とある幻想郷の幻想殺し (愛鈴@けねもこ推し)
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とある永遠亭での不幸物語〜起〜
出会い①


どうも、けねもこ推しと言います。本来ならばここに色々と自己紹介なりを書くべきなのでしょうが初めての投稿の為何分勝手が分かりません。暖かい目で見守って頂ければと思います。
それではスタートです。


これは本来出会ってはいけない二人の話。それでも2人は出会ってしまった。だがそれはある意味では運命なのかもしれない。

 

 

 

 

 

そこには少年が一人げっそりとした顔でたたずんでいた。

 

「はぁ……不幸だ……」

 

もはや口癖となりつつあるその台詞をため息とともに吐き出す。その少年、上条当麻ははっきり言えば不幸体質である。ちょっとした善意から不良に絡まれている女の子を助けてみれば実はその女の子が学園都市に7人しか存在しないLEVEL5の第3位だったり、ベランダから降ってきた少女が10万3000冊の魔導書を記憶する人間図書館で魔術結社から追われていたり……などなど言い始めるとキリがないほどの事件に巻き込まれている。主に女の子絡みで【怒】あぁ妬ましい妬ましい……

話が反れたので元に戻そう。

 

今日は休日で学校は休みだ、補修もなく珍しく平和な1日のスタートになる━━

 

 

はずだった。

 

「おかしい……おかしいぞ……上条さんは学園都市の自分が通う高校の学生寮のベッドで寝ていたはず……」

 

しかし彼の目の前に広がる光景は科学万能の学園都市のビル群でも無ければ見慣れた自室の光景でもなく…………

 

 

━━━竹藪だった━━━

 

「何で!?何でこうなったんだ!?わたくし上条当麻は普通に寝ていたんですよ!?それが何でいきなり竹藪にいるんだ!?」

 

半ばパニックに陥り大声で叫ぶが誰の反応もない。

(そうか……これは夢だ…。きっとそうに違いない!そうでなければこんなふざけた話があるわけがない、いやあってたまるものか!!)

夢ならば寝ていれば良い、時間が解決するだろう。そう判断して当麻は大胆にも竹藪の中で寝転がったのだった。

(しかし夢にしてはずいぶんと地面の質感がリアルな気が……。まぁ良いか……)

 

背後から人が近づいて来ることも気付かずに………

 

 

 

 

 

????side

 

「はぁ………輝夜のやつ、1度勝ったくらいであそこまで強がるか普通…。あの引きこもり次に勝負する時は消し炭にしてやる…」

 

強気な台詞を放った少女の顔は言葉とは裏腹に疲れきっていた。こんな日は早々に家に帰って寝るに限る。そう判断した少女は家へと帰るため歩く速度を速めた。

 

「まぁ家といっても立派なものじゃないが…」

 

止めよう、我ながら虚しくなってきた。これは別に輝夜や慧音が羨ましい訳ではない。断じて違う、そう自分に言い聞かせる。そんな時だった、目の前にある明らかにおかしな光景を発見したのは。

何と少年がこんな竹藪のど真ん中で寝転んでいるのだ。

 

「お、おいおい……まさか幻覚を見るような毒でも盛られたか…?」

 

数回目を擦ってみる。だが当然のこと目の前の寝転んだ少年は消えない。

この辺りでは見ない服装、頭髪……まさかとは思うが…

とりあえず生きているのかを確認しなければならない、見た所外傷は無いようだが私は医者じゃないのだから安易に判断は下せない。

 

「だ、大丈夫か……?どこか怪我は無いか?」

私は少年の肩を揺すり声をかけた。

 

「ん……?何だよインデックス…朝飯ならまだだぞ……」

 

「い、インデックス?どんな夢を見ているかは知らないがここはお前のいた場所とはかなり違うぞ?」

唐突に寝言を言う位だ、怪我は本当にないのだろう

 

「とにかく起きろ、話はそれからだ」

再度少年の肩を今度は強く揺さぶり眠りを覚まさせる。

 

 

 

上条当麻side

わたくしこと上条当麻は不幸な人間である。それはもう底無しで最近ではビリビリ中学生に絡まれるようになった。おまけにLEVEL5ときたものだからそこらのスキルアウトよりタチが悪い。

だが………今回ばかりはその不幸も遠慮したらしい。目を覚ますと目の前には息を呑むような銀髪の美少女が至近距離にいるのだ。こんなことを土御門や青髪ピアスが聞けば俺を即座にボコボコにするだろう。

 

「え、えっとその……何か寝言を喋ってたようですみません…」

思わず敬語になってしまう。

 

「気にしなくて良いさ、それと今自分がいる場所が分かるか?」

 

「それはもちろん学園都市………じゃない!?何で!?夢じゃなかったのか!?」

 

辺りを見回すと景色は竹藪のままだ。どうやら俺の不幸は現在進行形で加速中らしい。

 

「その様子だとやっぱり君は外来人か…弱ったな…」

 

「が、外来人…?ど、どういう意味なんだ…?それにあなたは一体…?」

 

「ま、待て待て…まずは自己紹介からだ。私は藤原妹紅、この迷いの竹林に住んでいる。君は?」

 

「お、俺は上条当麻です。学園都市にいたはずなんですが何故かこんな所に…」

 

「よし、当麻。私の事は気軽に妹紅と呼んでくれ、敬語は別に不要だ。続いてここ……幻想郷についてだが……」

 

俺は藤原さん……いや妹紅から簡単に説明を受けた。幻想郷が俺のいた外の世界と2枚の結界で隔離されていること、博霊の巫女のこと、その他にも人外の存在が多々住んでいることも…

 

「……説明した私が言うのもおかしいが…当麻はあまり驚かないんだな。幻想郷に来た外来人は大抵この話を聞くと信用せずに呆れると聞いたんだが」

幸か不幸か俺はこの手のおかしな事態に免疫がついてしまった。今回ばかりは学園都市でのあの事件が役に立ったようだ

 

「は、あははっ…どうもこの手の状況に複数回居合わせたせいで慣れがついたっていうか何と言うか…」

 

「よく分からないが私としても落ち着いて聞いて貰えたのは助かるよ、証拠を見せろと言われると手間だからな」

 

調度そんな時だった…当麻の背後から先程説明を受けた人外の生き物が近づいてきたのは………

 




こんな短文かつ駄文をここまで読んで頂きありがとうございます。前々からストーリーの構成は考えていたものの何分投稿する勇気が湧かずここまで引っ張っていましたがやっとのことで投稿する踏ん切りがつきました。一応私は学生の身なので春休みが終わるまではなるべく投稿頻度をあげていこうかと思います。また、感想などあれば是非メッセージを頂けると助かります


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出会い②

どうも何とか2話目が投稿出来たけねもこ推しでございます。正直小説を書くのにここまで苦労するとは思いませんでした…。
書き始めると楽しいのですが椅子に座って書いているので背骨が痛いです…。前書きで愚痴るのもどうかとは思いますがそこは皆さんの温情で見逃して頂いて本編を読んで頂けると嬉しいです!


上条当麻SIDE

 

 

 

「………?」

 

当麻は自分の身に何が起きたのかが理解できなかった。ちなみに彼は今落とし穴に落ちた状態となっている。

(何でこんな所に落とし穴が!?ていうか作りが精巧過ぎるだろ!何も見えなかったぞ…!)

俺は今非常に焦っている。理由の1つは勿論いきなり落とし穴に引っかかったからだ、こんなのに引っ掛かれば誰だって驚くに決まってる。ただ………彼が今1番焦っていることはそれではない。

 

「………当麻、今すぐそこを退いてくれないか?」

俺はあろうことか……妹紅に馬乗りになるような形で膝立ちになっているのだ。言うまでもないが悪意は無いからな!?本当に偶然なんだ!しかし被害者である妹紅からすればそんなことは関係ない。

 

「はぁ……大方永遠亭のイタズラウサギの仕業だろう…。しつけも満足に出来ないのかあの蓬莱ニートは…」

 

「妹紅、蓬莱ニートって何だ?」

 

俺は人を殺せそうな目線で見つめてくる妹紅の視線に耐えきれず何とか立ちあがり妹紅に手を貸す

 

「ん、ありがと……まぁそのままだ。噛み砕いて言うと数100年に渡ってニートを維持し続けている姫だな」そう言いつつ妹紅は俺の手を掴んで立ちあがった。

 

「上条さんにはまったく意味が分からん…」

 

「気にするな、今の説明で完璧に理解されると逆に困るよ」

 

「しかしどうする?この穴は余裕で2mはあるぞ、どう上るんだ?」

 

まぁ普通ならば俺が妹紅を肩車して上から引き上げて貰うべきだ。

 

「簡単だ、飛べばいいじゃないか」

 

妹紅の返答があまりに唐突だったため俺は思わず

 

「なるほどな」

 

と答えてしまった。いやいや妹紅さん…それは無理難題すぎだろ。確かに学園都市には空を飛んだりそれに近い事をやってのけるやつはいる、だがここは学園都市ではない。てっきりからかわれたのかと思った俺は妹紅に「冗談はやめようぜ」と言おうとしたその時……

 

 

俺は妹紅に腕を掴まれ落とし穴から飛び出していた

 

 

 

 

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

私はこれでも温厚な方だとは思う、落とし穴に落ちた際に当麻に押し倒されるような状態になってもそれは故意では無い事は当麻の反応を見れば一目瞭然だったので軽く睨むくらいにしておいた。

(しかしあれで顔を赤くするくらいだからな……それなりの修羅場をくぐってはいるようだがまだまだ子供だよ、お前は)

もう少しいじめてみたい気もしたが会って間も無い外来人をいきなりいじめるというのはさすがによろしくない。この鬱憤は今度輝夜と弾幕ごっこでもしておおいに晴らすとしよう。

とにかくまずはこの落とし穴から脱出だ、落とし穴に落ちる直前何かが近づいてくる気配がしたから十中八九あの兎詐欺が近くで見ていたはず、お灸を据えてやらねば…

そんなことを考えつつ私は上に登るため当麻の右腕を掴んだ。

「あ、あれ?」

 

(おかしい……いつもなら妖力を使って飛べるはずなのに何故か今は力が上手く使えない…)

今度は当麻の左手を掴んでみる、すると

 

「飛べたか……」

 

私は難なく当麻を引っ張って穴から脱出し、地面に着地する。

「なっ!?妹紅!今のはどうやったんだ!?」

 

「どうって…説明すると長くなるから端折るけど要は力を使ったんだ」

 

「端折り過ぎだろ……。まぁ上条さんには慣れっこですけど…」

 

「そう拗ねるな、時間があればちゃんと説明するからさ」

 

しかし気になるのは先程の妖力が使えなかった件だ、こればかりは端折る訳にもいかない。

 

「当麻、お前の右腕を触らせてくれないか?」

 

「ど、どうしたんだいきなり?もしかしてさっき右手を握っていたのに左腕に変えたことと関係があるのか?」

 

どうやら当麻には心当たりがあるらしいな。これはゆっくりと聞いてみる価値があるんじゃないか?

 

「それも気になるがまずは落とし穴を掘ってくれたやつにお灸をすえないとな」

 

辺りには既に私たち2人以外の気配はない、となると居場所はあそこしかないだろう

 

「妹紅は犯人に心当たりがあるのか?さすがの上条さんもこれには怒りをおさえきれないんだ」

 

それもそうだ、いきなり落とし穴におとされ私から睨まれるんだからな。私が言えた義理でもないがこれは当麻にも怒る権利はある。

 

「あぁ、あるよ。嫌というほどな…とにかくこれからのこともあるから休める場所に案内するからついてきなよ」

 

また輝夜と顔を合わせるハメになるがいくらあのニートでも外来人がいるにも関わらずいきなり勝負はしかけてこないはずだ

 

多分………

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

とりあえず分かったことがいくつかある。

まず一つ目、妹紅は怒らせると怖い。多分御坂なんて比にならないレベルだ。さすがの上条さんでも女の子を押し倒すというのがタブーというくらいは分かるんだ。これからはちゃんと気をつけるんだ俺!無事に学園都市に帰りたいのなら……

 

そして二つ目、妹紅は間違いなく何らかの異能の力を所持している。これはさっきの脱出劇からでも分かるが何より俺の右手に妹紅が反応したのが一番の証拠だ。だからといって何が変わる訳でもないが…

 

ともかく後で妹紅に謝ろう。そんな事を決意している内に俺は和風の建物の前に辿り着いていた。

 

「着いたぞ、ここが永遠亭という場所だ。診療所と言えば伝わるか?」

 

妹紅の話だとどうやらここは病院で八意永琳という人物とその弟子、鈴仙・優曇華院・イナバ(れいせん・うどんげいん・いなば)達が住んでいるらしい。ちなみに俺達を落とし穴にはめたやつは因幡てゐというらしいな。

 

「そうだ、無いとは思うがもし明らかに姫!って格好の女と出会ったら適当に話をしてやってくれないか?多分会話がはずめば大丈夫だよ」

 

俺は妹紅の言いたい事が理解できなかった。むしろ会話がはずまないと何かあるのか?お願いします妹紅さん。俺は半ばこの手のアクシデントがアレルギーなんです。いや、本当に冗談抜きで。学園都市じゃ顔面に噛みつかれたり放電されたりですよ?後は御坂の後輩の着替え中に部屋に入ってしまって平手打ちを受けたような気もする……

 

「も、妹紅さん?そのお姫様はもしかしてすご~くお力が強かったりされるんでしょうか……?」

 

「何故敬語になるんだ?まぁ当麻がどの力のことを言っているのかは分からないが弱くはないな」

 

(や、やっぱり~…そーなのかー…。これは本気で警戒しないとここで上条さんは死んでしまうかもしれませんのことよ!?)

 

「そうだ、私は少し用事を思い出した。玄関から入ってすぐの所に待合室があるから先に行っててくれないか?」

 

「えぇ!?妹紅は来ないのか!?このままだと上条さんの命が…!」

 

「と、当麻…いくら何でも心配し過ぎだ。すぐに行くから、大丈夫大丈夫!」

 

そうして俺は背中を押されるように永遠亭に飛び込んだ。

 

「また後でな、当麻!」

こうして俺は置いてけぼりを食らったのだが……

 

(はぁ……不幸だ……)

 

 

 

 

 

 

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

当麻は永遠亭に入ったようだな、何を恐れているのかは知らないがよほどの不運でも無い限りあそこで命を失うことはない。だってあそこは診療所なのだから

 

 

「さて………いるんだろう、紫?」

私は誰もいない空間に向かって話しかけた。

 

「ふふっ、いつから気付いていたのかしら?」

にこやかな微笑を浮かべつつ空間からスキマを開き紫は現れた。

 

「いつからだと言えば満足するんだ?」

 

「そうね、驚愕の表情を浮かべつつ、今気付いたと言って貰えると嬉しいわ」

 

「からかいに来たのなら私はお断りだ、博霊の巫女の所に行けば良い」

 

「そうカリカリしなくて良いじゃない、彼に押し倒された所を見られたのがそんなに恥ずかしい?」

 

どうやら話し合う気はないらしいな、それならば焼くまでだ。私は手のひらに炎を出現させ紫を睨む

 

「冗談よ冗談、ちなみに外界ではこれをジョークと言うらしいわ」

 

「そんな豆知識を披露しに来たのか?違うだろう、上条当麻について説明してもらおうか」

 

「そうね…私も悠長にしている暇もないから手短にいきましょう。彼は普通の学生よ、あの右手に宿る能力以外は…ね」

 

やはり当麻のあの右手は何かしらの力があったのか…

 

「それで…詰まる所はあれはどんな能力(ちから)なんだ?」

 

「幻想郷らしく言えば………右手に触れたありとあらゆる異能の力を全て打ち消す程度の能力、よ。能力名は幻想殺し(イマジンブレイカ―)…まさに幻想郷の敵と言ったところかしらね」

 

 

私はその能力の意味が一瞬理解できずに硬直した




さて、前回と比べれば少し文字数が増えたような……まぁ、文字数よりも表現力があがらないと意味は無いですが……汗
やっと上条さんの能力を明らかにすることが出来ました。正直もこたんの反応は迷いましたがあえて驚くという方向性にしてみました。実はニコ動の幻想入り動画やネット上のスレを拝見していると圧倒的に東方キャラの方が強さが上なんですよね。ぶっちゃけてしまえばその通りです。だって幽々子様の能力を使えば一方通行でもワンパンですよ?そんなの見たくもないですが…。とは言えそんな個人的な私情でキャラの優劣を決めるつもりはないんです。でもせめてちょっとくらい東方キャラに「……!?」みたいな反応をさせてみたくて…身勝手で申し訳ない!
そしていよいよ次回からはバトルパートが入るかもです。とは言ってもガチガチのバトルではなく上条さんと美琴の喧嘩を想像していただけると幸いです。それでは次回もよろしくおねがいします


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不幸と書いてラッキースケベと読む

何とか毎日更新出来ているけねもこ推しでございます。さて今回はサブタイトルからも察して頂けるとは思いますが上条さんがぴちゅります。はい。
ちなみにこの上条さんは原作ラノベ旧約の15巻辺りの時系列となっています。原作を読破していらっしゃる方ならばお分かりかもしれませんが実質は14巻の時系列と言うべきかもしれません。
それでは第3話スタートです。


上条当麻SIDE

 

 

 

しかし改めて建物内に入ってみると綺麗な建物だ、と俺は思った。

 

「てっきり上条さんはこんな古い和風の家は埃だらけかと思いましたよ、あっはっは」

 

そう俺は何気なく呟いてみる。何せ学園都市にはこんな建物…というか和風の建物がまったく無かった上にそんな所に入る経験もあまり無かったからな…。こんな所なら座敷童子もいるんじゃないか?詳しくは知らないが出会えると幸運になれるらしい

 

「まぁ俺の幻想殺しがある限りその御利益は意味ないんだろうな…」

 

「あんたも苦労してるんだね、顔から不幸と苦労が滲み出てるよ。まるでここに住んでる鈴仙みたいじゃないか」

 

「うるさいなぁ…好きでそうなったんじゃないんだぞ?」

 

「そんなに不幸だと落とし穴に落ちたりしたんじゃないの?」

 

「よく分かったな、ついさっきも…………」

 

(待て、俺は今誰と話しているんだ!?気配も感じなかったぞ!声からして妹紅じゃない…)

俺はとっさに後ろを振り向く。だが背後には誰もいない

 

「ここだよ、ここ。それはわざとやってるのかい?」

 

声が聞こえた方向……つまり下を見てみるとそこには━━━━

 

 

俺の腰の高さほどの身長しかない兎の耳が生えた少女が立っていた。

 

「………えっと…どちらさまでしょうか…?」

 

「どちらさまと言われると…アンタと妹紅が落ちた落とし穴を掘った兎さ!!」

 

そう無い胸を張りドヤ顔で言い放つその姿は最早貫禄すら感じさせた

 

「……ってことは…お前が俺と妹紅をはめたんだな!?何てことするんだよ!!」

 

俺はとりあえずその人らしき兎(?)もしくは兎らしき人に問い詰める

「うーさうさうさ!これだから人間への悪戯は止められないね!特に外来人は反応が最高なんだ!」

 

ケラケラと悪びれもなく少女は言いかえしてきた。これには俺も

「あのなぁ…!頭の打ち所が悪けりゃ大怪我してたかもしれない高さだったぞあれは!!」

 

俺は目の前で未だに笑いやまない少女の肩を掴もうとしたが………

 

「ピョン」

 

まさにそんな効果音が似合う感じの跳躍で目の前から逃げられてしまった。

 

「永遠亭の近くだからそれは無いんじゃない?多分」

 

「多分かよ!?ってか待て!!」

 

とにかくこれでは俺の気が収まらない、せめてごめんなさいの一言でもあっても良いはずだ。

 

「待てと言われて本当に待つ馬鹿がいる訳無いよ!」

 

何と謝罪はおろかあの兎は逃亡を始めた、これを逃がすほど上条さんは甘くない

 

「こんにゃろぉ!絶対とっ捕まえて反省させてやる!!」

 

「そういう言葉は私を捕まえてから言う事だね!!」

 

 

こうして俺と性悪兎との追いかけっこが開幕したのである。………永遠亭の中で

 

 

 

 

 

 

 

 

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

……とりあえず1度落ち着いて考えるとしよう。目の前のBB……八雲紫は当麻の能力は異能の力を打ち消す程度の能力だと告げた。

私は不老不死でもう1300年も生きてきてその中でそれなりに異能の力は見てきた。だがそんな摩訶不思議な能力は初めて聞く。何よりそんな能力はここ……幻想郷ではご法度の力とも言える

 

「さすがに1300歳の蓬莱人にもこればかりは驚きが隠せないかしら?それもそうよね。能力同士を相殺させる訳でもない、何か特別な手順を踏む訳でもなく発動条件はただ触れるだけ。極論で言えば右手が空間に触れているのならばあの紅魔館のメイドの能力やあなたの宿敵のお姫様の能力ですら無効化出来るわ」

 

「わざわざ年齢を強調させるな、嫌味のつもりか?だが……それが本当ならば幻想郷は大丈夫なのか?結界に触れるなりされると不味いと思うぞ」

 

幻想郷には外界とこことを隔離する二枚の結界が存在する、当麻がそれに触れれば……考えたくも無いな。

 

「その点については恐らく問題無いわ、博麗神社にある結界の核にさえ触れなければ何も問題は何も無いもの。……ただ……やはり彼の存在は放置したままにしておくには少し危険かしらね…」

 

紫の表情が真剣味を帯びたものへと変わる。

「……まさか殺すのか?いくら何でもそればかりは賛成しかねるぞ」

 

私は紫から眼を反らさずに表情を伺った、もし……無理にでも殺すと言うのならその前にこのスキマ妖怪を……

 

「……ここ、幻想郷は全てを受け入れるのよ?それは善人だろうと悪人だろうと幻想を殺す少年だとしても変わりはないわ」

 

どうやら嘘はついていないらしい、もし本気なら私と立ち話などせず当麻の首と胴体との境界を操って血の海をつくりだしているはずだからな

 

「なら良いんだ……だがそれなら何故私に話しかけたんだ?」

 

「あら、私を呼びだしたのはあなたでしょう?」

 

「……もう良い、用件だけを伝えてくれ。お前に口論で勝とうとした私が馬鹿だったよ」

 

肩を竦めため息をつく。だから紫と話すのは好かないんだ

 

「ふふっ、そう言って貰えると何よりよ♪それで本題だけど……

 

 

このままだと幻想郷で戦争が勃発するわ、善処はするけれども最早この戦争は回避出来ないでしょうね。せめてその犠牲を最小限に抑えるためにも…一人でも多くの味方が必要なのよ、特に上条当麻の力……いいえ彼が持つ影響力は必ず幻想郷のプラスになるわ。だから妹紅、あなたには彼のサポートをお願いしたいの」

 

 

なぁ神様よ…………私が一体何をした?私は何故こんな戦争という荒々しい単語が飛び出す事件に首を突っ込むハメになったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当麻の知らない所で幻想郷を揺るがしかねない大事件について妹紅と紫が話しているその時……妖怪の賢者から幻想を殺す能力を持ちながらも幻想郷のプラスになるとまで言わせしめた少年上条当麻はそんな事は一切知らずに自分と妹紅を落とし穴にはめた兎、因幡てゐ(いなばてい)と追いかけっこを繰り広げていた

 

 

 

「待てぇぇ~!!!!上条さんをなめるなぁぁ!!」

 

「しつこい外来人だね…!でもそれくらいじゃ私には追いつけないよ!!」

 

2人はこんな調子で未だに走り回っていた。

 

(くそっ…!確かにあいつの言うとおりこのままじゃ追いつけない!兎を追いかけているはずがこれじゃあいたちごっこじゃねぇか…!!)

 

兎を追いかけるいたちごっことは実に面白い言い回しだが今はそんなことを深く考えている暇はない。

 

(本当にしつこい外来人なんだよね…元いた世界で似たようなことをしてたんじゃないの…)

 

学園都市で当麻はLEVEL5の第3位、御坂美琴に一時期頻繁に追いかけまわされていた。当麻は運動が苦手な訳では無いが相手は学園都市最強の電撃使い(エレクトロマスター)である、金属が無数に使用されている学園都市の街中では自身から電流を発生させ磁力を用い一気に加速するという芸当も可能な少女相手から逃げ回っていたのだから追いかけっこが得意になるのも当然と言えば当然なのかもしれない。

 

(サンキュー、ビリビリ!あの時は生き延びるために必死だったがまさかあの体験がここで役に立つとは思いもしなかったぜ!!)

 

 

自分が惚れた少年を追いかけまわした結果、その少年がそれで得た経験を糧に今度は少女を追いかけまわす事になるのだから世の中悲しい限りである。

 

 

 

「あぁもう!!いい加減に諦めなよ!ここは診療所だよ!!騒ぐ場所じゃない!」

 

「その診療所の近くに落とし穴を掘ったやつが言う台詞じゃないぞ、それは!!」

 

さすがのてゐもこの外来人がここまでしぶといとは思いもよらなかった、はっきり言って想定外である。

 

(くっ…こうなったら……!隠れるしか…!)

てゐはフェイントをかけいきなり曲がり角を曲がった。

 

「今のキレた上条さんから隠れたくらいで逃げ切ろうだなんて甘いぜ…!」

 

第三者が聞けば当麻を悪人と勘違いを起こしてしまいそうな台詞をはきつつ当麻は辺りを見回した。

あの兎が逃げ込んだ廊下には窓は無かった、あるのはいくつかのドアだけだ。となると単純に考えればこれらの部屋のどこかに逃げ込んだ事になる。

 

(多分奥までは逃げてないよな……だったら手前の部屋から調べるのがベスト!ふっ、今日の上条さんは冴えてるぜ!)

 

 

だが当麻は大事な事を2つ忘れていた。1つはここが自分の家ではなく人の家だと言う事。2つ目は……

 

 

 

「どこに逃げたって無駄だぜ、イタズラ兎!………」

 

目の前に広がった景色は怯える兎の姿でも無ければ診療所らしい病室でもない。

 

「…………きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

黒い髪を腰より少し下まで伸ばした少女の生まれたままの姿…つまり裸であった

 

 

当麻が忘れていた2つ目に大事な事、それは………自身が持つ天性の女難だった。

 

 

(分かってる、こんな時に俺はどうすれば良いかなんて分かり切ってるじゃないですか。簡単過ぎるぜ)

俺は正座をして次に両手を床につけた、そして……

 

「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

後は額を床につけ謝罪する、つまるところは土下座である。

 

 

「すみませんで済むわけないじゃないの、この変態!!!」

 

少女はすぐに足元にあった着物で身体を隠し手に輝く玉がついた枝を握った。

 

 

「冥土の土産に……宝はあげないけれど…」

 

(こ、これは…いつもと同じパターンのような…)

俺は半ば反射的に立ちあがって右手を突きだした。

 

「み、み、見るなぁぁ!!!」

 

少女は赤い顔を更に赤くして枝を振るった。

 

するとその枝から光る弾が無数にこっちへ飛んできた

 

「パリィィィィィィン!!!」

 

右手にその光弾が触れた瞬間、幻想殺しが発動した独特の音が響き光弾は全て消えた。

 

 

「た、助かった……」

 

とりあえず俺は安堵の息をつく

 

「な、何よ…その右手は……!!一体何をしたのよ…!?」

 

「何って……実は俺もよく分からないんだよな…」

 

「………とにかく……痴漢は…消えなさい!!!」

 

そして再び降り注ぐ光弾、破壊されていく部屋。

 

「不幸だぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「私の裸を覗いておいて不幸とはどういう意味よ!!!」

 

 

 

こうして妹紅と同じ永遠を生きる少女、蓬莱山輝夜と上条当麻は最悪の出会いを果たしたのだった。

 

 

 




ふぅ…何とか書けましたよ、第三話。一応初めてのバトルパートを組み込んでみましたがいかがでしたか?駄文であることは承知していますがもし改善点やアドバイスがあればぜひ教えてくださいませ、なるべくその意見を吸収して成長していきます。
さてさりげなく今後の展開が見えた訳ですが…正直じっくりと話を作っていきたいのでそう簡単には話が進まないかもしれません。その点も合わせてご容赦ください、それでは第四話も頑張って投稿しますので応援よろしくお願い致します


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漂う争いの香り

今日も暇を持て余しながら執筆中のけねもこ推しでございます。今更ですがこの小説メインは東方Projectのはずなのに上条さん視点が多いような…。これはメインを禁書に変更するべきなんでしょうか。とにかくもう少しもこたんSIDEを増やしたいという事もあり今回はもこたんSIDEが多めです。それでは4話もお付き合いください


藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

戦争………私はそこまで詳しい訳では無いが以前、慧音に半ば強引に勉強をさせられた事があった。その時の世界史の授業で第二次世界大戦……?だったかよく覚えていないがそのような戦争について私は耳にたこが出来る程話を聞かされた。何でも戦争は勝っても負けても争った双方に被害を生みだし、多くの犠牲があったりととにかく損にしかならない争いらしい。

私はその時慧音に

 

「なら私と輝夜との殺し合いのように代表の人間が一対一で殴り合えば良いじゃないか、それなら被害も最小限に抑えられるしその喧嘩の中で和解できるかもしれないだろ」と冗談交じりにおふざけで言ったのだ。すると慧音に

 

「………そうだな、それを人間達が分かってくれればきっとこの世から争いなどは消えるだろうな…」

と半ば諦めた様な目付きで見られたっけ…。

 

あの時は特に深くも考えなかったがいざ自分の住まう土地が戦場になるかもしれないと聞かされると冗談など言えなくなった

 

 

「えっと……それは確かな信頼できる情報なのか?まずどこの誰からそんな危なっかしい話を聞いたんだよ」

私はもっともな疑問を紫にぶつける

 

「そうね……あまり詳しくは話せないけれど……私はこの情報を外の世界の人から入手したの、最も情報提供者はもはや人間とは呼べないかもしれないわね」

 

「と、言う事は妖怪か神の類か?物好きなやつもいたものだな」

 

「残念ながらその予想はハズレね、でも今はそんなことはどうでも良いの。大事なことはこれからの事についてよ」

 

「……まさかとは思うが私にその戦争で戦え、なんて言うんじゃないだろうな?」

 

私は「禁薬「蓬莱の薬」」を使った不老不死の人間だ、確かに争いにおいて不死身の兵士はこの上なく使い勝手は良いだろう

 

「一応それも視野に入れておいて頂戴、どの道戦争が勃発すれば否が応でも皆戦う羽目になるのだから…。それに……また目の前で大切な人が無意味に死んでいく様なんて見たくないでしょう?」

 

「…ッ!!!」

 

私は紫を殴り飛ばしたくなる気持ちを抑え拳を思い切り握った。

 

「少し……言い過ぎたかしらね。とにかくもし戦争が起こった場合は貴女には最前線で戦って貰うことになると思うの。それだけは覚悟してもらうわ」

 

「……あぁ……せめてこの瞳(め)に映る人々くらいは守り切ってみせる」

 

「…貴女のその覚悟に期待しているわ、それと頼みたいことがもう1つあるの」

 

「当麻に関する何かか?悪いが子供のお守りと戦争の両立は断る」

 

「そう話を先読みし過ぎるのは良くないと思うわよ?まぁ彼に関する話だと言うのはあながち間違いでも無いのだけれどね」

 

私は紫の話を聞き流しつつ頼まれるであろう内容について考えた

(当麻の保護…?それならば最悪気絶させてスキマ送りにしておけば良いのだから違うだろうな、ならば当麻の説得か?…違う、確かにあの右手の力は驚異的だが戦争という現実を殺せる訳じゃない…それに幻想郷には博麗の巫女や死を司る亡霊、吸血鬼…他にも戦争を単騎で片づけてしまうような連中が溢れているからな。わざわざ外来人を連れてきてまで協力を仰ぐとは考えにくい、それが紫なら尚更だろう)

 

ダメだ、考えれば考えるほど分からなくなってくる

 

「かなり頭を働かせているようだけど…そろそろ喋っても良いかしら?待ちくたびれてしまいましたわ」

 

「じゃあ勝手に話せば良かったんだ、私は時間をくれだなんて一言も言っていない」

 

「はぁ…すっかり私は嫌われ者になってしまったようね……ゆかりんちょっとショック……」

 

(頭に血が上る、今すぐにでもこの年増妖怪を消し炭にしてしまいたい……!)

 

どうやら私の表情から怒りを察したのかそれともただ単に私で遊ぶのに飽きたのか…どちらかは分からないが紫がやっと話し始めた

 

「それじゃあ貴女のお望み通り私が貴女に望む事を改めて伝えるわ

まずは1つ目、幻想郷で戦争が勃発した際においての最前線での戦闘、可能であれば人里を守ってもらいたいわね

次に2つ目、ざっくりと言ってしまえば上条当麻のお守りよ。ただし彼の身に何か危険が迫っても一々守ってあげる必要はないわ。貴女が必要と判断した時にのみ手を貸すなり共闘するなりして頂戴。ただし戦争が始まってしまえばもう彼を放棄しても構わないわ。どう?これだけよ?」

 

何がこれだけよ、だ…1つ目はともかく2つ目には疑問点が盛りだくさんじゃないか……

 

「いくつか質問しても構わないか?」

 

「えぇ、でも全ての質問には答えられないかもしれないわね」

 

「……では聞くが何故私にそんな中途半端な警護をやらせる、戦うだけならまだしも幻想郷には当麻を守りながらでも戦える人物なんていくらでもいるはずだ。肝心の博麗の巫女はどうしたんだ?こんな時こそ博麗の出番だろう」

 

「そうね……申し訳ないけれどそれには答えられないわ、それに貴女が言う彼を守りながら戦える程の幻想郷の実力者が簡単に「はい、分かりました」なんて言うと思うの?それに霊夢は私のサポートに回って貰っているわ」

 

「私は都合の良い駒、と言う訳か…ふん…実に身勝手でお前らしいよ。オマケに博麗の巫女が頼れないとなるとますます私くらいしかいなくなるな」

 

これ以上この質問について紫に問い詰めても無駄だ、私は経験則からそう悟った。

 

「分かって貰えたのなら結構、質問は以上かしら?」

 

「いや……最後に1つだけ……何故戦争が始まってからは当麻を放棄しても構わないんだ?戦力にならないからという理由だけで見捨てるのはあまりにも酷過ぎるだろう」

 

「良かった、その質問には答えられそうよ。理由はただ単にその時がくれば役目が変わるのよ、貴女から他の人物へと…ね」

 

「それは一体どういう……」

 

「ふわぁぁぁ~………ゆかりんもう疲れちゃった…。おやすみなさい……」

 

そう言うや否や紫はスキマの中へと消えた

 

「あのスキマ妖怪…!今度人里の油揚げを買い占めて従者を泣かせてやろうかしら…」

 

だが今は間接的で回りくどい報復よりももっと考えなければならないことがある

 

(紫のあの言葉……「また目の前で大切な人が無意味に死んでいく様を見たくないでしょう?」…。あれは私の参戦への意思を決定的なものにした。悔しいが紫の思い通りと言ったところか…。理由は言うまでもない、私が輝夜を憎み続ける結果となったキッカケ…父上が命を絶ったことだ。あの時の私はまだ幼かった…当然知識も無ければ力もなく父上の自害を止められ無かったのも当然と言えば当然だったのかもしれない。だが現実問題そう簡単には割り切れなかった…。「あの時の私に力があれば…」そう思った事はとうに年齢の数を上回っている。だが今は違う……老いる事も死ぬ事も無い程度の能力を手に入れ妖術も扱えるようになった、今の私なら…今の私ならこの瞳(め)に映る人々くらいは………」

 

「はははっ………何を甘えた事を言っているんだ私は…。こんな事をしても父上が生き返る訳でも今まで私が奪ってきた命に対する償いが果たせる訳でもないのにな……」

 

それでも……たとえそれでも私はどれだけの逆境が待っていようともどれだけ傷付こうとも戦わねばならない、何より…

 

(そっと目を閉じるとすぐ目の前に大切な人の笑顔が浮かんでくる……私の数少ない理解者である慧音、人里の皆、そして……私の永遠の好敵手(ともだち)である輝夜とその仲間達…。誰一人として悲しませたくもないし泣き顔などは見たくもない)

 

 

「まさか自然と輝夜の事を大切だと思える日が来るなんてな…昔の私が聞けば殴られたんじゃないか?」

 

何故か顔が無意識にはにかんでしまう。この1件が片付いたら少しくらいは輝夜に親しくいてやるかな?

 

 

私はどこかスッキリとした心境で当麻と合流するため永遠亭に入った

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、本当なら彼…上条当麻君に貴女のその苦悩(げんそう)を殺して貰う予定だったのだけど自分で一応の踏ん切りはつけられたようね。一安心ですわ」

 

妹紅が永遠亭に入るのを少し離れた場所に開いたスキマから見ていた紫はそう呟いた。

 

だが安心は出来ない、何せ戦争はまさに今から起ころうとしているのだ。こうしている間にも敵は着実に根を張り巡らせているに違いない

 

「私が愛したこの幻想郷で戦争を起こそうだなんて随分とふざけた思考をしているじゃない、ここまで怒りを隠せないのはいつ以来かしらね…」

 

そう呟く紫の表情は誰も見た事がないほど憎悪の感情が表れていた

 

(さて……一応貴方に頼まれた約束の半分は片付けたわよ?アレイスター=クロウリー……)

元世界最高最強の魔術師にして現世界最高の科学者、そして何より学園都市の統括理事長である人物の名前を心の中で複唱し、八雲紫はスキマを閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………わたくしこと上条当麻の現在の状況は非常によろしくない。

足元にあった服から察するに彼女が妹紅の言っていた姫だということは俺にも想像できた。問題はそのお姫様の着替えの真っ最中に部屋に突入してしまい見事逆鱗に触れてしまったことである。結局あの後、かなりの間俺は彼女が放ってくる光弾を避けては打ち消し避けては打ち消しを繰り返し今……

 

目の前にいらっしゃる右上と左下の部分が青く、左上と右下の部分が赤い服を着ている女性に土下座で謝罪をしている真っ最中だった。

 

「本当にすみませんでした!!悪気は無かったんですよ上条さんには!あのイタズラ兎を捕まえようとしたら…!不幸だっ!!」

 

「わ、私は悪くないのよ!?何故かそこの男がいきなり着替え中に乱入してきてそれで不幸だ、なんて言い出すから仕方なく攻撃したのよ!!」

 

何故か俺の隣には先程のお姫様が正座で言い訳をマシンガンのごとくまくしたてていた。

 

「はぁ……とりあえず二人の言い分は分かったわ、そちらの少年は…何故かケガ1つ無いようだけどうどんげ、一応診察してあげなさい」

 

「は、はい……分かりました……」

 

どこか顔色が悪そうな頭にウサ耳を生やした少女が返事をした

 

 

 

「えっ…?良いのか…じゃなくてですか…?」

 

「そうよ、えーりん!この男は私の裸を見たのよ!?」

 

「確かに彼…上条君と言ったかしら?とにかく覗きを働いたようだけど本人が言うように悪気は無かったんでしょう?それに話を聞く限りはてゐが原因だそうじゃない」

 

(このお方は聖人じゃないのか…!?いや、俺が知っている聖人はもっと性格が荒かった!まさかそれ以上なのか!?)

と、俺はとある女聖人を想像しながら目の前の女性に感謝した

 

「だ、だとしても…!」

 

だが裸を見られた少女はそうは問屋が卸さない

 

「貴女の言い分は分かるわ、輝夜…でもここまで部屋がボロボロになるまで暴れる必要は無かったんじゃない?」

 

「………………」

 

輝夜と呼ばれた少女は黙り込む

 

「さて、まずは上条君の怪我の有無の確認から始めましょう」

 

「はい、師匠。それでは上条さん、こちらへ」

 

先程まで顔色が悪かったうどんげと呼ばれた少女は俺を案内しようとした

 

(このまま黙っていれば許してもらえるよな…実際あのイタズラ兎のせいでもあるわけだし……)

(でも俺はこのままでいいのか?女の子を傷付けてしまったことは事実なんだぞ…それを………俺は…)

 

「あ、あの~……理由はどうであれ俺が彼女を…輝夜さんを傷付けてしまった事は事実だと思うんです…。だからせめてものお詫びにこの部屋の片付けの手伝いをさせてもらえませんか?」

 

俺の頭に浮かんだ今最もベストな選択肢を選んだが…問題は輝夜とえーりんと呼ばれた女性がどう受け止めるか、だ

 

「別に気にしなくて良いのよ?むしろこちらこそ謝る必要があるみたいじゃない。落とし穴に落ちた時怪我は?無かったの?」

 

「そ、それなら俺の方こそ気にしないでください!もこ……助けてくれた人がいたので何も怪我はありませんでしたし何より俺が手伝いたいから手伝うだけなんです。ダメですか?」

 

「そこまで言われると…ねぇ……」

 

女性は困ったように輝夜を見つめた

 

「…………あぁもうめんどくさいわね!そんなに手伝いたいなら好きにすれば良いじゃない!私は知らないから!!」

 

そう言って輝夜は走って逃げだした

 

「ひ、姫…!」

 

「姫様……」

 

「な、何か俺のせいで余計にややこしくしてしまったみたいで……すみません……」

 

「いえ…良いのよ、あの子はあんな性格だから仕方ないと言えば仕方ないのよね。とにかく君はまず怪我の確認よ。話はそれから、ね?」

 

確かにいつまでもこの部屋に居座り続けるのも不味いよな……となれば今は大人しく従うのが筋ってもんだよな

 

「分かりました、お世話になります」

 

「それでは改めて、こちらです」

 

俺はうどんげという少女に連れられその部屋を出た




ふぅ……毎日文字数が増えてますね…。大体何文字くらいだと小説というのは読みやすいのでしょうか?私は小説よりマンガ派なのでその辺りの感覚がイマイチしっくりと来ないのですよ…。
さて昨日は気長に書いていくなどとぬかしておきながら今回はまさかの話の核心に迫るというまさかの展開、書いてる自分でも「これはおかしい…」と思うくらいでしたよ…スミマセン…
ただ一応自分の書きたい事は書けたので反省はしていますが後悔はしていません、今回の指摘、改善点、感想など全て喜んで受け付けますのでお気軽にコメントください。
それではまた次回もよろしくお願いします


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巻き込まれた2人目の少年

何とか今日も更新できました、ちなみに毎日しんどそうな文面なのはいつも深夜に執筆しているからであって更新を中途半端に止めたりする訳では無いので気になさらないでくださいね。それでは第5話スタートです。



藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

私は当麻と合流するため永遠亭に入った、だがその時……

 

「きゃっ……!」

 

「うおっ!?いきなり危ないじゃないか!………って輝夜か。どうしたんだ、蓬莱ニートで引きこもりのお前が外に出るなんて珍しいじゃないか」

 

これはまさか異変が起こる前触れか?いや既に異変よりタチが悪い事件が起ころうとしているのだから前触れとは言えないな

 

「うるさいわね!私を馬鹿にしに来たのなら相手になるわよ!!」

 

といきなり身構えて睨んでくる輝夜

 

「そうカリカリするな、今日の分の弾幕ごっこはお前の勝利で一応の決着はついたじゃないか。私には争う気は毛頭ないよ」

 

そう言って私は肩を竦める

 

「……随分と余裕ね、それに面構えも変わったようだけど…」

 

「そうか?私はいつもこんな表情だからよく分からないが…そう言えば上条当麻という髪の毛がツンツンした少年がここに来なかったか?……実は彼は外来人で…」

 

簡単に私は当麻の事を輝夜に説明した、無論幻想殺しとこれから彼が巻き込まれるであろう争いに関しては何も話さずに、だが

 

(輝夜のことだからな……戦争なんて単語を聞いたら大興奮で「うどんげ!今すぐ兎達を集めて私達がこの幻想郷を守るのよ!!」なんて言い出しかねない。万が一にでもそんな事になりでもすれば鈴仙は昏睡状態に陥って、永琳は頭の処理能力が追いつかなくなって寝込んでしまうだろう)

 

 

「あぁ……アイツを助けた人間って妹紅のことだったのね」

 

輝夜のどこか苛立った表情に私は疑問を感じた

 

(さては当麻……また何かやらかしたな…。いくら引きこもりの輝夜でも初対面の外来人をアイツ呼ばわりはしないだろうからな)

 

「何かあったのか?私でよければ話くらいは聞くぞ?」

 

「……っ!!?きゅ、急にどうしたの?熱でもあるの!?それともお腹を壊したの!?妹紅が私を素直に心配するなんてこれは異変だわ…!えーりんえーりん!!大変よ、妹紅が…妹紅が…!」

 

「そうかそうか…人がたまには優しくしてやろうかと思えばお前と言うやつは…!」

 

一体お前の中での私の人物像はどうなっているんだ?とツッコミたい気持ちを何とか私は抑えた。ここで輝夜と喧嘩をしては貴重な時間と体力を無駄に消費してしまう

 

「…まぁ良い、それで?結局どうするんだ?何か言いたい事があるなら聞くぞ」

 

「…もう良いわ、何だか妹紅と話しているとどうでも良くなってきたもの。まぁあのウニ頭は許さないけど…」

 

「あのなぁ輝夜…当麻にはちゃんとした名前があってだな…」

 

「私がウニ頭と呼ぶと決めたらウニ頭なのよ、呼び方を変える気はないわ」

 

どうしてこうもお姫様というのはワガママで頑固なんだろうか、少しは慧音を見習え。と思ったがよくよく考えれば慧音も私に授業を受けさせる時はワガママで頑固だからな…どっちもどっちだな

 

自身も一応貴族の家柄に近しい生まれだと言う事を忘れて妹紅はそんなことを思っていた

 

 

「まぁその辺りは私も後で話を聞くさ。だから永遠亭に戻るぞ」

 

「はいはい、分かったわよ」

 

こうして私は月のお姫様を永遠亭へと帰還させる事に成功した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし迷惑をかけてすみません、上条さんとしては本当に悪気はなかったんですよ……」

 

俺は気付かない内にあの輝夜という少女に光弾を浴びせられた事に恐怖を感じていたのか未だに警護口調になっていた

 

「あ、あはははっ………今度からはちゃんとノックをしてくださいね?多分次は師匠の実験台にされかねませんよ…」

 

そう言った彼女の顔は引き攣っていて冗談ではないことを俺に感じさせるには十分だった。

 

(え、今この子実験台って言った!?まさかの人体実験!?………ここも学園都市と似たような闇を抱えているのか…?)

 

 

学園都市のLEVEL5第1位、一方通行(アクセラレータ)をLEVEL6へと進化させる為の絶対能力者進化計画(レベル6シフト計画)…その内容は一方通行に2万回のクローンとの戦闘を行わせ2万回クローンを殺害するというまさに人体実験だった。いや、あれは人体実験と言うよりは単なる虐殺だったと言うべきだ。あんな悪夢は繰り返されてはならない、そもそも存在すらも許されてはいけない。当麻は過去にその実験を中止にまで追い込んだ事があった。だからこそ当麻は今ここでこの話を見逃す訳にはいかなかった

 

「なぁ……良かったら俺にあんたの…いやうどんげさん(が受けた人体実験)の話を聞かせてくれないか?」

 

俺は少女の肩へ手を置き顔を近付けた

 

「へぇっ!?ちょ!そ、そういうことは困ります!ダメなんですってば…!」

 

「確かに簡単に話せる内容じゃないのかもしれない!でもだからって(人体実験から解放される事を)諦める理由にはならないだろ!?あんたはずっと待ってたんじゃないのか!そんな日常から抜け出せる希望(チャンス)を!(助けるために)手を差し出してくれるやつを!それをあんたから逃げてどうするんだよ!!もしそんなあんたの小さな希望さえも隠してしまう幻想があるっていうのなら…!まずは俺がそのふざけた幻想をぶち殺すっ!!」

 

上条当麻…身分、学生、特技、不幸及び……

 

 

フラグ建築であった

 

 

(ちょ、ちょっと急にこの人何て事言いだすのよ!?それじゃあまるで私がこの人に恋心を抱いているのを我慢しているみたいじゃない…!)

幸か不幸かその時の上条少年の顔は永琳や輝夜に土下座していた時の情けない表情ではなく「漢、上条当麻」の……所謂ありとあらゆる女の子を惚れさせてきた時の表情だった

 

 

「と、とにかく私は一切そういう事に興味はありませんから!今はここで仕事をこなすだけで精一杯なんですっ!!」

 

「そんな事じゃないだろ!?あんたにとってもかなり重要な話じゃないのかよ!?」

 

「だ、だから……!私は…!」

 

尚も当麻が鈴仙を説得しようとしたその時………

 

 

「その辺にしとけよ、女が嫌がってもなお口説き続ける男はまさに三下ってもんだぜ」

 

頭に包帯を巻き、ホストのような服装をした少年が診察室の入口に立っていた。

 

「そうだぞ、当麻。それにお前は色々と勘違いをしている…まぁ人体実験が行われたことに変わりは無いが……」

 

「妹紅…とそれと知らない人まで…それは一体どういう意味だ…?」

 

「あなたは何でもう立ち歩いてるんですか!?師匠からしばらくは絶対安静って言われてたじゃないですか!」

 

鈴仙はその少年を見た瞬間に駆け寄った

 

「悪い悪い、でも心配するなよ。もう大丈夫だぜ?………っ…」

 

だが少年は脇腹を抑え床に座り込んでしまった

 

「ほらやっぱり!今すぐ戻って下さい!!」

 

「た、頼むから引っ張るならもう少し優しく引っ張ってくれ…!傷口に響く…響きますから!」

 

「師匠の言いつけを破ったあなたが悪い!!」

 

そうして2人は部屋から出て行ってしまった

 

 

 

「えっと……俺は……?」

 

「…気にするな、少年…。人生は10の敗北を積み重ねて1の勝利を得るようになっているんだ…」

と、妹紅は俺の肩をポンポンと叩き慰めた

 

「な、何か妹紅が言うと現実味があって心に響くな……」

 

「きっと気のせいじゃないか?それよりあの2人を追いかけるぞ。見たところ彼は外来人だから仲良くなっておいても良いんじゃないか?」

 

「それもそうだな…ついでに妹紅に話しておきたいことがあるんだ」

 

「奇遇だな、私もだ」

 

ともかく俺たちは2人の後を追う事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴仙・優曇華院・イナバSIDE

 

 

 

 

 

 

まったく!何で姫様にしてもこの人にしても落ち着きがないんだろう!!特にこの人は少し前に……その…目を背けたくなるようなほどボロボロな状態で永遠亭の庭で転がっていてそこを師匠が何とか助けたのだけどまだ治ったとは言えない容態なんだから…

 

 

「そう怒るなよ、うどんげ。これでも身体は丈夫な方らしいからな。ちょっとやそっとでは死にはしねぇ」

 

「満身創痍の細身な患者さんにそう言って貰えると安心できます」

 

私は特に気にすることもなく彼をベッドに寝かせた

 

「それで………何か思いだした事はありますか……?」

 

「悪いな……まだ新しい事は何も思いだしていない…。ハッ…情けねぇな……」

 

「あなたが気に病むことはありませんよ、むしろあれだけの傷を負いながら記憶の一部を失っただけで済んだ事事態奇跡のようなものなんですから!それもこれも師匠の腕とあなたの悪運の強さのおかげです!」

 

私は偽りではなく本心でそう告げた、だってあんな半ば挽き肉のような状態からここまで生還できたのは間違いなく師匠の腕前があってこそなのだから。

 

「それにしても名前とどこかの土地の名前だけでも覚えていて良かった……。後者はともかく名前が無いと会話もままならないもの…」

 

「それもそうだな、我ながらよく出来た頭だと思うぜ。でも「垣根帝督」って名前はちょっとカッコ悪いよな…おまけに「学園都市」って何だ?学校が集まった都市なのか?」

 

「私にそんなこと聞かれても……外の世界の事なんて分からないわよ…」

 

「だよなぁ……」

 

「そうよねぇ…」

 

彼……垣根帝督は自分の名前と「学園都市」という単語だけはちゃんと覚えていたらしい、師匠曰く彼の脳は記憶を司る部分がダメージを受けているけど知識を司る部分は何とか無傷だったそうだ。つまり彼に幻想郷に来る前に何があったのかは分からないが勉強や物事を考える分には問題無い、とのこと

何故私がこんなにも「らしい」や「とのこと」など紛らわしい言い回しをするのかと言うと…実は彼を助けるために行われた手術は過去に例を見ないほど大規模な手術で当然私も師匠のサポートをつとめた。そしてその手術は半日にも渡って行われ私は手術室から出た途端気絶して倒れた…ということをてゐから聞いた…。つまり肝心の術後の容体や詳しい事はほとんど師匠やてゐから聞いた情報だったのだ

 

「でもまぁめんどくさい事は考えたくねぇんだよな、ここで寝てるだけなら楽だしうどんげが面倒見てくれるんだろ?」

 

「はぁ……その人に養って貰う事を前提にした考え方は止めなさいよ…?そんな人はここに既に1人いるからもういらない…」

 

ここ、永遠亭には千年以上自分では働かず人に養って貰い生活してきたお姫様がいる。もうこれ以上は……

 

「チッ……そう言えばうどんげ、お前いつの間にか敬語使ってないけど良いのか?俺は気にしないがな」

 

「……あっ…ごめん、じゃなくてすみません…。ちょっと疲れてたせいだと思うんですけど…」

 

よくよく考えれば彼は患者で私はサポートを務める係りなんだ…。気軽に雑談って訳にはいかないわ、こんな所を師匠に聞かれたらどうなるんだろう…。考えただけで背筋が凍ったわ…

 

「だから良いって言っただろ、気にしなくて良い。むしろ俺が気兼ねなく話せる相手がいなくなると困る」

 

「結局私と話して暇を持て余したいだけじゃない、そんなことなら早く寝てなさい」

 

私は彼に掛け布団を被せた

 

「おいおい!息が出来ないだろ!?死んじまうだろ!?」

 

「そんな大声で叫べる人はまだまだ死ねないわよ、良かったわね」

 

そんな他愛もない雑談を交わしている時だった

 

 

 

 

 

 

 

「え、えっと~………お取り込み中の所悪いんだけど…今、話せるか…?」

 

言葉にすると空気を壊して悪い!と言いたげな顔をした少年…上条当麻が病室の入り口に立っていた。

 

「と、当麻…せめてもう少し待った方が良かったんじゃないか?昔から人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて死ぬと言うじゃないか」

 

その隣には姫様のお友達にして殺し合いを楽しむ仲の藤原妹紅がいた

 

不味い、このままでは何かあらぬ誤解を招くと私の第六感が訴えかけてきた

 

「え、えっと……どの辺りからいたの……?」

 

 

 

「「大丈夫だ、お前(うどんげさん)の口調が敬語から話し口調に変わった辺りからしか聞いてないぞ(聞いてないから)!!」」

 

と、言う事は……

 

「ほぼ最初からじゃないの!!何で立ち聞きなんてしてるわけ!?」

 

「上条さんは別にそんなつもりじゃなかったんだぜ!?でも妹紅がもう少し待とうって言うから!」

 

「なっ…!ずるいぞ当麻!当麻だってここに着いた時は気配を殺していたじゃないか!」

 

「結局は2人とも悪いんでしょ!?それくらいはやっちゃダメって分かるでしょ!?」

 

「だから上条さんは…あーだこうだ……」

 

「いや、私はだな……かくかくしかじか…」

 

「言い訳は無用!!診療所で大声を出さないでくださいっ!!!」

 

「「お前が言うなっ!!」」

 

 

 

(賑やかだなぁおい……少しは俺にも気遣ってくれよ……)

そう思いつつ垣根は布団に潜り込み寝息を立て始めた

 

 

 

この後に鈴仙、当麻、妹紅の3人が永琳からキツーーーーイお説教を受けたのは言うまでもないことだった

 

 

 

 

 

 




何と何との禁書キャラ2人目の登場人物が登場しましたよ!おまけに部分的な記憶喪失というハンデ付き!これでストーリーが早く進められるようになったらなぁ……(汗
ちなみにこの話のメルヘン野郎ですがあえてキャラ崩壊をさせています、理由としては色々ありますが大きな理由となったのは自分の中で「メルヘンがこんな性格だったら愉快なのになぁ…」と思ったからです。他にもストーリー上その方が都合が良かったりするという理由もあるのですがそれはまたいつかお話します
それではあんな愉快なメルヘン野郎でも俺/私は気にしないという心優しい方は是非次回もよろしくお願い致します


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入院中だけど誠意さえあれば入院費用なんていらないよね?

はい、サブタイトルから盛大にやらかしたけねもこ推しでございます。
実はこれの本編を執筆中に間違って消してしまい3000文字程書いていたのですが全部パーになりました。正直もう心が折れそうです。
そんな訳でかなり文章が汚いとは思いますがご容赦ください


 

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

結局口論をしていた際に私達は永琳に見つかり……いやあれは見つかってしまったというべきだな。何故なら永琳の背後で輝夜のクスクスという笑い声が聞こえたからだ。当麻への憂さ晴らしに私を巻き込むなよ。そして病室で騒いだ罰として私達は輝夜の弾幕によって破壊された部屋を片付ける羽目にハメになった。

 

 

「あの蓬莱ニート…この恨みはいつか必ず…!」

 

「せめて引きこもりと呼んであげてください…姫様はあれでも結構気にしているんですよ?」

 

「気にしている人間…ではなく月人は毎日昼まで惰眠を貪る事はないと思うぞ」

 

と言いつつ私は自分の分の障子を貼り直し終えた

 

「当麻、そっちはどうだ?」

 

「俺はもう少しで終わりそうだな、うどんげさんはどうなんだ?」

 

ちなみに当麻は障子の張り替え作業の経験が無いという事で部屋に散乱した瓦礫の片付けを担当してもらっていた

 

「私の事は鈴仙で構いませんよ、周りにさん付けで呼んでくれる人がいないからどうも落ち着かなくて…」

 

そう言う鈴仙は私の隣で障子を張り替えていてまだ少し時間がかかりそうだな

 

 

「それなら俺の事も当麻って呼んでくれ、それと俺は患者じゃないから敬語も不要だぞ。俺も鈴仙と似たような理由で落ち着かないからな」

 

「はい…じゃなくて分かったわ当麻。それじゃあ早く作業を完了するとしますか…!」

 

「あ、鈴仙それなら私も手伝うよ。2人でやった方が早く終わるからな」

 

「お~い妹紅さん?上条さんにもちょっと心配する位はあってもいいんじゃないですか?」

 

ははっ、すまないすまない。ついな…と実際は鈴仙を手伝った方が楽だったからという理由でこちらを選んだ私だったがそんな事を素直に言うわけにはいかなかった

 

そうして少ししてからやっと全ての片付けが完了した

 

「や、やっと終わったか…。いざ終わってみるとかなり疲れたな…」

 

「そうよね……師匠に実験台にされた時よりはマシだけど…」

 

「よくそれで鈴仙は生きてるよな、そしてサラッと実験台という言葉が出てくる事に上条さんは驚愕を隠せませんよ…」

 

一応私から当麻に鈴仙が言う実験台の意味を説明しておいたが、やっていることが危険な事に変わりは無いから説得力はあまり無かったみたいだな

 

「とにかく1度休憩しない?どうせこの後2人はすることもないんでしょ?」

 

「俺は賛成だな、ちょうど喉が渇いたんだ。水を貰って良いか?」

 

「じゃあ私も……ってこういう時は普通お茶を催促するんじゃないのか?」

 

「そうよね…もしかして遠慮してるの?ここはお客さんに出すお茶を渋るほど貧乏じゃないわよ?」

 

「え…でもお茶は勿体ないから普通は水で済ませないのか?自慢にはならないが元いた世界の俺は貧乏だったからな…公園の飲み水で喉の渇きを潤すことなんてよくあったぞ」

 

……当麻、今度私が人里で何か奢ってやるからな…

 

「何て言うか……博麗の巫女と既視感があるのは気のせい…?」

 

「さすがの博麗の巫女もお茶くらいは……いや、断言しきれないな…」

 

「と、とにかく!俺は何でも良いから早く休憩しようぜ!な?」

 

どうやら当麻は自分の言った事が場を暗くしてしまったと思ったらしい、実際私も鈴仙も思わず返答に困ったのは事実だが…

 

「…わ、私は先にお茶を用意して台所で待ってるから!妹紅、案内よろしくね?」

 

「あぁ、任せてくれ」

 

私は返事をしてから

 

「当麻…その…深く気にする必要は無いんだぞ?人には得手不得手や幸運不運があるから…な?」

 

と、軽く慰めておいた。だが返って来た返答は

 

「そんな慰めは返って今の上条さんには逆効果ですのことよ…」

 

だった。これは本当に不味いな。

とにかく今は1度休憩を挟むことを優先した方が良さそうだ

そうして私と当麻は永遠亭の台所へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず俺と妹紅は台所に到着した、さっきの妹紅とうどんげにドン引きされた反応はちょっとキツかったけど…今は何より休憩したかった

 

「はい、当麻。お茶が入ったわよ。妹紅の分もあるわ」

 

「ん、サンキューな」

 

「あぁ、助かるよ鈴仙」

 

そうして俺は妹紅の隣に座り鈴仙は俺の前の席に座った

 

「とりあえず…部屋の後片付けお疲れ様!悪いな、上条さんの用事に付き合わせるようになっちゃって…」

 

「大丈夫よ、皆で口論になってそこを師匠に見つかっちゃったんだから…」

 

「そうだぞ、それに例え永琳に怒られていなくても私は当麻を手伝ったさ。せっかく外の世界から幻想郷へ来て出会ったんだ。こうなればとことん付き合うぞ」

 

「え、良いのかよ?妹紅にも用事はあるんじゃないのか?」

 

俺はまさかこんなありがたい答えが返ってくるとは思ってもいなかった。妹紅から博麗の巫女に頼めば元の世界へ帰して貰える事は聞いていたので最悪自力で博麗の巫女に会いに行こうと思っていたけど……幻想殺しがある以上知らない土地で彷徨うと言うのは自殺行為に等しい事を俺は分かっている。イタリアではそのおかげで楽しい旅行が魔術組織とのバトル旅行に変わってしまったからな…

 

「心配するな、私は暇人なんだよ。それに今話し合うべきなのはそんなことじゃないだろう?」

 

「そうね……当麻も学園都市という所から来たのよね?じゃあ垣根帝督について何か知らない?」

 

「悪いな……俺は垣根帝督という名前を聞いた事も無いし会った事も無いんだ…。学園都市は230万人もの人が住んでるからな…」

 

(力になれないのは残念だけど嘘を言う訳にもいかないんだよな…こういう時にインデックスなら出会った事があればすぐにでも「私その人の事を覚えているんだよ!!」なんて言い出すんだろうけど…)

 

生憎上条さんにはインデックスのような完全記憶能力も無ければLEVEL1クラスの能力を発動させるほどの演算処理能力も無いんだ…もっとも俺には幻想殺しがあるからどれだけ勉強しても能力が開花するわけないんだよな…

 

「230万人……よくそんなにも人を集める事が出来たな」

 

「それに学園都市って言う位だから寺小屋が集まってるの?」

 

俺は知っている限りの学園都市についての事を話した。俺にとっては特におかしい所は無かったが2人からするととても興味深い話だったらしく何度か質問された

 

「しかし能力開発……そんな事が外の世界では可能になったんだ…」

 

「特殊な授業を受ければ可能なんだよ、でも半数以上の学生は俺みたいなLEVEL0(無能力者)なんだ」

 

「学校が集まっている、か…私の友達が聞くと興味津津で学園都市に行きたいと言うかもしれないな」

 

「その知り合いは学校に興味があるのか?でも止めといた方が良いぜ。幻想郷とは勝手が違いすぎるから慣れないと思うぞ」

 

などなど半ば質問タイムのようになっていたがある程度俺が答えた所で

 

「そうだ、当麻。私から話さないといけないことがあるんだ…。実は……」

 

「ん……?」

 

何とその内容は……俺を幻想郷から学園都市に帰らせてくれるはずの博麗の巫女が今は忙しくて不在、というものだった

 

 

「そ、そんな………不幸だ……」

 

「それだけはどうしようも無いわね…スキマ妖怪を頼るにしてもどこにいるのかすら分からないし…」

 

「私もついさっき知り合いから教えて貰ったんだ…何だかんだで言いそびれてしまってすまない…」

 

「妹紅は謝る必要ないだろ?その博麗の巫女って人も忙しいんだろうし…何よりそんなタイミングに来てしまった上条さんの不幸を恨むしか…」

 

今回ばかりはさすがに俺は自身の不運を恨んだ、今頃空腹に耐えかねたインデックスがひもじい思いをしているに違いない

 

「まぁ嘆いてばっかりでも仕方ないよな…。そうだ、妹紅。俺からも話しておきたいこと……と言うより聞きたい事があるんだよ」

 

俺は少し前から気になっていた輝夜という少女のことについて聞くことにした

 

 

「分かった、私で良ければ何でも答えるぞ」

 

「あっ、私にも答えられることがあれば答えるわ」

 

「その何て言うか…妹紅がさっき輝夜って人の事を「月人」って呼んでただろ?それでふと思ったんだけどさ…まさか輝夜ってあの竹取物語の…」

 

こんな事学園都市なら絶対にあり得ない、でも俺は既に妹紅が空を飛ぶ所を見たし何よりあの輝夜という少女が放ったあれは異能の力だった。それに俺はもう常識が非常識に、非常識が常識となった世界に来てしまったのだ。

 

「あぁ…そのまさか、だ…。彼女、蓬莱山輝夜は竹取物語に登場するかぐや姫でさっき説教をしていた永琳が開発した飲めば不老不死になる「蓬莱の薬」を使って今まで生きてきたんだ」

 

「……こんな事って本当にあるんだな…。さすがの上条さんもちょっとビックリしましたよ」

 

と言いつつ俺はお茶を啜った。

 

「…えっと…私には当麻があまり驚いているようには見えないんだけど…」

 

「い、いくらこういう類の体験に慣れているからって冷静過ぎじゃないか?」

 

「いや、驚いている事には驚いてるんだぜ?でも今まで魔術結社や吸血鬼を殺す能力を持った女の子や天使を見てきたから感覚が麻痺したって言うか…」

 

(それは麻痺し過ぎじゃない!?しかも天使って…あれは天国にいるものじゃないの?もしかして当麻は一度…死んだ!?)

(慣れは怖いな……と言うか私でも1300年の人生の中で当麻が今言ったものに一度も遭遇していないぞ…)

 

 

この時鈴仙と妹紅には海外の芸術作品に描かれるような天使が、当麻には御使堕し(エンゼルフォール)で地上に現れた天使ガブリエルがそれぞれ脳内でイメージされていたがそんな事は当然伝わる訳も無いのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

垣根帝督SIDE

 

 

 

 

 

 

 

「賑やかなやつがいなくなると静かで良いが…話し相手がいなくなるのも困りものだよな…」

 

俺が目を覚ました時は自分の過去が思い出せずかなり焦ったが…いや内心では正直焦っているが最初よりかはマシだった。それはやはりうどんげや永琳、輝夜にてゐ達が俺の悩みを聞いてくれたり話し相手になってくれたからだと言いきれる。

 

(まぁ実際に悩みを聞いてくれたのはうどんげと永琳くらいだよな、てゐの野郎はうどんげにイタズラがバレた時に匿って貰うために来るだけだったし輝夜においては俺が暇つぶしの役をさせられたからな)

 

「しかしうどんげのやつも律儀な奴だな、半日以上も手術の手伝いをして終わった後に平然としてる方が不気味だろ」

 

これはてゐから聞いた話だが俺は半ば死にかけの状態で手術室へ運び込まれその手術は半日以上もの時間を費やした。そして永琳のサポートに回っていたうどんげは最後まで意識を保っていたが俺が手術室から運び出されると気絶してぶっ倒れたらしい、それで自分の仕事を最後まで果たせなかったうどんげは責任感を感じて何かと俺の事を気にかけてよく話相手になってくれる。きっとあの調子だと他の患者にも全力で接しているんだろうな、過労死するなよ…うどんげ

 

「不気味なやつとはひどい言い草ね、私だって疲れたのよ?」

 

「誰かと思えばDr永琳じゃねぇか。それはお疲れ様だったな、まぁそんなに疲れてるならノックを忘れるのも仕方ないよな」

 

「ドアを開けっ放しにしている人の台詞とは思えないわね、それで体調はどう?」

 

俺は何だかんだ悪態をつきながらもこの現代版ブラックジャックにはとても感謝していた、文字通り命の恩人だからな

 

「傷口はまだ少し痛むが他はすこぶる良好だな、だが…時折アンタやうどんげからここが幻想郷だとか妖怪や神が住んでるとか訳の分からない幻聴が聞こえるぜ」

 

「それは幻聴じゃなくて現実よ、何度も説明したじゃない。…人の疑う能力を打ち消す薬を投与しようかしら」

 

「止めてくれ、アンタが言うと洒落にならねぇだろ!?」

 

俺は数日前永琳からお仕置きと称した薬の人体実験を受けた後のうどんげの顔を見てしまった。まるでこの世の終わりみたいな表情だったぞ

 

「まぁ信じないなら信じないで構わないけど…今日は大事な話があるのよ。あなたの今後に関わる話だからちゃんと聞いてね」

 

その時の永琳の表情は真剣そのものだった。

 

「……分かった、アンタがそこまで言うんだ。俺もちゃんと真剣に聞かねぇとな」

 

俺は起き上がりベッドの上に座った

 

「実はね……これを見て欲しいの…」

 

渡されたのは1枚の何かが書かれた紙だった。

 

「はぁ……どうやら覚悟を決めねぇといけないようだな…」

 

俺は渡された紙に目を通した、そこに書かれていたのは……

 

「入院費及び治療費の請求……書…?」

 

えっと………つまりこれは何だ?ドラマとかでよくある「あなたの寿命はあと1カ月です」とかの展開じゃ無く……至極当然な現実…?しかもここに記入されている額はとてもじゃないが払い切れる額じゃない…第一俺には財布なんて…。

 

(待て俺、冷静に考えろ?金で払えないなら他の方法で払うしかないだろ?じゃあ何がある?そうだ!身体でここで働いて返せば…!………ってそれは……)

 

 

 

 

 

この日俺……垣根帝督の運命は良くて命の恩人のパシリ、悪くて命の恩人に使われる実験台のどちらかになることが確定した

 

 

 

 

 

 

 




さてさて毎度深夜投稿でおなじみのけねもこ推しでございます。余談ではありますがどうやら上条さんの不幸が移ったのか私がいつも使っているandroidのgogle playストアが接続出来なくなりました。これでもうアプリの更新もインストールも出来ません!つまりパズドラなどでアップデートが来ると必然的に遊べなくなります!

不幸だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!

とにかくそんな不幸にも負けずこれからも書き続けていくので応援をよろしくお願いします。


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蘇る悪夢

昨日投稿した話を読み返してみましたが自分でも自覚できる程中途半端な終わり方でしたね、すみません。とりあえず今日のお話では昨日の失敗を繰り返さないようにするので今回もよろしくお願いします


 

 

垣根帝督SIDE

 

 

 

 

 

俺は今まさに人生の分岐点に立っている、それも選択肢を間違えると地獄行き確定の…。これは洒落にならない、どうにかしてこのマッドサイエンティストの人体実験から逃れなくては

 

 

「え、えっと…この請求書のように見える紙は何だ?書類チェックの手伝い位なら引き受けるぜ?」

 

「いえ、あなたに引き受けて欲しいのは書類のチェックではないわ。そこに示してある金額の支払いよ?」

 

不味いな、何とこのマッドサイエンティストは回り手など使わずにストレートにトドメを指しに来た。一応俺は

 

「……もし払えない…なんて言ったら…どうする気だ…?」

 

「そうねぇ…私としては不本意なのだけどこの間開発したばかりの薬の副作用を調べたいから治験に協力して貰うことになるわね」

 

オイ、ヤバイ…ヤバイぞこれは…!こいつとうとう普通に治験をさせろって言ってきたぞ…!これはどうやら本格的に逃亡を考えないとな…

 

「はぁ……その様子だととても治療費を払えそうにも無いわね、かと言って素直に実験させてくれそうも無いし…」

 

「ここに来た時の俺の状態を知ってるアンタなら言うまでも無いだろ!?俺は全身ボロボロの状態で財布なんか持ってなかったんだぞ!後、普通に実験って言いやがったな!?」

 

この時点で俺のストレス値はマックスになっていた、俺は未だにどこの生まれで過去も思い出せないがこんな謎の土地で医学の発展のために死ぬなんて御免被る

 

「でもまぁあなたには姫の相手をしてもらったり、うどんげの対人恐怖症緩和にも役立って貰った恩があるのよね。だから今回は特別に治験はナシにしてここの仕事を手伝うという約束で治療費はチャラにしてあげるわ」

 

「マジか!?それって表向きには公表できない闇の仕事じゃねぇよな!?」

 

「あなたはここを犯罪組織のアジトか何かと勘違いしていないかしら?あなたに頼みたい事はそんな事よりもっと簡単よ」

 

(何とか死は回避出来たな、てかうどんげはコミュ障だったのか?よくコミュ障なのにこんな人と関わるような仕事に就く気になったな)

などと俺は危機を回避した安心感からどうでもいい事を考えていた

 

「それであなたに頼みたい仕事と言うのは……私が開発した薬をうどんげと一緒に売って貰いたいの。あなたの治療費を全て完済出来る金額を稼ぐまで♪」

 

「何だ、そんな事ならお安い御用だぜ…って、はぁ!?無駄だとは思うが一応聞くぞ!?お前が販売している薬で1番高価な薬はいくらだ!」

 

「それはこれを見て貰えれば分かるわ」

 

そう言って永琳は俺に2枚目の紙を渡した、そこに書かれている金額はとてもじゃないが俺の治療費を即座に完済できる程では無かった

 

「……これを断ったら…?」

 

「安心しなさい、手術室は清潔な状態で維持・確保してあるわ」

 

もうそれは治験をするための設備じゃねぇよな…もう俺を解剖する気ですよねDr永琳……

 

「…分かった、俺だって死にたくはないからな。ただ1つだけ聞かせろ。何でうどんげと一緒なんだ?不満じゃねぇが利益や効率を考えるなら俺に顧客の居場所とそこへ向かう交通手段さえ教えれば理論上はうどんげ1人の時よりも利益は上がるはずだぜ?」

 

「あら、意外な質問ね。理由としては色々あるのだけどここ…幻想郷は色々と特殊なのよ。あなたがいた外界とはまったく異なる常識の通用しない世界…そんな所にここに来たばかりの外来人を放りだせる訳が無いでしょ?」

 

「そのここに来たばかりの俺に人体実験を行おうとしたあんたの台詞とは思えねぇな…まぁ良い。それで俺はいつから働けば良いんだ?まさか今日からとは言わねぇよな?」

 

さすがにそれは無い……と断言しきれないのがこの医者の恐ろしい所だ、感謝はしてるが警戒もしないとな…

 

「いくら私でもそこまで無茶は言わないわ、とりあえず今週はベッドの上で安静にしていなさい。そうすれば来週にはもう全力疾走だって可能なくらいの体力は戻っているはずよ」

 

「何て言うか……アンタって本当にすごい医者なんだな。確かに今の調子なら本当に来週には動けそうだ。ただ…これは俺の理不尽なワガママだって事は承知の上で聞くぜ、アンタでも俺の記憶を回復させることは不可能だったのか…?」

 

「…………その事に関しては本当に申し訳ないと思っているわ…ごめんなさい…」

 

俺はこの時の永琳の顔を一生忘れないと思う、何故ならその顔には後悔や怒り、無念さなどの様々な感情が表れていたからだ。命の恩人に対してその技術にいちゃもんを付けるのだから嫌味の1つでも言われると思ったんだが…

 

「いや、俺こそ悪かったな…アンタ程の医者でも不可能はある。それは誰の責任でもねぇよ。むしろ考えもせずに聞いた俺が悪い、すまなかった」

 

俺は素直に謝った、無論本心からだ。俺が今こうして悪態をつけるのもうどんげと楽しく話せるのも輝夜の訳の分からない月の話とやらを聞けるのも全て永琳の腕があったから…なんだからな

 

「とにかく私からの話は以上よ、今日はもう休みなさい」

 

それだけを告げると永琳は部屋から出て行ってしまった

 

(クソッ……うどんげを口説いてたあのツンツン頭の男を俺が三下呼ばわりする資格なんて無いじゃねぇか…。恩人にいちゃもんを付ける俺が1番の三下だっての……)

俺は明日にでも永琳にもう一度謝罪することを胸に誓って目を閉じた

 

 

 

 

 

~永遠亭・診察室~

 

 

そこには椅子に腰かけ、額に手を置いている永琳がいた

(…私は医者として最低の分類ね…人と人とを天秤にかけ、結局彼の脳の記憶を司る部分を治療しない事を選んだのだから…)

彼には今でも申し訳ない気持ちで一杯だった。私は彼を治療する技術が無かった訳でもない、治療するための設備が整っていなかった訳でもない…ただ単に治療しなかったのだ。それでも今は後悔している暇などはない、幻想郷で起こる戦争さえ片付けばすぐに彼を治療する事も可能なのだから…

 

 

「……ちゃんと貴女の言いつけを守ったわよ、紫。そろそろ出てきなさい」

 

私は何も存在していないはずの空間に声をかけた

 

すると何も存在していなかったはずの空間から━━━スキマが開いた

 

「言いつけとは酷い言い方ね、藤原妹紅にしてもそうだけど…私には悪意は無いのよ?幻想郷にとってベストな結果をもたらす方法を私は選び実行しているだけですわ。それは無論貴女のお姫様も含まれているのよ?」

 

「そうね……それが輝夜も含め…幻想郷に住まう全ての者の為に本当になるなら、ね…」

 

「医者として患者を治療を行えなかった事がそこまで不満かしら?貴女がそこまで熱血漢だとは思いませんでしたわ」

 

「別にそこまでは言っていないわ、ただ本当に彼の記憶を回復させないまま…幻想郷の為にと利用するしか犠牲を最小限に抑える方法が無いのか疑問に思ったのよ」

 

彼がこれから自身の身に降りかかる不条理を聞けば間違い無く激怒するだろう。それは彼で無くとも人であれば当然の反応のはず…そう、あの上条当麻と言う少年も同じはずだ

 

「…今はこれ以上話し合っても平行線にしかならないわね、とにかく垣根帝督を鈴仙・優曇華院・イナバと組ませて貰った事には感謝しているわ。それじゃあ次はなるべく良い報告が出来るように善処するわね」

 

全てを言い終える前にスキマは閉じていて紫は姿を消していた

 

私はこれ以上どれだけの人を己の未熟さのせいで傷付ければ気が済むのか…答えなどいくら考えても浮かぶはずは無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後も他愛ない雑談が続いたがとうとう話す事が無くなってしまった。そこで私は

 

「そうだ、当麻は学園都市の出身なんだろ?それならあの垣根ってやつに学園都市に関する話をすれば何か思い出す可能性もあるんじゃないか?」

 

別に確証があった訳じゃないが、このまま無駄に過ごすくらいなら行動した方がマシだろう

 

「そうね…もし垣根が学園都市に住んでいたのなら、話を聞いて何らかの刺激を受けると…もしかしたら…!」

 

「そ、そうなのか?じゃあ早く垣根の病室に行ってみようぜ!」

 

反対意見が出る訳もなく私達は垣根の病室へと向かった

 

「垣根~、悪いがまた来たぞ~。俺は上条当麻、よろしくな」

 

「当麻、ここは病室だぞ。また部屋の後片付けがしたいのか?」

 

「うっ…すみません…」

 

いや、私に謝られてもな……謝るなら垣根に謝るべきじゃないのか?そんな事をふと思っていると鈴仙は垣根をベッドから引きずり出している所だった

 

「ほら、お客さんが来たから起きなさい!いつまで寝てるつもりなのよ!」

 

「……うっせぇな…永琳からもう今日は休めって言われたんだ…。寝かせろ…」

 

どうやら今の垣根は虫の居所が悪いらしいな、私は当麻に引き返そうと促そうとした時だった

 

「……垣根、私の目をまっすぐ見なさい」

 

何と鈴仙が垣根の両頬に手を添え顔を近付けている所だった。

 

「っ!?まさかの!?ここで熱いキスを交わす気か!?」

 

既に当麻は顔が赤くなっている、だからどれだけお前は初心なんだ?

 

「…何だよ、うどんげにしちゃ珍しく大胆じゃねえか…。ただ大胆なのと痴女は全然違うぜ…お前はもっと自分を大事にしろよ」

 

「痴女とは失礼ね、謝罪は後から聞くとして良いから私の目を見なさい」

 

あぁなるほど…そういうことか。確かに大胆…いやこの場では強引と言う表現の方が適切なのか?

 

「……チッ、めんどくせぇ…。何がしたいかは知らねぇがさっさと終わらせろよ」

 

そして垣根が鈴仙の目を見つめると……

 

「なっ…鈴仙の目が赤くなった…!?」

 

「大丈夫だ、当麻…あれは鈴仙の能力で「狂気を操る程度の能力」だよ。詳しく話すと面倒だから手短に話すが鈴仙は今垣根の感情の波長を操っていてその振幅を落ち着かせているんだ」

 

「鈴仙はすごいな…俺も気を付けないと…」

 

大丈夫だよ、鈴仙が当麻の感情の波長を操っても右手が身体と繋がっている限りは打ち消されるからな…っと、もう終わったみたいだな

 

「垣根、ちょっとは落ち着いた?」

 

「あ、あぁ…悪かったな、何かカリカリしてたみたいで…」

 

「良かった…そうそう、そこにいる2人が話したい事があるみたいだからちょっと話してみたら?ちなみに彼…上条当麻って言うんだけど当麻は学園都市に住んでいたのよ?」

 

正確には話があるのは当麻だけだが今話の腰を折る訳にはいかない、私は余計なことは喋らないようにしつつ必要な事だけを話す事にした

 

「へぇ…お前、学園都市に住んでるのか。調度いい、俺も学園都市がどんな所か気になってたんだ。教えてくれよ」

 

「あぁ、良いぜ!それと俺は普通に呼び捨てにしてくれ」

 

「分かった、当麻。それで学園都市ってのはやっぱり学校が集まった都市なのか?」

 

「そうだな、でもただの学校が集まってるんじゃないんだぜ?実は……」

 

当麻はおおよそ私達に話した事と同じ内容の事を話し始めた

 

「妹紅、私にはよく分からないけどあれが男同士の友情ってものなの?」

 

「さぁ……私はあまり人の事をよく知らないからな…。でも仲が良いのは事実だぞ、だってあんなに楽しそうに会話をしているじゃないか」

 

やはり当麻も自分と似たような境遇の人がいると安心したのだろう、それは恐らく垣根も同じはずだ

 

ただ……不測の事態と言うものはあまりに突然に訪れるものだった

 

「それでさ、学園都市には7人しか存在しないLEVEL5っていうすごいやつらがいるんだよ。俺その第7位と第3位…それと第1位にあったことがあるんだけど皆規格外な能力を持ってるんだ」

 

「へぇ…序列があるのか…。ちなみに第1位ってどんなやつなんだ?規格外の中でもずば抜けた頂点なんだろ?きっと俺には想像もつかない能力を持ってるんだろうな…」

 

「…………アイツは……」

 

「ん…?当麻…?」

 

「いや…何でも無いんだ。えっと…第1位の話だったか?確か能力名は

 

 

 

「一方通行(アクセラレータ)」

 

あらゆる物のベクトル(向き)を操れるビックリ人間なんだぜ?」

 

 

 

 

当麻が一方通行という名前を口にした時に異変は起こった

 

「アク……セ…ラレー…タ…!?」

突如として垣根の顔色が変わった

 

「お、おい垣根…大丈夫か…?」

 

「垣根、どうしたの?気分が悪くなったの?」

すぐさま鈴仙が側に寄って背中を擦った

 

「ハァ…ハァ…!クッソ…!!何だよ…!何なんだよ急に…!!」

垣根は急に呼吸が荒くなり頭を抑え込んだ

 

「…鈴仙、私は永琳を呼んでくる。それまでもう一度垣根の波長を落ち着かせてくれ」

これは明らかに何かがおかしい、もし何かが起こっているとすれば永琳を呼ぶのが一番妥当だろう

 

「分かった…ゴメン、当麻は少し離れて!今の垣根は錯乱状態に近いから暴れるかもしれない!」

 

「…悪い……何も出来なくて…」

 

それは仕方ないぞ、当麻…これはどう考えても永琳や鈴仙のような医学に詳しい者が対応するべきだ。

 

 

(それに…妙に嫌な予感がするんだ…)

 

 

 

私は焦る気持ちを抑え永琳の元へと急いだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




多分今回は前回よりはマシな出来上がりのはず……なんです…。正直小説を書く事をナメてましたね…。前にも書いたような気がしますがここまで難しいとは…。鎌池先生やインターネット上に小説をアップしていらっしゃる方々の才能を思い知らされました。
これからも禁書を知らない人には禁書の面白さを、東方を知らない人にはけねもこの素晴らしさ…ではなく東方の面白さを知って頂けるような小説を書けるよう努力してきます


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切り裂く闇に見えてくるのは

最近はonly my RailgunとLEVEL5~judgelight~と言う曲しか聞いていないけねもこ推しです。何の曲か分からない方の為に説明しておくと「とある魔術の禁書目録」という作品のスピンオフ作品である「とある科学の超電磁砲」のアニメ第一期のopなんでございますのよ、はい。これがまたアニメもopも非常に素晴らしい出来で何がすごいかと言うと……(以下略
まぁここまでの話は本編とミリ単位も関係無いんですよ。強いて言うならばサブタイトルの名前に関係があるくらいでしょうか。きっとここまで言うと明日投稿する話のサブタイトルを既に見抜いた方もいらっしゃるでしょう、それでは第8話スタートです


 

 

 

 

 

鈴仙・優曇華院・イナバSIDE

 

 

 

 

 

 

 

垣根は当麻から「一方通行」という能力名を聞いた途端顔色が変わったのよね…学園都市で何か「一方通行」に関わって酷い思いをしたのかな…。何にせよ今は垣根を落ち着かせないと…!かなり傷は治ってきているはずだけど、もし傷口が開いたら……

 

「垣根、もう一度よ。もう一度私の目を見て。良い?ジーッと見つめるのよ?」

 

「クソが…!誰なんだよお前は…!!俺が何をしたって言うんだ!クソ…!!」

 

ダメだ…もう周りの声なんて聞こえていないし何かの幻覚を見てる…

 

「垣根!どうしたんだよ!?まずは落ち着け、ここは診療所だ!」

 

見かねた当麻が垣根の側に駆け寄って声をかけてくれた

 

「当麻…!今の垣根は錯乱状態で幻覚まで見てるから危ないのよ!離れて!」

 

「確かに今の垣根は何かがおかしい…でも…!だからこそだろ!今垣根がこうやって苦しんで悩んでるって時に同じ学園都市に住んでたかもしれない人間同士が、いや友達同士が助け合えないってことが何よりおかしいんじゃないのか!?」

 

「……っ…」

 

何でそこまで躊躇い無く率先して誰かを助けようと行動できるのよ……人間なんて100年も生きられない弱い生き物なんだから無理せず逃げれば良いじゃない…。逃げる事は何も悪い事じゃないのに…

 

「鈴仙!俺にはこの現実をどうにか出来る力は無い!でもお前なら…!お前にはさっき垣根を落ち着かせたみたいに能力が(ちから)があるんだろ!?お前には垣根を楽にしてやる為の力も知識もあるんじゃないか!それを今使わなきゃいつ使うんだよ!」

 

「…あぁもう!耳元でうるさいわね!他の患者さんの迷惑も考えないよ!それに今垣根を落ち着かせる為の作戦を考えていたのよ!私はもう逃げたりはしない!!」

 

当麻の一言は私を奮い立たせるには十分過ぎた、とにかく今はつまらない過去の感傷に浸っている暇は無い。とにかく垣根を落ち着けないと…

 

 

「やりたくは無かったけど垣根の波長を後遺症が残らない程度でかなりゆるやかにするわ、半日は目を覚まさないと思うけど今の私にはこれくらいしか…とにかく当麻、垣根の身体を抑えて!」

 

「わ、分かった!任せろ!!」

 

こんな本気で能力を使う機会が訪れるとは思わなかったわね、でもそれが誰かを「狂わせる」のではなく「救う」ために使う事が出来て良かった

 

「歯をくいしばれよ、垣根!鈴仙の能力はちっとばっか響くぞ!」

 

そう言いつつ当麻は垣根を極力傷付けないように拘束していた

 

「……一瞬で良いわ、一瞬ですぐに意識が無くなって次に垣根が目を覚ました時にはきっと落ち着いているはず…。だからその時は垣根の悩みを聞かせて…」

 

私は未だに「クソ…!」「近寄るんじゃねぇ!」と幻覚を見ている垣根の両頬に手を置きかなり強引に私の瞳を見つめさせた。

 

だがその垣根の瞳は…光が一切灯っていなかった。何より驚かされたのは次の瞬間

 

 

「バァァァァァン!!!!」

 

垣根の背中から6枚の天使のような翼が出現し壁を一気に破壊してしまったことだった

 

 

「なっ…!?まさかまた御使堕し(エンゼルフォール)か!?でも鈴仙の中身は入れ替わっていないし…これは一体…」

 

「エンゼルフォールって何よ!?それに垣根はどうなってるの!?」

 

「……す…」

 

「へ…?垣根…?」

 

どうやら幻覚を見なくなったのかどうかは分からないけど落ち着いたみたいね…良かった…。私は目を閉じホッと一息をついた。だが

 

「鈴仙!!危ない!!」

 

私の目の前には天使のような羽根を私に向かって振り下ろしている垣根と、私の目の前に立ち右手を振りかざしている当麻の姿があった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

私の予感が外れていれば良いが…何故かこういう状況下での私の勘だけは嫌味な程的中するから尚の事焦るんだよ…!

とにかくは永琳だ、あの医者なら錯乱状態の患者を落ち着かせる位訳は無いだろう。問題は今どこにいるかだ。

 

「くそ…!どこに行ったんだあの医者は!今は非常事態なんだぞ!」

 

永遠亭の病室と診察室を覗いたが永琳の姿は無かった、そうなると残りの可能性としては輝夜達が暮らす住居として使っている所にいるということになる

 

(出来るだけ早く見つけないと…!もし垣根が暴れ出したりしたらあの2人じゃ少しと言うかかなり不安だからな…)

 

「永琳!いるか!?実は垣根が錯乱状態になって鈴仙と当麻が対応してるんだ!早く来てくれ!」

 

私は手当たり次第に部屋の扉を開けていった、するとそこにいたのは……

 

 

 

「あら、妹紅じゃない。随分と慌てているみたいだけど……垣根がどうかしたの?」

 

テレビに向かいゲームを楽しんでいる永遠のお姫様こと、蓬莱山輝夜だった

 

「…え、永琳はどうした?今どこにいるんだ…?」

 

「永琳なら今人里に買い物に行っているわよ、何でもイナバが垣根に付きっきりだから代わりに買い物に行くって言っていたわ。それで永琳がどうしたの?」

 

「…お、終わった…完璧に終わった…。よりにもよって今いるのがお前なのか、輝夜…」

 

「何だか私では不満足だ、って言いたげね。また弾幕ごっこでもして惨敗したいの?」

 

「…違う、今はそんな時間はない…。実は…」

 

私は垣根が急に錯乱状態になったことを輝夜に話した

 

「へぇ…注射や苦い薬を平気そうに乗り越えてきた垣根の様子とは思えないわね。それで永琳を探していたの」

 

「あぁ…だがこの調子だと私が人里に探しに行った方が早いかもしれないな…」

 

「何言ってるのよ、わざわざ永琳を待たなくても幻想郷で揉めた時はこれでしょ?」

 

そして輝夜は数枚のスペルカードを取り出していた。

 

「あのなぁ!今回は相手が病人なんだぞ!?いくら死なないように加減したとしても危ないだろ!お前には常識が無いのか!?」

 

「だって……このゲームにはもう飽きたし、永琳を待つにしても迎えに行くとしても時間がかかる以上得策とは言えないじゃない。それに…」

 

「それに…?何だ?」

 

「垣根は普通の人間とは明らかに違うのよ、だから簡単には死ぬ事は無いわ。それに今を楽しまなければ意味が無いじゃない。千年でも万年でも、今の一瞬に敵う物は無いの」

 

「……何訳の分からない屁理屈を言ってるんだお前はあぁぁ!!それに垣根が普通の人間とは明らかに違うっていうのはどういう意味だ!」

 

私は慧音から身体に恐怖と言う形で覚えさせられた秘伝の頭突きを輝夜に食らわせた。ちなみに私がこの奥義を会得するハメになったきっかけは慧音の世界史の授業中に爆睡していたからだというのは誰にも言うつもりはない

 

「いったぁぁぁぁい!!!!!死なないけど痛いじゃない!何て事するのよ!?」

 

「その台詞をそっくりそのままお前に返す!それで…結局どういう意味なんだ?」

 

「本当に痛い…まだ痛むじゃない…。と言うか妹紅は気がつかなかったのね。意外だわ、まぁ私も具体的にどうと分かった訳じゃないけど垣根は多分何らかの能力を……」

 

その時だった

 

 

「バァァァァァン!!!!」

 

「何だ今の音は!?」

 

「そんなこと私が知る訳無いじゃない!…でも診療所の方から聞こえたわね…」

 

どうやら私の勘は最悪の形で的中したらしい、それもどう転がっても永琳からの2回目の説教は免れないというこれまた最悪のオマケ付きで、だ

 

「……一応だけど聞いておくわ、妹紅はまだ永琳を迎えにいくつもり?」

 

「…分かり切った事を聞くなんて随分と皮肉なんだな」

 

「一応聞いただけよ、さぁ帰ってきた永琳が心臓発作を起こさないようにするためにも、これ以上永遠亭を破壊させないよう阻止しましょう」

 

私と輝夜は大急ぎで垣根の病室へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…まさに間一髪だった、あとコンマ何秒かでも飛び出すのが遅れていれば鈴仙は垣根の天使のような翼に切り裂かれてズタズタになっていただろうな…。実際垣根の翼が出現した時の衝撃だけで部屋自体がボロボロになっていた

だが結果としては誰一人として切り裂かれるどころか傷付いてもいなかった

それは勿論当麻の幻想殺しが垣根の羽根を打ち消したからだ

 

(俺の右手で打ち消せたってことは…あれも異能の力なんだよな…。だとしたらあれは魔術か…?能力じゃ無いって決めつけられる証拠があるわけでも無いけどあんな天使のような翼が生える能力なんて…)

俺がそんな事を考えている時にでも垣根は容赦なく攻撃を仕掛けてきた

 

「ちょっと当麻!ぼさっとしてないで避けないと危ないじゃない!!」

 

鈴仙はとっさに俺を引っ張りつつ身を投げ出すような形で回避を成功させた

 

「うおっ!?悪いな、鈴仙!でもちょっと考えてた事があって…」

 

「考え事は結構だけど……垣根はそんな暇を与える気は無いみたいね…!」

 

今度は、垣根は背中から生えた翼を俺と鈴仙に叩きつけるようにして攻撃してきた。言う分には避けやすい単調な攻撃のようにも聞こえるが、余裕で成人男性1人をすっぽりと覆い隠せてしまう位の大きさの翼が襲ってくるのだから実際は風圧もすごいし何より叩き潰されたら一撃でミンチになってしまう

 

「下がってろ、鈴仙!うぉぉぉぉぉ!!」

 

俺は鈴仙を襲った最初の一撃を打ち消した時のように再び右手を突きだして襲いかかる翼を打ち消した

 

「その右手…一体どうなってるの…!?」

 

「考えるのは後だ!垣根を正気に戻したすぐにでも教えるよ!!」

 

「それもそうよね、でもこれ位の攻撃なら私でも回避は出来そうだから次からは自分の身を守る事に徹して貰って構わないわ」

 

(本当ならここは俺が鈴仙を守るべきだ…でも垣根の翼は1度の攻撃で1枚しか使ってない…。それが他の翼を使わないのか使えないのかは分からないけど…2人で固まって同時に潰される位なら…!)

 

「分かった、鈴仙…でも死ぬなよ!」

 

「そういう台詞は自分で自分の身を満足に守れるようになってから言いなさい!」

 

正直鈴仙の事が心配にならないと言えば嘘になるけど…鈴仙のあの言葉は自分の実力を過信したものでも無く垣根を侮っている訳でもなくちゃんとした根拠があるからだと俺は信じていた。

 

「……ころ…す…お前が…どうして…でも俺を殺すって言うんなら…その前に俺がお前を殺す…!!」

 

「どうしてそんな事言うんだよ、垣根!ここにいる俺も鈴仙も誰誰一人としてお前の命を狙ってなんかいないだろ!?いい加減目を覚ませ、この大バカ野郎!!」

 

とにかくまずはあの翼をどうにかしない事には落ち着いて説得も出来ない

 

(俺がさっき鈴仙を守るために垣根の翼に触れた時…結局羽根は再生したけどその再生には1分程の時間がかかった…。もし6つの翼全てを打ち消せばもっと再生のための時間がかかるんじゃないか?)

俺は真正面から垣根にぶつかった、もっと安全で効率的な作戦があったのかもしれないけど…今はそんな事を悠長に考える時間も無いし何より垣根には真正面からぶつかって目を覚まさせてやらないと…!以前に出会った「根性!」が口癖のLEVEL5のアイツの考え方が移ったのかもな!

 

「いつまでもそんな幻想ばっか見てないで早くこっちに戻ってこい!こうなったからには永琳さんの説教をお前にも受けて貰うからな!!」

 

「クソが…!ちょこまかと動いてんじゃねぇ!!」

 

俺の右上から翼が突き刺すように高速で襲いかかってくる、でもそれまでを馬鹿正直に受け止める気はない。

 

「これでも触れるだけで相手を殺せる能力者と殴り合ってないんだよ、俺は!!」

 

俺はその襲いかかってきた翼を身を屈めるようにして回避した

 

(よし!垣根が扱える翼は1度の攻撃で1つだから2撃目は無い!!)

 

だが…翼での攻撃を回避された垣根は不気味にも笑っていた

 

「…っ…!そんな風に笑ってられるのも今の内だ!さぁ歯をくいしばれ垣根!!」

 

俺が勝ちを確信して拳を握って腕を振り上げた時…鈴仙の声が聞こえた

「当麻、避けて!!2撃目が来る!!」

 

(2撃目…!?そんな…まさかここまできて2枚目を扱えるようになったって言うのか!?そんなのアリかよ…!)

確かに鈴仙が言った通りに2つ目の垣根の翼が俺に向かって襲いかかってきていた

 

(回避も防御も間に合わない!俺は死ぬのか……)

 

「まずはお前からだ…地獄に堕ちて俺を襲った事を後悔しやがれ!!」

 

腕を振り上げた状態の俺はどうする事も出来ず反射的に目を瞑っていた

 

だが俺を襲ったのは身体を貫かれる痛みでも吹っ飛ばされて全身の骨が砕ける痛みでも無く………誰かに突き飛ばされて尻餅をついた時の軽い痛みだった

 

「…?一体何が…?……っ!!何でなんだよ…何でお前が俺を庇うんだよ…何でなんだよ!!妹紅!!」

 

 

 

俺の目の前には胸を翼に貫かれて口から血を噴き出しつつも立ったままで俺を庇おうとしてくれている藤原妹紅の悲惨な姿があった

 

 

 

 




非常に今更な事でこれを読んでいてくださる方の多くが気付いていらっしゃることかと思いますがこの作品は東方二次創作のネタを多く含んでいます。輝夜が引きこもりだったりニートだったり鈴仙が永琳の治験に無理やり協力させられていたりと…露骨に私がにわか勢であることを露見させるような内容ばかり書いていたような…。最近は謝ってばかりなような気がしますが改めて謝罪します。本当に申し訳ありませんでした


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重く深く切ない記憶

今回は初めての携帯からの投稿となります、今まではパソコンで書いてたんですよ。ほら、パソコンで小説を書くって如何にも本物の小説家みたいで前から憧れていたんです。だからちょっと残念です…
さて、今回のサブタイトルですが皆さんは分かりましたか?分からない方はyoutubeでonly my railgunを検索して最後の方の歌詞を聴いてみてください。きっと惚れちゃいますよ


 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

俺の目の前に広がった光景は…まさに最悪としか言い様が無かった。妹紅は俺を垣根の翼から庇う為に心臓を貫かれ、その胸からは大量の血が吹き出している。そんな妹紅の様子を垣根は笑いながら見つめ、鈴仙は唖然となっている

 

「垣根…!お前は今自分がどんな事をしたか分かってるのか…!!」

 

「………………」

 

だが垣根は無反応で目は虚ろなままだ

 

「お前…!!」

 

俺が怒りに任せて殴りかかろうとしたその時

 

「止めなさいよ、男が感情的になって殴りかかるなんてカッコ悪いわよ。まぁ笑いながら人の胸を貫く男って言うのもあれだけど…だから私が能力を使うまで待てって言ったのに妹紅ったら…。いくら死なないって言っても痛いでしょ?」

 

いつの間にかかぐや姫こと、蓬莱山輝夜が俺と垣根の中間地点に立っていた

 

「あんた何言ってんだよ…!何で人が1人死にそうだって言う時に平気そうに話せるんだよ!?」

 

俺はすぐに妹紅の胸を抑え止血を行いつつ蓬莱山輝夜を睨んだ

 

「ちょ、ちょっと!あんた私の話聞いてなかったの!?もしかして妹紅の事を何も知らないの?」

 

「妹紅の事って一体どういう……っ!危ない!!避けろ!!」

 

垣根はそんな事お構いなしといった感じで左右から挟み打ちにしようと翼を広げた

 

「あぁもう!後ろの男からは怒鳴られるし前の俺には天使みたいな翼で襲われるってどうなってるのよ!?別に大した事は無いから気にしないけど!」

 

「姫様、危険ですから下がっていて下さい!」

 

準備運動と言わんばかりに首を回していた輝夜を鈴仙がすぐに抱え上げて飛び上がった

 

「私が下がる前に抱え上げられたらどうしようも出来ないじゃない、それは反則よ!鈴仙!」

 

「今はそんな事を気にしている暇は無いんです!とにかく妹紅がリザレクションを終えるまで時間稼ぎを!」

 

(リザレクション…?死なない…?まさか本当に死なないのか!?でも似たような話を聞いたような…)

 

「当麻も呑気に考え事なんてしてないで!危ないから!!」

 

鈴仙の声で気がつくと目の前に翼が迫っていた、だがここを離れると妹紅が…!

 

「くっ…!鈴仙は妹紅を安全な所に避難させてくれ!!」

俺は右手で迫りくる翼を打ち消しつつ叫んだ

 

「で、でも姫様と当麻を置いてはいけない!!」

 

「大丈夫よ、鈴仙。これは私の遊び相手が暴れているだけだから私が鎮圧しないと。それに私が死なないのは知っているでしょ?ね?」

 

「……っ!!すぐ戻ります!」

 

鈴仙は妹紅を抱えると屋根まで一気に飛び上がった。だが垣根の翼が鈴仙の背中を狙う

 

「「させるか!(させない!)」」

 

翼が鈴仙を貫くよりも早く俺は1つ目の翼を殴って打ち消しつ、もう1つの翼は輝夜がいつの間にか握っていた真珠が実っている枝から放たれた光弾によって破壊された

打ち消したのはいいものの垣根の翼は10秒程で再生してしまった

 

「いや〜、あれ厄介ね。初めて会った時から垣根が能力者だってことは分かってたけど…正直ここまで面白い能力だとは思わなかったわ。あの翼って触ったらモフモフしているのかしら?」

 

「本当に余裕だな、アンタは…。翼の質感はともかく問題はこれからどうするかだろ?」

 

垣根の翼の再生が行われている間に輝夜が隣に降り立っていた

 

「あら、戦いの最中に相手を観察する余裕があるのは良いことじゃない?」

 

「あぁそうかよ…せいぜいその余裕が裏目に出ないようにな。それで…アンタは何か考えとか無いのか?」

 

「仮に裏目に出たとしても私は死なないから問題無いわ、ちなみに垣根の目を覚まさせる考えがあるにはあるけど…どうしてもウニ頭が決め手になるのよね」

 

(ウニ頭って俺の事なのか!?でも今は…俺にアイデアが無い以上この人の意見を聞くべきだよな…)

 

「俺はウニ頭じゃなくて上条当麻だ!それで、俺はどうすれば良い!?」

 

「じゃあウニ条!昔、テレビが壊れたらどうやって直したか分かる?」

 

俺はまた襲いかかってきた翼を左に飛び出して回避して、輝夜は光弾を放ち垣根を牽制しつつ浮かび上がった

 

「もう好きに呼んでくれ……しかもそれって要は俺に垣根をぶん殴れって事だよな!!」

 

多分輝夜が言う昔のテレビというのは昭和のテレビのことで、何でも昔はテレビが壊れると叩いて直したらしい。この状況で叩くというのは殴るということだろう

 

「一応根拠が無いわけでは無いわ!垣根は今何かの幻覚を見ている、幻覚から目を覚ますには色々と方法があるけどウニ条の右手には異能の力……即ち幻想を殺す力があるんでしょ?それなら垣根が今見ている幻覚……ううん、幻想を殺してやりなさい!!例えそれで垣根の身体に何が起こってもここは永遠亭!私の従者が必ず助けてあげるわ!」

 

(最初に会った時の一件で見抜かれたのかよ!?でも…そうだよな…。垣根が何で苦しんでいるかは分からないし、俺は鈴仙みたいに垣根を治療することも出来ない…じゃあ俺に出来る事は…!)

 

「そうだよな……友達が幻想に苦しんでるって言うんなら!その幻想をぶち殺すしかねぇよな!!

 

垣根!!お前には悪いが俺は読心系能力者じゃないからお前の苦しみを分かってやれない!でもお前が見ている幻想を!お前を苦しめる幻想を殺してやる事くらいは出来るんだよ!だから早くこちに戻ってこい!!」

 

俺は迷いなく垣根に真正面から突っ込んだ、当然2つの翼が襲ってくるけど避ける必要は無い。何故なら

 

「垣根、アンタは私の遊び相手になってくれる大切な友達なのよ…。だからこんな所で幻想相手に暴れる位なら私と一緒に遊びなさい!!」

 

俺の背後には頼れるかぐや姫がいたからだ、もっとも地面位なら平気で破壊する弾幕を放つって条件付きだけどな。そしてその地面をも破壊する弾幕が大量に放たれ、6つの垣根の翼を一瞬で全て破壊した

 

「お前がいるべき場所は幻覚の中じゃない、鈴仙や永琳さんにかぐや姫、そして俺や妹紅がいる現実だ!!それでもお前がまだ幻想に籠り続けるって言うんなら…まずはその間違った幻想をぶち殺す!!」

 

翼を全て破壊され、さすがの垣根も驚いたのか一瞬だけ動きが硬直した。俺はその隙を見逃さず

 

「ゴキンッ!!」

 

垣根の顔面に俺やかぐや姫、この場にいない妹紅と鈴仙の分の思いを込めた一撃を叩き込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

垣根帝督SIDE

 

 

 

 

(……ここは…どこだ…?)

俺は気がつくと辺り一面が真っ暗で何も無い場所に立っていた、だが何故か不安や恐怖を感じることは無く感じたのは既視感だった

 

「要は俺がこんな場所に慣れてるって事か?……ったく…こりゃ記憶が回復しない方が良いかもしれねぇな」

 

ただ分からねぇ事がいくつかある、俺は確か当麻とうどんげと一緒に他愛ない雑談をしてたはずだ。少なくともあの時はまだ昼にもなっていなかったし停電したとしてもここまで暗くなる訳が無いよな…。もう一度思い出してみるか…

 

「俺は…そうだ、当麻に学園都市とか言う街の事について聞いてたんだ!それで学園都市に7人しか存在しないって言うLEVEL5の話になって…その第1位である一方通行の能力名を聞いた途端……っ…」

 

そこまで思い出した途端に急に辺りが明るくなった。だが目の前にいたのは当麻でもうどんげでもなく…………黒翼を背中から生やした白髪の少年だった

 

「お、おい……お前は誰なんだ?つかその黒い翼は何だよ!?後、何でそんなに殺気立ってんだ!?」

 

少年…いや、ソイツが俺に向けてきた殺気は尋常な物じゃなかった。それこそ親や家族、恋人を殺した仇に向けるくらいの殺気だぞこれは。だけど俺にはそんな事をした記憶は無い、いや………まさか…幻想郷に来る前の俺がコイツの恨みをかったって事かよ!?

そうだとすればこれは至極正当な復讐であってかなり不条理な復讐となる。手を出す相手の力量くらいちゃんと考えろよ俺!!

 

「え、えっとだな……悪いが今の俺には過去の記憶がほとんど無い、だからお前が今俺に敵意を向ける理由も分からねぇんだ。かなり無理な願いなのは分かってるがまずは話し合いでかいけ……」

 

だが次の瞬間…俺の身体は襲いかかってきたソイツの黒翼に吹っ飛ばされていた

 

「ガァァァァァァァァァァ!!!!」

 

全身からメキメキと嫌な音が響き、肋骨が数本折れた事を伝える激痛が脳にガンガンと伝わってきた

 

「立てよ、まさかこれくらいで死ねるなんて思っちゃいねェよなァ!オメェにはもっともっと苦しんで貰わねェと割にあわないんだっつの!!」

 

「クソ…!俺が何をしたんだよ…!!訳が分からねぇぞクソが…!!」

 

「あァ?今更とぼけんなよ、お前がやった事は暗部に生きる人間にとって一番のタブーだろォが!お前の勝手な理屈に打ち止め(ラストオーダー)や表の世界で生きるやつらを巻き込むんじゃねェよ!!」

 

アイツの話を全て鵜呑みにすんなら俺はかなりのゲスだったらしい。多分俺は汚い裏の世界で生きていて何かの為にアイツの大切な表の世界に生きる人間を巻き込んだようだな。それが本当だとすれば俺は間違いなく死ぬべき人間だ。正直死んだ位で償える罪しか犯しているとは到底思えねぇが……。そんな事を考えているとアイツがどうやったかは分からないが一気に加速して俺へ襲いかかってきた、あんな勢いであの黒翼に吹っ飛ばされたら今度こそは死ぬだろうな

 

(じゃあ幻想郷ってのは神様とやらが死刑を執行される前の俺に与えた天国ってやつか?だとすればあんな心地の良い天国なんて見せんなよ………死にたくないと思っちまう……。それともそんな心地の良い天国を見せる事で俺に後悔させようとしたのか?………死んだ後に殴りに行ってやるから覚悟しやがれ…)

 

俺は世間一般で言う走馬灯を見ていた

思えば今まで本当に楽しい日々だった。永琳に新薬の実験台にされかけて本気で逃亡したこと、てゐの奴がうどんげにイタズラして逃げてきた時は逆に捕まえて放り出してやったっけか、輝夜に「暇潰しの相手になりなさいよ」って言われた時はかなり驚いたよな。それで結局2人でシューティングゲームをする事になったが…思えばゲームがあったからうどんげや永琳が言う幻想郷の話が信用出来なかった。普通ゲームが楽しめる場所に神や妖怪がいる訳ないだろ!?それに……何より楽しかったのは…うどんげと話せた時間だな…。その記憶のどれも全てが明るく輝いていて俺にこれから執行される死刑を…いや、アイツの恨みをかった事を後悔させた

 

「……悪いな…永琳、うどんげ…。お前達に救って貰った命、早速無駄にする事になるが…許せよな…」

 

「あァ!?訳の分からねェ寝言をほざいてんじゃねェぞこの格下がァ!!」

 

既にアイツは2つの黒翼で俺を押し潰せる距離にまで近付いていた

 

「殺せよ、化け物……それで気が済むんならな………」

 

その時……本当に一瞬だった。あまりにも一瞬過ぎて本当に見えたのかも分からなかったがそれでもやはり見えた、確信出来る。それは元から紅かった瞳を更に紅くして泣きじゃくっているうどんげの顔だった

 

「っ!!止めろ!そんな顔をお前がするんじゃねぇぇ!!!!」

 

俺は構わない、例え殺されようが死ぬより辛い拷問を受けようが恐らくそうされても文句が言えない程の罪を犯してきたんだろう。だが………うどんげは違う、何も罪を犯していない光の世界の人間だ。俺のせいでアイツが傷つく事だけは許さない、いくら俺が人殺しだろうがクズだろうがうどんげが傷つき悲しんで良い理由には何もならねぇじゃねぇか!

 

「殺す……!!お前がどうしても俺を殺すって言うんならその前に俺がお前を殺してやる!!」

 

もしうどんげが……あり得る訳が無いが……俺の死を悲しんで泣いてくれるって言うんなら…。俺は死ぬ訳にはいかない、別に俺が犯したであろう罪が帳消しになるなんて思ってはいない。だがその罪を償う為に、うどんげが悲しむっていうんなら俺はどれだけ非難され蔑まれようとも生き延びてやる

そして俺は……6枚の天使のような翼を出現させ、アイツの黒翼の攻撃を防ぎきっていた

 

「防がれた……だと!?」

 

「はっ………神様とやらは俺を殺したいのか生かしたいのかイマイチはっきりしねぇな…。ただ…このメルヘンチックな翼を与えたって事は…闘えって意味だよな!!」

 

「吠えてンじゃねぇぞ、この格下がァァァァ!!」

 

アイツは一度距離を取り、俺は自身に宿ったこのメルヘンチックな翼の使い方を考えていた

 

(何とか反射的にアイツの攻撃をガード出来たが…この翼をどう使う?いや…深く考えても無駄だ。今はアイツを殺す事が出来ればそれで良い、俺はもう光の世界に戻れなくてもうどんげが笑って幸せに暮らせるんならそれで良いだろ!)

 

「さて、と……お前には悪いが俺はまだ死ぬ事は出来ねぇ。だから我ながら身勝手だとは思うが…お前には死んで貰う!」

 

「お前に生死を選ぶ権利なんてねェんだよ、分かってねェよォだから俺がその身体に「死」ってもンを刻み込ンでやンよ!!」

 

本当勝手な理屈だよな…それにうどんげが俺の死を悲しんで泣いた、なんて確証も無い。それでも……それでも俺はまだ会って謝らなければならない恩人がいる、怒らなければならないイタズラ兎がいる、一度勝った位で良い気になっている下克上を果たすべきお姫様がいる、何より………こんなクズみたいな俺に笑顔で優しく接してくれたアイツに礼を言わなきゃならない。

 

「あるじゃねぇか…こんなにもたくさん生きたいと思える理由が!悪いが俺は死んで罪を償うよりも生きて苦しんで悩んで罪を償わせて貰う!!分かったらとっとと元の居場所に引き返しやがれ!!」

 

先に仕掛けたのは俺からだった、未だに自由に使う事もままならない翼を何とか動かしアイツに正面から殴りかかる。上手く翼を扱えない以上下手に絡め手を使うのは危険だ

 

「死ねやこのクソメルヘン野郎がァァァァァ!!!!」

 

「失せろこのクソモヤシ野郎がァァァァァ!!!!」

 

アイツは余裕があるのか俺の攻撃を避けようとはせず2つの翼を使い真正面から黒翼を叩きつけてきた。そして俺はそれを真下から突き上げた。ぶつかりあった翼は辺りに爆風を巻き起こし俺は足に力を込める。やはり扱えるようになって間もない翼をいきなり実戦に使うのは間違いだったか?それでも……俺は足掻いてやる!どれだけ無様でも…!

俺はアイツの黒翼2つに対しそれぞれ3つの翼で突き上げそして…黒翼を破壊した

 

「何!?破壊されるなんてありえねェ…!!」

 

「普通なら…破壊出来なかっただろうな。だが…俺に常識は通用しねぇ!何より今の俺にはお前とは違う信念があるんだよ!だからここは俺に譲りやがれクソモヤシ野郎!!」

 

頭に何故か浮かび上がったあだ名を叫び俺は襲いかかってきた白髪の少年の顔面を殴り飛ばした。

そしてアイツが吹っ飛ぶと同時に辺りが目を開けていられない位に明るくなり始め俺の意識は失われていった

 




よしっ!今回が歴代の話数の中で最大文字数ですよ!!個人的には内容も最高の話に仕上げた!つもりです。
何にせよ今回の話はどのキャラにも活躍して欲しくてたくさんの場面を盛り込む予定でした。そしてそれを下書きしてみると…何と不思議な事にていとくんの話が一番目立ってしまうではありませんか!これでは誰が主人公か分からなくなってしまうと言うことでていとくんの活躍シーンを予定の半分程に減らし、上条さんには2回も「その幻想をぶち殺す!!」を言ってもらいました。その為今回はやや自己満の話になっているかもしれません。ちなみに今回の「垣根暴走事件」のバトル展開は終わりましたがまだ完全には完結していませんしこの小説自体のストーリーはまだまだ完結しませんよ!せっかくですのでこれからもお付き合い、よろしくお願いいたします


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叫べ、今持つこの金しかないと

サブタイトルは安定のパクリのけねもこ推しでございます。さて、これは一週間ぶりの投稿になる訳ですが皆さんはこの小説を覚えていらっしゃいましたか?改めてこの小説のモットーを確認すると
1、けねもこは神の国
2、上条さんは基本的に不幸
3、ていとくんも不幸

え?原作のていとくんは不幸体質じゃない?やだなぁ

「俺の二次創作にその常識は通用しねぇ」

と、まぁこんな感じで書くと私のフリーダム感を理解していただけたと思います。それでも構わないと言う方は本編をどうぞ!






 

 

 

 

垣根帝督SIDE

 

 

 

俺は今世にも奇妙な状況に陥っている。ざっくりと言ってしまえば生きるか死ぬかの瀬戸際だ。

理由は単純、目の前にいらっしゃるDr永琳を本気で怒らせてしまったからだ。現在の状況は右から当麻、妹紅、俺、うどんげ、輝夜の順で永琳の前で地面に正座して膠着状態が続いているが……このままでは劇薬を投与されかねない。いや、永琳ならマジでやるぞ。何でこうなった……何で俺がいた病室が跡形もなく消え去ってる………何で…

 

俺はただひたすらに何でを心の中で連呼しつつ、こうなった原因を探るため今までの事を回想する事にした

 

 

 

 

………落ち着け、まずは状況を整理しろ。俺は確か当麻に一方通行という能力名を聞いた途端に目の前が真っ暗になった。そこで謎の黒翼を生やした野郎に襲われたが無事撃退、そして目を覚ますと目の前には当麻と輝夜、それにうどんげと藤原妹紅とか言うやつの顔があった。それまでは別に良い、ただここで1つ問題が発生した。

 

「か、顔が痛ぇ……!!」

 

特に鼻の辺りが酷い、これ骨が折れてるんじゃねぇか!?

 

「あ〜………えっとそれはな…。ふかーいふかーい事情があったせいで上条さんが右ストレートを放ったせいのような違うような…」

 

「ま、まぁ仕方ないんじゃない?垣根が暴れた以上誰かが止めなきゃ行けなかった訳だし…!骨は折れてないから大丈夫よ!」

 

何で当麻とうどんげは2人で勝手に納得してやがる!?要はあれか!?俺がパニックになったからとりあえず殴って収めましょうってか!?

 

「あ〜……話の内容がハッキリとしない以上何とも言えねぇが……よくも殴ってくれやがったなこの野郎!!」

 

俺はとりあえず当麻に突っかかった。

 

「だから仕方なかったんだ!と言うか垣根だってよくも勝手に暴れてくれたな!!」

 

「何だと!?俺の責任かよ!?」

 

話を聞く限りこれは俺がやらかしたらしい、クソったれ!!意識が無い間に建物破壊とかどんだけ俺はクレイジーなんだよ!

 

「落ち着きなさいよ、垣根!何もアンタ一人に責任を負わせようって訳じゃ無いの!姫様も弾幕で壁を数ヶ所破壊してるし、当麻にも垣根が暴走するような話をした責任もある!何より何も出来無かった私にも責任が…!」

 

「待ちなさいよ、イナバ!それって私にも永琳に怒られろって言いたいの!?嫌よ!絶対に殺されるわ!」

 

「ま、待て待て鈴仙!いくら何でも上条さんに責任を押し付けるのは卑怯だぞ!あんな話で垣根が暴走するなんて誰が予想出来るんだよ!?」

 

「ゴチャゴチャ言わないの、当麻!!姫様だって今更1抜けたが許されるとも思わないでしょう!?」

 

こいつらはどこまで俺を抜きにして争う気だ……つか自分は助かりたいっていう本心が丸見えだぞ…。とりあえずここにいる全員は巻き込んでおくか、さすがの永琳もこの人数全員に人体実験を行うのは不可能だろ

俺がそんな甘い事を考えていたその時だった、青と赤の服を着た最強にして最恐の医師が現れたのは……………

 

「言いたい事は…………皆それだけかしら?」

 

何と俺達が一番恐れていた事が現実になってしまった、永琳は俺達がいる場所から少し離れた位置に立っている。その表情は無表情で怒気を隠そうとしているが、目からは人を殺すのには十分過ぎる程の怒気が漏れている

 

「えっ…あ…いや…私は当麻を庇っただけで何も知らないというかだな…」

 

永琳から目を反らす妹紅

 

「そ、そうなんですよ!!俺と妹紅はむしろ巻き込まれた被害者って言うか…!!」

 

汗を大量に流しながら苦し紛れの言い訳をする当麻

 

「何でウニ条と妹紅が被害者なのよ!?それなら私は垣根を救ったヒーローでしょ!悪いのは暴れた垣根とそれを誘発したイナバとウニ条よ!!」

 

露骨なまでの責任の押し付けをする輝夜

 

「そ、そんな…!酷いですよ!!実際に診療所の一部は姫様に破壊されたじゃないですか!!」

 

涙目になりながら輝夜に反論するうどんげ

 

(おいおい……普通に考えて今言い訳をするのはマズイだろ…!永琳の表情見ろよ!!怒りを通り越して哀れみすら感じるぞ!?)

肝心の永琳は4人の口論に呆れたらしく額に手を当てている

 

「とりあえず………話だけでも一応は聞いてあげるから全員その場で正座しなさい」

 

「え、永琳?私は構わないわよね?」

 

「わ、私だって無罪だからな?本当に当麻を庇っただけだからな?」

 

2人の祈りは永琳に通じる訳もなく

「姫も関係ありません、お座りください。それに妹紅、貴方がいながらこのような事態になる事が私には意外だったのよ

 

分かったら今すぐ謝罪内容でも考えなさい」

 

はい、これで全員がチェックメイト………俺達に残された選択肢はただ1つ

 

「「「「「はい……………」」」」」

 

結局、全員が観念して永琳の前に正座をする羽目になり俺は顔面の痛みに耐えながらこの危機的状況を打破する為の謝罪内容を考える事になった

 

 

 

 

俺は長々とした回想を終え、意識を今に戻す

(クッソ………我ながら間抜け過ぎるだろ…!よりにもよって永琳をキレさせる羽目になるとはな…。…まぁ1番悪いのは俺だからもしうどんげ達にまで迷惑がかかるようならその罪は俺が背負う……だとしても人体実験だけは避けないといけねぇんだ…!)

