ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~ (薮椿)
しおりを挟む

μ's編
相変わらず過ぎる日常


 初めまして!!今回から"初めて"小説を投稿する薮椿と申します。
 新人なので至らぬ点はあるかと思いますが、何卒よろしくお願いします。




 冗談はこれくらいにして、前作から引き続き読んでくださっている方も、今作から読み始めるよという方も、楽しんでいってくださいね!!


 

 音ノ木坂学院に新たな春がやって来た。

 俺たちμ'sのラブライブ優勝の影響で、今年度の入学者数は前年度を大幅に上回り、噂によると新一年生のクラスは5つあるそうだ。これでまたしばらくは廃校という言葉を聞くこともないだろう。

 

 ちなみに音ノ木坂学院は、なぜだか知らないが毎年女子の入学者数が圧倒的に多い。しかしそれによって『よっしゃ!!ハーレムだ!!』と思う男子は極僅かで、この3年間肩身の狭い日々を送るのが鉄板である。

 まぁ女子高校生ってのはおっかないからな。俺も様々な地獄を味わってきた。鉄拳制裁、吊るし上げ、ヒドイ時には天国に昇らされたこともあったな。そういや一時期ヤンデられたこともあったっけ。

 

 とにかく、男子諸君は気を付けた方がいい。知らない間に女子の絶対君主制によって迫害されてしまうぞ。君たちに自由はない。女子が多いからといって、恋人となる人を選べると思うな。

 

 

 

 

――――――という演説を入学式前の会場でやろうと思ったら、案の定生徒会の幼馴染3人衆から弾圧を受けたのであえなく諦めた。

 

 

 

 

 午前中に始業式が終わり、それでこれから入学式が行われるのだが、俺はただいま木の上によじ登って――――

 

 

「おっ!あの新入生の子、可愛いじゃん。めちゃくちゃ大人しそうだけど、その清楚さがいいんだよ!!」

 

 

 新入生の女の子漁りをしている。俺はこの時が来るのが楽しみ過ぎて、昨日全然眠れなかったんだ!!

 またこの1年新たな女の子を観察できると考えたら、もう寝ている場合ではなかった。始業式も適当流し、穂乃果たちの生徒会業務も手伝わずに俺は真っ先にここを陣取って双眼鏡を構えている。そして午後からの入学式へ出るために、ぞろぞろと群れをなして歩いてくる新入生を視姦……じゃなくて観察しているのだ。

 

 

「ん?あの子は新入生にも関わらず胸が大きいな。要チェックだ!!えぇ~っと、メモメモ……」

 

 

 前年度も可愛い子は多かったけど、今年度は単純計算で前年度の5倍の生徒数がいるため女の子の数も5倍いるというわけだ。だから今年度は特に俺のマル秘メモが潤っていく。

 

 しかしその時、俺の後頭部に衝撃が走った。

 

 

「いってぇええええ!!なんだなんだ敵襲か!?俺の陣地を奪いに来た輩はどこのどいつだ!?」

 

 

 その時は新入生の女の子に夢中で、俺は下から自分に放たれた物体に気がつかなかった。その物体が木の下へ転がり落ちる時にチラッと見えたが、俺にぶつけられたのはクルミのようだ。

 どうしてこんなものが俺にぶつかる?

 

 

「誰だ!?俺の至福の時間を邪魔する奴は!?」

 

 

 危うく木から落ちかけそうになるが、何とか体勢を立て直して下を覗き込む。

 そこにいたのは俺のよく知る3人。1人は黄土色の髪をした俺の天使様。もう1人は赤毛のツンデレさん。そして元凶は、俺にパチンコを構えている猫語の達人。

 

 

「花陽、真姫、凛……お前らこんなところで何してんだ?」

「それはこっちのセリフよ!!また馬鹿なことして……」

「馬鹿って言うな!!これは毎年春に行われる神聖なる儀式なんだ、邪魔すんなよ」

「意味分かんない……」

 

 

 この儀式の真の意味を理解していないとは、まだまだ真姫も甘いな。それに前年度はお前も対象になっていたとも知らずに……俺のメモには真姫に関する情報(主に容姿、バストサイズ)などが事細かに記されている。

 よく考えれば懐かしいな、まさか真姫、いや真姫たちと"こんな関係"になるとは思ってもみなかった。

 

 

「そんなに木の上に登っちゃ危ないよ~」

「大丈夫だ花陽、愛してる!!」

「ふぇええええええええええええ!?どうして今そんなこと言うのぉおおお!?」

「凛、撃ち落としていいわよ」

「はいにゃ!!」

「オイッ!!乱れ打ちすんな!!本当に落ちるだろ!!」

 

 

 絶え間なき無慈悲なる連射、どこで覚えたのか凛の的確な発砲により、俺はその場で大きく体勢を崩す。

 そもそも何で俺がこんな目に!?何か悪いことしてた!?しかもさっきから凛の奴、俺の急所ばかり狙ってきやがる……お父さんはお前をそんな子に育てた覚えはありません!!

 

 

「だったら早く降りてくるにゃ!!まだまだクルミはたくさんあるんだからね!!」

「分かった分かった!!」

 

 

 しょうがないから降りてやるか。今年は全くメモが埋まらなかった……でも、まぁ俺はコイツらがいてくれるならそれでいいかな。

 

 俺とこの3人――というより俺と元μ'sのみんなとの関係は、実は恋人同士だったりする。

 初めて聞く人がいれば『はぁ!?』と思うかもしれないが、決して軽い気持ちではなく俺たちで決断したことだ。

 

 

「そもそも、どうしてお前たちがここにいるんだよ?」

「穂乃果ちゃんたちが零君を探してたんだけど、みんな入学式の準備で忙しいから」

「それでお前らが駆り出されたってわけか。全く人使いの荒い奴らだな!!」

「普段散々凛たちをこき使ってる零くんに言われたらおしまいだにゃ……」

「そうね、人生やり直した方がましよ」

「あははは……」

 

 

 なぁ?俺、彼氏だよね?何でこんなに蔑まされてんの?ねぇねぇどうして?

 俺たちがこの関係になってから、段々とみんなからの監視の目がキツくなってきたような気がする。ちょっと別の女の子を見るだけで制裁地獄に陥ってしまう。最近僕の彼女たちが怖いです……

 

 

「こうして見てみると、お前ら2年生になったのに全く変わってないよな」

「別に1年で何が変わるってわけじゃないでしょ。男子みたいに背が伸びることもほとんどないし」

「そうかぁ?花陽も真姫も背、伸びたと思うぞ。凛は……胸をもっと成長させような?」

「…………」

「いてぇえええええええええ!!」

 

 再びクルミが俺に向かって放たれる。本当に痛いからソレ!?

 ちなみに言っておくと、俺は巨乳でも貧乳でもどちらでも満足できるし、相手を満足させてあげられるぞ☆(ワシワシMAX的な意味で)

 

 最近はみんなが俺の変態気質を厳格に取り締まるようになって、希に託された『ワシワシMAX』が十分に発揮できていない。もうパワーを蓄えすぎて、ワシワシMAXを発動させたらみんなを昇天させるどころか戻って来られなくなってしまうだろうな。

 

 

「零君も全然変わってないね。もしかしたら私たちの中で一番変わってないんじゃないかな?」

「変わるなって言ったのはお前らだろ?それに俺はこの変態気質を変える気なんて一切ないね!!人生楽しまなきゃ損でしょ!!てなわけで花陽、今から俺の家に来ない?YA・SA・SHI・KUするよ?」

「えぇ!?でもこの前行ったばっかりだし……」

 

 

「「こ、この前ぇえええええええええ!?」」

 

 

「うぉ!?何だお前ら!?」

 

 

 突然真姫と凛が声を揃えて俺の耳元で驚いた。

 そんなに驚くことか!?でもそういえば、家で真姫と2人きりになったことはないし、凛とも勉強会でしか2人きりになったことはない。意外と1年生組――じゃなかった、2年生組と2人きりであ~んなことやこ~んなことをしていないな。凛の時は、俺が一方的に暴走していたし。

 

 

「花陽大丈夫!?零に汚されてない!?」

「凛のかよちんになにをしたんだにゃあああああああああああああ!!」

「ちょっと待て!!どうして俺が花陽に手を出している前提なんだ!?いてて!!それにどんだけ弾あるんだよ!?」

 

 

 さっきからずっと俺に向かって打ち込んでいるのにも関わらず、一切弾切れにならないそのパチンコはどうなってんだ!?もはや俺に制裁を加えるためだけの兵器と化しているぞ!?

 

 

「違うの凛ちゃん真姫ちゃん!!私はただ零君の家の合鍵を返しに行っただけで、別に変なことは……あんまりなかったよ!!」

「『あんまり』ですって!?凛、零を拘束して生徒会に突き出すわよ!!」

「かよちんの純潔を奪うなんて、零くんサイテー!!かよちんのおとなしい性格を利用して手を出すとは卑怯だにゃ!!」

「オイ!!ここでそんなことを叫ぶな!!新入生や保護者の方に聞こえちまうだろうが!!」

 

 

 マズイ……今ここで俺が変態だってことが世間にバレでもしたら…………新入生から避けられるのは必死だ。もしそうなれば、俺は最後の一年間可愛い女の子と喋ることができなくなってしまう!!

 

 それはイヤだぁああああああああああああああ!!

 

 

「零君も困ってるみたいだし、今のところは許してあげよ、ね!」

「う~ん、かよちんがそう言うなら仕方ないにゃ……」

「ふんっ!花陽に感謝することね」

 

「お前らなぁ……」

 

 

 神崎零、高校生活3年目初日、午前中にしてボロボロになる。

 こうなったのも、この2人(花陽は除いた)を仕向けた生徒会のあの3人のせいだ。こうなったら今日は全力で生徒会業務をサボってやる!!俺の輝かしい最後の高校生活1発目を汚した罪は重いぞ。

 

 

「ありがとな花陽、助かったよ」

「別に私はそんな……」

「そんな謙遜するなって。しょうがない……」

「れ、零君?」

 

 

 俺は花陽の前に跪き、そのまま頭を下げる。大天使花陽様にお礼の言葉を述べるのに、下々の人間が頭を浮かすなんてもってのほかだからな。

 

 

「大天使様、ありがとうございます。このような下衆な人間にご加護を与えてくださるとは思ってもみませんでした。私の頭でよければ存分にお踏みつけください。私はそれだけで幸せなのですから……」

 

「えっ!?えぇええええええええええええ!!」

「馬鹿ね……」

「馬鹿だにゃ……」

 

「お前らには分からないだろうな。大天使花陽様の素晴らしさが、ねぇ大天使様?」

 

 

 俺はそこで下ろしていた顔を上げる。目の前には花陽が立っているので、必然的に俺が花陽を下から見上げる形となる。そこで、俺は見てしまった。花陽のあの中を……女の子の秘密の領域を……

 

 

「白……」

 

 

「え゛!?」

「零、あなたまさか……」

「かよちんのスカートの中……」

 

「ハッ!!また思ったことが口に出て……」

 

 

 そこから真姫と凛の行動は早かった。

 まず俺の顔を後頭部から踏みつけ地面に溶接する。次に凛が花陽を俺から引き離し、真姫が俺をどこから持ってきた分からない縄でぐるぐる巻きにした。

 

 

「キツく締め過ぎだ!!離せ!!」

「どうしようもない変態はその姿がお似合いよ!!」

 

 

 でも花陽なら!!花陽なら俺の味方のハズだ!!大天使花陽様なら、俺を絶対救い出してくれる!!

 

 

「花陽!!助けてくれ!!……って花陽?」

 

 

「ふわぁ、ふわぁ……」

「かよちんが顔真っ赤して気絶してるにゃ!?」

 

 

 スカート覗かれただけで気絶する、ウブな花陽も可愛いなぁあ!!!!

 今すぐにでも飛びつきたいけど、生憎ハムみたいにぐるぐる巻きにされているためイモムシ歩きしかできない。今この時間、世界中で一番情けない姿してんだろうな。

 

 この状況を打破するには……凛のあの性格を利用するしかない。心は痛むが、このまま新入生の前でこの姿を晒したくはないからな。許してくれ……

 

 

「凛!!今度2人でデートしよう!!」

「え……?いいの!?」

「ああ!!でもそうしたら今からデートプランを練りたいんだけどなぁ~~でもこの状態じゃあそれができないんだけどなぁ~~」

「凛!!惑わされちゃダメよ!!これが零の作戦なんだから!!」

「う、う~ん……」

 

 

 揺れてるぞ!!凛のマインドが揺れてるぞ!!

 凛はいつも活発で元気な女の子だが、意外と心は乙女なのだ。ファッションもスカートを好んで履くようになり、同じファッション好き仲間のことりやにこと盛り上がったりもしている。

 

 こうやって凛の乙女心を刺激していけば、いつかは絶対に折れるハズだ!!

 

 

「真姫……俺たち恋人同士だろ?」

「だからなに?彼氏だったらスカートの中を見てもいいって言いたいの?」

「ぐっ、それは…………それはいいとして、もう反省したから許してくれ」

「最初ちょっと迷ったでしょ?」

「ソ、ソンナコトナイヨ!!」

「はぁ~……もういいわ、許してあげるわよ。花陽も休ませてあげないといけないし」

 

 

 もうこの体勢も辛くなってきたし、真姫たちももう疲れてきたのか事態は勝手に終息した。

 もうこれ以上、新入生たちへの晒し者にはなりたくないしな……もう遅いかな。クソッ!!俺の輝かしい最後の高校生活がぁあああ!!

 

 そして凛は気絶した花陽を介抱するため教室へと戻っていった。

 

 

 

~※~

 

 

 

「ねぇ、零?」

「ん?」

 

 

 改めて真姫が俺に質問を投げかけた。

 赤毛の美人な女の子と、ぐるぐる巻きに縛られている変態というシュールな図になっていることは伏せておいた方がいいのだろうか?

 

 

「正直私、絵里たちが卒業してまた毎日が少し寂しくなるなって思ってたの。でも、そんな心配はいらなかったみたい。あなたのおかげで、また楽しい日常が送れそうだわ」

 

「真姫……」

 

 

 コイツ、そんな心配してたのか。心配性なのは今も1年前も全然変わってないんだな。

 

 

「確かに絵里や希、にこが卒業して寂しくなっちまったけど、そんなことで立ち止まってたらアイツらが許さないだろ。卒業生のバトンを引き継いで、今度はアイツらに代わって俺たちが盛り上げる番だ。この学院も、μ'sもな……」

 

 

「零……そうね、あなたが好きな笑顔を忘れちゃダメだったわ」

「そうそう、笑ってるお前が一番可愛いんだからさ!!」

「も、もう!!あなたはすぐそうやって……」

 

 

 全く無駄な心配しやがって……この俺がいる限りこの学院に笑いが起きないことはない。俺が、μ'sのみんなと共に全力で盛り上げてやるよ。

 

 

 

 

 その時、俺の後ろに2つの影が現れた。未だぐるぐる巻きにされている俺の後ろに……

 

 

「あの~……何やってるんです?」

「ハラショー!!もしかして演劇の練習ですか!?」

 

 

「あ、あなたたち……」

 

 

 俺の後ろに現れたのは、この春から音ノ木坂学院に通う新入生の2人――

 

 

 

 

「雪穂!?亜里沙!?」

 

 

 

 

 そして、ここから新しい物語が始まる。

 




 前書きはエイプリルフールのネタのつもりでした。新作一発目から飛ばしてしまって申し訳ないです(笑)


 この小説は短編集ですが、新生μ's結成までは1つの物語とさせて頂きます。



 この作品の設定は、前作の『日常』で公開した情報のまま変えずに執筆していこうかなと思います。まだ出てきていないキャラがたくさんいますが、3話までにはレギュラーキャラをすべて出演させるつもりです。推しキャラが出てきていなくてもご安心を!!


 今作からセリフとセリフの行間をなくしてみました。読みにくかったり、前の方がいいよって方は教えてください。検討します。


 この作品の略し方はどうしようか……?『新日常』にしようか!




 それでは今作もよろしくお願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ヤンデレる恋人たち

 前回からの続きとなります、読んでいない方はそちらを是非!
 新生μ's結成までは1つの物語が続きます。短編集に入るのはそれからですね。

 今後の予定について、後書きにちょろっと書いてあるのでそちらもご覧下さい。


前回のラブライブ!

 

 遂に最後の高校生活の初日が訪れた!!春と言えば新入生!!まだ新品の綺麗な制服に包まれた女の子を拝むことのできる大切な季節だ!!

 だが真姫たち2年生組にそれを阻止され、俺は出鼻をくじかれた。しかし俺は諦めない。高校生活の最後に相応しい輝かしき日々を送るため、可愛い女の子をチェックしておかなければならないんだ!!やってやる……やってやるぞぉおお!!よし、こんな時はこのセリフだ。やるったらやる!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「雪穂!?亜里沙!?」

 

 

 真姫によって縄でぐるぐる巻きにされ、地面に横たわっていた俺の側の現れたのは、高坂雪穂と絢瀬亜里沙だった。

 彼女たちはどちらも今年から音ノ木坂学院に通う1年生だ。言うまでもないと思うが、雪穂が穂乃果の妹で、亜里沙が絵里の妹である。まるで世襲みたいに入れ替わりで入学してきたようだ。

 

 

「気を付けた方がいいわよ。この馬鹿、女の子のスカート覗きを趣味としてるから」

「えっ!?」

「違う!!断じて違う!!だから雪穂!!俺から遠ざからないでくれ!!」

 

 

 雪穂はササッと俺から遠ざかる。それと同時に憐れむような目を向けられ、俺の株もどんどん急下降していく。

 元から株は低いと思うけど、これ以上の低下は俺に残されている極僅かなプライドが許さない。何とか逆転する方法を考えなくては…………今までヤンデレたμ'sを更生させてきたんだ、こんな事態なんて楽々乗り越えてみせる!!

 

 

「大丈夫ですか零さん!?手首のところとか固く結ばれていますけど、痛くないですか?」

「…………天使だ」

「へ!?」

「天使様がご降臨なされた……」

 

 

 よく見ればクリクリっとした可愛い目、守ってあげたくなる幼い容姿、そして俺の脳を溶かすあまあまボイス。これはことりや花陽に続く天使様と言わざるを得ない。

 確かに絵里の妹というだけあって、目が綺麗で今にも吸い込まれそうだ。しかも前に会った時よりも胸が大きくなってないか?これもあの絵里の妹なだけのことはある。

 

 

「亜里沙!!その人に近づいちゃ危ないよ!!」

「俺を変質者扱いするな!!これでも女の子には優しい紳士なんだぞ!?度を超えたセクハラもしないし、みんなが嫌がることも絶対にしないから!!」

「そもそもセクハラする前提なのがおかしいのよ!!」

「なにを!?俺から変態気質を奪ったら、ただのイケメンで周りからモテモテ、頭脳明晰文武両道という完璧な部分しか残らねぇぞ?」

「よくそこまで自分を持ち上げられるわね……まぁ知っていることだけど」

 

 

 俺が完璧になってしまったら、この学院の可愛い女子生徒や若く綺麗な女性教師がこぞって俺の虜になっちまうぞ。だからこの学院の秩序が乱れないように、変態行為によってバランスを保っているのだ。どうだ?俺も陰ながら努力しているんだぞ。

 

 

「とりあえず生徒会室に行きたいから、この縄外してくれないか?」

「はい。では動かないでくださいね」

「ありがとな亜里沙。最近みんな冷たくて参ってたんだよ……」

「誰のせいだと思っているのよ……これはもう少し零がまっとうな人間になるために特訓しないといけないわね」

「やめろ、それだけはやめてくれ!!」

 

 

 最近は段々と彼女たちに行動を縛られている。ちょっとでも他の女の子に手を出したら即制裁だからな……

 なんか昔のヤンデレてた頃のみんなを思い出す。しかも今はあの時とは違ってみんなで結託して俺を襲ってくるから余計にタチが悪い。俺が何をしたっていうんだ……

 

 

「解けましたよ零さん」

「おおサンキュー!!ずっと変な体勢で寝てたから首が痛い……」

「自業自得じゃないんですか……?」

「そうよ。木の上から女の子を観察、自分から土下座してスカート覗き……もう変態の域を超えているわね。今度同じことしたら後頭部踏みつけだけじゃ収まらないから」

「今一度確認するけど、俺たち恋人同士なんだよな。まだ付き合い始めてから半年も経ってないのに、もうみんなの尻に敷かれているんですけど!?」

 

 

 特にSっ気の強い真姫からは、度重なる上から目線や頭踏みつけにより段々と調教されているような感じがしてならない。このまま真姫のM奴隷になっちまったらどうしよう!?

 

 

「まぁいいや、それより雪穂と亜里沙はこれから入学式だろ?親は一緒じゃないのか?」

「それが、私のお母さんと亜里沙のお母さんが意気投合しちゃって、この学院を一緒に見て周りに行っちゃったんです」

「そういやお前のお母さんはこの学院の卒業生なんだっけか」

 

 

 穂乃果がこの学院を廃校から守りたい理由の1つとして、自分のお母さんの母校を潰したくないという理由も含まれていた。高坂一族はこの学院が好きなんだな。

 

 

「あっ!?雪穂、もうこんな時間だよ!!」

「ホントだ!!それじゃあまたあとで、零さん西木野さん」

「おう、またな」

 

 

 そして雪穂と亜里沙は早足で講堂へと向かった。

 それにしても2人共初々しかったな。やっぱり可愛い女の子にはこの学院の制服が似合う。制服萌えの男にストーカーされないか心配だ。俺?俺は別にいんだよ。後で写真を撮らせてもらおうかな?

 

 

「雪穂ちゃん、零のこと名前で呼んでたけど、もしかしてもう手を出したの?また変なことしてないでしょうね?」

「だ・か・ら!!なんで手を出している前提なんだよ!?ただ一緒にデートしただけだって!!」

「デート……?」

「待て待て落ち着け、黒いオーラが出ようとしてるから!!違うんだ!!お前らと付き合う前の話だって!!穂乃果に聞けばわかるから」

「ふ~ん……まぁいいわ」

「こえぇよお前……」

 

 

 あの時は何とかヤンデレた真姫を更生させられたが、次ヤンデレ化したらもう止めることはできないだろう。監禁され一日中M奴隷として真姫を悦ばせるためだけの人形となってしまう。

 

 

「とりあえず生徒会室に戻るよ。なんか色々と萎えちゃったし」

「その色々っていうのが気になるけど、私も花陽が心配だし教室に戻るわ」

「そうか、じゃあまた後でな」

「えぇ、精々穂乃果たちにしごかれなさい」

 

 

 どうでもいいけど、萎えるって言った後にしごかれるって言われるとちょっとアレな表現に聞こえる。ここでそれを言うとまた生徒会室に行くのが遅れるのでやめておくが。

 

 

 そんな気持ちをグッと堪え、俺は生徒会室、真姫は教室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「お~す、やってるか?」

 

 

 生徒会室に行くといっても俺は生徒会役員じゃない。ただいつも穂乃果たちの手伝いをそれなりにしているため、この入学式の日にまで駆り出されたというわけだ。

 

 

「あっ!!零君やっと来た!!」

「も~う、遅いよ~」

「一体今まで何をやってたんですか?」

 

 

 生徒会室にいるのは、いつも仲良し幼馴染3人組。そうは言っても俺とコイツらとは知り合ってまだ1年だったりする。同じ学年なだけあって一緒にいることは多かったが、俺も3人の幼馴染かのように付き合いが長く思える。

 わざわざ紹介する必要もないと思うが一応。サイドポニーと見た目で分かる元気が取り柄、そして音ノ木坂学院史上もっとも生徒会長に不釣合いな人間こそ高坂穂乃果だ。

 

 

「入学式で話す内容、一緒に考えてくれるって約束だったでしょ?」

「えっ!?むしろまだ考えてなかったのかよ!?もうすぐ始まるぞ」

「だって、海未ちゃんに見せたら訂正ばっかされて返ってきたんだもん」

「あんな文章で新入生や親御さんに聞かせるわけにはいかないでしょう……」

 

 

 この常に敬語で大和撫子、だが規律には人一倍厳しく俺への制裁率はナンバー1の彼女こそ園田海未だ。生徒会長は穂乃果だが、実質海未が生徒会としての権力を握っているのは間違いない。

 

 

「なんで直前になって訂正してんだよ。今まで見てやってたんだろ?」

「卒業式の送辞みたいに、新入生や親御さんの前で歌いだそうとする文章を許すとでも?」

「…………マジか」

「はい」

「だって普通の文章じゃ面白くないかなぁ~って」

「入学式だから、流石に面白さを追求したらダメなんじゃないかな……?アハハハ……」

 

 

 今穂乃果にツッコミを入れた彼女こそ、我らが大天使の一員の南ことりだ。おっとりとしてぼけ~としている時もあるが、そのことりが可愛いんだよ。癖の強い穂乃果や海未に流されないように、"俺が"支えてやらなければ!!

 

 

「よし、この俺に任せとけ!!新入生が泣いて喜ぶ文章に仕立て上げてやる!!」

「やった!!零君最高!!」

「最高じゃありません!!泣かせてどうするんですか!?」

「入学式で感動の涙を流すなんて、すごくいい思い出になるとは思わないか?」

 

 

 しかも高校生活の初日に思い出を作れるとは、今年の新入生は羨ましいな。そしてあわよくば可愛い女子生徒に俺のことを覚えてもらって…………あっ、喋るのは穂乃果だった。

 

 

「それより零はこっちの書類仕事を手伝ってください。2人じゃ中々進まなくて」

「えぇ~……メンドくせぇ」

 

 

 μ'sのためなら全力で働くが、生徒会のためには働きたくない。だって俺がマジメな仕事ってなんだか似合わないじゃん?俺のキャラが拒否するんだよね。決してやりたくないからとか、そういう理由ではないぞ。仕事をやらないという道を強制的に選ばされているんだ。

 自分の中で変な自論を並べていると、ことりが俺の目の前までやって来て、上目遣い+顔を赤面+両手を胸の前に会わせた。

 ――――マズイ……これはいつもの……

 

 

「零くん♪おねがぁい♪」

 

 

「がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 今年度初の『おねがぁい♪』によりノックアウト。

 コイツ、お願いの威力が日々増しているような気がする。春休み中もメイド喫茶でバイトしていたって聞くし、そこでまた腕を上げたんだな。

 実はこの前までは耐えられていたんだが、もう悟った。『おねがぁい♪』には勝てないと。

 

 

「おうお前ら!!とっとと仕事しろ!!穂乃果もサッサと文章考えろよ!!海未もボサッと突っ立てないでテキパキ動く!!ことりは休んでいていいよ☆」

「ズルイよ零君!!ことりちゃんばっか贔屓して!!」

「天使だからな」

「もう~♪零くんたら~♪」

 

 

 付き合い始めてからというもの、ことりの魅力がそれまで以上に伝わってきた。もちろんそれは彼女だけではなく、穂乃果たち全員もだ。やっぱり素直に告白して良かったなと今でもずっと思ってるよ。

 

 

「はぁ~……私は穂乃果と一緒に文章を考えますから、零とことりは書類仕事をお願いします」

「は~い♪」

「へ~い」

 

 

 入学式までの時間も迫ってきているので、穂乃果と海未はスピーチ文章に専念。俺たちは雑用をすることになった。

 この俺が雑用だなんて……もっとビッグになりたいものだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ねぇ零くん」

「ん?」

 

 

 突然、隣に座っていることりが俺に話しかけてきた。話しかけてくるのは別に普通なのだが、書類を頭も使わず機械的に捌いているので脳みそがあまり働いていない状態であった。

 

 

「さっき、ここへ来る前になにしてたの?」

「あぁ、新入生の子を…………ハッ!!」

「へぇ~……新入生の子を……なに?」

 

 

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ……脳が働いていないせいでつい口走ってしまった!?

 ことりから圧倒的負のオーラを感じる。ことりだけじゃない、隣で文章を考えていた穂乃果と海未までドス黒いオーラを放ち、あっという間に生徒会室がRPGの魔王城のような雰囲気に変わる。

 

 

「零君、穂乃果たち言ったよね?変態行為は慎むようにって」

「待ってくれ、なぜお前らはそうまでして俺が変態行為をした前提で話を進めたがるんだ!?」

「黙りなさい。あなたに弁解の余地は残されてないんですから」

「なんでぇ!?」

 

 

 またしても彼女たちの理不尽な攻撃に俺は戦慄する。

 じゃあなにか?黙ってやられろって言うのか?そんなのイヤだ!!

 

 

「まぁまぁ、一応聞いてあげようよ♪処遇はそれからでもいいでしょ?」

「なにかされるのは確定なのね……」

「仏の顔は三度までって言うけど、穂乃果の顔は一度しかないからね。一応聞いてあげるよ」

「し、新入生の子を……」

「新入生の子を?」

「観察してました……」

 

 

「「「……」」」

 

 

 あれ?みんなの言葉が途切れてしまった。もしかして逆鱗に触れてしまったのか!?さっき制裁をもらったばかりなのに、またやられちまうのか……

 逃げられ……ないなこれは。隣にはことりがいるし、逆側には穂乃果と海未もいる。両方から道を封鎖されて動くに動けない状況だ。

 

 

「えぇ~と、新入生の子を見てただけ?」

「そうだよ!!お前らが勝手に被害妄想をしているだけで、俺は手を出してなんかないからな!!」

「ふぅ~ん……」

 

 

 これって……もしかして助かるパターンのやつ?流石に見てただけならコイツらも文句はないだろう。あくまで見てただけだから、清い心と清純な目で見てただけですから。先輩として後輩の顔を知っておきたいと思っただけですからね。

 

 

「ねぇ零くん♪」

「なにことり?」

「ことりたちは付き合ってるんだよね?」

「あぁ、恋人同士だな」

 

 

 ん?どうしていきなりそんな初歩的なことを確認するんだ?

 俺はふとことりの顔を見ると、明らかに笑っていない笑顔がそこにはあった。

 

 ――――まだだ……まだ終わってないらしい……

 

 

「穂乃果たちが彼女で、零君は彼氏なんだよね?」

「そうだ、俺が彼氏でお前らが彼女だ」

「そうですか……じゃあこの手帳はなんなんでしょうね?」

「はいぃ?…………あっ!?それはっ!?」

 

 

 海未が持っていたのは、俺が毎年春に新入生の可愛い女の子をリストアップしている手帳だ。

 もちろんそこには具体的な容姿から、俺の得意技である『見るだけでスリーサイズ測定』により、その女の子たちのスリーサイズまでが事細かに記されている。

 もちろんその手帳の内容をこの3人に見られたら……

 

 

「い、いつの間にそれを!?」

「零くんのポケットから飛び出していたのが気になっちゃて。でもお陰で……ね?」

「ね?ってなんだよ!?ことりさん、ここは穏便に……」

 

 

 数分前は新入生を暖かく迎えるかのような春の暖かさだったのに、今は別次元に飛ばされたかのような冷たい空気。

 3人からはとてつもなくドス黒いオーラが放たれていて、俺を包み殺すかのような雰囲気だ。

 

 

 ――――殺される……確実に……コイツらは他のみんなと比べて無慈悲で容赦がない。この3人が暴走すると、真姫たちも震え上がるような地獄が待ち受けている。もちろん地獄に落とされるのは毎回俺なのだが……

 

 

「何度も言っているのに、凝りない人ですね……全く」

「本当に、困った彼氏さん♪」

「分からせてあげるよ……零君は穂乃果たちのモノだって……」

 

「待て!!そのセリフは色々とヤバイ!!それにもうすぐ入学式が始まるぞ!!俺なんかで油を売っていていいのかよ!?」

「心配はありません。もう終わりましたから」

「あっ、そうですか……」

 

 

 腹をくくろう。もう何度も同じことをやられているんだ、今更ビビって恐れおののくことはない。また天国へ昇らされるだけなんだ。いつものことじゃないか。

 

 

「それじゃあオシオキた~いむ!!」

「久しぶりに零くんをイジメられるんだぁ~楽しみぃ~♪」

「私たちの"愛"、たっぷり受け取ってくださいね」

 

「いいだろう。それがお前たちの愛情だというのなら、俺が全身全霊を込めて相手をしてやる!!」

 

「穂乃果、零君のそういうところ大好きだよ!!」

「流石ことりたちの零くん、カッコいい♪惚れ惚れしちゃうよ♪」

「私もあなたの潔いところは大好きですよ♪」

 

「俺もみんな大好きだ!!だから…………さぁ来い!!」

 

 

 

 

 そして、音ノ木坂学院に男の断末魔が響き渡った。

 新入生やその親御さんの間では、しばらく謎の叫び声が聞こえるホラーな学院だと噂されることになる。

 

 

 




 これを読んだ人はこう思うだろう、『零君とμ'sのみんなって、本当に付き合っているんですか?』と。自分でもそう思います(笑)


 前書きでも言った通り、しばらくは1つの物語として進んでいきます。『日常』のような短編集をお望みの方はもうしばらくお待ちください。


 投稿時間に関してですが、『日常』や『非日常』みたいに18時固定の方がいいですかね?ご意見があればお申し付けください。


 次回は"あの妹"が登場!!音ノ木坂学院が恐怖のどん底に!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

妹様凱旋!!

 新生μ's結成まで短編ではなく連載モノ。意外と話が進まないのでもう少し掛かりそうです。

 今回は前半と後半の温度差が凄まじい……
 どうしてこうなった……


 

 

前回のラブライブ!

 

 入学式直前、俺は今年から音ノ木坂学院に通う雪穂と亜里沙に遭遇!!大天使亜里沙様のお陰で、真姫たちの呪縛から解放された俺は、再び自由の身に。流石は天使様!!

 そして穂乃果たちを手伝いに生徒会室にいったはいいが、案の定雑用を押し付けられテンションダダ落ち。

 そこでことりに新入生の女の子のスリーサイズを記した手帳が見つかり、生徒会室は一気に修羅場に!?俺は再び幼馴染組にボコボコにされてしまいましたとさ。

 

 めでたしめでた……くねぇ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「もうっ!!零君反省した?」

「したした、しましたよ……」

 

 

 現在、俺と穂乃果は2人で入学式が行われる講堂へと向かっている。海未とことりは書類仕事を片付け次第、俺たちと合流する予定だ。

 生徒会室で一波乱あり、また天国への階段を上がってしまったが何とか帰還。穂乃果たちに無理矢理反省させられ今に至る。今日だけで何回ボロボロになればいいんだよ……

 

 

「零君と穂乃果たちは恋人同士なんだから、あんまり他の女の子に鼻の下伸ばしちゃダメだよ!!」

「だから悪かったって。もう十分反省したからさ……」

「ホントにぃ~?零君いっつも反省してるじゃん!!」

「いっつもって……」

 

 

 そう言われれば『怒られる』⇒『反省する』の無限ループを、みんなと付き合い始めてから延々と繰り返しているような気がする。もはや反省詐欺になってしまい、最近みんなが要求する反省の基準が高くなってきた。もう何度も無理矢理色々な場所に付き合わされたりしている。

 この前は凛と一緒にラーメン巡り(費用は全て俺)、その前はことりとケーキバイキング(費用は全て俺)、その前はにこと洋服屋巡り(費用は全て俺)などなど、数えていたらキリがない。

 

 あれ?これってデートじゃね?掛かった費用を除けばの話だが……

 

 

「あんなに穂乃果たちのこと好きって言ってくれたのに……」

「穂乃果……」

 

 

 そう言って穂乃果は悲しそうな表情を見せた。いつも元気いっぱいの彼女だからこそ、その表情を見ると余計に俺の心がズキズキと痛む。今までは何だかんだ言って水に流してくれていたんだが、いつしか俺はそれに甘えていたのかもしれないな。

 

 そこで俺は思わず、彼女を抱きしめてしまった。

 

 

「れ、零君!?」

「勝手に悪い。でもお前の顔を見ていたら、こうしたくなった。嫌だったか?」

「うぅん……零君に抱きつくの、久しぶりだぁ♪」

 

 

 俺たちはお互いに真正面から抱きしめ合い、穂乃果は俺の胸に顔を埋める。

 女の子特有の甘い匂いと穂乃果の優しい温もりで、俺はあっという間に彼女の世界へと引き込まれた。たぶん穂乃果も同じ気持ちに浸っているのだろう、恍惚とした表情のまま俺の胸に顔を擦り付けている。

 

 

「やっぱ暖かいな穂乃果は。ずっとこうしていたいよ」

「うん、穂乃果も。零君に抱きしめられるとすっごく安心するんだぁ♪」

 

 

 そして俺たちはさらに力強くお互いを抱きしめる。周りの目など一切お構いなしに、俺たちは2人の世界にのめり込んでいた。

 もう始業式が終わり、部活の勧誘をする生徒以外はみんな帰ってしまった。その勧誘する生徒は入学式が行われる講堂前に終結しているため、校舎内には人は皆無と言っていいほどいない。

 

 

「ゴメンな、いつもお前たちに迷惑ばかりかけて。みんなを笑顔にするのが俺の努めなのにな……」

「もう謝らなくてもいいんだよ。穂乃果たち分かってるから」

「分かってる?」

「うん、零君はちゃんと穂乃果たちを見ていてくれる。今みたいにね♪」

「穂乃果……ありがとな」

「ちょっと変態さんなところはあるけど、それでドキドキしたことが何度もあるから……」

 

 

 可愛すぎるだろ!!何だこの生き物は!?今すぐお持ち帰りしたい!!!!

 ……取り乱した。でもこの俺が取り乱すぐらい今の穂乃果には魅力がある。もちろん普段も魅力の塊なのだが、いつもの活発で元気いっぱいな彼女とは違い、今は乙女心が前面に押し出されている。

 

 そして俺たちはさらなる深みへと足を踏み入れた。

 

 

「ねぇ零君……チューしていい?」

「えっ!?ここでか!?」

「もうちょっとしたら入学式でスピーチがあるから、そこで緊張しないように、ね♪」

 

 

 キスとスピーチにどんな因果関係があるのかは知らないが、たぶん恋人間の営みに理由なんていらないと思う。

 生徒はほとんど校舎に残っていないし穂乃果から来てくれたんだ、これを断るなんて許されるハズもない。

 

 

「そうか、じゃあ俺からいくぞ?」

「うん、来て♪」

 

 

 俺は自分の唇を、恍惚な表情をしている穂乃果の唇へ向かって優しく口づけする。遂に俺たちは校舎内で愛を確かめ合ってしまった。しかも相手は生徒会長。海未なんかにバレたら反省文どころでは済まされないだろう。

 

 

「んっ、ん……」

 

 

 穂乃果は軽く声を上げながら、この時間を堪能しているようだ。俺は声こそ上げてはいないが、十分に穂乃果との愛を確かめていた。

 彼女の熱い唇の感触に、俺は何も考えられなくなるぐらい穂乃果に引き込まれていた。

 

 そしてお互いがお互いの感触を十分に堪能した後、俺は穂乃果の唇から自分の唇を離す。

 その時の穂乃果の少し名残惜しそうな顔が、また俺の心を刺激する。

 

 

「えぇ~もっとしたい!!」

「もう時間ギリギリだぞ。講堂裏で先生が待ってくれているんだろ?」

「む~……じゃあまた今度やってくれる?」

「あぁ、お前が望むのならいつでも」

「えへへ、ありがと♪じゃあ行ってくるね!!」

「おう、頑張れよ!!」

 

 

 そして俺は講堂へ向かう穂乃果をその場で見送った。俺は生徒会役員ではないから講堂には入れないしな。

 改めて、穂乃果たちと付き合えてよかったと思う。付き合いだしてからそれまで以上に彼女たちの色々な姿を見ることができ、新たな発見もあった。もっともっと、彼女たちの新しい魅力を探し出したい。

 

 

「しょうがねぇから海未たちを手伝ってやるか」

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああ!!いたぁああああああああ!!」

 

 

 突然俺の後方から、耳を突き刺すような声が響き渡った。

 この声には聞き覚えがある。さらに姿なんて見なくても分かる。俺の身体が勝手に拒否反応を起こしてガタガタ震えるぐらいだからな……

 

 来るっ!!奴がドンドン俺に迫ってくる!!

 

 

 嵐が!!台風が!!地獄が!!悪魔が!!恐怖が!!迫ってくる!!

 

 

「お兄ちゃぁああああああああああん!!」

「ぐぇっ!!首に絡みつくな窒息死するだろ!!」

「会いたかったよ~~♪」

「だから話聞けよ!!」

 

 

 コイツは俺が出会いたくない奴ランキング第二位、俺の妹の神崎楓だ。

 見た目は絵里並みのスタイルに海未と同じぐらい綺麗で長い髪(コイツは茶髪だが)、胸はことりと同じ、その容姿は高校一年生に成り立てとは思えない。本人曰くパーフェクトボディなのだが、性格に難がありすぎてそのパーフェクトを帳消しにしてしまっている残念な妹だ。

 

 

「それよりなんでお前がここにいる!?入学式はどうした!?」

「あんなもの出る必要あるの?どうせお兄ちゃんも始業式サボったんでしょ?」

「それは……まぁ」

「ほらぁ!!やっぱり兄妹だと以心伝心なんだね♪」

「言葉の意味履き違えてるからな!!ていうかもう離せよ!!」

「やだねぇ~~だ!!」

 

 

 

 家の中、公衆の面前、学院内……所構わずブラコンを発揮するのがコイツの最大の欠点だ。『私はお兄ちゃんと付き合うので私への告白は禁止です』というお触書が、コイツの行く先々で広まっているらしい。もう恥ずかしすぎてコイツの行くところには行けねぇよ。

 

 

「零!!なんですか廊下で騒いで!?」

「零くん何かあったの!?」

 

「おお、海未にことり!!いいところに来てくれた!!」

 

 

 騒ぎすぎて生徒会室まで聞こえていたのか、海未とことりが助太刀に来てくれた。戦力になるかは分からないが、この場をなだめるぐらいはできるだろう…………できるかな?

 

 

「わぁ♪楓ちゃんだ、こんにちは♪」

「こんにちはですぅ~、南先輩♪」

 

 

 何だろう……お互いにあまあまボイスで挨拶したのにも関わらず、楓の挨拶はやけに黒さが混じっているような気がする。こうして見るとことりの純粋さがよく分かるな。

 

 

「入学おめでとうございます、楓さん」

「ありがとうございますぅ~、園田先輩♪」

 

 

 ウゼェなコイツ……先輩に媚を売っているというか、明らかに舐めてるだろ。どれだけ猫被ってんだよ……

 しかもずっとニコニコしっぱなしだし、高校生になって一段とウザくなったな。

 

 

「入学式はどうしたのですか?もう始まっていますよ?」

「あんなの出る必要ないですよ。お偉いさんが定型文をペラペラ喋るだけですよねぇ?あっ、そういえば南先輩のお母様でしたっけ?すいませぇ~ん♪」

 

 

 ウゼェえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!

 コイツ、さっきからことりと海未を煽りすぎじゃないか!?今までもそうだったけど、今回は特にコイツの煽りスキルが光ってる。毎日これに付き合わされると思うと、もうこれからの学院生活が心配になってきた。

 

 

「あははは……やっぱり零くんと似てるね」

「そうですよね!!なのにお兄ちゃんは認めないんですよぉ~。妹と一つになれるだなんて普通嬉しくありません?」

「嬉しくない!!それに『妹と一つ』って、変な意味にも聞こえるからやめろ!!」

「えっ!?まさかお兄ちゃん、そこまで欲求不満だなんて……でも私は妹だし血が繋がってるし……でもでもお兄ちゃんに命令されたら……」

「もうツッコミ疲れて早速頭が痛くなってきたぞ……」

 

 

 ついさっきまで穂乃果といい感じだったのに、めちゃくちゃ幸せな気分だったのに、コイツが来ただけですべてがぶち壊されてしまった。返してくれよ、俺の至福のひと時を!!

 

 

「さっき荷物を家に運んだから、今日から待望の2人暮らしだね♪」

「あぁ、今日から最悪の2人暮らしだ……」

「「2人暮らし……?」」

「うっ……そういや話してなかったっけ」

 

 

 またしてもことりと海未から邪悪な気配が漂ってきた。これは早急に説明しないと、また生徒会室の時と同じ目に遭ってしまう。

 でも実の妹にも嫉妬するなんて思ってもみなかったぞ。それだけ俺のことを好きでいてくれているのか、それとも愛情がまた変な方向へと歪んでしまっているのか。

 

 

「実家からは遠すぎて学院に通えないから、仕方なく俺の家へ居候させるんだ」

「仕方なくってなによ~~!!」

「事実だ」

「ホントにお兄ちゃんは照れ屋なんだからぁ~♪素直に嬉しいって言えばいいのに♪」

 

 

 もうこの短時間だけでこれだけ疲れているんだ、毎日家でも学校でもこんなやり取りを続けていたら今度は本気で死んじゃうよ?

 さらに恐ろしいのは、俺が死にかけてもコイツは一切躊躇しないということだ。もし仮に俺がくたばっても、楓なら無理やりにでも俺を起こして絡みついてきそうだ。

 

 

「でも、ことりは賑やかになっていいと思うなぁ」

「ですよね?流石、南先輩は分かってらっしゃる!!頭がお堅い2人とは違いますねぇ~」

「お前、百歩譲って俺はいいけど先輩の海未にまでそんなことを……」

「目上の人だろうと、自分の本心を偽ってペコペコするのは勘弁だからね!!ありのままの私で生きる!!これが私のモットーです!!」

「本当に兄妹そっくりですね……性別を除けば鏡を見ているみたいです」

 

 

 えっ!?俺ってこんなにウザイのか!?確かに人を煽ることはあるが、楓よりはウザくないと信じたい。大丈夫だよね?

 それにしてもコイツが来るのが少し早かったら、俺と穂乃果の営みを見られてしまっていた。もしそうなってしまったら……どう弁解する?コイツが側にいるっていうことは、これからもその危険性があるということだ。

 

 

「私がお兄ちゃんと一緒にいる限り、ラブコメもイチャイチャもそう簡単にはさせませんよ!!覚悟してください!!」

 

 

 楓が人差し指をビシッとことりと海未へ向けて指す。

 そこで俺たちは顔を見合わせた。ラブコメもイチャイチャもなにも、俺たちはもう付き合っているのだ。しかももう既にキスまで済ませてしまっている。恐らく楓は俺たちがそんな関係になっていないと思い調子に乗っているのだろうが、現実はそう甘くはなかった。

 俺たち3人と楓の空気が全く違うことは俺たちしか気付いていない。楓はずっと余裕そうな表情だ。その、なんだ……なんか済まない。

 

 この流れから分かると思うが、楓には俺たちの関係は話していない。もし話したら全人類の想像を絶する災害が巻き起こるだろう。ちなみに雪穂と亜里沙には話してある。

 

 

「楓。とりあえず入学式に行って来い。そこで提出書類とかも配られるみたいだからな」

「えぇ~……生徒会室でもらえません?」

「ん~……確かなかったと思うけど」

「メンドくさ~い!!」

「いいから行って来い。今なら穂乃果のスピーチが聞けるぞ」

「あっ、それは面白そうかも。あとでネタにしちゃお♪」

「最悪だなお前……」

 

 

 ちょっとでも先輩のミスを見つければ、たちまちそれをほじくり返してネタにする。まさにゲス野郎だな。ドス黒さが極まってるわ。

 楓も観念したのか、クルッと俺たちに背を向けて多分講堂へと走り出した。本当は俺も生徒会の2人も、廊下を走るなって注意しなきゃいけないんだけど、今はアイツを追い払うことに専念してそれどころではなかった。

 

 

「はぁ~……本当に嵐のような妹さんですね。これからの学院生活が心配になってきましたよ」

「奇遇だな、俺もだ。アイツ一人だけでこの学院潰せるんじゃないか?」

「でもことりは楓ちゃんみたいな元気いっぱいの子、好きだよ♪」

「お前の斜め上のポジティブ思考を見習いたいよ……」

 

 

 ことりって、よく思考が他の人よりも斜め上に行くことが多いんだよな。常識人に見えて、実は違いましたぁ~という絵里みたいな典型的なパターンだ。

 そう考えれば、俺たち3年生組の中でマトモな奴って一人もいないよな?

 

 

※見解リストvol.2※

 

3年生組

零←変態

穂乃果←3バカの一角

ことり←天使第一号、おっとり、天然

海未←一応常識人(一応が重要)

 

2年生組

花陽←天使第二号、常識人

凛←3バカの一角

真姫←常識人、ツンデレ(重要)

 

卒業生組

絵里←常識人、実はちょっと抜けている

希←もう変態の仲間でいいだろ

にこ←3バカの一角

 

新一年生組

雪穂←ガチ常識人

亜里沙←天使第三号

楓←論外

 

 

 

 

「そういや、部活の勧誘はどうするんだ?一応ビラは作ってあるけど」

「う~ん……あと一人なんだよねぇ」

 

 

 一応勧誘をする予定でここまで来たのだが、未だに確定はしていなかった。

 『μ's』の名前には『9人の女神』という意味が込められているらしい。絵里たちが卒業したことで現時点でのメンバーは6人。そこに雪穂と亜里沙が入ると8人だ。つまりあと一人足りない。

 ここで勧誘してたくさんに希望者が出てしまうと、アイドル事務所みたいに選定をしなければならなくなり、それは折角希望してくれた人の多数を蹴ってしまうことになる。そんな失礼なことをするわけにはいかない。

 

 だが勧誘をしない場合、誰一人として希望者がいなければ8人で活動しなければならない。それはそれでいいのかもしれないが、しっかりと『μ's』を引き継いだんだ、みんな9人で活動したいという思いが強い。

 

 

「さぁて、どうすっかなぁ……」

 

 

 ふと窓の外を見下ろすと、そこには講堂へ向かっている楓の後ろ姿が見えた。

 

 一瞬ある考えが頭に浮かんだのだが、有り得ないと思ってすぐに振り払った。身勝手な想いで穂乃果たちを期待させるわけにはいかないしな。

 

 

「……ねぇな…………ねぇ、よな?」

 

 

 俺は楓の姿が見えなくなるまで、ずっとアイツの背中を見つめていた。

 

 




 第一話で『第三話までには全キャラ出します』って言っていたのにも関わらず出ていません。相変わらずの予告詐欺ですね(笑)


 この小説から読んで下さっている方で、妹様の活躍が見たい方は前作の『妹様襲来!!』や『μ's外大戦争(零看病攻防戦)』で登場しているので是非ご覧下さい。


 『日常』の活動報告にて、「過去にラブライブのR‐18指定の小説を投稿したことがある。しかし今は削除済み」みたいな記述をしたところ、それを見てみたいという方が多数いらっしゃったので公開しました。普通の検索では表示されないので、「R‐18」フィルターを外して検索するか、私の名前から飛んでもらうと表示されると思います。


 高評価をくださった方、ありがとうございます!感想も評価も、頂くとモチベーションも高まるのでとても嬉しいです!!その人向けの特典小説をお送りしたいぐらいですね!


 次回の予定は、やっとみんなの顔合わせとなります。予定通りに行けばですが(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アイドル研究部へようこそ!

 やっとレギュラーキャラを全員出すことができました!


 途中からキャラが多すぎて、誰が話しているのかすごく分かりづらい!!読者様のイメージにスッと入ってこられるようにしたつもりですが、なんせ十数人もいるものですから……

※今更ですが、アニメとは展開が違います。μ'sが残っていたりなど、相違点を挙げればキリがないですが。


前回のラブライブ!

 

 入学式直前、生徒会長である穂乃果は新入生に挨拶をするために俺と一緒に講堂へ向かった。そこで穂乃果の我が儘により、久しぶりに恋人と甘いキスを交わした。

 しかしいい雰囲気も束の間、俺の妹である神崎楓が襲来し学院は一気に地獄へ叩き落とされる。ことりと海未と共になんとか楓を撃退した俺たちは、学院の平和を守ることができたんだ。今度こそめでたしめでたし!!

 

 これからずっと一緒なんですけどね……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 始業式も滞りなく終わり、現在新入生たちはそれぞれの教室で今後の高校生活について、担当の先生からのありがたいお言葉を聞いている頃だろう。さっき講堂を出ていく生徒をぼぉ~と眺めていたが、もう友達を作って仲良く話している者やまだ新しい環境に慣れずそわそわしている者もいた。まぁ、俺はそんな中で可愛い子探しを続けていたんだけどな。

 

 冗談はそれくらいにしよう。講堂前に貼られていた教室分けの用紙を見てみたところ、なんと雪穂と亜里沙は無事に同じクラスになっていた。これでお互いに心細い思いをしなくて済んだな。

 そして一番驚いたのは、同じクラスに楓もいたことだ。まるで仕組まれたかのような、何か作為的なものを感じるが、まさかあの理事長……流石にないよな?これで楓の暴走はあの2人に押し付けられそうでなによりだ。

 

 ちなみに俺、穂乃果、ことり、海未も同じクラスで2年生組も全員同じクラスだ。そうは言っても、2年生は1クラスしかないから当然なんだけど。

 

 

 そして俺は今、一年生教室前の廊下に来ていた。

 

 

「おぉ~!!やっぱ5クラスもあると教室前も賑やかになるな」

 

 

 俺が到着した時には既にホームルームは終わっていたようで、途中で下校する生徒と何度もすれ違った。ちょっと来るのが遅かったか?

 俺がここへ来た理由は、もちろんアイツらに会うためだ。これから一緒にアイドル研究部の部室へ行く約束となっている。

 

 

「あっ、零さん!迎えに来てくれたんですか?」

「わざわざありがとうございます。本当はお姉ちゃんが来るはずだったのに、全く……」

「おぉ、亜里沙に雪穂、さっきぶりだな。穂乃果は生徒会やら何やらで忙しいから、あまりガミガミ言ってやらないでくれよ」

「あれ?珍しいですね、零さんがお姉ちゃんの肩を持つなんて」

「それ、遠まわしに穂乃果を馬鹿にしてないか……?」

 

 

 穂乃果の口グセ、『やるったらやる!!』を行動に発揮できさえすればスラスラと仕事をこなすのに、9割がたはダラダラとしている。生まれた時から一緒にいた雪穂だからこそ、穂乃果のダラけ具合はよく見ているのだろう。

 

 

「零さん!!早く行きましょう!!アイドル研究部の部室、楽しみです!!」

「おっ!!今日は一段と元気いっぱいだな」

「入学式の時からずっとソワソワしてたんですよ。『早く部室に行きたい』って、何度聞いたことか……」

「だってずっと楽しみにしてたんだもん!!あのμ'sの皆さんとお会いする時を!!」

「亜里沙、お前今もの凄く輝いてるぞ」

 

 

 亜里沙の笑顔はまさにキラキラという効果音が似合う笑顔だ。

 あぁ、やっぱり天使の名に相応しい人材だったか。これでことりと花陽とでグループを組めば、男なら鼻血間違いなしだろう。いかん!!想像するだけで自分自身が壊れてしまいそうだ!!

 

 

「あっ!!お兄ちゃんだ!!」

 

「……まだ残っていたのか」

 

 

 そうだ、そうだよ、そうでした!!楓も雪穂たちを同じクラスだったんだ!!姿を見せないからてっきり帰ったのかと思ったがそんなわけないもんな、楓だもん!!

 

 

「もしかして迎えに来てくれたの!?嬉しいなぁ~~♪やっぱ兄妹は一心同体だよね♪」

「だ・か・ら!!言葉の意味履き違えてるから!!それに、俺は雪穂と亜里沙を迎えに来たんだよ」

「雪穂と亜里沙?誰よその女!?」

「いや、ここにいるから…………って2人共呆然と立ち尽くしてる!?」

 

 

 確かに普段猫かぶってるコイツの本性を見たら、そうなっちまうのも仕方ないわな。雪穂たちの様子を見る限り、教室ではおとなしかったのだろう、そのせいで楓のこのはっちゃけ具合に驚くのも無理はない。

 

 

「え~と……さっき『お兄ちゃん』って言ってませんでしたか?」

「紹介するよ、俺の妹の……」

「妻の神崎楓です♪よろしくね♪」

「つ、妻って……えぇ!?」

「信じるな亜里沙!!コイツの許されない冗談だから!!それにお前も、亜里沙は純粋なんだから軽い嘘も禁止だ!!」

「純粋……?フフフ……いいこと聞いちゃった♪」

 

 

 ヤバイ!!やはりコイツを亜里沙に巡り合わせたのは失敗だったか……

 これから楓によって亜里沙が黒に侵食されると思うと……ブルブル!!天使は何としてでも俺が守らなければ!!悪魔なんかに手を出されてたまるか!!

 

 

「絢瀬亜里沙です!!やった、早速お友達が増えた!!」

「高坂雪穂です。よろしくお願いします」

 

 

 いつになくハイテンションな亜里沙と、いつもと同じクールなテンションの雪穂。

 俺はこの時悟った。これは……このメンバーだと雪穂が苦労人になることを。強く生きろよ、雪穂……俺も天使が侵食されないよう全力でサポートするから。

 

 

「絢瀬に……高坂……?」

「そうか、お前は知らなかったか。亜里沙が絵里の妹で、雪穂が穂乃果の妹なんだよ」

「へぇ~……じゃあ私たちはシスターズってことだね!!」

「し、シスターズ!?」

「すごくいいと思います楓さん!!」

「楓でいいよ、私も亜里沙って呼ぶから。よ~し!!シスターズ結成だぁ~!!」

「わ~い!!」

 

「えっ、えぇーー!?」

 

 

 ハイテンションで謎の組織を立ち上げた楓、それに便乗して笑顔で拍手する亜里沙、そして一人だけテンションについて行けず蚊帳の外の雪穂。入学初日でこれとは、雪穂の奴前途多難だな。

 

 

「じゃあ私も部室に行こうかな」

「ダメだ」

「なんでさ!?まさか、私と一緒にいるところを誰にも見られたくないとか?きゃぁ~~お兄ちゃんったら私を独り占めしたいだなんてぇ♪」

「だから言ってねぇって……この会話何回するんだよ……」

「なんか、すごいですね……」

「これからは楓を任せたぞ、雪穂」

「えぇ!?私がですか!?」

 

 

 そう言えばツッコミ役って、一学年に2人いるよな。

 俺たち3年生組は海未とことり、新2年生組は真姫と花陽、大学生組は絵里と……希とにこはボケにもツッコミも両方こなせるか。だが新1年生組は雪穂しかいない。亜里沙も純粋すぎて楓に簡単に流されそうだし、このままでは雪穂が過労死してしまいそうだ。

 

 

「楓、お前は家に帰れ。今日荷物が全部届く予定なんだろ?それなのに家に誰もいないわけにはいかないからな」

「うぅ~~……まぁ荷物が届かないと、お兄ちゃん写真集も見られないしね」

「おい今なんつった!!聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ!?」

「じゃあ早速お宝を拝みに行きますか!!じゃあねぇ~お兄ちゃん、雪穂、亜里沙」

「ばいば~い!!」

 

 

 亜里沙だけが楓に手を振り返し、俺と雪穂はホッとした気持ちでその場で突っ立っていた。ふと雪穂を見てみると、楓とあまり絡んでいないはずなのにかなりの疲労が溜まっているようだ。表情を見て察するに、『あぁ、これから私どうなるんだろ』って思ってんだろうな。ドンマイ☆

 

 

「よし、厄介者も追い払ったことだし俺たちも行くか」

「「はいっ!!」」

 

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零さん、1つ聞いてもいいですか?」

「ん?どうした亜里沙?」

 

 

 アイドル研究部部室へ行く途中、亜里沙が俺に質問を投げかけてきた。

 2、3年生はもちろんのこと、新入生もほとんど校舎に残っていないため廊下は閑散としている。入学式の賑やかなムードもようやく落ち着いてきたって感じだな。

 

 

「零さんはμ'sでどんなお仕事をされているんですか?」

「仕事かぁ~……みんなの写真を撮って思い出作りかな」

「それ個人的な趣味ですよね?」

「うぐっ!!雪穂……この世には分かっていても言っていいことと悪いことがあるんだぞ。先輩からのお言葉だ」

「相変わらず"変態"さんなんですね」

「さっきの文脈からどう読み取れば変態になるんだよ!!俺はただみんなのあんな姿やこんな姿を見たいだけだ!!」

「最後、思いっきり欲望出ていましたよ……」

 

 

 これが、新入生に高校生活初っ端から『変態』呼ばわりされる最上級生の図である。

 こうなったら、これから雪穂や亜里沙の憐れもない姿を写真に収めて夜使ってやるからな!!覚悟しとけ!!

 

 

「本当にそれだけなんですか?お姉ちゃん、零さんがいてくれてすごく助かったって言ってましたけど」

「絵里がそんなことを……嬉しいけど、俺はただ見てるだけだ。歌もダンスも知識がないし、素人目でちょっかいを出してるだけなんだよ。でもまぁ唯一挙げるとすれば……」

「挙げるとすれば……?」

 

 

「……別に対したことはなかった。それより早く行こうぜ!!みんなが待ってるから」

 

「は、はい……」

「零さん……?」

 

 

 2人は顔を見合わせて首を傾げていた。

 唯一挙げるとすれば、俺と元μ'sメンバー9人が争った"あの惨劇"。正直μ'sに対してしてやれたことって、その一件ぐらいしか胸を張るところはないんだけどな。しかもそれは済んだ出来事だ、今はこの2人に話す必要がない。文字通り地獄だったからな、あの9日間は。

 

 

 そして俺たちはアイドル研究部部室前にたどり着いた。

 

 

「この扉はお前ら2人で開けるんだ」

「えっ?私たちがですか?」

「あぁ、入ったらバシッと一発芸頼むぜ!!」

「どうしよう雪穂!?私、何も考えてないよ!?」

「零さん!!亜里沙に余計なこと吹き込まないでください!!」

「す、すまん!!ここまで純粋だったとは……」

 

 

 天使の素質がありますね、亜里沙さん。これはことりや花陽以上の純粋無垢さだ。今すぐお持ち帰りして抱き枕にしていい匂いに包まれて眠りたいが、大天使様にそんな無礼は許されない。

 一瞬、亜里沙とも付き合えたらなぁって思ったが、すぐに振り払った。でもこれ以上付き合うのは本格的に危ないかもしれない。妄想だけは色々と浮かび上がるのになぁ……

 

 

「いくよ、雪穂!」

「う、うん!」

 

 

 そして2人は部室のドアノブに手を掛け、ドアを開け放った。

 

 

「「「「「「「「「アイドル研究部へようこそ!!」」」」」」」」」

 

「「!!」」

 

 

 

 

 部室から9人の歓迎の声が聞こえてきた。

 俺たちは他の部活と違って勧誘をしないことにしたため、雪穂と亜里沙は唯一の新入部員となる。もう顔も名前も知っているし肉親の奴もいるが、新たなμ'sのメンバーを歓迎したいというみんなの提案だった。

 

 ん?あれ?9人……?

 

 

「絵里、希、にこ!?なんだお前ら来てたのか!?」

 

 

 やけに部室がいつも通りだと思ったら、旧μ'sメンバーが集結していた。絵里たちが卒業して狭く感じていた部室も、久しぶりに窮屈でかつ華やかに見える。

 

 

「なんだとはご挨拶ね。にこたちが来ちゃいけないっていうの?」

「別にそんなこと思ってないけど、今日来るって言ってたっけ?」

「亜里沙と雪穂ちゃんと、そしてあなた以外にはね」

「なんで俺に内緒なんだよ……」

「いや~零君の驚く顔が見られると思ってね。そうしたら案の定零君のビックリした顔……ウチ笑ってしまいそうや。写真撮っておけばよかったなぁ♪」

 

 

 この俺を騙すとは……これはオシオキとして「ワシワシMAX」でみんなを昇天させるしかない。

 ワシワシMAXとは、希の得意技である「ワシワシ」を究極的に極めた者だけが会得できる技だ。女の子の背後に素早く忍び寄り、胸を刺激してその気持ちよさで昇天させる。男も別の意味で気持ちよくなれる技なのだ。

 

 

「で?お前ら大学は?」

「今日は講義が午前中だけだったのよ。今は特に部活もサークルも入ってないしね」

 

 

 この事実を知れば驚くかもしれないが、絵里も希もにこも同じ大学に通っている。学部はそれぞれ違うのだが、一年生だから取る授業もほとんど同じで3人ワイワイやっているらしい。

 まさかあのにこがねぇ……秋あたりから絵里と希にみっちり仕込まれたお陰だな。にこも穂乃果みたいにやれば伸びる極端な性格だ。もちろん"やれば"だが……

 

 

「じゃあ改めて。雪穂、亜里沙ちゃん!!入学おめでとう!!」

「ありがとうございます!!」

「あ、ありがとう……」

 

 

 μ'sのリーダーである穂乃果が代表して、新入生2人にはなむけの言葉を送る。亜里沙はそれに元気よく応え、雪穂は自分の姉からエールを、少し顔を赤らめながら受け恥ずかしそうに頷いた。冷静そうに装っても、嬉しそうな表情は隠せないみたいだな。

 

 

「おい雪穂、顔赤いぞぉ~」

「な゛っ!?そ、そんなことないですよ!!」

「ホントだ!!我が妹がここまで立派になって、お姉ちゃんは嬉しいよ!!」

「お、お姉ちゃんだけには言われたくないよ」

「ガーーーン!!!!」

 

 

 雪穂も結構なツンデレさんなのかな?それなら真姫と共にツンデレデュエットが組めるかもしれない。扱いが大変そうなグループだなオイ!!それにこの2人、Sっ気も大いにあるから奴隷になりたい人も多そうだな。

 それにしても穂乃果……どれだけ妹から慕われていないんだ。確かにいつもの様子を見る限り、コイツがμ'sのリーダーだとは誰も思わないだろう。小さい頃も海未にガミガミ言われていたのだろうか。

 

 

「亜里沙ちゃんもおめでとうだにゃ!!」

「ありがとうございます凛さん。憧れのμ'sに入ることができてとても嬉しいです!!」

「うぉお~、すごくキラキラしてるにゃ!!まぶしぃ~~」

「まるでアイドルを語っている時の花陽みたいね」

「えっ!?私もあんなにキラキラしてるかな?」

「えぇ、ついでに2時間拘束されるぐらいにはね……」

 

 

 亜里沙は部室に入ってからずっとキラキラした笑顔で部室内や俺たちを順繰りに見つめてる。そんな輝いた顔で見られると、さっきまで雪穂と亜里沙によからぬことをしようと考えていたのが重罪に思えてくる。これでは俺流新入生歓迎会ができないじゃないか!!

 

 

「私、嬉しすぎて今からでも練習したいぐらいです!!」

 

 

 まぶしぃいいいいいいいいい!!亜里沙が眩しすぎて俺の邪な心がどんどん浄化されるぅうううううううううううう!!ゴメンなさい!!天使様!!俺もう変態行為やセクハラをしませんからぁあああああああ!!

 

 

「折角ですし、本日の練習に2人も参加してはどうですか?」

「いいんですか!?雪穂、私たちも一緒にやろうよ!!」

「で、でも着替えなんて持ってきてないよ?」

「じゃあ一旦家に帰って、もう一度部室に集合でどうだ?」

「珍しいですね、零がそこまでやる気をだすなんて」

 

 

 失礼な奴だ。俺はみんなの薄着の練習着によって見出される、くっきりとしたボディラインを拝みたいだけだ!!そして今回から雪穂や亜里沙も加わるというのに、やる気を出さずにいられようか?もちろんテンションMAXだ!!

 

 

「よ~し!!練習前に、みんなで新入生歓迎会といこうじゃねぇか!!さぁ、みんなでこれを着るんだ!!」

 

 

 俺は部室に隠してあった"とある衣装"をここにいる人数分、つまり12人分の衣装を取り出した。部室のどこに隠してあったの?という疑問は封印しておいてくれ。

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「め、メイド服!?」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 さぁ!!突然ですが、μ'sメイド喫茶の開店です!!

 

 




 12人も同じ部室にいるんじゃねぇぞ!!作者である自分が大変だろ!!(笑)

 新生μ's結成まであと少しです。今までと同じ短編集になるまでもうしばらくお待ちください。あと1人のメンバーは?


 次回はまさかのメイド喫茶編!?零君と共に鼻血対策を(笑)


 評価をしてくださった方、ありがとうございます!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

メイド喫茶『μ's』開店!(前編)

 新入生歓迎会のはずが、個人的な趣味によりメイド回へ様変わり!しかも1話でまとめられなかったという恐怖。書きたいことを何も考えずに書いていったらこうなりました(笑)


 

前回のラブライブ!

 

 遂に雪穂と亜里沙、楓が顔を合わせた。いつも通り平常運転な楓と、新たな友達ができてハイテンションな亜里沙を横に、この2人の面倒を見なけらばならない苦労人の雪穂。大天使亜里沙様が楓に浸食されないように、頼んだぞ雪穂!!

 そして雪穂と亜里沙はμ'sメンバーとも顔合わせ。そこには卒業した絵里と希、にこが俺たちに内緒で集結していた。新旧メンバー集合で、これから俺式新入生歓迎会だ!!さぁ、まずはみんなこの衣装に着替えよう!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「うわぁ~♪すごく可愛いメイド服、零君これどうしたの?」

「いい質問だ穂乃果。俺がこの春休み、みんなのスタイルや背丈に合わせてチビチビと衣装を直していたんだ」

「えっ!?私たちの背丈まで分かるんですか?」

「それもいい質問だ亜里沙。俺にとって女の子のスリーサイズなんて一目瞭然なんだ。もちろんお前ら2人のもな」

「すごいです零さん!!何でもできるんですね!!」

「だろ?もっと褒めたまえ!!」

 

 

 俺が思った以上に亜里沙は真っ白で、すぐにでも別の色に染まってしまいそうだ。これなら楓がゲスい顔をして亜里沙を染めたいという気持ちが分かる気がする。

 じゃあ早速俺色に染め上げて、俺に従順な天使様に……ゲフンゲフン!!なんでもない。

 

 

「ことりたちのために作ってくれたの?嬉しいなぁ♪」

「これは穂乃果ので……これは海未ちゃんのだね」

「わ、私は着ませんからね!!」

「えぇ~折角作ったのに~」

「そもそもどうして歓迎会にメイド服なんですか!?」

「そんなのもの俺の趣味に決まってるだろ」

「余計に着たくなくなりました!!」

 

 

 もう何度もメイド服を着ているというのにまだ慣れないのか。ちなみに今回は前回のような堕天使黒メイド服ではなくて、普通の白を基調としたオーソドックスなメイド服だ。まぁ多少改良を加えて露出度は高くなっているが、これも俺の趣味だ。

 

 

「花陽たちはどうだ?」

「わ、私は……」

「私は着ないから!!」

「いいじゃんいいじゃん!!かよちんも真姫ちゃんも着てみようよ!!折角零くんが作ってくれたんだし。凛は着てみたいにゃ!!」

「そうだよ!!俺がみんなのために真心込めて、愛情を込めて作ったメイド服なんだ。是非俺の愛を受け取ってくれ。お前らなら絶対に似合うと思うからさ」

「零君の頼みなら……いいかな?」

「全く……いつもそんな恥ずかしいこと平気で言うんだから」

 

 

 恥ずかしいことを平気で言えないと、こうして9人とは付き合えていなかっただろう。それにあの時から自分の羞恥心は全て捨て去った。これからはみんなの恥ずかしい姿を赤裸々にしてやるんだ!!

 てなわけで、みんなのメイド服写真(1枚:10000円)のお申し込みは俺の口座まで!!

 

 

「にこたちも、『私たちは関係ない』みたいな顔して突っ立っている場合じゃないぞ」

「どうしてにこたちまで……まぁ可愛いから別にいいけど」

「そうやね。久しぶりにみんなと遊べて嬉しいわぁ♪」

「あなたの場合、『みんなと』じゃなくて『みんなで』じゃない?」

「流石絵里ち!!よく分かってるね♪」

「希も全く変わってないわね……」

 

 

 やはり希も俺と同類だったか。変態は変態を引き寄せ合う、類は友を呼ぶとはまさにこのことだな。

 でも特にメイド服を着ることに抵抗がないこの3人。これが年の功ってやつなのか!?1つしか歳が変わらないのにそう言ってしまうと、すごくどやされそうだ。

 

 

「私も着るんですか……?」

「雪穂、これもμ'sに入るための儀式なんだ。まぁ俺に目を付けられた時点で諦めるんだな」

「諦めるって……零さんはどのポジションから言ってるんですか……?」

「神のポジション」

「聞いた私が馬鹿でした……」

 

 

 そう言って俺に憐れみの目を向ける雪穂。

 そうだよ、この目だよ!!人を凍てつかせるような、北極や南極の寒さよりも凍える目線が如何にも俺を見下している時の真姫にそっくりだ。やはりコイツと真姫を組ませて、ファンを甚振る光景を見てみたい。握手会も握手ではなくて、ムチを持って一人一人シバいていくとか面白そうだ。

 

 

「いいじゃん雪穂!!このメイド服可愛いよ。私一度着てみたかったんだぁ♪」

「こんなことするためにμ'sに入ったんじゃないんだけど……」

「いいか、アイドルたるものどんな衣装を来ても誠実に振舞わなければならん。恥ずかしがってたら、人前で歌もダンスもできないだろ?」

「……零さんのくせにいいこと言ってる」

「お前の中での俺の位置づけがよーく分かったよ……」

 

 

 あれれぇ~?一応一緒にデートしたことはあるんだけど、俺の評価ってこんなに低かったっけ?あの時は高坂姉妹2人と一緒で、その時は雪穂もハイテンションだった気がするが、それは俺がいたからじゃなかったのか!?密かに俺のことを想ってくれているって期待していたのに!?

 

 

「でもほらみんなやる気みたいだし、ちょっとだけ、ちょこ~っとだけだから」

「はぁ~……分かりました。やればいいんでしょやれば」

「やりぃ☆」

 

 

 これで全員の説得は完遂された。あとはこの時のために買ってきたカメラで、みんなのメイド服姿をいやらしく収めるだけだ!!

 

 

 いきなり全員が着替えると、ただでさえ狭い部室がさらにギューギュー詰めになる(俺はそれでも最高なんだけど)ので、学年別に順番で出てきてもらうことにした。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「じゃーーん!!見て見てご主人様!!可愛いでしょ?」

「お待たせしました、ご主人様♪」

 

 

 まず部室に入ってきたのは穂乃果とことりの幼馴染コンビだ。

 穂乃果のメイド服は、本人が活発で動き回ることを想定して生地が薄く、肌の露出も多い。こう見ると穂乃果からもしっかりと色気が醸し出されている。

 ことりはいつもと同じだと興奮しないので、スカートの丈を短くしてり肩を露出させるなどお客様(俺)にサービスできるようになっている。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 鼻血が……鼻血が飛び出るぞ!!メイド萌えの俺にとって、『露出が多いメイド服』+『自分の彼女』というコンボに興奮せざるを得ない。

 でも今回は準備万端だ。輸血パックを大量に用意してあるからな。

 

 

「わっ!?ご主人様鼻血大丈夫!?」

「わ、悪い!!そこのダンボールから輸血パックを早急にセッティングしてくれ。さっきセットしておいた3パック分が、お前らを見ただけで一気に消し飛んだんだ」

「うん分かった!!」

 

 

 まさか……まさか穂乃果とことりのメイド服姿を見ただけでこうなるなんて……明らかに以前より悪化していないか!?恋人関係になって、ますます興奮しているのかもしれない。

 

 

「大丈夫ですかぁ、ご主人様?」

 

「なっ!?」

 

 

 ことりが俺を心配して近くまで駆け寄った。それはいいのだが、色々とことりの見えてはならない部分が見えそうになっているのが問題だ。

 メイド服を切り取りすぎたせいで胸元が大きく開かれ、上から除けば豊満な2つの膨らみがすべて見えてしまいそうになっていた。ここから見ても、そのマシュマロみたいな柔らかいモノのほとんどが見えてしまっている。

 

 

「よし!これでセッティング完了!!これでご主人様と遊べるね♪」

 

 

 そう言って穂乃果は俺の元へ走って来た。その度に生地の薄いスカートが大きくめくれ上がり、目が離せなくなる。

 

 

「ご主人さまぁ~♪」

「ほ、穂乃果!!急に抱きつくな!!」

 

 

 穂乃果はピョーンと俺の背中に飛びつき顔をすり合わせてくる。

 もちろんそれだけでも鼻血ぶちまけものだが、さっきも言った通り穂乃果のメイド服は生地が薄い。だから彼女の胸の感触が俺の背中にダイレクトに伝わってくるということだ。

 

 見てみると、穂乃果がセットしてくれた輸血パックの内、もう1つが消えてなくなっていた。俺が鼻血を出す量と、輸血パックからの需要と供給が明らかに見合っていない。

 

 

「そ、そう言えば海未はどうした!?」

「あぁ……海未ちゃんなら、ほらあそこだよ」

「えっ?」

 

 

 ことりが指を指している先を見ると、部屋の隅で海未が顔を真っ赤にしながらこちらを眺めていた。

 海未のメイド服は、あえて和風っぽくなるようにアレンジを加えている。どちらかといえば和服に近くなるように作成した。やっぱり海未には和服だよな。

 

 

「ど、どうして今回はどれもこれも露出が多いんですか!!」

「そんなもの俺の趣味に決まってるだろ。今更すぎるぞ」

「零っ!!」

「ご主人サマと呼べ!!ここでは俺が正義だ!!俺がすべてなんだ!!」

「どうして私、この人を好きになったんでしょう……?」

 

 

 真っ当な意見だ。ごく普通で正論すぎて俺の反論する余地もない。

 だがな、俺はこの行為を全くやめるつもりはない。これが俺の生き様、そしてみんなは俺の全てだからだ!!だからメイド服でご奉仕してね☆

 

 

「じゃあどうすればお前に俺の愛を示せる?キスでもするか?」

「はぁ!?ちょ、ちょちょちょっと待って下さい!!」

「なんだ?もしかしてそれ以上のことをお望みで!?」

「違います!!キスはいいんですよ……ですが近くでこんな恥ずかしい顔を見られたくなくって……」

「海未……」

 

 

 可愛い生き物がここにいた。いつもは大和撫子と言われるほど、どちらかといえば美人よりなのだが、今はゆでダコのように顔を沸騰させてモジモジしている。海未がここまでお人形さんのように、抱きしめたくなる愛らしさを出しているのは初めてかもしれない。

 

 

「ご主人様ずるいです!!ことりにもキスしてくださぁ~い♪」

「ことりも!?」

「じゃあ穂乃果も、さっき以上にスゴイやつお願いします!!」

 

 

「「さっき……?」」

 

 

「「あっ……」」

 

 

 マズイ……穂乃果が口を滑らせてしまった。ことりと海未はすぐさま反応し、俺と穂乃果は口を開けたままその場で立ち尽くす。

 

 

「零くん、穂乃果ちゃん、それって一体どういうことかな?」

「えぇ~とそれは……」

「私たちの取り決めとして言いましたよね?学院内でキスするのは禁止だと……」

「しょーがないじゃん!!雰囲気に流されちゃったんだもん!!」

「しかも私たちは生徒会役員なのですよ!?まして穂乃果は生徒会長、破廉恥な行為などもってのほかです!!」

 

 

 俺たちで決めた規則、それは学院内では健全な関係でいることだ。特にスクールアイドルとして活躍したコイツらは学院内でも顔が知られているだろうし、これから新入生の目もある。上級生の俺たちが模倣になるため、お堅い海未からの取り決めだ。

 

 

「そーだよ!!穂乃果ちゃんだけズルいよ!!だからことりにもやって?」

「こ、ことり!?さっきの話聞いてなかったんですか!?」

「聞いてたよ。でもことり、もう我慢できないの!!」

「うっ……でも俺たちの取り決めが……」

 

 

 このままドツボにハマっていけば、ズルズルと快楽の道を突き進むことになる。そうなったら最後、学院だろうとどこだろうとイチャイチャしまくってしまうだろう。それでは世間に9股をかけている最低ヤローだということがバレてしまう!!

 

 

「ダメ……かなぁ?」

 

「ぐぅうううううううううううううううう!!」

 

 

 ことりは涙目かつ上目遣いで俺を見つめてくる。

 いつの間にそんな技も身につけたんだ。くっそぉおおおおおおおおお!!可愛いじゃねぇかぁああああああああ!!俺はこんな天使のお誘いを断ろうとしているのかぁああああああ!!

 俺の心に眠る罪悪感が大群を成して襲いかかってきた。

 

 

「で、でもここではな……」

「もうっ!!いつもなら『ことり、大好きだよ』て言ってしれくれるのに、どうして今はダメなの?チューしようよ!!チューチューチュー!!」

「ネズミかお前は!?ことり、ちょっと落ち着いて!!」

「もういいもん!!こっちからしちゃうんだから!!」

「むぐぅ!!」

 

 

 ことりは真正面から俺に飛びつくなり、そのまま俺の唇を食べてしまうかのように自分の唇を押し当てた。すがりつくように執拗な彼女の厚い唇の感触に、俺は一気にことりの虜にされる。

 

 

「んっ……ん」

 

 

 ことりは色っぽい声を上げながら、俺とのキスに夢中だ。周りには羨ましそうに眺める穂乃果や、目を見開いたまま動かない海未もいるのだが全く意識にないのだろう。

 『ぺちゃぺちゃ』と唾液の音が大きく響き、いつもと比べてかなり濃厚なキス。もうこのまま俺が食べられてしまいそうだ。続けてことりは俺の唇を自分の唇で押し開けて、探し出した舌を舌で絡めてくる。そしてさらに如何にも破廉恥な唾液の音が部室いっぱいに広がった。

 

 俺、さっきから脳がトロトロとかされているけどもういいや……

 

 

 そして、十分にキスを堪能したことりはゆっくりと唇を離した。俺とことりで唾液の糸が引いているのが、心底いやらしい。

 

 

「どうでしたかぁ?ご主人様?」

「気持ちよかったよ。もう一度しれくれるか?」

「はい♪喜んで、ご主人様の仰せのままに」

 

 

 俺たちは第二回戦をはじめようとした瞬間、ダンッと隣で誰かが仁王立ちした。

 ――――これってまさか……?

 

 

「もうこれ以上はダメです!!」

「えぇ~!!海未ちゃんヒドイよ!!ことり、まだ零くんと愛し足りないよ!!」

「ダメです!!このままエスカレートすれば、必ず日常生活でもハメを外してしまいますから。なのでこれ以上は禁止です。いいですね!!」

「はい……」

 

 

 珍しくことりが海未に怒られている。そのシュンと落ち込んでいることりの表情にそそられて、また彼女に飛びつきそうになるがグッと堪える。これ以上やると確実に海未の制裁をもらうからな。

 

 

「零も!!いいですね?」

「はい……」

 

 

 結局3年生になっても、『俺たちが馬鹿をする』⇒『海未によって止められる』という鉄板の流れは変わらないんだな。逆に安心したよ、いつもの構図で。いや、いつもなら殴られてたから一歩前進か?

 

 

「じゃあ、帰ったら海未を思いっきり愛でてやるかな?」

「な゛っ!?い、いきなり何を言い出すんですか?」

「何をって、学院の中じゃなかったらいいんだろ?それにお前、ずっと顔が真っ赤だぞ」

「うっ……」

「大丈夫だよ、俺はしっかり海未のことも見てるから。また2人で一緒に……な?」

「もう……っ、あなたって人は……」

 

 

 穂乃果やことりは自分の感情を出すのが得意だが、海未は自分の心の中に抑えてしまって中々人に想いを伝えられない。付き合ってからは少し改善されたが、2人に比べればまだまだだ。そこは俺が海未に心配やストレスを抱えないように引っ張っていかなければ。

 

 

「よーーし!!じゃあ次は穂乃果の番だね!!」

「「「それはない」」」

「うそぉ!?」

 

 

 この流れでまだやる気だったのかコイツは。しかもさっきやったし……

 

 そして俺は、こんな調子でこの先身体が持つのだろうか……?

 

 




 ということで、次回に続きます。まさかキスの描写を入れるとは自分でも思っていませんでした。勢いって怖いですね(笑)。ですが折角恋人関係になったので、他の小説では見られないシーンというのも一興ではないでしょうか?


 高評価をしてくださった方、ありがとうございます!!増えれば増えるほどイチャイチャの回数も増える(?)かもしれません。








 これメイドである必要あったか!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

メイド喫茶『μ's』開店!(後編)

 今回で全員終わらせると言っていたのにも関わらず終わらなかった……
 しかも今回はかなりハジケてます。ここまで変態要素を書いたのは初めてかもしれません。妄想を膨らませ過ぎた気がしてならない……


 

前回のラブライブ!

 

 雪穂と亜里沙がアイドル研究部に入部した記念に、俺の発案で全員メイド服を着ることになった!最後までごねていた海未や雪穂を言葉巧みに誘導し、なんとか説得に成功!

 初めに登場したのは穂乃果、ことり、海未の幼馴染トリオ。しかしそこで俺と穂乃果がキスしたことがバレてしまい、ことりが暴走してしまう!!その場の勢いでことりとキスをした俺は、そのまま快楽の底へと叩き込まれる。しかし、海未のお言葉もありなんとか沈静化した。

 この先ほかのμ'sメンバーも登場!!このままだと俺の身体もたなくない!?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「次は凛たちだにゃ!!」

「よ、よろしくお願いします!!」

 

 

「……」

 

 

「ご、ご主人様?どうしたのかにゃ?」

「ずっと固まったままだけど……」

 

 

「いや、お前らのメイド姿って新鮮だなぁと思ってさ」

 

 

 メイド服と言えばことり、さらに彼女つながりで穂乃果や海未は想像がしやすいが、凛や花陽たちのメイド姿はあまり見たことがない。高校2年生になってもまだ少し幼さが残る彼女たちがメイド服を着ると、それだけで謎の背徳感に包まれてゾクゾクしてくる。

 ちなみに凛も花陽に着させたのは至って普通のメイド服だ。シンプル・イズ・ベスト!!幼さが残っているからこそ、ノーマルメイド服なのだ。

 

 ヤバイヤバイ……鼻血を拭かないと。

 あっ、輸血パックが早速1つお亡くなりになった。

 

 

「凛、こういう服あまり似合わないと思うんだけど。でもご主人様のためなら……」

 

 

 凛は顔を赤らめながら俯き、スカートをギュッと手で押さえ、モジモジしながチラチラと俺を見る。その凛は如何にも乙女という感じで、普段の活発な彼女からは考えられないほど可憐だ。

 

 

「凛、お前…………めちゃくちゃ可愛いなぁ!!」

「うにゃっ!?ご、ご主人様!?」

 

 

 あまりの乙女チックな凛に理性を抑えきれなくなり、俺から凛を抱きしめた。彼女の身体は思ったよりも細く、全身で抱きついても余るぐらいだ。だがその分凛を思いっきり堪能することができる。

 

 

「れ、零くん苦しいにゃ~!!」

「それだけお前を好きだってことだよ。それに言葉遣い間違ってるぞ。『零くん』じゃなくて『ご主人様』な」

「ご、ゴメンなさいご主人様……」

 

 

 さらに凛は恥ずかしくなったのか、俺の胸に顔をうずめて表情を隠してしまった。恋愛には奥手な凛のことだ、今は爆発してしまいそうなぐらいドキドキしているんだろう。現に彼女の胸から鼓動が俺に伝わってきている。慎ましやかな胸だが、その感触はしっかりと女の子だ。

 

 

「はわわわわ……」

「花陽……お前手まで真っ赤だぞ、大丈夫か?」

 

 

 花陽は自分の手で顔を抑えているが、指と指の間からしっかりと俺と凛を凝視していた。手まで真っ赤なところから察するに、顔は相当沸騰しているのだろう。

 

 

「かよちんもこっちくるにゃ~」

「凛は小さいから、まだまだ抱きしめられるぞ」

「小さくて悪かったにゃ!!」

「いやいや、小さくて可愛いなぁって意味だぞ。それは花陽も一緒だけどな。ほら、こっちにおいで~」

「は、はい……」

 

 

 花陽はメイド服に慣れず恥ずかしいのか、ちょこちょこと歩きながら俺の元へやってきた。もうそれを見ただけで、今すぐ家にお持ち帰りして抱き枕にして一緒に寝て共に一生を過ごしたい!!花陽が作ってくれるご飯なら毎日毎食でも食べられるぞ!!俺の家に来ないかい?

 

 あっ、でも……家には悪魔がいるんだよな……

 

 

「よ~し、花陽も抱きしめちゃうぞぉ~☆」

「あ、ありがとうございます、ご、ご主人様!!」

 

 

 花陽もメイド精神が板についてきたみたいだな。メイドならご主人様の命令ならなんでも従う。それがメイド精神だ!!

 大天使花陽様に『ご主人様』と呼ばれただけで、さっきから輸血パックが忙しなく俺に血を輸送している。これ、途中で輸血パックなくなって俺死んじゃうんじゃ……?

 

 そして俺は花陽の手を取って、そのまま凛の隣に導きそのまま2人をギュッと抱きしめた。

 

 

「うひゃあ~!!花陽の身体やわらけぇ!!」

「も、もう恥ずかしいですご主人様!!」

「ご主人様が一気に変質者になったにゃ……」

 

 

 もう変質者でもなんでもいい!!花陽の柔らかい身体、そして胸を堪能できるのならな!!俺が彼女をグッと自分の身体に引き寄せるたびに、花陽の豊満な胸の形がフニッと変わるのが俺の興奮を際立たせる。

 

 

「花陽顔真っ赤だぞぉ~」

「み、見ないでください!!私、今絶対に誰にも見せられない顔していますぅ~!!」

 

 

 これは海未だけじゃなく花陽の特訓も必要だな。

 この2人はただのPV撮影でも緊張してしまう。これは俺とのイチャイチャで羞恥心を解消してやらなければ!!

 

 

「あれ?そういや真姫は?」

「真姫ちゃん?それなら私たちと一緒に来たはずだけど……」

「あっ!!あんな端っこで座ってるにゃ!!」

 

 

 真姫はまるで背景かのように部室のオブジェクトに溶け込んでいた。

 海未みたいに震えてはいないものの、自慢の赤髪と同じぐらい顔を真っ赤にしている。もうどこまでが髪の毛で、どこからが顔か分からんな。

 

 

「真姫……お前そんなとこで何してんだよ」

「『何してんだよ』じゃないわよ!!どうして私だけスカートがこんなに短いのよ!!」

「綺麗な脚をしているお前にはピッタリだろ?」

「今そんなこと言われても全然嬉しくないから!!この変態!!」

「残念、それは罵倒ではなく褒め言葉だ」

 

 

 俺を変態呼ばわりするとは……今更何を言っているんですかねぇ真姫ちゃんは。それはやかんを指差して『これはやかんです』って言うようなものだぞ。『俺≒変態』ではなくて、『俺=変態』だからな。しかと刻みつけておくように。

 真姫に着せたメイド服は、彼女が言った通りスカートが極端に短い。それは真姫の綺麗な脚を浮き彫りにするためだ。そこが真姫のチャームポイントの1つでもあるからな。

 

 

「真姫、ちょっと立ってくれないか?」

「イヤよ!!少しでも動くと見えちゃうから」

「いいじゃん、ミニスカート似合ってるぞ!!俺はお前の全身を拝みたいんだ。だから、な?」

「そんなこと言って!!スカートの中見たいだけでしょ!?」

「ソンナコトナイヨ」

「バレバレよ……」

 

 

 その時、真姫が一瞬スカートから手を離したため、その僅かな風圧でスカートがひらりと捲れ上がった。

 

 見え……見え……見えそう!!

 

 

「真姫……」

「何よ!?」

「お前、いい太ももしてんなぁ~」

「な゛ぁっ!!」

 

 

 とうとう真姫の羞恥心がMAXに達したようで、瞬速で自分のスカートを押さえる。女の子がスカートを押さえる姿って、どうしてこんな萌えるのだろうか。そして真姫の綺麗な太もも見て、またしても輸血パックがお亡くなりになる。

 

 

「ちょっとだけ、舐めてもいい?」

「はぁ!?!?ダメに決まってるでしょ!?」

「俺はお前の恋人だ。だから彼氏として彼女のすべてを知りたい。お前たちの隅々まで、何1つ隠し事なく知りたいんだ。そうすればもっとお前らと愛し合えるようになると思うから」

「あ、あなたって人は……またそんなことを……」

 

 

 でも事実だからな。みんなのことをもっと知って、もっともっとみんなに喜んで笑顔になって欲しいと思っているのは間違いない。もう俺は嘘偽りなく自分に素直になるって決めてんだ!!

 

 

「ダメ?」

「………………いいわよ」

「マジで!?やった!!」

「そこまで喜んでくれると悪い気はしないけど……で、でもちょっとだけだからね!!」

 

 

 デレたデレた!!ツンデレ真姫ちゃんの本領発揮だ!!もう誰にも俺を止められない!!今から俺は真姫のアレをいただくことになる!!

 

 

 そして俺は座ったまま動かない真姫に近付き、彼女の太もも付近で膝をついた。もうこの時点で真姫からいい匂いが漂ってきているのは気のせいか?それは凛と花陽からのあまい匂いもあるだろう。

 

 

「わわわっ!!真姫ちゃん、どうなっちゃうのかな?」

「ご主人様と真姫ちゃんが……まさかにゃ……にゃ~」

 

 

 凛が遂に本当の猫になってしまったぞ。あの2人も盛り上がってるな。

 しかもまた輸血パックが空っぽになってしまった。早く次をセットしないと鼻血を部室にぶちまけてしまう。

 

 

「じゃあいくぞ?」

「は、早くしなさいよ……」

 

 

 ここまで来てもまだ強気なのか……

 俺は真姫の太ももに顔を近づける。

 

そして、彼女の太ももに舌を伸ばし――――

 

 

「ひゃうっ!!」

 

 

「!!真姫、お前……」

「すごく可愛い声だにゃ……」

「真姫ちゃん、そんな声出せたんだね……」

 

 

 聞いた!?聞きました!?『ひゃうっ!!』ですって!!真姫のあんな色っぽく、可愛すぎる声をかつて聞いたことがあるだろうか?いや、ない。

 凛も花陽も親友の聞いたことがない叫び声に驚嘆している。さらに顔も真っ赤っか。部室の熱気が真夏のようにムンムンしている。

 

 真姫は俯いたままプルプルと震えだし、その場でスッと立ち上がった。

 

――――これは、マズイ奴なのでは……?

 

 

 

 

「あ゛ぁああああああああああああああああああ!!」

 

「真姫ちゃんが壊れたにゃ!!」

「お、落ち着いて真姫ちゃん!!」

「みんな!!とりあえず退避だ!!」

 

 

 真姫の暴走により、2年生組のご奉仕(してもらってない気がするが)は終了した。

 凛と花陽にはしばらく真姫をなだめさせておこう。そうでないと、明日俺が殺される。

 

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「もうっ!!にこたちを待たせすぎよ!!」

「ウチらのこと忘れて随分楽しんでたみたいやなぁ~」

「まぁ、それが零らしいって言えば零らしいけどね」

 

 

 今度は大学生組ご登場!!

 にこのメイド服はゴスロリに近いフリフリとしたメイド服だ。自慢のツインテールと相まって、如何にもにこらしい服に仕立て上げてみた。

 希と絵里のメイド服は、豊満な胸を強調するように設計された今作でもイチオシのメイド服。男なら、もうそこにしか目がいかないだろう。

 

 ポタポタと垂れそうな鼻血をなんとか防ぎ、もう残り少ない輸血パックをセットする。

 よし、これでまた鼻血をぶちまけても大丈夫だな!!

 

 

「絵里、『零』じゃなくて『ご主人様』な」

「そ、そうだったわね。でも慣れないし、恥ずかしいわね……」

「ステージに上がる時は全然緊張してないのに、今はしてるのか?」

「だって彼氏の前でこんなこと……ステージよりも緊張するわよ……」

 

 

 顔をプイッと俺から逸らし、ゴニョゴニョ言いながら指をクルクル回している。

 いつもはクールで美人、どちらかといえば綺麗に当てはまる絵里だが、やっぱりそこは女の子、好きな人の前でメイド服は緊張してしまうらしい。その仕草も俺的にはグッドだ!!

 

 

「じゃあ俺が指導してやらないとな……」

「指導って……なにするの?」

「とりあえず、『おかえりなさいませ、ご主人様』って言ってみ?羞恥心を消すにはまずそこからだ」

 

 

 海未の特訓の時も同じ内容で練習を行った。結局あまり改善はされなかったが、多少の自信ぐらいはつけられるだろう。絵里はマジメなことに関しては冷静なんだけど、こういう局面ではいつもオドオドしている気がする。でも彼女の意外な一面を見られて嬉しくもあるがな。

 

 

「お、おかえりなさいませ、ご主人様!!」

 

「がぁっ!!」

 

 

 はい、俺の身体の血が鼻血としてすべて吹き飛びました!!

 あの絵里がモジモジしたままそのセリフを言うのは反則だろ……萌え死ぬところだった。

 

 

「もう~ご主人様、ウチも構って欲しいなぁ~?」

「の、希!?そんな後ろから抱きつかれると……」

 

 

 絵里に萌え死にそうになったのも束の間、今度は希が俺の後ろから抱きついてきた。μ'sナンバー1の豊満な胸が、花陽以上に俺にのしかかり、フニフニと形を変えているのが分かる。くそっ!!完全に弄ばれている!!俺の扱いを熟知しているな!?

 

 

「ねぇご主人様……ちょっとだけ触りたい?」

「なっ!?……いいのか?」

「ウチもご主人様のことが大好きやから。それに、今零くんはウチのご主人様や。命令してもええんよ?」

「命令……!!」

 

 

 『命令してもいい』、そんな素敵な言葉が希から発せられるとは!?

 もうこうなったらあとには引けない!!俺が希を支配しているという感覚が堪らなくそそられる。

 

 

「希、触らせてくれ」

「はい、どうぞ♪」

 

 

 希はグッと胸を突き出した。メイド服がそのように作られているため、豊満な胸がいつもより余計に強調される。それを見て凝視しない男はいないだろう。鼻血も止まらない。

 

 

「いくぞ?」

「きて……」

 

 

 俺は希に言われた通り、ちょっとだけ胸を触った。

 それはもうこの地球上に存在するものなのかと、本気で疑いそうになるぐらいだ。柔らかい……女の子の象徴って、こんなに柔らかいモノだったのか!?希のモノだから尚更そう思えるのか?それにしても俺の指が胸に埋まって、そのまま押し返されたぞ!?これが……女の子の象徴か……

 

 

「はい、オシマイ♪」

「うっ……早いな」

「ちょっとだけって言ったやろ?あまりハメを外しすぎると、ご主人様すぐに暴走するからね♪」

「その通りすぎて言い返せない……」

 

 

 やっぱり希は強敵だ。俺の思考もバッチリと読んでくる。この時だけは希のスピリチュアルパワーに納得せざるを得ないな。コイツ、結構冷静だったし。自分の胸触らせるって中々勇気のいることだと思うんだけどなぁ。

 

 そしてこの時俺は気付かなかったが、希は頬を赤らめて目が泳いでいた。冷静そうに見えて、本当は緊張していたのだ。俺は気付かなかったけど……

 

 

「ん?にこ、どうしたそんな熱い目線で俺を見つめて?」

「にこね、ずっとこの時を待ってたの……」

「この時?」

「えぇ。最近大学の入学やガイダンスで忙しくて、中々アンタと一緒にいることができなかったでしょ?」

「そうだな……」

 

 

 実は4月になって、この大学生組と会ったのはこれが初めてだったりする。やっぱりもう少し経てば新しい環境や授業にも慣れ、時間や心にも余裕ができると思うが、今はもの凄く大変で忙しいらしい。

 

 

「にこはもっと零と一緒にいたい。そう思って今日までずっと我慢してきたの!!だから今だけでいいからにこに付き合って!!」

「にこ……あぁ、どれだけでも付き合ってやる。俺は何をすればいい?」

「何もしなくていいわ、そこに立ってて」

「あ、あぁ……」

 

 

 俺たちが付き合い始めてから、穂乃果やことりがより積極的になったのは目に見えて明らかだが。実はにこも同じぐらい積極的になっていた。普段ではいつものように憎まれ口を叩く仲なのだが、雰囲気がよくなれば一変、にこのデレが半端ではなくなる。

 

 離れ離れになって寂しいのは俺も一緒だ。じゃあ今回はにこにすべてを任せてみますか!!

 

 

「いくわよ」

「いつでもどうぞ」

 

 

 そしてにこと俺は熱いキスを交わした。俺とにこでは身長差があるため、必然的ににこが背伸びをしなければならない。その背伸びするにこが可愛くて、愛おしい。

 

 にこは俺に会えなかった時に溜まった愛を、すべて俺にキスという形で注ぎ込む。彼女の舌によって唾液がぴちゃぴちゃと音を立てながら、俺たちはさらにお互いを求め合い唇や舌を絡め合う。彼女のトロンとした目を見ると俺は余計に彼女が愛おしくなり、ねっとりと自分の唇を彼女の唇に押し付ける。

 

 

「ハラショー!!の、濃厚すぎて見ているのも恥ずかしいわね……」

「流石にこれはウチも……」

 

 

 絵里も希も俺たちの営みに夢中となっている。またこの2人ともいずれ……

 

 

「ぷはっ!!あぁ~気持ちよかった!!ありがとね、ご主人様♪満足したわ」

「こちらこそ。今は少し離れてるかもしれないけど、寂しくなったらいつでも来い!!いや、俺から行ってやる!!」

「ふふっ♪ありがと♪」

 

 

 俺たちの間に引かれていた唾液の糸が、床に滴り落ちる。

 にこの無邪気で子供っぽい笑顔、久しぶりに見たな。いつか、そう遠くない未来にまた見られるといいな。

 

 

 

 

 そうだ、海未には内緒にしとかないと……しないって誓ったばっかなのに……

 

 見られてないよね……?

 

 




 ということで、前書きの意味が分かってもらえたでしょうか?(笑)
 特に構成を考えていたわけではなく、気が付いたらこの内容になっていました。したがって、悪いのは自分の妄想です。私は悪くない!!

 しかもまたこれ、メイドである必要なくないですか!?もう普通にじゃれあわせとけばいいような気がします。

 今回で終わらなかったので、雪穂と亜里沙編は次回の冒頭でやります。タイトルは変わりますが、メイド回がほんの少しだけ続く予定です。

 高評価を入れてくださった方、ありがとうございます!!5話にしてランキングにまで載せてもらい、感無量です!!



 以降のネタバレになってしまうかもしれませんが、いずれは先輩禁止が適用されるわけです。それによって雪穂や亜里沙、楓がみんなのことを何と呼ぶのか考え中です。構想中なのは……

~雪穂~
零⇒零君
穂乃果⇒お姉ちゃん
ことり⇒ことりちゃん
海未⇒海未ちゃん
花陽⇒花陽ちゃん
凛⇒凛ちゃん
真姫⇒真姫ちゃん
絵里⇒絵里ちゃん
希⇒希ちゃん
にこ⇒にこちゃん
亜里沙⇒亜里沙
楓⇒楓

~亜里沙~
零⇒零くん
穂乃果⇒穂乃果ちゃん
ことり⇒ことりちゃん
海未⇒海未ちゃん
花陽⇒花陽ちゃん
凛⇒凛ちゃん
真姫⇒真姫ちゃん
絵里⇒お姉ちゃん
希⇒希ちゃん
にこ⇒にこちゃん
雪穂⇒雪穂
楓⇒楓

~楓~
零⇒お兄ちゃん
それ以外⇒呼び捨て

 雪穂と亜里沙は同学年に対しては呼び捨てで、それ以外には"君""ちゃん"付けの印象です。皆さんはどのような印象ですかね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最後のメンバー

 今回の前半は前回の続きでメイド回、後半は意外とマジメな回です。今までブッ飛んだ話ばかりだったので、たまにはこういう展開もいいよね?


 

前回のラブライブ!

 

 毎回長いので3行でまとめてやる!!

 

・真姫の太ももを味わった

・希の豊満な胸を触った

・にことディープキス

 

 以上、俺が暴走したシーンTOP3でした!!そして最後は……遂に新入部員であるあの2人の出番だ!!

 あれ?新入部員歓迎会なのに、新入部員がメイド服着るっておかしくない?まぁいいか、萌えられればなんでも☆

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 

『ほら、雪穂!!恥ずかしがってないで行こ?』

『で、でもやっぱり恥ずかしいよ!!』

 

 

 部室の隣の更衣室から亜里沙と雪穂の声が漏れている。どうやら亜里沙はやる気のようだが、雪穂は羞恥心で更衣室の外には出れないようだ。クールさが売りの雪穂だが、メンタル面も鍛えないと俺や楓のテンションにはついて行けないぞ☆

 

 

「お~い、まだか?早くしないと日が暮れちゃうぞ?」

 

『すみません!!今行きます!!』

『ちょっ!?引っ張らないでよ亜里沙!!』

 

 

 これは恥ずかしすぎて爆発しそうな雪穂を見られるチャンスだ!!ちなみにカメラでみんなの写真もバッチリ撮っているぞ。海未や雪穂辺りには脅しのネタにもなるしな、フフフ…………

 

 

 そして、更衣室のドアが開け放たれた。

 

 

「お待たせしました零さん!!このメイド服すごく可愛いですね!!」

「うぅ……恥ずかしい……」

 

 

 や、やべぇ!!は、鼻の奥からドロドロとした液体が逆流して今にも――――あぁっ!!

 

 

「「れ、零さん!?!?」」

「き、気にするな……ただのメイド萌え症候群だ」

 

 

 メイド姿の2人の登場と同時に、俺の鼻も悲鳴を上げた。この前まで中学生だった彼女たちに、露出度そこそこのメイド服を着せるとは……背徳感で昇天ものだぞこれは。遂にこの2人を俺の手に染めてしまったか……

 

 

「わわっ!?鼻血出てますよ!?」

「亜里沙……拭いてくれないか?それに、『零さん』じゃなくて『ご主人様』な」

「あっそうでした。では改めて…………ご主人様、ご奉仕いたしますね♪」

 

 

 ま、またしても鼻がァアああああああああああ!!!!

 

 

「大丈夫ですか!?ご主人様!?ご主人さまーーーっ!!」

「と、とにかく輸血パックの用意を……」

 

 コイツ……俺を殺しに来ている!!メイド萌えの俺が、幼き天使に萌えないわけないだろ!!

 亜里沙のメイド服は、この前から散々言っている通り大天使を模したメイド服となっている。以前ことりに着せた大天使メイドの衣装を亜里沙サイズに編集し直したものだ。肌や髪の毛が白っぽい彼女にはよく似合う。

 

 

「ど、どうして私は黒なんですか!?」

「どうしてって、お前には堕天使黒メイドがよく似合うからな」

「似合ってませんよ!!それに、露出が多くないですか!?このメイド服!!」

 

 

 雪穂の着ているメイド服は、以前海未に着せた堕天使黒メイド服を改造したものだ。しっかりと堕天使の翼も付いてるぞ。特にこのメイド服は、海未や真姫などSっ気がある人に着せる予定だったので、今回雪穂に着せるのはいい機会だ。

 

 

「露出が多いのは俺の趣味だけど、別に贔屓目で見なくとも似合ってるぞ。可愛いからもっと自信持て!!」

「可愛いって……こんな真っ黒なメイド服着せられても……」

「違う違う、可愛いのはメイド服じゃなくてメイド服着たお前だ。メイド服が着こなせるなら、他の衣装を着ても大丈夫そうだな」

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 さっきまで騒いでいたのに、今は耳まで真っ赤にして俯いてしまった。やっぱりアレだな、ツンデレの素質がある奴は素直に褒めてしまうと途端に口数が減ってしまう。海未や真姫にも見られる現象だ。これはμ's観察日記にメモしておかなければ。

 

 

「あっ!!雪穂の耳あかぁ~い♪雪穂って、嬉しくて恥ずかしがっている時いっつも耳を赤くしちゃうんですよ♪」

「えっ!?そうなの!?」

「そうです♪」

「案外分かりやすんだな、お前。また雪穂の可愛いところ見つけちゃったよ」

「も、もう知りません!!」

 

 

 雪穂はさらに顔も耳も赤くしながら、プイッとそっぽを向いてしまった。こういうところが小動物みたいで可愛いんだよな。クールで現実的な彼女も、やっぱり乙女だということだ。

 

 

「じゃあ最後に、メイドさんと言えばあのセリフだ。ちょっと俺に向かって言ってみてくれ」

「それ、私もやるんですか……?」

「当たり前だ。まぁこれは新入生歓迎会、お前らは歓迎される方だからこれぐらいで終わらせてやるよ。だから最後に勇気を振り絞って、目の前の男を萌え上がらせるんだ!!」

 

 

 さぁ、これでメイド喫茶閉店だ。俺も最後の最後は派手に散ってやる!!

 輸血パック?そんなもの既になくなっている。だがメイドさんを目の前にして、このセリフを言わせなきゃご主人様じゃねぇ!!

 

 

「もう……これっきりですからね」

 

 

 それは保証しかねる。

 2人は並んで、息を軽く吸い込んだ。

 

 

「「お帰りなさいませ、ご主人様♪」」

 

 

「がはぁっ!!」

 

 

 大天使と堕天使、2人の幼いメイドに笑顔を向けられ、俺は出血多量で死んだ。

 悔いのない人生だった……強いて挙げるとすれば、2人にセクハラまがいなことができなかったことかな?折角俺の手に染めかけたのに残念だ。

 

 

 天国へ旅立った俺を尻目に、新入部員歓迎会は終了した。結局今日練習ができなかったのは言うまでもない。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 4月と言っても上旬は寒暖の差が激しく、日中は太陽の陽気さに絶好の入学式日和だったのだが、日が落ちてくる頃には太陽が賢者タイムに入っているがごとく肌寒かった。まるで今日一日の俺と同じだな。もしかしたら俺が太陽なのかもしれない。

 

 冗談はさておき、みんなと別れた俺は高坂姉妹と共に帰路ついている。案外『穂むら』と俺の家は近いので、みんなと帰っていても最終的に穂乃果と2人になることが多かった。これからは雪穂も加えて3人、さらに楽しくなりそうだ。

 

 

「雪穂のメイド服、可愛かったよぉ~♪」

「もう忘れたい……お姉ちゃんたちは恥ずかしくないの?」

「もう零君に何回もやられてるからねぇ……」

「可愛い子には旅をさせろって言うだろ?それと一緒だよ。可愛い子にはメイド服を着せろってな」

「一緒じゃないです!!」

 

 

 おぉ~、入学一日目にしてツッコミスキルが格段に上がっている。これで卒業した絵里の代わりにツッコミ役に徹せられるな。

 現在のμ'sは明らかなツッコミ役不足だ。海未と真姫は確定で、穂乃果や凛は論外。ことりと花陽はツッコミ役には向いてない。じゃああとは亜里沙しかいないが、彼女はどちらかといえばことり路線だろう。従って、雪穂の存在はμ'sが健全に活動するためにも必要な人材だったというわけだ。特に穂乃果には毒を吐きまくって抑えてくれるだろう。

 

 

「それよりもあと1人、メンバーどうするの?」

「そうなんだよねぇ~……勧誘しなかったから集まるかどうか……」

 

 

 現時点でのμ'sのメンバーは8人。9の女神を意味するμ'sが8人というのは名前負けしているので、是非ともあと1人を勧誘したい。

 

 ここで微妙な言葉の違いを説明しておくと、『スクールアイドル』の『μ's』としての活動は穂乃果たち3年生組と真姫たち2年生組と合わせて、雪穂と亜里沙(勧誘できればあともう1人)で組んだメンバーで活動する予定だ。ただし普通の『μ's』としての活動は、絵里、希、にこも加えた十数人のメンバーで行う。『スクールアイドル』としての活動は高校生しかできないからな。つまり『μ's』の練習は今まで通りのメンバー全員が参加をする。

 

 

「そう簡単に1人だけっていうのも難しいだろ。ラブライブの優勝経験があるμ'sメンバーに、単独でぶち込まれると疎外感が生まれちまうだろうしな」

「えぇ~穂乃果たちはそんなことしないよぉ」

「お前らがそう思っていても、相手に余計なプレッシャーをかけるかもしれないだろ?」

 

 

 ラブライブを優勝したということは、それだけメンバー間での結束や絆が強かったということ。つまり新入生がそこに入ろうと思っても、穂乃果たちの繋がりの強さを目の当たりにすれば、それが新入部員のプレッシャーとなる。『自分がここにいていいのだろうか?』とか、『自分が邪魔になってないか?』などの葛藤が生まれるわけだ。もちろんそうなった場合俺も全力でサポートするが、そうなるのなら初めから新入部員など勧誘するなという話にもなってくる。

 

 

「そんなプレッシャーを感じない子がいればいいんだけどなぁ~……」

「それは流石に無理があると思うよ。よほど神経が図太くない限りはね」

 

 

 穂乃果の言葉をバッサリと切り捨てる雪穂。やっぱりコイツは現実的だ。健全で苦労しないけど安定した結果を生み出せる方法と、確率は低いがドーンと高い結果を生み出せる方法の2つが提示されれば、雪穂は間違いなく前者を取るだろう。たぶん彼女は、このままスクールアイドルを8人で活動しようとしているに違いない。それが一番楽な道で、かつ失敗が起きることはないが……

 

 

「でもやっぱり穂乃果はスクールアイドルとして活動するなら9人がいい!!我が儘かもしれないけど、今まで9人でやってきたんだもん!!それにこれは穂乃果の感だけど、これからも9人じゃないとダメな気がする」

「ダメって、何がダメなの?」

「うっ!!そ、それは……色々だよ!!」

「はぁ~……相変わらず適当だね、お姉ちゃんは」

 

 

 もうどっちが上級生でどっちが下級生か分からんなこれは。もっと突っ込んで言えば、どっちが姉でどっちが妹という議論になる。一度でいいから、スーパーイケメンお姉ちゃんモードの穂乃果を見てみたいな。

 でも今はそんなことより、悩める穂乃果たちにちょっとした提案でもしてみますか。

 

 

「だったら、会いにいくか?」

「「会いにいく?」」

「あぁ、さっきお前らが言ってたプレッシャーを感じず、神経も図太く、しかもお前たちが知っている奴にな」

「そ、それってもしかして……」

「楓ちゃん?」

「そうだ。でもメンバーになってくれるかどうかはアイツの心とお前らの頑張り次第だけど……どうする?」

 

 

 う~ん、と唸りながら穂乃果は腕を組んで考える。非常にいつもの穂乃果らしくはないが、実にμ'sのリーダーらしい大マジメモードだ。この時のコイツのひらめきや発想は、中々馬鹿にできないほど鋭い時もある。楓とコンタクトを取らせて正解なのかもしれない。

 

 

「よし決めた!!楓ちゃんに会ってみるよ!!」

「そうか……じゃあお前に任せてみるかな」

「任されました!!これでスクールアイドルとして9人で活動できるね♪」

「お姉ちゃん、楓に何て説得するのか決めているの?」

「決めてない!!」

「胸張って言うなよ……」

 

 

 『えへん』という言葉がお似合いの穂乃果。前言撤回、やっぱりコイツと楓はイマイチ合わないような気がしてきた。これも俺の適当な考えで、穂乃果と全く同じ理由ないんだけどな。

 

 

 そして穂乃果と雪穂は寄り道として、俺と一緒に『お兄ちゃんと私の愛の巣(楓命名)』へ行くことになった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ただいま~」

 

 

「おっかえりぃーーーー!!!!」

「うぼぉ!!」

 

 

 家の扉を開けた瞬間、中から楓が俺へ向かってミサイルのように飛んで来た。家に入ったのに、抱きつかれた衝撃でまた外まで後ずさりしてしまう。これから毎日これが続くのか…………

 

 

「やっぱり写真のお兄ちゃんより、生のお兄ちゃんだよねぇ~♪」

「俺はアイドルでもなんでもないんだぞ!!それにほら、穂乃果たちも来てるから」

「はぁ?」

 

 

 その『はぁ?』は、明らかにいつもよりトーンが低かった。まるで『私とお兄ちゃんの愛の巣に何しに来たのよ!!このメス豚!!』とでも言いたそうな表情をしている。もしそんなヤンデレセリフを言ったのなら、俺がコイツに監禁される日も近いな。

 

 

「私とお兄ちゃんの愛の巣に何しに来たのよ!!このメス豚!!」

 

 

 言っちゃったぁあああああああああああああああ!!しかも一字一句同じ全く同じだし!!またこれ、『私とお兄ちゃんは以心伝心だね♪』とか訳の分からないこと言い出しそうだ。

 

 

「ねぇねぇお兄ちゃんもそう思うよね?私とお兄ちゃんは以心伝心だし♪」

 

 

 ほらぁあまた被った!!今度は一字違っているが俺の思った通りだ。これでは本当に楓と以心伝心なのかもしれない。

 イヤだよ俺!!楓に自分の心読まれるのは!!

 

 

「落ち着け、穂乃果も雪穂も硬直してるぞ……」

「それだけ私たちの愛に圧倒されたんだね」

「もう話進まないから黙ってろ……ほら、穂乃果も雪穂もとりあえず家に上がれ」

 

「「お、お邪魔します!!」」

 

 

 オイオイ……こんなので勧誘なんでできんのかよ。初っ端から楓に押されているじゃねぇか。あの勢いだけの穂乃果でも、楓が巻き起こす嵐には耐えられないのか?完全に観客目線だけど、μ'sの太陽vs台風の目、見ものだな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 リビングに入ると、楓の荷物が入っていたダンボール箱が綺麗に畳まれて部屋の隅に置かれていた。全く、こういうところだけは几帳面な奴だからツッコミどころに困る。

 立ち話もあれなので、穂乃果と雪穂をソファへ誘導した。飲み物は……まぁいいか。言いたいことだけ言いに来たんだし。

 

 

「それで?高坂先輩と雪穂は何をしに来たんですか?」

「単刀直入に言うよ!!」

「はい」

「μ'sのメンバーになってくれませんか?」

「イヤです」

 

 

「「「…………」」」

 

 

 そ、即答だと!?流石にこの展開は俺も予想してなかった。もうちょっと適当な理由を付けて、遠回しに断ると予想していたのだが……これでは楓に付け入る余地もない。俺たち3人はしばらくの間、ポカーンと口を開けたまま動かなかった。

 

 

「そ、そんな……楓ちゃんは可愛いし美人だし、スタイルもいいからスクールアイドルに向いていると思うよ?」

「そんなこと当たり前ですよ!!私が可愛くて美人でスタイルも良くて胸も大きくて完璧すぎるなんて、当然ですから!!今更そんなこと言われても靡きませんよ!!」

「えっ、そ、そうだね……アハハハ……」

 

 

 楓の奴、サラッと穂乃果の褒め言葉に2つほど付け加えやがったな。スタイルいいまでしか言ってなかっただろ。しかも穂乃果も穂乃果で、あっという間にコイツに押されている。

 コイツに褒め言葉を言っても、全部吸収されて自画自賛し出すだけだからな。あれ?これ誰かの性格と一緒のような……?誰だっけ?

 

 

「零さん、お姉ちゃんに任せて大丈夫なんですか?零さんが説得した方が明らかにメンバーに入れやすいと思うんですけど……」

「いや、これでいいんだ。面白いから」

「零さん!!」

「冗談だ冗談。どこかで行き詰まったら手を貸してやるさ」

 

 

 正直な話、俺が楓に『μ'sのメンバーになれ』と命令すれば一発だろう。でもそれだと面白くないし、それ以上に楓とμ'sの仲は決して良くはならないだろう。だから穂乃果に説得させた。今回の結果がどうであれ、穂乃果たちの熱意が少しでも楓に伝わればいいと思ったのだがやはり俺の妹、一筋縄ではいかないようだ。

 

 

「でも楓ちゃんならダンスも歌もそつなくこなせそうだし、何より元気がある!!穂乃果は元気いっぱいな子を是非是非歓迎するよ!!」

 

 

 演説下手かっ!!

 流石に穂乃果だけだと勢いだけの勧誘になってしまっている。ここはことりと海未も一緒に連れてくるべきだったか。

 

 

「それも言われなくとも当たり前ですよ。私は何でもできますからね!!」

「えっ?もしかしてダンスの経験があったりするの?」

「ないですよそんなもの。でも私ですから、簡単にできますって!!」

「た、頼もしいね……」

 

 

 出た出た……誰かさんと全く同じ根拠のない自画自賛と自信満々。全く誰に似たのやら……ねぇ?自信家なところも誰かさんと瓜二つだ。

 そんなことは置いておいて、俺は楓のこのセリフを待っていた。やっぱりコイツとは以心伝心なのかもしれない。

 

 

「楓!!」

「なぁに?」

「そこまで言うのなら明日の放課後、雪穂と亜里沙と一緒にアイドル研究部の部室まで来い」

「はぁ?どうして?」

「まぁ、明日になれば全部分かるだろ」

 

「「「???」」」

 

 

 楓だけでなく、穂乃果と雪穂も首を傾げた。

 そう、すべて分かるはずだ……すべてな。

 

 




 公式でももう少し雪穂と亜里沙をピックアップして欲しいと、今回のメイド回を書いていて思いました。キャラも立ってますし、ファンも一定数いると思うんですけどね。


 作中で出てきた『μ's』の活動についてですが……
"スクールアイドル"としての"μ's" ⇒ 8人or9人で活動(高校生組のみ)
"アイドルグループ"としての"μ's" ⇒ 11人or12人で活動(絵里、希、にこを含む)
 この作品ではこのように扱っていきます。別に深く考える必要は全くないんですけどね(笑)
 適当にぼぉ~と読んでもらえれば大丈夫です。


 上手く話が進めば次回で一旦話が区切りとなります。新生μ's結成までもう少しです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新生μ's結成!!

 今回は変態要素、ギャグ、恋愛、ほのぼの、その他すべて置き去りにした大真面目回。もう零君とμ'sメンバーが恋人同士になり、恋心で迷ったりなんなりができなくなったので真面目な回がここぐらいでしかできないんですよね。

 前作の『非日常』の出来事に触れている部分が出てきます。読んでくださった方は特に内容が理解しやすいと思います。


 

 

前回のラブライブ!

 

 新入部員歓迎会で、何故か新入部員なのにメイド服を着ることになった雪穂と亜里沙。ノリノリでメイドを楽しむ亜里沙に対し、雪穂は終始借りてきた猫みたいに縮こまっていた。そんな中、俺は大天使メイド亜里沙と堕天使メイド雪穂によって無事萌え死ぬことができました!!

 その帰り道、μ'sの9人目のメンバーを探していた穂乃果に俺がある提案をした。それは俺の妹である楓を誘うこと。善は急げと、穂乃果は楓に説得を試みるがあえなく撃沈。楓は余裕そうに穂乃果をあしらうばかり。そこで俺は楓にある挑戦を叩きつけた。何の挑戦かって?それは今からのお楽しみ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 新学期2日目、今日は全学年が健康診断やらホームルームやらで午前中に下校となった。

 女子高生の健康診断と聞くととてもそそられるものがあるが、今の俺は彼女持ち、そこはグッと堪え…………られなかった。男子は人数が少ないため女子よりも健康診断が早く終わる。前々から計画していた覗き計画を実行しようとしたのだが、それは海未や真姫にバレておりあっという間に玉砕してしまった。

 

 

「いててっ!!ことり、もっと優しくしてくれよ!!」

「動いちゃダメ!!男の子でしょ!?」

「何で俺がこんな目に……」

「自業自得です!!全く油断も隙もない……」

 

 

 俺は海未に制裁をもらった時、窓からずり落ちて顔を擦りむいてしまったため、保健委員のことりに治療をしてもらっているところだ。ことりの顔が近すぎて、痛みなんて今にも吹っ飛びそうだけど。

 

 

「それよりお前ら、サッサと部室に行けよ。今日は楓も来るんだから」

「ねぇ、昨日から気になってたんだけど、どうして楓ちゃんを呼んだの?」

 

 

 結局その理由は、昨日一緒にいた穂乃果や雪穂にも話していなかった。別に話さない理由もないけど話す理由もない。ただ俺はちょっと楓を試したいだけだ。

 

 

「まぁそれは部室に行ってからということで」

「むぅ~……気になるぅ~……」

「もうこんな時間だし、あとは俺が片付けておくから先に行ってろよ。それにことり、手当てしてくれてありがとな」

「うん♪じゃあお言葉に甘えようかな?」

「そうですね、新入部員を待たせられませんし」

 

 

 そして穂乃果たちは先に部室へ向かうこととなった。

 さぁ、ここから上手くいけばいいんだけどな。でも大丈夫だろ、なんたって俺が考えた作戦なんだからな!!

 

 …………あれ?これじゃあ楓と俺、全く同じじゃね?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「雪穂!!早く部室に行こうよ!!」

「もう、そんなに急がなくても誰も逃げないって」

「それでも早くμ'sの皆さんと練習したいの!!」

「亜里沙、やる気満々だね……」

 

 

 1年生教室では亜里沙が意気揚々と雪穂の手を掴み、ブンブンと上下に揺らしていた。雪穂は朝からずっとテンションの高い亜里沙をなだめていたため、既にグロッキー状態である。周りからも『部活?』と、少し首を傾げられている。

 

 雪穂たち新入生は、まだ入学して2日目なのでどの部活も体験入部という形で活動をしている。もちろん新入生が正式な部員となるのは4月中旬に行われる新入生歓迎会以降となるため、当然新入生で部活をしている者は誰もいない。ただし雪穂と亜里沙は例外で、もうアイドル研究部の正規メンバーとしての扱いを受けているため、周りの会話とは齟齬が生じてしまうのだ。

 

 

「今日はずっと暑かったわね……亜里沙のテンションのせいじゃない?」

「楓!?もう帰ったんじゃなかったの!?」

「どうしてアンタらはそう私を帰らせたいわけ……?」

 

 

 大抵の人間は、楓が来ると騒がしくなるので帰らせたくなる本能が働くらしい。ただうるさいだけならまだマシだが、ブラコンが発動した途端もう地球上の生物では手がつけられないほど暴走してしまう。これを止められるのは兄である零と、彼女でさえも恐れる最悪の姉ぐらいである。

 

 

「今日は私も部室に行くから」

「どうして?ま、まさか楓もμ'sに入るの!?」

「入らないわよ!!ただお兄ちゃんに呼ばれただけ。お兄ちゃんに呼ばれなかったら、そんなところ行くわけないし」

「そんなところって……どんな目で見てるの?」

「メス豚の巣窟」

「「…………」」

 

 

 雪穂も亜里沙も、楓と出会って2日目にして彼女の性格が何となく分かったような気がした。ここまで自分の欲望と相手を卑下する内容をズバズバ言えるとは、昨日零が言っていた『プレッシャーを感じず、神経も図太い』とはまさにこのことなのだろう。

 

 

「とにかく、とっとと行くよ!!」

「ちょっと楓!!腕掴まないでよ!!」

「だったらテキパキ歩く!!」

「もうっ!!」

 

 

 雪穂は確信した。自分の学院生活は亜里沙と楓に振り回される毎日になることを。そう考えるだけで今にも頭痛がしそうであった。特に楓の暴走を見る限りでは、自分の姉が女神のように優しく見える。この時だけは、いつもぐうたらでサボりぐせのある子供みたいな姉に感謝せざるを得なかった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「「こんにちはーー!!」」

「こ、こんにちは……」

 

 

「あっ!!来た来た待ってたよ、亜里沙ちゃん、楓ちゃん、雪穂!!」

 

 

 ハイテンションで部室に入る亜里沙と楓、既に疲弊している雪穂に、μ'sのリーダーらしく穂乃果が3人を出迎える。

 部室には零を除く穂乃果たち3年生組と、真姫たち2年生組、そして絵里たち大学生組が既に集まっていた。これまでも部室はかなり狭かったが、これだけの人数が集まるとむしろ窮屈に思える。

 

 

「こんにちは、亜里沙、雪穂さん。あら?楓さんもいるのね?」

「もしかして、部に入ってくれるのかにゃ?」

「違いますよぉ~、私はただお兄ちゃんに呼ばれただけです」

「穂乃果はまだ勧誘を諦めてないからね!!μ'sに楓ちゃんは必要なんだよ!!穂乃果にはあなたの輝かしい未来が見えている……」

「私の時も同じこと言われたような……」

 

 

 去年の春、花陽は飼育小屋の前で穂乃果に怪しい勧誘をされたことを思い出した。勧誘の下手くそさは去年から全く変わっていないようだ。

 一年経っても変わり映えしない穂乃果に呆れ、ある意味で和んでいたメンバーをよそに、楓はクルッとμ'sメンバーの方へ向き直った。

 

 

 

 

 

 

「μ's……μ'sですかぁ~~…………それって、お兄ちゃんがいなければ何もできなかったグループですよね?」

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「え……?」」」」」」」」」」」

 

 

 楓の一言にさっきまで穂乃果で和んでいた部室が一転、空気が氷河期のように凍りつく。楓はいつも人を見下しているような言動や表情をしているが、まさに今はその絶頂であった。目は濁り、口元は上がり、非常に憎たらしい表情をしている。μ'sのメンバーは楓の言葉を聞いて、ただ茫然と立ち尽くしていた。

 

 

「そ、それってどういう意味かな……?」

 

 

 代表して穂乃果が口を開いた。正直この状況でさらに楓の言葉に突っ込むのはかなり勇気のいる行動だったのだろう、穂乃果本人も声が少し震えている。

 

 

「そのまんまですよ。μ'sのメンバーってお兄ちゃんが集めたんですよね?それに話では、μ'sが解散しそうになった時もお兄ちゃんに助けてもらったとか……ホントにお兄ちゃんに頼りっぱなしですね」

 

 

 誰も否定ができなかった。恐らくというより確実に、零がいなければμ'sがここまで来ることはなかっただろう。そもそもμ's自体が成立していたのかどうかも怪しい。それほどまでにμ'sにとって、彼は特別で欠かせない存在なのだ。

 

 だから言い返すことができない。もちろん零だけでなく、みんなで頑張ったからここまで来れたということは分かっているのだが、それでもできなかった。彼の存在が彼女たちの中で大きくなりすぎて、楓の言葉で現実を突きつけられる。

 

 

 本当に私たちは、彼がいないと何もできなかったと…………

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 予想通り、やっぱりそう来たな……全くもって分かりやすい奴だ。それにμ'sの奴らもな。

 

 

「そうか……なら試してみるか?」

 

 

「「「「「零くん!?」」」」」

「「「「零!?」」」」

「「零さん!?」」

 

 

「お兄ちゃん……」

 

 

 部室の外で会話を聞いていた俺は、タイミングとしては最悪の間合いで部室へ入った。実際にこの部室は、外で想像していたよりも遥かに空気が悪い。

 

 だが楓とμ'sの仲を取り持つには、この方法しかない。不器用だと思われるかもしれないが、コイツに一泡吹かせてやるいい機会だ。いつも人を見下した目で見ているコイツにはな。

 

 

「試すって何をよ?」

「にこ……そうだお前、ダンスと歌どっちが苦手だ?」

「な、なによ急に……?」

「いいから答えろ」

「……どちらかといえば歌かしら」

 

 

 にこの声は独特で、特にカラオケでは中々いい点数を叩き出せないこともある。でも俺はにこの歌声好きなんだけどな。穂乃果や凛と同じく元気が湧いてくる。

 

 

「花陽」

「は、はいっ!!」

「お前はどっちが苦手だ?」

「やっぱりダンスかな……?」

 

 

 運動音痴な花陽のことだ、今でもダンスには苦手意識を持っているらしい。それでも一年前と比べれば、動きが格段に違っている。日々の練習の賜物だろう。

 

 

「凛はどっちが苦手だ?」

「う~ん……やっぱりダンスかにゃ……?いっつも先走っちゃうし……」

「そうか、じゃあ雪穂は?」

「わ、私ですか!?」

 

 

 話を振られると思っていなかったのか、雪穂は驚いた拍子に身体がビクッと動いた。まぁこの流れで新入部員の自分に銃口を向けられるとは考えもしないだろうな。

 

 

「私は……やっぱりまだどっちも苦手ですよ。全然練習してませんし」

「なら歌だな。よし、それじゃあ全員今すぐ着替えて屋上に集合だ」

「零、あなたは一体何をしようとしているんですか?」

「すぐに分かる」

 

 

 そう……これで分かるはずだ。そして楓にも分かってもらえるだろう。

 

 『μ's』というグループを…………

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「で?お兄ちゃんは私たちに何をさせたいの?」

「単純にダンスと歌で競ってもらうだけだ。さっき指名した人とお前でな」

 

 

 俺たちは屋上へ移動し、いつもの練習の体勢へ入った。もちろんここですることはダンスと歌、スクールアイドルにとって基礎どころかそれ以前に確実にしなければならないことだ。それを楓にも体験してもらう。

 

 

「まずはダンスからだな。凛、花陽、楓、お前らにはこの動画のダンスを覚えてもらい、次に曲だけでそれと全く同じダンスを踊ってもらう」

 

「えぇっ!?そんなことできないよ!!」

「凛、物覚え悪いから無理だにゃ!!」

 

 

 絶対に、命を賭けてもいいというぐらい2人が文句を言うことは分かっていた。全くしらないダンスを1から覚え、すぐ踊れというのが無謀だということぐらいこっちも理解している。

 

 

「ふんっ……覚えて踊るだけなら簡単でしょ」

 

 

 そしていつもの如く楓は余裕そうだ。そうでなければ俺の妹ではない。

 だけど今回だけは……

 

 

「他のみんなは3人の動きをよく見ておけ」

「もう!!零君が何をしたいのか、穂乃果全然分からないよ」

「これで何かが分かるっていうんやね?」

「あぁ……」

 

 

 そして動画が再生された。

 3人は食い入るように動画を見てダンスの動きを記憶している。この一年間スクールアイドルとして活動をしてきた凛と花陽だが、このようなことをするのは初めてだろう。それは凛たちに限った話ではないが。

 

 

 ここで、3人を見ていたみんなはあることに気が付いた。

 

 

「あれ?凛ちゃんと花陽ちゃん……身体が動いてる?」

「そうね、多分意識はしていないんでしょうけど……」

 

 

 凛と花陽が楓と違う決定的なところ、それはことりと真姫が言った通り2人はダンスを覚える時無意識の間に身体を動かしている。対して楓は、石像のように微動だにせず動画を見つめている。誰が見ても分かる決定的な差であった。

 

 

「よし、動画はこれで終わりだ。次は曲だけ流すから、動画に流れていたダンスをそのまま踊ってみろ」

 

 

 今度は曲だけを流し、3人の動きを見ることにする。凛と花陽の表情はとても不安そうなのに対し、楓はバッチリ覚えたと言わんばかりの余裕そうな表情だ。流石に踊りだす前だと何も変わらないか。

 

 

 ――――――しかし状況は一変した。

 

 

 途中まで完璧に踊れていた楓の表情が険しくなり、徐々に焦りが見え始めた。だが凛と花陽は楓とは全く逆、踊れば踊るほど身体がリズムに乗ってきて、動きから次の動きまでの繋ぎも完璧だ。穂乃果たちは目を丸くして驚いているが、多分一番驚いているのは本人たちだろう。まぁ、それ以上に驚いているのはアイツだろうがな。

 

 そして1分弱のダンスも終わり、凛と花陽は満足気、楓は険しい表情のまま動かなかった。

 もちろん勝敗など初めから決している。

 

 

「どうする……まだやるか?」

「…………やる!!このまま負けたままでは終われない!!」

 

 

 膝を折りそうになりながらも、楓は何とか立ち上がる。真姫よりも高いプライドが、自分に歯止めを掛けられないのだろう。

 それにしても俺がここまでコイツを煽るのは初めてかもしれない。今まではコイツからの煽りを回避してきた立場だったからな。

 

 

「じゃあ次は歌だな。にこ、雪穂、悪いがこっちに来てくれ」

「なるほど、さっきどっちが下手か聞いたのはこのためだったのね」

「下手とは言ってねぇだろ……」

 

 

 次はにこと雪穂、楓の3人で歌唱力勝負。そうは言ってもただ歌ってもらうだけなのだが。

 

 

「次も動画で歌の確認をした後に、今度は歌詞を渡すから、曲に合わせて歌ってみろ。大丈夫、楽譜さえ読めれば歌い方ぐらいは分かるから」

 

「い、いきなり!?歌苦手だって言ったのに!?」

「そうですよ!!そんな突然言われても……」

「今度こそは……お兄ちゃんに認められるために……」

 

 

 無謀な内容に俺に突っかかるにこと雪穂、そしてさっきから小さな声でブツブツ言っている楓。よく言われているのは、学校のテスト終了後に『自信がない』と言っている奴に限って点数がいい。逆に俺を除く自信満々な奴ほど意外と点数が低かったりする。前者がことりで後者が穂乃果だと思えば間違いない。そして恐らく今回も……

 

 

 にこたちの意見を無視して動画を再生する。

初めは自信がなかったにこと雪穂だが動画が流れた瞬間、明らかに楓とは違う動きを見せた。前の凛と花陽と同様に、今度は身体と口が両方動いている。もちろん楓にはそれがない。

 

 

「よし終了だ。次は曲だけを流すから、適当に歌ってみろ」

 

 

 勝負の行方は明らかだった。歌いだしは全員ほぼ完璧で足並みが揃っていたが、楓だけが確実に遅れ始めていた。音のバランスから何まで、ズブ素人の俺でも分かるようなミスが目立つ。俺でも分かるということは、普段から欠かさず練習しているμ'sのみんなならば瞬きするよりも簡単に分かるだろう。

 

 

 ここで曲は終了。にこと雪穂は完璧とは言えないが、お互いに満足のいく結果だったようだ。歌が苦手といっても、それを無視しないで練習をしてきた賜物だろう。2人の顔を見れば、いかに楽しんで歌っていたのかが分かる。

 

 

「で、できない……どうして……?」

「これで分かっただろ、自分が無力だって」

「無力……?私がそんなはずあるわけない!!私はお兄ちゃんやお姉ちゃんみたいに何でもできるんだから!!今まで失敗したことなんてないし、後悔したこともない!!挫折ばかりのμ'sとは違う!!完璧になって、お兄ちゃんに認めて……」

 

 

 

 

「成功ばかりの人生はない。人間ならば必ず挫折し、道の途中で踏みとどまる」

 

 

「!!!」

 

 

 俺の言葉に、楓だけではなくその場にいた全員が反応した。これが俺の一番伝えたかったことμ'sのみんなにも、そして新たなμ'sのメンバーにも。

 

 

「大切なのは、その踏みとどまった今と戦えるかどうかだ。その場で立ち尽くしす奴は成長もしないし、未来もない」

 

 

 どれだけ自分が優れていても、必ず壁にはぶち当たる。その時にそこを限界と感じるのか、それとも乗り越えようとするのか。それによってその人の未来は確実に分岐する。正解がどちらの道なのかはその人次第。ただ踏みとどまる人はそれが自分の限界となってしまう。

 

 

「だけどお兄ちゃんは失敗しない……完璧なお兄ちゃんならそんな心配いらないでしょ……私もそれと同じなんだよ」

 

 

 

 

「違うな」

 

 

 

 

「え……?」

 

 

「俺は人生で一度だけ失敗したことがある。その失敗によってμ'sのみんなを傷つけてしまい、最悪、ここにいる誰かが欠けてしまっていたかもしれない。だが俺はそれを反省はしているが後悔はしていない。そのおかげで俺自身がより強くなれたからな」

 

 

 日数に換算すれば僅か9日間。非常に短い期間だが、俺と元μ'sメンバーで間で引き起こされた"最悪の惨事"。その間に何度も俺たちは傷つき、心を折られた。豹変した彼女たちの顔を今でもよく覚えている。そしてそれは今後も絶対に忘れることはないだろう。

 

 周りのみんなの様子を見てみると、全員が険しい表情を浮かべていた。やはりあの惨事のことは当事者の彼女たちが一番記憶に残っているらしい。

 

 

「だが俺も、そしてみんなも決して挫けなかった。全員が最後まで戦い抜いたんだ。そこからだったよ、俺たちの絆が強くなったのは」

 

 

 俺とみんなはお互いに絆の強さを証明し合い、そしてさらに絆を深めていった。これほどまでに自分が成長したと感じられる瞬間は今までなかったな。

 

 

「それ以降は練習にもより一層身が入った。お互いがお互いを支え合い、助け合い、ラブライブの優勝まで漕ぎ着けることができたんだ」

 

「それが一体この勝負と何の関係が……」

 

「凛と花陽のダンスと比べてお前はどうだった?にこと雪穂の歌と比べてお前はどう思った?お前は3年間練習してきたにこはもちろん、1年間しか練習していない凛と花陽、さらにそれより練習時間が短い雪穂にすら遠く及ばなかったんだ!!」

 

 

 にこがμ'sに入る前の練習で何をしていたのかは知らないが、彼女は高校生活3年間通して一生懸命努力してきた。凛と花陽は自分の苦手なところが分かっているからこそ、休憩時間や土日祝日の休日を利用して練習してきたことも知っている。さらに雪穂は亜里沙と共にμ'sに入るために、2人で一緒に特訓してきた。

 

 もちろん努力だけなら誰でもできるがμ'sはラブライブ優勝という実績を出したし、雪穂もこの場で実力を示した。

 

 

 

 

「誰にも及ばず、しかもコイツらのことを何も知らないお前に、μ'sを見下す資格はない!!!!」

 

 

「!!!」

 

 

 確かに全体的な能力なら楓が誰よりも上回っているかもしれない。だがそれだけでは示せないこともある。穂乃果たちは挫折しても立ち向かう"勇気"と"強さ"、そしてみんなで支え合う"絆"、なによりダンスや歌を楽しむ"笑顔"がある。

 楓は挫折しないから"勇気"も"強さ"、何でも1人でできてしまうから"絆"、ただ勝つことだけを目標にしていたから"笑顔"がなかったんだ。自分のことを棚に上げて人を見下す奴に、それがあるとは思っていないけど。

 

 俺がここまで声を荒げるのは久しぶりだ。久しぶりすぎて周りのみんなの肩がビクッとなった。俺のこんな姿を見るのはコイツらにとっても珍しすぎて、驚愕するのも無理はない。俺自身、あまり本気で怒ることってないからな。

 

 

「…………」

 

「どうする?ここでプライドを折られたまま立ち尽くすか?」

 

「……いる」

 

「ん?」

 

「μ'sに入る……このまま負けっぱなしじゃ私自身が許せないから!!それにみんな楽しそうだったしね、私もやってみてもいいかなぁって」

 

「そうか、ならみんなに追いついてみせろ」

 

 

 楓の目が人を見下していた冷徹な目から、やる気に満ち溢れている時のμ'sメンバーと同じ輝きを放っていた。まだ多少のわだかまりはあるようだが、遂に目が覚めたようだな。

 

 

「頑張るよ、今度は星空先輩にも小泉先輩にも、矢澤先輩にも、雪穂にも、μ'sの誰にも負けないぐらい練習する。そしてお兄ちゃんに認めてもらう!!みんなと一緒に踊って歌えるぐらいになってやる!!」

 

 

 今の楓はとてもいい顔をしていた。心ののしかかっていた重圧がなくなり、表情も軽くなっている。その"笑顔"があれば、これからも大丈夫だろう。

 

 

「楓ちゃん!!」

「高坂先輩……?」

 

 

 ここで穂乃果が一歩前へ出て、楓に手を差し伸べた。あとは頼んだぞ、リーダー。

 

 

「μ'sへようこそ!!これからもよろしくね♪」

「……」

 

 

 少し間を空けたあと、楓はスッと穂乃果の手を取る。

 そして2人は熱い握手を交わした。

 

 

「よろしくお願いします!!でも私、誰よりも練習して誰よりも上手くなってみせますから!!そしてリーダーの座は私がもらいます!!」

「楓ちゃんらしいね!!だったら穂乃果も楓ちゃんに負けないぐらいにいーーーーーーぱい練習しちゃうから!!」

「それでしたら私はそれよりいーーーーーーーぱいやりますから」

「えぇ~!!何それ!?」

 

 

 屋上で全員の笑い声が響き渡る。これでスクールアイドルのμ'sとしては9人目のメンバーが入り、μ'sとしては12人目のメンバーとなった。

 

 そして今、新生μ'sがここに結成されたんだ!!

 

 

「零」

「絵里……どうした?」

「こうなること、初めから分かってたの?」

「楓とは十数年も付き合ってるんだ、アイツがこうなることぐらい予想してたよ」

 

 

 しかし、ダンスや歌の経験がない楓にその楽しさや面白さを伝えて勧誘することはかなり難しい。だからこのような方法を取った。改めて振り返ると、かなり不器用なやり方だったような気がする。ちょっとでも途中で失敗してたら取り返しが付かなかったな。

 

 だけどこれでよかったと思っている。今まで独りよがりだった楓が、初めてみんなを対等な目で意識し始めたんだからな。

 

 

 

「これで一応解決なのかしらね」

「あぁ、でもここからが本当のスタートだ」

 

 

 そう、まだ俺たちは新しいスタート地点に立っただけに過ぎない。これからの未来を決めるのは自分たちだ。

 新しいメンバーと共に新生μ's、活動開始だ!!

 

 




 タイトルがネタバレというのはまさにこのこと!!切るところが見つからなかったので長いですが一本になってしまいました。

 そして今回でようやく一区切り。次回からは前作の『日常』のように短編集として適当にダラダラと投稿していきます。リアルが新環境になったツケが回ってきたのか、そこそこ忙しくなりそうなので更新ペースは落ちると思います。

 『非日常』を読んでくださった方は、今回の零君の想いがよく伝わったのではないでしょうか?もちろん読んでいない方にも伝わるように文章を構成したのですが、どうなのでしょうね。

 内容的には零君と楓がメインだったので、ラブライブ小説としてオリキャラだけで話を構成するのはどうかと思いましたが、今回だけなので許してくだせぇ(笑)

 それではまた次回!!










 あの姉はいつ登場させようかなぁ……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

やわらか頬っぺ

 今回から前作の『日常』のように短編集に戻ります。記念すべき(?)一発目は穂乃果、ことり、海未の幼馴染組とじゃれあうだけ。
 こうして頭をカラッポにして書けるのはやっぱり楽ですね(笑)


 

 始業式、及び入学式から一週間が経過し、新入生もようやく初めての高校生活に慣れてきた頃だろう。授業も本格的に始まり、俺たち在校生も慌ただしい日々からいつもの日常へと戻ってきた。唯一変わったところと言えば、μ'sに新しいメンバーが入ったぐらいか。穂乃果の妹の雪穂、絵里の妹の亜里沙、そして俺の妹の楓。まさしくシスターズ(楓命名)だな。

 

 

 スクールアイドルとしての活動は高校生しか認められていないため9人で活動するしかないが、普段のμ'sの活動は大学生の絵里たちを含めた12人で行われる。幸いにも学院と大学はかなり距離が近いため、時間などの関係で練習に支障が出ることはなかった。

 

 

 まあそれはそれとして、今俺は春の陽気さと必死に戦っていた。

 

 

「ふわぁ~……春は暖かくてすぐ眠くなる。俺は悪くない」

「そうだねぇ~……穂乃果も悪くない」

「お前さっきの授業、散々寝てただろ。その涎の跡があるノートが何よりの証拠だ」

 

 

 そしてそのノートを俺にください。絶対に言い値で売れるぞ。だけど自分で使ってもいいけどな。何に使うって?そりゃあ……ねぇ……?

 

 

「新学期早々たるみ過ぎですよ。今年はたくさんの新入生が入ってきたのですから、もっとシャキッとしてください」

「海未……お前は俺や穂乃果がそんなことで言うことを聞くと思ってんのか?思わねぇだろ?注意なんていう無駄な体力を使うぐらいなら、その胸を大きくすることでも考えておくんだな」

 

「あ、あなたって人は……」

「う、海未ちゃん抑えて!!ここは教室だし……ね?」

 

 

 海未は今にも俺に拳をぶつけようとしたが、それはことりによって遮られた。

 流石大天使様は違うな!!我々下々の輩であっても平等に接して平和的解決をしてくださる。ことりがいる限り俺の身は安全というわけだ。

 

 

「零君眠いよぉ~~」

「そんな眠そうな声で俺に話しかけるな。俺まで眠くなるだろ」

「あなたもさっきの授業寝ていたではありませんか……」

「これは春の暖かさのせいだ。俺は悪くない」

 

 

 どうして学校の授業って寝ちまうんだろうな?もしかして教師っていうのは睡魔を司っているのか?

 幼稚園の時みたいにお昼寝の時間さえあれば、午後の授業も捗ると思っている。フルパワーで1時間目から6時間目まで起きていられるのは海未ぐらいだろうな。ことりですらスヤスヤする時もあるというのに。

 

 

「あっ、零くんも涎垂れてるよ。拭いてあげるね♪」

「ことりに拭いてもらうなんて……むぐうっ!!」

 

 

 『拭いてあげるね』からハンカチで俺の口を拭くまでの動作が早すぎるだろ!?まるで初めからそうしようと心に決めていたみたいだな。

 それにしてもこのハンカチ、ことりのハンカチにしてはやけに地味なデザインだ。いつもは可愛らしいハンカチを持ってきているのに、まさかこの時のために?……流石にそれはないか。

 

 

「ことり、さっき手を拭いていたハンカチとは別のハンカチですよね?今日は2つ持ってきたんですか?」

「ふふふ♪……零くんの味が付いたハンカチゲットだぁ♪ふふふ……永久保存だね♪」

「こ、ことり!?」

「やめとけ海未。そのことりに手を出すと、妄想の世界へ連行されて一生戻ってこれなくなるぞ」

 

 

 ことりの妄想力は俺を遥かに超えている。下手に触れれば彼女のスイートハニーで甘すぎる世界に飲み込まれて、一生を過ごすことになるだろう。ことりの妄想の中でなら死んでいいと思う変態もいるだろうが、誰だろうね?

 

 

「ぐぅ~……」

「穂乃果の奴、いつの間にか寝てやがる……」

「本当に生徒会長なのか疑いたくなりますね……」

 

 

 全く、いつもながら気持ちよさそうに寝やがって。穂乃果の寝顔を見ていると起こすに起こせなくなるんだよな。むしろこっちが眠気に誘われて、隣で一緒に寝たいぐらいだ。

 それにしても、穂乃果がすぅすぅと寝息を立てるたびにマシュマロのように柔らかそうな頬っぺが自在に形を変える。突然俺は、寝ている女の子の頬っぺをツンツンしたい病にかかってしまったようだ。

 

 

 俺は決めたら即実行する男。穂乃果にそぉ~と近付いて……。

 

 

「柔らかい……これが女の子の頬っぺなのか?真姫の太ももも良かったけど、また新しい性癖に目覚めそうだ」

「穂乃果ちゃんの頬っぺ、柔らかくて羨ましいよね~~」

「ことりも負けてないと思うぞ。そうだ、少し触らせてくれよ」

「うんいいよ♪はいどうぞ♪」

 

 

 こ、これは……美少女が自分から頬っぺを差し出してくれるなんてどんなご褒美ですか!?

 特にことりは俺と付き合い始めてからやけに俺に対して従順になっているような気がする。メイド精神が身体を駆け巡っているのかは知らないが、俺の言うことならほぼ何でも『は~い♪』と承諾してくる。もしかしてこれを利用すればことりと…………いや、考えるのはやめよう。天使を汚すのはまだ早い。まだな!!

 

 

「相変わらず肌白いな。毎日手入れでもしているのか?」

「うん、零くんに褒めてもらいたいから毎朝頑張ってるんだよ♪」

 

 

 何だこの可愛い天使は。教室だけど、この場で抱きしめて色々と営んでいいですか?もう俺の中に存在するあらゆる衝動が抑えられないんですが。それはことりの頬っぺをツンツンすることで満足しよう。

 

 

「よし行くぞ」

「来て♪」

 

 

 何だよその『来て♪』って!?今から本番やるみたいじゃねぇか!?

 落ち着け……ここで暴走したら確実にクラスの晒し者にされる。流石に新しいクラスになったばかりだからそれだけは避けたい。意外とこの『変態』の性格はμ'sぐらいにしか暴露してないからな。それ以外で唯一知ってるのはヒフミ3人衆ぐらいか。

 

 

 俺はこちらに頬っぺを向けていることりに近づき……

 

 

「柔らかっ!?まさか頬っぺでビックリするとは思わなかったぞ!?」

「や~ん♪零くんくすぐったいよぉ~」

「いい声だなことり、もっと楽しませてくれ」

「れ、零!!そこまでです!!」

 

 

 俺とことりがいやらしく楽しんでいる横から、海未が制止に入った。むしろよく今まで黙って見ていたな……もっと早く割り込んでくるかと思ったがもしかして……?

 

 

「海未……お前も頬っぺを触って欲しいのか?」

「なぁっ!?どうしてそうなるのですか!?」

「ことりも海未ちゃんの頬っぺ触りたい!!」

「穂乃果も!!」

 

 

「「穂乃果!?」」

「穂乃果ちゃん!?」

 

 

 さっきまでグースカグースカ、涎垂らして夢の中だったのにもう起きたのか。ナイトシエスタの異名を持つ穂乃果がこの程度で起きるとは珍しい。μ'sの朝練の遅刻回数はメンバー内でダントツのトップだ。ちなみに2位は俺だけどな。

 

 

「さっきから隣でうるさいんだもん!!そりゃ起きるよ!!」

「海未が叫んでいたせいだな」

「元はと言えばあなたのせいでしょう!?」

「それはどうかな?ことりがやんやん言っていたせいかもしれないぞ?」

「えぇっ!?ことりのせい!?」

 

 

「そんなの今はどうでもいいの!!今は海未ちゃんの頬っぺの話でしょ!!」

 

 

 その瞬間海未がギョッとした表情を浮かべた。まさか、このまま責任を誰かに押し付け合って話を水に長そうとしたな。休み時間が残り少ないからそんな手に出たんだろうが、何としてでもお前の頬っぺを突っついてやる!!

 

 

「海未の頬っぺ、とてもスベスベして触り心地がありそうだな」

「海未ちゃんの頬っぺは昔からずっとスベスベで気持ちいいよね?」

「うん♪ことりも海未ちゃんみたいな綺麗なお肌が欲しいなぁ~」

 

 

 これほど幼馴染2人が絶賛する頬っぺなんだ、さぞかし俺を快楽へと誘ってくれるのだろう。

 さっき穂乃果やことりの頬っぺを触って分かったことがある。俺はμ'sのみんなの唇、胸(ワシワシによる)、さらに太ももを触ってきたが、頬っぺはまた別の柔らかさがある。ふわっとした、フカフカの枕やクッションのような、暖かい感覚だ。

 

 

「「「…………」」」

「3人共……そんなに見つめても触らせませんからね」

「そうか……それならしょうがない。この手だけは使いたくなかったんだがな……」

「な、何ですか?」

「行け!!穂乃果、ことり!!海未を捕えろ!!」

「「はいっ!!」」

 

 

 俺が海未に向かって指をさし、それと同時に穂乃果とことりが海未に向かって飛びかかった。あまり命令なんてしたくなかったんだけどな、こればかりはしょうがない。海未の頬っぺを味わうのなら禁じ手も解禁してやる。

 

 

「な゛っ!?穂乃果、ことり!?離してください!!どうして零の言いなりになっているのですか!?」

「ゴメンね海未ちゃん……穂乃果たち、零君には逆らえないの……」

「ど、どうして……」

「ことりたち、零くんに逆らえないカラダにされちゃったんだ……でもそれでもいいの!!零くんから愛してもらえるならそれだけで!!」

「零!!あなた最低ですっ!!」

 

 

 

 

「心配すんな。それ演技だから」

 

 

 

「はい……?」

 

 

 

 

 海未は激怒した表情からきょとんとした表情に変わる。本当に起こること1つ1つに対して表情が変化する面白い奴だ。これはそのうち海未百面相や海未福笑いが発売して、正月なんかに盛り上がるだろうな。

 ちなみにさっきの穂乃果とことりの言ったことはもちろん嘘だぞ。俺がそんなプレイボーイなわけないじゃないか!!俺はこう見てもかなり紳士的だからな、女性に対しては失礼のないように振舞っているつもりだ。つもりだけどな。

 

 

「前々から零君とことりちゃんの3人で打ち合わせをしてたんだよ。こう言えば海未ちゃんの驚く顔が見れて面白いかなぁって」

「そしたら見事に大成功!!いい顔してたぜ!!」

「いつもいつも、そんなくだらないことばかりに頭を使って……それにことりまで……」

「ごめんね、でも海未ちゃん可愛かったよ♪」

「そ、そんなことないですよ……」

 

 

 照れてる照れてる!!異性からカッコいいや可愛いと言われたら恥ずかしくなるのも分かるが、同性から言われると逆に誇らしくなると思う。だけど海未は相変わらずウブだ。自分への褒め言葉に耐性がない。

 

 

「さて、そろそろ海未の頬っぺでも味わうかな」

「えぇ~穂乃果も触りたい!!」

「まてまて!!順番だ順番」

「私の意見は無視ですか……」

「無視だ」

 

 

 穂乃果の頬っぺもことりの頬っぺも、国家遺産級のプニプニとフニフニ具合だった。そして海未の頬っぺは触らないくとも世界遺産級だと分かる。透き通るかのように綺麗な肌をしている海未の頬っぺが、気持ちよくないはずがない。

 

 

 俺が海未に近づけば近づくほど彼女の顔が真っ赤になっていく。そして俺が目の前まで来た時にはもう覚悟を決めたのか、目をギュッと瞑って頬っぺを触られる体勢に入った。こういう微妙な表情の変化でも、可愛くて面白いのが海未のいいところだ。

 

 

 俺はそのまま人差し指を海未の頬っぺに近づけ……

 

 

「な゛!?こ、これは……永遠と触っていたい!!人間の肌とは思えない、例えるならプリン?触っても弾き返されないタイプの柔らかさだ!!しかもそれでいてスベスベとは卑怯だろ!!これは寝ぼけてたら間違えて食べてしまってもおかしくないぞ!!」

「真剣に解説しなくてもいいですから!!早く指を離してください!!」

 

 

 海未の頬っぺをつつくたびに頬っぺの柔らかい肉が自在に変化して、本当に触ることだけに没頭してしまいそうだ。しかも食欲までそそられる。さっきから穂乃果やことりの頬っぺも触っていた影響か、プリンなどプルプルした甘いものを食べたくなってきた。

 

 

「ことりもつっつきたぁ~い♪ツンツン♪」

「ひゃあっ!!」

「穂乃果もつっつこう♪ツンツン♪」

「ほ、穂乃果!!」

 

 

 そうそうこの声!!海未が恥じらった時に叫ぶこの声が聞きたくもあったんだよ!!いつも俺に制裁をぶちかましてくる海未とは違ってすごく弱々しいから、こちらのSっ気がそそられイジメたくなってくる。

 

 

「よ~し!!俺も海未のスベスベをもっと堪能するぞ!!」

「海未ちゃんの頬っぺスベスベだぁ~♪」

「ことり、ちょっと嫉妬しちゃうかも……」

 

「もう離してください!!零もさっきからニヤニヤし過ぎですよ!!あっ、そんなところを触られては……あぁ!!あぁあああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「いや~~楽しんだ楽しんだ!!また新しい性癖に目覚めそうだよ」

「汚されてしまいました……もうお嫁に行けません……」

「な~に、お前はもう俺にもらわれることが確定してるんだ。逆言えばどれだけ俺に汚されてもいいってことだよ」

「励ますフリして都合のいいこと言ってません……?」

 

 

 こうして大々的にカミングアウトしているとこの学院全体に付き合っていることが伝わって、いつか楓にバレそうで怖いんだよな。もしバレたら部屋に監禁されて一生奴隷生活だろう。そしてこの学院ごと吹き飛ばしてあとは…………やめよう、想像しただけで寒気がしてきた。

 

 

「じゃあ次は零君の番だね!!散々穂乃果たちの頬っぺを触ったんだから、零君も触らせなきゃ不公平だよ!!」

「零くんの頬っぺも柔らかそうだもんね♪さっき零くんが海未ちゃんの頬っぺを食べちゃいたいって言っていた理由が分かったかも……」

 

 

「ちょっと待ちなさい君たち。男の頬っぺを触っても何もオイシイことはないぞ。女の子だから萌えるのであってだな……」

 

 

 これがことりのおやつになるってやつか……しかも今回は物理的に食べられそうで怖いんだけど……

 穂乃果も穂乃果でこちらにギラギラとした熱い目線を向けている。これは大好物のパンを思いっきり頬張る時の顔だ。まさか女の子に食われるとでも言うのか!?この俺が!?

 

 

「そうですね、不公平ですよね……零、あなたが快楽に堕ちるまでずっと私があなたの頬っぺを弄り倒してあげますよ……フフフ……」

「海未!?お前ダークサイドに堕ちてるぞ!?戻ってこい!!」

「こんな私にしたのはあなたでしょう……?大丈夫です、あなたに教わった快楽で、今度はあなた自身を快楽の底に叩き落としてあげますから……」

 

 

 全然大丈夫ではない件!!

 まるで獲物を見つけたオオカミのように俺を狙う穂乃果とことり。そしてダークサイドに堕ちて、俺を引きずり込もうとしている海未。俺は徐々に教室の端へ追い込まれ、あっという間に3人に囲まれてしまった。

 

 

「さぁ零君観念して!!」

「おやつの時間だぁ♪」

「フフフ……もう逃げられませんよ……」

 

 

「やめろ!!こっちに来るなぁあああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 そのあとめちゃくちゃ頬っぺを触られた。

 

 




 個人的には花陽の頬っぺをツンツンしたいです!(願望)

 こうして零君と穂乃果たち幼馴染組を絡ませるといつも思うのですが、この4人仲が良すぎますよね。ボケとツッコミの比率も抜群だし恋人同士だし……って完璧じゃん!?




 遅れましたが高評価をしてくださった方、ありがとうございました!!零君にもっともっと変態をこじらせるように伝えておきます(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

先輩禁止!リターンズ!!

 久々の連続投稿!!ストーリー性がない話というのは早く書けるのが利点ですね。今後もそんな話ばかりです(笑)


 

 

 春といってもやはりまだ朝は寒い。『夜暑いから薄着で寝よう』なんて思っていると、朝になってたっぷりとそのツケが回ってくる。それゆえ布団が気持ちいい。起きなければいけないという焦燥感を、布団のぬくもりとそれによって掻き立てられる睡魔が完全にかき消してくれる。また遅刻だ。

 

 今日は新生μ'sが結成してから初めての朝練だったりする。最近は忙しかったため朝練もめっきり少なくなったが、一年生が高校生活を慣れたのを期にまた再開された。そのせいで早く起きることを強要され、俺は若干鬱陶しく思っている。だって朝だよ!?朝は寝るのが常識でしょ!!

 

 しかし、階段を駆け上がってくるこの足音を聞くとそうも言ってられないようだ。もう俺はこの春から一人暮らしではないからな。どうしようもないブラコン妹のせいで、俺の日常は崩壊の道を歩んでいる。家にいても学校にいても休息の時はほとんどないに等しい。このまま俺が過労死したら手厚く葬ってくれ。

 

 

「お兄ちゃん!!いつまで寝てるの?今日から朝練だよ!!」

「来やがった……」

 

 

 もうちょっと静かにドアを開けれくれないものか。毎日毎日ドアさんも乱暴に開けられて痛がってると思うぞ。楓によって痛みつけられているのを見ると、同情しちゃうね俺は。

 

 

「お前……随分とやる気あるのな」

「それはお兄ちゃんが焚きつけたんでしょ?それに完璧な自分を目指すって目標は諦めてないから」

 

 

 高校生になって、やっとコイツも成長したらしい。今までは自画自賛ばかりで成長しようという気迫が一切感じられなかったからな。また一歩大人になったんだろう。

 

 

「そしてμ'sのみんなを圧倒して、優越感に浸ってやる!!」

「……」

 

 

 前言撤回。やっぱり楓は楓だった。

 これは初めにハイハイ言うことを聞いておいて後から裏切る、アニメや映画などの展開によく似ている。『色々教えてくれてありがとよ!!だからお前にはもう用はない!!ブスリ』的な感じだ。何が怖いって、楓がそれを実行する姿が容易に想像出来るところだ。

 

 

「朝練なら一人で行けばいいだろ、俺はμ'sのメンバーじゃないし……」

「そう言って、ただ寝たいだけでしょ?」

「ここで寝とかないと授業中寝ちまうだろ?そうなったら海未に怒られる」

「朝練に来なくても怒られると思うけどね」

 

 

 どっちにしろダメじゃん!!そもそもどうして俺が朝練に出なくちゃいかんのだ!!ずっと端っこから見てるだけだぞ!?そのまま寝落ちしてしまったことだってあるというのに……

 

 

「どうしても起きないっていうのなら……」

「な、何をする!?」

 

 

「お兄ちゃんにぃ~~濃厚で熱いベーゼをお届け♪」

 

 

「はいっ起きた!!」

 

 

「えぇ!?何それぶ~ぶ~!!」

 

 

 楓の場合、この手のジョークはジョークではないからな。この春一緒に2人暮らしを始めてもう一週間以上経過しているが、朝襲われない日がない。下手したら兄妹で一線を超えてしまうかもしれないぞ。

 

 

「気持ちのいい朝だな!!よ~し、朝練に行くか!!アハハハハハ!!」

「いつか絶対にお兄ちゃんを……」

 

「め、飯食ってくる……」

 

 

 不穏なオーラを醸し出し、ブツブツと危険なことを言っている楓の横をスッと通り抜けて部屋を出た。

 これはもしかして、近親相姦な展開になるのも近いかも……?いや近くなったらダメだろ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おっ、おはよう花陽」

「おはようございますぅ~」

 

「あっ、おはよう零くん、楓ちゃん」

 

 

 朝練会場(神社前)へ向かう途中、同じく神社に向かっていた花陽と出会った。やっぱり花陽って見てるだけで目の保養になるよな。特に朝から悪魔のような妹にじゃれつかれているので、花陽という存在だけでも安心する。彼女から『おはよう』と笑顔を向けられるだけで眠気なんて吹っ飛んでしまいそうだ。

 

 

「れ、零君!?私の顔に何か付いてる!?」

 

 

 最近穂乃果たちのせいで俺は頬っぺ中毒になってしまった。そのせいか知らないが、やけに女の子の頬っぺに目が行ってしまう。しかも今回の相手は、見た目で柔らかい頬っぺと分かる花陽だ。朝の日差しが彼女の顔に照りつけて、頬っぺが神々しくも見える。

 

 そして俺は、この時無心となっていた。無意識の間に指を花陽、いや彼女の頬へ伸ばし――――

 

 

「ぴゃあっ!!」

 

「!!!」

 

 

 花陽の叫び声でここでやっと我に返った。

 今でも分かる、花陽の頬っぺの感触が。まさかここまで余韻が残るものだとは……恐るべし花陽頬っぺ……

 

 

「流石お兄ちゃん!!女の子に平気で手を出すとは!!痺れるし憧れるねぇ~~」

「ち、違うんだ花陽!!決して手を出そうなんて思っていなくてだな……」

「はわわわ……」

 

 

 花陽と付き合い始めてからというもの、彼女が昇天する回数が増えたような気がする。キスはよくて頬っぺを触るのがダメってどういうことだよ……

 

 

「無心だったんだ!!だから別に他意はないぞ!!変なこととか考えてないから!!」

「だ、大丈夫だよ……零君が私のこと大切にしてくれてるって知ってるから」

「は、花陽!!」

 

 

 またしても無心で花陽を抱きしめてしまった。どうして花陽やことりは言うこと1つ1つが俺の心をくすぐるんだ!?こんなの抱きしめざるを得ないじゃないか!!

 

 

「俺もお前をずっと大切にするからな!!だから一生俺の側にいてくれ!!」

「零君……もちろんだよ♪よろしくお願いします!!」

 

 

 お互いに顔を見合わせて、恥ずかしいセリフを連発する。今度は花陽のプリプリと柔らかそうな唇に目がいってしまう。顔が高揚している彼女と相まって、俺の心をさらに刺激する。春の朝は肌寒いと言ったが、花陽の体温が感じられる今はそんなことが全くの嘘のようだ。

 

 

「ちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっと!!何2人の世界にのめり込んでるの!?完全に私のこと忘れてるでしょ!!」

 

「お前……いたのかよ。興ざめだわ」

「段々と私の扱いが雑になってきているのは気のせい……?」

 

 

 コイツも意外とそんなことを気にするんだな。ブッ飛んだ性格だから、てっきり自らハブられに行っているのかと思ったぞ。変人すぎて誰にも扱えないだけかもしれないが。

 

 

「小泉先輩もいつまで抱きしめられているんですか!?あなたどう見ても男に耐性がない純粋女子でしょ!?」

「で、でも零君なら私……」

「またラブコメしてる……私の目が黒いうちは不純異性交遊禁止ですよ!!」

「一番不純なことしているお前が言うか……」

 

 

 兄妹で交わろうとしている奴が今更何を言うか。しかも毎朝その危険に晒されているからな。

 それにしても花陽は暖かい。もう毎年冬はホッカイロとして俺に張り付いていてもらいたいぐらいだ。結局楓に言われても花陽は俺に抱きついたままだった。

 

 

「あっ!!零くんとかよちんが愛し合ってるにゃ!!」

「オイッ!!公園でイケナイことをしているカップルみたいに言うな!!」

 

 

 突如として星空凛が乱入!!この辺で花陽と待ち合わせでもしていたのだろうが、如何せんタイミングが悪い。凛も中々の被害妄想を作り出すからな。それがμ'sのみんなに広がって、ボコにされるのまでがお決まりの流れだ。

 

 

「星空先輩おはようございますぅ~♪」

「おはようにゃ楓ちゃん!!」

 

 

 テンションが高すぎるなこの2人。朝練がある日だと、早朝からこのテンションに付き合わされるので朝起きるのが尚更グロッキーになる。

 そして楓の挨拶……まだμ'sを舐め腐っているのか、結局全然変わらないなコイツも。まぁこのウザさが楓だから仕方ないのか。

 

 

「星空先輩!!お兄ちゃんが小泉先輩を襲っているんです!!私だけではお兄ちゃんに敵わないので一緒に戦ってくれませんかぁ?」

「なにィ!!それなら凛も助太刀するにゃ!!」

「お前ら朝っぱらから暑苦しいな!!それにファイティングポーズ取るな!!」

 

 

 正直、凛の運動神経と素早さから繰り出されるパンチは一発もらうだけでノックアウトだ。下手したら海未や真姫の制裁よりも重い。特に花陽と戯れいている時は高確率で凛が憤る。その時の俺の顔は誰がどうみても変質者の顔らしいが。

 

 

「それを言うなら、さっきからずっと抱きついているのも暑苦しいでしょ!!」

「さっきから!?いつまでかよちんと抱きついているつもりなのかにゃ!?」

「一生だ……」

「一生!?だけど私はそれでもいいかも……」

「かよちん!?」

 

 

 花陽は磁石のように俺に張り付いて離れない。それに対し、今にも俺に襲いかかって来ようとする凛と楓。このままでは目が覚めるどころか、それを乗り越えて永遠の眠りについてしまう。

 何かあるはずだ!!花陽に抱きつかれたまま、かつコイツらを何とかする素晴らしくも幸せになれる方法が!!

 

 

 

 

「あなたたち、何をやってるのよ……?」

 

 

 

 

「真姫!?」

「「真姫ちゃん!?」」

「西木野先輩!?」

 

 

 来た!!これぞ救世主!!……なのか?真姫だと凛や楓の暴走を止められないような気もするが。

 

 

「騒ぎ声が聞こえたから来てみれば、まさかまた馬鹿なことをやっていたとはね。しかもこんな道端で……そうよね、零?」

「待て!!なぜいつも俺が目の敵にされているんだ!!騒いでたのはコイツらであって俺は花陽で暖をとっていただけだ!!」

「そう?大体こういう時は零が悪いと相場が決まっているでしょ」

「ひでぇ……」

 

 

 とりあえず騒ぎがあったら何でもかんでも俺のせいにしておくという困った風潮が、今のμ'sで流れている。百歩譲って俺のせいでもいいとして、俺を"いつもの展開"に持っていくことだけは勘弁して欲しい。

 

 

「ほら、遅刻すると海未や絵里に怒られるわよ」

「そうだな。暖かかったけど仕方がない」

「あっ……」

 

 

 俺がパッと手を離すと、花陽は名残惜しそうに俺を見つめてきた。

 くそォおおおおおおおおおおおおおおお!!そんな子犬のような目で俺を見るなぁああああああああ!!何もやってないけどとてつもなく大きな犯罪を犯した気分だ!!今までにない罪悪感に包まれてく!!

 

 

「これ以上イチャイチャしてたら、暴走するところだったよ。命拾いしたね、お兄ちゃん♪」

「お前、あれで暴走してなかったのか……」

 

 

 今まで自分が暴走していたことを自覚していたのかコイツは。知ってて暴走している奴ほど恐ろしい者はいない。計画性があると言うか、裏で何かを画策しているヤバさを感じる。まるで我が最凶の"姉"のようだ。

 

 

「そういえば楓ちゃんに聞きたいことがあったんだにゃ!!」

「何ですか星空先輩?」

「それだよそれ!!μ'sに入ったんだから、先輩は禁止ね!!」

「確かにμ'sの皆さんは普通に名前呼びで呼び合っていますよね」

 

 

 先輩禁止は去年の夏合宿の際、μ's内で気を使わないように、そして絆を深めるために絵里が提案したルールだ。ルールという語っ苦しいものではないな、要するに分け隔てなく仲良くしましょうということだ。

 

 

「だから楓ちゃんも凛たちのことを先輩呼び禁止で!!」

「じゃあなんて呼びましょうかねぇ……『おいそこの星空ァ!!』とかですか?」

「それは怖いにゃ!!」

「お前ヤクザか何かかよ……」

 

 

 そういえばコイツ、雪穂と亜里沙以外のメンバーには「苗字」+「先輩」付けだったな。名前呼びって意外と勇気がいるものだ。俺も今はこうして普通にみんなを名前呼びできるが、実はみんなと出会ったばかりの頃は楓のように苗字呼びだった。この年になって異性を名前呼びするのは結構恥ずかしい。

 

 

「私は普通に名前呼びして欲しいなぁ。楓ちゃんともっともっと仲良くなりたいもん!!」

「小泉先輩…………じゃあ花陽、これからもよろしくね♪」

「楓ちゃん……うん!!こちらこそよろしくお願いします♪」

 

 

 おぉ、青春してますねぇ~~!!楓のことだから花陽を手玉に取ってなんやかやすると思っていたのだが、一番初めに名前呼びして親しくなるとはな。

 

 

「真姫もよろしく!!」

「何で私への挨拶はそんなに軽いのよ……」

「いや~~何となく相手の性格に合わせたくなっちゃってぇ~~ダメ?」

「意味分かんない!!でも、まぁ……よろしく」

 

 

 真姫も真姫で先輩禁止には苦労させられていた。合宿の時なんかは1人だけ馴染めてなかったしな。今回あっさりと受け入れたのは大きな成長だ。まぁ去年楓と何回も合ってたから、そのせいでもあると思うが。

 

 

「ワクワク!!」

「…………」

「あれ?凛のことは名前で呼んでくれないの?」

「非常に申し上げにくいのですが……」

「な、なに?」

「星空先輩って、先輩って感じがしないですよね。後輩というか、マスコットというべきか」

「ガビーーーん!!」

 

 

 後輩そしてマスコット、これは去年の夏合宿の時に凛がにこに言ったセリフだ。まさか今年になってそれが返ってくるとは思ってもいなかっただろう。それもしょうがない話だ。なんたってにこと同じ体型なんだからな。

 

 

「1割冗談ですから気にしないでください♪」

「じゃあ9割本気なんだにゃ~~!!」

「おおっ!!凛、計算できるんだね♪」

「馬鹿にするにゃぁあああああ!!……ん?あれ?さっき名前……」

「1割冗談は本当だけど、これからもよろしくね、凛!!」

「か、楓ちゃん……こちらこそよろしくだにゃ!!」

 

 

 いい光景だ、いい光景なんだけどサラッと毒吐かれてるぞ凛。でもこれでまた楓とμ'sのみんなとの距離が近づいたと思うと兄として安心だ。去年も夏合宿以降からみんながどんどん仲良くなっていったから、絵里の計画も成功だったと言える。雪穂と亜里沙も早く馴染めるといいんだけどな。

 

 

「よし!!それじゃあ朝練頑張るか!!」

「「「お~!!」」」

「零は座ってるだけでしょ」

「真姫、お前空気読めよな!!」

 

 

 その後、朝練前に先輩禁止が雪穂と亜里沙にも適用された。亜里沙は迷うことなく俺を『零くん』と呼び、雪穂はまだ恥らいながらも『零君』と呼んでくれた。正直それだけで心が踊ったのはまた別の話。

 




 『新日常』も早いものでもう10話目です。初めは雪穂や亜里沙、そしてオリキャラである楓を織り交ぜて話を展開できるのかとても不安でしたが、たくさんの方々に読んでもらって嬉しい限りです!!
 ですが未だにレギュラーキャラが多すぎて、話の展開が雑になってしまうこともあるのですが読者様からの視点ではどうなのでしょう?多分これからも前回や今回のように、1話辺りの登場キャラは絞っていくと思われます。13人ものキャラを一斉に登場させると収拾がつかなくなりますからね(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

先輩方は発情期!?

 皆さんが真姫の誕生日を祝ったり、他の作者様が誕生日小説を書いている最中、私は最低な話を書いていました(笑)
 いつも通り、誰かの誕生日だからといって贔屓することはないのです。しかも真姫すら出てこないのです。

 その代わり今回は、『新日常』となってあのお姉さんが初登場です。お待たせ(!?)しました!!


 

「んーーー!!んーーー!!」

 

 

 今の状況を説明しよう。朝、目を覚ましたら自分の身体が縄で縛られていた。しかもご丁寧に口にテープが貼られている。遂に楓が耐え切れずに俺を拘束したのかと思ったが、アイツならもっとガチガチに拘束してくるだろうから犯人はアイツではない。

 そうなると、こんなことをする奴はこの世でたった一人……

 

 

「ハロハロ~~♪」

「やっぱお前か、秋葉ァああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 俺の部屋に入ってきたのは神崎秋葉。俺と楓の姉であり、俺たちが最も恐れている人物。去年コイツは自ら開発しているしょうもない発明品を試すため、俺やμ'sのメンバーを幾度となく実験台として扱ってきた。ちなみにマトモな結果になったことは一度もなく、自分さえ楽しめればそれでいいという史上最悪の思考を持っている。まさに俺たちにとって天敵だ。

 

 

「んーーー!!んーーー!!」

「はいはい今外してあげるって」

「ぷはっ!!テメェ、何しに来やがった!?俺に何をする気だ!?」

「テメェとはご挨拶ね。折角久しぶりに会えたのにそんな暴言を吐かれて、お姉ちゃん悲しいな……」

「今すぐ帰れ」

「Oh!!辛辣ぅ~!!」

 

 

 もう今すぐにでも暴れたくなってきた。この際多少家が壊れてもいい、早急にコイツを追い出さなければ俺の日常がバラバラに崩壊されてしまう。もう既に楓でバラバラになっているというのに、コイツが来たら塵一つ残らなくなる。

 

 

「まあ落ち着きなさいな。もうやることは全部終わったから」

「なにィ?終わっただと?」

「そうそう。だからもう帰るから」

「えっ!?もうっ!?」

「その反応……もしかしてお姉ちゃんと一緒にいたかった?やっぱり可愛いねぇ~零君は!!」

「そういう意味じゃねぇ!!」

 

 

 何事も肯定的に捉え自分の都合のいいように吸収してしまうところ、これが神崎3兄妹の特徴なのだが、コイツは特別に鬱陶しい。秋葉に比べれば楓なんてまだ可愛く見える。やはりコイツは俺の天敵だ。

 

 

 するとここで、俺の部屋のドアが開け放たれた。

 

 

「お兄ちゃん!!朝だよ!!目覚めのキスの時間だ…………よ?」

「あっ!!おっはーー楓ちゃん!!」

「さようなら」

「オイ!!助けてくれよ!!いつもなら迷わず俺に飛び込んでくるだろ!!」

 

 

 楓の奴、俺の部屋に入ってくるときはすごくいい顔をしてたのに、秋葉の顔を見るなり絶望に打ちひしがれた顔をして帰りやがった!!あの楓がここまで萎縮するとは……恐るべし人類の敵。

 

 

「じゃあそういうことで、これから仕事だから」

「大学へ行って、仕事へも行って大変だな……」

「労ってくれる?」

「1000年後ぐらいにな」

「アハハハ!!零君と話すのは飽きないねぇ~~じゃあ縄外してあげるから頑張りなさいな」

 

 

 コイツの仕事は研究。そうは言っても俺もどんな研究をしているのかは知らないが、その成果は世界に認めてもらえるほどらしい。そんな頭脳を持っているのに、どうして俺たちを弄ぶような発明品しか作らないのか……

 

 

「お前もこんなことばっかやってないで、いい男の一人や二人見つけたらどうだ?」

「へ?だって零君がいるじゃん」

「はい……?」

「それじゃね♪」

「お、オイ!!さっきのどういう意味だ!!オイ!!」

 

 

 意味深な言葉を残して出て行ってしまった。まさかアイツも"兄妹で"なんて考えている腹じゃねぇだろうな。本気か本気じゃないか、アイツの言葉は俺でも判別できないからな。

 

 そして結局、アイツがここに何をしに来たのかは全く話してくれなかった。確実によろしくないことが起きているのは間違いないが、今のところ身体に別状はない。まさかホントに立ち寄っただけ?そんな馬鹿な……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 楓は秋葉から逃げるためかもう学校に行ってしまったため、今日は久しぶりに一人で登校だ。もう既に戦争を切り抜けてきたせいか、こうして一人で静かに学校に行くのは清々しくて気持ちいい。あれから特に俺やその周りでは何も起こっていないため、この先も何も起きないことを信じたい。

 

 

「あら、零じゃない。おはよう」

「絵里……おはよう。今から大学か?」

「えぇ、希とにこと合流して一緒にね」

「そうか、じゃあ途中まで一緒に行かないか?今日は久しぶりに一人だからさ」

「そういえば楓がいないわね。珍しいこと…………も?」

「ん?どうした?」

 

 

 急に絵里が言葉を区切った。そして本人は何故か驚いたような表情を浮かべている。眠いのか……?いや、そんな風には見えないけど。

 

 

(か、カラダが熱いわ!!どうして!?零に話しかけられるたびにカラダが疼くんだけど……)

 

「絵里?」

「な、何でもないわ!!行きましょうか」

 

(それに、さっきからすごくドキドキしてる……カラダもどんどん熱くなってくるし、どうなってるの!?)

 

 

 さっきまで普通そうだったのに、急にフラフラと歩き出した。本当に大丈夫なのか?熱があるとか……?いや、そんな突然体調が悪くなるとは考えにくい。これは希やにこに言って、絵里の様子を伺ってもらった方がよさそうだな。

 

 

「おっ、あそこにいるのって希とにこじゃん。おーーーい!!」

 

 

 俺の声を聞いて、既に待ち合わせ場所に来ていた希とにこがこちらを振り向いた。絵里の体調も優れないようだが本人は話す気がないらしいので、今はこの2人に任せるしかないだろう。

 

 

「おはよう、希、にこ」

「おはよう、今日は一人なの……ね?」

「おはようさん♪朝から零君に会えるなんてツイてるか……も?」

「2人共……?」

 

 

 えっ!?まさかこの2人も……?『おはよう』の言葉には元気があったのに、その後は急に黙り込んでしまった。心なしか、顔も少し赤いような気もするが。

 

 

(こ、これどうなってるのよ……こんなにカラダが熱くなるなんて、零と2人きりでいる時みたいじゃない……)

(なんやろ、零君を見るたびにウチのカラダが疼く……胸もムズムズしてきたし……)

 

 

「希……?にこ……?お前らも体調悪いのか?」

「だ、大丈夫……まだ眠たいだけやから……」

「に、にこに限ってそんなことないわよ……」

 

 

 希もにこも若干息が切れかけている。今日は朝練も何もなかったはずなのに、自主練でもしていたとか?でもそれだったら絵里が参加していない理由が気になるし、そもそもさっき会った時は元気に挨拶してくれたような……?

 

 

「はぁ……」

「え、絵里も大丈夫か?」

 

 

 重い息を吐く絵里の肩に、俺は咄嗟に手を置いた。

 

 

「ひゃうっ!!!!」

「え、絵里!?」

 

(嘘でしょ!?零にカラダを触られただけで全身が電流が走ったみたいにビリッって……ますます熱くなってきちゃった……)

 

 

 ただ肩に手を置いただけなのに……絵里が怖がりで驚きやすいっていうのは知ってるけど、まさかここまでとは。それに希やにこも絵里と同じような状態で俯いている。

 

 

「これは病院に行ったほうがいいんじゃないか?顔も赤いし、息も途切れ途切れだぞ」

「だから大丈夫だって言ってるでしょ……」

「大丈夫なわけあるか!!」

 

 

 いつまでも強がりを言うにこに、今度は両手で彼女の両肩をガシッと掴んだ。その瞬間にこのカラダをビクッと震わせ、目がトロンとして顔も高揚していた。

 

 

「ひゃぁ、あぁ!!!!」

「どうしたにこ!?どこか調子が悪いのか!?言ってみろ!!」

 

(だ、ダメ……そんなに近づかれたら、カラダがもっともっと熱くなって…………)

 

 

 

 

 

 

(気持ちよくなっちゃう……)

 

 

 

 

 

 

「どうした!?もしかして喋れないぐらい辛いのか!?」

 

 

 にこも絵里も希も、みんな黙り込んでしまった。体感的に周りの温度が上がっているような気がする。家を出た時より確実に暑いからな。

 3人の様子をよく見てみると、微量だが汗がにじみ出ている。いくら春だからとは言え、まだ朝は肌寒いくらいだ。だが3人はもの凄く暑そうにしている。運動もしていないのに……一体何が起こっているんだ!?

 

 

 

 

 何かが起こっている?いや、起こっているのはもしかしてコイツらじゃなくて俺なんじゃ……?だからコイツらは何も言えないんだ。原因が分からないから。

 

 

 そういえば今朝秋葉が……

 

 

『まあ落ち着きなさいな。もうやることは全部終わったから』

 

 

 もう終わったって言っていたな……やっぱりアイツは俺に何かをしてたんだ!!

 

 そこで俺はもう一度3人の様子を伺う。やはり今は熱さも収まっているようで、絵里たちは落ち着きを取り戻している。ちょっと申し訳ないけど、原因を探るためもう一度あの状態になってもらうか。

 

 悪い!!

 

 

「の、希……大丈夫か?」

「ひゃぅ!!あぁ……ま、また!!」

 

 

 この男心をくすぐる喘ぎ声こそ、コイツらのカラダに何かが起こっている証拠だ。しかもその原因は恐らく俺。俺が彼女たちに話しかけると発情(?)してしまうのだろう。女性にとっては迷惑極まりないが、男にとってはありとあらゆるものが高ぶってくる。何がとは言わないが……

 

 

「絵里、もしかして俺が話しかけると……」

「ひぅっ!!そ、そうよ……あなたに話しかけられるたびにカラダが火照るのよ……しかも全身に電流が走るみたいにビクビクって震えるの……」

 

 

 絵里は両腕を自分の身体に回しながら、弱々しい口調で自分の身に何が起こっているのかを説明した。

 いつもの大人っぽい絵里と違って、今日の絵里は守って抱きしめたくなる可愛さ、まるで花陽や亜里沙と同じ雰囲気になっている。普段は美人で端正なルックスの自分の彼女が、まるで俺を誘っているかのように卑猥なオーラを醸し出していた。

 

 もちろん絵里たちを助け出したい気持ちは山々だ。だけど俺は男なんだ、ここで動かなければどこで動く?いつまで経っても自分の欲望を押さえ込んでいていいのか?今まさに俺の中で天使と悪魔が戦っている。

 

 

「れ、零!!」

「に、にこ!?どうした!?辛いのか!?」

「ひゃっ!!ち、違うの……さっきからどんどんカラダが熱くなってきて……それで気持ちよくなってきて……すごくドキドキしてきて……そしてまたアンタを見ると心が高鳴って……」

 

 

 にこはこちらへフラフラと近づいてくる。いつもならこんな恥ずかしいセリフ、2人きりの時以外では絶対に言わないはずだ。こんなことを言うってことはにこが欲求不満の状態で、自分が満たされない時と相場が決まっている。

 

 だから今も……

 

 

「だからにこを……零の手でにこのカラダを!!」

「にこっち!!それ以上ゆうたらアカン!!」

「きゃぁっ!!」

 

 

 突然希がにこの口を手で完全に塞いだ。にこはうーうー唸りながら希の拘束から逃れようと抵抗する。一体希はどうしてそんなことを……?

 

 

「それ以上はダメや……こんな道端でそんなことしたらアカンよ。それに零君のことやから、もしかしたら本当に手を出されるかもしれへんし……」

 

 

 うぐっ!!ひ、否定できねぇ……俺の中で天使と悪魔が戦っているなんて言えねぇよな。でもさっきのにこの表情、希に止められず最後まで言い切っていたら迷わず手を出していただろう。それぐらい彼女の表情にはそそられるものがあった。ちょっと涙目になって、しかも上目遣いとか卑怯だろ……

 

 

「と、とにかくだな!!俺がここから離れれば解決するんだろ?だからもう俺、家に帰るから。じゃあな!!」

 

 

 結局俺の中で行われていた天使と悪魔の対決は、惜しくも天使が勝利したため健全な策を取ることになった。俺がここにいれば彼女たちに迷惑がかかるのは明白、そしてこのまま学院に行けば、穂乃果たちも発情(?)してしまうため自宅待機するしかない。

 

 

「へ?」

 

 

 家へ帰ろうとしたその時、誰かに自分の腕を掴まれる。振り向くと、絵里がモジモジしながらギュッと俺の腕を掴んで離さなかった。

 

 

「私たちをここへ置いていくの……?」

「でも俺がここにいるとだな……」

「ひゃっ!!うぅ……またカラダが疼く……」

「ほらそうなるから!!」

「ひゃうっ!!だけどあなたが行ってしまうと心細いっていうか……カラダの火照りが収まるまで一緒にいて欲しいというか……とにかくそういうことなのよ!!」

 

 

 いつものμ'sを仕切っているしっかり者の絵里はどこへ行った!?こんな小動物みたいに縮こまりながら、はぁはぁと発情(?)している絵里を見るのは初めてだぞ!?お前は俺に手を出せと言っているのか!?このまま俺がここに居続けたら、もう確実に警察のお世話になっちまう!!

 

 

(くぅ……もう抑えられないわ……早く希を振り払って、にこのすべてを零に!!)

(こうしてにこっちを抑えているけど、正直ウチも限界かもしれへん……零君を見るたびに心もカラダも爆発しそうや)

(ダメよ……自分を抑えないと……でも、零になら……零と一緒なら別に……いいかな?)

 

 

 マズイ……みんな本格的に苦しそうだ。苦しいというよりかはむしろ自分の欲求を必死になって押さえ込んでいると言った方が正しいか。でも俺から声をかけるわけにはいかない。これ以上彼女たちを快楽の底へ叩き落としたくはないからな。

 だったら一刻も早く秋葉に連絡しないと…………でも絵里はここから離れるなって言ってくるし。どうすんだこれ!!

 

 

 

 

「やーやーいいものを見させてもらったよ♪」

 

 

 突然、近くの裏路地から現れたコイツは……

 

 

「秋葉!?」

「「「秋葉先輩!?」」」

 

 

 ん?先輩?そうか絵里たちと秋葉は同じ大学なんだった。だから先輩呼びなのか。

 それにしても絵里たちが誰かを先輩呼ばわりするのはとても新鮮だ。μ'sでは最上級生だしな。

 

 

「おい、俺に何をした!?」

「この春から作っていたおクスリがようやく完成してね。グースカ寝ていた零君にちょちょっと飲ませてみましたぁ~♪」

「なんだその薬って?」

「それを飲んだ零君から不思議なオーラが発せられるんだ。そのオーラによって、零君を好きな女の子たちのカラダを火照らせ、快楽へと誘うのだ!!」

 

 

 俺たちは開いた口が塞がらなかった。どうしてコイツはこんなどうでもいいものを平気で作りたがるのだろうか?折角世界の各地からお呼ばれしているというのに、日本に留まって無駄な研究を続けているので勿体無すぎる。俺としては早く日本どころか地球から出て行って欲しいのだが。

 

 

「とにかくだ!!俺を元に戻せ!!」

「そうカッカしなさんな。いいデータも取れたし、この解毒剤を飲めば万事解決だよ♪」

「それ、本当に元に戻るんだろうな?」

「もちろん♪」

 

 

 『♪』なんて使っている時点で胡散臭さMAXだ。でも今俺にある選択肢はこの解毒剤らしきものを飲むしかない。絵里たちをずっとこのままにはしておけないからな。

 

 

 俺は覚悟を決め、解毒剤をグビッと一気に身体に流し込んだ。

 

 

 

 

 そして……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 絵里たちは何とかカラダの火照りから解放され、いつもの状態へと戻ってきたのだが……

 

 

「あぁ~ヒドイ目に遭ったわ……にこたち、あんな先輩と一緒に大学生活を過ごすの?」

「今からでも欝になりそう……」

「それ以上に勉強できることがあればいいんやけど……なさそうやね」

 

 

 秋葉に目を付けられた3人は暗くどんよりとした気分に陥っていた。これからの大学生活、あんなマッドサイエンティストに付きまとわれたら、そりゃあそんな気持ちにもなるわな……

 ちなみ秋葉は笑いながら仕事へ向かいやがった。ぜってーいつか仕返ししてやる!!

 

 

「あの、その……どうしようもない姉ですみません!!」

 

 

 そして俺が毎回尻拭い。もう誰か!!あの悪魔をどうにかしてくれ!!

 




 他の作者様の書いた真姫誕生日小説を読んでいて、自分もデート回を書きたいなぁと思っていたら、まさかこんな話が出来上がるとは……これぞ変態の鏡!!(笑)
 むしろブレないでギャグ小説を執筆していたことを褒めて欲しいぐらいです!!(何様だよ!!)


 これで神崎3兄妹が『新日常』でも出揃いました。なにげにこの3人が共演したのは今回が初めてですね。楓はチラッとしか出ていませんが。

 秋葉さんの活躍(?)を見たい方は、是非前作の『日常』をご覧下さい。実は『非日常』の第六章の2話にも登場しています。一応そこではイケメンです(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新生μ's大作戦!!(前編)

 今回はギャグ回でも恋愛回でもシリアス回でもなく、ごく普通の日常回です。アニメ準拠の小説ではこんな話はできないので、そこは短編集ならではの利点ですね!

 ちなみに今回の元ネタは某チビッコ探偵から取ってきています。


 

 新生μ's結成から2週間近くが経過した。雪穂や亜里沙、楓も本格的に練習へ参加することとなったが、人数の増加に伴って今までの曲を再び見直す必要が出てきた。歌のパート分けやダンスの振り付け、ポジションや動き方など事細かく決めなければならない。

 

 只今13人も押し込まれている窮屈な部室にて、第一回新生μ's大会議が開かれている。いつもの如く海未や絵里が仕切り役となり、各々のパートやポジションなどを再確認すると共に、新入部員である3人のパートやポジションも同時に決めていった。

 

 普段のμ'sの会議は話が脱線して中々話が進まないのが定例行事なのだが、新年度一発目なのか、はたまた新入部員がいる手前なのか、意外にも会議は順調に進んでいる。俺も部室の端っこからぼぉ~とみんなの話し合いを聞いていた。真面目に会議をすればするほど俺の出番がなくなり暇になってくる。ちょこっとぐらい話を脱線してもいいのに……

 

 

「少し早口でしたけど、各々のポジション確認はできましたか?特に楓たちは初めてなので、質問などがあればいつでもどうぞ」

 

「大丈夫でぇ~す♪」

「私もOKです!!海未せんぱ……あっ、間違えちゃった、海未ちゃん」

「初めは私もそうでしたから、少しずつ慣れていくといいですよ」

 

 

 相変わらず適当に返事をする楓と元気よく返事をする亜里沙。でも亜里沙はまだ『先輩禁止』に慣れていないようだ。彼女にとってμ'sは尊敬で憧れの人たちがいるグループだから、そう簡単に馴染めないだろう。

 

 

「雪穂も、確認できましたか?」

「は、はい!!じゃなかった……う、うん」

 

 

 雪穂は亜里沙以上に『先輩禁止』に苦戦しているみたいだな。ここ最近も敬語はほとんど抜けずに今までと同じように会話をしている。もちろん無理強いはしないが、それ以前に大きな隔たりを感じる。

 

 

「なるほどな……しょうがない、この俺が一肌脱いでやるか」

 

 

 事情は分かった。仕方ないからμ's見守り係……という名の撮影係の俺がμ'sに最大の試練を与えてやる!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「よ~し!!早速練習だぁーー!!」

「放課後なのに、穂乃果ちゃん元気だね」

「授業中ずっと寝ていたので力が有り余っているのでしょう……」

 

 

 次の日の放課後、練習着に着替えるため穂乃果たちは更衣室へとやって来た。ちなみに零は用事があると行って練習をサボり、絵里、希、にこの大学生組は講義で少し遅れるという連絡をもらっている。

 

 

「う~ん……これ一体なんなのにゃ?」

「数字が書いてあるけど……」

「それよりもどうしてこんなのが入ってるわけ?」

 

 

 更衣室には既に凛たち2年生組と、楓たち1年生組が集まっていた。しかしまだ着替えておらず、机に何枚かの紙を広げて首を傾げている。穂乃果たちはカバンを置いて、凛たちが集まる中央の机へと向かった。

 

 

「なになに?何があったの?」

「あっ穂乃果ちゃん!!凛たちのロッカーにこんな紙が入ってたんだにゃ~」

 

 

 凛が手に取った紙はA4サイズで、真ん中には大きく『2』とだけ書かれていた。しかも紙はそれだけではなく、机の上に何枚か置かれていた。

 

 

「私のロッカーにはこの紙が入ってたわ」

「私はこれが入ってたよ」

 

 

 真姫の紙には凛と同じ大きさの文字で『6』と書かれ、花陽の紙には『7』と書かれている。白い紙に数字と、見ただけではゼッケンにも見えなくもないが、そんなものがそもそもなぜこんなところにあるのかが謎だ。

 

 

「実は私も……」

「えっ!?雪穂も?」

「うん、でも亜里沙と楓のロッカーにはなかったんだよね」

 

 

 雪穂の紙には『5』と数字が書かれていた。しかし亜里沙と楓のロッカーにはそんな紙は入っていなかったらしい。どうやら全員のロッカーに入っているわけではなさそうだ。

 

 

「あっ!!ことりのロッカーにも入ってたよ!!」

「私もです!!」

「そうなの!?じゃあ穂乃果も…………あっ、あった!!」

 

 

 穂乃果、ことり、海未は各々のロッカーから紙を取り出して机の上に並べる。3人共紙に書いてある数字は違っていて、穂乃果が『2』、ことりが『5』、海未が『4』である。

 

 

「もしかして、絵里ちゃんたちのロッカーにもあるかな?」

「こうなったら開けるしかないでしょ」

「楓、勝手に開けるのはやめておいた方が……お姉ちゃんたちの私物も入ってるだろうし」

「私はね、人のプライバシーを侵害するのが趣味なの」

 

「「「「「「「「……」」」」」」」」

 

「とりあえず開けるね♪」

 

 

 最悪の趣味をカミングアウトし、一瞬にして場を凍りつかせ全員を黙らせる。楓はそんなことをお構いなしに亜里沙の制止を振り切って、絵里、にこ、希のロッカーを立て続けに開け放った。

 

 

「あっ、希のロッカーに紙があったよ。他の2人はなかったのに……」

 

 

 楓は希のロッカーから『2』と書かれた紙を取り出し机の上に置く。紙が入っていたのは希のロッカーだけで、絵里とにこのロッカーに紙は見当たらなかったようだ。

 

 

「じゃあこれで全部だね。それにしてもなんだろこれ」

 

「「「「「「「「!!!」」」」」」」」

 

「あれ?どうしたのみんな?」

「ほ、穂乃果ちゃん!!今持っている紙の後ろを見て!!」

「へ?」

 

 

 穂乃果は自分が持っている紙をクルッとひっくり返す。そこには何やら文章が書かれていた。

 

 

『新生μ'sの諸君、よくぞ見つけ出した。この数字の謎を解き、学院にいる私の居場所を見つけ出してみたまえ!!  No.0より』

 

 

「な、なにこれ!?もしかして穂乃果たちへの挑戦状!?」

「だったら負けるわけにはいかないにゃ!!それよりナンバー0って?」

「零でしょ、どう考えても……数字の『0』は漢字にすると『零』だしね」

「スゴイ……真姫ちゃんスゴイです!!」

「べ、別にこんなもの、私にとっては簡単だし……」

 

 

 あっさりと挑戦者の正体を見抜いた真姫に、亜里沙が驚嘆の声をあげる。だが真姫は相変わらず素直になれず、髪の毛をクルクルしている。

 ちなみにこの文章が書かれていた紙は真姫のロッカーに入っていた紙で、他の紙には書かれていなかった。

 

 

「面白そうだね!!やってみようよ!!ねぇ海未ちゃんいいでしょ?」

「まぁ絵里たちが来るまでなら……」

「やった!!」

 

 

 今ここに新生スクールアイドルμ's、初の共同作業が始まった!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「それでは一旦、それぞれの紙にどんな数字が書かれているのかをまとめてみましょう」

 

 

穂乃果⇒2

ことり⇒5

海未⇒4

花陽⇒7

凛⇒2

真姫⇒6

希⇒2

雪穂⇒5

 

 

「う~ん、数字がバラバラじゃなくて被っているのがいくつかあるね。ことりと雪穂ちゃん、穂乃果ちゃんと凛ちゃん、そして希ちゃんは同じ数字……」

「何かの順番かなぁ……?でも1から順番じゃないよね」

 

 

 花陽の言葉で、まずみんなは何かの順位付けがされているのかと予想した。だが1から始まっていないところを見るに、そこまで単純なものではないのだろう。

 

 

「もしかして、テストの点数とかかにゃ?凛と穂乃果ちゃんが同じ数字だから。凛もよく真姫ちゃんにビービーうるさく勉強しろって言われてるし、穂乃果ちゃんも海未ちゃんに言われてるでしょ?」

「ホントにね!!ビービービービー言われて、耳が壊れちゃいそうだよ」

「悪かったわね、ビービーうるさくて……」

「穂乃果、凛、練習量倍にしますよ……?」

「「ご、ゴメンなさぁ~い!!」」

 

 

 穂乃果と凛のダラけ具合は進級しても何も変わらずで、学期初めに行われた実力テストでもいつも通りの結果を叩き出し、逆に安心するぐらいであった。これがμ'sの日常と言われれば日常なのだが……

 

 

「そもそも学年が違うから、テストの点数や順位で測れないと思うけど……」

「私もそう思います。それにまだ1年生はテストをしたことがありませんし」

 

 

 ことりの反論に亜里沙が便乗する。入学したての1年生だけは4月初頭に行われた実力テストをやっていない。したがってテストの点数や順位で数字を付けるのは不可能なのだ。

 

 

「同じ理由で成績などもあり得ませんね。恐らく学年で基準が分かれるのものではないと思います」

「無難なところで身長とかだけど、それだと花陽が一番大きいことになるからそれもなさそうね」

 

 

 真姫はこの数字が身長説を唱えるが、μ's内で背が高いのは絵里や希だ。小柄な花陽の数字が一番大きい時点でそれもあり得ない。ここで身長とくれば体重なのだが、流石の零でも女の子の体重までは分からないだろう。

 

 

「胸の大きさとかじゃないですかぁ~?」

「なっ!?いきなり何を言い出すんですか!?そんなわけないでしょう!?」

「えぇ!?確かにかよちんが大きいのは分かるけど……」

「ちょっと凛ちゃん恥ずかしいよ!」

 

 

 楓は"なぜか"海未や凛に、ニヤニヤとした小悪魔のような顔を向けた。さらに凛の言葉でみんなが一斉に自分を見てきたため、花陽は恥ずかしさのあまり手で顔を隠す。

 

 

「む、胸の大きさだったら希ちゃんが一番じゃないかな?」

「ことりの言う通りです!!だからこの話はもうやめましょう!!」

「そ、そうだよ!!絶対に別の数字だよ!!もう恥ずかしいから他の意味を考えようよ!!」

「えぇ~!!絶対にバストサイズだと思ったのにぃ~~♪」

「さっきから顔、ずっと笑ってるわよ……」

 

 

 海未と花陽は顔を真っ赤にして次の話題に移ろうとしている。もし胸の大きさだとしたら、バストサイズに天と地の差がある希と凛が同じ数字のはずがないのだが……そこは凛が暴れないように暗黙の了解ということで。

 

 

「ん?雪穂は話し合いに参加しないの?」

「楓……いや、だって分からないし。もしかして、楓は分かってる?」

「さぁね♪」

「絶対に分かってる顔だ……」

 

 

 雪穂はこの2週間で楓の大体の性格と裏の顔を理解したつもりだ。キャラが濃すぎる彼女のことだ、一緒にいて理解できない方が難しい。こうしてニヤニヤしている時は大抵嘘を付いている時の顔だ。しかも謎を見抜けない自分たちを見下すような感じで……

 

 そして雪穂の予想通り、楓はすべての謎が解けていた。性格は難があり過ぎて困ったちゃんだが、頭の良さは流石兄妹と言うべきか、零や秋葉と同じくかなりのキレ者だ。

 

 

(また回りくどいことしてるなぁ~お兄ちゃんは。しょうがない、私も手伝ってやるか!!)

 

 

 楓は一人だけ分かったという優越感に浸りながらも、ずっと頭を悩ませているμ'sを手助けしようとみんなの輪に加わった。しかしそれは自分一人だけでなく、雪穂の手を引いて一緒に輪の中に引きずり込む。

 

 

「ちょっと楓、引っ張らないでよ!!」

「まぁまぁ、折角だし一緒に考えようよ。それに、この問題は雪穂がいないと解けないと思うなぁ~~」

「え……?」

 

 

 完全に棒読みの楓だが、それよりも雪穂は『自分がいないと問題が解けない』というところに引っかかった。何より雪穂自身がまだ何も解けていないというのに、なぜ楓がそんなこと言ったのか気になったのだ。

 楓が急に自分へ矛先を向けてきたことに戸惑いながらも、雪穂はみんなの輪に入って一緒に零が出題した問題を考えることにした。

 

 

「ダメだ!!穂乃果の頭じゃサッパリ分かんない!!」

「まぁ穂乃果パイセンなら仕方ないですね」

「楓ちゃんヒドイよ!!」

「自分で言ったんじゃないですかぁ?それより、例の数字をもう一度整理してみない?頭がリフレッシュされるかもしれないし」

「そうだね。もしかしたらお姉ちゃんたちが来たら何か分かるかもしれないし」

 

 

 亜里沙は絵里たちを頼りにしているようだが、3人が来るまでまだまだ時間はある。あまり謎解きで時間を使いすぎると練習時間も少なくなってしまう。ここはスクールアイドルμ'sの9人で解くしかなさそうだ。

 

 

穂乃果⇒2

ことり⇒5

海未⇒4

花陽⇒7

凛⇒2

真姫⇒6

希⇒2

雪穂⇒5

 

 

「うぅ……眺めてても全然分からないにゃ……」

「みんな数字にとらわれすぎじゃない?たまには一歩引いた視点から見てみるのもいいかもね」

「一歩引いた視点……?」

 

 

 楓の言葉を聞いた穂乃果は一歩どころか二歩三歩と後ろに下がり、挙げ句の果てに更衣室の端っこから机に置いてある紙をまとめて眺めた。

 

 

「ん……?あっ!!!!」

「ど、どうしたの穂乃果ちゃん!?」

「数字!!数字の大きさが違うものがあるよ!!」

「「「「「「えぇ!?」」」」」」

 

 

 穂乃果の言葉に楓以外の全員が驚く。確認したところ8枚ある紙の中の2枚に書かれている数字の大きさが、他の6枚に比べると少し小さかった。その2枚とは花陽の紙に書かれている『7』と雪穂の紙に書かれている『5』だ。その2つの数字だけが、他の紙に書かれている数字より少しだけ大きさが小さい。

 

 

「それだけじゃないわ」

「なにか分かったの真姫ちゃん?」

「えぇ。今まで気づかなかったけど、ことりの紙に書かれている『5』と凛の紙に書かれている『2』の右上を見てみて」

 

 

 真姫に言われ、全員が一斉に2枚の紙を覗き込んだ。真姫は自分が見つけたポイントを指で差して説明をする。

 

 

「本当に小さいけど、この2枚の紙に書かれている数字の右上に、小さな点が2つあるでしょ?」

「ホントだぁ~!!それは穂乃果も気づかなかったよ」

「それでそれで?これはどういう意味なのかにゃ?」

「そ、そこまではまだ……」

 

 

 何気なく見つめていると、その点はただゴミが引っ付いているだけとしか思えないが、これは明らかに数字と共にプリントアウトされたものだ。そうなればもちろんこの謎を解く手がかりとなるに違いない。

 ただし真姫はその手がかりを見つけただけで、まだ謎を解くには至っていないようだ。楓からのさり気ないヒントもあり、新生μ'sは零へと一歩近づいた。

 

 

「まだまだこの問題は分からないけど、絶対にみんなで解いて零君をギャフンと言わせよう!!今からでも零君の泣き顔が浮かんでくるよ」

「零くんが悔しがって地に這いつくばる姿、想像が捗るにゃ~~!!」

「あなたたちは零を屈服させたいのですか……」

 

 

 特に穂乃果や凛は日頃零から馬鹿にされている恨みをここで晴らすことができると考えているため、妄想の中で零をイジメるというドス黒い思考と悪意に満ち溢れた顔をしている。もはや2人は零に勝ち誇った気でいた。まだ何も解けていないというのに……

 

 

「あぁ~~お兄ちゃんが私のことを好きになって襲ってくる姿も容易に想像できるね♪」

 

「「「「「「「「それはない(です)」」」」」」」」

 

「えぇっ!?こんなところだけ一致団結!?」

 

 

 

 

 To Be Continued……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

現時点まとめ

 

穂乃果⇒2

ことり⇒5(右上に小さな点が2つある)

海未⇒4

花陽⇒7(他の数字より大きさが小さい)

凛⇒2(右上に小さな点が2つある)

真姫⇒6

希⇒2

雪穂⇒5(他の数字より大きさが小さい)

 




 一話にまとめようと思ったのですが、謎解き部分が思ったより肥大化したので次回に持ち越しです。
 ヒントはこの話だけですべて出揃っているので、皆さんも少しだけ考えてみてはどうでしょうか?もし答えが分かった人がいましたら、次はなぜ零君がこんな問題を出したのかも考えてみると、次回がさらに面白くなるかもしれません。


 前作『日常』でもありましたが、ゲームのような話は自分自身かなり大好きで、本当にたまにですが、思いつき次第これからもやりたいと思っています。しかし読者様に受けるのだろうか……?一応今回の話はただメンバーが謎を解くだけではないんですけどね。
 多分ラブライブの小説で、こんな話を執筆したのは自分だけだろうなぁ~


 ここからは完全に余談ですが、『新日常』から見てくれている方に宣伝を。実は私の活動報告にも『超短編小説』としてたまぁ~にですが小説を投稿しています。現在4つあり、どれも一分足らずで読めるのでこの機会に是非!!


 次回は解決編です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新生μ's大作戦!!(後編)

 前回の感想にて、既に問題が分かった方とまだ分からない方が半々ぐらいでした。分からなかった方は、今回是非μ'sのみんなと一緒に考えてみてください!!


 

 

 

前回のラブライブ!

 

 練習をしようと思っていた矢先、お兄ちゃんによって仕掛けられていた問題がμ'sを悩ませた。的外れなことばかり言って全く先に進まない先輩たちの哀れな姿に呆れて、本当にしょ~がないから私がヒントを出してあげることにしたんだ。そして、イマイチみんなの輪に入れていない雪穂。だけどこの問題を解くには雪穂が必要不可欠なんだけどぁ。まぁ、いっちょここはお兄ちゃんの作戦に乗ってやりますか!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

現時点まとめ

 

穂乃果⇒2

ことり⇒5(右上に小さな点が2つある)

海未⇒4

花陽⇒7(他の数字より大きさが小さい)

凛⇒2(右上に小さな点が2つある)

真姫⇒6

希⇒2

雪穂⇒5(他の数字より大きさが小さい)

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「う~ん……進展はあったけど、また行き詰まっちゃった。穂乃果の頭じゃ無理だよーーー!!」

「相変わらず、頭を使う時だけは根を上げるのが早いですね。零の泣き顔を見るのではなかったのですか?」

「みんなで力を合わせればきっと解けるから、頑張ろ♪」

 

 

 穂乃果たちは場所を更衣室から部室へ移し、再び問題の解決に取り掛かる。脳みそを回転させすぎて疲れたのか、穂乃果は机の上に身体を預けてグデーンと伸びをしていた。

 

 

「かよちんは何か分かった?」

「うぅん、まだ何も……」

 

 

 花陽も凛も頭は捻っているが、捻っているだけで特に妙案が思い浮かぶことはなかった。先ほど数字の意味が何かの順位付けではないと結論を出したっきり、そこから全く動けていない。

 

 

「零さ……じゃなかった、零くんの出す問題だから難しいね。雪穂は気付いたことない?」

「ゴメン、まださっぱり。それでも分かっていそうな人はいるけど……」

「ワタシ、ナニモキコエナイ」

「聞こえてるじゃん!!」

 

 

 この中で唯一問題を解けている楓だが、さっきからとぼけるばかりでそれほど役に立っていない。しかし遠まわしだがμ'sにヒントを与えはしたし、零の狙いを考慮すれば自分一人だけがこの問題を解くわけにはいかないのだ。

 

 

「……」

「あれ?真姫ちゃんどうしたの?もしかして解けたのかにゃ!?」

「ゴメン凛、話けかないで……もう少し、もう少しでできそうだから」

「それじゃあ解けたら教えてね!!」

「いやいや、自分でも考えようよ」

「そんなこと言っても……じゃあ楓ちゃんは解けたの?」

「マダダヨ……」

 

 

 わざとらしくカタコトにして話題を逸らそうとするが、このままでは凛が真姫に答えをねだってしまう。もしそうなったら零がこの問題を出した意味がなくなってしまうので、仕方がないがここでもう一つヒントを出すしかない。

 

 

「でもぉ~これ以上ヒントがないってことはないと思うんだ。お兄ちゃんのことだから、どこかにヒントが隠されているはずだよ。ほら、紙の後ろに書いてあった挑戦文なんて怪しくない?」

「これ?別に普通の文章だと思うけどなぁ」

 

 

 穂乃果は机に肘を付きながら、メンドくさそうに真姫のロッカーに入っていた紙をめくった。その紙の裏には零が書いたであろう挑戦分が書かれている。もちろん全員が確認済みだ。

 

 ちなみにその文章をおさらいしておくと……

 

 

『新生μ'sの諸君、よくぞ見つけ出した。この数字の謎を解き、学院にいる私の居場所を見つけ出してみたまえ!!  No.0より』

 

 

「違う違う、怪しいのは文章じゃなくて最後の名前のところ!!ねっ、雪穂?」

「えぇっ!!どうして私に振るの!?」

「怪しいよね!?」

「そ、そうかな……?自分の名前をそのまま書けばいいのにって思うけど……」

「それだよ!!」

「て、テンション高いね楓……」

 

 

 つまり楓が言いたいのは、わざわざ自分の名前を『零』と書かずに『No.0』と無駄にカッコをつけた厨二チックな名前にしているという点だ。彼ならそんなことをしそうではあるが、この文章で一番おかしなところは確定的にここだけだろう。

 

 

「確かに数字で書いてあるのは妙ですね。名前を数字……?」

「あっ……」

「ことり、何か分かったのですか?」

 

 

 ことりは8枚の紙を並べながら、海未の言った『名前』と『数字』という言葉でピンと来た。楓はその瞬間、ニヤリとした表情が溢れる。どうやらことりは遠回しのヒントを上手く受け取ってくれたようだ。

 

 

「うん。この数字は名前を意味していると思うんだ」

「その理由を聞かせてもらえるかしら」

 

 

 さっきまでメモ帳に何かを書いていて会話に入っていなかった真姫が、唐突に割り込んできた。その顔は少しドヤ顔を決めていて、いつもツンケンしている彼女とは到底思えない。

 

 

(真姫……もしかして)

(楓、一人で任せちゃって申し訳なかったわ。ここから私も協力するから)

(なるほど、やっぱりね……)

 

 

 楓と真姫は目だけで会話しながら、お互いが協力体制に入る。どうやら真姫もこの問題が解けたみたいだ。それに零がこの問題を出題した意図もしっかりと理解している。

 

 

「零くんの名前が数字で書かれていたってことは、この紙に書いてある数字もことりたちの名前と関係があるんじゃないかな?」

「数字が名前と関係ある……でも私たちの名前の中で零くん以外に数字が入っている人っていなくないですか?」

 

 

 亜里沙の言う通り、零以外には特段数字を含む文字を持つ名前のメンバーはいない。一応『南ことり』などの『み』を『3』と取ることもできなくはないが、それだと零の残したヒントにそぐわない。

 

 

「零君はこの学院のどこかにいるって言ってたから、もしかしたらこの数字の示す文字を合わせればその場所の名前になるのかも……」

「なるほど、かよちん天才!!」

 

 

((ナイス花陽!!いいレシーブ!!))

 

 

 花陽のナイスレシーブにより、問題の解決へかなり近づいた。ここまでくれば、紙に書かれている数字がどんな文字を表すかどうかだが……

 

 

「あとは穂乃果でも分かるぐらい簡単に解けるわよ」

「なんか馬鹿にされているような気がする……最近真姫ちゃんも楓ちゃんも穂乃果に厳しくない!?」

「それはしょうがないよ、お姉ちゃんだもん」

「雪穂まで!?そんな雪穂は何か分かったの!?」

「ま、まぁ少しだけなら……」

「ホント!!?」

「うわぁっ!!」

 

 

 穂乃果は机から身体を起こし、顔をズイッと向かいにいる雪穂に近づけた。逆に雪穂はその勢いでイスごと後ろに転げ落ちそうになるが必死にこらえる。実の姉が顔をキラキラさせて期待しているのを見て、はぁ~とため息を付きながらズレたイスを元に戻す。

 

 

もう一度まとめ

 

 

穂乃果⇒2

ことり⇒5(右上に小さな点が2つある)

海未⇒4

花陽⇒7(他の数字より大きさが小さい)

凛⇒2(右上に小さな点が2つある)

真姫⇒6

希⇒2

雪穂⇒5(他の数字より大きさが小さい)

 

 

「さっきのお姉ちゃんでも分かるって真姫せんぱ……真姫ちゃんが言った時に大体分かったよ」

「しくしく……妹にまで馬鹿にされた……」

「穂乃果は放っておいて、その続きは?」

「うん。それで単純に考えて、それぞれの名前の前から、書かれていた数字の場所の文字を取り出していけばいいと思うんだ」

 

 

 ことりと花陽によって、紙に書かれている数字とその所有者の名前が関係していそうだということは分かった。雪穂の考えはそれをもっと詳細化し、それぞれ名前から数字の場所の一文字を取ってくればいいという単純なものだ。

 

 

「でもそれだったら雪穂ちゃんの数字は『5』だけど、『雪穂』って名前は3文字しかないにゃ」

「多分苗字を含めてだと思います。明らかに『6』とか『7』とか大きい数字もありますし」

「よ~し!!なんとか解けそうだね!!すごいよ雪穂!!」

「べ、別にそんなことは……」

「ことりもそこまでは考えつかなかったよ、雪穂ちゃんありがとう♪」

「ことりちゃんまで……ど、どうしたしまして」

 

 

 雪穂は穂乃果とことりに素直に褒められて、恥ずかしそうに返事をした。彼女自身があまり素直に褒められることに慣れていないのか、一回り声が小さく聞こえる。それでも雪穂は自分がμ'sに貢献できたことを嬉しく思っていた。

 そして、さっきまで諦め気味だった穂乃果は妹・雪穂の活躍によりやる気を取り戻した。穂乃果は立ち上がり、散らばっていた紙をそれぞれの所有者の前へ置き直す。

 

 

(どうやらお兄ちゃんの思惑通りになっているみたいだね)

(そうね。このままみんなで力を合わせればすぐに解けちゃいそう)

 

 

 既に問題が解けている楓と真姫は、穂乃果たちの邪魔をしない程度に茶々を入れながら話し合いに参加していた。ここまで来ればもうラストスパートだ。

 

 

「穂乃果は『高坂穂乃果』で数字が『2』だから、前から数えると『う』だね!!」

「ことりは『南ことり』で数字が『5』だから、『と』だよ♪」

「私は『園田海未』で数字が『4』ですから、『う』ですね」

「『小泉花陽』で数字が『7』だから……あっ、私は最後の『よ』だ」

「凛は『星空凛』で数字が『2』だから、『し』だにゃ!!」

「『西木野真姫』で数字が『6』だから、私も花陽と同じ最後の『き』ね」

「希ちゃんは『東條希』で数字が『2』だから、『う』ですね!!」

「『高坂雪穂』で『5』、ということは『ゆ』か」

 

 

 希の分は亜里沙が担当し、それぞれ自分の名前と紙に書いてあった数字と照らし合わせて自分の一文字を確定させていく。これで8枚の紙に対し8つの文字が出揃った。

 

 

現時点まとめ

 

穂乃果⇒『う』

ことり⇒『と』

海未⇒『う』

花陽⇒『よ』

凛⇒『し』

真姫⇒『き』

希⇒『う』

雪穂⇒『ゆ』

 

 

「もしかして、これを並べかえたら零くんのいる場所の名前になるのかにゃ?」

「う~んなんだろう?『うとうよしきうゆ』?どう並び替えればいいのかなぁ~?」

「こらこら、まだその文字って決まったわけじゃないでしょ?」

「楓ちゃん……他に何かあったっけ?」

「穂乃果がさっき自分で気づいてたでしょ?」

「……あっ、文字の大きさだ!!花陽ちゃんと雪穂の数字だけ大きさが、ほんの少しだけ小さかったんだ」

 

 

 実はこれで完全ではなく、まだ使っていないヒントがあったのだ。それは穂乃果が更衣室で気づいたことそのもので、他の6枚に書かれていた数字よりも、その2人の紙に書いてあった数字の大きさが少し小さい。

 

 

「待って下さい。花陽と雪穂の文字は『よ』と『ゆ』ですよね?平仮名で文字が小さくできるのは『や行』の文字列だけです。と、言うことは……」

「花陽ちゃんの『よ』は小さい『よ』で、雪穂の『ゆ』は小さい『ゆ』だね!!なんか穂乃果、賢くなった気がするよ!!」

 

 

現時点まとめ

 

穂乃果⇒『う』

ことり⇒『と』

海未⇒『う』

花陽⇒『ょ』

凛⇒『し』

真姫⇒『き』

希⇒『う』

雪穂⇒『ゅ』

 

 

「まだよ、まだ使ってないヒントがあるわ」

「それって、真姫ちゃんが気付いた小さな点々のこと?」

「おっ、いいね亜里沙その調子!!お兄ちゃんの姿を拝むまでもう少しだよ!!」

 

 

 まだ使っていないヒントとは、一部の紙には明らかに意図してプリントしたと思われる黒い点々が数字の右上に付けられていることだ。これは更衣室で真姫が見つけ、その時は訳がわからなかったので保留にしてきたが、平仮名に点々といえばもうアレしかない。これは残る全員が一斉に分かった。

 

 

「平仮名で点々と言えば、濁点しかないですね」

「点々が印刷されていたのはことりちゃんと凛ちゃんの紙だから、文字は『ど』と『じ』に変わるね」

 

 

 これで与えられたヒントはほぼすべて使い切った。ここでみんなはもう一度得られた文字を整理するため、ルーズリーフを取り出し丁寧にまとめていく。

 

 

現時点まとめ

 

穂乃果⇒『う』

ことり⇒『ど』

海未⇒『う』

花陽⇒『ょ』

凛⇒『じ』

真姫⇒『き』

希⇒『う』

雪穂⇒『ゅ』

 

 

「さぁ、あとは並べ替えるだけだね!!ことりちゃんは何か分かった?」

「う~ん、初めの文字が分かればいいんだけど……」

 

 

(もうここまで来たらいいよね?)

(これ以上時間がかかると練習にも影響するしね。いいわ、勝手にしなさい……)

 

 

 再び楓と真姫はアイコンタクトを取る。もうゴール直前までたどり着いたμ'sの背中をひと押しするため、楓が最後のヒントを与えた。

 

 

「最後のヒントは挑戦文が書いてあった紙。真姫の紙の裏に書かれていたのは適当じゃなくて、そこに書くことで意味があるからだよ」

「そこに書くことの意味……?」

「じゃあ亜里沙、よく考えてみて。お兄ちゃんがアホらしく書いたこの『No.0』を。そもそも『0』って数字の最初でしょ?それもどんな数字よりも先にある……」

「分かった!!最初ってことは、真姫ちゃんの紙の文字から始めればいいってことだね?真姫ちゃんの紙に零くんの名前が書かれていたから!!」

「なるほど、じゃあ『き』から始めればいいんだね?これなら凛でも解けそうだにゃ!!」

 

 

 すべてのヒントを使い尽くし、遂にゴール寸前となった。みんなは一斉にアナグラムを開始し、零が隠れている場所を探り当てる。一番初めの文字は『き』で、なおかつ学院にある教室か建物の名前だ。

 

 そして、全員の思考が同時に一致した。その場所とは……

 

 

「「「「「「「「弓道場だ!!!!」」」」」」」」

 

 

「やっと私のレベルに追いついたみたいですねぇ~~いや~遅い遅い」

「なんだかんだいって協力してたくせに……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おっせぇなアイツら」

 

 

 今日は弓道場が休みだっていうからこの場所を選んだのに、これ以上ここにいると不審者扱いされそうだ。決して備品を盗みに来た泥棒さんじゃないぞ。でも先生に話しかけられた時の言い訳は考えいていない。特に用もなくここにいるから怪しまれても不思議じゃないな。

 

 

「あっ!!零君発見!!」

「やっぱり弓道場で合ってたんだにゃ!!」

 

 

 ようやくμ'sの皆さんのご登場か。意外と時間がかかったな。これでも結構ヒントを散りばめたつもりだったんだが……

 

 

「その通り大正解だ。ご苦労さん!!それにお疲れ様、楓、その様子だと真姫もかな?」

「そうだよぉ~~遠回しにヒント出すの大変だったんだから!!」

「最後はかなり直接的だったけどね」

 

 

 結局みんなが一斉に解く前に問題が分かったのは楓と真姫だけか。それにこの2人、しっかりと俺がこの問題を出した意図にも気づいているみたいだ。

 

 

「これも穂乃果の天才的頭脳のお陰だね♪頭使いすぎて疲れちゃったよ」

「あなたはあまり役に立ってないですけどね」

「ヒドイよ海未ちゃん!!3年生になって一番頭使ったのに!?」

「まぁお姉ちゃんですし、仕方ないですね」

「うっ、最近雪穂が反抗期すぎるよ……」

「でも雪穂ちゃんはナイス推理だったよ♪」

「あ、ありがとう花陽ちゃん」

 

 

 ほぉ~う、雪穂がこの問題を解く手がかりを見出したのか。それは予想外だったが、俺が想定していた結果になったんだし別にいいか。

 

 

「全く、手の込んだことしてくれたじゃない」

「真姫……どういう意味だ?」

「とぼけてもダメよ。全部分かってるんだから」

「ふ~ん、じゃあ言ってみ」

 

 

「そもそもあなたはこの問題を私たちに解かせるのが目的じゃなかった。入部してからイマイチμ'sに馴染めていなかった雪穂を私たちの輪に入れようとしたんでしょ?だから問題に雪穂の名前を使ったのよね。そうすれば強制的に雪穂はその謎解きに参加しないといけないから」

「それがお兄ちゃんの狙い。みんなと一緒にこの問題を解くことで、雪穂にみんなと協力する楽しさを教えようとしたんでしょ?」

 

 

 まいったまいった!!流石μ'sのブレインの2人なことだけはある。

 昨日のミーティングの時も、雪穂はまだμ'sに馴染めず先輩にかなり気を使っていた。そもそも敬語を外す外さない以前に、雪穂は姉の穂乃果や親友の亜里沙以外の人に対して少し隔たりを作っているような感じがしたんだ。だからこの問題を立ち上げた。その狙いは今まさに真姫と楓が言ってくれた通りだ。

 

 

「零君……そこまで私のことを?」

「当たり前だ。μ'sの一員ということは、俺が守るべき大切な人だってことだからな。その人の悩んでいる顔なんて見たくなかったんだよ」

 

 

 とてもおせっかいだったかもしれない、とても俺の我が儘だったかもしれない。だけどやっぱりμ'sのみんなが悩んだり、葛藤したりしていたら積極的に手を差し伸べたくなっちまう。みんなにはいつも笑顔でいてもらいたいからな。

 それは雪穂だけではなく、新しくμ'sに入った亜里沙もそうだし、そしてコイツも……もう流石に自分の妹のあんな顔は見たくない。おっと、これじゃあシスコンと思われてしまう!!

