徒然Locus of F (よしおか)
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単発ネタ
もしもリィンがキレる若者だったら


以前にふと考えた小ネタです。


 リィン・シュバルツァーにはある悩みがあった。それは、自身の気質の問題だ。

 

 

 きっかけはなんだったか……そう、数年前のあの雪の日のことだ。

 

『兄様っ、血が……!』

『大丈夫、大丈夫だから……』

 

 故郷の野山で起こった急激な天候の変化と、それに妹のエリゼと二人で巻き込まれたのだ。

 乱雑に生える樹木を切り払う為の鉈しか持っていない、そもそも幼いリィンとエリゼの二人だけで雪山に取り残されるという状況が既に危険さを物語っていると言うのに、よりにもよって二人は野山にいる筈の無い熊型の魔獣に出くわしてしまった。

 飢えた獣の爪は幼い二人にも容赦なく振るわれ……気が付けば、妹だけは守らねばと奮闘したリィンは、あちこち打撲と切り傷でぼろぼろだった。

 

『うぁあっ!?』

『兄様っ!』

 

 それでも倒れてはならぬ、と鉈を振るったリィンだったが、ついにその剛腕の前に倒れ伏してしまう。血の池に沈む……と言うのは多少大袈裟だが、少なくとも嬲るように痛めつけられるリィンを間近に見ていたエリゼには、そう見えてもおかしくなかった。

 

『兄様っ、兄様! いや、目を開けてっ、兄様ぁ……!』

 

 雪の上に倒れ伏したリィンに縋り付き、エリゼは必死にリィンを揺さぶる。怪我人に乱暴な、と彼女を咎めることは出来ないであろう。それだけ彼女は混乱し、リィンを案じていたのだから。

 

『グルルルル……!』

『ひっ、あ……!?』

 

 唸り声を上げてのそのそと歩み寄る魔獣を前にして、エリゼは恐怖に押しつぶされそうになりながらもリィンの身体に覆い被さり、兄をこれ以上傷つけさせてなるものか、と彼女なりに守ろうとする。

 

(あ……エリ、ゼ……)

 

 痛みと、血を失う脱力感の中で段々と意識を失いつつあったリィンは、その時確かに見た。自分よりも幼い妹が瞼をきつく閉じ、口元をきゅっと引き結んで恐怖に耐えるその姿を。そしてその妹に襲い掛かろうとしている獣の、獲物にあり付く瞬間の狂喜の表情を。

 

(……ふざけるな……)

 

 それを、見過ごしてはならぬと思った。血の繋がらない自分を家族として愛してくれた大切な人達を守るために、今立ち上がらなければと思った。

 怪我が何だ、今動かねばエリゼは自分よりも痛い思いをするんだぞ!

 恐さが何だ、自分が立たねば父上と母上に家族を失う痛みと悲しみを味わわせてしまうのだぞ!

 

『こ、のっ……エリゼに、それ以上近づいたら……!』

 

 エリゼを押し退けて立ち上がり……幼いリィンは己に喝を入れる。

 短い人生の中で、地元の子供の喧嘩や、猟師たちの会話で耳にしたことはあっても口にしたことなどついぞ無かったその言葉は……

 

 

『掻っ捌いて鍋にしてやるぞ、この毛玉野郎ぉっ!!』

 

 

 自分でも驚くほど、するりと口から滑り出た。

 

 

 

 

 

 

 

(……居心地が悪い……)

 

 時は過ぎて、現在。リィンは好奇と恐れの入り混じった視線に晒され、心持ち背中を丸くしていた。

 彼が今年から入学することになった、帝都近郊にある有名高等学校『トールズ士官学院』の旧校舎でリィンを始めとする九名は何故か、ある特別なオリエンテーリングに参加していた。

 最初に落とし穴に叩き込まれた時点で一人の女子生徒とトラブルになってしまい、誠心誠意謝罪したものの怒り心頭の彼女には視線を合わせることすらしてもらえず―――実際には、はじめて超至近距離で家族以外の男性に触れた気恥ずかしさによるものだったらしいのだが―――ひとまず、男子生徒達からの同情にすこしだけ持ち直したリィンは、その場に居た男子生徒達と共に旧校舎の奥へと進んでいたのだが。

 進んだその先で、一行はとんでもない物と遭遇した。旧時代の遺構の片鱗、石の守護獣ガーゴイルだ。

 

『なななな、なんでこんなものが学校の地下にぃっ!?』

『帝国というのはこんな怪物がごろごろ居るのか…!?』

『そんなわけがあるかっ! 流石に古い伝承の中だけだ!』

『とにかく構えろっ! 全員でかかれば何とかなる筈だ!』

 

 途中、彼らからしばし遅れて駆け付けた女子チームや、頭を冷やすと言って一人離脱していた眼鏡の男子生徒、更にものぐさそうな小柄の女子生徒なども援軍として参加したことで、彼らは何とかガーゴイルを退けた……誰もが確信した、その瞬間。

 

『え……』

『危ないっ!』

 

 金髪の女子生徒……アリサに向かって、ガーゴイルは風の魔法で生み出した圧力弾を放ち、気が付いた時には彼女を庇うようにしてリィンは飛び出していた。

 間一髪、風の魔法はアリサにぶつかる前に、その間に割り込んだリィンに炸裂する。腹を殴打されるような痛みに、堪らずリィンは膝を着いた。

 さすがに照れている場合ではないと思ったのか、アリサは自分を庇って崩れ落ちたリィンに駆け寄り……痛みに悶えつつも身体を起こした彼の眼差しを見て、びくりと身を竦ませた。

 

『し、しっかりしなさい! 傷は……』

『あいっててて……て、めえっ!』

『って、え?』

 

 あえて音にするならば、“ぎろり”とかそんな擬音が付くだろうか。鋭く、荒々しい視線でガーゴイルを睨みつけたリィンは、刀を構え直すと腰を落として重心を低く取り、足のばねで以てガーゴイルに躍り掛かった―――

 

 

『くたばりやがれトカゲ野郎ぉおおっ!』

―――凄まじく口汚い叫びと共に。

 

 

 で、その後。人の変わったような狂態を晒しつつも僅か一太刀でガーゴイルの首を刎ね飛ばしたリィンは、Ⅶ組のほぼ全員から少しばかり距離を取られていたのである。

 アリサは未だにリィンの豹変に理解が追い付いておらず、同じチームだったエリオットからはカツアゲしてきた不良を見るような怯えの視線を向けられている。ラウラとマキアスもまた、決して上品とは言えないリィンの先ほどの様子を思い出して眉を顰め、ユーシスとフィーは知ったことかとばかりに明後日の方向を向いている。

 恐がりつつも必死にフォローしてくれたエマの優しさと、全く気にせず健闘を讃えてくれたガイウスの器の広さにちょっと涙が出た。

 

(やってしまった……こ、高等学生になったらもうあんな風にはならないと決めたのにぃぃぃ……!)

 

 妹を守ろうと立ち上がった、幼いあの日。自分を奮い立たせるために敢えて乱暴な言葉で相手を罵り立てたことで、リィンには予想の斜め上を行く悪癖が付いてしまった……即ち。

 

 

 頭に血が上ると、滅茶苦茶口が悪くなる。

 

 

 馬鹿、阿呆、などの子供のような悪口であればまだ良い方。

 酷い時など、果たしてこれは自分の言葉なのだろうかとリィン本人ですら後々になって疑問に感じるような罵詈雑言の嵐が口から飛び出すのである。

 自分でも直そう直そうと常日頃から心がけてはいるのだが、どうにも改善の兆しはない。ふとした時についつい出てしまう困った癖だ。

 成人の前ならともかく、いずれ社会に出た時に難儀するのは自分。ましてリィンは、養子とはいえ由緒正しき帝国貴族の名を背負っているのだ。下手に誰かに噛み付いたりすれば、いつ何時「シュバルツァー男爵家は長男の躾もなっていない」という誹りを受けるか分かったものではない。自分だけならともかく、家族までもが要らぬ中傷に晒されるのだけは我慢できなかった。

 

(これは、下手したらクラスに馴染むどころの話では無いかもしれない……)

 

 士官学校という体育会系なイメージの学校であれば、自分より荒っぽい人間も居るかもしれないと思っていたのは確かだ。そういった者達の中に居れば、自然と自分の癖も目立たなくなって鳴りを潜めるかという打算もあった。

 が、しかし。サラ教官の言によると、順当に行けばこの場に居る九人で二年間を過ごすことになる。ここまでで一番素行が悪そうなのは誰かと言えば、言うまでも無くリィンであった。

 果たして実に行儀のよさそうなこのメンバーの中に自分が入り込んだとして、無事に平和で健全な学生生活を送れるのかというと―――

 

(駄目だ、どうあがいても遠巻きにされる未来しか思い浮かばない)

 