 

心では何か策を講じる必要性があった事は分かっていたが今のこの状況は意識が戻ったばかりの俺が行動するには余りに過酷だった………

 

 

 

 

 

 

 

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

……………私の今の状況はこの一言に限る

 

(不幸だ…………)

私は輝夜を見つけた後に急いで当麻達の元に向かった、だがその時には既に垣根から生えた天使が持つような翼が当麻に襲いかかっていて私は紫との約束も冷静な判断も忘れて当麻を突き飛ばして庇うという方法を取るしか無かった。当然ながら私は垣根の翼に心臓を貫かれて絶命、心臓を貫かれて死んだのは数カ月ぶりだったがやはり痛かったな……前は輝夜と殺りあった時に貫かれたが慣れるものじゃないし慣れたくもない

 

(えっと………その後は鈴仙に安全な場所まで運ばれてリザレクションが完了するのを待ったんだよな…。死んだのも久しぶりだから少し復帰までの時間がかかったんだ、やはり不死といえども死ぬのは辛いな……)

 

だが別に垣根を恨む気はない、勿論いきなり殺された事について何も思わない訳じゃないがあれは完全に想定外の事態としか言いようがないし、何より私からあの翼の前に立ったんだ。少し見方を変えれば自業自得と言われても仕方無い

 

(第一、殺される度に怒っていたら私は輝夜に毎日怒鳴る事になってるんだよな………まぁこの辺りは蓬莱の薬故に、という事か。だから1度死んだ事までは水に流そう。だがしかし!これは私は無関係だろう!?何で私が永琳の恨みを買う羽目になったんだ!?不条理過ぎる!)

 

目の前にいる八意永琳という人物は天才と言う言葉で表すには足りない程の天才だ、輝夜の能力を使ったとは言え蓬莱の薬を生み出した位だから間違いなく慧音以上に天才だろう。問題はこの天才を敵に回してしまう可能性がある、という事だ。永琳にかかれば例え不老不死の私であろうとも苦痛を与える方法なんて山程知っているはず…。なまじ不死なだけに苦痛が続く分辛いだろうな……

 

「………とにかく診療所の一部が破壊された経緯を聞かせて欲しいのよ、あなた達への対応はそれを聞いてからにするわ」

 

どうやら今すぐここで全員の脳天を弓矢で射抜く気は無いらしい。とは言っても永琳が輝夜に手を上げるなんて有り得ないし、私は不老不死だから脳を射抜かれても死なない。次に当麻だが……紫の事だ、今もどこかで見ていて最悪の場合は当麻をスキマに引きずり込むだろうな。後は鈴仙と垣根か……鈴仙はともかく垣根は射抜かれても可笑しくはない、だが今もまだ無事なら心配は無いだろう

 

「お、俺が垣根に余計な事を話したせいで垣根を混乱させてしまったのが悪いんです!ついうっかりってやつだったんですけど…………すみませんでした!!!!」

 

何と当麻がいきなりの土下座、妙に慣れているのは気のせいか……?

 

「いきなり土下座されても困るわ、でもそれなら責任は上条君と垣根君に取ってもらうべきかしらね」

 

これは………どうするべきだ?助けるか否か……これは私が介入してどうなる事でもないが今ここで当麻が足止めを食らうのは不味い

結局、私がせめて当麻だけでも擁護しようとしたその時

 

「止めろ、当麻。原因は何であれ診療所の一部をぶっ壊したのは俺だ、俺がやらかした事の後始末は俺自身がつける

だから永琳、俺を煮るなり焼くなりお前の気が済むまで好きにして構わねぇよ。ただ当麻やうどんげ、輝夜もそうだが藤原妹紅に至っては俺が傷付けてしまった被害者だ。これ以上虐めてやるなよ」

 

私が口を開く前に垣根が1人で全責任を被るような発言をした、それに対して永琳は

 

「一応聞くけれど、あなたの暴走は無意識だったかもしれないんでしょう?その程度は考慮するつもりだったのだけど」

 

「言っただろうが、原因が何であろうと無意識だろうと俺がここをぶっ壊した事に変わりはねぇ。別に今更言い逃れをする程三下じゃないんでな」

 

実際問題、垣根の言う事は正論だった。当麻や鈴仙が何をしようが、輝夜が弾幕で壁を破壊しようが詰まるところは垣根の責任だ。私や当麻、輝夜に鈴仙だって永琳の怒りを無駄に買うような真似はしたくない

だが…………垣根1人に全責任を押し付けて、自分だけ逃げる事なんてもっと願い下げだ

 

「1人で何カッコつけてんだよ、垣根。言い逃れをするのが三下だって言うんならここで黙って垣根に責任を押し付けるのは格下のすることだぜ。上条さんはそんな格下じゃありません」

 

最初に立ち上がったのは当麻だった

 

「そうよ、垣根。入院中の垣根のだらしない寝顔を見てきた私からすれば今のカッコつけてる垣根は見るに耐えないのよ

だから師匠、もし垣根に罰を与えるなら私もその罰を受けます」

 

続いて鈴仙

 

「はぁ………何だかウニ条の言い分を聞くと私が格下だって言われているみたいで腹が立つわ。それに垣根、アンタは下手にカッコつけると見苦しいから止めなさい

そういう事だから永琳、これは主としての命令よ。垣根1人だけに罰を与える事は許さないわ」

驚く事に輝夜まで……

 

(まったく…………よりにもよって私が最後とはな……。良いよ、分かった………たまには人間らしい事もやってやるさ!)

 

「最後になったが私も皆と同じ意見だ、垣根の格好はともかく私は当麻が言うような格下じゃないし、そんな格下にもなりたくはない。

だから人間1人の罪の一部位は肩代わりするさ」

 

「お前らなぁ…………俺を馬鹿にするのか助けるのかどちらかにしろよ……。割とマジで傷ついたんだからな…」

 

垣根の表情は言葉とは裏腹にどこか嬉しそうだった、やっぱりどんな能力を持っていても子供らしさはあるものだな

 

「はぁ…………これじゃあ私が悪役のようね……。上条君はともかくうどんげや姫から反抗されるとは思わなかったわ。これは本当に困ったわね、どうしたものかしら……」

 

どうやら永琳は本当に驚いたらしい、その証拠に驚きが混じったような表情を永琳は見せた

 

「さて、どうする?2人の不老不死と1人の自分の従者、そしてもう1人は無実の外来人…………これでもまだキツいお仕置きが必要なのか?」

 

私はあえて永琳を追い込む発言をした、何故ならこの永琳は迷っただけで未だに垣根や当麻に何もしないとは言っていない。少し心配し過ぎな気もするが……念の為永琳を精神的に攻めておくべきだ

 

「…………分かりました、妹紅やうどんげだけならともかく姫にまで命令されたのでは私に逆らう権利などはありません。ただ垣根君を無罪放免にするという訳にもいかないのは分かって頂けますね?」

 

「…それは分かっているわ、だからその為に私やウニ条、イナバに妹紅も垣根と痛み分けをするって言っているのよ。覚悟はとうに決めたわ」

 

「俺も…………どんな事でも構いませんよ。俺自身が決めたんだ、上条さんの覚悟は重労働程度では揺らぎません」

 

「………それではこの永遠亭の管理を行っている者として垣根帝督及びその他の4人に………

 

 

診療所を修繕出来るだけの賠償金を要求するわ」

 

「は…………?」

 

それは私達の誰1人も予想していない答えだった。と言うか……え…………?賠償金…?要はお金……?

 

私は即座に今現在の所持金を考えた

 

(無理だ、絶対に無理だ!!どう足掻いたって診療所を修繕出来る程の金なんて出てくる訳がない!!)

 

かくして垣根以下、私達4名は生まれて初めての賠償金なるものを払う事になったのだった

 

 

 

 




はい、先週にお伝えした土曜日に投稿という約束を盛大に破ってしまいました
本当に申し訳無いと思っています。
実は昨日の深夜に今回とはまったく違う展開の話を完全させていたのですが何ともグダグダで無駄にシリアス展開だから読み返してもお世辞にも面白くなかったんですよ。その為1度削除して朝からまた書き始めた訳です。個人的には書き直す前よりは良くなったと思っています、来週は書き直し無しで投稿出来るかな……正直不安ですが善処はしますので応援よろしくお願いいたします


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賠償金は突然に

何だかもうサブタイトルがパクリを通り越して適当になりつつあるけねもこ推しでございます
さてさて、今回は皆さんにお伝えしたい事が2つあります。まぁ読んだ所で…みたいな話なので興味の無い方はスルーして頂けるとよろしいかと

 それでは1つ目、実は4月24日は「とある魔術の禁書目録」のスピンオフ作品である「とある科学の一方通行」の3巻発売日なのです!いやぁ、これは嬉しい!何せ私の尊敬するダークヒーローですからね。と、言う事で次回はその3巻の発売を記念して学園都市を舞台にした一方通行メインの話にしようかと思っています。本編とまったくの無縁という訳でも無いのでまさに番外編ですかね

 つづいて2つ目は……はい、後書きでいつも謝罪文しか書いていない自分に嫌気がさしました!まぁ私の自業自得なんですがいい加減に自分に腹が立ちましてね…。当面の対策としては今まで以上に執筆するにあたり努力する、ともう1つは後書きで謝罪文以外の書きたい事を書くなんです
と、言う訳でこれから後書きではこの小説に登場するキャラの設定や自己紹介などを書いてみたいと思います。これで禁書を知らない人は禁書キャラを、東方Projectを知らない人には東方キャラについて改めてでも知って頂ければと思います

え?両方を知ってるから幻想入り小説を読んでいる?やだなぁ

「俺の二次創作にじょうs(以下略






 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 本日の天候、良好、脈拍、良好

 

わたくしこと上条当麻の不幸具合……「今まででの人生の中で上位に食い込むレベルで絶好調」……

 

 

 

俺は別に嘘で永琳さんに垣根との痛み分けを申し出た訳じゃない、重労働や死なない程度の人体実験なら耐えるつもりだった……

 

(何で賠償金!?いや、この場合なら賠償金の話になってもおかしくない!でも何でよりにもよって貧乏学生の俺にそんなお金の話が!?)

 

一応、当麻のポケットの中に財布と携帯は入っているがこの状況を打開できる金額など一般の学生……ましてや白玉桜の主と大食い対決をしても引き分けられる程の食欲を兼ね備えたシスターを養っている上条当麻の財布に入っている訳が無かった

 

(それにここで学園都市の通貨が通用するとも思えないんだよなぁ……まぁ通用したって雀の涙程度しか入ってないけど……)

 

 だがそんな貧困な状況は皆も同じらしい

 

「だ、大丈夫大丈夫……私の魔眼を持ってすれば賠償金の波長を狂わせるなんて簡単簡単…!そう!落ち着いて地面の小石の数を数えていれば問題無い……!」

 

鈴仙はそう言いつつ空を見上げながら渇いた声で笑っていた

 

(………鈴仙…言ってる事が滅茶苦茶な上に目が虚ろになってるしそれは精神を病んだ人間が辿り着く末路だぞ…。じゃ、じゃあ妹紅はどうなんだ?)

俺はとりあえず発狂寸前の鈴仙から目を離し、妹紅の方を向いた

 

「妹紅、お前は大丈夫……には見えないが…どうなんだ…?」

 

「ははっ……最悪私の老いる事も死ぬ事も無い程度の能力を使って臓器を摘出して売り払うを繰り返せば…大丈夫…」

 

ダメだ、これは重症だ。本当にマズい…!よく分からないが多分鈴仙より重症だ

 

「あら、その方法は思い浮かばなかったわ。妹紅に限っては案外早く完済出来そうね♪」

 

この人…永琳さんのこの笑顔は本気なのか冗談なのか分からない…。ちなみに上条さんはもう不老不死とかおとぎ話の登場人物が現れても驚きませんのことよ。科学万能の学園都市にいながら魔術というオカルトに関わってきた上条さんの感覚はとっくの昔に消えてなくなったぜ!!

 

「止めて下さい!今の妹紅ならマジでやりかねませんから!!」

 

念のため釘は刺しておこう…もっとも加害者SIDEの俺が刺す釘なんて紙切れほどの効力も無いと思うが…

 

「そうは言ってもね…私としても最近、姫の浪費が激し過ぎてこの診療所破壊を見過ごすわけにはいかないのよ。そうですね、姫?」

 

姫……この場にいる姫と言うのは俺が知る限りではあの姫しかいない

 

「ん~?私?私は別に良いわよ、だってよくよく考えてみれば私が賠償金を支払った所で結局元を辿ればそれは永琳が稼いでくれたお金か、もしくは永遠亭の貯金だし…だから私は払っても払わなくても良いでしょ?」

 

このかぐや姫、もとい蓬莱山輝夜はとんでもない事を言いだしたぞ!?確かに理屈としてはそうかもしれないが…!

 

「え~っと…蓬莱山…?つかぬ事をお伺いしますが…自分で働いて返済するというお考えはないのでしょうか…?」

 

「何よ、ウニ条。いきなり改まって…下手に出てもお金は貸さないわよ?」

 

「借りねぇし下手に出てもねぇよ!!今さっき垣根を庇ったあの言葉は嘘だったのか!?」

 

「嘘な訳無いでしょう!?でもまずは自分の分の賠償金からどうにかしないと最悪私まで妹紅と同じ末路を辿るハメになるかもしれないじゃない!それに私は姫だから働く必要は無いの!家でゴロゴロするのが仕事だから!」

 

……要するに…ニート…なのか…?

この発言にはさすがの永琳さんも驚いた…と言うよりは呆れたって感じだな……

 

「ですから、姫……例え働く必要が無くとももう少し自身が姫であるという自覚を…!」

 

「分かってるわよ!でも今更姫の自覚とか言われてもしっくりこないしあんまり興味も湧かないの!」

 

(何かこのやり取り……どこかで似たようなものを聞いたような…。そう言えば御坂と白井がこんなやり取りをしてたよな。確か「お姉さまはもっと常盤台のエースとしてのご自覚を…!」だったような…)

俺がそんな事をぼんやりと考えている間に永琳さんと蓬莱山の言いあいに決着がついた

 

「そうですか…えぇ、分かりました。姫がそこまでおっしゃるのであれば私はもう姫には何も言いません」

 

「本当に!?じゃあついでに皆の賠償金の話も無かった事に…!」

 

「姫様には賠償金の代わりに、いつも愛用していらっしゃるゲーム機本体を売り払って頂きます。香霖堂にでも売れば少しは金になるでしょう」

 

「え……?」

 

これは見事輝夜の精神にクリーンヒットしたらしく、しばらく輝夜は呆然となった。

 

「む、無理無理無理絶対に無理!!あれが無くなったら、私は毎日をどう過ごせば良いのよ!?」

 

「ですからそれで空いた時間を何か有意義な事に使ってください!」

 

そして再び弾幕……ならぬ言幕の撃ち合いが始まった

 

「はぁ……これじゃあ収集がつかないぞ…。俺はどうすれば…」

 

俺が思わず本心を口にした時だった

 

「心配するな、当麻。永琳はあぁ見えてちゃんと考えてるぜ。多分俺達の誰にも人体実験なんてしない。まぁこき使われることに変わりはないと思うけどな」

 

俺の隣には垣根が頬を擦りながら座っていた

 

「垣根、それってどういう……」

 

「永琳!もう良いだろ!妹紅とうどんげの精神状態は既に鬱になりかけだし当麻もこの調子だとウニ条からウツ条に変わっちまうぞ、そろそろ本音を言えよ。今のこの状況で永琳に異を唱える勇者はいねぇよ。その時は多分本当に治験をするハメになるだろうからな」

 

「垣根もか!?垣根も上条さんをウニ条って呼ぶんですか!?」

 

垣根がそう言い放つと永琳さんは蓬莱山と言いあうのを止め、こちらを振り向いた

 

「あら、本音とはどういう意味かしら?私は真面目に話を…」

 

「別にお前がそう言うのなら俺は反論しねぇ、だがさっきから俺達を見ている奴にはこの焦らされる展開は面白く無いんじゃねぇか?」

 

「…?どこかに見ている人がいるのか?上条さんにはさっぱり分からないぞ」

 

俺は垣根の言う「見ているやつ」を探すために辺りを見回した、だが辺りには誰もいない……もしかして垣根までおかしくなったのか!?

 

 

 

 

 

 

 

垣根帝督SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時はほんの少しだけ戻り、永琳と輝夜の口論が始まった瞬間

 

 

 

 

 俺は目の前で繰り広げられる永琳と輝夜の平和的な言葉の弾幕の撃ち合いを呑気に観戦しつつ辺りをそっと観察していた

 

(誰か、いるな…。ただ俺の目の届く範囲では…誰も確認出来ねぇ)

 

姿は見えないが何者かの気配を感じるのだ

以前にてゐがいたずらをするために病室に侵入してくる時、何となくで気配に気づけたことがあった。その時は生まれつき勘が良かった、程度にしか感じていなかったが…

 

(少なくとも勘が良いからって誰もいないのに気配を感じたりはしねぇよな、普通。ってことは誰かがいるはずだ…。ちっ…これも俺が暗部って所に身を置いてた賜物か?くそっ、こんなに勘が良いんじゃ夜も満足に眠れねぇだろ…)

 

とにかく誰かがいることはほぼ確実だ、証拠とは言い切りにくいがその気配がした途端に妹紅は病んだような言動を取りつつ俺達から距離をとった。そしてやけに辺りを気にしているように見える…俺の気にし過ぎだと良いが…。ってかもし違ってるんなら大恥かくぞ、これ

 

(ただ俺の勘を信じるなら…どこかにいるソイツはこの成り行きを見守っている…と考えるのが妥当だろうな。それに俺はともかく、今日幻想郷に来たばかりの当麻に永琳が修繕費を要求するってのが謎だな。永琳でなくともまともに考えれば当麻に返済能力が無い事位すぐ分かる。それを言えば俺に治療費を要求したのも謎だが…)

 

まさか……返済自体はどうでも良かった…?と、なると目的は俺とうどんげに薬を売り歩かせること?……その方がもっと非効率的だろ、何よりそうさせる意味が分からない

 

(…昨日の俺とはまるで別人だな、少なくとも昨日の俺ならここまで考えを巡らせる事は無かった。まぁ変化しない人間なんているわけねぇか…)

 

今は変わった事を嘆いている暇は無い、大事なのは訳も分からず状況に流されることだからな

 

 

そして時は再び戻る

 

 

「あなたの言いたい事が理解出来ないわね、この場には私と姫、上条君と妹紅、それにあなたとうどんげだけしかいないわよ?」

 

「確かに見える所には、な……

そうだ、妹紅。人ってのはな、ここにはいない人を頭に思い浮かべる時は反射的にその人がいるであろう場所の方向を見るんだぜ?知ってたか?」

 

「…っ…!そうか…初めて聞いたよ…。だがそれがどうかしたのか?」

 

そう言うと妹紅は一瞬だけ俺から目を反らした

 

 

 

……これでこの場に誰かがいる事は確実だな、妹紅の反応から見て間違い無い。そしてその誰かがいる場所のおおよその見当も付いた、妹紅が見つめていた何も無い空間…それはずばり永琳の右側…。

 

 

(どうする?うろ覚えのあの翼であそこを叩くか?…無駄だな、ここまで俺に追求されればよほどの馬鹿でも無い限りすぐに場所は変えるだろ。気配からしてまだこの場にいることは確かなんだろうが…それにうどんげや当麻の前であの力は使うべきじゃねぇ…)

そうなると……癪だが結論はこれしかない

 

「……いや、何でもねぇよ。まぁ誰かがいるいないはともかく……永琳、とりあえず輝夜のゲームはともかく賠償金はどうするんだ?まさか当麻に今すぐ支払いを命じる気か?」

 

今は俺達を見ているやつの思惑通りに動いてやるしかない、それにここから先の展開は大方が読めている。

 

「…そう、ね…上条君にしてもうどんげにしても支払いが不可能なのは分かり切っている訳だし…。妹紅から臓器を摘出するにしても蓬莱の薬を服用した人間の臓器が普通の人間に適合するのかも怪しい所だから却下かしらね」

 

「…っ!?そ、そうなると!?上条さんはどうなるんですか!?」

 

「師匠!私は解剖されずに済むんですか!?」

 

当麻はともかくうどんげは反応早過ぎだろ…?さっきまで木にもたれて独り言を呟いてなかったか?

 

 

「……うどんげ…あなた、そんなに私をマッドサイエンティストに仕立てあげたいの?」

 

「うっ……すみません…」

 

永琳に睨まれすぐにうどんげのウサ耳がへこんだ、感情と直結してるのかお前のウサ耳は!?

 

「…話を戻すわね。結論として垣根君、うどんげ、上条君、妹紅には私が作った薬の販売をしてもらうわ。修繕費が完済出来る金額分売り切って貰えれば仕事は終了よ」

 

「…師匠……ほんとにそんなことで良いんですか…!?」

 

「…よく分からないけど…とりあえず上条さんは借金地獄に陥る事はないんですか!?」

 

涙ながらにうどんげと当麻は歓喜した、何て言うか…つくづく巻き込んでしまったことに罪悪感を感じさせられるな。

 

(ただ展開としてはここまでは予想通りだ、つまり永琳…もしくは俺達を見ている誰かは理由は不明だが恐らく俺とうどんげ、当麻と妹紅に薬を売り歩かせるのが目的らしい)

 

「予想通り、といったところか?」

 

そんな事を考えているといつの間にか妹紅が俺の隣に来ていた

 

「まぁな、と言うか俺が既にあの作戦に引っかかってるんだ。さすがに2度目は気付くぜ。妹紅としては俺が口出しするのは誤算だったのか?」

 

「……否定はしないさ、ただ私はこんな展開になるなんて聞いていなかったんだよ、向こう側の人…ではなく妖怪にね。信じる信じないは垣根に任せよう」

 

「向こう側っていうのも引っかかるが俺としては妖怪ってのは信じられねぇな。それ以外は信じても良いぜ」

 

「信じる所が普通とは違うんじゃないか?」

 

そんな事は当たり前だろ?何故なら

 

「残念だったな

 

 

俺に対してその常識は通用しねぇ」

自然と頭に浮かんだその台詞を俺は言い放つ

 

「そう、か…そう言えばここは常識が非常識に、非常識が常識になる幻想郷だったな。間違えていたのは私だったよ」

 

「分かって貰えたのなら助かる。じゃあ今度は俺からの質問、良いか?」

 

「あぁ、構わないぞ。もっとも私に答えられる事は本当に少ないんだ、何せ垣根が絡んでくる事すら知らなかったんだからな」

 

(それでも構わない、俺が聞きたい事はもっと大事な話だ……)

 

「これから起こるだろう出来事で俺がどう動けばうどんげや当麻、永琳に輝夜、てゐや妹紅は傷付かずに済むんだ?俺が知りたいのはそれだけだ」

 

 

 

今更暴走してうどんげ達を傷付けた罪が消えるなんて思わねぇ…それでも…いや、うどんげ達を傷付けた俺だからこそ俺が全員を守る義務があるんだ

 

 

 

 




みんなー、けねもこ推しのキャラ紹介教室、始まるよー

それでは早速簡単な説明から。長々と書くと煩わしいので1話につき1人ずつ書いていきたいと思います。ちなみに[公]と書かれているのは公式設定で[オリ]と書いているのは私が独自に生みだした設定となります。


上条当麻(かみじょうとうま)………[公]「とある魔術の禁書目録」の主人公。学園都市の高校に通う高校一年生でLEVEL0(無能力者)
体格は中肉中背、ツンツンしたヘアースタイルと不幸や災難に巻き込まれやすいのが特徴。
実はその不幸体質は当麻の右手に宿る「幻想殺し(イマジンブレイカ―)」という謎の力が神の加護や幸運などを全て打ち消すため。
幻想殺しとは触れた異能の力であれば「神」だろうと「悪魔」だろうと打ち消すというビックリ能力、ただしあまりに強大過ぎる異能の力などは打ち消しきれない事もある。

[オリ]この小説の主人公の1人、目を覚まして辺りをみると何故か既に幻想入りしていた。
その不幸っぷりは相変わらずだが、出会ったばかりの妹紅に馬乗りのような体勢になったり着替え中の輝夜の裸を見てしまったりと幸運なのか不幸なのかよく分からない時もある。
八雲紫の手回しもあり藤原妹紅と組んで行動するようになるが、本人はそれを妹紅の善意だと信じ感謝もしている。
この当麻は原作よりもフレンドリーと言える、実際に垣根とは戦ったがそれは垣根の本心では無い事を理解し友達だと言いきっている





今回はこんな感じですかね、やはり上条さんは主人公ですからトップで無いと!
前書きでもお知らせしましたが来週は一方通行メインの話ですので幻想郷の住人はほとんど登場しないと思います。もちろんいつかは東方Projectキャラオンリーの話も書いていくつもりです。ただキャラ紹介は来週も同じように書く予定です。


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とある保護者(アクセラレータ)の奮闘記  前篇

どうも、とある科学の一方通行3巻を購入する為に3つの本屋を走り回り、結局自宅から500mほど離れた本屋で購入したけねもこ推しでございます。いきなりですが今回の話はいつも以上に注意点があります

1、今回はとある科学の一方通行3巻発売を記念した話であって、「とある科学の一方通行」本編とはまったくの無関係です。

2、東方のキャラはまったく登場しません

3、若干甘めの一方さん、

4、タイトルの通り前後篇になっています、どうしても1話で完結する話にならなくてですね…

以上の注意点を考慮したうえで、気にしないという方はお進みください





 

 

 

 

 

一方通行SIDE

 

 

 

 

 俺は昨夜見たクソ胸糞悪りィ夢を払拭するように頭をかきながらベッドから起き上った

 

「チッ…あのクソメルヘンが夢に出てくるだけでもウザってェってのに何で反射も機能せず俺が殴り飛ばされるんですかァ…クソッたれが…」

 

その夢と言うのは至極単純で、俺が何故かあのLEVEL5第二位のメルヘン野郎を殺しにかかり最後は俺が殴り飛ばされる夢だった

 

(あの野郎、まさか俺に殺された恨みで化けて出てきやがったのか?……何訳の分かんねェ事考えてんだ。あり得ねェだろ)

 

忘れもしねェ、あの第二位が学園都市に反旗を翻した事により勃発した小規模の戦争と言っても過言ではないほどの暗部抗争。それだけでも愉オブ確定だってのにあの野郎はクソガキにまで手を出そうとしやがった。そして俺は第二位をぶっ殺す所までいった訳だが…ギリギリの所で黄泉川のやつに制止されたんだったな。まァあの傷じゃさすがに死んだかもなァ…

 

(死んだってのも考えられねェ、学園都市の研究者共があの能力をみすみす放棄するとは思えねェよなァ。と、なると…ハッ…精々科学の進歩の為の礎とやらになってやがれ)

 

大方第二位の遺体は今頃どこかの研究機関に運ばれて脳だけの状態になってたりするかもなァ、要はあの能力を発動させる脳があればそれで良い…学園都市のクズ共が考えそうなことだ

 

(それを言うなら俺は学園都市最強のクズだろうが…しかも、どれだけ償っても償いきれねェ罪を犯した重罪人ってわけだ)

 

今更俺の犯した罪が許されるとは思わねェ…それでも俺は償い続けると……

 

俺がドアノブに手をかけながら償いきれない罪について考えていた時だった。もはや見慣れたシルエットがドアを挟んだ俺の向かい側に現れ……

 

「いつまで寝てるのー!ってミサカはミサカはあなたに突撃をかけながら寝起きドッキリを仕掛けてみたりー!!」

 

と、叫びながら小さなアホ毛を生やしたクソガキがドアを思いっきり開け放ったのは……

 

「……っ…」

 

俺はその一瞬の内に即座に反射をオフにする、もし反射なんてすればあのクソガキの顔面にこのドアが直撃するハメになるからだ

 

だが、ここで1つ問題が発生する。一方通行が反射をオフにすれば打ち止め(ラストオーダー)は助かるが当然開け放たれたドアは普段通りの物理法則に従い前進する。どういう事かと言うと…

 

「グシャ」

 

俺は為す術もなく顔面に直撃したドアの威力で吹っ飛ばされた、てか今の音は鼻が折れたんじゃねェか?おい

 

「あっ……!ごめんなさい!ってミサカは心から反省しながらあなたに駆け寄ってみたり…!」

 

俺の顔面にドアを直撃させた張本人…打ち止めが即座に駆け寄ってきた

 

「心配する位なら朝からこんなクレイジーな真似してんじゃねェよ。別に痛みはねェから平気だがな」

「えっ…でもあなたの鼻から血がたれて…」

 

即座に鼻腔内の血流を操作して止血して、流れ出た鼻血を手で拭き取る

 

「あァ?LEVEL5第一位の俺が鼻血を流す訳ねェだろォが。てめェは余計な世話なんて焼かなくて良い」

俺は何事も無かったかのように平静を装い、クソガキの方を向く

 

「むぅ……ミサカの心配する気持ちもちょっとくらいは分かって欲しいかもってミサカはミサカは…」

俺の顔を見て安心半分、不安も半分ってとこか…血は止まってるから問題は何もねェはずだが…

 

「とにかくドアを直撃させた事はごめんなさいってミサカは素直に謝ってみる…」

「…分かれば良い、もォこんな真似はするんじゃねェぞ」

 

元より俺にはこのガキを責める気も権利もねェ。ったく、朝から色々起こり過ぎだぞ

 

「そォいや黄泉川と芳川はどうした?芳川は元より今日は休日だから黄泉川も休みじゃなかったのか?」

俺は室内を見回した後、いつもいるはずの2人がいない事に気付いた

 

「桔梗は昔の友達に会いに行くって言ってたよ。でも愛穂は…よく分からないけど自分が勤めている高校の生徒さんが行方不明になっちゃったから警備員(アンチスキル)の仕事で少し前に出て行ったのってミサカはミサカはあなたに報告してみる!」

 

芳川の野郎、友達なんていたのか?ただ…黄泉川の方は気になるなァ

 

「黄泉川のやつ、昨日はそんな話なんてしてなかったぞ。今朝、連絡があったのか?」

 

「うん、そうだよ!確かあなたが起きる1時間程前だったかな…」

 

…妙だな、打ち止めの話を聞く限りその生徒が行方不明だってことが発覚したのが恐らく今日だ。そしてそれから数時間も経たない内に警備員が出動……。いくら何でも早すぎねェか?普通は周辺を捜索して、数日経っても発見できねェ時に行方不明として警備員が動くはずだァ。何より学園都市には監視衛星がある、それさえ使えばガキの1人や2人…

 

「……コーヒーを買ってくる、お前は留守番でもしてろ」

 

「お、起きたばっかりなのに!?じゃあ私も一緒に行くってミサカはお願いしてみる!!」

 

「ダメだ、コーヒーを買いに行く程度で一々付いてくんじゃねェよ」

 

勿論、コーヒーを買いに行くというのは嘘で本当はその行方不明の生徒について調べるつもりだ。まさかとは思うが…面倒な事件にその行方不明の生徒が巻き込まれたんだとしたら打ち止めを連れて行く訳にはいかねェ。正直打ち止めを置いて行くのは極力避けてェが、何が起こるか分からない場所に連れて行くよりはよっぽどマシだろォ

 

「とにかく俺は外出するぞ、すぐ戻る」

 

 俺はそれだけを伝えると部屋のカギを手に取り、部屋を出ようとした…はずだった

 

「…またあなたは1人で抱え込もうとしてるってミサカはあなたの足にしがみつきながら制止を呼び掛けてみる」

 

「あァ…?何してんだ、離れろ。コーヒーを買いに行くだけだって言ってんだろうが」

 

「じゃあ、コーヒーを買いに行くだけなのに何であなたはそんなに暗い表情になるのってミサカはあなたを問い詰めてみる」

 

そう言ったクソガキの視線は狂い無く俺の瞳を見つめていた、まさかこのガキの前ですら俺は暗部にいる時の顔になっちまうとはなァ…

 

「…コーヒーを買いに行くついでにちょっとばかり用事がある、付いてくるんなら勝手にしやがれ」

 

「…っ…!分かった!すぐに準備するってミサカはミサカは…!」

 

言うやいなや打ち止めは自分の部屋へと走って行った

 

(あれが俗に言う女の勘って奴ですかァ?…まァ、何でも良い。とにかくあのガキを同行させるなら最大限の注意を払う必要がある…少しやりにくくなった事は否定できねェがそんなもんは俺の邪魔にもならねェ。要は単純だ、生徒が行方不明になっただけで警備員がいきなり動いた理由を探りつつこのガキも守れば良い。簡単過ぎるってんだ、俺にはなァ…)

 

こうして、一方通行は学園都市LEVEL5第一位としてでもなく、暗部組織「グループ」の構成員としてでもなく、単なる「無敵の保護者、一方通行」として始動するのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

打ち止めSIDE

 

 

 

 

 

(良かった…!いつも怖かったんだ…私が傷付く事よりも何よりもあの人がいなくなる事が…。だから私は決めたんだ、いつか私があの人を守ってあげるんだって!あの人に比べれば私なんて非力だけど…それでも…)

 

私はそんなささやかな希望を抱きつつあの人…一方通行が待つ玄関へと急いだ

 

「たかだか外出するだけで準備なんて必要ねェだろ?あと1分遅かったら置いてくとこだったぞ」

 

「女の子には色々準備が必要なの!それにそこまで時間はかかってないかもってミサカはあなたの細か過ぎる時間間隔に疑問を投げかけてみたり!」

 

「投げ掛けられるのはドアだけで十分だァ、これ以上は遠慮する」

 

どうしてあなたはそんな冷たい返し方をするのかなってミサカはミサカは心の中でため息をついてみたり…。でもこんな事は日常茶飯事なんだよねって私は割り切って一方通行と一緒にマンションを出た

 

「それでまずはどうするの?ってミサカは訪ねてみる!」

 

「……そうだな、まずはファミレスに行くぞ。たまにはあんな所のコーヒーも悪くねェ」

 

さ、さすがにこれはビックリかも……でもあの人は本気みたい。その証拠に携帯端末と睨めっこしていて今、目を離したから

 

「ファミレス?それじゃあチョコレートパフェが食べたいってミサカはおねだりしてみる!」

 

「どんな身体構造をすればその小柄な体に朝からチョコレートパフェが入るんだ、オイ。食うのは構わねェが腹は壊すなよォ」

 

「さすがにそこまでミサカは馬鹿じゃないよ!ってミサカは胸を張りながら自身の学力を自慢してみる!」

 

そんな会話を交わしていると、2人はいつの間にかファミレスに到着していた。そして店内に入り、一方通行は本当にコーヒーを打ち止めはパフェを注文し一息をつくのだった。

 

(…さっきから一方通行は携帯端末を操作してばっかりだけど…何をしているのかなってミサカはミサカは……)

 

端末を操作するあの人の表情はさっきとは違って暗さは無いけれど真剣そのものだったから私は中々話しかけられなかった

 

(ほ、本当にこの人は私を無視して作業を続ける気なの!?…あなたがその気なら私にも作戦があるんだよってミサカはこの間観たアクション映画を思い出しながら悪だくみしてみる!)

 

作戦その①!

(一方通行の許可無しに砂糖をたくさんいれてみる!)

 

「……………」

 

(無視…!これで見向きもせず作業を続けるなんて…!それじゃあ…)

 

作戦その②!

(そのコーヒーにテーブルにある全部の調味料もたっぷり追加してみる!)

 

「……………………」

 

(……負けた…私は携帯端末にも劣る程度の存在だったんだねって自虐発言をしてみる…)

 

そして私が敗北から立ち直り始めた時に、ようやく一方通行は端末から手を離してコーヒーを口に含んだ

 

「………何だこりゃァァァァァァァァァァ!!!!!!???????何だよ何だよ何ですかァこの複雑怪奇で意味不明な不味さのコーヒーはァァァァ!!!!!」

 

「っ!?ビックリするからいきなり怒鳴らないでってミサカはあなたを注意してみる!」

 

「お前こそ何してくれてんですかァ!!??どうやった、どうやったらこんな未元物質が生まれるんだァ!?あァ!?」

 

どうやら私がブレンドしたコーヒーはちょっと…ううん、かなり一方通行には不評だったみたい…。一方通行に本気で怒られた事が無いからこれが本気かは分からないけど…でもとっても怖い……

 

「う、うぅ…!そこまで怒らなくても良いでしょってミサカは涙ながらに反省してみる…」

 

「…チッ…ったりめェだ。次にこんななめた真似をしやがったらマジで怒るぞ、分かったな…」

 

(まだあの上があるんだ…今度からは気を付けよう…)

 

「と、ところで一方通行!さっきから端末を触って何をしてたのってミサカは気がかりだった事を聞いてみる!」

 

「……まァ良い、俺とお前の事がばれねェ為の工作だったんだからな。お前に聞かれても問題はねェだろ。ただし俺が答えるのはお前のその質問だけだ、後は答えねェからな」

 

ケチ…って言おうとしたけど多分自粛した方が良いよね、今日ばかりは…

 

「それで結局何をしていたの?随分と真剣みたいだったけど…」

 

「……近くの警備員のシステムサーバーに電波通信のベクトルを操って侵入した、まァ言っちまえばハッキングだな」

 

「……っ…!そ、そんな事が愛穂にバレたら怒られるじゃすまないよってミサカは以前に資料の山を崩してしまった時の失敗劇を震えながら思い出してみたり…!」

 

以前に愛穂がマンションに警備員の仕事の書類の山を持って帰って来た時に、私は遊んでいてその山を崩しちゃったんだ…それが愛穂にバレた時の事は今でもちゃんと思い出せるんだよ…

 

「あれはお前が悪い、ともかく今回はさすがにバレるのは良くねェからよォ。

 

だからこそあえてこんなファミレスに来たんだぜ」

 

「……?それってどういう…?」

 

「理由は2つだ、ファミレスのサーバーに侵入さえしちまえば監視カメラの位置なんて即座に把握可能だ。外でも出来ねェ訳じゃ無いがファミレスと公共の監視カメラのセキュリティの硬さの差を考えるとこっちの方が断然有利だからな。位置が把握出来れば俺達が今いる席の映像だけをここに来る前にシステムに侵入して録画しておいた空席の映像とすり替える事も出来る。それにここなら監視衛星に見つかる心配もねェからな。

そして理由の2つ目だ、それはいくつもの無線LANを拾う事にあった。ファミレス内なら色んな人間が携帯やパソコンを使うはずだからその無線LANをいくつか乗っ取って、警備員のシステムサーバーのセキュリティを1つ突破する度にLANを別の物に乗り換える。それならどう足掻こうが俺の持つ端末には辿りつけねェって訳だ」

 

忘れていた訳じゃ無かった…でも今改めて思い知らされた…

 

これがLEVEL5、これがLEVEL5第一位のベクトル操作能力…そしてこの大胆な方法をここに到着するまでに思い付きそれを実行する…全てが規格外…。

 

「で、でも…!もしバッテリーの限界の30分を超えたらどうするつもりだったの

…?」

 

「……それこそあり得ねェだろうが、俺はLEVEL5第一位の一方通行だぞ。さすがにこんなハッキングは初見だから苦戦は覚悟したがなァ、だが失敗は絶対に無い」

 

(ど、どれだけ自信があるの…さすがのお姉さまでもここまでは出来ない気がする…)

 

 

こうして一方通行はバッテリーの残量を20分以上残し、打ち止めはチョコレートパフェを少しも残すこと無く完食してファミレスを後にしたのだった

 

 

 

 




キャラ紹介第二弾!今日は私の大好きなもこたん!!まぁ東方キャラも禁書キャラもほとんど皆好きなんですよ?



藤原妹紅…………[公] 迷いの竹林に住む「不老不死」の少女。能力は「死なない程度の能力」と長年生き続けた事によって習得した妖力を使った発火系能力(パイロキネシス)
飛鳥・奈良時代のとある貴族の家に生まれる。自身の父親が蓬莱山輝夜に求婚するも無理難題を押し付けられた結果、要求された物の偽物を作りだし輝夜に差し出すが贋作だと見破られてしまう。その結果妹紅の父親は自身の恥を嘆いて自害、そしてそれから輝夜を憎むようになる。
妹紅が不死になったのは輝夜が月へ帰る際に地上に残しておいた、飲めば不死になれる「蓬莱の薬」を奪って服用したため。その後千年以上も彷徨い続け、幻想郷で再び輝夜と再会する。

[オリ]この作品の妹紅も前回紹介した当麻と同様、比較的フレンドリーである。輝夜とも殺し合いではなく弾幕ごっこで勝敗を決めている。また半ば強引に八雲紫によって幻想郷で勃発するであろう「戦争」への参加と上条当麻との行動を約束させられ、当初は嫌悪感を示していたが大切な人達を守りたいという思いと元来より困った人は放っておけない性格が災いとなり両方を兼ねる事になった。



不味い……妹紅の事をもっと書きたいのに眠気と色々な事情が合わさってオリジナル設定がかけない…!やっぱり思い付きでキャラ紹介を始めようだなんて思うべきじゃないですね、ハイ

そして来週こそはこの番外編を締めくくって見せます!ただでさえ亀更新なのに番外編なんて書いてる余裕は無い!!


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とある保護者(アクセラレータ)の奮闘記  後篇

どうも、GW中に今までは無かった部活が食い込みストレスのあまり黒翼覚醒しそうなけねもこ推しでございます。これじゃあ毎日の更新なんて出来ねェだろうがァ!!!

そんな訳で今回の注意点でございます

1、もこたんと東方キャラINしないお

2、豆腐メンタルな一方通行

3、ンだァ、その思わせぶりな文面はァ?

Are you おっけーね?


一方通行SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず俺は警備員のデータが詰まってやがるサーバーに侵入を成功させ無事データを盗み出した訳だが……こりゃどォいうことだ?

 

(データを見る限りじゃ……現在行方不明として警備員に捜索要請が出されているのは一件だけだ。問題はソイツの名前……それは…上条、当麻…)

 

「ねぇねぇ一方通行!結局行方不明になった生徒さんは誰だったのってミサカは質問してみる!」

 

話すか?このガキに?…ダメだ、このガキにあの三下の事を話せば確実に「私もあのヒーローさんを探しに行く!」とか何とか言いだすに決まってやがる。別にそれだけならかまわねェが…問題はその次に書かれている事だ

 

(上条当麻の捜索中止命令だァ?ただその同居人は保護しろ……オイオイ、こりゃ本格的におかしいじゃねェか。こんな速さで警備員が動いたってだけでも異常だってのに今度はそれを上回る異常な速さで捜索中止命令…まともに考えれば学園都市上層部が絡んでやがるな)

 

だとすれば話は違ってくる、このガキを連れまわすなんてもっての他だろ。既に監視されてるかもしれねェ…とにかく一度作戦を練り直さねェとなァ

 

「……タ…!ねぇ一方通行ってば!ねぇ無視しないでってミサカは何度も要求してみる!!」

 

「…ギャーギャーと喚くな、ちゃんと聞こえてるっての。目立つから黙ってろ」

 

チッ…考え込んでたせいでクソガキの声が聞こえてなかったようだな。いけねェいけねェ、これじゃあ俺の方が目立っちまうだろォが

 

「うぅ……でも無視を続けたあなたにも少しくらい責任があるかもってミサカはあなたを追求してみたり……」

 

そう呟く打ち止めの声は今にも消え入りそうな涙交じりの声だった

 

……待て、止めろオイ。今にも泣きそうな顔をすンじゃねェよ!これじゃあまるで俺がお前を泣かせたみたいだろォが!?つゥか周りの連中も睨ンで来やがっただと!?いくら俺の反射をもってしてもこの刺し貫くような視線は跳ね返せねェよ!

 

「あァクソッたれが!とりあえず何か食わせてやるから泣きやみやがれェ!」

 

だがこんな口調で「はいそうですか」などと頷いて泣きやむ子供はあまりいない。それが見た目は幼女、実年齢は500歳だったり495歳だったりする吸血鬼だとするならばそれはまた別の話なのだが

 

「…うぅ…!ぐすん…!酷いよ、一方通行ぁ……!!」

 

「なァ!?分かった!分かったからこんな所で泣くな!ちゃんとさっきの事も話すからよォ!!」

 

 

いよいよ打ち止めの涙腺が崩壊寸前と言う所で何とか俺は打ち止めを落ち着かせ、再びファミレスに入る事に成功した。

 

俺は相も変わらずコーヒーを、打ち止めはデザート類を注文した

 

「ったく……いちいち俺に睨まれたくらいで泣くかよ、普通はよォ…。確かに一般人より目つきは悪いほォだがな」

 

「分かってるのならもう少し優しくしてほしいなってミサカはあなたにお願いしてみるけど…でも何だか無理な気がする…。それで結局何が分かったの?」

 

「別に何もねェよ、単なるガキがいなくなっただけの話だ。サーバーにはそう書いてあったぜ」

 

俺は満更ウソでも無いが要点は全て取り除いた情報を話した、これだけは絶対に話す訳にはいかねェんだ

 

「………本当に?また何か危ないことが起こるんじゃ…」

 

「お前の頭はどんだけ飛躍してンですかァ?ただガキが一匹いなくなっただけで何にも起こる訳ねェだろうが。百歩譲って仮に何か起きたとしても、だ…

 

 

お前や妹達(シスターズ)、黄泉川や芳川に危害が及ぶようならどんな目に遭おうが絶対に守りぬいてやる。今じゃ演算を外部に任せねェと能力もまともに使用できねェポンコツの脳だけどよォ…お前達全員を守り切るには十分過ぎンだ。だからお前達は何も心配しなくて良い」

 

これは俺の本心にして決意であり責務であり背負うと決めた罰の一部にしか過ぎねェ…。ただそれでも…償いきれないにしてもそれが=償わなくて良い事にはならねェんだ

 

「……そっか…じゃあミサカからもう2つお願いしても良いかな…?」

 

「俺に出来る事ならなァ、ただこれ以上料理を頼むのは止めとけ、身体に響くぞ」

 

「違うよ!そうじゃなくて……出来ればその守るべき人達の中に…あのヒーローさんも加えてあげて欲しいなってミサカはミサカはあなたに頼みこんでみる…!だって…いなくなった学生さんっていうのは……」

 

……まさか端末の情報を見られたのか…?いや…いくら何でもまだこのガキにそんな高度な能力の使い方は…

 

「……いつから気付いていやがった?まさか俺の端末にハッキングしたんじゃねェだろォな?」

 

「…ミサカネットワーク、もう他の下位個体が私達より先にヒーローさんの失踪について気付いていたみたい。私にだけは情報の開示が拒否されていたけど…少し前にやっと知ることが出来たの…」

 

……どォやら事態は既に俺が考えているより数歩先の状態まで悪化しているらしい。

 

「……今すぐ他の妹達に伝えろ、この件は俺がカタを付ける。だからお前達は手を退け。正直俺にもこの一件は単なる偶然なのか裏で糸を引いてやがる奴がいるのかすら明言できねェんだ。そんな危険な一件にお前達を巻き込む訳にはいかねェ。」

 

「…………っぱり…あなたはいつもいつもそうやって1人で抱え込んで……」

 

「あ…?どうした…?」

 

「いっつもいっつもあなたはそうやって1人で抱え込んで!どうしてミサカの気持ちを考えてくれないの!?私はあなたの傷付く姿なんて…!最低だよ、アクセラレータ!!!!」

 

そう告げると打ち止めは俺に飲みかけのジュースをぶっかけ店を飛び出した

 

………最低、か…分かってンだ…そんなこと…。でもよォ…俺は…俺には償う方法が……

 

浴びせられたのは単なるジュースと「最低」の一言のみ。たったその2つのものがかつて最強のその先である「無敵」の領域に達しようとした第1位の心を深く深く傷付けていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミサカ10032号SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前を20001号……すなわち打ち止めと呼ばれる個体が走り去って行った。その代わりと言うのはおかしいが…目の前には今までミサカネットワークや自分の目で見てきたどの戦いの後よりも傷付き、疲れ果てた彼の姿があった

 

 

「手遅れだったようですね、とミサカはあなたに謝罪と心配の気持ちを込めた発言をしつつあなたの目の前の席に腰かけます」

 

「……勝手にしろォ…。別に俺がお前達を責める権利なんてねェんだからよォ…」

 

これはどうやら本当に重症なようですね、今までの彼を見てきたミサカとしてはかなり驚いています。

 

「上位個体を追わないのですか?とミサカはあなたに催促をしてみます」

 

「……今の俺が追った所で拒まれるだけだろォがよ。言わせんじゃねェ…」

 

「そうですか、ではせっかくなのでミサカもあなたに奢ってもらえる事に期待しつつ私がここにたどり着くまでの経緯を話そうかと思います」

 

「…………」

 

一方通行は何も言わずコーヒーを飲み干す

 

「まず、私達があの少年の失踪を知ったのは彼の同居人だと言う少女からの声を他の個体が聞いたからなのです、そしてミサカ達の総力を挙げてあの少年を捜すと言う案が出ましたが…それはあまりにも無謀で尚且つどんな闇が潜んでいるかも分からない以上危険だと言う事で廃案となりました。次にミサカ達はお姉さまに助力を仰ぐことにしました。とは言ってもあの少年の行方を知っているのかどうかを聞いただけなのですが…お姉さまは即座に自身も捜索活動を行うと明言されました」

 

「オリジナルらしいと言えばらしいかもなァ…つくづくおめでたいやつだ」

 

「…続けます、そしてお姉さまや他の方の助力も得る事が出来ましたが…未だにあの少年がどんな事に巻き込まれたのか、それとも事件性のない失踪なのか…現時点で明言できるだけの判断材料は見つかっていませんが…ミサカの勘が告げているのです。『彼の場合、こんな時は確実に何かに巻き込まれている』と。それは他の方も同じ考えでしょう

正直な所あの不幸体質の少年を救うには妹達だけでは不可能です。…お姉さまでもこの深い闇を切り裂くのは無理があるように感じます。だからこそ今必要なのはあなたの力なのです」

 

今話したのは大雑把なここまでの経緯ですが今の彼には何を言っても聞く耳持たずでしょう、ですから調度これくらいで良いとミサカは自己判断を下します

 

「……お前達の事情は分かった…後は俺に任せろ、こんな危ない橋を妹達やオリジナルが渡る必要はねェ。あの三下は無傷で俺が探し出す、他のやつらにもそう伝えろ」

 

一方通行はそう言うと席を立とうとした

 

「……ちなみに上位個体が何故あなたに激怒したのか…その答えは出たのですか?とミサカは質問します」

 

「…今はそれは関係ねェ、後でも考えられるからな」

 

「………」

 

ミサカ10032号は無言で一方通行の前に立ちはだかる

 

「そんな曖昧な答えとも呼べないような意思を持ったあなたには任せられません、とミサカは少し怒りをあらわにします」

 

「何が言いてェ、まさか俺に説教でもするつもりですかァ?」

 

「良いから座ってください、私はあなたに助力を仰ぐ為だけにここに来たのではありません。ちゃんと伝えたい事があるのです、とミサカは立ちはだかり続けます」

 

「……チッ…手短に済ませろ、あのガキを1人にしておくのは少々危なっかしいんだ」

 

伝え切れるのでしょうか?この少年に…そもそも信じて貰えるかも怪しい所ですが…それでも私は彼にありのままの「妹達の願い」を伝えなければいけないのです

 

「……良いでしょう、ミサカとしても回りくどい話し方は為になりません。私が伝えたいことは……『妹達の意思』についてなのです」

 

「………ッ…」

 

一方通行の表情にほんの一瞬だけ驚きが走る

 

「『妹達の意思』……それはあなたが無事に生き続けることです」

 

「……ハッ…何寝ぼけた事ほざいてんだァ、お前は…。俺が今まで妹達にしてきた事を知った上での発言だとはとても思えねェよなァ…」

 

構わずミサカは話し続けます

 

「もちろん全てのミサカが私のようにあなたを許した訳ではありません、むしろそんな個体はほとんどゼロに近いと言っても良いでしょう。ですが…それでもミサカ達の意思は一致しているのです」

 

「……吠えてンじゃねェぞこの三下がァァァァァァ!!!!!!!!」

 

一方通行が机を殴りつけると皿やコップが辺りに吹っ飛んだ、当然ながら周囲の視線も集まってくる

 

「お前達が俺を許しただァ!?あり得ねェ、いやあり得て良い訳がねェだろうが!!俺は一生苦しみ続けてそれでも償いきれない程の罪を犯してんだ!そんなクズが許されて良い訳が…!ましてや生きる事を望まれて良い訳がねェんだ!」

 

「………もし…あなたが言う通りのクズだとするならば…何故辺りに飛び散らかった皿やコップがミサカには掠りもしていないのですか?とミサカはあなたに問います。それはあなたがわざと当たらないように能力を行使したからでは無いのですか?」

 

「それに……ミサカ達はあなたにそんな償い方を望んでいるのではありません。ミサカ達があなたに望む償い…それは、あなたが闇の中で苦しみながらもがきながら生き続けるのではなく、自分の罪と真っ向から向き合い生きて行く事なのです。ミサカ達にあなたを許した個体がほとんどいないのと同じように、あなたに死や生き地獄を望んでいる個体はほとんど……いえ、1人もいないとミサカは断言します」

 

「…………」

 

肝心の一方通行は……上を向いていていて顔に影が入っているせいで表情は分からない

 

「……あなたが生き続ける事を望んでいるのは…今までに死んでしまった妹達も同じはずです…。死んでしまった人が生き残った人に望む事は「生き続ける」ことだとミサカは以前にとあるマンガで読んだ記憶があります。マンガの知識だと馬鹿にされても仕方が無いでしょう、ですが…ミサカはそれが間違いだとは思えないのです。何故なら…サ上位個体である打ち止めはあなたに生き続けて欲しいからこそ、1人で何でも抱え込んで傷付いて欲しくないからあなたに激怒したのです、とミサカは解説を行います」

 

 

「………分からねェなァ…お前にしても…あの三下にしても…。次から次へと俺が見ている幻想を殺していきやがる…。ここまで幻想を殺されると何を信じて良いのか分からねェっての…。ただ…」

 

「…ただ…?」

 

「お前達に幻想を殺されたおかげで今まで見えなかったモンが視えたンだ…。今ならあのクソガキが俺を最低と言った理由も分かる…」

 

「そう、ですか…。良かった、とミサカは安堵のため息をもらします。それとあの少年の件…よろしくお願いします。勿論ミサカ達も出来る限りの行動は起こしていきますとミサカはあなたに約束します」

 

「あァ……頼んだぜ」

 

そして一方通行は会計とファミレスへの迷惑料を支払い店を出た

 

交わした言葉はこれだけですがミサカには今の一方通行は以前とは別人だと言う事が十分伝わりました。

 

「さて、次はミサカの番ですね。ここまで一方通行を焚きつけておいて任せっぱなしと言うのはいささかよろしくないとミサカは少し大人びた言葉を使いながらカッコつけてみます」

 

 

そう、全てはあの少年…上条当麻を探し出す為主人公達は集い始める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

打ち止めSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷い事言っちゃったなぁってミサカは自分の言動を省みてみる…」

 

本当はただ全て1人で抱え込むのは止めて、と伝えたいだけだったんだ…。でも…そんな事は知らん顔でまた1人で全てを抱え込もうとしたからついカッとなって私は…

 

検体番号20001号…すなわち打ち止めは学園都市内の夕日が綺麗に見られる高台で大きなため息をついていた

 

(…本当はミサカだって分かってるのに…。あの人が抱え込んでいるものはミサカが頑張った所でどうにか出来るものじゃないって…)

 

どうしたものか考えるがそんなにすぐにアイデアが浮かぶはずもなく途方に暮れていた時だった

 

「何歳不相応なため息付いちゃってンですか、お前はァ。その歳からため息なんて付くんじゃねェよ」

 

ミサカの背後には今一番会いたくて、謝りたい人…一方通行が立っていた

 

「…どうやって私を見つけたの?ってミサカは半ば分かり切った答えを訊ねてみる」

 

「分かり切ってンなら聞くンじゃねェよ、まぁ一応聞かれたからには答えてやる

 

学園都市内全域を自分の足で這いずり回って探したンだ、どれだけ苦労したと思ってやがる」

 

……この答えは予想していなかった、ってミサカは素直に驚いてみる…

 

「どうして?またファミレスの時みたいにハッキングすれば良かったのに…」

 

「ンな事は分かってンだ、でもなァ…それじゃあお前を『見つける』だけで根本的な解決になってねェ」

 

彼は構わず続けた

 

「俺はお前達『妹達』に対して償いきれねェ罪を犯した、その罪が償い切れないとしても俺が一生をかけてお前達を守る事に変わりはねェ。だが…俺はいつの間にかお前達を『守る』ことしか考えなくなっちまったンだ」

 

「それってどういう意味なの…?」

 

本当なら今謝るべきなのに…でも……今一方通行が変わろうとしているのなら…ミサカはそれを見届けたい…!

 

「お前達を守る、それは俺がやらなくちゃいけねェ事なンだ。ただ…俺にはそれと同じ位に成すべき事がある。それは俺自身の罪と、お前達と向き合う事だ。俺はいつの間にかお前達への罪悪感のせいか、俺自身の罪に向き合おうとはせず何も考えずにただお前達の敵を排除してきた……そしてその過程で死のうとしてたんだろうなァ…逃げる為に…。ホントに情けねェ話だ、偉そうに守るだの抜かしておきながらいざ戦ってみりゃビビって死んで逃げようとしてんだからよォ」

 

「…ミサカがあなたに最低、って言った理由は分かってくれた…?」

 

「…完全に理解したとは言えねェが、今なら分かる

 

お前は…お前達は俺に生きる事を望ンでくれた…。なのに俺はその事に気付かず見向きもしなかった…要はお前達への裏切りなンだ。今回の件だってそうだ、確かに電波のベクトルを操ってハッキングすりゃお前はすぐに見つけられた。でも結局それはお前を「見つける」という目的を達成する為だけの行為であってお前の気持ちには向き合えねェ…。だからリスクは承知の上で…能力と言う壁を挟んでお前と向き合うンじゃなく、1人の人間としてお前を迎えにきたンだ」

 

「だからよォ、俺はもう罪から目を逸らさずに向き合う。その為には死んでやる訳にもいかねェ…短すぎるがこれが俺の真実の答え(ほんとうのこたえ)だ。だから打ち止め…」

 

「ど、どうしたの?ってミサカは急に名前で呼ばれた事に驚いてみる…」

 

一方通行は急にミサカを名前で呼んで目の前へと歩みよってきて…そして…

 

「心配掛けて悪かったなァ……すまなかった」

 

何と学園都市LEVEL5第一位の一方通行が…頭を下げたのだった

 

「っ!?ど、どういう事なのってミサカは軽い錯乱状態に陥ってみる!そ、そんなあなたなんて絶対おかしいよってミサカはミサカはあなたの精神状態を心配してみたり…!」

 

「チッ…たまに俺が真面目になるとこれかよ…。まァ良い…ともかく俺から伝える事は以上だ。お前からの返答にもよるがなァ」

 

そんな事言う必要も無いと思うなってミサカは即答してみる!

 

「分かって貰えてミサカはすごく嬉しい…!だからミサカもいつかあなたの役に立てるように努力するからってミサカは満面の笑みで微笑んでみたり!」

 

「そうかァ…それじゃあとっとと帰るぞ、もうすぐ完全下校時間だから黄泉川に見つかると面倒だからな」

 

そう言うと一方通行は私の隣に立つ、その表情はかつてないほどおだやかな顔だった

 

「そうだね、早く帰らないと不味いかも!だから急ごう、アクセラレータ!」

 

私はそれに応えるように一方通行の手を握って引っ張る

 

 

 

願わくばこの平和な日々が永遠に続きますように…2人は同じ事をささやかながらに願いながら家路へとつくのであった

 

 

 




ふぅ、何とか番外編を完結させられました。私としては満足のいくオチでしたがいかがでしたか?それでは毎度恒例のキャラ紹介のコーナー!今週はあのメルヘン野郎でございます!!


垣根帝督………[公]学園都市の能力者の頂点と呼ばれるLEVEL5の1人にして序列は第二位。所有する能力は未元物質(ダ―クマタ―)でその概要は「この世に存在しない物質(素粒子)を生みだし操作する」能力。生みだされた未元物質はこの世の物理法則には従わず、また相互干渉した物質も通常の物理法則とは異なる動きをする
(例:降り注ぐ太陽光に未元物質が交わると殺人光線に変化する)

暗部組織「スクール」のリーダーを務めていたが、旧約15巻にて一方通行に敗北し全身ミンチの生殺し状態で放置され学園都市の科学者に回収される

[オリ]一方通行に敗れた後、科学者にその身体を回収されたはずだったが何故か幻想入りを果たし永遠亭にて一命を取り留める。ただ永遠亭に運ばれるより前の記憶を失っており、自身が「スクール」のリーダーだったことや能力の使い方すらも忘れている。
その為か性格は基本的におだやか(?)である、またどこの誰かも分からないような自分に優しく接してくれた永遠亭の住人や上条当麻には深く感謝している


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2つ目の真実(ほんとう)の答え

どうも、冗談抜きで前書きで書くネタが尽きてきたけねもこ推しでございます。
そう言えば前回の番外編でミサカ10032号が「お姉さまにも助力を仰いだ」って言ってたじゃないですか?あれは6月の「とある科学の超電磁砲」コミックス11巻が発売される週にとあるキャラオンリーでまた番外編を書く予定なのでそこで詳しい展開を明らかにしていきたいと思います。その後はまた少し本編を進めてから2回に分けて合計4話、東方キャラオンリーの番外編を作っていきますのでもし東方キャラオンリーの方の番外編で「このカップリングの話が読みたい!」という要望があれば一言お願いします


藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前にいる少年……すなわち垣根帝督が私に向けた質問は単純でありながらもどう答えるべきか迷わせるには十分の難易度を誇っていた

 

「皆が傷付かずに済む方法、か……」

 

(結論から言ってしまえば無いんだよ、そんな方法は…。勿論私だって傷付く人妖の数は極力減らしたいし、そうなるよう尽力するつもりだ。だが…)

 

何せあの八雲が私に助力をするくらいだからな、今まで起こって来た異変とは比べ物にならないくらいの争いが起きるんだろう。それ位の規模となると…幻想郷の戦力となりえるやつらが一致団結でもしない限り犠牲者無しというのは夢のまた夢だ。もっとも一致団結する事の方が夢のまた夢なんだが…

 

「別に妹紅の事情を探る気はねぇよ、お前に何か考えがあることは分かるが少なくともそれは誰かの為を思っての事だろうからな」

 

「何でそう思うんだ?私が適当な事を言っているかもしれないんだぞ?」

 

「そんな器用な真似が出来るやつがガキ1人助けるために1度死ぬのかよ?」

 

「さぁね、不老不死の身体ともなると死への恐怖が薄れるんだ。少なくとも数年ほど前まではほぼ毎日死んでいたからね」

 

「そりゃ難儀な話だな」

 

どうやら垣根も今更不老不死程度では驚かないらしい、学園都市で育った子供達は皆こうなのか?

 

「とにかく現時点では私からは何も言えないんだ。本当に何も知らないし、掻い摘んだ情報だけを中途半端に流して皆を混乱させたくない」

 

「……分かった、俺は妹紅を信じるぜ。その代わりに1つだけ教えてくれ」

 

「ん?何だ?」

 

何かまだ聞きたい事でもあるのか?まぁ聞くだけでも聞いてみよう

 

「妹紅は俺の仲間だと思って良いのか?信頼すると言っておいて聞くのもどうかと思うが…やっぱり本人の口から直接聞いておきたくてな」

 

今度は余りにも簡単で悩む要素が1つもない質問だった

 

「大丈夫、私は垣根の仲間だよ。若者の胸を撃つ熱い言葉をかけるのは苦手だが…垣根が鈴仙や当麻達を守りたいと願うように、私にも守りたい人達がいる。私は垣根と生まれた場所も、境遇も、抱える物も、ほとんどの事が違っているけれど唯一「守りたい」という願いだけは一致しているはずだ」

 

私の本心を伝えきると垣根はフッと笑っていた

 

「な、何かおかしな事を私は言ったか……?」

 

「いや、何もおかしくねぇよ…ただ十分に熱い言葉を使ってるだろ?それなのに自覚無しとはな…ハハッ、おもしれぇ!仲間として十分過ぎるな!」

 

「それは褒められているのか?それともけなされているのか?」

私は棘のある言葉を垣根にぶつけつつも、仲間として認められた事に嬉しさを感じていた

 

「さぁな、とりあえず今はお互いのパートナーを迎えに行こうぜ。治験から免れた安堵感でうどんげも当麻もだらけてやがる、これからどう薬を売るか考えなきゃいけねぇってのにな…」

 

そう垣根に言われて皆がいる方を向くと当麻は木にもたれかかり、鈴仙は地面に座り込んで心拍数を整えていた。ちなみに輝夜はと言うと…

 

「えーりん!!ゲーム機だけは絶対に売らせないわ!どうしてもって言うなら私はこのまま永遠に無職を貫き通してやるんだから!!」

 

「なっ…!!悪い冗談は止めて下さい!!たかがゲーム1つにそこまでしますか普通!?」

 

まぁ……あの2人は放っておいても大丈夫だろう、下手に止めると私が巻き添えを食らってしまう

 

「当麻、少しは心身ともに休まったか?」

私は当麻の目線に合わせて屈んだ

 

「何とかな…でもますます学園都市に帰れなくなったという現実に上条さんのライフはどんどん削られてるんですのことよ…」

 

まぁそれは…うん仕方ないね、多分紫に目を付けられた時点ですぐには帰る事は出来ないよ

 

「うどんげ、いくら何でもビビり過ぎだぜ。ほら、立てよ」

 

垣根は紳士らしく鈴仙に手を差し伸べていた、もっともその本人は金髪な上に「紳士」とは程遠い服装なのだが

 

「垣根は師匠の本当の恐怖を知らないからそんな事が言えるのよ…1度両手足を固定されて手術台に寝かされてみなさい。走馬灯が絶対に5回は見られるわ」

 

いったいどんな実験をされるのやら…って、つまり1回の治験で5回くらいは死にそうになるってことか!?

 

「そりゃすげぇな、だが生憎とこれからは走馬灯を見るよりも薬を完売する計画を夢見た方が賢明だぜ」

 

「それもそうね、診療所の中に入って計画を立てましょう?」

 

どうやら永遠亭に住むと人妖問わずたくましくなるらしい、誰も両手足を固定されるという事には何の疑問も抱かないんだな?

 

「鈴仙、その話に俺と妹紅も混ぜてくれないか?妹紅はともかく上条さんはこの幻想郷の土地勘なんて一切無いんだ。多分教わっても覚えきれないかもしれないけど…」

 

そしてようやく精神的ダメージから復帰した当麻は会話の輪に加わろうとしていた、妥当だな

 

「私からも頼むよ、何分私は今まで永遠亭に案内する役割だったから売り子にされるのは初めてなんだ」

 

「よしっ、それじゃあ1度お茶でも飲んでから……」

 

だが、現実は物事が順調に進んでいる時に限って向かい風が吹くようになっていた

 

「あなた達は何を言っているのかしら?その前に垣根君が破壊した診療所の残骸を片付けて貰うわよ?」

 

「「「「え…………?」」」」

 

これが私達4人が初めて呼吸が合った瞬間だった

 

「……え、永琳さん?せめてその話は少しくらい休んでからでも…」

「今やらなくていつやるのかしら?」

「今です…」

上条当麻、10数秒で論破

 

「し、師匠!今は皆疲れていますし!!」

「うどんげ、人間の身体は中途半端に休んでから動かすと逆に疲れるのよ?」

「…はい…」

むしろ休まずに働くともっと疲れますよ、永琳さん?続いた鈴仙も10数秒で撃沈

 

「…永琳、悪いがさっき当麻に殴られた痛みのせいで満足に動けねぇんだ…悪いが俺は…!」

 

素人でも演技と分かるほどの苦しそうなフリを垣根は行った。それを聞くと永琳は目視

できないスピードで弓矢を取り出し、垣根の頬にかすらせる

 

「ごめんなさい、私とした事が失敗したわ。次はその矢の先端に痛み止めを打ち込む為の注射をちゃんと取りつけてから射る事にするわね」

 

「………誠心誠意、自分の不始末の後片付けを全うさせて頂きます…」

 

垣根に至ってはわずか数秒でケリがついた

 

 

「妹紅は?何か言いたい事はある?」

 

(この状況で何か言える猛者なんているのか…?もし私に言う事があるとするならば…)

 

「…皆、日暮れまでには片付けを完了させるぞー………」

 

「「「おー………」」」

 

結局、1人だけ逃げようとした輝夜も全員で捕縛して手伝わせたが片付けは陽が沈むまでかかったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 瓦礫の後始末に、埃で汚れた衣類の洗濯、そして破壊された庭の修繕などなどを済ませてから俺と垣根はようやく休憩する事が出来た。ちなみに妹紅と鈴仙、輝夜は先に風呂で汗を流しているらしい

 

「垣根~…今度暴れるなら永遠亭以外の場所にしろよ…もう上条さんは永琳さんの逆鱗に触れたくないぞ…」

 

「んな事言われなくても分かってる、元より永琳に逆らう気は無かったが…さっきの顔面スレスレ弓矢のせいで余計に逆らう気が失せたからな」

 

だよなぁ…俺としてはあそこで仮病を使って逃げようとした垣根の大胆さが羨ましかったんだが…

 

「ほらほら、こんな地面に座り込んでないで早く汗を流してきたら?着替えは一応だけど用意してあるわ」

 

振り向くとそこには入浴前と同じ服を着込んだ鈴仙が立っていた

 

「おっ、サンキュー鈴仙。ところでパジャマには着替えないのか?」

 

俺は何気なく気になった事を質問してみた

 

「パジャマ?あぁ、外界で言う寝巻のことね。私はこの服装の方が落ち着くのよ」

 

まぁ住む所が違えば風習も違ってくるし、今更俺はこんな事に疑問を感じない

 

「じゃ、上条さんはサッパリさせてもらいますよ~。垣根、風呂の場所は分かるか?」

 

「あぁ、患者用の男風呂があるんだ。ったく、病みあがりだってのにこき使われたから汗がすげぇんだよ」

 

「はいはい、私には垣根が地味にさぼっているのが見えたけどね。湯に浸かり過ぎてのぼせないようにね?」

 

「うるせぇな、俺はさぼったんじゃなく身体の事を気にかけて休憩を挟んだんだ。ついでに言うとガキじゃねぇんだからそんな心配はいらねぇよ」

 

垣根と鈴仙の会話がどこか夫婦染みてるな、やっぱり数週間も入院しているとこうなるんだな

そして垣根に男風呂へと案内され、俺達は瓦礫の後片付けなどでかいた汗を流した後に湯船に浸かった

 

「それにしても人生は分からないものだよな、上条さんなんてほんの10数時間前は科学が集う学園都市にいたんだぞ?それがいつの間にか竹林のど真ん中で、その数時間後には垣根と戦う羽目になるんだもんな」

 

「そりゃお気の毒だな、だが俺は過去の記憶をほとんど無くして目を覚ましたら幻想郷だの、妖怪だの、神だの言われるんだぜ?さすがに頭の処理能力がパンクするんじゃねぇか?」

 

普通ならこれは多少なりとも雰囲気が暗くなる話ではあったが、実際には上条当麻と垣根帝督の雰囲気は特に変わりの無い穏やかなものであった。それは2人の異常性の表れでもあり、2人が友達だと言う事も示していた

 

「まっ、何にしてもさっさと薬を売り切って博麗の巫女か八雲紫さんとやらに頼みこんで早く学園都市に帰ろうぜ?向こうに戻った時は垣根の知り合い探し位なら手伝うから心配しなくていいぞ?」

 

(確かに考えてみれば垣根の方が大変なんだよな…記憶も無くして、目を覚ましたら知らない場所で…。おまけにあんな凄い能力を持ち合わせてるんだから多分LEVEL5の能力者なんだろうし…)

 

「……そうだな、その時はよろしく頼むぜ」

 

だが肝心の垣根は…顔を暗くしてすぐに風呂からあがってしまった。まさか俺が何か言ってはならない事を言ってしまったのか!?

 

それなら後で謝らないとな…と思いつつ俺は急いで風呂から上がった。

 

そして俺と垣根が永遠亭のリビング?に向かうとそこには…

 

「垣根に当麻、遅かったじゃないか。作るのに手間をかけたんだから冷めたらどうしようかと思ったんだぞ?」

 

妹紅は湯気のあがる白ご飯を

 

「そうよ、せっかく師匠が奮発してお肉を買ってきてくれたんだから冷ますなんて勿体無いわよ!」

 

鈴仙は熱々の焼き鳥の串を各々の更に分配し

 

「垣根!ウニ条!!待ちくたびれたじゃない、今日はたくさん動いたからお腹が空いたのよ!あと1分遅かったら待ち切れずに食べ始めていたわ!」

 

蓬莱山は…言うまでもなく何もせずくつろいでいた

 

「蓬莱山は絶対に何もしてないし、今日だって動いてないだろ!?でも永琳さん…こんな御馳走、どうしたんですか?少なくとも今日は歓迎されるような日じゃ…」

 

上条さんは見事幻想郷と言う謎の世界に迷い込み、妹紅は成り行きで1度死ぬ事になり、垣根は俺が一方通行について話したせいで暴走して、鈴仙は…まぁ不幸だな…

 

 

(考えれば考えるほど皆不幸な目に遭ってるんだな…しかもほとんどが上条さんのせいじゃないですか!?)

 

「確かに今日1日として見るとマイナスな出来ごとの方が多かったわね。でも…上条君、あなたが来てくれた事によって垣根君は記憶を取り戻す手がかりを掴めたの。医者としては患者が快復に向かってくれることほど嬉しい事は無いのよ、それに…良い意味で姫様にも刺激が届いたようだし…♪」

 

「ふんっ…!別に私は何も変わっていないわ、私は不変の能力を持っているのよ?」

 

「はいはい、そうですね♪」

 

だとしても…俺のせいで皆は…

 

「当麻、今一瞬自分のせいで今日1日の出来事が起こったと考えなかったか?」

 

「も、妹紅…いきなり背後に立つなよ。あと勝手に心も読むのも止めてくれ…」

 

「ははっ、悪い悪い。それでどうなんだ?やっぱり自分のせいだって思ってるのか?」

 

「…当たり前だろ?俺が幻想郷にさえ来なければ…」

 

「まっ、結論から言ってしまえばそうなんだよ。どんな御託やお題目を並べてもそれが真実だ」

 

……これはキツイ、いや事実だから妹紅に非は無いけれど…

 

「でもな、それを当麻が責任に感じる事とウジウジ悩むのはまた別問題なんだよ」

 

「どういう…意味なんだ?」

 

俺は妹紅の言いたい事が理解出来ないでいた、ただ鈴仙や永琳さんに蓬莱山は妹紅の言いたい事は分かっているようでクスクスと笑っているように見える

 

「責任問題の話をするなら確かに当麻に非がある、でもそれは不慮の事故が重なった末の結末であって子供のせいにするのはいくら何でも筋違いだ」

 

「…で、でもそのせいで皆に俺は迷惑を…!」

 

「良いか、当麻。1人で何でも背負いこもうとするな、逃げたって良いんだよ。逃げた結果、たとえ誰かに迷惑をかけたとしても逃げるキッカケになってしまった自分の弱さと向き合ってそれを改善するならな。今だってそうだ、確かに当麻が幻想郷に来なければ誰も傷付かずに済んだだろう。でも誰一人として変わる事は出来なかった、当麻は今こうして何でも背負いこもうとする自分に向き合えなかったし垣根は自分の過去と向き合うキッカケにすら出会えなかった…私や鈴仙、輝夜だってそうだ。皆何かしらの「変化」のキッカケを掴めたんだ」

 

「…何だかなぁ…妹紅に励まされてるのか貶されてるのか分からなくなって来たぞ…」

 

「勿論励ましているに決まっているじゃないか、少し辛口だった自覚はあるんだけどね」

 

(今なら何となく俺が幻想郷に来た理由が分かる気がする、俺は…!)

 

「そこまで言われたらさすがの上条さんもくよくよしてられないぜ!よし、こうなれば上条さんは変わるぞ!自分の弱さからは目を逸らさない、そんな俺に変わって見せる!」

 

きっと俺は…何かを「変える」為にここに来たんだ。その何かまでは分からないけど…でも…

 

「変えていく勇気と変わらない心さえあれば、人も妖怪も…そして不変(かわらず)の蓬莱人ですらも変わっていける…妹紅、それがあなたの真実(ほんとう)の答え…ということね」

 

自身も妹紅と同じ蓬莱人であり、不変の能力を持つ蓬莱山輝夜は1人でそう呟いていた

 

 

 




それではいつものキャラ紹介


鈴仙・優曇華院・イナバ………[公]幻想郷の竹林にある永遠亭に住んでいる妖怪兎だが因幡てゐとは違い月に住む兎(玉兎)である。元は月の都の住人である綿月依姫、綿月豊姫のペットだったが人類が行おうとしていた月面侵略計画(要はアポロ計画のこと)に恐れをなして地球に逃げだす。そして辿り着いた先で幻想郷の噂を聞きつけ、永遠亭で暮らすこととなる。鈴仙自身は非常に臆病だが、月の軍隊に在籍していたこともありその戦闘能力は優秀。
所有する能力は「狂気を操る程度の能力」、だが実際は人や妖怪の波長を操って狂気に陥れている。これはかなり応用が利く能力であらゆる物の波長に干渉することが出来る
(例:廊下の波長に干渉して、その長さを異様に長く見せたりする)




[オリ]垣根と出会うまでは人間恐怖症気味だったが彼と話すうちにいつしかそれも改善された。周囲に友好的ではあるものの完全に心を開かない垣根の事を気にかけており、鈴仙自身は「自分よりも垣根の方が対人恐怖症」だと思い込んでいる
また、月の軍隊にいた頃の名残か太もものホルダーには常に拳銃やナイフが携帯されている。最近のお気に入りはロシア製のトカレフTT-33、現代ではとうの昔に他の拳銃へと置き換えられたがそのせいで幻想入りし鈴仙の愛用銃となった。




う~ん、鈴仙のオリジナル設定で拳銃のインパクトの方が強過ぎるような気が…まぁ良いでしょう、私も鈴仙が拳銃を構えているシーンの絵は大好きで少し前までは携帯の待ち受けでしたからね。ちなみに今はもこたんです
勿論、銃の設定を加えた事にもちゃんと意味があるんです。思い付きじゃないですよ?あたりまえじゃないですか!

それと来週は恐らく更新できないと思うので、次の投稿は5月の最終週になると思います。それではまた次回もよろしくお願い致します


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まずはそのふざけた闇(げんそう)を撃ち抜いてみせる!

どうも、やっと忌々しいテストから解放されて気が抜けまくっているけねもこ推しでございます。ちなみにですが前回の後書きで「次の更新は五月の最終週になる」って書いたじゃないですか?あれ、自分の中ではあの後書きを書いた二週間後は五月も終わりだと思ってたんですよね。だって早く六月になってもらわないと超電磁砲の11巻が読めないですし…。ってそれは関係ないか
それと七月までは不定期更新になると思います、私女性にはモテない割に無駄な面倒事とは相思相愛でして…。ただ超電磁砲11巻発売の週に絶対番外編は投稿します。これは前々から決めていましたので。勿論フラグじゃないですよ?いや、本当に(以下略


 

垣根帝督SIDE

 

 

 

 

 

 

 上条当麻がおおまかにではあるものの自身が幻想入りした理由を見つけた時、垣根帝督は何とも言い難い感情を抱いていた

 

目の前には豪華とは言えないがそれでも暖かくて食欲をそそるような食事があり、そしてそれを囲む大切な人達

 

てゐに焼き鳥の串を奪われ涙目になりながらキレる当麻

うっすらと汗を浮かべながら輝夜との口論と焼き鳥を焼く作業を同時並行でこなしている妹紅

そんな様子を楽しそうに見守っている永琳

 

(……ここに俺の居場所なんてあるのか?確かにこの光景は当麻がこの世界へ来ることがなけりゃ実現しなかっただろうな。だが…この幸せな光景は俺がいなくても変わらず起こったんじゃねぇか…?)

 

この感情は当麻が現れる前から、いや目を覚ましてある程度動けるようになってから自然と感じていたものだったんだ。それが何故かは分からねぇ、だが理屈ではなく本能が俺に告げている

 

 

「俺の居るべき場所はここには存在しない…」

 

(俺が存在するだけでこの幸せな空間は異物の混じった空間、すなわち当麻やうどんげが知る空間では無くなる…)

 

以前から気付いてはいた、だからこそずっと隠し続けていた感情。自分すらも騙すことになっても…それでもここに、永遠亭で暮らすのは幸せだったし楽しかった。自分に嘘をついてまでもここにいたい、永遠亭はそんな事を躊躇い無く思わせてくれる場所であり、人達が溢れていた

 

 

(でも…そんな大切な場所であり、大切な人達がいる場所だからこそ不純物(おれ)が存在しちゃいけねぇんだ…)

 

俺は確かに1度永遠亭の住人全てを、そして上条当麻も守り切ると決めた。その意思に関しては覆すつもりはない。だが、仮に…仮に俺さえいなければそもそも誰も守る必要などは無く俺がいることで誰かが傷付いてしまうのだとすれば……

 

「おーい、垣根!聞いてるのか?カワとモモ、どっちが良いんだ?」

 

どうやら俺が考え込んでいる内に妹紅が俺の分の焼き鳥を確保していてくれたらしい。それなら早く食べておかないとな、特に輝夜の野郎は見た目に反して1度の食事でこれでもかとばかりに食べまくる。うどんげ曰く、そんな輝夜でも幻想郷では小食の部類らしいが

 

とにかく今は何かを胃袋に納めない事にはプラスにもマイナスにも考えられねぇ。とりあえず俺は気分でモモ肉を貰おうとして身を乗り出した

 

「ん、サンキューな妹紅。俺はモモを貰うぜ……って、ここの床はこんなにも柔らかかったか?」

 

俺は妹紅から串を受け取ろうと身を乗り出した際に手を床についたはずだった。だが…何故かその床は柔らかい。これも永琳の仕業か?もしくはてゐのいたずらって可能性も…

 

「…垣根……いくらこんな皆の気分が良い時でもそれは不味いと思うぞ?」

 

は?妹紅、何のことだよ?

 

「……上条さんは知りませんよーっと」

 

待て、当麻。目を反らすな

 

「若いって良いわね、羨ましいわ」

 

永琳は興味がなさそうな表情だが…

 

「うーん、垣根。顔面に回し蹴りくらいで済めばマシなんじゃない?」

 

てゐさん、さらっと怖い単語が飛び出ている上に日本語がめちゃくちゃですよ?

 

「別に良いんじゃない?垣根は『モモ』をくれって言ったんだからあながち間違いではないと思うわ。もっとも…『イナバの鈴仙の太もも』とは思わなかったけど」

 

……え?鈴仙の太もも?ていうことはあれか?今皆が湿気てるのも、鈴仙の声がまったく聞こえないのも、妙に俺の真横から黒い殺気が感じられるのも…要は俺が鈴仙の太ももを思いっきり触っているからなのでしょうか?

 

「垣根、アンタがそこまで最低な三下だとは思わなかったわ…」

 

そしてご多分に漏れず俺の横にいらっしゃるのは、瞳を異常なまでに紅く染めたうどんげこと鈴仙・優曇華院・イナバだった。

 

「ま、待て鈴仙!!たかが太ももに触れたくらいで三下って扱いはひどくねぇか!?誰も触りたくて触った訳じゃないんだぜ!?不可抗力だ!!」

 

このままでは、何とか永琳の実験台になる運命から逃れられた俺の身体がうどんげのせいで再び『死』へと向かうハメになる。とにかく俺は本当に邪な気持ちが無かった事を説明するためにこれでもかと力説した、まさに完璧な意見だろ?

 

「垣根…!!あんたって人は…!!」

 

あ、ヤバイ。何がヤバいかと言うと既に鈴仙が右足に力を込めている事だ。ちなみに俺は座ったままの状態…

 

「「「「「垣根帝督、アウトー」」」」」

 

何故かタイミングが完璧にあった当麻、妹紅、てゐ、永琳、輝夜の声を聞いたのが俺の最期の記憶だった

 

「変態は外で頭でも冷やしてきなさい!!!」

 

とうとう俺は永遠亭の住人からも見放されたな…俺は顎を襲った鈴仙の蹴り上げの激痛に襲われながらそんなことを自嘲気味に考えていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴仙・優曇華院・イナバSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの変態…!垣根ときたら本当に信じられない!!私の太ももを思いっきり触っておきながら嫌々触ってしまいました、みたいな言い訳をして!悪かったわね、嫌々じゃないと触れないような色気の無い身体で!!

 

「まぁそう怒るなよ鈴仙。それにしても結構吹っ飛んだな、垣根のやつ…俺がここに来る前の世界にも脚力がすごい女の子がいたけど良い勝負だと思うぜ」

 

「うるさい!当麻は分からないと思うけど女はそういうのが気になるの!!」

 

私は久々に怒りに任せて蹴りを垣根の顎に放った、勿論手加減はしたし死ぬような事は無いと思うけど…ちょっと心配ね…。やり過ぎたかしら…

 

「そんなに気になるなら見に行けば良いじゃない、行ってあげれば垣根も喜ぶんじゃない?」

 

「姫様まで……良いんです、あれは垣根が悪いんだから垣根から謝罪に来るのが筋なんです!」

 

「あらあら、太ももを触られたくらいで大激怒なんて垣根の行く末が心配ね。永琳はどう思う?」

 

今気付いた、多分…と言うよりかは十中八九姫様はこのネタで私をいじめるつもりだ…!それだけは避けないと…!

 

「私ですか?私はあまり男女のそう言った深い中についての知識はありませんから何とも言えませんね」

 

師匠!?何でそんな意味深な言い方をするんですか!?早く反論しないと…!

 

「だから私は…!」

 

「ただ……今のうどんげの傾向は悪くないと思うわよ。以前のうどんげなら人間に真っ向から感情を表すなんて事はなかったでしょう?要はそれだけ垣根君に心を許しているということよ。それは恐らく彼も同じね」

 

「……そんな事はありませんよ、私にだって心を許している人間は…」

 

勿論私にだって友達はいる、妖夢や咲夜なんかは人里に買い物に出かけた時によく会うから会話はするし…他には……他に人間の友達は…。あれ?私って人間の友達が少ない…!?

 

そんな私の心を見透かしたように師匠は続けた

 

「そんな人間の友達の少ないうどんげなら彼の悩みを理解してあげられるんじゃない?」

 

(師匠、さらっと私の心を抉る発言はやめてください!でも確かに…何となく垣根が思い悩んでいたのは分かったのよね…。楽しいはずの夕食なのにどことなく輪に馴染めていないというか…それよりは勝手に自分が孤独だと感じている感じだった…)

 

「鈴仙、これは垣根の分の焼き鳥なんだけど持って行ってくれないか?私はもう焼く作業にクタクタで動きたくないんだ」

 

そう言った妹紅の手には皿にのせられた熱々の焼き鳥が湯気をあげていた

 

「じゃあイナバ、ついでにこのご飯も持って行きなさい。せっかくの妹紅の焼き鳥でもホカホカのご飯が無ければ無価値になってしまうわ」

 

「あ?それは私の焼いた焼き鳥はご飯が無ければ無価値だと言いたいのか?」

 

「あら、そう言ったのよ?妹紅にはどう聞こえたのかしら?」

 

「…よし、ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・いだな!」

 

……肝心の姫様はご飯が入った容器を当麻に押し付け妹紅と一緒に外に出てしまった…

 

「えっと…だな、鈴仙。とりあえずこれも垣根に持って行ってやってくれ」

 

哀れな当麻は慣れた手つきでご飯をよそい、ご飯茶わんを私に手渡した

 

「あ、ありがと…何だかごめんね?」

 

「良いって、気にするなよ。こういうのは慣れっこだからな」

 

何でかな…当麻にこんなにも親近感が湧くのは…

 

「それと鈴仙、1つ良いか?」

 

「う、うん、どうしたの?」

 

「俺はさ、垣根の抱えている物も悩みもまったく理解してやれないからこんな事言うべきじゃ無いのかもしれないけど……多分今の垣根が求めているのは…自分とちゃんと向き合ってくれる人、ちゃんとぶつかってくれる人を今の垣根は求めているんじゃないか?まぁ上条さんの勘はあんまり当たらないけど…」

 

……多分私も心のどこかではその事に気付いていたんだと思う。でもそれでも私が目を反らしたのは…

 

「ありがと!しょうがないからふがいない相棒に私が食事と元気を届けてくるわ!!」

 

「おう、ついでに蹴った事もちゃんと謝るんだぞ~」

 

さて…垣根の為にも、私の臆病な心とケリを付ける為にも頑張ってみよう!

 

 

 

 そして私は大体垣根が吹っ飛んだであろう中庭に向かった

 

「それにしてもあそこまで綺麗に決まるなんて…こんな所で依姫様の訓練の成果を発揮してもなぁ…」

 

月で暮らしていた頃の上司の名前を口に出しつつ私は永遠亭の中庭を見回す

すると……直したばかりの中庭の芝生に寝転んで垣根は月を眺めていた

 

「月、好きなの?」

 

私はそんな垣根の隣に腰を下ろし、焼き鳥とご飯を垣根に見せる

 

「……嫌いじゃねぇよ、まぁ大好きって訳でもないんだけどな」

 

「…私に蹴られた事、怒ってる?」

 

まずはこっちの問題から解決しよう…

 

「いや、別に気にしてないぜ?ちょっと頭を冷やしてみればどっちに非があるのかはすぐに分かったからな。さすがに配慮に欠けた発言だったぜ、悪かった」

 

垣根は意外にもあっさりと謝罪した、もう少し口論になると思ったけど…。でも垣根が謝ったのなら私も謝る必要があるわね

 

「とは言えすぐに感情的になって暴力を振るった私も悪かったわ、後で師匠に頼んで湿布を貰ってくるからちゃんと貼るのよ?」

 

「あぁ、分かった。そうするよ」

 

そしてしばらくの間、沈黙が続いた。垣根は焼き鳥に手を付け黙々と食べ続ける、私はと言うと…話が切り出せずにいた

 

(でもいつまでもダンマリ…じゃダメよね…。ましてやこの話は私から切り出さないと…)

 

「…ねぇ、垣根?私があの月から来た兎だ、って言ったら信じる?」

 

「あぁ、信じる」

 

「…聞いておいて何だけど…ちょっとは疑ったりはしないの?」

 

「別に疑う理由がねぇからな。うどんげは訳も無く嘘をつくやつじゃないし、例え訳アリで嘘をついてもすぐに顔に出るタイプだ」

 

な、何だか知らず知らずの内に分析されているみたいね…

 

「それでその月の兎がどうかしたのか?」

 

「私はね、月にいた頃の私と今の垣根がそっくりだなって思うのよ」

 

「…どういう意味だ?俺は鈴仙ほど有能じゃないぜ?」

 

「違う違う、臆病な所が似ているなぁってね…」

 

垣根は不思議そうな顔をしたけど…話を遮る様子は無いから続けて良いんだと思う

 

「私はね、月で暮らしていた頃は軍隊にいたのよ。もっとも地球のとは違って平和で銃も滅多に握る事がないような軍だったけど…。その中で私は俗に言うエリート、だったのよ。自分で言うのは恥ずかしいけど…」

 

「…良いじゃねぇか、無能な事をひた隠しにするやつよりは自分の有能なポイントをちゃんと主張できるやつの方が俺はかっこいいと思うぜ。最も万人にこの考え方が適用される訳じゃないからそこは気を付けろよ」

 

「ふふっ、そうかもしれないわ。それでね、確か射撃訓練を終えた後だったかな?周りの視線がいつもと違うのよ。おまけに何か小声で話しているし…それで気になったから1度その場を離れて盗み聞きしたの、そうしたら皆私の事を何て噂をしていたと思う?」

 

「……分からねぇな…」

 

何だ…垣根だって分かりやすいバレバレの嘘をつくじゃない…

 

「……その射撃の訓練は敵に見立てた板を撃ち抜く訓練だったの、それで私は敵の頭部に当たる部分を完璧に撃ち抜いていたわ。それが周りの同僚からすると多分怖かったんでしょうね、仮に訓練だとしても表情1つ変えずに敵を殺せるんだもの…。皆は私の事を『化物』って言っていたわ…」

 

「そんな訳ねぇだろうがっ!!!」

 

垣根は跳ね起きて地面を思い切り殴りつける、その様子はまるで自分自身に言い聞かせているようだった

 

「うどんげはただ真面目に訓練をこなしていただけだろ!それが何で化物扱いをされなきゃならねぇんだよ!!お前は普通なんだ!!」

 

「…ありがと…そんな風に言ってくれたのは垣根が初めてよ」

 

今度は私が芝生に寝転び、その後に垣根もため息を1つついてから寝転ぶ

 

「悪い、ついカッとなっちまったな…。でも俺は間違った事を言ったとはおもってないぜ」

 

「…たとえ正しくても集団の総意が優先されるのは人間も妖怪も同じなの。それにその同僚だって軽い冗談で言ったのかもしれないし…。でもそれからは悪循環だったかな…1度『化物』の烙印を押されると周りがそれを忘れたとしても自分の記憶にはいつまでも残ってしまうもの。『化物』と言う烙印から目を反らす為に必死に訓練に打ち込んだけど努力すればするほど周囲の目線が気になる、その目線からも目を反らす為に訓練して……の繰り返しよ」

 

「軍を辞めようとは思わなかったのか?幹部クラスならともかく、毎日訓練をしている兵をエリートってだけで縛る程厳しい訳じゃなかったんだろ?」

 

「それは何度か考えたの、簡単に辞職出来る訳じゃなかったけどそれでも平和だったから…」

 

それでも私が軍を辞められなかった理由は……

 

「気付けば私にはもう銃を持って戦うことしか選択肢が残ってなかった…。誰かに職業の自由を阻害されていた訳でもないのに、長年戦うことしかしてこなかった私には他の職に就くなんて想像も出来なかったわ…。結局軍は退役せずに続けたけど…それから更に荒れたわね。私自身の勝手な思い込みで独りだ、孤独なんだって決めつけて…優しく接してくれる月の民は何人もいたけど私はその好意を受け入れなかった…。そして段々と私は誰かと接することも、銃を持って戦う事も…何もかもが怖くなってしまったわ。誰かと仲良くなって化物呼ばわりされるのも怖かったし、その原因を作る『戦い』も怖かったから…」

 

「…その話が本当だとするんなら…当麻に負けず劣らずうどんげは不幸なやつだな」

 

「私を当麻と一緒にしないでよ、さすがに当麻レベルの不幸は体験してないわ」

 

(今でも時々思う…あの時私に「助けて」って言える勇気さえあれば…きっと月から逃げ出して仲間を裏切るなんて真似はせずに済んだんだろうなぁ…)

 

「それでね、私は垣根に謝っておく事があるのよ…」

 

「今度はどうした?空気がしんみりとした事なら謝る必要は無いぜ、俺は気にしてないからな」

 

「違うの、私はね…きっと垣根に優しく接していたけど結局心の中では同情して自分自身を慰めていたの。同じ悩みを抱えるのは私だけじゃ無い、ってね。垣根の集団の。輪に交われない苦しみに、垣根自身でもどんな能力なのかすらも分からない人外の力に翻弄される苦しみに…寄り添う気も無かったのに…本当に私は都合の良い兎よ」

 

「もう良い、何も言うな…」

 

違うの、これは垣根の為でもあるしそれ以上に私自身の臆病な心と決別する為のことなのよ…

 

「もし垣根が集団に馴染めないのなら私が間に入って仲介役になるし、例え100人の人間が垣根を化物扱いしても私は200人分の声量で垣根が人間だと叫んであげる

だって私には垣根と同じ苦しみを背負おうとしても背負えないし、かといって垣根が今彷徨っている同じ闇(げんそう)の中に飛び込む気も無いもの。

 

だからまずはそのふざけた闇(げんそう)を……撃ち抜いて見せる!!」

 

私は即座に太ももに提げているホルスターから拳銃…トカレフを抜き天に向かって発砲した。その発砲音は夜の静寂を突き破り…夜の闇を引き裂いて長時間木霊し続けた

 

垣根は目元に腕を置いて表情を隠していた、頬が微かに濡れているのは…きっと私の気のせいよね…

 

「…誰がそこまで優しくしてくれって頼んだんだよ…本当にうどんげはお節介なやつだな…。なぁ、何でうどんげはそこまで優しいんだよ…」

 

(そうよね…垣根がもがいているのなら、苦しんでいるのなら…同じ孤独で苦しんだ私が助けてあげれば良いじゃない…!例えお節介でも、例え助けて、が言えなくたって…)

 

「…簡単じゃない、私と垣根がパートナーだから、でしょ?パートナーが困っていて手を差し伸べるのに理由が必要だとは思わないもの。仮にもそのパートナーが助けて、を言えなくても…ね?」

 

そう、理由なんて要らない。垣根が助けを求めてくれるのなら…私はその小さな幸せを守る為にどんな大きな闇(げんそう)でも撃ち抜いてみせる

 

 

 

 

 




中盤までは個人的には順調だったようなそうでもなかったような…やっぱり深夜にぶっ通しで書くとこうなるのかぁ…。でも私としてはこんなフィニッシュも悪くは無いと思うので書きなおしはしません!はい!!

ちなみに今回からしばらくキャラ紹介はお休みです、紹介出来るキャラが減って来たのも事実ですしオリジナル設定の在庫がもうスッカラカンなんですのよ…。
とりあえずこれから努力はしますが七月までは不定期更新になると思います、本当に申し訳ない!



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勝利条件(生き残る方法)

どうも、6/20が待ちきれないけねもこ推しでございます。早く超電磁砲11巻が読みたい!でないと私のストレスが爆発してしまうんですよ。まぁその前にマンガ版の儚月抄を購入したので今のところは大丈夫な気もしますが…。
余談ですが、何で「第2位」ってキャラはどのマンガでも死んじゃうんですかね?ていとくんに然り、火星の電気ウナギに然り…。前者はともかく後者は原作を読むのを止めようかと思いましたし。あぁ、意味不明な話をして申し訳ないです。ただ単にこれは愚痴ですから適当に読み流して頂いて本編をどうぞ


上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 鈴仙が部屋を出て、今現在で部屋に残っているのは俺と永琳さんとてゐだけだ。となると必然的に食事の後片付けは……

 

 

「不幸だ……」

 

 

言うまでもなく残っている私こと、上条当麻と永琳さんとてゐの仕事になってしまうわけですよ…。学園都市にいた頃は家事は俺がやってたんだが、何分あの大人数の後片付けを三人(?)でこなすと言うのは中々キツイ物がある。その上てゐは早々に逃亡したんだよな…

 

「悪いわね、上条君にも手伝わせてしまって…後でてゐには私からお仕置きしておくわ」

 

「ははっ…出来ればもう少し冗談を思わせる表情で言って貰えると俺も気が楽なんですけどね…」

 

台所では永琳さんが皿洗いをしながらニコニコと微笑んでいた

この八意永琳という人は勿論良い人なんだろうけど時折見せる笑顔が怖い、上条さんの周りには怖い女性しか集まらない運命なんですか!?

 

俺は学園都市で出会ったLEVEL5第三位の女の子の顔を思い出しつつ、皿を台所へと運び終えた

 

「そうだ、上条君。後の皿洗いは全て私がやっておくから輝夜と妹紅の様子を見て来てくれないかしら?そろそろ2人ともバテた頃だと思うのよ。もしまだなら軽く仲裁をしてきて欲しいの」

 

「へ?あ、あぁはい分かりました。でも良いんですか?全部永琳さんに押し付けてしまっても」

 

「構わないわ、それにまだあの2人がじゃれあっているのなら上条君が帰って来た時に皿洗いをする体力なんて残されていないでしょうし」

 

どこか永琳さんの言葉は引っかかるけど…まぁ様子見をするだけで皿洗いが免除されるならありがたい。俺は永琳さんに残りの皿洗いを任せてから外に出る

 

「さてさて、蓬莱山と妹紅のじゃれあいを止めに行くとするか。でも永琳さんが蓬莱山のことを輝夜って呼ぶ事もあるんだな」

 

(要するに永琳さんは蓬莱山の従者でもあり家族って感じなんだろうな。確かに見た目的には親子でも……って、危ない危ない…。こんな事を永琳さんに聞かれたら…)

 

何故かは分からないけど…俺が今考えた事を口に出すのは非常に危険な気がするぞ

こんな時はすぐに他の事に集中しよう…っと、ちょうど良いタイミングで2人を見つけた。確かに2人とも息切れを起こして地面に座り込んでるな

 

「おーい、妹紅に蓬莱山!満足するまで遊べたか?」

 

「うるさいわねウニ条…!まだ私が勝ってないのよ!」

 

「いや、勝つって何にだよ…」

 

「だから妹紅によ!!」

いや、何の勝負にって意味で聞いたんだけどな…。日本語って難しい

 

「ふ、ふん!今日の所の弾幕ごっこは私の勝ちのようだな、輝夜…!」

 

「この前までは私が勝っていたじゃない!今日はたまたま負けただけよ!!」

ダメだ、このままじゃまた「弾幕ごっこ」ってやつが始まってしまう…!急いでこの流れを変えないと…!!

 

「妹紅も蓬莱山も1度落ち着け!ところで弾幕ごっこって何なんだ?」

 

とりあえず気になった事を妹紅に聞いてみた、名前から察すると…無理だ。上条さんの脳では理解できませんのことよ…

 

「ん~…あぁそうか、まだ当麻には説明して無かったな」

 

「何よ、妹紅。まだ教えてなかったの?ウニ条は相当な不幸体質だから幻想郷にいたら必ず弾幕ごっこに巻き込まれるわよ。それなら早い内にルールを教えておかないと不味いんじゃない?」

 

(あのな、蓬莱山…不幸体質ってのは否定しないけどその弾幕ごっこってやつに巻き込まれる前提なのは止めてくれよ…。上条さんの右手は異能の力なら何でも打ち消せるけどあくまで「打ち消す」だけなんだからな?)

 

「そんな事は私だって分かってるさ、でも今日出会ったばっかりで色々バタバタしてたからな。とりあえず当麻、弾幕ごっこの説明から始めるぞ」

 

 

~少女説明中~

 

「えーっと…要は人間が神様や妖怪と同じレベルで勝負するための疑似的な戦い、ってことか?」

 

「そうだ、他にも妖怪同士の争いが幻想郷の平和を乱さないようにするためでもあるな」

 

「じゃあ人間が神様と弾幕ごっこをして、神様の弾幕を食らっても死なないのか?それなら確かに平和的だよな」

 

「いや、人間なら死ぬんじゃない?例えば妖怪の山の神社に住む神なんて御柱を飛ばしてくるし。それに妹紅の弾幕なんて炎だから妖怪だって当たりどころによれば火傷じゃ済まないわ」

 

(やっぱり死ぬんだな、もう上条さんは驚きもしないしツッコミもしませんよ…。でもそれならますます上条さんはその弾幕ごっこで不利だぞ)

と、言うか死ぬ死なない以前の問題に大きな1つの問題がある。それは俺自身が何かを飛ばしたり、撃ったり出来ない事だ。妹紅曰く、弾幕ごっこでは相手に自分が放った攻撃を何度かヒットさせれば良いみたいだが生憎と俺の身体はそこまでハイテクな性能にはなっていない

 

「どうやらその顔だと八方塞がりって感じの顔だな。でも心配はするな、そんな当麻の為に秘策は考えてあるさ」

どうやら妹紅には俺が弾幕ごっこで勝つ為の秘策があるらしい、さすがは永く生きている人は頼りになるぜ!!

 

「意外ね、妹紅がそこまで考えているなんて。でも本当に秘策なんてあるの?まさか修行でもして弾幕を撃てるようにさせる気?」

 

「そんな事をしていたらどれだけ時間を使うか分からないだろ?それに当麻の右手は触れた異能の力なら何であろうとも打ち消すんだ。例え何千年と修行をしてもその右手がある以上は異能の弾幕は張れないさ」

 

(じゃあどうするんだ?異能の弾幕が無理なら科学の弾幕…ってことは銃を使うのか?でも上条さんはエアガンすら使ったことないんだよな)

 

ダメだ、どれだけ考えてもまったく分からん!もうこうなったら妹紅に直接聞こう、そう思って俺が口を開こうとした時だった

 

「輝夜、弾幕ごっこでの勝利条件は本当に相手に弾幕を命中させて体力を0にするだけか?」

 

「何を今更なことを……それともう1つ、相手が宣言したスペルカードを全て攻略すれば良い…あっ!そういうことね…!」

 

「なっ?これなら当麻でも練習さえすれば少なくとも手足も出ずに敗北、なんて結末にはならないだろう?」

 

(えっと……?何が『なっ?』なんだ…?上条さんの頭は既にパンク寸前ですのことよ…)

 

「まずスペルカードというのは、敵が考案した必殺技を示した契約書のようなものだ。それを攻略したいのならそのスペルカードを上回る必要がある、それなら話は早い。そのスペルカードの威力を上回る弾幕を放つか、無効化する…即ち「打ち消して」しまえば良いんだ」

 

 

なるほどな……何となくだが妹紅が言いたい事が分かって来たぞ。

まず弾幕ごっこに勝利する為の条件は2つ、1つは自分が放った弾幕で相手の体力を0にすること。ただこれは俺には到底不可能な方法だ、でも勝利条件の2つ目の「相手の宣言したスペルカードを攻略する」なら俺にも出来ない事はないんだ、相手が放ってくる弾幕を全て見極めて打ち消して回避して……

 

「って、これはこれで滅茶苦茶難易度が高いからな!?どうせ相手の放ってくる弾幕の数は半端ないんだろ!?」

 

「そうカリカリしない方が良いわよ、ウニ条。健康に悪いわ。ちなみに質問に答えると数なんて数えれる訳無いじゃない、ウニ条が現れた竹林にいる妖精の弾幕でも数はかなりのものになるもの」

 

ほら!どこか心の隅で分かってましたよこの展開は!!やっぱり俺には弾幕ごっこなんて無理なんだって!!

 

「と、言う訳で当麻。大体弾幕ごっこについては理解できたか?」

 

「何がと、言う訳で、だよ…。とりあえず弾幕ごっこは上条さんには向かないってことが分かったぞ」

 

「ははっ、それは何よりだ。とりあえず明日から垣根の体調が完全に回復して薬を売りに行けるようになるまでの間、弾幕ごっこで勝つ為の練習をするから今日は早く寝た方が良いぞ?」

 

「あぁ分かったよ、じゃあ俺は永琳さんに布団を借してもらえるように頼む……ってはい?妹紅さん?今何て言ったんだ!?」

 

「だから、明日から弾幕ごっこの練習をするから今日は早く休むんだぞって言ったんだ。何か日本語がおかしかったか?」

 

いやもうおかしいとかのレベルじゃないぞ!?何でいきなり明日から修行なんだよ!?

だが、妹紅の意思は固く俺が根負けするという形で話し合いにはケリがついた。いや、ついてしまった

 

俺はどっと疲れを感じて地面に座り込んだ。もっともその地面は妹紅と蓬莱山の弾幕ごっこによってボロボロになってるんだけどな

「はぁ……不幸だ…。どんどん上条さんの毎日が過激になっていく…」

 

「そこまで落ち込むな、当麻。何もスパルタ教育をしようって訳じゃないんだ。ちゃんと優しく教えるよう心掛けるさ」

 

「精々期待してるからな、それじゃあ俺は改めて寝るとするか…。蓬莱山と妹紅も早く寝るんだぞ?」

 

「分かってるよ、私と輝夜は弾幕で壊れた地面を直してから寝るさ」

 

「そうね、永琳にこのことがバレると今度こそゲームを失う羽目になるもの」

 

「…ゲームは程々にしろよ、蓬莱山。それじゃお休み」

 

若干1名は理由が不純だけど…まぁ妹紅がいるんなら心配はないだろ

俺は1度欠伸をして、から永遠亭へと戻る

 

(まっ、もう決まった事をグダグダ言っても仕方ない、よな…。それよりも今は身体を休めるか…)

そして部屋に戻ると机に永琳さんからの書置きがあった。その内容は垣根の病室に布団が置いてあるからそこで寝てくれ、というもので丁寧に垣根の新しい病室の場所まで示してある。やはり永琳さんも普段は温厚で優しい人なんだろうな

俺は書置きに示してある病室に向かった、すると既に垣根は布団に寝転んで寝息を立てていた

 

(垣根は先に寝たのか…じゃあ起こすのも不味いよな。俺も寝よ…)

こうして俺は予め敷いてあった布団に寝転んだ、どうやら俺は体感以上に疲れていたらしく一気に疲れが押し寄せてくる。

こうして上条当麻は幻想郷での1日目を何とか無事に終えたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、当麻は永遠亭内に入ったし…私は私の仕事を片付けるか。

私はとりあえず掴んでいた輝夜の襟筋を離して解放する

 

「いたた…何も襟を掴んで拘束する事は無いでしょ?私は単に後片付けをサボろうとしただけなのに…」

 

「そのサボろうとしただけ、ってのが困るんだよ。私だって明日から忙しいんだ」

 

私が輝夜の襟筋を掴んで拘束していた理由は言うまでもない、この蓬莱ニートは自分が壊した庭の修繕を当たり前のように放棄して逃亡しようとしたからだ。

 

「それにしても本当にウニ条の能力は厄介ね、自分だけの時間を集めて逃げようとしたけど能力が発動できないのよ。どういうことなの?」

 

「話は単純だ、お前はこの空間に自分だけの時間を集めてそれで自分だけ逃げようとしたんだろ?でもお前の能力によって集められた時間が当麻の右手に触れて打ち消されたんだ」

 

へぇ、中々やるじゃない。輝夜は感心したようにうなずいた。確かにこんな形で能力を打ち破られたのは初めてだろうからな。

 

(それにしてもやっぱり当麻の右手は「異能」なら何でも打ち消せるんだな。恐らく力量の差も関係は無い、私の妖術も無効化されたし輝夜の能力は…恐らく魔術に近い物があるから魔法使いにも対抗は出来るだろうな)

 

考えれば考えるほど奇妙な能力だと私は思った、それだけに純粋な興味も湧く。

本当にどんな異能でも打ち消せるのか?未だ試していない巫女が扱う霊力や神が扱う神力、仙人の仙力のような異能の力でも打ち消せるのか?

考え始めればキリがない、それくらい上条当麻の幻想殺しは私を惹き付けるのには十分だった

 

そんな事を考えつつスコップで地面を修繕している時だった

 

「ふふっ……随分と楽しそうじゃ無い、妹紅?貴女のそんな顔を見たのは……久し振りね。私の記憶だと人里に住むハクタクといる時の表情に近いわ」

 

輝夜がクスクスと笑いながら私に話しかけてきた。勿論近くにあった椅子に腰かけながら何もせずに、だ

 

「お前は本当に蓬莱ニートなんだな、私一人に全て後片付けを押し付ける気だろう?」

 

「あら、バレちゃったかしら?でも良いじゃない、今日の私は気分が良いのよ。そんな時に働きたくは無いし何より私は姫……」

 

「まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!!」

 

とりあえずこのドヤ顔で不働(はたらかず)を語る蓬莱ニートに、私は我慢できなかったので当麻が使っていた決め台詞と右ストレートを借りた上で輝夜をぶっ飛ばした

 

「~っ!!痛いじゃない!いきなり殴るなんてもこたんどうしちゃったの!?」

 

「もこたんって言うな、もう一発くらい幻想をぶち殺されてみるか?」

 

「あぁはいはい!分かったわよ、働けば良いんでしょ働けば!?」

 

そう言いつつ輝夜は起き上がってから自分の分のスコップを使い、地面の修繕を始める

何故輝夜がここまで偉そうな態度を取れるのかは私には理解不能だが、元より輝夜は月に住んでいた宇宙人だ。地球人が宇宙人の思考を理解しようなんて無理に決まっている

 

「まったく……そう言えば妹紅、ウニ条に弾幕ごっこを教えるって本気なの?確かに相手のスペルカードを攻略する事も勝利条件の1つだけど…はっきり言ってかなり難易度が高いんじゃない?ウニ条自身も分かっていたみたいだけど、いくら右手で弾幕を打ち消せても…」

 

「分かってるさ、でも私は当麻には弾幕ごっこの資質があると思うんだ。それに今の当麻には弾幕ごっこで苦戦することと敗北が必要だと思うんだよ。勿論死なない程度に、だがな」

 

「…?どういう意味…?」

 

当麻にはまだ話す気は無いが…まぁ輝夜なら良いか。どの道弾幕ごっこの練習をするんなら協力者は多い方が良いし、何より輝夜は強い。事情を説明して協力してくれるなら私としては大助かりだ

 

「まずは資質の話からだが…これは簡単だよ、当麻がここに来た時お前は弾幕を放ったんだろう?」

 

「そうよ、いきなり入ってきて私の裸を凝視したから手加減した上でね」

 

「でも当麻は無傷で輝夜の弾幕を凌いだ…いくら幻想を殺せる右手があったとしても、弾幕ごっこの名前すら知らない人間がおいそれと回避出来る程お前の弾幕は軟弱じゃないよ。それに当麻がいた場所…確か学園都市だったか?そこでは弾幕ごっこ以上に危険な戦いをこなしていたらしい」

 

 勿論妹紅と輝夜が知る訳など無いが、上条当麻にとって弾幕ごっこと言うのはそこまで危険なものでは無かった。

何故なら上条当麻は強さこそ幻想郷の住人には劣るものの、触れれば即死級の攻撃を放ってくる相手と戦ってきたのだ。

 

例えば御坂美琴、彼女の代名詞でもある「超電磁砲(レールガン)」はゲームセンターのコインに高圧電流を流し音速の三倍で発射する技である。彼女は上条当麻と初めて出会った時に超電磁砲を放っているが、上条当麻はほぼ勘でこの超電磁砲を右手で打ち消した。

 

即ち上条当麻は弾幕ごっこの経験は皆無だとしても、それ以上に危険な攻撃の回避なら多くの経験を積んでいるのだった

 

「何だかウニ条がほんの少しだけ哀れになって来たわ…。でも苦戦と敗北が必要っていうのはどういう意味?」

 

「…今の当麻は間違い無く危険だ、このままだといつか自分の信念のせいで死ぬ羽目になる。これは勘じゃなくて確信なんだ」

 

「…原因はやはりあの右手がある故の自信と正義の心、かしらね。何となくだけど妹紅の言いたい事は分かるわ。確かに…垣根が暴走した時もウニ条は躊躇い無く突っ込んでいったもの」

 

 

(私は幻想郷に来る前に当麻と似たような人間と戦った事があるが…その人間は自分の信念を貫いた為に死んだんだ…。その人間は鬼のように強かった、それを支える信念もあった、でもその強さと信念があったからこそ…あいつは……)

私は幻想郷に来る前の時代……あの激動の幕末を脳裏に思い浮かべた

 

「これはあくまで私が勝手に感じたことなんだけど、当麻は目の前にいる全ての困っている人を助けようとしているんだ。それはとても立派な事だが間違い無く自分を早死にさせる原因そのものだ、しかもタチが悪い事に当麻の右手の能力と折れる事の無い信念のせいで今まで当麻は多くの人間を助けて来たんだろうな。でもその信念が仇になる時だってあるんだ」

 

「だから命への配慮が施された弾幕ごっこで、右手の能力を使ったとしても勝てない相手がいる事を理解させて自分の無力を痛感させるの?…それってつまり…仮にもウニ条の信念を折る事になるのよ?」

 

「分かってる、それで私が恨まれる結果になろうとも当麻がなりふり構わず面倒事に首を突っ込むのを躊躇するようになるのなら構わないさ」

 

それに…もしかしたら当麻なら今の信念を保ち続けたまま、他の答えを出せるかもしれない。

(勝手なやつだな、私は…本当なら紫に頼まれた用件だけをこなすつもりだったがここまで当麻を気にかける事になるなんて思いもしなかったぞ。でも…それはつまり当麻がそれくらい期待してしまうような何かを持っているってことなんだろう。だったら良いさ、この際だから人生の先輩としてお節介を焼いてやるのも悪くは無い)

 

私は記憶の底から湧き出た苦い記憶を無理やり頭の中からかき消して、スコップを握り直した

 

「さっ、そういう訳だからさっさと修繕を終わらせて私達も寝るぞ。お前にも明日から弾幕ごっこの手伝って貰うからな?」

 

「はぁ……ウニ条の時だってそうだけど妹紅って強引なのね…。でも良いわ、どうせ私もゲームには飽きてきた頃だからウニ条と遊んでやるのも悪くないかもしれないわ」

 

消極的な口調ではあるが、それでも輝夜は拒否しなかった。それは恐らく当麻への興味半分、心配半分……だという事にしておこう。

 

そんな話をしていると結局全ての地面を修繕するのにかなりの時間がかかってしまい、既に時刻は深夜にまでなっていた。

 

「蓬莱ニートにしてはよく働いたな、お疲れ様」

私は軽口を叩きつつ、輝夜を労う

 

「あんまりニートニートって言ってると怒るわよ?それと妹紅もお疲れ様」

 

「悪い悪い、それじゃあ私は自分の家に戻るよ」

 

「はいはい、それじゃあお休み」

 

輝夜に別れを告げてから私は永遠亭を出た

 

(しかし、何で当麻を見ているとあいつを思い出したんだろう…。似ていると言えば似てるんだけど…違う所の方が多いはず…。それくらい私の脳にはあいつの信念が記憶に残っているんだろうな。まったく、お前が死んでもう100年以上になるって言うのに…何でだろうな……)

 

私は今になってその顔と後悔を思い出すことになった人物………

 

 

「新撰組副長、土方歳三」の事をぼんやりと脳裏で思い浮かべながら家にたどり着くのだった

 

 

 




あぁ永かった、じゃなくて長かった…。正直自分でもここまで文をまとめる能力が低下しているとは驚きでした。やっぱり定期的に小説を書かないとダメですね
ここまで何とか読破された方はお疲れさまでした、ゆっくり目を休めてくださいね。それと、もこたんと土方の関連性については近々回想編ということで書いていきたいと思います


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2人は拳を交える

何だか今日はテンションがハイなので2本目を投稿することにしました、多分内容はいつも通りのグダグダです。
それじゃ、どうぞ!


垣根帝督SIDE

 

 

 

 

 

 俺は今、永遠亭の洗面所で顔を洗っている、時間的にはまだ…7時ってとこか?体感だからはっきりとした事は言えねぇけどな。

 

「…よくよく考えてみれば早起きしたのは良いもののすることなんて無いんじゃないか?今では惰眠を貪ってるだけだったからな、まぁその度にうどんげに叩き起こされた訳だが」

 

2度寝しようか迷ったが既に顔も洗った後だ、到底寝つけそうにはない。かと言って寝ている当麻やうどんげを起こすのは気が引ける。寝ている永琳を起こすなんて自殺行為はしたくないし、そもそも輝夜のやつは10時過ぎまで起きてこない

 

(俺が言えた義理でもねぇが…あいつの生活習慣はどうなってんだ?どんだけ寝るんだっての)

 

とりあえず俺は中庭に向かうことにした、特に意味は無いが朝の新鮮な空気を味わうにはうってつけだろうからな。ついでに誰かがいるんなら一石二鳥だ

そんな訳で俺は永遠亭に来る前…即ち学園都市という場所で俺が来ていたであろうダサいホストが着るような赤い上着を羽織った、うどんげや当麻には知られないように平静を装ってきたがこれは中々恥ずかしいんだよな

 

「とりあえず薬売りのついでにどこかで働いてから別の服でも買うか…、正直なところ当麻が来ている普通の服が欲しいぜ」

 

俺はそんな事を小声で呟きながら中庭へと到着した、だが既に中庭は先客がいたようだ

 

「よぉ、うどんげ。朝から体術の練習とは随分軍人染みてるじゃねぇか、似合わないから止めとけよ」

 

俺は中庭にいた先客……額にうっすらと汗を浮かべながら見えない相手に蹴りを放っていたうどんげに声をかけた

 

「これでも元軍人だもの、似合う似合わないはともかく鍛錬はなるべく欠かさないようにしてるの。それに似合う似合わないの話をするのなら、垣根こそこんな朝早くに起きるなんて似合わないじゃない。もしかして寝つけなかったの?」

 

「あれだけ派手に暴れて永遠亭を壊して永琳に怒られて後片付けまでして寝つけないってんならそれは病気だと思うぜ、これ以上永琳に手間をかける気はねぇよ」

 

「それだけ減らず口が叩けるのなら大丈夫そうね、安心したわ」

 

そう言いながらうどんげは縁側にいる俺の隣に腰かけた。それに合わせるように俺も隣に腰かける

 

(こんなことうどんげは毎朝やってるのか?…ご苦労なことだぜ、俺や輝夜には何年かかっても実行出来そうにないな)

 

「しかし慣れない事はするものじゃないわね、訓練自体は前からやっていたけど今日はちょっと張りきり過ぎちゃったわ」

 

「それは大変だったな、でも自分の身体に気を配るのも優秀な軍人の仕事だぜ」

 

俺はそう言いつつ予め置かれていたタオルをうどんげの頭に被せる

 

「まさか垣根に指摘されるなんてね、でも忠告はありがたく受け取っておくわ。…あ、そうだ…!話は変わるけど垣根!暇なら組み手に付きあってくれない?」

 

いきなり何を言い出すかと思えばこの可愛らしい軍人は…。何が楽しけりゃ朝っぱらから女と殴り合わなきゃいけねぇんだ。

俺はすぐに拒否の意思を示すために肩を竦める

 

「ってか、俺は格闘なんて経験無いんだぜ?どうやったって俺がうどんげにボコボコにされる未来しか見えないんだがな」

 

「そう?私はそうは思わないけど…それに垣根は格闘経験もあるし…と言うより、かなりの訓練を積んだ部類のはずよ」

 

「ん?そりゃどういう意味だ?俺が学園都市にいた頃を知ってるのか?」

 

「そんな訳無いじゃない、でも垣根の身体の筋肉の付き方からして格闘技をかじっていたのは分かるの。ただ種類までは何とも言えないわね、そもそも私は外界の格闘技は知らないし…」

 

軍人恐るべし、筋肉の付き方でそこまで判別するのかよ…。だがうどんげは嘘をつくようなやつじゃないし、何よりこれから始まるのは多分単なる薬売りじゃない…。多分争いが頻繁に巻き起こる薬売りだ。それならうどんげと組んで戦うこともあるだろ、その時の為に目を慣らしておかねぇとな

 

「…おもしれぇ、最近はうどんげの尻に敷かれっぱなしだったからな。ここらで俺の存在感でもアピールしてみるか?」

 

俺は上着を脱ぎ捨て、首を回して交戦の意思を示す

 

「あら、ノリが良いじゃない。でもその目立つ上着で垣根の存在感は十二分にあると思うわよ?」

 

対するうどんげはクスリと笑みを浮かべてから軽くジャンプする

 

「言ってろ、あれは俺のトレードマークだ。先攻はレディーファーストで構わないぜ?」

 

「あら、優しいのね?それじゃあその優しさが仇にならないよう頑張りなさい!」

 

さすがは元軍人と言うだけあって鈴仙の動きは素早かった、あわよくば先攻を譲られた事に機嫌を悪くしてテンポを狂わせられるかもと思ったが…お構いなしで正面突破かよ

 

「大胆だな、うどんげがここまで好戦的だなんて思わなかったぜ」

 

俺は素早く突き出された右ストレートを首を捻って避ける、だがうどんげの攻撃は止まらない

 

「喋る余裕があるのは結構だけど…舌、噛まないでね?」

 

そう呟くや否や、うどんげは突き出した右手の肱で俺の側頭部に肱打ちをぶつけてきた。頭を襲う鈍痛に耐えきれずにフラフラと距離をとる

 

「クッソ…例え右ストレートを回避したとしても即座に肱打ちとかずるいだろ、それじゃあギリギリで避けても間にあわねぇじゃねぇか…!」

 

(やっぱ気軽な気持ちで相手をするんじゃなかったぜ、これじゃあ目が慣れる前にダウンするのが関の山だな…)

 

その肱打ちを決めたうどんげはと言うと、さっきの微笑はどこに消えたのやら完全にスイッチが入っていらっしゃる

 

「さっ、垣根!立ちなさい、まだまだ戦いは始まったばかりよ?」

 

さてどうする?隙の無い2段構えの右ストレートに他にもまだまだ奥の手はあるはずだ…どうやってこの鈴仙・優曇華院・イナバを攻略するんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴仙・優曇華院・イナバSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、私は一種の焦りのようなそれでいて驚きでもあり、悦びのようなものを感じていた

 

(あの右ストレートからの肱打ちを食らった後の垣根の表情は、驚いた訳でもなく怯んだ訳でもなく……すぐに私の技を見極めようとしていた…)

 

「…良い表情ね、垣根。もしかして殴られて喜ぶ性癖でもあった?」

 

「馬鹿な事言うなよ、俺はどっちかっていうと…そうだな、戦っている時が一番喜んでるんじゃねぇか?」

 

今度は垣根の番、私は油断せずに防御の構えを取る

 

「奇遇ね、私もこの戦いはすごく楽しいから喜べるわ…これって狂気なのかな?」

 

「さぁな、ただ…悪い気はしないのは確かだ」

早い、身体を鍛えていない人間には出す事が出来ないスピードで垣根は私に向かって右ストレートを放ってくる

 

(良い右ストレートね、でも残念ながら脇ががら空きよ…!)

