やはり比企谷主任の奉仕部活動は狂っている (Ariha)
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chapter0

不明な高校生が入学しました


朝、それはすべての始まりと言っても過言ではない

 

「お兄ちゃん!入学式だよ!早く起きなきゃ!」

 

彼、比企谷八幡の朝もその一つ

 

「小町、あと5分余裕がある」

 

「……主任」

 

妹……、役でオペレーターの小町(キャロル)は目を細め凍てつくような視線を主人公である

 

「んだよ、長期休暇みたいなもんだろー?こんな任務さぁ」

 

「これは再教育プログラムなのですよ主任」

 

「あー、あー、聞こえないなぁ」

 

そんなことをいいながらも比企谷八幡はモソモソとベッドから起き上がる

 

彼は「企業」の現場責任者、コードネームは「主任」

 

もちろん、小町とは血の繋がりなど1micronもない

 

「とにかく、さっさとしたくしてください」

 

そう言うと小町は部屋を出ていった

 

「…………」

 

そんな小町の後ろ姿を薄ら笑いを浮かべながら八幡は眺めていた。

 

 

 

「じゃあ行ってくる」

 

「いってらっしゃーい」

 

両親(勿論「企業」が用意した隠れ蓑)がいる手前猫を被っているが、流石な演技力だ

 

比企谷八幡は若干顔をひきつらせつつ自転車をこぎ始めた

 

総武高校は自宅から行ける距離であり無駄な費用を出さなくて済む

「企業」も金がない

ましてや再教育プログラムのために無駄金を使う余裕など無いのだ

 

「…………ん?」

 

自宅を出て20分後、チャリを鼻唄混じりにこぎ続けると運が悪かったのか、犬が八幡の前に飛び出してくる

 

普段の八幡なら普通に轢くと簡単に予想が出来るが

このときだけは違った

 

悪魔のような男にも本の少しだけ慈愛があった

 

八幡はブレーキをかけ、止まる

 

そして……

 

 

犬が歩道から飛び出した

 

「あぁ……?」

 

八幡はチャリから飛び降り犬に駆け寄る

 

そこに、黒いベンツがスピードを緩めず突っ込んでくる

 

「ヒハッ」

 

フロントガラスにはスモークがかかっており中の人間がわからない

 

八幡は突っ込んでくるベンツを一瞥し

 

不気味な顔で嘲笑った

 

 

瞬間的な衝撃と共に勢いよく吹っ飛ばされた

視界がぐるぐると高速回転し吐き気を催す

 

ドグシャアとアスファルトに叩きつけられたと同時に意識が飛んだ

 

 

 

「主任」

 

その一言でベッドに沈んでいた八幡はゆっくりと瞼をあける

周囲を見渡し情報を集める

 

ここはいわゆる病院というやつだ

規則正しく心電図が軽やかに音を刻んでいる

 

「キャロリン、状況教えてー」

 

つい、癖で昔のあだ名で呼んでしまう

 

「はい、総武高校に到着寸前で黒いベンツにより約5メートル吹き飛ばされました」

 

特に気にすることもなく小町はそう説明し、指示を仰ぐ

 

「あなたを跳ねたベンツを詳しく調べますか?」

 

それに対して八幡は首を横に振る

 

「キャロリーン、んなことしなくてもいい、どうせ「企業」と同じような権力者なんだろ」

 

現に、備え付けのテレビをチェックしてみるが高校生を跳ねた事故など新聞どころかニュースですらやっていない

 

つまりは、そういうことだろう

 

「そして、もうひとつお伝えしなければならないことがあります」

 

「んー?なにか問題でもあったのかなぁ?」

 

「入学式から4日経ってます」

 

「………………ほう」

 

八幡は、少々考え込む

 

人間関係が築けない→特定のグループに入れない→人徳を学べない→再教育の意味がない

 

「俺、再教育プログラム離脱してもいいんじゃねぇ?」

 

俺天才じゃねと軽く考えるが

 

「クライアントからは続行の指示が出ています」

 

小町と「企業」は抜かりがないようだ

 

「つくづく退屈しないな……」

 

八幡は笑いそうになる頬をひきつらせながら呟いたのだった

 

 



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chapter1

ついに第二期始まりましたね


ー再教育プログラム補佐官報告書から抜粋ー

 

入学式に、出ることができない

 

それは所謂、高校生活に死刑宣告をするようなものだ

 

それを比企谷八幡はやってしまった

事故にしろ故意にしろ、出ていないことには変わりない

 

その年はとてもではないが、彼は荒れに荒れた

 

その原因とも言えるのが上記で述べたことによる噂であるがそれに加えて、進学校でもある総武高校での異例の事態ことによる教師陣の怯え、さらに同学年からの憐れみや侮蔑に満ちた視線もあると思われる

 

当の本人は堪らなく嫌らしく、自宅に帰宅後愚痴をこぼすほどであった

まぁ、次の日には忘れているようであったが……

 

しかし、狡猾な彼のことだ

しっかりと根に持っているだろう

 

今後の行動に支障をきたすような状態ではないことは確かであるとここに述べておく

 

ただ、1人教師に目を付けられたらしい

今後の生活に影響を与えることが十分にあると考えて間違いは無さそうである

 

今年度の報告は以上である

 

 

 

 

 

「…………なんで呼び出されてんだ」

 

比企谷八幡こと主任は放課後、お仕置き部屋と書いて職員室と呼ぶところに強制連行されていた

 

十中八九、授業中に書いた作文が原因だろうけど

人間の可能性について書きなさい→闘いこそ人間の可能性

 

こんな風に書けばそれは強制連行だろう

 

「こほん……、比企谷何で呼ばれたかわかるか?」

 

目の前に煙草を吹かしながら眉間を押さえて八幡を睨む美人教師

彼女の名は平塚 静

恐らく職員のなかで唯一八幡を恐れずに話しかけられる存在である

 

「さぁ?俺なにかしましたっけぇ~?」

 

例の如く比企谷八幡はおどけるようなピエロのような相手を小馬鹿にしたへらへらと笑いを浮かべながら受け答えをする

 

「教師をナメるのも大概にしとけ」

 

「あいあいさー」

 

平塚先生はそういうと咳払いをし話を戻す

 

「人間の可能性が闘いにあると言うのは些か間違いではないか?」

 

確かに平塚先生の言うとおりであるが八幡は引き下がらない

 

「いやいやぁ、冗談は止めて欲しいなぁ先生ー、人間って何でもかんでも順位とか勝ち負けをつけるでしょう?それは闘争本能を刺激させてより争いたいからに決まってるんですよぉ!」

 

「落ち着け」

 

平塚先生の一言で口を閉ざす

 

「とりあえず、君には性格矯正を踏まえて奉仕部に入部してもらう」

 

「……奉仕部?」

 

「あぁ、そうだ読んで字のごとくだ」

 

「嫌です」

 

再び、平塚先生は眉間を押さえてため息をついた

 

「とにかく、奉仕部の部長に挨拶してこい」

 

「嫌で……、はいはいはい!行けばいいんですよねぇだからそんなヴェンジェンスの顔が変形したみたいな表情しないでくださいよぉ!!?」

 

八幡はそういうと逃げ出すように奉仕部に向かうのであった




こっちはブレブレな八幡を通常運転でいきます


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chapter2

狂犬


「あぁーやっぱ、ダメだねぇあの人はどうにも勝てねえ」

 