 がっくりと肩を落としたリィンに、更なる死刑宣告が下される。

 

「……あー、それと。リィン・シュバルツァー君」

「は、はいっ!」

 

 名前を呼ばれ、声の主に目を向ける。すると、苦笑するサラ教官が、何か大事なことを伝えねばならないのに、非常に言い辛そう、といった表情で頬を掻いていた。

 

「さっきあたしは“Ⅶ組への参加は自由”って言ったけど、君に関しては話が別よ。君の親御さんから、断るようなら退学させて構わないと言われてるわ」

「へ?」

「『厳しい環境での修練によって、息子の癖が矯正できるかもしれないので』とのこと。学院長や他の先生方も了承しているから、君の場合はⅦ組に参加するか荷物纏めて実家に帰るかの二択なんだけど……どうする?」

「……リィン・シュバルツァー、特課クラスⅦ組に参加させて頂きます」

 

 実質選択肢無えんじゃねえかコンチクショウ―――言葉にしなかっただけ成長していると思いたい。

 もう一度周囲を見てみると、まあ痛いほどに突き刺さる戸惑いと否定の視線。先程いざこざになった二人の男子も含めて、明らかに歓迎されていない。

 自身のこれからに抱いていた期待は綺麗に消え失せ、残ったのは倍に膨れ上がる不安。

 やっぱり今日は厄日だ、と改めて呟くリィンであった。

 

 

 

 

 

 




熊「来いよリィン、鉈なんて捨ててかかって来い」
リィン「てめーなんか怖かねぇ! 野郎ォオブックラッシャアアアアアアアアア!!」
 熊の敗因:捨てろっつったのにリィンが鉈を捨てなかったこと。

 某RPGに「穏やかで物腰柔らかい黒髪の刀使い」というキャラクターが出て来たのですが、こやつが「キレると髪が銀色になり、滅茶苦茶言葉が汚くなる」という特徴がありまして。
 そしてその続編で、彼の本名が“リイン”であったことが明かされました。
 翌年発売された閃の軌跡をプレイしつつ友人と話していて「リィンの過去の恥ずかしい時期ってのが中二病じゃなくて元ヤンだったらどうなっただろうね」とふざけてネタを練ったのがこれだったりします。
 多分このリィンの「人には言えない衣装」は特攻服なんじゃないでしょーか。国士無双とか暴走天使とか仏血斬とか背中に刺繍してあるような。


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もしも主人公が女オリ主だったら
もしも主人公が女オリ主だったら。


 リハビリがてら、以前の一発ネタにまた別のを追加する形で投稿です。主に閃の軌跡でてけとーに考えたネタをぽんぽん投下していこうかと。

 いろんな人たちに先越されてどっかで見たネタのオンパレードだけれどももう気にしない。


 エレボニア帝国、首都ヘイムダル。人口八十万人を擁する大陸一の大都市の周囲には、その喧騒を避けつつも帝都での職務のため、あるいは近代化されたライフラインの恩恵にあやかるため、いくつかの住宅街が点在している。

 帝都東部に位置する近郊都市トリスタもその一つ。しかしながら、西部のリーヴスをはじめとする他の都市とは一つだけ明確な違いがある。

 住宅街から北へ進むと見えてくる、小高い丘の上に鐘楼を頂く赤い屋根の建物群―――トールズ士官学院。時の皇帝が晩年に設立した、由緒正しい高等教育機関である。

 二百年を超える歴史を持つ学院は、多くの優秀な学生たちを輩出してきた。封建国家であるエレボニアを統治する皇族や各州の名門貴族はもちろんのこと、ここ数十年のところでは多くの奨学金や授業料の免除措置も整備され、かつては貴族の従者としてしか入学できなかった平民階級にも門戸を開いている。

 

「へぇ、ここがトリスタかぁ……ユミルよりもずいぶん暖かいな。雪が全然残ってないや」

 

 そう言って駅から姿を現した赤い制服の人影も、本日を以てトールズ士官学院へと入学する新入生だった。涼やかな黒髪から覗く紫の瞳を故郷の雪国とは何もかもが違う街並みへと巡らせれば、自分と同じく進学してきた少年少女があちらこちらに見受けられる。

 駅前の公園には見頃を迎えるライノの花が咲き誇り、淡い香りと共に駅に行き来する人々を迎える。自分と同じように見慣れない街を眺める学生たちの姿を見渡しながら、これから始まる二年間の学生生活に思いを馳せると、不思議と活力がわいてくるような気がした。

 

(ここで、二年間学校に通うんだよな……父さんと母さんは快く送り出してくれたけど、エリゼがなぁ……)

 

 住み慣れた故郷を出て都会へと進学することに難色を示していた家族。最終的に両親は自分の熱意を認めてくれたが、年の近い妹だけは最後まで良い顔はしてくれなかった。妹もまた帝都の女学院へと籍を置く身だが、それは良家の令嬢たちが花嫁修業を兼ねて進学するような側面の強い学院だからであって、将来の軍人を養成する教育機関であるトールズ士官学院とは訳が違う。大切な家族が命の危険のある職業へ就くということが、心優しい妹には許容できなかったのであろう。

 幼馴染の少女が説得を買って出てくれたが、その少女も自分と同じくトールズへと進学するのだから、親しい同年代の者たちが一度に故郷を離れてしまうということで余計に拗ねてしまった気がする。

 

(次にユミルに帰る時には何かお土産でも買っていかないと……って、入学早々帰省した時のこと考えてどうするんだ、そんな余裕があるのかどうかだってまだ解らないのに)

 

 そんな風にうだうだと考え込んでいたからか、背後に近づいた気配に気付くのが遅れてしまう。

 

「―――だーれだっ」

「わぁっ!?」

 

 敵意も何もなく忍び寄ってきた人影に背後から両目を塞がれて、素っ頓狂な声を上げる。驚きに硬直するもすぐに呼吸を整えて、背中に密着する人物―――声からして、自分と同年代の女子か―――を引きはがす。

 トリスタの駅に降り立った人物の中に、こんなイタズラを仕掛けてくるような仲の少女なんて一人しかいない。振り返ってみれば、やはりそこにあったのは二つに結んだ金髪を揺らす勝気そうな姿。

 

「あ、アリサっ!」

「あははっ! 一本取ったわよ!」

「自分で言うなっ、まったく……」

 

 案の定、先ほど思い浮かべていた幼馴染の少女が心底おかしそうにけらけらと笑っていた。

 どうやら同じ列車でトリスタへ向かっていたが、混み合う車内では合流できなかったらしい。

 

「久しぶりね。先月あなたがルーレ(こっち)に来てからだから、一か月くらいかしら?」

「ああ……もうそんな前か。あの時は受験が終わって疲れてたところで進学に必要なものやら買い込んでたから、ロクに記憶に残ってなかった……」

 

 入学試験に引き続き、アリサ、と呼ばれた金髪の少女の地元へ行った時のことを思い出すが、受験勉強からの解放感が抜けきらないまま慣れない人込みにショッピングと言って連れ出されたことを思い出して顔を青くする。

 穏やかな人柄の友人の珍しい顔を見てことさら笑うアリサは、気合を入れろとばかりにその背を叩く。

 

「ほらほら今からそんなんでどうするのよ。私にあっさり後ろを取られたことと言い、あなた少したるんでるわよ。入学式にげっそりした顔で出席するつもり?」

「はいはい、わかってるって」

 

 頭を軽く振って意識を切り替える。

 そう、今日から自分たちは士官学生。近年の世論の影響もあってか卒業生に軍人以外の進路も増えているとはいえ、基本的にトールズ士官学院の学生とは軍人の卵なのだ。

 背負い袋の肩ひもを握りなおすと、収めていた太刀の鍔がかちゃりと音を立てる。武具を持ち、軍学校への門戸を潜る以上は甘えは許されない。そんな調子では剣の師にも笑われてしまう。

 

「さてと、それじゃあ行こうか……アリサ、二年間よろしく」

「ふふ、こっちこそ―――」

 

 これから学友となる幼馴染に、改めて挨拶を。気の置けない友人が元気を取り戻した姿に安堵したのか、アリサもまた微笑みかける。

 

 

「一緒に頑張りましょうね、()()()

 

 

 そうして言葉を交わしながら、二人の少女は自らの学び舎へと足を向ける。新生活を前にして期待に彩られた笑みは、どこまでも自然体で軽やかで。

 制服がどうして入学案内の色と違うのかと首を傾げたり、駅前の喫茶店のケーキに目を奪われたりする姿はどこまでも年相応の子ども達でしかない。

 

 

 だから、少女たちはまだ知らない。

 

 

 将来へ向けての通過点でしかなかった高等学校への進学をきっかけに、多くの仲間たちと出会い、祖国の闇を知り、幾多の喜びと、それを押しつぶそうとする悲しみに直面することを。