 

 人体にはいくつかの急所が存在する、例えば首・頭・股間……そして脇である。特に脇は肺が近い事もあり攻撃が命中すれば間違いなく大量の酸素を吐き出す羽目になるため、相手を殺さない制圧の場合は特に狙われやすい急所の1つであった。よく剣術などで脇を締めろと言われるのはこのためである

 

(一瞬でも楽しめて嬉しかったわ、垣根…でも垣根なら練習を積めばもっと上の領域を目指せるはず。だから今日の所は私に勝ちを譲ってね?)

私は垣根が放った右ストレートを後ろに飛んで回避しながら脇を蹴り上げる為に足に力を込める

 

「……!?」

 

だが……何故か私の身体はバランスを崩していた。慌てて状況を整理するとその理由はすぐに見つかった

 

「…わざと脇をがら空きにしてそこを狙わせる…それで私が垣根へのトドメに集中している隙に足払いをかけた…そんな所で合ってる?」

 

「あぁ、その通りだ。ついさっき捻りだした戦法だったから通じるかどうかは怪しかったけどな。でも逆に一瞬で捻りだした戦法だったからこそ読めなかっただろ?」

 

あっという間に現状は逆転し、今は私が押し倒されて垣根に拳を突き付けられている

 

(ふふっ……まさか本当にここまでしてやられるなんて思いもしなかった…。やっぱり垣根は面白いわ…。勝負に負けて『悔しい』以外の感情を感じたのは…依姫様に体術勝負で惨敗した時以来かな?)

今となっては顔も合わせられない元上司の顔と名前を思い浮かべながら、私は再び笑みを浮かべる

 

「…これは一応俺の勝ちってことで良いのか?それとも何か逆転の秘策でもあったりするのかよ?」

 

「この勝負は垣根の勝ちよ、でもまさか負けるなんて思わなかったわ…はぁ悔しい…!!でも脇が人体急所だって知ってたの?それともまた何か思い出せた?」

私は脱力して降参の意思を垣根に示す。

 

「いや、どっちも違うな。ただうどんげがやけに脇だけは厳重にガードしてたから賭けに出ただけだ。どの道正攻法で殴り合っても俺の拳はうどんげには届かなかっただろうさ」

それを確認すると垣根はすぐに私の拘束を解いて手を差し伸べる

 

「今は負けて悔しい気分だからそういう事にしておいて貰うわね、って今更だけどやっぱり垣根は格闘技の経験があるじゃない!」

 

「へ?あぁどうやらそうみたいだな、俺自身でも結構ビックリしてるんだぜ?まさかあんなにホイホイと身体が動くなんてな、人は見掛けにはよらないってのはこのことだぜ」

 

記憶と勘を失っている状態でこの強さ……次に戦う時は狂気の瞳を使わないと勝てないかもしれないわね

 

「いや~、それにしても派手に暴れたわね。垣根は上着を脱ぎ捨ててイナバなんて着衣が乱れてるじゃない。朝から庭でそんな事をするなんて2人とも永琳にバレても私は知らないわよ?」

 

「いやいや、違うってば垣根。あれは単に格闘訓練で……?垣根ってこんな女口調だったかな……」

 

私の脳裏には0,001秒で最悪の展開が予想されてしまった

 

「……前もって言っておくが俺には殴られて喜ぶ趣味も、女になり切る趣味もねぇよ」

 

そうなるとこの声の主は……そもそもこの永遠亭メンバーで私をイナバと呼ぶ人物は一人しかいない

 

「あの~……姫様?どの辺りから見ていらっしゃいました?」

 

「そうね、イナバが垣根に右ストレートを放つ辺りからよ?」

 

ほぼ最初からじゃないですか!あ、でもそれなら私の着衣が乱れている理由も分かるはず…

 

「と、言う訳で私は面白そうだから皆に垣根がイナバを庭で押し倒していたって言ってくるわ!!」

 

「はぁ!?輝夜、お前!そんなふざけた理由であらぬ誤解を招いてんじゃねぇよ!!」

 

「そうです、姫様!!何で私が垣根なんかと!!」

 

(不味い不味い不味い…!このままだとあらぬ誤解が広まってしまう…!!早く何とかしないと…!!)

とりあえずは姫様を捕まえないと!!……ってもういない!?

 

「って、おい!!輝夜の野郎はどこに消えやがった!?いきなり消えたぞ!?」

 

「お、終わった……」

 

私はこの後に訪れるであろう因幡達のクスクス笑いを想像して地面に座り込むのだった

 

 

 

 

蓬莱山輝夜、能力は「永遠を須臾を操る程度の能力」で須臾(しゅゆ)とは1000兆分の1のこと。即ちこの輝夜は1000兆分の1の自分だけの時間を集めて自分だけが行動できる時間を生み出せるのだった。これにかかれば誰かから逃げるのなどたやすい

 

この後、垣根帝督と鈴仙が永琳に呼び出しを受けお説教を食らったのは言うまでもないことだった

 




バトルパートの練習の為に書いてみた垣根対鈴仙の格闘縛りのお話、いかがでしたか?まぁオチは安定の永琳さんに締めて(シめて)頂くと言うね。ワンパターン化なんですね分かります


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とある科学の電磁掌握 ~番外編前篇~

まずは読者の方に謝罪しなければいけないことがあります。
超電磁砲の11巻発売日は6/20ではありませんでした!!本当に申し訳ありません!

以前に私がどこぞやのサイトで調べた時は発売予定日が6/20だったんですよ、いやそうだったはず…。とにかく予告通りに番外編は書いていきたいと思います


御坂美琴SIDE

 

 

 

 

 

 学園都市のとある学区にある、とあるコンビニ、別に何ともないどこにでもあるコンビニに今私はいる。理由は単純

 

 

「はぁ~…やっぱり最新刊も面白かったわね、ここに来てあんな展開が来るとは思わなかったわ」

 

この間発売された私愛読のマンガの最新刊を立ち読みする為。別に購入しても良いけど寮室のスペースを無駄に占領したくないし、やっぱりマンガは立ち読みするからこそ風情があると思うのよね。私の友達にその事を話すと皆「え~……」みたいな反応になるのが悲しいんだけど……。とにかく私はその目的の単行本を無事読破出来たし、後は…特にすることもないから帰ろうかな

私がそんな事を考えてコンビニから出た時にソイツはやってきた……

 

「おっねえさま~!!こんな日差しの強い昼間にお姉さまが肌を晒しながら往来を歩くなど黒子には刺激が強過ぎますの~!!!」

 

……現在、私の背後にテレポートでいきなり現れその往来のど真ん中で私に抱きついているコイツの名前は白井黒子。私が通う常盤台中学の後輩でLEVEL4の空間移動(テレポート)という変態が所持するにはあまりに危険な能力を所持している。と、言うか黒子の変態具合は間違い無くLEVEL5クラス……もうLEVEL6で良いと思う

 

「最初に言っておくけど黒子」

 

「はい、何ですのお姉さま?」

 

私は背中に張り付いたこの変態を追い払うための意識を集中させる

 

「私は半袖の服を着ているだけであんたが興奮するような派手な服は着てないでしょうがぁぁぁぁ!!!!」

 

「うがぁぁぁぁぁぁ!!これもお姉さまと結ばれる為なら黒子は耐えて見せますのぉぉぉ!!!」

 

私は十分に手加減した上で2000ボルトの電流を放った、何故か黒子はこれくらいの電撃では服が軽く焦げるくらいですぐに立ちあがってくる。本当に人間ってたくましいわね

 

「それで…どうかしたの?黒子だって一応風紀委員(ジャッジメント)なんだから暇じゃないんでしょ?私なんかに構ってないで仕事しなさいよ」

 

「お姉さま、その言葉の端々に棘がある言い方はお止めくださいまし…そんな事を言われると黒子は…!黒子は…!」

 

誰がどう見ても嘘泣きと見抜けるレベルで黒子は泣きじゃくった、その手には引っかからないわよっと

 

「はいはい、分かったから。私が悪かったわよ、それで結局のところどうしたの?」

 

「むぅ……ちょっとくらい黒子を優しく慰めてくれても良いではありませんの…。まぁそんな冷たい所もまたお姉さまの魅力と言う事にしておきましょう。それで本来ならお姉さまにお伝えするべき事では無いのですけれど…まぁ話すと長くなるのでどこかでお茶でも飲みながらお話しますの」

 

(…何だろ、寮監に何か不味い事でも見つかったかな?でもそれにしては落ち着いているように見えるし…)

軽い雰囲気な話で無い事は分かる、でも急を要するような話でも無いと思うけど…

 

 その場で突っ立って話す訳にもいかないので、私と黒子は近くのファミレスに入って席に座った

 

「そう言えばお姉さま、またコンビニで立ち読みしていらしたんですの?あれほど黒子が常盤台のエースとしてのご自覚ををと口を酸っぱくして…………」

 

はぁ…始まった、いや始まってしまったわね黒子の説教が…。そりゃ確かに商品を買いもせずに本を立ち読みする私は悪いと思うわよ?でも…道のど真ん中で能力を使って抱きついて来る変態(黒子)に説教はされたくないわ

 

「それに…何より最近お姉さまがお熱になっている漫画が問題なのです!えっと…何でしたかあの…宇宙生物と特殊な手術を施された人間が戦う漫画でタイトルは…!」

 

「テッラフォーマーズ、爬虫類みたいな顔をした火星に住む生物…即ち『テッラフォーマー』と人間との死闘を描いた超大作よ!あれは絶対に歴史に名を残す作品なんだから?黒子も読めば良いじゃない、ちょっと流血シーンが多いけど」

 

テッラフォーマーズとは数年前に週刊誌で連載が始まった人気漫画なんだけど、ちょっとだけグロテスクなシーンが多い…いやちょっとというか4割くらいというか何というか…。とにかくそんなグロテスクな作品なだけに学園都市にテッラフォーマーズ関連の書籍やグッズの販売許可が下りるまでには色々と論争があった、らしい。私は詳しくは知らないけど黒子がテッラフォーマーズを好ましく思っていないのはそんな理由なんでしょうね

 

「私はあんなおぞましい作品は二度と読みませんの!あんな漫画を純真無垢な子供が読めばシステムスキャンの値に悪影響を及ぼしかねませんわ!!」

 

「あ、あははは~……でもテッラフォーマーズに登場する中で私と同じ電撃を操る人がいるのよ、ちなみにその人は火星環境下におけるテッラフォーマー制圧能力のランキングが2位なの!私と同じ能力で私よりも序列が上だなんて…!燃えてきたわ…!!」

 

「…お願いですから漫画の中のキャラクターと貼り合わないで欲しいんですの、さすがに今のお姉さまには黒子もドン引きですの」

 

まさかの黒子からのドン引き宣言!?さすがにそれは弱ったわね、黒子でドン引きとなると佐天さんや初春さんは……想像しただけで悲しくなっちゃったじゃない

 

 

「あぁもう!テッラフォーマーズの話はもう良いから!!早く要件ってのを教えなさいよね!!」

 

私は恥ずかしさを隠しきれずに赤くなった頬を隠す為に、ドリンクバーからいれてきたジュースを飲み干す。

 

「何だかお姉さまのキレ方が理不尽ですの!?……えっと…あぁそうですの…。実は今朝、風紀委員第一七七支部にお姉さまと瓜二つのお方と白い修道服を着た少女がやってきたんですの……」

 

「……分かったわ、その話を詳しく聞かせて」

 

(……私と瓜二つの少女…それは間違い無く妹達(シスターズ)…。そしてその子と一緒にいたっていう修道服を着た少女は…アイツの同居人…)

どうやら私が呑気に漫画を読んでいる間にまた何かが起ころうとしているみたいね…とにかく今は黒子の話を聞こう、状況判断はそれからよ

 

「その2人の話では、修道服を着込んだ少女の同居人である少年が今朝忽然と姿を消したと言うんですの。最初は単なる外出ではとも考えたようですが、そのような予定はなく財布も置きっぱなしだったそうで…。そして肝心の失踪した少年の名前は……」

 

「ソイツの名前は上条…」

 

本当ならこの時に私はこれから起こるであろう事に頭を悩ませるべきでも、落ち込んでいる場合でもなかったんだ。だって……

 

「その人の名前は上条当麻さん、私や御坂さんはもちろん白井さんだって知らない事は無いわよねぇ?」

 

私達がいる席の背後にはLEVEL5第5位、『食蜂操折』(しょくほうみさき)が立っていたのだから

 

「食蜂…!アンタ、いつの間に…!!」

 

「おっと、その前に人払いを済ませちゃうんだゾ」

 

不味い、こいつの能力は…!

だが気付いた時には既に遅かった

 

「しばらくは全員その場で寝ていなさい、15分後には起きて良いわよ」

 

食蜂がバッグからリモコンを取り出してスイッチを押した途端に、ファミレスにいた店員と客を含めた全員が急に眠り始める。勿論黒子も机に突っ伏して寝息をたてている、つまるところ今店内で無事に意識を保っているのは私と食蜂だけってことね

 

「……相変わらずとびきり下衆な能力ね、心理掌握(メンタルアウト)」

 

「下衆だろうと何だろうと構わないわぁ、でも私も御坂さんも悠長に構える気が無いのは同じでしょぉ?」

 

コイツの…食蜂の能力である心理掌握は精神に関することなら何でも可能と言う非常に厄介な能力で、電気バリアが張れる私やあらゆるベクトルを操るあの忌々しい一方通行でも無い限り洗脳攻撃を防ぐ手段はない

 

「それにしてもたまには外出をしてみるものねぇ、まさかファミレスに来ただけで上条さんの話を聞けるなんて思ってもいなかったわぁ」

 

店員と客の洗脳を済ませ、文字通り人払いを完了させた食蜂は余裕そうに近くの席に腰かけながら私に微笑んでいる。

 

(さて、どうしたものかしらね…。言うまでもないけど黒子や他の客がいるから電撃は極力使いたくないし…。そもそもコイツは何がしたいの?)

 

ある意味では単純な能力者同士の争いよりも格段に面倒な戦い…心理戦が御坂美琴と食蜂操折の間で始まろうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食蜂操折SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 たまには派閥のメンバーとは別行動で1人で街を歩くのも良いかもしれない。そんな事をふと思ってしまったのが私の運の尽きだったのかしらぁ?まさか偶然にも御坂さんと白井さんがファミレスに入っていくところを目撃する羽目になるなんてね。

 

(それにしても御坂さんは相変わらずとして白井さんは何かありそうな表情よねぇ、もしかして何か面白い話でもするのかしら)

 

彼女…白井黒子さんは普通の人から見れば何も悩む事がないような表情をしているけど私からすれば「悩んでる」って表情なんだゾ

それは私自身が今までに何人何十人もの心を覗いてきたからこそ出来る芸当。読心術とまではいかなくとも、能力を使わなくても簡単に心理状態くらいは想像出来る

 

「とりあえず御坂さんに見つかると面倒だから、先に白井さんの心を読んでからその後どうするか決めれば良いわ」

 

それで彼女の話す内容が面白いのなら隠れて御坂さんの反応を楽しめば良い、つまらない内容なら……興が削がれたってことで店員を操ってあの2人に頼んでもいない大量の料理を届けさせて2人の慌てふためく表情が見られればそれで満足出来る

 

そういうわけで白井さんの心の中を覗かせて貰うわぁ。

私は周囲にいた客に盾になるよう洗脳してから2人に近寄る、でも思い通りに事が運んだのはここまでだった

 

(…上条さんが…行方不明…ですって…?ちょっとちょっとぉ…何相変わらずの不幸力を発揮させて不幸に巻き込まれちゃってるのかしら、あの人は…!)

 

白井さんの頭の中を読んだ限りでは上条さんは行方不明になってしまったらしく、居場所の手掛かり1つ無いという。それが他の学生なら私はここまで焦る事は無かったでしょうね、問題は上条さんが行方不明になったってこと……

 

あの人は私にとっても…いいえ、皆のヒーローなのよ。だからいつも困っている人を見つけては見境なく首を突っ込んで大怪我をして…。そんな彼が行方不明になったということは……十中八九また面倒事に巻き込まれたんでしょうね

 

「…馬鹿ねぇ、こんな事をいくらしたってあの人は私を思い出すどころか記憶することすら出来るわけないのに」

 

私は首から下げた防犯用のホイッスルを抱きしめながら上条さんに助けて貰った時の事を思い出す。仮に記憶すらしてもらえないとしても…だとしても私がするべきことに変わりはない

 

(…待ってなさい、今すぐにあなたのそのふざけた不幸力(幻想)をぶち殺してあげるわぁ)

 

その後私は大覇星祭でやったように警備員のトップの人間に電話をかけ、応答した瞬間に洗脳してすぐさま上条当麻の捜索命令を出させた。これで見つかってくれるのなら万々歳なのだけど

 

そして食蜂操折はいつもと何ら変わらない様子で店内にいた全員を…正確には御坂美琴以外を眠らせた所で改めて口を開く

 

「ご機嫌いかがかしら、御坂さん?面白そうな話だから私も混ぜて貰うわぁ」

 

「生憎とあんたの登場と不愉快で下衆な能力のせいで私のご機嫌は最っ低よ。こんな派手に能力を使って何のつもり?」

 

これはさすがに不味かったかしらぁ?白井さんにしても能力を使わずに心が読めたけど…御坂さんに至っては一般人でも不機嫌ってことが分かるくらい殺気が漏れている

 

「まぁまぁそんなに怒らないで、御坂さぁん…私は何も喧嘩を吹っかけにきた訳じゃないのよ?ただ上条さんの名前が出たから私も気になっただけなんだゾ☆」

 

「あんたねぇ…!!何なら今すぐこの場でそのイカれた頭を吹っ飛ばして…!!」

 

「あら、こわぁい!でもそんなことをしたら他の客も巻き添えで感電しちゃうんじゃない?」

 

御坂さんの心は私にはまったく読めないけどある程度コントロールするのは簡単なのよね、元々短気な上に今は「上条当麻」の名前と「妹達(シスターズ)」の名前が出てきたせいで落ち着いてなんかいられないようだから。だからこそ一度大きく煽ってからその怒りを抑え込むことで、本当に簡易で今だけの限定的なものだけど強弱関係を私>御坂さんに設定すれば話も少しはスムーズに進むはずよ

 

「…あんたと心理戦で勝負しても手間がかかるだけだわ、あんたの言う通り私は悠長に構える気はないの。一応あんたの話は聞いてあげるけど、ふざけた内容なら私はもうここを出るわ」

 

「本当に短気なのねぇ、まぁ今に限ってはなるべく早く行動したいから率直に言うわね

 

私と協力して上条さんを探さないかしらぁ?」

 

「嫌よ、断る」

 

……何なのかしらこの人はぁ?私の話を聞くなんて言っておきながら断るのが早すぎるんじゃない?

 

 

「…じゃあ私と共闘して上条さんを探しましょう?」

 

「イカれんなら1人でやりなさいよ、断る」

 

「…じゃあ私と」

 

「何度も言わせないで、断固拒否」

 

(あぁもう!!本当に何なのよ御坂さんったら!?結局は話を聞く気なんてないじゃない!!)

その後、五分に渡って説得を続けたが彼女の意思は固く1ミリも譲歩してくれなかった

 

「はぁはぁ…!本当にしぶといわねぇ!もう良いから私に協力しなさいよ!?」

 

「だから何度も言わせないで、アイツ1人探し出すのにあんたの手を借りるまでも無いし逆にあんたがいると何をされるか分かんないから危ないのよ」

 

もし野蛮力が必要になった時に御坂さんを巻き込んでおけば、と思ったけどそうも簡単に手駒にはなってくれないわよねぇ。そうは言ってもこれから先に起こる一件は…どうも嫌な予感しかしない、これは能力を使った訳でもなく野性的な勘によるものだけど。

 

(なんにせよ、最悪私の身は自分で守るとしても…御坂さんにとって私がイレギュラーなように私にとっても御坂さんはイレギュラーだってことを忘れて貰っちゃ困るわ)

 

「…そう、じゃあ御坂さんはどうしても私とは組めないって言うのね?」

 

「当たり前でしょ、あんたが頭を下げるって言うんならまだ話は別だけど」

 

(……冗談じゃないわ、何で私が御坂さんに頭を下げなきゃいけないのよぉ…。私だって本当なら協力もしたくないのに…)

 

何故なら彼女は、御坂さんは、上条さんに名前も顔も覚えて貰える。思い出だって好きなだけ作れる。名前を呼べば名前を呼び返してくれる、上条さんの傍にい続けることだって出来る。その全てが私には不可能なのに……同じLEVEL5なのにこんな……こんな差が……

 

(でも…でも、もし今私が頭を下げて御坂さんの協力を得る事が出来ればきっと私一人で行動するより更に効率があがるんでしょうね…)

 

ただしその協力関係を得る為に失う物は、食蜂操折にとってあまりに大きな物だった

 

(プライドも失った上にもし御坂さんが頭を下げても協力してくれなかったら?仮に協力して上条さんを見つけたとしても彼は御坂さんのことしか……)

 

頭を下げても、下げなくても、上条さんを助けても、助けなくても…どの道を選んだとしてもその先のゴールで私と上条さんの運命が交わる事なんてあり得ない。この思いは届かない報われない。その上同じLEVEL5でありながら私には手に入らなった物を全て手に入れた御坂さんに馬鹿にされるかもしれない

 

初めから敗北が決定している戦いに意味があるのか?そこまでして御坂美琴に助けを請う必要があるのか?

 

「………なーんて昔の私なら自分勝手に考えていたんでしょうねぇ、まったく」

 

そう、選ぶべき答えなんて分かり切っているじゃない。

 

「あーはっはっ!分かったわ、御坂さん。よくよく考えてみれば確かにそれが筋よね、それに私の能力は銃弾や刃物相手には通用しないし」

 

「ちょ、ちょっと?急に笑い出してどうしたのよ!?おかしくなっちゃったの!?」

 

「おまけに使用者である私は体力はろくに無いし、性格だって悪いし……そんな敗者(わたし)がこんなことを言うのはおこがましいのかもしれないけれど…」

 

私が選ぶ答えは……真実(ほんとう)の答えは……

 

「しかしそれは全て愚かな私1人の責任よ、上条さんには罪はないわ。だから…そんな罪の無い上条さんのためにもどうか私にも彼を捜し出す手伝いをさせてほしいの」

 

私は勝者(御坂美琴)に向かって頭を下げる、それもかつてないくらい腰が90度になるまで…

私が出した真実(ほんとう)の答えは…例えどれだけ罵られようが、痛い目をみようが、惨めな思いをしようが上条さんを助け出す。それで上条さんに思い出して貰えなくても構わない、名前で呼んで貰えなくても構わない。上条さんがまた笑顔でいられるのならそれだけで私は良いのよ、それが私の彼に対する恩返しであり気持ちの伝え方なんだから

 

「………アイツに罪がないはずが無いでしょ?誰かれ構わず助けてすぐに女の子を惚れさせて、その癖助けた人の気持ちなんて知りもしないですぐにまたボロボロになる。それだけで罪なのよ」

 

「あんたにしたってそうよ、私はあんたの信念なんて興味無いしどうでもいいもの」

 

「……っ…」

 

まぁそうよね…私が御坂さんの立場ならきっと同じ事をいったんでしょうし…。

 

「だから……あんたがこのファミレスの皆を勝手に眠らせてことに対する罰はこれからゆっくりと考えるとして、あいつへの罰は………

 

 

私達2人であいつを見つけてからたくさん説教してやれば良いじゃない」

 

「へ……?」

 

「だから…言ってるでしょ?とりあえずアイツを見つけるまでは協力してあげるってね。これ以上あんたに頭を下げられたって私が困るだけだし、黒子達もそろそろ起きる頃だろうし」

 

どうやら……慣れないこともたまにはやってみるものねぇ。これは御坂さんの優しさに感謝って事で良いのかしらぁ?

 

そしてその当人である御坂美琴は、テーブルの上にドリンクバーの料金を置いてから立ちあがった

 

「…一応お礼は上条さんを助けた後に言う事にするわ、まぁ私がすぐ見つけるんでしょうけどぉ。」

 

「光の速さで共闘関係を結んだ事を後悔させないでくれる?態度がころころ変わり過ぎなのよ」

 

「それがみさきちスタイルなんだゾ☆御坂さんも見習えばぁ?」

 

「何であんたを見習わなきゃいけないのよ?…よし、黒子にはメールで用事が出来たって言っておけば…」

 

「それなら既に適当な記憶に書き換えておいたから、心配はないわぁ」

 

「…あんたってやっぱり何考えてるのか分からないわ。だから友達が出来ないのよ」

 

「心配されなくても自覚はあるわ、それよりもそろそろ上条さんを襲う不幸(幻想)に反撃と決め込もうじゃ無い」

 

「…面白いじゃない、ただしあんたが足を引っ張るのなら容赦なく切り捨てるわ」

 

(楽しいわねぇ、目的があるっていうのは本当に楽しい)

 

こうして一方通行に続き、新たな上条当麻を救出する勢力が誕生したのだった

 




一応、みこみさの番外編はこれで完結です。来週はまた番外編で別のLEVEL5が登場するぜ!!

それと改めて私の思い込みで皆様に間違った情報を発信してしまったことを皆様にお詫び申し上げます。



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とある科学の欠陥砲弾(レディオクラッシュ) 〜番外編後編〜

どうも、ようやく厄介な面倒事の束縛プレイから解放されたけねもこ推しでございます、どうせ束縛されるならけーねが良かったなぁ…。もしくは打ち止めでも可

そんなわけで久々の投稿になります、遅れたのは私のせいじゃないテストのせい。だから責めるなら私ではなくテストを責めるべきそうすべき

※注意※ 今回の話は過去一番の一万文字を超える話となっております、読んで頂ける方は目薬持参のうえで読破頂きますようお願い申し上げます


ミサカ10046号SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 休日であるにもかかわらず、平日と通行量があまり変わらない道路をその少女……ミサカ10046号は歩いていた

 

「この通行量の多さはどうにかならないのでしょうか、とミサカ10046号は答えが分かり切った独り言を口にしてみます」

 

勿論、答えはノーだ。休日だからこそ人は出歩きたくなる、かく言うミサカ10046号もそんな中の一人なのだから。だが、それではいそうですかと納得してしまうにはいささかこの人込みは表の世界に馴染み始めてまだ日が浅いクローンの少女にはキツイ物があったのかもしれない

 

(後でコンビニアイスでも買いましょうかとミサカは……っと、MNW(ミサカネットワーク)から何か連絡が届いていますね)

 

MNW……分かりやすく言えばSNSのグループトークのようなものだ。最もこれが使用される時はあまり碌な事が起こらない、だからこそ10046号は何事かと思わず警戒してしまう

 

(かと言って、無視するわけにもいきません。まずは話の概要を聞きましょう)

 

そうしてミサカ10046号は意識を集中させる

 

「何事ですか?とミサカ10046号は人込みに揉まれている事への不満を微かに漏らしながら呼びかけに応答します」

 

「それは申し訳ありませんでした、とミサカ10032号は10046号に素直に謝罪します。ですが今はなるべく多くの妹達の力を借りたいのです」

 

「分かりました、ですがその要件とは一体?とミサカ10046号は不安と期待が入り混じった声で返事をしてみます」

 

「残念ながら的中しているのは不安だけと思われます、実は偶然にも妹達を救ったあの少年と同居しているシスター風の少女と出会ったのですが……上条当麻が失踪してしまったらしいのです。現在、近くにある風紀委員の支部に通報はしましたが手掛かりや行き先のヒントのようなものは何も見つかっていませんとミサカ10046号はなるべく簡潔に説明を完了させます」

 

………これはまた予想の右斜め上を行く最悪の事態ですね、おまけに手掛かりも何も無いとなると…

 

(あの少年のことですからまた人助けの内に厄介事に巻き込まれたのでしょうか?…それにまだ彼が失踪したと考えるには早すぎる気がしますとミサカ10046号はいつの間にか焦っていた自我に制止をかけます)

 

「ミサカ10032号に質問なのですが、彼が失踪した時間は分かりますか?他にも何か情報があればこの際些細なことでも教えて欲しいのですとミサカ10046号は情報の開示請求を行います」

 

「同居しているシスターを名乗る少女曰く、昨晩の12時にベッドに寝転ぶ姿を確認し、そして彼の失踪に気づいたのが今朝の8時半だったとの事ですのでその8時間半の間に何かが起こったとミサカ10032号は推理します。また時間が時間ですのでいくらあの少年でも寝ている間に人助けを行ったとは…」

 

確かに10032号の言う通り、時間帯だけで仮説を建てる分には事故の可能性は低いでしょう。そうなると…まさか誘拐?果たして彼を誘拐した犯人の目的は?ですが誘拐にしてはあまりに手口が大胆過ぎます、そうなってくるとますます真相が見えなくなってしまうとミサカ10046号は制止をかけていたはずの焦りが再び表れるのを感じ取ります

 

「10032号、一度状況を整理したいと思います。現在確かなことはあの少年が失踪したことです、これに間違いはありませんね?とミサカ10046号は確認を取ります」

 

「はい、その通りです。正確には彼が失踪した時間帯は昨晩の12時から今朝8時半にかけて、また現状では不慮の事故による失踪の可能性は低いとミサカ10032号は補足説明を加えます」

 

「では、念のために妹達に聞いておきましょう。彼…上条当麻を事件性の有無に関わらず妹達で探し出すことに反対案はありませんか?とミサカ10046号は今MNWに接続してこの話を聞いていた全ての妹達に確認作業を行います」

 

「無論反対案はありませんとミサカ10098号は二つ返事で承諾します」

 

「私も…」

 

「ミサカ10987号も…」

 

「ミサカ……」

 

……これは不味いですね、とミサカは自分の失敗に今更気づきます。もちろん全員の同意を得てから捜索を開始するつもりでしたが…何分1万人近くいる妹達全員の返事を全て待つのはかなり時間がかかってしまいます。ですがもはやこの賛同の嵐を止める手段をミサカ10046号は所持していません。

 

ミサカ10046号の心配したとおり、全員が返事を終えたのはその15分以上後だった。

 

「それとこれはミサカ10032号の独断に近いものがあるのですが…20001号にはこの情報については隠せる限りでは隠しておくべきだとミサカ10032号は提案します」

 

(それが妥当な判断だと思われます、正直いつまで隠し通せるかは分かりませんが…これはあくまで私達があの少年に受けた恩を返す為の捜索劇(戦い)なのですから…。そこにまだ幼い上位固体を巻き込むのは得策とは思えません)

 

「そのことに関しては、各々の妹達がそれぞれ20001号からの情報開示請求に応じないという形で対応しましょうとミサカ10046号は10032号の提案に賛同します」

 

 

だが、ミサカ10032号は大事なことをド忘れしていた。何故先ほど、話がまとまっていたはずなのに次の話に進むまでに15分という時間を要していたのか、を

 

「上位固体に対する対応に関してミサカ10056号は反対の意見など一切無く賛同します」

 

「もちろんミサカ10765号も…」

 

「ミサカ……」

 

(……誰か、誰かこのネットワーク上で発生している賛同の連呼を止めて……とミサカ10046号は…)

 

結局、再び全員の賛同を確認するまでに20分の時を要した。ミサカ10046号も含めきっと他の妹達もヘトヘトになっているであろう

 

「しばらくはMNWへの接続がトラウマになってしまいそうです、とミサカ10046号ははぁ、とため息をつきます」

 

そんなため息をつきながら再び人込みの中を歩き出すミサカ10046号、だが今日の彼女の不幸はこの程度では収まりを見せなかった

 

「ってぇなぁ。オイお嬢ちゃんよぉ!人にぶつかっておいてお詫びのひとつも無しってのは話が良すぎるんじゃないの?」

 

「そぉそぉ、ここはお詫びに俺達と遊んでいってくれないかなぁ?」

 

今現在、目の前にいるどう丁寧に見積もってもスキルアウトとしか思えない少年達にどうやらミサカ10046号は真正面からぶつかってしまったらしいのです。やはり頭の中で30分以上延々と話し込んでいると集中力がもちません。だとしても…神様、この仕打ちはあんまりではないでしょうか?とミサカ10046号は脳内に何気なく浮かんだ台詞を口に出した

 

「……不幸です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

削板軍覇SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏を終えたはずの季節なのに夏のようにうだるような暑さが学園都市を襲っていた。十人に今の気分を質問すればほとんどの人間は「暑い」と答えるだろう。ただ皆が皆そう感じているわけではない。勿論世の中には例外だっている、それはこの少年……削板軍覇(そぎいたぐんは)のことでもある

 

夏日といっても差し支えないような日であるにも関わらずその少年の服装は、日の丸が描かれたTシャツに短ランという見ているだけで暑い、という印象を抱かせた

 

「ふぅ…こんなに暑いのに皆倒れもせず頑張ってるんだから根性あるな!」

 

周囲から見れば軍覇自身が一番根性がある服装なのだが、残念ながらこの少年悲しいかなおつむが弱い。だからこそ周囲の視線に気づくことも無ければ気にも留めない、ある意味では幸せな生き方だろう

 

(でもこういう暑い時は皆どこかイライラしてるからな、気を付けておかないとイライラに任せて誰かに八つ当たりする根性無しがいるかもしれねぇ!!)

 

そんなことを軍覇が考えていた時だった、何と数人のスキルアウトが常盤台中学の制服を着た女子生徒に数名で絡んでいるではないか。これを見て見ぬフリを出来ないのがこの軍覇という少年の最大の長所であり…短所だった

 

「おいお前達!暑いからって女の子1人に男が数人で囲むなんて根性無しがすることだぞ!今すぐ離れろ!!」

 

「あぁ?止めとけ止めとけ、これはそっちの女が俺達にぶつかってきたのが悪いんだぜ?悪いことをしたら謝ってお詫びをするのが筋ってもんだよな?」

 

確かにこいつらの言うことにも正しい、わざとじゃなくてもぶつかったらごめんなさいを言うのが当たり前だ。でもそれを理由に数人で1人を囲んで良い理由にはならない

 

「なぁ、お前?ぶつかった時にこいつらにちゃんと謝ったのか?」

 

「い、いえ…謝る間もなくまくしたてられたのでタイミングを見失ってしまったとミサカ100…いえミサカは弁明を行います」

 

「それなら仕方ないな、よしお前達!ここは俺もこの女の子と一緒に謝るから許してやってくれ!!」

 

そう言うと軍覇はミサカ10046号の隣に立ち頭を下げようと腰を曲げる、だが軍覇に返って来たのは言い過ぎた事に対する謝罪でもなければ許しの言葉でも無かった。

 

「…お前、頭沸いてんのか?」

 

「グッ……!?」

 

スキルアウトが躊躇い無く放った蹴りが軍覇の鳩尾に突き刺ささり、当然ながら身体が揺れる

 

「なーにが許してやってくれだ、俺はこの女にムカついたから脱がせて犯そうって思ってんだよ。分かったらとっとと失せろ、俺はお前みたいな正義のヒーロー気取りが一番うぜぇんだよ」

 

「…っ…!大丈夫ですか!?とミサカはあなたにかけよって様子を…!」

 

「おっと、またそこのゴミ虫みたいに風紀委員が涌いてきても目障りだからな。お前ら、とっととその女捕まえていつもの場所にでも連れ込め」

 

スキルアウトのリーダー格がそう命令すると先程までニヤニヤと笑っているだけだった取り巻き達がミサカ10046号を抑えつける

 

「離してください!断るのなら…!」

 

ミサカ10046号は正当防衛の範囲内で気絶させる程度の電撃を放とうとするがそれも取り巻きの右ストレートによって遮られる

 

「おいおい、その服装なら常盤台だよなぁ?それなのにここに来てまで能力を使わないなんてもしかしてお前も俺らのこと舐めてんのか?お前ら、高位能力者はいっつもそうなんだ、俺達を見下して嘲笑いやがる!腸が煮え繰り返るったらありゃしねぇ!!」

 

明らかにそれは八つ当たり、だがそれはこの学園都市に存在する生徒の大半が一度は抱いたであろう感情だった。

勿論、ミサカ10046号がそんな生半可な理由で能力行使を控えた訳ではない。当然能力まで使用した事件にまで発展すれば風紀委員だけでは無く、警備員まで動き始めてしまう。そうなってしまえば身元も詮索される、何より妹達の姉……御坂美琴に要らぬ心配をかける。それが彼女に能力行使をギリギリまで控えさせていた

 

(このままではミサカはともかく、あの旭日旗Tシャツの少年にまで迷惑が…!)

 

「おーい、まさかさっきの蹴り一発でもう動けなく無くなったのか~?どうせならずらかる前にむかつくその顔面にも蹴りをお見舞いしてやろうと思ったんだけどな~」

 

そう余裕をかましながら下衆な笑いを浮かべているこのスキルアウトは明らかにいくつかのミスを犯していた

 

「……んだよ」

 

「あ?何だまだ死んで無かったんですかぁ!?」

 

手の空いていた取り巻きがすぐさま軍覇に向かって右ストレートを放つ。だがそんなものは、彼には、軍覇には、学園都市LEVEL5の序列第七位である削板軍覇には何の意味も成さない。

スキルアウト達が犯したミスの1つ目、それは削板軍覇をただの正義感が強いだけの馬鹿だと見下していたこと。確かに軍覇は正義感が強いが、彼の単純な強さは正義感の強さを裕に上回る

 

取り巻きが放った右ストレートを身体を軽く捻って回避した軍覇はそのまま無防備に突っ込んできた敵の脇腹に膝蹴りを入れる

それだけでその取り巻きはエビのように背を反り、うめき声を上げながら倒れ込む

 

「離れろって言ってんだよ……」

 

「…たかが1人倒したくらいで良い気になってんじゃねぇ!囲んで潰せ!!」

 

「その女の子から離れろって言ってんのが聞こえねぇのかこの根性無しがッッッ!!!」

 

そして彼らが削板軍覇と対峙した時に犯していたミスの中でもっとも犯してはいけなかったこと、それは…人としてやってはいけない行為、すなわち「根性無し」がすることであった

 

「俺は別に強い弱いで人をどうだこうだ言う気はない!俺も頭はかなり弱い方だからな!!むしろその弱さを受け入れてでも前に進もうとするやつは俺なんかよりももっと強いし、かっこいいと思う!いやかっこいい!!」

 

一斉に襲いかかるスキルアウト達をの攻撃を避け、顔面にパンチをお見舞いする。多勢に無勢であるはずの戦いであるにも関わらず軍覇には倒れるどころか立ち止まる様子すら見えない

 

「でもな!自分が強くなれないイライラを他の人にぶつけるような根性無しがするような真似は俺は大っ嫌いだ!!そんな奴は俺が直接根性を注入してやる!!」

 

いつの間にか辺りにはスキルアウトが小さなうめき声を漏らしながらその場で動かない光景が広がっていた。今現在で立っているのは、軍覇とミサカ10046号、それと最後に残ったスキルアウトのリーダーだけである。ちなみにミサカ10046号を拘束していたスキルアウトは軍覇に数秒で気絶させられ、今は白目をむきながら泡を吹いている

 

「それにお前、さっき高位能力者がどうだって言ってたな?確かにお前の言う通り、LEVELが低い学生を馬鹿にするような根性無しのやつだっているんだろうな。それは俺も分かってるし、お前は悪くない。能力だけで人の価値を…そもそも人が人の価値を勝手に決めようだなんて考え方自体が根性無しなんだ。でもな、高位能力者達だって毎日頑張ってるんだ!さっきまでお前が抑えつけてた女の子だってそうだ、常盤台はLEVEL3以上の能力者しか入学できないからな。きっとすごい努力を積んだはずだ、もしかしたら才能だけで特に努力をしなかったのかもしれない!でも俺はその女の子が努力して能力を手に入れたんだって分かるぞ」

 

「何でお前がそんな事を言い切れる?まさか知り合いでしたなんて抜かす訳じゃねぇよな?」

 

取り巻き達を全て倒され、1人となってもスキルアウトのリーダー格である少年の表情からは焦りが一切感じられない。

 

「そんなものは簡単だ、さっきその女の子が捕まった時に俺が見た表情は自分の身の安全だとか後始末が面倒だとかそんなことじゃなかった!あれは明らかに誰かを心配する時の表情だったと俺は思ったぞ。それはもしかしたら仲の良い友達かもしれないし、担任の先生かもしれないし、お父さんお母さんかもしれない!もしかしたらペットで飼ってる魚かもしれないな!とにかく何だって良い、あんな表情は簡単に出来るもんじゃない!自分がピンチだって言うのにそこまで考えられる根性がある女の子が努力をしてない訳がないだろ?」

 

「……いい加減にしてください、とミサカはあなたに苛立ちを覚えて憤慨します」

 

「ん?どうした?俺が何か怒らせるようなことを言ったか?」

 

おかしいな…俺とした事が根性がないばっかりにこの女の子を怒らせてしまった!でも何か俺が怒らせるような事を言ったのか??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミサカ10046号SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初はミサカ10046号が彼に抱いた印象はおかしな人、でした。顔見知りでもないのにいきなり絡んで来てお説教を初めて助けてくれて…こんな人をおかしな人と言わずして誰をおかしな人と言うのでしょうか?とミサカ10046号は素直な疑問を頭の中で思い浮かべます

これではまるで妹達を救ったあの少年のようではありませんか。もっとも戦っている相手は格も規模も何もかもが違うのですが…

そうこうして彼とスキルアウトとのやり取りを見ている内に芽生えた感情は、感謝でも無ければ、尊敬でも無く「苛立ち」でした

 

『きっとすごい努力を積んだはずだ』

『根性がある』

 

(それは全くをもって違います、正確には妹達のお姉さまである御坂美琴という人物が努力を重ねてLEVEL5になったから遺伝子レベルで同一のミサカ10046号にも似たような雰囲気が現れているだけなのです、ましてやミサカ10046号には根性は愚かまともな感情すら満足に芽生えてもいないのです)

ミサカ10046号を勝手にお姉さまの雰囲気と重ね合わせ、その上あのヒーローである少年を思わせるかのような言動を取る。どうにも挑発されているようにしか思えないのですとミサカ10046号は怒りに身体が支配されるような感覚に襲われます

 

「……それを何故あなたという人は、まるでミサカのことを知っているかのような口ぶりで話すのですか?とミサカ10046号は隠しきれぬ怒りをあなたに露わにしながら質問を投げかけます」

 

「10046号?ニックネームか何かなのか、それ?それなら止めておいた方が良いぞ、いくらニックネームでもそんな作りものみたいな名前は」

 

「今質問しているのはミサカです!答えなさい!!」

 

どうもこの少年相手だと調子が狂います、あまりにも調子が狂ったせいでいつもの口調とは全く違うものになってしまったではないですか

 

「所詮私は借り物の身体に借り物の心!あなたがミサカに見た努力の面影も、根性などという非科学的で馬鹿げた話も全て幻想なんです!!そんな幻想相手に本気になるなんてあなたは馬鹿なんですか!?」

 

不条理な八つ当たり、あの少年からすればはた迷惑も良い所でしょう。ですがこれが所詮人工的に作られたクローンであるミサカ10046号の本性なのだとミサカ10046号は自虐的に自分を……

 

「あぁ、俺は馬鹿だぞ?そんなにお前が怒ってるって言うのにどれだけ原因を考えても分からないんだ。今の今まで俺なりに真剣に考えてみたがどうも分からん!でもな、そんな馬鹿な俺でも分かる事があるんだ。

 

例え、借り物の身体で借り物の心でも、努力家だって雰囲気が幻想でも、根性無しだったとしても………それでもお前は『生きてる』んだ。今だって必死に何かを悩んでるし、考えてる。もしお前が幻想だって言うんなら何でそんなに悩めるんだよ?何でそんなに前に進もうと足掻けるんだよ?何でそんなに1人で抱え込もうとするんだよ?

……うん、やっぱりそうだ。お前は幻想なんかじゃない!だっていくら俺が馬鹿でも幻想を怒らせて悩むレベルじゃないからな!!」

 

「あ、あなたは何を意味不明なことを…!ま、全くもって意味が分かりませんとミサカは…!ミサカは…!」

 

目頭がいっきに熱くなっていくのはきっとこの気温と目の前にいる暑苦しい少年のせいに違いありませんとミサカは必死に目を隠します

 

「…っておい!?何で泣くんだよ!?また俺が何かやっちゃったのか!?クッソ!!俺が根性無しなばっかりに…!!」

 

(…根性無しなのはあなたではなくミサカの方ですよ、とミサカ10046号は自分の八つ当たりまがいの言動の恥ずかしさで泣いているのだと言い訳をします…)

 

「とにかく、だ…!お前へのごめんなさいは後回しにするとしてだ!おい、根性無し!後はお前一人だけどどうするんだ?相手くらいにはなるぞ?」

 

根性無し、そう呼ばれたスキルアウトはどこか楽しそうに笑っていた

 

「俺の名前は根性無しじゃねーよ、根性野郎。まぁ良い、おかげで久し振りに馬鹿みたく能力のLEVELを上げることしか頭に無かったあの頃を思い出したぜ。でもそのLEVELも3で止まっちまったんだけどな、お前風に言うならその時に俺は根性無しに成り下がっちまったんだがな。あの時の俺にお前みたいな根性があれば今頃LEVEL4くらいにはなってたかもな、でも今はそんな事はどうでもいい。警備員に逮捕される前に勝負しろよ」

 

そう告げたスキルアウトのリーダー格は槍投げのような構えを取った

 

(不味い…!その話から察するとスキルアウトの少年は恐らくLEVEL3クラスの何らかの能力を有しています!いくらあの少年でもさすがにLEVEL3の能力者には敵う訳がないとミサカはすぐさま臨戦態勢を…!)

 

すぐさまミサカ10046号は間に入ろうとしたが、それを止めたのはまさかの軍覇だった。

 

「なるほど、な…。根性無し…じゃなかった、でも名前が分からん。お前の名前を教えろよ」

 

「名前なんてどうでも良いだろ?まぁ…強いて言うなら瞬間氷製(モーメントフリーズ)…それが俺の能力の名前だ、分かりやすい能力だからって舐めんなよ?」

 

能力名から推理すると恐らく何か氷に関わる能力なのでしょうか?それにあの構えから放たれるとすれば…

 

「特別サービスだ、前もって予告しておいてやる。俺は今から能力で大気中の水分を凍らせて作った槍を放つ、俺自身が自力で投げるだけに威力はたかが知れてる。でも…仮にそんなもんが刺さりゃいくらお前でも無事じゃ済まないだろ?」

 

「それはどうか分からないぞ?根性で乗り切れるかもしれないからな、でもせっかくの男が本気を出して勝負を挑んだんだ。それに応えないってのは…根性無しだよな!!」

 

対して根性少年が取った行動は……何の変哲もないファイティングポーズ、その余りの意外さにミサカ10046号は驚きを隠しきれません。まさか氷の槍に素手で立ち向かう気なのでしょうか?

 

「ははっ…!!面白いな、おい!さすがスキルアウト5人以上に素手で立ち向かうだけのことはあるぜ、死ぬなよ?」

 

「当たり前だ!根性さえあれば槍だろうと剣だろうと身体に刺さっても平気だからな!

 

ここはちょっと根性出す、まぁそんな訳だから……本気で潰すぞ」

 

一瞬にして彼の雰囲気が変わった…という表現が今の状況を表すには最適かもしれません。今更な話ですが彼は能力者なのでしょうか?今まで徒手空拳だけで敵を制圧したせいで能力らしき現象は確認できませんでしたが……

 

「潰す宣言の前に…こいつをどうするか考えな!!」

 

そんなスキルアウトのリーダー格の声が響いた時には既に1.5mはあろうかという大きな槍が形成されて軍覇に向かって放たれていた。その槍は真っすぐ、軍覇の心臓めがけて飛んで行く。

 

「すげぇな、これは根性入ってるじゃねぇか!だったら俺も…!

 

必殺、ハイパーエキセントリックウルトラグレートギガエクストリームもっかいハイパーーー!」

 

(な、長い!?そこまで長い技名にもかかわらず彼は上半身を捻って…ってあれは単なる右ストレートの構えとミサカ10046号はもはや状況理解が追いつかなくなった事に嘆きつつ彼の奇想天外ぶりに驚いてみま…)

 

軍覇が謎の呪文めいた必殺技名を唱えた次の瞬間に起こった事は…何か衝撃波のような物が軍覇の右手から飛び出た、としか言い様が無かった

 

「すごいパーンチ!!!!」

 

その衝撃波はまず第一に、スキルアウトのリーダー格が放った氷の槍とぶつかった瞬間にその槍を跡形も残らず粉砕し、それだけでは収まらず地面のアスファルトを抉りながら最後はその先にあった壁に大きな風穴を開けてようやくその威力を失った

 

「まさ…か…この威力は…超…能力者…?とミサカは腰を抜かして地面に座り込みます…」

 

その驚きようは周囲にいた野次馬も同じようで中には失神する者までいる始末で何より驚いたのは仕掛けた側の少年で空いた口が塞がらない、の状態だった

 

「……これが学園都市230万人の頂点……超能力者(LEVEL5)…。お前…そういうことは先に言えよ!?一歩間違えば俺死んでたぞ!?」

 

「大丈夫だ!ちゃんと手加減はしたし、根性があれば死なない!何より死にそうになったら俺が助けてやる!!」

 

「…そういう問題かよこの野郎……。クッソ、こんな惨敗昔でも無かったぞ…なぁ、お前はLEVEL5第何位なんだよ?心残りが無いように教えてくれ」

 

それはミサカ10046号も気になるところです、今のところ把握している超能力者は第一位と第三位、それと以前にお姉さまが話していた第五位だけですが…少なくともいずれとも違うと言うことだけははっきりしています

 

「俺か?あんまりそういう序列とかLEVELとかは気にしてないんだけどな、聞かれたからには答えるぜ!

俺はLEVEL5第七位の削板軍覇だ!能力名は念動砲弾(アタッククラッシュ)で内容は…俺もよく分からん!とにかく根性によって発動する能力だ!」

 

「……こんな化物じみた威力でLEVEL5の最下位かよ!?…ちっくしょー!!こんなの敵うわけねぇよ!!……でも次は勝つ、だから俺が少年院を出たらまた相手しろよ?削板!」

 

何故…あの少年は負けたにも関わらずあんな清々しい顔で笑っていられるのでしょう?よっぽど負けたのが愉快だったのでしょうか?やはりまだまだ感情について勉強しなければとミサカ10046号は当面の目標を定めてみます

 

「あぁ、当たり前だ!だからその時はお前の能力の名前じゃ無くて本名を教えろ!その時に今度はお互い万全な状態で勝負しようぜ!」

 

「それと…そっちの常盤台の女には謝らねぇとな…悪いな、根性無し丸出しの事しちまってよ…本当にすまなかった」

 

「…頭を上げてください、元はと言えばミサカの前方不注意が原因なのですから。ですから私からも謝罪します」

 

スキルアウト…ではなく、彼が頭を下げたのでミサカも素直に謝罪する事にしました。顔は見えませんがきっと根性少年は今頃「おう、それで良いんだ!」みたいな顔で頷いているのでしょう

 

「まぁ俺も捕まる前に謝れたのは良かったんだけどよ、実は今非常にマズイ状況なんだよな。後ろを見てみろ」

 

「…?何かいるのか?」

 

「…ミサカはもう振り向きません、過去を振り返らない女になるとミサカ10046号は決意表明を露わにします」

 

そう、ミサカ達の背後には…今にもこちらに突っかかってきそうな……

 

「そこのお前達!!これだけ派手に暴れてただで済むとは思わないじゃんよ!?警備員の支部まで三人とも連行じゃんよ!!」

 

何とアサルトライフル装備の警備員のお兄さんお姉さんがいらっしゃるのです、それも数人ではなく20人以上も

 

「これは…弱ったな、仕方ない大人しく逮捕されるか」

 

「馬鹿野郎、俺やお前はともかくそっちの常盤台の女は完璧被害者だろうが。さすがにこれだけの規模となると被害者ってだけでも学歴に影響が出るんじゃねぇの?」

 

「さ、さすがに逮捕は笑えませんとミサカは恐怖を露わにします…」

 

元々、ミサカが能力の使用を避けたのも大事にしたくはなかったからなのですが……もはやその言い訳が通じるわけもありません…

 

「……はぁ…仕方がない、削板。お前はその女を警備員から逃がせ。その後の身の振り方は自分で考えな。どうせLEVEL5なんて捕まってもすぐに釈放に決まってるからな」

 

「で、でもそういう訳にはいかないだろ!?悪い事をして逃げるのは根性無しのすることだ!」

 

「じゃあ自分の信念の為に無関係の女巻き添えにするのが根性あるやつのすることかよ?ここは素直に甘えとけ、これは滅多におがめない超能力者の能力をおがめた礼だと思って逃げろ。あのじゃんじゃんうるさい警備員のババアには昔から世話になってるからどうにかしてやr……」

 

「今、ババアって言われたような気がしたけど気のせいじゃんよ?でももしかして幻聴じゃなかったりするじゃん?」

 

…何と20m以上離れた距離からアサルトライフルで少年の額にゴム弾を命中させたのですか…。これは捕まれば碌なことがなさそうです

 

「で、でも…!やっぱり俺には…!」

 

「良いから行け、散々迷ってそれでも自分のやったことに自身が持てないってんなら今度こそ自首しろ。何もその場の正義感だけで身を滅ぼす事はねぇよ」

 

「…行きましょう、根性少年。これ以上彼の犠牲を無駄にするわけには行きません」

 

「あれ?もしかして俺死んだ事になってる?」

 

「…あぁくそ!!どっちが根性無しのすることなのか俺には分からん!!!!だからこの場は…悪い!!」

 

その言葉を聞いた次の瞬間には…既にミサカ10046号は根性少年に抱きかかえられ数百m離れた場所にあったのです

 

 

そして、まずは騒動の原因であるリーダーも含めたスキルアウト達が逮捕された

 

「…一瞬で数百m先に逃げるとか反則だろ、俺庇う必要あったのか?」

 

「逃げ足速すぎるじゃんよ、まぁ逃がさず追いかけるけど…。それにしても今回はやけにド派手が過ぎるじゃん?こればっかりは少年院行きも免れないじゃんよ?」

 

「…確かになぁ…でもここまで道路とか破壊したのは俺じゃないぞ。あと、あの2人を捕まえたいんなら止めとけ。とても警備員の装備じゃ傷一つつけられっこないぞ。せめて一国の軍隊でも連れてくるんだな」

 

「……はぁ…お前の言う通りじゃんよ。今さっき警備員のお偉方かた直々に彼らからは手を退けってお達しが来たじゃんよ」

 

早いなおい、さすがはLEVEL5ともなると優遇度合いもVIPだよな…

 

「安心するじゃん、浮いた分の体力はお前達の更生に使うじゃんよ!」

 

「はいはい、今回ばかりは俺もとっとと更生してLEVELをあげないといけないからな。あんたの指示に大人しく従ってやるよ」

 

この数年後……彼は立派に更生しLEVEL4にまで上り詰めるのだがそれはまた別のお話

 

 

そして商店は逃げ切ったミサカ10046号と削板軍覇へと移る

 

「……わずか数分にして警備員どころか元いた場所すらも確認できないほどの距離にまで来てしまったのですが…。いったいどういう能力の使い方をすればそんなことが可能なんです?」

 

「根性入れて走れば音速の2倍の速さで走れるからな、要は根性だ」

 

根性で音速を超えられるのであればきっとオリンピックに出場する陸上短距離の選手はさぞかし根性に満ち溢れているのでしょうね

 

「しかし何でこんなことになっちまったんだ…?俺はただお前を助けようとして仲裁にはいっただけだったような…」

 

「元はと言えばミサカが人探しに夢中になっていたのがいけないのです」

 

「…?人探し?誰かいなくなったのか?」

 

…この際です、どことなくあの少年とも雰囲気や顔立ちも似ている事ですから聞いてみましょう

 

「えぇ、実は…ウニのような頭をした人助けが趣味の少年が行方不明になってしまったのです、口癖は不幸だ…という人なのですが…ご存じありませんか?とミサカはダメ元であなたに問いかけます」

 

「う~ん……似たようなやつなら前に一緒に戦ったんだけどな…。そいつって面白い右手をしてないか?」

 

…!?面白い、右手……確か彼は右手であればあの一方通行の反射すらも無効化する…!

 

「その面白い、というのは具体的にはどのような面白いなのでしょうか?例えば…右手に触れた異能の力を全て打ち消したりと…」

 

「おぉ!そうだそうだ!そいつはカミジョ―って名前だろ!?」

 

「…ビンゴです!そう、ミサカ達はその上条当麻を探しているのです!ではその居場所を知りませんかとミサカはあなたに興奮気味に尋ねます!!」

 

「いや、居場所はしらない!!」

 

まぁ…そんなことだろうとは思いましたよ…。

 

「そ、そうですか…ではミサカはそんな役立たずなあなたに舌打ちをしてからここを去ります」

 

「ま、まぁ待て!いきなり役立たず呼ばわりはないだろう?その代わりと言っちゃなんだが俺もカミジョ―探しを手伝おう!」

 

「そ、それはいけません!この件にはどんな闇が潜んでいるのかも分からないのですよとあなたの無鉄砲さにミサカ10046号は驚きながら制止をかけます!」

 

「だから、だ」

 

(…?こ、この少年は一体何を言い出すのでしょう…?危険だと分かっていてそれでも突っ込むなんてこれではまさにあの少年の鏡映しだとミサカは…)

 

「そんな何が待ち構えているかも分からないような場所にカミジョ―を放置しておけないし、何よりお前を1人で行かせようとも俺は思わないからな。それに今ここでお前を1人にしたら俺達を逃がしてくれたあいつの恩を汚すことになる。だから俺は何としてでもお前と一緒にカミジョ―を探す!」

 

…この少年もきっと何をどう言われても自分の信念を曲げないのでしょう、見ていて非常に危なっかしいとミサカ10046号は素直に心情を吐露します

 

「…どうぞご自由に…。ミサカ1人では心細いのも事実ですし、あなたもあの少年のことを知っているのなら問題は無いでしょう」

 

「おう!何かあったら俺に任せろ!お前も守り抜いてカミジョ―も助け出す!!」

 

 

想定外のメンバー追加に戸惑うミサカ10046号ではあったが、不思議と彼が隣にいるのも悪くはない。そう思えるようになった事に疑問を感じなかったのをミサカ10046号は気付いていないのであった




はい、お疲れ様です。正直私も疲れました。本当ならこの話は5000文字くらいで終わらせる予定だったんですがね。どうも軍覇の話を書いていると根性が移っちゃうんですよね。
あと、軍覇をチートと感じた方の為に補足説明なんですが全て公式設定です。
意味不明な念力の弾を飛ばしたり、音速の2倍で移動したり、今回は描写していませんがアイスピックが胸に刺さっても軍覇は「痛いな」程度にしか感じません。何を隠そう彼は公式公認のチーターですから(ドヤッ

ちなみに私が今回10046号を軍覇の相棒に起用した理由は単純です

DAマジで舐めんな、セロリにまとめて全員消されろ。妹達を人質に取るとかあのアクセロリータがマジギレするぞ

すみません、つい私怨が……。要するにとある科学の一方通行第二巻で10046号さんが奮闘したんですよ!私はもう感動しちゃいました、普通に可愛かいっていうのもありますが

ちなみに次回からは再び幻想郷でのメルヘンや不幸や優曇華やもこたんの話に戻ります


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パーフェクト弾幕ごっこ教室 上条当麻ver

どうも、ようやく待ち焦がれた夏休みの到来に興奮を隠す気すらないけねもこ推しでございます。
何?社会人の方は休みが無い?分かります、私の両親も苦労しております。でもこの小説に出てくる男共には休みなんてございません、はい。特に上条さんなんて休む権利はありません。
何?学生の方には休みがあるが宿題がある?分かります、私も今すぐ燃やしたい位の量がありますからね。でも上条さんには宿題をする時間も権利もありません。それで小萌先生に怒って貰えるんだからご褒美じゃないですか。あっ、私は叱られるならけーね先生でお願いします、はい。

さて、夏休みに入ってテンションも上がった所で更新スピードもあげていきたいですね。多分夏バテですぐに死ぬとは思いますが


藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 「ん~……よく寝た。さて、今日から当麻に弾幕ごっこの稽古をつけてやるか」

 

妹紅はあくびを噛み殺し、永遠亭へと向かうため迷いの竹林の中を歩いていた

 

昨日は竹林の真ん中でウニ頭の不思議な少年と出会い、それから何だかんだあったが…というか一度死んだが今日も私はぐっすりと眠れた。今更死んだ殺したくらいで情緒不安定になるほど乙女じゃないし、死ぬのは輝夜と出会って以来慣れっこだ。そんなことを言うと慧音に呆れられるんだけど、こればっかりは仕方無い

 

(そんな衝撃的な一日の翌日には外来人に弾幕ごっこの指導をするはめになるなんてな…。正直私は慧音みたいに人に何かを指導できるタイプじゃないけど…まぁ良いや、上手くいかないなら輝夜か永琳に丸投げしよう。特に永琳は輝夜の教育係だったんだから教えるのは上手いだろうし)

 

そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか永遠亭の門が見えてきた。何か地面に穴が開いたような重低音が聞こえた気がするけど気のせいだよね、うんやっぱりそうだ。そうに違いない

 

「お~い、誰かいないのか~?弾幕ごっこの先生が来てやったぞ~」

 

「あら、来てくれたの?調度良いわ、今姫が上条君を半殺しにしかけているから止めてくれない?」

 

「まだ輝夜と殺し合いをしていた時に、挨拶もなく殴り込んで来た私が偉そうに言えた義理じゃないんだけどさ。挨拶はともかくいきなり面倒事を押し付けないでほしいんだけど」

 

「でも彼は妹紅の教え子でしょ?早く行かないと大変なことになるわよ」

 

私が永遠亭に来た早々、永琳は挨拶も無しに厄介事を押し付けてきた。まぁそれ自体は構わないんだけど、当麻は大丈夫か?ていうかあの2人はホント仲が悪いのな

 

「はいはい、分かったから事情を説明してくれよ。また輝夜が着替えている時に当麻が侵入したのか?まったく…見せるほど胸は無いくせによく嫌がるもんだね」

 

「まぁそれは事実なだけに反論はしないけど……妹紅なら上条君に裸を見られても平気なのかしら?」

 

「まずはそのふざけたラッキースケベを焼き殺す!!」

 

「聞くだけ愚門だったわ、まぁ理由は大したことは無いのよ。ただ単に姫様が暇だったから上条君に喧嘩…じゃなくて弾幕ごっこを吹っかけたのよ」

 

う~ん…当麻はとうとう自分に非が無くても争いに巻き込まれるようになったか…。まぁ私達蓬莱人は永遠を生きるだけに結構退屈なんだ、そんな中であんな右手が現れれば…さすがに喧嘩はふっかけないけど私も戦ってみたいとは思う

 

「それじゃあ私は当麻を救出してくるよ、永琳はどうするんだ?来ないのか?」

 

「えぇ、私は研究があるから先に中に戻らせて貰うわ。それじゃあ後の事はよろしくね?」

 

「はいはい、精一杯指導者を務めさせて貰うとするさ」

 

そう私に告げてから永琳は永遠亭の中へと戻っていく。今更だけどこれで弾幕ごっこの指導は私がやらなくちゃいけないわけか、こんなことなら慧音に教育ってものをもっと教えて貰えば良かったな。

 

「当麻、生きてるかー?まだ死ぬには早い…っと……」

 

ヒュン!そんな風切り音を立てて、見飽きる程見てきた綺麗な色の弾幕が私の頬を掠めた。どうやら関係のない方角にまで弾幕が飛んでくるってことは当麻のやつ、ちゃんと逃げ切っているみたいだな。それに耳を澄ませば弾幕の風切り音に当麻の声や輝夜の声、それと……言葉にするとパリィン!!って感じかな?とにかくそんな感じの音も聞こえてくる

 

(これは多分当麻の幻想殺しが発動した時の音か、この調子だとまだまだ終わりそうにないな。当麻には悪いがここは様子見様子見)

 

2人の勝負に水を差すのは無粋だなんだと自分に言い聞かせて建物の陰に隠れながら音がする場所を私はのぞいた。すると…

 

「くっ…!!ふざけるなよ、蓬莱山!?いつになったらお前の不条理なワガママ(弾幕ごっこ)は終わるんだよ!?さすがの上条さんも体力の限界なんですのことよ!!」

 

「ウニ条、10分くらい前も似たような事を言ってなかった?それなら少なくともあと10分は大丈夫ってことよね!ほら、逃げないと身体の風通しがよくなるわよ!」

 

「どこをどう解釈すればそうなるんですか!?ねぇ、輝夜さん!?不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

輝夜が当麻に向かって腕を振り下ろすと数十個の弾幕が現れ、一斉に襲い掛かる。対する当麻は不幸だ何だと叫びながらちゃんと右手で、輝夜が放った弾幕を打ち消す。一応ではあるけど弾幕ごっこらしきバトルが行われているのは確かだね。

それでも輝夜が手加減をしているようで良かった、普段の様子から考えるとまず手加減なんてしないからねあのお姫様は。でもさすがにど素人にスぺカは使わない…

 

「ふぅ……何だかただ弾幕を放ってそれを打ち消されるのには飽きてきたわね。そろそろ本気で行くわよ?」

 

「今までので手加減してたのかよ…上条さんは蓬莱山の思慮深さに泣けてきたぞ…。でも…ここまで来て白旗なんて上条さんのプライドが許しません!!」

 

あの馬鹿2人…!!輝夜は輝夜でど素人相手にスぺカを使う気か!?やっぱり手加減って言葉を知らないんだなあいつは!それに当麻も当麻だ!ちょっとは引き際ってものを悟れないのか!?

はぁ……こんなことなら昨日の内にスぺカについてもっと詳しく説明しておけば良かった…

 

(とにかく今はこの2人の戦いを止めなきゃいけない、輝夜が何のスぺカを使うかは知らないけどまた永遠亭が壊れて、指導担当の私に責任が回ってくる…なんて展開は御免だ。そんなのはたまったもんじゃない)

とにかく輝夜がスぺカを使おうとした瞬間に私の弾幕でぶっ飛ばそう、それくらいなら死なないだろうしそもそも輝夜は何をしても死なないし。そんなわけで私は脳裏に思い浮かんだ永遠亭の二度目の倒壊(バットエンド)を阻止するため手に炎を灯らせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今現在、私こと上条当麻の目の前には昔話に登場するお姫様がいる。それはズバリ輝夜姫だ、確かに言い伝え通りの美しさだし道ですれ違えばほとんどの人は振り返るだろうな。

最もその本性を何も知らなければ…だが

 

「それで輝夜姫様はどんな必殺技を見せてくれるんだ?と、言うか散々上条さんは蓬莱山の不条理(弾幕ごっこ)に耐えたんだからそれにも耐えられたら今日の所は勝ちにさせてもらうぞ」

 

「あら、良いわよ。もともと妹紅が提示したウニ条の勝利条件は相手のスタミナが切れるまで耐え続けるかスぺカを攻略することなんだから。ただし…私のスぺカを簡単に攻略できるとは思わない事ね!」

 

……全くもって不幸だ…。何故こうなったのかを一度振り返ってみよう

今朝の上条さんのスタートは実に良かった、7時に目を覚ますと何故か鈴仙と垣根が永琳さんに説教をされていて何故か笑ってしまった。その後永遠亭に住む皆で朝食を取る事になり、鈴仙が皆のご飯を茶碗に盛った訳だが心なしか…いや明らかに上条さんのご飯の量が少なかったんですよ。確かに上条さんは居候の身ですが…説教のワンシーンを見ていただけで食料を減らされるほど居候とは身分が低いのか?我が家の居候シスターなんて既に上条さんより身分が高いんですのことよ!?

 

上条当麻、決して一般常識に欠けていたり人格破綻者であるということではないのだが……生まれ持った類い稀なる不幸が脳内から特定の一般常識を消し去っている事に彼が気付くのはまだまだ先のお話

 

そして、朝食を済ませて上条さんは慣れた手つきで皆の食器を台所へ運んでそのまま皿洗いを手早く済ませた。何故かこの時に皿洗いをしたのは俺と鈴仙だけだったけど…何も言うまい考えるまい。

そもそも永琳さんに皿洗いを頼める立場じゃない事位は分かる。

ちなみにてゐは速攻で逃げたんだよな、何となく鈴仙が拳銃らしきものを握っていた気もするけど上条さんは空気の読める男だから完全スル―だ。

垣根は「あぁ~…古傷が痛むぜ…」なんてダサい台詞を吐いて寝転んだ直後に鈴仙から鳩尾にかかと落としを食らい今は口から魂のようなものを吐き出しながら軽く死んでいる。鈴仙曰く「すぐにまた生き返るから大丈夫よ」だそうな。たくましいな、垣根

 

結局は俺と鈴仙で片付けるしかない事に気付き、最後の一枚の皿を棚にしまった時だった。上条さんの不幸タイムが始まってしまったのは…

 

「ウニ条、暇だから食後の運動代わりに私と弾幕ごっこに付き合いなさいよ」

 

「やだ、上条さんは今から妹紅が来るまで体力を温存する事に決めたんですのことよ」

 

「そっ、じゃあ早く中庭に行きましょう?」

 

「もしかして俺の言った事が聞こえなかったのか?それとも何を言おうと結果は変わらないというんでせうか?」

 

「良いじゃない、垣根とイナバも朝から戦ったんだし私も身体を動かしたいのよ!」

 

ここから蓬莱山の一方的な弾幕ごっこ指導…もといストレス発散に付き合わされる羽目になり今に至るというわけだ。

 

(正直蓬莱山は滅茶苦茶強い…!加減されている今でも回避に徹するのが精一杯だ…!こんなので本当に勝てるのかよ…!?)

 

だが、そんな上条当麻の心配も虚しく永遠を生きる輝夜姫はスぺカ…即ちスペルカードの使用を宣言する

 

「本当は弾幕ごっこを始める前にどのスぺカを使うとかは宣言しないといけないんだけど今回は例外ってことで良いでしょ。それじゃあスペル…!

 

難題『龍の頸の玉ー五色の弾」

 

「おっとー!!手が滑ったー!!これは輝夜の顔面に命中しそうだ!!」

 

「げふっ!!!???」

 

………今の状況を出来るだけ正確に説明するとして…誰が俺の話を信じてくれるんだ?無駄かもしれないが一応の説明はしておくか…。

蓬莱山が何かの技の名前を告げた瞬間に妹紅が飛び出してきて、いきなり火球を顔面に叩きこんだ。以上!

 

「いった~…!!妹紅!あんた昨日も私の顔に『その幻想をぶち殺す!』とか言って殴って来たでしょ!?何よ!?恨みでもあるの!?」

 

「無いと言えば嘘になるけど、主な理由は昨日も今日もお前の言動にいらっと来たからだな。教え子が傷付けられそうになったら顔面にパンチくらいはして良いってけーねが言ってた」

 

「あのハクタク、妹紅に何てこと教えてるのよ!?それに私はちゃんとした勝負でスぺカを使っただけじゃない!」

 

「どこの世界に弾幕ごっこ初心者にスペルを使う奴がいるんだよ、まぁここにいるけどさ。とにかく戦うなら基本的なルールと回避のコツを教えてからにするんだな。それが嫌ならもう数回位顔面に…」

 

「あんたは何回私を殴る気なのよ!!」

 

…今度は蓬莱山の手のひらに現れた五色の玉数個が妹紅の顔面に叩きつけられた。ちなみに蓬莱山の顔には火傷1つ残っていない。さすがは不死身だな、そして言うまでも無いけど上条さんは既に宇宙で不死身の魔術師と戦ったことがあるので今更驚きません

 

「と、とりあえず蓬莱山も妹紅もお互いに殴り合ってすっきりしただろ?早く弾幕ごっこについて教えてくれ…」

 

「「全然スッキリしてない!!!」」

 

見事なハモリ!?しかも妹紅の傷は既に治ってる!?さすがの上条さんもこれには驚いたぞ…

 

「ったく…まぁ今日の所は当麻に免じて許してやる。そんなことより早く訓練を始めるぞ」

 

「何でウニ条に免じて、なのよ。まぁ良いわ、これ以上ヒートアップしてまた永琳を怒らせたらどうなるか分かったものじゃないし…。それにウニ条の身のこなしも見れたから今日はもう観る側に回るわ」

 

 

どうやら蓬莱山はもう退いてくれるらしい。良かった…妹紅と蓬莱山の2人を一気に相手なんて勝ち目が無いにも程がある。そもそも上条さんは弾幕ごっこ初心者なんだから

 

「よしそれじゃあ、と行きたい所だけど当麻。垣根と鈴仙はどうしたんだ?今更だけど見かけないから気になったんだ」

 

あぁ、そりゃそうだ。だってあの2人は今……

 

「妹紅、垣根とイナバなら今…かなりキツイ訓練をしてるわよ。さっき能力を使って覗き見してたけどあの2人、近接格闘×銃撃戦×弾幕ごっこの総合訓練をやってるんだもの」

「……は?」

 

妹紅の反応も当然だ、俺も泡を吹いてる垣根に鈴仙が『拳銃とナイフ』を渡すのを見た時は思わずツッコミを入れたからな

 

 

 




今回は前回のような1万字オーバーではなく5000文字も無いあっさりとした感じでした。恐らく前回よりは格段に読むのが楽だったとは思います。

来週はかき揚げうどん(垣根×うどんげ)のお話です、何だか気付いたらメルヘン野郎がニート化してきたので来週はきっちりと常識の通じない第二位を書くぜ!!



…多分


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パーフェクト弾幕ごっこ教室 垣根帝督ver

どうも、最近東方茨歌仙を購入したけねもこ推しでございます。やはり主人公が華仙ちゃんなだけにけーね先生やもこたんの描写はゼロに等しいです、ちょっと寂しかったですはい
タイトルの通り今回はていとくんの弾幕ごっこ教室となります。そして今回の後半はあの人の視点で話が進みますので新鮮味はあるかと思います

ゆっくり読んでいってね!!


垣根帝督SIDE

 

 

 

 

 (やべぇ、これはマジで吐きそう…!)

 

当麻は現在進行形で月のお姫様に弾幕ごっこを強要されているし、永琳は既にどこかに消えた。てゐも姿が見えない。そんな中で俺…すなわち垣根帝督は友達の妖怪兎から受けた鳩尾への踵落としのダメージにより悶絶している最中であった

 

「つかよぉ…!俺って怪我人じゃなかったか!?それも割とマジで重症な!そんな病み上がりの患者に踵落としってここはどうなってんだよチクショウ!」

 

痛みを堪えて何とか起き上がるがそんな質問に答えてくれるような常識人は永遠亭にはいないんだろうな、そもそも純粋な人間なんて俺と当麻だけなんだが

 

最も「常識的な返答」ではなく「非常識な答え」を返してくれるやつならいたみたいだな

背後から何かを投げつけられる気配を感じた、まぁ俺に物を投げつけてくるやつなんてあいつくらいだろ

 

俺が右手を突きだすと、かなり重量感のあるカバンがドスッという音とともにぶつかって床に落ちた

 

「よぉ、うどんげ。朝から皿洗いをサボったくらいで結構酷い事をしてくれるじゃねぇか?おまけにこりゃなんだよ」

 

「サボったくらい、じゃないわよ!少しは当麻を見習いなさいよ、まったく…あと、それは弾幕ごっこの練習用教材だから大事に使ってね」

 

俺に朝から踵落としを食らわせ、練習用教材と言う名の何かを投げつけて来たうどんげは悪びれもせずそう呟いた。別に良いんだけどな、慣れたから…でも中身は何だ?いつから俺が弾幕ごっこの練習をするって言ったんだ?あと、さっきも言ったが俺は病み上がりの怪我人じゃ無かったか?

 

「あのなぁ…別に変に気遣えとか敬えなんて言う気は無いぜ?でも俺も一応怪我人なんだからまずはリハビリとかからだな…」

 

「……治ってるわよ、全部。記憶障害以外はね」

 

「…は?おいおい、ちょっと待てようどんげ。確か永琳の話じゃ俺はリハビリ込みで一週間は絶対安静じゃなかったか?それが何でもう治ってるんだよ」

 

「私だって分からないわよ、でも怪我が完治しているのも事実なの。師匠も驚いていたから本当なんじゃない?あんな師匠の驚いた顔なんて久し振りに見たもの」

 

言われてみれば確かに身体が昨日より断然軽いような…。あと、鳩尾以外は痛みもまったく感じねぇ…って、待ておい

 

「まぁそれも結構大事な話だってことは分かった。だがな…いつ俺の怪我が治ってることに気がついたんだ?昨日からは診察なんて受けてないぜ?」

 

「そりゃそうよ、変に傷を隠されたり暴れられると面倒だから師匠と私で垣根が寝ついてから麻酔薬を吸わせて検査したもの」

 

「…マジで?俺なんかもう人間不信になりそう…寝てる間に勝手に検査とか人権もクソもねぇだろ」

 

「別に人体実験を受けた訳じゃないんだから大丈夫よ、とにかく垣根の脅威な治癒能力は師匠が今調べているから置いておくとして…これでリハビリの段階を抜いて弾幕ごっこの練習に入る理由は理解できた?」

 

…この時俺は「いや、何で練習をするんだよ」とか「さっきの踵落としが効いたから嫌だ」とは言わなかった。理由は言うまでもなく身を守る為だ、うどんげの瞳が妙に紅い時は俺は素直に従うと心に決めました

 

「わーったよ、それじゃあ俺は何をすれば良いんだ?回避か?筋トレか?それともあそこで口論を交している輝夜姫と当麻の口論を止めれば良いのか?」

 

「残念ながら回避以外はハズレね、姫様は一度興味を持つと飽きるか満足するまで諦めないもの。筋トレは意味がないわけでもないけど短期で仕上げるには無理があるわ、だから当面は回避と」

 

「『攻撃方法の確立及び正確な弾幕ごっこのルールの把握、基本はこんなところね』ってとこか?」

 

「人の台詞を取らないでよ…まぁ良いわ、実際合ってるから。ちなみにそのカバンの中には垣根の攻撃用のアイテムが入っているわ、私のお下がりだけど構わないでしょ?」

 

うどんげのお下がりで攻撃用のアイテムと言えば…多分あれなんだろうな。出来れば予想が外れていてくれと願いを込めつつ俺はカバンのファスナーをゆっくりと開いた

 

「拳銃と出刃包丁…なわけねぇよなこれは。確か拳銃の方はトカレフ…だったか?ナイフの方は初めて見るな」

 

中から出てきたのはトカレフと呼ばれる安全装置が最初から付いていない拳銃一丁と分厚い肉でも切り裂けそうなナイフ、ナイフの刃に取りつけるカバーに拳銃のメンテナンス用の小道具と弾丸は…非殺傷用のゴム弾か?あとは…名前は分からないな

 

「見た目が物騒な割には人命に配慮した装備一式だな、でもこんなに貰って良いのかよ?しかもトカレフなんてうどんげが初任給で買ったって大事にしてたやつだろ?」

 

「そうよ、でも弾幕ごっこが普及した幻想郷で拳銃なんてあんまり使わないのから。それにどうしても必要なら指から撃てば良いじゃない」

 

「それもそうだけどよ…本当に良いのか?素人に拳銃を持たせるにしてもうどんげの愛銃を貰い受けることにしたってそうだが…。俺に投資し過ぎだぜ?」

 

「良いのよ、それで…あとこれは『投資』じゃなくて『協力』!私達はもう患者と医者じゃなくて友達同士なんでしょ?友達なら私の愛銃も信じて託す事が出来るし、素人でも私が教えてあげるから…ね?まだ不安?」

 

友達、か…どいつもこいつも…何で必要も無い薬売りに行く羽目になったのかちゃんと考えろよ…。そんな発端になったやつを友達にしちまうんだから危なっかしいったらありゃしねぇ…

 

「…良いもんだな、友達ってのは。なぁうどんげ、お前はともかく当麻や輝夜に妹紅、てゐや永琳は俺の事を友達や仲間だって思ってくれてるのか?」

 

「当たり前じゃない、私もてゐも姫様も師匠も当麻も妹紅も皆友達なんだから!理由なんて要らない…少なくとも私はそんな風に考えているわ」

 

俺はこんな風に思ってくれる友達がいるのに孤独感なんて感じてやがったのか?…我ながら笑えて来るぜ、自意識過剰にも程があるってもんだ

 

「じゃあさ、改めて友達ってことを確認できた所でうどんげ…俺に弾幕ごっこを教えてくれねぇか?」

 

「うん…友達の頼みなら喜んで♪」

 

俺は拳銃やナイフ等を全て丁寧にカバンの中にしまい込んだ。せっかく友達がくれた装備一式だからな、万が一にも壊れる事がないようにしないといけねぇ。

 

「ありがとな、うどんげ」

 

「へ?拳銃のこと?垣根が素直にお礼を言うなんて珍しいわね」

 

「それもある、でもそれ以上にうどんげや当麻、永遠亭の皆には借りが出来ちまったからな…それの礼だ」

 

俺はそれだけを伝えると中庭へと向かって歩き出した。背後でうどんげが頭上に???のマークを浮かべているんだろうな。

 

(…そう、この借りはいつかうどんげや当麻がピンチになった時に俺が守って返す。いや、それ以前にピンチにすら陥らせねぇ…今の俺に出来るのはこれくらいだけどよ…。それでも本当に今、感謝もしているし嬉しいんだぜ?)

 

置いて行くなと制止をかける鈴仙の声を背中で受け止めながら、垣根帝督は楽しそうな笑顔を誰にも見せず浮かべていたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八意永琳SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 「関係者以外立ち入り禁止」、そんな紙が貼られたドアを開けるとその奥の部屋には大量の薬品、資料、研究機材などが置かれている。そんな部屋の主…月の頭脳とも謳われた八意永琳は部屋に置かれていた椅子に腰かけながら資料と睨めっこを5分以上続けていた

 

「これが未元物質(ダ―クマタ―)…やはり垣根君の身体から大量に検出されたわね。まさか妖怪並みの治癒能力があるとは考えもしなかったけど」

 

目の前に置かれている資料を改めて手に取り、書かれている内容を見直す。そこには通常人間の体内に存在する物質の他に『???』と表記されていた物質が混じっていた。これは未だに知られていない未知の物質ということになる、即ちどこかから発生したその物質が垣根帝督の身体に異常なまでの治癒能力を与えたということだ

 

(彼があんなボロボロな姿でここに来る前に紫から資料は見せて貰っていたけどそれでも実物を見ると驚かざるを得ないわね、でも今はその事は全て置いておきましょう。大事なのはこれからのことよ)

 

実は八意永琳は既に垣根帝督とその能力の事をある程度は知っているのだ、それには様々な人物の思惑が絡んでいるのだが今はそれを語るには時期尚早だろう

 

分からない事が多過ぎる、それが今の八意永琳の率直な心境だった。まず未元物質とは何なのか?定義としては垣根帝督が能力によって生み出すこの世には存在しない素粒子、なのだが分かっているのは所詮それだけだ。それが分かっても物質の詳しい構成などが分からないと研究も出来ない、また未元物質自体にも謎が多いがそれ以上に能力を発動させた時の垣根帝督自体が異常なのである

 

(彼は自分だけの現実(パーソナルリアリティ)という現実を捻じ曲げる誰にでも存在する物に複雑な理論値などを入力してより具体的に現実を捻じ曲げている、つまり科学の力で超能力を引き起こしている。でもあれは…彼が能力を本気で行使した時に発生するあの天使のような翼は完全に魔術によるもののはず、でもそれなら何故魔術と能力の同時使用の副作用が起こらないのかしら?と、なるとやはりあの翼は能力によるもの…?…ダメね、悩んでばかりいても埒があかないわ)

 

ここで悶々と悩むのにも飽きてきた所だ、少し前に硝煙の臭いもし始めたのだからそろそろウドンゲと垣根君の訓練が始まったのだろう。

 

「さてさて、弟子がどうやって人に指導をするのか見学しようかしらね」

 

そう呟いて、私は部屋のカギをかけ屋外へと出る

すると案の定、庭で垣根君とウドンゲはそれぞれ拳銃を片手に相手を睨みあっている最中でこんな時に邪魔をするのは無粋だと私の中の自制心が2人に声をかけるのを躊躇わせた

 

「なぁうどんげ…非殺傷用のゴム弾でもかなり痛くねぇか?」

 

「当たり前でしょ?急所に当たっても死なないだけで銃弾なんだから当たると痛いに決まってるじゃない」

 

「お説御尤もだな、じゃあ次はうどんげに命中させるから痛みで泣くなよ?」

 

「そういうことは拳銃の扱い方に慣れて、反動を受け流せるようになってから言いなさい。暴発しても知らないわよ?」

 

「その時は永琳に助け船を出してもらうぜ」

 

それが合図であったかのように2人はほぼ同時に銃口を向けあった

 

(う~ん…ただ見ているだけって言うのも暇なものね、2人が集中しているから仕方ないのだけど。今はこの訓練を見守って後で2人の改善点でも伝えてあげようかしら)

 

そうと決まればやる事は1つ、2人の動きを注意深く観察すること。おまけで救急箱くらいは用意しておくべきかもしれないけど、そもそもウドンゲは妖怪兎だから人間よりかは治癒は早いし垣根君に至っては言うまでも無い

 

(恐らく能力が暴走して永遠亭を半壊させた時に発生したのがあの治癒能力を高める物質ね、それであの時から一気に傷が回復した、と…。効力がいつまで続くかは分からないけれど体内に残っている以上はまだ効力はあると見るべきかしら)

 

「それにしても…随分とお熱なようね」

 

中々目の前で壮絶なバトルを展開させている2人はこちらに気付く事も戦いを終える気配すら見せない。挙句の果てに戦いは更に熱を帯びて、こちらに流れ弾が飛ぶようになってきたから性質が悪い

 

「相手が自分から半径2m以内に入った時は拳銃の使用は控えてナイフに切り替えなさい!2m以内なら被弾せずに相手を制圧することも可能だし、ナイフの方が早く動けるわ」

 

「んなことを急に言われても分からねぇよ!てか、今切り替えたらその隙に吹っ飛ばす気だろうが!!」

 

現状としてはウドンゲが圧倒的に有利と言える、元より実戦経験はウドンゲの方が圧倒的に多いのだから当然と言えば当然なのだけど。でも垣根君自身も必死にウドンゲに食い付き隙あらばゴム弾をお見舞いしようとタイミングを伺っており、このまま訓練を積めば彼はまだまだ強くなるだろう

 

そんな時だった、一度距離を取り直した垣根がウドンゲに向かって発砲したのは。問題はウドンゲがそれを回避するのではなく逆に突っ込んで銃口を右にはたいて弾道を反らしたことで、その先には無防備に2人を眺めている八意永琳がいた

 

「ちっ……って永琳!?何でここにいるんだよ!?」

 

「え、師匠!?不味い…!」

 

(あらあら、まさか流れ弾が私に飛んでくるなんてね。ゴム弾なんて被弾しても何とも無いのだけど…だからと言って被弾する必要も無いわね)

 

仮にゴム弾と言えども本物の拳銃から発砲されるのだ、特に今垣根が使用しているトカレフと呼ばれる拳銃は貫通能力が高い。貫通能力が高いと言うことはそれだけ発砲される際の速度が速いということだ、最も八意永琳に被弾させたいのであればそれだけの条件ではまったく足りないのだが

 

「パン!」

 

そんな渇いた音が中庭に響いた後に永琳はいつの間にか握っていた拳を開いて掴んでいたゴム弾を地面に落とす

 

「…一応聞くけどよ、まさか銃弾を見て掴んだのか?」

 

「まさか、いくら私でもあんな至近距離から放たれた亜音速で進む9mm弾を目で追うなんて芸当は出来ない訳ではないけど眼球疲労に陥るからやらないわ。単に勘で手を突きだしたのよ」

 

「出来ない事も無いんですね…でも師匠に何も無くて良かった、被弾なんてしたら垣根の命なんてとっくに消えているわ…」

 

「まったくだぜ…考えただけでも冷や汗がとまらねぇ」

 

「それはどういう意味かしら?まるで私が独裁者のように聞こえるのだけど」

 

「「いえ、滅相もございません」」

 

どうやら連携は完璧なようね、確かめる方法が不服だったのだけど

 

「永琳、さっきのは悪かったな。不可抗力だ、それで…どうかしたのか?研究はもう良いのかよ?俺の治癒能力を調べていたんだろ」

 

(早速ストレートな質問ね…答えは簡単なのだけどそれを素直に答えると後々面倒だから適当にはぐらかして答えないと)

最もその答えは既に用意してある、そのついでに少し助言も与えるつもりだった

 

「えぇ、詳しい事までは分からないのだけど垣根君の血液中から私も見た事がない物質が含まれていたわ。その物質が垣根君の傷を癒した考えて間違い無いわね」

 

「へぇ…凄いじゃない、垣根!じゃあ今からどれだけ怪我をしても問題は無いんですか?」

 

「さぁ…少なくともその物質が体内に存在している以上は傷の治りは異常に速いでしょうね。彼が痛みに耐える事が出来ればの話だけど」

 

「その怪我をする前提の話は止めろよ、俺だって出来れば無傷で弾幕ごっこに勝ちたいんだ。あとそんな物質を作った記憶なんてないぞ」

 

(さて、正念場はこれからね…下手に彼の脳を刺激して記憶を悪い意味で呼び起さなければ良いのだけど)

 

かと言って分かっている事を必要以上に分かりません知りませんで通すというのは八意永琳が好むやり方ではなかった

 

「ここからはあくまで私の仮説なのだけど…良いかしら?」

 

「永琳の仮説なんて実際真実みたいなもんだろ、仮に間違ったとしても俺は気にしねぇよ。聞かせてくれ」

 

「……師匠、もしかしてその物質が発生した原因は」

 

「恐らく…垣根君が暴走して永遠亭を破壊した時に発生したものよ。何故垣根君が暴走したのかまでは分からないけど考えられる要因はそれしか思い浮かばないわ」

 

「だろうな、話を聞く限り寝ている間に完成してました、みたいな簡単なもんじゃないんだろうし。てか俺の身体って便利に出来てるのな」

 

…あら?これは私の予想を大幅に上回る軽い反応ね。もっと悩んだり暗くなったりするのかと思ったのだけど

 

「で、でも垣根?あの時あんたは嫌な記憶を思い出しちゃったんじゃないの?その時の事を思い出して辛いなら無理しなくても良いのよ?」

 

「いや、無理もしてないし悩んでもねぇよ。確かに暴走してる間に胸糞悪い奴を見たのは事実だがそいつはぶっ飛ばしたし、俺自身何でそいつが目障りなのかすらも分からん。大方学園都市って場所でそいつに虐められていたんじゃないのか?

ともかく…俺にとって永遠亭は命を救って貰った病院から、命と同じ位大切な人達がいる場所に変わったんだ。そんな場所で2度も3度も暴れるほど俺はガキじゃないんだよ、そういう訳で俺はあの翼の事を聞かれても分かる範囲なら普通に答えるし能力の話とも向き合うぜ」

 

どうやら私は必要以上に彼の事を過小評価していたようね。今の彼は自分の中の闇と向き合う準備が徐々に完成し始めている、それならば私が出来ることは…背中を押してあげるくらいだ

 

「…そう、じゃあ話を続けるわね。私としては垣根君の能力を弾幕ごっこに用いない手は無いと思うの、恐らく君の能力は未知の物質を生み出し操作する程度の能力だからもし完璧に使いこなせるようになれば幻想郷の住人たちとも良い勝負が出来るかもしれないわ」

 

「未知の物質を生み出し操作する程度の能力か…初めて聞く能力ね、でも何であんな天使の翼が現れるんでしょうか?もしかして垣根の趣味?」

 

「待て待て、俺は能力の話に向き合うとは言ったがさすがに2人同時に相手するのは疲れる。とにかく能力の概要が分かっただけでも大きな前進だろ、あとあの翼は俺の趣味じゃねぇ!うどんげだって能力を使ったら自然と瞳が紅くなるだろうが!あれもうどんげの痛い趣味なんじゃないのか?」  

 

「なっ…!誰が痛いですって!?表に出なさい、メルヘン垣根!」

 

「上等だ、きっちり白黒付けてやるよ厨二うどんげ!!」

 

前言撤回ね、背中を押し過ぎるのもよろしくないわ

2人を落ち着かせるために私は間に割って入った

 

「落ち着きなさい、2人とも。メルヘンも厨二も似たようなものじゃない…どちらもどんぐりの背比べよ」

 

「…永琳って時々精神も攻撃してくるから怖いよな。割と今のは辛かったわ」

 

「し、師匠…そんな風に思っていたんですね…」

 

「傷付けた事は謝るわ、でもまだ話は終わっていないのだから聞きなさい。それで能力を使った時の天使の翼に関しては残念だけど私の専門外よ、でも…紅魔館の大図書館になら何か参考文献があるかもしれないから薬を売りに歩くついでに立ち寄りなさい」

 

「こーまかん?何だそりゃ…悪魔でもいるのかよ」

 

「師匠、本気ですか?あそこの主がそんな簡単に図書館に入れてくれるとは思いませんが…。ちなみに垣根、紅魔館には悪魔もいるけどそれ以上に厄介なのがいるわ」

 

「え何それ怖い」

 

 

(確かにあの吸血鬼がすんなりと通してくれるとも思わないけど…それでも垣根君の能力で何か分かる事があるとすればあそこの本くらいでしょうし、それに大図書館の主なら天使に関する術式にも詳しいはず)

 

とにかくここで悩むよりかは行動を起こした方がプラスにはなるはず、色々な意味でもね

 

「それと肝心の能力行使に関してだけど、未知の物質をいきなり作れと言われても無理だと思うのよ。だから頭の中でどんなものでも良いから物質を想像してみなさい」

 

「お、おう…どんな物でも良いのか?例えば…このゴム弾を硬化させる物質みたいな?」

 

そう呟くと垣根は拳銃からゴム弾を取り出し手のひらに乗せた

 

「まずはイメージからで構わないわ、ただしなるべく具体的にイメージするの。イメージを脳内に焼き付けたら次はその物質がどんな物で構成されているのか具体的に思い描いて、ゴム弾を硬化させるのならまずは硬度を上げる物質ね。あとは発砲した際の火薬の熱に耐えられる物質かしら」

 

「よく分からねぇが研究されてるんだな、それじゃあ…」

 

1分、5分と経つが弾丸は何も変化を起こさない。永琳とウドンゲは垣根を無言で見守るがそれでも変化はない

 

さすがにいきなり能力を行使するのには無理がある、そう永琳が垣根に謝ろうとした時だった

 

「…完成だ、実弾の硬度を知らないから何とも言えないが少なくともゴム弾よりかは硬度は上がっているはずだぜ。確かめてくれ」

 

「…!?ウドンゲ、確認して頂戴」

 

「は、はい師匠!」

 

およそ7分28秒、それが記憶を失ったはずの垣根帝督が未元物質を行使してゴム弾を実弾並みの硬度にまで変化させるのに要した時間であった

 

「し、信じられない…!本当に硬度が上がってる…!これが垣根の能力なのね…」

「5分以上かかって生み出せたのがゴム弾の強度を上げるだけだぜ?とても実用向きとは言えないだろ…あと滅茶苦茶疲れるな、これ…。何か一気に何時間も勉強したような疲労感があるんだが…」

 

ウドンゲに確認させた所、本当に硬度が上がっていたのだから驚きね。正直ここまで早くに能力が行使出来るなんて…それだけ彼が才能に溢れていると言うこと…

 

(まさに素晴らしいの一言に尽きるわね、記憶も失い、0からのスタートで早くも能力の実用化にまで辿り着いた…これが学園都市で頂点を冠するLEVEL5第二位の垣根帝督…。こんなに才能を感じたのは依姫と豊姫に出会って以来じゃないかしら)

 

今では月のリーダーを務める2人は才能の塊のような存在だった、特に妹の依姫の能力は他の追随を一切許さない、そんな言葉が似合う能力なのだ

だが今はそのことは関係ない、依姫と豊姫はとうに私の手を離れ立派に月のリーダーを務めている。今私がサポートすべきなのは荒削りのダイアである垣根帝督だ、それ次第では今後の彼の人生にあらぬ負担を与えてしまう

 

「さて、次はもっと素早く効率的に能力を行使できるようになるための訓練に移るわ!ウドンゲの弾幕ごっこの指導も並行して行ってくれるかしら?ダラダラと時間をかけても意味は無いし1週間後にはここを出て薬を売って貰わないといけないもの」

 

「はい、師匠!お任せください、弾幕ごっこのコツとその他諸々は私が垣根に叩きこみますから師匠は垣根に能力について指導してください!」

 

「…おい」

 

「勿論よ、ふふっ…まさか私とウドンゲが協力して誰かを指導するなんて思いもしなかったわ。よろしくね?」

 

「…お~い」

 

「わ、私こそよろしくお願いします!ほら、垣根も改めて挨拶をしなさいよ」

 

「いや、待て!さっき俺は能力を使うのは滅茶苦茶疲れたって言わなかったか!?しかも今度はうどんげの相手をしながらだと!?そんな事やったら俺が死んじまうぞ!!」

 

「安心なさい、死ぬ前に私が治療するから問題ないわ」

 

「え、ちょまっ……不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

 

こうして見事垣根帝督にも優秀な2人の指導者がつきましたとさ、めでたしめでたし

 

 

 




さて、今回も少し長い話となってしまいました。初めての永琳視点はいかがでしたか?まぁ安定のドS永琳なんですがね。
ちなみに皆さんは弾幕ごっこを教わるならどちらが良いですか?
もこたん&輝夜の死ぬまでひたすら実戦で慣れろコース!!

ウドンゲ&永琳の死ぬまでひたすら修行しろコース!!

どっちも嫌なんですね分かります。

ちなみに予定では次回はもう修行の所は描写せずに一週間が経過して永遠亭を出発する当日になる予定です。もしかするともこたん組の方をもう少し書くかもしれませんがまだ分かりません


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出発前夜

どうも、最近は暑さのあまりパソコンを触るのが億劫になっているけねもこ推しでございます。いや~早くもこの前立てた投稿頻度の上昇のフラグ回収成功とはね…私自身でもビックリ!
本当なら数日前にはこの話を投稿しておきたかったんですよ、今後の話の都合もありますし

あと、みなさんはお酒は二十歳になってからにしてくださいね?多分未成年の方が多量にアルコールを摂取すると割と笑えないことになりますから



蓬莱山輝夜SIDE

 

 

 

 

 上条当麻と垣根帝督が弾幕ごっこやその他諸々の訓練を始めてから7日目の夕方が訪れようとしていた。いよいよ、明日からは永遠亭を出て幻想郷中に売って歩かねばならない。そうなると必然的に今日はクールダウンの日となる、はずだった

 

「情けないわねぇ、大の男がちょっとトレーニングをしたくらいでバテるなんて…私でもまだまだ余裕なのよ?」

 

私は目の前でピクリとも動かず寝転がっている男2人に声をかける。彼らの名前はウニ条当麻と垣根帝督、私の友達にして今となっては家族のような存在ね。ちなみにウニ条には私の教え子でもあるわ、弾幕ごっこの…だけど

 

「…蓬莱山…人間にとって一日8時間も弾幕をひたすら避け続けるのはちょっととは言わないんだよ…。あとな…」

 

「あと?何かしら?私と妹紅の指導方法に問題は無かったでしょう?」

 

「あるよ!ありますよ!大アリですよ!?そもそも俺は妹紅に弾幕ごっこを教わるんじゃ無かったか!?それがどうなったら蓬莱山と妹紅の弾幕を同時に回避するなんてものに変わるんだよ!?今日なんて上条さんはもう身体が打たれ強くなっただけだからな!?」

 

本当に細かい男ね、ウニ条は…。1人が2人に増えたって弾幕の回避スペースが減るだけじゃ無い、第一指導担当の妹紅だって乗り気だったから問題無いと思うけど

 

「はいはい、それは御愁傷さまね~かわいそー」

 

「あのなぁ!?今日という今日は…あっ……腰の骨が…!!」

 

バタンという音を立ててウニ条は再び床に崩れ落ちた、白目を向きながら泡を吹いているから数時間は目を覚まさないわね。でもこれで翌朝になると何だかんだ言いながら復活してくるのだから驚きだわ、効果を弱めた蓬莱の薬でも飲んだのかしら

話し相手が気絶した為私はもう一人の友達に声をかけた

 

「垣根~、生きているなら起きて返事をしなさい。死んでいるなら生き返って返事をしなさい」

 

「ははっ…俺は最強の演算能力を手に入れたんだ…ははっ…俺は最強の演算能力を手に入れたんだ…」

 

あ。これは危ないわね。何が危ないのかまでは分からないけどかなり危険だわ、とりあえず垣根を正気にさせないと

 

「新難題『金閣寺の一枚天井』!!」

 

私のスペルの一枚の名前を少し声を大きくして呟く、すると何故かウニ条と垣根の2人に変化が起きた

 

「まずはそのふざけた幻想を!!」

 

「だが俺にその常識は!!」

 

「ぶち殺すっ!!!」

 

「通用しねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

もはや上条当麻と垣根帝督の中で危機回避本能として根付いたそれは彼らの身に如実に危機を知らせていた。その中でも2人の輝夜に対するスペルの恐怖心は異常である。

そして、幻想殺し(上条当麻)と未元物質(垣根帝督)は自らの命を守るべく起き上がって蓬莱山輝夜に殴りかかる

 

(とにかく垣根が正気に戻って良かったわ、ウニ条まで目を覚ましたのは誤算だったけど)

 

蓬莱山輝夜は目を覚ました友人たちを大人しくさせる為、手に握っていたカードを消し殴りかかってきた2人の襟首を掴む

 

「新難題『名前が思い浮かばなかったからとりあえず投げてみる』!!」

 

「そげぶっ!?」

 

「ごふっ!?」

 

輝夜のスペルからも分かる通り、見た目とは裏腹に蓬莱人というのは恐ろしい腕力を持っている。天井一枚を持ち上げて敵に投げつける輝夜からすれば2人の襟首を掴んで背後に投げつけるなど簡単なことだ。

その結果として不幸な2人は壁に叩きつけられて更なる青痣を作る羽目になるのであった

 

「姫様、今何か大きな物音がって……何で当麻と垣根がおかしな方向に首を曲げて転がっているんですか!?」

 

「あぁ、イナバ。これにはふかーい事情があるのよ。適当に治療してあげなさい、それと今日の晩御飯は何?」

 

「まったく2人揃って何をしてるのよ…明日から忙しくなるから今日は安静にって言ったのに…。あぁ、それと今日の夕食でしたら明日からの成功を祈って肉料理ですよ!もうすぐ調理に取りかかる所です」

 

「お肉…!良いわね、久し振りに食べたいと思っていたのよ。じゃあお酒も用意しないと…!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください姫様!!当麻と垣根はまだ子供ですし、私だって明日から忙しいんですよ!?」

 

「大丈夫大丈夫、永琳に頼めば二日酔い対策の薬くらい処方してくれるわ。じゃあ頑張ってね~」

 

背後でイナバの「そんな~……不幸よ…」と呟く声が聞こえたような気もするけどきっと気のせいね。だってお酒が呑めるのに不幸な訳が無いでしょう?

そう言えばその前にするべき事がある、心の中で呟いて私は台所へと向かった

 

(きっとイナバなら他にも小物を何か作っているはず、少しくらいならつまみ食いしても許されるわよね…!)

 

同じ料理でもつまみ食いという背徳感の中で食べるとまた違った美味しさがある。それが永遠を生きるお姫様のポリシーでもあった

 

「さてさて……って、妹紅…あなたも来ていたのね。遅くなったけどウニ条の指導、お疲れ様」

 

「輝夜こそお疲れ、箱入り娘ならぬ箱入りのお姫様が弾幕ごっこを教えたんだ。疲れただろ?もっとも一番クタクタなのは私と輝夜の両方のスペルを一気に受けた当麻なんだろうけどさ」

 

今となっては永遠亭の顔馴染みであり、私と同じ蓬莱人である藤原妹紅が台所に立って包丁でネギを切っていた

 

「あと、輝夜。つまみ食いなら諦めなよ、鈴仙が作ってたのは葉物の和え物だからお前の好みじゃないと思うぞ」

 

「…まだ何も言ってないじゃない」

 

「お前が台所に来る理由なんてそれくらいだろ?それとも私を手伝ってくれるのか?」

 

嫌よ、そう断ろうとしたら全てを言い終わる前に「こっちからお前の手伝いなんて願い下げだよ。それこそ蓬莱人じゃないとあの世を拝む羽目になる」と言われてしまった。どうやらこれは久し振りにどちらが上なのかをはっきりさせる必要があるんじゃないかいしら?

 

「妹紅、今のは温厚な私でもちょっといらっと来たわ。表に出て食前の弾幕ごっこよ!」

 

「もうすぐ永琳が往診から帰ってくるから大人しくしておいた方が良いんじゃないか?また暴れて怒られるのも嫌だろう?」

 

…そう言われると何も出来ないじゃない…。私は怒りと手に握った蓬莱の玉の枝をしまった

 

「それよりお前から見て当麻と垣根は成長したように見えるか?指導者の顔ぶれは中々豪華だったが一週間は短過ぎるだろう?」

 

妹紅は切り終えたネギを味噌汁の中に投入し終えてから私に質問してきた。

 

「ん~?まぁ成長はしたんじゃない?少なくともウニ条は一日目みたいに右手に頼り切った回避方法はもうしなくなったし、身のこなしも上手くなったわ。垣根は…私の担当じゃないから何とも言えないけど永琳が指導したんだからそっちも問題はないはずだけど」

 

それは妹紅も見ていたでしょう?私はそう返したけど妹紅は「一応お前の意見も聞いておきたかったんだ」とやけに慎重なご様子。

 

そもそもウニ条のあの能力は弾幕ごっこの前提を崩しかねない、それが私の…もっと言えば永琳や鈴仙、妹紅の意見でもあるのよね。そもそも弾幕ごっこの基本ルールは

 

「回避スペースのある弾幕を放ち、そのスペースに上手に移動しながら自分も弾幕を放ち相手に被弾させること。尚且つその弾幕は美しくなくてはいけない」

 

というもの。ウニ条の場合、最後の美しい弾幕は仕方ないとして前者の回避スぺ―スの下りは大きく崩壊する。理由は簡単、右手で弾幕に触れるだけで元から存在した回避スペースに加えて更に回避スペースが作れてしまうから。勿論それだけで100%勝てると言われればそれはNOだけど…それでも弾幕ごっこの常識を殺すには十分過ぎる。

かく言う私もそれで少し……ほんの少し須臾よりも小さい単位で苦戦させられたのよね。だってウニ条、無駄に反射神経が良い上に回避されてから右手を使われたら当たる弾幕も当たらないもの

 

「とにかく後は実戦よ、永遠亭を出ればもっと手加減無しでスペルを使う連中もいるからその辺りはウニ条も学ぶんじゃない?垣根にしても同じよ」

 

「そうだな、いざとなったら私も助言くらいはしてやるさ。垣根は…後で永琳にさりげなく聞いておくか」

 

そんな会話を交わしている間に味噌汁の良い匂いが漂い始めた。妹紅もそろそろ肉の方に取りかかるかなと言いながら既に何か粉のような物をまぶし始めている

 

さぁ、もう少しで楽しい宴会の始まりね!

 

元・月のお姫様は今日の夕食をいつの間にか宴会に変更して鼻唄を歌いながら台所を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴仙・優曇華院・イナバSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姫様に投げられた当麻と垣根の治療を終えてから、私は台所にいた妹紅と一緒に夕食を作り終えた。いつも以上に人数が増えたこともあり労働量が増えて大変だったのよね…。でも姫様が「宴会よ!」なんて言わなかったら…多分私はここまで疲れていなかったわ…

 

それでも、明日からの商売繁盛を祈って宴会をするのは良い事だ、鈴仙はそう自身に言い聞かせて皆が集まっている食事場に腰を下ろした

 

「イナバも座ったわね?それじゃあウニ条ともこたん、それに垣根とイナバの明日からの生存を願って!」

 

「ふふっ、頑張るのよウドンゲ!頑張れば賠償金返済もすぐよ!」

 

「頑張ってね、上条、垣根、鈴仙!おみやげを期待しているウサ!」

 

明日からゴールの見えない薬売りの毎日が始まると言うにも関わらず、無関係の輝夜・永琳・てゐはお祝い気分で乾杯の為のコップを掲げていた

 

…皆私達を応援してくれているのよね?そう信じたい、いやきっとそうに違いない!そもそも薬を売った位で永遠亭を修繕するほどのお金を稼げるのかなんて分からないけど!今は飲んで飲みまくるしかないわ!

不安になればお酒の力に頼りたくなる…それは人と妖怪に共通した数少ない共通点であった

 

「ちょ、ちょっと待てよおい!俺と当麻は未成年だろ?本当に飲んで良いのかよ?」

 

「そうだぞ、蓬莱山!診療所で未成年に酒を飲ませたってのはよろしく無いんじゃないか?」

 

(ここでまず当麻と垣根がまともなツッコミを入れたわね、ここ一週間は2人とも非常識的な訓練漬けの毎日を送っていたから頭のネジが外れていないか心配だったけど…)

 

何を隠そう垣根に至ってはあの八意永琳の指導を一週間も受けたのだ、表面上は鈴仙も平静を装っていたが永琳に「ウドンゲ、あなたも鍛えてあげるわ」なんて言われたらどうしようかと内心ビクついていたものである

 

(当麻だって訓練を始めてから生傷と火傷が絶えなくなったし…きっと似たような厳しい指導を受けたのね)

 

自身も加害者もとい指導者の一人であったことも忘れ、鈴仙は1人ここ数日の訓練を思い出して感傷に浸っていた。少なくともあれは人がこなすものではない

 

「ねぇ、イ…あなたも…」

 

「なぁ、うど…げ…!おい…!」

 

「はぁ…思えば大変だったなぁ…。三日目なんていきなり垣根からあのメルヘンな翼が生えてきて焦ったのよね…」

 

「うどんげ?意識飛んでるぞ、大丈夫か…?上条さんの声は聞こえるか~?」

 

(何でだろう、何故か姫様や皆の声が聞こえる…)

 

だが、この時鈴仙は大事な事を忘れていた。今は宴会、そんな場所で無警戒に感傷に浸る事がどれだけ危険かと言う事を…

 

「あぁ~…これ完全に別次元に意識が飛んでるね。そんな時は私にお任せウサ!!」

 

「え、てゐ…あんた何持ってるの…って、ちょ!?」

 

「戻ってこい、鈴仙!お前の居場所はここにあーる!!」

 

自らの小柄な慎重に似合った軽快な動きで一升瓶を担いだてゐはその一升瓶を…鈴仙の口に蓋を開けて突っ込んだのである

 

「ん~っ!!!????モゴモゴモゴ!!無理、一升瓶の一気は絶対に無理!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ~!!!」

 

「大丈夫、骨は拾うから安心して一気飲み一気飲み!!」

 

「えっと…確か上条さんと垣根はうどんげに俺達も場の雰囲気に合わせて少量でもお酒を飲むべきか聞いたんだよな…?」

 

「うん、私の記憶が正しいのならそうだぞ…あっ、このお味噌汁もうちょっと薄味の方が良かったかな」

 

「とりあえず当麻にしても妹紅にしてもうどんげを助けようとか言う気は起こらねぇのか?うどんげのやつ、顔色が薬決め込んだヤバいやつみたいになってるぞ」

 

「そういう垣根は助けに行かないの?それにあれを飲み干されると私達が飲む分がかなり減るわよ」

 

「結局は自分の分の心配かよ…まぁ、既に八割がた消えてるから俺が出張っても時既に遅しってやつだろ?あと当麻、その唐揚げは俺のものだ。勝手に取るんじゃねぇ!!」

 

「だが、俺にその常識は通用しねぇ…だっけか垣根の決め台詞?かっこいいよな」

 

「だろ?何となく頭に思い浮かんだからな…あと褒めても俺の唐揚げは渡さん!!」

 

ここは永遠亭、今日も今日とてここから活気と笑い声と怒声と何かが割れる音が消える事はないのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は既に夜中の9時を上回り、夕食と称した宴会が始まってから早くも二時間以上が経過している。無論ながら宴会はまだお開きになる気配はない。そんな中上条当麻は他の友人達が食べ残した野菜をぱくついていた

 

「勿体ないよな、全く…ここに来る前の上条さんは野菜の芯までありがたく食していましたよっと」

 

「兎の私が言うのも可笑しな話だけど、野菜の芯って人間が食べるには堅過ぎると思うよ?そこまで食べないとお腹がもたないほど上条は大食いじゃないでしょ?」

 

「良いか、てゐ…1つ教えておいてやるよ…。自分が食わなくても食料は減るし、食料があっても自分は食べにくい箇所を食べるしかないこともあるんだぞ」

 

「…一体以前はどんな生活をしていたのさ…」

 

「聞くな…多分言っても誰も信じてくれないからな」

 

そう、ある日突然ベランダに大食いシスターが引っかかっていてそこから同棲が始まったなんて事を信じる物は人妖を通じてそうはいない

 

「それよりも、だ…あそこで顔を真っ赤にしてる2人を止めなくて良いのか?」

 

「今あの中に突っ込んだら最低2回は死ぬよ。私と違って当麻は1つしか命が無いんだから大事にしなよ」

 

今現在、永遠亭の食事場では蓬莱山輝夜と鈴仙・優曇華院・イナバの2人が頬を真っ赤にして酒を飲みながら弾幕ごっこについて語っていた

 

(しっかしよく飲むよな、蓬莱山にしてもそうだけど…うどんげなんててゐに一気飲みさせられてからノリノリだし…。そう言えば鈴仙はあぁ見えても結構な歳を重ねているんだったよな)

 

その時である、上条当麻の顔面に向けて銃弾に似た紅い弾幕が飛んできたのは。

上条は右手を使わず、横に飛び退いてから弾幕が飛んできた方向に顔を向ける

 

「うぉ!?危ないだろうどんげ!?いきなり弾幕を飛ばすとか正気か!?」

 

「うっさいわねとーま…あんた今失礼なこと考えたでしょー!」

 

「げっ…そ、そんな訳無いだろ!酔って感覚がおかしくなってるんじゃないか?」

 

「うっさい!大体私はねぇ!!月では結構優秀な軍人だったんだから~!!」

 

「あら、イナバ!また武勇伝を聞かせてくれるの?それじゃあいつもの言ったげて!!」

 

…ダメだ…蓬莱山に至っては酔いが回り過ぎて口調もおかしいし、うどんげは泣き上戸になって自慢話を始めてしまった。てかさりげなく上条さんの心を読むのは止めて欲しいんだけどな…

 

「まずはね~姫様~!私にはきょーきの瞳があるんですよ~!」

 

「武勇伝武勇伝!武勇デンデンデデンLet`s Go!!」

 

「それに私は…とっくにししょーの強さなんて超えちゃってるんですから~!!ざんねーん!!!」

 

「そう、それは酔いに任せた悪ノリの強さの話かしら?」

 

部屋に冷たい、それでいて無関係な俺までも凍りつかせるような声が響いた。とりあえずうどんげ、蓬莱山…御愁傷様だな。それこそ骨は拾うからな

 

「はぁ~!?違うに決まってるじゃない!実戦の……話……」

 

「前もって言っておくけど輝夜、私はお祝い程度にお酒を飲む事は許しても必要以上に羽目を外す事を許した覚えも無いし今逃げて良いとも言っていないわ」

 

「ギクッ!?わ、私は別に逃げてなんていないわよ…!!」

 

その声の主は…言うまでもなく八意永琳さんだ。最後に見たのは…確かお酒が足りなくなりそうだからと、垣根を連れて倉庫からお酒を取りに部屋を出た時だから15分程前のはず。確かに15分でこうも部屋が荒れていれば誰でも激怒するだろう

 

「し、しひょう?私はべすにしひょうのことを弱いひゃんて…!!」

 

「まずは呂律を元に戻してから弁明するのね、とにかく…あなた達の酔いを醒ましてあげるわ。ついてきなさい♪」

 

「いやぁぁぁぁ!!助けてもこたん!!」

 

「やだ、散々もこたんもこたん言った挙句私の分の唐揚げまで食べた天罰だ。どうせ不死なんだから大丈夫だって」

 

「と、当麻ぁ!!さっきは悪かったから!!助けてぇぇ!!」

 

「…そうしてやりたいのは山々だが、生憎と上条さんは幻想しか殺せないんですのことよ。それに優秀な軍人さんなら大丈夫だ」

 

永琳に輝夜と鈴仙が引きずられた数分後に甲高い悲鳴が竹林に木霊したがその事を知っているのはごくごく一部の人妖だけである

 

「って、そう言えば垣根はどうした?確か永琳さんと出て行ったんじゃなかったか?」

 

「そう言えばそうだな…どうする、様子を見に行くか?」

 

まさかとは思うが垣根も何かやらかして永琳さんにお仕置きされたのか…?でも悲鳴は聞こえ無かったよな…

 

「様子見は良いからこれを持ってくれよ、つーか輝夜とうどんげのやつ何をやらかしたんだ?さっきすれ違ったが永琳のやつマジモードだぞあれ」

 

そう言って、垣根は2本の一升瓶を抱えながら襖を足を使って開けて入って来た。俺は慌ててそのうちの1本を受け取る

 

「悪い悪い、まぁあの2人が何をやったかは部屋を見て察してくれ。っと…意外に重いな」

 

「酔いに任せて何かやらかしたんですね分かります、ったく…いよいよ明日からだってのに元気なやつだぜ。安静にって言ったのはうどんげじゃねぇか」

 

「仕方ないさ、多分不安なことでもあって酒を身体が欲してたんだろ。まぁそれでどうなっても自己責任ってね」

 

俺は受け取った1本を妹紅に手渡して、蓋を開けて貰う。妹紅は待ってました!とばかりに笑みを浮かべてから自分のコップに酒を注ぐ

 

「それで当麻と垣根はどうするんだ?私は飲む事を強制しないけど飲むのなら止めはしないぞ。量は…まぁ未成年って言っても寺子屋に通うお子様じゃないんだからちょっと多く飲んでも大丈夫でしょ」

 

「そう言われるとな…どうする、垣根?」

 

「まっ、毎日飲む物でも無いしな。俺はコップに一杯だけ貰うぜ、ただ先に明日からの予定を決めたいんだが…それからでも良いか?」

 

「上条さんは構わないぞ、ちなみに酒の量は垣根と一緒にするかな」

 

「私も異論無しだ」

 

そう言えば出発はもう明日だと言うのにまったくそんな話をしていなかった。ここ最近はひたすら弾幕ごっこの訓練をしては寝るの繰り返しだったからな

垣根は机の中央に置かれていた漬物を一口齧ってからじゃあ、と切り出した

 

「もし妹紅や当麻にこれと言った予定が無いんならまずは紅魔館にいかねぇか?これはうどんげと永琳にはもう相談してあるから後はお前達次第なんだ」

 

「…紅魔館?何だよ、それ?」

 

「まぁ狙いとしては悪くないけど…何でよりにもよって初っ端から悪魔の住む館なんだ?確かに幻想郷の中じゃ金持ちの部類だろうけど」

 

「あ、悪魔!?幻想郷には悪魔もいるのかよ…」

 

「安心しろ、当麻。紅魔館の主は吸血鬼だそうだぜ。もっとも悪魔もいるらしいがな」

 

結局いるのかよ!?しかも吸血鬼まで…こんな時に姫神がいてくれれば…ってそれはダメだよな。仮にも客を殺すなんて真似をしたら上条さんの上半身と下半身がおさらばして上条/当麻になってしまう

 

「もっと言うならそれと同じ位性質の悪い人間もいるんだけどね。で、紅魔館を選んだ理由は?何かあるんだろう?」

 

「あぁ、俺が本気で能力を使った時に何故かメルヘンチックな翼が現れるのは知ってるだろ?」

 

「あぁ、訓練三日目に現れたアレか。でもそれが何か関係あるのか?」

 

「永琳曰く、あの翼の正体までは分からねぇが魔術の類で人間の身体に天使を降ろす術式があるらしい。それで、その紅魔館の大図書館には大量の魔術に関する本があるんだとよ、もし俺が無意識の内に魔術を発動させているってなら少しでも俺の能力について何か分かれば良いなってとこだ」

 

垣根は魔術や天使なんてオカルトは未だに半信半疑なんだがな、と付け加えて2切れ目の漬物を口に銜えた

確かに自分の能力の事を知れば垣根も過去の事を思い出すかもしれないな、ショック療法…って言うのか?