そんなことを呟きながら八幡は奉仕部に向けて歩を進める

正直、今すぐにでも自宅に帰って小町とイチャイチャ(罵詈雑言)を楽しみたい

 

しかし、今帰ったところで明日、ヴェンジェンス平塚にどやされるに決まってる。だから無駄な足掻きはせず、小町とのやり取りをグッと堪える

 

「んー、ここであってるのかなぁ?」

 

奉仕部の前で確認する、一応、ノックも忘れない

 

「もしもーし、ここは奉仕部ですかぁ?」

 

勿論、煽りつつだ

 

「……どうぞ」

 

(んー、反応はいまいち薄いか)

 

そんなことを感じつつ中に入る

 

「おっと……」

 

そこには目を見張るような美少女がいた

大和撫子という単語が一番似合うと直感でそう理解するほどのだ

 

「…………なにか?」

 

少し眉をひそめながら不機嫌そうに言う美少女

 

「いいや何でも、平塚先生に奉仕部に強制参加させられることになった比企谷八幡でーす、よろしく」

 

なるべくおどけて、面白そうに八幡は自己紹介を言うが相手の美少女はさらに眉に皺が寄る

 

「…………比企谷くん、その挨拶はないんじゃないのかしら」

 

開口一番そう言われる

 

「おやおやぁ?もしかして気にさわるようなことしちゃった?」

 

「…………自覚なしなの?」

 

「名前も名乗らねえ奴に真剣に取り合うとでも?」

 

…………沈黙

美少女は顎に手をやり小首をかしげる

いちいち様になるからなおムカつく

 

「名乗りの時にふざける人に名乗るほどの名前なんて持ってないから名乗らなかっただけよ」

 

「ほうほう、つまり名乗るほどの価値も持ち合わせてないわけだ、君はゴ ミ 虫 なのかなぁ?」

 

煽りには煽りで返す、毒には毒を

ハンムラビ法典が基本なやり取りである

 

「……ごほん、比企谷そこまでにしとけ」

 

「…………げっ」

 

そんなやり取りを仲裁するかのように平塚先生が部室に入ってくる

 

そんな平塚先生に対して美少女は眉をひそめる

 

「先生、ノックしてくださいと何度言えばわかるのですか?」

 

「すまんすまん許してくれ、雪ノ下」

 

(…………雪ノ下、それがこいつの名前か)

 

八幡は平塚先生と雪ノ下のやり取りをじっと聞く

 

「そうだ、そうだ、今日から奉仕部に入部することになったーー」

 

「ゴミ谷くんですよね」

 

「あららぁ?ちょっとひどくなーい?」

 

雪ノ下は舌打ちをして話を続ける

 

「私は反対です、こんな人間性の欠片もない動物が入部するなんて」

 

「…………そこまで言うか」

 

平塚先生は苦笑いしながら答える

八幡はヘラヘラと笑みを浮かべながら黙る

 

「ならばこうしよう、こいつを更正させろこれは依頼だ」

 

不敵な笑みを浮かべながら平塚先生が言う

 

「…………依頼ですか…………それなら仕方ありません」

 

雪ノ下はため息をつくと気合いを入れた表情で八幡を見る

 

「これからよろし……く……!?」

 

そのあとに続く言葉は出なかった

 

なぜなら、八幡は無表情で雪ノ下を見ていた

 

腐った濁ったなどさんざんに言われてきた瞳が光を移さないかのようにまるで、落胆したかのようにあるいは興味を失ったような瞳になっていたからだ

 

ヘラヘラとした、態度の八幡ではなく

戦場を渡り歩いてきた希望も絶望もないただ動く兵士の表情であった

 

そして、八幡は己が戦うであろう戦場を定める

 

「平塚先生、俺ここで奉仕します」

 

「ん?いいのか!?」

 

「ええ」

 

八幡は平塚先生に視線を向けることなく気だるげに言う

 

「ここなら…………」

 

小さく呟かれた言葉は誰にも聞こえず

大きな波紋を呼ぶこともわからず

 

奉仕部は狂犬を招き入れた



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chapter3

始動


「とりあえず、顔合わせは終わったから今日は、解散してもいいぞ」

 

平塚先生はそういうと足早にラーメン♪ラーメン♪豚骨ラーメン♪と歌いながら部室を後にした

 

「……あれだから結婚できないんじゃ」

 

雪ノ下がボソッと呟く

それに対して八幡は苦笑しつつ同意する

 

「あら、意外ね」

 

「意外よりも残念系女子の筆頭だろうあの人は」

 

という八幡も残念系なのは変わりない

 

「ところで、平塚先生からこの部活の活動内容は聞いたのかしら?」

 

「それが聞いてないんだよねー、これまた強制連行でここに送られてきたってわけ」

 

「そう……、とりあえず説明するとこの部は、相談にきた人をサポートする部活よ」

 

相談にきた人をサポートする部活……

つまりは何でも屋ってことか

 

八幡は大まかに活動内容を理解する

 

「そこで、活動内容を誤解してほしくないのは私たちはサポートするだけで全てを手伝うわけではないわ」

 

「それは本人のためにならないからですかねー部長?」

 

「察しの良い人は好きよ」

 

「それはそれは光栄に」

 

そんな掛け合いを続けつつ、あらかた説明を受ける

 

そして、説明も終わり一息ついているところ

雪ノ下が淹れた紅茶を飲みながら八幡の噂の真意を訊ねた

 

「あなた、不良との噂があるけれど話してみたところ全然そんな感じはしないわね」

 

「あー、ゴミ虫どもがブンブンと煩くしてることか?そりゃ嘘、原因は下らないミジンコレベルのことで入学式に出られなかったせいさ」

 

「そう…………」

 

「つってもまぁ、元々レベルの低い連中のことなんざ歯牙にかけたところで時間の無駄だしな」

 

実際に八幡は何も悪いことはしていない、可もなく不可もなくそつなく生活している

もちろん彼が生活しやすいように小町が影さながら暗躍していることは言うまでもない

 

「まぁ、部長は話がわかるレベルの高い奴と話してわかった」

 

「…………そんなに人間観察が得意なら級友でも作れたのではないのかしら」

 

「いやいやぁ、そんな俺は人間できてないですよぉ?大体そんな連中とつるんだところで糞にも役に立たないわけだし」

 

「結構辛辣なのね」

 

「これが評価ってやつさ」

 

二人苦笑しつつ、ゆったりとした時間が過ぎていく

 

「そろそろ解散にしましょうか」

 

「あいあいさー」

 

窓の外には夕日が射し込みグラウンドを赤く照らしている

運動部もまばらになってきている

 

さっさと帰宅準備を済ませ、雪ノ下を待つ

 

(……雪ノ下雪乃面白い人間だ)

 

(……ずいぶんと面白い目をしている)

 

あのときの、ルーキーのような、不屈に満ちた瞳が脳裏に浮かぶ

 

(ここなら俺の探していた可能性を確かめられるかもしれん)

 

「比企谷くん?」

 

戸締まりを済ませたのか、八幡の目の前でキョトンとしている雪ノ下

 

「あぁ、すまん少し考え事をしていた」

 

「そう、なら帰りましょう」

 

「あぁ、また明日」

 

「ええ、また明日」

 

二人は反対方向に歩き出す

 

雪ノ下は微笑みを浮かべながら

 