 

 

「それでどうだった?みんなと力を合わせて謎を解いた感想は?」

「楽しかったです!!こんな感覚久しぶりかも……あっ、また敬語使っちゃった」

「別に慣れないならそのままでもいいぞ?亜里沙だって敬語抜けてないし、そもそも海未は敬語だしな」

 

 

 雪穂も亜里沙も礼儀正しい子だから、先輩に対して敬語が抜けないのも無理はない。むしろそれが彼女たちの持ち味で、彼女たちの特色だとしたらそれを無理に消す必要はないんだ。それに海未は常に敬語だし、花陽もよく敬語になるからこんなことを言うのは今更かもしれないがな。

 

 

「え~~私はぁ?」

「お前の辞書に礼儀なんて言葉はないだろ、この小悪魔め」

「あれれ、バレてた!?」

「バレバレだよ!!」

 

 

 このやりとりで一斉に笑いが起きる。スクールアイドルμ'sのメンバーでここまで一緒に笑ったのはこれが初めてだ。これなら雪穂は絵里たちとも一緒にやっていけそうだな。この俺が言うんだから問題ナッシング!!

 

 

「零君」

「ん?どうした雪穂?」

「あ、ありがとう!!私、みんなと一緒に力を合わせて頑張ってみるよ!!」

「そうか……俺も応援する。でも、何かあったらすぐに相談しろよ。お前は一人じゃないんだ。いつでもどこでも助けてやる」

「うん!!本当にありがとうございますっ!!」

 

 

 そして雪穂の満面の笑顔を見るのもこれが初めてだ。μ'sのメンバーはもう揃っていたけど、μ'sメンバーの『笑顔』はようやく全部揃ったな。俺の意図を読み取って、雪穂を謎解きの会話に引き入れてくれた楓と真姫にもあとでお礼を言っておこう。

 

 

 

 

 この前スタート地点に立ったばかりだが、もしかしたら今からが出発なのかもしれないな。

 

 

 

 

 よ~し!!ここからが、本当に本当の新生μ'sスタートだ!!

 




 一応ただの謎解き回じゃなくて、雪穂にとってはかなり重要な回となりました。小説中にもあった通り、ここからが本当の出発なのかもしれませんね。


 今回の問題はどうだったでしょうか?弓道場を選んだ理由はμ'sメンバーの名前を使い、かつ学校にありそうな場所ってそこしかなかったんですよね。特に『つ』を含む名前のメンバーが誰もいなかったので、『○○室』とできなかったのがとても苦労しました。


 次回からはまたドタバタ劇に戻ります。事前に『日常』の第29話、『神崎零の災難な1日』を読んで予習しておくと何かあるかもしれませんしないかもしれません(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神崎零の災難過ぎる朝

 最近ラブライブの小説が増えてきて、私も色々と読みあさっているのですが、その度にこの小説って他の方のラブライブ小説よりかなり異質な気がしてなりません(笑)


 

 

『今日の運勢、第一位はいて座のあなたです!』

 

 

 たとえ占いに全くの興味がなくても、朝の情報番組で2、3分流れる星座占いを見てしまう人は多いのではないだろうか。朝食を取りながら見る人もいれば、出かける身支度をしながら見る人、それも終わって家を出る時間まで多少ウトウトしながら見る人もいるだろう。特に暇ではないが、忙しくもない。ついつい他事をしていてもチラッと見てしまうのが、朝の占いというものだ。

 

 

「一位だ……」

 

 

 俺も希の占いをバカにするぐらい興味ないが、パンをかじりながらついついそこだけは見てしまう。自分の星座が上位に君臨すれば、少しだがホッと安心する。説明はできないが、微妙な嬉しさがこみ上げてくるのは俺だけか。

 

 ちなみに俺はいて座で今日の占いは1位であった。

 

 

『いて座のあなたは、想っている異性に向かって行動するチャンス!あなた自身を存分に見せつけて、異性のハートをぎゅっと鷲掴み!ただし突然のハプニングにはご注意を!』

 

 

「うさんくさ……」

 

 

 元々占いコーナーの時間自体が短いのは分かるが、曖昧なことを言ってお茶を濁すのは止めてもらいたい。だが朝の占いコーナーなんて家を出る頃にはだいたい忘れているのがオチである。

 

 

「着替えよ……」

 

 

 少しウトウトしながらも、朝食を食べ終える頃には自分の占い結果など記憶の彼方で……

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 あれ?これってなんかデジャヴ?前にもこんなことがあったような気がするし、ほぼ同じセリフを喋ったような気もする。しかも今日の『異性のハートをぎゅっと鷲掴み!』ってやつ、もう既に俺は穂乃果たちのハートを掴んでいるから関係ないな。ハプニングが起きることもないだろう。所詮占いは占いだ、当たる方がどうかしている。

 

 眠くてそんなことを考えるのもメンドくさくなったので、とっとと2階に上がり自分の部屋へと直行する。眠気でウトウトしながらも、部屋のドアを開け放つ。すると――――

 

 

「な゛っ!?」

「お、お兄ちゃん!?た、食べ終わるの早いね……」

 

 

 そこには俺のベッドで寝ている楓の姿があった。しかも俺の枕に顔を埋めて……

 こういう時ってどうしたらいい?自分の妹が兄の枕をクンカクンカしている姿を見てどう対処すればいいのか、最良の選択を教えて欲しい。

 

 

「着替えるから出て行け……」

「えぇ~!?い・や♪」

「相変わらずウゼェな……いいから出て行け!!」

「きゃあっ!!」

「な、なにぃ!?!?」

 

 

 ミノムシのように布団にくるまっていた楓から衣を抜き取ったら、そこには衝撃的な姿が映し出された。

 下着姿ってお前……俺の布団と枕でナニをやっていたんですかねぇ……!!

 

 

「きゃぁ~!!お兄ちゃんのエッチぃ~!!」

「うるせぇ!!妹のそんな姿を見ても興奮しねぇよ!!とっとと着替えて出て行け!!今日お前日直だから早く家を出るって言ってただろ!!」

「くそっ!!日直なんて亜里沙に押し付けてくればよかったよ!!」

「やめろやめろ」

 

 

 使えるものは友達でも使う、それが楓クオリティだ。

 それにしても容姿端麗、スタイル抜群なだけあって下着姿は中々様になっている。これが妹でなければ今ここで襲っただろうがな。

 

 

 ん?これってもしかして朝の占い効果?でも今回俺は何もしていないけど……もう俺クラスになると勝手に向こうからハプニングが舞い込んでくるのかもしれない。もしかしたらちょっぴりアレな展開も訪れるのではないかと予想しちゃったり、しなかったり。何なら『R』指定の展開でも構わんぞ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 朝から一騒動ありバッチリ目が覚めた俺は、一人でトボトボと登校をしている。春というのは『暖かい』というイメージが強いが、意外と天気が崩れやすく気温の変化も大きい季節だ。特に今日は最近の中ではかなり寒く、雲が俺たちと青空を遮断している。遂に春も反抗期に入ったか。

 

 

「あっ、零君じゃん!!おはよう!!」

「おはよう零君」

「穂乃果に雪穂か、おはよう。お前ら朝から元気だな」

 

 

 俺の家と穂むらが近いこともあってか、登校時はコイツらとよく出会う。いつもなら大抵楓もいるため、穂乃果と合わさり朝からうるさいことこの上ない。朝ぐらい俺もゆっくりしてぇよ……

 

 

「おい穂乃果、そんなに走ると危ないぞ」

「大丈夫大丈夫……って、うわぁ!!」

「ちょっ!?お前!!」

「あうぅっ!!」

「いてっ!!ほら言わんこっちゃない!!」

 

 

 案の定穂乃果はつまずいて転んでしまったが、何とか俺が下敷きとなったため地面との接触は逃れられた。ていうかいきなりハプニングが舞い込んできたんですがそれは……

 

 

「イタタ……ありがとね零君。下敷きになってくれて……え?」

「ん……?あっ……」

 

 

 あっ、この柔らかい感触はあれだ、穂乃果の"ほむまん"だ。なんて下ネタみたいなこと言っている場合じゃねぇ!!俺は穂乃果を受け止めようと両腕を前に出してそのまま倒れてしまったため、穂乃果の胸を両手で鷲掴みにしていたのだ!!

 

 これは……触り続けよう。

 

 

「あっ、零君ダメだよ……」

 

 

 て、抵抗されない……むしろもっとやって欲しいかのように恍惚な表情で俺を見つめてきやがる。くそっ!!そんな目で見られたら俺も引けねぇじゃん!!そうだよ!!俺たちは恋人同士なんだ!!弄り合って何が悪い!!

 

 

「……ん?殺気!!」

 

 

 隣から尋常ではないほどの殺気を感じたため、俺は首を顔1つ分横へ動かす。その瞬間だった、耳元で地を揺さぶる衝撃音が聞こえたのは。

 

 

「チッ、外しちゃった……」

「ゆ、雪穂……さん?」

 

 

 俺の顔のすぐ横には雪穂の靴があり、地面との接触面からは煙が上がっていた。雪穂の踏みつけ攻撃は道路にはヒビが入るほどの威力なのか……?さっきもの凄い音がなったけど、もしかして雪穂って人間辞めてる?

 

 

「惜しかったなぁ~、もう少しで鼻の高さがマイナスになる人の顔を拝めたのになぁ~」

「こえぇよお前!!」

 

 

 雪穂のツッコミスキルは前回の一件以降より鋭くなっている。特に俺に対するツッコミは容赦がなく、海未同様の制裁を加えてくることもしばしば。こうなるんだったらクイズなんて出さなきゃよかった……

 

 

「れ、零に穂乃果!?何をしているんですか!?」

「ま、まさか2人ともこんなところで……きゃぁ~~大胆♪」

 

 

 とてもバッドタイミング!!海未とことりまでやって来てしまった!!

 海未は相変わらずこのようなことに耐性がないのか顔を赤面させているし、ことりに至ってはまた妄想の世界に入り込んでしまっている。制止役の海未が来てくれたことに喜ぶべきか、ことりの妄想に巻き込まれることに恐怖するべきか、どちらのせよカオスな状況になることは間違いない。

 

 

「あっ、海未ちゃんにことりちゃん、おはよ~」

「『おはよ~』じゃありません!!どうして零の上に跨っているのですか!?」

「ちょっとドジっちゃって……アハハハ……」

 

 

 それでもなお俺から離れようとはしないんだな。恋人として嬉しいのやら、このままだとまた制裁をもらいそうで悲しいのやら……

 雪穂もさっきから冷たい目で俺を見下してくるし。もっと後輩から慕われるような先輩になりたいものだ。もう遅い?

 

 

「零君もいつまでもそんなところで寝てないで早く起き上がりなよ」

「そう思うなら、まずお前のお姉ちゃんを引き剥がしてくれ……」

「ほら、お姉ちゃん!!零君が困ってるよ」

「えぇ~離れちゃうの~?」

「じゃあこの続きはまた今度な」

「わ~い♪」

 

 

 穂乃果は可愛い!!(確信)

 今突発的に続きとか言っちまったけど、この先って何をすればいいんだ?もしかして男女の営みってやつか。まさか高校生でそんなことを……

 

 

 そこで俺はなんとなしに穂乃果を眺めた。

 

 

「ん?」

 

 

 ぐふぅっ!!キョトンとした顔で首をかしげている穂乃果が可愛すぎて萌え死にそうだった。首を傾けた時に自慢のサイドポニーが揺れるのも可愛い

。もう営んでいいんじゃねぇかこれ!!海未や雪穂がいなければ、俺は間違いなく穂乃果に飛び込んでいただろう。

 

 

「いいから早くそこから離れる!!」

「ちょっと!!首根っこ掴むな!!分かった分かった!!」

 

 

 雪穂は俺の首根っこをガシッと掴み、そのまま横たわっていた俺をグイッと持ち上げた。

 コイツのどこにそんな力があるんだよ!?やっぱり人間辞めてるじゃん!!

 

 

「さっきの続きとは……一体どういうことです?」

「え゛っ!?さ、さぁな」

「とぼけても無駄ですよ。この耳ではっきりと聞きましたから」

 

 

 YA・BA・I!!以前海未からプライベート以外では健全なお付き合いをするように言われたばかりだ。つまりこれだけ女の子と密着し合うのは完全にアウト!!しかも胸まで触ったとコイツに知られたら……

 

 

「零君がさっきまでお姉ちゃんの胸を触っていました」

「オイ雪穂ォ!!なんで言っちゃうんですかねぇ!!」

「零君は一度反省した方がいいよ」

「ドS過ぎる!!そんなに俺が痛み付けられるところを見たいのか!?」

「見たいですよ、変態にはいい薬ですからね♪」

「あっそう……」

 

 

 やっぱり雪穂はドSだった!!しかもニヤニヤしやがって……明らかに俺で遊んでいるだろコイツ。いずれ、いずれ絶対雪穂を快楽の底に沈めて弄んでやる!!俺の復讐は怖いぞ!!

 

 

「零、覚悟はいいですね?約束を破った罰はしっかりと受けてもらいますから」

「そうはいくかよ、俺には奥の手があるんだ」

「奥の手……?」

「ことり!!助けてくれぇ~!!」

「――ってことり頼りですか!?」

 

 

 このような戦争が起きた時は大体大天使ことり様が助けてくれるんだ!!むしろ助けてもらわなければ困る!!久々に"いつものオチ"で終わりそうだからな!!

 どうでもいいけど、『久々に』と『いつもの』って矛盾してるよね?

 

 

 それはさておき、雪穂に首根っこを掴まれたままの俺は身体を捻って雪穂の拘束を解き、そのままことりの方向へ向き直る。だがそんなその一連の行動に俺の身体が着いて来ず、俺は自分の脚をもう片方の脚に引っ掛けてしまった。

 

 

「うわっ!!」

「れ、零くん!?」

 

 

 今度は俺がことりに向かって倒れ込んでしまう。しかしことりの柔らかいクッションのお陰で俺たちは地面に倒れることはなかった。あれ?柔らかいクッション?ことりって枕なんて持ってきてたっけ?合宿にはマイ枕を持参していたのは知っているが、学校に持ってくるものではない。じゃあ俺の顔に当たっているこの柔らかいモノはもしかして……

 

 

「零くんとても大胆だね♪」

「こ、これってことりの……」

 

 

 穂乃果よりも大きいことりのクッションのお陰で何とか命拾いした。

 それにしてもことりのクッションは柔らかい。このままこのクッションで眠りたいぐらいだよ。もうこの話はこれで終わっていいですか?ダメですか、はい……

 

 

「きゃっ!!零くんくすぐったいよぉ♪」

「じゃあもっと顔をうずめてやろう!!こんなけしからん胸をしやがって!!」

「きゃぁ~♪」

 

 

 これ傍から見たら明らかに犯罪者なのではなかろうか?今まさに海未や雪穂に通報されるだけで人生が終わってしまうような気がしてならない。ことりもことりでかなり乗り気だし、このまま突っ切ってやろうか?

 

 

「いいなぁ~ことりちゃん。穂乃果も零君の枕になりたいよ」

「その発言は色々と危ない気がするぞ……」

「カモン零君!!穂乃果も枕になってあげるよ!!」

「ダメぇーー!!零くんの枕になるのはことりだもん!!」

「ことりちゃんばっかズルいよ!!零君は穂乃果たちの共有財産だよ!!」

「ちょっと待て、せめて人扱いしれくれ」

 

 

 たまにあるんだよな、穂乃果とことりが俺を奪い合うことが。そこでプチ修羅場になるのだが、大概海未に止められて有耶無耶にされてしまう。そして犠牲になるのは何故か毎回俺。俺なら殴ってもいいという風潮をまずどうにかしたい!!

 

 

「ねぇ海未ちゃん」

「何ですか雪穂?」

「毎回こうなるの?」

「えぇ、穂乃果とことりが争うこともたまにありますね」

「これは誰が悪いの?」

「とりあえず、零のせいにしておけば問題はありません」

 

 

「待て待て待て!!聞こえてるからな!?淡々と会話してるけどぜぇーーんぶ聞こえちゃってるから!!」

 

 

 さっきのに加えて、全部俺のせいにしておけばいいという風潮もどうにかしたい!!

 海未と雪穂は、影で俺の命を狙っているかのように淡々と会話を繰り広げていた。これではいつW制裁が来てもおかしくはない。この状況を切り抜けるには……

 

 

「穂乃果!!ことり!!なんとか……」

 

「いつまで零君の枕になってるの!!穂乃果も零君を抱き枕にしたいよ!!これから常時携帯するぐらいにはね!!」

「ダメダメ!!いくら穂乃果ちゃんでも渡せない!!このまま零くんを持ち帰って、一生ことり専用抱き枕にするんだもん!!」

 

 

 さっきからこの2人の会話がスゴイことになっているんですけど……むしろスゴイというか怖い。『常時携帯』とか『一生』とかヤンデレじゃないんだからそんな恐怖を煽るような発言はやめてくれ!!冗談、だよね……?

 

 

「じゃあ零君に決めてもらおうよ!!ねぇ零君!!」

「な、なんだよ!?」

「穂乃果の胸とことりちゃんの胸、どっちが気持ちよかった?」

 

 

「「「はぁ!?」」」

 

 

 これには俺だけでなく海未と雪穂も同時に驚いた。

 何を言っているのでしょうかこの穂むらの娘さんは?どっちが気持ちよかったって?そりゃあどっちも気持ちよかったに決まってる。ことりの柔らかなクッションみたいな胸もよかったが、穂乃果の胸の揉み心地もよかった。決められねぇよそんなの!!ここでバシッと決められたら、そもそも9股なんてしないだろ!!

 

 

「零くんどっち!?ことりたちに気を使わなくてもいいんだよ!!」

「そんな簡単に決められるわけ……」

「「決めるの!!」」

「はい……」

 

 

 これってどっちか選んだらもう一人の方は確実に不幸になってしまう。俺としては彼女たちのそんな顔は見たくない。だけどどっちか選ばないと海未と雪穂から制裁をもらう前に、穂乃果とことりから何かされてしまいそうだ。考えろ……どっちも幸せにしてあげられる方法を。

 

 

「もうその辺りにしておきましょう。下手をしたら零が暴走してしまいそうですしね」

「零君ってこんなに変態さんだったんですね……」

 

 

「ちょっと黙っててくれないか貧乳組!!俺は今穂乃果とことりを同時に幸せにする方法をだな……」

「…………」

 

 

 あれ?俺さっきなんて言った?しかも何かが切れた音がしたような。正確に言い換えるなら『キレた』と文字を変えるのが適切か。

 自分の思考と神経をこの状況打破のためにすべて注いでいたため、海未と雪穂に対する言葉が突発的なものになってしまった。だが時すでに遅し……このキレた音は間違いなく、その2人のものだ。

 

 

「…………」

「…………」

 

「お、お二人さん?何か喋ってもらわないとこちらも対応が……」

 

 

 海未と雪穂の表情は、前髪で隠れて全く見えない。それがますます俺の恐怖を引き立てる。

 そしてもうここは戦場なんかじゃない。一歩的な殺戮が行われる処刑所と化した。自分でも俺自身が絞首台への階段の一歩一歩を辿っているのが分かる。

 

 

「穂乃果、ことり……助けて……ってなんでそんな遠くにいるの!?裏切ったな!!!!」

 

「あーもう学校に遅れちゃうよーー」

「今日も楽しい一日になるといーねー」

 

「棒読みすぎるだろ!!何しれっと2人だけで登校しようとしてるんだ!?俺を無視すんな!!」

 

 

 アイツら……海未と雪穂のブラックオーラに怖気づいて逃げやがった!!さっきまで喧嘩してたんじゃねぇのかよ!!もう仲良く話してるし!!俺のことは完全無視かそうなんですね!!

 

 

「じゃあ俺も学院に行こうかな……」

「待ちなさい……話はこれからですよ」

 

 

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!

 海未に掴まれている肩の骨が今にも破壊されそうでもの凄く痛い。今2人がどんな表情をしているのかは分からないが、それを確かめるために後ろを向いたら最後、命はないかもしれない。

 

 

「海未ちゃん……よくこんな先輩と付き合ってるね」

「全くどうしようもない人で困ってますよ。これは彼女として、徹底的に彼氏を更生させる必要がありますね」

「私も参加していい?」

「いいですよ。雪穂もこれを機会に零を痛みつける快感を覚えるといいです」

 

 

 明らかに『更生』=『殺戮』となってやがる!!逃げようとしても海未が肩を掴む力は凄まじく、一歩たりとも動くことができない。だがヤンデレとなったみんなを救い出したのはこの俺だ。こんな状況、あの頃に比べたら屁でもない!!今から誰も傷つかずに終わる方法を実践してやる!!

 

 

「ひ、貧乳だって需要はあるさ……」

「一応遺言として聞いてあげましょう」

 

 

「俺が揉んで大きくしてやることで、胸の成長過程が楽しめるだろ?大きくなるならお前らもハッピーじゃないか!!そして俺も役得役得で両方幸せに……」

「最低ですね……最低」

「終わりなら、もういいですよね?」

 

「へ?」

 

 

 

 

 そして、俺の命がまた1つ散っていった……。

 

 

 貧乳でも別に気にしないのに……。

 

 

 

 

「まだ言いますか!!」

「聞こえてんのかよ!?!?」

 

 




 恋人同士になったんだからできるネタもある!!そう思っていたのですが、結局いつものオチに収束してしまいました。どこかの「いちゃこら」している平凡君みたいに自然な流れでイチャイチャできればいいんですけどね(笑)

 折角9股告白でハーレムを築いたのだから、そのようなネタもいずれは?そういえばこの小説以外にも9股告白した小説があるとかないとか……是非これを機に探してみてください。9股告白なんて最低ですね!!(自虐)



 以下は全くもって蛇足です。今まで温めていた零君設定集となります。シリーズ累計130話にもなりますから、設定だけでなく文字数がかなり多くなったので暇な方だけどうぞ!!ちなみにシリアスを避けたい方のため、これを読めば『非日常』を読んだ気になれます(笑)


~登場人物紹介:その1~


神崎零(カンザキ レイ)

 『日常』『非日常』『新日常』の主人公。『日常』『非日常』では高校2年生、『新日常』では高校3年生。学院廃校の知らせを受け、たった一人でその解決策を考えていたところに、同じく廃校阻止のために動いていた穂乃果たちと意気投合する。それからスクールアイドルとして活動する穂乃果たちのサポートにあたることになった。

 学業は優秀で、海未や真姫に勉強を教えることができるほど。運動神経抜群、容姿端麗で周りからも評価されるほど完璧な人間で、零自身もそれをよく自慢する。だが性格にはそれをも覆すほど難がある。

 性格は自分でも認めるぐらいの『変態』であり、特にμ'sメンバーに対して容赦はない。だがあくまで紳士的に振る舞うことを信念にしており、彼女たちが本気で嫌がることは絶対にしない。しかし感情が高ぶったときはかなりドSになり、相手が拒否してでも無理矢理手を出す外道っぷりも垣間見える。

 特技は女性のスリーサイズを瞬時に見極めること。これによりμ'sのメンバーはダイエットをせざるを得ない。また記憶力がよく、知識の海と言われるほど様々なことに精通している。例えば弓道部員の海未とほぼ同じぐらい弓道の知識があるなど。さらに咄嗟の判断力や、みんなをまとめるカリスマ性も目を見張るものがある。

 趣味はμ'sのメンバーを弄ぶことと写真を撮ること。本人は記念撮影や思い出と偽って穂乃果たちの写真を撮っているが、明らかに違う用途で使用されている。また極度の妄想グセがあり、妄想が限界に達すると口から言葉として漏れてしまう。それが原因で幾度となく制裁をもらっている。

 家族に姉(神崎秋葉)と妹(神崎楓)がいるが、それぞれ癖の強すぎる性格なため彼曰く、この世で一番会いたくない人たち。零が恐れる唯一の存在である。

 行動派な性格のため、『彼に任せておけばすべてが上手くいく』と言われるほど。その言葉を証明するように、μ'sメンバーが落ち込んだり葛藤したりしたときは必ず手を差し伸べ、彼女たちを導いてきた。μ'sのメンバーを集めたのは実質彼である。穂乃果たちにとってはそれが心の支えとなり、μ'sとして活動する気力の1つでもある。

 そのことからμ'sのメンバー全員から好意を向けられるが、当初は彼女たちから自分に好意を向けられることには慣れておらず、アプローチを仕掛けられても一部曖昧な対応で切り抜けていた。

 そんな完璧と称される彼だが、その性格がゆえ何事にも首を突っ込んでしまう。μ'sメンバーの心に勝手に入り込み、引っ掻き回したせいで彼女たちの恋心を歪んだものにしてしまった。それがμ'sメンバーをヤンデレ化させてしまう要因となる。

 ヤンデレ化した穂乃果たちは零を巡って互いに争い合い、それはまさに殺し合いであった。しかし零は自分の犯した過ちを反省しながらも彼女たちを一人、また一人と救い出し、死者・重症者が0という快挙を成し遂げる。

 その途中、この事態に陥った原因は自分だということに葛藤し、自分の身体が傷ついてでも仲間を助けるという捨て身の精神を持ってしまう。みんなを助けたいという想いだけが先行し、自分自身を殺してμ'sだけを守るロボットのような存在になってしまった。そのせいで彼から笑顔が消えてしまったが、今度は彼に助けられた穂乃果たちに助けられ、彼も再び笑顔を取り戻す。その一件以降は『μ'sは自分が引っ張っていく』のではなく、『自分を含めたみんなで引っ張っていく』ことを決意する。それと同時に穂乃果たちへの想いを改め直し、なんと9人同時全員に告白する。だが穂乃果たちはすんなりとそれを受け入れ、μ'sのメンバー9人全員と恋人関係になる。

 進級後、欠員となった新生μ'sのメンバーを集めることにも貢献。μ'sを見下していた楓や周りに馴染めない雪穂を、μ'sというグループがなんたるかを教える形で導いた。ちなみに雪穂と亜里沙が正式なμ'sのメンバーになったことで、セクハラの対象が彼女たちまで拡大した。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私はあなたを想って、夜な夜な一人でヤっちゃうの

 タイトルに釣られてこの話を読もうとしている方、この話ではその想像力を存分にお使いください!!

 そして本当にラブライブのキャラが好きな人は読まない方がいいと思いますよ……タイトル通り割とブッ飛んだ内容になっていますので。


 

 

「クソ野郎……アイツまた俺にイタズラしやがったな……」

 

 

 もう何度目か分からない、史上最悪の姉にまたしてもイタズラをされてしまった。朝起きたら俺にメガネが装着されている。以前にも同じようなことがあり、その時はまさかの爆発オチで近所の人から不審がられる事態にまで陥ってしまった。

 

 

「例のごとく外せないわけね……」

 

 

 どれだけメガネを動かしても絶対に外れない謎の構造にため息を付きながらも、毎度毎度のことなのである意味で慣れてしまっている。こんな日常に慣れてしまうとは相当毒されているな、俺。こうして冷静に物事を対処できるようになったのも、すべては神崎秋葉とかいう害悪人間から散々オモチャにされたお陰だろう。今まさにアイツの不敵な笑みが頭に思い浮かぶ。ああ憎たらしいっ!!

 

 

「このメガネ、無駄にカッコいいのがムカつくな。ダサイよりかは全然マシだけどさ……」

 

 

 俺に掛けさせるメガネということでアイツもある程度勉強しているのか、鏡で自分の顔を見てみると意外と似合っている。周りから見ればごく普通の一般的なメガネにしか見えないが、俺にとっては核兵器のような恐怖の代物だ。またいつ爆発するか分からんぞ……

 

 

 するとここで突然、ピピピッと謎の音が聞こえてきた。

 

 

「ん?メガネから音が……またレンズに文字を映し出す機能を付けてんのか」

 

 

 アイツのことだ、この音も俺にしか聞こえないように調整されているのだろう。どうしてそこまでの技術があるのにも関わらず、毎回俺で遊ぶんだよ……天才っていうのはよく分からん。

 

 なんて考えている間にレンズに文字が表示された。

 

 

『やっほー☆やっと起きたね♪お姉ちゃんだよ~♪』

 

 

 ウゼェ……文字だけで秋葉のウザさがヒシヒシと俺に伝わってくる。

 それよりこのメガネ、起きている人間と寝ている人間を識別できるのか……そこは素直にスゴイな。

 

 

『このメガネは零君が好きな女の子が、先週何回自分磨きをしたのか分かるようになるんだよ♪』

 

 

 じ、自分磨き!?!?恐らくコイツが言いたいのは『自分磨き(意味深)』ということだろう。つまり何が言いたのかと言えば……夜ベッドの上で一人でアレをすることだ。

 

 

『これで穂乃果ちゃんたちが零君のことを想って、夜ベッドの上で一人エッ○をしていたのか丸分かりだね♪やったねこのモテ野郎!!』

 

 

 アウトォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 伏字になってなかったらこの話はこれで終わってしまっていたからある意味ではセーフかもしれないが、やっぱりアウトだコレ!!あの穂乃果たちが一人で!?そんな馬鹿な!!しかも俺なんかでそんなことを……ちょっと見てみたいかもしれないと思ったのは内緒にしてくれ。

 

 

『ちなみに全員分確認するまで外れないようになってるからヨロシク☆それに学院に行かないとか、邪道な選択肢を取るとすぐに爆発するからね♪』

 

 

 また面倒なことに巻き込まれてしまったが、さっきも言った通り気になってはいる。あの穂乃果たちが、あのキラキラした笑顔の穂乃果たちが、どれだけ俺を妄想で使ってくれているのか割と興味が出てきた。

 これが変態ゆえの考えなのか?いや!!男だったら当然の考えだ!!まぁ男は全員変態だから、俺のこの考えも普通だろう。

 

 

「とりあえず学校に行くか……不本意だけど」

 

 

 この秋葉の手のひらの上で踊らされている感じが非常に腹が立つ!!でも今回だけは許してやろう!!俺も興味があるからな。怖いのは爆発オチになることぐらいだろう。

 

 

 本日日直の俺は楓を置いて家を出た。どちらかといえば、このメガネで楓の自分磨きの回数を見たくないというのが本音なのだが……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 自分磨き、秋葉の言葉で言えば一人エッ○、俗に言うオ○ニーなのだが、そんな汚らわしくも至高な行為をμ'sのメンバーの中でやっている奴なんているのか!?気になるところであるが、とてつもなく犯罪臭がしてならない。特に花陽や亜里沙など純粋無垢な子に至っては、その回数を見るのも恐れ多い。

 

 そのため誰の回数も確認できずに昼飯の時間になってしまった。また周りからは俺がメガネをしているのが珍しいのか、よく話し掛けられる。その時は『イメチェンだよ』と言ってテンプレ化しておいた。

 

 

「零君お昼ご飯食べようよ!!今日は穂乃果がお弁当作ってきたから!!」

「そ、そうだな……」

 

 

 そろそろ確認したほうがいいのか?いつかはこのメガネのボタンを押して、穂乃果たちの自分磨きの回数を確認しなければならない。俺はまた犯罪者への道を一歩踏み出してしまうのか……

 

 

「どうしたの?もしかしてお腹空いてないの?」

「空いてるよ!!いつもお腹ペコペコ魔人のお前と一緒にすんな!!」

「そんなことないもん!!それを言うなら花陽ちゃんの方が食べてるよ!!」

 

 

 それはそれでどうかと思うぞ……ていうか本人がいないところで何言ってやがる!?

 そんなことは置いておいて、もう確認しよう!!決心した!!いざ確認するとなると罪悪感が半端ではないが、俺もいつまでもこんな爆発しそうなメガネを着けていたくはない。自分の身体にダイナマイトを装着しているようなものだからな。

 

 

 よし、押そう……。

 

 

 これで遂に穂乃果が先週行った自分磨き、言い換えれば一人エッ○、俗に言うオ○ニーの回数が暴露されるぞ!!

 

 

『高坂穂乃果:2回』

 

 

 に、2回もやっているのか……妙に現実的な回数で思っていたよりも衝撃は少なかったが、彼女たちのプライベートを覗いているようで興奮はしてくる。それよりもこれ反応に困るんですけど!!

 

 2回ってことは3、4日に1回か、まぁ妥当なところだな。女子高校生が週に平均何回自分磨きをするのか、なんてものは知らないから何とも言えないが……

 

 

「早く食べてしまいましょうか。生徒会の仕事も溜まっていますし」

「そう言えばそうだったな。でも俺は生徒会役員じゃねぇぞ」

「えぇ~!!ことりたちと一心同体で頑張るって言ってくれたのに~!!」

「あれぇ~記憶の改ざんが行われているような気がするぞ……」

 

 

 海未とことりも俺の席にやって来た。

 もうやっちまったのなら仕方がない!!コイツらの回数も白日のもとに晒してやる!!もうここまで来たら帰ることはできないからな!!

 

 

『園田海未:1回』

 

 

 い、1回!?正直言って海未のことだから、自分磨きなんて無縁なものだと思っていた。でも俺のことを想って自分磨きに浸っている海未を想像すると……ヤバイヤバイ鼻血ものだぞこれは!!

 

 さぁ次は……

 

 

『南ことり:7回』

 

 

「ブッーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「な、なに!?汚いよ零君!!」

「どうしたのですか!?急に吹き出して!?」

「とりあえずお口拭こう?」

 

 

 ことりは"自分"のハンカチで俺の口を拭ってくれた。そのハンカチは頬っぺを突っつき合った時と同じものだ。そしてそっとポケットに入れやがった。まさか、それを夜な夜な使うんじゃねぇだろうな!!

 7回ってお前……1日1回やってるのか。嬉しいけど複雑な気分だわ!!あのことりが……大天使のイメージが……いや、このメガネが不良品である可能性に賭けよう。大天使がそんな俗に塗れたことをするわけ…………あるかも。今のことりならば……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「いやぁ~、これは意外にもショッキングだな……」

 

 

 昼飯を食べ終え、生徒会仕事から逃げてきた俺は中庭まで来ていた。とりあえず緑に囲まれて、俺の俗に塗れた心を浄化してもらおう。これだけショッキングな出来事が続くと、全員分確認をするまで心が持たないような気がしてきた。

 

 

「あっ、零くんだにゃ!!今からお昼ご飯?」

「凛!?花陽も真姫も……お前らこそ今から?」

「さっきまで体育の授業だったから、片付けや着替える時間で遅くなっちゃたんだ」

「4時間目に体育はやめて欲しいわよね」

「そうか、そりゃあご苦労さん。流石に俺はもう食べちまったよ」

 

 

 もちろん俺の彼女であるこの3人も確認の対象に入っているだろうな。凛と真姫の回数ならまだ抵抗なく見ることはできそうだが、花陽の回数は正直言って見たくない。俺の天使たちが次々と秋葉によって汚されていくのは勘弁だからな。

 

 

「れ、零君どうしたの!?私の顔に何か付いてる!?」

「い、いや別に!!ただ可愛いなぁって思ってさ」

「ふぇええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」

 

「今日はいつにも増して『え』の数が多いにゃ」

「あなたいつも数えてるの……?」

 

 

 今にも沸騰しそうな花陽は置いておいて、先にこの2人から見てみよう。もうさっきの穂乃果たちである程度の耐性は付いたから、多分取り乱すことはないと信じたい。

 

 

『星空凛:1回』

 

 

 なんか……すごく安心した!!あの中身が乙女チックな凛が自分磨きをやっていることにも驚きだが、それ以前にことりの衝撃が大きかったため凛の数字が健全な数字に見える。

 でもあの凛がねぇ……やっぱり彼女も女の子だったってわけだ!!凛の想像に俺を使ってもらえて少し誇りに思える。

 

 そして次は……

 

 

『西木野真姫:3回』

 

 

 おぉう……結構ヤってるのねお嬢様。意外とこういうことに無縁そうに見える奴ほど案外性欲が強いもんだ。割とキスも積極的だしな。やっぱり普段μ'sの練習だけでなく作曲も忙しいから、こういうこと手を出しちゃうものなのかもねぇ……

 もちろん驚きの数字ではあるが、やっぱりことりがな……真姫も相当だけど。

 

 

 そして次は花陽だ。これも俺が背負っている爆弾を取り除くためなんだ、許してくれ!!

 

 

『小泉花陽:0回』

 

 

 俺は思わず二度見した。え!?なんて書いてある!?ぜ、0回……?

 

 き、来たぞ!!天は俺を見放さなかった!!やっぱり花陽はどこまで行っても純潔の天使様だったんだ!!心でガッツポーズをするとはまさにこのことを言うのだろう。これほど嬉しさが込み上げたのはμ'sのラブライブ優勝の時以来かもしれない。ラブライブと天秤に掛けるのはどうかと思ったが、それほど花陽が純潔でいてくれて舞い上がってしまうのだ。

 

 

「じゃあ諸君!!俺はもう行くから!!アデュー!!」

 

 

 いや~!!清々しく気持ちいい!!やっぱり心配することなんてなかったじゃん!!このまま雪穂たちや絵里たちも確認し終えて、こんな忌々しいメガネとはオサラバしようじゃないか!!

 

 でもこうしてみると、ことりが段々と堕天使化してなくもないような……

 

 

「あっ、零君行っちゃったね」

「なんかテンションが変に高くて気持ち悪いにゃ……」

「まぁ、零がおかしいのはいつものことでしょ」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 こんなに気分が高揚したのは初めてかもしれない。気づけば俺は再び校舎の中に戻り、特別教室棟付近をウロウロとしていた。ここに来た理由は特にないが、身体が軽く今にもフワフワ飛んで行きそうなぐらいだ。人生の楽しさという悟りを開いてもいいかもしれない。

 

 

「お兄ちゃ~~ん♪」

「来やがったな害悪……」

 

 

 この一言で俺の高揚した気分が一気に地の底に落ちる。今一番会いたくない最悪の人物に会ってしまった。

 楓が入学してからというもの、家でも学院でもコイツの恐怖に晒されるので毎日気が重い。せめて学院内だけでもブラコンの発動を無効にできればいいのだが。俺にはこの嵐を止めるほど、体力は有り余っちゃいない。

 

 

「零くん?どうしてこんなところに?」

「亜里沙と雪穂もいたのか。俺は暇だから適当にふら~っとね。お前らは?」

「折角だから、この学院でまだ行ってないところを探検しようって楓と亜里沙が……」

「相変わらず2人に振り回されてるんだな……」

 

 

 家では穂乃果にこき使われ、学院では楓と亜里沙に振り回され、練習では俺にセクハラされ……ちょっとは雪穂を労わってやれよ!!穂乃果!!楓!!亜里沙!!

 

 

「なぁ~んだ、私の匂いを嗅いでここまで来たんじゃないのかぁ」

「そこまで俺の嗅覚は犬化していない」

 

 

 さっきからこのメガネのレンズ……という名の画面に小さく『6』という文字が映し出されている。真姫たちに会うまでは『9』だったから、この数字は確認しなければいけない人の残り人数なのだろう。そもそも亜里沙や雪穂は俺のこと好きなのか?特に亜里沙は花陽と同じ理由であまり回数を見たくない。あの亜里沙が自分磨きをしているなんて……ゴクリ。

 

 しょうがない、じゃあ雪穂から……

 

 

『高坂雪穂:0回』

 

 

 だよねぇ~~~!!雪穂って俺のこと目の敵にしてるもんね!!なんか自分で言うとすごく惨めな気持ちになるけど、流石に雪穂が俺のことを想って夜な夜な自分磨きをすることはなかったか。当然といえば当然かもしれないが、少し寂しかったりもする。

 

 次は……亜里沙にするか。

 

 

『絢瀬亜里沙:0回』

 

 

 ふぅ~~~~~~~~~~~~~~!!よかったぁああああああああああああああ!!

 純粋無垢、清純、天使、どれを取っても当てはまる亜里沙がマトモで本当によかった!!これ以上に安心できることがこの世にあるだろうか?いや、ない。このいつもキラキラしている彼女の目は、絶対に嘘をつかないんだ!!これからも地球上のすべての生物の、汚れた心を浄化する天使であり続けてくれ!!

 

 さぁ……楓もやっておくか……怖いな。

 

 

『神崎楓:8回』

 

 

「解散!!!!」

「えぇ!?お兄ちゃん急にどうしたの!?」

「もう解散だ解散!!俺はもう教室に帰る!!」

「折角だから零くんに案内してもらおうと思ってたのですが……」

「悪い亜里沙、いくら亜里沙でも今日だけは勘弁してくれ。俺の心の整理がつくまではな……」

「は、はぁ……」

「ま~た変なこと考えているんじゃないですか?」

「お前も失礼な奴になったな、雪穂」

 

 

 週8って……どこか1日に2回ヤってるってことじゃねぇか!!しかも兄貴を想い浮かべてだろ……?この複雑な気持ちはどうすりゃいいんだよ!!これからコイツをどんな目で見ればいいのか分からないくなってきたぞ……これはガチで近親相姦ルート!?いやいや、絶対に避けてやる!!

 

 

 そして俺は逃げるように雪穂たちから離れ、教室に戻った。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おっ?絵里たちもう来てたのか」

 

 

 なんだかんだあって放課後、いつもの如く部室に入るとそこには既に絵里たち大学生組が待機していた。そういや今日は講義が終わるのが早いんだっけ?大学は高校までとは違って講義が終わる時間が毎日バラバラだから、ある意味で時間を作りやすいと言える。

 

 

「穂乃果ちゃんたちはどうしたん?」

「生徒会に顔出してから来るってよ。他の奴らは掃除当番だと思うぞ」

「ふ~ん、それよりアンタそのメガネ、珍しいわね」

「まぁ、たまにはイメチェンしようと思ってな」

 

 

 嘘です。最悪の姉に無理矢理装着させられました。しかも時限爆弾付きの高級メガネです。いつ爆発するか分からない恐怖に怯えています。

 

 

「アンタがメガネ掛けてると、普通にインテリっぽく見えるわね」

「いつもの俺はインテリっぽくないのかよ……」

「そりゃそうでしょ、変質者だし」

「そうね」

「そうやね」

「ひでぇなお前ら!!」

 

 

 超絶イケメン、歩くだけで女の子からモテモテの俺を変質者扱いするとは、彼女としてまだまだだ。普通の俺だと女の子がキャーキャー寄ってきて、学院が大パニックになるからな。仕方なくメガネを掛けて自主規制しているんだよ。

 

 もうここまで来たらこの3人の回数も見るしかない。もう何が来ても驚かねぇぞ。

 

 

『絢瀬絵里:4回』

 

 

 ハラショォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 い、意外とヤってんのね……ロシアのクォーター美人は純日本人とは感覚が違うのかもしれない。でも海未や真姫、絵里のようなド真面目な人が、夜な夜な俺のことを想って自分磨きをしていると思うとこれ以上そそられるものはない。

 

 次は希かな?

 

 

『東條希:2回』

 

 

 聖母である希様もヤってらっしゃいますか……まぁ一人暮らしだからタイミングなんて腐る程あるとは思うが、希が自慢の豊満な胸を使いながら俺を想像していると考えると……ダメだダメだ!!さっきからμ'sのアダルトボディ2人に翻弄されまくっている!!このメガネで一番被害受けているのって、実はコイツらじゃなくて俺じゃない!?

 

 最後だ……頼むぞにこ、俺を安心させてくれ……

 

 

『矢澤にこ:6回』

 

 

 この矢澤ぁあああああああああああああああああああああ!!

 お前の家はアパートで、しかも妹2人に弟1人いるだろうがぁあああ!!何週6でやってんだぁあああああ!!しかも1日休んでいるのが無駄にリアルすぎて反応に困るわ!!

 

 

 あっ、レンズに文字が表示された。

 

 

『どうだった?自分の彼女たちの痴態は?まぁ一番頭を抱えているのは零君だと思うけど♪』

 

 

 ば、バレてる……アイツにすべてを見透かされてる……でも今日起きたことがショッキングすぎて怒る気になれない。

 

 

『くそぉ~羨ましいぞこのこのぉ~~☆9股+3股野郎♪というわけで、リア充は爆発ね♪』

 

 

「ちょっ!!ここで爆発はマズイって!!」

「はぁ?爆発?」

「い、いや何でもない……」

 

 

 ここでメガネが爆発すればにこたちを巻き込む危険性がある。それだけはなんとしても避けないと。どちらかといえば巻き込んでしまうという恐怖より、このメガネの仕組みがバレてしまうことが一番怖い!!

 

 それとさっきの『+3股』ってやつを後から秋葉に追求してやろう。俺はまだ一年生組とは付き合ってないぞ。しかも一人は妹だし。

 

 

「にこ、希、絵里……5分後に俺が戻って来なかったら、俺の骨を拾ってくれ」

「へ?ど、どういうことよ!?」

「お前らの純潔を汚した罰を受けに行くのさ……」

「でもえらく冷静やね?」

「男ってのはな、賢者モードっていうのがあるんだよ。あっ、もう時間がない!!じゃあさっきの約束忘れんなよ!!」

 

 

 

 

 その後、音ノ木坂学院の体育倉庫で謎の悲鳴が聞こえたと、しばらく噂が絶えなかったという……

 




 いやぁ~……なんかすみませんでした(笑)
 特にラブライブのキャラクターが好きな方には非常に申し訳ないことをしたなぁ~っと思ったり思わなかったり。今までで一番妄想が膨らんだのは確かですけどね!


 以下は完全に余談です。


 実は『日常』の頃からボツになった話がいくつかありまして、いくつかは超短編小説として活動報告にも投稿しているのですが、短編には収まらないボツ話もいくつはプロットだけはあるんですよね。今回はその話をいくつかご紹介。


タイトル:ラブライブ!RPG
あらすじ:零とμ'sメンバーが秋葉に騙されゲームの世界へ!!
ボツ理由:話が長いのと、変態要素が皆無、またドラクエ3を知らない人が楽しめない

タイトル:半額弁当争奪戦!リターンズ!
あらすじ:『日常』の半額弁当争奪戦の続き、主役は真姫
ボツ理由:戦闘描写がメンドくさい

タイトル:グレた花陽
あらすじ:零に煽られてヤンキーに道を歩む花陽
ボツ理由:同じ感じのssがある

興味がある、惹かれるタイトルはあるでしょうか?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ことりの"愛"の日記

 今回はことり回!!ほとんどがことり視点でお送りします!!

 『新日常』になって零君にデレッデレなことりですが、それゆえ今回の話は中々に狂気です。意味が分からない?読めば分かると思いますよ……

 ちなみに今回の話よりも以前の話についても触れているので、『この話だけを見るぜ!』という方はご注意を。


 

 

4月6日(月)

 

 

 やったぁ♪また零くんと同じクラスになれたぁ!!穂乃果ちゃんと海未ちゃんも同じクラスで、またみんな一緒にいられるよ!

 事前にお母さんに相談して、裏で手を回してもらったから当然の結果といえば当然の結果なんだけどね♪

 

 そうそう、今日零くんとこんなことがありました。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

「ことり、シャンプー変えた?すごくいい匂いがするんだけど」

「えへへ~~そうだよ♪こっちの香りの方が、零くん好きそうだったから」

 

 

 流石ことりの零くん!!ことりの変化にすぐ気づくなんて!!これは衣装代を少し削って、高級シャンプーを買ったおかげだね♪それは部費じゃないのかって?零くんに喜んでもらえるなら何でもいいんだよ!!

 

 

「確かに甘い香りは俺好みだよ。ナイスことり!!」

「ありがとう!!じゃあもっとことりの匂いを堪能して?」

「お、おい!!流石に引っ付き過ぎだろ!!また海未に怒られるぞ!?」

 

 

 普段のカッコいい零くんもいいけど、こうやって顔を赤くして照れている零くんも可愛いなぁ♪いつもは零くんから攻めてきてくれるから、こういう時だけはちょっと優越感。それにしても、零くんもいいにお~い!!

 

 

「大丈夫大丈夫!見つかったらその時だよ」

「海未を恐れないとは……お前も神経図太くなったよな」

「零くんが言ったんだよ、『海未を恐れてては、愛は深められない!!』って」

「それはそうだが……そこまで忠実にならなくても」

「ことりは零くんの言うことならなんでも聞くよ?」

「な、に!?!?」

 

 

 ことりは去年零くんにお世話になってたくさんのものをもらったから、今年は零くんにいーーーーーーーっぱい恩返ししてあげるんだ!だからどんどんことりを零くん色に染めちゃってもいいんだよ?

 

 

「いいのか……?どんなことでも……?」

「いいよ♪ことりに命令して?ご主人様♪」

 

「がはあっ!!!!!!」

 

「れ、零くんすごい鼻血!!輸血輸血!!」

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 なぁ~んてことがありました。もう全く……困った零くん♪これはことりがずぅ~っと隣で見守ってないとダメだね♪そう、隣でずぅ~~~~っとね……

 

 そうだそうだ、今日は新しい新入部員として雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんも入ってくれました!!また賑やかになりそうで楽しみ~!!そういえば零くんの妹の楓ちゃんも同じ学校なんだよね。もしかしたら楓ちゃんも入ってくれるかも!?ちょっと期待しすぎかな?

 

 

 

 よ~し!!今日は自分磨きをして寝ようっと!!妄想はもちろん零くん♪

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

4月7日(火)

 

 

 今日、なんと新生μ'sが結成されました!!パチパチパチぃ~~☆

 いつもとは違った雰囲気を見せた楓ちゃんにも驚いたけど、今日の一番の収穫はあの零くんのカッコいい表情!!あそこまでことりたちのことを想ってくれているなんて、また零くんに惚れちゃった♡もうことりの中の零くん好感度メーターが満タンになりすぎて壊れちゃいそうだよ。

 

 嬉しかったけどそれは一旦置いておいて、今日のことりが選ぶ、零くんとのイチャイチャMVPはこちらです!!

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

「あぁ~……久々にマジメモードになったら喉渇いてきた。ことり、お茶入れてくれ」

「はぁ~い♪」

 

 

 もうメイド喫茶のアルバイトを始めてから何ヶ月も経ってるけど、やっぱり零くんに命令されるのが一番いいよぉ~~♪

 ゾクゾクするっていうのかな?零くんはバイト先に来るお客とは違って、ことりの心に突き刺すような命令をしてくるんだよね。そこに痺れるのかな?うぅ~ん、上手く表現できないぐらい零くんが好きってことなんだよきっと!!

 

 

「冷たいお茶でいい?」

「そうだな、喉渇いてるから冷たい方がいいかも」

 

 

 このままお茶を持って行ってもいいけど、ここはことりも同じコップで飲んじゃおう!!もう零くんとことりは恋人同士なんだから、いちいち間接キスをする必要はないんだけど、間接キスだからこそ味わえる興奮ってあるよね?

 

 

「はい、お茶入ったよ」

「ありがとな。それじゃあ頂きますか」

 

 

 あっ、ああ!!飲んでる!!零くんがことりの分泌液、もとい唾液が入ったお茶をグビグビ一気飲みしてる!!今まさに零くんの身体の中にことりの液が入っていっていると思うと……きゃあ~~♪これは夜の妄想も捗るね!!

 

 

「こ、ことり?俺の顔に何か付いてるのか?そんなに凝視して……」

「う、うぅん!!何もないよ!!ただお茶を飲んでる零くんがカッコイイなぁ~って思って」

「俺がカッコイイとか今更だろ、世界の定義だ」

 

 

 そうやって自信満々で自信家な零くんも大好きだよ♪そんな零くんがことりやμ'sのみんなを引っ張ってくれたんだから、今のμ'sがあるんだもんね。零くんがいなかったら、ことりたちってどうなってたんだろう……?

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 ダメェえええええええええええええええええええ!!

 

 

 あっゴメンなさい!!この日記を書いている途中に、零くんと交わる妄想をして手が止まっていました……今日はもうこのまま寝ちゃおう!!じゃあ今日の分はここまで。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

4月13日(月)

 

 

 今日はですね……今まで暖めておいた、『いつか零くんの涎を拭く』用のハンカチが遂に猛威を振るいました!!頬っぺに涎を垂らしてウトウトしていた零くんに、ことりがハンカチを使ってサッと拭ってあげたんです。

 海未ちゃんにことりのハンカチがいつもと違うと指摘され、『バレちゃった?』と思ったけど、最悪海未ちゃんにこのハンカチを渡して口止め料を払えば大丈夫だから問題なし!海未ちゃんは素直になれないだけで、零くんのエキスが詰まったハンカチなら食いつくと思うんです。

 

 さて、今日の零くんとことりのイチャイチャMVPの発表の時間となりました☆

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

「うぅ……今日はいつもより寒いね。穂乃果、もう凍え死にそうだよ。零君暖めて!!」

「いや、俺そこまで寒くないし。むしろ眠いからほっといてくれ……」

「じゃあこっちから抱きつくもん!!」

「うおっ!!コアラかお前は!!」

 

 

 穂乃果ちゃんは零くんの背中にベッタリ抱きつきました。あれ絶対に穂乃果ちゃんの胸が零くんに当たってるよね?それにしても穂乃果ちゃんの気持ちよさそうな顔、可愛いなぁ♪

 よ~し!!ことりも2人に抱きついちゃお~~!!零くんも穂乃果ちゃんも湯たんぽみたいに暖かいから、最高に気持ちいいよね♪

 

 

「ことりも混ぜてもらっていい?」

「じゃあことりちゃんは零君の前からね。穂乃果とことりちゃんのサンドイッチ攻撃だぁ!!」

「覚悟はいい零くん?」

「いいだろう!!俺も男だ、彼女の欲望をどんとこの身で受け止めてやる!!さぁ来い!!」

 

 

 その言葉を聞いて、ことりはピョーンと零くんに向かって抱きつきました。それからしばらく零くんと穂乃果ちゃん、ことりの3人で愛を深め合っていたのですが……

 

 

「あなたたち……今すぐ離れなさい破廉恥ですよ!!しかも穂乃果とことりは生徒会、零もこの学院ではそこそこ有名なのですから秩序を守って行動してください!!」

 

 

 海未ちゃんによってことりたちはバラバラに引き離されてしまいました。相変わらずお堅いなぁ海未ちゃんは。でもことりは分かっているんです。こうして『学校の秩序』だとか『健全な学院生活』とか銘を打っているだけで、本当は海未ちゃんも零くんとイチャイチャしたいと思っていることを。乙女チックな海未ちゃんは、女の自分から見てもすごく可愛いです!

 

 

「またまたぁ~、そんなこと言って海未ちゃんも混ざりたいんでしょ?」

「な、なにを言い出すのですか穂乃果!!」

「お前も真姫並みに素直じゃねぇ奴だな……」

「また制裁をもらいたいですか?」

「なんで俺だけ!?」

 

 

 穂乃果ちゃんも海未ちゃんの心を読んでいたみたいですね。アタフタしている海未ちゃんの表情もGOOD!!これは零くんが海未ちゃんをからかって楽しむ理由が分かったよ。だって海未ちゃんの表情七変化が面白いんだもん♪

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 μ'sのみんなと一緒にお喋りするのはもちろん楽しいけど、こうして零くんに穂乃果ちゃん、海未ちゃんと4人で一緒にいると、すごく特別な感じがするんだよね。心の距離が近いっていうのかな?もうどんなことでも自分を包み隠さずにすべてをさらけ出せるよ!

 あっ、でもでも零くんには心だけじゃなくてことりの身体もさらけ出せるよ♪きゃぁ~~ことりってば何を言ってるのぉ~~♪ことりがこうなっちゃったのも、ぜ~~んぶ零くんのせいなんだよ?責任、とってくれるよね?

 

 

 今日は零くんの分泌液が付いたハンカチを使わせてもらおうかな?何に使うって?それは女の子のお・た・の・し・み♪

 

 

 

~※~

 

 

 

 

4月15日(水)

 

 今日は寛容な心を持つことりでも、流石に怒ってしまう事態がありました。なんと……なんと零くんが浮気をしていたんです!!μ's以外の女の子とイチャイチャしようとしていました!!これは零くんの彼女の1人として見逃せません!!これは流石のことりもプンプンです!!

 

 零くんはカッコいいし優しいし、カリスマ性もあるし何人もの女の子を弄ぶプレイボーイだけど、ところ構わず女の子に好かれるのがたまに傷なんだよねぇ~……

 これは彼女として零くんをしっかり更生させてあげなきゃね♪

 

 今日はイチャイチャMVPはお休みとして、浮気現場の一部始終をお送りします。本当はこんなことを書きたくはないのですが、今後の戒めとして日記に残しておこうと思います。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

「はい先輩あ~ん♪」

「お、おい流石に廊下でこんなことは……」

「えぇ~~!!いつもμ'sの人たちとヤってるんじゃないですか!?」

「おい!!今のイントネーションおかしくなかったか!?あくまで『あ~ん』のことだからな!?」

 

 

 あっ、零くんだ!!でもあの子は誰だろう?リボンの色を見る限りでは2年生かな?

 でもあの子が誰だとかは関係ない。重要なのは、零くんにくっつき過ぎていることだよ!!零くんも零くんで満更でもない顔してるし!!

 

 

「折角先輩のためにクッキー作ってきたのに……」

「分かった分かった!!食べるからそんな顔すんなって!!」

「ホントですか!!ありがとうございます!!」

 

 

 あのメス……じゃなかった女の子、零くんに頭撫でられてる!!それはことりたちμ'sメンバーだけの特権じゃなかったの!?これは誰がどう見ても浮気現場だよ!!この映像を撮って、みんなで零くん尋問会だね♪

 

 零くんはことりたちのもの、ことりたちは零くんのモノ。『モノ』って言葉の響き、結構興奮するよね?ことりが零くんのモノになって、零くんに色々なことをされるのを想像すると……ダメダメ!!鼻血が出ちゃう!!

 

 

 だ、脱線しちゃいました……でもそれぐらい零くんは魅力的ってことです!!あれ?話が変わってる?

 

 あっ、零くんと女の子が別れた。今がチャンス!!

 

 

「零く~ん♪」

「ことりか、どうした?」

「零くんのた・め・にチーズケーキを作ってきたんだ!!はいあ~ん♪」

「なんで『ために』だけ強調したんだよ……まぁいいか、あ~ん」

 

 

 やっぱり零くんに『あ~ん』するのはことりの特権だよ☆ことりのチーズケーキで、あの女の子に食べさせられたクッキーを全部上書きしてあげるね♪

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 浮気、よくない、ゼッタイ!!あの後、零くんのお腹はことりのチーズケーキでいっぱいになりました。零くんの身体がことり色に染まったみたいでさらに興奮しちゃった♪

 はぁ~♡早く明日にならないかなぁ~?零くんと早く会いたいよぉーー!!

 

 

 そういうことで、今日はここまで。夜は今日学院でこっそり撮った、零くんのカッコいい横顔写真を眺めながら寝たいと思います。好きだよ♪零くん♪

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「きょ、狂気だ……」

 

 

 慌てて日記帳を閉じた。

 

 俺は今ことりに誘われて彼女の家にいる。ことりは飲み物を取ってくると言って俺は彼女の部屋で待機しているわけだが、なんとなしに開いた日記帳をみて絶句してしまった。

 

 ま、まさかことりがここまでとは……俺のことを好きでいてくれるのは彼氏としても嬉しいが、これは明らかにベクトルが別の次元に捻じ曲がっている。今までの人生の中で一番、『見なければよかった』と思った瞬間だ。

 

 

「ことりは天使だと思ってたけど、これはもう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはもう……なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、ことり!?」

 

 

 いつの間に俺の後ろに!?全然気がつかなかった!!

 ことりはニコニコと俺に天使のような笑顔を向けているが、その裏の意図を読み取れば堕天使の笑顔に見えなくもない。でもこれは確実に後者だ!!マズイマズイ……一瞬の気の迷いで読んだ日記帳が、ここまで俺を苦しめるとは。

 

 

「見ちゃったんだね零くん♪」

「わ、悪い……初めはどんなメルヘンチックなことが書いてあるのかと思ったんだ。ことりの日記帳だからそんなもんかなぁって……」

「言い訳は見苦しいよ?」

「はい……」

 

 

 どうすんだこの状況……逃げ道はなく、ことりがジリジリと俺との距離を詰めてくる。

 

 

「今日はたっぷりと搾り取ってあげるからね、零くん♪」

「なにを!?!?」

 

 

 このあとメチャクチャな展開…………になると思われたが、理事長もといことりのお母さんが帰ってきてくれたお陰で事なきを得た。ちなみに黒ことりを一晩かけてなだめたのは別の話……

 

 




 まさか『新日常』一発目の個人回がこんな形になるなんて……ことり推しの方はこれで満足できるのだろうか……

 ちなみに今回の話でことりが『零くん』と言った回数は、実に74回でした(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ドSな変態の『ワシワシMAXハイパー』

 最近かなりブッ飛んだ話が多かったので、タグに『R-17.9』と付けておきました。それに伴い『新日常』のあらすじも変更したので、よければご確認ください。あくまでも『日常』です(笑)

 そして今回もそのタグに相応しい話となっています。まさにタイトル通り!!


「零君を呼んだのは他でもない。ワシワシMAXのさらに上の技を伝授するためや!!」

「は、はぁ……」

 

 

 腰に手を当て自慢の胸を揺らして強調させながら、希は俺の前で仁王立ちをした。

 ただいま俺は何故か希に誘われて、彼女の住むマンションへと来ている。用件は来てから話すって言ってたけど、まさか"あの"続きだったとは……前回は滝に打たれたり、ムチで打たれたり散々な目に遭ったからな。

 

 

「まだあの技の上があるってのか?」

「そう。ウチがこの春にこっちを練習台にして編み出した、更なるワシワシを零君に伝授してあげるよ♪」

 

 

 今さらっと流してはいけないことを言ってなかったか?にこがたまにゲッソリしていたのはコイツのせいか……

 それにしてもそれでいいのか新大学生。忙しい忙しいと言っていたのは何だったのか……思いっきり変な技の開発に勤しんでるじゃねぇか。

 

 

「全くどうしようもねぇ変態だな」

「それ、零君が一番言ってはならない言葉やと思うよ」

「俺のワシワシは愛があるからいいんだよ。お前のワシワシは単なる遊びだろ?」

「失礼やなぁ~ウチも楽しめるし、何よりみんなも気持ちよくなれるしwinwinじゃない?」

 

 

 女の子の胸をいきなり鷲掴みにしてモミモミして気持ちよくするなんて、最低な奴だな!!犯罪者だよ犯罪者!!変態だよ変態!!通報だよ通報!!あ~~この世にそんな変態がいるとかないわーーー汚らわしいわーーーー(棒)

 

 

「どう?自分の手でみんなが気持ちよくなる姿を見たくない?」

「う~ん……今のままでもみんなを気持ちよくさせられるしなぁ~」

「それ以上の快楽が零君にもみんなにも与えられるんや!!これを機に、新たなワシワシを学ぶしかないよ!!」

 

 

 どうしてコイツは俺にワシワシを教えたがる?そうだよ、わざわざ俺に教えなくとも自分だけで楽しんでおけばいいじゃないか。自分の趣味を誰かと共有したいってやつか?こんな変態な趣味、俺とぐらいしか共有できないからな。

 

 ん?待てよ……もしかして希の奴……

 

 

「なるほどな」

「な、なにがなるほどなん?」

「お前、俺にワシワシして欲しいんだろ?」

「ギクッ!!」

 

 

 ギクッて声に出すものじゃないだろ……ということは、完全に図星だったってわけだ。俺も希と恋人同士になって、コイツの扱いが段々と分かってきた。元々は掴みどころのない奴だったけど、今は随分と羞恥心が顔にも表れて分かりやすくなってきたもんだ。

 

 

「そ、それはちゃう!!」

「嘘つけ。俺にワシワシを習得させたのもそれが狙いだったんだろ?前回お前、俺の手ですっごく気持ちよさそうにしてたしな」

「あ、あ……うぅ……」

「そんな可愛らしくしょぼくれた顔すんなって。イジメたくなっちゃうだろ」

 

 

 いつもは俺みたいに余裕綽々そうに見える希だが、彼女はもちろん女の子、大好きな人の前では簡単に乙女になってしまうのだ。流石μ'sの女神と言われるだけのことはある、恥じらう姿も美しい。

 

 

「お前の望み、俺が叶えてやる!!みんなが幸福になれるなら、俺は変態でもなんでもいい!!」

「ちょっ!?」

 

 

 俺は立ち上がり、希のもとへと歩いていく。俺と希の距離が縮まるたびに、彼女の顔が茹でられているかのように真っ赤になっていくのが分かる。彼女の怯えた表情が、さらに俺のドS精神を刺激する。花陽みたいにいつもオドオドしている子を攻めるのももちろん興奮するが、いつも大人びたイメージで取り乱さない希を攻めるのはそれ以上だ。

 

 

「逃げないってことは、お前も期待しているんだろ?」

「期待……ウチが……?」

「そうだ。いつもお前はワシワシする側の人間だったからな。本当は自分もその快楽に身を任せたかったんだろ?昇天するぐらい気持ちよくなりたかったんだろ?」

「っ……」

 

 

 俺の攻めによって希の心がどんどん追い込まれていくのが分かる。別にイジメているわけじゃないぞ!!そんな女の子を泣かすようなマネするかよ!!俺はただ、希が羞恥心に溺れるところを見たいだけだ!!

 

 

「お前も俺と同じ変態だったってことだよ。でも快楽に浸りたいというのは、人間なら誰にでも持ち得る欲求だ。だから我慢しなくてもいいんだよ。今すぐにでも天国へ連れて行ってやる」

「ホントに……?」

「あぁ……それにそんなおもちゃが欲しい子供みたいな目をされたら、こっちもやるしかないな」

 

 

 俺は希の後ろへと回り込んだ。希はもう決心をしたのか、その場からピクリとも動かない。もう俺を受け入れる体制は整っているということか。

 

 

「いくぞ!!これが俺が更なるアレンジを加えたワシワシMAXだぁああああああああ!!」

「きゃあっ!!」

 

 

 そして俺は後ろから希の豊満な胸を鷲掴みにした。毎回思うけど、何をしたらこんなに大きくなるんだ!?もしかして毎日自分で揉んでいるのかも?いや、それだったら凛やにこは苦労しないだろうな……

 

 希は身体をビクビクと震えさせながら、俺からの快楽を全身で受け止めている。ここまでの流れを知らない人がここだけを見たら、明らかに俺が性犯罪者にしか見えねぇな。似たようなものだから別にいいんだけどね!!よくない?

 

 

「あっ……ああ!!」

「いい声だ!!天国は目の前だぞ!!」

 

 

 希は快楽に我慢ができなくなったのか身体がさっきより大きくビクついたが、俺もその動きに合わせてワシワシの仕方を変えているため、彼女はその快楽に幽閉されて逃げられない。喘ぎ声に近いものを発することによって何とか自我を保っているようだが、それももうここまでだ。

 

 

「ここまでは今までの『ワシワシMAX』と同じ、ここからが俺のアレンジ技『ワシワシMAXハイパー』だ!!くらぇええええええ!!」

 

 

「あぁああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 そして希は快楽の底に沈んだ。よかったな、願いが叶って。

 『ワシワシMAX』から何が変わったって?それはみんなに与える気持ちよさと、俺が味わう幸福感と満足感に決まってるじゃん!!

 

 

「れ、零君……」

「おっ、気づいたか。それでどうだった?俺の新たなワシワシは?」

「こんな幸せ、ウチ初めてや……やっぱり好きな人にヤられるのはえぇなぁ~~。もっとやって欲しいかも♪」

 

 

 こ、ここまでデレるとは予想外だった。しかも希に甘い声で『やって欲しい』とか言われると鼻血ものだぞこれは……

 でもこれは今まで素直じゃなかった奴を更生させるいい機会だ。この力、是非他のみんなにも試したくなったぞ!!あれ?俺ってば闇堕ちしてる?

 

 

「また今度な。そんな一気に快楽を味わわせたら勿体無いだろ?徐々に攻めていった方が楽しめるってもんだ。俺も、お前もな」

「もう、零君のイジワルさん♪でも……」

「でも?」

 

 

「待ってるからね♪」

 

 

「お、おう……」

 

 

 なんか素直になられると、ワシワシとかいうふざけた技を披露していた俺が馬鹿みたいじゃねぇか……これだったら今日一日ずっと希と一緒に愛を深め合ってもいいかもしれない。普段デレない奴が急にデレるのは反則だ。

 

 

 まぁいい。今の俺はこの力を試したくてウズウズしているところなんだ。これだけの快楽を与えるとは思っていなかったけど、これも毎日徹夜で研究をしていた賜物だな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おーーーい真姫!!こっちだ!!」

「もうっ!!そんな大声出さないでよ恥ずかしい!!」

 

 

 未だ身体をビクビクさせていた希を残し、続いて真姫を公園へと呼び出した。休日はぐうたらしてるであろう穂乃果や凛を呼び出そうとしたのだが、ここは素直になれない最強のツンデレ属性を持つ真姫こそが技の生贄に相応しい。

 

 

「悪いな急に呼び出したりして。もしかしたら忙しかった?」

「別に、私も暇だったし」

「そうかそうか、俺の呼び出しに心をウキウキさせていたんだな」

「な゛っ!?そ、そんなわけないでしょ!!仕方なくよ仕方なく!!しょうがないからあなたに付き合ってあげてるだけ!!」

 

 

 おーおーこのツンデレさ加減が如何にも真姫らしい。ますます素直になれないコイツを、俺に対して従順にしてやりたくなってきたぞ!!

 

 

「そんなに起こるなよ、綺麗な顔が台無しだぜ?」

「そ、そんな言葉なんかで騙されないんだから……」

「俺たちはもうただの友達関係じゃない、恋人関係なんだ。自分の彼女のことを褒めるのは何が悪い?」

「こういう時だけ彼女彼女って……全く都合いいんだから」

「そうか?俺はいつも真姫のことを見ているよ。『今日も綺麗だなぁ』とか『可愛いなぁ』とか」

「も、もう!!!!」

 

 

 してるしてる動揺してる!!もちろん俺が言ったことは嘘じゃない、紛れもない事実だ。真姫は自分へ向けられた好意を受け取ることに慣れていないため、こうしてド直球で想いをぶつければ簡単に取り乱してしまう。いつもの冷静さなど皆無だ。

 

 

「そんなことより、用事ってなんなのよ?」

「ん?そんなものはない。俺はお前と一緒にいたいと思っただけだ」

「な、なによそれ……」

「ダメか?」

「別にいいけど。私も久しぶりに零と一緒にいたいと思ってたしね」

 

 

 さっき『仕方なく』とか『しょうがなく』とか言ってなかったっけ?これが真姫の"デレ"の部分か。やっぱり本当は俺と一緒にお出かけしたかったんじゃないか!!でも今日はお出かけなんて睦まじいものじゃない。『ワシワシMAXハイパー』という男女の営みが待っているのだ!!

 

 

「ということだ真姫、そのまま動くなよ」

「なにが『ということ』なのよ!?そ、そんなに近づかれると……」

「お前は素直になれない人だからな、こうして2人きりの時ぐらいしか抱きつけないだ……ろ!!」

「きゃぅ!!」

 

 

 俺は素早く真姫の後ろに回り込み、自分の身体と腕で包み込むように抱きついた。真姫は俺に回り込まれると思っていなかったのか、俺が抱きついた拍子に聞いたこともない可愛い声を上げる。

 

 

「柔らかくていい匂い、もしかして俺に会うために少し香水とか付けた?」

「そ、そそそそそそんなわけないじゃない!!なんで私が零なんかと会うためにそんなものを!!」

「言わなくても分かってるよ、ありがとな。ずっとこのままでいたいぐらい、真姫からいい匂いがするなぁ~」

「ど、どういたしまして……」

 

 

 さっきまでジタバタと暴れていた真姫だが、俺からお礼の言葉をもらうと借りてきた子猫のようにおとなしくなった。後ろからだと辛うじて横顔しか見れないが、彼女の表情はどこかホッとした感じに見える。香水を付けることに抵抗でもあったのだろうか?俺としては匂いがキツイのは勘弁だが、元の真姫の匂いを残しながら、その匂いを引き立てるかのような香水の香りなので何の問題もない。

 

 これだと俺、匂いフェチだと思われてしまいそうだ。まぁ少しそっちよりなんだけどさ……

 

 

「なぁ真姫」

「なに?」

「もっと、身体をくっつけてもいいか?」

「……いいわよ。私ももっとあなたと一つになりたい。久しぶりだから、こんな感覚」

「そうか……じゃあ新しい快楽も同時に味わわせてやるよ」

「え……?」

 

 

「これが、ワシワシMAXハイパーだ!!」

 

 

 俺は真姫の未だ発達過程の胸をガシッと掴む。真姫は驚いた表情を浮かべるが、周りに悟られないようにするためか声は一切上げなかった。でももうそんな我慢もできなくなるだろう。俺の『ワシワシMAXハイパー』は、どんな女の子でも昇天してしまうからな。

 

 

「れ、零……?」

「イヤなら今すぐ俺を振りほどいてくれ。それに対して俺は抵抗しない。お前が本気でイヤなら、俺は何もしないから……でも、少しでも俺を受け入れてくれるなら、このままでいてくれないか?」

「…………もう、そんなことを言われたら離れられないじゃない。いいわ、あなたの欲望はすべて私が受け止めてあげる。だって私はあなたの彼女だもの」

「真姫……」

「好きにしなさい、私を……」

 

 

 そこで、俺が今まで保っていた理性がかなり揺らいだ。あの真姫が自分から自分自身を好きにしていいと、承諾が出たことに驚いた。驚くのと同時に、俺の理性にヒビが入り崩壊寸前にまで追い込まれる。

 真姫は俺を全力で受け止めようとしているのだ。そこまで言われたら、もう男として引くわけにはいかない!!

 

 

「それじゃあもう一度。これが、ワシワシMAXハイパーだ!!!!」

 

 

 やることは単純、女の子をワシワシするだけ。あとはお互いに快楽の渦に身を任せるだけだ。どう?簡単でしょう?皆様もご実践あれ!!

 

 

「あぁああああああああああああああああああああああ!!」

「本当にいい声で鳴くな真姫!!もっとだ!!もっと楽しませてくれ!!」

 

 

 真姫も希同様に身体を大きくビクつかせながら、まさに女の子の声というべき喘ぎ声をあげる。その声はさらに俺の興奮を引き立たせ、彼女に更なる快楽を送り込むための力となる。

 もう公園という屋外でヤっていることなんて忘れていた。俺と真姫はただただ一緒にこの気持ちよさに浸っている。あとから学院に通報されようが、そんなことはどうでもいい。今がよければそれでいいんだ!!

 

 

「はぁはぁ……身体が熱い……こんな感覚も久しぶりね」

「まだ身体がピクピクしてるぞ。思っていたよりも敏感なんだな、お前」

「あなたのせいでこんなに敏感になったんだから!!」

「ヤバイ、そのセリフ興奮する……もう一回言ってくれ」

「イ・ヤ!!」

 

 

 おいおいデレてたんじゃないのかよ……さっきのセリフ、録音しておきたかったなぁ~……

 こうやって話していると真姫は意外に冷静そうに見えるが、よ~く彼女の身体を観察すると顔も身体も汗でベタついているのが分かる。まだ少し息も荒く、身体もたまにピクついている。まだまださっきの余韻が残っているようだ。

 

 

「もう一回するか?」

「……流石に疲れたから無理よ」

「何ださっきの間は?もしかして期待してる?」

「!!!!そ、そんなことは……」

「顔に出てるって……まぁ、今日は満足したからもういいか」

 

 

 俺が夜な夜な開発してきた『ワシワシMAXハイパー』は見事大成功であった。もちろんこれで終わりではない。まだまだ進化の余地はある。今後この技に磨きをかけて、μ'sのみんなを快楽に沈めるのが俺の夢だ。最低?人生っていうのは欲が強い奴ほど成功するんだよ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 真姫は零と別れ、自宅へと向かっていた。

 さっきから、自分の太ももに冷たいなにかを感じる。真姫は周りを警戒しながら、自分のスカートにそっと手を入れた。

 

 

「ぬ、濡れてる……」

 

 

 今日の真姫の夜はこれまた捗りそうだ……

 

 




 そろそろ路線を変更しないとヤバイかも!?4話連続ぐらいで『R-17.9』の小説になってしまっているかもしれないので……

 今までが普通のギャグ小説だったものが、ちょっぴりHな要素を加えたギャグ小説になっているような気がします。どちらかといえば、自分はこっちの路線の方が好きですね(笑)
 だって可愛いし萌えるじゃないですか、恥じらうμ'sというのは(ドS精神)

 真姫の誕生日小説が書けなかった(書く気がなかった)ので、これで満足してくださると助かります。

 GWは久々に毎日18時更新しようと思っていたけど無理っぽいかな?一応頑張ります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ほのりんはウザカワイイ!?

 前回までがかなりR-17.9路線になっていたので今回で軌道修正。今回は元気いっぱいの穂乃果と凛と一緒にわちゃわちゃするだけのお話。ですが見所はほのりんではなくて、零君のツッコミスキルの方かもしれません。


 

「いい天気だなぁ~~……」

 

 

 今日は太陽さんが陽気なお陰か、最近の冷えが嘘かのように暖かい。もう4月も終わりに近づき、これから段々と夏に向けて太陽さんも頑張ろうとしている頃だろう。俺としては頑張らずにこの程よい暖かさを保っていて欲しいのだが、人間が太陽様に指図するなんてもってのほかだ。仕方がないから黙っておいてやろう。

 

 そんな冗談はさて置き、俺は今木陰でポカポカ陽気を堪能している最中だ。可愛く言えば日向ぼっこってやつだな。学院にはお昼寝してくださいと言わんばかりの緑がいっぱいの場所、通称グリーンエリアがあるのだが、この暖かい時期はそこが気持ちいいのなんのって、俺はそこでぼぉ~っと寝そべっているわけだ。

 

 

「静かだ……たまにはこういうのもいいな」

 

 

 今思い返せば、この4月はかなり暴走していたような気がする。新入生歓迎会や生徒会業務、その他色々――最上級生は面倒事が多い。でもそんなことも大体が片付き、今はこうしてお昼寝できるぐらいの時間が取れるようになった。このまま静かなこの場所で気持ちよく寝てしまおうかなぁ~。

 

 

 

 

「いたいた!!お~い零く~ん!!」

「またそんなところで寝っ転がってるにゃ~!!」

 

 

 

 

「穂乃果、凛……」

 

 

 μ's内でも特にうるさいコンビがこちらに向かってやって来る。

 俺の至福の時間が音を立てて崩れていく……どちらか1人いるだけでもうるさいのに、それが2人になるともはや騒音レベルだ。元気いっぱいなのは結構なことだが、今まさに寝ようとしていた俺を妨害しないで欲しい。

 

 

「お前ら……どうしてここに?」

「海未ちゃんが生徒会仕事をやれやれってうるさいんだよ!!穂乃果のお昼寝タイムまで邪魔してさ!!」

「凛もお昼寝しようとしたら、真姫ちゃんに叩き起されたんだにゃ!!『あなた、英語の宿題してないでしょ?』ってね!!」

 

 

 オイ……これってツッコミ待ちか?これは俺のツッコミスキルを試されているに違いない!!

 それにしても、どうしてコイツらは白昼堂々と自分がサボっていることを暴露できるんだ?俺もその類に当てはまりはするが、流石の俺でも堂々とはしていないぞ。多少の罪悪感はある、多少な。

 

 

「確かに昼寝は至高だが、後々メンドーだから素直に従っとけ」

「えぇ~だって穂乃果、零君と一緒にお昼寝したいもん!!」

「凛も凛も!!さっき穂乃果ちゃんと話し合って、喧嘩しないように零くんを半分ずつねって決めたんだ!!」

「半分ってなんだ!?半分って!?人体切断とかやるつもりですか!?」

「おぉ~!!今日は零くんツッコミ冴えてるにゃ~」

「誰のせいだ!!誰の!!」

「おぉ~!!被せてきたね!!」

 

 

 ヤバイヤバイ……穂乃果と凛のテンションに付き合っていたら、俺が先に干からびて死んでしまう。μ'sの太陽と言われたこの2人にカッピカピに枯らされてしまう!!早急にコイツらを海未と真姫の元へ返さなければ!!

 

 

「どうせ怒られるぐらいならサッサと片付ければいいじゃねぇか」

「零君は穂乃果たちがサッサと片付けられる人だと思ってるの?それが無理だからここにいるんだよ」

「零くんも凛たちを見る目がないにゃ~。ねー穂乃果ちゃん♪」

「ねー凛ちゃん♪」

 

 

 ウゼェえええええええええええええええええええええええええええええええ!!

 マッハ!!ストレスがマッハ!!ウザカワイイとはまさにこのことだが、今まさにお昼寝をしたい俺にとっては可愛いなんてどうだっていい!!もう完全にウザイところだけが前面に押し出されてやがる!!

 

 

「あっ!!折角だし穂乃果が買ってきたパン、3人で食べようよ!!この店のメロンパン美味しいんだよ~」

「さんせーーい!!ちょうどお腹がペコペコだったし!!」

「なーーーんでそうなるの!?早く戻れよ!!どうせアイツら怒ってんだろ!?」

 

 

 どうしてこの流れで飯を食う流れになった?相変わらずこの2人の頭はブッ飛んでんな。もしかして俺がおかしいのか?今周りには俺たち3人しかいないため、2:1で俺が異端に思えてくる不思議。

 

 

「じゃあ零君はいらないということでOK?」

「待て、食べないとは言ってないだろ」

「これはアレだね、ツンデレさんってやつだね!!」

「零くんも真姫ちゃんのこと言えないにゃ~」

「お前らなぁ……」

 

 

 ボケ2:ツッコミ1の比率は明らかにおかしい。ツッコミ側の精神が破綻するだろこれは……今までツッコミ役を任せてきた海未や真姫、絵里が本当にすごいとたった今分かったよ。アイツらはすごい、今までボケ倒してきて悪かった!!ここまで大変だとは思ってなかったんだ。

 

 

「じゃあ穂乃果が食べさせてあげるよ!はい、あ~ん♪」

「穂乃果ちゃんズル~い、凛もやる!!はい、あ~ん♪」

「ちょっと2つ同時には無理だって――むごっ!!」

 

 

 ここで『あ~ん』について解説しよう。『あ~ん』とは食べさせる側があま~い言葉で男を誘い、その男の口が完全に開かれてから食べ物を投与するのが普通だ。だけどコイツらはあろうことか、俺の口が開いてもないのに無理矢理ねじ込んで来やがった!!

 

 ねじ込むってなんかアレな響きだよな…………分かってる、分かってるんだ!!こういうところで変態ネタを入れないとこの先絶対にチャンスがないことぐらいな!!

 

 

「どう?美味しかった穂乃果のパンは?」

「お前が作ったんじゃねぇだろ……」

「どう?美味しかった凛のパンは?」

「同じツッコミさせるんじゃねぇよ!!しかもお前は買ってすらないだろうが!!それ穂乃果が買ったやつだろ!!」

 

 

 コイツら、わざと俺を殺しに来てるだろ……日頃俺から馬鹿にされている恨みを、自分たちのボケというボールに込めて俺へ向かって全力投球してきやがる。左右から来る剛速球を受け止めるなんて芸当できるわけないだろ!!

 

 

「おぉ~~ここまでツッコまれると逆に気持ちがいいにゃ~」

「ダイヤの原石とはまさにこのことだね♪」

「だ・か・ら!!お前らがやらせてるんだろうがぁあああああああああああ!!」

 

 

 ちょっと誰か助けてくれ……ただいまここでグループ内イジメが発生しています。だから早く誰か止めてくださいお願いします。このままだと太陽2人に焼き殺されてしまう!!

 

 

「でもいつも零君のツッコミには助けてもらってるしね。穂乃果たち、とっても感謝してるんだよ?」

「雪穂ちゃんがマトモなツッコミ役に成長するまで、零くんで我慢してあげるよ!!」

「助けられているのはツッコミだけかよ!!しかも俺で我慢するってどういうことだ!?ゲホッゲホッ!!」

「わっ!!零くんがツッコミすぎてむせたにゃ!!」

「いや~ゴメンゴメン!!」

「軽すぎだろお前ら!!もっと労われよ!!ゲホッゲホッ!!」

「ゴメンゴメン!!」

 

 

 そのうちツッコミすぎて血を吐きそうだな。イヤだよ俺!!ツッコミ死なんて意味不明な死に方するの!!女の子と一緒に快楽に溺れて死ぬならまだしも、ただツッコんだ挙句死ぬとかこの2人しか得しないじゃん!!

 

 ちなみに俺は、一度でいいからハーレムを作り上げたいと思っている。なぜここで自分の夢を言うのかって?そりゃあここでツッコミ死するかもしれないに決まってるだろ。まさに遺書を書いているみたいだ。

 

 

「くっそぉ~完全に目覚めちまった……」

「ドンマイドンマイ、まぁ凛たちに目を付けられた時点で諦めた方がいいよ」

「零君も運がなかったねぇ~~」

 

 

 あのぉ~~質問があるのですが、今すぐコイツらをパンチしていいですか?

 え?女の子?スクールアイドル?自分の彼女?もうそんなことは関係ありませんよ。今はこの憤りを収めるのが先決だ。

 

 

「それじゃあ零君が気持ちよくお昼寝できるように応援してあげるね♪」

「そ、そうか……じゃあ頼む」

 

「ファイトだよ!!」

「ファイトだにゃ!!」

「ファイトだよ!!」

「ファイトだにゃ!!」

「ファイトだよ!!」

 

「うるせぇえええええええええええええええええええええ!!もう寝かせる気ないだろ!!」

 

 

 いつも聞けば元気づけられる穂乃果の『ファイトだよ!!』に、まさかこれまでの憎しみを抱くとは思っていなかったぞ。俺はてっきり子守唄とか膝枕とかを期待していたのだが、これは全面的に俺が馬鹿だった。

 

 

「もういい……帰る」

「待って待って!!今零君に帰られると代わりに怒られてくれる人が……」

「凛たちの遊び相手がいなくなっちゃうよぉ~」

「お前ら本音ダダ漏れだぞ!!それが目的か!!」

 

 

 もう叫びすぎて喉が潰れそうなんだがどうしたらいい……?最悪、いつも俺を罵ってくる真姫や雪穂に潰されるならまだいい。だけど穂乃果と凛だけには絶対に屈したくはない。こんないつもボけぇ~として頭カラッポで馬鹿騒ぎしている奴らに屈したら、俺のプライドに傷がつくからな。

 

 

「折角気持ちよく眠れると思ったのによぉ~~」

「じゃあ穂乃果が膝枕してあげるよ♪一度やってみたかったんだぁ~」

「マジで!?」

「穂乃果ちゃんズルいにゃ~凛もしたい!!」

「順番だよ凛ちゃん!!」

 

 

 この2人、テンションやノリが尽く似ているためかどことなく姉妹に見えなくもない。もしこの2人が姉妹で俺が兄だったら、毎日が騒がしくて楽しい反面疲れが取れないだろうな。

 でも俺にはコイツら2人が束になっても勝てないぐらいの最凶の妹がいるから、何とか2人のテンションについて行くことだけはできる。そしてもしアイツがこの集団に入ってしまったら、もう俺は死を覚悟するだろう。

 

 

「さぁ零君!!穂乃果の膝に飛び込んできて!!」

「そのセリフは膝じゃなくて胸だ……」

「早く早くぅ~」

「それじゃあご好意に甘えるとしますか」

 

 

 女の子座りをしている穂乃果の膝に、俺はそっと頭を乗せる。膝枕って膝を枕にするというよりかは太もも近くに頭を乗せるため、『太もも枕』に改名した方がいいのではと毎回思う。一気に卑猥な名前になったけど……

 

 正直な感想を言えば、穂乃果の膝枕はふわっとしていてまるで本物の枕みたいだ。彼女の肌に直接顔を近づけているためか、穂乃果の匂いが一気に俺を支配する。しかももう少しでスカートの中が除けそうであり、少し上を向けば穂乃果の程よく成長した胸が制服を押し上げているのが眼前にして分かる。もう少し上を見上げれば、彼女の明るい笑顔が映って心が和む。

 

 ここがヘブンか……

 

 

「零君、穂乃果に何かして欲しいことある?子守唄?それにチューとかチューとかチューとか?」

「なぜ3回言った……それに学院でキスするとまた海未に怒られるぞ」

「むしろ海未ちゃんに行動を縛られているからこそ、背徳感があっていいと思うんだにゃ!!零くんもこーふんするの好きでしょ?」

「おい待て!!俺を万年発情期みたいな言い方をするな!!俺だって時と場所ぐらいわきまえるって!!」

 

 

 そうは言ったものの、この前真姫と公園で危ない行為をしたばっかりなんだけどな。もしかして凛の言う通り、意外と俺って万年発情期なのかもしれない。こうやって自分自身に気づいていくことで自己が確立していくのだろう。これで面接での自己アピールは完璧だな!!

 

 

「ねぇねぇ膝枕以外にやって欲しいことは~?」

「う~ん……あっ、そうだ。膝枕をされながら耳かきっていうのが定番だな。でもこんなところに耳かきなんて――」

「あるよ!!なぜかポケットに入ってたにゃ」

「あるのかよ!!今日一番ビックリしたわ!!」

 

 

 そしてご都合展開お疲れ様です!!なんで女の子のポケットに耳かきなんてモノが入っているんですかねぇ~?ある意味で女子力を試されるモノだけどさ。

 

 

「じゃあ次は凛が膝枕をする番だよ!!」

「名残惜しいけど仕方ないか。また膝枕させてくれる?その時は耳かきもしてあげる♪」

「いつでもどうぞ。むしろ俺から頼みたいぐらいだよ」

 

 

 さっきまではとことんウザかったのに、ここだけ可愛らしくなるのは反則だよな。やっぱり女の子ってズルい!!名残惜しそうな顔をされるだけで断れなくなるんだもん!!

 

 そして次に俺は凛の膝に頭を乗せた。凛はμ's内ではかなり小柄な方であるが、小柄だろうが何だろうが膝枕が柔らかくて心地よいことには変わりはない。むしろ彼女はどちらかといえば妹キャラだから、お姉さんキャラのように膝枕をしてもらうこと自体がかなり珍しいことだ。凛が姉か……ダメだ、全然想像つかねぇや。やっぱりコイツには妹キャラが似合う。

 

 

「じゃあ耳かき始めるよ!!いや~初めてだから緊張するにゃ~」

 

 

 

 

「り、凛ちゃん?今なんて……?」

「今さっき聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がしたが……俺の気のせいか?」

「いや、穂乃果も聞こえたよ……」

 

 

 俺の膝枕+耳かきのイメージといえば、途中で気持ちよくなって彼女の膝の上で寝ちゃうみたいな微笑ましい光景を想像していた。だけど今の凛のセリフで、俺のイメージが音を立てて崩れだしている。

 

 

「おい凛、もう1回同じセリフを言ってみろ」

「耳かき始めるよ!!」

「そのあと!!」

「初めてだから緊張するにゃ~」

 

 

「初めてなのかよ!!やめろやめろ!!耳かきは中止だ!!」

「えぇーーー!!どうして!?」

「どうしてもこうしてもあるか!!お前に任せると、確実に鼓膜を貫通させるだろ!!怖すぎるって!!」

「大丈夫大丈夫!!」

「その意味不明な自信はどこから来る!?」

 

 

 たまに穂乃果も凛も、俺みたいに意味不明な訳のわからない自信を発揮することがある。そういう時って大抵上手くいかないんだよな。いつも空回りして失敗する。そして今回は俺の耳の命がかかっているから尚更怖い。

 

 

「でも誰かが実験台にならないと上手くならないにゃ~」

「実験台言うな!!実験って失敗すること前提だからな!!俺の鼓膜は1つしかねぇから!!」

「両耳があるから2回実験できるよ?」

「こえぇよお前!!人の耳を潰すことがそんなに楽しいか!?」

 

 

 まるで我が最凶にして最狂の姉のような発想だ。もしかしてアイツのせいで、μ'sのみんなが別の意味で汚されているのかもしれない。そんな危ない思考を、こんな純粋で隠れ乙女チックな凛に持たせるなんて……

 

 

「さぁ、覚悟するにゃ!!」

「や、やめろぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

「見つけたわよ凛!!」

「ここにいたんですね穂乃果!!」

 

 

 

 

「真姫ちゃん!?」

「海未ちゃん!?」

 

 

 まるで彗星のごとく現れたのは俺の救世主、真姫と海未だった。2人とも穏やかではない顔をして穂乃果と凛を睨んでいる。これは……ご愁傷様だ。

 

 

「まだ生徒会長としての自覚が足りないようですね……今日一日ずっと生徒会業務です!!あなたの腐った根性を叩き直してあげますよ!!」

「まだ英語漬けし足りないのかしら……今日と明日を使ってずっと英語のレッスンよ!!そうだ、公用語を英語にしようかしら……」

 

「ちょっと待って!!話せば分かるよ海未ちゃん!!」

「そうだよ真姫ちゃん!!そんな地獄耐えられないにゃ!!」

 

 

「「問答無用!!」」

 

 

 そして穂乃果と凛は、海未と真姫に襟を掴まれそれぞれの持ち場に連行された。サボるとそのツケが何倍にもなって返ってくるから、特にそういうことに厳しいアイツらの場合はな。まさに自業自得という言葉を具現化した話だ。

 

 

「「零くーーん!!助けてーーー!!」」

 

 

 おーおーいい悲鳴が聞こるなぁ~。じゃあそれを子守唄にしてお昼寝でもしますかね。

 

 

 




 危うく零君がツッコミ死してしまうところでした。いつもボケ役や変態役に回っている彼が終始ツッコミに走る回は、意外と珍しかったりもします。

 でもほのりんの2人はやっぱりテンションが高くて、小説を書いているこっちも元気をたくさんもらえたような気がします。作中にもありましたが、妹にするととても大変そうですね(笑)
 この小説ではもっと大変な妹がいるというのは放っておきましょう。あの子に触れてもいいことはないです。むしろ巻き込まれないように逃げましょう。


 ではまた次回!!明日に投稿できるといいなぁ(願望)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

風呂覗きは男のロマン

 今回は今までありそうでなかったお話。前回でやっと軌道修正をしたのにも関わらず、今回でまた路線が戻ってきた模様。でもこれがこの小説の特色で醍醐味ということで1つ!!


 

 

 

 遂に日本人待望の長期休暇、ゴールデンウィークに突入した。その期間を利用し、俺たちμ'sメンバーはまた真姫の別荘を借りて合宿を行っている。場所は空気がもの凄く美味しい山。目的は作詞、作曲、衣装づくりに加え、新しくメンバーに加わった雪穂と亜里沙、俺の妹の楓のダンスレッスンだ。俺はただ横から茶々を入れているだけだがな。

 

 どの工程も滞りなく着実に進んでいき、午後からは全員でダンスや歌の練習に入ることができた。これには意外と新メンバー3人が大きく加担していて、雪穂は作詞、亜里沙は衣装、楓は作曲でそれぞれ独創的かつ斬新なアイデアを披露したため、どの作業も早く終了したのだ。中々にスペックの高い新入りたちですこと。

 

 そしてダンスレッスンは想像以上に捗り、気づけばとっくに日が暮れていた。もう晩飯にもいい時間なのだが、その前にみんなが汗を流したいということなので、全員(俺意外)でお風呂に入ることになっている。

 

 もちろん!!男としては覗かざるを得ない。幸いにもここの温泉は露天風呂らしいから、覗く場所やタイミングはかなり測りやすいだろう。まだ誰もお風呂にすら入っていないのに、もう少し興奮している俺がいる。ここでお風呂を覗かなければ変態の名を返上することになるからな。

 

 

「ねぇお兄ちゃん」

「ん?どうした楓?」

 

 

 いち早く風呂の支度を終えた楓が、俺にしか聞こえないくらいの小さな声で話しかけてきた。

 コイツは合宿の前日、俺と合法的に一緒に寝られると聞き、テンションが爆発してしまって手が付けられなかったんだよな。その前に合法的ってなんだよ……俺と普通に寝るのは違法なのか?俺ってそこまで変質者!?

 

 

「どうせお風呂を覗く気なんでしょ?」

「……どうして分かった?」

「お兄ちゃんのことならなんでも分かるよ♪だって妹だもん♪」

 

 

 その発言はヤンデレ地味ているからやめなさい。妹属性+ヤンデレ+ブラコン+ドSって、キャラが濃すぎるな……一部界隈の男性には需要があるかもしれないけど。

 

 

「それで?そんなこと知ってどうする気だ?俺を脅しに来たのか?」

「違うって。協力しに来たんだよ」

「協力?」

「うん。みんなの憐れもない姿を見るお手伝い、私がしてあげようかって言ってるの」

 

 

 俺はコイツがマトモに協力してくれるとは思えないんだが……途中で裏切りそうで怖い。なんたってあの最悪の姉の妹なんだからな。それは俺もそうか……

 

 

「一応聞こう、裏は?」

「ないよそんなもの。妹がお兄ちゃんの欲望の捌け口になるのは当然でしょ?だから協力してやろうって言ってるの」

「その言い方は放送禁止になるからやめろ。それで?具体的な策は?」

「まあ慌てなさんなって、お兄ちゃんが感動するぐらいの最高の舞台を用意してあげるよ♪」

 

 

 如何にも胡散臭い言い方だが、去年の合宿では2回とも風呂覗きを失敗してしまった。でも同じ風呂に入るコイツの手ほどきがあるのなら、もしかしたら俺にも勝機があるかもしれない。カメラの調整もバッチリだ。盗撮?いやいや!!これは思い出作りのための写真だから!!下心なんて一切ありませんから!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「楓の奴……結局ここへ来るように言っただけで具体的には話してくれなかったな」

 

 

 俺は今、別荘の裏手の林に来ている。大きな岩陰に隠れつつ、露天風呂を除くことができる絶好のスポットだ。なぜアイツがこの場所を知っていたのかは分からないが、俺にとっては楓様々と言わざるを得ない。

 

 

「おっ!みんなが来たぞ!!まずは様子を伺おう」

 

 

 俺の行動は既にバレていたのか海未や絵里から厳重注意を受けたのだが、俺がそんなことで引くとでも思っているのか?あと何十分後かぐらいには、このカメラも大いに潤うことだろう。

 

 次第にみんなの声が俺のところにも聞こえてきた。少し耳を澄ませてみよう。

 

 

『うわぁ~~思っていたよりも大きいね!!穂乃果、こんなに大きなお風呂久しぶりだよ~!!』

『ことりも温泉は久しぶりだなぁ~』

『山の景色もいいですし、疲れがしっかりと取れそうですね』

 

 

 まずトップバッターとして穂乃果、ことり、海未の幼馴染組が入ってきた。もちろん身体にタオルは巻かれてしまっているが、胸の凹凸や身体のラインはくっきりと現れている。普段一緒にいることが多いからこそ、彼女たちのこんな姿に興奮を隠しきれない。ちなみに鼻血は大丈夫、輸血パックを大量に持ってきてあるから。

 

 そういや、サイドポニーでない穂乃果や奇抜な髪型ではないことりを久しぶりに見る。女の子の髪を下ろした姿って、また違った可愛さがあるな。

 

 

『私もここの別荘の露天風呂は初めてなのよね』

『凛、景色がよく見えるところに入りたいにゃ!!』

『わわっ!!凛ちゃん走ったら危ないよ!!』

 

 

 お次は2年生組のお出ましか。タオルだけだと花陽の胸が強調されてかなりエロティックだな。真姫もスタイルが寸分狂わず浮き彫りになっている。この2人はこの1年で随分と成長したもんだ。凛は……まぁうん、綺麗でスレンダーな身体だぞ。ほ、褒め言葉だからな……

 

 

『ハラショー!!広いね雪穂、楓!!』

『そんなにはしゃがないでよ……でも本当に広いなぁ~』

『フフフ……』

 

 

 今度は1年生組の登場だ。相変わらずなんでもハラショーハラショーうるさい亜里沙は、やはりあの絵里の妹だからか最近やけに発育が良くなってきた。胸もそこそこ出てきているしな。雪穂はもう少し頑張ろうとしか言い様がない。でも姉の穂乃果がそこそこなので、雪穂もそれなりのレベルにはなるとは思う。

 

 そして我が妹は、なぜあんな男が反応するような身体をしているのだろうか。自分で完璧というだけあって、スタイル自体は絵里並みだからな。それに俺に今見られていることを知っているためか、不適切な笑みを浮かべ少し自分のバスタオルをはだけさせてやがる。流石の俺でも実の妹にはなぁ……いい身体だけどさ。

 

 

『ハラショー!!この別荘のお風呂も大きわね!!』

『にこっちの家のお風呂の何倍あるんかなぁ~?』

『どうしてにこんちのお風呂と比べる必要があるのよ!!』

 

 

 最後は大学生組のご入場だ。やはりタオル1枚では絵里や希の抜群のスタイルと反則級の胸は隠しきれない。若干横乳が見えて、鼻血だけでなく俺の体内の血が駆け巡っている。まだ大学生になって一ヶ月しか経っていないにも関わらず、高校生の時よりもさらに大人びて見えるため、俺の欲求が高まっていくのも無理はない。

 

 にこ……?いたなぁそういや…………申し訳ない。彼女も彼女でそれなりの身体つきにはなってきている。これも大学生効果か?でもいつも一緒に絵里や希といるためか、比べられてしまうのは仕方がない。俺だけでもにこの身体に萌えてやるか。

 

 

「それにしても、アイツが言っていた策ってなんなんだ?」

 

 

 みんなが風呂に入ってくるところの写真を撮り終え、改めて楓が実行するであろう策というものを考えてみる。アイツ曰く、俺が興奮し過ぎて輸血パックが足りなくなるぐらい鼻血を吹き出すだすらしい。それは言いすぎだろ……と思っていたのだが、今みんなが風呂に入ってくる光景を見ただけでかなりヤバイ。もう既に輸血パックはセッティング済みだ。

 

 そんなことを考えている間に、楓は動き始めていた。

 

 

『ねぇ絵里せんぱぁ~い、お先にお身体の方どうぞ♪希先輩もにこパイセンも是非♪』

『えっ、いいの?むしろ私たちが最後に入ってきたんだから、楓たちが先でいいわよ?』

『いえいえ~~年功序列ということで♪』

『それならお言葉に甘えさせてもらおうかしら』

 

 

 楓の奴……またあざとくなってやがる。アイツが『先輩』呼びや敬語を使い出すということは、相手を煽ったり見下したり、とにかくロクなことはない。

 先輩禁止のルールを無理に押し付ける必要はないということで、雪穂や亜里沙は敬語で話すことが多いが楓は普段は呼び捨てタメ口、何かを企んでいる時は敬語と実に分かりやすい。

 

 

「ちょ、ちょっと待て!!絵里たちがこっちに!?」

 

 

 一瞬アイツらに気づかれたかと思ったのだがそうではない。身体を洗う場所の関係上、彼女たちからこっちに近づいてきてくれるのだ!!なるほどな……楓がこの場所を指定したのはこのためか。浴槽に入っているみんなと比べて絵里、希、にこの姿はしっかりくっきり見える。俺が覗いていることもバレそうなぐらいだ。それに洗い場所の数が少ないため、一人一人じっくりと堪能できる。

 

 そしてもちろん身体を洗うにはタオルを取らなければならない。つまり生まれたままの彼女たちの姿をこの目で拝むことができるのだ!!しかも俺の眼前で!!自らアイツらがタオルを取ってくれる!!天国かよここは!!

 

 

「がはぁっ!!」

 

 

 夜の林に大量の鼻血が飛び散った。マズイマズイ……あまり大きな声は出せないぞ。なんたって意外と近くにいるんだからな。まだまだ始まったばかりなのに、こんなところで見つかってしまっては勿体無い。

 

 

「カメラ……カメラをセットしよう」

 

 

 あまりの絶景に思わず手が震える。俺としてはどんな綺麗な夜景よりも、どんな広大な自然よりも、俺が今まさに見ている光景が一番だろう。断言できる!!これぞ男のロマン!!しかもロマンの最高潮が目の前に!!

 

 

『にこっち、最近随分胸大きくなってきたんと違う?』

『あのね!!アンタが言うと嫌味にしか聞こえないのよ分かる!?』

『まぁまぁにこ落ち着いて。贔屓目で見なくても、私もそう見えるわよ』

『神様は不平等よね……』

『またそうやって拗ねるんやから』

『希も絵里も!!少しぐらい分けなさい!!』

『きゃっ!!に、にこくすぐったいわよ!!』

 

 

 なんだこの俺得な光景は!?さっきから鼻血がダラダラ出っぱなしで止まらねぇ!!特に絵里とにこが騒いでいるせいで、その2人のタオルがかなりはだけている。いつもは服で包み隠されている部分が、文字通り『丸裸』になっているんだ!!

 

 

「ちょっと落ち着こう……これじゃあ俺ただの変態じゃねぇか。あくまで変態"紳士"のつもりなんだけどな……」

 

 

 一旦浴場から目を離し、深呼吸をして一息付く。俺の周りには自分の鼻血が飛び散っていて、これだけみたら殺人現場かと思われそうだ。

 それにしても心臓の鼓動が高鳴り過ぎて、このまま死んじゃうかもしれない。彼女たちの裸を見て死ねるなら本望だけどな。

 

 

 目を離していたせいか、いつの間にか絵里たちは身体を洗い終わり、今度は真姫たちが俺の射程圏内まで来ていた。

 

 

『かよちんまた胸大きくなった?羨ましいなぁ~~』

『えぇ!?そんなことないよ!!それだったら真姫ちゃんの方が……』

『わ、私に振らないでよ!?特になにも変わってないから!!』

 

 

 女の子の胸の弄り合いっていいよね!!今度は凛が花陽と真姫にちょっかいをかけているおかげで、花陽と真姫のタオルがズルズルとズレているのが分かる。そしてチラッと見える綺麗な肌、また鼻血が止まらねぇ……

 

 

「は、鼻が……そろそろマズイか?」

 

 

 鼻血を噴出し過ぎて鼻が痛くなってきた。でもこんな光景何年に一度拝めるかどうかだ。ここでやめるわけにはいかない。みんなの裸が見られるという興奮、好奇心、背徳感に罪悪感、すべてが俺を動かす原動力になっている!!

 

 

 そしてまた目を離した隙に真姫たちが身体を洗い終わり、雪穂たちに交代していた。

 

 

『おぉ!!亜里沙ってば綺麗なお肌してるねぇ~♪』

『そう?楓の方がスタイルもいいし、胸も大きいし、すごく女の子として理想だと思うけど?』

『まぁ私がパーフェクトボディなのは当たり前でしょ!!それより雪穂は……』

『ど、どうして私を見るの……?』

『べっつにーー。でもお兄ちゃんはそんな雪穂のことも好きだと思うけどなぁ~~』

『な、なんでここで零君が出てくるの!?』

 

 

 雪穂の身体は亜里沙や楓と比べると若干貧相にも見えたが、意外に亜里沙とそこまで変わらないことに今気づいた。楓の言う通り、俺は女の子を身体で選ぶほど飢えてはないが雪穂のあの反応……もしかして脈アリ!?

 それにしても女の子って、身体の話題が好きなのか?さっきからどのグループも胸の話題しかしていないような……

 

 

 カメラは順調に稼働している。その間に俺は自身の輸血を済ませ、最後にやって来た穂乃果たちに目を向けた。

 

 

『いつ見ても海未ちゃんの身体は綺麗だなぁ~。お肌を保つ秘訣、ことりにも教えて?』

『特別なことをしていませんが……敢えて言うのなら規則正しい生活でしょうか?』

『じゃあ穂乃果には無理だよ』

『諦め早くないですか……あなたはむしろ身体のことを気にしなくとも規則正しい生活を送るべきです!!』

『えぇ~穂乃果はどちらかといえばことりちゃんみたいに胸が大きくなりたいなぁ~』

『そ、そこまで大きいかな?』

『大きいよ!!だって零君がすぐ虜になるじゃん!!』

『そ、そうかなぁ~えへへ~~』

 

 

 まるで俺が女の子の胸ばっかり見ているような言い草だな。まぁ間違っちゃいないか……

 それにしても本当に胸の話題しかしないなコイツら。もしかして俺以上に飢えているのかもしれない。変態と化したμ'sか……ダメだダメだ!!とてもじゃないが俺1人で12人も相手をしていられない!!こういうのは想像の範疇に収めておこう。

 

 

「また鼻血が出てきた。輸血輸血っと――ってあれ?ない!?これだけしか持ってきてなかったっけ!?」

 

 

 カバンの中に大量に詰め込んできた輸血パックの在庫が、いつの間にか0になっていた。昨日の夜確認した時は十分な量があったはずなのに、カラッポになった輸血パックを数えてみると明らかに足りていない。やけにカバンが軽いと思ったらそういうことだったのか。でもどうしてこれだけしか入ってなかったんだ……?

 

 

「早くしないとみんながお風呂を出てしまう……」

 

 

 そこで俺は再び穂乃果たちまだ風呂にいるのかを確認したのだが、それが間違いだった。今まさに穂乃果、ことり、海未が身体を洗うためタオルを取る瞬間だったのだ!!彼女たちを包んでいた唯一のベールが剥ぎ取られ、正真正銘の生まれたままの姿が俺の目に飛び込んで来た。見えた!!何もかもが!!上も……そして下も……!!

 

 

「がはぁっ!!!!」

 

 

 未だかつてないほどの鼻血を吹き出し、俺はそのまま気絶してしまった……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「お兄ちゃん!!お兄ちゃんってば!!」

「……ん?……楓?」

「もうっ!!やっと起きたね!!」

 

 

 目を開けると、楓の顔がドアップで飛び込んで来た。身体を起こし周りの状況を確認する。気絶した場所から移動してもいないし動かされてもいないようだ。一瞬バレたかと思ったが、近くにいるのは楓だけで他のみんなの姿は見当たらない。風呂からもとっくに出ているようだ。

 

 

「俺……気絶してたのか……」

「やっぱり、思った通りだったよ♪」

「思った通り?――ってお前、そのカメラ俺のだろ!!返せ!!」

 

 

 楓の左手には俺が仕掛けていたカメラが握られていた。そのカメラは、みんなの生まれたままの姿が鮮明に記録されている超お宝だ。誰かに渡すわけにはいかない。

 

 

「そもそもさぁ~私がこの作戦に乗った理由ってものが分かってないんだよ、お兄ちゃんは」

「そうか……この作戦、俺には利点があるがお前には利点がない」

「そういうこと。だから利点を作らせてもらったよ。むしろこのために作戦を提案したんだけどね」

「なに?」

 

 

 この作戦、俺はみんなの生まれたままの姿を見られるというメリットがあるが楓にはそれがない。コイツが自分の裸を見られてもいいという痴女だったら話は別だが、そんな性グセはないだろう。

 

 

 

 

「このカメラを返して欲しければ、来週一週間、私と一緒にお風呂に入って、夜一緒に寝ること!!」

 

 

 

 

「なんだと!?!?」

 

 

 冗談じゃねぇ!!コイツと一緒に風呂とベッドを共にするだと!?絶対に誤りが起きる!!100%枯らされる!!

 楓はニヤニヤしながら俺を見下すような目線を向けている。まさかコイツに遊ばれるなんて……これこそ我が最悪の姉の妹か。でもここで引いてしまうとカメラのデータはすべて消去されてしまうだろう。

 

 くっそぉ!!コイツ、初めからこれが狙いだったのか!!

 

 

「輸血パックを俺のカバンから抜き取ったのはお前だったんだな……」

「そうだよ♪お兄ちゃんが気絶してくれないと、この作戦は成り立たないからね♪」

 

 

 最初からまんまとコイツの罠に嵌っていたということか。普段の俺ならすぐに疑うのだが、みんなの憐れもない姿を見たいという願望にかまけていたため罠に全然気づかなかった。神崎零一生の不覚!!

 

 

「さぁ、どうするのお兄ちゃん♪」

 

 

 

 

 

 

 俺の取る選択は…………

 

 

 

 

 

 

「……分かった。お前の提案に乗ってやる!!だけど、そのカメラは絶対に返してもらうぞ!!」

「そうこなくっちゃ♪流石お兄ちゃん、変態だねぇ~」

 

 

 プライドなんて投げ捨てて、この地獄の一週間を耐え抜いてみせる!!まってろよ!!俺のお宝!!

 

 

 

 

 

 

 そして一週間を耐え抜いたのだが、返してもらったカメラの見てみると、なんとすべてのデータが削除されていた。アイツ曰く、『カメラ自体を返すとは言ったけど、データの保証なんて一切していなかったでしょ♪』だそうだ。

 

 もう絶対に信じない!!姉も妹も!!

 




 前作の『日常』では時系列がバラバラで、夏の話をしたと思ったら次の話は冬になっていたりと、話ごとにごちゃまぜとなっていました。しかし『新日常』では私たちのリアルと時期をリンクさせています。つまりこの話から5月、前回までが4月ということですね。特にリンクさせる必要はないのですが……


 ここから余談です!


 早いもので、デビュー作である『日常』第一話を投稿してから明日で半年になります。これまでに書いた話の総数は135話と、3日に1回は投稿している計算ですね。

 これからの更新頻度の見通しが全然立っていないので、そろそろTwitterか何かで状況を報告していければなぁと考えています。自分自身Twitterをやっていないのですが、この小説を読んでくださっている方でTwitterをやっている人ってどのぐらいいるのでしょう?もしやっている人が少なそうだったらこのまま行こうと思います。

 Twitterやっている人は、もし自分がアカウントを作った際には是非アドバイスください(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

子犬キャラのμ's

 レギュラーキャラが増えたせいで、話の展開をオムニバス形式にすると文字数が肥大化するという面倒な現象が起きてしまいました。読み手からすれば文字数が多い方がいいのかもしれませんが。

 今回は零君が、μ'sのみんなを子犬キャラに仕立て上げます!命令などちょっぴり、ほんのちょっぴりハードな内容もあるのでご注意を!!


子犬キャラのμ's

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーーーし!!遂に届いたぞ」

 

 

 ただいまアイドル研究部部室、俺はそこそこ重量のあるダンボールを抱えて机の上に置く。いやぁ~~届くまで意外と時間が掛かったな。でもそんなことはもうどうでもいい!!今はいち早くこれを開封しなければ!!

 

 

「随分と大きいダンボールだね?何が入ってるの?」

「焦るな穂乃果、今開けてやる」

 

 

 現在部室にいるのは俺、穂乃果、ことり、海未の3年生組だけだ。他のみんなも順次来るだろう。それまではこのダンボールの中身を穂乃果たちに使って遊ぶとするか。

 

 

「きたきた!!これだよこれ!!待ちに待ってた待望のプレイがようやくできるぞ!!」

 

 

 俺はダンボールに入っていたモフモフしているカチューシャのようなモノと、同じくモフモフしているホコリ取りのような細長いモノを穂乃果たちに見せつける。ようやく俺の念願が叶う時がきたんだ!!

 

 

「「「い、犬耳!?」」」

 

 

「そうだ!!そしてこっちが犬のしっぽだ。ちゃんとμ's全員分買ってあるからな、安心しろ」

 

 

 穂乃果たちは目を丸くして驚く。そりゃそうだ、こんな大きなダンボールに入っているんだからライブで使うものだと思うよな。だがその考えはあまーーーい!!

 そう、俺が部費を横領して買ったのは犬耳と犬のしっぽ――つまり犬のコスプレセットだ。これを使ってμ'sのみんなを俺のペットにする、それが俺の夢だった。長年(1年間)追い続けてきた夢が今日ようやく叶うんだ。

 

 

「あ、安心しろって……またあなたはこんな無駄遣いを!!」

「騒ぐな騒ぐな、犬になりたい気持ちは分かるけど落ち着け」

「どうせ部費を勝手に使ったのでしょう?通報しますよ?」

「やれるものならやってみな。そう思ってんのはお前一人だけだから」

「どういう意味です?」

「穂乃果もことりも、犬のコスプレしてみたいよな?」

 

 

「「うん♪」」

 

 

「な゛っ!!」

「ほ~ら見ろ」

 

 

 穂乃果もことりも可愛いものには目がないからな、当然といえば当然の結果だ。これで3:1、あとは勢いで海未を丸め込んでしまえばμ'sのワンワンパラダイスにまた一歩近づくことになるぞ!!以前の温泉での光景は興奮に次ぐ興奮だったが、今回はテーマは癒しだ!!犬となったμ'sのみんなに存分に癒してもらおうじゃないか!!

 

 

「わぁ~~ことりちゃんすっごく可愛いよ!!」

「えへへ~~ありがとう♪穂乃果ちゃんもとっても可愛いよ♪」

 

 

 既に穂乃果とことりは犬耳としっぽを装着していた。いつも小動物みたいに甘えてくるこの2人だからこそ、犬のコスプレがより際立ってとても似合っている。穂乃果もことりもご機嫌なのか、犬耳やしっぽがピコピコと動いていた。

 説明を忘れたが、この犬耳としっぽは装着者の意思や感情に反応して自在に動く仕組みとなっている。これでより犬に近づけるわけだ。

 

 

「ほ~ら穂乃果、ことり、こっちにおいで~!!」

「わ~い♪零君♪」

「こら穂乃果」

「な、なに!?」

「今の穂乃果は子犬なんだから、『ワン』って言わないとダメだろ?」

「あっ、そっか!!」

 

 

 これぞ子犬プレイの醍醐味!!命令しているみたいで申し訳ないのだが、俺は彼女たちに子犬となってじゃれついてもらいたいんだ!!俺は欲望を忠実に再現する男だから、細かい設定までしっかりと決めておくのが我が流儀。

 

 

「ワンワン!!」

「いやぁ~穂乃果は可愛いなぁ~!!もっと撫でてやろう!!」

「くぅ~ん」

 

 

 まだ1人目にして萌え死そうなんだがどうしたらいい……

 穂乃果は俺に抱きついたまま頬を俺の胸にスリスリする。彼女の頭を撫でてやるたびに、しっぽが左右に大きく振れているからよほど気持ちがいいのだろう。

 

 

「ワンワン!!」

「そうだよな、ことりもやって欲しいよな。よし、こっちに来い!!」

 

 

 まるで昔あったチワワのCMみたいに、ことりは愛おしそうな目を俺に向けていた。本当にことりって反則だよな……だって目だけで男を落とすことができるんだから。アキバのメイド喫茶界隈で、伝説のミナリンスキーと言われるだけのことはありますわ。

 

 そこで俺はある命令を思いついた。思い立ったら吉日とも言うし、ダメ元で命令してみるか。もしこれで穂乃果とことりが命令を受け入れたら……その時はその時の俺に任せよう。今は何よりも好奇心が勝る。

 

 

「犬が服着てるのはおかしいよなぁ~~」

「わ、わん……?」

 

 

 穂乃果がキョトンとした顔で俺の顔を見つめる。流石にこんな命令を聞き入れるわけないよな……むしろ俺としても彼女たちに露出グセがあるとは思いたくもない。じゃあなんで命令したのかって?一度でいいから言ってみたいじゃん!!

 

 

「なに!?」

「わ、ワンッ!!」

「こ、ことり!?」

 

 

 なにやら布が肌に擦れるような音がしたと思ったら、ことりが自分の制服に手をかけていた。既にリボンは解かれ、制服もかなり乱れていてことりの白い肌があちらこちらから覗いて見える。そうだった!!今のことりはこういう奴だったんだ!!

 

 

「ま、待てことり冗談だ!!ちょっと言ってみたかっただけなんだよ!!」

「わ、わん……」

「そ、そんなにしょぼくれるなよ……そこまで脱ぎたかったのか?」

「ワンッ!!」

「元気よく答えなくてもいい!!」

 

 

 とにかくことりに服を着させないと!!完全に脱いではいないのだが、もしこの状況を誰かに見られたりでもしたら即通報ものだ。幸い海未は部室の端っこで怯えているし、穂乃果は俺の命令を待っているのかずぅ~と俺を見つめたまま動かない。本当の犬みたいだな。それより早急にことりを元に戻して場を整えなければ、もうすぐ誰かがここに――――

 

 

「よ~し、今日も頑張るにゃ~……?」

「こんにちは~……?」

「外まで声が聞こえてたけど……?」

 

 

 や、やっちまったぁあああああああ!!凛たち2年生組が何の前触れもなく部室に入ってきやがった!!『入るよ~』って声掛けてくださいよ!!

 俺の右手にはことりの制服、そして目の前にはシャツ1枚かつ犬となっていることり、隣には俺に擦り寄っている穂乃果犬、部屋の隅には丸まっている海未。この状況をなにも知らない人見たらもちろん……

 

 

「かよちん!!あの変態を通報だにゃ!!」

「えぇっ!?」

「何してるの花陽!!このままだと、私たちまであの変態に手を出されるわよ!!」

 

「ちょっと待たんかぁあああああああああああああい!!俺の話を聞いてくれ!!」

「黙りなさい!!女の子の服を脱がせてる輩に弁解の余地はないわ!!」

 

 

 俺だけで弁解しても埒があかない。こうなったら穂乃果たちからも事情を説明してもらうしかなさそうだな。それでコイツらが納得するかは別として。海未は部屋の隅で震えていて使い物にならないから、ここは――――

 

 

「俺の代わりに説明してくれ穂乃果!!」

 

 

「ワンッ!!」

 

 

「「「!!!」」」

「オイッ!!そこは設定に忠実じゃなくてもいいんだ!!真姫たち勘違いしてるだろうが!!」

 

「零君……穂乃果ちゃんたちを……?」

「待て花陽!!俺はお前に見放されたら人生が終了する!!だから引かないでくれ!!」

 

 

 その後、犬語から元に戻った穂乃果とことりにより何とか俺に無実は立証された。実際に命令したのは俺なんだが、そこはもう黙っていよう……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「でもこの犬耳よくできてるね!!かよちんだったら似合いそうだにゃ!!」

「そ、そうかな?コスプレなんてしたことないけど」

「折角買ったんだし、ちょっと付けてみろよ。ほら、凛も真姫も」

「わ、私はいいわよ!!」

「残念ながらお前らに拒否権はないんだ。俺がいる限り俺が正義なんだよ」

「いつからμ'sはあなたの絶対君主制になったのよ……」

 

 

 無駄に全員分の犬耳としっぽを買ってしまったため、どうせなら着用しないと勿体無い。それに子犬キャラとなったμ'sなんて貴重な映像、今しか見ることはできないぞ。忘れないうちに脳内HDに焼き付けておくんだ!!

 

 そして凛はノリノリで、花陽は渋々犬耳としっぽを装着した。

 

 

「どうどう零くん、凛の子犬姿似合ってる?」

「ああ!!小柄なお前にピッタリだよ!!」

「零く~ん♪」

「よしよし凛も可愛いなぁ~」

「ワンワン!!」

 

 

 凛がじゃれついてきたので俺もそれに応えるように頭を撫でてやる。そのたびにフリフリと触れるしっぽを見ると元々小柄な身体なことも相まって、凛が本当の子犬に見えてくる。

 いつもは『にゃーにゃー』と、猫語を話している凛が子犬キャラになっているため中々面白い。犬の姿で『にゃーにゃー』言われると存外に滑稽である。

 

 

「花陽もすごく似合ってるぞ!!」

「あ、ありがとう……でも恥ずかしい!!」

「ほら、花陽もこっちおいで~。来ないならこっちから抱き寄せちゃうぞ?」

「れ、零君!?」

 

 

 いつまでもオドオドしている花陽を思いっきり引き寄せ、そのままギュッと抱き寄せた。初めは驚いて落ち着きがなかった花陽だが、頭を撫でてやると次第にしっぽを大きく揺らしながら気持ちよさそうに俺に擦り寄ってくる。やっぱり普段から純粋な花陽が子犬になると、それだけで守ってやりたくなる可愛さがあるな。危うく悩殺されそうだった……

 

 

「真姫も付けてみろって。絶対に可愛いから、な?」

「そ、そこまで言うのなら……仕方ないわね」

「ま、真姫!?あなたも零の言いなりに!?」

「別に!!ただ凛や花陽が零にじゃれついているのを見て、私もやってみたいと思ったとかじゃないから!!」

 

 

 いやいや口に出てますから!?絶対に思っているだろ!!相変わらず分かりやすいツンデレを発揮しやがって、コイツがマトモにデレる日はくるのだろうか?

 

 真姫は緊張しているのか、犬耳を持ってしばらく硬直していたが、決意を固めて遂に犬耳としっぽを装着した。

 

 

「すまん、テンション上がってきた!!」

「ちょっと!!急に抱きつかないでよ!!」

「いいじゃんいいじゃん!!ナデナデしてやるからさ」

「そ、そんなので……んっ、気持ちよくなんてならないんだから」

 

 

 だったらさっきの『んっ』ってなんだよ?やっぱり真姫は色々と感じやすいのかもしれない。この前『ワシワシMAXハイパー』を試した時だってそうだ。これも自分磨きの賜物か。

 

 

「こんにちはーー」

「すみません、遅くなりました」

「またラブコメの匂いがする……」

 

 

 次に入ってきたのは亜里沙、雪穂、俺の妹である楓の一年生組だ。今回は服を誰かの服を脱がしているなどという犯罪行為はしていないため、騒ぎになることはないだろう。受け入れてもらえるのかと言えば話は別だが……

 

 

「ちょうどよかった!!お前らにこれをプレゼントしよう!!」

「い、犬耳!?まさかこれを私たちに付けさせようと……?」

「当たり前だ!!雪穂も可愛い子犬になると思うぞ?」

「ぜっっっったいに付けませんからね!!ね?亜里沙、楓?」

 

「えぇーー私は可愛いと思うけどなぁ~」

「お兄ちゃんが命令なら付けないわけにはいかないね♪」

 

「ふ、2人ともぉ~」

 

 

 これは穂乃果たちと同じパターンだな。亜里沙と楓という外壁を固めていけば、如何に雪穂が強靭な牙城を立てていたとしても切り崩すのは簡単だ。あとは勝手に堕ちてくれるからな。

 

 

「なら雪穂はそこでカカシになって見ていればいいよ。私は亜里沙とお兄ちゃんに可愛がってもらうから」

「れ、零君に……?」

「雪穂も一緒に子犬さんやろうよ!!零くんにナデナデしてもらえるよ!!」

「う、うぅーーーー」

 

 

 いい調子だ。この調子で雪穂のガードを全部破ってしまえ!!これで雪穂が俺の犬になるのも時間の問題だな、ワッハッハ!!この言い方もかなり犯罪臭がする言い方だけどな。

 

 そして雪穂の牙城は崩れ去り、3人まとめて俺の犬にしてやった。もうこの言い方やめようか、流石に敵しか生まなくなる。

 

 まず俺は子犬の亜里沙を引き寄せて抱きしめた。

 

 

「そういえば、こうやって亜里沙を抱きしめるのって初めてだな」

「そうですね!でもお姉ちゃんから聞いてた通り、零君とっても暖かいです♪」

「俺もだよ。悪いけど亜里沙、ちょっと犬の言葉で喋ってみてくれないか?」

「ワンワンッ!!」

 

 

 凄まじい!!子犬亜里沙+犬語の破壊力!!俺はこんな天使に犬をやらせて、しかも犬語で喋らせているのか!?ここまできて罪悪感が半端ではない!!そんな笑顔でワンワンって言われたら……また新たな性癖に目覚めてしまいそうだ。

 

 

「ワンワンワンワンワンワンワンワン!!」

「うおっ、楓か!?うるさいうるさい!!お前は色々と成長し過ぎていて子犬に見えないんだよ!!」

「ワンワンワンワンワンワンワンワン!!」

「だぁあああああ!!こっちに擦り寄ってきて脱ごうとするな!!ことりと同じ展開になるだろうが!!」

 

 

 相変わらずコイツはいつでもどこでも容赦がないな!!人前で脱ぐなんて、変なところでことりに似ている。むしろおかしくなったのはことりの方かもしれないけど……でもことりは彼女、コイツは妹。俺をどれだけ犯罪者に仕立てあげれば気が済むんだ!?

 

 

「雪穂、そんなところに突っ立ってないでこっちに来いよ」

「変なことしません?」

「しないしない」

「……じゃあお言葉に甘えて」

「いい子だなぁ~雪穂は!!」

「きゅ、急に撫でないでください!!」

 

 

 雪穂も真姫と同じく素直になれない系女子だけど、押してやれば借りてきた猫のように素直で大人しくなる。現に今も俺の背中に手を回し、俺にそっともたれ掛かっている。頭を撫でるたびにしっぽを揺らしていることから、俺のことを許してはいるようだ。まさか雪穂と抱きつき合うことのできる関係になるとは、今まで思ってもなかったけどな。

 

 

「どうしたの?廊下まで声が聞こえてきたけど?」

「また零君が面白いことやってるん?」

「にこたちにまで飛び火しなきゃいいけどね」

 

 

 最後に大学生組が順番に部室へ入ってきた。とうとう最後の獲物が網にかかったか。これよりμ's犬化計画は最終段階を迎える!!みんな俺に従順な子犬ちゃんにしてやるぞぉ~~!!

 

 

「こ、これは……逃げましょう」

「そ、そうやね……」

 

「逃がすかぁああああああああああああああああああ!!」

 

「「きゃぁっ!!」」

 

 

 俺は後ずさりして逃げ出そうとした絵里と希に飛びかかり、ものの一瞬で2人に犬耳としっぽを装着した。μ's内で1、2を争うアダルトボディを持つ2人が犬になる姿を、この目で是非拝んでおかなければな!!

 

 絵里と希の子犬姿は、いつもの大人びた2人とは違ってとてもギャップがある。そのギャップに萌えるというか、ここまで愛くるしい彼女たちを見るのは初めてかもしれない。

 

 

「これは中々……なぁ絵里、希!!ワンッって言ってみてくれ。一回だけでいいからさ、頼むよ」

「イヤよ!!」

「そうか……だったら子犬となった亜里沙で遊ぶとするか……フフフ」

「そ、それだけは……」

「じゃあワンと鳴くんだな!!」

「絵里ち……ウチも一緒にやるから」

「希……ありがとね」

 

 

 おぉ~~いい友情だな。でも俺の前では友情の力なんて無意味なのだよ、この亜里沙という人質ならぬ犬質がいる限りは!!なんだか俺、悪役になってね?みんなを犬化させている時点で悪魔なのかもしれないが。

 

 絵里と希はモジモジしながらも、俺の目を上目遣いで見つめる。流石にこの2人が長身だといっても男の俺には敵わない。まるで本当の子犬みたいだ。

 

 そして2人は大きく息を吸い込んで――

 

 

「「わ、ワンワン!!」」

 

 

「ぐうっ!!」

 

 

「ちょ、ちょっと零大丈夫!?」

「あぁ……なんとか」

 

 

 ギャップ萌えとはまさにこのことを言うのだろう。危うくμ'sのお姉さま方2人に悩殺させられるところだった。結果が出た、お姉さんキャラの2人が子犬キャラになると男は死にかける。何とか鼻血だけは回避できたからよかったが、体制がなければイチコロだっただろうな。

 

 

「れ、零!!」

「にこ……お前」

 

 

 後ろからチョンチョンとつつかれたので振り返ってみれば、なんとにこが自ら犬耳としっぽをつけて犬と化していた。その姿は真上にピョコっと立っている犬耳と、左右に垂れているツインテールが合わさり最強に見える。凛や亜里沙の時も言ったけど、小柄な身体だとやっぱり子犬姿がよく似合うな。

 

 

「似合ってる、可愛いよ」

「あ、ありがとう……れ、零、それでね!!」

「分かってる。思いっきり来い!!」

「ワンワン!!」

 

 

 にこは今までの誰よりもかつてないほどしっぽをフリフリして、俺の胸に飛び込んで来た。

 いつもは強気の彼女だが、意外と繊細で寂しがり屋なのだ。前回の新入部員歓迎会の時も、長い期間俺に会えなかった鬱憤がここぞとばかりに発揮された。そして今回も、にこの表情を見ていれば大体分かる。これでも付き合い始めてからそこそこ時間が経ってるしな。

 

 

「くぅ~ん♪」

「そうだよな寂しかったよな、ゴメンな」

 

 

 やはり大学生組とは高校時代とは違って会える時間が減っている。特ににこはそれを気にしているみたいで、こうしてみんなの前であろうと甘えん坊になることも多い。

 今のにこは子犬となっている。今日は思いっきり愛でてやろう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「さぁ最後は……」

「わ、私はそろそろ帰りますね!!」

「何言ってんだ。まだこれから練習があるだろ」

 

 

 コソコソと帰ろうとしてもそうはいかない!!俺が海未の存在を忘れるとでも思ったか?多分この中で一番子犬のコスプレに相応しくないであろう海未を、敢えて子犬に仕立てあげイジメるのが俺の最後の楽しみなんだ!!

 

 

「そこまでイヤか?」

「見てるだけでも恥ずかしいのに自分が子犬になるなんて……」

「そうか……なら海未を取り押さえるんだ!!穂乃果、ことり!!」

 

「「ワンワンッ!!」」

 

「穂乃果!?ことり!?離してください!!私は……私は!!」

「怯えたいい目をしているぞ、海未。そんな子犬みたいな目をしていると――――イジメたくなっちゃうじゃん」

 

 

「こ、こっちへ来ないでください!!あ、あぁああああああああああああああああああ!!」

 

 

 そこで海未は堕ちて(?)しまった。

 大和撫子が似合う海未に子犬は不釣り合いだとは思ったのだが、その怯えた目だけは子犬そのものだ。スレンダーな身体、長く綺麗な髪、透き通った白い肌、こんな子犬がいてもいいじゃないか!!この俺が一生飼ってやろう。

 

 

 ちなみ海未を愛ですぎて、キレた彼女をみんなで止めている間に完全下校時刻になってしまったのは内緒な。

 

 全く誰のせいだよ!!

 

 




 この小説でのことりとにこのキャラ崩壊が半端ではないですね(笑)個人的には可愛く描けていればそれでいいと思っています。

 子犬となったμ'sの姿、是非見てみたいですね!だったら自分で書こうとも思いましたが、自分は1つの絵を完成させるのに半日は費やすので12人分書くとしたら6日ですか……流石に諦めました(笑)
 ちなみに『非日常』の第4章では毎回下手くそな絵を書いてましたので、興味がある方はそちらまでどうぞ!


 Twitter始めてみた⇒https://twitter.com/CamelliaDahlia


 まだなにもわからない状況なので、色々と教えてもらえると助かります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小泉花陽、不良化計画!?

 今回は執筆途中から罪悪感がひしひしと込み上げてきて、花陽には非常に申し訳ないことをしてしまった……でも見たかったんや、かよちんがグレる姿を、不良少女になる姿を!!


 

 

「あれ?花陽だけか?」

「うん、2人共掃除当番だから。穂乃果ちゃんたちは?」

「アイツらもそうだ。ということは花陽と2人きりか……」

 

 

 部室には、花陽が1人で宿題をしながらみんなを待っていた。待ち時間を勉強に活用するとは中々勤勉な奴だ。凛はこの花陽と一緒にいるのにも関わらず、どうしてここまで頭の差が出てしまったのだろうか?まぁ花陽はうるさく言わないから仕方がないのかもしれない。でも、うるさく言われてもやらないリーダーさんもいるがな。

 

 

「あれ?宿題やめちゃうのか?」

「うん。零君が来たから、一緒にお話ししたいなって」

 

 

 ええ子や……なんていい子なんだ!!わざわざ変態の名札をぶら下げて歩いてる奴に対して、自分の手を止めてまでお話してくれるなんて……だから花陽が大好き!!結婚しよう!!

 

 

「じゃあまたダイエット方法でも考えるか」

「えぇ!?も、もしかして私また太ってる……?」

「じょーだんじょーだん!!」

「ひ、ヒドイよ~~!!本当に太ってると思っちゃった!!最近ご飯のおかわり3回で我慢してるのに!!」

 

 

 いやいや!!それでも食い過ぎだって……流石に男の俺でも茶碗3杯は味的な意味で飽きてしまって食べられない。しかも花陽はふりかけなどもかけずに、白米のまま食べるから驚きだ。この前、『俺はご飯に明太子を乗せるのが好きなんだよ』って言ったらメチャクチャどやされた。その後2時間の説教コース……

 

 

「花陽で遊ぶのもこれくらいにして、喉渇いたからお茶でも……って、そうだ、ちょうどなくなったんだった」

「じゃあ部室のお茶にする?」

「ああ、頼む」

「暖いのと冷たいのがあるけど」

「じゃあ冷たいので」

 

 

 俺が飲むお茶なのに、花陽は自分の仕事かのようにテキパキとお茶を注いでくれた。優しすぎるというか、何というか。この包み込むような優しさだからこそ、彼女に甘えたくなるのかもしれない。ずっと一緒にいた凛はどれだけ花陽に甘えてきたのだろうか。

 

 

「はい、どうぞ!」

「ありがとな。花陽の入れてくれるお茶は美味いからな~」

「そ、そんな!誰がいれても変わらないと思うけど」

「変わる変わる!!花陽の優しさと真心が篭っているからとても美味しいよ」

「えへへ……ありがとう!!」

 

 

 くぅ~~全く今回も天使のような笑顔をしてやがるぜ!!花陽の笑顔を見ていると、自分が今まで行った悪行を悔い改めたくなる。コイツが天にいれば全世界から犯罪がなくなるんじゃないか?

 

 

「これならいつ俺のお嫁さんになっても問題ないな」

「お、お嫁さん!?れ、零君の!?」

「そりゃあ付き合っているんだから当たり前だろ」

「お嫁さん……零君の……私が……」

「お~い、戻ってこ~い!!」

 

 

 花陽はす~ぐ顔を真っ赤にして沸騰しちゃうんだから。口をパクパクさせ目もキョロキョロしているため、自分自身を制御できていない。これはかなり妄想の世界に浸っているな。そして大方、新婚生活という設定を自分で立てて自爆しているのだろう。これだけで花陽の純粋さが伺える。全く、可愛い奴め!!

 

 でも俺は見たいと思っている。この純粋な花陽がグレる姿を。不良となった花陽って、一体どんな風になるのだろうか?今はちょうど部室で2人きり、試すのなら今だろう。このために常備しておいた、『花陽を不良にするための道具セット』が火を吹く時が来たな!!

 

 

「2人でやることもないし、ちょっとコスプレでもしてみるか?」

「また!?この前子犬になったばっかりだよ!?」

「今度はそんな可愛いものじゃない。俺がお前をイメチェンさせてやろう!!」

「なんか、イヤな予感しかしないんだけど……」

 

 

 そんな弱音を吐く花陽も今のうちだけだ。この俺が花陽を、彼女と付き合いの長い凛ですらビックリのチャラ女に変えてやる!!これは面白くなりそうだな!!今からでもワクワクする、強気になった花陽の姿に!!

 

 

「まずはこれだ」

「さ、サングラス!?」

「あぁ。まず花陽って、見た目から優しそうでお人形さんみたいに可愛いじゃん?」

「そ、そうかな……えへへ」

「そうやってすぐに照れるのも可愛すぎる!!だからまずそのクリクリっとした目をこれで覆い隠すんだ!!それだけでも全然雰囲気が変わるから」

「零君がそう言うなら……」

 

 

 花陽は納得がいかないまま渋々サングラスを掛けた。一応これでも花陽に合う丸っこいフレームを選んだんだぞ?前回部費を横領したせいで、俺が部費を使うことが禁止になっちまったから今回は自腹だ。女の子のためにプレゼントを買うって、俺っていい奴?

 

 

「どう?似合ってるかな?」

「う~ん……花陽」

「な、なに?」

「お前、サングラスしてても可愛いな」

「えぇ!?あまりサングラスで可愛いって聞かないけど」

 

 

 これは誤算だった。まさか花陽の雰囲気をサングラスでも隠しきれないとは……流石に丸っこいフレームはおとなし過ぎたか?むしろサングラスをしたことによって、無駄にカッコよさと可愛さを両立してやがる!!

 

 

「次は髪だ!!そのショートボブじゃあいつまで経っても穏やかな雰囲気しか感じられないからな」

「でも私髪の毛短いから、整えたり結んだりできないよ?」

「そうだなぁ~、折角だし逆立たせてみるか。それだけでお前に迫力というものが出るだろうし」

 

 

 まず花陽には迫力、つまりインパクトというものが欠けている。俺のような変態や、穂乃果や凛のように見るからに馬鹿騒ぎしそうな奴なら話は別だが、彼女にはこれといったインパクトがない。もう見ただけで『かよちんすげぇえええええええ!!』と言われるぐらい、髪型を変化させてみようと思う。

 

 

 そして俺は整髪料を使い、花陽のフワフワかつサラサラした綺麗な髪の毛を上へ上へと逆立たせていく。髪は女の命とも言うが、花陽は自分の髪の毛を男の俺に任せてもよかったのだろうか?それも彼女の優しさと心の広さのお陰かもしれない。いやぁ~天使様には頭が上がりませんわぁ~!!

 

 

「できたぞ!!鏡を見てみろ」

「こ、これが私!?もう自分じゃない誰かを見ているみたい……」

「そりゃそうだ、温厚な小泉花陽を殺すような髪型にしたからな」

 

 

 今の花陽はサングラスを掛け、フワフワなショートボブはすべて逆立たせてある。なんだかどこかのロック歌手みたいになってるな……でも花陽にはそれぐらいのハジケ具合が必要なんだ!!

 

 

「次は声だな」

「声?」

「あぁ、お前のそのぽわぁ~とした癒される声から、人の心を抉るような鋭い声に変えてみろ」

「変えてみろって言われても、そんな声色を変えられるほど芸達者じゃないよ!?」

「ならまず俺のことを呼び捨てで、しかもメンドくさそうに呼んでみてくれ。そうだ、舌打ちとかしてみるといいかもしれないぞ?」

「そ、そう?じゃあ……」

 

 

 花陽は立ち上がって俺の方向へ向き直る。まだサングラスと髪型しか変えていないのだが、穏やかな雰囲気の花陽は遥か彼方へ飛ばされ、黙っているだけでも迫力がある。外でこんな奴が歩いていたら絶対に近づきたくないタイプだ。

 

 花陽はすぅ~っと息を吸い込む。来る……グレた花陽の第一声が!!

 

 

 

 

「チッ、零かよメンドくせぇ……」

 

 

 

 

「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

「れ、零君どうしたの!?」

「花陽がぁ……俺のかよちんがぁ……こんなグレた姿に……」

「零君がやれって言ったんだよね!?」

 

 

 まさか本当に心が抉られるとは思ってもみなかった。たった一言のセリフで俺を絶望のドン底に陥れるとは……グレた花陽、恐るべし!!見た目の雰囲気も完全にヤクザの一員みたいになっちゃって……俺はなんてことをしてしまったんだ!?

 

 

「じゃあもうやめようよぉ~零君のそんな姿、私見たくないから」

「相変わらず優しいな花陽は。でも俺は途中でやめるなんて中途半端なマネはできない!!こうなったらとことんお前をグレさせてやる!!」

「段々あさっての方向に向かっているような……?」

 

 

 『花陽』と『インパクト』、この2つの言葉は相反していると言ってもいいが、今の花陽は十分にインパクト満点だ。サングラスに逆立てた髪、汚い言葉遣いもマスターしている。でもまだだ、最後にこれがあってこそ不良っぽさが現れるというものを用意しておいた。

 

 

「最後にこれを渡そう。不良の必須アイテムだ」

「これって、ココアシガレット?もしかしてこれをタバコに見立てるの!?」

「そうそう、流石に本物を持たせるわけにはいかないからそれで我慢してくれ」

 

 

 ココアシガレットとは意図的にタバコに似せて作られたお菓子だ。味はしっかりラムネ味だから大丈夫だぞ。ちなみに箱もタバコ箱と似たような作りになっているから、持っているだけで勘違いされる一品だ。

 

 

「でもそれを咥えているだけだとインパクトがないな……そうだ!!花陽、ちょっとここに座ってみろ」

「え?う、うん……」

「この加湿器の側に座っておけば、蒸気がタバコの煙っぽく見えるだろ?」

「ホントだ!!すごくそれっぽい!!」

 

 

 これでタバコを吸っている危険な花陽が完成したぞ!!どこからどう見ても以前の優しい雰囲気の花陽はいない。目を合わせただけで因縁を付けられるであろう、不良少女に変身だ!!あぁ~彼女を天使と崇める人にこの姿を見せてやりたい!!

 

 

「あとは座り方をもう少し崩してみようか」

「座り方?普通に座ってるだけじゃダメなの?」

「今の座り方だと姿勢が良すぎる。そうだな……あぐらはできるか?」

「あぁ~私、あぐらで座ることができないんだ。この前凛ちゃんに無理矢理やらされた時は、しばらく脚の痛みが引かなかったしね……あはは……」

 

 

 よし、凛は後でシメる。俺の花陽を痛みつけたバツを与えなければ。

 それは今後のお楽しみとして、結局座り方は片足をイスの上に乗せるという行儀が悪すぎる方法に決定した。もう片方は普通に床に着けているので、チラチラとスカートの中身が見えそうになっているのは内緒。だって花陽に言うと、恥ずかしがって隠してしまうから拝めなくなるじゃん!!

 

 

「そして最後に制服を着崩して……」

「れ、零君!?そんなにボタンを外したら……み、見えちゃうよ!?」

「ん~?なにが見えちゃうのかなぁ~?」

「そ、その……し、した……」

 

 

 俺が言っちまえば、花陽は下着が見えそうになるって言いたいんだろう。彼女のブレザーのボタンを全開にし、俺が今手をかけているのはシャツの第二ボタンだ。そこを開けてしまえば、花陽の可愛らしい下着がこんにちはをするだろう。俺としてはそれでももちろんいいのだが、今の花陽に『恥じらい』という言葉があってはならない。

 

 

「そのモジモジしながら恥ずかしがるのをやめろ。可愛すぎるから」

「じゃあボタンから手を離してよぉ~……」

「このまま脱がせたいのは山々だがもうすぐ凛と真姫が来る時間だから、今日のところは許してやるよ」

「えっ……またいつか脱がされるのぉ!?」

 

 

 いやぁ~ことりや花陽みたいに、おっとりした女の子は特にイジメたくなっちゃうんだよ!!でも今のことりはイジメると逆に悦びそうだからイジメ甲斐がない。そうなると必然的にその対象は花陽に向けられるというわけだ!!セクハラした時の反応はμ's随一だからな!!

 

 

 こうして花陽のイメチェンが完了した。俺が花陽に施したことは――

 

・サングラス着用

・髪を逆立たせる

・言葉遣いを悪く

・タバコ(ココアシガレット)を咥える

・座り方を雑に

・制服の着崩し

 

 

 こんなものかな?このような花陽を想像するだけでも末恐ろしいのだが、現実に今俺の目の前にいる。もうどこかのヘビメタ歌手みたいだな。

 不良女子といえばピアスも着けたいと思っていたのだが、流石に花陽の綺麗な耳を傷つけることだけはこの俺でもできなかった。ただでさえ罪悪感がヒドイというのに……

 

 

「よし、それでもう一度俺を罵ってみろ」

「でもまたショックを受けるんじゃあ……」

「このままだと俺はお前のファンに殺されるような気がしてな。せめてもの償いをここでしておこうというわけだ。なぁに心配するな。俺をショック死させることができれば、お前は真の不良になっているという証明になる」

「私、別に不良になりたいって思ってもないし言ってもないと思うんだけど……」

「あれそうだっけ?」

 

 

 そう言われれば俺の興味本位でこんな企画が始まったような気がする。花陽はわざわざ俺に付き合ってくれていたのか、全くどこまで行っても優しい奴だ。だからこんなグレた一面を見てみたいと思ったんだけどな。

 

 花陽はすぅ~っと息を吸い込む。来る……グレた花陽の第二声が!!

 

 

 

 

「チッ、零か。ジロジロ見てんじゃねぇよ!!」

 

 

 

 

「ゴメンなさぁああああああああああああああああああああああい!!」

 

 

「ど、土下座!?そこまでしなくてもいいよぉ!!」

「いや、これは俺なりのケジメだ。天使を不良にまで没落させた罪の償いだから」

 

 

 

 

「おまたせかよち~ん!!」

「凛が遊ばなければ、もっと早く掃除が終わったのに……」

「細かいことは気にしちゃダメだ…………にゃ?」

「細かくないわ…………よ?」

 

 

 おおう!!唐突に凛と真姫が部室に入ってきたぞ!!遂にこれまでの成果を試す時が来たな!!

 凛と真姫は目の前に土下座している俺と、その前に行儀悪く座っている謎の不良少女を見て言葉に詰まっている。この2人なら不良少女が花陽だとすぐに分かるだろうが、さてはて反応は?

 

 

「かよ……ちん……だよね?」

「あぁ!?気安く呼ぶんじゃねぇよ!!」

「なっ……えっ……ちょっと……か、かよちんがグレてる!?どうして!?」

 

 

 いい反応だな!!付き合いが一番長い凛だからこそ、花陽の変貌具合には相当困惑するだろう。現に凛の身体はプルプルと震えている。それが驚きなのか恐怖なのかは分からないが。

 

 

「花陽……あなた何吸ってるのよ!?それタバコでしょ!?」

「チッ、うっせーな!!」

「うっ……そんなもの吸っても百害あって一利なしよ!!生徒会役員じゃないけど、医者の娘としてそれは没収よ」

「相変わらずうるせぇな真姫は……」

「えっ……名前……」

 

 

 真姫もいい反応だ!!突然呼び捨てで呼ばれてかなりショックを受けている。

 加湿器の蒸気をタバコの煙に見立てる作戦も大成功!!真姫なら絶対にタバコにツッコんでくれると思っていたからな。でも親友が急にグレたら俺ならどう対処するだろう?もし穂乃果やことりがグレたら……ブルブル。

 

 

 もうそろそろいいかな?よしっ!!ここで最後に用意しておいた最終兵器を出す時だ!!

 

 

「ドッキリ大成功!!」

 

 

「「「え……?」」」

 

 

 俺は『ドッキリ大成功』とそのままの文字で書かれた看板を持ち上げて3人に見せる。凛と真姫はもちろん、何も聞かされていなかった花陽も同時に驚いた。一度でいいからやってみたかったんだよな、ドッキリ企画。

 

 

「花陽……」

「は、はい!!」

「正直に答えて。花陽もこの計画に加担してたの?」

「いや、私は何も聞かされてなかったよ」

「じゃあ零くんが一方的に?」

「そもそも不良の姿になるってことも途中で知ったから……」

「「ふ~ん」」

 

 

 凛と真姫は花陽からジト目で俺に向き直る。アカン……この2人から殺気を感じる。このままだと……殺られる!!

 

 

「おい……無言でこっちに迫ってくるな!!」

「かよちんを……かよちんをこんな姿にして……許せないにゃ」

「毎回毎回お遊びが過ぎるんじゃない……?たまには制裁を加えないとね……フフフ」

 

 

 ヤバイ……2人ともSの目になっている。に、逃げないと……いくらダンスレッスンをしているといっても運動神経なら俺の方が格段に上だ。逃げるだけなら簡単だろう。今回の件について罵倒されるのはいいが、ボコボコにはされたくもない。久々の『いつものオチ』になっちまう!!

 

 しかしそう思ったのも束の間、誰かに手首を力強く握り締められる。そしてそのまま身体に引き寄せられた。

 

 

「なに!?は、花陽!?離せ!!」

「今回は私もちょっと遊びすぎていると思うよ。大丈夫、私は零君を抱きしめているだけだから……」

「怖いよ!!その姿で抱きしめられても恐怖でしかないわ!!」

 

 

「じゃあそろそろ覚悟を決めなさい……」

「零くんも愉快な顔に変えてあげるにゃ……」

 

 

 

 

「いいぜ!!かかってこい!!女の子3人ぐらい相手にできなきゃどうするって――――ぐふぅ!!!!」

 

 

 

 

 その後はまるで、不良少女3人にリンチされているかようだった……

 

 

 いや、もうこれは集団リンチと言っても差し支えないだろう……また俺の屍が1つ増えてしまったようだ……

 

 




 花陽推しの方、今回の花陽を想像してどうだったでしょうか?自分は意外とインパクトのある花陽も可愛いなぁと思いました(笑)

 逆に絵里や真姫辺りは不良となっても特に違和感がないというか、似合ってますよね。一度でいいから不良少女となったみんなを見てみたいです!じゃあ自分で書くか!!(フラグではない)


 Twitter始めてみました。この小説の進捗状況だけでなく、予告や裏話など話題をどんどん放出していくので是非フォローしてやってください!
 ⇒ https://twitter.com/CamelliaDahlia

 ちなみにGW中に暇な時につらつらと鉛筆で書いた、ラブライブの絵がありますのでそちらも上記からどうぞ!アカウントがなくても見ることができます。運営の許可が出れば、次回同じ絵を掲載する予定です。
 絵の出来具合は……映画のポスター画像を横目で見ながら書いていただけなので期待しないでくださいね(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

にことのイチャイチャLife

 悪いことは言わない、この話を読む前に殴る用の壁を用意しておくんだ……

 そういうことで、今回はにこ回となります!!『新日常』になってデレデレのにこと変態の零君が2人きりになる時、何が起きる!?さらに今回は紛うことなき『R-17.9』要素があります。

 また全編通してにこ視点です。


 

 

「おっす、来たぞぉ~」

「いらっしゃい、早かったわね」

 

 

 今日はにこの部屋で零と2人きり!!この約束をしてから、ずっと楽しみにしてたんだから!!

 

 ……取り乱して悪かったわ。今日一日お母さんと妹たちは出かけているから、久しぶりに零をにこの部屋に招待したの。にこが大学へ進学してからというもの、零と会う時間が高校時代と比べると極端に少なくなった。絵里と希も同じ大学で同じ講義を受けているから一人で心細いってことはないんだけど、やっぱり零に会いたいって気持ちは満たされないのよね。

 

 

「久しぶりににこと2人きりだからな、俺もテンション上がっちゃって」

「ふふっ、それはにこも同じよ♪」

 

 

 零も同じことを考えてくれてたんだ!!全くも~う!!にこがいないとホントにダメダメなんだから♪しょうがないから今日はずっと一緒にいてあげるわよ♪

 

 

「エプロン?もしかして飯作ってたのか?」

「ちょうど今から作り始めようとしていたところよ。だから意外とアンタが早く来て、少しビックリしちゃったというわけ」

「そうか。でもキッチンに立つ彼女の後ろ姿って、男の憧れなんだよ。こりゃ早く来て正解だったかな?」

「そうなんだ。だけどにこの後ろ姿が可愛いからって、勝手に手を出しちゃダメなんだからね?」

 

 

 この会話、誰がどう見ても恋人同士っぽくない!?まさか零とこんな関係になるなんて、出会った頃は思ってもみなかったなぁ。普段は憎まれ口を叩き合うような仲だったし。でも今のにこの心は完全にコイツに奪われている。ちょっと日にちが空くだけでも愛おしくなるくらいにはね。本当に何が起こるか分からないわ、人生って。

 

 

「勝手に手を出しちゃダメか……じゃあ言ってから手を出すのはいいんだな?」

「揚げ足とらないの!!それは……ぜ~んぶ後でね♪」

「それは期待していてもいいってことだな」

「あら?意外とあっさり引くのね」

「郷に入っては郷に従えと言うだろ?つまりそういうことだ」

「ふふっ、なにそれ」

 

 

 これが零のいいところ。コイツは別に誰にでも、そしていつでもどこでも手を出すような人間じゃない。ただの変態にも見えるけど、にこたちが本当に嫌がることは絶対にしない。ちょっとSっ気があって無理矢理なところもあるけれど、にこたちμ'sはそんな零のことが好きだったり。やっぱり女の子を引っ張ってくれる男の子って素敵よね♪

 

 

「それじゃあ今からお昼ご飯作るから、テレビでも見て待ってて」

「いや、お前を視姦することにするよ。久しぶり過ぎて楽しみだなぁ~にこの手料理」

「前半と後半で言っていることのギャップがすごいんだけど……」

 

 

 2人きりになっても変わらないセクハラ発言、でもそんな零と一緒にお喋りするのが何よりも楽しい!!もちろん絵里や希、μ'sのみんなとのお喋りも楽しいけど、零と喋っていると自然と元気が貰えるっていうのかな?いつも明るい零だからこそ、こっちも『やるぞぉ!!』って気持ちになれるしね!!もうにこの原動力のほとんどが零から貰っているといっても過言ではないわ。多分μ'sのみんなも同じじゃないかな?

 

 

 零をリビングへ案内し、にこはキッチンへと向かった。

 よ~し!!愛しの彼氏のために、にこの腕を振るう時が来たわね!!見てなさい、アンタの胃袋をガッチリ掴んでみせるんだから!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ふんふんふ~ん♪」

 

 

 自分の好きな人に料理を振舞えるとなると、嬉しくなって自然と鼻歌が出てしまう。流石にこの姿を妹たちに見せることはできないわね。恥ずかしいし……

 それにしても零の奴、本当ににこの背中ばっかり見てるのね。にことしては嬉しいんだけど、もしかしてμ's以外の女の子にもそういう目で見ているのかと思うとちょっと心配。零のことだしね、ありうる……入学式で新入生の可愛い女の子をチェックしてたって凛が言ってたし。

 

 全く、去年にこたち9人に一斉告白して、しかも9人立て続けにキスをしていた奴が、大胆にも他の女の子を視姦ですかそうですか!!べ、別に嫉妬とかじゃないんだからね!!もっとにこを見て欲しいなぁとか思ってないから!!でもさ、彼女である私たちを差し置いて、他の女の子に鼻の下を伸ばすのは間違ってるんじゃないかぁって……。

 

 

「へ……?えぇえええええ!!」

 

 

 後ろから暖かい感触がしたと思ったら、零がにこの身体を思いっきり抱きしめていた。

 突然すぎてビックリしちゃったわよ!!ずっと考え事をしてて、零が近づいてきたことに全く気がついていなかったわ。でもさっきまでモヤモヤしていた気持ちが、一気に晴れたような気がする。

 

 

「もうっ!!料理中は手を出さないでって言ったでしょ?」

「悪い、でもお前の寂しそうな姿を見てたら居ても立ってもいられなくなったんだ」

「えっ?顔に出てた!?」

「顔を見なくても、にこのことなら背中を見るだけでも分かるよ。もう1年の付き合いなんだから」

「零……ありがと」

 

 

 きゃぁあああああああああああ!!絶対今にこの顔、真っ赤になってわよね!?こうして零に抱きしめられると毎回心臓がバクバクして止まらない。零と恋人同士になって抱きしめられたことは何回もあるけど、いつまで経っても慣れないわ。その高鳴りがまたいいんだけどね。

 

 そして相変わらず恥ずかしいセリフをズケズケと……ホントに恥ずかしいわ。

 あの時の一斉告白をネタにすると悶え苦しむくせに、こういう時にはいっつもにこたちの心をガッチリ掴むセリフばっかり。まいっちゃうなぁ~もうっ♪

 

 

「邪魔してゴメンな」

「いいわよ別に。おかげでスッキリしたから!!」

「そうか、よかった……」

 

 

 こうやって、いつもにこたちの心を覗き込んでいるかのように察しがいいのよね。そのおかげでにこもみんなも救われてきたんだけど。いつもの変態野郎の零も明るくて元気いっぱいで好きだけど、こうして優しく包み込んでくれる零はもっと好き。もっと、もっと抱きしめて欲しいな♪

 

 

「ねぇ、も、もっと来て……」

「もちろんそのつもりだ。俺がこれだけで終わるわけないだ……ろっと!!」

「きゃあっ!!」

 

 

 零は自分の手をにこの腕と胸の間に滑り込ませてきた。零の手がにこの胸にダイレクトに当たっている。μ'sの中で胸が一番小さいと言われているにこだけど、それでも全くないわけじゃないわ。

 

 ――――って自分で言っていて悲しくなってくるけど、事実だからしょうがない。でも雪穂よりはあるかも……やめよう、惨めになるだけだわ。それに希のワシワシの実験台にもなってるから、割と大きくなってきているような気がする。そう、気がするだけ……

 

 

「それはご飯のあとでって言ったでしょ?」

「しょうがねぇだろ、我慢できなくなったんだから。それにここには俺とお前、2人きりなんだ。欲望を抑えろっていうには無理があるだろ」

「全く、いつもいつも都合のいいことばっかり。ホントに変態野郎ね」

「褒め言葉だ」

 

 

 そうだった、この状態の零に何を言っても無駄だってこと忘れてたわ。言うこと言うこと全部自分の都合のいいように吸収され、そしてにこたちはあっさりと丸め込まれてしまう。

 でもそれを嫌がる子は、零の彼女となった9人の中で誰もいないと思うのよね。穂乃果やことり、花陽や凛、希なんかはホイホイ言うことを聞きそうだし、堅物の海未や真姫、絵里も抵抗はするものの、心のどこかでは絶対に零と触れてもらえることに期待してそう。もちろんにこもそうなんだけどね。

 

 

「いいか?」

「いいわよ。だってにこは零のものなんだから♪」

「じゃあ俺はお前たちの虜になってるから、俺はお前らのものだな」

「そういうこと♪忘れちゃダメよ?」

「もちろん!!」

 

 

 そう言ったのと同時に、零は自分で編み出したと噂される『ワシワシMAXハイパー』とかいうふざけた名前の技を発動させた。零の手がにこの胸に触れた瞬間、ビリビリっと電流が走ったかのようにカラダに刺激が伝わってくる。これがあの希をも快楽の底に陥れたっていう技なの!?これじゃあにこもすぐに昇天しちゃうじゃない!!

 

 

「あっ……あんっ……」

 

 

 ダメ……零の手つきがいやらしすぎて勝手に声が出ちゃう!!お昼ご飯を作らないといけないのに、全く手が動かない。それにしてもどうして零はさっきから無言なのよ!!これじゃあ私の喘ぎ声だけが部屋に響くじゃない!!もうっ、自分で聞いていて恥ずかしいわ!!

 

 

「そ、そこは!?」

「ん?そこは何?」

「そこは……ダメよ」

「嘘つけ、カラダは喜んでるぞ」

「うぅ……」

 

 

 零がどこを触っているのかといえば、せ、先端って言葉だけで分かるかしら……?えぇい!!女の子の口からこんなこと言わすんじゃないわよ!!

 でも零の言う通り、にこのカラダは確実に零を求めている。カラダの疼きが段々と激しくなり、息も荒くなってきた。き、気持ちいい……

 

 

「も、もっと……」

「なんだって?もっと大きな声じゃないと聞こえないぞ?」

「もう、イジワル…………も、もっとって言ってるの!!」

「了解、お嬢様」

 

 

 そして零の『ワシワシMAXハイパー』が最高潮に達した。にこのカラダには、今まで感じたことのない快楽が電流のように全身を駆け巡る。希にされるお遊びのワシワシとは全然違う、零のワシワシにはたっぷりと愛が詰まっている。にこはもう既に零の虜になってるけど、またより一層メロメロになりそう……

 

 

「零!!」

「おっと!?どうした急に!?」

 

 

 もう全身を伝う快楽に我慢ができなくなって、自分の身体をグルリと回転させて零と向き合う体勢となった。こうして抱きついたまま向き合うと、コイツの背の高さがよく分かる。そしてにこの背の低さも……

 でもおかげでにこの頭のてっぺんから足の先まで、すべて零に包み込まれているみたいで嬉しいけどね♪

 

 

「キス……していい?」

「もちろん、俺もしたいと思っていたんだ」

「ホントにぃ~?にこの胸を触ることに夢中になってたんじゃないのぉ~?」

「そ、そんなこと……ねぇよ」

 

 

 嘘ね。零がにこたちと長いこと付き合っているのだとしたら、それはにこたちにも言えること。つまり零が嘘をつく時のクセも分かっちゃうってわけ!!でも零はこういう時に嘘を付くのは苦手だから、初めて会う人でも嘘って分かっちゃうかもね。

 

 そうだ、やられてばっかりだとちょっと癪だし、にこからも攻めてみようかな?

 

 

「にこって可愛いでしょ~?だから大学でも色々部活やサークルに誘われたりとかぁ~、講義でも知らない男に話しかけられることがあるのよねぇ~」

「なっ、そ、そうなのか……絵里と希も?」

「そりゃあ絵里も希も美人だし、いつも3人で行動しているからそんなことも日常茶飯事ね」

「なんだよ、それ……」

 

 

 珍しい!!零が嫉妬してるぅううううう!!何とか自分の動揺を隠そうとしているけど、目が泳ぎまくっているからバレバレよ。いつもはカッコいいけど、こういう時だけは可愛いんだから♪本当に独占欲が強いのね、零って。でもにこたちにとっては嬉しいことだけど♪

 

 

「心配しなくてもいいわよ。彼氏持ちだって言えばみんな離れていくし、大学の男共とは親しくも何ともないから。それは絵里も希も一緒。流石に、3人が一緒の彼氏と付き合っているってことは言えないけどね」

「そ、そうなのか……」

「安心した?」

「そりゃするだろ。自分の彼女が変な奴に手を出されると思うと……」

「大丈夫よ」

「えっ?」

 

 

「だって、にこたちはあなたの彼女なんだから♪今も、これからもずぅ~っと一緒よ♪それだけでは不満?」

 

 

「にこ…………にこっ!!」

 

「んっ!!」

 

 

 突然、にこの唇が零の唇に奪われた。いつもはにこから求めてキスをしてくれるんだけど、今回は零が自らやってきたからちょっと驚き。

 こうして零と唇を重ねるだけで頭がぽぉ~っとしてくる。さっきのワシワシも相まって、にこのカラダに駆け巡る快楽も最高潮に達した。もう零とこうして交わることしか考えられない!!

 

 

「んっ……ちゅっ……んん」

 

 

 優しいソフトなキスから、唾液の音がいやらしく聞こえる濃厚なキスへと変化する。お互いに舌と舌を絡め合い、ぴちゃぴちゃと卑猥な音だけが部屋に響く。零に聞いたところ、μ'sの中でこんなディープなキスをするのはにこだけらしいのよね。でもしょうがないじゃない、零をもっともっと感じたいって思ってるんだから。

 

 

「あっ……んん!!」

 

 

 激しく、さらに激しく!!にこはグッと背伸びをしながら、自分の唇をより零の唇へと絡ませた。零は背伸びしているにこがバランスを崩さないように、ギュッと背中と肩に腕を回して支えてくれている。そういった、細かい気遣いができるところも大好き♪どれだけにこを虜にすれば気が済むのよ!!

 

 

 そして至福の時間は一旦終わり。お昼ご飯を作っている途中だったしね。

 

 

「やっぱりアンタとのキスはクセになるわね。気持ちよかったわよ♪ありがとね♡」

「こちらこそ。それじゃあ次はにこの料理を十分に堪能するとするか」

 

 

 この時だけは料理ができてよかったと思う。恋愛では男の子の胃袋を掴むのが先決だって言うしね♪

 でも料理があまりできない凛や真姫は苦労しそう。いや、凛は甘える能力が、真姫には最強のツンデレがあるから大丈夫か。

 

 そして料理に取り掛かろうと思っていた矢先、零がにこの服をガシッと掴んてきた。その手はにこの服の裾を持ち、上に引っ張り上げようとする。

 

 

「ちょ、ちょっと!?なに勝手に服脱がせようとしてるのよ!?」

「悪い!!いやぁ~~テンションが上がっちまってな。興奮も収まらないし……」

 

 

 もう!!全く油断も隙もないんだから!!突然女の子の服を脱がそうとするって、そこらの犯罪者でもしないわよ!!

 はぁ~……どうしてこんな変態を好きになっちゃったのかな?

 

 

「にこは性欲の捌け口じゃないわよ」

「だから悪かったって」

「顔、笑ってるわよ……」

 

 

 でも零にそんなことをされるのはそこまでイヤじゃなかったり。むしろそういう関係に発展していけたらいいなぁって思ってる。実は、にこもさっきの興奮がまだ収まりきっていないのよね。

 

 

「にこ……もしかして怒ってる?」

「怒ってるわよ、でも――」

 

 

 ま、別にいっか……。

 

 

「それはご飯を食べ終わってから、ゆっくり……ね♪」

 

 

 そう、そこから先はあとのお楽しみ♪

 

 




 全くイチャイチャしやがって……(自分で書きながら)

 前回のことり回でもそうだったのですが、個人回でかつ恋愛方面になる時はなるべく零君視点ではなく、その個人回の主役視点にしてみようかなと思います。
 自分の小説では零君視点がほとんどなので、たまには彼女たちがどんな想いなのかを描いてみたかった次第です。

 でも自分でこの話を書いていて、零君視点も書きたくなりましたね。やっぱり恋愛回はどちらの視点も気になります!



 ここからは全く関係ないのですが、GW中に暇つぶしで書いた絵がありますので公開します。暇つぶしですが、鉛筆を持ってダラダラ書いていたらGWが消し飛んだのは内緒。期待するとガッカリするので、『ふ~ん』みたいな感じで見てくださると嬉しいです。


【挿絵表示】


 鉛筆を使うと手が真っ黒になるのが難点ですね(笑)



Twitter始めてみた https://twitter.com/CamelliaDahlia

 主に小説の進捗状況、予告、投稿報告、ラブライブに関する絵やネタを放出しています。最近はPCのデスクトップ上で動くSDキャラを作り、それを紹介もしているので興味がある方は是非!!絵は極希にしか書きませんけどね(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

水着でPV撮影!!

 正直な話、小説で水着回と言われても内容は文字だけなので、イマイチピンときませんね。ですから今回の話、読者の方々に多大なる妄想力を発揮してもらいます!!

 μ'sメンバーの水着姿を想像する準備はできましたか?じゃあいってらっしゃい!!


 

 新生μ'sが結成されてから一ヶ月と少しが経ち、12人となったμ'sは今も元気に練習中だ。もちろんいつも元気なのは変わらないのだが、今日はみんなのテンションが一段と向上している。アイドルグループの『μ's』としての活動が控えているということもあるが、一番の理由は今から30分ほど前に遡る。

 

 端的に言ってしまえば、今年もスクールアイドルの祭典『ラブライブ!』が開催されるということだ。そのため先日からその出場権を巡り、スクールアイドルグループへの投票が行われているのだが、μ'sは前回の優勝者ということもあり短期間で大量の投票数を得ていた。ランキングもあのA-RISEと1位を奪ったり奪い返したりとせめぎ合いが何度も行われている。

 

 つまりコイツらのテンションが高いのはこのためだ。予選に出場できることはほぼ確定なのだが、それは慢心に繋がる。去年無名だったμ'sが上位に食い込んだみたいに、また新たなグループが頭角を現す可能性もあるから油断はできない。それも相まって、メンバー全員の士気も高揚しているのだ。

 

 

「次、ラストいきますよ!!」

 

 

 去年と変わらず海未と絵里が交代交代で指導し、メンバー人数が2桁になったのにも関わらず綺麗にまとめ上げている。もちろん俺が介入する余地など一切ない。いつも側でただぼぉ~っと見ているだけなのだが、今日は一段と空気だ。流石に何もしないというのは申し訳ないので、暫定的に撮ったPV動画を眺めて改善点を探しているところである。

 

 

「なんつ~か、普通だなぁ~……」

 

 

 『これがダメ!!』ってところは見つからないが、特段に『これはイイ!!』ってところも見つからない。いや、みんなが可愛いのはいつものことだが、いつものこと過ぎてグッとくることがない。動画やライブでしかμ'sを見られない人ならこれでいいのかもしれないが、毎日彼女たちと一緒にいる俺にとってはこれといったインパクトが感じられなかった。

 

 

「これは……俺がPV撮影をプロデュースするしかねぇな」

 

 

 全世界の人類がこぞってμ'sに投票したくなるような、元気で明るく、そして可愛く、さらに興奮を煽るようなPV動画を撮ってやるぜ!!今からでも興奮が止まらねえ……

 

 

 

 

「お兄ちゃん……またエロいこと考えてる」

「わ、分かるの!?」

「雪穂も覚えておいた方がいいよ。お兄ちゃんのあの顔は、私たちのよからぬ姿を想像して興奮している顔だから」

「え゛っ!?!?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 単刀直入に言おう、テーマは水着だ!!

 

 もちろん俺が見たいからという邪な理由じゃないぞ!!あくまでアイドルらしく、さらに言えば女の子らしさを追求した結果なのだ。

 普通のアイドルなら分かるがスクールアイドルに水着はどうなの?って質問もあるだろう。現にみんなにもそう訴えられたからな。でも問題はない。他のスクールアイドルグループもやっていることなのだ。その流行りに便乗すれば、今ノリに乗っているμ'sならば負けるハズがない!!だから水着を選んだんだ!!決して個人的な趣味ではないから勘違いするなよ?

 

 

 とりあえずみんなに話を付け、個々人自慢の水着を持ち寄って俺の家で披露回!!

 まとめて全員を撮影するのは無理なので、3人ずつ順番にリビングへ出てきてもらうことにした。

 

 

 まずは――――

 

 

「じゃーーーん!!どうどう零君?穂乃果の水着似合ってる?」

「零くんのために今回はちょっと奮発しちゃった♪ほらほら花陽ちゃんも!!」

「引っ張らないでことりちゃん!!は、恥ずかしいよぉ~」

 

 

 初めに登場したのは穂乃果、ことり、花陽のふわふわスイーツトリオだ。適当にこのトリオの印象を言葉にしてみたが、コイツらは共通してふわふわしているイメージがある。のどかなお花畑がもの凄く似合いそうだ。3人がそこでお昼寝している姿が容易に想像できる。

 

 

「えへへ~♪今年零君に見せようと思って買っておいた水着だよ!」

「もう買ってたのか。やけに早いんだな」

「女の子の水着は今の時期から選ぶものなんだよ。それに零君に早く見てもらいたかったからね♪」

「それはどうもありがとな。穂乃果の元気がそのまま水着に出ていて似合ってるし、とても可愛いよ」

「ありがと♪」

 

 

 穂乃果の水着は鮮やかなオレンジ色のビキニだ。いつもでもどこでも元気ハツラツな穂乃果に絶妙にマッチしているな。でもオレンジ色って、地味に肌の色と似ていて見ようによっては全裸にも見えなくもない……

 ゴホンゴホンッ!!こうして身体のラインを見てみると、初めて会った時よりも明らかにスタイルがよくなっている。まさかここまで穂乃果に興奮を覚えるとは……これもスクールアイドルの経験がゆえか。

 

 

「ことりの水着はオーダーメイドの特注品だよ♪少し生地が薄いけど、零くんこういうのが好きでしょ?」

「好きだけど、流石にそれを外で着るのは……他の男からイヤらしい目線で見られるぞ」

「心配しないで。この水着はμ'sのみんなと遊ぶ時だけだから。だからこの水着姿のことりは、ぜぇ~~んぶ零くんのものだよ♪」

「ぐっ!!また俺のSっ気をくすぐるようなマネを……」

「メイド精神ですから!!」

 

 

 ことりの水着は白に近い明るいグレー色のビキニなのだが、さっきことりが言っていた通り如何せん生地が薄い。これといった装飾はないものの、肌がこんなに露出するだけでただならぬエロスを感じる。もちろん俺としては大歓迎で、今すぐにでも彼女の綺麗な肌を舐めてみたい!!ことりの肌だ、絶対に甘いだろうな。そしていい声で鳴くんだろうな……

 

 

「私、水着姿に自信がないんだよね。だからいつも恥ずかしい……」

「花陽もスタイル良くなってきているんだから、そこまで隠さなくてもいいよ」

「ほ、ホントですか!?」

「ほ、ホントだって……最近ご飯も食べ過ぎないようにしてるって言ってたから、そのおかげかな?」

「えへへ♪少しでも零君に見てもらえるように頑張ってるんだ!」

 

 

 これぞ我が天使だ!!

 花陽の水着は黄緑を基調とした至って普通の水着だ。普通だが、明るい黄緑色のカラーは花陽の穏やかな雰囲気に見事に適応し、彼女の魅力を十二分に引き出している。いつもは引っ込み思案でおとなしい彼女だが、今は"小泉花陽"という女の子が前面に大きく現れていた。そして花陽の豊満な胸も、ここぞと言わんばかりに激しく主張されている。あぁ……触りたい。

 

 

「よ~し!!それじゃあPV撮影始めるぞ!!」

 

 

 もはやPV撮影というよりかはただの水着披露回のような気もするが、この際なんでもいっか!!みんなの水着が見れるだけでも役得だしな。もういっそのこと撮った動画を俺だけのものにしてしまおうか。これで年がら年中みんなの水着姿を拝めるわけだし!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「次は凛たちの番だにゃ!!」

「どうしてわざわざ水着を着る必要があるのでしょう……」

「まぁまぁ、零君が可愛く撮ってくれるって言ってるからええやん」

 

 

 2番手は凛、海未、希の凸凹トリオだ。どこが凸凹だって?そりゃあ……あそこだよ。

 どう足掻こうが、海未にすべての負担が掛って過労死しそうなトリオだな。凛も希が悪ふざけしまくってまともに統率が取れるとは思えない。雰囲気も誠実さと淀みが混じり合い、上手く言葉にできねぇな。それぐらい不思議な組み合わせということだ。ちなみに3人共喋り方に特徴がある奴らばかりで、他のグループに比べて尖っていると思う。

 

 

「どうどう零くん?凛、可愛い?」

「ああ、もちろん!!それにしてもお前にしては結構派手な水着を選んだな」

「うんっ!!もう前みたいな控えめな凛じゃないからね。零くんをメロメロにしてあげるにゃ!!」

「もう俺は凛にメロメロだけどな」

「えっ!?えへへぇ~、そ~お?照れるにゃ~~」

 

 

 可愛い。この一言で今の凛のすべてが表せる。顔を赤面+身体をモジモジ+乙女チック、これが『可愛い』と言わず何と言う!!

 凛の水着は黄色で下がスカートになっているタイプだ。こうして躊躇なくスカートの水着を着れるとは、凛も成長したもんだ。まあ胸は成長してないようだけど……でも女の子の魅力は胸だけじゃねぇ!!この肌を露出させた小柄なボディを見ていると、全身で彼女を抱きしめたくなる!!これは凛が小さいからできることだ!!

 

 

「あれ?零君、ウチの水着姿に釘付け?」

「当たり前だろ……相変わらず反則級のカラダしてるよな、希って」

「また胸触ってみる?零君だけ、特別サービスや♪」

「うぐっ!!お前こそ、またワシワシされたいんじゃないのか?」

「それも含めてまた2人で……ね♪」

 

 

 希の胸をワシワシか……またあの時の感触を思い出してしまった。あの胸の柔らかさも反則級だ。

 希の水着は紫色を基調とした、かなり大人びたビキニだ。彼女のスタイルも相まって、アダルト雑誌に載っていてもおかしくはない。彼女が動くたびに、ボンッと強調された豊満な胸がプルプルと揺れているのがなんともアダルティックだ。男ならそれに興奮しないわけがない!!『あれで挟まれたらどうなるのだろう』とか、想像がさらに引き立ってきた。

 

 

「ん?海未……お前もしかして胸大きくなった?」

「や、やっぱり分かるんですね……はい、最近し、下着を買い換えることが多くなってしまって……」

「それは俺と付き合っているおかげかもしれないな。でも、俺はどんな海未でも大好きだよ。そこまでカラダを気にしなくてもいいって」

「な、なな……あなたはいつもいつも!!でも……嬉しいです、私もあなたが大好きですよ♪」

 

 

 おぉう……海未のデレとは珍しい。いつも凛々しい彼女だが、その笑顔は完璧に乙女だ。毎回海未の笑顔にはドキッとさせられるんだよな。

 海未の水着は青、まさに冷静沈着でクールな彼女にぴったりの色だ。さらにそれに加え、海未のさっぱりとした清潔感も同時に感じられる。青色という色が海未のために作られた色みたいだ。

 対して彼女の肌の色は透き通るような白い肌。この前頬っぺを触らせてもらったが、普段は服で隠されている部分もスベスベなんだろうな。指でなぞって感触を味わってみたい!!そしてその時聞こえるであろう海未の呻き声も聞いてみたい!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「にっこにっこに~~、今日は水着であなたをお・で・む・か・え♪」

「にこ、随分と気合入ってるわね。私も負けずに零にアピールしなくっちゃ」

「にこちゃんも絵里もどうしてそこまで肯定的になれるのよ……はぁ……」

 

 

 続いてはにこ、絵里、真姫の常識人トリオだ。だけど実態は3人中ツンデレが2人、ポンコ……カッコよくて可愛いくて賢い子が1人。うん、実に歪んだバランスだ。

 歪んではいるが、この3グループでどのグループがまともに練習をするかと言われれば間違いなくこのグループだろう。"基本"は常識人の集まりだしな。だが一番扱いにくいと言えば、3グループの中ではクセの強い奴らばかりで非常に面倒だ。真姫とにこは言わずもがな、絵里もあの凛々しい生徒会長の頃を少しでも思い出して欲しい。

 

 

「どう?もうにこの魅力にドハマり?謙遜しなくってもいいのよ。素直に『にこちゃんキュート!!』って言ってくれればいいからね♪」

「自分で言うなよ!!俺から言いづらくなるだろ!!」

「まあ言われなくても、アンタのイヤらしい顔を見れば一目瞭然だけどね」

「そんな顔をしてしまうぐらい、お前が魅力的だってことだよ」

「ふふっ、ありがと♪」

 

 

 にこの水着は『これぞ女の子!!』と言うべき明るいピンク色の水着だ。残念ながら身体の方は貧相なためアダルトな魅力を感じることはないが、その分海未にも負けないもちもちふわっとしたお肌がある。彼女の二の腕や太ももに今すぐにでもしゃぶりつきたい!!一度でいいからパクッと食べてみたい衝動に駆られる。にこだったら許しれくれるかな……?

 

 

「ど、どうしたの……?鼻を抑えて……」

「気にするな、鼻血が出そうになっただけだ。でも流石μ'sのグラビア担当は違うな。非の打ち所が無い」

「そ、そそんなに褒めないで!!これでも水着を着るのは結構恥ずかしいのよ!!」

「それでも俺に見せるために着てくれたんだよな?心配すんな、綺麗だよ」

「零……ありがとう、嬉しいわ♪」

 

 

 絵里は恋愛のこととなると、途端に花陽や海未のように奥手になってしまうことがあるんだよな。そっちの絵里は綺麗で美人というよりかは、幼くて可愛い印象だ。

 絵里の水着は水色で、是非とも快晴の青空の下、鮮やかで綺麗な海で撮影回をしたいものだ。そしてなによりこの抜群のスタイル!!ビーチパラソルの下でサンオイルを俺の手で塗りまくってやりたい!!そうしたら合法的に絵里の身体のラインを感じることができるからな!!海やプールではしゃいで大きく揺れる胸にも注目だ!!

 

 

「あまり変な目でジロジロ見ないでくれる?」

「そんなエロい身体つきをしていて、見ないでっていう方が間違いだろ」

「え、え、え……ろって……あ、あなたねぇ!!女の子に向かってそのセリフはないでしょ!!」

「落ち着け!!変な目で見なくても十分に似合ってるよ。夏になったら一緒にプール行こうな」

「……や、約束よ!!」

 

 

 チョロ……いやいや!!素直な真姫ちゃん可愛いなぁ~~!!

 真姫の水着は赤をベースとした、これまたアダルティな水着だ。俺より1つ下なのにも関わらず、このスタイルは大人の女性にも匹敵するだろう。出ているところはしっかりと出ていて、引き締まっているところはちゃんと引き締まっている。女子高校生にとってはまさに理想なのではないだろうか。そしてまた太ももを舐めさせてはくれないだろうか、また胸をワシワシさせてはくれないだろうか……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おい、楓はどうした?」

「楓の持ってきた水着が、紐みたいな水着でほとんどが丸見えでして……」

「暴走しないよう今お姉ちゃんたちが全力で押さえつけています……」

「よし、よくやった」

 

 

『お兄ちゃぁあああああああああああああああああああん!!』

 

 

「「……」」

「雪穂、亜里沙、撮り始めるぞ。あれはただの幻聴だ」

 

 

 最後はシスターズの番なのだが、今は雪穂と亜里沙だけを撮ればいっか。アイツはいないものと考えよう、うんそれがいい。楓ならいつでも撮れるしな。

 このシスターズというグループは楓が勝手に付けた名称なのだが、いつの間にか俺たちの中で浸透していた。構成員としては台風そのものの楓とそれを助長する亜里沙、そしてその暴走を一手に引き受ける苦労人の雪穂だ。俺としては雪穂がここまで過労で倒れなかったことに驚きだ。楓相手によく一ヶ月持ちこたえた!!がんばった大賞を受賞させてやろう!!

 

 

「うぅ……身体にも水着にも、あまり自信ないんだよね……」

「心配しなくても、今の雪穂は輝いてるよ。別に身体がどうこうとか、そんなこと関係ない。つまり俺が萌えられればイイってことだ。俺の興奮を引き立たせたら合格なんだよ。だからお前は合格!!」

「なんか上手く言いくるめられた気もするけど……それでも嬉しいです、ありがとうございます♪」

 

 

 全くいい笑顔しやがって……姉妹揃って太陽でもやってろ!!

 雪穂の水着はえんじ色のおとなしい感じの水着だ。まだ身体は全体的に子供っぽさが垣間見えるのだが、それはそれで趣があって大変よろしい。だって幼さが残る女の子って萌えるじゃん?雰囲気は大人びてる雪穂だが、身体はまだまだ子供というこのギャップが俺を焚きつける。だから、ちょっと無理矢理でもいいから襲ってみるといい声が聞けるかもしれない。

 

 

「零くんどうですか?一応新しく買ってきたんですけど……」

「気にすることはない、だって天使だもん!!可愛くないわけないだろ!!」

「ありがとうございます!!零くんに褒められるとすっごくドキドキするんです!!身体も熱くなってきちゃった♪」

「なぬ!?」

 

 

 『お前の身体の疼き、俺が治めてあげようか?』と言いたいところなのだが、純粋大天使亜里沙様のことだ、これを邪な心なくそのまま受け取ってしまうだろう。そんな真っ白な天使を汚すことなんて、俺にはできない……

 亜里沙の水着は白、とにかく白だ。しかも彼女の肌も白いため、見ようによっては全裸に見えなくもない。ヤバイ!!そんなこを考えてたら鼻血が蠢きだした!!でも妄想なら亜里沙を怪我してしまってもいいよな?だって一年前と比べて、明らかに大人な身体つきになってるんだもん!!これも絵里の妹がゆえか……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「えーー!?昨日撮ったPV使わないの!?」

「あぁ、ちょっとわけありでな……」

 

 

 俺の言葉にμ'sメンバー全員が驚く。

 PV撮影の翌日、俺は部室に集結したμ'sメンバーに、水着で撮ったPV動画を使わないというまさかの告白をした。わざわざ休日を返上して、中には恥を捨てて撮影に挑んだ人もいるから驚くのも無理はないが。

 

 

「どうして使わないのよ?みんな可愛く撮れたって自慢してたじゃない!!にこもあれだけ営業スマイル出したのに……」

「何か不都合でもあったのですか?映像が乱れていたとか……?」

 

 

「違うんだ、ただの個人的なわがままだよ。あのPVを編集してたらさ、いつもとは違うみんなを見られて、新しい魅力がどんどん伝わってきたんだ。それを見てたら……この映像、他の人に見せたくないなって思って。まぁ、ただ俺のものだけにしていってだけだよ。すまない……」

 

 

 折角みんなが気合を入れて撮影に参加してくれたのに、流石にこんな私的な理由での採用見送りはマズかったか……?でもイヤなものはイヤなんだよ。みんなの水着動画が一般に公開されるのが。別にイジワルな独占欲と言ってくれても構わない。

 

 

「零君……」

「穂乃果……ゴメン、こんなこと言っても意味分かんねぇよな」

「零くーーーーーんっ!!」

「うおっ!?どうして急に抱きついてきて!?」

 

 

 突然穂乃果は俺の首に腕を回し、そのまま勢いで俺に抱きついてきた。どうしてこうなった!?

 俺はみんな呆れ返っているのかと思っていたのだが、ふとみんなの顔を見てみると、誰もがちょっぴり嬉しそうな表情を浮かべていた。てっきり怒られたり蔑まされたりするのかと覚悟していたから拍子抜けだ。

 

 

「それって、穂乃果たちの水着姿を零君だけのものにしたかったっていうことだよね?だったら穂乃果たちは怒らないよ。だって穂乃果たちの可愛いところ、零君に一番見てもらいたいから!!」

 

 

 穂乃果の言葉に対し、みんなもウンウンと頷く。これじゃあ昨日の夜、たった1人で悩んでいた俺がバカみてぇじゃん。そうだったな、コイツらはこういう奴らだった。全く……また好きになっちまうじゃん。

 

 

「零くん、凛たちを独り占めなんて隅に置けないにゃ~」

「おいっ!?凛まで抱きついてくんな!!暑苦しいわ!!」

「じゃあ私も♪さっきの零くん可愛かったし♪」

「こ、ことりまで!?」

 

 

 μ's全員にからかわれるとは……でもこれはこれで楽しかったりもする。いつもμ'sメンバーとのスキンシップを妨害する楓も、今日だけは笑って見過ごしてくれているみたいだ。さらに普段なら止めに入る海未たちも、『やれやれ』といった表情でお互いに微笑み合っている。

 

 そうだ思い出した、なんで忘れていたんだ。μ'sの魅力は水着じゃない、この仲の良さなんだ。

 

 そうだとしたらμ'sの絆の強さ、PVで全国に知らしめてやろうぜ!!

 

 




 PV撮影でピンときた方は、相当私の小説を読み込んでいる方ですね?あの時の自分の文章と、この話の文章を比べてみると全然違うことに驚きました。今でも自分の文章がいいものとは思っていませんが……

 そして今回どれだけ妄想できたでしょうか?これで穂乃果たちの魅力がさらに伝わってきたのなら、この水着回を書いた自分としても嬉しいです!!個人的に女の子に着せるなら水着より制服派なんですけどね(笑)




Twitter始めてみた ⇒ https://twitter.com/CamelliaDahlia

 ご意見、ご感想、要望、アイデアなどなどなんでも募集中です!
 最近読者の方と話をすることもあるので、暇で暇で仕方のない時は気軽に絡んでみてください!

 今回雪穂と亜里沙のイメージカラーを一緒に考えてくださった方に多大なる感謝!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

μ's内大戦争、再発

 今回は、前作『日常』より「μ's内大戦争」を元に話を構成してみました。つまり零君を巡ってμ'sメンバーが大激突!!果たして零君と一緒になれるのは誰なのか……?


「あぁ~……雨、とても強くなってきたね」

「えぇ、生徒会室で仕事をしていた時はそこまででしたけどね」

「でもみんな傘は持ってきてるから大丈夫だよね?」

 

「……」

 

 俺、穂乃果、海未、ことりは生徒会業務を終え今から帰宅するところであったが、突然強くなった雨を見てしばし校舎の中で立ち往生していた。別に傘を差せば帰れないことはないのだが、いざ地を叩きつけるような雨の中に突撃するとなると少し抵抗があるものである。

 

 まあ今の俺はそんなことよりも遥かに重要な問題があるのだが……

 

 

「あれ?どうしたの零君?」

「そういや、傘持ってきてないんだった……」

「「「えぇっ!?」」」

 

 

 この俺としたことが、今朝楓の猛攻(目覚めのキス)から逃れることに必死で天気予報を見ていなかった。多少の雨なら生徒会業務の間に止むと思っていたのだが見当違いだったみたいだ。こうなったら借りパクでもするか。いや、海未の目がある以上それは叶わないだろう。じゃあ一体どうすれば……

 

 

「じゃあ穂乃果と一緒の傘に入ればいいよ!!」

「ことりの傘で一緒に帰ろ♪」

「私の傘大きいですし、男性が一人くらい入っても大丈夫ですよ」

 

「へ?」

 

「「「ん?」」」

 

 

 悩める俺に、穂乃果たち3人がまさかの同時提案を仕掛けてきた。それに対し俺は素っ頓狂な声を出し、穂乃果たち3人は『は?お前何言ってんの?』と言わんばかりにお互いに顔を見合わせている。その瞬間、外が大雨だってことを忘れるぐらい俺の周りの空気が変わった。

 

 

「ことりちゃんも海未ちゃんも何を言ってるのかなぁ~?一番初めに言ったのは穂乃果だよ?」

「えぇ~そんなことないよ!!同時だったと思うよ絶対に!!でも強いて挙げるならことりが初めだったような……」

「2人共見苦しいですよ。そんなことで争って……まぁ私の方が0.01秒ぐらい早かったとは思いますけどね」

「「嘘だよねそれ!?」」

 

 

「……なにコレ?」

 

 

 いつも仲良し幼馴染3人組で有名な穂乃果たちが争っているだと!?これは雨が氷に変わる前触れか!?こんな珍しい光景中々見られないぞ!!

 それよりも、俺は3人がピッタリと同時に提案していたように聞こえたのだが……誰か1人が早いってことはなかったと思う。だがコイツらの雰囲気が怖すぎて、俺はそれを言い出せずにいた。

 

 

「全く……穂乃果はいつもいつも先走る性格なんですから。それを利用して『穂乃果が先だよ』なんて、嘘に決まってるではありませんか」

「利用してないよ!!そもそも海未ちゃんもことりちゃんも零君の家まで行くと遠回りでしょ?」

「零くんのためならことり、地平の彼方まで一緒に行けるもん♪穂乃果ちゃんこそ店のお手伝いもあるって言ってたでしょ?早く帰るといいんじゃないかな?」

「零君のお守りしてましたって言えば許してもらえるもんね!!」

 

 

 俺はガキかなにかか!?それにコイツらさっきから一体なぜ争ってるんだ!?相合傘ぐらい途中で交代しながら帰ればいいだろうが!!でも声を掛けるタイミングを完全に失ってしまった。これからどうすんだよ……

 あぁ……この間にも雨が強くなっているぅううううう!!

 

 

「そうですね、雪穂に怒られないよう早く帰ることです。ことりも衣装製作があるのでしょう?早く帰って仕上げてはどうですか?」

「海未ちゃんこそ作詞が滞ってるって言ってたよね?こんなところで油売ってないで"1人"で帰った方がいいよ♪」

「それだったらことりちゃんも海未ちゃんもどっちも同じだよ!!穂乃果は零君のお守りっていう大義名分があるんだから!!」

「それは根拠にはなりません。大義名分という言葉はですね――」

「はいはい海未ちゃんの長ったらしい説明はもう飽きたよ。つまんないもん」

「すぐ眠くなっちゃうよね~~」

「な゛っ!?あなたたち!!」

 

 

 ちょっと待て!!会話の途中から、相合傘とは関係ない全く別の話題になってねぇか!?もうお互いに罵り合いたいだけだろコレ!!俺の存在段々忘れられてね?

 穂乃果や海未は分かるけど、意外とことりも鬱憤溜まってたんだな……まぁこの3人の中では穂乃果と海未を止める係だから仕方ないけど。でも今回は俺が止めてやるか……

 

 

「おいお前ら、そろそろその辺りにして――」

 

 

「黙ってて!!零君には関係ないから!!」

「これはことりたちの戦いだよ!!」

「第三者は口を挟まないでください!!」

 

 

 関係大アリだわ!!!!元々俺が傘を持ってきてなかったことで起きた弊害だろ!!なのに当事者を省いて議論進めてんじゃねぇよ!!もう意味分かんない!!(真姫風に)

 

 

「はぁはぁ……心の中でツッコミ疲れて死ぬかと思った。もう走って帰るか、電話で楓を召喚するかどっちにするかな……」

 

 

「あれ?零くんたちどうしたんですか?」

 

 

「あ、亜里沙!?」

 

 

 まさに救世主亜里沙登場!!普段の俺たちと様子が違うせいか、亜里沙はキョトンとした顔で俺たちを見つめている。そりゃそうだ、穂乃果たちが言い争っているところなんて想像できないし、現にそれを生で見ているわけだしな。

 

 

「そうだ、お前置き傘とか持ってないか?今日傘忘れちゃってさ……」

「ありますよ♪いつもカバンに入れてるんです。はい、どうぞ♪」

「ありがとな!!じゃあ一緒に帰ろうか?」

「零くんと一緒に!?やった♪」

 

 

 こんなにも純粋に喜んでくれるとは、お兄さんも嬉しいぞ!!もうアイツらは自分の欲望丸出しのブラック・オブ・ブラック、つまり黒過ぎるから手が付けられない。女の欲望とは末恐ろしや……

 

 

「でも、穂乃果ちゃんたちを置いていっていいんですか?」

「あぁ、あれか……」

 

 

 

 

「正直ことりちゃんの匂いが甘すぎて、それで授業に集中できないと思うんだよねぇ~」

「それは穂乃果ちゃんが夜更かししてゲームしてるせいでしょ!?」

「夜更しなんてするから太るんですよ。ことりも最近甘いもの食べ過ぎではないですか?」

「残念でしたぁ~♪ここ最近は減量に成功してるもん!!」

「と、いうことはこの前までは体重増えてたんだね?ことりちゃんは甘いものだとバクバク食べちゃうから」

「そんなことないよ!!しかもそれは穂乃果ちゃんもでしょ!!」

「あなたたちどちらもです!!」

 

 

 もう完全に俺の存在を忘れているだろコイツら。相合傘とはなんだったのか……

 でももういい、亜里沙と2人きりで帰れるのならばな!!

 

 

「帰るぞ」

「は、はい……」

 

 

 アイツらは俺のことを関係ないと言った。だったら俺たちもアイツらとは関係ない!!周りから見て、くだらないことで争っている奴らの一員だとは思われたくないしな。こんな時はとっとと帰るに限る!!だがまぁ喧嘩するほど仲がいいって言うから、これはこれでやらせておけばいいんじゃねぇか?これでストレス発散もできるだろ、特にことりと海未は。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「つーかアイツらホイホイいろんなもの注文し過ぎだろ。持って帰る人のことも考えろっての……」

「どうして凛までぇ~~メンドくさいにゃ~~」

「文句言わない。順番なんだから仕方ないでしょ」

「じゃあ早く終わらせて、練習に合流しなきゃね」

 

 

 雨の日の翌日、俺、凛、真姫、花陽は一旦練習から外れ、ライブの備品を買い出しに行くこととなった。買い出しのメンツは毎回メンバーごとに交代交代でやってくるのだが、中には相当重量のあるものや、場合によってはかなり遠くまで足を延ばさないといけないので凛の言う通り非常に面倒な役回りだ。そして俺は男手ということで毎回強制参加させられている。なんたるブラック企業……

 

 

「今日は買うものたくさんあるし、俺はバイクで行くから」

「これが零くんのバイク!?カッコいいにゃ~!!」

「でも、あまり乗っているところって見たことないね」

「普段は食材の買い出しぐらいにしか使わねぇからな」

 

 

 今日は穂乃果たちからあれやこれやとライブに関係ないものまで注文されたため、車庫からバイクを引っ張ってきた次第だ。アイツらに頼まれた品を持って歩けば、それだけで筋トレになっちまうからな。

 

 

「あと1人後ろに乗れるけど、誰か乗ってくか?」

 

 

「じゃあ凛が乗る!!」

「ここは私しかいないでしょ」

「私も乗りたい……かな?」

 

「へ?」

 

「「「ん?」」」

 

 

 おい……これどっかで見た光景だぞ。どっかじゃねぇ、昨日だ。そして突然雨上がりの晴天を更なる雨雲で覆い隠すかのように、俺たちを包み込む空気が一変して黒いモヤが掛かった。まさか……コイツらも!?

 

 

「かよちんと真姫ちゃんは歩いていくといいよ♪ほら、体力も付くし!!凛は体力があるからそんなことしなくてもいいもんね」

「むしろ体力があるからこそ歩きなさいよ。そう言えば今日私、少し足が痛かったのよね」

「えぇっ!?真姫ちゃんそれは流石に嘘だよね!?」

「今日普通に体育の授業してたじゃん!!」

 

 

 おいおい、花陽まで戦いに参戦してんのかよ……真姫や凛が争うのは分かるけど、あの花陽が罵り合いに積極的になるっていうのが驚きだわ。また『かよちん』から『グレちん』になっちまうんじゃないだろうな?そうなったらもう俺でも手が付けられないよ?

 

 

「私この前零君に、『いつか花陽を後ろに乗せて走ってみたいなぁ』って言われたんだよ!!ここは私で決定だと思います!!」

「それいつ?何年何月何日何時何分何秒?地球が何回回って何枚パンを食べたの?それが分からないと証拠にならないにゃ!!」

「そ、それは分からないけどパンは食べてないよ!!私はご飯派だから!!」

「それじゃあパン派の私とは相容れないわね」

「凛はどっちかといえばご飯派だから、これで2対1だよ!!ということで真姫ちゃんは退場だにゃ!!」

「なんでよ!?意味分かんない!!」

 

 

 意味分かんねぇのはこっちだよ!!!!議論始まって早々に論点ずらしてんじゃねぇえええええええ!!もう『神崎零』という存在がコイツらから消し飛んでるぞ!!いつの間にご飯派かパン派の対決になったんだ!!

 そんなことを言ってもコイツら聞く耳持たないだろうなぁ……はぁ~……

 

 

「かよちんがバイクに乗ったら、胸が零くんに当たっちゃうからダメだにゃ。それで零くんが興奮して、運転に集中できないかもしれないし」

「確かにそれはあるわね。だって零だもの」

「そ、そんなことないよ!!多分……」

 

 

 ここで俺登場するのかよ!?もうとっくにお前らの思考から俺がフェードアウトしているのかと思ったわ!!しかもあらぬ被害妄想まで追加されてるし!!

 でも花陽の胸が俺の背中にねぇ……そして興奮して運転に集中できなくなると……ふむ、あり得るな。

 

 

「もうメンドーだし一人で行くか」

 

 

「え~と、何してるんですか?」

 

 

「雪穂!?練習は?」

「お姉ちゃんが『4人だと荷物が持ちきれないかもしれないから手伝ってあげて』って」

 

 

 ナイスだ穂乃果!!ようやくこのピリピリした雰囲気から脱出できる。もう本当にツッコミ死しそうで危なかったんだよ。凛は分かるがまさか真姫や花陽にここまでツッコミを入れる日が来るとは、まるで世界線が入れ替わったみたいだ。

 

 

「ほら、ヘルメット。しっかり俺の背中に掴まってろよ」

「あの……いいんですか?真姫ちゃんたちは?」

「いいんだよ。あれを待ってたら明日になっちまう」

 

 

 でもここまで相手の弱点を言い合えるということは、相手のことをよく見ているということだ。つまりこの1年でアイツらがどれだけ仲良くなったのかが一目瞭然だな。まあ今は近所迷惑どころではない騒ぎっぷりだが……先生に怒られない内に買い出しに出掛けるとするか。関係者だとは思われたくないしな。

 

 

「もっと俺にくっつけ雪穂。振り落とされるぞ?」

「こ、こう?」

「おおっ!!雪穂の温もりが伝わってきた!!じゃあ行くぞ!!」

 

 

 アイツらまだやってるよ……もうそっとしておこう。俺とアイツらは無関係、うんそれだ、それでいい。むしろそうであって欲しい。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「これが大学のお化け屋敷?でも随分と雰囲気出てるな」

「でしょ?これがにこたちの大学で評判なんだから」

「そ、外から見てもこの迫力……」

「絵里ち、身体震えてるよ?」

 

 

 俺はにこたちの誘いで、大学で評判だというお化け屋敷に来ていた。とある部活かサークルが作ったものらしいのだが、遊園地並みに本格的な作りで大学やその周辺ではかなり好評らしい。さらに入場無料ということで、結構遠くから来るお客さんもいるとかいないとか。

 

 

「お化け屋敷と言えばカップルで入るのが定石でしょ♪だから零、にこと一緒に入るわよ」

「ちょっと待って!!カップルやったらウチも零君の彼女やから、その権利はあるよ?」

「そ、それなら私もよ!!むしろ零と一緒じゃなかったら、こんな怖いところ入れないわ!!」

 

「おい……」

 

「「「ん?」」」

 

 

 あれれぇ~おっかしいぞぉ~~!!この光景どっかで見たような気がするぞぉ~~。しかもこれで3日連続な気もするぞぉ~~。

 はぁ~……またこの流れで俺がハブられるんだろ?そしていつの間にかフェードアウトしたと思ったら急に引き合いにだされるんだろ?分かってるよそんなことぐらい。でも今日はにこたちが争わないように先に手を打っておくか。

 

 

「おいお前ら、そんなことで争うなんて――」

 

「じゃあにこと零がどれだけラブラブなのか思い知らせてあげるわよ!!」

「それならウチも負けへんよ!!零君とのラブラブエピソードぐらいごまんとあるんやから!!」

「もちろん私だって負けてないわ!!あなたたちがアッと驚く話ばかりよ!!」

 

 

「あの……聞いてくださいお願いします」

 

 

 ほらね!!もう俺の存在なんて忘れられているでしょ?泣いていいかな……?ここまで除け者にされると、俺は本当に彼女たちと付き合っているのか疑問に思えてくる。

 

 

「にこはこの前、零に思いっきりワシワシされたんだから!!そのあと濃厚なキスで快楽の底に叩き落とされたわ!!」

「それやったらウチもワシワシされたことあるよ?ウチの胸ならにこっちのちっぱいと違って、零君も気持ちよくさせることができるから」

「2人ともそこまで……?でもそんなのは健全なお付き合いじゃないわ!!デートの回数ならこの中でも一番多いはず!!」

「なによ絵里、抜けがけしてたの!?」

「そんなんずるいやん!!」

「これは私の完全勝利のようね!!そんな俗物に塗れたエピソードでは私の足元にも及ばないわ!!」

 

 

 腰に手を当て、『フフン』と鼻を鳴らして得意げな表情を見せている絵里。全然賢くないわコイツ!!見ようによってはもの凄くバカっぽい。

 それしても、周りに人がいるのに『ワシワシする』とか、『気持ちよくする』とか勘違いするようなことを言わないで欲しい!!周りからも『なに?あの彼氏変態なの?』みたいな目で見られるだろうが!!

 

 

「ふんっ!!にこは零とベッドで×××したこともあるのよ!!この前一緒ににこの部屋に泊まった時にね」

「ウチだって零君の×××を胸で×××したことあるよ!!」

 

 

 もうやめてくれぇええええええええええええええええ!!公衆の面前で彼氏の変態行為をバラさないでくれぇえええええええええええ!!周りの人の俺を見る目が徐々に冷たくなってきてるから!!『なに?コイツ3股してんの?』とか、『外でお前らのプレイの内容叫んでんじゃねぇよ』とか絶対に思われてるから!!

 

 

「あなたたち!!そんな破廉恥なこと元生徒会長の私が認めないわ!!」

「ん~~?絵里ちだって零君にワシワシされたら、どうせ『ハラショ~~♡』とか言って快楽の底に落とされるに決まってるから♪」

「普段は健全さを語っている人ほど性欲が強いのよ。もしかして、絵里も零とそんなことをしたいんじゃないのぉ?」

「な、なななななななに言ってるのよ!!そそそんなこと、な、ないわよ!!私が零とえ、え……っちなんてそんな……」

「あるぇ~?にこたちそこまでは言ってないんだけどなぁ~」

「にこぉ~~!!」

 

 

 あぁ……もう俺このままだと社会的に抹殺されそう。それにもうお化け屋敷というワードすら出てきてないし……どうなってんだこの会話。

 もうここにいるだけで辛い!!周りの人からの冷たく鋭い眼光が俺の心を容赦なく貫いてくる。絶対最悪の彼氏だと思われてるよ……誰かこの状況を打破してくる人はいないものか。

 

 

「あれ?お兄ちゃん?」

 

 

「楓!?お前自主連はどうした?」

「もう終わったよ。まさかこんなところでお兄ちゃんと会えるとは……これも運命!?」

「あぁ今日はお前との運命を感じるよ!!」

「なっ!?お兄ちゃんがデレた!?」

 

 

 いつもは台風の目として俺を巻き込むことしかしない楓だが、今回だけはコイツが天使様に見える。おいおい、よく見たら俺の妹ってこんなに可愛かったんだな!!もうコイツを褒めて褒めて褒めちぎってやってもいい!!

 

 

「そういうことだ楓、今すぐこのお化け屋敷に入るぞ」

「ちょっとちょっと!?どうしたのお兄ちゃん!?いつもと違いすぎ!!いつもなら軽くあしらってくるのに……」

「もしかしてイヤか?」

「全然!!むしろ一緒にお化け屋敷へ入るだなんて、恋人みたいで嬉しいよ!!」

 

 

 そうだろうそうだろう俺も嬉しいぞ!!なんたってこの空気からようやく抜け出すことができるんだからな!!もう周りから冷徹な目線を浴びなくてもいいんだ!!

 

 

「それじゃあ行くぞ」

「うんっ!!あっ、お兄ちゃん手つなご♪」

「お、おう……まあ今日ぐらいはいっか」

 

 

 まさか楓に癒される時が来るとはな、人生何があるか分かったものじゃない。突然社会的に抹殺されそうになることもあれば、台風の目がデレてくれることもある。だから今は――

 

 

「絵里ちってばムッツリさんやったんやね♪」

「希まで!?あなたたちと一緒にしないで!!」

「その言い方だとにこたちが欲塗れみたいじゃない!!」

「その通りでしょ!?どこがおかしいのよ!!」

 

 

 全力でコイツらから離れよう!!

 

 




 いつもとは違ってポンコツのμ'sメンバー、そしてツッコミ死しかけた零君、如何だったでしょうか?彼氏1人に彼女9人は大変ですね(笑)
 そして癒しの1年生組!!小説内にもありましたが、まさか楓が癒し枠となって登場するとは、作者である自分自身もビックリですよ!!


 結構前作『日常』の話のリメイクやオマージュが多くなってきてますが、決してネタ切れとかじゃないですよ(笑)
単に思いついたネタが過去と似ているだけです!!
そろそろリクエスト募集の時期かなぁ~……


 今更ですが、ここ最近の投稿ペースが異常の一言で表せますね。『新日常』が始まってから計算をしてみると、2日に1本以上というハイペース。『投稿早すぎて、まだ前の話を読みきれてないよぉ』という方がいたら申し訳ないです!


Twitter始めてみた ⇒ https://twitter.com/CamelliaDahlia
ご意見、ご要望、次回予告などはこちらで!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暑かったら脱げばいいじゃない

 最近5月にも関わらず暑くなってきましたねぇ~~

 今回は、高坂姉妹と絢瀬姉妹と共に暑さ対策について考える回!!
 タイトルを見て分かる通りロクなことになっていませんが、本人たちが楽しそうなのでなによりです。そしてまた『R-17.9』要素が自然に取り込まれていますのでご注意を!!


 

 

「あっちぃ~~!!どうして今日はこんなに暑いんだよ!!」

「文句言っている暇があったら、アイデアの1つでも出しなさい」

「絵里は暑くねぇのかよ?」

「もちろん暑いわよ。だからって文句を言っても何も変わらないでしょ」

 

 

 俺は今穂乃果の家にお邪魔し、高坂姉妹と絢瀬姉妹と共に新曲の歌詞作りに励んでいる。いつもμ'sの歌詞作りを一手に引き受けている海未の負担を少しでも軽減しようと、今回は俺たちμ'sメンバーが何人かグループになって手伝うこととなったのだ。

 

 そして俺、穂乃果、雪穂、絵里、亜里沙で集まってアイデア放出会を開催したのはいいものの、今日は5月とは思えない気温の高さに俺は溶けそうになっている。最近めっきり暑くなったのだが今日は特に異常だ。暑さに弱い俺にとっては、穂乃果の部屋がサウナのようである。

 

 

「穂乃果ぁ~~もう冷房付けようぜ」

「そうだねぇ~~……穂乃果も溶けて液体になっちゃいそうだよ。雪穂ぉ~~冷房付けてぇ~~」

「もう2人共だらしない……亜里沙、冷房のリモコンのボタンおして。すぐ隣にあるから」

「うん――ってあれ?反応しないよ?」

「マジかよ!?壊れてるとか言ったら承知しねぇぞ……」

「誰に承知しないのよ……とりあえず電池を入れ替えてみたら?」

 

 

 電池を取りに動くのも面倒だったため、近くにあったテレビのリモコンから生きた電池を抜き取ってそれを冷房のリモコンへはめ込む。これで付かなかったらこの冷房、スクラップにしてゴミ出しの日じゃないのにゴミに出してやるからな!!

 

 よし!!冷房よ、お前の運命を決める時だ。はいポチッとな。

 

 

「……」

「「「「……」」」」

 

 

 

 

「はいスクラップ確定!!」

「待って待って零君落ち着いて!!」

「そんなに騒いだら、余計に暑くなるわよ」

「うるさい!!あの冷房、俺をコケにしやがって!!」

「いや、してないでしょ……」

 

 

 機械のくせに人間様に喧嘩を売るとはいい度胸だ!!俺が暑さで野垂れ死んでしまうと同時に、お前も道連れにしてやる!!イヤならとっとと冷たく凍え死ぬような空気をこの地獄に流し込めやゴルァ!!

 

 

「でも穂乃果も暑いんだろ?」

「暑いよ!!穂乃果も冷房さんを叩いてでも動かしたいよ!!あっ、こうやって叫んでいれば暑さを忘れられるかな!!」

「お姉ちゃんうるさい!!私たちまで暑くなるじゃん!!」

「そういう雪穂だってすごく叫んでるよ……?」

「姉妹似た者同士ってことね」

 

 

 そこまで暑がっていないお前ら絢瀬姉妹も似た者同士だと思うぞ……?

 冷房が動かないとなると、あとは夏の風物詩であるうちわや扇風機ぐらししかないが、今はまだ5月なのでそんなものがあるはずがない。だったらこの暑さをどう凌げばいいのだろうか……?その方法がただ1つだけある。でもこの方法は女の子の前でしていい行為なのかは分からないが、このまま暑さで死んでしまうよりかはマシだ。ここで実行するしかない!!

 

 

 

 

「服……脱ぐか」

 

 

「「「「!!!」」」」

 

 

「だって暑いんだから仕方ねぇだろ……別に裸になるっていってるんじゃない。シャツぐらい着てるよ」

 

 

 そして俺は袖を捲ったままの上着を勢いよく脱ぎ捨てた。

 ふぅ~~!!これで少しは涼しくなったかな?だが所詮その場しのぎに過ぎない。脱いだ直後は涼しかったが、次第に部屋の蒸し暑さが俺を侵食する。それにしてもさっきよりまた暑くなっているような――――ん?みんなの様子がおかしい。

 

 

「れ、零君大胆過ぎるよ……」

「ハラショー……結構いい身体してるのね……」

「あわわわわわ……」

「もう、なんで急に脱ぎ出すかなぁ……」

 

 

 穂乃果、絵里、亜里沙は顔を真っ赤にしながら俺の身体を見つめ、雪穂はプイッとそっぽを向いていた。

 そういえば穂乃果たちの身体は水着でPV撮影をした時に散々見たのだが、俺自身の身体はあまり公に披露したことはない。基本出掛けることが面倒なタイプだから、海やプールに行くこともないしな。

 

 

「穂乃果ぁ~~どうした?顔真っ赤だぞ?」

「れ、零君が服を脱ぐからでしょ!!もうっ!!騒いだらまた暑くなってきちゃったじゃん!!」

「そうか……それならいい方法があるぞ」

「なになに!?」

 

 

 

 

「お前も脱げ」

 

 

 

 

「…………はい?」

 

 

 今の穂乃果の表情はいつもの3割増ぐらいバカっぽい。彼女にそうはいったものの、俺自身も暑さのせいで理性が崩壊しかけている。一瞬冷静になり、『あれ?今俺ただの犯罪者になってないか?』と考えはしたが、穂乃果の脱いだ姿を見たいという俺の欲望に嘘偽りはないため、このまま続行することにしよう!!

 

 

「冷房もない、扇風機もない、うちわもない、じゃあどうするか?もう自分自身を脱ぎ捨てて、開放感に浸るしかないだろ」

「えっ……で、でも……」

「穂乃果、俺はお前のすべてが知りたいんだ。μ'sの仲間として、そして彼氏として、自分の彼女のことを隅々までな。だってこんな可愛い彼女がいるんだ、知りたくないっていう方が間違いだろ。穂乃果はどうだ?」

「零君そこまで穂乃果のことを……?嬉しい♪もちろん穂乃果だって知りたいよ!!零君のことをもっともっと!!」

「だろ?だから脱いでくれないか?また新しいお前を見せてくれ。大好きだよ、穂乃果」

「うんっ!!穂乃果も大好きだよ♡じゃあ今すぐ脱ぐね♪」

 

 

「ちょっと待てぇえええええええええええええええ!!お姉ちゃん騙されてるから!!」

 

 

 騙すとは人聞きの悪い奴だ。俺の素晴らしい演説を聞いていなかったのか?まぁ、まだ雪穂はおこちゃまだから分からないかもしれないが、これぐらい恋人同士なら当然だぞ?別にやましいことなんて何もない。俺はただ"高坂穂乃果"という人物について詳しく知りたいだけだ。裸を見て興奮するとか、そんな犯罪者みたいなマネするかよ。

 

 

「雪穂、あまり俺の邪魔をしない方が身のためだぞ」

「もう完全に犯罪者ですから!!通報しますよ!!」

「勝手にしろ。だがその時は、捕まる前にお前の服だけはなんとしてでも脱がしてやる!!」

「絵里ちゃん……なんでこの人好きになったの……?」

「さぁ……自分でも分からないわ……」

 

 

 そりゃあ変態的要素よりも、カッコいいところがたくさんあるからに決まってるじゃないか!!俺だって、女の子なら誰にも手を出す変態とは違うんだ。俺が見ているのはμ'sのみんなだけ!!穂乃果たち一筋なんだ!!つまり一途なんだよ、分かる?

 

 

「ハラショー!!まさか零くんと穂乃果ちゃんがここまで進んだ関係だなんて!!」

「いやいや違うからね亜里沙。あれはただのセクハラだから」

 

 

「穂乃果ぁ~」

「零君♡」

 

 

「なんか2人だけの世界に入り始めたわ……」

 

 

 

 

※ここからしばらく零と穂乃果の世界をご堪能ください(壁殴り禁止!!)

 

 

~~~~~

 

 

「さぁ穂乃果、服を脱がすからばんざいして?ほら、ばんざ~い!!」

 

「ばんざ~い♪」

 

「やっぱ穂乃果はいい子だなぁ~。そうやって俺の言うことを何でも聞いてくれる穂乃果、好きだよ」

 

「だって大好きな零君のためだもん♪それに零君は変態さんだから、穂乃果がぜぇ~んぶその欲望を受け止めてあげるよ!!」

 

「じゃあ俺も、全身全霊で穂乃果を愛してやろう!!」

 

「もう待ちきれないよぉ~~!!さぁ、早く脱がして♪」

 

「分かった!!いくぞ……それっ!!」

 

「きゃあっ♪あぁ~~涼しいぃ~~!!」

 

「おっ、可愛い下着だな?ベージュ色は初めてか?しかも、少し大人っぽくてそそられるよ」

 

「でしょでしょ?零君に見られてもいいように、常にお気に入りを着けてるんだ♪」

 

「ありがとな、俺なんかのために。名残惜しいけど、これも外しちゃっていいかな?」

 

「いいよ♪」

 

 

~~~~~

 

 

「『いいよ♪』じゃないよお姉ちゃん!!零君もなに全部脱がそうとしてるの!?」

「これ以上は禁止よ!!元生徒会長として認められないわ!!」

「チッ、邪魔すんなよ雪穂、絵里!!」

 

 

 折角いい雰囲気だったのになぁ~……もう少しで、あとちょっとで一線を超えられそうだったのに!!俺の欲望を邪魔した罪は重いぞ。この重罪、コイツらにどう償わせようか……?最悪、ヌーディストハーレムも辞さない判決を下すことになることを覚えておけ!!

 

 

「穂乃果ちゃんも大胆だね……」

「亜里沙ちゃんもどう?涼しくなれるよ!!」

「こら穂乃果!!勝手に亜里沙を誘惑しないで!!」

「お姉ちゃんまでおかしくなった……」

 

 

 これでこちらに味方が1人増えたわけだな。この調子で全員を脱がしまくって、あわよくばその先の展開へと――ってマズイマズイ!!涎が垂れそうだった!!でもこの場にはことりや楓がいないからまだ平和だな。あの2人がいたら阿鼻叫喚の事態に陥っていただろう。

 

 

「亜里沙、暑いのなら俺が抱きしめてやろう!!」

「きゃっ!!れ、零くん!?」

「ほ~ら、段々暑くなってきただろう?脱ぎたくなってきただろう?ん~?」

 

 

(あ、暑い!!零くんの身体に包まれて、私喜んでるの!?零くんから伝わってくる温もりがどんどん私を支配していく……ぬ、脱いじゃおっかな?それで零くんが喜んでくれるのなら……)

 

 

「亜里沙も脱ぐ気になった?」

「はい……もっと私のこと、見てくださいね♪」

「もちろんだ!!」

 

「零君に洗脳されているよ亜里沙!!戻ってきてぇえええええ!!」

 

 

 これで2人目!!やっぱり暑い時は欲望に忠実になった方が、身のためだし精神的にも断然いいな。そして俺の欲求も満たされて一石二鳥だ。さらに穂乃果たちも涼しくなるからwin-winじゃないか!!損することなんて1つもない!!それなのに雪穂も絵里もなぜ脱がないのか?

 

 

『暑かったら脱げばいいじゃない』

 

 

 うん!!いい名言ができたぞ!!

 

 

「それ以上、亜里沙に変なことをしたら許さないわよ」

「そうか……なら絵里、お前が脱げばいい」

「え゛っ!?」

「お前が脱げば亜里沙を返してやろう。なぁ~に、下着まで脱げとは言ってない。上だけ脱げばそれでいい」

「あなたねぇ!!」

「あと10秒だ。その間にお前が脱がなければ亜里沙を脱がす」

 

 

 我ながらいい作戦だ!!亜里沙を盾にすれば、シスコンの絵里は俺の言うことを聞かざるを得まい。亜里沙は俺に懐いてくれているため、彼女とコンタクトを取ることは非常に容易だ。つまり間接的に絵里を自由にコントロールすることができるのだ!!流石俺!!天才!!

 

 

「10、9、8」

 

「え、絵里ちゃんどうするの……?」

「雪穂……私は……」

 

「7、6、5、4」

 

「絵里ちゃん脱ぐの?穂乃果も緊張してきちゃった!!」

「もうお姉ちゃんも変態だ……」

 

「3、2、1」

 

「……ぐわ」

「聞こえないぞ?」

「脱ぐわって言ったのよ!!」

 

 

 同時に絵里は自分の上着を勢いよく脱ぎ捨てた。そしてそこには生命の神秘と言っていいほどの光景、つまり絵里の下着姿が俺たちの世界に具象化されたのだ!!キラキラとした効果音が似合う綺麗な肌に黄色の下着、これを神秘と言わずになんという。俺はしばらく絵里のその姿に魅了されていた。

 

 

「あ、あまりこっち見ないで……」

「あ、あぁ……あまりにも綺麗過ぎて見とれてた」

「うっ……まぁでも、ありがと……ふふっ」

 

 

 下着姿というのは水着と違ってエロスしか感じられないな。普段は決して誰にも見せない絶対領域であるからこそ、水着以上の興奮に煽られる。こうして冷静でいられるのも今の間だけかもしれない。

 

 

「零くん、ずっと抱きつかれているから汗かいてきちゃいました」

「そうだなぁ~……でもお前を脱がしちゃいけないって約束だしなぁ~。あ~あ、絵里が脱がなかったら亜里沙が暑さで苦しむことはなかったのに……」

「さっきの私の感動を返してよ!!こういう時は本当にゲス野郎ね!!」

 

 

 なんとでも言いたまえ。さっきも言ったが、俺は女の子の裸を見たいわけではない。暑さを凌ぐのと同時に女の子の新たな魅力を見つけ出したいだけなんだ。決して邪な気持ちがあるわけじゃないぞ。

 

 

「亜里沙も脱ぎたいよな?」

「はい……もう暑くて堪りませんから……」

「どうする絵里?大事な妹が暑さで悶え苦しんでるぞ?」

「むぅ……」

「それなら雪穂も一緒に脱げばいいじゃん♪」

「はぁ!?お姉ちゃんそれどういうこと!?」

 

 

 まさか自分に振られるとは思っていなかったのか、普段よりも一オクターブ高い声でツッコミを入れた。雪穂の奴、今日はツッコミ頑張ってるなぁ~~。ご褒美に脱がしてやろう。これで頭も身体も冷めるだろ。

 

 

「ほらだって雪穂、すっごく汗かいてるよ?」

「それはお姉ちゃんたちのせいでしょ!!私は絶対に脱がないからね!!」

「そうかそうか、そりゃそうだよな。だってお前の身体は貧相で、モデル体型の楓はもちろん、一年前はほとんで同じぐらいだった亜里沙にも既に負けてるんだもんな。そんな身体を晒したくない気持ちも分かるぞ!!でもロリ体型っていうのは、一定の需要があるから心配すんな」

 

 

 1年生の身体について。

 俺の妹である楓は言わずもがな、本人も自画自賛するほどのパーフェクトボディだ。絵里並みのスタイルに胸はことりと同じかそれ以上、文句のつけようもない。

 亜里沙も一年前は貧相な身体だったが、最近になって姉である絵里のスタイルを引き継いだのか、背や胸の成長速度が素晴らしい。それでも俺としてはまだまだ小柄だけどな。

 雪穂はさっき言った通りだ。

 

 

「うぅ……」

「どうしたプルプル震えて?悔しいのは分かるけど、それが現実なんだ」

 

 

「えぇい!!脱げばいいんでしょ脱げば!!これだって一年前と比べれば背も胸も成長してるし!!ダイエットにも成功してスタイルもよくなってるんだから!!」

 

 

 まさに計画通り!!雪穂も真姫と同じく重度のツンデレさんだから、こうやって煽っていればいつかは脱いでくれると信じていたぞ!!もう計画通りに進行しすぎていて自分に酔いしれそうだ。

 

 でもちょこぉっと暴走し過ぎのような……

 

 

「雪穂が壊れた!?今まで一緒にいて、こんな雪穂初めて見たよ!?」

「ゆ、雪穂落ち着いて!!もう私脱がないから……ね?」

 

 

「いや脱ぐ!!あんなに煽られたら私のプライドが許さないからね!!」

 

 

「零!!あなたが蒔いた種よ!!雪穂を元に戻しなさい!!」

「いやぁ~~雪穂っていいキャラしてるよな」

 

「零君!!」

「零!!」

「零くん!!」

 

「分かった分かった!!この俺に不可能はない!!ちゃんと雪穂を連れて帰ってくるから」

「あなたのせいでしょ……はぁ~……」

 

 

 そしてここから雪穂を取り戻すのに相当な時間を要した。もちろん歌詞作りが1ミリも先に進まなかったのは言うまでもない。さらにそのせいで、他のみんなに怒られたことも言うまでもない……

 




 今回は最近の暑さをネタにした話でした。曇っているのに暑いってどういうことだ!!いい加減にしろ!!……はい、この調子だと夏はどうなるんでしょう?今からでも億劫です。

 この話に出てきたキャラで、一番暑い思いをしたのは確実に雪穂でしょうね。まさにツッコミキャラの真髄を極めていましたから(笑)
もしかして零君よりも先にツッコミ死してしまうかも!?