 

(でも垣根は魔術師だったのか…?それにしては何か雰囲気がステイルや神裂とは違うんだよな…)

 

「おーい、当麻?どうかしたのか?」

 

「え、あ、悪い…ただ垣根が魔術を使えるのなら相当な実力だなーって思ったんだよ。うろ覚えだけど天使って簡単に呼び出せるもんじゃないって知り合いが言っていたのを思い出してな」

 

「どうやらそうらしいな、ってか当麻は本当にどんな人生を歩んでんだよ。これも永琳からの受け売りだがそもそもあの翼が魔術から来ているのかも疑問なんだよな、俺が能力を使ってる時も永琳は俺から魔力なんて微塵も感じなかったそうだぜ」

 

「…あのさ、結構大事な話だってことは分かるんだけど…そろそろ飲まないか?目の前にあるコップに入った酒を我慢するって言うのは蓬莱人の私にもちょっと辛いんだ…」

 

ついつい垣根と話しこんで妹紅の事を忘れていたが、妹紅は既にコップを握り乾杯の構えを取っている。それだけ酒が飲みたかったのか…

 

「悪い悪い…それで結論としては紅魔館に向かうってことで構わねぇか?調度その図書館の主も身体が弱くてここの薬に頼ってるらしいから売上も期待できるぜ」

 

「それを先に言ってくれよ、出来ればまずは人に薬を売りたかったけど…事情があるんなら上条さんは構わないぞ」

 

「紅魔館ねぇ…気は進まないけど今は背に腹は代えられないし、反対してまたお酒をお預けにされるのもたまらないから私も賛成だ」

 

「絶対後者が主な理由だろ妹紅…まぁ良い、俺の事情で行き先を決めちまって悪いが乗りかかった船だ。よろしく頼むぜ?」

 

そう言ってまずは垣根が妹紅に酒を注いでもらい、コップを掲げた

続いて上条さんも人生初の飲酒に挑戦する、小萌先生にバレたらお説教じゃ済まないぞコレ

 

「これで上条さんも立派な不良の仲間入りか…でも一杯くらいなら良いよな?」

 

「そうだぞ、私の友達の教師が聞けば激怒するけど子供の内から経験を積むのも勉強さ。ん、当麻もコップは持ったね。それじゃあ!」

 

「薬の完売と俺と当麻は学園都市に帰る事を目指して!!」

 

「「「かんぱーい!!!」」」

 

笑顔とお酒が交差する時、物語(宴会)は始まる!!!




はい、何とかこれでとある幻想郷の幻想殺し第一章の「とある永遠亭での不幸物語~起~」は完結です。ここまで長かった…!なんて言うのはまだまだ先なんですがそれでも中々長い第一章でしたね。初めは思い付きで始めた執筆で、つまらなければ投稿を打ち切る予定でしたがこれが思いのほか楽しいんですよ!それも全ては読んで下さった皆様のおかげです、非常に短文ではありますがこれを持ってお礼の言葉とさせていただきます

そして次回からは第二章である「とある紅魔館での不幸物語~承~」を書いていきたいと思います。内容としては紅魔メンバーとのお話がメインで、前々から予告していた東方キャラオンリーの番外編と回想変を少し入れたいな―と思っております、長々となりましたが第二章も引き続きよろしくお願い致します


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とある紅魔館での不幸物語〜承〜
出発、そして遭遇


どうも、お盆休みを完全になめていたけねもこ推しでございます。かんっぺきにプランが狂いました、はい。もうアレイスターも顔面蒼白になるレベルの狂いようでございます
とりあえずは急ぎ過ぎて適当な文面にはならないよう努力したつもりではありますが、何分二週間ぶりですので…どうか以前と変わらぬ見守る目での閲覧をお願い致します


上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは迷いの竹林の中に位置する永遠亭、その永遠亭の入り口では1人の少年と1人の少女が背中にかごを背負って永遠亭を発つ準備をしていた

上条当麻はその中の1人である

 

「うっ……何だか上条さんはすごーく気分が悪いんだが…」

 

背中に背負ったかごの中身を崩さぬよう慎重に立ちあがりながら、上条当麻は昨晩の事を思い出していた

 

(え~っと…確か俺と垣根は妹紅に合わせてお酒を一杯だけ飲んだんだよな?その後鈴仙と蓬莱山と永琳さんが帰ってきて…仕切り直しにもう一杯だけ乾杯に付き合って……ダメだ、それより後の記憶がないんですのことよ…)

 

「どうした、当麻?顔色が悪いぞ?まぁ昨晩あれだけ飲んだんだから当たり前だけどさ、いや~昨日は私も羽目を外し過ぎたかな」

 

「あれだけってどれくらいの量だよ…上条さんはまったく記憶が無いんだが…」

 

「少なくとも垣根が瓶を半分は空けたから当麻も同じ位飲んだんじゃないか?かく言う私も輝夜に煽られて飲み比べをしたからはっきりとは覚えていないけどね」

 

「瓶半分とか…17歳の子供が飲む量じゃないと思うんですが…」

 

「それを判断したのはあの時の当麻さ、大丈夫。永琳特製の二日酔い止めの薬は貰って来たよ、これを飲めばいくらか落ち着くんじゃないか?」

 

そんな会話を交わしつつ、上条当麻とひょんなことから一緒に薬売りをするはめになった藤原妹紅は昨晩の出来ごとを覚えている範囲内で話しながら薬の小瓶を手渡した

 

「はぁ…上条さんは二十歳になっても絶対にお酒は飲みすぎませんよーっと」

 

勢いとその場の雰囲気に合わせて未成年飲酒に走った少年がこんな事を言っても説得力に欠けるのだが仕方あるまい。

とにかくなるべく急いで酔いを醒ます必要がある、その一心で当麻は小瓶の中身を一気に飲み干した

 

「ちょ、ちょっと待ってー!!も、妹紅!?あの薬、当麻にもう飲ませたの!?」

 

当麻が薬を飲み干してから数秒差で大声を張り上げながら永遠亭から飛び出してきたのは玉兎の鈴仙・優曇華院・イナバ。ちなみに昨晩の宴会でもっとも多くの日本酒を飲み干したのも彼女である

 

「びっくりさせるなよ、鈴仙…あの二日酔い止めの薬なら今当麻がキレイさっぱり飲み干したぞ。まさか劇薬でした、なんて言うんじゃないだろうな?」

 

「いくら何でもそれは無いわよ!っていたた……私も後で薬を飲まないと……ってそう!今当麻が飲んだ薬は私が飲む方の薬!すなわち妖怪用!人間には効果がキツ過ぎて毒なのよ!」

 

「それって結局毒だろ!?何やってんだよ、出発前から殺してどうする!?くそっ…!当麻、大丈夫か!?」

 

「……そ、それを後数秒早く言ってほしか………った…」

 

その後、俺は「不幸だ…」と言い残して気絶、もれなく永琳さんから人間用の二日酔いの貰い受け治療を施される羽目になるのだった

 

それから数時間後…何とか俺は復帰を果たしていた

 

「つーかよ、出発からいきなりタイムロスってやばくねぇか?まぁ俺も少し前まではゲロッた後で気分が悪かったんだがな」

 

「仕方ないじゃない、まさかてゐがすり替えているなんて思わなかったのよ…師匠にお仕置きをお願いしたからちょっとは懲りたんじゃない?」

 

「てゐが懲りる?うどんげ、お前まだ酔いが抜けてないだろ」

 

「あのなぁ…ちょっとは上条さんを心配する発言とかは無いのかよ…?妖怪用の薬って結構辛いんだからな」

 

既に二日酔いから復帰していた鈴仙と垣根は玄関で座り込んでお話中、妹紅は1人壁にもたれてうとうとと居眠りタイム。現実は非情なんですのことよ

 

「そう拗ねんなよ、その代わりしばらくは俺が荷物を持ってやるからちょっと風に当たりながら進もうぜ」

 

「珍しく優しいじゃない、でも師匠の薬は重いからバテないでね?私は背負わないわよ~」

 

「ん~?もう出発か?皆忘れ物は無いな?」

 

妹紅が確認のために皆に声をかけた、鈴仙と垣根はともかく上条さんは特に忘れるほど荷物を持っていないんだよな。何せ気付いたら竹林のど真ん中だったからな

 

「上条さんは問題無いぜ、薬は垣根が持ってくれるし財布は学園都市の上条さんの寝室…でも中身は硬貨が数枚だから意味はどの道無いんですのよ…」

 

「えっと…何か聞いてはならない話だったみたいだな、すまない当麻…。鈴仙と垣根はどうだ?」

 

「私は…とりあえず販売用の薬と、拳銃と弾薬一式。お金は一応持ったから…特に無いと思うわよ」

 

「俺はほぼほぼ鈴仙と同じだな、確認はとった。強いて言うなら当麻の薬を追加したくらいだ」

 

これでひとまず全員の確認作業は完了したな、と妹紅はつぶやいて玄関を出る。迷いの竹林を出るには妹紅か鈴仙の案内がないとまず不可能だからしばらくは妹紅を先頭にして歩くことになる

 

「さて、それじゃあ行くか…永琳さんや蓬莱山、てゐには挨拶をしたから大丈夫っと。次に永遠亭に戻ってくる時は薬を売り切った時にしたいな」

 

「もちろんそうに決まってんだろ、皆忘れてるかもしれねぇがこれはマジで売り切らないとヤバいんだからな?主に俺の命が」

 

「そう言えばそうだったわね…でも紅魔館での売り上げは多分問題無いわ、最後に喘息の薬を補充したのが数か月前だからそろそろ追加で補充する時期のはずよ」

 

「ついでに門番の為の不眠薬でもメイド長に送りつければかなりの数を購入してくれるんじゃないか?永琳に頼めば良かったじゃないか」

 

と、皆結構気楽にわいわいと雑談を楽しんでいる。とても賠償金の肩代わりに薬売りをしているとは思えない雰囲気だ。いつもなら鈴仙や妹紅は飛んで目的地に向かうらしいけど言うまでもなく上条さんは飛べません、だって上条さんは永遠のLEVEL0だから。ちなみに垣根は五日目で飛行をマスターしたらしい、何かここまで周りが空を飛べると上条さんの方が異端に見えるのは気のせいのはず

 

「それにしても吸血鬼ってのはどんな姿をしてるんだろうな、輝夜の話じゃ人間そっくりらしいが…おとぎ話じゃマントを着こんで青白い肌の色をしてるんだろ?」

と、垣根が問いかける

 

「うーん…幼女ね」

これは鈴仙

 

「幼女だな」

続いて妹紅

 

答えになってませんよ、お二人とも。と、言うか吸血鬼が幼女?吸血鬼基準で見ると幼女ってことか?

 

「アバウト過ぎる返答感謝するぜ、おかげでマントを着込んだ青白い肌の幼女が俺の吸血鬼のイメージに決定だ。絵にしたらさぞ愉快だろうな」

 

対する垣根はケラケラと笑いながら楽しそうだ、確かにそんな吸血鬼が実在したらさぞ笑いの種になるだろうさ

 

「…まぁ鈴仙と妹紅は言うまでもないけどさ、垣根には1つ言っておくぞ」

 

「ん?どうした、当麻。まさか俺も学園都市で吸血鬼に顔面右ストレートをかましたぜ!なんて言うなよ?これ以上笑ったら笑い死しちまうからな」

 

「そんな幸せな死に方が出来たら死ぬまでにさぞ良い行いをしてきたんだろうな、って上条さんが言いたいことはそこじゃない!あんまり幼女をなめてかからないほうが良いんじゃないか?上条さんは学園都市で幼女に手痛い目にたくさん合わされたからな…」

 

主にインデックス、何だかんだ言ってあいつのおかげで毎日が楽しくなったのも事実だが我が家の財政難がより酷くなったのもまた事実なんですのことよ…

 

「…な、何か当麻に言われるとすげぇ説得力があるな。よくは分からねぇが注意する、それに吸血鬼って強いらしいからな。確か…永夜異変だったか?あれで永遠亭組を他の連中と一緒だったとは言え全滅させたんだろ?弾幕ごっこで輝夜を負かす奴に油断は出来ない」

 

「あぁ、あの異変ねぇ…吸血鬼もそうだったけどメイド長も大概に厄介だったわ。まぁ吸血鬼の件は置いておくとして当麻は一体学園都市で幼女に何をしたのよ?まさかとは思うけど……ロリコンなの?」

 

「何故か永夜異変では私も巻き添えを食らったんだが、それは誰も突っ込んでくれないんだな?あと、当麻。私は人の性癖に興味は無いがある程度は自重すべきなんじゃないか?」

 

(何で上条さんがロリコン認定!?しかも既に距離がおかれている!?待て待て待て!誰も幼女に手を出して反撃を食らっただなんて言ってないだろ!?)

 

「さっ、竹林の出口が見えてきたぞ。このまま紅魔館を目指そう、いや~空が青いね」

 

「ん~…長かったなぁ…やっぱり飛べないって言うのは不便じゃないかしら?垣根、当麻を背負いなさいよ」

 

「残念、既に俺は当麻の薬を持ってるんでな。あと、ロリコンを背負うなんて御免だぜ」

 

「やっぱり既にロリコン認知を受けちゃったのかよ!?はぁ……不幸だ……」

 

迷いの竹林の出口が見え始めた頃、再度現実の非情さを痛感する事になった上条さんは諦めて皆の背中を追うしかなかったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロリコン……外界じゃ自分より年下の小さい子供を恋愛対象として見る人間の事を指すらしい。まぁ私は無知だから何とも言えないけど…慧音の寺子屋の教え子を当麻が恋愛対象として見るのは…うん、ちょっと無理があるな。何より慧音やその親たちが黙っていないだろう

 

(しかし遠いな…飛ぶなんてもう何百年も前に習得した技だったからありがたみなんて忘れていたけど、こんな状況になってみるとしみじみと感じるな…)

 

理由は言うまでもなく当麻に合わせる為、外界では飛ぶ事が出来る人間はほとんどいないらしい。もちろん当麻もそんな一人だから気分転換も兼ねて紅魔館までの道のりを踏破しようとしているわけだ

 

「ここ一週間で鍛えたとは言え、荷物を背負って長距離移動となるとさすがにきついぜ…皆大丈夫か?」

 

「私は大丈夫よ、いつもよりは厳しいけど…まだバテるレベルじゃないわ。それに紅魔館にはあと30分くらいでつくから踏ん張りなさい」

 

「上条さんは荷物も軽いしまだまだ余裕ですよーっと。それにこんなの蓬莱山と妹紅から受けた一日八時間にも及ぶ弾幕ごっこの訓練に比べれば可愛いものだからな~…」

 

「そうかそうか、それは何よりだ…ならいつまでも俺に荷物を持たせるんじゃねぇ!!」

 

ここで垣根が当麻の分の薬を押し付け、もとい返却した。問題はその返却の仕方だったわけだが…

 

「いってなぁ、垣根!何も薬が入った箱を叩きつけることはないだろ!?」

 

「悪い悪い、疲労がたたったんだ。許せよ」

 

垣根が疲労感から来るストレスの発散として当麻の後頭部に箱を叩きつけた、もちろん軽く…だけどね。でも2人はお互いに若くて血の気の多い年頃だから「はいそうですか」では済まない、いや私みたく1300歳になってもこんなことをされたら怒るよ?

どういう意味かと言うと2人は若干ピリピリしている、もっと分かりやすく言えば怒気が漏れている状態だ。仕方ないから年長者が仲裁に入ろうか、慧音ほど上手くいくかは分からないけど

 

「はいはいそこまでだ、当麻も当麻で熱くなるな。元はと言えば当麻は垣根に感謝すべき立場だろう?それに垣根もだ、冗談のつもりでも相手が痛がってるんだ…少しくらいは反省すべきなんじゃないか?」

 

(さぁこれでどうなるか、少なくとも慧音が寺子屋で喧嘩の仲裁をする時はこんな風になだめて上手く解決するんだけど…。生憎遠くから眺めて学んだだけの技術だからな…)

とは言え、一週間も身近に過ごせば大体子供の性格は分かるようになるらしい。慧音が以前私にそう言った時は半ば半信半疑だったけど今なら何となく分かる。

当麻は根が真面目で優しいからまず友達と喧嘩を好んだりはしない、喧嘩を止める理由も出来たんだから尚更だ

 

ただ垣根は……少なくともここ一週間で見る限りはとくに目立って悪人だと思わせる様子は見られなかった。むしろ根は優しいと言っても違い無い、ただ……当麻と違って心の奥底が酷く淀んでいる気がする。何となくの勘だけど私は一度、光の世界から道を外れた人間は少し話せば分かってしまう、少なくとも私が垣根に抱いた印象は当麻のような光の世界の住人ではなく……まだ輝夜と殺し合っていた頃の私のような闇の世界の住人のそれだった

だとしても私が今の垣根が悪い人間なのか?と問われたら答えは即答で「ノ―」だ。当麻や私や鈴仙達に薬売りをさせる羽目になった事を口には出さないけど負い目に感じているようだし、特に暴走した時に私の心臓を貫いたことを詫びるのを止めさせるのには苦労したものだ

もっと言うなら私みたいな人間でも妖怪でもない罪人が人を闇だ光だの言う事がちゃんちゃらおかしい。心の淀み具合なら私は旧地獄の怨霊に負けない自身だってある、それに……垣根が闇の世界の住人なら引き上げて光の世界に引っ張り戻してやれば良いじゃないか。こんな私にも手を差し伸べて微笑んでくれた慧音がそうだったように…垣根にもいつかそんな人が見つかるよ、絶対にね

 

「で、どうなんだ?少しは2人とも頭が冷えたのか?」

 

何となく考え事をしていたら2人から意識を反らしてしまっていた、ダメだな…何の為に仲裁役を買って出たんだか分かったもんじゃない

 

「…ごめん、垣根。俺がお前に任せっきりにしたのが悪かったよ」

 

「いやいや、何でこんな安い青春小説のワンシーンみたいな展開になってんだよ?…こういうのは先に手を上げた方が悪いって相場が決まってんだ。一々俺の非をほじくりかえしてくれんなよ、ドS趣味は感心しないぜ」

 

当麻は素直に頭を下げてから自分の荷物を持ち、垣根は自分なりの謝罪で当麻に詫びた。2人の近くで仲裁に入ろうとしていた鈴仙がその様をクスクスと楽しそうに笑いながら眺めている

(…何となく慧音がどれだけ苦労しても教師を止めない理由が少しだけ分かった気がするな。こういう若者特有の何とも言えない…何て言うかニヤニヤ感?みたいなものは嫌いじゃ無いからね)

 

「仲直りがすんだようで何よりだ、それじゃあ夕方になる前に紅魔館を目指すとしよう。今からだと…陽が沈む前には到着出来るだろうから、調度館の主も起きるだろうさ。寝起きだと金銭感覚もブレてたくさん買ってくれるんじゃない?」

 

「実質はメイド長が購入するんだからそれは無理だと思うわよ?まぁ…2人の仲直りは紅魔館を目指す元気位にはなったわ!垣根は相変わらず気障な所が治ってないみたいだけど」

 

「うるせぇ、そこを突っ込まずにスル―してくれたならうどんげの荷物を持ってやろうと思ったのによ。と、言うか俺は気障何かじゃねぇからな!!」

 

「お~い!上条さんは!?上条さんを無視するのは止めて欲しいんですの事よ!?」

 

「遅いぞ、当麻もといロリ条~!速く走らないと私達は飛んで紅魔館を目指すからな~?」

 

「いつから俺がロリ条さんになったんだよ!?あと、飛行は禁止!不幸だぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

垣根帝督は後頭部で両手を組みながら「ロリ条、か…愉快だな」と呟き、次のあだ名を考え、鈴仙は当麻が叫ぶ声に「頑張って、当麻!」と律儀に応援している。そして妹紅は箱を手で持ちながら自身の背中に紅翼、フェニックスの翼を顕現させて飛び上がる、最後に上条当麻は「良いぜ、妹紅が飛べるって言うんなら!!まずはそのふざけた幻想をぶち殺すっ!!」と雄たけびを上げながらひたすらに全力疾走で妹紅を追いかける

皆が自由、見た所ではチームワークも見受けられない。だが…これが彼らなりの団結であり、それぞれが信頼しあっているからこその距離感なのだ。

 

(こんな関係も悪くない、か…楽しいねぇ…慧音にも聞かせてやりたいなぁ…)

そんな事を妹紅がうっすらと微笑みながら考えていた時だった。

 

「グサッ」

 

そんな音だけが何故か当麻の叫び声や、妹紅の紅翼が燃え盛る音の中でも鮮明に響き渡ったのは

 

(何でだろ…?何で私は地面に急降下しているんだ…?それに何故か…腹に激痛が……)

 

ドサッ!という誰かに受け止められた音と、傷口から血が流れ出ていく独特の感覚と激痛。それに当麻の「しっかりしろ、妹紅!!」というさっきとは全く違う緊迫感のある声、そして視界の端に映った巨大な体躯とそれに見劣りしない巨大な爪を持った妖怪…それらが意識を失う前の妹紅の頭に入って来た最後の記憶だった




はい、始まりました!第二章の第一話!いきなりもこたんが負傷するって言うね…でももこたんは不死身だから…(震え声

本当なら名も無き巨大な爪を持った妖怪君にはロリ条さん、もこたん、メルヘン、うどんげの四人に木端微塵にされる予定だったんですがこの面子が揃って集団リンチはどうかなーと思いまして。何より四人同時バトルなんて書く自信がn(以下略


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垣根帝督(せきにんしゃ)

上条当麻SIDE

 

 

 

 

今、目の前で何が起こっているのかがよく分からない。そう言うしか無いほど俺は硬直していた、咄嗟に妹紅の地面への衝突を回避出来たのが不幸中の幸いだったのかもしれない

 

「何でいきなり…!?いや、それよりも妹紅っ!!大丈夫か!?」

 

「……ゲホッ…臓器を貫かれた人間にそれは無いだろ、当麻…いや、死なないけど…」

 

軽口叩いてる場合か!?いくら不死身とは言ってもこんな腹に風穴を空けられたら痛みで辛いだろ!?

 

「デケェな、つーかいきなりこんなのが出てくるなんてさすが幻想郷…やっぱ永琳の言った通り物騒な所もあるのな。つか軽々しく人の仲間の脇腹を貫いてんじゃねぇよ、俺の先輩だぞ」

 

「…っ…垣根!とにかく今は妹紅の介抱が先だ!早く撤退しよう!」

 

妹紅は即死とまではいかなくとも重症、既に回復は始まっているけど…どうやら俺の右手がそれを邪魔して回復速度を遅らせているらしい。そんな状況になっても垣根は冷静に妖怪を睨んでいた

 

「どうするの、垣根…まさかいきなりここで暴れる気なの?」

 

「……悪い、うどんげは当麻と妹紅のカバーに入ってくれ。当麻が妹紅に触れていたんじゃ回復に時間がかかる

それで持ってこのデカブツは俺が仕留める、とりあえず碌な死に方させねぇのは確定だ」

 

そう言うや否や、垣根帝督は手近な石を手に取り妖怪を見つめる。その視線には言葉とは裏腹に殺気や怒気が一切込められていない、その様はまるで今から的当てをする子供である

垣根の様子を疑問に思いながら俺は左手一本で妹紅を支えながら垣根に呼びかける

 

「おい、垣根!少しは周りを見ろよ!退くって手段もまだあるはずだ!聞こえてるのか!?」

 

垣根は俺がいくら呼びかけても見向きもしないし、懐のホルダーから拳銃を抜こうともしない。いくらあの能力があるからって…!

 

「本当に不器用ね…少しは表情に出しなさいよ。全く…それと当麻、垣根への疑問は分かるけど今は妹紅の消毒が先よ。傷口はすぐに塞がるとは思うけどこのままだと雑菌が入って炎症を起こすわ、勿論蓬莱の薬は雑菌程度問題にはならないけどこのまま指をくわえて待っているのも、ね」

 

すぐに鈴仙がこちらへと駆け寄ってきて妹紅を抱える、医術を学んでいない俺は鈴仙を手伝う事も垣根に呼びかけ続ける事も出来ないまま木影で寝かされている妹紅に声をかけ続けるしか出来る事は無かった

 

(クソッ…!俺が迂闊だった…!もっとちゃんと注意しておけば…)

 

だが、後悔した所で今更現実は変わらない。あくまでも俺が殺せるのは幻想だけだ

 

「鈴仙、傷口の消毒は一人でも行えるのか?」

 

「もちろん可能よ、これくらい出来ないと師匠にウサギ鍋にされるじゃない。それがどうしたの?」

 

鈴仙は気丈に答えながら額に汗を浮かべている、それだけ消毒というのは時間との勝負なのだろう

俺はこの場にいても役に立てない、じゃあどうするか?…それも含めてこの一週間で鍛えたんだ。するべき事は分かりきっている

 

「俺は垣根の援護に入る、あのままだと垣根の奴怒りに任せて暴れるだろ?暴走はありえないとしてもいきなり体力を使う必要は無いからな、仕方ないから上条さんは自分の役割を果たすさ」

 

「…あの妖怪、危険よ?多分、妖怪になってからそれなりに歳を重ねているわ。弾幕ごっことは違って命の保証も飛び道具もないのに正気?」

 

「今までもご丁寧に命を保証してくれた奴はいなかったし飛び道具をくれた奴もいなかったから平気ですのことよ、それにこんな所で黙って待ってたらリザレクションを終えた妹紅に怒られる…『当麻!垣根が戦っているのに黙って待つなんて私と輝夜との訓練で何を覚えたんだ!』ってな。それに俺だからこそ出来る対妖怪の戦術は妹紅から教えて貰った、案外役立たずじゃないかもしれないぞ?」

 

「はぁ…垣根が冷静に撤退を選んでいたらここまで頭を悩ませる必要も無かったのに…でも、仲間を傷つけられたのに反撃も無しなんて永遠亭の名が廃るわ!私も妹紅が落ち着いたらすぐに加勢するから先に倒さないでね?」

 

「それはどっちかと言うと垣根に言ってくれ…じゃあ言ってくる!」

 

鈴仙は妹紅に任せよう、俺がいても邪魔になるのは分かりきっているし何より今妹紅と鈴仙に向けるべき感情は心配じゃなくて信頼だ。そのための一週間でもあったんだからな。

鈴仙に頼む!とだけ伝えて俺は先程の場所に向かって走り出しながら妹紅に教えられた対妖怪の戦術についての会話を思い出していた

 

『良いか、当麻。妖怪って言うのは大なり小なりはあるけど身体の一部を"妖力"っていう特殊な異能の力で構成しているんだ、もちろん触れる事が出来れば当麻の右手は有効打になりうるだろうね』

 

『じゃあとりあえず妖怪に遭遇したらどこでも殴れば良いのか?上条さんはこの前の飲酒に引き続き不良への道まっしぐらで悲しいんですのよ』

 

『お願いだから私の話を聞いてくれ…勿論ただ殴っても妖怪はびくともしないよ。第一当麻の右手が触れただけで妖力が根こそぎ破壊されるような奴なら近付いてもこないだろ』

 

『出来ればそれが一番助かるんだよなぁ…でも、ただ殴っても意味が無いならどうすれば良いんだよ?』

 

『妖怪の身体を構成する妖力、それは具体的に身体のどこに存在するのか?それとも有形なのか?私自身何十年かは妖怪退治を生業にしていたけど今となってもそれははっきりと分からないんだ。ただ1つ…あくまで私の推測なんだけど、それは――――』

 

分かる、どうすれば良いのか。視える、この先のことも

 

「さて…人間からの反撃だ、仲間を傷つけられたとあったら上条さんは少々バイオレンスになっちまうぞッ!!」

 

出会ったばかりのシスターを救うため、実力に雲泥の差がある魔術師を殴り飛ばし、またある時は友達の妹を助ける為にLEVEL5の第一位《さいきょう》に立ち向かった上条当麻が――今度は妖怪に立ち向かう

 

 

 

 

 

垣根帝督SIDE

 

 

 

 

 

 

右上からの振り下ろされた妖怪の爪をバックステップで回避、続けて身体に物を言わせた突進をギリギリまで岩に引き付けてから受身を取りつつ視線は妖怪に向けたまま前転で回避

 

これが先程から垣根帝督が行っている回避行動の一部であった

対する彼の反撃と言えば未元物質により硬化させた石を投げつけるというらしくもない原始的な攻撃に限っている

 

「つーかよ、今更なんだが差があり過ぎやしねぇか?体格差もとにかくヤバイが何より破壊力が人間とは比較にならねぇぞ」

 

バラバラ、ドシャ――そんな音を立てながら妖怪が真正面からぶつかった岩は原型を少しも残さずに小石に変わり果てていた。勿論、妖怪は無傷で垣根に再び狙いを定めている

 

「小癪な若造が……ちょこまかと」

 

「あ、お前会話出来るのかよ?なら都合が良い、自然は大切にしやがれ。少なくともお前の命よりかは価値があるぜ?」

 

見た目がバリバリで人外なだけに話せるって選択肢が無かったんだよな。いや、今はそんな事はどうでもいい。大事な事はこのデカブツをどう葬るか…だろうが、俺には俺なりの責任がある

 

「言い得て妙だな、貴様のような若造は岩も自然の一つに数えるのか?…全くを持って愚かな者よ」

 

「うるせぇ、黙れ。少なくとも俺の仲間の腹をぶち抜いた斬れ味がかなり悪そうなその爪で俺の首を撥ねようとしている妖怪に愚か者扱いは受けたくねぇな」

 

(ただ……このままグダグダと話す余裕はねぇよな?妹紅の命は無事としても雑菌の消毒は…いや、それよりも俺達はこんなデカブツと戯れる為だけに永遠亭を飛び出した訳じゃねぇ)

 

そんな事を俺に考えさせる暇も与えずに目の前のデカブツは再び俺に向かって爪を振り上げる。懐のトカレフは……違うだろ、これは…。この銃はこんな外道を撃ち殺す為の銃じゃない、そんな安い目的の為にトカレフにはセーフティが無いんじゃない。

とにかく今は振り下ろされた爪をどうにかしないと話になる前に俺の切り身が出来上がる。そんな末路は御免だぞ

 

「おっと危ない!ちょっとは考えさせろデカブツ!っても、そんな短調な振り回しじゃ俺は殺せねぇよ」

 

前転で回避するには少し妖怪と垣根との距離は短過ぎた。ならばどうするか?答えは1つ

 

「チッ……俺の股の下を滑り抜けるとは。実に小癪な若造らしい」

 

どんな攻撃にも必ず隙と回避スペースは存在する、だっけか?俺にそんな事を教えてくれた薬師と軍人の弾幕には隙が全く無かったけどな

ここで勝負を決める、俺はそんな決意を固めて全身の筋肉を強化する物質をイメージして、それが現実になるよう……現実を捻じ曲げ(つくり)だす

 

「とりあえずデカブツには俺特製の強化石礫を至近距離からおみまいしてやるよ!! 」

 

全てはこの一撃で決まる、はずだった

 

「甘いな若造…単なる石礫…だけでは無いようだが所詮はやはり石礫、俺の身体にはかすり傷をつけるのが限界に過ぎん――――散れ」

 

俺がデカブツの股の下を滑り抜けて石礫を握り、石礫と自身の筋肉を強化、そして振りかぶるまでにかかった時間は数秒だったはず。だが…妖怪がその動きに反応して振り向いてから俺に爪を振り下ろすまでの動作はそれ以上に早かった

 

(しまっ…!?やべぇ、このデカブツのスピードをなめてかかった…!?)

 

だが今となってはまさに形成逆転、既に妖怪は垣根の頚動脈に向けて爪を振り下ろした状態である。

この時点で勝敗は妖怪の勝ちか、万に一つの可能性にでも垣根が石礫を投擲して妖怪の皮膚を貫通し致命傷を与えるも垣根自身も切り裂かれて絶命、の引き分けで終わるかのどちらかであった

 

「パリィンッ!!」

 

ただしその勝利の可能性が…『幻想』であった場合、その勝利(げんそう)はいとも簡単に殺(こわ)される

 

「危ないぞ、垣根!妹紅の事で怒っているのは俺も同じだ…でもな、無策で突っ込むのもどうかと上条さんは思うんですのことよ?」

 

……何をやってやがるんだこいつは…?

それが俺の素直な感想だ。だって当麻はまさかの丸腰で妖怪の……そう、傷口に右ストレートを叩き込んでやがる。俺が偉そうに言えた義理じゃねぇがこんな体格差のある相手に殴り合いを挑むか普通?

だが俺が分からねぇのはそこじゃねぇよ……

 

「アガッ…!ゲホッ…!?き、貴様…な…にを…したァ……!?」

 

「…悪いな、この世界じゃ法律も無いし何より妖怪は人間を襲うのが当たり前なんだろ?…でもお前がさっき傷付けた人は俺達の友達なんだ、その人を殺されかけたって言うのにさ……そんなつまらねぇ幻想を!妖怪だって言うだけで人間を踏みにじって良いって言うふざけた幻想をッ!!俺が殺さない訳にはいかないんだ!!」

 

(何で当麻は妖怪に説教をかましてんだよ…?と言うより…当麻がデカブツの傷口を殴っただけで…!何でデカブツは固まってやがる…!?)

 

この時上条当麻は何か特別な急所を突いた訳でもない、毒物を用いた訳でもない

いや、正確には『急所を突いた』という表現が近いのかもしれない。そもそもこの戦法は藤原妹紅が上条当麻に提案した可能性と言うにはあまりに儚い、推論から始まっているのだ

 

『妖怪の身体を構成する妖力、それは具体的に身体のどこに存在するのか?それとも有形なのか?私自身何十年かは妖怪退治を生業にしていたけど今となってもそれははっきりと分からないんだ。ただ1つ…あくまで私の推測なんだけど、それは――――多分妖力は『妖怪の血液中』に多量に存在していると考えている。妖力は妖怪の不思議な術や腕力・脚力…その他様々な人間とは一線を画した力を振るう為に必要な物なんだけど、それを上手く用いるには血液中に巡らせておいた方が何かと効率が良いんだよ。分かりやすく言うなら人間が血液中の物質に酸素を運ばせているのと似たような物さ、だから当麻…もし妖怪に1人で遭遇して逃げ切れない時は――――』

 

「傷口を………殴るっ!!」

 

傷口から右手を離し、軽く拳を握ってから振りかぶり……殴(こわ)す

 

「ガァァァァァ!?き、貴様ァァァァ!!!!な、何を!?何故俺の妖力がァァァァ!!」

 

当麻の2発目の右ストレートを傷口に受けた時点でデカブツはパニック状態に陥り、たまらず俺達から距離を取った

 

「…まっ、先に単独で突っ込んだ事は謝るぜ。ただ無策じゃ無かったし怒り狂ってもない、あのままじゃ全員危なかったからな。俺には当麻達をこんな厄介毎に巻き込んだ垣根帝督(せきにんしゃ)としての責任がある、だから真っ先にカバーに入っただけの話だ。だがあのデカブツ野郎に何をしたんだよ?随分な慌てっぷりじゃねぇか」

 

「相変わらず強情だな、垣根は…まぁ気にしませんよーっと。あの場で誰かが引き付ける必要があったのも事実だからな…。ちなみに何をしたかって聞かれると…妖怪の力の源を破壊したんだ、どの程度破壊出来るかは妖怪の実力や傷口の大きさにもよるらしいが少なくともこの妖怪には効果的みたいだぞ?」

 

それは見りゃ分かるっての。このデカブツ、今ようやくパニックから復帰して……ってこれは不味いな。眼球が充血して殺気がダダ漏れになってやがる、多分なりふり構わず殺すっ!って展開が俺には見えるぜ

 

「はぁ……ダサい所を当麻に見られるはデカブツは激昂するは……やべー、不幸だー」

 

「貴様等ッ…!殺す…っ…生きたまま切り裂く…!!」

 

「それは上条さんの物真似なのか、垣根?あとあの妖怪…早目に何とかしないと危ないな…!」

 

「一応そのつもりだったんだが、あまりにも似てないもんだから我ながらちょっと恥ずかしかったぜ。ここは俺がどうにかするから他言無用で頼む」

 

隣の当麻は「やれやれ…」みたいな顔をしてやがるが俺は気にしない。それよりも今は…このデカブツにトドメを刺さねぇとな

 

まずは自身の筋力を強化する物質を頭でイメージし、創り出す。次に徐々にその量を増やす…すると垣根帝督の背中に6枚の天使の翼が現れる

 

「よぉ、デカブツ!本来なら頭が疲れるからこの翼は出したくはねぇが…お前は殺すより殴り飛ばした方が良さそうだ。だから安心しろ、激痛で済むんだからな」

 

…当麻がいる前で、仮に妖怪だとしても…殺しは見せたくねぇ

ただそれだけの理由で俺はこのデカブツを葬る事を諦めた、何て言うか…俺の中で勝手に当麻みたいな人種に殺しを見せるのは御法度だ、ってなってんだ

 

「殺す殺す殺すッ!!コロスコロスコロス…!!」

 

「もうそれしか言えねぇかよ?まぁ力の源を殴って壊されるなんて体験初めてだろうからパニックになるのも分からんでもないが……お前が始めた争いだ。外道なら外道らしく自分のケツは自分で拭きやがれ!!」

 

それを合図に俺は飛び上がりデカブツに向かって急接近を開始、対するデカブツは最早聞き取れない言語で何かを呟きながら両手の爪を振り上げながら突っ込んでくる。多分あれはコロス!とかほざいてやがるんだろうな

 

妖怪と垣根が激突するまであと3秒、2秒……その時点で先に仕掛けたのは垣根であった。ブォン!という風切り音を立てて6枚の翼の内、左右の一枚ずつが妖怪の爪目掛けて突き刺さる。だが妖怪は痛みを気にも止めていないのかはたまた怒りで痛覚を忘れているのか何にせよ垣根が動きを封じる為に起こした行動は無駄となってしまった

 

「コrgyスxyowpatス!!」

 

それどころか自らの爪に突き刺さった翼を自分から深く食い込ませて垣根を引き寄せたのである、いくら能力で筋力を強化したとは言えまさか人間が妖怪との力比べに、それも踏ん張りの効かない空中で敵う訳がない

そう、「力比べ」ならば

 

「俺を引き寄せたのがそんなに嬉しいかよ?勝手に喜んでやがれデカブツ、そんな翼で良けりゃくれてやる」

 

「tikvfdl…!?」

 

だが人間にも知恵がある、そして垣根帝督の能力は言わば知識と頭の演算能力によって発動している。つまりどういうことかと言うと――力比べで勝てないなら頭を働かせれば良い、そして頭の勝負に関してならば垣根帝督の右に出る者など早々存在しない

 

デカブツの動きを封じる為に突き刺した翼は逆に俺が引き寄せられる結果となってしまった、ならどうするか?

 

(簡単過ぎるんだよ、こんなのはあの一週間に比べりゃぬるま湯代わりにもなりはしねぇ!)

 

俺はギリギリのタイミングで翼を打ち消し、勢いを失ってデカブツの爪に飛び乗る。少し足を捻ったか?まぁ…この間合いなら外さねぇ!

 

「今から女相手に背後から不意打ちなんて三下な真似をする野郎にお似合いの末路をくれてやる!俺の仲間に用があるならこの俺にまず話を…通すのが筋ってもんだろうがッ!」

 

未元物質により強化された筋肉、加えて永遠亭での訓練、それら全てが合わさったアッパーカットが垣根帝督の右腕から放たれ妖怪の顎を打ち抜く。妖怪はゴキッ、という生々しい音を辺りに響かせてから身体を痙攣させつつ地面に倒れ込み口から泡を吹いている

 

「……次はねぇ、聴こえてんのかは分からねぇがそれだけは言っておくぞ」

 

妖怪が倒れるより先に地面に着地していた垣根はそれだけを呟きその場を立ち去る。

 

かくして妹紅を突如襲った巨大な体躯と爪を持つ名も無き妖怪は1人のLEVEL5と1人のLEVEL0の逆鱗に触れて敗北したのであった




今回は前書きを書かずに投稿したのですが如何でしょう?何分どうでも良いところが気になってしまいまして前書きでもかなり時間を食うんですよ。それで投稿頻度が下がるのもあれなのでしばらくは前書きを省きたいと思います。
ちなみにあのブチギレた名も無き妖怪君のあの言語は某最強の第一位とは微塵も縁がなく如何なる連想を読者の方がなさったとしても当方は知らぬ存ぜぬを貫かせて頂きます


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不幸な四人組、白黒魔法使いと出会う

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら垣根と当麻はあの妖怪を殺さず、お灸を据える程度で終わらせたらしい。被害者である私からすれば人里に手を出さないよう焼いておきたかったけど…滅多やたらに殺生をすると慧音に怒られるし、度が過ぎるとスキマ妖怪まで現れるから面倒なことこの上ない。それに今の二人にはあれくらいの妖怪は冷静に対処できるってことも分かった、これは主観になってしまうけど当麻の右手で妖力を破壊できることも証明されて先生としては嬉しい限りだ

 

「ふぅ…それにしてもここ最近は輝夜とも殺しあっていなかったから臓器を貫かれただけで意識が飛んじゃったよ。昔なら上半身と下半身がサヨナラしたってしばらくは意識があったんだけどね」

 

「あー何も聞こえない聞こえない…まったく、それで?早々にリザレクションをしたにも関わらず垣根と当麻を観察した気分はどう?私は結構ヒヤヒヤさせられたんだけど?」

 

私の隣で河童印の双眼鏡をしまった鈴仙は立ち上がりながらジト目でこちらを睨んできた、特に悪びれる様子もなく傷口の消毒と臓器の再生を終えた私は立ち上がって当麻と垣根の元へ向かう

 

「私だって気分は良くないさ、ただ…あの二人はただ私達に守られるだけの存在じゃないのもまた事実だろ?それにいつもいつも私達が守ってやれるとも限らない、時には子供に試練を課すこともまた大人の役目だって」

 

「慧音さんが言ってた、でしょ?確かにそうだけど…ってまさか2人を試すためにわざとあの妖怪に襲われたの?」

 

「まさか、いくら死に慣れた私でもそこまでえぐい事はしたくないね。あと私のお気に入りの台詞を先に言うんじゃない」

 

確かにいつかは適当な相手…まぁ私の予定では紅魔館の門番にお願いして当麻と弾幕ごっこで勝負してもらおうかと思ったんだけどその必要も無さそうだ、思いのほか予定が短縮出来たから

 

「実際、気配に気づいたんだけどね…それから回避しようと思ったその瞬間にはあのザマだ。完全な平和ボケってやつ」

 

「それなら仕方ないけど、でも最近は妙に妖怪が活発なような…妹紅はおかしいとは思わない?」

 

「その話なら当麻達が幻想郷に来る数週間前から慧音から聞いたよ、昼間でも…あぁ勿論人間に友好的な妖怪は別問題だけど妖怪が昼間でも派手に行動するようになったらしい。博麗の巫女に相談はしたらしいから心配は要らないと思うけど」

 

あのぐうたら巫女がちゃんと働けばね、と鈴仙はため息をつきながら背中の荷物を背負い直す。

(…実際問題、あの時私は妖怪の気配には気付いていた。気付いたからこそ回避しようとした、でも…いや考えすぎだろう。本当に私が平和ボケしてた可能性だってゼロじゃないんだ、気を引き締めないとな)

 

さっきの妖怪の件にしかり…スキマ妖怪があの日口にした「戦争」と言う言葉…無関係なら良いんだけど。どうも幻想郷に来る前…いやこっちに来てからもそうだけどよく生き死にの現場に立ち会う事が多かったせいで何となく不穏な空気は読めてしまう

 

「はぁ…不幸だな…」

 

「それは上条さんの口癖の真似なのか?まったく…皆揃いも揃って似てないんですよーっと」

 

「おっ当麻…ごめん、応援に行くのが遅れて悪かった。ちなみにだけど垣根も今の『不幸だー』ってのを真似たのか?」

 

永遠亭での訓練の一週間、余りにも当麻が『不幸だ』と呟くので直接指導に携わっていた私にもその口癖が移ってしまった。その為私は憂鬱な気分になると時々そう呟いてしまう、何と今回は更に不幸な事にその迷言の本家にそれを聞かれてしまったと来た。と、言うかいつの間にか合流してたんだな

 

「垣根の物真似の件も含めて気にする事は無いだろ、って言うか妹紅は仮にも怪我人…だった、の方が正しいな。その様子だとリザレクションも消毒も終わったんだな?」

 

「あぁ、おかげさまでね…そっちこそあの妖怪に無事勝利したんだろう?」

 

「トドメは勿論俺だぜ、あと当麻の口癖を真似たのは事故だ。ということでこれ以上突っ込まない方向性でお願いします」

 

「大事なのはトドメじゃなくて怪我の有無でしょ?当麻にしても垣根にしても1人で突っ込んだんだから打撲くらいはあるんじゃない?とっとと見せなさい」

 

とりあえず最初に私が襲われた場所から少し離れた木陰で垣根と当麻は足などを捻っていないかを鈴仙が見ることになった。でも結果としては二人とも特に怪我は無し、当の本人達もあの訓練漬けの一週間を思えばこんなのはぬるま湯以下だと余裕の発言。そこまでスパルタだったか?と鈴仙と2人で小首を傾げた時の垣根と当麻の顔面蒼白っぷりは面白かったなぁ

そんな訳で垣根と当麻が問題なく紅魔館を目指せると分かった所で出発、思わぬ戦闘で時間を取られた事がちょっと心配だけどこの際気にしても始まらない。それが私達の総意だった

 

「妹紅や永琳さんの話を聞いてはいたけど本当に妖怪が出るんだな、それもかなり好戦的な…もしかして幻想郷はどこもこんな感じなのか?」

 

「う~ん…どこもかしこも妖怪で溢れ返っているわけでも無いんだよ、最近は何故か妖怪の動きが活発になってるらしい。ただ出会う妖怪が皆全て好戦的って訳でもないさ、事実そこにいる鈴仙だって玉兎って名前の妖怪だろ?」

 

少し無言で歩き続けたけどまずは当麻がその空気に耐え切れず会話の口火を切る、こうなれば後は出発した時のように自然に会話に華が咲く

 

「そう言われてみればそうだったな、見てくれがまんま人間だったからすっかり忘れてたわ。ははっ、つくづく幻想郷ってのは愉快だな!住んでみれば暇にはならないだろうぜ」

 

「幻想郷の妖怪なんてそんなものよ、そもそも外界で言い伝わる吸血鬼だって人間に似た姿形でしょ?それに右ストレートで妖怪を黙らせたり、背中から天使の翼が生える人間なんて早々いないもの、おかげさまで私も毎日が退屈しなくて満足よ」

 

鈴仙・垣根組も冗談を交えながら雑談を楽しんでいるようだな

その後も体力を使いきらない程度に会話を維持して、紅魔館を目指す。そして何時間…とはいかなくとも一時間は確実に歩いた頃、ようやく幻想郷には珍しい洋風の屋敷の屋根が森から覗き見えた

 

「えっと、ここが霧の湖であれが紅魔館…由来は見たままの通りなんだろうけどいつ見ても目立つ屋敷だよ」

 

「…すっごいな…上条さんはこんな大きな屋敷、中々お目にかかる機会はないからな…。湖に面した大豪邸…ははっ…上条さんには10億光年以上距離のある家なんですのことよ…」

 

「豪邸だけが全てじゃないだろ、あとこんな馬鹿でかい屋敷を持つ幻想を抱くならまずは薬を売り切る事を考えようぜ。幻想(かみじょう)殺し(とうま)が幻想抱いてどうすんだよ?それとうどんげ、これはもう正面切って薬を売りに行けば良いのか?」

 

紅魔館を視界に入れるや否や垣根は早くもお仕事モードに突入、か。まぁそれが妥当なんだろうけど…よし、私も今は気持を切り替えて背中の荷物を全てお金に換えるとしよう

そんなことを私が考えていると不意に鈴仙が再び双眼鏡を取り出して覗き込みながら私達を呼びとめた

 

「待って、皆!紅魔館の門に美鈴さんと…誰かもう一人いる」

 

「どうしたんだ、鈴仙?こんな時間に尋ねてくるんだから紅魔館のお客さんじゃないのか?」

 

「てか、双眼鏡もあったのな。それで?その誰かもう一人ってのはお客さんなのか?もしくはうどんげも知ってるやつなのかよ?」

 

一気に2人から質問を受けた鈴仙はその質問に答えるでもなく、がっくりと双眼鏡から目を離してうなだれていた

一体誰が…いや大体の想像は付くけれど…。私の予想が外れていることを願いながら私は鈴仙から双眼鏡を借り、それを覗き込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧雨魔理沙SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は実に天気も良い、気温も快適で湿度も問題ない。そんな日には読書に限る、と言うのが私のモットーだ

 

「そんな訳だから大図書館の魔導書を借りに来たぜ、だからそこを退いてくれ」

 

「いやいや!何が『そんな訳』なんですか!?それにあなたのやっていることは借りるじゃなくて盗みでしょう!門番としてここを通す訳にはいきません!!」

 

いつもならこの時間帯にはこいつは昼寝しているから余裕で突破出来ると踏んだのは早計だったみたいなんだぜ、でもここで引き下る程私も甘くは無いぜ

普通の泥棒…もとい普通の魔法使いこと霧雨魔理沙は柄にもなく珍しく居眠りもせず職務を遂行している紅(もん)美鈴(ばん)を突破する為の思案を始める。普通の状況であればここでいくら押し問答を通そうがそれが通らないのが道理で、また門番も相手の反論には応じずさっさと追い返すのが定石なのだ。ただそれはこの紅美鈴と言う門番に霧雨魔理沙(ほんどろぼう)に対する半ば諦めのような感情が無く、霧雨魔理沙に『最悪、マスタースパークで美鈴ごと門をぶち抜けば良いや』などという暴論を通り越した強盗紛いの発想が無ければ、の話だが。

 

「盗みとは失礼だな、私はパチュリーの友達として魔導書を借りに来ただけだぜ。確かに貸出期間は長いかもしれないが盗人呼ばわりは心外なんだぜ」

 

「ほら、やっぱり!世間一般ではそれを盗みと言うんですから!それにあなたがマスパで門をぶち抜いて大図書館へ向かった時なんてお嬢様や咲夜さんには睨まれるし、そのぶち抜かれた門を誰が徹夜で修復しているか分かります!?」

 

ちっ、今から私がしようとした事が読まれてしまったんだぜ…!と、言うか私が言うのも何だがあれだけ跡形もなく瓦礫の山と化した門を美鈴は徹夜で直していたのか?見上げた根性だな

心の内では同情しながらも、こっそりと取り出したマジックアイテム……その銘を八卦炉と言うのだがそれをしまう姿には同情も憐れみも見受けられない。良く言うならばこの霧雨魔理沙は己の欲に素直、悪く言うならば……単なる泥棒であった、それも飛びきり腕が立つと言うのだから尚更性質が悪い

 

「それにしても美鈴がこんな時間帯に起きているなんて珍しいな、何かの異変の前触れじゃないのか?」

 

「し、失礼な…!私だって常に舟を漕いでいる訳ではありません、それに今屋敷の近くに『三つの気』を感じまして…その内二つは私も魔理沙さんもよく知る鈴仙さんと藤原妹紅さんだったのですが後一つの気は初めてお会いする方の気でおまけに…少々血の匂いが…したので少し気になりまして」

 

「血の匂いがする私も美鈴も初めて会う人間、か?それも鈴仙やあの不死鳥と一緒…う~ん、分からないな」

 

今更過ぎて忘れてたけど確か美鈴の能力は『気を操る程度の能力』だ、多分と言うか以前に美鈴本人が言っていたのを聞いたんだがある程度距離があってもその能力の応用で対象から放たれている『気』があれば美鈴にはそれだけである程度誰かは分かるらしい。そう言えば妖夢も前に『一流の剣客は敵と対峙した時に殺気を放ちません、何故ならある程度の剣客であればその殺気だけで相手の動きや太刀筋をある程度は予測しますから』って言ってたな。あの半人前でそれくらいは出来るんだから気に関する能力の持ち主である美鈴からすれば訳無いのも頷けるんだぜ

 

「確かに血の匂いもするのですがそれ以上に何と言うか…何となく嫌な気を内面に隠しているんですよ、その方。人間であることは間違いないのですが私も門番ですからね、本泥棒に加えてそんな物騒な方をお屋敷に無断で侵入させたとあっては今度こそ私が咲夜さんに粛清を受けてしまいますから」

 

「言っておくが私は本泥棒じゃなく借りて、いるだけなんだぜ!まっ、久しぶりに面白そうな話に出会えたんだ!私はその危ない奴の顔を拝んで出来れば弾幕ごっこもやってみたいぜ!!」

 

私の隣で美鈴が『はぁ…頼もしいんだか災難が増えたのかどっちか分からないなぁ…』なんてため息交じりにぼやいてるけどここはスルーだ。今はその気の正体を確かめるのが先決だ

そして待つこと数分、まず最初に見えたのは頭から真上に向けて生えたウサギの耳だ。これは言うまでもなく鈴仙だな。次に見えたのは紅と白のもんぺ、こいつもこいつで毎日服が変わらない蓬莱人の藤原妹紅だ。さすがは不変(かわらず)の蓬莱人ってことか?さて、これで2人は目視出来たから次で最……後?おかしいな、私の目に映っているのは…1人ではなく2人だ。なまじ美鈴が堂々と読み取った気は三人だ、って言ったからちょっと驚いたんだぜ

 

「おいおい、美鈴~いたのは三人じゃなくて四人じゃないか。やっぱり昼寝不足で集中できていないんじゃないか?」

 

「…いえ、私はちゃんと冴えてます。昼寝を一度抜いた位で能力が不安定になるほど華奢な鍛え方もしていません…、ですが…あの彼、黒髪のとげとげとした髪の少年からは…こんな至近距離になってもどれだけ能力で探りを入れても気が…感じられないんです」

 

(これはまたおかしな事になったな、美鈴がこんな小さなミスをするとも思えないし…それにいくらなんでも『気』がまったく感じられない人間なんているのか?既に死んだ幽霊の幽々子にも気はあるんだからどう見たって人間のあいつにだって)

妙だな、と私が呟こうとした所で門前に辿り着いた四人組の1人…私と同じ金髪の男が先に口を開いた

 

「取り込み中だったか?だったら悪いがちょっとここの喘息持ちの魔法使いに取り次いでくれ、永遠亭の薬を売りに来た。何だったらあんた達も買わねぇか?永遠亭の薬だから効能は俺が説明するよりもあんた達の方が詳しいだろうからな」

 

「永遠亭の薬売り?鈴仙がよく売り歩いているから効能なんかはよく知ってるから疑う気はないんだぜ、でもお前とそっちの黒髪の男は初めて見る顔だな」

 

「当たり前だろ、こいつら…金髪の方は垣根帝督、それで黒髪の方は上条当麻って言うんだが2人とも外来人だよ。訳合って今は私達4人で薬を売り歩いているんだ」

 

「そうですか、では1度パチュリー様に喘息の薬の在庫を窺ってみましょう。ですが…そちらの2人の男性は人間、ですか?」

 

私からの質問に妹紅が答えた後で今度は美鈴が門の前に立ち塞がったまま2人に問い掛ける、いきなり『人間なんですか?』って質問はどうかと思うが…

 

「失礼な門番だな、一応俺達は客の立場にあるんだからその客に対し」

 

「あーストップストップ!!だからその喧嘩腰で話すのは止めろ、垣根!お願いだから大切なお客さんを刺激するなよ、な!?…えっと、ところで俺と垣根が人間なのか?って質問だよな、証明しろと言われると垣根も上条さんもそれを証明する方法が無いだけに困るんだ。ほら、幻想郷の妖怪って人と姿形がそっくりなやつが多いだろ?」

 

それからすぐに『勿論俺と垣根は人間だ』と付け加えて当麻は半歩引き下がった

それはまったくフォローになってないぜ、黒髪じゃなくて上条!まぁ質問をした美鈴の聞き方にも問題があるよな、そもそも質問者の美鈴自体妖怪だけど見た目はこれ以上無いほど人間なんだぜ

でも外来人なんて珍しいな、それも2人ともただの外来人とは思えない何かを持っている予感がするぜ!

とりあえずこの外来人2人に助け舟を出してやろう、ついでに私も紅魔館に侵入(はい)れたら万々歳だからな。そう思って私が『2人が人間かどうかは置いておいて立ち話も何だから中に入ろうぜ』と言おうとした時だった

 

「へぇ、面白い人妖が揃ってるんだな。永い夜の異変で私に負けた2人と…外来人2人か、我が紅魔館に何か用でもあるのか?」

 

いつの間にか陽はその身のほとんどを地平線に隠し、辺りの景色を暗く染め上げていた。何かに反応するように夕闇を舞う蝙蝠、辺り一帯の景色とは反比例してその『紅』が目立つ紅魔館

そして極め付けはそんな空間が全て自分の引き立て役だと言わんばかりに悠然と宙に浮かぶ吸血鬼―――レミリア・スカーレットのにやりと笑みを浮かべた顔だった

 

やがて抵抗するように僅かに辺りを照らしていた陽も完全に沈んでしまった、そう……これからは吸血鬼達の時間である




危ない危ない、もうちょっとで更新間隔が二週間に達してしまう所でしたよ。さすがに二週間も開ける訳にはいきませんからね、と言うのもどうやら今まで以上に私情で厄介事が増えまして…言い訳にしかなりませんが申し訳ありません、更新間隔が落ちるかもしれません。失踪だけはしないことは確かなのでその点はご安心ください

さて、いよいよおぜうもといレミリアお嬢様が御自らご登場なさいました。やっぱり夜の紅魔館に辿り着くなんて上条さんの不幸は安定だな~、あはは~

P.S 私も皆さんのようにかっこよくルビが振りたい


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神の槍(グングニル)と神殺し(イマジンブレイカ―)

前半は魔理沙が空気化、後半も準空気化

これから活躍するから仕方ないんです


上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…薬を売りに来たんだ、永遠亭の薬をさ。門番さんからは人間かどうかを疑われたけど俺達は人間だし、仮に人間じゃ無かったとしても敵意はないんだ。まずは話だけでも良いから聞いてくれないか?」

 

「話を聞くか、薬を買うか、それはこの紅魔館の当主である私が決める事だ。わざわざ人間がここまで来た事は褒めてやるが生憎とそれだけで情けをかけてやるほど私は優しくはないぞ」

 

…何故だか分からないけどどうやらこの吸血鬼、レミリア・スカーレットは素直に薬を買う気はないみたいだな。確かに学園都市でも学生の寮にまで推し掛けて勉強教材なんかを売り込んでくるセールスマンがいたような…そんな時は決まって居留守を使ってやり過ごすか不幸にも部屋にいることを勘付かれた時は適当に相槌を打って上条さんも追い返していたから嫌がる吸血鬼の気持ちが分からないでもない。

ちなみに上条当麻の場合、居留守を使う比率と勘付かれる比率では圧倒的に後者が多いのだがそれは言うまでもない。彼の幻想殺しは現代社会で戦うセールスマン達を365日24時間無償で応援しているのだ

 

「そうか、じゃあどうすれば良いんだ?自己紹介は…そっちの門番さんにしたから必要無いと思うぜ」

 

「それは惜しかったな、私も後少し早く出てくれば良かったか…だが自己紹介が終わってしまったのなら話す事はもうないな。興冷めだ、もう帰れ」

 

「待てよ吸血鬼、てめぇの都合で勝手に話を済ませられても俺達は困る。それに何か勘違いしているようだが俺達はてめぇみたいな吸血鬼に用は無い、どっちかって言うと客になるかもしれない喘息持ちの魔法使いに用があるんでな。お前は御託を捏ねずに俺達を案内しろ、仕事が終わって金さえ貰えるんなら自己紹介だろうが身の上話だろうと何だってやってやるよ」

 

…ここで早速商談がご破算になりかけてしまったんですのことよ、主に吸血鬼と垣根のせいで。このままでは非常にマズイ、商談が成功するとか潰れるとかその次元の話じゃ無くてそれ以上にマズイ展開になってしまう。学校のテストでの勘ならともかくこんな時の上条さんの不幸センサーはまず外れない

 

「おかしいな、私には人間が何か戯言をほざくのが聞こえたが…何かの聞き間違いか?」

 

「聞き間違いだろうとそうでなかろうと俺達としちゃ大助かりだ。安心しろ、お前みたいな傲慢なクソ野郎にも永遠亭の薬は対応できる、点耳薬も品揃えにあるから買って行けよ」

 

「馬鹿、垣根!何で無用に吸血鬼を煽るんだよ!?と、とりあえず謝れ!レミリアさんだったか?垣根はあんたに門前払いを食らってムカッと来ただけだ、気にしないでくれ!」

 

「…ハハッ」

 

「そうよ、垣根!何であんたって馬鹿は次から次へと…!今ここで垣根が吸血鬼と戦って勝てるつもり…!?百歩譲って弾幕ごっこで勝負したって勝ち目ゼロじゃない…!」

 

「フフッ…アハハッ…!」

 

とりあえず今日の所は引き返そう!妹紅にも垣根と吸血鬼を諌めるよう頼まないと…!

 

「妹紅からも何か言ってやってくれ!……って妹紅…?」

 

「…残念だね、当麻。後もうちょっと…とはお世辞にも言えないけど手遅れだよ

 

あの吸血鬼、もうスイッチが入ってる」

 

さっきから地味にアハハッ、って声が聞こえてただろ?と妹紅が俺に告げた時には手遅れ。さっきまで辺りを飛び回っていたはずの蝙蝠は既に消え去り、代わりに人外だけが放つ威圧感が俺達を貫いた

 

「面白い…良いぞお前達!!ここ最近は勘違いを起こした馬鹿な妖怪達が紅魔館を襲う事が数回あったが…!それらは全てそこの美鈴に退けられた!!だが今回は違う!お前達は確固たる自信を持ってこの夜の王たる吸血鬼を罵って来た、ならば私もその愚かな人間達には強さを持って応えよう!調度今からは吸血鬼の時間だ、存分に…!!」

 

…どうやら記念すべき第一回目の商談は見事御破算になったらしい、その証拠にレミリア・スカーレットは俺達を興冷めだ、とあしらった時のつまらなさそうな表情とは打って変わって獲物を狩る獣のような目つきを浮かべながら掌に何かエネルギー…多分魔力なんだろうがとにかくそれを集めている

 

「…俺も大概すぐに人を煽るけどよ、あいつも大概に短気だよな」

 

最初に身構えたのはこの商談を御破算にした張本人にして自らを責任者と名乗る垣根だった。頼むから責任者ならもう少し上条さんをヒヤヒヤさせないでください、お願いだから

当の垣根帝督はレミリア・スカーレットが放つ威圧感からこれより始まるのは弾幕ごっこでは無いと判断、その為懐の拳銃は抜かずに瞳を閉じてから集中して天使の翼を顕現させる

 

「ほんっと嫌になるわ、これだったら私一人で薬を売った方がよっぽど速いんじゃないかしら」

 

次に鈴仙が指で拳銃の形を作り、身構える。足が一瞬震えたけどすぐに立ち直したのはさすがだと思う

 

「やれやれ、私も文句を言いたい所ではあるけど…調度この吸血鬼には永夜異変の後の肝試しで私の友達が世話になってるんだ。今更報復云々と抜かす気は無いしその友達も報復なんて望まないけど…借りた借りは返さないってのもその友達の主義に反するんでね、良い機会だよ」

 

垣根、鈴仙と続いて今度は妹紅にもスイッチが入り背中から燃え盛る紅翼が出現する。

 

(何で皆こんなに冷静にスイッチ入るんだよ本当…上条さんは普通に薬を売り歩いて普通に永琳さんにお金を返したかったな…はぁ…まったく…)

 

「不幸だ…」

 

ここまでくれば否が応でも分かる、戦って勝つしかない、と。そしていくら俺達が人数的には圧倒的に勝っているとは言え戦力差も勝っている訳ではないことも

 

「存分に…!!存分に私を楽しませろっ!!!『神槍「スピア・ザ・グングニル」!!』

 

レミリアの手に現れたのは紅い槍、もしくは…人間も妖怪も神も無く全てを無慈悲に紅い肉塊に変える為の殺戮の権化。その銘をスピア・ザ・グングニル、レミリア・スカーレットの大技である

 

「で、先陣は誰が切るんだ?俺からで構わないってんならあのクソ吸血鬼ごと槍をぶち抜くぜ」

 

「出来もしないことを言わないの、この面子の中であの神槍と正面からぶつかれるのなんて2人しかいないじゃない」

 

「私は構わないけどあの槍を相殺するんなら垣根や鈴仙も間違いなく黒焦げになるくらいの炎じゃないと無理だよ、そうなると…あの吸血鬼に一泡吹かせるにも無傷で反撃するためにも適役は」

 

「…分かったよ、分かりましたよ!要は上条さんがあの槍に突っ込めば良いんだろ!?炎に散々油を撒いて消火活動をするのは上条さんなんですね分かります!…まったく、本当についてねぇよな。俺も…!あんたも、レミリア・スカーレット!!」

 

レミリアは神槍を四人に向かって放つ、上条当麻は右手を突き出しそれを迎え撃つ

片や、神の槍の銘を持つグングニル。片や神をも殺せる幻想殺し、その勝負の行方はグングニルと幻想殺しが衝突した事によって生まれた暴風と土煙の中に隠されたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅美鈴SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさかお嬢様とあの謎の少年達が出会って数分で激突するハメになるとは…。お嬢様にあしらわれただけで反応した金髪の少年の短気っぷりにも驚きましたがそれに反応するお嬢様の戦闘狂っぷりにも驚きです。確かに最近はこの紅魔館にも命知らずな妖怪が襲ってくる事が増えてお嬢様のイライラが募っていたのも原因の一つではあったんでしょうけど…いくら何でも初対面の子供に襲いかからなくても良いとは思うのですが

 

「ケホッケホッ!め、美鈴!いきなり2人がぶつかるなんてビックリなんだぜ!!そもそもいつレミリアは出て来たんだよ?」

 

「私が気付いたのは薬売りの皆さんが到着される少し前ですよ、恐らく私と同じく他とは違う彼らの雰囲気に気付いて気になったのかと」

 

私は目の前の土煙を手で払いながら必死に目を凝らす、辺りが土煙で覆われる直前に見えた光景はお嬢様が神槍を放ち上条と名乗る少年が右手を突き出した所。普通ならば少年は無残な肉塊どころか身体すら残らない、けれど鈴仙さんや妹紅さんがあの少年に任せた所を見ると一応対策は持ち合わせていたのでしょうか?気を探っても探知出来たのは3つのみ、元よりあの少年の気は探知できなかったので生死はこの目で確認するしかなさそうです

 

「しっかし、レミリアも大人げないな。いくら煽られたからっていきなりグングニルは無いだろ?周りの奴らもそれを止めようともしなかったし…さすがに不味いんじゃないか?」

 

「そうですね、いくら何でも永遠亭に関わりがある人間を殺してしまったとなるとごめんなさいではすま」

 

「…ゴホッゴホッ!!あれ?もしかして上条さんって死んだ事にされてるのか?でもこんなに土煙が酷いとさすがに喉が詰まって上条さんも死んでしまうんですの事よ…!」

 

「落ち着け当麻、全員分の薬は守り切ったから心配すんな。お前が耐え抜けば何も問題ねぇよ」

 

最初に響いたのは真正面からぶつかったであろう上条当麻の声だった、そのすぐ後に六枚の白い翼が風を巻き起こし舞い上がっていた土煙が雲散霧消していく

 

何故、金髪の少年から翼が生えているのか?それも気にはなりますが今は「何故上条と言う少年は無傷なのか?」というのが一番の疑問です

 

「おぉ、無事だったのか。それは何よりなんだぜ、さすがに目の前で人が死ぬのは寝覚めが悪いからな。でも何であの黒髪は無傷なんだぜ?」

 

他人事のように白黒魔法使いは問いかける、寝覚めが悪いのなら助けに行けば良いのでは?と美鈴は言い返したくなったが今更そんな事に意味はない

そんなこと私が知っている訳無いじゃないですか、むしろ私が聞きたいくらいですよ

それに彼自身は無傷でも…

 

(紅魔館の門はボロボロなんですよね…あぁ、これはもう咲夜さんに粛清されるのは確定かなぁ…)

 

グングニルが放たれた衝撃波の突貫工事により美鈴が守るべき門は風通しが良くなって、と言うかあまり原型を留めていない。専門用語を用いるならば半壊だ

そんな見るも無残な門だった場所を泣く泣く見つめて合掌をした後に、美鈴は完全で瀟洒なメイドに対する言い訳を必死に考えながらさっきから気になっている疑問を解決することにした

 

「こちらから仕掛けておいておかしな話ですが、どんな能力をどう使えばレミリアお嬢様の技を無効化出来たのですか?どうも貴方が魔法や妖術を用いた風には見えませんでしたから」

 

「あぁ~…何て言うかさ…多分信じて貰えないんだろうけど俺の右手はちょっと特殊なんだ、幻想郷の人に分かりやすく伝えるなら俺の能力は『右手に触れたありとあらゆる異能の力を打ち消す程度の能力』、それでさっきの槍に触れて打ち消した…って所だな」

 

上条さんはさもそれが当然であるかのように頭をかきながら応える

なるほど…確かにそれならば私が気を探れない事にも合点がつきます

羨ましい能力ですね、と美鈴が返答しようとした瞬間に今度は神槍の代わりに言葉の槍が放たれた

 

「やってくれるじゃねぇかクソ吸血鬼が、お前は煽られる度にさっきみたく槍をぶっ放すのかよ?…人間は数が多いからって何でもかんでもおもちゃにして良いとか思ってんのかお前は?」

 

「そう怒るな、第一吸血鬼を煽る物好きは人妖含めてそういないし人間を不用意に襲うのは幻想郷のルールに反する。最も…思いあがって誰にでも噛みつくような犬っころにまでそのルールが適用されるとは思わなかったんだよ」

 

「…そうかい、とりあえず俺の事を犬っころ呼ばわりした事については客になる可能性を考慮して許してやるよ。だが…煽られた位で殺しにかかってくる短気な蝙蝠を返り打ちにするな、なんてルールもねぇんだろ?」

 

売り言葉に買い言葉、お嬢様が挑発すれば金髪の少年も煽り返す。このままで行くと…投げられた槍に何が返ってくるのか分かったものではありません

 

「…フンッ、そこまで大層な口を叩くんだ。実力も伴っての発言だと見える、久し振りに威勢の良い人間と妖怪が訪れたんだ…口喧嘩で勝敗を喫するのはあまりに華がない

お前達もそうは思わないか?」

 

「要は…上条さん達に勝負を挑むってことか?」

 

「あぁ、お前達も知っているとは思うが幻想郷では揉め事は弾幕ごっこで解決すると決まっている。中には例外で不死である事を良い事にそれを平気で破る人間もいるらしいがな、生憎と私は不死身じゃない。そして弾幕ごっこによる取り決めは絶対だ、お前達が勝てば薬をいくらでも買おう、勿論言い値で良い。だが…もし私が、紅魔館が勝利した時は…」

 

「勝利した時は…?何だよ、まさか上条さん達に死ねって言うんじゃないだろうな?」

 

「まさか、殺そうと思えばお前たちなんていつでも殺れる。だが…そこの金髪には先程の非礼を土下座で詫びて貰おうか、それも私の靴を舐めるオマケ付きだ。他の3人にも同じ位の恥辱を味わわせてやるから安心しろ。どうだ、この勝負…受けるか?」

 

(提示された条件は…まぁスカーレット家の財力を考慮するならばこちらが勝っても負けても損はありませんが、彼らにとっては些か厳しい条件ではないでしょうか?しかもお嬢様には運命が操れる…今更断るとは言えないのでしょうが…これも彼等が選んだ道です)

提示された条件が条件だったため、さすがにあの金髪少年が怒りだす可能性もある。門番としてこれ以上の無駄な犠牲と咲夜さんからのお叱りを減らす為に私は万が一の時は動けるように身構えた

 

「よし、その勝負を受けるぜ」

 

「断る理由が無いな、薬を言い値で買ってくれる上に借りも返せるなんて最高じゃないか」

 

「断って手ぶらで永遠亭へ帰る方が恥辱よりよっぽど怖いわ、私も勿論受けるわよ」

 

「言うまでもなく俺は目障り耳障りな幼女をぶっ飛ばして稼ぐだけだ、生憎と土下座は俺よりクソ吸血鬼の方が様になって良いと思うぜ」

 

特に迷う訳でもなく相談する訳でもなく即答、それも全員揃ってと言うのだから驚かされる

なるほど…覚悟は十分だ、と。ならば私もお嬢様の、紅魔館の誇りにかけてそれを阻止しなければならない

 

「お嬢様、それでは彼らは4人ですがどうなさいますか?」

 

「そうだな、私がまとめて叩き潰しても良いが…せっかくだから4対4と洒落込もうじゃないか」

 

「…かしこまりました、細かなルールの方はお嬢様にお任せ致します」

 

「と、言う事だ。勝負は4対4で4戦の内先に3勝した側の勝利とする、勝負形式は完全な1対1で私達もお前達も妨害・手助けの一切を禁止、仮に引き分けた場合は両陣営の一番元気がある奴の一騎打ちで決めるとしよう。何か質問はあるか?」

 

「じゃあ1つだけ質問だ、上条さん以外の3人は弾幕を張れるんだが俺は張れないんだよ。勿論対抗策も用意してあるがあんた達はそれも弾幕ごっことして許容してくれるのか?」

 

「弾幕が張れないにも拘らずよく戦う気になれたな、だがお前の能力の特性上は不可抗力…か。良いだろう、ならば1つだけ妥協してやる。勝負の方法は弾幕ごっこ以外も可とする、ただしあまりにふざけた勝負方法だった時は…言うまでも無いな?」

 

4人を軽く威圧してから地面に降り立ったお嬢様は私を一瞥してきた、要は弾幕ごっこが苦手な私への配慮なのでしょうか?

 

「お、お嬢様…わざわざご配慮頂かなくとも紅魔館の門番として例え弾幕ごっこでもしっかりと門を護り切ってみせます、ですからご心配頂かなくとも…」

 

「勘違いするな、美鈴。私はお前に配慮したんじゃない、私は『本気』の勝負を望んでいるんだ…言いたい事は分かるな?」

 

私の本気…なるほど確かに私唯一の取り柄でもある『アレ』は弾幕ごっこ以上に本気になれるでしょう

 

「かしこまりました、この不肖紅美鈴…私の本気でこの門を4人から護り切ってみせましょう!」

 

「フンッ、せいぜい意気込み過ぎてあの4人以外の侵入者を見逃さないようにするんだな」

 

そう仰ったお嬢様の視線の先には……何とこんな時に場の空気も読まず紅魔館侵入を企む本泥棒が1人、私はその本泥棒の首根っこを捕まえて外に放り出す

 

「相変わらずしぶとい方ですね、少し位は場の空気を読んでください…それと今からここは門から争いの場に変わります。それなりに荒れるでしょうから無関係の貴女は帰って下さい」

 

「チッ…!後もう少しで侵入できたのに惜しかった…!!でも蚊帳の外にされた私としてはする事がなくて辛かったんだぜ?」

 

本当にこの泥棒は…反省どころか躊躇するという概念すらないのかもしれません…

 

「えっと…とりあえず勝負方法は何でも良くて一番手は…美鈴さん、貴女で良いのよね?」

 

恐らくお嬢様の望みを理解した上でこの人選…案外彼らも短気であっても話が分からない訳ではないようです

 

「えぇ、この勝負…紅魔館の一番手はこの紅美鈴が務めさせて頂きます」

 

「…この勝負、永遠亭側の一番手は私が、鈴仙が務めさせて頂きます」

 

「一応だが聞いておくぜ、2人はどんな勝負をする気なんだぜ?」

 

最後の最後で本泥棒…否、魔理沙さんは空気を読んだのかそれとも本当に勝負方法を想像できなかったから問いかけたのか…。今は空気を読んでくれたという事にしておきましょう

 

「…勝負内容はもちろん」

 

「「体術勝負!!」」




どうもお久になるとは思います、今後はこれくらいの投稿間隔になるかと…

さて、次の投稿までには近くのレンタルショップで格闘シーンが満載の洋画を借りてくるとしましょうか


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格闘家~Martial artist~

紅美鈴SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それでは一通りのルールを確認しておきましょう、時間は無制限、勝利条件は相手を降参させるか戦闘不能に陥らせるか…武器と能力はどうしますか?」

 

私はこれ以上、『門らしき場所』を『門だった場所』にさせないため真上から見て門と平行になる位置に陣取る、これなら仮に戦闘が激化しても余程の事が無い限り門の破壊は防げるでしょう

 

「どちらも私は使わない、あなた相手に格闘で重りを付けて勝てると自惚れるほど傲慢じゃないわ。時間と勝利条件についても異議は無いし私から追加するルールも特には無いもの」

 

そう言い切った彼女…鈴仙さんは太ももに取りつけたホルダーから拳銃とナイフを抜くと先程の金髪少年にそれを投げ渡す。

 

「横槍入れるみたいで悪いんだけどよ、その勝負ってのは万が一その気が無くとも相手を殺したらどうなるんだ?例えば今うどんげがカバー無しのナイフを俺に投げ渡したみたいにな、うどんげが殺られる可能性もあるがアンタが死んだって俺は詫びる気は無いぜ?」

 

金髪少年の問いかけはなるほど確かに、私は彼女を殺す気はありませんしお嬢様からもその命令は下っていない訳ですから鈴仙さんが死ぬ可能性はまず無いでしょう

ですが問題は私…ですか

 

「ご心配なく、少なくとも格上の相手にすぐ噛みつくような短気な性格ではないつもりですからある程度は死を察知できますしそれ相応の『覚悟』も持ち合わせていますよ」

 

「そうかよ、だったら精々うどんげにKOされた時の事も覚悟して言い訳でも考えておくんだな。お前ならすぐに目を回していそうだ」

 

「…ふふっ、随分と信頼関係がおありのようで」

 

「私には信頼関係じゃなくて垣根の頭に障害があるように見えるんだけど…恥ずかしい…。馬鹿は無視してそろそろ始めましょう?」

 

はい、それもそうですねと美鈴は返す。近くで垣根の更なる煽り文句が一瞬だけ聞こえたがそれもすぐに硬い物を殴ったようなゴツン!!という音と何かが燃えるゴウゴウという音の中に消えてしまった

そして鈴仙は顔の前で拳を軽く握り、臨戦態勢に入りながら美鈴にジリジリと近寄る。

対する美鈴はフゥー…と息をゆっくりと吐き出して身体の力を抜いていく

 

「…先は挑戦者であるあなたに譲りましょう」

 

「それでは…遠慮なく」

 

遠慮なく、この言葉を放った時に彼女は既に動きだし私の手前で身体を捻りながら足に力を込めていた。すなわち私の反応が一瞬遅れたことになる、そして格闘に限らず勝負において先制の反応に遅れると言うのはもってのほかである

 

だが━━━━

鈴仙の足から自身の顔面に向けて放たれた回し蹴りを美鈴は避けるでも受け止める訳でもなく、半歩だけ後退しながら手で靴の踵を前方へと弾いた。弾かれた鈴仙の足は虚しく何もない空間を蹴り抜きながら物理法則に従って地面へと向かい━━無防備な背中ががら空きになる

 

「まずは一本、私が取らせて頂きます」

 

「ッ!?しまっ━━」

 

私がそのがら空きになった背後を見逃す訳もなく、左手は彼女の肩を掴み開いた手を背中に押し当てそのまま地面に叩きつける

ドスン、という低く鈍い音が響く、鈴仙が美鈴に先制攻撃を許した証拠だ

 

「…大、丈夫そうだな…鈴仙、叩きつけられるまでは一瞬だったけど音も鈍いし地面にめり込んだって訳でもない。だろ、妹紅?」

 

「いや…あれは不味いかもね、確かに一撃目から地面にめり込むってのも大ダメージだけど…あれだけの速度で叩きつけられてあんな鈍い音しか響かないのは絶対におかしい。多分あれは…」

 

(さすが自身の仇と長年殺し、殺し合いを重ねてきた妹紅さんなら分かりますか。まぁ今更隠すような秘伝の技術と言う訳でも無いので構いませんが)

 

上条当麻は一般人よりは確実に戦い慣れている、本人も周囲もそれは認めるところだ。だがその戦いのほとんどは戦術や策略といった物の絡まない言葉にするならば『規模の大き過ぎる喧嘩』である、だからこそ上条当麻から視た2人の一瞬の攻防は今までの経験則から言えば差し支えないものだった

 

「ゲホッゲホッ!!ガハッ…!?一体何を…!?」

 

「さぁ、何でしょうか?勿論能力は一切使っていませんよ、それは貴女に対する最低の侮辱に値しますし何より私にも格闘家としてのプライドがありますから」

 

叩きつけられた鈴仙の口から漏れたのは先制を許した事に対する後悔の言葉でも余裕を見せる訳でもなく、、、紅い血。量はそう多くないが吐血したと言う事は臓器を痛めた証拠でもある

直撃すれば気絶は免れないであろう威力と速度を回し蹴りを放った鈴仙はある事を確信し、ある事を誤認していた。

まず確信していたのはそれは自身の回し蹴りが決まれば一撃でノックアウトとはいかなくとも二撃目、三撃目に繋げられ仮にガードされてもある程度は身体を揺らせる。身体を揺らせば体勢が崩れ結局はまた連撃へと繋がる、勿論回避される事も考慮したがそれも結果はガードされた時とほぼ同じになるだろう

ここまでは良かったのだ、実際に美鈴もこれをまともに顔面に食らえば深手を避けられないであろうことはすぐに理解していた

だが、ここからが鈴仙の誤算。ガードも回避もままならない、ならばどうするか?美鈴の出した答えは『弾く』こと。正確には自分に向かってくる回し蹴りのベクトルに力を加えて進む方向をほんの少しだけ変化させる、当然敵を一撃で仕留める威力をもった蹴りは一度力のベクトルを変えられてしまうと成す術はない

 

「とに…かく!今は距離を取らないと…!」

 

「させませんよ、このまま勝たせて頂きます!」

 

自身が受けた攻撃の分析よりもまずは未だ地面に組み伏せられた状況を打破するべきだと考えた鈴仙は美鈴の拘束から抜け出すべく身体に力を込める、だが美鈴もそんなことは百も承知。それを阻止するために背中に押し当てていた手を動かし恐らく負傷が激しいであろう腹部を圧迫する為に腰に手を当てる

 

「ッ………!!!!!アァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

「鈴仙…!ちくしょう!いくら勝負だからってこんなの鈴仙の身体が勝ち負けより先に潰れるぞ!!」

 

上条当麻は先程レミリアが取り決めたルールを承知の上で、美鈴を止めようと拳を握る。一週間の永遠亭での修業を経ても彼の目の前で苦しむ人は助けると言う長所であり短所だけは変わる事はなかったのだ

 

流石にこの戦法は十代半ばの子供には厳しいものがあったのかもしれない、かと言って今ここで降参していない鈴仙さんの拘束を解くのは問題外だ。ならば片足を浮かせてダメージの少ない箇所を狙ってあの黒髪の少年を蹴り飛ばす?…不可能ではないが未だに鈴仙さんはかなりの力で抵抗し続けている…正直言って今の体制を維持したままあの少年を迎撃するのは難しい…。普段滅多に使わない頭で最善策を考えてみたものの、流石と言うべきかどう言うべきか最善策など思い付く訳もない。そして、いよいよ不味くなってきた所で行動を起こしたのは意外な人物だった

 

「とう…まっ!!大丈夫!!だいじょ…ぶ…だから!!そこで見ていて!かきねも…!もこっ…うも!」

 

「…っ…でも鈴仙!その傷はかすり傷なんてレベルじゃないぞ!?いくらお前が妖怪だとしても今すぐ治療しないと…!」

 

「信じろよ、当麻。うどんげはまだ白旗をあげていない、それにあの野郎はムカつくが殺す気はないと言った…信じる気は毛頭ないが仮にもうどんげを殺したならすぐさま後を追わせてやれば良いだけだろ」

 

「そうだ、当麻。お前のその気持ちは分からないでもないがこれは実戦だ、仕掛けたのはこちらで門番は何もルールに違反していないだろ?むしろ今ルールを破ろうとしているのは当麻…お前自身だよ」

 

…これは意外な展開とでも言いましょうか、鈴仙さんが拘束から抜け出す為にもがきながらも黒髪の少年を制止したのも意外ですが後の2人はそれ以上に意外でした。特にあの金髪の少年はすぐさま飛びかかってくるのではないかとヒヤヒヤさせられたのですが

 

「…悪い…でも俺は本当に鈴仙が死ぬと感じたら次は制止を無視してでも止めに入るぜ」

 

「そんな場面が仮に訪れたら…な。その時はあの中華門番の幻想ごと当麻の右手でぶっ飛ばしてこいよ、ルール違反だ何だと言われようがお前のミスは俺のミスだ。責任とって土下座でも靴でも舐めてやるよ、間違って噛み砕くかもしれねぇがな」

 

「当麻はともかく垣根は信頼して良いのかどうなのか…でも鈴仙、お前はまだ戦える…それだけは信じたぞ?」

 

「えぇ…!すぐに勝ちを奪い取って戻ってくるわ…!!」

 

心なしか…鈴仙さんの抵抗する力が強くなったような…きっと気のせいではないでしょう。ならば私が取るべき手段は1つ

 

「相談は纏まりましたか?あぁルール違反の件でしたらお気になさらず、怒気程度で拘束は緩みませんし誰一人として私に触れてすらいない。ですから今のところは土下座の心配はありませんよ」

 

「それはどうも…!安心できたおかげでこの痛みも…!拘束も乗り切れそうよ…!」

 

さて…理想としてはこのまま鈴仙さんが痛みで気絶してくれるのがベストなのですが…どうやらこの勝負、一筋縄ではいきそうもありません

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴仙・優曇華院・イナバSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これまでの経緯を落ち着いて把握してみよう、渾身の回し蹴りは軌道を反らされそれからすぐにカウンターを貰ってしまった。多分骨は折れていないと思うけど内臓が揺らされた、お陰さまで今も我慢していないとまた血を吐いてしまいそうだ

 

(考えれば考えるほど不味い状況じゃない、これって…!!焦っても逆効果なのは分かるけど焦らずにはいられない…!!)

 

未だに拘束からは脱出出来ず、臓器へのダメージも深刻。アドレナリンの分泌により痛みはあまり感じないがもしかするとそのせいで骨が折れている事に気付いていないのかもしれない。もしアドレナリンの効力が切れてしまえば途端に鈴仙は身体の内側からの痛みと美鈴からの圧迫の痛みに耐えきれず押しつぶされてしまう可能性も否めない

はっきり言って絶体絶命である、だが自然と上条当麻が自分の為に足を踏み出した時は声が出た。理由は分からないがとにかく自分は絶体絶命ではあるものの、まだ負けが確定した訳ではないらしい

 

「さて、どうした…ものかしら…!」

 

ただ抑えつけられただけなら、どうとでも抜け出す方法はある。でも今の私は臓器を損傷してその損傷した箇所を押しつぶすように圧迫されている、もがくだけでも激痛が走るのにそれが抜け出すとなると…痛みによるショック死もあり得るかもしれない

 

「中々タフですね…!あれを食らってまだ意識を保っていられるなんて自信が喪失しそうですよ!」

 

「永遠亭で八意永琳様に仕えるのならこれくらいのタフネスは前提条件よ…!とは言っても師匠はこんな滅茶苦茶なパワハラはしなかったけど…!!」

 

そう、師匠なら内臓だけをピンポイントで揺らすなどと言う生ぬるい事はせずに私の精神も、内臓も、骨も、全てを揺らしてくるから。多分注射一本で…って違う!今はそんなことを考えている暇はないじゃない!!

 

(覚悟を決めて最後の力を振り絞る…?ダメ、リスクが大き過ぎて試せない…!でもこのままじゃ間違い無く私の体力が先に尽きる…!)

 

自爆覚悟の特攻か限りなくゼロに近い奇跡を待つか…どちらとも私がそのまま負ける結果に繋がる確率の方が圧倒的に大きい。更に間の悪い事に長考する余裕はまったくない、今すぐに何らかの策を講じなければ私が気絶して見事敗北…なんて末路も十二分にあり得る

せめて私の肩と腰を抑える手のどちらか片方でも無くなったのなら、そんな無い物ねだりを考える余裕などないのに自然と脳裏にはその欲求が浮かんでくる

 

(ほんっとたまったものじゃないわ…ピンチだって言うのに頭に浮かぶのは不利を打破するアイデアじゃなくて無い物ねだり…!……待って…もし、本当にどちらかの手を跳ね除けるまではいかなくとも…せめて拘束を緩める位なら…!)

 

鈴仙の脳裏に浮かんだ案は無い物ねだりでしか無かった、だが…見方を変えればどうだろうか?もし、それが無いものねだりではなく━━鈴仙自身の身体が長年の経験と訓練に基づいた直感から弾き出した今行使できる最も有利な作戦だとすれば?そうなれば自ずと見えてくる物は全く異なってくる

 

「そろそろ…降参して頂かないと本当に鈴仙さんの身体が持ちませんよ?…もし降参して頂けないのであれば…」

 

格闘家は、紅美鈴は先程まで現状維持でもがく事しか出来なかった鈴仙の僅かな変化を瞬時に感じ取った。間違い無くこの敵は降参も、このままもがいて負ける事も考えていない、と。むしろここから確実に逆転を狙ってくる、私が本当に警戒すべきなのはむしろこれからであり早急にトドメを指さなければならない

だからこそ美鈴は目の前の兵士が本気になる前に決着を急いだ、だが鈴仙が当初の一撃で確信と誤認の両方を抱いたように美鈴のこの行動も確信と誤認の両方を孕んでいたのである

まずは確信から、鈴仙は確かにとある策を思い付きそれを行使しようとしていた。鈴仙の計画ではもしこの反撃が成功すれば拘束からの脱出は勿論、上手く決まればお返しの一発をお見舞いすることも可能であった

 

「…覚悟…!」

 

美鈴はもう目の前の兵士が起き上がってこぬようトドメを指す為肩と腰を腕に力を込める━まともに食らえばまず無事ではいられる訳がない

つまり美鈴の確信は正しかった、あのまま鈴仙の変化を無視し拘束を続けていれば今も優勢が続いていたかは分からない

 

「…ゴキッ!!」

 

それは鈴仙の肩から響いた音、乾いたその音はその場にいたレミリア、上条当麻、垣根帝督、藤原妹紅には嫌な音程度にしか感じられなかっただろう

ただし…その音を『意図的』に発生させた鈴仙とその音の意味を身体で理解した美鈴にはその何倍も、何十倍もの意味があった

何と鈴仙は自分の肩を自分自身でわざと脱臼させたのだ、つまりはどういうことか?美鈴は鈴仙の動きを封じるために『肩』と腰に手を置いた、そして鈴仙は抑えつけられていた肩を脱臼させた。敵を拘束する為に圧迫していた手の地盤が揺らげばどうなるか?━━━答えはただ1つ

 

「とう…ぜん美鈴さんの体制は崩れるわよね?私にトドメを指す為に拘束を強めたのなら尚更…」

 

「…っ…!私に変化を悟らせたのも作戦の内…ですかっ!!」

 

鈴仙の肩を圧迫していた手が脱臼により手を滑らせ、拘束が解かれる。鈴仙はこの時を見逃さない、全て作戦通りなのだから

脱臼させた左肩が使えなくなってしまったが、それでも右手を即座に地面に突き立て勢いを付けて右肩で美鈴にショルダータックル、続けて顎に右肱で肱打ち。

これが美鈴が抱いてしまった誤算である、わざと自身の変化に気付かせトドメの一撃を誘発、トドメを指す為に腕に込められた力が強まった頃合いを見て左肩を脱臼させ最後に脱出

 

「…さて…私の残り体力も微々たるもの…その前にさっきの手痛い一撃のお返しをしないと…ね」

 

「…どうぞ、もっともそんな余裕が残っていればの話ですがね」

 

格闘家(めいりん)は口元の血を拭い、身構える。兵士(れいせん)は呼吸を整え、美鈴へと肉薄し身体を捻りながら足に力を込める

 

「また同じ手ですか、私も甘く見られたものです…!」

 

「同じかどうか…まだ私の攻撃は始まってなんかいないっ!!!」

 

(…確かにやり返し程実戦で無駄な行為はない…でも私を心配してくれる人達がいる…せめて…せめて私が負けるなんてふざけた幻想くらいはぶち殺す位は出来る…!)

 

友達の口癖を心で叫びながら、鈴仙(へいし)は二度目の回し蹴りを放つべく足を振り上げる

 

「なるほど、覚悟は見せて頂きました…ですから私も本気であなたを潰しにかかりましょう!!!」

 

またもや美鈴は半歩だけ後退し、振り抜かれた足の踵を手前に弾く。やはり手負いの兵士の戯言でしたか、そんな事を心のどこかでは残念に思いながらも礼を尽くす為再び鈴仙の腰に手を当てた…はずだった。だが腰に当てたはずの手は鈴仙が回転した事により放たれた左手の裏拳に━弾かれていた

 

「…さすがに一度視た技なら対抗策位は思いつくわ…でもこれで左手は完全に使い物にならなくなったわね…」

 

「…奇遇ですね、私も今思考が停止して使い物にならなくなってしまったところです…」

 

そう…、とだけ鈴仙は呟き弾かれた右足で地面に着地、だがそれでは終わらず身体の捻りの勢いを殺しきらずに生かして今度は左足を振り上げる

 

「…これはあくまでさっきのお返し!決着は今からつけさせて貰う!!」

 

 

 

 

ズドン!硬い物同士がぶつかって生まれたようなその音が響いた数秒後には左側頭部から血を流した格闘家が地面に倒れ込んでいた




ッエーイ!!良いね良いねェ最ッ高だねェ!!!久し振りの投稿だぜヒャッハ―!!

ふぅ…何が文化祭だ何が中間テストだ、私は執筆活動で忙しいんだよ!!!

なんて言えたら多分この小説も楽に毎日更新出来るんだろうなぁって思う事しか出来ないけねもこ推しなのであった


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兵士 〜Solder〜

垣根帝督SIDE

 

 

 

 

 

 

正直な所ヒヤヒヤしたもんだぜ、うどんげも中華門番も『殺さない!』とか言ってたからかるーく殴り合うのかと思えば地面に叩きつけるわ内臓損傷だわ…ったく、加減を覚えろ加減を。手加減をされずに蹂躙される側の奴の事も考えろっての

 

サラサラとした金髪を風で靡かせながらポケットに手を突っ込んだまま2人の勝負を観戦していた垣根帝督は心の中で安堵する、現状は未だに彼が応援する兵士が不利なのだがその敵である格闘家はまだ地面に転がったまま起き上がらない。いや、それには語弊があるだろう。正確には『起き上がれない』のだ

 

「くっ…!ひど、い揺れだ…!まるで地震に襲われたかのように…ッ…視界が揺れる…!」

 

「…でしょうね、靴越しにでも手応えがあったわ.多分脳だけでなく三半規管にも衝撃が伝わっている、この勝負が終わったらキチンとした治療を受けるべきね」

 

どうやらあの回し蹴りは俺達が見た以上に効力があったらしい、あんなもん俺は食らいたくねぇな。大体頭に蹴りを食らった門番の耳から血が流れ出るってのはどんな状況だ?今の所単純な打撃じゃ当麻の右ストレートが一番破壊力があると思ってたが―――女とは言え軍隊上がりのうどんげは半端ないな

 

「おーい、うどんげ!茶々入れる気はねぇがさっさとその門番を楽にしてやれよ、さっきうどんげがやったみたいに追い込まれてからのカウンター食らったらどうするんだ?…言いたくはねぇがお前、足が震えてるぜ」

 

事実、地面でもがいてる美鈴と対して変わらない程鈴仙も追い込まれていたのだ。膝はガクガクと震えて笑いだし口の端からは血が流れ脱臼させた肩からは激痛が走る。更に間の悪いことにアドレナリンの効力が切れ始めた

 

いくら軍隊上がりとは言えお前は女だ、そして俺はお前や妹紅に当麻を巻き込んだ張本人…その過程で万が一億が一でも身体に後遺症が残りましたごめんなさいは許されねぇ.何かが起こってからじゃ遅い、最悪の場合は割って入るがルール違反になる以上今の俺に出来るのはこれくらいだからな

 

「……分かってる、分かってる、でもね……これは勝負なの.殺し合いでも戦争でもない、美鈴さんは私に礼を尽くしてくれた…だから私も私なりに礼を尽くして戦う義務があるの.必ず勝つからもう少し、もう少し時間を頂戴?」

 

「……あぁそうかよ、なら頑張れ.そこまで格好つけて負けましたなんて永琳に知られてみろ?末路は知らねぇからな」

 

「あぁ怖い怖い…ここは暖かい声援が欲しかったんだけどね…まっ、それが垣根なりの声援って事で妥協してあげる」

 

頑固だな、本当によ…ちょっとは俺の心境も察して欲しいもんだぜ

 

「…美鈴さん、そろそろ体力も回復したころでしょ?私もある程度は落ち着いた…」

 

「わざわざ、ありがとうございます.その余裕が仇にならなければ良いのですが」

 

「ならないわよ、勝つのは私…それだけの話」

 

美鈴はようやく立ち上がり頭を数回横に振る、実際問題平衡感覚はとうに破壊されているのだがそれでも戦えるのは鈴仙の闘気を全身で感じているからかもしれない――美鈴は表情には出さないがここに来て心底鈴仙を尊敬していた.ただただ愚直に鍛えられた格闘術とそれを支える心と身体、自分が追い込まれても正々堂々と在り続けようとするプライド、全てが賞賛に値する領域に到達しているからだ.恐らくそれは鈴仙も変わらないだろう

だからこそ、だからこそ美鈴は目の前で変わらぬ闘気を放つ兵士を本気で倒したい、否倒すと心に決めたのだ.

 

「すげぇな、うどんげにしてもそうだがあの門番…何で三半規管がいかれてまだ戦えるんだよ、とっとと降参してくれりゃ俺としては大助かりなんだが」

 

「段々と精神が肉体を凌駕して痛みも理屈も関係無くなってきてるのさ、それは鈴仙の奴も同じだよ.昔はあんな奴らがゴロゴロいたんだけどね」

 

「精神が肉体を凌駕、ねぇ…俺には分からねぇ感覚だな.少なくともあの一週間は俺はそんな状態になる前にお陀仏だったからよ、てか昔って何年前の話だ?」

 

「もう100年以上昔の京の都での話、1つ道筋を外れれば妖怪は跋扈してるし大通りは大通りで妖怪以上にタチの悪い連中が道のど真ん中を歩いたりしてね.それはもう最悪だったよ」

 

100年以上も昔の京都の話を真顔で語り出す蓬莱人、妹紅の表情はどこか懐かしむようなそれだった。言葉では最悪と罵りながらもあの頃の彼女には殺意と狂気溢れる京の都が性に合っていたのかもしれない

 

俺は目で門番と鈴仙の攻防を追いながら頭の端でふと妹紅が言う100年以上前とやらを考えてみる.今から100年前で京都にタチの悪い連中がいた時代...となると幕末のことか?確かあの時代は新撰組やら維新志士だか何だか知らねぇが血の気の多い連中が刀を振り回していた、らしい.俺は当たり前だがその時代に産まれちゃいねぇし興味も無いから人並みの知識しか無い、ただその時代を生きた張本人の話となると面白いかもな

 

「面白そうな話だな、鈴仙が落ち着いて時間がある時に詳しく聞かせてくれよ」

 

「ん~…私から振った話だし仕方ないか…でも聞いて楽しい話じゃないよ?何人も人は死ぬし私だって何回死んだことか」

 

「その話が楽しくなるかどうかは俺次第ってな、ただ今気になるのはあの門番の訳の分からねぇ格闘術だ.大して衝撃を加えたようには見えなかったが実際鈴仙は相当のダメージを受けた…どう言う理屈か妹紅は分かるか?」

 

「格闘術は私の専門外だから詳しくはないけど多分衝撃を拡散させずに集中させたんだと思う」

 

妹紅の話を大雑把に纏めるとこうだ、通常敵を殴ったりすればもちろん衝撃が発生するしその衝撃は対象を揺らしながら拡散して消えていく.だがあの門番は特殊な打撃の打ち込み方を使う事で衝撃を拡散させずにうどんげの内臓に集中させた…とのこと

 

垣根を始めその場の全員が知るはずもないことだが、ロシアで生まれた格闘術に『システマ』なる物が存在する.それは近接格闘術の一種で拳をやや下降させながら打ち込む事により敵の骨に衝撃を与えるというものである、もちろん美鈴はシステマなどという単語は聞いたこともそれに類する何かを極めた訳ではない.ただ単にその打ち込み方が1番自身のスタイルに適っていると理解したのだ

 

「厄介だね、本当に...私は何をされても再生するから大丈夫だけど鈴仙みたいな普通の身体のやつがあれを何度も食らったら洒落にならない.止めに入ろうとした当麻の気持ちも分からない訳じゃない」

 

「だがこれは勝負だ、うどんげもそんな事は誰よりも理解している……だから俺もその意思を汲んで我慢してるんだぜ?」

 

散々煽ってた奴がよく言うよ、と妹紅には呆れられたが仕方がない.俺は短気だからな

 

そんな会話を交わしている間にも2人の攻防は止まることを知らずに動き続ける、だからこそその場の全員が、レミリアでさえ何も喋らずにただただ己が信じる者の勝利を疑わずに待ち続ける

美鈴が腹部に正拳突きを放てば鈴仙は身体を半歩横にずらし回避する、鈴仙が脇腹にボディーブローを放てば美鈴はそれを脇で挟み込んで受け止めてカウンターに持ち込む.そんな一進一退の攻防が続く最中互いに有効打を放てずにいる状況が続いた

 

「…っ…ハァ…ハァ…まだ…倒れない、のね…」

「…これでも、鍛えて…いますから」

 

既に2人は満身創痍となり膠着状態が続いている

何度蹴りを放ったことか、何度ボディーブローで身体を揺らしたことか...最早それは闘っている当人達ですら記憶していない.それくらいに長丁場となっているのだ、それに比例して2人に蓄積した疲労感は計り知れないものとなっていた.つまりそれは『次に何らかの攻撃を相手に当てた方が勝つ』状況になった、ということだ

 

(頭は動けと命令するが身体がそれを拒む、むしろ拒否反応が出ているのかすらも怪しいもんだ...クソが!ただ見ている事しか出来ないってのも辛いじゃねぇか...!)

今すぐにでも俺が翼を使ってアイツを吹っ飛ばせばそれで済む、それだけでうどんげはもう苦しまずに済む...だがそれをうどんげは望んじゃいねぇ...

拳を交えている2人が苦しんでいるようにそれを見守るしかない垣根や当麻も悩み苦しんでいた

 

だがそんな膠着状態にも終わりが見え始める、先に動いたのは――――――美鈴だった.震える自身の膝を殴りつけて立ち上がり鈴仙に襲いかかる.鈴仙はその動きに気付いてから反応するが既に痛みと疲労感で満身創痍のその身体が満足に動くはずも無く呆気なく美鈴に捕らえられる

 

「これで、終わりに…しましょう!」

 

美鈴は鈴仙の背を膝で踏みつけて拘束しながら手を振りあげる

 

もがく鈴仙にはもう肩を脱臼させる力など残ってはいない上美鈴は肩には手を置かず背骨に手を添えた状態のまま振り上げた手を肩甲骨付近に振り下ろす

 

その場の誰しもが万事休す――――そう感じた時には地面がひび割れる音と大量の舞い上がった土埃が美鈴の放った技の威力を物語っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴仙・優曇華院・イナバSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美鈴が鈴仙の背骨に向けて渾身の一撃を放った直後、上条当麻が感じた事は焦りでも恐怖でもなく――――違和感だった

 

(…な、んで俺は鈴仙がやられたのに落ち着いてるんだ…?今すぐに助けに行かないと…!)

 

状況が見えなくたって俺には...というか誰にだって分かる、あの一撃で誰が勝ったかなんて明白だ.でも今はそれ所じゃない!急いで鈴仙を永遠亭に運ばないと手遅れになる!

とにかく土埃が晴れないとどうしようもない、先程レミリアのグングニルを打ち消した時のように垣根が土埃を纏めて吹き飛ばしてくれれば楽なのだが.こんな時に俺の右手は役にも立たないと内心舌打ちしながらとにかく上条当麻は冷静であろうとした、だがなかなか煙は晴れない、垣根は何をしているのだろうか?徐々に焦りが募るが無鉄砲に突っ込んだ所で何もならない、そこで上条当麻は自身の周囲の土埃を手で払いながら自身の中に募っていく違和感の正体を探り始める

 

「何か、何かあるはずなんだ…あぁクソッ!こんなに土埃があったんじゃマトモに考えられない!!たたでさえ上条さんは考える力がないんですのことよ!!」

 

そう、土埃だ.この喉の奥に引っかかって思わず咳込んでしまうこの土埃…これさえなければ上条さんはもっと落ち着いて考えられるのに、大体さっき鈴仙が一撃を貰った時はこんなに土埃は舞い上がらなかったぞ……待て…!さっきは舞い上がらなかった土埃が今は舞い上がった…?あの門番が攻撃方法を変えた、のか…?

 

時を同じくして藤原妹紅は上条当麻と同じく舞い上がった土埃に悪戦苦闘しながらこの一撃を放った格闘家とそれを恐らく『受け流した』であろう兵士に素直に驚いていた

 

(よくやるよ、全く…いくら永い月日をかけて武術を磨いたからって張り手で地面が割れるなんて有り得ないぞ普通.そしてそれを妖怪とは言え不死身でもない身体に放つんだから尚更タチが悪い、でもまぁ…鈴仙の方が1枚上手だったってことかな)

 

妹紅にはまだ2人の決着が着いたのかは視えていない、勿論未来予知の能力がある訳でもない.ただ...一昔前までは目の前で展開されている極限の戦いが日常的に繰り広げられその渦の中に妹紅自身が身を置いていた、だからこそ何となくだが土埃の中の結末が予測出来たのだ.

 

だけど、と彼女は徐々に晴れてきた土埃の中で付け加える

彼女が予想した通りの展開ならば恐らく鈴仙は致命傷を負ってはいないだろう,ただ無傷という訳にはいかない.極限まで疲弊した今の鈴仙が立ち上がって反撃出来るのか?それが未だに妹紅の判断を鈍らせていた.とは言えその結果もすぐに分かる,土埃が晴れてきたのだ

 

「さぁ鈴仙…私はお前を信じたぞ」

 

 

 

 

紅魔館門前でその闘いを見守った人間や妖怪達がそれぞれ確信や困惑を抱く中,当事者である2人はどうなったのか?それを知るには少し時を巻き戻すべきだろう

時は数分前,美鈴が鈴仙を拘束し張り手を肩甲骨付近に放ったまさにその瞬間だ

 

美鈴は勝利を確信した,今度ばかりは油断や誤算もなく正真正銘の『勝ち』である.眼下にもがくことすらままならず拘束された兵士は疲弊しきっている,先程のようなどんでん返しを2度も貰わぬように反撃にも充分気を配った

 

(もう、良いでしょう?私も疲れました,貴女も間違いなく全身が悲鳴をあげているはず…安心してください,殺さないという約束は守りますから)

 

今ここでもう一度腹部に張り手を加えれば間違いなく彼女は絶命するだろう,勿論それはルール違反だ.だがそれだけではない,敬意を払ったというのもあるがそれ以上に今ここでこの宿敵を失うのは惜しい――――そう本能が叫んだのだ,だから私は彼女を,宿敵を殺してしまわぬよう既に攻撃した腹部は避けたのだった

 

美鈴の掌が鈴仙の背中に触れるまで後0,03秒…0,02秒…そして0,01秒を切った辺りであっただろうか?まさに刹那の瞬間ではあったが美鈴はその刹那に違和感を覚えた,美鈴の感覚では自身の掌が鈴仙の背中に触れるのは0,01秒後のはず…のはずにも関わらず美鈴の掌からはブレザーの質感が伝わってきた.つまりは既に彼女の背中に触れている,そういうことなのだろうか?

 

だが,全ては刹那の間に感じ取ったこと.ただでさえ全力を込めた一撃な上にそれを1秒の1/100以下で変更するなどまず不可能,瀟洒なメイドならば涼しい顔でやってのけるのだろうが生憎と美鈴はそんな愉快な手品は持ち合わせていない

そしてまた0,01秒の時間が経過,鈴仙は美鈴の掌から加えられた衝撃と地面との間に挟まれノックアウト――――――されるはずだった

 

何故か彼女が地面との挟み撃ちにされた瞬間,地面が揺れ大量の土煙が舞い上がる.特に地面の揺れはその場にいた者への影響が激しく身体まで揺らされる

 

「っ!?な、何でこんなに土煙が…!いや衝撃が分散して…!?打ち込み方を間違えた!?」

 

「…美鈴さんはさ,玉突き――あぁ紅魔館じゃビリヤードだったかな…経験は?」

 

有り得ない,有り得ない.有り得るわけがない,彼女がまだ動けるなんて,その瞳に闘気をまだ宿しているなんて.何より…私の拘束から抜け出してギュウゥ…!という音を響かせて握った拳を振りかざしているなんて…!

 

「ビリヤードで3つの球を一列に並べて弾くと…1番遠くまで飛ぶのは外の球,これは最初に弾かれた球から中心の球へ次に中心の球から外の球へと衝撃が逃げるように伝わるから…ここまで言えばもう分かって貰える?」

 

「まさか…っ!それと同じ要領で鈴仙さんと私をビリヤードの球に見立てて衝撃を…!?」

 

「正解…一か八かの賭けだったから成功確率は間違いなく0に近かった,でも…!私は賭けに勝ったわ!!」

 

何が賭けなものですか、と美鈴は内心呟く.そんな真似が賭けで出来る訳がない,それは間違いなく鈴仙の実力にほかならない

理屈はどうであれ賭けに勝った者にはそれに見合う物が与えられなければならない,今鈴仙に最も見合って最も望む物は?……そんな物は決まっている

 

ドスンッ!!!!土煙の中で限界まで力を込めた兵士の右ストレートを額に食らった門の護手は力なく大の字で紅魔館門前の地面へと倒れ込む

 

紅魔館対永遠亭グループのそれぞれ大切な物を賭けた闘いの第一戦目は――――――こうして幕を閉じたのであった

 

第一戦目

種目:総合格闘技

鈴仙・優曇華院・イナバ(○)VS紅美鈴(×)

 

第二戦目

種目:???

???VS???




まず初めに......私が長年愛用してきたPCがお釈迦になりました。それに合わせて書き溜めた原稿もお陀仏になりましたはい、もう発狂して良いのか泣いていいのか両方なのか分かりません。とりあえず原稿消失は2度目なのでまだ耐えられるのですが...パソコンで書けないのは辛いなぁ...。
でも今は携帯から投稿しているんですがやっぱり予測変換があると非常に便利ですね、その点は助かってます。
さて、これにて優曇華対美鈴の決着が着きました。いやぁ何がアクションだ何が格闘だ!ってツッコミは置いておいて。次話からは早速第2戦目に入るのですがそれから後は回想編を挟んだり皆さんお忘れかも知れませんが学園都市の愉快な仲間達の話も投稿していきますのでどうぞお楽しみに!


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藤原妹紅にとって上白沢慧音とは?

十六夜咲夜SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

門ではどうやら永遠亭の兎と美鈴の決着が着いたようね,ここから見る限りでは…美鈴は敗北したのかしら?そうなると…次は私の出番,になるはず

青と白を基調としたメイド服に身を包んだ紅い館のメイド長…十六夜咲夜(いざよいさくや)は紅魔館内から同僚の敗北を確認して思わずため息をつく

 

屋敷に近づく4つの気配に気付いたのが少し前,さすがに館の中からではそれが誰の物なのかまでは判別出来なかったがもしそれが妖怪の気配だとすれば…非常に不味い.唯でさえここ最近は思い上がった妖怪が紅魔館に近寄ってお嬢様の気を害しているのだ,従者としてこれ以上お嬢様の平穏を害する輩を放置する訳にはいかない

が……咲夜の主,レミリア・スカーレットが取った行動は意外なものだった

 

『…咲夜,今夜の夕食は少し遅くなるかもしれない.もしかするとお前にも出番が巡ってくるかもしれないぞ?』

 

『それは…この気配が関係しているのでしょうか?』

 

『あぁ,気配の内の二つが初めて感じるから…というのもある.だがそれ以上に――――

 

運命が全く視えないんだ,その二つの内の一つの運命が全くな.こんな体験は初めてだ…何の用かは知らないが退屈しのぎには良いかもしれん』

 

『お嬢様に限ってそのような事は有り得ませんわ,この世の全ての運命はお嬢様のその手の中に』

 

『過剰評価だ,咲夜.私にも既に流れが決まり動き出した運命は変えられない…だが,その流れに抗い楽しむ事くらいは可能だ.せっかくの貴重な巡り合わせ…ただただ普通に過ごすだけではつまらない,夜の王である吸血鬼らしく血で飾ろうじゃないか!』

 

『御意,全てはお嬢様の御心のままに!』

 

こうして私は主のレミリアお嬢様と共に四人の内の運命が視えない者を出迎えようとしたのだけど…

 

「まさか時間停止が封じられるなんて,これも運命が見えない事に関連しているのかしら?」

 

紅い手摺に紅い絨毯が敷かれた階段を一段,また一段と降り立った咲夜は玄関からすぐにある正面ホールで主とその敵を待っていた.普段であれば時間を操り自分から出迎えるのが筋なのだが…どういう事か本日の客人には彼女の常識(げんそう)は通用しないらしい

 

1人呟いた所で誰からの返事があるわけでもない.現在紅魔館の住人は大半が各々の用事と向き合っているはずだ,例えば動かない大図書館の二つ名を持つ『パチュリー・ノーレッジ』ならば今頃はせっせと本泥棒対策の魔術を考案しているはずだ

 

美鈴は今ダウン中,お嬢様はその4人組と今こちらに向かっているでしょうし後は……妹様ね.あまり激しく闘い過ぎるとまたお気に触れるかもしれない,既に美鈴の一撃でかなり地面が揺れたのでは?というくだらない疑問は置いておくとして…あの調子ならきっと門もさぞかし愉快なオブジェに変わっているのね

 

まずは不貞な4人組の輩を制圧,その後に美鈴を適当に介抱してから門の修繕を人里の大工に頼まなければならない.正直考えただけで頭が痛くなるような作業量だ,幻想郷の神なんて禄なのがいないがこの不満を侵入者にぶつけてもそれを咎める程器は小さくないだろう

やがてしばらくするとコツコツ,という音が響いてくる.この足音は敬愛すべき我が主の物…そこに無作法な他の足音が混じっていることは頂けないが主が館に入ってくる以上従者の成すべきことなど限られている

 

「お迎えが遅れて申し訳ありません,お嬢様.その代わりと言っては何ですがお客様をお迎えする準備は万事整っておりますわ」

 

従者はただ静かに扉を開き主を迎える

 

そうか,ご苦労だったな.とは言え私は門まで様子を見物に向かっただけだ.出迎えられる程のことじゃない

主はただ静かに扉の奥へと進み従者を労う

 

それにしても案外に面白い連中だったよ,四人の内二人は幻想郷の住人だが後の二人は外来人だ…人間にしては愉快な能力もある

 

「お嬢様に置かれましては昂っておられるご様子,メイドとしてお嬢様が満たされる事ほど満たされる事はございません」

 

そうか,ならば咲夜!私はまだ完全には満たされていない,美鈴はそこの兎に敗北してしまったからな.私はお前を信頼している,そんなお前ならば私を…満たしてくれるな?

 

「畏まりました,お嬢様.全てはお嬢様の御心のままに」

 

さて,待たせたわね?大体の事情は察したわ,そちらは誰が出るのかしら?

見るところ4人組の内訳は1人が迷いの竹林の不死鳥,もう1人は永遠亭の狂気の兎.そして残る2人が…外来人かしら?とは言っても恐らく美鈴と戦ったであろう玉兎は金髪の外来人に肩を支えられて立つのもやっとの様子,加えて何故か魔理沙がいるのだけど…ある意味残る3人以上に警戒しないとね

 

「あー…えっと何か考え事してるみたいなら横槍入れるみたいで悪いんだけどさ?次は私が出るよ,金髪とツンツン頭の少年二人はアンタの物理弾幕を食らったら一溜りもないんでね」

 

「構わないわよ,ただそちらにいる外来人のどちらかのお陰で私は能力が使えないの.これはあなたから私に対するハンデの要求と受け取っていいのかしら?」

 

どうやら私の相手は…竹林の不死鳥,藤原妹紅.宴会ではちょくちょく顔を合わせるけど…弾幕ごっこは永夜異変以来かしら?まともな殺し合いではまず勝てないけれど…弾幕ごっこなら私にも十二分にチャンスはあるはず

 

「…悪いね,当麻.このメイドは愉快なオブジェにされるのをご希望だ.当麻は危ないから白黒魔法使いにでも頼んで紅魔館を案内してもらいなよ…きっと当麻の右手がこの部屋の空間に触れていなければ幻想殺しも発動しないだろうから」

 

「……分かった,メイドさんも真剣勝負の邪魔をして悪かったな.えっと…霧雨だったか?悪いが付き添いを頼むよ」

 

「別に構わないんだぜ,私もお前の右手には興味があるからな!案内ついでに話を聞かせてくれると助かるんだぜ」

 

こうして上条当麻と霧雨魔理沙は紅魔館正面ホールを退出,後に垣根帝督は『俺も一緒に抜け出せば大図書館に潜入出来たんじゃねぇか?』という重大なミスに気づくのだが時既に遅し.何より彼の隣には簡易的な治療を施したとはいえ息も絶え絶えの相棒がいるのだ

 

…なるほど,あれがお嬢様が仰る『運命が視えない人間』…能力の名前は幻想殺し.幻想郷には皮肉な名前ね,ただこれで能力の制限は消えたわ,理屈は全く不明だけど彼が部屋を出た瞬間に時間が再び操作出来るようになった事が分かったのは大きい

 

「さて,メイド長…能力解禁を喜んでいる最中悪いが…今紅魔館の主が吹っ掛けた勝負のルールはどこまで把握してるんだ?」

 

「さぁ?大方紅魔館メンバー対あなた達との真剣勝負が始まったということは把握しているわ.それ以外は私にとって瑣末な事でしかない,ただただ勝利をお嬢様に捧げ少しでも心を満たしていただくだけの話よ」

 

「おめでたいね,忠実なる僕から傀儡に成り下がったってとこ?頭が下がる話だよ」

 

売り言葉に買い言葉…時間を数秒無駄にしてしまった,お嬢様が欲する物はくだらない茶番などではないわ

 

「父の仇を取るために不死になったは良いものの結局は10032回目での殺害を『半人半獣』如きに止められ日酔ったあなたよりはマシな成り下がりだと思うのだけど.さぁ始めましょう,決闘方法は弾幕ごっこで構わないのかしら?」

 

「…………あァ,構わねェ.アイツの事を理解しようともせずその差別名称で呼ぶよォなクソ野郎を叩き潰すのは弾幕ごっこで充分だ…お片付けだ,10分で終わらせてやる」

 

(口調が……若干変わった?余程上白沢慧音を馬鹿にされたのが癪に触ったのかしら?何にせよ…怒ってくれるなら私としては利点しかない)

 

「ではお片付けされないように頑張る必要があるわね,使用スペルは2枚!私は『殺人ドール』と『ザ・ワールド』を」

 

「やってみろ,格の違いってのを教えてやる…こっちは『―鳳凰天翔―』と『インペリシャブルシューティング』だ」

 

不死鳥と瀟洒なメイドは浮かび上がり互いに睨み合う,片や主の聖域を侵す不埒者を追い払うため.だがもう片方は…ただ勝利の為だけに目の前の人間を見据えているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

(チッ…悪い癖が出ちまったなァ…あのメイドからすれば私が怒るのは理想の展開だってとこか?…つくづくなめた野郎だ)

 

そんな考え事をする暇もなく敵はナイフを正確に放ってくる,ホーミング機能でもあるのかと疑いたくなるような正確さだ.対する妹紅はと言えば

 

「しけた弾幕だなァ?まさか狙い通りに私が怒ったからこれくらいで仕留められる…なンて思ってンのか?」

 

ただただ迫り来るナイフを躱し,咲夜がナイフを投擲した僅かコンマ数秒後の隙に火炎弾を撃ち込む.普通の人間ならばこれで簡単に黒焦げになるのだが生憎と敵はただの人間ではない

 

「まさか,私としては歓迎するけれど?あれだけ大口を叩いのだからあんな小手調べで終わられて貰っては逆に困るのよ」

 

「安心しろ,小手調べで終わる気も終わらせる気もねェ…てめェには色々と借りがある,さっきの発言に今までの借りと利子を加えて返してやるからよォ!!」

 

派手に啖呵を切ったは良いものの,形勢は咲夜が優勢であった.ただでさえ自身が持つ『時間を操る程度の能力』に加え高い戦闘力とそれに見合う経験.全てをフルに活用し目の前の敵を迷い無く追い詰める咲夜に対して妹紅は真逆,能力の異常性や戦闘力,経験に至っては咲夜と比べ物にならないにも関わらず怒りで冷静な判断を下せていない

 

(落ち着け,あのメイドを殺す必要はねェ…慧音を差別名称で呼んだことを心から後悔させてやれば良い.借りを返すのはそのオマケで充分だろォが!)

 

分かってンだ,これは私1人の闘いじゃないことも.負ければそれだけ後続の当麻や垣根に負担が伸し掛る事も承知の上だ

それでも,それでも怒りが収まらない.フツフツと水が沸騰するように蓋をしてもどこからか怒りが溢れる.溢れた怒りは妹紅から冷静さを奪う,失った冷静さを取り返そうと余計に焦る――まさに悪循環だ

 

「案外…あなたは精神攻撃に弱いのね,身体は弱さを知らないというのに.この調子では私が10分と待たず勝利をお嬢様に捧げる事が出来る……メイド秘技『殺人ドール』!」

 

「チッ…!ここでスペルカード発動かよ…!」

 

殺人ドール…時間を止めてその間にナイフを大量投擲…そンなスペルだったか?何にせよ今の私に回避出来るか?いや,やるしかねェ…よな

 

私に見えたのはメイドが大量のナイフを投擲した所まで.言うまでもなく次の瞬間には前後左右からナイフが襲いかかる,勿論回避スペースはあるが…やはり状況判断が遅れて普段なら躱せるであろうナイフに髪を数本持っていかれる始末だ

 

「クソ,野郎がァ…!次から次へとなめやがってよォ!!」

 

「その状況で私に吠える暇があるなんて感心するわ,でも先程までは私が弾幕を張っても返ってきたのは怒号ではなく火炎弾だったはず…永夜異変の後の肝試しで闘った時はもっと動きも良かった,そこまであの半人半獣を馬鹿にした私が許せない?」

 

「そ,の名前でアイツを…!慧音を呼ぶんじゃねェ!!三下ァァァァァァァァ!!!!」

 

もうどうだって良い!我慢の限界だ,まずはコイツを黙らせる!!避けきれねェならスペカで相殺してやンよ!!

頭の中で蓋をしていた怒りが弾けた気がする,ここまで激怒したのは……最後に輝夜を殺した10031回目の時か?それとも…慧音と衝突したあの満月の夜…か…?

私はスペカを握り締めながら脳裏に懐かしい竹林での終わりの無い殺し合いとその殺し合いに終止符を打った日の事を何故か思い出していた.なンで……なンで今こんな事を…?