 やがて英雄と呼ばれる少女―――帝国北方の男爵家の()()、『リアラ・シュバルツァー』は、後に激動の時代と呼ばれることになる帝国の混乱期へと、小さな一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

***************************

 

↓誰得にもほどがあるオリ主設定

 

 

リアラ・シュバルツァー

 

 

 辺境の地ユミルを治めるシュバルツァー男爵家の家人である少女(戸籍上は長女となっているが、本人が養子であることに引け目を感じており、生家について他者に語るときはあくまで自分は“家人”であるといって誤魔化し、義妹のエリゼを次期当主として挙げる)。

 黒髪を肩口まで伸ばしており、紫の瞳は若干たれ目である。

 幼少時の記憶がなく、気が付いた時にはユミルにて後の義父であるテオに保護されていた。シュバルツァー家に養子として引き取られてからはユミルにて義理の家族と共に暮らし、ラインフォルトの令嬢・アリサと親交を得るなど、穏やかな日々を送っていた。

 しかしその後、魔獣に襲われた幼いエリゼを守るために鬼の力を覚醒させるも、目の前で魔獣を惨殺したことで怯えられてショックを受け、一時期部屋に閉じこもって二人とのかかわりを断つ。

 エリゼは優しい姉を傷つけてしまったことを後悔しており、アリサもアリサで家族に続いて友人との縁まで失ってなるものかと(父が事故死した頃である)二人がかりでリアラの部屋へ強行突入。大泣きしながら三人が互いに思いの丈をぶちまけ合ったことで、ノルティア出身の少女たちは固い友情で結ばれた。

 このため八葉一刀流に対する熱意はそれほど高くはないが、友人や家族からの理解が得られているという自覚からある程度の自信が付いたことで幾分か社交的な性格になる。ただし幼少の頃に自分を引き取ったテオが社交界で心無い言葉を浴びたことを気にしており(妾の子どころか育てて妾にするつもりだ的なことを言われた)、若干の貴族不信・男性不信気味。

 

 子どもの頃、アリサの趣味に付き合ってノリノリでコスプレをしていた時期があり、今でも悪意なく当時の話を持ち出してアリサのSAN値を的確に抉ること多数。ユン老師と共にユミルに来たアネラスに目撃され、一回二人してお持ち帰りされかけた。

 

 

例:いつぞやのパンタグリュエルにて。

 

レン「殲滅天使なんて名乗ってたのもまあ、今にして思えば黒歴史って奴かしら」

リアラ「あ、わかるわかる。私とアリサも似たような経験あるからねえ。やってる時はすごい楽しかったんだけど後から思うと結構アレだったなーって」

エマ「リアラさんっ! リアラさんお願いですからもうその辺で!? アリサさんが血を吐いて痙攣していますからっ!?」

アリサ「ヤメテヨシテオネガイワスレテイッソコロシテ(びくんびくんチヘドッ)」

ユウナ「アリサさああああああああん!? 」

フィー「めでぃっくめでぃーっく(棒)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本人は綺麗さっぱり忘れているが、“リィン”という名前の双子の兄がいたかもしれない?




私「閃の軌跡はⅢ以降の脈絡のないギャルゲー展開が減点ポイントって言われてる。なら乙女ゲーにしちゃえば良いじゃない」
友人「ごめんちょっと何言ってるか分からない」


 という訳で「もしも主人公が女オリ主だったら」でした。
 以前にふと「リィンに実妹が居て、その妹がアリアンロードに拾われて鉄機隊に居たらどういう話になってたかな」とか考えたのがきっかけのお話です。
 結社に所属し、ちょいちょいⅦ組と出くわす謎の甲冑の少女。煌魔城での激闘の果てにリィンに断ち割られた兜の下から露わになった顔は、彼と同じ黒髪に紫の瞳だった……! なんて展開にしたら面白いかなと思ったのですが、書いてるうちに「これむしろリィンの立ち位置に女性主人公いたらどうなったかな?」と思ったのと、ピ〇シブの小説に結構な量の『クロウ×リィン(♀)』という素晴らしい作品があったのでそちらから着想を得ました。実にいいね。

 あとこの設定だとⅦ組の生徒同士の諍いをはじめとしたイベントにいろいろと変化を付けられるし何より宰相の「I am your father」の絶望感が半端ないことになって実に愉えt(ry


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女オリ主のオリエンテーリング -バラバラな、彼ら-

なんかちまちま書いてたら文量貯まったのでどーん。


 入学案内に欠片も記述のなかった赤い制服の正体は、入学式を終えて新入生向けオリエンテーリングを行うという会場―――古めかしい石造りの旧校舎へと案内されたところで、ようやくその着用者たちの知るところとなった。

 

 トールズ士官学院は出自を問わず門戸を開く学びの場ではあるが、そこはやはり封建国家のエレボニア帝国。

 生まれ落ちた階級の違いは、そのまま生涯を通じての生活習慣と文化の違い―――差し当たっては平均的な教育水準の違いへと、如実にその差を示す。文明的な生活に必要な程度の読み書き計算を学べる日曜学校と違い、家庭教師を雇っての勉学なんてものは非常にお金のかかるものなのだから。

 よって入学の資格そのものに身分の差はなくとも入学後のカリキュラムに顕れる内容の違いから、学生たちは五つのクラスへと振り分けられる。

 帝国の騎士たる“臣”として認められ、爵位を持つ家に生まれた貴族の生徒たちは、白い制服を纏うⅠ・Ⅱ組へ。

 宮廷とは遠い“民”として生まれ、その代わりに貴族に比べれば多くの自由を獲得しうる平民の生徒たちは、緑の制服を纏うⅢ・Ⅳ・Ⅴ組へ。

 それがトールズの伝統ある学院の運営の一つであった―――去年までは。

 

 

 特課クラス『Ⅶ組』……今年度より発足した“身分や出自に関係なく”編成された試験運用学級。

 これまでと何もかもが違う特別なカリキュラムをこなす生徒たちは、一目でわかる赤い制服を着用することとなったのだ。

 一体全体何を試験運用するためなのか、という問いがリアラの脳裏には浮かんだが―――

 

 

 

「……冗談じゃない! 身分に関係ないだって!?」

 

 

 

 それらを遮る怒号に、素朴な疑問はどこかへと飛んで行った。

 

「まさか貴族なんかと一緒の教室で、時代遅れの教育を受けろと言うんですか!!」

 

 場所が場所ならその場で逮捕されかねないような持論をぶちあげながら咆哮する緑髪の男子生徒―――マキアス・レーグニッツ。しつこいようだがここはエレボニア“帝国”である。

 そのまま彼はやれ帝国の階級制度は旧態依然としており云々、搾取する側とされる側の構造が定着して云々と、勢いに任せた演説を繰り広げる。そこに向けられる視線はさまざまだ。

 ユーシス・アルバレアやラウラ・S・アルゼイドのような貴族出身の生徒はマキアスの言い草に大なり小なり眉を顰め、エリオット・クレイグやエマ・ミルスティンのような平民出身者は貴族を恐れぬマキアスの勢いに若干引いている。階級制度のない他国からの留学生であるガイウス・ウォーゼルは初めて耳にする貴族への不満の声を後学のために真剣に聞いており、そもそも己のルーツを今一つ分かっていないフィー・クラウゼルなどは退屈そうにあくびを噛み殺していた。

 そんな中、ひそひそと口元を寄せ合う少女が二人。

 

「……ねえ、うち以外のエレボニア貴族って本当にそんなステレオタイプな悪者ばっかりなの?」

「そんなわけない……とは言えないのかしらね。うちも企業としての利益絡みで嫌な話は結構聞こえてくるし」

 

 搾取とかその辺とは無縁の友情を築いてきたリアラとアリサにとっては二つの階級の対立とは対岸の火事でしかなく、マキアスが提起する帝国全土の問題というのも知識としては知っている、という程度であった。なんならあまりにも慎ましいシュバルツァー男爵家の暮らしぶりに、平民としては恵まれた生まれであるアリサが絶句したことすらあったのだから。

 

「つってもいまいちピンと来ないなぁ……年末に父さんと長老たちが一緒に郷中のワイン飲み尽くしちゃったのは“平民からの搾取”なのかな。それにしたって後で郷の女衆から皆どえらい怒られてたけど」

「テオおじさまは何をやってるのよ……」

 

 清貧を美徳とし、民と寄り添い支え合うことを至上とするシュバルツァー男爵家の純粋培養な長女に、若干心配を募らせる親友の姿があった。

 

「―――それにそこの君たちも、言いたいことがあるのならはっきり言いたまえ!」

 

 そうこうしているうちに、先ほどからユーシスを相手にがなり立てていたマキアスがリアラ達へと向き直る。どうも二人の内緒話を、自身への批判と受け取ったらしい。

 

