたくない。俺の愛車が汚されそうな気がする……。後ろに乗っけてやるのは土下座すれば許可するが、靴は脱いでもらう。

あ、勿論女子メンバーはタダだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

「エスデス将軍。北の異民族の制圧、大変ご苦労であった!褒美として黄金1万を用意してあるぞ!」

 

帝国。宮殿内で玉座に座る幼い皇帝。

皇帝は下座に膝をついているエスデス将軍と呼ばれた女性を褒め称える。

 

「ありがとうございます。北に残してきた兵達も喜びましょう。」

 

帝国の双璧の1人、エスデス。

彼女は美しい。蒼銀の艶やかな腰まで伸びた髪。雪の様に白い肌。

モデル顔負けの抜群のスタイル。完璧とも言える顔立ち。彼女は美しく、強かった。

だが、彼女は政治や権力に全く興味がない。戦いに勝って蹂躙する事が全て。彼女はそこを大臣に目をつけられ、利害関係を持ちかけられそれに便乗する。それは、大臣の良識派の官僚や革命軍に対する最高の手札であった。

 

 

「…そうだな。将軍には黄金だけでは無く、別の褒美も与えたいな。

何か欲しいモノはあるか?」

 

「………そうですね……あえて言えば……『恋』をしたいと思っております」

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、彼女のそんな一言で宮殿内は凍りついた。




いつもご愛読ありがとうございます‼︎



前書きにも書いたと思うんですけど、原作の漫画ルートをベースにするか、それともアニメルートかどちらか選んで感想に送って下さい‼︎

どっちを書いたらいいか自分には決められません……。

※活動報告にてアンケート開始しました。
どうかご意見をお聞かせください‼︎



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第18話 3人

入学式や春先の準備で忙しく、遅れてしまいました。



 

 

 

「おっ、もうこの肉焼けてんぞ!」

 

「ラバの肉もーらいっ‼︎」

 

「あっ⁉︎ちょっ姐さん⁉︎」

 

タツミや俺が鎧泳ぎをしていた川。自然に囲まれ緩やかで透き通った水の音が心地よい。

 

俺達は今、ナイトレイド全員でバーベキューを楽しんでいた。

きっかけはラバックとアニキ

 

曰く、あの出来事で暗くなったマインを楽しませ、空気を変えるためである。

アニキは流石だが、ラバがそんな気遣いができたことに感服である。

そんな2人の気遣いが心に通じたのか、マインはこのバーベキューを楽しんで心から笑っているように見える。

 

殺し屋という稼業で生きるということは、いつ報いを受けてもおかしくない。タツミや俺という後輩ができたことに少し浮かれていたマインは、改めてそれを実感した。一方のシェーレは、あの出来事の後もいつものように自慢の天然ボケでのほほんと過ごしていた。

 

いや、シェーレらしいって言ったらシェーレらしいんだけど………

 

 

 

 

 

______________________

 

タツミside

 

あのバーベキューから数日。俺はひたすら訓練に打ち込んでいた。

マインのような殺し屋でもミスを犯し、死を直前まで垣間見たのだ。

このナイトレイドで一番弱いのは俺だ。コウタロウは俺と同じ時に入ったが、あいつは帝具持ちな上に実力もある。槍の扱いはアニキと同等だし……

 

「タツミ。そろそろ休憩を入れよう」

 

「休憩なんてできるかよ!言ったろ、実戦と同じノリで来てくれって!行くぜええええっ‼︎」

 

アカメは俺に休憩を促すが、そんなことでは強くなれない。

アカメに一太刀入れるべく俺は勢いよく間合いに飛び込む。が、その途中でアニキの拳が俺の顔面にクリーンヒットした。

 

「何すんだよアニキッ⁉︎」

 

「実力と同じノリってんなら、周囲にも気を配れよ。敵がどこに潜んでいるか分からねぇんだぜ」

 

正論を言われ俺は顔をしかめる。

 

「……アニキッ‼︎なら俺に槍を教えてくれよ‼︎」

 

「望むところだッ‼︎俺の槍(意味深)は甘くないぜぇッ‼︎」

 

なんか少し違和感を感じたが気にしない。俺は木刀を置き槍に持ち変えアニキとの訓練を始めた。

 

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

 

雪が舞い落ちる帝都から離れた廃れた村。

火を囲む村人は皆顔が暗い。そんな村を通る馬車。

 

「……この村もまた酷いな。民有っての国だと言うのに」

 

「そんな民を憂い、毒蛇の巣である帝都に戻る父上は立派だと思います‼︎」

 

馬車の中には帝都の元大臣、チョウリとその娘であるスピアが乗っていた。チョウリは良識派である故、今の帝都を快く思っていない。

 

「ワシはあの腐れ大臣ととことん戦うぞ!」

 

「父上の身は私が守りますっ‼︎」

 

「いい娘に育ったな…。勇まし過ぎて嫁の貰い手が……」

 

嘆く父に、それに頬を赤く染めながらも拗ねる娘。

親馬鹿と親思いである。

 

馬が急に足を止め、その勢いで車内は揺れる。スピアが外を見ると、行く手には3人の男がいた。

 

「また盗賊かっ!治安が悪いにも程がある‼︎」

 

「これまでと同じように成敗してくれる!皆、油断するな‼︎」

 

スピアは馬車から飛び降り、10人ほどの部下を引き連れ3人の男の1人、ダイダラと呼ばれた大柄の男に向かって駆け出した。

 

だが、現実は非情だ。

ダイダラの持つ斧の横薙ぎの一閃で、部下達は全滅。スピアは獲物が壊れ、腹を斬られていた。

 

「…強過ぎるっ‼︎」

 

「へー、おねえちゃんやるねー」

 

地面に膝をつくスピアに近づく少年。

 

「でも、これから起こる事を考えると、死んでた方が良かったよ」

 

その少年は懐からナイフを取り出し、スピアに近づける。

 

「嫌っ……‼︎」

 

これから何をされるか察したのか、スピアは涙を零す。

泣いても無駄だと、少年は冷酷に笑い刃を彼女の頬に当てようとする。

だが、どこからか現れた手によりその刃を掴まれる。

 

『はいザンネーン‼︎』

 

その手の主は、赤い大きな複眼を持ち金色の鎧に身を包んでいた。

 

少年は察する。

これから起こる喜劇と言う名の一方的な暴力を。

 

 

 

 




「父上の身は私が守りますっ‼︎」

「ならスピアさんの身は俺が守りますっ‼︎」

はい出ましたー。鬱ブレイカー、コウタロウ。

後書きらしい後書きなんですが、活動報告でアンケートがあるので是非投票?してくださるとありがたいです。


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第19話 スピアとチョウリ

アニメ版の三獣士編を見てて、

おっ、ニャウ意外に可愛いいね!(^∇^)

奥の手使用後

あっ、チェンジで(´・_・`)


 

馬車の車輪が小石を弾き小さく揺れる車内。

俺は三獣士の魔の手からチョウリと娘のスピアを救出し、帝都まで一緒に帰還していた。

三獣士の1人、ニャウのナイフを掴みそのまま顔面に右ストレートを叩き込もうとした。しかし自身の帝具であるスクリームの奥の手を使い自分の顔面の全筋肉を防御に回したため殺せはしなかった。

だが、30メートル程吹っ飛んでいたので気は失っていたと思う……。

 

三獣士は三銃士をリスペクトしているのか1人は皆んなのために、皆んなは1人のためにを実行するべく気絶したニャウを連れて撤退して行った。

 

「いやはや、本当に危ないところじゃった……誠に感謝する」

 

べ、別にアンタのためじゃないんだからねっ!スピアたんのために助けたんだからねっ!………すみません、冗談です。(半分本当)

 

「いえいえ。でも、間に合って良かったです!」

 

「怪我まで治して貰って……ほれ、スピアも頭を下げんか!」

 

チョウリは深々と頭を下げる。

良識派だからか、やはり礼儀はキチンとしている。

 

「……っ‼︎」

 

スピアは顔を俯かせる。

気のせいかそんな彼女の顔は赤く染まっている。熱でもあるのだろうか?

 

……なんて事は言いません。大方、ピンチを救った俺に気があるのだろう。前世は童帝であっただけにそういうのには敏感である。でも、とても気まずい……。

 

「それにしても、あの鎧は帝具かの?帝具所持者となると所属は限られるのじゃが…」

 

「ここだけの話……実は俺、ナイトレイドなんです!」

 

俺がナイトレイドのメンバーと言う事を告白すると、チョウリとスピアは口を開け目を見開く。絶句というやつだ。

 

「……何故帝都の暗殺集団がワシを?」

 

チョウリの目は急に鋭くなる。スピアはまだ口を開けているが……。

 

「実は、ナイトレイドは革命軍の一部なんです。帝都が腐っていると言えども、原因は大臣をはじめとする悪党。だからこそ、良識派である貴方を助けたんです。」

 

「成る程のう……。なんとも皮肉なものじゃな」

 

「お言葉なんですけど、貴方はもう帝都に居場所はありません。大臣やエスデス将軍から狙われている以上、またこの様な事が必ず起こります。………そこでです。是非革命軍に加入しませんか?」

 

チョウリは自身の禿頭をさすりながら唸る。

新しい国にはチョウリのような民の事を憂い、愛国心のある者が必要である。元大臣と言うこともあり、政治を任せておけば今の帝都のようなことにはなるまい。

 

「……そうじゃの。ワシ1人なら帝都に残り大臣と戦うもの、ワシにはスピアがおるからの。革命軍で働くとするわい」

 

「父上……」

 

「分かりました。とりあえずこれからナイトレイドのアジトに向かいます。ボスに報告した後、革命軍本部へとお送りします。」

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

「と言うことです」

 

俺は2人を皆に紹介した。俺達が戻ってくると皆は会議室で次の任務について話し合っていた。姐さんはエスデス将軍の観察。

ラバックとアカメは別の文官の護衛。タツミとアニキ、そして俺は船での護衛。原作ではこの任務でアニキが死ぬ。助けようにも、タツミの成長を妨げてしまう……どうしたものか。

 

「タツミ、さっき言っていた新しい国に必要な文官の1人が、そこのチョウリ元大臣だ。」

 

ボスがタツミにチョウリを紹介する。ラバックはさっきからスピアにナンパしまくって殴られている。

 

「数日後、革命軍本部へ向かいます。2人は私が送り届けるのでご安心を」

 

チョウリはナジェンダがこのナイトレイドのボスということに驚きを隠せていないようだ。後から聞いたのだが、2人はよく酒を呑みながら帝都について語り合ったらしい。

 

 

「コウタロウさんっ!そのっ……不束者ですがよろしくお願いしますっ‼︎」

 

スピアは照れながら俺に向かい頭を下げる。可愛いのだが、拳に付着したラバの鮮血に目が行く。憐れ……ラバ。

 

「んん〜⁉︎いつから2人はそんな仲なのかな〜⁉︎」

 

「ちょっ!姐さんギブギブッ‼︎」

 

姐さんは俺の首に腕を回し、締め付ける。

その際に姐さんの触れる素肌が心地よく感じた俺は健全な男なのだろう。

 

 

 





コウタロウさんはどっかの唐変木ではありません。


アンケートや感想の方でも、原作ルートに沿って欲しいと多くの声があったので原作ルート沿いで行きたいと思います。

アンケートにお答えいただいた方々、本当にありがとうございました。
取り敢えずは2週間以内に原作を揃えるのが目標です。





原作ルートを沿うにあたり……









ワイルドハント絶対ゆるさねぇ‼︎(ドロテアちゃん以外)
※お話しの都合上、原作が所々崩壊します。


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第20話 三獣士を蹴る 其の壱

昨日、とある用事で遊園地に行くことになり偶然にもドライブショーが開催されていたので拝見させていただきました。

雨天で子供は3人も居なかったので自分も写真撮影と握手してきました。(もちろん小さい子優先ね)

凄かったのがマッハでTVを見てるようなとても自然な演技をしていました。
超かっこいい……。


 

「っで、でけえええええええええええっ‼︎」

 

叫び声の主はタツミ。

タツミはいつものコートを羽織り竜船を見上げる。完全に田舎者の仕草である。一緒に居たくない…。だが、タツミの言う通りこの船はとてつもなくデカイ。それこそ、学校の校舎を優に越し下手したら高層ビルに並ぶ程の高さ。その高さに先が見えない程の横幅があるのだ。

小便ちびっちゃう。

 

「砦みたいな船だね」

 

「ここで偽物を迎え討んだよな」

 

俺達はあらかじめボスから配布されていた乗船券を見せ、船へと続く階段を昇っていく。

 

数分ほど経ち船は汽笛を鳴らし水を切っていく。どうやら出発したようだな。辺りは燕尾服や蝶ネクタイのタキシードを着込んだ男性や華やかなドレスを着飾った女性が乗船している。貴族や富裕層といったところか。乗船客達は片手にグラスを持ち他の客と談笑を楽しんでいる。

 

俺達はデッキに出て護衛対象を観察していた。護るべき爺さんは黒スーツに剣を下げた大柄の男達に囲まれている。

 

「こりゃ暗殺するのは無理だろ。こっちはハズレだな」

 

溜め息を吐き出したタツミは急に小さく悲鳴を上げる。まるで誰かに殴られたようだ。

 

「えっ?えっ?何っ⁉︎」

 

「決めつけてんじゃねーぞタツミ。俺が透明化なんて奥の手持ってんだ。敵も何して来るか分かんねーだろ?」

 

「アニキっ!」

 

未だ何が起こったか理解できていないタツミはようやく気づく。俺達のすぐそばには透明化したアニキがいる。

 

「それにしてもこの鎧ホント便利ですよね〜」

 

「おう!コイツで南部異民族との戦い抜いたんだ。俺の相棒みたいなもんだぜ」

 

透明化しているアニキもといインクルシオの鎧をペチペチと触る俺は側から見たら気色悪いパントマイムをやっているヤツにしか見えないのだろう。

 

「……でも、どんなに頑張っても結局な」

 

そこからアニキは自分の昔話を始めた。

内容は原作を読んで知っている。だが本人の口から直に言われると今の帝国について考えさせられる。

アニキは尊敬する上司、リヴァがでっち上げの罪で牢獄に送られ自分にも知らぬ罪を着せられ帝国で働くことが馬鹿らしくなった元軍人だ。これから遭遇するであろう三獣士の1人は、彼の尊敬する上司、リヴァその人だ。だがアニキなら戦える。例え尊敬する人と敵になって再会したとしてもすぐに切り替えれる。

 

透明化の限界が近づいたアニキは一度鎧を外すついでに船倉を調べに行った。アニキは顔バレするため俺達が目立つ場所を警戒する。

 

 

 

 

護衛対象が船内に戻ったことから俺達も船内に戻る。俺達はできるだけ自然な感じに対象のすぐ近くでスタンバイしている。視界から外すことはないようにしていたが、どうせ眠らされるため無意味だ。

 

どこからか上品な笛の音が聞こえてくる。ニャウのスクリームだ。次々と辺りの人々は倒れ始めるが、少し様子がおかしい。笛の音が少し汚いのだ。まるで口内炎にでもなっているかのように、引きにくそうな音だ。

タツミはなんとか笛の音に耐えている。そう言う俺はアニメを繰り返し見ていたため耐性がついている。オマケに来ると分かっていたら警戒できて心に余裕が生まれるからな。俺達はとりあえずデッキへと出る。

 

「くっ!この笛の音、帝具かっ‼︎」

 

耳を塞ぐタツミ。笛の音が分からない田舎者って……。

 

「おっ、まだ頑張ってるヤツがいるじゃねぇか。眠ってたら生かしてやったのによぉ」

 

デッキへの入り口から巨漢の男、ダイダラが歩いてくる。

 

「っていうことはテメーが偽物のナイトレイドか⁉︎」

 

「おおっ!ならお前らが本物さんかい⁉︎こりゃいい。ほらよっ」

 

ダイダラはタツミに向かって剣を投げた。タツミはそれを受け取り怪訝な目でダイダラを睨む。あれ?俺に剣はくれないの?

 

「俺はさぁ、戦って経験値を得たいんだよぉ!ほら、かかって来いっ‼︎」

 

「あっそう。……じゃあいい経験させてやる。地獄巡りだ‼︎」

 

タツミは剣を抜きダイダラめがけて飛び上がる。

 

「……変身っ‼︎」

 

俺は静かに変身する。

心なしかこの2人、俺を完全にシカトしている。

 

ダイダラの帝具、ベルヴァークの上からの振り下ろしをかろうじて避けるタツミ。

 

「ほぉう、音にやられた体でよく避けたじゃねぇか。だったらこれはどうd……ってお前、この間のっ‼︎」

 

『……』

 

俺は何も発しない。タツミやみんなの前だと変身したら翔一のようにキャラを変えるのだが、この間はみんなが居ないことをいいことに大分はっちゃけたからな……。

 

「何でもいいっ!まとめてくらいやがれっ‼︎」

 

ダイダラはベルヴァークを分離させ、俺達に投擲する。片方の俺は叩き落としダイダラの手元に戻さないようにする。しかし、タツミは避けて戻って来るベルヴァークをダイダラに当てさせようと突っ込んで行く。

 

「馬鹿かテメェは‼︎」

 

横からアニキがタツミをぶっ飛ばす。鼻血を抑えながらタツミはアニキの説教を聞く。めっちゃ痛そうで不意にも『あふぃっ』とか言ってしまったのは秘密だ。

 

アニキは無気力化の演奏を自分の体を抉って自我を保っていた。アニキとダイダラは互いに名乗りを上げる。

 

「……タツミ、お前は俺の背中をしっかり見てろ。コウタロウ、タツミを頼むぜ」

 

『アニキ……』

 

アニキの背中はいつ見ても広い。しかし、今見せるアニキの背中はきっとこの運河よりも広いのだろう。本当に熱いぜアニキッ‼︎

 

「インクルシオォォォォォォォォッ‼︎」

 

アニキはインクルシオを纏う。

正面からはダイダラ。後方でアニキからは死角からリヴァとニャウがアニキに向かって飛びかかって来た。

 

「アニキッ‼︎」

 

タツミはアニキと叫ぶ。大丈夫だ。心配ない。なんたって俺達のアニキなんだぜ?

 

アニキはまず、ニャウのか細い下腹にインクルシオで纏った度太い拳を放つ。次にリヴァの胸に右足蹴りを放つ。そして飛び上がり、ただ見上げるだけのダイダラを一刀両断にする。

全てを合わせて一瞬の出来事。

ダイダラの血の雨が降りかかる中アニキは俺達の方を見つめる。

 

「お前ら、これが周囲に気を配るってヤツだ。」

 

タツミは尻餅をつき今起こった出来事を必死に理解しようとしていた。

これがアニキの本当の実力。タツミはアニキの事を褒めている。

 

「俺の軍人時代のあだ名は『百人斬りのブラート』だからな」

 

「正確には百二十八人だったがな……」

 

こちらに近づいて来る人影。

土煙で誰かは判断できないがシルエットで大体分かる。リヴァだ。

 

「久しぶりだな、ブラート」

 

「あんたは……リヴァ将軍‼︎」

 

インクルシオの仮面の下で、アニキは想定外の人物の登場に目を大きく見開いた。

 

 

 




ちょっと今回は長くなりました。

いや、本当に生で見る仮面ライダーは格別でした。



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第21話 三獣士を蹴る 其の弐

ぐわあああああああああっ‼︎俺の財布がぁァっ‼︎


ってなワケでアカメが斬る!原作大人買いしちゃいました。もちろん新品です。

ただ、2巻だけが状態が悪くて飛ばしましたけどね。


「その帝具…その強さ…やはりブラートだったか……!」

 

「リヴァ…将軍……」

 

アニキとリヴァは見つめ合っている。普通なら再開を祝して酒でも飲むのだろうが、今の2人はお互いに気を張っている。どちらも敵として認識しているわけだ。

 

リヴァが指輪をはめている右手を前に突き出すことにより、彼の周りにあったタルの中身が勢いよく蓋を突き破り水柱を作る。

 

「水塊弾‼︎」

 

リヴァが叫ぶと五本の水柱が水塊となりアニキに襲いかかる。アニキはインクルシオの副武装の槍『ノインテーター』を振り回し、迫る水塊を受け止める。俺は防戦気味のアニキを援護するべくリヴァに向かい駆け出す。

 

「コウタロウッ‼︎これは俺が決着をつける‼︎お前はタツミの援護だっ‼︎」

 

アニキの声に俺は足を止める。

 

『……分かりましたっ‼︎』

 

タツミの方を向くといつのにかニャウと交戦していた。だが、いくらニャウが手負いだとしてもタツミは勝てない。その通り、タツミは軽い組手の後蹴り飛ばされる。

 

『俺が相手だ』

 

「おっ、お前は‼︎……お前のせいで僕の綺麗な顔がああああああああっ‼︎」

 

俺がタツミを背に立ち、ニャウとの間に入るとニャウは激昂する。叫ぶ際に彼の顔を見ると右頬は赤黒く腫れ上がっており、前歯も数本欠けていた。この間のパンチが綺麗に入ったのだろう。流石に気の毒である。

 

「お前は最初から奥の手だああああっ‼︎」

 

ニャウはスクリームの奥の手“鬼人招来”で自身の肉体を強化する。その強化された肉体は元の小柄な美少年の欠片もなく、身長も変身した俺を超えている。彼の服はピチピチになっており、ジャケットの下のシャツは胸元が破け散っていた。

 

「…ふぅ、久しぶりだな。この姿は……」

 

ニャウは小さく息を吐き出し手元のスクリームを構える。一見、高級感のある笛だが、帝具ということもありなかなかに頑丈であり、棍棒としても使用可能のようだ。

 

ニャウはこちらに向かって走り出す。俺も構えを締め直し迎え打つ。

最初の一打。怒るも戦闘ということを見失わないニャウの拳。それを右手で流れるように捌き、左胸にエルボーを入れる。俺はカウンター重視。さっきのエルボーをこらえスクリームを振り下ろしてくる。風を切る音が耳に直接響く。ロード怪人との訓練を思い出しながらスクリームを受け止めそのまま捻り、大きな隙ができたニャウの懐に重い突きを入れる。ニャウは吹き飛び壁にぶち当たる。

 

やはりロード怪人の方が強いな……。

 

 

 

____________________

 

 

タツミside

 

 

すげえ…。

コウタロウの奴、強化した俺が全然歯が立たなかった奴を圧倒している。しかも、動作のひとつひとつが流れる流水の様に綺麗で自然だ。俺とコウタロウの差は圧倒的だ。だけど、俺も負けるワケにはいかない。死んだサヨや帝国に歯痒さを感じながら死んでいった人達の為にも、俺は絶対に強くなってやる‼︎

 

コウタロウの拳の突きが効いたのか、ニャウは壁にぶち当たる。壁に大きな亀裂が入ったことから、とてつもない威力なんだろうな。

俺はコウタロウの元へ行こうと立ち上がる。ニャウの無気力化の演奏の影響も完全と言っていいほどなくなり、ニャウにやられた傷さえなければ今すぐにでも戦える。

俺はダイダラから与えられた剣を杖代わりに歩き出す。

 

アニキとリヴァは今でも戦いを繰り広げている。リヴァの帝具はどうやら水を操る帝具らしい。ここは船で周りは水に囲まれている。圧倒的アニキの不利。だが、アニキはどんな攻撃をされようと全部耐え抜いている。さすがはアニキだぜ。

 

コウタロウが立っている場所まであと少しと言ったところでリヴァの声が聞こえた。

 

「水龍天征」

 

その途端、何十匹もの巨大な水龍が水面から昇り出しアニキに目がけて襲いかかる。

 

だが、それを見ることしかできない俺の後方にも水龍がいた。俺は咄嗟に振り返り対応しようとするが、どう足掻いても今の俺には防ぐことはできない。

 

『どけええっ‼︎タツミィィィッ‼︎』

 

コウタロウのそんな声が聞こえ、直後に俺は斜めの方へと突き飛ばされる。俺を突き飛ばしたコウタロウはさっきまで俺が居た場所に居た。

 

俺はやっと理解する。

コウタロウが俺を庇ったのだと。こちらを一瞬見たコウタロウの顔は仮面に隠されて見えない。

そしてすぐに向き直す。

 

刹那、水龍達がコウタロウに襲いかかった。

 

「コウタロォォォォォォッ‼︎」

 

俺が最後に見たのは水龍の突撃の衝撃で運河に落ちて行くコウタロウだった……。

 





いつもこの作品を読んで頂き本当にありがとうございます。

明日テストなんですよね〜。


もう諦めましたけど。


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第22話 三獣士を蹴る 其の参

なんでこんなに四月は忙しいのでしょうか?

タグに不定期更新と書いててよかった…。


『し、死ぬかと思った……』

 

水面から胸からを上を出した俺は呟く。

タツミを庇って水龍達に襲われた俺。だが、アギトに変身していたためかダメージは少なかった。問題は船から落ちる時だ。ダメージはないに等しいにも、衝撃はかなりのものだ。船のデッキという狭いフィールドからはすぐに落ちてしまう。それに加え、まるで高層ビルの様な高さの竜船から水面に落ちるまでの間は走馬灯の一本や二本など少なすぎるものだ。元々、高所恐怖症の俺にとって高いところから落ちるというのは拷問にも等しい。多分、アギトに変身してなかったら死んでいただろう。

 

『これからどうしよう…』

 

早く戻らなければアニキが死んでしまう。

だが、コウガマグロも獲れないような俺が船に戻るには時間がかかり過ぎてしまう。

 

とりあえず、船を登る。

だが、全て登りきるのは不可能に近いので1メートル程で腕を止める。そして側面に思いきり右ストレートをぶち込む。右腕は肘から先が陥没し、ちょっと恥ずかしい体勢になる。

俺は左手でベルトの左スイッチを押し込む。音が鳴り響きベルト中央の賢者の石が青く光り回転する。直後に俺の胸元と左腕は青く変色し左肩は丸みを帯びた鎧のように変化する。

俺はストームフォームにフォームチェンジして、ベルトからストームハルバードを取り出す。両端の刃が展開し長さは結構なほどになる。左手で持つストームハルバードを振り回し、俺の周りの水はだんだんと強い波を作り出す。一時すると、先程まで水に浸かっていた俺の下半身は水に触れなくなる。壁並みの大きな波を作る運河。だが俺の周囲だけ水はない。真空状態ならぬ真水状態。これからマシントルネイダーを呼び出すのだが、水の影響で錆びないか心配だったのだ。巨大運河に一つのクレーターを作る程のストームフォームだが、これでも結構力を抜いている。本気を出すと嵐になりかねないのだ。嵐なんて誰も喜ばないからせめて敵との戦いにしか使わない。

 

そして俺の愛車、マシントルネイダーを呼び出す。

いつも呼ぶときはどこからともなく一瞬でやってくるのだが、今回は水中(と言っても、はんば浮いてるようなもの)だ。どうやって俺の元に走ってくるのか少し楽しみである。

ワクワクした気持ちで待つと、少し離れた上空からスライダーモードの状態でゆっくりと降りてくる。え?どういうこと?…恐らくだが、このマシントルネイダーは別の空間から俺の元に来ているのではないのだろうか。その事は置いといて、俺は陥没した右腕を引き抜きトルネイダーに飛び移る。

 

船上へと一気に上昇して行く。

 

 

 

 

デッキに飛び降りると、タツミはインクルシオを装着していた。そばにはアニキが壁に背をもたれながらタツミを見つめていた。まだ間に合う。

 

『アニキッ‼︎』

 

「…おぅ、コウタロウじゃねぇか……」

 

俺が駆け寄るとアニキは俺に反応し、ズルズルと滑るように座り込む。吐く息も荒々しく毒が全身に回りとても弱っていた。

 

「…へへッ、タツミのヤツ、いずれ俺を超えるな……」

 

『なら、それを見届けないとですね……』

 

俺はアニキに触れ治療する。

俺がアニキを治療すると、ゆっくりとアニキは目を閉じた。

 

こちらに気づき駆け寄ってくるタツミ。

 

「コ、コウタロウ‼︎生きてたのか⁉︎」

 

『そんな簡単に死ねないよ……』

 

前世では疲れた、という下らない理由で死を選んだ。そして運良く転生しこの世界に来た。この世界は理不尽に溢れている。折角力を貰ったのにそれを直さないなんて男じゃないな。だから、この世界で起きる最悪の悲劇を捻じ曲げるためには、そう簡単には死ねない。死んでたまるか。

 

『さ、帰ろうか』

 

疲れ果て気を失っているアニキを抱え、俺はマシントルネイダーに飛び乗る。今度はシェーレみたいにお姫様だっこではない。いや、流石にね……。

 

おんぶで抱えたアニキの後ろには、三獣士から奪取した帝具を持つタツミが乗り込む。

 

 

 

 

 

 

 

空から雨が降り落ちてくる。

散々濡れている俺にとっては、もはや気に止める必要はないものだ。

 

 




ほげえええええ‼︎テストォォッ‼︎


はい、もちろん爆死しました。


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第23話 アニキとの別れ

いつも感想を送ってくれる方やお気に入り登録してくださっている方、投票してくださった方々、そしてこの作品を読んでくださる皆様、本当にありがとうございます。




 

アジトに帰還して数日後、アニキはタツミに告げる。

 

「タツミ、もうそのインクルシオはお前のモンだ」

 

「な、なに言ってんだよアニキッ‼︎もう戦いは終わったんだよ!だからコレはアニキに返すって‼︎」

 

インクルシオの剣を突き出し必死に抗議するタツミ。

 

 

「インクルシオがお前を選んだんだよ。お前が装着した時に、ソイツも進化したんだ。だから俺はもうインクルシオを装着できねぇんだ」

 

「そんな……」

 

「そう辛気臭せぇツラすんなって!ほれ、この斧なんて使いやすそうだしよ‼︎」

 

完全に強がりだ。

いくつもの修羅場を共に潜り抜けた相棒とも呼ぶべき帝具をそう簡単に渡せるワケがない。きっと、いろいろな葛藤があったのだろう。タツミも薄っすらだが気づき顔を顰める。

 

「俺はこれから革命軍本部に行ってイエヤスを鍛えてくるぜ。教育係りってヤツだな。」

 

インクルシオは透明化のできる鎧型の帝具で、指名手配されているアニキはそれがないと動き辛い。それなら、革命軍本部で優秀な人材の育成に専念するということだ。

アニキの後ろには、ボスとチョウリ、スピアが荷物を背負い立っていた。ボスの義手にはアニキの荷物が握られている。

 

「一生会えなくなるってワケじゃない。革命実行の時にまた会おうぜ」

 

「……ああっ!イエヤスによろしく頼むぜ、アニキッ‼︎」

 

「おうっ‼︎」

 

そして最後にアニキの抱擁によって、完全にタツミの涙腺は崩壊した。俺はこの場の空気に耐え切れず、最初から泣いていたけど。

 

「あのっ!コウタロウさんッ‼︎」

 

スピアに呼ばれ俺は体を震わせる。

 

「ど、どうしたの?」

 

「…また、近いうちに遊びに来てもいいですか?」

 

こちらの顔を覗き込むような上目遣いで頬を染める。うん。OK。と言うか残ってて貰いたいのだが、スピアを危険に晒したくはない。でも、遊びに来るくらいなら……いいよね?

 

「うん!俺、待ってるよ‼︎」

 

俺の返事に目を大きく見開かせ、そして今度は綺麗な笑顔でスピアは答える。

 

「はいっ!なら今度、私にお料理教えてくださいね‼︎」

 

スピアは、さよならとは言わずアジトを後にした。それを見送る俺達に、今日の夕日が優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

一週間後、俺とタツミは帝都の街に出ていた。

これから行く場所は『BOOKNight』という店。実はこの店はラバックが経営している貸本屋で、帝都での隠れ家として利用している。と言いつつ、実際に来るのはこれが初めてだが。

 

「よぉ!」

 

「おぅ」

 

互いに軽く会釈を済ませ、ラバックの先導で店の奥へと導かれる。スタッフ専用の扉を進み、地下室への階段を覆う蓋を開ける。

 

「うわ〜、本格的だね〜」

 

「だろ?俺の自慢だ」

 

「お前が作ったんじゃないだろ…」

 

ふざけあいながら階段を降りていく。

 

「やっほー♡帝都の隠れ家へ♡」

 

地下室へ出ると、ソファでベロンベロンに酔っている姐さんがいた。真昼間から3本も開けちゃって…姐さんらしいな。

 

「街はイェーガーズの話題で持ちきりだったぜ…」

 

エスデスか……。

この間、姐さんがエスデス将軍の偵察に行ってきたが本当に心配していた。原作では獣の勘により引き返せたが、分かっていても怖いのだ。

恐らく俺でも勝てない。ナイトレイド全員でかかっても、勝率は半分にも満たない。はっきり言ってバケモノだ。どうせタツミが気に入られるが、別に羨ましかったりはしない。だって怖いもん…。

 

「明日、エスデス主催都民武芸試合があるんだけどよ、お前ら出てみろよ」

 

ラバックがポスターを広げ俺達に見せる。

絶対出たくない。もう本当に嫌な予感しかしない。

 

「いや、俺はやめとくよ。タツミ、応援してるよ!」

 

まぁ、どうせタツミが生贄になってくれるけど面倒くさいってのもあるしな。イェーガーズとも絡みたくないし。

 

「えー、コウタロウが優勝したらお姐さん、ご褒美あげようと思ってたのにな〜」

 

「んじゃ、俺は明日に向けて寝るよ。おやすみ〜」

 

「「切り替えはやっ‼︎」」

 

 

 

 

 

……ご褒美には勝てない。

 

 

 

 

 

 

 




スピアちゃんが可愛い過ぎてツラい…。

そして、遂にお気に入りが100件突破いたしました。記念に番外編を書こうと思っています。内容は本編と全然関係ない一発ネタです。

皆様、本当にありがとうございます‼︎
感想を下さる方々のメールがとても励みになっています。


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第24話 武芸試合

今期が豊作過ぎて忙しいですな。

特にグリザイアは続きが気になりすぎる……。


エスデスside

 

 

「つまらん素材らしく、つまらん試合だな」

 

私は3人掛けソファの真ん中に陣取り試合を見下ろしていた。つまらな過ぎてため息が漏れる。

私の部隊、イェーガーズの結成を祝して、余興にでもと思いこの試合を開催したのだが、どれもこれもおもしろい試合をしない。期待外れだ。こんなつまらん試合を開催するくらいなら、皆で焼肉でも食べに行った方がマシだ。

 

「あと2試合で最後ですよ」

 

「そうか」

 

私の後ろで試合を観賞しているのはラン。見た目は優男だが、実力はある。きっとコイツも退屈しているのだろう。

 

『東方、布団屋マクラ‼︎そして、西方、料理人コウタロウ‼︎』

 

ウェイブのアナウンスが場内に響く。さあて、次の試合は楽しませてくれよ?