比企谷八幡はこれから起こるであろう様々なことに愉悦を浮かべながら

 

こうして彼、彼女の物語は始まった



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chapter4

比企谷八幡の日常はまず、人間の可能性の証明から始まる

 

「お兄ちゃーん、起きないと人間の可能性が消えちゃうよー」

 

小町のふざけたような言葉が一階から響く

そんな言葉に比企谷八幡は意識を覚醒させる

 

「じゃあお前と喧嘩して証明してやろう」

 

そう言いチャッチャと制服に着替える

この間二分

無駄な時間は極力省く

 

「それはいいから早く席についてよー」

 

「わかったから待ってろ」

 

一階に降りるにつれて美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐる

 

両親はとっくのとうに仕事に出ており、朝食は小町と交代交代で作っている

 

「小町、レジスタンスの動向はどうなってるかわかる~?」

 

「今のところ目立った動きはないけど、そのうち活動しはじめるかも」

 

小町はそういいながら携帯端末(スマホに似た)をチェックする

一応、八幡はプログラムに当てられているがゴミ虫(レジスタンス)がプログラム実施地区に現れたときは迎撃に向かわなければならない

 

「今動いてないならどーでもいい」

 

リビングに入り飼い猫のカマクラを撫で、席につく

 

うむ、美味しそうな飯だ

八幡は小町と共に朝食を取り始める

 

「そーだ、財団から連絡入ってたよ」

 

そしておもむろにそういう小町

それに対して眉間に皺をよせる八幡

 

「…………ほっとけ」

 

しかめ面のまま卵焼きに箸を伸ばしたときだった

 

「その扱いは酷くないかい主任」

 

軽薄そうな嘲るような声がリビングに響く

どことなくあどけなさが抜けない聞く分には良い声

 

彼は戸塚彩加、総武高校にて八幡を監視する者である

コードネームは財団である

 

「…………朝食の邪魔してんじゃねえぞゴミ虫」

 

しかし八幡は舌打ちをし視線を向けずに不機嫌なのを隠しもせず言う

 

「君とボクの仲じゃないか」

 

「はっ!寝言は寝て言えよ」

 

「つれないなぁ、いつからそんなにボクのことを毛嫌いするようになったんだい?」

 

「むしろテメエと仲良かったことなんざあったのかねぇ」

 

いつもより3割増し位の語気の強さで言う八幡、もちろん視線など向けない

 

「教室だと仲良くしてくるのに?」

 

「お前が勝手に話しかけてくるだけだろうが」

 

「馴れ合いの途中失礼しますが、お二人ともお時間は大丈夫なのですか?」

 

小町の凍てつくような一言で二人は時計を見る

 

「……ヤバくないかい?」

 

「こりゃヴェンジェンス平塚にどつかれるぞ」

 

八幡と戸塚は荷物を手に取ると全力で家から飛び出していった

ー再教育プログラム補佐官報告書からの削除内容ー

もちろんお互いに罵倒しあいながらだ

しかし、財団はおちょくるような発言ばかりだが八幡をよく気にかけているようでもあった

これは、キマシなのか……?

財団は見てくれは可愛らしいし……ふむ、夏には薄い本が熱くなるな、ぐ腐腐……

 

ー以上の内容は削除後秘匿とするー

 

 

 

(ここのところ吐き気を催すほどに財団がウザい)

 

八幡は授業を聞き流しながら戸塚を見る

真剣に授業を聞きつつ、時折八幡を見て小さく手を振ってくる

律儀に手を振り返すのも後々バカにされるか屈辱的な言葉と共に自分に反ってくるので無視を決め込むのが妥当と判断し八幡はそう決定する

 

(訳のわからんやつほど厄介なものはないしな)

 

そもそもが戸塚がこの実施地にいること自体がおかしい

彼は企業の中でもかなり上の存在だ、しかも戦場で見かけたことがほんとにない

 

おそらく何らかの研究チームにでも所属しているのだろう

 

何かの研究のためにここにいるのか、それとも全く違う理由でいるのか?

 

(結局はどうでもいいことなんだがな)

 

考えたところで戸塚が何をしようとしているのかわからないし、何かしたところで企業が尻拭いを行うだけだ

 

(俺には関係ない)

 

そう結論付け、八幡は再び授業を聞き流しはじめた

こんな授業など生きていく上で全くと言っていいほど役にたたない

 

「比企谷、ここを答えてみろ」

 

教師が八幡を指名する

どうやら、人物の考えを述べる問題らしい

 

「疑心暗鬼に陥っているところから考察すると、周囲に裏切られた経験をもっているから、誰も信じられないと考えてるのでは?」

 

適当に答える、八幡は役にたたないことで時間を割くほど無駄を愛しているわけではないのだ

 

「う、うむ……」

 

教師は顔をひきつらせつつ、解説に入った

 

(あー……、ダルい)

 

朝から無駄な体力、思考、時間を使ってしまった八幡は

放課後を待ち遠しく思うのであった



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chapter5

今日も虚しく、終業のチャイムが校内に鳴り響く

軽いテンポで八幡以外の学生の気分を高揚とさせている

 

等の本人は、今朝よりも数段以上はるかに上の般若のような表情で席の前に立つ人物を殺すような視線をぶつけていた

 

「やぁ、八幡このあと暇かい?」

 

「暇じゃねえよタコ」

 

不機嫌にさせている戸塚彩夏は満面の笑みで八幡に話しかける

端から見るとただ八幡が理不尽なだけのように見えるが仕方のないことである

クラスの可愛い(中身はイカれてるが)担当に対して

我らが八幡は不良(正真正銘のイッてるやつ)と勘違いされている

 

これは八幡にとって部が悪い

 

「酷いなぁ八幡は……、いつもそういってボクのことをぞんざいに扱ってさぁ……」

 

戸塚が妖艶な表情で八幡を見る

 

「キマシッ」

 

教室の端で誰かが倒れたようだ、クラスが騒がしい

八幡はそんな情報を耳に入れつつ、戸塚に対して睨みを聞かせる

 

「それ以上ふざけたことするならわかってんだろうな……」

 

本気の殺意を向ける

ルーキーにだって向けたことのない、憎悪に満ちた視線

 

それを戸塚はヘラヘラと笑いながら受ける

 

「わかった、わかったから落ち着きなって」

 

八幡は盛大に舌打ちをし、席を立つ

 

「ほんとは奉仕部に依頼があるんだよ」

 

「あ?テメーでどうにかしろよ、それくらい余裕だろ?」

 

実際に彼ほどの狡猾さであればわざわざ奉仕部に来る必要など微塵もない

 

しかし、戸塚は依頼があるという

八幡はすぐさま、これは罠だと判断した

 

「……ひねくれてるというよりもこうも拒絶を顕にされると引くしかないね」

 

戸塚は困ったような表情を浮かべ、教室を出ていこうとする

 

「あ、でも近々お邪魔するからね」

 

「……チッ」

 

戸塚は最後にそう言い残し、出ていった

 

八幡もカバンを手に取り奉仕部へと歩を進めた

 

クラス中の冷めた視線を背中に受けながら、彼は孤を貫く

 

 

 

「よぉ」

 

「あら比企谷くん、遅かったのね」

 

部室に入るなり本を読んでいた雪ノ下は顔を本から上げ八幡に微笑みかけた

 