~次回予告~
現在構想中の話です。どの順番で投稿されるかは未定なうえ、全然違う話が投稿されるかもしれません。さらに言えば没になるかもしれません。

☆嫉妬するまきりんぱな
前作『日常』より「嫉妬することほのうみ」参照

☆新たな性グセ発掘!!
次に零君が着目したのは、女の子の"耳"!!

☆花陽個人回
花陽視点でお送りする、濃厚なる『R-17.9』展開!!

☆μ's童話劇場『桃太郎』リベンジ!!
覚えている人は覚えている、今まで大した話題にもなっていないあのお話。もしかしたら別の童話を使うかも……


Twitter始めてみた。ご意見、ご感想、ご要望、投稿日時など。たまに創作物やネタなども放出してます。
 ⇒ https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

花陽とのほんわか日和

 今回は、花陽推しの方必見の花陽個人回!!花陽視点で零君とのイチャコラなデートをお楽しみください!!

 これからデート回のタイトルは分かりやすく『(主役キャラの名前)との○○』にしようと思います。


 いくぞ読者方!!壁の貯蔵は十分かぁああああああ!!


 

「おっ、あれが花陽の言っていたクレープ屋か。そこそこ人もいるな」

「うん、特に学生には大人気なんだよ。一度でいいから食べてみたかったんだぁ~♪」

 

 

 今日は部活がお休みなので、零君と2人でちょっと離れたところにあるクレープ屋まで足を延ばしてみました。もちろん雑誌などでも取り上げられているクレープも楽しみなのですが、私としては零君と2人でデートをする方が何倍も楽しみでした。前々からデートの約束はしていて今までに何度もデートはしているけど、やっぱり当日は緊張します!!

 

 

「今日はこのために昼飯も控えめにしたんだ。たっぷり味わうぞぉ~!!」

「私もクレープは久しぶりだから楽しみだよ♪」

「そうだな。それに花陽と放課後デートってのは初めてか」

「うん♪よろしくお願いします!」

「任せろ!!楽しすぎて昇天しちゃうぐらい、俺が紳士的にエスコートしてやる!!」

 

 

 その時零君が向けた笑顔に、私は見とれてしまいました。零君の笑顔を見ると、いつも引っ込み思案な私も何でもできるような気がするのです。だから……今日はもっと積極的になろう!!いつもいつも零君にエスコートされてばかりだから、今日は私からもアプローチを仕掛けないと。

 

 

「よし、行こうぜ。ほいっ」

「え……?」

「手だよ手。結構人がいるから、花陽が迷子になっちまわないようにな」

「えぇ!?そこまで子供じゃないよぉ~!!」

「いやぁ~~お前を見ていると心配になるんだよな、はぐれた途端変な男に声掛けられそうで。だからお前は俺のモノって証をみんなに見せつけるんだ」

 

 

 もうっ!!普段は変態さんなのに、どうしてこういう時だけはイケメンさんなの!?自分でも顔が真っ赤になってるって分かっちゃうよぉ~~!!

 

 でも、私はどんな零君も大好きです♪カッコいい零君はもちろん、変態さんな零君も全部。恐らくですが私、零君に手を出されることをちょっぴり期待しているのだと思います。恋人同士になり零君とのスキンシップも増え、みんなは『セクハラだ!!』と言うけれど、私はそうは思ってなかったり。むしろ、もっと零君と一緒に触れ合いたいなぁと日々考えている私は変態さんなのでしょうか?

 

 そして私はこちらへ向けられた零君の左手に、自分の右手をそっと差し出しました。

その直後でした、零君は私の右手の指と指の間に自分の指を素早く滑り込ませたのです!

 

 

「こ、この手の繋ぎ方は……?」

「俗に言う恋人繋ぎってやつだな。俺とお前は恋人同士なんだから、別におかしいことはないだろ?」

「そ、そうだよね!!私たち恋人同士だもんね!!えへへ♪」

「そうそう。じゃあ行こうか?」

「うん♪」

 

 

 やっぱりまだこのドキドキには慣れません。でも零君と2人きりでいる時は、今までに感じたことのない幸福感が私を包み込むのです。μ'sのみんなには申し訳ないけど、今は零君を独り占め。この独占欲にさっきの変態さん、もしかして私、零君の影響をもの凄く受けているみたいです。でも……零君好みの女の子になれればそれでもいいかなぁ……なんてね♪

 

 

 今日の放課後デート、思いっきり楽しもう!!そして、あわよくば私から零君に……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「意外とここのクレープって小さいんだな」

「あはは……男の子が食べる量としては少ないかもね」

 

 

 数十分並び、ようやく念願のクレープを買うことができました。零君の言う通り、普通のクレープに比べれば一回り小さいのですが、放課後に学生が買いに来るという想定で作られているのでそれ相応の大きさになっているらしいです。

 

 

「あっ、これ美味しいね♪」

「ああ、ちょっと甘すぎるところが俺好みだ」

「零君って甘いもの大好きだよね?いつもことりちゃんのお菓子を美味しそうに食べてるから」

「お菓子でも何でも、基本甘いものなら好きだぞ。花陽はお菓子とか作ったりしないのか?」

「料理はするけど、お菓子作りはあまりしないかな」

 

 

 ご飯やどんぶりものは好きでよく料理はするんだけど、お菓子作りは1人でやったことはないなぁ。穂乃果ちゃんのお店ならお手伝いしたことがあるんだけどね。

 それよりもこれは、零君を私の家に招待するチャンスかもしれません。今日は家に家族がいないので、零君にお手製の料理を振舞うことができるかも。よし、勇気を出して誘おう!!ファイトだよ!!私!!

 

 穂乃果ちゃん、セリフ取っちゃってゴメン……

 

 

「零君!!」

「ん?どうした?」

「きょ、今日私の家に来ない?」

「な、に……?いいのか?」

「うん。今日は家に私だけだし……それに折角零君と2人きりなんだから、放課後だけっていうのは勿体無いもん」

「花陽からそういう提案があるとは驚いたな……じゃあ喜んで行かせてもらうよ」

「やった♪ありがとう!!」

「なんでお前が喜んでんだよ、ハハハ!!」

 

 

 そういえばそうかも……?私も零君につられて一緒に笑ってしまいました。でも、それくらい零君と一緒にいられて嬉しいからだよ♪零君と一緒にいると、普段引っ込み思案であまり喋れない私がまるで別人になったかのように口が弾むんです。『もっとあなたとお話したい!!』『もっとあなたに私を知ってほしい!!』、そう思っているからかな?

 

 

 あっ、零君の頬っぺにクリームが付いてる……どうしよう、言った方がいいよね。違う……今日私は自分からアプローチするって決めたんだった。だったらここは――――

 

 

「な゛っ!?は、花陽!?」

「えへへ♪零君の頬っぺにクリームが付いてたから、つい」

「『つい』って……お前からそういうことをしてくるなんて珍しいな」

「今日の私はいつもと違うよ!!積極的な小泉花陽になりますから!!」

「そうか、なるほど……」

 

 

 零君は私が舐めた部分を指で触りながら、私の顔をジッと見つめています。うぅ……お互いに何も言わず見つめ合っているのが一番恥ずかしいよぉ~~!!零君のカッコよさに吸い込まれてしまいそう……でもそれでもいいかなぁっと思ったり。

 

 普段は変態さんだけど、それは私たちの前だけらしいのです。普通に学院内では頼れる男の子ということで同級生の女の子から好かれているばかりか、憧れの先輩として後輩の女の子にも注目されています。私たち2年生の教室でも、凛ちゃんや真姫ちゃん以外の女の子から零君の話題が出ることがあるんだよね。やっぱり零君てモテるんだなぁ~~

 

 でもそんな零君を今私が独り占めしていると思うと、ちょっぴり優越感に浸れます♪

 

 

「じゃあ積極的な小泉花陽ちゃん!!俺にお前のクレープを分けてくれないか?」

「えっ?もちろんいいよ」

「でも普通に貰っては面白くない。だから口移しだ!!」

「口移しぃいい!?そ、それは……」

「今まで普通にキスしてただろうが……それに今日は積極的な小泉花陽じゃなかったのか?」

「そ、そうだけどぉ~……」

「条件は2つ。1つ目はお前から俺に食べさせること。2つ目は俺が食べ終わるまで唇を離さないこと。ちなみにお前に拒否権はない。さぁ来い!!」

 

 

 それってもうキスと何も変わらないような……?でも自分から積極的になるって言っちゃったんだし、ここはやるしかないよね!!やるったらやるっ!!あっ、また穂乃果ちゃんのセリフ取っちゃった。ゴメンね♪

 

 それにしても、相変わらず零君の強引さには目を見張るものがあります。でもその強引さがあってこその積極性だと思うんだよね。穂乃果ちゃんや凛ちゃんみたいな、元気よくみんなを引っ張ってくれる人もそういった強引さがあるし、私も少しでいいから強引になって零君に甘えてみようかな?

 

 

 私は自分のクレープを一口サイズに噛じり、唇でクレープを挟みながら零君の口へ向かって近づいていきます。その間に零君が私の背中に腕を回してきたので、私も近づきながら零君の首に腕を回しました。身体が触れ合うたびにドキドキして、今からキスをすると思うと自然と気持ちも高揚してきます。大好きだよ、零君♪

 

 

 そして――――

 

 

「ちゅっ、くちゅ……」

「んっ……」

 

 

 零君は我慢できなくなったのか私が零君の口に到達する前に、零君が自ら近づいてきて私の唇が奪われました。やっぱり零君は強引さんのようです♪私も負けないくらいキスを堪能しちゃおう!!

 

 私は咥えていたクレープを零君の口に放り込み、自由になった唇で零君の唇に貪りつきました。本当に今までの私じゃないみたい……いつもソフトで優しいキスだったから、ここまで濃厚なキスをするのはこれが初めてなのです。

 

 

「ちゅっ、ちゅぅ……」

「んぁちゅっ……んぅぁ……」

 

 

 ふぇえええええええええええええ!!今私、すごく変な声出してなかった!?ディープキスってこんなにも気持ちいいものだったんだ。これはにこちゃんやことりちゃんがハマっちゃうのも仕方ないね。現に私も零君の虜になっちゃいそう……いやもう虜になってるんだけど、さらに魅了されちゃった♪このままキス中毒なったらどうしようかなぁ♪

 

 

 あっ、今『ゴクン』って音がした。多分零君がクレープを全部飲み込んだ音だね。クレープを食べきるまでキスをするっていう条件だったけど、零君は私から離れるどころかさらに強くキスをしてきました。私もそれに応えるように舌を零君の口内に侵入させ、零君の味を堪能します。こうなったら、この甘いひと時を十分に味わっちゃおう♪

 

 

「んぁっ、ちゅっ……」

 

 

 私、もう自分から卑猥な音を出しちゃってる……『くちゅくちゅ』と周りにも聞こえるような大きな音を。でももう周りとか人目だとかどうだっていいんです!!零君と一緒ならどうなったっていい、だから今だけは――

 

 

「ちゅっ、んん!!」

「んぁちゅっ……んぁ!!」

 

 

 お互いにお互いを求めすぎて息が続かなくなったため、仕方なく唇をそっと離しました。名残惜しいですが、また次の機会の楽しみができたということで。

 

 

「はぁはぁ……激しいな花陽。このまま窒息死するかと思ったぞ……」

「それは零君もだよ……はぁはぁ……」

 

 

 まだ口の中に零君の唾液が残ってる……すぐに飲み込むのも勿体ないし、しっかりと私の口に染み込ませてから飲み込もう!!それに零君も口元を動かしているから、多分私と同じことを考えているんじゃないかな?零君と以心伝心だなんて……でも零君には私のすべてを知ってもらいたいからそれでいいかも。

 

 

「花陽、ちょっと来てくれ」

「え?急にどうしたの?」

「積極的なお前を見て、そしてお前を堪能して、もう我慢できなくなった……いいか?」

 

 

 我慢できなくなった――ということは零君、やっぱりそういうことを望んでるんだ。やっぱり零君は変態さんだね♪もちろん私もそのような覚悟があって零君と付き合っているのです。むしろ今の私、いや私たちは自分から零君を求めるようになっている。あの天国へ昇天しそうなくらいの、気持ちいい快楽を零君に求めて。だから、その答えはもちろん――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ここなら誰にも見られねぇだろ」

「でもちょっと薄暗いね……」

「あぁ、いいシチュエーションだろ?」

 

 

 私は零君に連れられて公園のトイレの裏まで来ました。周りは木で囲まれているため、トイレに入る人に見つかる心配はありません。まるで今から私たちが行う行為を察しているかのように、木々が夕日の光を遮ってくれています。

 

 

「さぁ、花陽。壁に手を突いて、少しおしりをこっちに向けてくれないか?」

「うん……」

 

 

 あぁ、身体が勝手に動いちゃう!!もうちょっとで零君に愛してもらえると思って、私の身体が喜んでいるのかな?でもこの体勢すっごく恥ずかしよぉ~~!!ゴメンなさいお父さんお母さん、そして健全なお付き合いをお触れにしている海未ちゃんに絵里ちゃん!!花陽、零君にこの身を差し出します!!

 

 

「まさかこの『ワシワシMAXハイパー』を花陽に使うとはな……でも自分の欲求には逆らえないんだ」

「いいよ♪きて……」

「やるからにはお前を絶対に気持ちよくさせてやる。いくぞ!!」

 

 

 そして零君は私の胸を後ろからガシッと鷲掴みにしました。その瞬間、導火線に火が付いたかのように身体が温まり始め、その火が導火線を辿るように身体中を駆け巡ったのです。真姫ちゃんやにこちゃんから聞いていましたが、まさか身体がビクビク震えるほど快楽が全身に伝わるとは思ってもみませんでした。

 

 

「あっ、あん!!」

 

 

 あまりの気持ちよさに声を上げずにはいられません!!私が快楽に身を投じて身体を震わせようとすると、零君はそれに合わせて揉み方を変えてきます。にこちゃんがこの前言っていました、『零はにこたち9人の胸をそれぞれ別の方法で揉んでいる。アイツはにこたち1人1人が悦ぶポイントを知っているのよ』と。これがもし私のためだけに開発された揉み方だとしたら……もう言葉にできないぐらい嬉しいです!!

 

 

「あぁ……ん!!」

 

 

 大きな声を出せば周りの人に見つかってしまう、でも声を出さなきゃ我慢できなくなっちゃうこのジレンマ。身体がビクビクして今にも体勢が崩れそうだけど、この体勢を崩してしまうと零君から愛してもらうことができなくなる。だから私は必死でおしりを突き出した体勢を保ちながら、零君から流し込まれる快楽を味わなければならないのです!!

 

 

「あんっ!!あっ!!」

 

 

 あぁっ!!大きな声が出ちゃった!!だけど、もう誰に見つかってもいいや……

 そうやって自分の理性が失われるほど零君に愛され続けました。私はずっとその快楽に身を任せて、ただただ喘ぎ続けることしかできなかったのです。それでも自分の欲求が爆発しないよう、残り僅かな理性を持って抵抗をしています。

 

 でも導火線の火は着実に私の抑えられていた欲求に近づいてきて、そして――――

 

 

 

 

「あぁあああああああああああああああああ♡」

 

 

 

 

 遂に果てちゃいました……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

「はぁはぁ……」

「大丈夫か?俺も夢中になっていて、あまりお前のことを気遣えてなかったかもしれない。ゴメンな」

「ううん、むしろこんな気持ちいいこと絶対に忘れないよ♪ありがとう♡」

「俺がしたかっただけなのに、感謝されるとなんだかな……でもまぁ、どういたしまして」

 

 

 あっ、珍しい!!零君が照れてる!!

 零君が私にそういう感情を向けるのって初めてだと思う。普段、私に対しては頼れる先輩でお兄ちゃんのようなキャラだからね。こんなこと言ったら楓ちゃんに怒られちゃうな。

 

 

「一息ついたしもう帰ろうか、花陽の家に」

「うん。それじゃあ、はい♪」

 

 

 今度は私から零君に右手を差し出しました。今日の私は積極的な小泉花陽ですから!!零君に満足してもらえるアプローチ、たっぷりできたかな?

 

 

「じゃあしっかりエスコートしてくれよ?積極的な花陽さん?」

「任せてください♪」

 

 

 再び私たちは恋人繋ぎをして家へと帰りました。でもまだまだ、2人きりの夜はこれからですよ!!

 

 

 覚悟してね、零君♪

 

 




 この話のタイトルを見て、『何がほんわか日和やねん!!』とツッコミを入れた方、間違いじゃないですよ(笑)

 投稿間隔が短いので後書きに書く内容がなくなった!!それでは今日の花陽回に満足をして頂けた方、是非とも高評価をください(笑)
増えれば増えるほど『R-18』へと近づいていきますから……



 書くことがないので、なぜ個人回をμ'sメンバー視点にしたかだけを。
 実は――――『いちゃこら』タグの付いている、ラブライブ小説作品の個人回の影響を受けただけという非常に短絡的な理由。その話を見て、『そういえばμ's視点で話を書いたことがほとんどないなぁ』と思い始めたのが始まりです。あちらの作品とは違って、個人回であっても馬鹿なことしまくってますから(笑)
 この作品で純愛は書けません!!純愛を見たい方は是非あちらへ!!



Twitter始めてみた。ご意見、ご感想、ご要望、次回予告などはこちらへ!
 ⇒ https://twitter.com/CamelliaDahlia




 前回感想にて、毎日投稿するよう煽られたので明日も投稿します!!さらに前回の次回予告の内容を1つでも没にしたら飛ばされるらしいので、次回はあの話の中のどれかになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

μ's童話劇場『桃太郎』リベンジ!!

 今回は前作『日常』の「桃太郎」より、元μ'sメンバーの9人が再び演劇を披露する回です!前回はハチャメチャなシナリオでしたが、さてはて今回は……?


※演劇中の文章がちょっと特殊です。
通常かぎ括弧「」・・・穂乃果たち役者のセリフ
二重かぎ括弧『』・・・零君が読むナレーションのセリフ
通常の文・・・普通に零君が喋っている文章

つまり地の文に当たる文章がないのでご了承ください。


 

 

~開演前:舞台裏~

 

 

 

 

「どうしてまた穂乃果が主役なのぉ~~?もうやりたくないっていったじゃん!!」

「できれば俺が代わってやりたかったんだが、この演劇の主演はμ'sなんだ。だから……頑張れ☆」

「顔、ニヤけてるよ……」

 

 

 一年前、アイドルとしての魅力向上を図るため、『桃太郎』を題材にμ'sで演劇を行った。あの時アイツらが脚本無視でやりたい放題してくれたおかげで、主役の桃太郎役を演じていた穂乃果の心に、深い傷(笑)を残す結果となったのだ。

 そして一年後の今、より結束が強くなったμ'sが再び『桃太郎』を演じるとどうなるのか?その疑問を解決するために俺が企画を立ち上げた。ちなみに雪穂たち1年生組は、たった3人観客として講堂の席に座らせている。

 

 

「前回のシナリオは酷かったけど、またあの時の二の舞にはなってないんだよね!?」

「大丈夫だ。今回のシナリオはすべて俺と楓で考えたから」

「一番心配な組み合わせだよそれ!!」

「楓がいるからな」

「零君もだよ!!」

 

 

 穂乃果の奴、いつもと違って心配性だな。普段は細かいことを気にせず突っ走るタイプなのに……なるほど、主役を演じるから下手なシナリオだと自分が際立たなくてイヤなわけか。いやぁ~~そこまで穂乃果が主役を演じたいのなら仕方ない、ナレーション役の俺が頑張って盛り上げてやろう!!

 

 

「よし!!もう始まるぞ、行ってこい!!」

「不本意だよぉ~~」

「心配すんな。お前は台本通りにやってくれればそれでいい。あとは勝手に周りが盛り上げてくれるさ」

「そんなニヤケ顔で『心配すんな』って言われても説得力ないよ……」

「ほら、文句垂れてないで行ってこい。みんな待ってるぞ」

「は~い……」

 

 

 穂乃果はブツブツと文句を言いながらも舞台袖へと向かった。

 さぁ!!これからμ'sショータイムの開幕だ!!ただのお遊びだからお客さんは少ないけど、どんな役柄でも最後まで貫き通して演技をする。その信念の強さがスクールアイドルにも必要だ。そういうことだから見せてくれよ!!お前らの最高で爆笑の演技を!!

 

 

「今爆笑って言った!?」

「あれるぇ~~聞こえてた?」

「バッチリねっ!!」

 

 

 中々の地獄耳を持った奴だ。流石野生動物のように感覚で生きているだけのことはあるな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

~開演~

 

 

『昔々あるところに、日本昔話なのに何故かロシアとのクォーターである絵里お爺さんと、エセ関西弁を話す希お婆さんがいました。とてもアダルティなお爺さんとお婆さんに、私ナレーションもテンションが上がるというものです』

 

 

「なんでナレーションの個人的感情が入ってるのよ……」

「前回より変態要素増してへん……?」

 

 言っただろ?今回の演劇は前回の演劇よりパワーアップしてるってな。それにナレーションっていうのは、演劇を盛り上げる要素の1つでもあるんだ。物語を上手く進行できるかどうかはナレーションの力量に掛かってくるから、まぁ任せとけ!!お前らは俺の指示した通りに行動すればいいんだよ。

 

「あなたの指示が一番心配なんだけど……」

「もう既に物語から脱線してるけどね……」

 

 おおっ、危ない危ない!!

 

 

『お爺さんは山に芝刈りに、お婆さんは川に洗濯へ行きました』

 

 

「あれ?」

「どうしたの希?」

「この洗濯物……どっかで見たことがあるんやけど?」

「こ、これって……水着!?しかもこの水色の水着って、この前私が着ていたモノじゃない!?」

 

 気づいたか……そう!!その洗濯物は、以前PV撮影の時にみんなが着ていた水着だ。俺が洗濯しておいてやるって言って、この時まで俺の部屋に保管しておいたのだ!!もちろん演劇で使うことが目的だから、家ではなにもしてないぞ☆

 

「ちょっと零!!あなた私たちの水着を何に使ったのよ!?」

 

 なにって……言えるわけねぇだろそんなこと。いいから先へ進めるぞ!!全く、絵里がいちいちツッコむせいで話が進まねぇじゃん。自重しろ!!

 

「誰のせいだと思ってるのよ……」

 

 

『お婆さんが川で洗濯をしていると、大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました』

 

 

「大きな桃やなぁ。あとでお爺さんと一緒に食べようかな?」

 

 

『お婆さんは桃を家へ持ち帰りました。お爺さんは桃を食べるために、包丁で桃を半分に切りました。すると、中から裸の……裸の!!!!』――――ってあれ?

 

 

 おい……ちょっと待て!!俺のシナリオでは、裸の穂乃果が桃に入っていることになってただろ!?どうして服着てるんだよ!!またシナリオを崩壊させる気か!?

 

「そんなことしたら放送事故だよ!!しかもこの台本に、『全部脱げ、お前に拒否権はない』って書かれてるけど拒否するに決まってるじゃん!!」

「もう初めから頭が痛くなってきたわ……」

「これも盛り上げるための演出なん?」

 

 当たり前だろ。女の子のサービスシーンっていうのは視聴率が上がるんだ。しかもそれがμ'sのリーダーともなればなおさらな。だから脱ぐんだ!!

 

「脱がないから!!いいから話を進めてよ!!」

 

 文句が多い奴らだ。そんな我が儘ばっかり言ってたら、いい大人になれないぞ?あっ、でも穂乃果はずっと子供っぽいイメージがあるな。

 

「鬼なんかより零君を退治したくなってきたよ……」

 

 

『お爺さんとお婆さんは桃から生まれた子に穂乃果と名づけました。そして穂乃果はぐんぐんと立派に成長しました』

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

『お爺さんとお婆さんは、最近村を荒らして回っている鬼たちに手を焼いていました。私も演劇をまともに進めてくれない役者たちに手を焼いていますがね』

 

 

「もういちいちツッコまないわよ……」

「この演劇、ただ零君が楽しみたいだけなんじゃ……」

 

 

『お爺さんとお婆さんは、最近村を荒らして回っている鬼たちに手を焼いていました』

 

 

「同じこと言わなくてもいいわよ!!進めればいんでしょ!!はぁ……最近、鬼たちが悪さをして困るわね」

「向こうの村でも被害が出てるし、どうしようかなぁ?」

「みんなに悪さをするなんて許せない!!穂乃果が退治してくるよ!!」

「穂乃果がやってくれるの!?頼もしく育ったわね、お爺さん嬉しいわ」

「だったら、お婆さんお手製のきびだんごを持って行って♪」

「わぁ!!ありがとうお婆さん!!」

 

 

『こうして桃太郎、高坂穂乃果の鬼退治珍道中が始まるのでした』

 

 

「全然緊張感がなさそうな旅になりそうだよ!?馬鹿にしてるよね!?」

 

 安心しろ、お前の旅のサポートはナレーションの俺がきっちりしてやる。まぁハッピーエンドで終わらせてやるから大船に乗った気持ちでいるといい!!

 

「零君が言うハッピーエンドほど怖いものはないよ……しかも多分大船じゃなくて泥船だし……はぁ~……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

『旅に出た桃太郎は、その途中で花陽犬に会いました』

 

 

「あっ!花陽ちゃんのその格好、この前の子犬さんコスプレだね♪」

「うぅ……また着るとは思わなかったよ。しかも零君の計らいでちょっと脱がされちゃったし……」

「花陽ちゃんも零君の毒牙に掛かっちゃったんだね……」

 

 えぇ~~!!でも犬が服着ているのはおかしくない?そういうことで、花陽には見えそうで見えない際どいところまで脱いでもらいました☆こんなセクシーでかつお人形さんみたいな子犬、仲間にしたいでしょ?とりあえず花陽、セリフセリフ!!

 

「桃太郎さん、どこへ行かれるのですか?」

「鬼ヶ島へ鬼退治に行くんだよ!!」

「それでは黄金米を使用した特大おむすびをくださいな。お供しますよ」

「え゛っ!?ちょっと零君これ去年と同じシナリオだよね!?どうしてきびだんごに修正しなかったの!?」

 

 まさかお前、おむすびを用意していないのか……?呆れた、俺の性格が分かっていれば『零君のことだから、今回もほとんど同じシナリオでくるはず!!だからあらかじめ、去年のシナリオ通り黄金米特大おむすびを用意しておこう!!』って発想に至るはずだろ?

 

「至らないよ!!そこまで穂乃果が頭回ると思う!?」

 

 残念ながら思わない。だって馬鹿だからなぁ~お前。

 

「もう本格的に、零君退治に切り替えた方がいいような気がしてきた」

「なんか大変そうだから、お供するね……」

「あ、ありがとう花陽ちゃん!!心の友よ!!」

 

 

『なんやかんやで花陽犬が仲間になった!』

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

『さらに旅を続けていた穂乃果は、その途中で凛猿に会いました』

 

 

「また凛が猿なのぉ~~?」

「配役は前回から変わってないんだね」

 

 でもμ'sの中で誰が猿役に相応しいのか考えてみれば、やっぱり体系的にも体力的にも素早く動ける凛が適任だったんだ。シナリオを使い回せて楽だしな。

 

「それ絶対最後のが本音でしょ!?納得いかないにゃ!!」

「今の零君に文句を言っても無駄だよ凛ちゃん。とりあえず劇を進めよ」

「う~~……桃太郎さん、どこへ行くのかにゃ?」

「鬼ヶ島へ鬼退治に行くんだよ!」

「それではラーメンをくださいな。お供しますよ」

「そうだ、そうだった……うぅ~~どうしよう」

 

 

『これは困った!!桃太郎穂乃果、ラーメンを持ち合わせていない!!まさか、仲間を最小限に抑えて鬼ヶ島に乗り込むという縛りプレイなのか!?』

 

 

「ナレーション遊びすぎでしょ!?もう……前回みたいにラーメン奢るってことで手を打たない?不本意だけど……」

「それならよろこんでお供するにゃ!!この身は桃太郎さんと共に戦う覚悟を決めました!!」

「なんだか上手く流されいるような気がする……」

 

 

『桃太郎は自らの財布ポイントを削って、凛猿を仲間にした!』

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

『さらにさらに旅を続けていた穂乃果は、その途中で真姫キジに会いました』

 

 

「あなた、そんなに急いでどこへ行くの?まぁ私には関係ないことだけど」

「相変わらず素っ気ないね……鬼ヶ島へ鬼退治に行くんだよ」

「それじゃあそのきびだんごをくれる?お供するわよ」

「えっ!?きびだんごでいいの!?あっ、ご、ゴメン真姫ちゃん。な、涙出てきちゃった……」

「ちょ、ちょっとなに泣いてるのよ!!」

「ちゃんと桃太郎のシナリオ通りに進んだのが始めてだから嬉しくって……」

 

 

『あぁっとどうしたことだ!!桃太郎が泣き始めてしまったぞ!!俺の穂乃果を泣かした奴は誰だ!?とっとと出てこい!!』

 

 

「いや、確実にあなたでしょ……」

「童話通りに進むのが、これほど安心できるものだとは思わなかったよ」

「零くんはすぐ笑いに走ろうとするから脚本家には向いてないにゃ~……」

 

 

 流石に笑いを取ることばかり優先して、シナリオを前回の使い回しにしたのはマズかったか……?でも普通だと面白くないし、俺はお前らのスター性を発掘するためにこの企画を再び立ち上げたんだ。是非世界に羽ばたくエンターテイナーになってくれ!!

 

 

「あれ!?スクールアイドルとして、緊張せずに舞台に立つ練習じゃなかったっけ!?」

「もう完全に趣旨が変わってるわね……」

 

 

『知らない間に真姫キジが仲間になった!!』

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

『穂乃果は花陽犬、凛猿、真姫キジを連れ、ついに鬼ヶ島へたどり着きました。目の前にそびえる鬼ヶ島。ここまで来ると、穂乃果たちが今まで乗り越えてきた苦難が思い出されます』

 

 

「ここが鬼ヶ島……」

「ここまで来るのに苦労したにゃ~。特にあのボスに何度やられたことか……」

「いや戦ってないでしょ……」

「もういきなり鬼ヶ島だもんね……」

 

 RPGで言えば、いきなり魔王城みたいなものだからな。そう考えれば童話の桃太郎たちってレベルいくつなんだよ……むしろその桃太郎を育て上げたお爺さんとお婆さんが最強なのではなかろうか?もうお前らが世界救えよ。

 

 

『鬼ヶ島では、鬼たちが近くの村から盗んできた宝物やごちそうを並べて酒盛りの真っ最中で――って、あれ?鬼がいないぞ?にこたちはどこいった?』

 

「「「「???」」」」

 

 

 

 

「ぎゃぁあああああああああああああああああああ!!」

 

「「「「!!!」」」」

 

 

『どうしたことだ!!突然舞台袖からにこ鬼の悲鳴が響き渡ったァあああああああ!!これはもしや、裏ボス的な存在がいるのだろうか!?』

 

 

「ようやく見つけましたよ……穂乃果ぁ」

「やっと会えたねぇ……穂乃果ちゃん♪」

 

「海未ちゃん!?ことりちゃん!?」

 

 

『ここで舞台袖から出てきたのは海未鬼とことり鬼だぁああああああ!!ことり鬼の右手には、気絶しているにこ鬼の死骸の首根っこが掴まれている!!しかもなぜかこの2人、目が据わっていてヤンデレな雰囲気を醸し出しているぞ!!一体2人になにがあったのか!?』

 

 

「零!!これもシナリオ通りなの!?」

 

 より演出を面白くするため秋葉に、『海未とことりが穂乃果を好きになる薬を作ってくれよ』って言ったら快く承諾してくれてさぁ~、そしてそれを2人に飲ませたらこんな風になっちゃった☆

 

「『なっちゃった☆』じゃないよ!!海未ちゃんもことりちゃんも、すごく怖いんだけど!?」

 

 そりゃそうだ、だって愛しのお前が来るのを今か今かと待ってたんだから。さぁ、どうする穂乃果?愛を取るのか村の平和を取るのか、今こそ決断の時だ!!

 

「そんなの村の平和に決まってるじゃん――――ヒィッ!!」

 

 

『おっと!!ここで海未鬼とことり鬼の睨みつけ攻撃に、桃太郎穂乃果が怯んでしまったぁあああああ!!これは万事休すか!?』

 

 

「じゃあ前回もやったあの作戦しかないわね」

「え゛!?またやるの!?」

「このままだとあなた、一生海未とことりに飼われることになるわよ?イヤだったら羞恥心なんて捨てなさい」

「もう……人ごとだと思って……」

「人ごとだもの」

「ヒドイよ真姫ちゃん!!」

 

 

『さぁ桃太郎穂乃果、ここから起死回生なるか!?村の平和と自分の貞操を守るため、頑張れ穂乃果!!』

 

 

「穂乃果ちゃん早く!!」

「誠意を見せるにゃ!!」

「花陽ちゃんに凛ちゃんまで……はぁ~……」

 

 

『遂に穂乃果が鬼の前に立った!!そして息を大きく吸い込んだぞ!!どうする!?どうなる!?』

 

 

 

 

「村のお宝を返してくれたら、結婚してあげる♡」

 

 

「ぐぅううううううう!!」

「ぴぃいいいいい!!」

 

 

『ここで海未鬼とことり鬼、萌え過ぎて倒れてしまったぁああああああ!!これが萌え死にというやつでしょうか!?とても満足した表情で気絶しています!!見事、桃太郎陣営が勝利を収めました!!』

 

 

「やったーーーー!!これでラーメンを食べに行けるにゃーーーー!!」

「とりあえずこの2人は病院送りね」

「やっと終わったよぉ~……」

 

「また色んなモノを失った気がする……」

 

 

『鬼を退治したというのに何故か穂乃果は落ち込んでいました。なんででしょうねぇ~~。そして穂乃果たちは村の宝物を持ち、元気よく家へ帰りました。そして、絵里お爺さんと希お婆さんと一緒に幸せに暮らしましたとさ』

 

 

 

 

キャスト

 

桃太郎 : 高坂 穂乃果

犬 : 小泉 花陽

猿 : 星空 凛

キジ : 西木野 真姫

お爺さん : 絢瀬 絵里

お婆さん : 東條 希

ボス鬼 : 矢澤 にこ

子分鬼 : 南 ことり

子分鬼 : 園田 海未

 

神の声(ナレーション) : 神崎 零

 

 

 

 

~※~

 

 

~閉幕後・観客席~

 

 

「すごく面白かったね!!楓、雪穂!!」

「そりゃあ私も一緒になって考えたシナリオだし、面白くて盛り上がるのは当然でしょ!!」

「…………ノーコメント」

 




 今回の話と前作の話を比較してみると、自分でもかなり文章が書けるようになったなぁと思います。あの頃に書いた話は文章がお粗末なので、個人的には黒歴史として封印したいんですけどね(笑)


 次回予告というほどではありませんが、そろそろ楓を主役にした回を書こうと思っています。中身は零君とμ'sの仲が良すぎるため、1人で探りを入れるという内容。結構マジメな回になると思われます。


 とりあえず毎日投稿は一旦終わり。次回からは平常運転です。そうはいっても他の作者様と比べるとペースが早いのは否めませんが(笑)


 どうでもいい話ですが最近のラブライブ小説で、変態主人公もしくはそれに準じた行動をしている主人公が増えてきたような気がします。もちろんそういう主人公は好きなので、どんどん増えて欲しいです!


 高評価を入れてくださった方、ありがとうございます!これでまたR-18への道が開拓されました!!


Twitter始めてみた
 ⇒ https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

浮気調査員:神崎楓

 今回の主役は零君の妹である楓!!
 零君とμ'sの仲が良すぎることを不審に思った楓は、μ'sメンバーにどう探りを入れる!?9股がバレるのかバレないのか、果たして……


 ちなみに今までと違って変態回ではないですよ(笑)


 

 怪しい……。

 

 

 最近、μ'sの女たちがお兄ちゃんに対してスキンシップが多いような気がするんだよね。去年まではまだよそよそしい雰囲気だったのに、今年になってやけに過剰になっている。穂乃果先輩や凛先輩は相変わらずだけど、特にことり先輩やにこ先輩があからさまに変わっているから丸分かり。花陽先輩も近頃積極的になってきてるし、明らかに怪しい……

 

 お兄ちゃん、まさかこの中の誰かと付き合ってる?そう言ってもおかしくないほど仲がいいんだよね。どう考えても、どう見てもμ'sのみんなとのイチャイチャが増えている。まだ確信はないからグレーゾーンだけど、もうこれはブラックに限りなく近いグレーだよ。

 

 愛する妹というものがいながら他の女に浮気だなんて、未来のお婿さん失格だね!!μ'sのみんななら他の女よりも多少は信頼できるけど、私の恋路を邪魔する存在には変わりはない。これは徹底的に調査するしかないよ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 まず手始めに外壁から攻めていこう。穂乃果先輩と絵里先輩の妹の雪穂と亜里沙なら、この現状について何か知ってるかもしれない。とりあえずこの2人がお兄ちゃんと付き合っているってことはまずないと思う。まだ他のμ'sのメンバーみたいに、熱の籠った視線をお兄ちゃんに浴びせてないしね。

 

 

「ねぇ雪穂、亜里沙。ちょっといい?」

「どうしたの?」

「まさか、また『お兄ちゃんに向けた愛の歌』とか言って語り始める気じゃあ……」

「違う違う!!今回だけはマジメな話!!」

「今回……だけ?」

 

 

 もし雪穂と亜里沙が何らかの理由でお兄ちゃんとμ'sが付き合っていることを隠している場合、ストレートに聞いても答えてくれるはずがない。ここは外壁のさらに周りから突いてみるか……

 

 

「最近穂乃果先輩さぁ~~テンション高くない?」

「えっ?もう1年前からあんな感じだけど……」

「そう……ところで、先輩って休日はどこかに出かけたりしてる?」

「さぁ、いちいち行き先や誰と行くなんて誰にも言わないことがほとんどだから」

「ふ~ん……」

 

 

 あの口の軽い穂乃果先輩が親にも行き先を伝えずにねぇ~~怪しいねぇ~~

 先輩なら誰とどこへ出かけるかなんて全国民に言いふらしそうな性格してるくせに、妹はまだしも親にまで言っていないとは……

 

 

「絵里先輩はどうなの?」

「う~ん、お姉ちゃんも休日は出かけることが多いけど、どこへ誰と行くのかはちゃんと私たちに伝えてくれるよ」

「へぇ~……」

 

 

 あまり踏み込み過ぎると怪しまれるからこの辺にしておこう。でも収穫はいくつかあった。その2人が一緒に出かけている相手、まぁμ'sのメンバーもいるんだろうけど、多分その中にお兄ちゃんと2人きりのお出かけ、つまりデートは入っていると思う。まだ憶測だけど、女のカンってやつは恐ろしいから。

 

 

 そ・し・て♪明らかに雪穂と亜里沙は嘘を付いているね。まぁ別にこの2人に嘘を付かれるのは構わないんだけどぉ~~多分それを指示したのはお兄ちゃんだよねぇ~~♪ダメだなぁ~~愛する妹をほったらかしにして他の女とデートをするなんて。もし誰かと浮気をしていることが確定したら、お兄ちゃんをどうしてあげようかな♪フフフ……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 場所は変わりアイドル研究部部室。今ここにはお兄ちゃん、雪穂、亜里沙以外のμ'sメンバー、つまり元μ'sのメンツが揃っている。この組み合わせになるのは結構珍しいけど、私としてはまたとないチャンスだ。この中に私のお兄ちゃんをたぶらかしているメス豚がいるってことだよね♪絶対に見つけ出して、その首を頂くんだから♪

 

 まずは誰から探りを入れようかなぁ~~……みんなで世間話をしているところ悪いから、1人で本を読んでいる真姫先輩にしよっと♪

 

 

「ねぇ真姫せんぱぁ~い♪」

「なによ急に先輩呼びして。また何か企んでるの?」

「そんなことありませんよぉ~~。それにしてもお兄ちゃん、遅いですねぇ」

「別にただ掃除当番なだけでしょ」

 

 

 そんな素っ気ない態度を取っても私には分かるんですよ。本を読みながら、たまぁに部室のドアをチラチラ見ていることをね♪これは絶対にお兄ちゃんを待ってるよ。真姫先輩は言葉と行動が一致してないから分かりやすいなぁ~~♪

 

 でもあの真姫先輩をここまで期待させるって、お兄ちゃんどんな魔法を使ったのかな?お兄ちゃんの魅力ならどんな女でも落とすことができるだろうけど、基本素直じゃない先輩をこれほどまでにねぇ……怪しいねぇ~……

 

 

「海未せんぱぁ~い♪」

「楓、どうかしましたか?」

「いやね、お兄ちゃんはまだかなぁ~っと思って」

「掃除中に遊んでなければもうすぐ来ると思うんですけど……でも零ですし、ふざけて先生に怒られるまでのパターンに入ってしまってるでしょうね。まぁ楽しく掃除するのはいいことですけども。しかし最終的にはやることは余すところなくしっかりこなす、よくできたお兄さんですよね」

 

 

 長い長い長い長い長い!!どれだけ喋るんですか!?あ゛ぁああん!?まさか軽く投げた質問がこんなヘビーな回答で返ってくるとは思ってもなかったよ!!まさかこの人がメス豚……?でも先輩が恋人っていうのが一番あり得なさそうなんだよなぁ~~……良くも悪くもマジメだし。

 

 

「凛先輩とにこ先輩はマトモに掃除なんてやらなそうですよねぇ~♪」

「どんな偏見よそれ!!にこは綺麗好きだから、掃除は結構好きよ」

「これでも最近は将来に向けて、料理や洗濯とか色々と家事を手伝ってるんだよ」

「へぇー意外ですねーー」

「全然興味がないって顔してるにゃ……」

「楓が振ってきたくせに……」

 

 

 普段母親と交代で家事を切り盛りしているにこ先輩は分かるけど、まさか凛先輩が率先してお手伝いをしているとか天変地異の前触れかなにかかな?そんなことよりも、凛先輩が言ってた『将来に向けて』っていう言葉が気になる。メス豚は先輩?このちっこい先輩がお兄ちゃんの彼氏!?そんなバカな……

 

 

「ことり先輩」

「なぁ~に楓ちゃん?」

「教室でのお兄ちゃんってどんな感じですか?」

「ん~~……ことりの席が零君の席の斜め後ろだから授業中いっつも眺めてるんだけど、特に変わったところはないかなぁ~?いつも通りカッコよくて、ちょっぴり変態さんな零君だよ♪でもでもっ!!居眠りしている時の顔は可愛いんだよぉ~♡」

 

 

 ウザッ!!そんなこといちいち言われなくても、お兄ちゃんの魅力ぐらい私が世界で一番よく知ってるっつーの!!

 それにことり先輩がこの中で誰よりも黒に近いような気がする。お兄ちゃんへの好意が明らかに去年とは違う、『もう零くんになら何をされてもいい!!』というメイドすらも飛び越えた奴隷精神をビンビン感じる。こいつがメス豚有力候補か……首を刈り取る準備をしなくては。

 

 

「花陽先輩って、最近お兄ちゃんによく話しかけてますよね?」

「うんっ!!スクールアイドルなのに引っ込み思案じゃダメだから、自分を変えるため積極的になろうと思ってね♪」

「へぇ~……なにかきっかけってあったんですか?」

「ん、ん~……?楓ちゃんたちも入ったし仮にも私は先輩だから、みっともない姿は見せたくないんだよ」

「ふ~ん……」

 

 

 花陽先輩、少し答えに詰まった?私がきっかけを質問した時、初めの方に少し戸惑いがあったように見えた。元気よくして隠そうとしてるけど、私のメス豚探知機はそれぐらいで隠し通せるものではない!!お兄ちゃんに群がるメス豚たちを一網打尽にするため、例え穏やかで優しい先輩であっても容赦はしないから。

 

 

 ん?まてよ、群がる……?もしかして、1人じゃない……?ははは……そんな馬鹿な!!9股なんて社会的に抹殺されるようなこと、お兄ちゃんがするわけないじゃん何言ってるの私は!!そんなことがあるはずは……。

 

 

 あったらどうする?いや、ないない!!絶対にあり得ないんだ!!

 

 あと3人……あと3人から話を聞けば把握できるはず。そう――お兄ちゃんが9股どころか誰とも付き合っていないという事実がね。

 

 

「絵里先輩と希先輩は、大学に入ってから久しぶりにみんなと会ってどうでしたか?やっぱり会えなくて寂しかったとか?」

「そうねぇ~……にこみたいに飢えてはいなかったけど、私も零に会いたかったわ」

「寂しかったけど、やっぱり零君と一緒にいるとそんなことも忘れるぐらい元気をもらったかな?」

「なるほど分かりました」

「あれ?もういいの?」

「はいもうお腹いっぱいでーす」

「なんで棒読みなん……?」

 

 

 この2人……サラッと答えて大人な対応をしたように見えるけど、確実に黒だ。夜の闇よりも深いブラックだわこれ。

 私はねぇ、『大学に入ってから久しぶりに"みんな"と会ってどうでしたか?』って聞いたの!!それなのに誰がお兄ちゃんのことだけを話せって言ったんだぁああああああ!?無意識にお兄ちゃんの名前が出ちゃったんだとしたら、これを黒と言わずに何と言う!?しかも1人じゃなく2人共ってことは……まさか――――

 

 

 嘘でしょ……?

 

 

「ほ、穂乃果先輩……」

「ん?どうしたの楓ちゃん?」

「お兄ちゃんは……」

「零君ならもうすぐ来ると思うよ。あぁ~早く練習したいなぁ。そして今日も零君に、穂乃果の頑張っている姿をいっっっっぱい見てもらうんだ♪あわよくば頭とか撫でてもらったり、ぎゅっ~~ってしてもらったり……きゃぁ~~♡」

 

 

 …………

 

 

 …………

 

 

 …………

 

 

 …………

 

 

 なるほど、そういうことだったのか……。

 

 

 すべて分かった……。

 

 

 お兄ちゃんをたぶらかしているメス豚の正体……。

 

 

 なるほど……なるほどねぇ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「どうした?こんなところに呼び出して。俺だって暇じゃあ――」

 

 

「そうだよねぇ~~暇じゃないよねぇ~~。だって彼女がいるんだから」

 

 

「お前……」

 

 

 翌日、私はお兄ちゃんを屋上へ呼び出した。

 初めは面倒くさそうな顔で扉を開けて入ってきたけど、私の言葉を聞いた瞬間目を丸くして驚き、その顔が真剣な表情に変わる。いつもの私ならそのカッコいいお兄ちゃんに飛びついているけれど、もちろん今はそんな気分じゃない。ここまで来たら、すべての事実を白日の下に晒してやる。

 

 

「どこで知った?」

「あれ?随分素直に認めるんだね」

「もうバレているのに隠しても無駄だろ。それにお前のことは俺が一番よく知っている。言い訳なんてさせてくれないだろ」

「分かってるじゃん♪」

 

 

 一応お兄ちゃんを攻めるために言葉を色々と考えてはいたんだけど、ここまで潔いと逆に拍子抜け。まぁ、言い訳されるよりかは楽でいいんだけどね。私がやりたいのはそんな醜い言い争いじゃないし。

 

 

「どこで知ったもなにも、自分で調査したんだよ。最近お兄ちゃんとμ'sのみんなの仲が良すぎることが怪しくってね」

「それで?」

 

「まず雪穂と亜里沙に聞いてみた。この2人は雰囲気から付き合ってはいないなぁと思っていて、まさにその通り。でもあの2人は私に嘘を付いた」

「へぇ~……どんな?」

 

「私が穂乃果と絵里が休日よく出かけるのかを聞いた時、あの子たちは『出かけるけど行き先や誰と行くかは教えてくれない』とか、その逆もあった」

「それがどうかしたか?」

 

「とぼけないで。お兄ちゃんがそう言わせてるんでしょ?だってそもそも周りに自分のお姉ちゃんがデートをしていることを隠したいのなら、『知らない』の一言で済むはず。あんな長ったらしい言い訳をする必要なんてない。お兄ちゃんは周りに感づかれないためにそうやって言い訳するようあの2人に伝えたんだろうけど、私にはそれが不自然極まりなかったからね」

 

「……流石だな」

「お兄ちゃんの妹ですから」

 

 

 これは仕掛けに手を込め過ぎて、逆に見つかりやすくなってしまうパターンだ。素人から見れば何の変哲もない普通の言い訳なんだけど、浮気調査のプロである私から見れば違和感ありまくりで今すぐにでも問いただしたかった。策士策に溺れるとはまさにこのことだね。

 

 

「それで他に分かったことは?」

「部室で元μ'sの先輩たちと話していて、全員がお兄ちゃんを今か今かと待っているオーラを出していた。これはさっきみたいに証拠も何もないけど、女のカンってやつかな?」

「お前のカンは鋭いからな、それでも十分な証拠になるよ」

「お褒めの言葉を頂き光栄です♪」

 

 

 こうしてお兄ちゃんの様子を伺ってみると、意外と戸惑ってないんだね。私がこの話を暴露したらもっと焦ると思ってたんだけど、そこだけは見当違いだったか。いや、そもそもいつ私に知られてもいいように覚悟を常に持っていたとか……?そうでなきゃ暴走する私を止めることなんてできないからね。

 

 

「でもまさか9股をする男がこの世に存在しているとは……ホントに最悪だね、お兄ちゃん♪」

「本当に最悪だよな。でもこれが俺たちの出した答えなんだ。去年、俺たち10人の間で起きたことをお前にも話したよな?あれも最悪な出来事だったけど、そのおかげで俺もアイツらもお互いの本当の気持ちを知ることができた。だから俺は現状に後悔してないしこれからもするつもりはない。でも、黙っていたことは悪かった。ゴメンな」

 

 

 去年、お兄ちゃんと元μ'sの先輩たちの間で起こった最悪の事態。お兄ちゃんを巡って殺し合いをしたっていう、まさにヤンデレドロドロの展開。ホントに馬鹿な人たち……お兄ちゃんもμ'sも……

 

 でもその時からだったかな?お兄ちゃんの笑顔がより明るくなったのは……

 

 

「俺も意外だよ。もっと怒られるのかと思ってた」

「そりゃあ初めはμ's全員を打ち首獄門の刑にしたかったよ。でもそんなことできないじゃん、あんな楽しそうで幸せそうな顔を見せられたら……」

「楓……ありがとな」

「いえいえ♪それでもお兄ちゃんは私のモノってことには変わりないけどね!!」

「はいはい」

 

 

 そう!!今はまだお兄ちゃんをμ'sに預けておくだけだから!!そう簡単にお兄ちゃんをお婿に出すわけにはいかないからね!!いつまでにしようか……うん、私の目が黒い間はそう安々と渡すものですか!!

 

 

「そうだ、あと1つ聞いてもいい?」

「なんだ?まだ何かあるのか?」

「うん……」

 

 

 話が終わって立ち去ろうとしたお兄ちゃんは再び私の方へ向き直った。今までの話ももちろんお兄ちゃんに伝えたかったことだけど、これも私からお兄ちゃんに絶対に伝えておきたい。

 

 

 

 

「私にも、まだチャンスはある?」

 

 

 

 

 答えなんてどうでもいい。でもこれを言っておかないと、これまで抑えていた気持ちが爆発しそうだったから。

 

 

 

 

「チャンスは自分で掴み取るものだぞ」

 

 

 

 

「え……?」

 

 

 まさかの返答。でも……それで心が落ち着いちゃったんだから仕方がない。全く、ホントにお兄ちゃんは人の心を読むのが上手いんだから。なんでそうやって女性の心に響く的確な言葉がホイホイ出てくるのやら。なるほど、それでμ'sを片っ端から落としていったのか。

 

 

「――ということで!!負けないから、そこに隠れているμ'sのみなさん!!」

 

 

 

 

「あはは……やっぱりバレてたか」

 

 

 穂乃果の言葉を皮切りに、μ'sメンバーがぞろぞろと屋上に姿を現した。盗み聞きなんてタチの悪いことを……でもまぁタチの悪さなら私も負けてないけどね!!

 

 

「これもお兄ちゃんの計らい?」

「知るか。でも盗み聞きしてるってことは分かってた」

「あれぇーー?そんなに穂乃果たちうるさかった!?」

「馬鹿野郎。11人もいれば気配で分かるっての」

 

 

 そんな大所帯で気づかないとでも思ってたの?だからまだまだμ'sはあまちゃんだなぁ~~。でもこれで私がμ'sに必要だってことがはっきりと分かるんだね!!しょうがないからこのままメンバーでいてやるか!!

 

 

「楓ちゃん、私たちからも今まで黙っていてゴメンなさい!!」

「いいよ別に……そのおかげで私にもチャンスがあることが分かったら、それで全部チャラ!!でも覚悟することだね!!私が参戦するからには、穂乃果たちを彼女という土台から引きずり下ろすかもしれないから」

「楓ちゃん……もちろん穂乃果たちだって負けないよ!!」

 

 

 私の言葉に更なる熱意を燃やす穂乃果。それはその後ろにいる元μ'sの先輩たちも同じだ。さてはて9人ごときで私に勝てるかな?逆に試されているのは私かもしれないけどね。

 

 

「「楓!!」」

「雪穂、亜里沙……」

「嘘ついちゃってゴメン!!」

「私もゴメンなさい!!」

 

 

 2人はわざわざ私の前まで来て、深々と頭を下げた。この1ヶ月半ぐらい一緒にいたけれど、この2人は本当に律儀だ。まるで私とは正反対。だけどそのおかげで助けられた部分もあったりなかったり。

 

 

「それももういいよ。悪いのはお兄ちゃんだし……」

「そうだな。むしろ俺から雪穂と亜里沙に謝らなければいけないんだ。ゴメンな」

「いえ。確かに零君にそう言えって言われましたけど、それを言うって決めたのは私たちですから」

「じゃあこの話はこれで終わり!!お互いに悪かったってことでいいでしょ?お兄ちゃん、雪穂、亜里沙」

「まぁ、妹様がこう言ってくれてるんだし。その言葉に甘えるか」

 

 

 多少の齟齬はあったけど、それも全部修復された。なるほど、μ'sの絆はこうやって広がり強くなっていったんだね。私もまたみんなと一歩心の距離が近づいたような気がする。今までは興味がなかったけど、もっとみんなのことを知ってみたいと思ってるしね♪それにお兄ちゃんのことを譲る気は一切ない。そのためにも敵のことはちゃんと知っておかなきゃ!!

 

 

 まぁ、でも今はみんなと一緒に――――

 

 

 

 

「よーーーし!!じゃあ今日も練習頑張りますか!!」

 




 ということで結局9股はバレてしまいました!!

 この話を書いていて、神崎楓というキャラがより一層好きになりました。あまり主人公以外のオリキャラは個人的に好みではないのですが、ここまでキャラが確立するともうμ'sメンバーの一員として不自然ではないような気がします。今までが暴走キャラだっただけに、可愛い一面も書けたかな?
 今回の話を読んで、楓が好きになったという読者様が1人でも増えてくれれば嬉しいです!!

 最後の楓と零の局面、あそこの場面は『非日常』のような謎解きを久々に書けてとても楽しかったです!!そしてマジメな回自体が久しぶりなので、前回感想にて『真面目な回なんて書けるんですか?』と煽られましたが、無事書くことができましたよ(笑)



Twitter始めてみた。ご意見、ご感想、ご要望など
⇒ https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嫉妬することほのうみ

 決してタイトルを間違えたわけではありませんよ(笑)

 次回を『嫉妬するまきりんぱな』にするため、この回を参考にしようと読み返していたのですが思った以上にことほのうみが可愛く見え、この回を再編集して投稿してみました。

 内容自体は前作の話とあまり変わりませんが、一応地の文などがパワーアップしていますので、より嫉妬して可愛いことほのうみが見られると思います!!

※この話では進級後、つまり恋人同士となっているのでそれに合わせて若干内容を改変しています。


  高坂穂乃果です!

 

 今日はこの1週間で溜まった宿題を、零君と一緒にやろうかなぁ~なんて思ったりしています。初めは海未ちゃんに頼んだんだけど、『自業自得です!』って言われて手伝ってくれませんでした。全く、相変わらずのケチんぼなんだから!!それにことりちゃんまで連れて行くし……

 

 いいもん!!零くんからたくさん教えてもらって、次のテストで海未ちゃんの泣き顔見ちゃうんだから!!

 

 

「零く~ん!!数学の宿題手伝って……?」

 

 

 そう言って零君の方を見てみると、既に零君は誰かとお喋りしていました。何をしているのか2人に気づかれないようにそぉ~と見てみると、どうやら勉強をしているみたいです。だって零君賢いもんね……そりゃあ穂乃果と同じ考えの人だっているよ……

 

 

「そうそう、そこにこの公式を当てはめるんだ」

「ホントだ~!!神崎君、教え方上手いからスラスラ頭に入るよ!!」

「だろ?俺に任せとけば大丈夫なんだって!!」

「じゃあこれからも教えてもらっていい?」

「もちろん!!」

 

 

 零君は数学を教えているみたい。隣に座っている女の子は確か隣のクラスの子。穂乃果目線で見てもその子はとても可愛い。そういえば、ラブレターをたくさん貰ってるって噂の子だったような気がする。もしかしたら穂乃果じゃ敵わないかも……零君可愛い子大好きだもんね……

 

 はっ!!今はあの子のことより勉強を教えてもらわなきゃ!!でも気になるなぁ~……なんか零君との距離も近いし……

 

 

「ありがとう♪でも教えてもらってばかりじゃ悪いよね?何かしてあげられることってないかな?」

「そうだなぁ~弁当でも作ってきてくれるとかどうだ?」

「え!?それでいいの?」

「ああ、俺の昼食はいつも質素だからな」

「分かった!!私料理得意だから楽しみにしててね☆」

「なら期待させてもらおう。でも俺の審査は厳しいぞ」

「私に任せとけば大丈夫!!」

「おいっ!!それ俺のセリフ!!」

「へへっ、お返し♪」

 

 

 

 むむむむ……楽しそう。とても入っていける空気じゃないや……

 

 なんだかモヤモヤする。別に零君やあの子が悪いわけじゃないけどさ、心にチクッてくるんだよね。でも零君ってやっぱり人気があるんだなぁ。同級生だけじゃなくて、下級生にも知り合いがいっぱいいるみたいだし。零君頼りになるもん、仕方ないよね……

 

 しょうがない、今日は諦めよう。零君とならいつも一緒にいるから、また機会はあるはずだよね。

 

 

 

 

「穂乃果!!」

 

 

 

 

「な、なに!?」

 

 

 びっくりした~!!あれ?さっきまで話していた女の子がいなくなってる。机から教科書やノートがなくなっているから、もう勉強は終わったのかな?心のモヤモヤと戦っていて周りが全然見えてなかったよ。

 

 でも、零君に声を掛けられてちょっとホッとしている自分がいる。どうしてだろ……?

 

 

「お前、さっきから何でそんなところに突っ立ってんだ?」

「べ、別に何でもないよ、アハハハ……」

 

 

 何でもないことないんだけど……あれ?どうして穂乃果、教科書とノートを背中に隠したんだろ?素直に『勉強教えて』って言えばいいのに……いつもならためらいなく、思ったことはすぐに口に出しちゃうのにな。

 

 

「何でもないことないだろ、俺を呼んでなかったか?」

 

 

 えっ!?穂乃果の声が聞こえてだんだ!?てっきり勉強に集中して聞こえてないと思ってたよ。うぅ、なんて言い訳しよう……こういう時に限って全然頭が働かないや!!どうしよう!?

 

 

 

 

 あっ……

 

 

 零君は穂乃果の背中に手を回して、穂乃果が隠していた教科書とノートを掴んで持ち上げました。その時、自分の前に立っていた零君にちょっと安心したのは気のせいかな……?

 

 

「数学か……教えて欲しいならそう言えばいいのに」

「だって……そんな雰囲気じゃなかったし」

 

 

 あそこで穂乃果が出て行ったら、絶対に空気悪くなってたもん……

 

 それに穂乃果と一緒に勉強しても楽しくないよね……あの子は物覚えが凄く良さそうだったから、教えてる零君も楽しそうだったけど、穂乃果は物覚えも要領も悪いし……

 

 

 

「じゃあサッサと片付けようぜ」

「へ?」

「どうしたんだ?溜まった宿題を消化するんだろ?」

「そ、そうだけど……」

 

 

 そうだ。これは穂乃果の宿題なんだから1人でやらないと。零君に頼ってばかりじゃダメだよね。勉強のことになるといつも海未ちゃんやことりちゃん、零君に甘えちゃうから。たまには自分で考えてみよう!!もう今年から受験なんだ、我が儘ばっか言ってられないよ!!

 

 

「あのさ、穂乃果」

「は、はい!?」

「そんなに気兼ねしなくていいんだぞ。アイツも割り込まれたからって怒るような奴じゃないし、それにな」

 

 

 零君は一度言葉を切って、穂乃果の目を見つめ直します。穂乃果も同じように見つめ返すけど、もう目を逸らしたくなるくらい零君の目に吸い込まれそうでした。だってこんな優しくて、カッコよくて、輝いている目なんて見たことないよ。

 

 

「俺はお前と一緒に勉強するの、すごく好きだぞ。解けなかった問題が解けた時の笑顔とか、見てるとこっちも楽しくなるからな。勉強の途中でふざけたりダラけたりすることもあるけどさ、それもお前だからこそ気兼ねなくできることなんだ」

 

 

「零……君」

 

 

「だからさ、もっと俺を頼ってくれ。穂乃果と一緒にいる時間、大好きだから!!」

 

 

 

「零君……零くーーーーーーん!!」

「えっ!?ちょっと穂乃果!?」

 

 

 穂乃果は少し涙を流しながら零君に飛びつきました。穂乃果も零君と一緒にいられる時間が好き。ことりちゃんや海未ちゃん、μ'sのみんなと一緒にいる時間とはまた別に、零君と2人きりで一緒にいる時間が大好き。零君の彼女になって、さらにその時間が好きになった。もっと!!もっと零君と一緒にいたい!!ずっとあなたの側にいたい!!

 

 

 だから――――

 

 

「よろしくね!!零君♪」

 

 

「「俺に任せとけば大丈夫だって!!」」

 

 

 穂乃果は零君が絶対に言うと思ったセリフを、零君と一緒に言いました。いつも自信満々で自信家の零君なら絶対に言うと思ってたよ♪これも恋人同士で繋がっているおかげかな♪

 

 

「お前!?俺のセリフに被せるなよな!!」

「えへへ~~♪」

 

 

 まだまだたくさん迷惑を掛けちゃうかもしれないけど、これからもよろしくね!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 

 南ことりです。

 

 

 今日は零くんのために新しいチーズケーキを作ったので、零くんと2人でお試食会をしようと思ったのですが……

 

 

「神崎先輩!!ほら、あ~ん♪」

「ちょっ!?廊下でそんなことするのやめろって!!」

「え?じゃあ廊下じゃなかったらいいんですかぁ?」

「揚げ足取んな!いいから離れろ!!」

 

 

 零くん、廊下で誰かに言い寄られてる。リボンの色は……青。だったら2年生だ。2年生にしては、背が高いしモデルさんみたい。それにしても零くんとあの子の距離……近すぎるよぉ。あれ?あの子の手に持っているのって……チーズケーキ!?ことりと一緒で小さくスライスして小分けにしてある。

 

 

「いい加減試食してくださいよ~」

「お前、段々積極的になってきてるな」

「だって先輩の周り女の子が多いんですもん。そりゃ積極的にもなりますって。ホラホラ、食べないといつまでもこうしてますよ」

「分かった分かった!!食べるから!!」

「やっとその気になりましたね。それじゃあいきますよ。はい、あ~ん♪」

 

 

 !!!

 

 

 零くんはそのままチーズケーキを食べてしまいました。それはいいんだけど、自分の役目が奪われた感じがしてショックです。お菓子を作ってきた時、ことりはいつも零くんに『あ~ん』をしていました。零くんは恥ずかしがりますが、結局は最後にしっかりと食べてくれます。それはことりだけの専売特許だと思っていたのに……

 

 でも、零くんは他の女の子からもやってもらってるんだ……ことりだけじゃないんだね。そう考えるとすごく寂しい気持ちになっちゃった。自分の至福の時間が一気に壊れたような気がして……

 

 

「美味しいですか?」

「ああ、さすがパティシエの娘なだけのことはあるな」

「毎日の練習のお陰です♪」

 

 

 あの子、パティシエの娘さんだったの!?そりゃ美味しいに決まってるよね、だってお菓子作りのエキスパートなんだもん。ことりみたいに趣味で作ってるお菓子とは比べ物にならないよ……

 

 なんだろ?この胸の辺りがキュッと締め付けられるこの感じ。零くん……さっきまでは食べるのをあんなに拒否していたのに、今はとても美味しそうに食べてる。それに笑ってる……やっぱりことりだけが特別じゃなかったんだ。

 

 いいもん!ことりは零くんとキスしたことがあるから!!胸まで揉んでもらって、ちょっとだけだけどその先までしたこともあるもん!!あんな子には負けないんだから!!

 

 

 

 

「おい、ことり」

 

 

「ぴぃっ!!」

 

 

 声を掛けられて気が付けば、いつの間にか零くんが目の前にいました。びっくりして変な声出ちゃったよ。もし変な子だって思われたらどうしよう~~……

 

 

「柱に隠れてどうした?かくれんぼ?」

「ち、違うよ~!!零くんがいたから何してるのかな~って思って。そ、そうだ!!さっきの子はどうしたの?」

「もう教室に帰ったよ。次体育なんだとよ」

「そうなんだ……」

 

 

 話題を上手く逸らせました。じゃあことりはこの辺でお暇しようかな。ことりのチーズケーキなんかでは、さっきの子のチーズケーキには到底かなわないし……あの子のチーズケーキとっても美味しそうで見た目も綺麗だったからね。

 

 

「ん?この匂い……」

 

 

 零くんが鼻をくんくんさせています。そういえば前に自慢してました、俺の鼻は穂乃果ちゃん並だって……というコトは!!ダメッ!!気づかれちゃう!!

 

 

「お前が持ってるのってチーズケーキか?チーズケーキだろ、俺の鼻は誤魔化せない」

 

 

 ビシッと零くんはことりが持っている小さな箱を指さしました。うぅ……バレちゃったよ~~。どうしよう!?こういう時の機転って苦手なんだよね。

 

 

「そういや作ってくれるって言ってたっけ?もしかして、今から試食会か?」

「うぅん、これは違うの!」

「違う?何が?」

「えぇ~とそれは……」

 

 

 誤魔化そうと思っていましたが、零くんには通用しないようです。ここは腹をくくります。バレてるのに隠したって仕方がないもんね。

 

 

「さっき零くん、2年生の子にチーズケーキもらってたよね?」

「ああ、それが?」

「実は聞いてたんだ、さっきの会話。あの子、パティシエの娘さんなんだね」

「そうだけど……」

「だったらことりのチーズケーキなんて食べない方がいいよ。ことりのなんて趣味で適当に作ってるだけだし、本格的なケーキに比べたらまだまだだよ」

 

 

 

 

「お前それ本気で言ってるのか?」

 

 

「え!?」

 

 

 急に零くんの口調が真剣になりました。表情もさっきまで女の子に迫られている時の疲れた表情ではなくなっています。キリッとした零くん……カッコイイなぁ~~――って見惚れちゃダメ!!今はなんとかこの状況を打破しないと!!

 

 

「上手いとか下手とか、美味しいとか美味しくないとか、そんなの俺にとっちゃどうでもいいんだよ。よく言うだろ?料理は愛情だってな。俺もそう思ってる。確かにアイツのチーズケーキは美味かったよ。でもそれでお前のチーズケーキが劣っているなんてコトは絶対にない」

 

「そう、なの?」

「当たり前だ。そもそも料理で優劣を付ける意味がよく分からない。アイツはアイツのケーキ、ことりはことりのケーキだ。どっちも美味い、それでいいじゃねぇか」

 

 

 そう言って零くんはことりが持っていた箱を開けて、中に入っていたチーズケーキを1つ掴み、パクッと一口食べました。美味しい……かな?でも、零くんの言う通り、愛情だけは誰にも負けていません!!それだけは自信があります!!

 

 

「甘い、すっごく甘い。でもやっぱりこの甘さこそがことりのケーキだな。俺好みすぎる」

「うん♪今回はちょっとお砂糖を多めにしてみたんだ!!零くんがとことん甘いお菓子大好きだって言ってたから!!」

「そうそうそれだよ」

「?」

「誰かに食べてもらいたいっていうその気持ち。それが重要だと思うんだ。お前は俺のためにこれだけ頑張って作ってくれたんだ、美味しいに決まってるよ。悪い、少し上から目線すぎたか?」

「うぅん、そんなことないよ!」

 

 

 ことりは目を大きく広げて零くんを見つめていました。さっきまで心に掛かっていたモヤモヤが一気に晴れていきます。

 忘れてたよ。ことりは零くんに食べてもらいたいから、笑顔を見たいからチーズケーキを作ったんだって。誰かと比べたりする必要とかないんだ。

 

 それにもう1つ分かりました。それは誰かが零くんに『あ~ん』をしていて悔しいなら、ことりも負けないぐらい零くんに『あ~ん』をすればいいんだって!!

 

 

「よ~し!はい、零くん!あ~ん!」

「急にどうした!?まぁいいか、あ~ん」

 

 

 その後、2人一緒にチーズケーキの試食会をしました。これからもっと零くんに喜んでもらえるような、愛情を込めたチーズケーキを作っていこうと思います!!

 

 だからこれからもよろしくお願いします、零くん♪

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 園田海未です。

 

 今日はμ'sの練習はお休みして、弓道部に顔を出しています。そこには何故か零の姿も……やるコトがないからって何も弓道場にまで来なくてもいいのでは?今、零は1年生の弓道部員に稽古をつけている最中です。

 

 

「お!いいね!さっきから連続で当たってるじゃん」

「神崎先輩の指導のおかげですよ!!まさかこんな短時間でここまで上手くなるとは思いませんでした!!」

「自惚れるなよ。たまたまかもしれないし。とにかく練習あるのみだ!!」

「はい!!」

 

 

 私の目から見ても、零の指導はとても的確でした。零は一目見ただけでその子の悪い部分を発見し、さらにその改善方法までも瞬時に教える……もはや弓道部顧問のようですね。

 

 正直に言って彼の知識量には頭が上がりません。弓道をやっている人には負けますが、彼は特に弓道をやっているわけでもないのにその知識は多い。それは弓道に限ったことではなく、あらゆる面で博識、知識が豊富なのが彼の特徴です。

 

 

「あれれ?おかしいなぁ、当たらなくなっちゃった」

「ほら言わんこっちゃない。お前の場合、姿勢にクセがあるからなぁ。動くなよ、今整えてやるから」

「は、はい!!お、お願いします!!」

 

 

 ちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっと!!近くないですか!?!?零が後ろから抱きしめてるようにしか見えません!彼女も彼女で満更でもなさそうですし……

 

 そんなことにうつつを抜かしていては練習に身が入りません。零は私がいるなんて忘れているんでしょうね。分かりました、私は1人で練習させてもらいます。

 

 ちょうどいいです、あの的を零に見立てましょう。それがいいですね。

 

 

 …………

 

 

 当たりません!!何故です!?さっきまで調子が良かったのですが、今は全然……

 

 先ほどから胸の辺りが重たいような気がしますが、恐らくそれは私の集中力が足りないせいでしょう。武道を極める者として、精神を研ぎ澄まさなければ。

 

 

 

「お前さっきから全然当たってないな」

「零!?いつからそこに!?」

 

 

 いつの間にか零が私の隣に来ていました。全く、どれだけ私の集中力を乱せば気が済むんですか……でも零が隣に来てくれたおかげでしょうか、ちょっとだけ胸が軽くなったような?

 

 

「外見は何も問題はない。体勢もバッチリだ。ということは……ココだな」

「ココ……?」

「心だよ、こ・こ・ろ。お前、さっきから的じゃなくて別の何かを狙ってなかったか?それはつまり心が乱れてるってことだ」

 

 

 そういえば、さっきまでずっと的を零に見立てていました。一目見ただけでそこまで見抜けるとは……流石零ですね。ぼぉ~~っとしているようでも周りに対する観察力は素晴らしいですから。

 

 

「見ていたんですね、私のことを」

「そりゃ見てるさ。ここへ来たのもお前の勇姿を見るためだし」

「なっ!?そんな……恥ずかしいです」

 

 

 零に下心がないのは分かってますが、それはそれで恥ずかしいですね。いつもの変態の彼とは違う、勇ましくカッコいい姿……本当にズルいです、零は。

 

 

「やっぱここに来ると、いつもと違う海未が見れて新鮮だな」

「いつもと違う?」

「教室やμ'sの練習の時とは違う、弓道をやってるお前は凛々しくてカッコよくて、それでいて綺麗だ。俺、そんなお前も好きだぜ」

「好きってそんな……」

「お前は穂乃果やことりと比べるとさ、結構引いてしまって自分を見せないだろ?でもここへ来ればいつもと違ったお前を包み隠さずに見られる」

 

 

 確かに零の言う通りかもしれません。今でも少しスクールアイドルとして人の前に立つのは緊張します。ですが弓道ではそんなことを考えている暇はありません。そう言われてみれば、スクールアイドルの私と弓道の私は多少なりとも違うかもしれませんね。

 

 

「これは俺の我が儘だけど、スクールアイドルと弓道のお前、どちらも見せて欲しいんだ。俺は海未のことをもっと知りたい。だからお前も自分自身を見せて欲しい」

「零……」

「俺はいつでもお前を見ているよ。目を離したりなんて、絶対にするものか」

 

 

 以前、みんなが言っていました。零に励まされたり応援してもらえると元気が出るって。もちろんそんなことは分かっているのですが、改めてそれが分かりました。最近あまり2人きりになったことがないのでその影響もあるのでしょうか?

 

 胸に引っかかっていたものが取れて軽くなっていきます。零はちゃんと私を見ていてくれたのですね。

 

 

「よし!!それじゃあ今から俺のご指導タイムだ!!」

 

 

 零は私の後ろに回り込んで、私の両脇の下から自分の両腕を突っ込んできました。普段なら制裁モノですが、今日は身も心もポカポカしてとても暖かいです。これはこれでいいものですね、フフッ♪

 

 

「あれ?てっきりぶっ飛ばされるものだとばかり思ってたんだけど……どうした?」

「しょうがないですね、今日は特別です!!」

 

 

 たまにはこうやって零に抱きつかれる感じもいいですね。これは弓道をやっている私だけの特権ということで我慢しましょうか♪折角恋人同士になったのですから、こういうことももっともっとしてみたいと思っている自分がいます。それを言うと、また零が調子に乗っちゃいそうですね♪

 

 

 まだまだ不束者ですが、これからもよろしくお願いします!!

 

 




 前作を読み返したところ、嫉妬することほのうみに萌えてしまい再び投稿するまでの勢いになってしまいました(笑)
一応次回をご要望の多かった『嫉妬するまきりんぱな』となるため、振り返りということでお楽しみ頂けたのなら嬉しいです!!


 前作『日常』でこれを書いた当初はまだ読者様も少なく、あまり反響はなかったため続きを自粛していたのですが、段々と感想をもらえるようになった時に『この話が好きだ』という声をいくつか頂いたため、今回リメイクして再投稿という異例の形を取りました。新作ではないのですが、個人的にもキャラが嫉妬している姿をとても可愛く書けたと思っているので、再投稿も悪くないかなぁと思ったり(笑)


 『日常』から読んでくださっている方も多いと思うので、読者様が読み返して思ったことを、あの時書けなかったことを是非感想にしてもらえると嬉しいです!!


 次回は『嫉妬するまきりんぱな』です。


Twitter始めてみた。ご意見、ご感想などなどフォローしてやってください。
 ⇒ https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嫉妬するまきりんぱな

 今回は前回に引き続き嫉妬回、まきりんぱなverです!!
 相変わらずのイチャイチャっぷりに砂糖の噴出が止まらない(笑)


※最後の方に質問があるので、是非後書きも最後までご覧下さい!!


 西木野真姫よ。

 

 お昼休み。今日もピアノでも弾こうかと音楽室へ向かっている最中なんだけど、どうやら先客がいるみたい。音楽室のピアノの音が廊下にまで聞こえているから。しかもその音を聞いただけで分かる。今この曲を弾いている人、かなり上手だ。まぁ私の足元にすら及んでないけどね!!

 

 でも驚いた。去年までは昼休みに音楽室にまで足を延ばすような人はいなかったのに、わざわざ教室からこんなに離れた音楽室まで来るなんて中々の変わり者ね。去年はそんな人がいなかったとなると、もしかしたら新入生かもしれない。一応顔ぐらいは覚えておいてあげようかしら。そこそこピアノを弾けるみたいだしね。

 

 

 そして私は音を立てないように音楽室の前に立ち、扉の窓から教室の中をそっと覗き込んだ。

 

 

「あの子……やっぱり1年生の子だったのね。ん?その隣にいるのは……れ、零!?!?」

 

 

 リボンの色からピアノを弾いていた子が1年生だって分かったけど、そんなことよりなんで零がここにいるの!?それもμ'sの誰かとは違う全く別の女の子と2人で一緒に……どういうことよ!?

 

 ちょうど演奏が終わったみたいなので私はその場でしゃがみ、あの2人に気づかれないように扉を少しだけ開け、息を殺して耳を澄ませた。素直に教室へ入ってしまえばいいのに、私ってばなにをしてるんだろう……

 

 

 心にモヤモヤはあるけれど、2人の会話が耳に入ってきたのでとりあえずそっちに集中することにした。

 

 

「どうでしたか先輩?」

「あぁ、思わず聞き惚れちゃったよ!!1ヶ月足らずでよくここまで上手くなったもんだ。すげぇよお前!!」

「あ、ありがとうございます!!」

 

 

 なによあの子!!零に褒められただけで顔を赤らめるなんて、まるで穂乃果とことりじゃない!!そんなお世辞の言葉だけで照れるなんてチョロすぎ!!私の優雅さを見習って欲しいぐらいだわ!!

 

 取り乱した……あの2人に気づかれてしまうかもしれないから落ち着かなきゃ。

 

 

「先輩に是非聴いてもらいたくて、ここのところはずっと練習してました!!」

「それは嬉しいけど、勉強は大丈夫なのか?」

「はい♪まだ中学の延長なので問題なしです!!」

「あまり舐めてると痛い目みるぞ。高校の勉強は中学と違ってどんどん進んでいくからな」

「ふふっ♪了解です」

 

 

 なに……?今に知り合ったんじゃなくて、前々から会ってたの?そんなこと私たちには一言も言ってなかったじゃない!?ことりやにこちゃんだったら間違いなく浮気現場とか言って写真をパチパチ撮りそうだけど、私はほら、心が広いからちょっとのことなら許してあげなくもないわよ。別に女の子と話すなとは言ってないし。

 

 でも、心のモヤモヤはさらに濃くなっていく……なんなのよ全くもうっ!!

 

 

「あっ!!次の授業移動教室だからもう行かなきゃ!!それじゃあ先輩、また聴きに来てくださいね♪」

「あぁ、むしろ俺でよければいつでも。お前のピアノの音色、とても綺麗で好きだぞ」

「ありがとうございます♪嬉しいです!!それでは失礼します」

 

 

 なによ……去年から『お前のピアノ演奏は最高だな!!』ってずっと言ってくれたくせに。可愛い子がピアノを弾いているならなんだっていいのね。あぁーーもう!!モヤモヤが収まらないじゃない、どうしてくれるよこれ!!

 

 

 あの子と鉢合わせるのはイヤなので、掃除用具箱の陰に隠れてやり過ごす。もうこれ以上ここにいてもイライラするだけだし、零が帰ったら私も教室に戻ろう。ピアノは……今日はもういいか。とりあえずこのまま零もやり過ごそう……

 

 

 

 

「おい真姫、そんなところに隠れて何してんだ」

 

 

 

 

「ひゃあっ!!」

 

 

 突然零がそう言って、私の隠れているところへヒョイっと顔をのぞかせた。あまりにも突発的だったから、自分に似合わない変な声が出ちゃったじゃない!!でもどうして気づかれたの……?気配は殺していたはずなんだけど……

 

 

「ホントにお前らって盗み聞きが好きだよな。扉をちょっとだけ開けるとか、みみっちいことしやがって」

「そ、そんなに前から気づいてたの!?」

「お前らの気配ならすぐに分かるさ。だって自分の彼女だし」

 

 

 彼女か……でもあの子との会話は、彼氏彼女とまではいかないけど結構親密な仲同士の会話だった。別にあの子が悪いわけでもないし、零が悪いわけでもないけど……なんか気に入らない。ピアノを彼に聴かせてあげるのも私の専売特許だと思っていたのに……

 

 

「お前……嫉妬してるだろ?」

「なぁっ!?そんなわけないでしょ!!そもそも嫉妬なんてする要素――」

 

 

「心配すんな。俺は真姫のピアノの音色、そしてピアノを弾くお前の姿、どんなピアニストよりも大好きだよ」

 

 

「れ、零……」

 

 

 お世辞かもしれない。ただのその場しのぎの言い訳かもしれない。それでも私の心に掛かっていたモヤモヤは、零の言葉を聞いてサァーと消え去った。

 

 いや、これはお世辞でもなければ言い訳でもない。彼の目を見れば分かる。零は本気だ。だってこんな優しい目をしているんですもの。疑えって言う方が間違いだわ。

 

 

「また2人きりでお前の演奏を聴かせて欲しい。真姫のピアノほど俺の心に響く演奏はないからな。それにお前の演奏は、俺の中でずっと一番だよ」

 

 

 一番――――何事も常に一番を目指し、実際に獲得してきた私にとっては聞き慣れた言葉。テストでも模試でもピアノでも、またそれ以外でも……それは至極当然だった。

 

 でも、今ほど『一番』という言葉が嬉しかったことはない。誰の口からでもなく、彼の口から直接その言葉を聞けた時がなによりも嬉しく誇りに思う。多分それに明確な理由はない。ただ――彼が好きだから。たったそれだけの、誰にも理解されない私だけの理由。

 

 

「よし、そろそろ俺たちも行こうぜ」

 

 

 零はしゃがみ込んでいる私に手を差し伸べてきた。普段なら素直になれなくて無視しちゃうけど、その時は自分が意識する前に私の手が勝手に彼の手を取っていた。零は私が素直だったことに驚いたのか少し目を見開いていたけど、その表情はすぐに戻り優しく私を引き上げる。

 

 なんて大きくて暖かい手……何事も一番を目指す私だけど、やっぱり零だけには適わないかな。

 

 

「ねぇ、今度の休み……一緒にどこか行かない?」

「おっ、それってデートの約束か?お前から誘ってくるとは珍しい」

「そんな時もあるわよ。だって私はあなたの彼女なんだから♪」

 

 

 零の言う通り、今までのデートの約束は全部彼からだった。でも……たまには積極的になってもいいかな?だっていつも見守ってくれている彼がいるんだもの。だから――――

 

 

 これからもよろしくお願いね!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 星空凛です!!

 

 やっと待ちに待ってた体育の授業だよ!!体育の授業は数学や英語なんて堅苦しいお経のような授業から解放される至福の時間!!嬉しすぎて誰よりも早く運動場に来ちゃったにゃ!!かよちんや真姫ちゃんが来るまでまだまだ時間が掛かるだろうし、身体を温めるために走っておこうかな?

 

 ――と思っていたけど、まだ誰かが運動場にいるみたい。もしかして前の授業が長引いちゃったのかな?でも2人しかいないし、どういうことだろう?邪魔しちゃ悪いからもっと離れたところで走ろう!!

 

 そこでふと、授業後も残って自主連している2人の顔をよく見てみると――――

 

 

「れ、零くん!?それじゃあさっきは3年生の体育だったんだ……それに、隣にいるのは知らない女の子だ」

 

 

 あれ?どうして凛、隠れちゃったんだろ……?零くんがトラックにいるなら一緒に走ろって言えばいいのに……それなのに隠れちゃった。うにゃーーーーー!!なんだか胸の辺りがチクチクするにゃーーーーー!!零くんが凛の知らない女の子と笑い合っているせい!?と、とりあえず耳を澄ませてみよう。

 

 

「神崎君、陸上得意なの?運動部員じゃないのによくあそこまで早く走れるよね」

「得意ではないけど、基礎体力ぐらいは欠かさず付けているよ」

「へぇ~~意外とマメなんだね♪」

「うっせぇ、意外は余計だ」

「ははは!!でも、走ってる姿とかすごくカッコよかったよ!!」

「それはお前もな。あんな綺麗なフォームで走る奴なんて中々いないぞ」

「おっ、褒めてくれるなんて珍しいね!!ありがと♪」

 

 

 なぁ~~んかやな感じだにゃ……いや、別に零くんとかあの先輩とかじゃなくて、ただこの雰囲気が凛にとってイヤなだけ。ふんだっ!!走ることなら凛だって負けてないのに……むしろ校内女子で一番早いのは凛だから、あの先輩にだって勝てるにゃ。

 それなのに、走ることについてあまり零くんから褒めてもらったことがないな……まぁ授業は学年別だし、仕方がないと言えば仕方ないけどね。仕方ないけど……うぅーーー!!なんか腑に落ちないにゃーーー!!

 

 

「ねぇ、また一緒に走ろうよ!!ジョギングみたいに軽くでいいからさ!!」

「あぁ、別にいいぞ。それじゃあ朝にでも走ってみるかな」

「決まりだね♪朝から神崎君に会えるなんてワクワクするなぁ」

「走ることにワクワクするんじゃねぇのかよ!!」

「あはは……それはそれ、これはこれだよ」

 

 

 むむむ……なんだか恋人同士みたいだにゃ。恋人は凛たちなのにーーーーー!!それに凛だってまだ零くんと2人きりで一緒に走ったことないんだよ!?それなのに彼女を放っておいて別の女の人と約束をするなんて……いや、別に零くんの自由だからいいんだけど、それだと凛のモヤモヤが取れないんだよね。

 

 はぁ~……こんな気持ちになるなら、調子に乗って一早く運動場なんかに来なかったらよかったにゃ……

 

 

「じゃあそろそろ戻るね。また時間が決まったら連絡するから!!」

「おうっ、じゃあな!!」

 

 

 あっ、あの先輩が帰った。今だ、今がチャンス!!こうなったら凛があの先輩より先に零くんと一緒にジョギングするにゃ!!渡さない、絶対に!!

 

 

「零くーーーーーん!!」

「ちょっ!!凛!?急に抱きつくな危ないぞ!?」

「零くん零くん零くん♪」

「どうした!?今日はやけに甘えてくるな。それに体育が終わったばかりだからかなり汗臭いと思うぞ?」

「それでもいいの~~!!」

 

 

 くんくんくんくんくんくん。あぁ~~零くんの匂いだにゃ~~!!ちょっと汗臭いのも、カッコいい男の子なら見事フェロモンに変わるんだね。そしてこうやって抱きつけるのも彼女である凛たちの特権。もう体育の授業なんてほっぽり出してずぅ~っとこうしていたいにゃ~~!!

 

 

 はっ!!違う違う!!凛は零くんと一緒にジョギングをする約束をしようとしてたんだ。このまま零くんの魅力とフェロモンに取り付かれそうになってたよ♪

 

 

「ねぇ零くん、今度凛と一緒に朝の自主連しない?ジョギングとかストレッチとかも!!」

「お前が進んで朝練するのか……明日は雪かな」

「もうっ!!そんなことはどうでもいいの!!」

「悪い悪い!!もちろん喜んでご一緒させてもらうよ。お前と2人で練習したことなかったから楽しみだ」

 

 

 零くん、凛と2人きりで練習したことないって気づいてたんだ。それでいて楽しみだって……あっ、いつの間にか胸のチクチクが収まってる、もしかして零くんが凛と同じことを考えていてくれて嬉しくなったおかげかな?うん、絶対にそうだ!!勇気を出して零くんを誘ってみてよかったにゃ!!

 

 

「いくらμ'sのみんなが毎日練習してるっていっても流石に俺には及ばないからな。その点凛とは気兼ねなく全力で身体を動かせるから、久々にいい運動ができそうだ」

 

「ねぇねぇ、それって凛だけ?」

「そりゃそうだろ、俺の体力に付いてこられるのはお前ぐらいだ」

「えへへ~そうなんだぁ~~♪」

「どうしたお前、今日はご機嫌だな」

「凛は零くんと一緒にいる時はいっつもご機嫌だよ!!」

 

 

 零くんと一緒なら大好きな運動も楽しくなる!!零くんと一緒なら苦手な勉強もできるような気がする!!零くんと一緒ならどんなキツイ練習にだって耐えられる!!零くんと一緒なら可愛い服だっていっぱい着ちゃう!!零くんと一緒なら、ちょっと変態さんなことも許しちゃう……えへっ♪こう思っちゃう凛も変態さんなのかな?

 

 だから、凛の隣にずっと一緒にいてね♪

 

 

 これからもよろしくお願いします!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 小泉花陽です。

 

 今日はこの前のデートで零君に『お菓子作りはしないのか?』と言われたため、思い切って零君のためにお菓子を作ってきました。まだ勝手が分からないからことりちゃんにご指導をお願いしたんだけど、自分でもよくできたマカロンだと思います。初めてにしては自信作だから、零君喜んでくれるといいなぁ。

 

 

 とりあえず3年生教室の近くまで来たけど、流石に連絡してから来た方がよかったかな?移動教室だったらもう教室にいないかもしれないし。最悪今日の放課後に渡せば問題ないんだけど、一早く零君の笑顔が見たいなぁって思っていたり。あうぅ……最近零君のことばっかり頭に浮かんでくるよぉ~……

 

 

 あっ、いた!!じゃあ移動教室じゃなかったんだ、よかったぁ~。あれ?でも零君が誰かに迫られている。あれは……女の子!?しかも私と同じクラスの子だ!!あの子が零君と知り合いだなんて知らなかったよ!?あんなに零君に近づいてなにをしてるんだろう……?

 

 

「せんぱぁ~い♪今日もおやつの時間ですよぉ~~」

「お前去年からしつこいな!!いや、別に美味いお菓子が食えるから嬉しいんだけどさ」

「だったらいいじゃないですか!!ほらほらあ~ん♪」

「食うからそんなに迫ってくるなって!!」

 

 

 うわぁ~~零君とあの子、すごく仲がいいんだなぁ。積極的になった私でも、流石に学院内であそこまで零君に迫ることなんてできないや。

 それにあの子の持っているチーズケーキ、とっても美味しそう。遠くから見ても綺麗な形をしているし、匂いも伝わってくる。これは和食派から洋食派に寝返ってもおかしくないかも……

 

 それに比べて私のマカロン。自信作だけどちょっと形が崩れてるし、あまり美味しそうに見えない……渡すのやめようかな……?

 

 

「先輩の好きなチーズケーキですよぉ~♪」

「俺はお前のペットか!!それにいつも作り過ぎだ!!俺を太らせる気かよ!?」

「そう言って、いっつも完食してくれる先輩のことが大好きです!!」

「お前なぁ……」

 

 

 零君、呆れながらもチーズケーキを美味しそうに食べてる。それにとってもいい笑顔で……私も零君に手作りのお菓子を食べてもらって、あの笑顔を向けて欲しい。本当なら今頃あの笑顔は私に向けられいたはずだったのに……ううん!!別にあの子のせいじゃない!!自分がまだまだ引っ込み思案なのが悪いんだよね!!

 

 でも……胸を針で刺されたようなこの痛みはなんだろう?

 

 

「じゃあこれ全部もらってください!!妹さんとご一緒にどうぞ♪」

「妹の分まで……なんか急に申し訳ない気持ちになっちまったな」

「いいですよそれぐらい。その代わりまた試食してくれますか?」

「いいぞ。何だかんだ言って楽しみにしている俺がいる」

「ふふっ♪ありがとうございます!!それじゃあまた今度!!」

「あぁ、またな」

 

 

 あの子、零君に妹がいることまで知ってるんだ。確かに楓ちゃんは綺麗で可愛くて、スタイルもいいしよく目立つから知っている人は多いかもしれない。しれないけど……楓ちゃんの分まで作ってくるなんて、零君とそこまで親密な仲なんだね。

 

 どうしよう……もう帰ろうかな?授業も始まっちゃうし。それにこんなヘンテコな形のマカロンなんてきっと零君の口に合わないもん!!いつもことりちゃんやあの子のお菓子を食べて舌が肥えているだろうし、私のお菓子を無理に食べてもらう必要なんて――――

 

 

「花陽か、甘い匂いをプンプンさせてんのは」

「ぴゃぁあ!!!!」

「うぉ!!そこまで驚かれるとは……」

 

 

 いつの間にか零君が私の目の前にぃいいいいいい!!考え事をしていて全然気がつかなかったよ。

 それにしても甘い匂い?もしかして私が持っているこのマカロンのことかな?そうだとしたら零君の鼻って、もしかして犬並み!?でも、あまり食べて欲しくないんだよね……

 

 

 違います!!私は積極的になるって決めたんです!!ここで、こんなところで逃げてはいけません!!勇気を出して零君に渡さないと!!

 

 

「ん?その箱はなんだ?もしかして俺へのプレゼントとか……なぁ~~んてな!!」

「そうだよ」

「はい……?」

「零君のためにマカロンを作ってきたの!!初めてだったから美味しそうには見えないけど、受け取ってください!!」

 

 

 言っちゃった!!でもやっぱりあのまま逃げるなんて絶対にしたくなかった。あの子には負けるかもしれないけど……

 

 零君は私から箱を受け取り、中に入っていたマカロンを1つ摘んでパクッと一口噛じりました。ど、どうかな……?

 

 

「美味い……美味いよこれ!!花陽、お前お菓子作りの才能あるぞ!!」

「そ、そうかな……?でもさっきの女の子やことりちゃんには負けちゃうと思うけどね」

「…………全く、お前もかよ」

「へ?」

 

 

 零君はため息を付きながら、私の頭を撫で始めました。

 零君の大きな手から流れる暖かい温もりが私の頭から全身に駆け巡ります。頭を撫でてもらうってこんなに気持ちのいいことだったんだ。穂乃果ちゃんや凛ちゃんがせがむ気持ちも分かるね。

 

 

「お菓子も料理もそうだけど、誰かと比べる必要なんてないぞ。それで店を出して大勢に振る舞うのなら話は別だが、お前は俺のためだけに一生懸命作ってくれたんだろ?このマカロンを一口食べたらそれがすぐに伝わってきたよ。だから花陽は花陽のお菓子があって、あいつらにはあいつらのお菓子があるんだ。もちろん、お前のマカロンとっても美味しいぞ!!」

 

「あ、ありがとう!!」

 

 

 そっか、大切なことを忘れたたよ。このマカロンを作る時、零君が笑顔で美味しく食べてくれるようにと願っていたんだ。それが愛情なんだね。それなのに私、自分のお菓子を自分で卑下しちゃってた……そんなことじゃお菓子が美味しくなくなっちゃうよね!!

 

 

「だからこれからもさ、俺に作ってくれないか?お前だけのお菓子を、俺のために」

 

 

 そんなこと、答えは決まっています!!

 

 

「はい!!喜んで♪」

 

 

 まだまだ引っ込み思案で素直に気持ちをぶつけられない時もあるけど、今してもらったように零君が手を引っ張って助けてくれる。だから私もそれに答えよう!!零君の笑顔を見るために、あなたの側でずっと……

 

 

 これからもよろしくお願いします!!

 

 




 嫉妬するまきりんぱな、どうだったでしょうか?特に凛視点は前作を含めても初だったので可愛く書けているか心配ですが、個人的には凛推しになりそうなくらい可愛く描けたと思っています!!


 そういうわけで、『新日常』も遂に30話まで来ました。いやぁ~早かったですね!!ここまで来れたのも読者様の皆様のおかげです!!――――という決まり文句(!?)はさて置き、次回は30話突破記念小説となります。ちなみにいくらか前の次回予告にあった性グセ回は没となりました☆


~30話突破記念回あらすじ~

 零の彼女であるμ'sメンバー9人は、彼の思いつきによりメイド服で彼をご奉仕することに。しかしそのメイド服には仕掛けが施されており、零の命令に背いたり無理矢理脱ごうとすると身体全体に快楽が走るという最悪で最高のメイド服だった。彼の策略にハマった9人は、一日神崎零専属メイドとして喘ぎながら奮闘する。



 Twitterではやめようかなと言っていたのですが、ご要望があったのでリクエストを募集しようと思います。注意事項をよく読んでそれにご了承頂ける方は、活動報告またはTwitterにてリクエストをお願いします。

活動報告
 http://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=73051&uid=81126

Twitter
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


 高評価をくださった方、ありがとうございました!!
 これでまたR-18への道が近づきました(笑)


 数時間前に超短編小説を投稿しました。活動報告からどうぞ!!


 最後になりましたが、読者の皆さんからちょこっと知りたいことを。アンケートではなく軽い質問なので適当に感想の端っこやTwitterなどでお答え頂ければ嬉しいです!!

~ちょっとした質問~
 これまで『新日常』30話(この回まで)の中で、特にお気に入りの話があれば教えて欲しいです!!もちろん複数あっても構いません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鬼畜なご主人様と9人の発情メイド

 今回は30話突破記念ということで製作した話なのですが、これっていつもと変わってなくね!?
 3話連続で大した変態要素がなかったので、たまには読者サービスとしてこういう話も入れないとね!!むしろ変態要素がない方が普通なのですが……


 

「じゃーーーん!!どうどう零君!?穂乃果のメイド服似合ってる!?」

 

「あぁ、もちろん!!むしろお前らの中にメイド服が似合わない奴はいないだろ」

 

 

 本日は俺の彼女であるμ'sメンバー9人を自宅に招き、次のライブに向けた衣装合わせを行っている。今回のライブはメイド喫茶の聖地秋葉原ということで、俺が自ら手掛けたメイド服をみんなに着てもらっている最中なのだ。

 ちなみに雪穂、亜里沙、楓の3人は一緒に仲良くお出かけをしているのでこの場にはいない。まぁ、流石にあの3人に今から穂乃果たちの身に降り注ぐことを体験させたくはないから都合はいいがな。

 

 

 まず穂乃果がリビングに姿を現した。今回のメイド服は以前新入部員歓迎会に着たものとは異なり、特に細工をしていない普通のメイド服だ。スカートが短かったり天使の羽が付いていたりはしない。強いて挙げるならたった1つだけ機能があるのだが、それは俺が説明しなくとも勝手に発覚するだろう。

 

 

「他のみんなはどうした?」

「それがね、海未ちゃんや真姫ちゃんがごねちゃって、ことりちゃんが何とかメイド服を着せようとしてるの」

「じゃあなんでお前だけここへ?」

「ご主人様をお待たせしたら悪いかなぁ~って思って♪せめてこの空いた時間だけでも、穂乃果で楽しんでくれれば嬉しいな♪」

 

 

 おぉう……なんというメイド精神。相変わらず穂乃果の従順っぷりには感服せざるを得ない。もういっそのことコイツをドジっ子メイドの枠として俺の家に雇ってやろうか?あぁ、でも穂乃果は朝が弱いからダメだ。俺の理想は朝になったら優しく起こしてくれるメイドさんだからな。

 

 

「お待たせしました~~♪ご主人様専属メイドμ's、ただいま到着しました!!」

「ことり!!いい加減離してください!!」

 

「真姫ちゃんももう観念するにゃ!!」

「分かった!!分かったわよ!!」

 

 

 海未がことりに、真姫が凛に引っ張られながらμ'sのみんながゾロゾロとリビングに姿を現す。海未も真姫ももう数え切れないくらいメイド服を着てるのに、まだ恥ずかしがってんのか。あの花陽ですら慣れてるっていうのに……まあ、恥ずかしがっているメイド姿も絵になるから全然問題はないけどな。

 

 

「でも今日は普通のメイド服でよかったわ。また前回みたいなメイド服だったら、多分私も海未たちと同じようになってたかもしれないし」

「そういえば、前回はウチと絵里ちのメイド服だけやたら胸が強調されている服やったなぁ~」

「にこのメイド服はもっと可愛くしてもらってもよかったけどね」

「私はやっぱり普通がいいかな……?」

 

 

 絵里、希、にこ、花陽もほぼ同時にリビングへ入ってきた。花陽は最近の積極性もあって割と素直にメイド服を着こなしている。大学生組は去年から特に躊躇もなく来てくれるため、俺としても煽る手間が省けて大変よろしい。素直な子は大好きだぞ!!強情な子は調教しがいがあっていいけどな!!

 

 

「これで全員揃ったな。じゃあ『メイドになりきって、今日一日ご主人様にご奉仕大体験♪』を始めるか!!」

「なんですかそれ?全く聞いていたこととは違うのですが……」

 

 

 海未だけではなく他のみんなも首を傾げている。あれ?一応みんな知っている前提かと思ってたよ。俺はことりに『次の休日、みんなにメイド体験をしてもらうから、バイト先からメイド服を借りてきてくれないか?ついでにみんなにも伝えてくれ』って言ったはずなんだが。どこで話が狂った?

 

 

「あれぇ~~そうだっけ?ことり、お前みんなになんて伝えたんだ?」

「え?『零くんの家で、次のライブの打ち合わせと衣装合わせをするから』って言ったよ」

「どうして肝心なところだけ抜けてるのよ!!メイド体験の『め』の字も入ってないじゃない!!」

「えぇ~~でもそうしないと真姫ちゃんも海未ちゃんも来ないでしょ?」

 

 

 ナイスだことり!!流石の俺でもそこまでの作戦は考えつかなかった。

 そしてそのメイド服を着てしまえばあとはこっちのものだ!!今日は十分に楽しませてもらおう!!

 

 あっ、言っておくけどこれは俺の欲求を満たすためじゃなくて、みんなのアイドルとしての魅力を上げるためだから。決して己の欲望ではないのであしからず。

 

 

「もう帰ります!!あとは皆さんで楽しんでください!!」

「そうか……なら楽しませてもらおう」

 

 

(な、なんですかこれ!?急に身体が熱く、ビクビクっとしてきました……それになんでしょう?急に零のことが愛おしく……って、そして彼の顔を見るたびに胸も……下もキュンって!!は、破廉恥なのに……求めてしまいます!!ダメです!!もう声が――――)

 

 

「ひゃうぅ♡うぅ……」

 

「海未ちゃんどうしたの!?」

「ほ、穂乃果……急に身体が……」

 

 

 早速この『メイドになりきって、今日一日ご主人様にご奉仕大体験♪』のルールが発動した。そしてやはり思った通り、一番初めに犠牲となったのは海未だったか。

 

 

「それじゃあことりが、今日の体験会のルールを発表しま~す♪」

「「「「「「「ルール?」」」」」」」

 

 

 未だ身体がビクビク震えて横たわっている海未とすべてを知っていることり以外の7人が、謎のルール発表宣言に同時に声をあげる。ここから先は行くのも快楽、戻るも快楽のまさに天国のような時間が待ってるぞ☆

 

 

「まず1つ目!!ご主人様の命令に逆らうと、身体全体に気持ちのいい快楽が走ります♪」

「はぁ!?なによそれ!?」

 

 

 真姫が一歩前に出て理不尽なルールに容赦なくツッコむ。そりゃそうだ、イヤでも絶対服従しろって言われてるようなものだからな。それは俺だってイヤだよ。でもみんなには試してみたいのだから仕方がない。

 

 

「言葉のままだ。お前も海未のようになりたくなければ、従順なメイドさんになった方がいいぞ」

「誰がそんなことをすると思ってんの!?もう脱いで帰るから!!」

「いいよ別に……できるものならな」

 

 

(な、なに!?脱ごうとしてメイド服に手をかけたら、身体がビクビクして心臓もバクバクして……それに、無意識の間にずっと零のことを見つめてる……染まっていく、私の心が零の色に!!もう彼しか見えなくなっちゃう!!あっ、このままだと――――)

 

 

「あっ、あぁああああ♡」

 

「ほら言わんこっちゃない」

「ま、真姫ちゃん!?急にどうしたのかにゃ!?これも零くんの命令に逆らったから!?」

 

「ここで2つ目のルール!!勝手に脱ごうとしても同じようなことになります♪」

 

 

 どうだ?素晴らしいメイド服だろう?これがあれば気になるあの子を強制的に屈服させることができるぞ!!そうしたら、その彼女が自分のものになるのはもう目の前だ!!

 

 俺と秋葉の共同開発、一着10万円でご提供。しかも今なら大特価セール中、9万8000円!!

 

 

「でもまぁ要するに、零に逆らわなければいいってことでしょ?にこは別に逆らうつもりなんてないし♪むしろ積極的に命令して欲しいっていうかぁ~♪」

「じゃあしない」

「えぇ!?女の子がなんでもしていいって言ってるんだから命令しなさいよ!!」

「そうかそうか、ならばお前も快楽の虜になるといい!!」

 

 

(うっ!!なにこの身体を駆け巡る熱いもの……これが零の言っていた快楽?冗談じゃないわ、にこがこんなメイド服なんかで気持ちよくなるなんて……なるなんて、零、零……気持ちいい。また、にこの身体を……あの時みたいにめちゃくちゃにぃいいいい――――)

 

 

「はぁああん♡」

 

「にこっち、零君の命令に逆らったから……」

「『命令しなさいよ!!』っていう逆い方もどうかと思うけど……」

 

 

 まさか俺もこんな自爆の仕方をするとは思ってなかったぞ……流石にこだな、俺の発想の斜め上を行く。でももう3人が快楽に堕ちてしまったか。でも海未と真姫はチュートリアルでやられたようなものだから、ほっとけば勝手に復帰するだろ。にこは……合掌……

 

 

「そういうことだ。それじゃあ絵里、自分の分も含めてみんなにお茶を入れてやってくれ」

「なんで私だけに頼む――――!!」

「おっ?」

 

(あ、危ない危ない……あのまま『なんで私だけに頼むのよ』って文句を言ってたら確実にアウトだったわ)

 

「ほぅ、耐えたか。でも――――――もう遅いっ!!」

「え?」

 

 

 たまにポンコツ気味になった時に出る絵里の得意気な表情が、今まさにコイツの顔に浮かんでた。文句を言っている途中で気づいてなんとか回避したようだな。でもそれは回避したように錯覚しているだけ!!実はもうアウトなんだよなあ!!

 

 

(うぅ……前にもこんなことがあったような気がする。でも今回はあれよりももっと強力だわ……だって身体に熱が伝わって心臓が鼓動するたびに、段々と零のことを好きになっていくんですもの!!胸もムズムズするし、これってなんかの魔法!?ダメよ……ここで声を上げちゃ――――)

 

 

「あぁあああん♡」

 

「あの絵里ちゃんまでもが……」

「でも絵里ちって、結構ムッツリさんなところもあるんよ?」

「それ全然擁護になってないにゃ……」

 

 

 いくらカッコよくても、いくら賢くても、いくらエリーチカでも越えられないものがある。それが快楽。人間ならば快楽に負けるのは仕方がない。俺だってそうだ。このメイド服を着る気にはなれない(むしろ男が着てどうする)が、欲求不満を解消できるのならば電流のような快楽も受け入れると思う。だから――――

 

 安らかにおイキ☆

 

 

「さっき、一瞬絵里ちの口から零君の名前が聞こえたような……?」

 

「はいここで第3のルール!!このメイド服に快感を覚えた時、無条件でご主人様のことが好きになっちゃいま~す♪」

「そ、それってもう媚薬かなにかなんじゃ……」

「大丈夫だよ花陽ちゃん♪今までより一層零くんが好きになるだけだから」

 

 

 10万円で高いと思った?でも強制的にご主人様を好きになる機能を付けてるんだ、それぐらいの値は張ると思ってもらわないと困る。

 それにしてもこのメイド服の仕組みってどうなってんだ?一応俺も開発に携わったが、詳細は秋葉にしか分からない。まぁたまにはいい仕事するじゃん。

 

 

「そういうことだ、よかったな花陽。お前が好きな快楽だぞ。この前のデートからハマっちゃったんじゃないの?」

「そ、そんなことないよぉ……誰か助けてぇ~……」

「あっ、その言葉は……」

 

 

(わわっ!!今私の身体がピクッて!!これが海未ちゃんたちが味わってた快感……?すごく……すごく気持ちいです!!あぁ……零君に見られてる!!さらに零君のことが好きになっていく!!胸もすごくジンジンして……さ、触って欲しいかも。あっ、こ、声が――――)

 

 

「ひゃあああん♡」

 

「花陽ちゃんすごく気持ちよさそう……穂乃果もああいう風になっちゃうのかな?」

「それよりも『誰か助けて』だけでもダメなんやね……」

「すべてはメイド服が決めることだ」

 

 

 残念ながら、この全身に快楽が走る機能は俺たちでは制御することができない。メイド服が着用者の意思を勝手に感知して反応するからな。そこまでの技術がありながらもこうやって遊びのためにしか応用しないあのマッドサイエンティスト、そろそろ人間の域から逸脱させた方がよくないか?

 

 

「むむむ……みんなズルい!!ことりだって気持ちよくなりたいよ!!」

「こ、ことりちゃん……?一体急にどうしちゃったのにゃ!?」

「どうしたもこうしたもないよ!!みんなだけ気持ちよくなってズルいもん!!」

 

 

 それは流石にドM発言過ぎるだろ!?我が麗しい天使は一体どこに行ってしまったんだぁあああああああああああ!!もうここのところ汚れた堕天使の姿しか見ていないような気がする……誰がことりをこんな姿にしてしまったんだ?

 

 

「ご主人様!!なにか命令してください!!」

「じゃあ……肩揉んで」

「えへへぇ~~、イヤです♪よし逆らったよ、来るかな来るかな!?」

 

 

…………

 

 

…………

 

 

…………

 

 

…………

 

 

「えっ!?えっ!?どうして来ないの!?」

 

 

 あぁなるほどな。このメイド服は着用者がご主人様に逆らう意思を感知して反応する。つまり言葉では逆らっていても意思が逆らっていなければ反応はしないんだ。今のことりは自分から快楽に溺れたいという邪な気持ちがあるから、このメイド服も反応しないってことだな。

 

 

「へぇ~そう来るんだ。じゃいいいもん!!自分でメイド服脱ぐから!!」

「お、おいおい……」

 

 

(あっ♡来た来た♪これだよこの快楽だよ!!この前零くんに無理矢理試着させられた時、この快楽の虜になっちゃったんだよね♪だって零くんにオシオキされてるみたいで気持ちいいんだもん!!あぁ、胸も下もジンジンと熱くなって来ちゃった♪で、出ちゃいそう……)

 

 

「ぴゃあああああああん♡」

 

「なんという濃厚な自爆……しかも変な声でイったな」

「こ、ことりちゃん……ちょっと穂乃果の中で印象が変わったよ」

 

 

 確かにメイド服に反応してもらえないのなら自分から服を脱げば強制的に絶頂することはできるが、まさかそれを本気で実行する奴がいるとは思ってもみなかった。もしかしてこのメイド服の調整を請け負ってもらった時に虜になっちまったとか?もう俺、ことりに取り返しの付かないことばかりやっているんじゃ……

 

 

「希、凛……どうした?さっきから顔真っ赤にして俯いて」

「い、いや!!別になんでもないよ!?」

「凛も!!中がちょっと冷たいなぁとか思ってないから!!」

「り、凛ちゃん!!」

「はっ!!」

 

 

 なぁ~るほど、なるほどね!!希も凛もみんなが発情している姿を見て興奮しちまったってわけか。『冷たい』っていうのは恐らくあそこのことだろう。しょうがねぇ、俺が楽にしてやるか。

 

 俺は2人のスカートから見える綺麗な太ももを凝視しながら、自分の手を2人のスカートの中に向けて進撃させる。

 

 

「じゃあ希、凛、ちょっくら失礼して……」

「れ、零くん!?スカートの中に手を入れないで!!」

「零君、アカン!!そこはっ!!」

「これで楽になれそうだな」

 

 

(あっ♪零くんに逆らっちゃったから身体が熱くなってきちゃった♪零くんにスカートの中を弄られて凛、興奮しちゃってるぅうううう!!なんか心も身体もふわふわしてとても気持ちがいいにゃぁ~~♪やっぱり凛も零くんやことりちゃんみたいに変態さんになっちゃった……こ、声が出そうだにゃ!!)

 

(れ、零君にスカートの中イジイジされるだけでここまで熱くなるなんて……今まで自分で自分をワシワシして満足してたけど、もう零くんの手じゃないと満足できない身体にされてまう!!もっと、もっと触って欲しい!!ウチ……もう完全に零くんの虜になっちゃったみたい♪あっ、アカン……声が――――)

 

 

「にゃぁあああああ♡」

「あぁあああああん♡」

 

「ようやく楽になれたか。溜まっていた欲求を解放できたんだ、この俺に感謝するといい!!」

 

 

 見てみると8人の美女美少女たちが身体をピクピクさせながら、しかも顔を発情させながら1つの部屋に横たわっている。こんな光景を想像してみろ、鼻血どころの騒ぎではない。しかも今目の前に現実として起こっている。あらかじめ輸血キッドを装着しておいて正解だったようだな。

 

 

「あはは……なんかすごいことになっちゃったね?」

「あぁ、そういやメイドらしいことを何一つしてもらってないな」

「じゃあ穂乃果がやるよ!!もう残ってるメイドさん、穂乃果しかいないしね」

「穂乃果が?」

「うんっ!!だってご主人様が退屈してたら、それを満たすのがメイドさんでしょ?」

 

 

 穂乃果のメイド精神には本当に感服する。後ろを振り向かず、何事も真っ直ぐポジティブに考えるその思考はまさにメイドさん向けだな。やっぱり将来はメイドさんになるべきだ。何だかんだ言ってご主人様に尽くしてくれそうだし、それになにより可愛さ満点だもんな!!

 

 

 でもまぁ今からそんな可愛いメイドさんを、みんなと同じ快楽の道へと歩ませてあげるんだけどね☆

 

 

「じゃあ命令。穂乃果!!」

「はい!!なんでしょうかご主人様!!」

 

 

「今、ここでメイド服を脱げ……」

 

 

「――――へ?で、でもそれって……!?」

 

 

 おっ、流石に頭の回転が遅い穂乃果でも気づいたみたいだな。そう、この命令はとてもイジワルだ。もしこの命令に背けば第一のルールが発動し、快楽の海に沈められるのはもちろん明白。だが命令を実行した場合、第二のルールが立ちはだかることとなる。言ってしまえば、どちらも天国逝きだってことだよ!!

 

 

「え、えっ!?ど、どうすれば!?」

「見せてくれ穂乃果、お前の可愛く慌てふためく姿を……そして発情する姿もな」

「もう、バカ零君……」

 

 

(あぁ、ついに来ちゃった♪でも……零君が見たいって言ってるんだし、拒否する理由なんてないよね?あ、熱い!!熱いよぉおおお!!みんなこんな気持ちいい快楽に沈んじゃったんだ……でも悪くないかも♪胸もムズムズして、下もキュンキュン湿っちゃって……そんな姿を零君に見られて……あ、もうダメ!!)

 

 

「ふぁああああん♡」

 

 

 よし、これでミッションコンプリートだな。みんなの絶頂した姿、しかとこの目に刻ませてもらった。この映像は俺の脳内HDに永久保存されることだろう。もちろんそれだと解像度がよろしくないから、ここにあるビデオカメラと携帯でこの惨状かつ聖域をしっかり撮っておかなければ……そう、アイツらが帰ってくるまでに。

 

 

 

 

『ただいまぁ~~お兄ちゃんたちいる~~?』

『零くんお邪魔します!!』

『お邪魔します』

 

 

 

 

 なにぃいいいいいいいいいいいい!!もう帰ってきたのか!?もっと3人で親睦を深め合ってきてもよかったんだぞ!?マズイマズイマズイ……玄関からこのリビングまでの時間――――僅か数秒。その間にこの光景をカメラに収めて、みんなをどこかに隠して――――ってそんな暇あるかぁあああああああああああああ!!

 

 

『くんくん……あれ?なんだかメスの匂いがする』

『まさか零君がまたなにかやってるんじゃ……』

『雪穂、それは流石に言いすぎだよ』

 

 

 来る!!来ちゃう!!もう隠すのは諦めよう!!こうなったら写真だけはなんとか収めて、あとは言い訳を考えよう!!うん、それがいい!!というよりそれしかねぇ!!

 

 

「リビングから匂ってくるなぁ~~」

 

 

 もうこの先からは、それこそご想像にお任せします……はい。

 

 




 何気に零君視点で物語が進むのは久しぶりですね。こちらも久々に変態要素が書けて楽しかったです!!もちろん本業は変態話を書くことではなくて、あくまで日常回を書くことですので(笑)

 なんか感想でも『薮椿さん=変態』という構図が勝手に出来上がっていますが、あくまで日常系を書くことが自分の分野ですからね!!変態なのは零君であって自分ではない。


 他に記念があるとしたら、シリーズ累計150話記念(あと3話!!)、感想数300突破記念、評価者数20人突破記念(あと5人)とか色々考えられるのですが、自分の執筆速度が追いつくかどうか……


~今後の展開~
 何回か前にやった軽い次回予告でも。もちろん順番はバラバラですし、没になる可能性や別の話が挟まる場合もあります。

☆零とシスターズ(タイトル未定)
 シスターズと部室でダラダラ喋るだけ。ほのぼの日常系なので、変態回のお口直しに。

☆絵里個人回(タイトル未定)
 絵里推しの方歓喜!?絵里との『R-17.9』!!

☆μ'sの顧問は人類の敵!?(タイトル未定)
 ラブライブ!出場のため、顧問を探さなければならなくなったμ's。だが手が空いている先生がおらず途方に暮れていた時、零やμ'sが恐れるあの人が現れる……

☆リクエスト回
 既にたくさんのリクエストを頂いていますので、少しずつ形にしていこうと思います!



Twitter始めてみた。ご意見、ご感想、リクエストなど
 https://twitter.com/CamelliaDahlia

またリクエストは活動報告でも募集しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ほのぼのシスターズ

 今回はほのぼの日常回。自分の目標としては読者の方に何度も話を読み返してもらえるように意識しているのですが、ある意味でこのようなほのぼの回の方が読み返しやすいのかもしれませんね。


 

「ねぇ雪穂ぉ~面白い話してよぉ~~」

「無茶振りにもほどがあるでしょ……」

 

 

 今日は珍しく、アイドル研究部部室には俺と1年生メンバー、通称シスターズの4人しかいない。他のみんなは生徒会やら掃除やら大学やらで遅れるらしいので、俺たちは部室でグダグダとのんびりしているわけだ。

 

 あまりにも暇なのか、楓は雪穂にすべらない話をご所望の様子。中間テストも終わってピリピリと張り詰めた空気からも解放されたため、腑抜けた気持ちになるのもよく分かる。でもコイツらは賢いからテストなんて余裕だっただろうな。楓に至ってはテスト勉強すらしてなかったし。μ'sと言えば学年で1人はバカな奴がいるもんだが、コイツら1年生は奇跡の世代。全員が秀才という万能っぷりだ。

 

 

「亜里沙ぁ~お茶入れてぇ~~」

「いいよ♪熱いのと冷たいの、どっちにする?」

「キンキンに冷たいので」

 

 

 楓の奴、俺の天使様をこき使いやがったな……亜里沙を言いなりにしていいのは俺だけだ!!―――なぁ~んて言ったらまた雪穂が怒るからやめておこう。俺も今は怒られる気分じゃない。

 

 

「それにしても、お前らホントに仲良くなったよな。まさかこの1ヶ月、台風みてぇな楓と一緒にいられたとは……」

「そうですか?私は楓と一緒にいるといつも楽しいですよ♪」

「亜里沙は私の言うことに何でも乗ってくれるから、私も楽しいよ!!」

「そしてその2人を止めるのは毎回私……」

「ご、ご苦労さん……」

 

 

 奇抜なアイデアの発案者である楓、さらにそれに乗っかる亜里沙、そしてツッコミ役の雪穂。雪穂に全体重が掛かってしまうけど非常にいいトリオだな。雪穂も疲れた表情を見せる時があるけど、何だかんだ言って楽しそうだし。それにあの楓がしっかりと輪の中に入れているようで俺も安心した。

 

 

「お前らもう普通にユニットとか結成できそうだよな。もう名前そのまま『シスターズ』でいいんじゃねぇか?」

「ユニットかぁ~~楽しそうですね!!最近ダンスも歌も上達してきたし、いいと思います!!」

「前の秋葉原でのライブも大成功だったから、確かにいいかもね」

「あぁ……そうやって私たちを誘惑して、お兄ちゃんの性欲の捌け口にされるんだね。およよぉ~~」

「最後にいらぬオチを付けるんじゃねぇよ……」

 

 

 性欲の捌け口にするかはとりあえず置いておいて、コイツらの技術は凄まじい勢いで向上している。絵里の妹で元々センスの塊だった亜里沙はともかく、先月までダンスと歌、どちらも苦労していた雪穂と楓も最近動きのキレや声色が格段に上がっていた。俺が楓を勧誘するためコイツらを煽っていた時とはえらい違いだ。

 

 

「そういや雪穂、お前なに読んでるんだ?」

「えっ?あぁこれですか?ただのファッション誌ですけど……」

「お前、ファッションが趣味なのか?」

「そうですね、趣味と言えるのはこれぐらいしかないですけど」

 

 

 そういや何度か穂乃果の家に転がり込んだ時、常にリビングにはファッション誌が置いてあったな。あれって雪穂のモノだったのか。そういや楓はいいとしても、雪穂と亜里沙についてはまだよく知らないことが多いな。これを機に色々詮索してみるか。勘違いするなよ、単純に仲間として知っておきたいだけだ。

 

 

「雪穂はファッションセンス抜群なんですよ。私だって何度も可愛い服を選んでもらいましたから」

「へぇ~……じゃあ私の服も選んでプレゼントしてくれる?この楓様に似合う服をね」

「ナチュラルに買わせようとしないで……」

「じゃあ今度俺も選んでもらおうかな?」

「えっ!?それって一緒にお出かけってことですか……?」

「あ、あぁ。そうしないと選べないだろ」

「じゃあ……また連絡します」

 

 

 あれ?雪穂の奴、持っているファッション誌で自分の顔を隠しやがった。それにさっきちょっとだけ表情が見えたが、微妙に顔が赤くなっていたような。まさか照れてる……?俺って雪穂に好意を持たれるようなことしてたっけ?思い当たる節がない。最近コイツには殴られてばっかだし、ハハハ……

 

 

「ファッションが好きってことは、ことりともウマが合うんじゃないか?」

「はい。ことりちゃんによく着せ替え人形にされていた記憶が強いですけどね」

「お前……姉が穂乃果だってことも相まって、幼少期から苦労してるんだな」

「分かってくれる人がいるだけでなによりです」

「私もお兄ちゃんにすっごく苦労かけたけどね♪」

「お前勝手に話に入ってきて、自慢じゃないこと自慢すんなよ……」

 

 

 あの穂乃果が姉というだけでとてつもない苦労をしたっていうのはよく分かるぞ!!俺だってこの1年、アイツに引っ張り回されて大変だったからな。でもそんな姉がいたからこそ、雪穂はここまで冷静沈着、クールで現実的な妹として成長したのかもしれない。

 

 俺のところの姉と妹は……もうただの人間じゃないから放っておこう。そうやって言うと決まって、『お前もただの人間じゃないじゃん』と言われるのはなぜだろうか?俺はその2人に比べればまだ真っ当な人間だと思うのだが。

 

 

「亜里沙は趣味とか好きなことはあるのか?」

「そうですね~……お姉ちゃんから習ったアクセサリー作りとか好きですよ♪あと料理も最近やり始めたんです!!」

「料理か!!じゃあまた俺に何か振舞ってくれよ」

「はい♪むしろ、零くんに私の料理を食べてもらいたくて始めたんですから当然です!!」

「えっ!?そうなの!?」

「この前、零くんがお姉ちゃんの作った料理を『美味しい美味しい!!』と言って笑顔で食べているのを見て、私もやってみたいと思ったんです♪」

 

 

 えぇ子や……なんて律儀で可愛い子なんだ!!俺は一度、亜里沙の水着姿を見て劣情を抱いてしまったことを懺悔したい!!こんな天使に向かって俺は……俺は!!もうμ'sでただ1人の天使として、この天使が聖域からはみ出てしまわないように俺が守ってやらなければ!!

 

 ことりと花陽?あぁ、もう堕ちてるよ。特にことりは俺を一目見かけたらすぐにベタベタくっついてくるほどにはな。

 

 

「でもやっぱり踊って歌うことが一番楽しいです!!」

「楽しむことは当然だけど、それを口に出して言えるってことは本物みたいだな」

「私も亜里沙と楓に負けないように頑張らなくちゃ!!」

「私はお兄ちゃんと夜のダンスを楽しみたいけどね♪あっ、喘ぎ声が歌ってことで」

「おい!!さっきからちょいちょいネタを挟むのをやめろ!!折角ほのぼのぉ~ってしてんのに!!」

 

 

 しかも今回は下ネタだし……俺の亜里沙の前で汚れた思考を振り回すのはやめてもらいたい。

 それはもういいとして、亜里沙も雪穂も、そして楓も、スクールアイドルの活動を楽しんでいるようでよかったよ。みんなに追いつきたいがために無理をしそうではあったから心配だったけどな。でも、あの穂乃果たちに先導されればまず道を踏み間違えることはないだろう。

 

 

「じゃあ次は私の趣味だね♪」

「聞いてないんだが……」

「でも私は聞きたいかも!!楓のこともっともっと知りたいもん!!」

「亜里沙……あなた私の一生の友達だよ!!」

「楓!!」

 

「おい雪穂……2人が急に抱きしめ合ったぞ」

「ほっときましょう。今に始まったことじゃないです」

「そうなの!?」

 

 

 どうやら台風の目とド天然はどこか通じるものがあるらしく、その時だけ雪穂は他人のフリをするみたいだ。流石の俺でも百合展開は望んでないぞ。自分の支配下における百合ならまだしも、同性愛に萌えるほど俺は変態ではない。まぁコイツらの場合ただのアメリカ式友情確認なんだろうけど。

 

 

「話が逸れちゃったけど、私の趣味は――――」

「趣味は……?」

「お兄ちゃんと交わることです♪きゃあ~恥ずかしい♪」

「交わる?交わるってなに?」

「亜里沙は知らなくてもいいからな!!オイこら愚妹、一度もそんな経験ないだろうが!!」

「あぁ!!お兄ちゃんに言葉攻めされるのもイイッ♪」

「よし雪穂、ツッコミ役任せたぞ」

「イヤですよ!!こんな下品なネタに介入するのは!!」

 

 

 むしろ今までよく楓の下ネタを回避し続けてきたな……さらに亜里沙がよく汚されずに済んだな。これも雪穂が陰で苦労して楓を止めてくれているからなのだろうか?いつか雪穂を労わってやろう。何をすればいい?ワシワシでいっか。

 

 

「へぇ~、楓は零くんに何してもらうのが好きなの?」

「そりゃあ色々あるけど、一番落ち着くのは膝の上に座らせてもらってる時かな?」

「え?兄妹でそんなことやってるんですか……?」

「おい雪穂、お前今ちょっとだけ引いただろ……?コイツが勝手に座ってくるだけだからな」

 

 

 でもそれを振り払わない辺り、俺も楓に甘いんだと思う。コイツのことを散々ブラコンブラコンと罵っているが、意外と俺自身もシスコンの気質があるのかもな。この4月から一緒に暮らしているけど、やっぱり1人暮らしより2人で暮らしていた方が楽しい時"も"ある。作ってくれるメシも上手いし……あれ?俺って段々楓に洗脳されてる?

 

 

「じゃあ私も零くんの膝に座らせてもらっていい?」

「亜里沙だったらいいよ。あの彼女モドキの9人には絶対に許可出さないけどね!!」

「いい加減に認めてやれよ……」

「9股するような女たらしで変態でクズで最低な男は黙ってて!!」

「うぐっ!!言い返せねぇけど言い過ぎでは!?」

 

 

 言いたいことばかり言いやがって……あれでも9人全員に告白するのは恥ずかしかったんだぞ。今でもその時のセリフを思い出すだけで地を駆けずり回りたくなる。アイツらはアイツらで俺の告白を気に入っているようで、俺の知らないところで引き合いに出されているらしいし……この俺がここまで羞恥心に悶え苦しむとはな。

 

 

「あの~、膝をお借りしてもいいですか?」

「あ、あぁいいよ」

「ありがとうございます!!それでは失礼します♪」

 

 

 亜里沙はトコトコと俺の元へやって来て、そのままちょこんと俺の膝に股がる。彼女のフワッとした髪の毛が俺の鼻をくすぐり、まるでスイーツのような甘い匂いが身体全体に広がる。亜里沙は俺にそっともたれ掛かり、俺の胸と彼女の背中がピッタリとくっつく。亜里沙がもぞもぞ動くたびに、彼女のおしりの形と柔らかさがよく伝わってくる。

 

 

「亜里沙、お前大きくなったよな。去年まではにこよりも小さかったのに」

「零くんは背が高い女の子ってどう思いますか?」

「背なんて関係ない。俺はどんな亜里沙でも大好きだよ」

「嬉しいです♪あっ、腕を私の身体に回してもらってもいいですか?」

 

 

 俺は亜里沙に言われるがまま自分の両腕を彼女の脇の下に通し、亜里沙の胸と腹の間で腕を組んだ。そうすると俺が亜里沙を完全に抱きしめている形となる。背が高くなったからといってもまだまだ小柄だ。したがって、俺の身体にすっぽりと彼女の身体が収まっている。後ろからだと亜里沙の表情はよく見えないけど、小さな手で俺の腕を掴み温もりに浸っていることは分かる。

 

 

 ここで俺は崩れた体勢を立て直そうと、自分の腕を少し上に上げた。

 

 

 その瞬間、亜里沙の柔らかい胸が俺の腕によりフニッと形を変えたのが分かった。亜里沙の奴、背だけじゃなくて胸までしっかり成長してやがる……!!亜里沙を自分の方へグイッと近づけると、その軽い衝撃で彼女の胸がプルッと揺れる。流石絵里の妹、いい大きさいい感触いい柔らかさだ。

 

 俺は亜里沙に夢中となり、しばらくの間自分の腕を動かして彼女の胸を堪能していたのだが、そこで亜里沙の表情が少し変わっていることに気づいた。斜め後ろから見ているため細かくは分からないが、自慢の白い肌の頬が明らかに赤くなっている。

 

 まさか……気づかれた!?そして亜里沙、興奮してる……?

 

 

「はぁ……」

 

 

 亜里沙の口から可愛く小さな息が吐かれる。この吐息……これはもしかしてもしかしなくても!?このままさっきの行為を続ければ、亜里沙が……あの亜里沙のはつじょ――――

 

 

「そうだ!!雪穂もどう?零くんにやってもらいなよ!!」

「わ、私!?私はいいって!!」

 

 

 そこで俺は我に返った。俺、また妄想の世界に没頭していたのか!?全く……全然治らねぇなこの性格。

 それはそうと、さっきの亜里沙の言葉。

 

『零くんにやってもらいなよ!!』

 

 これって『座らせてもらいなよ!!』じゃないの?やってもらうって、まさかさっきの胸を押し上げる行為のことじゃ!?やっぱりバレてた!?

 

 

「あの~、零くん」

「な、なんだ?」

「あ、ありがとうございました。気持ちよかったですよ……」

「な゛っ!?」

「さぁ次は雪穂の番!!」

 

 

 なんだよ気持ちよかったって……俺の温もりが気持ちよかったってことだよな!?決して胸を弄られたから気持ちよかったわけじゃないんだよな!?そうだよね?

 

 でも、亜里沙にそんなことを聞くなんて俺にはできなかった……

 

 

「い、いいの楓?」

「まぁ雪穂と亜里沙なら私が許す!!」

「じゃ、じゃあちょっとだけなら……いいですか?」

「あ、あぁ……俺はいつでも」

 

 

 雪穂は持っていたファッション誌を机の上に置き、俺と顔を合わせないようにしながらこちらへとやって来た。顔は既に赤くなっているため、自分でも相当恥ずかしいことをしていると分かっているのだろう。

 

 

「へ、変なことしないでくださいね!!」

「しねぇよ……」

 

 

 ゴメンッ!!保証はない!!あの亜里沙にあんなことをしてしまったんだ、雪穂にまで魔の手が及んでしまうかもしれない。こればかりは俺の理性と欲求が耐えてくれるかどうかだな。

 

 

 雪穂は勢いよく俺の膝に股がり、そのまま自身の背中を俺の胸へ預けてくる。おしりも柔らかく、いい形をしているな。もうこれだけでも雪穂の匂いと温もりが全身に伝わってきた。どことなく穂乃果と同じ匂いがするのは姉妹だからだろうか。今度は雪穂の魅力に取り付かれ、また我を忘れかけていた。

 

 俺はそのまま亜里沙に腕を回した時と同じように、雪穂の脇の下から手を入れて彼女の身体をホールドする。

 

 

「きゃっ!!私はやってくださいなんて言ってませんよ!!」

「わ、悪い!!今すぐ離す!!」

「は、離せとも言ってません!!別にそのままでもいいです」

 

 

 えぇっ!?どっちなんだよ!?相変わらず真姫と同じ面倒くさい性格をしてやがる。まぁ本人がそう言うのなら仕方がない、このまま抱きしめ続けるか。俺としても雪穂とここまでお近づきになれたのは初めてで、ちょっと舞い上がっているしな。

 

 そしてこうして腕を回していると、亜里沙の時と同じようにまた胸の感触が味わえる。雪穂は亜里沙と比べればまだまだ控えめな胸だが、腕を摺り寄せることによって形を感じることはできた。腕を動かすたびに、雪穂の胸の形状がむにゅっと変化する。

 

 

「れ、零君……」

「ど、どうした……?」

「あ、いや、なんでもないです……そのままで」

「え……?」

 

 

 最後、声が小さすぎて聞き取りづらかったが『そのままで』って言ったか!?まさか雪穂に限ってそんなこと……でももしそうだとしたらコイツは俺のことを……!?

 

 

「生徒会長高坂穂乃果!!ブラック海未ちゃんからの激務を終えて帰還しました――――ってあれ?」

 

 

「「あっ……」」

 

 

「穂乃果ちゃん……」

「これはこれは面白いことに!!」

 

 

 突然扉が開け放たれたと思ったら、穂乃果が勢いよく社畜のような口を叩きながら部室へなだれ込んで来た。

 もちろん俺は今雪穂を膝の上に乗せて抱きしめているわけで……そして楓の奴はまたニヤニヤと人が不幸になる瞬間を楽しんでいるわけで……

 

 

「雪穂が……雪穂が……」

「待ってお姉ちゃん!!これは違うの!!」

 

 

「海未ちゃーーーん!!ことりちゃーーーん!!雪穂がデレたーーーーー!!」

 

「だからお姉ちゃん違うって!!待って!!どこへ行くのもうっ!!」

 

 

 穂乃果は来た道を叫びながら戻っていった。それを追う形で、雪穂も誤解を招くような発言をしている姉を追いかける。雪穂の奴、めちゃくちゃ顔真っ赤にしてたけど大丈夫か?茹でトマトになって真姫辺りに食べられそうだ。

 

 

「で?お兄ちゃん感想は?」

「き、気持ちよかったです……」

「じゃあまたやってもらっていいですか?」

「ああ!!亜里沙たちならいつでも歓迎!!」

 

 

 こうして俺とシスターズのほのぼの(?)とした日々は、無事に過ぎ去っていきましたとさ。

 

 また雪穂とは、2人きりになった時にでも……

 




 今回はほのぼの回でした!!誰がなんと言おうとほのぼの回!!誰になんと言われようとほのぼの回!!嘘偽りはありません!!


 まだ雪穂や亜里沙とは行き過ぎた行為はできませんので、このようなソフトな感じに収めてみました。2人はまだまだ零君からの変態行為に慣れていないので、ウブな様子が可愛く描けていればと思います。どうだったでしょうか?


Twitter始めてみた。ご意見、ご感想、次回予告、投稿お知らせなど。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絵里とのお熱い密室

 今回は絵里個人回です!絵里視点でイチャイチャほのぼのデート、そして最後には……

 この話はいつもの『R-17.9』とは違います!どこが違うって?それは読んでみてのお楽しみということで。


 

「ちょっと早かったかしら……」

 

 

 今日は待ちに待った零とのデート!!――なんだけど、気合を入れ過ぎて家をかなり早く出ちゃった。このままだと集合場所に15分も早く着いちゃうわね。一応体裁的にはいつもの私だと思うんだけど、やっぱり彼と一緒にデートをすると思うと自分でも気づかない間に浮かれていたりするのかしら?もしかして今も顔がニヤケちゃってたり!?バカバカ!!これじゃあ零に変な子だって思われるじゃない!!

 

 

 なぁんて♪やっぱり舞い上がっているのね。私は真姫や海未みたいに素直になれないわけじゃないけど、穂乃果やことりたちと比べれば全然奥手な方。でも最近花陽がかなり積極的になっているのを見て、私も素直になって零に甘えてみようかなぁなんてね♪

 

 

 そんな浮かれ気分になっている内に、デートの集合場所である時計台が見えてきた。流石に待ち合わせの定番スポットなだけあって、休日はたくさん人がいるわね。これじゃあ零が来てもすぐには見つけられないかも――――って……

 

 

「え!?」

 

 

 時計台の真下、一本の柱にもたれ掛かっている人を見て私は驚いた。まさか……まさか零が先に来ていたなんて!!あの時間にルーズで、デートでもいつも集合時刻ギリギリに来る零が!?今日のデートの途中で雨なんて降り出さないでしょうね!?

 

 

「零!!」

「よお、来たか。随分と早いな」

「あなたこそ、どういう風の吹き回しかしら?」

「いいだろたまには。それに今日は前のライブの成功祝いでもあるし、特別な時ぐらいはカッコつけさせてくれよ」

「集合時間に早く来ただけでカッコつけられても……」

「でもいいサプライズだっただろ?」

「まぁ、驚きはしたけどね」

 

 

 こうやって何気なく行われる日常的な会話。私が大学に進学して零と話す機会が減っちゃったから、こうして彼とたわいも無く喋っているだけでもすごく楽しい。流石ににこほどは飢えてはないけど、私も寂しいと思ったことは何度もある。だからその分、今日1日たっぷりと楽しませてね♪

 

 

「絵里……その服」

「これ?今日のために新しく買ってきたの。えぇ~と……どうかしら?」

 

 

 私が着てきた服は水色のワンピース。いつもはズボンを履くことが多いんだけど、折角久しぶりのデートなんだし攻めてみないとね。でもいつもと違い過ぎて自分でもちょっと違和感。にこやことりみたいにファッションには詳しくないし、もしかしたら似合ってないかも……?

 

 

「お前、自分には似合ってないと思ってるだろ?」

「えっ!?どうして分かったの!?」

「やっぱり……お前はすぐ顔に出るんだよ。そんな無駄な心配なんてしなくてもいい、いつもの絵里とは違って新鮮で可愛いよ。ありきたりな言葉で悪いけど、それしか思い浮かばないくらい綺麗なんだ」

「あ、ありがとう……」

 

 

 零の励ましと何気ない笑顔に私は見とれてしまう。自分の手が自然と髪へ伸び、真姫みたいに髪の毛をくるくるいじる。

 もうっ!!どうして零は女の子の心をくすぐるのが上手いのかしら!?至って普通の褒め言葉なんだけど、やっぱり私が心の底から好きになった人だからかな?それだけでも心臓の音がトクントクンと聞こえるくらい気持ちが高鳴る。

 

 

 いけない!!まだデートも始まってないのに零に先導されっぱなしだわ!!今日は私から攻めようと思っていたのに、やはり零は手ごわいわね……でも覚悟しておきなさい!!もっと私のことを好きにさせてみせるんだから!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「着いたわ。ここがことりたちに評判のファッション街ね」

「ホントだ、服屋ばっかり……」

 

 

 私たちはまず、ことりたちから勧められたファッション街へとやって来た。女性向けの雑誌にも連日に渡って掲載されるほど有名で、一度でいいから来てみたかったのよね。

 さっきは零にペースを持って行かれたけど、ここでは私がペースを握らせてもらうわ!!最近はすぐに冷静さを失って零に対しても後輩たちに対しても威厳がなくなってきているから、こういうところで挽回しないと!!

 

 

「絵里って普段は自分で服を選ぶのか?」

「えぇ。でも亜里沙やμ'sのみんなと来る時は、誰かに選んでもらうこともあるわよ」

「じゃあ今回は俺が選んでみようかな」

「零が?でもあなたファッションセンスが……」

「悪かったな!!ファッションセンス皆無でよ!!」

 

 

 細かいことにたくさんこだわりを持つ零だけど、唯一ファッションだけには全然こだわりを持っていない。その分私たちが零をコーディネートできるから悪くはないんだけどね。それに零は何を着ても似合うから、ファッションセンスなんてなくても気にならない。やっぱりカッコいいと何でも着こなせちゃうのね。

 

 

「お前には青系統が似合うと思うんだよ。だからこれなんてどうだ?」

「夏服か……もう暑くなってきたし、これにしましょう!!」

「決めるの早いな!?じゃあこのショートパンツも似合いそうだから、試着してみたらどうだ?」

「試着……」

 

 

 零にそう言われ、私は試着室が並んでいるところを見つめた。

 もちろんだけどあそこって、完全に個室なのよね……それに今試着室を使っている人は誰もいない。これってもしかしてチャンス?彼がもしそういうことを望んでいるのなら、私もそれに応えたい。いや、むしろ私の方が期待しちゃっているんだと思う。どちらにせよ、ここで攻めのエリーチカになるわ!!

 

 

「それじゃあお望み通り試着してみようかしら」

「なんでちょっと上から目線……?」

「それはいいとして、すぐに感想を聞きたいから目の前でちゃんと待っててね?」

「言われなくても待ってるよ」

 

 

 私は零に微笑み返し、そのまま試着室へと入る。目の前には大きな鏡……こうして自分の姿を見てみると、今日どれだけ自分が大胆な服装をしてきたのかがよく分かる。これも零に可愛く見てもらうため、零に綺麗と思われたいため、零に褒めてもらいたいため……もう私って、彼の色に染まっちゃってるみたい♪

 

 

「待たせるのも悪いし、早く着替えないと……」

 

 

 もしかしてこんなことが起きるかもしれないという想定のもと、昨日私はなぜか服を脱ぐ練習をしていた。だって零が『女の子が服を脱ぐ姿って絵になるよな』と言ってたことを思い出しちゃったんだから仕方ないでしょ!!

 

 そうは言っても今は誰にも見られていないので、特訓の甲斐なくそのままワンピースを脱ぎハンガーに掛ける。

 

 

「このカーテンの向こう……零がいるのよね」

 

 

 カーテン1枚を隔てた向こうに零がいる。この薄いカーテン、たった1枚めくるだけで愛しの彼が待っている。多分だけど、零は試着室に入っている私のことを妄想しているでしょうね。今の私は下着姿……こんな私の姿も妄想してくれているのかしら?

 

 

 

 

 本当に妄想だけでいいの?もっと――もっと先のことをしてみたくない?

 

 

 

 

 以前、にこや希はちょっぴりアレなことをして零を楽しませていると言った。彼に感謝の気持ちを込めて、自分の身体を差し出す。もちろんにこたちは好きでやっているんだろうけど、やはりそれは零が手を出してきたとしても彼に身を委ねる覚悟があるということ。にこや希が持つ彼への愛は間違いなく本物でしょうね。

 

 もちろん私の愛もにこや希と同じくらい強いと思っている。だからこそ、もっと彼に応えてあげたい。零が女の子の身体を欲しているのなら、私もこの身体を差し出したっていい。この前まではみんなに健全なお付き合いだなんだの言っていたけど、零が私たちを欲しているように、私も零を欲している。

 

 だからここで謝っておくわ――――ゴメンなさい!!私の身体だって、零が欲しいのよ!!

 

 

「れ、零!!」

「どうした?」

「そこにいる?」

「え?いるけど……」

「もっと、もっと近くに来て」

「え?どうして?」

「いいから早く!!」

 

 

 私は試着室の中から零だけに聞こえるような声で彼をこちらに呼び寄せる。流石に店員さんに聞かれるわけにはいかないから、これは日々のボイスレッスンの賜物ね。こんな目的でレッスンをダシに使ったら、真姫に怒られそうだけど……

 

 

 カーテン越しでも零がすぐそこにいるのが分かる。決心した!!もうどうにでもなっちゃえ!!

 

 

 私は試着室の外に手だけを出して零の腕を掴む。そして抵抗される前に、そのまま零を試着室の中へ引きずり込んだ。

 

 

「うおっ!!な、なにすんだ……よ……」

 

 

 零は私の姿を見て驚いている。そりゃあ下着姿なんですもの、驚かない方がおかしいわよね……

 それに自分がどんな痴態を晒しているのかは、試着室に備え付けられている鏡を見ればよく分かる。恥ずかしいけど、彼から手を出してもらうにはこの方法しかない。

 

 

「綺麗だな、白い下着。上下で揃えているのか」

「えぇ……あなたに見てもらうために買ったのよ」

「じゃあ、覚悟はできているってことだな?」

「もちろん……むしろそのために着てきたんだから」

 

 

 そう、覚悟は既にできている。こうして零に下着を見られるのは2回目。だけど今回は恐らくそれ以上の痴態を晒してしまうことになる。それでも構わない。これが私たちが示す、"愛"の表現方法なのだから……

 

 

「上……取るぞ?」

「……お願い」

 

 

 そして零はプチッと私の上の下着を外す。その下着はそのままハラリと試着室の床に落ちたけど、私も零もそんなモノなんてもう気にしていなかった。零は目を見開いて私の胸を凝視している。私は恥ずかしくて零の顔をずっと見ていることしかできなかった。

 

 初めて彼に見せる、ありのままの私の姿。μ'sの中では希の次に大きいバストを持った胸。今まで零からそれを散々ネタにされてきたけど、まさかその生の胸を彼に見せるとは思ってもみなかったわ。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 零の息遣いが荒くなる。だけどそれは私も同じ。横にある鏡で自分の顔を見てみると、真姫の髪の毛かと思うぐらい赤に染まっていた。高ぶる気持ちが私の理性をどんどん溶かしていく。彼に……零に触られたい!!あなたの愛で私を満たして欲しい!!

 

 

「1つだけなら……あなたの好きにしていいわ」

「好きにしていい……?」

「えぇ、抵抗しない。どんなことをされたとしても……」

 

 

 とんでもないことを言っているなんて分かってるわ。それでもこの身を零に捧げる。愛する彼に、私の大好きな彼に、自分の身体を好きに使って欲しい。まだ本番をする覚悟はないけど、これくらいならむしろ私から頼みたいくらいだわ。フフッ、私も零みたいな変態さんに染まっちゃったのかも♪

 

 

「じゃあ、突いてもいいか?」

「つ、突く!?」

「しっ!!静かに!!」

「あっ」

 

 

 危ない……こんなところを誰かに見つかったらただ事では済まないわ。

 でもそんなことよりもさっき零、『突く』って言ってなかったかしら?突くってことは、零の指で私の胸を突っつくということよね?もうっ!!やっぱりただの変態野郎じゃない!!

 

 

「や、やるなら早くお願い!!見てるこっちも恥ずかしいわ!!」

「騒ぐな。今神経を集中させてるんだ」

 

 

 なんの神経よ!?本当にエッチなことになると人が変わるんだから!!

 でも、そんな零も結構カッコいいと思っていたり。自分の欲望に忠実になりながらも、女の子の身体を第一に考えてくれる。そんな紳士的な彼に惹かれたところもあるかもね。

 

 

「じゃあいくぞ」

「え、えぇ!!」

 

 

 零は両手の人差し指を、私の両胸の先端目掛けて動かし始めた――――ってちょっと待って!?!?両手!?片方だけじゃないの!?それに先端って、それは私のち、ち、ちち…………くびじゃない!!突くってそこを突くの!?でも私は壁にもたれ掛かっていて、さらに試着室自体が狭いため回避することは愚かほとんど動くことさえできない。

 

 気づけば零の人差し指は、もう私の胸の直前まで迫っていた。

 

 

「あぁん♡」

 

 

 遂に零の人差し指が私の胸の先端を押した。今までに感じたことのない感触が身体全体に伝わり、その衝撃で声が漏れる。零はそのまま指を胸に押し込んできた。

 なによこの気持ちのいい感触は……?ツンツンと零に先端を刺激されるたびに快楽が電流のように全身を駆け巡る。ダメ……このままじゃクセになっちゃう♪

 

 

 さらに零は私の先端を激しく刺激してきた。

 

 

「あぁあああん♡」

 

 

 零から送られてくる刺激に身体が熱くなる。胸を突つかれるたびに身体がビクビクと震え、自分の喘ぎ声が試着室中に響き渡る。初めは声が外に漏れないように頑張っていたけれど、今は快楽に身を委ねることに夢中でそんなことなど一切忘れていた。今は彼に胸を弄ってもらうことだけしか頭にない。

 

 

「れ、零!!もうダメよ!!直接、直接触って!!」

「いいのか?」

「身体が火照って限界なのよ……お願い!!あなたで私を満足させて!!」

「彼女の頼みなら、聞かないわけにはいかないな」

 

 

 自分の欲求に我慢できなくなった私は、自分から零に胸を揉むように志願してしまった。でもこうしないと家に帰ってから1人でこの欲求を鎮めることになる。それだけは絶対にイヤ!!だって目の前に彼がいるのよ!?愛する彼にしてもらいたいに決まっているじゃない!!

 

 

 そこで零は私の身体を180度回転させた。今私と零は同じ方向を向いていて、私の後ろに彼がいる状況。これはみんなから聞いたことけど、零は後ろから女の子の胸を揉むのが好きらしいのよね。全く、どうして私たちはこんな変態さんを好きになっちゃったのかな♪

 

 

 そして零は私の身体に覆いかぶさり、両手で胸をガシッと掴む。もちろん胸には何も着けていないため、彼の手から温もりが直に伝わってきた。手のひらで先端を刺激され、またハァハァと吐息が絶え間なく出続ける。やっぱり私の身体は零に期待をしているのね。

 

 

 零は優しく私の胸を揉み始めた。もうそれだけで身体の温度が大幅に上昇していくのが分かる。胸を揉まれる刺激は胸を突かれる刺激とは違って慣れ親しんだものだけど、今回は"いつも"感じている懐かしい刺激のように感じた。それほど突かれていた時の刺激が新鮮だったのね。

 

 

「はぁああん!!あん♡」

 

 

 もう声を抑えようとしても抑えることなんてできない。零の胸を揉む強さは次第に激しくなるばかりか、さらに同時に先端も刺激され、私は天国への階段を強制的に登らされる。もう階段なんて一歩一歩登るような生ぬるいものじゃない、これは天国への直通エレベーターだわ。それだけ零が送り込んでくる快楽は至高で、あっという間に彼の虜になってしまう。

 

 

「ひゃっ、ひゃあぁぁ♡」

 

 

 彼からの刺激は止まらない。これが零が私たちに贈る愛なのね……そんなの、そんなの気持ちいに決まってるわよ!!彼に抗えない!!どんどん彼の魅力に取り付かれてしまう!!もっと私を好きにさせて!!あなたのことがずっと頭に浮かぶくらいに!!――――もっともっと!!

 

 

「あぁああああああああん♡」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あぶねぇ~~。店員さん、めちゃくちゃ怪しがってたな……」

「でもバレなくてよかったわ」

「それはどうだろうな。見て見ぬふりをしていたのかもしれないぞ」

 

 

 あの後、私たちは逃げるようにファッション街から抜け出した。店員さんからは不思議そうな目で見られたけど、多分大丈夫だと思う。それにバレてたとしても若い子の営みということで許してもらえいなかしら……?

 

 

「ねぇ、ご飯食べた後で私の家に来ない?」

「えっ?いいけど、誰かいないのか?」

「今日は亜里沙も親もお出かけしてるから、私だけなの……」

「そ、そうか。じゃあお邪魔するか」

 

 

 今日は零からたくさんの愛をもらっちゃった♪そして次は私から愛を伝える番。零って、どんなことをされるが好きなんだろう……?あぁ!!これだけはにこや希に聞いておくんだった!!でもやっぱり男の子だから……あのようなことよね?緊張するけど頑張らなきゃ!!これでまたあなたに喜んでもらって、褒めてもらえるといいな♪

 

 

「なに笑ってんだ?それだけさっきのことがお気に召したのか?」

「もちろん♪そして次は私があなたを天国へ連れて行くわ。覚悟してね♪」

「絵里……あぁ、楽しみにしておくよ!!」

「フフッ♪でもまだまだデートは終わってないわ。次はあそこに行きましょう!!あの店のカップル限定パフェが美味しいって評判なのよ」

「お、おい引っ張るなって!!そんなことしなくてもどこまでも付き合うよ、一生な」

「私だって、あなたをずっと離さないから♪」

 

 

 そう言って私は零の腕に絡みつき、頭を彼の肩に乗せた。普段の私と違って積極的になれているかしら?今日ぐらいは思いっきり甘えちゃってもいいわよね♪

 

 そこで私は零の唇へ自分の唇を重ねた。

 

 

「んっ……ちゅぅ」

「んっ……ちゅっ……んん」

 

 

 突然で驚いたのか初めは戸惑っていた零だけど、次第に慣れ親しんできたいつものキスに戻ってくる。零からの甘い唾液が私の中に注ぎ込まれていく。あぁ……このままキス中毒にまでなっちゃったらどうしよう?その時は責任、取ってくれるわよね♪

 

 

 これからもずっと、彼との幸せな時間が続きますように……

 




 これはもう『R-17.9』から『R-17.99』に昇格させた方がいいのではないでしょうか?むしろ「もっとやれ!」という人もいるかもしれませんね。どちらにせよ今回はいつも以上に激しい展開でした。絵里には申し訳ないことをしましたが、絵里推しの読者様はどう思われているのか知りたいところです。


 高評価を付けてくださった方、ありがとうございます!!お約束通りパワーアップして帰ってきたのですが、そのおかげでこんな話が生まれてしまいました(笑)


 先日の日間ランキング、最高5位に載せて頂いて感無量です!むしろこんなR-18の境界線を彷徨ってる小説が、由緒正しきランキング様に載せてもらっていいのかと疑問があります(笑)


 そしてそろそろリクエストも順次手を付けていきたいと思っています。思っているだけです。次回はまだ未定なのです。この話で力を使ってしまったので……


Twitter始めてみた。ご意見、ご感想、次回予告、更新時間など。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

零がスクールアイドル!?

 今回はリクエスト回!!零君がまさかのスクールアイドルにスカウトされます。それを汲み取ったμ'sの心情の変化にも注目です!

 この小説にしては珍しい超真面目回なので、覚悟した方がいいですよ(笑)


「アイドルだと?俺が?」

『そうそう、やってみない?』

「いやお前、いくらなんでもそれは唐突過ぎるだろ……」

 

 

 珍しく秋葉から電話があったかと思えば、突然『アイドルになってみないか?』とスカウトを受けた。女子高校生たちが集うスクールアイドルなら流行っているが、男のスクールアイドルなんて聞いたこともない。特段に俺はアイドル界隈の事情は詳しくないため、ただ俺が世間知らずなだけかもしれないが。

 

 

「まずどうして俺に白羽の矢が立った?」

『容姿端麗で運動神経も抜群、そして歌も上手いでしょ?だからだよ♪』

「それは表面上の理由だろ。ちゃんと説明しろ」

『も~う!!持ち上げればすぐだと思ってたのにぃ~~!!』

「俺はそんな軽い人間じゃねぇよ!!」

 

 

 容姿端麗で運動神経抜群とか、今更過ぎて持ち上げにもなっていない。俺を持ち上げるならそれ以上の魅力を見つけてみせるんだな。それはさて置き、歌が上手いのはどうだろうか?そもそもカラオケぐらいでしか歌わないから歌唱力は特別高いわけでもないと思うけど、アイツが適当に言ったことだから気にしない。

 

 

『別に込み入った理由はないんだけど、高校生にしちゃあ結構なお金が入るんだよ。まぁそれも動画を投稿して、視聴者の反響に応じてだけどね』

「金か……楓が無駄遣いするから意外と困ってんだよな。俺もそこそこ使う方だし」

『レッスンの期間は短くて、早ければ1週間、長くても2週間半くらい。恐らくそれなりに素質のある人を引き抜きたいから、短い期間での採用なんだと思うよ』

「それくらいなら丁度いいか。テストも終わったし、特にやることもないしな」

『およ?前向きに検討中?』

「あまり乗り気じゃないけど、やってみたいと思うところはある。ただしアイツらの意見を聞いてからだな。一応アイドル研究部の部員だし」

 

 

 スクールアイドルの募集を受けてしまえば、当然μ'sの練習に付き合うことはあまりできなくなってしまう。俺としてもみんなと会えないのはイヤだし、そこまで乗り気ではない。だが俺はアイツらが見てきた世界を、自分でも見たいと思っている。いくらμ'sと一番近しい仲だとしても、その世界だけは絶対に共有できない。それはスクールアイドルとして舞台に立っている奴らだけの特権だからだ。だから俺もアイツらと同じ世界を見て共有したい。

 

 

「とりあえず明日みんなに聞いてみる。話はそれからだ」

『前向きにお願いね♪』

「善処する。ところで、このスカウトに成功したらお前にいくら入る……?」

『さぁねぇ~♪』

「はぁ~……じゃあまた連絡すっから」

『はいはい~~♪それと郵送した資料が今日中に届くと思うから、適当に目を通しておいてね♪』

 

 

 秋葉の奴……俺がちょっとでもやる意思を見せたら露骨にご機嫌になりやがった。アイツの思い通りに動くのは癪だけど、俺の願いが叶うかもしれないんだ。いつもなら面倒だからやらないのだが、これはまたとないチャンス。やってみる価値はある。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「えぇーーーー!?零君スクールアイドルやるの!?穂乃果、人生一番のビックリだよ!!」

「そこまで驚くことか……?」

 

 

 大学生組を含め全員集合した学院の屋上、俺は練習の休憩の合間に昨日の内容をみんなに話した。これには穂乃果だけではなく全員から驚きの声が上がる。俺がめんどくさがりだってことは周知の事実だから尚更だろう。

 

 

「男のスクールアイドルねぇ~、にこはそこまで注目してなかったわ」

「私もです。スクールアイドルといえば女性がメインですから」

 

 

 アイドル好きのにこと花陽ですら男のスクールアイドルについてはよく知らないらしい。どれだけ認知されてないんだよ……でもそれだからこそ即戦力を集めて世間にアピールをしたいのだろう。

 

 

「でも零くんならアイドル似合うと思うよ♪もし零くんがスクールアイドルになったら、ことり全力で応援する!!」

「凛も!!もしかして一緒に踊れるかもしれないし!!」

「ハラショー!!私も零くんと一緒に踊って歌いたいです♪」

「穂乃果も!!零君と一緒にアイドルできたら楽しいだろうな~」

 

 

 ことり、凛、亜里沙、穂乃果は俺の背中を押してくれている。物珍しそうな目をしているところを見ると、にこと花陽もそうなのだろう。初めからこの6人が否定するとは全く思ってなかったけど、こうして後押ししてくれると嬉しいものだな。

 

 

「私も零と一緒にアイドルができるというのは素晴らしいと思うのですが、時間は大丈夫ですか?」

「そうやねぇ、あまりμ'sの練習に出られなくなるんと違う?」

「そこは割り切るしかないだろうな」

「私たちも零のアイドル姿は見てみたいし、やりたいなら挑戦してもいいんじゃないかしら。時間なら上手く調整するわ」

「悪いな」

 

 

 海未、希は絵里の提案に乗り、それならと快く勧めてくれた。意外とトントン拍子で話が進むんだな。でも俺もみんなと一緒に歌って踊れるのなら、割とスクールアイドルもアリだと思えてきた。

 

 

「零がスクールアイドルをしようがしまいが私たちの練習時間が減るわけでもないし、どっちでもいいんじゃない」

「私も特別どっちかと決められはしないので、零君の判断でいいと思います」

 

 

 ツンデレ組である真姫と雪穂は若干俺を突き放した背中の押し方だ。どっちでもいいという選択肢ほど迷うものはない。『今晩のおかずは何がいい?』理論と同じだ。でもツンデレの『どっちでもいい』は『やってみるといい』だからな。少なくとも俺はそう解釈する。

 

 

「それで楓、お前は?」

「それってお姉ちゃんが持ってきた仕事?」

「仕事ってわけじゃないけど、お金は貰えるらしい」

「ふ~ん……」

 

 

 なんかジト目で俺を見つめてくるんだけど!?もしかして俺に下心があると思われているのか!?いつもの俺ならそうだが、今回ばかりは違う!!俺の中で叶えたい願いがあるんだ!!

 

 

「じゃあやってみればいいんじゃないのぉ~」

「なんだよその適当さは……」

「別にぃ~~」

「そうか……じゃあやる方向で話を進めるか」

 

 

 今の楓に何を言っても『やればいい』で返されるだけなので、とりあえずスクールアイドルをやるという方向で話を通すことにする。まさか今までスクールアイドルを傍観する側だった俺自身がスクールアイドルになるなんて……人生何があるか分かんねぇもんだな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そこからの話は早かった。秋葉にその旨を伝えると光の速さで事務所と連絡を取り、俺をスクールアイドルとして仮登録した。仮というのはただ単にそこまで長く続けるつもりもないからだ。俺は一度でいいから舞台に上がることができればそれでいい。

 

 驚いたのは、秋葉が直接『ラブライブ!』開催事務局とのパイプを持っていたことだ。どうやら事務局側は秋葉を通じて、あらかじめ俺に目を付けていたらしい。やはり謀ってやがったな……でも事務局と直接交渉できるのはこちらとしても都合がいい。だがなぜスクールアイドルと無縁のアイツが、事務局とのパイプを繋いでいるのかは謎だ。

 

 

 

 

 そして俺はその翌日からレッスンを受けることになった。穂乃果たちの練習を見ていて『俺でもできるな』と思っていたのは大きな間違いで、やり始めてみると意外に手こずる。ダンスや歌などの感性がなかった俺に、いきなりステップを踏んだり声色を変えたりすることは非常に難しかった。

 

 だけど次第に上達していくのはとてつもなく楽しい。いつも俺はみんなに『もちろん上を目指すことはもちろんだけど、まずは自分たちが楽しめ』と言ってきた。レッスン中は、その自分の言葉が分かる瞬間の連続だ。さらにこのまま行けばアイツらと同じ土俵に立てると思うと、それだけで胸が掻き立てられる。手の届かなかった次元に俺も立つことができるんだ。

 

 もちろんμ'sの練習に参加することも疎かにしていない。μ'sの練習の場合俺はただの傍観者だが、俺がスクールアイドルを始めたことによって的確なアドバイスができるようになるならそれ以上のことはない。μ'sはメンバーであるみんなと俺、一緒になって引っ張っていくとあの時に決めたからな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零君、今日もレッスンあるの?」

「まあな。でも穂乃果たちの練習にもちゃんと参加するから」

「絶対だよ……?」

 

 

 レッスンは順調に進んでいる。このままいけば期限の2週間半までには簡単なPVぐらい撮影できるだろう。もしかしたら多くの女性ファンを獲得できるかもとちょっとだけ期待してみたり。いや、この俺だったら間違いなく黄色い声援を浴びるだろうな。楽しみ楽しみ!!

 

 

「大丈夫なのですか?私たちの練習に付き合って自分の練習にも打ち込むとなると、お身体の方が心配です」

「心配すんな。俺がタフだってことぐらい海未も知ってるだろ?なにより楽しんでやってるから、疲れなんて吹き飛ぶよ」

「そうですか、それならいいのですが……」

 

 

 まさかここまでアイドル活動が楽しいだなんて思わなかったな。いつも勉強には打ち込まない穂乃果や凛が、アイドル活動だけは真面目に取り組む理由がよく分かった。これでまたコイツらと共有できるものが増えたな。

 

 

「でも零くんと会える時間が少なくなって、ことりは悲しいかな……」

「俺もみんなと一緒にいる時間が少なくなって寂しいけど、もしかしたらことりたちと一緒に歌って踊れるかもしれないだろ?もしそうなったらっていう楽しみを想像して、今はお互い頑張ろうぜ」

「うん、そうだね……」

 

 

 今までただμ'sの傍観者だった俺に巡ってきた、最初で最後かもしれないチャンス。そのチャンスを掴めば、俺もμ'sが見てきた世界を見ることができる。これでもっとみんなとの距離が近くなるんだ。

 

 

 しかし――――この時、俺はまだ何も気づいていなかった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 それから間もなくして、俺のスクールアイドル人生初のPV撮影が始まった。そうは言っても仮登録でかつ元々期限付きのスクールアイドルなため、動画は派手な演出を入れない簡単なものとなる。この1週間で練習してきたダンスや歌をただ垂れ流すだけ。でもただの垂れ流しで反響があれば、その人材は正しく逸材というわけだ。

 

 

 俺は今までのレッスンで培ってきたことをPV撮影でフルに発揮し、無事に撮影を終えた。とりあえず仮のスクールアイドルとしての活動は一旦ここまで。あとはPVがどれだけの反響を呼ぶかによってこの先が決まる。お金はもちろん欲しいけど、それよりも一度だけでいいから舞台に立ちたいというのが俺の願いだ。

 

 

 そして反響のほどは――――――――俺の想像を遥かに超えていた。

 

 

 俺のPV動画はネットやSNSを通じて一気に拡散され、動画の再生数およびコメント数が初日から並大抵のスクールアイドルとは比較にならないぐらい伸びたのだ。これは秋葉や事務局側も想定外だったみたいで、話によれば俺に会いたいからと女性ファンからの問い合わせまで来ているとのこと。流石の俺も少し震えちまったよ。

 

 

 さらにそれは事務局だけにはとどまらず――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「お兄ちゃん、はいこれ」

「な、なんだこの手紙の量は!?免許更新の催促状じゃねぇんだから……」

「何言ってるの……これ全部ファンレターだよ、お兄ちゃんへの」

「ホントに!?いやぁ~、俺も有名になったもんだ!!」

 

 

 それから数日間、自宅のポストがパンパンにならない日はなかった。ファンレターには応援メッセージやPV動画の感想、中には『使ってください!!』という手紙にタオルやハンカチまで付けてくれる人までいて感謝をしようにもしきれない。これはあのA-RISEの気持ちがよく分かるな。有名になるって大変だけど、それだけ嬉しいこともあるんだ。

 

 

「楽しそうだね、お兄ちゃん」

「そりゃあこれだけ応援や感想を貰えば嬉しくないわけないだろ」

「そう……」

「お前、まさか俺が女の子からファンレターを貰ってるから……」

「それもある……」

 

 

 珍しく楓が真面目な顔で俺と向き合う。声のトーンもいつもより低めで、これは明らかにお怒りのご様子。いや、怒るというよりかは何かに呆れているみたいだ。やっぱり俺がこんなことで舞い上がっているからか?

 

 

「お兄ちゃんさぁ、私とμ'sを競わせた時に言ったよね、『みんなに追いついてみせろ』って」

「それがどうした?」

 

 

 

 

「前を歩き過ぎだよ、お兄ちゃんは……」

 

 

 

 

「なに……?」

 

 

 それだけ言い残すと、楓はリビングから立ち去ってしまった。

 前を歩く?俺が?あの"惨事"以降、俺はμ'sを見守る立場ではなく共に歩んでいくことに決めた。彼女たちがまた立ち止まってしまうことがあれば、手を引いて引っ張ってやるんだ。そのために彼女たちの前にいなきゃいけないのは当然のことだ。今更なことをなぜアイツは……?

 

 

 この時も、俺はまだ気付かなかった。心の奥に置きっぱなしにしていた願いがようやく叶うという嬉しさがあり、そしてそんな自分に酔いしれいていたのかもしれない。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「よっ、みんな準備できてる……あれ?」

 

 

 翌日の放課後、俺は掃除当番だったので遅れて部室へ入った。もう着替え終わって屋上へ行く流れだと思っていたのだが、何やらそんな空気ではなさそうだ。そこで1人1人の顔を見てみると、誰もが寂しそうな表情を浮かべ、穂乃果や凛に至っては目がウルウルとしていて泣き出しそうであった。一体何があった……?

 

 

「零君……」

「穂乃果……?」

 

 

 μ's全員が何か言いたそうにしているのは分かったが、その中の代表として穂乃果が口を開く。いつもの明るい口調とは全く違い、声が震えている。恐らく何か後ろめたい気持ちがあって、自分の口からは言いたくないことなのだろう。どこか後悔を背負っているような気もする。それはここにいる全員から感じられた。

 

 

「零君……スクールアイドル続けるの?」

「この前撮ったPVの反響がいいからな、あと少しぐらいは続けるかもしれない」

「そうだよね……零君、すごくカッコよかったもん。続ければ絶対人気が出るよ」

「あ、あぁ……ありがとな」

 

 

 多分だけど、俺は穂乃果たちが望んでいる答えとは別の答えを選んでしまったのだろう。今までの重い空気にさらに重圧が掛かる。息をするのも一苦労しそうなくらい、部室の雰囲気は張り詰めていた。

 

 

 

 

「そんなのイヤだにゃーーーーー!!!!」

「うおっ!?凛!?」

 

 

 

 

 遂に凛は涙腺が崩壊し、俺の胸に飛び込んで来た。彼女は大きな声を上げながら、大粒の涙を流し俺の身体をギュッと抱きしめる。俺は状況の理解ができず一瞬頭が真っ白になるが、改めて穂乃果たちを見て我に返った。

 

 穂乃果もことりも泣いている……?他のみんなもさっきより辛そうな顔をして――――あれ?どうして俺は今こんな状況に陥っている……?俺はスクールアイドルとして仮でもいいからデビューして、一度でいいから舞台に立ってみんなと同じ世界を見たかっただけだ。あわよくばみんなと一緒に踊ったり、歌ったり――――なのに、みんなは泣いている……どうしてこうなったんだ!?

 

 

「零くん、最近いつも早く帰って……全然一緒にいてくれないにゃ!!」

「い、いや……それは」

「さっきみんなと話してたんだ。零くんがこのままスクールアイドルを続けることになったら、凛たちはどうなるのかなって……」

「凛……」

 

 

 確かに最近はレッスンの都合でみんなと一緒には帰れなくなった。学年と教室が同じである穂乃果たちはまだしも、学年が違う凛たち2年生、雪穂たち1年生、そもそも学校自体が違う絵里たち大学生、そのみんなと一緒にいられる時間が急激に減ったことは事実だ。

 

 

 次に絵里が険しい表情のまま口を開いた。

 

 

「零がスクールアイドルとして活躍する姿を見るのは、私たちだって嬉しいわ。でも、そうなったらあなたは私たちから離れていってしまうと思ったの。今でさえこれだけ私たちと一緒にいる時間が減っているんだもの、これから本格的になるともう会えないかもってね……」

 

 

 絵里がここまで言葉を震えさせているのは久しぶりかもしれない。最後にこうなったのはいつだったか……卒業式、いやもっと悲しそうにしていたのは"あの時"だ。俺と元μ'sメンバー9人が争っていたあの時。その時ほど彼女たちの言葉から悲愴を感じたことはない。

 

 そしてまさに今、あの時と全く同じ悲愴を感じている……

 

 

 次に亜里沙が口を開く。もう彼女の目には涙が溜まりに溜まっていた。

 

 

「私、零くんと一緒にスクールアイドルをしたいです!!でも離れちゃうのはイヤ!!我が儘かもしれませんけどイヤなんです!!ずっと私たちの隣にいて欲しいです!!」

 

 

 続けて口を開いたは海未。彼女のこんな悲痛な目も、あの時以来かもしれない。

 

 

「あなたにスクールアイドルを勧めたのは私たちです。一度勧めておいて辞めろだなんて、おこがましいにもほどがあることも分かっています……」

 

 

 なるほど、だから言いづらそうにしていたのか……自分たちから勧めておきながら、それを辞めせようとする。そのどうしようもない葛藤とみんなは今までずっと戦ってきたんだな。

 

 

「穂乃果たちはずっと零君の側にいたい!!そして零君も穂乃果たちの側にいて欲しい!!亜里沙ちゃんの言う通り我が儘だよ!!我が儘だけど、この気持ちだけは絶対に抑えられない!!だから零君、遠くに行かないで!!ずっとずっと、一緒にいてよ!!」

 

「穂乃果……」

 

 

 また見てしまった――――穂乃果の涙を、そしてみんなの涙を。こんな悲しい涙を決して流させないよう心に誓ったはずなのに、俺はまた……

 そしてここで楓の言葉の意味がようやく理解できた。

 

 

『前を歩き過ぎだよ、お兄ちゃんは……』

 

 

 俺は"未来"にあるみんなの笑顔しか見ていなかった。"未来"の彼女たちが見せる最高の笑顔を想像しながら、自分の願いを叶えようとしていたんだ。それが"今"の彼女たちの笑顔を壊していたとも知らずに……

 

 

「ゴメン穂乃果、ゴメンみんな。辛い思いをさせてしまって……俺、スクールアイドルを辞めるよ」

「え……?」

「初めは自分の願いを叶えるためだったんだ。このままだとずっと叶わないであっただろう願いを。でも今やっと気づいたよ。俺が一番見たかったもの、それは舞台の上から見える世界なんかじゃない。本当に見たいのは、みんなの笑顔なんだって」

 

 

 そう、これが俺の見たかった世界。舞台に立てばみんなと同じ世界を共有できるようにはなるだろう。だけど根底はそこじゃない。俺の本当の願いは、みんなの笑顔を見ることなんだ。そしてその笑顔を決して消さないこと。あの時の惨事もみんなの笑顔が見たい、ただそれ一心で突っ走っていた。未来の想像に取り付かれて、今の彼女たちを見失っていたよ。

 

 

「零君……零くーーーーん!!」

「ちょ、ちょっと穂乃果苦しいって!!」

「凛も嬉しいにゃーーーー!!」

「凛まで!?」

 

 

 穂乃果や凛の涙は明るい涙に変わっていた。それはみんなも同じ。張り詰めていた雰囲気も緩和され、また暖かい空気が戻ってきた。穂乃果と凛に続いてことりや亜里沙にまで抱きつかれたけど、むしろ久しぶりに彼女たちの温もりを感じることができて懐かしい。いつもは止めに入る海未や真姫たちも『やれやれ』といった様子で、そして安堵の気持ちで俺たちを眺めていた。

 

 

 以前みんなには俺の我が儘を聞いてもらった。じゃあ今度は俺がみんなの我が儘を聞く番だ。体裁や上っ面の事情なんてどうでもいいし、綺麗事でもない。ただ誰よりも俺はμ'sのみんなと一緒にいたい。その笑顔を見ていたいという、俺の我が儘でもある。でも我が儘で何が悪い。俺はみんなの笑顔さえ見られれば、それだけで十分なんだ。そしてそんな彼女たちと一緒にいれば、自分の願いを叶える機会はまた訪れるだろう。

 

 

 今はその時が来るまで、みんなと一緒に――――――

 

 




 本当はこの話、プロットの段階ではもっと長かったのですが1話に収めなければならないという関係上、地の文だけで済ませてしまうシーンがいくつもあり、結果荒削りなところがいくつかあったことをお詫びします。
やっぱりこのような話は2、3話続けてやるべきでしたかね?かなり駆け足だったので。


 大体を1話に収める関係上、リクエストの内容によっては超短編小説として投稿するので活動報告にも目を光らせておいてください(笑)


 こういった真面目な文章を書いていると、『非日常』を思い出すので懐かしいですね。現に今でも『非日常』に感想を頂くこともあるので、まだ読んでいない人は是非読んでみてください!


Twitter始めてみた。ご意見、ご感想、次回予告など。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


 今回は崩葉さんからのリクエストを採用させて頂きました!!ありがとうございます!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ヤンデレる天使たち

 今回はリクエスト回第2弾です!

 ようやく揃って登場、μ'sの天使3人組!!あれ?少し向こうが騒がしいですね?皆さん、ちょっと天使たちの様子を見てきてくれませんか?


 

 

「亜里沙がここに来いって言ってたけど……誰もいねぇじゃん」

 

 

 急に亜里沙が『自主練をするので手伝ってください』と電話をしてきたため、俺は彼女に指定された公園へ来たのだが、そこには人っ子一人いなかった。穂乃果や凛じゃあるまいし、時間はしっかり守る子だと思っていたけど、まさか意外とその面に関してはルーズなのかもしれない。純粋過ぎてかなり度を超えた天然さんだからな。

 

 

「そもそも自主練って1人でやるのか?絵里が付き添ってくれるとか、雪穂と一緒にやるとか、全然そんなこと言ってなかったけど……」

 

 

 ダンスの練習なら絵里に教えてもらった方が効率はいいし、亜里沙はいつも雪穂と練習をしていたため、亜里沙が1人でかつ俺だけを呼び寄せたというのがどうも引っかかる。楓に聞いても何も知らないって言うし……もしかしたらダンスの自主練じゃないとか?じゃあデート!?俺を呼び寄せる口実が欲しかったとか?それなら可愛いものだけど。

 

 

 

 

「零くん!!」

 

 

「うおっ亜里沙!?お前いたのかよ!?」

 

 

 突然後ろから声を掛けられたので振り向いてみると、そこには俺が来る前からここにいたかのように亜里沙が立っていた。全く気配を感じなかったぞ!?どういうことだ……?ことり、花陽、亜里沙の天使組なら俺の天使センサーがすぐにでも反応するのに、今回はまるで背後に忍び寄られたみたいだ。

 

 

「私、零くんをずっと待ってたんだよ♪」

「えっ!?今来たんじゃないの……?」

「もう30分も前から待ってたよ。だって零くんに会えると思うと待ちきれなくって♪」

 

 

 普段の俺なら、亜里沙からこんなに可愛いことを言われれば確実に舞い上がっただあろう。変態野郎の俺をここまで慕ってくれるとは、やはり良くも悪くも純粋で天然ちゃんか。でも今はそんな有頂天にはなれない。彼女はさっきから『ウフフ……』と呟きながら、ニコニコと俺の顔を見つめるばかりだからだ。

 

 

「お、おい……」

「はい!!なんでしょうか零くん♪」

「え、笑顔が眩し……くない」

 

 

 亜里沙に話しかけるだけで、彼女は最高の笑顔を俺に見せる。だがその笑顔はいつもの天使の輝きではなく堕天使のようなヤバさというか、黒さを感じる。表面上ではもの凄くニコニコして、普通の男なら騙されてしまうところだが俺は違う。女の子の黒い一面は実際に体験したことがあるからすぐに分かる。

 

 

「今日はお前だけなのか?他に誰もいないようだけど……」

「えっ?いるじゃないですか……後ろに」

「え゛っ!?」

 

 

 

 

「もうっ!!零君ヒドイよぉ~~、さっきからずっといたのに!!」

 

 

「は、花陽!?いつの間に!?」

 

 

 ビビった!?まさか花陽が後ろにいるとは……亜里沙と同じく全く気配がなかったぞ。もしかしてコイツら、忍者の一族か何かか!?

 まあそんな冗談はさて置き、花陽もニコニコとした表情を崩さない。いつもならお花畑のようなオーラを醸し出している彼女も、今はまるで人食い植物かの如く俺の顔を食い入るように見ている。花陽がここまで欲望を外部へ向けるのはお米とアイドルの話題の時ぐらいなんだけどな……

 

 

「今日の自主連、零君が手伝ってくれるって聞いてずっと楽しみにしていたんだよ♪フフフッ♪」

「そ、それはありがとな……別に大したことはできねぇけど」

「そんなことないよ~零君が見てくれているだけで私、身も心も張り裂けそうなくらい頑張れるから♪」

「それはやめておけ……」

 

 

 こ、怖い!!花陽に恐怖を覚えることなんて今までにあっただろうか?これは以前ことりの家にお邪魔した時、彼女の日記を見てしまったことと同じくらいの狂気を感じる。あの後ことりに何をされたのか……ブルブル、思い出すだけでも恐ろしい!!

 

 

「な、なにっ!?」

 

 

 突然自分の両手首が掴まれたと思ったら、金属音がして俺の腕が後ろに固定させられる。こ、これは手錠!?両手首に付けられ、腕を動かすことができなくなってしまった。亜里沙と花陽は俺の前でニコニコしたままだし一体誰が……?

 

 

「零くん、つっかまえたぁ~~♪」

 

「その声は!?」

 

 

 またしても後ろからここにはいない第三者の声が聞こえてきた。この脳トロボイスは振り向かなくても分かる、ことりだ。俺は手を動かして手錠をガチャガチャとさせるものの、もちろん取れるはずがない。ことりは俺が暴れないようにするためか、俺の両手首を掴んで耳元で囁く。

 

 

「さぁ、一緒に練習しよ♪」

「れ、練習って、ダンスの練習だろ?どうして俺を拘束する必要がある!?」

「えっ?誰もダンスの練習なんて言ってないよ」

「なんだと!?」

 

 

 確かに練習(ダンスとは言っていない)としか聞かされてなかったな。それでもスクールアイドルなんだから、野外で練習って言われると普通ダンスを思い浮かべるだろ!!そして次第にことりが俺の手首を掴む力が強くなってきてやがる……おい、このまま脈を止められるんじゃ!?もしかしてまた俺なにかやっちゃった!?みんなの気に触るようなことあったかな……?

 

 

「じゃあ何をするために俺をここへ呼んだんだよ?」

「ことりちゃんと花陽ちゃんから聞きましたよ。この前、零くんがμ's以外の女の子とイチャコラしていたと」

 

 

 亜里沙がこの話をした途端、ことりと花陽のブラックゲージが上昇した。以前……あぁ、もしかして俺がアイツにチーズケーキを食わされていた時か。でもそれに関してことりも花陽も納得してくれたはずなんだが!?どうしてこうなった!?本当は相当根に持ってたのかもしれない。

 

 

「だ・か・ら♪零くんがこれからμ's以外の女の子とイチャコラしないよう、ことりたちが更生させてあげまぁ~す♪」

「楽しみだねことりちゃん♪」

「うん♪花陽ちゃんも零くんにしっかりと女の子を教えてあげるんだよ♪」

「はい♪」

 

 

 俺の……俺の天使3人組がここまで漆黒に染まった堕天使になっていたとは。それにさっきから連発されている『♪』が怖すぎる!!楽譜でこの記号を見たら今日のことが思い出されそうだ。

 

 

「じゃあまずはキスからいってみましょう~~♪自分の唾液を零くんの体内に送り込んで、零くんはことりたちのものだということを他の女に見せつけよう♪」

「「は~い♪」」

 

「待て待て!!俺の意見は無視かよ!?」

 

 

 キスするぐらいならいいと思ったけど、ことりの言い回しが生々し過ぎて急にキスしたくなくなったぞ!!彼女であることりと花陽は最悪いいとしても、亜里沙とは流石にキスすることなんてできない。もししてしまった場合通報されるまである。いくら堕天使となっているとはいえ、亜里沙を汚すことなんて俺には絶対にできない!!

 

 

「この前、零君とクレープを口移しした時は気持ちよかったなぁ♪今度は私の分泌液をたくさん送り込んであげるね♪」

「送り込まなくてもいいから!!仮にやるとしても普通のキスにしてくれ」

「ダメだよ……」

「へ?」

 

 

 さっきまでご機嫌だった花陽だが、一転して表情もオーラも邪気に満ちる。これはもしかして、ヤンデレ特有の踏んではならないスイッチを踏んでしまったのかもしれない。花陽は俺のすぐ目の前まで歩を進め、光など一寸もない闇に覆われた目で俺の目を貫く。

 

 

「これはね、零君に他の女の子が寄り付かないようにするためだよ。私の分泌液で零君の身体を支配するから、もうこれからそんな心配をする必要もないけどね。フフフッ♪零君は私たちのもの……零君零君零君零君零君零君零君零君零君零君零君零君零君」

 

「落ち着け花陽!!お前は1つ1つのキスを大切にする奴だったはずだ!!こんな欲に塗れたキスなんて――――ってむぐぅ!!!!」

 

 

 俺の説得も届かず、花陽は自分の唇を無理矢理俺の唇に押し当てた。いつもはソフトなキスを望む花陽だが、今回はそれと全くの真逆。初めから唇を開いて俺の口に舌をにゅるっと忍び込ませる。それと同時に口に溜めていたのであろう唾液をすべて俺の身体に流し込んだ。

 

 

「んっ……んん!!」

 

 

 花陽は少し唸り声を上げながら、俺を思いっきり抱きしめ自分の唾液をドクドクと流し続ける。抵抗できない俺はただ彼女の分泌液をゴクゴクと飲み続けるしかなかった。濃厚過ぎるキスに段々と息苦しくなってくる。花陽は自分の舌を俺の舌に擦り付けながら新たな唾液を生成し続け、それを今度は自分で飲み込み楽しそうに味わっていた。

 

 

 ――――ってこれはマズイ!!酸欠になる!!

 

 

 俺は力を振り絞り、いつもとは違って何倍もの力で俺を抱きしめている花陽をようやく剥がし取ることに成功した。

 

 

「はぁはぁ……危うく窒息死するところだった……」

「零君の唾液が私の身体に!?もうこれからは何も食べないし何も飲みません!!この身体を一生維持します!!」

「いや死ぬからねそれ!!」

 

 

 そこまで俺のことを想ってくれるのは嬉しいが、愛の方向だけは歪まないようにしてくれ。このままだと俺が先に死んでしまう。これで花陽がキス中毒になっちまったらどうしよう……?毎日キスをせがんでくる花陽か……それはそれでありかも。

 

 

「次は私の番ですね!!」

「待て!!亜里沙とキスはできない」

「えぇっ!?どうしてですか!?折角私の分泌液で零くんを染め上げられると思ってたのに……」

「やめろやめろ!!もう勘弁してくれ!!それにお前とは恋人同士じゃないんだ、流石にキスは無理だよ」

「むぅ~~、じゃあこの前みたいに膝に座らせてもらってもいいですか?」

「ま、まぁそれだけなら……」

「やった♪じゃああそこのベンチでお願いします♪」

 

 

 そして俺は亜里沙に誘導され、近くのベンチに座らされた。亜里沙の表情は依然としてニコニコしたままだ。まさかこの笑顔に恐怖を感じる時が来るとは思ってもみなかったが、彼女のことだ、悪気などは一切ないのだろう。それを思うと抵抗するのが申し訳ない気持ちになる。それが彼女の巧妙な作戦なのかもしれないが。

 

 

「それでは失礼します♪」

「あ、あぁ……」

 

 

 俺が承諾した瞬間、亜里沙は勢いよく俺に股がる。そんなに急がなくても――――ってえぇ!?対面座位なんて聞いてねぇぞ!?以前とは逆で、亜里沙は俺の方を向くように俺に股がったのだ。そのまま俺の首に腕を回し、ニコッと微笑む。だ、ダメだ騙されるな。これは天使を装った堕天使だ。気を許すと花陽みたいなことになっちまうぞ。

 

 

 それよりもどんなことよりも、さらに興奮することが起こっていた。今日の亜里沙はかなり短いスカートを履いている。さらに俺に股がる時にスカートを直していないため、俺の股には亜里沙の股が直に乗っかっていることになるのだ。つまり亜里沙のパンツの感触、そしてその薄いパンツから感じられる彼女のアソコの割れ目のラインまではっきりと伝わってきた。

 

 これは――――別の意味で俺が爆発してしまいそうだ!!恥ずかしがらずずっとニコニコしている亜里沙を見る限り、恐らく狙ってやっているのだろう。その笑顔からは黒さしか感じられない。

 

 

「分かりますか、私の感触。これが女の子ですよ♪他の女の子のことなんて忘れちゃってくださいね♪」

 

 

 誘ってんのかコイツはぁあああああああああああああ!!そこまで男を弄ぶのが楽しいかぁあああああああああああああああ!!亜里沙に『これが女の子ですよ♪』なんて誘惑されてみろ、理性が飛ばない男なんていないだろ!!くそっ、今すぐ触りたい!!このパンツから伝わってくる感触を生で味わいたい!!この手錠さえなければぁあああああああ!!

 

 

 ハッ!!落ち着け……深呼吸だ。これは本当の亜里沙ではない。ここで無理矢理手を出してしまったら彼女を傷つけることになる。今はまだその時じゃない……ゆっくり落ち着いて対処するんだ。

 

 

「亜里沙の気持ちは十分に伝わったから、そろそろいいかな?ほら、今のままだと手錠があるから何もできないし。また今度……な?」

「むぅ~~、でも私も満足しました♪零くん、気持ちよかったですよ♪」

 

 

 それはどっちの意味なんですかねぇ~~。それよりも素直に膝から降りてくれてよかったよ。もう理性崩壊のカウントダウンが俺の中でスタートしていたからな。もう少しであの亜里沙の純潔を奪ってしまうところだった……

 

 

「じゃあ最後はことりだね♪あっ、零くんは座ったままでいいよ♪」

「おい、何をする気だ?」

「他のメス豚たちが寄り付かないように、ことりの匂いを零君に擦り付けておこうと思ってね♪」

「『思ってね♪』じゃなくて!!なぜ服を脱ごうとしているのかを聞いているんだ!!」

「え?だって零くんって女の子の裸、好きでしょ?」

「す、好きだけど……それが匂いを擦り付けるのとどう関係が!?」

「ことりも零くんも裸になって、お互いに全身を擦り付ければいいんだよ♪これでメス豚も追い払えるね♪」

 

 

 アウトだ!!これは道徳上もアウトだし、放送上でもアウトだ!!いやもう今更かもしれないが、野外露出だけは抑えなければ!!まだそのラインを俺たちが超えるのは早すぎる!!とにかくこの露出狂を静めないと俺に未来はない!!

 

 

「花陽ちゃん、亜里沙ちゃん!!零くんの服を脱がしてあげて♪」

「「はい♪」」

 

 

 積んだかこれは!?!?俺は手錠で両手首を封じられているから抵抗するにも抵抗できない。どうする?このまま野外プレイに身を投じるしかないのか!?花陽と亜里沙の手が俺の服とズボンに掛かる。もはやこれまでなのか!?

 

 

「零君脱ぎ脱ぎしましょう~♪」

「私もドキドキしてきました♪」

「ことりの脱ぐところも見ててね、零くん♪見てないと……ちゅんちゅんしちゃうぞ♡見てなくてもしちゃうけどね♪」

 

 

 ことりは既に上着を脱いで、白いシャツ1枚になっている。興奮しているのか汗でびしょびしょにシャツが濡れているため、下着が透けて丸見えとなっていた。俺はそれに目を取られ、この状況の打開策を考える余裕すらなくなってくる。

 

 

「零くんはことりたちが守ってあげるからね♪ことりの大好きな零くん♪零くん零くん零くん零くん零くん零くん零くん!!ちょっと服を脱いでいる零くんもカッコいいよぉ~♡」

 

 

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!これは踏み込んではならないラインに、もう髪の毛一本でも動かせば踏み込んでしまう!!

 

 

 もう、おしまい……か?

 

 

 

 

 

 

「はいはいそこまで~~!!はいど~ん♪」

 

 

 

 

「「「!!!」」」

 

「あ、秋葉!?」

 

 

 突然俺たちの目の前に現れたのは秋葉だった。やっぱりコイツらが急におかしくなったのは秋葉のせいだったのか。大抵こういうことをするのはコイツだと相場は決まっている。今回も1枚噛んでいると思ったがまさにその通りだった。

 

 そして秋葉はことりたちの口に無理矢理解毒剤(?)的なモノを飲ませる。『ど~ん』と言ったが、別にビームとか打ってないからな。

 

 

「おい、ことりたち大丈夫か?倒れちまったぞ?」

「心配しなさんな、興奮が冷めて寝ちゃっただけだから。ほら、いい顔してるよ~」

 

 

 ことりたちの表情を見てみると、確かに可愛い顔をして眠っていた。とにかく嵐は去ったんだな、よかった!!あのまま行ったら、拘束されたまま野外プレイを楽しむただの変態になってたからな。

 

 

「これもお前の仕業か?」

「うん♪」

「元気よく答えんな……でもどうして俺を助けた?」

「零君の純潔を残しておけば、また同じようなことで楽しめるじゃない♪」

「……」

 

 

 最悪だなコイツ……もうそれしか言葉が出てこない。確かにみんなの行為には少し、いやかなりドキッとしたけど、恐怖を伴う興奮なんてしたくねぇよ!!多分俺の寿命縮まったな……

 

 

「じゃあね零君、みんなが起きるまでちゃんと見守ってあげなきゃダメだよ?」

「おいちょっと待て!!手錠だけは外してけ!!」

「えぇ~~それが人にものを頼む態度ぉ~~?」

 

 

 ウゼェええええええええええええ!!楓といいコイツといい、俺を苛立たせるのだけは天下一品だな……

 

 

「……外してくれ、頼む」

 

 

 

 

「や~だね♪」

 

 

 

 

「はぁああああああああああああああああああああああ!?!?!?」

 

 

「じゃあねハーレム野郎♪爆発しろ♪ここに警察でも通りかからないかなぁ~~」

 

 

「おいやめろ――ってホントに行くのかよ!!待てって!!おーーーーーーーーい!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 ちなみに元に戻ったことりたちの記憶には、あの時の出来事が鮮明に残っていたみたいで――――

 

 以下が元に戻った彼女たちの反応。誰が誰かはご想像にお任せする。

 

 

「あわわわ……私ってばなんてことを!!あんな濃厚なキスなんて、あわわわわわ……」

 

「零くんとあそこまで触れ合えるなんて……でも恥ずかしいですっ!!」

 

「あ~あ、惜しかったなぁ~~もうちょっとだったのに!!でもまた楽しみができたからいっか♪大好きだよ零くん♡今度は逃げられないよ、フフフッ♪」

 

 




 どうでしたか、天使たち3人組の様子は?騒がしかった理由は分かりましたか?えっ!?言いたくない!?どうして!?


 ――――ということで、前書きと後書きでも遊んでみました(笑)

 まず1つ言い訳。ヤンデレモノを書いていたら、結局変態モノになっていた……

 今回の話はいつか書くだろうと思っていた話だったのですが、まさかここまでキャラ崩壊を起こしてしまうとは……いやぁ変態の妄想は恐ろしいですね!
 前回の真面目回から連続で読んでくれた方は、ギャップの違いに困惑したことでしょう(笑)


 今回は橘田 露草さんからのリクエストを採用させて頂きました!!ありがとうございます!


Twitter始めてみた。ご意見、ご感想、次回予告など。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia

~付録~
 『日常』でも一度行った、どのキャラが何話出演しているのかを数えてみた。自分は本当にこのような統計が大好きです(笑)

・零(35/35)
主人公ですから、当然と言えば当然ですね!

・穂乃果(23/35)
本家の主人公ですから!

・ことり(21/35)
基本的にこの小説では危ないキャラ(笑)

・海未(20/35)
実はこの話以外では、ことりとセットで出演してました。

・花陽(21/35)
この小説では割と個人にスポットライトが当たってますね。

・凛(20/35)
花陽とは逆で、あまり個人にライトが当たってないですね。

・真姫(21/35)
ツンデレって扱いやすい!!

・絵里(16/35)
大学生組は軒並み少ないですね。

・希(15/35)
そろそろ彼女メインの話も作りたい。

・にこ(15/35)
もっとスポットライトを浴びせたい。

・楓(23/35)
コイツのキャラは書きやすくていい。

・雪穂(20/35)
ツンデレ属性2人目。

・亜里沙(20/35)
今回は特に可愛かったでしょう?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ロリコン警報発令中!!

 今回はリクエストではなく通常回。零君が矢澤のロリ姉妹と戯れるだけ!!もうこの時点で零君にロリコン認定をしてやりたいですね(笑)


 

「こんなクソ暑い時期に冷房が壊れるとか正気かよ……」

 

 

 日中の残暑も厳しくなってきた5月末、俺はポンコツ(絵里ではない)になった自室の冷房の後釜を探すため、ショッピングモール内の家電量販店に向かっていた。

 ネットショッピングが普及しているご時世、家電を買うにも通販の方が安い場合があり、種類も豊富なためわざわざ家電量販店に赴く必要がないという現状がある。それでも俺が足を伸ばしている理由は、それなりの値が張る家電を自分の目で実際に見て品定めしたいというただの自己満足だ。

 

 

「人が多い……貧血で倒れて死にそう」

 

 

 俺は人混みが好きではない。そもそも人混みが好きだって人の方が珍しいか、いや可愛い女の子を合法的に見られるという観点なら好きな人もいるかもな。俺だってその条件だったら……まぁ悪くはない。

 

 それにしても、彼女が9人もいるのにも関わらず、こんなクソ暑い休日にたった1人でショッピングモールに行くなんて寂しい人生だね~……そりゃあ俺だってみんなとキャッキャウフフなデートを楽しみたいよ!!男だもん!!でもみんな用事だったり、楓は暑いからと言って引きこもりになったりで、どうあがいてもぼっちで出かけるしかなかったんだよ!!

 

 

 はぁ~……ぼやいていても仕方ないし、サッサと用を済ませて帰るか。

 

 

 

 

 

「あっ!!ロリコンのお兄さんだ!!」

 

 

「あ゛っ!?誰がロリコンだゴルァ!!!!」

 

 

 後ろから突然幼い声で因縁を付けられたため、俺は反射的にその相手を威嚇した。

 

 だが待って欲しい。周りには俺以外にもたくさんの人がいるのだ。つまり、その因縁が俺に付けられたとは限らないのである。それなのにも関わらず、俺は反射的に相手の挑発に乗ってしまった。相手の顔も分からないのに。したがって、言い返してしまったせいで俺は周りから見ればロリコンということになってしまうのではなかろうか?

 

 その逆で、もし仮に因縁が俺に付けられていた場合、俺はロリコンということになる。幼そうな声でそう言われているんだ、弁解のしようもない。

 

 つまりだ、言い返した時点で俺はどちらにせよロリコンということではないだろうか…………し、しまったぁあああああああああああああああああ!!

 

 

「だ、大丈夫!?身体震えてるよ?」

「だ、大丈夫大丈夫――――って、お前はにこの妹の……こころ?」

「ここあだよ!!」

「あっ、ホントだ……」

 

 

 俺に因縁を付けてきたのは矢澤ここあ。にこの妹の1人であり、こころと違ってやんちゃな性格。見た目はこころと変わらないが、髪の毛を向かって左側に結んでいるのがここあだ。ちなみにこころは向かって右に髪を結んでいる。正直この結び方を変えられたら、俺では見分けがつかないだろう。

 

 

「久しぶりだね♪ロリコンのお兄さん!!」

「口を閉じろクソガキ。大人をからかうと痛い目みるぜ」

「女の子に痛い目!?やっぱりロリコンなんだ!!」

「悪かったからロリコンロリコン言わないで!!周りに人いっぱいいるから!!」

 

 

 くそっ!!高3男子と幼い女の子じゃ俺に勝ち目がない(社会的な意味で)。確かこころが今年から中学生だから、コイツはまだ小学生なんだよな。ダメだ、これ以上の抵抗は社会的に抹殺される恐れがある。ここは穏便に事を回避しよう。

 

 

「それにしてもお前はここで何してんだ?1人か?」

「『1人か?』って聞いてくる男はロリコンだってお姉ちゃんが言ってたよ♪」

 

 

 こら矢澤ぁあああああああああああああああああ!!自分の妹にどんな教育を施してやがる!!確かに合ってるけど、そこは『俺以外の男』という言葉を付け加えておいて欲しかった!!それにそんなことを言う奴はロリコンじゃなくてただの変質者だろ……

 

 

「いいから真面目に答えてくれ、周りの目が痛い……」

「あはは♪こころと一緒に買い物に来たんだけど、人が多くてはぐれちゃって~」

「いや『はぐれちゃって~』じゃなくて、探さなくていいのかよ」

「大丈夫!!このでっかい時計の前に集合って、さっき電話したから」

 

 

 前から思ってたけど、矢澤姉妹って中々スペックが高いというかしっかりしている奴らばかりだな。にこはいいお姉さんで、こころは礼儀正しく、ここあは頭の回転が早いような気がする。これはこたろうも大物になるんじゃないか?

 

 

「ロリコンのお兄さんもお買い物?」

「まずその"ロリコンのお兄さん"っていうのをやめようか。俺には"神崎零"というカッコいい名前があるんだよ」

「自分でカッコいいとか……引くわぁ」

「お前急にドライになるなよ……せめて"ロリコン"だけは名前から外してくれ!!」

「じゃあお兄ちゃんでいい?私、お兄ちゃん欲しかったんだ!!」

「まぁそれでもいっか……」

 

 

 笑顔でそんなことを言われたら、心にグッと来るものがある。決してロリコンだからじゃないぞ!!普段は楓からしかお兄ちゃんって言われてないから、ちょっと舞い上がっただけだ!!

 

 

「いたいた!!やっと見つけました!!」

「あっ、こころが来た。お~い!!」

「もう勝手に先へ行ってはダメですよ――――って、零さん!?」

「よっ、久しぶりだな」

 

 

 そして矢澤こころのご到着。こころの奴、見ない間に大きくなったなぁ~~。やっぱり中学生になると誰しも大人っぽく見えるもんだ。もしかすると、身長だけならにこを追い越してしまうかもしれないぞ。胸の方は――――って、なんで俺は数ヶ月前まで小学生のだった子の胸見てるんだ!?アイツらと恋人同士になってからというもの、もう可愛い女の子を見るだけで反射的に目が胸に行ってしまうようになった。煩悩退散煩悩退散!!

 

 

「どうして零さんと一緒に……?」

「さっきたまたま会ったんだよ。『ロリコンのお兄さん』って言ったらすぐに振り向いてくれたんだ!!」

「ろ、ロリコン……?零さん、まさかここあに……」

「違う違う!!お前の被害妄想だ!!それにこの前、その誤解は解けたはずでは……?」

「そうですけど、妹やお姉ちゃんに手を出すのなら容赦はしません!!特にロリコンには……」

「だから何もやってないから!?それにお姉ちゃんって……まぁアイツもロリの類だけどさ」

「やっぱりお兄ちゃんはロリコン!?」

「ちょっとお前ら一旦黙ろうか!!」

 

 

 このままコイツらにベラベラ喋らせておくと、いつか俺が社会から追放される時が来るだろう。いくら俺が完璧だといってもロリっ子には敵わない。俺の弱点がロリっ子だと世間に知られたら、俺とμ'sのみんなが付き合っていることに嫉妬したファンが俺にロリっ子を送りつけてくるかもしれない。そうして俺を社会的に抹殺しようと……

 

 別に付き合っていることは一部の人を除き外部に言ってないから、それは有り得ないんだけどね……

 

 

「今からお兄ちゃんと一緒に遊ぶことにしたから!!こころもいいでしょ?」

「いいですけど……零さんにも用事があるのでは?」

「俺か?俺は別にいいよ。このまま帰ったって妹の相手をしなきゃならないからな」

「決まりだね♪じゃああのおっきい公園へ行こうよ!!」

 

 

 ここあが指を差したのは、ショッピングモールの敷地内にあるでかい公園だ。そうはいっても遊具などはなく、代わりに屋台がたくさん並んでいるので公園というよりかは憩いの広場という感じだ。

 

 

 成り行きで承諾しちまったけど、これって俺の人生大丈夫?通報されたりしないよな?彼女の妹たちと一緒に遊ぶだけなんだ、それ以外に特別な感情なんてない!!そう、これはガキのお守りだ!!俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない……

 

 

「ほら行くよ、ロリコンのお兄さん!!」

「呼び方戻ってる!?!?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ほら、ジュース買ってきたぞ」

「おっ、きたきた♪」

「もうっ、失礼ですよここあ!!すみませんわざわざ……いくらでしたか?」

「えっ?いいって!!気持ちだけ受け取っておくよ」

「ぷはぁーー!!冷たくて美味い!!」

「もうここあったら……ありがとうございます!!」

「どういたしまして」

 

 

 そもそも、小学生と中学生からお金なんて受け取れるかよ。これはプライドというよりも道徳的にやっちゃいけないような気がする。

 そしてこころとここあ。ほぼ同じ見た目をしているのにも関わらず、ここまで性格が違うものなのか。別に感謝されるために買ってきたわけじゃねぇけど。それに、俺はコイツらが笑顔でさえいてくれればそれでいい。コイツらが自分の彼女の妹だからとかそういうことじゃなくて、単純にこの子たちの笑っている姿を見たいだけだ。そのためならどれだけでも貢いでやるよ。

 

 なんだろうか……俺が言うこと一言一言がロリコン発言に聞こえなくもない。穂乃果たちに『笑顔でさえいてくれれば』って言うのは大丈夫だけど、こころとここあに言うと途端にロリコン判定を下されそうだ。世間の目ってメンドくせぇ……

 

 

「うぐっ、ケホッケホッ!!」

「だ、大丈夫ですかここあ!!」

「そんな一気に飲もうとするからむせるんだよ」

 

 

 そんなキンキンに冷えたオレンジジュースをゴクゴクと一気飲みするからだ。あ~あ、可愛い洋服なのに少し汚れちゃったよ……どうすっかなぁ、近くに洗えそうな場所はないものか。でもとりあえず口だけでも拭いてやるか。

 

 

「今口拭いてやるから動くなよ」

「んっ……むぐっ」

 

 

 俺はハンカチでここあの口周りに飛び散ったオレンジジュースを拭ってやった。全く、やんちゃで世話が掛かる奴だな。でもそれが可愛いから憎めない。生意気だけど可愛気があるところは凛やにことそっくりかもな。こっちは純粋なロリっ子だけど……

 

 ん?待て待て、また俺はロリコン発言をしていたのでは!?いや、ロリコンロリコンって思うからロリコンに見えるだけで、何も思わなければそれで済む話じゃないか!!だったらコイツらをロリっ子ではない別の設定に置き換えて想像してみよう!!

 

 そうだ、穂乃果たちと同じく彼女という設定にしてみよう――――って、ダメだ!!こころとここあを俺の彼女とか、そんな設定を考える時点で俺はロリコンだ!!それはもっと成長してから、高校生ぐらいになってからだろその設定は!!

 

 高校生のこころとここあか……可愛くなるだろうな、絶対――――って、また妄想しちまった!!もう俺を誰か止めてくれぇえええええええ!!

 

 

「零さん?もしかしてお疲れですか?」

「えっ、だ、大丈夫だ。ありがとな」

「そうですか?顔色が悪いような気がしますけど……あっ、じゃあこれ飲みますか?」

「な゛に!?!?」

 

 

 俺を心配してくれるのはありがたいけど、飲みかけを俺に向けるのはやめてくれ。こころが口を付けていたストローの先から、ジュースの雫が垂れてすごくいい味だしてやがる!!そりゃあ俺だって飲みたいよ!!だってこんな可愛いくて天使みたいな子が飲んでいたジュースなんだぞ!!一緒のストローで飲みたくないわけないだろ!!でもそんなことをしたら本格的にロリコン認定されてしまう!!

 

 

「じゃあ私のジュースも飲んでよお兄ちゃん!!これ美味しいから!!」

「はぁ!?い、いや俺はいいよ……」

「えぇ~……美味しいのに……」

 

 

 そんなしょぼんとした顔すんなよ!!可愛いじゃねぇか!!さっきまでやんちゃで生意気だったここあが、急にしおらしくなりやがった!!俺はそんな女の子のギャップに弱いんだよ!!特に小さな女の子にそんな顔をされると断れなくなる!!そこまで俺をロリコンに仕立て上げたいのかコイツらは!?

 

 

「分かった!!飲むよ飲めばいいんだろ!!」

「へへ♪やった!!」

「零さん、私のジュースもいかがですか?」

「う゛っ、じゃ、じゃあ頂こうかな……?」

「はい、どうぞです♪」

 

 

 何でそんなに嬉しそうなの2人共……特にこころの顔がトマトみたいに赤くなってるぞ!?か、可愛いじゃねぇか……

 こ、これは決して飲みたいとか、そういうのじゃないんだからね!!ただ2人がくれたから飲むだけなんだからね!!

 

 俺は覚悟を決め、2本のストロー同時に自分の口を付ける。遂にこころとここあの2人と関節キスをしてしまった……でもこの2人はまだまだ子供だ。そんなやましいことなんて微塵にも思っていないだろう。俺が黙ってさえいれば何も起こることはない。あらぬ被害妄想をするから傷が拡大するのだ。

 

 あ、甘いな、こころとここあのジュース……

 

 

「あっ……」

「ど、どうしたこころ……?」

「いえ!!なんでもないです……」

 

 

 こころの顔が赤い。もしかしてコイツ……ま、まさか!?いや、こころは中学生になったばかりなんだぞ、関節キスぐらいで……ねぇ?そしてここあはこころを見てニヤニヤしている。こ、これは……なんとなく分かったけど黙っておこう。だって中学生になったばかりの子と恋愛なんて、いくら何でも早すぎるだろ!!9股野郎の俺でもそれだけはできない!!

 

 

「ほれ、ジュース返すよ」

「あれぇ~?全部飲んでないよ?」

「流石に全部もらうわけにはいかないだろ。この俺が買ってやったんだ、しっかりと味わって飲め」

「じゃあ下に溜まっているから振っちゃお」

 

 

 ここあが飲んでいたのは果汁入りのオレンジジュースで、オレンジの粒が一緒にジュースの中に入っているモノだ。飲んでいる間に下に溜まった粒をジュース全体に分散させようとカップを振り始めたのだが、ここまで不幸続きの俺のカンがここあを止めるよう指示してきた。

 

 

「ここあ、あまりカップを振ると――――」

「きゃあっ!?」

「こ、こころ!?」

 

 

 お、遅かった!!

 

 ここあがカップを振り過ぎたせいでフタが取れ、中身のジュースがこころの胸にぶっかけられた。なんてオイシイ展開……いやいや、なんたる不幸な展開なんだ!!早く拭いてやらないと!!

 

 そこで俺はハンカチを取り出したのだが、なぜかそれに付いていたオレンジの染みについて考えてしまった。

 これって……さっき俺がここあの口を拭いてあげた時の染みだよな?つまりここあの唾液がこれに――――って、また変なことを妄想しようとしている!!違う!!これは最近ことりが、俺の涎付きハンカチを収集してるってカミングアウトしてきたせいなんだ!!俺はアイツに精神操作されているんだ!!

 

 

「いやぁ~~ベトベトです!!」

「あわわ、私はハンカチ持ってないし……お兄ちゃん!!早くこころを拭いてあげて!!」

「あ、あぁ……」

 

 

 そこでさらに追い討ちをかけるかのように、俺の目にとんでもないものが映り込んだ。

 こころが着ている服は白いシャツ1枚だけ。外が暑いから薄着になるのは仕方ないことだけど、飛び散ったジュースのせいで白いシャツの下が透けて見えていた。

 

 しかもコイツ、下着を着けてない……だと!?これくらいの女の子って下着を着けないの!?確かにまだ中学生になったばかりだけど……み、見えそう!!女の子の胸の先端が……こころのお豆さんが今にも透けて見えそうだ!!水も滴るいい女という言葉があるけど、中学生にして非常に絵になる光景だ。どうしてここまで興奮を掻き立てられる!?

 

 どうする!?これは目を逸らすべきなのか否か?男としてなら見るべきだ!!いくら相手がロリっ子だろうが女の子であることには変わりはない!!でも見てしまうと道徳的にも社会的にも抹殺される!!俺は彼女の妹、しかもまだこの前まで小学生だった子の裸を見るような真似をしているんだぞ!?

 

 

 見るか見ないか、ここで俺が選ぶ選択肢は――――

 

 

 もちろん見――――

 

 

 

 

 

 

「いたいた!!おーーい!!こころ、ここあ!!」

 

 

「あっ、お姉ちゃんだ!!」

「お姉さま!?」

「えっ!?に、にこ!?」

 

 

 俺が決断をしようとした瞬間、突然聞きなれた声が聞こえてきた。前を見てみると、遠くからにこが妹たちの名前を呼びながらこちらへとやって来る。それと同時にこころはにこの方を向いてしまったため、彼女の透けていた肌を拝むことはできなくなってしまった。いや、見ようと思ってないけどね!!信じてくれ!!

 

 

「その服どうしたの!?ジュースこぼしちゃった?まさか……零?」

「なんでやねん!!とりあえず俺のせいにしておけばいい理論やめてくれないかな!?それよりお前、今日大学の補講って言ってなかったか?」

「もう終わったのよ。そこで買い物してたらアンタらを見つけたってわけ」

「なんたる偶然……」

「とりあえず近くのトイレで着替えましょ。さっきこころたちのために買った服があるから」

「そうだな。俺がここあを見てるから、すぐに行ってこいよ」

「悪いわね」

 

 

 にこが来てなかったら今頃どうなっていたのだろうか……?興奮を抑えきれずにその場で取り押さえられ、そのまま刑務所行きの可能性だってあったかもしれない。どうであれにこに感謝をしなきゃいけないな。

 

 

 こころがにこに連れて行かれたため、俺はここあと2人きりになる。去り際に、頬を真っ赤に染めたこころが俺のことをチラッと振り返ったのが大人の女っぽくて少しドキっとした。

 

 

「こころって、家でお兄ちゃんの話題が出るとすごく嬉しそうにするんだよ!!」

「えっ!?」

「さっきから、ずっとこころの顔が赤かったことに気づいてた?」

「ま、まぁ恥ずかしいからだろうな……」

「それもあるけど、もしかしたら見てもらいたかったんじゃない?」

「見てもらいたい!?な、なにを!?」

「さぁね~~♪」

 

 

 そして俺は今日一日、こころの濡れ場シーンがずっと頭に浮かんで消えることはなかった……

 

 

 もういいかな?ロリコンでも……

 

 




 遂に零君が悟りを開いた!!これで零君と矢澤のロリ姉妹がイチャコラする展開を書くことができますね(笑)


『服が濡れて透けて肌が見える』というハプニングが好きになってしまったため、今後も同じような展開があると思われます。でもそれを矢澤のロリ姉妹に使うのはためらわれましたが……


Twitter始めてみた。ご意見、ご感想、次回予告など。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


次回のタイトルは『神崎零のハーレムな1日』!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神崎零のハーレムな1日

 今回は日常回!
 零君が普段毎日をどのように過ごしているのかを描いてみました。特に話に起伏もないので、みんなのイチャイチャっぷりに少しでもニヤついてくれると嬉しいです!


 またちょっとした宣伝があるので、是非後書きもご覧下さい。


 

 

「もう2時か……そろそろ寝なきゃな」

 

 

 月曜日の夜っていうのは非常に心が重たい。まだ休日までに4日もあると思うと、このまま週末まで寝て過ごしたくなってしまう。特に最近はバタバタ(主にスクールアイドルになったりとか、ヤンデレた天使たちに襲われたりとか、ロリコン扱いされたりとか)していたため微妙に疲れが抜けきっていない。この負の連鎖を断ち切るために何かできることは……

 

 そうだ、誰かにモーニングコールをお願いしてみようか。いつもは楓に起こされているから、たまには自分の彼女の声で起こされてみたいものだ。それで誰にやってもらうかだが、やっぱりモーニングコールをしてもらうならことりか花陽かな?2人の甘い声だと逆に眠たくなっちまいそうだけど……

 

 とりあえずことりに頼んでみようと携帯を取り出して、連絡用アプリ(緑色のアレ)を起動する。基本はμ'sのグループ内で連絡を取り合うので個人間で連絡をすることは稀だ。だからことりの名前を探すため、今画面をスクロールしているのだが……

 

 

「こうして見ると、俺って女の子しか友達がいない……」

 

 

 穂乃果、ことり、海未、花陽、凛、真姫、にこ、希、絵里、雪穂、亜里沙、楓、秋葉、ツバサ、英玲奈、あんじゅ、こころ(この前教えてもらった)、ヒデコ、フミコ、ミカ、その他、明らかに普通の男子の携帯じゃないなコレ。こんな人生を歩んでいる男子高校生がいるだろうか……

 

 

 待てよ!?この携帯、高く売れるんじゃ……だってあのμ'sやA-RISEの誰とでも電話やメールができるんだぞ!?すごいことに気づいてしまったのかもしれない!?数十万は余裕で稼げるだろうな。

 

 

 …………

 

 

「くだらね……もう眠いし寝るか」

 

 

 もう既にモーニングコールのことなど忘れ、明日はどんな女の子とどんな出会いがあって、一緒にどんなことをするのかを楽しみに俺はベッドに飛び乗り横になった。我ながら贅沢な人生を歩んでいるような気がする。しかも可愛い彼女が9人もいるうえ、μ'sもA-RISEもトップスクールアイドルだ。もしかして俺、働かなくてもみんなのヒモになって食っていけるんじゃね?これが勝ち組ってやつか……

 

 

 …………

 

 

 ZZZ……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「お兄ちゃん♪目覚めのキスの時間だよ♪」

「残念今目が覚めた!!」

「えぇ~またお預けか……」

「なんで毎朝俺はキス攻防戦に強制参加せねばならんのだ!?」

「だって恋人同士でしょ?」

「さも当たり前見たいな口調と顔すんな!!寝起きだけど、そんな見え見えの嘘に騙されるか!!」

「う~ん、残念♪」

 

 

 俺の朝は、こうしていつも自分の貞操を守ることから始まる。ちなみにキス攻防戦に関しては俺の全戦全勝。流石に血の繋がっている実の妹とキスなんてできないからな。でもコイツはそんなことはお構いなしのため、少しでも気を許せば実妹ルートのフラグが立ってしまうだろう。

 

 

「あっ、お兄ちゃんの勃ってる……手でして欲しい?それともお口?」

「やらないという選択肢はないのか……とりあえず部屋から出てけ」

「やっぱり冷たいなぁ~~、でもまぁ簡単にデレたらつまんないもんね♪」

 

 

 この妹怖すぎる!!やっぱり一緒に住むのは間違いだったか!?4月から楓が引っ越してきたせいで俺の一人暮らしが崩壊し、貞操の危機になるまで追い詰められた。危険すぎる!!

 

 

「もうこんな時間!!お兄ちゃん、朝ごはんできてるから一緒に食べよ♪」

「あ、あぁ……」

 

 

 楓は先程までの黒さが一切ない、明るい笑顔を俺に向ける。

 たまにこうして可愛い笑顔になるのは反則だよな……妹とはいえドキっとしてしまう。ことり並みの胸、絵里並みのスタイル、海未と同じ綺麗で長い髪(コイツは茶髪だが)、可愛くもあり美人でもある、μ'sのみんなからイイトコ取りした完璧なプロポーションだ。そんな妹がエプロン姿でご飯を誘ってきたら俺だって動揺する。

 

 

 これが俺と妹である楓との朝。いつもだいたいこんな感じで貞操の危機に瀕している。ちなみに楓の作る飯は超美味い!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「お~す……」

「おはよう零君!!」

「穂乃果!?急に抱きつくな、危ないだろ」

「えへへ~♪でも零君を見たら抱きつきたくなっちゃうんだよ♪」

 

 

 これが穂乃果式挨拶法。突然後ろからガバっと覆い被さって抱きついてくる。

 もう普通に生活していてはあり得ないことが日常となっていた。黙っていても女の子が自ら抱きついてくるなんて、これどんな非日常!?もちろん迷惑なんてしていない。1人1人違う女の子特有の匂いと温もりに俺は毎回浸っている。

 

 

「零君、あったかいねぇ~」

「お前もな。思いっきり背中に胸当たってるし」

「やっぱりエッチだなぁ零君は。じゃあもっと当ててあげるよ、うりゃうりゃ♪」

 

 

 うぉおおおおっ!!この一年である程度大きくなった穂乃果の胸が、俺の背中でふにょんと形が変わっているのが分かる。こんなことしてる時点で穂乃果も変態じゃねぇか!!こんな純粋で太陽みたいな奴を汚したのは誰だ!?

 

 

「穂乃果ちゃんだけずる~い!!ことりもぉ~!!」

「ことり!?お前いつの前に!?」

「ことりは前から抱きついちゃう♪えいっ!!」

「うぐっ!!」

 

 

 や、柔らかい!!特にスリスリと俺に擦り付けてくる胸と太もも、突つけばどちらもプルンと揺れそうだ。コイツ絶対にわざと当ててるだろ!!俺は知ってるぞ!!お前はニコニコしながらもその裏ではとても腹黒いことを考えているのだと。

 

 

「ことり、また胸大きくなったんだよ♪これも零くんが毎日揉んでくれているおかげかな?」

「大きくなるのは嬉しいことだが、その記憶は捏造が含まれてる。毎日はやってないだろ!!」

「えぇ~そうだっけ?でもことりは毎日夜、零くんに○○○される妄想をしてるけどね♪」

「今は俺たち以外の人がいないからいいが、それを決して公衆の面前で言わないこと」

 

 

 もう妄想と現実の区別があやふやになってるぞ!?大丈夫かことりは……?

 そして穂乃果とことりにサンドイッチされるのはもはや毎日の恒例行事となっている。特に去年から格段に成長している2人の胸が、俺の胸と背中にグイグイと押し付けられて非常に気持ちがいい。こうやって俺は穂乃果とことりの成長過程を楽しんでいるのだ。あぁ~……柔らかくて気持ちよくて昇天するぅ~……

 

 

「全く、毎日毎日飽きないですねあなたたち」

「そんなこと言って、海未ちゃんも零くんに抱きつきたいんでしょ?」

「そ、そんなことは……!!」

「幼馴染だもん、穂乃果たちの目は誤魔化せないよ!!」

「じゃあ海未ちゃんもどうぞ♪」

「きゃっ!!引っ張らないでください!!」

「おっと!!」

 

 

 穂乃果とことりに引っ張られた海未の身体を、俺は全身を使って受け止める。そのまま流れで海未を抱きしめる形になったけど、これってまた殴られるパターンじゃあ――――っと思っていたが、意外にも海未は俺を抱きつき返してきた。頬が赤くなっており、どことなく安心したような表情をしている。そうか、やっぱりコイツもこうして欲しかったんだな。

 

 

「お前も成長したな……」

「どこのことを言っているんです?」

「うっ……い、色々だよ」

「ふふっ♪ありがとうございます。でも身長はこれ以上伸びなくてもいいかなと思っています」

「えっ、どうして……?」

「だって大きくなったら、私の身体が零の身体にすっぽり収まらないではありませんか♪」

 

 

 え、笑顔でそんなこと言いやがって……可愛すぎるだろコノヤロウ!!穂乃果たちと一緒にいるといつもドキドキの連続だ。楽しいこともあるけど、それ以上にドキッとさせられることも多い。なんて幸せな毎日なのだろうかと自分でも思ってしまうな。

 

 

「なんだか穂乃果、零君とちゅーしたくなってきちゃった♪」

「奇遇だね♪それならことりもだよ♪」

「お、おい!!」

「いくよ零君!!」

「ことりだって!!」

「そ、それなら私も!!」

「えっ!?海未も!?」

 

 

 そして、俺の右頬が穂乃果に、左頬がことりに、そして唇が海未にキスをされた。

 ま、まさか3人同時に来るとは!?恥ずかしさと興奮で爆発しそうだなんて間違っても言えない!!

 いくらこの3人であってもここまで迫ってくるのは非常に珍しいのだが、これも俺のありふれた日常の一部だ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零くんだにゃ!!とうっ!!」

「ぐへっ!!凛!!後ろから首に腕を回す抱きつき方やめてくれ!!命の危機だ!!」

「凛は命を賭けるほど零くんが好きなんだよ♪」

「嬉しいけど物騒だな……」

 

 

 休み時間、中庭を歩いていた俺に突如襲ってきたのは凛。穂乃果やことりと同じく抱きついてくるのは変わらないのだが、遠くから俺を見つけるなり全速力で走って抱きついてくるので俺に多少のダメージが被る。それだけ好きでいてくれるのは嬉しいんだけどな。

 

 

「凛ったら、急に走り出すんだから……」

「凛ちゃん待ってよぉ~……」

「花陽、真姫、お前らも走ってきたのか?」

「ゴメンゴメン、零くんの姿が見えたからつい♪」

 

 

 俺はGホイホイのエサかよ!!凛の視界に入るたびに命を賭けなきゃならんのか!!

 それにしても、相変わらず真姫も花陽も凛に振り回されっぱなしだな。特に恋人同士となってからの凛のアグレッシブさは半端ではない。よく考えれば、高校に入るまでは花陽だけでコイツを抑えていたんだよな……

 

 

「今までよくやったな花陽。ご褒美に頭をナデナデしてやろう」

「ふぇえええええ!?どんな流れで!?」

「いいからいいから、ほら頭出して」

「は、はい……」

 

 

 花陽はクイッと可愛らしく頭をこちらに向ける。指を胸の前でクルクルさせ、上目遣いでこちらを見るその仕草にまたしても俺の心が響く。ある意味で男を落とすことに関しては天然なところがあるのかもしれない。

 

 

「ほら真姫もやってやるぞ」

「わ、私はいいわよ……」

「遠慮すんな。俺がただしたいだけだから」

「もうっ……ちょっとだけよ?」

 

 

 そのセリフがかなり色っぽく聞こえた俺は変態なのか!?大人っぽい真姫が言うからこそそのセリフが際立って見える。

 なんだかんだ言って、真姫も花陽と同じく頭をちょこっと前に突き出した。お得意の髪の毛クルクルもご披露している。女の子が自分に頭を向けてくれるだけで萌えるとは、もうどんな仕草でも萌え死にできそうだ。

 

 そして俺は花陽と真姫の頭をそっとナデナデする。

 

 

「ふわぁ~……気持ちいいです♪」

「まぁ……いいんじゃないかしら」

 

 

 真姫の奴、またそんなツンツンしたこと言っちゃって。言葉ではそう言ってるが、実際にはあまり気持ちよさに表情が緩みに緩みきっているぞ。ツンデレはやっぱりデレを見せる時が一番だな!!