 

「妹紅ッ!!ボサっとしてんじゃねぇ!!まだメイドのスペカは終わってねぇんだぞ!?」

 

「横槍は反則…とは言え…チェックメイト」

 

気付けば周りには無数のナイフ,考え事をしながらの回避行動だった為か既に私を取り囲むナイフに回避スペースなど無かった.今スペカを宣言した所で私が串刺しにされる方が絶対に早い,まさにチェックメイト…垣根の怒号が無ければ気付きもしなかっただろう

 

(無様だなァ……慧音を馬鹿にされて吠えることしか出来ず,挙句勝負にも敗北してこの本数なら死ぬかもしれねェ…とは言え不死身だから死ぬことなんざ構わねェがな…)

 

『不死だからってお前が無駄死にして良い理由になるかっ!!馬鹿者!』

 

「…え…?なン,で…慧音の声が…?」

 

これは…走馬灯か?確か死ぬ寸前に見られる,ってやつだ…道理で追い詰められた辺りから『あの日』の光景が視えた訳だな

慧音の声ならいつでも歓迎だが…顔が見えねェのは残念だな.幸い走馬灯の間に流れる時間はかなりゆっくりと感じる,無様に恥を晒す前に聞いておいても悪くは…ねェだろ

 

『妹紅が蓬莱人だろうと何だろうと私には関係無いよ,私にとって大切な友達である事に変わりはないからな』

 

「…さらっと気恥しい台詞を吐いてンじゃねェよ.こっちの気持ちも考えてくれたンですかァ?」

 

勿論慧音からの返事などある訳がない

 

『…確かに弾幕ごっこで博麗の巫女と八雲紫,紅魔館の吸血鬼やその従者を相手にするのは無謀だったかもしれない.でも後悔はしていないさ,私は戦って負けて怪我をしたり惨めな思いをするよりも…妹紅が独りだと思い込む事の方がよっぽど後悔すると思うんだ』

 

「そんな安い台詞を吐くならまずは1人くらいは足止めして欲しかったなァ…傷だらけになった慧音を誰が永遠亭に運んだと思ってンですかァ?しかもその後で重かった,って言っただけで床にめり込む頭突きをするのは教師としてダメだと思うんですけどォ?」

 

『お前が自分を化物だと勘違いしているのなら…!今からお前を人間に戻してやる!妹紅をそれでも化物だと思い込ませる程の歴史(げんそう)があるって言うんなら…!まずはそのふざけた歴史(げんそう)を…喰い殺すッ!!』

 

「…………ありがとォ…慧音…お前は私の……」

 

どうやら走馬灯はここで終わりらしい,その証拠に慧音の声と夜中の竹林の風景が消え代わりに私を殺そうとする大量のナイフが視えてきた

 

(…チッ…また救われちまったなァ…何度お人好しを重ねれば気が済むンだよ,お前は…!)

悪いがこのまま無様に敗北する気分では無くなってしまった,その為にはまず回避不可能なこのナイフの群れから脱出しなければならない

 

「…スペカは…要らねェ!!」

 

「今更何の悪足掻きを…ナイフは既に回避不可能,あなたの末路は串刺しに…!?」

 

確かになァ…これはいくら何でも回避不可能だ.だがどうにか出来なきゃ敗北する…だったらどォする?簡単じゃねェか!

 

「ナイフを全て爆発で吹っ飛ばせば弾幕もクソもねェ!!もっともある程度距離があると精度が落ちるから今くらいの至近距離でもねェと成功しないけどよォ!!」

 

足で床を軽く踏みつけ私自身を包み込むように爆発を起こす,今にも刺さりそうな距離にあったナイフはそれでほとんど弾けとんだ.残るナイフくらいなら余裕で回避出来る

 

「私とした事が怒りで色々忘れてたみたいだな,弾幕ごっこは避ける以外にも回避方法があるってことはあの一週間で当麻に教わったじゃねェか…つーかよォ」

 

「…っ…少し侮り過ぎていたわ,次は確実に…仕留める…!」

 

「…お前,私が慧音に輝夜への復讐を止められてから日酔った…とか言ってたよなァ?……憐れだわ,もし本気でそう思ってるンだとしたら抱き締めたくなっちまうくらい憐れだわ」

 

「……何が言いたいの?」

 

「…確かに私は『あの日』慧音に敗北した,今じゃ輝夜への復讐も止めて昔に比べれば丸くなったもンだ.…だがなァ!!」

 

ここで妹紅は1枚目のスペカを発動,『―鳳凰天翔―』である

 

「私が丸くなろォがその結果弱くなろォが別にお前が強くなった訳じゃあねェだろォがよォ…アァ!?」

 

先程以上に,更に威力を込めて,辺り前面の床を全て爆発させる.咲夜もこれに慌てず時間を停止させ安全圏の正面ホール二階に避難……だが

 

「とにかくまずはスペカの終了まで耐え切らないと…って今のは…ガラスが割れる音…!?」

 

余りにも強過ぎた爆発の威力は正面ホールの床を粉砕するだけでは飽き足らず咲夜が退避した二階の窓をも粉砕していたのだ

修理の手間暇を考える余裕もなく,早く逃げなければガラスの雨に降られたのでは人間である咲夜は一溜りもないため二階から飛び出し正面ホールの天井付近まで退避するはめになった

 

「悪ィが!!アイツの名前は半人半獣じゃねェ!!上白沢慧音だ!」

 

鳳凰の紅い深紅の翼を顕現させた妹紅は咲夜を包み込むように紅翼を広げながら拳を握り締め,そして…

 

「理解したンなら大人しく尻尾巻きつつ泣いて!!無様に主の元へ引き返しやがれェェ!!!!!!」

 

燃え盛る紅翼からは時間を停止させても回避するスペースはない,そうなれば最早勝負は決したも同然

 

「グフッ!!!!???」

 

妹紅の右ストレートが鼻に突き刺さった咲夜は紅翼の包囲を突き破り更に壁に激突して墜落.勝負ありだ

咲夜が数回起き上がろうとするもやがて力尽きて気絶するのを確認した妹紅は粉砕された床に降り立つ

 

「確かにこのザマなら日酔ったと馬鹿にされても文句は言えねェかもなァ…だがなァ.いくら弱くなろうが慧音を……私の『英雄(ヒーロー)』を虚仮にするやつだけは許さねェって決めてンだ…クソッタレが」

 

第一戦目

種目:総合格闘技

鈴仙・優曇華院・イナバ(○)VS紅美鈴(×)

 

第二戦目

種目:弾幕ごっこ

藤原妹紅(○)VS十六夜咲夜(×)




お察しの方は大勢いらっしゃると思いますが慧音と妹紅の出会いはあの話と重なります.勿論話をそっくりそのまま引用するつもりはないのですが…ん〜,やっぱり私の性格上無意識に引用しているんでしょうねきっと.
ちなみに次回もしくはその次辺りから回想編か学園都市編を始めるつもりです.多分流れ的に回想編だとは思いますが


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プロローグ【1】〜それは物語が始まる前の物語〜

今回は
1、投稿がかなり久しぶりな為にいつも以上の駄文
2、ただただ面白みがない鬱ストーリー
3、けねもこのシーン無し
4、はっきり言って読んでも読まなくても大差ない.というか読まない方が良いのかも?

となっております


藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

「…ふぅ…久しぶりにキレてやり過ぎたかなこれ,加減なんてする気は無かったから当たり前と言えば当たり前だけど」

 

私は改めて自身が粉砕した玄関フロア付近の床を見つめる.高そうな絨毯に高そうなガラス,高そうな壁に高そうな油絵……何だか高そうな,を連呼し過ぎて頭が痛くなってきたのはアレだ.決して弁償を恐れている訳じゃない,そう!アレだよ!ゲシュタルト崩壊!けーねが前に言ってた!…意味はあまり知らないけどね

 

「…ちょっとは手加減してやれよ,いくら敵とは言え流石にあのメイドには同情するわ.あと弾幕ごっこで戦うとか言ってなかったか?俺の目にはトドメは妹紅の右ストレートに映ったんだが」

 

「ちゃんとスペカ宣言はしたし弾幕ごっこに近接攻撃禁止なんてルールはないから大丈夫,何より今はここにいない当麻は何で戦うんだっけ?」

 

「もう突っ込まねぇよ,元はと言えばあのメイドが妹紅の知り合いを煽ったんだろ?自業自得じゃねぇか」

 

垣根は最近切り替えが早くなったと思う,良いことだよ.あれだけ私が派手に暴れたのにちゃんと鈴仙と薬箱を死守した辺りもグッジョブ

ちなみにだけど私がメイド長をぶん殴った事やその他諸々についてレミリアは言及する気はないみたいだね,その証拠に早くもメイド妖精を呼んでメイド長を運ばせているし.ついでにこの部屋を出た…白黒魔法使いはどっちでも良いけど当麻を探して貰えると助かるんだけど

 

「ちなみに…次はお前が出るのかい,レミリア・スカーレット?こっちはまだ2人残ってるよ」

 

「はぁ……本当に想定外だな,美鈴はともかく咲夜が瞬殺とは.だが私は最後に戦うと決めている,次はパチェにでも任せるとしよう.小悪魔は戦闘向きではないしフランではお前達を皆殺しにしてしまう」

 

「あ?幸先良く二連敗かました三下が余裕ぶってるとは驚きだな,既に粗方お前達紅魔組が積みかけてるって事に気付かねぇのかよ」

 

ほら出た,垣根の悪い癖.お前は短気過ぎるんだよ,ストッパー役の鈴仙は今は機能してないし…でも安心した.あの悪魔の妹が参戦しないならまだ勝ち目はある

私はレミリアの「皆殺し」の一言に勢い良く噛み付いた垣根を軽く睨んで制止を呼びかけながら脳内で今後の展開を予想する

残る2戦で私達の土下座か薬の大繁盛のどちらが確定する,ただしこっちは既に2戦先取しているから仮に残る2戦両方で負けたとしてもお互い余力のある2人で一騎打ちに持ち込める.余り言いたくはないけど夜の吸血鬼には垣根も当麻も絶対に勝てない,勝てる訳がない.大体吸血鬼は人間じゃないんだから当たり前だ,ただし相手が私みたいな人の形をした何かならまた話は別

 

(さてさて…悪いけど肝試しの借りを返す為にも今回は私に華を持たせて貰おうか)

 

「好きに言っていろ,決着などすぐにつく.そうなればどちらの言い分が戯言なのか分かるだろう,何よりお前達を思いやってのフランの不参戦を決めてやったんだ…それともそこの兎や不死鳥から話を聞いていないのか?」

 

「あのさ,垣根もレミリアも戦いの合間くらいは大人しく出来ないわけ?私としては今この瞬間にも2人が殺し合いを始めそうで怖いんだけど」

 

本当にこの戦闘狂達は何なの?私が慣れない考え事をしてる時に煽りの弾幕と殺気をぶつけあってさぁ…

 

「ここに慧音がいたらなぁ…多分話も上手くまとまるのに」

 

思わずポツリと呟く,でもこんな危険地帯に慧音を巻き込みたくはない.慧音に似合っているのはあの賑やかな寺子屋であってこんな場所じゃないんだよ

 

「チッ,そこまで言うなら仕方ねぇか.だが次は当麻に出てもらうぜ,当麻がそのパチェとやらをぶっ飛ばしてトドメに俺がお前を倒す.完全試合でお前はあえなく散財ってな」

 

「お前はもう喋るな」

 

とりあえず垣根の顔面に鉄拳制裁,どこから突っ込んでいいのやら分からなくなってきた.ドゴン!と鈍い音が響いて垣根は背中から倒れこ……まないんだよなコイツ

 

妹紅の右ストレートは綺麗に垣根の鼻頭へと吸い込まれその衝撃で垣根は沈むはずなのだが…やはり常識の通用しない男は常識的な攻撃では倒れないのだ.余談だがその耐久力はいつしか妹紅や鈴仙に攻撃される際『手加減』という安全装置を外すハメになるのだがそれに気付くのはもう少し後になるだろう

 

「ふぅ,やっぱ効くよな妹紅の鉄拳制裁…それより当麻はどうするんだ?俺達も探しに行けば良いのか?」

 

「いや,既に妖精メイドを遣いに出した.大方魔理沙に引き摺られて大図書館にいるだろうからすぐに連れてくるだろう」

 

「大図書館…まぁそれは後回しだ.それならそれまで妹紅の話でも聞かせてくれよ,慧音だったか?煽られただけでキレる程の相手…まさか恋人か?」

 

は?私の話?いやいや…何を言ってるんだお前は.私の話なんて聞いてどうする?大体慧音は恋人じゃない

 

「確かに…お前がそこまで固執する上白沢慧音,その出会いを聞くのも面白そうだ」

 

クソッ!今度はレミリアもかよ!?…でも断ったらまた2人で煽り合いを始めそうだもんなぁ……仕方ない,当麻が来るまで適当に話を引き伸ばして有耶無耶にして終わらせよう.うん,それが良い

 

「分かった分かった……話してやるからお前達も大人しくしてろよ?もう私は仲裁役なんて御免だからな」

 

それじゃあ…話そうか.あれは…私が当麻や垣根に出会うよりも,永夜異変が起こるよりも前の話

 

 

 

 

 

 

 

 

此処は迷いの竹林,季節は初夏を終え本格的な暑さを迎える少し前と言った所だろうか?今は生い茂った竹薮のせいで見えづらいがきっと夜空には綺麗な月と星座が広がっていることだろう

だが,1つ竹薮の上にそんな景色が広がっているのと同じように1つ竹薮を進めば…そこには目を逸らす事も許されないような地獄が広がっているかもしれない

 

「ギャハハハッ!ちゃンと避けねェと着物から肌まで全てその醜い黒髪みたく真っ黒になっちまうかもなァ!つっても醜いお前が更に醜くなるだけってか?」

 

「本当に元気ね,毎日毎日殺されてアンタの罵声を浴びせられる私の身にもなって欲しいわ」

 

今,この場では2人の少女が文字通り殺しあっている最中だ

1人は薄暗い辺りの景色とは反比例する白髪を揺らしながらギラギラと赤い瞳を輝かせ目の前の少女を焼き殺さんと自爆も厭わずに襲いかかる『藤原妹紅』

もう1人はそんな襲いくる炎から結界で身を守っている.その表情はどこか憂鬱だ,もしかすると今我が身に襲いかかる藤原妹紅の攻撃に頭を悩ませているのだろうか?それは藤原妹紅が人から化物へと生まれ変わるキッカケとなった絶世の美女,『蓬莱山輝夜』のみが知る事である

 

こんな2人の少女が殺し合い憎み合いを繰り返してどれだけの年月が経過したかは分からない,ただ…2人の中で互いを殺し合うという狂気が微塵も色褪せていないのは間違いない.その証拠に今の殺し合いは始まって一刻以上経過したが未だに妹紅は輝夜の皮膚を焼く事を止めない,輝夜は弾幕で妹紅の全身に風穴を開ける事を止めようとはしない

 

「相変わらず目障りな再生能力だよなァ,そのおかげ私はお前を何度も殺せる訳だがやっぱり邪魔なンだ.視界に入るだけで殺意が無限に湧いてくるンだっつの!」

 

「自分の事は棚に上げてよく言ったものね,大体それは自己嫌悪かしら?妹紅も私もこれからずっと死ねない蓬莱人よ,無限の再生能力に一々イライラしていたらキリがないじゃない」

 

「…その余裕ある言動が目障りだって言ってンだろォが」

 

ブチ,殺す――そう心の中で呟いた私は背中に妖力を集中させて長年追い求めた仇を屠る為の…燃え盛る翼を顕現する

いやァこれは習得するのに苦労した.ただでさえ炎を操る際には大火傷が大前提だってのにそれを見えない背中に翼として形作るンだ,何度失敗して火達磨になったか数え始めたらキリがねェ

 

「さて…今日の所はこれでお終いだ,最期は最期らしく華々しく散らせてやるから感謝しろォ!」

 

地面を蹴り翼をはためかせ私は輝夜に迫る,さてどンな風に殺してやろォか?眼球内の水分を蒸発?それとも首から下を爆発で切り離す?……ダメだよなァ,そンなンじゃ全然ダメだ.そンな甘い殺し方はコイツには似合わねェよ

だとすれば――やる事は決まっている.思い付く限りの全ての殺害法を用いて奴を殺せば良い!

輝夜は何時間にも渡る魔力の浪費で既に体力が底を尽きたのか二重の結界を貼るだけで反撃の様子は伺えない

 

(二重結界か……ンな物で私の狂気が防ぎきれると思ってンのかお前はァ!!)

 

まずは結界を破らなければ話にならない,その為に妹紅が取った作戦は……意外にも正攻法で発火を応用した爆発による破壊方法である.手に炎を灯し溜め込んだ火力を一気に結界にぶつけるように解き放つ

 

「ハハッ…アハハッ!!良いね良いねェ最ッ高だねェ!!自分の手が弾け飛んでも尚お前を追い詰め殺しを繰り返せる…!!こんな快感があるならあの日から味わった地獄は無駄じゃなかったって訳だよなァ!?」

 

「っ……妹紅の過去なんて私には興味無いのよ…!それによくもまぁ私への殺意だけでここまで狂う事が出来たわね…!」

 

何度でもこの腕を吹き飛ばしても構わない,何度でも両手の血が蒸発したって構わない.何度顔の皮膚が焼けただれ崩れ落ちようとそれは瑣末な事だ,全ては輝夜がどれだけ苦しんで死ぬのか?それに尽きるのだから

そして23回目の爆発で妹紅の右腕が骨ごと溶け去った時にようやく輝夜の結界が2枚とも破壊された.何度も何度も辺り一帯を焦土に変えるような爆発から結界で耐え続けた輝夜にはもはや余力など消え去っている

 

「…ふぅ…ようやく,か…手間取らせてくれたなァ?輝夜ァ……」

 

「…何?私に労いの言葉でもかけて欲しい訳?だったら諦めなさい,自分を何度も何度も殺してくる相手を労うほど聖人君子様じゃないのよ」

 

「ア?愉快な勘違いをしてンじゃねェよ,お前はなるべく苦しんで死ねば良いンだからなァ…!」

 

もはや余力も無くなり地面に座り込んだ輝夜の右腕を掴んだ私はその右腕に左手の爪を深々と食い込ませる.これはあくまで私の個人的意見だが血管を焼かれて血が蒸発するって言うのは手間要らずで尚且かなりの激痛を伴う,私自身が今まで何度も経験したし輝夜を使った実験でもその効果は確認済みだ

 

「さァて聖人君子様じゃない輝夜に問題だァ…今から私はお前をどォやって殺すンだろォなァ?」

 

「……さぁ?こんな感じの殺され方なんて何千回と受けてきたから分からないわ.ただ…血管に関わる殺し方であることは間違いないでしょうね」

 

「正解……とは言えねェな.それじゃあ正解発表だ」

 

輝夜の血管を焼き切るってのは正解だ,勿論それも実行する.ただ…それだけでは終わらせねェってことだ

まず妹紅は食い込ませた左手に炎を灯す,燃え始めた左手は2人の脂を可燃剤に全てを焼いていく.妹紅の左手も,血液も,それは輝夜とて同じこと……だが

 

「今日は一種類の殺し方じゃ気が済まねェんだ…言っただろ?『華々しく散らせてやるから感謝しろォ!』ってなァ!!」

 

「っ!?妹紅…何を…!?」

 

妹紅の左手が燃え始めた頃には既に輝夜の右腕はそれ以上に燃焼し溶けている箇所すら見受けられる

 

「あァ,それか?さっき散々両手を溶かして吹っ飛ばしたからな.その時に滲み出た私の脂を爪からお前の血管中に捩じ込んだンだ…血管内部までキチンと油が行き渡ったお陰でよく燃えるだろ?」

 

「…本当に手間のかかる殺し方ね…少しは満足した?」

 

…オイ,何でテメェはそんな事を聞きやがンだ?いくら殺そうと私の恨みが晴れるわけねェだろ

 

…そう,ならまた来なさい?妹紅の恨みが晴れるまで何回でも殺してあげるし殺されてあげる.楽しみに待っているわね

 

…どォやらコイツはやはり根本的な所が私以上に狂っているらしい.別に拒絶されようが殺すけどなァ

もう少し苦しむ表情を見せるンなら左腕も溶かそうと思ったが右腕を溶かされてにこやかに微笑むコイツには何をしたって多分無駄だろ

 

「あァそうかい,別にお前を殺すのに一々了解を取る気はねェよ.とりあえず萎えちまったから殺すぞ,これが何回目かは知らね」

 

「10000飛んで29回目よ.私が妹紅を殺した回数は除いて…ね」

 

「くっだらねェ…一々自分が死んだ回数も覚えてンのかお前は?…とにかく記念すべき10029回目の殺害成功だ!10030回目も苦しめるようにしてやるからよォ!!」

 

再生した右腕を松明替わりに炎を灯し輝夜の顔を目掛けて振り下ろす

 

「無様に死に様でも晒してやがれェ!!」

 

そして振り下ろされた右腕は先程結界を破った時のように大爆発,再生したばかりの妹紅の右腕はまたもや肩から先が消えてなくなる.右腕以外にも様々な箇所が爆発で消えてなくなったが何より酷いのは輝夜の死体だ,最早それは死体というよりは『個体』の方がお似合いかもしれない

 

(………終わった,か……10029回…全然足りねェ.まだだ…まだまだ殺す必要があるンだよ…アイツは)

 

ひとしきり輝夜を殺して満足した妹紅は焼けて失った右腕を庇うように竹にもたれ,改めて殺意を胸に掻き立てる

結局思い描いていた何種類もの殺害法を試せなかったことは残念だったが別に良いだろう

 

私は不老不死の蓬莱人形…時間なンていくらでもある




まず言うべきことはたくさんありますが…投稿期間が大きく開いてしまい申し訳ありませんでした.今回からまた二週間に1話の投稿頻度に戻そうと思います
続いて今回の馬鹿みたく面白味のない話について…本当に書いて後悔してます.分かっちゃいましたが殺し合いの描写を延々と書くのは本当に疲れます,主に精神面で…次はけーねが登場するのでまったり百合百合させたいと思っています


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プロローグ【2】〜それは物語が始まる前の物語〜

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

もう朝になったのか,早いな….

空を見上げれば既に朝日が登りきっていた.輝夜を死体らしき何かに変えた後に私はそのままの場所…にいると再生を終えた輝夜と鉢合わせになる可能性があるから確か身体に鞭を打ってかなり離れた場所で眠りについたんだ.輝夜を殺すのは楽しいし気分も爽快になるけどやっぱり疲れる,だって輝夜も私を殺してくるからね.輝夜の分際で生意気も良いところだ

 

「次はいつにするかな?昨日のアレで満足したから数日は殺さなくて良いかも,久しぶりに食料も調達しないと」

 

不老不死な私は飲まず食わずだろうが死ぬことは無いがやはり飢餓状態は辛い.理性が吹っ飛んで気付いたら輝夜を殺して喰らってました…じゃ笑えないぞ.輝夜は殺す物であって喰う物じゃない,第一あいつの血肉が私の身体に入るなんて拷問があってたまるかくそくらえだ

とにかく今の私の気分は殺しじゃなくて食事だ,家と言う名のボロ小屋に溜め込んだ食料はこれからを過ごすには心許ない.人里には蕎麦屋くらいならあるだろうが…

 

「…馬鹿か私は.こんな化物が店に入った所で注文所かまず人里にも入れないのにな」

 

わざわざ拒まれる事が分かっている場所に向かう義理はない,自分の容姿と体質が忌み嫌われる事など永い永い人生の中で嫌というほど理解した

思わず頭をよぎった過去の苦い記憶を無理やり消し去るように足を早めた妹紅は自称ボロ小屋へと足を進める.筍を掘る為に鍬を取りに向かったのだ

鍬を持ち籠を背中に背負った妹紅は改めて今日中に確保したい食材を思い浮かべる

 

(筍は勿論山菜も欲しい,川魚は…いや鹿か猪を焼いた方が保存は効きそうだね.そうなるとまずは筍を掘ってから山菜を収穫,家に持ち帰ってから獣狩りと洒落こみますか)

 

今の時期ならば比較的にどの食材も楽に手に入る,猪は秋に入ると餌が不足して気が短くなるから尚更だ

筍ご飯に山菜の天ぷらに干し肉…これで酒があればこれとない御馳走になるんだけどなぁ,だが米や調味料ならともかく酒を物々交換となると人や物が大量に動く大きな人里でないと厳しいだろうな…

 

せめて日常会話が出来る程度には努力すべきだったかな…思わず自分の話術の無さに呆れていた時だった,忘れようにも忘れられない英雄(ヒーロー)との出会いが始まったのは

 

「むぎゅ」

 

「……は?」

 

何故か今まではしっかりと私の足が踏みしめていた固い地面が愉快な音を上げて柔らかい「何か」に変わっているじゃないか.これは何だ?何かの罠か?それにしてはやけに野生の勘が働かなかったような?…とりあえず足元を見てみよう,それで全て分かるはずだよね

そして恐る恐る視線を下へと移した私の目に映ったのは……地面に転がっていた女性だった.それも蒼い髪に妙な帽子…なのか?とにかくそれを被った女を私は踏みつけている

 

「うわっ…よりにもよって女の行き倒れかよ.世知辛いこったナンマンダーナンマンダー,せめてもの情けに土葬してやるから安心し」

 

「人を勝手に踏み付けて勝手に殺すとは失礼な人だな,生憎と私はまだ黄泉の門を潜る気はないんだ」

 

うわっ,死体が喋った!…じゃなくて本当にまだ死んでないんだこの人…

 

「……それは悪かった,じゃあ私はこれで」

 

「私は気にしないさ,だがこんな山奥で女2人で出会ったのも何かの縁…今別れるのは賢明ではないな」

 

「そんな縁なら私はお断りなんだけど…あと出来ればその腕力で私の腕を掴まないで欲しいな〜…って思うのは間違いかい?」

 

パンパンと起き上がって服についた土埃を払った女はしっかりと私の腕を掴んでいる…見た目からは掛け離れた力強さで

改めて私が踏み付けていた女を観察していると行き倒れでは無い事は想像がついた,埃を払われた紺の衣服はよく手入れが施されているし血色も良い.何より瞳が綺麗だ,私みたいな薄汚い暗部の化物じゃなくて…普通の生活を送り普通に死ぬ事が出来る光の世界の人間なんだろう

 

(今更憧れる事もないけど…やっぱり一緒に居るのは疲れる)

 

暗闇は眩しい光の前では霞んでしまう,もしくはそれ以上の暗い闇で光を塗り潰すか…どちらか二択

 

「あ,あぁ…すまない.流石に強く掴み過ぎてしまったな…謝るよ,痛くなかったか?」

 

「…大丈夫,痛みなんて慣れっこだから.気にしなくて良いよ,ところでアンタ…えっと名前は?それと何でこんな竹林で倒れ込んでた?」

 

「痛みに慣れっこ…あまり褒められた事ではないな.ちなみに私の名前は上白沢慧音(かみしらさわけいね),この近くの人里で子供相手に寺子屋をしている.実は竹林で倒れていたのは……恥ずかしい話,食べ物に困っていたんだ…」

 

行き倒れ…もとい上白沢慧音の話をまとめるとこうだ.子供に勉学を教える為の教科書やら鉛筆などを買う為に見事散財,何とか食費を削って凌いではいるがとうとう限界が到達.そこで食材を野山から調達しようとしたが筍の採り方が分からずいつの間にか竹林からも抜けられなくなり気絶した…と

 

中々愉快な人格だなおい,たかだか子供の為に散財したって言うのもお笑い種だが空腹のあまりこの迷いの竹林に迷い込むとは命知らずにも程がある

 

「なるほどね,アンタにもアンタなりの事情があるってことか.確かに空腹は不老不死の化物でも辛いから気持ちは分からないでもない…でもここに来るのだけは止めておきな,迷いの竹林はアンタみたいな人間が来る場所じゃないよ」

 

「…まるで自分が不老不死であるかのような口ぶりだな,それにここはえっと…」

 

「あぁ,私かい?私は藤原妹紅だよ」

 

「確かにここは人気も無くて妖怪も闊歩しているのかもしれないが…それを言うなら妹紅だって危ないんじゃないか?」

 

私は別に死にはしないし弱小妖怪程度なら簡単に焼け殺せる……なんて素直に言う訳にはいかない.私は無意識にそう告げそうになった口を急いで閉ざす

さてどう返すべきか?不老不死という体質上『危険』なんて概念を忘れかけていたが確かに上白沢の意見は尤もだ,上白沢が危ないなら私も危ない…やっぱり光の世界の人間と関わるのは面倒だ

 

「私はこの竹林の大抵の事は熟知しているから別に大丈夫なんだ,そんな事よりアンタ…空腹なんでしょ?筍掘りを手伝ってくれるならいくらかお裾分けしよう,悪くは無いだろ?」

 

「っ!か,構わないのか!?筍なんて高級食材をそんな簡単に…?」

 

「世間一般の常識なんて分からないけど迷いの竹林に入り浸っている私からすれば筍なんていつでも手に入る,それに他人とは言えここでアンタを見捨てるのも寝覚めが悪いからね,結局は私の自己満足だから気にしないで貰えると助かる」

 

「ここは…妹紅の優しさに甘えさせてもらうよ,ありがとう.このお礼はまた後日に必ずさせてもらうよ」

 

ありがとう,か……いつ以来だ?そんな事を言われたのは?……もうそれを思い出すことさえ今の私には叶わない…か

 

妙な出会いから上白沢慧音と筍掘りを始める事になった妹紅だがその道中はお世辞にも明るいとは言えないものだった.まず会話のキャッチボールが成り立たないのだ

 

「本当に助かるよ,妹紅.ちなみに妹紅はどこに住んでいるんだ?」

 

「…家…と呼べるかどうか怪しい小屋に一応住んでいる」

 

「そ,そうか…すまない」

 

先程は成り行きでどうにかなったが今度はそうはいかない,見通しのつかない道中で初対面の相手と会話を維持する…まともなコミュニケーションを避けてきた妹紅にとってはこんな何気ない会話のやり取りですら困難であった

続いて2人が苦労したのは互いの心の距離の置き方だ,慧音は妹紅に対して積極的に話しかけ近付こうとするのだが…妹紅は自然に距離を取りたがる.理由は誕生,人に,誰かに近づく事仲良くなる事は恐怖でしかないからだ

 

(……気まずいな,別に気にしている訳じゃないが…誰かと2人きりでいるのはこんなに疲れることだったか?今までは輝夜をぶっ殺す時が2人きりになったけど…決まって私は殺意に呑まれてる上に会話しようなんて気は微塵もないから何も感じないんだよな.はぁ……本当に何でありもしない善意を装って善人面なんかしてるんだ私は?)

 

思わず口から漏れたため息,それに対して申し訳なさそうに俯く慧音に更なる罪悪感を感じる妹紅.状況はまさに会話下手な人間が陥るパターンのまさにそれであった

 

 

 

 

 

 

 

上白沢慧音SIDE

 

 

 

 

 

 

 

不味いな…やはり初対面の人の好意にいきなり甘えるのは失礼だっただろうか?しかし私も不死身では無い以上これ以上の断食は生命の危険が伴ってくる.実を言えばもう5日はまともな食事を摂っていないのだ,普通の人間なら死にはせずともまず自由に動き回る事は出来ないはずだ.だが私にはその様子はない,何故か?答えは単純

 

(私が純粋な人間ではないから…か)

 

私こと上白沢慧音は半人半獣のワーハクタクだ,言うならば身体の半分は人間で半分は妖怪という世にも奇妙な生物だ.人間でもなければ妖怪でもないどっち付かずの曖昧な存在…それが半人半獣

 

「な,なぁ妹紅?妹紅は半人半獣…そんな人間に出会ったら…どうする?やはり気持ち悪いと思うのか?」

 

「別に?幻想郷に妖怪なんて掃いて捨てる程いる訳だし妖怪みたいな汚い人間だってたくさんいるから珍しくも思わないね.何より上には上がいるものさ」

 

「フフッ…妹紅は優しいんだな?尖った言葉の端々に優しさを感じるよ」

 

冗談,バカ言わないでよ…そう言って照れ隠しに頬をかく彼女はきっと強いのだろう.私なんかよりも何倍も何十倍も……これは負けていられないな!

 

会話がすぐ途切れてしまうからと言ってこちらから話しかけなければ余計に会話が成り立たなくなる.だから私からもっと積極的に話しかける……なんて言うのは建前だ,私は何となくこの少女と話を続けたくなった.

 

「冗談なものか,私はこれでも教師だぞ?子供達を相手にする大人が茶化すような冗談を多用しては信頼関係が築けないじゃないか」

 

「あぁ〜…そう言えばアンタは教師だったね,それでふと思ったんだけど教師って楽しいの?少なくとも自分の食費を限界まで削ってやるようには思えないけど」

 

「楽しい…その質問に二択で答えるならば間違いなく楽しいよ.確かに食費を削る羽目になるとは私自身も想定外だがそれ以上に子供達の成長していく姿を見るのは楽しいし何よりやりがいを感じるんだ」

気付けばいつの間にか妹紅が言う筍がよく取れる箇所に到着していた私達だったが,鍬や籠を地面に下ろしてその後もしばらくは何気ない身の上話を繰り返していた.

私の教え子がイタズラをした時の話,宿題忘れの常習犯の生徒に大目玉を食らわせた話などを終えた辺りで妹紅が脇腹を抑えながら立ち上がった

 

「いやはや…最近の子供って言うのは活発なんだね…!黒板消しを扉に挟んで慧音の頭に落とした話!アレなんて最高だったよ…!いやぁお腹が痛い…!」

 

「そ,そこまで笑わなくても良いじゃないか!あの時は私もビックリしたんだからな?」

 

「そりゃいきなり頭がチョークの粉まみれになれば誰だって驚くさ.でも何より面白かったのはその後,怒った慧音先生がチョークの粉まみれの頭で犯人の生徒に頭突きをしたくだりかな?結局は慧音も生徒も頭が粉まみれになりました!なんてどう笑いを堪えろって言うのさ?」

 

そう言われては私も反論は出来ない,確かにあの姿は周りから見れば良いお笑い種になったのかもしれないが.私は妹紅の笑い声に頭突きをした後の他の教え子達の笑い声を重ねて赤くなっていた.ただ恥ずかしい思いをしただけの成果はあったようだ

 

「そう言えば妹紅…いつの間にか私を慧音,と読んでくれるようになったのか?」

 

私は立ち上がった妹紅に合わせるように立ち上がり鍬を手渡す

 

「へ?あぁうん,慧音と話す内にアンタ…って言うのも連れないと思ったからさ.悪かった?」

 

「全然そんな事は無いぞ,むしろ嬉しかった.これからも是非そう呼んでくれ!そうだ,何なら今度ウチに来ないか?狭い家だが歓迎するよ!」

 

「…あぁうん,ありがと.機会があればね」

 

何故か私からの誘いには乗り気ではない妹紅,やはり仲良くなったとは言えまだお互いの家を訪問するまでには至らないか…

私が何気ない事で落ち込んでいる間に妹紅は黙々と地面を掘り進めていた.気付けば既に籠には3つの大きな筍が顔を覗かせていたのだから驚きだ

 

「こ,こんなにも大きな筍を…妹紅の取り分はあるのか?それにあまり採り過ぎては他の人の迷惑にはならないだろうか?」

 

「今心配すべきなのは誰の事なのかちょっと考えれば分かるでしょ?私の頭が腐ってないのなら今一番心配すべきなのは他人の事ばかりで自分の事が考えられない空腹先生だと思うけどね」

 

ぐぅの音も出ない代わりに私のお腹は低く『ぐぅ〜』と鳴り響いた.恥ずかしい,私は平静を装っているがケラケラと笑いを堪える妹紅の反応も手伝って尚更恥ずかしい

せめて恥じらいを紛らわそうと私も筍掘りを手伝おうとしたその時だった

 

(空気の流れが…変わった?…それに何やら殺気のような物まで混じっているな….夜盗か?いや今はまだ時間帯的に活動時間じゃない,何よりここ近辺で夜盗はおろか泥棒の噂すら聞いたことがない…となると)

 

竹林の間を駆け抜ける風はどこか生暖かくなり速度も緩やかなそれに変わる.だと言うのに竹の葉がザワザワと騒ぎ立てる音が鳴り止む気配はない

これは……当たってほしくなどない勘だがこれは…

 

「「妖怪……」」

 

どうやら妹紅も感じた事は同じだったらしく2人の声が重なった.これが何もない会話なら喜ばしい事だが今は笑えない,まったく笑えない

 

(どうする?私1人で妹紅を守り切れるか?今は昼間,満月も出ていない今の私では能力を用いても…勝ち目は…)

 

私が人から妖怪へと変わる条件は月に1度の満月の日になること,そうすれば多少の妖怪ならば相手に出来るのだが…今は皮肉な事に私は非力な人間でしかない

折角掘ってもらった筍をそっちのけで妹紅を庇うように私は辺りを警戒する,今はまだ敵が単体であるかどうかも分からない以上は迂闊には動けないし妹紅に怪我を負わせては元も子もない

 

「安心してくれ,妹紅…!これでも私は非力だがこの場から妹紅を逃がすくらいなら可能だ!人里についたらすぐに助けを呼ぶんだ!」

 

「…あぁ別に良いよ,私は『助けられる側』でも『助ける側』でもないから.慧音は危ないから私から離れて?…火傷じゃすまないよ」

 

そう告げた妹紅は筍の入った籠と鍬を私に預けて首をバキバキと回して鳴らす.痛くはないのか?と聞きたくなる位だが私の今の疑問はそれではない

 

「それは一体どういう意味なんだ?第一火傷じゃ済まないって言うのは…!?」

 

「……こォ言うことだ」

 

刹那に舞い上がった私と妹紅を円の中心点とする爆発と爆炎,それは辺りの竹も…地面も筍も何一つ区別無く全てを焼き払った

 

「…いつかはこんな日が来るとは思ってたンだ.こっちがちょっと光の世界の住人と関わっただけですぐに連れ戻そォとしやがる…ちったァ空気って奴が読めねェのかテメェ達はよォ!!」

 

「も,妹紅!?急にどうしたんだ!?落ち着け…ッ!?」

 

だが焼き払われた跡地に残されたのは私と妹紅…それに地中に潜んでいた巨大な蛙状の妖怪と竹薮に擬態していた猪の妖怪,まさか妹紅は…これを見破っていたのか!?

 

だが妖怪達はその2匹だけでは収まらない,上空には鷲の体躯に犬の頭が付いた異形の妖怪が,竹林の奥深くからは大蛇の妖怪などなど数え始めたらキリがないほどの妖怪が慧音と妹紅を取り囲んでいるのであった

 

「…慧音,悪いがこいつらを退けてテメェを逃がすのは後だ.単に気が立ってるってだけなら私の機嫌に免じて半殺しで済ませるンだがなァ…生憎とそうはいかねェ!無関係のしかも光の世界の住人を巻き込むンなら話は別だァ!!愉快な焼死体になりてェ奴から掛かってきな,焼き加減はお好みにしてやるからよォ!!」

 

「…あっ……まっ,待って……妹紅…!少し落ち着け…!!」

 

今,私は何に恐怖しているのだろうか?

妹紅の雄叫びと共に背中から現れた紅翼?

辺りを取り囲む無数の妖怪?

それとも………変わってしまった妹紅の様相?

はたまたそれら全てに?

何にせよ慧音は謎の恐怖に支配され腰が抜けてしまったのだ,対照的に妹紅はと言えばそんな慧音を見向きもせずに高笑いを浮かべながら殺戮を繰り返す

 

「あァ楽しィ!!こンだけの数を殺るなんていつ以来だ!?雑魚を殺ンのは趣味じゃねェがこンな大量に殺して良いなンてたまらなく楽し過ぎンぞおい!!」

 

ある妖怪は両眼を妹紅の両腕に貫かれ身体を内側から爆発させられた

 

「おいおい…敵前逃亡なンて湿気た真似してンじゃねェぞ三下ァ!!てめェの命なんてもう無くなったも同然なンだからせいぜい私を楽しませろッ!!」

 

またある妖怪は両手足を妹紅の紅翼に焼き払われ,あえなく達磨にされたまま火をかけられ長時間苦しみながら最期を迎えた

 

そして残りの妖怪が数体となった時,妹紅の不意を付いた妖怪が私に襲いかかってきた.無論腰が抜けたままの私に為す術などある訳がない

 

「っ……あぁ…!」

 

助けて妹紅!……何故そのような身勝手な事が言えるのだろうか?

私の身勝手な行動で妹紅を巻き込み

私の未熟さが原因で無用な殺戮を妹紅に行わせ

…私の心が弱いあまり私を守ってくれている妹紅に恐怖すら感じたこの私に.

どう助かる権利があると言うのか?どう解釈すれば都合良く妹紅に助けを求められると言うのか?

 

(……私の弱さが招いたこの殺し合い,妹紅の足枷のまま終わってやるものか!!せめて一撃!せめて一撃でもお見舞してやる…!!)

 

せめて…ただそれだけを心の中で連呼を繰り返し自分の膝を殴りつける

 

「くそぅ…!!すまない妹紅…!悪かった…!!」

 

やっとの思いで立ち上がった私は届く訳もない懺悔を口走りながら拳を握り締める

この一撃であの妖怪を倒せるだろうか?いや仮に倒せなかったとしても…ただただ怯えたままでこの場をやり過ごす事だけはしたくない,それが私なりの…半人半獣の私の…

 

「正義なんだからなッ!!」

 

振りかざした慧音の拳,迫る妖怪の牙.負ければ慧音は一瞬で肉塊に変わるだろう

 

だが…その直後に響いたのは慧音の痛みによる叫びでも妖怪に炸裂した右ストレートの生々しい音でもなく

 

「……何度言えば分かるンだお前はァ?馬鹿なんですかァ?…慧音はこォいう暗部の戦いには首を突っ込まず心配もしなくて良い.その前に自分の心配をしてろってなァ……グフッ…」

 

「……も,こ…?お前…何をして…?何で私を庇って…!?」

 

慧音の右ストレートを片手で受け止め自身の左手を妖怪に食いちぎらせた妹紅の小さな声,それだけであった

妹紅の左手だけでは飽き足らず更に肩まで食いちぎりそれを飲み干して満足した妖怪は1度距離をとる

 

生まれて初めて見る無惨な光景…嗚呼これが私の弱さなのか…情けない…結局…私は妹紅の足枷でしか…

 

首筋に微かに感じた鈍痛,それを感じた時には既に意識が暗闇へと沈んでいく最中だった.そんな気を失う直前の私の瞳に映ったのは食いちぎられたはずの妹紅の肩から先が徐々に再生していくというありえない光景と,それを私に見られた妹紅の…何とも言えない悲壮感に溢れた顔付きだった




何とか投稿間隔2週間は…セーフでしょうか?
勿論アウトですね分かります申し訳ありませんでした
本当なら昨日で完成していたはずですが中々どうも...眠気は恐ろしいですのことよ
さて,この『プロローグ〜それは物語が始まる前の物語〜』ですが残り3話を予定しております.
そして年内も残す所約一週間...一週間で続きを書き上げるのは若干厳しいような気もしますしかと言って私が年末年始にせっせと執筆するような性格だとは思えませんし...さてどうしましょうか?


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プロローグ【3】〜それは物語が始まる前の物語〜

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手早く慧音の首筋に片手で手刀を決めた私は慧音を受け止めるように抱き抱えながら左肩を食いちぎった妖怪に目を向ける

 

「はァ…だから守りながらの戦いは趣味じゃねェンだ.普段なら生死構わず妖怪共のど真ン中でバーンと爆発すりゃすぐ片が付くんだがなァ」

 

残す妖怪は…目視と勘で分かる範囲になるが4体.その内2体は既に手負いで戦意喪失気味だから敵の頭数に入れるのは間違いかもしれないが

 

「とは言え今回ばかりは逃す訳にはいかねェ,恨むンならテメェ自身の不幸とあのクソ以下の引き篭り野郎を恨むンだな」

 

その言葉を紡ぎ終えた時にようやく食いちぎられた妹紅の腕の再生が完了する,が――――

 

「私が慧音と関わった瞬間偶然にも群れねェ大型妖怪のテメェ達が大量に群れになった…それぞれ別種だってのによォ」

 

目を血走らせた妹紅は自身の怒りを具現化するかのように腕を松明代わりに燃やし『ソレ』を一番近くにいたシカ型の妖怪の傷口に突き刺し爆発させる

 

「これだけでも大概に異常事態だってのに更に偶然が重なってテメェ達は良い感じに殺気立ってた訳だ.またまた偶然で見つけた私と慧音を襲いましたってか?」

 

身体の内部を炎で焼かれ続ける妖怪は当然痛みに苦しみ暴れる訳だが突き刺さった妹紅の腕が骨を掴んでいる為逃亡を許さない

 

「偶然に偶然が重なり更に偶然が重なって私と慧音が襲われた…ハッ…有り得ねェよなァ…」

 

(そう,こンな事は普通いくら不幸を極めた野郎だろうが絶対に有り得ない.ましてや…私を襲った妖怪共全てにまるで中途半端に弄ンだような傷跡がついているなンてことは)

つまり妹紅は何が言いたいのか?要約すると誰かが辺り一帯の妖怪をけしかけ何らかの方法で誘導し妹紅と慧音に差し向けた可能性が非常に高いということである

 

「これだけの数の妖怪一体一体それぞれを程よく血走らせ追い込み私と戦わせる…そんな三下じみた真似に意義を見出す野郎なンざ…1人しかいないだろォが」

 

「輝ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ夜ァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!舐めやがってよォ!!理由は知らねェが私だけならともかく無関係の野郎にまで手を出してンじゃねェぞッ!!」

 

妹紅の中で先程まで『半信半疑』程度の疑惑の感情だったものが一気に真っ黒な輝夜に対する『殺意』へと生まれ変わり妹紅の全てを支配する

殺意の咆哮を上げた妹紅に呼応して炎は火力を増し,尽きかけていたシカ型の妖怪の命を即座に奪う.それでも妹紅の虐殺は留まりを知らない,焼け焦げ炭化を始めた妖怪の亡骸を力任せに残った敵へと投げつける

 

「畜生が…!!あァ分かってンだ私が今更光の世界に関わろうと思った時点で間違いなンだってことはよォ!!だがなァ!それは私の落ち度だろォが…!」

 

自身の紅翼から発する高熱で喉が焼け爛れても妹紅は咆哮を上げ続け妖怪を焼き続ける,一体また一体と数を減らし最後の一体となった頃――とうとう妹紅は喉が潰れ声が出せなくなった

 

(……畜生…苦しい…息が出来ねェ…まだ…敵が残ってンだ…畜生…)

 

妹紅が何千回と経験したこの感覚,そう『死』だ.いくら不老不死の化物だろうと酸素を取り入れられない状況でフルに戦闘を行える訳がない

薄暗く狭まり始めた視界に私は最後の妖怪を捉え睨みつける.後一体だ…アイツを殺してからじゃないと…死ねない…

皮肉にも不死鳥(もこう)と姿形が似た大きな翼を広げる巨大な鳥型の妖怪,それが最後の敵であった.もっともその顔には下卑た笑みを浮かべ妹紅が力尽きるのを今か今かと待ち構える様子が伺える,だがそんな下卑た笑みと余裕気な目付きに警戒の色が妹紅の瞳に映り込む

 

「…やれやれ,踏みつけられ身の上話を笑われ手刀を食らわされて…本当に今日は不幸な一日だよ」

 

…?な,ンで…?何でこの声が聞こえる…?だってお前は…気絶させたはずじゃ…

 

「あァ……ヒュー……ガッ…に…ガッ…」

 

「…すまない,妹紅.お前には色々謝らなくてはならない事がある…だがその前にまずはあの妖怪を片付けさせてくれ」

 

妹紅の背中を擦りながら何時の間にか意識を取り戻した上白沢慧音は妹紅を近くの竹にもたれさせてから拳を握り締める

(何を言ってンだ!早く逃げろよ!お前はそんな奴と戦わなくて良い世界の人間だろォが!?お前の存在を必要とする奴がたくさンいるンだろ!?お前は殺されただけで死ぬような無能力者の雑魚じゃねェか…!)

 

妹紅の胸の内に湧いた…疑問,怒り,躊躇い,他にも様々な感情が渦巻く中で訪れた『死』に身を委ねながら悪党は英雄の無事をひたすらに祈ることしか出来ないのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上白沢慧音SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前ならばこの半人半獣のこの身体に感謝することなど有り得なかったと思う,何もかもが中途半端な身体に満月の光に照らされながら頭蓋をこじ開けるように訪れる歴史の波

少なくとも私こと上白沢慧音はこのような苦行に快楽を憶えるような趣味を持ち合わせてはいない.だが…半人半獣であっても誰かから笑顔を向けられると実感したのは,その笑顔に心が満たされると感じたのはいつからだろう?だからこそ私は私なりに正しくあろうとした,見返りの笑顔欲しさ全てでそうした訳ではないが…

 

「とは言え…今は理屈を抜きにしよう.見るところお前だけは妙に傷がないように見えるが…妹紅の暴れっぷりから察するに偶然の無傷はありえないはず,となると…他の妖怪達と妹紅を戦わせて妹紅の疲労を狙った所謂おこぼれ狙い…か?」

 

原形を留めていない黒焦げの亡骸の上に立つ鳥型の妖怪,それに話しかける事に意味はない.ただ単に私が気になる事があっただけだ,恐らく意図的に妹紅の疲労を誘う事が出来る知能があるなら人の言葉も理解は出来るだろう

 

「それに答えて何になる,半人半獣.まさか一対一の勝負ではないから非道…などとほざくつもりはあるまいな?この世は所詮弱肉強食,強い者が全て正しいのだ」

 

「別にお前と世の理を話し合う気はないさ,ただ一つだけ教えてくれないか?私が目を覚ました時妹紅は"お前達が誰かに追い込まれて私達を襲った"と言っていたんだ,それは事実なのか?」

 

「そうだな…貴様がこの俺を地に伏せさせる事が出来れば教えてやろう」

 

やはり話は可能でも会話は成り立たないか…まだ条件付きではあるものの答えの糸口が見つかっただけマシなのかもしれない

その条件を呑んだ事を示す為私は両手の拳を強く握り一歩を踏み出す.今の私には武器など何もない,即ち――

 

「素手だと?片腹痛いわ!あの化物の肝を喰らう前に腹の足しにしてくれる!!」

 

「片腹痛くて大いに結構!生憎殴打と頭突きだけで今までの人生を歩んできたんだ,一人喰らった程度で腹の足しになるような小物相手にはお似合いの相手だろうからな!」

 

今の私に出来る事など妖力を用いた飛行か石頭を使った頭突き程度,博麗の巫女や妖怪退治屋が聞けばさぞ良い笑い種になっただろうなと思う.勿論戦いの最中に他の事を考える余裕など一切無いのだが

そんな考えを巡らせる間もなく既に慧音は妖怪へと肉薄し握り拳を振り上げていた

ブォン!そんな風切り音を周囲に響かせながら慧音の拳は妖怪の眉間目掛けて振り下ろされる,だが妖怪は滑稽と罵らんばかりに飛行はせず後ろに飛び退いたり首を捻ったりで拳を避け続ける

 

「思っていた以上に滑稽だな貴様は!もしくは俺をその愉快な戦法で笑い殺す気か?そうだとすれば滑稽という言葉では表しきれないような滑稽さだぞ無能力の半人半獣!!」

 

「ッ…!滑稽だろうが無様だろうが関係はない…!私が妹紅を助けたいからこうしている…それだけだ!!」

 

「助ける,だと?ハハッ!ガハハッ!!滑稽で単純で無様と来た上に無知が重なれば逆に愉快なものよ!ならば聞くが貴様が必死に助けようとしているものは何だ?そして何故貴様はそれを助けようとする?」

 

「何…だと…?」

 

力を込めた右アッパーを外した後の唐突な妖怪の問いかけに慧音は距離を取ってからその問いかけの意味を考える

 

「貴様が助けようとした『ソレ』は死ぬ事も老いる事もない不老不死の化物!死が存在しない者を助ける事に何の意味がある?何より不老不死は幻想郷に限らずともどんな世界でも大罪中の大罪!罪人に救われる権利などありはせぬわ」

 

「妹紅が…不老不死…?」

 

有り得ない,そう呟きかけた所で気を失う直前に見た妹紅の左腕が再生する場面を思い出す

 

(…確かに妖怪ならば人に比べればその倍以上に治癒力は高い.だが左腕を食いちぎられてすぐに再生が始まり元通りになる妖怪なんて…聞いたことがない)

 

そうなると目の前にいる妖怪が言う妹紅の不老不死は真実なんだろう,だが妹紅からは妖怪を感じさせるような雰囲気は無かったはず…だとすれば妹紅は何に分類されるのか?人間?妖怪?…恐らく答えは…どちらでもない

 

(…あぁ…そうか…妹紅,お前も私と同じ…)

 

どうやらこの時の私はおめでたいまでに単純だったらしい.只でさえ不利な人間と妖怪との戦いで対する私は素手,これでもう負けたも同然だと言うのに更に私は目の前の敵から目をそらし集中を切ってしまったのだから

勿論慧音の動揺を狙って妹紅の不老不死を明かした妖怪からすればこれは理想通りの展開,見逃すわけがない.

 

「ッ!!ガハッ…!!」

 

ほんの数秒慧音が気を逸らした瞬間に妖怪は翼を大きく羽ばたかせる,それと同時に人の身の丈以上の竜巻が現れ呆気なく慧音を吹き飛ばし―――地面に叩きつける

身体が頑丈とは言え精神が乱れている隙に不意を突かれて吹き飛ばされたのだ.戦い慣れていない慧音に急な受け身が取れるはずもなく落下の衝撃で肺から酸素が一気に逃げ出していく

 

「ッ…!あァ!!…ウグッ…グッ!!」

 

「クックッ…実に無様なり,御伽噺や夢物語などでは貴様のような雑魚でも一矢報いるなり頼もしい援軍が迎えにくるようだが.貴様は終始俺に翻弄されただの1度も拳を掠りすらさせられなかった!見る所援軍もなし,いや貴様はここで野垂れ死に寸前だったか?」

 

妹紅が力尽きた時と同じような,いやその時よりも下卑た笑みをその歪んだ顔に携えながら勝ちを確信した妖怪は強力な脚力で慧音を踏みつけ鷲掴みにする

 

「だ,まれ…!ァグッ…!今…す…ぐお前を…!!」

 

「そう吠えるな,貴様はもう既に十二分に滑稽なザマを俺に披露した.それ以上の足掻きは滑稽ではあっても先程のように笑いには繋がらん…黙れ」

 

「ッ!?ウッ…ァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

今までは慧音を殺してしまわないように力を抑えて掴んでいた妖怪だったが今度はそれを少し強める.この場合,妖怪にとっては少しの変化でも全身を直前に強打している慧音には経験したことのない激痛に成り得る

加えて妖怪自身が脚から慧音に直接注ぎ込んだ妖力,半妖の慧音でも半分はれっきとした人間.人間が多量の妖力を流し込まれれば大半の人間は拒絶反応を起こし様々な悪影響が起こるのだ

勿論慧音もその例外ではなくあっという間に拘束から抜け出そうともがいていた力も消え失せる

 

「半妖と言うだけあってしぶとさだけは本物のようだな,普通の人間ならばとっくに絶命してもおかしくはない量の妖力だったはずだが」

 

「……ま…れ…道が…」

 

「外道で大いに結構!もっとその眼で俺を見ろ!低格の妖怪ならば勝てると勘違いを起こした人間を嬲り殺し生きたまま喰らってやる時の眼…あれは素晴らしい…!全身を快感が走り抜ける!!嗚呼今すぐ貴様も生きたまま恥辱を尽くして喰ろうてやりたい!」

 

地面と妖怪との重みで文字通り重圧に押し潰されそうになった慧音だが最早苦しむ声すら出すのも難しいのか.それでも死を恐れず妖怪の拘束から抜け出そうと睨みを利かせるがそれは悪趣味な妖怪にとっては諧謔心を擽らせるだけの無駄な行為だ

 

「しかし貴様には他の下等な人間とは違い様々な利用価値がある,雌として俺を愉しませる事は勿論傀儡にして人里を俺専用の餌場にするのも悪くはない!」

 

「しかしこんな妖怪以上に妖怪じみた案を思い付くあの竹林奥深くの姫君は尚恐ろしいものよ」

 

「…ッ…ん……と…?」

 

「これから長く俺がその身体を色々と利用するのだ,生かす気は無いがせっかくだからお前が聞きたかった事を聞かせてやろう.実は少し前に俺にあの不老不死の化物の事とソイツの肝…正確には肝に溜まった物を取り入れれば不老不死になれると聞いてな,ソイツの首と引き換えに事を上手く運ぶ作戦と当て馬の妖怪も用意すると言うのだからこれに乗らない手はないと思ったのだ」

 

(…竹林の…奥深く…いや…こんな場所に人など,ましてや姫君…)

 

実に信じ難い話が連続している上に意識も朦朧としている為考える余裕は無いが…ここまで来て全てが虚構ではないことは確かだ,事実私と妹紅は群れないはずの妖怪に囲まれていたのだから

 

「不老不死の化物を相手にするなら骨が折れたがアイツもアイツですぐに感情的になって当て馬共も上手く機能した…上手く事が運び過ぎて逆に恐ろしくなってくるわ.後は…不老不死となり百年は山に籠り妖力を蓄えそして…八雲紫と博麗の巫女を血祭りに上げこの幻想郷を我が物にッ!!」

 

「そうか,それは大層な夢だな…語るだけなら,だが」

 

「何,だ…と…?」

 

今の状況を正しく理解している者など慧音だけである,当事者の妖怪でさえ訳が分からず混乱して固まってしまっているのだから

 

「何故だ…!何故貴様が…!!何故貴様が俺から抜け出し首を絞めている…!!」

 

気付けば慧音は拘束から抜け出し両手で妖怪の首を絞めていた,それも――力量に圧倒的に差があるはずの妖怪の首を,だ

 

 

「…まぁ私がお前の話を一方的に聞いておいて私は何も話さない…では不平等だな.別に武士道を語る気はないがお前も知っての通り私はこれでも教師なんだ,子供達に道徳を説く立場である以上護れる範囲での道徳は守るとしよう」

 

慧音がこうして前置きを口にしている間,勿論妖怪は全力を振り絞って暴れているのだがそれでも抜け出せない程慧音の腕力は強まっていた.これでは逆に妖怪の首が絞まるのを加速させるだけだ

 

「私の能力は『歴史を喰う程度の能力』…世の中のありとあらゆる物事には歴史が存在する,例えば…私がお前に不意打ちを受け鷲掴みにされた…と言った具合だな.だから私は不意打ちを受けた歴史からお前の拘束の歴史まで全ての歴史(げんそう)を喰い殺させて貰った訳だ」

 

「ふ,ざけるな…!そんな馬鹿げた能力がある訳がない!!仮に実在するならそんな危険な能力をあの八雲紫が見逃す訳がなかろう!」

 

「勘違いするな,私はお前の言う通り半人半獣だがこの能力を悪用しようと思った事はない.私はこの能力を死ぬまで誰かの役に立つために使い続ける…そう決めたんだ.それと安易に私に妖力をぶつけたのは失敗だったな…生憎と妖の力に苦しめられるのなんて慣れっ子なんだ,でもそれ以上に苦しかったのは…」

 

俯き表情に影が入った慧音は奥歯を噛み締める.そんな慧音の髪が,服が…少しずつだが綺麗な深緑色へと変化した事に妖怪が気付くことはなかった

 

「…妹紅の,哀しみに私は同情してしまったんだ.寄り添う訳でもこれから前を向き歩めるよう手を引くのでもなく…自分と同じ人間でも妖怪でもない曖昧な存在を哀れみ私より下の境遇がいたと安堵すらしてしまった…!こんな最低の行いがあるか!私は妹紅に二度も救われたんだ,そこには妖怪も人間も何もない…妹紅は善意で私を助けてくれたんだ!…だから私は妹紅の優しさに優しさで応えたい…」

 

「なめ,た真似をぉ…!半人半獣風情の雑魚がぁぁぁ!!!!」

 

「雑魚で結構!無能だろうと滑稽だろうと好きに罵れば構わない!!だがな!お前の野望の為に妹紅や人里の皆が血を流す事だけは絶対に許さなさい!」

 

瞳を血走らせた妖怪は翼をはためかせ暴風で慧音を振り払おうとするが慧音は怯まない,逆に上体を反らせて頭――特に額に力を込める

 

「それでもお前が考えを改めないと言うのなら…!お前の思考を正当化してきた――」

 

「そのふざけた歴史(げんそう)を喰い殺すッ!!」

 

その『音』は小さく鈍くとても迷いの竹林に響くような音ではなかった,その音を聞いた者は高みの見物を決め込んでいた妖怪の賢者やその戦いを仕向けた黒幕達くらいである

 

しかし幻想郷の永い永い歴史の一部にはしっかりと,鮮明に刻まれたのであった




あけましておめでとうございます,新年二日目から海釣りに挑戦しましたけねもこ推しです
さて久しぶりの投稿になりますね,二週間と三日くらいでしょうか?はい?釣果?嫌だなぁ私の髪型から想像してくだ…あぁ興味無いんですね分かります

余談ですが今回のけーね先生って大概にチートですよね,次回とその次で話中に補足説明等々は入れますけど執筆してる私も「今回屁理屈過ぎたかなー」とは感じたり感じなかったり.ですが慧音は私の中で上条さんタイプのヒーローだと思うんですよ,勿論もこたんはあの人と同類ですが(意味が分からない人は『禁書目録 ヒーローの種類』でぐぐってくだされ).ですから通常の弾幕ごっこや真剣勝負ではあんなチート決め込んだ能力の使い方はしませんのでご安心を.
何か新年一発目で調子に乗って長文になっちゃいました,ごめんなさい
それでは本年もよろしくお願いします


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プロローグ【4】〜それは物語が始まる前の物語〜

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

痛い…なんて感覚はない.酸欠で死ぬのは『痛い』と言うより『苦しい』の方が強いと思う,既に死んだ後だから戯言にしかならないけど

とにかく今は一度死んだ後で万全の体調なんだ,慧音は無事か!?ただの一般人じゃないだろうけどそれでも妖怪相手に素手なんて…!

 

「慧音!大丈夫か,慧音!?」

 

すぐさま起き上がり辺りを見回すと我ながら中々の事をやらかしたと思わされる,炭化した亡骸に紅で彩られた竹…どれを見ても猟奇的の三文字がよく似合うがそんな光景の中に唯一猟奇的でないものが混じっていた

 

妹紅が見たそれは何度見ても首を傾げてしまうような不可思議な被り物を頭に乗せたまま地面に膝をついて荒い呼吸を繰り返していた.そう,上白沢慧音である

 

「あっ…妹紅!無事だったのか!?良かった,急に豹変するから心配したんだぞ!?」

 

「あ〜…ごめん,アレは昔からなんだ….で,でも豹変を指すなら慧音だって…服装や髪が若干緑がかってるじゃない?」

 

「す,すまない……実は私のこれも昔からなんだ.詳しく話せば長くなる…が…い…まは…」

 

「けーね…!?ちょ,慧音!?しっかりしろ,おい慧音!?」

 

膝を付いていた慧音は立ち上がろうとすぐさま膝に力を込めるがそれは適わず今度は崩れ落ちる.慌てて妹紅が身体を支えて呼び掛けを行うが返ってくるのは言葉ではなく沈黙だけだった

 

(クソッ…!何が一体どうなってるんだ!?私がリザレクションを終えるまでに何があった!?診たところ慧音に外傷はないけど…とにかく!)

 

とにかくこのままでは不味い,そもそも慧音は極度の空腹でこの竹林にぶっ倒れてたんだ.その後奇襲に巻き込まれ飲まず食わずで今に至る,間違いなく洒落にならない状況なのは確定だろ!

気を失っているのかどうかさえ分からない慧音を無理矢理背中に背負った妹紅は辺りの警戒代わりに殺気を撒き散らしながら家替わりのボロ小屋を目指した,本来なら人里の慧音の家に向かうのが最善だが生憎と妹紅と慧音は初対面…家など妹紅が知る訳も無ければ妹紅自身も人里に足を運ぶ気は毛頭無い

 

走り始めてから数分後『わざわざ走らなくても飛べば良いだろ?』と至極当然の考えに妹紅は辿り着き,苛立ちを抑えながら竹を避けて飛行した.その甲斐あってかいつもより大幅な時間短縮に成功,今は小屋の中で慧音が寝かされている真っ最中だ

 

「とりあえず…!非常食で残しておいた物全部持ってくるんだ!!干し柿に川魚の干物がいくつかあっただろ!えぇっと…!それから水だ,新鮮な水!!」

 

慧音の空腹を満たす事が最優先だと考えた妹紅は唯でさえ散らかっている小屋の中を更に散乱させ埃を舞い上がらせる.続いて『急がなくては!』という焦りから安静にすべき人間の真横でドタバタと足音をたてる

語弊のないよう今の内に訂正しておくがまかり間違っても妹紅は嫌がらせをしている訳ではない,冗談抜きで本当に焦っているのだ.そもそも妹紅は「怪我をしたから治療する」「極度の空腹状態で死にそうだから食事を取る」などの概念が1000年以上前から消失している.怪我をしようが腕が消し飛ぼうが待てば治る事で空腹状態に陥っても死ぬ事は無い.日頃の食事は云わば妹紅の『趣味』,別に何ヶ月絶食しようが死んでまた蘇るだけである

 

「慧音,食べにくいかもしれないけど口を開けて!川魚をの燻製だよ,味と匂いには目を瞑って…今は贅沢言ってられる状況じゃないから…それと水もあるよ」

 

「…っ…すま…ない…!」

 

「謝る暇があるなら早く食べる!ここまで来て死なれた方が私は困るんだ…!」

 

その後も暫くは『すまない』を繰り返してから慧音はひたすらに無言で口と箸を動かし続けた.その食べっぷりに妹紅が安堵感を抱いたのとこれからの食料事情を鑑みて真っ青になったのは神のみぞ知る何とやら…だ

 

「…御馳走様でした,魚の燻製も干し柿も美味しかったよ.本当に助かった,妹紅…ありがとう」

 

「…別に良いさ,多分あの奇襲は私が原因で起こった事だろうから.それと慧音…体調が落ち着いたばかりで悪いんだけどさ…私の事,何か…聞いたの?もしそうなら,ちゃんと言って欲しいんだ…その方が面倒が無くて済む」

 

「…全てが真実かは分からないが一通りあの奇襲が人為的な物だった事は最後に私が殴り飛ばした妖怪が話した,連中の狙いは妹紅の肝でそれを竹林の奥に居る姫君が教えた…そうだ.それに妹紅が不老不死だという事も併せて聞かされたよ」

 

あぁ,そう――――

 

私にはそう答えるしか出来なかった.

また失った,いや――そもそも手に入りすらしていなかったか?でもまた化物呼ばわりされなくちゃならない,軽蔑されなきゃならない,嫌われなきゃいけない……何十年ぶりかに出会えた意気投合出来る人だったのに?

 

嗚呼――――ワたシはマタ――

 

マタヒトリボッチニナッテシマウ

 

 

「妹紅…?おい,妹紅…聞いているのか,妹紅?」

 

「っ!!あ,あぁゴメン…ちょっとボーッとしてたんだ.それと私が不老不死だって言うのは事実…と言うか私の腕が千切れたのは見てただろ?でも今は元通り…言うまでもないはず.ただ私の肝をどうするつもりだったのかは分からないな,大方それを食えば不老不死になれるとかあの格下に騙されたのか…まぁ何でも良い

 

 

――ブチ,殺す」

 

視界の端に慧音が驚きを隠せない,とでも言いたげに目を見開いているのが映るが気にしない.元より見せつけるつもりで言ったんだからむしろ良いことだ

 

「…とりあえず詳しい話は慧音がちゃんと回復してからだ,水を汲んでくるからちょっと待ってろ.それと念の為に戸は厳重に締めておく,ここを襲うような馬鹿共には文字通り焼印を押して調教したから大丈夫だとは思うけど今日ばかりはそれも信用ならないからな.帰って来たら合図をするからその時は開けてくれ」

 

「…妹紅,私はお前の事を――」

 

「じゃ,言ってくる.もし腹が減ったなら他の干し柿も食べてくれて構わないから気にするな」

 

未だ何かを伝えようとする慧音に背中を向けて私は立ち上がり小屋を出る.気付けば竹林の隙間からは陽が沈むのが見えた,当然辺りは暗くなる

だがそれ以上に暗くなったのは私自身の心だった."案外私にもまだ誰かを欲する気持ちがあったんだな"と呟やけどもその声に返事を返す者はいない

 

手に持った桶を握り直し迷いの竹林から外れた場所に存在する川を妹紅は目指した.道中で数回中型の妖怪に遭遇したが大概は道を彼女に譲る,今の妹紅ならば近寄っただけで殺されると察したからだろう.そんな妖怪達の反応すら…否,妖怪の存在すら妹紅は認識しようとしなかった

 

(…悲しい,か…案外素直に自覚出来るもんだな….そんな事を思うことすら許されない悪党だろ?私はさ….輝夜に復讐するために化物になった,その化物になる為に無関係の岩笠を殺した…ハッ…悪党としては私も輝夜も似たような三下だな…)

 

桶2つに7割程の水を汲む,物足りない気はするが汲みすぎて道中で零してしまえば意味がない.

水の入った桶を両手に抱えながら私はふと物思いに耽ってみた.悲しみは意外にも心を透き通らせるんだな――――足元に気を配りながら片目を閉じる

 

先ずは父上が短刀で腹を切った場面,多分あれは背骨も貫通していた筈.不思議な事にまだ化物で無かった私がそれを見て思った事は…何も無かった.別に無関心だったとかではなく純粋に『状況が理解出来なかった』,そうとしか言い様がない.暫くしてから派手に泣いたが父上が目を覚ます訳がないことは分かっていた,分かっていたからこそ私は心の中に在る感情を『悲』から『怨』に変えたんだ

次に富士の山で蓬莱の薬を奪った場面,岩笠は私より大きくて…って当たり前か.私は未だ子供で彼奴は元服も済ませた男,私の方が大きいなんて有り得ない.とにかくそんな岩笠を私は突き飛ばした,体格差はあれど傾斜面だったから然程差支えは無い.岩笠は悲鳴を上げる間もなく谷底へと転げ落ち,散った…人はあんなにも簡単に死ぬんだと思い知らされた.思えばこの時点で罪悪感が薄かったあたり私は人間じゃ無かったんだろう

 

後は……あぁ,幕末の京での彼の馬鹿との出会いか…思い出したく無いなぁ….あんなのと気が合うだなんて思った私は病気だよ病気.蓬莱人がかかる病気なんて先ず禄な物がな――

 

「ズドン!!」

 

ったた…!何だよ急に…!

 

「っ…も,妹紅なのか…?すまない,合図がどんな物かを聞き忘れていたからどうすれば良いかと思ってな…」

 

目の前にいたのは髪の色が完全に青へと戻った慧音だった,頭を抑えているから…多分私とぶつかったんだろう

 

「そう言えば…そうだね…じゃねぇよ!!」

私は慌てて桶を地面に置いてから慧音を伏せさせる

 

「言っただろ!?まだ辺りに妖怪が彷徨いているかもしれないからって…!何の為に扉を厳重に締めたと思ってるの!?」

 

「い,痛いじゃないか妹紅!第一私はある程度体力を回復させたからある程度の妖怪なら対応出来る!」

 

「素手の人間がやかましい!!」

 

どうやら慧音は私を探して小屋を出たらしく,たまたま鉢合わせた私に駆け寄ったら私の方がボーッとしていた為にぶつかったらしい.どうやらこの慧音先生はどこか抜けている部分があるんじゃないか?と疑いたくなる一面を持ち合わせているみたいだな!

 

それまで感じていた感傷や寂しさ,今慧音とぶつかった驚きに板挟みになった妹紅は苛立ったように頭をボリボリと搔く

 

ボジュッ!!

 

……頭皮と指の摩擦により軽く火が起こるレベルで

 

 

「えっ,ちょ…!?妹紅!?何故だ,何故頭を搔くだけで火が着いた!?」

「あぁもう!!やり過ぎた熱い死ぬ!!いや私は死なないけどさ!?とにかく水だよ早く掛けて慧音!!」

 

あぁ分かった,の掛け声に反応するまでもなく慧音により妹紅の頭には汲みたての水がぶっかけられた.

シューという音と共に火は消え去り妹紅の頭から煙が昇る,対する慧音はと言えば頭が燃えた妹紅の心配反面余りにシュール過ぎる現状に笑いを堪えていた

 

「……も,妹紅!頭は大丈夫か?怪我は…ないかもしれないが」

「心配してくれてありがと,元よりマッチより小さな火だったし私は…言っただろ?不老不死の化物だってな,マッチの火だろうが大火だろうが私には関係ない.それより早く小屋に戻ろう――僅かだけど火も付けたし大声も上げたら妖怪が寄って来る可能性もあるからな」

 

慧音は何か言いたげだけど関係無いとばかりに私は片手で水の入った桶を持ち片手で慧音を引っ張る.律儀な慧音は空の桶も咄嗟に拾ったけど…

 

「…もし,――――なら私はもこ――のくい――」

 

私の小屋までは後少し…そんな距離で慧音の凛とした声が聞こえた気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上白沢慧音SIDE

 

 

 

 

 

 

 

それは私なりの覚悟の言葉でもあり自身を励ます言葉でもある.恐らく妹紅には届かなかっただろうな…いや,今届けるつもりは無かったから当たり前か

 

慧音曰く「覚悟の言葉」を呟いた数分後二人は小屋の前へと戻って来ていた

 

「何とか妖怪と鉢合わせにならなくて良かった,また大乱戦なんて手間は御免被るからな」

 

「悪いな…私の所為で余計な手間をかけさせてしまって…」

 

「何度も言ってるだろ?あの襲撃は慧音の責任じゃないってな.それより早く入ろう,私も少し喉が乾いたんだ」

 

小屋に入るなり真っ先に桶の水を妹紅は手で掬って口に運ぶ.実は妹紅自身は喉は然程乾いてはいなかった…が

 

(まさかとは思うが…永遠亭の永琳が水を汲む事を見越した上で川に毒を流した可能性があるからな,遅効性なら判断は…いや彼奴なら間違いなく即効性の毒を流す筈だ)

 

不思議そうに首を傾げる慧音を尻目に妹紅は身体に異常が無いかを確認する,結果は――

 

「…ふぅ…潤った.慧音も飲むか?」

 

「私も折角だから貰っておくよ」

 

水を飲み干してから数分,妹紅の身体には異常は無い.単純に妹紅の考え過ぎか或いは――

 

「…考え過ぎ,今はそうしておくか」

 

「…?妹紅,どうかしたのか?」

 

いや別に,と答えた妹紅の瞳は何か考え込んでいるように見えたが…今は他に大事な話を優先するべきか…

 

靴を脱ぎ小屋の中央にある囲炉裏の側へと慧音は正座した.勿論その背筋は伸びている

 

「…妹紅,お前が不老不死だと言う話…それも踏まえた上で先の奇襲について.私に聞かせてくれないか?」

 

「…綺麗な正座だな,慧音.そんな調子で来られると私も緊張するんだけどな?…長くなるから楽な姿勢で聞いてくれよ」

 

私はあぁ,とだけ返した.仮に妹紅の話が何時間続こうとも正座を崩す気は無かったが

 

「…あれはもう1000年以上前の話,まだ侍だ貴族だの騒いでいた時代だったよ」

 

その切り込みから妹紅の衝撃的な話が始まった.どの話も――妹紅を疑う訳では無いが信じ難い話ばかりだ

妹紅の父とかぐや姫との出会い

蓬莱の薬との出会いとその効能

岩笠と呼ばれる人物を殺した事

そして1000年の時を経て出会った妹紅と輝夜は互いの狂気のままに殺し合っている事,だが迷いの竹林に偶然私が迷い込み妹紅が『光の世界』の住人である私に触れた…否触れてしまった.それをどこからか見ていた輝夜は妹紅が光の世界に憧れを持たぬように…原因である私を殺そうとしたのだろう

 

成程…な

 

「…巫山戯るなっ!!こんな不条理があって溜まるものか!何が光の世界だ!何が闇の世界だ…!闇の世界の住人が光の世界に憧れて何が悪い!?抜け出そうとして何が悪い!?どんな事情かと思えば…!そんな理由で妹紅を…!」

 

「…慧音にとってはさ,『そんな理由』でもな.私や輝夜みたいな悪党からすれば闇の世界に一度でも足を踏み入れた以上は光の世界とは一切決別しなきゃならないんだ.ましてや――彼奴が父上を死に追いやったように,私が無実の岩笠を殺したように,私や彼奴は光の世界の住人を殺した最低の悪党だ.逆に輝夜が光の世界に少しでも目を向ければ私は報復の意も込めて似たような事をしただろうな」

 

「…分からない,って顔だな?当たり前だよ,それで良いんだそれが正解なんだ.だからこそ私は初対面の慧音を悪党としての規律を破る事を理解した上で助けたんだ.…きっと慧音なら多くの人を助けられるヒーローになれる,今慧音と話してようやく自分の気持ちが理解出来た…」

 

ふぅ…と息を吐いて妹紅は目を閉じた.静寂が支配する部屋の中で慧音は同じように目を閉じる

 

(…そう,か…妹紅…お前は,そんな罪を背負っていたのか)

 

確かに妹紅の背負う罪は余りに重いものだ,『不老不死』に『殺人』は何時の時代も大罪中の大罪である事は歴史が証明している

何より彼等の罪は裁きようが無い,不死である以上地獄へと赴く事もないのだから.余談だが幻想郷の裁判官とも言うべき閻魔『四季映姫・ヤマザナドゥ』は蓬莱人に関する話には尽く歯軋りをしながら顔をしかめていた事を知る人物はそう多くは無い

 

「確かに,な…妹紅.お前は罪人だよ,それも裁かれる事が無いなら尚大罪だ…お前が自身を悪党や化物と卑下し善良な人間を巻き込むのを避けようとするのは分からないでもない」

 

「解ってくれて助かる,教師相手に論争になったら勝ち目が無いからどうしようかと思ったんだけど…慧音が清濁併せ呑む性格で良かった」

 

妹紅が安堵から溜息を付いたのも束の間,慧音は「だが」と間を置かずに切り出す.怪訝そうに首を傾げる妹紅には続いて慧音の口から放たれる言葉は――予想出来なかった

 

「だが…それでは何一つ解決にならない.それでは妹紅は永久に続く日々の中で罪悪感に身を焼くだけだ…復讐心に身を任せて身体が血に染まるだけだ!そんな事に妹紅は意味があると思えるのか!?」

 

「……だから言っただろ?無限に続く罪悪感も血塗れの身体も全て私が望んで選んだ道なんだ.罪を償えない私にはお似合いの末路だろ…?」

 

違う,絶対に違う!それは償いじゃない!!

 

「…では逆に聞こう.何故妹紅は罪が償えないんだ?死ねないからか?地獄に堕ちる事が叶わないからか?罪を償うとは『死』以外には無いのか!?」

 

「……あぁそうだ,人を殺めた罪は其奴を殺めた者の『死』によって償うべきだ.外界で死罪が存在する事やその意味なんて慧音なら私より知ってる筈だろ?だが…私には『死』は存在しないんだよ…!だったら…だったら!!」

 

「……だったら,死と等しい…若しくはそれ以上の苦しみを持つ痛みで贖罪と成す,か…」

 

馬鹿者,大馬鹿者……人間はそう呟き化物を抱き締める

 

化物は人間の頃ですら味わった事の無い人間の温もりに思考を停止させる

 

「そんな贖罪があってたまるものか!仮に閻魔がそれを許したとしても…!私は絶対に許さない!何より…!」

 

この瞬間,上白沢慧音は汚れ一つ無い綺麗な光の世界から血に塗れた闇の中へ足を踏み入れる

同情や哀れみなどでは無い.自分から闇へと堕ちる勇気も実力も彼女には存在しない.目的は只一つ――

 

『そんなやり方じゃお前が救われない』

 

闇の中をさ迷う出来たばかりの友人を引き上げる,それだけであった

 




お久しぶりです,無事北海道への修学旅行等々を楽しんで来ましたけねもこ推しでございます.行事が続くとやっぱり更新頻度は落ちるんでせう…

とりあえず私の身の上話なんてどうでも良い!!大事なのは作品についてだぜ!
言わずもがな,と言うか大半の方は察していらっしゃるとは思いますがこの回想編の慧音と妹紅はそれぞれ絶対能力者進化計画の時系列の上条さんと一方通行をモチーフにしています.そこで誤解のないようにお伝えしたい事がありまして、、、

1、私はホモ好きではないッ!あくまでけねもこと上手い具合に捏造話とキャラが重なっただけですから!

2、私は原作禁書の絶対能力者進化計画の頃の一方通行を擁護する気は欠片もありません.彼の過去や事情はあれども罪は罪であって償うべきもの.しかし…妹達も言っていたようにあの実験は「一方通行は加害者であり被害者」と言うのもまた事実.私はそれを記憶の片隅に置いて今回の話を執筆しました,そしてその設定を今回の話に重ね合わせた…と言った具合です
余りに長文になり過ぎて私も意味不明になりましたが要は『今回の話は絶対能力者進化計画の話と被った上にもこたんを救おうと慧音は奮闘しますが,それが=妹達虐殺の正当化ではない』ということです


やっぱり私に真面目な話は似合いませんねぇ…早く上条さんを不幸にしていじり倒したい!次はいよいよ回想編最終回,回想編が終わったら上条さん√に入りますです








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プロローグ【5】〜それは物語が始まる前の物語〜

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

今…この人間は何を言ったんだ…?私が…救われない…?

 

「…お前の言いたい事が分からないな,慧音.さっきの私の話を聞いた上でまだそんな世迷言をほざいてるの?」

 

「世迷言な物か,私は本心から妹紅が救われないと言ったんだ.…なぁ妹紅,私はな…お前が罪を償う為に己を苦しめているとは思えないよ」

 

私を抱き締めていた慧音は一度離れてまた言葉を紡ぎ始める.対するただ黙って彼女の話を受け入れる事にした

何故かは分からない,でも今慧音と同じ話を神様が講釈垂れたとしても私は受け入れなかっただろう.そう思わせる程慧音の言葉には重みがあった

 

「確かに外界では死罪も存在するし死に値する罪を犯した者には至極当然の罪状だろうな,私も死罪の在り方については反対しないよ.だが妹紅は違う,人を殺めた事も不死身も大罪だが…妹紅は…目を逸らしているだけなんじゃないか?」

 

「私が罪から,目を逸らす?何の為に?…償いようが無い程の罪を犯したからこそ私は今の永遠の苦しみを選んだ,そう言っただろ」

 

「そうだな…では妹紅は苦しんだ先に,永遠の苦しみの先に何かを得たのか?前に進めたのか?」

 

「っ…何かを得たり進む事が贖罪に何の関係があるんだよ.悪党の私には関係ないだろうが…!」

 

…あぁやっぱり.慧音は視えてるんだ,私の表層じゃない.もっともっと奥…本質を見透かしてる

 

成ればこそ,と妹紅の精神の中で防衛本能が働き始める.見られたくない,見透かされたくない…慧音に心の奥深くまで見透かされたら――ずっと私が逃げてきた物の重みに耐え切れず今度こそ本当に壊れてしまうから

 

「妹紅,悪党だから…何て関係無いんだよ…!悪党も善人も前を見て進まなきゃダメなんだ!瞳に映る物から目を逸らし苦しみ続けるだけなんて誰が望む事か!そんな贖罪じゃ誰も前に進めないし救われない!」

 

「だったら…!だったらどうしろってんだ!?苦しむ以外にどうやってこの無限罪を償う!?慧音には私が今まで殺めた人間に面と向かって言えるのかよ!!『お前を殺した人間はこれから前を向いて生きるから許してやってくれ』ってか!?言えないだろうが…!」

 

華奢な慧音の肩を軽々と突き飛ばした妹紅は両肩を抑え込んで馬乗りになる.怒り任せに襲い掛かった妹紅の瞳は微かに潤み肩は激しく上下していたが直そうともしないのは焦りの現れとも言えるだろう

 

(…最ッ低だな…私….こんな事で慧音に八つ当たりしてどうするんだよ…図星を突かれたからって…)

 

そう,端から解っていた.私が贖罪に託けて犯した罪の重さから目を背けていた事に.

初めて人を殺めてから不死となった私には有り余る程の大量の時間があった,当然僅かながらにも私にだって罪と向き合おうと思った時間はある

 

だが…その度に形容し難い恐怖に呑み込まれて私は廃人となった.父上が口から血を流しながらも尚腹部に刃を差し込む場面を,岩傘が崖から転げ落ち唯の肉の塊に変わった場面を脳裏に描く度に…心臓は破裂するかと思う程に早鐘を打ち脳は内側から金槌で叩かれたのかと勘違いする程に激痛が走るのだ.終いに私は襲い来る激痛と恐怖に精神を維持出来なくなり自殺を繰り返し時には周囲の妖怪や野生動物を皆殺しにした程だ

ただ自殺を選ぼうと虐殺を選ぼうとどちらを選んでも辿り着く末路は変わらない.それは『虚ろ』だ,何十回と死を重ねて疲れ果て座り込んでも死屍累々の上に腰掛けようとも―――身体を包み込む様に,締め付ける様に訪れる虚しさは何百年と不変であった事は改めて私自身が不変の蓬莱人と認識させるのには効果的だったことをよく覚えている

 

そんな事を続けた妹紅はある恐怖を覚えた,勿論自殺を繰り返す事や返り血で身体を染める事ではない.『贖罪』が成せない事である

妹紅の大罪を裁けるのは恐らく地獄の閻魔だけだ,然し彼女がその閻魔の元へ赴く権利は消えてしまった…否,自身で破り捨ててしまった.そうなると妹紅に遺された道は…

 

「妹紅の復讐を遂げる為に悪党となりそして終わらない苦しみの鎖で己を縛る…か」

 

「……まるで読心術みたいだな,卑怯だぞ…その能力…」

 

「能力じゃないさ,妹紅に聞いた話の中から推察しただけだ.…なぁ,妹紅…やっぱり私は妹紅の償い方は間違ってると思うよ,当然妹紅が犯した罪の重さも考えた上で…だ」

 

両肩を抑えつける妹紅の手をそっと退けた慧音は代わりに自身の手を妹紅の頬に添えた

 

「…もう復讐なんて止めよう,妹紅.悲しみからは悲しみしか生まれない様にそんな連鎖は誰かが断ち切らなきゃいけない…!」

 

「…本当に慧音は断ち切れると思ってるのか?今まで私は輝夜を一万飛んで二十九回も殺し続けた私の復讐をさ」

 

「出来る出来ないじゃない,やってみせる.だから妹紅…まずは前を向いて進む事から始めよう,それでもまだ妹紅が復讐による苦しみで償おうと言うのなら―――

 

 

 

 

お前のその歴史(げんそう)を喰い殺すさ」

 

妹紅の頬を撫でる慧音の手は紡がれる言葉とは裏腹に非常に穏やかな物であった.その度に妹紅は昂っていた心が静まり返る事に気が付く

 

「……そうか,そうか…やっぱりお前には適わないよ…慧音….私の歴史(げんそう)を喰い殺されるんじゃ復讐心も抱けないだろ?……たださ,やっぱりまだそんな贖罪で良いのか?って疑問も拭いきれてないんだ」

 

慧音に撫でられた事で落ち着いた私は先ず慧音を起き上がらせた,なまじ慧音が綺麗なだけに押し倒す様な体勢じゃ集中して話も出来やしない

 

「勿論慧音の意見を否定する訳じゃない,私の償い方じゃ何も生まれないのも分かってる…だから迷ってるんだよ私は.」

 

「そうか……ならば沢山迷うと良い,折角の縁だから私も共に迷おう.文句は無いだろう?」

 

「ある訳ないさ,寧ろ歓迎するよ.ただ…その前にケリを付けなきゃならない奴がいる.迷うのはそれが終わった後からだ」

 

そう…これから私は新たな道を探す事になるだろう,だがその為には…アイツとの,輝夜とケリを付けなきゃならない.こればかりは慧音の力を借りる訳にはいかないからな

 

残った桶の水を手で掬い喉を潤した妹紅は焦げ跡が目立つ登山靴に足を通し紐を結び直す……が上手く結べない.理由は言うまでもなく妹紅の指が震えていたからである

 

「…ははっ,らしくないな.以前なら狂喜して殺し殺されてたのにさ…」

 

怖い,本当に怖い.輝夜は恐らく私が殺し合いを止めると言えば激怒するだろう,その逆鱗に私は打ち勝てるのか?もし負けたら…今度の標的は慧音に変わるんじゃないか?

他にも揚げ始めればキリがない不安要素が私の脳内で渦巻く,確かになるほど…悪党が光の世界に目を向けるのは思っていた以上に難しいらしい

 

――――だが

 

「上等だな,困難無しで光を掴める程善人はやってない」

 

「行ってくるよ,慧音」

 

「あぁ…行ってこい!」

 

振り向けばそこには私の新たな道を示した貴女がいる.ケリをつけよう,此処を…貴女の隣を私の居場所にする為に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蓬莱山輝夜SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今宵は満月,それは夜空を見上げれば分かる事.でも私は月を見る前から今夜の月の形は解っていた

 

「私が地上に堕とされたあの日…地球の竹林から見上げた月は欠片の無い満月だったわ.次に永琳達月の使者が私を迎えに来た日,あの日は更に綺麗な月だったのよ?そして今―――」

 

「今夜も満月,だからまたお前が勝つってか?笑い話にもならないな」

 

炭化して骨のみとなった妖怪の亡骸を踏み潰しながら現れた藤原妹紅は竹林の開けた場所の中央で月を見上げる敵―蓬莱山輝夜を見詰めていた

骨が踏み潰される乾いた音に反応した輝夜は顔を顰め口元を着物の裾で隠す.

 

「品が無いわね,その登場方法も…あの半人半獣に入れ込むそのザマも.妹紅は化物なりに悪党なりに流儀と美しさを兼ね備えていたはずよ」

 

「やっぱりあの奇襲はお前の差し金か,派手にやってくれたな?お前も悪党を気取るなら最低限の限度は守る事だ,慧音はお前が殺して良い程安い女じゃない.……私がお前との殺し合いから抜け出す事を決意させてくれ…ッ!?」

 

妹紅が全ての言葉を紡ぎ終えるのが早いか否か,正に刹那以上の時間.即ち須臾…蓬莱山輝夜が自在に操る時間の中で大量の魔力の塊が妹紅の全身を蜂の巣に変えていた

 

「妹紅,やはり貴女は…血迷ったみたいね.忘れたのなら思い出させてあげる,まずは血の味から思い出しなさい」

 

「ガッ…グッ…!血迷ったのはどっちだクソ野郎…!いき,なりの不意打ちとはお前の方が品が無いだろうが…!」

 

「戯言なんて聞きたくないの,さぁ妹紅!何時もの戦闘狂はどうしたの?まだ血の匂いが足りないのかしら?」

 

須臾の間に蜂の巣にされた妹紅は輝夜を見詰めている,普段の彼女ならばもうとっくに殺意に呑み込まれてもおかしくはない頃合だろう

 

(妙ね,わざと瞬殺してねじ伏せてあげたのに….気に入らないわね…その瞳…)

 

そう,輝夜の機嫌が悪い侭なのは妹紅が戦闘狂に変わらない事では無く瞳が今までとは違う事だ

 

「今までの妹紅なら…そんな瞳はしていなかったのに.殺意と狂気に身を委ねて私を殺しに来た妹紅の瞳はもっと輝いていたのに…!やはりあの半人半獣が…!」

 

「おい,私を一度殺した位でもう自分の世界に酔ってるのか?…本当に血迷ったのはどっちなんだろうな」

 

今更言うまでない事だが妹紅は不老不死だ,全身を蜂の巣にされた所で一分と待たずに再生出来る.

そんな妹紅は再生を終えた瞬間に襲い掛かる…のではなく敢えて数秒間隙を伺った.理由は『確実に殺す』ためだ,苛立ちが表情にまで現れていた輝夜は攻撃の威力とキレこそ上がっていたものの隙は非常に大きかった.

勿論自身の狙った隙を殺し合いに慣れた妹紅が逃す筈はない,手の脂肪分を可燃剤に炎を燃え上がらせ―――

 

「あぁ分かってる!今更私が始めた殺し合いを止めるなんてムシが良過ぎる事も悪党から抜け出せない事もなッ!!」

 

「だったら何故足掻くのよ!このまま永遠に殺し合いを続ければ良い!妹紅もそれが復讐と贖罪に繋がるから満足でしょう!?」

 

輝夜の胸部に爪を立てて抉る様に左手を一閃,だが妹紅がそうであったように輝夜もまた殺し合いなら誰よりも慣れている.

燃え盛る妹紅の左手は輝夜が取り出した火鼠の皮衣によって弾かれた

 

「あぁ…あぁそうだよ!ずっとそう思ってた!お前を殺し続ける事は父上に報いる事でお前に殺される事が岩傘への贖罪になると私は本気で思ってたんだ!!……でも違う…復讐も贖罪も…結局私が背負った物から目を逸らす為の口実に過ぎなかったんだ!」

 

されど妹紅は諦めない,続いて燃え続ける右手を輝夜の顔面に突き出すが分かりきった単純な攻撃を輝夜が防げない理由がなかった.

妹紅の右腕から発される高熱に汗を浮かべた輝夜は再び炎をあしらう為に皮衣を呼び出す

 

「だからもう殺し合いは御終い?笑わせないでッ!そんな綺麗事ばかりを並べ立てて私の気が収まる訳がない!って…しまっ」

 

「綺麗事だって事も分かってる,私もお前が簡単に諦めるとは思わない…だから私達らしくこの一万と三十回目の殺し合いに勝利した側の要求が通る,それで良いだろ!!」

 

突き出された妹紅の右腕は火鼠の皮衣に触れる直前で鎮火,即ち火のついていない右腕に対して――

 

「その迷惑な皮衣は布切れ程度にしかならないよなぁ!!」

 

勢いの付いた妹紅の右ストレートは皮衣ごと輝夜の顔面を打ち抜いた.

 

「ッ…!やって,くれ…るじゃない…妹紅…!これでも顔には自信があった方だから首から上のダメージは避けていたのよ…!」

 

「知ってるよ,何度お前と殺し合ったと思ってる…立て!輝夜,これが最後の殺し合いだ.私は例えこの先にどんな苦難が待ち受けていようとも背負った物から目を逸らさずに迷い続ける…勿論,お前からもだ…輝夜」

 

「…は…?わ,たし…から…も?」

 

思いも寄らない妹紅の発言に輝夜は殺し合いの最中でありながらも身体を硬直させた,それほどまでに妹紅は真剣だったのだ.故に硬直した輝夜の隙を妹紅は見逃している

 

中々吹っ飛んだ事を言われて思わず身体が固まってしまったけれど…ようやく整理がついたわ.つまり…

 

「つまり…私が貴女の父を死に追いやった事すらも水に流すと?」

 

「…最終的にはそうなるかもな,ただこれからどれ程の年月がかかるかは分からない.でも…!このままじゃ何も進まないだろうが!!私の中での時間は未だに千年前のあの時で止まったままなんだよ!今までならそれで良かった…でも今の私はもう変わったんだ,前に進みたい」

 

「ハッ……フフフッ…!!アハハハハハッ!!本当にどうしたの,妹紅!?貴女,あの半人半獣に操られているんじゃない?第一その半人半獣を殺そうと妖怪達を仕向けたのも私なのよ?」

 

本当に今目の前にいる人物が妹紅なのかも私は分からなくなってしまった,目の前の人物は変わりたい前に進みたいと言っている….もし…妹紅が変わってしまったのなら私は……私は一体誰が向き合ってくれるの…?

 

「…ッ!巫山戯るのも大概になさい…!妹紅や私みたいな化物が…!ただの人間如きに変えられる訳が無いじゃない…!!」

 

「……正直未だにお前が憎いよ,輝夜…でも私は…いや…今は話し合いは無駄だろうな.来いよ,私を化物として縛っておきたいなら殺せば良い」

 

そうよ,殺せば良い.妹紅を殺せばまた殺し合えるじゃない…半人半獣はその後に生き地獄を与えてから殺してあげる.だから今は…!

 

「妹紅のその綺麗事も纏めて皆消し去ってあげる!悪党を語る妹紅の綺麗事何て虫唾が走るだけよ!!」

 

勝てる,輝夜は確信していた.魔力の量も能力も,扱う武器の種類も質も全て輝夜が妹紅の上をいっているからこその判断である

 

だからこそ,だからこそ…妹紅は能力を使わずに純粋な魔力だけで沈める.もう二度とこんな戯言が吐けないように…力の差を焼き付ける必要があるのよ…!

左手に取り出した蓬莱の玉の枝に輝夜の魔力が注ぎ込まれ枝先の玉が7色に輝き始める.辺り一帯に殺気が充満していなければ誰もがその輝きに見蕩れた事だろう

 

「綺麗事…ね.なぁ…輝夜?お前は綺麗事如きに苛立つ程小物じゃないだろ?お前だってもう心の奥底じゃ分かってるんじゃないか?」

 

「うる,さい…!うるさい…!黙りなさいッ!!妹紅が悪いのよ…妹紅さえ悪党のままで居てくれたのなら私は…私は…ッ!!」

 

振り下ろされる一撃目,これにより二人の視界を覆い尽くす程の弾幕が生み出されるが輝夜はまだ止まらない.

続く二撃目…これは前の一撃で既に視界を覆っていた弾幕を上書きするだけの唯の無慈悲な暴力であった

 

 

「ドォォォォォォォォン!!!!」

 

そして…視界を塗り潰した弾幕は空気を揺るがす重低音を伴い着弾と同時に殺気で満たされた周囲を丸ごと消し去る大爆発を起こした

 

…流石に殺り過ぎたかしら?これじゃあ妹紅の死体も確認出来ないわね…

 

いきなりの魔力の大量放出による疲労と謎の安堵感により輝夜はその場に座り込んでいた

 

「ハァハァ……とにかくこれでもう妹紅は…!」

 

だが何故か汗が零れ始めた.汗をかくような熱帯夜でも無ければ今感じているのは恐怖ではなく安堵感の筈…だったらこの発汗の正体は…?

 

「よぉ輝夜…満足したか?その様子じゃ日頃の引き篭もり生活が祟ったな」

 

「ッ!?何で…何でまだ生きているのよ…!?あの出力を受けてどうして…!」

 

「…真正面から来る衝撃を往なす一番の方法な,回避でも受け流すでもなく同威力の衝撃で相殺する事だと私は思ってる.だから私はお前の弾幕に文字通り『最大火力』をぶつけさせて貰った…言っただろ?もう目を逸らさないってな」

 

背部から二枚の紅翼を配った不死鳥が1歩…また1歩と近付いてくる

 

(はぁ…これは….悔しい…本当に悔しい…でも…)

 

「…妹紅,綺麗な瞳ね.以前までの妹紅とは大違い」

 

「…お褒めの言葉感謝するよ,輝夜.お前に容姿を褒められるんならまだ私も捨てたもんじゃないな」

 

「そうね…これからは私からの褒め言葉を誇りに人間でも悪党でも好きな物をやりなさい.妹紅の足掻き…見ていてあげるわ」

 

「あぁ…足掻いてもがいて…たくさん迷って,そして

 

 

 

何度も向き合ってやるよ」

 

迷いの竹林を揺るがす二度の重低音の後に再び轟いた爆発音は全てを通して初めから見物していた妖怪の賢者の結界の中で響いたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で,その後生き返った輝夜に改めて今後の意思を伝えて最後は輝夜の抱いた幻想を殺して私の殺戮劇は幕を下ろした…って訳,だから最後の一万と三十一回目の殺しはちょっと意味合いが変わってくる訳だ」

 

「…何つーかまぁアレだな,妹紅と輝夜の因縁は聞いてたが改めて聞くと中々ダークじゃねぇか.それに思ってたよりも慧音さんとやらとのゴシップ話が無いんだが?」

 

長い長い話を聞き終えた垣根は背を伸ばして欠伸を噛み殺した

 

「言っただろ?慧音とは恋人云々じゃないってさ」

 

「その割には博麗神社の宴会では常に二人寄り添って呑んでいた記憶があるがな,まるで長年連れ添った夫婦のように…だ」

 

そう言えば垣根の他にまだ話をレミリアが聞いてたっけ.珍しく黙って聞いてたからすっかり忘れてたぞ

 

「まっ…長年一緒に居るってのは間違って無いな.それだけに慧音を馬鹿にする奴はどうも理性のタガが外れるのさ」

 

こればかりは徐々に変化を覚え始めた私でも変わらない事だと思う,それくらい慧音は…私を導いてくれた憧れのヒーローなんだから

 

(それにしても当麻の奴…何時になったら戻るんだ?場を繋ぐつもりで話したは良いがまさか全て語り終える羽目になるとは思わなかったぞ…)

 

流石にこれは妙だ,そう思っているのは後の二人も同じらしい.そしてレミリアが口を開こうとしたその時だった,私達がいるホールに一人の妖精メイドが駆け込んで来た.主を目の前にして一礼もままならない程息を切らした妖精メイドが伝えた事はただひとつ

 

「きゃ,客人の少年といつもの本泥棒が…!ふ,ふ……!!妹様と闘っておられます!!」

 

 

……最悪だ,どうやら私はあのウニ頭の不幸体質を甘く見過ぎていたらしい




ふぅ…何とか回想編が完結しました.正直疲れました…もこたんとぐーやんのラストシーンが特に.私の中であのシーンは旧約のていとくんVSセロリのようにしたかったという願望もありましたから.
ただ物語としてはこの回想編が妹紅と輝夜のスタート地点になる訳でして.そのスタートがダークなのは読む側も書く側も疲れてしまうかと
あっ,決して私が疲れるからこのラストを選んだ訳じゃないですよ?(汗

そんな訳で次回からは『上条&魔理沙VSフラン』編です!乞うご期待!


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UNKNOWN MEETS UNKNON

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

とっくの昔に夏を終えたはずだった.既に気温は下がり始め幻想郷でも徐々に冬に対する備えが始まりつつある

 

しかしこの場にいる少年と少女――すなわち上条当麻と霧雨魔理沙は額から季節に似合わぬ汗を流している

 

「ふ,不幸だ…!元から不幸だったがその不幸が幻想郷に来てから極まってるんじゃないか!?」

 

上条当麻の額から来る汗は純粋な生理現象から来るそれであった.上条当麻の発汗の原因は―無邪気な笑みを浮かべた少女が振るう剣『レーヴァテイン』から放たれる超高熱だ.

 

「当麻,悪いが無駄口を叩いていると舌を噛むんじゃなく舌を焼く羽目になるぜ!しっかり避けるか右手を使え!!」

 

もう一人の額から汗を流した人物は霧雨魔理沙,普通の魔法使いその人だ.もっとも彼女の額から流れる汗は暑さからの物と言うより―――冷や汗に近い

 

そして最後の人物,いや吸血鬼.二人の人間に季節と似合わぬ汗をかかせている張本人は汗など流す事も無く玩具を使った遊戯を楽しんでいる

 

「スゴイスゴイ!私のレーヴァテインがすぐに消えちゃうなんて……お兄さんの右手はどうなってるの?」

 

少女の名は『フランドール・スカーレット』,紅魔館に住まう吸血鬼姉妹の妹だが実力は姉にも劣らないと幻想郷の実力者達は考えている.尤もフランドールにはそんな事は瑣末な事,今の彼女を支配しているのは―――

 

「まっ,何でも良いよ.お兄さんを壊した後に咲夜かパチェに解剖してもらうから.だからせめて……生きている間は私をたーくさん愉しませてね!!」

 

容姿は幼子とは言え彼女は紛れもない吸血鬼―――オマケに破壊と殺戮に取り憑かれ逆にそれらの衝動を糧にする程の怪物だ

 

「あぁ悪かったよ反省してますよ!上条さん自身がお前の機嫌を損ねちまった事を言い訳するつもりもないし悪いと思ってる!!ただ解剖はやりすぎだろ!解剖した所でこの右手の事は何も分からないぞ!!」

 

フランドールがレーヴァテインを真横に一閃,ぬいぐるみや本棚が早くも塵と化した.勿論彼女が塵にしたいのはぬいぐるみでも本棚でもなく目の前の少年,真一文字の一閃は塵にすべき対象へと襲いかかる

 

「それにこんな燃え盛る大剣で切断されたら解剖の前に炭化するって理科の先生に習わなかったか?」

 

が,上条当麻も大人しく炭化させられる程マゾヒストではない.薙ぎ払われた一閃に冷静に右手を突き出しレーヴァテインの一撃を打ち消した

 

(……あの時…!あの時上条さんが焦らなきゃこうはならなかったんだよなぁ…)

 

幻想殺し(イマジンブレイカー)に打ち消されたレーヴァテインは早くも元通りの姿を取り戻す.その僅かな間に上条当麻は額から流れ落ちる滝のような汗を拭いながら自身の失態を悔やんでいた.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧雨魔理沙SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

少し話を過去に戻そう,時間軸は当麻と魔理沙が妹紅やレミリア達と離れてからしばらく経過した辺りだ

 

「妹紅,あのメイドさんに勝つと良いんだけどな.霧雨はどっちが勝つと思うんだ?」

 

「殺し合いなら間違いなく妹紅だって断言出来るが弾幕ごっこならどうだろうなー…弾幕ごっこの性質上,人間とそれ以外が対等になるのはお前も知ってるだろ?」

 

「あぁ,幻想郷に来たばかりの頃に教わった.…でも妹紅が勝つとは断言出来ないのか…上条さんも気合を入れないとな!!」

 

「あんまり張り切り過ぎるのもどうかと思うが,それでも前向きは悪くないぜ!それはそうと…お前の右手の話,聞かせてくれないか?」

 

二人は紅魔館内の紅い廊下をあてもなくぶらぶらと歩きながら話し込んでいた.ある時は上条当麻の幻想殺しについて,またある時は霧雨魔理沙流の弾幕ごっこでのグレイズの稼ぎ方について…等々と会話内容はぶっ飛んでいるが年頃が近い少年少女なりにある程度仲良くはなっただろう

そして話が尽き始めた辺りで当麻がふと訪ねた

 

「………そう言えば俺達,いつ妹紅とメイドさんの弾幕ごっこが終わったか分からないんじゃないか?」

 

「あっ……完璧に忘れてた.仕方ないな,今から戻って私が覗き見て来るぜ!それなら勝負が付いていなくても邪魔にならないし大丈夫だ」

 

「それが妥当だよな,じゃあ霧雨.さっきのホールへの道案内を頼む」

 

「…?私は帰り道なんて知らないぜ,大図書館へ魔道書を盗みに来る時は咲夜やパチュリーに捕まらないように壁をぶち抜いて進むからな.私はてっきりお前がサクサクと進んでいくから妹紅か鈴仙に紅魔館の間取りを教わったとばかりに思ったんだけどな」

 

「今素直に盗むって認めたな?認めたよね?……悪いが俺も知らないんだ,仮に間取りを聞いた所で上条さんはこんな複雑な道を覚えられる程記憶力は良くないんでせう」

 

『盗むんじゃなくて借りるんだぜ,死ぬまでな』と適当にはぐらかしておきながら私は今更事の重大さを理解した

この紅魔館はただでさえ広い上に似たような道が多過ぎる,以前に小悪魔も迷子になりかけたと愚痴った程だ.そんな魔境も顔面蒼白の迷路に人間が二人……不味いな,皆の元に辿りつける気がしない

 

「よし,仕方ないから私のマスタースパークで邪魔な壁を全てぶち抜く!!」

 

「わぁぁぁぁぁぁぁ!!や,止めろ!!これ以上家屋破損で上条さんの負担を増やしてたまるか!第一こんな西洋風の小洒落た屋敷の壁を吹っ飛ばしたら修繕費に加えて余分な絵画の賠償金まで発生するかもしれないだろ!分かる分かりますよ今日の上条さんは不幸察知センサーが冴えてます!!」

 

不思議と魔理沙が次に取るであろう行動に既視感を抱く当麻だった

 

慌てて当麻の右手が私の手に触れる,すると―――

 

(…確かに魔力を練るどころか感じる事すら出来ない,当麻の右手はやっぱりデマじゃないな)

 

何か毒の類を射たれたようには思えない,かと言って催眠術をかけるような素振りも見せなかった

 

「こりゃあの永遠亭の面子が気を惹かれるのも分からないでも無いな,特に引き篭りがちのお姫様や死にたがりの妹紅からすれば願ってもないイレギュラー…か」

 

「……お,おーい霧雨?何か思考モードに入ってるとこ悪いがこれから本当にどうするんだ?頼むからまともな手段で戻ろうぜ」

 

「んっ…悪い悪い,当麻の右手についてちょっとな.それと私の手段がまともじゃないなんて言い方は無いだろ?此処は幻想郷,外界の非常識が常識に代わる理想郷だぜ」

 

「そんな理想郷あってたまるかよ…少なくとも相手の落ち度で家屋を破壊されるような理想郷が許されていいもんかね.とにかく今は下手に動き回るより二人固まって妖精メイド辺りを見つけるのが確実だと俺は思うぞ」

 

「賛成だ,幸い紅魔館は使用人はたくさん雇ってる筈だからすぐに出会えると思うぜ」

 

そうして一応の指針を固めた二人は勘に…勿論魔理沙の勘を頼って再度紅魔館の中をさ迷い始めた

魔理沙自身紅魔館内で迷子になること等何も怖くない,むしろ探検気分に浸れて良い刺激になっただろう.だがもう一人はそうは問屋が降ろさない,もし勝負が当麻の番に回ってきたら…二人にはその責任感が徐々に重みを増してきていたのだ

 

「はぁ…不幸だ…これだけ歩いても誰一人会えないなんて…」

 

「お,おかしいな…!妖精メイドに出会えないのもおかしいがこれだけ歩けば少しは見覚えのある通路に当たっても良いはずなんだが…当麻の右手は本当に厄介なんだぜ」

 

「い,言うなー!上条さんだって理解した上で頑張ってんだからな!!」

 

焦り,不安が募った当麻は全ての元凶である右手を握り締め壁に向けて振り下ろす

 

もし殴って壁にキズでも付いたら大変だぞ,と私が口を開こうとした時だった.おかしい,何かがおかしい……何だ?何の違和感なんだぜ?これは?

 

何の違和感なのかも分からず,かと言って無視することも叶わず.最初に魔理沙が違和感を抱いたのは当麻が殴ろうとした壁に目をやった時だ,別に侵入する度に壁一つ一つを観察している訳では無いが少なくとも今見ている壁には何か違和感がある

 

(…そう言えば今日は紅魔館に来てから違和感をよく感じたな…例えば咲夜より先にレミリアが当麻達を出迎えた事とかだ.普通なら主よりまず従者が出迎えるんじゃないか?ましてや不審者なら尚更だ,しかも咲夜は主を館内で待ち構えていた…もしかして来客の相手を主に任せる程の何か仕事をしていた…?)

 

それにレミリアが漏らした『フランならお前達を皆殺しにする』と言う言葉.確かにフランは気が触れているが紅霧異変後は徐々に落ち着いていると聞いてるし,私もフランと弾幕ごっこで遊んだ事があるがルールも弁えず殺しにかかってくる事は無かった.

 

『パリン』

 

「…?何だこれ…?今俺の右手が何かを打ち消したような…?」

 

「打ち消した?壊したの間違いじゃないのか?」

 

「いや,何もない壁を殴ったしガラスが割れるような音がしただろ?だから異能の力だと思うぞ」

 

確かに見る限りでは何かが壊れたようには見えないしガラスが割れるような音も聞こえたな.……待て,落ち着け私!私が感じた違和感を一から整理しろ

 

・何故か主を館でただ待っていたアイツの二つ名に似合わぬ咲夜

・見た目は普通の壁だが違和感を感じる壁

・フランの狂気を匂わせるレミリアの発言

・当麻が殴った壁から聞こえた異能を打ち消す音

 

………まさか,まさか…な?考え過ぎだ,幾ら何でも話が飛躍し過ぎだぜ.証拠は何もない……けれど

 

「っ!まさかっ!!この壁に隠された異能を打ち消せば新しい道が現れるんじゃないか!?こんな感じのRPGなら上条さんも学園都市でやった事があるぜ!」

 

「待て当麻!!何を言っているかサッパリだがもしかするとお前が打ち消したのはそこに存在した何かを隠す為のじゅつし」

 

『バリンッ!!!!』

 

二度目の当麻の拳が振り下ろされた時『ソレ』は現れた

それまで壁として成り立っていたソレは幻想殺しにより効力を失い消滅,代わりに現れたのは―――地下へと続く階段だった

 

「えっ,ちょ…うわぁぁぁぁぁ!?な,何でいきなり壁が消えて階段が出てくるんだよ!?」

 

「だから待てって言ったんだぜ…!!あぁもう今日の私は本当にツいて無いんだぜ!!」

 

足を踏み出して右ストレートを放った当麻は突如消え失せた壁の所為でバランスを崩し階段を転げ落ちる.

それを見た魔理沙はすぐさま握っていた箒に飛び乗り当麻を追いかける

 

(クソ!もっと早くに気付くべきだったぜ…!いや気付かなくても何か対策が取れた筈だ…!!もし,もし…私の当たって欲しくもない勘が当たっているのならこの階段を降りた先に居るのは…!)

 

「フラン,フランドール・スカーレット…!それも以前程では無いにしろ気が触れて誰彼構わず『壊す』フランだ!」

 

少年の悲鳴,少女の後悔…それらが耳に届いた『悪魔(フラン)』は抱き締めていた魔法使いの姿を模した人形を笑顔と共に握り潰した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランドール・スカーレットSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

「壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい…!!」

 

陽の光が微塵も差し込まない紅い部屋の中で少女,即ちフランは必死に己の衝動を抑え込もうと足掻いていた.

 

(ダメ,絶対にダメ…!ようやく私も落ち着いてきたんだから抑えないと……でも,壊したい….壊してグチャグチャにして二人の顔をたくさん眺めてみたいなぁ…!)

 

声の主の内,一人はハッキリと魔理沙だと分かる.ただもう一人は…知らないから壊しても良いのかな?

 

「金持ちだからってすぐに物を壊すのはお財布にも環境にも良くないぞ,上条さんならぬいぐるみは20回は補修した後に当て布は床の埃を取る為に保管しておくし中の綿だって枕替わりに使うんだ!貧乏人の努力を見習え金持ち吸血鬼!!」

 

「ねぇねぇ何を言ってるの?フラン,お兄さんの事詳しく知らないから一方通行で話されても分かんないや.だから壊しても良い?」

 

「結局それか!?上条さんにしても霧雨にしても命は金じゃ変えないんだからな!!軽々しくそんな事口走るもんじゃありません!」

 

上条…って名前のお兄さんは中々特殊な人みたい,妖力や魔力を感じないから本当に普通の人間だとは思うけど右手でフランの技を全て打ち消してしまうんだよね

 

灼熱の大剣と右手,それに加えて色鮮やかな魔法がぶつかり合う.最早フランの部屋は部屋としての機能も形状も残してはいなかった

 

それなら――とフランは破壊衝動に呑まれゆく中で思考を働かせる.中途半端に衝動を抑える位ならいっそ開放してしまおう,と.魔理沙の実力は折り紙付きだしもう一人も弱くはない,だったら日頃溜まったストレスを発散する相手に2人を選ぶのは――ハズレではないだろう

 

「フラン!あんまり悪戯が過ぎると咲夜やレミリアに叱られるぜ!それは嫌だろ?私だって御免被る!」

 

「あははっ!大丈夫!魔理沙もお姉様も咲夜も邪魔するなら皆グチャグチャに壊すだけだもん!!」

 

「こりゃもう言葉での説得は無理だな…!分かった,久しぶりに魔理沙さんと当麻が直々に叩き潰してやるから腹を括れよ!!」

 

「勝手に俺も加えてくれてありがとな霧雨!!お陰様で短い寿命が更に短くなりそうじゃねぇか!!」

 

ここまではボクシングで喩えるならば『ジャブ』の時間だ,それはこの場の三人とも理解していた

フランに然り魔理沙に然り,まだまだ彼女達は本気とも言える能力やスペカを使用していない.あくまで相手の間合いやタイミングを確認する意味合いがあってこそのジャブの時間だ

ではジャブの後に来るパンチは何か?

 

「全力,本気のパンチだよなッ!!」

 

守りに集中していた当麻が一変自身から駆け出しフランへと距離を詰める

縦一文字の一閃をサイドステップで回避,そこから派生する横薙は焦ることなく右手で打ち消しレーヴァテインが消えた隙を狙ってフランに肉薄する

 

「う〜ん…こんな近くで素早く動かれるとレーヴァテインを当てるのは難しいな〜.これは魔理沙の入れ知恵かな」

 

「上条さんの弛まぬ努力の結晶だよ,幸い炎は専門分野の知り合いが居るからな!!」

 

視線はフランの両手へと向けて警戒を持ち続けたまま牽制の水月(ストマック),フランと当麻の身長差では鳩尾狙いのつもりで打っても充分顔に命中する高さだ

 

が,大人しく当麻の水月(ストマック)を貰うほどフランは甘くない.即座に後ろ斜めに飛び上がりながらその手の中には紅い剣が描かれたカードが握られる

 

「ゲッ!?お前この距離じゃ振り回すのは難しいって言ってただろ!!」

 

「難しいだけでやらないとは言ってないよ!それにレーヴァテインは振り回さなくても貫くって選択肢もあるし!!」

 

「ちっ……!間に合え!!」

 

「また右手?でも右手だけなんだよね?私の攻撃が消えちゃうのは!」

 

私がレーヴァテインの名を唱えるのが早いかお兄さんが右手を突き出すのが早いか―――まぁどっちでも変わりは無いんだけどねッ!!

 

咄嗟に右手を突き出す当麻に対しフランは真逆,レーヴァテイン召喚までの速度は一瞬だったがその後は寧ろ当麻の右手を待っているかのようであった

それもその筈,フランは――

 

(どうせ滅茶苦茶に振り回しても打ち消されるなら意表を突いて突き出された右手が届かない場所にレーヴァテインを突き刺せば勝てる…!)

 

冷静にレーヴァテインを捌いていく当麻も大概に化物だが化物具合で言うならフランの方が数段上手だった…としか言いようがない

タイミングを間違えば単なる出遅れた一撃にしかならない所を生まれ持った戦闘センスでチャンスに変える…最強生物の呼び名に違わぬ吸血鬼の思考だった

 

「間に合え,間に合え…!!!!」

 

「間に合え霧雨ッ!!」

 

「…ッ!?しまった,魔理沙の牽制もしないと…!!」

 

「遅いぜ!魔力の充填完了…!」

 

 

ただ一つ,吸血鬼(さいきょう)に誤算があるとすれば――それは今戦っている二人が規格外であり例外である,ということだろう

 

レーヴァテインの熱のせいで発生した陽炎の向こうで魔理沙が八卦路を腰だめに構える

 

偶然か必然か…霧雨魔理沙と上条当麻はどこか似ていたのだろう,本人達にそれを問えば間違いなく否定するだろうが.とにかくこの一撃はそんな偶然とも必然とも取れる彼らの一致が巡り合わせた一撃

 

八卦路に光が灯り形状が変化していく中でフランは当麻へのトドメを諦めレーヴァテインを大剣上に展開しガードを試みる

 

「さぁ悪魔の妹(フランドール)!!これが俺と霧雨(にんげん)の本命パンチだぜ!!」

「『ファイナルスパーク』!!」

 

レーヴァテインの柄をギリリと音を立てて握り締めるフランの不気味な笑みは―――――鮮やかな閃光の中に消え去った




インフルエンザなう


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悪魔の狂気、英雄の狂気

既に一週間以上も前の話ですがこの『とある幻想郷の幻想殺し』の連載が始まって一年が経過致しました
ここまで私のような継続性も計画性もない人間が連載を続けられたのはひとえに応援してくださった皆様のおかげです、ありがとうございます


上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

魔理沙から放たれたファイナルスパークが当麻の視界を覆い尽くすまでには1秒とかからなかった、それ程までに刹那の出来事だったのだ

 

「…やった、か?」

 

「少なくとも回避されてないのは確かだな、フランなら回避すれば即座に反撃してくるだろ」

 

「じゃあ…命中はしたんだな」

 

「あぁ、『命中』はしたぜ」

 

そう、命中はしたんだ。でも……イコールそれがトドメになったとは限らない、多分霧雨はそう言いたいんだろう

あの至近距離からあの威力を喰らって耐えられるとは俺は思わない、いや思いたくない。出来る事なら倒れていて欲しい、上条さんはこの後も戦わなきゃならないんだからな

 

巻き起こった煙を手で払いながら当麻は右手に、魔理沙は八卦炉に力を込めた。もし―――悪魔(フラン)が健在でも戦えるようにだ

 

「痛いなぁ…酷いよ、魔理沙ァ…指が数本消し飛んじゃったよ。これはお返しに魔理沙の指も引きちぎらないとダメじゃない…」

 

「悪かったな、ただフランとは違って人間は指がまた生えるように作られていないんだ。…代わりに戦いの続きと行こうぜ?」

 

吸血鬼、健在。先が消し飛んだ指から血を滴らせながらもレーヴァテインは手放す事はなく…ただ笑っていた

 

「しかしどうやってあの威力に耐えたんだよ?指が吹き飛んだなら流石の吸血鬼でも余裕だったって訳じゃないんだろ?せめて指が再生する間くらい上条さんに教えてくれよ」

 

「ん〜…確かに重い一撃だったし回避も難しいタイミングだったからね…なるべくレーヴァテインの横幅を広くして少しだけ右に傾けたんだ。あれくらいの一撃なら跳ね返すのが無理でも向きを逸らす程度は簡単だよ、柄を握っていた指が犠牲になったけど…」

 

霧雨のあの攻撃を…あれくらい、ってどれだけ強いんだよ吸血鬼?いや最初から馬鹿にしてた訳じゃないけどさ…上条さんなら右手以外は塵に変わってたぞ

 

フランが喋り終えるのを待つ…までもなく彼女の指は再生していた。再び狂気に満たされた瞳が陽炎の中で輝き始める

 

「次は私の番かなァ?魔理沙にも速く指のお返しをしたいけど勢いづくお兄さんの死に様も見てみたいし…迷うなぁ…どっちから壊そうか…ッ!」

 

「悪いな!上条さんは急いでるし目の前で霧雨の指が切り落とされるのを見てる訳にもいかないから続けて攻めるぞ!」

 

そんな陽炎を切り裂くように当麻は駆け出し素早くレーヴァテインの間合いの内側に入り込む

 

「良いぞ当麻!長刀使いは間合いの内側に入られると途端に勢いを失う!!ただ火傷と私の弾幕には気を付けるんだぜ!!」

 

「何で味方の弾幕まで注意しないといけないんだ!?あとこの大剣に触れたら火傷じゃ済まないんですけどッ!」

 

「アハハッ!!凄い凄いッ!!まだ闘志が無くならないんだ?魔理沙はともかくお兄さんも大概狂ってるよ!」

 

当麻は常にレーヴァテインが自身の身体の右側で振り回されるよう位置取りを行っていた、単純過ぎてすぐに見抜かれるが逆にこの位置取りであればレーヴァテインには触れるだけで対処出来る

逆に魔理沙はフランの間合いの外から弾幕を張り続けた、近接戦を繰り返すフランと当麻に近付き過ぎない為だ。魔理沙は本来魔法使い、近接戦は不得手な上に近距離から弾幕を連発したのでは本当に当麻に弾幕が当たったり右手で打ち消されかねない

 

(後は…やっぱり魔理沙とお兄さんは連携に慣れてないんだろうね、若干動きが噛み合ってない場面が見えるよ!)