「はっきり、っていうか……あんまりピンと来なかったもんだから、平民は貴族に搾取されるものだーとか言われても何のことかよくわからなくて。うちでも―――もが」

「この子の故郷にはその地域一帯を治めてる領主様の屋敷があるけど、領主様も奥様も気さくな人だから貴族と平民の垣根が高くないのよ。薪割りも屋敷の掃除も自分でやるような人達だしね」

「……そ、そうか」

 

 シュバルツァー家ではそんな事はない、と言いさしたリアラの口を塞いでその先をアリサが引き継ぐ―――リアラが男爵家の長女だということは伏せるようにして。貴族嫌いをここまで露わにする相手にあっさり実家のことを言おうとする当たり、幼馴染の危機意識の無さについてはそのうち腰を据えて話し合わねばならないかもしれない。

 苦笑する二人の姿に毒気が抜かれたマキアスは、それ以上の追及をすることなく押し黙る。貴族の当主が手ずから薪割りをするというのがちょっと信じられなかったのもあるが、女子二人に食って掛かっておきながら、やんわりと躱されたのが少々バツが悪かった。

 

「ほう、婦女子を相手に声を荒げた挙句に思い違いを謝罪しないのが実力ある平民なのか?……いやはや、女性に対して紳士であれと“旧態依然とした”教育を受けた身からすれば、恥ずかしくてそんな真似はとても出来んな」

「んなっ……何だとぉ!?」

 

 その隙にすかさず揚げ足を取りに行くのは、意外に好戦的な煽り方をするアルバレア公爵家が次男ユーシス・アルバレア。やられたからには倍返ししておきたいお年頃であった。

 

「ぬ、ぐぐぐ……そ、そうやってお前たち貴族は、他人を見下して……良いか! 僕は誰が相手であろうと、理不尽には絶対に―――」

「はーいはいそこまで」

 

 いよいよヒートアップしかけたマキアスを軽い声色で止めたのは、一段高い教壇に立つ女性―――彼らⅦ組の担任になるという戦技教官、サラ・バレスタインだった。

 

「価値観の違いや見解の相違なんてのは平民同士、貴族同士だって当たり前に発生するものよ。君たちは出会って間もない新入生なんだから、これからの学園生活で追々擦り合わせていきなさいな。特に男の子同士だったらそういうのは夕日の河川敷で殴り合ったり、協力して窮地を乗り越えるうちに自然と気にならなくなっちゃうものじゃない?」

「そ、そんなわけないでしょう!?」

「こちらから願い下げだ、こんな奴と協力など!」

 

 ウィンクなぞ飛ばすサラの言葉に、協力なんてして堪るかと噛み付くマキアスとユーシス。一向に態度が変化しない二人を見やり、サラはおもむろに一歩下がる。

 

「そっかぁ……そうよね、言葉だけじゃなかなか伝わらないわよねぇ、うんうん。論より証拠、案ずるより産むが易し。昔の人は良い事言ったもんだわ」

 

 おどけたような口調で教壇の上を歩くサラの右手が、後ろの壁へと着いた瞬間―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんじゃ手っ取り早く、一回みんなで窮地を乗り越えて来てね♪」

 

 がごん、と鈍い音が床を揺らし、サラを除く全員が平衡を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うわああああーーーーーー!』

『嘘でしょぉおおおおおお!? あ、リアラお願い受け止めっ……』

『わああっ、アリサ今こっち来たら……あ゛ーーーーーーーーーーー!?』

 

 

「……お、始まったみてえだな」

 

 旧校舎の一階から聞こえてきた悲鳴の大合唱を聞いて、石造りの二階テラスで待機という名の昼寝に勤しんでいた青年はむくりと身を起こす。気だるげな口調とは裏腹に意識はしっかりとしており、それがわかっていた傍らの女性もまた、常の会話のノリでその言葉を拾った。

 

「ああ、どうやらサラ教官は本当にあの仕掛け床を使ったらしいね」

「うっわえげつねえ。後輩君たちカワイソー……」

「まったく、設置したのは我々とはいえ同情を禁じ得ないよ。ああ、ただ……」

 

 そこで女性はふと俯き、旧校舎の地下へと飲み込まれていったであろう哀れな後輩たちを想う。しばしの沈黙の後、やおら自らの肩を抱くようにして天を仰いだ。

 

「バランスを崩しての不意の接触と、暗い地下での小さな冒険。お互いがお互いしか頼れないような状況で、少女たちに芽生える友情と小さな愛……良い。実に良いシチュエーションだ! ああっ、どうして私はあの場にいることができなかったんだ!」

「今からでも遅くないから落とし穴に飛び込んでいっぺん頭のどっかぶつけて(治して)来い。っつか同級生だけじゃ飽き足らず入ったばっかの後輩にまでコナかけるつもりかテメー」

「何を言うのだね友よっ! 可憐な少女あるところ、少女たちの笑顔を遍く照らす太陽となるのが私の果たすべき使命さ!」

「聞いた俺が馬鹿だったわ」

 

 そんなときである。コントのような軽妙なやり取りをする二人に、また別の人影が声をかけた。

 

「二人とも、盛り上がってるところ悪いんだけどこっちもちょっとした問題が発生したよ。アンは後輩の女の子のことよりも、ひとまずこちらの解決に注力して欲しい」

「問題? ……ふむ、ジョルジュ。言うに事欠いてこの私に、少女たちとの戯れより優先しろとまで言うんだ。よもやくだらない用事ではなかろうね」

 

 アン、と呼ばれた女性は、恰幅の良い男性……ジョルジュに向かってこころなしか鋭い視線を向ける。その反応も織り込み済みのジョルジュは、苦笑いを浮かべながらある一点を手で示す。

 そこにあったのは、一階の様子をうかがいながら顔を青くする小柄な少女の姿。つい数十分ほど前まで後輩たちの充実した学生生活をサポートするべく、小さな身体に気合を入れて瞳を輝かせていたのだが、今現在は生まれたての小鹿の様に全身を震わせ目元には大粒の涙を浮かべていた。

 

「……ま、まさかサラ教官がほんとにあのトラップを使っちゃうなんて……! どうしよう、落っこちる先に危険物が無いのは確認したけどそれだって万全じゃないし、中には受け身なんて取れない子もいるかもしれないし……あぅぅ、万が一床に叩き付けられてケガとかしちゃったらどうしよぉ……!」

「あの割かし危ないトラップ設営の片棒を担いじゃったと知った我らが生徒会長が、罪悪感と心配で押しつぶされそうになってるから」

「トワああああああ大丈夫だよトワああああああああだからお願い泣かないでえええええええええええええ!!!」

 

 ジョルジュの解説が終わるか否かで、弾丸のように飛び出したアン―――アンゼリカが小柄な少女に熱烈なハグ。体格差故に吹っ飛ばされそうになりながらもその衝撃を受け止めた少女……トールズ士官学院生徒会長トワ・ハーシェルであったが、アンゼリカの胸元にすっぽりと頭を抱きこまれて目を白黒させていた。

 

「ひゃああ! あ、アンちゃんなに急にっ!?」

「ああっ、後輩たちを心配する物憂げなトワもまた美しいが、どうか涙を拭いておくれ。あの中には私のライバルともいえるリアラくんも居る。彼女がいる限りは新入生たちも滅多なことにはならないさ。だからほら、いつもの太陽のような笑顔を見せてくれたまえっ!」

「あ、それなら安心……ってちょちょちょっ、そ、それはわかったけどアンちゃんさっきからどさくさに紛れてどこ触ってるのっ!? いやあああクロウくんジョルジュくん、たーすーけーてーーーーーっ!!」

 

 ぐへへよいではないかよいではないか、とストレートに気持ち悪いうめき声を漏らすアンゼリカから逃れようともがくトワだが、そのトワに助けを請われる青年二人はマイペースに会話を続ける。いつものことだし突っ込むのが面倒くさいわけでは決してない。

 

「こいつのライバルねぇ……あーそういや後輩の女がずいぶんとモテモテだとかで『私のハーレムが奪われるー』とか騒いでたっけか」

 

 銀髪の青年はといえば、アンゼリカが挙げた名前に反応する。彼女との何気ない会話で、幾度か耳にした名前だったのだ。

 

「同郷の女子……アリサさんだっけか? その子とも幼馴染で随分仲がいいって話しだったけど、アンほどあっちこっちに声をかけていたようには見えなかったね」

 

 二人が思い返すのは、先ほど悲鳴を上げながら落とし穴へと姿を消した黒髪の女子。()()とみれば節操なく口説きにかかるアンゼリカをして“最大の脅威”と評される新入生に、いったいどんな問題児かと密かに戦々恐々していたが、ふたを開けてみればどこにでもいそうな落ち着いた少女。正門前でトワと会った時にも特に妙な反応はしなかったらしく、正直なところ肩透かしを食わされた気分であった。

 