「まぁ、なんだ、ちょっとゴタゴタがあってな」

 

「そう……」

 

八幡は頭をかきながらバツの悪そうな感じで答える

それに対して雪ノ下は深追いせず、同情するだけにとどめる

 

そして、八幡も席につき本を取り出す

その瞬間だった

 

「し、失礼しまーす……」

 

客が来た

 

「ようこそ、奉仕部へ」

 

いつも通り探るように挨拶をする雪ノ下

 

「……あん?由比ヶ浜じゃねえか」

 

それに対して、少し驚いたように話しかける八幡

 

「や、やっはろー……」

 

それに対して少しビビりながらも挨拶をする由比ヶ浜

 

八幡は決してバカではない

ましてや、鈍感でもない。つまりは由比ヶ浜がビビった原因などすぐさまわかる

 

「あー、すまないが雪ノ下さんよぉ、俺は少しだけ暇を貰うぜー」

 

気を効かせて部室を出ようと席を立とうとするが

雪ノ下はそれを制した

 

「ダメよ比企谷くん、あなたは奉仕部に所属してるのよ」

 

確かに正論である、しかし八幡からしたら勘弁してほしいのに変わりはない

 

「しかしだな……」

 

由比ヶ浜をちらりと見る、由比ヶ浜は条件反射よろしくビクッと震える

 

「とにかく比企谷はここにいなさい」

 

雪ノ下は由比ヶ浜の様子を知りながらおそらく参加を強制していると八幡は確信したのであった



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chapter6

結果として、比企谷八幡は雪ノ下雪乃に強制参加を命じられ、反論も出来ぬまま、部室の端に椅子を持っていきそこで、視線を由比ヶ浜から外しつつ話を聞くことにした。

 

「私ね、お世話になった人にお菓子をプレゼントしたいの、でも作ったことなくて不安でどうしようか迷ってたときに彩ちゃんが奉仕部の話を出したから……」

 

由比ヶ浜は徐々にだが雪ノ下に、目的を話始めたのだが正直、八幡からすればどーでもいい話でしかない。

 

そもそもがお菓子など調理本を見れば作れる。戦場において調理などしてる暇などなかったが少なくとも夜営用の飯は作ることは八幡ですら本を見ないで作れる。

部隊の連中からはもっぱら評判であったのも忘れてはいけない。

 

小町は小町で趣味が料理みたいなものだし、八幡からすれば、由比ヶ浜がお菓子どころか料理さえ作れないということは想像もつかないことであった。

 

「わかったわ、協力しましょう」

 

雪ノ下は瞳に微かに炎を宿らせ承諾した。

由比ヶ浜はそんな雪ノ下に対して笑顔を浮かべる。

 

(……ほう、そんな顔が出来るのか)

 

八幡は、ちらりと雪ノ下と由比ヶ浜を見て内心呟いた。

教室で見かける由比ヶ浜はどこかオドオドした感じが見受けられていた。しかし、雪ノ下に対しては輝かんばかりの笑顔を見せている。

これから察するに、相手に対して遠慮して空気を読みすぎていると言うことと考えられる。

 

しかし八幡はそんな由比ヶ浜を見て内心表情を歪める。

 

馬鹿馬鹿しい。

この一言に尽きる。

 

遠慮などする必要はない、遠慮するような人間関係などいずれ壊れる。

限界まで水を入れた水風船のようなものだ。

 

「とにかく、ここではお菓子なんて作れないわ、家庭科室にいきましょう」

 

雪ノ下はそう提案すると荷物をまとめ始めた

 

「勿論比企谷くんも一緒によ」

 

八幡は眉にシワを寄せながらため息をついて雪ノ下と同じく荷物をまとめ始めた。

 

由比ヶ浜は少し震えながら八幡のことを見ていた。勿論八幡はそんなこと気付いている。わざわざ指摘するほどのことでもない。

 

そして、一同は家庭科室に向かった。

 

 

――家庭科室

 

「……ど、どうかな?」

 

由比ヶ浜は出来立てのクッキーらしきものを八幡と雪ノ下に差し出す

 

見てくれはギリギリクッキーとわかる、しかし味は保証できていない。

まるで依頼元がわからない高額報酬の任務を受けるのと同じくらいの博打物ということは一目でわかった。

 

八幡と雪ノ下はお互いに顔を見て雪ノ下からクッキーに手を伸ばす。

そして、口に含んだ。

 

「…………可もなく不可もなくかしら」

 

雪ノ下は苦笑いしながらそう言った。

このとき八幡は察した。

 

(雪ノ下がお世辞を言った……?どんな不味さなんだよ……!!)

 

「ひ、比企谷くんもどうぞ……」

 

「あ、あぁ」

 

由比ヶ浜に催促をされクッキーに手を伸ばす。

 

そして一口。

 

「………………レーション?」

 

「クッキーだからね!?」

 

一瞬素で答えてしまった。

それに対して由比ヶ浜は八幡を睨み付ける。

しかし、実際にそんな味がしたのは事実。

 

「と、とにかく、由比ヶ浜もう一度作ってみましょう?」

 

雪ノ下はオロオロしながら八幡と由比ヶ浜の間に割り込む。

 

そして、第2ラウンドが始まった。

 

 

 

結果から言おう。

まぁ、ゴミ虫の相手には丁度良かったんじゃない?(震え

 

「うーん……、何がいけないのかなぁ」

 

由比ヶ浜は可愛らしく首を傾げる。雪ノ下も同じく首を傾げる。

 

「レシピ通りに作っているのに……」

 

「「うーん……」」

 

おそらく、このままでは解決できずに終わってしまう。

この地獄までとは行かないが茨の上でブレイクダンスをしたような時間が無駄になる。

八幡はそう考えに至り、こう思いもした。

それだけは勘弁願いたい。

 

なら、ここは掻き回すだけ。

 

「ねぇねぇ、お嬢さん方ちょーっとよろしいかな?」

 

比企谷は道化のような表情で二人に話しかける。

雪ノ下は話し方にイラついたのか眉にシワが寄っている。

由比ヶ浜は怖がっている。

 

「どうかしたの比企谷くん?」

 

「思ったんだけどね、別に手作りじゃなくてもよくない?」

 

この一言で場が凍り付いた。

 

「……何を言っているの?」

 

「ひ、比企谷くん?」

 

「そもそもがね、手作りよりもちょっとした物でもよくない?その方がお互いに傷付かなくていいでしょー?」

 

「手作りに意味があるのだと思うのだけど」

 

雪ノ下は凍てつくような視線を八幡に向ける。

八幡はただ、それに対しておどけるだけ。

 

「確かにそーだけどさ、由比ヶ浜も自分が料理下手って理解してるよねー?」

 

「う、うん……」

 

「なら、無理して作る必要はないはずさ」

 

無理などして録な目にあっていない八幡からすると、無理をするなど大抵、ハイリスクノーリターンが定番だ。

だから、人生経験の先輩からのアドバイスを言う。

 

「無理をして作る必要なんざねーさ、気持ちを伝えりゃそれで十分だ」

 

「……そっか」

 

由比ヶ浜はどこかつっかえが取れたように、少し表情が和らいだように感じた。

その様子を見届け、八幡は雪ノ下に視線を向ける。

 

「比企谷くん、あなたまともなこと言えるのね」

 

雪ノ下は驚いたように口を手で覆っている。

 