 

 

「かよちんと真姫ちゃんばっかりズルいにゃ!!凛もナデナデしてよぉ~」

「分かったから!!抱きついたまま暴れるな!!」

 

 

 こうして花陽と真姫に嫉妬して、自分にもやれ!!っていうのが凛の定例だ。

 こうして女の子に抱きしめられ、頭をナデナデできるなんて本当に幸せな学院ライフを送っている。やっぱりみんなと付き合ってよかった!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あれ?雪穂に亜里沙、今から昼飯か?」

「はい、さっきまで体育だったので少し遅れちゃって……」

「零くんも一緒に食べませんか?」

「いいけど、楓は?」

「授業をサボったので先生に説教されてます」

「俺と一緒のことすんなよ……」

 

 

 昼休み、雪穂と亜里沙に誘われ一緒にランチを取ることにした。そうは言っても俺は既に食べ終えているため、弁当のおかずを一方的にもらうだけになってしまうのだが。最近亜里沙は料理の腕を上げるため、俺に弁当のみならずお菓子など様々なモノを作ってくれる。そして意外にも、雪穂も同じことをしてくれているので驚きだ。

 

 

「はい零くん、あ~ん♪です」

「あ~ん」

 

 

 俺は亜里沙の作った卵焼きを頂いた。

 こ、これは!?俺好みの甘く味付けされた最高の卵焼きだ!!亜里沙は料理の腕を上げるといっても、基本的には俺の好みに合わせて重点的に味付けをしてくれている。俺は甘いものが好きだから、このままだと作れるものが偏っちゃいそうだな。

 

 

「どうですか?」

「美味すぎるよ!!これから一生俺のために卵焼きを作ってくれ!!」

「えぇええっ!?よ、よろこんで♪よろしくお願いします!!」

「なんだか告白っぽくなっちゃったな」

「こ、告白!?ハラショーーーーーー!!」

 

 

 亜里沙は顔を真っ赤にして今にも壊れてしまいそうだ。ちょっと遊びすぎたかな?でもこんなに純粋で天使みたいな子に毎日お弁当を作ってもらえるなら、告白の1つや2つくらいいくらでもしてやろう。是非とも俺のお嫁さんになって欲しい!!

 

 

「おっ、雪穂のそのハンバーグも美味そうだな」

「わ、私が食べさせるんですか……?」

「ダメか?」

「別にダメってわけでもないですけど……やる必要もないっていうか……もうっ!!しょうがないですね、今日だけですよ!!」

「照れなくてもいいって」

「照れてないです!!言いがかりはやめてください!!」

 

 

 ツンデレ第2号も平常運転で大変よろしい。それにコイツも真姫と一緒で言葉では否定していても、表情を見れば食べれくれることに喜んで頬が緩んでいるのがよく分かる。特に雪穂はまだ幼さが残っているから、そんな表情を見せられると可愛くてしょうがない。

 

 

「いきますよ、はいあ~ん」

「あ~ん」

 

 

 おおっ!!このハンバーグを噛んだ瞬間、中から香ばしい肉汁が俺の味覚を支配した。まさか弁当に入れるハンバーグでここまでのクオリティが出せるとは……これは俺にも作り方を伝授して欲しいところだ。

 

 

「これは雪穂が作ったのか?」

「えぇ、夕飯の残りですけどね」

「それでも美味しいよ!!今度一緒に作り方を教えてくれないか?」

「一緒に!?!?それって2人きりってことですか……?」

「当たり前だろ」

「それじゃあ次の休日にでも!!」

 

 

 予定立てるのはやっ!!そんなにワクワクすることか!?

 雪穂の表情を見てみると、さっきよりもウキウキ気分で浮ついている。こんなにテンションの高い雪穂は初めて見たかも……でもこうして女の子の意外な一面を見られるのもいいな。やっぱり俺って幸せものだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「お~す」

「零!!」

「ぐはぁ!!にこ!?く、苦しい!!」

 

 

 放課後、部室の扉を開けた瞬間突然にこにダイビングホールドをされ部室の床に倒れこむ。この歓迎っぷりは今日一番の激しさだ。にこはスリスリと自分の頬っぺを俺の頬っぺに擦り付け、柔らかい太ももで俺のアレをグイグイシゴき上げる。やめろやめろ!!いつからこんな変態になった!?!?

 

 

「にこ、ずっと零とこうしたかったの!!最近また会えなかったから……」

「えぇ~と、4日会ってないだけだよな?」

「にこにとって4日は膨大な時間なの!!さあ零、キスしましょ♪んっ……」

「むぐっ……」

 

 

 さらに突然唇を奪われる。さっきから展開が早すぎて着いていけねぇよ。コイツはこういうことを頻繁にしてくるので慣れてはいるのだが、抱きつかからキスの流れまでが毎回早すぎて呼吸が整わない。

 にこは俺の唾液を十分に吸い取ってゴクリと飲み込んだ。呼吸が整わないのは濃厚すぎるキスに息が遮られるというのもある。μ's随一のキス魔は恐ろしい……

 

 

「にこっちも零君も妬けるなぁ~、ウチももっと構ってよ♪」

「構ってと言われてもこの状態じゃあ……」

「にこっちの太ももでスリスリされた零君のソレ……ウチの胸で静めてあげようか?なんてね♪」

「や、やってくれって言ったら……?」

「それやったら……これでどう?」

 

 

 うぉおおおおおおおおおおおおお!!希は服を少しだけはだけさせ、その隙間から紫の下着を僅かに見せてきた。もう6月に入り衣替えの季節になったため、当然みんな夏服だ。薄着のせいで強調されていた希の大きな胸が、服をはだけているせいでさらに俺の興奮を煽るボリュームとなっていた。

 

 

「ちょっと希、にこの零を取るんじゃないわよ!!にこの胸だって、零に揉むに揉まれて大きくなってるんだから!!」

「それやったらウチも一緒や。もう零君に開発されてるんやから♪」

「にこだって、零の手ならすぐにイケるぐらいには開発されてるわよ!!」

「希もにこもやめなさい!!会話が生々しいわよ!!」

「絵里もこの前のデートで、胸を突っつかれて喘いでたじゃん」

「「えっ!?」」

 

 

 さっきまで2人で争っていた希とにこの目が、俺の言葉と共に一瞬にして絵里へ向けられた。2人は『嘘でしょ!?あの絵里が!?』みたいな驚いた顔をしているがすべて事実だ。絵里は恋愛に関して禁則事項を出すぐらい恋人の付き合い方には厳しかったからな、無理もないだろう。

 

 

「やっぱり絵里ちも変態さんやったんやね♪」

「ち、違うのよ!!あれは零に無理矢理!!」

「零に無理矢理!?何ソレ羨ましい!!零、にこの胸も突いていいわよ?」

「なぜそうなる!?いややりたいけどさ……」

「これで絵里ちもウチらの仲間入りやね☆」

「は、ハラショ~……」

「遂に絵里が壊れてしまったぞ……」

 

 

 絵里は俺に胸を突っつかれていた時の光景を思い出したのか、顔を真っ赤にしてショートしてしまった。普段の絵里は綺麗だが、賢くない絵里は可愛いという2重ギャップが彼女の魅力だ。それでいてスタイル抜群で胸も大きいとか言うことなしだろ。また胸を突っつかせてくれないかな?

 

 

 

 

 まあこんな感じで俺は毎日を過ごしている。特に大学生組は性欲が強いのがポイントだな。

 俺の周りには魅力的な女の子たちばかりで、何気ない日常だって飽きることがない。こんなに可愛い彼女や後輩たち、そして妹に囲まれて、朝起こされたり、抱きしめられたり、頭を撫でたり、『あ~ん』されたり、キスしたり、時には誘惑されたり……いやぁモテる男って忙しい!!

 




 そんなわけで、今回は零君のとある日常に迫ってみました。どれだけニヤニヤできたでしょうか?自分からしたらこれこそが『非日常』ではないかと思ってしまいます(笑)


 以前感想にて『登場回数を調べたのならイチャイチャした回数も調べてはどうですか?』と言われたのですが、イチャイチャって基準が曖昧じゃないですか?ちなみに『R-17.9』と『R-18』の線引きすらよく分かっていません!!


 活動報告に超短編小説の最新話も投稿されています。内容は楓が零を好きになった理由です。ちなみにリクエスト小説だったりもします。


~企画について~

 同じラブライブ小説の作者様である"ちゃん丸"さんの作品『ラブライブ!平凡と9人の女神たち』とこの小説のコラボが決定しました!!

 お互いの小説に相手の小説の主人公を登場させるという設定です。あとは好きに書きましょうということなので、投稿されるまでどんな話かお互いに分からないドキドキ!!まだ投稿日時は決まっていないのですが、投稿する際は2作品同時に投稿する予定です。

 相手方の作品は非常に素晴らしい作品なので、『まだ読んでないよ』という方は是非そちらまで足を運んでみてください!!
特にこの小説で変態色に染まってしまった方は浄化しに行くといいですよ(笑)



Twitter始めてみた。ご意見、ご感想、次回予告など。
今回コラボを企画するまでの流れが非常に面白かったので、よろしければ『お気に入り』から覗いてみてください!
https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

希との濃厚アルバイト

 今回は希個人回!!そして一足早い誕生日おめでとう回!
 巫女さん姿の希が乱れる姿を想像しながらご覧下さい!!


 

「全く、この長い階段なんとかならねぇのかよ?取り壊すとかさぁ」

「開口一番そんなことを……罰が当たっても知らんよ?」

 

 

 今日は零君とのデート!!――ではなくて、ウチがバイトをしている神社で彼も一緒にアルバイト。最近スクールアイドルの経験でたんまりお金を貰ったはずやのに、家の電化製品が立て続けに壊れてお金がほとんど飛んでいったらしい。零君は人生がどんな茨の道でも無理矢理突き進むことのできる人やけど、その脇道で不幸になるからなぁ~

 

 

「そういえば巫女姿の希って久しぶりに見るな。うん、やっぱり似合ってる」

「ありがとね♪あまりそういう目で見られるのは好きじゃないけど、零君やったらいくらでも見せちゃうよ♪」

「ホントに!?巫女さんってイケナイ妄想が沸き立つから好きなんだよな」

「……やっぱやめようかな?」

「えっ!?」

「冗談冗談!!別に零君やったら好きなだけ妄想に使ってくれてもええんよ?」

「大丈夫、言われなくても使ってるから」

 

 

 こうやって人に言うと確実に引かれるであろうセリフを平気で言うのが零君の面白いところやね♪だからこうして何気ない会話をしているだけでとっても楽しい。零君の魅力はただ喋っているだけで周りの興味を引く、まさにそこにあると思う。

 

 

「例えばどんな妄想を……?」

「お前、俺が考案した変態プレイを晒せと言っているのか……」

「ええやんええやん♪だってここにはウチらしかおらへんし」

 

 

 ウチはいつも零君にどんなことをされるんやろとワクワクしていたりする。海未ちゃんや真姫ちゃん、絵里ちは零君の変態プレイには厳しいけど、ウチやったらいつでも大歓迎や♪だって零君に身体を弄ってもらうほど、気持ちよくて幸せな時間はないからなぁ♪

 

 

「まず巫女さんの袴のわきっちょ。そこから手を侵入させ、その強調された胸をガシッと鷲掴みにする!!」

「それでそれで?」

「その勢いで、巫女服がはだけるぐらい思いっきりワシワシっと揉みしだく!!」

「それっていつもとあまり変わらないような……?」

「何言ってんだ!!巫女服ってところが重要なんだろ!!巫女さんっていうのはいわゆる聖職者の1人だ。その汚れなき聖職者を自らの手で快楽のドン底に突き落とす、その背徳感が堪らないんだよ!!俺はそんな巫女さんが乱れる姿を見たいがために妄想力を鍛えてきたんだ!!」

「へ、へぇ~……」

 

 

 思ってた以上に変態的な妄想でちょっとビックリ。でもやっぱり零君は面白い。やっていることは女の子にとって容認し難いものやけど、そうやって何事もブレずに一直線になれるところはすごいことやと思う。ひたすらエッチなことを追求し、妄想でシミュレート、そしてμ'sのみんなを標的にして実行へ移す。そんな一途な零君が大好きや♪ウチもみんなにワシワシするのは大好きやからシンパシーを感じるのかもね♪

 

 

「ほんなら、早速零君には荷物運びをしてもらおうかな?」

「えぇっ!?この流れでバイトの話かよ!?てっきり妄想を現実にしてくれるものかと思ってた……」

「そんなに現実は甘くないよ♪お金が欲しいんやったら動いた動いた!!」

「鬼かお前は!?俺の興奮を最高潮にまで到達させておきながらお預けとは卑怯な!!」

 

 

 もちろんウチだって零君と交わりたいよ。でもそうなると今までと何も変わらない。今日は久々に零君と2人きりなんやから、ウチが今まで味わったのことのない快楽を零君から叩き込んで欲しいな♪そのために、零君の欲求をここで発散させるわけにはいかない。もっともっと零君の興奮と欲求を高めてウチにそれをすべてぶちまけてもらう。あぁ~、楽しみやなぁ♡

 

 

「もう他の巫女さんに手を出しちゃいそう……」

「残念♪今日はウチと零君の2人きりや☆」

「なにっ!?じゃあこの欲求をどこに放出させればいいのか……」

 

 

 普段はキラキラとカッコいいところばかりやのに、落ち込んだ顔は本当に可愛いなぁ♪表情がコロコロ変わるから黙って見ているだけでも全然飽きない。そういうところを含めて、ウチもμ'sのみんなも零君のことが好きになったんやね。

 

 でもこのままだと零君が爆発しかねないから、ウチはそっと零君の耳元に近付いて囁いた。

 

 

「エッチなことはまたあとで……ね♪」

「え……?」

 

 

 零君は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてウチの顔を見つめてきた。もちろんウチだって零君とそんなことをするのは楽しみで仕方がない。だからこそ後回しにした。お互いにバイトが終わってからしっぽりと楽しむためにね♪

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 あとのお楽しみを働いたご褒美として、ウチと零君は早速仕事に取り掛かった。零君にはお守りやお札が入ったダンボールを運ぶなど主に力仕事を任せている。零君の動きを見ていると、非常にテキパキとしていて要領がいい。初めての仕事も難なくこなすなんてやっぱり完璧と自称するだけのことはあるなぁ。将来彼と結婚できるウチらは幸せものやね♪

 

 

 なんて妄想をしていると、遠くから零君が声を掛けてきた。

 

 

「おーい希!!このダンボールはどこへ運ぶんだーー?」

「それは社務所に置いといてーー」

「分かったーー残りも全部それでいいのかーー?」

「うん、とりあえず全部中に運んでおいてーー」

 

 

 仕事終わりのご褒美のためなのか、はたまたただ単純に自分がバイトとしての責務を果たしているのか分からへんけど、汗水垂らして頑張っているその姿に見惚れてしまう。一生懸命な姿を見せるだけで女の子を惚れさせるなんて反則や!!

 

 零君と一緒にいる時はいつもそう。女の子やったら、零君の近くにいるだけで彼のことをどんどん好きになってしまう。まるで秋葉先輩に薬か何かで仕込まれているみたいに、自分の心が彼で埋め尽くされる。さらに自分の目線も自然と零君へと向かっていく。彼の真剣な顔、ちょっと気を抜けた顔、そして笑顔……零君の表情1つ1つを見逃さないために。

 

 

 そうやって彼のことを考えれば考えるほどまた好きになっていってしまう。そして好きになるたびに思い出されるのが、自分の身体を零君にめちゃくちゃにされたこと。初めは面白半分でワシワシを伝授したところから始まったんやったなぁ。でも零君はそれをあっさりマスターして、今はさらに進化までさせてウチらを簡単に昇天させることができるまでに至る。そしてその快感を覚えたウチらは、零君に自らおねだりするにまで堕とされてしまった。

 

 

 

 

 アカン……そんなことを考えてたら今度は自分が興奮してきてまう!!零君は一生懸命働いてくれているのに、ウチだけ発情してたらアカンよ!!なんとか抑えないと……でも抑えようとしても零君が頭に浮かんで離れへん!!彼の手で身体をめちゃくちゃにされた記憶がフラッシュバックして、ウチの身体がどんどん熱くなってくる。袴は空気の通りがいいはずやのに興奮して汗が止まらない。

 

 胸が疼く……零君に触って欲しいと疼いてる!!自分の股も濡れ始め、本格的にウチの身体が彼を求めている!!まだ日中でしかもバイト中、本来なら自分で抑えるところなんやけど、今ここには彼がいる。満たして欲しい、あなたの手で、私を……!!

 

 

 そしてウチはいつの間にか、零君の元へと歩み寄っていた……

 

 

「れ、零君……」

「ん?もう外の掃除は終わったの――って、えっ?」

 

 

 ウチは零君の背中にギュッと抱きついた。突然のことで驚いたのか、零君はその場で硬直する。そらそうや、だってエッチなことを後回しにしようって言ったのはウチなんやもん。

 

 こうして零君に抱きついている時ほど安心できるものはない。例えどんな悩みがあったとしても零君がすべて払い除けてくれる。彼と一緒にいれば不可能だってすべて可能になる。だからこそ私たちは後ろを振り返らずに前へ進むことができる。もうそうやって何もかもが安心できるくらい、私たちの心は零君に支配されていた。

 

 

 だからこそ、心だけではなく身体もあなたで満たして欲しい……

 

 

「それは、終わってからじゃなかったのか……?」

「もう我慢できなくなったんや……」

「それ以上言ったら、もう戻れねぇぞ」

「いいよ♪もうウチは準備万端やから……」

「そうか……なら」

「きゃぁ!!」

 

 

 零君は私の腕を振りほどき、一瞬にして後ろに回り込まれ抱きつかれてしまう。その時に見えた零君の目の色と輝きが、いつも私たちを攻める時と同じ獰猛な目に変わっていた。

 

 完全にさっきとは立場が逆転。でもこれこそが私の望んでいた状況。今から彼に手を出されると思うとまだ何もされていないのにゾクゾクとした謎の快感が沸き立つ。身体も段々火照り出してきているため、いかに自分が零君を求めていたのかが分かる。

 

 

「じゃあさっきの妄想を現実にさせてもらおうかな」

「どうぞご自由に♪」

 

 

 この時だけは自分の胸が大きくて本当に良かったと思っている。零君に胸をめちゃくちゃに揉みしだかれるこの快楽は、胸の大きい人にしか分からない。にこっちや凛ちゃんからは疎まれることもあったけど、今だけは巨乳であることが何よりも誇り。他の男からはいやらしい目で見られることもあった。でも私の胸はすべて零君のモノ。胸だけじゃなくて身体もだけどね♪

 

 

 零君は袴のわきっちょのところから手を侵入させ、両手で私の胸をガシッと鷲掴みにする。まさにさっき零君が語っていた妄想と同じことが現実となっていた。

 

 

「あんっ♪」

 

 

 零君の手は大きくて暖かい。そんな手に包まれた自分の胸から電流のように全身に快楽が伝わってくる。零君はワシワシと私の胸を揉み始めた。指で乳首をなぞりながらの優しい手つきに声を漏らさざるを得ない。

 

 

「んっ♡あぁあああ♡」

 

 

 優しいと思っていた矢先、急に零君の手つきが激しくなる。いつの間にかブラを外され、生の胸を揉まれていた。零君が激しく胸を揉みしだくたびに、彼の指が私の胸に食い込む。ちょっと痛みは走るけどそれがまた快感♪まさにこっちが言っていた名言『零はにこたち9人の胸をそれぞれ別の方法で揉んでいる。アイツはにこたち1人1人が悦ぶポイントを知っているのよ』、その通りやね♪

 

 

「あぁん♡はぁあああん♡」

 

 

 胸を揉んでいる時はひたすら無言を貫く零君。そのせいで神社には私の喘ぎ声だけが響き渡っている。まさか巫女である私が神社でこんなエッチなことをしているなんて……すっごく萌えるやん♡

 

 

「希、顔だけ後ろに向けてくれ」

「えっ、う、うん……」

 

 

 零君にそう言われ、特に何も考えずに首だけ後ろに回す。そして――――

 

 

「んっ!!ちゅっ……んん」

 

 

 零君に唇を奪われた。もう私の唇が食べられちゃうくらいの勢いで、非常に濃厚としたキス。それだけではなく胸も同時進行で揉まれ続けている。キスによって伝わってくる快感と、胸を揉まれることによって伝わってくる快楽が私の身体をあっという間に支配した。もう私の身も心もすべて零君のモノになっちゃった♡

 

 

「ちゅっ、あぁん♡」

 

 

 もう私の頭は回っておらず、ただ零君から送られてくる快感と快楽に浸っているだけだった……もうこのまま零君にすべてを任せよう。そして何も考えずにふわふわと……

 

 

「もう我慢できねぇ!!希、押し倒すから意識保てよ!!」

「えっ!?えぇーーー!?きゃっ!!」

 

 

 私は快楽の波に流されようと零君に身を任せた直後、頭を思いっきり抱きかかえられそのまま勢いで押し倒されてしまった。しっかり私の頭を守ってくれたあたり、また惚れちゃうなぁ♪今まで胸を揉まれたりキスをしたことは数あれど、こうやって押し倒されたのは初めてで頭がパニックになる。いつの間にか私と零君の身体は対面していて、お互いの顔が目の前にあった。

 

 

「ちょ!?ちょっと零君なにするの!?」

 

 

 零君ははぁはぁと息を切らしながら、私の袴を脱がし始めた。私は上から零君に覆い被さられているため、動くに動くことができない。

 そして遂に彼にやられるがまま、胸元をガバッと開かれてしまった。ブラは既に外されているため、私の生のおっぱいがそのまま顕になる。神聖なる神社の隅っこで押し倒されて脱がされて……多分ここからが本番。ゾクゾクとした背徳感が堪らないなぁ♪

 

 

「巫女姿の希が俺に押し倒されて、胸を丸出しにしている……これこそが俺の望んでいたシチュエーションだ」

「でも、もっと続きがあるんやろ……?」

「あぁ……」

「じゃあウチのおっぱい、零君の好きにしていいよ♡2人きりでバイトをする約束をしてから、ずっとずぅうううっと待ってたんやから♪」

「そうか……なら遠慮なく行かせてもらう」

 

 

 私の目の前にあった零君の顔が消え、彼はそのまま私の胸辺りに自分の顔を持っていった。そして口を開け、そのまま……そのまま私の胸の先端、つまり乳首に向かって―――

 

 

「ひゃうぅうう♡」

 

 

 零君は私の乳首を咥えて――――

 

 

「あんっ♡ああぁあああああああああああああああ♡」

 

 

 す、吸われてる!?零君に!?私のおっぱいが!?な、なにこの感覚……これこそまさに私が今まで味わったことのない未知の快楽。胸を揉まれている時の快楽とは全くの別モノ。胸を揉まれている時は胸から身体に快楽が走っていたけど今はそれとは逆、身体全体から吸われている胸に向かって快楽が集まっている。こんなに胸が敏感になるのは始めてや♡

 

 

「片方だけじゃ釣り合いが取れねぇな。もう片方も吸うか」

 

 

 零君は私のもう片方の乳首を咥えて――――

 

 

「ひゃんっ♡ああぁあああああああああああああああん♡」

 

 

 い、イってしまう♡おっぱいを吸われているだけやのに、このままイってしまう♡どんどん零君から離れられなくなる♡もっと、もっとぉおおお♡

 

 

「あぁあん♡はぁあああん♡」

 

 

 い、イク♡イってまうぅうううううううううううううううううううううう♡

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「の、希さ~ん……ホントにゴメン!!そろそろ許してくれよぉ~……」

「ちょっとおふざけが過ぎたんとちゃう?」

 

 

 興奮が収まり冷静に戻った零君は、さっきまでの勢いが嘘かのようにペコペコと謝りだした。ウチとしては気持ちよかったから別に謝ってもらわなくてもいいけど、ペコペコしている零君が可愛いからちょっとイジめちゃう♪さっきはずっと零君に主導権を握られていたしね♪

 

 

「あれはもう本能のまま動いてたんだよ!!欲望に忠実だったというべきか……とにかく許してくれ!!頼む!!また一緒にバイトでもデートでもエッチでもするから!!」

「最後、自分の欲望入ってるよ……」

「ハッ!!まだ俺の中の欲求は収まっていないのか!?押し倒して吸いもしたのに!!」

 

 

 頭を抱えて唸りを上げる零君。やっぱりカッコいいところもあれば可愛いところもあるんやね♪でも今日の零君は、ウチの中で一生消えない姿になっちゃったよ。そしてまた今日のことを思い出して、一人で自分磨きをする時が来るんやろうなぁ~♪

 

 

 そしてさっきからずっと唸ってるし、そろそろ許してあげようかな?

 

 

「しょうがないから許してあげる。ただし条件付きでね♪」

「じょ、条件……?わ、分かった、俺も男だ!!どんな条件でも飲んでやるよ」

 

 

 どんな条件でも?言っちゃったね……なら!!

 

 

 

 

 

 

「バイトが終わったら……ウチの部屋でさっきの続き、お願いね♪」

 

 

「え……?」

 

 

 ふふっ♪今日は家に帰れるとは思わんといてね、零君♪




 個人回が進めば進むほど、プレイの内容がR-18に近づいてきているような気がしなくもない。個人回はこれで4人目なので、残りのメンバーはもしかしたらこれ以上の展開になってしまうかも!?そのためにももっと個人回を投稿するペースを上げなければ!!


 今回は希の誕生日に先駆けて個人回を投稿しました。この小説ならではのサプライズができたんじゃないかな?(笑)


 コラボ小説に関しては現在執筆中です。まだ完成には時間が掛かりそうなので、もしかしたら先に次回も通常回が投稿されるかもしれません。コラボ小説のネタは投稿されるまで伏せておこうと思っています。


 ちなみにコラボ小説と通常回を1つ投稿したあと、この小説は新章に突入します!そうは言っても『日常』から『新日常』で何も変わらなかったのと同じで、心機一転再スタートするだけですけどね(笑)その中でリクエストもいくつか採用できればと思っています。


~今後の展開~

☆コラボ小説
これは完全に内容は伏せます。

☆μ'sの顧問は人類の敵!?
31話で予告していたもの。『ラブライブ!』出場に向け、理事長が推薦した顧問とは……

以下新章のあらすじです。ネタバレをかなり含んでいるので回避したい人はここでお別れ。





☆新章
 秋葉の独断により、零とμ'sメンバー12人の2週間限定同棲生活がスタートする。今までよりもさらに絆と愛を深めるための特別企画!!だが零だけには、その期限内に行ってもらうあるミッションがあった……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

μ'sの顧問は人類の敵!?

 今回でこの章は最終話となります。そして久々にアニメのような展開に戻ってきました。内容はアレですが……

 最後の話は顧問探索回!!μ'sは無事に顧問を見つけれられるのでしょうか……?タイトルを見て『あっ、ネタバレしてる』とか思わないこと!!


 

「わぁ~!!広くて綺麗なキャンパスだね♪」

「ここが絵里たちの通っている大学か……」

 

 

 俺と穂乃果は秋葉からの連絡を受け、アイツや絵里たちが通っている大学に来ていた。こうして校門の前に立っているだけで高校の校舎とは全く違う、威厳のある風格が漂ってくる。穂乃果の言う通り外から見ても建物は綺麗だし、緑も多くて空気も澄んでそうだ。ちなみにここが俺や穂乃果たちが目指すべき大学となる。

 

 

「でも、μ'sの顧問になってくれる人って誰なんだろうね?」

「さぁな。それに向こうからわざわざコンタクトを取ってくるのも珍しいけどな」

 

 

 穂乃果たちは『ラブライブ!』出場にあたり、見事ランキング20位以内に入れた(ちなみに2位、1位はA-RISE)ので、改めて申請書を送るつもりだったのだが、今年から部活として活動している場合は顧問の署名が必要になってしまった。顧問がいないアイドル研究部では申請もできないので、学院中の教師にお願いしたのだが生憎手の空いている教師はいなかったのだ。

 

 そこでその旨を知った理事長から彼女の元教え子である秋葉に連絡が入り、見事顧問候補を探し出してくれた。そうは言っても向こうからアイドル研究部の顧問になりたいという依頼が来たらしいのだが。流石にμ'sは有名だから、そんな人も1人や2人はいるだろう。

 

 そして今日はその顧問候補の人がこの大学に来ているということで、リーダーである穂乃果と秋葉の身内である俺が呼ばれたというわけだ。

 

 

「顧問か……今更μ'sの顧問になるって依頼してくるなんて、ただ知名度を上げたい奴としか思えねぇぞ。だってμ'sは去年の『ラブライブ!』優勝チームだし」

「か、考え過ぎだと思うよ?それにほら、顧問がいれば指導役の海未ちゃんや絵里ちゃんの負担も減るし!!」

「まぁそりゃあそうだけどよ……」

「零君はいつも考え過ぎなんだよ!!それにその顧問の人がすっごく美人さんだったら、すぐに信用しちゃうでしょ?」

「俺をただの女好きだと思うなよ。俺が好きな女の子はお前らだけだから」

「も、もうっ……バカ」

 

 

 顔を真っ赤にした穂乃果の頭を撫でてなだめながら、俺たちは大学に足を踏み入れた。撫でられて気持ちいいのか、穂乃果は『ふにゃぁ~』とした表情で俺の腕に絡みついてくる。自分で言うのもアレだけど、ただのバカップルにしか見えねぇ。あまり大学前でイチャつかない方がいいのか?大学はそういう噂ってすぐに広まりそうだし……

 

 

 そういや大学前に着いたら絵里たちが迎えに来てくれるはずだったんだけど、どこにいる?

 

 

「あっ、いたいた!!ゴメン遅れちゃって」

「絵里ちゃん!!大学の前で待っててくれる約束だったでしょ!!」

「ちょっと補講が長引いちゃってね、ゴメンなさい」

「まぁ来てくれたのならそれでいい。希とにこは?」

「2人は先に秋葉先輩の研究室へ行ったわ」

 

 

 当然だけど、秋葉は今年入学した絵里、希、にこにとって先輩となる。元々知り合いということもあってか、一年生の内から彼女に色々なことを学んでいるらしい。こうして見れば秋葉はいい先輩なんだけどな、どうしていつもはああやって人を不幸に陥れることしかしないんだよ……

 

 

「それにしても穂乃果……零にくっつき過ぎじゃない?」

「えぇ~別にいいじゃん!!恋人同士なんだし♪」

「それは絵里も一緒だけどな」

「間違っても、この大学内で9股してるだなんて言わないでよ」

 

 

 そんなこと言えるわけねぇだろ……社会的にも抹殺されてしまう。しかしそれを容認してくている大人も実は何人かいるんだけど、どうしてそうなったのかは分からん。

 大学は高校とは違い休日でも結構人がいる。つまりこうして穂乃果とベタベタくっつきながら歩いているとかなり目立つのだ。それなのにも関わらず、穂乃果はさっきから『えへへ♪』と笑顔で俺の腕に胸を押し当てて絡みついている。こうなったら大っぴらに見せつけてやろうじゃねぇか!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ここが秋葉先輩の研究室よ」

「生徒個人が研究室を持つなんて珍しいな。普通は教授のところに配属されるだろ」

「そうなんだけど、先輩の場合は功績が認められてるからね」

「それで生徒1人に研究室を渡す大学も太っ腹だな」

 

 

 いつもは馬鹿な発明や研究ばかりしているのだが、こうしてアイツから学ぶとなると秋葉の凄さがよく分かるのだろう。ちなみに俺も罵ってはいるがたまに研究を手伝ってはいるので、アイツの凄さは俺が一番良く知っていると思う。

 

 

「ん?どうした穂乃果、ポカーンとして?」

「いや、研究室って言うくらいだからもっと煙がモクモク~ってして、怪しい匂いがするのかと思ったよ!!」

「それはアニメや漫画の見過ぎだろ……」

 

 

 アニメや漫画などではマッドサイエンティストが緑色と紫色をした怪しい液体同士を調合したりと、確かに研究室と聞いてあまりいい雰囲気とは思えないわな。

 

 

「とにかく入りましょ。顧問の人も待たせたら悪いしね」

「そうだな」

「どんな人なんだろうね?楽しみぃ~♪」

 

 

 研究室の中へ入ると、突然目の前が暗闇に襲われる。そして身体が何者かにガッチリとホールドされ、全身に暖かい人肌を感じた。

 

 

「零♪」

「お、おいにこ!!またすぐ抱きついて!?」

「にこちゃんズルい~!!穂乃果も抱きつく!!」

「おい!?」

「いきなり何をしているのよあなたたちは……」

 

 

 研究室に入った瞬間、俺の懐に向かってにこが飛びついてきた。そして俺を取られたことに嫉妬したのか、穂乃果がにこを押しつぶすような形で抱きついた。つまり俺と穂乃果でにこがサンドイッチされている状態である。もう絵里もツッコむ気力は失せているようだ。

 

 

「ちょっ、穂乃果!!苦しいって!!にこを潰す気なの!?」

「あははゴメンゴメン……つい勢いで。にこちゃんちっちゃいし」

「ちっちゃい言うな!!」

 

 

 だが事実だ……でもそのちっこくて可愛いのがにこの特徴なのであって、別に蔑む要因にはならない。むしろアイドルを目指すなら可愛さというのは1つのチャームポイントだから、その個性が際立っているのなら下手に背が高いよりかはいいんじゃねぇの。背の高いにこなんて想像も付かないし。

 

 

「相変わらず零君と穂乃果ちゃん、にこっちの3人はアツアツやなぁ~」

「よう希。この前はお前もアツアツだっただろ」

「そ、そのことは言わないでって言ったでしょ!!もう……」

 

 

 希が標準語になった時は、大抵顔を真っ赤にして動揺しているから可愛さのゲージが跳ね上がる。それと同時に俺の希を攻めたくなるドSゲージもみるみる上昇していく。いつもは自信満々の奴を屈服させるのは非常に愉快だ。

 

 

「はいはい!!イチャイチャするなら外でやろうねぇ~」

「秋葉……」

「秋葉さんこんにちは!!」

「こんにちは穂乃果ちゃん!!今日も元気だねぇ~♪」

「はい!!元気が取り柄ですから!!」

 

 

 なんか幼稚園児と先生みたいなやり取りだけど、胸の前でグッと拳を握りしめている穂乃果を見ていると、俺たちまで元気を分けてもらえる。俺たちが笑顔でいられるのはコイツの功績が一番なのかもしれないな。

 

 

「さて、お集まり頂けたようだね諸君。μ'sのリーダーとμ'sの最年長者3人、そして零君、君たち5人には先んじて顧問を紹介しておこうと思ってね」

「リーダーと最年長者は分かるけど、俺の枠っているのかよ?」

「もちろんいるよ!!まぁ顧問の人を見てもらえれば分かるけど♪」

「はぁ?」

 

 

 秋葉が座っている大きな机の前に、左から俺、穂乃果、にこ、希、絵里の順番で立たされ話を聞くことになった。顧問って一体誰なんだよ……もしμ'sにちょっとでも害を与えるような奴だったら即排除してやる。事前情報では女性と聞いているから、変な男という可能性はない。

 

 

「じゃあまずは顧問の方に入場してもらいましょ~♪」

「えっ!?もう来てるのか!?」

「どんな人だろう!!ワクワク♪」

 

 

 俺たちは一斉に後ろを向き、扉が開かれるのを今か今かと待っていた。

 

 だが――――

 

 

 …………

 

 

 …………

 

 

「あれ?入ってこないわね?」

「まさか、トップアイドルのにこたちにビビってるんじゃあ……」

「顧問になる人が?そんなことあらへんと思うけど……」

 

「みんなどこ見てるの?こっちこっち!!」

「えっ!?」

 

 

 秋葉の言葉で後ろを見ていた俺たちは前へ向き直る。でも誰もいないぞ……?いるのはこっちを向いてニコニコしている秋葉だけ……ま、まさか!?

 

 

「お前……お前が顧問だって言うのか!?」

 

 

「だ~いせ~いか~い♪君たちの顧問になりたいと依頼したのは、実は私でしたぁ~♪」

「「「「えぇっ!?!?」」」」

「ここまですべてお前の自演かよ!!」

 

 

 もしかしたらとは思っていたが、本当にコイツが顧問になろうとしてくるとは!?これには穂乃果たちも目を丸くして驚いている。俺たちの驚いた顔を見るためにここまで引っ張ってたのか……相変わらず性悪だな。

 

 

「どうしてお前が顧問に?」

「前からμ'sには興味があってね。特に絵里ちゃんたちが私の研究室に来るようになってからは、あなたたちを本気でプロデュースしたいって思ったの。そこで『顧問がいなくて困っている』って話を耳に挟んだから、これを機にやってみようかなってね♪」

「また俺の時みたいに金稼ぎか?そんなことで顧問になるなら俺が許さねぇぞ」

「違う違う!!これは私の本心。将来零君と結婚するであろう、μ'sのみんなをよく知りたいからね♪」

「け、結婚って……」

 

 

 ふと穂乃果たちを見てみると、4人共顔を赤面させたままモジモジしている。恐らく『結婚』というワードに引っかかってしまったのだろう、誰も目の照準が合っていない。いくら何でも動揺し過ぎだ……確かに結婚を前提の付き合いだけどさ。

 

 

「ほ、穂乃果は秋葉さんに顧問をやってもらってもいいかなぁって思うよ。にこちゃんは?」

「へっ!?に、にこも別にいいわよ。正直大学に入って先輩の印象変わったしね」

「ウチも賛成。初めての人でもないから気兼ねもしなくていいし」

「そうね、私もみんなと同意見。零はどうする?」

 

 

 穂乃果や大学生組の信頼はかなり厚いようだ。確かに前回俺がスクールアイドルのスカウトを受けた時、コイツの手際は見事の一言だった。金の為なのかは知らないが、秋葉のプロデュース力は目を見張るものがある。実際『ラブライブ!』事務局ともパイプを持っているし、これ以上の顧問は存在しないだろう。

 

 

「分かった。ただし、変な素振りを見せたら即解雇な」

「いや~ん♪とてもブラック!!」

「お前……今まで自分がやってきたことを振り返ってみろよ」

 

 

 とりあえず『ラブライブ!』の申請書に書くために、顧問の名前を借りるだけの存在だ。特に気にする必要もないだろう。それにμ'sのみんなはコイツのことを知っているから、新しい人よりかは接しやすいだろうしな。

 

 

「私が顧問になったからには、まずみんなにやってもらいたいことがあるの。それは」

 

「「「「「それは?」」」」」

 

 

 

 

「μ'sのみんなは2週間、零君の家で一緒に同棲すること!!!!」

 

 

 

 

「「「「「えっ…………えぇえええええええええ!?!?!」」」」」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「以上、顧問となった秋葉からの命令だ」

 

 

 翌日、俺+μ'sのメンバー12人は部室に集まり、昨日話していた内容を他のメンバーにも伝えた。ただでさえ秋葉が顧問になったことに対して驚いていたのに、そこで同棲と来るとは誰もが思っていなかっただろう。俺だってみんなと同棲をすると思うとドキドキが収まらない。

 

 

「どどどど同棲だなんて、男性と1つ屋根の下だなんて破廉恥です!!」

「まぁまぁ海未ちゃん。恋人同士なんだから別にいいじゃん♪ことりは楽しみだなぁ~♪」

「うぅ……でもまぁ零がハメを外さないように私が監視しなければ……」

「それはどうもありがとよ」

 

 

 これでまた海未に怒られる回数が増えるのか……それはそれで面倒だけど、海未と一緒にいられるという喜びの方が大きいから良しとしよう。そして没落エンジェルのことり。またより一層エッチなことをされそうな気がする。

 

 

「あわわわ……零君と同棲!?でも楽しみかも……♪」

「凛は大賛成!!でも2週間じゃ少ないにゃ~」

「わ、私は別にどっちでもいいけどね!!零が同棲して欲しいって言うのならしてあげてもいいわよ?」

「じゃあ是非とも一緒に同棲してくれ」

 

 

 恥ずかしながらも期待している花陽と初めからハイテンションの凛。そして相変わらず面倒くさい真姫。真姫はこんな賑やかなのは苦手だと思っていたのだが、コイツも変わったな。

 

 

「ハラショー!!私も大賛成です!!みんなとずっと一緒だなんて嬉しい♪」

「わ、私は……まぁ別にいっか。亜里沙もこう言ってるし」

「おっ、案外素直だな」

「別に零君と一緒だから嬉しいとかじゃないですから」

「あ、そう……」

 

 

 意外にも雪穂が乗り気で少し驚いた。大賛成の亜里沙の意見に乗っかっただけなのか、それとも別の感情があるのか……なにはともあれこれで全員と同棲することが決まったな。平静を装っているように見えるが、これでも内心はウハウハなんだぞ!!なんたってこんな美女美少女たちと1つ屋根の下なんだ、手を出し放題じゃないか!!今まで妄想だけで終わらせてきたことがすべて実現可能だ!!

 

 

「ちょっと……私の意見は?」

「お前は既に一緒に住んでるだろ」

「私とお兄ちゃんの愛の巣だよ!!他の女を入れるものですか!!」

「逆らうと秋葉が飛んでくるぞ?」

「うぅ……しょうがない、今回だけだからね!!」

 

 

 台風の目と言われた楓も、秋葉の名前を出せば途端に大人しくなる。楓が唯一恐れている存在だからな。こんな調子で秋葉が顧問に来て大丈夫なのだろうか?その時は俺がフォローを入れてやろう。

 

 

「一応理事長に報告に行かないとな。みんなが認めても理事長は反対するかもしれないし」

「じゃあことりも一緒に行くよ。もしかしたら説得しないといけないでしょ?」

「まぁそうだな。その時は頼むぞ」

「うん♪…………心配はいらないと思うけどね」

「何か言ったか?」

「うぅん、別に!!さぁ行こっか♪」

 

 

 さっきことりは何て言ったんだ?まあ今はどうでもいいか。それよりあとは理事長に許可がもらえるかどうかだな。誠実な人だし、あっさりOKとは言わないと思うけど……その時はその時だ、説得するしかない。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「いいわよ」

「はい?ちょっともう一度言ってもらってもいいですか?」

「同棲してもいいわよって言ったのよ」

「マジで……?」

 

 

 まさかの展開が起こった。てっきり反対されるかと思っていたのだが、理事長はあっさりとOKを出したのだ。ことりがニコニコしていることから、コイツは初めからこの結果になることが分かっていたのだろう。この親鳥……まさか娘と同じくふわふわした頭をしてんじゃねぇだろうな。

 

 

「むしろ同棲なんてこっちからお願いしたいくらいよ♪娘をよろしくね♪」

「いやいや、アンタ心配じゃないのか!?」

「え?娘の幸せを願うのが親の努めでしょ?それに零君はカッコいいし学業も優秀、運動神経も良くて頑張り屋さん、うん!!文句なし!!」

 

 

 それでいいのか親鳥……俺はあなたのことをもっと誠実で芯の通った人だと思っていたよ。俺にとっては理想のお姉さんって感じだったのに。男の理想っていうのは尽く崩れるものなんだな……

 

 

「ことり、これを機に零君との子供を作っちゃいなさい。そうねぇ~2人ぐらいが理想かしら?」

「おい親鳥テメェ!!」

「うぅん違うよお母さん、2人じゃなくて3人の予定だよ♪」

「まあ♪この歳でもうおばあちゃんか……嬉しいような悲しいような」

 

 

 もう話に着いて行けないんだがどうしたらいい……?まさか親子揃って妄想癖があったとは……むしろ親鳥がこうだからことりもこうなったのか。

 

 

「零くんとの子作り、楽しみだなぁ~♪」

「なんなら今ここでやってもいいのよ?」

「ホントお母さん!?じゃあ零くん……よろしくお願いします♪」

「やらねぇからな!!お前ら変態かよ!?」

「まさかここで娘が子作りする様子を見られるなんて……お母さん嬉しい♪」

「この親鳥――――ってことり!?脱ぐな脱ぐな!!」

 

 

 まさか南家の女たちがここまで性欲に塗れた人種だったとはな。一年前の天使だったことりと誠実だった理事長は一体どこへ行ったんだよぉーー!!誰か探しに行って返してくれないかなぁ~……?

 

 

「この親鳥ぃ~~!!」

「れ、零君ってば、私も狙ってるの……?そんな……親子丼だなんて♪」

「ことりはお母さんと一緒でもOKだよ♪」

 

「え゛ぇええええい!!帰るぞことり!!」

「ちゅん!?」

「ことりやみんなのことをよろしくね♪」

「へいへい……」

 

 

 そうやって学校の許可(?)も無事にもらうことができた。こんな人が理事長だなんてこの学院の存続が危ぶまれるが、今は置いておこう。それよりも同棲生活のことだ。これから2週間、μ'sメンバー12人と俺の同棲が始まる。これには俺たちの絆と愛情を深める意図があるのだが、あの秋葉のことだから果たしてどこまで本気なのだろうか?

 

 

 

 

 そしてまた、俺たちの新しい日常の幕が開かれようとしていた。

 




 はい、そういうことで顧問は皆さんのご想像通りだったと思います(笑)
こちらとしても顧問の候補としてオリキャラを新たに作ろうと考えていたのですが、個人的にオリキャラが多過ぎるのは嫌いなので、皆さんが既に慣れ親しんでいる秋葉を抜擢しました。彼女のことを『好きだ』という人が何人いるかは分かりませんが……

 個人的にはオリ主以外のキャラ、つまり楓と秋葉もμ'sのメンバーと同じくらい読者の皆さんに好きになってもらえればいいなと思っています。そのためにキャラを濃くしているわけですしね(笑)


 そしてその後は少し間を空けて新章に突入します。μ'sのみんなとの同棲生活に零君はどう動くのでしょう?そうは言ってもいつも通りなことには変わりないんですけどね(笑)
この2週間の同棲生活の間に、シスターズの個人回をやる予定です。


Twitter始めてみた(もう一ヶ月)ご意見、ご感想、次回予告など。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たなる決意!同棲生活スタート!!

 コラボだと言ったり間を空けると言ったな、あれは嘘だ……

 そんなわけで、今回から新章に突入!!
 前半は結構期待してくださる方が多かったミッションの内容説明、後半はμ'sメンバーが零君の家に次々と入居してきます!!


~同棲生活開始前日~

 

 

 

 

「来たね、待ってたよ」

「何の用だ?またこんなところに呼び出して」

 

 

 μ'sのみんなと同棲生活を開始する日の前日、俺は再び秋葉に呼び出され彼女の研究室に来ていた。前回は穂乃果と一緒にコイツの話を聞きに来たのだが、今回は俺1人だけだ。

 

 もう日も落ちていて大学にはほとんど人がいなかった。そんな時間に呼び出すなんて常識のない奴(元々秋葉に常識などあったものじゃない)だが、珍しく真剣な口調なためこちらも身構えざるを得ない。同棲生活に関することなら俺に電話なり同じ大学の絵里たちに話せばいいのものの、わざわざ俺を呼び出す辺りそれなりの内容を含んだ話なのだろう。

 

 

「御託はいいから用件だけ話せ」

「まぁそんなに慌てなさんな。端的に言えばね、零君にはみんなと同棲している間にやってもらいたいことがあるの」

「やってもらいたいこと?」

「うん。零君には……雪穂ちゃんに亜里沙ちゃん、そして楓ちゃんを彼女にしてもらうわ」

「なに……?」

 

 

 今このバカはなんて言った……?彼女……だと?雪穂に亜里沙、そして楓を?

 言っている意味は理解できるのだが、その理解をしたせいで脳がパンクしてしまったため気持ちの整理をすることができない。今も自分が何を言っているのか分からないくらいだ。

 

 とにかく冷静になれ……またコイツの悪ふざけかもしれない。落ち着いて1つ1つ対処していくんだ。

 

 

「彼女って……俺には穂乃果たちがいる」

「今更9人でも12人でも変わらないでしょ」

「だけど俺は雪穂や亜里沙と恋人同士になるような関係じゃない。それに楓は血の繋がった妹なんだぞ」

「そうかな?その3人、零君にすごく好意を持っているよ。それもかなり深い……もしかしたら既にその好意は"愛"になっているかもね」

「そんな馬鹿な……」

 

 

 妹である楓はともかく、雪穂と亜里沙とはそこまで長い付き合いでもない。出会ったのは1年前だが、穂乃果たち9人と比べれば一緒にいた時間はかなり少ない。正直、まともに話し始めたのはアイツらが高校に入学してからと言っても過言ではないしな。それまでは顔を合わせば喋るだけ、そんな関係だった。

 

 

「それはとりあえず置いておこう。まずはお前の意図が知りたい。どうして俺にそんなことを頼む?」

「この前、顔合わせということで私が一度練習を見に行ったでしょ?」

「あ、あぁ……」

「その時の雪穂ちゃんと亜里沙ちゃん、少しあなたに遠慮していたんだよね」

「アイツらが、俺に?」

「うん。零君に必要以上には近づかないというか、踏み込んでいない。頼りにして信頼もしているけど、一定の距離を置いている」

 

 

 それには全く気付かなかった。むしろ亜里沙はかなりグイグイ来ている方だと思ってたけど、秋葉の目から見ればそんなことはなかったようだ。雪穂に関しても特に距離を感じたことはないのだが、そう言われてみれば穂乃果たちとは真逆で自分から遠ざかっているような感じがしなくもない。心と心の間に壁はないが距離はある、そんな感じだ。

 

 

「だから零君には2人と心の距離を縮めて欲しいの。このままμ's内で距離ができたままだと、絶対『ラブライブ!』に優勝できない」

「だからって、恋人同士になる必要はないだろ!!」

「あれ?恋人が増えるんだよ、嬉しくないの?」

「馬鹿野郎、俺はおふざけで9股してるんじゃねぇ。何度も苦しんで悩んで、そして行き着いた結果なんだ。お前の理由だけで雪穂と亜里沙を恋人になんてできるか」

 

 

 苦しんでというのは大げさかもしれないが本当だ。俺とμ'sの間で起こった惨劇、穂乃果たちの歪んだ愛は俺やみんなを幾度となく苦しめた。真姫にスタンガンで気絶させられたり、絵里に記憶を奪われたり、海未に腕を矢で射抜かれたり、他にもたくさん……思い出すだけでも背筋が凍る。

 

 でも俺たちはその出来事を反省はしているが後悔はしていない。そのおかげで俺たちは自分の本当の気持ちに気づくことができたんだからな。そして今の幸せな関係に至っている。

 

 

「それに楓とはそんな距離なんて感じないぞ」

「本当に……そう思ってる?」

「え?」

「そう思っているのならまだまだ甘いよ。あなたは"あの一件"以来とても成長した。女の子を大切にする気持ちはもう誰にも負けてないと思う」

「だったら!!」

「でもね!!それでもまだ足りない。あなたは女の子の笑顔にさせることができる。女の子の悩みや苦しみ、葛藤……心に掛る重圧を全部取り除くこともできる。穂乃果ちゃんたちの言葉を借りれば、あなたは"ヒーロー"そのもの。だけどそれでも見落としている部分がある。それが今の雪穂ちゃんと亜里沙ちゃん、そして楓ちゃんの3人……」

 

 

 そう秋葉に指摘され、俺は自分の記憶を辿ってみる。その3人のことは常に気をかけていた。新しくμ'sに入ったこともあってμ'sにしっかりと馴染めるかどうか、穂乃果たちに追いつこうと無理な練習をしていないかなど、精神面のケアは余すことなく施してきたはずだ。そうすることで彼女たちの笑顔を見ることができる、そう思っていた。

 

 だけどその考えには決定的にある部分が欠如している。アイツらが俺のことをどう思っているのかなんて真面目に考えたことすらなかった。ただ俺はアイツらが笑顔でいられるよう振る舞っていただけで、"恋愛"という側面は一切気にしたことがない。

 

 雪穂と亜里沙が俺に好意を持っている……?楓が俺に好意があるのは明白だが、それは兄妹という範疇に収まらない何かなのか、それとももっと別の感情を持っているのか。アイツらのそれらしい素振りを見たことはあった。あったけど、『俺が好きだなんて、そんなわけないだろう』と勝手に高を括っていたのかもしれない。

 

 

「お前の言いたいことは分かった。でもやっぱり恋人同士になるっていうのは納得できない。一番重要なのはアイツらの気持ちだから。雪穂たちが俺のことが好きだって確証もまだないしな」

「そうね。恋人同士にならなくても雪穂ちゃんたちの悩みさえ取り除きさえすればそれでいいのよ」

「それが分かっていて、なぜ恋人同士にさせようとしたんだよ……」

「えっ?だって12股なんて面白そうじゃん♪」

「結局そこに行きつくのか……」

 

 

 割と真面目なことを言ったかと思えば、最終的には自分の欲望だったってわけかよ。でもコイツの指摘は的確だ。俺だけでは雪穂たちとの距離感なんて全然分からなかったからな。人を見る目は俺より秋葉の方が数倍も優れている。

 

 

「でも、その先で雪穂ちゃんたちが零君に告白してきたらどうする?本気であなたを好きになった彼女たちを……あなたならどうするの?」

「もちろんその時は……」

 

 

 そんなもの、初めから決まっている――――

 

 

 

 

「その時は、みんな俺の彼女にするだけだ!!」

 

 

 

 

 最低な答えだ……でも雪穂たちが俺のことを好きだってことが分かったのなら、俺は間違いなくこの選択肢を取る。相思相愛ならば何の問題もないしな。もう9股だろうが12股だろうが関係ない!!俺は俺の好きなようにやらせてもらう!!

 

 

「ぷっ、アハハハハハハハ!!最低な男が目の前にいるよアハハハ!!」

「うるせぇな……そうさせたのはお前だろ」

「そうだけど、さっき恋人同士になるのは反対してなかったっけ?」

「それはアイツらの俺に対する気持ちが"LOVE"じゃなくて"LIKE"だった時限定だ。"LOVE"だと分かった瞬間、俺は容赦しないからな」

「アハハハハハハ!!本当に最低だけど……カッコいいよ♪その最悪な性格、実に私好みの男だ!!」

「そりゃあどうも……」

 

 

 本当に最低で最悪なのはお前だけどな……まぁ俺も同じようなものか。また変な目標立てちまったよ、どうするんだこれ……?とにかく恋人云々は後回しで、雪穂と亜里沙、楓に悩みがあるのならまずはそれを解決することからスタートだな。

 

 

「零君はその3人のこと、好きなの……?」

「もう何度も何気ない仕草にドキッとさせられてるよ。まだ素直に好きとは言えないけど、もしかしたらこの同棲生活で本音が言い合える仲になれるかもな」

「ふ~ん……主にどういうところが好き?それより楓ちゃんのことも好きだなんて驚いたよ!!もうただの妹とは見てないようだね」

「何だかんだ言って楓は俺のためだけに精一杯尽くしてくれるからな。外見が可愛くて美人だけじゃなくて、家庭的だし面倒見もいいし一緒にいて楽しいし、それに――――って何でお前にこんなこと話さないといけねぇんだ。お前に話すぐらいなら楓に直接話すっつーの」

「うんうんそれがいいよ♪」

 

 

 クソッ!!秋葉と一緒にいると心の奥底にあった想いがどんどん抉り出されてしまう。恐ろしい奴だよ全く……

 でもコイツのおかげでまたμ'sのみんなとの距離が縮まりそうだから、今回だけは許してやるか。

 

 

 

 

 そして俺は翌日の同棲生活に向け、新たなる決意を固めた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 翌日、遂にμ'sのみんなとの同棲生活初日を迎えた。そうはいってもまだ誰も俺の家には来ておらず、このあと随時到着する予定だ。そして俺の仕事は家の外でみんなを迎え入れること。いちいちインターホンを鳴らされても面倒だからな。

 

 

「おーーい零くーーん!!来たよーー!!」

「お前らが一番乗りか、意外だな」

「お姉ちゃん、昨日からずっと張り切ってましたから」

 

 

 意外にも一番乗りは穂乃果と雪穂の高坂姉妹だった。穂乃果はいつも以上の満面な笑顔で、雪穂も穂乃果までとはいかないがとても楽しそうな表情をしている。この姉妹、性格は似ても似つかないように見えるがよく観察すれば共通点がいくつか見つかったりもする。特に感情が表情に出やすいという点では全く同じだ。

 

 

「穂乃果……お前すごい荷物だな」

「だって2週間もお泊りするんだから、遊ぶモノとかたくさん持って来ないとね♪」

「ゴメンなさい、家でも散々言ったんですけど……」

「大変だなお前も。それと荷物はたくさんあったっていいよ、家広いから」

 

 

 ゲーム類なら大抵家にあるんだけどな……そういえばそもそも女の子って普段家で何をしているのか分からねぇ。

 

 

 こうして見てみると、雪穂はいつもの雪穂にしか見えない。これはまだ俺と雪穂の距離が縮まっていなから、彼女の気持ちに気づけないだけなのか。外面はいつも通りだけど、いつも通りを装っているのかもしれない。とにかくこの2週間で雪穂の真意を見つけ出さないとな。

 

 

「じゃあ先に家に入っててくれ。中に楓がいるから、荷物の置く場所とかは全部アイツに聞けばいい」

「うん!!じゃあお邪魔しまーーす♪」

「お邪魔します」

 

 

 ただでさえうるさい妹がいるのに、穂乃果まで加わったら騒音レベルじゃないか……?しかもここからまだあと9人も来るから、もう何と表現したらいいのか……女の子同士っていうのはうるさいという偏見があるからな。男1人だけじゃあ女の子の波に飲み込まれてしまいそうだ。

 

 

「零くん♪来たよ~♪」

「おはようございます、零」

「おっ、いらっしゃい」

 

 

 次に到着したのはことりと海未の幼馴染コンビだ。ことりはいいとしても、海未がこの同棲生活に賛成してくれるのは意外だったな。やっぱり海未も俺の彼女の1人、彼氏と一緒の屋根の下に住みたいという気持ちがあるのかもしれない。それを素直に言わない辺り可愛い奴だ。

 

 

「ことり、お前も荷物多いな……」

「だってぇ~、Myまくらでしょ?お人形さんでしょ?お洋服でしょ?パジャマでしょ?それにそれに――」

「あーーもう分かった分かった!!」

「ことりはとことん自分の周りをファンシーにしないと気が済まない人ですから……」

「まあそれで本人の気が済むならいいや。じゃあ先に家へ入っていてくれ」

「それではお邪魔します。行きますよことり」

「えっ?まだ紹介したいモノあるのにぃ~~!!」

 

 

 そのカバンは四次元ポケットか何かか!?どうやってその小さなカバンにそれだけのモノを入れているんだよ……それにことりのことだから、もしかして卑猥な道具もあったり?ありえそうで困る。あの教育者の風上にも置けない親鳥が持たせている可能性も十分に考えられるな。

 

 

「零くーーん!!来たにゃ~!!」

「おはよう零、お出迎えなんて粋なことしてくれるじゃない」

「おはよう零君、今日からよろしくお願いします!!」

「おはよう、よろしくな!!」

 

 

 次に来たのは凛、真姫、花陽の2年生トリオだ。俺の家に来るだけなのに3人一緒だなんて、相変わらず仲のいい奴らだな。そんな後輩ちゃんたち3人は、この2週間俺がたっぷりと可愛がってやろう!!なぁに遠慮はいらないぞ!!多少脱いでもらうだけだから!!…………気持ちわりぃな俺のテンション。

 

 

「お前らは荷物控えめなんだな。穂乃果とことりはいっぱい持ってきやがったから」

「凛ちゃんも初めはそうだったんだけどね」

「真姫ちゃんが『これはいる、これはいらない』ってガミガミうるさかったんだにゃ~……」

「あれだけ多いと零たちに迷惑が掛かると思っただけよ!!」

「真姫も同棲生活を楽しみにしてたんだな!!俺も嬉しいよ!!」

「どうしてそうなるの!?意味分かんない!!」

「まぁまぁ、とりあえず中に入れよ。あとは楓が案内してくれる」

 

 

 ウキウキ気分最高潮の凛と花陽、そしてウキウキ気分を隠しているようで見え見えの真姫を家へ誘導した。俺にはいいところ育ちの真姫が俺の家なんかで満足してくれるのかちょっぴり不安だ。まぁ楽しそうにしているみたいだし大丈夫だろ。

 

 

「零くんおはようございます♪」

「わざわざお出迎え?あなたらしくもない」

「おはよう亜里沙、そして同時に辛辣な挨拶もありがとな……」

「ゴメンゴメン♪おはよう零」

 

 

 次に来たのは絵里と亜里沙のクォーター姉妹だ。この2人が並んでいると、モデルさん同士がプライベートで遊びに出かけているみたいだな。最近亜里沙は身長、スタイル共に格段に成長を遂げているし、もう高校生モデルと言っても間違いではないだろう。流石絵里の妹だ。そして胸の発達具合も、洋服の膨らみ具合でよく分かる。

 

 

「お前ら身軽だなぁ~」

「2週間分の服を持ってくるとなると、洗濯も大変でしょ?なるべく使い回さないとね」

「だから私たち、可愛いと思う服を昨日頑張って選んだんですよ♪零くんに見てもらうために!!」

「あ、亜里沙ったら!!もうっ……」

「へぇ~、そりゃあ楽しみだ!!まぁとりあえず家に入ってくれよ」

 

 

 絵里も亜里沙もいい子だなぁ~~!!絵里は頼れる綺麗なお姉さん、亜里沙は甘えてくる可愛い妹……うん、俺がこの間に入れば完璧だな!!こんな理想的な姉と妹が俺の彼女と彼女候補だなんて、これで舞い上がらない男はいないだろ!!

 

 

 雪穂と同じく亜里沙を見る限りでは、悩みなんて抱えてないような気もする。亜里沙は繊細なところもあるから、俺に迷惑が掛かるのを嫌がって言い出せないのかもしれないな。

 

 

「零~!!来たわよ~」

「零君おはようさん♪」

「おはようにこ、希。なんかお前ら楽しそうだな?」

「当たり前じゃない!!彼氏との同棲生活なんて、スーパーアイドルにとっては禁則事項。でも愛のためなら~♡」

「にこっち、さっきからずっとこうなんよ。でもウチも楽しみなことには変わらないけどね♪」

 

 

 普段からスキンシップが多いにこと希が俺と一緒に住むことになるとなれば大変だ。そこに穂乃果やことり、凛まで加わったら……俺の身体が持つかどうか、今更ながら心配になってきた。絞りに絞り尽くされるのではないだろうか……何がとは言わないけど。

 

 

「今日からよろしくね、零♪」

「あまりハメを外しすぎて、女の子をイジメたらあかんよ♪」

「ハハハ、善処する……でもまぁ、これからよろしくな!!」

 

 

 お前らに手を出さないという保証はできない。なんたってあのμ'sと一緒に同棲生活をすることになるんだ、期待しないわけないだろ!!普段見られない風呂上りやパジャマ姿、寝起き……想像するだけで興奮が収まらなくなってくる。今まで妄想で補っていた部分がすべて現実として現れるんだ、これはチャンスとしか言い様がないだろう!!

 

 もちろんミッションのことも忘れてないぞ。雪穂、亜里沙、楓、この3人の気持ちを聞き出さなければ……

 

 

 

 

 さて、これで全員の入居が完了した。次は誰がどこの部屋になるのかだが――――って、あれ?部屋の数足りなくね?このままだと――――――あっ!!俺の部屋を使うしかない!?お、俺のプライベートは!?!?こ、これは……謀ったな秋葉ぁああああああああああ!!勝手に浮かれて部屋のことなんか考えてない俺も馬鹿だけどさぁ……

 

 一体どうすればいいの!?

 

 




 新章が始まりました!!とは言っても2週間限定なので、そこまで長いシリーズにはならない予定です。多分次回さえ終えればいつも通りの短編集になると思われます。つまり今までとあまり変わらないってことです(笑)

 ミッションの内容は『雪穂、亜里沙、楓を彼女にする』という大胆なモノでしたがそれはあくまで建前であって、真の目的は3人が抱いているだろう悩みを解決することです。割と真面目な内容で驚いたでしょう?――――え?12股宣言している馬鹿がいるって?それがこの小説なんですよ(笑)


Twitter始めてみた。ご意見、ご感想、次回予告など。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

穂乃果とことり、お風呂でおもてなし

 まだコラボ小説ではなく、通常回です。

 今回は前半と後半で2本立て。前半は前回の続きで、久々に『前回のラブライブ!』が帰ってきました!後半は皆さんお待ちかね(?)のお風呂シーンです!なので後半がメインと言っても過言ではないですね。

 もちろん後半はそこそこに『R-17.9』要素を含んでいるので、閲覧の際にはご注意を!!


 

前回のラブライブ!

 

 顧問となった秋葉からの命令で、突如2週間の同棲生活をすることになった俺たち。その同棲生活前日、俺は秋葉からあるミッションを与えられる。それは1年生組の悩みを解消し、さらに親密な仲になること。そして翌日、遂にμ'sメンバーが俺の家に入居。ここからウハウハなハーレムな日々が送れると思っていた矢先、1つ重要な問題に気がつく。

 

 部屋の数が足りねぇえええええええええ!!!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「――――と言うわけで、部屋の数が足りていない。一部屋に3人としても全然足りないし、それ以上になると流石に窮屈になるから無理だ。まぁ俺がリビングで寝るっていう手もあるが……」

 

 

 ただいま俺たちはリビングに集合して部屋の割り当て会議を行っている。みんなとの同棲生活にテンションが上がってしまって、部屋のことなんて一切考えていなかった。俺の部屋と楓の部屋を合わせれば部屋は4つ。最悪俺の部屋を貸し出せば3人ずつで寝ることはできる。その場合、俺は2週間リビングで野宿することになるがな。

 

 

「じゃあ私がお兄ちゃんの部屋に行けばいいんじゃない?これで4人ずつなら丁度だし♪」

「それでもいいけど、4人はやっぱり少し窮屈だと思うんだよな。お客さんにそんな不快な思いをさせるわけにはいかないだろ。それにお前の魂胆は見え見えだ」

 

 

 しょうがない。俺はリビングでこの2週間を耐えきるとするか。幸いにも最近の夜はほどよく人間の適温になってきたので、夜中に凍え死んだり蒸し暑さで喚くことはないだろう。

 

 

「はいはいはーーーい!!穂乃果に提案がありまーーーす!!」

「どうした急に?」

「3人ずつ交代交代で、零君と一緒に寝るっていうのはどうかな?」

「へ……?」

 

 

 コイツ……今なんて言った?いや言っていることの意味は分かるし、これまでにも穂乃果たちとは一緒に寝たこともある。だって恋人同士だもん!!でも複数の女の子と一緒に寝るというステキ体験は今まで経験したことがない!!

 

 

「それことりもさんせ~い♪ジュルリ……」

「お兄ちゃんと一緒に!?それならそれでOK♪ジュルリ……」

「にこも零と一緒ならそれが一番♪ジュルリ……」

「お前ら涎出てるぞ!?俺に何する気だ!?」

 

 

 ことりも楓もにこも、笑っているようで目はギラギラと獣のような輝きを見せている。俺はこの時改めて分かった、この3人を一緒に組ませてはならないと。もしこの3人と一緒に同じ部屋で寝た場合、俺は自分の精力を保っていられる自信がない。夜な夜な干からびるまで出し尽くされるだろう。

 

 

「凛も久しぶりに零君と一緒に寝たいにゃ!!その時はかよちんも一緒ね♪」

「わ、私も!?でも零君と一緒にかぁ……えへへ♪」

「ウチも零君と寝たいなぁ~♪絵里ちは?」

「私も特に反対意見はないわね。それにちょっとドキドキして楽しみかも♪」

 

 

 意外とみんな乗り気だ……もちろんみんなの彼氏として、そして変態紳士として嬉しいことなのだが、毎日毎日女の子が何人も入れ替わり立ち替わりで一緒に寝るだなんて緊張しないわけないだろ!!俺がそういうことに関しては何でも精神が図太いと思うなよ!!これでも健全で、至って普通の男子高校生なんだから!!

 

 それにさっきからみんなが『寝る寝る』と連呼しているが、俺の薄汚れた心ではもう卑猥な言葉にしか聞こえない。実際に夜を共にしたのは……大学生組と花陽ぐらいか。だけど今回は1つ屋根の下に13人もいるわけだけら、多分間違いは起きないと思う。ことりやにこは涎を垂らしているけども……

 

 

「私も楽しみです♪雪穂も一緒にどう?」

「私!?ま、まぁ別にいいけど……」

「えっ、いいのか雪穂?」

「へ、変なことさえしなければいいですよ。それに、この同棲生活はみんなとの仲を深めるためなんですよね?だったら零君と一緒でもいいかなぁって」

 

 

 あの雪穂まで同意するとは……秋葉の言う通り、もしかして本当に俺に好意があるのだろうか?俺の驕りかもしれないが、今の雪穂の反応を見る限り可能性はある。だったら雪穂と一緒に寝ることで、彼女の気持ちを聞き出すしかないな。そうと決まれば俺はやるぞ!!毎日みんなと一緒に寝てやる!!

 

 

「海未や真姫はどうなんだ?もちろん無理強いはしないけど」

「べ、別に一緒に寝たくないなんて言ってないでしょ!!」

「うぅ……恥ずかしいですが、みんながやるというのなら」

「俺と寝るのがそこまでイヤなのか……」

「そ、そんなことはありません!!むしろ楽しみというか、恥ずかしいというか……とにかく男性と寝床を共にするのは緊張するんです!!」

 

 

 海未も真姫も俺と目を合わせてくれないが、恋愛奥手な彼女たちが俺と一緒に夜を共にしてくれるだけでも大きな成長だろう。今までのコイツらだったら確実にこの時点で理不尽な制裁を貰っていたからな。そう考えれば最近はセクハラしても殴られることは減ったような気もする。いい傾向だ!!

 

 

 そうして俺はリビングで野宿することはなくなり、その代わり毎日一緒に寝る女の子が変わるという、そこらのアニメやゲームの主人公よりもハーレムな夜を送ることになった。これ……現実なんだよな?この2週間、俺の理性が崩壊しないことだけを祈る。

 

 

 全体の意見がまとまったので、絵里が一歩前へ出て手をパンと叩く。

 

 

「じゃあもうこんな時間だし、あとの部屋割りはまた決めるとして、早速合同生活一回目の練習しましょうか」

「そうだな。じゃあみんな!!この2週間、『ラブライブ!』優勝目指して頑張ろう!!」

 

 

「「「「「「「「「「「「おーー!!」」」」」」」」」」」」

 

 

 おっ、みんな息ピッタリだな!!こうやっていきなりでも掛け声を揃えられるのは、そのチームの団結力が高いという証拠になる。さらにここから今以上に結束を上げるよう秋葉に指示されているから大変だ。

 

 

「ねぇことりちゃん」

「なぁに穂乃果ちゃん?」

「練習といえばさぁ――――」

「うんうん――――あっ、そうだね♪」

 

 

 何話してんだ穂乃果とことりは?さっきチラッと表情が見えたが、2人共小悪魔の笑顔になっていたぞ……これは何かイヤな予感がする。俺の体力が一気に奪われるような予感が……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ふぅ~……今日はほとんど練習漬けだったな」

 

 

 場面は飛んで風呂の中。練習で疲れた身体を癒すため、みんなには先に風呂に入ってもらい、俺が最後となる。

 今日は一日練習漬けで雪穂たちの誰かと2人きりになることができなかった。彼女たちの真意を聞きだすのなら2人きりがベストだと思ったんだけど、この同棲中は常にみんなと一緒にいるから難しいかもしれないな。唯一チャンスがあるとすれば就寝前に連れ出すことか。

 

 

「そういやこの風呂、既にみんなが入ったんだよな……ということはみんなのエキスがふんだんに詰まって……」

 

 

 いつもはぼぉ~っと入っている風呂も、女の子たちが入ったお湯と同じお湯に浸かっていると思うと心底興奮してくる。ちょっとだけ飲んでみようか……?女の子の出汁ってどんな味がするんだろう?『女神たちの聖水』という名で売り出したら儲けられるかもしれない。

 

 いや待て!!μ'sのみんなは俺だけのものだ!!いくらお風呂のお湯だからと言っても他の奴なんかに渡すわけにはいかない。俺って最近よくこういうところで迷うようになってしまったよな。"お金"か"愛"か……もちろん迷わず"愛"を選択する!!それと同時に"お金"も選択する。だって彼女だって1人じゃなくて9人と付き合った男なんだよ?どっちも選ぶに決まってんじゃん!!

 

 どちらかしか手に入れられない?馬鹿言え!!どっちも手に入れるんだよ!!

 

 

「貪欲だな俺……でもその貪欲さがなければ、みんなとこうして一緒に同棲することもなかっただろうし――――ん?話し声?脱衣所に誰かいるのか?」

 

 

「お待たせしましたご主人様♪」

「穂乃果たちが背中流してあげるね♪」

 

 

「な、ななななな……お、お前ら!?何入ってきてんだ!?」

 

 

 風呂の扉を空けて入ってきたのはことりと穂乃果の2人。1人で妄想に浸っていた俺は完全に油断をしていて、いつも上げないような声を出してしまった。コイツら一体何考えてんだ!?本当なら嬉しい状況なのだが、如何せん初めてなことのため頭がパニックになっている。

 

 ちなみに穂乃果もことりもちゃんとタオルを巻いているから変な想像はしないように。

 

 

「だって恋人同士だったら普通じゃない?ね~ことりちゃん♪」

「ね~穂乃果ちゃん♪」

 

 

 ことほのコンビはお互いにブッ飛んだ思考を持っているせいか、最近やたら仲がいい。もちろん今までもそうだったけど、普段から俺のことを取り合うなどその仲の良さは目に見えて顕著になってきていた。喧嘩するほど仲がいいとも言うしな。

 

 ようやく冷静になってきたためよく考えてみると、これってもの凄くオイシイ状況なのではなかろうか?あのμ'sのリーダーでもはや世間にまで注目されるようになった穂乃果、そしてもうアキバだけにとどまらない人気を誇るミナリンスキーことことり、その絶世の美少女2人が自ら混浴を志願してきているのだ。そう思うと先ほどの興奮など塵芥のようなもの。更なる興奮が沸き立ってきた。

 

 こうなったらもう彼女たちに身を任せてみようか。

 

 

「ほら零君身体洗ってあげるよ!!早く湯船から出て」

「待て!!このまま出たら色々とマズイ!!主に下半身が……」

「それだったら大丈夫だよ。そうだと思ってタオル持ってきたから」

「そ、そうか……用意がいいな」

「ことりとしては、タオルを巻いてくれなくてもOKだけどね♪」

「穂乃果も別にいいよ♪」

「えっ、マジで……」

 

 

 ここで俺の理性が一度崩壊しかける。こんな恥ずかしいセリフを真顔で言えるハズがなく、穂乃果もことりも若干戸惑っているようだった。顔を赤くするぐらいなら言わなければいいだろ!!でもそんな彼女たちが愛おしく、俺はこのまま湯船から出そうになるがそこは残った理性でグッと押さえ込んだ。いくら俺であってもムードも関係なしに露出狂にはなれない。

 

 結局俺は穂乃果からタオルを借りて大事な部分を隠し、彼女たちに身体を洗ってもらうことにした。

 

 

「じゃあ零君、ここに座って!!」

「穂乃果が後ろで、ことりが前――――って、両方から洗ってくれるのか!?」

「もちろんだよ♪ことりたちが全身を、余すことなく洗って差し上げますよ♪」

「うぅ~……じゃんけんでも負けなかったら穂乃果が前を洗えたのに……」

「えへへ♪でも明日は穂乃果ちゃんが前だよ♪」

「明日もあるのかよ!?」

 

 

 この2週間ずっとこんな日々が続くのか!?バスタオル1枚の美少女2人に、毎日身体を洗ってもらえるとかどんなパラダイスだよ!?もちろん嬉しいよ!!嬉しいけどさ、途中で理性が保てなくなって襲っちゃっても文句言わないでね?

 

 

「じゃあ石鹸で使って泡々にしましょう~♪」

「零君の背中、大きいから洗うのも大変そうだね。でも頑張るよ!!」

「が、頑張ってもらうのはいいけど……お前ら手で洗うの!?」

「もちろんだよ!!零君の綺麗な身体を傷つけたくないしね♪」

「ことりたちがやさし~く洗ってあげます♪絶対に動かないでくださいね?」

「あ、あぁ……」

 

 

 穂乃果とことりは手で石鹸を泡立てながら、2人同時に俺の身体に触れた。2人の柔らかい手が俺の胸と背中を優しくなぞる。今まで味わったことのない感触とその気持ちよさに小さな声が出てしまう。穂乃果もことりも俺の身体を洗うというよりかは、完全に自分たちが楽しむために俺の身体に触れているようだった。その証拠に彼女たちがどんどん俺に近づいてくる。

 

 

「零君♪」

「ほ、穂乃果!?お前バスタオルはどうした!?おっぱいが生で当たってるぞ!?」

「えへへ♪こういう時は『当ててるんだよ♡』って言えばいいのかな?でももう興奮を抑えきれないよ」

「そんなことされたら俺も抑えきれなくなる……」

 

 

 穂乃果は俺の後ろにいるため彼女の姿を直接目視することはできないが、その柔らかな胸の感触だけは背中を通じて伝わってくる。それに穂乃果……乳首が立ってやがる!!それを身体に押し付けるなんてエロ過ぎるだろ!!

 

 

「じゃあことりもタオル取っちゃお♪」

「な゛っ!?」

「どうですかご主人様……ことりのカラダ♡」

 

 

 俺が言葉を発する前に、ことりの身体を包んでいたベールが取り払われた。そして俺の眼前には生まれたままのことりの全身が映し出される。上はもちろん彼女の豊満なおっぱいが丸見え。肉付きのよいその身体は、男なら誰でもむしゃぶりつきたくなる。下は辛うじて俺の身体を洗っていた時の泡が残っていて、都合よく隠れていた。だけどその泡が落ちたら確実に丸見えとなるだろう。

 

 

「もう零君!!穂乃果の身体も見てよ~」

「そんなこと言ってもお前は後ろに――――!!!!」

 

 

 俺は油断していた。穂乃果はいつの間にか俺の背中から身体をずらし、鏡にその全身が映るように仕向けていたのだ。そして俺は鏡越しに穂乃果の全身を見てしまう。小鳥と同じく上は丸見え、下は泡で見事に隠れている。おっぱいの大きさはことりより若干劣るものの、それでも十分過ぎるぐらいの大きさ。そしてやはり1年間スクールアイドルをやってきたその身体、スタイルは去年より明らかに引き締まっていた。

 

 

「さぁことりちゃん!!一緒にご奉仕しよ♪」

「もちろん!!今度はことりたちのおっぱいで洗って差し上げます、ご主人様♪」

「動いちゃダメだよ、零君♪」

「あ、あぁ……」

 

 

 俺はもうマトモに声が出せなくなってきた。世間では変態紳士として名を通してきた俺だが、全裸の女の子2人に襲われるだけでどうすることもできない奴だったんだ。むしろこの状況で冷静でいられる奴がいるかどうかが問題だが……

 

 2人は自分の胸の谷間に石鹸を突っ込んで、そのまま胸を動かして泡立たせる。その光景だけでももう満足できるぞ。

 

 

「それじゃあ零君、リラックスしてね♪」

「ご奉仕させて頂きます♪ご主人様♡」

「あ、あぁ……」

 

 

 俺、さっきから同じことしか言ってねぇな……でも言葉にできないくらい最高の状況なんだよ!!

 穂乃果は俺の背中に、ことりは俺の胸に自分の胸を押し付ける。そして十分に泡立てたおっぱいを2人同時に上下に動かし始めた。

 

 こ、これが生おっぱいの刺激なのか!?!?こんな至高で柔らかくて気持ちのいいモノがこの地球上にあっただなんて……もう俺、このまま死んでもいいよ。それぐらい天国のような快感であった。

 

 

「うんしょうんしょ、気持ちいい零君?」

「あぁ、とっても……」

「ご主人様の大切なお身体は、ことりたちの身体で綺麗にしちゃいますからね♪」

 

 

 むにゅむにゅと柔らかいおっぱいを前後から押し付けられ、その刺激と快楽で意識がブッ飛びそうになる。もうこのまま案山子のように黙ってこの快感に身を投じてもいいのではなかろうか。何も考えたくないほどの快楽は久しぶりかもしれない。

 

 

「あっ、零くんの……勃ってるね♡」

「ま、待て!!それは生理現象なんだ!!」

「そうだよね、仕方のないことなんだよね。でも男の子って毎日溜まっているモノを出さないと辛いんでしょ?穂乃果、これでも零君に喜んでもらえるように結構お勉強しているんだよ?」

「ま、毎日って……」

「同棲生活をしてたらずっと溜まりっぱなしで出せないでしょ?だからことりちゃんと考えたんだ」

「な、なにを……?」

 

 

 

 

「一緒に住んでいる間は、穂乃果たちが処理してあげるね♪」

 

 

 

 

 ドクン、と心臓の鼓動の音がこれでもかというくらいに聞こえてきた。穂乃果に耳元で囁かれ、天国にいた俺は一気に現実へと引き戻される。それでも頭がパニックになって何も考えられないという状況には一切変わりがない。

 

 改めて2人の身体を見る。綺麗で白い肌、どうして外で練習をしているのにそんな肌を保っていられるのか。身体中に付いている泡が何ともエロい雰囲気を醸し出している。俺はそのまま2人の言葉に耳を傾けることしかできなかった。

 

 

「ご主人様の溜まった悪いモノは、全部ことりたちが処理します♪いつでもどこでもことりたちを使ってくれていいんですよ♡」

「いつでも……どこでも……だと?」

「そうだよ♪辛くなったらいつでも言ってね?穂乃果たちが手でも、お口でも、おっぱいでも……零君が命令するなら、下のお口でも……」

「!!!」

 

 

 今穂乃果は何と言ったのか……?もうそこまで行けばただの恋人関係ではなくなってしまう。恋人よりもさらにその先……穂乃果もことりも、俺と一緒にその先へ行く覚悟があるということなのか……?彼女たちがお遊びでこんなことを言っているとは思えない。2人は本気だ。

 

 

 だったら俺はそれを拒否しない。俺だってみんなとさらにその先の関係へと進展したい。

 

 

 

 

 だから、俺は――――

 

 

 

 

「頼む……」

「は~い♪今日はことりがお相手します♪」

 

 

 

 

 そしてことりは、俺の前で跪き――――

 

 

 

 

 俺の下半身からタオルを取り去り――――

 

 

 

 

 アレを両手で握り締め――――

 

 

 

 

 徐々に顔を近づけていき――――

 

 

 

 

 その先端に――――

 

 

 

 

 キスをした――――

 




 今回は前半と後半でのギャップが凄まじい……
 本当はお風呂シーンだけで1話使う予定だったのですが、、夜を共にするという重要な下準備の回でもありますので前半のシーンを書かざるを得ませんでした。でも後半の文量的にこれで正解だったかも。

 ことほのの濃厚お風呂シーンはどうだったでしょうか?この小説では割と穂乃果とことりにスポットが当てられ、言ってしまえば優遇されていますが、これも零君に従順で変態度が高いという点から扱いやすいキャラだからですね。もちろん他のキャラもこの同棲生活中、2人に負けないくらいの濃厚シーンが待ってますよ(笑)

 1年生組の個人回は、他のメンバーの個人回とは違って真面目回になる予定です。お口直しをするならこっちで!!


 コラボに関しては、ちゃん丸さんの次回がコラボ回の予定なので、向この小説が完成次第また投稿日時を決めてTwitterや後書きで告知しようと思います。つまり次回も通常回になるかもしれません。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

凛、脱衣所での誘惑

 今回はまだ凛個人回をやっていないのに凛回!!
 恥ずかしくて照れながらも積極的に誘惑してくる凛に、零君はどう応える!?


 

 

前回のラブライブ!

 

 μ'sのみんなとの同棲生活が開始されるも、部屋の数が足りないという事態が起こってしまう。そこで穂乃果が思いついた画期的な提案、それは俺が毎日別々の女の子寝ることだった。それなんてハーレム……?

 そして初日の練習終了後、風呂に入っていた俺を穂乃果とことりの2人が襲撃する。2人のカラダを使ったご奉仕により、あのあと俺は……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ど、どうしたの零君?お風呂に入ったのに疲れているような……?」

「あぁ、花陽か……まぁある意味で疲れたよ。搾り取られた……」

「えっ?どういうこと?」

「そのまんまの意味だよ……」

 

 

 今の俺は花陽にまで心配されるほどなのか……でもあんなことをしてただなんて言えるわけないだろ!!結局あのあと、穂乃果とことりにこってりと搾られた。敢えて何がとは言わない。本当はことりだけのはずだったのだが、俺も穂乃果も溢れ出る欲求が抑えられなくなり、結局穂乃果にも処理を頼んでしまったわけだ。

 

 その結果がコレ。お風呂に入ったのにも関わらず、入る前より疲れているってどういうことだよ……今やっとその時の興奮が収まったのだが、収まったら収まったで疲れがドッと押し寄せてくる。今回は未知の興奮であったため、余計に体力が奪われたのだろう。そしてついでに精力もな……

 

 

「あれ?穂乃果ちゃんとことりちゃん、今洗濯終わったの?」

「うん!!家の洗濯機と違うからちょっと手間取っちゃって」

「ゴメンね、お夕食一緒に作れなくて」

「むしろお礼を言いたいのは私だよ♪2人にみんなの分の洗濯を任せちゃったから」

 

 

 穂乃果とことりは全員の洗濯物を引き受けるという口実の元、お風呂場への突撃計画を企てていたらしい。練習前にコソコソ話し合いをしていたのはこのことだったのか。ちなみに2人で突撃した理由は、まだお互いに1人だけだと緊張して決心がつかなかったかららしい。まだ多少はウブなところがあるみたいだ。

 

 

「穂乃果ちゃんもことりちゃんも、いつもよりお肌が綺麗に見えるよ♪どんなボディーソープ使ったの?」

「とっても特別なボディソープなんだよ♪今日はそれで顔を洗ったんだ」

「興味があるなら、今度花陽ちゃんも同じモノを使ってみる?ことりたちが貸してあげるよ♪」

「おいお前らそれは!!」

「ちょっとドロッとしていて癖のある匂いだけど、真っ白くてホカホカしてるから、花陽ちゃんならすぐ好きになれると思うよ!!」

「わぁ~ご飯みたいだね♪ありがとう!!」

 

 

 いつの間にか花陽の参戦まだ決定してるぅうううううううううううう!!それにその表現方法は色々マズイ!!そして俺の意見は完全に無視されている。俺に従順になってくれた穂乃果とことりは何処へ……

 

 

 

 

 

 

「にゃーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

「わっ!?凛ちゃん!?」

「凛!?どうしたんだ!?」

 

 

 突然凛が、廊下で話し込んでいた俺たちの横を叫びながら全速力で駆け抜けていった。あの叫びはただ事じゃないぞ!!リビングで一体何があったんだ!?一瞬だけ見えた横顔が、少し涙で濡れていたこともあって心配になってきた。

 

 そこで凛を追いかけようとした時、続いて絵里がリビングから顔を覗かせた。

 

 

「ゴメン……凛がああなったのは私のせいなの」

「絵里ちゃんの……?」

 

 

 まさか絵里が凛をイジメたっていうのか?あの面倒見がよくてμ'sのお姉さん的存在の絵里が!?賢かった時代の絵里じゃないんだから、後輩をビビらせることなんてしないと思っていたのだが……

 

 

「凛が『魚はキライだから食べないにゃ!!』って駄々をこねたから、ちょっとイタズラで『そんなこと言う子には、この中で一番大きなお魚をプレゼント♪』って凛の前に魚を持っていったら――」

「涙を流して逃げ出したってわけね……」

「凛ちゃんお魚は本当に苦手だから……」

 

 

 理由を聞けば至極どうでもいい内容だったが、凛からしてみれば首に刃物を突きつけられるぐらいの恐怖だったのだろう。でも人によって怖いものなんて違うから馬鹿にはできないよな。ちなみに俺の恐怖の対象にしているのはただ1人、神崎秋葉とかいう異星人だ。

 

 

「はぁ~……凛は俺が連れ戻すから、みんなは夕飯の手伝いに戻ってくれ」

「ゴメンなさい、本当は私が謝らないといけないのに……」

「もう少し落ち着いてから謝ればいい。大丈夫、ちゃんと連れて帰ってくるから」

「ありがとう、助かるわ」

 

 

 そうして絵里たちは夕飯の支度へと戻っていった。

 みんな仲良く同棲生活!!――となればいいのだが13人も1つ屋根の下で過ごしているんだ、そりゃあ多少の齟齬も起こるだろう。何も楽しいことばかりではないということだ。一緒に生活している以上、触れてはいけぬ琴線にも自然と近づいてしまうしな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おい凛、大丈夫か――――ってなにしてんだ?」

 

 

 凛が飛び込んだのは脱衣所だった。その隅っこでシクシクと涙を流しながら丸くなっている…………と思っていたのだが、何やら様子がおかしい。さっき一瞬見えた顔から涙を流していたのは確実だ。だから何かで涙を拭いているところまではいい。問題はその"何か"なのだが……明らかにタオルやハンカチではない。あれって、もしかして俺の……?まさかね……

 

 

「あっ、零くん!!来てくれたんだ♪うれしいにゃ~~!!」

「え、えぇ!?どうした凛!?急に抱きついてきて……」

 

 

 さっきまで泣いていたと思ったら、今度はニコッと笑顔になって俺の胸目掛けて抱きついてきた。その衝撃で俺は多少後ずさりするも、そのまま勢いで彼女を抱きしめ返す。もう女の子に抱きつかれたら反射的ににやり返すのが普通になってきている。それだけみんな(主に穂乃果、ことり、凛、にこ)からベタベタくっつかれているということだ。

 

 

「零くんお風呂上がりだからいい匂いだにゃ~~♪」

「そういうお前だって……」

 

 

 そして俺はここで本来の目的、凛をなだめて連れて帰るというミッションを忘れてしまった。凛から漂ってくるシャンプーの匂い、それは女の子特有の甘い匂いで男心を刺激する。確か同棲中は俺と同じシャンプーを使っているはずなのに、どうしてこうも女の子からはいい匂いがするのだろうか?

 

 

「零くん零くん♪」

「相変わらず甘えん坊だな凛は」

 

 

 凛は俺の名前を連呼しながらさらに強く抱きしめてきた。俺はそれに応えるように彼女の頭を優しく撫でる。お互いにまだ風呂上りで火照っているのか、抱きついただけで身体がどんどん熱くなっていく。

 

 そして凛は頬を朱色に染め、俺の目をジッと見つめてきた。普段の子供っぽい彼女からは考えられないくらい、今の凛は大人っぽく見える。俺が凛をここまで『女』として見たのは初めてかもしれない。可愛さと同時に色っぽさまであるとか反則だろ……

 

 

「零くん……凛、暑くなってきちゃった……」

「そりゃあお風呂上がりだからな」

「む~……ムードが足りてないにゃ!!もちろんそれもあるけど、それよりも零くんと一緒にいるからなんだよ?」

「それは俺もそうだよ。こうして凛と抱き合って、いい匂いもして、色っぽい顔もされたら興奮しないわけないだろ」

「えへへ♪凛で興奮してくれると、やっぱり嬉しいな♪身体には自信ないから……」

「馬鹿野郎、俺は凛のどこにだって興奮しちゃうぞ」

「零くんの変態さん♪でも……ありがと」

 

 

 μ'sのみんなに『μ'sの中で誰が一番女の子らしいか』と聞くと、決まって凛の名前を挙げる。普段は無邪気で活発で子供にしか見えない彼女だが、この素直な笑顔や恥ずかしがっている姿、ちょっと自信なさげでモジモジしている姿などを見れば納得がいく。

 

 

 強く、もっと強く、俺たちはお互いを抱きしめ合う。別にこの状況に特別な理由などはない。ただ俺が凛を好きだから、凛が俺を好きだから、それだけの話。この身体が熱くなっているのは凛の"愛"ゆえだと勝手に誤解してしまうくらいに……

 

 

 これだけ強く抱きしめ合えば、当然凛の胸が俺の身体に押し付けられる。残念ながら貧乳の部類に入ってしまう彼女の胸だが、ここまで押し付けらるとその形がダイレクトに伝わってきた。いくら見た目で小さかろうが、こうして直接感じることができればそれなりの大きさがあることが分かる。これだけあれば、男だったらいくらでも興奮させられるだろう。もちろん俺だってその1人だ。

 

 

「ねぇ零くん……凛のおっぱい、触ってみる?」

「え……?」

 

 

 俺は一瞬、さっきの言葉が凛の口から出たとは思えなかった。凛と言えば積極性が長所の1つとして際立っているが、意外と心は繊細で、恋愛については奥手な部分が多い。抱きついてくるなどのスキンシップはよくあれど、彼女からこのような一歩踏み込んだ行為を求めてくるのは非常に珍しい。

 

 

「凛ね、この同棲生活中に零くんともっともっと仲良くなりたいと思ってたんだ。だから零くんに喜んでもらえるなら、ちょっとエッチなことだってできるもん。それにね、零くんにカラダを触られると身も心もポカポカするんだよ♪だから……凛のカラダ……触って?」

「凛……」

 

 

 これは彼女にとって決死の覚悟だったのだろう。さっきまでは朱色に染まっていた頬が今度は顔全体に、しかも真っ赤に染まっているからだ。凛が『触って』などと誘惑してくることは今まででは絶対にあり得なかった。だけど今こうして実際に俺は誘惑されている!!あの凛に!!自ら自分のおっぱいを触ってと!!

 

 

「で、でもまだ恥ずかしいから、そのままパジャマの中に手を入れて……」

「あぁ、分かった……」

 

 

 理性なんて言葉は、既に俺の世界からは消滅していた。俺はただ欲望に忠実となり、まず右手を凛のパジャマの中へと侵入させる。パジャマ姿 + 女の子のシャンプーの香り + 頬を赤面 + 凛特有の守ってやりたくなる可愛さ + いつもとは違う積極性……すべての要因が複雑に絡み合い、俺の欲望を突き動かす。

 

 

 俺の右手は次第に凛の胸に伸びていき、そして遂に彼女のお山のてっぺんへ到着した。まず俺は凛のおっぱいを優しく掴み、そのまま左右に揺らしてみる。

 

 

「あっ、んん♡」

 

 

 凛はこういうことに慣れていないのだろう、おっぱいを掴んだだけでもエッチな声を上げた。こうして掴んでみると、やはり小さい小さいと馬鹿にしていたのが嘘のようだ。手で鷲掴みにできるくらいの大きさはある。右手を左右に揺らしてやるたびに、凛のおっぱい、通称りんぱいもプルプルと揺れた。

 

 

「あっ♪んっ♡」

 

 

 俺はさらに左手もパジャマの中に忍び込ませ、今度は両手でりんぱいを鷲掴みにする。そして次はりんぱいの両乳首をコリコリっと弄ってみた。

 

 

「ひゃあああん♡」

「どうだ凛、気持ちいいか?」

「うん、とっても気持ちいいにゃ~♡エッチってこんなにもいいものだったんだね♪」

 

 

 これはまだエッチとは言わないぞ!?でもそんな凛が初心過ぎて可愛過ぎる!!もっとだ!!もっと胸を愛撫してやろう!!これがエッチだと思い込んでいる純情で乙女チックな凛を、俺の手で果てさせてやる!!

 

 そして俺は右手で乳首を攻めながら、左手で胸全体を愛撫する。

 

 

「ひっ、ひゃああん♡あ、あぁあっ♡」

 

 

 μ'sのみんなの喘ぎ声はいつ聞いても俺の欲望を刺激する。そんな声を聞かされたら変態でなくとも彼女たちに襲いかかってしまうだろう。特にこういうことには無頓着で恥ずかしがってしまう凛が、こうして俺に身を捧げてくれている。それだけでも満足だ!!

 

 

「凛!!そろそろイっちまえ!!」

 

 

 そして俺はラストスパートをかけるため、凛の背中に回り込み、後ろからりんぱいを鷲掴みにし指で乳首を摘む。そして今まで幾度となくμ'sのみんなを果てさせてきたワシワシ術を発動させた!!

 

 

 

 

「にゃぁああああああああああああああ♡」

 

 

 

 

 そこで凛はバタリと床に崩れるように座り込んでしまった。彼女の身体はまだヒクヒクと震えて快楽に浸っているようだ。俺も今日はりんぱいを揉んだ手を洗わないでおこうと決意した。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「えぇっ!?あれって全部演技だったのかよ!?」

「えへへ~♪名演技だったでしょ?」

 

 

 少し時間が経って復活した凛に、俺は忘却の彼方へと飛ばされていた疑問をぶつけてみた。そう、凛が脱衣所に飛び込んだ理由だ。そして返ってきた答えは先ほどの通り。凛は海未ほどではないがポーカーフェイスなんかは苦手じゃなかったっけ?

 

 

「でも魚が嫌いっていうのは本当だよ。絵里ちゃんが都合よく魚を見せびらかしてきたから、『これは零くんと2人きりになる作戦に使える』って咄嗟に思いついたんだ♪」

「お前、意外と策士だったんだな……」

 

 

 勉強に頭は回らないけど、イタズラなど面白そうだったり興味が引かれることならば全力で頭を回転させる。いかにも凛らしいけど、その機転をもっと別のところで活かせばいいのにとは思う。それは俺にも言えることだけどな。

 

 

「それでも、俺のパンツで涙を拭いていたってのはどうなんだ……?」

「初めは零くんの使ったタオルにしようと思ってたんだけど、洗濯カゴを漁っていたら丁度見つけちゃいまして……」

「お前はもう変態だ!!穂乃果とことりと同じ部類だよ!!」

「それは心外だにゃ!!その2人と一緒にされたくない!!」

 

 

 パジャマ姿 + 女の子のシャンプーの香り + 頬を赤面 + 守ってやりたくなる可愛さ + いつもとは違う積極性……これを兼ね備えた奴が自ら『おっぱい触って』なんて言っているのは変態ではないのだろうか……?俺は穂乃果たちと同族に含めてしまっていいと思うのだが。

 

 

「はぁ~……とりあえず絵里には謝ろうな。アイツかなり気にしてたから」

「そうだね。絵里ちゃんには悪いことをしちゃったにゃ……」

 

 

 まぁイタズラで凛の苦手な魚を押し付ける絵里も絵里だけど。アイツも結構おちゃめなところがあるからな……

 

 

「よしっ、そろそろ飯だ。行こうぜ!!」

「うんっ♪」

 

 

 穂乃果に負けないぐらいの明るい笑顔を見て、俺はまた凛という女の子に心を奪われる。またいつか、今度はいっそのこと裸の付き合いを――――って期待し過ぎかな?いや、そんなことができるくらい、もっともっと凛と愛を深め合いたいな。

 




 今回は凛ちゃんの誘惑回でした!!やっぱり恋愛やエッチなことに関してウブな子は、書いていても可愛くて悶え苦しみます(笑)
前回の穂乃果やことりとは違って、まだ初心というところも萌えポイントですね!


 さてさて、R-17.9回ばかりやっていると1年生たちのことなんて忘れてしまいそうです。もちろん忘れてはいませんが、まだやりたい話がいくつかありますのでもうしばらくお待ちください。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真姫、深夜の天体観測

 映画を見に行った人はお疲れ様でした、これから見に行く人はいってらっしゃい。自分は皆さんのネタバレや感想を見て、映画を見に行った気になりました(笑)

 今回は真姫回です!!連続で『R-17.9』展開だったので、今回はロマンチックな場所で真面目な話。終始ゆったりとした展開なので、寝る前にでもゆっくり読んで頂ければと。


 

 

前回のラブライブ!

 

 風呂場に突撃してきた穂乃果とことりにこってりと搾られた俺。体力も精力も使い果たしたその時、凛が泣きながら脱衣所に飛び込んで来た。その理由は絵里に大嫌いな魚を押し付けられたかららしいのだが、どうも様子がおかしい。実は半分演技であり、俺と2人きりになるための作戦だった。そこで俺は凛に誘惑され、欲望のままに手を出してしまう……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 夕飯を食べ終わり、お腹がいっぱいになったμ'sメンバーを待ち構えていたのは睡魔だった。今日はほぼ一日中練習をしていたためこうなるのも仕方がない。明日は休みだから、今日は早くぐっすりと寝て体調を整えた方がいいだろう。ちなみに俺はいつも通りみんなの練習を傍観していただけなのでまだまだ平気だ。

 

 

「ふあぁ~~……こんなに頑張ってのはいつぶりかな……?」

「穂乃果、そんな大きなあくびをして……はしたないですよ」

「そういうお前もすっごく眠そうだけどな」

「普段家にいる時よりもだいぶ疲れましたからね……」

「ご苦労さん」

 

 

 海未は練習での指導役、さらに夕飯を食べ終わりゴロゴロしていた穂乃果や凛を注意するなど、まるでμ'sのお母さんのような役割を担っている。そのせいでかなり疲労が溜まっているのだろう、もう目が閉じかけていた。放っておいたら酔っ払いみたいにリビングで寝てしまいそうだ。

 

 

「亜里沙起きて!!ここで寝ちゃダメだよ」

「亜里沙の奴、もう寝ちまったのか。しょうがない、俺が運ぶから雪穂は亜里沙の着替えだけ一緒に持ってきてくれ」

「ありがとうございます……」

「お前もかなりウトウトしてるな……階段でコケるなよ」

「お姉ちゃんと一緒にしないでください」

「コケたことあるのか、穂乃果……」

 

 

 でもコイツならやりかねん……雪穂もしっかりしてそうでたま~に抜けているところがあるからな。それは姉の悪い部分が見事に遺伝している。

 

 そして俺は亜里沙を両手で、俗に言うお姫様抱っこで抱え上げる。まず一言感想いいですか?

 

 

 天使過ぎる!!!!

 

 

 なんだこの寝顔は!?その寝顔だけで世界中の男を萌え殺すことができるぞ!!俺の腕の中ですぅすぅと可愛い寝息を立てて寝ているその姿、もう今すぐにでも自室へ連れ込んで抱き枕にしたい!!絶対に柔らかいだろうその頬っぺに顔を擦り付けて匂いを嗅ぎたい!!

 

 

「きゃあ~……お兄ちゃん……獣の目になってるぅ~……♪」

「眠そうな声で煽ってくるんじゃねぇよ、お前ももう寝ろ」

「じゃあ私もお姫様抱っこしてぇ~~」

「2人同時とか無理だから……イヤなら床で寝てろ」

「ふ~ん……私だけならいいってこと……?」

「まぁ……そのうちな」

 

 

 俺も楓に対して甘くなったもんだ。以前の俺なら全力で拒否していただろうが、これも秋葉に揶揄されたからに違いない。そのせいで無駄にコイツを意識せざるを得なくなってしまった。でも見た目だけではあざとくて、悩みなんてないように見える。これも俺の先入観なのか……?

 

 

 しかしその悩みをどのように聞き出せばいい?素直に真正面から突っ込んでも大丈夫なのだろうか?それで彼女たちを傷つけることになるのでは?それで関係が壊れてしまったらどうする?前に踏み出せない……このままだとずっと先延ばしにしてしまう。俺は改めて、彼女たちについて何も分かっていなかったんだと痛感させられた。

 

 

 一体どうすればいいんだ……?やはり直接聞くのは気が引けるよな……

 

 

 

 

「零~、早く部屋に行くわよ。今日はにこたちと一緒に寝るんでしょ」

「あ、あぁ……そうだけどお前、布団に入った瞬間爆睡しそうな顔してるぞ」

「じゃあウチはにこっちを抱き枕にして寝ようかなぁ~……」

「なんでにこなのよ。むしろ抱き枕になりそうなのは希でしょ……その胸とか……」

「もうお前らも早く寝ろ、言葉に覇気がなさ過ぎる」

 

 

 にこと希の会話で、思考の渦に巻き込まれていた俺は現実に引き戻される。

 いつもはテンションの高い漫才をしているこのコンビも睡魔には敵わなかったようだ。言葉だけで眠いってことが伝わってくる。それにしても、女の子のウトウトしている表情は可愛いな。みんなの判断力が鈍っているだろうこの状況、もしかしたら何をしても許されるのではないだろうか。それぐらい彼女たちは無防備なのだ。胸を触っても全然気づかれないんじゃあ……

 

 

「ほらことりも立ちなさい。こんなところで寝たらいくらなんでも体調を崩すわよ……」

「ふわぁ~……絵里ちゃん眠いよぉ~……」

「ことりの声を聞いたら本当にここで寝ちゃいそうだわ……」

「絵里、お前も眠いなら先に寝室へ行ってろ。ことりは俺があとから連れて行く」

「ありがとう……」

 

 

 こんな腑抜けた絵里の顔を見るのは久しぶりだ。こんなぽわぽわした空間にいると、俺まで力が抜けて眠ってしまいそうになる。ことりもさっきから寝言で、『零くん……そこはダメ』と意味深な発言をしているので早急にここから立ち去ろう。

 

 

「おい凛、花陽。真姫はどこへ行った?」

「さぁ~……知らないにゃ~……もう寝ちゃったんじゃない……?」

「トイレかな……?」

 

 

 おいおい眠いからって適当に答えるなよ……俺までその眠気が移るだろうが。俺にはみんなの寝顔とパジャマ姿をカメラに収めてニヤニヤするっていう作業がまだ残っているんだ、まだ寝るわけにはいかない。

 

 

 そうしてみんなは2階の寝室へと上がって行き、そこで倒れこむように寝てしまった。『今日は夜更かししてみんなで遊ぶぞぉおおお!!』と意気込んでいた穂乃果や凛も、今は可愛い寝息を立ててスヤスヤと眠っている。なんだか、一気に家が静かになったな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「よ~し、穂乃果たちの寝顔もバッチリ撮れた!!あとは花陽と凛、真姫だけだな」

 

 

 それから数十分後、俺はカメラを片手に各々の寝室を回ってその不防備な姿を写真に収めている。寝相が悪い人はパジャマがはだけ、白い肌が見え隠れしていたので心底興奮した。正直女の子のパジャマ姿だけでも萌えてしまう人間だから、今にもみんなに襲いかかってしまいそうになったぞ。もう俺ってμ'sのみんななら、どんな姿にだって萌えられるような気がする。

 

 

「じゃあ最後にこの部屋っと……あれ?凛と花陽しかいない……?」

 

 

 真姫、凛、花陽の寝室に入ってみると、そこには凛と花陽の2人が転がっているだけだった。真姫の奴、あれから寝室に戻っていないのか?今日は一日中練習して疲れているはずなのに……まさか家の中で迷子になるなんてことはないだろう。だってアイツの家や別荘の方が俺の家より遥かに大きいし。

 

 

 そして俺はふと、ベランダへ続く廊下に目が行く。俺の家のベランダからは星が綺麗に見えることで有名(μ's内で)だ。俺はあまり星には興味がないけど、その景色は興味がない人間も惹かれるほど綺麗だと思う。そういえば子供の頃は、秋葉や楓とよく一緒にここから星を見ていたな。地味にガキの頃の思い出が詰まっている大切な場所だ。

 

 

 星か……ん?星と言えば確か――――

 

 

「真姫って、天体観測が趣味だったよな。まさか……」

 

 

 

 家の中のどこにもいないとなると、もう真姫がいる場所はただ1つしかない。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「やっぱりここにいたのか……真姫」

 

 

「零……」

 

 

 予想通り、真姫はベランダの柵に腕を掛けながら夜空を見上げていた。月明かりで照らされたその綺麗な顔に、俺は見とれてしまう。もしかしたらどんな夜空よりも、どんな星の輝きよりも綺麗かもしれないその顔に……

 

 

「ほらコーヒー。こんなところにずっといたら流石に寒いだろ。今晩は結構冷えるからな」

「あ、ありがとう……」

「お前の肥えた口に合うかは分からないけどな」

「大丈夫よ、零の入れてくれたコーヒーなんだもの」

「なにその超理論……」

 

 

 今晩の真姫はツンデレの『ツン』の要素を完璧に忘れているみたいだ。いつもだったら『そこまで美味しくないけど、零が入れてくれたんだし、仕方ないから飲んであげる』とか言いそうなものだけど、今晩の真姫はかなり丸い。やっぱり夜風に当たり過ぎて体調がおかしくなったのか?

 

 

「お前、こんなところで何してんだ?」

「天体観測よ。あなた、この前『ここから見える夜空は綺麗だ』って言ってたでしょ?」

「あぁ、でも6月に入ってからは中々綺麗な夜空は見られないんだ」

「しょうがないわよ、必然的に雨が多くなるんだし。梅雨前線にでも文句を言ってなさい」

「自然に反抗するのだけはやめておくよ」

 

 

 人間に文句を言えば何かが起こるかもしれないが、自然に文句を言ったところで100%何も変わらない。流石に完璧な俺でも自然様だけはどうしようもできないからな。頭を下げて晴天になることを祈り続けるしかない。

 

 

「美味しいわねこのコーヒー。もしかしてバリスタになれるかも……」

「そうかぁ?でもバリスタみたいに上手くコーヒーは入れられないけど、好きな人のために愛情を注いだコーヒーなことは確かだよ」

「も、もう!!またそんなことを平気で!!」

「ハハハ!!顔真っ赤だぞお前」

「あなたのせいでしょ!!全くもうっ」

 

 

 そう言って真姫はプイッと顔を逸らしてしまった。流石μ'sの中でからかわれ率ナンバー1西木野真姫、今日もいい反応で俺を楽しませてくれる。そろそろ煽り耐性が付いてもおかしくはないが、もう1年間もそのポジションだから無理そうだ。

 

 

「まあバリスタ云々はいいとして、お前って天体観測が好きなんだよな」

「覚えていてくれたのね。あまり公言はしないんだけど」

「自分の彼女の趣味ぐらい、ちゃんと覚えてるよ」

「そう……嬉しいわ」

 

 

 やっぱり今日はいつもより素直だ。ツンデレが発動しないとこっちの調子が狂うというか、普通の女の子と話をしているみたいだ。少なくとも真姫は"普通"という分類には当てはまらない、個性の塊だと思っている。それは真姫だけじゃなく俺やみんなもそうか。

 

 

「だから俺の趣味も全部言えるようにしておけよ」

「零の趣味?思いつくだけでも最悪なモノばかりなんだけど……」

「女の子のスリーサイズ目視、セクハラ発言、スカート覗き、胸揉み……挙げたらキリがないな」

「最低ね、最低」

 

 

 そもそも9股をしている奴に最低と言っても今更だろ。俺が最低な人間だということは自分が一番良く知っている。でも最低な部分があるからこそ、俺の最高な部分が際立つんじゃないか!!――と自画自賛してみたり。しかし、μ'sのみんながそんな最低な俺を普段どう見ているのか、あまり聞いたことがない。いい機会だしちょっと聞いてみるか。

 

 

「なぁ真姫」

「なに?」

「お前から見て、俺はどうだ?お前の目にどう映っている?」

「なによ急に」

「いや、気になったからさ……」

 

 

 自分のことを誰かに聞くのはすごく勇気がいる。もしかしたら自分のことをよく思ってくれていないんじゃないか、それゆえ相手に気を使わせていないか、そう想像してしまうと中々聞くに聞けないだろう。特に俺の性格はμ'sには受けがいいかもしれないが、決して万人に受け入れられるようなものじゃない。本当は彼女の心の中に、俺を受け入れられないことが僅かでもあった場合、この質問は彼女を苦しめる可能性がある。

 

 

 ここでこんな質問をしたのは失敗だったか?そう思った時、真姫が口を開いた。

 

 

「私は、あなたの何でもズケズケと言えるその性格に一番憧れてる。さっきもそうだけど、そんな変態な趣味を女の子の前で堂々公言するなんて正気の沙汰じゃないわよ」

「悪かったな正気じゃなくて……」

「いや、でもそれが羨ましい。私は何事も自分の中に閉じ込めちゃう人間だから、誰かに気兼ねなくどんなことでも話せるその性格と精神が、あなたのすごいところだと思ってる。だって自分の中に閉じ込めちゃったら、誰にも自分のことが伝わらないじゃない」

 

 

 自分の性格がそこまでの長所を持っていただなんて、特に気にしたこともなかった。もしかして俺がこんな質問をしたことも、真姫にとっては異常な行動だったのかもしれない。まさかこんなところで自己啓発ができるなんてな。

 

 

「ほら、μ'sに入る前の私ってヒドく意地っ張りだったでしょ?」

「それは今もだけどな」

「そうだけど!!そうだけど今よりも意固地だったわ。誰にも自分を見せようとしないから、孤独だった。多分そのせいで自分のやりたい音楽も諦めていたんだと思う。誰にも自分の気持ちなんて分かってもらえないと、勝手にそう思い込んでいた。それで心を閉ざし過ぎて、自分で自分を見つめられなくなっていたから……」

 

 

 心に鍵を掛けていたのは何も真姫だけじゃない、9人みんなそうだ。みんな何かしらの思いがあって、一歩前へ進むことを躊躇っていた人ばかり。その時の記憶が俺の頭に次々と浮かんでくる。

 

 

 

 

 思い出した――――真姫がどこか寂しそうにピアノを弾いていたあの時を……

 

 

 思い出した――――ことりが自分には何もないと悩んでいたことを……

 

 

 思い出した――――海未が幼馴染との関係で迷っていた姿を……

 

 

 思い出した――――花陽が自分を卑下して初めの一歩すらも踏み出せなかった時を……

 

 

 思い出した――――凛が『女の子』を捨てようとしていたことを……

 

 

 思い出した――――にこがスクールアイドルを続けてきた裏で、背負っていた重圧を……

 

 

 思い出した――――希が抱いていた『夢』を……

 

 

 思い出した――――絵里がスクールアイドルを否定していた時の気持ちを……

 

 

 思い出した――――穂乃果が、あの穂乃果がスクールアイドルをやめようとしていた時を……

 

 

 

 

「あなたはそんな私やみんなの心に、平気で踏み込んできた。初めは『失礼な人』という認識しかなかったけど、でもそのおかげで私たちは救われたのよね。あなたのそうやって何事も、相手に多少迷惑が掛かろうと、悩んでいる人がいるなら迷わずに手を差し伸べる、その真っ直ぐに突き進むその性格に動かされた。あなたがいたから、私たちは一緒にいられる」

 

 

 真姫は一旦そこで言葉を区切り、連続で話し始める。

 

 

「あなたのその鬱陶しい性格、私は大好きよ。それは多分私だけじゃなくて穂乃果たちも……そしてそんな性格のあなたが好き。そんなあなたが――――大好き!!」

 

 

 そこで俺に向けられる真姫の笑顔。その彼女の表情は、俺が今まで見たことのない満面な笑顔だった。月明かりに照らされた綺麗な顔に、俺はまた見とれてしまう。そしてようやく、自分の中で渦巻いていた迷いが停滞して消え去った。

 

 俺は雪穂や亜里沙、楓の悩みを解決するために、彼女たちからどう聞き出したらいいのか迷っていた。もしかしたら彼女たちの傷に触れてしまうかもしれない、その恐怖が根付いていたんだ。"μ'sのメンバー"としての彼女たちとはまだまだ付き合いが浅い。だから慎重になっていた。

 

 だけどなぜ慎重になることがある。一年前、俺は真姫たちの心に勝手に踏み込み、それですべての問題を解決してきたじゃないか。余計なことは考えず、ただ彼女たちを救いたいがための一心で、俺は前へと突き進んできた。

 

 じゃあ今回も同じだ。同じ方法で突破すればいい。人の心を傷つける最悪な方法かもしれないが、これが俺なんだ。このやり方に納得できる人が少ないのも分かる、理解してくれる人が少ないのも分かる。だけどこれが俺のやり方。自分の信じた道を突き進む、これが"神崎零"だったな。

 

 よく考えれば、みんながヤンデレ化して殺し合いが起きたあの事態だってそうだった。あの事態もひたすら自分の信念を貫いて解決した。途中で何度も挫折しかけ、失敗もしたけど、それで後悔はしていない。

 

 なぜ慎重になっていたのか。それは彼女たちと恋人同士になってから、女の子の心に敏感になっていたからだろう。だから俺は雪穂や亜里沙、楓に対しても、自ら一歩引いていたんだ。

 

 

 俺から踏み込まなければ解決しない。アイツらが心を閉ざしているのなら、それを無理矢理にでもこじ開ける。それこそが最低な人間である"神崎零"なんだよな。

 

 

 

 

「その顔……何か吹っ切れたのね」

「ああ、ありがとな真姫。おかげで自信がついたよ」

「自信がないあなたなんて、もうあなたじゃないもの」

「そうだな」

 

 

 そこで俺たちは笑い合う。夜空には星が満開に広がり、月と共に俺たちを照らしている。まるでモヤが晴れた俺の心のようだ。流石に俺の心にしては例えが綺麗過ぎたかな?

 

 

 そして俺はマグカップを真姫のカップの隣へ置き、その手で彼女を自分の身体に抱き寄せた。

 

 

「きゃあ!!れ、零!?」

「悪い、急にこうしたくなった」

「もうっ……しょうがないわね」

 

 

 いくら真姫のスタイルがいいと言っても、身長は俺より一回り低いから、俺の身体に彼女の身体がすっぽりと収まる。俺が真姫の背中に手を回すと、彼女からも抱きつき返してくれた。俺と真姫の顔が極限まで近くなる。。整った顔立ちに朱色に染まっている頬、吸い込まれるような綺麗な目、俺の胸を打つには十分だった。

 

 そして俺たちはしばらくお互いの顔を見つめ合った後、ゆっくりと唇同士を近づけキスをした。コーヒーで若干苦みのある味がしたが、非常に濃厚で甘いキスだ。俺が与えたものよりも、真姫はもっと強く応えようとする、激しくて誠実なキス。

 

 

 時間はほんの数秒。だがその時だけは、俺たちだけ時間が止まっていたような気がした。

 

 

「真姫、協力してほしいことがあるんだ……」

「待ってたわその言葉。あなたって本当に1人で解決しようとするんだから。それで、なにかしら……?」

「ありがとう、実はな――――」

 

 

 3人同時に悩みを解決するのは無理だ。だから1人1人、真っ向から勝負をする。そのためには真姫、そしてμ'sの助力が必要だ。本当はあの3人に悩みがあることを誰にも話さないでおこうと思っていた(同棲生活中だとタイミングすらない)のだが、これは俺1人で解決しない方がいいだろう。みんながみんなの想いを共有する。そうやってμ'sは成長してきたのだから。

 

 




 2話連続で『R-17.9』展開で、『零君って1年生組の問題を解決する気あるの?』と思われたかもしれません。今回でようやく話を動かすことができました。

 いつもの構図として、『μ'sの誰かが悩んでいる』⇒『それを零君が解決』が一般的だったのですが、今回はその逆の展開にしてみました。やっぱり本当に完璧な人はいないものなのです。

 実は今回の真姫のポジションを、海未や絵里にする話も考えていたのですが、真姫の趣味の1つに天体観測があったことから、夜空の下で話すなら彼女しかいないだろうということで真姫に決定しました。海未や絵里も夜が似合いそうですけどね。

 今回の話で出てきた零君の思い出(9人の葛藤を思い出したところ)は、基本アニメの話をベースにしています。

真姫・・・『まきりんぱな』回
ことり・・・『ワンダーゾーン』回
海未・・・『ともだち』回
花陽・・・『まきりんぱな』回
凛・・・『新しいわたし』回
にこ・・・本編開始以前(『非日常』の第五章にて掘り下げ)、『にこ襲来』回
希・・・『私の望み』回
絵里・・・『やりたいことは』回
穂乃果・・・『ともだち』『μ'sミュージックスタート!』回

 これは全部零君を中心に解決してきた扱いになっているので、本編に沿っていないこの小説ではイマイチ掴みが弱かったかもしれません。『非日常』を読んでいる方ならすんなり受け入れられたと思います。



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私、スクールアイドルをやめます

 今回は雪穂回です。前回に引き続き真面目回でもあります。雪穂の閉ざされた心と零君が遂に激突!!ちなみに今回は、いつもより文量が1.5倍の大ボリュームです!


 この話を読んでいる途中で、『あれ?これってR-17.9小説じゃなかったっけ?』と勘違いすること間違いなし!!(笑)


 

 同棲生活2日目。昨日は一日中練習漬けだったため、今日は逆に一日中休みの日となっている。明日からは学校が始まるし、立て続けの練習ほど効率の悪いものはない。

 

 こうして必死に練習するのはもちろん『ラブライブ!』の予選に向けてではあるが、今週末にはライブイベントに参加する予定が入っているのでその予行練習でもある。前回の『ラブライブ!』優勝者として、未だ人気が根強いμ's。ここ最近は月1以上のペースでライブイベントに参加している。それほど各地からのオファーも多いのだ。

 

 まだあのA-RISEには及ばないけど、μ'sもそれなりに知名度が上がってきたと思う。しかしそれは同時に、みんなへのプレッシャーにもなる。特に春から新メンバーとなった3人からしてみれば、穂乃果たち以上のプレッシャーを感じているのかもしれない。

 

 

「雪穂、俺と一緒に買い出しに行こうぜ」

「え?零君と一緒に……ですか?」

 

 

 俺の提案にキョトンとした顔で驚く雪穂。

 

 真姫と天体観測をした翌朝、俺は真姫以外の穂乃果たち8人を雪穂たちより早めに起こし、事の事情を伝えた。これは俺1人だけじゃなくてみんなに協力してもらおうという真姫の計らいだ。初めはみんな目を擦って眠たそうに話を聞いていたが、事態の重さが分かってくるとあのお寝坊常習犯の穂乃果までもがバッチリと目を覚ましていた。

 

 特に穂乃果と絵里は自分の妹が抱える問題でもある。そしてそれは俺も同じだ。兄妹だからこそ感じてしまう責任がある。

 

 

 話し合いの結果、全員がこぞって彼女たちに踏み込んでも雪穂たちのプレッシャーにしかならないので、俺と雪穂の2人だけで話し合える状況を作り出すことにした。亜里沙と楓には怪しまれないよう穂乃果たちが上手く取り繕ってくれるだろう。

 

 

「あぁ、たまにはお前と2人きりで話したいと思ってたんだ。ダメか……?」

「いえ、私も零君と一緒にお話するのは楽しいですから。行きましょう」

「雪穂……ありがとな。じゃあ早速準備しよう!!」

 

 

 かなり真正面からの提案だったが、とりあえず第一段階は難なく突破したな。一応断られた時の対処方も考えていたのだが、これは嬉しい誤算で助かったよ。

 

 でも本番はこれから。状況だけ見れば俺と雪穂の1対1だが、俺の心には穂乃果たち9人の想いを秘めている。特に穂乃果、安心してくれ。俺が絶対にお前の妹を、高坂雪穂を絶対に取り戻す!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「今から何を買い出しに行くんですか?買出しに行ったのって、結構最近じゃありません?」

「いや、スクールアイドル関連じゃなくてただの食材の買い出しだよ」

「だったら何で初めからそう言わないんです?」

「まぁいいじゃん!!アハハ……」

 

 

 雪穂はジト目で俺の顔を睨みつけてくる。真姫のようにツリ目ではないので目線に鋭さはないのだが、どことなくSの気迫が混じっているのは気のせいだろうか。

 

 ちなみに買い出しの内容を隠したのは、雪穂は俺と一緒で人混みが苦手らしいからだ。休日のショッピングモール、特に食品売り場には人がたくさんいるだろう。もしかしたらそれを理由に誘いを断られる可能性がある。備品の買い出しだったら意図的に人混みを避けて回ることができるけど、食品だとそうはいかない。

 

 

「人混みはあまり得意じゃないんですけど……」

「じゃあ今から帰るか?」

「ここまで来たならもういいですよ。最後まで付き合います」

「そりゃあどうも」

 

 

 イヤイヤながらも途中で諦めないのが高坂雪穂だ。これが勉強などを途中で投げ出してしまう穂乃果との違いだな。でもその決して"諦めない"というのは時に心に大きな負債を抱える。絶対に諦めないことを悪く言い換えれば、自分の意思を無視して無理矢理にでも突き通すということだ。それにストレスを感じない奴なんていない。

 

 

「お礼に、最後まで付き合ってくれたらアイスを買ってやろう!!」

「子供扱いしないでください!!そんな餌がなくても手伝いますから!!」

「悪い悪い♪」

「全く……」

 

 

 言葉では否定しているが、顔を見れば満更でもない表情をしているぞ。やっぱり楽しみにしてるじゃん。やっぱり顔に出るという部分は穂乃果そっくりだな。クールで冷静沈着に見えて、根は負けず嫌い。感情を表に出すことはしないが、表情には出てしまう。本当に面白い奴だよ。

 

 

「そう言えば、お前とこうして2人きりで話すのって初めてかもな」

「そうですね。いつもは亜里沙や楓、練習中はお姉ちゃんたちも一緒ですし」

「だからこれを機にお互いの腹の中を話し合おうじゃないか」

「それ、遠回しに口説いてます?」

「そうか?でももっと雪穂にお近づきになりたいのは事実だよ」

「な゛っ!?9股している人は結構ですから!!」

「頼むから大きな声でそんなこと言わないでくれ……」

 

 

 雪穂からしてみれば、俺は相当軽い人間に思われているのかもしれない。女の子をただ1人と決めずに全員を選んでしまった俺のことを、もしかしたら嫌悪しているのかも。雪穂に始めて9股宣言をした時、素直に祝福はしてくれなかったからな。ただ自分の姉が幸せになるならばそれでいいと、無理矢理自分の気持ちを押し殺していたようだった。

 

 

「でもそんな俺と一緒に出かけてくれるなんて意外だったよ。雪穂は俺のことが嫌いだと思っていたから」

「えっ?どうしてですか?」

「だって最近はよく殴ってくるじゃん」

「あれは零君が皆さんにセクハラするからですよ。それにいいストレス発散にもなりますし」

「俺はサンドバックかよ……」

 

 

 特に亜里沙に手を出そうとした時の雪穂の制裁は本当に痛い。『手を出した』じゃないからな、『手を出そうとした時』だからな、未遂でも殴られるんだよ。それに雪穂にストレスを溜めているのは楓だな?よくこの2ヶ月、アイツと一緒にいたと褒めてやりたい。

 

 

「ストレスの発散ぐらいなら、いくらでも付き合ってやるよ」

「え?殴られたいとか……もしかしてドMなんですか?」

「待て待て!!俺は殴られたいから変態を振りまいているんじゃないぞ!!」

「ビックリした、てっきりその気があるのかと思いましたよ」

「被害妄想も甚だしいなオイ……」

 

 

 たまに発揮されるコイツのドSっぷりは何なんだ。真姫と同じく人をサラッと罵倒できる能力がある。いくら変態の俺でも、2個下の後輩のM奴隷になるのだけはまっぴらゴメンだ。俺は支配されるより支配する側の人間だからな。

 

 

「でもよかったよ。俺って雪穂から見たら、あまりよく思われてないと思ってたから」

「そんなことを思っていたら、一緒に買い物になんて出かけませんよ」

「いや、付き合い上で仕方なくかと……」

「別に私は零君のことをそこまで嫌いじゃありません。むしろ……好き……な部類です」

「え?好き?」

「あくまで"部類"ですから!!それこそ変な妄想しないでください!!」

「そこまで怒らなくても……」

 

 

 そりゃあこんな可愛い子に"好き"と言われたら妄想せざるを得ない。いくら好きな"部類"の最下層に俺がいようとも、雪穂が俺のことを僅かながらも意識してくれているのなら、それだけで嬉しくなってくる。

 

 

 そして場も十分に和んできた。今俺は雪穂の心の扉の前に立っている。穂乃果たちがセッティングしてくれたこの状況、決して無駄にするわけにはいかない。行こう、聞くなら今だ。

 

 

 

 

「なぁ雪穂」

「今度は何ですか?」

 

 

 

 

「お前……今悩みがあるだろ」

 

 

 

 

「は、はい……?」

 

 

 

 

 雪穂がその場で立ち止まる。

 

 

 余計なことはすべて省いた、非常にストレートな言葉。雪穂のその驚いた表情は、俺の言葉がストレート過ぎてその意味が理解できなかったのか。それとも自分の心を見抜かれて焦っているのかのどちらかだろう。ちなみに俺は雪穂の心を見透かしてはいるがほぼ上っ面だけの状態。ここではぐらかされたら……その時はその時考えよう。

 

 

「何で……そう思うんですか?」

 

 

 予想していなかった返しが来る。ここで俺が嘘をつく必要もない、素直に話そう。自分の心を偽っていては相手の悩みなんてとてもじゃないけど解決できないからな。

 

 

「秋葉が言っていた。『お前の心には迷いがある』って」

 

 

「何ですかそれ?別にこれといってありませんよ」

 

 

 雪穂の表情がいつも通りに戻る。秋葉の言っていたことが本当かどうかは分からない。雪穂が嘘を付いているのかどうかも分からない。唯一分かったのは、雪穂の心の扉が今まで以上に固く閉ざされたしまったことだ。

 

 

 本当なら、ここで詮索をするのはやめた方がいいだろう。そのことには触れて欲しくない、そんなオーラが雪穂から伝わってくる。

 

 

 だけど――――――

 

 

「何かあるのなら俺に話してくれ。打ち明ければすっきりするかもしれないぞ」

 

「……」

 

 

 雪穂は黙ったまま俯いてしまう。俺が一番見たくない、苦しんだ顔をして……

 

 よく考えれば、『μ'sのみんなの悲しい顔を見ない』という俺の理念と、『無理矢理にでも相手の心に踏み込んで、その悩みを解決する』という俺の行動が矛盾している。μ'sに関わって間もない頃はこんなことを考えるどころか頭にさえ浮かんでこなかっただろう。これが穂乃果たちと恋人同士になった唯一の弊害かもしれない。良くも悪くも女の子の心に敏感になってしまった。

 

 

「今話してくれなくてもいい。でも心の整理がついたら、一緒に住んでいる間に一度俺に話して欲しい。お前だって、俺の大切な仲間だからさ」

 

 

 とりあえず今は雪穂の心の扉をノックするだけでいい。無理矢理扉をこじ開けて心に侵入するのはあくまでも最終手段、一番ベストなのは彼女から俺に直接話してくれることだ。

 

 

 今の状態ではこれ以上は無理か……もっと自然にこの会話へ持っていければよかったんだが、雪穂は意図的にその隙を作らないようにしているみたいだった。面倒くささで言えば絵里や希と一緒。でもその2人と同じならば、話し合いに漕ぎ着けた時点で悩みを解決できる可能性は高い。一番厄介なのは、穂乃果や凛など自身の感情が強くて正論が通らない奴だからな。

 

 

「――いてもらってもいいですか……?」

 

 

「え……?」

 

 

「私の悩み、聞いてもらってもいいですか……?」

 

 

「雪穂……」

 

 

 真っ先に感じたのは、雪穂の声が今にも泣きそうだったということだ。この数秒の間に彼女の心境がどのように変化したのかは分からない。だけど自分から扉を開けてくれた、それだけで十分だ。

 

 

「もちろん。じゃあ買い出しに行く前に、ちょっとそこの公園にでも寄ってくか」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ほい、オレンジジュース」

「ありがとうございます……」

 

 

 俺はベンチに座っている雪穂に飲み物を渡してその隣に座った。意外にも公園は静かで、いるのは砂場で遊んでいる親子1組だけだ。最近は子供たちの叫び声がうるさくて注意されたり、遊具が危険だからと公園で遊ぶ子供も少なくなっている。でもまさか休日にここまで人がいないとは思わなかったが。

 

 

「そう言えば、以前もここで雪穂から相談を受けたっけ。その時は亜里沙も一緒だったな」

「以前……?」

「半年以上前、穂乃果たちのことだよ」

「あっ、あぁ……」

 

 

 もう"あの惨劇"からそんなに時間が経ったのか。時が過ぎるのは早いな。あの時は雪穂と亜里沙からこの公園に呼び出され、穂乃果や絵里の様子がおかしいことについて真実を求められたんだ。その時の2人の顔は、寂しそうなんて言葉で言えるようなものじゃなかった。

 

 

「まあ昔話はいいとして、お前の好きなタイミングで話してくれて構わないぞ。それまで、ずっと側にいるから」

 

 

 相手に迷惑が掛かるとか、そんなことを考えちゃダメだ。俺が一歩引いてしまえば雪穂はまた心の扉を閉ざしてしまうかもしれない。言うなれば今は扉を半開きにして顔だけ外へ覗かせている状態だ。ここから優しく手を差し伸べて、外へ連れ出してやろう。

 

 

 雪穂は大きく深呼吸して、今まで頑なに動かさなかった口を遂に開けた。

 

 

「私は……劣等感を感じているんです」

「劣等感?誰に?」

「お姉ちゃんたちμ'sの先輩、そして亜里沙と楓にも……」

「μ's全員じゃねぇか……」

 

 

 "劣等感"という言葉だけを聞いて、俺は穂乃果たち9人のことを思い浮かべたのだが、まさか亜里沙と楓に対してまでコンプレックスを抱いているとは思わなかった。

 

 

「中学を卒業して、春休み中はずっと亜里沙と練習をしてきたんです」

「ああ、知ってる」

「あの頃に比べれば、たった数ヶ月でダンスも歌も格段に成長しました。海未ちゃんや絵里ちゃんの指導、零君の指摘、他の皆さんからも色々と教わって、自分でも上手くなったなと実感できるほどに……」

「じゃあなんで……?」

 

 

 俺もこの1年、ただぼぉ~っとμ'sの練習を眺めてきたわけじゃない。全体の動きを見て、誰にどうのような指摘をすればいいのか判断ができるようになっていた。その目で見れば、雪穂がこの数ヶ月で格段に成長したというのは間違っていない。

 

 

「それでも……誰にだって届いていないんです。お姉ちゃんたちはもちろん、亜里沙はセンス抜群だし、楓は完璧を自称することだけあって私よりも難なくレッスンをこなしています。置いていかれているんですよ、私だけが……」

 

 

 雪穂の言う通り、亜里沙は絵里の妹なだけあってダンスも歌もセンスは抜群。天才肌と言ってもいいだろう。そしてμ's加入前の楓は明らかに誰よりも劣っていたのだが、今や穂乃果たち9人と並ぶぐらいの実力を付けていた。でもどちらも練習を怠けていることなく、雪穂と同等に努力しているのは俺が一番良く知っている。

 

 そして、雪穂が引っかかっているのはその"同等に"の部分だ。同じ時間、同じ練習をしているのに、明確な差を感じているらしい。

 

 

「先月のアキバでのライブも大成功だったじゃないか」

「多分私以外はみんなそう思っているんじゃないですかね……」

「どういうことだ……?」

「あとであのライブの映像を見て……私だけ、笑ってなかったんですよ」

「なんだって……」

 

 

 それは気がつかなかった。『ライブが大成功した』と、そう思っていたから真面目に映像を見ていなかったという方が正しいか。俺自身も成功したと思い込んで、穂乃果たちもそう言っていたから、たった1人で悩んでいた雪穂のことに気がつかなかったんだ。それは俺も反省すべきだな。

 

 

 

 

「みんなが笑っている中、私だけがダンスや歌に必死な顔でした!!それを思い出すたびにみんなとの差を感じるんです!!たった数ヶ月で、1年間練習をしてきたお姉ちゃんたちに追いつけないことぐらい分かっています!!でも亜里沙も楓もお姉ちゃんたちに付いて行っている!!取り残されたのは私だけ!!だから私がいなかったら、あのライブは大成功だったんですよ!!」

 

 

 雪穂は涙を流し、真正面から俺の顔に向き合う。彼女がこれほどまでに感情を表に出したことがあっただろうか?少なくとも俺は見たことがない。

 

 雪穂が抱いている感情は人間なら誰しもが持ち得る感情だ。どれだけ体裁で取り繕うとも、心のどこかでは自分と他人を比較する。そこで僅かながらでも差異があれば、そこから劣等感が生まれてしまう。いくら平等を冠していたとしても、全く同じというのはほとんどありはしない。

 

 例えばテストで80点の生徒が2人いたとしても、間違えた問題まで一緒とは限らない。その生徒個人にとって重要なのは、点数ではなくて間違えた問題にある。同じ教科でもどの分野の問題で間違えたのかでその2人の能力は大きく異なってくるだろう。

 

 だが雪穂が言いたいことはそれ以上のこと。亜里沙や楓と比べ、どの分野を取っても自分は勝てない。ダンスや歌は点数では測れないが、点数で示さなくとも分かる明らかな差。それを雪穂は感じ取っているのだ。

 

 

「私、スクールアイドルをやめます」

「諦めるのか……?」

「……それがμ'sにとって一番だと思います」

 

 

 若干のためらいがあったが、雪穂はスクールアイドルをやめることをかなり前から決意していたのだろう。追いつけないから諦める、それは間違った選択肢ではない。だけど――――

 

 

「これは1年前から今まで、ずっと続いている話だ」

「……?」

「花陽や凛はダンスが苦手だ。にこやことりは身体は柔らかいが、声が独特すぎて歌が苦手だ。穂乃果は全体的に先走る。希も得意な分野があるわけではなく、海未は人前で踊ることにまだ緊張している。真姫に関してはまだ身体を動かすことにすら慣れていないし、絵里もバレエをしていただけで、スクールアイドルについては完璧超人じゃない」

 

 

 これは俺が1年間穂乃果たちを見続けてきて得た、今の彼女たちの現状だ。『ラブライブ!』を優勝したと言っても、個々の能力だけを見れば申し訳ないが俺や楓の方が遥かに高い自信がある。だが彼女たちの強みはそこじゃない。

 

 

「でも穂乃果たちは、誰よりもスクールアイドルを楽しんでいる」

「スクールアイドルを……楽しむ?」

「そう。確かにスキルの上達も重要だ。だけど闇雲に練習したとしてもスキルが向上するわけがない。だったらどうするか――――楽しむんだよ、精一杯」

「精一杯……楽しむ」

「これは頑張るとか、努力するとか、それ以前の問題だ。最近、お前はスクールアイドルの活動を楽しいと思っていたか?」

「い、いえ……」

 

 

 ただ自分の力を向上させようと、必死に、闇雲に……そこでストレスを抱えればそれこそ負の連鎖に陥る。だから始めは何も考えなくてもいい、ぱぁーっと楽しむ。だって初めから上手い奴なんていないんだからさ。

 

 

「でも、初めはすごく楽しかったです。憧れていたお姉ちゃんたちと一緒に踊れること、親友の亜里沙と一緒にスクールアイドルができること、新しくできた親友の楓とも一緒に歌えること。その時は自分の能力とか、そんなもの一切考えず、ただ楽しんでいただけでした」

「そうなんだ、それだけでいいんだよ。まずは楽しさを忘れないことが前提条件、そこから能力を伸ばしていけばいい」

 

 

 『まずは笑顔で楽しむ!!』俺が穂乃果たちにも言い続けてきた言葉だ。笑顔でいるには楽しまなくちゃいけない。ステージの上で必死な形相で踊って歌っているアイドルなんて誰が注目するかよ。重要なのは笑顔だ。そうすれば自分だけではなく、仲間も、観客も、みんな笑顔になる。

 

 

「でも、努力しても能力が伸びなかったら……?」

「いくら頑張っても、いくら努力しても、結果が実るとは限らない」

「だったら――――」

「だけど、努力しなかった奴は何も掴めない」

「!!!」

「努力した奴だけが何かを掴む権利がある」

 

 

 努力と結果が常にワンセットとは限らない。時には誰かに邪魔されることだってあるだろうし、自分自身の選択で未来を縛ることもある。だがそこで諦めればそれまでだ。一歩前へ踏み出した奴だけが、何かを掴める可能性がある。

 

 

「まあ何が言いたのかといえば、お前は気にし過ぎたってことだよ。お前が誰かより劣っているなんて誰も思っていない。そんなことよりも、お前がいなくなってしまうことの方が、みんな悲しむと思うぞ。スクールアイドル、そしてμ's。この楽しみを共有できる仲間が増えて、穂乃果たちはとっても嬉しそうだった」

 

 

 特に穂乃果は雪穂が一緒の学院、一緒の部活に入ってくれることにとても喜んでいた。それは自分の妹だからという感情もあるだろうけど、むしろ雪穂と一緒に歌って踊って楽しめるというのが一番の感情だと思う。

 

 

「よし!!神崎零先生の講義はこれまで!!」

「は、はぁ……」

「じゃあ雪穂!!スクールアイドルを続けるのか否か、今ここで決めろ」

 

 

 ここで『やめる』って言われたら……どうしようかねぇ?でも、そんな心配はいらなそうだ。彼女の表情はもう――――

 

 

 

 

「続けます!!また亜里沙や楓、お姉ちゃんたちと一緒に歌って踊りたい!!スクールアイドルを、みんなと一緒に楽しみたいです!!」

 

 

「そうか……なら俺も全力でサポートする!!また躓きそうになったら、俺が手を引いてやる!!穴に落ちそうになったら、俺が引き上げてやる!!大船に乗ったつもりで楽しめ!!」

 

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 あら?俺が今まで見たことがないくらい顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまったぞ。また俺無自覚に変なこと言っちゃったかな……?穂乃果たちから結構注意されてるんだよな、『天然タラシ野郎』って。

 

 

「よし!!じゃあ今日は赤飯だ!!花陽が怒るとか関係ねぇ!!今晩は赤飯にするぞ!!」

「せ、せせせせ赤飯って何でですか!?!?それこそ関係ないですよね!?意味分からないですよ」

「あっ、さっきの真姫風に言ってみろ」

「い、イヤですっ!!」

 

 

 そして俺たちは笑い合う。やっぱり雪穂は笑顔が一番似合ってるよ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

~翌朝~

 

 

「うぅ~ん、重いな――――って、え゛ぇえええええええええええ!?!?」

 

 

 昨晩、俺と一緒に寝床を共にしたのはことほのうみの幼馴染トリオなのだが、穂乃果とことりが俺を抱き枕にして眠っていた。しかも寝ている最中に暑くなってきたせいか、パジャマが思いっきりはだけていて2人の胸が丸見えだ!!揉みたい!!突っつきたい!!吸いたい!!朝の生理現象も活発になってきやがった!!

 

 

「海未は……まだ寝てるのか。アイツは無理矢理起こすと怖いからそっとしておこう……それにこの状況を海未に見られるわけにはいかねぇな。とりあえずコイツらを引き剥がさないと俺の命が……」

 

 

「お姉ちゃんたち、朝ごはんだよ……」

 

 

「な゛っ!?雪穂……」

 

 

 俺の寝室に入ってきたのは雪穂だった。初めはとてもいい顔をしていた雪穂だったが、この状況を見るなり俺のことを汚物を見るような目で見下す。久々に見たな、その目……

 

 

「なに……してるの?」

 

 

 言葉に覇気があるってものじゃない!!これは魔王だ!!逆らったら、朝ごはんの魚をさばいた包丁で俺も"裁かれる"。ここは誤魔化しても仕方がないか……

 

 

「こ、これはコイツらが勝手にやってきたことで、俺は別に何もしてないぞ!!」

「お姉ちゃんとことりちゃんを見て思ったことは?」

「おっぱいを揉んで突っついて吸いたいと思いました!!――――――ハッ!!しまった!!」

 

 

 雪穂はゆらゆらと俺のベッドに向かって歩いてくる。こ、これはもしや!!久々にいつものあのオチでは……?

 

 

「変態……クズ……9股野郎……痴漢……セクハラ魔……天然タラシ……エロ魔人……」

「おい、罵倒ボキャブラリーを全部開放するのはやめろ!!ま、待て雪穂!!話せば分かる!!」

「問答無用!!」

 

 

 

 そして俺の悲鳴が目覚ましとなり、みんなの目が覚めてしまったとさ。そのあと?そのあと俺がどうなったのかなんて言えるわけねぇだろ!!

 

 

 でもいつもの雪穂に戻って、俺は嬉しいよ!!

 

 

 

 

「嬉しいって……やっぱりドM!?」

「違うわ!!」

 

 




 ということで、無事に1人目のお悩み解決です!そして久々に零君のカッコいいところも見られたと思います!こういった真面目回でないと、イケメンな彼を登場させられないのがこの小説の難点ですね。

 この話を書いていて、『新日常』ってこんな小説だったっけと疑ってしまいました(笑)穂乃果とことりのお風呂回とか、凛の誘惑回とか、全然雰囲気が違っていて笑うしかない!

 やはり個人回は女の子目線の方が心情が伝わりやすくてよかったでしょうか?今回はまだ恋愛回ではないので、視点はすべて零君にしました。雪穂視点での話もちょっと書いてみたいと思ったり。

 どうでもいいですが最近久々にお寿司を食べに行ったので、その時に考えていた零君とμ'sメンバーが回転寿司に行く回を日常回として書こうと思っています。すごくどうでもいいですね(笑)

 コラボ小説はもう少し時間が掛かりそうかな?


Twitter始めてみた。今地味に回転寿司に行くμ'sメンバーを募集してたりします(笑)
 https://twitter.com/CamelliaDahlia










いらっしゃい雪穂ちゃん!!零君ハーレムへようこそ!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

回転寿司へ行こう!

 提供:く○寿司

 今回からまた日常回へと戻ってきました。零君が回転寿司を知らない真姫、絵里、亜里沙を引き連れて、彼女たちの回転寿司処女を破ります!


 

 突然だが、俺、真姫、絵里、亜里沙は最近巷で人気の回転寿司へとやって来ていた。

 

 

「ここが噂の回転寿司……」

「初めて来るわね、ワクワクするわ♪」

「私はお寿司自体をあまり食べたことがないので楽しみです♪」

 

 

 店の前で立ち往生して何とも迷惑な客たち(俺ら)だ。生まれて始めて見る回転寿司に、真姫たちは目を丸くして驚いている。外観だけで驚いていたら、店に入って回っている寿司を見たら衝撃を受けるんじゃないか……

 

 

 そもそもなぜ俺たちがここに来たのかと言うと、昨日テレビで回転寿司特集を見ていた時に、真姫たち3人だけが回転寿司に行ったことがないと仰られたからだ。何とも高貴なご身分ですこと。

 真姫に至っては『回転寿司?寿司って回転させたら美味しくなるの?』と珍しく天然ボケを発揮し、周囲を見事大爆笑させていた。絵里と亜里沙はロシアにいたこともあるから仕方ないが……

 

 日本が世界に誇る食文化を味わったことがないのは勿体無い!!ということなので、翌日俺はこの3人をわざわざ遠くにあるこの有名店まで引っ張ってきたのだ。他の連中はもっと近くの回転寿司に行っている。

 

 

「もう予約の時間だし、入るぞ」

「予約しなければ食べられないほど人気なの?」

「別にそうじゃねぇけど、回転寿司ってのは安いし気軽に食べやすいから、平日でもお客さんがかなり多い。だからそれを見越して、あらかじめ予約を取っておいた方がいいんだよ」

「弱肉強食ってやつですね!!」

「いや、それはちょっと違うぞ亜里沙……」

 

 

 一応μ'sの中では常識人の部類に当てはまる亜里沙だが、姉の絵里同様たまにどこか抜けているときがある。しかも悪気など一切ない天然。"おでん缶=ジュース"だと思っている奴だからな……

 

 

 そして俺たちは自動ドアを通って中に入る。すると隣から――――

 

 

 

 

「「ハラショーーー!!」」

 

 

 

 

「はい、Wハラショー頂きましたぁ~」

「耳痛い……」

 

 

 目の前で皿が回っている光景を目にして驚いたのか、絵里と亜里沙は2人で持ち前のギャグ『ハラショー』を炸裂させた。それは隣にいた真姫の左耳から右耳を通り抜ける。しっかりしてそうなこの2人も、テンションが上がればただの子供だな。

 

 

「零君零君!!すごいです!!お寿司が回ってますよ!!」

「零!!これってどういう仕組み!?どれを取ってもいいの!?」

「落ち着けお前ら!!小学生か!!」

 

 

 亜里沙も絵里も、めちゃくちゃ目が輝いている……まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供みたいだ。昨日テレビの映像を見てもの凄く行きたそうな顔をしていたから、実際に見たらそりゃあそうもなるか。だけど見た目に幼さが残る亜里沙はいいとして、スタイル抜群美人の絵里が子供みたいに騒いでいると、傍から見れば非常に滑稽だ。

 

 

「真姫はどうだ?初めて回転寿司に来た感想は?」

「ふんっ、要は味よ。1皿100円だなんて子供騙しに、この私が騙されるわけないでしょ」

「あっそう……」

 

 

 相変わらずのツンデレ属性。口では強がりを言っているものの、その目を見てみるとその輝きは絵里たちに負けずとも劣らない。要するに自分の期待以上でビックリしているということだ。寿司以外に皿を回転させているお店ってないからな。これで真姫も『寿司自体が回転する』のではなくて、『寿司を乗せた皿』が回っていると認識できただろう。

 

 

「平日でも、結構待っている人がいるのね」

「言っただろ、回転寿司ってのは予約しておかないと何時間待たされるか分からねぇって」

「店の外でも待っている人たちがいましたね」

「それぐらい安くて美味いから人気なんだよ。おっ、もう予約の時間だ。行くぞ」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「これが回転寿司……本当に目の前でお寿司が回っているのね」

「すごくワクワクしてきました♪」

「雰囲気は悪くないわね」

 

 

 絵里も亜里沙も高ぶるテンションを抑えられていないみたいだ。真姫もさっきまでのツンの要素はどこへ行ったのか、キョロキョロと店全体を見渡して落ち着きがなくなっていた。高校生にもなってこの初々しさが楽しめるとは、ある意味でおめでたい奴らだな。

 

 俺たちはBOX席(いわゆるテーブル席)に座り、おしぼりで手を拭きながら一発目の寿司をどれにするか、個々人狙いを定める。ちなみに席順は俺がレーン側に座り、その隣に真姫、向かいの席のレーン側に亜里沙、その隣に絵里となっている。

 

 

「迷うなぁ~どれにしようかなぁ~?」

「迷うのはいいけど、マナーとして一度取った皿は手放しちゃダメだぞ。取った皿を再びレーンに戻すのもルール違反だからな」

「一度取ったお寿司は責任を持って食べろってことですね!!」

 

 

 亜里沙に食べられる魚はさぞ幸せに違いないだろう。俺がもしさばかれて寿司になったとしたら、せめて美少女の腹の中で消化されてその身体の一部になりたいものだ。

 

 

「でもこれって、自分の食べたいものが流れてこなかったらどうするのよ?」

「その時はこのタブレットで注文できるようになってるんだよ。届くまで多少時間は掛かるけど、確実に自分が欲しいモノを食えるぞ」

「へぇ~、ハイテクなのね」

 

 

 むしろタブレット導入のおかげでお客が無意味に待つ時間が減り、結果的に店の回転率も高くなる。さっきも言ったけど、回転寿司は席に着くまでの待ち時間が非常に長いため、店の回転率は他の飲食店に比べてとても重要だ。

 

 

「とりあえずサッサと注文してしまおう、みんな何食べたい?」

「私は無難にまぐろかしら」

「真姫はまぐろっと……絵里は?」

「初めはサッパリしたものがいいからはまち辺りにしようかしら」

「はまちっと……亜里沙は?」

「お寿司のたまご焼きが大好きなので、それでお願いします!!」

「OK……じゃあ俺はサーモンかな」

 

 

 各々が第一品目を注文する。この注文の品が届くまでの間に、回っている寿司を取って食べておくのがベストだ。でもそれをやってしまうと注文した寿司は第一品目じゃなくなってしまうのだが……

 

 

「もし注文した直後に同じお寿司が流れてきたら、なんか馬鹿らしいわね……」

「残念ながら真姫、それは運だ。そのハラハラを楽しむのも回転寿司の醍醐味の1つなんだよ」

「ハラショー、回転寿司って意外と奥が深いのね」

 

 

 今日だけで何回『ハラショー』と言えば気が済むんだ……俺の予想ではこの先も何回か言うな、絶対。そして段々耳障りになってきて、俺の嫌いな言葉ランキングにランクインするまである。

 

 

「あっ、でも私、わさびが入っていると食べられないんです!!」

「大丈夫、わさびもお茶も全部セルフサービスだから」

「なんだ~よかったぁ~~」

 

 

 10年ぐらい前は基本海鮮のお寿司にはわさび入りが基本で、タブレット注文の際にわさび抜きを選ぶしかそれを回避する方法がなかったけど、今はどこの店も基本はわさび抜きで提供することが多い。これはわさび抜き注文が多かった結果でもあるし、単純に子供はわさび入りで食べないからな。

 

 

「ちょっとなにこれ!?」

「ど、どうしたのよ真姫?」

「ハンバーグってお寿司が回ってる!?」

「ハラショー!!美味しそうですね!!」

 

 

 そりゃあハンバーグなんて普通はお寿司にしないようなモノだから驚くのも無理はない。多分だけど、回転寿司に来たことがない人が一番驚くポイントはそこでじゃないかと思っている。ハンバーグ以外にも牛カルビやイベリコ豚など、店ごとに違うだろうが肉類を寿司にしている店は多い。

 

 

「でも、どうしてお寿司にハンバーグを乗せているのかしら?」

「それは主に子供をターゲットにしているんだよ。特に小さな子供って海鮮類は食べられないから」

「なるほど……」

「それにうどんやそばなどの麺類や、天丼やうな丼と言った丼モノも揃ってるぞ。これは小さな子供だけじゃなくて、そもそも寿司が苦手な人でも大丈夫ってわけだ」

「なんでお寿司が苦手な人がここに来るのよ?」

「店内を見回してみろ、大勢で来ている客が大半だろ?中には付き合いで一緒に来て、あまり海鮮モノが食べられないって人もいるだろうしな。ほら、俺らで言えば凛とかさ」

 

 

 最近はラーメンを提供している店も多いから、海鮮モノが苦手な凛でもみんなと一緒に回転寿司を楽しめるってわけだ。魚は苦手だけど、ハンバーグなど肉類だったら大歓迎だろうし。

 

 

ピンポーン

 

 

「なにこの音?」

「もうすぐ注文した寿司が来るって合図だよ」

「店員さんが運んでくるんですか?」

「まぁ見てな」

 

 

 俺が指を指したのは寿司が回っているレーンの隣、一段上にあるもう1つのレーンだ。そこに3人の目が集中する。

 

 間もなくして、俺の背後から注文した寿司がレーンに乗って、普通に回っている寿司のスピードよりも数倍ものスピードで流れてきた。それに目を丸くして驚く3人だが、すごいのはそれだけではない。そのスピードで流れてきた寿司は、見事俺たちの席の前でピタッと止まったのだ。

 

 

「「ハラショーーー!!」」

「す、すごいわね……」

 

 

 いつもの反応を見せる2人はいいとして、口だけはいつも毒舌な真姫も今回ばかりはその毒舌すらもどこかに置いてきたようだ。このスピードで、しっかりと注文者の席の前で止まることができるのがすごいよな。皿が止まった慣性で乗っている寿司が飛んでいかないか、無駄に期待していたりもする。

 

 

「本当にピタッと止まったわ!!すごいじゃない零!!」

「すごいのは俺じゃないけど……」

「零さんすごいです!!回転寿司がこんなに面白いものだったなんて!!」

「だからすごいのは俺じゃないから!!落ち着けクォーター共!!」

 

 

 これ絶対に過去KKEと言われていたなんて嘘だろ。今の絵里のどこに賢い要素があったんだ……?外見と精神年齢の差が激しすぎる!!亜里沙は可愛げがあるからいいが……もちろん絵里だってめちゃくちゃ可愛いけどね。なんせ見た目がアダルトなもので……

 

 

「これってどういう仕組みなのかしら?」

「詳しくは分からないけど、皿に仕掛けが施されているらしいぞ。時間が経って新鮮味が失われた寿司は、レーンからはじき出されて自動廃棄されるようになってるしな」

「とにかく今は到着したお寿司を食べましょう!!」

「そうね、お腹もペコペコだし」

「よし、それじゃあ――――」

 

 

「「「「いただきます!!」」」」

 

 

 当然だけど、μ'sと同棲生活を始めてからはみんなと一緒に食事の卓を囲むようになった。いつもは俺と楓の2人だけだったので、大勢で食を共にするのはとても新鮮だ。特に同棲生活中はみんなが毎回交代交代で飯を作ってくれるため、毎日の楽しみの1つとなっている。

 

 

「どうだ真姫?」

「ま、まあまあね!!」

 

 

 そう言いながら誰よりも早く完食してるじゃねぇか!?コイツそんなに食べるスピード早かったっけ!?いつもはお高いお寿司を食べているであろうお嬢様の口に合うかどうかは分からなかったが、この食い終わるまでのスピードを見る限り満足しているようだ。それに気に入ったのか、もう次の皿に手を付けようとしている。相変わらず素直じゃないねぇ~~

 

 

「私はあまりお寿司を食べたことなかったんだけど、日本にはまだこんなに美味しいものがあったのね。また今度来ようかしら」

「そりゃあ回転寿司は日本が世界に誇る食文化なんだ。俺も定期的に食べたくなっちまうよ」

 

 

 絵里も回転寿司を大絶賛。回っていない寿司屋に比べれば辛いけど、こうやって楽しんで食べられるという観点では俺たち高校生には特に向いている。さっきのハンバーグやうどんみたいに、子供でも食べられるモノがあるっていうのも人気の秘訣なのだろう。そもそも値段も違うため、こっちの方が気軽に食べに行きやすいしな。

 

 

「たまご焼き美味しいです♪」

「そ、それはよかった……」

 

 

 亜里沙が寿司を食べる姿を見て、少し変な想像をしてしまう。子供みたいにたまご焼きを食べている亜里沙が微笑ましいというのもあるが、どことなエロさを感じるのは自分だけだろうか。あのたまご焼きを恵方巻きに置き換えて想像してみると分かりやすいかもしれない。

 

 その小さな口で大きな恵方巻きを頑張って加えている亜里沙の姿……ゴクリ。俺の恵方巻きも――ってダメだ!!俺はまた天使を妄想で汚してしまうところだった!!今は楽しい楽しいお寿司の時間なのに!!

 

 

「零くん、上にあるガチャポンみたいなのは何ですか?」

「ああ、あれか。あれは机脇にある投入口に、皿を5枚入れるたびに1回引けるんだ。そうは言っても、当たるか当たらないかは運次第だけどな」

 

 

 寿司を食った後の皿は、こうやってゲーム(タブレットでアニメーションが表示されるだけ)を楽しむためのお金替わりになる。これも子供たちが楽しめる要素の1つだ。家族連れに人気なのはこのおかげでもあるだろう。

 

 

 亜里沙は俺たちの皿を回収して投入口に5枚突っ込んだ。タブレットの画面にアニメーションが映る。さてその結果は――――

 

 

 

 

"あたり!!"

 

 

 

「「「「おぉっ!!」」」」

 

 

 まさか一発であたりを引くとは、俺の日頃の行いがいいおかげだな。でもこれは運じゃなくて、3回に1回ぐらいは当たるようにプログラムされていると夢のないことを言ってみたり。

 

 

「おっ、やったじゃん」

「そのカプセルの中には何が入っているのかしら?」

「えぇ~と……あっ、キーホルダーが入ってました!!」

「さっきレジの隣で売っているのをみたけど、結構種類があるみたいね」

「中にはシークレットとかいう激レアなモノまであるらしいな」

 

 

 

 

「じゃあそれを手に入れるまで、みんなでお寿司を食べて食べて食べ尽くしましょう!!零くんもお姉ちゃんも真姫ちゃんももっと食べて食べて!!」

 

 

 

 

「あ、亜里沙……?どうしちゃったの?」

「意外とこういうことで熱くなるのよ、亜里沙って……」

「マジかよ……」

 

 

 高いテンションがより高いテンションとなった亜里沙。なんか目が燃えているんですけど!?!?

 

 そして激レアのキーホルダーを求め、回転寿司を巡る亜里沙の旅は今始まったのだった……意外と亜里沙ってコレクター!?目の色を変えて『零さんもっと食べてください!!あなたは20皿ぐらいでヘコたれる人ではありません!!』と言われるまで暴走してしまった。自分だけデザートのアイスを食べながら……もう俺、亜里沙の悩み解決するのやめようかな?

 

 

 それから俺は21皿でダウン。真姫は7皿、絵里は8皿、亜里沙は4皿+アイス+パフェ+ケーキと、俺の苦労も知らないで大豪遊してやがった。燃えるとここまで厚かましい奴だとは思ってなかったぞ……ちなみに激レアのシークレットレアは出なかった。何の為に頑張ったんだ、俺……

 

 

 

 

「とても美味しかったです!!また来ましょうね、零くん♪」

「あ、あぁ……そうだな……」

 

 

 俺はお腹がパンパンで気持ち悪くなりながらも、天使のような笑顔の亜里沙を見て、『お前はデザートしか食ってねぇだろ!!』――――と心の中でしか言えなかった……

 

 もしかしたら俺、亜里沙に貢がされるかもな……

 

 




 同棲生活中ですが、たまにはこんな日常回もいいですね。

 ちなみにこの話を書こうと思ったきっかけは、この前自分が回転寿司に行ったというそれだけの理由です。ちなみに回転寿司にいる間にこの話の構成を練っていました。外食中でも小説のことを考える、まさに作者の鏡!!

 今回の回転寿司は提供元を参考に話を組みました。皆さんはどんなネタが好きですか?自分は零君と同じくサーモンが大好きで、回転寿司に行くとそればかり食べてます。ちなみにいつもは10皿ぐらいが限界なのですが、この前は12皿+デザートを食べて吐きそうになってました(笑)


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

美少女零ちゃんとおっぱいまくら

 今回は久々にリクエスト回です!

 女の子になっちゃった零君と、そこから始まるおっぱい騒動!!そして野獣と化したμ'sメンバーから零君は貞操を守れるのか!?


 

「なんじゃこりゃぁあああああああああああああああああああああああ!?!?!?」

 

 

 今までショタ化されたり、女の子を俺に無理矢理発情させるフェロモンを出す薬を飲まされたりしたが、今回ばかりはいつもの3割増で叫ばざるを得なかった。朝起きたら身体が……俺の身体が女の子になっていたのだ。こんなことをするのはもう言うまでもなくアイツだ。もう名前すらも呼びたくない……

 

 

 こんな状況には慣れっこなのだが、今回だけは別だ。まさか性転換させられるとは……アニメや漫画だけの話かと思っていた。アイツならやりかねんが実際にやられた今、まずどうしたらいいのか分からない。とりあえず俺を抱き枕にして寝ている凛と花陽を引き剥がすのが先か、それとも――――

 

 

「おっぱいがある……しかも結構大きいぞ。いや、自分で自分の胸を揉むのはどうなんだ?で、でも……気になる」

 

 

 おっぱい好きの俺にとってはそのおっぱいを好きなだけ揉むことができる、まさに絶好のチャンスだ。でも自分のおっぱいを揉むというのは果たして気持ちのいいことなのだろうか?それってもうオナ……自分磨きと全然変わらないんじゃ……

 

 

「落ち着け……まずは身の安全を確保するんだ。こんな姿を穂乃果やことり、にこや希、それに楓に見られたら――って一緒に住んでるんだから詰んでるじゃん!!」

 

 

 これでは俺がμ'sのおやつにされること不可避!!とりあえず着替えて一時家出するか!?男が女性の服を着るのは変態でしかないが、女性が男の服を着るのは別に有り得ないことではない。俺に抱きついて寝ている凛も花陽も、少し離れたところで寝ている真姫も、まだぐっすり夢の中みたいだし、今の間に行方を眩ませよう。

 

 

「お兄ちゃん!!朝だよ!!起きろーーーー――――ってあれ~~!?!?」

 

 

「あっ……」

 

 

「かっ」

 

 

「か?」

 

 

「可愛いぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」

「ぐえっ!!」

 

 

 楓はミサイルのように俺の懐に飛び込み、そのまま頬っぺを俺の頬っぺへ擦り付ける。流石我が妹、いい匂いいい柔らかさだ……じゃなくて!!抵抗しようにも、女の子になっているせいか全然力が入らない。普段なら楓ごときサラッとあしらえるのだが、まさかコイツに懐柔される日が来るとは……なんたる屈辱!!

 

 

「うぅ~……うるさいにゃ~……」

「もう朝ですか……」

「なによもう朝から騒がしいわね……」

 

 

 流石の暴れ具合に凛、花陽、真姫の3人が同時に目を覚ました。逃げようにも楓によってガッチリホールドされているため、指一本動かすのが精一杯だ。3人は俺と楓の方へと目を向け、『あぁ、いつも通り仲のいい兄妹だ』と思って二度寝しようとする。だがその瞬間、『あれ?神崎兄妹じゃなくて神崎姉妹だったっけ?』みたいな顔をして、もう一度俺たちを凝視した。

 

 そして3人はようやく事の事態を察したのか、その表情が驚きに変わる。

 

 

「えっ!?えっ!?えぇええええ!?一体なにが起こっているのかにゃ!?」

「か、楓ちゃんが抱きついているその人ってまさか!?」

「れ、零……なの?」

 

 

「Yes……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「いや~!!まさか朝起きたらお兄ちゃんがお姉ちゃんになっているとはね♪」

「お姉ちゃん言うな!!」

 

 

 あまりの騒ぎで全員が俺の部屋に集結する事態にまで陥ったので、一旦リビングへ降りて朝食を取ることにした。もうバレてしまっては逃げる必要もない……と思ったのだが……

 

 

「可愛いね零君!!いや零ちゃんかな?穂乃果、同性愛に目覚めそうかも……」

「目覚めんな!!それに零ちゃんとも言うな!!せめて名前だけでは男の子でいさせてくれ!!」

「えぇ~可愛いのにぃ~~……」

「別に可愛いと言われても嬉しくないからね」

 

 

 穂乃果の反応は案の定これだ。早速俺を女の子扱いしてくるだけではなく、危ない性癖を目覚めさせようとしている。こんなに目をキラキラ輝かせた穂乃果を見るのは久しぶりだが、こんな状況で見たくはなかった。

 

 

「ことりも涎が止まらないよぉ~~!!」

「ことりは近寄るなぁああああああああああああああああ!!」

「えぇっ!?どうして!?いつもだったらことりのおっぱいに埋もれて喜んでいるのに!?」

「そ、それは今関係ないだろ!!それよりお前、俺をおやつにする気満々じゃねぇか!!」

「ただ着せ替えたりぃ~、身体を触ってみたりぃ~、一緒にお風呂に入ったりするだけだよ~♪」

「それが怖いんだよ!!目が獲物を狙う野獣の目になってるから!!」

 

 

 1年前に俺がショタ化した時もことりは暴走していたが、今回はあの時以上だ。誰が大天使ことり様をこんな変態に堕としたのかは分からないけど、特に最近は変態度が俺並みに近づいてきている。俺にベッタリなのは嬉しいけど、手が付けられないくらい暴走するのだけはやめてくれ!!

 

 ことりに捕まってしまえば女の子の快楽を全身に浴びせられ、二度と男には戻れないような気がする。冗談抜きでこのまま一生"零ちゃん"で過ごすハメに!?!?

 

 

「海未ぃ~~助けてくれよ~~」

「た、助けてと言われましても……!!」

「ど、どうした……?」

「いや、そんなジッと見つめられると……心にグッときます。か、可愛いですね、零」

「お前まで!?」

 

 

 ちなみに俺の身長は穂乃果よりも低くかなり小柄だ。髪の毛は海未のようにサラサラとしていて腰辺りまで伸びている。さっき鏡で自分の容姿を見てみたが、自分で自分に惚れてしまうほど可愛かった。胸も絵里より少し小さいくらいでスタイルとしても抜群。流石俺だな!!と言いたいところだが、やはり女の子の姿じゃ素直に喜べねぇよ!!

 

 

「零!!アンタにこの妹になりなさい!!今すぐに!!」

「誰がなるか!!いくら俺が小柄でも、胸はお前や凛よりも遥かにでかいぞ!!」

「ぐっ、さっきから気にしていたことを……」

「なんでそこで凛も被害を受けなきゃいけないの!?」

 

 

 女の子になってみて、胸が小さいことを馬鹿にされる気持ちが分かったような気がする。おっぱいは女の子の象徴、気にしないでおこうと思っても自然と比べてしまう。いや~おっぱいがでかくてよかった!!おっぱいの大きさでにこや凛に負けるのは人生最大の屈辱だからな。

 

 

「小柄でおっぱいが大きい……花陽ちゃんみたいでワシワシしがいがあるやん♪」

「わ、私!?」

「俺、始めて花陽の気持ちが分かったよ。おっぱいが大きいのも悩みがあるものなんだな……」

「そこで共感するの!?なんか複雑だよ~……」

「2人共まとめてワシワシしてあげるから、こっちへおいで♪」

「その手の動きをやめろ!!もうただの変態じゃねぇか!!」

 

 

 希は指を触手みたいにクネクネ動かしながら俺と花陽に迫ってくる。今までは俺がセクハラする側だったけど、される側になって初めてわかる犯罪臭。希を見ているとまるでセクハラする時の俺のようだ。俺ってここまで変態で変質者だったとは……

 

 

「絵里ぃ~~希を止めてくれよ!!」

「え、えぇ……」

「な、なにその反応……ま、まさかお前も!?」

「そ、そんな上目遣いでおねだりされたら……可愛くて抱きしめたくなっちゃうじゃない!!」

「もがっ!!え、絵里!?」

 

 

 突然俺は絵里にギュッと抱きしめられた。しかも背丈が小柄であるため、俺の顔がちょうど絵里の胸に埋もれる形となる。

 柔らか!!おっぱいをまくらにして寝てみたいと思ったことはあるが、まさかそれが今実現するとは!!俺の鼻が絵里の胸の谷間にグイッと押し込まれ、2つのおっぱいで俺の顔がぎゅうぎゅうと締め付けられる!!気持ちが良すぎて昇天するぅううううううう!!

 

 

「お姉ちゃんズルい!!私も零ちゃんを抱きしめたい!!」

「そう?じゃあ十分に楽しみなさい。零ちゃんってば暖かいんだから♪」

「こら!!零ちゃんて言うな!!」

「よしよし零ちゃん♪」

「うぐっ!!」

 

 

 今度は亜里沙によって抱きしめられ、彼女のおっぱいがまくらになった。亜里沙のおっぱいが成長していることは見て分かっていた(俺の特技はスリーサイズの目視)が、こうして実際に触れるのは初めてだ。こ、これが天使のおっぱいか!!服の上からでもマシュマロのような柔らかさだから、生のおっぱいまくらはさぞ天国なのだろう。

 

 

「お兄ちゃ、お姉ちゃん私のまくらも使ってよ♪」

「ぐえっ!!首根っこ掴むな!!そしてお姉ちゃんって言い直すな!!」

「はいいい子でちゅね~♪」

「子供扱いすんな!!」

 

 

 そして俺は抵抗する間もなく、楓のおっぱいに顔をダイブして(させられて)しまう。やはり我が妹、おっぱいの大きさや形は服の上でも分かるほどの一級品だ。実の妹のおっぱいにまで興奮する辺り、俺はもう取り返しの付かないほど度を超えた変態に成り上がっている。だって妹だろうがおっぱいはおっぱい!!至高の産物なんだよ!!もう開き直ってやる!!

 

 

「零ちゃん♪次はウチのまくらにおいで♪」

「の、希のまくら、だと……」

 

 

 あのμ'sメンバー最高のバストを持つ希のおっぱいまくらだと!?!?これは普通ならいくらお金を積み込んでも味わえない経験。だが今の俺は女の子だ!!女の子同士なら全然問題はない!!今まで幾度となく希のおっぱいの揺れを眺めて夢見てきた……それが今現実となる!!

 

 

「じゃあお言葉に甘えて……」

「――――っと思わせて、海未ちゃんの胸へだーーいぶ!!」

「うわっ!?」

「きゃっ!?零!?」

 

 

 俺が希の胸へ頭を乗せようとした瞬間、またしても首根っこを掴まれ、海未のおっぱい目掛けて放り投げられた。軽すぎんだろ俺……いやいや!!そんなことはどうでもいい!!俺は見事に海未のおっぱいをまくらにして倒れ込んでしまったのだ。俺は海未を下敷きにして、彼女が怪我をしていないか心配をしながらもそのおっぱいを堪能する。

 

 

 今まで海未の胸を小さい小さいと馬鹿にしてたけど、こうしてまくらにしてみると安心できる心地よさがある。誠実な海未の雰囲気と相まって、多少小さな胸でもぐっすりと眠ることができそうだ。

 

 

「れ、零!!そんな破廉恥なことをして、覚悟はできているんでしょうね!?」

「ま、待ってくれ!!これは不可抗力だ!!希に吹っ飛ばされただけなんだよ!!」

「言い訳無用!!歯を食いしばりなさい!!」

 

 

 海未は拳を突き上げ今にもパンチの雨を降り注ごうとしている。俺は目をギュッと瞑り、自分の死を悟った。

 

 またしても、同じオチで終わるのか……

 

 

 

 

 …………

 

 

 …………

 

 

 ――――ってあれ?拳が降ってこない?なんで!?

 

 

「う、海未……?」

「で、できません……」

「何がだよ!?」

「こんなに可愛い子に制裁だなんて……できるわけがありません!!!!」

「な、に……」

 

 

 海未は振り上げた拳を沈め、何故か俺に懺悔をした。女の子なら"可愛い"と言われれば嬉しいだろうが、男の俺はちっとも心に響かない。でも女の子であることを利用すれば、海未たちから制裁を貰わずにあんなことやこんなことができるのでは……?盛り上がってきたな!!

 

 

チョンチョン

 

 

「ん?あっ……」

 

 

 後ろから背中を指で突っつかれ後ろを振り向いているみると、そこには満面の笑みを浮かべている穂乃果とことりの姿があった。なんだろう、さっきまでの盛り上がりが一気に冷めていくぞ……

 

 穂乃果とことりは涎を拭きながら俺へジリジリとにじり寄ってくる。無言なのがさらにコイツらの怖さを引き立たせ、俺の恐怖の恐怖を煽り立てた。ど、どうする……?ただでさえ男の時でもコイツらには手を焼いているのに、こんなひ弱な女の子の身体ではあっという間に2人のおやつにされてしまうだろう。

 

 

「零ちゃ~ん♪いい子だねぇ~~♪穂乃果お姉ちゃんが遊んであげようか?」

「この前零ちゃんから貰ったいちごパンツ、実は持ってきてるんだよ♪本当は零ちゃんに履いているところを見てもらう予定だったけど、まさかこんなところで役に立つなんてね♪」

「や、やめろ!!お前ら遊ぶフリをして俺にいちごパンツを履かせる気だな!?」

 

 

 この前少し冗談交じりでことりにいちごパンツをプレゼントしたら、その場で履き替えようとしやがったからさあ大変!!何とかその場を収めることはできたが、後日自らスカートを捲って『えへへ♪今日のことりのパンツはいちごのパンツです♪』と、俺のプレゼントしたいちごパンツを見せびらかす始末。もちろん興奮はするが、あんな派手なパンツを自分から履こうとは思わない!!

 

 

 かくなる上は――――

 

 

「真姫!!花陽!!お前らだけが頼りだ!!」

「わ、私たち!?どうする真姫ちゃん……?」

「騒ぎに巻き込まれないように気配を消していたんだけど……」

 

 

 忍者かお前は!?いくらお前が気配を消していたとしても、その気品煽るるオーラは絶対に消すことができないからな。木陰で本を読んでいるだけでも男子生徒が振り返ってしまうというのに……

 

 

「こうなったら花陽!!俺を守ってくれ!!」

「えっ、えぇええ!?零君!?」

 

 

 俺は花陽のおっぱい目掛けて思いっきりダイブした。顔を花陽の胸に埋めた瞬間、その小柄な身体に似合わない豊満なおっぱいがぽよんと揺れる。こんなふかふかなまくらは生まれて初めてだ!!花陽っぱいには誰にも負けないくらいの包容力がある。こんなまくらだったら一生眠っていられそうだな。

 

 

「れ、零君くすぐったいよぉ~!!」

「俺、一生ここで過ごすよ……」

「じゃあずっと女の子でいる気?」

「それはヤダ……」

 

 

 合法的にこうして女の子のおっぱいを楽しめるというのはまさに至高の極み!!なのだが、やっぱり俺は男の姿の方がいいや。だって合法的にセクハラしてもつまらないじゃん!!違法行為だからこそスリルと興奮を楽しめるんだ!!俺は茨の道を乗り越えてこそ味わえる快楽を求めているんだよ!!

 

 

「だから真姫、未だ目をギラギラさせてこっちに向かってきそうな猛獣たちをなんとかしてくれ……」

「穂乃果とことり……それに絵里に希、亜里沙まで……全くしょうがない人たちね。それならそこの3人に頼めば?さっきからなにか期待しているみたいだけど」

「そこの3人……?」

 

 

 真姫の見ている方向へ目を向けると、そこにはおっぱいの話になった途端話題にすら上がってこなかった人たちがいた。そういえばこの3人の胸は……

 

 

「凛、にこ、雪穂……」

 

「零くん!!次は凛のまくらを堪能させてあげるにゃ!!」

「にこならいつでも準備OKよ!!」

「わ、私も零君がしたいと言うのなら……別にいいですよ!!」

 

 

 あれ?もしかして順番待ちだったの!?真姫の言う通り、3人共すごく期待した顔で俺を見つめてくる。

 

 俺はこれまで幾度のおっぱいを堪能し、その柔らかさと温もりに浸ってきた。女の子の匂い、沸き立つ興奮、漲る性欲……普通のまくらでは味わえない快楽を、女の子たちからたっぷりと楽しませてもらった。絵里や希、花陽、楓のようなふかふかまくら。海未や亜里沙のような安らぎまくら。穂乃果やことりのような、いつもいつも触らせてもらっている馴染み深いまくら。どれも至高の一品だ。

 

 

 だが、中にはまくらになり得ない人がいることを俺は……完全に失念していた――――――

 

 

 

 

「そういえば、お前らのこと忘れてた。だっておっぱい小さいんだもん」

 

 

 

 

 その瞬間、ビキッと亀裂が入ったような音がする。それは明らかに目の前の3人から聞こえてきた音だった。

 

 

 こ、これは……ダメなパターンじゃね?もしかしなくても……またしても定番であるあの……?

 

 

「零!!」

「「零くん!!」」

 

「は、はい!?」

 

 

 

 

「「「歯を食いしばれ!!!!」」」

 

 

「待て!!俺は可愛い女の子なんだぞ!!こんな綺麗な顔をして、おっぱいの大きい美少女を殴るなんて……お前ら正気じゃねぇ!!」

 

 

「「「問答無用!!」」」

 

 

「マジすか……」

 

 

 結局、女の子になろうがこうなるのね…………

 

 

 ちなみに割とすぐ男の子に戻れました。そして、殴られて伸びている間にことりと穂乃果にいちごパンツを履かされて写真まで撮られていたことを、俺はまだ知らない……

 




 今回はまさかまさかの性転換でした。そして久々にR-17.9ではない変態回だったと思います。また駆け足投稿だったので、若干文章が雑になっています。

 ちなみに言っておきますが、私はおっぱいが大きい女の子でも小さい女の子でも、可愛ければOKですよ!!紳士ですからね。

 次もリクエスト回の予定です。コラボはまだ目処が立っていないのでもう少しお待ちください。


 今回は読者様のティラミスさんよりリクエストを頂きました。"おっぱい"という無駄な要素が追加されましたが、ドタバタ劇はしっかりと描けたかと思います。ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

欲望渦巻く王様ゲーム

 今回も前回に引き続きリクエスト回です!

 己の欲望丸出しのμ'sメンバーに、流石の零君もタジタジ!?


 リビングにただならぬ緊張と静寂が流れる……

 

 

 俺たちは真剣な面持ちでテーブルを囲んでいた。その間にはピリピリとした雰囲気だけが漂っている。

 ある者は真面目に。ある者は笑顔で。ある者は固唾を呑んで。ある者はメンド臭そうに。ある者は不敵な笑みを浮かべていた。今から始まるのは戦争。敗者が勝者の言いなりとなって跪くだけの、非常に分かりやすい階級社会と化す。

 

 

 そう、俺たちがいまから行うのは――――――

 

 

「ルール説明だ。13本のくじの中から当たりを引き当てた者が王様となり、番号を指定して命令を行う。ただそれだけだ。そして、王様の命令は――――絶対!!!!」

 

 

 これがこのゲームの最大にして決して揺らぐことがない強固なるルール。背いた者はゲームから除外され、この話からも消滅する。つまり出番がなくなるというわけだ。

 

 

「穂乃果、王様ゲームするの久しぶりだよ!!どんな命令にしようかなぁ~」

「ことりが王様になれば零くんを……楽しみぃ~♪」

「また余計なことに巻き込まれてしまいました……」

 

 

 王様になる前から妄想に浸っている穂乃果とことり。海未は溜息をつきながら呆れ顔で参加している。

 恐らく穂乃果とことりの脳内では、既に俺があられもない姿になっているのだろう。想像するだけで身体の震えが止まらない。同棲生活は今日で4日目となるが、一緒に住んでいるとこの2人の積極さが半端でないことが改めて分かる。

 

 

「せめて命令されるなら、かよちんに命令されたいにゃ~♪」

「じゃあ私は凛ちゃんや真姫ちゃんに」

「えぇ~……真姫ちゃんは容赦なさそう……」

「凛!!それどういう意味よ!?」

 

 

 そのまんまの意味だろ。凛や花陽の命令はソフトかもしれないが、真姫はやられた分をキッチリ仕返してきそうで怖い。でもその分また真姫の羞恥心を爆発させてやればいいだけの話だがな。

 

 

「私、王様ゲームってやったことないんだけど……」

「別に難しいことなんてないから大丈夫。でも絵里ちにはちょっと荷が重い命令があるかもね♪」

「絵里の羞恥心ではもしかしたら途中退場もありえるわ。にこみたいにスーパーアイドルの心を持っていれば、そういう心配もいらないけどね☆」

「にこっちは変態過ぎて、もう羞恥心なんて感じなくなってるからなぁ~」

「ちょっと!!人を痴女みたいに言うのやめてくれる!!」

 

 

 それは決して間違っていないが、希もにこと同類だからな。俺は大学でこの2人が暴走していないかだけが気がかりだ。ひょんなことから誰かに9股がバレてしまうほど、コイツらは変態的な妄想が激しい。絵里も若干その部類に染まっているし、大学生組は本格的に手がつけられなくなってきた。

 

 

「ハァハァ……もう興奮してきた」

「だ、大丈夫楓?王様ゲームってそんなに疲れるの?」

「亜里沙……王様ゲームはね、戦場なの。雪穂みたいにぼぉ~っとしていると、すぐにリタイアしちゃうんだから!!」

「ぼぉ~っとしてないよ!!ただメンドくさいだけだから!!」

 

 

 妄想だけで発情しそうになっている万年発情期の楓と、相変わらず変な勘違いをしている亜里沙。そして真姫同様メンドくさそうなオーラ全開なのが雪穂。確かにゲーム自体はくだらない。だが好きな人を無理矢理命令で自分の支配下に置くのは、何とも言えない気持ちよさがある。これはSの血がゾクゾクと騒ぎ出すドS大歓喜のゲームなのだ。

 

 

「よし!!それじゃあ始めるぞ!!」

 

 

 俺の言葉を皮切りに、みんなは一斉にくじ(割り箸)に手を付ける。何だかんだ言って真姫も雪穂もやる気なんじゃねぇか!!やっぱり普段の鬱憤を合法的に晴らせるからなのか、それとも何か狙いが……!?

 

 

「みんな割り箸掴んだな。じゃあせーの――――」

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「王様だーれだ!?」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

「あっ、私です」

 

「は、花陽か……」

 

 

 自分ではなくて残念と言えば残念だが、ある意味で助かったとも言える。だっていきなりことりや希に当たってみろ、早速脱落者が出る事態になりかねん!!そう思えば花陽が一発目で来てくれたことで、この王様ゲームを穏便に開始できたと言えよう。

 

 

「う~ん……じゃあ3番の人が私の肩を揉んでください」

 

 

 悩んだ末の命令がそれかよ……でも花陽らしいと言えば花陽らしいけど。しかも命令なのに敬語って、めちゃくちゃ柔和な王様だな。そもそも花陽の王様姿自体があまり似合っていないと言うか、想像ができない。

 

 

「3番は私ですね」

「海未ちゃん!!じゃあよろしくお願いします♪」

「えぇ。こんな感じでいいですか?」

「す、すごく気持ちいい……海未ちゃん肩揉み上手だね!!」

「ありがとうございます。小さい頃はよく父にしていましたから」

「疲れが一気にほぐれるよ♪またしてもらいたいなぁ」

「私でよければいつでも歓迎ですよ♪」

 

 

 なんて言うのか、微笑ましいと言うのか、普通に仲のいい姉と妹みたいだ。今まで邪な気持ちで欲望全開にしていた俺が情けなくなってくる。それは穂乃果やことりたちも一緒みたいで、さっきまで放っていた邪気が少し収まっていた。本当に花陽が一番手で助かったよ。

 

 でも――――そんなことで俺を完全に抑えられると思うなよ!!

 

 

「まあ俺は肩揉みじゃなくて、胸揉みだったら得意だけどな」

 

「結構肩凝ってますね。気苦労があるならいつでも私に相談してください」

「うん、ありがとう海未ちゃん♪」

 

「す、スルーされた……でも海未は肩凝らないだろ。花陽と海未ではおっぱいの大きさが段違いだしな」

「あまり喋りすぎると……その開いた口の中に矢を打ち込みますよ」

「ぐっ……マジな殺意が見える」

 

 

 ドスの効いた低音のせいでさらに恐怖を煽られる。今まで海未からは幾度となく制裁を受けてきたが、今回だけは本気だ!!本気で俺の命を撃ち抜こうとしてやがる!!心を打ち抜くラブアローシュートならぬ、命を撃ち抜くデスアローシュートだな……

 

 

「よ、よし次に行こうか……せーの――――」

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「王様だーれだ!?」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

「凛だにゃーーー!!」

 

 

 凛は先っぽが赤く塗られた割り箸を高々に掲げる。花陽に続いて凛ならまだ安心できる部類だ。μ'sの中では非常識人な彼女だが、こういう欲望が渦巻くゲームの中であればりんぱなコンビほど安心できる奴らはいない。普段常識人の仮面を被っていることりや希の方がよっぽど恐ろしいからな……

 

 

「じゃあね~……9番の人はゲーム中、凛をずっと膝の上に乗せてもらうにゃ!!」

 

 

 無難!!ベスト・オブ・無難!!むしろ凛をゲーム中ずっと抱きしめられるとかご褒美以外の何物でもないだろ!!え?抱きしめていいとは言っていない?俺は膝の上に女の子が来たら無意識の間に抱きしめちゃうけどな。

 

 

「9番は私ね」

「わ~い♪絵里ちゃんだ♪それじゃあお邪魔しまーーす!!」

「こうして凛を膝の上に乗せるのは始めてよね?」

「うん!!絵里ちゃんのお膝、すっごく気持ちいいにゃ~♪」

「私もよ♪凛ってとても暖かいのね。抱き枕にしたいくらいだわ♪」

「わぁ~!!絵里ちゃんも暖い♪」

 

 

 すげぇ楽しそうだなあの2人。ほのぼのしている雰囲気というのもあるが、そもそも凛と絵里という中々見られないコンビというところが新鮮さを際立たせる。あまり女の子同士っていうのは好きじゃないけど、これは間違いなく目の保養になる。

 

 

 

 

 だが、これは嵐の前の静けさなのかもしれない――――

 

 

 

 

「よし、じゃあ次だ!!せーの――――」

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「王様だーれだ!?」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

「あっ、ウチやね♪」

 

 

「「「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」」

 

 

 希が王の証である割り箸をフリフリして俺たちに見せた瞬間、みんなは一斉に無言となる。

 つ、遂に来てしまった……しかも俺が恐れていた中でも最悪な奴が王様となって……

 

 

「の、希、ほどほどに……ね?」

「絵里ち……王様ゲームに加減なんていらへんよ。だって王様の命令は絶対。それやのに加減なんかしたら――――面白くないやん♪」

「放送禁止になることだけはやめろよ……」

「それは王様であるウチ次第や。零君が決めることじゃないよ♪」

「お、お前なぁ……」

 

 

 希は不敵な笑みを浮かべながら俺たちの顔を1人1人舐め回すようにじっくりと見る。今のコイツにとっては俺たちはただの操り人形でしかない。王様の命令は絶対、逆らった者は未来永劫出番が訪れることはなくなる。

 

 

「じゃあ命令するね♪10番の人は……4番の人に――――――パンツを脱がされる!!それもねっとりゆっくりと……」

 

 

「な、なにィいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?テメェふざけてんじゃねぇぞ!!」

「王様の命令は――――絶対や♪」

「……4番は俺だ」

 

 

 これが放送できるかできないのかはさて置き、俺がこの中の誰かのパンツを脱がさなければならないらしい。あれ?よくよく考えてみればこれってすごく役得なんじゃあ……でも、雪穂や亜里沙のパンツを脱がすことになったらどうする!?その2人でなくとも誰であろうが刺激が強すぎる!!今の俺では耐えられないかもしれない!!急に身体が熱くなってきやがった!!

 

 

「10番は誰なん?」

「わ、私よ……」

「ま、真姫……お前だったのか」

 

 

 真姫はこれでもかというくらい顔を真っ赤にして俺を睨む。いやいや!!なぜ俺が睨まれなければいけないんだ!?命令したのは希だろうが!!俺は今回無実だぞ!!

 

 

「お前だったのかじゃないわよ!!どうして私がそんなことをしなくちゃならないのよ!!」

「王様の命令は――――絶対や♪」

「だとしても!!そんないかがわしい命令なんて無効よ!!」

「大丈夫大丈夫。最悪自主規制するから♪」

「でも!!」

「ふ~ん、真姫ちゃん逃げるんや~~♪真姫ちゃんって意外と小心者やったんやなぁ。こんな遊びの命令1つも実行できないくらいの臆病者なんや~~ふ~ん……」

 

 

 おいおい……そんな安くて分かりやす過ぎる挑発に誰が引っかかるかよ。そんな見え見えの挑発に乗る奴なんて相当バカか、チョロい奴しかいねぇって。そうと分かったらサッサと別の命令に変えるんだな。

 

 

「や、やればいんでしょやれば!!私ができないことなんて一切ないんだから!!」

 

 

 バカだコイツぅうううううううううううう!!しかもチョロ過ぎぃいいいいいいいいいいい!!こんな子供騙しの挑発に引っかかる奴がこの世にいるとは思わなかったぞ!?だからいつもツンデレなのにチョロキャラとか言われるんだよ!!

 

 

「ほら零!!早くしなさいよ!!」

「本気かお前!?」

「このまま引き下がったら負けを認めるようなものよ。さぁ早くしなさい!!」

「プライド高いなお前……しょうがない、じゃあ失礼して」

 

 

 俺は仁王立ちしている真姫の目の前で膝をつき、高級そうなスカートをゆっくりと捲り上げる。綺麗な太ももを辿って目線を上げていくと、真姫の履いている下着が顕になった。

 

 彼女のイメージカラーである赤を基調としていて、とてもセクシーな下着だ。装飾や模様がほとんどないところがより大人っぽさをアピールしている。その綺麗な太ももと相まって、まるで美術のようだ。俺はその光景に目を奪われて、既に命令のことなど忘却の彼方であった。

 

 

「綺麗だよ、真姫」

「もうっ!!そんなことはいいから早く終わらせて!!」

「いや、もうちょっと堪能したい。もっと顔をパンツに近づけていいか?」

「…………勝手にすれば」

 

 

 俺は真姫の女性の匂いに誘われ、自分の顔を彼女の下着に近づけていく。それと同時に真姫の下着へ両手を伸ばす。彼女のスカートを頭に被り、醸し出される大人の匂いを感じながら、俺はパンツを掴んだ手を徐々に下へとズリ下ろして脱がせていく。そして、段々と真姫の大切な部分が見えてきた。もうすぐ真姫の秘所が目の当たりになる。俺は……俺は――――――

 

 

 

 

~※※※自主規制※※※~

 

 

 

 

「真姫……お前は頑張った」

 

 

 結果だけ言えば、俺と真姫は見事希の命令を最後まで実行した。そして命令を遂行した直後、真姫は己の羞恥心に耐え切れずに気絶してしまったのだ。でもエッチなことに無頓着なお前にしてはよく頑張ったよ。ご褒美として、しばらくはセクハラを控えておいてやろう。

 

 

「気を取り直して次だ。せーの――――」

 

 

「「「「「「「「「「「「王様だーれだ!?」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

「あっ、ことりだぁ~♪」

「やったねことりちゃん!!」

 

 

「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」

 

 

 そしてまたしても俺の中で最悪の奴が王様になってしまった……みんなもまた無言になっている。それにしても、どうして穂乃果は喜んでいるんだ!?自分が犠牲になる可能性もあるのに……俺は最近ことほのコンビの共謀の餌食となっているが、まさかこの王様ゲームでも……?

 

 

「1番と2番、6番と7番、11番の人は今から、ことりが零くんに告白するために用意しておいた文章を読んでもらいま~す♪」

「な、なんだよそれ!?」

「心配ご無用!!一文ごとにちゃんとパート分けするから♪」

「心配事はそこじゃねぇ!!」

 

 

 もうこの時点でイヤな予感しかしないのだが……ことりからの告白と言えば、全世界の男性の憧れだ。それを俺のために作ってくれたと言うのだからこれほど嬉しいことはない。もちろんそれはことりがマトモだった時の話であって、今のコイツはもう……

 

 

「まずは指定された番号の人は誰だ?」

「はいはーーい!!穂乃果が1番!!」

「にこにーが2番♪」

「私が6番!!」

「私は7番です」

「……」

「その沈黙……なるほど、雪穂が11番か」

 

 

 災難なことにことりの命令の餌食となったのは穂乃果、にこ、楓、亜里沙、雪穂の5人だ。しかし、その中で雪穂以外の4人はすごくやる気に満ち溢れている。むしろ待ってましたかのようなイキイキとしたオーラしか感じられない。でも亜里沙は天然過ぎて、今から自分の身に降り注ぐ惨事を理解していないのだろう。こんな汚れたところのない綺麗な天使が、堕天使ことりに汚される……

 

 そしてその中でも穂乃果、にこ、楓は、今からヒドく卑猥な文章を読まされることを知っていて喜んでいるから余計にタチが悪い。5人中4人が歓迎ムードって、いつの間にμ'sは変態の集団になっちまったんだ!?

 

 

「これがことりの考えた零くんへの告白文で~す♪それと、読む時は本当に零くんに告白するかのように読んでね♪名前は自分の名前に言い換えてもOK!!零くんの呼び方も、みんなが普段呼んでいる呼び方でいいからね」

 

 

 ことりはピンク色の可愛い手紙に書いてある、恐らく卑猥であろう文章を穂乃果たち5人だけに見せる。亜里沙を除く4人は一瞬にして顔を沸騰させたが、穂乃果、にこ、楓の3人は興奮しながらも食い入るようにその文章を見つめていた。亜里沙は頭に"?"を浮かべ、雪穂は口をパクパクしながらショートしている。

 

 

「なぜいつもいつもこう破廉恥な方向へ進んでしまうのでしょう……もうツッコむ気にもなれません」

「当たらなくてよかったにゃ~……ねっ、かよちん?」

「でも、穂乃果ちゃんたちはとても楽しそうだね……」

 

 

 そして穂乃果たちの文章暗記タイムは終了し、5人が俺と向き合う。雪穂もショートしてヤケになってるじゃん!!そういえば以前、穂乃果の家で歌詞作りをしている時もツッコミのし過ぎで暴走してたな……

 

 

「穂乃果ちゃん、にこちゃん、楓ちゃん、亜里沙ちゃん、雪穂ちゃんの順番でね♪それではスタート!!」

 

 

 ことりの言葉で穂乃果たちは頬を赤く染め、まるで本当に告白するかのような雰囲気に包まれる。俺は不覚にも、彼女たちのその表情に心を打たれ見惚れてしまう。さらに上目遣いでちょっと緊張した表情をして、モジモジと恥ずかしそうにしている仕草にもグッと来る。コイツらいつの間にそんなにあざとくなったんだ……マジで惚れるだろ。

 

 

 そして、穂乃果から順番にことりの告白文を読み始めた。

 

 

 

 

「穂乃果はどうしようもない変態女です。零君を想うと、いつも身体が疼いて堪りません!!」

「そして零の×××を想像して、毎晩1人で○○○を♡♡♡しています!!」

「でも、もうそんなのじゃ満足できません!!もう我慢の限界なんです!!」

「お願いします!!どうか、この憐れなメス豚の☆☆☆にあなたの雄々しい×××を♪♪♪して、メチャクチャにしてください!!」

「もっと、もっと激しく……あなたの×××を……私の☆☆☆に……」

 

 

 

 

「アウトぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「えぇ~どうして?すごくいい出来だと思うんだけどなぁ~……」

「これをいいと思えるお前の頭がすごいよ……」

 

 

 予想を遥かに上回るド直球過ぎる卑猥な告白に、いつもより3割増ぐらいの長いツッコミが炸裂した。

 もうこれは放送禁止ギリギリのラインだ!!しかもラインの上に両足のつま先が差し掛かっている状態だぞ!!ちょっとでも動けば規制されるからね!?それに伏字を何個入れたと思ってんだよ!?記号の数が全然足りねぇ!!

 

 

「穂乃果は別に普通の告白だと思うけどなぁ~……むしろドキドキしちゃった♡」

「にこもこれぐらい言えるようにならないとダメね。今回はことりに負けたわ」

「確かにこの文章はお兄ちゃんへの愛をすごく感じられました!!尊敬します!!」

「文章の意味はよく分からなかったんですけど、私もドキドキしました!!」

 

「感心すんな!!この痴女軍団が!!」

 

 

 赤面した頬+上目遣い+モジモジした仕草は俺の心を容赦なく打ち抜き、その表情であの告白文を言われればそりゃあ男ならだれだってトキめくだろうよ!!俺だってことりのメス豚願望に応えるように、コイツを奴隷にして弄ぶ妄想をしたことだってある!!だから一気に5人からあんな告白をされれば、誰だってイケナイ妄想しちゃうじゃない!!でも海未たちは呆然としていて使い物にならないから俺がツッコむしかないんだよぉおおおおおおおおお!!

 

 

「次は絶対に穂乃果が王様になる!!」

「何言ってんの?次はにこよ!!」

「ことりだって、まだまだみんなにお願いしたい命令がたくさんあるだから!!」

「ウチもみんなが羞恥に乱れる姿を見てみたいなぁ♪」

「私はお兄ちゃんと繋がりたい!!」

 

 

「だぁあああああああああああ!!これ以上は危ないからもう終わり!!」

 

 

 正直俺も王様になって、みんなにあんなことやこんなことを命令したかったのだが、この流れは危険過ぎる!!

 

 そうして真姫と雪穂がショートして離脱したことや、穂乃果たちがこれ以上暴走するといけないので、王様ゲームはこれでお開きとなった。一部の人の心に大きな傷を残したまま……




 今回は王道中の王道、王様ゲーム回でした!
 実はもっと長期戦になる予定だったのですが、1話に収めなければならないという関係上、キリのいいところで終わらせました。それでも後半の内容はかなり濃いですが……


 告白文はあるドラマCDの王様ゲームにあった命令と同じ文章です。出来が良すぎたのでお借りました。


 他に構成していた展開があるのですが、後書きで言うにはあまりにも卑猥過ぎる展開ばかりなので割愛。本気でR指定がつくのであそこで話を打ち切ってある意味でよかったかもしれません(笑)


 最近零君の変態力より、μ'sの変態力が強くなってきているような気がします。そのうち零君逆襲回でも書いてみようかな?


 リクエストの募集は復活しましたが、前回以上に規制がガチガチに固められているのでかなり不自由です。これも過去の経験から学んだことなのであらかじめご了承ください。


 今回は凄まじき戦士さんよりリクエストを頂きました!ありがとうございました!ですが1話に収める都合上少し削ったところもあり、リクエストをそのまま反映することができなかったのは申し訳ないです。


~コラボ小説について~

 6月22日(月)18時に投稿が決まりました!向こうはかなりの長編という噂なので、とても楽しみです!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別コラボ企画】零の達也変態化計画!?

 お待たせしました!

 今回は同じラブライブ小説『ラブライブ!平凡と9人の女神たち』の作者様である、ちゃん丸さんとの合同企画となります!

 さてコラボ小説の内容ですが、μ'sとの絡みというよりかはこちらの主人公である零君と、向こうの主人公である達也君の絡みを中心にしているので、そこら辺の掛け合いを楽しんでもらえればと思いっています!


 ちなみ設定としては、『新日常』の設定(全員の学年が1つずつ上)を使用しているのでちゃん丸さんのコラボ小説とは若干設定が違うのでご注意ください。


 

「さて達也、これからどうしようか……」

「お前の姉さんの仕業だろ……」

「俺は人間、アイツは異星人、そこのところOK?」

「はぁ~……そんな冗談言っている場合じゃないだろ」

 

 

 はい!!またしても俺たちは秋葉の罠に引っかかってしまいました!!ハハハハハハ!!ハハハ……はぁ~……

 簡単に今の状況を説明すると、俺が達也で達也が俺になっている。つまり身体はそのままで中身が入れ替わっているってやつだな。実は以前同じことが穂乃果と海未の間で起こったことがあり、その時はいかにも怪しい機械だったので今後はそれに警戒をしていたのだが、今回ばかりは手口が巧妙だった。

 

 部室に置いてあったのは2つのスマートフォン……に擬態したアイツの発明品。俺と達也がそれぞれそのスマートフォンに触れてしまったせいで、俺たちの精神だけが入れ替わってしまった。全く、どんな改造をしたらこんなことができるんだよ……

 

 

「おい零、こっちのスマホの画面が映ったぞ」

「ん?通話中になってる、いつもみたいに文字表示じゃないのか」

 

 

 いつもだったら画面に煽りの文を含めた文字を流すのに、今回はご丁寧に向こうから挨拶に来たってわけか。俺たちがあっさりと罠に引っかかってさぞご満悦だろう。でもμ'sのみんなの身代わりになったと思えばそれはそれで安心できる。怒りは収まらないが、今はそれで喜んでおこう。そうしなければ精神が持たない。

 

 

『はろ~♪零君、達也君♪調子はいかがかね?』

「よくないですよ!!どうなってるんですかこれ!?」

「御託はいい。元に戻る方法だけを教えてサッサと消えろ」

 

 

 相変わらずコイツは人を苛立たせるのだけは一級品だな。ここまでウザイ声で人を煽ることができるコイツの能力、もう一周回って俺にも習得させて欲しいと思ってしまう。どうして俺の姉妹はこうも対人間に特化した生物なんだよ……

 

 

『まぁそうカッカなさんな♪この放課後さえバレずに切り抜ければ元に戻るから☆』

「イマイチ信用できないんですけど……」

『信用してもらえないならそれでも結構!!一生元に戻れなくなるだけだからね♪』

「鬼かあなたは!!全然面白くもなんともないですよ!!」

『えっ、私は面白いよ?』

「えぇ~……」

「やめろ達也。コイツに付き合っていたら俺たちが先に野垂れ死ぬぞ」

 

 

 秋葉から繰り出される煽りボキャブラリーは決して尽きることがない。電話越しでもこの威力、実際に対面した時の恐ろしさは、あの台風の目と言われた楓の怯え具合を見れば分かってもらえるだろう。スルーしておくのが精神衛生上最も都合がいい。

 

 

「ちなみに、バレたらどうなる……?」

『それはバレてからのお楽しみだよ♪ウフフフフフ……』

「こわっ!!電話越しからでも黒いオーラ伝わってくる……!!」

「それが秋葉の特性だからな」

『お互いのポジションが入れ替わってるんだし、たまには違う目線でμ'sのみんなを見てみたら?それじゃあ健闘を祈る!!ばぁい♪』

 

 

 秋葉は最後にそれらしい適当な理由を付けて通話を切りやがった。

 今回は爆発するようなオチではないと思うけど、用心することに越したことはない。このスマホは一応誰の手にも届かぬよう俺の手で封印しておくか。これでまた誰かが入れ替わろうものなら、本格的に誰が誰だか分からなくなってしまう。

 

 

「どうする零、みんなにこのことを伝えるか?」

「いや、秋葉の言っていることは嘘かもしれないけど本当かもしれない。別に男同士で入れ替わってるんだ、そこまで不自由はないだろう」

「すごく冷静だな。俺はお前がこれほど頼もしい奴だと思ったことがないよ」

「まぁ、幼少期からアイツに色々仕込まれていたしな……」

 

 

 そもそもアイツの下で育ってきたのにも関わらず、今生きていること自体が奇跡に等しい。流石のアイツも人を殺めるようなモノは作らないだろうが、基本自分が楽しめればいいというスタンスだから危険なことに変わりはない。

 

 

「それにだ!!俺になったということは、変態行為が合法的にできるってことなんだぞ!!」

「合法的ってなんだよ!?お前いつもそれで制裁食らってるだろうが!!」

「でもバレないようにするには変態行為をするしかない!!俺が変態行為をしていなかったらそれこそ怪しまれるぞ。だから見せてもらおう、お前がμ'sのみんなをどれだけ愛しているのかを!!愛しているのなら変態行為もできるはずだ!!」

「楽しそうだなお前……」

「楽しまなきゃこんなのに付き合ってられるか!!」

「不本意だけど仕方がないのか?でもバレたら何が起こるか分からないしな……」

 

 

 実は達也の奴、合宿にマイカメラを持参して水着姿のμ'sを盗撮していたという前科がある。しかもにこと凛だけは避けて……やっぱりどんな男も女の子のおっぱいに目が行ってしまう変態なんだよな。達也にも変態の素質は十分にあるということだ。

 

 

「おっ、穂乃果たちの声が聞こえてきたぞ!!準備はいいな達也!!」

「じゅ、準備!?まず何をすればいい!?」

「とりあえず穂乃果に抱きついとけ。そしてお前が変態だと思うセリフを言ってみろ」

「お前……俺で楽しんでないか?」

「さぁね♪ほらアイツらが来るぞ!!」

 

 

 俺からみんなにセクハラできないのは残念だけど、ここは親友の勇姿をしかと見届けてやろう。達也!!今までお前が溜めてきた欲求をさらけ出す時だ!!男なら、やらねばならない時が絶対に来る!!そう、今がその時だ!!俺にお前の欲望を見せてみろ!!

 

 

「零君、たっちゃん!!遅くなってゴメン!!」

「掃除に意外と手間取ってしまいまして……」

「ついでに生徒会の書類も運んでたからね」

 

 

 まずは3年生組の穂乃果、海未、ことりが部室にやって来た。第一の標的はコイツらだ!!今から達也にヤられるとも知らないで、ノコノコと部室に入ってくるとは不注意過ぎるな。また俺が調教してやらねぇと……

 

 

「あれ?零くんもたっくんもどうしたの?」

「やけに静かですね」

「さっきから2人共黙っちゃって……もしかして喧嘩!?喧嘩はダメだよ!!」

 

(おい達也!!あらぬ誤解が生まれているぞ、早くやれ!!)

(このままだと穂乃果たちを悲しませてしまう……零の思惑に乗るのは癪だけど、やるしかない!!)

 

 

 俺と達也はアイコンタクトで会話をしている。それだけでも通じ合えるのは変態ゆえのシンパシーだな。

 

 そして遂に決心が着いたのか、俺となっている達也は穂乃果にどんどん近づいていく。口を軽くパクパクさせていることから、穂乃果を抱きしめてどんな変態語録を言うのかをシミュレーションしているのだろう。くくく……黙って見ているだけでもおもしれぇええええ♪

 

 そして俺となっている達也は穂乃果の目の前に到着し、そしてそのまま彼女を抱きしめた。

 

 

「れ、零君!?そっちから抱きついてくるなんて珍しいね!?」

 

(や、柔らかい!!穂乃果の身体すごく柔らかい!!女の子ってこんなにも抱き心地がよかったのか!?これは零がセクハラをする気持ちが何となく分かったような気がする。全身に伝わる温もり、女の子特有のいい香り、これはクセになる!!)

 

 

「ほ、穂乃果!!」

「は、はい!!」

 

 

 ウブかお前ら……ことりも海未も目を丸くして驚いてるぞ。俺はそんなことではキョドらないっての。でもそんな達也からどんな変態語録が飛び出すのか、見せてもらおうじゃねぇの。

 

 

「穂乃果、お前の胸……また大きくなった?」

「えっ!?う、うん!!少しだけね♪」

 

 

 変態初心者かお前は!!俺がいつも言っているありふれたセリフを言いやがって!!そこは『ちょっと小腹が空いたから、穂乃果のほむまん(意味深)でも頂こうかな?』ぐらい言えよ!!くくく……でも笑いがとまらねぇ!!腹が痛くなってきやがった!!

 

 

(零の奴……後ろを向いてるけど笑ってるのバレバレだからな!!こっちはどれだけ恥ずかしい想いで言ったと思ってるんだ!!)

(いやぁ悪い悪い!!あまりにもお前がキョドってるからな)

 

「零、私の目の前でそのようなことをするとは……いい度胸ですね?」

「い、いや海未……これはだな」

「ん?れ、零君……?もう離しちゃうの?」

「あら?今日は意外と聞き分けがいいですね。頭でも打ちましたか?」

「ヒドイな!!これがいつもの……お、俺なんだよ!!」

 

 

 おいおいもう穂乃果を離しちまったのか!?あのまま抱きしめ続けないと俺じゃないってことがバレるだろうが!!それに相変わらず海未に怒られるとドMになって縮こまるんだから……でもそれもそれで面白いけどな!!

 

 

「たっくん……?さっきから後ろを向いてどうしたの?具合でも悪い?さっきからずっとお腹抱えてるよ」

「別になんともないぞ。今日も零がバカなことしてるなぁって思って」

「そう?でも本当に具合が悪かったら言ってね?」

「あぁ、ありがとうことり」

 

 

 達也となっている俺だが、正直アイツを演じるのは俺にとって造作もない。だってどこを取っても平凡野郎なんだから、極めて普通の男子高校生になっていればそれでいい。俺のことは置いておいて、問題はアイツだ。この調子で残りのメンバーも騙し続けられるのだろうか?

 

 

「こんにちは~♪」

「お疲れ様です」

「あっ、お兄ちゃん先に来てたんだ♪」

 

 

 次に入ってきたのは亜里沙、雪穂、楓の1年生組だ。この流れで都合がいいのか悪いのか、どちらにせよ達也の内心はビクビクだろう。でもこの俺がしおらしくしていたら逆に不審な目で見られるかもしれない。しょうがねぇ、コイツらも騙すしかないようだな。

 

(達也!!亜里沙だ、次は亜里沙を狙え!!)

(馬鹿言え!!天使にセクハラなんてできるわけないだろ!!)

(亜里沙や雪穂はいいが、楓は察しがいい。このままだとアイツにバレちまうぞ!!)

(くそっ……もうどうにでもなれ!!)

 

 

 達也が亜里沙の方へ向き直った。やるのか……?ついに天使に手を出してしまうのか!?普段可愛がっている後輩にどう手を出すのか!?少なくとも今後俺への風評が乱れることだけはやめてくれよ。もう乱れてる?そんな馬鹿なぁ~~♪

 

 

「亜里沙!!」

「は、はい!!なんでしょうか零くん!?」

 

 

 なんでいちいち名前を呼ぶんだよ……それにしても俺となった達也が亜里沙に近づいた瞬間、雪穂の目が鋭くなりやがった。もう俺って亜里沙に近づくだけで雪穂に怒られるのかよ……後輩を可愛がれないなんて厳しい世の中になったもんだ。女子高校生の1人や2人手を出せないなんて……

 

 そして達也は亜里沙の脇の下に腕を通して、ギュッと抱きついた――――って穂乃果の時と全く同じじゃん!!少しはパターン変えろよ!?これだから日常的にセクハラをしていない奴は!!見てられないけど達也の姿じゃあ動けねぇ!!

 

 

「れ、れ、零くん……!?」

 

(こ、これは!?抱き枕かなにかか!?穂乃果もそうだったけど、亜里沙からはそれ以上にあま~い匂いがする!!しかも俺の身体にすっぽりと収まる超ピッタリサイズ!!こんな抱き枕だったら全財産注ぎ込んでも買ってしまうぞ!?)

 

「やっぱり亜里沙の目は綺麗だな。吸い込まれそうだよ!!む、胸も大きいし言うことなしだな!!」

「えっ……あ、ありがとうございます」

 

「「「「「……」」」」」

 

 

 下手くそぉおおおおおおおおお!!胸のことを言うなら序盤の目のくだりはいらん!!女の子は一直線に褒められるのが好きなんだ!!だから『またおっぱい大きくなった?ちょっと先輩が揉んで確かめてあげよう♪』ぐらいじゃないと喜ばないって!!しかも穂乃果たち無言だし!!このままだとバレるぞ?亜里沙もいつもと違う俺に少し戸惑ってるし……

 

 あ゛ぁあああああ!!自分で自分の姿を見ているから俺にもダメージが来る!!あまりにも俺の姿をした達也がウブだから来るもどかしさのダメージと、単純に面白くて腹に来るダメージ両方だ!!

 

 

(零……お前笑ってんじゃねぇよ!!)

(達也が変態初心者過ぎて笑えるんだよ!!くくく……)

(元に戻ったら絶対にシバく……)

 

「達也、さっきから部室の隅っこで何をしているのです……?」

「たっくんやっぱり具合悪いの?」

「気にすんなって!!それより零を亜里沙から引き剥がさなくていいのか……?」

 

 

 危ない危ない……俺はあまり目立つような行動を避けた方がいいな。でもこの全身から込み上げてくる笑いをどう発散したらいい?もういっそのこと達也の格好でアイツの変態行為に参加しても面白いかもしれない。そうしたらピンクの雰囲気と喘ぎ声が漂う卑猥な空間になっちまうな。

 

 

「ねぇお兄ちゃん♪」

「な、なんだ楓?」

 

 

 ヤバイ!!達也(俺の姿)が楓に目を付けられた!!もしかしてさっきのやりとりで全部バレちまったのか!?達也、死んでもいいからこの状況を切り抜けろ!!骨だけは俺の庭に埋葬してやるから!!

 

 

「昨日私が作ったハンバーグ、どうだった?」

「えぇ~っと、それは……」

 

(そういえば、零は楓が作る飯は超美味いって言ってたな……じゃあここで答えるべきは!!)

(そうだそれでいい、昨日の晩飯はハンバーグだったからな――――って、ん?違う、待て!!これは罠だ!!)

 

「あぁ美味かったよ。最高だった!!」

「ふ~ん……」

 

 

 こ、これは……確実にバレた!!確かに俺たちの昨日の晩飯はハンバーグだった。だけど問題はそこじゃない、昨日晩飯を作ったのは俺だ!!楓は作っていない!!完全にカマをかけられた!!

 

 でも時すでに遅し……楓は達也(俺の姿)を見てニヤニヤしている。もう完全にバレたな――――ってアレ?バレたのに何も起こらない……やっぱり秋葉の虚言だったか。でも面白いからこのまま続けさせよう!!達也はバレたことに気がついていないみたいだし♪

 

 

「達也せんぱぁ~い♪」

「な、なんだ楓?」

「昨日のハンバーグ美味しかったんですよぉ~♪わ・た・しが作ったハンバーグ♪」

「そうか……そりゃあよかったな」

「はい♪私の愛をたぁ~ぷりと込めましたからねぇ~~」

 

 

 コイツ……明らかに俺が達也になっていると分かってて言ってやがるな。でもそれを穂乃果たちに言わない辺り、恐らくコイツもコイツで楽しんでいるのだろう。もうこなったらヤケだ!!達也に変態初心者を脱却させるため、無理矢理演技を続けさせてやる!!

 

 

「よ~し!!やっと練習だにゃ~!!」

「遅れてゴメンなさい!!」

「あら、もうみんな集まっているのね」

 

 

 次に部室へ入ってきたのは凛、花陽、真姫の2年生組だ。1年前から俺の変態行為を受けてきたコイツらなら、もうセクハラされることには慣れているだろう。だから達也が変態初心者を脱却するためのいい礎となる。ここで狙うべきは……花陽だといい声が聞けそうだけど難易度が低いな。凛もあまり抵抗しないから、達也のいい反応が見られないい。だとしたら……

 

 

(達也、次は真姫だ!!アイツのツンデレを乗り越えてこそ真の変態になれるぞ!!)

(まだ続けるのかよ!?それに俺は変態になんてなりたくない!!)

(もう変態の領域に足を突っ込んだ時点で辞めることなんでできないんだ、諦めろ。それに女の子の身体に興味がないことはないだろ?しかもあのμ'sのみんなの身体だぞ?)

(…………ま、まぁ多少はある)

(よし決まりだ、行ってこい!!)

 

 

 男なら女性の神秘に憧れないはずがない。達也、お前の抱いているのは決して欲望に塗れた想いじゃない。人間として、いや生物としてごく自然な欲求なんだ。だから恥じることはない。そんな羞恥心や罪悪感などを捨てた奴だけが変態への道を開拓することができるんだ!!だからお前も俺の境地へと辿り着いてみせろ!!

 

 達也は真姫の元へカツカツと近づいていく。ていうか、また同じパターンなの?たまには後ろから抱きついて、ガバッと胸を揉むぐらいはしていいんじゃねぇの。このμ'sに対する愛情表現の方法が、俺と達也の違いなのかもな。アイツは優しくソフト、俺が激しく濃厚。

 

 

 そして達也は真姫の後ろからガバッと覆い被さるように抱きついた。お前の認識では、セクハラ行為=抱きつくことなのかよ……欧米に行ったら大変だな。

 

 

「真姫!!」

「な、ななな、なによ急に!?」

 

(普段からお嬢様気質全開の真姫を、こうして俺の手で好きにできるなんて!?ちょっとばかりゾクゾクしてきた……あの真姫を俺が手篭めにできるのか。零の変態行為を認めたくないけど、この背徳感は堪らないな)

 

「お前、やっぱりいい胸してるよな。大き過ぎず小さ過ぎず……まさに美乳。惚れ惚れするよ!!」

「な゛っ、あっ、な、なによ……別にそんなことを言われたって嬉しくもなんともないんだから!!」

 

 

 おっ、真姫の奴顔真っ赤にして喜んでるじゃん。ツンデレの『嬉しくない』は『嬉しい』ってことだからな。ここまで来て達也もある程度できるようになってきたじゃないか。

 でもさっきから女の子の胸ばかり褒めすぎて、セリフがマンネリ化しているぞ。なにも女の子の魅力をおっぱいだけじゃない。例えば真姫ならその綺麗な脚!!特に太もも!!それを『舐めさせて』と言えるようになれば真の変態だ!!

 

 

「今日の零くん……なにかおかしくないかにゃ?」

「そうだね、開口一番にあんなことをいう人じゃないと思うけど……達也くん、何か知ってる?」

「変態行為に理由なんていらない。そこに女の子がいる、それだけで十分なんだよ」

「達也くんもおかしいにゃ!?」

 

(あぁ……凛と花陽にまで誤解されてる……)

(ドンマイ☆)

(お前なぁ……でも俺がここまでやってるんだ、お前もバレないようにしろよ)

 

 

 ゴメン達也!!もう楓にはバレてる!!なぜ公にしないのかは分からないが、とりあえず見逃してくれているのならこのまま続行するしかない。もうみんな揃いつつあるし、変態初心者脱却の修行ももう時期終わるだろう。

 

 

「達也君」

「ん?どうした雪穂?」

「なんか今日の零君おかしくないですか?いつもとは違ってセクハラ発言がぎこちないというか……慣れてないって感じがしますけど」

「しょうがないだろ、初心者なんだから」

「はぁ……?」

 

 

 俺たちとμ'sのみんなのイチャコラ具合は、達也がノーマルだとしたら俺はアブノーマル。それが絶対領域なのだが、達也はその領域を今乗り越えようとしている。この世界にまた1人、変態仲間が増えるのは喜ばしいことだ。大いに歓迎してやろう!!

 

 

「にっこにこにーー♪の矢澤にこ、ただいまご到着よ♪」

「にこっち、今日は随分とやる気やね。さっきの講義までは抜け殻みたいやったのに」

「だったら私たちも負けないようにしないとね♪」

 

 

 最後に大学生組である、にこ、希、絵里のご来襲。さぁ達也、お前がこれまでに培ってきた変態行為と変態語録を駆使して、大学生どもを手篭めにする時だ!!年上にこそ力を発揮できれば本物の変態だぞ!!

 

 

(絵里だ、最後に絵里を狙うんだ!!)

(待て待て!!まだにこや希の方が難易度は低いだろ!!なぜ変態否定派の絵里を標的にするんだ!?)

(お前……自ら難易度の低い方を選んでどうする。変態ってのはいつの日も困難を乗り越えなければ成立しない。セクハラするにもある程度の勇気と覚悟は必要だろ?つまりそういうことだ)

(マジかよ……)

(絵里のおっぱいはな、大きくて柔らかいぞ)

(な゛っ!?ほ、本当に!?)

 

 

 おっと!!達也のマインドが揺らいでるぞ!!やっぱり女の子のおっぱいが嫌いな男なんていないんだ!!どれだけ平静を装っていても、女性の神秘を目の当たりにすればそんな理性なんて一発で崩れ去る。男なんて所詮そんなものなんだよ。

 

 達也は最後の決心を固めたのか、今度はそっと絵里の"後ろ"に回り込んだ。やっとワンパターンから解放されたか。女の子だって同じプレイばかりじゃ飽きてくるだろうから、たまには別の攻め方をしてみるのも一興だ。これ、変態上級者からの豆知識な。

 

 

「絵里!!」

「きゃあっ!!零!?」

 

 

 おおっ!!アイツ、後ろから思いっきり抱きつきやがった。その勢いと潔さを見る限り、もうほとんど俺と全然変わらない変態さだ。自分の親友がここまで成長してくれて俺は嬉しいよ!!さて、あとはどんなセリフを吐くかだが……

 

 

(確かに柔らかい!!今腕で絵里の胸を押し上げているけど、実際に手で揉まなくてもその大きさ、形、柔らかさ、すべての要素が俺の腕を通して伝わってくる!!こ、これが女性の神秘……零が伝えようとしていたのはこれか!!今だけはアイツを認めざるを得ない!!)

 

 

「え、絵里はやっぱりスタイル抜群だな!!いつもいつもその身体に目が行ってしまうよ。練習中に胸が揺れているところがエロいっていうか、女性の神秘を感じられてすごく感動する!!さらに料理も上手で家庭的、まさに男として理想のお嫁さんだ!!」

 

「「「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」」

 

 

 ちょっと待ってくれ……いいセリフだが、もはやそれは告白だぞ!?!?みんな口を開けて唖然としてんじゃねぇか!!どうするんだよこの空気!?こんな時こそ達也となった俺がなんとかしないと――――って、いつもの達也だったらどう乗り切っていた!?ダメだ、肝心な時にコイツに成りきれない!!

 

 

「ちょっとちょっとなにさっきの告白!?穂乃果にはあんなに熱い言葉掛けてくれなかったのに!!」

「ことりにも!!ことりにも同じこと言ってよ!!」

「凛も凛も!!絵里ちゃんだけズルいにゃーー!!」

「それだったらにこにも言いなさいよ!!」

 

 

「えぇっ!!待ってくれ!!俺はただ零が言いそうなことを慎重に選んでだな……」

「おい馬鹿、名前を言うなって!!あっ……」

 

 

「待って下さい。さっきの会話、どこかおかしくなかったですか……?」

 

 

 海未の言葉に、騒ぎかけていたμ'sの面々が一斉に押し黙った。みんなは『確かに……』と言わんばかりの顔で首を傾げている。海未や真姫は『もう分かった』ような顔をして達也の姿になっている俺を睨みつけてきた。楓は腹を抱え、声が漏れないよう口に手を当て大爆笑している。楽しんでるな、アイツ……

 

 そして遂に真姫が口を開いた。

 

 

「達也、零。もしかしてあなたたち……入れ替わってる?」

「はぁ?んなわけねぇだろ……どこに証拠がある?なぁ零?」

「あ、あぁそうだな、そうだよ……ははは」

 

 

「残念だけど、もうはっきりとしています」

 

「はい……?」

 

 

 どうやら海未は確信を持っているようだ。でもここで引けば入れ替わっていること認めることになってしまう。不本意だけど海未の言葉に耳を傾けるしかない。ある程度のポーカーフェイスを保っているつもりだが、達也……汗かいてるぞ。やっぱり女の子に責められることには弱いんだな。この天然タラシドM野郎め……

 

 

「2人は気づいてないかもしれませんが、実は口調が少し違うところがあるんですよ」

「なんだと……?」

「達也君は割と普通の喋り方、言い換えれば標準語に近いです。でも零は違う。例えば『○○じゃない』を『○○じゃねぇ』、『○○なわけがない』を『○○なわけねぇ』といった感じに、たまに汚い言葉遣いになることがあるんですよ」

「俺って話し方綺麗だったんだ……」

「俺よりかはってことだろう」

 

 

 海未の指摘が的確だったというか、自分の知らない特徴を知ったため素直な感想が口から出てしまった。意外と気づかないもんだなぁ~喋り方って。裏を返せばμ'sのみんながしっかり俺たちを見てくれているということだ。それはそれで嬉しかったり。

 

 でも今は……

 

 

「じゃあたっちゃんが零君で……」

「零くんがたっくんってことだね♪」

「さぁ、そろそろ覚悟はいいですか2人共……」

 

 

 これは……まさか伝説のあのオチでは!?3年生組の怒りが次第に強くなってきている!?でもセクハラしてたのって、俺じゃなくて達也じゃね?俺、今回はワルクナイヨ……

 

 

「花陽も……今日はお遊びが過ぎると思います!!」

「零くんはもちろんだけど、まさか達也くんまでエッチだとは思わなかったにゃ……」

「達也までみんなにセクハラをしてたなんてね……」

 

 

 あの温厚な花陽にまで怒られるとは!?達也が暴走したせいだぞ!!だから俺だけは見逃してくれないかなぁ~~なんて思ったり……無理ですか?