 

 

 

 

エスデスside out

 

 

_____________________

 

 

 

コウタロウside

 

 

結局あれから一睡もできなかった俺の目は充血していることだろう。だがそんなことはどうでもいい。この試合で優勝して、姐さんからのアツイご褒美を貰えればそれでいいのだ。どんなご褒美なんだろうな…。そんなことを考えながら、アナウンスに呼ばれ俺は試合場に入る。

 

「へっ、なんだ、まだガキじゃねぇか」

 

この布団のようにのっぺりとした顔は俺の対戦相手だ。名前は……自分のアナウンスしか聞いてなかったから思い出せん。だが、そんなことよりご褒美だ。気になる……。

 

「………」

 

「ああ⁉︎なんて言ってんのか聞こえねぇよ‼︎」

 

「ご褒美ご褒美ご褒美ご褒美ご褒美ご褒美ご褒美ご褒美ご褒美ご褒美ご褒美ご褒美……」

 

「ひっ‼︎ご、ご褒美だとぉ⁉︎しかも、コイツ目が血走ってやがる‼︎」

 

ほぼ無意識に俺の口から、ご褒美と言う言葉が念仏のように流れ出す。若干俺に引いてる相手をよそに、試合の開始を意味する鐘がなる。

 

そこから俺の意識は戻り、構える。

 

「とにかくこんなガキに負けやしねぇ‼︎いくぜええええええ‼︎」

 

バカみたい突っ込んでくる相手。だが、スピードはなかなかある。それを躱し足をかけるが、避けられる。そこまでバカではないらしいな……。振り返る相手の顔面を一発殴り、俺は後方へと距離を取る。そこから助走をつけ飛び上がる。相手はまだ顔を抱えており、隙だらけだ。その左肩に向けて勢いよく俺の右かかとを振り下ろす。

 

「ぐわあああああああああっ‼︎」

 

バキッ‼︎と、骨の折れる音が聞こえる。

 

うずくまろうとする相手を踏み台にして、飛び上がり空中で一回転して着地した。完璧だ。完璧過ぎてパーフェクトハーモニーしちゃう。

痛みにより気を失った相手をウェイブが確認し、マイクを口に持って行く。

 

『そこまでっ‼︎勝者、コウタロウ‼︎』

 

あまりの決着の速さに遅れて歓声をあげる客。

俺は姐さんが座っている方を向き、サムズアップと笑顔を送る。まずは一回戦。楽勝だったが、俺の次の試合はタツミだ。恐らく二回戦は俺達の試合だろう。

しかし、例えタツミが相手だろうと手加減はしない。こちとら姐さんのご褒美がかかってんだ。

 

「ご褒美ご褒美ご褒美ご褒美ご褒美……」

 

……おっといけない。姐さんのご褒美を想像してたらまた無意識に念仏を唱えてた。

 

「そうか。そんなに褒美が欲しいのならくれてやろう。喜べ」

 

どこかで聞いたことのある声だと思って振り返る。

 

そこには、頬を赤く染めリードを握る『あの』エスデス将軍がいた。そしてそのリードは俺の首元へと、まるで赤い糸のように鋼の鎖で繋がっていた。




どう足掻いても絶望……。


さて、次回からはイェーガーズとの絡みです。その間ナイトレイド達が空気になりますけど。

次回は早めにあげたいです。


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第25話 武芸試合が終わり

早いうちにあげると言ったな…あれは本当だ。


レオーネside

 

 

私は今驚いている。

いきなりエスデスが試合場に入ったかと思うと、懐から出した鎖とも呼ぶべきリードをコウタロウの首に装着したのだ。

 

「姐さん…」

 

「な、なんだよラバ?」

 

「……どうなってんだ?」

 

そんなこと言われても私が知るわけないじゃないか。先程まで私に笑顔とサムズアップを送っていたコウタロウは、必死に首輪を外そうともがいている。

 

「は、離してください‼︎俺なんかより次の試合に出るタツミって奴の方がいいですからっ‼︎」

 

ここからではよく聞き取れないが必死に抵抗しようとしているのだろう。だが、抵抗虚しくエスデスに気絶させられてしまう。気絶したコウタロウを引きずるように、エスデスはコウタロウを連れ去って行く。

 

「コウタロウッ‼︎」

 

「姐さん落ち着いてっ‼︎」

 

私はいつの間にか立ち上がり、コウタロウの名前を叫ぶ。隣に座っているラバが私を抑えようとする。

 

「でもコウタロウがっ‼︎」

 

「相手はエスデス将軍だ。今は引こう…」

 

分かった、と虚ろな声で私は返事する。

そんなことは私が一番分かってる。だけど…私のコウタロウが他の女に連れて行かれるのが気にくわないんだよ……。

 

2人の会話はあまり聞こえなかったが、何と言われていたのだろう。頼むよコウタロウ……。頼むから無事でいてくれ……。

 

 

 

 

レオーネside out

 

____________________

 

 

コウタロウside

 

 

「知らない天jy「起きたか」…………」

 

ベッドで寝てたわけではないが、目を覚ますとこのセリフを言いたくなる。しかし邪魔される。

今の俺は、鉄の椅子に座らされ、そこを鎖で丁寧に拘束されていた。地味に鎖が食い込んできて痛い。辺りには、イェーガーズのメンバーが全員集合しており、熱い視線を送ってくるエスデスは、俺の横に立っている。

 

「先程も紹介したが、イェーガーズの補欠、兼私の恋人だ」

 

「何勝手なこと言ってんですかっ⁉︎」

 

しまった……。姐さんのご褒美に夢中で、エスデス将軍のことを完全に忘れていた……。本来ならばこんな役タツミに任せるのに…。

 

「市民をそのまま連れてきちゃったんですか?」

 

ナイスボルスさん‼︎いや、人格者だってことは知ってるけど、本当に常識って素晴らしい。

 

「文句あるのか?」

 

一蹴。

ちょ、ボルスさんも反応に困ってんじゃん……。

 

「部隊の補欠にするだけじゃない。……感じたんだ。コウタロウは、私の恋の相手にもなるとな」

 

もうダメだ。ごめんみんな、姐さん……。俺、帰れそうにないや。今頃ナイトレイドの皆はどうしてるのかな?助けに来てくれるのかな?ご飯ちゃんと食べてるかな?なんて、涙を流していると、首輪が外される。ウェイブとランさんのおかげだろう。

 

「あの〜、気に入ってくれたのは嬉しいんですけど、そろそろ帰ってもいいですかね?」

 

「ダメだ。お前はこれから一生私と共に生きるのだ」

 

デスヨネー。

 

「いや、でも宮仕えする気はないですし……」

 

「ふふっ、言いなりにならないところも染めがいがあるな」

 

何を言ってもこの人には無駄だ。

分かっちゃいたが、今更になってようやく理解する。

 

「まぁまぁ。いきなりすぎて混乱しているのでは?」

 

よしよし、と俺の頭を撫でるのはセリュー。あばばばばば。ば、バレてないよね?一ヶ月程前だったが、あの時の俺はアギトに変身していたため顔は恐らくバレてない。

 

「私はセリュー・ユビキタスです。1度会ったのを覚えていますか?」

 

正確には2度だけどね。

でも、2回目は本当に怖かった……。トラウマなんだけどな…。

 

「エスデス様!ギョガン湖周辺の調査が終わりました」

 

と扉を開けて報告してくる兵。

 

「ふむ、丁度いい。これからギョガン湖近くの山賊の砦を奇襲する。出陣する前に言っておくが、一人数十人は倒して貰うぞ。……それでは出撃!行くぞコウタロウ‼︎」

 

 

 

よっしゃ‼︎よく分からないけど俺達の戦いはこれからだっ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっとゲスいコウタロウ。

そして物語は最終局面へ……



※嘘です。

次話は22時くらいに投稿します


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第26話 誘惑

 

「え、えげつないですね……」

 

ギョガン湖周辺の山賊の砦を奇襲しているイェーガーズメンバー。ナイトレイドと同じように一人一人が帝具持ちだ。皆それぞれ自身の帝具を活かし山賊達を葬っている。一方的過ぎて山賊が可哀想になるレベル。

そのイェーガーズのお掃除を俺とエスデスは見晴らしのいい場所から観察していた。

 

「コウタロウ…お前はなかなか実力がある。だが、まだ成長途中だ。だから私が育てる」

 

「いや〜、遠慮しときますよ」

 

俺はタツミと違って主人公補正は0だ。この人の訓練とか生きて帰れる気がしないし。

 

「拒否権はない。……それに、誰かを好きになるというのは初めてなんだ」

 

頬を赤らめ、目を閉じるエスデス。

根はいい人……なんて事はないが、これでもタツミが革命軍に勧誘したくらいだ。確かに、今のエスデスは恋する乙女のようだ。……まぁ、恋する乙女は恋人に首輪とかつけないのだが。

 

「そ、そうですか……」

 

今は逃げれそうにないな。確かタツミは、狩りの帰りに隙を突いて脱走したよな。という事は、それ以外に脱出するチャンスはない。どうせすぐには帰れないんだし、それまでイェーガーズライフを楽しむとするかな……。

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

夜。帰還が少々遅れたとはいえ、エスデスはシャワーを浴び出した。そこまでは普通なのだが、問題はそこ『から』だ。

 

『そうだコウタロウ。私はこれからシャワーを浴びてくる。そこのベッドで待っていろ』

 

 

 

待っていろって、童帝の僕に言われましても…。いや、進めと言われるよりいいんだけど。

 

キユっと栓を締める音が聞こえた。もうじき戻って来るだろうな。や、やべぇ…。これからエスデスの誘惑が始まるわけだが、耐え切れるのだろうか。姐さんに純潔を捧げるって誓ったしな。

 

「待たせたな、コウタロウ」

 

バスタオルで髪を拭きながらエスデスはやってくる。胸元を大きく開いたシャツだけ着ており、下着の類は何も身につけていない。それだけでも鼻血が噴き出すのだが、髪につく、まだ乾かせていない水滴がより色気を漂わせる。

 

「何か飲むか?」

 

「い、いや、大丈夫です」

 

ベッドに座っている俺の横に腰掛けるエスデス。あろうことかこのベッド、枕が二つ寄り添うように並べられていた。いくらこのベッドが広いからって、俺と寝ること前提かよ。

 

「…あの〜、やっぱりエスデスさn」

 

全てを言い終わる前に、俺の口はエスデスの唇によって塞がれた。初めてのキス。そのまま押し倒される。エスデスの唇は、風呂上りもあってか、俺の唇よりみずみずしい。

 

「……何か、言ったか?」

 

「……な、なんでもないでしゅ」

 

離された唇から吐息交じりのエスデスの声。俺は動揺しすぎてまともに呂律が回らない。

頼むからもってくれよ俺の理性‼︎

話を戻すが、この人を革命軍に誘っても無駄だ。それは知っている。問題はどうこの誘惑に耐え切れるかだ。

 

「コウタロウ…。私はな、こういう事は初めてなんだ。処女なんだよ。……その、恋人となる以上、そういうこともするのだろう?私が処女なんだ。もちろんお前も童貞だよな?」

 

「ど、どどどど童貞ちゃうわ‼︎」

 

「……なんだと?」

 

あ、やべぇ。童貞かと聞かれて、ついクラスメイトに答えるノリで答えてしまった……。

今までいいムードで、赤かったエスデスの頬も、別の意味で赤くなる。これ、詰んだかな?

 

「ほう、私は愛人など作らんし浮気もせん。こんな私がいるのに、お前は他の女と乳繰りあっていたのか?」

 

助けて姐さん‼︎この人僕をいじめるぅ‼︎

 

エスデスの纏うオーラは怒りからやがて殺気に変わる。

 

「……コウタロウ。お前の好きな女は誰だ?そいつを今すぐ殺す。」

 

好きな人を殺すって……。そんなの言うわけないだろ。

でも、待てよ?俺の好きな人って……。ナイトレイドのメンバーは皆好きだし、スピアだって好きだ。ずっと訓練している姐さんだって好きだが、どれも恋愛的にとは言い難い。

好きな人、か……。

 

「すいません、童貞じゃないってのは嘘です」

 

エスデスとの会話中だったとことを思い出し、弁明する。今言っても許してくれるかな?

 

「……ふっ、そうだよな。コウタロウは私と一緒に階段を上るんだ。冗談でなければ本気でお前の女を殺しに行っていたぞ」

 

ハハハと、乾いた笑い声で返す。笑顔へ戻ったエスデスだったが、殺気は消えなかった。

 

「ちょっと、俺もシャワー浴びてきます……」

 

こんな場所には1日でも居たくない。命がいくつあっても足りはしない。俺は無理を言ってシャワー室へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、次回はなんと、あの人がキャラ崩壊します‼︎

是非、お楽しみくださいっ‼︎


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第27話 冷奴

さぁ、前回の予告にもありましたがあの人のキャラが崩壊します。


サブタイトルで何が起こるか気付かれた方もいるかも…


翌日。

結局同じベッドで眠るはめになり、エスデスの抱き枕とされた俺。普段の戦闘狂も、眠る時は可愛らしい顔をしていた。しかも、おっぱい。俺を正面から抱いていたため俺の顔は丁度エスデスの胸に触れるくらいの距離になっていた。

こんなの寝れるわけないじゃないですか。

 

「なんかお腹空いたな…」

 

ちょっと小腹が空いたので、キッチンを借り適当に何か作ろうかとした時に、後ろから声がかかる。

 

「おや、コウタロウ君」

 

「あ、ランさん」

 

昼前だったので適当に挨拶をする。

 

「これから適当に何か作ろうと思ってるんですけど、ランさんも食べます?」

 

まぁ、他人が居るのに自分だけ作って食べるのは何かと気まずいからな。

 

「そういえばコウタロウ君は料理人でしたね。では、なにかさっぱりしたものをお願いします」

 

さっぱりしたものねぇ。冷奴でも作るか。ここの冷蔵庫にある豆腐はなかなかの素材だ。麻婆豆腐にしても美味そうだな。

 

冷蔵庫から豆腐を取り出し、皿に置く。その上に生姜やネギなどの薬味を添え、上から醤油を垂らす。簡単だがめちゃくちゃ美味いんだな、これが。

今この部屋には俺とラン、そしてウェイブがいる。ウェイブはソファで足を組み新聞を読んでいた。とりあえずウェイブの分も作っておく。

 

「はい、冷奴ですよ〜」

 

お盆に乗せ、3皿の冷奴を運ぶ。

 

「へぇ、冷奴かぁ。久しぶりだな」

 

「……ひ、冷奴ですか」

 

冷奴と聞いてランの顔は険しくなる。ん?豆腐が苦手なのか?

 

はい、とランとウェイブに渡して、俺は2人の食べっぷりを観察する。俺が作った料理だ。どんな感想を言われるのか気になるから、俺は最後に食べる。

 

「うん、豆腐も美味いが薬味が清涼感があって美味いぞ‼︎」

 

「ありがとう‼︎」

 

よかった。ウェイブは俺の冷奴を大変気に入ったようで、昼食にも出して欲しいとねだった。うんうん。やっぱり美味いって言われると嬉しいな〜。そういえば、さっきからランが一言も発してない。気になりランの方を見る。

 

「…くそっ!……ああっ!」

 

豆腐を掴めずにいた。

否、掴めてはいるのだが、口に運ぶまでに箸から崩れ落ちてしまっているのだ。さっきからずっとそれを繰り返していたらしく、冷奴は既にグチャグチャである。

 

「あーあー、ランさん何してんですか〜。冷奴くらいちゃちゃっと食べて下さいよ〜」

 

「ちょっと待って下さい!なんで豆腐料理に箸を出すんですか⁉︎普通スプーンでしょ⁉︎」

 

いや、普通は箸だけど?

もしかしてラン、氷川さんみたいに意外に不器用な人?

 

「…ランさん、不器用なんですね」

 

「な、ぶ、不器用⁉︎」

 

ウェイブの不器用という言葉に過剰に反応するラン。この人メッチャ恥ずかしいだろ。

 

「ランさん、なら箸で冷奴を食べれるよう特訓しましょう‼︎」

 

「そうですよ。冷奴をスプーンで食べるランさんなんて見たくないです」

 

「……分かりました」

 

 

 

_____________________

 

 

 

さて、改めて作り直した冷奴をランの前に並べる。特訓のために結構作ったぞ。材料費って、もちろん経費で落ちるよね?

 

「…それでは」

 

一口サイズに箸で冷奴を切り、箸で掴む。だが、空中で崩れ落ち、ベチャっと醤油の飛ぶ音が響き渡る。

 

「……もう一回」

 

また落ちる。

掴んでは落ちて醤油が弾け飛ぶの繰り返し。エンドレスだ。10皿程並べた冷奴もほとんどがグチャグチャになっていた。

もうここまで来ると才能である。

 

「………」

 

とうとう最後の一皿になってしまった。

 

「ランさん、手の力を抜いてください。ゆっくり自分を信じて」

 

「……ゆっくり、自分を信じて」

 

俺のアドバイスを復唱しながら冷奴に手をつける。

ゆっくりと箸を入れ、持ち上げる。ゆっくりと口に運び、いざ口に入れようとする。今までで1番進んでいる。

ベチャッ‼︎

過程はどうあれ結果は同じだった。プルプルと箸を持つ手を震わせるラン。

 

「ああああああああああっ‼︎光になれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ‼︎」

 

ランはどこぞの勇者王のように叫びながら皿と箸を床に叩きつける。

 

「ちょ、ランさんっ‼︎」

 

「うわあああああああああっ‼︎」

 

叫び声を上げ、俺達の制止を振り切り扉を突き破ったランは何処かへと走り出して行った。

 

 

イェーガーズ、残り7人…。

 

 

 

 

 

 




はい、キャラ崩壊したのはランでした。


実はこの話は最初から考えていて、早くこの話を書きたくてウズウズしてました。

ちなみに、ちゃんとランは復帰します。


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第28話 クロメ

自分は地方住みなんですが、ちょっと知り合いに千葉まで呼び出されて遅れちゃいました。


せっかく千葉に来たんだから、地元に売ってないMAXコーヒーを飲んでみました。

……八幡って、あのコーヒー毎日のように飲んでよく太らないな。


 

あの後、イェーガーズによるランの捜索が行われ、数日後にランは見つかった。行方を眩ませた罰として、エスデスの拷問による悲鳴が俺達の睡眠を妨げた。

 

 

 

エスデスの機嫌も落ち着き、いつもの日常に戻った頃。

 

俺とウェイブはよく一緒に行動していた。

イェーガーズのメンツは、ロック・リーの眉毛並みに濃ゆい。その中で常識人だと言えるのはウェイブとボルスとランくらいだ。ボルスは最年長で家庭持ちということもあり、なかなか会えない。ランはあの冷奴事件から、極度に俺の作る料理に恐怖を抱いていた。よってウェイブとよく行動をとるというわけだ。

エスデスは将軍という立場上、どうしても俺達より仕事が回ってくる。その度に嫌な顔をしていたが、俺は嬉しかった。

 

「よぉ、昨日はよく眠れたか?」

 

「うん、まあまあだね」

 

イェーガーズの部屋に行くと、ウェイブが声をかけてくる。

 

パリパリと、クロメのクッキーを噛む音が聞こえてきた。ウェイブもそれに気づきクロメの方を見る。

 

「クロメはまだ午前中だってのにお菓子か」

 

「うるさい磯臭オトコ」

 

「えっマジ⁉︎俺臭う⁉︎」

 

「いやそんなことは…ないかも」

 

ウェイブはクロメに指摘され、己の服を脱ぎクンクンと匂いを確かめる。

改めてクロメの方を見やると、ずっとクッキーばかり食べている。まぁ、そのクッキーが何なのかはアレだが…。

俺がもし、最初からイェーガーズ側だったら、クロメの身体を正常に治していただろう。だがそんなことはない。俺はナイトレイド側だ。それにクロメを殺すこともできなくはないが、それを俺がするのは少し違う。アカメとクロメ。2人はお互いに殺しあう事を望んでいる。どちらが勝つか……。俺はそれを見届けるべきだ。

まぁ、戦場では敵味方入り乱れるため、そんな綺麗事は通じないのだが。

 

「このお菓子はあげない」

 

俺の視線に気づきお菓子を取り上げるとでも思ったのか、お菓子袋を自分の方へ引き寄せる。

 

言わずもがな、クロメはアカメの妹だ。

見た目はともかく、使う武器や食い意地といった細かい箇所も似ている。もはや双子の域だ。

 

「何?」

 

「いや、クロメちゃんは本当にお菓子が好きなんだな〜って思って」

 

「うん。お菓子だけじゃないよ。食べ物だったら何でも食べるし」

 

どんな食い意地だよ。ちょっとかわいそうになってきた。

 

「ほら、俺って料理人でしょ?昨日チーズケーキ作ったんだ。冷蔵庫に寝かせてあるけど---------食べる?」

 

「食べる」

 

即答だった。

冷蔵庫のあるキッチンへと歩きながら、今さっきのやり取りを思い出す。あのクロメの回答は神速だった。ストームフォームでも追いつけないぞ……

 

ワンホールのチーズケーキを、目を輝かせて待つクロメの前に置く。

 

「はい、自分で言うのもなんだけど、結構自信あるんだ」

 

フォークでチーズケーキを一口大に切り、口に入れる。

 

「……美味しい。すごい、本当に美味しいよ‼︎」

 

「でしょ〜?」

 

クロメがチーズケーキを食べ終わるのにそんなに時間はかからなかった。

いや〜、本当にいい食べっぷりだったな。こんなに美味しいそうに食べられると作った側も腹が膨れるよ。

 

「……コウタロウ。また、作ってくれる?」

 

天使。

一言で表すのなら、その言葉しか思いつかない。チーズケーキを食べ、一見満足そうな顔をしているが、それでも足りない、もっと食べたいと言いたげな顔をしている。やべぇ、養いたい。食費ヤバそうだけど……。

 

「もちろん!こんなに美味しいそうに食べてもらって、俺の方こそまた食べてもらいたいな」

 

そう言って俺はクロメに笑いかける。クロメも目を細め、心底嬉しそうにしている。まるで猫みたいだ。

 

「コウタロウ!今日から数日は狩りだ。フェイクマウンテンに行くぞ!」

 

扉が勢いよく開かれたと思ったら、エスデスだった。

やっとか……。

今日までいろんなことがあったけど、やっと逃げるチャンスが来たか……。俺は、いつものジャケットを羽織りエスデス達につづくのだった。

 

 




どうしよう……クロメちゃんが可愛すぎて殺したくない。本当にどうしよう……。



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第29話 イェーガーズ脱退

WHITE ALBUM2全クリしました。マジ神ゲー&神曲揃い


自分は雪菜派です。
めちゃめちゃ胃が痛い……。

最後の時の魔法で号泣して全てが救われました。

というかAQUAPLUSが雪菜虐め過ぎなんだよ‼︎


ウェイブside

 

 

「しっかしお前も大変だよな。何かあれば相談に乗るぜ?」

 

俺は前を行くコウタロウに話しかける。

 

コウタロウ。

隊長の恋人?まぁ、よく分からないけど、とにかくイェーガーズの補欠メンバーだ。隊長やクロメといったイェーガーズの個性的なメンバーに頭を悩ませる俺の数少ない理解者でもある。休日には一緒に釣りに出かけたり、飯を作ったりとなかなか楽しい奴だ。おまけに、魚の鮮度を小指で測る特技があるからな……。海の男にとっては非常に親近感が湧く。

 

そんなことはさておき、俺達は今、隊長、クロメと共にフェイクマウンテンに狩りに来ていた。夕方までは俺とコウタロウで組み、夜からはコウタロウと隊長、俺とクロメといった組み合わせになる予定だ。

しかしこの山、本当に気をつけなきゃヤバいな……。海の危険種は詳しいが、山のとなるとさっぱりだ。

 

「うん、ありがとう。ならあのドS将軍をなんとかして」

 

「あ、それは無理だわ」

 

そんなくだらないやり取りをしながら山に深く入って行く。すると、急にコウタロウが立ち止まり、後ろを振り返る。

 

「ん?どうかしたか?」

 

コウタロウは俺を見下ろし、懐から短剣を取り出す。

 

「危ないっ‼︎」

 

「うおあっ‼︎」

 

凄まじいスピードで俺の方へ移動したかと思うと、コウタロウは俺に迫り来る枯れ木に擬態した危険種を斬っていた。

切断された枝からは、鮮血が噴き出す。

 

「助かったぜ!狩りは返す‼︎」

 

「お願いね‼︎」

 

擬態がバレたかと思うと危険種は仲間を呼び、俺達は囲まれる。そこまで強くはなさそうだが、数だけは多い。俺達は背中合わせで構える。

 

「よし、カカッと片付けて燃料にしてやるぜ‼︎」

 

俺は咆哮をあげ、危険種へと飛び掛って行った。

 

 

 

 

 

ウェイブside out

 

 

_____________________

 

 

 

コウタロウside

 

 

普通帝具持ちからは逃げられないと思うよな…。

でも……

 

「俺がバイク乗りだったら、話は別だろ」

 

すいません、独り言です。

ということで、俺は数日の間チャンスを待ち、遂にイェーガーズを脱出することができた。普通に走って逃げたら追いつかれるから、マシントルネイダーに乗らせて頂きました。え?セコい?寝言は寝て言ってくださいってな。

まあ、俺が逃げた後拷問されるのはウェイブだ。可哀想だから危険種から助けてあげた。思い返せば長かった。エスデスからは毎日抱き枕にされ、訓練ではボロクソになるまで虐められた。だが、嫌な思い出だけではない。ランに冷奴を食べさせたり、ボルスさんとウェイブで料理したり、クロメにお菓子を作ってあげたり、色んな思い出がある。中でも、皆で焼肉を食べに行った時はカオス過ぎたな……。

 

ナイトレイドのアジトまであと数キロといった所まで来た。いくらなんでも時速300オーバーの俺の愛車に追いつけるわけがない。かと言って余裕こいて行くと、エスデス達と鉢合わせしてしまうし、これでも長い時間をかけてアジトまで戻って来たんだ。

見慣れた建物が目に入る。久しぶりだ…。

俺はバイクから降り変身を解く。玄関の扉を開き、中を確認するが人の気配はない。恐らく俺を探しに行っているのだろう。その内帰ってくるであろうが、早く皆の顔が見たい。家に帰って来てからホームシックになるという微妙な心境になりながら、俺はソファで一息ついた。




実は一件入れようとしたんですが、後々のため、1人で帰ることにしました。

コウタロウ、口では色々言っていますが、結構イェーガーズの生活気に入ってます…。


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第30話 久しぶり

30話目を迎える今話。

これを書いてる途中ふと思ったのですが、アギトが蹴る!というタイトルの割に、ライダーキックしたのは1回。


タイトル詐欺じゃないですかヤダァ‼︎

おまけに今話は短いです。


 

 

夕方。

俺がアジトに帰り着いたのが昼過ぎだったから、そこまで時間は経ってない。しかし、夕日を見ると、もう夕方かと少々憂鬱になるのは不思議なことだ。

 

お茶を入れ、啜りながらラジオを聴いていると、扉が開く音が聞こえた。おっ、やっと帰って来たか。一体誰かな〜…。

 

「…コ、コウタロウか?」

 

「あ、姐さん……。お帰り。そしてただいま」

 

姐さんは腑抜けた声を出しながら呆然と立つ。そしてやっと俺に気づいたかと思うと、荷物を放り出し、俺に抱きついた。

 

「コウタロウッ‼︎…その……私がご褒美なんか言うせいでエスデスに捕まっちゃって……本当にごめんっ‼︎」

 

姐さんの俺を抱く腕に力がこもる。姐さんの胸に顔が埋まっているため、谷間で一呼吸してから、俺も喋り出す。

 

「大丈夫だよ。それに、ちゃんと帰って来れたし……。」

 

「でもっ‼︎」

 

「こうして姐さんに抱かれるのって、久しぶりだよ…。やっぱり、落ち着くな……」

 

「コウタロウ……」

 

姐さんは落ち着いたようだ。それでも、姐さんの胸の鼓動は激しかった。言葉は落ち着いて行くが、俺を抱く腕の力もまた強くなっていた。

 

しかし驚いた。いつもの豪快な姐さんではなく、久しぶりに会った姐さんは儚くて、今にも泣きそうな雰囲気があった。きっと、自分のせいで俺が捕まったって責め続けていたのだろう。まったく、ちょっと照れてしまう。

 

「さ、そろそろ皆帰って来るし、その間お茶でも飲もうよ」

 

やっと姐さんから解放してもらって、気分転換にお茶を勧めてみる。

 

「いや、酒持ってこい酒!今日は飲み明かすぞ〜‼︎」

 

前言撤回。

いつもの豪快な姐さんでした……。

 

 

_____________________

 

 

「プハッー酒が美味いっ!コウタロウが無事に帰ってきて良かったなあ‼︎」

 

あれから皆が帰って来て、同じように驚かれたものの、無事イェーガーズの戦力を報告を完了した。同じ帝具持ちの集団ということで、戦ったら死人が沢山でる。考えさせられることもあったが、今は俺の生還パーティーだ。俺とタツミ、アカメでいつもより豪華な食事を作り、姐さんは酒の入った大樽を1人で飲み干すと豪語している。

 

「つか未だに信じられん。あのエスデスがコウタロウに惚れたなんて……」

 

ラバックは腑に落ちないと言いたげな顔でジュースを飲む。

 

「どこまで年上キラーなんだよ畜生っ‼︎」

 

「ごめん…。だからその血涙を止めなよ」

 

「ふんだ!コウタロウは私のモンだ!あんなドSにくれてやるものか‼︎」

 

姐さんは完全に酔ってますね。アカメはずっと食い物に夢中だし…。本当にクロメとそっくりだ。今度チーズケーキでも作ってやろうかな……。

 

姐さんの次にラバックといった風に、段々と寝落ちする者が増えて行く。マインやアカメ、シェーレは自室に戻った。

 

姐さんがあんなに美味そうに飲んでた酒だ。俺も少し興味がある。コップに半分ほど注ぐと、一気に飲み込む。

 

「け、結構キツいな……」

 

この酒の度数一体いくつだよ……。こんなものをガブ飲みしてた姐さんの健康を心配しながら、俺は意識を手放した。

 

 

 




さあ、次からはスタイリッシュ戦です。

明日には投稿できるかな?