「いくらなんでもひどいなぁ部長は」

 

八幡はそう返し、由比ヶ浜に再び視線を向ける。

 

由比ヶ浜は雪ノ下と八幡の様子を見て、微笑んでいた。

 

八幡は、その表情を見て内心でこの問題は終着したと確信したのであった。

 



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chapter7

「雪ノ下さん、比企谷くん今日はほんとにありがとね」

 

相も変わらず爽やかな笑顔を浮かべる由比ヶ浜。

八幡は特に反応を見せることなく携帯端末をいじる。

 

先ほど、着信が入ったようで放置しすぎると帰宅後に何を言われるか分かったものではない。

 

「いいえ別にお礼はいいわよ、本当はちゃんと教えたかったのだけれど……」

 

雪ノ下は少し、残念そうにそう言った。由比ヶ浜も少し残念そうだ。

八幡はそれに対して、閃いたように言う。

 

「毎週料理習いに来ればいいんじゃねーの?」

 

その一言に由比ヶ浜は目を輝かせる。

 

「それだ!」

 

「それはダメよ」

 

しかし、雪ノ下は言いにくそうに言葉を続ける。

 

「奉仕部は自立を促すような活動をしてるのよ、さすがにそれは……」

 

言葉が途切れ途切れになりつつある。きっと言いたくないのだろう。八幡からすれば、まぁ、知ったことではないがここでは何も言わない。

 

一応、由比ヶ浜をこちら側に引きずり込む甘い甘ーい言葉もあるが、ここは雪ノ下の言葉通り自立を促すために何も言わないでおく。

 

言おうが言わないでいようがどうせ結果は同じ、どうせヴェンジェンス平塚が引きずり込むだろう。

 

わざわざ面倒なことはしない、特段に面白いことでなければだが……。

 

「雪ノ下さん、ううん、ゆきのん」

 

「ゆ、ゆきのん……!?」

 

唐突に話をぶったぎる由比ヶ浜、それに対してあだ名に対してキョドる雪ノ下。

 

面白そうな匂いがプンプンする。

八幡はそう確信し、愉悦を僅かに顔に浮かべる。

 

「うん、ゆきのんともっと仲良くなりたいからあだ名つけちゃうね」

 

「そ、それは構わないのだけれど……」

 

「で、本題はここからだよ。私奉仕部に入る」

 

「そ、そう」

 

「ゆきのん反応冷たいよ!?」

 

 

思った通り。八幡は無言のままだが思考にふける。

今後の奉仕部の行方を。

狂犬を招いてしまった奉仕部の行方を。

楽しみはまだまだこれから。

 

(あぁやはり人間は面白い……!!)

 

とにかく、小町から連絡があったことだしとっととここから引き上げる。

 

「あー、お嬢さん方すまないが俺、帰るわ。家で可愛いすぎて逆に憎たらしい妹に早く帰ってこいと催促されてね」

 

「「比企谷くん妹いたの?」」

 

八幡の道化ぶった発言よりも妹がいることに興味が向くこの二人。だいぶ八幡の特徴をつかみ始めたようだ。

 

「お、おう」

 

思わず素に戻る八幡。

 

「ヒッキーこんど写真みせて!」

 

由比ヶ浜が唐突に八幡に近寄る。しかもあだ名まで引っ提げて。

 

「わ、わかったから」

 

「事情はわかったは比企谷くん、また明日」

 

雪ノ下は由比ヶ浜を八幡から引き剥がしつつ、そう言う。

 

「おう、また明日」

 

八幡は荷物を手に取り家庭科室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

――比企谷家

 

「緊急回線なんか使ってきてどうした」

 

比企谷は帰宅後すぐに小町のところに向かう。

 

「ナインボール:セラフが明日来ます。」

 

……………………は?




雪ノ下は突然のことに対処できない。
由比ヶ浜は先が読めない。(八幡の大好物な思考回路をさした人間)
戸塚は何を考えているのかわからない。
八幡は何をしでかすかわからない。

平塚は真っ当な先生。


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chapter8

ナインボール、これは企業の上層部またはそれに準ずる権威を持つものしか詳細を知ることのできない機体、コードネームである。

そして、そのナインボールには階級がある。

さらにナインボールのトップは特殊な機体を駆るそうだ。

作戦行動部隊の八幡は詳しいことは知らないが、戦闘を見た人間は総じてこう言う。

 

《奴は最強のAC乗り、ナインボールのトップだ》

 

機体の名前はナインボール:セラフ

奴は化け物だ。

 

「………………小町何をやらかした」

 

「私はなにもしてません、貴方が何かしたのでは?」

 

八幡は少し思考に入るが全くもって見に覚えがない。

むしろここ最近の彼は大人しすぎて逆に恐ろしいほどだ。

 

「とにかくだ、ナインボールが来るということは何かしらあったんだろうなぁ」

 

八幡は現実味がなくぼーっとした表情を浮かべながらそう呟いた。

 

「上層部から連絡です。ナインボールが自発的に会いたいと希望を出した。だそうです」

 

ますますわからない。

 

「一応、ハングドマンの準備をしておけ」

 

「そういうと思い、準備はできています」

 

流石は、長年パートナーを勤めているだけはある。八幡の考えていることは簡単に予想がつく。

 

そのときだった。

 

ピンポーン。

普段は全く鳴らないインターホン。

 

八幡、小町は共に顔を見合わせる。

一応、小町が応答をしてみる。

 

「どちら様でしょうか」

 

「企業って言えばわかるかな小町ちゃん?」

 

インターホンから聞こえる声。とても澄んだ声。とても最強とは程遠い声だ。しかし、ここで小町を見てみよう、顔が青ざめている。これ程など無いほどにだ。

 

「勝手に入るねー」

 

インターホン越しに聞こえる死刑宣告。

 

急いで小町が八幡の背後に隠れる。軽やかな声にとてつもない威圧が混ざっていた。

 

「おー、いたいた。はろはろー比企谷主任♪」

 

「ど、どうも……」

 

目の前に居る女性は一目でわかるほどに美しい。というか完璧な造形品のような風貌をしていた。

そして、笑顔なのだがどこか寒々とした印象がとても強い。

 

八幡はこれだけでなく、もうひとつ何か引っ掛かった。

 

冷めたような目、どこかで見た……

 

「やだなー、そんな死んだ魚みたいな目でジーっと見られたらお姉さん惚れちゃうぞ?」

 

八幡の間近に迫りなからそんなことを言う。

 

「寝言は寝て言えよ、で天下のナインボール様がしがない一軒家に何の用ですか?」

 

おちょくるような言葉に対して反応を見せずに淡々と話を進める。

 

「あーん、比企谷主任冷たいよー?」

 

キャッキャしてる女性を八幡はさらに眉間に皺を寄せる。

その反応を待っていたのかさらにニヤニヤしながら見てくるナインボール。

 

「いい加減にしろよ何の用だと聞いてるんだ、簡潔に答えろ」

 

八幡は語気を強めながら言う。

 

「そんなの決まってるじゃん、君への忠告と行動についてだよ」

 

背筋が凍る。

この一言に尽きる。

 

八幡を貫いた物は尋常ではない気配。まるで人間ではないようなそんな考えを持たせるほどのものだ。

 

「このまま再教育プログラムに反抗する素振りをみせるなら、お姉さん本気出しちゃうぞ☆」

 