 

 

「お兄ちゃん、私にバレてもなお騙し続けるなんて度胸あるねぇ~♪たっちゃん先輩もご愁傷様でぇ~す♪」

「た、達也さんだったんですね。抱きついたのは……は、ハラショーーー!!」

「2人共最悪です……見損ないました、軽蔑します、この変態魔人」

 

 

 楓の奴、"たっちゃん先輩"なんて呼び方で煽りを入れるんじゃねぇよ!!そして顔を真っ赤にする亜里沙に、俺たちをゴミのような目で見る雪穂。特に雪穂の罵倒ボキャブラリーがまた火を吹いている。

 

 

「さっきの告白は嬉しいけど、よくよく考えればただのセクハラ発言よね……」

「零君はいつものことやけど、たまには達也君をイジメるのもいいかも♪」

「さっきの告白、にこにもう一度言いなさいよ!!」

 

 

 怒りと喜びを顕にする大学生組。希はここ最近で一番いい顔をしている。そして1人だけ論点がズレているロリっ子。セクハラされるのはいいのかよ……

 

 

「よし達也、今までセクハラした分みんなにやられてこい!!」

「なぜ!?!?」

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「どっちも悪い!!!!」」」」」」」」」」」」

 

 

「「はい……」」

 

 

 

 

 そしてそこから俺たちの記憶は消え、気づいたらμ'sの練習は終わっていた。

 最近殴られることが多いような気がする。別に俺はμ'sのみんなにボコボコにされたいM体質じゃないよ、達也じゃあるまいし……

 

 

 ちなみに身体はあのあとすぐに戻った。すぐに戻るんだったらあんなに頑張らなくてもよかったんじゃあ……でも変態初心者の達也が面白かったから別にいいか!!アイツも貴重な体験ができてさぞ嬉しかっただろう。伝説のオチも体感できたしな……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

~舞台裏~

 

 

「お兄ちゃんもたっちゃん先輩も災難だったねぇ~~私の人生で一番の大爆笑だったよ♪ありがとう!!楽しませてもらったよ♪」

「確かに大変だったが、達也のウブさは本面白かった!!本当に腹がちぎれるかと思ったぞ!!今思い出しても笑いが……くくく」

 

「やっぱりお前ら神崎兄妹に関わるとロクなことがない!!もう帰る!!」

 

 




 いかがだったでしょうか?ちゃん丸さんの小説はアニメの展開通りにクソ真面目(褒め言葉です!!)に進行しているので、こちらは自分の小説らしく"変態さ"を追求してみました。追求した結果、達也君には零君がいつもμ'sにしているセクハラ行為と、この小説では定番の"いつものオチ"を体験してもらいました(笑)

 実はコラボ小説を執筆するに辺り、一番書きたかったのは達也君と楓の絡みだったりします。実際に書いてみると絡みは少なかったのですが、個人的にはこの2人が巡り合えただけでも嬉しかったです!

 この場をお借りして、ちゃん丸さんには多大な感謝を!!ありがとうございました!
始まりはTwitterでのおふざけの流れ(煽り文あり)からの提案だったのですが、快く引き受けてくださって変に舞い上がっていました(笑)
こちらの小説の投稿と同時に向こうの小説も投稿されるので、これほど自分の小説投稿が楽しみと思ったことはありません!

 ただし1つ謝らなければならないことがありまして、それは達也君を変態に仕立て上げてしまったことですかね(笑)
ここまで別作品の主人公を無下に扱う小説はないと思います。それがこの小説『新日常』なんですけどね!


 それではまた次回!!次は今回の変態回と雰囲気がガラリと変わる、亜里沙の個人回の予定です。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私、ずっとあなたのことが好きでした

 はい、コラボ小説後の一発目です。
 今回はタイトル通りの真面目回。vs亜里沙回となります。

 ポイントは『好きでした』と過去形になっていること。そこを意識しながらこの話を読んでくださると良いかと。


 同棲生活5日目。μ'sは来週末に控えたライブのため、放課後の練習にも余念がなくなっていた。

 次のライブはμ'sメンバー12人全員が参加する。みんなとの差に悩んでいた雪穂も無事に笑顔を取り戻し、多少キツイ練習であってもそれを楽しむ余裕さえできているようだった。もしかしたら誰よりも練習を楽しんでいるんじゃないか?

 

 

「亜里沙、楓!!さっきのステップ、もう一度確認しておこうよ!!」

「えぇ~まだやるのぉ~?さっきも散々私たちだけで練習してたじゃん」

「雪穂、すごい意気込みだね……」

 

 

 このように最近の彼女のやる気は段違いで、亜里沙や楓も圧倒されるぐらいだ。熱心なのは感心な事だが、疲れを知らなくなっているのはマズイ。それこそ文化祭の屋上ライブでぶっ倒れた穂乃果と同じ道を辿る可能性もある。色々と姉に似ている雪穂だが、良い面も悪い面も両方しっかりと受け継いでいた。

 

 

「もうその辺りにしておけ雪穂。亜里沙たちもそうだけど、お前も相当疲れてるだろ」

「でも今日中にはこのステップだけはできるようになりたいんです!!」

「ダメだ。まだあと1週間もあるんだから、明日完璧にすれば余裕で間に合うだろ」

「ですが!!」

「"でも"も"ですが"も禁止。頑張るのいいけど、一番大切なのはお前の身体だ。もし体調を崩してしまったら頑張ることも楽しむこともできなくなる。それに――――」

「それに……?」

「お前に倒れられるのは、俺がイヤだから」

「零君……」

 

 

 最後には少し俺のワガママが入っているが、これが嘘偽りのない本音だ。全く、こういうのは俺の柄じゃないから何て言ったら納得してもらえるのか分からねぇ……でも、顔を真っ赤にしておとなしくなったからよしとしよう。

 

 

「雪穂、最近やる気満々ですよね」

「そうだな。心境の変化でもあったんじゃねぇか?」

「零くん……雪穂に何かしました?」

「その言い方だと俺が雪穂に手を出したみたいだな……ちょっと背中を押してあげただけだよ」

「そう、ですか……」

 

 

 亜里沙からはいつもの笑顔が消え、珍しく難しい顔をして考え事をしているようだ。穂乃果同様に、心情が顔に出やすいタイプだから険しい顔をしていると余計に心配が募ってしまう。もしかして、これが秋葉の言っていた亜里沙の"悩み"なのか?

 

 

「私、飲み物がなくなったからジュース買ってきますね!!雪穂や楓は欲しいものある?」

「私は別にいいよ」

「私も。もう一本ペットボトルあるし」

「そう……じゃあ行ってくるね!!」

 

 

 そして亜里沙は穂乃果たちにも一言声を掛けた後、屋上から逃げるように立ち去ってしまった。穂乃果たちに向けた笑顔も結構作った表情だったし、やっぱりアイツの中で悩みか何かがあるのは確実だ。今まで同棲生活中にそんな素振りを見せなかった分、ここは亜里沙の中で溜まっているものを吐き出させるチャンスかもしれない。

 

 

 だったら――――

 

 

「それじゃあ俺も飲み物買ってこようかな。俺のことはいいから、練習を続けてくれ」

 

 

 偶然にも亜里沙と2人きりになるチャンスができた。前々から言っているが、同棲生活中は誰かと2人きりになることが難しい。自分で連れ出してもいいけど、自然な形で2人きりになった方が相手も口を開きやすいと思う。だからこの機会を逃すわけにはいかない。亜里沙の閉ざされた心を、ここで解き放つ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 俺が中庭にある自動販売機に到着した時、既に亜里沙はジュースを買って近くのベンチに座っていた。買ったらすぐに屋上に戻ればいいものの、こんなことろで座り込んでしまっている辺り相当抑圧されているのだろう。俺は迷わず亜里沙の元へと歩を進める。

 

 

「れ、零くん!?」

「よっ」

 

 

 俺の姿を見て目を丸くして驚く亜里沙。自分の険しい表情を見られそれを隠せないと思ったのか、俺から顔をプイッと逸らしてしまう。そこから亜里沙は何も喋らなくなってしまったので、俺も黙って亜里沙の隣に腰掛けた。

 

 

「暑くなってきたなぁ~最近」

「そうですね……」

「女の子が汗をかいている姿って、すごく絵になると思わないか?」

「そうですね……」

 

 

 テンションひっく!!ちょっとだけでもいいから場を和ませようと思ったのに、よくよく考えたら亜里沙は天然過ぎて変態ギャグはあまり通用しないんだった。雪穂とはまた違った意味で扱いづらい奴だ。

 

 

「あの……」

「ん?どうした?」

「何をしに来たんですか?飲み物を買いに来たのならそこで……」

「買うのメンドーだから、お前の持っているジュースをくれ」

「はい……」

 

 

 亜里沙は何のためらいもなく俺に飲みかけのジュースを手渡す。彼女が口を付けていたところに目が言ってしまうが、俺はそのジュースを隣に、亜里沙とは反対側の方へ置いた。

 

 いつものコイツなら俺のテンションにすぐ便乗してくるのだが、どうやら今日の俺は亜里沙からあしらわれているようだ。これ以上の無駄話はそれこそ時間の無駄だし、そろそろ切り込んでみるか。

 

 

「お前……何悩んでんだ?」

 

「……」

 

 

 亜里沙は俯いたまま目を見開くが、すぐに元の表情へと戻る。恐らく俺に心を読まれて驚いたのだろうが、自分から話すつもりは毛頭ないらしい。またしてもそのまま黙り込んでしまった。

 

 

「別に俺はカウンセラーじゃないけど、μ'sの傍観者である以上、お前らに対してできることなら何でも手伝いたい。まあ俺だったらできないことまでやっちまいそうだけどな」

 

「……」

 

 

 まだ彼女は無言のままだ。多分このまま俺が何を言ったとしても亜里沙の口をが開かれることはないと思う。彼女と密接に関わりを持ってまだ3ヶ月も経っていないけど、意外と自分の中に溜め込んでしまうタイプなことぐらいは分かっていた。普段は笑顔しか見せていないが、それこそ悩みや葛藤を自分の中に溜め込んでしまう人の典型だ。μ'sメンバーで言えばことりや凛が該当する。

 

 そういう面倒な奴には悩みをズバリ言い当ててやらないと自分から話してくれないことが多い。そうでなくとも長期間その悩みを引っ張ってしまい、気づいた頃には心の奥深くに侵入して巣食ってしまう。だからそんな面倒事にならないために常にアンテナを張っておいたはずなんだが、やっぱり男の俺では女心の隅から隅まで把握することはできなかった。

 

 

 

 

 だけど、これでも9人の彼女と付き合っている身だ。把握することはできなくても間近にまで迫ることはできる。亜里沙の悩み、それは――――

 

 

「もしかして、俺のことか?」

 

 

「えっ……?」

 

 

 亜里沙は意識せずに漏れた声と共に俺の顔を見つめてきた。俺の予想はまさに図星だったようで、彼女の顔には明らかに暑さのせいで流れたのではない汗が流れている。それに加え目も泳いでいるし手や脚もワナワナと震えていた。何ともまあ分かりやすい奴だ。

 

 

「どうして……分かったんですか?」

 

 

 自分の動揺を抑えきれないと思ったのか、亜里沙は意外と早く観念した。そのせいか、彼女の手や脚の震えはもう止まっている。ここからが本番だな。

 

 

「俺がここへ来た時、お前の表情がより険しくなったんだ。それとその前、屋上で俺と雪穂の会話が終わった直後にお前が飛び出して行っただろ。その2つを総合すると、どちらにもいたのは俺だけだ」

 

「すごい、ですね……」

 

 

 正直証拠も何もないからほぼ推測の当てずっぽうだった。だからこれで亜里沙が心を開いてくれなかったら完全に詰みだったな。これだけド直球で行っても危ない橋を渡らされるのか……でももうそんな心配をする必要はない。ようやく心の扉の前に立てたんだ、あとは彼女に出てきてもらうだけ。

 

 

「き、聞いてくれますか……?」

「ああ、もちろん」

 

 

 かなり無理矢理だったがようやくここまで漕ぎ着けることができた。俺に対する悩みといえば、真っ先に思い浮かぶのが穂乃果たち9人だ。あの時は彼女たちの想いが膨れ上がって大惨事となった。亜里沙に限ってそんなことはないとは思うが、もう既に経験してしまった以上身構えざるを得ない。

 

 

 

 

「私、ずっとあなたのことが好きでした」

 

 

 

 

「えっ……!?」

 

 

 衝撃の告白に、今度は俺が意識せずに声が漏れてしまう。

 い、今コイツなんて言った……?俺のことが好き?同棲生活前に秋葉がそんなことを言っていたのを思い出したが、実際に目の前で告白されるとその衝撃は計り知れない。

 

 

 でも、亜里沙のその告白には引っかかる点がある。

 

 

「『好きでした』って……過去形?」

「はい……諦めたんです」

「告白された自分が言うのもアレだけど……どうして?」

 

 

 そもそも俺と亜里沙はまだそこまで一緒にいた期間が長いわけではない。それなのに亜里沙は"諦めた"と言う。俺に愛想が尽きたとか、この状況でそれはないだろう。だったら一体なぜ……?

 

 

「零くんのことは1年前からお姉ちゃんを通じて何度も聞いていました。お姉ちゃんは零くんのことを『変態変態』と文句を言うことが多かったですね」

「ひでぇ……」

 

「でもそれと同じくらい、お姉ちゃんは零くんの魅力について語ってくれました」

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

「お姉ちゃんは零さんのこと嫌いなの?」

「ど、どうしてそう思うの?」

「だっていつも文句ばっかり……」

「そうね。度重なるセクハラ行為に関しては、今後処罰を重くする必要があるわ。でもね亜里沙」

「ん……?」

 

 

「彼は私にとってはすごく大切な人なの。相手の心に土足で上がり込むような人だけど、そのおかげで私は救われた。μ'sという素晴らしいグループに引き入れてくれたのは彼。多分彼に出会わなかったら心に重りを乗せたまま卒業して、そのあとの人生も上手くいかったと思う」

 

「零さんのおかげでお姉ちゃんが?」

 

「そうよ。それに彼は私たちが壊れてしまった時、自分の命を掛けて私たちを助けてくれたことを亜里沙も知っているでしょう?」

 

「うん」

 

「その時の零はすごくカッコよかったわ。目の前に本物のヒーローが現れたみたいに。そこで彼に救われて気がついた、『私、絢瀬絵里は彼、神崎零のことが好きなんだ』ってね」

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

「絵里がそんなことを……」

 

 

 その話は初めて聞いたぞ。アイツはああ見えて結構恥ずかしがり屋な面もあるから、面と向かってそれを俺に話すのは気恥ずかしいのだろう。

 

 

「それを聞いて私は零くんに興味を持ったんです。あなたはどういう人か、自分の目で確かめたかった……」

「でも……結局諦めたんだよな」

「はい……零くんはお姉ちゃんを救い、学院も救い、そして壊れてしまったμ'sを復旧させ、さらにμ'sをラブライブ優勝へ導いた、私にとっては手の届かない憧れの人になりました」

 

 

 憧れの人……それも初耳だ。まさか亜里沙が俺のことをそのような目で見ているなんて思ってなかった。俺って捻じ曲がった性格をしているから、感謝されることはあっても目標にされることはないんだよな。

 

 

「実際に零くんと会ったり一緒に話している内に、いつの間にか私の中で零くんの存在が大きくなっていました。そこで気がついたんです、『私も零さんのことが好き』なんだと」

「じゃあもう入学する前から……」

「はい。そして学院に入学したあと、その憧れの零くんに手が届きそうになったんです。ようやく零くんと同じ場所に立つことができた――――――と思っていました……」

「思っていた……」

 

 

 ここで亜里沙の表情が今日一番の暗闇を見せる。恐らく今からが亜里沙の悩みの本番。彼女の心が輝いていた時の話を聞いているだけに、その重さが話す前から伝わってくる。

 

 

 

 

「結局私が好きになっていた零くんは、μ'sのために頑張っている零くんだったんです」

「μ'sのために、頑張っている俺……?」

「はい。お姉ちゃんや穂乃果ちゃん、そしてμ'sの皆さんの為に一生懸命になっているあなたのことが好きだったんです。だから、そこに私はいない……」

 

 

 これが亜里沙の心の叫びか…………

 ようやく自分の心をさらけ出すことができて、今まで溜まっていた鬱憤が全部流れ出したのだろう亜里沙は目には涙が溜まっていた。その涙を今にも溢れ出しそうで、亜里沙は絶対に泣くまいと手で拭っていたが、心から漏れた悲愴の念には耐え切れず、とうとう大粒の涙を流してしまった。

 

 

「ずっと……ずっとあなたのことが好きだったんです!!でもそこに私がいてはいけない……だって私が入ってしまったら、もう私が思い描く零くんとμ'sが見られなくなってしまうから。零くんとお姉ちゃんたちの笑顔が消えてしまうかもしれないから!!」

 

「亜里沙……」

 

 

 亜里沙は自分の恋を押し殺してまで、俺とμ'sの恋仲を保とうとしていたのか。自分が入ってしまうと今まで順調に動いていた歯車が、どこか狂ってしまうかもしれない。元々9人と付き合っているなんて歯車がいつ外れてもおかしくないことをやっているんだ、彼女の気持ちが分からなくもない。

 

 自分がそこにいないというよりかは、自分がそこにいてはならないということだろう。だから身を引いていた。歯車が狂わないように、俺と穂乃果たち9人の幸せを守るために……

 

 

 だけど、本当にそれでいいのか……?亜里沙の好意はとても嬉しい。だが誰かの犠牲の上で成り立っている幸せが、本当に正しいと言えるのだろうか……?

 

 

「だからこの気持ちは心の奥に閉まっておくことにしたんです。叶わない願いを、ずっと持ち続けても仕方ありませんから……」

 

 

 正しくない……?

 

 

 いや、俺は――――決してそうは思わない!!

 

 

「本当にそれでいいのか?」

「えっ?」

「本当にお前はそれで納得がいっているのかって聞いてんだ。お前の恋はまだスタートラインにすら立っていない。なのに諦めていいのか?」

「諦めるもなにも、そうするしかありませんから……」

 

 

 亜里沙の決意は固いようだ。だが、もう俺の応えは決まっている。彼女はありもしない障害に捕らわれているだけだ。だからそれを取り払ってやればいい。

 

 

「恋に制約を掛ける必要がどこにある」

「それは零くんとお姉ちゃんたちの笑顔を守ろうと……」

「そもそも、それが間違いだ!!いいかよく聞け!!」

「は、はいっ!!」

 

 

「お前が入ったことで俺たちの笑顔が消えると思うか?そんなわけないだろう!!もうお前は俺たちの仲間だ!!ただの絆じゃなく、μ'sの間で繋がった強い絆を持っている!!自分が入ったら俺たちの笑顔が消える?馬鹿なこと言ってんじゃねぇ!!そんなことで笑顔が消えるほど、俺やμ'sがヤワだと思ったか!?それは勘違いにも程がある!!」

 

「れ、零くん……」

 

 

 さっきも言った通り、亜里沙はありもしない壁に躊躇して自ら身を引いていた。もちろんすべては亜里沙の根拠のない勝手な空想。俺たちの絆がそんな簡単に破壊されるわけないだろ。

 

 

「も、もし壊れてしまったらどうするんですか……?」

「大丈夫、壊れないから」

「い、いやもしですよもし!!」

「もしもクソもあるか。壊れねぇよ、絶対に」

「それ、答えになってないんじゃあ……」

「なってるよ。どんなことがあっても絶対に壊れないってな」

 

 

 "if"の場合なんて考える必要もない。だって俺たちの絆は絶対に壊れないんだから。それが答えだ。意味が分からないと言われてもいい、どう言われようがこれが俺たちなんだから。

 

 

「じゃ、じゃあ私ももう一度、零くんを好きになっていいってことですか!?」

「好きになるくらい、それこそ好きにしろっての。9股している俺が言うのもアレだけどな……」

 

 

 亜里沙の顔がいつもの明るい表情に戻ってきた。結局すべては彼女の勘違いから生まれた悩みだったんだ。だから解決方法もあっさりだし、解決してしまえばこんなスッキリすることもない。どうしてあんなことで悩んでいたんだろうと、バカバカしくなるくらには。でも、亜里沙が俺たちの笑顔を守ろうとする気持ちは本当に嬉しかった。絵里たちにも是非話してやろう。

 

 

「それでは私、零くんに振り向いてもらえるように頑張ります!!お姉ちゃんたちに負けないくらい、精一杯!!」

「そうか、じゃあ俺も精一杯お前のアプローチを受け止めてやろう!!でも俺は手強いぞ?」

 

 

 うわぁ~俺ってば彼女持ちなのに最低なこと言ってるよ……まだ彼女を増やしていくつもりか?でももう彼女が9人いようと10人いようと変わらねぇか――――ってこの発言も最低だな……もう俺ってただのクズじゃん。

 

 

「今ようやく分かったけど、もしかして雪穂に嫉妬してた?」

「ちょっとだけですけど……」

「なるほど、だから俺と雪穂が話している時に屋上から消えたのか……」

「はい、でももうそんな嫉妬はしません!!雪穂同様に私も頑張ります!!」

 

 

 別に雪穂は積極的になったわけじゃないけど、俺への態度はあの一件以来明らかに軟化した。いつも通りに戻ったというのが正しいのかもしれないが……未だにアイツから制裁もらうし。

 

 

 

 

「よ~し、絶対に零くんと付き合うぞぉーー!!エイ、エイ、オーーー!!」

 

 

 

 お、おい!?まだ校舎内に人いるんだぞ!?よくそんなことが言えるな!?でも可愛い奴め!!

 俺が隣にいるのにそんな恥ずかしいことを言える辺り、間違いなく姉の絵里よりかは神経も図太い。これは俺も覚悟を決めないと……

 

 

 

 

 それ以前に、お前からのアプローチに既に胸を打たれてるよ――――――だってもう、お前のその笑顔に惚れているんだから……




 これで1年生組3人の中で2人のお悩みが解決されました。雪穂の時と比べると意外とあっさりしてたと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、文章中でもあった通り、悩みが分かってしまえば解決は簡単だったのです。むしろ悩みを聞き出すまでが勝負で、そこは零君の頭の回転の良さがものを言いました。

 それにしても零君が段々とクズの極みに上り詰めています。これ以上ハーレムを拡大してどうするのか?また今後の亜里沙の恋にもご期待を!!

 真面目回はやっぱり難しいです。零君がハーレム賛成派、彼女も複数持ち賛成派なのでそれに合わせて文章や説得の内容を考えなければなりません。なので読者様が共感しづらい部分があるかもしれませんね。


 次回は遂に50話記念小説です!
 タイトルは『神崎零の逆襲』。変態キャラの零君ですら霞むような変態となってしまったμ's(一部メンバー)に対して、彼の逆襲が始まります。ちなみにかなり閲覧注意となるほどR-17.9は必死です(笑)

 ずっと宣伝してませんでしたが、活動報告にて超短編小説をいくつか投稿していますのでそちらもご覧下さい。特にコラボ小説の舞台裏はオススメです!!


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

性欲MAX!!神崎零の逆襲

 ようやくと言ってのいいのか、もうと言っていいのか、遂に『新日常』も50話目となりました。なので今回は50話記念小説です!
内容はタイトル通りR-17.9展開を含むうえ、今までよりもハードな面もあるので以下の注意事項に1つでも当てはまる方は話をすっ飛ばして後書きへ行ってください。

※この項目に1つでも該当する方、後書きまで飛ばしちゃってください。
・ラブライブのキャラクターを心の底から愛している人
・R-17.9に耐性がない人
・脅迫、強要、命令、調教などのハードなプレイに不快を感じる人


それではどうぞ!

また後書きにちょっとした質問があるので是非最後までご覧下さい。


 

 変態キャラ、俺がずっと一貫して通してきたまさに俺のためにある言葉だ。もしこれがなくなってしまったら俺の個性は完全に消えると言ってもいい。それほど俺と変態は切っても切れない存在なのだ。

 

 だが最近はどうだ?穂乃果やことりに風呂場で攻められて以降、毎晩毎晩俺の溜まったモノを処理される毎日。あのちんちくりんな身体をした凛にすら誘惑され、にこの勢いも毎度の如く圧倒されている。そして希の変態力が俺の変態力を上回っているという噂まで……

 

 

 そんなことでいいのか俺!!最近μ'sに押されっぱなしだぞ!?もうこれじゃあ俺がただのツッコミキャラとなって、いずれツッコミ死することは目に見えている!!

 

 

 俺は攻められたいんじゃない、攻めたいんだ!!女の子の喘ぎ声で興奮し、女の子のイク姿を見たいんだ!!そうだ支配だよ!!俺は女の子を自分の手で支配したいんだ!!

 

 

 

 

 だったら話は早い――――逆襲だ。

 

 

 

 

 特に同棲生活開始以降、俺の立場が地の底に落ちているような気がする。だからその地位を穂乃果たちから取り返す。俺がご主人様だ!!俺が正義なんだ!!μ'sのみんな、主に変態と化している奴らを屈服させ、本当の主従関係に目の前で示してやる!!

 

 

 

 

 ダメだ、ムラムラしてきたぁあああああああああ!!この溢れ出る性欲、アイツらで満たしてやる!!

 

 

 

 

 ベッドの上で寝ている暇じゃない。あれだけの女の子と一緒に住んでいるんだ、手を出さない方が間違ってるだろ。それに男の家に同棲しているってことは、アイツらもそれなりの覚悟はあるんじゃねぇの?じゃあ話は早い。早速μ'sを支配しに行こう。もう手当たり次第だ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

【VS 高坂穂乃果】

 

 

 

 

 いたぞ……まずは最初のターゲット、穂乃果を発見だ。相変わらずぼけぇ~とした表情で廊下を歩いてやがる。本当に練習の時とは別人みたいだな。のほほんとしているその表情、数分後にはご主人様に屈服するメスの表情へと変えられるともも知らずに……

 

 

 くそっ、しかもアイツなんて格好をしているんだ!?いくら暑いからって短すぎるスカート履きやがって!!これは確実に俺を誘っているだろ!?『零君、いつでも襲ってください!!』と主張しているようなものだぞ!!早速俺の性欲が爆発しちまうじゃねぇかよぉおおおおおおおおおおお!!

 

 

「おい穂乃果……」

「あっ、零君だ♪」

 

 

 穂乃果は俺に気がついた途端笑顔になり、俺の元へトテトテと歩いてくる。そして身体を縮こませ、ピョーーーンっと自分の身体全体で俺に抱きつこうとしたのだが――――

 

 

「させるかぁあああああああああああああああ!!」

「ぐぇ!!れ、零君!?」

 

 

 俺は両手で穂乃果の顔を押さえ込み抱きつき攻撃を阻止する。いつもなら喜んで抱きつかれてやるのだが、今日は逆襲だ。穂乃果たちの思い通りになど一切させるつもりはない。

 

 

「ど、どうしたの?なんか変だよ?」

「俺はいつでも変だ……だが今日で俺はただの変態から変態の神へとランクアップする」

「い、意味が分からないんだけど……」

「お前はそのための傀儡に過ぎない……俺の性欲を満たすためのな」

「えっ、えぇ!?!?」

 

 

 最近はことりと並ぶぐらいの変態になっていた穂乃果も、俺の威圧に圧倒されて素の状態に戻っていた。まるで俺が何を言っているのか分からないって顔してんな、穂乃果の奴……大丈夫だ、俺も自分自身で何を言っているのか分かんねぇから。

 

 

「さあ、とりあえず壁に手をついておしりをこっちへ向けるんだ……」

「えぇ!?そ、そんなの恥ずかしいよ……」

「全裸でお風呂に飛び込んで来た奴が今更何を言っている!?」

「それはムードってものがあったからで……ほ、本当に今日の零君おかしいよ!?」

「いいか?俺がご主人様でお前が従者だ。だからお前に拒否権はない。さあ早く!!」

「う、うぅ~~!!」

 

 

 穂乃果は渋々壁に両手をつけ、おしりをクイッと上げた。

 

 す、素晴らしい!!短すぎるスカートのおかげで穂乃果のパンツや太ももがすべて顕になっていた。パンツの色は彼女お気に入りのオレンジ色、太ももは透き通るような白い肌、日焼けで多少変色している肌と見比べるとさらにエロさが増してくる。

 

 これだよ!!俺はこれが見たかった光景はこれなんだよ!!女の子が俺の目の前で羞恥に悶えながらもエッチな命令に従う、この光景が一番興奮するんだよ!!俺が穂乃果を支配しているこの感覚……久しぶりだ!!

 

 

「もっとだ!!もっとおしりを突き上げろ!!そんなんじゃあ俺を満足させることはできねぇぞ!!」

「は、はい!!」

 

 

 もう穂乃果は俺の勢いに圧倒され、命令されるがままになっていた。穂乃果がおしりを高く突き上げれば突き上げるほど、パンツがどんどん食い込んでいき、その綺麗で可愛いおしりがどんどん顕になっていく。

 

 

「これが穂乃果のおしり……可愛いなぁ!!」

「も、もう!!おしりを褒められても嬉しくないよ!!」

「そうかな……?」

「ひゃん!!きゅ、急に触らないで……零君のエッチ」

「いい声だ。もっと聞かせてくれ!!」

 

 

 俺は両手で穂乃果の桃をガシッと鷲掴みにした。そこで聞こえた彼女の叫び声が俺の変態心にゾクゾクとした刺激を与える。それと同時に心の奥底に眠っていたSの気質も呼び起こされ、再び俺に火を点けた。俺はもうその興奮に耐え切ることができず、遂に穂乃果の桃を揉み始めた。

 

 

「ひゃっ、んん♪」

「柔らかい!!女の子ってみんなこうなのか!?指が食い込むぐらいの柔らかさなのか!?」

「知らないよそんなの!!そ、そろそろやめてよ!!」

「そうだ……その声だ。女の子が嫌がってのに無理矢理攻める!!これこそが俺の待ち望んでいたシチュエーションだ!!」

 

 

 もう穂乃果は俺になされるがままとなっていた。イヤなら壁から手を話せば助かるものの、それをしないということはコイツもどこか期待しているのだろう。そうでなければずっと同じ体勢で俺からのセクハラを受け入れるはずがない。やはり素に戻ったとしても変態だったか……どうしようもない奴だ、俺がイジめてあげよう!!

 

 

 ――――――あれ?穂乃果の奴、パンツが……湿ってる?こ、これは!?!?

 

 

「お前も興奮してんだな……」

「そ、そんなわけないじゃん……」

「でもカラダは嘘をつかない。お前のパンツ……濡れてるぞ」

「えっ?嘘!?」

「ホント……」

 

 

 俺は右手の人差し指を穂乃果の太ももと太ももの間へと侵入させ、女の子の秘所があるところをパンツ越しにゆっくりねっとりとなぞった。俺の人差し指の先が穂乃果の分泌液で僅かに湿る。

 

 

「ひぁあああああん♡れ、零君どこ触ってるの!?」

「な?濡れてるだろ?」

「き、気のせいだもん!!」

「そうか、もっと触って欲しいのか……」

「え、そ、そんなこと言ってないよ!?」

 

 

 まだこの期に及んで強がるか。でも屈服させる側としては抵抗してもらった方が調教のしがいがある。すぐに従順になられたら復讐の意味がなくなってしまうからな。穂乃果、俺をもっともっと楽しませてくれ!!

 

 

「素直になれよ……お前は変態なんだ」

「ち、違うもん……」

「俺に身を委ねれば気持ちよくなれるぞ。さあ俺におしりを振ってお願いするんだ」

「うぅ~……」

 

 

 穂乃果は顔を真っ赤にしたまま動かない。どうやら心に迷いが生じているようだ。俺としてはこのまま羞恥心に悶え苦しむ穂乃果の姿を、彼女のおしりを揉みながらずっと眺めていてもいい。現に今も穂乃果の桃をずっとナデナデして彼女の興奮を煽っている。

 

 

「よく考えてみろ、俺のがお前のその濡れているアソコに…………ジュプッと入るんだぞ?」

「零君のアレが……穂乃果の……」

「そうだ。お前、もう疼きが止まらないんだろ?股がヒクヒクしていることぐらい、パンツ越しでも分かるからな。ほら素直になっちまえよ」

「……」

 

 

 性欲こそ人間が求めるごく自然な欲求だ。それは日常生活で一般的な食欲や睡眠欲などと大差はない。なのになぜ迷う必要があるのか?いや、ない。欲しければ素直に求めればいいじゃないか。なぜそれを拒む。もうそこに変態だからとか、変態じゃないからとか、そんな上っ面な議論はどうでもいい。欲求不満だから気持ちよくなりたい。それでいいじゃないか。

 

 

「……ください」

「もっと大きな声で!!」

 

 

「お股がキュンキュンして止まらないので、直接触ってください!!」

 

 

「よしっ!!じゃあお言葉に甘えて」

 

 

 俺は再び穂乃果のパンツに指を当て、秘所に該当する部分を思いっきり押し込んだ。

 

 

「あぁああん♡」

 

 

 いい音したな。明らかにさっきより濡れてるじゃねぇか。濡らしていいよと言ってないのに勝手に濡らしちゃう変態さんには、しっかりと調教してやらないといけないな。

 

 

「んぁああん♡」

「どうだ穂乃果、感想は?」

「き、気持ちいいよぉ~♪」

 

 

 そして俺は穂乃果のパンツを掴み、そのまま躊躇なくズリ下げた。彼女のねっとりとしたアレがイヤらしく糸を引いている。そこまで期待しているのならしょうがない。俺が全力で応えてやろう!!

 

 

 

 

※※※ここから自主規制※※※

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

【VS 矢澤にこ】

 

 

 

 

「いやぁ~スッキリした!!やっぱり俺は攻める方じゃないとな」

 

 

 逆襲の第一幕を無事に終え、身も心もアレもスッキリした俺は次の標的を求め彷徨っていた。正直もう満足したといえば満足したのだが、彼女たちが興奮を抑えきれずに悶え苦しむ姿をまだまだ見たいのでこの復讐劇を続けることにする。俺の中で渦巻く女の子の支配欲は、もう誰にも止められない!!

 

 

「ん?」

 

 

 リビングの扉が開いたと思ったら、にこがこちらへ向かって全速力で走って来た。いつもならところ構わず俺に抱きついてくる彼女だが、今はそれどころではないと言わんばかりの険しい表情をしている。若干冷汗をかいているし、よほど急がなければならないことなのか?

 

 

 それじゃあやることは1つしかないだろう!!

 

 

「ちょっと零、どきなさいよ!!」

「イ・ヤ・だ」

「ムカつくわねその言い方……」

 

 

 俺は廊下の途中で仁王立ちをしてにこの進路を遮った。にこが右に寄ったら右に、左に寄ったら左に、自分の持ち前のフットワークを活かして彼女を通さない。流石にイライラしてきたのか、さっきよりも険しい表情のまま右に行くと見せかけて左に行くフェイントを仕掛けてきたが、そんなもの俺には通用しなかった。逆にその勢いを利用して、にこの手首をギュッと掴んでやる。

 

 

「ちょっ!!にこは急いでるの!!離しなさいよ!!」

「なんで急いでいるのか、理由を言ったら考えてやる」

「そ、そんなの言えるわけないでしょ!!いいから離しなさいよぉ!!」

 

 

 にこは俺の拘束から解き放たれようとジタバタ暴れるが、コイツみたいな華奢な身体の奴に男の俺が負けるかよ。でもさっきから暴れるのと同時に脚をモジモジさせているような気が……そしてこの廊下の先にあるのは――――――なぁ~るほど、コイツが急いでいる理由が分かったぞ!!

 

 

「にこ……お前、トイレか」

「言うな!!女の子にトイレって、アンタデリカシーが足りないのよ!!」

「はぁ?俺の辞書にデリカシーなんて言葉が初めからあると思ってたのか?1年間も付き合っていてそんなことも知らないなんて……」

「もうホントにウザイからどいてくれない?」

「イ・ヤ・だ・ね☆」

 

 

 トイレに行きたい女の子を見るのも中々に興奮できるのではないだろうか。今回が初めてだから何とも言えないが、必死で尿意を我慢して耐えている女の子もいいよね♪しかもそれが生理的なものだと分かると……かなりそそられるな。そんな彼女をもっともっと焦らせてあげたいという、俺のドS精神がくすぐられる。

 

 

「そろそろ限界なんだけど……」

「自分で自分の限界を決めてはいけない。そう俺が教えてやったはずだ」

「うるさい!!今それは関係ないでしょうが!!いいから離しなさい!!」

「お前さぁ~……離せと言われて離す奴がこの世の中のどこにいるんだよ。無駄な体力を使うぐらいなら、もっと俺にトイレを我慢している可愛い顔を見せてくれ!!」

「こんのぉ~変態!!!!」

 

 

 はい、いいツッコミ頂きました!!そのツッコミがないといつもの俺に戻ってきたって感じがしないな。穂乃果は口ではイヤイヤ言いながらも俺の命令には忠実に従っていたし、やっぱこう反抗されるのが一番ゾクゾクする。俺に楯突く奴を屈服させられると思えばな。

 

 

「いやぁ~いい顔だよにこ♪まるで子供が親に欲しいモノを買ってもらえず我慢している時の顔だな」

「なによその例え!?嬉しくないわよ!!」

「可愛いって言ってんだよ。スカート履いて脚をモジモジさせて、口からはエロい吐息が出ている。さらに顔を真っ赤にしてその表情は何かを必死で耐えていて、それが尿意と来た!!ゾクゾクして興奮するじゃねぇか……」

「コイツぅ~……」

 

 

 にこと恋人同士になってから、彼女のアプローチはとても激しい。付き合う前まではイヤがっていた変態行為も自らが仕掛けてくるようになっていた。もちろんにこからの愛は嬉しいのだが、攻められているだけでは俺の変態としてのプライドが許さない。俺はいついかなる時でも女の子を攻めて支配する側じゃないと満足できないんだ!!

 

 

「はぁはぁ……もう本当にどいてくれない?げ、限界だから……」

「最悪ここで垂れ流せばいい。なぁに、掃除は俺がしてやるから♪」

「そういう問題じゃない!!いいから早くどきなさいよぉ~~」

 

 

 いいねいいねそのトイレに行きたくて悶え苦しんでいる表情は!!普段色気がゼロのにこからムンムンと卑猥な色気が漂ってきているぞ!!このまま腕を握ったまま硬直していれば、にこの聖水がこの目で拝めるわけだな。やべっ!?久しぶりに鼻血が出そう……想像しなくとももうすぐ現実になるから待て、俺の鼻よ!!

 

 

「うぅ~……早くぅ~……」

 

 

 にこは若干涙目になりながら俺を上目遣いで見つめてくる。いつもはあざとくアプローチをしてくる彼女も今だけは必死なのだろう、そんなあざとさは一切感じられない。でも残念ながらその上目遣いが俺の心に響くことはないのだよにこっち!!今の俺は復讐心ですべてが満たされているからな。だけどこのまま垂れ流させるのも面白くないし、一応チャンスを与えてやろう。

 

 

「じゃあ俺と一緒にトイレに入るのならどいてやってもいいぞ」

「な、なんですって!?そ、そそんなことするわけないじゃない!!」

「えぇ~~だって俺たち恋人同士だろ?」

「恋人同士でも一緒にトイレなんて入らないわよ!!」

「だったらここで垂れ流すのか?」

「そ、それは……」

 

 

 俺は別にそれでもいい。垂れ流してしまったら放送禁止になるだろうが、にこの聖水が見られるのなら俺は構わない。だってにこが羞恥に震えながらも、我慢していたものが吐き出された開放感に浸る顔を見てみたいじゃないか!!

 

 

 

 

「さあ早くしろ!!言うのなら言う!!言わないのなら垂れ流せ!!」

 

 

 

 

「ぐっ……分かったわよ!!一緒に入っていいから早くトイレに行かせて!!」

 

 

 

 

 来たぞぉおおおおおおおおおおおおおお!!俺の人生初、女の子と一緒にトイレに入る瞬間が!!くそっ!!こうなるならあらかじめトイレにカメラを仕掛けておくべきだった!!神崎零一生の不覚!!

 

 そして俺とにこは一緒にトイレ内へと侵入した。にこは身体をプルプルと震わせ、今にも聖水を放出してしまいそうだ。ここまで来たからにはちゃんとトイレで用を足して欲しい。だけど普通に座らせてやらせるのもつまらないよな……じゃああの方法で――――

 

 

 

 

「にこ……便座の上に足を乗せて、M字開脚でトイレをしてくれないか」

 

 

「はぁああああああ!?!?アンタねぇ!!一緒にトイレに入っただけでは飽き足らず!!」

「ああそうさ飽き足らずさ!!しないと言うのならこの腕は離さない!!」

「ちょっと!?トイレに入ったら離してくれる約束だったでしょ!?」

「一緒にトイレに入ってくれるなら、"どいてやってもいい"と言ったんだ。離すとは一言も言っていない」

「なにそれ……」

 

 

 もうツッコム気力も失せたのか、にこはうずくまってしまう。今度はもう本当の本当に限界が来ているみたいだ。これじゃあ便座に股がることもできねぇぞ。しょうがない、俺が持ち上げてやるか。

 

 

「俺が便座に乗せてやるから、持ち上げた衝撃で俺にぶっ掛けるのだけはなしな」

「や、やるなら優しくしなさいよね!!」

 

 

 うわっもの凄くエロいセリフ!!トイレの中じゃなかったら確実に襲いかかってR-18ルートに突入してたぞ!!お互いに余裕がないってことだな。にこは尿意、俺は性欲だけど……

 

 そして俺はにこを持ち上げ便座の上に乗せてやる。その時一瞬だがにこの身体が震え、内心やっちまったか!?と思ったが、最後の防壁だけは何としても守り抜いたようだ。まあぶっ掛けられたら掛けられたで貴重な体験かもしれない。こんな変態プレイなんて俺たちぐらいしかやる奴はいないだろうな。

 

 

「さて、にこのスカート御開帳ぉ~~」

 

 

 奇しくもM字開脚にさせられたにこだが、もうトイレができるなら何だってする意気込みを持っているのか一切抵抗してこない。M字開脚をしているにこのスカートをめくると、その中には可愛らしいピンク色のパンツがこんにちはをしていた。少しも濡れていないところを見ると、コイツがどれだけ必死で尿意を我慢していたのかが分かる。

 

 

 それにしても相変わらず可愛いパンツを履いている。ファッション好きな女の子は普段人には見せない下着にまで拘るのか?ピンク色とはまさしくにこらしい。しかも太ももの色とも非常にマッチしていてとてもそそられる。このパンツさえ脱がしてしまえば、彼女の秘所が見られるわけだな……そしてその秘所から漏れ出す聖水も……ゴクリ。

 

 

 

 

「早く脱がせなさいよぉ~~もう我慢できないから!!」

 

 

 

 

 は、早く脱がせだと!?そんな素敵な言葉がにこの口から漏れるなんて!?服でもなければスカートでもない、パンツを脱がしていいと!?以前の王様ゲームで真姫のパンツを脱がす時は緊張したが、今の俺は性欲に塗れた復讐者だ。今からにこの聖水が見られるともうと、もう俺も我慢の限界に到達している!!

 

 

 そしてここからの俺は我を忘れていた。

 

 

 

 にこのパンツに両手を伸ばし――――

 

 

 パンツの端っこを掴み――――

 

 

 太ももまでグイッと引き上げた――――

 

 

 そして、にこの秘所が顕となった同時に――――

 

 

 その秘所から遂に――――

 

 

 

 

※※※ここから自主規制※※※




 今回後書きクソ長いです。

 あれ?2人だけ?と思う人がいるかもしれませんが、尺の都合上2人しか書けませんでした。これもすべて自分が興奮して1人辺りに文字数を使い過ぎたせいです(笑)
読者様の反応を見て、もし需要があるならばまたいつか続きを書きます。

 言い訳がましくなりますが、この小説は文章の丁寧さというよりかは読者様に楽しんでもらうことを目標としているので、極論零君のテンションだけが伝わればいいというスタンスです。特に変態回は文章が終わっているので流し読み推奨です。(後書きに書くのもおかしいですが)

 早いもので、『新日常』も50話に達しました。まさか3ヶ月も経たない間に到達することができて自分でも驚いています。Twitterでも更新頻度については人外扱いされるレベルです(笑)
この調子だったら夏の終わりまでに100話も見えるかも!?


~毎回記念小説恒例質問~
 『新日常』の中で連載された50話の短編集の中で、お気に入りの話があれば是非教えてください!


~付録1:各キャラの登場回数~
☆零(50/50)
ちなみに『日常』では50話時点で49/50でした。

☆穂乃果(33/50)
μ'sの変態担当でエロ要員その1。

☆ことり(30/50)
μ'sのエロ要員その2。

☆海未(28/50)
まだこれといった出番がない。ちなみに次回海未回です!

☆花陽(30/50)
最近他のメンバーに押され気味。

☆凛(29/50)
段々と変態に近づいてきてるにゃ~

☆真姫(30/50)
限りなく健全に見える変態。

☆絵里(27/50)
もはやKKEの影はどこにもない……

☆希(24/50)
数えてみると唯一登場回数が半分いってなかった。

☆にこ(25/50)
μ'sのエロ要員その3。

☆雪穂(30/50)
1年生組はサブでも登場回数が多い。

☆亜里沙(30/50)
ハーレム入りおめでとう!

☆楓(26/50)
ラスボス。


~付録2:よく閲覧されている話~
 これまで投稿してきた話の中で、特に飛び抜けてUAが多い話をピックアップしてみました。(ただし必然的に多くなる1、2話は除く)

・11話「先輩方は発情期!?」
・15話「私はあなたを想って、夜な夜な一人でヤっちゃうの」
・24話「μ's内大戦争、再発」
・37話「神崎零のハーレムな1日」
・41話「穂乃果とことり、お風呂でおもてなし」

これらの話が人気ということですね!


~付録3:個人的オススメ回~
 作者である自分がオススメする回を一言コメントと共に紹介。上記に上がっているものからそうでないものも。

・16話「ことりの"愛"の日記」
※狂気、ヤンデレ

・37話「神崎零のハーレムな1日」
※壁を用意すること推奨

・41話「穂乃果とことり、お風呂でおもてなし」
※多分今までの中で一番ヤバイ話(削除的な意味で)

・48話「【特別コラボ企画】零の達也変態化計画!?」
※初のコラボ小説


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海未、秘密のダイエット作戦!

 怒涛の更新!!日付は変わっていますが、これで3日連続です。

 今回はお待たせしました、海未回です。話も海未視点で進みますが決して変態な回ではないのでご安心ください!前回暴れすぎましたから少し反省です(少しだけ)

 ちなみに話の構成には元ネタがあります。


 

 園田海未役の園田海未です――――って、そんなネタはどうでもいいのです!!今、私は重大な危機に立たされています。

 

 

 

 

 早いもので、μ'sの皆さんと零の家で同棲生活を初めて5日が経ちました。もうすぐで一週間が経つと考えると、これまでの人生の中でここまで早く時が進んだと感じられるのは初めてです。それほど零やμ'sの皆さんと一緒にいるのが楽しいのでしょう。初めは同棲生活には否定的だったのですが、一緒に住んでみれば楽しくて案外悪くないものです。

 

 

 さて、穂乃果たちは折角恋人である零の家へ来たということで、彼にお手製の料理やお菓子などをほぼ毎日交代で振舞っています。もちろん零のためとはいえ私たちもそれを頂くのですが、ここ最近の練習量が多いためか、ついつい食べ過ぎてしまうんですよね。

 

 

 そして、気がついたら――――――

 

 

「ふ、増えてます……体重が!!」

 

 

 お風呂から上がった私は、タオルを身体に巻いて脱衣所にあった体重計の上に乗っています。なんとなしに測ってみたらまさかここまで増加していたとは……

 

 

 穂乃果や花陽に散々体重を気にするように言ってきたのにも関わらず、まさかこの私までもが同じ状況に陥っているなんて……やっぱり食べ過ぎが原因でしょうか?穂乃果と雪穂が作ったほむまんやことりのチーズケーキ、花陽のマカロンや凛お手製のラーメンなど、原因を思い出せばキリがありません。

 

 ああ……もしこのことが零や穂乃果に知られてしまったら!?絶対馬鹿にされること確定です!!穂乃果からは『あれるぇ~海未ちゃん、あれだけ穂乃果にガミガミ言って、自分は体重が増えてるってどういうことかなぁ~』と皮肉混じりで煽られるでしょう!!零からも確実にネタにされてしまいます!!それだけは何としても避けなければ!!

 

 

 

 

 こうなったら――――ダイエット大作戦です!!

 

 

 

 

 零や穂乃果はもちろん、彼らの耳に入ることを警戒して誰にも言わずたった1人でダイエットを成功させてみせます!!やるったらやります!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

翌朝:学院

 

 

 

 

「お腹が空きました……」

 

 

 ダイエット1日目ということで、まずは朝食を少しだけ抜いてみました。

 もちろん朝食を抜くダイエットなど逆に身体を壊す可能性があることは分かっています。ですがこの体重増加は恐らく食べ過ぎが原因。思い出せば最近は朝食ですらたくさん食べていました。そのせいもあってか、朝食を少し抜いただけでまだ1限の授業前なのにも関わらずもの凄くお腹が空くのです……

 

 

「どうしたの海未ちゃん?朝から元気ないよ……?」

「ことり……ご心配ありがとうございます。最近練習量が多くて、ちょっと疲れているだけなので大丈夫ですよ」

「そう?でも気分が悪くなったらいつでも言ってね?来週末にライブが控えてるのに、身体壊しちゃったら大変だから……」

「お気遣いありがとうございます」

 

 

 ことりの心配そうな顔を見ていると、胸が苦しくなってきますね……嘘を付いている私を許してください。穂乃果に近しいことりにダイエットのことを知られてしまうと、彼女の耳に入ってしまう可能性がグンと高くなります。ですが親友を騙すのはやっぱり辛いものがありますね……

 

 

「あっそうだ!!ことり、今日朝早くに起きてチーズケーキを作ってきたんだ♪これを食べればきっと元気になるよ!!」

「えっ!?」

 

 

 ち、チーズケーキ!?!?あまり頭に糖分が回っておらず空腹でお腹が鳴りそうな今、ことりのチーズケーキはまるで某アンパンのような救世主です!!まさかここまで自分から甘いモノを求める時があったでしょうか!?

 

 

 ことりは私の目の前に小さくスライスされたチーズケーキを手渡してきました。見た目は至って普通のチーズケーキなのに、私の目から見ればそれは宝石のようにキラキラと光っています。チーズケーキの黄色が今の私には黄金の輝きにしか見えません!!

 

 さらにこの鼻をそそる甘い匂い!!この匂いだけで空腹を満たすことができるのならどれだけよかったことか……残念ながらお腹の虫が活発になるだけで、今にもお腹が鳴ってしまいそうです!!

 

 

「あぁ~いい匂い♪ことりちゃ~ん!!穂乃果にも頂戴!!」

「はいどうぞ♪」

「わ~い♪ありがとう!!」

 

 

 チーズケーキの甘い匂いに誘われて、穂乃果がフラフラとこちらへやってきました。そしてことりからチーズケーキを受け取ると、大きな口を開けて――――

 

 

「やっぱりことりちゃんのチーズケーキ最高!!よっ!!世界一!!」

「もう~照れるよ穂乃果ちゃん♪」

 

 

 まさか一口で全部食べてしまうとは……今日の朝食でパンとご飯の両方食べていたのにも関わらずまだ食べられるんですか。本当なら注意するところなんですけど、今の私にはその権利はありません……

 

 

「海未ちゃんもどうぞ♪」

「今日のチーズケーキは今まで以上の美味しさだよ!!流石零君への愛を込めただけのことはあるね!!」

「えへへ~~それほどでも♪」

「あっ、あぁ……」

 

 

 ことりは再び私の目の前にチーズケーキを差し出しました。またしても甘い匂いが私の鼻、そしてお腹の虫を刺激します!!このままではお腹が空いていることを悟られるかもしれません。穂乃果は気づかないでしょうが、ことりは意外と察しがいいので……

 

 

 仕方がありません、ここは――――

 

 

「すみません!!ちょっとお手洗いに!!」

 

「あっ、海未ちゃん!!」

「行っちゃった……」

 

 

 私は席を立ち、全速力で教室から出ました。

 

 すみませんことり、穂乃果!!私は一度決めたことは貫き通したいのです。どれだけ甘い誘惑に誘われたとしてもそれに靡くとは武士の恥、例え親友だったとしてもそれは変わりません!!

 

 あぁ……走り去る時に見えたことりのシュンとしか顔が私の胸に突き刺さります。この上ない罪悪感に襲われてしまいますがダイエットのためなのです、許してください!!

 

 

 私はそのまま誰とも目を合わさぬよう、猛ダッシュで廊下を駆け抜けました。うぅ、生徒会副会長としての威厳もなにもありませんね……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁ~……お腹が空きました。さっきから同じことばかり言ってますね……」

 

 

 登校してくる生徒を掻き分け、私は中庭のベンチに座り込んでいます。普段ならこの程度で疲れることはないのですが、まさか朝食を一食抜いただけでもここまで体力が出ないとは……若干ですが息切れもしますし、このまま昼食の時間まで私の身体は持つのでしょうか?いや、持たせます!!マイナス思考になってはダメです!!

 

 

ぐぅ~~。

 

 

「ハッ!!こ、これは私の……お腹の音!?」

 

 

 は、恥ずかしいです!!周りの誰もいないとはいえ、まさかここまでハッキリとお腹の音が聞こえるとは……さっきの意気込みが一瞬にして溶けてしまいました!!この音を自分でコントロールできるわけではありませんし、授業中に鳴らないことを祈るしかありません。

 

 

「そう言えば、お腹が鳴るのを抑えたい時は思いっきり息を吸い込むのがいいと聞いたことがあります。試すのは初めてですが、ここは藁にもすがる思いでやってみましょう」

 

 

 おおっ!!お腹が空気で満たされる感じがします。これは思った以上に効果があるのでは!?お腹の音も鳴らなくなりました。では教室に戻る前にもっともっと吸っておきましょう!!

 

 

「お前……こんなとこでなにやってんだ?」

 

 

 

 

「れ、零!?」

 

 

 突然後ろから声がしたと思ったら、いつの間にか零が私の背後に立っていました。よりにもよって一番見つかりたくない人に見つかってしまうとは!?穂乃果にダイエットのことを知られるのもイヤですが、一番危険なのは零です!!いつも体重管理にはうるさい私がダイエットだなんて、彼に知られたら笑われるに決まっていますから!!

 

 

「あ、あなたどうしてここへ……?」

「さっき教室に戻ったら穂乃果とことりがお前のこと話していてさ、なんか様子がおかしいって。だから探してたんだよ」

「そ、そうですか……」

「それでお前はなにしてんだ?」

「別に心配されるようなことはなにも!!」

 

 

 カンの鋭い零のことです。少しでも不穏な動きを見せればすぐにバレてしまうでしょう。ここは頭をフルに回転させて彼を追い返さなければ――――と思いましたが、朝食を抜いているせいでイマイチ頭がよく回りません。

 

 零が目の前に現れただけでこれだけ取り乱してしまっているのに、さらに頭まで回らないとなると――――もう絶体絶命、空前絶後、背水の陣、暗雲低迷、危急存亡です!!窮余一策の手すらも思い浮かばないとは!?

 

 

「さっきことりが作ってきたチーズケーキ、食べずに飛び出してきたんだろ?洋菓子があまり好きじゃないお前でも、ことりのチーズケーキだけは毎回美味しそうに食べてたじゃねぇか」

「それはそうですが、今日はあまり食欲がないので……」

 

 

 嘘です!!本当はお腹の中に何も入ってないと言っていいほど空いています!!でもあれほどまでに言い突っぱねてしまったら、もう言えないじゃないですかぁあああああ!!

 

 

「体調が悪いなら無理せず俺に言えよ。意外とお前も自分で抱え込む性格してるからな」

「はい、ありがとうございます……」

 

 

 なんとか深く詮索されずに済みました。彼はかなり強引なところもあるのでバレなかったのは僥倖と言えるでしょう。でも零と穂乃果、ことりは家だけではなく授業中や休み時間も一緒にいます。少なくとも今日一日だけは上手く切り抜けなければなりません。園田海未、17年の人生最大の山場です!!

 

 

「ほら、もう1限目始まるから戻ろうぜ。立てるか?」

「大丈夫です。ご心配お掛けしてすみません……」

「いいよ別に。むしろ俺たちは心配を掛け合うような仲じゃないか。だから男の俺に言いづらかったら穂乃果やことり、μ'sのメンバーを頼れよ」

「零……」

 

 

 その優しさが私の心に突き刺さります!!ことりといい零といい、いつもこんなに優しかったですか!?いつも無駄にからかわれることが多かったような……?もしかしたらこんな状況だからこそ気づくことがあるのかもしれませんね。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「今日はなんとか耐え切りました。頑張ったのですから、体重も減っているといいのですが……」

 

 

 あの後なんとか昼食まで耐え切りました。昼食を取ったあとはいつも通りの体力に戻ったので零たちに心配されることはなく、練習も無事に終えることができました。μ'sの皆さんにまで心配を掛けることなく今日を終えられたのはよかったですね。これで零たちも私のことを疑わなくなるといいのですが。

 

 

 そして運命の体重測定。昨日と同じく、私はお風呂上がりにバスタオル1枚だけを身体に巻いて体重計と対峙しています。今日は朝食を抜いて、しかも練習はいつもより1.5倍ほど激しく動いたので確実に脂肪も燃焼されているでしょう。今日こそは……今日こそは!!

 

 

 覚悟を決めました。私は目を瞑ってまず右足を体重計の上に乗せます。その後すぐに左足も同じように乗せ、目を……目を開きますよ!!お願いします!!

 

 

 

 

「…………へ?え、えぇええええええええええええええええええ!?」

 

 

 

 

 ふ、ふふふふふふ増えてます!?体重が……増えています!!

 

 

 ど、どうしてですか!?!?今日あれだけ頑張ったのですよ!?変わらないどころかむしろ増えているってどういうことですか!?もしかして今朝空気を吸い過ぎたのが原因でしょうか!?もはや私の身体に何が起こっているのか分かりません!!もしかして病気!?生涯太り続ける病気ですか!?

 

 

「はぁはぁ……落ち着きましょう。これでは皆さんにバレてしまいます……でも夕食もある程度抑えたのにこの仕打ちとは、これは明日も今日と同じように切り抜ける必要があるみたいですね……」

 

 

 憂鬱ながらも、まだまだ私のダイエット生活は続くみたいです……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

~翌朝:学院~

 

 

 

 

「う、海未ちゃん大丈夫?」

「こ、ことり……心配の必要はありません。元気ですよ」

「そんな風には見えないけど……」

 

 

 まさか私が穂乃果みたいに机を枕にして寝ることになるとは……

 

 

 私はまたしても朝食を抜き、今日という修羅に足を踏み入れました。昨日と違うのは夕食まで少食にしてしまったこと。つまり昨日の朝以上に今朝はお腹の虫が活発なのです。頼みますからお腹の中で暴れるのだけはやめてください!!昨日も授業中にお腹が鳴りそうで冷汗をかきましたから!!

 

 

「昨日海未ちゃん、いつも以上に練習頑張ってたもんね♪穂乃果も見習わないと!!」

「穂乃果……あなたにしてはいい心がけです」

「そんな弱々しく上から目線で言われても……」

 

 

 まさか穂乃果に引かれるとは思ってもいませんでした。今の私はそれほどまでに弱っているということなのでしょうか?園田の娘たるものいつも誠実でなければなりませんのに……食べることばかり考えてしまいます。これでは穂乃果や花陽と同じではないですか……

 

 

「そうだっ、今朝着替えを取りに家に帰ったらね、お母さんからほむまんを貰ったんだ!!これを食べれば海未ちゃんも元気でるよ!!」

「ほむまん……」

「はいこれはことりちゃんの分!!」

「わぁ~ありがとう♪ほむまん食べるの結構久しぶりだなぁ~」

「最近は新作ばかり試食してもらってたからね。実は私も久しぶりなんだ」

 

 

 ほむまん……私は穂むらの和菓子が好きでよく買うのですが、特にお饅頭は大好物なのです。だからそうやって目の前で見せられると、お腹の虫が一気に動き出しちゃいます!!私もほむまんは久しぶりですが、ここまでいい匂いでしたっけ!?空腹過ぎていつもよく食べているほむまんが、より一層美味しそうに見えて仕方がありません!!

 

 

 唸ります!!忌々しいお腹の虫たちが!!

 

 

 こ、ここにいては確実にお腹が鳴ってしまいます!!それを穂乃果とことりに聞かれたら、ダイエットしていることが一瞬にしてバレて……

 

 2人には申し訳ないですが、昨日と同じくここで離脱します!!

 

 

「わ、私はお腹いっぱいなので、あとは零に全部あげちゃってください」

「えっ、そうなの?あまり朝ごはん食べてなかったような気がするけど」

「穂乃果はパンにご飯、目玉焼きにお魚、そして最後にはパンとたまごを合体させてフレンチトーストを食べたよ!!」

「それは食べ過ぎだよ穂乃果ちゃん……」

「そ、そうですよ……す、すみません、ちょっとお手洗いに行ってきます!!」

 

 

 会話が主軸が穂乃果に向けられている間に、私は席を立って教室を飛び出しました。まさか2日続けて2人を騙すようなことをしてしまうとは……お腹は空いていますが心は罪悪感でいっぱいです。

 

 

 

 

「う、海未ちゃんがほむまんを拒否するとは珍しい!!」

「やっぱり何かあったのかなぁ?」

 

 

「穂乃果、ことり」

 

 

「「零くん!?」」

 

 

「ここからは俺に任せてくれないか?」

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁ~……また穂乃果とことりにいらぬ心配を掛けてしまいました……」

 

 

 そして私はまたしても中庭まで猛ダッシュで走りました。途中で何人もの下級生から『ん?あれって園田先輩じゃない?どうして廊下走っているんだろう?』みたいな目で見られ、もはや生徒会副会長失格です……これではもし仮にダイエットが成功したとしても、それで犠牲となった代償が大き過ぎますよ……

 

 

 あぁ……どうしたらいいのかを考えようにも、お腹が空き過ぎて頭が上手く回りません。このまま穂乃果やことりを騙し続けていいのでしょうか?でも体重が増えたことを自分からバラすのは恥ずかしいです!!真姫みたいにプライドがあるわけではないですが、やはり私も女性です、例え同性であっても体重の話をするのは気が引けます。

 

 

 い、一体どうすれば――――――

 

 

 

 

「ま~たこんなところで座り込んで、なにやってんだよ」

 

 

 

 

「零!?」

 

 

 昨日と同じく突然後ろから声を掛けられ振り向いてみると、そこには零が心配そうな目をして立っていました。彼のこんな顔を見るのはいつぶりでしょうか……?その顔を見ているとなんだかこちらまで寂しくなってきます。

 

 

「ほらよ」

「つ、冷たい!!」

 

 

 零は私の頬に冷たい何かを押し付けてきました。それを手に取って確認してみると、よくCMでも放送されている、朝時間がないサラリーマン向けに販売されている飲むタイプのゼリーでした。謳い文句は確か……『カロリー控えめ』でしたっけ?それほど食べずにお腹を満たしたい人向けのゼリーだそうです。

 

 

「それなら大して食わなくてもある程度腹は満たせるだろ」

「あ、ありがとうございます。ですがなぜこれを私に……?」

「無茶なダイエットしてるからだ……」

「え……?」

 

 

 ま、まさか零にバレていたとは!?このことは誰にも言っていないはずです……まさか脱衣所で叫んでいたのが聞こえていたとか……?いやそんなはずはありません。体重計に乗る前に脱衣所の外や周りに誰もいないことを入念に確認しましたから。それなのにどうして……?

 

 

「女の子が飯を食わない理由は2つ。1つはマジで体調が悪いこと。でもお前は昨日の練習で穂乃果や凛に負けないくらい激しく動いていた。だから体調が悪いなんてことはない。だとしたら残るはもう1つ、ダイエットしかないだろ。現に昨日お前、昼食後はいつも通りだったしな」

 

「そ、それは……」

 

「大方、俺や穂乃果に知られることで馬鹿にされるとでも思ってんだろ?いつも穂乃果たちにうるさくダイエットダイエット言っているお前なら、そう考えてしまうのも無理はないけどな」

 

 

 私は、言葉を失ってしまいます。

 

 まさか零が私のことをここまで見てくれていただなんて、感心など軽く通り越して感動してしまいました。黙っていたはずなのに、騙していたはずなのに、彼は私の心を完璧に読み当てたのですから。

 

 バレてしまったと少し焦る反面、今まで心の中に溜め込んできたものが一気に流れ出し、その気持ちを共有できる人ができて安心もしています。自分の心は汚れているのにも関わらず、人の心を浄化するのは得意なんですね。

 

 本当に、流石と言わざるを得ないです。

 

 

「はい、すべてあなたの言う通り、私は昨日からずっとダイエットをしていました」

「言わなかったのはいいとして、どうして騙したりしてたんだ?穂乃果もことりも、言ってさえいれば協力ぐらいはしてくれただろうに」

「やはり同性や親友であったとしても、体重のことを離すのは恥ずかしいのです……」

 

 

 私がそう言った瞬間、後ろにいた零が座っている私の前に回り込んできました。

 そして、私に近づき両手で私の肩を優しく掴みました。か、顔が近いです!!

 

 

「いいか海未、いくらダイエットと言っても無理はするな。身体を壊してしまったらライブどころじゃないし、それより日常生活にまで支障をきたすだろ。俺はお前に身体なんて壊して欲しくない。そんなことで悩んでいるお前を見たくない。お前にはずっと笑顔でいて欲しい。恥ずかしかったら別に話さなくても構わない。だけど決して無理はするな。無理をされると俺が……イヤ、だから」

 

 

 最後は自分で言っていて恥ずかしくなったのか、顔を赤くしてすこしそっぽを向いてしまいました。そんな彼が愛おしくて可愛くて、今まで悩んでいたことが急にちっぽけなことのように思えてきます。

 

 

 私は勘違いをしていました。零はこういう人でしたね。彼は人の失敗を笑いに変えてしまう、ある意味で最低な人間なのですが、それは失敗した本人にやる気を与える不思議な力があります。

 

 そして私たちが本気で悩んでいる時は、決してそのようなことはしません。ちょっと強引なところもありますが、優しく手を差し伸べてくれる。その暖かさに私たちは惚れてしまったのです。

 

 

「ふふっ♪」

「な、なんだよ急に笑いやがって……」

「すみません♪突然真顔で語りだすものですから、少しおかしくって♪」

「ポエマーみたいで悪かったな」

「別にそこまでは言ってないじゃないですか」

 

 

 笑ってしまったのは何も分かっていなかった自分に呆れてしまったというのもありますけどね。でも今は彼の暖かさが心に染みます。もっとあなたの側にいたい、そう思えるくらいに……

 

 

「私のこと、ずっと見ていてくれたんですね」

「当たり前だろ、彼女なんだから。だから無理してたらすぐに分かる」

「ふふっ♪ありがとうございます」

「ああ。でも穂乃果とことりには謝ろうな。アイツら昨日からずっとお前のこと心配してたんだぞ?」

「それはもちろんです。いらぬ心配をお掛けしましたね」

「そうだな。じゃあ戻るか!!」

「はいっ!!」

 

 

 今回もまたあなたに助けてもらいましたね。でもいつか私からも精一杯の恩返しをするつもりですから、覚悟してくださいね♪

 

 

 あなたと付き合うことができて、本当によかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、そうだ言い忘れてた」

「なんですか?」

 

 

 

 

「脱衣所の体重計、アレ壊れてるから」

 

 

 

 

「は…………?」

 

 

 

 

 なんですってぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?

 




 綺麗に話のオチをつければよかったものの、汚く終わるのがこの小説なのです(笑)

 初めはダイエットなら花陽にさせようと思っていたのですが、前回の後書きに載せた登場回数リストを見てもらえれば分かる通り、海未の出番が少なくメインすらあまり張ったことがない実状でした。従って彼女が抜擢され、結果的に可愛く描けたのでよかったです。

 流石、公式で真面目キャラでもありネタキャラでもある海未。構想を文字に起こす時でもこれほど書きやすいキャラはいませんでしたよ(笑)

 思い返せば零君と恋人になった9人の中で、『新日常』に入って零君とエ○チしていないのは彼女だけなんですよね。頬っぺを触ったりキスはしましたけど。これは次の個人回では零君を暴走させざるを得ないな!!

 恐らく今月の更新はあと1回です。本当に一ヶ月、早いですねぇ~……


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

男子禁制!?ガールズトーク!

 今回はタイトル通りのガールズトーク回です。

 深夜、女の子が集まって話すことと言えばそれは恋バナでしょう!でも今のμ'sにマトモな恋バナができるんですかね?(フラグ)

 ちなみに時系列的には、前回海未がダイエットを終えたその晩となっています。

※一部μ'sメンバーのキャラ崩壊注意!


~同棲生活7日目の夜~

 

 

 

 

 小泉花陽です。

 

 今日の夜は穂乃果ちゃんとことりちゃん、亜里沙ちゃんと私の4人が同室で寝ることになりました。最近は毎日練習があり、みんな夜ふかしせず倒れるように寝ることが多いのですが、今日は煮詰めすぎないよう軽い練習だけで終わったのでみんなまだまだ元気です。むしろ今から本番と言わんばかりに盛り上がっています。

 

 

 でも、その盛り上がり方がちょっと変な盛り上がり方で……

 

 

「こ、ことりちゃん?な、なにやってるの?」

「愚問だよ花陽ちゃん。今日零くんが着ていたシャツを着ているんだよ♪」

「だからなんでそんなことをしてるの!?」

「え?彼女が彼氏のシャツ着るのって普通じゃないの?」

「えっ、えぇ!?それって普通なのぉ!?」

「普通だよぉ~♪」

 

 

 最近ことりちゃんがおかしいよぉ~!!いつも私たちを気遣ってくれる優しい人なのは変わらないんだけど、零君のことになると目の色がこの世のモノとは思えない色になってしまいます。一言で言えば、ダークマター色?その時は"小鳥"のような愛くるしさは消え、獰猛な"大鷲"になるのです……

 

 

「そうだよねぇ~普通だよねぇ~」

「ほ、穂乃果ちゃん!?それ今日零君が着ていた体操着だよね!?どうして被ろうとしているのぉ!?」

「どうしてって……穂乃果、零君の彼女だし」

「恋人同士でも流石にそんなことは……」

「普通だよ!!」

「も、もしかして私がおかしいの……?」

 

 

 穂乃果ちゃんもことりちゃんと同じくらい変態さんになっています……どれだけ変態になっているのかと言いますと、零君がセクハラを仕掛けても穂乃果ちゃんたちが喜んでしまい、逆に零君が焦ってしまうくらいです。

 

 

「あ、亜里沙ちゃん……どうしようこの状況」

「えっ、ご、ゴメンなさい聞いていませんでした……」

「どうしようこの状況――――って、えぇ!?亜里沙ちゃん、それ零君の体操ズボンだよね!?!?」

「こ、これは穂乃果ちゃんとことりちゃんに無理矢理持たされてそれで……!!」

 

 

 亜里沙ちゃんは冷汗をかきながら手を振って必死に弁解をしています。その姿を見ているだけなら可愛いのですが、結局零君の体操ズボンを握って離さないのでプラスマイナスゼロです……なんで亜里沙ちゃんまでこうなっちゃんだんだろう……?

 

 

「叫んでばっかいないで、花陽ちゃんも着てみなよ」

「穂乃果ちゃん!?もう着ちゃってるっ!?」

「えへへ♪零君に抱きしめられているみたいで幸せだなぁ~」

「そ、そうなの……?」

「あれ?もしかして興味アリ……?」

 

 

 穂乃果ちゃんは小悪魔のような笑顔で私の顔を覗き込んできます。顔を近づけられた時に零君の匂いが私の鼻を刺激しました。い、いい匂いです…………だ、ダメ!!私が堕ちてしまったら誰がこの状況を止めるんですか!?このままだと零君にバレて私までお仕置きされちゃう!!

 

 

「じゃんじゃじゃ~ん!!実は花陽ちゃんの分までことりが持って来ちゃいました~♪」

「おおーー!!ことりちゃん流石!!」

「そ、それって……零君の……し、ししし下着!?」

「零くんの下着ですか……う、羨ましいです!!」

 

 

 ことりちゃんが上に掲げたのは、まさかまさかの零君の下着でした!!なんでそんなものまで持ってきてるのぉ!?亜里沙ちゃんまで目を輝かせて物欲しそうにしているよ!?ダレカタスケテ~!!

 

 

「本当はことりが被りたかったんだけど、零くんの魅力を最大限に知ってもらうために、今日は花陽ちゃんに譲るよ!!」

「い、いらないよ!?」

「じゃあ亜里沙ちゃんにあげちゃうよ?それでもいいの?」

「別にいいよ……」

「本当に?本当にいいの?」

「うぅ~……」

 

 

 ことりちゃんも小悪魔、いやもう悪魔の顔になってるよぉ~……しかも零君の下着を摘んで私の顔の前でフリフリと揺らしてきます。揺れるたびに鼻に突くような匂いが漂ってきますが、これが零君の匂いだと思えば……悪くないかも。で、でもこの状況を早く止めて洗濯物を返さないといけないし……そういえば、穂乃果ちゃんと亜里沙ちゃんは何をやっているのかな?

 

 私はその2人に助けを求める(とても望み薄ですが)ため、横目でチラッと見てみました。

 

 

「どうどう亜里沙ちゃん!?零君の体操服を着た感想は?」

「本当に零くんに包まれているみたいです!!ちょっとブカブカですが、逆に全身を抱きしめられている感じがしてハラショーですよ!!これで一晩いられるなんて幸せだなぁ~」

「でしょでしょ!!穂乃果も零君の服を着ていると、いつもよりぐっすり寝られるんだぁ♪」

「零君の服を着て……寝る!?そんな素敵なこと、今まで経験したことがありません!!」

 

 

 私たちのライブは素敵な感動じゃなかったのぉ!?まさか零君の下着に負けるなんて……ちょっと、いやかなり複雑です……

 

 もう亜里沙ちゃんも穂乃果ちゃんたちと同じ側の人間になっちゃったよ……せめて海未ちゃんか真姫ちゃん、雪穂ちゃんの中から誰か1人でもいればこの状況を抑えられるかもしれないのに、私1人じゃ無理だよぉ!!

 

 

「もう我慢しなくてもいんだよ花陽ちゃん」

「ことりちゃん……」

「女の子なら、好きな男の子の匂いを嗅いじゃうのは普通なんだよ。その匂いに包まれて、深夜イケナイことに勤しむ……あぁ!!なんてアイドルな響き!!この背徳感はことりたちがスクールアイドルだから味わえることだよね♪」

「アイドルを汚さないでください!!」

 

 

 私はまだいいけど、にこちゃんにそれを言ったら絶対に怒られるよ!!あっ、でも今のにこちゃんもことりちゃんたちと同じ類だからもしかしたら共感しちゃうかも……!?だとしたら純粋なアイドル好きは私だけになっちゃう!?

 

 

「さあ花陽ちゃん!!零君に包まれながら寝るなんて、こんな機会滅多にないよ?」

「穂乃果たちも一緒に寝てあげるから!!零君を恐れなくてもいいんだよ。『赤信号、みんなで渡れば怖くない』ってね♪」

「花陽ちゃんも零くんに抱きしめられるの好きですよね?温もりも匂いもありますし、気分だけでも味わってみてはどうですか?」

 

「うっ、うぅ~……」

 

 

 3人の誘惑と目の前に差し出された零君の下着に私の心が大きくざわついてしまいます。

 いけない、いけないことだと分かっているんです!!もし零君にバレたら怒られるに決まっています!!それにこんな変態さんみたいなことを私が……で、でもこの好奇心を唆る匂いはなんでしょうか……!?あれを私の身体が、いや私自身が欲しがっている!?

 

 

 ここで私はもう一度零君の下着を見つめます。

 こ、これって今日零君が履いていたんだよね……?そしてまだ洗濯していないんだよね……?それには零君の温もりやちょっとアレな匂いも染み込んでいるんだよね……?

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

 そして私は、差し出された零君の下着に――――――手を伸ばした。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 高坂雪穂です。

 

 今日の夜は海未ちゃんと凛ちゃん、希ちゃんと私の4人で寝ることになりました。何とも奇抜な組み合わせですが、海未ちゃんが一緒だと安心できるかな?だってお姉ちゃんやことりちゃんと一緒になると考えただけでも頭が痛くなるから……亜里沙は多分大丈夫だろうけど、花陽ちゃんは今頃助けを呼んでるな、きっと。

 

 

「さあもう寝ましょう。明日も授業なのですから」

「張り切ってるね海未ちゃん。ウチらは明日午後からの授業やから、別に早く寝なくてもいいんやけどね」

「もしかして海未ちゃんが張り切ってる理由って、零君に褒められたから?」

「り、凛!?それをどこで!?」

「雪穂ちゃんから聞いたにゃ」

「雪穂!?あなたはどこで!?」

「えっ、お、お姉ちゃんから……」

 

 

 今日の朝、どうやら3年生組同士で一悶着あったみたいです。私はそれをお風呂の最中、お姉ちゃんに延々と聞かされていたんですけどね。その後、機嫌がいい海未ちゃんのことを疑っていた凛ちゃんたちにまで迫られたため、勢いに負けて話してしまったのです。

 

 

「もうダメですおしまいです……」

「別に気にすることはないと思うよ。結果的には体重計が壊れてたせいやし♪」

「そうそう!!それに海未ちゃんって身体が細いから、少し体重が増えていても分からないにゃ♪」

「そうやね♪ウチ的にはもうちょっと胸が大きくてもいいんやけど……」

「希ぃいいいいいいい!!」

 

 

 相変わらず希ちゃんも変態だなぁ……私も一度ワシワシされたことがあるけど、お姉ちゃんから聞いていた通りあれは恐ろしいものだよ。それを上回る実力を持つ零君のワシワシはもっとすごいらしいけど……私は遠慮しておこうかな。

 

 

「雪穂ちゃんも凛ちゃんも、もっと食べて胸に栄養与えないといかんよ?」

「よ、余計なお世話です!!別に胸を大きくしたいと思ったことはありませんから!!」

「そうだにゃ!!別に零くんは大きくても小さくても平等に愛してくれるよ!!ねっ、雪穂ちゃん!?」

「れ、零君のことはどうでもいいですが、胸の大きさも同じくどうでもいいってことです」

 

 

 μ'sに入ってから基本は楽しいことだらけなんだけど、唯一コンプレックスを感じるのは胸の大きさをイジられることなんだよね。基本的にイジってくるのは零君と希ちゃんぐらいだけど、言われるたびにやっぱり意識しちゃう……女の子だし。

 

 ちなみにお姉ちゃんの胸の大きさは2年生進級時にはまあまあだったのに、2年生後半から3年生にかけてかなり成長したんだよね。これも零君と恋人同士になったから?俗に言う幸せ太りがいい方向に影響したのかな?だったら妹の私も同じようになるはず……

 

 

「でも海未ちゃんは、もっと胸が大きくなったらいいのにって思ってるでしょ?」

「思ってませんよ!!言いがかりはやめてください!!」

「あれ~?でもこのまえ脱衣所で、みんなの下着の大きさを確認してたくせにぃ~♪」

「はっ!?」

「「えっ!?」」

 

 

 う、海未ちゃんが……?ま、まさか……だって破廉恥嫌いで有名なあの海未ちゃんだよ?勝手に人の下着を漁るなんて考えられないよ!!私の理想のお姉ちゃん像を返して!!

 

 

「海未ちゃん……まさか女の子に興味があっただなんて驚きだにゃ!?」

「ありません!!それにどうして希がそれを知っているのですか!?」

「実はカバンから出し忘れていたタオルを洗濯カゴに入れようと思った時に……」

「見てしまったのですね……」

 

 

 本当だったの!?海未ちゃん、やっぱり胸のこと気にしていたんだ……そうだよね、だって零君は胸が大きい女の子が好きなんだもんね。零君は大きくても小さくてもどっちでもいいって言ってるけど、大きいに越したことがないに決まってるし。

 

 私は…………やっぱどうでもいい!!どうでもいいんだ……

 

 

「どうして希ちゃんはそんなに胸が大きくなったのぉ~?1人だけズルいにゃ~~」

「特にはなにもやってへんよ。普通に生きてたらこうなってた」

「そのセリフ、すごくムカつくよ……」

「まあまあ凛ちゃんも雪穂ちゃんも未来はあるよ!!」

「この1年ずっと同じことを言われていた気がするにゃ……」

「私の名前がないということは私には未来がないのですね……」

「それよりも私を巻き込まないでください!!」

 

 

 うぅ~……私ってそんなに胸小さいかなぁ?実際に比べたことはないけど、一応にこちゃんや凛ちゃん以上はあるはず。もしかしたら海未ちゃんより、ほんの少しだけ上かもしれない。多分この中では2位のはず――――――やめよう、こんなのドングリの背比べだよ……

 

 

「じゃあウチが胸を大きくするとっておきの方法を伝授してあげようか?」

「そんなものがあるの!?あるならケチケチせずに教えてよぉ~」

「ふふふ……これはあのにこっちの胸すらも大きくしたまさに神業や♪」

 

「なんでしょう、とてつもなくイヤな予感しかしないのですが……」

「同感です……」

 

 

 私たちの間に不穏な空気が漂います。『今すぐここから逃げろ』と、私のカンがそう告げて来る……逃げないと!!一番安全なのはどこだろう……お姉ちゃんたちの部屋は絶対に阿鼻叫喚の地獄絵図だろうし、楓がいる部屋はうるさいから絶対に行きたくない。だったらもう零君の部屋しかないじゃん!!

 

 

 私は凛ちゃんと海未ちゃんを見捨てて自分1人で部屋を飛び出そうとしました。

 

 

 

 

 その時――――――

 

 

 

 

「逃げたらいかんよ♪」

「あ、脚が!?」

 

 

 少し距離があったのにも関わらず、いつの間にか希ちゃんに脚を掴まれていました。相変わらず気配なく忍び寄るのが得意なんですから!?

 

 そ、そんな関心をしている場合じゃない!!や、やられる!!このままではあの技の餌食にぃいいいいいい!!

 

 

「逃げた雪穂ちゃんにはオシオキに、ワシワシMAXハイパーや♪」

「いやぁあああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

「雪穂ちゃん……合掌するにゃ……」

「雪穂のご冥福をお祈りします……」

 

 

「死んでませんから!!助けてくださいよ!?!?」

 

 

 

 

 そして私は翌朝まで気絶していたらしいです……ちなみに胸は大きくなっていませんでした。

 

 

 嘘つき!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 西木野真姫よ。

 

 今日は絵里とにこちゃん、そして楓と一晩を一緒に過ごすことになったわ。正直静かに過ごすことができる海未や花陽、雪穂と一緒になれた方がよかったんだけどね。にこちゃんや楓はうるさいし、絵里は最近微妙に頼りないし……みんなと話すことはキライじゃないけど、うるさいのだけは勘弁だわ。

 

 

「さぁ~て、女の子が夜に集まって話をするとなれば、もうそれは猥談しかないでしょう!!」

「わ、猥談って……え、えっ…………ちなことよね?」

「絵里、楓の言うことなんて放っておけばいいのよ。にこたちはもう寝ましょ」

「そうね、明日も朝早いし」

 

 

 絵里は変態否定派の人間だけど、話に乗っかろうとするから零や楓に煽られるのよ。にこちゃんは零のことになると暴走するだけで普段は割とドライな面もあるから、2人で協力すれば今晩は楓の暴走を止められそうね。

 

 

「むぅ~……じゃあみんなでお兄ちゃんの好きなところを言い合いましょう♪」

「賛成!!これはにこの大勝利で幕が下りるわね!!」

「に、にこちゃん!?寝るんじゃなかったの!?」

「零のことで勝負を吹っ掛けられて、にこが逃げるわけないでしょ!?」

「も~う……絵里からも何とか言ってよ」

「零のいいところか……何個あるかしら?」

「絵里ぃいいいいいい!!」

 

 

 楓はニヤリとした表情をして私を見つめてくる。う、ウザイ……まさにしてやったりみたいな顔ね。零を引き合いに出せばにこちゃんと絵里が乗せられることを初めから分かっていたんだわ。まさか私を煽るためにここまで零の話題を引っ張ってきたんじゃあ……

 

 にこちゃんもにこちゃんで零のことになるとキャラが変貌するし、絵里は絵里でいつもの如く役に立たないし……全く、大学生が聞いて呆れるわね。

 

 

「はいじゃあスタート!!まずは真姫先輩から!!」

「えっ、私!?か、カッコいいところ!!」

「「「お~!!」」」

「な、なによ!?」

 

 

 私なにか変なこと言ったかしら!?みんなが一斉に私を見て感心し出したんだけど……別に普通のことよね?突然振られてびっくりしたっていうのもあるけど。

 

 

「真姫が素直に零を褒めるなんて思ってなかったから……」

「ゲームだからよ!!それ以上でもそれ以下でもないわ!!」

「相変わらず素直じゃないですねぇ~……じゃあ次は絵里先輩で!!」

「私?そうねぇ……ああ見えて意外と優しいところかしら」

 

 

 まあ零はμ'sのためなら命を捨てる覚悟だしね。現に私たちがおかしくなった時に、自分の命を掛けて助けてくれたから間違ってないわ。細かな気遣いもできて練習中も『疲れてないか』とか『痛いところはないか』とか、すごく過保護だし。

 

 

「じゃあ次はにこね。え~と、女の子の胸を揉むのが上手いところね♪」

「おぉ!!共感できます!!」

「ちょっと!!突然飛躍し過ぎでしょ!!もっと他にあると思うけど!?」

「次は私です!!そうですねぇ~~セクハラする時の手つきがイヤらしいところですかね♪」

「勝手に続けないで!!もうっ、絵里も何か言ってよ!!」

「胸を揉む、セクハラ……そう言えばこの前零に胸を突っつかれたのよね……あの時は気持ちよかったな♪」

 

 

 もーーーーう!!これだから海未や雪穂と一緒の方がよかったのよ!!μ'sに入る前の威厳MAXな絵里は一体どこへ消え去ったの!?これじゃあ私がツッコミ死しちゃうじゃない!!零と同じ死に方をするのだけは勘弁だわ!!

 

 

「次は真姫先輩ですよ。ちなみにさっきより濃い内容じゃないと失格ですから」

「なにそのルール!?」

「真姫先輩も1つや2つあるでしょう?お兄ちゃんにセクハラされたことがぁ~♪」

「ぐぅ……」

 

 

 ないわよ!!――と言いたいところだけど、残念ながらあるのよね。胸を揉まれたり、太ももを揉まれたり、最近ではパンツを脱がされたり……どれもこれも犯罪よ。私の黙認の上であなたの人生が成り立っているんだからもっと感謝して欲しいわ。

 

 

「ほらほらぁ~~やっぱり真姫には無理なのよ。早くリタイアしてにこの番に回しなさい」

「真姫……にこと楓に負けてはダメよ」

「絵里……あなたは続けるの?こんなくだらないゲームを」

「わ、私もくだらないと思ってるけど、彼のいいところをみんなで共有できるのはいいことかなぁって……」

「割と乗り気なのね……はぁ~……」

 

 

 これだから世間からポンコツポンコツって言われるのよ……それで可愛げアピールをしてるつもりなのかしら?別に様になってなくはないから否定できないのよね。普段とのギャップで萌えるって人もいるみたいだし。でも今は私の逃げ場を完全に塞ぐ結果となったわ。

 

 

「じゃあ真姫を飛ばして絵里の番!!」

「う~ん……え、えっ…………ちの時も優しいところとか」

「にこも分かるわその気持ち!!」

 

 

 絵里……そんなに顔を沸騰させるのならやめればいいのに。それにちょっと間を空けてるけど、結局恥ずかしいセリフを言っているのは変わらないから。はぁ~……早く寝たい。

 

 

「次はにこね!!う~んとねぇ~~あっ!!おっぱいを吸うのが上手!!」

「なんですかそれ!?初耳ですよ!?」

「だってこれは彼女であるにこだけの特権でしょ♪」

「私も一応彼女なんだけど?」

「絵里は奥手だからそういうことしたことないんじゃない?」

 

 

「あ、あるわよ!!私だってチューチュー吸われたことぐらいあるんだから!!」

 

 

「「「……」」」

 

 

「えっ、どうしたのみんな……?」

「絵里、もうあなたもにこちゃんたちと同類よ」

「え゛っ……!!」

 

 

 前々から思っていたけど、絵里ってむっつりスケベよね……脳内だけならにこちゃんや希よりもピンク色の可能性があるわ。だから暴走した時はそんな恥ずかしいセリフを平気で言えるようになるのよ。普段平静を装っている人が急に破廉恥セリフを叫んだら、そりゃあにこちゃんも楓も驚くわね。

 

 

「エリーチカ先輩には負けませんよ!!次は私の番です。えぇ~と……○○○が大きい!!」

「ちょっと楓!?それはアウトでしょ!?」

「黙ってなさい真姫!!ねぇ、にこだけに零の○○○の大きさ教えて?」

「ハラショー……」

「そうですねぇ~このゲームで私に勝てたらいいですよ!!」

「言ったわね!!じゃあここからは私とアンタの一騎打ちよ!!」

「望むところです!!」

 

 

 その後、この部屋は様々な淫語が飛び交うピンク色の空間になってしまった。結局私と絵里は蚊帳の外へと追いやられ、にこちゃんと楓の猥談を無理矢理聞かされるはめに……

 

 これなら花陽たちと同じ部屋……はダメね。多分今頃花陽は穂乃果たちに堕とされているでしょうし、海未たちの部屋は希が暴走しているだろうから行きたくない。零の部屋が一番安全そうってどういうことなのよ……

 

 明日からは私、花陽、海未、雪穂という快眠確定グループで寝たいわ……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 その頃、ある男の部屋では――――

 

 

 

 

「今晩は折角1人にしてもらったのに、うるさくて眠れねぇ……」

 

 

 

 うなされていた……

 




 マトモなグループが1グループもいない件について……
 海未、花陽、真姫、絵里、雪穂の中からグループを作らないと静かになる組み合わせはないですね(笑)
 逆に穂乃果、ことり、希、にこ、楓のグループは恐ろしすぎて自分でも書くことができません!!もはや存在自体がR-18と言われている人もいますから。


 そして設定自体を忘れている人もいるかもしれませんが、同棲生活は2週間の期限付きです。今回で7日目なのでようやく折り返しました。以下に時系列を載せましたが、零君の一週間は非常に濃いです(笑)


付録:同棲生活時系列

1日目『新たなる決意!同棲生活スタート!!』
   『穂乃果とことり、お風呂でおもてなし』
   『凛、脱衣所での誘惑』
   『真姫、深夜の天体観測』

2日目『私、スクールアイドルをやめます』

3日目『回転寿司へ行こう!』

4日目『美少女零ちゃんとおっぱいまくら』
   『欲望渦巻く王様ゲーム』

5日目『私、ずっとあなたのことが好きでした』
   『海未、秘密のダイエット作戦!』(序盤)

6日目『海未、秘密のダイエット作戦!』(中盤)

7日目『海未、秘密のダイエット作戦!』(終盤)
   『男子禁制!?ガールズトーク!』




Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絵里、ポンコツを脱却せよ!!

 7月号一発目です!

 今回は最近腑抜けになっている絵里を零君が更生させてあげる話。もうこれでポンコツとは言わせない!!


 μ'sの歴史の中で最も大きなイベントと言えば、口を揃えて誰もが"ラブライブ!"と答えるだろう。確かに穂乃果たちが"ラブライブ!"に出場するまでには相当な苦難があった。一度μ'sが解散に追い込まれて(アイツらの自爆だが)エントリーを取り消したこともあったっけ。あの時は俺もμ'sを再結成するために奔走したもんだ、うんうん。

 

 

 

 

 でもμ'sの苦難は何も"ラブライブ!"出場の時だけではない。もう1つ挙げるとするならば――――――絵里だ。

 

 

 

 

 ちょうど1年前のこの時期だったか、アイツがμ'sの活動を妨げていたのは。あの時の絵里は本当に頑固で、希のサポートがなければμ'sの活動はかなり窮屈になっていただろう。絵里がμ'sに加入するまでもかなりの苦労があったわけだ。

 

 だがアイツも意地を張っていただけで、学院を守りたいという強い気持ちはμ'sにも負けてはいなかった。むしろμ'sよりも強かったまである。その方向が歪んでいただけで、自分の気持ちに気づいていなかっただけなんだ。

 

 当時のアイツはそのせいで、穂乃果たちにお堅いけど誠実でクールな先輩という印象を大きく与えた。そしてμ'sに加入してからは、面倒見の良いμ'sのお姉さん的ポジションを確立したのである。ダンスと歌の上手さから穂乃果たちの尊敬と憧れにもなっていた。

 

 

 

 

 だが、今は――――――

 

 

「零ぃ~ジュース取ってぇ~」

 

 

 人の家のリビングなのにも関わらずソファで横になり、お菓子を食べながら雪穂が置いていったファッション誌を眺めている(同棲生活中だからこれは別にいい)。服は部屋着で半袖半ズボン、足をパタパタさせるたびにチラチラと綺麗な太ももが見え隠れする。もはやそこに女の子の羞恥心など一切感じていない。髪も解いているのでボサボサになっており、自慢の綺麗な金髪を思いっきり殺している。

 

 

 これがかつてあのμ's全員が憧れた絢瀬絵里、真の姿だ。

 

 

 最近は特に腑抜けている姿を躊躇なく俺たちに見せつける。恐らく恥ずかしいという感情すら湧いていないのだろう。あの変態の希やにこでさえ身だしなみや日常生活の仕方に気をつけていると言うのに……可愛げがあるからいいというのは、ただの気休めに過ぎない。

 

 

「おい……お前最近だらけ過ぎだぞ」

「そう?いつもと同じだと思うけど」

 

 

 自覚なし!!これは重傷だ……早く何とかしないと!!

 受験前は多少ピリピリしていたが、いくら希望の大学に希とにこと一緒に入れて安心したと言ってもこの腑抜け具合は異常だ。こんな姿を亜里沙が見たら驚愕して発狂するまである。アイツはお姉ちゃん大好きっ子だからな。いや、むしろ家で見慣れている可能性もあるか。

 

 

「よしっ決めた!!」

「な、なによ急に大声出して……」

「この俺がお前を更生させてやろう!!いつまでもその姿だと、いずれ穂乃果よりもダメになるぞ!!」

「ほ、穂乃果よりも!?それは重傷ね……」

 

 

 ようやくやる気になったか。アイツを引き合いに出すのは最終手段だったんだけど、やはり穂乃果と聞けば事の重大さに気づくだろうと思っていた。流石に穂乃果のダラけ具合よりも酷くなるのは己のプライドが許さないだろうし。

 

 

「思い立ったら吉日!!早速始めるぞ!!」

「始めるって……なにを?」

「いいから俺について来い……いやその前に着替えろ。流石にその姿はラフ過ぎる」

「えぇ~……」

「いいからテキパキ動く!!」

「はぁ~い……」

 

 

 こりゃあ思ったよりも厳しい戦いになるぞ。でも平和ボケした絵里をあの頃の誠実でクールで優しい彼女に戻さないと、来週末のライブに支障が出る可能性もある。ここは絵里に気張ってもらうしかないな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「まずはお前の不注意を直さないと。平和ボケかなにか知らねぇけど、日常生活でも細かなミス連発してるだろ」

「そ、そんなことないわよ……」

「嘘つけ。昨日洗濯担当のことりが、『絵里ちゃんのズボンの中からティッシュが出てきた!!』って驚いてたぞ……」

「わ、忘れてたのよ!!」

「でもハンカチも常にポケットに入れてるだろ!!だったらなんでハンカチだけ抜き取ってあるんだ!?」

「それは……」

「はぁ~……そういうところが最近不注意なんだよ。ちなみにティッシュが入ってたの、この1週間で2回目だからな」

「えっ!?」

 

 

 やっぱり自覚なしかよ……いつもは練習中みんなに『体調管理は気を付けろ』だの、帰る時は『忘れ物はないわね』だの言っているが、俺はお前が一番心配だよ。まだ穂乃果や凛がマシに見える俺は末期なのか……?いや、今の絵里は誰よりも危険だろう。

 

 

「そういやこの前洗面所に行った花陽が、風呂場からお前の叫び声が聞こえたって言ってたけど、それってなんだったんだ?」

「……」

「正直に言いなさい。怒らないから」

「ホント……?」

 

 

 絵里はシュンとした顔で俺の顔を見つめてきた。

 

 そ、そんな悲しそうな目で上目遣いすんなよ!!心トキメクだろ!!しかもこの状況だけを見れば俺が悪いようにしか見えねぇし……本当に女の子ってズルいよな!!ちょっと悲壮感溢れる表情をしておけば、ぜぇ~んぶ男のせいにできるんだもん!!

 

 

「ま、間違えてシャワーで水を出しちゃったのよ……」

「また不注意か……」

「そして温度を上げようとしたけど冷たくて焦ってね、間違えて違うレバーを捻っちゃって、そうしたら水の勢いが強くなって――――」

 

 

 ちょっと待て1個じゃなかったのかよ!?連鎖的におっちょこちょいが続き過ぎだろ!!あの頃の冷静沈着絵里は本当どこへ行ったんだ!?まるでRPGでボスが仲間になる時みたいだ。敵として戦う時はすごくステータスが高いのに、仲間になった途端全体的にステータスが引き下げられるみたいな。

 

 

「お前から失われたものが多いことだけは分かったよ」

「私だって好きでやっているわけじゃないのよ?」

「そりゃあそうだろうよ!!そんなこと好き好んでやる奴なんて、『ちょっとドジな私可愛い』アピールをする奴だけだ!!」

 

 

 俺は絵里にそんなあざとさは身に付けてもらいたくはない。そのままでも十分に可愛いんだから、余計キャラ付けで変な男が寄ってくるのだけは避けねぇとな。そのために、コイツの冷静さを取り戻す訓練をしないといけない。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「じゃあまずは凛と話してこい」

「凛と?でも今どのカップラーメンを食べようか選んでいる最中じゃない?」

「アイツ最近食べ過ぎなんだよ。海未にそう言われているのにも関わらず、人目を盗んでカップ麺を食べようとしてやがる」

 

 

 凛は涎を吹きながら勝手に俺の家の棚を漁っている。あのμ'sの一員である凛のこんな姿、ファンには絶対見せられないな。涎を垂らし、目をギラギラさせながらカップ麺を漁るスクールアイドルがどこにいるんだよ……

 

 

「でも鼻歌歌って楽しそうにしてるし、邪魔したら悪いと思うけど……」

「そこが問題なんだよお前は!!かつてのお前ならアイツらの健康事情にはもっと厳しくしていたはずだ!!いいからバシッと注意してこい」

 

 

 絵里は『はぁ~い』とやる気のない声を出し、渋々ながらも凛の元へと歩いて行った。

 μ's加入前と比べてかなり態度が軟化したとはいえ、これは軟化し過ぎだ。柔らかくなり過ぎて溶けるまである。

 

 

「凛!!」

「ひゃあっ!!え、絵里ちゃん!?急に大声で話し掛けないでよビックリするにゃ!!」

「ゴメンゴメン、でもコソコソとなにしてるのかなぁ~と思って」

「え゛っ!?ちょ、ちょっとだけ小腹が空いたのでカップ麺でもと……」

「海未に注意されているんじゃないの?最近食べ過ぎだって」

「そうなんだけど、凛は成長期だから食べないと大きくなれないの!!」

 

 

 それだけ食べているのに胸だけは成長してないんだな、なんてここから叫んだら凛が泣いて飛びかかってくるだろう。すごく言ってやりたいけどここはグッと我慢だ。俺はあくまでも裏方仕事。絵里1人で解決してこそ意味があるからな。

 

 

「でもカップ麺ばかり食べてたら身体によくないわよ。苦手なお魚だって食べないと……」

「ぐすっ……」

「えっ!?り、凛!?どうして泣いてるの!?」

「こ、この前絵里ちゃんに無理矢理お魚食べさせられそうになったことを思い出して、それで……ぐすっ」

 

 

 そういやそんなことあったな……あれは同棲生活1日目の夜だったか。あんなマジな泣き顔を見せられたら、もう無理に好き嫌いを克服しろだなんて言えねぇよな。

 

 

 でも、今のコイツの泣き顔は明らかに嘘泣きだよな……『ぐすっ』なんて声で言うもんじゃねぇし。絵里、その演技のことも含めてちゃんと注意してやれよ。

 

 

「あれはちょっとしたおふざけで……でもゴメンなさい!!」

「うぅん……好き嫌いしている凛が悪いの」

「そうよね、嫌いなら無理をして食べなくてもいいのよね。私にだって嫌いなものはあるもの」

「絵里ちゃんもなんだぁ……えへへ♪じゃあ今は一緒に凛の大好物を食べるにゃ~♪」

「そうね、一緒に食べましょう♪」

「………………チョロいにゃ」

「なにか言った?」

「なんでもな~い!!さぁ早く食べようよ!!」

 

 

 おぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!絵里の奴、本当に信じちゃったよ!?!?あんな嘘泣きほど分かりやすものはねぇぞ!!かつてのお前ならそんな作り物の感情に流されなかったはずだろ!!流石に甘すぎる!!

 

 

「絵里ちゃんには、このスープが美味しい『濃厚とんこつラーメン』をオススメするにゃ!!」

「そう?これって凛のお気に入りじゃないの?」

「お気に入りだからこそ絵里ちゃんに食べてもらいたいんだよ♪」

「凛……ありがとう!!」

「………………チョロいにゃ」

「なにか言った?」

「なんでもな~い♪」

 

 

 簡単に相手の土俵に乗ってしまうのが絵里の弱点だな。みんなと仲良くするのはいいことなんだけど、これは後輩にナメられ過ぎてないか!?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ほ~らにこっち、ワシワシぃ~☆」

「ぎゃぁああああああああ!!」

 

 

 人の家の中でレズプレイしてんじゃねぇよ……ちなみに俺はそんな趣味ないからな。多分この場合希が暇つぶしににこをイジって遊んでいるだけだと思うけど、プレイの内容がR-17.9路線だから放送的にマズイ。さっきからもう尽くファンには見せられない光景ばかりだ。

 

 

「絵里、お前はあれを見て何を思う?」

「え?いつもの光景だなぁ~としか……」

「ま、マジで?女の子のおっぱいを揉む現場に遭遇して、"いつもの光景"とはよく言えたものだ」

「あなただけには言われたくないわね」

「どうしてそこだけ冷静になるんだよ……」

 

 

 俺に対してだけは冷静にツッコミを入れられるくせに、どうしてアイツらにはツッコミを入れない!?むしろなぜ便乗する!?本格的にコイツの思考が読めなくなってきたぞ……

 

 

「次は希を止めてこい。かつてのお前なら造作もなかったことだ」

「えぇ~……」

「確かにあの希に関わり合いになりたくないのは分かる。でもにこだってお前の親友だ、あのままってわけにもいくまい」

「別ににこだったらいいんじゃない、ワシワシされて気持ちよさそうだし」

「仲間を売るな!!いいから行ってこい!!」

「きゃあっ!!」

 

 

 俺は絵里の背中を押して、希とにこが作り出すピンクの空間へと放り込んだ。凛とは違って同学年同士でしかも親友、やってはいけないことぐらいは真っ直ぐ言えるようにはなって欲しい。毎回この2人の勢いに押されて尻込みしてしまうからな。

 

 

「え、絵里!?助けて!!」

「絵里ちもよかったらにこっちをワシワシする?」

「なに言ってんのよ!?絵里がそんなのに加担するわけないでしょうが!!」

「そう?なんだかんだ言って絵里ちはムッツリさんやから♪」

「ムッツリが女の子の胸を触る勇気なんてないでしょ!!」

「いやムッツリも変態の一種やし、侮ってたら痛い目みるよ♪」

 

 

「ちょ、ちょっと2人共……」

 

 

 率直な感想を言おう――――これはダメだ。希とにこの会話に混じって荒波に揉まれるならまだしも、絵里はまだ2人の会話にすら入っていない。入っていないのにネタにはされる始末って最悪だな……むしろこの2人の会話についていける奴の方が少ないのか。

 

 

「もうアンタのワシワシは慣れちゃって、微塵も気持ちよくなんてないのよ」

「言ってくれるね。じゃあもう一度やって確かめようかなぁ~」

「希の揉み方はいつもワンパターンなのよ。気持ちはいいんだけど、慣れちゃったらそれも感じられないってこと。今のにこには一切通用しないわ」

「わ、ワンパターン!?それは初耳……」

「所詮初代ワシワシ、後継者が出たら潰されていくのが運命よ」

「じゃあにこっちを実験台に、新たなワシワシの開発を――――」

「こ、こっちへ来るなぁああああああああああ!!」

 

 

「あ、あのぉ~……」

 

 

 もはや2人の会話のネタにすらされなくなってしまった……絵里の存在も忘れてるだろうな。今のアイツらはまさに狩る者(胸を揉む者:巨乳)と狩られる者(胸を揉まれる者:貧乳)、2人だけのピンク色の戦闘が再び繰り広げられている。

 

 

「行くぞ絵里」

「あれ?私まだ何もやってないけど?」

「お前でも分かるだろ、あれは無理だって」

「そ、そうね……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ことりちゃん!!その掛け布団は穂乃果のだよ!!」

「じゃあパジャマの上下はことりのものね♪」

「うぅ……それも欲しい」

「欲張りはいけませ~ん♪」

 

 

「次はアイツらな」

「絶対にイヤ!!」

 

 

 最後のターゲットは、危険度で言えば希やにこを超える値を叩き出すであろうこのコンビだ。

 ちなみにアイツらは何を取り合っているかって?――――――誰かさんの布団とパジャマだ。今日の朝、洗濯カゴを見てみたら洗濯されずに残っていた俺の体操服があった。しかも涎付きで……犯人はすぐに分かったけど、おぞましいから追求する気にはなれない。

 

 

「あの状態の穂乃果とことりは、あなたの手にも負えないんじゃないの?」

「だろうな。もちろん今のお前じゃ無理だから今回は見物だ」

「えっ?じゃあ私はなにを?」

「まあ見ていろ」

「?」

 

 

 この状況は絵里でなくともあの2人を止めるのは無理だろう。雪穂でも真姫でも花陽でもな。そして俺が行ったら逆効果になること間違いなしだ。じゃあ誰が止めに入るかって?そりゃあ大正義のあの人がいるじゃないか!!

 

 

「こら!!2人共洗濯物を出してなにをやっているのですか!!」

「「う、海未ちゃん……」」

 

 

「う、海未!?」

「そう。もうしょうがねぇからアイツを見て勉強しろ」

 

 

 変態野郎には決して負けない最後の砦、園田海未。アイツが襲来するだけで周りが争いをやめ、ちょっとした破廉恥行為も許さない、まさに大正義。俺もその大正義の鉄槌を幾度となく浴びせられている。だが浴びせられているだけで更生はしていない。

 

 

「す、すごいわね、海未から出ているオーラ……」

「あれは破廉恥行為を見つけ、怒りに満ちている時に発せられるものだ」

「よく知ってるわね……」

「慣れっこだからな」

 

 

 もう慣れ過ぎて、海未がどこからどんな制裁を繰り出し、どこを殴られたらどのような痛みが発生するか知っているまである。決して痛みを快楽とは思っていないのであしからず……

 

 

「う、海未ちゃんもどう?零くんのパジャマ、いい匂いがするよ♪」

「そうだよ海未ちゃん!!零君の布団で一緒にお昼寝しよ♪」

 

 

「黙りなさい!!」

 

 

「「はい……」」

 

 

 

 

「ハラショー!!一言で穂乃果とことりを静めたわ」

「幼馴染だから、海未の怖さはアイツらが一番よく知ってんだろ」

「海未……すごい!!」

 

 

 おおっ!!絵里が目を輝かせて感動している!!そうだよ、冷静さと誠実さを学ばせるなら、初めから1人でやらせずに海未を手本にすればよかったんだ。ちなみに聞いた話では凛も希もにこも、海未によって粛清されたらしい。今までの苦労は一体なんだったんだ……

 

 でも、絵里は自分の中でようやく何かを見つけたようだ。これでμ'sの指導役として、みんなから慕われる存在に戻ることができればいいな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 そして、その日の練習……

 

 

 

 絵里は海未から誠実さと冷静さを学ぶため、彼女をお手本にしたのはいいのだが――――――

 

 

「凛!!動きが大きいわよ!!昨日も同じこと言ったわよね!?にこに希!!少しステップ間違えたでしょ!!最近そこのミス多いわよ!!穂乃果!!毎回そこ先走りすぎ!!気をつけなさい!!ことり!!あなたはもっと大きく動きなさい!!体力がないなら個人レッスンしてあげるわ!!」

 

「え、絵里ちゃん勘弁してよ~……」

「急にどうしちゃったのよ……」

「流れるような指摘は流石やけど、ちょっと厳しいかも……」

「穂乃果もう疲れたよ……」

「ことりも限界ですぅ……」

 

 

「零、絵里になにがあったのですか……?」

「し~らね」

 

 

 海未以上のスパルタになっていた……

 

 

 でも一応ポンコツは脱却……したよな?

 




 エリーチカはポンコツ可愛い

 そんなわけで、見事ポンコツから脱却(?)しました。しかしそれによる被害者は数知れず……
絵里も海未と同じ熱いハートを秘めてしまったら、合宿の練習などが地獄になりそう。やっぱりいつもの絵里が一番いいかな?

 自分が最近よくしてしまう不注意と言えば、携帯の充電を忘れて出かけてしまうことです。だからいつも友達に充電器を借りる始末……頭が上がりません。もっと自分を鍛えなければ!!

 次回は1年生個人回ラスト、楓回です。一番懸念しているのはオリ主×オリキャラがメインとなること。まだ話の構成はあまり立てられていませんが、もしかしたら原作キャラが出ない可能性も。それでもよければお付き合いください。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私だって、"零くん"の彼女になりたかった!!

 今回は1年生個人回ラスト、零君の妹である楓回です。そして作者の超絶オ○ニー回。

 オリ主×オリキャラという話の構成上、穂乃果たち原作キャラが一切出てきませんので閲覧にはご注意を。

 『穂乃果たちが出ないならいいや』という方はこの話だけは飛ばしてもらっても構いません。

 そして多分あまり役には立たないですが、活動報告にて『超短編小説~お兄ちゃんを好きになった理由~ 』を読んでおくとほんの少しだけ楽しめるかも?


「よいしょっと……これで粗方片付いたな」

 

 

 同棲生活9日目。もうここまで来たらμ's全員が家族のようなもので、みんなが家にいることにも一切違和感がなくなっていた。基本的には自宅ぐらいは静かに暮らしたい典型的な引きこもり体質なのだが、一緒に暮らしてみると賑やかなのも案外悪くはない。大好きな彼女たちの隣にずっといられることが一番の要因だと思う。

 

 

「大好き……か」

 

 

 俺の手には片付けの最中に見つけた1枚の写真。そこには幼い頃の俺、そして妹である楓が写っている。

 自慢ではないが、この17年の人生の中で女の子から"大好き"と言われた回数は、世界ランキングにしても上位にランクインする自信がある。もちろん彼女である穂乃果たちから言われるのは当たり前なのだが、実は俺に"大好き"と言った回数が一番多いのは楓だ。

 

 趣味や特技に何故か"お兄ちゃん"が関係するほどにブラコンで、周りを気にせず時には巻き込んで俺だけに愛を向ける台風っぷり。そんなアイツは幼い頃から俺にベッタリであった。そもそもの原因が秋葉による擦り込みなんだけどな……

 

 

 ちなみに俺と楓はずっと一緒にいたわけではない。生まれた時から俺が中学卒業までは一緒だったが、音ノ木坂学院に通うことになってから俺は実家から離れ、元々秋葉が住んでいた家を借りて一人暮らしをすることになった。つまり俺が高校入学してからの2年間、楓と会えるのは長期休みの日程度になってしまったんだ。

 

 アイツが俺によりベタベタしてくるようになった理由は、そういった別居生活があったからかもしれない。

 

 

「俺は、アイツのことをどう思っているんだ……?」

 

 

 実の妹に対してこんなことを考えること自体が間違っているのだろう。でも楓が俺に向けている愛は間違いなく本物だ。そこに兄妹という垣根は一切なく、1人の女として、"お兄ちゃん"ではなく"神崎零"という1人の男として俺を愛している。そしてアイツはそんな兄に恋をすることによって発生する弊害を、何一つ恐れていない。楓の恋が本物だという証拠だ。

 

 

 だけど俺はどうだ?俺の気持ちはどうなんだ?

 

 

 その質問を自分で問いかけると、決まって俺は答えを先延ばしにしてしまう。亜里沙の悩みを解決して以降、特にそれが顕著になった。俺は知らず知らずの間に答えを先延ばしにしていたのだが、もう同棲生活も今日を入れてあと6日。今週末にライブがあることを考慮するとそろそろ解決に着手しなければならない。もうこれ以上自分の心から目を背けるわけにはいかないんだ。

 

 

「話し合おう。今までほとんどアイツと真面目な話をしたことなんてなかったけど……」

 

 

 天真爛漫からは遠くかけ離れた存在である楓だが、自分の心にだけはいつも真っ直ぐだ。でも秋葉はそんなアイツにも悩みがあることを悟っていた。雪穂と亜里沙がそうであったように、アイツの心にも枷が付いているのだろう。

 

 

 だから俺は楓の兄として、そして1人の男として、アイツを救ってやりたい。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「来たよ、お兄ちゃん♪」

「おう、適当にそこら辺に座ってくれ」

「じゃあ布団を被ってベッドで横になろうかな♪」

「それだけはやめろ……」

 

 

 テンションは相変わらずいつも通りだ。むしろ俺の部屋に入ることができて、いつもより気分が踊っているようにも見える。普段から俺のベッドで昼寝なり自分磨きをするのが当たり前になっているコイツだが、今回ばかりは流石に俺の雰囲気を見抜いたのか、机を挟んで俺の対面に割座、いわゆる女の子座りをする。

 

 

「お兄ちゃんから私を部屋に入れるって珍しいね。どういう風の吹き回し?」

「俺とお前との間に御託はいらない。だから用件だけ言う」

「……」

「お前の心中を聞きたい」

 

 

 その瞬間楓が眉をひそめる。

 察しのいいコイツのことだ、俺の一言だけでその言葉の真意をすべて理解できたのだろう。普段から若干ツリ目がちな目がさらに鋭くなる。泣いたり怒ったりなどの喜怒哀楽のどれにも当てはまらない表情をしているため、今コイツがどんなことを考えているのかは分からない。

 

 

 楓は軽く深呼吸して、改めて俺と向き合う。

 

 

「はぁ~……女の子の悩みを無闇に詮索するものじゃないよ」

「兄だから当然だろ――――って言いたいところだけど、教えてくれたのは秋葉なんだ」

「お姉ちゃんが……ふ~ん……」

「俺自身が気づくべきだったんだけど、あの時の俺ではそれは無理だっただろうな」

 

 

 真姫から励まされる前の俺は、雪穂に亜里沙、そして楓のことを"見ているフリ"をしていた。穂乃果たちとの一件以降、俺は女性の心に繊細となっていて、その結果雪穂たちに近づこうとはしなかったんだ。

 

 それに気づかなかった俺は、"近づこうとはしなかったこと"を無意識の間に『彼女たちなら俺がいるから、悩みも心配もしなくていいだろう』と勝手に自分自身を偽っていた。

 

 

「気づかないのも無理ないよ。私だって誰にも気づかれないように隠していたわけだし……」

「それにしては随分と冷静だな」

「バレちゃったのならこの際、潔く言っちゃった方がいいと思ってね」

 

 

 いざという時の決断のよさは流石兄妹というべきか、話が分かる奴で正直助かった。雪穂と亜里沙と比べれば妹なので話はしやすいのだが、楓も俺同様人の心を読むことには長けているがゆえ、お互いの腹の探り合いになるだろうから総合的に見ればコイツが一番面倒だ。

 

 

「じゃあ話してくれるんだな?」

「うん。それにお兄ちゃんに聞いてもらわなきゃ意味ないし」

 

 

 そうは言うものの吐き捨てるように物を言う辺り、戸惑っていないことはないようだ。誰だって自分の心を無理矢理覗かれればそうなってしまうのも仕方がない。擁護はできないがこれはチャンスだと思って肯定的に捉えておこう。

 

 

「俺に聞いてもらわなきゃいけないってことは、やっぱり俺に関することなのか?」

「そうだよ。まあそう言っても、もう手の届かないだろうけど……」

「手が届かない……だと?どういう意味だ?」

「そのまんまだよ。私にとって、お兄ちゃんは遠すぎた……」

 

 

 楓の表情はこれまでの俺の人生の中で見たことがないくらい曇っていた。コイツはやることやること大体すべてが上手くいくので、楓自身は落ち込むことを知らない。大抵楓の表情は余裕ぶった悪い笑顔か、自分の気に入らない女(大体は俺に寄ってくる女性)に対する怒りに満ちた顔のどちらかだ。

 

 

「遠すぎたって……俺たちは兄妹だろ?普通なら一番近しい人間同士じゃないか」

「兄妹か……私はこれほどまでお兄ちゃんがお兄ちゃんでなかったらよかったのに、と考えたことはなかったよ」

「俺がお兄ちゃんじゃない……それってまさか!?」

「そう、やっぱり兄妹じゃあ普通の恋愛はできないね♪」

 

 

 楓は明るそうに振舞っているが、そんな曇っている笑顔では全然明るさを装えていない。

 やはりと言うべきか、楓は俺の"妹"であることにコンプレックスを抱えていた。兄妹というのはどう足掻いても決して揺らぐことのない決定的なものだ。そこは俺が解決できるできないどころの問題ではない。

 

 

「私は幼い頃からずっとお兄ちゃんのことが好きだったんだよ」

「ああ、知ってる……」

「何度も何度もアプローチをかけた。抱きついたり、変態なお兄ちゃんが大好きな、ちょっぴりエッチなこともしてみたりね」

「それは流石に愛が重すぎる……」

「そして何度も何度もあしらわれた。もちろん妹がお兄ちゃんに恋をするなんて間違っている。でも、本気で好きになっちゃったんだからしょうがないじゃん」

 

 

 楓の愛は本物だ。それは大体分かっていたが、アプローチまで本気だとは思っていなかった。

 これまでに幾度となくアプローチを仕掛けられていたが、それも全部兄妹愛を超越したゆえの行動だったのか。俺はてっきり9割以上がおふざけだと思い込み毎回適当にあしらっていたのだが、その度に楓を知らず知らずの内に傷つけていたのかもしれない。彼女の愛は、本物だったのだから。

 

 

「お前を無意識の内に傷つけていたのなら……悪かった」

「いいよ別に。兄としてなら、それが普通の対応だもん」

「兄として……か」

 

 

 兄としてなら妹と恋愛をするなんてもちろんもってのほか。多少妹が傷つこうとも未来のことを考えれば、楓の言う通りそれが普通の対応だ。俺も悔いを改める必要はない。兄と妹が健全に生きていくためにはそうしなければならないんだ。

 

 

 

 

 だけど――――――どうしてここまで心が痛む……?

 

 

 

 

 楓が兄妹の恋愛で悩んでいることに、どうして俺もここまで心を痛めなければならない。ここでガツンと『兄妹で恋愛なんてダメだ』と言うだけでこの事態は終息する。それなのに何故俺はそれを言わない……?何故俺は悩んでいる……?

 

 

「それにね、お兄ちゃんの彼女であるμ'sの皆さんを見ていると『やっぱり私じゃあダメなんだ……』って思うんだよ。お兄ちゃんと穂乃果先輩たちは傍から見てもまさに理想の恋人同士。9股しているなんて考えられないくらい、穂乃果先輩たちは幸せそうなんだよ」

 

 

「楓……」

 

 

 

 

「もう妹の私が付け入る隙はどこにもない!!お兄ちゃんの心を揺らすことなんてできないんだよ!!"妹"っていう枷がいつもいつも邪魔をするから!!こんなにも……こんなにもお兄ちゃんのことが好きなのに!!μ'sの皆さんよりもずっと、ずぅううううっと前から好きなのに、でもそれは絶対に叶うことがない夢!!ズルイよみんな!!お兄ちゃんに振り向いてもらえて!!精々私はお兄ちゃんの斜め後ろにいることが精一杯!!隣に並ぶことさえできない!!こんなことなら……こんなことなら……お兄ちゃんの妹になんてならなかったらよかった!!私だって、"お兄ちゃん"じゃなくて"零くん"の彼女になりたかった!!」

 

 

 

 

 楓は涙を流しながら遂に心に溜まっていた嘆きをすべて爆発させた。彼女が放つ言葉の1つ1つが容赦なく俺の心を貫く。もう"気づかなかった"と済まされるほどではない後悔が俺を襲う。

 

 楓がここまで心に重りを背負っていたとは思わなかった。普段の態度を見れば、雪穂や亜里沙以上にコイツは極めていつも通りだったのだ。

 もちろん楓の悩みは何なのか、この同棲生活中に何度も考えてみた。だが先ほど言った通り、俺は無意識の間に目を逸らしていたんだ。雪穂と亜里沙の一件から誰からも目を離さないと決めていたのにも関わらず……

 

 

 俺自身も"兄"と"妹"という枷に囚われていたのかもしれない。

 

 

 ――――――いや、それはただの言い訳だ。枷に囚われてもなお楓と向き合えなかった、俺自身の責任だ。

 

 

「そう考えた私は、もういっそのことこのままの関係でもいいと思ったんだ。私がお兄ちゃんに偽物のアプローチを仕掛け、お兄ちゃんがそれをあしらう、そんな関係。私はそれでも楽しいし、どうせ叶わないなら形だけでもいいから恋人みたいなことをしようかなぁ~ってね……」

 

 

 楓は必死に涙を抑えているが抑えきれていない。綺麗な目から溢れた涙は頬を伝って顔から滴り落ちる。

 俺はまた女の子の悲しい涙を見てしまった。雪穂や亜里沙の時に経験したのにも関わらず、その涙を見るたびに俺の心が溶かされてく。溶かされるたびに心が悲鳴を上げる。"またやったのか"と俺を縛り付けて拷問する。

 

 

 そこでさっきの問いかけに戻る。

 

 

 

 

 ――――――どうしてここまで心が痛む……?

 

 

 

 

 穂乃果たち9人に告白して、みんなと恋人同士になれたのはすごく嬉しい。そして俺はそれが間違った選択肢だとは一切思っていないし、今この状況でもそれが覆ることはない。少なくとも、これが原因ではなさそうだ。

 

 

 じゃあなぜ穂乃果たちに告白した?それはみんなの笑顔をもっと近くで見ていたいから。他の誰よりも近くで、彼女たちの笑っている顔を見たいから……

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 笑顔……か

 

 

 

 

 !!!!

 

 

 

 分かってきた……なぜ心が痛むのか?なぜ俺が楓に兄妹同士の恋愛をやめるように言ってこなかったのか?今まで曖昧だった、その答えが明確になってきた!!

 

 

 俺は深呼吸をして、俯いたままの楓と再び向き合う。

 

 

「楓」

「……?」

 

 

 楓は黙ったまま顔を上げ、俺の顔を見つめた。

 

 

「俺はお前と一緒にいて楽しくなかったことがない。確かにちょっとアプローチが激しいこともあるけど、それだけ俺のことが好きなんだなって考えると、とても嬉しいよ」

「お兄ちゃん……」

「この春からお前と一緒に2人暮らしをするって聞いて初めはウンザリしてたけど、いざ一緒に暮らしてみたら俺の知らないところ、つまりお前の魅力がどんどん伝わってきた。ただ可愛いとか綺麗とかそんなことだけじゃない、ずっと一緒に暮らしていたからこそ分かる、思いやりや優しさ、何より『コイツと一緒にいたい!!』と思うようになったんだよ」

 

 

 俺が知らなかったこと、まさか家事が万能だってことはこの春知ったことだ。そうやって楓には俺がまだ見ぬ魅力がまだたくさん眠っているのかもしれない。

 

 

「それはお前が俺の"妹"だからそう思えたんだ。他のみんなは、言い方は悪いけど他人だからこうはいかないだろうな」

「私がお兄ちゃんの妹だから……?」

「そうだ。だから"妹"じゃなかったらよかっただなんて言わないでくれ。俺は、お前が妹でよかったと思ってる。この先どれだけの女の子に会おうとも、お前以上の妹は考えられないよ」

「お兄ちゃん……」

 

 

 楓の目が徐々に輝きを取り戻してきた。涙で屈折した光ではない、本当の輝きを。

 

 

「そして俺はお前の笑顔も守りたい!!穂乃果たちだけじゃなく、誰にも負けないお前の太陽のような笑顔を!!」

「わ、私の!?」

「ああ。お前と俺の悩みを解決するため、俺が出した結論がそれだ。そして穂乃果たちに告白したのも同じ理由」

「――――ということは……ま、まままままさか!?お兄ちゃん、私にも告白を!?」

「馬鹿言え!!確かにお前のことは好きだけど、それは妹としてだ!!」

「でも……可能性はあるってことでしょ?」

「ま、まぁな……」

 

 

 そして楓の涙はいつの間にか止まっており、目がいつも通りギラギラと輝きだした。

 可能性はあるって、自分で肯定するほど恥ずかしいものはないな……

 

 

「よしっ!!可能性があるならオーケーオーケー!!な~んだ♪お兄ちゃんも私のことが好きだったんだね♪馬鹿みたいに心配して損したぁ~♪」

「損ってお前なぁ……どれだけ心配したと思ってるんだよ」

「分かってる分かってる♪」

「ホントかよ……」

 

 

「ホントだよ♪ありがとね、お兄ちゃん♪」

 

 

 楓は穂乃果に負けないくらいの太陽のような笑顔を俺に向けた。

 

 コイツぅううううううううううううう!!ドキドキすんじゃねぇか馬鹿野郎!!男は女の笑顔に弱いんだよぉおおおおおお!!落ち着け!!俺はあくまで妹としてのコイツが好きなんだ!!冷静になれ…………うん、大丈夫。

 

 

「じゃあこれから合法的にお兄ちゃんの布団やお風呂に忍び込めるんだね♪」

「えぇ!?どこからそんな話になった!?一言も言ってなくね!?」

「えへへ♪」

 

 

 こうやってボケとツッコミの関係がまさしく俺たちらしい。またコイツの笑顔を見ることができて、本当によかった。

 

 

 無理して妹という立場を退かなくてもいいんだ。妹は妹としての立場だからこそできることがある。そして俺もその魅力に気づくことがある。今はそんな関係でいいんじゃないか?一部保留にしてしまったけれど、それはまた向き合う時が来たら向き合えばいい。今回で可能性を掴んだんだ、次は絶対に上手くいくはずだ。兄妹から、もう一歩進んだ関係に……

 

 

 だから今は――――

 

 

「お兄ちゃんとお昼寝た~いむ♪」

「しねぇからな!!」

 

 

 兄妹として、楓としかできない日々を目一杯楽しもう!!

 

 




 簡単に今回の話を要約すると。

楓「私はお兄ちゃんの妹だから恋愛できないよ!!妹やめたい!!」

零「妹は俺にとって誰よりも特別な存在だ。それに妹だからって可能性がないわけじゃないぞ。でもまだお前を妹としてしか見られないけどね」

楓「可能性があるならいいや!!やったね♪」

みたいな感じです。今回の話はこの要約から内容を膨らませました。


 そんなわけで、見事零君は雪穂たち1年生組の悩みをすべて解決しました!これで彼も一回り成長したかな?雪穂たちも零君に本格的に好意を持ち始めたので、これからは今まで以上のハーレム展開になるでしょう(笑)


 なんか一区切りついたのでもの凄く脱力してます(笑)
 しばらくの間、真面目回はないと思われます(悲報)


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

μ'sとの濃厚なるキス事情(前編)

 今回は最近ご無沙汰となっていたキスの描写が多めとなっています。
 そして久しぶりの前後編。詰め込もうと思ったけど、描写を濃厚にしていたら9人分収まりませんでした。

 見所は目覚めのキス連発と、紳士的に振舞おうとする零君が心の中では暴走しているところですかね。


 

 同棲生活10日目。

 楓の悩みを無事に解決し、遂に秋葉からのミッションを達成した。雪穂たちの心中は聞いていても辛いものばかりだったけど、その呪縛から解放させてやることができて俺も満足だ。これからの同棲生活は余計な気を張らずに、みんなと目一杯イチャイチャできるぞ!!

 

 

 それはそうとして、朝起きたら身体が動かないんですけど!?もしかしてこれが金縛りってやつか!?話には聞いたことがあるが実際に自分の身に降りかかるのは初めてだ。これは希にお祓いをしてもらった方がいいかな?その前にあの変態巫女さんがお祓いができるか微妙なところだが……なんか変な悪霊を呼びそうで怖い。

 

 

 でも何かが俺の上に乗っかていたり、横から抱きしめられているみたいな感じなんだよな。とりあえず目を開けて確認してみるか……

 

 

「…………やっぱり」

 

 

 とりあえず右を見てみると、そこには女の子の寝顔。俺は相当恵まれた環境で眠っていたらしい……昨晩は1人で寝てたはずなんだけどなぁ~

 

 そこでは自慢のサイドポニーを解いた穂乃果が気持ちよさそうにグースカ眠っている。俺の右腕を抱き枕としてガッチリホールドし、服に思いっきりコイツの涎が付着していた。さらに穂乃果は俺に顔を極限まで近づけているので、少しでも動けばキスをしてしまいそうだ。こんな可愛い寝顔を見せつけられたら我慢できなくなるだろうがぁああああ!!

 

 

 ―――――ん?なにやら左手に柔らかいものが当たっているような……?

 

 とりあえず柔らかいものは触って確かめる。それがおっぱいを揉み続けてきた俺が辿り着いた答えだ。

 

 

「それじゃあちょっくら失礼して……」

 

「ひゃんっ♡」

 

「な、何この声……?」

 

 

 穂乃果からなんとか顔を遠ざけ左を見てみると、そこには何故か顔を赤く高揚させたことりが喘ぎ声を上げながら眠っていた。

 さっきの声ってことりの声だよな……?相変わらず男のアソコに響く喘ぎ声をお出しになる。ことりのトロトロボイスでそんなエロい声を出されたら……イジメたくなっちゃうじゃん♪

 

 

「あぁんっ♡」

 

 

 この声だよこの声!!ことりの喘ぎ声は男の欲望をもの凄く掻き立てる!!男を誘惑したらどんな目に遭うのか、身をもって思い知らせてやる!!俺がいつまでもお前たちにやられっぱなしだと思うなよ!!

 

 よし、次はどう攻めてやろうか――――ん?ことりの奴、さっきから『ハァハァ』とこれまた卑猥な吐息を出している。コイツもしかして……!?

 

 

「お前、起きてるだろ……」

「すぅすぅ……」

「いや咄嗟に寝たふりしてもバレバレだからな!?」

「すぅすぅ……」

「あくまでシラを貫き通す気だな……分かった俺にも考えがある」

 

 

 俺の左手は常にことりのおっぱい付近に密着しているため、ことりの心臓の鼓動が直に伝わってくる。俺がさっき『考えがある』と言った瞬間から、その鼓動がバクバクと尋常じゃない早さで鼓動し始めていた。これは確実に起きているだろ……

 

 

「むぅ~……さっきからことりちゃんばかりズルい」

「うおっ!?穂乃果!?お前も起きてたのかよ……」

「穂乃果こんなに無防備なのに、なんで手を出してくれないの!?零君ヘタレになっちゃったの!?」

「ヘタレ言うな!!昨晩1人で寝てたのに、朝起きたら女の子に囲まれていて冷静でいられる奴の方がおかしいだろ!!」

 

 

 待てよ……この状況は使えるかもしれない。今まで散々ことりに振り回されてきた分、ちょっと仕返しでもしてやるか。やられっぱなしっていうもの癪だしな。

 

 

「よ~し!!こうなったら穂乃果とイチャイチャしまくるぞぉ~!!」

「えっ?どうしたの零君急に!?」

「急に穂乃果を愛でたくなった。ダメか?」

「もちろんいいよ♪さぁキて♡」

 

 

 こんな間近で穂乃果に誘われるとは!?それに顔も色っぽくていつもの無邪気さは感じられない、まさに女の顔。もうさっきことりの卑猥な声を聞いてからムラムラしてしょうがないんだよ……これはもう大人の階段を上っていい、そういうことなんだよなぁ!?

 

 

 俺は自分の唇で勢いよく穂乃果の唇に貪りついた。

 

 

「ちゅっ、ちゅぅ……」

「んぁちゅっ♪」

 

 

 あ、熱い!!穂乃果の唇が異様に熱い!!まさかコイツ、ずっと興奮して俺を待っていたとでもいうのか!?俺が起きるのを今か今かと自分を高ぶらせながら待っている穂乃果を想像すると……か、可愛すぎるだろ!!

 

 

「んっ……ちゅぅ」

「んっ……ちゅっ……んん♪」

 

 

 俺が舌をにゅるっと穂乃果の口へ滑り込ませると、彼女もそれに応えるように俺の舌に自分の舌を絡ませてきた。まだ静かな早朝、俺の部屋に俺と穂乃果のキスの音だけが響き渡る。

 

 そして俺たちはお互いの舌でたっぷりと愛を確かめ合い、ゆっくりと唇を話す。俺と穂乃果を紡ぐ銀色の糸が生々しく輝いていてとてもイヤらしい。

 

 

「えへへ♪零君とキスしたの、久しぶりだぁ♪」

「そうだったな。あまり彼氏らしいことができなくて済まない……」

「うぅん。一緒にいてくれるだけで、穂乃果は嬉しいよ♪」

 

 

 穂乃果は優しい笑顔でニコッと微笑む。この笑顔を見られることが、穂乃果たちと付き合うことができてよかったと思える瞬間だ。そして相変わらずコイツの明るい笑顔は俺を容赦なく焼き殺してくるな。もう何度も焼殺されている俺だが、何度見ても穂乃果の笑顔からは元気がもらえる。

 

 

「零君♪」

「な、なんだ?」

「えへへ♪呼んでみただけぇ~♪」

 

 

 クソォオオおおおおおおおおおおおおおおおおお!!コイツそこまで俺を萌え殺したいのかぁああああああ!!もう穂乃果を裸にひん剥いて襲いてぇええええええええ!!男を誘惑したらどんな目に遭うのか思い知らせてやりてぇええええええええ!!

 

 

 ま、待て!!まあ落ち着け!!自分の理性を保つんだ……

 

 

 俺と穂乃果が見つめ合っていると、突然左から俺の服の袖をクイクイと引っ張られる。反対側に首を回してみると、寝ていた"はず"のことりがバッチリと目を開け俺たちを羨ましそうな目で眺めていた。

 

 

「あれれぇ~?ことりさん寝てたんじゃないのかなぁ~?」

「ね、寝てないもん!!」

「でも俺が呼びかけた時は反応なかったしなぁ~」

「もうっ!!零くんのいじわる……」

 

 

 おぉおおおおおおおおおおおお!!イジけていることりも可愛いなぁああああああああああ!!もうずっと俺だけの専属メイドとして働いて欲しい!!はい、就職先決定!!

 

 

 おっと危ない危ない、また取り乱した。こういう時だからこそ紳士的に振舞わなければ!!

 

 

「悪かったよ、ゴメンなことり」

「だったらことりともキスしてくれる?」

「もちろん」

 

 

 寂しそうな顔をしていたことりは、俺の言葉を聞くと穂乃果に負けないくらいパアァっと明るい笑顔となる。そして自分の髪を掻き分け(この仕草が色っぽい)、唇を俺の唇へ押し当てた。

 

 

「ちゅっ、んん!!」

「んぁちゅっ、んっ!!」

 

 

 ことりとのキスは初めから激しいものだった。

 彼女は唾液を口の中に貯めていたのか、キスした瞬間俺の口内に自分の唾液をどんどん流し込んでいく。ぴちゃぴちゃと卑猥な音が部屋中に響き渡り、隣にいる穂乃果も興奮しているのかゴソゴソと動いているのが分かる。ナニしてるんですかねぇ……

 

 

「ちゅう、ちゅるっ!!」

「ちゅっ、んはっ!!」

 

 

 ことりのキスの勢いが激しすぎて、俺の身体から一気に酸素が放出される。それでも構わずことりは甘い唾液を送り込み続け、舌を使ってそれを俺の舌や歯など口内全体に染み込ませようとしてくる。このままではキスで窒息死しかねない!!

 

 俺は左手でことりの肩を掴み、ゆっくりと彼女を引き剥がした。

 

 

「ハァハァ……死ぬかと思った……」

「えへへぇ~♪久しぶりだったからちょっと激しくしちゃった♪」

 

 

 全くだよ、もう俺の口内を犯すことしか頭になかっただろ絶対に!!変態になっただけでは飽き足らず、まさかキス魔にもなっていたとは……ことりの愛は嬉しいけど恐ろしいな。

 

 

「気持ちよかったですよ♪ご主人様♡」

「おぉう……」

 

 

 やはりことりの『ご主人様』呼びは俺のドS精神を大いにくすぐる。もうこのままことりをメイド服に着替えさせたあと思いっきり脱がせたい!!そしてその勢いでベッドインしてぇよぉおおおおお!!

 

 

――――――ん?

 

 

 あ、あれ?なんか俺の布団が盛り上がっているんだけど……ま、まさか朝の生理現象!?でも俺のモノはここまで大きくないぞ!?むしろ全体的にもっこりしていて、まるで誰かが入っているような……ま、まさか!!

 

 

 俺がそう悟った瞬間、掛け布団がガバッと開いて中から――――!!

 

 

 

 

「ちょっと!!キスするならにこにもしなさいよね!!」

 

 

 

 

「に、にこ!?」

「「にこちゃん!?」」

 

 

 俺の布団から華麗に登場したのはにこだった。とりあえず一言――――

 

 

 いたのかよ!?

 

 

「世界No.1キス魔であるにこを放っておいてなに仕出かしてくれてんのよ!!」

「その肩書きは全然カッコよくないからな……」

「シャラップ!!いいからにことキスしなさい今すぐに!!」

「へいへい……」

「そこ!!やる気出す!!」

 

 

 テンションたけぇなオイ!!もしかしてコイツ、布団の中で俺たちのキス音を聞いて、いらぬ妄想で興奮してたんじゃねぇだろうな……絶対そうだ。だってもう既に息きれてるし顔も赤いし!!股のところ、ちょっと濡れてるし……

 

 

「行くわよ!!えいっ!!」

「むぐぅ!!」

 

 

 にこは俺に飛びかかるようにキスを仕掛けてきた。その勢いでまたしても窒息死していまいそうになるが、意外とフレンチなキスだったので体勢を立て直しながらにこの首に手を回す。そしてにこもそれに応えるように俺の身体に絡みついてきた。

 

 

「ちゅるっ、ちゅううぅぅぅぅぅっ」

「ちゅっ、んっ、ちゅっ」

 

 

 にこは自分の舌を俺の口内に侵入させ俺の唾液を吸い取ってきた。ことりとは逆のキスの仕方で、独占欲が強い彼女らしいキスだ。にこの甘い唾液のせいで俺の唾液もどんどん分泌され、その度ににこはそれを舌で絡め取りゴクリと飲み込む。

 

 

「んはっ、ちゅるっんっ!!」

「んちゅっ!!」

 

 

 もはや自分の勢いすら抑えられていないじゃないか!?さっきからにこの吐息や鼻息が俺に顔に降りかかってやがる!!しかも、『いい匂いだから興奮する』⇒『唾液が分泌される』⇒『にこに吸い取られる』⇒『にこが必死になりすぎて吐息』の無限ループに陥ってしまった!!

 

 俺はにこの首から両腕を離し、そのまま彼女からゆっくりと距離をとってキスを中断させた。その時の名残惜しそうな目のせいで無駄な罪悪感を感じる……

 

 

「え~もっとしたかったのに!!」

「流石にあの流れは断ち切らないと永遠に繰り返しそうだったからな」

「また今度ね、絶対よ!!」

「ああ、分かった。だから今はナデナデで我慢してくれ」

「そんなことで誤魔化されるとでも……ふわぁぁぁぁ~」

 

 

 誤魔化されてるじゃん!!

 

 にこの頭を撫でてやると、まるで小動物かのようにじゃれついてきた。髪を下ろした彼女を見ていると、本当に年下の可愛い後輩にしか見えない。もうずっと俺の癒しとして家で飼いたい!!ずっと俺の側にいてくれーーーにこにぃいいいいいいいいいいいい!!

 

 

 ハッ!!また我を失っていた。コイツらが可愛いのがいけないんだよコンちくしょぉう!!

 

 

 

 

「随分とお盛んやなぁ~~零君♪」

「へ?」

 

 

 突然後ろから聖母のような声が聞こえた。馬鹿な!?後ろはただの壁のはず……ま、まさか性に飢え過ぎて聖母の幻聴を聞いているというのか!?もしかして俺、粛清される!?

 

 

 穂乃果たちは俺の後ろを見て口をあんぐりとしている。ほ、本当に誰かいるのかよ……

 

 

 いや待てよ、この身体もアソコも包み込まれそうな声は――――――

 

 

「の、希!?」

「おはよう零君♪ようやく気づいたね」

「俺、お前に膝枕されてたのか!?」

「そうそう♪でもガッカリやなぁ、零君全然気づいてくれへんし」

「マジかよ……」

 

 

 俺が枕だと思っていたのは、実は希の膝枕だったのだ!!どうりでいつもと違ってふんわりとしていて優しい匂いがしていたのか。穂乃果でもことりでもにこでもない匂いだから気になってはいたのだが、まさか初めから希がいたとはな……流石スピリチュアル。

 

 

「みんなのキスを見せつけられて、ウチももう限界や。零君、してくれる?」

「当たり前だろ」

 

 

 こういうところだけは紳士に振舞う。まさに変態紳士の鏡!!

 

 俺はようやく身体を起こし、180度回転して希と向き合う。穂乃果もことりもにこもそうだが、いつも髪をくくっている女の子が髪を解いている姿は新鮮でいい。同棲生活をするまであまり見たことがなかったのも相まって、またしても彼女たちの魅力を再発見した。

 

 

 希は目を瞑って唇を俺に差し出す。その顔は穂乃果たちの誰よりも色っぽく、これはもう男の欲望を解放せざるを得ない。俺はそれに応えるように彼女の唇に自分の唇を押し付けた。

 

 

「んっ……ちゅっ」

「ちゅぅ……ちゅっ」

 

 

 ことり、にこと激しいキスが続いていたためか、希のキスがとても優しく感じる。彼女の唇は肉厚で暖かい。みんなのように激しく求め合ったりはしていないものの、このままずっとキスしていたいという心地よさがある。これも母性の塊である希だからなのか。もうこの唇を食べてしまいたい、そう思った。

 

 

「ちゅぱっ、ちゅぅ」

「ちゅっ、ちゅるっ」

 

 

 ここでお互いに舌を軽く絡ませる。

 希の舌も非常に柔らかく、彼女の舌に触れるたびに自分の舌が蕩けてしまいそうだ。そしてその心地よさが徐々に身体全体へと伝わっていき、最終的には希に抱きしめられたまま離れられなくなってしまう。もうこのままダメ人間になってもいいかな……?

 

 

 もちろんそんなわけにはいかないので、俺たちはお互いの温もりを十分に楽しんで唇を離す。希は俺と離れたあともその余韻に浸っているようで、恍惚な表情でぼぉ~っと俺の顔を眺めていた。

 

 

「やっぱり、希のキスは優しいな」

「ウチも、零君の優しいキスが大好き♪」

「俺も好きだよ」

「じゃあウチはもっと好き♪」

「フッ、なんだよそれ」

「ふふっ♪」

 

 

 これこそまさにバカップル!!しかもあの希がここまでしおらしくなるなんて、普段とは違うギャップで萌え死にそぉおおおおおおおおお!!そして今日何回悶え苦しめばいんだよぉおおおおおおおおおお!!

 

 

 待て待て取り乱すな。キスぐらい紳士的に振舞わなければ……でもこの状況を見てもそれが言えるだろうか?だって目の前にはにこ、右には穂乃果、左にはことり、後ろには希に囲まれていて、しかも俺たちは全員ベッドの上だ。起きたら眼前に美少女たちがいて、順番に目覚めのキスをされる…………俺、今日死んでしまうかもしれない。

 

 

「それにしても、よく5人でこのベッドに寝られたな……」

「5人?いや、6人よ」

「はい……?6人?」

 

 

 にこは6人だと言い張るが、どれだけ慎重に人数を数えたとしてもベッドの上にいるのは5人だ。穂乃果たちもキョロキョロしながら首を傾げている。この様子だと6人だと知っているのはにこだけのようだ。

 

 

「ここにいるのよ、にこと一緒に寝てた子がね」

 

 

 にこは俺の脚に掛かっていた掛け布団を掴んでベッドの外へ放り捨てた。

 

 そしてその中から出てきたのは――――――

 

 

 

 

「むにゃむにゃ……ラーメン美味しいにゃぁ~……」

 

 

 

 

「凛!?」

「「「凛ちゃん!?」」」

 

 

To be continued……




 久しぶりに変態ではないイチャイチャを書いたような気がします。普通の純愛モノは書くのが苦手なんです!!もっとキスの描写を濃厚に表現できるようになりたい……

 今回は穂乃果、ことり、にこ、希の変態グループだったので、次回は凛、花陽、真姫、絵里、海未の比較的真面目グループの出番です!ちなみに1年生組とはまだそこまでの関係に至っていないので、期待されていた方はゴメンなさい(笑)


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

μ'sとの濃厚なるキス事情(後編)

 今回は前回に引き続き、零君とμ'sメンバーがキスするだけの回。

 そして零君が中々に変態的キス魔と化しているので、前回よりは全体的に話がハイテンションです(笑)


 

「むにゃむにゃ……ラーメン美味しいにゃぁ~……」

 

 

 現在の状況を"冷静"に整理しよう。

 

 俺の目の前にはにこ、右には穂乃果、左にはことり、後ろには希、そして俺の脚にまとわりついているのは凛。1つのベッドに男女比1:5!!さらにみんなのパジャマは先ほどの激しいキスで暑くなったためか、各々風通しを良くするために着崩している!!しかもそこから時々垣間見える汗がとてもイヤらしい!!

 

 

 こんなムレッムレの空間に冷静でいられるかぁああああああああああ!!

 

 

「凛の奴、寝てるのか……?」

「そうみたいね、あれだけにこたちが騒いでたっていうのに……」

「穂乃果より寝ぼすけだな」

「え~穂乃果そんなにぐーぐー寝てる?」

「「「「寝てる」」」」

「そう……」

 

 

 穂乃果以外の俺たち全員がハモる。むしろ今まで自覚がなかったことに驚いたわ。この同棲生活が始まって、改めてコイツが朝弱いことを思い知らされた。高坂家の人は毎朝大変だな……

 

 

「おい凛、朝だぞ起きろ!!」

「う~ん……」

 

 

 俺は凛の肩をゆさゆさと揺らす。だが凛は唸るだけで一向に目を覚ます気配はない。

 そうか、起きないのか……なるほどなるほど。現在キス魔となっている俺の目の前で無防備な姿を晒すとは何たる愚行。いいだろう!!今からお前に恋人同士の愛を唇を持って示してやる!!

 

 

 俺は凛の口元へ自分の唇を持っていき、そのまま勢いで――――

 

 

「ちゅっ……」

「ん!?んぅううう!!」

 

 

 俺がキスをした瞬間、凛は飛び起きるかのように目をバチッと見開いた。起きたらいきなり俺の顔が目の前にあり、さらにキスまでされているので思考回路はショートする寸前だろう。驚く彼女の目の瞬きを見ているだけでも面白い。

 

 

「ちゅぅ……ちゅる!!」

「んちゅっ!!ちゅぅ……」

 

 

 凛は段々と状況に頭が追いついてきたのか、多少暴れながらも俺のキスを受け入れる。試しに彼女の口内へ舌を滑り込ませてやると、俺の身体にギュゥっと抱きついて身をよがらせてきた。普段はソフトなキスをご所望する彼女ももう夢中になっているようで、俺の舌を自分の舌で絡ませ唇に思いっきり吸い付いてくる。

 

 

 凛の奴やる気だな。だったら俺も、凛の小さな唇を食べてしまうくらいの濃厚なキスをしてやろう!!

 

 

「ちゅっ、ちゅぅ……」

「んぁちゅっ♪」

 

 

 この前凛に誘惑された時は驚いた。恋人同士になったとはいえまだ恋愛にはまだまだ奥手な彼女が、まさか1人で俺を誘惑するとは……しかも今はこの濃厚なキス。子供子供と馬鹿にしていたけどしっかりと大人の女性への階段を上り始めているんだな。

 

 

 そして俺たちは互いの唇から自分の唇を離し、ゆっくりと離れて向き合う。

 

 

「もうっ……零くんのバカ。急にするなんてヒドイよ……」

「悪い悪い、お前の可愛い寝顔を見ていたらついな」

「かわっ!?ホントに零くんはスケこましさんだにゃ……」

「ハハハ!!じゃあもう一度やるか?」

「も、もういいよ!!十分に楽しんだから!!」

「顔真っ赤にして可愛いなぁ凛は!!」

「も、もう零くん!!」

 

 

 あぁ~奥手な凛ちゃんマジえんじぇーーー!!やっぱり女の子の恥じらう姿はいつ見ても可愛さからくる興奮と、もっとイジメたくなるというゾクゾク唸る背徳感があって大変よろしい。こうなったらもっとみんなを性的に攻めたくなってきたぞ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 とりあえず俺たちはキスをした際に布団に滴り落ちた涎跡を隠すため、みんなには部屋の掃除を頼み、俺は替えの布団を取りに自室を出た。こんなプチ乱交みたいな行為が海未や絵里(ポンコツ脱却済み)に知られたら大目玉間違いなしだ。もはや匂いだけで俺たちが何をしていたか分かるからな、俺の部屋。

 

 

「あっ、零君おはよう♪」

「おはよう、零」

 

「花陽、真姫、おはよう」

 

 

 俺は自分の口元に付着していたみんなの涎を拭いながら歩いていると、2年生組の寝室から花陽と真姫が出てきた。彼女たちは今起きたばかりなのだろう、髪が乱れていてまだまぶたが完全に開ききっていない。

 

 

 これは……通り魔ならぬ通りキス魔となっている俺からしてみれば絶好の獲物だ。凛同様お前らも俺の特濃キスで最高の目覚めを体感させてやる!!

 

 

「零君、凛ちゃんがどこに行ったのか知らない?起きたらいなくなってて……」

「知ってるよ」

「えっ本当?どこにいるの?」

 

 

 俺は花陽と会話をしながら彼女に近づいていく。

 花陽も真姫も俺がトイレに行くものだろうと勘違いして、近づいていることに疑問など感じていないようだ。『バカめ!!お前らが俺のトイレになるんだよ!!』とか言ったら俺の人生は即終了するだろうな……言ってみてぇけど。

 

 

 俺は花陽たちの横を通り抜けると見せかけて、2人の前に立ちはだかった。

 

 

「れ、零君……?」

「花陽、お目覚めの時間だ」

「へ……?」

 

 

 花陽のぷっくりとした唇、美味しそうだ……ずっと舐め回してあの柔らかさと味を堪能したいわぁ~

 俺はもう自分の欲求に耐え切れず、花陽の唇にしゃぶりついた!!

 

 

「んんっ!!ちゅっ!!」

「ちゅぅっ、ちゅぅう!!」

 

「な゛っ!?」

 

 

 花陽は目をこれでもかというくらい最大限に見開いて、瞳孔がしどろもどろに蠢いている。真姫も突然の出来事過ぎてお得意のツッコミすらも忘れているようだ。

 

 俺は自分の唇で花陽の唇を完全に覆い尽くし、彼女のぷっくりふっくらとしたマシュマロみたいな唇を自分の唇と舌を使ってしゃぶり倒す。やはりと言うべきか、彼女の唇は朝イチ&リップもなにも塗っていないのにも関わらずぷりっとした柔らかさとなめらかさがあった。

 

 

「ちゅぅ、んんっ!!」

「ちゅぱ、ちゅうっ、ちゅる!!」

 

 

 もはやこれはキスと呼べるのかは分からないが、今はそんなことどうだっていい!!花陽の唇にむしゃぶりついている、この事実があるだけで他に何もいらない。流石花陽、身体全体がふわふわふかふかしているけどまさか唇もそうだとは……

 

 ふと花陽の目を見てみると、完全にトロンとした目をしてやがる。初めは少し抵抗していたが、もうキスを受け入れたようだ。今度は自分から舌を動かして俺の舌と絡め合い、キスの快楽を堪能していた。俺も負けじと唇と舌を動かして彼女を攻め立てる。

 

 

 でも本気で苦しそうなので、そろそろ離してあげようか。

 

 

「ぷはっ!!れ、零君……」

「いやぁ~花陽の唇サイコーだったぞ!!これから毎朝朝食にしようかな?」

「ふぇえええええ!?ま、毎朝!?そ、それって零君の通い妻ってこと!?」

「別に俺は構わないぞ」

「ふわっ……ふわぁああ……」

「花陽が壊れた!?」

 

 

 かよちんもマジえんじぇーーー!!りんぱなマジえんじぇーーー!!あぁああああああ!!テンションが高ぶってやがった!!これは隣で呆然としているツンデレ美少女の唇も堪能しないと気がすまねぇな。

 

 

「真姫!!」

「ちょっ!?ち、近づかないでよ!?」

「俺はお前とキスがしたい、ダメか?」

「イヤよ!!あんなの見せつけられて素直に『はい』って言うと思う?」

「俺は真姫ともっともっと繋がりたい。お前の彼氏として、お前をこの身で感じたいんだ!!お前の味を俺の身体に染み込ませたい!!だから頼む!!キスしよう!!」

「っ…………ちょ、ちょっとだけよ!!優しくね!!」

 

 

 チョロすぎませんかねぇ真姫さんや……

 まあいいや!!本人からの了承も得たことだし、俺だって所構わず女の子にキスしたいほど飢えてるんだ、早速真姫の唇を頂こう!!

 

 

「ちゅう、ちゅるっ!!」

「はっ、はげしっ……ちゅっ!!」

 

 

 真姫とのキスは最初からクライマックス!!唇を付けた瞬間に舌を入れ、彼女の唾液を絡め取る。このまま壁に押し倒してキス攻めをしようと思ったのだが、そこは負けず嫌いの真姫、俺のキスに対抗して俺の唇を捕食するかのように食らいつき、俺の舌の侵入を阻止するように自分の舌を絡ませてくる。

 

 

「ちゅう、ちゅるぅっ、んっ!!」

「ちゅっ、んはぁっ!!」

 

 

 お互いに吐息が漏れキスすること自体に疲れてしまっているが、俺たちはそれでも尚やめない。自分たちは一心不乱となってキスに集中し、相手からの刺激や温もり、なにより愛を確かめ合う。

 ぴちゃぴちゃと唾液の音がイヤらしく廊下に響き、同時に真姫の吐息や隣にいる花陽の吐息もハァハァとエロく一定のリズムを刻んでいるため、傍から見れば卑猥なオーケストラに見えなくもない。

 

 

「ぷはっ!!ハァハァ……ま、全く!!優しくって言ったでしょ!?」

「いやいや、お前全然人のこと言えねぇからな……」

「わ、私にとってはあれが優しいキスなのよ!!」

「ほぅ、じゃあもう1回するか?あれ以上の濃厚なキスを……」

「えっ!?そ、それは……」

 

 

 やっぱり見栄を張っていたか。あれが優しいキスだったらこれ以上のキスってなんなんだよ……正直言って俺でも無理だよ。

 真姫は赤面してモジモジし始めた。目も泳いでいるし、明らかに『余計なこと言っちゃた』と思ってるな。自分から言ってしまった以上、彼女の高いプライドが"イヤ"とは言わせないのだろう。全く、しょうがない奴だ……

 

 

 俺は真姫の隣を通り過ぎながら、彼女の頭をポンポンと優しく叩いた。

 

 

「また……頼んでいいか?」

「…………うん」

 

 

 ツンデレっ娘は"ツン"の要素も可愛いし"デレ"の要素も可愛い。あれ?これって最強じゃね?普段はクールで可愛く、時にはお嬢様気質になるのも可愛い。自慢げな表情も呆れた表情も真剣な表情も悲しそうな表情もぜーーーーーんぶ可愛い!!俺はどうやら生粋の真っ姫患者になっていたみたいだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おっ絵里、おはよう」

「おはよう、零」

 

 

 女の子の涎でベトベトになった服を洗濯するため、洗面所に行ったら絵里と遭遇した。絵里は既にパジャマから普段着に着替えていて、さっぱりとした顔を見る限り今まさに朝の身支度が終わったらしいのだが……なにやらさっきからジト目で睨みつけられている。

 

 

「な、なんだよその目は……?」

「今朝は随分とお楽しみだったみたいね」

「お前、気づいてたのか!?」

「廊下にどれだけ声が響いていたと思ってるの!?普通気づくでしょ!!」

 

 

 絵里はこの前のポンコツ脱却プログラムにより見事全盛期の活力を取り戻した。その代わりμ'sの練習はより一層内容が濃く(厳しく)なったがな。

 そしてそんなお堅い絵里はかなりご立腹なご様子。コイツから発せられる"怒ってますよオーラ"も久々だな――――って懐かしに浸っている場合じゃねぇ!!

 

 

「別にいいだろキスぐらい」

「いくら自分の家だからってそれはダメよ。しっかり時と場所を考えて、お互いに健全なお付き合いをしなきゃ。キスにはムードも重要だしね」

 

 

 メンドくせぇえええええええええええええ!!憧れのお姉さんが戻ってきてくれたのは嬉しいけど、同時にとても扱いにくくなってしまった。会話の途中でボケの1つも挟んでこないし、相当真面目になっちまったなぁ絵里さんよぉ~

 

 

「そういうのなら、絵里との目覚めのキスはなしだな」

「……ちょっと待ちなさい」

「なに?」

 

 

 穂乃果たちの唾液付きの服を洗おうと思ったら、突然絵里が俺の肩を掴んできた。

 さっきのクソ真面目な表情とは一変、頬を赤く染めてそっぽを向きながらも俺の顔をチラ見する。俺と視線がぶつかるたびに顔を逸らし、少し時間を置いてまた俺に目線を向ける――――その繰り返し。可愛いなコイツ。

 

 

 よしっ、ちょっとイジメてやるか。

 

 

「なんだよさっきから」

「別に健全なキスならいいのよ。だ、だから……そのぉ~……」

「だからなに?」

「し、しっかりと朝目覚めることは重要だと思うの。だからそのためなら……ね?」

「そのためなら?」

「そのためなら……別にいいかなぁ~って」

 

 

 ヤバイ、すっごく可愛い!!自分からキスを誘わず、なんとか俺に言わせようと頑張っている絵里の姿がまるで子供のようで愛くるしい。普段がお姉さん気質だから、彼女が幼く見える時はそのギャップにとことん萌えてしまう。でも可哀想だからこの辺で許してやるか!!

 

 

 そして俺は絵里の綺麗でサラサラな髪を研ぐように撫で回した。

 

 

「ハハハ!!ゴメンゴメン、可愛かったらイジメたくなった」

「もうっ!!零のバカ……」

「ゴメンって。だからお詫びの印として――――」

「んんっ!!」

 

 

 俺は絵里の髪から手を離し、そのまま彼女を抱きしめて唇を奪った。

 洗面所で身支度を整えたばかりだからか、絵里の唇からは彼女の味と彼女が使うリップの味が混じって非常に甘い。俺は舌を使ってそのスイーツみたいな唇を大いに堪能する。

 

 そして一通り楽しんだあと、その舌を彼女の口内へと滑り込ませた。絵里はそれを待っていたようで、その瞬間から彼女のキスはより激しくなる。

 

 

「ちゅるっ、ちゅううぅ!!」

「ちゅっ、んっ、ちゅっ!!」

 

 

 彼女も俺の首に腕を回し、我を忘れて俺とのキスに夢中になっているようだ。その証拠として綺麗な青眼も今ではトロンとしていて焦点が合っていない。

 俺が絵里の唇を飲み込もうとすると、彼女もそれに負けないくらい俺の唇の飲み込もうとする。その結果濃厚なキスがさらに濃厚なキスとなり、そのたびに垂れる唾液の銀の糸が俺たちの口周りを紡ぐ。

 

 

「ちゅうっ、んちゅっ!!」

「ちゅっ、んっ、ちゅぅうう!!」

 

 

 なぜ女の子のキスの味はここまで甘いのかと小一時間問い詰めたい。しかも同じキスの味がする人は誰1人としていなかった。

 俺たちはキスをしながら自分たちの唾液同士を融合させ新たな分泌液を作り出したあと、お互いにそれを分け合ってゴクリと飲み込む。恋人と共同で作り出したモノが自分の体内に入っていくと、俺は絵里のモノ、絵里は俺のモノという関係が大いに実感できる。

 

 

 そして俺たちは太い銀色の糸を引きながら、お互いに身体を離す。

 

 

「やっぱり絵里もエッチだな」

「き、キスだけでエッチなの!?」

「顔真っ赤にし過ぎだ。どれだけ興奮してんだよ。それに俺と唾液を分かち合った時、もの凄く顔が高揚していたぞ」

「もうっ!!恥ずかしいからやめてぇえええええええええええええええ!!」

「好きだよ、絵里」

「も、もうっ…………私も好きよ♪」

 

 

 やっぱり絵里はポンコツ可愛い!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おはよう海未」

「おはようございます、零。もうすぐで朝食ができますので、しばしお待ちを……」

 

 

 あぁ~あの海未がエプロン姿で朝食を作ってくれているなんてそれだけで幸せだ!!μ'sの中では間違いなく、いい奥さんになるであろうランキングトップクラスだな。厳しい面もあるだろうけど、これだけ夫に尽くしてくれそうな子はそうそういない。それに彼女は専業主婦にならずバリバリと働きそうだし、今からでも夫婦生活が安泰になることが容易に見通せる。

 

 

 それにしても、女の子がエプロンを着ながら料理をしている姿ってどうしてここまで興奮するのだろうか……?興奮までは行かないにしても妙にそそられるというか、思いっきり後ろから抱きしめたい衝動に駆られる。あぁ~海未の細い身体を俺の全身で包み込みてぇよぉ~!!

 

 

 そして俺はそぉ~と海未の後ろへと回り込んだ。そして彼女が何も持っていないタイミングを見計らって――――――

 

 

「きゃあっ!!れ、零!?」

「エプロン姿の大和撫子……これで抱きつかない男はないだろ!!」

「何を言っているのですか!?離してください!!」

「いいじゃんいいじゃん♪たまには2人でこうするのもさ」

「あなたって人は…………少しだけですからね」

 

 

 海未はため息をついていかにも『諦めましたよ』という感じを醸し出しているが、実際に顔を覗き込んでみると満更でもない表情を浮かべている。少し微笑みながら俺の腕に手を当てているので、仕方なく抱きつかれているというよりかはもう俺を離さないようにしているみたいだ。そういえば同棲生活が始まってからこうして海未を抱きしめるのは初めてだな。

 

 

 ダメだ、やっぱり我慢できねぇわ。

 これまで穂乃果たちとキスをしてきて完全にキス魔となった俺に、キスをするなという方が無粋だ。今海未の唇がすごく輝いて見えるのはそのせいかもしれない。

 

 

「海未、ちょっとこっち向いてくれ」

「は、はい……」

 

 

 海未はためらいもなく後ろを振り返ろうとする。俺は海未が首を動かすのと同時に、彼女の唇を目掛けて自分の顔を動かした。そして――――――

 

 

「ちゅっ、んんっ!?」

「ちゅぱっ、ちゅうぅ!!」

 

 

 海未の顔が俺の顔と向き合う前に、俺は自分の唇を彼女の唇へと押し付けた。海未は目を見開いて驚き俺から逃れようとするも、既にガッチリと俺にホールドされているので抜け出せない。身体だけではなくキスでも逃さないように、俺は初めから彼女の唇に大きく吸い付いた。

 

 

「ちゅぅ、ちゅぅううううう!!」

「んっ、ちゅぅ、ちゅぅぅ!!」

 

 

 初めは抵抗していた海未だが次第に慣れてきたのか、今度は身体ごと俺と向き合い恋人同士の熱いキスを堪能する。俺は彼女の好みに合わせるため、徐々に激しいキスから優しいソフトなキスへと転換していく。

 

 

「ちゅっ、ちゅぱっ、ちゅっ」

「ちゅうぅ、くちゅっ、ちゅぅ」

 

 

 これまでの誰よりもフレンチなキス。でもだからと言って俺と彼女の愛がそれほどの関係ということではない。むしろ激しさが控えめなことで、お互いにお互いの目を見つめ合いながらゆっくりと愛を確かめ合うことができる。俺は彼女の髪を掻き分けながら、自分の唇を彼女の唇へもっと押し当てていく。

 

 髪を掻き分けた時に醸し出された匂い、彼女自身の匂い、彼女の吐息、彼女とのキスの味が一緒くたとなって俺の鼻を刺激し、朝食の匂いなど全く感じられない。それほどまでに俺と海未は一体となっていた。

 

 

 名残惜しいが今回はここまで。だが離れたあとも俺と海未はずっとお互いの目を見つめ合っていた。

 

 

「突然で悪かったな。でも他のみんなと比べてお前とキスすることなんて滅多にないから、変な衝動が沸き立って……」

「ふふっ、別に気にしてませんから♪」

「そっか、ありがとな」

「お礼を言うのはこちらですよ。久しぶりでしたけど、やはりあなたと1つになれるのは身も心もポカポカしてとても気持ちがいいです」

「そりゃあそうだ。お前に対する愛をふんだんに詰め込んだキスなんだから」

「それは私も同じですよ♪あなたへの愛情、あのキスにたっぷりと込めましたから♪」

 

 

 そこで海未は上目遣いで、μ'sの誰にも負けない最高の笑顔を向けた。

 

 

 あぁあああああああああああああああ!!海未大好きだぁあああああああああああああああ!!と叫んだら流石に引かれるだろうか……?その叫びを穂乃果やことり、にこにでも聞かれたらまた波乱がありそうだから今は抑えておこう。

 

 

 でもこれくらいは――――

 

 

「好きだよ、海未」

「ふふっ♪私も大好きです♪」

 

 

 これこそが9人みんなと付き合ってよかったと思える瞬間だ。お互いに好きと言い合うこの瞬間がたまらなく幸せなんだよ!!

 みんなからたっぷりと笑顔と幸せをもらったんだ、俺も彼女たちにそれ以上の笑顔と幸せを与えてやらなければ。

 

 

「よし、そろそろ飯にするか!!みんなを呼んでくる」

「はいっ、お願いします♪」

 




 なぜか絵里と海未だけはガチの恋愛っぽくなってしまいました。ただのキス回のはずがどうしてこうなった……まあ可愛いからいっか!

 小説で使えるキスの音を募集中です(笑)
 気にしていない人もいるかと思いますが、キスの音はほとんど同じ話の中や別の話から流用しています。表現が難しいのです。

 次回はまだ未定ですが同棲生活内の話では、まだ花陽、にこ、希の回がないのでその中の誰か(もしくは2人)になると思われます。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

にこと花陽、大人のアイドル論

 今回はにこと花陽回――――のハズです多分……


恐らく
(´▽`)「アイドル論?にこにーとかよちんが暴走しそうだけど平和そうだな」



(;゚Д゚)「!!」
こうなります



「零!!アイドルに一番必要な魅力は!?」

「いやいや!?脈略も何もあったものじゃねぇぞ!!」

 

 

 どういうわけかは知らないが、にこと花陽がいきなり部屋に押しかけてきやがった。しかもなぜか正座を強要される始末。もしかして俺、またなにかやったのか……?コイツらにセクハラした記憶は…………まぁあるっちゃあるけどさ。

 

 

「清純さ!!清純さですよね!?」

「なに言ってんのよ!!ちょっとおちゃめでプリティな方がウケがいいのよ!!」

「いや、話が見えてこないんだが……」

 

 

 この2人が喧嘩をしているのは珍しい、と言うより今まで一度も見たことがない。

 趣味がアイドルの追っかけであるこの2人がアイドルのことで対立しているのか?確かに同じ部類に属していても内部対立はいつだって起こり得るからな。ほら、同じチョコレートでも"きのこ"と"たけのこ"みたいな感じで争うだろ?ちなみに俺はポッキー派だ。

 

 

「さあ零!!アンタはどっちなの!?」

「アイドルに必要なのは清純さですか!?それともちょっとあざとい方のがいいのですか!?」

「2択かよ!?まぁ強いて挙げるなら――――」

「「挙げるなら……?」」

 

 

 

 

「エロさだな」

 

 

 

 

「「……」」

 

 

 何となく分かってましたよこんな空気になるってことは!!でも俺がマトモなことを言ったら絶対にバッシングが来るんだろ!?だってこの前みんなに好きな言葉を聞いた時、俺が『笑顔』って言ったらみんな驚いてドン引きしてたもん!!あの時感じた心の痛み、未だに引きずってるからね!!

 

 

「一応理由を聞いてあげるわ。そのあとで腹パンしてあげる」

「腹パン前提かよ!?しかも『してあげる』ってなんだ!?」

「えっ?雪穂ちゃんが『零君は女の子に殴られて喜ぶドMだ』って言ってましたけど」

「それ嘘だからな!!ただ単にアイツがドSなだけであって、俺はドMじゃねぇ!!」

 

 

 雪穂の奴、勝手にデマ広げやがって……

 もしこれが穂乃果やことりの耳に入ったら、身体をベッドに縛られ一日中かけて白いアレを搾り取られるまである。もうヤンデレの相手をするのは懲り懲りなんだよ!!

 

 

「それは置いておいて、サッサと理由を話しなさい」

「そう言って拳を握り締めるのはやめてくれませんかねぇ~……」

「私もアイドルを冒涜されてイライラしてきました……」

 

 

 以前俺は花陽を不良化させたことがあるのだが、今の花陽はその時と全く同じオーラを漂わせている。また"かよちん"ならぬ"グレちん"になろうとしているのか!?あの心優しい花陽に本気で罵倒されたら、正直立ち直れる気がしない。

 

 

「お前ら勘違いするな、エロさと言っても性的なことじゃない。言い換えればセクシーさなんだよ!!しかもそれは普段とのギャップがあった方がいい!!清純さの中に垣間見えるセクシーさ!!ただあざと可愛く振舞うだけではなくて、たまには大人の魅力でアピールする!!そう、お前らが言っていることはアイドルとして当たり前のことだ!!だからこれからのアイドルは、もう一歩その先へ踏み込まないといけない!!じゃあそのもう一歩とはなにか?それがエロさなんだ!!」

 

 

 実は少し性的なことも考えていたり……それは内緒。

 

 男なら誰でも1度はアイドルの裸姿を想像したことがあるだろう。おっぱいの大きさだとかおしりの柔らかさだとか、想像するアイドルがエロければエロいほど妄想が沸き立つんだ!!つまりエロければ男から注目されるってことなんだよ!!注目される=魅力があるってことだろ?

 

 

「説明長いわよ!!それに結局『エロ』って言いたいだけじゃないの!?女の子の前で変態さらけ出すんじゃないわよ!!」

「お前が言うな!!お前だって所構わず抱きついてキスして発情する痴女だろ!!」

「アンタにこそ言われたくないわよ!!人目をはばからず女の子のおっぱい揉んでる強制猥褻野郎!!」

「もうどっちも変態だよぉ~……」

 

 

 変態と言われるのはまだいい。自分から言っていることだからな。

 でも強制猥褻野郎ってなんだよ!?恋人同士なんだから、お互いが同意の上ならおっぱい揉んでも別にいいと思うんだけど!?

 

 

 ――――――ん?待てよ、同意の上?そう言えば俺がおっぱいを揉む時って相手に同意を貰ったことってあったっけ……?

 

 

 い、いや!!おっぱい揉んで気持ちよくしてあげれば問題ないだろ!!最終的に快楽に浸ることができればOK!!

 

 

「零に聞いたのが間違いだったわ……まさかアイドルをそんな目で見てただなんてね」

「ま、まさか私たちスクールアイドルもそういう目で!?」

「そりゃあ同学年の女の子たちがちょっと露出多めの衣装で踊っていれば、そういう妄想もするだろうよ!!むしろ青少年が同じ歳近くの女の子を妄想のタネに使わない方がおかしいだろ!!俺は何度お前らで自分磨きをしたことか!!」

「開き直るな!!そんな無駄な情報聞きたくなかったわよ!!」

「なんでアイドルの話からこんな話に……ダレカタスケテェ~!!」

 

 

 ふんっ、助けなんて必要ない!!

 こうなったらにこと花陽に"エロさ"という魅力を伝えるまで、絶対に今日を終えないぞ!!俺が思い描くアイドル精神をコイツらの身体にとことん刻みつけて(性的な意味ではない)、俺好みのアイドルに仕立て上げてやる!!

 

 

「にこ!!」

「な、なによ!?」

「俺はお前が宇宙No.1アイドルと認めるわけにはいかない。なぜなら!!お前にはエロさがないからだ!!」

「に、にこだってセクシーなポーズの1つや2つぐらい……」

「お前がセクシーポーズしても子供が背伸びしている様にしか見えん」

「失礼ねっ!!」

 

 

 残念ながら失礼でも何でもない。高校生だったら出ているところは出ていないそのカラダに需要はあるだろうが、もう大学生だしなぁ~もはやロリコンの人間も反応しないだろう。まさか成長期の間にここまで身長もおっぱいも大きくならないとは……

 女の子の気持ちは分からないが、大学生になって『ちっちゃくて可愛いね』と言われたらどんな気持ちになるのだろうか?

 

 

「だからまずは、参考となる女の子のセクシーポーズを見てみよう」

「誰よその女の子って?まさかにこたちというものがありながら別の女を!?」

「いやいるだろここに」

「へ……?」

 

 

 俺は今まで会話の外へ追い出されていた花陽の顔を指した。

 花陽は急に話の引き合いに出されて驚いたのか、身体がビクッと跳ね上がる。油断してやがったな、絶対に……

 

 

「えぇ!?どうして私なの!?」

「花陽は見た目こそ幼いが、そのカラダは大人にも負けずと劣らない。ふくよかなおっぱい!!ぷにぷにした白い肌!!そして肉付きのいいボディ!!これだけの要素があればスタイルなんて度外視しても全然問題ない!!むしろ見た目は子供、カラダは大人というギャップが素晴らしいんだよ!!」

「えへへ♪そうかなぁ~♪」

 

 

 うわぁ~すげぇ嬉しそうな顔してる!!そういうところが子供っぽいんだけど、花陽のカラダを生で見たことある奴なら分かるだろう、コイツのカラダがどれだけ高校生離れしているのかが。抱きしめた時の柔らかさと暖かさならμ'sトップクラスだ!!

 

 

「大きいおっぱい、透き通るような白い肌、カラダに反した幼い見た目。その要素だけでも興奮するのに、さらにここでセクシーなポーズまで加わってみろ、並大抵の男なら鼻血を吹き出して悶え喜ぶぞ!!」

「悶えさせてどうすんのよ……」

「甘いな!!スクールアイドルが増加しているこのご時世、多少のセクシーシーンや濡れ場シーンがあった方がウケがいいんだよ!!」

「零君、テンション高いね……」

「変態スイッチが痛い方向に入ってるせいだわ……いや、元々変態スイッチは痛いか」

 

 

 折角自分のスクールアイドル論を語るいい機会なんだ、熱くなってしまうのも仕方がない。海未や真姫、希や絵里、そして雪穂に話しても最後まで聞いてくれないし、穂乃果やことり、凛や亜里沙、そして楓は俺の意見に肯定的過ぎて話していてもイマイチ手応えがない。だからアイドル好きのこの2人なら、俺とマトモな話し合いができると思っていたんだよ。

 

 

「よしっ!!じゃあとりあえずさっきも言った通り、参考に花陽のカラダを見てみよう」

「えっ……?」

 

 

 

 

「花陽――――――脱ごうか♪」

 

 

 

 

「ふ、ふぇえええええええええええええええええええええええええええ!?」

 

 

 ん?俺なにか変なこと言ったか?エロさを語る上で参考となる女の子のカラダを拝むのは普通のことだ。通常ならテレビや雑誌などメディアを通じてでしか見られないアイドル。本当なら妄想でそのアイドルのカラダを想像しなければならない。だが今は目の前に参考となるアイドルがいるんだ。これは脱いでもらうのが妥当だろう。

 

 

 あるぇ~もしかして趣旨変わってる?一番初めにどんな話してたっけ……?まぁいっか、女の子の裸が見られれば☆

 

 

「ほ、本当に脱ぐの!?」

「むしろ脱がないの!?お前は話の流れにさえ乗ることができない子だったのか!!俺はお前をそんな子に育てた覚えはありません!!」

「アンタは花陽の父親か!!それに一番の空気ブレイカーはアンタに決まってるでしょうが!!」

「褒め言葉だな」

「どんな耳してたらそう聞こえるのよ!!」

 

 

 この耳は神崎兄妹共通の特殊能力。それは相手からの罵倒でさえも自分のいいところとして吸収してしまうのだ。ある意味でご都合主義過ぎる能力。あっ、ちなみに『ブサイク』など俺に微塵も似合わない的外れな罵倒は意味ないからな。だって俺どこからどう見てもイケメンだし。

 

 

「しょうがねぇなぁ~、どうしてもって言うのなら下着だけは着用を認めよう」

「全部脱がす気だったのぉ!?」

「やるなら妥協なく徹底的にやるのが俺の信条だ。だから女の子の裸を見るにしても下着も何もかもぜーーんぶ脱がしたいんだよ!!でもソックスだけは別な、萌えるから」

「アンタの観念がよく分からないわ……」

 

 

 下着萌えというものがある。

 普段は制服に包まれて見えないが、風によりスカートが捲れたり、夏になれば白いシャツから透けて見える通称"透けブラ"で女の子の下着を拝むことが可能だ。つまり頑張れば日常生活でも女の子の下着は見られなくもない。そこに興奮を覚える人だっているだろう。だから全裸と下着着用状態とでは全く別だと言い張る専門家もいる。

 

 

 ソックス萌えというものがある。

 下着とは違って常に外部にさらけ出されているソックス。通常ならそんなものに萌える人は異端者のように見える。だがその考えこそ素人の極み、ソックスの真価は女の子が服を脱いだ時に発揮される。

 これは俺の意見だが、上も下も下着も何もかもすべて脱ぎさり全裸状態な女の子がいたとしよう。だがその女の子にはただ1つ着用しているものがある。それがニーソックスだ。全裸+ニーソックス、俺はこの組み合わせほど萌えるものはないと思っている。

 

 

「花陽!!」

「は、はい!!」

「お前はアイドルが憧れだったんだろ?」

「そ、そうだけど……」

 

「だったらこれくらいのことで怖気づいてどうする!?最近積極的になってきたお前はどこへ行ったんだ!?俺はお前が後ろを向く姿より、目標に向かって真っ直ぐ突き進む姿を見たい!!スクールアイドルという、憧れから遂に手が届くところまで上り詰めたんだ!!ここで立ち止まっていていいのかよ!?」

 

「零君、そこまで私のことを……」

 

 

 花陽の目がキラキラと輝いている!!

 俺はμ'sを導くものとして、みんなを明るい未来へ引っ張っていきたい。俺がどれだけ変態だろうが、どれだけエロかろうがそれだけは変わらねぇ!!だからμ'sのメンバーが誰か1人でも後ろ向きな姿になってしまったら、最悪首根っこ掴んででも俺やみんなと一緒に歩かせるぞ。この無理矢理さが俺のやり方だ!!

 

 

「そうだ!!お前に後ろ向きな姿なんて似合わない。もっと自信を持て!!お前は可愛んだから!!」

「か、かわっ!?は、はぅぅ~……」

 

 

 花陽は顔を沸騰させて俯いてしまった。このままコイツを出荷したらトマトと間違えられそうなくらい顔が赤いぞ。だがこの"かよちん"ならぬ"デレちん"は俺のものだぁああああああああ!!

 

 

「だからみんな脱ごう!!恥ずかしがることはない。むしろオープンな気持ちで積極的に脱いでいくほどの気概があれば、俺の言うエロさを兼ね備えた最強のスクールアイドルになれるぞ!!」

「さっきまでちょっといい話だったのに、今ので全部台無しよ!!にこの感動を返してよ!!」

「そう思うのならお前も脱げ!!少しばかり貧相なカラダでもいいじゃないか!!俺はにこの可愛いカラダならどんなカラダでも興奮できる自信があるぞ!!」

「もう意味分かんないわよぉ~!!アンタの頭のネジ全部外れてるんじゃないの!?」

「そんなもの、俺が生まれた直後からとっくに外れてる!!」

「どんな赤ちゃんよそれ!?」

 

 

 珍しくにこにキレのあるツッコミが戻ってきた。最近はずっと変態キャラになっていたから新鮮だ。何気に俺とにこがボケとツッコミの関係に戻ったのも久しぶりかもしれない。懐かしいなぁ~

 

 

 だが残念ながら今の俺は、にこと花陽を脱がしてニーソックスを履かせることしか興味がないけどな!!

 

 

「さあ脱ごうぜ!!」

「その『ちょっとコンビニ行こうぜ』みたいなノリやめてくれない!?」

「それくらい軽いノリで脱ぐことができたならば、お前らは立派なスクールアイドルだ!!」

「今日の零君おかしいよぉ~ダレカタスケテェ~!!」

 

 

 人間ってのは突き詰めれば全員変態なんだよ。その変態度が高いか低いか、それだけの話。それなのにも関わらず『変態が気持ち悪い』など、『お前はおかしい』などと変態を馬鹿にする奴を俺は許さない!!もちろん法律に引っかかる輩は別だがな。健全な変態なら全く問題はないのだよ!!

 

 

「しょ、しょうがないわねぇ~……」

「に、にこちゃん!?脱いじゃうの!?」

「別に彼氏の前だし、いつもにこのカラダを見て欲しいって思ってるし、それに零に『可愛いカラダ』なんて言われちゃったら……えへへ♪」

「にこちゃんも壊れた!?」

「残念だったな花陽、これが矢澤にこ真の姿だ」

 

 

 やはりいつもの変態にこちゃんに戻ってしまったか……

 日常生活では常にキス願望を持っている彼女。隙を見せようものなら俺のモノをイジって遊ぼうとしてくる小悪魔的要素も兼ね備えている。まさに変態小悪魔といったところか。

 

 

「花陽も脱いでくれないか?気持ちよくしてあげることだって……できるんだぞ?」

「き、気持ちよく……!!」

 

 

 デートの一件以降、花陽が積極的になったのはいいが同時に変態の道も歩み始めてしまった。そして今『気持ちよく』という言葉で迷った辺り、完全に堕ちた天使となってしまったようだ……

 

 

「に、にこちゃん!!脱ぐなら一緒に脱ご!!1人だと恥ずかしいから……」

「花陽と一緒に脱ぐとカラダの差が如実に出て衝撃を受けそうだけど……まあいいわ、これもアイドルとしての魅力を上げるため」

「そうです!!やましいことは一切ありません。ただアイドルとして必要なことをするまでです!!」

 

 

 そしてにこと花陽は一斉に自分の服に手を掛け始めた。

 もう少しだ!!もう少しで2人のカラダを拝むことができるぞぉおおおおおおおおおおお!!興奮して居ても立ってもいられなくなってきた!!そうだニーソックス!!この時のために買っておいたニーソックスを用意しておこう!!全裸+ニーソックス、まさか妄想していたことが現実になる日が来ようとは!!

 

 

 

 

「零、台所の洗剤が切れてしまったのですが替えはどこに…………」

 

 

 ノックしてください園田さぁあああああああああああああああああああああああああああん!!!!

 

 突如俺の部屋に入ってきたのは園田さんこと園田海未様。にこと花陽が俺の目の前で服を脱いでいるところを見て、次第に彼女の周りに負のオーラが立ち込める。目は俺を見下すような目に変わりこちらへ近づいてくるのだが、その歩く音はまるで俺が絞首台への階段を登らされている音みたいだ。

 

 

「花陽は部屋の外で待機していてください。この2人には……フフフ」

「こえぇよ!!何をする気だ!?」

「そもそもにこは被害者よ!?なんでにこまで説教されなきゃならないのよ!!」

「大体零やにこのせいにしておけば問題ないので♪」

「「なにその理不尽!?」」

 

「先ほど穂乃果と凛がぐうたらして、家事を全く手伝わなかったのでイライラしていたところなんですよ。でもちょうどよくストレス発散ができそうでよかったです♪」

 

「そ、そりゃあよかった……」

 

 

 なんか、俺よりもイキイキしてますね園田さん……

 

 

 そしてそのあとの展開は――――お察し……

 

 




 暴走させるべき人を間違えました誠に済みませんでした(笑)

 今回はタイトル詐欺じゃね?と思われてもおかしくなかったです。構想の段階では零君がまたツッコミ死しそうな回になる予定だったのですが、『エロさ』という言葉を出してしまったばっかりに自分の欲望が抑えられなくなってしまいまして……でも楽しかったですよ!

 ちなみに残る希回も同じようなシナリオで進んでいくのであしからず。

 そしてそろそろA-RISEを出したいと思っている自分がいる。でも話が全く思いつかないのです。折角だから今回みたいなノリで行きましょうかね。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神崎兄妹困惑!次のライブはノーブラで!?

 今回は日常回でノーブラ回。
 次のライブはノーブラだと言い出したμ'sメンバーに、零と楓は度肝を抜かれる。


 

 

 同棲生活11日目。

 

 あと4日後に迫ったライブに向け、ある者は燃え、ある者は冷静で、ある者は緊張するなど三者三様の様子を見せている。同棲生活で衣食住、そして性を共にしたことでグループとしての一体感が高まり、絆がより強固となったμ's。しかも雪穂、亜里沙、楓の悩みもすべて解決したし、ライブの大成功は間違いなしだな。

 

 ちなみに今回のライブはμ'sの単独ライブで、そこまで大きな会場で開催されるわけではないものの、だからと言って手を抜くような奴らじゃない。それに前回の『ラブライブ!』優勝チームということで注目もされるだろうし、なんせ新しく入った1年生組がかなりの人気だから、むしろ人がごった返して会場に収まりきらない可能性もある。今のμ'sはそれくらいのファンを獲得しているのだ。

 

 

 だから学校にファンレターが来ることもままあって――――

 

 

「ほら楓、お前にファンレター来てたぞ」

「えぇ~またぁ~!?時間を掛けて目を通すこっちの身にもなってよね!!全く、人気者は辛すぎるよ♪」

「辛そうには見えないが……」

 

 

 楓はファンレターをもらうといつもニコニコとして嬉しそうにする。

 実はμ'sの中でも楓へのファンレターは特に多く。あの海未や真姫、絵里すらも敵わない。まるで彗星のごとく天から舞い降りた女神として、ここ数カ月で男性女性問わず人気を得ている。

 

 だがしかし、こうして見るとコイツはファンからの声援を素直に受け取っているように見えるが、実は男からのファンレターは読まずにゴミ箱へポイしているという残酷な現実がある。楓曰く、お兄ちゃん以外の男からの声援はいらないそうだ。天から舞い降りた女神は世間を欺く仮の姿。本当の姿はファンを選ぶというある意味でアイドルのタブーを犯す悪魔なんだよ。

 

 

「とりあえずそれは置いてこい。夕飯の準備、手伝いに行くぞ」

「あっ、待ってよお兄ちゃ~ん!!」

 

 

 楓は適当にファンレターを仕分けると、後で読むものだけを箱に戻し残りはすべてゴミ箱へ放り込む。

 相変わらず躊躇なく捨てやがるなコイツ……いつ見てもえげつない光景だ。

 

 

 そんな風にいつも通り楓の奇行に呆れていると、リビングから穂乃果の声が聞こえてきた。

 

 

 

 

『じゃあ次のライブはノーブラにしようよ!!』

 

 

 

 

「「はぁ!?」」

 

 

 俺と楓の声が一斉にハモる。

 たった今、あのバカはなんと言ったのか、いくら聡明な俺や楓の頭でも全く理解出来なかった。俺たちは口を開けたままリビングの前に佇んでしまう。このトビラに手を掛けることを躊躇するくらいの衝撃だ。

 

 

 そして俺たちの脳に理解が行き届く前に次なる会話が繰り広げられる。

 

 

『そうですね。それもいいかもしれません』

『ことりもそれにさんせ~い♪』

 

 

「なん、だと!!」

 

 

 穂乃果やことりがノーブラであることはもはや不思議でもなんでもない。周りが引くほどの変態を発揮する2人だ、ノーブラで歌って踊ることもあるかもしれない。だがそれがライブとなったら話は別になる。アイツらそこまで露出グセがあったかよ!?

 

 そして極めつけは海未だ。彼女の言葉を借りるなら、アイツがこんな"破廉恥"な提案に乗るなんて考えられない。まさか海未の奴、穂乃果とことりに毒されてとうとう変態の道を……同じ変態仲間が増えるのは嬉しいが、アイツだけは健全でいてもらいたかった。

 

 

「お、お兄ちゃん!?手が震えてるよ、トビラ開けないの!?」

「このトビラの先って俺んちのリビングだよな!?別次元になってたりしないよな!?」

「落ち着いてお兄ちゃん!!確かに私も衝撃だけど……」

 

 

 楓に言われて初めて自分の手が震えていることに気がついた。楓も平静を装っているが目の泳ぎは隠せていない。本当にこのトビラの先にいるのは俺の愛しの彼女たちなんだよな!?今リビングにいるアイツらが、平行世界から来たとかいうトンデモ現象は起きてないよな!?

 

 

 そしてまだまだみんなの会話は続く。

 

 

『凛もノーブラで賛成だにゃ!!かよちんは?』

『うん、私もそれでいいと思うよ。真姫ちゃんは?』

『私も賛成。最近やってなかったしね』

 

 

「なにぃ!?!?」

 

 

 おかしくなっていたのは海未だけではなかった。μ'sの中でも特に変態度の平均が低い2年生組までもが全員ノーブラに賛同している。しかもあの真姫が一切言葉を濁さずに、あんなエロい意見に真っ向から賛同するなんて……

 

 

「真姫先輩……最近やってなかったって言ってたよね?もしかしてそれ以前は……」

「ないない!!俺が知っている限り、真姫がノーブラでライブしてたことなんて一度も!!」

「でもお兄ちゃんがそう思っているだけで、真姫先輩は意外とノーブラ趣味があるのかもよ?」

「ま、まさか……」

 

 

 真姫がノーブラを趣味に!?なにそれ興奮する!!でも彼氏として、彼女がライブをノーブラで踊っていることを注意した方がいいのではなかろうか?もしライブを見に来ている人に『あの子、胸の揺れ激しくね?』と思われたら、それが引き金となってノーブラがバレてしまうかもしれないからな。

 

 

 そして困惑する俺たちにさらに追い討ちを掛けるかの如く、さらにノーブラの会話が続けられる。

 

 

『でもノーブラってジャンプする時が大変じゃない?にことしては結構体力奪われるのよね』

『確かに慣れるまでキツイかもしれへんけど、ウチはもう平気や♪絵里ちももう慣れっこやもんね』

『そうね。初めは少し恥ずかしかったけど、今は楽しむ余裕さえあるもの』

 

 

 変態だ!!ここに度し難い変態がいる!!大学生になったからって盛りすぎだろ!!お前らの頭は万年思春期なのかぁあああああああああああああああ!!

 

 

「体力奪われる!?にこはジャンプしても揺れるものがないからそんな心配する必要ねぇだろ!!慣れっこ?お前らは日常生活でもノーブラなのかよ!?楽しむ余裕!?もう俺たち以上の変態じゃねぇか崇めるぞオラァ!!」

「お、お兄ちゃんがツッコミ死しちゃう……」

「アイツらがあんな会話するなんておかしいだろ。やっぱり別次元の穂乃果たちなんじゃねぇの?」

「お兄ちゃんがそこまでファンタジックだとは思ってなかったよ……」

 

 

 ポンコツ更生プログラムを終えた絵里でさえもこの始末。日々μ'sの変態化が進んでいるのは知っていたが、まさかそれが既に達成されていたとはな。それも俺や楓がドン引きするような変態と化して……

 

 

「変態で負けるなんて俺のプライドが許さない。このまま終わってたまるかよ……」

「お兄ちゃんは何と戦ってるの……?」

「アイツらの変態力とだ。それにまだ負けたわけじゃない。雪穂と亜里沙だったらそんなことには慣れてないだろうから、全力で否定するはずだ」

 

 

 しかし俺のプライドをさらに抉るように、みんなの会話は無慈悲に続けられていく。

 

 

『ノーブラですかぁ~お姉ちゃんに教えてもらいましたけど、あれいいですよね♪お客さんも盛り上がりますし』

『私もお客さんと一緒に楽しめるからノーブラは大好きだよ♪この前なんか柄にもなく興奮しちゃたしね』

 

 

 

 

「くっ……!!」

「お兄ちゃんが膝を折った!?あのお兄ちゃんが……負けた!?」

「あの雪穂と亜里沙までもが人前でノーブラだったとは……もうあんな痴女軍団、俺の手には負えねぇよ」

 

 

 海未と並んであの冷徹な雪穂もめでたく変態の仲間入り。ことりと花陽が堕ちてしまって残り1人となっていた我が天使、亜里沙様もその羽が真っ黒に染め上がっていた。

 

 興奮するってなんだよ……雪穂の奴、俺に散々変態変態言いやがってぇええええええ!!ブーメラン発言もいいところだぞお前!!

 

 

 ここまでみんなが変わってしまうのはどうも変だ。もしかして誰かに性格を変えられた……?そうだ、アイツだ!!俺たちを発明の実験台にして影でほくそ笑むアイツのせいじゃないか……?

 

 

「そうか分かったぞ。秋葉の野郎、俺の可愛い彼女たちをこんな醜い姿に変えやがってぇえええええええええ!!どうせどこかで盗聴してんだろ!?今日こそはブチのめしてやるからかかってこいやぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「待って待ってお兄ちゃん!!怒りの行き場がなくなってるからって花瓶を殴ろうとしないで!!」

 

 

 俺は一心不乱に周りに拳を振りかざし、楓はこれまた珍しくツッコミ役兼制止役として俺の腰に抱きつき俺の暴走を抑止する。普段の俺なら抱きつかれた時に身体に当たる胸の感触を味わい興奮するのだが、今は楓の胸が俺の快楽を煽り、怒りをどんどん吸収してくれたおかげで冷静さが戻ってきた。

 

 

「私はどんなことがあってもお兄ちゃんの味方だよ♪それにノーブラで他の男の目線に晒されるなんて気持ち悪いし」

「楓……やっぱりお前は史上最強の妹だ!!」

「うんっ!!ありがとお兄ちゃん♪」

 

 

 やっぱり持つべきものは兄を慕ってくれる妹だよな!!妹こそ兄の一番の理解者だ、このまま俺もシスコンの道を歩み始めよう!!そして妹と結婚して末永く幸せな日々を過ごすんだ。変態なアイツらになんかに構ってられるかってんだ!!

 

 

 そしてまだまだ奴らの会話は続いていく。

 

 

『楓も賛成してくれるかな?』

『するでしょ。楓もノーブラの時はいつも楽しそうだし』

 

 

 は……?は……?はぁああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?

 

 

「キサマぁああああああああああああああああああああああ!!裏切りやがったなぁあああああああああああああああああああ!!結局お前も同類じゃねぇかぁああああああああああああああああああああああ!!」

「違う違う違う違う違う!!そんなこと全然知らないよ!!ノーブラなんてお兄ちゃんを誘惑する時以外にはしないって!!」

「俺とお前は同類だったはずなのに、もう俺の手の届かない境地へ行ってしまったんだな……」

「だから知らないって!!あの2人がデタラメ言ってるだけだもん!!」

 

 

 もう俺には味方がいないのか……

 姉や妹、そして愛しの彼女たちまで俺とは別次元に住居を構えてしまったようだ。もう俺から会いにいくことはできないだろう。遠くから無事を願って見守ることしかできない……

 

 

「お、お兄ちゃんとりあえず立とうよ。ずっと膝を折ったままだとカッコ悪いから……ね!!」

「触るなぁああああああああああああああ!!変態が感染る!!」

「いやお兄ちゃんがそれを言う!?」

 

 

 俺の変態が発揮されるのは穂乃果たちの前だけだ。でも楓たちは舞台に上がりノーブラでライブをして、観客の目に晒されることに快感を覚えるほどの変態。そんな奴らと俺を同列に扱わないで欲しい!!

 

 

「もうっ!!アイツらのせいでお兄ちゃんに嫌われちゃったじゃない!!」

 

 

 友達はまだしも先輩たちをアイツら呼ばわりした楓は、トビラに耳を当てさらに穂乃果たちの会話を聞こうとする。

 もうそんなことをしても何も変わらん……μ'sが変態集団の集まりだという事実はな。

 

 

『そう言えば海未ちゃんも初めは恥ずかしがってたよねぇ~♪』

『もうことり!!昔のことはいいではありませんか!!』

『穂乃果はお客さんに見られてると思うとワクワクするよ♪』

 

 

 もうダメだ……希望など一切ない。

 でも穂乃果たち、昔からノーブラの趣味があったとは……これでも1年間濃厚なお付き合いをしてきたつもりだったんだけど、文字通り『つもり』だったんだな。それよりも今まで俺に『変態変態』と言ってきたことを謝ってもらいたい。

 

 

 そしてまた廊下にみんなの声が漏れる。もうやめてくれぇえええええええええ!!

 

 

『ノーブラはテンション上げるのがいいけど、高揚した希にワシワシされるのがねぇ……』

『でもにこっちも興奮して気持ちよさそうやったやん♪』

『それはノーブラで興奮してんの!!アンタのワシワシのせいじゃないわよ!!』

 

 

「ノーブラでワシワシって……希先輩レズプレイ派なの!?私も貞操の危機!?」

「これは俺が今までアイツらにセクハラをして通報されなかった理由が分かったよ。だってアイツらの方が俺よりもずっと変質者だもん」

 

 

 まさかライブ終了後にそんなピンク色の展開になっていたとは!?なんだかんだ言ってアイツらも、沸き立つ興奮を抑えられずに人目を忍んでレズプレイを嗜んでいたんだな。

 なるほど、だから俺のワシワシもあんなに寛容に受け入れることができたのか。普通の女の子なら暴れたり叫んだりするはずなのに、穂乃果たちは顔を赤くするだけで抵抗する素振りを見せないからな。

 

 

「もう我慢できない!!こうなったら私が直接アイツらに問い詰めてやる!!」

「お、お前!!あの異次元に自ら飛び込むというのか!?行ったら戻って来られないかもしれないんだぞ!?」

「それでも私の純情な心を傷つけたアイツらを放っておけないの!!よし決めた!!」

「おい!!楓!!」

 

 

 楓は遂に異次元へのトビラへ手を掛けた。

 純情なのかはさて置き、もう知らねぇぞ俺は!!お前がアイツら同様ノーブラに恥じない痴女となっても!!そしてなった後で助けを求めても無駄だからな!!またあんな"非日常"みたいに地獄を渡り歩くなんてゴメンだ!!

 

 

 そして楓はバタン!!とトビラを開け、勢いよくリビングへ飛び込んだ。

 

 

「アンタたち!!ノーブラノーブラって、私にも風評被害を被るんだからやめてくれない!?そんなにノーブラがいいなら自分たちだけでやれ!!この痴女軍団がぁあああああああ!!」

 

 

「「「「「「「「「「「ち、痴女軍団!?」」」」」」」」」」」

 

 

 楓の心からの叫びに全員が目を丸くして反応したのだが、痴女軍団と呼ばれた瞬間、穂乃果たちの顔が一気に赤くなる。まるで自分たちがそれを自覚していなかったかのようだ。あんな会話をしておいて自覚なしっていうのも恐ろしいことだが……

 

 

「今更しらばっくれたって遅い!!さっきからノーブラノーブラ言って、私はもっとμ'sが健全なグループだと思っていたんだけど!?全員が変態だったら私の最強のアイデンティティが霞んじゃうじゃない!!」

 

「お前の怒りはそこだったのかよ!?それは今関係なくて、みんなが何で下着を着けずにライブをするのかっていう話だろ!?」

 

「「し、下着!?」」

「ん……?ことりちゃんこれって……」

「うん穂乃果ちゃん、多分これは……」

 

 

 俺が『下着』というワードを出した時、海未や絵里の顔がさらに沸騰しているのが分かった。でも穂乃果たちは微笑ましい顔で俺と楓を交互に見つめ、ことりが海未に、穂乃果が絵里に何やら耳打ちをする。そして海未と絵里にもようやく事の概要が分かったのか、穂乃果たちは――――――

 

 

「「「「「「「「「「「アハハハハハハハ!!」」」」」」」」」」」

 

 

 涙を流すほど大声で笑い始めた。

 

 

 …………一体なんなの!?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「まさか、ノーブラがお前らの曲『No brand girls』の略だっただなんてな……」

 

 

 一通り笑い終えた穂乃果たちにネタばらしをされ、俺と楓は力が抜けていた。

 どうやらこの前のライブでノーブラならぬ『No brand girls』は歌ったのだが、今週末のライブでは歌わないため次にライブの機会があったら歌おうという話になっていたらしいのだ。そこへ俺たちが偶然話の途中から参戦してしまったため、こんな面倒なことになってしまったという経緯である。

 

 

「私も知らなかったよ……」

「どうして歌ったことのある楓が知らないのですか?」

「確かにこの前のアキバでのライブで歌ったけど、そんな略し方をしてるなんて知らないですって!!」

「そもそもそんなややこしい略し方すんなよ……」

 

 

 『No brand girls』略して"ノーブラ"。確かに語呂はいいし言いやすい。なんかノーブラと略されるために生まれてきた曲みたいだな。名付けた奴の悪意を感じる……海未か真姫のどっちかか?

 

 もう考えるのメンドくさい!!今日は疲れた!!

 

 

「あははっ!!穂乃果、こんなに笑ったの久しぶりだよ!!ネタばらしされた時の零君と楓ちゃんのキョトンとした顔ったら!!うぷぷぷ……笑顔健康法で元気になれそう♪」

「へーへーそりゃあよかったですねーー」

「ゴメンゴメン!!零君拗ねないでよ~♪」

 

 

 こりゃあこのことを一生ネタにされるな……




 一応タイトルには偽りなしですよね?(笑)
 自分はラブライブのキャラは好きですが曲には全く興味がないので、実際に『No brand girls』が"ノーブラ"と略されているのかは知りません。それよりも外で"ノーブラ"と言っている人がいるのか知りたいです!

 こういった言葉遊び回は、前作『日常』での"皆殺し""半殺し"回以来でしたから非常に楽しく執筆できました。しかし楓がかなり常識人になっていたところはとても違和感を感じましたが(笑)


 ここから全く関係のない話なのですが、自分が投稿しているR-18小説『未来の日常』を削除する予定です。理由としては書く気がないという単純な理由ですが、いつか主人公を変えてまた書いてみたいと思っています。
もし保存したい人がいれば自分に声を掛けなくてもよいのでご勝手にしちゃってください(笑)


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秋葉お姉ちゃんの裁き

 今回はまさかの秋葉さん回――――なのですが、内容的には零君回と言った方が正解かもしれません。

 ちなみに秋葉さんと聞くとドタバタギャグを想像してしまいますが、割とマジになる時だってあるんですよ!!


※原作キャラは一切登場しませんので注意


 

「おめでとーーーーー!!」

「なんだよ急に……」

 

 

 同棲生活も残すところあと3日となり、週末にはライブが控えているという忙しい時期に、俺は再び秋葉に呼び出され彼女の研究室に来ていた。

 相変わらず整理整頓がなされていない部屋であり、小難しい医学書や意味不明な方程式が書かれたレポート用紙が床にまで散らばっている。その惨状を見れば数日間また研究に没頭していたことが分かるのだが、そのせいで部屋を掃除していないのと妙な薬品の匂いが相まって言葉では表せない不思議で鼻につく匂いが漂っていた。

 

 

「用件があるなら早くしてくれ。あまりお前の茶番に付き合っている余裕はない。精神的な意味で……」

「まあそう辛気臭い顔しなさんな♪私はただ見事ミッションを達成した零君を褒め称えてあげたいだけだよ♪」

「ミッション……?あぁ、アイツらのことか……」

 

 

 俺はμ'sのみんなと同棲生活をする前に、コイツから1つのミッションを与えられていた。それは雪穂、亜里沙、楓、この3人の悩みを解決することだ。

 μ'sの顧問(とは言っても代理程度の扱いだが)となった秋葉は、一度μ'sの練習を見に来たことがある。彼女自身アイドルの経験は微塵も存在しないのでアドバイスと言えるほどのアドバイスはできていなかったが、メンバー1人1人の動きや発声の弱点を見つけ口出しをすることぐらいはできていた。そこはやはり天才と言うべきか、この年にしてたくさんの研究員を受け持っているだけはある。ちなみに絵里たちもその一員だ。

 

 

「なんで俺がアイツらの悩みを全部解決したって知ってるんだ?」

「楓ちゃんがうれしそぉおおおおに電話掛けてきたんだもん。その会話の中で雪穂ちゃんや亜里沙ちゃんがいつもより元気だって聞いて、もしやと思ったんだよ。その様子を見ると案の定だったね♪」

 

 

 秋葉は何故か意地の悪そうな顔で、まさに『してやったり』という表情をしている。

 相変わらず人を苛立たせることに関しては右に出る者がいない。日頃からの人体に関わる研究(幼児化や性転換、精神入れ替えなど)といい、ここまで対人間に特化した生物はコイツにおいて他にいないのではないかと思う。

 

 

「これで彼女が3人増えたも同然!!いや~リア充爆発しろ♪」

「同然って……まだ彼女になると決まったわけじゃないだろ」

「そ~お?零君がその気になればもっともっとハーレムを拡大できる思うけど?このままだと零君、ハーレムの王様になれちゃうかも!?」

「ハーレムの王様だって……?」

 

 

 ハーレム。

 

 いい言葉だ。1人の男が複数の女性をはべらせる、男の天国。誰を切り捨てるのでもなく、誰1人だけを愛するのでもない。全員を平等に愛する。そして女性同士はそのことに関して憤りを持つことがない、まさに男の理想、夢である。

 

 歴史上を紐解いてみればハーレムとはごく当たり前のことであり、1人の男が何十何百という女性を側室としていたことはかなり有名である。そこでは男が王であり、女性は男の命令を拒むことは許されない。いや、許されないというのは語弊がある。正しくは女性が"拒むことをしない"のだろう。彼のことが好きだから彼の命令には絶対に従うという、ある種絶対君主に近い。

 

 

 だから俺自身もそうしたいのか?穂乃果たちを自分の周りにはべらせて、命令して、それを拒まずにむしろ喜んで受け入れてくれる、そんなハーレムを築き上げたいのか?

 

 

 答えは"否"だ。

 

 

「俺はそんなハーレムを作るためにみんなと恋人同士になったんじゃない。アイツらの隣で、ずっと笑顔を見ていたいから。ただそれだけの話だよ。そしてこれからもその笑顔を守って、みんなを幸せにしてみせる」

「ふ~ん……じゃあそれが、零君のやりたいことなんだ?」

「そうだ」

 

 

 本当にそれだけの話。

 

 彼女たちが大好きだから。そんな彼女たちの笑顔を誰よりも近くでずっと見ていたいから、俺は9股という最低の道を選んだ。後悔などは一度もしたことはなく、これからだってするつもりもないし、アイツらにもさせるつもりはない。"あの9日間の惨事"と今回の同棲生活で、俺はそう心に誓ったんだ。

 

 

「はぁ~……」

 

 

 秋葉は俺から目を逸らし頭に手を当て溜め息をつく。まるで問題児相手に教育指導をしているが、全く更生しないから困っているような様子。その溜め息は呆れに呆れ返っていると、誰にでもすぐに分かるものだった。

 

 そんな"問題児"の俺は再び秋葉と目が合ったのだが、彼女の雰囲気が別物だと感じるのに少し時間が掛かってしまった。

 

 溜め息からここまでは一瞬。だが俺には俺と秋葉の間に流れる時間だけはとてつもなく長く感じられた。彼女の口が開く。その挙動でさえも数分の時間を使っているかのように。

 

 

 俺に冷たい嫌な汗が流れ、遂に秋葉は言葉を発する。

 

 

 

 

「粋がってんじゃねぇぞ、このガキが……」

 

 

 

 

 分かっていた、何かしらの罵倒が来ることは。

 

 分かっていた、何かしらの否定が来ることは。

 

 それでも秋葉の言葉は俺の胸にブスリと突き刺さる。楓の悩みを聞いていた時と同じ、妹が心の底に抱いていたものを自分の全身全霊で受け止めた時と全く……

 それはやはり俺と同じ家族、姉だからだろうか?穂乃果たちの悩み事を聞いている時とは違う、家族だからこそ彼女たちの心の底からの声が俺の心の底にまで響き渡る。

 

 だが楓が"悩み"だったのに対し、秋葉は"怒り"(?)のようなものなのだが……

 

 

 秋葉がここまで感情を顕にするのは非常に珍しい。

 基本的には常に笑顔であるが、その笑顔はかなり歪だ。俺たちに妙な発明品を使って楽しんでいるその姿、一見すればただ面白がっているだけのように見えるかもしれないが、視点を変えれば自分の発明品で俺たちがどんな状況に陥ろうとも常にその笑顔は崩さないということである。ある意味では体裁がよく。ある意味では不気味だ。

 

 一歩間違えれば俺たちの人生が棒に振られてしまう可能性だって幾度となくあった。そんな危険があることは秋葉自身が一番よく分かっているはずだ。だが秋葉は笑顔を崩さない。それが本当に心の底から楽しんでいるのか、いやいや本当は俺たちの心配をしてくれているのか、そこは定かではない。

 

 

 だからこそ。

 

 

 今の秋葉のように、誰にでも彼女の感情が理解できるという状況自体が珍しい。家族がゆえそれにより敏感となってしまう。

 

 

「みんなの笑顔を守る……か。そんなもの、ただの前提に過ぎないよ」

「なに……?」

 

 

 俺は目を見開いて、秋葉の目を見つめ返した。

 

 

「笑顔を守るとか幸せにするとか、そんなこと当たり前なんだよ。今のあなたは与えられた前提条件をただ列挙しているだけ。重要なのはその先、みんなの笑顔を守って幸せにして、それを満たした上で零君は何をしたいのかって聞いてるの」

 

「……」

 

 

 指摘されて初めて気がついた。自分から穂乃果たちに告白して、その笑顔を守り幸せにするとは言っても、そんなものは秋葉の言う通り絶対に満たされなければならない前提条件なのだ。数学の証明の問題で、仮定だけを列挙してすぐに結論を書くようなもの。俺はその仮定から導き出される内容がスカスカに空いている状況なんだ。証明問題で重要なのはその途中の内容であるはずなのに……

 

 

「零君はみんなと一緒に何がしたいの?隣で笑顔を見ていたいから付き合ったの?その先も考えずに?まさか大切な彼女たちを自分のお先真っ暗な未来に巻き込んじゃったの?」

「……」

 

 

 秋葉は俺を煽るように質問の嵐を巻き起こすが、俺はそれに飲み込まれるだけで何1つ答えることができない。ただ彼女に自分が如何にその場しのぎで対処をしてきたのかを思い知らされるだけだ。"お先真っ暗な未来"と言われ足元がふらつきそうになる。それくらい自分がそこまで何も見据えていなかったことに衝撃を受けた。

 

 

 未来を見据える。

 

 まだ遠くだと思っていたことがたった今現実として叩きつけられた。高校3年生としての自分の未来と、彼女たちと共に歩む未来。どちらか1つでも途方もなく長い時間のことだというのに、それを2つ同時に見据えなければならないという苦しい現実。

何も考えず、とりあえずその場しのぎで問題を解決してきた俺にとっては非常に重い。もしかしたら今まで俺は問題を解決してきたのではなく、問題を掻い潜ってきただけなのかもしれないという考えまで浮かんできてしまう。またいつかその問題が火山のように暴発して、今度こそ手が付けられない事態に陥るかもしれない。そう考えると未来を見据えることに恐怖を覚えてしまう。

 

 

「ただ勢いだけで9股をして、さらに楓ちゃんたちを巻き込んで、何も考えていないあなたにそれでもみんなの未来を保証できるの?」

「俺は……」

 

 

 最後の追い討ちを掛けられた。

 

 

 "何も考えていない"

 

 

 秋葉の言葉の意味を辿っていけば俺が何も考えていなかったことは明白だ。当たり前のことを当たり前のように前提条件を列挙して、その先に待ち構えているかもしれない問題に目を向けようともしない。いや、目を向けようしていないのではなく考えてすらいなかったと言った方が正しいか。どちらにせよ、自分のお先真っ暗な未来に穂乃果たちを巻き込んでしまったことは事実だ。

 

 

 

 

 そこで唐突に、俺の頭に穂乃果たちの笑顔を思い浮かんだ。

 学校生活で見られる日常的な笑顔。悲しみから救った時に見られた安心するような優しい笑顔。ライブの時に見られる明るい笑顔。そしてライブが終わった時に見られる、少し涙を含んだ感動した笑顔。

 

 俺は各状況に応じた1人1人の笑顔を明確に覚えている。これが俺の守りたかったものなんだから。

 

 

 

 

 だから俺は――――

 

 

 

 

「俺は……それでもその前提条件を追い続ける」

「……」

 

 

 今度は秋葉の目が大きく見開いた。それは俺が答えられず縮こまると思っていたのか、それとも想定していた俺の答えとは違ったからなのか。どちらにせよ俺は自分の想いをぶつけるだけだ。

 

 

「お前の言う通り、確かに彼女たちを笑顔にして幸せにすることなんて当たり前のことだ。だけど、その前提条件は"誰かを幸せにし続けることのできる力を持つ人"の条件だ。俺はまだそんな当たり前のことすら満たせない。雪穂たちの悩みだってお前がいなかったら解決できなかったどころか、認識すらできなかったんだから。今の俺には、穂乃果たちをずっと笑顔で幸せにしてやれる力はない」

 

「だから、追い続けるの……?」

 

「ああ。それが俺のやりたいことだ」

 

 

 みんなの笑顔を隣で見たい。だからその笑顔を守るために俺は9股という道を選んだ。雪穂や亜里沙、楓からの好意を素直に受け取ろうと決心した。

 そう決心したからといって、以降みんながずっと笑顔でいられたかといえばそれは違う。何度も失敗したし、悲しい涙を幾度となく見てきた。1人でスクールアイドルを始めた時、俺が雪穂たちの悩みに気づかず彼女たちの心がほとんど閉ざされていた時、そしてそこから彼女たちの笑顔が消えた時、俺は明確な"失敗"を感じたんだ。

 

 だから彼女たちの笑顔を追い続ける。今度は失敗しないように前提条件を繰り返してもいい、同じことを何度列挙してもいい。それ以前に、彼女たちの笑顔を守ることを前提条件という枠に入れてしまうということ自体が間違っている。前提条件は既に果たされなければならないものだ。

 

 『彼女たちの笑顔を守った!!』と言えるのはいつだ?それ以前に笑顔を守り続けることに終わりなどあるのか?完成系はあるのか?『彼女たちの笑顔を守ったから、これ以降はこの笑顔が崩れることはないだろう』ということが果たされたということなのか?

 

 

 

 

 そもそも彼女たちの笑顔を守ることというのは、未来に待ち受けるどんな問題を度外視してでも真っ先にやるべきことなのではないのか。その場所に自分のやりたいことを置くのは、決して間違っていることではない。

 

 

 

 

「それと、お前はさっき俺にお先真っ暗な未来と言ったな。確かに俺の未来は真っ暗かもしれない。だけど、俺にはみんながいる。未来へと続く道は真っ暗かもしれないけど、その時はきっとみんなが俺の歩むべき道を照らしてくれる!!照らしてくれた先がどうなっているのかは分からない。だが問題が立ちはだかったら乗り越える方法をみんなで考えればいい。俺たちに未来を見据える力はほとんどない。だから手を取り合って一緒に未来を歩むんだ!!」

 

 

 大人の秋葉から見ればこんな考えは幼稚なのかもしれない。

 だけどそれの何が悪い。未来を見据えることができないのなら、来るべき問題に備えてみんなで手を繋ぎ、一緒に解決できるようにしておけばいいだけの話ではないか。何も一から十まで未来を見据える必要はない、彼女たちと共に障害を乗り越えていけば、その先に笑顔と幸せが待っている。俺たちにはそんな見通しさえあれば十分なんだ。

 

 

「はぁ~……」

 

 

 秋葉は再び溜め息を吐く。

 だが今回は"怒りを含んでいる呆れ"ではなくて"安堵を含んでいる呆れ"となり、溜め息も非常に軽かった。

 

 

「それが零君の答えなのかぁ~ふ~ん♪」

「なんだよ嬉しそうに……」

「いやぁ~予想外というか、いかにも零君らしい答えだったから感心も含めてね♪」

「予想外が俺らしいって、俺が偏屈みたいじゃねぇか……」

「え?偏屈でしょ?」

「お前に言われたくねぇよ!!」

 

 

 偏屈の王に偏屈認定されて嬉しいわけないだろ……

 そもそもその言葉って褒め言葉なのか?少なくともそれを言われて喜ぶ奴は偏屈だろうが……

 

 

「でもよかった♪このまま零君が何の考えもなしにハーレムを続けるって言ったら、その身体を使って人体実験するところだったよ♪ちょっと楽しみだったのになぁ~……ジュルリ♪」

「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!やっぱり今のお前が一番こえぇよ!!」

「あはは♪」

 

 

 くそっ、いい笑顔してやがる。コイツの笑顔は俺のヘイトが貯まるので精神衛生上よろしくない。それなのにその笑顔はとても綺麗(煽りの意味も込めて)なため素直に怒れないこのジレンマ。いい加減、誰か男を見つけてその人に養ってもらってくれ。いつまでも実験の矛先が俺に向けられるのは嫌だ!!

 

 

「でもさぁ~やっぱり穂乃果ちゃんたち愛されてるよねぇ~」

「それ俺の前で言うセリフか?今まで当たり前当たり前って言ってきたけど、それこそ当たり前だろ」

「うんうん♪零君に任せておけば安心だね♪」

「何を言っているんだお前は……もう用が済んだのなら帰るからな」

 

 

 肩の力がスッと抜けたのか、さっきまで忘れていたこの研究室独特の鼻につく匂いが再び漂ってきた。

 俺は秋葉に背を向け、研究室のドアノブに手を掛ける。

 

 

「ねぇ零君」

「ん?」

 

 

 今にも研究室から立ち去ろうとした時、秋葉に声を掛けられる。ただその言葉は少し弱々かった。

 俺は何も考えず、ただその場で振り向く。

 

 

 

 

「もし私から笑顔が消えそうになったら、あなたは私の元に駆けつけてくれる?」

 

 

 

 

 その言葉の意味はあまり考えられなかった。頭で考えるよりも、先に口が開いてしまったから。

 

 

 

 

「当たり前だろ」

 

 




 秋葉さんに最後の言葉を言わせたかったがためにこの話を執筆しました。秋葉さんがどのような気持ちであんな言葉を言ったのか、零君の答えに対してどう思ったのかはまた後日ということで。

 毎回真面目回を書くたびに「自分には似合わねぇな」と思ってしまう始末。特に今回は地の文多めのガチ構成だったので、執筆中ずっと肩凝ってました(笑)
花陽やことり辺りに肩叩いてもらいたいです!!

 久々にヤンデレモノを書いてみたくなり、色々と構想を練っていたのですが、また新しく書くのは面倒なので『非日常』のリメイクを考えています。考えているだけなのであまり期待せずにお待ちください。


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

希、一夜の間違い

 お待たせしました(?)今回は希回です。
 この話はエロそうでエロくない回を目指していたのですが、案の定でした(笑)


 それではどうぞ!


 

 同棲生活12日目の夜。そして明日、遂に同棲生活最後の休日がやって来る。

 さらに日曜日にはμ'sの単独ライブがあり、それはこの同棲生活中、絆をより強固にしたμ'sにとって初めてのライブでもある。必ず成功させるという意気込みはもちろん、まずは何より自分たちが思いっきり楽しむことを覚えた雪穂、亜里沙、楓はいつもより5割増しのテンションであった。そのせいか最近は練習疲れと騒ぎ疲れのせいで、夜のガールズトークもせずすぐにベッドインしてグースカ眠ってしまっている。

 

 

「ふわぁああ~……ねみぃ……」

 

 

 そんな俺もμ's(主に穂乃果などのおバカ勢)とのどんちゃん騒ぎで既に脳がお休みモードに入っていた。

 いつもは毎日みんなが入れ替わりで俺の部屋にお泊りするのだが、今日は俺1人だけなのでぐっすりと眠れそうだ。穂乃果やことり、楓と同室になんかなってみろ、一晩中寝かせてくれないからな。

 

 

 …………。

 

 

「俺の脳がさっきから寝たい寝たいと駄々をこねている。もう寝るか……」

 

 

 休ませろといきり立っている脳を安静にさせるため、電気を消して布団に潜り込む。

 その直後だった。

 

 

 俺の部屋のドアがノックされた。もうみんなは既に夢の中だと思っていたので誰かが訪ねてくるのは意外だ。もうかなり遅い時間なのに……。

 

 俺の睡眠を妨げるとはいい度胸してやがる。だがこのまま無視することもできなかった。なぜならわざわざご丁寧にノックをしてくる奴のことだ、何かしら込み入った用事があるのだろう。穂乃果、ことり、凛、にこ、楓だったら間違いなくノックせずに入ってくるだろうから追い返してやるつもりだったんだがな。

 

 

「入っていいぞ」

 

 

 そして部屋のドアがゆっくりと開けられる。音が全く出ないように気を使っているところを見ると、よほどぐっすりと眠っているみんなの邪魔をしたくないのだろう。俺の部屋に踏み込む足音も非常に静かで、パジャマが肌に擦れる音すらも聞こえない。そんな気遣いができる奴は、海未に花陽、真姫に絵里、そして雪穂に亜里沙、残っているのは――――

 

 

 

 

「希……」

 

 

「ゴメンね零君。急にお邪魔しちゃって……」

 

 

 俺の部屋を訪れたのは希だった。彼女は自分の胸に枕を当て、両手でギュッと抱きかかえている。その表情はどこか寂しそうな、それでいてどこか緊張しているかのような、彼女の優しい垂れ目も今は物悲しい感じがする。

 だが、俺は希のそんな様子を見てただ率直に可愛いと思った。何も不純物が混じっていない純粋な気持ち。母性の塊である希とも違う、変態の時の希とも違う、出会って初めて『幼くて可愛い』と思ったのだ。

 

 

「何か用か?」

「特に用事ってわけじゃないけど、そのぉ~……一緒に寝てくれへんかなぁ~って……」

「え?今?」

「うん、今」

 

 

 もちろん"今"なんてことぐらい分かっていたのだが、そんな意味のない発言をしてしまうくらい俺は希の行動に驚いている。

 この同棲生活中、変態モードをさらにワンランク覚醒させた希だったら俺の寝込みを黙って襲いかかってもおかしくないはずだ。この前も俺が気づかない間に膝枕されてたし。それなのに今は頬を赤く染めて枕で顔半分を隠しながら愛おしそうな目で俺を見つめてくる。

 

 

 なんだよその小動物のような可愛い目は!?可愛過ぎんだろ!!それに心臓の鼓動も早くなってきやがった!!これ本当にあの東條希さんですよね!?秋葉に変なことされてないよな?俺の不幸センサーが反応していないから大丈夫だとは思うが。

 

 それにこの幼くて可愛い希と一緒に寝るだと!?こりゃあ2人で抱き合って寝ていたら、段々暑くなってきてお互いパジャマを脱いで寝ましょう的な話に飛躍するのでは!?特に今日はちょこっとだけ肌寒いし、抱き合って寝るイベントくらい期待してもいいよなあ!!!!

 

 

「零君……いい、かな?」

「もちろん!!」

「急に元気になったね……」

「そりゃあ希と2人きりで寝られるなんてテンション上がるだろ!!あっ、テンション上がったら寝られねぇな……」

「ふふっ♪本当に零君って面白いなぁ~♪」

「なんだよそれ……まあいいや、ほら」

 

 

 俺は希が寝るスペースを作るためベッドの端に寄り、布団を捲って彼女を招く。

 

 

「お邪魔します♪」

 

 

 そして俺と希、2人きりの濃厚(?)なベッドシーンが始まった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「やっぱり零君って暖かくて気持ちえぇなぁ~♪」

 

 

 待ってくれ、いきなり抱きつかれるなんてコレっぽっちも聞いてなかったんですけど!?もっとほら、お互いに見つめ合ったりしてムードが出てきた時なんかに起こるイベントなはずだろ!?

 今の俺たちは、お互いに向き合いつつ希が俺の腕を抱き枕にしている。むしろ俺の腕が希のおっぱいを枕にしているかのようだ。2つの大きな果実の間に俺の腕が丁度挟まれていて、少しでも動かすとおっぱいの柔らかさが直に伝わってくる。

 

 

 ちょっと腕を動かしてやろうか……?

 

 

 俺はおっぱい布団に包まれている腕を、少しだけ上にグイッと引き上げた。

 

 

「あっ♡もぉ~零君の頭はいつもピンク色やね♪」

「否定できねぇ――――って、俺がわざとやったって分かってたのか!?」

「うん。だって零君のことやもん、絶対にウチのおっぱいを堪能すると思ってた」

 

 

 マジかよ……俺ってそんなに分かりやすいのか?

 でもしょうがねぇだろ男なら!!目の前に可愛い女の子、大きなおっぱいがあるんだぞ!?それに手を出さないとかヘタレか童貞のやることだ!!もう俺は去年みたいに女の子に攻められただけで取り乱しちまうようなウブ野郎から脱却したんだよ!!多分……。

 

 

 それにしても希の奴、意外と冷静だな……。

 もしかしてもうおっぱいを弄られるのは慣れているから!?俺の行動も読まれていたし、むしろ自ら弄られに来ているような……。

 

 

「ウチ、もっとあなたのことを知りたい。さっき零君の心を読んだみたいに、もっともっと……」

「スピリチュアルだな」

「そう?」

「ああ。でも……嫌いじゃない」

 

 

 むしろ俺だって希やみんなのことをもっともっと知りたいと思っている。まだ知り合って高々1年、付き合い始めてから半年程度しか経っていないんだからな。そんな短い期間でその人のすべてを知ろうだなんて到底不可能な話だ。昨日秋葉に誓った通り、みんなの笑顔、そして魅力をずっと追い続けたい。

 

 

「だから零君にももっとウチを知ってもらわないとね♪」

 

 

 言葉を上げている暇もなかった。

 希はガバッと布団を捲り、身体を起こしたと思ったら勢いよく俺の腰辺りに股がる。股がれた時に全然衝撃を感じなかったのは彼女の体重がそこまで軽いということなのか。そんな豊満な胸をぶらさげているのに……なんにせよ、息付く暇もなく希にあっさりとマウントポジションを取られ唖然とするしかなかった。

 

 

 そして俺の脳がまだ状況の分析処理をしている間に、希がさらなる動きを見せた。

 自分のパジャマのボタンを外し、胸元を大きく開ける。さらにそのままその開けた胸元を俺の顔へと近づけ始めた。初めは暗くてよく見えなかったのだが、彼女の胸が段々と近づいてくるとようやくその開けた胸が顕となった。

 

 

 コイツ、下着つけてねぇぞ!?!?