「……その反応も致し方あるまい。だが無自覚ゆえに恐ろしい天性の人たらし、というものが、この世界には存在するのだよ……断言しよう。今年の一年生の人間関係はだいぶ波乱に満ちたものになる。ノルティアの“初恋キラー”の名は伊達ではない」

「おーおーそりゃ恐ろしいこって……ま、ゼリカ以上のトラブルメーカーなんざそうそう居ないだろ。名前負けであることを祈っとくよ、俺は」

 

 なんだとー、というアンゼリカの抗議を一切無視して、地下校舎での特別オリエンテーリングへと叩き込まれた一年生たちをフォローするべく、銀髪の青年は階下へ続く階段へと足を向ける。

 

 

 

 

 

 この数か月後。

 銀髪の青年―――トールズ士官学院二年生クロウ・アームブラストは、アンゼリカの言葉の意味を痛いほどに思い知る。

 黒髪の少女を相手に大いに動揺し、やきもきし、みっともなく振り回される自分の姿など、彼はこの時点で想像もしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 場面は戻って、旧校舎地下―――落とし穴へと飲み込まれたⅦ組の学生たちは、幸いにも大きなケガもなく着地していた。

 

「あたたた……アリサ大丈夫?」

「え、ええ。咄嗟にリアラが受け止めてくれたから……」

「……二人とも無事で何よりだが、よかったらそろそろ退いてもらって良いだろうか」

「うわあごめんっ!? 私ったら何てトコに座ってっ!?」

「きゃああ!? ご、ごめんなさい大丈夫っ!?」

 

 互いが互いをかばう形で床への激突を免れたアリサとリアラが、自分たちの下で若干青い顔をしているガイウスに気付いて慌てて彼の上から飛び退いたり。

 

「あわわ、すみませんすぐに退きますからっ!」

「い、いや気にしないでくれたま―――ぐふぅっ!?」

「……む、すまん」

 

 眼鏡の少女エマをどうにか受け止めつつも背中を強打したマキアスの上に、不幸なことに続けてユーシスが降ってきたり。

 

「ふむ、皆目立つようなケガはないようだな。レーグニッツとやらが少し心配だが、まずはそれだけが幸いか……そなた顔が赤いぞ? どうしたのだ?」

「何でもない……何でもないから降ろしてお願い……!」

 

 危なげなく着地したラウラの腕の中で姫抱きにされたエリオットが羞恥やら何やらで、自身の髪の色に負けないぐらい真っ赤になっていたり。

 

「よっと、肩借りるよー」

「おおっ!?」

 

 最終的には、全員から一拍遅れて落下してきたフィーがラウラの肩に手を突いてくるりと身を翻しながら降り立ったところで、改めて全員が態勢を整えた。

 

「ご、ごめんね思いっきり尻に敷いちゃって。ケガとかない? 私重くなかった?」

「いや、そちらこそどこか痛む場所は無いか?」

 

 アリサを起こしたリアラは、続けて床に倒れ込んでいたガイウスを助け起こした。女子二人分の重量を受け止める羽目になったガイウスだったが、体格に恵まれた彼には致命的なダメージとはならなかったらしい。互いに気遣いながら起き上がったリアラとガイウスは、土ぼこりを払ったりしつつ周囲を見渡した。

 

「ありがとう、おかげで私もリアラも無事だったわ」

「礼には及ばない。それに俺よりも―――」

 

 アリサからの感謝の言葉に控えめに返すガイウスが視線を移す。つられて二人がその先を目で追うと、エマに支えられながらよろよろと起き上がったマキアスが、頬を掻きつつ目を逸らすユーシスを睨みつけていた。

 

「いや本当にわざとではなかったんだがいかんせん落ちた位置が悪かった、許せ」

「げっほごほっ、き、貴様ぁああ……!」

「す、すみません! 私が一人だけ避けたから……」

 

 目じりに涙を浮かべて鳩尾を擦るマキアスに、流石に申し訳なさを感じているのかユーシスが(彼の中では比較的素直に)謝罪する。しかしマキアスからしてみれば先ほどまでの険悪な雰囲気と併せて今の打撃である。激しく咳き込みつつも今にもユーシスへと殴り掛からんばかりの勢いだった。

 マキアスに受け止められたエマが取り成そうとしているが、どうにも効果は出ていないようだ。

 

「ま、まあまあ落ち着いてよ。ちょっと言い方はアレだけど、アルバレアの若様も誠心誠意謝ってるんだから……」

「この態度のどこが誠心誠意だ!? 口先だけで済まそうとしているのがだだ漏れじゃないか! どうせこっちが平民だから適当に済ましてしまおうとか考えているに決まっているっ!!」

「……ほお、俺の謝罪にそこまで価値がないと言うのなら、撤回しても問題はあるまいな?」

 

 ラウラの腕から解放されたエリオットも貴族との諍いを恐れてマキアスを宥めるものの、さすがにここまで悪し様に言われては、ユーシスだって黙っている義理はない。

 喧々諤々と言い合いを始めた二人をどうするかと、リアラとガイウスは宙を仰いだ。

 

「どうにか止めてみる……このままじゃ本当に、地下室で一日目が終わっちゃいそうだし」

「俺も手伝おう。順当に行けばこの9人で二年間を過ごすのだから、初めから諍いばかりというのも面白くはない」

 

 止まりそうにない口喧嘩を仲裁するべく、二人は大声の中心へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 




〇想定できる波乱の人間関係の例:閃、無自覚の魔性フルスロットルの結果。

パトリック「リアラ嬢! 今日こそ僕と一緒に貴族生徒のサロンへ―――」
ユーシス(無言で抜剣の構え)
マキアス(無言でショットガンをポンプリロード)
リアラ「あ、ごめんパトリック、今日はトワ会長の手伝いで……って二人ともどうしたの、いきなり武器取り出したりなんかして」
ユーシス「なぁに、今日の授業で酷使したからな」
マキアス「手入れをするにはケースから出して広げないといけないだろう?」
リアラ「そう? まあ良いけど……あ、そういうわけだから。せっかくのお誘いだけどまた今度ってことで」
ユシ&マキ「( ぎ ろ り )」
パトリック「ははははは……し、失礼しましたー……」

フィー「あの二人、ずいぶん仲良くなったね」
ラウラ「動機が不純すぎるわ」

ユシ&マキ「(ピシガシグッグッ)」


〇想定できる波乱の人間関係の例:閃Ⅲ、複雑な家庭環境。

ルーファス「鉄血宰相……彼こそが私の“真の父”―――!」
オズボーン「お前に“お義父さん”などと呼ばれる筋合いは無いわどこの馬の骨とも知れぬ青二才がぁ!!」(CP-0 Sクラ速効)
ルーファス「いやそういう意味じゃなグワーーーッ!?」



〇想定できる波乱の人間関係の例:閃Ⅳ、ボート小屋の決戦(nice boat)

ブリジット「堕ちた英雄リアラ・シュバルツァーーーっっっ!!あなたが、あなたがアランを誑かしてぇええええ!!(メルギア乗っておめめぐるぐる)」
アラン(正気)「誤解だブリジットーーーーーーーーっ!?」
リアラ「私これ別に悪くなくない!?」
アリサ「人誑しの軌跡ここに極まれり(2年分の自業自得)ね」




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女オリ主と副委員長とのあれこれ・4月

違うんや、私は今日の休みでプリプリの方の続きを書かなアカンと思って机に向かったんや。
なのに何故か書きあがっていたのはこっちのお話だったんや。
朝にちょっと気合を入れて濃い目のコーヒーを淹れたのが悪かったんや。

はい。そんなこんなで案外続いてしまった女オリ主もの、4月の絆イベント(マキアス編)です。


(……どうしてこんな状況になっているんだ)

 

 ライノの花も見頃を終えて、舗装された石畳の道へとちらほら花弁を落とし始めた頃。

 近郊都市トリスタの一角にある宿酒場『キルシェ』……その軒先に設置されたオープンテラスで、マキアス・レーグニッツは眉間に大層深いしわを寄せていた。

 週に一度、士官学院の学生たちにも訪れる休息の日。普通の学校と違ってあくまで休日でなく自由行動日という呼び名だが、彼が午前のうちからお気に入りの店でコーヒーを飲める日という事実に大して変わりは無い。

 進学先の街に美味しいコーヒーを出してくれる店があるというのは、父親ともどもコーヒーを数少ない趣味とするマキアスには僥倖だった。

 春のあたたかな日差しを浴びながら勉学に励みつつ、慣れ親しんだ苦みと酸味を味わえるというのは、平民出身の自分にとってはこのうえなく充実した時間である―――と思っていたのだが。

 

「はふぅー……やっぱりここのコーヒー美味しいねぇ。マキアスが気に入るのも分かるな」

「……そうか」

 

 どういうわけだか、おおよそマキアスにとって天敵でしかないはずの貴族出身の女子学生が、目の前で同じものを飲んで幸せそうに頬を緩めていたのであった。

 