鼻と鼻が擦れそうなほどの距離で、言われる最後通達。

 

「別に反抗なんざしてねえよ、そう見えるならもっとましなプログラムを用意するこったな」

 

八幡は特に意に介することなく嘲笑う。

それはまるで楽しくて愉しくて仕方がない様子で。

 

「へぇ……、いい顔するのね」

 

ナインボールは、改めて笑顔を浮かべる。

 

「そーだ!いいこと教えてあげる!」

 

まるでおもちゃを手にいれた子供のような笑顔を浮かべる。やはり誰かに似ている。

 

「私の名前、《雪ノ下陽乃》って言うの、賢い君なら何のことかわかるよね?」

 

八幡は納得したように目を丸くする。

通りで似ているわけだ。

まさか姉妹だとは……。

 

「小町ちゃん、今度お茶しよーね」

 

陽乃は言いたいことは言い終わったのか小町に一言声をかけた。

 

「は、はい……」

 

小町は小町でビビりつつも、返答する。

 

「それじゃあ、《また》ね」

 

最強の異名を持つ彼女は台風のように比企谷家をかき乱し後にした。

 

残された二人はしばし呆然とするのであった。

 




ごめんなさい!

「黙れよ」

出せませんでした……!


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chapter8.5

世界観と設定

独自設定があるためご注意を


《世界情勢》

 

この世界は企業によって支配されている。

 

過去にあった《国家解体戦争》により国と呼べるものはなくなった。

そして、そこに世界に対して影響力のある企業が世界を導くという、名目で支配者となった。

 

政治家は企業の上位権利者しかなれない。

 

企業は3つの組織に別れていたが、最終的に統一された。

 

それにより、各県や国を区域とし自治体が管理している。

 

《アーマードコア》

 

この世界に置ける、決戦兵器のようなもの。

つまりは、戦争兵器。多くのアーマードコアは企業に属している。

 

一般人でも志願をすれば乗れないことはない。

ただ、戦場で生き残れるのとは別問題。

 

《レジスタンス》

 

企業のやり方に反対し、アーマードコアを利用し各施設を攻撃したりする。比企谷主任曰くゴミ虫。

 

一度、比企谷主任によって壊滅されている。

 

《千葉県》

 

戦場から最も離れた平和な区域。

企業の支配下にあるが特にレジスタンスの標的や企業による危険な実験、開発はされていない。

 

《総武高校》

 

変鉄のない普通の高校。

しかし、所属している生徒のなかにリンクス、AC乗りが潜伏している。

 

《リンクス》

 

AC乗りのランク上位者のこと。No.30からNo.1まである。No.1は何度も水没しているとか。

 

補足としてナインボールはランク外でランクの決めようがない。

 

《AC乗り》

 

独立傭兵。金次第でさまざまな依頼を受ける。ただし名前が売れなければ高額な依頼は舞い込んでこない。

 

《企業》

 

実質世界を支配している組織のこと。代表としてアクアビット、GA、などがある。下請け企業はキサラギなど。

 

企業全体の特徴は企業管理区の統制と、アーマードコアの開発。

 

なお、キサラギなどは頭のおかしい発明や研究を行っておりAC乗りとネクストからは変態企業などと呼ばれている。

 

なお、大企業の上の組織がある。比企谷主任はそこに所属している。

 

《ナインボール》

 

ネクストとはまた違う、ランクをもつ者。大体は企業お抱えの化け物パイロット。

ナインボール:セラフはナインボールを統率する存在で、企業の上層部の人間と同じぐらいの発言力をもつ。

 

《???家》

 

古くから企業に資源、資金を提供してきた企業の影の支配者。

とある地区を企業から自治体として提供されている。

 

《戸塚財団》

 

とある研究を一任されており、比企谷主任とは古い仲。しかし、比企谷主任曰く蛇のようなやつと評価されている。

主任のサポート役である。小町とは特に問題もなくやりとりしている。

学校では天使のような振る舞いをしつつ、執拗に比企谷主任に絡み、クラスの皆から心配されている。

テニス部の部長として君臨し、過ごしやすい環境を作っている模様。



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chapter9

特に何の問題もなく、日中の授業が終わり戸塚も八幡に絡むことなく平和に終わろうとしたところだった。

 

「ヒッキー!」

 

八幡は舌打ちをしつつ、返答する。

 

「んだよ、ヒッキーとか不名誉なあだ名つけるな」

 

そう、何故だかわからないがこの由比ヶ浜は八幡に全力で絡みに来るようになった。

 

きっと奉仕部に早く馴れたいのだろう。まぁ八幡に関わろうと関わらずとも変わらないとは思うが。

 

「やぁ、八幡」

 

「出口はあっちだぜ?」

 

戸塚も負けじと八幡に話しかけてくる、が構ってやるほど八幡は優しくはない。

そもそも何故戸塚が由比ヶ浜と張り合っているのかさえ謎だ。

 

「そんなそっけないこと言わないでよー」

 

ニヤニヤしながら戸塚が言う。反面八幡は眉間にさらに皺をよせる。

 

「むー……」

 

由比ヶ浜はそんな二人をみて不満そうに変な声を出す。

こちらもこちらで八幡は理解できない。

 

「そうだぞヒキタニくん、彩夏がかわいそうだ」

 

「あぁ?」

 

唐突に会話に入り込んでくる輩。

我が高校が誇るトップエリートの葉山 隼人。

 

だが、そんなことどうでもいい。

 

「今何て言った?お前、今誰のことを何て言った?」

 

八幡の表情がみるみる内に険しくなりさらに元々腐っている目がさらに濁る。

 

「君のことをヒキタニくんって呼んだだけだけど?」

 

葉山は肩をすくめおどけた風に言う。

それに対してさらに不機嫌になる八幡。

 

「ひ、ヒッキー……?」

 

由比ヶ浜がビクッと震える。戸塚は呆れたように笑い由比ヶ浜と共に八幡から距離をとる。

 

「ちょーっと危ないから由比ヶ浜さん下がろうねー」

 

「え、あ、うん……」

 

葉山は恐らく八幡がキレているのをわかって煽っている。

八幡はあえて、それに乗っかり間接的に威圧している。

 

由比ヶ浜が気軽に話しかけてきたことにより、気安く話しかけられると言うことが発生しないようにの処置だろう。

 

その効果として言えば、三浦優美子が少し震えている。

 

「あー、あー、そーかいそーかい、ならてめえは枯れ葉たなぁ!」

 

八幡も応戦し、互いにヒートアップしていく。

 

結果、休み時間全てを使い、言い争いが続いた。

 

 

その日の昼休み。

屋上にて、今朝の二人がフェンスに寄りかかっていた。

 

「やぁ比企谷、さっきはすまなかったな」

 

「はっ、別に構いはしねぇよ」

 

葉山はいつも以上に晴れやかな顔をしており、八幡は逆に疲れきった顔をしていた。

 

「さぁて、君の依頼を完遂したんだ、報酬を貰おうか」

 

にこやかに八幡に報酬を要求する。

 

「現金な野郎だ……、ほらよ」

 

八幡はブレザーの内ポケットから小型のデータ端末機を葉山に投げ渡す。

 

「そんなかにレジスタンスやらナインボールやら死神部隊の情報がたんまりと入ってる」

 

葉山はそれを受け取り、笑みを深める。

 