 

 

 驚きの声を上げる間もなく、希の生のおっぱいがそのまま俺の顔へむにゅっ♪っとダイブしてきた。

 

 

「むぐぅうううううう!!」

「やん♡零君いきなり大暴れやね♪そこまでウチのおっぱいが気持ちよかった?」

「んんっ!!んんんんんん!!」

「あん♡もう零君がっつきすぎ!!」

 

 

 希のおっぱいに俺の顔が完全に埋もれてしまった。いつものおっぱいを味わいたい気持ちはどこへ行ったのやら、俺はただ声を出してもがき続けるが、それも希の興奮を煽るだけの結果に終わっている。熟した果実のようなおっぱい、その感触と味が俺の唇を通じて伝わってくる。さらにそれだけではなく鼻が丁度おっぱいの谷間にフィットしているため、俺の身体に流れ込む酸素が全部希のおっぱいの匂いとなっていた。

 

 

「んんんんんんんんんん!!!!」

「もう零君たらそんなに嬉しいの?ウチも零君に自慢のおっぱいを堪能してもらえて嬉しいよ♪」

「むぐぅうううううううううう!!!!」

「んあっ♡いいよ零君その調子♪あなたの愛情、もっとウチに教えて!!そうしたらもっともっとウチのことを教えてあげるから!!」

 

 

 希はただ俺から与えられる快楽に夢中となっていた。俺が口や鼻を動かすたびに彼女の乳首を軽く刺激するため余計に興奮が沸き立つのだろう。

 

 そして俺はただ無我夢中であった。希の言葉を認識できているかどうかも怪しい。闇雲に腕をバタバタと動かしているが、彼女の手でギュッと押さえつけられてしまう。

 自分は彼女のおっぱいを楽しんでいるのか、はたまた焦燥して逃れようとしているのか、それすらも分からない。だがこれだけは分かる。

 

 

 希のおっぱいは、

 

 柔らかさ、

 

 弾力、

 

 感度、

 

 匂い、

 

 味、

 

 すべてにおいて完璧だということだ。

 

 

「はぁっ♡ウチな、これほど自分のおっぱいが大きくて良かったと思った瞬間はないんよ。だって零君がここまで喜んでくれてるんやから♪μ'sで一番の、ウチが持っている最大の武器。中学に入ってからどんどん大きくなってきて、肩も凝るし洗うのも大変だったけど、こうして大切な人を喜ばせることができるのならむしろ大きくなったウチのおっぱいに感謝や♪あっ、さっきの話にこっちや凛ちゃんには内緒でお願いね♪」

 

 

 そしてさらにおっぱいを押し付ける力が強くなる。

 段々と呼吸をすることさえも困難になってきたため、必死で持てる力を顔に集約させて口や鼻を動かし抵抗するが希はエッチな声で喘ぐばかりで俺の意思など完全にスルーだ。さっき俺の心を読んでいた希とはなんだったのか……むしろ知っているからこそ俺におっぱいを押し付けて楽しんでいるのかもしれない。

 

 

「ぐぅううううううううううううううううううううううう!!!!」

「もしかしてもう限界?零君のおっぱいへの執着心はその程度やったん?」

 

 

 希は口元が少し上がった憎たらしい笑顔で俺を挑発する。やっぱり俺がSOSを出していることを知ってやがったのか……

 俺の部屋に入ってきた時は幼く可愛らしいと思っていたが今は真逆、完全にアダルティな攻め方となっている。

 

 

「んんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!」

「はいはい分かった分かった♪今離してあげるから♪」

 

「ぷはぁ!!」

 

 

 そして俺はようやくおっぱい地獄から解放された。

 その瞬間、俺の身体に不足していた酸素が鼻や口を通じて一気に流れ込み軽く咳き込んでしまう。まるで鼻と口にホースの銃口を突きつけられジェット噴射されたかのような勢いだった。

 

 

「お、お前なぁ……はぁはぁ」

「零君そんなハァハァ言っちゃって、どれだけ興奮してたん♪」

「ちげぇよ!!お前のおっぱいで呼吸困難に陥ってたんだ!!」

「そこまで照れなくってもええのに♪」

「はぁはぁ……うるせぇよ」

 

 

 この体のいいご都合主義的な考え方、段々秋葉に似てきてねぇか!?希のウザさの影に秋葉の面影を感じるぞ!!

 これも大学に入ってから秋葉の元で勉強を続けてきたせいか……

 

 

 とりあえず起き上がって体勢を整えようとしたその瞬間、希は『まだ起きちゃダメだぞ☆』と言わんばかりのウインクを決め再び俺の身体に覆い被さった。

 だがおっぱいを顔面に押し付けられることはなく、今度は自分の顔をグイッと俺の顔へと近づけてきた。その差わずか数センチ。少しでも動いたら確実にキスが成立してしまうほどの距離。先ほどと同じマウントポジションを取られ、腕もガッチリホールドされているため全く動けずにいた。

 

 

「こ、今度はなんだよ!?」

「あっ♪零君の吐息が顔に掛かってる。ふわっとしていて気持ちいい♪」

「穂乃果たちと同じでお前も匂いフェチだったのか……」

「ふふっ♪匂いフェチでも、それは零君の匂い限定や♪」

 

 

 心臓がドキッ!!と高鳴った。

 俺は自分から女の子を攻めるのは大好きだが、女の子から攻められるのには滅法弱い。しかもこうして見つめ合って真っ向から好意を伝えられると非常にドギマギしてしまう。昔からそんな性格なのだが、それは希たちと付き合い始めた後もなんら変わらなかった。さっきの言葉は前言撤回だな……。

 

 希から流れ出す、ふわっとしたあま~い匂いが俺の鼻を刺激する。おっぱいは熟した果実、そこから迸る匂いは甘いスイーツ、これほど食べ時の女の子はいないだろう。もし身体がホールドされていなかったら間違いなく希に飛びついて、身体中にしゃぶりついていたな。

 

 

「それに零君、さっきからココも大きくなってるよ?ウチでこんなにも興奮してくれるなんて嬉しいなぁ♪」

「お、お前!!」

 

 

 俺のアレが大きくなっていることがバレたと焦っていた矢先、唐突に希は俺のモノを手で弄り始めた。

 もちろんズボンとパンツ越しだが、希のおっぱい押し付け攻撃により性の欲が頂点に達していた俺のモノにとってはそんな布切れ1枚2枚なんてあってないようなものだ。そしてさらに彼女の優しい手付きに俺のアレが更なる成長を見せる。

 

 

「かはっ!!あっ!!」

「あっ♡零君のエッチな声……ウチも興奮してきたよ♪」

 

 

 希は俺のモノをずっと優しい手付きで弄っていたのだが、突然手付きに緩急をつけて新たなる刺激を加える。それに対し俺はただその快楽に身を任せることしかできず、刺激が与えられる度に声を上げるただの変態と化していた。おっぱいを押し付けられた時と同じように、また俺の思考回路がブッ飛んで機能停止状態となっている。唯一働いている機能は、俺の立派なモノのみ……。

 

 

 そして希は手で俺のモノを弄りながら、今度は俺の耳元に顔を近づけた。

 

 

「ねぇ零君」

「な、なんだ……」

 

 

 希は俺の耳元をくすぐるように優しく囁く。その声だけでも快楽の底へ誘われそうなくらいだ。

 

 

「出したい?」

「な、に……!!」

 

 

 "何を"とは言われなかった。だがこの状況で"出す"と言ったら確実に白いアレのことだろう。

 希は本格的に俺を堕としにかかっている。その甘い誘惑に乗せられてしまったら最後、彼女のお腹の中に新しい生命が宿ることとなるだろう。この歳でそれだけは避けねぇと!!

 

 さっきからずっと快楽に身を任せて喘いでいるのだが、流石に一線を超えるような非常事態には対応することができる。そこまで俺は無為無策ではない。

 

 

 そして希は俺に更なる追い討ち掛けてきた。

 

 

「出したいんでしょ?」

「お、俺は……」

 

 

 

 

「手でコキコキする?それともお口でじゅぷじゅぷ?零君の好きなおっぱいでぷにぷに?あっ、それとも――――」

 

 

 

 

 希はそこで一旦言葉を区切る。だが俺にはその先の言葉が容易に想像できた。

 

 

 そ、それ以上は!!

 

 

 

 

「赤ちゃん作る?」

 

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺の中で理性の糸がはち切れそうになった。

 想像はしていたのだが、実際に本人の口からお誘いの言葉を聞くとその破壊力を思い知らされる。心臓はバクバクと高鳴り、さらに希の生のおっぱいを通じて彼女の心臓の鼓動も直に伝わってきていた。希の心臓も俺同様に激しく鼓動している。

 

 

 希も希で恥ずかしくはないようで、暗い部屋でも分かるくらい顔を真っ赤にして俺と再び向き合う。

 

 

「零君と恋人になったあの日から、私はあなたと交わる妄想を何十回何百回と繰り返した。だから私は零君が夜1人になる今日という今日をずっと楽しみにしてたんだよ♪」

「!!……」

 

 

 希が標準語になっていることに気づいたのは少し遅かった。

 

 

「今晩は私の身体、零君の好きにしていいよ♪この唇もおっぱいも太ももも、そして、下のおクチも……」

 

 

 希から押さえつけられていた力が段々と弱くなっていく。さっきまでは頑なに俺をホールドしていたのにも関わらずこの行動、ここから俺に何をされてもいいという自己表明なのか……?

 

 希の目を見つめる。いつも通り優しい綺麗な目だけどその奥には決意と期待に満ち溢れ、強い鈴の音のような張りをしていてたじろがない。

 これは――――――本気だ。

 

 

 好きにしてもいい?希のカラダを……!?

 

 

 好きにしていい……

 

 

 好きにしていい……

 

 

 好きにしていい……

 

 

 

 

 ここから先の数秒間は己の欲望に支配され、僅かばかり記憶が抜け落ちてしまっていた。

 

 

 

 

 そんな俺の目を覚まさせたのは――――

 

 

 

 

「きゃぁあああああああああああああ!!」

 

 

 

 

「な、なんだ!?!?」

「これは……絵里ちの声!?」

 

 

 突然廊下から絵里と思われる叫び声が聞こえてきた。

 まさか見られてた!?いや、アイツは男女の行為現場を見て叫び声を上げるようなエロ耐性ゼロの人間じゃない。それに部屋のドアも完全に閉まっているしな。じゃあ一体なんなんだよ!?

 

 

 俺と希は懐中電灯を持って部屋を出た。

 そして廊下を徐々にその光で照らしていくと――――

 

 

「絵里……やっぱりお前だったのか」

「零ぃ~~希ぃ~~!!」

「絵里ちどうしたん?」

「トイレに行こうと思ったら、廊下が思いのほか暗くてそれで……」

「あぁ~分かった分かった、もう大丈夫だからこんなところで泣くなよ」

 

 

 絵里は廊下の隅でうずくまって、ガタガタ震えながら目に涙を溜めていた。普段のキリッとした顔からは考えられないくらいの悲愴と恐怖に満ちた表情だ。

 これはこれでまぁ……イジメたくなるな、うん。

 

 それにしても、俺と希が同じ部屋から出てきたことに関しては言及してこないんだな。まあ今の絵里を見たら、そんなことを気にする余裕なんてなさそうだもんな。

 

 

 はぁ~……さっきまで童貞を維持させるか消失させるかのせめぎ合いをしていたはずなんだが、一気に力が抜けてしまった。絵里に感謝するべきか恨むべきか、それすらもどちらにすればいいのか分からない。興奮し過ぎたせいで、ところどころ記憶が抜け落ちてるからだろうな。

 

 

 なんか俺のアレも萎えてきたし、今日はもう寝るか……。

 

 

「はぁ~……希、あとは頼んだぞ」

「……絵里ち」

「な、なに希?顔……怖いわよ?」

 

 

 俺は希の後ろに立っているからコイツの表情を確認できないが、絵里がまた恐怖に満ちた顔をしている辺り希は鬼の形相なのだろう。あの穏やかな希のそんな表情なんて想像できないが。

 

 

「……絵里ち」

「の、希!?安眠を邪魔して悪かったわ!!」

 

 

 いやいや、鬼瓦希さんの怒りのツボはそこじゃないですよ絵里さんや……。

 

 

「……絵里ち!!」

「ひゃい!!」

 

 

 

 

「空気読めぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」

 

 

 

 

「は、はい……?」

 

 

 

 

 もう寝よ。




 はい、これで同棲生活編での個人回はすべて終了しました!何人かは2人で1話を使っちゃいましたが、流石に12人を1話ずつに振り分けるのは大変だったので。普通の個人回はしっかりメンバーを1人1人掘り下げていきますよ!

 どうして希がメインを張る回はエロ回しかないのだろうか?逆に海未がメインを張る回はエロくない回ばかりなんですよね。たまには逆転してみるのもいいかも?

 個人的にはこの話は『R-17.9』要素はないと思っているのですが、もしかして自分の感覚が麻痺してる!?段々とセーフとアウトの境界がブレだしてきているので一旦落ち着かないと……

 そう言えば今回で60話なんですよね。あと4話で『日常』に追いつくと思うと、ここまで早かったなぁと感じます。

 ちなみに同棲生活編はあと1話か2話で終了予定です。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ことほの最後の晩餐

今回はことほの回!
もう2人の名前を出すだけでもR-17.9の影がチラチラと……


 

「ない!!ない!!ないぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 同棲生活13日目。遂にμ's単独ライブの前日となった。

 今日はライブ前ということで練習も軽めで終了し、みんながみんな思いのまま羽を伸ばしましょうということになっていた。最近は特に練習漬けとなっていたため、丸一日の休息はかなり久しぶりだ。俺はこの休息を利用して、明日の単独ライブに着ていく服を選定しようと思っていたのだが……

 

 

「服がねぇぇええええええええええ!!どうしてクローゼットの中がこんなにもスカスカなんだよ!?」

 

 

 いつの間にこんなことなったのかは知らないが、クローゼットの中の服が半分くらい消えていた。

 いくらファッションに無頓着な俺でもμ'sの単独ライブぐらいいい服を着ようと思っていたのだが、まさかそれを阻止しようとしている奴がいるなんて……まさかμ'sのみんなを彼女にしているイケメンな俺に嫉妬して、『アイツには敵わないからせめてもの足掻きでダサい服だけ残しておいてやろう』みたいなことを画策している輩がいるんじゃねぇだろうな?

 

 

 まあそんな冗談はさて置き――――

 

 

「くそっ!!誰だよ俺の服を勝手に持っていった奴は……」

 

 

 現在俺の家にいるのは家主である俺と楓、そしてμ'sのメンバー11人。男1人と女12人という非常にアンバランスな空間となっている。つまり男物の服を勝手に持ち出す奴なんてこの家にはいないということだ。

 

 

 

 

 ――――――だが、本当にそうか?そう決め付けるのは早計ではないだろうか?

 

 なんせこの家には"変態"の名を冠する奴がそこら中にひしめいている。突然風呂場に突撃してきたり、脱衣所で誘惑してきたり、トイレを我慢していたり、そこら辺でワシワシしていたりされていたり、キス魔となっていたり、突如夜這いをしてきたり……濃すぎるだろ俺の同棲生活。

 

 とにかく!!俺の服を無断で持ち出す奴がこの家に何人かいるのは間違いない。そしてそろそろアイツらの好きにさせておくのはもう飽きた!!ここらで一度、俺がμ'sを真っ当なスクールアイドルに戻れるよう指導し直してやるか!!

 

 

「さぁてお前らの悪行ももはやこれまでだ……これ以上俺の琴線に触れてみろ、ご主人様に忠実となる召使いになるようたっぷりと調教してやるから覚悟しておけ!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 とりあえず奴らの動向を掴まなければならない。俺の服を一旦家にでも持って帰られたら面倒だからな。

 俺は邪気を発しながらふらふらと廊下を歩く。傍から見れば厨二病のイタイ子と思われるかもしれないが、アイツらを相手にするならこれくらいの狂気を放っていないとまともな精神状態ではまず太刀打ちできない。何を言われても常にポジティブシンキングな"あの2人"にはな……。

 

 

 俺がゾンビのように廊下を歩いていると、奥の寝室から花陽が出てきた。

 

 

「れ、零君!?どうしたのふらふらして!?もしかして具合悪い……?」

「花陽か……」

「零君……お、怒ってる?」

「よく分かったな……俺には復讐したい奴らがいる。そいつらを討伐するために俺は目覚めたのだ……フフフ」

「いつの間にか零君がイタイ子に!?」

 

 

 自分の精神が崩壊していくのが分かる。でもそんなことはどうだっていい。俺は"あの2人"にさえ粛清を与えれば自分の身体などどうなっても構わないのだからな!!

 力が漲る……己の怒りによる熱い血の滾りを感じるぞ!!!!

 

 

「花陽!!」

「は、はい!!」

「あの匂いフェチの変態太陽と淫乱鳥はどこに行った……?」

「そ、それって穂乃果ちゃんとことりちゃん!?2人ならさっきリビングの端っこで服を片付けていたような……?ずっとニコニコしてたけど……」

「ニコニコ?」

「あっ、でもどちらかといえば……ニヤニヤ?」

 

 

 その服は"自分"の服なんだろうな……?不当に持ち出された"誰か"の服なのではないだろうか。いや、絶対にそうだ。そうでなければ花の女子高生でかつスクールアイドルの女の子が、ニヤニヤなんてドス黒い笑顔をするわけがない。

 

 だがしかし、俺が知っている奴の中ではあの2人、穂乃果とことりだけがそれに該当する。なんたって前科持ちだからな。

 

 

「ありがとな花陽。でもここからは全面戦争だからお前は近づかない方がいい」

「戦争!?」

「まあお前も人の服の匂いに興味がある匂いフェチなら参戦できるかもな」

「ふぇえええっ!?」

「な、なにその反応……」

「えっ!?い、いやべ、べべべ別になんでもないよ!!あはは……」

 

 

 花陽の奴、なんか急に取り乱しやがったな……もしかして共犯者?いやいや!!あの花陽に限ってそんなことはないだろう。確かにちょっと変態気質なところはあるけど、俺の中で絶賛開催中のμ's危険度ランキングでは下位の部類だから気にする必要もない。

 

 

 そして俺は花陽の隣を通り過ぎてリビングへと向かった。

 

 

 

 

「あ、危なかったぁ~……バレたかと思ったよ」

 

 

 

 

 その言葉が俺に聞こえることはなかった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「何とか全部詰め込めたよぉ~、ことりちゃんは?」

「もう少し……よいしょっと!!よしっ、無理矢理だけど押し込めたよ♪」

「それじゃあみんなが来る前に……」

「一旦家に持って帰らないとね♪」

 

 

「おい……」

 

 

「「ひぃ!!」」

 

 

 俺がリビングのドアを乱暴に開けた瞬間、穂乃果とことりの頓狂な声が上がる。まるで見つかってはいけない人に見つかってしまったような焦燥の篭った声だな……その声だけで黒ですと言っているようなものだ。

 

 

「お前ら……」

「れ、零君!?なんか変なオーラが出てるよ!?」

「まず俺の質問に答えろ。正直にな……」

「し、質問……」

 

 

 穂乃果とことりは冷汗を流しながらゴクリと固唾を呑む。

 フフフ……勝てるぞ。この淫乱な2人を屈服させる時が遂に来たんだ!!進級してからというもの散々コイツらに振り回されていたからな、そのツケをすべてここで晴らしてやる。

 

 2人の怯えた目を見ていると、俺のドS精神が覚醒を始める。いつやらか穂乃果とにこをこの手で手篭めにしてやったことがあったがあの時は本当に至福の時間だった……穂乃果の喘ぎ声、にこのトイレを我慢する姿。そして俺はまだ見たい!!みんなが乱れに乱れるその姿をもっと!!

 

 

「そのカバンには何が入ってるんだ……?」

「き、着替えだよ!!穂乃果たち女の子だから、泊まる時も服をたくさん持ってくるの!!ファッションセンスがない零君には分からないだろうけどね!!」

「ほ、穂乃果ちゃん!?」

 

 

 穂乃果の奴、まさか俺に噛み付いてくるとは!?もう逃げ場がないと踏んで躍起になったか?俺の唯一の欠点をここぞとばかりに突きやがって……イケメンは何を着てもカッコいいからいいんだよ!!

 

 

「とりあえずそのカバンを開けてみろ。そのパンパンに膨れ上がったカバンを!!」

「パンパンに膨れ上がったって……零くんエッチだね♡」

「こ、ことりちゃん……」

 

 

 ダメだコイツ……脳内がお花畑なら可愛いからまだしも、これはもういかがわしいホテルだわ。ピンク色の雰囲気、ピンク色の部屋、ピンク色のベッド……お花畑ののどかさとは程遠い。脳内お花畑ならぬ脳内ラ○ホテルか……救いようがねぇな。

 

 

「なんで見せねぇんだよ。疚しいことがなければ見せられるはずだろ」

「お、女の子の服を勝手に覗きみようだなんて零君のエッチ!!」

「そうだよ!!ことりたちの下着も入ってるんだよ!!零くんのエッチ!!」

「うるせぇ!!今の俺に何を言っても無駄だ!!ああそうだよ!!俺はエッチだから!!変態ですが何か!?」

「うぅ、まさか開き直るとは……」

 

 

 "この"穂乃果とことりと相手にする際、やってはいけないことは自ら引いてしまうことだ。引いてしまったら最後、コイツらの淫乱なる言葉攻めでジリジリと追い詰められ結局色んな意味(エロ)でコイツらに身を委ねてしまうことになる。そして身体同士の交じり合いで穂乃果とことりの色気がさらにアップしてしまうため、更なる誘惑もそのまま素直に受け入れるしかない。以後無限ループだ。

 

 ちなみにそのループに陥ったのが、お風呂場でこの2人に誘惑された俺である。

 

 

「いい加減観念しろ。これ以上抵抗すると言うのなら無理矢理こじ開けるぞ」

「無理矢理こじ開ける!?零くん本当にエッチ……♪」

「ことりぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!いい加減にしねぇと……」

「いやぁ~♪襲われるぅ~♪」

 

 

 ことりの奴、全然嫌がってねぇ……鍛え上げられてきたメイド精神がこれでもかというくらいの大暴走っぷりだ。メイド=ご主人様の奴隷と認識している俺が人のことを言えたもんじゃないが……。

 

 

「そもそも!!そもそもだよ零君!!」

「なんだよ穂乃果……」

「零君だって穂乃果たちの着けている下着が落ちてたら拾っちゃうでしょ!?」

「当たり前だろそんなもの!!…………ん?あっ、しまっ!!」

 

 

 やっちまった!!完全に失言だった!!これじゃあ俺は穂乃果やことりと同類になっちまうじゃねぇか!?俺はイヤだぞ!?コイツらと同じμ's危険度ランキング1位タイになるのだけは!!

 

 穂乃果とことりは口角が上がり、まるで俺を見下すようにニタニタと笑っている。

 もうファンを笑顔にするスクールアイドルの姿など見る影もない。ただ人を恥辱に陥れ、悶え苦しんでいるところを目の前でほくそ笑む陰湿な奴らだ。

 

 

「もう女の子の下着が欲しいなんて本当にエッチなんだから……この変態!!」

「変態!!変態!!変態!!変態!!へんたぁああああああああああああああああああい!!」

「黙れ!!お前らだけには天変地異が来ようとも、太陽が爆発して地球が滅びる寸前でも言われたくねぇよ!!」

「あれ?でも雪穂が『零君は変態って罵っておけば喜ぶドM』だって言ってたよ?」

「まだその設定続いてんの!?それよりアイツ、どれだけの人に広めてんだよ!?もう噂が独り歩きするレベルだわ!!」

 

 

 これで週明けに"ドM"の噂が学院中に広まっていたらグレる自信がある。一応学院生活では真面目なキャラとして通しているはずなんだがな……。

 

 

「じゃあこうしようよ!!」

「なんだ……?」

「もし仮にこのカバンの中に入っているものが零くんの服だったら、ことりたちの下着と交換してあげるよ♪」

「!?!?」

「ナイスアイデアだよことりちゃん!!」

 

 

 な、なんだと……こんな簡単に女の子の下着が手に入っていいのか!?しかもあの穂乃果とことりの下着ときた!!

 俺の中で今まで守り続けてきた、コイツらだけには屈しないというプライドがあっさりと崩壊し始めた。そして2人のランジェリー姿を想像して今にも鼻血をぶちまけそうになる。

 

 

 あぁ……男って脆いな。

 

 

「今なら特別大サービス!!零君の今着ている下着を渡してくれるなら、ことりたちも脱ぎたてをプレゼント♪」

「はっ!?!?」

「今だけの特別プライスだよぉ~♪穂乃果たちの脱ぎたてほやほやだよぉ~♪」

「ぬ、脱ぎたてほやほや!?」

 

 

 い、今履いているパンツを……貰える!?

 6月も半ばになり日中もほぼ半袖で過ごすような蒸し暑いこの時期、そんな暑さの中でムレッムレに蒸された女の子のパンツを貰える……だと!?

 さっきからギャーギャーと騒いでいたせいか、穂乃果とことりの首筋を通って一滴の汗が滴り落ちる。その色っぽいエロさは俺の抱いていたプライドに問答無用で襲いかかった。

 

 

「いつもみたいに自分の欲望に忠実になっちゃいなよ。そして穂乃果たちと一緒に遊ぼ♪」

「遊ぶ?穂乃果たちと……」

「うん♪穂乃果、零君と服を脱がし合いっこしたいなぁ~♪」

「えっ……?」

 

 

 そして穂乃果は色っぽい大人の表情で俺の耳元に近づいてきた。

 

 

「零君が望むなら……穂乃果の服も下着も、全部脱がしちゃってもいいよ♪」

 

 

 俺の耳をくすぐるように、穂乃果はボソッと囁いた。

 ぜ、全部!?俺の大好きな調教プレイで穂乃果の服をビリビリに引き裂いてやってもいいてことだよなコレは!?もう妄想だけでも一夜を明かせそうだ!!

 

 

「ことりも♪今ここで脱いでくれたら、ことりの下着上下セットであげちゃうよ♪」

「上下!?」

「うん♪ことりのおっぱいも下着も、汗ですごくムレムレなんだよぉ~♪」

 

 

 おっぱいが汗でムレムレ!?絶対にいい匂いするに決まってるじゃねぇか!!コイツ、俺が匂いフェチだと分かってて誘惑してるだろ!?そんな誘惑なんかにこの俺が……乗っちまうに決まってるだろうがぁああああああ!!

 

 

 理性の糸にハサミの刃が突き付けられる。あと少しでも力を入れればプッツリと切れてしまいそうなくらいに……。それをことりは満面の笑みで実行しようとしているのだから恐ろしい。

 

 

 

 

「穂乃果、この同棲生活で零君といっぱいいーーーっぱい楽しい思い出を作れたんだ♪ずっとずっと四六時中零君の傍にいたい!!そう思えるくらいに……だけどもうこの楽しい同棲生活も終わり、だから最後にもう1つ、零君と一生忘れられない思い出を作りたいの!!」

 

 

 

「穂乃果……!!」

 

 

 

「ことりもこの2週間、起きる時もご飯を食べる時も、学院へ行く時も帰る時も、お風呂の時も寝る時もずぅううううっと一緒でとても楽しかったよ♪零くんの新しい魅力も見つけることができた。だから最後にもう1回、ことりに零くんの魅力を教えて?教え込んで!!」

 

 

 

「ことり……!!」

 

 

 

 

 あ゛ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

 

 

 

 切られた。

 

 

 理性の糸が。

 

 

 プッツリと。

 

 

 

 

「分かった、俺も脱ぐ。だからお前らも脱いでくれないか?」

「「はい♪」」

 

 

 もう俺は本能だけで動いていた。その本能は俺のプッツリと切れた理性を踏みにじり、俺を後先考えない獰猛なる変態へと昇華させる。

 

 彼女たちのカラダを見たい、触りたい、揉みたい、舐めたい、しゃぶりたい、そして……繋がりたい。もうそれしか頭になかった。昨晩希に誘惑された時の欲求が収まっていなかったのかもしれない。

 

 

 ことりが服のボタンを外し始めた。

 徐々にはだけていく服の隙間から、汗で蒸れている下着とおっぱいがいつも以上に濃厚な甘い匂いを放ちながら顕となっていく。2つ豊満な胸から形成される神秘的な谷間に今にも顔を埋めたくなる。

 

 同時に穂乃果が服の裾を両手で持ち、腕をクロスさせてガバッと勢いよく脱ぐ。

 その時、服に引っかかっていた穂乃果の程よいおっぱいがぷるんと揺れ、おっぱいに滴り落ちていた汗が周囲に飛び散って実にエロい。非常にむしゃぶりつきたくなる衝動に駆られる。

 

 

 

 

 俺は……アイツらのカラダが欲しい!!

 

 

 

 

 欲望にすべてを乗っ取られた。

 

 

 

 今にも2人に飛びつきそうになったその時だった。

 

 

 

「懲りないですねぇあなたたち」

 

 

 この清楚な声。そして没落したダメ人間すらも更生させることができそうな品位のあるこのオーラは――――――

 

 

 

 

「海未……」

「「海未ちゃん……」」

 

 

 俺の後ろに立っていたのは海未だった。

 だがいつものコイツとは違う。怒っているというよりかは呆れているようだ。だがその威厳のある面持ちは一切変わっていない。

 

これは……またしてもまたアカンやつや!!何回同じオチをすれば気が済むんだよ……。

 

 

「この同棲生活、私は初めちょっと嫌悪していました。ただ騒がしくなるだけでμ'sの絆が深まるのかと。でもそれは一部誤りでした。みんなと衣食住を共にすることで、今まで以上の一体感が目に見えて得られたのですから」

 

「あ、あの~……」

「なんですか、零?」

「"一部"誤り……なのか?」

「はい」

 

 

 海未はジリジリと俺たちに迫ってくる。

 怒ってないとはいえ、コイツがこんな思い出話だけで終わるわけがないことぐらい俺たちは知っている!!

 

 

「ただ1つだけ変わらないものがありました。それは――――」

「それは――――?」

 

 

 

 

「あなたたちの淫行です!!この破廉恥な!!今までの愚行を改めるため、そこで5時間正座していなさい!!」

 

 

「う、海未ちゃん……明日はライブ――――」

「何か文句でも?」

「あ、ありません……」

 

 

 海未の威光に圧倒され、俺たちは粛清以上の地獄を味わった……




 勘違いするなよ!!あえて同じオチにしてるんだからな!!

 全員の個人回が終わり、安心して澄みきっていた心にラクガキされた気分です(笑)

 最近この2人の出番が少なく感じたので恐る恐る書いてみたのですが……やっぱりこの小説の穂乃果とことりはキャラ濃すぎ!!

 零君の服の行方については、後日投稿される超短編を参照にされたし。

 そんなわけで次回が同棲生活最後です!感動的になるのかギャグっぽく終わるのかは私の気分次第!!

あっ、早いですがにこちゃん誕生日おめでとー!

Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Endless Dream

 遂に今回で同棲生活編はラストとなります。そして今までとは少し書き方を変えてみました。

 時系列的には、同棲生活中に何度も話題に出てきた『μ'sの単独ライブ』が終わった後の話となっています。


 では同棲生活編最終話をどうぞ!!


~高坂穂乃果~

 

 

 みんなライブおっつかれさまぁーーーー!!

 いやぁ~大盛況大興奮!!ここまでライブで盛り上がったのは『ラブライブ!』以来だよ!!雪穂に亜里沙ちゃん、楓ちゃんもいつもより大盛り上りでライブはもちろん大成功!!こんな興奮を味わえるのなら、あの時スクールアイドルをやめなくて本当によかったよ!!

 

 

 えぇ~と……こんな感じ?だって1人1人インタビューされるなんて聞いてなかったんだもん!!もっと早く言ってくれればカッコいい文章考えてきたのに……でも今の穂乃果は寛大だからね、許してあげるよ♪

 

 

 次は……同棲生活について?

 あ~……もう終わりなんだよねぇ~……。みんなと一緒に起きて、学校に行って、練習して、零君の家へ帰って、夜ご飯を食べて、お風呂に入って、一緒に寝て……毎日が楽しみの連続だったよ!!終わっちゃうのは寂しいけど、μ'sとの絆は永久に不滅だぁーーー!!

 

 

 最後に零君へ一言?

 そうだなぁ~色々と言いたいことはあるんだけどこれだけは絶対!!

 

 

 零君!!雪穂のお悩み、解決してくれてありがとう!!

 そして、これからもずっと穂乃果たちに笑顔を頂戴ね♪

 

 

 

 

~南ことり~

 

 

 μ's単独ライブお疲れ様!!

 あまりの興奮で、最後は体力の調整も忘れてみんなと一緒に大盛り上りしちゃいました♪だから今回はいつも以上に疲れちゃったけど、『ラブライブ!』と同じくらい思い出に残るライブになったよ♪そして舞台裏からの熱い眼差し、ちゃ~んと伝わって来たから心配しないでね?

 

 えっ?心配してないって?またまたぁ~♪照れなくっても大丈夫だよぉ~、ことりへの愛はしっかりと受け取ったから!!

 

 

 同棲生活について?

 一緒に住んでいた時はよく零君や海未ちゃんに怒られたなぁ~なんでだろ?でもことりは家で1人でいることが多いから、みんなと一緒に暮らすのは新鮮で楽しかったよ♪

 

 具体的には?一緒にお風呂へ入る時や一緒の布団で寝る時かな♪

 

 

 最後は零君へ一言?

 

 ちょっと迷惑を掛けたかもしれないけど、楽しい思い出をありがとうございました!!そしてこれからもよろしくお願いします♪

 

 

 

 

~園田海未~

 

 

 皆さん、ライブお疲れ様でした。

 スクールアイドルを始めた当初はとても緊張していたライブも、今となっては穂乃果たちやお客様と一体になれることが何よりも楽しく、次のライブを今か今かと待つほどまでになってしまいました。これも笑顔で楽しむことを教えてくれた零のおかげ……ですかね?あっ、い、今のは忘れてください!!恥ずかしいこと口走っちゃったみたいです!!

 

 

 次は同棲生活についてですか?

 まさかここまでμ'sの絆を強く感じられる時はありませんでした。みんなと共同で何かをするのは主に練習やライブくらいでしたから。何度か粛清した場面もありましたが、それも今となってはいい思い出です♪

 

 

 れ、零に一言!?

 そうですね……

 

 あなたと一緒のひとときはとても充実して、何よりずっと笑顔でいられました。とても楽しかったです!!

 

 

 ふふっ♪顔赤くなってますよ♪

 

 

 

 

~小泉花陽~

 

 

 ライブお疲れ様でした!!

 あぁ~やっぱり緊張します!!もう1年以上スクールアイドルをやっていますが、未だに舞台へ上がる瞬間は慣れません。でもその緊張よりも楽しさが上回って、最後は私が私でないみたいに大騒ぎしちゃいましたけど……えっ?か、可愛かった!?ありがとうございます!!

 

 

 同棲生活について……ですか。

 みんなのことがもっともっと好きになりました♪学院や練習では見られないプライベートな姿はみんな独特でとても印象的でした。他は……そうだ、自分のクセに気がついたことですかね。えっ?それは性グセじゃないのかって?そ、そそそんなことはないですよ!!

 

 

 最後に零君へ一言……

 

 とても楽しい時間をありがとうございました!!またお邪魔してもいいですか?

 

 

 …………

 

 

 あ、ありがとうございます!!

 

 

 

 

~星空凛~

 

 

 みんなライブお疲れさまーーー!!凛は未だにハイテンションだにゃーー!!

 今日は特に激しく動いたから疲れちゃったよ♪でもそれだけ頑張ったってことだよね?ご褒美に頭撫でて撫でて!!

 

 うぅ~ん♪やっぱり頭を撫でられるのは気持ちいいにゃ~♪

 

 

 ん?同棲生活について?

 楽しかったのはもちろんだけど、特に海未ちゃんや真姫ちゃんみたいにゲームをあまりやらない人と一緒に遊んで燃え上がったのはいい思い出だにゃ!!あとは……キスとか?

 

 うにゃぁああああああああああ!!恥ずかしい!!言わなきゃよかった!!

 

 

 ……え?可愛すぎて悶えた?やめてやめて凛が悶えそうだよ!!もうっ……

 

 

 最後に零君へ一言?

 

 零君と遊んでいる時間が何よりも一番楽しかったよ!!これからもずっと凛と遊んで欲しいにゃ~♪

 

 

 

 

~西木野真姫~

 

 

 みんな、ライブお疲れ様。

 今回のライブは嘗てないほどの大盛り上りだったわね。私も柄にもなく舞い上がっちゃったわ。ここまで楽しいって思えるのは、やっぱりみんなと一緒に築き上げてきた絆があってこそなのかもね♪

 

――――えっ?やけに素直だって!?何それ意味分かんない!!

 

 

 同棲生活について?

 騒がしかったの一言に尽きるわ。終日零や穂乃果たちの馬鹿騒ぎに付き合わされるこっちの身にもなってみなさいよ。おちおちゆっくり休めもしないわ。消灯時間になっても騒がしいし、全く……。

 

 でも……イヤじゃなかった。むしろ毎日ここまで笑顔でいられたことなんて初めてよ。ふふっ♪私も相当毒されてきたわね。

 

 

 最後に零へ一言?

 

 悩み事があるなら自分だけで抱え込まず私たちに相談しなさい!!

 

 そう、ベランダで一緒に天体観測した時のことよ。あなたはまだ自分の中だけで解決しようとすることがあるから、見ていて危なっかしいのよ。辛い時があるならいつでも私たちを頼っていいの。

 

 だって、私たちはあなたの永遠のパートナーなんだから♪

 

 

 

 

~絢瀬絵里~

 

 

 みんな!!ライブお疲れ様!!

 単独ライブと聞いて初めは身構えていたけど、やっぱりみんなと一体になって歌ったり踊ったりすることは最高に気持ちがよかったわ。今回は私も穂乃果や凛の勢いに負けないくらい張り切っちゃった♪

 

 え?ハジけた姿も可愛かった……?も、もうっ!!あなたはすぐそんなことを言う!!

 

 

 次に同棲生活について?

 そうね……みんなの意外な一面を見られたことかしら。ほら、今までみんなと寝泊りしたのって合宿ぐらいしかなかったでしょ?それが今回は2週間もあったから。凛が意外と料理を作れたり、にこは真面目に家事を手伝ってくれたり、穂乃果はやっぱり穂乃果だったり――――驚きの発見が盛りだくさんだったわね♪

 

 

 最後に零へ一言?

 多分みんなと被っちゃうと思うわよ?だけどこれだけは――――

 

 

 零、亜里沙の笑顔を取り戻してくれてありがとう!!

 あなたの素敵な笑顔で、μ'sをずっと見守り続けてね♪

 

 

 

 

~東條希~

 

 

 みんなライブお疲れ様!!

 まさかあそこまでお客さんが集まるなんて……ウチはそこまで緊張しない性格なんやけど、今回ばかりはちょっと足が震えちゃった♪でもあなたの応援があったから、ウチもみんなと一緒にライブを成功に導くことができた。やっぱり最愛の人の声援が一番の勇気になるんやね♪

 

 

 次は同棲生活について?

 みんなをワシワシできたことかな♪

 

 いやいや冗談じゃなくて、それだけみんなとスキンシップできたことが嬉しいんや。こうして思い出してみると、みんな家族みたいやったなぁ~なんてね♪でもμ'sのみんなを家族と思えるほど、みんながみんな近しい存在になったってことやね♪

 

 

 最後に零君へ一言?

 

 是非あの時の続きを!!零君の慌ててる表情、とっても可愛かったよ♪

 

 あっ、顔赤くなってるぅ〜赤くなってるよ!!そういうウブなところも、ウチは大好きや♪

 

 

 

 

~矢澤にこ~

 

 

 みんな!!ライブお疲れ様!!

 どうだった!?ライブで披露した、にこの渾身のにっこにこにーは!?とってもキュートで可愛かったでしょ?にこが誰よりも可愛いなんて当然のことだけど、一応アンタの意見も聞いておいてあげるわ。

 

 ――――ちょ、ちょっとそこまで褒めなくても!!あぁ~顔熱くなってきた!!や、やめてそれ以上褒めないで!!心臓はち切れそう……。

 

 

 同棲生活について?

 大学生になってみんなと会う機会が減っちゃったから、みんなとの同棲生活はとても楽しみだったの。あまり話せていなかった雪穂や亜里沙、楓ともたくさん喋って彼女たちの魅力も分かったし、新生μ'sはここからが本当のスタートなのかもしれないわね。

 

 えっ!?意外と真面目ですって!?本当にアンタって逐一茶々入れないと気がすまないの?!

 

 

 零に一言?

 誰かさんにトイレをするところを見られたのがにこにとって消し去りたい思い出になったわ。もしかしてあんなプレイが好きなの……?そ、そう……じゃ、じゃあ次は誰もいない2人きりの時にでも――――って、こんなところで興奮するな!!ホントにエッチなんだから……。

 

 

 

 

~高坂雪穂~

 

 

 ライブお疲れ様でした!!

 校外ライブはこれで2回目なんですけど、心のモヤモヤがなくなった分前回よりも思いっきり楽しめました!!以前絵里ちゃんや海未ちゃんから『ライブでは自分のキャラが変わってしまう』と言われたのですが、今回それを実感しましたよ。

 

 それでですね……舞台の上の私はど、どうでしたか?――――か、輝いていた!?あ、ありがとうございます!!

 

 

 同棲生活についてですか?

 ただ騒がしいだけかと思っていましたけど、先輩方から色々なことを学ぶいい機会でした。勉強や家事など私個人にとってのことはもちろんですが、なによりみんなと一緒に何かを成し遂げる達成感を初めて実感できたんです。μ'sが『ラブライブ!』を優勝した理由がこの2週間ではっきりしましたよ。

 

 μ'sの絆は素晴らしいです!! 

 

 

 最後に零君へ一言ですか?

 私の悩みを解決して下さりありがとうございました!!あんなことを言われたら、お姉ちゃんたちが零君に惹かれるのも無理はないですよね……って、わ、私ですか!?

 

 私もあなたのことを……す、す、す…………きですよ。

 

 

 

 

~絢瀬亜里沙~

 

 

 皆さん、ライブお疲れ様でした!!

 憧れだったμ'sの皆さんとこうして同じ舞台に立つことができて、今でも夢のようですよ!!今まで応援して見ているだけの立場だった私が、雪穂や楓、μ'sの皆さん、そしてお客様たちと一体になって歌って踊る――――あはは……興奮して何言っているのか分かりませんね♪でもそれくらい楽しかったってことですよ!!

 

 

 次は同棲生活についてですか?

 μ'sの皆さんと同じ学院に入学したといってもμ'sというグループでしか接点がなかったので、こうして一緒に暮らすというのは私にとってはとてもいい機会でした!!特に穂乃果ちゃんとことりちゃんとは色んな意味で仲良くなれましたよ♪

 

 え?どんな意味かって?それは内緒です♪

 

 

 最後に零君へ一言?

 雪穂と被ちゃうかもしれないんですけど、私の悩みを解決して頂きありがとうございました!!これからはガンガンアプローチしていくので覚悟してくださいね♪

 

 あっ、もしかしてドキッとしました?えへへ♪嬉しいです!!

 

 

 

 

~神崎楓~

 

 

 ライブおつかれぇ~……

 えっ、軽い?いいでしょ別に疲れたんだから!!そう思うとμ'sの先輩方はすごいよ。だってライブが終わったあとも顔色1つ変えないんだもん。こうして思い返すと、μ'sを見下していた時が懐かしいなぁ~。そしてそのμ'sのメンバーに私がいると思うと……人生って何があるのか分からないものだね。

 

 なに?お前そんなロマンチストだったっけだって?私だって感傷に浸りたい時だってあるんだよ。

 

 

 次に同棲生活についてかぁ……。

 別に自分の家だからどうってことはないし、むしろお兄ちゃんとの2人きりラブラブライフを邪魔されて鬱陶しかったんですけど!!でもまぁ……楽しかったかな?へへっ、ツンデレを意識してみました♪

 

 

 最後にお兄ちゃんへ一言?

 私の悩みを引き出してくれてありがとね♪あのまま自分の気持ちを抑えていたら、絶対にどこかで潰れちゃっていたから。そんな訳で!!これからもよろしくお願いします!!

 

 

 もちろんお兄ちゃんへのアタックも忘れないよ♪

 

 

 

 

~神崎零~

 

 

 えっ!?俺もやんの!?

 

 そうだな……とりあえずライブお疲れ様!!あのライブ中、お前らはこの地球上、いや宇宙のどの星よりもどの銀河系よりも輝いていたぞ!!舞台裏から見ているだけでここまで興奮させられたんだ、やっぱりお前らスゲェよ!!これもお前らの強い絆があってこそだな。感動をありがとう!!

 

 

 同棲生活についてか……。

 ミッションと称して始まったこの同棲生活だけど、これほどまでに毎日が充実していた日々はなかったよ。毎日がワクワクの連続で、みんなが見せたあの笑顔を絶対に守ってみせると改めて誓うことができた。この同棲生活は間違いなく俺の人生を変えるものだったよ。

 

 

 最後にμ'sのみんなへ一言?

 

 言いたいことはたくさんあるが、ここはやっぱり――――

 

 

 

 

 たくさんの笑顔をありがとう!!

 

 




 これで『新日常』も新たな区切りを迎えました。
 初めから読んでくれた方、途中から読んでくれた方、この話だけを読んでくれた方、すべての読者様に感謝です!!

 自分が同棲生活中にやりたかった話は全部できたかなぁと思っています。この小説はノリも展開も自由ですから、やりたい話があったらまた同棲させればいいのです(笑)

 何やら最終回を匂わせるような話でしたが、『新日常』はまだまだ続きますよ!!むしろネタがある限りはどこまでも伸ばせそうです(笑)

 さて、次回からは新展開。この小説の時間もようやく7月に突入します。そろそろ夏のネタも放出する時ですね。


付録:時系列をまとめてみた

1日目
『新たなる決意!同棲生活スタート!!』
『穂乃果とことり、お風呂でおもてなし』
『凛、脱衣所での誘惑』
『真姫、深夜の天体観測』

2日目
『私、スクールアイドルをやめます』

3日目
『回転寿司へ行こう!』

4日目
『美少女零ちゃんとおっぱいまくら』
『欲望渦巻く王様ゲーム』

5日目
『私、ずっとあなたのことが好きでした』
『海未、秘密のダイエット作戦!』(序盤)

6日目
『海未、秘密のダイエット作戦!』(中盤)

7日目
『海未、秘密のダイエット作戦!』(終盤)
『男子禁制!?ガールズトーク!』

8日目
『絵里、ポンコツを脱却せよ!!』

9日目
『私だって、"零くん"の彼女になりたかった!!』

10日目
『μ'sとの濃厚なるキス事情(前編)』
『μ'sとの濃厚なるキス事情(後編)』
『にこと花陽、大人のアイドル論』

11日目
『神崎兄妹困惑!次のライブはノーブラで!?』

12日目
『希、一夜の間違い』

13日目
『ことほの最後の晩餐』

14日目
『Endless Dream』


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia









さてはてインタビューをしていた人は誰なのか?(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

相変わらず過ぎまくる日常

 新章一発目です!!
 そうは言っても内容もノリも今までと変わったところは全然ありません。むしろ零君たちのテンションだけなら今までよりも格段に向上してます!

 今回は普通に日常回。
 新章一発目は大体この4人から始まります。スクフェスに出てくる先生もチラッと登場するのでご期待(?)を!!


 

 7月。

 

 照りつける日光が容赦なく肌を突き刺す時期となり、今年の夏が遂に活動を開始した。朝はセミの忌々しい鳴き声で起床、昼間は教室の冷房で一息つき、夜は蒸し暑さの中で就寝という人間の身体にダメージを与えるサイクルを余儀なくさせられる。μ'sとてそれは例外ではなく、特に練習をする屋上は灼熱地獄。全身を使ってファイアーダンスをするような激暑に見舞われる。

 

 そのためか、最近は放課後の練習も見送られることが多い。熱中症対策はもちろんのこと、酷暑の中での練習は身体的だけでなく脳にも多大な影響を与えることが医学的に証明されている(西木野真姫談)。特に俺や穂乃果、ことりに海未。俺たち4人にとって、脳細胞を暑さでダウンさせてしまうのは自殺行為に等しい。

 

 

 何故かって?この時期に頭が回らないとどうなるかというと――――

 

 

 

 

「あ゛ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 教室に穂乃果の叫び声が響き渡る。その手には一枚の紙が握られ、努力の甲斐も虚しい『31』という無慈悲な数字がチラチラと俺の目に写りこんでいた。いや、これも当然の結果だな。

 

 

「中間テストでは60点だったのに……どうしてほとんど同じ範囲のテストで点が半分になっちゃうの!?ねぇ零君!!」

「うるせぇ!!!!耳元で騒ぐな!!」

 

 

 穂乃果は何故か俺の耳元へ詰め寄り、さっきの叫び声と声量を全く変えずに怒鳴りつけてきた。

 穂乃果の手にあるくしゃっと握られた解答用紙を見てみると、大量の『×』マークがまるで花火を表現しているかのように広がっていた。なんとまぁ汚い花火だ……。

 

 

「お前、ライブが終わった後ずっとぐぅたらしてたからなぁ~」

「だってあの余韻を消したくなかったんだもん!!」

「その結果がこれだ」

「うぅうううううううううううううううううううううう……」

 

 

 過酷な現実をまだ受け入れたくないのか、穂乃果は意味不明な呻き声を呟く。

 この前と言っても2週間前、μ'sは単独ライブに向け躍起になっていた。もちろん高校生組は期末テストが控えているので、あの同棲生活の間にも何度か勉強会が開かれていたんだ。ライブは成功したけどテストで転けましたぁ~!!なんて本末転倒な事態は避けないといけなかったはずなのに……

 

 コイツの場合、ライブが終わった後まともにテスト勉強なんてしていなかったのだろう。もういっそのことずっと同棲してた方が生活にメリハリが付くのでは?と思ってしまう。

 

 

「でも穂乃果ちゃん、海未ちゃんが作った小テストでは80点だったから次は大丈夫だよ!!」

「こ、ことりちゃん!!もう心の友はことりちゃんだけだよ!!」

「私は心の友じゃないと……?」

「だって絶対グチグチ言われるに決まってるもん」

「当たり前です!!どうして小テストはできて本番のテストではできないんですか!?」

「ライブの余韻に浸ってぼぉ~っとしてたら忘れちゃったんだよ!!悪い!?」

「なんで逆ギレしてんだよ……」

 

 

 どうせライブがなくても1人だと勉強しなかっただろというツッコミは野暮なのか。

 とにもかくにも1年前なら笑って済まされるような点数なのだが、今の俺たちにとってそうは言っていられない。俺たちはれっきとした受験生なんだから。模試の合格判定で、俺たち4人の判定が『A』『B』『C』『D』とアルファベット順に並んでるのを見てすごーーい!!と叫ぶ時代はもう終わったんだよ。(1年前の話)

 

 

「うぅ~……数学では敵わないかもしれないけど、これなら勝てる自信がある!!」

 

 

 穂乃果は自信満々に別の解答用紙を俺たちに見せつける。その用紙は数学の解答用紙とは違ってシワ1つなく、額縁に入れて飾れそうなくらい綺麗だった。

 

 だが俺はその解答用紙の教科欄と点数を見て戦慄する。

 

 

 

 

「ほ、保健体育……きゅ、97点!?」

「へっ、へーん♪流石の零君でもこの点数は越えられないでしょ?」

 

 

 この1年間、ほとんど学力が変わらなかった穂乃果が点数を伸ばした科目が2つある。

 

 1つは音楽。

 これはスクールアイドルを始めたことによる影響で言わずもがなだ。

 

 そしてそのもう1つが保健体育である。

 

 

「それで、零君は何点だったの?」

「っ…………86点」

「フッ……」

「お前!!今鼻で笑いやがったな!!」

「あの変態の零君がそんな点数だなんて……ぷぷぷっ♪笑いが止まらないよ!!」

「くそっ、結果が結果だけに何も言えねぇ……」

 

 

 いくら受験に関係ない科目であろうとも、テストの点数で穂乃果に負けるとは俺のプライドが許さない。だが非情にも、10点以上もの差を付けられ俺は歴史的大敗を喫してしまった。机に手を着き項垂れる俺と、口角を上げながら俺を嘲笑う穂乃果。いつもの立場が逆転したこんな珍しい光景、UFOが飛来してきた時よりも貴重な映像だぞ。

 

 

「あなたたち、たかが1教科ぐらいで一喜一憂するよりも、その時間を復習の時間に当てたらどうですか?」

「復習の時間かぁ~……じゃあ男性器と女性器の復習でも――――」

「そ、それはしなくてもいいです!!」

「えぇ?海未ちゃんがさっきしろって言ったじゃん!!」

「そんなものは家でこっそりとしなさい!!」

「お前意外とムッツリなのか……?」

「殴りますよ?」

「なんで!?!?」

 

 

 出たよ出たよ!!海未の都合が悪くなったら俺を殴っておけばいい謎理論が!!今の俺、全然悪いところなかったよね!?正直言って今まで悪いところだらけだったけど、今回だけは断言できるぞ!!

 

 

「そういうお前は何点なんだよ、保健体育」

「…………内緒です」

「穂乃果たちの点数を見ておいて自分だけ見せないのは卑怯だよ海未ちゃん!!」

「あなたたちが勝手に騒いでいただけでしょう!?」

「どうせ自分の点数が低かったから見せたくないんだろ。分かるぞその気持ち。穂乃果に馬鹿にされるのは人生最大の屈辱だもんな。今までの経歴に傷が付くレベルだ」

「ヒドい!!」

 

 

 俺たちが馬鹿騒ぎをしているそんな中、海未は背後から忍び寄る1人の影に気付かなかった。

 その影は右腕を海未の机へ伸ばすと、机の上に置いてあった保健体育の解答用紙を目にも止まらぬ速さで摘んで取り上げる。

 

 

 

 

「えへへ♪いただきぃ~♪」

 

 

 

 

「「ことり!?」」

「ことりちゃん!?」

 

 

 ことりはまるで秘境に眠る財宝を遂に見つけたと言わんばかりに右手を高らかに上げ、小悪魔のようなしてやったりの顔で微笑む。音もなく背後に忍び寄り、華麗なる手捌きで海未が大切に守っていたものを素早く奪うその姿に、教室中から驚きの声が上がった。ことりは満足気な表情でその歓声に応えて手を振っている。俺たちも目を丸くして、ことりの鮮やかさに見惚れるしかなかった。

 

 

 

 

 だが……手にしているのはただの保健体育の解答用紙だ。

 

 

 

 

「す、すごいよことりちゃん……忍者みたい」

「えへへ♪誰にも見つからないようによく部屋へ忍び込んでいたから、その経験が生きちゃった♪」

「ん?おいことり、それって……」

「えぇ~?なんのことかなぁ~♪」

 

 

 コイツ!!いい笑顔で白々しいな!!明らかにその"部屋"は"俺の部屋"だろ!!

 あの同棲生活中、気付かなかっただけで服以外にも色々な私物を取られていた。シャツや下着だけならまだしも、ゴミ箱から俺が使ったストローや紙スプーンが抜き取られているのを見た時は本気で震え上がってしまった。

 

 さらにもっと恐ろしいのは、盗まれたモノがあれ以降一切俺の手元に帰ってきていないことだ。ゴミはいいとしても服は返せよ……

 

 

「こ、ことり!!返してください!!」

「えぇ~と、海未ちゃんの保健体育の点数は……っと」

「ことり!!」

「……こ、これって!!」

 

 

 ことりは海未の保健体育の点数を見て目を見開く。その反応を見る限り相当低い点数だったのか?でも海未だったら無理もない。今回の範囲のほとんどが、海未の言葉を借りれば"破廉恥"な話題だったからな。

 

 

「そんなに衝撃だったのか!?」

「なになに?ことりちゃん!!穂乃果にも見せて!!」

「あ、あなたたちまで!!ことり!!絶対に見せてはいけませんよ!!」

 

 

 俺達は海未の保健体育の点数を赤裸々にしようと目論み、彼女の言葉を無視してことりの元へ詰め寄る。

 

 だがその時。

 

 

 

 

「いい加減にしろ。神崎、高坂、南、園田」

 

 

 

 

「「「「せ、先生……」」」」

 

 

 ここでまさかの先生乱入イベント。だがその圧力だけで俺たちは既に敗北していた。

 

 笹原京子先生。

 

 普段は大人びたクールな女性なのだが、今はいいカモを見つけた詐欺師ような笑顔を見せている。

 マズイな、笹原先生に目を付けられたら最後……まず無事に帰宅することはできない。何とか俺だけでも罰を逃れる方法を考えなくては!!

 

 

「まだ授業中だということを忘れるなよ。なぁ神崎」

 

「なんでいつもいつも俺だけを目の敵にするんですか!?そもそもの主犯は、すぐに点数を見せない海未でしょ!?」

「ちょっと待ってください!!それはどこをどう考えてもおかしいですよね!?初めに点数を自慢し始めたのは穂乃果でしょう!?」

「なんでこっちに飛び火するの!?零君が海未ちゃんに点数を聞いたのがいけないんでしょ!?」

「お前もノリノリだっただろうが!!」

「みんな騒がしかったと思うけど……」

「もう間を取って、ことりが悪いってことでいいよ」

「えっ!?どの間を取ったの!?」

 

 

 そして今度は責任をお互いに擦り付け合い、怒涛の罰ゲーム回避合戦が始まった。今のこの状況を客観的に見てみると、仲間同士の絆で『ラブライブ!』を制したグループとは到底思えない。己が身に降りかかる罰ゲームを回避するため、仲間の悪行を赤裸々に告白する責任転嫁大会を開いていると他のメンバーに知られたらどうなるのか……。

 

 

 だが、その大会にはあっさりと終止符が打たれる。

 笹原先生は、その綺麗で整いつつもブラック過ぎる笑顔で俺の胸倉を掴んできた。

 

 

 くっ、苦しいけど先生からいい匂いするじゃねぇか……

 

 

「丁度良かった。屋上が汚いから、誰かに掃除をさせないといけなかったんだよ。この時期になると、あんな灼熱地獄の中で掃除したがる奴はいなくてなぁ~。そうだろ、神崎?」

「だからなんで俺だけ!?」

「もちろんそこの3人も一緒だ。お前ら、罰として屋上掃除な」

 

 

「「「「えぇ~……」」」」

 

 

「断ったらテストの点数1割減だから」

 

 

「「「「やります!!」」」」

 

 

 そして俺たちは罰ゲームとして、極暑の中での強制労働を言い渡されたのだった。

 これが権力ってやつか……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「くっそぉ~……どうして俺がこんなことに……」

「自業自得です。それは私たち全員に言えることですが……」

 

 

 放課後、俺たちはデッキブラシとバケツを手に勤務時間外労働をさせられていた。

 屋上は今日1日分の日光を存分に吸収していたため、まるで熱々の鉄板の上を掃除しているかのようだ。掃除が終わる頃には、俺たちも熱されて食べ頃となっているだろう。

 

 

「でもμ'sの練習でいつも使っている場所なんだし、ことりたちが掃除をするのは当たり前なんだよね」

「そうなんだけど、流石に今日は暑すぎるよぉ~……穂乃果ちょっと休憩」

「こんなところで休憩したら、お前が真っ先に焼肉になるぞ」

「もーーーう!!あーーつーーいーー!!」

「ちょ、ちょっと穂乃果!!服乱れてますよ!?」

「いいじゃん体操服なんだしぃ~……」

 

 

 暑さで朦朧として今まであまり気にしていいなかったのだが、穂乃果たちは今体操服で掃除しているのである。そして屋上はこの暑さ、体操服は白、この方程式から導き出される解は――――――透けブラだ!!

 

 夏といえば、女の子の身を包む法衣が薄くなる時期!!特にシャツや体操服姿はただでさえ何もしていなくても透けるというのに、そこに汗が加わればもはや衣服を着用していないも同然だ!!

 

 

 穂乃果は黄色!!ことりは白!!海未は水色!!

 

 

 同棲生活中に下着ぐらいは幾度となく見てきたのだが、やはりこうしていつも見られないモノが見られるというのは心底興奮する!!パンツだって生で見せられるより、スカートが捲れ上がってパンチラした方がより興奮するだろ?それと同じだよ!!いつでも好きな時に見られるのはありがたみがなくなるからな。

 

 

「零?どうしたのですかぼぉっとして?まさか熱中症……?」

「い、いやなんでもない!!ほらほらとっとと掃除終わらせるぞ!!」

「零くん♪」

「なんだことり?」

「ことりの下着の色は何だったでしょう?」

「白だよ……あっ!!」

 

 

 俺は勢いに身を任せ、ことりの下着の色をズバリ言い当ててしまう。もちろんそれに気付いた頃には時すでに遅し。海未は左腕で自分の透けブラを隠しながら、右手でデッキブラシを持ち俺へ向かって思いっきり振り下ろす。だがなんとか俺は間一髪のところでその攻撃を避け、俺がいた場所からデッキブラシとコンクリート床のぶつかり合う鈍い音が響く。

 

 

「零!!あなたって人はどこまでいってもどうしようもない人ですね!!」

「待て待て!!デッキブラシはハンマーじゃない!!形状は似てるけど!!」

「毎回毎回そんな破廉恥なことしか考えられないその頭は、一度壊してしまった方がいいみたいですね!!」

「壊れたら治らねぇよ!!」

「そんなもの、知ったことはないですよ!!」

「俺、お前の彼氏なんだよな!?恋人同士なんだよな!?俺への扱いが段々ヒドくなっている気がするんですけど!?」

「むしろ恋人同士だからこそ更生させてあげますよ!!」

 

 

 海未もこの暑さで怒りの制御ができていないのか、デッキブラシをブンブン振り回して俺を屋上の隅へと追い詰めていく。そのデッキブラシ裁きは、幾千もの戦闘を乗り越えてきた猛者のものだ。今まで弓などの遠距離武器しか使えないと思っていたんだが、まさか近接戦闘の心得まで身につけていたとは。

 

 

「穂乃果!?ことり!?海未を止めてくれ……って、ん?」

 

 

 

 

「穂乃果ちゃんの下着、涼しそうでいいなぁ~~それでいてオシャレ!!

「ありがとう♪ことりちゃんの下着も可愛いよ!!でもあまり見たことないデザインだね?」

「ありがとぉ~♪実はオーダーメイドなんだ♪」

「オーダーメイド!?ことりちゃん衣装だけじゃないくて、下着もデザインできるんだ!?」

「今度穂乃果ちゃんの下着もデザインしてあげるよ♪」

「ホントに!?やったぁ♪」

 

 

 

 

「コ゛ラァあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 まさか屋上で下着の褒め合いをしているとは、アイツら自分がスクールアイドルって自覚あるのかよ!?しかもちょっと脱いでるし!!くそぅ~俺もあの会議に参加してぇ~!!

 でも俺の眼前には、海未がデッキブラシをクルクルと高速回転させながら迫っている。あのミキサーに飲み込まれたら……間違いなく身体が引き裂かれるだろう。

 

 

 

 

 万事休すか、そう思った瞬間だった。

 屋上のゆっくり扉が開いた。そこから顔を覗かせたのは――――

 

 

「雪穂!?」

「「「あっ……」」」

 

 

「い、一体なにを……?」

 

 

 だがそこで雪穂の言葉が途切れる。

 そりゃあそうだ。自分の服を捲って下着を見せ合っている穂乃果とことり、透けブラを隠しながらデッキブラシを高速回転させている海未、そして尻餅を付き後ずさりしながら下着の見せ合い会場を凝視していた俺……どこからどう見てもマトモに掃除をしている連中には見えない。それどころかどことなく卑猥な雰囲気が漂っているように見える。

 

 雪穂の手には洗剤とバケツが握られていた。大方笹原先生に無理矢理、俺たちのところへそれを持っていくように命令されたのだろう。だが雪穂は何も喋らず表情も変えずにゆっくりと扉を閉め始めた。『コイツらには関わらない方がいい』と言わんばかりの……それで正解だ、俺も今そう思っているから。

 

 

 そして、遂に――――

 

 

 扉の閉まる音が、物悲しげに響いた。

 

 

 

 

「…………やるか、掃除」

「そうだね……」

「やろっか……」

「はい……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おい、高坂妹」

「笹原先生……」

「どうして洗剤とバケツを持って階段を下りてくる?アイツらのところへ持って行けと言っただろう」

「そ、それはぁ~……屋上の雰囲気と言いますか……なんて言うんですかね……」

「もういい。大体事情は分かった。全くアイツらは……」

 

 

 

 

 そして俺たちは、1週間の屋上掃除を言い渡された。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

「そう言えば、海未の保健体育の点数って何点だったんだ?」

「教えませんからね!!」

 

 

「99点だよ♪」

 

 

「「え゛っ!?」」

「こ、ことりぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 




 ちなみにことりちゃんは100点です。


 とりあえずこの話から見てくれている新規読者様のため(いるのか?)に、大体新章一発目はドタバタネタにしています。
他の方の小説に比べてリアリティの欠片もなくキャラ崩壊も凄まじいですが、それがこの小説の持ち味なので今後共お付き合いして頂ければと思います。この話で1つでもクスっと笑っていただけたのなら嬉しいです!


 新規さんに媚を売るのはこの辺にして―――


 こんな感じでまたダラダラと零君とμ'sの日常を描いていきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします!


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

穂乃果との淫乱なる夏祭り

 今回は穂乃果個人回にして、誰よりも早い穂乃果誕生日回です!そして話数が遂に『日常』と並ぶプチ記念回でもあります。

 一応個人回なのである程度真面目な内容を含んでいます。ある程度ですが……

 ではたっぷりとホノニウムを補充してください(笑)


「もうっ!!雪穂ったら全然起こしてくれなかったんだよ!?その上穂乃果を置いて行っちゃうなんて考えられないよ!!」

 

 

 穂乃果はプリプリと怒りながら自業自得の罪を雪穂に擦り付ける。

 簡潔に状況を説明すると、μ'sのみんなと夏祭りに行く約束をしていたはずが、穂乃果が昼寝坊をしてしまったため雪穂に置いていかれてしまったのだ。どこからどう見ても穂乃果が全面的に悪いのだが、本人はかなりご不満な様子。ちなみに雪穂はコイツを3回起こしたらしい。そりゃあもうコイツが悪いな。

 

 

「でも、零君と2人きりで夏祭りに行けるのは嬉しいなぁ♪」

「みんなと合流するまでだけどな」

 

 

 相変わらずコロコロと態度が変わる奴だ。

 本当は遅刻した穂乃果だけを後から合流させる予定だったのだが、今日の夏祭りは毎年人がたくさん集まるため穂乃果を1人だけにしておくというのはどこか危なっかしかった。そこで俺が昼寝坊した穂乃果を待っていたという訳だ。みんなはもう夏祭り会場に着いている頃かな。

 

 

 俺の隣を歩いている穂乃果はもちろん浴衣姿だ。いつもは多彩な色、派手な柄を好んで着ているが、今日の浴衣は白を基調とし、赤い金魚が描かれている。自慢のサイドポニーは頭の上でお団子となっていて、全体的に雰囲気が大人しく感じられる。

 

 色々と言いたいことはあるのだが……可愛すぎるだろ!!浴衣姿の穂乃果が『待った?』と言って穂むらから出てきた時は、その可愛さゆえ萌え死にそうになったぞ!!そんな穂乃果が今、俺の隣を歩いている!!こんなのまるで恋人同士じゃねぇか!!――――――あっ、恋人同士だったか。

 

 

「えへへ♪」

「そこまで腕に絡みついてたら歩きにくいだろ」

「恋人同士なんだからいいじゃん♪」

 

 

 穂乃果は俺の右腕に絡みついて、一般の男なら卒倒する超ド級の明るい笑顔を見せる。

 ちくしょォおおおおおおおおおおおおお!!可愛すぎんだろこのやろォおおおおおおおおおお!!こんな可愛い子が俺の彼女!?しかもこの相思相愛感が堪らねぇええええええええええ!!今すぐに抱きついて俺の部屋へ連れ込みたい!!そしてあわよくばベッドインしたい!!

 

 

「どうしたの零君?」

「俺、幸せ者だなぁ~って思って」

「それだったら穂乃果たちも幸せ者だよ。だって零君から、数え切れないくらいい~~~っぱい幸せを貰ったんだもん!!」

「穂乃果……ありがとう。じゃあこれからももっとお前たちに笑顔を分け与えないとな」

「もちろん穂乃果たちも零君に、とびっきりの笑顔を分けてあげるからね♪」

 

 

 もう既に俺もみんなから、十分過ぎるくらいの笑顔をもらってるけどな。俺もみんなに負けないようにしないと。

 そしていい区切りなのでここでこの話は終わり!!あとは俺と穂乃果の放送禁止イチャラブベッドシーンをご想像ください!!――――――とはいかないので、俺と穂乃果はこれでもかというくらい引っ付きながら、最寄りの駅へと歩いていく。

 

 

「そういえば、幸せって数えられるのか?」

「う~ん……難しい話はよく分かんないからやめよう!!」

「そうやってこの前の期末テストも逃げてきたんだな……」

「もうっ!!どうしていい雰囲気だったのにそんな話になるの!?ちゅーの1つや2つぐらい、してもいいんじゃない!?」

「お前、周りのどれだけ人がいると思ってんだよ……」

 

 

 みんな目的は同じなのか、浴衣姿の人たちが俺たちと同じ方向へ歩いていく。そんな道の真ん中で恋人同士の濃厚なベロチューをするなんて、流石の俺でも肝が据わっていない。

 

 

 穂乃果も周りの状況を見てようやく冷静になったのか、とりあえずキスをするような異端行為だけはせがまなくなった。だがさっきよりもギュッと俺の腕に絡みつく。俺の腕と穂乃果の胸が触れ合うことによって、彼女の胸の形がふにっと変わる感触が堪らない。

 

 

 俺たちはその気持ちよさに酔いしれ少しの間無言で歩いていたのだが、穂乃果が唐突に口を開いた。

 

 

「穂乃果……みんなと一緒の大学に入れるように頑張るね」

「あぁ、俺たちも全力で協力するよ」

「えへへ……ありがと♪でも新鮮だったなぁ~」

「なにが?」

「この前、進路希望調査があったでしょ?その時の零君が新鮮だったなぁと思って」

「俺が……?」

 

 

 俺たちが目指すのは秋葉や絵里たちと同じ大学だ。俺と海未、ことりは無難な合格判定を貰っているが、穂乃果だけは『C』と『D』の間を彷徨いている。もちろんこの夏、俺たち4人による勉強合宿を計画中なのだが、それよりもさっき穂乃果が言っていたことだ。そこまで俺おかしかったかな?

 

 

 

 

「零君はいつも穂乃果たちのために尽くしてくれた。穂乃果たちを抱きしめてくれた、守ってくれた、笑顔をくれた。いつもみんなの未来を支えてくれていたんだよね。でも今の零君は自分のために自分のことを考えている。自分の未来を見つけるために……それが嬉しい。だから次は穂乃果の番。今度は穂乃果が誰かを抱きしめて、守ってあげられる未来を作りたい」

 

 

 

 

 そう言われるまで俺は何も気付いていなかった。考えてみると、自分のために自分に尽くすなんてことをしたのは初めてだ。同棲生活中だって雪穂や亜里沙、楓の悩みを払拭するために躍起になっていたからな。でもこうして自分のことを考えさせてくれる安心感は穂乃果たちだから得られたものだ。むしろ俺が彼女たちに感謝すべきなのかもしれない。

 

 

「ゴメンね。折角の夏祭りなのにこんな話……」

「いや、穂乃果の決意が聞けて嬉しいよ。お前の夢を叶えるためにも、絶対に一緒の大学へ行こうな」

「うん!!」

 

 

 穂乃果の眩しい笑顔に、俺はまた立ちくらみそうになる。真っ暗な夜空に打ち上がった花火のように、彼女の笑顔は夜であろうともすごく輝いていた。ずっと守ってやりたい、この笑顔を。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「やっぱり今日はいつもより人が多いね」

「夏祭りだし、仕方がないだろ」

 

 

 俺たちが駅に到着すると、そこは祭り会場行きの人たちでごった返していた。周りを見るとほとんどが浴衣姿のため、ここにいる人のほとんどが夏祭りに行くとみて間違いはない。ちなみに俺は私服だ。

 夏祭りだからしょうがないと言えばしょうがないのだが、駅だけでこの人混みだとすれば、夏祭りの会場を想像するだけで若干吐き気を催してしまう。俺は人混みが苦手なので、こうして穂乃果たちから誘われない限りまず出掛けることはない。

 

 

「もう一本電車を遅らせてもいいけど、ただでさえ遅刻してるからな」

「うぅ……申し訳ない」

「もう謝らなくてもいいって。それより、あっちの方が空いてそうだからそっちに行こうぜ」

「うん♪」

 

 

 俺と穂乃果は指と指を絡ませる手の繋ぎ方、通称恋人繋ぎをしながら駅の奥へ進んでいく。空いていると言っても、極僅かな人の差でしかないのだが。

 

 

「おっ、丁度電車が着た」

「じゃあ海未ちゃんに『電車に乗ったよ』って連絡しておくね」

「おう、頼む」

 

 

 そして俺たちは電車に乗り込んだのだが、やはりと言うべきか電車の中も既に夏祭りに行く人で混み合っていた。普段の通勤通学の電車とは違って、祭りは友達や家族、俺たちのような恋人同士などグループで行く人が大半だ。そのせいで車両内のあちこちで人の塊が形成されていて、中々奥に詰めることができない。仕方がないので穂乃果をドアと座席の間の角に立たせ、俺は彼女に向き合うように立つ。あと2駅だからこれで我慢してもらおう。

 

 

…………

 

 

…………

 

 

 

 

「近いな……」

「近いね……」

 

 

 

 

 俺と穂乃果はお互いに顔を見つめ合う。

 普段は見られない浴衣姿の穂乃果。俺はそんな穂乃果に見惚れ、さらに彼女の星そのもののような綺麗な瞳に吸い込まれてしまう。それは穂乃果も同じみたいであり、俺の瞳をずっと眺めていた。

 

 

 あと数センチ。

 

 

 このまま顔を近づければ確実にキスが成立する。さっきは歩きながらだったから周りの状況を冷静に見ることができたのだが、今は俺の目も脳も意識も穂乃果に夢中となっていて周りがどうなっているかなど全く見えていなかった。

 

 穂乃果は頬を朱色に染め、恍惚な表情で俺を見つめる。香水も整髪料もない、彼女本来の甘い匂いが俺の鼻を刺激し更なる興奮を煽った。浴衣の間からチラチラと見える、練習でちょっと焼け焦げている肌も穂乃果の魅力を引き出すことに一役買っている。いつもは無駄な馬鹿騒ぎばかりで子供っぽい彼女だが、今は大人のエロさしか感じられない。

 

 

 もう俺の中にあるのは穂乃果と繋がりたいという欲望、ただそれだけだ。

 

 

 だが穂乃果に釘付けになっていて周りが見えていなかった俺は、電車が次の駅に到着したことに気が付かなかった。

 電車のドアが開き、人がたくさんなだれ込んでくる。この駅から乗る人も無論夏祭りに行く人たちだろう。俺は穂乃果を誰にも触れさせぬよう彼女を抱き寄せ、そのまま一緒にドアと座席の角へと詰めた。もちろん俺たちの距離は先ほどと比べ物にならないくらい近づいている。

 

 

「悪い、あと1駅だから我慢してくれ」

「人、多いから仕方ないよね……」

「誰にもお前に触れさせたりしねぇよ。お前は俺のものだから」

「零君……ありがと♪」

 

 

 穂乃果は両腕を俺の腰に回し、そのままギュッと抱きついた。彼女の顔を見てみると、さっきまで朱色だった頬が浴衣の白とは対称的に真っ赤に変化している。エロさを垣間見える恍惚な表情はそのままだ。

 

 

 俺と穂乃果はしばらく動かず、黙ってお互いの温もりの堪能し合っていた。動こうにも車両内はほぼ満員状態で、足を半歩動かせるか動かせないかのレベルだ。

 

 

 だがしかし。

 

 

 目の前には可愛い彼女。そして満員電車内でお互いに抱きしめ合っているこの状況。性の悪魔である俺がそのままでいられるはずがなかった。

 

 俺は穂乃果の背中に回していた両手を降ろし、彼女のおしりを軽く撫で回した。

 

 

「ひゃっ!!れ、零君……!?」

「悪い……我慢できなくなった」

 

 

 満員電車内で俺がこんな暴挙に出たことに驚いたのか、普段は羞恥心をある程度捨て去っている穂乃果が珍しくあたふたとする。だがその表情は俺の興奮をさらに煽る結果にしかならなかった。

 

 浴衣越しでも分かる、穂乃果の柔らかいおしりの感触。触っているだけで、穂乃果のおしりが白く透き通ってスベスベであることが伝わってくる。まるで新鮮な桃のように……。俺は無我夢中となって、彼女の桃を一心不乱に撫で続けた。

 

 

「ふわっ!?あっ……!!」

「穂乃果……声を出したら周りの人に気付かれるぞ」

「そ、そうだよね……声抑えないと」

 

 

 痴漢プレイをしていることについては俺も穂乃果も一切言及しない。おしりを撫で回すことをやめる選択肢もない。俺たちはお互いに相手から与えられる快楽の虜になっていた。

 

 

 そして、俺は穂乃果のおしりを撫で回すだけでは飽き足らず、10本の指をすべて使って彼女の桃を揉み始める。

 

 

「ひゃぅ!!うぅ……!!」

 

 

 俺が手に力を入れたと同時に、穂乃果から大人の呻き声が漏れた。穂乃果は既に興奮しているのか、はぁはぁと吐息を俺の顔へ漏らし、その甘くもエロい匂いが俺の欲求をさらに高めてくる。そしてその火照った彼女の顔が俺の目と意識を奪う。もう俺は周りがどんな状況なのか、満員電車であることも、そもそも電車の中であることも忘れていた。

 

 

「あんっ、あぁ……!!」

 

 

 穂乃果のおしりを時には撫で回し、時には揉みしだきながらその感触、そして彼女の表情と喘ぎ声を堪能する。穂乃果の気持ちよさそうな顔を見るたびに、俺はどんどん穂乃果色に支配されていく。彼女の乱れる姿をもっと見たい!!彼女の口から卑猥な喘ぎ声を聞きたい!!俺の欲求は留まることなく肥大化していく。

 

 

 そして俺は次の行動に移る。

 穂乃果のおしりから手を離し、今度は自分の腕を彼女の浴衣の袖に侵入させた。そのまま勢いで穂乃果の胸元に腕を回す。

 

 

「ひゃっ!!」

「お前……下着はどうした?」

「あんっ、だ、だって……浴衣の下には……あっ、んんっ……何も着けないんじゃないの?ひゃうっ!!」

 

 

 俺が脇の下を弄るたびに喘ぎ声を上げながらも、穂乃果はいつの時代か分からない迷信を語る。

 話の流れの通り、穂乃果は胸に下着を着けていなかった。浴衣の下には生おっぱい。その想像は俺の暴走にまた大きく拍車をかける。

 

 

 俺は浴衣内に侵入させた腕を回して穂乃果の身体に抱きつく。そして回した手の指で、穂乃果の生のおっぱいを横からツンと突っついた。

 

 

「あっ……んっ♪」

 

 

 予想通りの反応に、俺の性の欲が限りなく限界に近づいてきた。

 穂乃果を始め、μ'sのみんなは何故このように俺の性欲を高ぶらせる反応をするのだろうか。キスをした時、胸を揉んだ時、それ以上のもっと激しいことをした時、可愛くも卑猥な声を上げ、いつも俺を興奮させる。それなのにも関わらず、誰1人として同じ反応をしないのだ。快楽に溺れた表情、漏れ出す喘ぎ声、そのすべてに違いがある。俺から99%の理性を奪い、知らぬ間に彼女たちの虜となってしまう。

 

 

 その要因はなんだ?

 

 

 

 

「んっ♪んあぁ……!!」

 

 

 腕をさらに袖へ潜り込ませ、遂に穂乃果の生おっぱいを揉み始めた。

 程よく育った穂乃果の果実は、俺の手にジャストフィットする。恋人同士として付き合って以降、彼女のバストはことりや花陽並みの成長を見せ、手に余ることもなければ寂しくもならない、まさに俺のためだけのおっぱいになったのだ。

 

 この手に吸い付く感触、指がおっぱいへ食い込むたびにむにゅっとした音が脳内再生されてとてつもなくエロい。穂乃果の吐息も卑猥な意味で重いものとなり、まるで電車で痴漢をする企画モノのようだ。

 

 

「んっっ♡はぁぁ……♡」

 

 

 穂乃果の果実を上から下から右から左から――――あらゆる方向から揉みしだく。

 もう俺たちは完全に自分たちの世界に浸っていた。周りにどれだけ人がいようとも、この快楽に勝るものは何もない。道徳やらマナーやら風評やら、そんなことは一切お構いなしだ。それどころか考えてすらいない。

 

 

 穂乃果の快楽に溺れた表情、声、吐息、そのすべてが俺の興奮を加速させる。もう限界に近い性欲が、俺に最後の一手を誘発した。

 

 俺は両手の親指と人差し指で、穂乃果の両方の乳首をクリッと摘んだ。

 

 

「ひゃぁあん♡あぁああ……!!」

 

 

 今日一番、最も淫乱な声が穂乃果の口から漏れ出す。

 もっとだ……もっと聞かせてくれ!!その喘ぎ声が、お前は俺のものだという証明になる!!俺によって手篭めにされ、その身を委ねろ!!

 

 

 

 

 その時、俺は我に返った。車両内で人混みが大きく動き始めたからだ。

 穂乃果に支配されていた俺の頭が現実に引き戻され、車両内のアナウンスがようやく耳に入ってきた。どうやらもうすぐ次の駅らしい。その駅が夏祭り会場の最寄り駅なのだ。

 

 

「はぁはぁ……」

「だ、大丈夫か?」

「もうっ、零君のバカ……」

 

 

 穂乃果もようやく興奮から覚めたのか、過呼吸になりながらも俺を可愛い目で睨みつける。はぁはぁと息切れしながら睨まれるとまたそれはそれで新しい興奮が引き立つのだが、今回はお預けだ。それにもの凄く今更だけど、冷静になって考えてみると周りの目もあるからな。

 

 

「あれだけ『あんあん』喘いで、気持ちよかったんだろ?」

「そ、それはそうだけど……2人きりの時にやって欲しかったよ」

「電車の中ってところが興奮するんだ。道徳に反した痴漢電車プレイ、またやってみたいな」

「調子に乗らない!!」

 

 

 痴漢電車プレイ、なんて欲求を唆る言葉なんだ!!これはもう穂乃果以外のμ'sメンバー全員とヤりたくなってきたぞ!!さっきも言ったけど、みんな1人1人に別のエロさがあって見せる反応も違う。今からでもすごくワクワクしてきた!!

 

 

「ねぇ零君」

「ん?」

 

 

 穂乃果は俺の服の袖を摘みながら、上目遣いで俺の名前を呼ぶ。

 モジモジとして恥ずかしそうなその表情だけで悶え死にそうになる。

 

 

「あの続きは、また2人きりの時に……やろうね♪」

 

 

 あ゛ぁあああああああああああああああああ!!穂乃果可愛過ぎるんじゃぁあああああああああああああ!!ちょっと火照った顔から繰り出されるその太陽のような笑顔は、どんな男であろうとも焼却できてしまうだろう。今からホテルに連れ込んでベッドインしてぇええええええ!!

 

 

 落ち着け落ち着け……みんなと合流するのに俺たち2人が高揚してたら確実に怪しまれるだろ。『あなたたち……もしかして一発ヤってきたの?』ってな。

 

 

 

 

 そんなこんなで平静を取り戻している間に、電車が夏祭り最寄り駅に到着した。

 

 

 

 

「おっ、着いたみたいだな。行こうぜ」

「うんっ♪」

 

 

 穂乃果は再び俺の腕に絡みつき、電車に乗る前よりもさらに深く密着してきた。俺は穂乃果の頭を撫でながら、周りの人に俺たちの恋仲をこれでもかというくらいに見せつけながら歩いていく。

 

 

「あっ!!みんなあそこにいるよ!!」

「お、おい!!引っ張るな!!」

 

 

 腕に絡みついたまま方向転換するなよ!!と心の中でツッコミながら、これからも穂乃果に引っ張り回される人生になるんだろうなぁと海未みたいなことを言ってみたり。でも不思議とそんな未来が楽しみだ。それも"高坂穂乃果"だからかな?

 

 

「お~いみんなぁ~~!!遅れてゴメ~ン!!」

「うぉっ!!だから急に走るなって!!」

 

 

 

 俺たちの夏祭りは、今始まったばかりだ。

 

 




 この話はかなり前からTwitterで予告していた話なのですが、その時の反響が中々よく、今回個人回兼誕生日回ということで書いてみました。題材が夏祭りなのに、やっていたことは電車の中で痴漢という上級者プレイ。そんなネタを思いつく自分も自分ですが……

 この話を書いて穂乃果がより一層好きになりました!!だから皆さん、穂乃果の誕生日小説を是非とも書きましょう!!(笑)

 ちなみに穂乃果の浴衣姿は「穂乃果 浴衣」で画像検索すると出てくるものを使用しました。もう一度この話を読む時は、その姿を想像するとさらに妄想が沸き立つかもしれません。

 穂乃果の誕生日に隠れてしまいましたが、今回の投稿で『日常』と話数がタイになりました。『日常』が5ヶ月、『新日常』が4ヶ月で64話なので、この小説がどれだけハイペースで進んでいたのかがバレてしまう!


 夏祭り編は次回に続きます。次は絢瀬姉妹のターン!!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絢瀬姉妹との甘々なる夏祭り

 今回は夏祭り回Part2:絢瀬姉妹編です!そしてリクエスト回でもあります。

 零君と絵里、亜里沙の3人の夏祭りを亜里沙視点でお送りいたします。ちなみに前回みたいな破廉恥要素はないのでご安心(?)を!!


 絢瀬亜里沙です。

 今日はμ'sの皆さんと一緒に夏祭りに来ています。去年までは雪穂と2人きりだったので、ここまで大人数で夏祭りを一緒に回るのは初めてです!!遅刻した零くんと穂乃果ちゃんも合流したので、さらに楽しくなりそう♪

 

 

「またあなたは遅刻をして……これが大学入試の日だったらどうなっていたことか」

「そんな大事な日に遅刻なんてしないよ!!」

「まぁまぁ2人とも。折角の夏祭りなんだし、イヤなことは忘れて楽しもうよ♪」

「さっすがことりちゃん!!話が分かる!!」

「全く都合がいいですね……」

 

 

 穂乃果ちゃんが海未ちゃんにお説教をされ、その2人をことりちゃんがなだめる。このやり取りが日常茶飯事なことは知っていましたが、まさか夏祭りの会場まで平常運転だとは驚きました。聞けばこのやり取りは10年以上行われているそうです。とっても仲がいいんですね♪

 

 

「あっ~!!かよちん頬っぺにわたあめ付いてるにゃ!!」

「えっ!?どっちに付いてるの!?」

「あなたから見て右よ」

「真姫ちゃんもりんご飴頬っぺに付いてるにゃ~!!」

「へ!?本当に!?」

「うっそぉ~~♪」

「り~~ん~~!!」

 

 

 凛ちゃんと真姫ちゃんは花陽ちゃんの周りをぐるぐる回って追いかけっこを始めてしまいました。苦労してるなぁ~花陽ちゃん。そしてこれはμ'sに入った後で分かったことなのですが、意外と真姫ちゃんが子供っぽくて微笑ましいのです。こんなことを真姫ちゃんに言ったら怒られるかな?

 

 

「雪穂雪穂!!」

「なに楓?そんなに大きな声出さなくても聞こえるけど……」

「あのひょっとこのお面、雪穂に似合うんじゃない?」

「えっ?どうして?」

「だって私と話す時、いつも難しそうな顔してるじゃん♪だからそのお堅い表情をあれで隠せると思ってね♪」

「それは楓に呆れてるだけだから……」

 

 

 楓はいつも零くんの話ばかりしています。雪穂はそれにウンザリして適当に流すことも多いのですが、無視をしない辺りやっぱり雪穂は優しいです♪それに零くんの話をしている時の楓の表情はいつもキラキラとしていて、私もスクールアイドルとして見習いたいと思っています。でもたまに悪い顔をしているのは何でだろう……?

 

 

「希、アンタ夏祭り開始早々食べ過ぎじゃない?」

「お祭りとか、こういうところに来るとつい食欲が湧いてくるんや♪」

「それは分かるけど、一応にこたちはスクールアイドルなんだから、そんなに焼き鳥や唐揚げをムシャムシャ食べてる姿は似合わないわね」

「ウチはにこっちみたいにアイドルの在り方に拘りはないから平気平気♪」

「そういう問題じゃないわよ!!女の子としてももっと気をつけなさいよ!!」

 

 

 希ちゃんの言っていること分かります!!お祭り会場に行くと美味しそうな匂いが食欲をそそりますよね!!私はそこまで食べる方ではないのですが、こういうところでは食べ過ぎてしまうんですよ♪でも何故か体重はあまり増えたことはありません。その話を以前凛ちゃんやにこちゃんに話したら、胸辺りをジーッと見られたのですがなんだったのでしょうか?

 

 

 これで全員……じゃなかった。あれ?そう言えば零くんとお姉ちゃんはどこだろう?

 

 

 周りを見渡してみると、零くんとお姉ちゃんの2人は私たちのグループから外れ、金魚すくいの屋台の前にいました。私は2人の会話が聞こえる範囲にまで近づきます。

 

 

「えっ?お前金魚すくいやったことねぇのか?」

「ええ。そもそもあまり夏祭りに来たこともないから」

「へぇ~、割と賑やかなところが好きかと思ってた」

「誰かに誘われない限り、行こうとは中々思わないわね」

「おっ、その考え俺と一緒」

「フフッ♪もしかして意外と似た者同士だったりするのかしら?」

「そうかもな」

 

 

 2人は微笑み合いながら、金魚すくいの屋台の前で楽しそうにお喋りをしています。楓曰く、こういうのをリア充って言うらしいです。そしてそんな現場を見かけたら、『リア充爆発しろ』と言うのが日本の風習で礼儀らしいんですよね。一応言った方がいいのかな?

 

 

「リア充爆発しろ」

 

 

「うおっ!!ビックリした亜里沙かよ……」

「あ、亜里沙、そんな言葉どこで覚えたの……?」

「楓が『お兄ちゃんとμ'sの誰かが2人きりでイチャイチャしていたらこう言え』とか『これは日本の風習だからね♪』って言われたから……」

「い、イチャイチャって、私たちはそんな……」

 

 

 お姉ちゃんは顔を頬を赤く染めてそっぽを向いてしまいました。

 これって……デートなのかな?しかも零くんとμ'sの皆さん9人の10人同時デート……でも私は皆さんが楽しければいいと思います!!それじゃあ今からみんなで金魚すくいでも!!

 

 

 

 

 ――――――って、あれ?

 

 

 

 

「ん?どうした亜里沙?」

「穂乃果ちゃんたちがいなくなってます……」

「あっ、ホントだ!!」

「多分私たちがここにいることに気が付かず先へ行っちゃったのね」

「まいったな。この人混みじゃあすぐに合流するのは無理だぞ」

 

 

 今日の夏祭りは規模が大きいこともあり、全国各地から人が訪れるため会場が結構な人混みとなっています。だから一度はぐれてしまうと零君の言った通り合流が難しいのです。待ち合わせをしようにもこの人混み、目印になるものさえも少ないので合流する場所もよく考えなければなりません。強いて挙げるなら会場の入口ぐらいでしょうか。

 

 

「とりあえず連絡を取っておこう。回りながらどこかで合流すればいいだろ」

「じゃあその間は……?」

「お前と俺、絵里の3人で回るしかないな」

 

 

 私とお姉ちゃんと零くんの3人かぁ……もしかして私、お邪魔だったりするのかな?

 いやいや!!あの時、零くんに振り向いてもらうためにアプローチするって決めたんだ!!この状況で引いちゃダメだよね!!ファイトだよ、私!!

 

 

 そして私たち3人の夏祭りが始まりました。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「う~ん……上手く取れないわね」

「そりゃあ初めてで金魚すくいが上手くできる奴はいねぇよ」

 

 

 早速お姉ちゃんは人生初の金魚すくいに挑戦しています。ですが結局一匹も救うことができずに終わってしまいました。私も雪穂からコツを教えてもらったのですが、未だに慣れないんですよね。手先が不器用な私にとっては至難の業です。

 

 

「最後の1つだわ。これが破れちゃったら終わりね」

「絵里、ちょっと手を借りるぞ」

「えっ!?えぇ……」

 

 

 零くんは突然お姉ちゃんの手を取って、一緒に金魚すくいを始めちゃいました。身体も抱き合っているかのように密着しています。金魚すくいの屋台のおじさんもニヤニヤしてますよ!!

 

 しかもさっきから零くんがコツを教えているのにも関わらず、お姉ちゃんは顔を真っ赤にしてずっと零くんの顔を眺めています。多分全然聞いてないだろうなぁ~……

 

 

「絵里……?」

「…………」

「絵里さ~ん、聞いてますか~?」

「…………」

 

 

 零くんがお姉ちゃんの顔の前で手をフリフリするも、お姉ちゃんは瞬き1つせずに呆然と零くんの顔を見つめるばかりです。これは恐らく妄想の世界に旅立っていますね。

 最近家でも自分と零くんの未来予想図を話すことが多くなってきています。普段は真面目なお姉ちゃんが、零くんの話をする時だけはとてもイキイキとしているんですよ!!そんなお姉ちゃんを見て、いつも"可愛いなぁ♪"と思ってます♪

 

 

「絵里!!」

「ひゃいっ!!な、なに!?」

「お前、俺のテクニックを聞いてなかったのか?この技があれば金魚すくいの金魚ぐらい全部取れるっていうのに……」

「それは悪かったけど、全部はいらない……かな?」

「そうか?全部は無理にしても、お前は何でもそつなくこなせるからすぐに慣れると思うぞ」

「そ、そう?ありがとう……」

 

 

 そして零くんはお姉ちゃんの頭を優しく撫で回しながら、さっき以上に身体を密着させて一緒に金魚を取り始めました。零くんもお姉ちゃんも、そこまで顔を赤くするならやめておけばいいのに。お姉ちゃんはかなり緊張して、堅くなっているみたいですが……。

 

 これはまた……楓から教えてもらったあの言葉を使うタイミングなのかな?

 

 

「「リア充爆発しろ」」

 

「え?」

「お嬢ちゃんもおじさんと同じ気持ちだったんだね」

「そうみたいですね♪」

 

 

 まさか金魚すくいのおじさんも同じことを思っていたとは……赤の他人から見ても零くんとお姉ちゃんはラブラブに見えるみたいです。私の目にはお祭りの明るさには似合わない、ピンク色の雰囲気が漂っているように見えます。もう私だけでもみんなと合流しちゃおうかな……?

 

 別に嫉妬はしてませんよ!!むしろ大好きな零くんとお姉ちゃんのラブラブっぷりを見られてお腹いっぱいです!!この2人を見ていると、このお祭りのどの食べ物屋台よりもお腹が膨れちゃいますよ♪

 

 

「お嬢ちゃんにはこの金魚をあげよう」

「えっ?いんですか!?」

「いいんだよ。おじさんはちょっと奥で壁を殴ってくるから」

「は、はぁ……ありがとうございます」

 

 

 そう言って私に金魚さんの入った透明な袋を渡し、おじさんは屋台の奥に行ってしまいました。そこからコンクリートをパンチする音が聞こえたのですが、アレも日本の風習なのかな?そしてその奥からおじさんの悲痛な悲鳴が聞こえてきましたけど……その悲鳴を上げるのも風習?

 

 

「絵里!!やっぱりお前すごいよ!!ちょっと教えただけでどんどん取れてるじゃん!!」

「ハラショー!!零の教え方が上手いおかげよ♪」

「いやいや、お前のセンスがいいんだよ」

「零が私の手を取って、優しく指導してくれたからよ♪」

 

 

 そして目の前からおじさんがいなくなったことなんて目もくれず、零くんとお姉ちゃんは自分たちだけの世界に没頭していました。どことなく水槽の金魚さんが元気なのは、この2人の世界に巻き込まれないようにもがいているからでしょうか?私が持っている金魚さんは大人しく、あの2人の空間から逃げられてホッとしているみたいです。

 

 

 

 

 ――――――あれ?そう言えばおじさんだけじゃなく、私のことも忘れられてる!?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「悪かったよ亜里沙。ほったらかしにしちゃって……」

「ゴメンなさい亜里沙。別に忘れていた訳じゃないのよ。だから機嫌直して……ね♪」

「…………」

「お詫びにわたあめ買ってやっただろ?」

「買ってやった?」

「買ってまいりましたお嬢様……」

 

 

 もうっ!!零くんとお姉ちゃん、やっぱり私のことを忘れていました!!しかもこんなお菓子で私の機嫌を戻そうだなんて、そんな虫のいい話はありませんよ全く!!

 

 

――――あっ、このイチゴ味のわたあめ美味しい♪

 

 

「亜里沙の怒っている顔、可愛いな」

「そうでしょそうでしょ!!頬っぺをプク~って膨らませて本当に可愛いのよ!!」

「怒っているのに微笑ましいとは……流石亜里沙だな」

「この前うっかり亜里沙のプリンを食べちゃったんだけど、あの時の亜里沙ったら可愛くて可愛くて♪」

 

 

 それって褒められているのかな?でも勝手に私のプリンを食べたお姉ちゃんは絶対に許しません!!同じプリン3個で手を打ちましたけど……ん?もしかして私って食べ物に弱い!?

 

 

「お前も可愛いよ、絵里。その青い浴衣似合いすぎ」

「ウフフ♪あなたもいつも以上にカッコいいわよ♪」

「俺がカッコいいなんて当たり前だろ。世界の真理だ」

「相変わらずね。でもあなたのそういう自信満々なところが好きなんだけど♪」

 

 

 また私だけ放っておかれている気がします!!いちいちラブラブにならないと気が済まないんですか!!そして私が段々と雪穂みたいなツッコミ役になってますよ!!でもこれで雪穂の気持ちが分かりました。

 

 

 こうしてツッコんではいますが、私としては零くんとお姉ちゃんがこうして恋人関係にまで発展したことが嬉しかったりもします。お姉ちゃんはμ'sに入る前、μ'sの皆さんのことをよく思ってはいませんでしたから。零くんとも何度か対立したと聞きます。

 

 しかし、その時のお姉ちゃんの話を聞いていて思ったことがあるのです。零くんは、あと時からお姉ちゃんの気持ちを知っていたのだと。お姉ちゃんが学院を守りたいという強い願いを抱いていることを否定せず、むしろそれを受け入れてお姉ちゃんの心の扉を開いた。もしかしたらその頃からだったかもしれません、お姉ちゃんが零くんを特別な男性として見るようになったのは。

 

 

 そして、私が零くんに惹かれたのは……

 

 

 

 

 今まで私はμ'sのことが好きな零くんが好きでした。そして零くんが好きなμ'sの皆さんのことも大好きで、私は外から見ているだけでもそれでよかったのです。

 

 でも今は違います。今は零くんのことが1人の男性として大好きです!!10番目でもいい!!何なら雪穂と楓の後の12番目でもいいんです!!あなたの隣にいたい。あなたに愛されたい。同棲生活中にあなたによって気付かされたこの気持ち。ずっと、これからも。お姉ちゃんたちと一緒に、あなたのお側に…………

 

 

 

「よしっ!!それじゃあ次は射的をしましょう!!零くん、お財布の準備を!!」

「えぇ!?まだ俺に払わせるのかよ!?」

「さっき私を無視したことは、まだ許していませんから♪」

「亜里沙……お前、楽しんでる?」

「はい♪」

「いい返事だな……」

 

 

 それに、もう私のことを無視なんてさせませんから♪あなたに振り向いてもらえるよう、精一杯頑張ります!!そのためには零くんにとびっきりに罰ゲームを与えなければいけませんね♪だから今日は零くんの財布で思いっきり楽しみます!!

 

 

「たまにあるのよね。亜里沙が小悪魔っぽくなるところ」

「知ってるなら助けてくれよ~」

「フフッ♪私も射的がしたいなぁ~、ねぇ~亜里沙♪」

「ねぇ~お姉ちゃん♪」

「お前らなぁ……」

 

 

 零くんの笑った顔も真剣な顔も呆れた顔も、全部ぜ~んぶ大好きです!!零くんが私たちの笑顔を好きなように、私も零くんの表情1つ1つに見惚れちゃいます。やっぱり好きな人……だからかな?

 

 

 

 

「えへへ……行きましょう零くん!!」

「うおっ!!」

 

 

 私は零くんを想う気持ちが抑えきれなくなり、そのまま彼の左腕に抱きつきました。大胆だけど、これくらいアプローチをしないと意外に鈍感な零くんは気付きませんから。

 

 

 それと……ちょっとだけおっぱいをくっつけた方が喜んでくれるのかな?ことりちゃんに『零くんにはおっぱいを押し付けておけばなんとかなる』と言われましたし。零くんはエッチなことが好きなので、私も零くん好みの女の子になれるよう頑張らなくては!!

 

 

「じゃあ私は反対側から♪」

「え、絵里!?お前まで!?」

 

 

 お姉ちゃんは零くんの右腕に抱きつきました。これは両手に花というものでしょうか、絢瀬姉妹サンドイッチの完成です!!零くんとても歩きにくそうですけど大丈夫!!私たちが先導してあげますよ♪

 

 

「さぁ行きますよ零くん!!」

「まだまだ回る屋台はたくさんあるわよ!!」

「お、おい!!2人共引っ張るなぁあああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 憧れの人から身近な人へ、身近な人から友達へ、そして友達から恋人へ……絶対になってみせます!!そのために、これからはもっともっと甘える予定なので覚悟してくださいね♪

 

 




 新キャラ:金魚すくい屋のおじさん


 そんな訳で今回は絢瀬姉妹との夏祭り編でした。亜里沙視点だったので割と淡々と話が進んでいたと思います。これが零君視点だったら絵里に密着するところや2人に抱きつかれるところで盛り上がりそうですが(笑)

 今回で一旦夏祭り編は終わりです。でも夏祭りは年に一度の行事ではないので、また夏祭りネタが思いついたらやってみます。


~次回以降の展望~

 とりあえず考えているネタ集。この順番に投稿されるかは未定です。これが見たい!!というのがあればどうぞ!!

・『狂気の南家』
ことりと理事長による、零君過労死回。R-17.9ネタあり。

・『海未と海へ行く』
海未とのほのぼの日常回。変態回のお口直しにでも。海未視点。

・『タイトル未定』
零君とまきりんぱなによる、ノーブラ回のような言葉遊び回を予定。

・『嫉妬するにこのぞえり』
大学生組嫉妬回。内容は前回の『嫉妬する~』と同じような流れ。

・『暴走天使楓ちゃん!!』
楓主人公回。μ'sのメンバーと色んな意味で親睦を深めます。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


今回は読者様であるクレバスさんのリクエストを採用させて頂きました!
リクエストを貰ってから2ヶ月、しかもリクエストの最後の方が再現できていないなどの不備が……そこは申し訳ありません!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

まきりんぱなの自撮り写真

 今回は久々にまきりんぱながメイン!
 零君との成り立っているようですれ違っているおかしな会話をご覧あれ。


 ※今回の話は元ネタのSSありです。


「あっ、おはようお兄ちゃん♪」

「おはよう楓」

 

 

 リビングへ入ると、トーストの焼ける匂いとコーヒーポットからの立てたばかりのほろ苦い香りが俺の周り生暖かく立ち込めていた。

 そして、楓の明るい笑顔が俺を眠気から解き放つ。いつ見てもエプロン姿の我が妹は可愛すぎる。夕飯は俺たち2人が交代で作っているのだが、朝だけは楓にすべて一任している。これも楓が朝の弱い俺を気遣ってのこと。惚れるわ、本当に。もう俺シスコンでもいいよ……。

 

 

 今日の朝食はトーストに目玉焼き、ウインナーにサラダ、まさにシンプル、シンプルイズベスト。同棲生活中は13人分の朝食ということで朝から割と豪勢でそれはそれでよかったのだが、2人きりに戻ってからはいつも通りの朝食に戻った。やっぱり慣れ親しんだ飯が一番いいな。

 

 

 寝起きで頭がぼぉ~っとしながらも、俺はテーブルの席へ着く。楓も俺の分のコーヒーをテーブルに置いた後、俺の向かいの席へ着いた。

 

 

「「いただきます」」

 

 

 これもまたいつも通り食事前の儀式を終え、俺たちは朝食に手を付ける。この儀式も13人で一斉に行った時は圧巻だった。みんなで『いただきます』を言うだけでグループとしての一体感が上がった気がしたからな。やっぱり挨拶って大事だよ、うんうん。

 

 

 そんな中、テレビからリポーターの声が聞こえてきた。

 

 

『今日は名古屋から地鶏を特集します!!』

 

 

「地鶏か……あまり食ったことねぇな。名古屋に行ったこともないし」

「お兄ちゃん出掛けるの大嫌いな引きこもりだもんね」

「トゲしかない言い方だなオイ。単純に人混みが苦手なだけだ。決してニート体質じゃない」

「9人も彼女がいるのに、休日は部屋に引きこもってパソコンやらゲームやら自分磨きやら、先輩たち泣くよ?」

「ほっとけ……」

 

 

 朝から大声を出してツッコむ気にもなれないので、適当にあしらいながらテレビの地鶏特集に目を向ける。地鶏を使用した焼き鳥や親子丼、ラーメン、そしてその卵から作られたプリンまで、様々な料理が紹介されていた。

 

 

「朝からこんなものを見せるなんて、家族の食卓に喧嘩でも売ってんのか?朝飯食ってるのに」

「私の料理が地鶏如きに霞むことはないけどね」

「知ってる。俺は楓が作ってくれた朝食が一番だから」

「ありがと♪」

 

 

 また実妹の可愛い笑顔に心を乱されながらも、地鶏特集を視聴3:朝食7の割合で眺める。

 こういうリポートって大抵、美味しいとか、肉汁溢れるとか、同じことしか言わないから飽き飽きとしてしまう。結局俺たちは他愛もない無駄話に夢中となり、途中から全くテレビのリポートを聞いていなかった。

 

 

 

 

 そして俺は朝のこんな出来事など、学院に着くまでには忘れてしまうのが常だ。恐らく今日もそうだろうと思いつつ、片付けや身支度をしている間にはもう地鶏のことなどは忘れてしまっていた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんなこんなで放課後、俺は掃除当番である穂乃果たちを教室へ置き去りにし、一足先に部室へやって来た。中には既に花陽、凛、真姫の2年生トリオが集結している。1年生組や大学生組はまだ来ていないらしい。

 

 

「あっ、零くんが来たにゃ~♪」

「こんにちは、零君♪」

「よっす、凛、花陽。真姫も」

「ん……」

 

 

 凛と花陽は笑顔で挨拶してくれたのに対し、真姫は本を読みながら片手を上げるだけで済ませやがった。相変わらず礼儀のなってない奴だ。真姫の俺の扱いはいつもこんな感じだから別にいいけどね。

 

 

 そして俺が席に着くと同時に花陽がお茶を入れてくれた。

 花陽のこのような細かいところもさり気なくこなす何気ない気遣いにドキッとするんだよな。この優しい心意気は、絶対にいいお嫁さんになれるぞ!!俺が保証しよう。

 

 

「サンキュ花陽」

「うん♪」

 

 

 笑顔で応えた花陽は俺の席の隣に座った。ちなみに俺の対面には凛が座り、その隣で真姫がずっと本を読んでいる。

 お茶を飲みながら一息ついていると、凛が携帯を真剣に操作していることに気が付いた。

 

 

「お前が携帯を弄るなんて珍しいな、凛」

「むっ、凛もピチピチの現代女子高生だにゃ!!」

「その言い方はかなり古い気もするが……」

 

 

 部室での凛は絶えず誰かと話していると言ってもいいくらいお喋り好きだ。誰かと話し終わったかと思えば、またすぐに別の人と話し始める。そんな凛が1人携帯を眺めていること自体が俺にとって不思議でならなかった。

 

 

「それはいいとして、お前が黙って携帯見ているのは気味悪りぃんだよな」

「むぅ~凛は最近流行りの"自撮り"を研究しているんだにゃ!!」

「じ、"地鶏"!?」

 

 

 何やら熱心に携帯を見ていると思ったらやっぱり食べ物のことだったのかよ!!確か今朝、地鶏特集でラーメンが紹介されていたからその影響かな?全く、真剣な表情だから真面目に勉強しているのかと思った俺が馬鹿だったよ……。

 

 

「でもお前が地鶏にハマっているなんて驚いた。花陽もか?」

「うん。世間でも人気だから、最近は自撮り専用のアイテムもあるみたいだよ」

「そりゃあ全国で人気だったらあるだろうよ」

 

 

 最近は地域活性化のために、何でもキーホルダーや人形にしてしまうからな。もしかしたら地鶏のお土産なんてものもあるのかもしれない。『ご当地限定!!』と銘打った、モチーフが何かも分からないキーホルダーや人形がゴロゴロ転がっている時代だし。

 

 

「真姫は興味あるのか、地鶏?」

「はぁ?私がそんなものに興味を持つと思う?」

「なんで怒られているのか分からないけど……その反応を見る限りないんだろうな」

「当たり前でしょ、自撮りなんて……」

 

 

 真姫は本を読んでいた目を俺に向け、自慢のツリ目で睨みつけてきた。俺が何をしたっていうんだよ……。

 でも真姫が地鶏に興味ないのは意外だった。金持ちの真姫の家なら、地鶏のような高級食材をふんだんに使った料理ぐらい出てくるだろうと思ったからだ。案外地鶏とは知らずに食べてる可能性もあるかもしれないが。

 

 

「その自撮りをエス……エス……なんだっけ?」

「SNSだよ凛ちゃん」

「そうそれ!!SNSに投稿する人も多いみたいだよ」

「最近増えてるもんなぁ~そういうの」

 

 

 近頃は外食をした際に、『今からこういうのを食べまーす!!』とか『さっきこういうのを食べましたーー!!』などの食事風景を写真に撮ってSNSに投稿する人が増えている。特に地鶏はご当地グルメとして有名だから、旅行先での思い出の写真として投稿する人が多いのだろう。

 

 

「SNSに投稿か……俺はあまりやらないな。お前らはどうなんだ?」

「凛もあんまりやらないにゃ~」

「私も。やっぱり恥ずかしいし……」

 

 

 自分の食っている物を知られたらそりゃあ恥ずかしいわな。そもそも俺は外へ出掛けることが少ないし、旅行なんてもってのほかだから地鶏料理の写真を撮ることはまずないだろう。

 

 

「ねぇ零くん」

「なんだ?」

「突然だけど、急に凛から自撮りが送られてきたらどう思う?」

「本当に突然だな……でも地鶏が贈られてくるなら悪くない。むしろお前からなら嬉しいぞ」

「ウソッ!?ホントに!?」

「れ、零君。私からは……?」

「ウソ付いてどうすんだよ。凛や花陽に限らず、誰からでも地鶏を貰ったら嬉しいだろ

「「「!!!」」」

 

 

 突然イスの音が部室に響いた。

 目の前にいる凛のイスでも、隣にいる花陽のイスでも、もちろん俺のイスでもない。じゃあ残るはただ1人。俺たちはさっきから全然喋っていないお嬢様へ一斉に目を向ける。

 

 

「な、なによ……!!」

「真姫……お前慌ててる?」

「そ、そんな訳ないでしょ!?さっきのどこに慌てる要素があったのよ!?」

「まぁ確かに」

 

 

 そう言って納得をしてしまったが、真姫は本を読みながら右手で髪の毛をクルクルと掻き回していた。しかもさっきから目線だけをチラチラと俺へ浴びせている。絶対に本読んでないだろ、アイツ。この状態の真姫は完全に構ってちゃん状態なのだ。

 

 

「れ、零!!あ、あの……」

「はいはいどうしましたかお嬢様」

 

 

 結局真姫は顔を赤くしながら俺たちの会話に混ざり込んできた。ほんっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっとうに素直じゃないねぇ~~!!これがメンドくさ可愛いという奴か……でも真姫だから許しちゃう!!素直になれないその表情が可愛いから!!

 

 

「あなたはその……私から自撮りが送られてきても嬉しいの……?」

「当たり前だろそんなの。むしろお前から贈られてくる地鶏は期待できる」

「むっ、それって凛たちは期待できないってこと!?」

「そういう意味じゃねぇ!!凛と花陽から贈られてくるのも大歓迎だから!!」

 

 

 だが真姫から送られてくる地鶏の方が高級そうだから、やはり凛や花陽の地鶏より期待してしまうのは仕方がない。俺は現金なんだ、人間だもの。

 でもさっき興味がないと言っていた真姫が地鶏を送ってくれるなんて……コイツの家、地鶏を養殖でもしてるのか?そんなもの見たことはないがどこかにはあるのだろう。

 

 

「じゃあじゃあ!!どんなところを送ったら一番嬉しい?やっぱり顔かにゃ?」

「か、顔!?地鶏で顔ってお前……もっと別のところがあるだろ!!」

「そ、そうなの!?」

「えっ?自撮りだったら顔が普通じゃないの……?私もそう思ってたけど……真姫ちゃんは?」

「わ、私もそうよ!!零、あなた変な趣味してるわね……」

「なんでやねん!!まさかお前らがそこまで捻くれた奴らだとは思ってなかったぞ!!」

 

 

 地鶏だと思って箱を開けてみたら、地鶏の生首が目の前に現れるとか……ホラー以外の何者でもないだろ。新手の嫌がらせかと思ってしまうぞ。

 

 

「顔じゃなくてもっとあるだろ。ほら、太ももとかさ」

 

「「「太もも!?!?」」」

 

「えっ!?それが普通だろ?」

「零、あなたって人は……」

「また海未ちゃん降臨のパターンかにゃ?」

「だからなんで!?別にエロいこと言ってないだろ!!セクハラもしてないし!!」

「た、確かにそうだけどぉ~……」

 

 

 地鶏のモモ肉って普通じゃねぇのかよ……。焼き鳥では定番だろ?

 

 

 最近は男の言うこと言うことが何でもセクハラにされてしまう時代だけど、流石に地鶏の太もも如きで制裁をもらうのは理不尽なことこの上ない。そして地鶏の生首を食すコイツらの姿を想像するだけで悶絶しそうになる。

 

 やめようやめよう……この妄想はいけない。

 

 

「じゃ、じゃあムネなんてどうだ?地鶏だったらやっぱりムネじゃねぇの?」

 

 

「「「む、胸ぇええええええええええええええええええええええええええええ!?!?」」」

 

 

「な、なんだよ!?そこまで驚くことか!?」

「今度こそセクハラだにゃ!!」

「ウソぉ!?」

「当たり前でしょ!!訴えてやろうかしら……」

「うぅ……は、恥ずかしいです!!」

 

 

 えぇ~……地鶏に限らず鶏肉って普通モモ肉とムネ肉じゃないのかよ……。コイツらはいつもどの部位の肉を食ってんだ?まさかせせりみたいな高級部位ばかり食べているんじゃあないだろうな。だってコイツら、モモやムネは普通じゃないって言うし……恐ろしい奴らだ。

 

 

「ま、まあお前らから贈ってもらえるのなら何でも嬉しいよ」

「でも胸とかがいいんでしょ……?」

「そりゃあ俺にとってはそれが普通だからな……だけど、お前らからの贈られてくるのならどんなものでも受け入れてやる!!」

「零くん……」

「――――ります」

「え?」

 

 

「私、零君に自撮りを送ります!!」

「は、花陽!?」

「凛もやる!!ちょっと恥ずかしいけど、それで零くんに喜んでもらえるのなら!!」

「凛まで!?あなたたち正気!?」

 

 

 なにやら急に俺へ地鶏を贈ってくれることになったらしい。この2人、どこかに旅行でも行くのかな?そんな話は聞いていないが……。

 でもお土産なら貰って困るということはない。最悪地鶏の生首が贈られてきたとしたらその時は……楓と頑張って食べるしかないか。

 

 

「そんなに自撮りが欲しいなら、私も送ってあげるわよ!!凛と花陽だけっていうのも不公平だしね。それに乗りかかった船だし……」

「それはありがとうございますお嬢様」

「その言い方やめなさい!!」

 

 

 本当に、マニュアルの見本に書いてあるかのようなツンデレだな。全国のツンデレ入門教科書に掲載したいくらいだ。

 グチグチと文句は言うけれど、最終的には適当なそれらしい理由を付けて話に乗ってくるのが真姫の面倒なところでありいいところでもある。なんにせよ、真姫からの地鶏はさっきも言った通り期待できるな!!

 

 

 

 

 そしてその後ですぐに穂乃果たちがやって来たので、この話題は一旦ここで終了した。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

~花陽の部屋~

 

 

「ど、どうしよう……やっぱり零君に送るなら、お、おっぱいを写した方がいいのかな……?うぅ……自分で自分の身体を撮るのって恥ずかしいよぉ~!!とりあえずまず太ももから…………ひゃぁあああ!!やっぱり恥ずかしいよぉ!!」

 

 

 

 

~凛の部屋~

 

 

「お、おっぱいを写すって言っても、かよちんや真姫ちゃんに比べれば凛のなんて……で、でも!!零くんは凛から送られてくる自撮りなら何でも喜んでくれるって言ってたし、もしかしたらもっと可愛がってくれるようになるかも!?と、とにかく覚悟を決めるにゃ……」

 

 

 

 

~真姫の部屋~

 

 

「し、下着って着けたままの方がいいのかしら……?零のことだから外した方が喜ぶと思うんだけど……こんなことなら花陽と凛に着けたまま撮るのか聞いておけばよかった。自分から聞くのはイヤだし……仕方がない、ここは――――!!」

 

 

 

 

~零の部屋~

 

 

 その日の夜、明日は朝練があるのでいつもよりも早くベッドの上に転がっていた。

 穂乃果が穂むらで新たに開発予定のまんじゅうのアイデア画像を、俺の携帯にドカドカ送りつけてくるため若干ウンザリしているところだ。俺は適当に『最後の画像のやつ』と返信して、一先ず空腹を煽る深夜の和菓子テロを回避する。

 

 

「ん?凛からも画像が届いた。しかも2つか。なになに――――――って、ん?ぶはっ!!」

 

 

 凛から届いた2つの画像。携帯の画面には運動神経抜群な凛のスレンダーな太ももと、まだ幼さが感じられる生のおっぱい画像が送られてきた。あまりにも突然だったので俺はその場で吹き出してしまう。まだ発展途上のカラダだけど、写真の角度がエロ過ぎる!!

 

 

 な、舐めてぇ!!

 

 

「なんでこんなもの、いや素晴らしいものを俺に……?――――――ん?また画像が届いた。しかも今度は――――真姫!?」

 

 

 この画像を見てはいけないような気がする。真っ当な男ならそうだろう。だが俺は残念ながらまともな人間ではない。女の子の裸を見れるとあらば命を差し出すほど性に飢えている。

 

 ここは――――――見るしかない!!

 

 

 そして俺は真姫から送られてきた画像を開いた。

 

 

「がはぁっ!!!!」

 

 

 真姫も凛と同じく自分の太ももとおっぱいの画像を送りつけてきた。

 真姫の太ももは白く透き通っていてとても綺麗だ。おっぱいは穂乃果と同じくらいの大きさで、これまた俺の手にジャストフィットしそうだ。まるで俺のために成長したカラダのようだな……興奮で吐息が止まらない。

 

 

 も、揉みてぇ!!

 

 

「これはマズイ……久しぶりに鼻血をぶちまけそうだ。――――――って、えぇっ!?次は花陽から送られてきた、だと!?」

 

 

 もうここまで来たら見るしかない!!我が天使の生カラダ画像を!!

 

 

 俺はためらいなく花陽から送られてきた画像を開いた。

 

 

「ぐわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 負けた……花陽の太ももと生おっぱいには勝てなかったよ。既に2敗しているが……。

 どちらも画像を見ているだけでも柔らかそうで、そのまま画面にむしゃぶりつきたくなってくる。花陽の太ももとおっぱいの柔らかさを堪能しながら枕にして寝てみたい。画像だけでもここまでの妄想が沸き立つ。

 

 

 しゃ、しゃぶりつきてぇ!!

 

 

「で、でも、どうしてコイツら急に自撮りなんか俺に送ってきたんだ?――――――まてよ、自撮り?じどり、じどり……地鶏?自撮りと地鶏……も、もしかして今日の会話って!!あっ……」

 

 

 俺はそこですべてを察した……。

 

 

 

 

 とりあえず保存っと……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「いってぇええええええええええええ!!なぜ殴る!?」

 

 

 翌日、真姫たちに事情を話した俺は何故か暴力を振るわれていた。

 3人共顔はトマトのように真っ赤であり、間違えてそのまま出荷されてしまいそうなくらいだ。

 

 

「今回は誰も悪くないだろ!!」

「えぇ悪くないわよ!!でもこのままじゃあ私の怒りが収まらないの!!」

「凛、あんなに恥ずかしい思いをしたのに……零くんのバカぁああああああああああああああ!!」

「理不尽過ぎる!!勘違いしてたのはお互い様だろ!!」

 

 

 どちらも悪くないことはみんな分かってはいるが、それだと怒り矛先を誰に向けていいのかが分からないため、最近2年生間で流行の『エロいことがあったら何があっても零が悪い』理論により、俺が悪いことになっているらしい。もうそれじゃあ俺、どう足掻いても罪を回避できねぇじゃん!!いや、今回は罪はないけどさ……。

 

 

「そもそも自撮り派が凛たち3人、地鶏派が零くん1人なんだから、多数決で零くんが悪いに決まってるにゃ!!」

「ふざけんな!!それにさっき自撮りと地鶏ってどう発音した!?もう訳わかんねぇ!!花陽!!黙ってないで何とかしてくれ――――って、あれ?」

「花陽ならあそこ」

「へ……?」

 

 

 さっきから花陽がいないと思っていたら、イスに座ったままショートしていた。

 自分の太ももとおっぱいの画像を送るなんて、あの花陽にとっては一大決心だったのだろう。恐らく昨日の夜のことがフラッシュバックされて気絶しているのだと思われる。ご、ご臨終です……。

 

 

「さぁ覚悟しなさい!!この変態!!」

「凛たちの純潔を返すにゃぁああああああああ!!」

「だから俺、今回悪くねぇええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 

 

「ふ、ふわぁ~………………」




 今回の戦利品:まきりんぱなの自撮り写真(裸体)


 前回のノーブラ回がかなり好評だったので、『日常』の「皆殺し半殺し」回と前回に引き続き、言葉遊び回第三弾をお送りしました。
文字で見れば一瞬で分かりますが、普通に話していると絶対に分からないので言葉遊びは小説向きの内容ですね!

 この話は元ネタがあったので内容には困りませんでしたが、唯一タイトルだけ苦労しました。何かもっといいタイトルがありましたら提案をお願いします!!


 次回も前回の複数の次回予告からどれかを選んで執筆予定です。濃厚なのは南家の回かな……?この話、書くの怖いんですよね(笑)


 そして前回投稿分の感想で、感想数が600件を突破しました。ありがとうございます!ちなみにハーメルンのラブライブ小説でこの小説がただ1つ一位になれる項目です(笑)
このまま 感想数 > お気に入り数 を目指して頑張ります!!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

狂気の南家

 今回はホラー要素(ヤンデレ)増し増しでお送りいたします!
 暑い夏に少しでもゾッとして涼しんで頂ければと。ヤンデレが苦手な方も、話全体がヤンデレモノではないのでご安心(?)を!!


「な、なんだこの禍々しい空気は!?」

 

 

 只今この俺、神崎零は南邸の前で佇んでいた。

 ことりから一緒に衣装作りの手伝いをして欲しいという依頼を受け南邸へやって来たのだが、よくよく考えてみればこの家に入るのは命を投げ出す覚悟がいるのではないだろうか。その証拠として、俺の目の南邸がRPGのラストダンジョンように物々しい雰囲気を醸し出している。何の対策もなしに突入したら最後、永久に閉じ込められかねない。

 

 

 1年前まではこうではなかった。疲れやストレスもすべて優しく包み込んでくれる天使のようなことりと、誠実でまさに俺の理想のお母さん像である理事長。休日にこの2人と会えると思うと、ワクワクして前日の夜なんて眠れなかったぐらいだ。

 

 

 

 

 だが今は――――――

 

 

 

 

「あら?こんにちは零君♪」

「り、理事長……今帰りですか?」

「仕事が溜まってたから、朝までずっと理事長室に篭ってたのよ。そんなことより、学校じゃないんだから理事長なんて堅苦しい呼び方しなくてもいいのに。お義母さんって呼んで♪」

「…………」

 

 

 こんな感じだ。

 

 俺の憧れのお母さん像を持つ理事長は、いつの日からか秋葉並みに関わりたくない人間に変貌してしまっていた。去年廃校を阻止するために切磋琢磨していた、あの頃の理事長をもう一度見てみたい!!しかし決して人妻萌えという偏った性癖の持ち主ではないのであしからず。

 

 

「こんなところで立ち往生してどうしたの?ことりと家で衣装作りするって約束だったでしょ?」

「いや、いざ家に入るとなると勇気が……」

「女の子の家に入るのは緊張する方だったのね。意外だわ」

「そ、そういう意味じゃなくて……」

 

 

 緊張するとかじゃなくて、この家に入ったら最後、ことりに捕まって永久に脱出できない可能性が大いに考えられるから躊躇してたんだよ!!

 来なかったらいいじゃんという声もあるかもしれないが、一応俺もアイドル研究部の部員だ。できる限りアイツらのことをサポートしてやりたいと思っている。もちろんことりの衣装作りもだけど……

 

 

「ことりーー!!零君が来てるわよーー!!」

「そんな玄関から呼んで聞こえる訳が――――」

 

 

 

 

「ホントにーーー!?!?」

 

 

 

 

「聞こえてる!?しかも2階から!?」

 

 

 理事長が俺の存在を叫んだ瞬間、ことりは2階にある自室の窓を開け、玄関先にいる俺たちを歓喜の声を上げながら見下ろしてきた。その笑みは相手が焼け焦げるほどの眩し過ぎる笑顔だ。だが彼女の笑顔に若干の狂気を感じるのは俺の気のせいだろうか……?

 

 

「今からそちらに向かいます、旦那様♪」

「へ……?」

 

 

 俺はことりのその言葉を聞いて、てっきり玄関先に来てくれるのかと思っていたがそれは違っていた。なんとことりは窓に手を掛け、その勢いで全身を持ち上げる。そして窓枠に足を掛けて今にも飛び降りる体勢に入ったのだ。

 

 

「お、お前まさかそこから!?」

「さあ旦那様!!ことりのすべてを受け止めて!!」

 

 

 コイツ、飛ぶ気だ!!俺目掛けてダイブする気満々じゃねぇか!!

 そしてことりは一寸の迷いもなく飛び降りる。彼女が身体を外へ投げ出すと同時に風が吹き、ことりの服やスカートが靡く。まるで『美少女戦士ただいま参上☆』と言わんばかりの演出だ。男にとっては童心をくすぐるカッコいいアクションシーンなのだが――――

 

 

 

 

 あっ……パンツ見えた。

 

 

 

 

「零く~~~ん!!」

「ちょ、ちょっと待て!!――――ぐぼぁ!!!!」

 

 

 身構える暇もなく、ことりが俺の身体の上に伸し掛った。俺はことりを抱きしめそのまま地面に倒れ込んでしまうが、何とか受身を取ることだけは成功する。全身が地面に叩きつけられたため軽い脳震盪が起こりながらも、ことりはそんなことお構いなしに俺の身体を嬉しそうにブンブンと揺さぶる。

 

 

「さっすがことりの零くん♪ことりのすべてを受け止めてくれるって信じてたよ!!」

「そ、そうか……そりゃあどうも」

「ことりね、今日という今日をずっと楽しみにしてたんだ♪だって零くんと2人きりだもん、えへへ~♪」

「2人きりは俺もめちゃくちゃ嬉しいけどさ……お手柔らかにな」

「零くんがことりに興奮しちゃったら、その時はさっきみたいにことりが受け止めてあげるね♪」

「く、苦しい!!」

 

 

 ことりは俺の身体に股がりながら、何故か俺の頬っぺに自分の頬っぺを擦り寄せてくる。そしてその受け止めるの意味は絶対に別の意味だろ……何がとは言わないが。

 

 

「あらあら、子作りするならせめて自分の部屋でやりなさい♪」

「は~い♪」

「オイ!!いくら玄関先でも野外だからな!!」

「零くんは野外プレイが好きなの!?こ、ことりは零くんがしたいっていうのなら……」

「そんなこと言ってないし顔を赤くするな……」

 

 

 マズイ……またこの2人に会話の主導権を握られている。学院内など人の目があるところだとまだ対処のしようもあるのだが、ここは南邸だ。俺にとっては監獄の中にブチ込まれるのとなんら変わりはない。こんなことなら静止役の海未や絵里(※ポンコツ脱却済み)を連れてくるべきだった……。

 

 

「立ち話もなんだし、そろそろ入りましょうか」

「そうだね♪行こ、零くん♪」

「あ、あぁ……」

 

 

 今はこんな調子だが、ことりの部屋に入ってしまえばあとは衣装作りを手伝うだけだ。流石に作業中ぐらいはことりも真剣になるだろうし、理事長に茶々を入れられることもないだろう。ことりと2人きりで普通にしているだけならむしろ俺は大歓迎だからな。なるべくこの2人を騒ぎ立てないようにしないと。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「じゃーーん!!ここがことりのお部屋で~す♪」

「いや、前来た時と全然変わってねぇじゃん……」

 

 

 俺はことりに連行され、彼女の部屋へと収容された。

 ことりの部屋は相変わらずファンシーな部屋だ。枕周りや机周りなど至るところにぬいぐるみが置かれていて、クッションや絨毯、カーテンや壁紙はどれも多彩でファッション好きなことりらしいコーディネートがなされている。だが今日は作業がメインということなので、邪魔になりそうなぬいぐるみやクッションは部屋の隅に追いやられていた。

 

 

「しっかりミシンや裁縫道具も用意してあるのな」

「むっ、それってことりが真面目に作業しないと思ってたってこと!?」

「まぁ……正直に言うとそう思ってた」

「ヒドイよぉ~……」

「悪かったよ。よしっ!!衣装のことはいつもことりに任せっきりだから、この際俺をどんと頼ってくれ!!」

「ホントに!?何でもしてくれる?」

「…………その質問は迂闊に答えてはいけない気がする」

 

 

 何でもするかどうかは放っておいて、いつも衣装作りを一手に引き受けていることりを手伝ってやりたいという気持ちは本当だ。特にことりは誰かに迷惑を掛けまいと自分の気持ちを押し殺してしまう性格だから、こうして俺が定期的にサポートに当たっている。ちなみにサポートしているのはことりだけじゃなく、作詞の海未や作曲の真姫の手伝いもちゃんとしているぞ。

 

 

「じゃあ飲み物持ってくるね♪」

「あぁ、ありがとな」

 

 

 ことりは何故か俺にウインクをして部屋を出て行く。いちいち俺にアプローチを仕掛けないと気が済まないのか……いや嬉しいけどね。

 

 

 それにしてもこの部屋、本当におとぎ話の世界みたいだな。ここまでメルヘンチックだと、現実と妄想の世界を彷徨ってしまいそうになる。初めは別の意味で南邸に囚われそうだったが、ことりは作業をやる気みたいだし、今日は穏便に済みそうだ。

 

 

 そして俺は部屋の真ん中の丸机の側に座り込み、部屋全体をぐるっと見渡す。

 

 

「あれ?あのノートって……ま、まさか!?!?」

 

 

 俺は見てはいけないものを見てしまい、思い出してはいけないことを思い出してしまった。本棚に立て掛けられているノートの1つ。あのノートから混沌としたヤンデレ気質のオーラを感じる!!

 数カ月前、ことりの部屋にお邪魔した時に見てしまった狂気の日記。そこには俺への純愛と寵愛、そして歪みの愛が1日数ページにも渡るペースで書き記されていた。まだ作業も始まっていないのに、俺の背中にどっとした疲れが伸し掛る。

 

 

「よし、気付かなかったことにしよう。それがいい――――ん?」

 

 

 見て見ぬふりをしようと決心した時、丸机の下に1冊のノートが落ちていることに気が付いた。

 初めはまたあのような日記かと思って警戒していたのだが、よく見てみるとノートのタイトルに『数学』と書かれている。ことりの書く文字は丸っこくて、例え学校のノートであっても絵本を見てるかのようなのだ。俺はその絵本のようなノートの中身を見たくなり、おもむろに見開き2ページを開けた。

 

 

 すると、そこに書かれていたのは――――――

 

 

 

 

『ことりと零くんの愛の日記』

 

 

 

 

「なんじゃこりゃ!?数学のノートじゃなかったのかよ!?」

 

 

 

 

「見ちゃったんだね……零くん」

 

 

「こ、ことり!?」

 

 

 いつの間にか、ことりが部屋に戻っていた。廊下を歩く音も部屋のドアを開ける音も一切聞こえなかったぞ!?

 ことりの表情は前髪で隠れて完全にシャットアウトされているが、口角が不穏な曲がり方をしていることから不敵な笑みを浮かべているのは確かだ。オレンジジュースを乗せたトレーを両手に、俺の元へとズンズン近づいてくる。

 

 

「見ちゃったんだね……ことりの秘密をまた見ちゃったんだね……」

「いやいや!!秘密ってお前、机の下に落ちてたんだぞ!?」

「それで見ちゃったんだぁ……」

「見てない見てない!!」

 

 

 見てないと言うと語弊がある。正しく言えば表紙と見開き2ページしか見ていないということなのだが、それを言っても今のことりには通用しないだろう。

 

 

「そもそも!!どうしてそんなヤンデレな雰囲気になってるんだ!?」

「えっ?だって零くんヤンデレ好きでしょ?」

「演技だったのかよ!?急に素に戻りやがって……それとヤンデレは一種のトラウマだからやめてもらいたい」

「でも零くんのパソコンの履歴、ヤンデレ小説でいっぱいだったよ」

「おい、それどこ情報だ……?」

「楓ちゃん」

 

 

 なにがどうなったらアイツに情報が漏れる……?もしかして俺のプライベートって楓に監視されてる!?それこそまさにヤンデレじゃないか……。

 

 

「ま、まぁヤンデレは見るだけなら悪くない。重い愛でも割と一途なところもあるからな」

「じゃあことりが零くんを愛してあげるよ。文字通り……ね♪」

「は、はい……?」

 

 

 ことりはトレーを机に置くと、自分の前髪をさらに前へ降ろし、目にも止まらぬスピードで自分の顔を俺の眼前へと詰め寄せた。俺は尻餅を着いたまま後ずさりしようとするも、ベッドに邪魔されこれ以上身動きが取れない。

 

 

「ねぇ零くん……この前μ's以外の女の子と話してたよね……あれは……1年生の子かな」

「そ、そんなことあったっけ……あまり覚えてねぇや」

「ふ~ん……覚えてないくらい、μ's以外の女の子と話すのは日常茶飯事なんだぁ~……へぇ~……」

「ただの日常会話だろ……」

「ただの日常会話をするくらい、もう1年生の子と仲良くなったんだぁ~……すごいねぇ~……」

 

 

 今は7月。俺たちが進級して、そして雪穂たちが入学して3ヶ月が経過した。その間にも俺は新入生の女の子に話し掛けられることが多々あり、軽い日常会話ぐらいなら毎日のようにしている。それを度々ことりに指摘されることがあるのだが、何故コイツが俺とその子たちの会話を知っているのかが分からない。まさか……どこかで見ていた、とか?

 

 

 例えば、俺の後方。廊下の柱に隠れてずっと俺たちの会話を盗み聞きしてたんじゃあ……。

 

 

「零くんはことりたちの彼氏なんだよ。μ's以外の女の子と話す必要はないよね……?」

「そ、それはどうかと……」

「な・い・よ・ね?」

「い、いや……」

 

「零くん!!」

「ぐぅっ!!」

 

 

 突然ことりに首を力強く締め付けられる。彼女の細い腕から出ているとは考えられないくらいの握力。さらに俺が目を逸らそうとしても、ことりは逃がすまいと執拗に俺の目を追いかけ目線を合わせようとしてくる。もちろんこれが演技だと分かっているが、本物のヤンデレそのものの狂気さに俺は言葉を失っていた。

 

 

 

 

「どうして!?なんで他の女の子に目を向けるの!?零くんはずぅぅうううううううううううううううううっとことりたちのことだけを見ていればいいんだよ!!ことりもずぅぅううううううううううううううううううううううっと零くんの隣にいるから、零くんもことりの隣にいてよ!!一生だよ一生!!干からびるまでずぅうううううううううううっと一緒にいるの!!これ前にも言ったよね!?ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!?もう忘れちゃったの!?全くもうっ、零くんの忘れん坊さん♪これからは忘れないように、その綺麗な眼球にことりの顔を刻み込んであげようかな……?そうすればもう零君の眼にはことりしか映らないもんね♪ずっとことりしか見えないだなんて、これほど幸せなことはないでしょ?」

 

 

 

 

 ことりは裁縫道具の針山から針を一本抜き取り、その先端を俺の目に向ける。

 

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!これ1年前のあの時よりヤンデレがパワーアップしてねぇか!?今回は演技なので流石にあの時ほど緊張感はないものの、愛の重さで言えばこちらの方が遥かに危ない。ちょっとでも対応の仕方を間違えば本気で眼球を潰してきそうな勢いだ。

 

 

「でもね……ことりは寛大だから1つだけチャンスをあげるよ」

「なに……?」

「フフフ……」

 

 

 もはやこれが演技なのかそうでないのか、真偽が不明になってきた。もしかしたら本気のヤンデレになっているじゃないだろうな……?今のことりからはそれくらいの禍々しさを感じる。

 

 

「ちゃ、チャンスって……?」

 

 

 

 

「それはね――――――零くんがことりと子作りしてくれたら許してあげるよ」

 

 

 

 

「――――――はい……?」

 

 

 今コイツなんつった……?雰囲気もヤンデレのダークな雰囲気からいつもの桃色の雰囲気に戻ってるし……も、もしかしてことりの奴!!

 

 

「お前、初めからそのつもりだっただろ……」

「てへっ♪」

「おのれ謀ったな……可愛いけど」

 

 

 やはりことりはどんなことがあろうともことりだった。すべてはこの展開に繋げるための伏線だったという訳だ。この脳内ラブホテルがぁああああああああああああああ!!

 

 

「さあ零くんどうするの!?ヤンデレは演技だけど、ことりたちに黙ってコソコソ1年生のメスぶ……女の子と話していたのは許さないから!!最悪そのおクチに貞操帯を装着するはめになるよ?それがイヤなら子作り子作り!!」

「お前、さっきの本当に演技だった!?まだヤンデレの兆候が見られるんだが!?」

「えぇ~演技だよぉ~♪」

「胡散くせぇーー!!」

 

 

 あれだけ演技が上手かったのは、元々ヤンデレだったからでは!?じゃあもうそれ演技じゃないだろ!!

 そして今日は穏便に済みそうと思っていた俺が馬鹿だった。ことりは最初からこの計画を練っていたのだろう。机の下に落ちていたノートを俺が拾ったところから、俺はコイツの策略に踊らされていたらしい。

 

 

 

 

「あら、もしかして今からラブラブ子作りが始まるのかしら♪」

 

 

「親鳥!?」

 

 

 そしていつの間にか理事長こと親鳥が2つのケーキを持ってことりの部屋に入り込んでいた。

 コイツら、音もなく忍び寄るとか忍者の子孫か何かか!?それにちょっと顔を赤らめてるんじゃねぇよ!!何故その歳になって高校生の子作りで興奮する!?男女の営みをヤる派より見る派なの!?

 

 

「ことり、子供は4人欲しいなぁ~♪」

「この前より1人増えてんじゃねぇか!?」

「零くん……ことりの家族計画を覚えていてくれたんだ!!嬉しい!!」

「いやそうじゃなくって!!」

「流石未来の旦那様ね。これだけ愛されていると、娘と言えども嫉妬しちゃうわ♪」

「オイ親鳥!!その発言は色々マズイ!!」

 

 

 この親鳥、ふざけてんのかそうでないのか全然分からない。ふざけてないとしたら相当マズイんだけどさ……言っておくけど、俺は年増人妻好きのアブノーマルじゃないからな!!ハリとツヤがあるJKが大好きな健全なノーマルだから!!

 

 

「ビデオ回すから早いところ攻めちゃいなさい、ことり」

「うん♪」

「やめろ!!俺は攻められるより攻める方が好きなんだ!!女の子を屈服させる方が好きなんだぁああ!!」

「零くんがお望みなら……♪」

「いやそういうことじゃなくて!!もう自分でも何を言っているのか訳分かんなくなってきた!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして10分間の死闘を終え、何とか場を沈静化させることに成功した。もちろん子作りをするという選択肢はなしだ。もし子作りなんて始めたら、この俺が10分で枯れ果てる訳がないだろ。それに俺はムードもなしにそんな無責任なことをするつもりはない。

 

 

「零くん、激しかったよ♪」

「いやいや、抵抗してただけだからね……」

「いい動画が撮れたわ♪」

「それを何に使うんですかねぇ~……」

 

 

 この10分間で分かったことなのだが、衣装作りは既に終わっていたらしい。それすらも俺を呼び出すための口実だったのだ。わざわざ子作りするためにここまで手間掛けやがって……この親子、恐ろし過ぎる!!

 

 

 普通に誘ってこればいいものの……。

 

 

 

 

「あっ、もうこんな時間!!零くん、昼食食べていく?」

「そうだな……じゃあお願いします」

「はい承りました♪」

 

 

 はぁ~……まだ午前中だというのにもう疲れた。昼食を頂いたらとっとと家に帰るか。楓も今日出掛けていていないし、先日送られてきた真姫たちの自撮り写真(裸)で身体に取り付いたヤンデレ成分と変態成分を浄化しよう。

 

 

「午後から何をしようかなぁ~♪」

「ん?ま、待て……午後って、俺は飯食ったら帰ろうと思っていたんだが……」

「えぇ~!?折角零くんと2人きりなんだよ、帰す訳ないでしょ♪」

「か、帰す訳ないって……」

「諦めなさい、零君♪フフフ……」

「お、親鳥お前まで……」

 

 

 このヤンデレオーラ、まさか親鳥まで同じ属性を持っているんじゃねぇだろうな!?ことりのヤンデレ気質は南家の女性に代々遺伝されてきたものらしい。親鳥の旦那さん、会ったことないけど大変っすね……。顔も知らないけどいい酒が飲めそうだ。

 

 

 

 

「零くん♪今日はずぅううううううううううううううううううううううううっとことりと一緒だよ♪」

「あ、愛が重い……」

 

 

 

結論:ことりのヤンデレは天然モノだった、以上。

 

 




 やっぱりヤンデレ大好きです!


 今回は久々のヤンデレ要素でした!引き伸ばしにしていたのではなくて、単純に忘れていただけなんですけどね(笑)
ことり回を書くにあたって、『そう言えばこの小説のことりって、ヤンデレ要素があったなぁ~』と思い出したので急遽話に組み込みました。その結果話の主軸がヤンデレになってしまいましたが(笑)

 次にヤンデレを書く時はことりではなく『非日常』で好評だった海未で書いてみたいですね。でもヤンデレを書くと大体ネタが被ってしまう……いつものことですが(制裁オチとか)。


 この小説以外にも、活動報告にて超短編小説と称した漫才が投稿されています。基本30秒~1分程度で読めるので、気になった方は覗いてみてください。


 次回は『嫉妬するにこのぞえり』。投稿日時は8日の21時です。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嫉妬するにこのぞえり

 今回はこの小説唯一のガチ純愛モノ、嫉妬回第3弾大学生組です。
 今更ですが、この小説では全員の学年が1つずつ上がっているのでお間違えのないよう。たまに勘違いしている人がいるので。

~3人のテーマ~
にこ・・・独占欲
希・・・魅力
絵里・・・甘える

非常に簡単ですがこんな感じです。

ではどうぞ!


 矢澤にこよ。

 

 今日は零が大学に遊びに来るということなので、アイツを迎えるために大学門前へ向かっているところよ。ちなみに絵里と希は秋葉先輩の研究に駆り出されて不在だから、零はにこの独り占めってことね♪2人には悪いけど、俄然テンションが上がってきたわ!!一度やってみたかったのよね、キャンパスデートってやつを。

 

 

「なによ、結構人がいるわね……」

 

 

 この時間は授業の終了時刻と重なっているためか、大学門前にはかなりの人で溢れかえっていた。全く、にこと零の愛を邪魔してんじゃないわよ!!でも愛に障害は付き物だって言うし、この中から零を探し出してやろうじゃない!!

 

 

 零とデートできるから浮ついた気持ちで、自分らしくない妙なテンションのまま辺りを見回す。

 

 

「あっ、いた――――――って、え……?」

 

 

 意外にも早く見つけることができた……にこの友達と一緒にいる零を……。どうしてあの2人が一緒にいるのよ!?零のことを話したことはあるけど、会って話すような仲だったの!?そもそも零ににこの友達のことは話してないのに!?

 

 この人混みであの2人はにこに気付いていない。でもにこにはその2人の会話がはっきりと聞こえてきた。

 

 

「神崎君モテモテなんだよぉ~。だってにこっちたち、いつも神崎君のことばかり話してるもん」

「そうなんですか?意外というかなんというか……」

「ありゃ?嬉しくないの?」

「嬉しいですけど、にこたちはあまり外で俺の話をしないと思ってたから意外で」

「全然そんなことないよ。むしろその逆!!ブラックコーヒーが飲みたくなるくらいのノロケを聞かされて困ったものだよ!!」

「そこまでなのか、全くアイツらは……」

 

 

 むむむ……初対面のくせに仲良さそうね。まぁどちらもコミュ力はあるから不思議ではないんだけど……。

 

 

 ないんだけど……。

 

 

 別に零が誰と喋っていようが構わない。だけど今日はにこに会いに来たんでしょ!!どうしていつまでもそんなところで立ち話してんのよ!?来るのが遅いと思ったらにこに連絡すればいいでしょ!!さぁ早く携帯を出しなさい!!そしてにこに――――――

 

 

 ま、待って。どうしてこんなにも熱くなってるのよ……そうよ、零が誰と話していても関係ないじゃない。ただの日常会話なんだから、にこがそこに口出しをする必要はない。いや、口出しをする権利なんて始めからないのよ……。

 

 でも――――――

 

 

 

 

 この心にモヤが掛かったような気持ちはなに……?

 

 

 

 

「そう言えば、神崎君っていつもμ'sの練習を見てるんだよね?ダンスの指導とかしてるの?」

「見てはいますが、指導は絵里が中心ですよ。俺は素人なりの意見を出しているだけです」

「そうなんだ!!実は私も趣味でダンスをやってるんだけど、今度見てもらってもいいかな?」

 

 

 なんでそんな話になるのよ!?確かに零の指摘は素人なりに的確で、にこたちのダンススキルを向上させることも多い。だけどそれはにこたちと零が深い絆で結ばれているからその結果になっているであって、初対面の人のダンスなんてみても零は分かんないわよ。それに出会って数分の輩に零がお願いを聞く訳が――――

 

 

 

 

「いいですよ」

 

 

 

 

 は…………?

 

 

 

 

「やった!!ありがとう神崎君♪」

「うぉっ!!ど、どういたしまして……」

 

 

 な、ななななななによアイツ!!急に零の手を握っちゃって!!しかも零も満更でもない顔しちゃってるし、なんなのよもう!!いくら友達だからってそんなこと許されるはずないじゃない!!零はにこたちのものなんだから!!

 

 ものなのに……どうしてにこがこんな気持ちにならなくちゃいけないのよ……。

 

 

 あ゛ぁ~もう!!こんな気持ちになるなら、絵里たちと一緒に秋葉先輩の研究を手伝っておけばよかったわ!!こんなよく分からないモヤモヤした気分になるのなら…………。

 

 

 

 

「おいにこ」

「うわぁ!!れ、零!?いつの間にそこに!?」

「それはこっちのセリフだ。来てたのなら声掛けろよな」

「ご、ごめん……」

「ど、どうした急に……?」

 

 

 気が付けば、にこの目の前には零1人だけ。どうやらにこが考え事をしている間に話し終えたみたい。

 やっと……やっとなのね……!!

 

 

 にこは押さえ込んでいた気持ちが爆発し、零の身体へ飛びついた。

 

 

「に、にこ!?どうした急に抱きつきて……?」

「寂しかったから……」

「え……?」

「構ってもらえなくて寂しかったのよ……」

「にこ……」

 

 

 周りに人がたくさんいようがそんなもの関係ない。零と話したい、零と抱き合いたい、零に甘えたい。にこの心はその気持ちだけで埋め尽くされていた。こんなこと自分勝手だって分かってる。分かってるけどコイツを独占したいというこの気持ちは絶対に誰にも譲れない!!今日はコイツはにこのものなんだから!!

 

 

「悪かったよ……でもそんな気に病んでる顔してたら、これからのデートが楽しめないぞ?ほら笑顔笑顔!!いつものお前の笑顔、見せてくれよ!!にっこにこにーってな」

「……!!」

 

 

 零の笑顔はにこの心のモヤをすべて吹き飛ばす眩しい笑顔だった。この笑顔に何度助けられただろう……にこがμ'sに入る以前も、この笑顔に救われた。

 

 そうよね。にこと零は相思相愛、他のどんな女であろうともにこたちの愛には敵わないんだから!!

 それにここからは零と2人きりのキャンパスデート!!こんなこと滅多にできないんだからテンション上げていかないと損でしょ!!

 

 

「よぉ~し!!宇宙NO.1アイドル、矢澤にこふっかぁああつ!!」

「うおっ、急に元気になりやがって……」

「へへ♪だって久々の2人きりなんだし、こんなことで時間を潰したら勿体無いでしょ?」

「そうだな。でもあまりベタベタしてると噂になるんじゃないか?」

「むしろたくさんの人に見せつけてやりましょ♪他の人がにこたちに近付きたくなくなるくらいにね♪」

「そ、そこまで……!?まぁ……それでもいっか」

 

 

 そうよ。零が他の女の子とイチャイチャしていたのなら、にこはそれ以上にイチャイチャすればいいのよ!!にこと零の間に誰も入りたがらなくなるくらい、もう濃すぎるほど濃厚に!!キャンパス内でキスでも何でも見せつけてあげるわよ!!

 

 

「行くわよ零!!キャンパス内にはカフェもレストランもあるし、緑いっぱいの広場もあるから、モタモタしてたら全部回れなくなっちゃうわ!!」

「分かったから引っ張らないでくれ!!」

「何言ってんの?引っ付かないとデートにならないでしょ♪」

「あぁもう分かった!!こうなりゃお前にとことん付き合ってやるよ!!」

「そうそうその意気よ♪」

 

 

 ちょっとワガママなところもあるにこだけど、零は優しくそれを受け入れてくれる。だからずっとあなたの隣にいたいと思ったの。あなたの隣は本当に暖かい。それ故に誰にもあなたを渡したくないと思っちゃうけど、それくらいあなたが魅力的ってことよ♪

 

 そんなあなたが――――大好き♪

 

 

 フフッ、これからもよろしくね♪

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 東條希です。

 

 今日は零君と一緒に神社でアルバイト中。初めはウチや他のバイトの子の巫女服で興奮して仕事にならないだろうと思ってたけど、案外真面目に仕事をしていてちょっとビックリ。その手際の良さは初対面の神主さんをも驚かせるほど。いつものダラけた感じと違うけど、汗水垂らして一生懸命働くその姿にドキッとしちゃったり♪

 

 

 だけど、それによってウチの心を掻き乱すことが――――――

 

 

「申し訳ありません神崎さん!!あなたにすべて荷物を任せてしまって……」

「いえいえ、雑用は慣れっこですから。いつもは巫女さんたちがこれを運んでいるんですか?」

「はい。運搬作業も巫女の仕事ですから」

「だったらこんな時こそ俺を頼ってくださいよ!!力仕事なら、普段こき使われている俺にお任せを!!」

「頼もしいですね。ありがとうございます♪」

 

 

 零君が他の巫女さんと仲良くしている……べ、別に零君はバイトでここに来てる訳やし、あれも仕事の一貫、ウチが口出しすることじゃない。

 

 で、でも……ちょっと近すぎるんとちゃう?あんなに近付いたらもし手が滑って荷物を落としてしまった時、あの人の足の上に落ちてしまうやん。それに零君、さっきからまじまじとあの巫女さんの胸やお尻を見ている……本当に変態や零君は!!胸やったらあの人よりウチの方が大きいのに!!

 

 

 …………。

 

 

 折角一緒のアルバイトやのに、全然零君と話せてないな……。

 

 

「俺でよかったらいつでも手伝いに来ますよ。もちろん給料は支払ってもらいますが」

「ふふっ、随分としっかりしているのですね♪」

「えぇ~、それが普通じゃないですか!?」

「そうですけど、そこまで貪欲だと逆に清々しくて素敵です」

「そ、そうですか……?直球で褒められると照れるな……」

 

 

 照れる!?零君が!?普段は自慢ばかりで照れる姿なんてほとんど見せない零君が、初対面の女性に赤面させられてる!?零君のあんな姿、ウチも中々見たことないのに……。

 

 

 やっぱり零君はあの人のような美人系の女の子が好きなんやろうか?μ'sで言えば海未ちゃんや真姫ちゃん、絵里ちみたいな女の子のことが。

 

 確かに美人さんの巫女姿は絵になるほど綺麗やと自分でも思う。爽やかで清楚な感じが彼の心を惹きつけるんやね……。ウチは爽やかでもないし清楚でもない。巫女姿はμ'sの誰にもないウチだけの個性で、零君もそれで喜んでくれることもあったけど、まさかウチより初対面の女性の方に目を奪われてしまうとは……。

 

 

 ウチって、そこまで魅力がなかったんかなぁ~……。

 

 

 でもあの人はあの人、ウチはウチ、全然関係ない!!零君は変態やからあの人に目を奪われてただけや!!そうそうだから問題なし!!

 

 

 ――――――そうだと……信じたい。

 

 

 

 

「おい希、これってどこに運べばいいんだ?」

「わぁ!?れ、零君いつの間に……?」

「一緒にいた巫女さんが神主さんに呼ばれちゃってさ、あとはお前から指示を仰げって言われたんだよ」

「そ、そう……それは向こうの境内に」

「オーケー。じゃあ行ってくるわ」

「待って!!私も一緒に!!」

「わ、私?」

「い、いやウチも一緒に手伝う……」

 

 

 零君と一緒にいてここまで焦るのは初めてかもしれない。しかもこれは羞恥心に駆られた焦りではなくて、自分自身の不安から煽られる焦り。

 

 

 ウチの隣を歩いている零君が、もしウチの巫女服が似合っていないと思っていたら?

 ウチにそんな魅力がないと思っていたら?

 もしかして……零君の彼女として、ウチだけ穂乃果ちゃんたちのような魅力がないと思われていたら?

 

 

 そんな不安がどんどん肥大化して、自分の心を駆け巡る。

 

 

 

 

 そこで零君が唐突に口を開いた。

 

 

 

 

「やっぱ希って、巫女服似合ってるよなぁ~」

 

 

「――――――――え!?」

 

 

 

 

 それ以上の言葉が出なかった。

 だってウチの想像していた零君とは全く逆のことを言ったから。

 

 

「そんなに驚くことか?俺は巫女さんって言われると、毎回希をイメージするんだよ。テレビでも誰かとの会話の中でも、巫女ってワードが出れば巫女姿のお前が笑っている姿がいつもな」

「そこまで似合ってる……?」

「もちろん!!俺にとっては"巫女さんイコール希"の方程式が成り立つくらいにな」

「でも!!ウチは爽やかでも清楚でもないし、美人でもないし……」

「はぁ?別にそんなことどうだっていいんだよ。俺の大好きな希が巫女服を着ている。この事実だけで十分!!余計な理屈なんていらねぇんだよ。」

 

 

 さっきまで不安に伸し掛られていた心が一気に軽くなる。

 見てくれていた、ウチのことを零君が。巫女さんと言えばウチと想像してもらえるくらいに、ウチのことを考えてくれていた!!

 

 今までずっと自分は零君の彼女の1人、その中でもみんなのように突出したものがない彼女だと思い込んでた。

 でもそれは違ったみたい。零君はしっかりとウチのことを見ていてくれた。他の誰でもない、東條希という私のことを。巫女姿だけでも構わない。そこだけでも彼の一番になることができる、それがなによりも嬉しい!!

 

 

「どうしたお前さっきからニヤニヤと……」

「ちょっと嬉しいことがあってね♪」

「その笑みはちょっとどころじゃないと思うが……でもやっぱり笑顔のお前を見ているのが一番だな。笑顔で巫女姿だったらなお良し」

「じゃあ今は最高?」

「ああ!!最高の最高、ベストオブベストだ!!」

「なにソレさむぅ~い♪」

「いや、ギャグじゃねぇし!!」

 

 

 そしてウチと零君はお互いに笑い合う。さっきの不安はもうすべて忘れ去られていた。

 こうして零君と笑い合っていると、魅力云々で悩んでいたのが馬鹿らしくなってくる。彼はそんなことで女の子の優劣を付ける人間じゃない。もしそんなことを言ったら、『そもそも優劣を付けること自体が間違っているだろ!!』って怒られるかもね♪

 

 

 また零君の魅力にどっぷりハマっちゃった♪どれだけウチの心をくすぐれば気が済むんやろうか……?あなたがそんな人だから、どんどん好きになってしまう。本当に…………困ったなぁ♪

 

 

 これからももっとドキドキする刺激、期待してるよ♪

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 絢瀬絵里よ。

 

 今日は零を家に招いて楽しく談笑に洒落込みましょう!!

 

 ――――と思っていたんだけど、現在私はリビングで1人ぼっち。当の本人はキッチンで亜里沙に料理を教えている。どうしてこうなったのかしら……?確か楓が来るまで零が1人暮らしだったという話になって、そこから亜里沙が零の料理スキルに興味を持ったのよね。そして何故か零と亜里沙、2人きりのお料理タイムが始まった。それを私はリビングから見てるだけ……。

 

 

「こんな感じでしょうか……?」

「そうそうその調子!!すげぇよ亜里沙、お前やっぱり料理の才能あるな」

「そうですか!?ありがとうございます!!」

 

 

 2人は肩がぶつかりそうなくらい近づいて料理をしている。手とり足とり教えなきゃいけないのは分かるけど、ちょっと近すぎるんじゃないかしら……?そんなに近づいたらむしろ料理の邪魔になっちゃうでしょ……。

 

 それに亜里沙、零が教えている最中もチラチラと彼の顔を見つめている時がある。それも頬を赤く染めて……。そして褒められた時は満面の笑顔、相当零に構ってもらえるのが嬉しいのね。全くもう、褒められて頭を撫でられたくらいでそんな腑抜けた顔しちゃって……。

 

 

 

 

 はぁ~……そういえば私、零に褒められたことや頭を撫でられたことって全然ないかも……。

 

 穂乃果や凛、にこは自分から零にねだりに行くから別としても、ことりや花陽、あの素直ではない真姫ですらも頭を撫でられている現場を見たことがある。海未や希は……私と同じくないにしても、その現場を見たことがない訳ではない。

 

 

 みんなそれぞれ形は違うけど、彼に甘えているのよね。

 でも私は……零に甘えることもなければ、彼がみんなにやっているような激励を貰うこともない。私ならどんなことでもできて当たり前、そう思われているのかも……。

 

 

 

 

「うぅ~ん……ここの作業は難しいです」

「そこはかなりコツがいるからな。ちょっと手を借りるぞ」

「れ、零くん!?」

「悪い、勝手に手を握っちゃマズかったか?」

「い、いえ!!むしろ大歓迎です!!」

「大歓迎?」

「あっ、いや、よ、よろしくお願いします!!」

 

 

 な゛っ、なななな!!零が亜里沙に覆い被さるように亜里沙の手を取っている!?あれじゃあ零に抱きつかれているのと同じじゃない!?彼から抱きつかれたことなんて私は数回いや、そもそもあったすらも定かではない。

 

 

 自分の妹に嫉妬してどうするのよ!!と割り切れない私がいる。私も亜里沙のように甘えることができたなら、零とああやって一緒に料理ができたのかも……。この前の夏祭りでは積極的になれたけど、あれも祭りというムードがあったからこそ。日常生活で彼に甘えたことなんて一度もないかもしれない。そもそも2人きりでいたことさえもほとんど……。

 

 

 私だって……彼に甘えたい。だって恋人同士なんだから……。

 

 

 

 

「あっ、そろそろ時間だ。ゴメンなさい零くん、もう少しで雪穂との待ち合わせの時間になってしまいまして……」

「そうか、じゃあまた今度だな。片付けは俺がやっておくから支度をしに行ってもいいぞ」

「はい♪ありがとうございます!!」

「おう!!」

 

 

 亜里沙は雪穂と遊びに出掛けるのね。それじゃあ今からは零と私の2人きり……?

 

 私はチクチクとする心の痛みに耐え切れなかった。亜里沙が2階へ上がっていったのを確認し、1人でキッチンにいる零の元へ近づく。

 

 そして――――

 

 

「おわっ!!え、絵里!?突然後ろから抱きついてきてどうした!?」

「こうしたかった……ずっと」

「絵里……」

 

 

 零の背中ってこんなにも暖かかったのね……今まで知らなかったわ。それにこうして彼にギュッと抱きついているだけで安心する。好きな人の背中だから?久しぶりに彼と触れ合えて嬉しかったから?どちらにせよ、これは穂乃果たちが零に抱きついたまま離れたくないと言っていた気持ちがよく分かるわね。

 

 

「珍しいな、お前からなんて……」

「そうね。でも抑えられなかったのよ、この気持ちを……」

 

 

 穂乃果たちを見ていて羨ましかった。彼に甘え、彼から激励を貰うことが……同じ彼女であっても、姉妹であっても心の奥底では嫉妬していた。だけど私は誰かに甘えたりするような愛おしさも愛くるしさもない。ずっと自分の中で抑えていた。

 

 だから今はこれだけでも満足。こうして背中に抱きついているだけでも、私は――――

 

 

 

 

 その瞬間、私の頭の上にフワッとした感触が伸し掛った。

 

 これって、零の……手?

 

 

「突然で悪い。こうして絵里の頭を撫でたことってあまりなかったなぁと思ってさ。意外とスラッとして整った髪の毛してんだな。とても撫でやすい」

「い、意外とってなによ……」

「ははは!!でも絵里に甘えられたりしたことがなかったから、唐突に頭を撫でたくなったんだ。そもそも今までお前と2人きりになることも少なかったし、もし今日2人きりになれるチャンスが来たら、お前にこうしてやりたかったんだよ」

「自覚してたんだ、私との時間が少ないってこと……」

「ああ。だからお前が俺にこうやって甘えて来てくれたのは嬉しかった」

 

 

 まさか零も私と同じことを考えていたなんて……やっぱり恋人同士は繋がっているものなのね♪

 彼の背中から伝わってくる暖かさと、頭を撫でる心地よさが、私の不安をすべて払拭する。心の痛みもいつの間にか収まっていた。彼が私のことをちゃんと見てくれていた、この事実だけで心が舞い上がりそうになる。

 

 

「だ、だから次はさ……俺からも甘えていいか?ほら、膝枕して耳かきとかさ……」

「あなたから……?ふふっ♪」

「な、なんで笑うんだよ!?」

「ゴメンなさい♪でも顔を赤くしているあなたが面白くって♪」

「これでも結構勇気出したんだぞ!!」

「ふふふっ♪」

「オイ!!」

 

 

 零が私に甘える……か。ここまで恥ずかしながら言うってことは、もしかして今までμ'sの誰かに甘えたことはあまりないのかも。そうだとしたら、彼の可愛い姿を新たに発見できちゃうかもしれないわね♪私だけに見せる、彼の甘える姿か……なんかいいかも♪

 

 

「じゃあ早く片付けてやりましょうか!!」

「な、なにを……?」

「なにをって、するんでしょ?膝枕をして耳かきを」

「やってくれるのか!?」

「もちろん。あなたの腑抜けた表情が見られるかもしれないしね♪」

「もしかしなくても馬鹿にされてる?急に拒否したくなってきた……」

「拗ねない拗ねない♪」

 

 

 こんなに零が恥ずかしがっている表情を見るのはこれが始めて。普段はカッコいい彼がここまで羞恥に悶えるなんて、中々見られるものじゃないわね。今日はそんな彼を探すのもいいかも♪私の知らないあなたを、もっともっと私に見せて欲しい!!もっと知りたい、大好きなあなたのことを!!

 

 

 だからこれからも、ずっと私の隣にいてね。約束よ♪

 

 




 ガチ純愛モノを書いていると、変態の血が騒いでその要素を取り込みたくなる衝動に駆られます(笑)
この小説で真面目に恋愛している話はこの嫉妬回ぐらいなので尚更なのです!

 そして嫉妬回も残るは1年生組だけとなりました。その中にはブラコン過ぎる妹様がいるので、どんな展開になるのやら……


 次回のタイトルは『暴走天使楓ちゃん!!』。投稿日時は10日の21時予定です。


※小説内での"君"と"くん"の使い分けについて※

 非常に今更ですが、登場キャラによって"零君"と"零くん"が区別されていることにお気付きでしょうか?

実は……

穂乃果、花陽、希、雪穂、秋葉・・・『零君』
ことり、凛、亜里沙・・・『零くん』

と微妙に使い分けています。
誰が喋っているのか分からない時の判断材料になればいいと思ってます。


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暴走天使楓ちゃん!!

 今回は楓視点の楓回です。
 そして内容もノリを重視してポンポンとテンポよく進んでいきますので頭を空っぽにしてご覧下さい!(笑)

さらに楓の以下の特徴を抑えておけばより楽しめます。
・ブラコン
・自己中心主義
・μ'sの先輩に対してはクズ


 最近思うことがある。

 

 この私、神崎楓がμ'sに入ってからというもの、私自身があまり目立っていないことに……。

 

 これっておかしくない!?だって私だよ神崎楓だよ!?あの神崎零と神崎秋葉の妹なんだよ!?それなのに目立っていないってどういうことさ!!穂乃果先輩たちばかりお兄ちゃんとイチャイチャイチャイチャしやがってぇええええええええ!!これじゃあ穂乃果先輩をリーダーから引きずり降ろして、私がその後釜に君臨するという素晴らしい計画がパーじゃない!!

 

 

 一部界隈では、『去年の楓ちゃんの方がμ'sのお邪魔キャラっぽくて激しかったよ』とまで言われる始末。そんなことがある訳ない!!お兄ちゃんと共に変態力を鍛えてきたこの身、去年の私なんかに負けるはずなんてないんだ!!

 

 

 

 

 こうなったらやることはただ1つ――――――

 

 

 

 

 μ'sの連中を徹底的に掻き乱してイジメてやる!!こうなったのも全部μ'sのせいなんだ。私のせいじゃない!!

 そうと決まれば早速部室へ行こう!!心躍るよ、μ'sの先輩たちを弄るのは♪

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 さぁて、誰かいないっかなぁ~♪

 もうイジメるのならこの際誰でもいいや!!とりあえず部室にいる人に突っ込んで暴れてやろう。それにいつもお兄ちゃんにベタベタしている先輩たちに仕返しをしないといけないしね♪

 

 

 え?みんな私の先輩じゃないのかって?μ'sは先輩後輩の垣根をすべて取り払ってるからいいんですよぉ~だ!!

 

 

 そして私は部室の前に到着し、ドアノブに手を掛ける。

 

 

「さぁ、私に遊ばれる幸運な先輩は誰かなぁ~♪」

 

 

 穂乃果先輩やことり先輩だったら一緒に盛り上がり、凛先輩や花陽先輩だったら徹底的に弄り倒して涙目となった表情を見るのも面白いと思いながら、意気揚々とした面持ちで部室のドアを開ける。

 

 

「こんにちはーー!!今日もアルパカみたいなマヌケ面してますねぇ穂乃果先輩た……ち?」

 

 

 珍しく部室はお通夜でもあったかのように静かだった。だけど誰もいない訳ではない。

 部室内に確認できるのは3人。その全員が真剣な面持ちで自らの課題っぽいものに取り組んでいた。私1人だけアウェイな空気の中、その中の1人である海未先輩が私の方へ振り向く。

 

 

「こんにちは、楓。今日も元気ですね」

「当たり前です!!元気が取り柄ですからねぇ~♪」

「穂乃果や凛と同じこと言ってますよ」

「あの2人と一緒なのはヤダ!!だって私までおバカキャラの一員と思われるじゃん!!この前の期末テストで音ノ木坂学院1年生でブッちぎりの1位だったんだよ!?それ以前に高校の勉強課程ぐらいならお兄ちゃん以外には負けないっての!!」

 

 

「ちょっと私は!?私も2年生の中ではテストで毎回1位なんだけど」

 

 

 そして部室にいる3人の中の1人、さっきまで黙って作曲作業をしていた真姫先輩が私に突っかかってきた。全く、どれだけ自分のプライドが傷付けられるのが怖いのやら♪

 

 

「もう、真姫先輩ってば海未先輩と一緒に作詞作曲の途中でしょ?その手を止めてまで私に絡んでくるなんて嬉しいなぁ♪」

「はぁ!?用もないのに誰があなたなんかと絡むのよ!!」

「ひどぉ~い♪可愛い後輩を愛でようとは思わないんですかぁ~?」

「ウザイからヤダ」

「いや~直球ぅ~♪」

「もう分かったからどっか行って……」

「そっちから絡んできたのにぃ~?」

「そうね。人生最大の失態だわ……」

 

 

 真姫先輩はうなだれながら再び作曲の作業に戻った。

 自分から突っかかってきたクセによく言うよ!!こうなったら徹底的にイジメてやるぅ~!!

 

 

「真姫せんぱぁ~い」

「もうっ!!今度はなによ!?」

「えへへ~なんでもな~い♪」

「それ、女の私にやっても鬱陶しいだけだからやめなさい」

「でもなんだかんだで付き合ってくれる真姫先輩のこと、大好きですよ♪」

「キモチワルイ」

「またまたぁ~♪」

 

 

 嫌よ嫌よも好きのうちって言うもんね!!つまり真姫先輩もこの私が好きって認識でOK?また私のファンが1人増えちゃったぁ~♪でも残念ながら私は女の子同士は全く興味ないんで、そこのところよろしくお願いしま~す♪

 

 

「楓、海未と真姫の邪魔しちゃダメよ」

「じゃあ絵里先輩が構ってくださいよ♪うへへ……」

「なによその気持ちの悪い笑い方は……」

「ヒドぉ~イ!!さっきから寄ってたかってみんなで私のことをイジメてくるんですよぉ~海未せんぱぁ~い!!」

「な゛っ!?どうしてこっちに飛び火するのですか!?絵里に面倒を見てもらう約束だったでしょう!?」

「わ、私!?私は次のライブに向けての事務作業で忙しいから無理よ!!」

 

 

 うわぁ~なんか私疫病神扱いされてない?こんなにも可愛い巨乳美少女な疫病神がいるものですか!!むしろいるだけで周りの人を元気にする天使だよ!!だって見てごらんよ。さっきまでシーンとしていた部室が一気に賑やかになったでしょう?

 

 

「もうみんなうるさい!!海未も作詞に集中してよ!!」

「す、すみません……楓、これ以上騒がないでくださいね」

「ほいほーい♪」

「本当に分かってるのかしら……」

 

 

 正直私にとっては作詞や作曲が進まなくても全然問題ないんだけどね!!だって私、作詞や作曲に興味ないしぃ~~行き詰まっても頑張るのは海未先輩と真姫先輩だしぃ~~私にとっては全く関係のない話なのだよ!!

 

 

 

 

 でもそれにしても……

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 3人共何も喋らず黙々と作業に没頭している。海未先輩は作詞、真姫先輩は作曲、絵里先輩は次のライブのための事務仕事。見ればどれも最終段階でいよいよ大詰めといったところ。今日で一気に終わらせようとしている勢いだ。

 

 

 そして何よりこの3人、全員真面目で面白くな~~い!!

 

 

 只今この部室にはμ'sの各学年真面目ちゃん代表が一挙に集まっている。いつもはおちゃらけた雰囲気の部室も、この3人だけが集まれば超×100シリアスな雰囲気に変わってしまう。この3人が会議をしたら、小ネタすらも挟まないふつ~うの議論をしそう。健全すぎてつまらないよ。

 

 

 そしてそんな空間、この私には似合わないんですけど!?

 

 こんなシリアスな空間にいるだけで私の血が反発作用を起こしてしまう!!自分の身体にそぐわない空気を吸わされて、全身が拒否反応を起こしてる!!

 

 目の前におちょくる対象が3人もいるというのに……しかもいつもの雪穂と亜里沙と違ってあのみんなの憧れの先輩たち!!この私が何もしないなんてことできる訳ないでしょ!!

 

 

 

 からかいたい……

 

 弄りたい……

 

 イジメたい……

 

 そして、いつもクールな先輩たちのその表情を私の手で崩したい……

 

 

 騒ぐ……ドSの血が騒ぐぅうううううううううううううううううううううううううう!!

 

 

 

 

「絵里せんぱぁ~い♪」

「さっき海未に注意されたこと、忘れちゃったの?」

 

 

 絵里先輩は作業に集中しながら私を言葉だけであしらってくる。この私を適当にあしらってもいいのはお兄ちゃんだけだぁあああああああ!!

 最近ポンコツを脱却したのかは知らないけど、絵里先輩如きが私を軽くあしらうなんていい度胸してるね。やはり巨乳の女は自分より貧乳の女を見下す傾向にあるのか……くそっ、調子に乗りやがって!!

 

 

「もしかして手伝ってくれるの?」

「そんな訳ないでしょよく考えてみたらそんなことぐらいすぐに分かりますよねもしかしてまたポンコツーチカになっちゃったんですか笑えますねあはははははははこれだから巨乳は」

「は、早口過ぎて全然聞き取れなかったわよ!?でもそこはかとなく馬鹿にされていたのだけは確かね……」

「後輩から馬鹿にされるなんて……可哀想な先輩。うぅっ……ぐすっ」

「なに涙流してるのよ……」

 

 

 うぅっ……お兄ちゃんや凛先輩からはチョロいと言われ、私のような3つ下の後輩からもナメられる。同情して涙が出ちゃったよ☆もしかして私って演技派!?――――あっ、演技って言っちゃった♪

 

 

「絵里、楓に構っていると日が暮れるわよ」

「ところがどっこい!!私に構うと日が暮れるを通り越してまた日が昇っちゃうんですよ!!」

「自慢することそれ……?」

「もちろんです!!それだけコミュ力があるってことですからね。真姫先輩にはないスキルですよ♪」

「ちょっ!?人が密かに気にしていることを!?」

「私の趣味は人の心を抉って弄ぶことです。特に真姫先輩のような人をね♪」

「本当に零にそっくりねあなたって……」

 

 

 どちらかといえば、お兄ちゃんとそっくりと言われるようにいつも振舞っているんだけどね♪どうせならお兄ちゃんの女の子版と思ってくれても構わない。だけどお兄ちゃんですらタジタジになることがあるから、私はやっぱり私のままなのかも。

 

 

「でも真姫先輩って去年まで後輩がいなかったでしょ?こんなに可愛い後輩ができてよかったですね♪」

「はいはい」

「うわぁ~ん海未せんぱぁ~い!!真姫先輩がイジメてきますぅ~後輩イジメですぅ~♪」

「さっきのやり取りを見てどちらが100%悪いのかは明白なのですが……」

「へ?」

「コイツなに言ってんのみたいな顔しない!!どう考えてもあなたが邪魔してるのが悪いんでしょ!!」

「悪いって……どういうことなんでしょうね?先輩が見ていることは本当に悪いことなのでしょうか?」

「なに急に哲学モードに入り始めてるのよ!!全部あなたが悪いわよ!!」

 

 

 おぉ~!!ツッコミが冴え渡ってきましたねぇ~!!流石伊達にお兄ちゃんの彼女やってる訳じゃなさそうですね、なるほどなるほど……あっ、この人たちがお兄ちゃんの彼女だってことを思い出したら急に腹が立ってきた。これだけツッコミが冴えているのなら、もっと弄りまわしていいってことだよね♪

 

 

「楓、そろそろ落ち着いたらどうですか?笑顔なのはいいことですが他人の邪魔はいけませんよ」

「はぁ~?海未先輩は私が注意されてやめる人間とでも思ってるんですかぁ~?まだμ'sのメンバーのことをしっかり理解していないようですね。こうなったら理解できるまでずっと海未先輩のお側に……」

「それはやめてください!!ストレスで明日にでも死んでしまいます!!」

「そんなこと言われたら……意地でも海未先輩に寄り付きたくなりますよ♪」

「改めて一緒に住んでいる零がすごいと実感できました……」

 

 

 私が暴走することによって私自身も満足できるし、なによりお兄ちゃんが周りから評価されていく――――これぞ一石二鳥だね♪私たち神崎兄妹にとってはwin-winなんだよ!!

 

 周りへの配慮?そんなことを逐一気にしていたら私、精神力を使いすぎて倒れちゃう!!そんなことになるくらいならμ'sだろうが誰だろうが全員巻き込んでやる!!いや、μ'sだったら積極的に巻き込み事故に遭わせるけどね♪

 

 

「楓……まさか教室でもこんな感じなのですか?」

「そんな訳ないですよぉ~教室ではクールな美少女キャラを演じてますよ。あっ、演じてるんじゃなくて元々美少女だった。すみませぇ~ん♪」

「どうして私が謝られているのか分かりませんが、あまり外でこんなことをしてはいけませんよ」

「じゃあ先輩たちにはしていいんですか?」

「それは……鬱陶しく思うときもありますが、穂乃果同様元気が貰えるのもまた事実です。あなたが元気じゃなかったら私も元気でなくなってしまうくらいには、もうあなたのことを身近な存在だと思ってるのですよ」

「そ、そうですか……ありがとうございます」

 

 

 な、なに急に真面目モードに入っちゃって……しかもさっきまで軽くあしらわれていたのに突然褒め出すとかイミワカンナイ!!おっ、真姫先輩のモノマネ段々上手くなってきたんじゃない?

 

 ――――って、誤魔化しているけども、真剣な面持ちで真っ直ぐ褒められるのはちょこぉっと恥ずかしいかな……?

 

 

「亜里沙も言っていたわよ、『楓がお話をしている時、楓の顔はいつも楽しそうでキラキラ輝いている』って。スクールアイドルとして見習いたいとも言っていたわね。私も何でも楽しそうに話す楓のポジティブなところを見習いたいわ♪」

「亜里沙がそんなことを……?それに絵里先輩まで……」

「そうね。私は笑顔が苦手だから、あなたの色んな意味で輝いているその笑顔は羨ましくもあり、目標にしたいと思っているわ」

「ま、真姫先輩まで……どうしてみんな急にデレるんですか!?」

「顔赤くなってますよ楓。可愛いところもありますね♪」

「ぐぐぐ……」

 

 

 ま、まさかこの3人に主導権を握られるとは……ま、まぁ初めて素直な気持ちを聞けて嬉しいけどさ。

 

 クソォオオおおお!!どうしてこんなに動揺してるの!?さっきまで私がずっと攻めつづけてきたのに、たった1撃で撃墜されてしまうなんて……自分でも顔が熱いのが分かる!!

 

 

「あらあら、さっきまでの威勢はどうしたのかしら?楓?」

「顔赤くしちゃって、可愛いわね♪フフッ♪」

「笑顔ですよ楓。笑顔♪」

 

「う゛ぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!」

 

 

 こ、ここまでコケにされるなんて……海未先輩たちの笑顔がまるでさっきまでの私を見てるかのよう。羞恥心と惨めさで今にも逃げ出したくなってきた……。

 

 

 

 

 そんな時、突然私の後ろのドアがガチャリと開いた。

 

 

 

 

「…………楓?なにそんなところで膝を折ってるんだ?」

 

 

 部室に入ってきたのはお兄ちゃん!!こんなベストなタイミングで来るなんて、白馬に乗った王子様とはまさにこのこと!!イジメられているお姫様を助けに来てくれたんだね♪

 

 私はお兄ちゃんの姿を見るなり、お兄ちゃんの胸に思いっきり飛びついた。

 

 

「うおっ!?」

「お兄ちゃぁああああああああああああん!!海未先輩たちがイジメてくるよぉおおおおおおおおおおお!!」

「えっ!?むしろお前がイジメ係じゃあ――――――って、なるほどね……」

 

 

 海未先輩たちがお兄ちゃんに軽く微笑むと、お兄ちゃんも軽く微笑んですべてを察したみたいだった。

 くっ!!お兄ちゃんとあの3人の心が通じ合っているみたいじゃん!!

 

 

「楓ってば可愛かったのよ♪あなたや亜里沙にも見せたかったわ」

「可愛い後輩を持つことができて、私はとっても嬉しいわよ♪」

「妹がいない私でも、妹ができたみたいで楽しいですよ♪」

「だってよ楓。よかったな!!」

 

「うぅうううううううう!!やっぱりμ'sなんて大っ嫌いだァあああああああああああああああああ!!」

 

 

 そして部室にお兄ちゃんたち4人の笑い声が響き渡った。

 

 もう絶対に仕返ししてやるんだから!!

 

 




 ウザカワイイ妹キャラである楓に関してですが、『楓ちゃん可愛い』や『楓ちゃんのことがより好きになりました』などの声が多く、意外と人気のあるキャラみたいで嬉しいです!

 こんなウザくも可愛く、時にはエッチな妹キャラというのが個人的に大好きなので、読者様からの反応がよければもっとメインを張る回を書いてみたいと思っています。最近出番がご無沙汰でしたから。

 次回は『海未と海へ行く』。投稿日時は12日の21時です。
⇒13日の21時に変更します。
 内容は海未の個人回ですが、誰も真面目な内容とは言っていない!!


~付録:楓のμ'sメンバー見解リスト~

・穂乃果
一応リーダーとして認めているが、自分の方が断然相応しいとも思っている。

・ことり
趣味が共に『お兄ちゃん』なのでウマが合う。

・海未
頼れる先輩にしてイジリ要因その1。

・花陽
涙目の表情を常に見たがっている。ただし百合属性ではない。

・凛
テンションは似ているが、胸の大きさが違うので基本見下し。

・真姫
頼れる先輩にしてイジリ要因その2。

・にこ
歳が3つ上だけど、日頃は3つ下として見ている。

・希
μ'sの中では一番苦手。だが最凶の姉に比べればまだまだ。

・絵里
頼れる先輩にしてイジリ要因その3。

・雪穂
貴重なツッコミ役として認めている。

・亜里沙
いつかブラックに染め上げてやろうと目論む。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海未と海へ行く

 今回は海未個人回です。
 一応ほのぼのとした日常デート回なので、個人回だからといって変に警戒している方は肩の力をお抜きください(笑)


 

「海未?海未は私ですが?」

「ネタはいいんだよ……」

 

 

 まさか1年前のネタをまた聞けるとは……。

 

 現在、俺と海未は笹原先生に押し付けられた授業の資料を職員室から教室に運んでいるところだ。あの傍若無人な先生には困ったものだが、海未と2人きりで会話するいい機会に巡り合えた。たまには役に立つな、笹原先生。

 

 

「俺と一緒に海へ行かないかって言ってんだよ」

「零と一緒にですか……?穂乃果たちと一緒ではないく私と……?」

「あぁ。別に特別な記念日がある訳じゃねぇけど、一度お前と2人きりで行ってみたくてな。まぁただの俺の我が儘だよ」

「零と2人きり……デート……」

 

 

 海未は俯きながらブツブツと同じ言葉を連呼している。

 やはり海未にとって2人きりデートってのは難易度が高いのかな?よくよく考えてみたら、海未と2人きりになったことなんて数えるくらいしかなかった。学院では大体穂乃果とことりが一緒にいるから仕方ないと言えば仕方ないのだが、それを含めたとしてもみんなより明らかにコイツと2人きりでいることは少ない。

 

 

「たまにはさ、海でパーッと気持ちを落ち着かせるのもいいんじゃねぇの。練習の指導だけじゃなく作詞も担ってる。その上あのぐぅたらな生徒会長よりも生徒会の仕事をしていて、弓道の練習も欠かさない。だから次の休みの日、1日だけでいいから俺に預けて欲しいんだ」

 

 

 いらぬおせっかいだとか、余計なお世話だとか、無理な気遣いだとか、色々と思い浮かぶ懸念はあるが、結局俺が一番言いたいのは海未と2人きりになりたいということだ。最悪海未の苦労を心配しているのは誘うための口実だと思ってくれてもいい。もちろん海未の身体を心配していない訳じゃないぞ。

 

 

「いいですね、海。行きましょう」

「そうか、ありがとな」

 

 

 断られはしないと思いながらも、実際に彼女の口から同意の言葉が出るとホッとする。やはり自分からデートに誘うのは少しばかり緊張してしまう。穂乃果やことりだったら俺が誘いに言葉を言い終わる前に飛びついてくるんだけどな。

 

 

「それじゃあ日程だけど、次の土日どっちが空いてる?」

「その2日だったら土曜日ですね」

「よし、決まりだな」

「え?持ち物などはないのですか?」

「あぁ。別に泳ぎに行くわけじゃないから水着も何もいらねぇよ」

「驚きました。てっきり私の水着目的かと……」

「それはそれで見たいけど、みんなと一緒に出掛ける時でもいいだろ」

 

 

 今回は遊泳目的でも水着鑑賞目的でもない。ただ日頃のストレスを解消しに行くだけだ。俺だからと言っていつも邪な心を持っている訳じゃないからね……。

 

 

「じゃあ詳しい時間はまた連絡するよ」

「はい、お願いします」

 

 

 こうして俺は海未との海デートの約束へと漕ぎ着けた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 園田海未です。

 

 先日零から海へ行こうと誘われ、本日がそのデート当日。

 誘われた時もかなり緊張していましたが、当日ともなればその緊張はさらに跳ね上がります。服もどんな服を着ていけばいいのでしょうか……?ことりのようにファッションにそれほど精通していないので、こんな時はどのような服を着ていけばいいのか迷ってしまいます。

 

 

 とりあえず見た目も涼しげで爽やかそうに見える紺色のワンピースを着て、自分の家の外へ出ます。零からの連絡ではこの時間に迎えに来てくれるという話なのですが、今思えば電車で行くのなら駅前で待ち合わせでもよかったのでは?わざわざ私の家まで来ていたら二度手間じゃあ――――

 

 

 そんなことを考えてきた時、遠くからバイクの音が聞こえてきました。私は無意識に一歩後ろへ下がったのですが、そのバイクが私の目の前で止まってようやく先ほどの疑問が解消されたのです。

 

 

「えっ!?」

「よう。集合時間ギリギリになって悪かった」

 

 

 バイクに乗っていたのは、なんと零でした。

 彼がバイクを持っていることは知っていましたが、実際にこうしてバイクに乗っている姿を見るのはこれが初めてだったりします。

 

 

 ――――――か、カッコいいですね……

 

 

「どうした?もしかしてバイクに乗るのが怖いか?」

「い、いえそういうことではないのですが、バイクに乗って海へ行くのがちょっと意外で……」

「確かに電車でも行けるけど、バイクでならなきゃいけない理由があるんだよ」

「理由……ですか?」

「それはあとのお楽しみだ。とりあえず後ろに乗れよ」

 

 

 零はヘルメットを放り投げ、私はそれを落としそうになりながらも何とかキャッチします。

 意外と軽いのですね……。

 

 

 そしてさらに私は零から渡されたレディースのバイクウェア一式に着替え、バイクの後ろに乗り込みます。

 

 

「しっかり俺に掴まってろよ。なぁに、怖いのは最初だけだ」

「驚かさないでくださいよ!!これでも緊張しているんです!!」

「それは俺とデートをすることに緊張しているのか、それともバイク処女だから緊張してるのか」

「ど、どっちもですよ……」

「ははは!!」

「なぜ笑うのです!?」

「いやぁ、やっぱりお前はウブなところが可愛いなって思ってさ」

「か、かわっ!?」

 

 

 ただ『可愛い』と言われるだけでも未だ焦ってしまう自分がいます。特に零から言われた時は心臓がドキッと跳ね上がってしまうんですよね……。もちろん嬉しいのですが、彼はいついかなる時でもそんな恥ずかしいことを言ってくるので油断なりません!!

 

 

「どこを掴めばいいのですか?」

「腰辺りに抱きついてろ」

「だ、抱きつく!?」

「そんなことでいちいち反応するなよ!!別に恋人同士なんだから問題ないだろ?」

「そ、そうですが……」

 

 

 ただでさえ零とここまで密着してドキドキしているというのに、海に着くまでずっと抱きついたままなんて恥ずかしくて耐えられません!!でももう選択肢は1つしかないですし、ここは覚悟を決めなければなりませんね。これほど穂乃果やことりのような神経の図太さが羨ましいと思う時はないですよ。

 

 

「よし、じゃあ出発するか!!準備はいいか?」

「は、はい!!いつでも!!」

 

 

 零は再びバイクのエンジンを掛けます。その際レバーなどをカチャカチャと弄っているのですが、バイク初挑戦の私にはもちろん何をやっているのかは分かりません。ただ零が1つ弄り終わる度に、もう少しで出発するというワクワクと緊張が私を駆り立てます。

 

 覚悟を決め、私は彼の腰にギュッと掴まります。

 零の背中から伝わってくる温もりと微かな匂いに若干クラっときたと言ったら、彼から馬鹿にされそうですね♪

 

 

「俺と海未の愛の逃避行、レッツゴー!!」

「な、なんですかそれぇえええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 零の意味不明な掛け声にツッコんでいるのと同時にバイクが発車し、私の声が辺りに大きく響き渡りました。

 こ、これ家族にも聞かれているのでは!?は、恥ずかしい!!

 

 

 と、とにかく!!ようやく私と零のデートが幕を開けたのです。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 バイクに初めて乗ってまず感じたこと。それは乗り心地が思っていたよりはよかったということですね。

 零がしっかり掴まっていないと振り落とされるなどの脅しをしてくるものですから、てっきり油断をしていたら座席から飛び落ちてしまうものだと勝手に思い込んでいましたよ……。もちろん実際にはそこまで必死にならなくてもよかったみたいです。

 

 そしてなにより身体を切る風がとても心地よく、夏なのにも関わらず秋終わりのような涼しさが感じられます。

 既に私は乗車前の緊張感などは忘れ、ただ大好きな彼と一緒にバイクに乗っているという幸福感に浸っていました。後部座席から見える彼の格好良い後ろ姿に、ちょっと見惚れてしまいます。

 

 

「どうだ海未、バイク処女を突き破られた気分は?」

「非常に心地よくて気持ちいいのですが、あなたのその言葉ですべて台無しです……」

「お前の緊張を解してやろうと思ったんだよ。でもその調子だったら問題なさそうだな」

「えぇ、思っていたよりも快適でしたから。だからバイクに乗っていようが、セクハラ発言は厳しく取り締まりますね♪」

「おいおい、後ろから嬉しそうに脅すなよ……」

「さっきのお返しですよ」

 

 

 こうやって冗談が言えるくらいにバイクの乗り心地は快適だってことなのです。これも零のドライビングテクニックが上手いおかげなのでしょう。でも度重なるセクハラ発言で、周りをしっかりと見ているのか心配になります。

 

 

「でもこうして見てみると、いつもの道もまた違って見えますね」

「そうだろそうだろ。バイクに乗っていると、いつも見ている景色が全く違う景色に変わるんだよ。まるで初めて通る道のようにな」

 

 

 いつも登校で歩いている道も、歩きながら見る景色とバイクに乗りながら見る景色では景色の移り変わりや目線の位置によって全く別の街に来ているかような、ちょっとした旅行気分が味わえます。同じ車道を走る車に乗っている時は、そこまで外の景色を注視していないので気付きませんでした。

 

 

 私たちを乗せたバイクは信号にも捕まることなく海へ向けてスイスイと進みます。周りの景色は街中とは打って変わり、木々に囲まれた緑豊かな景色となっていました。街中以上の風の心地よさと澄んだ空気は、それだけで私の気持ちを落ち着かせます。これだと海へ着く前にリフレッシュできちゃいそうですね。

 

 

 そしてバイクはトンネルに差し掛かりました。中へ入るとオレンジ色のライトが私たちを照りつけます。

 

 

「このトンネルを抜けたあとの景色は絶景だぞ。しかも今日は天気がいい、ラッキーだったな」

「まさかあなたがそこまで言うとは……普段感動すらしないあなたが……」

「オイ、まるで俺に心がないみたいな言い方だな。俺だって心が奪われる時だってあるっての」

「へぇ~」

「お前喧嘩売ってる!?」

「いえいえ♪」

 

 

 零は修学旅行で沖縄の海を見た時も、あれだけ綺麗だったのに表情1つ変えずいつものぼけぇ~っとした顔のままでしたから。思い返してみれば、彼が景色で感動しているところはあまり見たことがありません。感情豊かな彼の珍しい部分ですね。

 

 

 気が付けば外の光が見えてきました。あそこを超えた時、零の言っていた素晴らしい景色が見られるそうなので楽しみですね。あの彼がハードルを上げるということは、それだけ期待をしていいということなのでしょう。

 

 

 そして、遂にバイクがトンネルから出ようとします。外に光に目が少し眩みながらも、零の言葉に耳を傾けました。

 

 

「左を見てみろ」

「――――――!!!!」

 

 

 

 

 私は、言葉を失いました。

 

 広がっていたのは一面の海。

 "綺麗"の一言で表すことが物足りないくらい、太陽の光によって照りつけられる海が輝かしく見えたのです。

 

 たった今地上に誕生したかのように瑞々(みずみず)しく(きら)びやかに躍動する海。青い海と空を背景に構成された景色が、息をのむほどに明るく美しく、飛沫(しぶき)の目に沁みる純白が、(まばゆ)い海の濃いブルーとこよない対照をなしています。

 

 

 

 

「どうだ?すげぇだろ?」

「はい……一瞬海に心を奪われていました。こんなことは生まれて初めてです……」

「俺も初めてバイクでここを通った時は感動したもんだ。これをお前に見せたかったんだよ」

「こんな素晴らしいものを……感動し過ぎて涙が出そうです……」

「そこまで!?でも気に入ってもらえてよかったよ」

 

 

 バイクに乗っているだけでも気分転換にはなったのですが、この海の光景を見たことで、日頃の気付かぬ内に溜まっていたストレスやあやゆる疲労が海の波のように綺麗に流されてしまいました。

 

 

「折角だし、もっと近くまで行ってみるか」

「そうですね。人は全然いないですが」

「だってここ、遊泳禁止だし」

「なるほど、どうりで……」

「でも、景色を見てるだけでも満足できるから問題ないさ」

 

 

 零はバイクを駐車場とは言い難い海岸付近の開けたスペースに止めます。そして私たちはバイクウェアを脱いで、誰もいない白い砂浜へと向かいました。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「風が気持ちいいです」

「そうだな。夏なのに涼しいくらいだ」

 

 

 近くまで来ると、潮騒が海の健康な寝息のように規則正しく寧らかに聞こえるてきました。耳元で、しきりに風が鳴っています。冷たくはないのですがたっぷりと潮を含んでいるため、頬へ手をやると微かに粘つく感触が指先に残るのです。砂浜は細かい白い砂で、乾いているのにも関わらずねっとりと足の裏にまとわりつくような柔らかさがあります。

 

 

 たまにはこうして何も考えず、頭をカラッポにしてみるのもいいものですね。最近煮詰め過ぎていましたから……。

 

 

「な゛っ!?!?」

 

 

 すると突然、後ろから誰かにガバッと抱きつかれました。もちろんこんな状況で私にこんな破廉恥な行為をするのは、この世でただ1人……。

 

 

「れ、零!?一体何を!?」

「砂浜に立つお前があまりにも綺麗過ぎて、自分でも無意識の内に抱きしめてた。欲望が抑えきれなくなったんだ」

「そ、そうですか……」

「意外だな、振り払われると思った」

「好きな人に抱きしめられるのは、私も嬉しいですから」

 

 

 潮風の影響で少し身体が冷えていたのか、彼に抱きつかれるといつも以上の暖かな温もりが私の身体を駆け巡ります。流石に学院で抱きつかれるのは破廉恥極まりないですが、今は綺麗な海に2人きり、これほどロマンチックなムードはありません。私だってこういった恋人らしいことをやってみたくない訳ではないのです。

 

 できれば私から抱きつきたいくらいには――――って!!

 

 

「きゃあっ!!」

「悪い、変なところ触っちまったか?」

「確実に確信犯でしょう!!ただ抱きついているだけなのに、どうして胸やスカートに手が伸びるのですか!?」

「抑えきれなくなった」

「そういうことは抑えてください」

「それは無理」

「はぁ~……」

 

 

 いついかなる時であってもブレない零の精神に呆れながらも、私はそのことに関して彼に聞いてみたい質問があったことを思い出しました。聞くのなら2人きりの今しかありません。

 

 

「零」

「なんだ?」

「あなたは私たちにこういうことをしたくて、私たちへ告白したのですか?」

「…………」

「私たちのカラダが目的で、私たちならあまり抵抗はされないだろうと、そんな邪な考えがあったのだとしたら……」

 

 

 何て意地の悪い質問なのだろうと自分でも思います。彼が私たちへ向ける愛は本物だと知っているはずなのに、このような現場を見るたびに彼に問いたくなるのです。自分の欲望を満たすために私たちへ近付いて来たのではないかといういらぬ妄想を抱いてしまう時がある……。

 

 

 

 

「あるよ。そういう考え」

「え……?」

 

 

 後ろから、彼の小さくも真剣な声が聞こえました。

 彼の答えに、私は目を見開いて耳を疑っていまいます。そんな気持ちが……あった?

 

 

「しょうがないだろ男なんだから、俺だってそんな欲望を多少なりとも持ってる。それに男ってのは、自分の彼女のカラダを気にしちまうものなんだよ。色んなところを触ってみたいと思うし、もっと先のことをしたいとも思ってる。でも勘違いするな。決してカラダでお前たちを選んだ訳じゃない。お前たちのカラダだから触ってみたくなったんだ。他の女の子だったら絶対にこうはならない、絶対だ。これだけは信じてくれ」

 

 

「…………」

 

 

「う、海未……?」

 

 

「プッ……!!」

「なっ!?お前笑ってんじゃねぇよ!!これでも真剣に想いを伝えたんだぞ!?」

「すみません!!でも面白くって……フフッ♪」

「お前なぁ……」

 

 

 まさかここまで自分の欲望に忠実な人がいるとは。しかもそれを恥ずかしがらず、正々堂々と自分の恋人に公言する。もうさっきまで自分があれこれと頭を悩ませていたのが馬鹿みたいですよ。これには笑いも抑えられません♪

 

 

 でもこうして何事も恐れず前へ突き進む彼のことを、私は好きになったのでしょう。そうでなければ9股なんて愚行、許すはずがありません。

 

 

「零を見ていると、自分が抱えているストレスなんて全部吹き飛んでしまいますよ♪」

「それは俺が遠まわしにストレスを抱えない、短絡的な奴だと思われているってことか……?そこはかとなく馬鹿にされてる!?」

「あなたと一緒にいると、ストレスも何もかも払拭できるってことですよ。誇っていいところです!!」

「素直に喜べねぇ……でも、日頃からお前の役に立てているみたいで嬉しいよ」

「あなたにはお世話になりっぱなしですから、いつか必ずお礼をしようと思っているのですよ」

「それはありがたいけど、俺はもうお前らから一生を掛けても返すことのできないものを貰ってるよ。だから俺がお前たちの隣に一生いてやるのが、俺なり恩返しだ。まあ隣にいることは当たり前のことだけどな。俺はそんな当たり前のことを一生懸命頑張るよ」

 

 

 そして零は私の身体をさらにギュッと抱きしめてきました。私も零の腕に手を当て、彼と1つになっている暖かな愛を堪能します。自分の心臓が激しく鼓動しているのが分かりますが、むしろこのドキドキをずっと味わっていたかったり。

 

 

 私もずっと、あなたの隣にいます。この手と同じく、決して離すことのないように……。

 

 

 

 

 爽やかな潮風と静かな波の音に包まれながら、私たちはしばらく黙ったまま、お互いの温もりに浸っていました。

 

 




 この回で頑張ったのは"海未"の描写ではなくて"海"の描写なのです!!


 海未の個人回ということで、地の文のほとんどが彼女視点の文章だったのですが。零君と違って言葉遣いが丁寧なので、読み返す時にとても読み返しやすかったです(笑)
そう言った意味でも海未視点は好きなんですよね。

 そして今回で遂に70話を達成しました!目標としている100話も徐々に見えてきたので俄然モチベーションが上がっています!100話記念も現在考え中です。


 次回のタイトルは『雪穂と亜里沙と赤ちゃんになった零』。以下あらすじ。

 雪穂と亜里沙は、秋葉の実験失敗によって赤ちゃんにされてしまった零の面倒を見ることになる。精神状態も赤ちゃんと同じになってしまった零はかなりやんちゃだが、雪穂たちは弟ができたみたいと楽しみながら世話を続ける。
 だがお腹を空かせた赤ん坊の零がこう言い放つ。

 『おっぱい』

 ここから雪穂と亜里沙の育児は別の方向へとエスカレートする。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雪穂と亜里沙と赤ちゃんになった零君

 今回はゆきあり回。
 この小説でも前代未聞である赤ちゃんプレイのはじまりはじまり!!


※擬似授乳シーンあり


 高坂雪穂です。

 

 突然ですが、目の前に厄介な人が……。

 

 

「やっほ♪雪穂ちゃんに亜里沙ちゃん♪」

「こんにちは秋葉さん!!」

「こ、こんにちは……」

「うんいい返事♪雪穂ちゃんは元気が足りないなぁ~」

「…………」

 

 

 夏休み直前の休日、夏本番の昼下がり、私たちは道端で零君のお姉さんでありμ'sの顧問でもある神崎秋葉さんに遭遇してしまった。

 次のライブで使う美品の買い出しを済ませ、今からお昼ご飯を食べようとテンションが上がっていた矢先にこれだよ……もう地の底まで意気消沈しちゃった……。

 

 

 それに、秋葉さんは私たちに厄介事を押し付ける気満々みたい。だって――――――

 

 

 

 

 なんか赤ちゃん抱きかかえてるし!!!!

 

 

 

 

「なに雪穂ちゃん?そんな仏頂面、キミには似合わないぞ☆」

「帰っていいですか……?」

「ノンノン!!君たちにはこの子の面倒を見てもらわないといけないからね♪」

「やっぱりか……」

 

 

 まだ秋葉さんと知り合ってもいない去年から、零君やお姉ちゃんから散々この人の面倒話を聞かされてきたけど、実際に会ってみるとその話が身に染みる。ここまで人間を嫌悪したことなんて初めてだよ。

 

 

「その赤ちゃん、どなたの子ですか?」

「亜里沙!!話に乗らなくてもいいって!!早く行こう!!」

「亜里沙ちゃんは優しいねぇ~♪実はね、この子は零君なんだ♪」

「「…………はい?」」

「だから、この子は零君なんだ」

 

 

 私たちは目を丸くして抱きかかえられた赤ちゃんを見つめる。

 あれが……零君?意味が分からないんですけど……。

 

 

「実は零君と一緒に実験をしていたんだけど、どこかで失敗しちゃったみたいでぇ~気付いたら零君が赤ちゃんになっちゃった♪」

「えぇ!?じゃあ本当に零くんなんだ!?」

「『なっちゃった♪』じゃないですよ!!どうすれば元に戻るんですか!?」

「直に治る!!だけど私はこのあとまだ実験があるから、この子の面倒を見れないんだよね。だから……」

「私たちにさせようってことですね」

「イエース!!」

 

 

 やっぱり押し付けてきたか……自分の失敗ぐらい自分で尻拭いして欲しいよ。

 でも赤ちゃんとなった零君を放っておく訳にはいかないし……あれ?そう言えば私たちに頼まなくても……

 

 

「楓はどうしたんですか?」

「楓ちゃん?楓ちゃんなら零君の代わりに私の助手となってもらわないといけないから、さっき拉致って研究室に閉じ込めてきちゃった☆」

「だから『きちゃった☆』じゃないですよ!!」

「まぁまぁ雪穂、零くんには悪いけどお世話楽しそう♪」

「亜里沙まで……」

 

 

 さっきから亜里沙は赤ちゃんとなった零君をキラキラとした目で見つめている。

 た、確かに可愛いけどさぁ……。いつもキリっとしてカッコいい顔が、目をくりくりとさせた愛らしい顔になっている。も、もう!!しょうがないなぁ亜里沙は!!こんな子に見惚れちゃって!!

 

 

「仕方がないので私たちで零君の面倒を見ます!!」

「雪穂もやる気になってくれたの!?」

「仕方なくだよ仕方なく」

「じゃあ決まりだね♪は~い零君、雪穂お姉ちゃんと亜里沙お姉ちゃんの言うことをちゃぁ~んと聞くんだよ?」

 

 

 秋葉さんは抱きかかえている零君に、まるでママのように言葉を掛ける。

 そんなこと、赤ちゃんの零君に言っても通じる訳が――――

 

 

 

 

「ゆきほおねぇたん?ありさおねぇたん?」

 

 

「「!!!!」」

 

 

 私と亜里沙は、その言葉で脳天を打ち抜かれたかのようにフラついた。

 

 しゃ、喋った!?なに、赤ちゃんは赤ちゃんでも言葉を覚えたての赤ちゃんなの!?しかも『お姉ちゃん』って……と、とてもいい響きだよ。しかもあんな可愛い子に『お姉ちゃん』だなんて……それに『お姉ちゃん』じゃなくて『おねぇたん』と舌っ足らずなところが破壊力満点過ぎる!!

 

 

「あらあら♪2人共顔を赤くしちゃって♪」

「ち、違いますこれは……」

「零君可愛すぎます!!今すぐぎゅ~っと抱きしめたいです!!」

「あ、亜里沙!?」

「いい欲望だね♪じゃあ任せたよ!!」

「任されました!!」

 

 

 私の心の整理がつかない間に話がポンポン先へ進んでいく……。

 ここまで欲望を前面に押し出している亜里沙を初めて見た。段々零君と同じ性格になってきているような気がしなくもない。これはいい傾向なのか悪い傾向なのか……?

 

 

「はい、これ零君の家の鍵ね。今は誰もいないから、そこで面倒を見てあげて」

「そりゃあ楓を拉致したのなら誰もいないでしょうね……」

「あはは!!それじゃあよろしくね♪」

「はいっ!!」

「私は仕方なくですからね!!」

「はいはい分かってるよん♪」

 

 

 秋葉さんはにこやかな表情を崩さない。でも口角は上がってるから絶対馬鹿にされてるよコレ。そう、私は零君をこのまま放っておくと可哀想だと思ったから手伝ってあげるのであって、決して零君の可愛さ目当てでは――――

 

 

「ゆきほおねぇたん?」

「ぐっ……!!」

 

 

 な、ないんだから!!

 

 

 そして私たちは秋葉さんから零君を引き取り、そのまま零君の家へ向かった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ぶ~ん!!」

 

「零くん、楽しそうだね♪」

「うん。赤ちゃんでも言葉は分かるみたいだし、そこまで苦労することはないかも」

 

 

 赤ちゃんとなった零君は今、恐らく秋葉さんが楓を拉致した時に置いていったであろう乗り物のおもちゃで遊んでいる。

 私たちはもちろんだけど育児なんてしたことがない。秋葉さんがいなくなって泣き出さないか心配だったけど、とりあえずは大丈夫そうでよかったよ。

 

 

「がたんごとん、がたんごとん」

 

「零くん、可愛いねぇ~♪」

「そ、そうだね。悔しいけど……」

 

 

 亜里沙はこの姿の零君を見てから、ずっと目の輝きが収まっていない。それどころか出会った時よりも輝きを増している。可愛いものならお人形でも動物でも何でもこうなっちゃうからなぁ亜里沙は。

 

 でも今の零君は私の目から見ても幼くて可愛いと思う。いつものカッコいい零君とは対称的ということもあるのかも。ギャップ萌えっていうのかな……?だけど笑顔だけはどの零君でも変わらない、眩しい笑顔なんだよね。流石零君と言うべきか。

 

 

「零く~ん♪亜里沙お姉ちゃんと一緒に遊ぼ?」

「うん!!。じゃあぼくがひーろーやくをするから、ありさおねぇたんがわるものやくね」

「悪者役ってやったことないな……でもお姉ちゃん頑張るね!!」

「うん!!」

「れ、零くん可愛いよぉ~♪」

 

 

 亜里沙が零君を食べちゃいそうなくらい目を光らせている……!!できるだけ亜里沙と零君を2人きりにしないようにしよう……うん。

 

 

「ゆきほおねぇたんはわるもののてしたやくね」

「えっ!?私も……?」

「ダメ……?」

「ぐっ……」

 

 

 涙目上目遣いとかどこで覚えてきたの……!?か、可愛すぎる……!!まさかこんな幼い子に悩殺されそうになるなんて!!私はショタコンじゃない私はショタコンじゃない私はショタコンじゃない……私は普通の零君が好きなんだ!!――――って、何言ってんの私!?!?

 

 

「ど、どうしたの雪穂!?頭抱えて……」

「な、なんでもないよ!!さ、さぁ、や、やろうよヒーローごっこ!!」

「雪穂、ごっこ遊びに緊張してる?」

「そ、そんなことないよ、アハハ……」

「ゆきほおねぇたん……?」

「よ、よし、やろっか零君!!」

 

 

 どうしてこんな幼い子供に心を乱されないといけないの!?それにさっきから私の目をジッと見つめてくるし!!か、可愛いからやめて!!

 

 

 はぁ~……幼い零君にまで心を奪われちゃうなんて……。

 

 

 

 

 そして私たちは柄にもなくヒーローごっこで盛り上がってしまいました。

 認めたくはないけど、この際素直になりましょう。ヒーローとなって愛くるしくはしゃぐ零君を見て、亜里沙と一緒に悶えていました!!わ、悪いですか!?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「いっぱい遊んだらお腹が空いちゃった」

「そういえば昼食まだだったね」

 

 

 ヒーローごっこに夢中となり過ぎて忘れていたけど、私たちお昼ご飯を食べに行く途中だったんだ。まさかあそこから秋葉さんに赤ちゃんとなった零君を任されて、一緒にヒーローごっこをするなんて思わなかったよ。ま、まぁ楽しかったけどね……。

 

 

「おなかすいた」

「今からお姉ちゃんたちが作るから、ちょっとだけ待っててね♪」

「亜里沙って、赤ちゃんが食べちゃいけないものとか知ってるの?」

「さ、さぁ……」

 

 

 ダメじゃん……流石に普通の料理を食べさせる訳にはいかないし、近くで離乳食か何かを買ってきた方がいいのかな?それともミルクで我慢してもらうか。それはいくらなんでも可哀想だよね……。

 

 

「携帯で赤ちゃんでも食べられそうな料理を調べるのがいいかも」

「そうだね♪それに料理好きの楓のことだし、冷蔵庫に食材だったらなんでもありそう」

 

 

 なんでもは言い過ぎだと思うけど、楓から料理自慢を毎日聞かされているから期待はできる。

 それに零君を待たせる訳にはいかないしね。

 

 

「おなかすいた」

「ゴメンね零くん、もう少しだけ待っててね♪」

 

 

 亜里沙が空腹を誇示する零君を抱きかかえたその時だった――――

 

 

 

 

「おっぱい」

 

 

 

 

「「!!!!」」

 

 

 い、今なんて言った……?聞き捨てならない言葉が聞こえてきたような気がしたけど……。まさかこんな幼い子が、ねぇ~……。

 

 

「おっぱい」

 

 

「えっ!?お、おっぱい!?」

「おおおおお、落ち着いて亜里沙!!」

「雪穂も動揺し過ぎだよ!!」

 

 

 こ、この人……幼くなろうともその変態精神は抜けてなかったの!?女の子にお、おっぱいだなんて、海未ちゃんだったら反射的に手が出るレベルだよ!!でも今の零君は赤ちゃん同然の身体をしているし、中身も相応に幼い。こんな子に手を出すなんてできるはずがないよ!!

 

 

「おっぱい……だめなの?」

「ダメっていうか……そのぉ~……ゆ、雪穂?」

「わ、私!?私は……」

 

 

 どうやら零君はまだお母さんのおっぱいを離れられない歳の子らしく、お腹が空く=おっぱいという認識みたい。私たちの顔を交互に見ながらおっぱいを求めてくる。

 そんなことできる訳ないじゃん!!それに第一、私たちまだおっぱい出ないし!!

 

 

 どうしたらいいのかと私たちが戸惑っていると、ねだってもおっぱいを貰えなかったためか零君の目に涙が溜まっていた。

 

 

「うっ、うぅ……」

「あっ、零くん泣かないで!!」

「い、一体どうすれば……」

 

 

 零君の目からポロポロと涙が滴り落ちる。

 ぐぅ……すごい罪悪感。でもこればっかりはどうしようも――――

 

 

 

 

「……やるよ」

「あ、亜里沙……?」

「私がやるよ!!」

「え……えぇぇぇええええ!?」

 

 

 今まで亜里沙の奇行に驚かされたことは何度もあったけど、ここまで以上に驚愕したことはない。顔を真っ赤にしているから恥ずかしくないことはないと思うんだけど、それでもやるの……?

 確かに亜里沙の胸は最近目覚しいくらいの成長を遂げている。それなら零君も満足できるかも……?それに比べて私は……や、やめよう惨めになるだけだし……。

 

 

「ありさおねぇたん、おっぱい」

「い、今あげるからねぇ~……」

 

 

 顔が引きつってるよ……やっぱり緊張してるじゃん。

 それでも亜里沙は服のボタンを外し、胸元ははだけさせる。そこから少し躊躇していたものの、覚悟を決めてみたいで下着に手を掛け、とうとう男の子の前で上半身裸姿を晒してしまった。

 

 や、やっぱり亜里沙の胸大きいな。同い年なのに……。

 そこで楓のウザったい笑顔が頭に浮かんできたので早急に振り払う。

 

 

「は、は~い零くん、おっぱいですよぉ~」

「…………」

 

 

 零君は黙ったまま亜里沙の胸を見つめ、そして――――

 

 

 

 

「ひゃん!!」

「あ、亜里沙!?」

 

 

 零君が、亜里沙の右の胸の先端をパクッと咥えた。

 本当はこの時点で殴り飛ばしたいところなんだけど、亜里沙の胸を吸っている幼い零君があまりにも愛らしくて、むしろ殴り飛ばしたいと思った自分自身に制裁を下したくなる。それくらい今の零君にほっこりとさせられてしまっていた。

 

 

「ちゅぅ、ちゅぅ……」

「あっ、あんっ!!」

 

 

 しかしほっこりとした気分とは裏腹に、亜里沙は今まで私の聞いたことのないエッチな声を上げている。表情は茹でられているかのように高揚し、目もトロンと垂れていてとても気持ちよさそう……って、私ってば何の解説してるの!?ただの変態じゃん!!

 

 

「ちゅぱっ、ちゅっ」

「んっ、あぁ!!」

 

 

 如何わしい行為であるはずなのに、それを止めるどころか私の目は亜里沙の恍惚な表情と美味しそうにおっぱいを吸っている零君に釘付けとなっている。零君は喘ぎ声を上げて身体を逸している亜里沙には目もくれず、容赦なく胸の先端をしゃぶり続ける。亜里沙も亜里沙で零君から与えられる快楽を楽しんでいるみたい。

 

 

 やっぱり赤ちゃんになっても零君は零君なんだね……。もしかして元の零君の意識があったり?いや、流石にない……よね?

 

 

「いいよ……いいよ零くん……♪」

「亜里沙……?」

「もっと……もっと零君」

「ちゅぅぅぅぅぅ!!」

「あぁん♡」

 

 

 一心不乱に胸を吸い続ける赤ちゃんとなった先輩、喘ぎ声を上げながら乱れる親友……そして、その光景にちょっと興奮しそうになっている私。

 

 お、抑えなきゃ!!でもどうしたらいいの!?零君も亜里沙もこの状況に満足しているみたいだし、私が口出しすることではない。それに私も……。

 

 

「むぅ、でない……」

「ご、ゴメンね零くん。私のおっぱいはまだ出ないんだ」

「ちゅぅぅぅぅぅ!!」

「だ、ダメ零くん!!これ以上は!!気持ちよすぎておかしくなっちゃうよぉおおおお!!」

「むぅ……やっぱりでない」

「ご、ゴメン……」

 

 

 どうしてこんな幼い子に主導権握られてるの……?

 そして亜里沙の必死の説得によって、何とか零君を胸の先端から引き剥がすことができた。それでも亜里沙はさっきからぼぉ~っとしてるけど。これは絶対に快楽の余韻に浸ってるね……。

 

 

 しかし亜里沙の胸から離れて束の間、零君は私の元へハイハイで駆け寄ってきた。私に冷汗が流れる。

 こ、これってもしかして!?

 

 

 

 

「ゆきほおねぇたんはでないの?」

 

 

 

 

 やっぱりぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?零君が私の顔を見て近寄ってきた時から大体察していたけど、破壊力抜群の零君の『上目遣い+首傾げ』攻撃に悩殺されそうになる!!自分の心臓の鼓動の音まで聞こえてきた!!

 

 

「わ、私も出ないんだ、ゴメンね。だから今日はお姉ちゃんが美味しい料理作ってあげるから、それで我慢して?」

「おっぱいがいい」

「だから出ないって……」

「おっぱい、ダメ?」

「うっ……」

 

 

 また零君の目に涙が溜まっている。こんなに泣き虫だったっけ!?

 私は悪くないはずなのに、罪悪感が心にドカドカと積み重なっていく。さらに零君は追い討ちを掛けるかの如く、ウルウルとした目で私の目をジッと見つめてくる。ちなみに亜里沙は現在絶賛快楽の海を彷徨っている途中なので、今この部屋にいるのは私と零君だけと言っても過言ではない。

 

 

 悶々としていた心が、揺れ動いた。

 

 

 ふ、2人だけだったら……それに亜里沙だけにやらせるのは不公平だもんね。

 

 

 私は、遂に決心をした。

 上の服とシャツをすべて脱ぎ去り、お世辞にも大きいとは言えない上の下着も外す。そのあと零君を抱きかかえ、自分の胸元へと近付けた。でもこのままだと羞恥心で悶えて爆発してしまいそうなので、頭の中身をカラッポにして何も考えられないようにする。そう、お姉ちゃんの頭の中のように。

 

 

 そして早速零君が動く。

 零君は私の胸を見るなり、勢いよく胸の先端に突撃してきた。

 

 

「ちゅぅ、ちゅぅ」

「んんっ!!」

 

 

 胸の先端を吸われた瞬間、身体に電流が走ったように刺激が全身に伝わってきた。

 これが亜里沙の感じていた、零君からの快楽……?く、悔しいけど……クセになる!!

 

 

「ちゅぱっ、ちゅっ」

「ひゃんっ!!んっ!!」

 

 

 零君が胸の先端に刺激を加えてくるたびに、自分の身体がビクッと振動するのが分かる。

 求めてる?まさか……?私の身体が零君を求めてるなんて、そんなことがあるはずが……。でも、私の身体は零君からの刺激に嬉しそうに反応している。こんな小さい子にここまで懐柔されるなんて……。

 

 もし、これがいつもの零君だったら?そう考えるだけでも耐えられる気がしない。

 

 

 そんな感じで私も亜里沙と同じように悦ばされてしまっていた。

 

 

「ちゅぅぅぅぅぅ!!」

「あぁああん!!」

「ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「あぁああああっ♡」

 

 

 おっぱいが出ないことに不満を持っているのか、零君の怒涛の連続むしゃぶり攻撃に身体が痙攣しているかのように震え上がる。

 赤ちゃんにおっぱいをあげるお母さんたちってみんなこんな刺激を味わってるの!?それとも相手が零君だから?零君だからこんなに感じちゃってるの……!?

 

 

「れ、零君、もうそろそろ……」

「ちゅぅ、ちゅぅ」

「んっ、あぁ……♪」

「でない……」

「はぁはぁ……だから出ないって言ったでしょ。今日はお姉ちゃんたちが作ったご飯で我慢してね?」

「うん……しかたない」

 

 

 いつからこんな上から目線になったのこの子……。

 でも……た、助かったぁ~。

 

 

 

 

 そして何とか暴走する零君を抑えた私は、亜里沙を起こして一緒に昼食を作りました。

 その後、お腹がいっぱいになった零君はお昼寝をしてしまい、それ以降はあんな破廉恥なことが起こることはなく平和に時間が過ぎ去りました。

 

 

 夕方になると秋葉さんが家へ訪れ、そのまま零君を引き渡す形に。

 最後に笑顔で『ばいば~い』と手を振ってくれた零君を見ていると、あんなことはあったけどちょっぴり寂しい気持ちにもなったり。

 

 

 ともかく、たった数時間だけど内容が濃厚すぎるほどに濃かった私たちの育児は無事に終わったのでした。

 

 

 無事……なのかな?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そしてその翌日。

 

 

「おはよう!!雪穂に亜里沙」

「れ、零君……」

「お、おはようございます……」

「どうしたお前ら、元気ねぇな」

 

 

 廊下で零君に声を掛けられる。どうやら赤ちゃんになっていた時のことは覚えていないみたい。

 声を掛けられるのはいつものことなんだけど、私も亜里沙も昨日のことが思い出されて、"零"という名前を聞くだけでも顔が赤くなってしまう症状に陥っていました。

 

 

「なんだろう。お前らを見ていると、無性に甘えたくなる……赤ちゃんのように甘えたいと思うんだよな。なんでだろ?」

「そ、それって!?」

「でも、流石にこの歳になってまで赤ちゃんプレイはどうかと思うけどな」

「「…………」」

「ふ、2人共?顔を真っ赤にしてどうした……?」

 

 

「この変態!!」

「なんで!?!?」

 

 

 これはずっと引きずりそうだよ……。

 

 




 赤ちゃんになろうとも、零君はやっぱり零君でした(笑)


 何気に雪穂と亜里沙の初のR-17.9シーンでした。でもこれは祝福してあげるべきなのかと言われたら微妙なところ……
初シーンにして赤ちゃんプレイというかなり濃厚な部類だったので、この先はどんなプレイも大丈夫でしょう!!(笑)

 久々にいい感じのところまで攻めることができました(R指定的な意味で)。もっとやってみたいプレイがいくつもあるので、これから先の執筆意欲が沸き立ちます!


今回は読者様であるクレバスさんのリクエスト小説だったのですが、リクエストに反して亜里沙のエロシーンを書いてしまいました。申し訳ないです!抑えられなかったんや……

Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

朝起きたら、9人の彼女と妹たちが添い寝していた

 今回は健全(だと思われる)な添い寝回です!幻となった前回に引き続き全員出演です。


※1:昨日投稿した幻の72話に関しては後書きにて

※2:文章は幻の72話の流用となっています。


 突然だが、気付いたら身体全体に温もりが走っていた。

 布団に包まっているだけなのに、まるで抱きつかれているかのような束縛感。夏の夜の蒸し暑さをさらに掻き立てるこの温もりは、むんむんとした熱気と共にどこか濫りがわしい匂いを醸し出している。そして、隣から吐息のような可愛い寝言が俺の耳を優しく刺激する。

 

 

「すぅすぅ……零君、ごはん……」

 

 

 このふわっとした包み込むような寝息は聞いたことがある。

 

 

 花陽だ。

 

 

 ――――って、花陽!?

 遂に俺の脳が現状は異常だと察知し、目が強制的に開かれる。

 

 

「すぅすぅ……」

「花陽!?お前何してるんだ!?」

「あっ、おはよう零君。昨日は激しかったね♪」

「な、なんだと……」

 

 

 

 

 驚くべきことに、花陽は生まれたままの状態だった!!布団に覆われて身体全体は見えていないのだが、肩を見るだけでも上半身に何も着ていないのは明白だ。ということは恐らく下も……?

 

 花陽の顔は赤く火照っており、目の焦点も合わず目元は垂れきっている。まだ昨日の夜の余韻が残っているかのように、『はぁ』とどこか卑猥な吐息を出しながら俺に迫ってきた。

 

 み、見えた!!花陽の豊満な果実が!!"ぶるん"という効果音が似合う、まさに男の目を釘付けにするようなおっぱいだ。

 

 

「な、なななっ……!!」

「零君、もう一度……しちゃう?」

「お、俺たちまさか……!?」

「昨日はあんなに私を愛してくれたから、今日は私からの愛を受け取ってください♪」

「う、嘘だろ……!?」

「私で……満足して♪」

「ぐぅううううううううううううううううううう!!」

 

 

 

 

 俺は……俺は……花陽と……!!

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「ハッ!!ゆ、夢か……」

 

 

 目が覚めると、目の前に花陽が……いなかった。どうやらすべて俺の夢だったらしい。起きたばかりなのにハァハァと息切れが止まらない。心臓も一定のリズムを刻まずにバクバクと激しく鼓動していた。

 

 

「なんて激しい夢なんだ……」

 

 

 ほぼ毎日花陽と会っているにも関わらず、あんな夢を見てしまうなんて……。自分がどれだけ欲求不満なのか分かったものではない。

 

 時計を見てみると、まだ午前3時であることに気が付く。今日はずっとパソコンを弄っていて変に夜更しをしてしまったから、早く寝ないと授業が保育園もビックリのお昼寝タイムとなってしまう。

 

 

「さっきのは忘れよう。うん」

 

 

 余計なことを考えると更に興奮をしかねないので、雑念をすべて振り払い俺は再び夢の世界へと旅立った。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 突然だが、気付いたら身体全体に温もりが走っていた。

 布団に包まっているだけなのに、まるで抱きつかれているかのような束縛感。夏の夜の蒸し暑さをさらに掻き立てるこの温もりは、むんむんとした熱気と共にどこか濫りがわしい匂いを醸し出している。そして、隣から吐息のような可愛い寝言が俺の耳を優しく刺激する。

 

 

「すぅ……零、そこっ!!」

「すぅすぅ……零くん、ラーメン……」

 

 

 この歌姫のような寝息と、見た目と同じく幼い寝息は聞いたことがある。

 

 

 真姫と凛だ。

 

 

 ――――って、真姫に凛!?

 遂に俺の脳が現状は異常だと察知し、目が強制的に開かれる。

 

 

「すぅすぅ……」

「真姫!?お前何してるんだ!?」

「あぁ、おはよう零。昨日は激しかったわね♪」

「な、なんだと……」

 

 

 

 

 驚くべきことに、真姫は生まれたままの状態だった!!布団に覆われて身体全体は見えていないのだが、肩を見るだけでも上半身に何も着ていないのは明白だ。ということは恐らく下も……?

 

 真姫の顔は赤く火照っており、目の焦点も合わず目元は垂れきっている。まだ昨日の夜の余韻が残っているかのように、『はぁ』とどこか卑猥な吐息を出しながら俺に迫ってきた。

 

 み、見えた!!真姫の程よい果実が!!"ぷるん"という効果音が似合う、まさに俺のに揉まれるために生まれてきたようなおっぱいだ。

 

 

 

 

「な、なななっ……!!」

「零、もう一度……しちゃう?」

「お、俺たちまさか……!?」

「昨日はあんなに私を愛してくれたから、今日は私からの愛をたっぷりと……ね♪」

「う、嘘だろ……!?」

「私が、日頃の疲れを癒してあげるわ♪」

「ぐぅううううううううううううううううううう!!」

 

 

 

 

 俺は……俺は……真姫と……!!

 

 

 

 

「待つにゃああああああ!!今度は凛の番だよ!!」

 

 

 

 

 驚くべきことに、凛は生まれたままの状態だった!!布団に覆われて身体全体は見えていないのだが、肩を見るだけでも上半身に何も着ていないのは明白だ。ということは恐らく下も……?