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第31話 狂医者を蹴る 其の壱

さぁ、スタイリッシュ戦が始まります。


そして後書きでは重大発表……


 

レオーネside

 

「……ん」

 

私は目を覚ます。頭がクラクラする。流石に酒樽を1人で飲み干すのはマズかったか…。

ソファから起き上がり、辺りを見回す。ラバやタツミ、コウタロウが寝散らかしている。パーティーで使った食器の片付けを想像すると血の気が引けてくる。深夜を過ぎて、夜明けまですぐといった時間だ。私は顔を洗い、帝都に行くため風呂場へと向かう。

ナイトレイドの風呂場は、男子用も女子用も全部露天風呂だ。広大な自然を楽しみながらの風呂は格別だが、露天風呂ということを利用して覗きに来るバカ達もいる。そのバカ達…まぁ、コウタロウとラバなのだが、それがまた懲りない。犯行現場を捕らえて、お仕置きしてもコウタロウの治癒能力で完治し、また嬉々として覗きに来る。女子はそれに頭を悩ませている。あまりしたくはないが、その時はコウタロウをお仕置きする。あいつの治癒能力はどうやら自分には効かないらしい。戦闘に関しては、コウタロウはこのナイトレイドでトップレベルだ。そんなに心配はしてないが、敵がどう動くかで変わってくるからな……。

 

風呂場の扉を開く。まだ少し眠いが、どうせ後少ししたら皆も起きてくるだろう。流石に二度寝はできそうもない。

 

「……ん?」

 

水を掬い、顔を二、三回流すと薄っすら何かの気配を感じた。誘われるように水面を覗き込むと…誰か分からない男の顔があった。

 

(侵入者か⁉︎)

 

それに気づいた頃には遅かった。男の水中から放ったナイフが迫り来る。変身しても間に合わない。私は歯で受け止めようとすると、横から手が伸びてきて、そのナイフを受け止める。

 

『てめぇ、姐さんに何すんだこの野郎ぉ‼︎』

 

その声の主は、私の大切な部下で、特別な人。

アギトに変身したコウタロウだった。

 

 

 

 

レオーネside out

 

_____________________

 

 

コウタロウside

 

間に合った……。姐さんの扉を開け部屋から出て行く音で目を覚ました俺は姐さんの後をついて行った。風呂場に向かう姐さんがスタイリッシュの刺客に襲われる原作を変えるため、俺も歩き出したが、昨日飲んだアルコールが抜けておらず、フラフラの足取りでやっとの思いで風呂場まで辿り着いた。

 

水中からスタイリッシュの刺客こと、トローマを引きずり出し蹴り飛ばす。

 

「助かったぞコウタロウ‼︎」

 

『なんの!』

 

既に獣化している姐さんと共に、トローマにとどめを刺す。やはりスタイリッシュに強化されているため、普通の賊よりかなり頑丈だ。早く彼奴らを起こさないとな……。

 

『姐さんは皆を起こしに行って‼︎俺はアジト周辺の敵を始末するから‼︎』

 

「分かった‼︎」

 

ここからは別行動だ。走って行く姐さんを見送り、俺も駆け出す。

開けた場所まで出ると、既に強化兵達は集まっている。しかもかなりの数だ。

 

俺に目をつけた1人の強化兵が飛びついて来る。それを難なく躱し、すれ違いざまに回し蹴りを叩き込む。

 

『うわ…こりゃ厄介だな』

 

思わず口からそんな一言が漏れる。俺達の闘いに気づいたのかゾロゾロと俺の方へ集まって来る強化兵達。ざっと数えただけで、その数は100を優に超えている。

 

飛びついて来る強化兵達を捌きながら、俺はストームフォームへと変身する。本来ならフレイムの方が集団戦にはもってこいなのだが、数が多すぎるため、剣だけでは捌ききれない。

ストームハルバードを振り回しながら周囲の敵を薙ぎはらう。一掃されたが、それでもまた集まって来る強化兵。戦国無双のキャラにでもなった気分だ。

とにかく今はこのストームハルバードを振り回すしかない。風を纏う両刃が敵を薙ぎはらい、斬り刻んでいく。

 

 

早くスーさん来ないかな……。





さて、前書きにも書いたとおり重大発表ですが……






なんと、この『アギトが蹴る!』の三次創作作品の制作が決定しました‼︎

穂波奈緒様による、アナザーアギトを主人公とした作品。タイトルはまだ自分も分かっていないです。
一話目を拝見させていただきましたが、かなりしっかり作られていて、文章力もあちらのほうがかなり上です……。ぶっちゃけあちらの方が面白いかも……。というかめっちゃ恥ずかしいです……。

とにかく、アギト同士の闘いを見たい方にも、アギトを見たことのない方にもオススメ‼︎

是非、これからも「アギトが蹴る!」の作品達をよろしくお願いします‼︎


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第32話 狂医者を蹴る 其の弐

最近運動してないから太ってきました……


しかも元々丸顔なので、ついたあだ名はドラえもん


「おかしいわね…そろそろ毒が効いてくる頃だけど……」

 

声の主はDr.スタイリッシュ。

彼はコウタロウを最初から警戒していた。なかなかタイプで戦闘力も高い男を、いつもの彼ならば捕らえて実験台にしようとすることだっただろう。しかし、エスデスの存在や想像以上にイェーガーズに馴染む彼を見て諦めてしまう。いや、諦めた理由はそれだけではない。胡散臭いのだ。いつも爽やかな彼はまるでスタイリッシュを誘っているかのようだった。

 

(まさかナイトレイドとはね……でも、一石二鳥じゃない!しかもあの鎧の帝具…。セリューの報告にあったけど、なかなね……。私の強化兵達を虐めているけど……嫌いじゃないわっ‼︎)

 

「大変ですスタイリッシュ様‼︎あの槍を振り回している奴のせいで、散布した毒がこちらに向かってきます‼︎」

 

「あの帝具、風を操るのぉっ⁉︎聞いてないわよっ‼︎」

 

スタイリッシュの得意な分野は毒だ。いろいろな毒を調合して対象を思いのままにする、非常に厄介なものだ。

それ故に、自身の計画が狂わされると落ち着くのに時間がかかってしまう。いつの間にか、人間爆弾をものともしなかった帝具人間が目の前に立ちはだかっている。

 

「ああもう!こうなったら危険種イッパツ‼︎」

 

スタイリッシュはそう叫びながら、特製の液を自身の右腕に注入した。

 

 

 

 

_____________________

 

 

コウタロウside

 

スーさんやべぇ……。あんな強烈な爆発モロに食らって、ピンピンしてるよ…。しかもこれまた無双だし。

 

まぁ、原作では麻痺毒によりナイトレイドのメンバーはタツミ以外動けなくなるのだが、ストームフォームの能力で空気ごと移動させたからな。皆も普通に立っている。

 

「スサノオ!南西の森に敵が潜んでいるぞ!逃がさず潰せ‼︎」

 

エアマンタに乗り空中を浮遊しているボスの声が響き渡る。スーさんは言われた方角へ走り出した。

…行動速くない?

俺はマシントルネイダーを呼び出し、スライダーモードへと変形させ飛び乗る。

 

「コウタロウ!お前も行くのか⁉︎」

 

『うん!ちょっと助太刀してくる‼︎』

 

俺もマシントルネイダーを加速させ、既に巨大化したスタイリッシュの元へ向かう。

 

 

♢ ♢ ♢

 

 

もう風を操る必要もないのでグランドフォームに戻した。スーさんは巨大な相手にどうにか攻撃しようといろいろと策を練っている。

 

『スーさん!俺の援護をお願いします‼︎』

 

「スーさんとは俺のことか…まぁいい」

 

地面にいるスーさんに呼びかけ俺はスタイリッシュの本体が剥き出しになっている頭部の方へ浮上させる。上に上がっていくにつれ、スタイリッシュの妨害が増えるが、スーさんがそれを受け止める。

 

首元の辺りまで来ると、今度は注射針を模した無数の触手が襲いかかる。

 

「避けなさいコウタロウ‼︎」

 

背後からの声と共に、俺は一旦スタイリッシュとの距離を開ける。閃光と共に俺に襲いかかる触手をパンプキンの連射で完全に撃ち落とす。その方を見ると、エアマンタに乗り、ボスに支えられながらパンプキンを構えるマインがいた。

 

「行けっ‼︎コウタロウ‼︎」

 

スタイリッシュの本体との間は一直線だ。

マシントルネイダーを滑空させ、一気にスタイリッシュに迫っていく。その間にクロスホーンを展開し、ライダーキックの構えに入る。風を切る音が聞こえる。凄まじい速度でスタイリッシュへと迫るトルネイダーを飛び出し、その勢いでスタイリッシュの本体の胸元にライダーキックを放つ。

 

「……っ‼︎なかなか痛いけど、全然っ耐え切れるわっ‼︎」

 

『……』

 

それを無視しマシントルネイダーに飛び移り、そのまま残心をとる。

 

「随分と余裕じゃない!まだ私は死んでないわ……ぐっ、ああああっ‼︎」

 

背後からスタイリッシュのもがき苦しむ声が聞こえ、その声はこの森全体に響き渡る。

 

「いやあああああああああああっ‼︎」

 

スタイリッシュの断末魔の叫びと同時に、巨大化した肉体もろとも爆散し辺りに血の雨を降らせた。

 

 

 

イェーガーズ残り「6」人

 




久しぶりにライダーキック出せました!

まあ、正確にはライダーブレイクなんですけどね……


このペースで行くと、原作が完結する前に追いつきそうなのでちょくちょく番外編を入れていきたいと思います。

今考えているのは、コウタロウと○○があの兄弟になるお話。


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第33話 引っ越し

アギトのライダーキック…受けた人達は頭上に光の輪が浮かんで死んでたんですけど、実はその死に方はロード怪人特有のものであり、それ以外には光の輪は浮かびません……。

お指摘を受け、ようやく気づきました……誠にお恥ずかしい。
もちろん、修正しました。


さて、話は変わりますが穂波奈緒様の『アギトが蹴る!アナザー』遂に始動!

アナザーアギトは一体何者なのか?そしてその目的は⁉︎
是非、そちらもよろしくお願いします!




最後に、今回のお話はお下劣な下ネタが含まれています。
一応R-15だから問題ないよね!(保険)


「うおーっ、すっげー気持ちいいーっ‼︎」

 

タツミの爽快な叫びが風と共に耳へと伝わって来るが、そんなことはどうでもいい。

 

「あばばばばばばば‼︎高い高い高い‼︎」

雲を掻き分けて凄まじい速度で空を進むエアマンタの背上で、俺はその高さと速度に震えていた。

 

現在俺達は、帝都から南東へ800Kmのマーグ高地へとナイトレイド全員で向かっていた。その理由は、Dr.スタイリッシュ達によるアジト奇襲事件だ。俺を追ってきたであろうスタイリッシュを返り討ちにしたまではいいが、スタイリッシュがイェーガーズにアジトの場所を記したものでも置いてきた可能性もある。そうなるとあのアジトは使えなくなり、新しいアジトを探すまでの間、この高地で修行するというわけだ。

 

 

マシントルネイダーのスライダーモードに乗る時は、搭載車を風から守る特殊なバリアがあるのだが、このエアマンタにそのような快適な機能はない。いつもバリアに守られていた分、本当の風の強さを身をもって感じる。

俺の他にも、マインとラバックがこの移動に戦慄し、ガタガタと体を震わせていた。良かった…俺だけじゃなくて。

 

 

♢ ♢ ♢ ♢

 

 

エアマンタは俺達が降りると、颯爽と巣に帰って行った。

さっきから何かとチェルシーがマインをからかっているが…本当に仲がいいんだな……。というかチェルシーマジで美人。

 

ボスが新しいメンバーを紹介しようとする。チェルシーに振ろうとしたが、そこにチェルシーの姿はなかった。

 

「アカメちゃんって、近くで見ると本当に可愛いんだぁ♡」

 

「……なんだいきなり」

 

彼女はいつの間にか移動し、アカメの艶やかな黒髪を撫でながらアカメを愛でていた。

 

「私はチェルシー。同じ殺し屋同士仲良くしましょ♡」

 

そしてアカメに自分が咥えているのと同じ飴を差し出し、アカメを餌付けする。

 

チェルシーと言えば、いつも咥えている飴が印象的だ。是非、俺の股間のチェルシーもペロペロして貰いたいものだ。……俺のアレは飴サイズかよ。

俺のアレは聖剣だぞ?ペ○スカリバーだぞ?

汚らしい下ネタもここまでにしておこう。

 

話がずれたが、このチェルシー。見た目に反してアカメと同じくらい暗殺を成功させる凄腕だ。

改めてチェルシーの方を向くと、こちらに向かってドヤ顔を見せつけていた。……ドヤ顔も可愛いって反則だよ。

 

「そしてこっちが革命軍本部から譲り受けた私の新しい帝具『電光石火スサノオ』だ」

 

「あ、改めてよろしく」

 

タツミは緊張しながらも、手を差し出す。お前はクラス替え当日の中学生か。まあ、タツミは中学生くらいの年齢だしな。無理もない。というか俺もタツミとそんなに変わらなかった……。

 

几帳面なスーさんは差し出された手に目もくれず、片方出ていたタツミのシャツの一部を綺麗に直す。

 

「で…肝心の能力はなんなの?肉弾戦が強いってだけ?」

 

姐さんの問いにボスはよくぞ聞いてくれたと言いたげな不気味な笑い声をあげる。

 

「……では見せてやろう。やれっ!スサノオ‼︎」

 

「…分かった」

 

スーさんはクールに答えたかと思うと、どこからか斧を取り出し木を切り倒し始める。

 

それから数時間後。見事にアジト(仮)を完成させ、挙げ句の果てには洗濯や料理といった家事までこなし始めた。……あれ?俺の存在意義がなくなってきたんだけど。

 

スーさんは元々要人警護のために作られた帝具だ。戦闘力はもちろん、つきっきりで守れるように家事スキルが完備されいる。そのせいでスーさんの頭の中は戦闘と家事がほとんどを占めているが…

 

チェルシーとスーさん。2人が新たに加わり、ナイトレイドは戦力を増す。イェーガーズが6人に対して、こちらは10人。しかし安堵はするには早い。クロメの死体人形を合わせると、数は逆転される。

だが俺達はまだまだ強くなれる。この辺境の地でのレベルアップのため、俺達は個々の修行へと向かって行った。

 

 

 




さあ、みんな大好きチェルシー登場。

チェルシー好きの皆様……本当に申し訳ありませんでした‼︎


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第34話 課題

なんだよちくしょぉ……。


ライダバウトでアギトが全然当たんねぇよぉ……。


 

俺達がマーグ高地に来てはや一ヶ月。

スーさんやチェルシーもナイトレイドに馴染み始め、今ではかけがえのない仲間となっている。

 

「スーさんの作る飯は美味いな!修行の疲れが吹っ飛ぶ!」

 

「ありがとうスーさん!」

 

特にスーさんの人気はヤバイ。嫉妬で夜も眠れないレベル。女子には家事で重宝され、タツミには親のように懐かれる。タツミは羨ましくないが、女子は羨ましい。だってあれだぜ?俺の家事スキルの数倍のレパートリー持ってるんだぜ?勝ち目ないッスよ。スーさんは好きだが、女子の人気は許せない。

 

「どうする兄弟?」

 

「まったく、考えモンだぜ……」

 

俺とラバックは『スーさん反逆同盟』なるものを結成し、どうやって女子の人気を取り戻せるか試行錯誤していた。

 

俺達が頭を捻らせてる間、マーグパンサーの子供に化けたチェルシーがマインのケーキを奪って食べている。俺はそれを横目に見ながらふと思う。

 

(ガイアファンデーションで女子メンバーに化けたら、女風呂覗き放題じゃね?)

 

可能だが不可能だ。

確かに女子メンバーに化けたら覗き放題だ。しかし、チェルシーがそんなことのために帝具を使わせてくれるわけがない。軽く絶望しながら、俺達は修行へと向かって行った。

 

 

♢ ♢ ♢ ♢

 

 

俺の修行相手はマインだ。他の皆は危険種を相手に修行しているのだが、俺に必要な力は、飛び道具を持つ相手と戦う力だ。反対にマインは、懐に入られた時の対処法。たまに危険種とも戦うのだが、このマーグ高地に来てからは、姐さんに代わりマインとよく行動を共にするようになった。そのせいか、最近姐さんのスキンシップが妙に激しい。

 

「余所見してんじゃないわよ!」

 

「うわあああっ‼︎」

 

マインが放った擬似弾が腕に被弾する。パンプキンを模した擬似パンプキン(弾も擬似弾)を構えたマインは立ち上がり、狙撃ポイントから走って移動する。

 

俺達の修行内容は、500メートル程離れた場所からマインが隠れながら狙撃し、俺はそれを捌きながらマインの居場所を突き止め倒すといったものだ。帝具持ち同士が戦えば必ずどちらが死ぬ。そう言われているからマインは帝具を使用しない。俺も変身はせず、生身での修行だ。

 

「くそっ!次はどこに行った⁉︎」

 

俺は焦る素振りを見せ、耳を研ぎ澄ます。

これも心理戦だ。俺が本当にパニックになったりしたら、俺をナメているのか、マインの狙撃は少し大雑把になる。俺の課題も多々あるが、マインもそれなりにある。

 

「くらいなさい!」

 

「そこだっ‼︎」

 

俺の後方300メートルまで迫っていたマインの殺気を感じ、大きく仰け反り、狙撃ポイントへとダッシュする。俺の居た場所には弾が通過し、着弾した場所には弾がめり込んでいる。

 

「なっ!バレた⁉︎」

 

慌てて銃を担ぎ逃げ出そうとするマインの前に立ちはだかり、拳を振り上げ眼前で寸止めする。

 

「今度は俺の勝ちだね!」

 

マインは息を吐き座り込む。実際の戦闘でマインがパンプキンを使用していたら、間違いなく俺の負けだ。しかし、フルボッコとまではいかなくなっただろう。俺に飛び道具なんて使えないし、使ったとしてもそれを極めている奴には到底勝てそうにない。だがらあえての近距離。やっぱり仮面ライダーは素手じゃないとね。

 

 

 

♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 

「どうやら皆それぞれレベルアップしたんじゃないか?タツミに至っては以前と見間違えるようだ」

 

午後の修行も終わり、俺達は仮のアジトに集められていた。

 

「チェルシーどうだ?ナイトレイドの皆を一ヶ月見て」

 

「うん…強いね…。私がまえにいたチームより強いよ」

 

でも…と、彼女は続ける。

 

「強いからって生き残れる訳じゃない。皆甘すぎるんだよ。このままだと、命がいくつあっても足りないんじゃない?」

 

そう言い、チェルシーはアジトへと入っていった。残された俺達の空気は重くなる。マインは拳を握り締めている。

チェルシーは仕事から帰ってきたら、チームの皆が全滅していた過去がある。チェルシーなりの思いやりだが、まだ皆は分かっていない。

ならせめて、俺くらいはチェルシーの味方でいようじゃないか。

 




さあ!次回は覗きです!

いっやほう‼︎(^∇^)


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第35話 覗き 其の壱

サブタイ通り長くなりそうなので2つに区切りました。


 

 

時は進み夜。

俺とタツミとラバックは、適当な切り株に腰掛け火を囲んでいる。パチパチと音を立てて、火の粉が小さく弾け飛ぶのをぼんやり眺めながら、タツミは口を開く。

 

「うーん…ギャフンと言わせる方法かぁ……」

 

俺達は今、マインからの命令でチェルシーをギャフンと言わせる方法を考えていた。マインはいつもチェルシーにからかわれており、只でさえストレスが溜まりまくりなのに、今日のチェルシーの言動で一気にそのストレスが爆発したらしい。それで、このままだと悔しいから俺達になんとかしろとのこと。

 

「帝具でも使って何か……」

 

「…どうしたんだ?」

 

「閃いたぜ!閃いちゃったぜ‼︎」

 

覗きですね、分かります。

 

「どうせ……いや、やっぱり覗きでしょ?」

 

「流石兄弟!そろそろチェルシーの入浴時間だ。タツミが透明化して裏から温泉に行け」

 

「えっ⁉︎俺かよ⁉︎」

 

「透明化できんのはお前だけだろ!」

 

確かにその通りだ。インクルシオの奥の手は透明化。よって覗きにはタツミが最適だ。

しかし、だ。俺だって覗きたい。覗きたくてたまらない。ここは悪いがタツミには代わってもらうしなかないな。

 

「いや、俺が行くよ」

 

「は!?」

 

「正気か兄弟⁉︎お前は透明化できないんだぞ‼︎」

 

「透明化できなくても…俺は覗きたい。だから協力してくれ!俺だけの力じゃ無理だ‼︎」

 

タツミとラバックは目を大きく見開き、口を開けている。

 

「……分かったよ。そこまで言うんだったら、何でも協力してやらぁ」

 

「ありがとうっ‼︎」

 

俺は今猛烈に感動している。ラバック…いや、兄弟。例えそれが仮初めの絆だとしても、俺にとっては最高の絆だ。

 

「なら、頼んだぜ!」

 

「うん!行ってきます‼︎」

 

今日、俺は確かにチェルシーの味方でいようと誓った。だけど、覗きをするんなら……心を鬼にするしかないな‼︎

 

 

 

♢ ♢ ♢ ♢

 

 

「ふぅ…」

 

チェルシーが湯に浸かる音が聞こえた。計画通り俺は今、岩陰に隠れている。

 

『……よし、行くか』

 

既に変身している俺は立ち上がる。俺が今変身しているのはストームフォームだ。

仮面ライダーアギト ストームフォーム。超越精神の青。実際変身すると分かるが、このフォームになるととても心が落ち着く。そのおかげもあってか、気配も普段より格段に消せ、足音も立たないようになる。

 

俺はストームハルバードを前に突き出す。このハルバードには今、ラバックとタツミが急遽描いた辺りの風景の絵が吊るしてある。この絵をクローステールの糸で括り付け、忍者の隠れ身の術の要領でチェルシーに近づくのが俺達の計画だ。

完璧。

そばに置いてあった桶をそっと手に取る。チェルシーに桶を被せるべく、ゆっくりと近づく。途中で、チェルシーが後ろを振り返る。いつもの俺だったらその場の雰囲気に負け、気配を一気に漏らすだろうが今の俺は違う。多少びっくりしたものの、気配は漏れてない。

 

あと数歩というところで、チェルシーは立ち上がる。湯けむりに紛れスーさんに変身している。

 

「そこにいるんだろ?分かるぞ」

 

スーさんの声だ。その声はいつものクールな声と変わらず、俺の方をじっと見つめている。

 

『……何で分かったんです?気配も消したし、足音だって立ててないですよ?』

 

このスーさんはチェルシーだ。原作知識がなかったら俺も思いっきり騙されていただろう。しかし、そんな事より、俺達の完璧な計画があっさり見破られたという事実に俺は受け入れられなかった。

俺はハルバードを投げ捨て膝をつく。

 

「確かに気配は消せていたが、明らかにその絵の場所だけ違和感がある。と言うか、普通に足が見えていた」

 

 

あっ…。

変身したら背が伸びるの考えてなかったわ……。

 

 

 




次話は出来次第すぐに投稿します!


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第36話 覗き 其の弐

さあ、続きです!




 

 

「確かに気配は消せていたが、明らかにその絵の場所だけ違和感がある。と言うか、普通に足が見えていた」

 

そういうことか……。なら、計画変更だな。

 

『なるほど……。でも、貴方はスーさんじゃないですよね?』

 

「へぇ……気づいてたんだ」

 

チェルシーはそう言うと変身を解き、飴を咥える。

 

『スーさんは腰にタオルなんか巻きません…。あの人はふんどしですからね!』

 

仮面の下でドヤ顔する俺。顔を見らずとも、俺がおちょくってるというとことを理解したチェルシーは心底悔しそうな顔をする。

 

「くっそぉー!悔しいなぁ……。なかなかやるじゃないコウタロウ」

 

『やられてばっかりじゃ、俺の性にはあいませんからね』

 

俺は変身を解く。その際の光でチェルシーは目を眩ませ、一瞬俺から目を離す。

 

「って、アンタ!何で腰にタオル巻いてんのよ⁉︎最初から入る気だったの⁉︎」

 

「あ、バレちゃいました?」

 

そう。ぶっちゃけ俺は最初からタツミやラバックのことなんて信用しちゃいない。あいつらが絵を描いてる時の怪しい笑顔ったらありゃしなかったからな。

 

「はぁ〜、呆れたわ」

 

なんかゴミを見るような目で俺を見てくるチェルシー。

 

「まぁ、いいわ。変装を見破られた私も私だしね…。ほら、入りなさい」

 

チェルシーは湯に浸かると、俺を手招きする。え?これは夢かな?

 

「えっ…と、本当に良いんですか?」

 

「良いって、最初からそれが目的だったんでしょ?早く入りなさいよ。風邪引いても知らないわよ?」

 

「そ、それじゃあお言葉に甘えて……」

 

俺はゆっくりと湯に浸かる。足の先から触れる湯はとても心地よく、まさに極楽だ。

というか、チェルシーさんサービスし過ぎでしょ!本当女神ですよ!

 

「ねぇ、コウタロウ。聞いてくれる……?」

 

「え、はい、何ですか?」

 

この女風呂は結構な広さを誇るのに、俺達の距離はそんなに離れていない。と言うより、あと少しで肩と肩が触れ合う距離だ。

 

「この間ね、私が仕事を終えてアジトに帰ったらさ、チームの皆が全滅してたんだ……」

 

これは知っている。チェルシーは地方の暗殺チームで、たった一人の生き残りだ。仲間とも上手くいっていただろうに、それを全て失った。その悲しみは俺には到底想像できない。

 

「ここの連中には、そうなって欲しくないの……」

 

けど…、と彼女続ける。

 

「私だって皆と仲良くしたいのに……なかなか上手くできないよ……」

 

チェルシーの頬を伝って涙が零れ落ちる。

揺れる水面に、その顔は映らない。

 

「チェルシーさん……」

 

「……ごめん、忘れて!今のナシね‼︎」

 

チェルシーは顔を真っ赤にし、大袈裟に笑う。その笑いはどこか悲しげだ。皆の為を思って辛辣に当たっていたが、とうとう限界なんだろう。皆と仲良くしたいのに、死んでほしくない。だから自分が汚れ役になるってか……。チェルシーなりに悩んだ結果出した答えがそれなら仕方ないさ。

 

「そんな悲しそうな顔を…忘れられるわけないじゃないですか」

 

でも、俺は男だ。美少女の涙を見過ごす訳にはいかない。

 

「例え皆がチェルシーさんの事を嫌いになっても、俺だけはチェルシーさんの味方ですから!皆だって本当は気づいてますよ。チェルシーさんの優しさに」

 

「……コウタロウ」

 

実際姐さんは気づいていた。何かにつけて悲しそうな顔をするチェルシーを姐さんは見逃さなかった。シェーレだってそうだ。あんな天然なシェーレでも、すぐにチェルシーの本質を見抜いて俺に相談に来たんだ。

 

「何でそこまでしてくれるの?」

 

「何でって……。チェルシーさんは皆の為を思ってやってたんでしょ?それに……」

 

「……それに?」

 

「俺達、仲間じゃないですか‼︎」

 

その言葉に、チェルシーは大きく目を見開いた。次第に彼女の顔は赤く染まっていく。

 

「……コウタロウ」

 

「ん?何ですか?」

 

「……変なヤツ」

 

俺達は笑いあう。そこからはくだらない世間話をした。やがて結構な時間になるため、俺は風呂を出るため立ち上がる。

 

「……ありがとね、コウタロウ」

 

俺が風呂を出るときにチェルシーの発したその言葉を、俺は聞き逃さなかった。

 

 

 

 

 




チェルシー、堕ちましたね(ゲス顔)

さあ、姐さん、エスデス、チェルシーとヒロインが揃いました!

エスデスはストーリー進行上やむなくですが、ナイトレイドの2人はある共通点があります。


それは、変身です。
そうなると、エスデスは2人に勝ち目はなくなりますかね……。


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第37話 料理教室

ニコ生のアギト一挙放送で、葦原さんが登場する度に「不幸さん」「不幸配達人」とか散々言われててちょっと哀しくなりました´・_・`


そんなことより、ちょっと息抜きでISの作品書いてみました。是非そっちも読んでみて下さい!
けど安心して下さい!ちゃんとこっちを優先しますんで!


 

 

あの覗きから数日。俺は今、皆の昼飯を作っていた。隣ではアカメがスーさんと釣ってきた魚型の危険種を捌いている。

 

「……ねぇ、コウタロウ」

 

「ん?どうしたんですかチェルシーさん?」

 

俺に声をかけて来たのはチェルシーだ。あの覗きから数日経った今でも、彼女と顔を合わせるのは少し抵抗がある。しかし、一体何の用だろう。わざわざ調理中に、しかもお互い気まずい空気なのに俺に自分から話しかけるとは、きっと重大な用なのだろう。

 

「……あのね…私に、料理を教えて欲しいんだけど……」

 

驚いたな。まさか、チェルシーが俺に料理を教えて欲しいだなんて…。まあでも、このナイトレイドのメンバーで料理がしたいだなんて言い出しそうなのはチェルシーくらいしか居ないだろう。姐さんとか絶対面倒くさがりそうだし。

 

「はい!全然いいですよ!何作りたいんですか?」

 

もちろんOKでしょ。というか、断る理由がない。

 

「えっと、そうね……簡単な奴がいいわ」

 

恐らくチェルシーは料理の素人だろう。なら、素人に教えるって言ったら、アレしかないだろう。

 

「卵焼き、とかですか?」

 

「アンタ馬鹿にしてんでしょ⁉︎そこまで素人じゃないわよ‼︎」

 

顔を赤くし、予想より大きな声で返すチェルシー。結構ナメてました…。

 

「そうですね……。パスタとかどうです?今日の昼も、ちょうど作ろうとしてたんで!」

 

「いいわねー。餡子パスタとか美味しいそうじゃない?」

 

「……っいや、あー……うん」

 

「普通のパスタにするわよ!」

 

餡子パスタって……。どうやらチェルシーは発想が独創的らしい。と言うか絶対美味しくないだろ。

 

「じゃあ、まず手を洗ってください。そんで、最初にソースを作ります。取り敢えず、挽肉を刻み、湯がいたトマトと……」

 

そこからは俺が手取り足取り、チェルシーにパスタを教える。発想が独創的だが、なかなか調理に関しては伸び代を感じた。その中でも、包丁捌きは別格で現時点でも俺と変わらないレベルだった。

ソースが完成し、達成感と共に椅子にへたばるチェルシーに、パスタを茹でろと指示する。嫌々ながらも、どこか嬉しげにそれに応え、鍋にパスタを落としていく。

 

「おっ、今日はパスタか〜」

 

「お帰り、姐さん!」

 

玄関を開け、帰ってきたのは姐さんだった。匂いで料理を当てるとは、相当お腹が減ってるらしい。

 

「って……何してんのチェルシー?」

 

「何って、コウタロウに料理教えて貰ってるけど?どうかした?」

 

「なっ……、抜け駆けか⁉︎コウタロウは私のモノだぞ‼︎」

 

「まぁまぁ落ち着いて2人とも」

 

喧嘩になりそうな空気を濁すべく、俺は2人の間に割って入る。

 

「何だよコウタロウまで!……おい、私も混ぜろ!」

 

「へ?」

 

「だから私にも料理を教えろって言ってんだよ‼︎」

 

いや、姐さん料理絶対できないでしょ〜……なんて言ったら間違いなく殺される。うん、間違いなく。まあ、ここはご機嫌取っといて、飽きるのを待つしかないか。

 

「分かったよ。パスタでいい?」

 

おう!と鼻息を荒らしながら答える姐さん。だめだ、この人包丁とか握ったことあんのかな?

 

「じゃあ、チェルシーさんは2回目だけど、おさらいとして聞いといてください。まずは……」

 

 

 

 

__________________

 

 

 

「いただきます‼︎」

 

皆が声を合わせる。皆の前には、それぞれパスタと魚のホイル焼きが一皿ずつ存在する。

 

「……何でコウタロウだけ3皿もあるんだよ⁉︎」

 

ラバックかタツミか発した言葉か分からないが、今の俺の心の代弁はまさにそれだ。

 

あの後、何とかパスタを作り終えた2人は、自分が作ったのを俺に食べて欲しいとねだった。嬉しくはあるのだが、流石に食べきれない。せめて俺が作ったのを2人で分けて食べて欲しいとお願いする。それにより、一皿減り、俺の負担も減るが……ハッキリ言ってそんなのどうでもよかった。

 

「……」

 

一皿、明らかに一口でも食べたらいけないオーラを醸し出しているパスタがあった。紫色のミートソースに、べちゃべちゃのパスタ。禍々しく湯気を立てているこの作品は、間違いなく姐さんの料理だ。

 

(……これ、食っても死なないよね?)

 

一方、チェルシーの料理の見た目は普通で、いかにもといったパスタだ。2つを並べてみると、チェルシー作の方は三ツ星レストランに出てもおかしくない風に見えてくる。

 

「……いただきます」

 

まずは、フォークでチェルシーのパスタに巻きつける。何か言い方がアウトっぽいが気にしない。ミートソースに絡ませ、口に持っていく。

 

ごくり、と飲み込みチェルシーの方を向く。

 

「うん、普通に美味しいですよ!チェルシーさん、結構お料理上手なんですね!」

 

「やった‼︎」

 

チェルシーは俺の言葉に安堵の息をつき、そして飛び上がるように喜ぶ。……はい、問題は姐さんです。俺がチェルシーを褒めたことが気にくわないのか、ジト目でこちらを睨んでくる。

 

「次は私のヤツだぞ」

 

分かってる……分かってるけど…。俺は涙を堪え、その禍々しいオーラを放つ物体Xを口に放り込む。ゆっくりと口を閉じ、ソレを咀嚼する。

 

(……あれ?普通に美味い?……いや、結構美味いぞ⁉︎)

 

人は見た目によらないとは言うが、どうやら料理も見た目によらないらしい。

姐さんに失礼な思い込みをしていたことを詫びるため、口を開こうとする……が。

 

 

今気付いたのだが……俺の身体は浮かび上がり…否、どうやら俺の意識だけ浮かび上がり、魂の抜けた身体は、泡を吹きながら皆に看病されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 





いや〜、お久しぶりでございます。

GW、皆様どうお過ごしでしたか?