(いや、本当にどうしてこうなった)

 

 我に返って内心で頭を抱えるも、どうにも気の抜ける目の前の笑顔が雲散霧消することもなく。

 両手で持ったマグカップの中身をふー、と吹いて冷ましながら堪能するリアラ・シュバルツァーのほほ笑みに、マキアスは数十分前のことを思い返す。

 

 

 

 

 

 自由行動日を迎えたトールズ士官学院の学生たちは、大概が羽を伸ばそうとトリスタの街へと繰り出す。

 そんな中、マキアスが宿酒場の軽食・喫茶コーナーなどという洒落た場所を訪れたのは、純粋に美味しいコーヒーを求める以外にも、落ち着いて宿題に取り組める場所を探してのことだった。

 『キルシェ』の本業は宿泊と食事であるが、有名な学院を擁する街において、商業施設は軒並み学生向けのサービスを何かしら行っている。

 例えば書店であれば教科書や参考書の優先販売や取り寄せサービスを。例えばブティックであれば学生服や体操着といった衣服の手配の他、修繕の受付を。

 そして宿酒場では、混雑や夜間の時間を除いて、学生たちに宿の一部スペースを自習室として提供しているのである。

 

「お、今日も来たなぁコーヒー坊や」

「ははは……その節はどうも」

 

 若い店主のからかい交じりの歓迎に、頬を掻きつつ会釈する。

 初めてこの店を訪れた際、他の客がいなかったこともあってか豆の挽き方からドリップの方法までカウンターをのぞき込みつつ色々と質問してしまったのがきっかけで、マキアスは店主フレッドに妙なあだ名で呼ばれていた。

 普段であればカウンターで二、三、他愛のない世間話をしつつ、フレッドが丁寧にハンドドリップで淹れてくれたコーヒーを待ちながらノートと教科書を広げるのだが、その日の『キルシェ』は珍しく混雑していた。

 

「今日は表のテラス席の方で良いか? つってもお前さんトコの学生さんと相席になっちまうけど……」

「ああ、はい。先客が良いんなら僕は構わないですよ」

「すまないな、この分はサービスさせてもらうぜ」

 

 自習スペースとして使える部屋が満室と聞いてテイクアウトも考えたが、せっかくならば腰を落ち着けて楽しみたい。

 どうせ鼻持ちならない貴族生徒ならば平民の学生との相席なんて断るだろうし、承諾されたなら相手に心配はないだろう―――マキアスはこの時、無意識の傲慢とも呼べるような考えで以てテーブルへと歩を進めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 それから数分のうちに。

 案内されたテーブルには、数学の教科書に突っ伏してうんうん呻いていたリアラの姿があり。

 貴族としても年頃の女子としてもどうなんだそれ、という姿に絶句しているうちに彼女の頼んだ深煎りコーヒー(フルシティ)を運んできたフレッドが「せっかくだから教えてあげたらどうだ?」といらんことを言い出し。

 あれよあれよという間に、まとめて一皿に盛り付けられたクッキー(相席することになった二人へのサービス)を挟みつつ、気が付いたら勉強会のような催しが始まっており。

 

「終わったーーーっ!! マキアスありがとーーーっ!!」

「お、おお……」

 

 課題をこなした達成感にガッツポーズなんぞ決めるリアラの姿に若干引きつつ、マキアスはすっかり冷めた自分のコーヒーに口を付けた。

 

「あ、私もおかわりしようかな……今度はカフェオレにしてもらおっと」

 

 自分のカップが空になっているのに気づいたリアラが、マキアスのカップから漂う香りに反応してフレッドへと注文を伝えに行く。

 上機嫌に席を立つその背を見つめながら、マキアスはぽつりと呟いた。

 

「……そういえば、紅茶じゃなかったな」

 

 突如として始まったプチ勉強会にすっかり気を取られていたが、リアラは終始マキアスと同じく深煎りのコーヒーを飲んでいた。

 貴族出身の人間というものは、気取った作法やらなにやら必要な紅茶しか飲まないものだと思っていたのだが……思えばリアラは、マキアスのイメージしていた貴族の女性とはどうにもかけ離れたところが多い女子だった。

 

(確か、オリエンテーリングの時もそんな感じだったか)

 

 思い返すのは数週間前。リアラとマキアスを含めた九人が同じクラスに所属すると決定した、あのオリエンテーリングの日のことであった。

 

『その、他意はないんだが……階級を聞いておいてもいいだろうか?』

 

 自分でも若干、ばつの悪い声が出てしまったのを覚えている。

 それまで大貴族の御曹司であるユーシス・アルバレアを相手にぎゃんぎゃんとがなり立てていた自分がそんなことを言えば、彼と同じく尊い血を引く者たちは良い気分はしないだろう。

 しかしながらマキアス・レーグニッツが十数年の間に培った常識や過去の経験というのはそうそう変えられることでもなく、マキアスとて貴族から好かれようなどと思っているわけではない。

 自分にとって蹴落とすべき敵を見極めたい、というマキアスの言葉なき声に、その場にいた者たちはそれぞれうなずいたのであった。

 入試で主席を勝ち取ったという眼鏡に三つ編みの女子と、大人しそうな赤毛の男子は平民出身。長身の留学生は出身地にそもそも階級制度がないらしく、銀髪の小柄な女子は雰囲気からして色々と違っていた。

 そして、青髪の剣士―――ラウラ・S・アルゼイド。帝国正規軍の剣術指南役を務める剣士の血を引く、アルゼイド子爵家の一人娘。会ってまだ間もないが、それでも貴族を忌み嫌うマキアスでさえ納得してしまうほどの善人。

 マキアスがなぜ貴族を嫌うのかは知らないが、と前置きした上で、それでも父も自分も空の女神に顔向けできない生き方はしていない、と断言され、そのまっすぐな瞳に圧倒されてしまった。

 

……問題は、ここからだ。

 

『あ、えっと私は……』

『―――どっちだと思う?』

 

 黒髪の女子……リアラが自己紹介をしようとしたところで、隣に立っていた金髪の女子がその言葉を遮る。

 一歩前へと踏み出したアリサは心持ちリアラを庇うような姿勢で、不躾な質問を投げかけたマキアスを睨んでいた。

 

『……どういう意味だ』

『言葉通りの意味よ……私とこの子はそれぞれ貴族と平民だけど、そのどっちが正解なのかこの場であなたに教えるつもりは無いわ』

『隠し事をするのは、何かやましいことがあるからなんじゃないのか?』

『やましいことがあったとして、法の番人でも、まして空の女神(エイドス)でもないあなたにそれを責められる謂れはないと思うのだけれど?』

『ちょ、ちょっとアリサっ、落ち着いて……!』

 

 なまじラウラとの会話で相手が終始理性的な応対をしてくれたからか、アリサの言葉に込められた棘はそれはもう分かりやすく神経を逆なでしてきた。

 あからさまな挑発にマキアスは柳眉を逆立てるが、一泊おいて自分に言い聞かせる。

 ここでまた頭に血を上らせれば、アルバレアの次男坊の時と同じくいけ好かない貴族の思うつぼだ、と―――自身にとって敵対的な態度を取る者はみんな貴族だという思い込みに、彼はこの時点では気づいていなかった。

 

『……この場で、ということは後でしっかり説明してくれると思っていいのか』

『何もずっと秘密にしておけるなんて思ってないわよ。ここから出られる頃には教えてあげる……それまでに、背中から撃たれるような理由を増やしたくないだけだもの』

『貴族が相手なら僕がそんな真似をするとでも言うのか……!』

『あなたが階級を聞いたのはそのための相手選びじゃないのかしら?』

『―――アリサっ、いくら何でも言い過ぎだってば!』

 

 親友の暴走を見るに見かねたリアラが止めに入らなければ、マキアスはその場でアリサに殴りかかっていたかもしれない。

 

『ごめんね、友達がいろいろ踏み込んだこと言っちゃって……この話はまた後で良い? たぶん、今は誰も冷静に話せないだろうし』

『あ、ああ……』

 

 アリサを窘めてくれたリアラにまたしても毒気を抜かれたというのもあってか、結局マキアスはその場で二人の正体をそれ以上問い詰めることはなかった。

 それからマキアスは、難題を与えられたのならせいぜい軽くこなして鼻を明かしてやる、とばかりに二人のことをつぶさに観察し、オリエンテーリングが終わった時には彼女たちの隠し事をつまびらかにしてやらんと備えていたのだが……

 

 

『―――リアラ・シュバルツァー。特課クラスⅦ組に参加します』

『アリサ・ラインフォルトも同じく参加します……ARCUSのことについても聞きたいことが山ほどありますから』

『シュバルツァー男爵家の娘さんに、ラインフォルトの社長令嬢は参加、っと……やっぱり一番乗りは貴女たち二人だったわね』

 

 

 なし崩しに全員で共闘することになったガーゴイル戦の後、マキアスの予想は半分近くがひっくり返された。

 自分に対して高圧的な態度をとっていた金髪の少女は貴族の令嬢でなくあくまで平民の出身であり。

 そんな彼女を窘めて自分にも済まなそうに頭を下げた黒髪の少女は忌むべき貴族の令嬢だった。

 

(ラインフォルト……って、この学院の理事の娘じゃないか。いやそれ以前にルーレのラインフォルト社の……それに、あっちの腰の低い女子が男爵家の長女?)