 

バレたか、と魔理沙は心の中で口ずさむ。連携が噛み合わないのはこの際仕方ない、寧ろさっきのファイナルスパークにまで漕ぎ着けた連携は奇跡と言っても良い。だから…私は今から全力で当麻の動きに合わせるんだぜ!

 

前提としてレーヴァテインによる攻撃の殆どは当麻が対処する、連携の出来ない状態で魔理沙がカバーに入っても無意味だからだ。代わりに魔理沙はフランに向けてではなくその周囲に弾幕を張る事でフランの動きをなるべく釘付けにする。これによりフランは周囲を飛び交う弾幕と当麻の右手の二つを同時に警戒する羽目になる

 

(そして…このまま膠着状態を続けるのは上条さんとしても霧雨も、そしてフランドール…お前も望んでないんだろ?)

 

(例え僅かでも私の弾幕や当麻のパンチで体勢を崩せば…!均衡は崩せるぜ!)

 

(だから私はその瞬間が来る前に鬱陶しいお兄さんの攻撃か周囲の魔理沙の弾幕のどちらかを崩さなきゃだよね?でも片方を崩す為に片方に意識を向ければ…その瞬間に意識を逸らした片方から攻撃を受けるのは確実……あぁ…!どうして…!!)

 

「あぁどうして二人はこんなに私を大興奮させてくれるのかなァ!?楽しい、楽しいよ最高にタノシイ!!」

 

「っ…フランドール!!こんな互いを傷つけ合う為だけの無駄な戦闘が本当に楽しいのか!」

 

「アタリマエじゃない!お姉様を壊してもこんなには興奮出来ないよ!!二人は最高、ダイスキだよ!!」

 

「…フランドール、分かったよ。お前が弾幕ごっこ以外の血を流す闘いに魅入られたんなら…!」

 

「お兄さんや魔理沙みたいな人間風情がチマチマした技術くらいで吸血鬼(わたし)を倒せるなんて幻想を抱いてるのなら…!」

 

「お前のその惨めな狂気(げんそう)をぶち殺すッ!」

 

「二人のその愚かな幻想(きぼう)を跡形もなくぶっ壊すッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

霧雨魔理沙SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の上条当麻と霧雨魔理沙コンビのフランとの戦闘は更に激化の一途を見せた。当麻がフランに限界まで肉薄し意識を刈り取るべくパンチを繰り出せば、フランは臆す事なくある時は躱しある時は片手でパンチの応酬に応じる。もしこの時フランが片手ではなく両手が使えていたなら人間と吸血鬼の身体能力差がある以上当麻は瞬殺されていただろう、ではなぜフランは片手のみでパンチの応酬に応えたのか?理由は簡単

 

「フラン!男からの熱血アプローチに夢中になるのは構わないが魔理沙さんからの弾幕アプローチをシカトするのは頂けないな!!」

 

「チッ…わざわざ私がお兄さんに攻め込もうとしたタイミングを見計らって魔力弾を撃ち込んでくる癖に良く言うよ。そんなにフランにゾッコンなら壊してからお部屋に飾ってあげる」

 

「それなら私の知り合いに人形遣いがいるから私そっくりの人形を頼んでおいてやるよ!この闘いが終わったら二人で頼みに行こうぜ!」

 

私は踏み込み過ぎること無く援護要員としてフランを釘付けにし、時には当麻とフランの距離を考慮した上で魔力弾も放つ。こんな似合わない地味なスタンスを私が取る理由は二つ

 

(…フランなら能力なんて使わなくても私を瞬殺出来る、踏み込み過ぎるのはハイリスクのノーリターンなんだ。実際嫌らしい位にフランは時折隙を見せて私に攻撃を誘ってくる…アレに乗っていたらどうなっていたか分からないぜ…!)

 

魔理沙は絶対に口や表情には出さないが妖怪と人間の力量差は痛い程分かっている、弾幕ごっこならまだしも普通の戦闘で博麗の巫女以外の人間が吸血鬼を相手取るなど自殺行為そのものだ

 

「…妖怪と人間の間には絶対的な壁が存在する、か」

 

「霧雨ッ!頼むから唐突に思案モードに入るのは止めてくれ!上条さんが焼死体に変わっちまうぞ!?」

 

「悪い悪い!ただ相手は幼女なんだからもう少しシンプルに落ち着いて戦っても悪くないと思うんだぜ」

 

「もう、二人共!私を抜きにして話をするのなら二人共愉快なオブジェに変えて部屋に飾るよ?」

 

「ほら見ろこれが幼女の言う台詞か!?上条さんは知ってるからな、フランドールの年齢が余裕で上条さんの30倍以上上回ってる事を!」

 

殺意と闘気と狂気が入り乱れるこの部屋には更に高温の炎や弾幕までもが暴れ回っている、普通の人間ならば逃げ出すことも適わず怯える事しか出来ないだろう

それでも、それでも―――

 

フランドールは笑っていた

久しぶりに壊せない物(つよさ)を見つけたから。そしてその壊せない物(つよさ)は全力で挑めば全力で襲い掛かって来たから

 

上条当麻は怯まず、壊れず

――ある意味ではこの場で最も狂っているのは幻想殺し(さいじゃく)なのかもしれない…何故なら彼には単なる生命のやり取り以上に譲れない物(しんねん)があったから

 

そして…

 

少女も、霧雨魔理沙もまた笑っていた

生命を賭けてみて改めて突き付けられた力量差(かべ)――それは余りに大き過ぎる物で絶望するよりも笑うしか無かったからだ。しかしそれ以上に魔理沙の笑いを誘ったのは目の前の少年の姿だった、異能を殺す右手があるとは言え所詮人間…儚く散るちっぽけな生命。だが今の上条当麻からは劣等感も恐怖も感じられない、ただただ己の信念に従いちっぽけな生命を全力で燃やし続ける

 

その姿が何と美しいことか!熱い言葉を掛けられるまでもなく魔理沙は心の中に漂っていた妖怪への劣等感を踏み潰した

 

(ほんと…馬鹿らしくなってくるぜ!私の抱いたつまらない感情も当麻の馬鹿さ加減も!)

 

これが私が無理に攻め込み過ぎない二つ目の理由だった

もしかすると当麻なら、私の感じた力量差(かべ)を壊すかもしれない。正直何も確信も証拠も無かった、でも…私は限りなくゼロに近い確率で訪れだろう『ソレ』を見たかったんだ。

私の親友が…霊夢が。かつて妖怪と人間の間にある力量差を何食わぬ顔で踏み越えたように、目の前に居るコイツは…!

 

「なぁ当麻!お前、本気で吸血鬼に勝てると思ってるのか?」

 

「いきなりどうした、ってかお願いだから今は止めて!ホントに上条さん死んじゃう!!」

 

「良いから答えろ!私はジリ貧の勝負は嫌いなんだ!男なら私に博打をさせる決心をさせてみたらどうだっ!!」

 

霊夢以上に泥臭く、霊夢以下に弱々しく、霊夢と同じ位に…

 

「…そんな事分からない、今からフランドールが呆気なく逆転する可能性の方が圧倒的に高いかもしれない。でも俺は…見たくないんだ、霧雨がフランドールに殺される瞬間も―――フランドールが霧雨を殺して壊れる瞬間もな」

 

それと同時に……フランのレーヴァテインを振るう動作が止まる

そして当麻も握り締めていた拳を開き目線の高さをフランに合わせるように腰を下げた

 

「お兄さん…頭がおかしいの?それともここに来て同情を誘うつもり?ガッカリだよ、そんな小物だったなんて…」

 

「そりゃフランドールから見れば俺なんて小物だろうさ、でもな。上条さんは気も触れていないしお情けで見逃して貰うつもりもないんだ、だってフランドール…お前、本当は誰も壊したくないし殺したくは無いんだろ?」

 

あぁやっぱりだ、コイツは…霊夢と同じ位に―――英雄(ヒーロー)だぜ

 

フランは眉一つ動かさず当麻を見つめ続けた、右手で振り上げたレーヴァテインもまた眉同様にピクリとも動かない

魔理沙は―――人間が吸血鬼を説き伏せるなどという全くもって馬鹿げた、しかしどこか懐かしい既視感を抱かせる光景をボンヤリと眺めながら張った弾幕を消し去る

 

「だってそうだろ、もしフランドールが本心から皆を壊したいだけの化物なら危険を犯してまで紅魔館の住人がお前を軟禁しておくのか?違うだろっ!紅魔館の誰もがフランドールを『破壊衝動に取り憑かれた化物』じゃなくて『破壊衝動に苦しめられる家族』として思っているから!でもフランドールを破壊衝動から救える言葉や行動が分からなくて苦悩の末にお前が誰も傷付けなくて済むように軟禁した…上条さんにはそんな風に――ッ!!」

 

「分かったような口を聞かないでよ、イライラするなァ。私は人妖問わず壊して殺して返り血を浴びれば満たされる化物なの。それをたかだか人間の子供の分際で……綺麗事を並べ立てれば私が号泣すると思った?馬鹿も1周回ると恐ろしいね」

 

当麻が喋り終えるのを待つまでもなくフランの靴先が当麻の脇腹を捉え、呆気なく当麻の身体を家具類の残骸に埋もれさせる

 

「大体アイツ達が私を家族と思っていた?苦悩の末に軟禁した?……フンッ、紅魔館の主であるアイツがそんな人間じみた思考に浸ると思う?口を開けばやれ『吸血鬼の誇り』だの何だの…聞いててコッチが呆れるよ、アイツはそんな大層な理由で私を軟禁したんじゃなくて単に私と正面から闘う事を恐れて渋々軟禁を選んだだけ。確かに私に同情する紅魔館のメンバーはいたかもしれないけど所詮同情程度、私の本性を知れば皆がアイツに賛同するに決まってるんだから」

 

フランは淡々と語り終え静かに目を伏せた、恐らく自身が一番思い出したくもないであろう過去を…だ

 

私は残骸に埋もれたままピクリとも動かない当麻を一瞥してからフランに向き直る

 

(立って、みせろよ当麻(ヒーロー)。今ここで立ち上がってまだフランに怯まず説教が出来たなら…例えフランが能力を使っても、最期まで姿を見届けてやるんだぜ)

 

「確かに、レミリアの奴は誇りや何かで人間を見下すキライがあるのは私も否定しないし私だって当麻と歳が大差ない人間だぜ。だからフランやレミリアの過去もそこで二人の間に生まれた溝も何一つ知らないな」

 

「当たり前だよ、アイツが昔話を人間にする訳ないじゃない。それより良いの、お兄さんを助けなくて?一瞬の感触だからハッキリしないけどアレは肋骨が数本逝ってるはず、私は不意打ちの破壊は趣味じゃないから安心して助けに行って」

 

「…当麻は立つぞ、絶対にな。あのタイプの人間はある意味ではフランより狂気だぜ、もっと小さい頃から同類の人間の背中を追い掛けて来たから当麻の事を知らなくても勘で解るぜ」

 

「それよりフラン、戦いを再開する前に二つだけ聞かせてくれ。…もし当麻のフランの軟禁に関する考えが間違っていた前提で、――――何でお前はまだ咲夜が作ってくれた人形を大事に部屋に飾ってる?何で咲夜や妖精メイド達は必要もないフランの人形を直したりするんだ?軟禁するだけなら水と食料だけで充分だろ…家具類だってそうだ」

 

「…さぁ、咲夜達がこの人形を編んだのも私が柄にもなく人形を大切にするのも…お互いに同情した結果じゃない?私から言わせれば咲夜はアイツに仕えて可哀想だと思うよ、だから同情して手間を掛けないであげてるの」

 

私は改めて部屋を見渡した、気付けば部屋は火事こそ起こっていないにしろ焦げ臭い匂いが充満しアチコチにヒビが入りぬいぐるみに至っては全てが燃え尽きている。私の所為でもあるが今人形を大事に…何て言っても現実味が無いんだぜ

 

「そうか、じゃあ最期に一つだけ質問だ。何で…あの一撃で当麻を殺さなかった?何で当麻を蹴り飛ばしてすぐに私を殺さなかったんだ…そもそもお前の能力を使えば私達はあっという間に愉快なオブジェに早変わりだぜ?フランは戦闘狂じゃなくて破壊と殺戮に愉悦を感じるんだから別にもっと闘いたかった、って訳でもないはずだぜ」

 

「ッ……そ、それは…」

 

「なぁフラン…もしかしてフランが感じている衝動は、殺意は、レミリアに対する感情は……偽物なんじゃないか?」

 

「黙れッ!!人間如きがちょっと手加減してあげただけで調子に乗って五月蝿いなァ!!魔理沙もあのお兄さんも目障り耳障りなのよ!!そんなにお望みなら今すぐ魔理沙とお兄さんの心臓を破壊してあげる…!!」

 

瞳の毛細血管を血走らせ私を睨んだフランの表情は……何故かとても哀しげだった。どうやら当麻、お前の考えは満更ハズレでもないみたいだぜ?

 

そのままフランは左手を魔理沙へと伸ばし何かを掴むように手を徐々に握りしめる、自身の能力である『ありとあらゆる物を破壊する程度の能力』を発動するためだ

 

「だ、そうだぜ――当麻、白旗は必要か?」

 

「必要、ないな…上条さんはま、だ…負けてないし負ける気もない。待たせたな、フランドール…!」

 

これには流石のフランも動揺を隠せず血走った瞳が大きく開かれる、それもそのはずで……立ち上がったのだ。吸血鬼(さいきょう)が蹴り飛ばした人間(さいじゃく)が―――恐らくは肋骨に最低でもヒビが入っているにも関わらず痛みどころか快活な笑みを浮かべているのだから。フランが今まで浮かべていた壊れた笑みでも絶望に支配され笑う事しか出来なくなった際の笑みでもなく、ただただ普段彼が友達や知り合いに向けるような明るい笑み

当麻の復活を予想していた魔理沙でさえ、これは予想外だった。だからこそ魔理沙とフランは問いかける

 

「なぁ当麻……」

 

「本当に…本当に人間、なの?」

 

「…瓦礫に吹っ飛ばした次は精神攻撃でせうか、しかも霧雨もグルになって…上条さんは痛みより悲しみの方が強くなって来ましたよーっと…」

 

脇腹を抑えながら、顔をしかめながら、それでも当麻は1歩また1歩とフランへと近づいて行く

 

「勿論俺は人間だ――なぁ、フランドール…お前に蹴り飛ばされてから痛みが落ち着くまで上条さんは上条さんなりに考えてみたんだ。それでもやっぱり俺の考えは変わらなかったよ、むしろ霧雨のぬいぐるみの話を聞いて確信が深まったな」

 

「…しつこいよ、お兄さん。黙らないと今度は肋骨じゃなくて首を折るよ」

 

「…でも、さ…俺のこの考えは証拠も何もない憶測に過ぎない。確かに俺はフランドールに都合の良い綺麗事を押し付けようとしただけかもな……だからさ、俺に本当の事を確かめるチャンスをくれないか?」

 

フランまで後数mというところで当麻は歩みを止めた。

 

そこは完全にフラン『だけ』の間合いだ、当麻には飛び道具もこの間合いを一瞬で埋める術もない。でもフランはレーヴァテインは数mの間合いならコンマ数秒で詰められるどころかその距離ですら間合いの範囲内…完全に詰んでるんだぜ、当麻。それとも後数mを埋める程の体力も残ってないのか…?

 

「俺と俺の仲間は今訳あって紅魔館のメンバーと総当り戦で戦ってるんだ、多分…まだ俺の順番も回ってきていないと信じたい。だから俺はその順番でレミリア・スカーレットと戦えるように仲間に頼んでみる、それで勝てば…」

 

「…私の軟禁の真実を吐かせる?アイツに?」

 

「あぁ、レミリアはプライドは異様に高いからもし上条さんが勝てば約束は守るだろうさ。とにかく俺とフランドールの考え…どちらが正しいかはそれでハッキリするだろ?」

 

「…それをアイツが呑む確証はあるの?それにアイツに勝つってどうやって?瀕死の人間がラッキーパンチで勝てる程アイツは弱くないし第一そんな事を知ったところで私は何も変わらないよ」

 

「構わない、フランドールが変わるかどうかはお前の自由だから上条さんが干渉することじゃない。でも……もし、上条さんの考えが合ってるのなら…例え元の家族のように戻れなくてもすれ違いを抱えたままなんて哀しい結末(バッドエンド)を見過ごせないだろ!どんな未来をこれからフランドールやレミリアが描くにしても!姉妹ですれ違ったままなんてふざけた関係じゃなくたって良いはずだ、もっと違う始まり方(スタート)があってもいいはずだ」

 

フランには今の当麻はどう映ってるんだろうな、と私は思う。少なくとも私には、ヒーローに見えるな…だってそうじゃないか

 

(…どうやったら自分を破壊しようと襲い掛かった吸血鬼に新しいスタートを示そうと思えるんだよ?そんな真似…ヒーロー以外に誰が出来るんだぜ?)

 

もうこの時、魔理沙は二人の結末を見届ける事しか出来なかった。後に魔理沙は知人の人形使いにこう語ったそうだ

 

『あんな二人の間に…私の入る余地なんて少なくともあの時は絶対に無かったぜ、でも後悔はない。久しぶりに絵に描いたような物語を誰よりも近くで見る事が出来たからな』

 

 

 

 

 

 

フランドール・スカーレットSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

自身にとって一番理想の間合いを維持しているにも関わらずフランは未だにレーヴァテインを振り下ろせないでいた、何故ならフランは忘れかけていた感覚を取り戻した事に戸惑っていたからだ

 

狂気と殺意を浴びせられ、幾つかの火傷を負いトドメに肋骨を折られて尚目の前の人間は…私に遥か昔に消え去った道を示すと言う

 

「…信じる、か…そんな感情が僅かでも思い浮かぶなんてビックリ…てっきりもう495年前に喪ったと思ったよ」

 

「ん…やっぱり俺の何十倍も年上なんだなフランドールは、見た目の印象があるせいで上条さんは若干半信半疑だったんでせう。それで……じゃあフランドールは上条さんを信じてくれるのか?」

 

「………勝手に話を進めないでよ、お兄さん。私はそんな感情を『思い出した』だけなんだからね―――本音を言うならお兄さんが信じられないんじゃなくて理解が出来ない、多分お兄さんは私に限らず誰かに嘘がつけるタイプじゃないよね。アイツを倒して軟禁について真実を聞き出す事も本気で言ってるんだと思う…でもだからこそお兄さんが理解出来ないな」

 

言うまでもなく私は二人を殺そうとした、能力は使わなかったとは言え何度も生命を壊しにかかったし危ない場面も数回じゃない。そんな相手に、しかも見返りもなく世話を焼くなんて聖人君子様でも顔を顰めるような事を何でこのお兄さんはやろうとするの?名誉の為?紅魔館に恩を売りたいから…?だとしてもやっぱり割に合わない気がする

 

「あぁ何だそんなことか…こんな事を言ったらまたフランドールの機嫌を逆撫でするかもしれないけどさ、正直理由なんて要らないんだ。別に綺麗事だ何だと罵られても仕方ないとは思う、でも…やっぱり俺は俺自身が決めた信念を曲げたくない。だから結局は自分の自己満足かもしれないな」

 

「自己満足で人間が吸血鬼に勝負を仕掛けるんだ、やっぱり外の世界は面白いや……良いよ、分かった。今から私がお兄さんに一つ質問するね、その結果次第でお兄さんにチャンスを上げるよ」

 

「…質問?あんまり難しい話や哲学の話は上条さんには分からないぞ」

 

「哲学は私もサッパリだよ、でも大丈夫…すごく簡単な二択だから」

 

そう言って静かに私は火力が下がり始めたレーヴァテインに魔力を注ぎ、空いた右手を魔理沙に向ける

 

そう、これは二択…考えるまでもなく答えは出るんだよ。お兄さん

 

「一応聞くよ、お兄さんは私の能力については何処まで知ってるの?」

 

「あらゆる物を破壊する能力、確か…物体の弱点の目をフランドールの手の中に移動させてそれで握りつぶすんだよな?」

 

「大正解、誰かから聞いたんだね。じゃあ…今私が魔理沙の心臓を破壊しようとしている事も理解出来るかな」

 

「ッ……本気、だよな」

 

「勿論、でもただ魔理沙を壊す訳じゃない。ねぇお兄さん――今から私がこのレーヴァテインをお兄さんの頭に向けて振り下ろす、でも右手を使ったり回避したら私は魔理沙を壊すよ。でもお兄さんがちゃんと私のレーヴァテインを受け止めてくれたなら魔理沙は殺さないって約束するね」

 

「…私を助けたいなら当麻が犠牲に、フランに真実を確かめさせたいなら私が犠牲に、か……敵ながらお前は天晴れだよフラン。姉に負けず劣らずもう充分に悪魔をやってるぜ」

 

魔理沙は……やはり動かなかった、フランに手を向けられた時点で逃亡が無駄な事を悟っていたのだろうか。何にせよ魔理沙は怯えることなくフランと当麻から一時も目を離さない

 

肝心の当麻は―――魔理沙を見つめフランとレーヴァテインを見つめてから口を開く

 

「分かった…上条さんは回避も右手も使わない。でも霧雨に手を出さない事は約束してくれ」

 

「結局…そうだよね、やっぱり誰も犠牲にしないで何かを得るなんて例えお兄さん程狂っていても無理なんだ。約束は絶対に守るよ、お兄さんが壊れたのをこの目で確認したら魔理沙は解放して部屋から出してあげる」

 

振り上げたレーヴァテインは序盤よりも更に火力を増し、轟々と音を立てる。そんな中フランは頭の中を魔法で凍結させられたような妙な感覚に陥っていた

 

そう、失望だ。最もそれを招いたのは他でもないフラン自身なのだが。

でも…、とフランは脳裏で呟いた

 

(もしかすればお兄さんなら…いや、私の勝手な思い込み…だよね。むしろお兄さんはよく頑張った方だよ)

 

魔理沙のファイナルスパークをガードした時よりも横幅は太く、刃先から柄尻までの長さはゆうに十mは超えているだろうソレをフランは振り下ろした

 

「残念だよ、でもそれ以上に感謝はしてる。お兄さんと魔理沙との戦いは弾幕ごっこにはないものが色々あった…でも何より学んだのはどんな人であろうと何かを得るためには何かを犠牲にしなくちゃいけないってこと!分かりたくもないのにアイツの気持ちが少し分かったよ!!」

 

火の粉と熱風を巻き散らしながらもレーヴァテインは上条当麻へと確実に近づいて行く、秒速で…確実に

 

「…俺もフランドールとの戦いで学んだ事は多かったし感謝もしてる、でも…そんな事を学ばせちまったんだとしたら…俺は大馬鹿野郎だ…!」

 

後一mでレーヴァテインが上条当麻を焼き尽くす…ところで事態が動く

上条当麻は回避するでも、幻想殺し(イマジンブレイカー)を使うでもなく…レーヴァテインに踏み込みから入った蹴り上げを放ったのだ。当然蹴り上げ程度ではレーヴァテインは消え去るどころかむしろ当麻の足の方が焼け落ちる、だが…消えたのは当麻の蹴り上げにより靴底が触れたレーヴァテインの中腹とその先だった

 

「ッ!?何で…!何でレーヴァテインが…!」

 

「解説は後だ…まずは約束通り霧雨を解放してもらうぞ!」

 

刀身の凡そ三割を失ったレーヴァテインは当麻を真っ二つにするには長さが足りない、何より振るうフラン自身が驚愕のあまり固まってしまっている

その数秒で当麻は間合いを一気に詰め右手でフランが握り締めようと翳していた右手をしっかりと握った

 

「…約束通り、俺は回避しなかったし右手も使わなかった。霧雨には手も出さず上条さんをぶった斬るのも止めてくれるか?」

 

「………分かったよ、でも…さっきの種明かしは聞かせて。まさか靴にまでおかしな力が付与されてるの?」

 

今更再生したレーヴァテインを使ったり吸血鬼の腕力でねじ伏せるなんて真似はしない、フランが当麻に約束を守らせたようにフランもまた無用な追撃はしないのだ

 

右手を離したお兄さんが指し示したのは靴底、やっぱり靴自体に何か仕掛けが…?

 

「言ったろ?知り合いに高火力の炎を専門に扱う奴がいるって、その人から非常時に役立つかは分からないけど一応持っておけって数枚渡されたんだ。五百年掛けて鍛えた超高温の炎を無効化する御札だってさ、流石に上条さんの右手で触れるとアウトだから気を付けて左手を使ったんだがあれは疲れた…フランドールに蹴飛ばされてから瓦礫に埋もれてる間に靴底に貼り付けたんだが見えなかったか?」

 

確かにお兄さんの靴底をスキマなく白い和紙に朱色の墨で描かれた御札が貼り付けてあった、確かにこれならレーヴァテインにもキックで対応出来るね

成程、とフランが感心している途中で当麻が再び口を開いた

 

「…これもあくまで俺の綺麗事かもしれないけどさ、やっぱり何かを手に入れる為に何かを…ましてや生命を犠牲にするなんて俺は許されるべきじゃないと思う。綺麗事と言われても犠牲を払った方が楽に片付いたとしても――俺や霧雨、フランドールにしたって他の皆も対価を得る為の踏み台の生命なんて認めちゃ絶対にダメなんだ」

 

「だからフランドールがさっき、何かを得る為には何かを犠牲にする必要がある事が分かった…って言っただろ?こんな説教してる上条さんがフランドールにそんな事を教えかけてたなんて大馬鹿野郎だと思った訳だよ」

 

………この人は本当に不思議な人だと思う。余りに不思議な箇所が多過ぎる、だから…もう少しこのお兄さんの事を見てみよう

 

「フラン、お説教は嫌いだなぁ…それより早くその対決場所に戻らなくて良いの?時間が押してるんでしょ」

 

「……あ…そう言えば…」

 

 

「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ってぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!脇腹が痛い、叫んだら脇腹が裂けるように痛いんでせう…!!」

 

 

不思議だね、本当に…私はこんなドジを踏む人に負けてしまったんだから。でも……こんなスッキリとした敗北は初めてだよ

 




2度目になりますが改めて『とある幻想郷の幻想殺し』を今まで投稿する気力をくださった皆様にありがとう、を伝えたいと思います
思えば中々に難産な話もありましたが…何故か今回とその前はスラスラと執筆出来た気がします。やはり節目が近かった所為でしょうか?

話は変わりますが私事ながらに皆様にこの小説の連載について報告すべき事がございます、お暇な方は覗いてやってください。あぁ、勿論連載停止では無いですよ?


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Before story?After story?(特別番外編)

 

 

 

 

 

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

これはあの物語が始まるより前の話、これはあの物語が終わった後の話―――

 

 

 

 

 

 

 

「チリン」

 

陽炎が道行く人々の視界を狂わせている様な暑さの中でも風鈴は変わらずに涼し気な音色を奏でていた。

 

飽きないねぇ、そう呟いたのは友人の家でダラリと寝転んだ藤原妹紅であった。それは暑さにも動じず音色を奏でる風鈴と目の前で筆を走らせる家の主へと向けられた尊敬三割呆れ七割の精一杯頭を捻り出して紡いだ言葉。

 

 

「風鈴に意思はない、ただ風に左右されるだけさ。飽きるも何も無いと思うぞ」

 

「物に宿る妖怪だって居るんだよ、それに物に対して感情輸入する……ほら、何だっけ?慧音の大好きな鈍器によく使われてる方法じゃん」

 

「私の大切な小説を鈍器呼ばわりするんじゃない、これは他人の頭をかち割る道具ではなく新たな発見への道を切り開く道具だ」

 

大体人の頭をかち割るのに道具なんて必要ない、頭突きで充分だ―――こんなぶっ飛んだ発言を言い放ったのは上白沢慧音。この家の主でありとある事件以降、妹紅の世話を焼くようになっている。

 

慧音は別に妹紅に対してのみ、特別に世話を焼いているのではない。元来の性格がこうなのだ、故に自身が教師として働く寺子屋では常に子供達の事を最優先に考えている

 

「……寺子屋のガキ共、その内頭突きを食らい過ぎて廃人にならなきゃ良いけどね」

 

「何か言ったか?」

 

「いや何も、こんなうだるような暑さの中でもけーね先生はお勉強にご熱心で頭が上がるなーってさ」

 

「頭が上がってどうする、妹紅…それに子供達が夏休みで寺子屋に来ない今こそが己と向き合う良い機会になるんだ」

 

そう、慧音も言う通り今は夏真っ盛り。子供達は夏休みということで遊びに夢中になり大人達はそんな子供達を口では咎めながらも暖かく見守っている。ちなみに私は毎日が夏休みみたいなものだから特に変わりはなし、強いて言うなら最近はよく人里…特にここ、慧音の家によく顔を出す

 

「はいはい、それで?せんせーは向き合ってみて何か分かったの?分かったのなら私に構ってよ。暑いのと暇過ぎて死にそうなんだ」

 

「お生憎様、親切な友人の親切な言動で考えが纏まりそうもない。まっ……妹紅も私の教え子と変わりない、その教え子が助けを乞うなら助けない訳にはいかないな」

 

何かの作業を終えた慧音は立ち上がり私へと手を差し出す。そこには教師の慧音ではなく大切な友人である上白沢慧音の優しい笑顔があった

 

「教え子云々で助けを躊躇う程半端じゃない癖に、さて…今日はどうしようか?慧音」

 

「ふふっ、私は妹紅が思うような器じゃないよ。…そうだな、今日は…近所の甘味屋が新しい売り物を始めたらしいんだ。しかも冷たくて甘いと人気になっている、どうする?」

 

「待ってました、夏に冷えた甘味なんて最高だな。行こう、慧音」

 

差し出された右手を掴み私は立ち上がる――あの時の私ならどう思うだろうか?私が流血も邪気もない血の通った右手を掴んで笑顔を向けられているなんて

 

 

 

 

 

 

 

 

上白沢慧音SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

近所の方に聞いた噂を頼りに炎天下の中を歩いていく、この暑さを耐え抜いて味わう甘味はさぞ美味しい筈だ

 

 

「それにしても冷えた甘味とはどんなものだろうか…気になるな」

 

「ん〜…あんまり期待し過ぎない方が良いんじゃない?多分冷やした西瓜だと思うけど。」

 

「西瓜でも私は構わないさ、西瓜は高いからなぁ…私には手が届かない代物だよ。それがお手頃な価格で食べられるなら願ってもない」

 

「相っ変わらず貧相な生活を送ってるのか?食事位里の誰かに頼めば慧音なら困らないだろ、それくらい旨味があっても良さそうだけど」

 

相変わらず、の一言に私は少し目を細める。妹紅の遠慮の無い発言にムッと来たと言うのもあるが……思い返してみれば私自身でも、あれは女性として如何なものかと考えさせられる食生活を送っていた時期がある。

 

それでもやはり里の皆に頼るのは気が引けてしまう、皆だって裕福な訳ではない。彼らにも家族があるのだから

 

「構わないさ、いざとなれば妹紅の処に転がり込むからな」

 

「あっ、里の皆は頼らない癖に私は頼るのかよ?」

 

「無理強いはしないさ」

 

「……私が断らないの知ってて言ってるだろ」

 

「私と妹紅の仲だからな」

 

やれやれと肩を竦める妹紅の表情は、どこか嬉しそうだった。まったく……嘘がつけない奴め

 

慧音の家を出て数分が経過しただろうか、里の大通りに出た二人を活気と熱気が迎え打つ。それもそのはず、只でさえ暑い真夏日にこの人混みだ。その暑さたるや慧音曰く「本気を出した妹紅の周囲の気温」と変わらないとか変わるとか

 

(良い活気だ、人々が切磋琢磨し技術が磨かれより良い在るべき道へ進んで行く……これが正しい道であること歴史が証明しているのだから。が、しかし―――)

 

しかし、と心の中で漏らした言葉を慧音は再度口に出す。

 

「幾ら何でも腐り過ぎじゃないか、妹紅?仮にも不死が強みのお前が暑さに負けるのは如何なものかと思うが…」

 

行き交う人々と何度も肩をぶつけそうになりながらふらつく妹紅に私は苦笑ながらに苦言を呈す。どうも妹紅は時折こんな弱い一面を私に見せてくれる、それがどうにも愛らしいのだから妹紅は卑怯だ

 

「不老不死が暑さに強いとは限んないだろ…つーか、何でこんなに人が多いんだよ…。夏だぞ、引き篭れよ、竹林のクソニートでも見習えよ…アイツなんて不老不死の癖にこの前熱中症で何回か死んでたぞ」

 

「確かに暑さは人妖問わず大敵だが妹紅はへばり過ぎだ、と言うか竹林の姫君はどうなっている?耐性も何も無いじゃないか」

 

「私にしても彼奴にしても互いに竹林の中でひたすら引き篭もってるから暑さには弱いんだ、慧音だって私の家に居る時は快適だろ?」

 

 

信じられるだろうか?超高温の炎が獲物である妹紅が暑さに弱いと宣言しているのだ、一番耐性が在って然るべきだろうに

不老不死の二人の意外な弱点に戸惑いながらも私達はようやく目的である甘味屋に辿りついた。

 

そこはほんの三十年程前に創業したあくまで「私目線」から見ればまだまだ駆け出しの店舗だが、甘味の定説に囚われない斬新な発想と子供でも気軽に立ち寄れる値段設定がウリ

 

……と言う事を以前に教え子達から聞いていたのだ。

 

そう、これは教育上に必要な調査なんだ!別に人気の甘味が気になったわけじゃないからな!!何も子供達の私生活にまで口を出す気はないがやはりそれが原因で寺子屋での授業が疎かになるのは悪手!!ここは教師である私が平等かつ公正な目で教育に配慮した視点から――

 

「…ね?ちゅ…んは」

 

現場の実情を把握し――

 

「おー……、だか…」

 

「必要とあらば子供達に注意を促さねば!!」

 

「……何さっきから独り言連発してんだよ、慧音こそ暑さにやられたんじゃない?皆注目してるぞ」

 

「あっ…いや…!その…!!こ、これはだな…!」

 

「あ〜……うん、何か面倒な匂いがするからその先は良いよ。とりあえず噂の新商品とやらを二つ頼んだから、すぐに出来上がるってさ」

 

気付けば周囲の客は皆私の顔を不思議そうに眺めていた、どうやら私は余程奇怪な客に映ったらしい…不幸だ…。

恥ずかしさにより高鳴る心臓はより多くの鼓動を刻み、その鼓動に比例するように体温が上がることで汗が溢れる

 

(わ、私としたことが店内で何という奇行を…!)

 

私が赤い顔を隠そうと下を向いた――その時だった

 

「…らしくないことしなくて良いだろ?俯かずに何時もと同じように私の瞳を見てくれよ」

 

「ヒャッ!?い、いきなり何をする…!!」

 

冷水が注がれた硝子のコップを握っていた妹紅の左手が慧音の額に押し当てられていた。これには堪らず私も顔を上げて妹紅を見上げる

 

「私には慧音の考える難しい事はサッパリだけどさ、お前は悪意で動いてないだろ?今日だって私をこの店に誘ったのも寺子屋のガキ共が良く来てるから気になった…ってのが主な理由で実は慧音も甘味に興味を惹かれた…違うか?」

 

当てがわれた妹紅の左手は未だ慧音の額を冷やし続け、水滴が二人の白い肌をツーっと伝っていく

 

「わ、私は別に甘味に興味など…!ただ教育者としてだな!」

 

「そうかよ、じゃあ私という教え子から慧音先生に一つ我侭だ」

 

「わが、まま…?」

 

冷えた妹紅の左手は私の額をそっと拭い、代わりに彼女の白く細い指が一本突きつけられる

 

「運良く私は偶然に慧音と甘味屋で相席になれた、教え子として私は教師と良好な関係を保ちたい。何分オツムが愉快に出来上がってるんでね、そんな訳だ…せんせー、私と素直に甘味屋での一時を楽しんでくれないかい?出来れば肩に背負った肩書きも今は忘れて欲しいんだ」

 

「…はぁ……分かったよ、教え子であり親友の頼みだ。偶にはこんな時間も悪くないからな」

 

突きつけられた指の先には綺麗な紅い瞳が明るく輝き、その瞳は暗に「そうこなくっちゃ!」と語っている

 

ワガママ、か…一体これはどちらのワガママなのか?それでも私は嫌いじゃないよ、妹紅に見透かされることも…その優しさも…な

 

 

 

 

 

 

 

 

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっとは元気が出た、か…?ったく慧音の奴…妙なところで意地っ張りになるのが可愛いんだよな。そもそも人気の店が気になるのは何も珍しい事じゃないんだから恥じらう必要も無いだろ、だから何処か放っておけないんだっての

 

相手の額に手を添え、笑顔と共に指を突きつけるという普通ならば恥じらう行為を既に妹紅はやってのけている訳だが勿論本人に一切の恥じらいはない。そもそも意識など微塵もしていないからこんな真似が出来るのだが

 

商品が運ばれてくるのはすぐ、という事だがまだ間もありそうだと判断した妹紅が口を開く

 

「それとさりげなく店員に聞いたら新商品は冷やした西瓜でも無いってさ、カキ氷に近い商品になるが明確には違うとも言っていたからな。慧音は想像がつくか?」

 

「流石に西瓜では無い事は想像がついていたが…カキ氷に近いがそうではない、となると難しいな。妹紅が外界に居た頃はそんな甘味は無かったのか?」

 

「無い無い、甘味なんて団子か饅頭が良いとこだよ。カキ氷だってあったけど気軽に食べられる品じゃなかったからな」

 

確か私の記憶がイカれてないならカキ氷の類似品自体はかなり昔からあったんだ、とは言えかなりの特権階級しか食べられない代物だったし今とは違って甘葛の樹液をかけて食べる物だったはず

 

「昔のカキ氷は小刀で氷を削ってたんだ、だからキメが粗いの何の!当時は冷えて甘かったから美味しいって位の感覚だったけど今と比べると食べられたもんじゃないな」

 

「成程…ふふっ、いやはや。偶には珍しい事もあるな」

 

私がカキ氷について話しているとそれを聞いていた慧音が突然、クスクスと笑い出した

何か可笑しな事でもあったか?と問いかける妹紅に対して慧音はいやな、と口を開く

 

「妹紅が自分から昔の事を話すなんて珍しいじゃないか、確かに他愛ない話だが私は聞けて嬉しかったよ。それにカキ氷に関する面白い『歴史』も聞けたからな」

 

「別に私が昔食べたカキ氷の話だけだろ?それに体験談とは言え正確性も何も無い話を鵜呑みにするのは歴史には人より五月蝿い慧音としては如何なものだ?」

 

「五月蝿いとは心外だな、それに歴史とは常に正しいものじゃない」

 

再度、それに、と繰り返した慧音は氷が溶け始めたお冷の水面に自身の顔を映し出す

 

「歴史とは常に万物流転、正しい歴史…なんて言うのは常に視る者によって変わってしまう。時の権力者に纏わる歴史がまさにそれなんだ」

 

私は今まで過ごしてきた時代を思い描く。

 

(平安から始まり外界では…平成だったか?その半分以上を憎しみと哀しみで過ごした私だったが確かに慧音の言う通り、私にはどの時代も混沌や殺伐とした印象しか無い。でもそんな間にも必ず幸せや笑顔の歴史があったはずだ、誰かを愛し愛される至上の幸福の歴史があったはずだ。そんな歴史を過ごした連中が感じた歴史はきっと光に満ち溢れていたんだろう)

 

「だが私は構わない、私が知る歴史も妹紅が視てきた歴史も全て等しく大切な歴史だよ。例え他愛ないカキ氷の歴史だとしてもそれは妹紅の感じた妹紅自身の歴史、それを友人として私が共に感じられるのは幸せな事だ」

 

「願わくばこの先もずっと…他愛なくて構わない、平凡で良い。妹紅や里の皆、私の教え子達とささやかな歴史を紡いでいけるのならばそれは正しい歴史でありとても幸せなんだ…妹紅もそうは思わないか?」

 

「…だな、そう思うよ、私もな」

 

別に言葉は要らない、長い返しも不要だ。だって…

 

「私が望んでいた幸せもきっとそんな形だから」

 

今度は私からも突然にクスクスと笑いが漏れる、慧音の事を言えた義理じゃないかもな…!

 

 

 

暫くは二人で笑い続けていたがそれを遮ったのは2つの器をお盆に乗せた店員であった

 

「お待たせしました、ご注文の『果実氷』になります!」

 

「ん、ありがとう…ちなみに差し支えなければこの商品がどんな物か教えてもらえないか?」

 

ヒンヤリと冷えた器を受け取った慧音は果実氷なる商品を見つめてから店員に問いかける

 

ちなみに果実氷という商品の見た目と匂いは悪くない、薄くスライスされた恐らく氷のような物に仄かに柑橘系の香りが漂うシロップがふんだんにかけてある

 

「はい、なるべく薄くスライスした氷に少しだけ粘度のある果実のシロップをかけてあるんです。お客さんからはよく『カキ氷と綿菓子の良いとこどりのオヤツ』と言われますねー」

 

「なるほど、確かに薄くスライスされた氷は綿菓子のようにフワフワしているな。ありがとう、教えて貰って助かったよ」

 

「いえいえ、ゆっくりご堪能ください!」

 

そう言って下がった店員はまた忙しそうに店内での応対に駆け回っていく

 

机の端に整頓されて置かれていた木製のスプーンを慧音に手渡してから私は早速果実氷に手をつける

 

「っ…これは、すごい…!見た目だけじゃなく食感も綿菓子そのものだしシロップも良く絡む!」

 

「本当だな、それに氷が薄くスライスされているからカキ氷特有の削りの荒い塊もない…これは人気が出る訳だ!」

 

互いにとうの昔に子供の時期は終えた二人だが今ばかりは初めて出会う新感覚の甘味に夢中になっている。慧音は果実氷を口にかきこむ妹紅を注意するものの自身もこめかみを押さえた事を見る限り食べ急いでいたのかもしれない

 

「いたたっ…!ま、まさか私がこんなカキ氷の定番を犯してしまうとは…!」

 

「ハハッ、良いじゃないか。あの慧音先生ですら夢中になる果実氷……店員に教えてやりなよ、良い謳い文句になるってな」

 

「馬鹿を言え、そんな恥ずかしい謳い文句はお断りだ…!ってまた痛みが…!」

 

結局、慧音の頭痛が治まるまで二人は店を出なかった。半人半獣でも辛いものは辛いらしい

 

 

そんな2人が店を出たのは完食後、更に20分を過ぎてからであった。

 

慧音は店員に『長居をして申し訳ない』と謝っていた、別にわざわざ謝る程の長居じゃないと思うけど。

まぁそんなことより今考えるべきことがある

 

「……またこの炎天下の中を歩いて帰るのか?」

 

「帰り道に夕飯の食材を買いたいんだ。すまない…辛抱してくれ」

 

「チッ…分かったよ、今日は私のワガママで慧音を付き合わせてるからな。おとなしく従うよ…ハァ…」

 

そして帰り道もまた陽射しと人混みによる活気に揉まれながらようやく人通りの少ない道へと辿り着く

一体そこに辿り着くまでに何度死にかけたことか…!

 

家屋の日陰を利用して陽を避けて歩く中、慧音の家まではあと少し。暑さによる苛立ちと気まずい雰囲気がそれぞれ妹紅と慧音の会話を塞いでいた。結局、2人は俯いたまま言葉を交わすことなく門前まで辿り着く

 

「…今日は悪かったな、まさか妹紅があんなにも暑さに弱いとは思わなかった。せめて飛べば風が当たって涼しかったかもしれないが…」

 

「別に気にしてないから慧音が気に病むなよ、私も暑さに負けて何も考えられなくなってたからな」

 

「…そうか」

 

考えられない…それは嘘だ。私はイライラしていたんだ、ただ暑かった…それだけの理由だ。慧音もそんな私を察してくれたんだろう

 

慧音が空を飛ばなかった理由なんて分かりきってる、こんな暑さであの人混みだ。熱中症で倒れる人間が居ないかが心配で敢えて人混みの中を通ったんだ、何時か里の医者も似たような事を心配していたからな――なぁ、分かってるじゃないか。考えなくたって昨日今日の付き合いじゃないんだ、苛立ちを抑える事だって出来たじゃないか…!

 

顔を上げれば申し訳なさそうな顔をした慧音が私を見送ろうと玄関で立っていた

 

「とにかく今日はありがとう、楽しかったよ。また明日もここに来るか?」

 

「あぁ、私も楽しかったさ…それと慧音!」

 

「どうした、妹紅?」

 

「私は慧音と甘味屋に行ったから楽しかったんだ!例え道中が暑かろうが寒かろうが関係ない。…寧ろ慧音と人混みに揉まれた事だって私の大事な思い出の歴史なんだよ」

 

「だから…そんな顔じゃなくて、笑顔で…な?サヨナラは笑顔じゃなきゃ互いにスッキリしないだろ」

 

日陰も日向も関係ない、私は数分前の感情を全否定して慧音へと向き直る。お前の曇った顔を背に受けるくらいなら暑い陽射しを浴びる方がずっと良い…!

 

対して慧音は―――

 

「分かった…そうだな…!確かに妹紅の言う通りだ、生徒を笑顔で見送れないなんて教師失格だ!」

 

「それで良い…それでこそ上白沢慧音、私の親友だ。――じゃあな、慧音!また何処かに遊びに行こう!」

 

「勿論!気を付けて帰るんだぞ!」

 

振り返り慧音に手を振る幼稚な仕草も、背を向けていても分かる慧音の笑顔も何もかもが照れくさかったし恥ずかしかった。でも…悪くない

 

 

 

 

 

 

 

「私が望んでいた幸せもきっとこんな形だから」

 

 

 

 

 

 




はい、お久しぶりでございます。
この話を投稿したキッカケやらは恐らく活動報告を見ていただければ分かるので割愛致します。

ちなみに皆様、この物語を読んでどう思われました?私は思いっきり矛盾しているんですよね(私の文章力の問題はさておき)

この話は時系列的には妹紅と輝夜の殺し合いが終りを告げた後で尚且つ、本編が始まる前となっております。そんな間の妹紅が幸せを口にする…悪党である事を自覚していた妹紅からは想像がつきませんよね。
ですからこの話は回想編であり何時か訪れるかもしれない『未来』のお話ということで執筆させて頂きました。

ここまで来ればタイトルについても『ほ〜』となる方も居ますよね?えっ、居ない?と言うか逆に意味が解らない…ですって?……では、わかり易く纏めますから聞いてくださいよ!


『けねもこは神の国』



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切られた「モノ」と繋がった「モノ」

連載再開なんでせう


 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

紅魔館の地下、即ちフランドール・スカーレットの部屋。ここで一つの戦いが幕を引いていた…がしかし、「はいじゃあ一件落着!!」と事が運ばないのが世の常であり上条当麻(イマジンブレイカー)の常である

 

「ってて…!と、とにかく玄関ホールだ。そこに皆が居るんだ…!」

 

「そのボロボロな身体で彼奴を倒す?無理だよお兄さん、今のお兄さんなら妖精にも苦戦するんじゃない?」

 

ヒビの入った壁に肩を擦るようにして階段を登る当麻にフランは肩を貸す訳でも無く呆れたように肩を竦める。

 

「全くだぜ、つーか脇腹にヒビが入ってるんだろ?止めろとは言わないが諦めろ。言いたくは無いが無駄骨だぜ」

 

とこれは当麻に向け溜息を吐く魔理沙の弁

 

「あっれ〜…おかしいな〜…疲れの所為からか霧雨の日本語が矛盾して聴こえるぞ…?とは言え諦めてられっかよ、フランドールとの約束もあるしな。ついでにここで売上が出せなきゃ上条さん他三名の儚い命が奪われるんでせう」

 

本音を言えば今の俺の体調は最悪だ。脇腹が内側から針を刺されたように痛むし火傷した箇所が服に擦れて涙目になりそうになる…

 

(それでも、だ…鈴仙が一勝してくれたし妹紅が負ける訳がない。そうなれば…後一勝で俺達の勝ちだ、何より…)

 

「お前だって少なからず真実が気になったから付いて来たんだろ?フランドール」

 

ようやく階段を上り終えた当麻はぽむ、とフランの帽子に手を置いた。

 

「そりゃ彼処まで煽られたらね、見届けない訳にはいかないでしょ。……あとよく分かんないけどムカつくからその手離してくれない?ギュッとしてどかーんするよ」

 

「この手厳しい返答と殺気、上条さんは既に慣れてるんですよーっと。さて…!ここからが問題だ、俺と霧雨は悲しい事に玄関ホールまでの道のりが分からない。だからフランドール、無理を承知で案内してくれないか?」

 

「無理だよ」

 

「あっさり拒否し過ぎだろフラン…当麻だって事情があるんだ、せめて近くまで案内してやれよ」

 

ジト目で当麻を見つめながら置かれた手を振り払うフランに今度は魔理沙がフランをジト目で見つめる。何ともシュールな構造だ

 

「嫌だ、って意味の『NO』じゃなくて『Can't』なんだってば。元から紅魔館は咲夜とパチェが内部構造を弄りまくってる上に私の部屋付近の空間は私が部屋から脱出したのを感知すると周囲の空間と隔離される仕様になってるの、オマケにこの辺りの空間の自動修復機能に入口と出口を偽造する機能まで…河童も顔負けだよね」

 

「…よく分からんが警備が厳重だってのは理解した、咲夜とパチュリーの合作なら抜け穴も無いだろ。てかよくそんな空間に私達は迷い込めたな?」

 

「それだけは私も何とも…だから魔理沙とお兄さん、どちらが異様にふこ」

 

「あぁ分かったよ上条さんの責任なんです全ては上条さんが悪いんですごめんなさい!…と言う事は、レミリアに会うことすら、敵わないってことか?」

 

「ううん、大丈夫。方法はちゃんとあるから」

 

「「あるのかよ!?」」

 

と、この息ピッタリなフランへのツッコミは言うまでもなく当麻と魔理沙のものである。

 

二人の完璧なツッコミに僅かにたじろいだフランであったがすぐに口を開いた

 

「確かに、咲夜とパチェの合作空間を正攻法で攻略して脱出なんて無理。でもさ…何も正攻法で脱出する必要なんてないよね?そもそも私の脱出自体非合法だし。なら…壊しちゃえば良いんだよ、そんな空間なんて!異様な空間だろうと所詮は『モノ』、モノを私が壊せない道理が無い」

 

つまりはフランドール・スカーレット、あろうことか能力を使って空間そのものを破壊するという。この余りにも突拍子も前例も無い提案を放つ吸血鬼に人間の少年少女は数秒間の思考停止を余儀なくされた

 

そんな沈黙をまず破ったのは俺だった

 

「…とりあえず、その話が可能か不可能かは霧雨とフランドールの判断に任せる。でもな、フランドール…それをやっちまうと正真正銘レミリアに宣戦布告するみたい事と変わらないんじゃないか?上条さんが無理矢理連れ出したように見える方法を考えてからでも…」

 

「…当麻の意見もある、が。それより空間破壊なんて正気か?第一あのパチュリーと咲夜がお前の能力を考慮しない訳がないんだぜ、きっと何か仕掛けがあるはずだ」

 

フランドールには悪いが流石にその方法は話が飛躍している上に難題が多過ぎる、無理なんてレベルじゃない

 

「…分かってるよ、これをすれば間違いなく今度は軟禁じゃ済まないってね。殺されるかもしれない、仕掛けの話だってそう!空間の弱点の目を大量に分散させて私が簡単には破壊できないようにしてあるんだ、大人気ないとは思わない?」

 

「だったら尚更別の方法を!!」

 

分かってるなら止めさせないと、俺はフランドールに軟禁の真実をレミリアから吐かせるとは約束したが何も悪役にしたいわけじゃない。

 

「でもね、聞いてよ…魔理沙、お兄さん」

 

反対する二人を制したフランの『でも』…すかさず魔理沙が「でも、なんだよ?」と聞き返す

 

「お兄さんと魔理沙は私に新たな道になるかもしれない可能性を示してくれた、でも私はおんぶにだっこでお世話になりたい訳じゃない。どの道を私が選んでどう歩むかは私が決めなきゃダメなんだよ、だから私は私の判断で脱走するし彼奴に牙を剥くの」

 

「それに…ちょっと気になったんだよね、お兄さんの約束が幻想で終わるのかどうか。魔理沙の人を観る瞳が節穴かどうか。だから私はもう少し二人の側で二人を見てみたいんだ」

 

きっと…きっとフランドールの中で何かが…いやフランドール自身が変わろうとしているんだろう。それがどんな方向かは解らない、そもそも仮にここを脱出出来ても俺が挑んだ勝負でレミリアに負ければ今度こそフランドールは闇のどん底へ落ちてしまうかもしれない―――だから俺はフランドールの気持ちを無視するのか?

 

「…なんてね、お兄さんと魔理沙があの時暑苦しかったから私まで感化されちゃったよ。冗談冗談、私だって空間を破壊して亜空間に飛ばされたら嫌だもん。時間はかかかるけど何とか代案を考えよっか」

 

「…あーあ!本当に面倒臭いんだぜフランは!私が暑苦しかった?私は常にクールビューティな魔法使い、霧雨魔理沙様だぜ!暑苦しいのは当麻だけにしとけ、ついでにそのガキンチョに似合わない痩せ我慢も止めろよ」

 

と、怪訝な表情を浮かべていた魔理沙はフランの頭をわしわしと帽子ごと撫で回す

 

「いやいやどっちかってと暑苦しいのはフランドールのレーヴァテインだろ?実際に灼熱だったからな、いや〜しかしフランドールも良い感じに気持ちを伝えられるじゃないか。上条さんは嬉しいんですことよ」

 

先程フランに手を振り払われた当麻も魔理沙の手の上から重ねるように頭を撫で回す

 

「はぁ!?ちょっ…止めてよ、何するの!?頭おかしいんじゃない!?」

 

勿論二人の手を嫌がるフランであったが何故かこの時ばかりは顔を赤くしてあたふたするばかり、年相応の可愛さとはこの事か…魔理沙は静かに内心で呟く

 

「まぁまぁ、頭の方はともかくさ。良いんじゃないか、フランの計画。それにフランの部屋に迷い込んでからかなりの時間が経過してる、流石にもう咲夜対妹紅もケリが着いてる筈だ――――乗ってやるんだぜ、フランの舟に」

 

「そういうことだ、フランドール!お前の意思、上条さんと霧雨が受け取った!だから俺は代わりにこれから先の運命をフランドールに預ける―――頼んだぞ」

 

「ッ…これだから人間って生き物は本当にさぁ!!あぁもう!とにかく私の案に二人とも賛成なんだよね?」

 

「「あぁ!!」」

 

――――この二人、否二人+一吸血鬼はどうやら相性は良いらしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランドール・スカーレットSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

改めてお兄さんと魔理沙と一緒に軽く空間を調べた上で分かった事は次の通り

 

・幻想殺しで触れただけでどうにかなるものではない(そもそも空間の定義が曖昧で触れる事すら出来ない)

 

・空間の弱点の目は何万個、何十万個と分散されていて一撃で破壊し尽くす事は出来ない。しかも一つでも弱点が残っていれば再構築可能

 

……うーん、二人の前じゃ絶対に言えないけど流石に不安になってきたかも。流石パチェ、咲夜…としか言いようがない

 

そうした現実を踏まえて見出したのが次の案

 

①まずは私がなるべくたくさんの弱点の目を破壊して少しでも良いから空間に亀裂を作る

 

②そこに生まれた亀裂へ魔理沙が最大火力の弾幕を叩き込み更に亀裂を広げる

 

③大きくなった亀裂へお兄さんの右手の一撃を叩き込み生みだされた空間を破壊、辺りの空間は本来の形へと戻る

 

「こんなところだね、二人とも覚悟は出来た?」

 

「言うまで無いだろ?上条さんはやると決めたらやりきる人間だぜ」

 

「今更逃げ出しても魔法使いの名が泣くからな…ほらよ、当麻。最大火力を出す為の魔力を残しているから完全とはいかないが肋骨のヒビは限界まで治療したし痛みも和らげたぜ」

 

当麻の脇腹に手を添えていた魔理沙が立ち上がりフランに向き直り返答代わりに親指を突き立てる

 

(忘れてた…お兄さんって私に蹴り飛ばされて肋骨にヒビが入ってたんだよね、すっかり忘れてたよ…)

 

罪悪感がある事は事実だしお兄さんには今も彼奴と戦う時も頑張って貰わなきゃいけないもんね

 

そこでフランは魔理沙と入れ替わるように当麻の脇腹に手を添える

 

「…?フランドール、どうしたんだ?」

 

「…借りた借りを返してるだけ、って言うか骨折した状態で彼奴と戦うなんて無理。肺に骨が刺さったらどうする気?」

 

幸いな事に私は魔力量にも自身がある、これくらいの怪我ならすぐに治癒出来る自身はあった

治癒魔法は確か…100歳の時に覚えた魔法だったはず、彼奴と喧嘩する度に吸血鬼の自然回復力だけでは治癒が間に合わない時が増えて仕方なく基礎だけは覚えたのが始まりかな

 

その後は軟禁されている間にパチェの魔導書を何度か差し入れで頼んで読み耽った。覚えておいて損はない、程度の意識で始めたけど495年の人生(?)の中で自分以外の生き物に使った事も役立てた事も初めてだったりする

 

「どうかな、まだ脇腹は痛む?私がギュッとして確かめようか?」

 

「フランはそれわざとやってるんだよな?そうだよね?まっ、痛みは消えたし動きにも影響無し!助かったぜ、霧雨、フランドール!」

 

そう言って立ち上がった当麻は軽く飛び跳ねてから素早く三回のジャブを放つ

そこから左足で踏み込み右ストレート……もはやその動作の中に怪我を庇う様子は見受けられない

 

「お兄さん完全復活」

 

「なんだぜ!」

 

「そう、みたいだな…それじゃあフランドール!霧雨!準備は良いな!」

 

「むしろ私達は当麻の復帰を待ってた位なんだぜ?待ちくたびれたっての!」

 

「アハハッ!逆にお兄さんの準備は良いの?踏み出す足の場所を間違えれば空間の隙間に落ちて…って可能性もあるけど!」

 

特にフランのこのタイミングのこの発言に悪意も意味は無い。強いて意味合いを持たせるならば発破をかけた、その程度のものだ。

 

対する上条当麻はと言えば

 

「ハハッ!上条さんはこれでも右ストレートには自信があるんだ、例え空間だろうが殴れるんなら俺はソレを殴り飛ばす!」

 

まったく…!この人達ってのは頭のネジが外れているのかそうでないのか分からなくなるよね…!

 

「魔力充填完了…!フラン!」

 

「OK、魔理沙!!さぁいく……よ……」

 

魔理沙の魔力充填は完了した、お兄さんも体勢を立て直した。後は私が空間になるべく大きな亀裂をこじ開けて魔理沙にバトンを渡すだけ、別に特段難しい事じゃない。難しい事じゃない…はず、なのに…

 

指先が震える、足が震える、瞳の焦点が定まらない。何より――――

 

『何、今更あの二人に味方して善人気取り?バッカじゃないの!』

 

「ッ…!」

 

それはパチェや咲夜が私の為に仕掛けた罠じゃない、そんな事は私が誰よりも知っている。頭の中でズキズキと突き刺さる不快な声、ずっと私を悪魔(ワタシ)足らしめてきた正体そのもの

 

『ソレ』はいとも容易くフランを静止させ、吸血鬼(さいきょう)腰抜け(さいじゃく)へと生まれ変わらせた

 

『大体あのパチェと咲夜が他にトラップを仕掛けてない訳が無いじゃない、アンタはともかくあの二人は間違いなく死体確定だね。まーたアンタの所為で誰かが壊れちゃうよ?でも関係無いか!だってアンタはさ』

 

「違うッ!私は変わろうとしてる!お兄さんと魔理沙を壊したりなんて…壊したりなんてしない…!」

 

『だってアンタは…家族にすら見限られた悪魔(ワタシ)だもんねぇ!!』

 

そう…私の前に立つ、私だけにしか見えない、私の中に潜む私自身―――『ワタシ』の声が響くだけで気分が可笑しくなる、「私」が抗う度に『ワタシ』は不快な声で笑い続ける

 

二重人格、多重人格と言うべきか。先程フランが自覚していたようにこれは空間の製作者達の悪趣味なトラップでは無い。列記としたフランの内側に潜む人格である。

静止したまま震え続けるフランとは対照的に魔理沙は計画通り八卦路を構え発射準備を完了させていた

 

「ッ!?フラン、何やってんだ!?既に発射準備に私は入ってるんだぜ!?」

 

「っ…!あっ、あぁ……」

 

何時ものように壊せない、弱点を掌の中へと収められない――――これが壊す、ということ。何かの生命を奪い、失敗すれば奪われる危険も孕む…つまり今回奪われる可能性があるとすれば…フランの背後にいる二人の人間

 

「く、そぉぉぉぉぉ!!!間、に合わない…!!」

 

既にスタートを切っていた魔理沙の最大火力の弾幕、即ち『ファイナルスパーク』

途中で止められるわけもない『ソレ』は魔理沙の静止虚しく虹色の閃光を何もない空間へと放出する

 

(わ、私の所為で……全部台無しに…!)

 

『アハハッ!バッカみたい、あれだけ大見得切った癖にその張本人が腰を抜かして座り込んでるよ!道は自分で選んで自分で歩む?何訳分かんないこと言っちゃってるのかな?』

 

『でもでも、これを機に彼奴が私の様子を見に来るかも!それはそれでチャンスだよね、あの二人の命を無駄にするのも悪いしさ…これを機に殺っちゃおうよ!』

 

空を切り続ける魔理沙のファイナルスパークをただただ目で追う「私」に『ワタシ』が甘く囁いてくる、何時もこうだった。『ワタシ』に主導権を預けてしまえば後には何も残らない、今まではそれでも良かったと思っていた。別に悲劇のヒロインをするつもりは無いし破壊する事は「私」も嫌いじゃない

でも…この、二人だけは…叶う事なら失いたくは無かった…

 

だって…!だって…!!

 

上条当麻は余りにも強『過ぎた』。何度倒されても立ち上がり、必要とあらば自分を倒した敵さえ助ける。笑顔を見せる。手を差し伸べる

 

霧雨魔理沙は余りにも優し『過ぎた』。自身に狂気と殺意をぶつける相手の心を見つめ歩み寄る。寄り添う。それを躊躇わない。

 

逆にフランドール・スカーレットは襲い掛かる全ての敵を屍に変え、差し伸べられた手も向けられた優しさも全てが少女の瞳には映らなかった。

それでも、フランドール・スカーレットにも上条当麻を屍に変える事は出来なかった。霧雨魔理沙の優しさを瞳に映さずには居られなかった。

 

だから欲してしまった、この二人を

だから思ってしまった、この二人だけは失いたくない

…だから『ソレ』を失う事が怖かった、こんな短時間で出来た『友達』を――壊したくなかったから

 

「ご、めん…お兄さん…魔理沙…」

 

『謝らなくても良いって、どうせ今からワタシが二人を殺す…ッ!?』

 

フランが全てを諦め崩れ落ちる―――事は無い

 

何故ならば上条当麻がフランの背中に手を回し支えたからだ

 

「フランドール!まだ終わっちゃいねぇ!諦めんな!」

 

まだ上条当麻(ヒーロー)は失われていない

 

「そうだぜ、フラン!顔を上げてみろ!私のファイナルスパークはまだ消えてないんだぜ!!」

 

まだ霧雨魔理沙(ヒーロー)は壊れていない

 

当麻が即座にフランと目線を合わせるように屈んで肩を掴む

 

「正直俺には今のフランドールの苦しみが理解してやれない、お前はきっと俺には想像も付かないような重い物を背負ってんだろ?だったら俺や霧雨と友達になろうぜ!」

 

「別に仲良しこよしじゃなくて良い、喧嘩も殺気も上等だ!友達の悩みなら全部引っ括めてこの魔理沙さんと当麻が一緒に背負ってやる!!」

 

「だからお前と言う友達の重荷(げんそう)を俺が!」

 

「この魔理沙さんが!」

 

「ッ…!『私』も一緒に!」

 

「「「ぶち殺すッ!!」」」

 

果たして壊れたのは何なのか?そもそも壊れたのか変わったのか…ただ言える事は一つ

フランドール・スカーレットは、今度こそ手放さなかったのだ。自分自身を…大切な友達を!

 

『ッ…!煩いなぁ!今更アンタが抗ってどうにかなる話じゃないっての!』

 

「魔理沙!後少し耐えて、ファイナルスパークの斜線上に亀裂を造るから!……ふぅ」

 

(確かに、『ワタシ』の言う通り訳が分かんないよ。出逢ったばかりの人間二人に感化されて我を見失って…でもさ、出会い方も最悪な私達だけど…!)

 

「出会い方なんて関係無い、どうせ頭の螺子が外れたこの私…友達作りも狂っていようが構わない!!だからここでサヨナラだよ、『ワタシ』!」

 

お兄さんの瞳を見つめ小さく頷いてから私は右手を突き出す―――何も無い空間に向けて、『ワタシ』に向けて

 

『ワタシ』と呼ばれたフランが塵となって消えた事を「私」は一切気に止めていなかった

 

「カウントダウン、ギュッとしてドカーン(3)!!」

まずはフランの一撃、予告通りファイナルスパークの斜線上に真っ黒な亀裂が僅かに現れる

 

「ッ!!ファイナルスパーク(2)!!」

続いて魔理沙のファイナルスパークは現れた亀裂を直撃、そしてそのまま火力を上昇させ亀裂を更にこじ開ける

 

後は――――任せたよ、お兄さん(ヒーロー)…!

 

あぁ、任せろ…友達(フランドール)!!

 

立ち上がった当麻は一気に亀裂を目指し駆け出した。不思議と恐怖は何も無い

 

「これを造ったのは魔術師…いや魔法使い、だったよな?でもそんな事はどうだって良い!!フランドールをこんなつまらねぇもので縛ってんじゃねぇ!!」

 

幻想殺し(1)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやらレミリア・スカーレット曰く、妹が部屋から脱出した時には何があろうとも紅魔館から出られないようにあれやこれやと奇々怪々な術式を辺りの空間に施しているらしい

 

「それはつまり当麻は帰ってこれない、ってい」

 

「それはつまり今すぐてめぇの醜い腸引きずり出してでも空間に仕掛けた術式を解除させろ、って意味だな?上等だ、一分で肉塊に変えてやるから今すぐ俺と戦えクソ蝙蝠がッ!!」

 

既に垣根は臨戦体勢に入っている、これは不味い。しかし反対にレミリアは至って冷静であった

 

「そう息巻くな、私をどうしようがあれを造ったのは私じゃない。つまりは何をしようと無駄だ…しかし驚いたな、あの二人はどうやってフランの部屋の入口まで行き着いた?相当な幸運……いや不運か。とにかく!並外れた不幸体質なのか、あの幻想殺しとか言うのは?」

 

どうやら自慢の配下に造らせた自慢の術式が突破された事が余程驚きらしい

 

「…垣根、ちょっと抑えろ。流石に殺気漏らし過ぎだ馬鹿が。今アイツに怒りをぶつけたって当麻は救えない、私は魔法は専門分野じゃないからな」

 

「ざっけんな!妹紅は何も思わねぇのか!?」

 

…アホか、私が何も思わない?当麻を別空間に閉じ込められて?仮にも頭のイカれた吸血鬼と戦ってどんな怪我を負っているかも分からないのに?

 

「だから黙れって言ってンだ、てめェの気持ちは分かるしこの状況で冷静で居ろってほォが無理だろォな。でもなァ、それは私も同じなンだ…分かるな?」

 

怒り心頭なのは私も同じだ、叶うならば今すぐレミリアの舌を炭化させてなめた言動を封じてやりてェに決まってンだろ――でもそれじゃあ意味がねェンだ

 

「…チッ…!」

 

妹紅は垣根を制する為に――敢えて睨まなかった、殺気もぶつけなかった。垣根帝督は馬鹿じゃない、寧ろ妹紅の何倍も賢い部類だ。すぐに冷静さを取り戻す

 

「あァそれとレミリア、一応聞いとくが―――てめェはこの始末どう付けるつもりだ?」

 

「そうだな、フランがあの二人と戦った後に部屋を出た…あの男や魔理沙がフランを追い詰めるとは思わないが興奮させている可能性はある。数週間は空間を閉じた上で更に結界を張って様子見だな、その時まだあの二人が生きているなら紅魔館としても治療は一切惜しまない」

 

つまりは今すぐ助ける気はない、そもそも当麻と霧雨の生死など二の次…要約するとそう言いてェんだろ

 

 

 

「…そォか、よォーく分かった。コイツは今ここで血祭りにあげる。それからさっき潰したメイドと喘息魔法使いを捕まえて無理矢理にでも空間を元に戻させンぞ、時間がねェから瞬殺するが垣根は手を出すな」

 

「…どういう意味だ?俺は役立たずってか?」

 

「そうじゃねェ、ガキに殺らせンのは二流三流の小悪党のする事だ。だからここは下がってろ」

 

「勝手に一流気取ってんじゃねぇ!第一俺は…!」

 

「…当麻は生きてる、絶対になァ…その時治療してやれンのは無事なお前だけだ。だからよォ―――その時までお前は何があっても手は出すな、何より私を信じろ」

 

「ッ…だったらとっとと片付けろ、今は妹紅の顔を立てて丸め込まれてやるよ」

 

「上出来だ」

 

コツコツコツ、と革靴の音が玄関ホールに鳴り響く。

垣根帝督に背を向け鋭い視線をレミリアに突き刺す

それすら心地好いと言わんばかりにレミリアは口角を釣り上げる

 

「フッ、昂ってるな。しかし…幻想殺しが生きているとはどういう意味だ?確証があるのか?」

 

「テメェに教えてやる義理はねェわな、第一絶対ェにお前には分からねェだろ」

 

「嫌われたものだな、私も…まぁ良い。観戦にも昔話にも飽きてきた所だ、早々に片付いてくれるなよ不死鳥(さんした)!」

 

「勝手にこれが愉しめる戦いだとか思い上がってねェか?今から殺ンのは『一方通行』の虐殺だ吸血鬼(かくした)ァ!!」

 

妹紅の背部から紅翼が現れる

レミリアの手の中に神槍が現れる

 

戦いの火蓋は…

 

 

 

―――切られない

 

 

「止めろ妹紅!レミリアとの戦いは俺に預けてくれ!!」

 

玄関ホールに一人の幻想殺し(かみじょうとうま)の声が響き渡る




お久しぶりな方も今初めて知ったわって方も改めまして宜しく御願いします。「けねもこ推し」改めまして「愛鈴@けねもこ推し」でございます、これからは愛鈴とお呼びください。

いやー、長かった。間に生存報告をしていたとは言え長かった。そんな訳でこの物語も再始動という訳です、またお付き合い頂ければ幸いですな。
ちなみにここで語るには無駄な私の身の上話等々は活動報告に綴っておりますので宜しければお目汚しをば


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Batonー悪魔の妹から幻想殺しへー

 

 

垣根帝督SIDE

 

 

 

 

臨戦態勢に入った妹紅とレミリア、そんな2人を制止した上条当麻の声

 

当初は生存すら危ぶまれていた当麻と魔理沙の生還、それに加えて何故か二人と敵対している筈のフランドールが敵意も無く共にいる現実…これに対して垣根帝督の取った行動は…

 

「生きてんのかよお前は!無駄に心配させてんじゃねぇ!!」

 

「ツンデレか!?それは垣根なりのツンデレだと上条さんは理解して宜しいんですか!?」

 

取り敢えず、とホールへと駆け込んだ当麻に挨拶宜しくの顔面への飛び蹴りを放つ

 

「こっちはてめぇの不幸の所為で無駄な心配と妹紅の惚気話を聞く羽目になっ」

 

「してねェよ、惚気話なンざしてねェから。つーか状況が掴めなさ過ぎンだろ。一つ一つ聞かせろ、お前達は無事なのか?」

 

俺の飛び蹴りを躱した当麻に更なる追撃を放とうとした所背中から文字通り爆発が襲いかかる。分かる、分かるぜ妹紅…お前の爆発だろ?

 

「あ、あぁ。色々あったが上条さんも霧雨も無事だ。こっちのフランドールにも世話になった」

 

「…うん、お兄さんには迷惑をかけちゃったんだ。その点はシラを切るつもりは無いよ」

 

「まァ切れるシラもねェわな…だが追求も責苦も無用みてェだが」

 

ねぇ、何で皆足元で俺がチリチリと燃えカスになって力尽きてるのに無視してんの?もしかして扱い酷い?

 

その後も誰一人として…魔理沙は勿論フランやレミリアに至るまで垣根の事は気にも留めずこれまでの経緯説明を行った。

 

「ふーん、何だか当麻は当麻で戦ってたのな。」

 

「何だ垣根、生きてたのかよ?…しぶといんだな」

 

「今の余計な一言は俺の寛大な優しさで水に流してやるよ。…でもよ、当麻。レミリアとの勝負は俺に譲れ、ここまでお前達を虚仮にされて俺が黙ってる訳にはいかねぇんだわ。お前を治療する為に体力を残しておく必要も無くなったからな」

 

「…頼む、上条さんが我儘を言ってる事も垣根がリーダーとしての責任を感じて率先してるって事も分かってるんだ。それでもここは俺に任せてくれ」

 

互いに譲らない、二人の少年には二つの譲れない信念がある。

片や仲間の為に譲らない垣根帝督、片や友達の為に譲らない上条当麻。二人の間に火花が散り始めたその時だった

 

「――――フラン、お前…人間如きに感化されたのか?」

 

紅く輝く神の槍(グングニル)を床へと突き刺しその視線をフランへとぶつけたのはレミリアであった。

その視線を受け(フラン)(レミリア)を見つめ返す

 

「そうだね、私は感化されちゃったのかもしれない。うん…違う、私は自分の意思で、お姉様の逆鱗に触れる事を承知で脱出をはかったの。これは感化されたんじゃないよ、私の大切な友達が示してくれた道を…私は示された内のこの道を選んだ――それだけ」

 

「――そうか、何をお前が思ったかは知らんが。どの道この件が片付けば今度は監禁生活をくれてやる、拷問付きで二度と人間如きに感化されないようにな」

 

「っ…!おいレミリア!お前それでもフランドールの家族だってのか!?」

 

非情にもレミリアから紡がれた「監禁」の言葉。当麻はすぐにその言葉に反応して拳を握る

 

「家族だからこそだろ、私がフランを抑え込まなきゃ誰が抑え込む?それともお前は暴走したフランを知っているのか?そんなフランが人里に現れてみろ、数時間で死体の山の高さが妖怪の山を越えるぞ」

 

「お前はフランドールを何だと思ってる…!」

 

「良いよ、お兄さん。今お姉様と論争したって無駄だよ、今は目的を見失っちゃダメ」

 

…意外なもんだな、色々と。

思わず俺はぼそりと呟く。まぁ諸事情があるんだろ、と適当に考えを放棄した俺は改めて思考を巡らせる

 

まず俺がレミリア戦を譲る気は毛頭無い、私怨も大いにあるが冷静に考えりゃ徒手空拳で吸血鬼を相手なんて馬鹿のすることだ。飛び道具も能力も使える俺が戦った方がまず有利に戦える

……ここがリーダー垣根帝督としての意見

 

今の当麻に何を言っても無駄だ、どうやらフランドールって奴と約束をしちまったみたいだし。このまま当麻と言い合うのは時間効率が悪過ぎる、大体説得で自分の信念曲げる程ヤワじゃない

 

(それに…当麻の仲間としての垣根帝督の意見なら当麻には戦わせてやりたい、有利不利じゃねぇんだ。俺みたく損得勘定で戦うんじゃなくアイツは本気でフランドールとレミリアの野郎との蟠りを解こうとしてやがる…どっちが出るべきか?誰だって分かる話だぜ)

 

…ったく!あぁ俺もお人好しになっちまったな!どの道ここで売上なきゃ皆永琳に臓器取られるけどな!?

 

垣根は思考の迷走が始まり、当麻とレミリアは口論に火がつきフランと魔理沙は誰にもついていけていない。まさに場は混乱状態である。

 

その時、小さなため息と共にボンッ!と玄関ホールの赤絨毯が爆ぜ全員が静まりかえる

 

こんな状況を打破したのは、こんな状況を生みだしたのは。唯一落ち着いたままの『悪党』だった

 

「…レミリアと当麻、一度黙れ。本来の目的を忘れてんじゃねェぞ。それに垣根もだ、一人で迷走するンなら相談位しやがれ、一人よがりとリーダーとしての責任を履き違えンな」

 

「悪い…妹紅」

 

「…フンッ」

 

「誰が一人よがりだ、さっき単独で突っ込んだお前が説教くれてんなよ。…で、結局どうする?俺達は既に王手を取った、紅魔館は…確かパチュリーとか言うのとレミリアが残ってるんだろ?俺は当麻にパチュリーって奴と戦って貰うのが最善だと思うけどな」

 

「でも当麻にも当麻の事情がある、この手の馬鹿は考え無しに他人の悩みを背負い込むから手に負えないンだっつの。こォ言うのをデジャブ、つったかなァ…?ともかくだ、そんな訳で私に紅魔組も垣根達も納得出来るかもしれねェ案が一つある」

 

「ほう…?それは何だ?」

 

「単純な話だ、タッグマッチを殺ンだよ。お前はパチュリーと、垣根は当麻と組ンで戦う。勝利条件はまァ…紅魔組は垣根と当麻の両方を戦闘不能(ノックアウト)に、垣根達は紅魔組のどちらかを戦闘不能(ノックアウト)に…ってとこで良いだろ。これなら条件上は平等な上にガキ共の不満も解消ってな」

 

「…言葉の端々に棘があるように感じるけどさ、上条さんは異存無しだ。」

 

「気は乗らんが私には代案は無い、だからそれで良いだろう」

 

ここが落とし所だろ、流石にこれ以上反対したら何されるか分かんねぇ

 

そうして垣根も妹紅の案に賛成しようやく場が収まった。とうの場を収めた妹紅は再び口を開き10分程の休憩をその場で提案しこれもレミリアの賛成を受けた、どのみちパチュリーを呼ぶ必要もあったのだろう

 

「つー訳だァ、双方休憩する10分の間に面倒事起こしてンじゃねェぞ」

 

散れ散れ、と妹紅が皆を追い払うように手をヒラヒラとさせたのを合図に各々が…と言うかそれぞれのメンバーが二箇所に固まっていく

 

「よっ、仕切るのご苦労だったな。案外場の切り盛りが上手いじゃねぇか」

遅れてうどんげや当麻達の元へ向かい始めた妹紅に俺は背後から声をかける

 

「ガキ共の扱いは慧音の寺子屋で慣れてるンですゥ、尤もお前程ひねくれたガキは初めてだけどな」

妹紅は妹紅で特に俺に向き直る事なく歩みを進める

ったく…ひねくれたガキはどっちだよ

 

思わずそんな事を垣根が内心で呟いた時に妹紅がふと振り返る

 

(あっ、やべぇ…見透かされたか?)

 

ポケットに突っ込んだ手の中で滲む汗に気付かないフリをしながら、俺は普通を装って「なんだよ?」とだけ呟いてみた

 

「お前、当麻とレミリアの口論が始まった時に意外なもんだな、『色々と』…って言ってただろ?その色々ってのがお前にはどう映ったのか…気になっただけだ」

 

「あぁなんだよそんなことか…俺はてっきり見透かされたのかと」

 

「あン?」

 

「何でもねぇから落ち着け!…そりゃフランドールが予想とは違ってた事もある、見た目も内面もな」

 

「それは当麻との戦いで何かあったンだろ、まァそれも印象深かったけどよォ」

 

「それと…だ、ただ気になった事がもう一つある。意外だったのはむしろこっちだったぜ、アイツがあんな表情をするなんて盲点だったしその割には言動が反比例してやがる」

 

「奇遇だな、私も多分お前と同じ事が気になってンだ」

 

…そうだ、あの時あの瞬間気になったのは噂とは真反対のフランドール・スカーレットの様子でも珍しく頭に血が上った当麻でもない

 

―――垣根と妹紅は無言で背後を振り返る。その視線の先に居るのは…

 

(レミリアの野郎…何でフランドールが自分の意思を示した瞬間、あんな暗い表情をしやがった?)

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

自陣に戻った当麻はまず水筒に手を伸ばし中身の緑茶を喉へと運ぶ。元より喉は潤いさえすれば公園の水でも構わない、という当麻である。カラカラに乾いた喉を緑茶の苦味で上書きする感覚にも特に難色は示さない。

 

「ふぅ…美味かった、喉が乾いては吸血鬼退治も出来ないんでせう」

 

「それを言うなら腹が減っては何とやら、だろうが?ともかくだ!時間もねぇから軽く打ち合わせだけでいくぞ」

 

そう言えば休憩時間は…あんまり無いんだよな

乾いた喉を潤したり念の為妹紅の勝敗を聞いたりで思いの外時間に余裕がない上条当麻。そんな彼の緊張感の無さに垣根はため息で苦言を呈する

 

「良いか?俺達の利点(アドバンテージ)を確認するぞ

まず一勝すれば良いという点、これは間違いなく大きい。そうなれば取るべき作戦は分かるな?」

 

「そりゃ勿論二人がかりでどちらかを集中して倒すんだろ?」

 

「及第点だな、当麻お前テストじゃ毎回記述問題落としてるだろ」

 

「…うるせーよ。で、どこをどう直せば合格点にしてくれるんだ?」

 

「よしよし、教えてやるよ。連中が勝つには俺達二人を両方倒す必要がある訳だ、そんな状況で敵2人が無策に片方の味方に集中したらどうなる」

 

「…ま、まぁ最悪の場合一気に撃破される…」

 

「そういうことだ、それに魔法使いはともかくレミリアは1匹1匹チマチマと…なんて柄じゃない。十中八九俺達2人を一気に潰しに来るだろ?だから今回は…レミリア狙いで行くぞ」

 

「吸血鬼狙いよりは魔法使いの方が楽に倒せる…なんて単純な作戦じゃないよな?寧ろ魔法使いに集中している間に意識の外からあの神の槍(グングニル)や大技を食らうリスクがある。それなら逆にレミリアに意識を注いだ方が良いって事だな!」

 

「その通りだがな、まだ及第点だ」

 

再び及第点、を口にした垣根に当麻は水筒に蓋をして表情でその先を封じる

 

「俺がレミリアを倒すまで、サポートと魔法使いの牽制は任せたぞ」

 

「―――分かってんじゃねぇか、ただ俺にも1発殴らせろよな」

 

狙うは館の主(レミリア)、ただ一つ―――!!

 

門番で始まった第1戦を皮切りに玄関ホールでの第2戦、そして再び玄関ホール第3戦

ここで決着が付くのか?それとも……

全ては上条当麻(イマジンブレイカー)に、垣根帝督(ダークマター)に委ねられた

 

そして集まった俺と垣根、レミリアと魔法使い…と俺達が勝手に呼んでいたパチュリー・ノーレッジ

 

(確かにまぁ…いかにも魔法使いって感じの格好だよな。霧雨はどっちかと言うと魔法使いのコスプレをした女の子って感じだったけど…)

 

恐らくそうさせているのは彼女の魔法使いとしての礼装だけではない、これまでの経験もあるのだろう。しかし今になって相手の雰囲気に呑まれている2人ではない

幸先良く当麻がレミリアに向け口を開く

 

「待たせて悪かったな、俺もようやく気持ちが落ち着いたし状態も整えた。…遠慮なく勝ちに行くぜ」

 

「勝手に言ってろ、たかだか王手で良い気になるなよ?」

 

これは…宜しくない、また口喧嘩になる雰囲気だ。流石の上条さんも煽り耐性が付いてきたんでせう

 

元から険悪な雰囲気が更に悪くなる予感がした当麻はすぐさま話題を切り替える

 

「それじゃあこの勝負の内容だけ決めて始めようぜ」

 

「そうね、でもこの際弾幕・格闘・飛び道具何でもありの戦いの方が時間も省けてあなた達にも都合が良いでしょう?」

 

ねっ、レミィ?と手早く話をまとめたのはパチュリー。レミリアの背後から確認を取るように声をかける

 

「あぁそれもそうだな、お前達も異存ないだろ?」

 

あぁ、おう、とここは素直に頷く当麻と垣根。

その後も特に伝えるべき事も無かった垣根は数歩下がる…がしかし。垣根は特に何も無くとも、当麻には最後に取り付けるべき約束がある

 

「待ってくれ、レミリア。戦いを始める前に頼みがある」

 

「何だ?手加減なら考えてやらんでもないが」

 

「そんな事は頼むかよ……お前の妹(フランドール)の事だ。もし仮に、俺が勝ったんなら…レミリアがフランドールを監禁した時の事を教えてやってくれないか?俺の前じゃなくて良い、不器用でも良いから…頼む」

 

「何が言いたいか解らんな、アレはフランを抑え込む為に監禁した。それ以上でもそれ以下でもない、それでも良いならお前の前だろうといくらでも話してやるさ」

 

当麻とレミリアは当初の位置のまま動かない、唯一距離を取った垣根とパチュリーが静かに構える

 

(こりゃ……もう長くはもたねぇな)

 

(彼にせよ、レミィにせよ…)

 

((恐らくあのまま近接戦闘が始まる))

 

既にこの場の雰囲気は「険悪」なんてレベルではない、先程開戦しかけた妹紅とレミリアの間の雰囲気そのものだ。後はどちらが先に仕掛けるか、それだけである

尤も……それはこの場の全員、垣根やパチュリー、妹紅や魔理沙に至るまで全員が予感していた

 

「当麻ッ!こじつけがましいがレミリアと約束は取り付けたんだ!そのまま1度俺の隣まで後退しろ、その間合いから始める必要はねぇ!」

 

「だ、そうだ。不本意だが人間相手でも約束は約束だ――まぁそれが叶うとは万に1つもあると思うなよ」

 

…垣根の言う通りここは1度下がろう、折角冷やした頭がまた熱くなってきた。

 

俯いたまま、勝つまでは仕方ないと割り切ってレミリアに背中を向ける。垣根の隣まであと3歩…2歩…

 

「…ふざけんな」

 

垣根まではあと1歩、レミリアからは5歩…と言った距離か。上条当麻がソレを口にしたのは

 

「俺達を煽るならともかく間接的にもフランドールが傷付くような言い方は止めろ…!もしフランドールが脱出した事が気に食わないんならその責任は俺にある!」

 

雀の涙程の2人の間合いが一気に0へと変わった。

とうとう当麻がレミリアの胸ぐらを掴んだのだ

 

「フランの脱出が気に食わない?…何か勘違いしてないか、お前?」

 

「何がだよ…!」

 

「そりゃ気に食わないさ!フランが悲劇のヒロインを気取ってお前達人間に縋ってるんだ、吸血鬼として恥晒しも甚だしい!!」

 

「何より…だ。お前…誰の襟首を掴んでるんだ?」

 

 

あっという間に、身体が浮き上がる。それに背中から響く激痛とメキメキと言うこの音……もしかして俺は――――

 

「ッハ…!?」

 

「余程お前は私の癪に障る事が得意らしいな、今の所ほぼ全ての言動が癪に障ってるぞ。……お前の脆い首をへし折りたい位にはな」

 

もしかしても何もない、当麻は一瞬でレミリアに片手で首を掴まれ壁に叩き付けられた。勿論レミリアはそれで解放などする訳もなく締め上げる力を強めていく

 

「だから離れろって言っただろうが…!馬鹿野郎が!」

 

「止めておけ、お前が私を殺すよりも私がコイツの首の骨を握り潰す方がよっぽど早い。それとパチェも手出しするなよ?コイツは私が殺す」

 

「はぁ…今日のレミィはやけに血に飢えているのね。――どうぞご自由に」

 

すぐさま垣根は銃口をレミリアに向けるもパチュリーもまた垣根とレミリアの間に割って入る。これではレミリアに銃弾すら届かない

 

まさに最悪のスタート…いや、これでは最悪の幕引きになりかねない。既に当麻は王手をかけられ2対1では垣根に勝ち目などある訳がないのだから

 

「悪く思わないで頂戴、あぁ見えて躊躇いが無いのよ。レミィは人間に対して」

当のパチュリー本人も垣根を即座に倒すべく弾幕を放つ。パチュリーから放たれた七色の弾幕が垣根の視界を塗り潰す、それに見惚れる余裕すら無いほどに

 

「…ったく、苦労するよな。お互いせっかちな相棒を持つとさ、オマケにあの2人…『両方』躊躇いが無いんだからよ」

 

次にパチュリーの視界に映ったのは被弾した垣根ではなくその彼を包み込む謎の白い球体だった

アレが彼の防御なのだろう、だが気がかりはそこではない。

 

「…両方?それはどういう意味かしら?」

 

「気になるなら自分で確認してみな、アンタ相手に不意打ちする気は無いんでね」

 

金髪の彼は未だに白い球体の中だ、背後のレミィを確認する程度には余裕がある

 

「レミィ、まさかまだ殺してないでしょうね?」

 

振り返れば

 

そこには紅く染まった勝利が

 

吸血鬼に牙を剥いた哀れな人間の末路が

 

「…ッ…ハッ…!!」

 

「…殺してないぜ、いや殺されてない…そんな表現が正しいかもな」

 

――――広がっているはずだった

 

そこに居たのは脇腹を庇う人物とそれを見つめる人物の2人。ただし……脇腹を抱えていたのは――

 

「脇腹に俺の右フックが掠っただけだ…そんなの吸血鬼なら痛くないだろ」

 

「チッ……少し、肩透かしを食らっただけだ」

 

吸血鬼(レミリア)だ。

 

「…レミィが、掠っただけで?」

 

「本当に掠っただけだ、本当ならちゃんと鳩尾に決める筈だったんだけどな。やっぱり力んじまうと上手く決まらないのは俺もまだまだってことか」

 

気道を防がれた人間の一撃が吸血鬼を怯ませる。博麗の巫女ならいざ知らずそんなふざけた人間など――誰もがそう考える

 

「悪いな垣根、あれだけ俺にも配慮した作戦を立案してくれたのにさ…悪かったな」

 

「まっ、今はさっきとは違って落ち着いてるから良いんじゃねぇか?…で、当麻はこれからどうしたいんだよ。それだけハッキリさせろ」

 

「勿論勝つ、俺達の目的は最初から変わりない。ただレミリアに…俺が無駄口を叩く余裕がある間に、1つだけ言わせてくれ」

 

「仮にあの場で、俺と霧雨が殺されても、万が一にもあの厄介な空間の仕掛けをフランドール1人で潜り抜けてもさ…フランドールはきっとお前に叛逆なんてしないし殺しもしなかった筈だ」

 

「何を証拠に…第一今のフランが正気なのはお前達に感化されたからだろ?」

 

「確かに、な。俺や霧雨と出会っていなければフランドールは今も狂っていただろうさ…でもな!そんな俺達2人がフランドールを変えられたのはフランドール自身の意思があったからだ!495年間監禁されても完全に狂気に身を委ねなかった奴が…そんな優しいアイツが(レミリア)を殺せる訳無いだろ!!」

 

「…黙れよ、さっきから癪に障っていると言ってるじゃないか…!」

 

「だから今回ばかりはお前の幻想は絶対に殺さない…フランドールの為にも…!」

 

「お前のそのふざけた幻想をぶち殺さねぇ!!」

 

 

 

 

最終局面…開幕




昼寝と衝動買いが楽しみ過ぎる今日この頃


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Sister's noise〜妹の叫び声〜【前編】

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

「大きく出たな、幻想殺し(イマジンブレイカー)が―――幻想を殺さない、ね」

 

「…アイツが持つ幻想は俺も垣根も殺したって意味が無い。少なくとも俺はそう確信したぜ」

 

「あぁそうかよ―――だったら派手にお膳立てしてやるか!」

 

垣根の背部から顕れた『ソレ』……即ち天使の白翼。

左右にそれぞれ3本ずつ展開された翼は均等にレミリアとパチュリーを突き刺す様に襲い掛かる

 

「また珍しい物が出てきたな、そっちの金髪は魔術師か…いや違うな」

 

「普通に強くて普通にキザな俺の仲間だ!」

 

垣根には悪いがこの程度でこの2人を片付けられるとは思ってない、だが体勢の整っている魔法使いならまだしも俺の一撃を受けたばかりのレミリアなら…!連撃で攻め立てられる!

 

それぞれレミリアの頭上、左右から襲い掛かる白翼に身を隠して当麻は拳を軽く握り締める。

―――躊躇いも様子見無しの本気、白翼を打ち消して振り抜く渾身の一撃(右ストレート)

 

(回避か?ガードか?レミリアの性格なら俺達人間の攻撃なんて回避せずに受け止める筈、いや…思い込みは不味い…よな)

 

ただ白翼に遮られたその先にレミリアが消えていようが待ち構えていようがやる事は変わらない。俺に今出来る事は…

 

「全力でお前にぶつかるだけだ!」

 

全力で拳を振り抜いた後に聞き慣れた幻想殺しの音が当麻の耳に鳴り響く。

感じる感触は…垣根の白翼だけ、避けられたのか?

 

「ッ!…いや違う!」

 

幻想殺しに打ち消され粉塵へと姿を変えた白翼が当麻の視界を遮る。しかし、そんな煙風の中に紅く輝く光が2つ…!紅く輝く一閃が1つ!

 

「ほら、お前好みの肉弾戦だ!弾幕が張れないお前を私が蹂躙した…なんて言われても不愉快極まりないからな!ありがたく私の幻想(グングニル)に殺されろ、幻想殺し(イマジンブレイカー)!!」

 

「願ったり叶ったりだぜ、吸血鬼(ヴァンパイア)…!」

 

これは当麻にとってある意味では想定内、もしくは想定外であった。

神話の産物(グングニル)を…恐らくは半歩下がっての横薙一閃、何にせよ回避でもあり防御でもあり――攻めの一手である。レミリアもまた上条当麻同様敵を様子見無しに殺りに来た訳だ

 

(ってと…!この間合いじゃ回避は間に合わねぇ、となると…取れる手段はこれしかねぇよな…!)

 

(さぁ来い人間(さいじゃく)、お前を試してやるよ!)

 

幻想殺し(イマジンブレイカー)ッ!」

 

主神の槍(グングニル)!」

 

幻想殺し(イマジンブレイカー)VS主神の槍(グングニル)――当麻はその場から動かず右拳の裏拳を主神の槍へ、レミリアは己の得物の軌道を変える事なく振り抜いた。

 

互いがぶつかりあったのはほぼ同時、当麻の裏拳は確かに槍の穂先を捉えていた。……確かに、『捉えて』はいた

 

「ッ…!?打ち消せ、ない…!」

 

「ハッ!やはりな、その右手は確かに異能を打ち消すとみた!だがしかしな…何から何まで打ち消せる…訳じゃないだろ?例えば今みたく、継続して膨大な魔力を注がれ続ける力には完璧には機能しない」

 

更に、とレミリアはグングニルに込める力を強めて話を続ける

 

「今のような拮抗状態でお前はグングニルを押し返さなければならない、だがお前の筋繊維はどうだ?押し返すどころか踏ん張るのが精一杯…大方フランとの闘いで疲労が蓄積したのか」

 

「―――所詮それがお前の、人間(さいじゃく)の限界だ」

 

あの時…フランとの戦いを終えた時確かに当麻は骨折や火傷を癒した。しかし傷付いた筋繊維や消耗した体力は別問題、なまじ人一倍の体力を持つ事と我慢強さが当麻に自己判断を誤らせる要因となってしまったのだ

 

(ヤバイ…!このままじゃ押し負ける…!)

 

多分…と言うかレミリアは俺を吹っ飛ばして勝ち、なんかじゃ満足しない。俺はレミリアの事を詳しい訳じゃない、理解だって出来ない所が多過ぎる。……それでも断言出来る

 

吸血鬼(さいきょう)人間(さいじゃく)を捻り潰す事を躊躇わない…!」

 

「その通り!それが私達吸血鬼(さいきょう)の矜持であり誇りだからなッ!」

 

「お前とフランドールを同類にしてんじゃねぇ!!アイツは…お前が自分から遠ざけた過去のフランドールとはもう決別したんだ…!」

 

「最後の最期まで――捨て台詞が吐けた事だけは評価してやる、だが生憎と慈悲を持たないのも吸血鬼の矜持でね」

 

この時、この一瞬が最もグングニルが紅く輝いた瞬間である事は誰もが自然と認識出来た事だろう、それはつまり……

 

「死ね―――――幻想殺し(イマジンブレイカー)

 

『神槍「スピア・ザ・グングニル」』

 

得物は同じ神槍、魔力量が跳ね上がった訳でも形状が変化して殺傷能力が上がった訳でもない。

レミリアはただ僅かに力を込め『投擲した』だけ

そう、投擲しただけ…ただ単に地球の物理法則に従い直進を始めた神槍は自身の進行を阻む障害物(かみじょうとうま)を破壊する

 

だとすればどうなるか?……そんな物は考えるまでもない。何故なら正解は…彼等の眼前にハッキリと転がっているのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

フランドール・スカーレットSIDE

 

 

 

 

 

 

 

不気味な程、まるで耳元で囁かれたようにその音は皆の鼓膜に届いていた。

 

鋭利な切っ先が肉を貫き、傷を押し拡げ、それでも飽き足らずその先に進み続ける生々しい音

 

その切っ先が壁に衝突し進撃の終わりを告げた重低音

 

そして…磔にされた少年の吐血が紅い床に零れ落ちるとてもとても小さな音

昔愛読していた小説ではヒロインは自分を助けに来たヒーローが窮地に陥った時絶望して泣き崩れていた

だってそりゃそうでしょ?仮にも自分を助けに来た人が死にそうになったら誰だって絶望するし泣きたくもなる。だから私はそれが現実でも起こるのだろうと考えていた

 

……じゃあ今の私は?

 

「…とう、ま…?おいふざけんな…な、何勝手にダウンしてるんだぜ!?ちょっとレミリアの野郎の一撃を喰らったからって大袈裟過ぎるだろ…!」

 

魔理沙は…泣いてはいない、ただ非常に混乱しているのは目に見えて解る

 

「最悪…急いで師匠に連絡を…!その前に垣根…棄権よ、私達の負けで良いから早くアンタも退きな、さい…」

 

私がここに来た頃は項垂れたまま顔色が悪かった彼女(玉兎)もまた焦っている。しかし魔理沙より幾分か冷静で在ろうとしているのはこんな現場を見慣れているからだろうね

 

…改めてフランは上条当麻が居る方向に向き直った

 

彼は所謂『磔』にされている。腹部を貫かれ壁に突き刺さったグングニルが彼を頑として逃さない

突き刺さった当初は声にならないような声をあげもがいていたがそれが適ったのも本当に数秒だけ。

 

そんな無惨な友達の姿を見て私は……何も出来なかった。

泣き叫ぶ事も、槍を放った張本人であるアイツに対する殺意だって微塵も沸かない

ただ呼吸が苦しい、まるで何かの魔法をかけられたように急激に気道に栓をされた気分。僅かに遅れてようやく身体が震え始める

 

そんな状態の中でも、皆の声が飛び交う中でも…私の耳にはアイツの声だけが甲高く響いている

 

(何もかもわか、んないよ…ねぇ…何で…私のレーヴァテインは簡単に弾き返したよね…?)

 

フランは『何で』を何度も心の中で繰り返す、だがその『何で』の矛先は意外にもすぐさま切り替わった。

 

「何で…何でそんな風に笑えるの!?何でそんな下卑た顔が出来るの!?私の友達を壊せたから!?自分に歯向かう人間を完璧に壊せたから!?アンタは私だけじゃ飽き足らず歯向かった者は全て壊す気!?」

 

「ハッハッハッハ!!いやぁ…悪い悪い!あまりに完璧に決まったからな…で、だ?あまり人を独裁者みたく言ってくれるなよ、確かに今回の勝負…私達が三勝した暁に連中の死を要求はしない…そういう取り決めはしたが死合ともなれば話は別だ。それに弾幕ごっこでの勝負なら不殺(ころさず)は絶対にして暗黙の了解だがアイツの挑んだ勝負は武器も徒手も―――殺害も何でも有りの勝負。戦闘不能の定義が吸血鬼(わたし)人間(さいじゃく)との間で些細な違いが生まれたのはご愛嬌ってやつさ」

 

「何より…私はアイツにトドメを刺した、だがな!そんなアイツを私との闘いに送り込んだのは誰だ?リーダー等と宣いながら戦力差を見誤ったのは誰だ?――私に言わせれば確証もない名ばかりの絆とやらで人間と吸血鬼を闘わせるお前達の方がよっぽど壊れてると思うがな」

 

言い返せない…悔しいけどアイツが言っている事は事実そのもの

 

他でもない…私と出会ってしまったせいでお兄さんはアイツに無謀な闘いを…挑む羽目になった。

金髪のあのお兄さんだってそう、あの人は初めからお兄さんとアイツとの戦力差を理解していたはず。理解していたから何とか自分との闘いに持ち込もうとした…けれど、私のせいで走り出したお兄さんを止める事は出来なかった

 

 

悔しい…何もかもが悔しい…!

 

あんな外道が肉親である事実が、あんな外道と同じ血が身体の中を流れている事が

 

その外道の掌の上で踊る事しか出来ず、あまつさえそれを理解していながら今すぐ飛び出せない自分自身が……何よりも憎い

 

私は紅く染まってしまった友人を見つめた。

 

(まだ呼吸は続いているよね…?とにかく生きて欲しい、生きてくれていれば私はそれで…)

 

勿論上条当麻からの返事は無い。…フランの中で、ようやく一つの決心が付いた。それに合わせるように息苦しさと震えが収まる

 

「…そうだね、『私達』は壊れてる。プライドに雁字搦めになった姉に化物と悲劇のヒロインの2役を演じきれると盲信した妹、馬鹿さ加減じゃどんぐりの背比べじゃない」

 

「…フラン、口が過ぎるぞ。頼むからこれ以上私を失望させてくれるな」

 

「その言葉、そっくりお姉様に返すよ。昔のお姉様は『大嫌いな吸血鬼』だった、でも今のお姉様は…吸血鬼を名乗る事すら恥じるべき『三流の小悪党』に成り下がった。だから私はお兄さんの無念を晴らすためにお姉様を粛清(こわ)さなきゃならない…!」

 

「…私を、粛清(こわ)す…だと?―――フッ、面白い!褒美にお前の最期はあの忌々しい人間の上から重ねるように磔にしてやろう!」

 

私の鼓動が高鳴る、耳鳴りが激情を掻き立てる。

 

(今すぐアイツの喉笛を噛み砕かなければこの気持ちは収まらない…いやそれでもきっと収まらない…!)

 

「お姉様のした事は絶対に許さない…それ以上に私は私自身が何より許せない!!」

 

「禁忌『フォーオブアカインド』!」

 

どこからともなく3人のフランが現れる。これが禁忌『フォーオブアカインド』、勿論分身したからと言って各々の戦力が下がる訳でもない。

が、これで終わりではない。4人のフランがそれぞれその銘を告げる

 

「禁忌『レーヴァテイン』!」

 

再び玄関ホールの気温が跳ね上がる、奇しくもその火力は咲夜戦での妹紅を裕に上回っているだろう

しかしそんな跳ね上がった気温の中で力を奮うのは何もフランだけではない

 

「ふざけんなフランドールッ!勝手に乱入した上に当麻を死人にしてんじゃねぇよ!!」

 

最初に吠えたのは垣根帝督。腕で庇うように顔に降りかかる火の粉を耐えながら精一杯声を張り上げる

 

「それとお前もしつけぇんだよ、喘息…!」

 

そうかと思えば彼は飛び上がり数秒後に通過した弾幕へ悪態をつく

弾幕を放った正体を確認してはいないがその必要はない、幸か不幸かこの戦いにおいて彼はまだ1人としかぶつかり合っていないのだから

 

「先程とは違って余裕が無くなっているわよ、私の名前を間違える程度には、ね」

 

動かない大図書館(パチュリー・ノーレッジ)は、実にアグレッシブに垣根を攻め立てている。口論を重ねている今でさえそう、ホバリングを続ける垣根に魔力弾での追撃を重ねている

 

「―――テメェこそ余裕が無いんじゃねぇか?さっきからずっと湿気た弾幕ばっかり張りやがって」

 

そしてその応酬に垣根が未元物質(ダークマター)により硬化した銃弾を放つ。当麻がレミリアを攻め立てている最中も2人はこれをひたすらに繰り返していた

 

「そう、ひたっすら繰り返しなんだよ。手抜きとは言わないが殺意も勝利に対する欲も感じられねぇ、そんなの無くったって俺に勝てるってか?」

 

パチュリーの魔力璧に弾かれる銃弾、これも既に何度も繰り返した過程

 

「さぁ、ね。ただこれまでの過程を鑑みるならば次に貴方は弾薬の補填か間合いの確保、私はその隙に貴方に狙いを慎重に定めるのよね」

 

「ご明察、と言いたい所だが弾切れだクソが。これも安くねぇんだぞ」

「――そう、じゃあ今からはその愉快な能力と私の魔法の正真正銘の直接対決?」

 

「…普通なら、な」

 

残弾数が0になったマガジンをケースへと納めながら垣根は床に降り立つ。

 

「最初はマジでなめられてるのかと思ったぜ、が違う。時折不意を付くような角度から殺しに掛かったがお前には掠りもしなかった。じゃあ考えられる可能性は2つだ」

 

「…私が貴方を見下した上で、それでも尚私達の間には逆転を許さない実力差がある。若しくは―――」

 

「お前は端から俺を倒すつもりは無い、俺を足止めするのが目的だった。ってとこか…まぁ十中八九後者だろ?」

 

「正解、とは言えここまで来て貴方も無傷なんだから前者に効力は無いものね」

 

理解力も、頭の回転も共にこの場に居るメンバーの中でトップを争う2人である。垣根はパチュリーの真意を、パチュリーは垣根の数手先の思考を掴みかけていた

 

「互いに時間がねぇ、打てる手があるなら互いに早く打とうぜ」

 

「なるほど、あの面子を纏めるリーダーの名は伊達ではない…ね。えぇ、解ったわ。今から私が言うことはハッタリでも巫山戯てもいない」

 

「何もせず貴方達は今すぐここを去りなさい」

 

「…取り敢えず続きは聞いてやる、返答次第じゃ当初のプラン通り俺の能力をお前に叩き込むぜ」

 

その証拠、と言わんばかりに白翼が火の粉を吹き飛ばす。

その火の粉の根源、即ちレーヴァテインを力任せに振るうフランをパチュリーは……いや違う。それには語弊があるだろう

パチュリーが見つめていたのは正確には――――

 

「仮に貴方達が今ここで去ったとしても勝負とやらは貴方達の勝ち…必ずそう事態は転がるの。変化があるとすれば結末がより最悪なものになるか否か…よ」

 

「分からねぇな、何故そう言いきれる?言っとくが運命操作(レミリア)なんざ信じねぇぞ」

 

「………レミィは死ぬ気よ、フランに殺されてね」

 

動かない大図書館(パチュリー・ノーレッジ)は動かないまま、見上げた視線を一切動かさず―――親友(レミリア)を見つめていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レミリア・スカーレットSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

迫り来る(フラン)は何時だって得物を抱えていた。それは495年前から運命っていた事であり自業自得…特に不満はない

 

狂気の笑みを浮かべ喉を鳴らして私の返り血を飲み干す(フラン)、そんなフランに対して(わたし)がしてやれる事は何時だって―――変わらない

 

「どうしたフランッ!お得意の能力はどうした、禁忌の2枚重ねでガス欠か?その程度で私を粛清(こわ)すとは片腹痛い!!」

 

「五月蝿い…五月蝿いッ!お姉様は何時もそう!上から私を見下ろして私から全て奪っていく!でも今回だけは許さない…!あの人は…あの人はお姉様と違って奪わない!与えてくれた!」

 

「それは悪かった、私は別に悪意は無かったんだよ。寧ろお前の為を思ってこれまで頑張ってきたんだがな」

 

別段嘘は付いていない、記憶を改めて思い返してみれば…200年程前までは本気で私はフランの為を思ってフランを抑え込んでいたんだ

 

最初は本当にフランに綺麗な身体で居て欲しかった。食事(きゅうけつ)以外で血に魅入られて欲しくなかった。

 

――――だから最初は外出を制限した

 

『ねぇお姉様…フラン、もう少し月を見ていたいなぁ…』

 

『すまない、フラン。代わりに私が面白い絵本を読んでやろう!この絵本にも月が出てくるから…な?』

 

それが続いたのも数十年だけ、この時フランが血ではなく破壊に魅入られたのだと気付いていれば…等と思い悩む時期もあった

 

『…ごめん、なさい…お姉様…。フラン、また壊しちゃった…』

 

『大丈夫!今回買ってあげたぬいぐるみは脆かっただけだ、私が職人をちゃんと叱っておくから!』

 

 

―――身体のバランスが崩れる、正確には左右の均等がおかしい。恐らくは腕を肩ごと切り落とされたか

 

「チッ…『斬る』と『焼かれる』が同時って言うのは確かに激痛だが。殺傷能力に関しては肯けないな」

 

「例えば相手が私みたくとち狂っていれば止血に利用されるぞ」

 

追撃よろしくと突き出されたレーヴァテインの1本を掴み傷口に押し当てて止血する、普段ならば気が飛ぶような激痛もさほど苦にならないのは―――終わりが見えているからか

 

「―――一番狂っているのは私じゃない、お姉様よ」

 

「否定はしない、だがお互い様だろ?僅差なものだ」

 

吸血鬼は不死身では無いにしろその再生能力は生物界随一を誇る、故に失われたレミリアの片腕は1分足らずで再生された

 

グングニルを両手で大回転させてからの振り下ろし、蝙蝠型の弾幕がフランへと襲い掛かる

 

――そして再び意識は再び走馬灯へ

 

更に一世紀程が経過した頃にはフランは最早破壊衝動に呑まれていた、日毎に波があり会話が出来る日もあったが…それも年に数回程度。数年に1回の頻度へと下落してからは見るに耐えなかった

 

『オネエサマァ!ダシテヨ、ハヤクツギノオモチャヲコワシタイヨォ!!』

 

『ッ…ごめんな、フラン。もうこれ以上人間を攫う事は出来ないんだよ…!』

 

そしてまた一世紀の時を経る。―――フランの為ではない、保身の為に。私はフランを監禁し…破壊衝動を拷問で抑え込んだ

 

『お願いだからッ!!これ以上私を困らせるな!何でお前はこの歳で未だ狂気を自制出来ないッ!?』

 

『ゴ、メンナ…サイ…ゴメンナサイオネエサマ…!フラン、ガンバルカラユルシテ…!』

 

『…その薄汚れた瞳で私を見るんじゃない…!』

 

結果フランは狂気を『克服』せずに自らの内側へ『溜め込んだ』。それにより全盛期と比較すればフランはかなり落ち着いたと言える

 

…しかしその(フラン)(わたし)が495年の歳月を経ても成し得なかった事を、たった1人の人間(さいじゃく)が成し遂げたなどと宣っている

 

(思い返せば出会った瞬間に消しておくべき人間(さいじゃく)だった…運命が見えない生物なんて不安要素でしかないのだから)

 

再度全身を駆け巡った激痛に私は身体のバランスを完全に失い墜落、間髪入れずに杭代わりのレーヴァテインが皮肉にも私を床に磔にしていた。……これがフランなりの報復なのだろう

 

見上げれば…汗だろうか?とにかく何かをポタポタと落としつつ私を見下ろしフォーオブアカインドを解除したフラン、レーヴァテインの陽炎の所為でその表情はよく見えないが…さぞ輝いているだろうな…

 

「はぁ、はぁ…!ようやく追い詰めた…!…もう少し、何年前でも良いからお姉様を粛清(こわ)しておけば…お兄さんは傷付かずに済んだのに…!」

 

「…知ったことか、吸血鬼の恥晒しの言葉は聞きたくない。粛清(こわ)せよ…悪党」

 

結局最期まで気にかけるのはあの人間…か、魔理沙や霊夢辺りなら悔いは無いが…。仕方ない、これも私に下った罰だ

だが、私の死によってフランはこれまでの過去と決別し本当の意味での自由を手に入れる。これはあの人間では絶対に成し得ない…つまりは、最終的に(フラン)を救ったのは(わたし)だ。幻想殺し(さいじゃく)じゃない…!!

 

「ごめん、お兄さん…私はお兄さんの優しさを裏切ることで貴方の優しさに報いる…!!」

 

フランが翳した掌の中に顕れたモノ

 

形状は弓

細部に悪魔の尻尾を連想させる造

それを用いて穿たれるであろう矢もまた悪魔の尻尾を模した形状

 

――――銘を『スターボウブレイク』

レミリアのグングニルが遠近両方の攻撃に対応出来るならばフランのレーヴァテインは近接に、スターボウブレイクは遠距離に特化していると言える

 

(フラン)(レミリア)を殺す事で終止符を打つ覚悟を決めていた

 

(レミリア)(フラン)に殺される事で終止符を打つ覚悟を決めていた

 

つまり2人は、姉妹は……今になってようやく想いが一つになったのかもしれない

 

これは悲劇の幕引き(バッドエンド)、だが2人(しまい)が選んだ大団円(ハッピーエンド)

 

―――――これで、良い――これで………

 

「…良い訳、ないだろ…!こんな終り方…俺は絶対にさせ、ない…」

 

「お、兄…さん…!?」

 

 

 

それでも、例え姉妹が選んだ大団円(ハッピーエンド)にさえ彼は抗うのだ

 

彼もまた、幻想殺し(かみじょうとうま)も―――彼なりの大団円(ハッピーエンド)を目指す覚悟を決めていた

 




どうもどうも、久々に後書きを頑張ってみようかな〜?と気紛れに思い至った愛鈴でございます。
さてさて皆様は覚えておりますか?私めが少し前に『とあるキャラの夏休み話やりたいな』なんて宣ってた事を、そしてそれをすっぽかしていた事を!

これはイカン!と思い立ったのがつい最近なのはともかく今更夏休み…?ってなりますよね。
そんな訳でちょっとクリスマスの番外編を挟もうかと。年内には紅魔館編に区切りを付けたいので話数は…読み切りになりますが「まーた何か言ってるよコイツ」程度にご期待ください



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Sister's noise〜姉の叫び声〜【後編】

垣根帝督SIDE

 

 

 

 

 

 

フランがレミリアに王手を掛ける…少しばかり前に時間は遡る。

返り血も殺気も飛び交わない争いがここでは繰り広げられていた。

 

「ハッ―――笑わせんなよ、レミリアが死ぬ気だ?言っただろうが、レミリアは信じねぇってな。もっと言うなら俺は紅魔館の連中…メイド妖精やあのイカれた妹様に至るまで誰一人信じてない、無論お前もだ」

 

「別に信じろ、とは言っていないわ。貴方が私達を嫌悪しようが不信感を抱いたままだろうと退いてくれさえすれば構わないの、それが貴方の仲間を救う最善策だから提案したまで。――レミィはね、死でしか己への贖罪を見出せないでいる。私はそれを親友として見過ごせないわ」

 

話の筋は大体掴めた、大方当麻の説教食らって改心した妹が自分との過去を吹っ切る為に自分を殺させる…ってとこだろ

(確かに、コイツの言う事も分からないでもない。俺に対して手を抜いていたのはこの時の為に魔力を温存するため、弾切れを起こした俺が牙を剥いた所でそれは無駄骨に違いないしな…俺だって利益の無い争いを好む程戦闘狂のベクトル間違えてねぇよ)

 

「OKOK、お前の言い分とお前達の事情は把握した。今この場で自分の家族の負い目晒してまでお前が俺に不意打ちをする必要も無いしよ、不信感はともかく仲間の為にも戦略的撤退を―――」

 

首を回す

 

骨の隙間に溜まった酸素が弾けて音が響く

 

肩から力を抜く

 

唐突に流れ込んできた疲労感に自然と苦笑が漏れる

 

―――ふざけんな

 

漏れ出た苦笑を踏み潰し魔法使いを睨む

 

「なんて言うと思ったか、俺達を虚仮にすんのも大概にしろってんだ!お前もレミリアもそんなだからフランドールの野郎と確執が生まれんだよ!当麻が重症だから戦略的撤退?笑わせんな、アイツは自分の命も省みず相手とぶつかったからこそフランドールを変えられたんじゃねぇか!」

 

分かってる、今俺が宣ってる事がリーダー失格の戯言だって事も。

うどんげが門番に負けそうになったあの時、俺はルールを無視してでも乱入して助ける…そう決めていた。それが仲間を一番に考えた最善手だと信じていた

 

(違うだろうが!!俺は独りよがりに仲間を護るだ何だと格好つけて自分の体裁を守ってただけじゃねぇか!――アイツ達の仲間なら、リーダーなら…!)

 

「アイツが白旗も挙げない内に撤退なんてしてみろ!それは今まで戦ってきた俺の仲間達に対する最低最悪の侮辱だ!…リーダーなら、仲間の勝利を信じて待つのも大事…なんて台詞は俺よか当麻の柄だがな」

 

「――前言撤回、貴方はあの面子を纏めるどころか破滅に追いやっている…リーダー失格ね。まぁ良いわ、『退かない』なら『退かせる』まで――」

 

「寝言は寝てから言えよ、輝夜第2号(ひきニート)――停戦解除だ」

 

「当麻ッ!!お前が紅魔館の連中の幻想を…じゃなくて!幻想の殺し方を教えてやれ!絶対に退くんじゃねぇぞ!!」

 

自身の声が届いたかどうか、そんなことは彼にはどうでも良かった。

…疑うまでもない、だって仲間だから。

 

これは綺麗事、でも今は綺麗事で十分だ。こんな甘ったるい綺麗事でも、目の前の弾幕を鼻で笑える程度には気付けになる。

 

 

 

 

爆炎と爆風が支配した玄関ホールの中で静かな、しかし仲間と親友を想う二人の死闘が再開された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

声が、聞こえた気がした。

誰の声かまではハッキリとはしない、でも……俺はその声の主の想いに応えたかった。ソイツから信じ託された事がすごく嬉しかった

 

「…ッてて…意識を失ってたのか…?く、そ…!垣根…!」

 

すぐに辺りを見回してみたが身体が動かない…そうだ…!あの時俺はレミリアのグングニルに貫かれて…!

 

当麻の身体を貫いたグングニルは未だに健在、だが幸いにもそのグングニルが血管を塞ぐ役割を果たしたのか大量出血は起きていない。

だが無理矢理にでも引き抜けばその瞬間出血性ショック死でめでたくあの世逝きだ

流石にこの程度は俺でも分かる、オマケにこの状態を維持し続けてもどの道あの世逝きに変わりは無いはず

 

今まで死を覚悟したことは何度もあったし右手に限れば肩の辺りまで消え去った経験もある。ただ今回が一番死に近い体験だ…大量出血は避けたとはいえ確実に血は流れ出てる…ハハッ、永琳さんや鈴仙が見たら怒るだろうな…

 

「…俺、死ぬのか」

 

「…今のままじゃ、確実にな。だが私はそのつもりは更々無い、既に手は打ってある。」

 

俺を取り囲む妹紅や鈴仙、それに霧雨。そっか…応急処置に来てくれたんだ…

 

「は、ははっ…悪いな…妹紅…あれだけ啖呵切ってこれ、じゃあ…笑えねぇよ…」

 

「あぁ、そうだな」

 

「オマケに、垣根に全部投げちまった…フランドールとの約束も…果たせなかった…」

 

「あぁ…そうだな」

 

妹紅はそれ以上は何も言わない、俺もただただ俯いて言葉と血を零すだけだ。ただ鈴仙と霧雨だけが俺の止血に動いてくれていた

 

「…妹紅、もう良いわ。当麻も黙りなさい、師匠が到着するまでなら私でも大丈夫よ」

 

「…でも、さ…多分だけど垣根の声が聞こえたんだ――諦めんなって。…俺、すごく嬉しかったんだよ」

 

「俺達が傷付く事を何より嫌うアイツが…さ…、こんな死にかけの俺に諦めんなって…!!」

 

「…あァ、そォだな」

 

もう力なんて残っていない、気持ち悪い程に冷たく感じる脇腹は間違いなくヤバい筈だ

でも、こんな状況を改めて認識した今でさえ…!俺の信念は変わらない…いや、変えたくないと思わせてくれた…!!

 

「…諦め、たくない…!垣根の信頼に応える事もフランドールとの約束も…!」

 

「馬鹿言わないでよ…魔理沙、妹紅!アンタ達もこの馬鹿に感化されてないでしょうね!?」

 

言うまでもないがこの場で正論を述べているのは間違いなく鈴仙だ。骨折や火傷ならいざ知らず脇腹を貫かれ今にも死にそうな人間を手放しで送り出せる方がどうかしている、それこそ狂っているに違いない

 

しかし、この時妹紅や魔理沙は――鈴仙に至るまで。例え僅かでも、上条当麻の強さを垣間見た者なら解る…解ってしまう

 

(この人間は…)

 

(この種類の人間は…)

 

(『死』では…止まらねェンだ)

 

「…だったらどォする、今のお前に何が出来ンだ?そもそもフランドールの野郎はお前を殺られかけた報復で戦ってンだぞ、止める義理なンざどこにある」

 

「…フランドールを、止める。あのままじゃ間違いなくフランドールはレミリアを殺しちまうだろ…?…俺の友達に姉殺しの十字架は背負わせない、レミリアに死んで逃げるなんて真似はさせない。それが上条当麻なりの信頼の応え方で…戦い方だ」

 

「―――二分以内、一撃入れるだけ。二分を待たずとも私が無理だと判断したらレミリアを焼き殺してでも当麻を引き離す、当麻が被弾しそォになった時も同じだ。……その条件が呑めンなら、お前の背中を押してやンよ」

 

「妹紅…自分が何を言ってるか分かってるの!?当麻に死んでこい、って言ってるのと何も変わりないのよ!?当麻は兵隊でも不死身でもないのに…!」

 

今、当麻が抱く感情はただただ感謝…それだけだ。送り出すと言ってくれた妹紅も、あんなにも心配して怒ってくれる鈴仙も…こんなに自身を想ってくれる仲間がいる事はどんな事よりも幸せに違いない

 

2分…2分で俺が死なずにレミリアを倒す…しかも一撃KO…

右拳を軽く握ってみる、骨は軋むが脱臼も筋も筋も痛めちゃいない…

 

「2分以内にレミリアを一撃KO、退際も全て妹紅に任せる…どうせ2分耐えられるかも怪しいところだからな…!」

 

「当麻、くどい!医者見習いの私がドクターストップを掛けてるのよ!!」

 

…やっぱり鈴仙は許しちゃくれないか。…強引に押し通る?ダメだ、鈴仙は俺を想ってくれてるんだ…その想いを俺が無視するのはナシ…だよな

 

「…鈴仙、俺は―――」

 

「…なぁ鈴仙、私からも頼むぜ。こうなったら当麻はテコでも動かん、それに私だって…フランが…吸血鬼が十字架を背負うなんてつまらん洒落は見たくないからな」

 

「魔理沙まで…!」

 

「…但し当麻…約束しろよ、お前はレミリアに勝ち逃げは許さないって言ったよな?それならお前も同じだ、私の友達だからには死んで誰かを救うなんて安い三文小説の真似事は御免なんだぜ」

 

「…垣根にしても、霧雨にしても…上条さんに対する注文が厳し過ぎるんですよーっと……良いぜ」

 

「俺は感動の幕引き(エンディング)なんて興味無い…俺は…!俺は端から皆が笑っていられる幕引き(ハッピーエンド)を目指して戦ってるんだ…!!」

 

まずは俺を磔にしているグングニルをどうにかしないといけない、勿論引き抜くなんて論外だ。……解決策はきっと妹紅に……ある…よな…?