私は家の敷地から一歩も出ておりません。


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第38話 新しいアジトと危険種


この間、久しぶりにアギトの劇場版を観たんですけど、改めて見ると面白い面白い。

一般人があの軍隊アリのロードに囲まれた時の絶望感はヤバい。


 

 

「なんかさ、新しいアジトって感じがしないな」

 

エアマンタから全員が降り、俺達は新しいアジトを見上げる。

 

マーグ高地での約一ヶ月間の修行を終え、今度は帝都から北東に15Km地点のアジトだ。見つかりやすさと逃げやすさを考えると、自然と元のアジトに似るらしい。

それにしても似すぎだろ……。内装はまだ分からないが、外見は元のアジトと瓜二つだ。

 

「ナジェンダさん、アジト周囲に結界貼り終えましたー」

 

「緊急避難用の抜け穴も掘り終えたぞ」

 

ラバックとスーさんも一仕事終え集まって来る。皆荷物を背負い直し、ボスを先頭に新しいアジトへと進んで行った。

 

 

 

♢ ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 

自分の荷物をそれぞれの部屋にひとまず置き、俺達はボスに会議室へと集められていた。新しい会議室も元のアジトと変わっておらず、それ以外の内装も元のアジトと似ている。

 

「戻ってきて早速だが、今回の標的は例の新型危険種どもだ」

 

ボスは会議室中央に一つだけ存在する椅子に座り、タバコを吹かしながら今回の標的について話し出す。

 

「奴等は基本群れで行動し、僅かながら知性も見受けられる。個々の身体能力は高く、腕試しの武芸者達も犠牲になっているらしい。今でも帝都から南部の鉱山・森林に広く潜み、貪欲に家畜や人を食らっている」

 

新型危険種。Dr.スタイリッシュが残した負の遺産で、原作でもナイトレイドやイェーガーズなどと戦っており、その際主要人物達に死傷者は居ないのだが、奴等が起こす災厄は早急に抑えなければならない。

この危険種を狩ることで結果的に帝国に協力する形になるが構わない。

 

「ん〜〜。大きな危険を冒してバケモノ退治ねぇ……」

 

壁に背もたれながらチェルシーは口を開く。皆ボスの方を見ていたので、一斉にチェルシーの方を向く。

 

「イェーガーズに任せておけばいいのに、やっぱりどこか甘いよ皆…」

 

チェルシーは納得できないといった表情で、眉間に皺を寄せる。空気もチェルシーの一言により、沈んでいる。

 

「……言いたいことは分かる」

 

その虚を破ったのはタツミだった。

 

「でもコイツ等、今も誰かを襲ってるかもしれない」

 

そうだな。危険種達のせいで無惨に死んだ人達…。その人達の無念を晴らすため、そしてまた誰かが悲しまないためにも、一刻でも早くこの危険種を狩り尽くす必要がある。

 

「俺達は殺し屋だけど民の味方のつもりだ。殲滅を早めて一人でも多く助けたい」

 

「同感!コイツ等のせいで誰かが悲しむのを見たくないですし!」

 

俺もタツミに続けて言ってみた。

チェルシーは渋々承諾する。

 

「……タツミ、コウタロウ……お前達に一言言いたいことがある」

 

「……スーさん?」

 

なんだ?俺はズボンのチャックは閉めてるぞ?

 

「タツミはズボンのチャックが開いている。コウタロウはシャツが裏表反対だ。気になるからなんとかしてくれ」

 

すいません、それ早く言ってもらっていいですか。

 

 

♢ ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 

「そういや昼間も思ったんだけどさ、ラバはボスのことナジェンダさんって呼ぶんだな」

 

「……っま、まぁ、そりゃあな」

 

ラバはボスとの昔話を語り始めた。

帝都から近い山の麓のパトロールが俺達の仕事だ。本来ならラバとタツミの二人だけでの仕事だったが、このまま進んでしまうと、タツミはエスデスに遭遇してしまい最悪殺されてしまう。エスデスとの遭遇を止めるため、俺はボスに適当な言い訳を繕いこちらのチームになった。

 

「悲しいぜ…泣ける話だろ?」

 

「ラバ…」

 

こう見えてラバは一途だ。俺とラバはよく女風呂を覗くが、ボスが入浴中の時間帯は絶対に覗かないことになっている。俺がこっそり覗こうとしてみたら、ラバが鬼の形相で槍を振り回し追いかけてきたからな……。あの鬼ごっこはトラウマだ。

 

「好きな人がいるのと可愛い女の子を見たいって欲求は別だろ⁉︎なぁコウタロウ⁉︎」

 

「あたぼうよ!ウチの女子の風呂は死んでも覗く価値はあるからね!」

 

俺だって男だ。例え俺がラバと同じ境遇でも、俺はまったく同じ行動をとっているだろう。

 

 

「ここら辺本当に危険種出るのかな?」

 

言い合いも終わり一時間程山を歩き回ったが、危険種が出る気配は一向にない。原作はエスデスと遭遇した時に溢れ出るのだが、今はネズミの気配もない。

 

「糸も張ってるんだが、獲物がかかりゃしねぇ」

 

ラバのクローステールに引っかからないとなると、山頂の方しか居ないことになる。

 

「…うし、なら帝具で山頂の方見てくるわ」

 

「いや、俺が行くよ。タツミはラバと一緒に麓を捜索して」

 

「ん、なら頼んだぜ!」

 

それじゃ、と言い残しアギトの状態で一気に山頂へと駆け登る。山頂へ到着すると、登ってきた方とは反対側から今度は降りる。もたもたしているとエスデスと遭遇するからな。壁をよじ登っていた例の危険種をすれ違いざまに蹴り殺す。まだまだ数はおり俺を追いかけようとするが、迎撃し残りは山頂へと逃げて行く。

 

山頂の方から何かが落ちる轟音が響いた。

恐らくエスデスだ。山頂へと逃げて行った危険種をドラゴンの上から見つけたのだろう。どうせシュラも来るだろうし、さっさとトンズラするべきだ。エスデスと南の島でデートとか死んでも行きたくない。あの大型危険種もエスデスに任せとけば大丈夫だろう。

 

隠れていたタツミ達と合流し、俺達は帰路へと着いた。

 

 

 





危険種の話は一話で終わり。

エスデスとのバカンスは、コウタロウは既にエスデスが説得に応じないことを知っているので飛ばしました。

試案では、エスデスとの遭遇を回避したらシュラと出くわし交戦するする予定でしたが、どっちにしろ南の島でデートは避けられないかなと思い普通に帰る事にしました。


※決してバカンス編が面倒くさかったとかじゃないよ?


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第39話 戦いに備えて


遅れてすみません‼︎

来週の頭からテストなんで忙しくて更新できませんでした……

次回はテストが終わり次第です…


 

「ーーーってな訳で罠だったって話。ホント危なかったーっ」

 

チェルシーはココアの入ったマグカップを片手に、仕事での苦労話を語っていた。

 

新しいアジトへ来て1週間。マーグ高地での修行で帝都での仕事を行えなかった分、俺達の仕事は、俺とタツミがナイトレイドに入った頃の倍近くに増えていた。ナイトレイドがここ1ヶ月、目立った活動を行っていないのをいいことに、鳴りを潜めていた悪党共が急に活気づいたのだ。俺もよく駆り出され、今週は休みが1日しかない。……とんだブラック企業ですね。

 

いつもようにチェルシーがマインをからかいながら遊んでいるのを眺めながら、俺はお茶を啜る。

 

「今回の件といい…イェーガーズは私達に狙いを絞りにきてるな」

 

「新型危険種も全滅させたし、残りのめぼしい賊はナイトレイドだけだからね」

 

若干騒がしいものの、俺達はテーブルを囲みイェーガーズへの対策を練っていた。

チェルシーは今回の任務で、イェーガーズの二人と遭遇したらしいのだ。その時は猫に化けてその場をしのいだものの、イェーガーズは確実に俺達を意識して狙ってきている。このままでは、帝都での仕事中に鉢合わせしてもおかしくない。

 

「そうだな……イェーガーズとはいつか必ず決着をつけなければいけない。特にエスデスには要注意だ。あいつは昔からどこか…いや、殆どおかしかったからな」

 

誰かと思えばボスだ。風呂上がりなのか、肩からタオルをかけ、黒のヘソ出しタンクトップを着用している。濡れた髪と身体を包む湯気が抜群のスタイルに色気を漂わせる。

ごくり。

ラバか唾を飲み込んだ音だろうが気にしない。

 

「昔からって…そう言えば、ボスはおいくつなんですか?」

 

「私は二十代半ばだ。エスデスはもっと下だが」

 

タツミの問いに、ボスはタオルで髪を拭きながら答える。

 

「ボスそんなに若かったんですか⁉︎意外すぎる‼︎」

 

タツミはテーブルに身を乗り出し驚愕の目をボスに向ける。

 

「ばっか!ボスは永遠の17歳に決まってるだろ‼︎ナジェンダさんじゅうななさい」

 

危なかった……もし俺のフォローがなかったらタツミはこれから悪夢を見ていただろう。

俺はタツミに向けて笑顔でサムズアップを送る。

 

刹那、タツミが視界から消えた。

そしてすぐに、タツミがボスに吹っ飛ばされ、落下する音が聞こえた。それまでを理解するのに2.6秒。恐る恐るタツミが吹っ飛ばされた方へ首を動かす。

 

バキッ‼︎バキッ‼︎

 

あの人グーで殴ってる。

元といえども、将軍だった人間だ。そのボスが握り拳で思いきり二十歳にも満たない少年を殴っているのだ。しかも片方は鋼鉄製の義手。

 

「っ‼︎ぐへっ⁉︎」

 

タツミが無言で殴られるさまをじっと見ていると、俺の腹部に鈍い痛みが走る。それに耐え切れず、俺は膝を降り胃液を吐き出す。

 

「はぁはぁっ!……な、何で俺まで⁉︎」

 

悪ふざけが過ぎたか?

それよりも、お、おかしい……ボスの背後に鬼神が見える……いや、ボスが鬼神…なのか?

 

「お前が一番悪意があっただろうがああああああ‼︎」

 

俺が目を覚ましたのは、それから約2時間後のことだった。

 

 

 

 

 

♢ ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

俺が気絶している時、どうやら姐さんとチェルシーが手当してくれたらしく、俺の体全体に包帯やら湿布が貼られている。タツミはあの後すぐに起き上がったそうだが、俺は2時間気絶したんだ。どうやら本気で殴られたのは俺の方だったな……。

 

「今回の案件は、安寧道と呼ばれる広く民衆に信仰されている宗教だ」

 

話はうって変わり、俺達は現在会議室に集められている。ボスが言ったとおり、次は安寧道絡みの任務だ。この任務はイェーガーズと対峙し、両方とも犠牲が出る大きな戦いになる。イェーガーズはともかく、原作通りだと、この戦いで死ぬのはチェルシーだ。だが、そんなことはさせない。チェルシーはナイトレイドのメンバーでもう俺達の仲間だ。そんな大切な人を傷つけさせるわせにはいかない。何が何でも絶対に守ってやる。

 

そんなことを思っていると、いつの間にか話は進んでいた。

 

「それで、だ。今回の私達の目的は、安寧道の本部まで行き、大臣のスパイであるボリックを討つことだ」

 

ボリックは安寧道の教主補佐役であり、信任が厚い。それを利用し、一部の信者の食物に少しずつ薬を混ぜ中毒にし、忠実な人形としていることが密偵の報告で確定している。

しかもボリックの目的は、近々帝国に向けて武装蜂起する安寧道を掌握し、武装蜂起をさせないこと。個人的にもムカつくが、革命軍にとってもかなりの障害であるらしい。遠慮はいらない、と言われからには……遠慮するわけにもいかないな。

 

「最後に、イェーガーズについて……」

 

ボスはコートを羽織り直し、深々と椅子に腰掛ける。

 

「アイツ等は今全力で私達を狩ろうとしている。このまま後手後手ではいつか捕まってしまうと確信した」

 

「実際踏み込まれた時も、私の能力じゃなきゃヤバかったしね」

 

とチェルシー。

 

「ならば今回……帝都の外まであいつらをおびき寄せて、そこで仕掛けようと思う」

 

イェーガーズの中でも、クロメとボルスは革命軍の始末リストに搭載されているとのことだ。ボルスは革命軍を支援した村を一つ焼き尽くしたことと、本人の火力が危険視されている。

 

「イェーガーズはエスデスが率いている以上、大臣の私兵であることには変わらん。ーーーー見知った顔でも戦えるな?コウタロウ」

 

ボスと目が合う。

イェーガーズでの生活は、怯えながらも楽しかった。特にウェイブやボルスは緊張気味の俺にも優しく接してくれた。

正直殺したくない。

でも、それは俺の都合であり、向こうはお構いなしに仕掛けてくるだろう。もし、俺の大切な人を傷つけるようなことをしたら……その時は問答無用で誰が相手になろうと、徹底的に潰すのみ。

 

 

戦いは近い。

この戦いで物語は大きく動くことだろう。

 





次回からはイェーガーズとの戦いです。

戦闘模写はキツイんだよなぁ…


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第40話 開戦

テスト終わったら更新するって言っときながら、遅れてしまい本当に申し訳ありません(土下座)


でも、私だけが悪いんじゃないんですよ⁉︎
テスト最終日にvitaとSAO ロストソングを貸してくる友人も悪いんですよ⁉︎

でももう安心!本編はクリアしましたから!
(クリアするまで書かなかった)


 

 帝都から南に13Km地点には、結構大きな湖がある。そこでは只今、ナイトレイドがパシャパシャと水音を立て遊んでいた。男性陣は海パン、女性陣はビキニやパレオといった色とりどりの水着に身を包んでいる。一見、バーベキューでもしに来た仲良しグループとでも思うのだろうが、いつもの黒いスーツに身を包んでいるナジェンダを見ると、そうもいかなくなる。

 

「いやーっ、こんな所で女性陣の水着が見られるなんて嬉しいね」

 

 鼻の下を伸ばしながらよだれを垂らしているのはラバック。そんなラバックを戒めるのはタツミだ。

 水のかけ合いをして遊んでいたレオーネとチェルシーは一旦休憩ということで、陸の切り株に二人並んで腰掛けた。

 

「……ねぇ、レオーネ。あなた……好きな人って…いる?」

 

「何だよ急に?まぁ、コウタロウだけど?」

 

「予想はしてたけど……即答かぁ」

 

 男性陣は近くに居ないが、念のためと思いチェルシーは声を細めて言った。

 

「ん?その質問って事は……チェルシーもコウタロウのことが好きなのか?」

 

「なっ!……ま、まぁね」

 

 チェルシーは顔を赤く染める。一瞬声が裏返ったが、堂々とコウタロウを好きだと言ったレオーネへの対抗心からか、落ち着きを取り戻そうとした。

 

「チェルシーには悪いけど、コウタロウは私のモノだぞ!ちゃんとツバつけといたし!」

 

「ちょっ!それどういうことよ⁉︎……って、そりゃいつもあんなにスキンシップしてたらそう不思議でもないか。……それは置いといて、コウタロウは誰が好きなの?やっぱりレオーネ?」

 

「んー、多分違うな。」

 

 嬉しさでえっ、と声を上げそうになるのを押し殺し、レオーネの言葉に全力で耳を傾ける。

 

「あいつはまだ、誰も好きなんかじゃないぞ。もちろん恋愛的にだぞ?私達の風呂は覗くくせに、あいつは自分の好きな人に気づいてないのさ。」

 

「……」

 

「チェルシーにもチャンスはあるけど……改めてコウタロウは私のモノだからな!譲らないぞ⁉︎」

 

 何故そんなことが分かるのかと聞きたい気持ちもあったが、レオーネの話を聞いてなぜか納得している自分を、ほんの少し好きになれそうになったチェルシーだった。

 

「とは言えコウタロウはこの日に帝都に用事かぁ〜。水着見せたかったなぁ〜」

 

 イェーガーズとの戦いは翌日で、この水遊びも任務の内だが、あいにく愛しのコウタロウは帝都で私用のようだ。自慢のナイスバディをコウタロウにも見せたかったが、残念に思う。チェルシーというライバルの出現に危機感を覚えながらも、この任務が終わったらコウタロウに抱きつこうと考えるレオーネであった。

 

 

 

 

 

 ________________________________

 

 

 

『……来ました』

 

 馬から降り、スーさん扮する池面カカシに近づいて来るイェーガーズの三人。俺達はそれを三人の死角から息を潜めて眺めている。

 カカシまであと数歩というところで銃声が響く。

 マインの狙撃だが、原作通り失敗、そしてスーさんの奇襲によりウェイブは退場。

 舞台は出来上がった。俺達は三人の前に姿を現す。

 

「クロメにボルス、イェーガーズの中でもお前達は標的だ。覚悟してもらうぞ」

 

 ボスの宣言により残された二人は身構える。

 八房とルビカンテをこちらに向け、二人は同時に帝具を発動させた。地面から無数の手が突き出てくる。

 

『ふんっ!』

 

 クロメの骸人形の腕だ。俺はそれを二本ほど適当に蹴飛ばす。飛ばされた腕は引き千切れ弧を描きながら地面に落ちる。出てくる前にダメージを与える。これがゲームだったら鬼畜ワロスで済むのだが、ここは戦場だ。そんな戯言を言ってる暇などない。それに出てくる奴らは皆なかなかに面倒くさい。原作を知っているからこそできることだ。

 

 だが、どうやっても地震と共に目覚めるデスタグールは止めることができなかったので、俺は一旦下がる。

 超級危険種デスタグール。見た目は肉食恐竜の骨のようで、大きさは数十メートルに及ぶ。超級とは飾りだけではなく、その一撃は荒れた地形を変える程だ。

 

その一撃を近くに立っていたシェーレを崖の裏に引き込みやり過ごす。他のメンバーも全員避けきったようでそれぞれの担当を相手することになる。俺は姐さんとペアで人形C。原作通りだと、ロクゴウ将軍だ。狙撃場所から降りて来たマインがシェーレと合流するのを見届けて、俺は姐さんの下へと走り出した。





もう余程のことがない限り、こんなに遅れることはないはず……


ということで、今話もご愛読いただき本当にありがとうございました!


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第41話 鞭


用事から帰る途中、アニメイトでWHITE ALBUM2のCDを見つけました。
初めて見つけて、嬉しくて即購入。


結果、帰りの交通費がなくなり、救援を呼んだという今日この頃。


 

 

『姐さんっ‼︎』

 

俺は、既にロクゴウと対峙している姐さんの元へ駆けつける。

 

「遅かったなコウタロウ」

 

姐さんはロクゴウへの視線をずらさぬまま応える。

俺は姐さんと並び、鞭を構えるロクゴウを見つめる。ロクゴウの左腕は不自然な千切れ方をしており、どうやら俺が腕を蹴飛ばしたうちの一人だということが分かる。

俺達との間合いは10メートル程。

先に動いたのはロクゴウ元将軍だった。

 

「…ん?届いてないぞ?」

 

グランドフォームの視力では目視できない程の速さで鞭を振るうが、俺達にはあと少しといったところで、ただ地面を抉るだけだった。

 

しかし、それがいけなかった。

 

抉れた地面から排出される砂は、こちらへの追い風に乗り、俺と姐さんだけを覆う。

 

『姐さん!俺の後ろに‼︎』

 

「……分かった‼︎」

 

ただでさえ鞭に着いていけないのに、砂埃の中ではもっと視界が悪くなり、お手上げになる。

胸の装甲に無数の衝撃が走る。

ロクゴウの鞭だ。どうやらあいつは最初からこれを狙っていたらしい。

流石だ。

死体人形とは言え、元将軍であることに変わりはない。しかも帝具持ちではなかったらしい、鞭の技量と実力でのし上がった男は、そう簡単には勝たせてくれなかった。

 

『…くっ!』

 

一発一発の威力はさほど高くもないが、それが視認不可能、ましては視界が悪い状態ではダメージも嵩んでいく。

俺は右腰のスイッチを押し込み、ベルトから剣を取り出す。柄を握り締めると、俺の身体は歪み始め、一瞬の閃光と共に紅く染め上がる。

 

『捉えた‼︎』

 

この砂埃の中で迫り来る鞭を、俺はフレイムセイバーでその先端を切断する。

ロクゴウは手応えの無さを感じたのか、すかさず鞭を手元に戻した。

辺りは砂埃も薄まり、姐さんでも視認できるようになった。

 

「よし!お手柄だ!」

 

姐さんは俺の背後から飛び出し、居合の要領で構える俺の右隣に立つ。

 

同時に俺達に向けて鞭の猛撃が始まる。

風を切りながら襲いかかる鞭を、ただひたすらに斬る。俺達は近接格闘タイプだ。ロクゴウのように鞭や飛び道具を使う相手とは、頭を使って戦わなければならない。

俺は、鞭を斬り飛ばしながらロクゴウの元へ走り出す。それに続くように姐さんも走り出した。そして、俺達との距離が大分近くなった頃に飛び出し、ロクゴウを思いっきり殴り飛ばす。

 

「よくやった二人とも!」

 

ボスは吹っ飛んでいるロクゴウに義手での追撃を浴びせ、地に押さえ込ませる。

 

「ロクゴウ将軍。元同僚として一刻も早く、貴方を呪縛から解き放ちます」

 

「ボ、ボス!」

 

「お前達、この人の鞭を見たか?」

 

『見ましたよ!とても速かったです』

 

ボスはロクゴウを押さえ込んだまま語り出す。

 

「お前達が見たあの速さは、本気ではない」

 

『……は?』

 

「このロクゴウ将軍は、隻腕だったろう?いくら利き腕で鞭を振るっていても、左腕がないと相当速度と威力は落ちるものだぞ」

 

「どいうこと?」

 

「鞭を振るうには、腕を大きく振る必要があるだろう?当時の将軍は、この右腕を大きく振るい、そして休む暇を与えることなく私を鍛えてくれた」

 

ボスは懐かしそうで、そして悲しそうに続ける。

 

「右腕を大きく振ると、体のバランスをとるのが難しいんだ。だからそれを左腕で支える。体幹の均衡守衛役ってとこだな。左腕がない今、体を崩さないよう力をセーブして戦っていたんだ」

 

「……なるほど。おっさん、凄いんだな」

 

姐さんがそう言い終える前に、俺は姐さんに向けられた殺気を感知する。

 

『姐さんっ‼︎』

 

俺は姐さんの腕を斬り飛ばそうと仕掛けてきたクロメの刃を受け止める。

 

「……ちぇっ、気づかれちゃった」

 

クロメは悔しそうに、元居た高台へと戻る。

 

「……ごめんコウタロウ」

 

『ここは戦場だから、油断は大敵ですよ‼︎』

 

姐さんは俺の注意に、分かった、と答え顔を叩く。

 

「よし!もう油断しない!」

 

「二人とも、ここは私に任せろ!レオーネはアカメ、コウタロウはタツミの援護に行ってこい‼︎」

 

「『了解‼︎』」

 

 

戦いは、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





嫌だぁ……課外なんて行きたくないよぉ……


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第42話 火葬

お、お気に入りが200件だとっ……⁉︎

こ、これはアレですね!
また記念に番外編を書くフラグですね!

閑話休題。
皆様、本当にありがとうございます‼︎感謝してもしきれぬ思いであります。
これからも『アギトが蹴る!』、そして『アギトが蹴る!アナザー』をよろしくお願いします‼︎


 

『喰らえっ猿野郎っ‼︎』

 

タツミはノインテーターを振りかぶるが、ヘンターの攻撃により体勢を崩す。その隙に、槍を下ろそうとした相手・エイプマンの左フックをもらってしまう。

 

『大丈夫タツミ⁉︎』

 

『ってえぇえ…』

 

エイプマンの攻撃により吹き飛んだタツミを俺が受け止める。脇腹を抱えながらタツミは立ち上がる。

 

助かる、と一言応え俺達は前方の骸人形達と向き合う。見ればエイプマンの片腕はロクゴウと同じような不自然な千切れ方をしており、コイツがもう一人の隻腕ということが分かった。

しかし、いくらエイプマンが片腕だろうと、ヘンターが加わることによる二対一の戦況は変わらない。

俺達の間合いに風が吹き起こる。

 

『俺があの猿野郎を相手する。コウタロウはあの変なヤツを頼む‼︎』

 

『了解‼︎』

 

タツミはエイプマン目掛けて駆け出していく。

 

「コ……ッチ……コッチ」

 

そんな壊れた機械人形が出しそうな錆びれた声で、もう一人の人形が歩いてくる。その歩きた方は、左右を縫うように、歪な足取りで向かってくる。

 

かと思えば、急に走り出し、小型のナイフのような物を投擲してくる。

このヘンター、クロメの骸人形の中でもトリッキーな動きを駆使して敵を殺す相当の実力者だ。灰色のボロいフードを被っており、その顔は仮面か、はたまた自分の顔なのか分からない。

 

腰を低く落とし、フレイムセイバーを構える。

相手がトリッキーな動きが得意なら……それを受け流して隙を突くのみ!

こちらに飛んでくるナイフを弾き落とすと、刃をふるった瞬間にヘンターの蹴りが迫る。それを鍔で受け止め、鍔を足場にして跳び上がったヘンターに右拳を喰らわせる。

俺の攻撃を寸前でガードし、その衝撃を得意のトリッキーな動きで流される。

 

『チッ……そう簡単にいなかいか…』

 

タツミの方を見やると、なかなか優勢に持ち込んでいた。早く加勢に来てもらいたい……。

 

『……っ‼︎』

 

タツミの方を一瞬見ていただけの隙、いや、それほどの隙を突かれて間合いを詰められる。暗殺者がよく好むナイフで俺を襲うが、それをフレイムセイバーで受け止める。火花を散らすほどの鍔迫り合い。トリッキーな動きは厄介だが、そこまでパワーは感じられない。

 

『……フンッ‼︎』

 

ゼロ距離のヘンター。鍔迫り合いの真っ最中に、俺はフレイムセイバーの刀身に火を纏わせる。

 

「…グ、グギャァァアァッ‼︎」

 

フレイムセイバーの火がコートに燃え移ったヘンターは、火だるまになりながら悶え叫ぶ。

 

秘技・火葬の刑

 

骸人形には相性抜群の必殺技だ(今さっき命名)

屍体には火葬。昔からの葬り方である。

 

ヘンターを覆う灼熱は、鎮火ということを知らないようで、その身が骨になっても燃え続けている。

 

「あらら、もう倒しちゃったの?せっかく助けてあげようと思ったんだけど」

 

『チェルシーさん‼︎』

 

岩陰から出てきたのは、いつもの飴を口に咥えたチェルシーだった。

その手には彼女の帝具・ガイアファンデーションが握られている。

 

「なかなかやるじゃない」

 

『ええ、鍛えてますから!』

 

チェルシーは小さくふふっ、と笑うと、また仕事に戻るため森の中へ入って行こうとする。

 

『ちょっと待ってください‼︎』

 

「えっ⁉︎な、何よ⁉︎」

 

俺の呼び止めにチェルシーは大袈裟に驚いた。

 

『チェルシーさん、これから標的を始末するんですよね?』

 

「ええ、まあ、仕事だし」

 

『……いいですか?クロメだけはダメです』

 

「…は?」

 

『クロメはマインの長距離射撃を発射されてから気づき、躱しました。……分かりますか?クロメは普通じゃないんです』

 

原作では、チェルシーは始末したボルスに化けクロメの急所を突いた。常人ならば即死なのを、クロメはドーピング強化により免れ、逆にチェルシーを殺している。

 

「………」

 

『ボルスは倒したとしても、クロメは退いてください』

 

「……そこまで言うのなら……分かったわ。それじゃ」

 

チェルシーは深く考えたような表情をとると、立ち上がり森の中へと入って行く。

 

俺の忠告はちゃんと役に立つのだろうか。いや、立ってもらわなければならない。

チェルシーという大切な仲間を……絶対に死なせないために。

 

 

 





今まで読んできて、「原作なぞってるだけじゃん」と思われる方も多いと思います。

本当に申し訳ありません!
もう少しの辛抱です。9、10巻辺りから原作に沿いつつ、オリジナル路線に移りますので!
どうかそれまで温かい目で応援してくださるとありがたいです!


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第43話 ボルスとの別れ



本当は昨日更新する筈だったんですよ……。




爆発が起こった。

それはもう凄まじい威力の爆発で、原作知識を有する俺は、それがルビカンテの自爆だと一目で気づいた。

 

原作ではその爆発で死ぬ人はいない。姐さんだって、原作とは違い、左腕も健在だ。だから恐らく、原作よりも軽いダメージで済ませたのだろう。

 

安心…とまではいかないが、それでも信じて俺は走り出した。

 

 

 

 

コウタロウside out

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

ボルスside

 

 

わたしは、あの爆発から落ちのびて来た。いくら焼却部隊で火耐性を上げる儀式を受けていても、流石に無傷とは言えなかった。

 

「…また…皆で……一緒にご飯食べたいな……」

 

クロメちゃんやウェイブくんといったイェーガーズの皆。皆、こんなわたしに優しくしてくれて、とても嬉しかった。隊長もそうだ。なんだかんだで部下のことを思いやり、私に勇気をくれた。

イェーガーズは、わたしにとって、第二の家族だ。その家族達と、またテーブルを囲んで、わたしが作った料理を食べる。

今となっては、もう叶わない。

 

「……グスッ」

 

帝具も失った今、ただぼんやりと歩いていると、小さな女の子の泣き声が聴こえた。

 

「ややっ!これは大変!どうしたのきみ!」

 

小さい子と話すため、さっきまでの雰囲気を無理矢理に明るくする。

 

「うわあああああお化けぇぇえ‼︎」

 

ははっ、こりゃ参ったな。

まあ、このマスクをつけているから仕方ないか。

 

「って、ケガしてるじゃないか。ちょっと大人しくしててね」

 

女の子の膝が擦り剥けていたから、軽く消毒して包帯を取り出し巻きつける。

 

「…ありがとうっ!おじさん‼︎」

 

よかった。もう最初みたいに怯えられず、いつのまにか泣き止んでいた。

 

(……元気にしてるかな)

 

わたしの宝物の家族。

美しく優しい妻と、目に入れても痛くない愛娘。この任務から帰ったら、精一杯可愛がってあげよう。

 

「…でも、おじさんが燃やしたところはね……」

 

女の子は、わたしの首に手を回す。

 

「もう治らないんだ」

 

「……え?」

 

殺気が一本の針に集中し、私の中のなにかが切れる。

 

「今のはね、貴方が燃やした村の子供よ。革命軍に加担した疑いってことでね。まとめて燃やしてるから、一人一人のことなんて覚えていないんだろうけどさ…」

 

そう言うと、女の子は見たこともない女性へと変化し、森に向かって走り去って行った。

 

 

分かってた…。

いつか…報いを受ける日が来るって……。

でも…それでも……。

 

「かえ…らなくちゃ……」

 

呂律が回らなくなってる。

 

「ふた…りとも……まっ…てるから」

 

走馬灯かな。

わたしの妻と娘が、わたしの帰りを待っている。

 

涙が溢れる。

もう、遅いんだ。

 

ごめん、二人とも。

 

 

 

 

 

「貴方は、死なせませんよ」

 

ボルスside out

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

コウタロウside

 

 

「起きてくださいボルスさん」

 

返答はない。まだ眠っている。

 

俺はボルスを助けた。

これが革命軍やボスに知られると、処分は想像もできないくらいに重いだろうが、そんなことは気にしない。

 

この人は良い人だ。善人ではないにしろ、良い人だ。

 

いくらこの人が俺個人を襲っても、俺はこの人を赦す。

 

これは俺の都合だ。

ウェイブや、今こうして眠っているボルスは、そんなのお構いなしに襲ってくる。

 

それでも、俺は自分の都合を押し付ける。

だって、それが最善だと信じているから。

 

俺が望むのは、大切な人達が死なないこと。それと、ハッピーエンドだ。これだけは譲れない。原作を読んで、アニメを見て、悲しい思いをした。そして今、その未来を変える力がある。

 

なら、答えは決まっている。

「ん……、コウタロウ…くん?」

 

「お久しぶりです。ボルスさん」

 

ボルスが目を覚ました。

 

「な、なんで君がここに居るの⁉︎というか、わたし、死んだはずじゃ…」

 

「俺が助けたんですよ。そして、貴方はちゃんと生きてます!」

 

混乱気味のボルス。

マスクで顔は分からなくても、それだけは分かった。

 

「ボルスさん」

 

俺は切り株に腰掛けたまま、ボルスに話しかける。

 

「……なに、かな?」

 

敵であるナイトレイドとの戦場で、俺と遭遇するのを不自然と感じたボルスは、少し低めのトーンで応えた。

 

「貴方が“死ぬ”、と感じた時、家族を思い出しましたよね」

 

「……」

 

「貴方はこれから、帝国を出て、東洋の国に亡命してください」

 

「…どうして?」

 

「貴方は死ぬべきではないからです」

 

「……」

 

「今、貴方が死んだら、一体誰が家族を守るんです?」

 

「っ⁉︎」

 

この言葉に、ボルスは動揺する。

 

ボルスが死ぬと、墓参りに来ていた妻と娘が、シュラ率いるワイルドハントに暴力の限りを尽くされ殺される。

確かに、俺が助けに行くことも可能だ。

しかし、本当に助けに行くべきなのは、ちゃんと守ってやるべきなのは、このボルスだ。

 

「貴方はイェーガーズを脱退、帝国から亡命。争いとは無縁の生活を送るんだ。拒否権はありません。二人の命が惜しかったら、俺が指定する港に向かってください」

 

「っ!!」

 

二人の命、と聞いてボルスは身構える。

 

「貴方の家族は、俺が昨日誘拐しました。今はミラル港で待機させています」

 

俺が昨日、姐さん達の水着を偲んで帝都に向かったのはこのためだ。

 

「…コウタロウくん」

 

「なんですか?」

 

「……ありがとう」

 

てっきり、罵詈雑言の嵐でもくらうと予想していた俺にとって、その一言は、首をかしげるものだった。

 