 

 下手な地方貴族よりもよほど規模の大きい大陸一の重工業メーカーの娘が、辺境の小貴族の娘と一体全体どんな縁があったというのか。

 貴族と平民は住む世界を違えるもの、と信じて疑わないマキアスにとっては、今一つ理解の及ばない関係だった。

 

……正確なところを詳しく知るのはだいぶ後になるのだが、平民らしからぬ平民として故郷で浮いていたというアリサは、貴族らしからぬ貴族であるリアラが貴族の価値観に翻弄されていたことを知っていたのもあってか、単純かつ極端に人を区別するようなマキアスの物言いにそれはそれはご立腹だったらしい。

 さすがにそれが判明する頃にはマキアスも自身の不明を素直に謝れるようになっており、二人の少女はマキアスの謝罪を快く受け入れてくれるのだが、それはそれとして。

 

「マキアス? おーいマキアスー」

「うぉ!? ……な、なんだね急に」

 

 思案に耽っていたところに話しかけられて、マキアスは思わず椅子を揺らして振り返る。

 するとそこには、湯気の立つカップを二つ、それぞれ両手に持ったリアラが立っていた。

 

「フレッドさんが、新作のテイスティングしてほしいって。これもサービスらしいし、せっかくだから一緒に飲まない?」

 

 見れば、リアラが手にしたコーヒーの中身は真っ黒なコーヒーではなく、たっぷりと牛乳が入った液面から甘い香りを漂わせる別の飲み物だった。砂糖を入れることは想定していないのか、ソーサーに添えられていたのはスプーンでなくシナモンスティックだ。

 なかなか見る機会のない珍しい代物だが、『キルシェ』の新メニューならば外れはないだろう。自分の分まで運んできてくれたリアラへ素直に礼を述べつつ、席に着いたリアラと一緒にカップを口に運ぶ。

 

「む、バニラか何か入ってるのか。美味いけどさすがに甘いな……」

「そうだねぇ……でも良い香り。あ、そういえばちょっとだけ塩が入ってるんだって」

「塩!? カフェオレとバニラにか!?」

「そうそう、確かに後味はあんまり甘さが後引かないような気がする」

「言われてみれば……これはなかなか興味深い。コーヒーに塩なんてベタな間違いでしか入れないもんだとばかり思っていたが……」

 

 しばしそうしてやいのやいのと未知のドリンクで喉を潤しつつ講評を交わしていた二人であったが、そろそろ飲み干すという頃に、不意にリアラが笑い声を漏らす。何かと思って見てみれば、マキアスに視線を向けるリアラがにこやかに笑っていた。

 

「ど、どうした、何かおかしなところでもあったのか?」

「いや、私マキアスには嫌われてるかと思ってたんだけど、コーヒーの話だとこうして普通に話せるんだなって思って」

 

 言われてはたと我に返ると、塩とバニラの入った新作カフェオレを受け取ってからこちら、マキアスはリアラと普通に共通の話題で盛り上がっていた。

 

「アリサのこともあったし、当然私も避けられるかなって。さすがに同じクラスで全然話さない人がいるって、ちょっと寂しかったから」

「……その、シュバルツァーは、一体何がきっかけでラインフォルトとあんなに仲良くなったんだ?」

 

 オリエンテーリングの日以来、いまだアリサとマキアスとの冷戦は続いたまま……というか、流石にあの状態からすぐに「平民同士仲良くしようぜ」などとほざけるほど、マキアスは恥を知らないわけではなかった(却って意固地になっているのは自覚しているので目を瞑ってほしい)。

 しかしリアラも同じかというと、生徒手帳を部屋に届けられた時もそうだったがそうそうつっけんどんな態度を取られるようなこともない。

 なんとなく、気になっていたことを聞くのは今だと思った。

 

「あれからいろいろ考えてみたんだが、なんで君たちが……同じ町に住んでいるわけでもない貴族と平民が、どうしてあんな風に、本当の姉妹のようになれるんだろうと思って……」

 

 マキアスの問いに、リアラは懐かしそうに過去を振り返る。

 

「んっとね、小さいころにアリサが家族と一緒にうちの郷に湯治に来たんだ。そうしたら途中でアリサが迷子になっちゃって、家族の人たちが大慌てで探してたから私の両親も放っておけないって言って手伝って。父さんが裏山の方を馬で見に行った辺りで、入れ違いになるように郷の入り口でぐったりしてたアリサを私が見つけて……それから私の家で手当てしたのがきっかけで、家族ぐるみで付き合うようになったの」

「い、意外とお転婆だったんだな、あいつ……」

 

 リアラの故郷―――シュバルツァー男爵領といえば温泉で有名な観光地としての一方で、北方の山奥ゆえに雪害の危険も広く知られている場所である。

 そんな場所で幼い娘が姿を消したとあっては、アリサの家族はさぞかし肝を冷やしたであろう。

 

「最初は同年代の女の子ってことでちょっと話した程度だったんだけどね。その後アリサの家があのラインフォルト社だってわかってから最新の導力家電のこととかいろいろ話を聞いてるうちに、いくつか郷で必要なものを買ってみようって話になったの。それで、今度は私達一家が観光がてらルーレまで行って、宿屋に置く業務用の冷蔵庫とかを買って……それから一年に何回かお互いの家を行き来するようになったって感じかな」

「……それ、顧客(カモ)として目をつけられたって言わないか?」

「あー……そう言われるとそうなんだけど……郷の懐事情とか、あと私も家族もそんなに機械は詳しくないから安くて分かりやすくて頑丈な型落ち品いくつか見繕ってもらったりで、結構お世話になったんだよねぇ……」

 

 ノルティア州の貴族の中でもうちは特に貧乏な方だし、と、やおら遠い目をし始めたリアラを眺めつつ、マキアスはぼそりと呟いた。

 

「なんというか……君よりもラインフォルトの方がよっぽど“お嬢様”って感じなんだな」

 

 この数十分の間に、マキアスの中ではリアラという少女に対して、ずいぶんと警戒心が薄れていた。

 紅茶よりもコーヒーを好んだり、実家の経済事情を思って悟ったような表情を浮かべたりと、彼のイメージの中にあった“良家の子女”という高飛車なイメージが木っ端微塵に粉砕されたというのもある。

 話してみればずいぶんと気さくで、親しみがわく人柄だというのもあった。

 ゆえにマキアスとしては、貴族にしては随分ととっつきやすいクラスメイトに向かって深い意味もなく放った一言だったのだが……

 

 

 

 

「……あの、いくら私が女らしくないって言っても、真正面から言われるとさすがに傷つくんだけど」

 

 あにはからんや、リアラの方はどえらい眉をしかめて明後日の方角にへそを曲げてしまった。

 

 

 

 

「……そ、そうは言ってないだろう!?」

「いーですよー。どうせ淑女のマナーもなってないし剣の稽古と薪割りで手だってごついし、初対面のアリサには男の子に間違えられましたしー」

「ええい不貞腐れてないで人の話を聞きたまえ!」

 

 本格的に拗ね始めたリアラに、さしものマキアスも泡を食って釈明を試みる。

 貴族に媚を売るつもりは毛頭ないが、だからといって公明正大なる帝国男子としては女性を不当に貶めたいわけでも、ましてそんな奴だと誤解を受けたいわけでもないのだ。

 

「僕はあくまで君が、貴族にしては身構えなくても話せる相手だという意味で言ったんであってだな! 決して女性らしさについて言及したつもりはない!」

「あ、うん」

「淑女のマナーなんぞあったところで宮廷に近づかなきゃ意味のないものだし、手だってほら、ごつかろうがなんだろうがサイズは僕の方が大きいだろう」

「うん……あ、ほんとだマキアス意外と手ぇ大きいね」

 

 何とはなしに向けられたマキアスの手のひらに、これまた深く考えるでもなく、リアラは自分のそれをぴたりと重ねる。

 

「……え。」

 

 突如として起きたお肌の触れ合いに、今度こそマキアスの思考回路はショートした。

 

「………きっ、き、ききき君なぁ!? そ、そういうことを平然とっ……! 平然とする奴があるかぁあっ!?」

「へ?……うそ、もしかして私の手、汗とか着いてた!? ごめん全然気が付かなかった」

「だぁああっ!? そうじゃなくて……はっ!?」

 