 

 凛の顔は赤く火照っており、目の焦点も合わず目元は垂れきっている。まだ昨日の夜の余韻が残っているかのように、『はぁ』とどこか卑猥な吐息を出しながら俺に迫ってきた。

 

 み、見えた!!凛の微妙な果実が!!揺れる効果音すら思いつかないが、俺の欲求を高めるのには十分過ぎるおっぱいだ。

 

 

 

 

「な、なななっ……!!」

「零くん、もう一度……しちゃう?」

「お、俺たちまさか……!?」

「昨日はあんなに凛を愛してくれたから、今日は凛から愛を注いであげるね♪」

「う、嘘だろ……!?」

「日頃の感謝も込めて、凛がたっぷりと恩返しをしてあげるにゃ♪」

「ぐぅううううううううううううううううううう!!」

 

 

 

 

 俺は……俺は……凛と……!!

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「うわぁああああああああああああああああ!!――――って、あれ?ま、真姫と凛は!?」

 

 

 俺は辺りを見回してみたが、彼女たちはどこにもいなかった。どうやらまた夢を見ていたらしい。

 なんだよ全くもぉおおおおおおお!!いいところだったのに……じゃなくて!!どうしてこんな夢を連続で見てしまうんだよ!?彼女が9人もいて、まだ満足していないのか俺は!?

 

 

「もう朝6時か……起きよう」

 

 

 またあんな夢を見るのは懲り懲りなので、普段よりも時間は早いがもう起きることにする。

 でも勘違いするな、俺はあの夢を疎ましくは思っていない。どちらかといえば、寸止めのところで目が覚めてしまうのが気に食わないんだ。起きたあともムラムラと欲求が残るからな。現に今も……。

 

 

 

 

 処理すっか……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ふわぁ~……」

「零くんおねむさん?」

「ことりか……ちょっと寝不足でな」

「また夜更ししてたの?ダメだよぉ~早く寝なきゃ」

 

 

 ところ変わって教室。1限目の授業まで残すところあと3分に迫っているところに、突然睡魔が襲いかかってきた。やはり夜更しとあの夢のせいで2度起きてしまったのがここで効いてきたか。さらにことりの甘い声を聞くと、余計に眠気を誘われてしまう。

 

 

「最近穂乃果だって授業で1時間ぐらいしか寝てないんだよ。今まで授業2限分くらいは寝てたのに」

「寝ないのが普通です!!零も気を付けてくださいね」

「善処する……」

「ありゃありゃ、零君本当に眠そうだね」

「とりあえず頑張って起きてみるよ……」

「瞼が閉じかかっている人に言われても……」

 

 

 そうやって力なく意気込んだものの、俺は既に眠気との戦いに敗北している。そして1限目の授業が始まった途端にすぐ、俺はまた夢の中へと足を踏み入れてしまった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 突然だが、気付いたら身体全体に温もりが走っていた。

 布団に包まっているだけなのに、まるで抱きつかれているかのような束縛感。夏の夜の蒸し暑さをさらに掻き立てるこの温もりは、むんむんとした熱気と共にどこか濫りがわしい匂いを醸し出している。そして、隣から吐息のような可愛い寝言が俺の耳を優しく刺激する。

 

 

 

 

 ――――あれ?この状況どこかで……?

 

 

 

 

「すぅすぅ……零君、穂乃果のほむまん食べてぇ……」

「すぅすぅ……零くん、ことりのおやつに……」

「すぅ……零、あなたの、逞しいですね……」

 

 

 

 この明るい元気な声から漏れ出す寝息に聞くだけで眠気を誘われる寝息、そして規則正しく整っている寝息は聞いたことがある。

 

 

 穂乃果にことり、海未だ。

 

 

 ――――って、穂乃果にことりに海未!?

 遂に俺の脳が現状は異常だと察知し、目が強制的に開かれる。

 

 

「すぅすぅ……」

「穂乃果!?お前何してるんだ!?」

「あぁ、おはよう零君。昨日は激しかったね♪」

「な、なんだと……」

 

 

 驚くべきことに、穂乃果は生まれたままの状態だった!!布団に覆われて身体全体は見えていないのだが、肩を見るだけでも上半身に何も着ていないのは明白だ。ということは恐らく下も……?

 

 穂乃果の顔は赤く火照っており、目の焦点も合わず目元は垂れきっている。まだ昨日の夜の余韻が残っているかのように、『はぁ』とどこか卑猥な吐息を出しながら俺に迫ってきた。

 

 み、見えた!!俺の手にジャストフィットする穂乃果の果実が!!"ぷるん"という効果音が似合う、まさに俺に揉まれるために生まれてきたようなおっぱいだ。

 

 

 

――――ん?これもどこかで……?

 

 

 

 

「な、なななっ……!!」

「零君、もう一度……しちゃう?」

「お、俺たちまさか……!?」

「昨日はあんなに穂乃果を愛してくれたから、今日は穂乃果から愛を受け止めて♪」

「う、嘘だろ……!?」

「穂乃果がたっぷり愛してあげる♪今日1日ずっとファイトだよ!!」

「ぐぅううううううううううううううううううう!!」

 

 

 

 

 俺は……俺は……穂乃果と……!!

 

 

 

 

「待って!!今度はことりの番だよ!!」

 

 

 驚くべきことに、ことりは生まれたままの状態だった!!布団に覆われて身体全体は見えていないのだが、肩を見るだけでも上半身に何も着ていないのは明白だ。ということは恐らく下も……?

 

 ことりの顔は赤く火照っており、目の焦点も合わず目元は垂れきっている。まだ昨日の夜の余韻が残っているかのように、『はぁ』とどこか卑猥な吐息を出しながら俺に迫ってきた。

 

 み、見えた!!ことりの程よく豊満な果実が!!"ぶるん"という効果音が似合う、高校生にしては成長し過ぎている実にけしからんおっぱいだ。

 

 

「な、なななっ……!!」

「零くん、もう一度……しちゃう?」

「お、俺たちまさか……!?」

「昨日はあんなにことりを愛してくれたから、今日はことりの愛をたくさん注入してあげるね♪」

「う、嘘だろ……!?」

「零くんのおやつ、ことりに頂戴♪」

「ぐぅううううううううううううううううううう!!」

 

 

 

 

 俺は……俺は……ことりと……!!

 

 

 

 

「ちょっと待って下さい!!私を忘れてもらっては困ります!!」

 

 

 驚くべきことに、海未は生まれたままの状態だった!!布団に覆われて身体全体は見えていないのだが、肩を見るだけでも上半身に何も着ていないのは明白だ。ということは恐らく下も……?

 

 海未の顔は赤く火照っており、目の焦点も合わず目元は垂れきっている。まだ昨日の夜の余韻が残っているかのように、『はぁ』とどこか卑猥な吐息を出しながら俺に迫ってきた。

 

 み、見えた!!海未の少し物足りないが綺麗な果実が!!"ふるふる"という効果音が似合う、小さく揺れる可愛いおっぱいだ。

 

 

「な、なななっ……!!」

「零、もう一度……しちゃいますか?」

「お、俺たちまさか……!?」

「昨日はあれだけ私を愛してくれたのです、なので今日は私の愛をたっぷりと♪」

「う、嘘だろ……!?」

「零のラブアローシュート、楽しみです♪」

「ぐぅううううううううううううううううううう!!」

 

 

 俺は……俺は……海未と……!!

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「し、搾られる!?!?――――あっ」

 

 

 顔を上げると、先生やクラスメイトたちが一斉に俺の方を見つめていた。どうやら授業中に机の上で眠ってしまったらしい。注目されることは慣れているが、こうして奇々怪々な目線を向けられると甚だ決まりが悪くなり、途端に顔が熱くなる。

 

 

「零くん、顔赤くして可愛いね♪」

「ことり……馬鹿にすんな」

「全く、あれほど寝てはいけないと言ったではないですか」

「知るか、寝みぃから仕方ないんだよ……ふぁ~……」

 

 

 なるべく俺はことりや海未の顔を見ないように話す。それもこれもすべてあの夢のせいだ。今でもこの2人の快楽に溺れて堕ちた表情が頭に浮かんでくる。普段から妄想癖のある俺だが、あの夢は生々し過ぎるぞ……。

 

 

「神崎」

「笹原先生……」

「お前、今度寝たら屋上掃除な。そして高坂も起きろ」

「いたっ!!もう先生~、教科書で叩くのやめてよぉ~!!バカになっちゃうじゃん」

「元から馬鹿だろ」

「ヒドイ!?」

 

 

 そして教室中に笑いが響き渡る。

 教師が生徒を馬鹿にするってどういうことだよ……相変わらず自由な先生だな。

 

 

 そんなこんなで、俺は眠気が残りながらも灼熱地獄である屋上掃除を回避するため、瞼を指で開けながら死に物狂いで授業を受けた。もちろん授業の内容が頭に入ってこなかったことは言うまでもない。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「くっそ、寝みぃ~……」

 

 

 結局午前中の授業はぐっすり眠ることはできず、とうとう昼休みになってしまった。俺は昼休みのほとんどを昼寝の時間に当てるため、いつも一緒に食べている穂乃果たちの輪に入ることなくぼっちで弁当を光の速さで食べ終え、現在中庭まで来ている。

 

 

「まだ30分以上あるな。この木陰で一眠りするか……」

 

 

 普通ならあの程度の睡眠でも俺の活動になんの支障もないのだが、あんな変な夢を見さされ途中で何度も起こされてしまえば当然眠気も覚めることはない。さらにあの夢のせいで性的欲求が溜まってしまい、学院内なのでそれを処理をできない悪循環に陥っていた。

 

 

「ぐっすりと寝られればすべて解決するんだ。流石にもうあんな夢を見ることもないだろ。3回も見たしな……」

 

 

 穂乃果たちが必死に俺の上で腰を振っている姿が、未だに脳裏に焼きついて離れない。将来、自分の見た夢を動画として保存できる未来が来るといいな……。

 

 

 なんて馬鹿なことを考えている間にも、木陰で横になった俺はすぐに夢の世界へ引きずり込まれてしまった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 突然だが、気付いたら身体全体に温もりが走っていた。

 布団に包まっているだけなのに、まるで抱きつかれているかのような束縛感。夏の夜の蒸し暑さをさらに掻き立てるこの温もりは、むんむんとした熱気と共にどこか濫りがわしい匂いを醸し出している。そして、隣から吐息のような可愛い寝言が俺の耳を優しく刺激する。

 

 

 

 

 ――――この状況……もしかして!!

 

 

 

 

「すぅすぅ……零、にこをもっと……」

「すぅすぅ……零君、ウチのそこ、勝手に触ったら……!!」

「すぅ……零、あなたの大きい……」

 

 

 

 この特徴のある高音ボイスから漏れ出す寝息に聞くだけで包み込まれるような母性のある寝息、そして規則正しそうだがどこか頼りない寝息は聞いたことがある。

 

 

 にこに希、絵里だ。

 

 

 ――――って、にこに希に絵里!?

 遂に俺の脳が現状は異常だと察知し、目が強制的に開かれる。

 

 

 

 

 ――――これは……見慣れたあの光景なのでは!?

 

 

 

 

「すぅすぅ……」

「にこ!?お前何してるんだ!?」

「あっ、おはよう零。昨日は激しかったわね♪」

「な、なんだと……」

 

 

 やはりと言うべきか、にこは生まれたままの状態だった。布団に覆われて身体全体は見えていないのだが、肩を見るだけでも上半身に何も着ていないのは明白だ。ということは確実に下も……?

 

 にこの顔は赤く火照っており、目の焦点も合わず目元は垂れきっている。まだ昨日の夜の余韻が残っているかのように、『はぁ』とどこか卑猥な吐息を出しながら俺に迫ってきた。

 

 み、見えた!!もはや果実と言っていいのか怪しいにこの膨らみが!!もはや効果音すら似合わないが、自分の彼女のその姿だけでも心底興奮できる。

 

 

 

 

 ――――やっぱりこれは例のアレか!?

 

 

 

 

「な、なななっ……!!」

「零、もう一度……しちゃう?」

「お、俺たちまさか……!?」

「昨日はあんなににこを愛してくれたから、今日はにこが零を1日中愛してあげるわよ♪」

「う、嘘だろ……!?」

「にっこにこに~、で一緒に果てましょう♪」

「ぐぅううううううううううううううううううう!!」

 

 

 

 

 俺は……俺は……にこと……!!

 

 

 

 

「待って!!今度はウチの番や!!」

 

 

 ――――知ってた。

 

 

 もちろん希も生まれたままの状態だった。布団に覆われて身体全体は見えていないのだが、肩を見るだけでも上半身に何も着ていないのは明白だ。ということは確実に下も……。

 

 希の顔は赤く火照っており、目の焦点も合わず目元は垂れきっている。まだ昨日の夜の余韻が残っているかのように、『はぁ』とどこか卑猥な吐息を出しながら俺に迫ってきた。

 

 み、見えた!!希の豊満過ぎるほど豊満な果実が!!"ぶるん"という効果音が似合う、今にもむしゃぶりつきたくなるおっぱいだ。

 

 

「は、鼻血がっ……!!」

「零君、もう一度……しちゃう?」

「お、俺たちやっぱり……!?」

「昨日はあれだけウチを愛してくれたから、今日はウチの愛をたくさん注いであげるね♪」

「う、嘘だろ……!?」

「零くんのスピリチュアルパワー、たっぷり味わっちゃおうかな♪」

「ぐぅううううううううううううううううううう!!」

 

 

 

 

 俺は……俺は……希と……!!

 

 

 

 

「ちょっと待って!!私を蚊帳の外にしないで!!」

 

 

 ――――はい。

 

 

 もう驚くことではないが、絵里も生まれたままの状態だった。布団に覆われて身体全体は見えていないのだが、肩を見るだけでも上半身に何も着ていないのは明白だ。ということは恐らく下も……。

 

 絵里の顔は赤く火照っており、目の焦点も合わず目元は垂れきっている。まだ昨日の夜の余韻が残っているかのように、『はぁ』とどこか卑猥な吐息を出しながら俺に迫ってきた。

 

 み、見えた!!絵里の俺の手から溢れ出るであろう果実が!!"ぶるん"という効果音が似合う、美乳と巨乳の両方を兼ね備えた最高のおっぱいだ。

 

 

「こ、これはまた……!!」

「零、もう一度……する?」

「お、俺たちまさか……!?」

「昨日はあれだけ私を愛してくれたのに、忘れちゃったの……?」

「え、そ、それは……」

「今日は私の番よ♪絶対に寝かせてあげないんだから♪」

「ぐぅううううううううううううううううううう!!」

 

 

 俺は……俺は……絵里と……!!

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「あ゛ぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

「わっ!?」

「れ、零君!?」

「ど、どうしたのお兄ちゃん……?」

 

「な゛っ!?お前らか……」

 

 

 またしてもあの夢に睡眠を邪魔され目を覚ますと、目の前に雪穂、亜里沙、楓の1年生組が俺の顔を不思議そうに覗き込んでいた。3人の膝の上には弁当が置いてあるため、どうやらここで昼食を取っているらしい。

 

 

「どうしてここに……?」

「どこでお弁当を食べようか迷ってたら、廊下からお兄ちゃんが寝ているのが見えてね、どうせならお兄ちゃんの寝顔を堪能しながら食べようってことになったんだよ♪」

「雪穂も亜里沙も、それを承諾したってことか……」

「そ、それはぁ~……そのぉ~……」

「…………」

 

 

 俺が2人に目を向けた瞬間、雪穂と亜里沙の顔が真っ赤に染め上がった。

 亜里沙は意味不明な呪文を詠唱しているかのようにゴニョゴニョと何かを呟き、雪穂に至っては全く喋らない。ここにいるってことは、俺の寝顔を見てたってことじゃねぇか。隠す必要ねぇだろ……。

 

 

 

 

 そして俺はここで、よからぬ妄想を思いついてしまう。

 

 

 

 

 この3人をあの夢のシチュエーションに出演させたらどうなるのかと……。

 

 

 

 

 だ、ダメだダメだ!!穂乃果たちは俺の彼女だからまだ許される!!だがコイツらは彼女でもなんでもないんだぞ!?しかも楓は実の妹だし!!振り払え振り払えこんな妄想!!まだ純粋無垢であろう雪穂に亜里沙、実妹である楓をこんな淫乱な妄想に出演させるなんてダメだ!!

 

 

 だがもう妄想は止まらない。俺の意思に反して、あの夢で起きていたことと同じシチュエーションが脳内で再生される。もちろん出演者は目の前の3人。ダメだと分かっているのに、妄想はどんどん俺の頭の中を支配していく。さらに妄想の中の3人が甘く俺を誘ってくる。

 

 

 こうなったら……耐えきるしかない!!

 

 

 そして今度は夢の国ではなく、完全に自分の妄想の世界に連れ去られてしまった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 突然だが、気付いたら身体全体に温もりが走っていた。

 布団に包まっているだけなのに、まるで抱きつかれているかのような束縛感。夏の夜の蒸し暑さをさらに掻き立てるこの温もりは、むんむんとした熱気と共にどこか濫りがわしい匂いを醸し出している。そして、隣から吐息のような可愛い寝言が俺の耳を優しく刺激する。

 

 

 

 

 ――――ダメだ、やってはいけない。

 

 

 

 

「すぅすぅ……零君、えへへ……」

「すぅすぅ……だめです零くん、そこは……!!」

「すぅ……お兄ちゃん、美味しいねぇ~……」

 

 

 

 このクールだがどことなく幼い寝息に若干黒に染まっている天使の寝息、そして何が美味しいのか問いただしたい、近親相姦モノの寝息は聞いたことがある。

 

 

 雪穂に亜里沙、楓だ。

 

 

 ――――って、雪穂に亜里沙に楓!?

 遂に俺の脳が現状は異常だと察知し、目が強制的に開かれる。

 

 

 

 

 ――――ダメなんだ、これ以上は……!!

 

 

 だが俺の抵抗も虚しく、妄想は俺にいつも通りの展開を見せつける。

 

 

 

 

「すぅすぅ……」

「雪穂!?お前何してるんだ!?」

「あっ、おはよう零君。昨日は激しかったね♪」

「な、なんだと……」

 

 

 もう言うまでもなく、雪穂は生まれたままの状態だった。布団に覆われて身体全体は見えていないのだが、肩を見るだけでも上半身に何も着ていないのは明白だ。ということは確実に下も……?

 

 雪穂の顔は赤く火照っており、目の焦点も合わず目元は垂れきっている。まだ昨日の夜の余韻が残っているかのように、『はぁ』とどこか卑猥な吐息を出しながら俺に迫ってきた。

 

 み、見えた!!果実かどうか怪しいが、とりあえず果実にしておこうと思うくらいの雪穂の膨らみが!!でも一応"ぷるん"と揺れるくらいにはあるおっぱいだ。

 

 

 

 

 ――――やめろぉおおおおおおおおお!!止まってくれ、俺の妄想!!!!

 

 

 

 

「…………」

「零君、もう一度……しちゃう?」

「お、俺たちまさか……!?」

「昨日はあんなに私を愛してくれたから、恥ずかしいけど、今日は私の番だね♪」

「う、嘘だろ……!?」

「好きだよ、零君♪」

「ぐぅううううううううううううううううううう!!」

 

 

 

 

 俺は……俺は……雪穂と……!!

 

 

 

 

 ――――ダメだぁあああああああ!!

 

 

 

 

 

「待って!!今度は私の番です!!」

 

 

 ――――お、俺はこんな愛くるしい天使を今から!?

 

 

 もちろん亜里沙も生まれたままの状態だった。布団に覆われて身体全体は見えていないのだが、肩を見るだけでも上半身に何も着ていないのは明白だ。ということは確実に下も……。

 

 亜里沙の顔は赤く火照っており、目の焦点も合わず目元は垂れきっている。まだ昨日の夜の余韻が残っているかのように、『はぁ』とどこか卑猥な吐息を出しながら俺に迫ってきた。

 

 み、見えた!!去年とは大違いの熟した亜里沙の豊満な果実が!!"ぷるん"という効果音が似合う、今にもその先端にむしゃぶりつきたいおっぱいだ。

 

 

「あ、亜里沙、俺は……」

「零くん、もう一度……しちゃう?」

「お、俺たちやっぱり……!?」

「昨日はあれだけ私を愛してくれたのですから、今日は私の愛をたくさん受け取ってくださいね♪」

「う、嘘だろ……!?」

「大好きです、零くん♪」

「ぐぅううううううううううううううううううう!!」

 

 

 

 

 俺は……俺は……亜里沙と……!!

 

 

 

 

「ちょっと待って!!私もいるんだから!!」

 

 

 ――――お、お前はダメだ!!だが声が出ない!!もしかしたら俺、どこかで期待してる……!?

 

 

 楓の生まれたままの状態に、妄想の中ながら鼻血を吹き出しそうになる。布団に覆われて身体全体は見えていないのだが、肩を見るだけでも上半身に何も着ていないのは明白だ。ということは恐らく下も……。

 

 楓の顔は赤く火照っており、目の焦点も合わず目元は垂れきっている。まだ昨日の夜の余韻が残っているかのように、『はぁ』とどこか卑猥な吐息を出しながら俺に迫ってきた。

 

 み、見えた!!俺の手から溢れ出るであろう、いつの間にか急成長を遂げていた楓の果実が!!"ぶるん"という効果音が似合う、俺の期待に応えて育った最高級のおっぱいだ。

 

 

 

 

 ――――じ、実妹に添い寝されている妄想をするなんて……!!

 

 

 

 

「くっ、俺は、俺はぁああああ!!」

「お兄ちゃん、もう一度……する?」

「お、俺たちまさか……まさか!?」

「昨日あれだけ私をめちゃくちゃにしたのに、あまりにも激しすぎて忘れちゃったのかな……?」

「え、そ、それは……」

「別にいいよ。だって今日はお兄ちゃんが昇天するまで愛してあげるんだから……♪」

「ぐぅううううううううううううううううううう!!」

 

 

 俺は……俺は……楓と……!!

 

 

 

 

 ――――少なくとも雪穂たちはいい。だが楓とはこれ以上……!!

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「許してくれぇええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

「えぇ!?」

「零君!?」

「お、お兄ちゃんどこ行くの!?お兄ちゃあああああああああああん!?」

 

 

 俺は自分の脳内で無慈悲に展開されていた妄想から自責の念に駆られ、その場から走って離脱してしまった。なんとか妄想の中で最悪の事態は回避できたものの、少しでも気を抜けばさっきの続きが展開されそうなので、とりあえず叫び続けながら学院内を走り回る。

 

 

「うわぁあああああああああああああああああああああ!!ゴメン!!みんな色々とゴメン!!今までのセクハラ行為もすべて謝るから!!懺悔するからぁああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 これから俺は、アイツらをどんな目で見ればいいんだよぉ~~!!!!

 

 




 まずは幻となった第72話に関して。
 8月18日21時に『朝起きたら、9人の彼女とその妹たちが俺の上で腰を振っていた』というタイトルで第72話を投稿したのですが、内容不適切により削除しました。
投稿されていた時間は僅か3時間でしたが、その間に読んでくださった皆さんと感想をくださった方には本当に申し訳ないことをしてしまい誠に済みませんでした。

 投稿前は"危険"と感じないくらい、踏み越えてはならないラインを軽視していました。これからは規則と秩序を守りつつ、"健全"なR-17.9を目指していきますので、これからも応援してくださると嬉しいです。

 また『その小説を見たい!!』と思われる方がいるかもしれませんが、感想欄でその旨だけを要求するのだけはご遠慮させて頂きます。要求するなら本編の感想のついでにでも。


 さてここからはいつものテンションで。


 こうしてまた72話が訪れるとは思いませんでした。まさか『072』回を2回もやるとは、この小説たる所以なのでしょうか(笑)
こうなったら『081』も何か考えないといけないですね……


 幻の72話でもやったことなのですが一応。
 先日、評価者数が40人を超えました。最近感謝の言葉すら述べなくなってきたので、この場を借りて感謝の言葉を。

高評価者様方(敬称略)

信濃 六月、スプレッド、崩葉 dolly 9回裏から逆転 黒と緑の腕時計 、BEN_MARU、准尉、バロミデス、としぱす、クロの助、シロカナタ、小魔王パタポン、流麗なアリス、K-Matsu、ノブナガ☆☆、ノリヒコ、かずもん、怒りに満ちた瞳、バイラス、BFダーバー、赤々、ウォール@変態紳士、一条 凛、通りすがりの二次好き、エルニーニョ、夜刀様万☆歳、たまドラ、翡翠@専門、博麗零斗、U矢、橘祐希

ありがとうございました!!


 こちらも一応。
 また宣伝として、以前コラボを組ませて頂いたちゃん丸さんの小説『ラブライブ!平凡と9人の女神たち』と再びコラボすることが決定しました!!
ただし投稿日時や話のネタなどはお互いまだ何も決まっていないという惨状なので、気長にお待ちください(笑)


 次回のタイトルは『ラブライブクエスト!』
 勇者の零君に魔法使いの穂乃果ちゃん、僧侶のことりちゃん、そして……ビキニアーマー戦士の海未ちゃん!?


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラブライブクエスト1~ようこそRPGの世界へ!~

 今回は今までとは話の趣向がガラリと変わり、零君たちがRPGゲームの世界へダイブします!

 国民的RPGである『ドラゴンクエスト』を主体に敵や魔法が登場します。もちろん知らなくても楽しめます!
※ドラクエでは呪文ですが、この話では分かりやすく表記を魔法に統一


 それでは『ラブライブクエスト』、略して『らぶくえ』編スタートです!


 まただ……またしてもアイツの遊びに巻き込まれてしまった。

 しかも今回は今までとは違う。そう、今俺たちがいる場所は――――ゲームの世界らしい。

 

 ちなみに俺と一緒にいるのは穂乃果、ことり、海未の3人だけ。俺たち4人はそれぞれ神殿の台座のようなものの上に立たされ、顔や腕を動かすことができるが脚は動かすことはできない状況だ。周りは青黒い背景が水のようにゆらゆらと揺れていて、それだけでここが仮想空間であることを思い知らされる。

 

 

「どうしてこうなったんだっけ……?」

「確か、穂乃果たちみんなで一緒に大学の教室を借りて勉強をしていたら……」

「急に穂乃果ちゃんが眠いって言い出したんだよね。そのあとことりたちも段々眠たくなってきちゃって……」

「気が付いたら、私たち4人だけがここにいると……」

「そして俺たちはこう結論付けたんだったな。こんなことをするのは奴だけだろうと……」

 

 

 まあこんな感じだ。穂乃果の言った通り、俺を含めたμ'sメンバーが全員いたはずなんだけど、ここにいるのは俺たちのみ。一体どうすんだよこの状況……。

 

 

 ちなみにこの世界をゲームだと断定できたのは、俺たちの目の前に謎のステータス表示があるからだ。まだ数値は表示されていないが、プレーヤー名にそれぞれ平仮名で『れい』『ほのか』『ことり』『うみ』と書かれている。その下には『レベル1』と表記されていることから、ここはRPGの世界だとすぐに理解することはできた。

 

 唯一理解できないのは、秋葉の頭の中だけだ……。

 

 

「ん?選択肢が表示されてる?」

「ホントだ!!なになに、職業を選んでください……だって!!」

「しょ、職業、ですか……?」

「なるほど俺たちがプレイヤーだから、自分の就く職業を選んでゲームを開始しろってことなのか」

 

 

 俺たちの目の前に突如として現れた選択肢。そこには『しょくぎょうをえらんでください』と表記され、その下には王道RPGならではの職業が並んでいた。

 

 アイツの言いなりにゲームを進めるのは癪だけど、ゲームに参加しない限りここから出ることはできないだろう。ここにいないみんなのことも気になるしな。

 

 

「戦士に魔法使い、僧侶……すごーーい!!どれにしようかな?」

「ことりはファッションデザイナーがいいな♪」

「流石にそんなのはねぇだろ……」

「あったよ!!」

「なにィ!?!?」

 

 

 職業欄をスクロールしていくと、本当にありやがった……。しかもスクールアイドルや和菓子屋の店員など、RPGにおいて役に立つのか全くもって意味不明の職業が名を連ねている。こうして見るとまともな職業の方が少ねぇじゃねぇか!!しかもスクールアイドルって職業なの!?

 

 

「クリアするだけなら普通の職業にしようぜ。もちろん俺はこれ一択だけどな」

「勇者か、零君らしいね!!じゃあ穂乃果は魔法使いにしようかな、頭良さそうだし」

「頭悪いのに?」

「直球すぎるよ!!もうちょっと捻れなかったの!?」

「大変申し上げにくいのですが、頭の方が少しおかしいのではないでしょうか?」

「丁寧に言えばいいってものじゃないよ!!それにそっちの方がヒドイ!!」

 

 

 ゲームの中ぐらいでは、魔法使いのような頭脳明晰キャラでいたいという訳か。でも俺には穂乃果が肝心なところで魔法を失敗する、ドジっ子魔法使いにしか見えない。でも穂乃果ならどの職業でもそうなっちまうだろうがな……。

 

 

「じゃあことりはみんなを癒す僧侶にしようかな。僧侶って回復魔法とか使えるんだよね?」

「ああ。パーティに1人はいてほしい人材だ」

「ことり、零くんの使える女になれるかなぁ?」

「言い方を変えてもらってもいいですかねぇ!?」

「えぇ~いいと思うんだけどなぁ~」

「女って怖い……」

 

 

 ことりって、持ち前の笑顔と声で簡単に男を騙せそう。天使の笑顔で近付いて来て、あま~い脳トロボイスで男を陥落させる。そして貢ぐだけ貢がせて、途中でポイと。恐ろしい女だ……俺も騙されてないだろうな……?

 

 

「私はRPGに詳しくないのですが、どれを選べばいいのでしょう……?」

「勇者、魔法使い、僧侶ときたら"戦士"だろ。王道だし」

「せ、"戦士"ですか?あまり私には似合いそうにありませんが」

「そうか?しなやかに振舞う剣技、気品煽るるフォーム、お前だからこそできる職業だと思うが」

「そうですか、それではそれにしましょうか」

 

 

 海未は職業欄の一番上にあった"戦士"をタッチする。

 これで俺たちの職業がすべて出揃った。俺はもちろん"勇者"。穂乃果は似合わない"魔法使い"。ことりは癒しの"僧侶"。海未は美しい"戦士"。王道と言えば王道だが、アイツが仕組んだゲームをプレイする以上、スクールアイドルやら和菓子屋やら変な職業を選ぶ方が間違ってるだろ。何か仕組まれてそうだし……。

 

 

 そして俺たちの目の前に、『ミッション:このゲームをクリアせよ』と最終目標が提示された。その下には『ゲームが開始されます』と書かれた文章と『OK』と書かれたボタンが表示されている。

 

 

「これを押せば穂乃果たちの旅が始まるんだね。楽しみ~♪」

「みんなと一緒に旅ができるなんて、楽しそう♪」

 

 

 穂乃果とことりは今に始まりそうなゲームにワクワクと期待の笑顔を浮かべているが、海未だけは心配そうに怪訝な表情を見せていた。

 

 

「穂乃果もことりも気楽ですね。ここからどうなるのか分かったものではないというのに……」

「確かにそうだが、もうこの際だからパーッと楽しんだ方がよさそうかもな」

「そ、そんな呑気なことを……」

「そこまで神経質になることないだろ。滅多にない機会だと思って楽しめばそれでいいじゃん。それに、危なくなったら俺が守ってやっから」

「そうですか、それなら……お願いしますね♪」

「ああ、任せろ!!」

 

 

 ようやく海未の顔にも笑顔が戻ったか。そうだよ、どう足掻いてもこのゲームの世界からはクリアしないと抜け出せないんだ。この際余計な心配は捨ててゲームの世界へ洒落込むぜ!!

 そういや、このゲームもしHPが0になって死んじまったらどうなるんだ?

 

 

 …………だ、大丈夫!!俺がいればそんなこと起きやしないって!!

 

 

「よしっ!!それじゃあ行くか!!」

「「うん!!」」

「はい!!」

 

 

 そして俺たちは4人同時に『OK』のボタンにタッチする。

 その瞬間。俺たちのタッチパネルから目が眩むような光が放出された。

 

 

「こ、これは!?」

「ま、眩しい!!」

「きゃあっ!!」

「うっ!!」

 

 

 状況を理解する間もなく、俺たちの意識は再びそこで途切れた。そしてこれが、壮大な冒険の幕開けとなる!!――――のか?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ん?ここは……?――――って、なんじゃこりゃ!?」

 

 

 目が覚めると、俺の目の前には果てしなく続く草原が広がっていた。空は快晴の青空で、気温も程よくポカポカして気持ちがいい。さらに吹き抜ける風はのどかで心地よく、草原を一定のリズムで起伏させる。遠くには西洋風のお城がそびえ立っているのが見え、この世界がゲームの世界なのだと認識させられた。

 

 

「うぅ~ん……ここは――――って、すごーーい!!」

「ホントだ!!こんな鮮やかな緑の草原なんて初めて見たよ!!」

「綺麗……ですね。これ以上の言葉が出ません」

 

 

 俺の後ろから穂乃果たちの声が聞こえる。どうやら3人も目が覚めたと同時に、目の前の広大な草原を見て心を奪われたらしい。

 ゲームの世界だというのに、踏みしめる大地もそよぐ風も違和感はなく俺たちの住む現実世界のようだ。俺たちがもたれ掛かっていた木もまるで本物みたいな手触りがある。

 

 

 だがいつまでもここにいる訳にはいかないので、俺は振り返って穂乃果たちの様子を確認する。

 

 しかし、そこで俺はみんながコスプレをしていることに気が付いた。

 

 

「お、お前ら!!なんて格好してんだ!?」

「へ……?あっ、ホントだ!?穂乃果、こんな服着てなかったよ!?」

「ことりもだ。それに零くんもだよ!?」

「えっ!?あっ、全然気付かなかった。マジかよ……」

 

 

 俺は青い上着に紫のマントを纏い、頭には銀色の冠、靴は茶色のブーツと、某国民的RPGの勇者そのものの格好をしていた。もちろん剣と盾も付属している。ちなみにどちらも結構軽く、持ち運びに苦労することはなさそうだ。

 

 穂乃果は緑のローブにオレンジ色のマント、さらに魔法使いを象徴するかのような黒いトンガリ帽子を被っている。腰に身に付けているものは杖のようだ。僅かだがその杖からは魔力っぽいものが感じられる。これもゲームだからか……。

 

 ことりはオレンジ色の服、さらにその上には聖職者を意味する十字架の書かれた上着を羽織っており、頭は司祭のような少し背の高い帽子を被っている。武器は殴る目的で使われる杖、いわゆるロッドというやつだろうか。

 

 

 

 

 これで全員……じゃねぇ!!

 

 

「おい、海未はどこへ行った?」

「あれ?さっきまで近くにいたんだけど……お~い!!海未ちゃ~ん!!」

「あっ、あそこにいたよ!!」

 

 

 ことりの指差した先を見てみると、海未が顔だけをこちらに覗かせ涙目になりながら木の陰に隠れていた。

 まさかゲームの世界が怖いとか……?でもさっき普通にこの広大な草原を見て感動してなかったっけ?

 

 

「そんなところで何してんだよ。もう出発するぞ」

「い、いやです……」

「はぁ!?どうして?」

「もう少しだけ時間を……」

「なんだよ決まりが悪りぃな」

 

 

 海未は駄々をこねるだけで一向に木の陰から動こうとしない。ゲームの世界が怖いのかはたまた緊張しているのかは知らねぇけど、とりあえずここから動かないとゲームの攻略ができねぇだろうが。

 

 俺ははぁ~と溜息をついたあと、海未を引っ張り出すために木陰へ歩を進める。

 

 

 だがそこで海未の顔が、俺が今まで見たことのないくらいに引きつった。

 

 

 

 

「来ないでください!!!!」

 

 

 

 

 ガーーーーーーーーン!!!!

 

 

 女の子からそこまで近付くことを否定されると、流石の俺でも心を貫かれる。グサッと矢が刺さっているみたいだ!!しかも相手は自分の彼女だし……そこまで大声で、そして涙目で否定することないじゃんかよぉ~!!

 

 

「よしよし零くん♪」

「ことりぃ~!!」

「もうっ!!海未ちゃんヒドくない!?零君泣いちゃったじゃん!!」

「穂乃果ぁ~!!」

 

 

 俺はことりの胸に顔を埋め、自分の彼女に傷つけられた痛みを癒す。

 むっふ♪なんとふかふかな枕だ!!ゲームの世界だっていうのにおっぱいの柔らかさはそのままなのか!?この感触に香ばしい匂い、これはまさしく普段から堪能していることりのおっぱいそのものだ!!

 

 こうなったら勇者という権限を利用して、町娘たちと一緒にキャッキャムフフなことを……!!

 

 

「ひゃん♪零くん暴れすぎだよぉ~♪」

「むぐぅ!!そう言う割には、むぐっ、自分からおっぱいに俺を、むぐっ、押し付けてるじゃねぇか!!い、息苦しい!!」

「ことりちゃんズルいよ!!穂乃果にも変わって!!」

「え~~ヤダ」

「むぅ~~!!」

 

 

 お~お~2人共俺を取り合うなよ。俺としては穂乃果のおっぱいに埋もれようが、ことりのおっぱいに埋もれようがどっちでもいいけどな。どっちも俺ために大きくしてくれているみたいだし。でもできれば2人のおっぱいに挟まれるのがいい。いやぁ~モテるってイイね!!

 

 それにしてもゲームの世界だっていうのに、俺たち現実世界とやってること変わってなくね?

 

 

 

 

 

「あなたたち!!こんなところまできて、よくもそんな破廉恥なことを!!!!」

 

 

 

 

「あ……」

「あ……」

「あ……」

 

 

「……ハッ!!」

 

 

 俺たちがじゃれ合うのは分かる、それを見て海未が怒るのも分かる。俺たちが驚いたのはそこじゃない。

 海未は俺たちを引き剥がそうと木陰から飛び出してきたのだ。そして俺たちは今まで隠されてきた海未の姿を見て驚愕する。海未も血が上っていたのか、自分の失態に気付き顔がみるみる赤くなった。

 

 

 これは、これは……!!

 

 

 海未の格好は羽の付いたピンクの兜にピンクの鎧、手袋もピンクでブーツもピンクというピンク好きのにこが見たら大歓喜しそうな派手過ぎる装備だ。しかし驚くのはまだ早い。なんとこの鎧、胸と股の部分しか身体を覆うところがなく、もはや鎧とは言い難いくらい全体の面積が少なかった。まるでビキニのような……。

 

 

 そうか、これが俗に言う"ビキニアーマー"と言うモノなのか!!まさか"ビキニアーマー"を生で見られる日が来ようとは!!や、ヤバイ!!鼻に血が溜まる……!!

 

 

 うぐぅ!!な、なんて破壊力満点なんだ!!普段際どいコスプレをしたがらない海未だからこそ、俺の秘められていた欲求が解放される。まさかあの海未の控えめな胸の谷間に、思いっきり手を突っ込んでやりたいと思ってしまうとは……!!

 

 

 しかしそこで、自ら近付くなと叫んだ海未が俺の元へ全速力で走ってきた。

 

 

 

 

 両手で剣を握りながら――――――

 

 

 

 

「は、破廉恥です!!」

「うぉいっ!!いきなり剣を振り回すな!!」 

 

 

 間一髪、剣先が鼻の頭に当たるスレスレのところで回避することができた。だが海未は顔を真っ赤にしながら、何故か俺だけを執拗に追いかけて剣をブンブンと振り回す。パーティアタックとかありかよ!?!?

 

 

「落ち着け!!似合ってるから!!恥ずかしがる必要はない!!」

「だったら逃げないでください!!一生私の姿を見られないよう、早急にその眼を潰してあげますよ!!」

「俺何もやってないだろうがぁああああああああああああああ!!」

 

 

 穂乃果とことりも『海未ちゃん可愛いよ』『海未ちゃんカッコいいよ』などの褒め言葉で海未の怒りを沈めようとするも、コイツの耳には一切入っていないようだ。もはや俺を殺るためだけに全身全霊を掛けている。流石に俺から海未に攻撃することは自分の信念が許さないので、彼女の華麗なる剣技を回避しつつ逃げるしかない。

 

 

 ――――ていうかコイツ、剣持つの初めてなんだよな!?どうしてこんなにもしなやかな剣技なんだよ!?今まで絶対何人か殺ってきてるだろコレ!?

 

 

 

 

 海未の様子を伺うために後ろを向きながら走っている、その時だった。

 

 

「うわっ!!」

 

 

 俺はその場でドスンと大きな音を立てて転んでしまった。

 

 

 今まで踏みしていた地面もかなり柔らかかったのだが、俺が今踏んだ地面だけはやたらヌメヌメとしていた。海未から逃げることに必死だった俺は、そのままバランスを崩して滑り転んでしまったのだ。

 

 こののどかな草原に、まさか湿地になっているところでもあったのか……?そんな風には見えなかったけど……。

 

 

「いってぇ~~……一体なんだったんだ?」

「零、大丈夫ですか?」

「零君大丈夫!?」

「あっ、今こそことりの出番だね。回復回復!!」

「いや、HPは減ってないみたいだぞ」

 

 

 言い忘れていたが、俺たちの隣には常にウインドウが表示され、レベルやHP、MPなどのステータス情報はいつでも見られるようになっている。

 

 

れい:ゆうしゃ

レベル1

HP30 MP10

 

ほのか:まほうつかい

レベル1

HP15 MP20

 

ことり:そうりょ

レベル1

HP20 MP15

 

うみ:せんし

レベル1

HP40 MP0

 

 

 

 

「ほっ、よかったぁ~」

「それにしても、このヌメヌメしたのはなんなんだ……?」

 

 

 俺は先ほど滑って転んでしまった場所を散策する。

 するとそこには、何やらプルプルと震えるゼリー状の物体が蠢いていた。剣でツンツン突っついてみると、そのプルプルの震えはさらに激しくなる。そしてそのゼリー状の物体は我慢できなくなったのか、遂に草むらから飛び出した!!

 

 

 もしかしなくても分かる。RPGの一番初めの敵を言えば、まさにコイツだ!!

 

 

 

 

『スライムが現れた!!』

 

 

 

 

「わっ、スライムだ!?すご~い!!」

「どうやら安眠を妨害して怒らせちまったみたいだな……」

「わぁ~これがRPGの戦闘かぁ~♪」

「き、緊張します!!」

 

 

 俺たちは先ほどのビキニアーマー騒動なんて忘却の彼方へ忘れ去り、目の前の敵との戦闘に集中していた。

 俺たちにとってこれがゲーム世界での初戦闘。海未のように緊張してしまうのも分かる。逆に穂乃果とことりはこの世界に来てからも、この戦闘もめちゃくちゃ楽しんでいるが。

 

 

「よし、俺も初戦闘ってことで俄然やる気が出てきた!!俺の相手にしては力不足だが、肩慣らしってことで許してやろう」

「力不足って、私たちみんなレベル1でしょう……」

「どうだっていい!!じゃあみんなは俺の先制攻撃のあとに続いてくれ。行くぞ!!」

 

 

 そう意気込んで、俺が前へ出ようとしたその瞬間。

 

 

 

 

「零くんダメぇええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

『ことりの攻撃!!』

 

 

 ドゴォ!!っと、何故か俺にロッドが叩きつけられた!!

 

 

「ぐぼぉああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

『会心の一撃!!れいに10ダメージ!!』

 

 

れい

HP20

 

 

「れ、零君!?」

「零!?」

 

 

 俺はことりから振りかざされたロッドにより、軽く数メートル飛ばされた。仮想空間なので幸い痛みは感じないのだが、全身にかなり強い衝撃が走る。

 

 何考えてんだあの鳥頭はぁあ゛あああああああああああああああああ!?脳内ラブホテルだからじゃあ済まされねぇぞ!!

 

 

「ことり!!一体なにすんだ!?」

「こんな可愛い子をイジメるなんて、ことりできないよ!!」

「いや、ソイツ敵だからな……」

「敵であっても、可愛いから攻撃したくないもん」

「俺のHPが減っているのはいいのかよ……」

「少しくらいならいいかな?」

「即答かよオイ!!せめて少しは迷え!!」

 

 

 ことりの可愛いもの好きがこんなところでアダになるとはな……このまま初戦闘でゲームオーバーとかシャレにもならねぇぞ。しょうがない、ことりにはちょっと休んでいてもらうか。

 

 

 俺はことりの後ろに素早く回り込み、身体をガッチリとホールドした。

 

 

「れ、零くん!?」

「初戦闘で敗北だけは避けたい。だから大人しくしてろ」

「ダメ!!スライムちゃん逃げてぇええええええええええええええええええええええ!!」

「スライムちゃんって……穂乃果!!今のうちだ!!」

「よ~し!!ここで真打登場だね!!」

 

 

 初戦闘で、しかもスライム1匹に真打が登場するパーティとは一体……。

 今度は穂乃果が前線に出て杖をスライムに向ける。

 

 

「一度でいいから魔法を使ってみたかったんだ♪子供の夢だよね!!」

「いいから早くしろ!!ことりがうるさいから」

「スライムちゃぁああああああああああああああああああああああん!!」

「分かってる!!いくよスライムさん、覚悟!!」

 

 

 穂乃果はウインドウ画面から魔法を選んだあと、杖をスライムに向かって大きく振りかざす。

 

 

『ほのかの攻撃!!』

 

 

すると杖の先から真っ赤な火の玉がスライム目掛けて一直線に放出される。火の玉はあっという間にスライムを包み込み、そのまま跡形もなく焼却してしまった。敵の姿がゲームのようにパッと消えたからよかったものの、想像すると中々にエグいな……。

 

 

『スライムに12のダメージ!!スライムを倒した!!』

『れいたちは戦闘に勝利した!!それぞれ1の経験値を獲得!!』

 

 

「ゴメンねスライムちゃん……ことりたち、あなたの経験値でもっともっと強くなるからね」

「悲愴感漂いすぎだろ!!俺たちまで心苦しくなるからやめてくれ!!」

 

 

 可愛い系のモンスターとの戦闘の度にいちいちやるのかよ……面倒だなオイ!!これは意外にもことりのせいで前途多難になりそうだぞ……。

 

 

「ホッ、無事に終わってくれて何よりです」

「そういやお前、ずっと黙ってたな」

「仕方ないでしょう!!こんな格好を見られたくないんですから――――ハッ!!」

「もう堂々と俺の前にいるけどな」

「零ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

「危ねぇ!?だからなんで剣を振り回す!?」

 

 

 海未は再び剣を両手に持ち、俺に向かってブンブンと振り回し始めた。

 また追いかけっこするのかよ!!しかも俺はさっきの戦闘(ことりによる)でHP減ってんだぞ!?馬鹿力の戦士の攻撃を受けたらどうなるか分かったものじゃねぇ!!

 

 

「何とかしてくれ穂乃果!!」

「うんっ!!海未ちゃん、頭冷やそうね!!」

「オイなぜ杖を使う!?普通に止めてくれればいんだぞ!?」

 

 

 穂乃果は何故か杖を使って海未を止めようとしていた。もう杖の先端に火の玉が見え始めている。

 しかも……さっきより火の勢い強くないか!?穂乃果の奴、もしかして制御できてない!?

 

 

「そんなこと言ったって、もう止まらないよぉおおおおお!!零君どうしたらいいの!?」

「ちょっと!!だからってこっちに杖を向けんな!!火の玉飛んでくるだろ!!」

 

 

 だが、時すでに遅し……。

 

 

『ほのかの攻撃!!』

 

 

「あっちぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

『れいに15ダメージ』

 

 

れい

HP5(ピンチ!!)

 

 

「やっべ、死にそう!!」

 

 

 そういやゲーム開始の直前、HPが0になったらどうなるのか想像していたことを思い出した。まさかあれから数分で想像が現実になる時が来ようとは!?冗談じゃねぇぞ!!アイツらふざけやがって!!

 

 

「待ちなさい零!!」

「スライムちゃ~ん……しくしく」

「あはは、失敗失敗♪やっぱりまだ慣れないねぇ~」

 

 

 理不尽な理由で俺を追いかけ回す海未。未だ悲壮に溢れかえっていることり。そしてやはりドジっ子魔法使いだった穂乃果。もしかして、今回マトモな人間って俺だけ!?

 

 前言撤回。これはコイツらのせいで前途多難の旅になりそうだ……

 

 

 

 

 こんな調子で、本当にゲームクリアなんてできるのかよ!?

 

 

 

 

To Be Continued……




 このパーティでゲームをクリア出来る気がしない人挙手。


 今回から数話を掛けてらぶくえ編となります。明確な話数は決めていませんが、恐らく全5話程度の長編になるかもしれません。短編集とはなんだったのか……でもやりたいネタがたくさんあるので、自分自身とても楽しみにしています!

 基本的に戦闘シーンもストーリーもご都合主義のギャグ調です。こんなことを言うのも今更かもしれませんが(笑)

 ちなみにレギュラーキャラは全員登場予定なので、自分の推しキャラが出てないからってここで見るのをやめるのは勿体無いですよ!!

 また、ちゃん丸さんとのコラボ小説もそろそろ執筆予定です。ネタはもう決めてあるので、あとは形にするだけ!文字数かなり肥大化するかも……
告知は前回の後書き参照。


付録:RPGをよく知らない人への単語解説

・パーティ
プレイヤーたちの集合。
今回は零、穂乃果、ことり、海未の4人パーティ。

・職業
RPGにおけるプレイヤーの役割。職業によってそれぞれ得意分野が存在。
勇者⇒万能
魔法使い⇒攻撃魔法が得意。力やHPはかなり低い。
僧侶⇒回復魔法が得意。HPや力などステータスは中途半端。
戦士⇒力が高く、接近戦が得意。魔法は扱えない。

・スライム
キングオブ雑魚。大体ゲームの一番初めに戦う敵。ぬめぬめぷるぷる。
目を瞑っているとおっぱいの感触と感じなくもない。

・パーティアタック
眠っていたり混乱している仲間を、他の仲間が殴って正気に戻すこと。もちろんダメージあり。

・メラ
炎属性の攻撃魔法。この小説では敵単体に10~15程度のダメージ。
じゃあ零君は……敵?

・ビキニアーマー
ビキニのような鎧。もはやそれは鎧……?これを着ている人は漏れなくエロ要因。
詳しくは"ビキニアーマー"で検索検索!


新たに高評価をくださった方々(敬称略、幻の72話以降の方)

かずもん、怒りに満ちた瞳、我桜、NEKTSCROWN、514、エデン、もけもけ~、雷竜

ありがとうございました!


~Fate風次回予告(誰が話しているのかはご想像に)~

「すご~い!!海外に来たみたい!!」

「これが花陽特製の、黄金米おむすびです!!」

「凛のラーメン屋へようこそだにゃ!!」

「ここでは女王なのよ、私の命令に従いなさい」

「あれって……にこちゃん!?」

「まさかここで戦うことになるとは思いませんでした……」

「にっこにこに~♪残念ながらこの街はにこのものよ!!」

「さぁ俺たちのコンビネーションを見せてやろう―――って、あっちぃいいいいい!!オイ穂乃果ぁあああああ!!」

次回:ラブライブクエスト2~進撃のにこにー~


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラブライブクエスト2~進撃のにこにー軍団~

 今回はらぶくえ編パート2です。
 そこまで長編にする気もないのでサクサク進みます。そしてギャグ要素強めと言いながらも、結構RPG要素を入れてしまうほどRPG好きでゴメンなさい(笑)


「わぁーー!!大きな街だね!!」

「遠くから見るよりも相当だな。まさしくゲームの中の街って感じだ」

 

 

 俺たちは、スタート地点から見えていた、お城の城下町の入口に立っていた。

 入口前の広場には大きな噴水があり、あちらこちらに大勢の人が行き交う。街中にはレンガで作られた西洋風の建物が軒を連ね、お城への道を席巻している。まさにファンタジック。ゲーム好きな俺や穂乃果だけでなく、普段ゲームをしないことりや海未もその街の内観に見とれていた。

 

 

 ちなみにここへ来るまでの道中、モンスターをある程度倒してレベルを3まで上げた。まだ魔法に慣れない穂乃果に可愛い系のモンスターに見惚れることり、ビキニアーマーにより羞恥に悶える海未、この3人の統率を取るのは一筋縄じゃいかなかったがな……。

 

 

「くんくん……あっ、美味しそうな匂いがする!!」

「おい、穂乃果!!」

「あはは、ゲームの世界でも穂乃果ちゃんらしいね……」

「この人混みですから、下手をすれば迷子になってしまいますよ」

「全くアイツは……!!」

 

 

 穂乃果は人混みを掻き分けながら屋台が並んでいる場所へ走っていってしまった。よりにも寄って自分から迷子になりに行くとは……とんだ自称魔法使いだ。

 

 

 俺たちも人混みの間を縫いながら穂乃果を追いかける。

 

 

「でもよかったな海未。同じビキニアーマーを着た女戦士たちが街にたくさんいて」

「…………斬りますよ」

「別に馬鹿にしてねぇから!!」

「やっとこのコスプレにも慣れてきたのです。もう蒸し返さないでください」

「慣れたのか……」

 

 

 意外にも海未はビキニアーマーを着こなしている。街へ向かっている時に聞いたのだが、本人曰く着心地だけはいいらしい。いくらエロい構造でも鎧は鎧、戦闘には支障がないように作られているのだろう。だが男の俺からすれば気が散りまくりなのだが……。

 

 特に剣を振り上げた時に見える、海未の腋が…………ゴクリ。

 

 

 

 

「あっ、穂乃果ちゃんいたよ!!…………あれ?」

「どうしたことり?」

「あそこ、穂乃果ちゃんと一緒にいるのって……」

「あ、あれは……!!」

 

 

 奇しくも鼻なら穂乃果並みの自信がある俺とことりは、美味しそうな匂いを辿って穂乃果をすぐに見つけることができた。できたのだが、穂乃果は屋台の前で誰かと楽しそうに話し込んでいる。それは俺たちがよく知っている人たち――――

 

 

「花陽!!凛!!」

「あっ、零君たちだ!!」

「やっと会えたにゃーー!!」

「おっと」

 

 

 凛は弾丸のように俺の胸へ向かって飛びついてきた。この抱き心地はまさしく本物の凛だ。

 だが、この鼻を突き刺すようなこの匂いは一体なんなんだ!?コイツからやけに香味の効いた刺激のある香りが漂ってきて、俺の鼻の奥を刺激する。俺はその刺激に耐え切れず、思わず鼻を手で覆ってしまう。

 

 

「凛、お前この匂いは……!?」

「匂い?あぁ、それは多分これのせいだにゃ」

「これ……?」

 

 

 凛は自分が飛び出してきた屋台の看板を指差す。そこに書かれていたのは――――

 

 

 

 

『激辛ラーメン凛々亭』

 

 

 

 

 看板には燃える炎の絵と共に、屋台の名前が高らかに掲げられていた。見てるだけでも口の中が辛味でヒリヒリしてきそうだ。それにしても、ファンタジーの世界なのにラーメンとは……世界観もへったくれもねぇな。

 

 

「お前、ラーメン屋やってんのか?」

「うん、気が付いたらラーメン屋の店主になってたんだ。初めはゲームの世界って言われて戸惑っちゃったけど、一度でいいからやってみたかったんだよね♪」

「お前……自分で作って自分で食ってるだろ。香辛料の匂いがプンプンしてるぞ」

「い、いやぁ~あまりにも美味しくって……」

 

 

 頭を掻く凛は飼い猫のようで愛くるしくて可愛いのだが、コイツが喋るたびに香辛料が効いた匂いが俺の鼻に侵入してきやがるので素直に可愛がってやることはできない。もう鼻の中が燃え上がってしまいそうだ。

 

 

「花陽はおにぎり屋なのですね」

「うん!!色々なお米でたくさんおにぎりが作れるので、もう感激です!!皆さんもお一つどうですか!?零君もどうぞ!!」

「むぐぅ!!!!」

 

 

 花陽は屋台を飛び越えて、俺の口におにぎりをギューギューと押し付ける。

 

 目の色が邪悪に染まり、人の口に無理矢理おにぎりをねじ込むその姿は、そこら辺にいるモンスターよりも邪気を放っていた。それ以前にこの街周辺のモンスターはほぼ可愛い系のモンスターばかりだったが。

 

 そんなことを思っている間にも、花陽は俺へおにぎりをねじ込むことをやめない。はぁはぁと興奮の吐息を漏らしながら、無言のまま俺の顔をガッチリホールドして――――ぐぅうううう!!もうダメだ苦しぃいいいいいいいいいいいいいいい!!

 

 

 街中で戦闘があるなんて聞いてねぇぞ!! 

 

 

「んーー!!んーー!!」

「は、花陽ちゃん落ち着いて!!零君苦しんでるよ!!」

「ハッ、す、済みませんでした!!私ってば、何をやってたんだろう……」

「正気を失うほどだったのかよ……」

 

 

 さっきの狂気、モンスターとして登場しても疑うことはなかったぞ……。

 『花陽A』『花陽B』『花陽C』みたいにグループを組んで現れて、冒険者たちにひたすらおにぎりをねじ込む……花陽ファンにとってはある意味で歓喜なのかもしれないがな。

 

 

「そうだ、花陽ちゃんと凛ちゃんも、ことりたちと一緒に旅をしようよ!!旅は人数が多ければ多いほど楽しいって言うし♪」

「う~ん、そうしたいのは山々なんだけど……」

「なにか問題があるのか?」

「うん。凛たち、この屋台からある程度までしか離れることができないんだ」

「えっ?どういうことですか?」

「ほら、こうやって屋台からどんどん離れていくと……ゴンッて見えない壁にぶつかっちゃうんだよ」

 

 

 凛が屋台を離れて城の方へ向かって行くと、数歩歩いただけで謎の壁に阻まれてしまった。それは花陽も同じらしい。だが俺たちが通ってもそんな壁にぶつかることはない。

 

 なるほど、そういうことか。

 

 

「俺たちはプレイヤーだから自由に動くことができる。だけど花陽と凛はNPC扱いだから、一定の範囲でしか動けないように設定されているんだ」

「エヌピーシー?」

「簡単に言えば、俺たちプレイヤー以外のキャラクターだよ。例えば街の人たちとかな」

「じゃあ凛たちは冒険に出られないのかぁ~残念」

 

 

 でもこのゲームの世界に連れ込んできたということは、そこら辺を歩いているNPCよりも重要な役割があるのだろう。でも秋葉のことだからただ面白がって連れてきただけ、という可能性もあるが……そもそも俺たちをこの世界へ幽閉した理由もよく分からないんだよな。

 

 

「そうだ、そう言えばお城に真姫ちゃんがいるらしいよ」

「お城に真姫が?」

「うん。おにぎり屋に来たお客さんたちが、『あのお城には赤毛で目つきの鋭い女王様がいる』って噂をしていたんだ」

「赤毛で目つきの鋭い……まさに真姫だな」

「じゃあお城に行ってみようよ!!穂乃果たちのことを心配しているかもしれないし」

「そうだな。どの道そうしないと話が進まなさそうだし」

 

 

 それにしても真姫が女王様か……似合うな。誰かの上に立つ人柄ではないけど、妙に唆られるSっ気があるので高飛車女王様としての気質は十分だ。俺を見下す時の目線なんて、全身が凍りつくぐらいだからな……ブルブル。

 

 

「あっ、それじゃあ凛から選別をあげるにゃ!!」

「選別?」

「うん!!はい、ラーメン」

「ら、ラーメン!?」

 

 

 

 

『れいたちは激辛スパイスラーメンを手に入れた!!』

 

 

 

 

「こんなの使い道あるのか!?食べたら回復するどころか、絶対ダメージ受けるだろ!!」

「え~、そうかな?美味しそうだけど」

 

 

 ありえねぇだろコイツの舌。どんな味覚してんだよ……。

 

 凛からもらったラーメンは激辛スパイスの効いた特製ラーメンなのだが、スープが見事にレッドで満たされており、マグマの中に麺を入れたみたいだ。さらにコポコポと泡も立ってるし……。

 

 しかもアイテム欄を確認してみたら、ただのアイテムではなくてキーアイテムに分類されている。これが物語で役に立つとでも言うのか……?それかただのコレクター用のアイテムなのか。

 

 

「私からはこれをプレゼントです!!」

 

 

 

 

『れいたちは黄金米おにぎりを手に入れた!!』

 

 

 

 

「ま、眩しいよ~!!」

「お米の色が……黄金に光ってますね」

「私も初めはビックリしたんだけど、やっぱりおにぎりだから捨てるに捨てられなくって……」

「それプレゼントじゃなくて押し付けじゃねぇか……俺たちは廃棄処理かよ」

「こ、神々しいからどこかで使えそうじゃないかなぁって思ったんだよ!!」

「ものは言いようだな……」

 

 

 花陽からのプレゼント(押し付け)は文字通り黄金に輝く米で握られた、黄金米おにぎりだ。まだ真昼間だというのに、その黄金米おにぎりの輝きが激しく際立っている。これも食べたらタダでは済まないだろう。見た目からして決して食べようとは思わないがな……。

 

 そして黄金米おにぎりも、先ほどの激辛ラーメンと同じくキーアイテムに分類されていた。

 

 

「一応感謝はしておく。役に立つとは思えないけどな」

「それが凛たちだと思って、一緒に旅をするにゃ!!」

「絶対私たちをここから救い出してね!!」

「穂乃果がいれば大丈夫!!魔法も慣れてきたし!!」

「お前が一番危ないんだよ……でも任せとけ」

「ことりも精一杯頑張ります♪」

「そうですね。力を合わせてゲームクリアを目指しましょう」

 

 

 みんな意気込みは十分。ここから動くことのできない花陽と凛のためにも、俺たちが何としてでもみんなをこの世界から脱出させてやらなければいけない。そしてこの様子だったら、他のみんなもNPCとして登場するみたいだから早く無事を確認したいものだ。

 

 

「あっ、そうだ海未ちゃん」

「なんですか凛?」

「その鎧似合ってるね♪」

「い、言わないでください!!!!」

 

 

 …………ドンマイ海未。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あら、やっと来たのね」

「なんか軽いな……」

 

 

 花陽と凛と別れた俺たちは、お城で女王様となっている真姫と接見をしていた。

 金色に縁どられた、いかにも高級感が溢れる王座に座る真姫は、肘を付きながら俺たちにいつも通りの素っ気ない言葉を掛ける。

 

 

 ちなみに真姫が来ているのは真っ赤なドレス。そのドレスには宝石が至るところに散りばめられていて、一般平民の俺たちが指1つ触れたりでもしたら弁償のために一生強制労働に従事させられるだろう。でも予想通りと言うべきか、真姫の女王姿は様になっている。どこかのお偉いさん同士のパーティでこういうドレス着てそうだし。

 

 

「真姫ちゃん本当に女王様だったんだね」

「気付いたらここに座らされていただけよ。でも案外快適だわ」

「ふかふかそうで気持ちよさそうだもんね、そのイス」

「そうだけど、この部屋から出ることはできないのよね」

 

 

 やはり真姫もNPC扱いだったか。残念ながら一緒に旅をすることはできないけど、無事を確認できただけでもよかったよ。でも王様のポジションってことはこの世界情勢、つまりゲームクリアに繋がることを何か知っているかもしれない。さっき『やっと来たわね』と言っていたから、俺たちプレイヤーを待っていたのは確かだ。

 

 

「なぁ真姫、俺たちに伝えたいことがあるんじゃないのか?」

「えぇ。勇者たちが来たらこの文章を話せって指令が来ているから。でもそれがあなたたちだっただなんてね」

「どうだ?俺の勇者姿、似合うだろ?」

「穂乃果は穂乃果は!?」

「ことりはことりは!?」

「はいはいみんな似合ってる。で、でも海未のその格好は……」

「い、言わなくても結構です!!それより早く私たちに伝えたかったことを!!」

 

 

 もうやめて!!海未のHPは0よ!!

 

 

 ――――ってやつだな。実際にはHPじゃなくて、海未の精神力がゴリゴリ削られていきそうだけど。

 

 

「穂乃果はカッコいいと思うけどなぁ~戦士の海未ちゃん」

「ピンクの鎧がとってもキュートで可愛いよ♪ことりも着てみたいなぁ~」

「穂乃果もことりもやめてください!!やっと落ち着いてきたところなんですから!!」

 

 

 恐ろしや幼馴染コンビ……海未の精神を抉ることも平気でやってのける。そこにしびれ……ないし憧れないな。穂乃果とことりに悪気がないことは分かるのだが、コイツらいつも笑顔だから逆にそこが怖いんだよ……。

 

 

「もう茶番は終わった?そろそろ話したいんだけど」

「種を蒔いたのは真姫ですからね!!」

「知らないわよそんなの。とにかく話すから」

 

 

 真姫ほコホンと咳き込み、話し始める体勢に入る。

 

 

 

 

「この王国は今、魔王軍による侵略の危機に立たされているの。この大陸の周りには、魔王軍の四天王が4つの神殿を建てて常にこの大陸を監視している状態だわ。あなたたちの目的は、その4つの神殿に潜む四天王をすべて倒し、最後にその主たるべき魔王を討伐することよ」

 

 

 

 

 遂に提示されたゲームクリアの条件。ストーリーは至ってシンプルで王道だが、隠れゲームオタクである俺の血を騒がせるのには十分だ。

 

 

「すごく長い道のりになりそうだね……」

「でも目的は分かったんだ。これは大きな前進だぞ」

「ことりたちが力を合わせれば誰にだって勝てるよ♪」

 

 

 嘘つけ!!さっきスライム一匹倒せなかった奴が何を言い出す!!でもことりは逆に可愛い系のモンスター以外だったら、笑顔で虐殺しそうではある。それを容易に想像できるのが怖いところだが。またことりのヤンデレ顔が頭に浮かんできやがった……。

 

 

 

 

「それはどうかしらね!!」

 

 

 

 

「だ、誰だ!?」

 

 

 突然王宮に甲高い声が響き渡る。

 その声の主は王宮の天窓の淵に腰掛け、俺たちをゴミを見るような目で見下していた。

 

 

 ――――あ、アイツは……!?

 

 

「「にこ!?」」

「「「にこちゃん!?」」」

 

 

 王宮に現れたのはにこだった。全体的に黒のローブで身を包んでいて、コウモリのような真っ黒な翼が特徴的。自慢のツインテールが悪魔らしさを際立たせ、まさにボスですよと言わんばかりの風格だ。

 

 それにしても、ローブから垣間見えるにこの生足が相当エロい。元々肌の色が白いということもあるが、着ている黒のローブと合わさると余計に白い太ももが際立って興奮を煽られる。準太ももフェチの俺からしてみれば、今にも舌が口から出そうになっちまう。ここで太ももについて語りたいところだが、このままだと次回を使っても終わらないから断腸の思いでやめておこう。

 

 

 

 

 よし、話を戻そう。

 

 まあRPG1発目のボスなんて、小手調べ程度だし大したことなさそうだけどな。

 

 

「に、にこちゃんそんなところで何してるの!?」

「あんな窮屈な神殿なんかで待ってられなくってね、にこが直々に出向いてあげたのよ」

「神殿って、まさかにこが四天王の1人なのですか!?」

「まさか、そんな序盤で四天王が出てくるはずがないだろ」

「ビンゴよ海未!!にここそが四天王の1人、デビルロード・にこよ!!」

「なんかロック歌手みたいだな……」

「うるさいわね!!今からアンタたちをなぶり殺しにしてやるから覚悟しなさい!!」

 

 

 えっ、本当に四天王の1人なの?俺たちまだレベル3なんですけど!?しかもスライム一匹にすら手こずるようなパーティなんですけど!?そこのところ分かって攻めてきてんのかコイツ!?

 

 

「まさかことりたち、にこちゃんと戦うの!?」

「戦わなければならない時が、ここにはあるのよ!!」

「男同士の戦いに、理由は不要ってか」

「だれが男よ!!めちゃめちゃプリティな女の子だっての!!」

「お前、すぐキャラ崩れるな。しっかり悪魔を演じろよ」

「うるさいうるさいうるさい!!いくわよ!!」

 

 

 

 

『四天王のにこがあらわれた!!』

 

HP1000

 

 

 

 

「ブーーーーーーーーーーッ!!おいちょっと待て!!HPおかしくないか!?俺たちまだ最大HP2桁なんだぞ!?」

 

 

れい  ほのか ことり うみ

HP70 HP40 HP50 HP95

 

 

「ふんっ、修行不足ね」

「ふざけんな!!雑魚狩りにどれだけ時間を掛ければいいと思ってんだ!?」

「こっちは1人、そっちは4人。文句ある?」

「ありますぅーーーーーー!!そもそも勝負にならねぇだろ!!」

「諦めなさい」

「理不尽過ぎるだろこのゲーム!!」

 

 

 このままでは、一発でも攻撃を貰えばそれで確実に俺たちのHPは0になる。それまでに何か打開策を考えなければ。攻略不能という欠陥ゲームでなければ、何か突破する方法があるはずだ。

 

 

「どうやらこのままにこと戦わなければならないようですね……」

「でもどうするの!?ことりたちで勝てるの!?」

「大丈夫、俺たちのコンビネーションがあれば絶対に勝てるさ」

「こうなったら先手必勝だね!!さっき覚えた新しい魔法、使ってみたかったんだ♪」

 

 

 穂乃果は杖を構え、魔法欄から魔法を選んで発動させる。すると杖の先から大きな火の玉が音を立てて燃え上がり始めた。これまでの火の玉よりもかなり大きい。恐らく相手に与えるダメージも大幅に増えているだろう。

 

 だけど1つ気になるのは、杖を持つ穂乃果の手がプルプルと震えていることだ。こ、コイツまさか!?制御できてない!?そしてこの光景、なんかデジャヴを感じるんだが!?

 

 

「わわっ!!この後どうすればいいの零君!?どんどん火の玉が大きくなってるけど!?」

「俺が知るか!?それにこっちへ向けるなって言っただろ!!」

 

 

 だが、時すでに遅し……。

 

 

 

 

『ほのかはメラミを唱えた』

 

 

 

 

「あっちぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 

 

『れいに50ダメージ!!』

 

れい

HP20

 

 

「おおっ!!すごいダメージだね!!これならこれからのモンスターとの戦いも楽勝だね♪」

「もう既に死にそうなんだが……」

「穂乃果!!」

「うわぁ~ん!!ゴメンなさ~い!!」

「零君、ことりが回復してあげるね♪」

「頼んだ……」

 

 

『ことりはホイミを唱えた。れいのHPが30回復した!!』

 

れい

HP50

 

 

 正直30程度回復したところで、にこに攻撃のターンが回ってきたら一撃で粉砕されてしまうだろう。HPが0になったプレイヤーがどうなるのかは知らないが、やり直せたとしてもどの道打開策を見つけるまでここで足止めだ。考えろ……。

 

 

「次はにこのターンね」

「くそっ!!」

「まず手始めに、現れなさい!!にこにー軍団!!」

「なに!?」

 

 

 にこがマントを広げると、そこから黒い翼の生えた小さなにこたちがたくさん王宮内に散らばった。数は軽く数えても数十体はいるぞ。その全員が笑顔で『にこにこ~』と鳴き、軽い超音波攻撃を仕掛けてくる。

 こ、これがにこにー軍団!?さっきアイツ、1vs4だからアンタたちが有利みたいなこと言ってなかったっけ!?嘘つき!!

 

 

「わわっ、ちっちゃなにこちゃんがいっぱいだ!!」

「ちっちゃなにこちゃんは可愛いね♪」

「ちょっとことり!!ちっちゃなにこちゃん"は"って何よ!!一番可愛いのはこのにっこにこにーのにこちゃんに決まってるでしょ!!」

「そ、そうだね……」

「どうして引くのよ!?」

 

 

 そりゃあ悪魔の姿で"にこにこにー"のポーズしている奴を見たらそうなるだろ。最悪無視するまである。

 

 そんなことよりも、この状況を打破することが先決だ。さっきのターンににこが攻撃していれば、俺たちの中の1人は確実に倒せたはず。だけどそれをせずにコイツらを召喚したということは、次のコイツのターンでにこにー軍団の一斉攻撃を仕掛けるつもりだろう。そうなれば俺たちに勝ち目はない。

 

 

「零、何か策は思い浮かびましたか……?」

「いやまだだ。残るターンは俺とお前の2人だけ。その間に決定的な手段があればいいんだけど……おい真姫、このお城に伝説の剣とか眠ってないのか?どんな敵でも一撃で葬れる剣とかさ」

「知らないわよそんなもの。私はあの文章を読めとだけしか指示が出ていないんだから」

「くっ……」

 

 

 もしこのゲームが真っ当なRPGならば、ここへ来るまでの間に何かしらのヒントがあったはずだ。まだゲームが始まって時間も経っていないし、訪れた場所と言えばこの街と城だけ。そこで会ったのは女王である真姫と――――

 

 

 

 

 花陽と凛だ。

 

 

 思い出せば、アイツらから選別を貰ったんだよな。でもこの状況では黄金に輝くおにぎりも、激辛スパイスを効かせたラーメンも使えそうにもない。やっぱりダメか……。

 

 

 

 

 

 いや、待てよ。激辛……?

 

 

 そういえば、にこのプロフィールで――――

 

 

 

 

~公開処刑!!にこのプロフィール~

名前:矢澤にこ

学年:大学1年

年齢:18歳

身長:154cm+α(この1年成長分)

血液型:A型

誕生日:7月22日

星座:蟹座

スリーサイズ:B71(爆笑)W57H79

好きな食べ物:お菓子

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

嫌いな食べ物:"辛いもの"

 

 

 

 

 こ、これだ!!

 

 見つけたぞ!!この状況を打破する方法を!!

 

 

「早くしなさい!!どの道次のターン、にこにー軍団の攻撃で全滅でしょうけど」

「……待たせたな、次は海未のターンだ!!」

「わ、私ですか!?」

「ああ。さっきお前が覚えた技で、このにこにこうるさい連中をまとめて切り倒してやれ」

「でもそのあとはどうするのですか?」

「大丈夫、俺に任せろ」

「零……はい、あなたに賭けます」

 

 

 海未は俺たちの一歩前へ出て腰から剣を抜く。初めはビキニアーマーのせいでどう足掻いてもエロい目線でしか彼女を見られなかったけど、今のお前はとてもカッコいいよ。エロいけど……。

 

 

「行きます!!」

 

 

『うみの剣の舞!!』

 

 

 海未は目にも止まらぬ早さで次々とにこにー軍団へと斬りかかる。これがさっき海未が覚えた、敵全体を攻撃することの出来る技『剣の舞』だ。にこにー軍団はたくさんの数はいるものの、一匹一匹のHPは低い。こうして全体に攻撃してやれば一斉に葬ることができるのだ。

 

 

『にこにー軍団全員に30ダメージ!!にこにー軍団は全滅してしまった!!』

 

 

「な゛っ!?にこの可愛いにこにー軍団が!?」

「次は俺のターンだな」

「ふ、ふん!!いい気にならないことね。レベル3如きがにこを倒せる訳ないでしょうが」

「それはどうかな?俺はこのアイテムで勝負だ!!」

 

 

 俺の右手に、凛から貰った激辛スパイスラーメンが現れる。その瞬間立ちどころに、王宮に激辛スパイスの効いた刺激のある匂いが充満し始めた。

 

 

「な、なによこの鼻を突き刺す嫌な匂いは!?」

「相変わらず鼻の奥がヒリヒリしやがる……でもこれで大逆転だ」

「ま、まさか……!?」

「そのまさかだ!!この激辛ラーメンを、お前のお口にプレゼントぉおおおおおおおおおおおお!!」

「や、やめてぇえええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 流石にこ!!いい声でお泣きになる!!相変わらずコイツの甲高い叫び声は俺のアレに直接響いてくるねぇ~。戦闘中だけど、ちょっぴり興奮してきた!!最近にことはご無沙汰だったからな、俺の欲求(性の方面)も喜んでるぞ!!

 

 

 

 

「お前の小さな口に、俺のアツアツの太麺をねじ込んでやる!!」

「いやぁああああああああああああああ!!犯されるぅうううううううううううううううううううう!!」

「もう逃げ場はない。観念してこれを咥えることだな」

「くっ、無理矢理だなんて……鬼畜ね」

「俺は女の子の調教が趣味なんだよ。それにお前の身体、さっきからずっとビクビクしてるぜ……興奮してるんじゃないのか?」

「にこはそんなアツアツのものになんて屈しないんだから!!」

「さぁ早く咥えろ」

「くっ……」

 

 

 

 

 

 

「えぇ~っと、あれって零君がにこちゃんにラーメンを食べさせようとしているだけだよね……」

「一気に緊張感がなくなりました……」

「あははは……」

「イミワカンナイ……」

 

 

 

 

『四天王のにこを倒した!!れいたちはそれぞれ経験値20000を獲得!!』

『れいたちのレベルが上がった!!』

 

 

 

 

To Be Continued……




 戦闘シーンはおまけ。


 エロ描写を入れようと思ったけど最後のが限界でした。一度規制されているのでやっぱり慎重になっちゃいますね(笑)
らぶくえ編が終わるまでには立ち直れるといいのですが。

 このらぶくえ編は1話辺りの平均文字数が多くなると予想されます。それでもあと3話で終われるのか微妙になってきた……


 コラボの日程は9月中旬を予定しています。


付録:RPG初心者のための用語解説

・会心の一撃
通常の攻撃よりもより多くのダメージを与えること。だからと言って、男の急所を狙わないこと。

・NPC
プレイヤーが操るキャラ以外のキャラ。例としては街の人など。

・キーアイテム
ストーリーを進める上で必要になるアイテムのこと。捨てられない。

・メラミ
魔法使いの魔法。
前回紹介したメラの上位互換。敵一体に50程度のダメージ。

・ホイミ
僧侶の魔法。
味方1人のHPを30程度回復。

・剣の舞
戦士の特技。
敵全体にダメージを与える。(ドラクエとは仕様が違う)

・激辛スパイスラーメン
スープがマグマのようにこってりドロドロしている、まさに通の中の通が好む代物。食べたものに生きて帰ってきたものはいないと言われている。


新たに高評価(☆9以上)を下さった方々(敬称略)

とんぬら!!、赤羽雷神、レイント、A's

ありがとうございました!
夏休みの課題を放って読んだという方がいらっしゃいましたが、大丈夫ですかね?(笑)


~Fate風次回予告(誰が話しているのかはご想像に)~

「にこの出番、これで終わり!?」

「次は森へ向かいなさい」

「迷いの森かぁ~」

「えっ、海未ちゃんがいなくなった!?」

「そう言えば、海未ちゃんをワシワシしたこと……なかったよね♪」

「くっ、殺しなさい……」

「聞こえるぞ!!海未の処女膜から悲鳴が聞こえるぞぉおおおおおお!!」

次回:ラブライブクエスト3~囚われの海未、処女貫通式~


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラブライブクエスト3~海未ちゃんの処女貫通式~

 らぶくえ編パート3です!
 今回はタイトル通り『新日常』ならではの内容となっています。果たして零君は海未ちゃんの純潔を守れるのか!?


『おきのどくですが、うみはさらわれてしまいました』

 

 

 

 

「いきなりかよ!?脈略なさ過ぎるだろ!!」

「ホントだ!?いつの間にかいなくなってるよ!?」

 

 

 今さっきにことの戦闘に勝利したばかりなのだが、戦闘終了からここまでの間に一体何が起きた……。

 気が付いたら海未の姿が消え、ある人にとってはトラウマを植え付けられるBGMと共にコメントウインドウが表示されていた。

 

 

 急に1人目の四天王が現れたり、突然海未が消えたりと、高速展開過ぎてついて行けねぇよ!!

 

 

「あっ、次の指令が出たわ」

「真姫のところに出るのかよ……それで、指示は何だって?」

「この街から東、闇が深き森へ行け……らしいわよ」

「森かぁ~、いかにもRPGのダンジョンって感じだね!!」

「穂乃果、お前楽しそうだな……」

「だって本当に楽しいんだから仕方ないでしょ!!海未ちゃんには悪いけど、囚われた仲間を助けに行くって燃える展開じゃない?」

「まぁ、それには同意だな」

 

 

 今まで画面の前でしか感じられなかったRPGの世界を、今は生で体験しているんだ(この言い方なんかエロい)。これで燃えなかったら偽物のゲームマニアだよ。

 

 

 それにしても、海未は森の奥へ攫われたのか。ビキニアーマー戦士と言えば、囚われてからのエロ展開が主流だ。モンスターのアレに屈して堕ちてしまう有名なストーリーがあるくらいだからな。

 

 ん?そう考えてみれば海未の貞操にも危機が!?許さんぞ!!海未の初体験は俺のものと世界の理で決まっているんだ!!モンスターごときに海未の処女膜はやらんぞ!!

 

 

「ちょっと、にこの出番はどうなるのよ!?」

「お前は負けたんだよ。俺のアツアツの太麺にな。だからこれ以降は――――」

「で、出番なし!?」

「そういうことだ」

 

 

 男のアレに屈してしまった女は、その男に一生飼われてしまう奴隷となるのだ。だから出番どころか人生も奪われたに等しいってことだよ!!

 

 ――――というのは冗談で、四天王なんだからどこかでまた活躍する機会があるかもしれないぞ。過ちを更生して勇者たちを助けに来るとかいうアツイ展開が。

 

 

「それよりも早く海未ちゃんを助けに行こうよ。海未ちゃん、ことりたちのこと待ってると思うから」

「ちょっと!!『それよりも』ってどういうこと!?ことりからの扱いが段々ヒドくなっているような気がするんだけど!?」

「俺がそう教え込んだからな」

「身体に教え込まれちゃった♪」

「なに発情してんのよ!!」

 

 

 ことりは頬っぺに両手を当て、『きゃぁ~♪』と言いながら妄想の世界へ旅立ってしまった。これは当分戻ってこられそうにないぞ……。

 ちなみにことりが俺に乗っかってきただけだからな。この俺が、可愛い可愛いにこのことを馬鹿にするはずがないじゃないか☆

 

 

「もうっ!!いいから早く行きなさい!!女王なんて面倒な役割、もう終わらせたいんだから」

「分かってるよ。それじゃあにこのことよろしくな」

「暴れないように鎖で繋いでおくから心配ないわ」

「はぁ!?にこは心配するわよ!!」

「じゃあねぇ~にこちゃん♪」

「絶対に海未ちゃんを連れて帰ってくるからね!!」

「勝負に負けたらこんな扱いになるの!?聞いてなかったんだけど!?」

「俺たちがそんなこと知るかよ」

 

 

 どうやらにこは街にいるNPCなどと同じく、技も魔法も使えなくなっているらしい。ステータスも表示されないところを見ると、完璧なモブに成り下がってしまったのだろう。それにしても四天王から一気にモブとは、負けたものへの扱いは適当なのかこのゲーム……。

 

 

 そんな訳でにこが暴れないように縛り付け、俺、穂乃果、ことりの3人は四天王が住むと言われる森の神殿へ向かった。そこに海未もいるはずだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「くらっ!!なんだここ!?」

「まだ昼間なのに、森の中は夜みたい……」

「そうだね。思っていたよりも不気味かも……」

 

 

 俺たちは目的の森に到着したのだが、森の中はまるで真夜中かのように薄暗かった。しかも物静かで生き物が住んでいる気配さえない。なるほど、これが真姫の言っていた『闇が深き森』ってやつなのか。確かに入口からでも前方十数メートル先ぐらいしか見えないな。

 

 

「あっ、看板があるよ。えぇ~と、『迷いの森』だって」

「これだけ暗かったら迷うのはもはや当たり前だろ。さぁここからどうやって進もうか」

「闇雲に進んだら帰って来られなさそうだもんね……」

 

 

 行き詰ったということは、この前のにこ戦のように状況を打開するためのヒントがこれまでの旅の中であったはずだ。前回は凛から貰った激辛スパイスラーメンを使ったから、じゃあ今回は――――

 

 

「これだ!!」

「ま、眩しい!?それって花陽ちゃんから貰った黄金米おにぎり?」

「そう、これがあればこの闇であろうとも明るく照らすことができるだろ」

「おにぎりの近くにいるだけで、目がクラクラしちゃうくらいだもんね」

 

 

 持っているだけでも失明しそうな光を放っているこのおにぎり。俺たちの周りは背の高い木も見上げられるくらいに、黄金米の光によって照らされていた。だけどこれを持って歩くのは危険過ぎるぞ……主に俺たちの眼が。

 

 

 

 

「れ、零くん!!」

 

 

 

 

「どうした穂乃果?」

「えっ?穂乃果は呼んでないよ?」

「ん?じゃあことりか?」

「うぅん、ことりでもない」

「え?じゃあ誰が……」

 

 

 おにぎりのせいでここまで明るというのに、俺の名前を呼ぶ声の主は見当たらない。俺たちの周りには怪しい色の草木が物騒に生い茂っているだけだ。

 

 

「ま、まさかお化け!?きゃぁ~零くん♪ことりこわぁ~い♪」

「あざとさMAXだな……でもRPGの世界だし、あながち間違ってないかも」

「きゃぁ~零君♪穂乃果もこわぁ~い♪」

「ことりに対抗しなくてもいいからな……」

 

 

 俺は身体の両方から穂乃果とことりに抱きつかれる。本当ならここでエロいことの1つや2つ、最悪10個ぐらいは妄想するのだが、今はそれどころではなかった。

 

 またうっすらと声が聞こえたからだ。しかも後ろから――――

 

 

 

 

「零く~ん、穂乃果ちゃ~ん、ことりちゃ~ん」

 

 

 

 なんだなんだこの耳に突き刺さりそうな高い声は!?まさかこれも秋葉がけしかけたキャラクターじゃないだろうな!?しょうがねぇ、3人しかいないけど戦闘の時間だ!!

 

 

 

 

「私です!!亜里沙です!!」

 

 

「は?亜里沙?」

 

 

 誰だぁあああああああああああああああ!!俺の(重要)マイラブリーエンジェルである亜里沙の名前を使っている奴はぁああああああああああああ!!こうなったらにこ戦同様に徹底的に羞恥を味あわせてやるからなぁあああああああああああ!!

 

 

 ――――そして俺たちは警戒をしながら後ろを向いた。

 

 

「あ、亜里沙ちゃんだ……」

「ち、ちっちゃ~い!!」

 

 

 俺たちの目の前にいたのは正真正銘の亜里沙だった。だが身体はミニチュアフィギュア並みに小さく、背中に透明な羽が生えていた。服は明るい緑色のワンピースで、髪は普段よりも長めのウェーブが掛かっている。

 

 て、天使だ!!本物の天使が現れたぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 

「本当に亜里沙……なのか?」

「そうですよ!!」

「でもその格好にその身体……」

「まるで妖精さんみたいだね!!」

「みたいではなくて、私の役目は妖精らしいのです」

「亜里沙ちゃん、可愛い~~♪」

 

 

 ことりは妖精姿の亜里沙を見てウットリとしている。だが今回ばかりはことりの気持ちが分かるぞ!!身体は小さいのも亜里沙だからこそ似合う。これは異種交配という禁断の属性にまで手を染めてしまいそうだ……。

 

 

「それよりも無事でよかったよ。妖精の姿だけどな」

「でもどうして亜里沙ちゃんが妖精に?」

「勇者様たちがここへ来た時に、案内役として私が配置されたのです」

「で?妖精はお前だけなのか?」

「はい。この森は妖精たちが住む森だったのですが、森の奥にオークたちが神殿を建ててしまい、それ以降妖精たちはこの森を追放されてしまいました。だから勇者様たちのこの森を取り戻して欲しいのです」

「なるほどそういうストーリーか……」

 

 

 戦闘やキーアイテムはめちゃくちゃなのに、本編のストーリーだけはしっかりしてるんだな。秋葉がどんなRPGを目指しているのかが正直分からん。でもアイツの思考なんて元から読めたものじゃないけど。

 

 

「森の奥へ進みたいのは山々なんだが、この黄金に輝くおにぎりが眩し過ぎてな」

「それではこれをお使いください」

「こ、これは……?」

 

 

 

 

『れいたちは壊れたカンテラを手に入れた!!』

 

 

 

 

「壊れてるのかよ!!」

「火が点かないだけですよ。カンテラとそのおにぎりを組み合わせてみてください」

「こうか」

 

 

 いつの間にやらメニューにアイテムを合成できる機能が加わっていたので、言われた通り壊れたカンテラと黄金米おにぎりを組み合わせる。すると見事に合成は成功し、1つのアイテムとなった。1つになったと言ってもカンテラの中に光るおにぎりが入っているだけなのだが。こんなの言われなきゃ気付かねぇだろ……。

 

 

「光がある程度弱くなったね。これでクラクラする心配もないよ」

「どんな合成をしたらおにぎりの光が弱くなるんだよ。ホントに適当なゲームだな……」

「まぁまぁ今は妖精さんたちと海未ちゃんを助けに行こうよ」

「オークたちは徐々に勢力を拡大しています。急いで行きましょう!!」

「へいへい分かってるって」

 

 

 俺たちは妖精となった亜里沙の導きの元、遂に迷いの森の内部へと足を踏み入れた。

 オークたちの神殿に海未がいるのか――――――ハッ!!

 

 

 待てよ。このシチュエーションは、エロ漫画やエロ同人誌なんかでよくある展開なのでは……?ビキニアーマーの戦士がオークの太いアレに抵抗するが屈してしまうという、R-18界隈では王道とされる展開が……。

 

 

 ま、まさか海未も!?オークにこんなことをされているかも!?

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

「何をするのですか!?離しなさい!!」

 

「ウヘヘ……姉ちゃん、いいカラダしてるじゃねぇか。脱いでもらおうか?」

 

「誰が脱ぐものですか!!」

 

「そうかそうか、無理矢理が好みなのか。じゃあご希望通り……」

 

「や、やめ……!!」

 

「フフフ……いい鳴き声を期待しているぞ」

 

「くっ、いっそのことなら殺しなさい……」

 

「殺すなんてもったいない。お前は一緒私を楽しませる人形となるのだ……」

 

「い、いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

「オークめぇえええええええええええええええええええええええええ!!許さんぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!海未の処女膜は俺のモノだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

「わっ!!どうしたの零君!?」

「あっ、走ると迷子になっちゃうよ!?零く~~~ん!!」

「ど、どうしましょう……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

~その頃の海未ちゃん+四天王:希ちゃん~

 

 

 

 

「そう言えば、海未ちゃんをワシワシしたことなかったよね♪これはいい機会!!」

「の、希!?やめてください!!」

「そんなエッチな格好をしてよく言えるわぁ~♪」

「これは不本意ながらです!!」

「フフフ……これは零君が泣いて喜びそうなシチュエーションやなぁ♪」

「くっ、いっそことなら殺しなさい……」

「殺すなんてもったいない。海未ちゃんのカラダはウチがたっぷりお料理してあげるで♪」

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「迷子になった……」

「もうっ!!零君が勝手に奥へ行っちゃうからでしょ!!」

 

 

 だってしょうがねぇだろ、海未の処女膜が心配過ぎて頭に血が上ってたんだから。こうしている間にも、海未の処女膜貫通式が行われているかもしれない。だが闇雲に進んでも入口に戻されるだけだ。そこら辺は流石迷いの森と言ったところか。どうやら妖精たちが住んでいた頃とは森の構造が変わっているらしい。

 

 

「急いでもいい結果は出ないよ。もっとゆっくり行こう♪」

「くそぉ~そんな悠長にしている時間はないのに……」

「大丈夫ですよ。オークは獰猛ですが、安易に人を殺めたりはしませんから」

 

 

 女の子の処女膜は突き破るんですよね――――とは亜里沙の前では言えなかった。もしかしたら、"処女"って言葉を知らないまであるからな。そんな天使を汚す訳にはいかない。でもこの前、亜里沙のおっぱいを吸っていた夢を見たような気がするが、あれは本当に夢だったんだよな……?

 

 

「まぁまぁ世間話でもしながら歩けば、知らない間に神殿へ着いてるよ。だから零君、穂乃果たちに聞きたいことある?」

 

 

 穂乃果とことりはゆっくり行こうと提案してくるが、俺としては海未の処女を守るために少しでも早く神殿へ着きたい。でも今度は穂乃果が魔法を使ってでも俺を止めにかかるらしいし、ここは適当に猥談を振って早々に話題を切り上げるか。流石に猥談を世間話だとは思うまい。

 

 

「唐突だな。えぇ~と……そうだ、おっぱいが大きくなると、練習中邪魔じゃないか?」

「おっぱい?うぅ~ん、確かに1年前よりは大きくなったけど、気になるほどではないかな?」

「あ、あぁ……そう」

「ことりは練習の時だけ運動用の下着を着けているから、大きくなっても全然問題ないよ」

「えっ、あっ、そうなのか……」

「私も最近かなり大きくなってきましたけど、お姉ちゃんのお下がりの運動用下着を借りているので大丈夫です」

「あ、亜里沙も……」

 

 

 あれぇ~!?なんでまともな議論してんの……?ここは『零君のエッチ!!もう早く神殿に行くよ!!』っていうパターンじゃないのか!?

 でもよくよく考えてみれば、俺、穂乃果、ことり、亜里沙って、ツッコミ役1人もいなくね?穂乃果とことりは変態度MAXだし、亜里沙は純粋過ぎて猥談でも猥談だとは気付かないだろう。これは話のチョイスを間違えた!!

 

 

 

 

 ここは何とか軌道修正をしなければ――――――ん?この声は?

 

 

 

 

「どうしたの零君?」

「聞こえる……」

「な、なにが?まさかまた亜里沙ちゃんみたいな妖精がいたの?」

「えっ、ここにいる妖精は私だけのはずですが……」

「違う……膜からだ」

「へ……?」

 

 

 

 

「海未の処女膜が悲鳴を上げてるんだ!!『助けて!!零君に貫いてもらう予定の私が、オーク如きに貫かれそうなのぉおおおおお!!』ってな!!聞こえる……海未の処女膜の泣いてる声が!!待ってろ海未ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!絶対中古になんてさせねぇからなぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

「また走るの!?もう~!!追いかけるよ、ことりちゃん、亜里沙ちゃん!!」

「うん!!」

「はい!!」

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんなこんなで俺たちは森の奥の神殿へ到着した。処女膜の声が聞こえたから今回は迷わなかったぞ。

 それにしても物々しい神殿だな。とても豪腕なオークが建てたとは思えないほど丁寧な造りだ。現実世界の森の奥でこんなものが見つかったら、確実に世界遺産レベルだろう。

 

 

 そして俺たちは神殿の内部へと侵入した。意外にも神殿内は狭く、入口からでも奥にある祭壇が見える。それと同時に、俺たちが探し求めていた人物も発見した。

 

 

「海未!?」

「「「海未ちゃん!?」」」

「零!!穂乃果!!ことり!!そして……その小さい妖精さんは亜里沙ですか?」

「はい、妖精として勇者様たちをサポートしているんです」

 

 

 海未は無事なようだが、鎖でガッチリと祭壇に縛り付けられていた。剣に力を込めて鎖を断ち切ろうとするも、思った以上に頑丈でビクともしない。何かキーアイテムでも必要なのかと思ったが、激辛ラーメンも黄金米おにぎりも使っちまったし、これ以上使えそうなアイテムはねぇぞ……。

 

 

 

 

「お困りのようだねぇ~勇者一行さん♪」

 

 

 

 

『四天王の希が現れた!!』

 

のぞみ

HP3000

 

 

れい

HP120

 

ほのか

HP70

 

ことり

HP90

 

うみ

HP150

 

 

 

 

「の、希!?」

「「「希ちゃん!?」」」

 

 

 突如として俺たちの目の前に現れたのは希だった。

 希は豊満な胸を強調させまくっている毛皮のコートを来て、狼のような耳を装着している。お尻には尻尾を装備し、楽しそうな本人の意思に反応してフリフリと動いていた。凶暴なオークか狼のモンスターをモチーフにしたのだろうが、結局は希の穏やかな雰囲気が漂いまくっていて全然怖くない……。

 

 

 待て待て、希がこの神殿にいるってことはもしかして――――

 

 

「お前、四天王の1人なのか!?」

「その通り!!ウチが2人目の四天王としてこの神殿を任されたんや!!」

「さっきにこと戦ったばかりだってのに、もう次の四天王戦かよ……」

「フフフ……にこっちは四天王の中では最弱、ウチからが本番や」

 

 

 サラッとヒドイこと言いやがったな……あれでもにこ戦はかなり頭を使ったんだぞ。そもそもにこの爆笑プロフィールを知らないと詰むだろ。にこのプロフィールがネタだらけだったおかげで覚えていたからよかったものの……。

 

 

「そうだ忘れてた!!海未、お前カラダに異常はないのか!?」

「え、えぇ……」

「希に何をされた!?俺の海未のカラダがあ~んなことやこ~んな目に遭ってたと思うと……」

「されそうになりましたけど必死で抵抗しましたから!!」

「ホッ、じゃあお前の処女は無事なんだな」

「はい……?」

「れ、零君?急になに言ってるの……?」

 

 

 海未と希はキョトンとした顔で俺を見つめてきた。希はエロいことに耐性があるはずなのだが、俺と同じく攻められると弱くなるという弱点がある。ちなみに穂乃果たちは『またか』みたいな表情で呆れ顔だ。

 でも……俺って今変なこと言ったか?彼氏としてはごく普通の心配事だと思うんだけど……処女。

 

 

「なんでそんな言葉がここで出てくるのですか……」

「聞こえたんだよお前の処女膜から。『助けて!!零君に貫いてもらう予定の私が、オーク如きに貫かれそうなのぉおおおおお!!』ってな!!本当にお前の処女膜は無事なんだろうな!?ちゃんとハリはあるよな、新品だよな!?」

「は、破廉恥ですよ!!そんな言葉を連呼しないでください!!」

「流石のウチでもそれはちょっと……」

 

 

 コイツら……男にとって女の子の処女がどれだけ重要かが全然分かってないようだな。女の子を食うなら初モノでなければダメだ!!中古用品には一切興味がないんだよ俺は!!

 

 

「俺はな、海未の処女を守りたいんだよ。容姿端麗、才色兼備、文武両道……言葉では言い表せないくらいの魅力的な女の子であり俺の自慢の彼女。その処女膜を貫いてみたいと思うのは当たり前のことだとは思わないか?」

「思いません」

「思わんなぁ」

 

 

 ふんっ、所詮は男と女の性別の壁。どれだけ俺たちの間に絆があろうと、分かり合えないことはきっとあるだろう。まさに今がその状況。処女は女の子の神秘なのに、その素晴らしさが分からんとは……。

 

 

「ねぇ穂乃果ちゃん、どうする……?」

「黙っていた方がいいね、絶対……」

「そ、そうですね、あはは……」

 

 

 後ろで何やらゴチャゴチャ言っているが、そんなもの今の俺にとってはどうでもいい。俺はこの神殿に処女の素晴らしさを教えに来たのだ。むしろ邪魔するならそこでずっと傍観してろ。

 

 

「分からぬというのなら開催するしかないな。海未と希の処女貫通式を」

「な、ななな何を言ってるのですかあなたは!?」

「そ、そうや!!こんなところで……もっとムードってものがあるんやない!?」

「なんだ、ムードがよければ処女を捧げてくれるのか?」

「そ、そんな訳……ないやん」

「最後ちょっと迷っただろ」

「そんな破廉恥なこと、する気はありませんから!!」

「いいじゃんゲームの中だし。ここでヤっても現実世界じゃ処女のままだって……多分」

「最後ちょっと迷いましたね!?」

 

 

 待てよ、ゲームの世界でカラダを重ね合って、現実の世界でもカラダを重ね合えば、処女貫通式を2回行うことができるのでは!?相変わらず俺ってば完璧すぎるな。女の子の処女を2回も味わうことができるなんて。

 

 

「穂乃果、ことり。零はずっとこの調子なのですか……?」

「う、うん、まぁ……」

「全く、男女の営みは責任を持ってするものです。ですのでこれからはそのような言動は控えてもらわないと……」

 

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 

 

「な、なんですかその沈黙は……!?」

「もしかして零君に穂乃果ちゃんにことりちゃん、ウチらに内緒で……?」

「……」

 

 

 ………………………………こ、これは……ま、マズイ!!

 

 しかも亜里沙は顔を真っ赤にしながら、蚊取り線香の煙に囚われた蚊のようにフラフラと床へ落ちていった。

 

 

「ま、まさかやったことがあるとでも……?」

「よ、よし、ことり、穂乃果、今日は帰るか……」

「そ、そうだねぇ~……」

「ほ、穂乃果お腹空いっちゃった~……」

 

 

 

 

「待ちなさい」

 

 

 

 

「「「はい……」」」

 

 

 海未からモンスターもビックリの、ただならぬ狂気に満ち溢れたオーラが迸っている。ビキニアーマー戦士だから魔法は使えないはずなのに、怒りの赤い炎が具現化され海未を縛っている鎖を徐々に溶かしていく。どう見ても穂乃果の魔法以上の威力はあるぞ……。

 

 

「いつやったのですか……?」

「同棲生活中に……穂乃果とことりがお風呂に押しかけてきた時に興奮して……」

「お風呂にですか……ほほぅ」

「ふ、普段お世話になっている零君の背中を流そうとしたんだよ!!ね、ねぇことりちゃん?」

「う、うん!!そうしたらことりたちも興奮しちゃって……」

「でも本番はやってないぞ!!穂乃果とことりの純潔はちゃんと残ってるから!!」

 

 

 その瞬間、突然バギィと金属がはち切れる音が神殿内に大きく鳴り響いた。海未が遂に自分を縛っていた鎖を断ち切ったのだ。だがもちろんそれだけでは終わらない。海未は既に剣を抜き、顔を真っ赤にしてはぁはぁと吐息を漏らしながら俺たちを睨みつける。

 

 

「覚悟はいいですね、あなたたち……」

「ま、待て!!俺たちは仲間だろ!?」

「黙りなさい!!この破廉恥野郎!!今日という今日は、命残り一滴になるまで制裁をプレゼントしてあげますよ!!」

 

 

 今日の海未は完全に殺る気だ……!!今までとは比べ物にならないくらいの邪悪に満ちたオーラ。目の前の俺を殲滅するためだけに生まれてきたかのような、まさに暗殺者。誇り高く光っていた戦士の剣も、今は海未の怒りに応えて真っ黒に染まって不気味な闇を纏わせていた。

 

 

「の、希!!お前HP高いんだから助けてくれよ!!」

「零君の自業自得やし……」

「このままだと海未がこのゲームを支配しかねない!!現実に戻ったら、なんでも1つ言うことを聞いてやるから頼む!!」

「その言葉、後から忘れたとか言わない……?」

「言わない言わない!!だから早く!!」

「それならウチに任せといて!!」

 

 

 希は俺たちと海未の間に入り、邪気に満ちた海未と対峙する。海未のHPは3桁になったばかりの、所詮まだレベル15程度。対する希は四天王の一角でHPは3000。これは希の勝ちゲーですわ!!

 

 

「邪魔です……」

 

 

 

 

『うみの剣の舞!!しなやかに唸る剣技で更に追加攻撃!!』

 

 

 

 

「えっ、連続攻撃とか聞いてへん……」

 

 

「殲滅します……」

 

 

 

 

『うみの剣の舞!!しなやかに唸る剣技で更に追加攻撃!!』

『うみの剣の舞!!しなやかに唸る剣技で更に追加攻撃!!』

『うみの剣の舞!!しなやかに唸る剣技で更に追加攻撃!!』

 

 

「ちょっ、海未ちゃん!!まだウチ一回も行動してへんのやけどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

『のぞみに100000のダメージ!!四天王ののぞみを倒した!!れいたちは経験値50000を獲得!!』

 

 

 

 

「さて零たちは……逃げたのですね。フフフ……切り刻んであげますよ♪」

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 穂乃果とことりもちゃんと処女ですよ(笑)


 今回は処女貫通式……ではありませんでした。流石にまたR-18を書く訳にはいきませんからね(笑)
でもらぶくえ編屈指のご都合+意味不明展開になってしまいましたが……

 そして希の出番も適当に……次回も出番を作るので許して希ちゃん!!


ここでメインキャラの役職まとめ

零・・・勇者
穂乃果・・・魔法使い
ことり・・・僧侶
海未・・・ビキニアーマー戦士
花陽・・・おにぎり屋
凛・・・ラーメン屋
真姫・・・女王
絵里・・・?
希・・・四天王
にこ・・・四天王
雪穂・・・?
亜里沙・・・妖精
楓・・・?


付録:RPG初心者のための用語解説

・処女
男の憧れであり、女性の神秘。

・オーク
豚鼻を付けた二足歩行のモンスター。非常に豪腕。でもエロ展開の時は手先が器用になる。

・黄金米おにぎり
闇を照らす光を放つ、おにぎりの最高峰。食べることはできない。

・妖精
RPGでは人間を嫌っている設定が多い。エルフと言われることも。

・処女貫通式
ゲーム世界と現実世界で2度味わえる。彼女持ち限定。

・勝ちゲー
100%勝てる戦い。絶対に負けることはない。


新たに高評価(☆9以上)を下さった方々(敬称略)

福見三等兵、暢賢

ありがとうございました!


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラブライブクエスト4~嫉妬と欲情のアクアリウム~

 らぶくえ編パート4です。
 前回の次回予告とは内容をある程度変更しています。希ちゃんを期待してくれていた方、今謝っておきます!!


 

 ただいま迷いの森の入口。

 

 

 俺、穂乃果、ことりの3人は――――――正座をさせられていた。

 

 

「これからは破廉恥な言動を謹んでください!!いいですね!?」

「「「それはちょっと……」」」

「もう1度剣の錆になりたいのですか……?」

「「「すみませんでした!!」」」

 

 

 海未の剣先には俺たちの血の跡がベッタリ…………な訳はなく、あの時の邪気に満ちた剣も元の誇り高き剣に戻っていた。

 希がやられた後、俺たちは気絶した亜里沙を連れて一目散に逃げ出したのだが、ものの数秒で捕まってしまい現在に至る。俺たちを追いかけてくる海未の顔は今思い返すだけでも恐ろしい。般若の仮面も泣いて驚くぞ……。

 

 ちなみに俺たちのHPを見て欲しい。

 

 

れい

HP1

 

ほのか

HP1

 

ことり

HP1

 

うみ

HP230

 

 

 俺たちは海未にHPが極限になるまで切りつけられ、それだけでは飽き足らず2時間の正座を言い渡されていた。ゲームの世界なので痛みは感じないが、何故か足は痺れやがる。穂乃果は俺と同じく正座し慣れているみたいだが、ことりはかなり辛そうだ。なんで慣れてるかって?そんなものほぼ毎日海未や絵里に怒られてるからに決まってるだろ。

 

 

 すると俺の頭の上にちょこんと座っていた亜里沙(妖精の姿)が、海未の目の前へ飛んでいった。

 

 

「う、海未ちゃん」

「亜里沙、申し訳ありませんがこの淫行集団に説教中なのであとにしてもらえますか?」

 

 

 淫行集団って、ヤリサーか何かよ……人を万年発情期みたいに言うなよな。

 

 

「零くんたち、正座をしながらしっかり反省してましたから、そろそろ許してあげてください!!」

「むぅ、亜里沙にそう言われては……」

 

 

 天使キタァーーーーーーーーーーーーーーーー!!今までお前のことをちょっとでもイヤらしい目で見てしまったことをお許しください!!高校に入学してから急激に成長したそのおっぱいに、吸い付きたいとか思ってゴメンなさい!!やっぱり亜里沙はずっと俺の天使でいてくれ!!隣にいる淫乱バードさんはもう戻れないから!!

 

 

「じゃあ今回はこれで許してあげましょう」

「た、助かったぁ~!!でも足が痺れて歩けないよぉ~!!」

「うぅ、普段正座しないから足が動かなくなっちゃったよ。零くんことりの身体支えて~♪」

「いや俺の足もセメントに固められたように動かないんだけど……」

 

 

 今回の正座は部屋の床じゃなくて、ゴツゴツした地面だから余計にキツイ。もう説教じゃなくて拷問じゃねぇか!!と反論すると、拷問より恐ろしい事態が待ち構えているので俺たちの間では暗黙の了解だ。

 

 もうラスボス海未でいいよ……。

 

 

「終わったのなら早く妖精の仲間を助けに行きましょう!!希ちゃんの話では海の底、アトランティスに捕らわれているらしいです」

「足が痺れている俺たちのことも考えてくれよ……そんなに早く動けないって」

「ファイトです!!」

「それ私のセリフ!!」

 

 

 亜里沙の奴も中々に理不尽極まりなくなってきたな。前言撤回、天使だろうが妖精だろうが手を出さないとは限らないからね……色んな意味で。

 

 

「なんで足の痺れはことりの魔法で回復できないんだろう……」

「一度失った処女はどう足掻いても元には戻らない。つまりはそういうことだ」

「えっ?なんか違うような気も……」

「零、あなたまた……」

「分かった分かった!!もうそろそろ行くぞ!!」

 

 

 海未がまた俺に剣先を向けてきたので急いで立ち上がり、持ち前の勇者の脚力で全力で離れた。でも足が地面に着くたびに脚全体にジ~ンと電流が流れるので、カッコいい動作に見えて顔はかなり引きつっている。

 

 

 そして俺たちは迷いの森を後にして、妖精たちを救うべく伝説の都・アトランティスが眠ると言われる海へ向かった。次の四天王もそこにいるだろう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「海だぁーーーーー!!」

「もうっ、大声で人の名前を叫ばないでください!!」

「だってゲームの世界なのにとても綺麗なんだもん。波の音とかすごくリアルだし」

 

 

 穂乃果の言う通り、俺たちの目の前に広がる海は現実と全く大差がないほど綺麗だ。波の音も潮の香りも澄んだ空気も、ここが現実世界かと言われたら素直に"うん"と答えてしまいそうだな。

 

 

「でも海の底ってどうやって行けばいんだろ?そもそもことりたちの息が続くかどうか……」

「そりゃあ無理だな。亜里沙の力でなんとかならないか?妖精の魔法でちょちょいっと」

「それこそ無理ですよ……」

「ですよねぇ~……でもこのままだとアトランティス行くどころか海にすら入れないぞ。都合よく入口でもあればいいんだけど……」

「流石にそんなご都合主義は……」

 

 

 

 

「入口あったよーー!!」

 

 

 

 

「マジで!?!?」

 

 

 穂乃果が指差したのは、人が1人ずつぐらいしか入れないような小さな洞窟。その入口の上には『アトランティス入口』と書かれていた。なんとまぁ都合のいいことで……サクサク進めるはいいことだけどさ。

 

 

「早速入ろうよ!!海の中に入れるなんてワクワクするね♪」

「本で見るアトランティスはとっても綺麗だから楽しみだよ♪」

「穂乃果とことりはいつも観光気分ですね……」

 

 

 脳内お花畑と脳内ラブホテルの2人だからな……でもモンスターにビビって戦えないよりは、頭をカラッポにしてゲームを楽しんでくれた方が俺としては楽だからいいんだけど。

 

 

「零くんも海未ちゃんも早く行きましょう!!」

「亜里沙は楽でいいよな、飛べて」

「えっへんです♪」

「いや、そんなドヤ顔で自慢されても……」

 

 

 亜里沙は腰に手を立てて胸を張っているが、残念ながら身体がミニチュアフィギュアサイズまで縮んでいるのでおっぱいが強調されることはない。それでも亜里沙のドヤ顔は超可愛いけどね!!頬っぺた突っついて困らせてやりたい!!

 

 

 そして俺たちはアトランティスの入口に侵入したのだが、本当に展開早いな。もっと入口を見つけるための謎解きとかあってもいいくらいなのに。今まで一番難しかった謎解きが、カンテラの中におにぎりを入れることってどういうことだよ……イミワカンナイ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「き、きれ~い!!」

「まるで水族館みたいだね!!」

「わっ、お魚さんたちが目の前に!!迫力ありますね」

 

 

 入口の向こうはまさかとは思っていたが、本当に海の中へ繋がっていた。だからと言って息ができない訳ではなく、普通に道があって歩くこともできた。周りは水族館のアクアリウムそのもので、穂乃果、ことり、亜里沙はその光景を見るなり目を輝かせてはしゃぎまくっていた。

 

 

「もうこれは現実かゲーム世界か分からなくなっちまうな……」

「そうですね。むしろゲーム世界だからこそ、ここまで海を表現できるのかもしれません」

「お前の方が綺麗だよ」

「そ、そんなありきたりのセリフで私が喜ぶとでも?」

「口元緩んでるし、頬っぺも赤く染まってるぞ」

「こ、これは違います!!ただこのアクアリウムに興奮しているだけです!!」

「アクアリウムに興奮……レベル高いな」

「あなたの興奮は変な意味での興奮でしょう!?」

 

 

 は、反論できない……もう俺はどんな言葉でも意味深に捉えてしまうくらい、心が薄汚れているんだよ。

 思えば、海未と海へ行ったのはつい最近だっけか。海を見ると、あの時のロマンチックな光景が思い出される。そして海未を後ろから抱きしめていた時の記憶も……いい匂いだったなぁ~

 

 

 今のコイツの装備はあのビキニアーマーなんだよな……?つまり後ろから抱きしめれば、ほぼ下着姿の海未を抱きしめていることと同義となる。これもビキニアーマーを着ている海未が悪いんだ。そんなエロティックな格好をしているから俺のような紳士に襲われる。自分からめちゃくちゃにしてくださいと、言っているようなものだからな……。

 

 

 そんなことを考えていた俺は、気付かぬ間に手が伸びていた。

 

 

 だがそこで俺の下劣な目線を察知したのか、前を歩いていた海未はジト目で俺に向き直る。

 

 

「零……またあなた」

「い、いや~アクアリウムに目を奪われてましたわぁ~!!」

「本当ですか……?私の身体を舐めまわすような目線を感じたのですが……」

「まぁ舐め回してはみたくなる、男だもの」

「最低ですね、最低」

「こらこら、安易に最低とか言うものじゃないんだよなぁ~」

「あなたの今までの愚行、胸に手を当てて考えてみてください」

「こうか」

 

 

 

 

 俺は言われた通り胸に手を当てた。

 

 

 

 

「な゛っ、ななっ!!」

 

 

 

 

 海未の胸に……鎧の下から手を入れて……。

 

 

 

 

 柔らけぇ……。

 

 

 

 

「なっ、あっ、はっ!!」

「それ何語……?」

「あ、あなたって人はまた正座させられたいのですか!?」

「むしろ正座だけで済むのなら、毎日お前のおっぱいを揉んでやる!!」

「開き直らないでください!!」

「まあそう言うなって」

「ひぅっ!!や、やめてください……これ以上は。ひゃん!!」

 

 

 おっぱいの大きさが穂乃果たちに劣るとは言っても、そのプリンと張ったおっぱいは海未特有のものでとてもイヤらしい。それがビキニアーマーで余計に強調されているせいで、普段の戦闘でも気が散ってしまう。そんなエロい格好をした彼女が隣にいるのに、発情しない男はいないだろ!!

 

 

 

 

「…………」

「…………」

「あわわわ……」

 

 

 

 こ、この目線は……穂乃果とことりか?

 2人は頬っぺを膨らませながら俺を嫉妬の篭った目線でジーッと見つめてくる。ちなみに亜里沙は相変わらずこういうことに耐性がないようで、手で顔を隠しながら悶えている。でも指と指の間から目が見えてるってことは、ずっと見てただろ……。

 

 

 

「ど、どうした……?」

「海未ちゃんばっかりズルい……」

「えっ、私だけとは……?」

「だって零君、海未ちゃんばかり見てるじゃん!!穂乃果たちも頑張ってるのに、迷いの森の時は海未ちゃんの処女ばっかり気にして!!」

「今もことりたちは放ったらかしで、海未ちゃんとイチャイチャしてばっかり!!」

「いやお前ら楽しそうだったから……ていうか気付いてたのか」

「海未ちゃんの声が聞こえたんだよ。『あぁ♪』とか『あん♪』とか」

「捏造です!!そこまで発情してませんよ!!」

 

 

 そこまでってことは、ちょっとは発情してたのかよ……慌てると本当に墓穴掘るな、コイツは。それがまた普段とのギャップ萌えで可愛いところではあるんだけど。

 

 

「これから零くんには、ことりたちからの罰ゲームを受けてもらいます♪」

「ば、罰ゲームだと……」

「零くんはこのゲームをクリアするまで、右からことりに――――」

「左から穂乃果に抱きつかれてなきゃダメだよ!!引き剥がすのは禁止だからね!!」

「うおっ!!」

 

 

 ことりと穂乃果は同時に俺の身体へ飛びつき、両腕をガッチリホールドする。そして2人は俺の肩に頭を預け、文字通りまさに両手に花状態になった。

 

 これってどんなご褒美?いや、いつもベタベタくっつかれているからただの日常風景と言った方がいいかもしれない。でも穂乃果とことりがここまで必死になって俺へ擦り寄ってくるのも珍しい。これも女の子の嫉妬というやつか……。

 

 

 あっ、おっぱい当たった……。

 

 

「でも戦闘はどうするんだよ?」

「全部海未ちゃんがやってくれるから大丈夫♪」

「嫌ですよ!!何故横でイチャイチャしているあなたたちを見ながら戦わなくてはならないのですか!?」

「今まで零くんとイチャイチャしていたツケだよ」

「そんなお金の前借りみたいな言い方しなくても……」

 

 

 

 

「零くん、大変ですね……」

「亜里沙だけでも分かってくれてよかったよ。でも抱きつかれるのは嬉しいけどね……」

 

 

 亜里沙は再び俺の頭にちょこんと座り込む。

 いくら性に従順になりつつある穂乃果やことりと言えども、抱きつかれて嬉しくならない訳がない。むしろエッチな女の子は大歓迎だ。でもこの2人の場合、時と場所くらいはしっかりとわきまえて欲しいものだけどな。

 

 

 それにしても海未の奴、穂乃果とことりから淫語の集中砲火を浴びても怯まずに正論で応戦している。でも顔は真っ赤のままだし……もしかしたら、海未も嫉妬してる?これは少しマズイ気がするぞ……。

 

 今はまだ幼馴染同士の軽い罵り合いだからいいものの、このまま拗れると本気の喧嘩に発展しかねない。パーティ分断とかいう事態になったら、永久にこの世界から脱出するのは不可能だ。

 

 

 ――――苦手なんだよなこういうの。でもやるしかないか。

 

 

「海未」

「なんです!?」

「現実世界に帰ったらまた一緒に海へ行こう。今度はまったりと海水浴なんてどうだ?」

「は、はぁ……」

「だから今はとりあえず抑えてくれないか。穂乃果もことりもな。寂しかったのなら、ずっとこうしていていいからさ」

 

 

 

 穂乃果たちはキョトンとした顔で俺を見つめる。でも、さっきまで強ばっていた表情は次第に消えていった。

 

 

「や、約束ですよ……」

「もちろん」

「穂乃果も行きたい!!」

「ことりも!!」

「ああ、一緒に行こう。亜里沙もな」

「はいっ♪」

「いいかな?海未」

「決まっているではないですか、もちろんですよ♪」

 

 

 よかったぁ~、いつもは自信満々な俺でもさっきのような重たい空気を破壊するのは多少なりとも緊張する。どこか間違ったことを言ってないか、女の子の気持ちを見落としてはいないか、とか色々勘ぐってしまうんだよ。

 

 

「少し頭に血が上りすぎてしまいました……穂乃果、ことり、すみません」

「穂乃果も、勝手に熱くなっちゃった……ゴメンなさい」

「ことりもちょっと言い過ぎちゃった……海未ちゃんゴメンね」

 

 

 そして穂乃果たちはお互いに顔を見合わせ――――

 

 

「「「プッ、アハハハ!!」」」

 

 

 軽く涙を流しながら思いっきり笑い合う。

 ふぅ~~……なんとか上手くいったみたいだな。喧嘩するのも突然だけど、仲直りするのも早いな。俺って意外と不器用だから、ちゃんと仲直りしてくれるのかヒヤヒヤしたよ。

 

 

 するとまた頭の上から亜里沙が話し掛けてきた。

 

 

「零くん、流石ですね♪」

「おうっ、もっと褒めろ!!」

「女の子の扱いに関しては世界一ですよ!!」

「それは褒められている……のか?」

 

 

 亜里沙は時々俺の心を抉るような発言をしやがる。しかも無自覚だから怒るに怒ることもできないというジレンマ。さっきも言ったけど、天使だからってどんな発言でも許されると思うなよ。傷ついた心の代償は、カラダで支払ってもらうハメになるからな。

 

 

 

 

「う、うぅ……いい友情ね、ぐすっ」

 

 

 

 

 な、なんだこの泣き声は!?そして唐突に俺の顔へ、しょっぱい水のようなものが降り注いできやがった。もしかしてこれって……涙!?

 

 俺たちは一斉に頭上を見上げる。そこにいたのは――――

 

 

「「絵里!?」」

「「絵里ちゃん!?」」

「お姉ちゃん!?」

 

 

 俺たちの頭上には絵里がポロポロと涙を流しながら泣いていた。しかも、マーメイドの姿で――――

 ここまでゲームの世界を体験してきたので普通の人間の姿でないことに驚きは感じないのだが、どうして泣いているんだ?

 

 

「やっぱり……ぐすっ、幼馴染って……ぐすっ、いいわね……ぐすっ」

「お前もしかして、さっきの穂乃果たちを見て泣いてんのか……?」

「こんなに暖かい友情を見たのは初めてよ……ぐすっ」

 

 

 そう言えば絵里って涙腺が脆かったな。去年穂乃果の家で恋愛映画を見た時も、テレビに釘付けになって泣いてたし。

 でも待てよ。ここにいるってことはもしかして――――

 

 

「ま、まさか……お前が四天王の3人目?」

「そうよ……ぐすっ、でもあんなものを見せられたらあなたたちと戦えないじゃない!!」

「でも捕らえられた妖精は……」

「さっき全員解放したわよ!!」

「マジかよ。楽なゲームだなオイ……」

 

 

 それじゃあこのアクアリウムがアトランティスで、ここの四天王が戦意喪失したってことは、もうこの神殿はクリアしたってことでいいのか。同情を誘う作戦って意外と有効なんだな……別に今回は作戦じゃなかったけど。

 

 

「絵里ちゃん!!」

「ほ、穂乃果……?」

「戦おう!!」

「ちょっ、お前本気か!?折角穏便に済みそうなのにわざわざ戦う必要性が……」

「絵里ちゃんも穂乃果の大切な友達だもん!!だからこそ戦って友情を深め合いたいんだよ」

「どこぞの少年誌みたいなセリフだな……でも絵里がそんな提案に乗るわけ――――」

「いいわよ!!やりましょう!!」

「やるんかい……」

 

 

 面倒なことになりやがった。穂乃果の奴、本当に俺たち絵里に勝てるとでも思ってんのか?今まで四天王を2人倒してきただけでも奇跡だっていうのに……でも絵里もやる気みたいだし、ここは気張るしかないか。

 

 

 

 

『四天王のえりがあらわれた!!』

 

 

えり

HP5000

 

 

「どうやって削るんだよこのHP……穂乃果、策でもあるのか?おい穂乃果?」

「…………」

「お~い、穂乃果?」

 

 

(もしここで穂乃果が活躍したら、零君に褒めてもらえるよね♪そうしたら零君に『頑張ったな穂乃果。ご褒美に、俺と一緒にお風呂に入らないか』な~んて言われちゃったり!?一緒の湯船に抱き合いながら入って~、洗いっこもして~、そこからいい雰囲気になれば一緒に寝ちゃったりとか!?そしてベッドの上で1つに……きゃぁ~~♪よ~し頑張ろう!!)

 

 

 こ、コイツ!!顔がゆるゆるになってやがる!!俺には分かるぞこの感じ……これは桃色の妄想をしている時に発せられるオーラだ。まさか妄想の方が目的で、さっきの友情なんたらは絵里の戦意を取り戻すための建前だったのでは……?

 

 

「いくよ絵里ちゃん!!」

 

 

『ほのかはメラミを唱えた!!』

 

 

「フフッ、可愛い魔法ね♪」

 

 

『絵里はヒラリと身をかわした』

 

 

「えぇっ!?避けるなんてズルいよぉ~!!」

「海はマーメイドである私のフィールドよ。あなたと違って自由自在に動き回れるの。ゴメンなさいね♪」

「うぅ~!!」

 

 

 珍しく絵里が煽りを入れている。いつも弄られる立場だからな、すごく楽しそうだ……。

 それにしてもさっきの穂乃果の魔法、火の玉の大きさがいつもより大きかった気がする。いつも通り魔法メニューから魔法を選んで杖を振っただけだというのに……。

 

 

「次は私のターンね。タイダルウェーブ!!」

「カッコイイなその技名」

「言っている場合ですか、来ますよ!!」

 

 

 来ますよと言われても、俺たちはかなり楽してここまで来たからレベルはまだまだ低い。もちろん四天王の3人目に挑むようなレベルじゃないんだ。つまりこの全体攻撃は受けきれねぇってことだよ!!

 

 

「零くん!!」

「あ、亜里沙……」

「私の魔法を使えば、パーティの中の1人が魔法攻撃から身を守ることができるのですが、どうしますか……」

「1人か……だったらここは――――」

 

 

 このボス戦、攻略の鍵になるのはただ1人。

 

 

「穂乃果でお願いします!!」

「穂乃果ちゃんでお願い!!」

「え?」

「「へ……?」」

 

 

 海未とことりが同時にハモる。しかも穂乃果の名前を挙げて――――

 フッ、流石幼馴染と言ったところか。2人も顔を見つめ合い、クスッと小さく笑った。時間がない、そうと決まれば!!

 

 

「ほ、穂乃果なの!?」

「亜里沙頼む!!」

「はい!!」

 

 

『ありさはマジックバリアを唱えた!!ほのかの前にマジックバリアが現れた!!』

 

 

『えりはタイダルウェーブを放った!!』

 

 

「ぐぅ!!」

「きゃぁ!!」

「うっ!!」

「零君!!ことりちゃん!!海未ちゃん!!」

 

 

れい

HP4

 

ことり

HP2

 

うみ

HP7

 

 

 ギリギリ耐えることができた。痛手は負ったが次は俺たちのターンだ。ここから穂乃果に繋げられるように、何か策を考え――――って、なにっ!?身体が動かない!?どういうことだ!?

 

 

「残念でした。この技には相手を麻痺させて1回休みにする効果があるのよ」

「このダメージ量で追加効果まであるのかよ……」

「零君……」

「怯むな、俺たち3人は動けないから次はお前のターンだぞ、穂乃果」

「で、でも……」

 

 

 さっき穂乃果が放った火の玉は、今までより格段に大きさが違った。あれを更に大きくすれば絵里に当てることができるだろう。そう、避けられるのならば避けられないくらいの大きな火の玉を作ればいい。

 

 そしてそのヒントは、穂乃果が火の玉を放つ前に行っていた行動にある。このRPGはマトモじゃない。だからこの理論も通じるはずだ。

 

 

「妄想しろ穂乃果!!俺との淫行を!!」

「えっ!?」

「零、またあなた!!」

「いいから妄想だ!!いつもの何百倍もの妄想をお前の中で展開するんだ!!」

「まさか勝負の間にそんなことを……」

「見くびるなよ絵里。これが勝利の一手だ!!」

 

 

※ここからしばらく穂乃果ちゃんの妄想をご覧下さい※

 

(妄想、妄想、零君とのい、淫行って……え、エッチなことだよね?れ、零君とエッチってそ、そんな!!か、顔が熱いよぉ~!!た、例えばさっき妄想してたベッドの上とか!?零君が『可愛いよ』なんて言ってくれて、ギュッと抱きしめられちゃったり……そこからパジャマを脱がされてカラダを!!零君おっぱい揉んだり吸ったりするの大好きだもんね!!零君におっぱいを弄られると、いつもぼぉ~っとした気分になって気持ちよくなっちゃうんだよねぇ~……えへへ♪ドキドキして、更に零君の虜になって……気付いたらエッチなことも許しちゃう。もしかして、ベッドの上ではもっと激しいのかな!?今のままでも興奮するのに、更に激しくなったら……きゃぁ~♪)

 

 

 

 

「こ、これは!?」

「火の玉が……どんどん大きくなってる!?どうして!?」

「これが穂乃果の魔力の源なんだ」

「どういうことですか?」

「つまり――――――」

「つ、つまり……」

 

 

 

 

「エロだよ」

 

 

 

 

「「「「は……?」」」」

 

 

 穂乃果以外の4人が目を丸くする。穂乃果はまだ妄想の最中だ。

 

 これぞ穂乃果の魔力。レベルアップで上がる魔力なんてただの飾りに過ぎなかった。穂乃果は欲情すればするほど魔力が飛躍的に上昇する、性的な意味での魔法使いだったんだ。だから絵里に打った一発目の火の玉の大きさが大きかったのも頷ける。その直前に桃色の妄想をしてたからな。

 

 

「いけ穂乃果!!今だぁああああああああああああああああああああ!!」

「えっ、えぇ!!いつの間に火の玉こんなに大きくなってるの!?穂乃果が妄想している間に!?」

「ちょっと待って!!そんな大きな火の玉、避けられる訳が……」

「避けさせるつもりなんてねぇから!!いけぇええええええええええええええええええ!!」

「は、ハラショーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

『ほのかはビッグバンを唱えた!!えりに100000のダメージ!!』

『えりを倒した!!れいたちは経験値100000を獲得!!』

 

 

 

 相変わらずテキトーなゲームですこと……。

 

 

 




 24時間テレビ『ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常~』エロは地球を救う。近日公開(嘘)


 今回は、序盤から中盤に掛けて純愛モノかつ嫉妬回という健全な内容だったのに、終盤はどうしてああなった……
やっぱり変態要素を入れないと満足できない体質みたいです(笑)

 でもこれほどまでに戦闘描写を濃くしたのはこれが初めてだったりします。ちなみに全員のターンが一巡して、2ターン目に突入したのはこれが初めてだったり。どの道ワンターンキルでしたが……


付録:RPG初心者のための用語解説

・ヤリサー
エロ目的のサークル。これ以上はここで語れまい。

・アトランティス
海底に沈む古代都市。今回はここへ行く前に四天王を倒したのでお役御免。

・脳内ラブホテル
いついかなる時でもエロいことしか考えていない、人間の脳みそ究極の姿。

・マーメイド
別名人魚。上半身が人間で、下半身が魚。基本は女性だが、男性もいるらしい。

・マジックバリア
魔法によるダメージを半減する。この小説では味方1人を魔法から守る魔法に変更。

・タイダルウェーブ
海の神が引き起こす大津波。この小説では麻痺効果あり。名前がカッコいい。

・麻痺
しばらく動けなくなる状態異常。この小説では1ターン休み。

・ビッグバン
エロ妄想が限界を超えると発生する、火の玉の最終進化系。欲情具合によっては世界の海が蒸発するほどの威力。


新たに高評価(☆9以上)を下さった方々(敬称略)

Mr.エメト、昂大

ありがとうございました!


~次回予告(らぶくえ編最終回)~

「もうラストダンジョン!?」

「れ~い~く~ん!!」

「ゆ、雪穂!?酔ってるのですか!?」

「ことりの妄想力で全回復しちゃいます♪」

「妖精というのは仮の姿です……」

「なん……だと。シスターズのお前らが……?」

「この世界から脱出するには、私たちとキスしなきゃいけないんだよ……お兄ちゃん♪」

次回:ラブライブクエスト5~究極の選択~


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラブライブクエスト5~究極の選択~

 9月1発目にしてらぶくえ編最終回です。そして意外にも1年生組との進展がある回でもあります。たまには真面目回もいいよね!

 その他言いたいことはすべて後書きで!


 

 

パーティステータス

 

れい レベル25

HP250 MP100

 

ほのか レベル25

HP150 MP230

 

ことり レベル25

HP180 MP150

 

うみ レベル25

HP300 MP30

 

 

 

 

 俺たちは海未と穂乃果にやられた希と絵里を真姫のお城に引き渡した後、遂に最後の神殿が眠る場所へとやって来たのだが――――

 

 

「あっちぃ~~!!いくらゲームの世界だからって、気温まで現実のものにしなくてもいいだろ……」

「もう零君、暑い暑い言わないでよぉ~……余計に暑くなっちゃうじゃん」

 

 

 あちこちから流れ出す大量の溶岩。その熱気のせいで目の前の視界すらも大きく揺らめく。

 

 現在俺たちがいるのは火山の内部、その途中で休憩をしていた。そうは言っても、この暑さでは休憩どころかじっとしているだけで体力が奪われてしまう。ゲームシステム上のHPは余っているものの、このままでは目的地に着く前に俺たちの精神が焼き払われるぞ……。

 

 

「零くんの頭、熱いです……」

「俺の頭に乗るのはやめとけ。こんがりと妖精の丸焼きになるぞ」

「うっ……縁起でもないこと言わないでくださいよ」

 

 

 でも亜里沙の丸焼きか……美味しそうだな。また一緒にプールや海に行った時にでも食べてもいいか拝み倒してみるか、亜里沙だったら承諾してくれそうだし。日焼けした太もも、ふくらはぎ、二の腕、耳たぶ、頬っぺ……こうしてみると女の子って食べ処がたくさんあるな。

 

 

「全く、この程度で音を上げるとは情けないですね」

「水着着てる奴に言われたくねぇな」

「鎧です!!でもこの破廉恥な鎧が役に立つ時が来るとは思ってもいませんでしたけど……」

 

 

 もうちょっとやそっとのことでは恥ずかしがらなくなってきたな。初めはビキニアーマーを着ていることに触れただけでも、顔を真っ赤にして物の陰に隠れていたものだ。もしかして意外と気に入ってるんじゃないのか……?

 

 強がってはいるが暑いことには変わりはないようで、俺たち同様目に見えるくらいの大量の汗をかいている。その汗が海未のうなじや太ももをなぞって垂れるのが堪らなくエロい。そしてその汗を拭う仕草もまた男の欲求を高ぶらせる。本当に海未は行動の1つ1つが絵になるな。

 

 

 こんな鍋の具材のようになっている状況でも、相変わらず平常運転なんだな俺の脳みそは。自分で自分を褒め称えたいくらいだ。

 

 

「もう脱いでもいいかな……」

「ぬ、脱ぐだと!?ことり!!お前いくら野外だと言っても、火山プレイは難易度高すぎるだろ!?」

「これだけ暑かったら必然的に服を脱いじゃうから、いきなり本番ができちゃうよ」

「な、なるほど……じゃあ海未みたいに服をすぐ脱いでくれそうにない女の子を連れ込めば――――」

「ガードの固い子でもすぐににゃんにゃんできちゃうね♪」

「天才だなことり!!」

「えへへ♪」

「あなたたち、どんな状況でもブレないですね……」

 

 

 ブレないというよりかは、ピンク色の妄想で暑さを紛らわせないと精神力を保っていられなくなる。

 このゲームでの妄想はそのまま魔力に直結するから、魔法を使うプレイヤーは常日頃からの妄想力が物を言う。ここで欲求を高めておけば高めておくほど四天王戦も有利になるという訳だ。

 

 

「ほら、もう行きますよ。こんな溶岩地帯のド真ん中で休憩する方が疲れます」

「確かにそうだけどぉ~……零君♪穂乃果をおんぶして♪」

「可愛く言っても断る。誰が好き好んで暑苦しい思いをするかっての。湯たんぽを背負うようなものだぞ」

「ぶぅ~」

「じゃあことりをおんぶして♪おねがぁ~い♪」

「ヤダよ」

「!!!!!!!!!!!」

 

 

 俺がことりの申し出を断った瞬間、火山の暑さを忘れさせるくらい周りの空気が凍りついた。ことりは目を見開いて、俺を絶望の篭った目線で見つめてくる。その眼球は小刻みにプルプルと震えていた。

 

 ことりがこんな表情をするなんて……俺、何かマズイことでも言ったか?穂乃果たちもあんぐりと口を開いて驚いている。

 

 

「れ、零くんにことりのお願いが効かないなんて……そんな、そんな!!」

「零君……まさか偽物!?」

「この暑さで頭が狂ってしまったとか……」

「本物の零くんを返してください!!」

「失礼だなお前ら!!」

 

 

 ことりは地面に手と膝を突いて哀愁漂う雰囲気を醸し出している。他の奴らもここぞとばかりに彼氏を偽物扱いしやがって……それに亜里沙まで。俺をいつまでも同じ手にやられる軽い男だと思ってもらっては困る。

 

 でも……まさかことりがここまで落ち込んでしまうとは。俺が悪くないとはいえ心が痛むな。

 

 

「うぅ……」

「こ、ことり。その~悪かっ――――」

「これからどうやって零くんに洋服奢ってもらおうかな……」

「…………あ゛?」

「あっ!!今のなし今のなし!!きっと空耳か何かだよ♪」

「嘘つけ!!どう聞いてもマジトーンだったぞ!!俺の心配返せゴルァ!!」

「ひ~ん!!ゴメンなさ~い!!」

 

 

 この前ことりが男を簡単に騙せそうと言ったが、まさか俺で実践されていたとは!?女の子と付き合うには甘い誘惑に負けない鋼の精神が必要だということか。ことりは彼女だから多少はいいんだけどさ……。

 

 

「零君ズルいよ!!ことりちゃんだけに服奢ってたの!?穂乃果の時は『自分で買え』ってうるさかったのに!!」

「うっ!!俺のお財布事情も考えてくれよ。そんなことを言ったら全員に奢らないといけなくなるだろ……」

「零君……」

「あ゛ぁああああもう分かったよ!!分かったからそんな悲愴感漂う目で見るな!!」

「やった♪ありがとう零君!!」

「はいはいどういたしまして……」

 

 

 くぅ~~ズルい!!やっぱり俺、μ'sのみんなには勝てねぇのかな……特に穂乃果やことりのワガママは、何だかんだ言って最終的には聞いてしまう。俺が2人の扱いに慣れてきたのと同時に、穂乃果とことりも俺の扱いに長けてきたがった。

 

 

「そんな話はこのゲームをクリアしてからでもいいでしょう。早く行きますよ」

「そうだな。叫んだせいで余計疲れたけど……」

「それでは行きましょう!!最後の神殿は目の前ですよ!!」

「やけに張り切ってるな、亜里沙」

「へっ?げ、ゲームってあまりやったことなかったのですが、実際に体験してみると楽しいですね♪」

「あ、あぁそうだな」

 

 

 なんかさっき亜里沙の反応、少しおかしくなかったか……?どこか咄嗟に考えた言い訳のような口調に……気のせいか。

 

 

 そして俺たちはそこからはノンストップで神殿へと向かった。ここまで楽をしてきたせいで、俺たちのレベルは終盤のダンジョンにそぐわないのだが、穂乃果とことりの妄想力が爆発したおかげでむしろ今まで以上にサクサク進むことができた。まさにエロは世界を救う、だな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「着いたね……ここが最後の神殿」

「火山の中にあるだけあって、かなり雰囲気出てるね……」

「でもどうやってここに神殿を建てたのでしょう?」

「そこはツッコんではならないところだぞ……」

 

 

 ゲーム世界の事象にいちいちツッコんでいたらこっちがもたないぞ。例えばRPGには仰々しい姿のモンスターがたくさんいるが、そいつら私生活しづらそうとか、プレイヤーが家のタンスを勝手に開けても怒らないNPCとか、挙げてたらキリがない。

 

 

「まあいい、入るぞ」

 

 

 俺は神殿の扉に手を掛けゆっくりと開く。ギィィと年季の入った扉特有の音と共に、遂に神殿内に侵入する。

 神殿に入ってまず感じたことは、火山の中に建てられているのにも関わらず内部は暑いどころかかなり涼しい。怪しい妖気が立ち込めているせいなのか、俺たちが緊張して暑さを忘れているせいなのかもしれないが……。

 

 穂乃果たちも先ほどの茶番の時のテンションとは違い、真剣な面持ちで神殿内を一歩一歩重い足取りで進んでいた。俺を先頭に、何故か今更RPGのパーティのように一列に並んで……。

 

 

 そして俺たちが神殿に入って数歩歩いたその時だった――――

 

 

「な、なに!?」

「び、ビックリしたぁ~!!」

「後ろから音が!?」

「と、扉が勝手に閉まった……?」

 

 

 俺、穂乃果、ことり、海未の4人は咄嗟に後ろを振り向く。そこには開けっ放しにしておいた神殿の扉が完全に施錠されていた。もちろん扉が閉まっていたことにも驚いたのだが、それよりも俺たちが驚いたのは神殿に入る前は小さい妖精の姿だった亜里沙が、入口の前に等身大で立っていたことだ。

 

 

「あ、亜里沙?お前どうして元の姿に……?」

「フフフフ……妖精というのは仮の姿です。本当の姿は、この神殿を守る四天王だったのですよ!!」

「な、なんだって!?」

 

 

 亜里沙は妖精の姿から普通の人間へ、そして人間からヴァンパイアへと姿を変えた。

 黒のタキシードに黒のマント、そして黒のシルクハット、耳は尖っており、口元からニョキッと牙が出てヴァンパイアの雰囲気としては申し分ない。だが亜里沙はどこまでいっても亜里沙、可愛さだけはしっかりと残っているので自然と怖さは感じられない。むしろ愛くるしくて抱き枕にしたいまである。

 

 

「ふっふっふっ、初めからこういう算段だったのですよ!!皆さんを騙してここへ閉じ込めるために、妖精の姿で誘導していたのです!!」

「『ふっふっふっ』とか……可愛いこと言うな」

「か、可愛い!?私はヴァンパイアなのです!!もっと怖がってください!!」

 

 

 亜里沙は腕をブンブンと振りながら必死に俺たちを怖がらそうとしているが、どう足掻こうが子供のお遊戯回を見ているかのようでほっこりする。穂乃果たちも暖かい目でのほほんとした表情をしていた。

 

 

「亜里沙ちゃん、可愛いねぇ~♪ことりと零くんの子供にならない?」

「それだったら穂乃果と零君の子供でもあるよね!!」

「で、でしたら私と零の間の子供でも……」

「なんでそんな話になってるんですか!?私は四天王なんですけど!?」

「お前が可愛いのが悪い」

「うぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 

 頬っぺをふくらませ、顔を真っ赤にしてしかも涙目ときた。この表情に怖さを感じろと言う方が無理だろ。でもにこのようにあざとさMAXだったら容赦なく切り捨てられるのだが、こうも天然の可愛さというものは相手にしづらい。もしかしたら今までで一番の難敵になるかも……。

 

 

 

 

「怯んじゃダメだよ亜里沙。あなたはこんなところで立ち止まるにんげ……いやいやヴァンパイアじゃない!!お兄ちゃんたちを倒して、世界を我が一族の物に!!」

 

 

 

 

「次から次へと一体なんなんだ!?」

 

 

 いつの間にか神殿の祭壇に、ド派手な赤いマントに身を包んだ女の子が突っ立っていた。

 ソイツの顔を見なくとも分かる。俺のことを"お兄ちゃん"と呼ぶのは、人類未踏の地を探し回ったとしても世界中でただ1人。

 

 

「か、楓!?」

「嘘……じゃあ楓ちゃんまで穂乃果たちの敵!?」

「そうですよ。まさかここまで来られるとは思ってもみませんでしたけど」

「で、でも亜里沙が四天王の4人目ですよね!?それだったら楓はどの役割に……」

「フッ、私こそがこの世界を統べる者。つまりこのゲームのラストボスなんですよ!!」

「な、なにィ!?」

 

 

 なんとなぁ~く想像していなくはなかったのだが、まさか本当に予想が当たっているとは……予想通りで驚いたというべきか、秋葉制作のゲームだからこれは妥当だと思うべきなのか。そんなものはどちらにせよ、このゲームをクリアするためには乗り越えなければならない壁だということは確かだ。

 

 

「私だけじゃないよ勇者諸君。もう1人、最後の四天王もこの神殿にいるんだけどね」

「何人四天王いるんだよ!?最後って、ソイツが来たら5人目だろ」

「四天王が4人だけとは誰も言ってないからね♪」

「ガキみてぇな屁理屈言いやがって……」

 

 

 この神殿に侵入してからというものの、シリアスな空気ってものが一切存在しない。しかもラストダンジョンでもないのにラスボスが自らお出ましになる始末。神殿に突入する前の俺たちの緊張感を返してくれ!!

 

 

「でも5人目の四天王って一体……」

「穂乃果せんぱぁ~い、あなたに縁のある人物ですよ」

「ほ、穂乃果に!?まだ登場していないμ'sのメンバーって――――――あっ!!まさか!!」

「ですです♪それではご登場願いましょ~♪」

 

 

 楓がパチンと指を鳴らすと、突然天井が2つに開いた。その瞬間、天井裏で渦巻いていたと思われる闇の瘴気が一気に神殿内へ吹き出す。同時に1つの人影が闇の瘴気の中から俺へ向かって落ちてくることに気が付く。だが、気付いた時には既に遅く、俺は受身の耐性を取ることだけで精一杯だった。

 

 

「れ~い~く~ん!!」

「ゆ、雪穂!?ちょっ、こっちに向かって落ちて――――――ぐばぁ!!」

「れ、零君大丈夫!?ゆ、雪穂どうしちゃったの!?」

 

 

 俺へ向かって落ちてきたのは、恐らく四天王の最後の1人である雪穂だ。懐に思いっきりダイブされた衝撃で、一瞬正気を失ってしまったが雪穂のいつもとは異なる表情を見て立ち直る。

 

 

 こ、コイツ……酒くさっ!!!!目もトロンと垂れてるし、呂律も回っていない。

 

 

「雪穂……まさか、酔っているのですか?」

「そうみたいだ……」

「えへへぇ~~零く~~ん♪」

「お、おい雪穂……」

 

 

 普段の雪穂なら俺に抱きつくなんて奇行、絶対にやりたがらないはずだ。だが今の雪穂は身体の全体を押し付けるように俺の身体に抱きついてくる。いや、抱きついてくるというよりも絡みついてくるというのが正解か。高坂姉妹特有の和菓子屋の落ち着く匂いはいいのだが、同時に酒の匂いがプンプンするせいですべて台無しだ。

 

 

「さぁお兄ちゃんたち!!戦闘開始だよ!!」

「こ、この状態で!?」

 

 

 

 

『四天王のありさとゆきほ、魔王のかえでが現れた!!』

 

 

 

 

ありさ

HP∞

 

ゆきほ

HP∞

 

かえで

HP∞

 

 

 

 

 ………………は?

 

 

 

 

 はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?

 

 

 

 

「む、無限って……あの無限ですよね?」

「え、HP無限って……これじゃあことりたちに勝目ないよ!?」

「穂乃果たちがいくら妄想しても無理ってこと!?」

「そうです!!先輩たちがどれだけえっちぃ妄想をしようと、私たちに傷1つ付けることはできないのですよ!!」

「そ、そんなぁ~……」

 

 

 これはいわゆる負けイベントって奴か……?魔王と四天王2人が同時に現れて戦うなんて普通だと有り得ないことだ。でも俺たちが体験しているのは有り得ないRPG。この戦闘もにこ戦のように頭をフル回転させれば勝てるのか……?

 

 

「迷ってるねぇ~お兄ちゃん。しょうがないから、お兄ちゃんたちがこの戦闘に勝利する方法を教えてあげるよ」

「な、なんだって……どうしてそんなことを」

「フフフ……私たちが一方的でも面白くないからね。でもお兄ちゃんたち、いや、お兄ちゃんにしかできないことだけど」

「俺にしかできない、だと……」

 

 

 楓は口角上がった憎たらしい笑顔で、祭壇から俺たちを悠々と見下す。その表情の陰に秋葉の殴り飛ばしたくなる笑顔もちらついて余計に苛立つ。

 

 だが亜里沙は楓とは真逆で、顔を赤面させて俯いてばかりだ。さっきまでの威勢はどうした……?

 

 雪穂は相変わらず俺の胸に頬を擦り付け、甘く酔った声で『零君零君』と俺の名前を連呼するだけだ。正直こんな状況でなければ、俺の理性が崩壊して雪穂の純潔はとっくの昔に失われていたぞ。

 

 

「そ、それは一体……」

「フフフ……それはねぇ~……」

 

 

 楓は一呼吸置いて、再び口を開く。

 今まで理不尽な戦闘を何度も切り抜けてきたんだ。今更どんなことを無茶なことを言われても驚かない――――――

 

 

 

 

「私たちとキス……」

 

 

 

 

「は…………?」

 

 

 

 そう思っていたのはほんの僅かな間だけだった。穂乃果たちも口を開けたまま呆然と立ち尽くしている。

 き、キス……?俺が楓たちと……?

 

 

「ま、待て、俺とお前は兄妹だぞ……?」

「どうせ将来男と女の関係になるんだから、今キスしたって問題ないでしょ」

「問題大ありだ!!」

「雪穂と亜里沙は兄妹じゃないでしょ?」

「そうだけど、2人共恋人ではない。そんなことできる訳が――――」

 

 

「いいですよ、私は」

 

 

「なに……」

 

 

 今まで俯いていた亜里沙は顔を上げ、真剣な面持ちで真っ直ぐと俺の目を見つめてきた。決意を固めたその眼差しに、いつものおっとりとした雰囲気はない。

 

 

「元々、そのつもりでこのゲームを始めましたから」

「元々……そうか、秋葉だけじゃなくて、亜里沙も楓も雪穂もグルだったって訳か」

「雪穂も……?」

「あぁ、雪穂が楓たちのこんな提案に乗るとは思えない。コイツを酔わせたのは判断力を鈍らせるためか。自分たちがキスしたいからって、お前らよくも雪穂にこんなことを――――」

「そ、それは!!」

「それは違うよ、零君」

「ゆ、雪穂……!?」

 

 

 突然俺に抱きついていた雪穂が口を開く。その声は先程までの呂律が回っていない声ではなく、いつも通りの声に戻っていた。酔いのせいでまだ顔は赤いようだが、正気は保っているようだ。

 

 

「違うって?」

「これは私から頼んだことなんだ。私って楓や亜里沙みたいに素直になれないから、こうしないと零君に甘えることもできない……」

「雪穂……」

「楓と亜里沙が零君のことを好きだってことは知ってるでしょ?それも友達としての意味じゃなくて、1人の男性として」

「あ、あぁ……」

「だから協力してあげたかったんだ。私が素直になれば零君も心が揺れ動いて、何か進展するかも……ってね」

 

 

 雪穂は自己主張の激しい楓や何事にも前向きな亜里沙とは違ってかなりの引っ込み思案だ。そんな自分が素直になることによって俺の心を揺れ動かし、その反動で俺に楓と亜里沙の心とも向き合うよう仕向けたのか。しかもキスしないとゲームがクリア不可能という初回限定特典まで付けて……。

 

 

 そこで亜里沙と楓が一歩前へ出る。

 

 

「私、零くんのことが好きです。お姉ちゃんたちのようにあなたの隣で、ずっと笑顔でいたい……」

「私も同じ。家ではいつも一緒にいるけど、それは兄妹としてだから…………もう一歩だけでもいい、私はその先へ進みたい」

「だから、キスをするのか……?」

「ここはゲームの世界。現実世界じゃないけど、見て触れることのできるものはすべて現実世界のような感触を味わえる。それだったらキスも、現実世界と同じ感触でできるでしょ?」

 

 

 街も草原も森も海も火山も、まさに現実世界にいるかのようだった。自分の脳がこの虚構の世界を現実世界と間違って認識してしまうほどに。楓たちはゲーム世界だからキスしてもいいと、そう思っているらしい。

 

 

「私たちもお姉ちゃんたちと同じ愛を受け取りたいのです。あなたの暖かな愛を、この胸に……」

「私はまだ迷いがありますけど、でも楓と亜里沙の気持ちは本気です!!私のことは構いませんから2人には……」

「お兄ちゃん……」

 

 

 

 

 

 

「ダメだ」

 

 

 

 

 

 

「「「え……?」」」

 

 

 楓たちは声を揃えて同時に驚く。

 だが穂乃果、ことり、海未の3人は黙ったままだ。もしかしたら俺の答えが3人には分かっていたのかもしれない。

 

 

「だ、ダメって……どういうことお兄ちゃん!!」

「そのまんまだよ。お前らがゲームの世界だからキスしていいと思ってるのなら尚更だ。むしろ、ゲームの世界だからこそお前たちとこんなことはしたくない」

「零くん……」

「俺は決めてたんだよ。お前たちとキスするなら、お互いの気持ちを隅々まで知って、本気で好きになった時ってな」

「そ、それじゃあ……」

「そう、俺はまだお前たちの知らないところがたくさんある。半端な気持ちで女の子の恋心に近付くことが、どれだけの惨事を生むのかを俺は知っているんだ。だからもしこのゲームをクリアできなくとも、俺たちがこの世界から脱出できなかろうと、お前たちとキスはしない。絶対にな」

 

 

 1年前、半端な気持ちで穂乃果たち9人の心に踏み込んでしまったが故に起きてしまった惨事。一寸先は闇、まさにそんな状況だった。一歩でも道を踏み外したら、今のμ'sは存在していなかっただろう。だからすべてが解決した時に誓ったんだ、もうあんな事態を引き起こす訳にはいかないと。

 

 だが慎重になり過ぎてしまったがために、楓たちの心から離れ過ぎてしまい悩みを募らせてしまったこともあった。しかしそれも同棲生活中に新たな決意を立てることで払拭できたんだ。

 

 

 そんなことがあったからこそ、こんな虚構の世界で中途半端な愛を捧げることなんて、できるはずもない。

 

 

「急がなくてもいい。俺はいつでもお前たちの隣にいる。だからもっとお前たちを見せてくれ。俺もお前たちにもっと好きになってもらえるよう、頑張っていい男アピールするからさ」

 

 

 俺は楓たちの頭を順番に撫でる。もう3人の心は落ち着いたみたいで、目を瞑って気持ちよさそうに愛撫に浸っていた。

 そして俺には聞こえなかったが、後ろでは穂乃果たち3人がこんな会話をしていたらしい。

 

 

「零君は本当に零君だね」

「支離滅裂ですが、自然とその言葉の意味が分かってしまいます」

「そうだね、なんとなくだけど。でもそれがことりたちの零くんらしいよ」

 

 

 

 

 これですべて解決!!――――とはなっていない。さてはてここのゲームをどうやってクリアしようか……?ラスボスへの唯一の勝ち筋を自分で消してしまった訳だが、もしかしたらこのままこのゲーム世界で結婚式を挙げてハネムーンまでするはめに――――!?

 

 

「こ、これは!?」

「な、なにこの光!?」

「か、身体が……!!」

 

 

 突然目の前にメッセージボックスが表示される。だがその瞬間、俺たちの身体が光に包まれ声を上げる暇もなく飲み込まれてしまった。一瞬だが、チラリと目に入ったメッセージボックスに書かれていた文字はこれだ。

 

 

『ゲームクリアおめでとう!!』

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ん……こ、ここは?」

 

 

 目を覚ますと、そこは大学の教室だった。周りには穂乃果たちμ'sメンバー全員が気持ちよさそうに眠っている。どうやらRPGの世界から帰ってこられたみたいだな。

 

 

「おはよう零君♪お疲れ様ぁ~♪」

「秋葉か……」

「ありゃ?テンション低いねぇ~」

「本当はここに戻ってきたら地獄の底に送り込んでやるつもりだったけど、今はそんな気持ちじゃない」

 

 

 正直に言って、そこまで悪い旅ではなかったとはコイツの前で口が裂けても言えない。穂乃果たちと一緒にRPGを体験できたことや、海未たちの際どいコスプレを見られたこと、そして雪穂と亜里沙、楓の心にまた一歩近付けたこと、むしろ旅ができて良かったと思える。

 

 

「聞きたいことが2つある」

「はいはい言ってみそ」

「俺はともかく、どうして穂乃果たちまでゲームに?楓たちの頼みを聞いてこのゲームを開発したんだろ?それだったら穂乃果たちは必要なかったはずだ」

「いや、このゲームは楓ちゃんたちに利用してもらっただけで、元々一般向けに開発してたものだから、そのデバッグも兼ねてたんだよ」

「なるほど……」

「それで、ゲームの出来具合は?」

「ツッコミどころしかなかったからまた後で言うよ」

 

 

 黄金米おにぎり、激辛スパイスラーメン、壊れたカンテラとの融合、妄想力が物を言う魔力、適当なボス戦……挙げればキリがない。新感覚RPGとして話題になるか、早々にクソゲーのレッテルを貼られるのかどちらかだろうな。

 

 

「もう1つ。どうしてあそこでゲームクリアにした?まだラスボスは倒してなかっただろ」

「ラスボスのHPを0にしろだなんて誰も言ってないからね♪」

「お前も楓みたいな屁理屈を……」

「結局零君がラスボスである楓ちゃんを手篭めにしたんだから、それでいいでしょ♪」

「妹を手篭めにするとか言うなよ……」

 

 

 そこで俺はふと、楓たちの寝顔を見てみた。3人共いい笑顔でぐっすりと眠っている。さぞかしいい夢でも見ているだろう。もしかしたら俺と一緒にいる夢でも見ているのかもしれない。

 

 でもいつか夢ではなく、この現実の世界で恋人同士になれる、そんな時が来るといいな。

 

 

「おーおー憎いねモテ男♪」

「頭をガシガシすんな」

 

 

 それに暴れたらコイツら起きちまうだろ!!全員の寝顔写真フォルダを更新するため、今から1人20枚ほど写真を撮らないといけないのに!!

 

 

 

 

 だがそこで、秋葉の頭ガシガシ攻撃が急に収まった。

 秋葉は真っ直ぐと俺の瞳を見つめる。

 

 

 

 

「…………しっかりと、向き合ってあげなさい」

 

 

 

 

 そんなこと、言われなくてももう決まっている。

 

 

 

 

「当たり前だろ。絶対に幸せにしてやるからな」

 

 

 

 

 ――――と、俺は3人の寝顔を見ながら呟いた。

 

 

 

 




 キスすると思いました?


 そんな訳でラブライブクエスト編、通称らぶくえ編はこれにて終了です。初めはとあるラ!作家仲間の呟きを拾って、「適当に書いてみるかぁ」みたいな軽いノリだったのですが、書き始めてみるととても楽しかったです!
今までの『日常』『新日常』になかった雰囲気とストーリーだったので、かなり新鮮さを味わえました。たまにスパイスとしてこのような非現実的な話もいいかもしれませんね。

 今回唐突に入ってきた1年生組との恋愛展開ですが、そろそろ何か進展させなければならないと思いつつ、あまりその手の話が構想できていなかったので思い切って今回らぶくえ編にぶっこみました。本当は海未ちゃんのくっころ展開が書きたかっただけなんですけどね(笑)

 そして「らぶくえ編つまんねぇよ!!」という方も、「らぶくえ編面白かったよ!!」という方もお待たせしました、次回からいつも通りに戻ります。今回初めての長編だったので、らぶくえ編を書いている期間にらぶくえ編終了後に書きたいネタが出てくること出てくること!!
やっぱり自分は短編集が似合います(笑)


~次回からの予定(順番は未定、没の可能性アリ)~

『ツンデレでも恋がしたい!!』
真姫視点。人がいる部室で容赦なくイチャつく零君とにこを見た真姫は……

『凛の冒険』
凛視点。零君と花陽が何やら2人でコソコソと。調査隊凛が動き出す!

『愛妻キャラのμ's』
妹キャラ、子犬キャラに続き第三弾。○○キャラシリーズ。

『のぞえり回(タイトル未定)』
とりあえずこの2人と零君を絡ませたいというところまで構想中。

『コラボ回(タイトル未定)』
もうネタは決まっているので、あとは書くだけ。


 遅れましたが、感想が遂に700件を突破しました。『新日常』を始めた当初からほぼ毎回感想をくださる方もいらっしゃるので大変嬉しいです!ありがとうございます!
一時期毎回感想を書いてくださった方もたくさんいらっしゃったのですが、その方はまだこの小説を読んでくれているのでしょうか……?いらっしゃいましたらこの機会(77話記念)に是非もう一度お声を聞きたいものです。まだやってたのか!?と言われるかもしれませんね(笑)


 また評価ももう少しで60件に達しようとしています。この夏休み中にたくさんの方に読んでもらったようで、たくさんの高評価を頂きました。こちらもありがとうございます!


 これからはらぶくえ編で足りなかったエロ成分全開で頑張ります!もう普通の恋愛であってもエロがないと満足できない体質なので(笑)

Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ツンデレでも恋がしたい!

 タイトルはとあるアニメのパクリ。

 今回からまたいつもの日常に戻ってきました!
 ゲーム世界帰還後1発目の話は、真姫ちゃんの恋物語!?


 

 素直になりたい、そう思うことがある。

 

 

 別に好きで素直になっていない訳ではなく、零やμ'sのメンバーが嫌いな訳でもない。むしろ"好き"と心の中ではいくらでも言うことができる。でも、誰かと面と向かって好意を伝えるのは未だに緊張してしまう。それ故に素直になりきれずサラッと毒を吐いてしまうのよね……しかも素直になったらなったで、『真姫がデレた』と驚かれるし。

 

 

 どうして今そんなことを考えているのかというと、部室で零と2人きりだから。折角の2人きりだというのに、これといって特に会話はなく、私はずっとコーヒーカップを片手に本を読んでいる。だからといって気まずい関係とか、そういうのではないから勘違いしないように。

 

 零と2人きりになることは珍しいことではなく、たまにだけど作曲の手伝いをしに私の家へ来てくれることもあるから、必然的に2人きりになることが多いだけ。もしかしたらμ'sのメンバーの中で零と2人きりの時間が多いのは私かもしれないと、妙な自信を持っていたりもする。

 

 でも2人きりで弾んだ会話をしているのかと言われれば、返答に困ってしまう。話し掛けてくるとしても大体は彼から。自分でも理解しているこの面倒なプライドさえなければ、彼の心に一歩近付けるのに。2人きりだと特にそう思ってしまう。

 

 

「ふわぁ~……寝みぃ」

 

 

 静寂の中に零のあくびだけが静かに響く。

 花陽は飼育委員の仕事でアルパカ小屋に向かって、凛もその付き添い。穂乃果たちは生徒会業務で雪穂たちは知らないけど、先週楓が『トイレ掃除ヤダ~』って嘆いてたから多分掃除当番。絵里たちは大学からこちらへ向かっている辺りかも。

 

 

 この暇な時間を利用して零と作曲をしてもいいんだけど、次の曲は作詞の海未と平行して進めないといけないから、いくら零がいると言っても作業は進まない。しかもとても眠そうにしてるし、元々戦力の欠片もないけど。

 

 

「お疲れ~……ってあれ?2人だけ?全然にこを迎える体勢が整っていないじゃない」

 

 

 部室に入ってきたのはにこちゃん。聞くところによれば大学では自慢のツインテールを外している時もあるらしい。流石に大学生にもなってツインテールはあざとらし過ぎるって気づいたのね。それでもアイドル活動の時は髪型を戻しているらしいけど。今もそうだし。

 

 

「あれ?絵里と希は来てないのか?」

「買いたい物があるって言ってたから、まだもう少し掛かるんじゃない?」

 

 

 絵里や希は高校時代から元々色っぽかったけど、にこちゃんは大学生になって小柄ながらかなり大人っぽくなった。やっぱり大学生になると見た目も雰囲気も変わるものなのね。妙に色気が付いたというか、零へのアピールが露骨になってきている。この前大学の男には一切興味ないとか言ってたし、段々楓と同じ考え方になっているような気も……。

 

 

「話は変わるんだけど、にこ最近お菓子作りに凝ってるのよ」

「へぇ~。お前料理上手いから、お菓子作りくらい余裕だろ」

「まあにこだから当然でしょ!!だから零、昨日にこが作ったクッキー味見してくれない?」

「いいよ。丁度おやつタイムだし」

 

 

 おやつタイムって……小学生か。

 にこちゃんはカバンから可愛くラッピングされた袋を取り出し、部室の棚に置いてあったお皿を机の上に置いてクッキーを並べる。ミルク風味のクッキーやチョコレートクッキーなどのオーソドックスなクッキーから、緑がかった抹茶風味のクッキーなど風変わりなものもあった。

 

 

「ほら、真姫も」

「……まるで私がついでみたいな言い方ね」

「零のために作ったんだから当然。実際ついでだし」

「折角だからありがたく頂くわ」

「にこの超大作を、精々その肥えた舌で味わうことね」

 

 

 ダメだ……またやってしまった。素直に『ありがとう』と言えばいいのに、どうも零やにこちゃんの前では捻くれた返事が多くなってしまう。もうこの関係に慣れてしまったせいで余計に直しづらくなっているのよね。

 

 

「よしっ!!それじゃあ零にはにこが食べさせてあげるわよ♪」

「え、にこが?」

「そうよ。ちょっと失礼するわね」

「お、おいっ!!」

「な゛っ……!!」

 

 

 ちょっ、ちょっと何やってるのよ!?突然にこちゃんが座っている零の太ももの上に股がり出したんだけど!?しかもお互いに向かい合って抱き合い始めた!?そ、それににこちゃんの唇にはクッキーが!!ま、まさかとは思うけど、私が見ているこの状況で……!?

 

 

「ん~♪」

「そ、それを食えってのか?」

 

 

 にこちゃんはクッキーを咥えながら頷く。零もにこちゃんの行動に驚き戸惑っているみたいだけど、その目だけはしっかりとにこちゃんの目を見つめていた。

 

 部室にしばらく無言の時間が流れる。零とにこちゃんはお互いに見つめ合い、お互いに顔を真っ赤にしていた。一応恥ずかしくない訳ではなさそうね。

 

 にこちゃんは零の肩に腕を回しながら、彼の顔にどんどん迫っていく。零も決心がついたのか、口を徐々に開けにこちゃんの口移しを受け入れる体勢に入る。

 

 零もにこちゃんも、この部室に自分たち2人きりだと思ってるんじゃないでしょうね……絶対に私のこと忘れられてるわ。多分お互いの瞳には相手のことしか映ってないと思う。

 

 

 そして――――

 

 

「むぐぅ、んっ」

「んっ、ちゅぅ」

 

 

 なっ、ななななにやってるのよ!?ただ食べさせるだけだと思ったら、にこちゃんは零の口にクッキーを放り込んだ勢いでキスをした。零は特に驚いている様子もないし、彼も初めからそのつもりだったのね……。

 

 

「ちゅるっ、ちゅう」

「ちゅっ、んっ、ちゅっ」

 

 

 にこちゃんが座っている零の太ももの上に股がり、キスをしながら同じ1つのクッキーを2人で味わっている。恐らく零のことだから、『にこの唾液が甘くてクッキーの味が更に引き立つ』とか、『にこの匂いがクッキーの風味をより際立たせる』とか思ってそう。キス大好きのにこちゃんも、零の口の中を舌で思いっきり掻き回してそうね。

 

 

 ――――――って、どうして真面目に実況してるのよ!?何が悲しくて、自分の彼氏と親友が口移しディープキスをしている現場を横目で見ながら実況しなきゃならないの!?2人も2人よ!!やるのは勝手だけど、キスなんて普通は2人きりでするものでしょ!?あっ、でも2人は普通じゃなかったわ……。

 

 

「んはっ、ちゅるっんっ!!」

「んちゅっ!!」

 

 

 もうクッキーはすべて食べ尽くしてしまったようで、にこちゃんの吸い付きがより激しくなった。自分の唇全体を零の唇全体に押し付るよう、顔を少し傾けて彼の唇を飲み込むかのようにしゃぶりついている。にこちゃんの吸い付く勢いが強すぎて、零の身体が後ろに仰け反っちゃってるじゃない……。

 

 

「んはっ、ちゅっんっ!!」

「んちゅっ!!」

 

 

 キスの濃度は声を出して吐息が漏れるほど濃厚になっていく。酸欠気味になって苦しいんじゃないの?と思ったけど、2人は構わずお互いの唾液を交換しながら抱き合っている。この2人、愛のためなら自分たちの命を削りそう……。

 

 

 部室には零とにこちゃんのキスによる唾液が交じり合う音と、2人から発せられる吐息と同時に漏れ出す声しか流れていない。そして何だかんだ言って零とにこちゃんのキスに釘付けとなっている私がいる。私もにこちゃんみたいにああやって零とキスできたら――――

 

 

 わ、私、今何考えてた!?あの2人のようなキス!?あんな自分たちを酸欠で苦しめるようなキス、誰が羨ましいと思うのよ!!そ、そりゃあ零とのキスは気持ちいけど、私はソフトなキスの方が……

 

 そう言えば最近、零と2人きりになることはあるけど甘えたことは一度もなかったかも。2人きりになるのもデートとかではなくて、作曲という大義名分があってこそのことだったし。

 

 

 そう考えてみれば、穂乃果たちがとても羨ましい。人目を気にせず零に甘えることのできるあの姿勢。もちろん世間的には褒められたものじゃないけど、彼と一緒に濃厚な時間を過ごせるという点では、恋人同士として正解なのかも。

 

 

「ちゅう、ちゅるっ!!」

「ちゅっ、んはっ!!」

 

 

 私は改めて2人のキスシーンを覗き見る。

 口の中に収まりきらなくなった唾液が、にこちゃんの頬っぺを伝いながら垂れる。そして大学に入って少し成長した胸を零の胸元に押し付け、彼の欲求を高めているみたい。その行動を"バカだ"と思いながらも、それを羞恥心なく実行する勇気に私は羨ましいと思ってしまう。

 

 

 心臓の高鳴りが収まらない。もしかして、私もにこちゃんのようなことがしたいの?零と抱き合いながら、濃厚なキスを……。

 

 

 

 

 こ、こうなったら私も……捨てないと、素直になれない気持ちを。

 

 

 

 

 そして零とにこちゃんは、海未が部室にやって来て怒られるまでずっとお互いに合いを確かめ合っていた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 翌日のお昼休み、私は零を校舎裏へ呼び出した。もちろんお弁当を一緒に食べるため。しかも朝早起きして作った、私特性の手作り弁当。ちなみに校舎裏を選んだ理由は誰かに見られるのが恥ずかしいから、ただそれだけ。

 

 

 呼び出すだけなら携帯で連絡を取るだけだから緊張も何もない。本番はここから。昨日ベッドの上であれだけ脳内シミュレートしたんだもの、この私が失敗するはずないわ。

 

 

「よぉ真姫」

「れ、零……」

「悪いな、4時間目が体育だったから着替えで遅れちまって」

「そのくらい分かってるわよ」

「あれ?お前、俺のクラスの時間割知ってるのか?」

「うっ、そ、それはいいとして、早くお昼ご飯を食べましょ」

「あ、あぁ……」

 

 

 危ない危ない、こっそりと海未にそっちの時間割を聞いていたことがバレるところだったわ。バレてもいいけど、狙って彼を誘ったみたいに思われるのイヤじゃない?あくまで自然に冷静に……私だって、甘えることぐらいできるんだから。

 

 

「でもどうしてこんなところで飯食うんだよ?もしかして、校舎裏に連れ込んで逆レイ――――」

「それ以上言わせないわよ!!今からお弁当食べるのに、そんなこと言わないでくれる!?」

「いやぁ~なんかお前の表情固かったからさ」

「そ、そう……あ、ありがとう」

「おう、どういたしまして」

 

 

 誰がどう見てもふざけているようにしか見えないけど、本人はこれで私たちのことを本気で心配してくれている。それは私たちμ'sなら誰もが知っていることで、その軽く見える言動に何度も救われてきた私たちは中々文句が言えない。そう、今の私のように……。

 

 

 表情が固かった……か。確かにちょっと自分のことに固執して、零のことをあまり考えてなかったかも。昨日のにこちゃんは強引なように見えて、そこには確固とした零への愛があった。だから彼もその愛に答えている。それはあの砂糖を吐くくらい濃厚なキスを見れば分かること。

 

 それは穂乃果たちも一緒。穂乃果や凛が彼にベタベタ引っ付くことも、ことりが甘く卑猥な誘惑をするのも、零への愛があってこそだし。それに最近花陽も妙に零へ近付いて、彼の身の回りのお世話をしている。それもまた愛ゆえ。楓は……まぁいっか。

 

 

 手に持っているこのお弁当は、今朝早起きして作ったもの。料理は得意じゃないから苦労したけど、彼への想いだけはたっぷりと詰まっている。朝は零のことをずっと考えていたのに、食べてもらう今になって自分のことしか考えてないのはダメよね。

 

 

 

 

 よしっ!!

 

 

 

 

「それじゃあ早く食べるわよ。もうお昼休みも半分過ぎっちゃってるし」

「ホントだ。それでは真姫の愛妻弁当でも頂きますか」

「あ、愛妻って……!!」

「お前も大概耐性ないよな。すぐ顔が赤くなる」

「好きな人に言われたら、誰でもそうなるに決まってるでしょ!!」

「ほほぅ、珍しく素直だな」

「あっ、も、もうお弁当あげないわよ!!」

「悪かったって」

 

 

 このままでは零のペースに飲み込まれてしまうわ……こうなったらちょっと強引だけど、脳内シミュレートを行動に移すしかない!!

 

 

 私は零を誘導して、あらかじめ用意しておいたイスに座らせる。

 こ、ここから……もうどうにでもなりなさい!!

 

 

 

 

「えっ!?ちょっ、真姫!?」

 

 

 

 

 私は昨日のにこちゃんと同じように、零の太ももの上に股がった。にこちゃんがやるなら想定の範囲内だろうけど、私に突然こんなことをされるなんて思ってもなかったらしく、零は目を丸くして驚いている。

 

 

 もちろんだけど、これだけでは終わらないから!!

 

 

「ま、真姫!?」

「黙って!!誰かに見つかる!!」

「えぇ~……」

「いいから黙って抱きつかれる!!」

「なんて横暴な……」

 

 

 こんなところを誰かに見られたら、私のこの先の学院生活が崩壊してしまうわ。それ以前に私と零だけの2人きりの空間を、誰にも邪魔されたくないもの。彼だけを見ていたい。私の目は、ずっと彼のもの。

 

 

「まずは、何から食べたい?」

「えっ、そ、それじゃあ卵焼きで……」

「分かったわ。あなたは動かなくても大丈夫、私が食べさせてあげるから」

「食べさせてあげるって……ま、まさか!?」

「大声出さない!!いくわよ!!」

「あ、あぁ……」

 

 

 私はお弁当からお箸で卵焼きを1つ摘み、そのまま零の口……ではなく自分の唇に咥える。零はにこちゃんの時以上に焦っているようだったけど、ようやく置かれている状況を理解したのか、今は落ち着いた目線で私の瞳を見つめている。

 

 

 零が徐々に口を開ける。私は卵焼きを咥えた唇を、その口へ向かって――――――

 

 

「ちゅ……」

「ちゅぅ……」

 

 

 遂に私たちの唇が重なった。同時に卵焼きを零の口の中へ放り込む。

 

 久しぶりに味わったキスの感覚。彼の熱い唇から伝わってくる温もりは、私の唇だけじゃなく全身を包み込む。既に零の口には唾液が溜まっていたようで、その一部が私の口の中にドロドロと流れ込んできた。これが彼の味……もうこのまま一生キスしていたくなるような、卵焼きと相まった甘い味。私は喉を鳴らしながら、彼の分泌液をゆっくり味わいながら飲み込む。

 

 

「ちゅう、ちゅっ……」

「ちゅぅっ、ちゅ……」

 

 

 にこちゃんの時とは違う、優しく誠実で、私の大好きなキス。彼は私好みのキスを知っている。知っているからこそ無理に濃厚にせず、ソフトなキスで私からの愛を受け止めてくれている。

 

 

 唇も身体も心も、彼に優しく包まれて離れられなくなる。彼の味、匂い、温もり、そのすべてが私の身体を駆け巡る。キスだけで私の全身が彼の色に染まっていく。もうこうしてあなたと繋がることしか考えられなくなる。

 

 

 

 

 支配される、

 

 

 

 

 彼に、

 

 

 

 

 あなたのことが、もっと好きになっていく。

 

 

 

 

「ちゅるっ、んんっ、ちゅう……」

「ちゅっ、んっ、ちゅっ……」

 

 

 もう卵焼きは彼の口の中にはない。だけど私たちは一心不乱にキスを続けていた。吐息が声と共に漏れ出すも、私たちはお互いの愛を貪り食う。

 

 ここでようやくにこちゃんの気持ちが分かった。例え酸欠になろうとも、それで命を削ろうとも、彼とのキスはやめられない。彼の腕の中でずっとこの暖かな温もりに浸っていたい、彼からの愛をたくさん受け取りたい、そして私の愛をあなたにたっぷりと受け取って欲しい。今の私の思考や心情はもはやその気持ちだけで埋め尽くされていた。

 

 

「ちゅうっ、んちゅっうう……」

「ちゅっ、んっ、ちゅぅうう……」

 

 

 お互いに吸い付きが強くなる。もっと彼からの愛を感じたい、もっと彼に私の愛を証明したい、そう思った私は顔を傾けて彼の唇全体を自分の唇で覆う。同時に自分の胸も彼の胸板に擦り付ける。

 

 感じて欲しい、もっと彼に、私の愛を。そのために今日は上の下着は着けてきていない。彼に私というものを味わって欲しかったから。だから私と彼の胸を隔てるものは、制服の夏服である白いシャツのみ。それすらも汗でほぼ透けている。

 

 胸の柔らかさ、感触、彼に喜んでもらえるのなら自分の胸なんていくらでも差し出していい。あなたに愛を示すことができるのなら、私はどんなことだってする。もしかしたら今の私は壊れちゃっているのかもしれない。もう、それでもいい。

 

 

「ちゅっ、ちゅぱっ、ちゅっ」

「ちゅうぅ、くちゅっ、ちゅぅ」

 

 

 恐らく零も快楽にすべてを任せ、何も考えずキスをしているのだろう。

 

 それは私も同じ。

 

 

 私は彼に抱きしめられながら、胸を押し付け、彼の唇を捕食している。彼からの愛と温もりを感じながら、唾液や吐息はもはや抑えようとしていない。周りのことなどは考えず、そもそも周りなんて概念が存在するのかすら怪しいほどに、私たちは2人だけの世界に浸っている。

 

 

 そして私たちはお互いの愛の、更に奥へと沈んでいった…………

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「昼休み、終わっちまったな……」

「え、えぇ……」

「お弁当はまた放課後に頂くよ。折角作ってくれたんだし」

「え、えぇ……」

 

 

 結局ずっとキスをしていたせいで、零に食べてもらったのは卵焼き1つだけとなってしまった。

 それはいいんだけど、さっきから頭がぼぉ~っとしてしょうがない。多分零とのキスの快楽が、頭や身体から抜けきっていないのかも。

 

 

 でも冷静になってみたら、私ってばとんでもないことをしてたのよね……?

 段々と顔が熱くなってくるのが分かる。今すぐ家に帰ってベッドに飛び込んで布団を被りたい!!

 

 

 は、恥ずかしい……!!

 

 

「いやぁ~まさか真姫から口移しをしてくれるなんてな。それにお前からあんなに貪りついてくるとは、今日の午後はいい気分で乗り切れそうだ」

「か、勘違いしないでよね!!こんなことをするのは今日だけなんだから!!そう、今日だけ……」

「はいはい分かってる分かってる」

「ちょっと!!真面目に聞きなさい!!」

「なんだよ急に甘えてきたと思ったら、いつも通りツンツンに戻りやがって……」

「た、たまには甘えたかっただけよ。ま、まぁ今日は満足できたから、今日は許してあげるけど!!」

「どうして俺が許される立場なんだ……?まぁでも、甘えている時のお前もよかったけど、やっぱりツンデレのお前も可愛いな」

 

 

 ま、また可愛いとか……そんな簡単にサラッと言うものじゃないでしょ全く!!

 でも、自分の顔がさっきより更に熱くなっている。もう!!私ってば単純なんだから!!

 

 

 お、落ち着いて……また毒を吐いたらいつもと同じ展開になってしまうわ。深呼吸して、ふぅ~……よしっ、大丈夫。

 

 

 

 

 伝えよう、素直に――――

 

 

 

 

「あなたも、世界一カッコイイわよ。私の、未来の旦那様♪」

「真姫…………全く、やっぱりお前は最高のツンデレだよ!!」

 

 




 くそぅ、イチャイチャしやがって……


 そんな訳で今回は真姫回でした。そうは言っても真姫個人回ではなく、いつもの日常回の括りです。個人回はもっとエロく、激しく書くつもりなので(笑)
でも今はまだ幻の72話の件で謹慎期間中なので、R-17.9描写は自粛しています。

 今回は地の文がかなりくどかった印象です。特にキスシーンは会話がキスの音しかないという異常事態。その分真姫の心情は結構細かく書いたつもりなので、ほんの少しでもドキッとしてもらえたのなら嬉しいです。

 あとキスの音をどう表現したらいいのか、マジでご教授願いたいと思う今日この頃……


 次回は前回の後書きで予告した話の中からどれか、もしくはまた新たに思いついたネタの中からどれか、つまり未定です(笑)
ちゃん丸さんとのコラボ小説はまだ先になりそうです。だってまだ1文字も書いてないし!!


新たに高評価を下さった方々

花霞さん、ポチタンクさん、☆コウキ☆さん、勇気のない浪人さん

ありがとうございました!


また、超短編小説として『干物妹!かえでちゃん』を活動報告にて同時更新しました。30秒程度で読めますので是非ご覧下さい。


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

おやこどんぶり

 今回は親子丼の話です!
 自分はあまり食べたことがないのですが、一度でいいから美味しい親子丼を食べてみたいものです。

 またこの段階で"親子丼"という言葉に危機を感じ取っている方は私と同類です(笑)


※穂乃果とことりはどちらが喋っているのか分かりづらい可能性があったので一応見分けるポイント。

穂乃果⇒『零君』(漢字)
ことり⇒『零くん』(平仮名)

ついでに希は穂乃果と一緒。


ではどうぞ!


 親子丼、という料理がある。

 

 鶏肉を割り下などで煮ながら卵汁でとじ、ご飯の上に乗せた料理。丼物の一種で、「親子」という名称は鶏の肉と卵を使うことに由来する。また、別名で親子どんぶりと呼ぶこともあるみたいだ。

 

 

「れ~い君♪な~にしてるの?」

「穂乃果か……暇だったから、今日の晩飯を何にするか考えてたんだよ。携帯で色々と調べながらな」

 

 

 穂乃果は座っている俺の肩に両手を置き、自分の顔を俺の顔の横からニョキッと覗かせた。穂乃果の自慢のサイドポニーがふわんと靡くことで、彼女の甘い匂いが俺の鼻をくすぐってくる。

 

 

 か、顔が近い……このままお互いに向き合ったらそれだけでキスが成立するぞ。ただでさえ頬っぺが少しくっついていると言うのに…………くそ柔けぇ。

 

 

「それって親子丼?わぁ~おいしそう♪」

「こうやって画面で見ると美味しそうに見えるけど、実際親子丼を食べたことがあるかって言われたら……あまりないんだよなこれが」

 

 

 でもどうせ食べるのなら、料理が上手い楓に作ってもらった方がいいな。俺も料理ができない訳ではないが、基本は細かいことを抜きにして作る、いわゆる男飯。俺と楓では料理のレパートリーが雲泥の差である。それ故に楓からは『お兄ちゃんの料理は栄養が偏るから、これから料理は私に任せること!!』と言われる始末。いやはや妹様には頭が上がりませんわ。

 

 

 

 

 そんなことを考えていると、目の前に座っていることりが何やら顔を赤くしていることに気が付いた。もしかして、体調でも悪いのか?

 

 い、いや違う!!頬を朱色に染め、若干気恥かしそうにしているこの感じ。そして何より、部室全体に充満するほどの桃色のオーラ!!

 

 

 こ、コイツまさか――――!!

 

 

「れ、零くんがまさか親子丼に興味があっただなんて……」

「こ、コイツ……」

 

 

 ことりの言う"親子丼"は、ニュアンスは違うが間違いなく"親子丼"だ。この意味が分からない人は、自分が幸せな生活を送っていると思っていい。逆に意味深に聞こえる人は心が薄汚れているぞ。

 

 

「そんなに親子丼が食べたいのなら、ことりが食べさせてあげようか?」

「お、おいそれって――――」

「ホントに!?ことりちゃんが作ってくれるの?」

「お母さんに同意を得ないといけないけどね♪」

「理事長さんと一緒に作るのかぁ~。理事長さんも料理上手だから、絶対に美味しいに決まってるよね!!」

「うん!!ことりとお母さんの親子丼美味しいよ、ねぇ零くん♪」

「俺に振るんじゃねぇよ……」

 

 

 穂乃果とことりの会話が、成り立っているようで見事にすれ違っている。ことりの奴、ニコニコしてるってことは分かっててやって楽しんでるな。まさか健全な"親子丼"と意味深な"親子丼"が相対する時が来るとは……。

 

 いくら穂乃果が去年に比べて変態気質が上がったとは言っても、このような知識にはかなり疎い。つまり変態の中でもまだウブな方なのだ。比べてことりは脳内にラブホテルを建設しているほどの性のプロフェッショナル、気を抜いたら搾られるからな。

 

 

「零くんは親子丼食べたことないの?」

「ねぇよ!!」

「えっ?でもさっき『あまりない』って言ってたから、食べたことはあるんじゃないの?」

「いや、食べたことはあるんだけど、食べたことはなくて……くそっ、訳分かんなくなってきた」

「変な零君」

「フフフ……ホントに変な零くん♪」

「お前なぁ……」

 

 

 どうする……親子丼のあっちの意味を穂乃果に教えてあげるか?でもいくら穂乃果の変態気質が高いからといって、無闇やたらに安々とそんな言葉を教えてしまっていいのか……?まだ穂乃果には"純粋"な変態であって欲しい。ただでさえことりや楓に手を焼いているんだ、穂乃果まで淫乱になってしまったら…………まぁそれはそれでありか。

 

 

 とにかく!!意味を教えるのはなしだ!!ことりの策略に乗るのも癪だしな。

 

 

「穂乃果ちゃんは親子丼好き?」

「う~ん、穂乃果もあまり食べたことはないけど、鶏肉と卵は好きだから多分好き!!」

「多分ってなんだよ……」

「穂乃果ちゃん……いい趣味してるね。親と子、どっちも好きだなんて。あっ、母と娘だったね♪」

「いちいち言い直さなくてもいい!!」

 

 

 もしかしてこれ、久しぶりにツッコミ死するパターンのやつでは……?思えば俺たち3年生組は、海未がいなかったら話のベクトルが3次元を振り切って4次元に向いてしまうほど話が暴走してしまう。つまり人間業では収集がつかなくなるってことだ。今のこの状況は穂乃果が純粋だからまだいいが、この2人が暴走した時はどうなることか。

 

 

 あとお二人共、そろそろ服返してくれません?(※61話『ことほの最後の晩餐』参照)

 

 

「趣味……?穂乃果は食べるの専門だからね、細かい味付けとかは分からないからことりちゃんに任せるよ」

「食べるの専門!?まさか穂乃果ちゃんがそこまで肉食系女子だったなんて……」

「確かにお肉は大好きだけど、野菜もしっかり食べてるよ。お肉ばっか食べてたら太っちゃうし!!海未ちゃんもうるさいし!!」

「ことりも肉食系だけど、たまには草食系もいいよねぇ~♪」

「ことりちゃんってお肉好きだったの!?知らなかったぁ~」

「うん♪特に零くんのお肉を……ね♪」

「なぜ俺を見る……」

 

 

 ことりの奴、いい笑顔しやがって……穂乃果との会話めちゃくちゃ楽しそうじゃねぇか。穂乃果から見れば至ってマトモな会話が続いているようにしか見えないだろうけど、俺にとってはことりに遊ばれている穂乃果が不憫でならない。ここまで穂乃果に同情したのはこれが初めてだよ……本当に親子丼を作ってもらえると思って、目を輝かせてるし。

 

 

「穂乃果は鶏肉も好きだけど、肉汁が溢れるお肉ならなんでも好きだよ!!」

「いいよねぇ~肉汁。ことりはソーセージが好きなんだ♪」

「おい!!」

「へぇ~それも初めて知ったよ」

「ソーセージの先っぽからピュッと吹き出す肉汁が堪らないんだよねぇ~♪」

「それ分かる!!穂乃果もソーセージをパクッと咥えた時に飛び出る肉汁大好きなんだ♪」

「穂乃果ちゃん、やったことあるもんねぇ~♪」

「えっ、そりゃあいくら穂乃果でもソーセージくらいは食べたことあるよ」

 

 

 クソッ!!穂乃果の純情を守るためにも止めなければならない会話だと分かっているのに、面白いからこのままずっと聞いていたい自分が憎い!!純情な人が聞けば普通の会話なのに、俺みたいに心がブラックに汚れている奴が聞くとただのセクハラにしか聞こえない。

 

 

 くっ、わ、笑いが……。

 

 

 お、抑えろ……穂乃果の純情を守りながらこの会話を楽しむためにも、ここで笑ってはいけない!!

 

 

「そうだ、ことりちゃんに任せるって言ったけど、卵はとろとろにしておいて!!」

「卵ってことは子の方――――ということは、娘の方をとろとろに……分かった!!初めから濡らしておけばいいんだね♪」

「ブッーーーーーー!!」

「わっ!!零君汚い!!」

「いや、表現が……」

「ことりは自分でとろとろにしておくけど、零くんはとろとろにしてきちゃダメだよ?ことりが濡らしてあげるから♪」

「うるせぇよ……もう表現がモロじゃねぇか」

「えぇ~零君、親子丼の卵とろとろ派じゃないの!?」

「ぷっ!!」

 

 

 穂乃果の的外れではないけど的外れな発言に、ことりが口を抑えて笑い出す。なんとか穂乃果にバレないようにと画策しているのだろうが、声も漏れてるし笑ってることバレバレだからな。穂乃果は頭に『?』マーク浮かべてるけど。

 

 今回の穂乃果は断じて悪くない。悪いのは堕ちた翼を纏っているあの堕天使だ。幼馴染をダシに使って自分だけが楽しんでやがる。南ことりがここまで性悪になってことが今まであっただろうか、いやない。

 

 

 

 

 そんなことりの悪ふざけが蔓延している中、部室のドアがガチャリと開かれた。

 

 

「希、絵里」

「こんにちは~零君、穂乃果ちゃん、ことりちゃん♪」

「あら?3人だけなのね」

「掃除とか色々あるんだろ。そっちは2人だけか?にこは?」

「今日はお母様が帰ってくるのが遅いらしくて、妹さんたちの面倒を見るために早く帰ったのよ」

 

 

 やはり13人もいると毎日この部室に全員が集結するのは難しく、週に1、2回は欠員が出てしまうことも多い。生徒会や大学の都合もあるから、全員が集まっての練習は中々に貴重だったりする。

 

 

「ことりちゃん、やけに嬉しそうやね。何かいいことでもあったん?」

「やっぱり分かる?」

「え~勿体ぶらずに教えてよ」

「実は零くんと穂乃果ちゃんに、ことりの親子丼を食べてもらうんだ♪」

「お、親子丼!?それってことりちゃんと理事長の……いやなんでもない♪」

「希……お前笑ってんじゃねぇよ」

 

 

 コイツもことりと同族だったか……確かに1人暮らしだからそういう知識は蓄えやすいとは思うけど。

 つうか女の子って、そのような知識をどこで会得しているのだろうか?こっそり大人のビデオを見て興奮していることりや希を想像すると、それを見て俺が興奮するけど。

 

 

「親子丼……話には聞くけど、私はまだ一度も食べたことないわね」

「絵里ちゃん食べたことないの!?だったら穂乃果たちと一緒に今度ことりちゃんの家へ行こうよ!!」

「お誘いありがとう。ことりが迷惑でなければご一緒させてもらおうかしら?」

「全然迷惑なんかじゃないよ!!むしろたくさんいた方が色んな丼が楽しめるしね♪ねぇ~零くん♪」

「いちいち俺に振るのやめてもらっていい……?」

「色んな丼って、零君ったら肉食系やなぁ~♪」

「うるせぇ……」

 

 

 やはりと言うべきか、絵里は親子丼の真の意味を理解していないようだ。普通にことりの家へ行って、普通に親子丼を食べるとしか認識していないのだろう。対して希はことりの悪乗りに便乗して、俺たちをチクチクとねちっこく攻めてくる。穂乃果も絵里も、自分たちの親友が実は乱交の計画を立ててましたぁ~!!なんて知ったらどう思うことやら……。

 

 

「それじゃあ穂乃果は雪穂も連れて行くよ!!食べるなら大勢で食べた方が楽しいしね♪」

「私も亜里沙を連れて行こうかしら。あの子も親子丼を食べたことがないと思うから、丁度いい機会だわ」

「親子の次は姉妹……零くんのお腹、いっぱいになっちゃいそうだね♪」

「たくさんの丼を食べられて、零君羨ましいわぁ~♪」

「ん?雪穂は少食だからそこまでたくさん作らなくてもいいよ」

「亜里沙も食べる方じゃないし、普通に一人前でいいわ」

「だそうだよ零くん、一人前でいいって♪」

「なにが!?」

 

 

 まさか親子だけじゃなくて姉妹方面にまで話が拗れるとは!?でも会話が噛み合っていないようで噛み合っていて、ここでツッコムと話の流れを断ち切る空気読めない奴にしか見えないのがとてももどかしい。

 

 実は親子丼には、姉妹丼という仲間がいてだな……ことりと希は早速それに便乗して俺たちをからかってきやがる。もちろん穂乃果と絵里は、普通に親子丼を食べに行くという会話をしていると思っているだろう。裏で2人も巻き込んだ、壮絶な桃色の妄想が行われているとも知らずに……。

 

 

「雪穂ちゃんたちも来るってことは穂乃果ちゃんたち、姉妹丼を零くんに食べさせてあげるんやね♪」

「姉妹丼……?それは聞いたことないわね。親子丼の仲間かしら?」

「うん!!2人で作って食べさせてあげるという意味では同じかもね♪ねぇ~零くん♪」

「そ、そうだな……」

「でも穂乃果は姉妹丼なんて知らないし、作ったこともないよ?」

「大丈夫、雪穂ちゃんと協力をすればすぐに作れるから♪」

「私と亜里沙でも作れるかしら?」

「もちろん!!それに絵里ちと亜里沙ちゃんやったら、零君がっついて食べると思うよ♪残さず隅々と……ね♪」

「だから『ね♪』じゃねぇって……」

 

 

 そりゃあ高坂姉妹丼と絢瀬姉妹丼が目の前にあったら、無我夢中で貪り食うに決まってんだろ!!徹底的に中まで!!とろとろとしたものも一滴残らずしゃぶり尽くしてやる!!

 ――――とは本人たちの前では言えないので、心の中で己の欲望を叫ぶ。

 

 

「こうなったらウチのお母さんも呼びたくなってきたなぁ。そうしたら親子丼と姉妹丼2杯ずつ食べられるもんね、零君♪」

「すごい零君そんなに食べられるの!?大食い選手権に出られるんじゃない!?」

「親子丼と姉妹丼の大食い選手権……ことりは零くんに食べられる役がいいな♪」

「私も零に食べてもらえるのなら、張り切って作ってみようかしら?」

「絵里ち……零君に食べてもらうとか、中々に大胆発言やね♪しかもみんながいる前で……」

「絵里ちゃん……ことり、尊敬します!!」

「え、えぇ!?どうして尊敬されるの!?それにあなたたち、もの凄く顔が真っ赤よ!?」

 

 

 顔が真っ赤なのは、この2人が発情してるからだよ……親子丼の会話だけでここまで妄想を広げられることに関しては、尊敬するべきことなのかもしれないけど。まさか親子丼もあのμ'sの妄想の捌け口に使われているとは思うまい。

 

 

「絵里ちゃんたちが作るなら、穂乃果たちも作ってみようかな?でも親子丼も姉妹丼も作ったことないしなぁ……」

「穂乃果ちゃんと雪穂ちゃんならとびきりの姉妹丼が作れるよ♪」

「コツとかあるの?」

「零くんはとろとろの姉妹丼が好きだから、まずは具をとろとろにしないとね♪」

「具をとろとろ……?」

「穂乃果ちゃんの具と雪穂ちゃんの具を混ぜ合わせてとろとろにするんだよ♪ねっとりと具を絡ませ合わないと、零くん好みのとろとろにならないからね♪」

「穂乃果ちゃんと雪穂ちゃんの絡み合い……想像が沸き立つわぁ♪」

 

 

 く、くそぅ!!ことりの希の妄想へ連行されてしまう!!脳内ラブホテルに1名様ご招待されてしまう!!

 

 でも高坂姉妹丼か……穂乃果と雪穂がお互いに"具"をとろとろにし合って、俺を甘い言葉で誘ってくる―――――――うん、どれだけお腹がいっぱいでも完食できる自信があるな。その後はまたしてもお互いの"具"をぐちょぐちょに絡め合った絢瀬姉妹丼を頂いて、次は南親子丼を――――って、流石に理事長の趣味はねぇよ!!

 

 

「はぁはぁ……」

「零君息切れてるよ……大丈夫?」

「あ、あぁ……」

「零くん前菜で興奮しちゃダメだよぉ~♪メインはことりの家での本番だから♪」

 

 

 このままでは親子丼を美味しく頂いてしまうはめになる。理事長も理事長で頭ブッ飛んでるし、穂乃果は姉妹丼の意味を知ったらことりと同じく積極的になりそうで雪穂も簡単に巻き込むだろう。絢瀬姉妹もなんだかんだ容認してくれそうだし、これはマジで親子丼と姉妹丼を3杯同時に味わえそうな予感がビンビンと!!

 

 

 

 

「ちょっと待ちなさい……」

 

 

 

 

「え、絵里……?」

 

 

 突然、絵里の小さくもおどろおどろしい声が部室に流れる。絵里は顔を湯気が出るほど沸騰させながら、携帯を片手にプルプルと身体が震えていた。そぉ~っと画面を覗き込んでみると、どうやら何かを検索していたようで、そのワードと意味が携帯の画面に映し出されていた。

 

 

 そう、親子丼と姉妹丼、もちろん意味深の方の意味が……。

 

 

「さっきから零たちの様子がおかしいと思ったのよ。ことりと希はずっと頬っぺを赤くしてるし、零はよそよそしいし」

「お、俺!?俺は関係ないだろ!!」

「さぞ楽しかったでしょうねぇ~私たちの道化ぶりを眺めるのは……」

「それはぁ~お、面白かったです♪」

「た、楽しかったで、絵里ち♪」

「だから!!俺は違うって!!」

 

 

 俺は穂乃果と絵里の純情を守ろうとしただけだ!!純粋な心を、汚れ多い邪悪から守りたかっただけなんだ!!だから俺は悪くない。笑いそうになっても堪えたからセーフだろ!!

 

 

 

 

「3人共、練習のあとできっちりと反省文書いてもらうから。覚悟しておいてね♪」

「だからなんで俺まで!!」

 

 

 

 

 またしてもμ's式理不尽にヒドイ目に遭わされた……あれ?もしかしてこの話で一番可哀想なのって俺じゃね?

 

 

 

 

 そして俺たちがギャーギャーと騒いでいる中、1人携帯を見つめたまま顔を真っ赤にして妄想の世界に浸っている奴がいた……。

 

 

 

 

「親子丼に姉妹丼にこんな意味が……ふふっ♪零君ってこういうのが好きなんだね♪穂乃果と雪穂の姉妹丼、喜んでくれるかなぁ~♪」

 

 

 

 

 逃げろ、雪穂……。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、ウブな人向けの解説を入れておく。

 

 親子丼(意味深)とは、鶏肉(親)と卵(子)を一緒に食すことになぞらえて、母と娘を性的な意味で美味しくいただくことを指す淫語の一種だ。ちなみに母娘どんぶりと言われることもあるようだ。

 

 姉妹丼とは、姉と妹を一緒に(性的な意味で)美味しくいただくことである。双子丼は通例、姉妹丼の一種として扱われるらしい。

 

 

 

 

 穂乃果と絵里の純情を――――守れなかったよ……。

 

 




 意外とことりと理事長の親子丼はアリという考えの私は異端ですか?


 そんな訳で今回は"親子丼"回でした。いやぁ~健全な会話でしたねぇ~!!こうも日常会話ばかり続くと何か1つでもいいので刺激が欲しくなってきますわ~……

 ――――というのは冗談で、一度でいいからやってみたかった親子丼回。ノーブラ回と自撮りと地鶏回に引き続き、言葉遊び回の第3弾でした!


~付録:あなたの変態度チェック~

 この話を一通り読んでみて、どのシーンでこの話に違和感を感じたのか。シーンごとに分けてみましたので、自分がどこに当てはまるのか、そして自分がどんな変態なのかチェックしてみてください。


1.もうタイトルから卑猥な意味の"親子丼"を想像した人

 歩く猥褻物と言われても文句が言えません。親子丼に限らず、日常生活や日常会話でも意味深な単語を見たら淫乱な妄想をしてしまいますよね?そんなあなたにはこの小説を受け継ぐ権利をあげましょう。


2.ことりが"親子丼"と言ったシーン~絵里たちが参戦する前までに察した人

 極めてノーマルな変態ですね。そんなあなたはもっとこの小説を読むことで変態力を上げましょう。


3.絵里たち参戦後に察した人

 まだまだ変態力が足りません。この小説をもう一度1から読み直すことを推奨します。


4.違和感なくこの話を読み終えた人

 今すぐこの小説を閉じるんだ!!あなたは純情すぎてついてこられないぞ!!むしろ私があなたを汚したくない!!


 さて、どれに当てはまったでしょうか?
 まぁほとんど1だと思いますけどね(嘲笑)


 次回のタイトルは『凛ちゃんの、ちょっぴりHな大冒険!』
 またはコラボ回のどれかです。


 新たに高評価をくださった方

 たまドラさん、くりとしさん、橘田露草さん(ツンデレ乙)

 ありがとうございました!

Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

凛ちゃんの、ちょっぴりHな大冒険!

 ついに80話!!

 幻の72話におけるR-17.9謹慎期間なのにも関わらず、また懲りずにこんな話を書いてしまった……

 今回は凛回!!のはずでしたが、蓋を開けてみるとりんぱな回と言った方がいいかもしれませんね。とりあえず花陽推しの方には先に謝っておきます。


 

 しーーー!!静かに!!かよちんに気付かれちゃうにゃ!!

 

 

 夏休みに入って暇だったから1人でお出掛けしてみたら、公園の噴水前でかよちんと遭遇しちゃった。でも凛は木の陰に隠れているから、かよちんは凛のことに気付いていないと思うけどね。

 

 

 それにしても今日のかよちん、とっても可愛いにゃ~♪

 

 

 かよちんの着ている服は肩を思いっきり露出させたワンピース。生地も薄めで、かよちんの大きな胸がふんだんに強調されている。そのワンピース自体も短めで、まるでミニスカートを履いているみたい。あれじゃあ肩も脚もすごく日焼けしそうだよ。

 

 それなのにも関わらずあんなに際どい格好をしているってことは、もしかしてもしかしなくても――――デートだにゃ!!

 

 

 だってさっきからキョロキョロしてずっとそわそわしてるし、顔は赤いままだし、何より恥ずかしがり屋のかよちんがこんな大胆な服を着るなんて、零くんの前でないと有り得ないもん!!

 

 小さなカバンを両手で持ちながら、両腕で自分の大きな胸を挟みながらモジモジするその姿、ちょっとジェラシーを感じちゃう。でも凛はこのかよちんも好きだよ♪だってとっても可愛いもん!!

 

 

 

 

 でも……あんな格好してたら零くんが暴走しちゃいそう。物静かなかよちんだからこそ、抵抗されないと思って公園の陰に連れ込んで襲いかかって、こ~んなことになっちゃうかも――――――

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 零くんがかよちんを公園のトイレ裏に連れ込んで……

 

 

「花陽、そんなエロい格好をして……誘ってるのか?」

「さ、誘ってなんか……零君こういう服が好きそうだから」

「好きだよ。それ以上に脱がせやすい服ってのはもっと好きだ」

「え、えぇ!?」

「さぁ花陽、自分で脱ぐんだ。俺にありのままのお前の姿を見せてくれ」

 

 

 こうやってかよちんに脱ぐことを強要。ここで一旦かよちんはその言葉に抵抗して……

 

 

「こ、公園でそんなことは……!!」

 

 

 でもここで零くんがかよちんを壁ドン。これでかよちんは逃げることすらできなくなり……

 

 

「俺は花陽のすべてが見たい。その撫で回したくなる愛くるしい顔だけじゃなく、男の性欲を刺激するその自己主張の激しいおっぱいも、恐らく既に少し濡れているであろう……ここもな」

「ひゃうぅ♡」

 

 

 零くんがかよちんのスカートに手を入れて、女の子のあの部分を指でなぞる。そして零くんの甘い言葉といやらしい愛撫を受けたかよちんは……

 

 

「さぁ花陽、脱いでくれるよな?」

「はぃぃ、私のカラダ見てください♡」

「花陽はいい子だな。さぁ自分で脱いで見せるんだ。お前のカラダに、俺のモノだって証を刻み込んでやるよ」

「はい♪ご主人様♪」

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

 うにゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!海未ちゃんの言葉を借りる訳じゃないけど破廉恥過ぎるにゃぁあああああああああああああああ!!自分で妄想して自分で悶えるとか、零くんやことりちゃんの気持ちが分かった気がする……。

 

 そして、かよちんもあんな声を上げるなんて……全くもってエロエロだよ!!

 

 

 

 

 あっ、公園の入口に零君が!!見つからないようにもっと隠れないと!!

 かよちんも零くんを見つけたみたいで、先程までのそわそわしていた表情から一変、穂乃果ちゃんに負けないくらいの明るい笑顔になった。ここ最近で一番いい笑顔、かよちんとっても楽しみにしていたんだね♪

 

 

 

 

「悪い花陽、待ったか?」

「うぅん、全然待ってないよ♪私も今来たところだから」

 

 

 ん……?ちょっと待って欲しいんだけど、今の時刻は10時59分。この時刻から推測するに、デートの集合時間は11時だと断定できる。

 

 ――――と言うことは、零くん集合時間の1分前に来たってこと!?それはいくらなんでも遅すぎない!?それにかよちんも『全然待ってない』って……もうここに15分もいるじゃん!!しかも凛が公園に来た時にはもう噴水の前にいたから、絶対にそれ以上待ってるよね!?かよちん優しすぎるよぉ~!!それに遅れそうになった零くんを笑顔で出迎えるなんて、まさに天使!!

 

 

「お前、その服……」

「ど、どうかな……?零君ワンピースとか、爽やかな服装が好きって言ってたから。それに露出が高い服も……」

 

 

 こ、これは……まさか凛の妄想と同じ展開になっちゃうの!?零くんがかよちんをトイレ裏まで連れ込むルートに入っちゃってる気がするよ!?こんな時間から野外でのえ、えええっちだなんて……!!

 

 

 

 

「確かに爽やかな服も露出の高い服も好きだけど、どんな服を着ていても花陽は可愛いよ。似合ってる」

「そ、そうですか!?ありがとうございます!!」

「こちらこそありがとな、俺のためなんかに服を選んでくれて。もしかして昨日の夜ずっと考えてたとか?」

「えっ!?どうして分かるのぉ!?」

「ハハハ!!やっぱりな。お前のことだから夜も眠れず、ずっと着ていく服を悩んでんじゃねぇかと、俺も昨日から思ってたんだ」

「うぅ……恥ずかしい」

「残念、お前のことはすべてお見通しなのさ。だって彼氏なんだから」

「ふあっ、ふわぁ……」

「ありゃ、もうショートしちまったのか!?早いな!?」

 

 

 本当に早いにゃ……でも零くんに優しい笑顔であんなことを言われたら、μ'sのみんななら一発でノックアウトさせられちゃうよ。狙ってるのか無自覚なのか、分からないところがあるのがさらに恐ろしい……。

 

 それにしても零くん、意外と大人な対応で驚いたよ。てっきりこのまま朝からやっちゃうのかと思ったから、少し見直しちゃった♪

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 ショートしたかよちんを元に戻し、ようやく零くんたちは街へと繰り出した。2人は指と指を絡ませる手の繋ぎ方、通称恋人繋ぎで周りにリア充アピールをしながら歩いている。くそっ、リア充爆発しろぉおおお!!――――って、凛も零くんと恋人同士だからリア充か、てへ♪

 

 

 そんな感じで凛は2人の尾行を続けている。別にコソコソする必要はないんだけど、デートの邪魔だけはしたくないしね。かよちんの楽しみを奪うなんて凛にはできないから。じゃあどうして帰らずに尾行してるのかって?そんなのかよちんの可愛い表情を見たいに決まってるからだよ~♪

 

 

 ちなみに凛はサングラスとベレー帽で顔を完全に覆い隠しているから、多分バレないはず……バレたら語尾をいつのも猫語をやめて犬語にすればいい。そうすれば絶対にバレないワン!!

 

 

 それにしてもかよちん楽しそうだなぁ~。さっきまでショートしてたのに、今はむしろかよちんの方から話を振っているみたい。2年生に進級してからのかよちんの積極さは見習いたいものがあるよ。

 

 

 

 

 でもこうして見ると街を歩いているカップルはいくつかあれど、これほどお似合いのカップルはいないってくらいのラブラブっぷり。こんな美男と美少女が一緒にいたらお似合い過ぎて嫉妬すら沸かないよ。

 

 

 あっ、かよちんの顔が真っ赤になった。会話は聞こえないけどまた零くんが口説いたんだね。またはデリカシーのなさ過ぎる変態発言をしたか……。

 

 このまま零くんが顔真っ赤のかよちんを見て興奮したら、こんなことになっちゃうかも――――――

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

 かよちんが可愛すぎて性欲に歯止めが効かなくなった零くんは、かよちんを裏路地に連れ込んで……

 

 

「ほら花陽、壁に手をついておしりを突き出すんだ」

「そ、そんなことできません!!」

 

 

 かよちんは顔を沸騰させてどこか期待をしながらも、最後の理性を振り絞って零くんに抵抗するの。でも……

 

 

「逆らうの、俺に……?」

「ご、ゴメンなさい!!や、やりますぅ……♡」

 

 

 嫌がっているように見えるけど、実際は調教気味のプレイに喜びながら、かよちんは壁に手をついておしりを突き出しちゃうの。それで零くんはかよちんの胸に手を伸ばして……

 

 

「ひゃぅ♡れ、零君!?そんなに激しくしないで……!!」

「ん……?」

「な、なんでもないです……むしろもっと激しくお願いします!!」

「言われなくとも」

「きゃっ♡」

 

 

 おしりを突き出して"く"の字の体勢になっているかよちん。そのせいで自慢の胸がぷらんと垂れて、その大きさがより際立っている。零くんはそんなかよちんの胸を、これでもかというくらい揉みしだく。

 

 

 これはまさに零くんのメロン狩り。

 

 

「ひゃっ!!んんっ♡」

「いい声だ、もっと楽しませてくれ」

「は、はいぃぃ……私のおっぱい、気持ちよくしてください♡」

「あぁ。次はパンツを脱いでもらうから、今の間にたっぷり濡らしておけよ」

「はぅぅ……」

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

 はぁはぁ……暑い……妄想しただけでカラダが熱くなってる。夏の暑さのような降り注ぐ暑さではなくて、カラダの真から込み上げてくる燃え上がるような暑さ。かよちんと零くんがエッチ過ぎて、凛まで興奮しちゃうよぉ~……!!

 

 

 

 

 そして妄想をして前を見ていなかったせいか、いつの間にか凛は零くんたちにかなり近付いてしまっていた。バレてはいないみたいだけど、2人の会話が聞こえるくらいには接近している。ここで零くんがかよちんに話題を切り出した。

 

 

「少し早いけど昼飯にするか。12時回ると混みそうだし」

「そうだね。でもどこに行く?」

「そうだな、久々にGOHANYAに連れて行ってくれよ」

「GOHANYA!?いいですね行きましょう!!そう言えば最近新しいメニューが出たんですよ!!それがとても美味しくて美味しくて!!是非零君にも食べてもらいたいです!!」

「お、おぉ、相変わらずの豹変っぷりで……そ、それじゃあ行こうか」

「はい!!」

 

 

 か、かよちんがキラキラ光ってる……もしかしたらステージで踊っている時よりも輝いているかも。しかも今回は愛しの零くんと一緒だから、余計にハイテンションになっている。流石にかよちんのあんな輝かしい笑顔を見ちゃったら、裏路地に連れ込んでえっちなことはできないよね……。

 

 

 丁度凛もお腹が空いてきたし、零くんたちを監視するついでに一緒にGOHANYAで腹ごしらえでもし~よっと♪腹が減っては戦はできぬって言うしね。零くんとかよちんのラブラブっぷりをおかずにご飯をいただくにゃ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 2人がGOHANYAに入るのを見計らって、凛はその数分後に入店した。同じタイミングで入店すると、凛に注目が集まっちゃうかもしれないもんね。

 

 店の中はまだお昼前だということもあって、まだちらほらと席が空いていた。人が多過ぎると、後から入店した人の方が料理にありつけるのは当然遅くなるから、2人と足並みを揃えることはできなくなる。だけど人が少ないと2人に見つかってしまうリスクがある。どっちもどっちだけど、この状況なら大丈夫。凛の変装も完璧だし!!

 

 

「わあぁ~!!美味しそうですねぇ~!!あっ、でも零君の料理はまだ……」

「我慢できないなら先に食っててもいいぞ」

「それ、私が食い意地を張っているような言い方だね……」

「だってそうだろ。ご飯が来ただけで興奮する奴なんて、世界でお前くらいだろうし。それに思いっきり涎垂れてるぞ……」

「わわっ!!ご、ゴメンなさい!!」

「いいっていいって。久しぶりにハイテンションの花陽を見られて、俺も嬉しいよ。やっぱお前可愛いよなぁ~」

「も、もうっ!!ここお店なんだよ!?そ、そういうのは2人きりの時に……」

「ははは!!分かったから、ご飯冷める前に食べちゃえよ」

「は、はい。それではお言葉に甘えて」

 

 

 はぁ~……入店する前は2人のイチャつきを見てそれをおかずにご飯を食べようと思ってたけど、もうこれだけでお腹いっぱいになっちゃいそう。まだ料理すら来てないのに……これじゃあ2人のイチャつきがメインディッシュで、ご飯がおかずだよ。

 

 

 そしてある意味で満腹の凛にも料理が運ばれてきた。零くんとかよちんは歩いている時と変わらず、楽しそうにお話を続けている。かよちんのテンションは極限を振り切ってるけどね……零くんがかよちんに押されるなんて、かよちんがご飯とアイドルの話をしている時くらいだよ。

 

 

 

 

 あっ、やっぱりここのご飯美味しい♪

 凛もかよちんに何度かここへ連行されたことはあるけど、かよちん公認のお店だけあって白米だけでもお箸が進む。納豆とか明太子とかご飯の上に乗せるものは数あれど、白米だけで食べられるなんて信じ難かったんだよね。かよちんに『ご飯の上に何かを乗せるのは外道!!』とか言って、半ば無理矢理食べさせられたんだけど、やっとその気持ちが分かった気がする。

 

 

 でもほっかほかの白米かぁ~……ほっかほかの白いご飯……ほっかほかの、あっつあっつの白い……これを見たら、零くんがまたこんな風になりそう――――――

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

 ほっかほかの白いご飯を見て閃いた零くんは、かよちんを自分の部屋に連れ込んで……

 

 

「そうだ花陽、俺の家で晩飯食べていかないか?今日は楓もいないし」

「零くんと2人きり……それじゃあいただこうかな?えへへ♪」

「なんだ?やけに嬉しそうだな」

「だって久しぶりに零くんの料理が食べられるんだもん、嬉しいに決まってるよ♪」

「俺の料理って、雑に作る男飯だけどな」

「それでも零くんの料理なことに変わりはないよ。それに男飯っていうのも食べてみたいし」

 

 

 そこで零くんの目つきが鋭くなる。まさにこの時を待ってましたかと言わんばかりに……

 

 

「そうか……ならば男からしか味わえない風味を堪能させてやる」

「え……?」

 

 

 零くんはその場で立ち上がり、かよちんの目の前に移動する。そして……

 

 

「花陽、俺の下を脱がしてくれないか?」

「え……えぇっ!?」

「だってさっきお前、晩飯を食べていくって言っただろ?だからお前のために晩飯を提供してやってるんじゃないか」

「で、でもそれって、零君のアレを……」

「お前の好きなほっかほかの白いものを食べられるんだぞ。飲めるって言った方が正しいけど……どっちでも同じだ」

「零くんのアレを舐めて咥えるってことだよね……?」

「あぁ。さぁ早く」

 

 

 心に多少の迷いはあるけれど、これまでに散々零くんにエッチなことをされてきたかよちんは、遂に我慢ができなくなって零くんのズボンのベルトを外してしまう。そしてかよちんの理性は崩壊し、自ら自分の口を零くんのアレに近付けてしまう……

 

 

「れ、零君の……」

「欲しいだろ花陽」

「はいっ!!零くんのほっかほかの白いもの、たくさん欲しいです!!」

「いい返事だ。それじゃあ気持ちよくしてくれ、花陽」

「はい!!いつもお世話になっている零くんに、精一杯恩返しします♪」

 

 

 もうここからは凛の口でも語れないにゃ……でも妄想はこんなところでは止まらない。

 

 

「ふわぁ~♡いい匂い♪」

「ちょっと待った花陽」

「え……?」

 

 

「いただきますは?」

 

 

 

 

「…………いただきます♪」

 

 

 

 

 かよちんのプリっとした唇が、零君のあっつあつのアレの先っぽに――――

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

 あ゛ぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!破廉恥だにゃぁああああああああああああああああああ!!いくら零くんでもかよちんにそこまでするのは許せないにゃぁあああああああ!!

 

 か、顔が熱い!!目の前のほっかほかご飯よりも何百倍も熱くなっている自信があるよ!!熱すぎて風景が揺ら揺ら揺れてるし――――ってあれ?頭もぼぉ~っとして、目の前の風景がぐにゃ~っと……

 

 

 

 

 そして、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「う、うぅ~ん……」

「あっ、凛ちゃん気が付いた!?」

「あれ?かよちん……?――――って、かよちん!?」

「ど、どうしたのそんなに驚いて!?私の方がビックリだよ!?」

「えっ、どうしてここにかよちんが?それにここは……?」

 

 

 目を覚ますと、なんと目の前にはかよちんがいた。しかもこの頭部を優しく包む柔らかな感触は、まさしくかよちんの膝!!凛、かよちんに膝枕されてるの!?しかも今いる場所はGOHANYAじゃなくて、近くにある公園だ。

 

 

 そっか、GOHANYAで興奮し過ぎて倒れちゃったんだね。なんか情けないにゃ……。

 

 

「おっ、ようやく目が覚めたか」

「零くん!?」

「全く、後をつけるのはいいけど、自分の体調くらいしっかり管理しろよな」

「ゴメンなさい……ん?え、えぇ!?零くん、凛が2人の後をつけてたこと知ってたの!?」

「あぁ。花陽との待ち合わせ場所に行った時からな」

「かよちんも……?」

「私は気付かなかったけど、歩いている途中に零君に言われて初めて気付いたんだ」

「な、なんだぁ~……」

 

 

 じゃあ2人は凛に気付いてたけど気付かないフリをしてイチャイチャしてたってこと!?それはそれで陰険だけど、元々後をつけていた凛が悪いんだよね。ぐぬぬ、でもピエロにされていた気分……。

 

 

「凛の変装、完璧だと思ったのに」

「流石に気付くって、なんたって自分の彼女だし。俺が愛しの凛の存在を、気付かない訳ないだろ」

「にゃっ!!も、もう零くんは……でも、ありがと♪」

 

 

 ありきたりな口説き文句だけど、大好きな人から言われる言葉ならありきたりでもドキッとしちゃうよ♪

 本当に零君はすけこましさんだにゃ……だけどそこまで凛のことを見てくれていると思うと、やっぱり嬉しいにゃぁ~♪

 

 

「それにだ。例えサングラスを掛けようと、お前のそのくりくりっとした可愛い目は、隠しきれないぞ」

「にゃふっ!!」

「にゃふ……?お、おい凛……まさかまた?」

「零君!!また凛ちゃんをショートさせたらダメだよぉ~!!」

「わ、悪かった!!戻ってこい凛!!」

 

 

 

 

 あぁ、やっぱり零くんには勝てないにゃ……えへへ♪

 

 

 




 ほっかほかの白いものはご飯のことだから。全然変な意味じゃないから!!


 今回は久しぶりに自分でも『やってしまたな』と思った回でした。R-17.9描写はあの幻の72話以降ある程度は自粛していたのですが、もう限界だったんだ、許してください……

 そして今回の話で『新日常』が通算80話となりました。前作から読んでくださっている方も、この小説の1話から読んでくださっている方も、途中から読んでくださっている方も、この話だけを読んでくださっている方もありがとうございます!
思い返せばたくさんの方からの感想や評価を経たからこそ、ここまで来れたのだと思います。記念すべき100話まであともう少しなので、これからも応援よろしくお願いします!


 次回は恐らくコラボ回になると思われます。前回もこう言ってズルズルと先延ばしになった気も……(フラグ)


新たに高評価をくださった方

エルニさん、名も無き一般市民さん、しろあん01さん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別コラボ企画】シスターズシャッフル

 今回は特別編として、同じラブライブの小説を執筆している作者様:ちゃん丸さんの小説『ラブライブ!平凡と9人の女神たち』とのコラボ企画となっています。前回と同じですね。

以下注意事項
・コラボ小説ですので、相手の小説のオリキャラが登場します。
・今回の話はストーリー性が乏しく、こちらのオリキャラと相手の小説のオリキャラの掛け合いがメインとなっています。
・つまりμ'sの出番は控えめ(一応全員登場)。
・学年はこちらの小説準拠
・今回内容が別の意味で50話記念並にアレなので、ガチ純愛モノが好きな人はお控えください

以上のことを留意してもらえると助かります。


それではどうぞ!


 この俺、神崎零と鈴達也の妹である鈴京花は――――体育倉庫にいた。

 

 

「あ、あの~……零先輩?」

「どうした?まさかこの状況で示談に持ち込もうなんて思ってないだろうな?」

「思ってますよ!!どうして私縛られてるんですか!?」

「は?俺の趣味だからに決まってんだろ」

「その『当たり前だろ、お前何言ってんの』みたいな顔やめてもらっていいですか!?しかもあんなに手際よく私を縛って……もしかして練習でもしてるんですか?相変わらず努力の方向を間違うことだけに関しては一級品ですね」

 

 

 うむ、拘束されながらもいいツッコミだ。流石は達也の妹と言ったところか、ツッコミスキルもちゃんと伝達されている。しかもこの音ノ木坂学院に楓たちと共に入学してからというもの、そのツッコミにもさらに磨きがかかり、今では1年生組の中でなくてはならない真面目要因となっている。雪穂と京花の2段体勢でも楓の暴走は収まらないらしいが……。

 

 

「落ち着け。俺だって好きでこうしてる訳じゃないんだ。まだ数ヶ月の付き合いだけど、俺が理由もなく女の子を監禁する奴だと思うか?」

「思います」

「即答かよ……まぁいい、とりあえず俺はお前の弱点を克服してやろうと思ってるんだ」

「じゃ、弱点ですか……?」

「あぁ。お前は容姿も頭もいいけど、致命的な弱点がある」

「致命的な要素しかない零先輩に言われても……」

「褒め言葉だな」

「この人ポジティブ過ぎる!?」

 

 

 いちいち罵倒や蔑みの言葉を間に受けてたらこんな性格になってないって。それに女の子を縛って監禁している奴が致命的な弱点がない訳ないだろうが。そのどうしようもない要素を他人に惑わされず如何に貫き通せるか、それが重要なんだよ。これ名言な。

 

 

「ちなみに、私の弱点っていうのは……?」

「度々指摘される、天然モノのブラコンのことだ」

「ブラ……コン?」

「知らないのか?ブラコンっていうのはブラザーコンプレックスの略で――――」

「意味は知ってますよ!!でも私がブラコンであるはずないじゃないですか!?」

「これだから天然モノのブラコンは……」

「どうして呆れてるんですか……違いますからね!!」

 

 

 自分の弱点に気付いていない奴は、他人から指摘をされても決まりに決まって"それは違う"と返答する。まさに京花もその状態。これはかなり末期だぞ……このままでは近親相姦という誰も幸せにならない未来が訪れてしまう。その前に俺が京花のブラコンを更生してやろうというのが今回の趣旨であり、束縛監禁の理由だ。

 

 

「安心しろ。数時間後には今の自我は完全に消え去り、もう俺しか見られないカラダになってるから」

「い、一体何をするんですか!?しかも数時間って、どれだけ長期戦に持ち込む気ですか!?」

「やる前から言ったら面白くないだろう。それに俺は徐々に女の子を堕とすのが好きなんだ」

「どちらにせよ、私は面白くありませんよ!?」

「俺が面白ければ問題ない」

「相変わらずの屑っぷりですね……一周回って尊敬できるレベルですよ」

「褒め言葉だな」

「またですか!?」

 

 

 俺のクズ発言に流れるように反応する京花。なんかこの感覚も久しぶりだな。最近は俺に従順な奴(穂乃果、ことりetc.)やあっさりと流してくる奴(海未、絵里etc.)ばかりで、こうして言うこと言うこと1つ1つに反抗してくれるのは京花ぐらいになってしまった。全く、そんなに俺のことが好きなのか!!

 

 

 だがこうして束縛されて抵抗する女の子を調教するのは、俺のドS精神が大いにくすぐられる。京花は運動マットの上に横たわっているので、綺麗な生太ももは丸見え。さらにスカートまで捲れそうになっているので、あわよくば下着も覗き見ることができる。

 

 

 こうして京花の容姿を見てみると、流石は楓と並んで音ノ木坂1年生美少女トップ2の名は伊達じゃないな。どうやら学院中の男子から注目を浴びているみたいだけど、俺はその人気の女の子を自分の手で堕とすのが堪らなく興奮するんだ!!自分の彼女や妹が寝取られるのは言語道断だが、女の子を寝取るのはこうして自ら実行するくらいには好きだぞ。

 

 

「さて、まずはどこをどうして欲しい?こういうのは初めてだろ?1つだけならお前の望みを聞いてやるよ」

「この縄を外してください」

「なるほど、縄は外したいけど体育倉庫からで出なくてもいいと……その意図から察するに、束縛プレイはイヤで監禁プレイが好きなクチか?」

「どんなプレイもイヤです!!」

「愚かだな。俺がたった1つだけ慈悲を与えてやったというのに、それを無駄にしたんだから。しょうがない、そんなにイヤなら黙って俺に身を任せとけ。俺が優しく導いてやるから」

「それ絶対あらぬ方向に導かれますよね!?も、もうお兄ちゃん助けてぇ~~!!」

 

 

 いくら助けを呼んでもここは校舎から離れた体育倉庫、人が来ることはない。つまり京花が堕ちるまで、ずっとここにいることだってできるんだ。まだ時間はある。たっぷりちょうきょ――――いやいや、ブラコンを更生させてやるぞ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 神崎楓です♪

 現在生徒会室で鈴達也先輩と2人きり。でも今のお兄ちゃんたちみたいに、妹である私が襲われているのではなくて――――

 

 

 

「なぁ、どうして俺縛られてるんだ……?」

「ちょっと達也先輩とお話したいなぁ~っと思いまして♪」

「ならどうして縛る必要がある?」

「話をしている最中に、愛想を尽かして帰らないようにですよ♪」

「今から俺の精神力が削られることは分かった……」

 

 

 私は廊下で達也先輩を強襲して縄で両手を後ろで縛った後、生徒会室に監禁してイスに貼り付けた。お兄ちゃんは京花の調教に忙しいので、私は達也先輩をイジメて楽しもうかなぁ~なんて思ったり♪

 

 

「こうして達也先輩と2人きりで話すのは初めてですよね?」

「そう言えばそうだな。でも楓は男嫌いじゃなかったっけ?」

「達也先輩ならまだ大丈夫ですよぉ~♪」

「まだってなんだよまだって……苦痛なら縄をほどいて帰ってくれ」

「いえいえ、むしろ楽しいですから♪」

「俺は全く楽しくないんだけど……」

「私が楽しければいんですよ♪」

「神崎兄妹恐ろしすぎる!!」

 

 

 こうしてあしらわずに話に付き合ってくれるのが達也先輩のいいところだよ♪こういうところがお兄ちゃんに似てるんだよね。男性という生物はお兄ちゃんしか認めてないんだけど、達也先輩だったら田んぼに備え付けられているカカシ程度の扱いで許してあげよう!!