「コウタロウくんは、こうもしないと、わたしがイェーガーズを捨てきれないと思ったから、こんな事をしたんだよね?わたしには分かるよ」

 

「……」

 

俺は、何も言えない。

 

「ミラル港、だったよね?ほんとに……本当にありがとう‼︎」

 

「……どう、いたしまして」

 

素っ気なく応える。

俺の計画はどうやら、お見通しのようだった。

 

「もちろん、亡命させてもらうよ。イェーガーズは……心惜しいけど、脱退する。まぁ、逃げる形になるんだけどね。今度はさ、軍隊なんか入らず、三人でのんびり暮らすよ」

 

「えぇ。その方がいいと思います」

 

「……もし、革命が始まり、帝国が豊かに、皆が笑って暮らせるようになったら、また戻ってくるよ」

 

「本当ですか⁉︎」

 

「うん。ウチの娘が、君のことを大好きみたいだったからね……。この間も、仕事場に連れてって駄々こねてさ。君には、責任を取って貰わなくちゃ。」

 

「は、はは」

 

弱ったなぁ。

けど……これでよかったんだ。やっぱりボルスさんは良い人なんだ。この人を殺すなんて、惜し過ぎる。

 

「待ってます。俺が、必ず革命を成功させて、要注意リストから貴方を消して、貴方達を迎え入れます。それまでは……」

 

いつのまにか、俺の目からも涙が溢れる。

 

「どうか、お元気でっ‼︎」

 

「うん‼︎しつこいけど、助けてくれて…本当にありがとう‼︎」

 

ガッチリと握手を交わし、そして抱き合う。俺たちの友情。

もう、ボルスはイェーガーズではない。なら、このくらい良いだろう。

 

「では、お元気で‼︎あと、娘さんによろしくお伝えください」

 

「うん!コウタロウくんも元気でね‼︎」

 

別れを告げると、ボルスはミラル港へと駆け出して行った。

 

 

「……ふぅ。ん、あれはラバか」

 

少し遠くに、お馴染みの緑髪が見える。今の詳しい戦況を聞くため、俺はラバの元へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ボルスさん生存‼︎

そして、ワイルドハントから妻と娘を防衛成功‼︎


さて、次回はどうやらチェルシーが……


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第44話 後悔

結構長くなってしまった……というか、今度からこのくらいでいきましょうかな。


チェルシーside

 

 

 

標的の一人であるボルスの暗殺に成功した。

その最期は、敵である私の心を締めつける程だった。普通のターゲットは、仕事として、感情を押し殺してこなせる。しかし、裏のお仕事同士の対決はおぞましかった。

 

「あ、チェルシーちゃん。……うん、元気そうだね。お疲れさまー」

 

ボルスの遺体がある場所から数キロ走ると、辺りを見張っていたラバと出会った。

にしても、普段のおちゃらけた雰囲気なんかそこにはなく、ちょっとだけ違和感を感じてしまう。

 

「あら、ラバ。結界に異常はないかしら?」

 

「ああ、今んとこはな。チェルシーちゃんは、これからどうすんの?」

 

そうね、と呟く。

クロメの骸人形も、ナイトレイドメンバーの活躍により数が大分減った。更に、標的の一人であるボルスも倒した。

状況は完全に優勢だし…。

 

「私はこのままクロメを追い、エスデス達と合流前に仕留める」

 

「……流石に危険だぜ?ここで無理するキャラじゃないだろ!皆と合流しよう!」

 

「それじゃ遅い」

 

確かに危険かもしれない。けど…

 

「ここでクロメを逃したら新たな人形8体揃えて襲ってくるよ?そっちの方が危険でしょ!だからラバは戻ってこのことを皆に伝えて。で、改めて戦闘タイプの援軍を二人ほど派遣して」

 

それがコウタロウだったら……なんて考えてしまうあたり、私もまだまだ若いんだな、と思ってしまう。実際、成人超えたばかりなんだけど……。

 

ラバは、私の話に納得したのか、援軍を向かわせると言い走って行った。

 

『……流石に危険だぜ?ここで無理するキャラじゃないだろ!皆と合流しよう!』

 

さっきのラバのセリフが浮かんでくる。

確かに…なんか甘くなってきてるなぁ、私。

 

顔を軽く叩いて気合いを入れ直す。

流石にこんな甘ったるい気持ちで任務に行くわけにはいかない。

大仕事2発目……!張り切っていってみましょうか‼︎

 

 

 

 

 

♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 

「あ……!やっぱりクロメちゃん!無事だったんだね!良かったーっ!」

 

私はさっき倒したボルスに変身して、切り株に腰掛けクッキーを口に運んでいるクロメに話しかける。話しかけられたクロメは、私、つまりボルスの姿を見て唖然の表情だ。

だけど、こんな間抜けな顔をしていても、隙なんかどこにも無かった。

 

「そういうボルスさんこそ…大爆発だったのに」

 

クロメの問いを、適当な理由をつけて流す。

コウタロウから聞いてたイェーガーズ各メンバーの口調や性格…。諸々問題はないみたいだね……。八房も解除されてる。

 

隙は大分できてきたけど、まだ仕掛けない。

コウタロウの情報では、クロメはドーピングを行っている……。それも、マインの長距離射撃を躱す程の。

そんなバケモノなんか勝ってこない。けど、どんな生物にも、急所はある。避ける隙を与えず、そこを一突きで、完璧に決めればいくらドーピングをしているクロメでも倒せるはず。

 

それまで、念を入れてもっと決定的な隙ができるまで待つ……‼︎

 

 

数分ほど歩く。

私の横を歩くクロメは、荒い息を吐いている。

本来ならチャンスなんだけど、それでも得体の知れない不気味さを感じる…。

決定的な隙が出来ないし、やっぱりコウタロウの忠告通り、何もしないで逃げようかな…。

 

「…うっ!」

 

クロメが不意に倒れる。

 

「だ…大丈夫クロメちゃん‼︎」

 

来た‼︎

決定的…とは言えないけど、それでも、今日一番の隙だ。恐らく、もうこれしかチャンスはない。

 

「……へーき。お菓子を食べれば治るから」

 

そう言い、クロメは弱々しい手で、袋からクスリ入りのクッキーを口に運ぶ。

 

「苦しそう…可哀想に」

 

ポケットからゆっくりと針を取り出す。

 

「そうだ!楽になるおまじないをしてあげるね!」

 

クロメの首裏の急所に、いつもと同じ感覚で手にある針を突き刺す。

あっけらかんとしているクロメは、糸が切れた人形のように、地面に崩れた。

 

「ほら…これでもう苦しまない。さよなら」

 

ボルスの変身を解き、いざズラをかろうとする。

呆気なかった。コウタロウはあんなに忠告して来たけど、やっぱりこの距離じゃ躱しようがないもの。それに急所も突いた。

 

「標的二人とも…暗殺終了」

 

最期にクロメが発した言葉は、『お姉ちゃん』だった。アカメちゃんはクロメとの因縁があるかもしれないけど、私も仕事だしね。それは割きらないと。

 

帝国の汚い闇を見て、虚無感で魂が死にかけていた私。その時、このガイアファンデーションと出会った。それで悪政太守を殺すと、

『私は世直しをした』

そう実感した。朽ちかけていた魂が蘇った。

 

革命軍に加入すると、もっと闇をみることになった。けど、標的を殺すたびにまた実感する。その繰り返しだった。

別に不満がある訳じゃないけど、人殺し以外にしたいことだってあった。料理、買い物、それと、恋。

やろうと思えば出来たけど、私は人殺しだ。いくら世直しのためと言えど、それは変わらない。そんな人殺しに、恋なんてものはあり得なかった。

そんな時、コウタロウと出会った。

最初は、陽気で明るいバカなんて思っていたけど、とても優しくて、……私が汚れ役を被っているのを見抜いて、相談にのってくれたしりした。…恥ずかしいけど、コウタロウの事を好きになっていた。

そこからは、闇に沈んだ帝都と血以外、何もかもがカラフルになった。

料理、買い物、それに恋。

コウタロウと出会って、全て叶った。

 

けど、コウタロウのことを好きなのは、レオーネも同じだった。

私がナイトレイドに来る前からの付き合いで、私より親密だ。正直羨ましかった。自然にコウタロウとスキンシップをとるレオーネが。

 

けど、私はこの重大な任務を遂行した。自分でもよくやったと思っているし、体ももうクタクタだ。

 

(コウタロウ、褒めてくれるかな……)

 

ラバに、いろいろ理由をつけて来たけど、クロメを始末しに来たのは、コウタロウに褒めて貰いたかったから。

 

私は来た道を引き返そうとする。はやく拠点に戻らなきゃ。

 

「ねぇ…」

 

どす黒い殺気。

思わず振り返ると、そこには八房を構えたクロメが立っていた。

 

「確かに急所をえぐったはず…‼︎」

 

「無駄だよ?私を殺す気なら…心臓を潰すとか、首を切り離すくらいはしないとダメみたいだよ」

これが、クロメ?

侮っていた。油断していた。慢心していた。

後悔が溢れ出てくるけど、今は逃げるのが先決。

 

地面に思いっきり煙幕玉を叩きつける。クロメが咳き込んでいる間に、私は全速力で駆け出す。

 

とりあえずは、変身して逃げ延びる‼︎

 

ガイアファンデーションを開けようとすると、銃声と共に、左手に激痛が走る。

 

「く……そっ……」

 

銃弾が私の左手の甲を貫通して、あまりの痛さにガイアファンデーションを落としてしまう。

けど、それを拾ってる暇はない。後ろからはクロメの人形達が追ってきている。

 

やっとの想いで森を抜ける。既にスタミナはきれていて、肺と左手が痛い。それに、明らかにペースが落ちてきている。

 

「⁉︎」

 

骸人形の一体が、私の前に現れる。ソイツが手に持つ薙刀の横薙ぎで、私の右腕が宙を舞う。束の間、腹部に熱い痛みを感じる。

口から血を噴き出し、バランスを崩して倒れる。

 

(……やっぱり、コウタロウの言うこと、ちゃんと守っとくんだったな)

 

剣を持った人形が、仰向けに倒れている私の首を掴む。

 

 

レオーネが、『コウタロウが好きな人は居ない』って言っていたけど、私は分かっていた。

コウタロウは、レオーネのことが好きだって。二人を見てれば嫌でも分かった。その間に入って行ったのは、完全な部外者は、私だったって。

 

(……けど)

 

私だって、コウタロウが好きだった。

誰になんて言われようと、コウタロウが好きだった。

 

もう、コウタロウと話すことも出来ない。コウタロウは、私が死んだら、悲しんでくれるのかな?それとも、呆れられちゃうのかな。

 

ごめんね?お姉さんぶって、約束破ってまでいいとこ見せようとして。その結果がコレだよ。

 

もう、コウタロウのことは諦める。

今から死ぬ私が好きでいても、何の意味もない。だから、今からはコウタロウとレオーネを応援するだけ。

 

鈍い光を放つ刃が、私の首に押し付けられるまで、ほんの僅か。

 

(……今までありがとう、コウタロウ)

 

涙が頬を伝いながら、私はゆっくりと目を瞑った。

 

 

 

突如、耳に入ってくる轟音。

何事かと閉じた目を開く。視界に居た骸人形が、横から突っ込んできたナニカによって私の上から居なくなる。

 

その突っ込んできたモノを見るため、首を右にゆっくりと動かす。

 

「……う、そ?」

 

なんで、ここに居るの?

 

『…遅れてすみません、チェルシーさん……。ちょっとだけ…待っててください』

 

仮面で顔が見えなくても、分かる。はっきりと分かる。

コウタロウの声だ。とても、安心する。けど、いつもより低い。

 

でも、こんなタイミングで助けに来られたら……諦めるのも、諦めきれないよ…。

 

「…コウ、タロォ……」

 

『来いよ屍体共……。焼き尽くしてやる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いや、あの、本当に申し訳ないんですが、次の更新は月末になりそうです……。
期末テストの勉強をしないといけないので……。
もしかしたら、近日中にもう一話だけ更新するかも…。


本当、なんでこんなタイミングで……。


そしてコウタロウ、超激おこ‼︎


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第45話 怒り

どうもお久しぶりです!

金曜にテストが終わって、ぼんやりと過ごしていました。
テスト休みと言うか、前日もそんなに勉強せず、ぼーっとしていただけという…。

そして、前話はちょうどいいとこでぶった切ってしまいまして、本当に申し訳ありませんでした!
今回は戦闘メインです。ちなみに、BGMはDEEP BREATH



 

 

俺は、チェルシーの首を狩ろうとしたナタラを、マシントルネイダーで突き飛ばす。

本来なら当たった瞬間肉塊と化すのだが、当たる瞬間にチェルシーを刻んだ薙刀で衝撃を殺され、せいぜい数十メートル程ぶっ飛ばしただだけだった。

 

愛車から降り、チェルシーの元へと向かう。

涙を流しているチェルシーを治療し、ゆっくりと抱き上げ、トルネイダーを盾に隠れるように降ろす。

 

『ちょっとだけ待ってて下さい。すぐ終わらせますから』

 

アイツらだけは絶対に許さない。

俺の大切な人を傷つけた。それだけで俺の腹わたを煮えくり返すのには十分だ。

先ほどから、トルネイダーが数発被弾している。

俺は大丈夫だが、体力を消耗しているチェルシーに当たる可能性もある。

 

雨足が激しくなった。

俺は立ち上がり、先程チェルシーが仰向けに倒れていた場所へと向かう。

それまでに、俺の身体に数発ドーヤの銃弾が命中している。

しかし、当然のように俺の身体には銃弾の痕も見当たらない。

左腰のスイッチを強く押し込む。

ベルト中央から、ストームハルバードをスムーズに抜き取り、両刃を展開する。

展開させたハルバードを左手に抱え、こちらへと発砲しているドーヤを見据えながら、その憎たらしい顔を目掛けて、ハルバードを投擲する。

放たれた蒼槍は、風を纏い、ドーヤから放たれた銃弾の軌道を変え、まっすぐに、稲妻よりも速く駆け抜ける。

ハルバードが疾風と化し、その胸を突き抜ける。その時点で、ドーヤは二度目の死を味わうことになる。

遠くの爆発を気にとめることなく、今度はナタラの糞野郎の方を振り向く。あの男が、チェルシーを刻んだ張本人だ。

既に得物は無いため、右腰のスイッチを押す。さっきはストームハルバードだったが、今度はフレイムセイバーを引き抜く。

ストームフォームの特徴である青だった胸の色は、グランドフォームと同じ金色へと変化する。しかし、左肩と腕はそのままであり、右もまた、フレイムフォームの特徴を継いでいた。

仮面ライダーアギト・トリニティフォーム。

三位一体の戦士。今俺がなれる最強の姿。

フレイムセイバーを構え、距離を詰めて来たナタラを見る。相手の方がリーチは長くとも、その間合いを見極めるのは俺だ。

 

ナタラの薙刀の先から、雫が滴る。それを合図に、俺達は動きだす。

剣では届かない、薙刀が有利な間合いになった瞬間、雨で緩んだ地を斬り上げ、泥を飛ばす。ナタラがそれを薙ぎ払った瞬間、鍔迫り合いの間合いに入る。刃と刃がぶつかり合い、火花を散らす。

 

鍔迫りは、力と力の比べ合いだ。押し押されはあれども、斬り斬られはほぼない。

グランドより強化された特徴的な両腕を持つ俺がそれに負けるはずがない。キャタピラよりも重く確実に、ナタラをじりじりと押していく。

鍔迫り合いから離れようとしたのか、ナタラは後ろに飛ぼうとする。しかし、突如として俺の背後から現れたストームハルバードを躱すことは出来ず、腹を突き破られ、大木へと打ちつけられる。

ナタラと闘う前に、ストームハルバードを風に乗せて俺の元へと戻るように操っていたのだ。

 

フレイムセイバーを投げ捨て、クロスホーンを展開する。

腰を低くし、両足へと吸い込まれる紋章の力を感じる。深い息を吐く。そして大きく跳び上がり、空中で一回転しながら両足を突き出し、拘束されているナタラへと渾身の蹴りを繰り出した。

そして、ナタラは跡形もなく爆散した。

 

チェルシーを傷つけたナタラとドーヤを葬ったが、俺の怒りはまだ冷めない。

この怒りは誰に対してか。忠告を守らなかったチェルシーにか?チェルシーを傷つけた二人にか?

二つとも間違いではないが、一番は、大切な人がこうなるまで助けれなかった自分に対してだ。原作がどうなるか知っていたんだ。それでも……傷つけてしまった。死なせなかったからよかった?ふざけるな。チェルシーや皆の命がそんなに軽いわけがない。

 

どうしようもない怒りがこみ上げてくる。

身体は熱く滾り、拳を握り締める。

このとてつもなく熱く、全てを壊してしまいそうな怒りをぶつける相手も居ないし、どうしようもない。

 

『…ウワアアアアアアアアアアアアアッ‼︎』

 

叫ぶ。

喉が潰れるかと思うほど、天に向けて叫ぶ。

その雄叫びは、低い雨雲から放たれた雷にかき消された。

 

 

 

 

 

♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





YouTubeにディケイドのアギト編がうpされていて、久々に観ました。

ショウイチの変身ポーズどうにかしてくれよ……と言いたいんですが、パラレルワールドだから(震え声)として自分に言い聞かせてます。


最後の叫びは、もちろんコウタロウのギルス化ではありませんよ?



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第46話 静寂と雨

さて、続きです


クロメの骸人形達を倒した後、俺とチェルシーは雨宿りのため、近くにあった洞窟の中に居た。

さっきからずっと、チェルシーは俯いたままで一言も発していない。かといって俺から話しかける訳でもなく、ただずっと、眼前の雨を見つめるだけだった。

俺達の間には、音のある静寂が漂う。

 

「…今更だけど、助けてくれて……ありがとう」

 

その静寂を破ったのはチェルシーだった。

しかし、まだその顔は俯いており、膝を抱え込んだままだ。

 

「はい」

 

「その……怒ってる?」

 

チェルシーはそう言うと、俯いていた顔を上げ、潤んだ瞳を見せてきた。その瞳はまるで、過ちをを詫びるように、それでいて何かを懇願する意志を持っていた。

 

「…ちょっとだけ」

 

俺はその瞳を見つめ、はにかみながら答えた。

そう、とだけ呟くチェルシー。またもや静寂が訪れるが、今度は長くは続かなかった。

 

「…本当にごめんなさい。クロメを仕留めたらコウタロウが褒めてくれるかもって思って……」

 

チェルシーは一流の暗殺者であり、そんな幼稚なミスでしくじることは普通ではあり得ない。しかし、チェルシーの俺に向けての行動を、『幼稚なミス』という言葉で片付ける訳にもいかなかった。

どうやらチェルシーは、俺が叱責すると思っていたが、予想に反していたため何を言ったらいいか分からないらしい。

 

「ボルスっていう標的を始末した時点で充分凄いですよ」

 

「でも……」

 

「確かに忠告を守らなかったことは駄目ですが、それは…俺のためを思ってですもんね。まあ、結局、こうして生きてるんですからいいじゃないですか」

 

こんな言葉で彼女が自分を許すかどうかは分からない。けど、俺はもう許してる。俺に許しを乞うのだから、それはもう終わりでいいのだ。それで納得がいかないというのなら、彼女が自分に酔っているだけ、そういう言い方をしなければならない。

 

「…ごめんね」

 

この世界に来て、たくさん闇を見てきた。けど、今のチェルシーの顔はその闇によって悲しむ人達よりも悲しそうだった。

誰も死んじゃいない。迷惑をかけたから誤った。俺とラバ達の関係ならそれで済むはずなのに、それを納得できない自分を必死に抑えつけて。…謝ることしかできなかったのだろう。

 

なら、本題を変えるしかあるまい。

 

「…そういえば、何でチェルシーさんは俺に褒めて貰いたかったんです?」

 

チェルシーには悪いけど、どうせ気分が暗いのなら多少強引さは否めないが恋バナに繋げるしかない。

 

「…それ、本気で言ってる?」

 

チェルシーはさっきよりずっと低いトーンで、俺に親の仇を見るかのようにして言った。

 

「えっ?……」

 

これは…怒っているのだろうか。辺りの空気は、洞窟に入ったばかりの時より断然重い。

 

「コウタロウは…ずっと気づいてると思ってたのに……」

 

気づいてました。

けど、ちょっとからかっただけでそこまで落ち込まなくても……。

 

「…あ、すいません……」

 

「何で謝るのよ。……私と話す時より、レオーネと話したり、抱きつかれたりする時の方が嬉しそうだし…」

 

それは…否定できない。

二人と話す時なら態度は変わらない自信はあるが、姐さんに抱きつかれたりなんてしたら……。姐さんの胸に顔が埋まるんだぞ?どんだけ幸せな窒息なんだよ。その点、チェルシーちゃんは姐さんと比べるとちょっとだけ、奥手というか恥ずかしがり屋というか。まあ、それが普通で、姐さんが肉食過ぎるだけなんだけど。

 

「…そう、ですかね?」

 

苦し紛れでいっぱいの顔を逸らす。ヤバイな。自分で墓穴を掘っちまった…。

 

「コウタロウは……レオーネのことが好きなんでしょ?」

 

「姐さんも、チェルシーさんも、タツミやシェーレさん、ナイトレイド全員好きですよ」

 

「違うわよ。……その、恋愛感情の好きよ」

 

顔を赤く染め、心底恥ずかしそうに聞くチェルシー。そんなに恥ずかしいのなら止めとけばいいのに、と言おうとしたが、彼女にもそれなりにプライドがあるのだろう。

 

「…どう、なんでしょうかね……。自分でもよく分かんないです」

 

分からない。

確かに姐さんと居る時は楽しい。でも、それはチェルシーと一緒に居る時にも当てはまる。

なら、姐さんの魅力について考えよう。

美人で、スタイル抜群、おっぱいがデカい。姉御肌、喧嘩が強い、酒癖悪い、金遣いが荒い……あれ?後半は魅力と言えるのか?

 

「私は、…もちろんレオーネも、コウタロウが好き。でも、コウタロウは気づいてないだけで、コウタロウもレオーネが好き。……私は邪魔者なの。だからもう、コウタロウのことは諦めようとしたけど、殺される寸前で助けられたらさ、諦めるのも無理な話だよ」

 

なんとも表現のしづらい表情で、チェルシーは俺に告白してきた。分かってはいたが、初めて知った。彼女が言った、心の本音。

 

「私じゃレオーネに勝てない。コウタロウとの思い出も、触れ合った数もレオーネに負けてる。……けど、諦めたくない。どうすればいいの?」

 

悲痛な心の叫び。

男なら、『これから俺と一緒に思い出を増やして行こうぜ!』とかカッコいいセリフが言えるのだろうが、俺は何も言えなかった。

 

「…なに言ってんだろ、私。……ごめんコウタロウ。今の忘れて…」

 

何度目だろうか。そしてまた訪れる静寂に、この場を乗っ取られた気分だった。

 

 

 

 

 

雨はいつのまにか止み、雲は消え、空には虹が架かっていた。取り敢えず、ナイトレイドの皆が待っている場所に帰らなくてはならない。

俺は愛車こと、マシントルネイダーを呼び出す。変身していない状態で呼び出すのはこれが初めてだ。数秒後、俺達の前には銀色のバイクが姿を現した。この姿は、アギトの原作に登場した翔一のバイクと同じものだ。おそらくこのバイクに乗ったまま変身すると、バイクも変身するのだろう。そこらへんは、どうやら神様が気を遣ってくれたらしい。オマケにヘルメットまで用意されてある。

 

「…このバイクって乗り物に一緒に乗ってきた人達はたくさんいるんですけど、実はですね…二人で乗るの初めてなんです。いつもは一人や三人で乗ってて…。これは姐さんだってまだなんですよ?というか、姐さんはこのバイクに乗ったことさえないんですから!………ここら辺、姐さんに勝ってるて思いません?」

 

俺はエンジンをかけて、ガスを排出させ、グローブをはめながら言った。

 

「…私が……初めて?」

 

チェルシーは唖然の表情で、口をパクパクさせている。

 

「さ、このヘルメットを被ってくだ………」

 

俺がヘルメットを手渡そうとすると、チェルシーはいきなり俺の唇を自分の唇で覆った。

何故こうも、俺は強引にキスされるのだろうか。そうは考えていても、男だからだろうか、やはり気持ちよくて、そのまま考えるのを止めてしまいそうな快感が俺の頭を駆け抜ける。『これが女の子の唇なんだ』なんて、とても一般論で片付けられそうもない。ほんのちょっぴり触れてるだけなのに、心をごっそりと持っていかれそうな物凄い感覚。

ようやくチェルシーが唇を離す。

キスの間は何秒、いや何十秒だろうか。俺は、あまりにも想像を絶する快感で果ててしまいそうだった。

 

「…コウタロウ」

 

その艶めかしい吐息が俺の顔にかかる。それが、とても心地よかった。

 

「大好き」

 

チェルシーはそう微笑むと、瞼を閉じて、もう一度俺の唇を自らの潤んだ唇で塞いだ。

 

 

 

 






今回のためにどんだけ官能小説を読んだんだろう……。
そんなわけで、見事に風邪をひきました。パンツ履いとけば良かった…。

感想、お見舞いメール、じゃんじゃん送ってね☆


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第47話 キョロク


最近感想欄で、皆がホモと化していることに頭を悩ませる作者です。


「あの…そろそろ降りてもらえると助かるんですが……」

 

「……もうちょっとだけ」

 

俺の腰を抱くチェルシーの腕に力が入る。

かれこれ、こんなやり取りをもう一時間も繰り返していた。流石に苦しくなってきた。

 

「皆俺達の帰りを待ってますって!……ほら、また今度乗せてあげますから‼︎」

 

チェルシーの抱擁が別に嫌という訳ではないが、それでも皆を待たせる訳にはいかない。チェルシーは心底名残惜しそうに、腕を放し、俺の愛車から降りた。

チェルシーからヘルメットを受け取り、俺も脱ぐ。今日は沢山走らせてしまったから、お疲れ、と声をかけ降りる。

バイクが走り去っていくのを見送り、皆が待っているログハウスのドアに手を伸ばした。

 

「…ん?」

 

背後に違和感を感じる。振り向くと、チェルシーが俺の上着の裾を掴んでいた。

 

「どうかしたんですか?」

 

チェルシーは俯いおり、ゆっくりと顔を上げた。真っ赤になった顔がすごく目立つ。

 

「……敬語は…いい」

 

とても小さい声での呟きだっが、俺にはちゃんと聞こえていた。

 

「敬語は…やめて。チェルシーって、呼び捨てで呼んでよ……」

 

「…分かったよ、チェルシーさ……チェルシー。さ、入ろう」

 

 

今日は激動の日だった。

こちらは途中アクシデントに見舞われながらも、犠牲者は一人もおらず、反対にクロメの戦力を大きく削ってやった。ボルスさんは、半ば強制的に亡命させた形だけど、今日この日、俺達ナイトレイドとイェーガーズとではかなりの差が開いた筈だ。

しかし、その差を一人で覆してしまうだろうエスデス。彼女には個人的に借りがあるから、それを返さなければならない。まあ、そのためには今以上に強くなる必要があるのだが。

 

イェーガーズとの戦いだけではない。

チェルシーとの距離が急激に縮まってしまったから、姐さんに何か言われるかもしれない。スキンシップが激しくなるのが目に見えるようだ。

しかし、あの唇の感触…今夜は眠れそうにないな。

 

 

 

 

♢ ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 

翌日。

今日からは安寧道の本拠地、キョロクに潜入する。教主補佐ボリックの屋敷は遠方からでも確認できるほどでかい。それほど汚い金を貯め込んでいるのだろう。

イェーガーズや羅刹四鬼との戦場がここである以上、地形や建造物を覚えておくに越したことはない。

帝都のはるか東に位置するこの街は、豊富な地下資源により経済的な躍進を遂げている。近年は安寧道の宗教施設などが数多く建設され、その本部を囲むような形で巨大都市と化している。

 

タツミとマイン、シェーレのA班。俺とラバがB班で、ボスとスーさん、チェルシーがC班。

アカメと姐さんは単独行動での調査となる。

B班の俺とラバは、主に聖堂付近の調査を担当する。A班のマイン達は、おそらくセリューと戦うことになるだろう。アカメも羅刹四鬼のイバラと交戦するだろうが、そこまで心配しちゃいない。原作通りだと、アカメもマインもちゃんと生き残っているからだ。それに、シェーレも生きていることから、勝率が上がることも確定している。

問題は俺だ。

エスデスから狙われている俺にとっては、聖堂付近なんて近寄りたくもない区域だ。しかし、原作通りに進むと、エスデスと戦う時にスーさんが殿を務めることになる。結果はエスデスの勝利。その未来に抗うには、複数の脱出ルートをあらかじめ練っておく事が必要になる。俺が転生者という事を知られる訳にもいかないので、仕方なく俺はB班を選択したのだ。

 

「……よし、じゃあ二時間後にこの店の前に集合しようぜ」

 

「オッケー。気をつけてね」

 

おう、とだけ答えると、ラバは酒屋に向かって行った。どうやら、ボスに贈る酒を見に行ったらしく、俺も誘われたのだが、酒なんて飲まないために断った。というか、最初から別行動て…同じ班になった意味がないのでは?と思ったが、深くは考えないことにした。

二時間とは言っても、案外早く終わるものだ。どこで時間を潰そうかと、適当に街を彷徨ってみる。

二十分程見て回ると、小腹が空いたので偶然目に入ったパン屋に寄ってみることにした。店内はお洒落な雰囲気で、パンの種類も豊富だった。そこであんぱんを二つ購入し、店を出た。

あと一時間半もある。

このパンを食べたら何をしようか、とぼんやりと考えていた時、背中に衝撃が走る。

 

「あ痛っ⁉︎」

 

「あー、ごめんね。余所見してた」

 

少しイラっと来たので、文句の一つでも言ってやろうかと思って振り向くと、あまりの驚きに目を見開いた。

 

「…あ」

 

ずっとこの表情だと怪しく思われそうで、誤魔化そうと頭を必死に回転させる。

 

「次からは気をつけるよ」

 

「あ、あんぱん…食べません?……」

 

自分でも何を言ってるのだろうと、後ながらにして思った。しかし、今から訂正するにしても、何と言えばいいのかさえ考えつかない。

わざとではないにしても、俺に背後からエルボーを喰らわせた人物。それは、後で戦うだろう羅刹四鬼の一人、メズだった。

 

「……は?何言ってんの?……まあ、別にいいけど」

 

別にいいんですか!?と、勢い余って叫びそうになったのは、仕方のないことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 





個人的にメズさん…超大好きです。褐色って、すんごいエロいですよね……。

最近は蒸し暑くてかなわん‼︎汗臭くて、冬が恋しいです。まあ、メズさんの汗ならアクエリ代わりにちょうどいいんですけどね。


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第48話 羅刹四鬼


夏休みィ‼︎夏休みィ‼︎夏休みィ‼︎

世間では、この夏季長期休暇を、『夏休み』と心を込めて敬称する。


 

「今は休憩中だったけど、もうすぐでお仕事始まっちゃうからさ、そこで食べようか」

 

「…え?それって、大丈夫なんですか?」

 

「仕事って言っても、展望台から見張るだけだし。同僚が一人居ると思うけど、気にしなくていいから」

 

いや、気にしなくていいからって……。それに、その同僚ってシュテンのことだよね?というか、何で羅刹四鬼の人達とあんぱん食べなきゃいけないんだったっけ…。

言いたいことは山々あるが、既にメズは展望台へと向かっていったので、俺も慌ててその後を追った。

 

「…俺、コウタロウって言います。キョロクには料理の修行で来てて…」

 

無言はさすがにキツいので、ここは無難に自己紹介から始めるとしよう。

 

「私はメズ。よろしくねー」

 

見た目通り軽い挨拶である。

 

「それにしても、何でアタシをあんぱんで誘ったの〜?何か期待した?」

 

「…いや、それは…その、言葉の綾と言うか、何と言うか……」

 

「何その反応、可愛いじゃない。ま、アタシは見張るだけじゃ暇だから乗ったんだけどね」

 

そうですか、とため息を吐く俺。

このメズはともかく、髭面でムキムキマッチョのシュテンも居るとか考えたくもない。

 

いつの間にか、店が立ち並ぶ大通りからは随分と離れ、俺達はキョロクで二番目に高い展望台へと近づいていた。

 

「…すいません、ちょっと用事を思い出したんで、帰ってもいいですか?」

 

「は?今更何言ってんの?もうすぐじゃん」

 

ヤバいな…。

メズとシュテンが見張りを行う展望台、それは、イェーガーズが待機している大聖堂の真隣にそびえ建っていた。流石のボリックも、真昼間から女で遊ぶことはできないようで、昼間はこの大聖堂に居るらしい。そこまでだったら願っても無いチャンスなのだが、護衛のエスデス率いるイェーガーズが居るとなると、話は変わってくる。

展望台を見上げると、シュテンが腕を組んでこちらを見下ろしている。原作では、案外あっさりと殺られたのだが、生で見ると迫力が違う。メズもそうだが、一目で強者だと分かる。流石は羅刹四鬼といったところか。

 

「コウタロウから誘って来たんだろ?そんなこと言ってないで、早く登って食べようよ」

 

「…分かりましたよ……」

 

こうなったらバイクで強引にでも脱出しようかと思ったが、この世界でバイクなんて走ってるわけもなくて、エンジン音で目立って、取り押さえられるのがオチだろう。

というか、勤務中に一般人とあんぱん食べるとか、羅刹四鬼ってホワイトな職なのか?