 ノルティア州原産のド天然鈍感少女の破壊力をこれでもかと味わったマキアスは、遅れてそこがオープンテラスの一角であったことを思い出す。

 向かいの公園では休日を満喫していた若夫婦とその息子がこちらを生暖かい目で見ていたし、斜向かいの花屋のお姉さんはあらあらうふふとほほ笑んでいた。

 げに恐ろしきはご近所ネットワークが実現してのけたARCUS要らずの連携戦術。どれもこれも、堅物のマキアスにはオーバーキルである。

 

「~~~~~~~っ、し、失礼するっ!!」

「あ、ちょっとマキアスー!?」

 

 瞬時に顔を赤く染めたマキアスはあわただしく教科書の入ったカバンをまとめ、にやにやと笑うフレッドに代金を支払って店を辞した。

 結局当初の目的であった自分の宿題は一ページたりとも進んでいなかったことを彼が思い出すのは昼食の後であったが……午後から自室の机で猛烈な勢いでノートに向かい始めたマキアスは、リアラとの接触にドキリとしたこと……すなわち、自身が彼女のことを“貴族の女性”でなく完全に“同年代の女子”として認識していたことには、ついぞ気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 塩とカフェオレ、貴族と平民―――そして、リアラとマキアス。交わるはずも無いと言われるものが、互いを尊重することで全く新たな光が生まれると理解した時。

 狭く、凝り固まっていた少年の目に映る世界は、加速度的に広がっていくことになる。

 




マキアス(閃Ⅳ)「大概の問題は、コーヒー一杯飲んでいる間に心の中で解決するものだ。あとはそれを実行出来るかどうかだ」

 ドクターテクスの名台詞はホント至言だと思う。年がバレるぞよしおかです。
 私自身がマキアス推しでなおかつここ数年父から受け継いだコーヒー用品をがちゃがちゃいじり倒していたためか、この話は比較的簡単に書けました。やっぱ勢いって大事だね。
 あとマキアスはウルスラ医大病院を訪ねた際にシロンさん特製のコーティー(例によってコーヒー淹れようとしたらいつの間にか出来上がってたアレ)飲んでユーシスと一緒に微妙な顔でほっこりしてれば良いんじゃねえかな。


〇皇室ゆかりの温泉保養地を管理する男爵家が貧乏ってどういうこと?

 この作品においてシュバルツァー家の懐事情は原作よりも若干厳しくなっています。領地と鳳翼館を維持する他にリアラとエリゼの学費こそ賄えていますが、自分の屋敷をはじめとして削れるところは削ってる。
 詳しく述べるとルシア夫人の実家(原作では地方貴族だったか)との結びつきが薄れており、そちらとの経済的な連携が取れなくなっているのが原因。
 テオ男爵がロクな根回しをしていない(する時間もない)状態で公的には身元の知れない少女(リアラ)を引き取ったことでルシア夫人の実家から「正妻であるルシアとの間に男児が生まれなかったことで、若い妾を囲ってそちらに生まれた男児に後を継がせるつもりなのではないか、妾とその息子が実権を握ってしまったら我が家は蔑ろにされるのではないか」と邪推されたため。
 当然、実際には友人の忘れ形見としてリアラを託されたルシア夫人は実家からのいちゃもんに夫以上に激怒したし、記憶を失った女児を臆面もなく槍玉に挙げる一部の親戚達があまりにも情けなくて性質の悪い連中とは縁を切ってしまった。ところがその性質の悪い連中こそノルティア州の経済に結構な影響力を持っていたという感じ。
(原作でもおそらくそういった言いがかりはあっただろうけど「エリゼを将来シュバルツァー家の女当主としてリィンを家令としてその補佐に就ける予定だ」と言ってうやむやにしていたんで無かろうか。もちろん男爵夫妻にとってのベストはリィンとエリゼが夫婦になることだけども)
 さすがに申し訳なく思ったのか某軍部出身の宰相の懐から匿名の寄付金が毎年届けられるようになったが、領地に広く土着した一族全体からの支援総額には及ばなかった。パパン’sのやらかしポイント①。


〇この作品のアリサさん、女オリ主にちょっと過保護過ぎやしない?

 父親が怪死した時期に支えあったかけがえのない親友に危害が及ぶと思い、言動だけ見ると危険人物でしかないマキアスを超警戒していた。
 経済的に恵まれた環境にありつつも、平民からは成功者として羨望の目を向けられ貴族からは成り上がりとして疎まれてとそれなりに孤独な状況だったアリサにとっては、貴族の娘でありながら貴族として認められず、本人何も悪くないのに悪評を立てられていたリアラは自身と悩みを共有できる得難き存在である。
 そんな自分とリアラを貴族か平民かのどちらかでしか見ようとしていなかったこの時期のマキアスは、アリサからすれば「こっちの事情を何も知らないくせしてふざけんな!」以外の印象を持てなかったというのがことの真相です。
 後にマキアスの過去を聞いた際に自分とシャロンの関係に照らし合わせて考えてしまい、“マキアスの事情”を無視して敵視していたことを反省してからは(以降はマキアスがすっかり丸くなることもあって)普通に友人として接することに。結局なんだかんだ肝心なところで身内と認めた相手には甘い。





おまけ「その後のとうへんぼくちゃんとセ〇ムな幼馴染」


リアラ「あ、ちょっとマキアスー!? ……あーあ行っちゃった。無神経にいろいろ話過ぎたかなぁ……」
アリサ「そうじゃないでしょこのおバカ……」
リアラ「あれ、アリサ。ずいぶん遅かったね」
アリサ「貴女とレーグニッツが話してる途中で着いたけど、私が入っていったら空気悪くなるかと思って隅っこに居たのよ……っていうか、私が迷子になった下りとかわざわざあいつに言わなくても良かったじゃないの」
リアラ「うぐ……や、やっぱり? でもマキアスも話してみたら悪い人じゃなかったし、私たちの小さい頃の話するぐらいだったら良いかなって……」
アリサ「今回ネタにされたの私の話だけだったじゃない。そろそろ本気で貴女は危機管理意識(リスクマネジメント)とかその辺に気をつけてちょうだい」
リアラ「あうぅ……あ、じゃああれなら私も一緒だったから良いかな? ほら、マジカル―――」
アリサ「危機管理ーーーっ!!(ハリセン)」
リアラ「あいったぁーーーっ!?」




おまけ2「珈紅議論とⅦ組の面々」

アリサ「私は紅茶派ね。コーヒーも嫌いじゃないけど、うちのメイドが淹れてくれるお茶がおいしくてそっちの方が好きだわ」
リアラ「どっちも飲むけどコーヒーの方が良いなぁ。インスタントなら紅茶よりも淹れるの簡単で、私でも出来るから」
エリオット「僕もどちらかといえばコーヒー派だなぁ。でも気分によって変える時もあるし……ラウラは?」
ラウラ「紅茶の方が馴染み深いな。貴族の子女としての嗜みというのもあるが、コーヒーは飲み過ぎると背が伸びなくなると言って父上があまり家に置こうとしなかったのだ」

アリサ「ですってよ貴族の子女(不器用)」
リアラ「うっさいやい」

エマ「どちらでもないですね。故郷では普通の紅茶やコーヒーよりも、それぞれの家の自家製ハーブティーが一般的でしたから」
ユーシス「断然紅茶派だ。輸入の割合が多いコーヒーよりも、自領で生産された紅茶の出来をチェックすることで農作物の状態を確認せねばならなかったしな」
マキアス「むっ……」
リアラ「はいはい突っかからない。でも背が伸びなくなるなんて言われる割にはマキアスは背ぇ高いよね」
マキアス「ふふん、コーヒーはカフェインだけでなく各種ミネラルや栄養素が含まれる。紅茶よりも栄養価は高いぐらいだ」
ユーシス「ぬ……」
アリサ「あなた達いいかげんにしなさいっての……サラ教官はどっち派ですか?」
サラ「コーヒーにはオレンジリキュール、紅茶にはブランデーね。あ、ジンならどっちにも合うわねー」
アリサ「聞いた私が馬鹿だった」

フィー「身長……」
ガイウス「うん? どうしたフィー、俺をじっと見て」
↑(ハーブティー(ノンカフェイン)派、さらに牛や羊の乳で栄養価アップ=成長ホルモン倍プッシュ)
フィー「……カフェインは、悪……根絶しなければいけない毒劇物……っ」
↑(西風の面々の影響で幼い頃からコーヒー派、更に子どもは甘いもの好きだろうと言ってちょいちょいチョコレート貰ってた)



おまけ3「現れた第3勢力」

トワ「実家からお抹茶が届いたから、みんなにもお裾分けするね」
リアラ「あーこれユン老師に頂いたことあったなぁ」



あまりの苦さにリアラ以外全員悶絶した。



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