「でも良いのかい?元々敵対組織だったORCA旅団のトップに簡単に情報を渡して」

 

端末を弄りながら葉山は純粋に問いかける。八幡の目的はわからない。特に予想がつかない爆弾のような存在。それがORCA旅団の見解だった。

 

「別にどーでもいいだろう?俺は愉しければいいだけだ。企業、ナインボール、それこそORCAなんてものは俺が行動する上で何の障害にもならない」

 

八幡は顔を笑みで歪めながらそんなことをいう。

そもそもがこんな狂人に常識や仲間意識が通じるわけがない。そう葉山は改めてこの八幡という人間を認識した。

 

「へぇー……、まぁいいさ。この情報は有意義に使わせてもらうよ」

 

葉山はそういうと教室に戻る。

 

「おー、勝手にしろ」

 

八幡はそんな葉山を見送る。

 

ぼんやりと、空を眺めながら。




補足というなの書き忘れ。

ORCA旅団
企業の所業により退廃的になりつつある世界に活気を取り戻そうとしているボランティア軍団(大嘘)。

元々、レジスタンスと共に企業から目をつけられていた反抗勢力。
しかし、レジスタンスのやり方に疑問を持ち、反抗勢力としては離反した。

結果として、企業の傘下に入り内部から改革を起こそうと画策している。企業としては新たな方向性としてORCA旅団の行動は黙認している。

内部改革を行いつつ、実働部隊として独自の戦力を保持している。
戦力としては中小企業のものより遥かに少ないが、実力はナインボール部隊に匹敵するほど。

旅団長は葉山隼人。
企業からの命を受けて八幡の監視を行う。

八幡との関係は良好で八幡曰く、ORCAの反抗意識は称賛に値し、ゴミ虫(レジスタンス)よりも好感が持てるらしい。
とくに、冷静そうに見えて葉山の目に写る静かな殺意や闘志は彼を純粋に楽しませているようだ。


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chapter10

下らない授業が終わりこれから来るであろう至福の時間に思いを馳せている八幡。

 

「I'm thinkerとぅーとぅー」

 

思わず鼻歌が出てしまうのも仕方ない。

面白いことだらけの放課後。もちろん常人とは違う思考でとらえているのだが。

 

「やぁ、ごきげんよう」

 

「Day After day Things are rolling 」

 

羽虫のことなど気にしない。気にする気も起きない。

 

そんなことよりも、《雪ノ下》の存在だ。

 

ナインボール=セラフの言うことが本当なら、雪ノ下雪乃も同じように何か、企業やリンクス、ACに関わってる可能性がある。

 

それも、想像以上のなにかにだ。

 

「無視はやめてもらえるかい、主任」

 

相変わらず何を考えてるのかわからない顔をした変態が八幡の顔を見る。

 

「なんだよ」

 

「君に依頼だよ」

 

歪んだ笑みを浮かべ、戸塚は言った。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

「で、何故私たちまでここに連れてこられてるのかしら」

 

「まぁまぁ、落ち着いてゆきのん」

 

雪ノ下と由比ヶ浜は八幡を少しだけ睨みつつ、現状把握を進めていた。

 

それはいつも通りの放課後だった。

雪ノ下も由比ヶ浜も、八幡の到着を待っていた。

 

雪ノ下は八幡との意義ある会話を楽しみにしていたし、由比ヶ浜は由比ヶ浜で八幡と雪ノ下の楽しそうな雰囲気をその場で感じるのを楽しみにしていた。

 

そんな時だった。

 

部室の扉が開き、雪ノ下と由比ヶ浜は目を向ける。

 

しかし、そこにいたのは

 

「やあ、こんにちは」

 

小柄だが、どことなく八幡に似た目をするおかしな人間だった。

 

「こんにちは」

 

由比ヶ浜は少しビビりつつ、返事をする。

 

「奉仕部に依頼ですか?」

 

雪ノ下が眉に皺をよせながら聞く。

 

何となくだが………、この人間はどこかおかしい。

雪ノ下は直感でそう捉えた。

 

「もちろんだとも!君たちにちょっとした依頼をね」

 

楽しくて楽しくて仕方ないような笑みを浮かべ目の前の人物は告げる。

 

「ボクはテニス部に所属してるんだけどさ、最近活動中にアホな連中が絡んでくるんだ。君たちにはこのアホな連中を追っ払ってほしい」

 

「……………」

 

部活動中に妨害してくる?そんな奴等がこの学校にいたのか……?

 

雪ノ下は疑問に思いつつ、考えを深める。

 

「わかりました、その依頼受けましょう」

 

「ありがとう。そうそう比企谷は先に現場にいると思うから。後はよろしく」

 

そう言うと、彼は部室から出ていった。

 

そして、現場であるテニスコートに着いた。

 

そこで目にしたのは、

 

 

「アーッハハハハハハ!!!まだまだいくよーっ!!?」

 

 

一方的な蹂躙だった。

 

細かく説明すると、八幡がラケット片手にテニスボールを散弾のように相手に向かって打っていた。

 

相手はというと、膝はガクガクと震え立つことさえ儘ならない状態だった。

 

よく見ると、葉山と三浦だ。

 

「クソッ………」

 

「化け物かなにかじゃないのあいつ………」

 

息も途切れ途切れに悪態をついていた。

 

「葉ー山くん!ダメじゃないかぁ~しっかりと部下の管理しなくっちゃさぁ!」

 

八幡は愉悦に満ちた表情でサーブを続ける。

 

いつの間にか周囲を取り囲んでいた観衆はひきつった顔でこの惨状を見ていた。

 

「あ、ほほーいっと!」

 

八幡はそんな観衆目線の真っ只中、追撃の勢いをじわじわと増していく。

 

戸塚はそんな彼の姿を見て満面の笑みを浮かべる。

 

しかし、そんな中

 

「………比企谷君、僕たちの敗けだ」

 

葉山はそう言った。

 

「隼人………?」

 

三浦は葉山を凝視する。

 

「無理だ、あんな奴に勝てるわけがない」

 

葉山は悔しそうな雰囲気を醸し出しつつ、戦闘を放棄する。

 

その反応に八幡はつまらないものでも見たかのように笑みを消す。

 

「………所詮はその程度か」

 

場が凍った。

 

そう、その言葉の通りだった。

 

葉山はワナワナと震え、三浦は視線を逸らす。

周囲の観衆は沈黙し、奉仕部の面子も苦い顔をしたまま何も言わない。

 

「素晴らしい」

 

パチパチと拍手をしながら戸塚が出てくる。

 

「君に頼んだかいがあったよ」

 

八幡は舌打ちをし、睨みつける。

 

「おお、怖い怖い。ほらこれが報酬だよ」

 

怖がるような素振りを少しも見せずに何かのキーを八幡に投げ渡す。

 

八幡はそれを受けとると足早に場を去ろうとする。

 

しかし

彼女がそれを許さない。

 

「………………なんだよ」

 

奉仕部 部長 雪ノ下雪乃

 

「認めないわ、貴方のしたこの惨状を奉仕部の活動とは絶対に認めない」

 

彼女は勇敢に挑む。

 

「認めてたまるものですか………!!」

 

「誰かが救われれば代わりに誰かが救われない。ただそれだけだろう」

 

「………………奉仕部、部長として宣言します」

 

雪ノ下は八幡を睨みつける。

 

獣には、躾を施す。

 