 

「お待たせー。怪しい奴いた?」

 

「まだ見かけてはいないが、強いて言うならば、お前が連れてきたその男だ」

 

展望台に着くと、シュテンは待ちわびたといった表情でメズを見た。そしてその後に、俺への殺気を放出させる。

 

「コイツはコウタロウ。ナンパされた」

 

「ナンパじゃないですよ!」

 

「……」

 

シュテンの視線だけで、冷や汗が噴き出してくる。まずい…。完全に第一印象は最悪だ。

 

「…メズよ。ナンパなんて普通に考えて、革命軍やナイトレイドのスパイとは思わんのか?」

 

「もちろん疑うに決まってるじゃん。ただ、あんぱんでナンパなんてさ…なかなか斬新じゃん」

 

え?メズさん?何言ってるんスか?……冗談ですよね?

俺は苦しそうに笑いを堪えるメズから後ずさる。

 

「なんであれ、こいつはイェーガーズに突き出すか…」

 

「殺す‼︎」

 

「違う、そうじゃないだろう。魂の解放と呼べ」

 

しまった…。完全に嵌められた。

別に俺はスパイ目的なんかなくて、ただ流れに身を任せただけだったのに…。メズとシュテンはゆっくりと俺の方に向かってくる。

アギトに変身して戦いでもしたら、イェーガーズも駆けつけて御用。かといって羅刹四鬼二人に素手は……持って五分かな。

 

とりあえず、この展望台から飛び降りて、開けた場所に出ないと逃げることもできない。

 

「……くそっ‼︎」

 

一瞬だけ下を見ると、幸いにも柔らかそうな土だ。飛び降りる時は怖かったが、地面を確認できただけでもいい。

 

「この展望台から飛び降りるとは、やはり一般人じゃないみたいだな」

 

「判断も速かったしね。ま、このくらい離れててもどうしようもないんだけどねー」

 

もう少しで着地の体勢に入るといったところで、俺の体に激痛が走る。

 

「ぐああああああああっ‼︎」

 

左肩の辺りから血が吹き出し、俺は崩れた体勢のまま地面に激突する。

 

「うっ…」

 

左肩が外れて刺された上に、全身打撲。この世界に来て、ここまでダメージを受けたのは初めてだ。よれよれの俺の前に、二人が着地する。

 

「アタシ達って、自分の身体を好きに操れるの。だから、今さっきみたいな距離があっても、関節を外して届かせることができるってわけ」

 

「現世を彷徨う迷い子よ。儂が今、その魂を解放してやろう」

 

シュテンが俺の首を掴み、軽々と持ち上げる。

 

「くそっ……」

 

このままじゃ死ぬ。

くそ…こんな場所で死ぬわけにはいかないのに……。これから先も死んでいく仲間を守らないといけないのに……。

絶対に死ぬわけにはいかない。例えどんな手段を使ったとしても、このピンチをぶち壊してやる。

 

だから俺は、究極の判断を下す。

首を本気で絞められる前に、深く息を吸う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けてええええええ‼︎エスデスさああああああああああああああんっ‼︎‼︎」

 

 

 

「コウタロウ……また会えると信じていたぞ?」

 

そんなあの人の恥じた声が聞こえたと思った途端、俺の首を掴むシュテンの腕が鮮血を撒き散らしながら宙を舞った。

 

「貴様ら……私のコウタロウにこんな真似して、楽に死ねると思うなよ?」

 

羅刹四鬼の殺気が可愛く思える程の殺気を纏い、帝国最強の将軍は降臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 





今月の22日に発売されるアカ斬る最新巻は、なんと姐さんが表紙‼︎
姐さんが表紙とか神速で買うしかないな……。

それと、活動報告の方でヒロインアンケートを実施します。
是非、ご協力下さい。

次回は早くて明日にでも更新しまっせ‼︎




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第49話 再入隊


ギリギリセーフ‼︎


エスデスが俺達の前に現れてから数十分後、辺りには、メズとシュテンだった肉塊とどす黒い血が散らばっていた。どこからどう見ても地獄だ。あんな惨い殺し方をしておきながら、本人は息ひとつ切れていない。エスデスは、地面に転がっている肉塊をヒールで踏みつけながらと、ゆっくりと俺の方へ向かって来る。

 

「コウタロウ……」

 

エスデスがゆっくりと俺を抱き締める。全身が悲鳴を上げてるってのに、この人は全力で抱き締めてくるから嬉しくない。

俺が苦しそうな顔をすると、我に帰ったようで、力を緩める。

 

「……助けていただいて、ありがとうございました」

 

「久しぶりだな…。聞きたいことは多々あるが、話は後だ。急いでランに治療させる」

 

そう言うと、俺をお姫様抱っこして歩き出す。俺を医務室へ運ぶ時の顔は、いつもの凛々しさなんて微塵もなくて、荒い息を吐きながら頬を赤らめていた。

 

 

 

♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 

「改めて、久しぶりだなコウタロウ。……フェイクマウンテンではよくも逃げてくれたなぁ」

 

ランの治療が終わり、今エスデスは、俺が横たわるベッドに腰掛けている。

ランはエスデスに抱かれた俺を見て唖然としていたが、その後の雑談はなかなか楽しくて、緊迫した雰囲気の中でのオアシスとなった。

というか、今はそれどころじゃない。

 

「もう二度と離さないぞ。このバカめ…」

 

てっきり恨み言と共にお仕置きが飛んでくると思っていたが、それどころか、さっきよりもきつく抱き締めてきた。

 

「く、苦しいです」

 

「私はまだ許していないのだからな?罰として、しばらくはこのままだ…」

 

苦しいし、呼吸もあまり楽じゃないけれど、いい匂いだ……。なぜこうも女の人って、いい匂いがするんだろう。というか、あの残忍な姿を見ていても、このエスデスは、言いたくないがもの凄く可愛い。氷使いのくせに、人肌は温もりを感じる。

不思議だ…。体は苦しいのに、なぜか心地よく感じてしまっている自分がいる。俺は嬉しいのだろうか?この女は敵だと言うのに……。

 

 

「…ふぅ。やはりコウタロウを抱くと落ち着く」

 

「面と向かって言わないでくださいよ…」

 

「ふふ……。照れたコウタロウも大好きだ」

 

やっと離れたかと思うと、俺をからかい出す。ドSの化身なだけはある。

 

「良かったんですか?あの人達を殺しちゃっても」

 

これ以上俺をからかわせないためにも、話題を変える必要があったため、羅刹四鬼の話題を持ち出す。所属は違えども、同じ護衛任務にあたっている仲間だ。そんな仲間を二人も殺しては流石にまずいはずだが…。

 

「ああ、心配するな。向こうから仕掛けて来たんだ。『私たち』イェーガーズにな」

 

「……は?」

 

やたら『私たち』にアクセントを置いてきたんだけど…。というか、そんな理由で本当に大丈夫なのか?

 

「忘れたとは言わせんぞ。最初に会った時、お前をイェーガーズの補欠メンバーに任命すると言った筈だ」

 

「…ええ、もちろん覚えます」

 

「まあ、一番はお前が傷つけられたからに決まってるが」

 

「……」

 

だからそんなくさい台詞吐かないで欲しい。反応に困って、何て言えばいいのか分からない。なんなんだ?この人は俺を全力で堕としにかかってるのか?

それに加え、もの凄いドヤ顔で伏せている俺の顔を覗き込んでくる。ち、畜生…‼︎

 

「こんな時だが、ボルスがイェーガーズを脱退した」

 

さっきまでの雰囲気とは打って変わり、急に真剣な表情でエスデスは話し出した。

 

「…本当ですか?」

 

ま、させたのは俺だが、そんなことを暴露する訳もない。初耳の演技をする。

 

「ああ。それにクロメの定具の骸人形も全滅した。つまり、イェーガーズは戦力を大幅に失ってしまったというわけだ」

 

犯人は全部俺です、なんて改めてだけど言えるわけもない。

 

「それは大変ですね」

 

「このキョロクでは、ボリックという男の護衛任務に就いていてな。当然お前は、私と同じ範囲内だ。……そんな訳で、これからはずっと一緒だ」

 

顔を真っ赤に染めたエスデスが、俺の顎を上げて、唇を近づけようとした瞬間、ドアが勢いよく開かれた。

 

「コウタロウが見つかったって本当ですか⁉︎」

 

セリュー、ウェイブ、ランの順に医務室へと入って来る。皆、驚きの顔や嬉しそうな顔、果ては恨めしい顔で、さまざまだ。

 

「コウタロウ‼︎よくもあん時は逃げてくれたな⁉︎お前のせいで隊長の…」

 

ウェイブが最後まで言うのを待たず、エスデスがその顔を蹴り飛ばす。

凄まじい音を立てて周りの器具を巻き込んで壁に激突するウェイブ。

 

「……がはっ…。な、何するんですか隊長⁉︎」

 

「黙れ‼︎あと少しで完璧だったのに……。ウェイブ、この任務が終わったら覚えておけよ?」

 

「ヒィッ⁉︎何で俺だけ⁉︎」

 

やはりイェーガーズもイェーガーズだ。エスデスはいい人…なんてことは言えないが、ウェイブも、ランも皆俺を仲間として心配してくれている。多少の罪悪感はあれど、あくまで俺はナイトレイド。そこを忘れちゃいけない。

それにしても、どうやらエスデスと共に護衛任務か。標的を守らなきゃいけないだなんて、とんだ皮肉だ。それでもチャンスはあると思っていたが、どうやら側にはエスデスがいて、離れられないらしい。

 

まいったな…。

 

 

 

 

 

 

 






というわけで、イェーガーズへと再入隊したコウタロウ。
これ逃げられんのかな……


アンケートの締め切りは今月末までとします。皆様、ご協力よろしくお願いします‼︎


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第50話 イェーガーズでの生活

夏休みだからたくさん投稿できると思ってた時期が私にもありました……。

いや、本当に申し訳ありませんでした‼︎(土下座)
言い訳ですが、部活の助っ人として大会一週間前から練習されられてて…。もう8月ですか…宿題やらないとな……(遠い目)



「おいラバック。コウタロウの姿が見えないけど、あいつはどうしたんだ?」

 

「…俺だって知りたいよ。昼からずっと捜してんだけど、見つかんなくて」

 

「なっ⁉︎それって、行方不明ってことか⁉︎」

 

ここは、キョロクでの活動拠点としての秘密基地。普通ならこの時刻だと、皆ここに集合して報告をしなければならないのだが、コウタロウだけが来ていない。

 

「イェーガーズに殺られたりしてないよな⁉︎アカメの話だと、羅刹四鬼も居るみたいだし‼︎‼︎」

 

姐さんは取り乱した様子で、ずっと歩き回っている。そりゃあ愛しのコウタロウが行方不明なんだ。じっとなんかしていられないだろう。同じくコウタロウにぞっこんなチェルシーちゃんは姐さんとは違い、椅子に座って顎に手をあてながら何かを考えている様子だ。

 

「落ち着けレオーネ。羅刹四鬼はまだしも、イェーガーズに殺されたりなんてことは絶対ないだろう。仮に羅刹四鬼の奴らがコウタロウを殺したとしよう。そんなことをしたら、あのエスデスが黙ってないさ」

 

「なら、考えれる事は…」

 

「ああ。また“イェーガーズに捕まった”、だな」

 

いつもは何考えてっかあまり読めない奴だけど、やる時はやる奴だ。そんなあいつが、またヌケヌケとイェーガーズに捕まるなんて考えにくい。きっと、『何か』あった筈だ。

 

「まあでも、コウタロウのことですから、案外、突入した時にバッタリ鉢合わせしたりして。それにきっと、大聖堂を詳しく調べてくれている筈ですよ」

 

シェーレさんがこの場を纏める形で会議は終了したが、姐さんとチェルシーちゃんは、ずっとピリピリした気を放っている。

こりゃ早くコウタロウに戻って来てもらわねえと、空気が重くなりそうだぜ……。

 

 

 

 

 

________________________________

 

 

 

 

 

俺がイェーガーズに再入隊して、二週間が経とうとしていた。ランさんがアカメと交戦したようで、主に大聖堂付近の警戒をより一層強めていて、少し離れた街などは、遠くから監視するだけとなっている。そのおかげもあってか、と言うよりは、そのせいで革命軍側の諜報員や潜伏班が数多く殺されてしまった。

 

「すいません、エスデスさん。トイレに行ってきていいですかね?もう漏れちゃいそうで…」

 

「いいだろう。…よし、行くぞ!」

 

「……行くぞ!って、また着いて来る気ですか?」

 

「当たり前だ。トイレに行ってる隙に逃げられたりしたら敵わんからな。いつも言ってるだろう?“もう二度と離さん”と」

 

俺はため息をつきながら、男子用のトイレに入る。

最初の内は隙を見て逃げようとしたり、大聖堂の中を調べてみようと思ったけど、勤務中はもちろん、ご飯を食べる時も、寝る時も、風呂も一緒だ(目は瞑っている)。これだけなら十分予測できたけど、流石にトイレまでもとは…。しかも、すぐ真横から俺の小便を覗いてるし…。

二週間もこんなことをされたら、普通なら慣れるのかもしれないが、相手はあのエスデス将軍だ。玉も縮こまって、『フフ、可愛いモノを付けてるじゃないか。食べてしまいそうだ』なんて言われた時には、いろんな意味で限界だった。

 

「…ふぅ。終わりました」

 

「そうか、今度は私の番だ。ほら、手を出せ」

 

なんとこの人は自分のトイレにも俺を突き合わせるのだ。女子トイレだと他の女のを見られそうだから目隠しをして、私と手を繋いで入れとか言う。そこまでする意味が分からない。

 

俺が目隠しを終え、手を出すと絡めるように繋ぎ歩き出す。そのまま女子トイレに誘導されて、止まれの合図により止まる。それから数秒、カチャカチャとベルトを外す音が聞こえだす。そこからはスーパー無心タイム。何も見えないし聞こえない。ましてや何も匂わない。

 

「……行くぞ」

 

エスデスが手を洗うと、再び俺の手を取り歩き出す。少し歩くと、目隠しを取る。なんかもうペットみたい。

 

「ん、セリューか」

 

トイレの入り口から数メートル程の所で、向こうからセリューが歩いて来た。

 

「あ、お疲れ様です隊長、コウタロウ」

 

俺たちに挨拶するセリューの顔は何故か嬉しそうだ。しかも、その後ろには羅刹四鬼のスズカまでもがいる。

俺に危害を加えただけあって、エスデスの羅刹四鬼に対する扱いは相当のものだ。現に、スズカが視界に入った途端殺気を漏らしている。

 

「あれ?セリューさん達はどうしたんですか?」

 

「スズカさんが遠くに怪しい奴らを見つけたらしいので、そいつらを“捕縛”しに行きます‼︎」

 

ああ、なんだ、そういうことか。

その怪しい奴らってのは、タツミとマイン、シェーレな訳で、これから倒しに行くってことか。しかも“捕縛”だなんて。本当はそんなつもりは全然なくて、殺しに行くだけだろうな。

 

「…そうか。私達は聖堂内に戻るが、注意しろよ?」

 

「はいっ‼︎それでは失礼します‼︎」

 

タツミ達が心配だけど、原作ではタツミ達が勝つし、既に死んだシェーレも居るんだ。恐らく大丈夫だろう。俺だってエスデスの監視がなければ飛んででも行きたかったけど、そんなことできるはずもなくて…。まあ、仕方がないかな。

 

 

案の定、それからセリューが帰還することはなかった。

イェーガーズ、残り5人

 

 

 




セリューさんが死んだ回なのに、後書きではお祝いの言葉を…。

いつの間にかお気に入り登録が300を突破していて昇天しそうになりました。本当にありがとうございます‼︎(≧∇≦)
記念に前回の番外編、覗き兄弟の続きを投稿したいと思っております。あれから何故か書くタイミングが…。
なので、次回は番外編と本編を続けて、“なるべく早く”投稿したいと思っております‼︎

どうかこれからも、『アギトが蹴る!』をよろしくお願いします‼︎


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第51話 任務開始

二週間…まあ、忙しくて…。

すみませんでした!!!(土下座)






 

 

とうとうボリック暗殺ミッション。コウタロウがイェーガーズに捕まったという誤算はあれど、兼ねてからの計画を中止するわけにもいかず、ナイトレイドは最後のミィーティングを行っていた。

 

ボスであるナジェンダの指示から始まる。

 

「まずは、チームを二つに分ける。一つは地底からの陽動チーム。突入し騒ぎを大きくしつつ敵の目を引きつけるのが目的だ。ここは私、スサノオ、レオーネ、タツミであたる」

 

ナジェンダがチームを分けたのは、地底からの侵攻は敵も手段の一つとして認識しているためだ。

それに、敵と戦って生き残る前提のチームなので高い回復力と防御力を兼ね備えているメンバー達を選出したのだろう。

 

「そして時間差でチェルシー以外の残りのメンバーは、エアマンタを使い空から大聖堂に突入。騒ぎに乗じてボリックを討つ!…それとチェルシーは」

 

「ええ、留守番ね」

 

ナジェンダがこくりと頷く。

騒ぎに乗じての仕事は彼女でもできそうなのだが、このボリック暗殺は敵と直接戦闘する可能性が非常に高いため、非戦闘員であるチェルシーは留守番に就くことになったのだ。ボリック如きの命のために戦えない彼女を連れて危険に晒すよりはマシだ。

 

これまでイェーガーズの戦力を削ってきたのは大きい。それに加えて、エスデスは護衛が得意ではない。

しかし、あくまでもこの任務は教主暗殺という時間制限を前にした強攻策だ。これまでのように知らずのうちにガードが固くなっていても、もうやるしかないのだ。

この作戦の要は、イェーガーズを内側から撹乱できるコウタロウと言っても過言ではなかった。

 

 

 

 

 

 

________________________________________

 

 

 

 

 

 

深夜一時。

セリューが討たれて約一週間後のこの日は、エスデスの指示により全員昼に休息を取り、夕方からボリックの護衛に来た。何故この日の夜の護衛を強化したかというと、エスデスの考えることだから俺には深く理解できなかった。

 

「た…大変です!賊が数名突然中庭に現れました‼︎」

 

やっぱりナイトレイドだ!恐らく地中を掘って来た先発隊が騒ぎを起こしているのだろう。

 

「クロメはボリックを徹底マーク。離れるな!」

 

「了解!」

 

「しょ、将軍が直に守ってください!」

 

「普段顔を立ててやってる分デンとしてろ、みっともない。心配せんでも大聖堂を出たりはせん」

 

いくら騒ぎを起こしてもエスデスがこう言う以上、俺もここに残ることになるだろう。でも、この大聖堂に突入した時には少しくらい離れることができる筈だ。その隙を狙って…討つ!

 

「じゃあ、俺たちはヤツらを片づけて来ます!」

 

ウェイブとランが大聖堂を出て行く。それにしても、ウェイブの気合いは凄い。ボルスさんは亡命にしても、セリューとコロ、クロメが大切にしていた骸人形の仇を取りに行くつもりだろう。

 

というか、骸人形を倒した日以来からクロメと話す時、どうしても後ろめたさを感じる。

まあ、あくまでも俺はナイトレイドでクロメはイェーガーズ。しかも、チェルシーを傷つけた奴らを倒したのには勿論後悔などしてない。

 

「…っ⁉︎」

 

思わず声を上げそうになるくらいのおぞましい殺気。仲間だったら本当に頼もしいんだけどなぁ。

にしても、ナイトレイドの皆が一番危ないのは暗殺成功後。ボリックという足手まといに気を配る必要のなくなったこの人、絶対暴れまくるに決まってる。

 

ドン、とこの大聖堂の扉を蹴破る音ともに、ボスを先頭にしたナイトレイドの先発隊が入ってきた。

皆の視線が俺へと向くが、直後にエスデスを主敵として構える。ここには、再会を喜び会う暇なんてないんだ。まあ、俺はめちゃくちゃ嬉しいけど。

 

「久しぶりだなナジェンダ」

 

「エスデス…」

 

敵とは言え、ボスとエスデスは旧知の仲だ。お互いに言いたい事(主にエスデスの一方的)を話した後、エスデスはレイピアを引き抜いた。

 

「…コウタロウ。流石のお前でもナイトレイドを相手にするのはすこし早い。退いていろ」

 

チャンス!

この時を待っていた。まだ変身はできないけど、隠れながら皆のサポートくらいなら可能だ。

 

「さあ!いくぞナイトレイド‼︎」

 

エスデスが剣を振り上げることにより、戦いが始まった。

 

 

 





私事ですが、グラブルとFate/GO始めました。
どちらも初心者なので力を貸して下さい!詳しい事は作者のページに書いておりますので、是非お願いします!

アギトの会で待ってるよ!(スマイル)


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第52話 脱出

エスデスが自らの帝具を発動させたため、大聖堂内の空気はひんやりとした冷気に包まれた。それに合わせて、エスデスの凍りつくような殺気が更に冷気を際立たせた。

クロメの後方では、訓練などやったこともないボリックが体を震わせている。

 

今はスーさんを主力として、ボスと姐さんがエスデスの足止めをしている。その間にインクルシオで透明化したタツミが隙を突いてボリックを討つことを考えている筈だ。

その間に俺ができることは、タツミにボリックへとたどり着き易いルートを自然に誘導することと、クロメの気を引くこと。どちらもかなりの難易度だかやるしかない。

 

恐らくタツミは、この大きな椅子から数十メートル離れた石柱の陰に隠れている。そこからだと少し不利そうだ。

 

「クロメちゃん、多分だけどまだ伏兵がいるかもしれないから気をつけてね。例えば、あのシャンデリアの上とかに潜んでるかもね」

 

幼い頃から暗殺稼業で生きてきたクロメにこんな事言うのはアレかもしれないけど、今は会話をすることで少しでも気を引けたらこっちのもんだ。

 

「大丈夫、分かって……ッ⁉︎」

 

クロメが俺の方を向いた途端、俺の視界から彼女は消え失せ、クロメが居た場所にはインクルシオを纏ったタツミが立っていた。

一体何が起こったかというと、タツミが俺との会話によりほんの僅かに生じたクロメの隙を突いて攻撃したのだ。攻撃といっても、打撃を加える暇なんかなく、ただ単純に突き飛ばしただけ。しかし、それだけでもクロメとの距離はかなり開けられた。

それにしても驚いた。よもやここまでタツミのレベルが上がっていたとは…。

 

「クロメッ‼︎」

 

タツミに気づいたエスデスは、俺とボリックには当たらないように鋭く尖ったつららのような氷を飛ばしてきた。タツミはそれを俺に体当たりをすることで逃れる。

 

「タツ…うわッ⁉︎」

 

その体当たりが予想に反して結構な威力で、防御の構えで衝撃を和らげるが勢いは止まらず、俺は非常用の扉を突き破って大聖堂から追い出された。

受け身を取り、起き上がる勢いを利用してすぐさま走り出す。大方、タツミは俺をあの場から退場させることにより、俺が変身する時間を稼ぐつもりなのだろう。ボリックを討つことより優先して俺を変身させたいということは、この先の戦闘で俺という戦力を使えるようにしておきたいということ。つまり、『イェーガーズのコウタロウ』を退場させて『ナイトレイドのアギト』を喚ぶのだ。

 

「変身っ‼︎」

 

時間が惜しいため走りながらの変身。アギトへと変身したことで走力が強化され、より一層スピードを上げて行く。

飛び出た扉からではなく、ぐるりと回ってボス達が乗り込んできた正面の扉に回り込む。

 

『遅くなりました!』

 

うずくまっていたボスに駆け寄り、治療する。俺が退場した後、エスデスはスーさんそっちのけでタツミに標的を変えたらしい。今はタツミ、スーさん、姐さんの三人とエスデス、クロメで両者入り混じって激しい戦闘を繰り広げている。俺が突き破って出てきた扉のすぐそばには、分厚い氷のブロックに四方を囲まれたボリックが尻餅をついて眺めていた。失禁したのだろう、ボリックの袴は水分を吸って変色していた。

 

「待っていたぞ、コウタロウ」

 

『すいません。…ボスはここに居てください、俺は今のうちにボリックを殺ります』

 

エスデスが俺に気づく前に、氷のバリケードごとボリックを倒す。ここから奴との距離は奴二十メートル程。距離をすぐに詰めれて尚且つ分厚い氷を壊せるほどの威力を求めるならばライダーキックしかない。

クロスホーンを展開し、ゆっくりと両腕を動かし腰を深く落としていく。息を吐き出し、床に浮かび上がった紋章の力が脚へと流れ込むのを感じ終えると一気に跳び上がる。

 

『ハアアアアアッ‼︎‼︎』

 

「チッ、させん‼︎」

 

右脚を突き出し氷に当たった瞬間、横から飛び出た岩のような大きさの氷塊が俺を突き飛ばした。

 

『ぐわあああああ!!!』

 

背中が石柱に当たることで、氷塊との板挟みとなり内臓がすり潰れるかのような鈍い痛みが走る。呼吸が苦しくなり、荒い息遣いになる。

 

『な、なんだ一体⁉︎……』

 

氷塊を払いのけ、いまだに痛みが残る腹部を押さえながら立ち上がる。

 

「まさかまだ伏兵が居たとはな…なかなか驚かされたぞ」

 

声の主は、姐さんとタツミとスーさんの攻撃をあしらうようにいなしているエスデスだった。

二人はともかく、タツミは既に相当のダメージを負っているようで鎧も彼方此方がひび割れている。

ボリックを囲んでいた氷のバリケードは粉々に砕け散っているも、本人は擦り傷くらいで致命傷にさえ至っていなかった。

 

『……くっ!』

 

チャンスを潰したか、バリケードを壊しただけマシか…。どちらにせよ、エスデスとクロメが俺の存在を認識したことは失敗だ。

痛みを必死に堪え、走る。タツミ達が戦っている中央より、今俺が居る場所の方がボリックに近い。だから、そのまま俺が仕留める。

 

『ハァッ!』

 

「しつこいっ!」

 

後方からの氷の礫が降りかかるが、構わず走り続ける。

 

「禍魂顕現!!」

 

その後ろからは、ボスの声。スーさんの一回目の奥の手。これでエスデスが手出しすることはほぼ不可能だ。

 

『うおおおおおおおおおお!!』

 

「ひぃっ!?」

 

床を蹴り上げ、残りの間合いを一気に詰める。腰を抜かしている顔面蒼白のボリックの頭を潰すべく両腕を振り下ろす瞬間、この世のものとは思えない吹雪のような声が聞こえた。

 

「摩訶鉢特摩」

 

 

 

 

身体の底から寒かった。いや、寒いのではなく、痛くて、痛いという感覚すらあるのかと思うほど、凍えた。たった一瞬の出来事のはずだが、永遠のようにも思えた。

しかし、完全に凍って眠ってしまう寸前に、オルタリングから熱い光が溢れ出したのが見えた。

 

ゆっくりと、身体を覆っていた氷が溶ける。

俺はボリックを殺す寸前で、時を止めたエスデスに氷漬けにされていたらしい。しかし、凍死する寸前でオルタリングが力を振り絞り渾身の光とその熱で氷を溶かしたのだ。

 

『ぐぅぅっ!』

 

本来なら即凍死するはずの分厚い氷を溶かしたのだから、オルタリングのパワーは急低下し、中央の金色の光は風前の灯火だ。

気を抜けば変身が解除されるほどの弱体化に、落ちないようにと自らを奮い立たせる。

 

「ふははははは!さすがはエスデス将軍ですな!あの距離から刺客を撃退するとは!賊ごときが私を殺そうなどと百年早いのだ!」

 

階段の上で、今度は側にクロメをつけたボリックが喚く。

 

「クロメ!そいつは任せたぞ。私はもう少し愉しむ」

 

「はい!」

 

先程の摩訶鉢特摩では、戦闘中だった三人に軽い攻撃を入れるだけと、俺からボリックを救う余裕しかなかったのだろう。しかし、エスデスは今でも三人を同時に相手取っている。その表情には笑顔すら垣間見える。

 

なんとか立ち上がることに成功し、おぼつかない足取りながらもクロメが守るボリックへと歩いて行く。

 

「ヒィッ!!来たぁ!」

 

「落ち着いて!既に相当のダメージを負ってるから!!」

 

確かに今の状態ではクロメとは戦えない。かと言ってクロメだって本調子ではないはず。ならばここは、どっちが先に倒れるか賭けと行くか…。

 

クロメとの間合いを一足一刀の間合いまでじっくりと、焦らすように詰める。

いつもの構えをとり、相手の姿全体を、遠くを眺めるように“ぼんやり”と見つめる。この状態こそ相手のフェイントにかかりにくく、なおかつ恐怖心が和らぐのだ。肝心なのは、気を抜きすぎないこと。油断すると攻撃を受けることになりかねないからだ。

 

『……ハッ!!』

 

踏み込みをつけ、クロメの剣を俺の左籠手に誘いながら右でフック。避けるか斬るかの二者択一で、クロメはボリックを守らなければならないから必然的に避ける。そこに正拳突きを重ねて追い打ち。

 

さすがのクロメも防戦一方なため乱れが目立ってきた。しかし、かくいう俺も呼吸の乱れが激しい。このままでは決め手がない。

どうするか考えていると、突如天井のステンドグラスが崩れ落ちる。

 

「なっ!?このタイミングで新手!?」

 

アカメ、マイン、シェーレが各々の帝具を担いで着地する。割れたステンドグラスの破片が彼女達を更に華麗に演出する。

 

「させるかっ!」

 

「それはこちらの台詞だ!」

 

エスデスがアカメ達に向けて飛そうとした氷塊をスーさんが妨害する。

 

「くっ!お姉ちゃんっ!!」

 

「クロメっ!!」

 

ナイトレイド4人に囲まれては護衛を諦めたのだろうか、クロメはアカメを刺し違えてでも倒す勢いだった。その隙を狙い、シェーレがボリックの首を切断する。ボリックの断末魔は姉妹が刃を重ねる音でかき消された。

 

「ーーーっ任務失敗か…」

 

エスデスが目深に帽子を被り直す。

今回の任務は俺たちの勝ちだ。しかし、うかうかしていられない。

 

「スサノオ、禍魂顕現!そして、全員撤退だ」

 

ターゲットを殺されたうえ、エスデスが俺たちをただで帰してくれるなんて甘い話はない。

体力に限界が来たのか、クロメはすでに膝を折っている。強化されたスーさんとマインが牽制しながら時間を稼いでいるが、あまり期待はできない。ここからのエスデスは、いっさい手加減をしないからだ。

 

エスデスとの距離が開いた隙を狙って、スーさんは近くにいたメンバーを寄せ集めて抱き抱える。そして俺以外のメンバーを、アカメ達が突入して来た窓へと一気に投げ飛ばした。

 

『…スーさん』

 

「あぁ、さすがにあれだけしか持ちきれなかった。すまない。さあ、次はコウタロウだ」

 

スーさんが俺へと手を伸ばす。

 

『いや、スーさんも逃げなきゃ』

 

「なっ!?コウタロウ!!どういうことだ!!!」

 

その手を掴み、皆が飛んで行った窓へと同じように思いきり投げとばす。

 

『殿は俺がやりますから…ほら、俺はトルネイダーがありますし』

 

原作ではここでスーさんが殿を務め、見事仕事を終えてエスデスに破壊される。

俺はそれを止めたかった。スーさんが死ぬと分かっていながら、原作通りになることは許せなかった。いくら帝具人間であろうと、ナイトレイドの家族なんだ。

俺はスーさんより弱いけど、俺が負けて死ぬと決まったわけじゃない。まあ、勝てるとも思ってないけど。

 

今の俺は、多分今まで最高にカッコいいはずだ。姐さんやチェルシーが見たら惚れ直すに違いない。でも、その前に怒られるかもな。

 

「ほう、逃がすと思っているのか?」

 

エスデスが氷のオーラを纏いながら歩いてくる。死ぬ気はない。ただ、皆が十分に逃げる時間を稼ぐだけ。無理はしない。

いや、もうすでに無理をしている状態か。

 

そろそろ体力も回復できたし、ここからは全力だ。

 

 

 

 

『逃がすのが俺の仕事ですから』

 

 

 

 

 

 

 

 




超お待たせしてすみませんでした!!!

やっと帰って来ました!休んでた間も感想を頂いたりして、本当に助けになりました。いろいろあったんですが、これからは少しずつペースを戻して行きたいと思います!

これからもよろしくお願いします!


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第53話 終わり

明けましておめでとうございます!お待たせしました!