 

そんな彼の視界の端では掴んだ何かを振り上げる挙動の妹紅、数瞬遅れて日本刀を投影する様に形成される焔を見て当麻は全てを悟る

 

――彼女らしい…それは実にリスキーで、実に理に適った方法。焔の刀で当麻の脇腹に刺さった箇所以外の槍の無駄な部位を斬り落とす…!

 

「やれ、妹紅…!」

 

「言わずもがな…ってなァ!!」

 

上段からの振り下ろし一閃――――壁に食い込むグングニルの穂先と胴体を切断

 

すぐさま手首のスナップを効かせ刀を跳ね上げる、間髪入れずに振り下ろした二閃目――――

 

コトン、カラカラカラ――――

 

………床を転がったもの、それは…魔力で形成された紅い槍の中腹から根本に至るまで。

すなわち、切断成功だ

 

「アンタ…達ね…!!それで傷口が更に開いた本当に即死よ!?」

 

「……鈴仙の、お叱りが聞こえるって事はまだ俺は死んでないのか。」

 

「ったりめェだ、グングニル程度の細い棒なら力加減の工夫で衝撃無しに斬れるっての」

 

「さっすが…俺の指導教員だ、よな…!」

 

「私を無視しない!あと妹紅もドヤ顔決め込んで納刀のモーションはしなくて良い!」

 

は、ははっ…本当に鈴仙は元気だよな…こんな時に変わらず活を入れてくれるなんてさ。傷口に響くのはこの際黙っとこう、それが良い

 

ゆっくりと、なるべく傷口がある脇腹に負荷が掛からないように立ち上がる。霧雨が肩を貸してくれたがそこは断っておいた、気持ちは嬉しいけど今気を抜いたら気絶しそうで怖い…

 

「悪い悪い…無視する気は無かったんだ。……流石の上条さんもビックリしてさ…。鈴仙…やっぱりまだ俺が動くのは…許してくれない…んでせう…?」

 

「…当たり前じゃない、これで送り出したんなら私は医者見習い失格よ。戦場の衛生兵なら軍法会議減給左遷銃殺刑待った無し…なんだけどね…。――でも私は衛生兵じゃない、医者見習いではあるけれどその前に……当麻、貴方の仲間なんだから…!」

 

「だからもう、止めない。早く行って…それであの吸血鬼を倒して本来の目的も達成してきなさい、リミットは2分――ウルトラマンも真っ青の制限時間なんだからね」

 

…鈴仙は折ってくれたんだ…永琳さんから学んだ医術の知識と心意気を、過去に刻み込んだ自分の信念までも

 

(恵まれ、たな…本当に俺は…こんな俺には勿体無いくらいだよ…)

 

どうやら鈴仙が折れた事は余程意外だったらしい。妹紅と魔理沙は数秒間は固まっていたのだ、だが先程までの猛反発を知っていればそれは自然な反応だろう

 

何か…伝えないと。ありがとう、でもいいからとにかく動き出す前に鈴仙に何かを伝えないといけないんだ。

 

思考の鈍る頭に鞭打つこと数秒、言葉は至極簡単に見つかった。彼自身が使い慣れた――使い古したその言葉

 

「――鈴仙も、妹紅も、霧雨も、そして垣根やフランドールも…俺はこの短時間で何度頭を下げても足りないくらい助けて貰った。

それを今この瞬間だけに限って、全礼になるとしたら…これしか見つからなかったよ…」

 

「皆が不安を抱くのは当たり前だ、俺だって内心不安でビクついてる…

―――だから、皆が今抱いている不安(げんそう)を…皆の優しさとこの右手でぶち殺す…!」

 

「…あァ」

 

「分かったわよ…えぇ…!」

 

「本当の意味での最終局面開始だ!皆で迎えるんだぜ、ハッピーエンドをな!!」

 

 

それを待ち構えていたかのように幕開けの合図とはお世辞にも言い難い音が皮肉にも鳴り響く。―――フランがレミリアを下へと叩き落としたのだ

 

 

そう、ここからが本当の最終局面

生か死か、笑顔か、涙か……

 

 

『…良い訳、ないだろ…! こんな終り方…俺は絶対にさせ、ない…』

 

俺だって、譲れない幕引きがあるんだよ…!

 

 

 

 

 

 

レミリア・スカーレットSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…待て、待て待て…!この際幻想殺し(さいじゃく)が何故生きているか?なんてどうだって良い…!

 

「何故お前が立っていられる…!何故お前がまた私の前に立ち塞がる!!」

 

「…もう俺だって、限界なんてとっくに迎えてんだよ…!それでも退けないのはお互い様じゃねぇのか…?」

 

先程までは死を受け入れた―――そんな表情のレミリアは一変、当麻を睨む瞳は瞳孔が縦に細く長く開いている

さながら爬虫類科の生物の如く、と言えるだろうか

 

だが悠長にお喋りに使う時間は当麻にはもうない、それにこのままレミリアが動けない状態で説得したって何も意味がないのだから

 

「フランドール……たの、む…レミリアの拘束を解いてくれ…」

 

「…どうして?此奴はお兄さんを、私の友達を殺そうとした。長年の怨みだってある…まさかここまで来てまだ此奴との和解を目指す気…?」

 

「……そのまさかだよ、少なくともフランドールが本心からそれを願ってないんだから尚更だ」

 

「ッ…な、何を…今更そんな…ッ」

 

「…レミリア、俺を睨むんなら先にフランドールを見つめろよ…それが第一歩だ…お前なら、運命を視てきたお前なら能力なんて使わなくたって…。全て視えるはずだぜ…!」

 

案外彼の出番は来ずに2人で仲直りしてくれるかもしれない、そんな希望的観測を切に願いながら当麻は右手をフランドールのレーヴァテインへ

 

聞き慣れた…若しくは聞き飽きた幻想殺し発動の音、そしてレミリアが身体を起こす

 

まず私の手に触れたのは床に零れた何かの液体…そう言えばやたらとフランが汗を掻いていたな…

 

「…最期まで品の無い、血を啜る吸血鬼が体液を撒き散らす……ッ…!」

 

「…涙だよ、ずっとフランドールは泣いてたんだ。無意識かもしれないけどさ……大嫌いな奴を殺せるってのに、お前の妹は泣いたんだ」

 

 

「笑い泣きじゃない、フランドールは悲しくて泣いてんだよ…レーヴァテインの焔でも蒸発させきれない位…!

―――フランドール、もしお前が…本心からレミリアを殺して過去を振り切れるって言うんならお前を止める事を躊躇ったかもしれない。…でもダメだ、自分の心と家族を殺してまで過去を振り切るな、少なくとも俺はフランドールにそうして得た未来を歩んで欲しくない」

 

「じゃあ…どうするって言うの!?私の495年の哀しみは!?ようやく掴んだ友達を壊されかけた怨みは!?…私を壊す吸血鬼(お姉様)と愛してくれた家族(お姉ちゃん)の両方の記憶の残像に締め付けられる苦しみは…!もう殺さない事には収まりなんて付く訳が無いじゃない!」

 

「―――俺はまだ生きている、これからもな…495年間降り積もった憎悪があるんなら…!俺と霧雨が…そんなものを鼻で笑える位の楽しい思い出をこれから作ってやる!…でも、記憶の残像だけは。…その幻想だけは俺には殺せないし間違っても殺しちゃダメだ――」

 

「だってそれは、フランドールとレミリアだけが唯一共有する家族の記憶だろ!!…だからフランドール、レミリアは殺しちゃダメなんだ…!お前、の…ためにも…」

 

人間(さいじゃく)はそこで倒れた。ようやく超えた限界に追いつかれたんだろう

 

でもそんなことは私にはどうだって良い。

フランが…泣いていた

 

私を想って…?私を殺すのが苦しい?

 

成程確かに、幻想殺しを抱え呼びかけるフランの頬には涙の軌跡が見て取れる。……フランにはまだあったのか…あれだけ私に壊され虐げられたお前にさえ…お姉ちゃんと呼んでくれた単なる姉妹(かぞく)で居られた記憶が…

私には未だあるだろうか?いやあっただろうか?

 

「…私は愚かだ。否…最早愚か者にすら成れもしない…ハハッ…ハハハッ……フラン、煩わせて悪かった。…確かにお前の為とは建前に結局私は怖かったのかもしれないな、自身の罪と向き合うことが。」

 

「…今更そんな事言わないで。…確かにお姉様を粛清(こわ)す事は苦しかったし怖かった。今この瞬間もお姉様の優しい笑顔が思い出せる…でもそれ以上に貴女には恐怖がある…!」

 

私の罪は計り知れない、さぞや閻魔もご立腹だろう。

…この娘に、妹に…消えない傷を深々と刻み込んでしまった。…だから、幻想殺し(にんげん)…フランの事を頼む

 

「ありがとう、こんな私との記憶の残像を忘れずいてくれて。…お前は本当に優しい…優しい…私の(フラン)だ、不出来な(わたし)には不釣り合いにも程がある」

 

残る全ての魔力を右手の中に―――幻想殺しを越える威力もフランと殺り合う為の力も必要ない

ただ私の息の根を確実に止められる…それだけがあれば構わない

 

再びレミリアの掌の中へ顕現した神槍『グングニル』

 

凡そその丈は1.5M、小柄なレミリアを貫くにはほど良い長さだ

…吸血鬼の最期を飾る獲物が神の槍とは皮肉ったものである。

 

「…最期までフランを血飛沫で汚す必要はない…か。じゃあな、フラン…幻想殺しに『すまない』とだけ…言付けておいてくれ」

 

最期はどこで迎えようか?フランの瞳に映らない場所なら何処だろうと構わないが…

最期に俯くフランに言葉を託して背を向ける、味気ない別れだが私達にはこれくらいが丁度良い

 

「…待って、今更死んで逃げる気なの…!」

 

「まぁ…な。言い方は悪いがフランだって当初は私の死を望んでいただろ?」

 

「死んで逃げろなんて言ってないッ!私は…私はただお姉様に…!」

 

「…許せよ、フラン。私は逃げる事しか知らないんでな」

 

グングニルを脇に抱えたままレミリアは徐々にフランから離れていく。

1歩…また1歩…

レミリアは啜り泣くフランの声を背中で受け止めていた

 

「…無理を言ってるのは分かってる、どれだけ酷い事を言ってるかも分かってる」

 

―――なんでッ

 

「でも…!お兄さんにやって欲しい事があるの―――ううん、これはお兄さんにしか出来ない事…!!私じゃ…!私じゃ何も…!何一つ変えられない…から」

 

―――なんで私は…こんなにも弱い?

 

「貴方に助けて貰って、その上貴方の優しさを裏切った私だけど…!」

 

―――紅魔館の主?ツェペシュの末裔?

―――幻想郷に2人しか居ない吸血鬼?

 

「もう貴方を裏切らないから…!今度は私が助けられるように強くなるから…!」

 

何も出来ないじゃないかッ――――

泣き崩れる妹を抱き締めることも、選べた筈の贖罪の道を選ぶ事も

 

「……1度だけ、この1度だけで良いから…!!」

 

「ッ……ハッ……」

 

「『お姉ちゃん』を助けて…ッ」

 

此奴の様に、立ち上がる事さえ――――

 

「…分か……った、任せろ…フランドールの、言葉は……すげぇ…響いた…」

 

…私はまだフランに背を向けている。だが…振り返るまでもなく分かる――

 

まだコイツは死んでいない

 

まだコイツは諦めていない…!

 

「何なんだよ…!何なんだよお前は!!もう良いだろ!?頼むからもう許してくれ!どう罵られても構わない、だから逃げて幕引きにさせてくれよ…!!」

 

「…許す、許さねぇ…じゃ、ない……お前なら解る、だろ…?家族が、自分の所為で傷付く事がどれだけ辛いかなんて…!それがどんな痛みよりも心を抉ることをレミリアは誰よりも知ってるはずだ…!」

 

「何より…レミリアだって今まで苦しかった辛かったんだろ…!?それが後少しで変わるかもしれないのに…!お前は何で手を伸ばさねぇんだよ…!!」

 

「違う…!違うんだよ…!私は死んで咎めを受けるべきなんだ、それで当然の醜い吸血鬼だ…!今更どんな顔をしてフランとやり直せる!?分かりきったような台詞を吐くなッ…!」

 

「…だったら」

 

そこからは…まるで咲夜の能力を可視化したように緩やかに時が流れていく

 

振り向いた私は見栄えもなく涙を流しながらグングニルを突き出し

 

立ち上がった幻想殺しは脇腹を庇う事もなくグングニルを踏み込みからの裏拳で打ち消して

 

「吸血鬼じゃなく、姉妹としてフランドールとやり直せ…俺が…お前を吸血鬼として縛る枷を……外…すから…!」

 

――――経験したことの無い痛み

 

嗚呼、私は殴り飛ばされたのか。

 

 

レミリアは派手に吹き飛んだ。

―――それはきっと…身軽になれたから




何とかここまで漕ぎ着けた感満載の話になりましたね、お疲れ様でした。

ちなみにラストシーンで上条さんがレミリアを殴るか殴らないかは本当に最後の最後まで迷ってました、えぇ。正直後書きを書いている時も『やっぱり変更しようかな…』とか思ってましたからね

やっぱり『お前の幻想をぶち殺さねぇ!』って上条さんが宣言しちゃってる以上殴るのはおかしくね?ってなりました
…でもとあるシリーズ好きの一個人のファンとして私は『上条さんが幻想を殺す=右ストレート』は成り立たないと思うんです。やっぱり言い訳がましいかな

そんな訳(?)でこれで紅魔館編は8割方終わった訳です。……8割方、ね


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後を飾る者達

レミリア・スカーレットSIDE

 

 

 

 

 

妙な夢を見た

 

私はあろう事かあの人間(さいじゃく)に説教を受けあまつさえ敗北する…そんな夢だ

 

悪夢にしては質が悪いにも程がある、やはりアイツは私が直にこの手で――――

 

「…ッ…!…こ、ここは…」

 

「お目覚めですか、お嬢様。ここはお嬢様の私室…お嬢様が気絶なされてから半日程が過ぎております」

 

「咲夜…か」

 

先程まで…まだ現と幻の最中を漂っていた時には確実に部屋の中に居なかった人間。

今は…ベッドの側で私の覚醒を待つ人間。

そう、十六夜咲夜。私の従者だ

 

(レミリア)従者(咲夜)から温められたタオルを受け取り顔を拭った。

湿気の篭った、しかし悪くない質感が私の素肌を走る感覚に合わせてようやく意識がハッキリしてくる。

 

「咲夜、私は気絶したと言ったな?…私は負けたのか?それともあの人間だけは殺したのか?」

 

「―――あの勝負はそれまでとは勝手が違います故、あの混乱の中で甲乙は付け難いかと」

 

「分かった。なら言い方を変えよう。私…レミリア・スカーレットは上条当麻に敗北したのか?」

 

沈黙、咲夜は押し黙る。

だが、レミリアは彼女を急かそうとはしなかった。

1分が過ぎたかはたまた10分が過ぎたか…咲夜の懐中時計があれば尋ねるまでもないだろうが生憎懐中時計は彼女のポケットの中。レミリアが求める答えもまた然り

 

「えぇ…お二人の戦いの軍配はどう見積もってもあの少年に上がりますわ」

 

「そうか…そうか、分かった」

 

沈黙を守る中感じていた右頬の痛みと熱が次第に引いていく。もしかすると知らず知らずの内に昂っていたのかもしれないな

 

(悪夢が正夢になったか…いや、あの悪夢は私がアイツに負けて気絶した後に見た夢。正夢も何もあったものじゃない)

 

「悪かったな、まさか私まで無様を晒すとは思わなかったよ」

 

「…はて?私は確かに彼の少年に軍配が上がった…とは申しましたが――とてもお嬢様が無様だったとは微塵も感じませんでしたよ」

 

「寧ろ今の御顔の方が以前より…お嬢様本来の御顔に近いかと」

 

「どういう意味だ、咲夜…珍しく吠えるじゃないか」

 

「これは従者如きが出過ぎた真似を――お許しください。それと妹様からお目覚めになられたら玄関ホールに向かうように、と言付かっております」

 

「私を呼び出すとは……やれやれ、困った――」

 

…困った、困った…?

 

思わず言葉に詰まる

 

仮にも紅魔館に住まう者、(あるじ)に要件があるなら自分から出向くべきだ

…以前なら開口一番そう怒鳴っていただろう

 

…ならば困った同族?

 

違う、流石にそこまで切り離した捨て台詞は無いだろう

 

では……困った…身内?

 

いやまぁこれで間違ってはいない。事実だからな…だが釈然としない

そんな折、ふと咲夜から目を離し窓の外を見つめたその瞬間――

 

「お嬢様―――貴女の(フラン)様がお待ちですよ」

 

「ッ…!咲夜お前!!」

 

アイツは、咲夜は…よりにもよって私の耳元で息を吹き掛ける様に言葉を残して消えていた

 

時を止めて消える直前の咲夜の表情が見蕩れる様な微笑を浮かべていなければ首を撥ねていたところだぞ…!まったく調子づきおって!

 

…まぁ、私が探していた答えにワインボトルとグラスを置き土産に残していったんだ。勘弁してやるか

 

「さっ―――妹のお呼びだ、姉が出向かん訳にはいかないな。……待っていろよ、私の妹(フラン)

 

 

 

 

 

 

 

 

フランドール・スカーレットSIDE

 

 

 

 

 

 

 

来るのかな?いや、流石にこれで無視されたらお姉様の人格以前に生物としての適正を疑うよ本当に。

 

そんな最悪のシチュエーションを首を左右に振って振り払いながら改めて暗い玄関ホールを見渡してみた

 

咲夜とメイド妖精達によってかなりは片付いたものの隅にはガラスの破片と焼けた床や木片が小さな山になっている。…小さな山、と言うのはあくまで差し込んだ月光が照らして見える範囲だけで…ってこと。多分私が暴れる前からガラスに関しては割れていたと思うんだけど

 

「皆元通りにするのに幾らかかるのかなぁ…どうせお姉様が私財を投げ払うかパチェが純金を錬成するんだろうけど」

 

「全て元通り…とはいかんな。ここまで派手に壊されたら全て新調だ、年間予算の1/4は食われるだろう。それに私の私財は人間にくれてやるにはかなり惜しい物ばかりなんだよ」

 

「まーだ人間を見下してるの?折れないブレないね…流石お姉様」

 

…来た来た、しかもワインとワイングラスなんて持ってきて。でもワインは咲夜が気を利かせてくれたんだろうね、そうに違いない

 

とは言えレミリアを呼び出したのは他でもないフラン当人、赤絨毯が被った埃を手で祓い腰を下ろす位置をずらす。

 

「んっ、咲夜からの差し入れだ。フランも飲むだろ?」

 

「…そこはさ、嘘でも『適当にお前の為に見繕った』位は言いなよ。…勿論私もワインは好きだから頂くね」

 

「私にそんな気配りが出来ると思うか?私のふてぶてしさはフランが誰よりも理解してくれていると思うんだがなぁ」

 

「…魔理沙や当麻なら出来るもん、と言うか出来ないって方が少ないよ」

 

「ははっ、あの泥棒が?これはいよいよ私もお先真っ暗か………いや待てフラン。当麻……あの幻想殺し(にんげん)の事か?私の記憶が正しいならフランはアイツをお兄さん、と呼んでいたはず…」

 

…何でそんなに瞳孔開いてるんだろ?別に普通に友達の名前を呼んだだけなのに…

 

瞳孔が開く、それは人間も吸血鬼も感情が昂った際に起こる生理現象。だがフランが分からないのはレミリアの瞳孔が開いた原因そのものだ

 

あぁ、でも…あの後バタバタしててお姉様は成り行きを知らないんだ。そもそも気絶してた訳で…

丁度会話の潤滑剤にうってつけのワインもある、咲夜の選んでくれたワインなら吸血鬼がほろ酔いに浸れる程度のアルコール度数の筈。

『何故だ…何故だ…』と頭を抱える姉を横目に紅い爪をコルクに突き刺し軽く跳ねあげる、キュポン!と何処か癖になる音を響かせてコルクは暗闇の中へ

 

「何処から話そうかな…ちなみにお姉様は何処まで覚えてるの?」

 

「そうだな…幻想殺しとその仲間が永遠亭に搬送された辺りまでだ」

 

「やっぱり当麻に殴られた辺りから記憶飛んでるんだね、分かった!そこから中立的に話してみるよ」

 

「フラン!私の話を聞いてるのか!?」

 

「だってお姉様のウソは丸分かりだからね、そもそも当麻達は紅魔館の一室でパチェと魔理沙の治癒魔法を受けてるよ」

 

「パチェェ…!よりにもよって私を裏切るか…!!」

 

本当に分かり易い、これがあのレミリア・スカーレット…なんて誰が信じるのかな?

 

「それも嘘、そもそも私は2人を一番近くで見ていたんだから。あれを受けて気絶しない方がおかしいよ、ちょっとお姉様を揶揄いたくなったから…ね」

 

「っ…まぁ許そう。大敗の後に大きく出られる程面の皮は厚くない、だから教えてくれ…フラン」

 

滴が跳ねぬ様にフランがワインを注ぐ。普段から注がれる側の人間…もとい吸血鬼の二人、風味を損なわぬ開栓の仕方など知る由もない。

そうして注がれたワインを先に口に含んだのはレミリアだった。普段からワインに限らずアルコールの類は幅広く嗜むレミリアにあの注ぎ方は不味かったか?フランの脳裏に澱んだ僅かな不安―――

 

「…?どうした、フラン?お前も飲まないのか?それとも酔いが回る前に話終えるつもりなら悪いな、私が早計だったよ」

 

「え、あ、あぁ…ごめんなさい。普通に注いだからワインの風味が無くなって怒られるかな…って」

 

「風味…も考え物でな、無論あるに越した事はない。だが敢えて風味が無い、味気無いワインも愉しめる時がある。今なんてまさにそれだ、酒類はあくまでメインを盛り立てる脇役――ようやく2人で気楽に話が出来るんだ。ワインが勝ってしまっては…な」

 

「そっか…そうなんだ」

 

多分これがお姉様の譲歩…なんだろう。不器用なりに頑張って、でも未だ意地っ張りな所があって。でも張った意地よりも張った『モノ』があるから余計に不格好で……すごく懐かしくて、嬉しくて――

 

お姉様曰く風味の無いワインを飲み干してみる。

酸味が喉に下地を敷いてその上を果実の甘味が通り抜ける、ワインは滅多に飲まないけどこれは美味しいと断言出来るよ

 

「お姉様を倒した直後、当麻はまた気絶したのか崩れ落ちたの。でも当麻の脇腹にはまだグングニルの断片が残ってたでしょ?だからそのまま脇腹を床に打ちつけようものなら流石に危なかった…あの場で白髪の怖いお姉さんが真っ先に手を伸ばしたけど間に合う距離じゃないし、私だってすぐには動けなかったんだ」

 

「それもそうだろう、アイツは超えた限界に1度追い付かれそしてまた限界を超えた…今頃舟渡(しにがみ)と顔を合わせていない方がおかしな位だ。―――大方、咲夜だろ?フフッ、あの程度の応急処置なら咲夜は難なくこなす。」

 

「あの程度って…でも正解、私が必死に手を伸ばした次の瞬間には当麻を受け止めて止血を始めた咲夜が居たの。その後すぐに永遠亭のお医者様に引き継いだから今頃は永遠亭の病室で寝息をたてているんじゃないかな」

 

早くもほろ酔い…とまではいかないけれど、当麻が崩れ落ちた時の絶望感を気楽に思い出せる程度には私の身体にはアルコールが効いていた

 

『咲夜…!何で…!?それよりお兄さんは大丈夫なの!?』

 

『はい、勿論。僭越ながらこの十六夜咲夜、過ぎた真似と理解した上で動く事をお許しください。ですがご安心を、人間の臓器に関して診る事は慣れております。永遠亭の薬師には足元にも及びませんが外科医の真似事も昔齧りましたから――鈴仙、手伝いなさい。アンタの所為で永遠亭から救えなかった患者は出したくないわよね?』

 

『咲夜!?アンタ何で私にだけ風当たりが強い…!あぁもう分かったわよ!』

 

――その後の咲夜は凄かった。いや何時だって咲夜は凄いけどあの時は際立っていた。どう低く見積もっても齧った程度では得られないスキルを次から次へと披露してみせては兎さんへの指示も怠らない。勿論当麻の右手がある以上時止めは一切使えない…と言うのに

 

「いやぁ、ほんと咲夜って完璧超人だよね。と言うか化粧箱を持ってきたと思ったら中身は医療器具ばっかり…咲夜って医者を志してたの?」

 

「――それは秘密だが咲夜の過去はいつかフランにも教えよう。ただヒントを一つだけなら教えんでもないぞ?」

 

「…?ヒント?」

 

「咲夜のスペルカード、その中に答えはある。またパチェにでも頼んで世界史の本を齧ってみると良い」

 

「…咲夜の…スペルカード?」

 

……う〜ん、咲夜には悪いけど流石に他人のスペカを丸暗記は出来ない。何かあったかな…?それに世界史…?

 

(おっと…!いけないいけない、つい話が逸れちゃった…まだ続きがあるんだから忘れちゃいけないよね)

 

「えっと…まぁ結論として咲夜の活躍で何とか誰も死人は出なかったから良かったよ。」

 

「そうか、ならば良かった。…で、だ…フラン?肝心の話がまだだぞ」

 

うっ…やっぱりそう、来るよね…。何となく気まずくて迂回してたけど避けられそうにない、いや…避けるなんて問題外だけどさ

 

いざ事を目前に控えてみると身体は動かない、そんな事を痛感しつつもフランは何とか切り出そうと『あー…』や『う〜…』なんて口に出してみるがそれでは会話が成り立たない。

今更昔の古傷がどうのこうのではない、ただ……まだ心の何処かに『どうせ和解(わか)りあえない』という不安があるのだ

それを和らげる為のワインだったのだがどうやらアルコール度数が弱かったか――――

 

「何を躊躇っている?早く聞かせてくれ…!」

 

「う、うん!勿論分かってるよ?ただお互いにこの話は結構グレーゾーンだからさ…!」

 

「グレーゾーンだと…?待て待て…!私が気絶している間にフランとアイツに何があった!?」

 

…うん?私と『アイツ』の…間…?何を言っているんだろうかこのお姉様は

 

「だから…!フランがアイツの事を名前で呼ぶ様になった経緯だよ!」

 

「……はい?」

 

「大事な事じゃないか!しかもアイツが気絶している間であるにも関わらず親しくなるなど…!」

 

気付けばフランは二人の間に置いていたワインボトルを握りレミリアの頭に振り下ろしていた。…無意識な破壊衝動の芽生えである

 

しかしレミリアもレミリアで背後からの一撃を手で受け止めてフランに向き直る

 

「良いから答えるんだフラン!今の私の最優先事項はフランとアイツの事実関係を把握することのみなんだからな!!」

 

「うるさいッ!ちょっとでも迷い悩んでた自分が馬鹿みたいじゃない!第一私が友達を名字で呼ぼうが名前で呼ぼうが自由でしょ!?」

 

「男……しかもあの忌々しい幻想殺しと来れば話は別だ!それともあれか!?私に詮索されると不味い事でもあるんじゃないだろうな!?」

 

「だーかーら!何で呼び方云々で熱くなるのかな…!えぇい面倒臭い…!」

 

別に何て事無い、永遠亭の人達や咲夜が当麻に搬送出来る程度の処置を施して皆が去り際の話。

 

永遠亭サイドはすぐに去って残るは私に魔理沙、パチェ、咲夜…と気絶したお姉様。

そうそう、今日一日で目まぐるしく事態が急転し過ぎたから忘れがちだったけど。玄関ホールのこの惨状の4割はパチェとあの金髪のお兄さんの死闘が原因だったりする。パチェ曰く『白黒は付かなかった』らしい、ここまで破壊を極めたならもう行くとこまで行けば?と思わないでもないがそこはパチェ。私やお姉様と違ってスイッチのON/OFFはあるんだよね。

そんな訳でパチェはすぐに退いたし、お姉様は気絶中。咲夜はその介抱…膝枕で。ちょっぴり羨ましかったのは言わぬが華って事。

 

「…ま、まぁパチェとあの金髪の事は流そう。引き分けたのは意外だがな――で、魔理沙か…フランに余計な事を吹き込んだのは」

 

「うん止めようねー、さらっとグングニルを持出すのは。グングニルは今日の私にとっては地雷だから、後間違って人里に掠りでもしたら白髪の怖いお姉さんが襲って来るよ」

 

「チッ…藤原妹紅との死合は臨む所だがな」

 

その人が技術を叩き込んだ人間にさっき負けたじゃない、なんて毒吐く程フランは空気の読めない吸血鬼ではない。

 

(あぁまただ、また話が逸れちゃった…えっと魔理沙との件からだよね)

 

『ん、じゃあなフラン。また遊びにも()りにも来るぜ』

 

『私は突っ込まないから。………それと魔理沙、今日は本当にありがとう。お兄さんだけじゃなくて魔理沙も居なかったら私はまだ地下室で壊れてたよ』

 

『そうそうそれだ!皆当麻当麻って…この魔理沙さんもちゃんと活躍したってのにさ。影の功労者なんてやるもんじゃないな…ただまぁ。そればっかりは礼を言われる筋合いは無いぜ?』

 

『私も当麻もそうだ、結果としてはフランを救う事になったがあくまで自分の信念のため。…だからさ、そんなに堅苦しく礼なんてしてくれるな。当麻をお兄さん、なんて間の空いた呼び方をするな―――それが友達ってもんだぜ』

 

『べ、別に間を置いている訳じゃ…!でも…私は、私達スカーレット家はあの人に救われた。しかも私は克服した筈の感情に呑まれてお兄さんの優しさを踏み躙りかけた……改めて冷静に考えると気作な関係には成れないんじゃないか?って…』

 

自分でもお姉様と似て面倒な性格をしていると思う。

 

命を賭けてまで私に手を伸ばしてくれた人がそんな事を兎や角言う訳が無い

 

分かっていても…やっぱり億劫になる。それが私、フランドール・スカーレット―――何でも壊せる癖に何を壊すにしても内心は震えている、自身を化物だと卑下する癖に救済を望んでいる。

――お姉様の言う通り私は悲劇のヒロインを気取っているのだろう

 

『じゃあ…そのままで良いんじゃないか?フランがまだ迷ってるなら無理に自分を誤魔化す必要無いんだぜ。誰だって傷付くのも傷付けるのも嫌に決まってる、強がる奴は内の自分を殺してるだけだ。救済だって望んで当たり前だろ?マゾヒストじゃない限りな』

 

『…ッ、私の心を勝手に読まないでよ。』

 

『スマンスマン、でもまぁ聞けよ。フランがそう感じたんならそれは嘘偽り無い本心だ、それを殺してまで無理に当麻と距離を詰めればそれは上辺だけの関係…虚しいもんだ。だから不安ならまだお兄さんって呼び方でも良い、その程度じゃ私達の関係はどうにもならんさ』

 

『まぁ何が言いたいか、って言うとだな。お前も、レミリアも―――らしくあれば良いんだぜ。吸血鬼の末裔、破壊衝動…どれも友達付き合いには無用の長物だ。深く考えなくてもその時が来れば天下の名脇役、霧雨魔理沙様がキッチリと(わだかま)りが解ける様に動いてやるんだぜ!』

 

天下の名脇役って…自分で言ってれば台無しだよ全く…!でも、この名脇役…ううん。大切な友達のおかげで―――また私は救われた

 

『そっか…そっかそっか、でも名脇役の活躍は見れないんじゃない?』

 

『お、おいおいフラン…中々キツい毒を吐くのは卑怯だぜ。魔理沙さんも今日は結構疲れて耐性がだな?』

 

『アハハッ!元気が売りの魔理沙が悄げちゃダメだよ。―――疲れてるなら早く帰った方が良いよ、紅魔館に泊めてあげたいけど今日は皆大忙しだからベッドを貸すだけになっちゃうし』

 

『ちぇ…咲夜の手料理を摘み食い出来ると思ったんだけどな。まぁ良いさ…じゃあな、フラン。何だかんだ言いつつ私も楽しかったんだ、今度は勝負事抜きの3人で遊ぼうや』

 

『勿論、でもその前に!…当麻のお見舞いにいかないとね?』

 

『――――ったく。フランと言い当麻と言い…何でそうも私の見せ場を無くしていくんだか。まっ…それも纏めて受け入れるのが脇役の務め、ってな。さて、明日は脇役らしい主賓を損なわない当麻への差し入れについて考えるかな』

 

『駄目だよ魔理沙、そんな面倒な事を考えずに付き合えるのが私達――――友達でしょ?』

 

 

 

 

 

長話を終えて乾いたフランの喉を白ワインが駆け抜ける。ボトルを振り上げた以上、既に香りも味も無いのだが―――

 

「つまりはお姉様の勘違いってこと…!下の名前で呼んだから私達の関係を疑うなんて古臭い考え、小説の中の設定だと思ってたよ…」

 

「…仕方ないだろ?疑いもすれば不安にもなるさ、魔理沙がやってのけた事も…幻想殺し(イマジンブレイカー)が成し得た事も。どちらも私が500年間で見向きもしなかった事だ、いや例え目を向けても姉である私には適わなかっただろう」

 

「お姉様は血の繋がった家族だからね、どんなに頑張っても友達には成れないよ」

 

「それもそうだ。―――血の繋がりは難しいものだな、絆の繋がりがお前達を縛らないのに対して血の繋がりはそうは問屋が卸さない」

 

血の繋がり

 

それはレミリアに当主以外の在り方を許さなかった不可視の鎖。

 

それは今の様に酒の勢い程度では触れる事も適わない不可視の枷。

 

「…違うな」

 

「…?どうしたの?」

 

「その気になれば私は何時だってつまらない鎖や肩書きを引きちぎってお前を抱き締められた、でも私はそれが出来なかった。……単純に怖かったのさ、そうして抱き締めたフランに突き放される事が」

 

血は争えない、果たしてその意味が今この時のお姉様に適用されるかは分からない。ただ私達はやっぱり姉妹だ……お互いに分かっていても恐怖で足が竦んでしまう。柵の先に自分が望む景色が広がっていても柵に掛けられた有刺鉄線が見えてしまえばすぐに引き返す

 

(だから今日この日まで私達は逃げる事しか出来なかった。―――私も、お姉様も逃げ続けたから)

 

「だから…今この瞬間からやり直そう、お姉様。大丈夫、友達が私の背中を押してくれたからね」

 

「…フランはどうすればやり直せると思う?それにこれまでの私の所業を全て水に流せるか?」

 

「どうだろう…無理なんじゃないかな。痛いものは痛いし流石に私の友達二人でも495年間降り積もったものを半日じゃ消せないよ」

 

「ハハハッ、それはそうだ。そんなに簡単なら苦労はしないからな」

 

「でも、私はやり直したい。これまでの痛みや苦しみを隠さずに…私が魔理沙や当麻と全てを曝け出して友達をしているみたいにね。…そうすればきっと何時か…何時かまたお姉様を……」

 

記憶の最下層、たった十数年しか続かなかった永遠に色褪せない黄金の記憶。

 

それは降り積もった憎悪よりも鮮明で私が完全に化物に堕ちる事を防いでくれた

 

まだ私達が――――何者でもない、家族だった頃の話

 

「――――お姉ちゃん、そう呼べる気がするんだ」

 

たったこの一言、この思いを、この願いを伝える為にどれだけの時間をかけただろう。

何とか言い切った今でさえ震える私の手。そんな震える手でワイングラスを掴み取るも中身は空っぽ、でも私はそれを飲みきる真似をする。

 

「な、何か言ってくれないと私は結構困―――――」

 

空のグラスを奪われて、震える私の手は暖かい感触に包まれる。

この温もりを――私が忘れる訳がない…!

 

「嗚呼、フラン…!フラン…!!」

 

「いやちょっと待って!?幾ら何でも状況が飲み込めないんだけど!?」

 

「うるさい、状況なんてどうでも良い…!フランのおかげで私は生きて罪を償える…!こんな素晴らしい事があると言うのにフランを抱き締めずにはいられるかッ!」

 

「だからってお姉様の本気の腕力で抱かれるとかなり痛いって言うか…!嗚呼もう後は野となれ山となれ!でもお姉様…!私が白目を剥く前に一つだけ言わせて…!」

 

数秒前の感動を返せ、フランの目は暗にそう語っている。人と非常に似通った体付きの吸血鬼だが身体能力は全く異なるもの、同族のフランと言えどもノーマーク…しかもほろ酔いの状態からレミリアに本気の抱擁を受けるのはちょっと……いやかなり辛い物があるのだ

 

とりあえず…!とりあえず私が気絶する前に伝えなきゃいけない事があるんだよね…!

 

「お、お姉様が私を幽閉した事に罪悪感を感じているのは知ってるし償いの気持ちを否定はしないけど…!そんな物を挟み込んじゃったら本当の姉妹の関係にはなれない…!だから私にはお姉様が歩み寄ってくれる事が贖罪になるの!」

 

「―――良いのか?それは結局、私の所業を水に流す事に繋がるかもしれないんだぞ?」

 

「ハァハァ…!よ、ようやく解放された…!……大体、そんな卑怯な真似が出来ないから死んで私を救おうとしたんじゃない?不器用にも程があるよ」

 

酸素が恋しいなんて滅多に感じれる事じゃない。どれ程酸素を吸いこんでも満足しない自身の肺にこれでもか!と酸素を送り込みつつフランは言葉を紡ぎ続ける

 

「だから…さ。不器用なら不器用なりにぶつかってみれば良いんだよ、喧嘩して仲直りして…また喧嘩して。それが私達が忘れていた本来の家族の在り方なんじゃないかなー…なんて」

 

「そうだな……あぁ、きっとそうだ。でも、でもなフラン…!そんな…在り方が許されるのか私には眩し過ぎて分からないんだ…!またフランに『お姉ちゃん』と呼ばれる日が…!」

 

「来るよ、必ず。憎悪を受け入れた私なら、後悔を乗り越えたお姉様なら――絶対に」

 

負の感情も正の感情も曝け出せる

 

それがフラン流の友達の、家族の在り方だから

 

暗い過去を支えにして、眩しい過去をライトにして

 

―――姉妹の止まった時間が動き出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八意永琳SIDE

 

 

 

 

 

 

 

件の緊急手術から3週間が経過した。しかし緊急手術とは言え上条当麻の脇腹からグングニルを取り除き血管の縫合と損傷した臓器の補完程度のもの、他ならいざ知らず永遠亭の薬師を追い詰める程のオペではない。

 

「それに、アレがある以上大概のオペは――」

 

彼女が口にした『アレ』、それは永遠亭の最終手段であり一番の禁忌。

 

禁忌…ね、使用に罪悪感を感じぬ禁忌など聞いて呆れる。しかし私は薬師で彼等は患者、私がその程度で治療を放棄しては話にならない

何より済んだ事だ、臨床実験もありとあらゆる角度・パターンから何千回と繰り返した。そう八意永琳は割り切って処理すべき事務書類に目を通す

 

「失礼するわよ。…あら…お仕事中だったかしら?」

 

「正門から入ってこない珍客の相手よりは優先順位の高い仕事よ、何時もの化粧水なら受付で購入出来るから」

 

「その受付に誰も居なかったから罷り通ったのよ。そうお堅いことを言わずに相手をして頂戴」

 

「はぁ…またてゐがサボっているのね、やはり受付はうどんげか上条君にしか務まらないみたい」

 

さぁ職務怠慢の罰は何が良いだろうか?てゐのへそくりの人参の硬度をセラミックス並に変えてみるのも斬新で面白いかもしれない

 

自然と浮かぶ黒い微笑をかき消した永琳はスキマから顔を覗かせた八雲紫に向き直る

 

「――暫く幻想郷に居なかったそうね?学園都市でまた御用聞きでもしていたのかしら」

 

「言葉の端々に感じる棘はこの際受け流しますわ、それに御用聞きではなくてよ」

 

「それは兎も角、私が居ない間に幻想殺し一派が派手に紅魔館とやり合ったそうじゃない。だから貴女への事情聴取を敢行しようかと」

 

「あぁ…件の1件ね、あれは成り行きよ成り行き。事実死者は誰も出ていないし紅魔館からの苦情も無かったはずなのだけど」

 

「成り行きって貴女ねぇ、どこの世界の成り行きに任せれば薬の訪問販売が死闘に成り果てるのよ」

 

「先手はレミリア・スカーレットからだと聞いているわ、わざわざ分かりきった事を聞く位なら仕事に専念させてくれない?」

 

そもそも八雲紫が事の成り行きを把握していない訳がない。いや……それ以前に、ここまでの運びすら全て彼女の掌の上なのではないか?そんな考えさえこのスキマ妖怪の怪しげな雰囲気の前では不思議と頷けてしまう

 

「まぁ…良いでしょう。ただ私が気にしているのは幻想殺しの容態ですわ、又聞きの限りでも瀕死の重症を負ったそうね」

 

「そうね、他の医療機関なら匙を投げるわ。第一肝臓が3割程消え失せた(壊死)んですもの、臓器移植の概念が存在しない幻想郷の医師達では成す術無しじゃないかしら」

 

「でも貴女は幻想殺しを救った。―――彼の壊死した臓器の代替品、誰の物を使ったのかしらね」

 

「妹紅、若しくは姫様の物を。その解答で今日は引き下がってくれない?」

 

「…有り得ませんわ、彼等は蓬莱人形。種の枠が異なる上に彼等を不死者足らしめている蓬莱の薬は肝臓に蓄積すると聞きました。拒絶反応で死亡するか第3の禁忌が生まれるか―――とても貴女が選ぶ二択ではないもの」

 

確かにそんな二択など選びたくもない。ならば――選ばなければ良いだけのこと

 

扇子で紫は口元を隠している。

しかしその下はさぞ警戒心に染まっている事だろう。無論誤魔化しは通用しない、しかし真実を素直に話せばこの賢者様は黙っていない筈だ。

 

月の賢者(八意永琳)妖怪の賢者(八雲紫)、化かし合いに腹の探り合い。先に仕掛けたのは―――――

 

「…貴女、使ったのね。不在金属(シャドウメタル)と蓬莱の薬の混合物を」

 

紫だ。

 

「えぇ。分かっていたのなら聞くまでもないじゃない」

 

不在金属(シャドウメタル)……それは強大な能力同士がぶつかり合った際に発生する謎の物質。理論上では存在すると仮定されているがその性質上存在は確認されていない

 

―――筈だった

 

「アレはあくまでも1分1秒を争う重症患者を救う為の最後の切り札…そういう約束で渡した筈よ。まかり間違っても臓器移植程度の代わりに使われたのではたまったものじゃありませんわ」

 

「正確には垣根君の身体を再生させるために、ね。ただ使用の判断を下すのは私自身、上条君への投与は私が必要だと感じたから行ったまでよ」

 

永琳が使用した不在金属(シャドウメタル)は上条当麻、御坂美琴、削板軍覇の異能がとある事件でぶつかり合って生まれた物。

この不在金属(シャドウメタル)を永琳は『能力同士がぶつかり合う際に生まれた飽和水溶液のような物質』と定義。それならば飽和水溶液たる不在金属(シャドウメタル)には溶けきれなかった分の異能が実体として含まれているのではないか?

 

「貴女の予想は見事的中、他の異能が混じった事による不純物や異能の効力を保っているのか否か等の不安要素は有れど貴女は無事…蓬莱の薬と主成分が幻想殺しの異能の不在金属を混合させた不死性を伴わない万能治療薬を完成させた」

 

「あの不在金属が幻想殺し(上条君)が主軸となって産まれた物である以上主成分は絶対に幻想殺しの異能に決まっている、だから後は蓬莱の薬に不在金属を混ぜ続け効能諸共不死性を打ち消し続けた―――久しぶりに気の抜けない研究が出来た事は感謝しないとね」

 

「巫山戯るのも大概になさい…。貴女ならそれを使わずとも幻想殺しを救う方法は持ち合わせている筈ですわ」

 

「――――無かったのよ、脆い人間相手に後遺症を残さない治療方法が。私の知り得る医術は全て強靭な肉体を持つ月人や人外を救うもの、だからアレを彼には投与した…まだ何か聞き足りない?」

 

2人は睨み合う、それこそぶつかり合う視線の中で新たな物質が産まれてしまいそうな程に。

 

八雲紫は何も気紛れに不在金属を学園都市から盗み去った訳では無い、あのまま学園都市サイドのとある筋に回収されると後々面倒な事になるから回収しそれを有効活用出来る永琳に託したのだ。結果的には永琳は活用法を見出しその実用化に成功した

 

沈黙を守ること数分、今度は先に永琳が沈黙を破る

 

「貴女だって『連中』に悪用されるよりはリスクを覚悟で私に不在金属を預ける方がメリットがある、そう判断したからこその行動でしょう?」

 

「……えぇ。えぇ確かに、今回のようなリスクを負ってでも『連中』に悪用されるよりは貴女に預けた方がマシですもの。それに蓬莱の薬に関して負い目がある貴女が下手を打つとも思えませんしこの話は水に流しましょう。今日貴女を訪ねたのはもう1つ頼まれて欲しいからよ」

 

「何とでも言いなさい―――それで。今度は何の厄介事を持ち込んでくれたのやら、前持って断っておくとあの薬の大量生産は無理よ。そもそも不在金属自体数が限られて―――」

 

「違いますわ、頼みたいのは健康診断。人間4名のね」

 

―――何を言い出すかと思えば気の抜ける。

これまでの重苦しい話とは打って変わって健康診断?いやまぁ……構わないと言えば一向に構わないのだけど

 

「先週ウチから4人が抜けたと思ったらまた4人追加…あぁでも健康診断程度なら日帰りで済むわよね」

 

妹紅や鈴仙は兎も角垣根と当麻は食べ盛り真っ只中。表面には出さないが出費が度重なる現状で食費が嵩む事は永琳の悩みの種であった

 

「あら、また出ていきましたの?確か紅魔館に薬を言い値で買わせて荒稼ぎしたと聞きましたわよ、しかしそれで足りないとなると……次はどこに向かったのかしら?」

 

「…色々あるのよ色々。そうして彼等の次なる目的地は――――地霊殿、今度は地底の主に二日酔いの薬を買わせるみたい」

 

「…まさかまた死闘の果てに……なんて事にはならないでしょうね?これ以上のトラブルは御免被りますわ」

 

「まさか…4人には半日程の説教で釘を刺したから大丈夫。それで、私が診る4人と言うのは?」

 

「嗚呼そうそう、つい話が逸れてしまいました」

 

眼球が蠢くスキマの中は見慣れるものじゃない――そんな見慣れたくもないスキマから3人の少女と1人の少年が文字通り落ちてきた

 

見る限り外傷は無いが意識も無い、紫が気絶させたのだろう

 

「削板軍覇、ミサカ10046号、御坂美琴、食蜂操祈…あぁ、双子に見える2人は軍用ゴーグルを付けている方が10046号で片割れが御坂美琴。後は消去法ですわね」

 

「特に10046号はクローン、だそうよ。クローンの勝手は分かりませんから貴女に任せたいのだけど」

 

……また、幻想に新たな科学が交差する。

 

 




紅魔館編、これにて無事解決!そしてさらっと次の地霊殿編の予告も完了!我ながら良い仕事したぜ!
そんな訳で年内最後の後書きでございます。今年は半年間は休んでた訳ですがその間色々あった分楽しかったですよ〜

ちなみに今回のフランによる和解は紅魔館編を書く前からの大前提でした。あくまで上条さんはレミリアに説教をするだけでそげぶを放つかも未定……結末しか決めていなかった紅魔館編が完結出来て本当に良かった……

さて、次話は1月の半ばに投稿出来たらなーと。まぁこれを読んでいる皆様の画面には既に次の話の欄があるはずなんですがね
では皆様の2017年が良き幕開けとなることをお祈りして本年の〆と変えさせて頂きます、今年も1年間ありがとうございました!



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一夜限りの―――Holy Night【番外編】

・自己満足
・世界観とか時間軸とか気にしちゃダメ
・「本編とは一切関係ない」上×琴を愛でるだけのお話

……私は只2人に幸せになって欲しかった、それだけだ。

後、読み切りになったのは某運命的なゲームで絶滅させなきゃならない奴がいたから、そっちにかかりっきりで
次話を考える余裕が無いとかそんな理由じゃないからね!


上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

宣言しよう

 

『私こと、上条当麻は不幸である』

 

…と。

何度だって叫んでやるしこの確信がブレる事はない。

それが何故か?って?話は簡単だ

 

「…今年の上条さんも安定してクリスマスは独りなんでせう、まぁ良いんですけどねーっと…」

 

学園都市第六学区のデパートの中を哀しげな背中で歩くのは上条当麻、普段では見かけない程落ちぶれた彼にも色々とやんごとなき事情があったりなかったり。

 

別に上条当麻は彼女が居ない事を嘆く気はない、ただ……ただ今年は学園都市の道行を幸せそうにケーキ屋の箱片手に歩く幻想(カップル)(スルー)してくれていた仲間達に難があった。

次に挙げるのはごく一部ではあるが上条当麻を憂鬱に追い込んだ者達をプライバシーに配慮した上でご紹介しよう。

 

頭がハッピーセットな友人Aは

 

『クリスマスはキリストの義妹の誕生日だにゃー!よって共に聖夜を過ごせる義妹を持たない人間に人権はないんだぜぃ!』

 

何より人権無いのはお前だよ!

 

また別のハッピーセットBに至っては

 

『来た来た来たんやでぇ!クリスマス!クリスマスと言えば?ヒャッハァ!勿論電子アイドルちゃん達を大いにプロデュースする期間なんや!今行くでゆきぴょーん!!』

 

あぁダメだコイツに至っては…いやAも十二分に重症患者だったがBは末期だよな

 

まぁそんな訳でクリスマス位男友達と遊びに行こうかなー、なんて上条さんの幻想は見事義妹と電子アイドルにぶち殺されましたとさ。

 

だが彼の不幸はこんな所では終わらない、365日年中無休の幻想殺しにはクリスマスも何も無いのである。

 

友人が駄目なら家族のような関係の人と束の間の平和を楽しもう!そう考えた上条さんは貯めたへそくりの中からなけなしのお金を支出しホールケーキを購入!これなら我が家の居候、禁書目録(インデックス)異次元腹(ブラックホール)も満たされよう!

 

……そんな幻想を抱いていた時期が上条さんにもありましたよーっと。

 

『当麻へ!火織とステイルが美味しいチキンやケーキをご馳走してくれるって言うからお泊まりでお出かけしてくるんだよ!明日には帰るからケーキは買っておいてね!』

 

…あぁ分かったよ。何時も満腹食えない分今日くらいは楽しんできてくれ、義妹だプロデュースだのと騒ぐ連中よりかはキリスト様も敬虔なお前達クリスチャンに加護を与えるだろうさ。

 

上条当麻、とある高校2年生の普通の高校生。

 

本日―――即ち12月24、ホールケーキを半ば自棄糞に冷蔵庫に叩き込み自室を後にした。

 

――その足取りは重く

 

――しかし確実にうっすらと積もる白雪に足跡を刻んでいく。

 

――――寂しさと悲しみが入り混じったような感覚に襲われた彼はまたなのか…なんて内心愚痴りつつお決まりの台詞を口にした。

 

『不幸だ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御坂美琴SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁもう何なのよ黒子ったら!!

 

『お姉様、宜しいですか!?今宵は結ばれぬ運命の者達がその運命(げんそう)をぶち殺し結ばれる聖なる、いいえ!……性なる夜!ご安心ください、2人の外泊の許可願いからホテル予約、事後の処理までこの黒子めが全てセッティングして―――アガビラブッ!?』

 

『どっから突っ込んで良いか分らん暴走してんじゃないわよ!まずは私の電撃で昇天して七夕の主役2人に土下座してこい!!』

 

勝手に外泊許可なんてとって…!アレって取ったからには後で寮監に色々と問い質されるじゃない…!オマケに何でわざわざこの寒い季節に外出しなきゃならないわけ!?

 

12月24日、時刻は上条当麻が自身の不幸を味わう1時間程前。この少女、御坂美琴もまた自身の不幸をたっぷりと味わっていた。

 

彼女が嫌がる理由は、半ば婦女暴行罪宜しくの後輩の痴態が主なのだが……実は4割は他の理由から来ていた。

それは1度外泊許可を取得した以上はその期間内は絶対に外泊しなければならない、そんな面倒な常盤台の校則に拠る。これを流石と言うか否かは賛否両論分かれるだろうが、少なくともこれが覆る可能性はまずない

 

(私は…じゃなくて黒子は勝手に……12月24日〜12月25日の午後までで許可証を受領している。要はイブとクリスマス当日は寮で過ごせないってことじゃない…!)

 

24日、つまりは本日私は学舎の園に佐天さんと初春さんを招待してクリスマスパーティーをする予定を立てていた

幸いサプライズの為に2人には何一つ伝えていないからそこは良しとしても予約していた店のキャンセル料が発生してしまう、いくら財政力のある学園都市第3位とは言え無駄遣いには抵抗はあるのだ

 

最早どうしようもないと割り切った私は佐天さんと初春さんへの埋め合わせを考えつつ黒子を縄とガムテープで縛ってベッドの下へ、それから予約を入れた店にキャンセルの意向を伝えて何とか一息をついた。

 

「…とりあえず今日泊まるホテルを探さないと。佐天さんと初春さんの寮は気まずくて頼めないし……かと言ってクリスマスシーズンに予約無しで泊まれるホテルは個人的には使いたくないのよね…」

 

勢い任せに着替えとその他物品をカバンに詰め込んで寮を飛び出したは良いものの、真っ先に思い浮かぶのは宿の心配だった。

 

学園都市に住まう学生達のほぼ全ては寮暮らし、だが勿論寮での生活には規則規律が伴う。常盤台中学校などはその良い例だろう、そんな中訪れた1年に1度だけのイベント『クリスマス』――!これを外泊せずに、友や恋人と過ごさずに何が学生だ!

そんな学生達の心理を逆手にとったホテル業界の学割プランも相まってクリスマスに限らずイベント毎にわざわざ外泊してアミューズメント施設などを楽しむ学生はかなり多い。

外泊先には規律も無い、あるのは楽しみだけ―――強いて名付けるならばその数日間、自身の世界全ては『幻想郷』

 

「ただ面倒なトラブル回避や女の子の防犯上の問題もあるからその点キッチリしたホテルは大人気、当日予約で泊まれる訳がないのよね。残っているとすればそれは大半が風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)の監査が必要な悪どいホテル……はぁ……」

 

別に今更不良如きにビビって寝れないわけじゃないけど。……やっぱり寝る時は無駄な気は張らずに安心して寝たい。でもこんな時にアイツがいたら…助けてくれるのかなー…

 

なんて柄でもなく1人アイツの事を寒空の中考えてみる。『これだから常盤台のお嬢様は〜』とか言われるかしら?…頭ごなしには否定出来ないけど。

 

『アイツ』…それはこの少女にとっては特別な響きを持つ。

 

いつでもどこでも駆け付けて―――

 

どんな敵からも守ってくれて―――

 

まさに、まさに御坂美琴にとっての―――

 

「〜っ!?私ったら何脳内で暴走してんの!?私は黒子かっての!……独り言も馬鹿らしいしとりあえず第六学区で遊んで時間を潰しますか!」

 

何もかもが唐突過ぎてネガティブになりがちだったが外泊も悪い事ばかりではない、少なくとも美琴は今日明日は合法的にハメを外せる事になる。

これまで数多の寮則違反を繰り返し時には死すらも感じた御坂美琴、考え方が常識に囚われなくなってきたことはご愛嬌である

 

幸い美琴達が住まう寮は学園都市第七学区、季節感に漏れず寒風は吹き荒んでいるものの隣の学区への移動すら困難になるレベルではない。

そんな訳で電車を乗り継ぎ難なく第七学区に到着、しかしここは第七学区。イベント毎の人口密度は学園都市トップクラスだろう、改札から出口付近まで人が所狭しと溢れていた

 

「っ…!こんなんじゃ風邪が流行るわけよね…!」

 

(抱えた荷物を預けようにもコインロッカーが見つからない…!いやでも、この人の量じゃどの道空きは期待出来ないかしら?)

 

しかし進む度にカバンが通行人にぶつかっていては進むものも進めなければ謝るのにも疲れてくる。そんな事で、何とか案内板まで辿り着きコインロッカーの場所を把握した美琴は再び覚悟を決めて人の海の中へ

 

ダメ元で目指したコインロッカーは……何と…!

 

「嘘…!空きあるじゃない!朝から良いこと無しだったけどこの人だかりで空きのコインロッカーを見つけられるなら今日は良いことあるかもねッ!」

 

全て『使用中』の表示で埋め尽くされたコインロッカーの中に一つだけ取り残された『空き』のマーク。まさかコインロッカーに事故物件のような訳ありもないだろう

 

但し、本日の御坂美琴嬢……何かとツいてない。本当に。

 

「あっ、ありましたよ空きのコインロッカー!いやぁ〜良かった!上条さんも必死に探した甲斐がありますよーっと」

 

「…は?」

 

いざ見つけたコインロッカーを使用するため小銭を取り出そうと顔を下に向けたまさにその瞬間。聴き忘れる訳など有り得ない声が美琴の鼓膜を駆け抜ける。

 

慌てて確認のために顔を上げてみればそこには予想通りデパートの買い物袋を抱えた『アイツ』……と誰かは知らないが美人の女性が居た。それもかなり頭に来るけど…!

 

何時もの如く電撃を放つ―――数秒前。普段と変わらぬお人好しな笑顔を浮かべる彼に抱いたのは苛立ちと――――困惑

 

(…何で、そんな…顔をしてるのよ…!)

 

「お前まで私に何か怨みでもあんのかー!!」

 

「ちょ!?ビリビリ!?ここ駅中!駅中ですからねッ!?」

 

とは言え……怒りと電気を溜め込んだ美琴の再優先事項はまずは制裁、これに限る

 

 

 

うっすらと雪すら積もるこの季節、放電(せいでんき)には気をつけねばなるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

気晴らしに向かった第六学区の駅で困ってそうな女の人を見つけたので声をかけてみればバーゲンセールで買った物をしまっておくコインロッカーが見つからず困っているとの事。別に時間を気にすることもない上条さんは『じゃあ一緒に探しましょう』と請け負った。流石にクリスマスイブと言う事で探すのに苦労はしたがようやくの思いでコインロッカーを発見、お礼がしたいと言われたが流石にバーゲンセールの邪魔をするのもあれなので遠慮したら『それでは私も困る』と気前良くお姉さんは第六学区内のショッピングモールで使える金券1000円分を上条さんに授けてくれた。

 

そんな久しぶりのグッドラックに歓喜していた上条さんは今―――――

 

「人だかりの中放電とか正気か!?あわや傷害事件だぞっ!?」

 

「うっさい!アンタが私の機嫌を逆撫でするからでしょうが!」

 

―――冬場の大敵、放電(せいでんき)と戦いを終えたところなんでせう。

 

(はぁ……不幸の二連撃の後に舞い降りた幸運だったからどこか分かっちゃいたが……いくら何でもこんな不幸はないだろ神様…!)

 

御坂の頭頂部から放たれた放電(せいでんき)は上条さんの腹部を狙い済まして襲いかかる。勿論右手で叩き落とす事は忘れない、いや忘れたら洒落にならないんでせうよ

 

「ったく…!とりあえず騒ぎになる前に逃げるぞ!上条さんは小萌尊師のお陰で欠点は回避出来たんだ、これ以上迷惑はかけられねーよ…!」

 

「…ッ…!?う、うるさい!あと人混みの中で引っ張るなッ!」

 

また数万ボルトの放電(せいでんき)をされてはたまらない、そんな予防措置から当麻は美琴の腕を右手で掴み引っ張っていく。その予防措置が効いたのか引っ張られる美琴は湯気を上げつつ俯き素直になった

 

「はぁはぁ…!…ビリビリ、ちょっとは自重した方が良いぞ?そりゃお前の不機嫌を煽った上条さんも上条さんだけどだな…」

 

「ふぇ…?えっ、いやその…私もちょっとやり過ぎたかなー…って……あ、でもちょっと聞きたい事もあったから…」

 

「……あの、御坂…サン?お身体はご無事で?」

 

あのビリビリが、あの御坂が!何と自分から反省した!?まさかあの人混みの中で頭でもぶつけたか!?

 

「え、えっとその……そろそろ駅からかなり離れたから手を離してくれても良いん…じゃない?あぁでも勘違いしないで!べ、別に気に食わなかったとかそんなじゃなくて…!人目もあるし!?」

 

「あ、あぁ分かった。にしたって…本当に今日の御坂はどうしたんだ?急にビリビリしたと思ったら潮らしくなっちゃってさ、まさか上条さんの所為かと心配しちゃいましたよアハハー」

 

「…主にアンタが原因だゴラァァァ!!」

 

「御坂美琴嬢復活かよ!?」

 

何か御坂は上条さんに聞きたい事があるみたいだがこれじゃあそれどころじゃねぇよ!?

今度は一応周りに配慮したのか回し蹴り、出来れば上条さんにも配慮が欲しかった…

 

電撃かと右手で待ち構えていた当麻の予想は外れて放たれたのは『チェイサー!』の掛け声と首筋への回し蹴り。直撃すれば楽に眠れただろうとは後の当麻の談

とは言えそこは上条当麻、難なくその一撃を上体を反らして回避してみせる

 

「本当にしぶといわね…!主にアンタが悪いんだから責任とんなさいよ責任!」

 

「……あぁ分かった、ただしもう暴力や周りに迷惑かける行為は禁止な」

 

「ほらやっぱり!責任な、んて…?……ゴメン、もう1回言ってくれない…?」

 

「いやだーかーら。確かに目の前で残り1個のコインロッカーを取られたら仕方なくたってイライラするのは人情だもんな、幸い今日の上条さんは時間も財政力もあるから責任取ってやるよ」

 

「……は、はい…宜しく…お願い、しましゅ……」

 

何か良く分からんが御坂は再び大人しくなった、今日の御坂は1段と分りにくいんでせう

ちなみにこんな降りは彼らが出会ってから幾度と繰り返されて入るのだが……何分この上条当麻、無能である。唐変木である。

 

兎にも角にも彼の放電少女に再び発電のスイッチが入ってしまう前にご機嫌を取ろう、そんな思惑から当麻が選んだ場所はゲームセンター内のクレーンゲームコーナー。腕が切断されても高笑いを浮かべ、上空から鉄柱にダイブしても平気な幻想殺しも普段は普通の高校2年生。規律に厳しい常盤台の生徒よりはゲームセンターには来慣れている

まずは受付で金券を硬貨に変えてから物色を始める

 

「さーて、御坂。偶には上条さんが甲斐性見せるんだからこれはレアだぜ?何せ今の上条さんは軍資金が何と1000円も――――」

 

「―――まさかアンタ、1000円でクレーンゲームが遊べるなんて思ってないでしょうね?」

 

「…え、えっとだな?御坂…お金持ちのお前には馴染みが無いかもしれないが1000円ってのは結構な大金でだな…」

 

「いやいや、流石の私も1000円札は分かるっての。私は何処の財閥のお嬢様なのよ、いやお嬢様でも分かる人は分かるけどね。…とにかく、あんまり大きな声じゃ言えないけどこの手の景品を取るクレーンゲームって店側に損失が出ないように特定金額以上を突っ込まない限りアームの力が弱くなったりするものよ。目安は欲しい景品の売価の数倍ってとこかしら?でもクリスマスシーズンで浮き足立ってる連中から搾り取る為に今はもうちょっと厳しいかなー…」

 

おっとこれは想定外のトラップが…。言われてみれば確かに美少女系抱き枕を狙って青髪ピアスも散財してたっけか…

とは言え美琴が脅しをかけているようにも見えなければ言われてみれば確かに、と頷ける。もしその理論に乗っ取るならば当麻の全財産を注いでゲット出来る可能性のある景品は――――

 

「……スマン御坂、いかにもパクリ感満載の絵柄がデザインされたマグカップしか取れそうに無い…」

 

「まっ……分かっちゃいたけどアンタ本当に何時も金欠よね。まぁ良いわ、私もコインロッカー云々でアンタに強く当たれる立場じゃないしね。ちょっと付き合いなさい、美琴センセーがその1000円を授業料代わりに面白いもの見せてあげる!」

 

「お、おう!?一体何する気だよ!?」

 

「来ればすぐ分かるわよ!」

 

ゲームセンターでは無力な10枚の100円玉をポケットにしまいこみつつ今度は俺が御坂に引っ張られていく。御坂が浮かべた表情はイタズラが思いついた子供が浮かべるまさにそのもの、オマケに最近感度が高まっている脳内不幸察知センサーは既に針が一周回って振り切れたと来た。――――とは言え

 

(……御坂もこんな風に無邪気に笑うのか)

 

「ほらほら!アンタもちゃんと自分で走らないと置いていくわよ!」

 

「あぁもう分かったから落ち着けよ御坂!…心配されなくてもちゃんと付いて行くからさ」

 

――――何時もの様な怒鳴り声や戦闘狂ではなく。こんな無邪気な少女になら、俺は振り回されたって―――

 

「―い――も―――な」

 

「ん?何か言った?」

 

「気のせいだろ?それより…俺の目が狂ってないなら目の前にある筐体の景品には最新ゲーム機の筈のPP4があるんだが。…まさかこれをゲットする…なんて言わない、よな?」

 

多分あれは朝からの不幸の立て続けでしょげた上条さんの心が抱いた幻想だろうな、なんてふと口から漏れた言葉を否定する。やっぱり出来ることなら不幸な運命は避けたいもんな

 

刺々しい髪型を掻き毟ってふと浮かんだ思考を掻き消すも次に彼の脳内へとインストールされた情報も大概にヘビーであった。

 

Play Port4、通称『PP4』……学園都市で開発されてきた『Play Port』シリーズの4作目、実は当麻もこのシリーズには昔からかなりお世話になっている。彼自身は勿論そんな新作ゲーム機を購入する余裕などある訳ないが今回もファンからの熱い期待に恥じぬだけの性能を誇っていると土御門が自慢げに語る様子は当麻にも印象的だった

そんなPP4がガラス1枚隔てた向こうに数台寝かされている―――が問題はそこではない

 

「ここまで来て別の景品、なんて興醒めな展開美琴センセーは勿論アンタだって嫌でしょ?それにアンタだって高校生なんだからこれくらい持ってた方が話の輪にも入れるかなーってね」

 

「そりゃ気持ちは嬉しいぜ、でもな御坂…。このPP4、機能が前作よりも追加・改善されてる分馬鹿みたいに高いんだよ。とても1万、2万じゃ買えないしましてや売価の数倍は必要なクレーンゲームで軍資金が1000円じゃ足りる訳ないだろ!」

 

「へぇ、やっぱりそこそこ高く付くのねー。流石は常盤台でも話題にはなるPP4…って私は買わないわよ?流石に手持ちじゃちょっと足りないし…だから使うのはアンタのその1000円ね」

 

「だからさ、御坂!さっきお前がある程度突っ込まないとアームの強さ…が…!ってまさか御坂お前!」

 

「ようやく察してくれたみたいね、まぁここはいっちょ美琴センセーの華麗なるテクニックに見惚れなさいっての!」

 

そう、景品をゲットするには何らかの方法でアームの腕力を強化する必要がある。勿論運や実力でマグレが起こらないように店側も最大限に仕掛けはしてあるだろう。

ではアームを強化するにはどうするか?当然方法は特定金額以上を投資して、機械にアーム強化の『コマンドを指示させる』こと

 

(そう、特定金額を突っ込まなくても基盤の代わりに指示を出せる…そんな離れ業が出来る電撃使い(エレクトロマスター)が居れば…例えば。学園都市第3位の―――)

 

「御坂なら、お手軽に…ってか?」

 

投資金額にしてちょうど1000円、当麻が渡した硬貨を使い切った時にこれまでとは違う高らかな電子音が鳴り響く

 

「お手軽に…とはいかないかもね、やっぱり不正アクセスを防止するファイアーウォールに引っ掛からない程度を探るためにある程度は無駄打ちしなきゃならないもの。ただ流石に超電磁砲(ワタシ)電子介入(ハッキング)を防ぐ設備なんて考えても無いでしょうけど」

 

そもそも学園都市のトップシークレットに公衆電話からハッキングを仕掛ける第3位(レールガン)相手に通用するファイアーウォールなど無理難題に近い物があるのだが

 

当の御坂は取り出し口より景品引換券を取り出して悪戯が成功した子供のような得意気な表情を浮かべている。これってバレたら間違いなく警備員(アンチスキル)に連行されるんだろうな…なんて俺の内心を伝えられる状況を作らせないあたりコイツは本当に罪作りな奴だよ…

 

「何よ、ゲッソリした顔して?そりゃ1回や2回で…って言うなら詐欺と言われても仕方ないけどね、一応1000円は貢いだんだから良いじゃない。それともあれかしら、この美琴センセーが危険を犯してでもゲットしたクリスマスプレゼントをアンタは―――」

 

「…それだけじゃ遊べないだろ?まったくこれだから常盤台のお嬢様は」

 

「あ、アンタ…!私の親切心を…!」

 

「ほら、PP4で遊べるソフトを探しに行こうぜ―――美琴センセーよ。美琴センセーからのクリスマスプレゼント、家で腐らせる訳にもいかないからな」

 

「あ…うん……そ、そういう事なら別に私も付き合ってあげないことも無いわよ!ここまで来てアンタを見放すのは常盤台の信用にも関わるから!?」

 

「…ツッコミませんよー、上条さんの不幸察知センサーはまだ生きてますよー」

 

先程両替をした受付で引換券を渡し当麻の自宅に届くように手配した後、2人は次なる目的地『電化製品売場』へ―――

 

人混みの中を何とか2人はぐれないよう進みながらふと当麻は思考に意識を沈めていた

(プレゼント……クリスマスプレゼント、か。クリスマスに限らず誰かからプレゼントされるってのは俺にしては珍しい経験なんだよな。―――すげぇ、嬉しい)

 

別に欲しかったPP4だから、ではなくて。誰かからのプレゼントと言うのが嬉しかったりする。何時か御坂に恩返しを―――

 

「今、『何時か御坂に恩返ししないとな』って考えてたでしょ?」

 

「か、上条さんの心を読むなよ…。まぁ当たってるけどさ…仮にも御坂の学歴に傷がつくような真似までさせちまったんだ、お返しをするのは当たり前だろ?」

 

気付いた時には既に俺の眼前は電化製品売場、もしかすると今度は上条さんが御坂に引っ張られてたりしたかもなー…

 

「アンタって……そんな所はきっちりしてるのよね、他はトリ頭なのに」

 

「今度は精神攻撃か?御坂って本当ブレないよなぁ…」

 

「悪かったわね…ただお礼なんて考えてなくて良いわよ。あれはあくまでアンタの『友達』の御坂美琴として贈っただけ、だから…ね?アンタが…笑って、くれるなら私としては費用対効果は充分…なのよ」

 

「―――御坂って友達思いなんだな、分かった…!御坂のその気持ち、有難く頂くぜ!んじゃ、上条さんも御坂の『友達』として何かクリスマスプレゼントを探してみるか!」

 

「――――そうね」

 

―――何処からともなく、硝子に亀裂が入るような…そんな音がした。

 

―――別に傷つけるような台詞なんて言ってない、でも…

 

((ワタシ)は今……御坂(アイツ)を…)

 

(傷付けてしまった、そんな気がする―――)

 

 

 

結局会話が続かなかった2人に取れた手段は……その場を後にするだけであった

 

 

 

 

 

 

 

 

御坂美琴SIDE

 

 

 

 

 

 

 

何であぁなっちゃうのかな……折角アイツと2人きりで遊びに来れたのに…

 

何かを喋ろうとしても喉元まで飛び出た言葉がその勢いを失ってしまう。それは御坂美琴にとって最もらしくない言動と言える

 

(…アイツとは、普通に友達じゃない…)

 

皮肉にも季節に合わせたイルミネーションが階下のカップル達を余計に眩しく魅せる。きっとあの中にも私達のような友達付き合いで遊びに来た組み合わせもあるはずなのに……皆全て輝いて見えるのだから不思議な物だと思う

 

「アイツに無駄に気を使わせる辺り私も駄目ね…本当なら、アイツにはもっともっと笑って、楽しんで……あんな顔はして欲しく無かったのに…」

 

思えばそもそもの始まりはアイツの顔を見たことだった。

何時もみたいに人助けをしてそれを威張ろうともしない絵に描いた様な英雄(ヒーロー)、それがアイツ

 

…でも今日のアイツはちょっと違っていた。人助けを躊躇わない事もそれを威張らない事も…私を適当にあしらうムカつく態度も……でも。

 

(アイツ、無理をしてた…用も無いのに人混みを訪ねて…本当に助けて欲しいのはアイツ自身の筈なのに…まるで子供が強がるみたい人助けをして…)

 

だから私はアイツに何かをしてあげたかった。…アイツが私と一緒に居る時位は、強がった英雄(ヒーロー)じゃなくて上条当麻で在って欲しかった

 

「結局…物で釣ろうなんて甘いのよね」

 

「それを聞くだけだと上条さんは魚かよ…ほら、御坂。お前はイチゴおでんで良かったっけか?」

 

「アンタみたいな大きな魚を釣ってみるのも面白いかもね、っとと…ありがと」

 

気を利かせてドリンクを買って来た当麻は缶から未だ湯気のあがるそれを手渡した。商品名がイチゴおでんだと言う事は…まぁ敢えて言及しない事が華というやつだ

 

そんなアイツの飲み物は普通のココア、そこは変わり種を選びなさいよ…まったく

 

「いやぁしかし難しいもんだよな…女の子との買い物ってさ。上条さんもトーク力に自信はあったんだぜ?でもいざ!ってなるとな…アハハッ…」

 

「私も普段から友達との買い物は慣れてるんだけどね、中々男性と…ってなるとアンタ位しか相手が居ないのよ」

 

「…海原、俺はお前の味方だからな」

 

「ん、何か言った?」

 

「いやぁ日本語は難しいなー!って思ってな」

 

さり気ない親密度アピールもサラッとスルーされたのは…うん、ムカつくけど今は良いわ…!

 

それに日本語が難しいって言うのは私も共感出来る。今胸の中に溜まったモヤモヤを言葉に出来たらどれ程楽になれるんだろ…

 

「…だからさ、この際とりあえず言葉にしてみようかなーって上条さんは思うんだよ。折角だから御坂、聞いてくれないか?」

 

「任せなさい、アンタよりは歳下だけどこれでも『お姉様』の経験はこの世界の誰にも負けないんだから」

 

俯いたまま、互いにそれぞれ自分の缶を包み込んだまま……ようやく2人は『らしさ』を取り戻し始める

 

友達と過ごせると思っていた時間が呆気なく独りになってしまったこと

 

共に過ごしてきた人も呆気なく居なくなってしまったこと

 

最後にアイツは『全部俺の身勝手な我儘で1日2日過ごせば元通りなんだけどな』とだけ付け加えてまたココアの缶のそこだけを見つめ直す

 

確かに、傍から見れば『たかがクリスマス程度で』なんて馬鹿にされるんだろう。…でも私はそうは思わない

 

「ごめんね、私にはアンタのその気持ち…全然分かんないわ」

 

「…だ、だよな!確かに上条さんも言ってみたらすっげー馬鹿げてるなー!って恥ずかしく―――」

 

「だって私には常に仲間やアンタが居てくれたもの」

 

「楽しい時は一緒に笑ってくれる友達が」

 

「辛い時は一緒に戦ってくれる仲間が」

 

「根本から破綻した自殺未遂を犯そうとした時だってアンタは私を独りにさせなかった」

 

「そんな恵まれた私が、孤独を知らない私が気安くアンタの辛さを『分かる』なんて言えないわよ」

 

だって―――

 

だって――――アンタは何時も、誰かの孤独に『寄り添う』側だから。寄り添う相手も、寄り添ってくれる相手も居なくなってしまえばそれは例え1日2日でも絶対に辛い。……私だって同じ境遇なら寂しいと思うかもしれない

だから今日は、せめて今日だけは恩返しに……私にカッコつけさせてくれない?

 

 

「そんなアンタの気持ちも分かれない私だけど……いや、そんな無神経な私だから!アンタの気持ちは誰よりも分かりたいし、辛い時はその友達や一緒に過ごしてきた人よりも近くで支えたいのよ!!」

 

「い、いや御坂さん!?ちょっと話がオーバー過ぎるぞ!?何も上条さんはそこまで深く考え込んでは無くてだな…!」

 

「うるさいまだ私が喋ってる!…大体見れば分かるわよ!アンタが本当に辛いって事くらい!じゃなきゃ、じゃなきゃ…そんな暗い顔なんてしないでよ…!」

 

何がカッコつける、なんだか…。鏡こそ無いから未だしもきっと言い切った私の顔は恥じらいもなく真っ赤になってるんだろうな…

 

本人も自覚ある火照った美琴の頬に雪が舞い降り始めた。付着しては直ぐに溶けて頬が冷えて――それでも火照りは冷めなくて。そんな事が何度繰り返されただろう?

雪すら溶かす少女の火照りが収まり始めたのだからそれは恐らく数分は過ぎた頃―――涙のように少女の頬を伝う雪解け水を…代わりに拭ったのは『少年』の指

 

「ありがと、御坂……そうか。俺…そんな暗い顔してたんだな」

 

「…うん、そんなアンタを励ましたくて私なりに今日1日頑張ったわ…。だから……もう少し頑張ってみたいの、聞いて…くれる?」

 

「あぁ…今度は俺が聞く番だからな。歳上の上条さんにドーンと…任せてみろよ」

 

「…わ、わ、私…実はあ、アンタに伝えたい事があるのよ…!!」

 

「おう、何だ?」

 

「わ、私…!私はアンタの…!」

 

えぇい!?何で今ここで心拍数が跳ね上がるのよ!?さっきアイツに頬を撫でられたから!?表面上では落ち着いていられたのに…!

 

今度こそ伝えなきゃ、そう強張れば強張る程焦ってしまう

 

焦りは緊張を生み、緊張は決めていた覚悟を半減させてしまう

 

それでも…!私は伝えると決めたのよッ!

 

私はアンタの事が―――――!!

 

 

 

 

 

 

 

「わ、私はアンタの家に泊まりたいッ!!」

 

「………あ、あぁ。そりゃ上条さんは勿論構わないぜ?でも確か御坂って寮住まいだよな、もしかして何か事情があったりするのか?」

 

「あ、あぁ…!あぁぁぁぁぁぁぁぁ何やってんのよ私はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ちょっと御坂さん!?あれだけ放電(せいでんき)は止めてって言ったよな!?」

 

もはや今日1日だけで慣れてしまったこの下り、とは言え当人…主に外せば感電死まっしぐらの当麻はそうはいかない。幸い右手が美琴の皮膚に触れていたため最悪の自体は回避出来た

 

(あぁもう馬鹿馬鹿!私のポンコツ…!臆病者…!さっきまでシリアスな雰囲気で良い感じに進んで、アイツもそれを察してくれたから私の頬を―――はっ!?)

 

「あ、アンタ私が言おうとした事…!分かってたのよね!?だから柄にもなくあんな真似をしたんでしょ!?」

 

「…?何の事だか上条さんにはサッパリでせう、それより早く帰ろうぜ!聞いて驚け見て笑え!何と今日の上条さん宅の冷蔵庫にはクリスマスケーキがスタンバイしているのだ!」

 

「話を逸らすなッ!分かってたのならアンタから聞かせてくれても――」

 

「分かってる、でもさ――今この気持ちを伝えたとしてもそれは勢いに身を任せただけの物だ、って俺は思うんだ。―――だから、もうちょっと…本心から惚れるまでは…見蕩れたままで良いか?―――美琴」

 

「ッ!?」

 

「さぁさぁ、布団の準備に掃除に…後はPP4の置き場も考えないとなー」

 

何よ――――さっきまで友達と過ごせないだけでピーピー喚いてた癖に。

そんな顔されたら――――惚れ直さない訳ないじゃない

 

「―――ケーキは先を越されたかー…。じゃあ私は料理担当、かしらね。何か―――」

 

「何か食べたい物はある?―――当麻」




世には様々な文字書き様がいらっしゃいます。それはとあるシリーズにも然り。
ギャグ展開で笑わせてくれる方
シリアスな結末でティッシュの浪費をさせてくれる方
…等々、皆様の作品を拝見しているとやっぱり「とあるって愛されてるな〜」と思いますよ。
そんな中でも私は上条さんが「美琴」って呼び捨てしたりその逆だったりの展開に萌え死ぬタイプです、だから今回の話は本当に自己満足だけで書き上げました

本編ではまだまだ恋愛要素を出す気は無いので縁遠い話ですが何時かは誰かの恋物語も書きたいなー、とは考えてたりします。


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とある地霊殿での不幸物語〜転〜
彼等/彼女等は何だかんだで仲が良い


????SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日彼女は――憎悪を知った。

 

だがその憎悪を向けるべき、憎むべき相手は『こちら』側には居ない。

 

かと言って『あちら』側に向かう事も、まして復讐を果たす事等叶う訳が無い。

彼女が有り余る力を備えて居た事は復讐を果たせない彼女自身を何より苛んでいた。

 

 

……でも、それも終わり。いや始まると言うべきか、何にせよ――

 

「さぁ―――あと少し、あと少しよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かぽーん

 

 

そんな音が聞こえたのは気の所為じゃない、多分な。

 

「かぽーん」

 

「頭大丈夫か?温泉の浸かり過ぎでイカれたんなら早く上がれよ」

 

「まだイカれてない、折角の温泉…それも上条さん一人じゃ来れない秘境の温泉ときた。烏の行水は勿体無いだろ?……それにイカれてるのは俺よりお前だろ、垣根」

 

「あん?俺は温泉に来た以上思春期男子が果たすべき任務を遂行しているだけだ、邪魔するなら手伝えよ」

 

そう、私こと上条当麻は仲間達三人と妖怪の山の麓にある間欠泉センターの温泉に来ていた。何でもこの地下では核融合を使って地熱を管理している妖怪がいるらしい、この温泉もその恩恵に預かってる訳だから妖怪サマサマだよな

 

勿論当麻とてただ遊びに来た訳では無い、何せ次の仕事場は向かうだけで一苦労。前回の仕事の労いも含めて羽を伸ばしてこい、と言うある人物の優しい心遣いのお陰もありこうして湯船に身体を預けているのだ。

 

「まっ…そもそも紅魔館で派手にやらかさなきゃ今頃俺達は学園都市に帰る手段を探していたんだけどな」

 

「おいおい!マジかよ…!今時壁一枚隔てた先に入浴中の女の子の声が聞こえるとか!防犯意識の少ない妖怪最高…!」

 

「おい垣根ー、お前のそのふざけた大胆さが招いた結果を知らないとは言わせないからなー」

 

「うるせぇな…!静かにしろ、バレたらお前も殺されるぞ?それに件の一件は俺が永琳に半日実験台にされて丸く収まっただろうが…おっ、この声はウドンゲか?」

 

「だから止めろって言ってんだろ!?あと俺を巻き込むのもナシだ、大体お前はなぁ…!」

 

大体お前は…垣根は。

 

俺達が勝利した紅魔館組、正確にはレミリアにぼったくりも良い所の単価で持っていった薬を全て買い取らせたんだ。

効能が保証済みである以上詐欺にこそなりそうもないが流石のレミリアも青筋浮かべてたぞ…だがそこは約束、レミリアは勝負の始めに俺達が勝てば薬を全て言い値で買うと宣言してしまったのだから。

 

……まぁ、ここまでは良くないが良い。正直コツコツ働いてたら足りない位の額だからな、賠償金の額は。

だがこの先が不味かった、どれくらいヤバイか?って聞かれると……今度は永琳さんが青筋を浮かべるレベル

 

「俺達が代金を請求して数日後、紅魔館から今度は屋敷の修繕費の請求書が束になって届いたんだよな…そして売上高と相殺したものの永遠亭側に損失が出て…あぁもう思い出したくねぇ…!」

 

高価なステンドガラス

高価な紅絨毯

高価なぬいぐるみ

その他高価な品々…請求書を握り潰しながらも何とか笑顔を保つ永琳さんに俺達四人はひたすらに土下座で許しを求めたんですよーっと

 

「レミリアの野郎、なめた真似しやがって…!次に殺り合う時は紅魔館から引き摺りだして羽根をもいでから天日干しにしてやる」

 

「お前本当に懲りねぇな!?」

 

そんな訳で今度は借金を背負った俺達四人は次なる目的地――

 

地霊殿(ちれいでん)の妖怪共に薬を売り付けに向かってる訳だ、でも良かったんじゃねぇか?まさか永琳が地霊殿に向かう前に温泉休暇を許してくれたんだからな、案外見た目程はキレてなかったりして…」

 

「本気でそんな楽観視してるのか?言わずもがなだが地霊殿でまた同じ事繰り返したら…!」

 

「わーってる、次は間違いなく消される…絶対だ。永琳のあの目はガチだからな、例え誰が庇おうがこれ以上永遠亭…つまりは輝夜の立場を穢す様な真似をしたら後はねぇ」

 

…ま、まぁ垣根なりに…反省はしてる…の、か?

 

いやしてない、コイツは絶対反省なんかしてない!だってコイツは今―――!

 

「だったら覗きなんて止めろって言ってんだろうが!?負けた相手に泣きっ面に蜂宜しく法外な金を請求するより永遠亭の恥晒しになるだろ!!」

 

「うるせぇ!バレなきゃ良いんだよバレなきゃ!大体男が何で温泉で覗かず終われる!俺はこの瞳と記憶に美女の入浴シーンを焼き付けるまで諦めねぇからな!!」

 

そう、彼は…垣根帝督は。覗きを働いているのだ。

桶を幾重にも積み重ね隙間を未元物質で補強して…これまでの訓練で培った気配遮断まで悪用して。

 

覗き程度にここまでやるか?と言いたくなる所だがそれが垣根帝督その人の趣向なのだから天は才能を与える際の選定を絶対に間違えている

 

(ダメだ…!巻き込まれる前に逃げるか?いやいやそれも駄目だろ!じゃあ…女風呂に現状を伝える?……間違いなく上条さんも共犯者扱いされるに決まってるんでせう…!)

 

進路も絶たれ、退路も絶たれ…あれ…?何か俺また不幸に巻き込まれてないか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館での外界の人間を含んだ死闘が幕を閉じてからしばらくは人々は『永遠亭が幻想郷の各勢力を潰しに掛かった』『戦争が始まる』等々、好き放題に尾ヒレ背ビレを付けて吹聴してまわったが所詮噂好きな人々の話のタネにしかならなかった。徐々に噂も沈静化し…彼等が次なる目的地である地霊殿に歩みを進めた頃には誰も興味を示さなくなったのだった

 

「あ〜…マジで永琳に殺されるかと思った、私は不死身だけど。大体過ぎた事なんだからお説教で済ませれば良いのにさ」

 

「もう終わったことだし師匠のお怒りの大半は玄関ホールの修繕費でしょ?私は門を直接破壊してないしレミリアの妹からの請求は可愛らしかったじゃない」

 

「…チッ…まぁ良い。確かに済んだ事だし私もかなりぶっ壊したからなぁ…紅絨毯って1㍍四方であんなに高いとは思わなかった。あれなら大人しく殺人メイドだけをスクラップにしとくんだったな」

 

「かなり…と言うか7割型妹紅じゃない!頼むから地霊殿では興奮状態にならないでよね?収集付かないんだから…」

 

へいへい、とだけ返して私は脱いだ衣服を籠に放り込む。鈴仙は丁寧にブレザーを畳んでいるからまだ時間が掛かるだろう…それにアイツはほら!サラシの私と違って下着を付けてるからね、そこでも時間差が生まれるんだよ

 

ここに女子力の差を感じるが仕方ない、今更『キャピキャピ〜』とか興味ないから。いや、本当に。第一私は成長が止まって…

 

「…止めよ、慰安の温泉で疲れ溜め込んでりゃ世話無いし」

 

一人思考を暴走…もとい自爆した妹紅は首筋を擦りながら桶に腰を下ろす。基本的にイリーガル、クレイジーな一面が多い妹紅であるがルールは守れる時は守る、守れない時は徹底無視する事が信条だった。

そんな訳で温泉でのマナーの一つ、湯船に浸かる前に身体を洗おうと腰掛けた訳だ。

 

「もう、すぐに追いつくんだから待ってくれれば良かったじゃない」

 

「別に待つ程の距離じゃないだろ?ほらほら、背中を流してやるから拗ねない拗ねない」

 

「ありがとう、後で私もお返しするね」

 

「期待してるよ」

 

何だかんだ輝夜と永琳とは暴走状態を交えた戦闘になるが実は鈴仙とは一度も戦った事が無かったりする、別に手を出したくないとか避けてる訳じゃなくて…何となく苦労人の匂いが私の戦闘狂を鈍らせるんだ

私から選り好みして仕掛けない事もあってか鈴仙も輝夜が居ない時は好意的に接してくれる

 

「それにしても次は地底か…私や鈴仙、垣根はともかく当麻はどうやって地底に運ぶ?背負うにしたって距離があるからな」

 

「う〜ん…私もそれは師匠に相談したわ。その結果私か妹紅が護衛で同伴して間欠泉地下センターへ続くエレベーターで降りるのが妥当だろう、って」

 

「…やっぱりか。でもエレベーターってあれだろ?守矢の三柱と河童連中が合作した外界の乗り物…河童は別として守矢を信用したくは無いんだよな」

 

それに…永琳から聞いた話だがエレベーターってのは紐で吊るした鉄の箱らしい、それって紐が千切れたら脱出も出来ないし安全性に難しか無いと思う

 

その旨を鈴仙の背中をタオルで擦りつつ伝えるとすぐに返答が返ってきた

 

「あのねぇ…師匠は妹紅に分かり易く伝える為にエレベーターを簡略化して説明しただけで本来エレベーターは安全性に特化した乗り物なのよ」

 

「ふ〜ん…じゃあ妙蓮寺の破戒僧が乗り回す二輪車と比較したらどっちの方が安全なんだ?」

 

「その質問、永遠亭の金庫の鍵を師匠に預けるか姫様に預けるべきか…どっちが安全?って質問と同じ位簡単だからね」

 

「輝夜は何を預けても危ないからなぁ…まぁ良いや。代案も無いからそれでいこう、手間取らせて悪かったね鈴仙ちゃん。それと背中は流し終わった、頭を洗おう」

 

分かったような分からないような気もするが年頃の当麻を私が背負って30分以上も降下するのはちょっと辛い、安全性が確かならそれに乗らない手はないよね

 

湯桶に汲んだお湯を少しずつ身体をに流して石鹸を洗い流してから妹紅は鈴仙の肩をポンと叩く、目を閉じて…という妹紅なりの気遣いだった

 

「はいはい、わざわざありがとうね――妹紅さん。でも次は私の番。背中を流すからバトンタッチよ」

 

「いやいや良いって、それにさん付けは止してくれ。鈴仙ちゃんの意趣返しのつもりか?」

 

「分かってるなら聞かない、それに湯冷めして風邪を引いたら師匠に怒られるわよ」

 

「風邪なんてもう千年とひいてないっての――好意には甘えるけど。ここまでの道中でちょっと妖怪とか垣根とか垣根とかと戯れたから汗かいちゃったんだ、面倒かもしれないけど頼むよ」

 

「最後の辺りは二人が巻き起こす爆発が妖怪への威嚇になってたけど――それも狙いの内だった?」

 

「まさか!妖怪以上に生意気なガキを黙らせなきゃいけなかったから奮闘したオマケだよ」

 

そう、かつて紅魔館に向かう道中で妖怪との小競り合いがあったように間欠泉へ向かう道中でも彼等四人は襲われたのだ。

元々間欠泉へ向かう道自体人間は余り通らないし用も滅多にない、間欠泉や地底へ要件のあるような人妖は徒歩ではなく飛行を使う。

 

またしても前回同様当麻(いっぱんじん)に合わせる事となったのだ。

 

「当麻も頑張れば空くらい飛べるんじゃない?指導はしなかったの?」

 

「馬鹿言え、人間は飛べないのが普通なんだよ。それに温泉前の準備運動とストレス発散を兼ねた良い時間だったろ?――当麻は無茶せず一歩ずつ強くなっていけば良い」

 

「…優しい先生ね」

 

「模倣だ」

 

思わず可笑しくなって笑ってしまう、私ってば思った以上に慧音に染まってるんだな

 

どうやら鈴仙も妹紅と同じ事を考えたらしく背中を流す手は止めないもののクスクスと笑い声を漏らしていた

 

「その調子で私のパートナーも調教してくれない?教えの吸収が早い分生意気になるのも早くって」

 

「生憎と調教は管轄外、それに道中に数回は垣根に手痛い一撃を叩き込んだ…あーそこそこ…痒いとこだからもうちょっとかいてくれると助かる…」

 

「それで反省してないから困ってるんじゃない―――ここで合ってる?」

 

垣根…アイツは所謂天才肌だ。元より頭のキレも身体能力(フィジカル)も抜群に良い上に貪欲に上を目指し続ける。特に紅魔館での一件後は永琳から応急手当てや簡単な診察に関する技術等々これまでとは違うスキル習得を目論んでいるとかいないとか

まぁ医療技術に関しては紅魔館での反省を活かしたんだろうし、若さ故に有り余った力を試したい気持ちも分かる。実際に垣根は不用意には戦闘を仕掛けないし分別は付いてるんだろ

 

……ただ、少しだけ気になる

 

「どうしたの?黙り込んで…もしかしてタオルで擦った箇所が痛かったの?」

 

「いや……ちょっと…な…!」

 

流石にもう我慢の限界だ、これまでは執行猶予のつもりで見過ごしたが…

 

振り向いて怒鳴るのは簡単だがそれでは相手の思うツボ、と言うかそれが目的ではないのか?とさえ思えるのは妹紅の私情も混じっているかもしれない。

―――しかし、それでも。妹紅は自身の入浴姿を覗かれる事に悦びは感じないし覗き魔に対して穏便に済ませる程穏やかではない

 

「……覗いてんじゃねェぞ、この格下がァ!」

 

怒号を響かせ腕を真上に振り上げる。一瞬で振り向き火炎弾で眉間を撃ち抜いても良かったがやはり却下、相手の瞳に自身の一矢纏わぬ姿を献上する羽目になるからだ。

ならばどうするか?…振り向けず、狙いも定め難いのなら―――とりあえず殺す(無差別爆撃)しかない

 

脱衣場から出たばかりの頃は違和感程度のモンだったが…今も敢えて完璧には気配を隠さないそのスタンスはソイツの限界なのか挑発か?どっちにしてもよォ…!

 

「骨の欠片も残さず焼いてやるから焼き加減だけ答えろってンだ!」

 

言うが早いか成すが早いか…何にせよ次の瞬間には二人の入浴シーンを覗き見していた『ソイツ』に火炎弾の様な隕石が、若しくは隕石の様な火炎弾が降り注いだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考えろ、感じるな上条当麻!落ち着いて最善手を考えろじゃないと死ぬ!身体的にも社会的にも!

 

 

「な、なぁやっぱりここは健全に温泉を楽しまないか?かき―――」

 

「ッ!右手を構えろ当麻、妹紅の野郎が気付きやがった!しかも胸を隠すように背を向けて…!どうせ妹紅の荒れた草原なんざ興味ねぇよ、俺が見たかったのはうどんげのダブル富士山だクソが!!」

 

「嘘だろおい…!大体俺もお前のしみったれた最低野郎の好みなんて興味ないんだよ、てか結局は上条さんに全振りか!?」

 

「温泉上がりにフルーツオーレと温泉卵を奢ってやろう、勿論マッサージチェアに座らせてやる」

 

「ッ!……って違う!買収されないからな俺は…!」

 

「――――お土産の温泉饅頭も忘れずに、だ」

 

「……垣根が、妹紅と鈴仙の背中しか見てない事を信じた上で。マッサージチェアも忘れるなよ」

 

「汗の伝う背中も背中で良い文化だからな、俺は嫌いじゃないぜ?」

 

どのみちさっき妹紅の『……覗いてんじゃねェぞ、この格下がァ!』って怒声が聞こえたから誤魔化しようはない、垣根も気配は全力で消してたみたいだけど経験の差があるんだろう。

でも今はそんな事どうでも良い、妹紅は振り向かずに怒鳴ったらしいから攻撃時もそれは変わらないはずだ

 

(となると――――口調から察するにあれは暴走モード、且つ高威力で精密な定めを必要としないスペルを妹紅は使ってくる…!)

 

「垣根、水風呂に飛び込んで潜水してろ!多分『火焔鳥』が来る!」

 

「んだよそれは?仲間とは言えスペル丸暗記出来るほど脳内容量(キャパシティ)多くねぇよ!」

 

「多量の火炎弾みたいな隕石、若しくは隕石みたいな火炎弾だ!」

 

「お前の右手じゃ防ぎきれねぇじゃねぇかフルーツオーレ損したぜ…!」

 

「非常時に損得勘定出来る程度には容量あるじゃねぇか!」

 

火焔鳥――――主に妹紅はこの技を戦闘で主体には用いない、多量に噴出する分当たれば多段ヒットにはなるが何せ隙が大きい上に一度火炎弾を上空に打ち上げるため敵に気取られ易い。

ただし接近戦となり相手が距離を取ろうと後退した瞬間…ズドン!良くて追加の後退、悪くて即時KO(ノックアウト)

 

「頼むから自制してくれよ妹紅、いや鈴仙でも良い…!水道管とか粉砕したらヤバイじゃ済まないんだぞ…!」

 

元より非は男性陣にあるのだが…そんな悠長な台詞は吐いていられない非常事態だ

 

とにかく右手を上空に突き出して改めてお湯を頭から被る、火炎弾相手には焼け石に水だけど無いよりマシだろ…!

さぁ来るなら来い、そう念じた瞬間に仕切り越しにも伝わってくる急激な温度変化―――

 

「やっぱり撃つんだよな分かってましたよ…!」

 

「このクソ鴉…いや射命丸ッ!今夜の夕食はテメェの肉で焼き鳥フルコースにしてやンよ!」

 

「…へ?」

 

妹紅は今…射命丸…って言ったか?オマケに心無しか火焔鳥の放物線は緩やか、つまり至近距離の俺達に直撃させるには軌道が違い過ぎる

 

上空を飛び交う季節違いの花火(ばくげき)を見上げつつ男湯には降って来ないことを確認して当麻はハァ…と腰を下ろした

 

(よ、よく分からないが…垣根以外にも二人を覗いていた奴がいた…のか?)

 

「垣根…もう大丈夫だ、浮上して良いぞ」

 

「…ブハッ!やべぇやべぇ死んじまう…!10月に水風呂ダイブとかイジメだろこれ!?早く温泉温泉…!」

 

「どちらかと言うと覗きの方がよっぽどイジメになるし犯罪だと思うけどな…上条さんも冷えちまったからもう一度温もるか」

 

「で、結局俺が凍えと酸欠で死にかけている間に何があった?どう考えても男湯に隕石が降り注いだようには見えねぇが……あぁ…幸せ…」

 

「分からない、ただお前以外に覗きを働いた奴が居たみたいだな。妹紅はそっちの方にキレて火焔鳥を放ったんだろ、ほらあっちの方角…煙が上がってるし」

 

「山火事とか起こらねぇだろうな?流石にそれは金じゃ片付かねぇぞ」

 

二人共、自身の安全が確保出来た途端にこのリラックスモードである。好意的に表せば逞しい、卑屈的に見れば厚かましい二人の青年は長生きするに違いない

 

その後も(当たり前だが)垣根は再び女湯を覗こうとはしなかった。一度命拾いした命を捨てる必要はない。

 

(わざわざ覗きなんてしなくたって…秋の紅葉と湯気を眺めるだけで上条さんは至福の一時が過ごせるんですよーっと。……ただまぁ…温泉に来たんだ)

 

(次は…鈴仙のライフルスコープでも拝借するか?いや、スコープを覗いて視野を狭めるのは……チッ。今回は俺の研究不足だな―――あぁでも…折角の温泉だし)

 

「「早めに上がってフルーツオーレでも一気飲みするか」」

 

――――ついでに彼等は仲が良い

 

 




久しぶりの方も初めましての方もどうもどうも。愛鈴です。
それより聞きました?愛鈴とか言う無能高校生、私情を言い訳に二月に入るまで一度も執筆しなかったらしいですよ
……すみません、色々あったんですよ。

さて物語は章だけを見てみれば半分という辺りに差し掛かり彼等/彼女等は次なるステージ地霊殿へ。上条さんはどんな不幸に遭うのか?冒頭部分で語られたある少女の憎悪とは?果たしてそれはこの物語にどう関わってくるのか?

伏線をばら撒くだけばら蒔いた見切り発進のスタートは今年も相変わらずですが本年もお付き合いのほど、宜しくお願い致します


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The Fall〜幕開け〜

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

(主に垣根の所為で)温泉満喫中に火炎弾が降り注ぎそうになるとか中々出来る体験じゃない。貴重過ぎるから私のような超庶民にはご遠慮致す次第なんでせう

 

「垣根…お前はそろそろ自重って言葉を知ったらどうだ?マナー云々以前に犯罪だぞ」

 

「仕方ねぇだろ、むしろ覗かない当麻の方がどうかしてるっての」

 

「その台詞を火炎弾の雨が降り注いでまだ抜かせるってなら俺はお前を尊敬してやるよ……言うまでもないけど妹紅と鈴仙の前では顔には出すなよ?」

 

「へいへい……でもよ?射命丸の野郎はどうなったんだろうな?アイツのことだから被弾は望めそうもねぇが」

 

俺は脱衣場で着替えを終えて扇風機の風に当たっていると垣根は「射命丸」の名前を出した。もしかして顔見知りか?

 

俺はすぐに訪ねてみた

 

「いや、顔見知りって程交友は無い。お前が幻想郷に来るより少し前……取材だとかで病室に押し掛けられた記憶がある、ちなみに人間じゃなくて鴉天狗な。オマケに新聞記者らしい…後うどんげが射撃で仕留め損なう程度には疾い―――本気出したら音速は出るとか抜かしてやがったな」

 

「電車も飛行機も不要な人生、上条さんには羨ましい限りですよーっと。でも新聞の記事に覗きのワンシーンを掲載するとか垣根の脳みそ以上に問題あるんじゃねぇか?」

 

「おいおい忘れんなよ、当麻。ここは幻想郷、外界の常識は非常識に、その逆もまた然りだろ」

 

「あー駄目だ…今一瞬『あぁ、そう言われれば』と納得しかけた上条さんがいる…!」

 

まぁ、ともかくだ…次に遭ったら四人でシメれば良いだろ?と早速不穏な発言を放つリーダーに胃がキリキリする不安を抱えつつも、俺達は着替えを終えて脱衣場をで―――

 

「はーい♡二人共、共謀関係だから処刑でーす♡」

 

「…あー…鈴仙?表情と現状が反比例してるぞ?てか、バレてた…のか?」

 

「隣接した壁一枚しか仕切りが無い空間で派手に歓声を上げる馬鹿が居れば気付くな…って方が無理な話。オマケにモラルと反比例した言動を取るアンタ達に言われたくはない台詞よね…取り敢えず風呂上がりの鳩尾に銃弾叩き込まれたく無いなら無抵抗で付いてきなさい」

 

何と脱衣場の出口には拳銃を構えた鈴仙が青筋を浮かべながらも引き攣った笑顔を維持して俺達を待ち構えていた。

 

(おいおいどうしてくれる垣根…!?ちゃっかり俺達もバレてるじゃねぇか!しかも鈴仙さん、処刑って言い切ってますけど!?)

 

ヒッソリと背後の垣根(しゅはん)を振り返って表情を伺ってみると…

 

「…オ、オレシラナイヨー」

 

「…駄目だこいつ早くなんとかしないと」

 

「同意見ね」

 

俯いてブツブツと『シラナイシラナイ』を繰り返す垣根の首筋には冷や汗がつたっている。怖がるくらいなら初めから覗くなよ!?というのは後の祭りなんだよなぁ…

 

とここで当麻は真っ先に激怒していそうな妹紅の姿と声が無い事に気付く。

見えない恐怖の方が恐ろしい事は数多のモンスターパニック映画やホラー映画が証明している通り。ジョーズし然り、ジュラシックパーク然り、総じて危機を乗り切った直後に油断する奴が真っ先に食べられる事はよく知られた定石(セオリー)だろう。

 

ちなみに当麻はマニアとは行かずともその手の映画は再放送があれば録画して観る程度にはファンだったりする。そんな彼が見えない最恐(もこう)の気配を警戒するのは当たり前なのかもしれない

 

「妹紅ならもう一人の覗き魔の方に向かったわ、感覚的には何発かは微妙に被弾させた…らしいから心配しなくても大丈夫」

 

「妹紅もお変わり無いようで何より……あぁ、上条さんの憧れ…風呂上がりのフルーツオーレが遠ざかる…!」

 

「次が万に一つもあるのならたらふく飲み干しなさいよ、今回はアンタ達が悪い!」

 

(靴を履き替えつつも銃口は常に俺達へ向ける鈴仙に『俺は無実だ…!』なんて言っても通じないんだろうな…)

 

垣根に奢ってもらう予定のフルーツオーレ…温泉卵に温泉饅頭はどんどん遠ざかっていく……あぁ……

 

「不幸だ…」

 

 

 

 

 

 

 

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

さーてと、鈴仙の事だから馬鹿二人の確保は抜かりはねェはず。ともすれば私は私の役目を果たすだけだ

 

「出てこい、お誂え向きに巫山戯た気配の隠し方なンてしてンだ。まさかただ許しを乞う訳じゃねェだろ?」

 

露天風呂から歩くこと数分、雑草と木が鬱蒼とした空間を作り出していた場所も今や綺麗さっぱり地面が姿を覗かせている。さながら焼畑の後と言った所か

 

そんな焼き野原の中にもう1人の覗き魔は平然と佇んでいる。元よりあの程度の爆撃(ひばな)で焼き上がるとは妹紅自身、微塵も思っていなかったが

 

「あやや…酷い言われようですね。ところで話は変わりますが紙の原料は木、紙を糧に食べていく我々記者としてはこの焼き討ちは是非社会問題としてうったえ」

 

「慧音に報告しといてやンよ、射命丸は特ダネの為なら手段を選ばない。早急に人里を出禁にすべきなンじゃねェか?ってな」

 

「や、止めてくださいよ!?良識とか無いんですか!?」

 

「どの口がほざきやがンですかねェ」

 

そりゃそォなるに決まってるわな。コイツの新聞を購読する奴なンざ余程の物好きに決まってる、そんな物好きで新聞なンざに金が回る人間は人里にはそうそうに居るわけが無い。出禁にされたら妖怪と言えど困るンだろ

 

覗き魔こと射命丸文(しゃめいまるあや)、自身の覗きを棚に上げて妹紅を批判したりする辺り小物臭漂う所はあるがその実は計略と力技を併せ持つ生半可な妖怪よりも更に厄介な妖怪である―――とは妹紅の弁。

実際に不意打ちの爆撃を受け、その中心地で無傷で佇んでいるのだからやはり計り知れない妖怪である

 

(だがまァ…躱された事自体別に構やしねェ、問題はコイツの目的だ。―――搦手でコイツに勝負を仕掛けるのは得策じゃねェ)

 

「人払い―――只の人間では寄り付かないこの場所、加えて鈴仙と馬鹿二人も私から引き離せた…」

 

「妹紅さん、それでは読者心理は操作できま……動かせませんよ。夢見がちでメルヘンチックな思考回路をした読者ならまだしもですが、些か貴女の個人的に基づく憶測に過ぎません」

 

「本性が見え隠れしてンだよ、クソッタレ。それにあくまで私の直感で感じた事を言ったまでだしなァ。ただまァ…」

 

「ただ?ただ何です?」

 

「昔からお前はパシリで有名だからよォ、どうせ今回も私に伝言があるが他三人には聞かれたくない内容、オマケにその本人は姿を見せる訳にはいかない事情があった―――あァわりィわりィ!素直に純粋に感じたことを口に出すのは良くねェンだったな。気ィ悪くしたンなら謝っても良いぜ?」

 

「話の筋が見えませんねぇ、大体挑発する気満々で煽ってくる辺り謝る気なんてサラサラ無いでしょう?…確かに私は昔から偉い方々の御用聞きをこなしてきましたが―――まぁこれ以上押し問答を繰り返しても何にもなりません、実際伝言も頼まれていますし」

 

ドンピシャかよ。…しかも当麻達には聞かれたくない伝言の内容。否が応でも想像が付くのは悲しいねェ

 

「紫さんからの伝言です―――『地底では極力戦闘は控えなさい、特に外界からのお客を巻き込んではならない』……だそうですよ」

 

「あン…?紅魔館での一件がそこまで紫の癪に触ったって事か?大体外界からの客ってもあの二人は訳ありだろォが、他に何か無かったか?」

 

拍子抜け、思わず糸目になる感覚を妹紅は数テンポ遅れて感じ取っていた。

良い意味で私の直感は外れた…か?コッチは選り好みして戦闘吹っ掛けてる訳じゃねェンだ、前回はレミリアにも過失があるだろォが

 

と、まぁそんな弁明がここには居ない紫に通じる訳も無く。

念のため紫が伝言の中に真意を隠しているのかとも勘繰ってみたが検討もつかない、ミステリー小説の類は序盤の展開とトリックの種明かし、犯人さえ分かれば満足という妹紅にとってこの手の頭脳戦は向いていない

 

「特に他の伝言は預かって居ませんよ」

 

「だとしたらご苦労なこった、まァ紫に伝えとけ。善処はする…ってな」

 

要件は済んだだろう、文の次の句が飛び出ない事でそう判断した妹紅は勝手に会話を切り上げると文に背を向けた。

 

(……紫から、しかも当麻達と引き離して聞かせなきゃならねェ伝言…まさか件の一件絡みかと思ったが。こりゃマジモンで私の思い込みが過ぎただけかもな)

 

件の一件―――私が当麻と出会ったその日に聞かされた話。

 

『このままでは幻想郷で戦争が勃発する、恐らくそれは回避出来ない』

 

その戦争とやらは当麻達外来人、正確には学園都市の住人が絡んでいる事もほぼ確かだろう。それならば不用意にあの二人に情報を与えたくはないと言うのも分かる。

 

―――まァやる事はこれからも変わらねェ、戦争だろうと何だろうとそれは私のような闇の世界の住人の行事だ。それを分別無く光の世界の住人を巻き添えにしようってンなら容赦無く焼き殺す

 

そんな時、妹紅が歩き出した時―――だった

 

「…これは独り言ですがね、もうカウントダウンは始まっているんですよ。貴女にすれば既知の話題かもしれませんが端から回避出来ない事だった、幻想郷の重鎮達もようやくその現実を受け入れ始めたのです」

 

「…あ?」

 

「落ち着いて、妹紅さん。独り言だ…そう言ったではありませんか。それに重大な事件が起きた際、情報規制の為にマスコミだけに情報を公開して口止めをするのは珍しい事じゃありません」

 

「随分思わせぶりな発言してくれンじゃン―――つまり噛み砕くとアレか?今、幻想郷で異変とは訳が違う何かが起ころうとしている…少なくとも八雲紫が直に干渉する程度にはヤバい事案ってのは確定だろォな」

 

「私から否定はしません―――さぁこれで私の独り言は終わりです」

 

独り言は、終わった。何とも他の話題提起を匂わせる発言である。

まだ続くのか――思わず口から漏れ出しかけたその言葉を妹紅はすぐさま飲み込んだ。内容が内容だけあって簡単には切り捨てられない、そう警戒させるには文の独り言は十分過ぎた

 

(さァ次は何を言ってきやがる…?)

 

「まぁ先程の滅多やたらに長い独り言は置いておきまして。個人的に外来人のお二人には興味があるので薬売りの終始を取材させて頂けませんか?あぁ勿論仕事のお邪魔は致しませんよ」

 

「…なっ…!テメェ自分の覗きを棚に上げて吠えてンじゃねェぞ!!妖怪ってのはどいつもこいつも自分中心の自己現実が出来上がってンですかァ!?」

 

何と文がボカした核心に迫る訳でも無ければ妹紅の求める情報を提供する訳でもない、文は取材を要求したのだ。あまりの唐突な切り返しと自身の覗きを棚に上げたとも取れる言動……辛うじて鎮火しかけていた妹紅の怒りに再びガソリンが大量投入される。

 

「まぁまぁ、それに取材に協力して頂ければ先の紅魔館でのどんちゃん騒ぎの払拭にもお力添えが出来ますし。噂話は沈静化したとは言え人里の皆さんは怖がるでしょうし慧音さんも貴女と親しい以上は立場的に困るんじゃないですか?勿論先程うっかり偶然撮影してしまったお二人の入浴写真も破棄しますから」

 

「…成程、そォいや紅魔館で殺りあった後の薬の売上が悪いとか何とか永琳や鈴仙が話してた気もするわ。慧音に至っては間違いなく迷惑被ってンだろォしなァ」

 

どの道妹紅が何と怒鳴ろうが弾幕を浴びせようが文は取材を諦める程生温くは無いし、もしその気にさせてしまえば覗き魔よりもっとタチが悪い。

 

慧音や永遠亭の事を引き合いに出すのはかなり癪なンだが…頭に血が登ったまま言い合ってもコイツの思い通りに事が運ぶに決まってンだ。……つか、射命丸…お前まさか私が拒み続けたらその写真を記事にする気だったのか?

 

「好きにしろ、だが私以外の三人は冗談抜きで今回の売上に命がかかってンだ。もしかすると男二人に関しては私が先にぶっ殺す羽目になるかもしンねェけどな」

 

「あやや、もしかして覗きでもしていたんですかね?だとすれば多少のお仕置きは許されますよ、慧音さんも同じ方針ですから」

 

「…その都度お前の言動が私を煽るように聞こえンのは気の所為か?」

 

滅相も無い、射命丸はそォ返すが相変わらずの営業スマイルが絶えないのが逆に信用ならねェんだっつの

 

 

 

何はともあれこうして不幸な四人組の旅路に新たな仲間(?)が加わったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

遅いな…妹紅、まさか覗き魔と口論の末に戦闘になった?口調が荒々しかったから可能性は否めない、けど……それにしては静かすぎるんだよな

 

爆発音や雄叫びは勿論殺気の一つも感じられないし、鈴仙に聞いても近くで波長の急激な変化も無い。あの状態の妹紅が波長も感知出来ない程静かな戦闘を行える訳が無いのだから覗き魔との争いの可能性は否定して良いだろう。

 

「とは言え……心配な物は心配よね」

 

「あぁそうだな…でも上条さんの末路もちょっとだけ、ほんの僅かに心配して貰えると嬉しいんでせう…」

 

「グジグジしつけぇぞ当麻、賄賂に甘えたお前が悪い。甘んじて処刑されろ、出来れば俺の分まで」

 

「前半に関してはぐぅの音も出ないから反論しないし後半に関してはお前の平常運転だもんな。安心した」

 

殴りたい、今猛烈に垣根に自慢の右ストレートを放ちたいがここは我慢だ上条当麻…!

 

怒りでピクピクとなるこめかみに当麻はそっと指を添えて激情を抑える。勿論こんな事で苛立ちは治まらないのだが…このような時の対処法を当麻は永琳から聞いていた。

 

『垣根君の言動で怒りが爆発しそうになった時は数字を6から0まで逆に脳内で数えなさい、家族の不幸でも笑われない限り怒りはマシになるわ』

 

『ありがとうございます、でも何で垣根限定なんでせう…?』

 

『上条君はレミリアの傍若無人な態度にも耐え切ったでしょう?あのレミリアで君の逆鱗を逆撫で出来ないのなら後は垣根君位しか居ないじゃない。ほら…彼って挑発が大好きな上に煽り上手だから』

 

………流石八意さん、でもレミリアのフランドールに対する接し方には上条さんも本気でキレかけたけどな。

 

ただそれも不器用な姉だからこそ、妹を思えばこその行動。結果としてレミリアは間違えてはいたが常に求めていた物は間違って居なかった――

 

「後はあの天上天下唯我独尊みたいな性格さえ治れば上条さんも仲良く出来そうなんだが……っと。1、0……沈静化完了」

 

「どうしたの、当麻?さっきからブツブツと…あぁもしかして『コレ』の所為?」

 

「あ、あぁいやちょっとな…っておいおい鈴仙」

 

6カウントのはずがついフランドールとレミリアの事を考えていたらボーッとしていたらしい。とは言え一分も経過していないはずなんだが……気付けば垣根が鈴仙に逆エビ反り固めを決められていた。必死に垣根は我慢してるっぽいが顔青ざめてるぞ

 

「ちょ、ちょっと待ってうどんげ!マジ死ぬ!決まってる決まってるこれ完全に決まってる!背骨折れちゃう、今もミシミシ音響いてるから!」

 

「あ、やっぱり?私ってばこの手のじゃれあい風の締め技を知らないから…加減が分からないのよね。まぁアンタならこれくらいで調度口が塞がって良い位でしょ!」

 

「ざけんなボケ!加減分からねぇなら力を緩めろってんだ…!第一ちょっと当麻煽ったくらいで脊髄損傷とか笑えねぇぞゴラ…!」

 

「まぁアレだ、垣根……処刑までは生き延びろよ。俺は今度は温泉まんじゅうでも動かないからな」

 

何だかんだ二人共楽しそうではある、しかし垣根の骨からいかにも「ヤバイ!」と警告する生々しい音が響いているのもまた事実なのだが。とは言えこれも見慣れた光景で日常、そうそうに割り切って見捨てるが易し――上条当麻はそう認識していた

 

(しっかしアレだな、レミリアとフランドール……フランドールはともかくとしてレミリアは御坂にソックリだ。妹への思いは誰より強い癖に不器用でそれで居て真っ直ぐで……俺がレミリアを心の底から嫌いになれなかったのもそれが引っ掛かってたりしてな)

 

近くの岩に腰掛けながら妹紅を待つ間、当麻はふと学園都市で今日も元気にビリビリしているであろう少女とレミリアを重ね合わせる。

 

――――俺は嘘つきだ。本当はレミリアに初めからキレていた、すぐにでも飛びかかって…胸ぐらを掴んで…叫んでやりたかった。

 

(――――何でお前『逹』はそんなやり方でしか妹を思えねぇ、ってな)

 

分かっている、彼等が言葉では拭い切れない十字架を背負っていることも。

 

知っている、彼等の心の奥底には『今』笑顔を浮かべる妹の姿よりも『過去』に自身が傷付けた妹の姿が刻み込まれていることも。

 

だったら尚更だ、尚更そんな自己犠牲紛いの在り方は誰も―――

 

「本―――にそ――か?」

 

「ッ!?」

 

風が、吹いた。強い風だった。恐らく近くにある地底へと続く穴から吹き出したのだろう――だが。何かが上条当麻の耳元で語り掛けた、オマケにその声は―――

 

(違う…!今のは風音なんかじゃ…!)

 

慌てて俺は立ち上がって背後を振り向く。だが背後には誰もいないし唯一近くに居た鈴仙と垣根は未だに締め技の真っ最中だ。垣根に至っては泡を吹いている。

じゃあ今のは…一体…?

 

「………止めだ止め、考え過ぎだきっとな。そんな暇があるなら妹紅への謝罪内容でも考えよ」

 

あまりにも重なる二人の姉は背負っている十字架さえ重なっていた。

それがきっと聴こえもしない空耳を響かせた原因に違いない、自然とオカルトじみた方向へ思考を走らせる自身の頭に喝を入れるべく当麻は軽く右手の甲で額を小突いた。

 

 

 

パリン―――

 

 

 

今度は空耳なんかじゃない、この音を俺が……幻想殺し(かみじょうとうま)が聞き間違える訳がない。

 

 

…幻想を殺す音なんだからな。

 

「頭を小突いて消える異能(げんそう)…鈴仙の狂気か?いやいや幾ら何でもそれはやり過ぎだろ、でもそれ以外に脳に干渉するって言うと…。垣根は――違う、アイツは冗談でも仲間の脳を弄ったりはしない」

 

となると新手の妖怪か?確かに間欠泉センターに辿り着くまでにそれなりの数の妖怪を黙らせたからな…恨みを買ったかそれとも道中で気付かない内にって可能性もある。ただそうだとしても鈴仙や妹紅が一切気付かなかったのはおかしい…

 

とりあえず鈴仙と垣根に知らせないと……何か妙だ。ハッキリしない辺りが特におかしい

 

「なぁ、鈴仙!垣根!今俺達が幻術か何かに掛かって―――」

 

「幻術?幻覚ってこと…?私は何もしていないし垣根もそこまで巫山戯た真似は…って当麻?話を振っておいてそっぽを向くのは酷いんじゃない?」

 

「…あー…?どうしたうどんげ…当麻がどうした…つーかいい加減俺から降りろよ…」

 

「いや、当麻が私達は幻術に掛かっているんじゃないか?って…でも見ての通り、間欠泉を見つめたまま固まっちゃったのよ」

 

「お前があんまりにも処刑だ何だと脅すから可笑しくなっちまったんじゃねぇの?―――おーい当麻、とりあえず詳しく説明しろ」

 

 

 

この瞬間、上条当麻の起こした行動は誰がどう見ても口を揃えて同じ見解を示すだろう。

事実、一番近くで当麻を見ていた鈴仙と垣根(なかま)でさえ―――動揺を隠せなかった…疑ってしまったのだから。

 

 

「ッ…!?ウワァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

上条当麻は――自身の足で間欠泉の穴の中へと転落した。




学校が自由登校になったのに今度は教習所が執筆を許してくれない


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電磁掌握は飛び込む、暗闇の中へ【学園都市編】

御坂美琴SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園都市第七学区――学園都市内でも一、二を争う程の建物が犇めき(ひしめき)合うそのビル群の一角の屋上で喧騒を撒き散らす人物が居た。

そこにいるのは二人だが怒気を放っているのは1人、淡く栗色の短髪の下には青筋が浮かびかねない赫怒の形相。それを受け止めるのは怒れる少女とは裏腹にロングヘアーの金髪少女、どこかふわふわとした印象を抱かせる彼女は食蜂操祈。自身の胸ぐらを掴み惜しげなく怒気をぶつけてくる御坂美琴の―――パートナーだ。

 

私は今猛烈に腹がたってる、こんな激情はあの上条当麻(バカ)にだって抱いた事が無いかもしれない

理由は単純…!