簡単なことだ。

ただ、その獣が狂暴なのかどうかは別として。

 

「貴方をイレギュラーとしてその危険思考を排除します」

 

「やれるものならやってみろ」

 

その獣は笑みを浮かべていた。



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chapter11

雪ノ下雪乃が八幡に宣戦布告をしてから翌日。

 

由比ヶ浜は、内心穏やかではない状態で部室の前に来ていた。

 

あれだけの敵対心を強く示していた雪ノ下はどんな風に八幡に対してどのような態度で接するのか。

 

混沌渦巻く奉仕部最後の良心、由比ヶ浜が戦場に降りる。

 

「や、やっh(ry「冗談じゃないぞ八幡!その考えはいくらなんでも危険だ!!」えっ!?」

 

やっはろー!キャンセルをされ、なんだか難しいことをしゃべっている人間がいる。

 

「あ、そう、でそれが問題?」

 

八幡は椅子に座りふんぞり返りながら、先ほどの人間に問いかける。

 

「お前の言う、≪人類の可能性≫とやらはお前らの掲げる言葉にあるんだろ?それならなおさら証明してみせなきゃさぁ。可能性があるのならなおさらねぇ!」

 

いつも以上に上機嫌な八幡。

 

それに対して無駄に演技染みた反応を返す人物。

 

ふと由比ヶ浜は思い出した。

 

他のクラスにも頭のおかしい奴がいる。と

 

誰だったか忘れてしまったが一時期噂になっていた人物。

 

「可能性だと………?笑わせるなよ狂犬が!」

 

「狂犬ねぇ………、言ってくれるじゃないの」

 

確か、宗教染みたことを広めていた人物。

 

「可能性は我ら≪ビーハイブ≫にある!」

 

ビーハイブ

そう、これだ。現生徒会と同等になりつつあるおかしな集団。

 

その組織が掲げる言葉は

 

「争いなど争いしか生まない………!貴様もわかるだろう?」

 

目の前の人物は、八幡を狂気に満ちた表情を浮かべ言う。

 

 

「さぁ、我らと共に進もうではないか!」

 

 

 

 

 

 

≪世に平穏のあらんことを≫

 

 

 

 

 

「やっぱり、イカれてるよお前」

 

八幡は静かに切り捨てる。

その瞳に怒りを宿しながら。

 

「世に平穏のあらんことを?大層な教えだ………だけどなぁ、お前らのその平穏に導く手段はなんだ?なぁ?」

 

実際、ビーハイブは実力行使で布教を行う過激な集団として、学校だけでなく企業やORCA旅団にも睨まれている。

 

学校だけなら少し喧しい程度の存在だろうが、戦場となると別。

 

こいつらは、ACを駆り戦場を掻き乱す。

 

「所詮、武力でしか布教出来ないんだろう?ならお前らの教えは矛盾しか孕んでいない」

 

「人間っていうのはなぁ………、戦いの中でしか可能性を見つけられないんだよ………」

 

八幡はそう言うと、由比ヶ浜の隣を通り過ぎる。

 

「味方なんていないのさ………、それこそ敵も………」

 

独り言のように呟いた言葉が由比ヶ浜の耳にこびりついて離れなかった。

 

「………おのれ狂犬め」

 

部室の真ん中で、人物はわなわなと震えている。

 

「必ず後悔させてやるからなぁ………!」

 

そう言うと、彼も奉仕部を駆けて出ていった。

 

ポツンと一人残される由比ヶ浜。

 

「………なにこれ」

 

 

ただ現状理解に苦しんでいた。

 



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chapter12

ビーハイブの人間と話した後、八幡は帰ってこなかった。

どこかでフラフラとしているのだろう。

 

そう由比ヶ浜と雪ノ下は結論付けた。

 

ただ平穏が過ぎていく。

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

「キャロリーン、システムに異常はなーい?」

 

八幡は自宅の地下にあるシュミレーターに乗り、小町に催促する。

 

久々の戦闘でもある、万全の状態で行いたい。

 

「主任、少しは落ち着いて下さい。………主任?」

 

小町は普段から頭のおかしい振りをしている八幡に対して様子がおかしいと気がついた。

 

「何かあったのですか?」

 

「なぁ、キャロリン。AI のレベルを最高値にあげてくれない?」

 

主任は、笑う。屈託のない表情で。

 

「やるんなら本気でやろうか、その方が面白いだろうし」

 

その言葉に対して小町はクスリと笑い。指示通りにレベルを上げる。

 

「主任、お気をつけて」

 

小町はそう言い、シュミレーションシステムを起動した。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

目の前に荒野がひろがる。

薄暗く、分厚い雲が空を覆い。汚染された大地。

 

何もかもが懐かしい。

 

八幡は、愛機≪ハングドマン≫の調子を確かめる。

このシュミレーターはACに直接繋がっており、機体の元々のスペックを丸々利用できる仕組みになっている。

 

≪システム戦闘モードに移行≫

 

背後から無機質な言葉が聞こえた。

 

「おいおい、チョイスがドS過ぎるよキャロリン」

 

振り向くと、そこには4脚の化け物がいた。

 

「乙女が相手とかかてるわけないでしょーに」

 

「最高レベルにしろとおっしゃったのは主任ですよ」

 

だからといって限度というものがあるだろう。

 

 

こっちはノーマル。相手は化け物。

 

勝ち目はない。

 

しかし、それでもむざむざ負けてやる必要は存在しない。

 

八幡はKARASAWAを構える。

 

《防衛ラインを構築。敵機排除開始》

 

無機質な声と共に視界から消え去る乙女。

 

「ヒュー、相変わらず早いねえ」

 

二段QBで滑空を始める乙女。

瞬間速度は4000㎞。

 

「さて、ぼちぼちやるかね」

 

2丁のKARASAWAを乱射に近い形で撃つ。

 

あえてミサイルを使わずKARASAWAを使うのには理由がある。

 

乙女に搭載されているフレアはほぼ百発百中の精度でミサイルを撃ち落とす。

 

最高にイカれてる性能だ。

 

だからあえてKARASAWAを撃つことで相手の進路を妨害しつつ背中に積んだマスブレードを使うタイミングを見計らう。

 

そうでもしなければこの化け物は止められない。

 

《戦闘技術の向上を確認。第二戦闘フェイズに移行します》

 

無機質な音声と共に化け物はさらに加速する。

 

「キャロリン乙女ってこんなに変態な動きしてたってけ?」

 

「財団が更新プログラムを提供してくれたので適用させました」

 

「余計なことするなと後で文句でも言っといて」

 

「わかりました」

 

乙女の動きについていくのがやっと。

 

そもそも性能差があるのが更に開いた。

 

(こりゃあかすり傷でもつけられたら御の字かな)

 

所々にばら蒔かれるライフルをよける。

 

それでも避けきれずに被弾することもある。

 

 

「つくづく化け物だね」

 

悪態と苦笑をつきながら応戦するが、それは防戦一方の戦いだった。

 

そして、とうとう、APが千台になった。

 

瞬間、周囲を撹乱するかのように移動していた乙女が一瞬で間合いを詰めてくる。

 

マスブレードを展開しようにも、いかんせん時間が足らない。

 

光が乙女を包み込み、そして爆発する。

 

 

―――――八幡は意思を失った。

 




遅くなり申し訳ない。



とでも言うと思ったかい?ヒャァハァ!


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