さあ、今回はちょっと激しいかもです…


「帝具人間に殿を務めさせておけばいいもの…人間であるお前が残るとはな。馬鹿なのか、或いは作戦のうちなのか知らんが、どっちにしろ生きて帰れるとは思うなよ?」

 

『タダで帰れるなんて思ってない。けど、帰らなきゃいけない』

 

俺の言葉をエスデスが鼻で笑ったのを最後に、辺りの空気は静寂に包まれる。しばらく向かい合った後、エスデスはレイピアを構え、その先端に氷のコーティングを施工した。それと同時に、先程の静寂がまるで嘘かのような殺気を放つ。覚悟はしていたが、改めて気を引き締めないと瞬殺されるのが分かった。

俺は右腰のスイッチを叩き、フレイムセイバーを取り出す。この大聖堂内を漂うひんやりとした空気が、俺の周囲だけ灼熱の熱気を伴う。エスデスと同じように、俺もフレイムセイバーに炎を纏わせる。

皆がこの大聖堂周辺から完全離脱するまでの時間稼ぎ。10分、いや5分でいい。そしたらトルネイダーで俺も逃げればいい。

 

幸いにも、彼女のレイピアでは俺の身体を斬ることができないのが唯一の救いだ。だから、俺がエスデスに勝つ可能性が最も高いのはとにかく攻める攻撃。

深呼吸。そして集中。

居合いの構えの一撃に、重く気張った緊張感がこびりつく。

 

エスデスは白い息を吐くのを止めると、一瞬にして俺の目の前へと距離を詰めた。そのままレイピアの先端を俺の顔へと押し付けるように動かす。それをギリギリで躱し、俺はエスデスの首めがけて一気に全力で剣を振り降ろす。

 

手応えは、無かった。

エスデスはまるで俺の剣の軌道が分かっているかのように、首元へと向かってきた剣を、身体を仰け反らすことで躱していたからだ。

 

「私の剣がお前に通らんことくらい、分かっていた決まっているだろう?」

 

全てを凍らせるような、冷たいを通り越した痛い声で、エスデスは俺の耳元で囁いた。

剣を握る振りきった右腕を掴まれ、捻り倒される。慌てて押しのけようとするが、捻りを巧く利用されて身動きひとつ取れない。鋭く尖ったヒールで背中を踏みつけられ、俺からは完全に優位性が消え失せた。

 

「剣が通らんほどの鎧ならどうするか…答えは、こうだ!」

 

エスデスがそう言った途端、右肩に激痛が駆け巡った。

 

『うわああああああああああああ!!!』

 

声が掠れるほど叫ぶ。

絶える寸前の息でその右肩を見ると、歪な形に折れ曲がっていた。恐らく関節の骨が粉砕している。それを見て、痛みと恐怖が心の奥底まで染みていくのを感じた。

 

『ハァ…ハァ…ッ!?』

 

今度は声すら出なかった。

右肩の痛みで動けないのをいいことに、エスデスの攻めは脚にも及んだ。人の頭の2倍はありそうな氷塊を創りだし、そのまま膝、足首といった関節部分を主に繰り返しぶつける。意識を失わないように、歯を血が滲むほど食い縛る。聞こえてくるのは、骨が割れる音と、エスデスが数える数字。

これがエスデスの本当の恐ろしさ。訓練の時とは比べ物にならないほどの強さ。残虐さ。

しかし、まだ諦めたわけではない。絶対にチャンスが来る、と心に言い聞かせて耐え抜いた。

 

「…これで50」

 

エスデスが一区切りつけた瞬間を狙い、マシントルネイダーをスライダーモードの状態で呼び出す。エスデスめがけて体当たりさせるためだ。

 

「まったく、今度は何だ。まだ半分もしてないのに」

 

当然エスデスは後方に大きく飛び、彼女にとっては未確認の物体からかなり距離を取る。

 

『くっ…うおおおおおおおお!!!』

 

本当に、最後の一滴までの力を振り絞って、迎えに来た愛車のシートへともたれかかる。この瞬間、搭載者を空気抵抗から守るオルタバリアフィールドが発生する。これでもう余程のことがない限り落ちることはない。

もう十分時間を稼いだはずだ。俺もこの大聖堂から脱出するため、トルネイダーを急発進させる。

 

離れたエスデスが何か叫ぶが、エンジン音で聞き取れない。もう、そんなものどうでも良かった。

ただ生きてる喜びすらも、エスデスへの恐怖感で押しつぶされそうになっていた。

最後の力を使いきった今では、痛覚すらなかった。目が涙で溢れる。

 

 

大聖堂を脱出して二十分は経った。

恐らく皆は帝都のある西へ脱出しただろうが、俺はとりあえず北へと向かっていた。同じ方向へ逃げると、追っ手が他のメンバーに標的を変える可能性があるからだ。この時代にバイクより速い乗り物なんて存在しない。だから、俺に標的をつけたまま全然関係のない方へ行き、皆がアジトに戻る頃に合わせて追っ手を撒いて俺も戻るつもりだ。

 

 

高度は高めを維持している。二十分も走り続けているのだから、追跡者なんているはずもない。今は、深い森を見下ろしながら渓谷へと向かっている。いや、滝でも湖でも水があって一息つけるならどこでもよかった。

 

エスデスにやられた痛みはもう感じることすらできない。ただ、動かないだけ。相変わらずシートにうつ伏せでもたれかかる体勢だが、まるでベッドの上のようだ。

 

『…あそこでいいかな』

 

岩陰で身も隠せそうなハクロウ河の上流を見つけた。ちょうどいい、あそこの下流は帝都にも続いているから帰る時は楽だ。でも、帰ると絶対皆に怒られるから、傷がある程度治ってからアジトに帰ろうかな。それまでは近くの村にでもお世話になろう。

 

 

 

 

 

「それで逃げたつもりか?」

 

背後からの声で、瞬間的に体から血の気が引いていくのが分かった。それと同時に、再度最高速度で発進させる。

何故エスデスがここに居る?マシントルネイダーに追いつける訳がないのに。最高速度で一気に、ただひたすらに走りだす。

 

「諦めろ。“生きて帰さん”と言ったはずだ」

 

エスデスは、特級危険種のドラゴンに着けた首輪を、鎖のリードで思いきり引く。主の命令で刺激されたドラゴンが必死に後を追う。速度はやや俺の方が速かったが、生きた心地がしなかった。

 

「ヴァイスシュナーベル」

 

それでもただ逃げることしかできない俺に、無数の氷剣が降り注いだ。激しい爆発。トルネイダーごと垂直に墜ちていく俺を、急流の河が大きく口を開けて待っていた。

あと少し…いや、最初から無理だったのかもしれない。けど、ここで死ぬことにあまり後悔はなかった。シェーレやアニキ、チェルシーや他の人達も助けれたし、その影響でこれから死ぬ筈のメンバーが助かる可能性もある。俺が転生してきた目標はだいたい達成できたはずだ。だけど、贅沢を言うのならば、もっと皆と一緒に過ごしたかった。ラバと馬鹿やったり、アカメとスーさんと一緒に料理したり、タツミとマインのイチャつきを冷やかしたり、シェーレとお話ししたり、ボスの駄洒落を聞いたり、姐さんとチェルシーをもっと見ていたかったり。

けど、それは叶わなかった。水面に叩きつけられた痛みで、俺は完全に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナイトレイド残り「9」人

 

 

 

 





サブタイが終わりってなるけど、物語はまだ終わらないよ!


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第54話 そのあと

ただ一言、遅れて申し訳ありませんっ!!!(土下座)



久々すぎておかしい所があるかもしれませんが、その時は感想欄に書いて頂けるとありがたいです



 

レオーネside

 

 

 

 

 

コウタロウが私達を逃す殿を務めた、そう聞いた私は、一瞬で頭が真っ白になった。今も報告をしているスーさんの声も、全然頭に入ってこない。

 

「…助けに行かなきゃ!!!」

 

気づいたら私は、声を荒げて駆け出していた。

 

「待て!落ち着けレオーネ!!」

 

ドアを開けようとしたら背後からボスに羽交い締めされる。振りほどこうと抵抗しようも、ボスの締めは私では抜け出せない。

 

「離せよボスッ!!助けに行かなきゃ、コウタロウを助けに行かなきゃ!!!」

 

「ラバック!クローステールを!はやくっ!」

 

「…り、了解!」

 

「離せつってんだろ!!!コウタロウが!コウタロウが……」

 

ラバックの糸で身体に食い込むほどに拘束されてしまっては、流石にライオネルを発動させて引きちぎろうとしても無駄だった。

クローステールを引きちぎるのを諦める。ボスを睨みつけると、ボスは一瞬悲しそうな顔をして深い息を吐いた。

 

「あの場には、エスデスとクロメ、またイェーガーズや警備隊も居た。いくらコウタロウでも、もう生存は絶望的だろう…」

 

「でもっ…!」

 

「お前だって分かるはずだ。私達はあくまで殺し屋。職業柄、いつ報いが帰ってくるか分からないし、仲間が死ぬ事だって少なくないんだ。悲しいのも分かる、認めたくないのも分かる。しかし、明日は我が身だ。悲しみに暮れる暇などない」

 

ボスの声が頭の中でズシンと響く。それと共に、以前、コウタロウとの会話が走馬灯のように浮かび上がってくる。

 

 

それは、コウタロウがイェーガーズに捕まる前の事だった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

コウタロウはアジトの敷地内に、菜園を作っていた。手間暇掛けているようで、私は暇つぶしにそこで作業を手伝ったりした。そこには、トマト、茄子、きゅうり、などといった一般的な野菜が作られていて、アカメや野生動物に食べられないように柵も張ってあった。

 

「そういやコウタロウって、野菜作る時めちゃめちゃ楽しそうだよなぁ〜。お姉さん暇つぶしでしかそういう面倒くさいの嫌だなぁ」

 

私が気だるげに種を蒔きながら話しかける。野菜作るのって、手入れが面倒な上、すぐ腰痛くなるから一人じゃ絶対しない。

 

「まあまあ、そんな事言わないでさ。それより、いいと思わない?野菜が育つのって」

 

いつもの爽やかなんだかヘラヘラなんだか分からない笑顔でコウタロウが尋ねる。

 

「え、何で?」

 

「俺思うんだけどさ、世の中いろいろあるけど野菜は育つっていうか…」

 

うーん、言いたい事は分かる気がする。

 

「なんかさ、ここの野菜が育つうちは、世の中捨てたもんじゃないって感じがするんだ。だから…」

 

「…だから?」

 

「俺に何かあったら、ここの野菜の世話、姐さんにお願いしてもいいかな?」

 

急に真面目になるなんてコウタロウらしくなかったけど、まあいいかな。私もここの菜園が荒れるのは嫌だし。

 

「って、急にそんな辛気臭くなるなよ!野菜が不味くなっちまうだろ?ほれ、酒でも飲んで騒ぐぞ〜!」

 

ガシッ、とコウタロウの頭を腕でホールドしてキッチンに連行する。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「まあ、あいつが決めたことだ。何か考えがあったのかもしれない。ただ、コウタロウの無念の分も必ず革命を成功させなければならない。それだけは忘れてはいけないことだ」

 

拳を握り締めたボスは、私をゆっくり諭すように言った。

 

分かったよコウタロウ。あの菜園と野菜達、私に任せろ。お前が居ない世の中なんて嫌だけどさ、頑張るよ。面倒くさいけど、荒れないように、アカメに食われないように頑張るからさ、私のこと見ててくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

「コウタロウは生きてるわ」

 

突如として聞こえてきた声の主は、チェルシーだった。

 

「コウタロウは死なないわ。きっと生きてる。きっとあのバイクとかいう乗り物で逃げ延びたはずよ」

 

「チェルシー…」

 

力強い声だけど、挙動不審というか、いつもより明らかに様子が違った。肩と声が震えていてとても弱々しく感じるが、それでいて強くあろうとする何かも感じる。チェルシーもまた、コウタロウが死んだことを認めたくないのかもしれない。

 

「だって、今度またバイクに乗せてくれるって!ドライブに連れてってくれるって言ったの!!!」

 

嗚咽がこみ上げたチェルシーは、とうとう涙を零した。

 

「っ!!!」

 

その涙を見て、私も我慢の限界がきた。人の涙というものは、きっと他の人の涙も誘うのかな。

 

「泣くなよチェルシー。……そうだもんなぁ!生きてるもんな!あいつは絶対生きてるもんなぁ!!!」

 

拘束を解かれ、私は泣きながらチェルシーを抱きしめた。

きっとそうだ。コウタロウは生きてる。私もそう信じたい。

だけど、今は二人でただ泣くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________________

 

 

 

 

帝都の町外れの小さな病院。

そこの診察室で二人の初老の男が話し合っていた。一人は白衣を着た男、もう一人はエプロンを纏った男だった。

白衣を着た男が立ち上がり言った。

 

「最近できた新しい特殊部隊の理不尽な取り調べのせいで、重症の怪我人が搬送されてくるのが多くなったんだよ。おかげで入院用ベッドは満員空き待ち。困ったもんだよ。」

 

「相変わらず話が長いぞ、まったく。で、要件は何だい?」

 

「あっ、うん、そうだねぇ…。実はね…」

 

白衣を纏った男は、苦虫を潰したような表情で続ける。

 

「ある患者が居てね。搬送されてきた時は酷い怪我で入院させてたんだけど、結構回復が早くてさ。もう大方治ったんだけど、その患者、記憶喪失みたいでさ。少しの間でいいから引き取って貰えない?」

 

「えっ、引き取って貰えないってそりゃあ…」

 

「いきなりで申し訳ないんだけど頼むよ!一つでも多くのベッドを空けなきゃいけないんだ!」

 

そう頼み込まれたエプロン姿の男は、はぁ…と、ため息をついて承諾した。

 




忙しかったりやる気になれなかったりと、まあ全然書いてなかったのでリハビリですね。申し訳ありません…
それと、投稿ボタンを押す時とか、めちゃめちゃ緊張して怖いんですよねぇ…

そんなこんなで今度から気が向いた時に投稿します。できるだけ気が向くように頑張りますけどね。
そして最後の記憶喪失の患者……いったい誰なんだ?(すっとぼけ)


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第55話 新たな生活

お久しぶりでございます!

アカメが斬る!最新刊の14巻がウチの近所のツタヤでは今日が入荷日でした。田舎って本当不便でござる…


「君が“ヒカリ”くんか。あいつから話は聞いてると思うけど、私はオスカー。今日からよろしく」

 

目の前の青年の表情は暗いままだが、私を少し疑った表情で頷いた。

 

「…ヒカリ、です。よろしくお願いします」

 

彼のぎこちない挨拶で気まずくなるが、まあ仕方ない。いずれこの気まずさに慣れるのが先か、それとも良い意味で私に慣れるのかは分からない。

それじゃあ行こうか、と彼の肩を軽く叩く。私だって不安はある。しかし私も覚悟を決めている。

 

 

これから私は、この『記憶を失った』青年と二人で暮らしていくことになるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

私の弟、もとい小さな病院の医者は、今から一ヶ月ほど前にこの青年と出会った。搬送された時は、意識は無くそれはもう酷い怪我を負っていたらしい。

意識が回復したのは搬送されてから約二週間ほどで、その時にはもうほとんどの怪我が治っていて驚いたらしく、リハビリも数日で済んだとのこと。

ただ、問題は記憶が無かったということだ。

自分の名前、出身地、なぜあんな酷い怪我をしていたのか、所謂『今までの思い出』を忘れていた。しかし、意識を取り戻して数日は言葉さえ忘れていて、本人はパニック状態に陥っていたらしい。それから言葉を思い出し、日常生活が送れるまでは回復したから幸いなのか。

 

弟曰く、記憶全般を忘れる記憶喪失と部分的に忘れる記憶喪失は種類が別らしい。つまり、ヒカリくんは最初は前者の記憶喪失だったが、今は後者の記憶喪失の症状になっているということだ。

彼が記憶喪失になった原因は、最初は怪我の酷さから何か強い衝撃だと思った。しかし、怪我が回復しても何かに怯える様子が変わらないことから、原因はショック又はトラウマなのかもしれないと話している。

 

本来なら記憶が戻るまで入院させるつもりだったらしいが、最近できた新しい特殊部隊の理不尽な取り調べのせいで、怪我で入院してくる人が急激に増えてベッドの空きが足りないとのこと。そこで困った医者は、自分の兄である私に頼んで、この青年を引き取らせた。記憶が戻り社会に復帰できるまでの期間限定で。本心を言えば嫌だったが、事情が事情なため仕方なく引き受けた。

 

まあ、記憶を失って自分が誰かも分からないんだ。怖いのも無理はない。あいつも優しく接してくれと言っていたことだ。

 

 

 

一言二言の会話を交わし、相変わらずの気まずさに悩んでいると、家に着いた。

 

「さて、今日からここが君の家だ。自分の家と思って遠慮しないでいいよ」

 

あの病院とは1kmちょっと離れた、帝都の中でもあまり人通りが少ないところに私の家はある。汚い通りというわけではないが、皇帝陛下の城からはかなり遠く、城下町に観光客や人が集まるのは言わずもがな。

 

「…はぁ。店、ですか?」

 

「ああ、実は私は弁当屋を営んでいてね。店が一階で家が二階だ。店こそ小さいがまあまあ人気でね、君にも仕事を手伝って貰うかもしれない」

 

まあ、弁当を買って行ってくれる人は、近所の人や昔からの知り合いが多いんだがね。

 

わかりました、とヒカリくんが頷く。

 

「じゃあ部屋に案内するよ。私は一人暮らしでね、部屋は結構広いから喜んでくれていいよ」

 

「…お世話になります」

 

ダメか。

部屋が広いのは嬉しくないのか?病院の部屋は相部屋で一人になれる空間ではなかったから、てっきり喜ぶものだと…。

まあ、こんなこと気にしてはいられないな。

 

彼を部屋に案内した後は、部屋に荷物を置いて、他の部屋と店の中を案内し1日を終えた。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

夜中、ふと目が覚めた。隣の部屋、ヒカリくんの部屋から声が聞こえて来たからだ。何だろうとベッドから起き、ヒカリくんの部屋のドアをノックする。…返事はない。が、私を起こした声は聞こえてくる。

 

「入るよ」

 

夜中に起こされて若干機嫌が悪いため、ちょっと強めにドアを開けてみると、彼は顔にすごい汗を浮かべてうなされていた。

 

「…これは、起こした方がいいのか?」

 

とりあえず一度部屋から出て、水を注いだコップとタオルを用意して戻った。

タオルで彼の汗を拭いていると、ゆっくりと瞼が開き、目があった。

 

「ひどくうなされていたよ。何か怖い夢でも見たのかい?」

 

「…すいません」

 

「はい、水」

 

「すいません、ありがとうございます」

 

ヒカリくんは私から水を受け取ると、一気に飲み干し、深く息を吐いた。それでもまだ呼吸は少し荒く、どこか焦っているようにも見える。

 

「…とても冷たい水の底に閉じ込められた夢でした。周りは分厚い氷に囲まれてて、呼吸はできるんですけど、ゆっくりと死んでいく…そんな夢でした。」

 

いかにも冷たい彼の夢のわりに、現実ではとても暑そうだったのだが…

 

「なるほど、もしかするとその悪夢は君の過去と何か関係があるのかも知れないな」

 

「そうでしょうか。俺、今までのことほとんど忘れてるのに、なんでこんな怖い事だけ覚えているんでしょう?」

 

彼が毛布を握りしめ、不安そうに尋ねた。

私はヒカリくんのベッドに腰を下ろす。

 

「…いいかい、ヒカリくん。人には思い出したくない事、忘れてしまいたい記憶というものがある。でも、それは無理な話だ。忘れようとすればするほど、そういう記憶は何度も何度も蘇ってくる。こんな事を言う私だってそうさ。弁当屋を始めた今でも、昔の思い出したくないことをふとした瞬間に思い出してしまう」

 

これはどう足掻いても逃げる事ができない、人として生きていく上での仕方のない現象、そういうものだと私は思っている。

 

「じゃあ俺は、もう何も思い出したくないです。例えそれが嫌な思い出じゃなくても」

 

「…どうしてだい?」

 

「だって全てを思い出したら、さっきの悪夢のことも全部思い出しちゃうんですよね?それだったら、今のあやふやな、あくまでも夢の状態にしておきたいんです」

 

…なるほど、彼は今『逃げたい』んだ。

自分の名前さえも思い出せない中で唯一残ったのは、過去のトラウマだけ。それだけでは心が折れてしまうと本能的に思ったのだろう。そして彼の心の中では、そのトラウマがそれ以外の思い出に勝ってしまったのだ。

決して『逃げる』ことが悪いというわけではない。ただ、逃げるにしてもタイミングがある。今は逃げる時か進む時か。彼が、記憶が戻らなくても必死に毎日を生きる、それならいい。ただ、逃げて記憶喪失のまま抜け殻のように生きる、そうなったらおしまいだ。私はそんな人間を世話することはないし、この家もそういう場所ではない。

まあ、ヒカリくんがさっさと思い出せばそんな事を悩む必要なんかないのだが。

 

「ヒカリくん、過去を思い出すのが怖いという気持ちが分からなくはないが、君を想い、君を待ってる人がどこかにいるかもしれない。そう考えたことはないかね?」

 

「…俺を、待ってる人?」

 

「そうだ。人と人との繋がりは大切なものだ。君との繋がりを断ち切られて、悲しい思いをしてる人がいるかもしれない」

 

我ながら説教くさいとは思ったが、これでも弁当屋を始める前は、人の上に立つ職だったから自然とこうなった。それでも、これは大切な事だ。

 

「うるさい!」

 

不意に怒声が響き渡り、ヒカリくんが毛布を払いのけ立ち上がる。

 

「俺だって俺のことがわからないのに、あんたに何がわかるって言うんだよ!」

 

彼は、そう叫ぶと部屋のドアに手を掛ける。

 

「ちょっと!どこに行くんだい!」

 

不意を突かれ唖然としていた私だが、流石に現実に戻る。いくらこんな元気だからといって、弟から預かっている大切な患者だ。だから勝手にどこかに行かれても困るため慌てて止めに入る。

 

「知るか!ここじゃねえどっかだクソが!」

 

私も聖人ではないため、こうなれば力づくでも落ち着かせようと考える。

しかし、彼は急に頭を抱え出して悲鳴をあげた。そしてどさっと、まるで建物が崩れ落ちるかのように横に倒れた。

 

「気を失っているのか…」

 

急に倒れたため何事かと焦ったが、呼吸はしていることを確認して溜め息を吐く。

そして倒れた彼を抱きかかえ、部屋に運びまたベッドに横にさせる。

 

いやはや、まったく、やってしまったな。初日でキレさせてしまうとは思ってもみなかった。私もいい年した大人であるが、まだまだだ。

 

しかしまあ、その初日でヒカリくんという人間のことが少しわかった。

記憶があろうがなかろうが、人の本質というのは変わらないからだ。

 

 

 

まあ願わくば、彼が次目覚めた時、今さっきの出来事も忘れていてくれたらと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さあ、ということで今話からおっさんとの二人暮らし編スタート!

さてさて、最新刊読みましたよ!
以下ネタバレ注意












タカヒロてめえええええええええ!!!!
お前一番やっちゃいけないことしやがったなぁああああ!!
もう許さねえ!!怒ったからな!姐さんは例えR-18指定くらっても俺が幸せにすっからなあああああ!!!!

*あくまでも自分はタカヒロ氏をリスペクトしています。


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第56話 異変 其の壱

皆さまお久しぶりです。
6年ぶりの更新になります…。本当に申し訳ないんですけど、ぶん投げてましたね…。6年未更新でしたが、それでも続きを待っててくれる人達に救われました!本当にありがとうございます!



ヒカリくんがここに来てから、もう2ヵ月が過ぎようとしていた。

相変わらず喪った記憶は戻らず、うちの店で一緒に暮らしている。最初こそ仕事に慣れずあたふたして不安になる事も多々あった。しかし、案外彼は要領が良く、今になるともうだいたいの仕事をこなしてくれる立派な店員になっている。居候という体裁ではあるが、仕事においてはとても信頼を寄せている。そんな彼は、近隣のお客様の元へついさっき配達へと出かけたばかりだ。

 

「えっと、17時にウマトラ劇場に42か…」

 

今日の夕方は、顔馴染みである劇団の座長からの注文で40数個という、久しぶりに多い弁当の配達で埋まっている。そのため、今のうちに仕込みを始め作り出さないと間に合わない。

 

「こんちは!マスター、いつものできてます?」

 

開き戸を開け、暖簾をくぐる男性客。彼はこの店の常連のお客様だ。ウチのご近所で肉屋を営んでおり、近所のよしみもあってかかなりの頻度で注文してくれるお得意様だ。

 

「いらっしゃいませ。はい、日替わり弁当4つね」

 

もうすでに出来上がっている弁当を袋詰めし、カウンターの上に崩れないよう気を遣いながら置く。

 

「ういす、こちらお代です」

 

お礼とお金を受け取りお釣りを渡す。慣れた作業だが、お釣りを手渡すことはお客様とのコミュニケーションの一つであり、こういった仕事をするうえで大切なことだ。

 

「そういえばマスター、そろそろエスデス将軍が遠征から帰ってくるらしいぜ」

 

「あぁ、あの子か。帰ってきても最近は忙しかっただろうから、まだしばらくは来れないだろうね」

 

カウンターに腕を掛けながら、ふと思い出す。この帝都で最強とも謳われるエスデス将軍は、実はこの店に何度か来たことがある。彼女が帝都に来た時からの馴染みでもあり、頻度は多くなくともパトロールで近くに来た際には寄ってくれたりする。そのためか、近隣の人たちからは少しだけ恐れられてもいるが、エスデス将軍効果でこの辺りの治安はかなりいいためありがたい。

しかし、最近はナイトレイドや革命軍、異民族との闘いも多いらしく、ここ半年は顔を見てない。

 

「まあ、最近の帝都はさらに物騒になってるらしいからな、マスターも気をつけてな」

 

それじゃ、と肉屋の彼は店を後にする。彼を見送り、夕方に入った注文票を改めて確認して、私は仕込みの準備に取り掛かるためにキッチンへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

ヒカリside

 

 

夕刻。

注文された数十の弁当をリヤカーに積み込み、僕はオスカーさんと共にウマトラ劇場に来ていた。帝都の中心部から遠いうちの店にわざわざ注文したのは、オスカーさんの人脈らしい。正直、リヤカーを引くのは僕だったから、そんな人脈はありがた迷惑だと思ったことは内緒にしとこう。

 

「こんにちは、座長。ご注文の特製弁当です」

 

「おお!オスカーさん、お待ちしておりました!すいませんね、今ちょうどリハーサルを行っておりましてね。本番まではあと1時間ほどですから、もしよかったら観劇していかれては?」

 

それならば、とオスカーさんとこの劇団の座長さんは談笑を始めた。

 

「それじゃ僕は、お弁当を配って来ますね」

 

「ああ、よろしく頼むよ。私はこのフロアを担当するとしよう」

 

わかりました、と了承し、控え室や裏方のスタッフさん達に弁当を届けに行く。

両手は弁当を担ぐために塞がり、一回では運びきれないため、もう一往復はしなくてはいけないのだろう。しかし、この仕事が終わった後は、劇を観せてくれるらしいので何とか頑張れる。記憶を失ってからは、楽しい事はあれど、何かを思い出したりなんてことはなかった。けど、今の自分が劇を楽しみに思っているのだから、きっと記憶を失う前は、こういった劇が好きだったのかもしれない。

さあ、あと少しだ。パッパッと終わらせよう。

 

 

 

 

 

______________________

 

オスカーside

 

 

 

 

 

「おいーっす、邪魔するぜ」

 

キャストの人達に弁当を配っていると、どこからか嫌に勘に障る声が聞こえてきた。エントランスを抜けて、このフロアのドアが開くと、数人の男女が現れた。

 

「秘密警察ワイルドハントだ。知ってるか?」

 

秘密警察ワイルドハント。

その名前で浮かんで来たのは、医者である弟や、帝国中心部に住んでいる知り合いからの警告だった。

ナイトレイドや革命軍との戦いで、人数の少なくなったイェーガーズの代わりに新しく組織され、あのオネスト大臣と繋がりが強い。それを口実に、何とも好き勝手に暴れ回っている、と。

 

「帝国を批判する内容の劇をやっていると聞いてな。取り調べに来たぜ」

 

「そ、そのような事実は一切ございません!」

 

座長の言う通りだ。弁当を配りながらキャストのセリフが聞こえてきたが、どうやら内容はファンタジー色の強いものだった。

 

「そいつぁ調査してみねぇと分かんねえなぁ?」

 

おそらくワイルドハントのリーダーである褐色の男が、この劇場と女性キャストの方を見て薄汚い笑みを浮かべている。

事を荒げたくない座長は、懐から分厚く膨らんだ袋をそっと男に渡した。みかじめ料だ。

しかし、男は袋を受け取る事なく放り投げた。その瞬間、男の背後からひとりの女性が飛び出し、座長に飛びかかった。

 

「座長!」

 

私は一瞬何が起こったか理解できず、抱えていた弁当を放り出し座長の元へと駆け寄った。

倒れた彼を腕に抱きかかえると、既に酷く痩せ細っており、青白く変色した亡者となっていた。

 

「貴様よくも…」

 

座長の近くに居た劇団員の若い男達は、座長を襲ったワイルドハントのメンバー達に殴り掛かろうとするも、褐色の男がオネスト大臣の名前を出すと、劇団員達は皆悔しそうに拳を下げた。

 

私は、一連の光景を眺めて直立したままの他のキャストに、こっそりと語りかける。

 

「…君達、早く逃げた方がいい。そしてイェーガーズを呼んで来るんだ。誰でもいい。『オスカーが呼んでいる』と伝えてくれ。でも正面からじゃなく、裏口か目立たないところから逃げるんだ。さぁ、逃げながらでいいから、皆に伝えておきなさい」

 

オネスト大臣直属の部隊がこうもあっさりと市民を殺すとなると、こちら側にはただできる限り無抵抗を示し、蹂躙されるのを待つことしかできない。

このワイルドハントという集団に対抗するには、エスデス将軍率いるイェーガーズかナイトレイドしかない。幸いにも、イェーガーズには知り合いがいる。

そしておそらく正面にはもう一人か二人、見張りの仕事に就いた奴がいる。そのことを危惧して裏口に回るよう伝えた。

 

「ほら、急いで」

 

こくこくと強くうなづき、そのキャスト達は駆け出した。中には座長が死んだことをようやく理解し、悲鳴を上げる人や、劇用の走りづらい靴で逃げ遅れた人もいた。

 

「さあて、それじゃあ取り調べといくか!」

 

舌舐めずりをした褐色の男を筆頭に、こちらの方に向かって来る。

 

「…参ったな」

 

つい口から溢れてしまったその言葉に、褐色の男が反応する。

 

「あぁ?何だぁおっさん。何突っ立ってんだよ……って、どっかで会ったことあるか?」

 

いや別に、と目を合わせないように顔を下げる。私とこの褐色の男に面識があるかはともかく、昔からの知り合いの座長を殺したこいつらに、少なくとも怒りと憎しみは抱いていた。

 

「おほっ、流石劇団。可愛い娘多いじゃねぇか!たまらねぇ…」

 

逃げ遅れた人達へ、ワイルドハントのおかっぱ頭の男が近づく。そして醜悪な笑みを浮かべながら、悲鳴を上げる女性キャスト達の服を斬り裂いていく。

 

「取り調べとはそこまでする必要がありますか?」

 

我慢の限界だ。

いくら相手が大臣との繋がりがあったとしても、目の前で酷い事をさせるわけにはいかない。昔に比べたら劣るだろうが、少しは腕は立つ。

女性達を庇い、背中の方へと押しやる。

 

「おい、せっかくいいところだってのによぉ、邪魔すんなやおっさん!妨害罪な!」

 

そうおかっぱの男が叫んだと同時に、私の顎目掛けて大振りの右拳が飛んで来た。

速かったし、威力もそれなりにあっただろう。

 

 

 

「…へぇ、ヤる気かてめえ」

 

その拳を私が掴んで止めたことに一瞬目を大きくし、そして殺気を込めて睨めつけた。

 

「んじゃ、妾(わらわ)達は先にやってくわ」

 

睨み合っている私達を置いて、座長を殺した張本人の女と他のメンバーは散り散りになって歩き出す。皆、獲物を狩りに行く獣の目をしていた。

 

「ちょっと待ちなさーーーッ!」

 

「どこ向いてんだよおっさん!!!!」

 

他のメンバー達を制止しようとするが、おかっぱの男はそれを妨害しようと執拗に殴り掛かってくる。

 

「まさかおっさん、昔ちょっと武道習ってたみたいな?んなぁ理由で俺を怒らせたのなら…覚悟しとけよ!」

 

こちらの顔にまで唾が飛んで来そうな勢いで捲したてると、おかっぱ頭の男は左腰に携えた曲刀を振り抜いた。

それを身体を翻して躱す。

 

(まずいな、ヒカルくんも皆と逃げているといいが…)

 

正直、この男の相手をすることよりも、私は別のフロアに行ったヒカルくんの事を心配していた。

 

 

 

 

 

 

________________________

ヒカルSade

 

さっきまで居たフロアからたくさんの悲鳴や足音が聞こえてきた。どう考えても尋常じゃないほどの騒ぎに、少し胸がバクバクしている。

 

「な、何かあったのかな?」

 

恐る恐る覗くと、明らかに一般市民とは雰囲気が違う数人の男女と、その人達から必死な形相で逃げ惑う劇団の人達。そして倒れた座長を抱えるオスカーさんという理解できない光景だった。

 

「どうなってるんだ!?」

 

このわけがわからない状況で、頭の中が混乱しながらとりあえず目の前を走り過ぎて行った劇団の人達に付いて行く。

何でこんな事態になっているのかさえ分からないが、僕も逃げなきゃいけない。逃げ惑う人達を見て不安になったからだろう。その上、道があまり分からないこの劇場の中で、出口を知っている人達を見失わないよう僕は必死に走った。途中でオスカーさんのことが気になったが、既に僕はパニックになっており、よく分からない恐怖、今すぐここから逃げなきゃ行けないという感情にその思考は流されてしまった。

 

「おやめください!あんまりです!」

 

突然、叫ぶ女性の声が自分でも驚くくらいに耳に入ってきた。それが頭の中を駆け巡り、無意識に足を止めてしまう。

 

「腐った汚物が俺に意見すんな!」

 

骨まで震えるような野太い声が聞こえてきた方向を向くと、太った大柄のピエロと妙齢の女性が言い争っていた。あのピエロは、先程オスカーさんと睨み合っていた人達の一人だった気がする。どこからどう見てもあのピエロは、人を愉快な気持ちにさせる雰囲気じゃなかった。

そのピエロの側には、子役の少年がうずくまり、怯えた表情でそれを見ていた。

 

「近づくな!くせぇんだよ!!」

 

ピエロの男は怒りを叫び、女性の頭にその槌のような拳を振り下ろした。

何度も、何度も、何度も。もうとっくにその女性は事切れているというのに、ピエロは拳を振り下ろし続けた。肉を叩く生々しい音に、すぅっと血の気が引いていくのが分かる。

理解できなかった。なぜあのピエロは女性を殺したのか、どうして殺す必要があったのか。

僕は、目の前で起こっていることを現実として受け止めることに時間を要していた。

 

「ふぅっ…ふぅっ…もう、ここじゃあ邪魔が入って仕方ないね」

 

ようやく手を止めたピエロは、息を切らしながらゆっくりと、笑いながら少年の方に向き直る。その顔には、先程の女性の返り血が半端な布切れだけでは拭えない程に付着していた。

 

「さあ、おじさんと二人きりの国へ行こうか」

 

ピエロの笑みに、遂に少年は溜めていた涙を流し、そして絶望したのを感じた。

 

 

「あっ…」

 

僕には、これからか何が起こるのか本能的に理解できた。きっと少年は、あのピエロに暴力の限りを尽くされて殺されてしまう、と。

 

「…に、逃げないと」

 

今のうちだ。あのピエロが少年に夢中になっている間に逃げるんだ!でなきゃ死ぬ!あの少年は運がなかったんだ!