 

「いきなりビルの屋上に呼び出した挙句、何で私に断りなくアンタは独断専行したわけ!?足元を掬われたらヤバイのはお互い重々承知してる筈でしょ!?」

 

「あらぁ?わたしは確かに御坂さんと協力関係にあるし頭も下げたわぁ、でもでもぉわたしの言動を逐一報告する義理は無いんだゾ☆」

 

「……アンタがどうなろうと、別に私は構わないって言ってんのよ。ただそれでアイツに繋がる手掛かりが消えるのは許さない、言いたい事はそれだけ」

 

「以心伝心、思考共有――お互い考える事が微塵も違っていなくて安心したわぁ。まっ、心理掌握(メンタルアウト)が通じない相手には御坂さんの野蛮力が必要になる事は分かっているからその時が来るまで大人しくしているつもりよぉ」

 

……何で私はこんな奴と手を組んだんだろう。いくらlevel5(超能力者)とは言えこれなら黒子の方が万倍良い。

 

掴んでいた食蜂の胸ぐらを叩きつけるように手放すと美琴は改めて状況を思い返す。

紆余曲折を経て臨時のコンビを組んだ二人ではあったが上条当麻に関する情報収集は予想通り難航した。

 

御坂美琴は警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)の情報保管サーバーにハッキングを仕掛けて表の世界から

 

食蜂操祈は心理掌握とコネをフルに駆使し、暗部関連の情報を裏の世界から

 

しかし…結果、上条当麻の情報は何一つ出てこない。それどころか提出された上条当麻の捜索願すら無かったことにされていたのだ。

ここまで来れば暗部が絡んでいる事にまず間違いは無い、寧ろそれより先……暗部より更に奥深くの闇……

 

「学園都市統括理事会…この一件には連中が絡んでいる可能性がある、そうなれば今以上に警戒して動かないと私達の巻き添えを食らう人達が現れるかもしれない―――だから独断専行で情報を仕入れる真似、して欲しく無かったのよ」

 

「はいはい、お説教は聞き飽きたわ。それより御坂さんもわたしが得た情報…知りたいでしょ?」

 

「ッ…時間も惜しいもの。それでアンタは何を掴んだって言うの?」

 

(本音を言えば焦ってる…アイツが居なくなってからもう数週間…!でも私は何一つ情報を掴めていない…この際、可能性があるんなら藁よりタチの悪い食蜂の手でも…!)

 

それに食蜂操祈は美琴が律儀に問い質したところで『はいそうですか』と頷く素直な性格ではない。それはこれまでの彼女の言動が指し示す通り、理由も話さないままでわざわざビルの屋上に美琴を呼び出したのもまた然り。

 

怒りを覚ます為、冷静になる為――美琴は瞳を閉じて壁に背を預ける。ビル群にぶつかって吹き上げる風とコンクリートのヒンヤリとした冷たさはそれには最適だった。

 

「まず結果として、上条さんに直接関わる情報は見つけ出せなかったのよねぇ」

 

「…それで?続けなさい」

 

「あら…ここで御坂さんの堪忍袋が粉砕されると思ったのにぃ」

 

「安心しなさい、本当にそれだけで終わらせたり確証の無い情報を流したらアンタの頭を電撃で粉砕するから」

 

「キャー怖い☆…まぁわたしとしてもこんな無駄話で時間を浪費するのは望まないし、情報は掴んであるわぁ。それと言うのも暗部の組織…組織名や詳細は分からないけれど。とにかく暗部の中でも謎の多い組織が1ヶ月程前から動いているのを確認したわ」

 

「1ヶ月…確かアイツが失踪(消えた)のも大体それくらい。確かに気になるけど…その組織がアイツに関わっている確証は?暗部なんて絶えず暗躍しているじゃない」

 

謎の暗部組織の暗躍……食蜂の心電図に変化は無し、嘘では無いようね。……アイツが自分自身の記憶を弄っていなければ…だけど。

 

「……有り得ないのよぉ、今この時期に暗部が暗部として動いているなんて」

 

「…?まさか連中は揃いも揃って今の時期は有給消化中だから、なんて言わないでよ?」

 

「それの方がまだ笑い種にはなったかしらね。――――解体されたのよ、学園都市の暗部は。大小、古参新参問わず全て……暗部として機能している組織なんて今この瞬間存在する訳がないわ」

 

「暗部が…解体された!?誰に、何の為に…いやそれよりも…!それが事実だとして…!」

 

「ちなみに暗部が解体されたのも1ヶ月と少し前、その組織はそれと入れ替わるようにして活発化――不自然力が強すぎるのよねぇ」

 

これが黒子が掴んでくれた情報なら私はこれでもか!と抱き締めて頭を撫でたに違いない。……まぁ現実には食蜂の手柄なんだけど

 

(…動けないどころか存在しないはずの暗部がある時期を境に活発化して、それと時を同じくして幻想殺し(アイツ)が消えて…暗部でしか出来ないような裏技を使われて…)

 

「勿論証拠不十分だと言われればそれまでだけどぉ、大体名前も実態も不明瞭な相手に無策で突っ込みたくないもの。そもそも学園都市がバックアップに用意していた秘匿の組織だった、その可能性も捨てきれないしねぇ」

 

「…例えそうだとしても、学園都市からバックアップを任される程暗部に染まりきった連中ならこの事件の噂程度は知ってるんじゃない?まぁ別に口を割らないなら割らないで構わないわ」

 

「そうそう、心理掌握(わたし)の前で黙秘力なんて無意味極まりないものねぇ―――どうやら再び意思疎通力が働いたかしら?」

 

「らしいわね」

 

「良かったぁ!それでこそ潜入したい施設の前に呼び出した甲斐があるってものなんだゾ☆」

 

「…は?施設の前ってアンタ…ねぇ…!!」

 

……ほんのちょっと。ちょっとだけ芽生えた仲間意識を尽く(ことごと)握り潰す。わざとやっているのだろうか?いやそうに違いない―――とは言え。感謝の気持ちは伝えた方が良い

 

「ねぇ、食ほ――――」

 

「…御坂さぁん、貴女は誓えるかしら?私達はお互い利用して利用され合う関係。ただし互いに利用する目的は同じ、目指す物に変わりはない――この大前提を崩さない、と」

 

――――食蜂操祈は暗に語っていた。

 

心理掌握(わたし)超電磁砲(アナタ)を利用する、その逆も然り。

この関係性は通常ではまず成り立ちえない、ましてや犬猿の仲の超能力者(LEVEL5)を結び付けたのは2人が上条当麻に対する特別な感情(こいごころ)があったから。少なくともその感情は2人にとって一時的な共闘も必要と思わせる程度のもので、絶対的な信頼関係とは程遠い脆い繋がり。

 

つまり―――食蜂操祈は警告しているのだろう

 

超電磁砲(アナタ)がその前提を崩せば心理掌握(わたし)との協力関係は崩壊する、と。

勿論美琴は犬猿の仲の食蜂とは言え自ら率先して裏切るような冷酷な造りをしていない。それは自他共に認めること。

 

(―――この先、これを進んだ先に…この闇の奥に。私を狂わせるかもしれない『ナニカ』がある、それにぶつかっても尚目的を忘れずに居られるか、我を忘れずに居られるか?そう心理掌握(アンタ)は問いたいのよね?)

 

「…私は命を賭けても信念を捨てなかった英雄(ヒーロー)を知っているし何度も救われた……そしてこれはその英雄(ヒーロー)を救う、恩返しの為の闘い。それだけは例え心理掌握(アンタ)でも改ざん出来ない位脳に刻み付けているつもりよ」

 

「端から能力は通用しないんだけどぉ…御坂さんがそこまで言うなら、一時的に信じるフリ位は演技力を発揮してあげる」

 

決意改め食蜂操祈から告げられた目的の施設はビル群の中に紛れる中型の研究施設、この屋上から飛び降り上手く着地すれば研究施設の屋上に辿り着ける。周囲の通行人の記憶改ざんは食蜂操祈に任せておけば抜かりは無い。では御坂美琴の、超電磁砲の担当は―――

 

「舌―――噛まないでよねッ!」

 

時刻は昼間、陽の灯がビル群を照らす明るさの中―――2人の少女(電磁掌握)が闇に挑む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食蜂操祈SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焚き付けた私が言うのもあれだけどぉ…

 

「ちょっと御坂さん野蛮力高過ぎよぉ!落下する前に一言あっても良いじゃない!!」

 

いやまぁ…何となく?予想通りだけど?まさか100m以上下の狭い屋上に2つ返事で躊躇無く、それも私を抱えたまま飛び降りるとか狂っているんじゃないかしら?

 

「喋ってると舌噛むわよ、大体アンタは前置きしたら怖気付くかもしれないし」

 

「御坂さんが慣れ過ぎてるんじゃない!こんなのみさきちが先に壊滅力発揮しちゃうわよ!」

 

「うるさいわねアンタは…!でも、もう少しで着地よ。磁力操作で衝撃はゼロにするけど目撃者の記憶操作はやっときなさいよ?常盤台の女子生徒2人が抱き合って投身自殺なんてニュース見たくないからねッ!」

 

「そうねぇ―――白井さん辺りがヤンデレ力を発揮しそうだもの」

 

「……ちょっと背中に冷や汗が流れたわ」

 

とは言え御坂美琴、特定の人物が絡まない限りは思慮深く思いやりの出来る良い子である。着地の際の衝撃は勿論落下により発生する風圧までカバーすると言う中々の配慮っぷり

 

そんな美琴の配慮により彼女達の真下の通行人達が風圧でめくれ上がった制服の中を拝める訳も無く。

百歩譲ってラッキースケベがあったとしても数秒後には操祈の心理掌握により記憶改ざんでその景色どころか記憶を失ってしまうのだが。

 

「よっと…そう言えば聞き忘れてたけど、ここは敵のアジト?それとも関連施設?」

 

「…さぁ?ただ連中の足跡を辿れば必ずここに行き着くの、それ以上は調べる気になれなかったわ」

「…妥当な判断ね」

 

妥当―――確かにその通り。学園都市内部でも極秘中の極秘とされる暗部組織の影を追う、自殺にも等しい行為。

この場所を突き止めるだけでも相当な危険を犯したのだろう、だから情報量が少ない事を責めはしない。

それが御坂美琴の本心。仮初であろうと犬猿の仲だろうとコンビを組む相手への最低限の礼儀であり信頼の表れ。

 

そんな美琴は周囲の監視カメラの位置を確認し次々とハッキング、自分達が現れる前の無人の監視映像を『現在』の映像として大元に送り返す…という離れ業を成し遂げていた。

 

対して機械相手には出番が失せる食蜂は美琴の背中に隠れている。

 

(―――悪いわねぇ、御坂さぁん…本当はこの施設の事はもっと知っているのよねぇ。でもそれを全て伝えた所でわたしにメリットは無いし貴女も不利益を被るわぁ。……だからこれは思いやりと思って頂戴)

 

この施設を謎の組織が利用している事は事実、その目的などが分からない事も事実。

ただ……

 

「知っている…じゃなくて、知って『いた』」

 

「…?何か言った?それと監視カメラの映像書き換えとドアロック解除、出来たわよ」

 

「何でもないわぁ、独り言よ。―――さぁここからは御坂さんの野蛮力を思う存分に発揮して良いんだゾ☆」

 

「はいはいっと…」

 

そうして御坂さんを先頭にいよいよ施設内へと侵入して静かに階段を一段ずつ降りていく。

こんな怪しげな建物はあちらこちらにトラップが溢れ返っているのが常だけどぉ…大丈夫なのかしら?

 

思わず浮かんだ不安を御坂さんにぶつけてみると『電子的な方は全部焼いといた』との希望力溢れる台詞が返ってきた。この娘将来は工作員になるのかしらねぇ

 

ちなみに以前も2人はとある施設に侵入紛いの突入を実行した、その際は追っている人物を逃さない為に二手に別れたりもした。だが今回はその必要は無い――と言うのが2人の意見。

 

「そもそも内部構造が分からない以上は迷子力を発揮する可能性があるわけでぇ……主に御坂さんが」

 

「アンタ喧嘩うってる?その気になれば反響定位(エコロケーション)の真似事で1人でもどうにかなるわよ」

 

「あらあらぁ、そんな敵にも居場所を知られる方法なんて不用心過ぎるんじゃない?私なら出会い頭に全員洗脳してみせるゾ☆」

 

「じゃあ出会い頭に撃たれてもそうやって強がってなさい……まずは監視カメラの映像を監視している部屋と敵を抑えるわよ、そこでなるべく多く施設内部の構造と人員の配置を確認出来れば理想的ね」

 

「はぁ…分かったわよぉ、でも当然部屋の位置は把握しているんでしょうねぇ?」

 

「監視カメラのデータの送受信の流れで大体は掴めたかな、だから問題はそこに辿り着くまでに……敵に見つからないかどうかよ」

 

勿論1人や2人に見つかった所で御坂さんのビリビリ力がビリビリすれば片は付くけど…間違い無く他の仲間には警戒される。そうなれば無駄に難易度が上がっちゃうのよねぇ……

 

「私の心理掌握(メンタルアウト)は相手をちゃんと対象として認識出来ないと発動は難しい、先手は厳しいわよ」

 

「勿論私も全力で生体電気の磁場は感じ取る……でもやっぱり最後は運絡みね、もしくは日頃の行―――――」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい御坂さん…!そうやって意味もなく死亡フラグを建てるのは反則よ!?」

 

「ご、ごめんってば!ただちょっと頭に浮かんじゃったなぁ…って…ッ…!?」

 

「おい急げ!実弾で構わん、侵入者だ!」

 

「う、そ…!?」

 

まさか幾ら何でもフラグ回収力が速過ぎはしないかしら?その手のお約束は上条さんの担当じゃない…

 

だがそう悠長に構えても居られない、戦闘か?撤退か?美琴と食蜂、2人が同時に顔を見合わせる

 

「―――仕方ない」

 

「―――そうねぇ」

 

言葉を交わさずとも分かる、2人は例え今以上の窮地に追い込まれようと―――

 

「返してもらうわよ…!」

 

退く事はしない、絶対に。

 

(でも何処でバレたのかしら?ハッキングを御坂さんがしくじった?…まさか、ねぇ)

 

リモコンを構えて辺りを警戒しつつそれは無いと食蜂は頭の中の考えを振り切る、仮に下手を打てばこの少女は即座に自分に打ち明けるだろう。

そもそもこんな中途半端に自分達を泳がせた意味が分からない

 

「とにかく急げ、地下通路へ急ぐんだ!超能力者(LEVEL5)を2人同時に相手取るんだ、殺す気で行けッ!!…クソッ、俺達はまだ『奴等』を捕まえなきゃいけないってのに…!」

 

「…?食蜂、まさかここって地下、通路…?いやまさか…そんな訳ない」

 

「わたし達は学園都市で洗脳力がダントツに通用しない面子だからぁ、現在地を誤認させられている…って線は無いわぁ。勿論屋上から侵入した私達が地下通路に何時の間にか迷い込んでいた可能性もあるけれどぉ」

 

「…それも限りなくゼロに近い可能性よね、と…なると」

 

心理掌握と超電磁砲(わたしたち)以外の超能力者(LEVEL5)がこの施設を奇襲した…?

 

考えられるとすれば一方通行(第1位)念動砲弾(第7位)の組み合わせ、現場を見ていない以上断言は出来ないが学園都市の現状では彼等以外の登場は有り得ない

 

第2位の垣根帝督(ダークマター)は暗部を解体するキッカケとなった抗争の果てに生死・行方ともに不明となり

 

第4位の麦野沈利(メルトダウナー)も第2位との抗争の果てで安否が不明

 

第6位は相も変わらずの行方どころか情報の欠片も出てこない、こんな所にひょっこり顔を出す訳が無いし敵がその人物を超能力者(LEVEL5)だと断定出来るかも怪しいところだ

 

以上の消去法から現れた2人の超能力者(LEVEL5)は一方通行と念動砲弾の組み合わせだと食蜂は見出した訳だが…

 

(それこそ笑い話にもならないわよねぇ…1位と7位がコンビ?7位の彼はともかく……1位の彼がよくこんな場所に顔を出せたわねぇ、それが学園都市トップの在り方なのかしら)

 

だとすれば怖気がする、恐怖ではなく軽蔑だ。

 

(…『ココ』で御坂さんと1位が遭遇して、しかもこの施設の詳細を知られたら―――RSPK症候群(ポルターガイスト)を引き起こされるかもねぇ)

 

「…ねぇ、食蜂。『もしかして』の話をしても仕方が無いけど――地下から侵入したLEVEL5の片割れは一方通行じゃない?アンタはアイツがここを奇襲する可能性を知っていたからあの時私に覚悟の話を…」

 

「あらぁ?襲撃してきたLEVEL5の片割れが一方通行だと確信力があるのかしらぁ、先入観での思い込みは良く無いゾ☆」

 

「…呼吸が苦しいのよ、まるで心臓を鷲掴みにされたみたいにね。これじゃあ身体の全てが進む事を拒んでいる事に変わりない―――こんな感覚…一方通行以外に抱く訳が無いわ」

 

「――まっ、御坂さんのトラウマなんて私にはどうでも良い無関係な話だからぁ。勝手に妄想してればぁ?☆……ただ仮にも共闘戦線を結んだ以上上条さんを助け出すまでは私に利用されて頂戴、こんな所で1人へこまれても困るのよ」

 

「…アンタは手厳しいわね…っと。でもそうね、この目で確かめるまでは分からないし…上手く行けば地下の2人に敵を押し付けて私達は安全に行動出来る。そうでしょ?」

 

それに、連中は地下のLEVEL5の他に追うべき連中が居ると言っていたのよねぇ…?既に全てを揺るがしかねないファクターが2人もいるってのに更にオマケとか有り得ないわぁ!

 

周囲の警戒を一時美琴に任せて食蜂は思案に耽る。だがどれ程記憶を読み返しても今新たに現れる可能性のある勢力など思い浮かばない。

 

「とにかく、情報を集めましょう。都合良く単独行動をしてくれるおバカさんが居れば安全に捕まえて尋問出来るけど…訓練された暗部には期待薄だしねぇ」

 

「分かった…となると引き続き監視カメラの制御室を目指せば良いって事よね」

 

「そうなるわぁ」

 

(奴等…単純に考えれば複数形、最低でも2人。間が悪いのよ、まったく……おかしくないかしら…?まさか私達が今日侵入する事がバレていた?…御坂さんには当日呼び出したから裏切りの線は薄い、じゃあまさか……端から監視されていた…?)

 

学園都市に7人しか居ないLEVEL5の内4人が1箇所に集まり、謎の第3勢力までもが同じタイミングで現れる。確かに偶然と割り切るには過ぎた話だ。

 

…とここで食蜂の呼吸が荒い物に変わり壁に手を付いて進み始める。これは勿論敵組織の仕掛けた毒物の類ではない、事実美琴は未だにピンピンしている。

潜入開始からおよそ20分…大半を息を潜めた隠密行動で過ごしたのだが……

 

「分からない事だらけって嫌になるわぁ、後激しい運動もねぇ…」

 

「はやっ…アンタまさかもうバテたの…!?冗談でしょ?まだ30分も歩いてないじゃない!」

 

「貴女みたいな野蛮力溢れる人と違ってこっちは平均的な身体の造りになってんのよぉ……貴女には分からないでしょうねぇ…!中腰を維持したままの身動きの辛さは…!」

 

立ったままでは敵から目立ちすぐ発見されてしまう

かと言って座り込むのは問題外

そうなると選択肢は中腰での移動に限られてくる。

 

「いや別に分かんなくは無いけどさ…とりあえず監視カメラの制御室の近くまで来たわ、中に敵が居た場合は私が殺るよりアンタに任せたいし…せめて呼吸だけは落ち着けてくれない?いざって時に息切れで能力を使えませんでした、じゃ笑えないんだから」

 

「は、早いのねぇ…?じゃあここで30分程休息力を発揮していーかしら…?」

 

「1分で回復させなさい」

 

即答、慈悲無し。

 

ブーブーと独り言を呟きながらここまで張り詰めてきた緊張を解く、すると逆に疲れが押し寄せてきた。何時の間にか無駄な緊張まで背負い込んでいたのかもしれない。

 

(…でも御坂さん、表面上は大丈夫そーねぇ…?あそこでブレる位なら切り捨てる可能性も十分有り得たけどぉ…って彼女相手にここまで気を回すなんて私も愉快力を増してきたかしらぁ)

 

とここで服の襟首が掴まれて真上に引き上げられる。

私、体重は軽い方だけどぉ…女の子が片手で軽々引き上げられる程じゃないわぁ…

 

「…御坂さんって腕に力こぶがあるんじゃない?」

 

「馬鹿にしてんのかアンタは?…私がわざわざ手を貸してやったのよ、ありがたく思いなさいよね」

 

「じゃあ今からその借りを元本と利子を含めて叩きつけてあげる☆――いくわよ、制御室内部の敵は何人かしらぁ?」

 

「……ダメ、距離が離れてるのと壁の厚みで探知出来ない。ただ場所が場所だけにさっき地下へ向かった連中程の重武装は心配しなくても良いと思うんだけど…」

 

「じゃあ私が真っ先に侵入して見える範囲の敵を洗脳するから御坂さんは私の周囲の警戒を。流石に室内ならお得意のソナー力は使えるでしょ」

 

こーいう時能力が通じる相手なら頭に直接書き込んで指示出来るのにぃ…御坂さんってつくづく不便力発揮してるわねぇ

 

そこからは言葉は交わさず不慣れなハンドサインで意思疎通を図る

幸いに敵の姿どころか声も聞こえず、2人は無事監視カメラの制御室の前に辿り着いた。まずは食蜂、焦る事無く最後の確認として美琴から合図がないか確かめる

 

御坂さんは―――特に伝達無し

 

私からも特に伝える事は無いから―――作戦開始よ

 

3……

 

リモコンを突き出したまま熱感知式の扉の前に立つ。背後では美琴がパリパリと音を響かせつつ警戒を続けている、中に入るまでは背後は気にしないで良い

 

2……1…!

 

シュー、という静かな音と共に扉が開く…と同時に部屋の中へ。

 

だが意外にもその部屋は…………もぬけの空だった。

 

まさか私達がここに来る事を見越した上での待ち伏せ?

 

すぐさま食蜂は物陰に身を隠し美琴を見つめる、同じく美琴も身を隠していたが怪訝そうな顔つきと共に隠れるのを止めたのは数秒後。

 

どうやら待ち伏せでは無いらしい。

 

「居ない…少なくともこの部屋には私達以外は誰も居ない。…結果オーライ…なの…?」

 

「…微妙よねぇ、理想を言えばここにいるであろう敵を何人か操って無線でダミー情報を流したかったから。ただ戦闘が避けられたのは良かったんじゃない?御坂さんが暴れたらこの部屋の機器類がご臨終しちゃうから」

 

「ひ、否定出来ない……じゃあ監視カメラの映像を手分けして確認するわよ。まずは地下通路で交戦中の超能力者2人組の確認、次は暗部の連中が追っていた『奴等』…だけど。これは情報に欠けるから見た目次第じゃ区別が難しいかもねー…」

 

警戒を解いた2人が室内前方に広がる監視カメラのモニターに目を向けようとしたちょうどその時、デスクに取り付けられた小型マイクから女の声が流れた。

 

『こちら地下の迎撃担当、忍び込んだLEVEL5は第7位の削板軍覇と第3位の御坂美琴と判明。内、第3位は交戦中に射殺した。至急処理班の手配を願いたい』

 

「ッ!?こ、これって…いや違う…!まさか…!」

 

「あ、あぁ…そんな…!まさか私の妹(シスターズ)を…!?何で…何で…ッ…!」

 

ようやく理解出来たわ…!。消去法で浮かび上がった有り得ないLEVEL5の組み合わせの謎――端から一方通行はこの施設を奇襲などしていなかったのよぉ…!

 

地下にいたのは削板軍覇と御坂美琴、しかし御坂美琴本人はこの場にいる――つまり地下の御坂美琴と思われる人物は偽物(フェイク)。………確かに、彼女には。御坂美琴には―――遺伝子レベルで合致する…偽物(クローン)がいる…!

 

「よ、く、も……よくも…!今すぐ全員を…!!」

 

「御坂さん、待ちなさい!これ、何かがおかしいわぁ!大体このタイミングで都合良く、しかも空の部屋に無線なんて有り得な―――」

 

「ご明察、ただ御坂美琴が反響定位を無意識に解く時間が数秒あれば私としては御の字なんだ」

 

これはついさっき無線から聴こえた女の声…!やっぱり、ねぇ……

 

ドサッ!

気付いて背後を振り返ろうとした時には既に全身の力が抜けていき強烈な眠気に襲われる。唯一首筋からピリリと走る鈍痛が食蜂の脳裏に「薬物」の二文字を浮かばせた。

 

に、げなさぁい……そんな悲痛な食蜂の叫びは御坂美琴には届かない。

 

もはや消え掛かる寸前の意識と声

 

激情に呑まれかけた御坂美琴

 

そして……2人の間を遮るように立ちはだかる狐の尻尾が生えた女性。

 

その女性―――八雲藍(やくもらん)は手元の注射器を投げ捨て微笑(わら)っていた




上条さんが転落した続きが読めると思った?残念、学園都市SIDEの話でしたー

まぁそのあれです、お前が1番の原因だろ!って話ですが。学園都市で奮闘する皆も忘れないであげて…?って言う話がしばらくは続きます。
当初は学園都市SIDEのメンバー3組×2話で片付けようと思ったんですが構想を練ってみると面白い位に誰しもが説明キャラに成り下がっちゃうんですよ!え?今も大概に?学園都市編は本当に久しぶりだから説明は必要なの!

そんな訳(?)で予定としてはもう少し学園都市編(各コンビ1、2話程度)をキリの良いところまで進めてから幻想郷SIDEに視点を移しまたしばらくして学園都市編を再開…と言う形にしようかと思っております。

「話がややこしくなるからどちらか絞って進めろ!」等のご意見があれば是非参考にしたいので宜しくお願いします。


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3人目のヒーロー

今回はちょっと話の中の時間軸が分かりにくくなってます、申し訳ないです。

ネタバレ防止の為に前書きでは記述を避けますが、後書きではこの話の時間軸を記しておりますので、お暇な方は2回目の閲覧にチャレンジor前もって後書きを読む等をしていただければと思います。


ミサカ10046号SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで空間移動(テレポート)のように背後から現れた女性は自らを八雲紫と名乗り自身が上条当麻を誘拐したと明言。またその安否も握っていると告げ―――何より上条当麻を返して欲しいなら私を倒せ…とも。

 

だから2人は挑んだ…いや挑んでしまったと言うべきか、大妖怪…八雲紫に。

 

勝てない、その感覚は理解すると言うよりは記憶を思い返すそれに近かった。

例えば妹達(シスターズ)が一方通行に嬲られるだけだったように…あまりにも実力差が開き過ぎるとどれだけ鈍くても考えるより先に答えが出てくる。

それほどの実力差があるのだ、彼女と二人の間には……

 

でも、とその事実を割り切るのにミサカ10046号は時間を必要としなかった。昔とは、実験動物だったあの時とは違う。

 

…いえ、もしかすると変わっていないのかもしれません。あの時も今も…ミサカの側には支え助けてくれる人がいます。

 

『いい加減…折れなさいな?貴方は何度繰り返そうと私には勝てませんわ―――念動砲弾(アタッククラッシュ)欠陥電気(レディオノイズ)

 

『負け、ませ、ん……絶対に…ッ…!』

 

LEVEL5第7位削板軍覇と御坂美琴のクローン、ミサカ10046号は―――薄暗い地下で大妖怪(八雲紫)に抗い続けていた。

2人が交戦を開始してそれなりに時間が経過したが攻撃は全て通用しない。銃撃、打撃、奇襲、その他etc……無論学園都市で7番目の規格外を誇る仲間の攻撃も…だ。

 

(私達の遠距離攻撃は謎の空間に吸い込まれ、軍覇の近接攻撃を日傘1本で弾き返す…!とても人間とは、思えない…!)

 

『……ミサカ、悪いな。守るなんて格好つけながら情ねぇ…でもやっぱりすげぇよ、コイツは…!気に食わねぇが滅茶苦茶強い…!』

 

空間移動(テレポート)念動使い(サイコキネシスト)…それも間違いなくLEVEL5クラス…尚且つあなたの身体能力を赤子の手を捻るようにあしらう、まるで妖怪ですね…とミサカは敵の分析を行ってみま…す…』

 

『確かに…私を学園都市の型枠に当て嵌めるのならば、その辺の能力に絞られるのが妥当ですわ。それに私は人間ではありませんから貴女の推察もあながち間違いでは無いわね』

 

なるほど…ここまでの現実を叩き付けられれば、そんな幻想(オカルト)も頷けてしまいます…!

ですが今はそれよりも現状を打破する策を考えなければなりません、例え万策が尽きた今でも…

 

『根性でどうにかしてみせる、そうでしょう…ぐん…は……』

 

『ミサカ…!?しっかりしろ、ミサカ!大丈夫か!?』

 

急に意識と無意識の境界が曖昧になる、これも敵の能力か…それとも既に意識がふらつくまでにダメージが蓄積したか

 

敗北と言う事実が足音を響かせて軍覇と10046号の背後に、紫が手を下さずとも直に体力気力が限界を迎える二人。誰がどう見ても敗色濃いこの瞬間―――の前に。一体彼等に何があったのか?時間を巻き戻して確認してみよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よく漫画や小説では場面が激変する際に登場人物は何らかの変化を感じ取るのが常……らしい。

例えば何の気無しの虫の知らせであったり、バトル漫画の主人公ならば空気の流れの違いでも感じ取ったりするのかもしれない。

とは言え彼女、ミサカ妹こと検体番号10046号のそれは痛烈と言えば痛烈。地味と言えば地味…何とも表現技法に困るのが悩みどころである。

 

それは時刻にして彼女の寝起き直後AM8:00の出来事であった。

 

『緊急連絡、緊急連絡!起きて、寝てても起きて!ってミサカは可愛い妹10046号をネットワーク越しに叩き起してみる!』

 

『可愛いなら叩き起こすなよ、とミサカは仄かな殺意を欠伸と共に噛み殺します…しかし何ですか?それも個別回線とは…』

 

『寝起きなら急いで!ヒーローさんが関わっているかもしれない情報を掴んだの、ってミサカは緊急報告してみる!』

 

『ッ…それは確かな情報ですか?とミサカは問いかけます。それに何故このミサカにだけ…』

 

『…ソースまでは話せない、でも信頼性は高いよってミサカは言い切れる。それに聞いた限りだと危ない組織も関わっているらしいんだ…』

 

なるほど…確かに現在ネットワークに公開されている限りでは他の妹達は協力者を確保出来ていない。基本的な銃器の扱いを覚えた程度の他の個体が群になるよりは…

 

『分かりました、幸いミサカの協力者の少年は腕っ節に事困りませんと過去の荒療治を回想しながら返答します。ところで他の妹達にはこの話は伝わりませんね?とミサカは上位個体への念押しを怠りません』

 

『うん、ネットワークの最深部に何重にもロックを掛けたからその点は大丈夫!ってミサカはミサカは胸を貼ってみる!』

 

『よろしい、ではこのミサカが夕方には何らかの新情報をネットワークにアップして愉悦に浸ってやると微かな一面を覗かせてみます。……それと上位個体、貴女が他の妹達に情報規制を図った理由とその意味を忘れないでください――と更なる念押しをミサカは行います』

 

『…分かってる、その情報に関しては10046号に一任するよってミサカは情報のアップロード準備を行いながら承諾してみたり』

 

そうして上位個体との通信を終えてミサカネットワーク(MNW)との通信を切断。朝でしかも寝惚けた状態での急展開、10046号はここでようやくベッドから脱出と共に窓から差し込む朝日をその身で受け止めた。

 

差し込む朝日は全身の細胞を覚醒させるには最適だが人間本来の怠けた感情が日光を受け付けない、と言うか嫌がる。恐らくはこのような感情を『人間味』と表現するのだろう、そこまで考え込んだところで10046号はフッと笑みが自然に漏れるのを数テンポ遅れて感じていた。

 

「さて―――この人間味、を感じるキッカケとなった少年を。私達のヒーローをいざ助けにいきましょう、とミサカ10046号は柄にも無く独りごちてみます。…ですがその前に」

 

やる事があるのです。

まずは寝巻きから着替える事もそうですし、戦闘になる可能性を考慮すればどれだけ簡単でも朝食は取らねばなりません。それに―――この家の家主にも話を通す必要があります、とミサカ10046号は早速着替えを実行に移しながら予定を脳内で――

 

「よっ、ミサカ!昨日は良く眠れたか?って悪い、着替えの最中だったか俺は風呂場にもど―――」

 

「ッ!!…少しは反省しろや、とミサカ10046号は最早この状況に耐性が付き始めた自身とあなたに呆れ果てながら制裁を加えます!!」

 

休日の朝8時、学生が大半のこの街であればまだ寝ている学生も多いかもしれない。そんな中響き渡った銃声はおよそ25発。

 

………これは余談だが。ミサカ10046号を含め妹達(シスターズ)不法所持(あいよう)しているアサルトライフルの装填数もまた25発とのこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

削板軍覇SIDE

 

 

 

 

 

謎(?)の銃声から約1時間が経過、張本人である二人の少年少女はとある施設を目指し学園都市第七学区の歩道を歩いていた。

 

 

朝から、それも自室で銃撃を受けた削板軍覇。とは言え本人がそれを気に留める様子はあまり無い。

それは勿論自分に非があるからに他ならない。悪意は無かったとは言え相手の嫌がることをしたのならばそれ相応の詫びは入れるべきだ…と彼の信条。しかしそれとはまた異なる理由が彼にはまだある。

 

「いやー、しっかし的確に眉間に叩き込む辺り根性じゃくて殺意入ってんな。その調子で今日も根性入れてカミジョー探し頑張ろうぜ!」

 

「えぇ、ミサカはもう突っ込みませんとも。例えあなたが銃弾を頭突きで叩き落とそうが噛み砕こうが…慣れましたから、とミサカは浪費するだけになった25発の銃弾達を憐れみながら思考を切り替えます」

 

そもそも削板軍覇、銃弾程度なら至近距離だろうが長距離からの狙撃だろうがお構い無し。大概は弾き落とすか噛み砕くかのどちらかで解決する上に被弾しようとも『根性』があれば勝手に治癒するのだから。

そんな訳で削板軍覇は今となっては居候として定着した少女からの銃撃など気にするまでも無ければ、ミサカ10046号もまた発砲を一切躊躇わない。

 

「なっはっは!!今日のミサカもいつも通りで安心した、それで今日はどこを探すんだ?」

 

「聞けよ、つーか朝食の時に話しただろ…とミサカは自身も知らない裏の人格が滲み出た事に驚愕しながら再度の説明を拒否します」

 

うーん……確かミサカは何処かの学区の何処かの施設…とか言ってたんじゃねぇか?しかし駄目だな、俺に根性さえあれば食事と会話くらい並行して…!

 

と、軍覇が悔しがるようなポーズを取った辺りで10046号の『いや、根性は必要無いのでは?』と言う的確な突っ込み。このボケからツッコミの滑らかな流れは、方向性は間違っているとは言え二人の呼吸がマッチしている事を感じさせた。

それもそのはずで彼等は同居しているのだ、住まいは軍覇の学生寮。理由は10046号のボディーガード兼緊急時に即座に行動を可能にするため。普通ならば年頃の男女が一つ屋根の下とは些か宜しく無い気もするが……そこは根性少年削板軍覇。自身の寝床を浴槽に変更すると言う提案に、10046号はワンクッション代わりの遠慮も無く承諾した事でこの同居生活は無事スタートした。

 

考えてみると一日に何回かはこの会話を繰り返してるよな、と俺は思い返しつつまずはミサカから話を聞き返す事にした。

 

「すまん、ミサカ!お前の話を聞いてなかったのは俺が根性無しだったせいだ、明日から気をつけるからもう一回頼む!」

 

「はぁ…とミサカはわざとらしいため息を漏らしつつ衣食住の内『食・住』で世話になっているあなたへの感謝の気持ちとの間で板挟みになってみます。……仏の顔は3度もあるそうですがミサカはそこまで甘くありません、ですからちゃんと聞いてくださいね…軍覇?」

 

「任せろ、俺も根性入れれば一回聞いた話は忘れないぜ!!」

 

「――今から向かう場所の詳細は省きます、あなたには大半が関係無い話ですから。しかし上条当麻に関連する情報がある『かも』しれない…推論の域を出ない話です、それに侵入すればタダでは帰れないかもしれません」

 

 

「それでもあなたは同行して―――いえあなたはしますよね、絶対に…とミサカは早々にあなたの退路を塞ぐと共に同行を強要します」

 

「おう!当たり前だ、俺達はカミジョーを助け出す為の仲間でコンビだろ?」

 

今更断る理由なんて無いからな、それに…そんな危ない場所へ女の子が向かうってのに足が竦むのは根性無しのする事だ!

 

「えぇ、えぇ―――仲間です、仲間ですとも。ミサカは心地良い響きと安心感に胸を震わせます」

 

「……今更ですが軍覇、ありがとう――軍覇のお陰で少しは不安が安らぎました」

 

…気の所為、か?ちょっとだけミサカの表情が暗かったような…でも安心した、とも言ってたよな?

大丈夫か、ミサカ―――と俺が聞こうとした瞬間にまたミサカは口を開いた。

 

「幸いその施設にはミサカは何度も出入りしていますし秘密の侵入経路も暗記済みです、とミサカは映画でありがちな前を向いたまま話しかける粋な会話術を展開しま――」

 

「おぉ、つまりはミサカは敵の建物について分からないことは無いんだな!」

 

と前を向いたまま自然体で話しかけるミサカ10046号に対して自然体が素直な軍覇少年。大きな地声で『敵の建物』と漏らしつつ即座にミサカ10046号に身体を向けてしまう。これではミサカ10046号が大きなため息を漏らしてしまう事は致し方無い話である

 

「少し位、警戒心は抱けないのですか?とミサカはあなたの知能指数の認識と信頼度を二段階ほど落としてみます」

 

知能指数は構わないが信頼度はちょっと悔しいな…根性入れて信頼度を取り戻さねぇと!

 

そんな本音を隠さないミサカが言うにはその施設は部外者はまず真正面から入る事は出来ないらしい、確かに警備は固そうだよな!でも秘密に出入りする人達の為に離れた建物から地下通路が繋がっていて、そこからなら楽に入れる。今回俺達はこの地下通路を使うわけだ。

 

そうしてミサカ10046号の的確な指示、軍覇の人間離れした身体能力が見事に組み合わさり地下通路への侵入は難無く成功。何とか第一段階を突破したと言えるだろう。

 

「しっかし何でこんな地下通路をミサカは使うんだ?もし前にも施設に来てたんなら顔馴染みのよしみで玄関から訪ねても良いし話くらいは聞かせてくれそうだけどな」

 

「あなたにしては珍しく的確な質問ですね、頭でも打ちましたか?とミサカは的確な質問を的確にはぐらかしてみます」

 

「こう見えても身体と根性は鍛えてる!頭を打ったくらいじゃ平気だぜ」

 

「そうですね、銃弾を物ともしないフィジカルな訳ですし。……質問に答えましょう、ミサカは一時期この施設に頻繁に出入りしていました。目的は話せませんが仕事の一環と思って貰って構いません」

 

「ですが数ある部屋の内の幾つかを事務的に使っただけですから施設の職員と私的なつきあい、増してや機密情報を聞き出せるような繋がりはありませんとミサカは早速暗視ゴーグルの着用を始めます」

 

なるほど、つまり入った事はあるが職員と仲良くは無いって事か。確かにミサカの言う通り……ん…?それだと何かおかしく無いか?

 

ミサカは以前、施設に頻繁に出入りしたがそれは仕事の一環だった。だから職員と付き合いは無いし詳しい事は知らない。……じゃあ今俺達が進んでる地下通路をミサカが知っているのはおかしい気がするぞ、ミサカ自身も秘密の通路だって言ってたしな

 

軍覇自身、超能力者(LEVEL5)の第7位という格付けでありながら頭の回転は良い方では無い。定期考査の後に行われる成績『不』優秀者を対象とした補修でも彼は常連メンバーだ。

そんなお世辞にも考える事が苦手な軍覇が気付いたのだから余程の事なのだろう

 

ちなみに彼等が今現在走っている地下通路、勿論ながら電灯などない真っ暗闇である。特殊な装備や異常な身体能力を有していなければ歩くことすらままならない暗闇を軽快に駆け抜ける2人。……だが何かがおかしい、2人の軽快な足音にどう考えても人が走るだけでは発生しようがない音が混じり始めていた。

 

『侵入者発見、侵入者発見。即座に担当のチームは侵入者の捜索と迎撃に向かってください』

 

「なぁ、ミサカ。一つ聞いて良いか?」

 

『ビーッ!ビーッ!!』

 

「構いませんよ、その質問の内容は読めていましたから。とミサカは無駄に勘の働くあなたに舌打ちをしつつ……ん?何ですか、このうるさい機械音は……」

 

「あぁ、多分地下通路に入った瞬間に巡回ロボがいたからその警報の音じゃないか?ほら、聞こえる音もそんな感じだぞ」

 

「確かに、警報音ですね……って違う!!あなたは何でそんな大事な事を真っ先に言わないんですか!?馬鹿なんですか、いえあなたは馬鹿でしたね!とミサカは先程言及したあなたの知能指数について失念していた事を心底後悔します…!」

 

「だ、だって勝手に侵入して勝手に備品を破壊するなんて卑劣な真似出来ないだろ!それに俺が見つけた時は気付いた様子は無かったんだ!」

 

「律儀か!?律儀なんですかあなたは!?じゃあミサカ達が初めて出会った時にあなたが破壊した公道は何です?暗部の備品を破壊するより何万倍も公共の福祉を妨げていますとミサカは八つ当たりと武器の展開を並行しますッ!」

 

危機的状況下(ピンチ)に置いてもボケ続ける、もといブレない軍覇相手に10046号もまたツッコミを忘れない。

だがしかし、2人の状況は即座にツッコミの余裕も無くなる程となった。何せ敵の展開が早いのだ――第1陣の改造警備ロボ部隊。念動砲弾(アタッククラッシュ)相手には足止めにもならないが第2陣の後続部隊到着までの時間稼ぎ程度にはなる。

 

「…悪かった、ミサカ。俺が腑甲斐無いばっかりに無駄なピンチを呼んじまった、ここは俺が何とかするから任せ…いッてぇ!いきなりビリビリは止めろよ…!」

 

集まり始めた機械軍団に1発叩き込もうとした瞬間、背中に静電気より強い痛みを持つ電流が流れ込む。これは間違い無くミサカのビリビリだよな…!

 

「ツッコミ代わりの電流です、文句は後で山ほど言わせてもらいますから先ずは敵を片付けましょう!どう考えても地下通路を破壊しかねない規模の武器を装備したロボは任せます、と早速ミサカはマガジン内の弾を全て敵に浴びせつつ指示を出します!」

 

「お、おう!ミサカに怒られるのは怖いが今はそうじゃないよな!よーしミサカ――こいつらに、こんな物騒な銃火器(オモチャ)を操る奴等に命をかける義理はねぇが」

 

「はぁ…あなたは本当にブレないと言うか何と言いますか…。まぁ、そんな訳で……ここは少しばかり根性を出します」

 

「だから…本気で潰すぞ」

 

先手必勝、仕掛けたのは…巡回ロボの一体。車輪の取り付けられた四本脚を動かし高さと位置を調節、素早く彼等の死角から秒速25発の銃弾を放つ。それに続いて他の機械達も我先にと2人のいる一帯に弾幕の雨を降らせ続ける。

 

だが駄目だ、いや問題外なのだ。そもそも前提が間違っている。

 

超能力者相手に対人の通常兵器では話にならない?…違う

 

間違っている、根本から履き違えている。まず『倒せる、倒そうとする』と言う所から的外れなのだ。それが例え侵入者を感知して自動で迎撃に当たるシステムとは言え―――念動砲弾(ナンバーセブン)を知る者がこの出来事を見れば皆が皆口を揃えてこう吐き捨てるだろう。

 

「根性無し、本当に根性無しです―――」

 

「機械相手の説教が馬の耳に何とやらであれ、そう告げざるを得ない―――まず土俵が違う。そうミサカは機械相手に独りごちてみます」

 

「確かにまぁ、2人を大人数で囲って弾幕の雨ってのは卑怯だよな。原因が俺達にある分ちょっと気が引けるが…女の子に浴びせるもんじゃねぇな、銃弾(コレ)は。だから全部、返すぞッ!!」

 

当然2人に被弾どころかかすり傷も無い。何故なら銃弾は彼等を包囲するように――停止しているのだから。

 

蜃気楼の波動、とはミサカ10046号の代弁。

確かに彼等を貫かんと地球の物理法則に従っていた銃弾はその全身運動を見えない『ナニカ』によって停止した。―――だがこれで終わりではない。

 

ヌンッ、と空気を握り潰すように指先を何も無い空間にくい込ませる。後はこの振り上げたこの腕を下ろせば…!

 

「すごいガードを超える新技、超ハイパーエキセントリックすごいガードだ!!」

 

すると不思議な事に銃弾は綺麗に跳ね返り周囲のロボ達の元へ返っていく。現象だけを見れば一方通行(第1位)の反射に似通った物ではある、ただ根本は全く異なるのだが。

 

 

「さて、ここからが本番です。いい加減に増援部隊も到着するでしょう、向こうは機械と違って戦況に合わせて臨機応変に対応します―――根性、叩き込めますか?と野暮な質問をミサカはわざと投げ掛けます」

 

「おう!カミジョーの事を知ってるかどうかまでははっきりしないけどよ、少なくともこんな真似するような連中だ。―――俺達みたいには身を守れない奴が犠牲になるかもしれない、だったらここで俺達が根性見せねぇと…だろ?」

 

それに―――ミサカ、お前は守るって約束したからな。

 

だから守る、お前も――お前が守りたいと思える人も。だからもう少し待ってろ、カミジョー…!すぐに俺とミサカが助けに行くからな!!

 

 

 

 

「超、すごいパァァァンチ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲紫SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取り立てて興味がある訳では無かった。

 

世界最大の原石と進化の糧に成り損ねた人間の模造品、その程度の認識でしかない

 

「……ゆっくり休んでろ、ミサカ。コイツは俺が必ず倒す」

 

まぁ確かに、人間にしては頑張った部類に入る。

 

重武装の訓練された兵士を何十人も敵に回して対する仲間は自分も含めて2人だけ。

 

勿論無駄な戦闘を省くためこちらは2人が兵士を粗方倒し消耗したタイミングを見計らって顔を出した。

 

……それでも10046号とは違い未だに紫は軍覇の意識の境界に干渉出来ないでいた。

 

(それが根性……とでも言い張る気?…馬鹿も休み休みになさい)

 

「諦めない、それも根性かしら。おめでたいのね」

 

「そうだ、俺は根性があるから今も立っていられる。ただこの根性はこれまでの俺1人が頑張れば良い…なんて軽い物じゃ無い」

 

「どういう意味?」

 

「…俺が今諦めるのは簡単だ。でもな、今諦めたら…カミジョーは誰が助けるんだ?俺に負けない位の根性を見せたミサカの努力はどうなる?―――俺が諦めるって事はカミジョーを見捨てる事だ、ミサカの根性を踏み潰す事だ」

 

「そんな真似…根性以前の問題だ」

 

成程、これが…世界最大の原石、削板軍覇。

きっと彼のような人物をヒーローと言うのでしょう。

誰に教えられなくても、自身の内から湧く感情に従って真っ直ぐに進もうとする者―――三種類存在するとされるヒーローの一種類

 

(彼は上条当麻、上白沢慧音…に次ぐ3人目。彼等が居れば、彼等が団結すれば―――いえ。今は悪役に徹するとしましょうか)

 

「でしたら、貴方の根性と私の悪性。どちらが上回るか……根性を入れ直して吼えてご覧なさい」

 

何が貴方を…貴方達ヒーローを突き動かすの?正義感?

 

「当たり前だ…行くぞ…!」

 

簡単に散ってしまう人間なのに何故正義感だけで立ち上がるの?

 

軍覇の初速は音速を超える……狭い地下通路でさえ無ければ。

 

軍覇は自爆覚悟ならば紫に痛手を負わせられたのかもしれない……軍覇自身が死ねない理由を見出していなければ。

 

(彼は、念動砲弾は、削板軍覇は―――)

 

「きっと救える、上条当麻も。その仲間も……だけどごめんなさい、私にも貴方と同じように護らなければならない――諦める訳にはならない場所があるの。だから今は…譲って頂戴」

 

「これが俺の…フル根性だァァァァァァ!!」

 

「境符『四重結界』!」

 

軍覇の右手に集まる『ソレ』…即ち謎の力

 

紫の正面に張り巡らされた四重の結界

 

軍覇は『ソレ』を結界に叩きつけるだろう

 

紫は『ソレ』を結界で迎え撃つだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

……剣客同士の死合は達人であればある程即座に決着が付くと言う。

他にもガンマンの対決然り―――それはこの場に置いても。削板軍覇と八雲紫のぶつかり合いでも同じ事。

 

舞い上がる土煙の中、浮かび上がる影は一つだけ。

 

その影の主は―――

 

「まさか――二枚目の結界が半壊するなんて、それも消耗しきった人間を相手にして…」

 

「本当……貴方のようなヒーローは、何時も私の予測の範疇を超えてくれるのね」

 

浮かび上がった影の主……それは八雲紫だった。




ミサカ10046号SIDEの現在編→削板軍覇SIDE→ミサカ10046号SIDEの回想編→八雲紫SIDE


となっております。それと次の更新は4月下旬になるかもしれません。御容赦を。


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第1位の矜持、第3位の意地

八雲紫SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食蜂操祈は既にダウン、この調子ならば御坂美琴もすぐにダウンの知らせは入るだろう。元より差が歴然と開いているからこその藍をわざわざぶつけたのだから当然の結果ではあった。

 

次に削板軍覇とミサカ10046号だが…こちらは確認するまでもない。紫自身が叩き伏せた上に現に二人は彼女の前で意識を失っている。これも又先程同じ理由で見えていた結果、多少心こそ揺れたとは言え紫のプランを反れるには至らない。

 

そして残すは一組、人数にして二人。監視を任せた式からその二人が自身のプラン通りに動き始めたとの報告もあった。

 

事は不気味なまでに恙無く、しかも迅速に運んでいる。

 

全く問題は無い

 

だからこそ(・・・・・)紫は苦い顔持ちで呟いた。

だがその呟きは独り言ではなくこの学園都市(いきょう)に放り込まれた式へと向けられたものだ

 

『藍、貴女ならじゃれ合いの片手間に私と話す余裕は持ち合わせているでしょう?』

 

『えぇ、えぇ。しかし紫様、あえて文明の利器ではなく魔術による通信を選んだのは大正解です』

 

『第三位の超電磁砲、怒りに身を任せて狙いもつけずに放電を繰り返しています―――っと危ない…これでは電波通信なんてあったものじゃない』

 

『―――藍、その報告は後で良いから今すぐ第三位を片付けて私に合流しなさい』

 

『お言葉を返すようですが、何故でしょう?紫様の指示された定刻までには十二分に片が付きますが』

 

第一位(あらし)が来ます、とてつもなく大きなこの街では収まりきらず――――この世の科学の頂点に君臨する第一位(あらし)が。嵐を制御するには非常に骨が折れる、万が一を考慮して…ね』

 

『分かりました―――じゃれ合いは終わりにして第三位を片付けます、すぐにそちらで落ち合いましょう』

 

そうして交信は終了した。恐らく藍は第三位に本気……とまでは行かずとも圧倒程度はするつもりなのだろう

 

「悪い癖ね、本当に―――藍。貴女は科学サイドを見下し過ぎるキライがあるわ、今まで何人の魔術サイドの者が科学サイドだと見下した上条当麻に敗北したのか…知らない訳では無いでしょうに」

 

――――幾ら何でも過敏過ぎるだろうか?

 

理解不能な力を備えているとは言え彼等はまだ己の全力すら掌握出来ない子供達。科学サイドも、魔術サイドも淘汰しうる藍や紫……『幻想サイド』からすれば能力の序列など馬鹿げた話だ。

 

――――初めは幻想殺し(かみじょうとうま)の中身を映像で見た時だった。

 

瞳孔が開いていた、すぐに理解出来た、『コレ』はあまりにも危険過ぎる…と

 

だからこそ紫は削板軍覇と交戦した際に加減こそすれど見下しはしなかった。自分が何かの拍子に足元をすくわれる可能性が0とは言い切れなかったから

 

「―――ここからが、今この瞬間からが―――学園都市第一位を相手取る時からが正念場。加減なんてしていれば足元をすくわれるでは済まないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

科学サイド、残す戦力は御坂美琴・一方通行のみ

 

幻想サイド、残る戦力は八雲紫・八雲藍…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藍は呟いた

 

 

「残る戦力は紫様と私…充分過ぎる」

 

 

紫は呟いた

 

「残る戦力は私と藍…のみ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方通行SIDE

 

 

 

 

 

 

 

モーニングコール

 

 

一般的には朝、目覚まし代わりの電話や知らせを指す。

 

だが一方通行にとってモーニングコールとはニュアンスこそ同じなれど余り良い思い出はない

 

例えばある朝は同居している幼女に叩き起されたりするのだが。鳩尾へ落下速度が加わったダイブを一方通行はモーニングコールと認識出来なかった

 

他にも愉快痛快なモーニングコールを彼は味わって来たのだが……今日のモーニングコールはその中でも癪に障るという点で群を抜いていたのは確かだろう

 

今日のモーニングコールは携帯の呼出音、寝起きの彼は無意識に相手の名を確認することなく呼出に応じた

 

『おはようございます、一方通行。実は折行ってお願いがありまして』

 

『死ねよクソが…何でよりにもよって今日のモーニングコールがストーカーからのモンなンですかァ?』

 

『寝起きから死ねとは寝起きが良いのか悪いのか……しかし今はそんな事はどうでも良い、以前あなたと小さな御坂さんが追っていた件の新しい情報が入りまして』

 

途端、一方通行のスイッチは即座に切り替わる

 

『その話、詳しく聞かせろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御坂美琴と食蜂操祈は研究所への侵入を上空から

 

削板軍覇とミサカ10046号は地下からそれぞれ行った。

 

当然彼等は打ち合わせや示し合わせなどは一切行っていない。それは研究所の正面に立ち塞がる彼とて同じこと。

だが…偶然かそうでないのかはさておき、一方通行は正面入口からの侵入を測っていた。

 

『まっ、クソ共の隠家にはお誂向けってかァ。外装は一般施設に偽装することでかえってカモフラージュ、そのカモフラージュもストーカー慣れした野郎にかかれば意味もねェンだがな』

 

『アハハ、これは手厳しい。ですが一つ訂正しておきます、自分は御坂さんの安寧を願いそれを守ろうとしただけです。決してストーカーなどではありませんしこの役目も本来は自分の役割ではありませんから』

 

電話越しでも彼の声色は変わらない。常に笑顔で爽やかに…海原光貴の仮面(・・)を被り続ける少年。敢えて彼を海原光貴と呼ぶべきか?否、そう呼ばれるべきなのだろう

 

『―――そして、肝心の内部情報ですが外部からのハッキングを一切受け付けない。明らかに本来のセキュリティレベルを越えたファイヤーウォールの構築、何を警戒したかは知りませんが面倒な話です』

 

一方通行は通話を維持したまま受付に目を走らせるが人どころかその気配すら感じられない

 

(…海原の話はマジ…らしいなァ、元より封鎖されて悪人共の隠家になるよォな建物で受付嬢がいたらそれはそれでおかしな話だが)

 

『――ではここで改めて情報を整理します、どうせ一方通行も今から弾を込めるんでしょう?』

 

『ご名答ォ、だが要約は装填を終える30秒以内にしろよ』

 

常盤台の国語の入試でさえそんな無茶苦茶な要約は問われませんよ…なんてぼやきつつ手早く海原は要点を纏め始めた

 

・この施設はとある暗部組織が使用していたものではあるが利用開始時期はかなり日が浅い

 

・暗部が解体されたはずの今、何故その組織が存在しているのか等詳細は一切不明

 

・上記二点を踏まえこの組織は比較的創設後日が浅いと考えられる

 

『わざわざ要約するほどの情報はありませんが…何か質問は?』

 

『ンだァ?質問なンざねェよ、それと前もって言っとくがあのガキは置いてきた。テメェとくだらねェ言い合いをしてる間も勿体ねェからよ』

 

『結構、では無事の帰還を願いますよ』

 

『誰の、とは野暮だから聞かねェぞ』

 

そうして通話を切ると改めて一方通行は辺りを見回して呟いた

 

「妙、だな。クソ共の掃き溜めの割には殺気もねェ、オマケに部外者の侵入だっつゥのに出迎えも無し……まァ表向きには廃墟ってンだから間違っちゃいねェけどよ」

 

それにしても…気に入らねェ、あの一件で暗部は解体したンじゃなかったのか?大体何で今のタイミングで情報が漏れた?そもそも解体を免れた程の暗部組織を何故海原が名前も知らねェ?

 

考えれば考える程謎が謎を呼ぶ、一方通行に取っては久しく覚えた感覚であった

 

(……止めだ、領分を弁えねェ三流(かくした)一流(オレ)が叩き潰す。謎もクソもねェ、少し前と変わらねェだろうが)

 

どうやら光の世界で俺は照らされ過ぎたらしい、一々クソ共を叩き潰す事に理由が必要か?…ダメだよなァ、そンなンじゃ全ッ然ダメだ

 

この先は光の無い、暗い道

 

この先は落ち度無しに命を奪われる奈落の底

 

この先は悪意に天井が無い空間

 

そしてこの先は――――

 

「俺が通ってきた道、その物だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲藍SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷は一般的には『降る』と表現する。

 

最も…それは自然現象として大地を穿つ雷であれば、の話だ。

 

その一室では摩訶不思議な事に電撃があらゆる角度からある一点にのみ集中していた。これでは雷が降る…とは表現出来ないだろう

 

「いい加減にしないか、怒りで我を忘れた電撃に臆する程式神は温くは無い」

 

「…何だ、喋れたのね。それに式神…さっきから私の攻撃を防ぐ半透明のバリア、自分を科学の範疇を超えた式神という人外だと思い込み自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を拡張・強化。…最悪超電磁砲(ワタシ)心理掌握(コイツ)を同時に相手取っても劣らない自信はあるって訳」

 

「――まぁそういう理解で構わない、元より根本が違うんだ。分かり合いたい訳でもないからな」

 

「あっそ…じゃあとっとと終わらせて貰うわよ…!」

 

「こちらもそのつもりだ、決着は急がせて貰う!」

 

再び美琴は藍へ電撃を放つ、その威力は既に内装や設備を一撃で無に還していく。幾ら藍が式神であるとは言え何発も被弾出来るものではない。

 

勿論藍とてそれは承知の上、的確に雷を捌き続けては虎視眈々と美琴を沈めるその一撃を伺っている

 

(…とまぁ、超電磁砲は考えているだろうな。いや実際にこの電撃を浴びるわけにはいかないのだが)

 

それでも彼女は八雲藍、八雲紫の式神である。身を焦がす電撃など見慣れたを通り越して見飽きた部類、この程度の電圧ならば幻想郷の住人達が用いる弾幕の方が未だ警戒に値する

 

(…本来ならば超電磁砲が集中を欠いた所を叩くつもりだったが、時間が押している。食蜂操祈(ウィークポイント)を狙うとしよう)

 

美琴は苛立っていた。

 

科学Side(じぶんたち)を見下す藍の表情や言動に

 

反響定位で感知できた筈の不意打ちを見逃し食蜂操祈を守れなかった自分に

 

…何より先程から一向に収まらない謎の不安に

 

そんな美琴が未だに怒りに呑まれないのは守らなければならない存在があるからだ。

 

(事前の情報では二人は犬猿の仲と聞いていたが、見捨てる程冷めきってもいなかったのか?―――とにかく。施設の耐久度を考えれば十八番の超電磁砲や落雷、心理掌握を巻き込み兼ねない大放電は警戒しなくて良い。)

 

何にせよ中途半端に食蜂操祈を庇いながらでは乱雑な攻撃しか繰り出せない事は当然、そんな揺れる美琴の隙を藍が見逃す訳も無い

 

そしてその瞬間――光の速さで空間を走り抜ける電撃が藍の腹部へ被弾するその刹那より僅かに前のタイミング

 

「貰ったッ!」

 

「しまっ…!食蜂…!!」

 

藍は特に何か変わった技を放った訳でもない。これまでと同じく結界を用いて電撃を弾き返したに過ぎないのだ。問題は弾き返された電撃の矛先が…意識を失った食蜂操祈だったという点にある

 

(あぁ…馬鹿だなぁ、私…あの九尾の掌の上で踊らされて…。この展開だってずっと警戒してた、食蜂がダウンした時点で全力で撤退すべきだった―――――上条当麻(アンタ)なら…あんなヤツすぐに倒しちゃうのかな…?)

 

気絶した食蜂を狙い撃ちされてそこを庇いに入った美琴が叩かれる。分かっていたし警戒もしていた…が藍は美琴よりも何枚も上手だった。だからこうなった、分かっていた――――だから美琴は考えるよりも先に食蜂に飛びかかっていたのかもしれない。

 

「ッ…!こんな運痴に私の電撃なんて浴びせたら一発で昇天しちゃうじゃない、の……」

 

何とか間一髪の所で電撃を無効化、食蜂操祈は無傷で済んだ。

 

だが忘れてはならない、何も藍は気絶した食蜂に追い討ちを掛ける為に電撃を弾いたのではない。本命はあくまで―――

 

「お前だよ、第三位の超電磁砲。電撃の速さを抜いて間に合った事は賞賛に値するだろう、だが…余りにも場面展開が稚拙過ぎる」

 

「そもそもお前が放った電撃は人間でさえ致死量には値しない、火傷やその他の後遺症こそあれどこの展開で…被弾すると分かっていて庇う理由があるのか?心理掌握は好き好んで組んだ間柄じゃないだろうに」

 

一滴、また一滴と零れ落ちる…御坂美琴(しょうじょ)の唇から紅い液体が。美琴はその雫を飲み込み、拭いながら立ち上がる。

 

「まだ続けるのか?理解が及ばないなら教えよう、今お前の腹部は戦闘続行が叶う状態じゃない。続けるだけ無駄だ」

 

美琴が食蜂を庇ったその瞬間からコンマ数秒の後、つまり藍は電撃を食蜂に向けて弾き返すとほぼ同時に数発の弾幕を放った。美琴は電撃使いとして余程の高圧電流で無ければ電撃は無効化するも弾くも自由自在、だが非科学の魔力弾幕ではそうは問屋が卸さない

 

「…自分の身体の事なんだから、んなこと私が一番分かって…テテ…るわよ…でもね。負けさせちゃくれないのよ」

 

「何…?」

 

「アンタには…ううん、この感情を理解してくれるヤツはこの世界に一人だけ。その一人すら今、私の世界から消えようとしてる……そんなヤツが今どこでどんな苦しい思いをしてるとも解らないのに…!私一人が暴走して仲間を巻き添えにして降参…?そんなふざけた真似、私自身が許さない…!」

 

「何よりッ!降参すら許されなかった妹達が私にはいる、そんなあの娘達を救えなかった私に降参の権利は無いんだから…!!」

 

「…最早そこまで来れば狂気だよ、お前のその正義は」

 

「狂気でも良い、狂った程度でアイツに手が差し伸べられるなら…知らないとは言わせない。何かしらは知ってるはずよ、上条当麻に関する何かをアンタは…!」

 

―――だから学園都市という地獄は嫌いなんだ。そこに住まう者達を私は心底軽蔑する。

 

弱い人間のくせに異能とそれによる発展を求めその欲は天井を知らない。

 

そんな発展に囲まれた子供達は何時しか『何かを成さなくては』と考えるようになる。そんな思考が何万何十万と集まれば『何か』のハードルは自然と跳ね上がる

 

普通では届かぬハードルを飛び越そうとした彼等は―――ごく自然に狂っていく、壊れていく。

そんな者達の骸を足場に時折ハードルを超えてしまう飛び抜けた哀れな子供達……それが超能力者、LEVEL5。この地獄を造り出した者に食い潰される運命にある7人の少年少女。

 

(……学園都市は何一つ変わってなどいない、『あの時』と同じだ。何もかも……)

 

「あぁ、知っているとも」

 

あぁ知っている、私達が攫ったのだから

 

「だったら、洗いざらい話して貰うわよ…!」

 

…止めるんだ、そんな踏み込みでは腹部に掛かる負担が大き過ぎる。

 

…止めるんだ、私を倒す電撃に演算処理を回す位なら先程のように生体電気に干渉しろ。その方が痛みはずっと和らぐし身体も傷付かない。

 

何度藍は止めろと心の中で叫んだか。届くはずのない攻撃を繰り返されるのは見ていて腹が立つし虚しいだけだ

 

そんな藍の叫びも届かず、美琴は宣言通り一歩も退かない。常に操祈を背後に庇いながら、演算処理を阻害する激痛の中藍へ繰り返し放たれる電撃の数々。

 

電撃の数々、そう言えばまだ聞こえは良いかもしれない。しかし…その場にいる者であれば誰であろうと分かる。

 

「…止めるんだ、もう自分でも気づいているはずだ」

 

「…る…さい…同情なんて、いらない…っての…」

 

端から乱れた精神、理解の及ばぬ非科学(げんそう)の力、そして10代の少女にはあまりに不釣り合いの激痛―――それら全てが彼女自慢の『電撃』を見るに耐えないレベルまで劣化させていた。

 

「…デンキウナギは放電の際自らも感電している、しかし平然としているのは感電から身を守る備えがあるから。それは発電と同時に体内へ流れる電流を逃がす演算処理を行うお前も同じだろう」

 

「だが今のお前は違う、私と遭遇する前から僅かに精神が乱れていた上に集中を阻害する激痛。――私への攻めにしか演算が回っていない、するとお前の身体には放電した何割かの電流が流れ込む」

 

「…ハッ。馬鹿に…しないで、その程度の痛みで…能力が使えないなら、LEVEL5なんて…やって、られないわよ…!」

 

…やれやれ、中々どうして

 

「やっぱり私は嫌いだよ、学園都市が…学園都市に住まうお前達が…!」

 

「奇遇ね、私もアンタはいけ好かないっての…よッ!!」

 

学園都市の住人達は私の機嫌を逆撫でしてくれる…!

 

八雲藍は弾幕ごっこを含めた闘争よりは話術や交渉術などを用いて闘争を避ける傾向にある。それは本人の性格や式神という立場による物が大きい。

だが彼女とて九尾、本質は妖怪―――妖怪とは人間を力でねじ伏せ、蹂躙する

 

やはり放電の継続には支障があるのか美琴は戦法を切り替え砂鉄の剣を精製する。対する藍は砂鉄の剣の切れ味と間合いの広さに……九尾、九つの尻尾(てかず)で応戦する。勿論九つ全ての尾には妖力が込められ機動力も強固さも跳ね上がった。

 

砂鉄剣(いちげき)九尾(てかず)か―――

 

同時に複数撃の刺突を絶えず放つ藍に対して美琴もまた変幻自在の間合いと形状、触れれば即切断の切れ味で藍に予断を許さない

 

(成程―――常に一手の超電磁砲に九手の私が攻めあぐねるか。だがあぁも好き放題に形状を変化させられては最低5本は防御に回さなければ…!)

 

即、斬………人を斬った事の無い美琴、ましてや砂鉄剣には峰など存在しない。手加減は一切期待出来ない、つまりは――――一撃喰らえば敗北も有り得る

 

(……コイツは防戦一方、でもコイツの目が私に慣れて攻める尻尾がこれ以上増えたなら…洒落にならないわね…)

 

(一度距離を取って…いや駄目だ、この剣のリーチはほぼ無限。耐久戦に持ち込めるのなら理想的だが紫様からの命令がある以上早期決着は大前提…)

 

(間合いを離される心配は無い、それより厄介なのは時間を掛けすぎる事ね。手数は相手が何倍も上、耐久戦に勝ち目はない…)

 

「この一撃で…!」

 

「ケリをつけるッ!!」

 

仕掛けたのはほぼ同時、強いて順番を付けるならば僅かに美琴が先手を取った

 

ムチのように撓る長い刀身を短縮、右手は柄尻左手は柄に添えるだけ……そう平突き。藍のガードを破るならば『斬る』よりは『突く』の方が遥かに理に適っている。

 

ならばと藍は妖力を込める尾を減らし一本辺りの強度を強化、残る尾で美琴の一撃をいなした後にカウンターの刺突でトドメを刺す。

 

勝つのは――

 

…藍か?美琴か?

 

九尾(てかず)か?砂鉄剣(いちげき)か?

 

(が、甘い…!平突きならば今までとは違って動作が全て読める!突き出すタイミング、刃先から推測されるターゲットポイント…この勝負貰ったぞ超電磁砲!)

 

刃先と軸足の左足から藍は一瞬たりとも目を離さない、動き出せば即座にぶつかり合う瞬間を見越して全力でガードする。

 

完璧だ、完璧な運び――――のはずだった

 

だがおかしなことに美琴の軸足が動かない。今更怖気ついたか?そんな感情さえ浮かび上がったその瞬間

 

「…馬鹿ね、私は剣道なんてしたことないから正しい足裁きなんて知らないわ。だからいくら脚の動き(・・・・)を観察したって無駄よ」

 

「何…ッ!?」

 

藍はここでようやく気付いた。御坂美琴は戦術の一環に砂鉄剣を取り入れただけで剣道の経験者でもなければ武道の心得もない、そんな人間がまともな平突きを放てる訳が無いのだ。……そう、『自分の体捌き』では

 

藍は一秒にも満たない間にその事に気がついた、いや考え辿り着いたと言うべきか?だがそれはつまり…思考の間意識が砂鉄剣から離れていた事に他ならない!

 

―――突き、つまり剣を突き出せればそれで良い。ましてや美琴の剣は…

 

『一度距離を取って…いや駄目だ、この剣のリーチはほぼ無限』

 

リーチは無限、その伸縮は自由自在

 

瞬間的に縮んだ砂鉄剣は今度は真逆に一気に伸びる。

伸びるその先に藍の尾を捉えた刃先は……確かに尾と身体を貫いていた。

 

「グッ…ハッ……!?」

磁力により伸びた刃先、否。最早磁力で突き出された刃先は藍の右肩を貫くだけでは飽き足らずその身体を吹き飛ばした。

 

「…正直危なかったわ、アンタがもっと私に警戒して殻に籠るようにガードされたんじゃ不意の突きようもなかった。大体今の一撃もアンタが私にタイミングを合わせてガードするつもりなのが分かったから良かったものの…」

 

「私が…ッ…お前を観察し動きを読む前提で……敢えてモーションが完全に盗める突き技を選ん…だな…?」

 

「私はまんまと引っかか、り…突き出されるタイミングだけに気を取られ瞬間的に伸びる砂鉄剣の発見が遅れた…か……」

 

「…とにかく私の勝ちよ、洗いざらい私からの質問に答えなさい」

 

肩口に突き刺さった剣先は藍の苦痛と共に引き抜かれその在り処を首筋へと移す。勝敗は決した、幾ら人間と妖怪の実力差とは言え僅かでも動けば首が跳ねられる状況では打てる手も無い。

 

 

 

……申し訳ありません、紫様。私は、私は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また『ミサカ』を救えなかった……」

 

「今、アンタ何て……!」

 




何から謝れば良いんでしょう?やはり投稿が遅れたことか…

ですがこればかりは言い訳しません、書くだけ言い訳のようで心苦しいですしきっと皆様も見苦しいと思います。

とにかくこのお詫びはこれからも投稿を続けるということでお許しくださいませ。………なるべく一ヶ月に一本のペースで頑張りますです、はい。


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猛る者、抗う者、堕ちる者

御坂美琴SIDE

 

 

 

 

 

 

 

コイツは言った、確かに呟いた…!

 

「なん、て…?今アンタ何て呟いたのよ…ミサカが救えなかった…?」

 

「アンタも…あの実験に加担してた訳?」

スーッ…と心が冷めていく感覚がした。

激情も、興奮も…今までの感情全てが冷めていく。ただ分かるのはこれが冷静と呼べる心理状態ではないこと、ただそれだけ。

 

「否定はしない…あぁ、そうさ。私はとある事情から実験の一部に関わっていた、とは言え私が噛んでいたのは実験の本質とは全く関わりの無い部分だったが…ッ」

 

何時の間にか藍の首筋から零れる紅い液体

砂鉄剣の触れた箇所からそれは確かに零れ出していた

 

「質問しているのは私よ、聞かれたことだけ答えなさい…じゃあ、上条当麻(アイツ)が…消えたのもその1件が絡んでいるって言うの?」

 

…血を見たって何も思えなかった

 

(だってどうでも良いことじゃない。そんな事より今はコイツから情報を引き出さないと……)

 

(たとえコイツを…――(・・)羽目になったって)

 

意識すること無く浮かび上がった『――(・・)』の二文字を美琴は自然と受け入れた

 

「…止めだ、どうやら今のお前に話す事は何も無い」

 

藍は――美琴の瞳を一瞥してからポツリとその言葉を吐き捨てる。

 

あまりに早い交渉決裂―――こうなった藍は如何なる拷問を受けようと何一つ話さない。そんな印象さえ瞼を伏せた藍からは感じられた。

 

では美琴はどうするべきか?だが美琴の脳内では次に取るべき手段は決まっていた

 

「そう…残念ね、アンタからは聞きたいことが山ほどあったのに」

 

黙秘を決め込む相手に更なる追い討ちをかけるのは悪手だ、相手に憎悪を抱かせてしまえば余計に口を割らせる手間が増える。

だからこそこの場は一度取り調べを中止して―――

 

「喋る気が無いなら、アンタは死になさい」

 

(アイツの事を……殺してでも…吐かせないと……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲紫SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その昔…とは言え100年や1000年と言った昔ではない。人間の感覚でいう一昔前の話を私は何故か回想していた。

…いや、要因が分かっているのだから『何故か』は訂正すべきかもしれない

 

迷いの竹林とその付近の妖怪の数が異様な程に激減しているとの報告があった。

人間の数が激減する事が幻想郷にとってマイナスであるように妖怪の個体数減少もまた同じ、私はその原因と場合によってはそれを排除するため自ら迷いの竹林に足を運んだ。

 

――――私はそこで魑魅魍魎や極悪人よりもタチの悪い者に出会うとはまだ考えすらしなかったのよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら嫌ね、思い出したくもない話を蒸し返すなんて――第1位に然り幻想殺しの彼に然り。第1位の事を思えば自然と彼女が浮かんでくる、それは逆の場合も同じであり半人半獣の彼女の場合もそう」

 

私が語るのも妙な話だとは思うけれど世界は実に狭い、つくづく学園都市ではそれを実感する。

上白沢や藤原妹紅と似た人種は間違いなく世界の少数派と断言出来る、あんな良くも悪くも狂った人間が溢れかえれば妖怪など繁栄出来る訳がない。

 

そんな世界の少数派であるはずの人種が同じ国に生まれ同じ運命の糸を引き当て……今や顔を合わせんとする手前まで迫っている。運命を操れると豪語する幼子を紫は知っているがこの運命が能力で引き当てられたのだとすればこんなにも笑いの止まらない話は無いだろう

 

ただ一つ…ただ一つ運命操作に難癖をつけるならば―――

 

 

「あァ…?随分と妙な光景だな、10代のガキ2人が気絶してる側で良い歳したババアが感傷に浸ってやがる」

 

「『18歳』の美少女には感傷に浸る権利は無いのかしら?」

 

私が出会う相手は同じヒーローと言えど悪党は御遠慮願う、その1点に尽きる。

出会い頭の女性に悪態を突くヒーローなんて悪役にジョブチェンジするべくハローワークに通うべきですわ

 

地下道に杖をつく音を響かせながら現れた一方通行に紫は『スキマ』から道路標識を数本お見舞いした。

 

「ケッ、最近の18歳は愉快なモンじゃねェか。だが愉快ってのは通じる相手と通じない相手がいるっつゥのは覚えとけ」

 

一方通行は奇襲の道路標識を反射で応戦する

 

「反射、つまりはベクトル操作。学園都市第1位の保有する能力」

 

「事前調査ご苦労さン、その調子だと俺の事は調査済みで大概の事には動じねェんだろォな」

 

「えぇ、強いて挙げるならば貴方がこの場所をすぐに探し当てた事かしら。これも能力の一部?」

 

「侵入者が地下で傭兵と交戦してるって話を上にいたお前のお仲間の5本目の指が教えてくれたからよォ」

 

詳しい座標と道案内も添えてなァ、そう一方通行は答えた。

 

なるほど、雇われの身で一方通行の尋問を耐えた傭兵には気の毒ですけど生憎馴れ合う筋合いは無いので捨て置きましょう。そもそも端から敵同士ですし

 

「俺からも一つ聞かせろ。―――テメェの背後で転がってる女、生きてンだろォな?」

 

「まさか!私は無益な殺生は好みませんわ、少し…ほんの少し気絶しただけに過ぎません。その上で一方通行、貴方は私に敵対するのかしら?」

 

「テメェがその2人を無傷で解放し俺が聞きたい話を洗いざらいぶちまけるってンなら俺も無益な殺生は避けたくなるかもなァ」

 

「あら奇遇ですわ!私も貴方がこちらの要求を呑んでくれるならば情報提供も吝かではないと考えていましたから!」

 

一方通行も笑っていた。普段の彼ならば奇襲を受けた後に相手を見過ごしてまで笑い声をあげるなど有り得ないだろう

 

笑っていたのは八雲紫もまた同じ。

 

二人の笑い声は地下道にはよく響く―――反響した声の所為でいつ二人の笑いが収まったのか分からなくなる程に。

 

 

 

 

「で…俺の事を調べたンなら分かるだろォが。その顔のガキに手を出した野郎は程度に関わらずぶち殺すってのが俺の主義だ、聞き出す事がある以上死なねェ程度にしか殺せねェけどよォ!」

 

「―――1万体以上のクローンを踏み台にした人間が無益な殺生は避けたいだなんて、中々人を笑わせるセンスがあるんじゃない?笑いのお礼に一つ提案よ」

 

彼にする提案が無駄なことはどこか分かっていた、何故ならば過去に似たような提案を似たような悪党にした事があるのだから。

 

「私は貴方をとある場所へ連れていく、それに無抵抗で従うのならクローンは貴方へ返却した上で知りたい情報を全て提供する」

 

「殺生はともかく無駄な争いは互いに避けるべ」

 

「オイオイ―――何寝惚けてやがンですかァ?」

 

その瞬間、視界に写る一方通行に私は回想していた中に現れた『もう1人の悪党』を重ね合わせていた。

 

『今から私にぶちのめされる野郎に無抵抗、だと?笑わせンじゃねェぞ…』

 

「まず何より…テメェは大前提をはき違えてンだ」

 

『その提案ってのは私がお前より弱い、その前提から成り立つモンだ。テメェまさか―――』

 

第1位(オレ)より」

 

第1位(ワタシ)より』

 

『「強いだとか思い上がってンのか、あァ!?」』

 

 

 

 

 

(ほらこうなった。だから嫌いなのよ、『悪党』なんて生き物は…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲藍SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今更自分の過去を嘆く気など更々無い、その因果応報で末路が悲惨になるのならば私は甘んじて受け入れよう。

それに私は紫様の式、あの方のプランにこれ以上不要な歪みを加えずに散れるのならば充分過ぎる

 

(ただ、ただせめて………いや…。何も言わんさ…)

 

「――私を殺すか、それも良いだろう」

 

「当たり前じゃない。―――殺して(・・・)でも吐かせる、絶対によ」

 

矛盾だ、あまりにも矛盾している。死した者が何を語るのか?

 

(それでもオリジナル、御坂美琴は本気だ。現に私の首筋からは血が零れる…と言うよりかは小気味よく噴き出し始めているじゃないか)

 

当初は刃先をつたっていた藍の血も、切り込みが深くなるにつれ零れ出す勢いは確実に強さを増していた。

…これならば美琴が手を加えずとも時間の経過が藍の命を奪うはずだ。

 

「因果応報…良い言葉だ―――殺せ、第3位の超電磁砲御坂美琴。貴様が私の首を跳ねるのもまた道理、一思いになどと温い事は言わんさ。好きなだけ苦しませろ」

 

「そう⋯せめて地獄で懺悔の真似事でもしてれば良いわ⋯!」

 

持ち上がる刃先、その先には敵の頸動脈。素人だろうと振り下ろすだけで片がつく。

 

皮肉にも上条当麻の手がかりを掴んだ少女は、御坂美琴は⋯⋯自分自身の手でその手がかりを握りつぶ―――

 

「流石の私も我慢力の限界よ、邪魔をするのなら⋯失せなさい」

 

握られた砂鉄剣が消滅する、だが美琴自身そんな気は毛頭無いし演算を終了してなどいない。ともすれば⋯⋯

 

何者かが彼女の脳に心理掌握(干渉する)しか無いだろう

 

「⋯へぇ、やってくれるじゃない。私相手にそれを発動させるなんて、何なら膝でもつかせてみる?」

 

「⋯そうねぇ、御坂さんが正常ならそれも一興かしら。ただ⋯アナタ、今自分がどんな表情でどんな状態か正しく理解してるのかしらぁ?」

 

「敵を倒す事に集中力を発揮するあまり周囲への警戒力は0⋯その結果私の能力で脳に干渉された。言葉にすれば呆気ないけれど―――アナタ、私が止めないと間違い無く堕ちていたでしょうねぇ」

 

刃先と藍の頸動脈まで後僅か、と言ったところだった。押せば勢いで頸動脈が断ち切れる⋯そんな距離。

上条当麻の手がかりを、御坂美琴が堕ちる事を寸前で救ったのは食蜂操祈。学園都市の第五位、心理掌握。

 

獲物のリモコンを片手に足元をふらつかせながら美琴の背後で立ち上がる、その様からは普段の彼女からは伺えない迫力すらも感じ取れる。

 

「恩着せがましいのは止めなさい⋯第一自分で自分の表情なんか見れる訳ないでしょ⋯馬鹿にしてるなら今すぐその下卑た能力を⋯ッ⋯」

 

「パチンッ」

 

乾いた音が響く、食蜂の平手打ちが美琴の頬を捉えた。

 

「今のアナタの表情、言動をあの人が見たら⋯ッ!どれだけ絶望するかも知らずに⋯!⋯⋯復讐に堕ちる事があの人の救済になると、妹達への贖罪になると⋯本気で想像力が働くのなら好きにしなさい」

 

「ただし今の御坂さんの表情はあの人には見せられない、自分が助けた人間がここまで堕ちていたら⋯きっと優しいあの人は自身を責める⋯またアナタを救おうとする。⋯そんな事を達観出来るほど私は忍耐力がある訳じゃないわぁ」

 

御坂美琴は動かない⋯いや動けないのかもしれない。しかしその要因は2人の少女だけが知る事だ。

 

「つくづく驚かされたよ、超電磁砲にも⋯心理掌握、食蜂操祈にも。しかし何よりも後悔している、君を抵抗出来ない状態で相手取るならば首を落とされた方が幾分マシだっただろうな」

 

「あらぁ、随分な言われようじゃない☆みさきち、これでも御坂さんよりかは戦闘力は低いんだゾ」

 

「先程まで超電磁砲に対して溢れんばかりの激情を向けていたにも関わらず直後に私には砕けた応対、その切り替えの速さは賞賛に値する。それに君にはそれなりの麻酔を打ち込んだ筈だ、どう見積ってもまだ気持ち良く夢の中⋯の予定なんだが」

 

「生憎昔から薬漬けだったせいで耐性力には自信があるのよぉ。そ・れ・よ・り☆貴女は御坂さんとは違ってインテリっぽいから自分の置かれた状況は理解出来るでしょ?」

 

あぁ、分かるとも。だからこそ藍は食蜂が美琴を制した際に助かったにも関わらず後悔の念を漏らしたのだから。

 

何せ美琴の様に暴力に訴える尋問ならば訓練次第で黙秘は保てる。事実藍は死を突き付けられても揺るがない

 

だが相手の記憶を読める食蜂には黙秘も何もない、記憶を読まれる以上虚偽も無意味だろう。

 

「やれやれ、だから君には真っ先に眠って貰ったのだが⋯こうなってしまえば後の祭りだ。――せいぜい真実を知って怒りに飲まれないようにすると良い」

 

意味深ねぇ、と呟いた食蜂は早速能力を行使。藍の記憶から情報を読み取っていく。

 

「⋯で、どうなのよ。アンタには読み取れたんでしょ?真実って奴が⋯」

 

「⋯知らずに居られるのなら、知りたくは無かったわぁ。気分力がマイナスまで下がるもの。それより御坂さんこそもう大丈夫かしらぁ?いつの間にか私の干渉も解けちゃってるし」

 

「腕を振り下ろす動作を止める干渉しかしなかったくせに何を言ってるのかしらね⋯でも心配には及ばないわ。まだ私はアンタにとって利用価値はある、真実とやらもアンタが確認したのなら今はまだ知らなくて良いもの」

 

「素直な御坂さんは大好きだゾ☆じゃあ早速地下に向かうわよぉ、そこに彼女のボスがいるらしいから」

 

あっそ⋯小さく呟いた美琴は踵を返し部屋を後にした。

 

「⋯?どうした、食蜂操祈。君も地下に向かわないのか?」

 

「⋯別にぃ、私もすぐ向かうわよ。ただ最後に貴女に言っておきたかっただけ。」

 

「御坂さんを壊さなかったこと、それは感謝してるわ。貴女が真実を話せば御坂さんは再起不能なレベルまで堕ちていた」

 

「そんな事か⋯私はただ黙秘しただけだ。感謝される筋合いは無いな」

 

「ただ私からも一つ助言じみたお節介を一つ。確かに私は黙秘により御坂美琴が真実を知ることを回避させる形にはなった、ただし――」

 

「このままだと御坂さんは間違いなく堕ちて壊れる⋯でしょう?あの瞳を見て気付かない程鈍感力は発揮してないつもりだから」

 

 

 

⋯⋯何時だったか紫様が離していた吸血鬼の妹の話。

 

彼女は生まれ持った狂気を姉から受けた数多の虐待により乗り越えることなく内側に溜め込んだ。

その結果ある程度は精神も安定した。ただしそれは根本的解決ではなく解決を先延ばしにするその場凌ぎの一手にしかならない。ましてや溜め込まれた物は何時か必ず

 

 

 

―――爆発する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方通行SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事態が芳しく無いことは一方通行自身が一番感じていた。

一方通行然り、紫然りとりわけ大きな被弾をした訳ではない。むしろ膠着状態が続いているのだ。しかし膠着状態とは一方通行には押されているに等しいと言える。

 

「バッテリーは何時までもつかしらね、15分?10分?仮に道中の傭兵達を能力無しで蹴散らしたとしても残りは20分も無いはずよ」

 

「何から何まで知られてるとはよォ、プライバシーって奴をちったァ学びやがれってンだ」

 

「私、こう見えても慎重なのよ。だから貴方が私をぶちのめす⋯なんて絵空事も良いところですわ」

 

確かに、あのふざけた空間移動(テレポート)で好きな箇所から好きなタイミングで攻撃されたンじゃ攻めあぐねるわなァ。おまけに攻撃方法の一環に俺が干渉出来ねェ未知のベクトルがあると来た

 

(俺を見下しているよォに見えて油断も隙もねェ、面倒な野郎だ)

 

紫が生み出すスキマから放たれる標識の数々、そこまでは反射でどうにでもなる。だが問題はその中に混ぜこまれた数発の妖力弾だった。何時であろうと何処からだろうと放たれる妖力弾は不覚にも第1位の攻め手を封じている

 

「弾除け、得意ですのね。避け方も無様には見えない、あぁこれは嫌味ではなく素直に褒めているの。私の住む場所では弾除けが流行っているものですからつい観察してしまうのは悪い癖かしらね」

 

「そのせェで無駄なバッテリーと時間を喰っちまったけどな、クソッタレが」

 

さァどうする?焦って突っ込めばアイツの思う壺、かと言って耐久戦に勝ち目はねェ―――

 

(⋯とここまで来りゃ特攻か耐久かの二択に割れる、だが耐久に勝ち目がない事は明白だ。⋯いや待て、そもそも何でアイツはここまで決着を先延ばしにしやがった?)

 

(俺を殺りてェだけなら不意打ちであの未知のベクトルを四方八方から乱射すりゃ片が付く。そもそも奴は端から俺に投降を促した⋯⋯要は生け捕りにしたいっつゥ事だ。―――まさか奴の狙いは⋯!)

 

一方通行の推察は限りなく憶測に近い推察ではあるが判断材料が無いわけでは無い。

 

仕掛けてみるかァ――

 

「⋯⋯こりゃあマジで学園都市最強は引退確定かもしんねェなァ。誇れよ、18歳――俺にバッテリーを使い切る前提の特攻を覚悟させたんだからなァ!」

 

「何を突然言い出したかと思えば。生憎、井の中で争う7匹の蛙の戯言に興味はありませんわ。第一その巫山戯た特攻で私を倒せたとしてバッテリーを切らしたアナタに何が出来るのかしら?」

 

「バッテリー切れ⋯ねェ、確かに無様に地べたを這う無価値の悪党が出来上がるのが関の山だろォな。だが勘違いしてんじゃあねェぞ」

 

「そこで気絶したガキと同じ顔をした連中を守れンのなら手段は選ばねェ、それが惨めに地べたを這うザマを晒したとしても⋯だ。分かるか?いや分からねェだろォなァ!テメェみてェな格下にはなァ!!」

 

一方通行、吼える。

 

それは八雲紫へ仕掛けた一手であり

 

自分への戒めでもあり

 

⋯彼自身はまだ自覚していないが。『憧れ』でもあったのだろう

 

「――知っているわよ、アナタ『達』悪党の矜恃なんて。先程の第7位と言いアナタと言い⋯つくづく学園都市は私の神経を逆撫でする」

 

先手は紫から仕掛けた。無数のスキマを一方通行の周囲へ展開させればそこから無尽蔵の妖力弾⋯⋯もとい弾幕が襲いかかる。

しかし一方通行、この弾幕をここに来て回避し続ける。

 

(未知のベクトルだァ?笑わせンなよ、反射が効かねェ野郎なンざもう飽きたっつゥの!)

 

(ただし事前調査に抜かりのねェアイツの事だ、俺相手に長時間未知のベクトルを晒す筈がねェ)

 

(確かに彼は第2位の未元物質を短時間で解析している、だからこそスペルは勿論弾幕すら張りたくはなかったのよ。実は短期決着を迫られていたのは私も同じこと)

 

(つまり奴は⋯!)

 

(つまり彼は⋯!)

 

((間違いなくすぐに仕掛けてくる⋯!))

 

再び先手は紫が取った。

タイミングは一方通行が回避の為に背を向けたその瞬間!

右手を伸ばし開いたスキマの中へ、スキマが開いた先は一方通行の首筋―――チョーカーのバッテリーを取り外すためだ

 

(取っ――――)

 

「ブチッ!!」

 

 

 

―――それは生々しい音だった。例えばちぎれるはずがない物を無理矢理引きちぎった時の様な音。

 

「⋯どォやら、そのザマだと手首から先を吹っ飛ばされたのは初めてか?まぁ初めから五体満足だったンだから初めてで当たり前だ。でどォよ?竜巻で手首が弾け飛ぶ感覚はよォ⋯!」

 

「なっ⋯ッ!?まさか、背後からの攻撃を予知していたと言うの⋯?そんな筈は⋯!仮に読んでいた所でタイミングまでは分からないはず⋯!」

 

音の正体は消え去った紫の手首から先が示していた――そう。紫の手首は背後から手を伸ばした際に彼の背中から噴出された竜巻に引きちぎられたのだ。

 

「流れだ、テメェがその不気味な能力を発動する度に空気が気持ち悪ィ空間の中に流れ込んで妙な動きをする。何も俺はベクトルを操るだけじゃねェ、観測だって出来ンだよ。そもそも未知のベクトルなンざ観測しねェと解析もクソもねェからなァ」

 

「となれば後は自然な流れで俺が背後を見せてテメェを誘えば良い。するとテメェは案の定手を伸ばしたきた訳だ。――まさか距離と空間を無視した離れ業があるとは思わなかったがな、とにかく離れた位置で空気の流れが変わったから俺はそのタイミングに合わせただけだっての」

 

「⋯ッ、成程。私が初めに投降を促した以上捕獲するつもりだった事はバレていた、だから狙いがチョーカーだった事も推測されていたのね」

 

そンなとこだ

 

一方通行(あくとう)は足元に広がる血液を踏み越える。

 

「テメェの命はどの程度もつ?もしかすると俺のバッテリー切れよりは長持ちするかもなァ」

 

「⋯この出血の勢いですから、1時間位なら。⋯ただしそれはアナタ同様捨て身で挑むなら、の話よ」

 

「構わねェぜ、捨て身でも。――手足を弾くなンざ朝飯前だ、何なら上半身を弾くのも面白れェ!」

 

「止めましょう。このままでは」

 

勿論止めましょう、と言われて制止される訳もねェけどなァ!

手首を止血する紫の両手は塞がっている、まさに攻め時に違いない。

 

 

「私がアナタを殺して(・・・)しまうもの」

 

その言葉は意味合いとは裏腹に奇妙なまでに緩やかなトーンで、不気味なまでに微笑ましい微笑と共に紫から紡がれた。

 

だが⋯⋯いや、だから俺は踏み込めなかった⋯⋯あァ笑え。ありゃバッテリー切れで地べたを這うより無様で笑えるぜ

 

(だが確信出来る、今強引に踏み込んだら⋯俺はどうなってやがった⋯?)

 

「良い直感、アナタはさっきの一撃を流れで読んだと言うけれど。むしろその勘が役に立ったのでは無くて?」

 

「ハッ⋯!手首からボタボタ汚ぇモンを零しながら言う台詞じゃねェよなァ。大体まだケリはついてねェ、このまま妹達とそのオマケを返さねェってなら⋯」

 

「今日のところは引き分け、私は目的の物を手に入れた代わりに手首から先を失った。アナタは妹達を守りきれなかったけれど私に深手を負わせた――この勝負はそれで収めましょう」

 

「待て、まだ話は終わってねェぞ!」

 

「学園都市第1位の一方通行、私の身体を弾いたその力⋯今は幻想郷に利用出来るとして猶予を与えます。ですが次はありません、この次⋯またアナタが私に牙を剥くならば」

 

妖怪(ワタシ)人間(アナタ)に容赦はしないわよ」

 

ミサカ10046号と軍覇は地面に現れたスキマに吸い込まれ、紫もそれに追随する

 

「――それはテメェも同じ事だ。次に会った時、妹達だけじゃねェ⋯⋯妹達の連れに何かしてみろ。殺される程度で済むと思ってンじゃあねェぞ、クソがッッ!!!」

 

 

完敗だと否が応でも実感させられた。

 

右手を弾いて尚⋯⋯むしろ右手を弾かれてから現した彼女の本性に一方通行は完敗したのだ。

 

人間は妖怪を恐れる。それは恥じる事ではなく古来よりの理であり世の常。ましてや相手が大妖怪ともなれば恐れを感じない者の方がどうかしている

 

ただ⋯護るべき対象を護り切れなかった少年には、悪党にはまだ受け入れられない現実なのだろう。

 

しかし彼はまだ知らない

 

人間が妖怪を恐れるばかりではない事を。

何時の時代、どの場所においても圧倒的絶望や暴力に立ち向かう者達は存在する。

 

人々を妖怪から護る巫女が居るように

 

2万人の虐殺を阻止した少年が居るように

 

何時だって妖怪は恐れているのだ。英雄(ヒーロー)の登場を。

 

何より⋯⋯彼自身がそんな悪党(ヒーロー)になることなど。本人が1番理解していないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御坂美琴SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

馬鹿ね、私は⋯漏電で自爆しかけたり食蜂の心理掌握を受けそうになったり⋯。ったく、情緒不安定ったらありゃしないわ

 

「アイツへの恩返し、妹達への贖罪⋯か。確かに⋯ね、アイツは私が手を汚したって絶対に喜ぶ訳が無いし妹達に対する贖罪がこんな小さな事で許されて良いはずもないのよ」

 

ならば⋯何が彼への恩返しになる?何が妹達への償いになる?

生き残った妹達への償いならばまだ方法はある、しかし既に失われた彼女達には償える方法など無いに等しい。勿論上条当麻とてその命が失われてしまえば⋯

 

「⋯今は悩む時じゃない、アイツの手がかりを掴んだ以上前進した事は確かなんだから」

 

「あらあらぁ、御坂さんったらもう復活したのかしらぁ?もう少し暗い顔のままでも良かったのにぃ」

 

相変わらず皮肉った台詞と共に現れた食蜂の足取りは幾分かマシにはなっていた。それだけを確認すると私も皮肉には皮肉で応戦する

 

「アンタこそ麻酔を打ち込まれた癖に復帰が早いじゃない?せいぜい戦闘になった時に足元が揺らがないよう祈ってあげる」

 

「やーん、御坂さんってば怖ーい☆でもでもぉ」

 

「今の内から精神がグラつく様じゃ上条さんを助けるなんて戯言にもなりはしないわよ、それくらいに今回の1件は闇が深いし御坂さんの心を抉る」

 

無様な姿を上条さんに晒す真似だけはしないでねん、そう吐き捨てて食蜂は先へ進んでいく。

特に異論はない、食蜂の述べた事は事実。

 

「ここに潜入する前も似たような説教を聞いた気がするのは私の思い違いかしらね――それで?アンタが言う地下の敵はどうするの?ボス、って呼ばれるくらいなんだからさっきの敵よりは強いんだろうけど」

 

「上条さんを連れ去った位だし弱くは無いんじゃない、出来れば戦闘なんて避けたいけどぉ⋯この際贅沢は言ってられないわぁ」

 

その時はよろしくするわ、と食蜂は早くも戦闘を放棄。

 

別に良いけど⋯運痴(コイツ)に殴り合いは期待してないし。それに――

 

「分かった、戦闘は私に全て任せなさい」

 

さっきの戦いで改めて感じた。この1件はもう激情任せじゃ解決しない――私情は捨てて冷静に⋯⋯

 

「相変わらず頭が固いのね、そんな判断力じゃ違うところでまた足元を掬われるゾ」

 

「⋯いい加減電磁バリアは復活させた筈なんだけど。妙に勘繰ってると季節外れの静電気に見舞われるわよ」

 

「そうやってまた漏電してる辺り図星ってわかりやすーい☆まっ、どう御坂さんが割り切ろうが私には無関係だしお互い利用し合うギブアンドテイクの関係だものねぇ」

 

「ご名答、だから私がアンタを見限ったら電撃で撃ち抜くのもアリってわけ。―――下らない事を言い合う余裕があるんなら走らせるわよ」

 

駄目だ⋯敵からならともかく仮にも協力すべき相手に激情を煽られたんなら話にもなんないじゃない⋯。

 

美琴は地下へ続く階段を飛び降りるように数段飛ばしで降りていく。

どの道待ち伏せした敵を一掃するため美琴は先行するつもりだったのだが今の彼女の心情を考慮してもその方が正解だろう。少なくとも超電磁砲と心理掌握を混ぜ合わせて起こる化学反応は総じて危険が過ぎる。

 

冷静になると言い聞かせた矢先に降り積もる苛立ち、もしかすると私には我慢する力が無いのかしらね?いやいや⋯!これはあくまでも食蜂の人を小馬鹿にする言動がそうさせているに違いない⋯!

 

真実はともかく無事待ち伏せに遭う事もなく地下通路に降り立った美琴はすぐさま辺りを反響定位で調査する

 

(⋯居ない、いやまぁ待ち伏せは無いに越した事は無いけど。てっきりあれだけ派手に暴れたからあの女が配置したと思ったのに)

 

壁に寄りかかりながら美琴は大人しく食蜂を待つことにした。

 

「食蜂の足ならまだ数分は降りてこれないわよね、完全に待ちぼうけになるわね⋯これは」

 

しかし不気味な場所よね⋯地下だから当たり前だけど。まるで、幽霊でも――

 

「幽霊でも出てきそう、かしら?残念私はそれより遥かにタチが悪い」

 

「ッ!?一体どこか⋯⋯ら⋯」

 

「それに2人は分断されているのね?都合が良いわ―――私の怒りが暴発する前に藍と食蜂操祈を回収して帰りましょう」

 

声の聞こえた箇所は彼女の背後、即ち壁の中

 

声の主は八雲紫―――意識と無意識の境界を弄られた美琴は気絶し彼女のスキマの中へ崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

──この日、学園都市で4人の子供達が消えた。

 

 

 




お久しぶりです、こんな小説を楽しみにしていて下さった方が居るのなら嬉しい限りでございます。

さぁ、張るだけひたすら伏線を張って微塵も回収しませんが大丈夫ですかね、この話は?いやまぁ皆さんに問いかける前に自分で整理しろって話ですが。
個人的に伏線は一気に回収して欲しい派でして、恐らくこの小説も伏線は1度に多量の伏線が回収される事になるかと。

最後に⋯⋯
年内にあと2話は投稿したいなぁ、なんて思ってます。
そして恐らく次回からは幻想郷編に戻るはずです、半年(以上経過した)ぶりの不幸四人組に乞うご期待あれ!


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第二ウェーブ

藤原妹紅SIDE

 

 

 

 

 

 

 

妹紅が文との会話を終え他の面子の姿を捉えたその時であった、少しばかり離れた先で仲間の一人が竪穴の中へと転落したのは。

 

 

私自身の感覚としてはすぐさま飛び出したつもりだった。

 

しかし実際には何秒か固まっていたらしい。

 

「いきなり何なンだよ!?不幸もあのレベルになると対応しきれねェっての!!」

 

「お、落ち着いてください妹紅さん!無闇に飛び込んだって彼は見つかりませんよ!!」

 

「離せ射命丸!大体テメェの速さなら追いつけただろうが!」

 

「えぇ可能でしたよ、貴女と同じく不意打ちで硬直する時間さえなければね!」

 

地底と地上を繋ぐ穴、間欠泉の竪穴へと落ち込んだ上条当麻へ誰しもが手を伸ばしたが届かなかった。

何せ唐突過ぎたのだ、前触れも無い上に当麻自身から飛び込んだと映る程の自然落下。その場にいた全員が反射神経には人並み以上の自信があったとは言え限界もある

 

「ってて・・・で、だ。どうする、うどんげ?早くしねぇと当麻の野郎が串刺しかそれ以上にグロテスクな末路を迎えちまうぞ」

 

「そうね、とりあえず助けに行くのは前提として私やアンタが今すぐ飛び込んでも意味がない。仮に当麻の落下速度に追い付いても位置が分からないんじゃ話にならないのよね」

 

「つまりドジのアイツを助け出すには全速力で落下しつつ更にアイツの正確な位置まで探らなきゃならねぇ───流石の俺も暗闇の中を岩片を回避しつつ当麻を探し当てる芸当は難しい」

 

「私は当麻を探り当てることは容易いけれどアンタの様に機動力は無いし索敵に意識を向けると他に注意が回らない・・・・・・はぁ、悲しいけれど結論は出たみたいね」

 

 

どうやらこの二人は特に焦る様子もなくまた当麻を助け出す算段もある程度は着いたらしい。

だが妹紅がその術を聞き出す間もなく二人は動き出す。

 

「おい、テメェら一体何を企んで───」

 

「「じゃ、妹紅・・・・・・商品と荷物はよろしくな(ね)」」

 

「・・・・・・・・・・・・ア?」

 

手早く必要最低限の荷物以外を起き去り垣根は鈴仙を抱えると白翼を展開し竪穴へと飛び込んだ。

 

───要は身軽になった上で抱えられた鈴仙が当麻の位置を探り当て機動力のある垣根がそれに追い付く作戦らしい。成程理に適っている、ある1点(・・・・)を除いては・・・・・・・・・

 

「吠、えてンじゃねェぞ三下ァ!!!勝手に早合点して二人で動きやがってよォ!挙句の果てに私は荷物抱えて来いってか!?どンだけ手間になるか分かってねェよなァァァァ!!」

 

妹紅、猛る。

 

あえて記すならば上条当麻が落下してから妹紅の咆哮が轟くまでは凡そ一分を切った程度。

その一分間に妹紅は仲間三人から置いてけぼりを食らいとても一人で抱え切れる訳もない荷物のプレゼント。

 

これは彼女じゃなくてもプッチン来ますよねぇ、とはもう一人残された射命丸文の弁。

 

「で、では私も上条さんを助け出すためにた、竪穴へ失礼しま〜す」

 

と、ここで文は抜け目無く竪穴へ向かうのだが・・・・・・既にスイッチが入った者がいる。

 

「今すぐ焦げ目がキツい感じの消し炭になるか荷物持ちを手伝うか好きに選べ───猶予はねェ」

 

「私個人としては火は中心部まで通っている方が安心して喉を通ると言いますか・・・アハハ・・・ハハ・・・でも消し炭は焦げ目しか無いのでキツいとかキツくないの問題じゃないですよね〜・・・・・・」

 

背後から首を締め上げられ掌には燻る炎、無論語るまでもなく締め上げる人物は妹紅、その餌食は文である。

 

「よし消し炭だな、お望み通り骨の芯まで炙って───」

「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!ま、待ってくださいタイムタイムターイム!!手伝わせていただきます荷物持ちを喜んで!!運ばせて頂きますから火は消してくださいっ!!」

 

分かりゃ良い、分かればな。そんな言葉と共に解放されたと文が胸をなで下ろしたのも束の間、すぐさま新たな重量が文の身体にのしかかる。

 

「ぐえっ・・・・・・な、何ですかこの重さ・・・何が入ってるんですか・・・」

 

「知るかよ、それはガキ共二人の私物だからな。念の為言っとくが記事のネタになる物は入ってねェ筈だ、第一人間のガキでもそれを背負って永遠亭からここまで戦闘をこなしつつ歩いてこれた。妖怪のお前が白旗あげる事じゃねェだろ」

 

「どんだけ馬鹿力なんですかあの二人は・・・・・・いやいや、十分に重たいですよ・・・・・・よっと」

 

背中に背負う形で荷物を背負った文はその重量に顔を顰めながらも立ち上がる。

 

(まず眼前の問題は片付いた、当麻の方もあの二人なら何とかするだろ・・・やり口が気に食わねェ以上後でお返しはさせてもらうけどなァ・・・)

 

(だがそれ以上に気に食わねェのは当麻の転落だ・・・さっきのは本当に単なる不幸で片付けて済む話か?それにアイツは転落する直前に妙な素振りがあった───)

 

「それにしても彼・・・上条さんですが何かあったんですかね?単に足を滑らせた事故と決めつけるには些か難があるように思えますし」

 

「あァ・・・初めは悪霊辺りに唆されたのかとも考えたがどォやら違う」

 

特段妹紅は視力に自信がある訳では無い、彼女の視力は低下しないだけであって人並程度。

だが今回は確信していた。

 

「はっきりと見たわけじゃねェがアイツは自分の意思で飛び降りたよォに見えた」

 

「飛び降りた・・・もしくは何かを掴もうと踏み出した足が空を切った───止めましょう、推察で記事を捏造するのは私の十八番ですが今回ばかりは推察で片付けるには惜しい一件です」

 

「・・・・・・突っ込まねェからな、それは当麻の担当だ」

 

とは言え文もまた妹紅と同じような光景が写ったらしい。どちらにせよ真実は確かめてみない事には判明しないのだが。

 

 

そうして身軽な彼女達は体重の半分は優にあるだろう荷物を抱えて竪穴の淵へ立つ。

 

間を置いて文が「エレベーターを使うというのは・・・」と半ば諦めながら提案するが勿論妹紅が却下。

ですよね・・・とでも言いたげにため息を吐いた文と対して真顔の妹紅がふわりと浮かび上がった。

 

「・・・どォやら地底での商売もすんなり片付きそォもねェな、やれやれ───鬼が出るか蛇が出るか。片っ端から焼けば火傷用の塗り薬はバカ売れになるってか?」

 

「私としてはすんなり片付かない方がネタにはなりますし阿漕な商売はまぁ・・・・・・私だって保身は大事ですからね、えぇ」

 

普段の文ならば先程の妹紅の呟きを見逃す筈が無い。「これは永遠亭の闇を暴くスクープですね!!」などと宣った次の瞬間には消えているだろう。

しかし彼女がそうしなかったのは荷物を背負った上で妹紅が逃げ切れる相手では無いから。何より・・・・・・

 

「その行燈代わりの炎、私に向けないでくださいね・・・!」

 

文の明日は如何に・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

垣根帝督SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ、うどんげ!背中くらいは見えたか!?」

 

「駄目ね、辺りで当麻に近い波長がない・・・!」

 

「考えたくはねぇが最悪の結末の可能性はねぇだろうな・・・!!」

 

「・・・無いわよ、絶対に。その前に私が絶対に見つけだすからッ!」

 

ギリギリの所で突き出た岩片を尽く回避しながらも彼に追い付こうとする速度は全く緩めない。落下速度に加え未元物質により自由落下の速度を操る術も既に垣根帝督は手中に収めていた。

 

(落ち着け・・・こんな時に焦っても事態が好転する訳じゃねぇんだ。何より当麻が転落してからすぐに俺達は飛び出した上に加速してるんなら間に合わない筈がない・・・!)

 

だがスキルアップした未元物質を用いて尚仲間一人救えない。鈴仙を抱き抱えていなければ彼は怒りのまま周囲に当たり散らしているのだろう

 

「・・・大丈夫、もし最悪の事態を迎えていたなら。私やアンタが血の匂いに気付かない訳がない、私だって索敵に神経を注いでもその位なら見逃さないわ」

 

「安心させるならもっと明るい話でさせろっての、血の匂いとか言われてもよ・・・!」

 

確かに、これまでかなりの速度で進んじゃいるが人の血の匂いは一切無かった。仮に当麻が岩片や岩壁に叩きつけられてたってなら大量出血で一般人でも顔を歪める匂いが広がるしな

 

今は当麻が死んでいない事さえ分かればそれで良い

無事なら文句なしだが生きてさえいれば・・・必ず助け出す。

そう自分の怒りに言い聞かせる事で形ばかりの冷静さを彼は維持していた。

 

だがそんな彼の怒りに油が再び注がれるのにはそれ程時を要する事は無かった。

 

それは『小』から成る『大』

 

狭く荒々しい岩肌を諸共せず(ひし)めきあう

 

個々であれば超能力者(LEVEL5)たる垣根帝督の敵ではない

 

小規模の群れであれば月の軍隊上がりの鈴仙の敵ではない

 

故に『小』

 

がしかし・・・悪条件が重なり合った時、自然界では格下が格上を凌駕する事態が起こる。

 

その数ざっと見積もって200匹、凡そそれだけの数の中小の妖怪や亡霊が互いを押し退けながら二人の進路を塞いでいた

 

「冗談じゃねぇぞ・・・!この手のアクシデントは当麻(アイツ)の担当だろうが・・・!」

 

「何十・・・いや何百・・・何で・・・!?何でこのタイミングでぶつかるのよ!!こんなの明らかに仕組まれたとしか思えない!」

 

「・・・うどんげ、考えるのは後だ。仕組まれたかどうかは今は問題じゃねぇ、お前も考えろ・・・今の最善策ってやつをよ」

 

とは言え既に答えは暗に示されている。幾ら何でもこの数を潜り抜けるなど不可能。

 

二人の間で言葉無くプランが選択される。その証拠に垣根は鈴仙から手を離した。

 

「───あの厄介なブン屋の気配はまだ感じない、それにここで起こった事が地上に漏れる可能性は低いわね。大体ここまで来れば正当防衛は十分に成立する」

 

「まぁ警戒するとすれば・・・あれだ、何とかの巫女サマと幻想郷を管理してる大妖怪サマが無差別の虐殺だ何だと騒ぎ立てる場合な訳だが・・・」

 

垣根帝督の初撃、先端が鋭利に変化した白翼が群れに突き刺さる。急所などお構い無しに突き刺さるそれは無差別に妖怪の身体を抉り、屠り続ける

 

「んな事知らねぇよ、こちとら既に怒りが臨界点通り越してんだッ!!てめぇら一匹残らず血肉に変えてやるから辞世の句でも詠んでやがれ!!」

 

垣根とは違い対する鈴仙の初撃は些か派手さに欠ける物があった。

何故ならば彼女は弾幕を展開する訳でも無ければ獲物である拳銃を抜く訳でもない、彼女の手の中には一振のコンバットナイフ。刃渡りこそ長いが200を相手取るには少々・・・いやかなり無理があるだろう

 

「・・・そこの馬鹿の臨界点はかなり低いから兎も角、私は比較的に怒らない。他の仲間三人の臨界点が大概に低いからね───」

 

だが次の瞬間、垣根の初撃をすり抜け鈴仙へ襲い掛かった亡霊の身体が霧散する

 

鈴仙の初撃が亡霊の首筋を捕らえ、撥ねた。

垣根程の派手さこそ無いが音もなく的確に亡霊を屠る彼女の姿には垣根にはない別の迫力がある

 

「でも私にだって怒りの臨界点は在るしそれを上回った時は抑え込んだりはしない。・・・・・・亡霊への干渉や攻撃はまだ垣根には教えてなかったわね」

 

「垣根、妖怪の方はアンタに任せるわ」

 

「了解、どうせ物理攻撃が通用しねぇならうどんげに任せるしかねぇと考えてた所だ」

 

「すぐに片付けて捜索を再開するわよ・・・!」

 

 

垣根・鈴仙組交戦(エンゲージ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仲間の誰よりもいち早く竪穴に飛び込んだ・・・もとい落下した彼は自然落下に身を任せたまま何度も同じ光景を思い返していた。

 

その光景とは滑落する寸前、自身の瞳に焼き付けた光景。

 

言うまでもないが彼には決して自殺願望などがあった訳ではない。足元を見失い滑落する程度には彼を盲目にする事情があったのだ。

上条当麻は再び記憶を思い返す。彼が落下に至るまでの過去に遡って──

 

 

俺の頭を小突いた瞬間幻想殺しの音が響いた。鈴仙や垣根に聞いてみたが二人は何も知らないらしい。

そしてもう一度竪穴の方へ向き直った瞬間だった、俺は竪穴の中に飛び込んだ・・・・・・いや違うな。数m先に浮かぶ人物に手を伸ばしたんだ。でも届かなかった、後一歩、後一歩という所で地面が消えた。後は自然落下に任せて今に至る。

 

 

 

───俺が見た人物は見間違いか?

 

そんな訳がない。俺があの『声』を、あの『顔』を忘れたり勘違いする訳がない。

 

 

 

「み、さか妹・・・!お前は俺に何を伝えようとしたんだ・・・!!」

 

竪穴の側にいた俺に何かを語りかけてきた女の子を俺は確かに知っている。

 

ただ彼がミサカ妹と呼ぶ妹達(Sister's)に話かけられただけならこうも驚きはしない。

問題は妹達が居る筈のない幻想郷で出会ったという事実。何より・・・・・・・・・上条当麻が出会った個体は身体のあちこちが『破裂』したかのようにボロボロだった。

 

まさか、と俺はフラッシュバックを起こしたように頭の中の記憶を再生する。

考えたくもないがあそこまで身体が壊れたミサカ妹が生きているとは考えにくい、となれば学園都市ならいざ知らずここは幻想郷───幽霊という方がまだ説明はつく。

 

更に付け加えれば上条当麻は幽霊として現れた妹達の検体番号にも心当たりがあった。

ミサカ10031号、一方通行に血流を逆流させられ内部から『破裂』して絶命した少女。

 

もし彼女が10031号だとすれば上条当麻を恨んでいるかもしれない。あと少し早く上条当麻が実験を止めていれば彼女は助かったかもしれないのだから。

 

ともすれば彼女の声が風で掻き消された事は柄にもなく上条当麻にとっては幸運だっただろうか?

 

 

・・・・・・・・・否、断じて否。

 

 

(・・・違う、仮にあの時ミサカ妹から罵倒を浴びせられたって俺は向き合うべきだった)

 

(だからミサカ妹・・・次に会った時はちゃんと話そう、何より俺もお前に・・・妹達に伝えなきゃいけない事があるんだからな)

 

「ミサカ妹が幻想郷に居るなら、俺から会いに行くよ。長々と待たせる気はないからさ・・・待っててくれ。」

 

暗闇の中、最早うっすらとしか光の差し込まない竪穴で上条当麻は上に向かって手を伸ばす。

 

会えるだろうか、もう一度。

何より彼女は幽霊・・・霊感のない自分で会えるのか?そんな内から沸いた疑問を彼がかき消そうと頭を降った瞬間だった。

 

うっすらと現れる半透明の少女───もう当麻は驚かない。

 

 

『本当にアナタは優しいのですね、とミサカは呆れがちに・・・アナタに別れを告げます』

 

『ですがミサカはずっと待っています、アナタから会いに来てくれる───その日まで』

 

やっぱり、と上条当麻は確信する。

彼女はミサカ10031号、傷付いた彼女の身体が当麻の確信が誤ちでないことを示していた。

 

別れを告げゆっくりと消える10031号に当麻は・・・

 

「・・・・・・あぁ、必ずだ。約束するよ」

 

静かに別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

垣根帝督SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちくしょう、コイツらキリがねぇ!無限湧きかっての!

いや別に無限湧きだろうが在庫が切れるまでぶっ殺し続ける余裕くらいはあるけどな

 

「問題はこうしてる間にも当麻を見失ってるってこった!どうするうどんげ、連中の大軍に風穴空けて突っ切るか!?」

 

「これだけの数を引き連れて、当麻のいる場所や地底に向かう気?洒落にならないわよ・・・!私だって突っ切りたいのは山々だけどねッ!」

 

戦況だけを見れば彼等は決して押されてはいない、寧ろこの戦力差で互角にやりあっているのだから戦力の軍配は垣根達に下るだろう。問題は彼等にはあまり時間が無いということ

 

「クッソ、こんな時に妹紅なら派手に爆発して片付けるんだがな・・・!」

 

「こんな狭い竪穴で爆発したら私達まで巻き添えじゃない・・・まったく次から次と・・・!」

 

亡霊だけを相手取る鈴仙には返り血こそ付着しないものの既に50体ほどは屠っているだろう

幾ら鈴仙と言えど混乱した戦況の中で数十体を短時間で屠る事は出来ない

 

訓練された彼等には珍しく疲労より先に焦りの色が見え始めた

 

 

───その時だった。

 

 

 

「ゴツン!!」

 

 

「・・・え?」

 

「・・・ア?」

 

「うげっ」

 

上条当麻、無事追突。

 

何と彼はあろう事か落下先にいた垣根帝督に背面からぶつかり頭同士を思い切り頭突いたのだった。

 

つまりホバリング中の垣根に頭からぶつかった当麻は地面にぶつかるよりは何十倍も軽度の衝撃で落下を停止した事になる。めでたしめでたしな話と言えるだろ──

 

「おいゴラ、当麻・・・・・・てめぇ・・・・・・俺みてぇな能力者はどうやって能力を発動するか知ってっか?」

 

「上条さん・・・無能力者・・・・・・シラナイシラナイ・・」

 

「てめぇが今かち割りに来やがった脳味噌使ってんだよ・・・覚え、と、け・・・・・・後でコロス・・・・・・」

 

フラフラと身体が揺らぐ辺り先程の衝撃で軽い脳震盪でも起こしたのだろう、しかしさりげなく当麻の襟を掴んでいる辺りは流石と言うべきか

 

「何で先に落下した当麻が私達より後に降ってくるのよ!?それに今はあの大軍を何とかしない、と・・・・・・・・・」

 

「おいうどんげ・・・こりゃどんな絡繰りだ・・・?まさかさっきまでのが全て幻覚だった、ってか・・・?」

 

彼等が硬直するのも無理は無い。

 

彼等の進路を塞ぎ、その命すらも蹂躙しようとした亡霊や妖怪の大軍。垣根と鈴仙の奮闘によりその数は減っていたとは言え全滅には程遠かった。

 

そんな連中が何故か1匹残らず───消えていたのだから。

 

「・・・当麻が私達より後に落ちて来た事もそうだけど。どうも嫌な予感がする、それも前回を紅魔館での一件とは違ってもっと根本的に・・・・・・危険な予感がする」

 

恐らくそれは鈴仙に限らず垣根も感じていたこと。

 

「・・・チッ、俺達はただ荒稼ぎがしたいだけだってのに。どうも気に食わねぇ奴がいるみたいだな。・・・・・・だが方針は変わらねぇ、降りかかる火の粉は払うだけだ」

 

 

 

 

だが彼等はまだ知らない。

これまでの出来事がプロローグにすら成り得ない事を。

 

自分達がこれから次々と巻き起こる数多の闘争の中核となる事を・・・・・・

 

彼等はこれから身体に、心に刻み込まれる事になる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

????SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、10031号・・・早かったじゃない」

彼女はふわりと現れた亡霊の少女を出迎えた。

 

「えぇ、貴女の予想通り彼の殺害は失敗に終わりましたから、とミサカ10031号は報告を手短に完了させます」

 

別に失敗など咎めるつもりは更々ない。

彼女では幻想殺し───上条当麻は殺せないと分かっていた。それでも彼女を向かわせたのは単純に覚悟を決めて貰うため。

 

これから多くの命が失われる

 

その中には10031号が手を下す事を躊躇う人物が居るかもしれない、ならばその前に彼女なりに区切りを付けさせるのが最善。

それが妥当であり10031号ならば可能だと少女は確信していた。

 

「彼は以前よりも強くなっていました、まだまだ強くなるでしょうとミサカ10031号は推察を深めます」

 

「所詮右手の幻想殺しだけでしょう?上条当麻を台風の目足らしめる要因は・・・私から言わせれば取り巻きの有象無象の方がまだ手応えがあるわよ」

 

「──そう、かもしれませんね。そうであれば私達の悲願の達成は容易く成せるでしょう・・・とミサカは意味深な言葉を残して消え去ります」

 

へぇ・・・この娘にここまで言わせるなんて。まぁ私も上条当麻が幻想殺し(それ)だけで幻想郷の重鎮達にまで名前を轟かせたとは本気では思っていないけれど。

 

「消える前に一つ聞かせて」

 

「まだ何か?とミサカは不思議そうに貴女に振り向きます」

 

「・・・もし気が変わったのなら、私は貴女を咎めない。そもそも今回のプランは貴女達の意志に沿って進めているのだから」

 

「変わりませんよ、ミサカの意志も・・・ミサカ『達』の意志も」

 

「そう、安心した。・・・・・・八雲紫は学園都市から鍵となる人物を拉致した、これを機に私達も計画を第二ウェーブに移すわ」

 

「第四ウェーブ、つまりはプランの達成までもう止まれない。10031号にも沢山汚れてもらう、覚悟しておきなさい」

 

 

 

 

 

誰しもがあの虐殺(じっけん)には終止符が打たれたと信じていた。

 

が、真実は異なる。

 

学園都市でも

 

そしてここ、幻想郷でも・・・・・・

 

絶対能力進化計画(あの時)より邪悪さを増して彼等の背後に迫っていた─────

 




出来れば年内に後1本は投稿する(予定)

え、年末の休み?年末がセールスピークの会社には知らない単語ですねぇ


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