そう自分に言い聞かせて、膝を叩く。目の前で起こった事で体が思うように動かず、足が震えて走ることもままならなかった。

 

「くっそぉ…」

 

自分が酷い事をしていることくらいは知っている。でも、こんな僕が助けに行ったって、死体がひとつ増えるだけであり、あんな人を簡単に殺せるような大男に勝てるわけがないんだ。オチは見えてるのに、わざわざそれに飛び込むほど僕は馬鹿じゃない。でも、僕の心は罪悪感で溢れ返ろうとしていた。

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

足が震えて動かない事に苛立ちながらも、この場から離れる事だけを考えて、僕は四つん這いで無様に進み出した。

 

 

 

 

 

『もうやめてください!』

 

 

さっきの女性の声が頭に響いた。もしかしたら、あの人は少年の母親だったのかもしれない。

男の僕でさえ逃げ出したくなるような屈強な男から、勇気を出して子を守ろうとした。そう思ったら、ふとあの女性の方を向いてしまった。

あのピエロに撲殺されて酷い姿になったにもかかわらず、最期まで女性の腕は少年を求めようとしていた。死してなお、母親は息子を守りたかったのかもしれない。たまたま少年の方を向いて死んだだけかもしれない。でも、その光景を見た僕は、息を呑みほぼ無意識に走り出した。

 

「はやく逃げて!」

 

少年に覆い被ろうとしていたピエロを全力のタックルで突き飛ばし、少年に叫ぶ。

だが突如として現れた僕に少年は困惑していた。

 

「逃げて!お願いだからはやく逃げてよ!!!」

 

震えた声で怒鳴り散らす僕に少年は震えながらうなづき、一目散に駆け出した。

僕はそれを見送ると、大きく乱れた息を整えながらピエロへと目を移した。

 

 

『人と人との繋がりは大切なものだ。君との繋がりを断ち切られて、悲しい思いをしてる人がいるかもしれない』

 

 

少し前、オスカーさんに言われた言葉を思い出した。記憶を喪くして半ば自暴自棄になっていた僕に言ってくれた言葉だ。その時は、何を知った口で言ってんだ!と悪態をついてしまったが、少し意味が分かった気がする。あの少年は、このピエロに繋がりを理不尽に断ち切られてしまって、哀しくて、怖い思いをしてしまったんだ。けど、僕の場合は少し違う。記憶を喪くしたことにより、僕との繋がりが切られたことで哀しんでいる人がいる『かも』しれないだけだ。僕は哀しんでくれるような人のことを覚えていない。

つまりはーーーーーいや、ただ単にあの少年が殺されるより、記憶が無く繋がり自体を忘れてしまった僕の方が、『死んだ方がマシ』に思っただけなのかもしれなかった。

 

「痛ってえなおい…あっ、天使が居ない!?」

 

ピエロは腰のあたりをさすりながら、慌てて起き上がった。そして少年の方を向き直すと、さっきまで居た場所にはその姿がなく、ピエロはこめかみに血管を浮き上がらせて叫ぶ。

 

「おぉい!!!テメェが邪魔したから逃げちゃったじゃねえか!!!……マジでムカついたわ」

 

女性を殺した時より、さらに殺気と怒気が増えて、僕を睨みつけた。

 

「…ご、ごめんなさい!」

 

許されるなんて思ってもいないが、それ以外に言葉が出てこなかった。そしてその声と足は震えていて、顔と体が変に熱くなるのを感じ、目には涙が浮かんできているのが分かった。少年を庇うことはできても、“本当の死ぬ覚悟”はできていなかったらしい。

 

「謝って済むワケねぇだろ!!!」

 

骨まで響くような雄叫びを上げたピエロは、拳を振り上げて僕の頭蓋目掛けて勢いよく振り下ろした。その瞬間、あの女性のような姿になることを想像してしまった僕は、恐怖で体が震えてバランスを崩し尻餅をついてしまった。

 

「何避けてんだカス!イラつかせんな!!」

 

奇跡だろうが、尻餅をついたことでたまたま攻撃を避けることに成功した。しかし、それはさっきの一発で死んでおけばよかったと思うほど、またピエロの怒りを助長させてしまった。

手をつき急いで立ち上がると、ピエロは二発目の拳を放って来た。

 

「ううっ!」

 

とっさに両腕でガードしたため何とか即死は免れたが、重い一撃で腕は鈍い感触で溢れた。

続いて3発目、4発目ともう乱打になりそうと『勘』で思ったため、体格差を活かして背後に滑るように回り込む。そして、身体の全体重をかけて思い切り押し飛ばした。

 

自分でもよく分からなかった。本当ならもうとっくに殺されている筈なのに、何故か身体が“覚えている”かのように動く。まるでこんな戦いを何度も経験しているように。

いける!と思ったが、それでもピエロは数メートル押し飛ばされただけで、ほぼ無傷だった。

 

「殺す!テメェは絶対に殺すッ!!!」

 

発狂したかのように額の血管は破裂寸前とまで膨れ上がり、ヨダレは首回りの服の色を変えていた。そのピエロの迫力に、たまらず数歩足が下がる。

 

(無理だ!やっぱり僕なんかじゃ無理だ!)

 

数分前の恐怖が再来し、体中は冷や汗に塗れていた。

僕はとっさに逃げ出した。足は鉛のように重く、本当に前に進んでいるのか分からないくらいに遅く感じる。しかし、ピエロが追ってくる足音は聞こえず、逃げ切れたのかと思い後ろを振り返った。

 

「嵐の玉」

 

それと同時に、僕の体は宙を舞った。

 

 

凄まじい風と轟音と一緒に、周囲の大道具や小道具、機材なども関係なく竜巻に遭ったように激しく吹き飛び、そしてぶつかり合った。突如出現した嵐のようなものが終わると、受け身を取る暇もなく壁に勢いよく叩きつけられた。

 

「あっ…ぐっ!い、痛いっ…」

 

本当なら泣き叫ぶほどの痛さだったが、まず自分に何が起こったのか理解できなかったため小言で済んだのかもしれない。

 

「まだだ!テメェはじっくり苦しみながら死ぬんだよォ!!!」

 

「がっ!?」

 

いつのまにかピエロは僕の目の前に来ており、四つん這いで痛みに苦しむ僕の脇腹を蹴り飛ばした。その勢いと痛みで、胃液と血液が混ざった液体が口から漏れる。僕は意識が途切れそうなことに抗いながら、周囲の瓦礫を巻き込み吹き飛んだ。

 

「さて…次はどの玉にしようかな」

 

ピエロは複数の球をジャグリングしながら、ゆっくりと近づいて来る。

もう身体はとっくにボロボロだった。涙なんか出ないし、走馬灯を見るほどの思い出もない。枯れそうな嗚咽を漏らしながら、ピエロが来るまで死を覚悟することしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

ふと、不思議なくらいに身体が温かいのを感じた。アドレナリンが出ていたからと思ったが、突然僕の腰のあたりから眩しいながらも温かい光が輝き出した。

その光は徐々に大きくなっていく。それと同時に、まるで何かを待っているような音が聴こえ始める。こんな状況のなかで、僕は不思議と安心感を覚えていた。さらに、さっきまで全身を駆け巡っていた痛みが、少し和らいだような感覚になる。

 

とは思っていても、状況は相変わらず危機が迫っている中で、困惑しながらもゆっくりと立ち上がる。そして僕が立つ床に、金色に輝く大きな何かの紋章のようなものが現れ、それはまるで凝縮されるかのように両足に吸い込まれていく。

 

「おい!何だその光は!?」

 

眩しいのかピエロが光を腕で遮りながら叫ぶ。それに気を留めることができないほど、自分の身に何が起こっているか分からなかった。

そして、いつのまにか腰の光は、ベルトのようなものへと輝きながら変化していた。

 

「…な、何だこれ」

 

そのベルトを中心に腕、胴、脚と体を包む光が歪みながら変化していく。じわじわと変化していく身体は、黒地に金色の鎧のようなものを纏っていた。そして、頭部も同じようにゆっくりと変化する。恐る恐る顔を手で触れてみると、仮面のようなもので覆われている感触がした。腰のベルトの中央からは、いまだ繰り返し閃光が放たれている。

そして、身体全体に不思議と力が溢れてくるのを体感した。

 

『え、えぇ…?』

 

まるっきり分からないこの事象に、ピエロも、おそらくそれ以上に僕自身も困惑していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




6年ぶりに投稿するということで、1話から読み返していきましたが、まあ酷い。しかし、当時の楽しい思い出もあり、戒めとしても続き書かなきゃなぁ…。
頻度はわかりませんが、また近いうちに投稿できたらと思います!


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お気に入り登録100件突破記念
番外編 第一回 チキチキ!ナイトレイドお料理対決‼︎


皆様、お気に入り登録が100件を突破したということで、番外編を書かせていただきました。本編とは全然関係なく、キャラ崩壊のオンパレードですので、それでも、という方のみご覧下さい。


 

「赤コーナーの料理人、アカメッ‼︎」

 

ボスのアナウンスで他のメンバーがやんややんやと騒ぎ出す。

 

「続いて、青コーナーの料理人、タツミィィッ‼︎」

 

タツミはエプロンを締め直し、皆んなの方へ手を振る。

 

「最後、黄コーナーの料理人、コウタロウッ‼︎」

 

俺の姿は純白のコック服に包まれていて、襟には黄色の短いタイが巻かれている。

 

第一回 チキチキ!ナイトレイドお料理対決‼︎こんなバカげた企画を持ち出したのは紛れもない姐さんだ。俺達ナイトレイドの調理メンバーは俺とタツミとアカメ。皆それぞれ得意分野があり、役目があったのだが、『一番料理が上手いヤツ決めようよ』とかどうでもいいことを言い出すから、それにボスも便乗して実際に行っているのだ。普通ならわざと負けて、空いた時間で愛車をまじまじと鑑賞するのだが、優勝者には景品がある。それは、優勝者には好きな異性の下着が進呈されるというもの。参加するしかない。絶対。

俺とタツミは男だから仕方ないが、アカメは好きな異性は居るのだろうか?恋愛には無縁のような雰囲気だし。

アカメの他を見ていると、何故か姐さんがアカメにアイコンタクトを送っていた。瞼を閉じたり開けたりするモールス信号だ。えっと、なになに…………『頼むぞアカメ、コウタロウのパンツが欲しい』ってええええッ⁉︎グルかよ‼︎そんなに欲しいならいつでもあげたのに…。というか、姐さん意外に乙女だな。だが、俺も負けられない。料理人のプライド1割、姐さんのパンツ9割が俺の出場理由。バカにはさせない。これは…男の勝負なのだ‼︎

 

「お題は自由に一品。それでは早速、いってみようっ‼︎」

 

なんかボスのキャラが崩壊している気がするが気にしない。気にしたら負けだ。

俺達料理人は、ボスのアナウンスと共に一斉に作業に取り掛かる。一品か……。アカメは絶対にヘヴィーな一品だろうな……。だがタツミが何を作るか分からない。とんだjokerが紛れ込んだもんだ。

 

「調理をしている間に、審査員を紹介しよう!頭はポンコツだが舌は正確。皆の癒し、シェーレッ‼︎」

 

「すみません。公平にジャッジできるよう頑張ります」

 

ボス失礼過ぎだろ…。

 

「頭は煩悩だらけ、その味覚は如何に⁉︎ラバックッ‼︎」

 

ラバックの反応がないかと思えば、ラバはうずくまり涙を滝のように流していた。憐れ…ラバ。

 

「そしてこの私が審査員長だぁっ!!」

 

結局アンタかよ……。

残りのメンバーは興奮していて、騒いだり酒をがぶ飲みしていたりする。

 

 

 

 

数十分後には終了のホイッスルが鳴り響いて、俺達は共に手を止めた。俺は3分程前から既に完成している。時間はどうであれ、結局は味だ。今回はとても自信がある。この勝負とパンツ…貰ったな。

 

「赤コーナーの料理人、よろしくぅっ‼︎」

 

「私の料理は…これだっ‼︎」

 

クロッシュを一気に外し、皆に披露する。

 

「私の料理…カレー天丼だ‼︎」

 

分かっていたがヘヴィー過ぎる。見てるだけでお腹いっぱいになって来た。

 

審査員と他のメンバーに配膳し、俺もいざ口に運ぶ。

まずカレールゥ。スパイスが強めに効いていて食欲を刺激する。その下にある天ぷらと混じると、サクサクとした衣を包むカレーが妙に滑らかに感じる。最下層の白米もふっくらと炊かれており、カレーと天ぷらにとって最高のコンディションになっていた。

あれだけヘヴィーと言いつつも、実際美味いからまたタチが悪い。

 

「青コーナー、頼むぞ‼︎」

 

「俺の料理はパエリアだ!」

 

パエリアって…タツミ万能過ぎだろ。そんなにバリエーションが多いなら店でも出したらいいのに。

そんなことを思いつつ、パエリアを口に運ぶ。

 

「ふ、普通に美味い……。」

 

アカメのカレー天丼と比べると見劣りするが、それでもカラフルな色付けにされており、味も丁寧に整えられている。なかなかやるな。

 

「そして最後、黄コーナーの料理人、ぶちかませっ‼︎」

 

「俺の料理は……、ほうれん草のおひたしだぁっ!!」

 

アカメ、タツミと続いた俺の料理は2人に比べると大きく見劣りする。しかし、それも計算の内だ。このほうれん草は素材にこだわり、研究も進んでいる。

 

「う、美味いな…。」

 

「このほうれん草、コウタロウが育てのか?」

 

「ほーれす‼︎」

 

完全に空気が凍った。

あれ?今回はいけると思ったんだけどな………。

俺のギャグはさて置き、2人の料理で穴が開きそうな胃袋を優しく撫で細めるほうれん草は最高だ。ラバの顔も、俺の料理を口に運んだ瞬間美味すぎて白目をむいていた。ホラー過ぎる。

 

 

 

「さぁ、結果が出たぞ‼︎」

 

俺の料理も食べ終わり、審査の時間も先程終わった。

食器の片付けも終わり水気もない。結果発表か…パンツは一体誰の手に渡るのだろうか。

 

「第3位、タツミッ‼︎」

 

おおっと、歓声が上がるなか、タツミはクソっと悔しげに顔を歪める。タツミが3位かよ…。

 

「普通に美味かったけどよ、もうちょい味がついてても良かったぜ」

 

悔しがるタツミにラバックは正確に欠点を指摘する。普段おちゃらけたラバがなんでこう、真面目な感じで指摘するのだろうか。一番審査員してるよ。

 

「第2位と1位は同時に発表する」

 

つ、遂に!あと少しで俺の手に姐さんのパンツが‼︎

涎が垂れそうになる口元を引き締めて目を閉じる。イメージしろ、姐さんのパンツを。ボンキュッボンのグラマーな体型の姐さん。男勝りの性格で考えるより動くタイプ。その引き締まったお尻を包むパンツは動きやすいTバックなのだろうか。はたまた、その見た目に反してクマさんパンツを愛用していたり……どっちもアリだな。

 

「第2位、コウタロウ!そして優勝者はアカメだぁぁっ‼︎」

 

………へ?

ナンデカナ?いかん、正気を保ってられそうにない。こういう時は素数を数えろ!……素数って何だっけ。

 

「俺はコウタロウの方が美味いって思ったんだけど…」

 

「私もそう思いましたが……」

 

ラバックとシェーレは苦虫を潰したような表情だ。どういうことだ?

 

「私がアカメを推したんだ。審査員長は3人分の投票権を持つからな」

 

出来レースじゃねぇか‼︎そんな3人分あるなら審査員いらねぇだろ‼︎うわあああああああっ‼︎

 

「それではさっそく、下着進呈式を行う。誰の下着が欲しい?」

 

「コウタロウだ」

 

質問もアレだが、それに即答するアカメもアレである。というか、呼ばれた俺の気持ちになって欲しい。顔は真っ赤になり脇汗も噴き出してくる。

 

「第一回 チキチキ!ナイトレイドお料理対決‼︎優勝者アカメ。貴殿にコウタロウの下着を進呈する」

 

本当に俺のパンツだった。

本当に下着を進呈することにドン引きしながらも、もし表彰台に立つのが自分だったらと考えると、悔しさが溢れる。

ボスから受け取った俺のパンツを、アカメは姐さんに手渡し頭をぐしゃぐしゃに撫でられる。

 

「よくやったアカメ!それでこそ私の親友だ‼︎」

 

完全に利用されてますやん……。

もう何もやる気が起きない。……待てよ?第一回ということは、二回目も開催されるのでは?キタキタキターッ‼︎俺の時代だ‼︎

 

ニヤけが止まらない顔にマインが引いていたことに俺は気がつかない。

 

第二回があるなら、どんな出来レースをも覆せる料理を作るのみ。騒ぐ皆をよそに俺は料理の研究のためにキッチンへと向かうのだった。

 

 

 




後半、自分でも書いてて酷いと思いました……。
本当にすみません。

第一回があるなら二回目もあります!
ということで、本編も、次回の番外編も是非よろしくお願いします‼︎


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お気に入り登録200&300件突破記念
番外編 覗き兄弟 其の壱


お気に入り登録200件突破記念としての番外編です!

皆様、本当にありがとうございます!


「……こっちは異常なし」

 

「了解」

 

日は既に落ち、辺りは漆黒の闇と化している。そんな夜に、虫の騒がしい鳴き声以外の声が聞こえてくる。

 

「…よし、行くぞコウタロウ」

 

「了解」

 

その声の主達は言わずもがな。

フードを深く被った相棒・ラバがゆっくりと、俺達以外に聞こえそうもない音で、その扉を開ける。

既に赤いのれんは潜った。だから俺達の現在位置は脱衣所だ。脱衣所には小さな灯りが灯してあり、その小さな灯りでも、この脱衣所を見渡すことは十分できた。

その奥には大きめの扉があり、中からはナイトレイド女子メンバーの騒ぎ声が聞こえてくる。

 

そんな声を余所に、俺はカゴに畳んで入れてある下着を丁寧に取り出す。

 

「…見てよラバッ‼︎シェーレさんの下着って、意外に大人っぽくてエロいぞ‼︎」

 

俺は声を潜め、手に持ったパンツを被りながらラバの肩を叩く。

 

「おおっ‼︎……って、何やってんだよ⁉︎そうじゃないだろ!」

 

ラバは一瞬鼻血を垂らしたが、気迫迫る勢いで鼻血を吸い込む。

 

「そうだったね…今回の目的は……」

 

「「正面からの覗きっ‼︎」」

 

今まで俺達は数え切れない程の覗きを繰り返してきた。岩陰から覗いたり、動物の真似をしたり、ジャンケンで負けた奴を囮にしたこともあった。だが、いつもどんな作戦で挑んでも、やはりどうしても失敗してしまう。

何故だろうか?

俺達は、自らの煩悩をフル回転させ考えた。そして、ある一つの結論が生まれた。

『最初から警戒されてる上、姐さんの野生の勘があるんじゃバレて当然』と。

だが、こんなことで諦めるような俺達ではない。色んな場所から覗きが行われる。しかし、裏を突いて、正々堂々と覗けば、チャンスはある……と思う。

思いついたら即実行。

それが俺達、覗き組の信条だ。

 

「まぁ、このパンツは貰っとくか……」

 

俺は風呂へと続く扉を開けるラバに続く。もちろん、頭に被ったままで。

 

「あぁ、今日こそは皆の生乳拝んでやるぜぇ〜」

 

「俺達のコンビは、完全調和《パーフェクト

ハーモニー》だね」

 

俺達は密かに抱負を言い合い、ゆっくりと扉の中へ入って行く。

この風呂は露天風呂だ。普通ならば、側面から攻めた方がチャンスがあるが、最初から警戒されてるなら意味がない。

だが、今日こそは……

 

まずは岩陰に隠れる。

辺りは濃い湯けむりに覆われており、視界は絶不調だ。が、見えないと言う訳でもない。現に、岩に大穴を開けた浴槽が確認できる。中に入ってる人を選別することはできないが、シルエットで大体の人数は把握できる。

 

「……一、二、……あれ?少ないよ?」

 

ナイトレイド女子メンバーは、アカメ、姐さん、マイン、シェーレ、チェルシー。ボスは今、革命軍本部に出張だから……。にしても浴槽に二人って少な過ぎではないか?

 

「……しまった!フェイクだ‼︎」

 

ラバは覗きを行っているということさえ忘れ大声で叫ぶ。

 

「やっぱりお前らか」

 

「…そ、その声は……」

 

俺はゆっくりと、自分が隠れている岩を見上げる。

そこには、いつものセーラー服を着込んだアカメと、指を鳴らしている姐さんの姿があった。

 

「おーい、掛かったぞぉ〜‼︎」

 

姐さんが浴槽にそう呼びかけると、二人が風呂から立ち上がる音がする。

 

「やーい、残念でしたー」

 

その囮役の二人は、チェルシーとシェーレだった。二人はタオルできっちりとガードを固めている。

 

「すみません。騙す様な真似して……あれ、それ、私のパンツ……」

 

シェーレさん?なんでそんなにメガネが曇っていても分かるんですかね?

 

「……おい、コウタロウ」

 

「……ねぇ、コウタロウ」

 

「ひっ⁉︎」

 

背後からドスの利いた声が俺に降りかかる。

 

「なんでシェーレの下着を被ってるの?」

 

阿修羅のオーラを纏いながら、チェルシーが問いただしてきた。

そのオーラに呑まれ、俺は尻餅をつき後ずさる。

 

「すまねぇコウタロウ‼︎」

 

「…あっ!待ってラバ‼︎」

 

ラバが俺を見捨てて脱出しようとする。

 

「……アカメ。肋骨三本」

 

「分かった」

 

姐さんの冷静な指示により、アカメが動き出す。その速さを活かし、ラバの前へ出ると、村雨の鞘でラバの胸を三度突く。

 

「ギヤアアアアアァアァアアア⁉︎」

 

骨が砕ける音って、意外に爽快なんですね。

 

「……ねぇって、聞いてるよ?」

 

その冷めた声で、俺は現実という名の地獄に引きずり戻される。

 

「……いや、あの、こ、これは偶然でして」

 

「へぇ、偶然でシェーレのパンツを被るんだぁ」

 

「痛い痛い痛い‼︎す、すみませんでしたああああぁぁああ‼︎」

 

姐さんにアイアンクローのまま持ち上げられる。脳を締めつけられるようで、正気を保っていられそうにない。

……あぁ、どうせ締めつけられるのなら、別の場所が良かったな。

なんておかしなことを思考してしまう。

 

「コウタロウ。お仕置きだ。しっかり反省しろよ?」

 

「……へっ?ちょ、まって‼︎」

 

「ふんっ‼︎」

 

「いしだたみッ‼︎」

 

アイアンクローのまま、俺は石畳みの地面へと、頭から叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

♢ ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

「よかった!起きたか‼︎」

 

コウタロウの周りに一斉にナイトレイドのメンバーが集まる。

あの覗き事件から3日。その3日間ずっと彼は眠っていたのだ。

 

「……しい」

 

「ん?なんて言ったんだ?」

 

タツミはコウタロウが放った言葉を聞きそびれのか、もう一度聞いてくる。

 

「ここは…眩し過ぎる」

 

そう答えたコウタロウの目はやさぐれており、何もかもに絶望したかのような表情をしていた。

 

 

続く




改めまして、お気に入り登録200件、本当にありがとうございます!

この作品を読んでくださる方々やコメントや感想を送ってくださる方々、評価をつけてくださった方々、そして、お気に入り登録していただいた方々。

本当にありがとうございます‼︎
これからも『アギトが蹴る!』精進して参りますので、これからもよろしくお願いします‼︎


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番外編 覗き兄弟 其の弐

おおおおおおおすいませんでした!!!こんなありがたいことなのに、とてつもなく遅れてしまいました。本当に申し訳ありません!





「キャアアアアアアァアアアァアッ⁉︎」

 

今日のゴミ出し(ナイトレイドでは出たゴミを纏めて埋める)当番のマインの悲鳴で、一日が始まった。

 

「どうしたマイン‼︎敵襲かっ⁉︎」

 

その悲鳴を聞きつけ、武装したナイトレイドメンバーが続々と集まって来る。マインは、一番最初に駆けつけたタツミにタックルのように抱きつき、タツミは苦悶の表情を漏らす。

 

「あ、アレよ……。ゴミ捨て場で誰か寝てる…」

 

「……は?」

 

マインが恐る恐る指差した先には、袋に包んであるゴミをクッションにして横になっている人の姿があった。

その人物の服装は、右肩が袖なしのブラックコートを羽織っており、あちらこちらが汚れている。要するに、一見浮浪者だ。

 

「…侵入者か?」

 

「いや、糸に反応はなかったけど…」

 

「……おーい、生きてますか?」

 

とりあえず、レオーネが落ちていた枝を拾ってその人物を突く。

 

「…騒がしいな……。お前ら揃いも揃って、俺を嗤いにでも来たのか?」

 

深いため息と共に、その人物はゆっくりと起き上がった。

 

「な、コウタロウッ⁉︎何してんだよこんなところで‼︎」

 

振り向いた人物がコウタロウだと分かると、皆も緊張が解けたのか、帝具を解除し始める。そして、レオーネ以外のメンバーもコウタロウに近づいて来た。

 

「ちょ、何その服。ダサすぎだよ?」

 

チェルシーが笑いを堪えながらそう言った。他のメンバーもそう思っていたのか、各自頷いたり笑ったりしている。

 

「……お前」

 

「ん?」

 

「…今、俺を嗤ったな?」

 

「……え?」

 

いつものコウタロウは自分に向かってお前だなんて言わないのに、初めて言われたチェルシーは、何が起こったのか分からないといった顔だ。

 

「いいよなぁ…お前らは。暗殺者だと言えども、光を浴びれて……」

 

コウタロウを除くこの場にいる全員が“こいつ、オカシくなりやがった…”と、息を呑んだ。

 

「どうせ俺なんか…」

 

「マジでイっちまいやがった……。これ、姐さんのあのお仕置きがヤバかったせいじゃねーの?」

 

「なっ、私のせいにすんな!だいたい、覗く奴が悪いに決まってるだろ⁉︎」

 

レオーネとラバックが言い争っているのをよそに、コウタロウはそそくさとその場を去った。

 

 

 

 

♢ ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

ラバックside

 

 

 

 

 

時は過ぎて夜。

コウタロウがあの覗き以来どこかおかしくなっちまったが、今日もあいつを誘って覗きに行く。もう、失敗したらコウタロウと同じ目に遭うってことは分かりきってるから、いつもより慎重に行わなければならない。

しかし、肝心のコウタロウが見つからない。

 

「どこ行ったんだアイツ…」

 

「なんだ、また懲りずに覗きに行くのか?」

 

背後からの声に俺は尻餅をつく。び、びっくりした…。にしても、この格好…俺もこんな時期があったかと思うと、コウタロウへの同情心が湧き上がる。

 

「びっくりさせんなよ〜。なあ、今日はお前が怪我したお陰で警備がぬるくなってる筈だぜ。流石に姐さん達も、お前がオカシくなった日に覗かれるなんて考えてねぇだろ」

 

そう、他のメンバーは知らんが、コウタロウ大好きな姐さんとチェルシーちゃんらのことだ。きっとコウタロウがオカシくなってショックを受けていることだろう。そのショックを受けている隙を突く。姐さんとチェルシーちゃん二人の警備がなくなるだけでも大分違う筈だ!

 

「……はぁ。お前はまだ覗きに希望をもってんのか。……悪い事は言わん、希望なんてとっとと捨てろ」

 

な、何言ってんだコイツ…本当にコウタロウか?俺が知ってるコウタロウは、チャンスと知ったら全裸で飛び込みに行く奴だぞ…。

 

「…けっ…頭打ってオカシくなったと思ったら、根性までもオカシくなってたとはな。じゃあな、手前みたいな腑抜けなんか知らねえよ」

 

俺達が命を懸けて来た覗きを捨てろだと?ふざけやがって。コウタロウじゃねえコイツを覗きに誘った俺が馬鹿だった。もう、コイツの顔さえ見るのも不愉快だ。

 

俺は地面に唾を吐き捨て、女子風呂へと歩いて行った。

 

 

 

 

♢ ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 

 

湯けむりが濃くなってきた。

前回は真っ正面から行って失敗した。普通なら、やり方を改めて臨むべきだが、その裏をかいてあえてそのままで行く。つまり、今俺が潜んでいる場所は女子風呂の入ってすぐの場所だ。奥からは女子メンバーの愉快な声が聞こえてくる。

 

「……っし、行くか!」

 

湯けむりが濃ゆいせいか、ぼんやりとしか前が見えないため、シルエットを頼りに進んで行く。

 

もう皆との距離はすぐそこ。この調子で行けば、念願の女子の生乳を拝めるぜ!

 

「やっぱり来やがったな」

 

聞き慣れた姐さんの声とともに、頭を凄まじい勢いで掴まれる。

 

「ぐああああああぁぁあああ⁉︎つ、爪がめり込んでるぅぅっ‼︎」

 

な、何で姐さんがここに居んだ⁉︎コウタロウがオカシくなってショックで寝込んでる筈じゃなかったのか⁉︎

ギブを示そうにも、姐さんは知らないといった顔で更に力を入れてくる。

 

「ラバ…お前が考えつきそうなことくらい分かるさ……。大方、私達がコウタロウのことでショックを受けてる隙を狙ってのことだろうけど…別に死んだわけじゃないし、そもそもお前達が悪い」

 

な、なんだよそりゃ…。

それじゃ、俺がやってきたことは最初から無意味じゃねえか……。というか、ぐうの音も出ねえ正論だ。

 

アイアンクローが収まったかと思うと、今度は顔面にパンチが飛んでくる。

 

「……ぐっ‼︎」

 

もはや悲鳴をあげる気にもならない。

二発、三発と次々に拳や蹴りが体に入る。血の臭いが心地よく感じるくらいだ。体の感覚は既に鈍くなっているため、痛みもないし力も入らない。

 

10分程それが続き、ゴミ捨て場になげ捨てられる。力が入らないため、立ち上がろうにもそのままゴミに寄りかかることしかできない。

 

これが、コウタロウの言ってた地獄か……。“覗きなんかに希望を持つな”よくわかんねえけど、少しだけわかった気がする。

溢れる涙を垂れ流しに、俺は夜空を見上げる。もう…光なんて……。

 

その時、誰かの足音がした。

その人物は、夕方俺に忠告してきた奴だった。

 

「…お前の言う通りだったよ。ありゃぁ地獄だ。希望の場所で自分の全てを否定される…。仕事よりキツいぜ」

 

「……そうか、お前も見たのか」

 

ここに来たコウタロウは、夜空を眺める俺を慰めるなんてことはなく、ただじっと、俺と共に空を眺めるだけだった。

 

「…なあ、ラバ」

 

「…んだよ?」

 

その静寂を破ったのは、コウタロウだった。

 

「……俺の弟になれ」

 

普通ならば、その言葉に疑問と嫌悪感を抱くのだろうが、今の俺にとっては、不思議と心地よく感じた。

 

 

 

続く

 

 

 

 





改めまして、皆様本当にありがとうございます!
「アギトが蹴る!」春からやってきて、とうとう300かぁ…とあまり実感できておりません。

本編の方も更新しますので、是非ご覧下さい。

これからも頑張って参りますので、よろしくお願いします!!


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