 

 

「今日は京花の代わりに、私が先輩をたぁ~っぷりと可愛がってあげますよ♪」

「俺がいつ京花に可愛がられた……?」

「この前穂乃果先輩たちの頭を撫でた後、家でたんまりとお話という名の尋問を食らったのはどこの誰ですっけ?」

「やめろ思い出させるなぁああああ!!」

「相当トラウマを植えつけられたんですねぇ~♪ま、今からそれ以上に慈しめを受けてもらうんですけど」

「な、何をする気だ!?」

 

 

 私は両手を身体の後ろで縛られてイスに座っている達也先輩に近寄り、肩を掴んで勢いよく太ももの上に飛び乗った。

 その瞬間、達也先輩の顔がみるみる赤くなる。思ったとおり、女の子からこういうことをされるのは慣れてないみたいだね♪可愛い♪

 

 

「お、おい楓!?」

「顔赤くなってますよ?まさかぁ~親友の妹にドキドキしちゃってるんですかぁ~?」

「そ、それは……」

「親友の妹と言っても他人ですし、こんな超完璧美人に股がられたらドキッとしない方がおかしいですよねぇ~♪」

「自分で言うのか……」

「へ?だって間違ってないでしょ?」

「ま、まぁそうだけど」

「まさか『京花の方が美人で可愛いし、どちらとヤるかと言われれば京花だな』みたいな目をされるとは……このシスコン!!」

「言ってないしそんな目でも見ていない!!それにシスコンじゃないからな!!」

 

 

 達也先輩、さっきから否定ばっかり。否定ばかり連呼するのは肯定の裏返しにしか見えないんだけどなぁ~♪これは思ってた以上にからかいがいがありそうだよ。京花にお兄ちゃんを取られた腹いせに、先輩をうんと可愛がってあげるんだから♪

 

 

「ねぇ~せんぱぁ~い」

「今度はなんだ……?とりあえず俺の上から早くどいて欲しいんだけど」

「先輩にはもっと女の子に対する免疫力を付けてもらいたいんですよ♪」

「無視ですか……どうして?」

「聞きましたよぉ~♪映画館でことり先輩にちょこぉ~っと誘惑されただけで取り乱したって話」

「だ、誰から!?」

「ことり先輩」

「なぜ話したんだ……」

 

 

 そんなもの、お兄ちゃんの使用済みシャツをちらつかせればことり先輩如き一撃だよ♪達也先輩をイジメるために、ありとあらゆるお兄ちゃんグッズを生贄にして情報を引っかき集めたんだから、私を楽しませないと許さないからね!!

 

 

 もう先輩がごちゃごちゃうるさくて面倒だから、いきなり本番に行っちゃいますか。

 

 私は達也先輩に股がりながら、先輩の身体へさらに近付く。先輩の表情が焦燥に駆られていることを確認して、私は自分の制服に手を掛けた。リボン、ブレザー、そしてシャツのボタンをゆっくりと外していく。

 

 そして――――遂にシャツの隙間から私の下着が顕になる。達也先輩は口をパクパクさせながら目を逸らそうとしているけど、やっぱりそこは男の子、女の子の下着には目が行っちゃうよねぇ~♪

 

 

「な゛っあ゛っがっ……」

「どうしたんですかぁせんぱぁ~い♪日本語喋ってくれないと伝わりませんよぉ~♪」

「ど、どうしてこんなことするんだ!?男嫌いなんだろ!?」

「もちろんお兄ちゃん以外の男はゴミですけど、達也先輩なら例外的に認めているのでOKですよ♪だって可愛いですし。もしかしたら男性として認識してないのかもしれません」

「じゃあどう認識されてるの……?」

「ゴミ以上お兄ちゃん未満」

「ゴミと零の間にどれだけ差があるんだよ……」

 

 

 それはもう天と地ほどの差があるに決まってるじゃん!!でも達也先輩はからかいがいがあるから、私の玩具のポジションとして、ゴミとお兄ちゃんの間に仕方なく置いてあげるよ♪

 

 

「とにかく早くどいてくれ!!もう少しで生徒会室に穂乃果たちが来る!!こんな現場を見られたら俺は――――!!」

「私はいいですよ、達也先輩となら勘違いされても」

「へ……?」

 

 

 さっきまで顔を真っ赤にして焦っていた先輩の表情が一変、鳩が豆鉄砲を食らったような顔に変わる。私もおちゃらけた雰囲気からガチシリアスモードとなり、口調もトーンを抑え目にして先輩の目をじっと見つめる。

 

 

 いつもの私を見ていたらしょうがないよね……でも、気持ちを伝えるなら今しかない。やっと2人きりになれたんだ、先輩に私の本心を知って欲しい。

 

 

「そ、それってどういう……」

「そのまんまですよ。別に、先輩でもいいかなぁって思ってます」

「ほ、本気か……」

「はい。お兄ちゃんとは所詮兄妹、禁断の愛なんですよ。でも先輩となら違う。真っ当な恋愛ができるんです。先輩は自分で自分を特徴のない、そこら辺にいるただの男子生徒だと思っているでしょうが、私は違います。あなたのいいところ優しいところ、たくさん知ってますから」

「楓……」

 

 

 先輩は私がこんなことを言うのが意外だと思ったのか、普段は私のおふざけに渋々付き合ってくれていた先輩が、今は私の目を見て真剣に向き合ってくれている。そんなところに惹かれちゃったんですけどね。

 

 例えどんな相手でも、例えどんな状況でも、先輩は相手のことを第一に考えて心から私たちに向き合ってくれる。そんなあなたに私は――――――

 

 

「先輩は私のこと……嫌いですか?」

「――――嫌いじゃないよ。騒がしいけど、話していて楽しいし元気を貰える」

「ありがとうございます♪」

「なんだよ、急に笑顔になるなよな……」

「フフッ♪ねぇ先輩、こうなったらいっそのこと私たち――――――付き合っちゃいます?」

「ほ、本気か?」

「はい」

「お、俺は……」

 

 

 先輩の心に迷いが生じている。これまで先輩をたくさん玩具にしてきた私でも、先輩は私の告白をすぐには決断せずに受け止めてくれる。こんな私からの告白でも、真剣に考えてくれる。全く、優しいところは本当にお兄ちゃんや京花に似ているよね。まぁ、そんなところが好きになったんだけど……

 

 

 

 

 まぁ、だけどね――――――

 

 

 

 

「楓!!俺は――――」

 

 

 

 

「――――なぁ~んちゃって☆」

「は、はい……?」

 

 

 フフッ♪もうこれはあれだね、鳩が豆鉄砲を食らったような顔じゃなくて、鳩がバズーカ砲を食らったような顔だね♪

 ダメ!!もう堪えきれない!!

 

 

「アハハハハハハ!!なんて顔してるの先輩!!もしかして、本気で告白されたと思いました?」

「は……?はぁああああああああああああああああああああああああああ!?!?」

「本当に達也先輩ってば面白いんだから♪可愛すぎるよ!!アハハハハハハ!!」

「楓ぇえええええええええええええええええええええええ!!」

「あはっ♪お兄ちゃんの叫び方が移ってるよ?まさに似た者同士ですね♪でも達也先輩がウブ過ぎて……くくく、涙出てきちゃった♪」

「俺の純情を返せぇえええええええええええええええええええ!!」

「先輩が壊れてる!?」

 

 

 ここまで笑ったのは久しぶりかも♪やっぱり達也先輩は私の玩具として最適な人間だよ♪こうして遊んでもらっていることに感謝して欲しいくらいだね♪

 

 ダメ……心の中でも笑いが溢れちゃう!!達也先輩の叫びや表情が今でもフラッシュバックされて笑いに変換されるよ!!あ~楽しい♪

 

 

「今日という今日は許さん!!楓!!」

「きゃぁ~♪犯されるぅ~♪」

「ちょっと、あまり大声でそんなこと言わないでくれ!!もう少しで穂乃果たちが来るんだから――――」

 

 

 

 その直後、これ以上にないってくらいのナイスタイミングで生徒会室の扉が開かれる。そこにいたのは穂乃果先輩、ことり先輩、海未先輩の幼馴染組3人。

 

 フフフ……達也せんぱぁ~い♪ご愁傷様でぇ~す♪

 

 

「たっちゃん……?楓ちゃんを乗せて何してるの……?」

「たっくん……?さっき楓ちゃんの叫び声で『犯される』って聞こえてきたんだけど、どういうことかな……?」

「達也……?なぜ楓を襲っていたのか、説明してもらいましょうか……?」

「ちょっと待ってくれみんな!!これはすべて楓の仕業なんだ!!現にほら、俺はイスに縛られて――――ない!?どうして!?さっきまで縄で縛られてたのに!?」

 

 

 もしかして、先輩は私が縄縛り達人の異名を持っていることを知らないんですかねぇ~?それに縄縛りと言っても、縛るスピードだけではなくて解くスピードも世界トップなんですよ。つまり穂乃果先輩たちを確認してから先輩の拘束を解くことなんてちょちょいのちょいなんです♪

 

 

 高速で拘束を解く、なんちゃってね♪えへっ♪

 

 

「なぁ~にごちゃごちゃ言ってるの……たっちゃん?」

「穂乃果、顔怖いんだけど……」

「そろそろたっくんをことりのおやつにしようと思ってたんだよねぇ~……」

「さっきカバンから刃物をチラつかせてなかった!?それ調理器具だよな!?」

「あまり破廉恥な言動が過ぎると……」

「過ぎるとなに!?その先を言ってくれないと逆に怖い!?」

 

 

 

 残念ながら、この先は見せられないよ!!だって達也先輩があまりにも不憫過ぎちゃってねぇ~♪

 あれ?でもこれって私のせいか。でもいいや♪達也先輩修羅場好きそうだし、もしかしてM気質があるのかもしれないね。

 

 

 

「フフフ……ああ言いましたが割と好きですよ、達也先輩♪」

 

 

 

 よしっ、私はお茶でも飲みながら、先輩の無様な姿でも鑑賞してよぉ~っと♪

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 鈴京花。

 

 高校1年生。俺の親友である鈴達也の妹で、俺の妹である楓と並んで新入生の中ではトップ2の美少女と言われるほど注目を浴びている。黒髪ロングでバストは穂乃果や真姫と同程度、身長は雪穂ぐらいとやや低めだが、低身長だからこそ際立つお人形のような可愛さがある。楓の高身長とはまた正反対だな。

 

 

 まぁ何が言いたいのかと言うと、俺の欲求を満たす要因としては十分だと言うことだ。親友の妹?知らんな。

 

 

「先輩……こんなことをして、犯罪ですよ」

「別に捕まってもいい。だがそれでもお前だけは俺の手中に収める」

「最低ですね、最低」

「お前は俺にどれだけ褒め言葉を与えれば気が済むんだ。そこまで俺を褒め称えたいのか」

「もうポジティブ過ぎてついていけません……」

 

 

 京花は呆れ顔をしながら運動マットの上に縛られ横になっている。

 今までのコイツの言動を見ていると、俺が手を出したら100%抵抗されるように見えるが、実はそうではない。もう既に京花の隣には俺が脱がせたコイツのブレザーが置いてある。つまり京花は何の抵抗もなしに、俺からの脱衣攻撃をその身に浴びたということだ。今はシャツだけとなり、京花のまだ幼くもぷっくりと膨れ上がった胸が強調されている。

 

 

 俺が指でその膨らみをなぞってやると、京花は恥ずかしそうな顔をしながらも、どこか緊張しているような面持ちも感じられた。ここでバタバタと抵抗しない辺り、もう諦めているのか、それとも期待しているのか……。

 

 

「んっ……」

「いい声だな京花……気持ちよくなってきたか?」

「そんなこと……ないです」

「そうか」

 

 

 俺はさらに京花のおっぱいをシャツの上から指で啄く。一旦柔らかい果実に指が埋まったと思ったら、すぐにその弾力でポヨンと指が跳ね返される。素晴らしい……!!今度は両方の指で、おっぱい2つ一気に啄いてやろう!!

 

 

「んんっ……!!」

「初めてだろこんな感覚?素直になった方が楽だぞ?」

「私がこんなことくらいで……んっ……素直になるとでも……んっ♪」

「おっ、ちょっとは気持ちよくなってきたんじゃねぇの?」

「そ、そんな訳……」

 

 

 いいねいいね抵抗する女の子は!!そんな女の子が俺に従順になっていくのを見るのが堪らなく好きなんだ!!さぁ、そろそろシャツの上から啄くのも飽きてきたな。京花はさっきからずっと黙ってるし、これは観念したと見ていいのか?

 

 

「どうしたもう諦めたのか。俺は抵抗する女の子を無理矢理脱がす方が好きなんだけど、自分から脱いでくれるってのならそれはそれでアリだな」

「誰も零先輩の趣味なんて聞いてませんよ!!」

「初めはみんなそう言うんだよな。でも俺の手に掛かったら、どの女の子でも心の底から気持ちよくなって『あんあん♡』喘ぐぞ」

「くっ、私はそんなものには屈しませんから」

 

 

 おっ、これは世にも珍しい『くっころ』展開か?だがこんな美少女が綺麗な生足をさらけ出し、スカートの中身まで丸見えになり、さらにシャツの隙間から下着が見えようとしている!!極めつけに縄で縛られてると来た!!そんな状況で襲わないという選択肢があるか?

 

 

 落ち着いているようで目の前の美少女拘束プレイに少しばかり我を忘れいている俺は、遂に京花のシャツに手を伸ばす。上から1つ、また1つと順番に、羞恥で顔を赤く染める京花に対して視姦プレイも楽しみながらゆっくりとボタンを外していく。俺の手が京花のシャツのボタンに触れるたびにシャツが開け、チラチラと可愛い白い下着が見え隠れしている。

 

 

「可愛いけど至ってノーマルな下着だな。でもまあ俺にとっては背伸びし過ぎた下着より、シンプルに白無地な下着の方が萌えるから」

「別に先輩に見せるためにこの下着を選んだのではないですから」

「え?女の子って、常に男に見られてもいいような下着を履いてるものじゃねぇの!?」

「違いますよ!!それに常にって何ですか常にって!?あなたは世の中の女性が全員痴女とでも!?」

「エッチな女の子は好きだぞ」

「取り留めのない変態ですね……」

 

 

 そうは言っているものの、シャツから思いっきり下着を覗かせて、しかもスカートも捲れて白いパンツがモロ見えになっているこの状況で言うセリフじゃないな。下着の上下を同じ色で揃えていることは好感が持てるけど。

 

 

「さて、お前はまだこのような経験が浅いだろうから、俺が優しく手ほどきしてやるよ。どこから触って欲しい?」

「どこも触って欲しくありません!!」

「なるほど、お兄ちゃん以外には触られたくないと」

「そんなこと一言も言ってないでしょう……」

「じゃあ俺と達也、触られるのならどっちがいい?」

「お兄ちゃん」

「即答っすか……」

 

 

 これはもう取り返しのつかない症状を患っているようだ。そう、ブラコンという社会的難病を……。

 俺は達也と京花の未来を守るために、こうして監禁束縛プレイをしているんだ。決して京花のカラダを一度でいいから弄りまわしたいとか思っていない。親友とその妹には幸せになってもらいたいんだよ!!そのためにはコイツのブラコンを更生させる必要がある!!

 

 つまり……少しでも俺に目を向けるようにさせればいいのだ。それは女の子っていうのがどういう生き物なのか、自分のカラダで分かってもらうのが手っ取り早い。特にブラコンは自覚なしの末期患者が多いからな。

 

 

「もし、もしですよ?絶対に有り得ないですが私がブラコンだったとしましょう。それをこの状況でどうやって解決するんですか!?」

「その発展途上のカラダに刻み込んでやるんだよ。俺という男がどれだけ素晴らしいかをな……」

「それって先輩の欲望ですよね!?」

「ブラコン更生のためだ」

「そう言っておけば何をしても許されると思ってますよね……?」

「もちろん」

「遂に認めた……」

 

 

 あ~もう言葉で説得するのも飽きてきた。俺の言うこと言うことに逐一ツッコんでくれるのは話していて面白いしありがたいんだけど、目の前に半裸の美少女が縛られている状況にこの俺が我慢できるはずもない。

 

 

 

 

 もう脱がすか…………。

 

 

 

 そこからの行動は早かった。俺は縛られながら寝転がっている京花に覆い被さり、高校1年生にしては少し大人びて整った顔に自分の顔を一寸の距離まで詰め寄らせる。いきなり俺に迫られて緊張しているのかは知らないが、京花の目の瞳孔が揺れている。顔もこちらに伝わってくるほど熱くなっている。

 

 

 俺の中の理性の歯止めが、揺ら揺らと揺らめき始めている……。

 

 

「せ、先輩……?」

「黙ってろ、外に聞こえる」

「うぅ……」

 

 

 ここで反抗して大声を出さない辺り、もしかして俺に期待しているのかと俺が期待してしまう。ブラコンのコイツに限ってそんなことはないとは思うが、束縛された女の子と体育倉庫でこの状況、少し位は夢を見てもいいのではないだろうか。

 

 一線を超えることは絶対にしない。だから今だけは、お互いにお互い以外の存在をすべて忘れて欲望に従順になってもいいのでは――――と、俺の中の闇が囁いてくる。

 

 京花は黙ったまま動かない。だが目だけは俺の顔をしっかりと見つめている。その目を見る限りだと怖がったり怯えたりはしていないみたいだ。コイツは今何を考えどう思っているだろう……?

 

 

「イヤになったらいつでも俺の腹を蹴飛ばしてくれ。まだ大丈夫だが、この先多分歯止めが効かなくなる……」

「――――ズルいですよ、そんなことを言うのは……大切な先輩を蹴るなんて、できる訳ないじゃないですか……」

「京花……やっぱり優しいな、お前は」

「褒めても何も出ませんから」

 

 

 もっとこう、激しく抵抗してくれるのならこっちも襲いがいがあるのだが、真っ向から向き合おうとする姿勢を見るとどうも意気消沈してしまう。こういうところ似てるんだよな、コイツら兄妹は。

 

 

 

 

 そして突然、後ろからガチャリと音が聞こえた。

 体育倉庫の鍵が開かれたのだ。気付いた時には既に遅く、扉が開くと同時に外いる何者かの会話が聞こえてきた。

 

 

「凛!!1人だけ楽してないでこれも持ちなさいよ!!」

「じゃんけんに負けたのは真姫ちゃんだにゃぁ~♪」

「そうだけど、こんなにも持たされるなんて思ってなかったわよ!!」

「真姫ちゃんはひ弱だから、凛が鍛えてあげたんだよ。むしろ感謝して欲しいんだけど」

「余計なお世話!!」

「まぁまぁ2人共、もう体育倉庫に着いたんだし、とりあえず落ち着こ……ね?」

 

 

 声が出ない、冷汗しか出ない。

 なぜだ!?体育倉庫の鍵は俺が持っているはずなのに、どうして2つある!?まさか、1つ無くした時のための予備とかふざけたことを!?そんなことをしたら、女の子を倉庫に監禁してまぐわるというプレイを実行できねぇじゃん!?そこのところ分かってんのか体育教師!!

 

 

 そんなバカなことを考えている間に、体育倉庫の扉が完全に開かれた。

 さっきまで争っていた凛たちの表情が一変して引き攣る。

 

 

「とっととこれを置いて、部室に行くにゃ――――――って、え゛!?」

「そうね、もう絵里たちも来てるかもしれないし――――――はっ?」

「凛ちゃんも真姫ちゃんもどうしたの――――――って、え、えぇえええええええええええええええ!?」

 

 

 

 

 よしっ、久しぶりの『いつもの』だな!!腕が鳴るわぁ~☆

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして部室に全員集合――――

 

 

 

 

「アハハ!!なんだ達也その格好、ボロ雑巾かよ!!」

「零、ブーメラン発言って言葉知ってるか……?」

 

 

 達也は制服も身体もボロボロになり、そこら辺に干してある雑巾と寸分の狂いもなくなっていた。そしてブーメラン発言と言われた通り、俺もあのあと真姫と凛(花陽は『あわわ』と言って驚いていただけ)に喝を入れられ現在に至る。

 

 

「零くんも達也くんも、いつもいつも懲りやんなぁ~」

「にこたちが来たら、いつもボロボロになってるってどういうことよ」

「でもそれももう慣れたけどね。私たちが大学に行っても何も変わらないみたいで、むしろ安心したわ」

 

 

 部室には既に希、にこ、絵里の大学生組が到着しており、戦闘終わりのような俺たちの様子を見て『いつものこと』と安心している。これが日常だったら俺たち、確実に卒業までに死ぬぞ。

 

 

「楓も京花も、突然いなくなったと思ったらそんなことをしてたんだね」

「雪穂も私も、ずっと探してたんだよ!!」

 

 

 雪穂と亜里沙は楓と京花のことをずっと探し回っていたみたいだ。俺も楓も誰にも見つからないように、こっそりと京花と達也を襲って拉致したから仕方ないと言えば仕方ない。

 

 ちなみに、京花ならさっきまで俺の隣で寝てたよ。え?違う?

 

 

「ま、まさか体育倉庫で零君と京花ちゃんがあんなことをしてるなんて……」

「あれはいくら凛でも許せなかったにゃ!!」

「本当に反省してるの……?」

「してるしてる。写真や動画に収めてないだけでもセーフだろ」

「まず病院であなたの頭を捌かないといけないみたいね……」

 

 

 怖いこと言うなよ……それに俺の頭を捌いても、そこから淫乱な妄想が飛び出してきて逆に見た奴が後悔するハメになるからやめとけって。それに人をボロ雑巾にしておいて、まだ鉄槌を下したいのか……。

 

 

「たっちゃんも反省してる!?」

「そもそも俺、悪くないんだけど……」

「まだ言い訳をするとは……その度胸と根性は認めてもいいでしょう」

「ことりのおやつのレパートリー、また1つ増えちゃった♪」

 

 

 どうやら達也も達也で理不尽な目に遭ったらしいな。まあ楓に目を付けられた時点で諦めた方がいい。この世の中痴漢冤罪というものがあるみたいに、女の子有利な社会なんだから。それに楓は男を手玉に取るエキスパート、もちろん遊びに遊んだ後、その男を地獄に叩き込むんだけど……。

 

 

「まさか『μ's式理不尽』を、俺が味わうとは思ってなかったよ……」

「お疲れ!!」

「軽いな……人の妹を襲っておいてよく言うよ」

「お前だって、楓とイチャイチャしてたんだろ?」

「遊ばれてただけだ!!はぁ~……もう今日は疲れた」

 

 

 俺は襲っていた側だからまだ体力は有り余っているが、達也は楓と穂乃果たちで2度襲われている。どうも達也は災難を呼び込む体質らしい。よく言えば避雷針、悪く言えば身代わり人形だな。

 

 

「いやぁ~今日は楽しかったぁ~♪」

「お兄ちゃんをイジメてさぞ楽しかったでしょうねぇ~」

「なに京花、もしかして嫉妬?」

「そ、そそそそそんな訳ないじゃん!!楓ちゃんじゃあるまいし!!ぶ、ぶぶぶらコンだなんてそんなことある訳ないよ!!私は正常私は正常私は正常私は正常私は正常私は正常……」

「京花が壊れた時計みたいに……やっぱりブラコンじゃん!!」

「楓ちゃん……ブーメラン発言って知ってる?」

「知ってるよ。でも自分に降りかかる暴言を恐れていては、兄妹の恋愛なんて成り立たないんだよ!!」

「本当に兄妹一緒の発言するよね……」

 

 

 俺と楓が似てるのは、幼い頃からアイツは俺のことばかり見て育ってきたからだな。それを言うのなら達也と京花だって顔立ちは天と地ほどの差があるけど、人付き合いの信念というか、人との接し方はかなり似ている面がある。

 穂乃果と雪穂だってたまに抜けていることがある点で似ているし、絵里と亜里沙だってたまに天然になるところは一緒だから、やはり兄妹や姉妹はどこか共通点があるみたいだ。

 

 

 でもまあ俺と楓の場合、危ない性格ばかりが共通してしまっているけれども……それはそれで、俺たち神崎兄妹最大の特徴ということで!!

 

 

 

 

「あっ、そうそう京花」

「なに……?」

「さっき達也先輩が、穂乃果先輩たちと生徒会室でイチャイチャしてたよ♪あれほどボロボロになるまでイチャついて、見てるこっちが砂糖吐きそうだったなぁ~♪」

「か、楓余計なことを――――ハッ!!」

 

 

 

 

「お兄ちゃん……?どういうことかな……?」

 

 

 

 

 あらあら、京花のブラコンが発生してしまったか。アイツのヤンデレモードはことりよりえげつないからな。楓、穂乃果たちと引き続き、京花という第三回戦も行うとか絶倫かよ。

 

 

「ち、違うんだ京花……これは楓の罠で」

「そう言えば楓ちゃんともイチャついてたんだってね……」

「だからそれすらも楓の罠なんだって!!」

 

 

 京花が狂化した。なんつってな!!

 

 

 

「アハハ!!やっぱりあの兄妹面白いねぇ~お兄ちゃん♪」

「それには同意だが……お前も大概性悪だな、楓」

「それはお兄ちゃんもでしょ~」

「ま、それもそっか」

 

 

 

 

 そして俺たちは鈴兄妹の戦闘(一方的な虐殺)を見ながら、のんびりとお茶を啜っていた。

 

 あぁ~今日も平和だ。

 

 




 他の作品のオリキャラ(女の子)を襲うのは萌える。寝取り的な意味で。


 そんな訳で改めて、今回は同じラブライブの小説を執筆している作者様:ちゃん丸さんの小説『ラブライブ!平凡と9人の女神たち』とのコラボ企画でした。

 基本的にはお互いに書きたいことを書きましょうといった感じなので、今回は相手方の小説の妹ちゃんを零君が襲うという、今まで書けなかった寝取りプレイを満を持して執筆してみました。でも今思えばそこまで寝取り要素はなかったかもしれませんね(笑)
まだ自分にも良心というものがあったみたいです。

 ちなみに今回は81話、つまり『081(おっぱい)』回だった訳です。まさか記念すべき81話にコラボ小説を投稿することになるとは……これも運命か(笑)


次回は温泉回かお風呂回、どっちかにするつもりです。


新たに高評価をくださった方

栞桜さん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

湯けむり温泉パンツの旅(前編)

 今回は温泉回!と見せかけたパンツ回。しかも前後編に分かれているという……

 ちなみに女の子の裸は期待しても無駄ですよ(笑)

※元ネタあり


 8月。

 

 音ノ木坂学院はもちろんのこと、絵里たちの通っている大学も夏休みに突入した。それによって俺たち13人全員が揃う日も多くなり、『ラブライブ!』出場のためにほぼ毎日練習に明け暮れている――――と思われているかもしれないが、実はそうではない。残念ながら俺や穂乃果たちは受験生。この夏休みが本腰の入れどきだ。

 

 そうは言いつつも練習をサボっている訳ではない。海未が計画したやる気スイッチ増幅プログラム『夏休み~勉強と練習の両立~』を忠実に実行しているお陰か、見事彼女の画策通りに両立を実現している。初めは穂乃果が悲鳴を上げないか心配していたのだが、そこはやる時はやる彼女、根を上げるどころか積極的に勉強にも熱を入れている。

 

 だが『たまには羽を伸ばしてみたらどう?』と秋葉が温泉旅行のチケットをプレゼントしてくれたので、俺たちは勉強と練習の合宿も兼ねて、現在温泉旅館に来ていた。

 

 

 

 

「ここには混浴温泉はないのか……」

「あっても入りませんけどね」

「別に裸なんて見られてもいいだろ。減るもんじゃねぇし」

「増減の問題ではありません!!」

 

 

 海未も俺に裸を見られるくらい今更なのに何を言ってるのやら。

 旅館の部屋で温泉に行く準備をしながら、俺はグチグチと愚痴を溢す。だってここ温泉街なんだぞ!?混浴温泉の1つもないとか、彼女9人持ちのことも考えてもらっていいですかねぇ?

 

 

 ちなみに俺の部屋は穂乃果、ことり、海未の3人と一緒の部屋だ。勉強合宿も兼ねているから当たり前と言えば当たり前なのだが、1年前は別々の部屋だったと考えると俺たちの関係の進展具合が容易に伺える。

 

 

「ことりも零くんと一緒に温泉入りたかったなぁ~」

「俺もだよ。どこかに隠れながらでもいいから一緒に入れねぇかな?」

「またそんな馬鹿なことを考えて……もう外でみんなが待っているかもしれません、早く準備して行きますよ」

「不本意だけど仕方がない、行くか―――って、穂乃果?何してるんだ?」

 

 

 俺たちが着替えやバスタオルやらを準備しながら他愛もない話をしている中、穂乃果は部屋の隅でゴソゴソと自分のカバンを漁っていた。俺たちが話している間に準備していなかったのかコイツ……。

 

 

「あっ、あった!!よかったぁ~忘れたのかと思ったよ」

「何が?」

「パンツ!!」

「元気よく言うなオイ……」

 

 

 穂乃果は笑顔で俺にオレンジ色のパンツを見せつけてくる。

 お、俺は女の子のスカートからチラリと見えるパンツが好きなんだ!!そんな見せパンなんかで俺が興奮するとでも思ったか!?パンツは見えそうで見えないくらいが丁度いいんだよ!!

 

 

 あぁ、ハンカチにしてぇ……。

 

 

『お姉ちゃんたちまだぁ~?』

『皆さんもう温泉に行っちゃいましたよぉ~!!』

 

 

 部屋の外から雪穂と亜里沙の声が聞こえた。こんなパンツ議論をしている場合じゃない、日頃の疲れを癒すためにとっとと温泉に行きますか。どうせ混浴温泉なんてないんだ、こうなったら1人でのんびりと様々な温泉を制覇してやる!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「それじゃあ零君、また後でね♪」

「おう、ゆっくり疲れを癒してこいよ。特に海未」

「そうですね。特にあなたのせいで溜まっていた疲れを、た~ぷりと取ってきますので」

「なんだその嫌味の篭った言い方は……」

 

 

 むしろ俺なんかより、穂乃果や楓による疲れの方が溜まってるんじゃないのか?夏休みは勉強や練習の邪魔をしないよう、割と真面目にしてたつもりだぞ。割とだけどさ。

 

 

 そして穂乃果たちは女湯の暖簾を潜り脱衣所へ向かった。

 

 女湯の脱衣所の入口にある『ゆ』の文字が書かれた暖簾。温泉に来るたびにこの暖簾の向こうを想像してしまう。周りに男がいないからといって無防備に服や下着を脱ぐ女の子、温泉を上がっておっぱいの裏や秘所の中身を拭く女の子など、男では行き着くことのできぬパラダイスが目と鼻の先にあるのだ。

 

 しかも今は穂乃果たちがキャッキャウフフしながら身に纏う衣を1つ、また1つと脱いでいる頃だろう。もうその妄想だけで今夜のオカズは確定してしまう!!でも男にとってこのパラダイスに足を踏み入れるのは、エベレストの頂上に辿り着くよりも、マリアナ海溝の海底深く潜ることよりも困難なことだろう。

 

 

「ふぅ……変な妄想も大概にして、俺もそろそろ温泉に――――って、ん?」

 

 

 女湯の暖簾を見ながら一頻り妄想をし終えた直後、俺の足元に何やら布切れのようなものが落ちていることに気が付いた。

 色は黄色……いや、ベージュと言った方が正しいか。でもこの三角形の布切れはどこかで見たような形だな――――――

 

 

 

 

 あっ、これパンツだ。

 

 

 

 

 えっ?ぱ、パンツぅうううううううううううううううううううううううううううううううううう!?!?

 

 

「な、なんでこんなものがここに……?ま、まさか穂乃果たちの誰かが落としたのか!?」

 

 

 俺たちが来た時は確か落ちていなかったと思うから、落としたのは俺と一緒に女湯前まで来た穂乃果、ことり、海未、雪穂、亜里沙の中の誰かだ。海未や雪穂はベージュ色のパンツなんて持っていないし、穂乃果やことりのパンツは幾度となく見てきたが、その中でこの柄のパンツは一枚もなかった。

 

 

 ――――あれ?俺、パンツを見ただけで誰のパンツか判断できるようになってる!?変態かよ!?あっ、変態だったわ……。

 

 

 でもこれで残るはただ1人……そう、このパンツは亜里沙のモノだ!!だってこの前亜里沙のスカートの中をチラっと見てしまったんだけど、これと同じパンツ履いてたし!!この前面に小さな黄色のリボンが付いている、ベージュ色のパンツを履いているのをなぁ!!

 

 

 

 

 ま、待てよ!!周りに誰か――――!!

 

 

 

 

「ほっ、よかった誰もいなかったか……」

 

 

 誰かに女湯の前で女性モノのパンツを握りしめているこの姿を見られたら、即通報レベルだからな。と、とにかくここから離れよう……そうだな、歩きながらでもいいから落ち着こう。亜里沙のパンツだと分かった瞬間心臓の鼓動がヤバイからな……。

 

 

 とりあえず俺は女湯から離れ、男湯に向かいながらこのパンツの処理方法を考えることにした。亜里沙のパンツは今、俺の浴衣のポケットに収められている。不測の事態で落としたりしないように、常にポケットに手を入れパンツを握り締めながら……。

 

 

「どうする……どうする!?」

 

 

 このまま俺が亜里沙のパンツを持っていたら、確実に盗んだと思われるだろう。必死に弁解したら許してもらえるかもしれないが、日頃の行いが悪い俺が果たして許してもらえるかどうか……亜里沙は許してくれそうだけど、彼女を溺愛しているシスコン気味の絵里に知られたらタダではすまないことは明白だ。

 

 

「それに海未や真姫、雪穂にもなんて言われるか……こうなったらいっそのこと、このパンツを女湯の脱衣所に投げ込むか?暖簾のあるところから全力投球で……」

 

 

 そうすれば俺が疑われることはまずない。だがこの作戦には致命的な欠点がある。それは脱衣所に投げ込むことで、μ's以外の女性に拾われてしまうかもしれないことだ。それだけならいい。でも――――

 

 

 

 

「もしこのパンツがレズビアンの女に取られてしまったら……?そのまま持ち帰ってあらぬことに使われる可能性があるな……それだけは絶対に避けねぇと!!」

 

 

 大天使亜里沙様のパンツを、欲望に塗れたレズ女の性欲処理に使われてたまるかってんだ!!どこの馬の骨とも知らないレズ女に使われるくらいなら、俺の性欲処理に利用してやる!!そっちの方が亜里沙もパンツも喜ぶだろ!!

 

 

「とにかくこの作戦は却下だ。くそっ、どうすればいいんだ……?もうこのまま俺が持っておくか?いやいや!!それは俺の良心が痛む!!パンツをなくして悲しむ亜里沙なんて見たくないからな!!」

 

 

 このミッションの達成条件は亜里沙にパンツを返しつつ、俺が盗んだと誰にも思われないこと。こうなったらヤケだ!!何としてでも絶対に乗り越えてやる!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そうやって意気込んだものの、何1つ作戦を思いつくことなく俺は男湯の露天風呂に向かっていた。どうやらこの旅館、露天風呂へ向かうには一度外へ出ないと行けないらしい。そうは言っても旅館の敷地内での外なので、外部から温泉を覗くなんて荒業はできない構造になっているが、今の俺にはそんなことはどうでもいい。

 

 

 問題は、今も俺の手によって握られているこのパンツなのだ。

 

 

「このパンツ、ずっと握っているせいか段々と温もりが出てきやがった……」

 

 

 もし仮にこのパンツを亜里沙の元へ返せたとしよう。そうしたら亜里沙が俺が握り締めたパンツを履くんだぞ!?俺の温もりが宿ったこのパンツが、亜里沙の秘所に流れ込む訳だ。それってもう擬似セッ○スと変わらなくね?

 

 

「こうなったら亜里沙の秘所が触れる部分に、俺の唾液をマーキングしておこうか……?」

 

 

 いつもの如く妄想が飛躍し、俺は何を血迷ったか浴衣のポケットに収められていたパンツを取り出してしまった。周りに見られないよう握り拳の中にパンツを隠し、自分の顔前まで持ってきて拳を徐々に開けていく。指が拳から解放されると同時にくしゃっとなっていたパンツも徐々に開いて元の形を取り戻していくその光景に、天使のパンツの神秘を感じる。

 

 

 

 

 だがその瞬間だった。一陣の風がまるで俺を狙っていたかのように下から上へ吹き上げる。

 

 

「うぉっ!!」

 

 

 屋外だから風が強いというのは既知の事実なのだが、ここまで強い風が来るとは予想外。柄にもなく変な声を上げて驚いてしまった。しかし、一陣の風の奇襲は非常に課題を俺に押し付けやがった。

 

 

「えっ……あ、あれ?パンツがない!?ま、まさか……飛ばされた!?どこへ行った!?」

 

 

 いつの間にか俺の右手から天使のパンツが失われていた。

 もしかしたら、このまま行方不明でもいいのでは?という考えを持つ人も多いかもしれない。だがそんなことができるはずもない!!だってもし性欲の強い変態男にそのパンツを拾われてみろ!!亜里沙のパンツが自分磨きのオカズに使われるかもしれないんだぞ!?そんなことをさせるくらいなら、俺が自分磨きに使うっての!!パンツを産ませる勢いでな!!

 

 

 俺は必死に辺りを見回してパンツの行方を探る。幸いにも、周りに俺以外の人がいないお陰で拾われているということはなさそうだ。でもこれも時間の問題。変態野郎の手に渡る前に何としてでも見つけ出さないと――――――

 

 

 

 

 ――――あっ、あったぁあああああああああああああ!!…………ん?

 

 

 

 

 ――――はっ?えっ、え゛ぇええええええええええええええええええええええ!?!?

 

 

 

 

「ど、どうしてあんなところに……?メンドくせェエエえええええ!!」

 

 

 パンツは見つかった。遥か上空、木のてっぺんに…………

 夜空に靡く天使のパンツは明るいベージュ色というのも相まって、木のてっぺんでひらひらと激しく自己主張をしている。次またあの風が吹いてしまったら、今度こそ遥か彼方へ飛ばされて捜索不可能となるだろう。それだけは絶対に避けなければ!!

 

 

 そして更に俺へ追い討ちを掛けるが如く、女の子たちの声が響いてきた。

 

 

『にこっち、もしかして……おっぱい大きくなった?』

『ホント!?あまり実感はないけど』

『う・そ☆』

『希ぃいいいいい!!あんたねぇえええええ!!』 

『にこも希も静かにしなさい。私たちしかいないとはいえ、大きな声を出すと外に声が漏れるわよ』

『そういう絵里ちだって、おっぱい大きくなった?この前零君凝視してたよ♪』

『ホント!?』

『う・そ☆』

『希ぃいいいいい!!』

 

 

 

 こ、この声はにこに希に絵里!?むちゃくちゃ声反響してるんですけど、これ本当に屋外!?それよりアイツら露天風呂に入っているのか!?――――と言うことは、この岩壁の向こうはパラダイス!?全裸のアイツらがこの向こうに!?

 

 

『もうっ、期待しちゃったじゃない……』

『絵里はそれ以上大きくなってどうするのよ!!にこに少し分けなさい!!』

『無理でしょそれは……』

『ワシワシすれば大きくなるよ♪』

『嘘!!それでも全然大きくなった試しがないじゃない!!せめて標準の穂乃果くらいの胸が欲しかったわ』

『この温泉には豊胸効果もあるって、さっき看板に書いてあったよ。だからそこにワシワシを追加すれば、相乗効果で2倍、3倍に……』

『ちょっとその手の動きやめなさい!!こっちへ来るなぁああああああ!!』

『あなたたちねぇ……』

 

 

 おいこの岩壁邪魔だぞ!?俺はみんなの彼氏なんだから、入浴現場を見る権利があるはずだ!!俺もみんなと一緒の温泉に――――って、待て待て!!パンツを忘れるところだった!!当面の目標すらも見失わせるとは、流石俺の彼女たち。声だけでも魅力満点だな。

 

 

 でも待てよ、あの木の上に登れば温泉を覗けるのでは……?いや違う!!逆に俺がパンツを取るところを見られたらマズイんだ!!

 

 この木はそこそこ背が高く、木の中腹までは岩壁で阻まれてこちらからも向こうからもお互いの姿を認識することはできない。だがてっぺんとなれば話は別。俺からも露天風呂が丸見え、もちろん向こうからも俺がパンツを握り締めている滑稽な姿が丸見えということだ。

 

 

「くそっ、あのままパンツが落ちてくるのを待つか?でもどこかに飛ばされて変態野郎に取られるのはイヤだし……しょうがねぇ、ここは――――――登るしかない!!」

 

 

 もちろん露天風呂を覗きたいからとか、そういう訳ではない。亜里沙のパンツを変態野郎やレズ女に取られないために、俺が守り通してやるんだ。亜里沙のパンツの貞操は、俺が死守する!!

 

 

 そこから俺の行動は早かった。木の枝に手を掛け、幹を踏み台に上へ上へと登っていく。木登りなんて何年ぶりだろうか、まだやんちゃだった頃の心が蘇ってくる。こんな状況だが、ちょっぴり楽しくなってきたり。

 

 でもこの木が登りやすい木で本当によかった。旅館に植えられている木だから、インテリアや見栄えを考慮した造形の木なんだろうが、幹も枝も太くて足場にしやすいのは幸いだったと言える。お陰で木の中腹までは楽々登ることができた。

 

 

「さてここからだ……これより上は絵里たちに見つかってしまう恐れがある。最悪露天風呂を覗くのは諦めて、パンツだけ確保して降りないとな」

 

 

 俺の最重要目標はパンツを確保することだ。目の前のパラダイスにうつつを抜かしていると務所入りになってしまうぞ。とりあえず手を伸ばして取れるギリギリのラインまで登って、そこから迅速で降りれば大丈夫だ。露天風呂にはまだ3人しかいないみたいだし、見つかる可能性も――――――

 

 

『あっ、絵里ちゃんたちここにいたんだね』

『あら、花陽たちじゃない』

『外の風が気持ちいいにゃ~♪真姫ちゃんも早く早く!!』

『ちょっと引っ張らないでよ!!危ないでしょ!!』

『眺めもいいし、こんな露天風呂は合宿の時以来やなぁ~♪』

『にこたちがこんな旅館に泊まれるなんて、出世したものね』

『にこちゃんおじさん臭いにゃ~♪』

『にこは能天気に毎日を過ごしているアンタたちと違って疲れてるの。たまには癒されたっていいでしょ』

 

 

 な、なにィ!?花陽たちも露天風呂に参戦しただと!?これじゃあ見つかってしまう確率がグンと跳ね上がっちまうじゃねぇか!?一気にこの木を登る勇気がなくなってきたぞ!!

 

 でもいつ木に引っかかっているパンツが飛ばされてしまうのか分かったものではない。ここは気配を殺して、かつ素早く迅速にパンツを回収しねぇと……幸い俺の匂いで気配を察する穂乃果と楓がいないのが救いだ。

 

 

 

 

 そして俺は遂に次の枝へと手を掛ける。心配するな、温泉に入っていて普通上など見ない。しかも湯気で俺の姿が隠れて見えないという可能性も残されている。そんなことを考えている暇があったら、パンツを回収することだけを考えろ。迷いや焦りは人の行動や判断を鈍くする。パンツのことだけを考えろ。頭の中をパンツで埋め尽くすんだ。

 

 

 パンツパンツパンツパンツパンツパンツパンツパンツパンツパンツパンツパンツパンツパンツ…………

 

 

 

 亜里沙のパンツに脳内を支配された俺は、木のてっぺん目掛けて全力で上り詰めた。湯気で邪魔されていなければ、温泉から俺の姿は筒抜けだろう。だが下を見て確かめている余裕などない。もし下を見てしまったら、俺の方がアイツらの全裸に釘付けとなるだろう。アイツらの全裸などいつでも見れる。今はパンツが最優先だ!!

 

 

 

 

 もう少し……もう少しでパンツに手が届く!!

 

 

 

 

 人差し指がパンツに触れる。その時だった――――!!

 

 

「うぉっ!!また風が!!――――――あっ!!し、しまった!!」

 

 

 またしても、俺がパンツを手放した時と同じ風が吹き付けた。その風でパンツが木の呪縛から解き放たれふわりと宙を舞う。あともう少し、あともう少しだったのに!?

 

 でもそんなことを言っている場合じゃない。風が温泉側から吹いてくれたお陰でパンツが露天風呂に落ちるのだけは避けられたのだが、その代わり男湯の方へと飛ばされてしまった。

 

 

「ま、マズイ……最悪女湯に落ちるのはいいが、男湯はダメだ!!野郎が天使のパンツに触れることなんて許せねぇ!!そのパンツは俺のモノだぁああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 しかしそんな馬鹿なことを叫んでいたためか、俺は木の枝に掛けていた足を滑らせてしまった。

 気付いた時には抵抗のしようもなく、身体が木から離れ地面に向かって真っ逆さまに落下する。

 

 

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 ドンッ!!と地面に身体が叩きつけられる。

 

 

 

 

「いってぇええええええええええええええええ……ん?あまり痛くない?」

 

 

 そう言えば、今日の午前中は雨が降っていたな。どうやらそのせいで木の根元の土がかなり泥濘んでいたようだ。怪我はなかったものの、服やズボンは泥まみれになっちまった……。

 

 

「ぱ、パンツはどこに!?――――あ、こんなところに」

 

 

 案外近くに落ちていたパンツを拾い上げポケットに仕舞うと、ここでまた露天風呂から声が聞こえてきた。

 

 

『あれ?さっき零の声が聞こえなかった?』

『絵里ち、零君に飢えてるからって幻聴まで聞こえるようになったん?』

『そ、そんなのじゃないわよ!!』

『まさか、零君が覗いてるとか?例えばあの木に登って……?』

『ちょっと花陽、怖いこと言わないでよ。例え零であっても他の宿泊客がいるのに、そんな暴挙に出る訳ないでしょ』

 

 

 スミマセン、暴挙に出ました……でもパンツを取り戻すためで、決して覗こうとはしてませんから!!

 

 

 

 

「はぁ~……とりあえず俺も温泉行こ。汚れちまったし……」

 

 

 

 

 でもこのパンツ、どうすっかなぁ~…………

 

 

 

 

 俺1人で繰り広げられるパンツ攻防戦は、まだまだ続く!!

 

 

 

 

To be continued…… 

 

 




 零君のパンツ攻防戦は激動のまま後半戦へ続く!


 そんな訳で今回は温泉回+パンツ回でした!
 初めは誰のパンツにしようか迷っていたのですが、やはりここはμ'sに残った最後の天使:亜里沙にパンツを落としてもらいました。やはり恥じらいのあるキャラの方が、零君もやる気になりますからね。よってことりは却下、花陽でも良かったかな?

 本当は1話で完結するつもりだったのですが、零君の心情が面白すぎてついつい長丁場に……
もうそのままもらっちゃえよ!!と思った方、あなたは変態ですね?


 次回は遂に後半戦!キーパーソンは楓ちゃん!?


新たに高評価をくださったお寿司さん、ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

湯けむり温泉パンツの旅(後編)

 今回は前回のパンツ攻防戦(零君1人)の続きとなっています。
 戦いにボスは付き物、そして今回の話のラスボスは……

 そしてコラボ回と少し似てしまったかもしれない。


 

「あぁ~もうっ!!旅館にまで来て勉強するなんてぇ~!!」

「受験生たるもの、1日でも時間を無駄にはできませんから」

「明日は観光の日だから、もう少しだけ頑張ろ穂乃果ちゃん♪」

 

 

 結局、亜里沙のパンツが俺のポケットに収められたまま勉強会が始まってしまった。

 温泉を上がって卓球やゲームコーナーで遊んだ後、俺たち4人は部屋で軽く勉強をしているのだが、その間にも俺の頭はパンツに支配されていた。

 

 ちなみに亜里沙も含め、誰も彼女がパンツを落としたことには気付いていない。多分亜里沙は脱衣所にパンツを2つ持っていったのだろう。そうでなければ騒ぎになっているはずだしな。それに自分がパンツを落としたとは普通思うまい。つまり俺は、亜里沙に自分がパンツを落としたことに気付かれる前にこのポケットにあるパンツを彼女のカバンに戻さなければならないのだ。

 

 

「零くん?」

「ど、どうしたことり?」

「温泉出てから様子が変だよ?もしかして……ことりたちの湯上りに興奮しちゃったのかな♪」

「そ、そうなんだよ!!温泉上がりの女の子って、普段と違ったエロさがあるよな~!!ほら、肌がツルツルになってるしさ」

「ふ~ん。でもそんなことで零くんが挙動不審になるのって珍しいね」

「お、お前らと久しぶりの温泉旅行だからな。あはは……」

 

 

 ことりの奴、俺の様子がおかしいことに気付いてやがったのか……察しがいいというか、普段からベタベタくっついていたらそりゃあ分かるか。

 

 

 とにかくこのパンツさえ亜里沙のカバンに戻してしまえば問題はすべて解決する。そしてこの俺がただぼぉ~っと勉強会に参加していたと思うか?その間にしっかりと作戦は練った、今晩みんなが寝静まってからが本番だ!!

 

 

「零く~ん!!早く数学教えてよぉ~」

「えっ、あ、あぁ……」

「零も合格判定がすべてAだからと言って気を抜いてはいけませんよ。脳というのは常日頃から動かしていないと、いざという時に頭が回らないものなのですから」

「やるやるやりますよ!!だから旅行にまできてお説教はやめてくれ」

「だったらこの問題を終わらせて早く寝ましょう。明日は朝早くから観光なのですから」

「そうだね。ことりも頑張る♪」

 

 

 落ち着け、まだ焦るような時間ではない。どうせみんなが寝静まるまで動けないんだ、変にキョドらないようにしねぇとな。パンツだけは見つからないようにしないといけないけど。

 

 

 そして勉強会は滞りなく順調に進み、気付けばもう午前0時を回っていた。今日は朝からみんなで観光に行くこととなっているので勉強会はこれでお開きとなり、各々就寝の準備を終え寝床につく。

 

 

 

 

 そうだ、もう少しで俺の計画が遂行される。そしてこの計画が完遂された時、晴れて俺はパンツの呪縛から解放されるのだ。初めは天使である亜里沙のパンツということで困惑していたが、今の俺にとってはRPGの呪い装備のような感覚。手放してくても手放せない。だが遂に、俺の脳内を支配し、俺に苦悩を与えてきたパンツとようやくお別れする時がやって来るのだ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 深夜3時。

 

 部屋から抜け出した俺は、現在亜里沙たちの部屋の前に立っていた。もちろん俺の浴衣のポケットの中には、呪い装備こと天使のパンツがある。俺は真っ暗な廊下の中でパンツを取り出し、シワを直しながら両手で広げてみる。

 

 

「もうお前ともお別れか。短い付き合いだったけど、こうして思い返せばいい思い出だったのかもな。次再会する時は、亜里沙に履かれている元気な姿を見せてくれ」

 

 

 そんな馬鹿なことを呟きながら、俺はパンツが入っていた反対側のポケットから部屋の鍵を取り出す。俺の部屋の鍵ではなく、亜里沙たちの部屋の鍵をだ。どうして他の部屋の鍵を持ってるかって?1年前、みんなの寝顔を盗撮する際に使った鍵複製マシーン改二を使ったんだよ。(『日常』21話:寝起きドッキリ! 参照)

 

 

「よしっ、神崎零、戦地へいざゆかん!!」

 

 

 意気込みを入れた掛け声と共に、亜里沙たちの部屋の鍵穴に複製した鍵をブスリと挿入する。この表現で変な想像をした奴、変態な。

 

 

 ドアを開ける音、部屋に上がる足音、完全にかき消すことはできないが漏れてしまう音の中でも最小音量になるよう、1つ1つの動作にたっぷりと時間を掛けて部屋へと侵入する。入口に置いてあるスリッパで足を滑らさないよう細心の注意を払いつつ、寝床へのふすまをまた数分もの時間を掛けて慎重に開ける。

 

 

「ほっ、よかった。3人共ぐっすり寝てるな」

 

 

 真っ暗な部屋の中で雪穂、亜里沙、楓の3人はすぅすぅと可愛い寝息を立てて眠っていた。入口側にいるのが楓、奥の窓側にいるのが雪穂、その間に亜里沙がいる。3人共仲良く川の字で寝ちゃって、とりあえずこの光景を写真に撮っておこう。なんかほっこりしたから。

 

 

「えぇ~と、カバンはどこに置いてあるんだ……?」

 

 

 暗くて部屋の状況がよく見えないため、下手にその場から動かずにまずカバンが置いてある位置を探る。

 枕元にお菓子やらジュースやら、ちゃんと片付けてから寝ろよな……しかも携帯まで床に放ってあるし、そんなに俺に踏んで欲しいか。

 

 

「あっ、あんなところにあった」

 

 

 真っ暗闇の中だが、意外にも早くカバンは見つかった。窓から部屋へ微かに月明かりが入り込んでおり、カバンが丁度その月明かりに照らされていたのだ。だが、亜里沙のカバンは雪穂と楓のカバンよりも更に奥に置かれていた。2人のカバンを乗り越えない限り、亜里沙のカバンに到達できそうにない。

 

 どうやら神は俺に試練を与えるのが好きらしいな。だが、ここまで来て諦める訳にはいかねぇだろうが!!

 

 

「だがその前に……」

 

 

 その前にこの呑気にグースカ寝ている3人衆を乗り越えなければ、カバンにパンツを戻すどころかカバンの所まで辿り着けやしない。枕元を通って行こうとしても、先ほど言った通りお菓子やらジュースやらが散乱していて足の踏み場がほぼ皆無になっている。俺に残された手段はただ1つ――――――

 

 

 

 

 コイツらの身体の上を跨いで行くしかない!!!!

 

 

 

 

 人の身体を跨ぐのは少々気が引けるが、この茨の道を通らなければ俺はずっとパンツに縛られたまま生きていくことになるだろう。ここは覚悟を決めて飛び込もう。

 

 

 コイツらの身体を踏みつけてしまわないようにするのはもちろんだが、布団で足を滑らせる、足をついた時に畳が軋む音など、微量も音が出ないよう神経を尖らせる。可愛い寝顔を横目で見つつも、足元の警戒を怠らないようゆっくりと足を動かしていく。

 

 それにしてもコイツら、どうして真っ暗闇の中で寝てるんだよ。豆電球ぐらい点けておけば俺が楽になったのに……だが俺も寝る時は真っ暗だから、そこに文句は言えねぇけど。

 

 

 

 

 まあいい。もう目も慣れてきたし、このまま俺の完全勝利でこの試合の幕を下ろしてやろう。

 

 

 

 

「ん?あ、足が……」

 

 

 

 

 楓の身体を乗り越え、次に亜里沙の身体を乗り越えるために右足を上げようとした瞬間、反対の左足が動かないことに気が付いた。

 こ、これって金縛り!?でも動かないのは左足だけだし、しかも誰かに足を掴まれているかのように暖かいのだが――――――

 

 

 

 

 俺の理解が正解へ辿り着きそうになった時、さらに次の動きがあった。

 後ろでゴソゴソと布団が擦れる音が聞こえたと思ったら、いきなり俺の口が何者かの手によって塞がれた!!

 

 

「んーー!!んーー!!」

「しっ!!静かに!!雪穂たち起きちゃうでしょ!!」

 

 

 や、やはりお前か!?

 後ろから俺の身体に抱きついて口を封じて来たのは、やはりと言うべきか楓だった。でもどうして起きてるんだよ!?俺の忍び足テクニックは、みんながみんな俺を忍者の子孫かと勘違いするほど完璧だったはずだ!!

 

 

 何とか落ち着きを取り戻した俺は、抵抗をやめてその場に座り込む。楓も俺の様子を察したようで、音がしないようゆっくりと口と身体の拘束を解いてくれる。

 

 

「ぷはっ、急に飛びかかるなよ、ビックリするだろ……」

「女の子の部屋に勝手に忍び込む人に言われたくないんだけど……むしろ私は正当防衛だよ」

 

 

 まさか楓に正論を言われるとは、世も末だな……。

 でも楓だけに見つかったのは不幸中の幸いかもしれない。とっとと亜里沙のパンツを渡して、楓から返してもらえばいいんだから。

 

 

「どうしてこんな時間の起きてんだよ……?」

「お兄ちゃんの気配と匂いがしたからだよ♪」

 

 

 全くもって予想通りの答え、本当にありがとうございました。いくら犬でも寝ている間に匂いを嗅ぎつけるなんてしないぞ……もしかして警察犬と勝負をさせたら楓が勝ってしまうかもしれない。そんなことになったら放送事故だな。

 

 

 おっと、そんなくだらないことを考えている時間はないぞ。

 

 

「で?お兄ちゃんはどうして私たちの部屋に……?」

 

 

 俺は事の事情を話して楓にパンツを渡すつもりだったのだが、コイツの顔を見て血の気が引いた。

 

 

 

 

 こ、コイツ……目が光ってやがる!!!!

 

 

 

 

 暗闇の中で獲物を狙う狼のように、目を獰猛に輝かせて俺の顔を見つめてくる。これは……明らかに俺を弄んでやろうと言わんばかりの顔だ!!今のコイツが俺の頼みを易々と聞いてくれるはずがない!!これは完全にやっちまったぁあああああああああああああ!!

 

 

「り、理由を言わずにこの場を解決するというのは……?」

「そんなことをしたら大声出しちゃうよ♪わざわざ鍵を複製してまで部屋に忍び込んでるんだから、雪穂と亜里沙にバレたらマズイんだよね?」

「ぐっ…………」

 

 

 雪穂にバレたらまた罵倒と冷徹な目線を貰うだろうし、亜里沙には俺が彼女のパンツを持っていることを知られたくない。かと言ってここで楓にバラしたところで、それが解決できると言われたら微妙な話だ。退路が……絶たれている。

 

 

 チラッと横目で雪穂と亜里沙の寝顔を見た。2人とも一定のリズムで寝息を立て、可愛い顔ですぅすぅと眠りこけている。あまりにもその寝顔が綺麗なので、その顔を羞恥に満ちた表情に変えてやりたいとドス黒い妄想をしながらも、この状況を穏便に切り抜けたいという俺の気持ちに偽りはない。

 

 

「言ってくれないのぉ~?女の子の部屋に忍び込んだだけでも犯罪なのにねぇ~♪ここで大声出してみんなの部屋を回ってもいいんだよぉ~♪」

 

 

 ウチの妹がウザ可愛いんだがどうすればいい……?絶好の獲物を見つけたかのようにニヤついてるし……ここはもう諦めるしかなさそうだな。

 

 

「分かった、全部話すよ」

「待ってました!!」

「声うるせぇって!!」

 

 

 楓の恐喝には、勝てなかったよ…………。

 

 

 

 

 俺は楓に事のあらましをすべて説明した。亜里沙のパンツを拾ったこと、木を登って露天風呂を覗きそうになったこと、そしてこの部屋に忍び込んだ理由も全部。

 

 

 そしてそれを聞いた楓は――――――

 

 

 

 

「アハハハハハハ!!バカだねぇ~お兄ちゃん!!」

「しっーーーーーー!!バカはお前だ!!大きな声出すなって言ってんだろ!?」

 

 

 コイツわざとやってるな!?俺の焦る姿を見て更に口を抑えて笑ってるし。やはりコイツがこの部屋にいる以上、例え深夜でも忍び込むのはマズかったな……。

 

 

「話は分かっただろ?だったら俺の代わりにパンツを亜里沙のカバンに戻しておいてくれ」

 

 

 

 

「い・や☆」

 

 

 

 

「は………………?今なんて?」

 

 

 

 

「い・や☆」

 

 

 この暗闇でも分かる、楓の憎たらしい笑顔と言ったら…………この笑顔も可愛いのが更にムカつく。怒るに怒れないから。

 

 

「ど、どうして?」

「そんなの、お兄ちゃんがパンツ握り締めたまま悶え苦しむ姿を見たいからに決まってるじゃん♪」

「そうだな、お前はそういう奴だった……もういい、パンツ返してくる」

「おっとそうはさせないよ!!」

「なにっ!?」

 

 

 俺が立ち上がろうとした時、楓は俺の首に手を、腰に脚を回して抱きついてきた。俗に言う『だいしゅきホールド』ってやつだ。

 

 くそぅ、無駄にいい匂いしやがって!!楓が実妹でなったら、ここでコイツのバージンは貫かれているところだっただろう。いや、実妹であっても俺の性的欲求が大いにくすぐられている。高校1年生にしては発達し過ぎているおっぱいを存分に俺へ押し付け、軽く腰を動かして俺のアレをグイグイと刺激し続ける。お互いに生地の薄い浴衣ということもあって、身体の感触がほぼ直に伝わってくる。

 

 

 いつからこんなテクニックを身に付けやがったコイツ!!

 

 

「お、おい!!」

「抵抗したら大声出すよ?」

「くっ……」

 

 

 このままでは楓の思う壺だ。何としてでもこの状況を打破し、亜里沙のパンツをカバンへ返却しなければ!!でも俺がこの部屋にいる限り楓の天下は揺るがない。作戦を考えようにも楓のおっぱいの感触と、俺のアレを楓の腰使いでシゴキ上げられる快楽でマトモに頭が回らない。流石俺の妹と言うべきか、俺の悦ぶポイントを熟知してやがる。

 

 

「お兄ちゃん気持ちよさそうだね♪でもいつまでも私の天下じゃ面白くないし、お兄ちゃんにチャンスを上げるよ♪」

「ちゃ、チャンス……?」

「明日、一緒に温泉へ入ってくれるならいいよ♪しかも2人きりでね」

「えっ、でもこの旅館に混浴温泉は……」

「この旅館にはないけど、実は近くにあるんだよねぇ~」

 

 

 それは俺の調査不足だった……かと言っても混浴温泉なんて、海未や真姫に止められるから行かせてもらえないだろう。

 でも楓となら兄妹だしやましいことは…………あるな。だがここでの選択肢は1つに絞られていると言ってもいい。

 

 

「分かった、行くよ」

「ホントに!?」

「声大きいって!!まぁ、明日何とか理由を付けて抜け出せばいいだろ」

「約束ね♪」

「へいへい……」

「よしっ、私のお願いを聞いてくれたから身体を離してあげよう」

 

 

 ようやく楓は俺の身体の上からどいてくれた。おっぱいやアレをシゴかれていた刺激が今でも残っていて、無性にムラムラする。そこへ追い討ちを掛けるように雪穂や亜里沙の寝顔が目に飛び込んできて、俺の性的欲求は更にエスカレートした。

 

 

 だ、ダメだ!!今は何としてでもこのパンツを返さなければ!!やっとラスボス(楓)を倒したんだ、エンディングでゲームオーバーなんて洒落にすらならねぇぞ。今は欲求をグッと押さえ込んでクエストの達成を目指すんだ。

 

 

 そして俺は亜里沙の身体を乗り越えようと右足を上げる。その時だった、部屋が急に明るくなり――――――

 

 

 

 

「あぁあああああああああああああああああああ!!お兄ちゃんが亜里沙のパンツ盗んでるぅううううううううううううううううううう!!お兄ちゃんに襲われるぞ!!2人共起きろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

「お、オイお前何言ってんだ!?」

 

 

 突如として楓が電気を点けた同時に、事実無根なことを大声で叫び始める。もちろんそんな状況で起きない奴がいない訳はなく、雪穂と亜里沙はバチッと目を開けた。

 

 

「な、なに!?どうしたの楓!?」

「も、もう朝ですか……?」

 

 

 雪穂は驚いた顔で、亜里沙は眠そうな顔で目を覚ましてしまった。対称的な表情をしていた2人だが、部屋にいたイレギュラー、つまり俺の姿を見た瞬間、2人は目を丸くして全く同じ表情になる。

 

 

「れ、れれれれ零君!?」

「ど、どうして私たちの部屋にいるんですか!?」

 

 

「か、楓……貴様ァ」

 

 

「チャンスをあげるって言っただけで、大声を出さないとは言ってないからね♪あはっ♡」

 

 

 忘れていたよ。

 楓は俺の妹でもあるが、あの神崎秋葉の妹であったことを…………。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「誠に申し訳ありませんでした」

 

 

 俺は亜里沙の前でおでこを畳に擦りつけながら土下座をしていた。ちなみにパンツはなるべくシワを取って、俺と亜里沙の間に広げて置いてある。うん、いつ見ても可愛いパンツだ!!

 

 

「もういいですから、頭を上げてください!!そこまで謝られるとこっちが申し訳ないですよ」

「いや、これは俺なりのケジメだから!!」

「お兄ちゃんにケジメとかあったんだ……」

「お前は黙ってろ、このゲス」

「ヒドイなぁ~もう♪」

「楓、これ以上零くんを困らせたらダメだよ!!」

「はぁ~い♪」

 

 

 亜里沙様天使過ぎるだろ!!もっと小悪魔である楓に天罰を……!!

 

 結局亜里沙からは怒られることはなく、むしろ見つけて返してくれたことにお礼の言葉まで貰った。よくよく考えてみれば、俺はパンツを盗んだのではなく返すために自分のポケットに入れていたんだから、流石にこれはセーフだろ。セーフだよな!?

 

 ちなみにパンツの件に関してはこの4人だけの秘密にしてくれるそうだ。楓という不安因子がいるので、どこまで信用できるのか怪しいが……。

 

「でもいちいち部屋に忍び込まなくても、普通に返したらよかったのでは?」

「普通に返したら雪穂に怒られるし……」

「怒りませんよ!!ていうか、2つ年下の女の子にどれだけ恐怖抱いてるんですか……」

「あの人をゴミのように見下す冷徹な目線は今でもトラウマだ……」

 

 

 壊れる時は穂乃果並みにはっちゃける雪穂だが、やはり普段のクールな彼女から繰り出されるその目線は、世間の男を再起不能に叩きのめすくらいの威力はある。俺以外の男だったら間違いなく立ち直れないだろうな。

 

 

「悪かったな、亜里沙。こんな形で返しちゃって」

「いえいえ!!むしろ、拾われたのが零くんでよかったなぁ~なんて♪」

 

 

 あぁ、頬をちょっぴり赤く染めながら恥じる亜里沙の顔、可愛過ぎて悶絶しそう。この表情が見れただけでもパンツを死守した甲斐があったってもんだ。変態野郎やレズ女の手に渡らなくて、本当によかったよかった!!どうせなら木に登った時に露天風呂を覗けられれば一番よかったんだがな。

 

 

 あぁ~パンツも無事に返せたし、これでめでたしめでたし!!今日はいい気分で寝られそうだ。

 

 

 

 

「それじゃあお兄ちゃん、明日の混浴温泉よろしくね♪」

 

 

 

 

 ――――――空気が、凍った。

 

 

 

 

「お、オイ!!どうして今それを言う!?」

 

 

「「こ、混浴!?」」

 

 

 ほらぁ2人が反応しちゃったじゃねぇか!!もうどこまで行っても油断のできない奴だ!!1つ試練を乗り越えたって言うのに、また俺に試練を与えようっていうのかぁああああああ!?

 

 

「どういうことですか……零君?」

「こ、混浴温泉なら私も一緒に入りたいです!!」

「ふ、2人共!!落ち着いて!!」

 

 

「あはは♪楽しみだねぇ~お兄ちゃん♪」

 

 

 

 

 俺の夜は、まだまだ終わりそうにもない…………。

 

 

 




 その後、混浴温泉に入ったのかはまたいつか語られるでしょう(フラグ)


 割と穏便(?)なオチになった気もします。正直元ネタの木に登って露天風呂を覗きそうになるというシーンが強すぎて、後半のシーンはあまり覚えてなかったんですよね。まるっきりコピーもあれなので、これでよかったのかな?

 そして前回今回と温泉に来ているのにも関わらず入浴描写が少なめだったので、次回は予告通りのお風呂回です。(旅行編は終わりなので全く別の話)

 ちなみに次回の混浴相手はのぞえりコンビ!!


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

のぞえりソープフェス!

 今回は絵里と希との混浴回……?
 "?"な理由は本編にて!!


※元ネタありです。

※運営対応により、現在は修正版となっています。アレな描写をある程度控えめにしました。


 

 

 温泉旅行から帰ってきた俺たちは、再びそれぞれの夏休みを満喫していた。

 俺や穂乃果たち受験生にとっては呑気に夏休みを過ごすことなどできないのだが、今日に限っては穂乃果たち3人全員に用事があるらしいので、本日は珍しくオフだ。

 

 

「ふぅ……トイレ掃除はこれで完了っと」

 

 

 完全にオフなのにも関わらず、その休日を家掃除に費やする専業主夫の鏡。いやね、本当は家事好きである楓の仕事だったんですよ。でも当の本人は俺にすべての家事を押し付け、何やら嬉しそうにキッチンに調理器具を並べ、更に生クリームや卵、砂糖と言った、明らかにケーキ作りしまっせと言わんばかりの材料も机に広げていた。

 

 

「おい楓、トイレ掃除終わったぞ」

「ありがとうお兄ちゃん♪次はお風呂掃除もお願いね♪」

「えぇ~まだやんのかよ……」

「今日はちょっと用事があるんだよ」

「用事って、ただお菓子作りをするようにしか見えねぇけど……?」

「あのね、料理をする女の子にとって、キッチンは戦場なんだよ!!それを"ただ"だなんて、お兄ちゃんは分かってない!!」

「なんだよそれ……」

 

 

 リビングに入った途端、エプロン姿の楓に背中を押されてそのまま廊下に押し返される。

 料理が得意な楓でも、朝昼晩の3食以外で料理を作ることはあまりない。それに調理器具やケーキの材料を見る限り、1人で作るにしたら多い気も……。

 

 

「あれ?来た?」

「私が出るよ!!お兄ちゃんはお風呂掃除頑張って!!」

「お、おい!!」

 

 

 家のチャイムが鳴ったと思ったら、楓は俺の肩をポンと叩いて玄関へ向かって行った。コソコソと俺に何を隠してやがる……?楓がここまで嬉しそうに料理の準備をする、しかもケーキ…………ま、まさか久しぶりに家に誰か帰ってくるのか!?

 

 秋葉だったら楓がここまで盛り上がるどころか、むしろ俺と一緒に追い出すまであるので却下。ということは父さんか母さん?でも俺にだけ連絡してこないというのも怪しいし……。

 

 

 そんなことを考えている間に、楓が来客を家に上げていた。

 

 

「こんにちは楓ちゃん♪」

「こんにちは楓」

「こんにちはです~希先輩、絵里先輩♪」

 

 

 突然家にやって来たのは絵里と希だった。

 あれ?俺にアポ取ってったっけ?

 

 

「零も、お邪魔するわね」

「聞いてないんだが……」

「ウチたち、今日は楓ちゃんに用事があるからね」

「楓に?ま、まさかお菓子作りを楓に習う……とか?」

「ピンポーン!!大正解。流石零君♪」

「そりゃあ楓1人で作るのなら、あの量はかなり多いからな。でもどうして楓に?」

「本当はことりに頼む予定だったんだけど、あの子の都合が悪くなっちゃって。それを聞いた楓が、是非ウチでと提案してくれたのよ」

「でもどうして俺に黙ってたんだよ……」

「それは――――んんっ!!」

 

 

 楓が理由らしきものを話そうとした瞬間、希が両手で楓の口を封じる。

 2人共顔が少し火照っているところを見ると、そこまで恥ずかしいことなのだろうか。俺の誕生日……はまだ先だし、なんかの記念日とか?でも全然覚えてない……。

 

 

「と、とにかく少し休憩したら始めましょうか」

「そ、そうやね。結構荷物持ってきたから、ちょっと疲れちゃったし」

「ぷはぁ!!もう~いきなり何するんですか!!」

「ゴメンゴメン、でも内緒やって言ったやろ?」

 

 

 それ、俺の目の前で言っても無駄じゃねぇか……?いや別に無理に詮索しようとはしないけど、わざわざ内緒にしていた俺がいる家にまで来てケーキを作ってくれるんだ、少しどころかかなり期待してしまう。

 

 

「まあゆっくりしてけよ、絵里、希」

「えぇ、ありがとう」

「おおきになぁ~♪」

 

 

 なんにせよ、絵里と希と休日を過ごせるのはいいことだ。こうなったら風呂掃除なんて速攻で終わらせて、2人のエプロン姿でも拝みに行きますか。俺って女の子がキッチンに立って料理する後ろ姿だけで萌えられる、単純な人間だから。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「そういや自分で風呂掃除するのも久しぶりだな」

 

 

 1人でこの家に住んでいた時はトイレ掃除も風呂掃除も杜撰で、汚いなと感じたらやる程度だった。でも楓が来てからというもの、トイレは週1以上のペース、風呂に至っては毎日掃除するという徹底ぶり。家事好きだからとはいえ、普段の楓の素行を考えてみればかなりのギャップだ。まぁ料理だけでなく、掃除すらも一手に引き受けてくれるアイツに文句なんて言えやしないけど。

 

 

「あった。洗剤ここに置いてたのかよ。管理方法までしっかりしてるのな」

 

 

 さっきからずっと探していた洗剤は、洗面台の下のチェストにすべて収納されていた。俺が1人で住んでいた頃と配置が大幅に変わっていて、洗剤を探し出すだけでも苦労する。これじゃあ、結婚しても家事1つ手伝えないダメ亭主になってしまうぞ。そうなってしまったら楓を嫁にするしかないな。

 

 

 すると、洗面所の入口から楓が顔を覗かせた。

 

 

「お兄ちゃん!?まだ掃除してなかったの?!」

「悪かったな、洗剤の場所も分からないダメ亭主で」

「な、何言ってるの……?」

「お前に『この人頭おかしい』みたいな目線で見られるのは心外だからやめてくれ」

「…………はぁ?」

「分かった、俺が悪かった……」

 

 

 温泉旅行の時とのテンションの違いは何なんだよ……。外での楓は旅行の時みたいに常にハイテンションの元気っ子だが、俺と2人で家にいる時はこうしてドライになることも多い。いつもいつもコイツにベタベタされる生活を送っている訳じゃないからね。

 

 

「そんな"イミワカンナイ!!"お兄ちゃんにはこれをあげるよ」

「それ真姫のマネか……?それでこれはなんだ?」

「昨日お姉ちゃんがふらぁ~っと帰ってきて、台所に置いていったんだ。なんかね、ケーキのスポンジを作るメカみたい」

「アイツ帰ってきたのか、俺に挨拶もなしかよ……ん?でも待てよ、そのメカが秋葉制作だとしたら触れない方がいいんじゃあ……」

「だからお風呂掃除が終わったら、ついでにこれも処分しておいてよ。ここに置いておくから」

「ああ。全く、折角の休日なのに無駄な仕事を増やしやがってアイツは……」

 

 

 某まんまるピンク色の星の戦士のような形状をした、とてつもなく怪しいメカが何故か目が緑色に発光している。しかも頭の上に皿乗っけているし……見た目だけでも可愛くすればいいとでも思ってんのか?

 

 

 とりあえず風呂掃除をとっとと終わらせるため、デッキブラシと洗剤を両手に装備し戦地へと赴く。だが微妙にやる気のせいでぼぉ~っとしていたせいか、洗剤を探している最中に床へ落ちたのであろうハンドタオルに気付かなかった。

 

 

 

 

「お兄ちゃん!!」

「へ―――――?わっ!?」

 

 

 

 俺は案の定床に落ちていたタオルで足を滑らせてしまう。だが被害はそれだけではなかった。不幸なことに、尻餅を付いてしまったのが怪しいメカの皿の上。ガシンとメカがへこむ音がしたが、それよりも気掛かりなのは緑色に発光していたメカの目が、待ってましたかのように目を赤く光らせていることだ。

 

 秋葉制作のメカのこと、もちろんこれだけでは終わらない。ピピピという、俺にとってはトラウマレベルの機械音が鳴り響いたかと思えば、俺の視界が一気に低くなる。そして気付いた時には俺の身体が――――――

 

 

 

「お、お兄ちゃん!?」

(ど、どういうことだこれぇえええええええええええええええええ!?)

 

 

 

 俺はスポンジの姿となって、メカの皿の上にいた……って、スポンジと言っても入浴用のスポンジかよ!?いやケーキのスポンジの方がよかったとか、そういう意味じゃないけど!!

 

 

「ほほぅ、なるほどなるほど。どうやらこのメカはスポンジケーキを作るんじゃなくて、入浴用のボディスポンジを作るメカだったみたいだね」

(どちらにせよ迷惑だ!!)

 

 

 今までガキにされたり女の子にされたりしたことはあったが、あれは人間だからまだよかった。だが今回は無機物だぞ!?もはや言葉すら話せねぇ!!

 

 

「あっ、イイこと考えちゃった♪」

(こ、この憎たらしくも可愛い笑顔は……楓のスイッチまで入ってしまった)

「先輩たちが暑い中歩いて来て汗をかいたから、料理の前にシャワーを浴びたいって言ってるんだよねぇ~♪」

(ま、まさかコイツ!?)

「これでスポンジとなったお兄ちゃんをお風呂に置いておけば……フフフ♪」

(やっぱりロクなこと考えてなかった!!)

「女の子のカラダを合法的に触れるチャンスなんだよ」

 

 

 確かにそれは嬉しいことなのだが、スポンジ姿で女の子のカラダに触っても全然嬉しくねぇ!!俺は自らの手で女の子のカラダを弄り回すのが好きなんだ!!こんな姿で満足できるかよ!!

 

 

「それじゃあお風呂に置いてあげるからね。ごゆっくりぃ~♪」

(お、オイ!!)

 

 

 どれだけ叫んでも喋れないため意味がない。

 結局楓は浴槽にあったスポンジと俺を入れ替えて、笑いながら退散してしまった。

 

 

 くそぅ!!さっきは満足できないって言ったけど、こうなったらスポンジに変えられた腹いせに、たっぷりと2人のカラダを堪能してやる!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 風呂場のドアが開く音がした。運命の瞬間が、目の前まで迫っている。

 

 

(つ、遂にこの時が来てしまったのか……!!)

 

 

 スポンジの姿となって風呂場に置かれた俺は、人生でもトップクラスに入るほど心臓の鼓動が高鳴っていた。そもそもスポンジに心臓があるのかといった話もあるが、細かいことは抜きで。とにかく、もう少しですっぽんぽんの2人が入ってくると思うと胸が熱くなってくる。

 

 

 

 

 そして、風呂場のドアが完全に開いた。

 

 

 

 

「零君の家のお風呂に入るのは久しぶりやなぁ~」

「そうね、同棲生活以来かしら」

 

 

(キタァぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!)

 

 

 希と絵里、凱旋!!そしてこの光景、風呂場と温泉の違いが如実に現れている。温泉だと周りに別の宿泊客もいて、例え同性でも人目が気になってタオルを巻いてしまうが普通だが、個人の家の風呂場だとその心配も皆無。

 

 

 つまり、今の希と絵里はタオルを一切巻いていない、まさに生まれたままの姿だという訳だ。

 

 

 絵里のカラダはこの世の女性が憧れる、スラッとした健康的なスタイル。そしてそのスタイルにお似合いの豊満なおっぱいが、俺の前で堂々と激しい自己主張をしている。さらに艶やかで真っ白な美肌は、それだけで男の目を惹きつけるが、何といっても一番目が惹かれるのは彼女の綺麗なお尻。ただの白ではなく、少し桃色掛かったそのお尻に今にも食らいつきたくなる。

 

 

 希のカラダは絵里に勝るとも劣らない、出るところが出過ぎていてカラダの凹凸が激しく、まさにエロティックボディ。絵里以上のバストを持つそのおっぱいには、誰もが顔を埋めたいと思ったことがあるのではないだろうか。肌は外で練習しているとは思えないほど純白で、お尻はそれ以上に透き通った色をしている。おっぱいなどのカラダ付きと比べると、お尻の方はプリッと小柄なので可愛らしい。

 

 

 

 2人のカラダに見とれていると、上方からシャワーの音が聞こえた。

 そういや俺、今スポンジになってるんだっけ……?絵里と希のカラダが神秘的過ぎて忘れてた。

 

 

「絵里ち、身体洗ってげるね♪」

「いいの?それじゃあお願いしようかしら」

 

 

(な、何もかも丸見えじゃねぇか。普段は見られないおっぱいやお尻、そして女の子の大事な秘所まで……)

 

 

 シャワーによって濡れる女の子のカラダ。それがスタイル抜群の絵里と希だから心底興奮する。シャワーのお湯が髪から肩、そしておっぱいを伝って流れ、そして最終的には秘所に滴り落ちて、最後にカラダからお湯がボトボト落ちる様はまさに絶景。これには日本三景も驚きだろう。

 

 お風呂だからもちろんなのだが、2人はいつものポニーテールとおさげを解いているので、余計に大人の女性に見えてエロさが増している。大学生になって更に際立っていた色気をムンムン醸し出す。

 

 

 

 

(ぼ、ボディソープが俺の身体に!?)

 

 

 

 

 希はスポンジになった俺を掴み、ボディソープを垂らしてスポンジを泡立てる。そして十分に泡に包まれた俺を、絵里のカラダに優しく押し付けた。

 

 

「やっぱり絵里ちのお肌は綺麗やなぁ~」

「希だってそれほど変わらないでしょ。むしろ私は希の方が綺麗だと思ってるわよ?」

「それ嫌味……?」

「べ、別にそんなのじゃないわよ!?」

 

 

(は、肌の感触がダイレクトにっ――――!!!!)

 

 

 絵里のスベスベ肌が俺の身体に直に押し付けられている。人間の身体であった時でもここまで触れ合ったことはないぞ!?

 

 特に二の腕や腋など、普段では味わうことのできない感触がこれでもかというくらいに伝わってくる。おっぱいと同じ柔らかさを持っていると言われる二の腕は、まさに絵里のおっぱいを洗っているかのよう。腋も女の子だからか、洗う前でももの凄く甘い匂いがした。

 

 

「次はぁ~絵里ちの胸!!」

「きゃっ!!の、希!!そこは自分でやるから!!」

「いいからいいから♪全部ウチに任せておいて♪」

 

 

(ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!俺のカラダが、絵里のおっぱいに挟まれている!?)

 

 

 スポンジになっている俺は当然カラダ全体もスポンジサイズとなっている。ということは、絵里のおっぱいの谷間に俺のカラダ全体が余裕で入ってしまうということだ。希が絵里のおっぱいをゴシゴシと洗うたびに、俺のカラダ全体に絵里のおっぱいの柔軟さを感じる。

 

 

「ちょっと、そ、そこは!!」

「なに~?カラダは隅々まで洗わないとね♪」

 

 

 ただならぬおっぱい祭り。まさかカラダ全体をおっぱいに挟まれて押しつぶされそうになるとは……右を見ても、左を見ても泡だらけのおっぱい。そして上を見たら絵里のカラダを洗っている希のおっぱいが、スポンジを動かすと同時にぷるぷると揺れていた。

 

 

「それじゃあ次は私ね♪」

「絵里ち……お手柔らかにね?」

「さっき無理矢理人の胸を洗ったのは、どこの誰だったっけ!!えいっ!!」

「ひゃん♡」

 

 

 絵里はいきなり希のおっぱい目掛けて俺(スポンジ)を押し当てた。しかし勢いが余ったせいか、スポンジが希の乳首に触れてしまったため、彼女は小さく嬌声を上げる。

 

 こ、これが女の子の尖端なのか……!?一度突っついたことはあるのだが、まさか自分から押し付けてくれるとは!?ビクッと、少しイキ顔になった希の表情も相まって、スポンジの俺が彼女のおっぱいを犯しているような感覚だ。

 

 

「え、絵里ち……そ、そこは!?」

「なに~?カラダは隅々まで洗わないといけないんじゃなかったの~?」

 

 

(こ、これは……希のお尻ぃいいいいいいいいいいいいい!?!?)

 

 

 絵里が希に対して主導権を握っているだと……?

 でもそんなことはどうでもいい、絵里は希のおっぱいの谷間からスポンジを抜き取ると、次は希の下半身、お尻にスポンジを当てて洗い始めた。

 

 もちろん俺のカラダに希のお尻が押し付けられている状態。柔らかスベスベの彼女のお尻は、例えスポンジで洗ったとしても傷ついてしまいそうなくらいだ。

 

 

(うぉおおおおおお!!俺のカラダが希の…希の!!)

 

 

 遂に俺のカラダが希のぷっくり小ぶりな桃の間に挟まった。おっぱいとは違ってこの上ない背徳感を感じる。

 希は例え親友の絵里であろうともお尻を洗われるのは恥ずかしいらしく、右の桃と左の桃をきゅぅぅっと締める。もちろん桃が締まっていくたびに、俺が桃の重圧に挟まれていく。

 

 

「もう!!絵里ちにもお返しや!!」

「きゃっ!!の、希ぃ~!!」

 

 

(こ、今度はなんだ!?え、絵里の!?)

 

 

 希が絵里から俺(スポンジ)をひったくり、その勢いのまま絵里の桃と太ももを洗浄する。絵里の桃は希のよりも若干大きいが、それでも感触は一切変わらない。またしても桃に挟まれ、絵里の中を泡で満たしていく。

 

 

「ほら絵里ち、ワシワシしながら洗ってあげようか♪」

「もう胸はいいでしょ!?」

 

 

 女の子がキャッキャウフフしながらお互いのカラダを洗い合っているこの状況。本来なら男の俺が見れれるような現場ではない。だが俺はそれを見ているだけじゃなく、実際にスポンジとなってこの身で彼女たちのカラダを体感しているのだ。女の子のカラダの構造が手に取るように分かる。俺は絵里と希、2人の全身を犯し尽くしたかのような快感に浸っていた。

 

 

 

 

 だが――――――

 

 

 

 

(か、カラダが熱くなってきた。これは風呂場の暑さじゃない……身体の底から燃え上がるような熱さだ!!)

 

 

 

 

 その瞬間、俺の身体から眩い光が解き放たれた!!

 

 

 

 

「な、なにこの光!?」

「ま、眩しい!!」

 

 

 

 そして、気が付いたら目線がかなり高くなっていた。

 そう、元の身体に……戻ったのだ。

 

 

 

 

 なお、上下共に裸で――――――

 

 

 

 

「れ、零!?」

「零君!?」

 

 

 

 

 2人の目線は、俺の下腹部に向いていた。女の子のカラダを堪能して、満足しているアレを――――――

 

 

 

 

「あっ、いや、これはその……ゴメン、すぐ出てくからぁああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 その後、楓に頼んで絵里と希の様子を見てもらったら、どうやら2人は風呂場で顔を真っ赤にして気絶していたらしい。ただでさえ暑いのに、あんなものを見せられたらそりゃあ……ね。

 

 2人には秋葉の作ったメカの誤作動ということで、何とか許してもらうことができた。でも俺には絵里と希のカラダの感触が全身に刻み込まれている。そして2人は俺のカラダの一部が、脳内に鮮明に残っているだろう……。

 

 




 パイ○リとか、アナ○攻めとか、今回初プレイが多かったですね(笑)


 今回は混浴回(?)でした。話自体は元ネタから拝借したのですが、どのキャラを使おうか迷っていました。今回は女の子のカラダの描写が多くなりそうだったので、どうせ書くなら詳しくかつエロく書けそうな絵里と希に犠牲となってもらいました。

 いつもだと零君とμ'sメンバーが一緒に混浴するので、中々女の子同士のシーンは書けないのですが、こうして女の子がキャッキャウフフしている現場を零君が実況するというのも斬新で、とても楽しめました(笑)

 ちなみに絵里と希が楓にケーキ作りを教わろうと思った理由と、零君に隠しておきたかった理由については本編で触れようかと思ったのですが、あまりにもその理由が真面目過ぎてこの話の雰囲気にそぐわないためあえなくカット。次回以降の話で触れられればいいと思っています。


 次回はどんな話になるのか、まだ未定です。いつかやった次回予告集が消化しきれていないので、次はそれになるかな?


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ことりちゃんとらぶらぶするだけ

 ことりちゃんお誕生日おめでとう!!一週間遅れだけど今まで温めていたネタを放出することができました。

今回はことり視点のことり回です!


※運営対応により、現在は修正版となっています。アレな描写をある程度控えめにしました。


それではどうぞ!


 

「ありがとね零くん♪わざわざマンツーマンで勉強を教えてもらって」

「お礼を言われるほどでもないって。俺だって、ことりと一緒の大学に入りたいしな」

「うん!!ことりも零くんとずぅ~っと一緒にいたいな♪」

「当たり前だろそんなこと」

「えへへ~♪」

 

 

 きゃぁ~♪やっぱり零くんカッコいいよぉ~~!!

 

 

 あれっ、もう始まってる?もうっ、ことりと零くんのラブラブっぷりを覗きたいだなんて、物好きな人たちですね♪

 只今この私、南ことりは零くんの部屋で零くんと一緒に受験に向けてのお勉強をしています。ことりは数学がやや苦手なので、それを名目に零くんにマンツーマンを申し出たのです。

 

 

 あっ、名目って言っちゃった!?もう、ことりってばうっかりさん♪

 

 

 そうですよ!!ただ零くんと2人きりになりたかっただけですよ!!悪いですか!?

 

 

「少し休憩にするか。煮詰め過ぎても逆効果だし」

「もう2時間ずっとやってもんね」

「じゃあ俺飲み物取ってくるよ。何が飲みたい?って言っても、そこまで種類ねぇけど」

「ありがとう♪それじゃあオレンジジュースにしようかな」

「オーケー」

 

 

 そう言って零くんは部屋から出て行きました。

 この時、この時を待ってたんだよ……!!零くんが部屋から出て行って、ことりだけが零くんの部屋にいるこの状況を!!

 

 

「まずはこのクローゼットを……あぁん♡開けた瞬間に零くんの匂いが♪」

 

 

 クローゼットを開けると、中から零くんの衣服の匂いがことりの鼻を優しくくすぐりました。

 零くんの匂い、いい匂いだよぉ~♪最近零くんのハンカチや、零くんが使ったティッシュペーパーを拝借して自分磨きに使っていたのですが、それだけではもう我慢できなくなったのです。だからこうしてクローゼットから零くんの服を頂いちゃおうかなぁ~って思ったり♪彼女だから、勝手に持って行ってもいいよね?

 

 

「あっ、これ零くんが頻繁に着てる服だ。もしかしてお気に入りなのかな?それじゃあちょっとお借りしま~す♪返すとは言ってないけどね♪」

 

 

 この白のTシャツは、夏に零くんがよく着ている服。割とファッションに無頓着な零くんは、家でも外でも同じ格好でいることが多い。つまり、この服は零くんの自分磨きの様子を見ていたり、外で零くんの汗を大量吸収した経験があるってことだよ!!その経験を、ことりが自分磨きに使う時に存分に発揮してね♪

 

 

 え?言っている意味がよく分からない?そんなことじゃあこの先、ことりと零くんのイチャラブエ○チについて来られないよ♪

 

 

 よしっ、次は零くんのパンツ辺りを――――――

 

 

 

 

「オイ、貸すとも言ってないんだが……」

 

 

「ひゃぁあああああああああ!?れ、零くんいつの間に!?」

 

 

 突然後ろから零くんに声を掛けられて、ことりの髪の毛がブワァっと逆立ちました。

 びっ、ビックリしたぁ~!!自分の世界に浸っていたから全然気付かなかったよ。零くんの存在を感知できないとは……だったらこれまで以上に零くんへの愛を示さないといけないね!!

 

 

「生憎オレンジジュースを切らしていたから、他に何が飲みたいか聞きに来たんだけど……案の定だったな」

「あ、案の定?」

「大体予想できてたんだよ。俺が席を外した時のお前の行動ぐらいはな」

「ことりの行動を予想できただなんて、流石零くん♪ことりへの愛は完璧だね♪」

「お前のそのポジティブさが羨ましいよ」

 

 

 零くんも十分にポジティブだと思うけどね。だって人前で正々堂々と女の子への愛を語りだすなんて、どう考えても尋常じゃないもん。それなのにいつでも前向きで、相手からの批判でさえも褒め言葉として受け取るその精神、大好きだよ♪

 

 

 そんなことを考えていると、零くんは手に持っていた牛乳パックを机に置き。ことりの目の前まで迫ってきました。しかも真剣な表情で…………やん♪カッコいい!!

 

 

「そろそろ分からせてやらないといけないみてぇだな……」

「な、何を――――んんっ!!」

 

 

 一瞬、頭の中が真っ白になりました。だって突然零くんに唇を奪われたのですから。

 そのキスの刺激は全身に伝わり、ことりの身体はあっという間に彼に支配されてしまうのでした。

 

 

「んっ……はぁ、んっ」

「はぁ……あぁ、んんっ……」

 

 

 零くんにしてはかなりソフトなキス。いつもなら唇を食べてしまいそうな勢いなのに、今日は一体どうしちゃったんだろう……?例え優しいキスでも、零くんとのキスはとても気持ちいいけどね♪やっぱり大好きな人とのキスは身体も心も熱くなっちゃうよ♪

 

 

「ふぅ、っ……んっ、はぁ……んっ……ちゅっ、ちゅぅ……」

「はぁ……あっ、ちゅ……零、くん……段々、あぁ、激しく……ちゅぅ……」

 

 

 ソフトなキスから激しく濃厚なキスへ。零くんが何故いきなりことりの唇を奪ったのかは分からないけど、もうそんな理由なんてどうでもいいんです。最愛の人と、こうして愛を確かめ合っている、この事実さえあれば何もいらない……。

 

 

 零くんはそっとことりの身体を抱きしめました。ことりもそれに応えるように彼の身体に手を回します。

 

 あぁあああ♡満たされていく……ことりの身体も心も、零くんに包まれていく。キスは激しいのに、零くんから伝わってくる温もりは優しくてとても暖い……♪こうやって抱き合っているだけで、受験への不安も『ラブライブ!』への緊張も何もかも忘れて安心できる。ずっとこうしていたい、そう思えるくらいに……。

 

 

 

 

 だけど――――――

 

 

 

 

「え……?」

 

 

 キスはこれからが本番だという時に、零くんはことりから唇を離してしまいました。唾液の交換も十分に行えていなければ、お互いに舌を絡ませあってもいない。

 

 

 零くんからの愛が足りない……ことりも零くんに全然愛を示していない。どうして……?もっと、もっとことりを満足させてよ!!!!

 

 

「お前が考えていることを当ててやろうか?『これだけじゃ満足できない』、違うか?」

「だ、だったら!!」

「さっき言っただろ?分からせてやらないといけねぇなって、お前が悦んだら意味ないじゃん」

「零、くん……」

「いい目をしてるな、ことり。俺はな、お前のその物欲しそうな目を見てみたかったんだ。まさにご主人様とメイドのように……。最近お前に押され気味だったからな、たまには分からせてやらねぇと」

「ことりが……メイドさん?」

「そうだ。ことりは俺の彼女であり、俺に仕えるメイドさんでもあるんだ。それも俺へのご奉仕を欠かさない、俺の専属メイド。俺の言うことならば何でも聞かなければならない、従順なメイド……」

 

 

 思い出した……ことりは零くんの彼女であり、零くんへことりの全てを捧げると誓ったメイドさんでもあったんだ。そうだよ、もうことりは零くんに支配されていたんだ♪身体も心も、もうことりの全部があなたのモノ。あなたの隣に一生いると誓った初めてのキス。あの時からずっと……。あなたに悦んでもらうためなら、なんだって致します!!

 

 

「ほらことり、おねだりして。自分の欲望を、余さず俺に曝け出すんだ」

「ふわぁ……」

 

 

 零くんは両手でことりの頬っぺを優しく撫で回しました。

 情けない声が出てしまったのも、零くんからことりに伝わる1つ1つの行動が、全部快楽に変換されているからです。零くんに触れられるたびに心臓がドキンと高鳴り、彼への愛おしさが増幅していきます。もう壊れていると言われてもいいです。それくらい、ことりが彼に向ける愛は大きいのですから。

 

 

 

 

 もう、零くんにカラダを委ねちゃおう。そうすれば……楽になれるよね?

 

 

 

 

「零くん」

「なんだ、ことり?」

「ことりを……メチャくちゃにしてください♡」

「ああ、もちろん……」

 

 

 零くんはゆっくり前屈みになり顔を近づけ、ことりの唇に勢いよく貪りつきました。半開きだった唇が大きく開き、零くんの柔らかい舌がことりの口の中へ入ってきます。甘く、良い香りのする舌。さっきの優しいフレンチなキスとは違う、全身全霊でことりへの愛を示してくれている。心臓の高鳴りがより一層強くなり、彼からの愛を一心に受け止め、ことりの舌も無意識のうちにその動きに応えています。

 

 

「んっ……ちゅっ、ちゅるっ!!」

「ちゅっ、はぁ……ちゅ!!」

 

 

 零くんは執拗にことりの舌に自分の舌を絡ませてきました。同時に零くんの口の中に溜まっていた唾液がことりに口内に漏れ出し、そのまま身体の中にドクドクと注がれています。ことりも負けじと零くんに自分の唾液を流し込み、舌を絡ませて零くんの口内にことりの証としてこびり付けます。これで零くんは、今だけことりのモノです♪ちなみにことりはずぅ~っと零くんのモノだからね♪

 

 

「ことり……ちゅぅ、はぁ……」

「零、くん……んっ、ちゅっ……」

 

 

 熱い……。

 零くんから注ぎ込まれる愛はとてつもなく熱く、キスをしている唇だけでなく全身までヒートアップしてしまいました。おっぱいもお股もキュンキュンと疼いて仕方がありません。零くんに触って欲しい!!零くんの手で弄り回して欲しい!!まるで零くんの唾液に媚薬が投与されているかのように、ことりの身体の疼きが止まりません。吐息も荒くなり、興奮が極限を突破しようとしています。

 

 

 触って、ことりを……あなたの手で、メチャくちゃにして欲しいです!!

 

 

「はぁはぁ……零、くん」

「ことり……?」

「もう……我慢できないよ」

 

 

 ことりは零くんの右手を掴んで、そのまま自分の左のおっぱいに――――むにゅっと、押し付けました。

 零くんは目を見開いて驚きながらも、ことりのおっぱいをそのまま鷲掴みにします。

 

 

「ひゃん♡ど、どう零くん?ことりのおっぱい、また大きくなったんだ♪」

「そうだな。この前触らせて貰った時よりも、また一回り大きくなってる。もう少しで俺の手に収まらなくなるぞ」

 

 

 零くんはことりと話しながらも、おっぱいを揉み続けることをやめません。時には優しく、時には激しく揉みしだき、たまに乳首のある部分を服の上から指で摘まれたりなぞられたりもしています。零くんが何かしらのアクションを起こすたびに自分の口から嬌声が漏れ、ビクッと全身も反応してしまいます。。やっぱりことりの身体も愛しの彼に弄られて悦んでいるのでしょう♪

 

 

「1年前と比べると、本当に大きくなったな」

「んっ♪零くんのために……あんっ♡大きくしたんだよ……んっ♪まだまだ絵里ちゃんや希ちゃんには叶わないけど……やんっ♡ことりのおっぱいは……あっ♪ずっと零くんのモノだから……んんっ♪いつでもどこでも、好きにしてくれて……あんっ♪いいんだよ♪」

「そうか、なら遠慮なく行かせてもらう」

「ひゃんっ♪」

 

 

 突然ことりは零くんにお姫様抱っこで抱きかかえられ、ベッドの上に仰向けに寝かされてしまいました。そして零くんはことりの上に覆い被さり、ことりの服のボタンを外していきます。

 

 これこそまさにことりが期待していた展開だよ♪零くんの部屋でベッドの上で2人きり。ちゃんと脱がしやすい服を着てきたから、さぁ早く!!早くことりを脱がせて♪ことりのことを、もっとも~っと愛してください♪

 

 

「綺麗だな、ことりのおっぱいは……」

「ありがとう♪零くんにいつ見てもらってもいいように、頑張って大きくして、毎日手入れもしてるんだ」

「そうなのか。俺のためにそこまで……ありがとな」

「うぅん、大好きな零くんのためだもん♪」

「嬉しいよ。だったらご褒美をあげないといけないな」

 

 

 次に零くんは、ことりの右のおっぱいに顔を近付けました。まずは鼻を突き出して、ことりのおっぱいの匂いをクンクン嗅いでいます。えっちなことに真剣な零くんに心がキュンキュンしちゃうけど、そんなにおっぱいに近付かれたら、いくらことりでもは、恥ずかしいよぉ~!!

 

 

 

 

「ひゃああああああん♡」

 

 

 

 

 ことりのおっぱいが、零くんの舌にペロンと舐め回しました。

 まるで触手のように乳首に絡みついてくる零くんの舌。舌の先でおっぱいをなぞってことりを焦らせ、タイミングを見計らってパクッと尖端を吸い上げる。ま、まさか零くんがこんなテクニックを身につけていただなんて……ことり、更に零くんの魅力に溺れちゃう♪もう絶対に戻って来られないよ♪

 

 

 

 

「あんっ♪い、いいよ零くん♪」

 

 

 零くんは赤ちゃんみたいにことりの尖端をちゅうちゅうと吸い、吸っていない方のおっぱいは手で乱暴に揉みしだく。右のおっぱいと左のおっぱい、それぞれ全く違う刺激がことりの身体を駆け巡ります。吸われている方のおっぱいは零くんからの寵愛と愛情を感じ、激しく揉まれている方のおっぱいからは零くんに逆らってはいけないという絶対服従精神を刻み込まれています。

 

 ことりは零くんから愛を注ぎ込まれるのと同時に、もう彼から離れられない身体に調教されてしまっているのです。

 

 

「よし、そろそろおっぱいも煮詰まってきたな。次はこれだ」

「はぁ、はぁ……それって、さっき零くんが持ってきた……牛乳パック?」

「ああ、しかも中身入りだ。これを……ちょっと冷たいけど我慢しろよ」

「へ……?」

 

 

 そう言って、零くんは牛乳パックの口を開けました。『喉が渇いたのかな?』と呑気なことを考えている矢先、牛乳パックの口がグラスではなくてことりのおっぱいに向けられていることに気が付きました。ま、まさか零くん、その牛乳を……?

 

 

 そして牛乳の口が少しずつ下がり、遂に――――――

 

 

「冷たいっ!!」

「動くな!!牛乳がおっぱいから垂れるだろ!!」

「ご、ゴメンなさい!!」

 

 

 牛乳パックから牛乳が垂れ、さっき零くんに揉まれていた左おっぱいが白に染まっていきます。冷たくて身体が震えそうだけど、零くんの命令通りなるべく牛乳をベッドにこぼさないように身体を保ちます。

 

 

「そろそろいいかな。ことり、そのまま動くなよ」

「うん♪早く来て……」

「もちろん。喉が乾いて仕方がなかったんだよな」

「ことりのおっぱいで、零くんを潤わせてあげるね♪」

 

 

 そして零くんは大きな口を開けて、ことりのおっぱいにむしゃぶりつきました。

 

 

 

 

「ひゃっ、あぁああああああああああああん!!」

 

 

 零くんは唇と舌でおっぱいに垂れた牛乳を舐め取りながら、再びちゅうちゅうとことりのおっぱいを吸い始めます。もう我慢なんていう言葉が失われたことりは、零くんがおっぱいや乳首を刺激してくるたびに嬌声を上げ、身体をビクビク痙攣させながら快楽に浸るしかありませんでした。

 

 

 すごい……おっぱいを吸われているだけなのに、こんなにも感じちゃうなんて。これも零くん好みの女の子になったってことかな?

 

 

 牛乳の冷たさで冷めていた身体が、また一気に熱くなってきました。大好きな人にメチャくちゃにされているという快感。身体をガッチリと固定され、逃げられずに無理矢理おっぱいを吸われているというゾクゾクする背徳感。零くんへの愛は留まることを知りません。

 

 

「美味しいよ、ことり」

「もっと吸って!!もっと舐めて!!ことりのおっぱいをもっと堪能して!!」

「言われなくとも、お前がイっちまうくらい激しくしてやるよ」

 

 

 そこから零くんの吸い付きはより一層強いものとなりました。まるで獣のように、一心不乱におっぱいにむしゃぶりつかれてしまいます、

 

 

 

 

 もう……何も抑えることはできません!!!!

 

 

 

 

「気持ちいい!!気持ちいいよぉ~♪愛してるよ零くん♪大好きだよ零くん♡だから離さないで!!もっとことりのカラダに、あなたのモノという証を刻みこんで♡」

「離すものか手放すものか!!お前のカラダ全身に、徹底的にマーキングしてやるよ!!ことりは一生俺のモノだ!!」

「ひゃん♡ことりはずっとずぅ~っと零くんの彼女であり、永遠にメイドとしてお仕えします!!だから一生ことりを愛してください!!」

「当たり前だろ!!常に俺に触れられていないと満足できないカラダにしてやるよ!!」

「やん♡」

 

 

 

 そしてしばらくの間、ことりは受験勉強も忘れひたすら零くんに愛されていました。これが海未ちゃんの耳に入ったら怒られると分かっていながらも、自分たちに襲いかかる快楽には勝てなかったのです。だって気持ちいいんだもん、仕方ないよね♪こんな激しい零くんを知っているのはことりだけだろうなぁ~♪ちょっぴり嬉しくなっちゃった♪

 

 そうだ、零くんにお礼をしなきゃ。ことりを気持ちよくしてくれたお礼をね♪

 

 

「零くん」

「ん?どうした?」

「ベッドに腰掛けて」

「あ、あぁ……」

 

 

 零くんがベッドに腰を掛けたことを確認してことりはベッドから降り、零くんの脚と脚の間にお邪魔しました。

 

 

「ここ、大きくなってるね」

「それはしょうがない。生理現象だから……」

「ことりのカラダで大きくしてくれたんだよね?嬉しい♪だからことりを気持ちよくしてくれたお礼に、零くんのココをことりのおクチで気持ちよくしてあげます」

「マジか……」

「うん♪今度はことりから愛を、たっぷりと受け取ってください♪」

 

 

 

 

 ことりは零くんのズボンに手を伸ばします。

 

 

 そして……そして――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして、ことりたちはお互いに性欲を発散して落ち着きを取り戻しました。

 え?あの後どんなことをしたかって?それはあ~んなことやこ~んなことに決まってるよ♪

 

 

「それにしても、勉強はどうする?脱力したせいで一気にやる気がなくなった」

「う~ん、今日は夜に復習だけすればいいかな?それよりも……ことりはもっと零くんと愛し合いたいなぁ~♪」

「えっ、まだやんのかよ!?盛りすぎだろ!?」

 

 

 だって零くんと2人きりなんて、またとないチャンスなんだよ!!今日だって楓ちゃんがいないからこそ立てることができた計画だし。お互いに果てるまでやらないと損だよ!!

 

 

 それに……ことりのカラダはまだまだ零くんを求めてるんだからね♪

 

 

「できれば毎日やりたいんだけど、それだとみんなが可哀想だもん。ことり的には3P以上でもOKだけどね♪」

「毎日3P以上とか、俺の身体が持たない……」

「えぇ~……やろうよ零くん、おねがぁい♪」

「うぐっ……あぁもう分かった!!だったらお前の足腰が立たなくなるくらい、メチャくちゃにしてやるよ!!」

「やん♡零くんの獣みたい♪」

「まだ余裕がありそうだな。じゃあそんな口も聞けなくしてやるよ」

「れ、零くんそこは……ん♪」

 

 

 またしてもことりは零くんに抱きかかえられ、ベッドの上に押し倒されてしまいました。

 ここからさっきよりも濃厚な時間が始まると思うとキュンとしちゃいます♪

 

 

 

 

 これからもずっとあなたの側でお仕えします。だからあなたもずっと私の隣にいてくださいね?

 

 約束ですよ♪

 

 




 これで今晩のオナネタはことりちゃんで決まり!!


 そんな訳で今回は一週間遅れのことりちゃんバースデー回でした。ことりの誕生日回を投稿した人は多くいると思いますが、自分の誕生日回は果たして彼女を祝っているのかと言われると……微妙。でもどの作者様よりもエロさなら負けません!(笑)

 そしてこの小説が進んでいくたびに、プレイの内容が過激になって言っているような気がします。メイドプレイに痴漢プレイ、ソーププレイに赤ちゃんプレイ、そして授乳プレイ……まだあるかも!?


 ここで宣伝を1つ。
 同じラブライブ小説を投稿されている作家様:kazyuki00さんが投稿した小説、「青い果実が乗る電車」がことり誕生日記念として投稿されています。こちらの小説は私が原案・監修しましたので、この話だけでエロ成分が足りないは是非ご覧下さい(笑)

novel.syosetu.org/29650/6.html


 そして遂に、『日常』『非日常』『新日常』の話数通算200話目となりました!
『日常』が64話、『非日常』が51話、『新日常』が85話と投稿開始から1年も経っていないという超ハイペース。恐らく10月下旬には『新日常』100話記念、11月初旬には投稿1周年記念と、記念日が立て続けに訪れるので、何か企画でもしようかなぁと考案中です。


 次回は多分にこちゃん回。今までにやったことのないプレイをにこちゃんを実験台に実践しようとしています(ゲス顔)


新たに高評価をくださったくりとしさん、ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

モヤモヤにこちゃん

 今回はにこ回です!
 本来はR-17.9を計画していたのですが、書いている間に面白そうなネタになったので路線変更。エロ要素というよりかは、零君を想い続ける乙女なにこを中心に見てもらえればと思います。


 

 大好きな彼から愛されたい。

 

 

 だけどどのように愛されたいのかは、人によって千差万別。好きな彼とデートをするだけでもいいという人もいれば、愛しの彼とキスをしたい人もいる。愛して止まない彼と、カラダとカラダで交わりたい――――――そんな人も。程度の違いはあるけれど、彼への想いは変わらない。だって女の子だもん。女の子なら、誰しもが持ち得る感情なの。

 

 

 もちろんこの私、矢澤にこも愛しの彼を一途に想い続ける乙女の1人。一途と言っても、もう結ばれてるんだけどね。

 まさか宇宙No1アイドルのこのにこちゃんが、アイドルにとって御法度である恋愛に心を奪われてしまうなんて、1年前は思いもよらなかったわ。『お前ら9人と同時に付き合う!!』とか言っちゃって、本当に9股しちゃうんだもの。まあその潔さににこたちは惚れた部分もあるけどね♪

 

 

 でもそのせいで、最近よくぼぉ~としてしまうことがある。

 

 それもこれもアイツのせい。アイツがにこの乙女心を誑かしたからいけないのよ!!毎日毎日アイツの顔が頭に浮かんで、消えることはない。

 

 大学の講義中もダンスレッスン中も登下校の最中も、ずぅ~っとアイツのことばかり考えてる!!全く、本当に……迷惑しちゃうわ♪

 

 早くアイツの顔が見たい!!笑っている顔、ふざけている顔、真剣な顔、そして頬を赤くした、ちょっぴりエッチな顔……アイツの表情を思い浮かべるだけでも心臓の高鳴りは止まらない。

 

 早くアイツに会いたい!!会って早くお喋りしたい!!この前会ってから今日会うまでに起きた出来事を全部話したい!!それくらいアンタとずぅ~っとお話していたいの!!

 

 

 

 

 はぁ、はぁ……取り乱したわ。にこがこうなってしまったのも、全部ことりのせいよ。ことりがあんな電話を寄越してくるから、にこがこんな気持ちに……。

 

 

 

 にことことりは零の私物を取引するために、誰にも知られないよう裏でパイプを繋いでいる。このことを知っている人は、にこたちを除けば穂乃果くらい。あの子もにこたちの集団の一員だからね。

 それで先日、ことりと電話で話をしていた時に彼女の口から衝撃の真実が語られた。

 

 

 どうやら、零の部屋で2人きりのらぶらぶエッチをしたらしい。

 

 

 

 

 うっ、うぅ、う、ううっ…………

 

 

 

 

 羨ましぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!

 

 

 

 

 なによなによ!!ただでさえにこは夏休みの予定が零の予定とあまり会わなくてムシャクシャしてたっていうのに、そんな追い討ちを掛ける必要ある!?!?しかも電話口で『はぁ♡』とか『あぁ♡』とか、電話口で発情してんのよ!!いくらμ'sのみんなが仲がいいと言っても、同性の喘ぎ声に興奮するような変態じゃないわよ!!

 

 にこだって、にこだって……零とらぶらぶしたい!!もう一線くらい超える準備はとっくの昔にできているから!!やり場のないこの性欲を、最近全然発散できずにモヤモヤしてたらことりからのこの仕打ち。にこってば可哀想……!!

 

 

 

 

 ハッ!!また暴走してしまった、落ち着くのよ。ことりがらぶらぶエッチをしたというのなら、にこはそれ以上に濃厚なプレイをすればいいだけの話じゃない!!焦る必要なんて全くないわ!!

 

 だって明日、当の本人がにこの部屋に来るんだから!!カレンダーにも日数が見えなくなるくらい赤い丸を書いたから、絶対に間違いはない。明日……明日零が来るのよね!?明日はこころたちもいないし、完全に2人きり!!ママ、おばあちゃんになるかもしれないから覚悟しておいてね♪

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 当日。

 

 長い旅路だったわ。夏休みに入って零とマトモに会えたのが、日々の練習と温泉旅行の時だけだったもの。だから毎晩にこは零の私物を使って夜のにこニーをするしかなかったのよ。あの頃のにこは惨めだったわ……。

 

 でももうそんな生活をもこれでおさらば!!今日はた~ぷりと零に構ってもらうんだから♪

 

 

 そして――――――

 

 

「き、来た!?」

 

 

 家のチャイムが鳴る。約束の時間ほぼ丁度。零はデートの時でも集合時間ギリギリに来るクセ(本人曰く、『集合時間を守ってんだからいいだろ』らしい)があるから、ほぼ丁度ということは来客は零の可能性が高い。

 

 

 もう少し……もう少しでにこの溜めに溜め込んだ欲求が解放されるのね!!

 

 

 にこは全速力で、ドタドタと音を立てながら玄関へと走る。もう隣の部屋に音が響くとか、そんなもの一切どうだっていいわ!!むしろ隣の部屋の人に、にこと零のらぶらぶエッチの音を耳に穴が空くほど聞かせてやるわ!!

 

 

「は~い♪」

 

 

 さぁて見せて頂戴。あなたのカッコよくてキラキラしているその顔を!!

 

 

 

 

 

 

『お届けものでーーす!!』

 

 

 

 

 

……………………

 

 

……………………

 

 

……………………

 

 

……………………は?

 

 

 

 

 『お届けものでーーす!!』

 

 

 

 

 はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?

 ドアの向こうから聞こえてきたのは、愛しの彼の声じゃない!?どうして零じゃないのよ!?なんでこんな配達員如きに、にこの甘い"は~い♪"を聞かせなきゃならないの!?本当だったらお金を払ってもらわないと出さない声なのに!!営業スマイルならぬ営業ボイスってやつね。

 

 

『お届けものでーーす!!』

「はいはい今出ます!!今出ますよ!!」

『は、はぁ……』

 

 

 にこは戸棚から印鑑を引っ張り出して握り締め、今度はわざとドタドタと音を立てながら玄関へと向かう。

 誰よ誰よ!!こんな真昼間に時間を指定してまで通販で買ったのは!?もしかしてママ!?最近ダイエット器具のチラシばかり見てたから?それかここあかこころ!?ママにおねだりしてゲーム買ってもらっていたり!?

 

 もうっ、どうしてわざわざこの時間に届くようにしたのよ~~!!ママも妹たちもにこの大切な家族だけど、今だけはもの凄い憤りを感じるわ……。

 

 

 そしてやる気もテンションもダダ下がりのまま、部屋のドアを開ける。

 配達員の人はにこの顔を確認するなり、配達業者内でこう言えと定められていると思われる定型文を言い出した。

 

 

「矢澤にこさんの宛に荷物が届いています。ここにサインをお願いできますか?」

「に、にこ宛に……?あっ、そう言えば」

 

 

 そういや数日前、ファンであるアイドルの新作CDが出たから、ネットで注文してたんだった。いやぁ~忘れてた忘れてた♪だって今日は零に会える日なんだもん!!例え好きなアイドルだろうと零の前では霞んじゃうわ。

 

 でもママとここあたち、さっき罵倒してゴメンなさい……。

 

 

 

 

「ありがとうございましたーー!!」

 

 

 

 サインを印鑑で済ませ、やっとイライラの元である配達員を追い払った。ま、まぁ自分のせいなんだけどね……でもにこの欲求開放を邪魔したのは事実だから!!いくらお昼だからって、零が来る時間帯ピッタリに合わせなくてもいいでしょうが!!

 

 

 お、落ち着きなさい……こんなところで爆発してしまったら、いざ零が来た時に甘えられなくなるわ。それに怒りで爆発しちゃったら、溜めに溜め込んだ性欲まで解き放たれそうだし。ここまで来て1人で自分磨きをするなんて、あってはならないことだわ……。

 

 

 ここはどんなことをしてでも耐えるのよ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「どうして来ないのよ……もう2分5秒252の遅刻なんだけど」

 

 

 結局配達員が襲撃して来てから零は何の音沙汰もなく、到着予定の時間はとっくに過ぎ去っていた。たかが2分と思うかもしれないけど、零は時間にルーズに見えて割と期日や集合時間などはキッチリとしている。集合時間ギリギリに集合場所へ着くけど決して遅刻したりはしない。遅刻をするにしても、絶対に事前に連絡を入れてくれるからね。

 

 でも今日に限って遅刻しているのにも関わらず、向こうからの連絡は一切ない。にこからも30秒間隔で何度か連絡をしているんだけど、ぜんっぜん音沙汰が無いわ。一体今どこで何をしているのよ!?

 

 

「はぁ~……折角にこが愛情たっぷりの文章で連絡しているっていうのに……」

 

 

 スマートフォンを握り締め、緑色をした連絡用のアプリを起動しながら零からの連絡を待つ。

 ちなみににこが零に送った文章はというと――――――

 

 

 

 

一通目

『ちょっと30秒も遅刻してるんだけど、今どこにいるの?』

 

 

二通目

『アンタが1分も遅刻するなんて珍しいわね。そろそろ待ちきれないんだけど』

 

 

三通目

『ねぇ、遅くない?このにこを1分30秒も待たせるなんて……これはオシオキとして、アンタのアレを枯れ果てるまでにこにーしてあげるわ』

 

 

四通目

『2分の遅刻よ。遅い……今何をしてるの、ねぇ?ねぇってば!?!?』

 

 

 

 

 ざっとこんなものね。にこの零への愛情がたっぷり感じられるでしょう♪

 だからとっとと来なさいよ。溜まりに溜まった自分の性欲を抑えるのって大変なんだからね!!

 

 

 そして遂に2分30秒の遅刻となり、にこは五通目の連絡を出す。

 あ゛ぁああああああああああああああああああああもうっ!!どうして来ないのよ!?もしかして焦らしプレイって奴なの!?焦らすことによってにこの性欲を極限まで高め、性欲が最高潮に達した時ににこをカラダごと頂いちゃう、みたいな!!まぁそれはそれでいいけどね♪プレイの内容に関しては、なるべく零の要望には応えていきたいし。

 

 

 ここで、にこは今日零とどんなことをするのか、彼からどんなヒドイ(えっちな)ことをされてしまうのかを想像してしまった。

 

 

 

 

 性欲が……たぎる!!

 

 

 

 

 や、やってしまった!?零が来るまで抑えておかなければならなかったのに、もう妄想をオカズに自分で処理してしまいそうになる。

 

 それだけは絶対にダメ!!何のために今まで我慢してきたんだか!!零の手によって発散してらもらうためでしょ!?もう理想の純粋なアイドル像なんてどうでもいいわ!!例え性欲に塗れたアイドルであろうとも、零が愛してくれるのならそれで!!

 

 

 

 

 そこで遅刻から3分が経過し、また零へ連絡を送ろうと思っていたその時だった。

 

 

「な、鳴ってる……携帯が鳴ってる!?来たのね……遂に零からの連絡が!!」

 

 

 にこは嬉しさのあまり平静を保つことができず、通話相手が誰なのかを確認もしないで携帯の画面の『応答』ボタンをタッチする。

 もうこの際声だけでもいいわ!!でももしかしたら待ち遠しすぎて、声を聞いただけでイっちゃう、なぁ~んてこともあるかも……。

 

 

 そして携帯を耳に当てる。

 早く聞かせて!!あなたの――――――

 

 

 

 

『こんにちはにこ。突然で申し訳ないんだけど、大学のレポートの件で――――』

「え、絵里……?」

『えっ、そ、そうだけど……携帯に名前出てるでしょう?』

 

 

 一旦携帯を耳から外し、冷静に画面に映し出されている名前を確認する。

 そこには『神崎零』の文字とは程遠い『絢瀬絵里』と表記されていた。目の錯覚かと思い、一度目を擦ってから再び画面の文字を見たけれど、『絢瀬絵里』の名前が『神崎零』に変わっていることはなかった。

 

 

 

 

 はっ、ははっ、ははは……はははははははははははははははは…………………………

 

 

 

 

 あ゛ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!どいつもコイツもどこまでにこの邪魔をすれば気が済むのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 

 

 

「こんのぉ~~紛らわしいのよ!!!!」

『えぇ!?な、何が!?』

「アンタねぇ~、これだから世間からはポンコツポンコツって馬鹿にされるのよ!!はっ、KKEとは随分と大層なあだ名を貰ったものね!!もうアンタのあだ名は、賢いの部分をポンコツに変えたPKEがお似合いよ!!」

『ちょ、ちょっとどうしていきなり怒られなきゃいけないのよ!?』

「うるさぁあああああああい!!自分の胸に手を当てて考えてみなさい!!でもそれで『自分の胸はにこの胸より何倍も大きわ♪』とか思っちゃうんでしょうね!!はいはいどうせにこの胸はちっぱいですよぉ~~だ!!」

『にこが壊れてる……』

 

 

 にこは既に携帯を耳から離し、口元に持ってきて絵里を怒鳴りつけていた。

 こんなもの、怒鳴らないとやってられないわよ!!絵里如きに心を弄ばれて、にこにとって人生最大の屈辱だわ……この恨み、どう晴らすべきか。性欲を身に纏ったにこの恐ろしさを思い知らせてやるわ。絵里を徹底的に弄ってやる!!

 

 

「ふんっ、絵里だって零におっぱいやお尻を洗われて、かなり発情してたって話じゃない」

『え゛っ!?その話どこから……?』

「希から全部聞いたわ」

『希ぃ~~!!なんでそんな恥ずかしいことを喋っちゃうのかしら……』

「おっぱいの間やお尻の間も丹念に洗われたそうね」

『そ、それは零がスポンジになっていることなんて知らなかったからよ!!』

「そ~お?希もそうだけど、アンタたち2人なら零がスポンジになっていると分かっても使いそうだけどね♪だってアンタたち2人、表には出さないけど零に依存してるの丸分かりよ」

『そ、そそそそそそそんなことないわよ!!』

 

 

 この焦りよう……にこの言ったことはやっぱり事実だったのね。にこは零への愛を表に出すことが多いんだけど、絵里と希は裏でひた隠し、もし零と2人きりになったらその欲求が爆発することが多い。結局2人も零のことが大好き過ぎるのよ。その証拠として、零が絵里と希にセクハラをしても、2人は怒らないでしょ?つまりはそういうことよ。

 

 

『に、にこ!?聞いてる!?だからあれはね――――』

「はいはいもう分かったわよ!!これ以上零とのイチャラブ劇を話してみなさい、アンタに明日はないわよ……」

『急に低い声になった……どうしたのよ一体』

「とにかく要件があるなら明日以降で!!今日は忙しいから!!」

『え、えぇ分かったわ……』

「全く、零からの電話かと思ったのに……」

『零?零ならさっき会ったわよ』

 

 

 はい……?誰と誰が会っていたって……?零と絵里が会ってた……?今日は……にこと会う約束をしていたはずよね?にこの部屋に来て、一緒にお昼ご飯を食べて一緒にお話をして一緒にお昼寝をして一緒にえっちをする約束だったはず。

 

 

 なのに……別の女と遊んでいた?

 

 

 例えμ'sのメンバーでも……それだけは許さないわよ!!!!

 

 

「絵里……まさか零と密会してたとか?」

『違うわよ!!人聞きが悪いわね!!』

「じゃあ零は今どこに!?」

『それは分からないけど。少し前に別れたから、今だったらにこの住んでいるマンションの近く辺りじゃないかしら?』

「え……?」

 

 

 その言葉を聞いた途端、にこは部屋の窓を開けて外を見下ろした。

 だけど残念ながら、零の姿は見当たらない。でも絵里の言っていることが本当なら、零はもうこの近くまで来ているんじゃあ……それかもうこのマンション内に――――

 

 

 また玄関のチャイムがなった。

 この気配……感じる。き、来たんだ……。

 

 

「切るわよ絵里!!」

『え、えぇ。それじゃあまた明日電話するわね』

「じゃあね!!」

 

 

 絵里との通話を切り、携帯をソファへと放り投げる。窓を開けっ放しにしながら、テーブルを華麗に避け全速力で玄関へと向かう。

 

 この気配、この匂い、そしてこの心臓の鼓動。このドキドキは、まさしく零が近くにいる証拠。

 

 

 いる……このドアを開けたら、彼が!!ずっとずっと待ち焦がれていた彼が!!もうこのドア1枚を隔てた向こうにいる!!

 

 

 早く会いたい……早く、彼の顔が見たい!!

 

 

 

 

 焦りすぎて足がもつれながらも、何とか壁に手を付き身体のバランスを保つ。もちろん玄関へ向く足は止めない。恋焦がれた彼の笑顔を見るため、にこは必死になってドアノブを掴んだ。これほどまでにドアノブが重いと思ったことはない。でもこの壁を乗り越えれば彼に会える!!

 

 

 ドアノブを勢いよく下げ、ドアを根元から取れてしまいそうなくらい全力で引く。

 

 

 そして、にこの部屋の目の前にいたのは――――――

 

 

 

 

「よ、よぉ、待たせて悪かったな……」

 

 

 

 

「…………」

「えぇ~と……にこ、さん?」

「……そい」

「え……?」

 

 

 

 

「遅いって言ってんのよ!!!!」

 

 

 同時に、にこは零の懐に飛び込んでギュッと抱きついた。

 ここが玄関先だとか、そんなことは一切考慮に入っていない。大好きな彼とこうして1つになって抱きつく、それしか頭の中になかった。

 

 

「うおっ!?に、にこ!?」

「ずっと……ずっとこうしたかった!!」

「にこ…………ゴメン」

「もういいわよ。ちゃんとこうして会いに来てくれたんだし。今回だけは許してあげる♪今回だけよ」

「ハハ……それはどうもありがとうございます」

 

 

 本当は思いっきり怒ってやろうと思ったけど、零の顔を見たら全て吹っ切れちゃった♪

 それにしても零……疲れてる?汗の匂いも凄いし、服も少しベトベト……これはこれでありかもね♪今の間に、零の匂いをにこの洋服に染み込ませておこうかな?

 

 

「悪いな、携帯の充電が切れちまってて、全然連絡できなかった」

「その以前に家をもっと早く出ればよかったんじゃないの?」

「それは……まあ詳しいことは中で話すよ」

「いつまでも汗塗れじゃあ気分悪いもんね。じゃあウチのシャワー使いなさいよ」

「そうか、ありがとな」

 

 

 お風呂……そう言えば、絵里と希は零と一緒にお風呂に入ったのよね?

 

 

 だったら――――!!

 

 

「ねぇ、零」

「ん?どうした?」

「にこも一緒に、お風呂に入っていい?」

「!!」

 

 

 零は一瞬目を見開いて驚いた。

 

 でも、すぐ笑顔になって――――

 

 

「入ろうか、一緒に」

「零……うん♪じゃあ早速お昼のバスタイムと行くわよ!!」

「お、おい!!引っ張るなって!!」

 

 

 

 

 フフフ♪にこをあれだけ待たせたんだもの、今日はたっぷりとにこに付き合ってもらうからね♪

 




 お風呂シーンはカットで!!(絶望)


 そんな訳で今回はにこ回でした。大好きな彼氏に全然会えずにもやもや~っとしていたにこちゃん。そういった意味では今回エロいというより可愛い要素が多めだったかもしれません。1シーンでもいいので『にこちゃん可愛かったな』と思ってもらえると嬉しいです。

 そして今回零君が具体的に何をしていたのかは語られませんでしたが、実は次回の話を今回の話の零君視点にしようと考えています。何故にこの部屋に来るのが遅れたのか、あれほど汗まみれで疲れていたのか、予定の変更がなければ次回明らかになります。


 更にその後の展開ですが、まさかの秋葉さん回も計画中です。そのあと穂乃果回、海未回も構想中です。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハラハラ零くん

 今回は前回のにこ回の零君視点となります。
 にこはかなりモヤモヤして零君を待っていた訳ですが、果たしてその間零君は何をしていたんでしょうね?


 

 8月某日。今日はにこと2人きりで自宅デートをする予定である。

 にこと2人きりで会うのは夏休みに入ってからだと初めて、夏休み以前を含めたらかなり久しぶりだ。普段でも2、3日会えなかっただけで部室に入った途端に抱きついてくるくらいなのに、これだけ間が空いた今日、にこは一体どれだけの暴走を見せるのだろうか。いきなりえっちぃ展開だけはやめてくれよ。俺だってムードというものを大切にしたいから。

 

 

 それはそれとして、今日はにこと一緒に昼飯を作る約束もしている。だからお昼前くらいにはにこの住んでいるマンションに着きたいんだけど、そのためには乗り越えなければならない障害がある。

 

 

 その障害とは――――――

 

 

 

 

「お・に・い・ちゃ~ん♪どこに出掛けるのかなぁ~?ん~~?」

 

 

 

 

 何故か俺の部屋の前に待機して、廊下を通せん坊する楓だ。

 コイツの鬱陶しさは全世界に周知された事実なのだが、俺が1人で出掛けようとする時は特に執拗い。いちいち俺に誰と、どこに、何をしに行くのか、いつ帰ってくるのかを伝えた上で、更にお土産も求めてくるからだ。近くのコンビニに1人で行こうとしてもこれだからな。

 

 

「どうして逐一俺の行動をお前に報告しなきゃならんのだ」

「えっ?だって夫婦だったら当然じゃない?」

「いつから夫婦になった?」

「私が生まれた時から」

「生まれた時から許婚って、いいとこの坊ちゃんと嬢ちゃんかよ……」

「確かに私たち恵まれてるよねぇ~♪だって生まれた時から夫婦なんだもん♪」

「あれ?話が無限ループしてるような……」

 

 

 楓は妄想に浸りつつも、廊下の真ん中に立って俺の進路を妨害することに関しては怯まない。どんなフットワークを持っているのかは知らないが、俺が右へ行ったら楓も右へ、左へ行ったら左へ素早く綺麗に反復横とびするため立ち往生せざるを得ない状況にある。

 

 くそっ、急いでいるっていうのに!!しかも今日はいつも以上に妨害が激しい気がする。夏休みの宿題も全部終わらせたって言ってたし、暇なんだろうな。

 

 

「あの~……このままだと遅れるんだけど」

「そんなの私の知ったこっちゃないよ。それにそんなことを言って、私がこの道を通してあげるとでも思ってるの?実の妹のことなのに全然分かってないんだねぇ~お兄ちゃんは」

 

 

 俺の妹は、今日も今日とて舌の周りも相手への煽りも絶好調のようだ。近年は年々最高気温が高くなり、それの影響で夏バテも流行っているらしいが、俺の妹はそんな状況には全く左右されない図太い(?)精神をお持ちになっている。むしろ夏バテの方から楓を避けているように感じなくもない。その分俺がバテてしまいそうだけども。

 

 

 ここで素直に『にこと2人きりで会う』と言えば済む話なのだが、楓だとそうはいかない。

 だってコイツに『自分の彼女と会う』なんて言ってみろ、今よりも凄まじい妨害の嵐が飛んでくるに違いない。ヘタをしたら今日1日コイツと2人きりでじゃれあうハメになる。

 

 

「でも私も悪魔じゃないからね、条件次第では許してあげてもいいよ」

「どの口が言うんだよ……」

「お兄ちゃんは、また私とお風呂に入ること!!この前の混浴温泉みたいにね♪」

「またかよ……お前そればっかだな」

「だってこういう機会でもないと、お兄ちゃん一緒にお風呂に入ってくれないし。むしろ、この機会を狙っていつもお兄ちゃんを邪魔してるんだけどね♪」

「ほんっっっっっとうに陰険だなお前!!」

「褒め言葉だよ♪」

 

 

 表では誰もが羨むパーフェクトな美少女。常に笑顔で周りの人にも元気を振りまき、道行く人にすら幸福感を与えるらしい…………が、それはただの演技に過ぎない。笑顔は周りを欺くための仮面であり、心の底では俺を襲うことしか考えていない邪な気持ちが闇のように濃く渦巻いているのだ。

 

 

 全く、誰に似たのやら。楓の後ろに、俺が恐れる姉の影が見え隠れする。

 

 

「はぁ~……風呂なら今日一緒に入ってやるから」

「およ?なんか素直だねぇ~。もしかして、私との混浴に慣れちゃった?」

「多少は……」

「じゃあもう毎日一緒に入っても大丈夫だね!!」

「いやその発想はおかしい。とにかくもう行くからな」

「はいはいいってらっしゃ~い♪」

「はいはいいってきます」

 

 

 こうして何だかんだ言って素直に見送ってくれる辺り、コイツも根はいい奴なんじゃないかと思ってしまう。

 でも騙されるな。これが楓の手なんだ。ちょっと優しくしておけばこっちが折れてくれるのではないかと、そう考えているに違いない。だがこうやって一緒に暮らしている内に、俺も楓に対して凄く甘くなったと実感してしまうな。

 

 

 

 

 とりあえず、早く家を出ねぇと。にことの約束の時間までもうすぐ。ここからノンストップで行かないと遅刻確定だ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 楓というバリケードを乗り越え自宅を後にし、通常よりも1.5倍程のペースで足早ににこの住むマンションへと向かう。普段なら競歩の選手になれるかも?みたいな冗談を自分の中で繰り広げるのだが、今日は事情が事情、この俺が遅刻するとはあってはならないことだ。

 

 しかも今日は何の試練かは知らないが、気温が35度近くあるまさに真夏の暑さ。ただ歩いているだけでも肉まんのように蒸されてしまいそうだ。そしてまたここで普通なら、『女の子の肉まん(おっぱい、下のおクチ)も蒸される』などという卑猥な妄想をするところなのだが、状況が状況により仕方なく排除。

 

 恐らく今頃にこは性欲を高ぶらせて待っている頃だろう。つまり遅刻をしてしまうと、暴走したアイツの性欲の捌け口にされかねない。まあそれはそれでありっちゃありだけども……。

 

 

 そして急ぎ足で歩きながら何故かトマト臭い人たちと数人すれ違い、横断歩道に差し掛かった。

 

 

「うわっ、よりにもよって信号待ちかよ……」

 

 

 急いでいる時に限って、信号待ちが長く思えるのはあるあるだよな。今がまさにそうだ。

 仕方がない、向こうに見える宅急便のバイクが通ったら信号無視してとっとと行っちまうか。

 

 

 バイクを右から左に見送って、信号を無視して横断歩道に足を踏み入れる、その時だった。

 

 

「いいところにいた!!ちょっとこっちに来なさい!!」

「うぉっ!?な、なんだ!?」

 

 

 突然誰かに腕を掴まれたと思ったら、今度は腕を俺の首に回され絞められた状態でズルズルと引きずられた。

 一瞬、信号無視を見られたから引きずり返されたのだと思っていたのだが、俺に襲いかかってきた奴はそのまま俺をどこかに連行しようとしているようだ。

 

 俺の頭が状況を整理できたところで、なんとか首を捻って元凶の顔の覗き込む。

 

 

「ま、真姫!?」

「いいからこっちに来なさい!!」

「なんなんだよ一体!?」

 

 

 俺の首を絞めながら歩いているのは、なんと真姫だった。

 いつもは冷静沈着、ツンデレクールな彼女だが、今日は何やら様子がおかしい。言葉も荒々しいし、どこか焦っているような感じがする。さっきからずっと裸絞め(俗に言うスリーパーホールド、チョークスリーパーとも呼ぶ)をされて頚動脈ががが!!

 

 

「く、苦し゛い゛ぃぃぃ!!」

「我慢する!!今急いでるんだから!!」

 

 

 俺だって急いでるから!!しかも目的地に着く前に息の根が止まりそうなんですけど!?医者の娘が人殺してどうすんだよ!?せめて一回女の子とまぐわってから死にたいものだ。

 

 

「ようやく着いた」

「けほっ、けほっ!!」

「もう人がたくさんいる……早く並ぶわよ!!」

「ちょっ、息くらい整えさせろ!!」

 

 

 今度は真姫に首根っこを掴まれ、そのまま人がたくさんいる会場らしきところに引きずられる。その途中、横目で会場の入口に立てたあった看板を見てみると、そこにはこう書かれていた。

 

 

『世界中のトマト料理が集結!!全128品目白押し!!食べ歩き会場はココ!!』

 

 

 なるほどトマトね……これは真姫が惹かれるのも無理はない。まさに真姫のために開かれたかのような企画。そういやここへ来る前に何人かとすれ違ったけど、漏れなくトマト臭かったのはこの企画のせいだったのか。

 

 

「何故俺をここへ連れてきた!?俺急いでるんだが!?」

「私だって急いでるわよ!!早くしないと人気のトマト料理がなくなっちゃうでしょ?!」

「知るか!!それにどうして俺が連行されなきゃいけねぇんだ!?」

「ここの企画、色々なトマト料理が食べられるんだけど、なるべく沢山の人に料理を味わってもらいたいという狙いから、同じ料理を二度注文することはできないのよ。だけど零がいれば、私とあなたで人気の料理でも2回食べられるでしょ?」

「食べられるでしょ?って、俺の分はなしかよ……」

「当たり前よ!!その為に連れてきたんだから!!」

「理不尽過ぎる!?」

 

 

 目の前に世界中のトマト料理の店の屋台が軒を連ね、更にトマト嫌いの人が嗅いだら発狂しそうなトマト臭が辺り一帯を包み込む。そのせいでいつもより何百倍も暴走している真姫は、俺を逃さないよう再び腕で俺の首を絞め会場を進んでいく。

 

 

「ぐっ、かぁっ!!」

「気持ち悪い声を出さない!!変なカップルだと思われるでしょ!?」

「だ、だから……ぐぇっ、俺は……うぐっ、急いで……がぁっ、だって!!」

「なに?言葉が途切れとぎれで聞こえないわよ!!」

 

 

 そりゃあお前が俺の首を絞めながら歩いてるせいだろうが!!しかも会場内は結構人がいて、声を出せないこの状況では真姫の耳に急いでいる理由を説明するのも難しいだろう。

 

 それに首を絞められている今、喋ったら喋ったらで身体の空気が一気に外へ漏れ出してしまう。これ以上の酸欠は本当に俺の命に直結するぞ!?更に真姫の髪が靡くたびに、いちいち彼女の甘い香水っぽい匂いが俺の鼻に入り込んでくるのは嬉しくもうざったらしい。

 

 

「なにモタモタしてるのよ、テキパキ足を動かしなさい!!料理を食べる数は制限されてるけど、結局数自体が少なくて毎年食べられない人がいるのが恒例行事なんだから!!だから早く!!」

「毎年……ゴホッ!!来てんのか……」

「なに?周りがうるさくて聞こえないんだけど!?」

「くっそ……ケホッ、く、苦し゛い゛……」

 

 

 結局その後、この会場にいる間ずっと真姫の腕によって首を絞められていた。そのせいで『にこと会うから離せ』とも言い出せず、真姫がトイレに行く隙を突いてようやく会場を後にすることができた。

 

 

 あとで真姫には連絡しておこう……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 トマト地獄の会場を後にし、ようやく真姫に拘束されたところまで戻ってくることができた。しかし集合時間は僅かだが過ぎ去っている。これはにこの奴、相当怒ってるだろうな……。

 

 もちろんにこ、そして置き去りにしてきた真姫にも連絡をしようとしたが、やはり不幸というものは立て続けに起こるもので、携帯の充電がものの見事になくなっていた。どこまで俺をハラハラさせれば気が済むんだ……。

 

 

「まだ首が締め付けられているような感覚がする……」

 

 

 急ぐために走ろうとしても、ようやく呼吸の調子が元に戻った今、過度な運動はまたさっきみたいな発作を引き起こしかねない。にこには悪いが、早歩きで勘弁してもらおう。

 

 

 そして呼吸を整えながらも急ぎ足で歩いていると、後ろからやたらドタドタを音を立てて迫ってくる気配を感じた。

 初めは真姫のようにトマトに興奮したトマト中毒者かと思ってスルーする予定だったのだが、うるさい足音と共に聞こえた叫び声が俺の焦燥をさらに駆り立てた。

 

 

 

 

「れーーーーーーいーーーーーーくん♪」

 

 

 

 

「ぐはっ!!り、凛!?」

 

 

 突然凛が後ろから、俺の首に腕を回して抱きつきてきた。再び首を絞められ呼吸困難に陥りながらも、その勢いで身体が倒れてしまわぬよう何とかバランスを保つ。

 

 それにしてもコイツらの、とりあえず彼氏に出会ったら首を絞めとけみたいな風潮なんなの!?大好きな人を逃さないよう、『多少痛みつけてでもこの人と一緒にいたい!!』という、ちょっぴりヤンデレの気質も感じる。

 

 

「は、離せ凛!!今急いでるんだ!!」

「こうして会えたのも偶然かな?もしかして、必然って奴かも!?」

 

 

 だから真姫といい凛といい、どうして俺の話を聞いてくれないんだ!?2年生組は愛を身体で示すのが流行ってんの!?愛のために命を削るとか…………でも俺ならやってしまいそう。

 

 

「ねぇねぇ零くん、もうお昼だし、一緒にラーメン食べに行こうよ!!」

「食いたいのは山々だけど、俺はにこ――――」

「にこ、ちゃん……?」

「あっ、いや!!何でもない!!」

 

 

 危ない危ない、ついうっかりにこの名前を出してしまうところだった。

 実はにこから、穂乃果や凛には今日俺とにこが会うことを内緒にしろと言われている。この2人は俺の行くところ行くところどこにでもついてくるので、2人きりを所望しているにこにとっては少々厄介な相手なのだ。だからここは適当に誤魔化して凛を撒くしかない!!

 

 

「ラーメンは今度一緒に食いに行こう。な?」

「えぇ~ヤダ!!」

「そう言われても……」

「ヤダヤダヤダ!!今から零くんと一緒にラーメン食べたいよぉ~!!」

 

 

 駄々こね凛ちゃん可愛すぎるんですが!!

 でもこれはこれで一番面倒くさいパターンのやつだ。なんせ凛の発言には筋も芯も通っていない。とにかく自分の我が儘だけを押し通す、自己中心主義。これは俺がなんと言おうとも聞き入れてくれねぇぞ……。

 

 

「はぁ、はぁ、凛……走るの早すぎよ……」

「絵里、お前までいたのか」

「さっきそこで凛にラーメンを食べないかって誘われたのよ。それでラーメン屋に向かってたんだけど……」

「俺の背中を見かけたから突っ込んできた訳ね……」

「ねぇ~行こうよ~零くんも一緒に行こうよ~!!」

 

 

 凛は俺の腕を掴んでブンブンと振り回しながら駄々をこねる。

 くぅ!!少しもの哀しげな顔で俺の目を見つめる凛が可愛すぎて、嘘をつくのすら罪悪感を感じる!!そんな悲しそう目で俺を見るなぁああああああああああ!!今すぐ家へ連れ込みてぇええええええええ!!

 

 

 でも……今日はにことの自宅デートなんだ。いくら凛が愛おしくても、ここはグッと堪えるんだ。

 

 

「ねぇ零くん。一緒に……行こ?」

「ぐっ……」

 

 

 凛は俺の身体に抱きついて、さらに上目遣いという超ド級の反則技を駆使して俺の心を弄ぶ。それにその誘い方は男が勘違いしてしまうぞ……実際俺の心もトキメいちゃったし。

 でもここからどうすればいいんだ……?もうにことの集合時間はとうの昔に過ぎ去っているから、ここで足踏みをしている暇はない。だが、この乙女チックな凛をこのまま放っておくことができるかと言われたら――――――

 

 

 

 

 できる訳ねぇだろそんなこと!!!!

 

 

 

 

「凛!!」

「な、なに……!?」

「明日行こう!!今日は絵里と行って、明日は俺と行く。大好きなラーメンを大好きな人たちと2日連続で行けるんだ、それを今日1日で終わらせるのは勿体無いとは思わないか?」

「零、あなた……そんなことで凛を黙せると――――」

 

 

「確かに!!!!」

 

 

「えぇ!?」

「勝った……」

 

 

 凛は目をギラギラと輝かせながら、まさに自分が太陽ですと言わんばかりに笑顔が明るくなる。

 だがこれは俺の読み通り。思考回路がちょっとお花畑(褒め言葉)の凛なら分かってくれると思ってたよ!!

 

 

 いやぁ~凛ちゃんマジチョロい……いやいや!!凛ちゃんマジえんじぇーだわ!!

 

 

「今日は絵里ちゃんとラーメン、明日は零くんとラーメン……うんっ、それで決まりだにゃ!!」

「凛はそれでいいの……?」

「今日もラーメン明日もラーメン、その次もラーメン、またその次も……う~ん♪誰と行こうか迷うにゃ~♪」

「そうそう、毎日μ'sのメンバーを1人ずつ誘えば、12日連続でラーメンに行けるぞ」

「おぉ!!2週間近くもラーメンを食べられるなんて、夢のようだにゃ!!」

 

 

 これぞ凛を傷つけずにこの場を回避する堅実にして賢明な方法だ。誰も悲しむことがなく、みんなが幸せになれる至高の選択。にこが性欲を溜めに溜め込んで悶えて待っているとか言わないこと。

 

 

「じゃ、俺はレポート課題の資料探ししてる最中だから」

「うんっ!!それじゃあまた明日ね♪」

「レポート……?そう言えばにこに聞くことがあるんだった……」

「じゃあ絵里、あとはよろしくな」

「えっ、えぇ、分かったわ」

「ばいばいーーい!!」

 

 

 あぁ、凛の笑顔が眩しい!!そうだよ、この笑顔が見たかったんだよ!!例え彼女のために急いでいようとも、他の彼女の笑顔だけは崩さない、まさに9人彼女持ちの鏡!!

 

 

 だが凛の我が儘を乗り越えてホッとしたせいか、内心に秘めていた焦りが急に込み上げてくる。

 にこが待ってる、急がないと!!このままでは性欲を溜めに溜め込んだにこが暴走して、そこら辺にいる男に性欲の発散を求めてしまうかもしれない。そんなことだけは絶対にさせるかぁああああああ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……つ、着いた」

 

 

 凛たちを笑顔で見送った後、俺はすぐさま鬼の形相になりながら全速力でにこの住むマンションへと向かった。

 身体中が汗でベトベトになっており、まるで茹でられているかのよう。そのせいでTシャツが身体にベトベトと引っ付き心底気持ち悪い。

 

 様々な試練(楓や真姫や凛)を乗り越え、ようやくここまで辿り着いた。いつもはものの数分で着くことのできるにこのマンションなのだが、今だけはRPGのラストダンジョンにやっと到着したかのような満足感が得られていた。

 

 だが本番はここから。ラストダンジョンにはラスボスがいるように、このマンションにも会うべき人物がいる。下手をしたら俺自身が性欲の捌け口として使われるかもしれない……。

 

 

「にこになんて説明しよう……」

 

 

 エレベーターでにこの部屋がある階まで上がり、垂れすぎて拭っても無意味な汗をハンカチで拭いながらよろよろと廊下を突き進む。

 

 

 にこの部屋のドアが見えた!!

 

 

 ここまでの苦難の道のりを思い出して感傷に浸りながらも、もうすぐでにこに会えるという喜びが俺の脚を懸命に動かす。

 

 

 もう少し!!あのインターホンさえ押せば――――――!!

 

 

 そして、遂に俺の指がインターホンに触れる。まさかインターホンを押すことがここまで感動的だとは、これが人生最初で最後だろうな。

 

 

「お、押せた……」

 

 

 するとにこの部屋の中からドタドタと大きな音が聞こえてきた。

 これって、もしかしなくても足音か……?もしそうだとしたら、どれだけ俺と会えることを心待ちにしていたのだろうか。にこには謝罪をしてもしきれない。

 

 

 そして目の前のドアが勢いよく開き、遂に愛しのにこが姿を現した。

 玄関先に出てきたにこは目を大きく開いてキョトンとした表情をしていたのだが、俺の顔を確認するなり、目を細めて俺をジト目で見つめきた。

 

 

 もしかして、もしかしなくても……機嫌がよろしくないようで?

 

 

 

 

 

「よ、よぉ、待たせて悪かったな……」

 

 

 

 

「…………」

「えぇ~と……にこ、さん?」

「……そい」

「え……?」

 

 

 

 

「遅いって言ってんのよ!!!!」

 

 

 同時に、にこは俺の懐に飛び込んでギュッと抱きついてきた。

 ここが玄関先だとか、そんなことは一切考慮に入っていないらしい。大好きな彼とこうして1つになって抱きつく、それしか頭にないのだろう。

 

 だが、それだけ俺のことをずっと待っていてくれたのだと思うと、にこのために必死になってここまでやって来た俺も安堵する。最愛の彼女たちの1人にここまで想われていたんだ、それで嬉しくならないはずがない。

 

 

 にこは俺の背中に腕を回して、自分の身体を大きく俺に擦り付けた。

 

 

「うおっ!?に、にこ!?」

「ずっと……ずっとこうしたかった!!」

「にこ…………ゴメン」

「もういいわよ。ちゃんとこうして会いに来てくれたんだし。今回だけは許してあげる♪今回だけよ」

「ハハ……それはどうもありがとうございます」

 

 

 2回目の『今回だけよ』が中々に低音ボイスで俺の胸に突き刺さる。

 こ、これは……次やっちまったら、それこそ手錠などで拘束されて部屋に監禁されちまうぞ。でも一途にこうして俺のことをずっと待っていてくれたのは、やっぱり嬉しい。にこの真っ直ぐ尽くしてくれるこの精神に、俺は惚れちまったんだよな。

 

 

「悪いな、携帯の充電が切れちまってて、全然連絡できなかった」

「その以前に家をもっと早く出ればよかったんじゃないの?」

「それは……まあ詳しいことは中で話すよ」

「いつまでも汗塗れじゃあ気分悪いもんね。じゃあウチのシャワー使いなさいよ」

「そうか、ありがとな」

 

 

 あ、ありがてぇ!!こういった気遣いができるのもにこのいいところだよなぁ~!!

 しかも料理もできるし家事も万能、相手の様子を察して気遣える優しさ、そして大好きな人への一途な想い――――文句なしじゃないか。

 

 

 そこで、にこが頬を赤く染めながら俺の顔を見つめていることに気が付いた。

 

 

「ねぇ、零」

「ん?どうした?」

「にこも一緒に、お風呂に入っていい?」

「!!」

 

 

 に、にこと一緒にお風呂だと!?

 この前は絵里と希と一緒に(スポンジとなって)風呂に入ったのだが、今日は俺の身体、大丈夫だよな!?

 

 

 ――――――うん大丈夫、生身の身体だ。

 

 

 それに今日はにこと2人きりでイチャつく予定だったんだ、もちろん断る理由なんて初めからない。

 

 

「入ろうか、一緒に」

「零……うん♪じゃあ早速お昼のバスタイムと行くわよ!!」

「お、おい!!引っ張るなって!!」

 

 

 

 

 やっぱり暴走しちゃうのね……。

 でもにこの笑顔が見れたことだし、これでよかったのかな。

 

 




 凛ちゃんは、ちょっとおバカなところも可愛い。


 今回は前回の別視点ということで、自分の小説では初の試みでした。初めは同じ話を2回書くなんて需要もないし、書くのも簡単だろと思っていたのですが、舐めてました……。案外前の話と辻褄を合わせるのって結構面倒です。やはり自分は1話完結が向いていると実感しました。

 次回は自分がいつか書きたいと思っていた秋葉さん回となります。彼女をガッツリメインで書くのは初めてなので、俄然やる気もアップアップです!ちなみに真面目な回とかではないので、肩の力は抜いて大丈夫ですよ(笑)


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Autumn LeafとParent Bird

 今回はまさかの秋葉さんと理事長がメインの回となっています。
 あの秋葉と親鳥なので、どのようなドタバタ劇が繰り広げられるのか……と思いきや、普通の日常回なので肩の力は抜いて構いませんよ(笑)


 

 

『ちょろっと一緒にドライブでも行かない?』

 

 

 家に帰ってくるなり突然のお誘い。

 いつも研究室に篭って中々家に帰ってこない秋葉の顔を、数週間ぶりに見た気がする。気がすると言っている辺り、どれだけ久しぶりなのかが分かってもらえるだろう。ああ見えてアイツは研究熱心だからな。どんな研究をしているのかは俺でも想像がつかない、というか想像したくない。

 

 

 話を戻そう。

 突然ドライブデートのお誘いを貰った訳だが、正直、秋葉と2人きりになるのは相当な覚悟が必要だ。下手をしたらどこかの実験場に連れて行かれて、気付いた頃には異次元世界にいる、みたいなことなんてザラにある。一度ゲームの世界に閉じ込められた訳だしな……。

 

 だが、秋葉がこうして誰かを誘って出掛けるという行為自体が珍しい。元々そこまでアウトドア派ではないコイツが、こうして俺を誘うのは何かしらの意味があるのだろう。

 

 実は本人も――――

 

 

『久々に零君と一緒にお話したいなぁ~♪』

 

 

 とか、

 

 

『お姉ちゃんとラブラブデートしようよ♪』

 

 

 など、意外にも真っ当(?)な理由をお持ちになっていた。

 本当にこれが本音なのかは分からないが、受験勉強の気分転換も兼ねて久々にコイツの誘いに乗ってやろうと思い、秋葉が準備をしている間に玄関先に停めてある車に乗り込もうとしたのだが――――――

 

 

「どうして理事長が車に乗っているんですかねぇ……」

「秋葉ちゃんに誘われちゃってね♪」

 

 

 後部座席のドアを開けて車内を覗いてみると、何故か秋葉の車の助手席に、理事長が座って待機していた。

 μ'sのメンバーが乗っているならまだ声を上げて驚く程度で済みそうだが、まさかこんなところで斜め上の人物に遭遇するとは……心の底から予想外のことに驚いた時って、声すら出ないんだな。

 

 

「誘われたって、どうして秋葉なんかに……?」

「『秋葉なんか』って、相変わらず私の扱いヒドイなぁ~零君は!!昔の恩師を誘うのがそんなにいけない?」

「へぇ~、理事長ってお前の恩師だってのか……って、ん?」

 

 

 あれ?今、俺の人生の中で知り得ない情報があっさりと流されたような気がする。

 さっきなんて言ってたっけ?恩師、恩師……理事長が秋葉の恩師――――――って!!

 

 

「え゛ぇええええええええええええええええええええええええええ!?!?マジで!?!?」

 

 

「おおっ!!ナイスリアクションだね♪」

「秋葉ちゃん、零君に言ってなかったの?」

「そう言えば忘れてた」

 

 

 ま、まさか秋葉と理事長にそんな繋がりがあっただなんて……秋葉からも理事長からも、そんなこと一切聞いたことなかったぞ。

 ――――ということは、俺が高校に入学する以前から、ことりとは間接的に接点があったってことだな。それでも接点が薄過ぎて、間接の間接みたいな感じだけども。それをことりが知ったら大喜びして、また以前のようなプレイに発展しそう……。

 

 

「まあとりあえず、そのことも含めてドライブしながら話しましょう。折角秋葉ちゃんが忙しい時間を削ってくれているんですもの、時間を無駄にしたくないからね」

「そうですね~♪ほら、零君も早く乗った乗った」

「えっ、あ、あぁ……」

 

 

 秋葉に無理矢理背中を押され、車の後部座席に押し込まれる。その後秋葉が運転席に座り、車のエンジンが掛かった。

 

 な、なんなのこのメンツ……?

 突然家に帰ってきた姉にドライブに誘われたと思ったら、車には自分の学院の理事長がいて、しかも姉とその理事長が教師と生徒の関係だっただなんて……状況が二転三転もしてついて行くのに時間が掛かったぞ。

 

 

 

 

 そして世にも奇妙なメンバーでのドライブが、今ここに始まった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 実はと言うと、俺はあまり車に乗ったことがない。

 高校生だから運転できないのは当たり前だが、幼い頃から親元を離れて秋葉と楓の3人で暮らしていた関係上、学生だった俺たちは車に乗る機会にすら恵まれていなかったのだ。車に乗る唯一の機会は、大学生となった秋葉がたまに家に帰ってくる時ぐらい。だがアイツは家でゴロゴロしていることも多いため、それでもその機会はかなり稀だ。

 

 

 つまり、何が言いたいのかと言うとだな――――――

 

 

「ちょっと酔ってきた……」

「早いねぇ~。まだ出発したばかりだよ」

「零君、酔いやすいの?」

「車に慣れてないだけですよ。それでもバイクには乗っているので、本当に多少酔っているだけですけど」

「へぇ~、あの零君にもそんな弱点が……」

「そうなんですよぉ~♪あの完璧超人の零君が、まさかこんな弱点があるなんて……可愛いでしょ♪」

「そうね、ちょっとイイこと聞いちゃったかも♪」

「オイあんたら……」

 

 

 いや、酔っていると言っても吐きそうとか、そんな汚らしいことではなくて、単純に外の空気を吸いたい気分になるだけだ。だから車の窓を開けてさえおけば何の問題もない。

 

 それにしても理事長、日常生活では本当にことりと同じノリしてるのな。学院内では超が付くほど真面目で誠実な理事長なのに、こうしてプライベートで会うと、この人が"あのことり"の母親だということがよく分かる。ちょっぴり小悪魔っぽくなるところは、いかにもことりのようだ。

 

 

 俺は車の窓を開けて外の空気を車内に迎え入れながら、さっき腰を折られた話を再び蒸し返すことにした。

 

 

「それで?秋葉と理事長が生徒と先生の関係だった言うのは本当なのか?」

「えぇ。私の高校時代、3年間ずっと南先生が担任だったから」

「3年間ずっと!?俺と笹原先生の関係と一緒だな……」

「あっ、笹原先生も元気?」

「3年間俺を粛清し続けているくらいだから元気だろうよ。つうか、笹原先生も知ってんのか?」

「うん、3年間ずっと副担任が笹原先生だったからね♪」

 

 

 おぉう、こうして聞いてみると世界は意外と狭いんだなと感じる。兄妹が同じ学校に行ってるから可能性が低くはないのだが、やはり出来レースのような感覚は否めない。これも運命か。

 

 

「零君も粛清されてるんだねぇ~、私の時もヒドかったよ」

「お前も笹原先生に喝入れられてたのかよ……」

「私は零君や楓ちゃんを見ていると、いつも秋葉ちゃんを思い出しちゃうのよ。やっぱり兄妹って似るものなのね」

「否定できねぇのがムカつく……」

 

 

 笹原先生が俺の対処に慣れていたのは、数年前に秋葉への対処を経験していたからだったのか。どうりで俺の思考や行動が先生に全部読まれる訳だ。この話を聞くまで笹原先生のことを、思春期男子の卑猥な思考を読み取れるエスパーだと思っていたからな。

 

 

「秋葉ちゃんは今もやんちゃだけど、高校時代は今以上にやんちゃだったからね」

「それはつまり、ずっと変わってないってことなんじゃあ……」

「そうなんだけど、結構子供っぽい部分も多かったのよね」

「ほぅ」

「放送室のマイクを勝手に改造して、宇宙人みたいな声で流れるように仕組んだりとか、ドアノブ付きのドアをいつの間にか勝手に自動ドアに改造するとか、子供っぽいイタズラが好きだったのよ」

「へぇ~、それは知らなかった」

「いやぁ~自分の青春時代を他人の口から話されると恥ずかしいね♪」

「全然恥ずかしそうには聞こえないんだが……」

 

 

 そもそも秋葉に羞恥心なんてものがあるのか?それすらも怪しい。一度でもいいから秋葉の恥ずかしがっている姿を見てみたくはある。風呂に突撃すれば見られるだろうか……?

 

 いやダメだ。今でもこの歳になって『一緒にお風呂入る?』とか迫ってくる奴なんだ、そんな手は通用しない。それにこんなことを言ってるけど、俺は決して姉萌えとかじゃないからな!?

 

 

 それにしても理事長の話、どうやら秋葉は音ノ木坂でもイタズラっ子だったらしい。発明好きなその性格が、高校時代にも遺憾なく発揮されていたとは……それでもやはり自分が面白がっていただけで、周りにとっては迷惑でしかなかったようだけど。でも、それって今と全く同じじゃね!?

 

 結局コイツはどこへ行こうとも、自分の発明家としての腕を無駄な才能としてしか発揮していない。もういい加減誰かコイツをこの世界から追放しろ。

 

 

 

 

 その後は、秋葉の青春時代の武勇伝を本人の口から延々と聞かされるハメになった。

 まとめると、やはり高校時代もロクな奴ではなかったということ、ただそれだけ留意してもらえればこの話を全部聞いたことと何ら変わりはない。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 車は街道を抜け、街中を程よいスピードで駆け抜けていく。徒歩やバイクの時とは違う、普段見慣れた景色も真新しい場所のように見えて新鮮味がある。バイクは常に運転する立場だから景色にそれほど集中できないけど、こうして車の後部座席に座って外の景色を時速5、60キロで移り変わる様をじっくり見るのは久しぶりだ。

 

 

 外の空気も取り込み、多少の酔も覚めたところで理事長が俺に話題を振ってくる。

 

 

「そう言えば、最近μ'sのみんなとはどうなの?」

「アイツらと?う~ん、特に報告することは何も。普通に良好ですよ」

「そんな上っ面な話じゃなくて、もっとあるでしょ?」

「具体的にお願いしますよ……」

「そうねぇ~……それじゃあ、この前ことりが零君の家に言ったでしょ?その時何があったの?帰ってきたことりが一晩中ずっとニヤけてて、気になったのよね」

 

 

 ちょっと待ってくれ!!その話はマズイ!!『あなたの娘さんとらぶらぶえっちしてたんですよ~アハハハ~!!』なんて、親の目の前で言える訳ねぇだろ!!どんな羞恥プレイだよ!?お父上の前で『娘さんを僕にください』とお願いするくらい難易度高いわ!!

 

 でもどうやって答えればいいんだ……?『いつも通り普通に受験勉強してました』と言ってもいいけど、それじゃあことりが何で一晩中ニヤけてたんだって話になるし……。

 

 

 

 

 あれぇ……?バレる……?

 

 

 

 

 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!

 

 

 

 

「零君……?」

 

 

 落ち着け、焦ったら勘付かれるぞ。ここは無難な解答でお茶を濁して、相手の反応を見てから次の対策方法を考えよう。一度で相手を納得させることができなさそうなら、先延ばしにするのも悪い手ではないだろう。

 

 

「特に変わったことは。ただ2人で受験勉強を――――」

「あら?ことりが『零君とたくさんえっちなことしたんだぁ~♪』て言ってたから、てっきり2人でラブラブしてたのかと思ってたわ」

「は…………?」

「家に帰って来てからことり、ずっと零君とのえっちの内容を話してたのよ。しかも夕食の合間にも。食べている時くらいやめなさいって言おうと思ったんだけど、娘のあんな嬉しそうな顔を見ると、つい……ね♪」

「いやいや『ね♪』じゃなくて!?えっちの内容を話したって……う、嘘ぉ!?えっ、えぇ!?!?」

「ん?いつもことりとヤってるんでしょ?ことりが言ってたわよ」

「はぁああああああああああああああ!?!?」

 

 

 な、なに?ことりの奴、自分の親に『今日彼氏ににゃんにゃん♪されてきました』って話したの!?痴女ってレベルを超えているんだけど!?

 

 それ以上に驚いたのは、理事長が冷静だということだ。特に怒っている訳でもなければ、真剣なシリアスモードでもない。むしろ娘の幸せを祝福しているかのような、俺とことりの仲を認めてくれている気がする。まだ俺たち高校生なんだぞ、それでいいのか母親よ……。

 

 

 とりあえず聞いてみよう。もうバレてんだ、恐ることは何もない!!――――――のか?

 

 

「何とも思わないんですか……?俺とことりがその……俗に言う不純異性交遊をしていても」

「いいんじゃない。むしろ零君がことりを貰ってくれるのなら大歓迎♪」

「かるっ!!それでいいのかよ!?」

「いいわよ♪それにことりと零君、カラダの相性もいいみたいだし♪」

「遂に本性を現しやがったな……親鳥」

 

 

 娘の恋愛のことになると、娘同様頭のネジが数本ブッ飛んだ姿になる、それが理事長の裏の顔、通称親鳥だ。

 親鳥はウットリとした表情で頬に手を当てている。これは絶対俺とことりのえっちぃシーンを想像してるだろ……アンタが興奮している姿なんて需要ねぇから!!年増とまではいかないけど、年齢的にキツイものはある。

 

 

「あはは!!零君たちまたまぐわってたの?零君が着々と大人の階段を昇っているみたいで、お姉ちゃん嬉しいよ♪」

「オイ"また"っていうな"また"って!!」

「それで穂乃果ちゃんたちとはやってるの?ことりだけじゃないんでしょ?」

「そ、そうですけど……」

 

 

 ――――――ん?あれれ?どうして穂乃果たちのことまで聞いてくるんだ……?俺はまだ穂乃果たち9人と付き合っているということを、μ'sのメンバー以外だったら秋葉にしか教えていないはずだ。

 

 

 ま、まさかコイツ……!?

 

 

 咄嗟に運転席に座っている秋葉の顔を覗き込んで見ると、秋葉は横目で俺を見ながらニッコリと微笑んだ。

 

 や、やはりか…………。

 

 

「俺に内緒で勝手に言いふらすなよな……」

「見守る人が多い方が安心できるでしょ?それに、南先生は私が言う前から勘付いていたみたいだけどね」

「えっ?気付いてたんですか!?」

「そりゃあ普段のあなたたちを見ていれば分かるわよ。周りの目が多い学院内でもあなたとことりたちとの距離が近すぎるもの、それで気付かない学院の責任者がいると思う?」

「よく見てるんですね、俺たちのこと……」

「あなたとことりたち、4人の頃からずっとね」

 

 

 μ'sが名も無きグループだった時から、理事長には大変お世話になった。思い出せばその時から、理事長は俺たちのことを応援してくれていたんだもんな。そういった意味では、俺たちの関係の変化には一番敏感な大人なのかもしれない。理事長も秋葉も、μ'sを初期の頃から見守ってくれていたから、この2人はμ'sの保護者的な立場の人間と言っても差し支えないな。

 

 

 でも理事長は、俺が9股をしていると知りながらもそれをずっと見逃してきたんだよな……?

 どうして……?

 

 

「どうして今まで俺たちを見逃していたんですか?」

「見逃してた……?私は初めから賛成だったけど?」

 

 

 

 

 ん?ラノベ主人公の難聴スキルじゃないけど、今なんて言った?さ、賛成……?

 賛成反対の、あの賛成だよな……?

 

 

 

 

 えっ……え゛ぇええええええええええええええええええええええええええええ!?!?

 

 

 

 

「はぁ~……今日はもう驚き疲れた……」

「あははっ!!零君の表情をミラー越しに見ているだけでも面白かったからね♪」

「なるほど、俺をドライブに誘ったのはこの話がしたかったからか……」

「まぁね♪でも久々に南先生と零君に会いたかったから、というのもあるかな」

 

 

 とりあえずこのドライブの間に知った事実をまとめると――――

 

 

・秋葉と理事長が、生徒と教師の関係だった。しかも理事長は、3年間ずっと秋葉の担任。

 

・笹原先生も、副担任として秋葉と3年間一緒だった。

 

・秋葉、高校時代も今と変わらずイタズラ好き。

 

・ことりとえっちぃことしていたのがバレる。

 

・そして……理事長に9股がバレていた。

 

 

 内容濃すぎ!!

 こんな短時間でこれだけの衝撃事実を伝えられたのは初めてだ。しかも9股の事実がバレていたとは……今の俺にこれほど効く精神攻撃はないぞ。

 

 

「まあ零君とμ'sの交際の件については、秋葉ちゃんが頑張って説明してくれたから賛成したところもあるんだけどね」

「えっ、そうなんですか!?秋葉が……?」

「ちょっ、ちょっと先生!!それは言わない約束だったでしょ!?」

「あれぇ~そうだったっけ?ゴメンなさい♪でもあれだけ必死に零君とμ'sの関係を教えてくれたんですもの、もうお腹いっぱいよ♪」

「もう~!!せんせぇ~い!!」

 

 

 おっ、秋葉の恥ずかしがっている表情なんて珍しい。一度でいいから姉のこんな表情を見てみたいと思っていたのが、もう叶うことになるとは。やはり秋葉でも昔の恩師には勝てないんだな。いつも完璧超人の秋葉の、ちょっぴり可愛く恥ずかしがるところが見られて俺も嬉しかったり。

 

 

 でも、そんな秋葉が俺や穂乃果たちのために、理事長に説明をねぇ…………よしっ、折角だしここで言っておくか。

 

 

「秋葉」

「な、なに?今先生にお説教の最中なんだけど」

「ありがとな」

「はっ!?れ、零君まで!?」

「咄嗟に褒められると慌てちゃうのは、秋葉ちゃんも零君も楓ちゃんも一緒ね♪やっぱり兄妹って似てるわぁ~、面白い♪」

「も~う!!先生も零君も嫌い……」

「俺もかよ……」

 

 

 その後しばらく、俺と秋葉は理事長にずっと弄り続けられた。

 俺はいいとしても、弄られ慣れてない秋葉の慌てる表情はかなり新鮮だったり。その表情を写真に撮って、楓に送りつけたら絶対喜ぶだろうな。煽り的な意味で。

 

 

 でも俺と穂乃果たちの関係を、理事長に説明してくれたことは本当に感謝している。同棲生活中、一度秋葉と真っ向から話し合ったこともあったが、理事長に必死に説明してくれたってことは、俺の意見を秋葉が認めてくれたっていうことなんだよな。秋葉がいなかったら、俺は雪穂たちの気持ちに気付くこともなかったし、俺と穂乃果たちの関係についてはコイツに一番助けてもらっていると言っても過言ではない。

 

 

 また近いうちに、俺の口からも理事長に説明しておくか。それが俺の責任でもあり義務だから。

 

 

 

 

 そして俺は、理事長に向かって子供っぽく説教をしている秋葉の横顔を見て、心の中で再びお礼を言った。

 

 

 

 

 ありがとう。

 

 




 顔を赤くしている秋葉を想像して、可愛いと思った人手を挙げて!


 今回は秋葉さんと理事長回でした。
 この2人、キャラは濃かったのですがあまりスポットが当たっていなかったので、今回重い腰を上げてメイン回を書いてみた次第です。
 特に秋葉さんは『日常』の第2話から登場していたのにも関わらず、かなりの情報が未公開だったため、今回秋葉さんの過去と共にお蔵出ししてみました。今も昔も変わってないんですけどね(笑)

 理事長に関しても、零君たちの恋愛を応援する立場にしてみました。ぶっちゃけて言ってしまうと、『新日常』であまりシリアス展開を書きたくなかったので、9股賛成の立場に無理矢理したと言った方が正しいかもしれません。また理事長の心境については、そのうち書く予定です。


 次回のタイトルは……『下ネタという概念しか存在しないラブライブ!』これで決まり!!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

下ネタという概念しか存在しない日常

 今回から10月分の投稿です。よろしくお願いします!

 そして10月一発目からこの内容。タイトルを見て、『あれ?いつもじゃね?』と思う方もいるかもしれませんが、今回は最初から最後まで全員がフルスロットルです!
ちなみに元ネタは自分タイトルくらいしか知らないので、そこら辺ご注意を。

 何気にフルメンバーが揃うのは久しぶりかも……


※運営の対応により、現在は修正版となっています。アレな描写をある程度控えめにしました。

 それではどうぞ!


 

 下ネタとは、笑いを誘う性的な話題のことである。

 元々は落語・講談などを演ずる演芸場における、合図のための隠語の1つであったのだが、テレビ業界で用いられるようになってから一般化した。最近ではもっぱら艶笑話(話に色気が含まれること)に用いられ、必ずしも笑いを伴わない猥談や露骨に性的な話を指すこともある。ちなみに下とは人間の下半身と"下品"の二重の意味であり、ネタは話のタネを意味する。

 

 もちろん性的なネタを世間おおっぴらに振りかざすのは好ましくない。人間誰しも性欲はあるが、それを前面に押し出すことは非常に不清潔だ。だから"隠語"もしくは"淫語"と呼ばれている。下ネタを発言すると言うことは、常に自分の人間性を賭けていることを留意してもらいたい。

 

 

 

 

 だが、ここまでは一般論に過ぎない。

 

 

 

 

 それでは、もし下ネタが世間的に認知され、それがごく当たり前のように日常で使われているとしたら?

 下ネタという概念を誰も疑うことなく、更に男女を問わず地球上の人間全員が使っているとしたら?

 

 

 今回は俺とμ'sメンバーの、極めて日常的なお話。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 俺の朝は、楓の元気のいい明るい声から始まる。

 

 

「お兄ちゃん朝だよ!!起きて!!」

「うぅ~ん……」

 

 

 楓に身体をゆさゆさと揺さぶられ、俺はようやく目を覚ます。

 我ながらなんと出来た妹なのだろうか。高校一年生にしては大人びた顔立ち、モデル体型、バスト80超えで家事好きで兄想い、更に料理のセンスも抜群で、勉強は高校三年生の範囲すら軽々と100点を取るほどの秀才。こんな非の打ちようのない妹に毎日モーニングコールされるなんて、俺ってば幸せ者だな。

 

 

 だから俺は毎朝、楓のモーニングコールがもっと聴きたくて、すぐに起きず敢えて布団に包まるのだ。

 

 

「全くもうお兄ちゃんは……相変わらず寝坊助さん♪ほら、起きて♪」

「…………」

「早く起きないと……寝ている間に大きくなっちゃったお兄ちゃんのバナナ、私の小さなおクチでパクッと咥えちゃうよ♪」

「それなら、ヨーグルトも一緒にどうだ?」

「わっ、起きた!?ヨーグルト……お兄ちゃんのバナナをはむはむしてたら出ちゃうアレね」

「朝からバナナとヨーグルト、なんて健康的な朝食なんだ」

「お兄ちゃんのヨーグルトは濃厚でタンパク質も豊富で、しかも美味しいから大好き♪」

 

 

 俺たちの朝食は、毎朝こうして始まる。

 俺が楓の作ってくれたモーニングを頂きながら、楓は机の下に潜り込んで、俺のバナナとヨーグルトを小さくも可愛いおクチで頑張って頬張るのだ。

 

 

 俺は寝ている間に溜まってしまった白濁液から解放されスッキリし、楓は健康的な朝食を取ることができる。ここまで優れた需要と供給があっただろうか?

 

 こうして俺たちは、お互いに気持ちのいい朝を迎えて登校するのだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 学院の下駄箱で楓と別れ、俺は生徒会室へと向かった。

 今日はμ'sの朝練がなく、その代わり穂乃果、ことり、海未の3人が生徒会業務に着手しているからだ。昨晩、一緒に手伝えと穂乃果たちから連絡が来たような気もするが気のせいだろう。昨晩は、俺が日中溜め込んだスペルマを解放することで精一杯だったからな。

 

 

 自家発電用のネタを思い出して若干興奮しつつも、神聖なる生徒会室の扉を開ける。

 

 

 すると真っ先に、生徒会長の椅子に鎮座しているオナホのようなサイドポニーをした高坂穂乃果が目に映った。あのサイドポニー、俺のマグナムを入れるのには丁度良さそうだからな。その隣には歩く性欲と呼ばれる南ことりと、表面上はクールでも常に俺のナニを狙う園田海未がせっせと仕事をしている。

 

 

「あっ、零君遅い!!早く穂乃果のほむまんに零君のウインナーを入れてよぉ」

「俺はちょっと湿りっ気のあるほむまんも好きだぞ」

「でも、早くしないとしなしなのほむまんになっちゃう!!」

「大丈夫、俺のアツアツのウインナーで温め直してやるから」

「あっ♡そんなこと言われたら更にしなしなになっちゃうかも。だから穂乃果のほむまんに、アツアツの真っ白な餡子を注入してよぉ~♪これで2人の愛のほむまんが作れるね!!」

 

 

 全く、穂乃果のほむまんは常にしなしなだな。たまには新鮮でほっかほかのほむまんを頂きたいものだ。まあしなしなでも、穂乃果のほむまんの中身はいつでもアツアツのほっかほかだけどな。俺のウインナーと混じり合わせて、最高のほむまんに仕上げてやろう。

 

 

「穂乃果ちゃんだけずる~い!!ことりも~!!」

「もちろんことりも食べてあげるよ。そうだな、ことりのカラダに生クリームとイチゴを一緒に乗せてみよう。これぞまさしくことりのケーキだ」

「ことりのカラダでケーキ……あぁ!!零くんに食べられちゃう!!ことりのメロンと桃にも、クリームをたぁ~ぷり付けて食べてね♪」

「それとハチミツもあるしな」

「ハチミツ……?」

「ことりからたらりと垂れる、あのあま~いハチミツだよ」

「やん♡想像しただけでハチミツでちゃうのぉおおお♪」

「俺の舌とスティック棒でハチミツを拭ってやるよ」

「ちょっとパンツ変えてくるね♪」

 

 

 ことりの妄想癖は俺をも凌駕する程に激しい。それ故、毎日替えのパンツを10着用意しているらしいぞ。

 それにそもそも妄想なんてせずとも、直接言葉として出した方が相手に伝わると思うんだけどな。自分の気持ちを自分の妄想だけに閉じ込めておくのは良くないぞ。今は情報化社会。常に相手と情報を共有するのが常識だ。

 

 

「零、あなたのアッツアツで立派な矢を、私の的にラブアローシュートする用意はできていますか?」

「相変わらずいきなりだな。流石クール系痴女と呼ばれるだけのことはある」

「不名誉過ぎるんですよそのあだ名。性交は、人間ならごく普通の欲求なんですけどねぇ。それに忠実になることのどこがいけないのでしょう。まあそんな話は置いておいて、今日は何発の矢を発射できます?5、6発はいけるでしょう?」

「残念ながら、男には弾数制限がある。だから常に発射できるとは限らないのさ。俺だって3回連続くらいが上限だ」

「ならその3連発、たまには全部この私で発散してみては?身も心も楽になりますよ♪まあ、私の場合はあなたの種でカラダの中がたっぷたぷに満たされるんですけどね♪」

 

 

 やはり海未は俺の種が好きだったんだな。種が好きとか、ハムスターみたいで可愛い奴だ。でも種を食べるのは口じゃなくて下のおクチだけどな。あぁ~……早く俺の矢を海未の的にぶち込みてぇ。

 

 

 

 

 教室でも生徒会室でも、休み時間も昼食時も放課後も……俺たち4人は一緒にいることが多い。こうしたほのぼのとした日常会話も、俺たちの日常の1風景である。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 2時間目終了後の休み時間。俺は飲み物を買いに行くため、学院内の自販機コーナーまで足を伸ばしていた。

 その途中、体操服を着た女子生徒たちが、薄着のせいで必然的に強調されるおっぱいをぷるぷる揺らして運動場へ向かう姿が見られた。夏はみんな半袖ハーフパンツになるため、女の子たちの太ももや可愛いお尻も目立って大変眼福だ。

 

 

 その中で、俺の彼女たち3人の姿も見えた。

 いつも元気ハツラツで、えっちなことにも猪突猛進な星空凛。引っ込み思案に見えるが、その実どんなことも卑猥な妄想に結びつける小泉花陽。そして淫乱ドSツンデレという属性の塊である西木野真姫だ。

 

 

「にゃぁ~♪零く~ん♪」

「おっと!!凛、急に抱きついたら危ないぞ。抑えていたミルクが出ちゃうかもしれない」

「また零くんのミルク飲みたいなぁ~♪たぁ~くさんゴックンして、もっともっと大きくなるにゃ~♪」

「それじゃあ上の口でも下の口でもミルクを飲んで、早く大人にならないとな」

「うん!!零くんのおっきいお肉を、精一杯咥えられるように頑張るね!!」

 

 

 やっぱり凛は素直で可愛いなぁ~!!

 凛のちっちゃな口で俺のソーセージを頑張って頬張るその姿、想像するだけでも愛らしい。早く大人になってもらうためにも、栄養満点のミルクを凛のカラダに注入してやらないといけないな。

 

 

「おおっ!!今日の花陽のメロンは自己主張の激しいことで……」

「えへへ、また大きくなったんだよ♪いつも零くんのことを想ってメロンを育ててるんだ」

「こうなったらそろそろメロン狩りの時期だな。メロンのお豆ごと吸い尽くしてやるよ」

「あっ♡今から体育なのに、カラダが疼いてきちゃった♪この後の授業も我慢できないかも」

「だったらお弁当のご飯にほっかほかのふりかけを掛けてやるから、それで放課後まで頑張れ」

「はい!!ありがとうございます!!」

 

 

 花陽のメロンは甘酸っぱくて美味いから、よく舐めさせてもらっている。これでメロンの尖端から濃厚果汁が滲み出てくれればいいんだが、それは花陽がもっと大人になってから。それまでに俺の下から滲み出る、ご飯に負けないほっかほかの子供の素を味あわせてやろう。

 

 

「ちょっとちょっと!!私への予防接種はまだなの!?」

「真姫……この前してやっただろう?」

「毎日しないと予防にならないわよ!!さあ早く、私にあなたの注射器をブッ刺しなさい!!」

「俺のワクチンをお前に注ぎ込みたいのは山々だけど、今日は他のみんなの相手をする日なんだ」

「そ、それはそうだけど……この私が他の野郎から病気をもらってもいいって言うの!?私があなたのモノという刻印を刻み込むための予防接種でしょ?」

「心配すんな。明日はお前にたっぷりと俺のワクチンを注ぎ込んでやるから」

「しょうがないわね、明日まで待ってあげるわよ。フフッ♪」

 

 

 このように真姫は常に予防接種の注射を打たれたがる。流石病院の娘、普段からも健康には気を使っているんだな。自分の周りに余計な虫が集らないように、ワクチンを接種して予防する。うん、いかにも健康的だ。何もおかしいことはない。

 

 

 

 

 これが俺の可愛い後輩たちとの日常。

 いつもはもっと会話は激しいのだが、今日はたまたますれ違っただけなので、話題もかなり清潔な話題だった。清潔とか……俺たちにとっては非日常すぎる言葉だな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 昼食を取り終えた俺は、外の空気を吸いに行くため学院の中庭にやって来た。

 お昼休みということもあって、中庭にはたくさんの女子生徒たちが各々のお弁当を広げて昼食を取っている。その小さな口でソーセージを咥えたり、ハンバーグをかじってピュッと肉汁が口から飛び出してしまうハプニングなど、中々に上品な光景が多々見受けられる。

 

 

 そんな中、楓と同じ妹のように可愛がっている後輩たち2人が目に入ってきた。

 1人は俺に従順なる淫乱大天使、絢瀬亜里沙。その隣にはムッツリの中のムッツリである高坂雪穂だ。共に絵里と穂乃果の妹で、しっかりと変態の血筋を受け継いでいる。

 

 

「よっ、亜里沙たちは今から昼食?」

「こんにちは零くん。実はさっきまで体育だったんですよね。しかも少し長引いちゃって、だから汗もあまり拭えてなくて散々です……」

「そうか、じゃあ早く食べ終えてシャワーを浴びに行った方がいいんじゃないか?」

「そうですね。その時は、零くんも一緒にどうですか?零くんのボディソープを使って、カラダ全体を隅から隅まで洗いたいです♪」

「なるほど。確かに色々な意味でカラダがスッキリできそうだし、誘われてみるか」

「ありがとうございます!!零くんのボディソープは、お肌がスベスベになるので大好きです♪」

 

 

 俺のボディソープは女性の肌を清潔に保つ性質があるらしく、μ'sの中では重宝されているのだ。特に亜里沙は俺のボディソープをボトルに詰めて家でも使っているくらい、彼女は美肌を意識している。そこまでして俺のことを想ってくれているこの子のことを、天使と言わずに何と言う!!

 

 

「ん?どうした雪穂、さっきから俺を見つめて……」

「み、見つめてないです!!決して零君のソーセージを凝視していた訳ではないです!!」

「ハハハ!!お前、ガチガチでアツアツのソーセージを咥えるの好きだもんな。隠しても無駄だよ。頬張っている時のあの表情を見たら、誰でも分かるって」

「そうですよ!!零君のガチガチでアツアツでほろ苦い味のするソーセージを口いっぱいに広がるまで咥えてみたいですよ!!悪いですか!?」

「なんか一個付け加えられたような気がしたが……まぁいっか。弁当のおかずは冷めてるから、温かいオカズが欲しいのは分かるよ。それじゃあシャワーの時にでも」

「えっ?咥えさせてくれるんですか!?あ、ありがとうございます」

 

 

 初めはツンケンしてるけど、こうして俺の言うことを素直に聞いてくれるところが雪穂のいいところだ。これだけ楽しみにされてしまったら、今からでもマスターベーションをして自分の性欲を限界にまで高めておくしかないな。ノンストップで2連戦をすることになりそうだし。

 

 

 

 

 これが俺の妹のように可愛がっている後輩ちゃんたちだ。高校生になってまだ半年しか経っていないのに、もう大人の魅力が見え隠れし始めてきた彼女たち。これからは俺がもっと2人に大人の女性とはなんたるかを、カラダに教えていかなければならないな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 放課後、俺はたった1人でアイドル研究部の部室へ向かっていた。だがこれはチャンス。生徒会業務やら掃除やらでみんなが遅れるため、部室で昨日新しく入荷した大人の玩具の威力を一目見ておこうという腹だ。今やどの学校も大人の玩具は自由に持ち込み可。いい世の中に生まれたものだ。

 

 

 部室のドアを開けると、そこには既に大学生組の3人が待機していた。

 カラダは小さいが性欲だけはビッグバンを引き起こすほどの淫乱っ娘、矢澤にこ。穏やかに見えるけど、卑猥さを込めたスピリチュアルな雰囲気は隠せない、東條希。そして流石ロシアとのクォーターと言うべきか、長期戦の交尾にも耐えられる獰猛なる精神力の持ち主である絢瀬絵里だ。

 

 

「おそーーい!!いつまでにこを待たせる気よ!!」

「ゴメンゴメン。その代わりほら、新しい玩具を持ってきたぞ。これでまたプレイの幅が広がるな」

「そ、そんな子供騙しの玩具でにこが靡くとでも……?」

「そう言いながらも、チラチラと玩具に熱い目線を送っているのがバレバレだぞ?」

「は、はぁ!?大人のにこがそんな玩具如きで昇天するはずが……」

「大人でいいんだよ。だって大人の玩具なんだから。にこのお豆さんを、たっぷり時間を掛けて刺激してやるからな」

「はぁん♡そ、その言い方やめなさい!!湿ってくるでしょ!!」

 

 

 軽い言葉責めだけでも湿ってしまうとは、これでは性欲がビッグバンする前に大洪水になっちまうぞ。   洪水で部室が愛を込めた液体で満たされる前に、俺が蓋をしてやらなければ。

 

 

「零君、にこっちばっかり構ってないでウチも構ってよぉ~」

「もちろん。でもこの卑猥な雰囲気……ここへ来る前に相当自分磨きをしてきたと見える。だがまだ快楽の果てに旅立ってはいないと」

「流石零君、ウチのことはなんでもお見通しやね♪今日一日ずっと我慢してたんよ?お弁当の具材が全部零君の性器に見えるくらいには」

「それはいい傾向だな。俺だってこの放課後のために午後の授業中、ずっと自家発電をしていたんだ」

「ありがとう♪それじゃあウチにたっぷりとスピリチュアルパワー、注ぎ込んでくれる?」

「もちろん」

 

 

 神社というこの世で数少ない神聖な場所でバイトをしている巫女さんが、こんなに淫乱だとは……これは教育として、俺の濃厚なスピリチュアルを希に入りきらなくなるまで注ぎ込んでやらないといけない。この世に純潔な巫女さんがいないことを、希の乱れ具合で証明してやる。

 

 

「零、今日は5時間連続でカラダを暖め合うわよ」

「おいおい、だから何度も言ってるだろ。俺は3発連続が限界だって。1時間も持つかよ」

「だったら私が何度でもあなたの性欲を呼び起こしてあげるわよ♪私の中でうねらせて、あなたの立派な勲章を刺激してあげるから♪」

「お前のは俺のモノによく絡みついてくるからな」

「もう私の中は、あなたのモノの形になっちゃったもの。カラダにもあなたからの快楽をたっぷり教えつけられて、もう入ってないと我慢できないカラダにされちゃった……この責任、しっかりと取ってね♪」

「しょうがない、だったら今晩付き合ってやるよ」

「じゃあ目標は10発ね」

「テクノブレイクしてしまうからやめてくれ……」

 

 

 絵里の性交持久力は俺をも凌駕する。しかも俺が果ててしまおうが、無理矢理俺の息子を叩き起して赤ちゃんの素を頂こうとする貪欲精神。絵里の性欲はにことは別の意味で留まることを知らないが、彼女のおかげで俺の下半身も鍛えられたと言える。この調子で12人全員一斉に相手ができるように頑張ってみようか。

 

 

 

 

 μ'sの中で一番お姉さんの大学生組と言えども、まぐわっている途中は1人の女の子となんら変わりはない。μ'sで最も大人な彼女たちだからこそ、俺が魅力的で色気ムンムンの女性になれるよう手ほどきしてやらないといけないな。

 

 

 

 

 これが俺の日常。特に変わったところもない、極々普通の男子高校生の日常風景だ。ちょっと他と違うところがあるとすれば、彼女と彼女候補が多いことかな。どうやら彼女は普通1人だけだというデマがあるらしいが、俺たちにとってはそんなもの関係ない。お互いに愛し合って性欲さえ満たせればそれで…………。

 

 

 

 

 魅力的なたくさんの彼女たちに囲まれて、今日も寝られそうにない。

 

 

 




 もうこの路線でも小説が書けるような気がしてきました(笑)


 今回はいつも変態さんから真面目ちゃんまで、全員が下ネタ祭り回でした。書いていて思ったことが、ことりだけいつも通りだったってことですね(笑)
逆にいつもは真面目な海未や真姫たちなどの下ネタセリフを考えるのは、とても楽しかったです!

 全員の個人回が終わった時、μ's全員が今回の話のような性格になっていると思うと……ちょっと恐ろしい。


 そして、この話を全く違和感なく読みきった方。あなたは純潔すぎて私の目には眩しすぎます!!

 だが、この話を意味深発言としか捉えられなかったあなた。隠しても無駄です、ド変態です。


 次回は……遂に零君と海未ちゃんが!!


新たに高評価をくださったリトルリアさん、ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海未ちゃん七変化!!

 遂に90話目です!
 今回はタイトル通り海未回です。内容は以前超短編小説として活動報告に投稿した『もし海未ちゃんが○○になったら』の小説を、本編用に再構成したものとなります。


 それではどうぞ!


「あの~……今日は勉強に来たはずでは?」

「俺は受験勉強をしにお前の家に行くとは一言も言ってない」

「小学生の口喧嘩じゃないんですから……」

「まあそう言うなって、あと一ヶ月ちょっとで『ラブライブ!』だろ?その時までにお前の羞恥心を克服してやろう思ってな」

「なんかデジャヴ感が……」

 

 

 今日は海未の家にお邪魔して、一緒にお勉強会を開いている。先程の会話の通り、もちろん受験勉強なんて堅苦しいお勉強会ではない。男と女のお勉強会とでも言っておこうか。もう少しで開催される『ラブライブ!』本線に向け、緊張に弱い彼女のメンタルをビシバシと鍛えてやろうという"名目"なのだ。

 

 

「またあの時みたいに、メイド服を着させるのでは!?」

「あの時はことりが一緒だったからな。でも今回は俺がプランニングしてきたぞ」

「それはそれで不安しかないのですが……」

「でも何だかんだ言って俺の遊びに付き合ってくれるお前のことが、大好きだよ」

「なあっ!?い、いきなり卑怯すぎますよ、全く……でも、私もあなたとこうして馬鹿騒ぎして笑い合うのは……大好きですよ♪」

 

 

 海未は俺の目を真っ直ぐ見つめながら、優しく微笑んだ。

 

 

 おいおいおいおい、なにこの美しい笑顔抱きしめていいですか?

 一年前は褒め言葉を言われるだけでも戸惑っていた海未が、まさか『好き』という言葉に対しちゃんと『好き』と返せるとは、成長したもんだな。かく言う俺も、真面目でド直球な告白には弱い面もあったりする。

 

 

「それで、今回は何をするのですか?」

「やけにやる気だな。よしっ、俺もテンション上がってきた。今回の羞恥心克服プログラムはこれだ!!」

「えぇ~と……園田海未、七変化!?」

 

 

 俺は携帯のメモ帳にデカデカと書かれた企画のタイトルを海未に見せつける。

 そう、今回は海未に俺の考案したシチュエーションの人物になりきってもらう。本当はなりきってもらいたいキャラが30通りくらい思いついていたのだが、七変化ということで泣く泣く選りすぐりの7つに絞った。今回もまぁあれだ、神々の遊びって奴だ。

 

 

「演技ですか……確かに、ステージ上で表情作りは大切ですよね」

「最近受験勉強で煮詰めすぎて、表情が固まってるかもしれないからな、今から顔を解しておかないと本戦でガチガチの表情になっちまうぞ」

「意外と真っ当な理由をお持ちになっていたんですね」

「なんだその驚いた顔は!?俺がいつもいつも欲望に支配されていると思うな」

「思います」

「即答かよ……」

 

 

 しかも真顔で言いやがって……この屈辱は今回の話の間にたっぷりと晴らさせてもらうからな。羞恥心を克服するのが目的だが、海未の戸惑う姿を見て徹底的に弄ってやる!!

 

 

「それじゃあ早速始めよう。まずはこのキャラを演じてくれ」

 

 

 

 

『もし海未が"妹"になったら』

 

 

 

 

「妹なら楓がいるではありませんか」

「俺は海未の妹姿を見たいんだよ!!楓は愛くるしい可愛い系だけど、お前は清楚なクール系だから属性が全く別だ」

「属性って……分かりました、やると言ったからには全力やりましょう」

 

 

 流石穂乃果の幼馴染を長年やってきただけのことはある。『やるったらやる!!』精神が海未にも身に付いてきているようだ。それが緊張を解す手ほどきになればいいんだけどな。

 

 

「メモに俺の考えた文章が書かれている。この通りに読んでくれ」

「結構長いですね……や、やりますよ!!」

「よしこい!!」

 

 

 海未は軽く咳払いをして、真っ直ぐ俺と向かい合う。ここで目を見つめ合って緊張しない辺り、やはり去年よりもメンタルが強固になっていると見える。

 

 

 

 

 

「失礼します。朝ですよお兄様、起きてますか?――――やっぱりまだ起きてませんね。全くお兄様は――――えっ?目覚めのキスをしてくれって!?そ、そそそんな破廉恥なことできる訳ないでしょう!!――――あっ、そんな悲しい顔しないでください!!うぅ……しょうがないですね、一回……だけですよ?」

 

 

 

 

「がはっ!!!!」

「れ、零!?」

 

 

 お、思っていたよりも破壊力満点じゃねぇか!!こんな妹がいたら、毎日朝寝坊してでも起こしてもらうに決まってんだろ!!まさか海未がここまで演技派だっただなんて……これ、輸血パック用意しておかなくて大丈夫か?最近かなりの抵抗力ができたとは言え、海未の破壊力が余裕でその抵抗力を上回ってくる。

 

 

「次はこれだ。このキャラになりきってくれ」

 

 

 

 

『もし海未が"ツンデレ"になったら』

 

 

 

 

「大丈夫ですか?主にあなたが……」

「大丈夫だ、続けてくれ……」

「あなたがそう言うのなら……」

 

 

 今度はツンデレを意識してか、海未の表情は妹キャラの時とは違って誠実な面持ちに変わる。初めは否定して、頼み込んだら承諾してくれる若干のツンデレ要素はあったけど、真姫のようなガチツンデレを聞くのはこれが初となる。

 

 

 

 

「昨日クッキーを作ってきたのですが、受け取ってもらえますか?――――は?俺のためにですって?か、勘違いしないでください!!友達に作るついでです!!たまたま材料が余っただけですから!!――――えっ?美味しい?そ、そりゃああなたのために愛情をたっぷり込めましたから♪――――って、今のはなしで!!聞かなかったことにしてください!!」

 

 

 

 

「がはっ!!!!」

「またですか!?」

 

 

 海未が演じた文章は俺が考案したものなのだが、ここまで萌え死にそうになるとは……まさに自爆。海未は言葉遣いが丁寧なため、相手を攻めるようなツンデレにはなりきれないだろうと思っていたが、それはそれで唆られるものがある。言葉だけじゃなくて表情も、演劇部顔負けの柔らかさで非常に豊かだ。

 

 

 あれ……?これ特訓必要なくない……?ただもう俺が海未の可愛さに殺されるだけなんじゃあ……。

 

 

 まぁ別にいっか!!彼女に殺されるなら本望だから!!

 

 

「よしっ、次はこれだ!!」

 

 

 

 

『もし海未が"メイドさん"になったら』

 

 

 

 

「やっぱりメイドあるじゃないですか!?嘘を付きましたね!?」

「いやいや、今回はメイド服もないし、普通に演技してくれればいんだよ」

「こ、こんな文章を私に読めと……?」

「たまにはちょっぴりエロティックな方が、お客の受けもいいだろ?アイドルなんだし」

「アイドルは清純なものではなかったのですか……」

「にこや花陽の痴態を思い出せ」

「あぁ、納得です……」

 

 

 あれだけ『アイドルは恋愛禁止!!』とか、『アイドルは常に清純で!!』とか言っていたあの2人が、今や欲望に塗れた堕天使となってしまったからな。にこは俺の前では常に淫行をほのめかしてくるし、花陽も花陽で隠しているようで全く隠れていないむっつりさんだ。

 

 それを思い出して納得した海未は、今度は柔かな表情、整った姿勢で俺と向かい合った。

 

 

 

 

「失礼します。ご主人様、お食事をお持ちしました。今日のディナーは――――きゃっ!!ご、ご主人様!?どうして私の腕をお掴みになるのです!?――――え?お前が今日のメインディッシュ……ですか?ひゃん♪いけませんご主人様!!そんなところを触られては!!へっ!?ずっとお前が待ち遠しかった……?あ、ありがとうございます!!嬉しいです♪あのぉ……続きはベッドの上でお願いしますね♪」

 

 

 

 

「ぐはっ!!!!」

「もうやめません!?お身体大丈夫ですか!?」

「そのメイド精神も……いいぞ」

「ただ普通に心配してるだけですけど!?」

 

 

 

 メイドはメイドでも、俺は淫乱なメイドさんが大好きなんだ!!

 清楚な態度でご主人様にお仕えしながらも、ご主人様に求めれば恥ずかしさを見せながらもそれに応えてくれる従順さ。口では少し嫌がりながらも、いざ淫行が始まるとカラダを自分から差し出してくるくらい積極的になる。そして最後はご主人様とメイドの関係すらも忘れてしっぽりと……。

 

 海未のメイド姿でそれを想像したら鼻血吹き出しそう……。

 

 

「つ、次はこれな……」

「どうして膝を折っているのですか……」

 

 

 

 

『もし海未が"ヤンデレ"になったら』

 

 

 

 

「や、ヤンデレって……」

「なんだ?一年前に経験あるだろ?俺の右腕、お前の弓矢で射抜かれたし」

「やめてくださいその話題は!!射抜いてしまったのは申し訳なかったですけど……」

「まあまあ、とにかくやってみよう」

 

 

 海未のヤンデレと言えば、廊下の隅に追いやられて迫られたり、コイツの部屋で海未の体液入りオムライスを無理矢理食わされたりと今となってはいい思い出だ。あの時の狂気さを、恋人同士になった今だからこそもう一度見てみたい。また弓矢で腕を射抜かれるのはゴメンだけどな。

 

 海未は目を大きく開いて瞳孔を真っ黒に輝かせながら、俺の目を捕捉するように鋭い目線で見つめてきた。

 

 

 

 

「おかえりなさい。――――え?どうして俺の部屋にいるのか……ですって?そんなもの決まってるじゃないですか、あなたの未来の妻なんですから……あら?何故でしょう?豚の匂いがしますねぇ……それもとぉ~っても臭いメス豚の匂い。フフフフ……待っててくださいね♪今からお料理の準備をしますから……材料は、そうですねぇ~……雌豚の肉、でどうでしょうか?フフフ……」

 

 

 

 

「…………」

「えぇ~と……ど、どうしましたか?」

「いや、迫真の演技でビビった。もしかしたらあの時以上かもしれない」

「それは喜んでいいのかは分かりませんが、ありがとうございます……」

 

 

 一年前の海未の変貌具合がフラッシュバックされる。恋人同士となってお互いの愛が深まったせいか、演技もセリフも重みがあり俺の身体に刻み込まれるかのようだった。ここまで独占欲に支配された愛を久々に受け取って若干戦慄もしたが、今となってはいい思い出。こうして再び海未のヤンデレを見ると、あの時とは違うその一途な愛に嬉しさを感じる。

 

 それに……やっぱり海未はヤンデレでも可愛い!!

 

 

「今回は膝を折りませんでしたね」

「そのお陰でかなり回復した。気を取り直して次に行こう」

 

 

 

 

『もし海未が"教師"だったなら』

 

 

 

 

「急に職業になりましたね、しかもこの文章、また破廉恥な……」

「今までが同級生や年下のキャラだったから、今度は大人の女性をな。大人の女性って言えば、姉や母とか近親者を除くとまず身近に思い浮かぶのは学校の先生だろ?それに淫乱教師ってのは、完全に俺の趣味だ」

「笹原先生みたいに粛清を叩き込んであげましょうか?」

「やめろやめろ!!」

 

 

 以前秋葉と理事長の口によって語られた、俺と笹原先生の因縁。あのことをついうっかりポロッと先生に漏らしてしまった場合、更に粛清が強力になりそうだから絶対に言わねぇ……。それに粛清なら俺は既に海未から何度も貰ってるから、コイツのやっていることは笹原先生とあまり変わらないんだよな。

 

 海未は髪を真っ直ぐに整え、誠実な面持ちで俺の前に立つ。でも、これっていつもの海未と対して変わらないんじゃあ……。

 

 

 

 

「あなた、また宿題を忘れてきたのですか!?これで何度目だと思っているのです!!――――え?自分だけ宿題の量が多くなかったか……ですって?それはあなたがちゃんと勉強について行けるよう、私からの好意なのです。さぁ、罰として補修を始めますよ。そう、たった2人きりで……たぁ~っぷりと指導してあげますから♪フフフ、完全下校時刻になっても、帰えられるとは思わないでくださいね、落ちこぼれ君♪」

 

 

 

 

「ぐふっ!!」

「ま、またダメージを……」

「お姉さんキャラも板についているじゃないか。見事だったぞ……」

「倒れながらそんなことを言われても……でも嬉しいです、ありがとうございます」

 

 

 心が純粋な人が聞けば、海未の演技はただのダメ生徒の指導にしか聞こえなかっただろうが、俺のように心が薄汚れている奴が聞けば、生徒と教師が生み出す禁断の愛にしか聞こえない。でももし海未が教師だったら、俺は毎日指導されてもいいけどな!!もちろんアッチ方面の指導を……。逆に生徒が教師を指導し返してやるというシチュエーションもありだ。

 

 

「もう残り少なくなってきたな。次はこれだ」

 

 

 

 

『もし海未が"秘書"になったら』

 

 

 

 

「また職業キャラですか、それに破廉恥な文章はもうお決まりなんですね……」

「まあ秘書と言ったらこんなキャラになりそうだし」

「今回で、またあなたの煩悩の深さが分かりましたよ」

「残念ながら、こんなのまだまだ序の口だよ」

「な、何か恐ろしい言葉を言われたような気が!?」

 

 

 まだ俺の妄想を実行してもらっているだけで、手を出してはいないことを褒めて欲しいくらいだ。今も海未に飛びかかって押し倒したい衝動をずっと頑張って抑えているんだ、下手に刺激すると、欲求がいつ爆発するか分からないぞ?

 

 俺はこの秘書キャラのために用意した、赤縁のメガネを海未に渡す。更に彼女の綺麗な長髪を1つに束ね、俗に言うポニーテールへと髪型をチェンジさせた。メガネ+ポニーテールという、普段の海未からは見られない別のインテリモードは新鮮味がある。ただ1つ変わらない点を挙げれば……それはコイツがどんな姿でも可愛いってことだ!!

 

 

 

 

「社長、もう間もなく会議の時間です、ご支度を。――――どうなされましたか?もしかして……ストレスが溜まっている、とか?それはいけません。今日は相手方の会社と共同で行われる重要な会議です。ストレスなどは事前に発散してもらわないといけません。…………もしよろしければ、私がお相手しましょうか?――――え?それは君に悪い……ですか?フフッ、社長はお優しいのですね。でも、私は社長と共にあります。社長がお元気になってくださるのなら、私はどんなことでも……」

 

 

 

 

「ぐぅ…………」

「もう呻き声になってますけど、本当に大丈夫ですか!?」

「な、なんとかな……だがこれ以上は危険かもしれない」

 

 

 ただただエロいだけのメイドや教師キャラも良かったけど、こうして相手のことを自分のように気遣って心配してくれる秘書キャラこそ海未にピッタリのキャラだ。もちろんその中でも垣間見えるアダルティな言動も忘れてはならない。穂乃果やことりはド淫乱なキャラ、海未は真面目系淫乱キャラってところだな。

 

 

「さぁ、次が最後だ」

 

 

 

 

『もし海未が"愛妻"になったら』

 

 

 

 

「こ、これって……自分で言うのもあれなのですが、今ここでやらなくても将来あなたとは……こういった関係になるのではないでしょうか?」

「へぇ~、割と恥ずかしいこと言うねぇ」

「恥ずかしいことですか……?私はそういった関係になるつもりで言ったのですが……」

「もちろん俺もそのつもりだ、当たり前だろ。だけど待ちきれないんだよ」

「相変わらずのせっかちさんですね。いいでしょう、演技もこれで最後ですし、今まで以上に全力でやりましょう!!」

 

 

 海未は俺の早漏さに呆れながらも、メガネを外し髪を解き、本来の海未の姿に戻った。

 初めはただの名目として特訓と称したのだが、これまでの海未の演技とやる気を見る限り、そもそも彼女に特訓など必要なかったことが分かる。彼女の勇気は、俺の想像以上に逞しく成長していたらしい。もう去年からこうしてずっと一緒にいるけど、まだまだ俺の気付かない彼女たちの魅力が眠っているみたいだ。

 

 海未は大きく深呼吸して、落ち着いた笑顔で俺と向かい合った。何度も見てきたその表情だが、いつ見ても海未の笑顔には見惚れてしまう。

 

 

 

 

「お帰りなさいあなた♪鞄とコート、お持ちしますね。今日もお仕事お疲れ様でした。…………え、えぇ~と、すぐお風呂にしますか?それともお食事にしますか…?それとも、わた、わたっ……私に――――え?お前にする……?もうっ、やっぱりあなたはえっちです…………今すぐ、準備をしますね♪」

 

 

 

 

「…………」

「ど、どうですか?自分でも割といい演技だとは思ったのですが……」

「…………」

「零……?」

 

 

 

 

 俺の中で何かが切れたような音がした。

 そして気付いた時には――――――

 

 

 

 

「きゃっ!!」

 

 

 

 

 海未を……押し倒していた。

 

 

 

 

「わ、悪い!!お前が可愛すぎて我を忘れてた。本気で見とれていたよ……」

「そ、そうですか……ありがとうございます、嬉しいです♪」

 

 

 なんて優しい笑顔なんだ。そんな海未だから、俺はもっともっとお前のことを好きになっていってしまう。

 高鳴る心臓の鼓動、高まる欲求……抑えきれなくなった衝動が、俺を無理矢理突き動かす。そしていつの間にか、俺の右手が海未の服に伸びていた。彼女の服に手が差し掛かったところで我を取り戻したのだが、俺の欲求は収まるどころか更に高ぶり、ここでやめることなんてことはできなかった。

 

 

 

 

 だがそこで、俺の右手が海未の手に優しく包み込まれた。

 

 

 

 

「海未……?」

「本当にあなたは相変わらずですね。どんな時でも女の子を求める、捻じ曲がっているようで真っ直ぐ突き進むその精神、呆れを通り越して逆に尊敬しますよ」

「褒められてるのかそうでないのか分かんねぇな。まあ褒め言葉として受け取っておこう」

「それが一番あなたらしいですよ♪」

「だな。おっと、覆い被さったままだったな、すぐに離れるよ」

 

 

 

 

 俺が海未の身体の上から離れようとした時、突然海未は俺の背中に大きく腕を回した。

 そして、離れようとしていた俺の身体を自分の身体へ抱き寄せる。

 

 

 

 

「う、海未……!?」

「私だって穂乃果たちみたいに、零とこうして抱き合うのが好きなんですよ。それに、お望みとあらば――――」

「お望みとあらば……?」

 

 

 

 

「しますか?あなたの思っているようなこと」

 

 

 

 

 一瞬、これもさっきまでの演技の一貫だと思い込んでしまった。まさか海未から誘惑してくるなんて、彼女どころかこの世界そのものが俺のいた世界かと疑ってしまうほどだ。

 

 だが彼女は正真正銘、俺の恋人である園田海未だ。この笑顔、絶対に間違いない。

 

 

 

 

「いいのか……本当に?」

「その為に、今日まだ全く手を付けてない勉強をしてからにしましょうか♪」

「うっ、お前……謀ったな」

「謀ってなどいませんよ。折角あなたと2人きりなんです。私だって、あなたからの愛をもっと感じたいですよ♪」

「海未…………もちろん俺もだよ」

「それだったら、頑張って勉強をしましょう!!」

「やっぱり謀られているような……」

「フフッ♪」

 

 

 くぅ~……意地悪そうな笑顔しやがって!!それでも可愛い過ぎて見とれちまうだろうが!!

 

 

 やはり、彼女たちの笑顔にはずっと勝てそうにない……。

 

 

 




 海未ちゃんがエッチなことに興味を持ち始めている……!?


 今回は海未の個人回でした。
 前書きの通り、初めは超短編として投稿していた今回の小説。ですが活動報告コメントや、ハーメルンのラ!作家仲間に海未推しの方がたくさんいたため、今回本編として文字に起こしてみました。
その結果、海未の可愛さを再認識させられ、まさか海未推しにまでなりかける事態に……。やはりμ'sキャラは魔性の女の子たちです(笑)


 そしてここからは本編とは全く関係がないのですが、11月7日に私が小説投稿から一周年、そして新日常も同時期に100話を突破するということで、11月にちょっとした企画を立てるつもりです(もう水面下で進行してますが)。
新作小説ではないのですが、『新日常』の一風変わった話がたくさん見られると思うので、是非ご期待ください!!


新たに高評価をくださった方

餌屋さん、ノゲノラさん、kiellyさん、Nazuna.Hさん、政行さん、STerXさん

ありがとうございました!


 次回は穂乃果回、略してほの回!!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

穂乃果といちゃいちゃダイエット!

 今回は穂乃果の個人回です!
 前回の痴漢回では穂乃果視点で書けなかったので、今回が実質初めての個人回となります。どんなダイエットかって?それはもう理解の早い皆さんならお察しを……(笑)


※運営対応により、現在は修正版となっています。アレな描写をある程度控えめにしました。


 今日も今日とて受験勉強。夏休みに入ってからというもの、穂乃果の生活は海未ちゃんに徹底的に管理され、毎日が勉強漬けの生活に変えられちゃったんだよ。

 それでも飽きっぽい穂乃果が夏休み後半までこの生活を続けてこられたのも、零君やことりちゃんが励ましてくれたお陰かも。普段の穂乃果なら、3日坊主も泣いて驚かせることができるからね!!

 

 

 受験勉強については、零君の指導で全教科が何とか様になるレベルにまで達したけど、今の穂乃果は受験よりも重要な危機に立たされている。

 

 それは女の子にとって、決して無視することのできない厄災。絶体絶命、空前絶後、暗雲低迷、危急存亡だよ!!

 えっへ~ん、この夏に覚えた四字熟語を使ってみました!!これで穂乃果もインテリ女子!!

 

 

 ――――なぁ~んて、冗談を言えたらこんなに苦労しなくてもいいんだけどねぇ……。

 

 

 

 

 ちなみに、穂乃果が何に頭を悩ませているかと言うと――――

 

 

 

 

「うわぁ~ん!!穂乃果太っちゃったんだよ~~!!」

「またかよ」

 

 

 穂乃果は零君の膝の上で泣きじゃくるも、零君は机に肘を付いたままいつものことのように穂乃果をあしらってくる。

 折角2人だから相談に乗ってもらおうと思っていたのに、その反応はヒドくない!?

 

 

 ちなみに今日は、穂乃果の部屋で零君と2人きり。海未ちゃんからは『2人きりだからといって、ハメを外しすぎないように』と念を押されたけど、どうせ海未ちゃんも零君と2人きりの時に色々やっちゃったんでしょ?そう、色々ね♪

 

 

「この夏休みはずっと勉強をしていたせいで、あまり動いてないもんな」

「μ'sの練習も穂乃果たちだけ控えめだしね……もうダメだよぉ~、たぬきさんみたいにお腹ぽんぽこだぁ~……アハハハ……」

「諦めるの早いな!?」

 

 

 だって夏休みはまだまだ続くし、受験勉強のせいで練習もあまりできないから、どうやってダイエットをすればいいのか分からないんだよぉ~!!『流石に夏休みは受験勉強に力を入れてもらいましょう』という絵里ちゃんの優しい気遣いは嬉しいけど、今の穂乃果にとっては大きなお世話なんだよねぇ……。

 

 

「このことが海未ちゃんにバレでもしたら、毎日の食事が病院食のように質素に……!?そんなの穂乃果餓死しちゃうよ!!」

「被害妄想が過ぎる!!しかもお前そこまで食う方でもねぇだろ」

「えぇ~お菓子はたくさん食べるよぉ~」

「だったらお菓子を食べなかったら解決だろ……」

「それはダメ!!お菓子を食べてかつ、ダイエットもできる方法を考えようよ!!」

「気随気儘とはこのことだな……」

 

 

 だって苦痛なダイエットなんてやっても長続きしないじゃん!!特に三日坊主泣かせの穂乃果の場合はね。

 それにしても零君、さっきからずぅ~っとお菓子ばっかり食べてズルい!!穂乃果には食べ過ぎだとか言っておきながら、自分はボリボリとスナック菓子を食べている。穂乃果がこんなにも頑張っているんだから、ちょっとくらい協力してくれてもいいのに……。

 

 

「今日は2人だけなんだし、早めに勉強切り上げてから身体を動かせば、多少のダイエットくらいにはなるだろ」

「多少じゃダメなんだよ!!次の休みにみんなで海に行くって約束忘れたの!?そこでお腹が出てたりなんかしたら……」

「そこまで目立つか?それにちょっとくらい出ててもいちいち気にしねぇよ」

「女の子は気にするの!!零君デリカシーなさ過ぎるよ!!」

「お前からデリカシーなんて言葉が出てくるなんて」

「もうっ、さっきから失礼だよ……」

 

 

 むぅ~……この穂乃果がこんなに必死になって頼み込んでいるのに、零君はお菓子を食べながら、穂乃果にはちんぷんかんぷんな問題の解答を、ノートにペンを走らせスラスラと解いていく。

 

 うぅ~……穂乃果のお腹がぷっくりしていてもいいってことなの!?もうこのお腹は、零君と穂乃果の赤ちゃんが宿るまでぷっくりさせないと心に決めていたのにぃ~!!!!

 

 

「しょうがねぇな、手伝ってやるよ」

「ホントに!?」

「でなきゃお前、真面目に勉強しねぇだろ。海未がちゃんと今日のプランも考えてくれたんだ。それを達成できないと俺まで怒られる」

「さっすが零君♪話が分かる!!」

 

 

 

 

「じゃあちょっとお腹見せてみろ」

 

 

 

 

「え……?」

 

 

 

 

 お、お腹……見せるの?零君に……このふっくらとしたお腹を……?

 

 

 だ、だ、ダメェええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!

 

 

 

 

「オイ、どうしてお腹を隠す……」

「普通のお腹ならいくらでも見られてもいいんだけど、今はぷっくりしてるから……」

 

 

 穂乃果はお腹を見られないようくまさんのクッションをギュッと抱きかかえ、部屋の隅に座り込む。

 そしてくまさんの顔からチラチラと少し顔を覗かせて零君を見つめる。

 

 彼氏の零君なら穂乃果のどんな姿を見られてもいいんだけど、太った穂乃果だけは絶対に見られたくない!!だって女の子だもん!!大好きな人の前では可愛くいたいじゃん!!

 

 

 すると零君は、四足歩行で穂乃果の目の前まで詰め寄って来た。

 

 わわっ、か、顔近いよぉ~!!熱くなってきちゃった……!!

 

 

「おい穂乃果」

「な、なに……?」

 

 

 零君、さっきまで面倒くさそうな顔をしていたのに、今は穂乃果の目を真っ直ぐに見つめて決してブレない。急に恥ずかしくなってくまさんに顔を埋めようともしたけど、零君の誠実な目線に吸い込まれて全く動けなかった。

 

 

「俺にいい考えがある」

「えっ!?いいダイエット方法思いついたの!?」

「要するに、運動をして汗をかけばいいってことだよな?それだったら――――」

「んっ!!んんっ」

 

 

 えっ、えっ!?ど、どういうこと……!?きゅ、急に零君にキスされちゃったんだけど!?!?

 部屋の隅っこで零君に壁ドンされた穂乃果は、そのまま勢いで零君に唇を奪われた。さっきまで零君が食べていたスナック菓子の味と、零君の唾液の甘い味が混じり合い、穂乃果の身体に流れ込んでくる。今まで体験したことのないキスの味だけど、零君からの愛情はいつもと同じ、最初から最後までたっぷりだよ♪

 

 

「んっ……はぁ、んっ」

「はぁ……あぁ、んんっ……」

 

 

 零君は穂乃果の抱えていたくまさんを取り去り、身体と身体を密着させ、更に唇と唇の吸い付きも強くする。穂乃果もそれに応えるように、零君の背中に腕を回して彼を求めた。

 

 

 き、気持ちいい……♪

 

 

 大好きな人とのキスはカラダが熱くなって、胸がドキドキして、頭がぼぉ~っとして、もう零君のことしか見えなくなって……どんどんあなたの魅力にハマっていく。キスでここまでメロメロにさせられちゃうなんて、このあと穂乃果は一体どうなるんだろう……?それも全部、零君に任せよう。だって零君なら、穂乃果を絶対に気持ちよくしてくれるもんね♪

 

 

「ふぅ、っ……はぁ、ちゅっ……んっ……んんっ、ちゅぅ……」

「はぁ……あっ、ちゅ……激しっ……んっ、ちゅっ……」

 

 

 ソフトなキスから激しい濃厚なキスに移り変わるのは、零君のキステクニックの王道パターン。こうなることは分かっていたはずなのに、穂乃果たちは毎回キスの快楽に溺れてしまう。それだけ零君からの愛が穂乃果たちに流されているということ。零君は穂乃果たち1人1人の悦ばせ方を熟知していて、個人に合ったキスの仕方も身につけている。

 

 

 だから穂乃果たちは……もう零君から離れられないカラダにされちゃっているんだよ♪

 

 

 そして、零君と穂乃果の唇がゆっくりと離れる。

 零君の唇と穂乃果の唇の間に、銀色に輝く糸が粘り強く垂れていて、とってもえっち。

 

 

「はぁ、はぁ……どうだ?ちょっとは汗かいただろ」

「うん……カラダも熱くなってきちゃった♪零君の言っていた運動って、このことだったんだね」

「ああ。これなら猛暑の外に出なくてもいいし、何よりお互いに気持ちよくなれるから一石二鳥だ」

 

 

 まだキスをされただけなのに、頭がぽぉ~っとして何も考えられない。1つだけ確かなことは、穂乃果が零君を欲しがっている、ただこれだけ。穂乃果がぼんやり零君を見つめると、零君は優しく微笑んで見つめ返してくれる。またそれに穂乃果の心臓はキュンと高鳴り、どんどんあなたに惹かれていく。

 

 抱き合って身体を密着させているからか、零君の心臓の鼓動も直に伝わってくる。穂乃果の身体は零君の身体に丁度すっぽりと収まり、お互いに見つめ合って再び唇を1つにした。零君の愛情に穂乃果の欲求は更に刺激され、熱くなっているカラダがより一層疼いていく。

 

 

 

 

 そしてまた一頻りお互いに愛を確かめ合った後、零君は両手で穂乃果の両肩を優しく掴んできた。だけど零君は、穂乃果の顔を眺めたまま何も喋らない。い、一体どうしたんだろう……?

 

 

「れ、零……君?」

「お前は……なにをされたい?」

「え……?な、なにをって……?」

「カラダ、疼くんだろ?」

 

 

 バレてる、零君に……穂乃果のカラダの疼きが。

 やっぱり零君は、穂乃果のことなら何でも分かるんだね♪穂乃果が求めているもの、欲していること、期待していること、零君はそんな穂乃果の気持ちを一寸狂わず理解してくれる。そして、その手で穂乃果を満たしてくれる。もう大、大、大、だぁ~い好き!!零君からの愛情が熱すぎて、穂乃果溶けちゃいそうだもん♪

 

 

 そして今この場で、零君にやって欲しいことは……ただ1つ。

 

 

「零君……」

「なんだ、穂乃果……」

 

 

 

 

「……しよ?」

 

 

 

 

 零君の目の色が――――――変わった。

 

 

 

 

「穂乃果……」

「なぁに?」

「脱いで……くれないか?」

 

 

 

 

 零君はねっとりとした甘いボイスで、穂乃果の乙女心をくすぐりキュンと鼓動させる。

 そしてもちろん、その応えは――――――

 

 

 

 

「うん♪」

 

 

 

 

 夏だから、着ているものと言えばこのTシャツと短パンだけ。穂乃果は何の躊躇いもなくTシャツと短パンを脱ぎ捨て、上下共に下着姿になる。もうこの時穂乃果は、太ってお腹が出ていることなんて忘れていた。ただ零君に生まれたままの穂乃果を見て欲しい、それしか考えていない。

 

 去年までは男の子の前で裸になるなんて、恥ずかしくて到底無理だった。だけど今は、零君の前なら別。

 

 

 あなたに穂乃果のすべてを見て欲しい!!

 

 あなたに穂乃果を感じてもらいたい!!

 

 あなたと一緒に……繋がりたい!!

 

 

 

 

 焦らさないで……もう、我慢できないよぉ♡

 

 

 

 

「なんだ……お腹が出てるって言ってたけど、全然じゃないか」

「うぅ~……いつもより出てるもん。あまり見ないで欲しいな……」

 

 

 うっ、忘れてたのに思い出しちゃったよ……どうして零君はこういうところでもデリカシーのなさを発揮してくるかなぁ~……。

 

 

 すると零君は、穂乃果のお腹を右手でゆっくり撫で回しながら口を開いた。

 

 

 

 

「確かにちょっとお腹は出ているかもしれないが、綺麗なカラダに変わりはないよ。おっぱいもここまで大きくなって、ウエストも適度に引き締まって……お前のカラダは魅力的過ぎて、太っていることなんて全然気にならない。だから心配しなくてもいいんだ。綺麗だよ、穂乃果」

 

 

 

 

 穂乃果の心から、あらゆる心配事が吹き飛んだ。そして、あなたの暖かい愛情でその心が満たされる。

 もう何度零君に心が奪われたのか分からない。心が奪われる度に零君に惚れて、見蕩れて、好きになって、いつの間にか2人でどっぷりと愛に浸かっていく。これが何度目かは分からないけど、穂乃果は零君といるこの瞬間が――――今の人生の中で一番幸せ♪

 

 

 

 

「下着……脱がしていいか」

「うん、零君のお好きにどうぞ♪」

「それじゃあお言葉に甘えて、お前を好きにしようかな」

 

 

 

 

 零君は穂乃果の背中に手を回し、手馴れた手付きで下着のホックを外す。そしてその下着をくまさんクッションの上に置き、上半身が生まれたままの状態の穂乃果のおっぱいに、両手を伸ばした。

 

 

「んっ♪」

「触られただけで感じているのか。だったらもっともっと感じさせてやるよ。たくさん汗をかいて、ダイエットしないといけないもんな」

「零君のせいで…んっ、こうなっちゃったんだよ……あんっ♡零君に……ひゃんっ、開発されちゃった♡」

「俺も穂乃果がえっちな子になってくれて嬉しいよ。俺、えっちな子大好きだから」

「だったら、あっ♡、穂乃果、頑張って零君好みのえっちな子に……んんっ♡、なるね♪」

 

 

 零君は両手で、穂乃果の両方のおっぱいを時には優しく、時には激しくと、緩急を付けながら揉みしだく。これも零君のおっぱいテクニックの1つで王道パターンなんだけど、キスと同じく穂乃果たちは、それに抗うことはできないくらい気持ちよくされちゃうの♪慣れようと思っても、零君から送り込まれてくる快楽は、そんなことを考えさせてもくれない。気が付いたら快楽の渦へと飲み込まれている。

 

 

 もう穂乃果たちは、零君から離れられそうにないや♪

 穂乃果たちの心もカラダも、みんな零君のモノになっちゃったから♪

 

 

 

 

 ここで零君は一旦穂乃果のおっぱいを揉むことをやめ、右手の親指と人差し指を穂乃果のおっぱいの尖端――――つまり乳首に向かって伸ばし始めた。そして乳首が零君の親指と人差し指に軽く挟まれ、そのまま勢いで一気に――――!!!!

 

 

「んっっ!!はあぁぁぁああ♡」

「お前らはどうしてそこまで俺を興奮させるような嬌声を出せるんだ……もっとだ、もっと聞かせてくれ!!」

「うん……っ♡あぁ……っ♡」

 

 

 零君は穂乃果の後ろに回り込みおっぱいに手を当て、穂乃果の乳首を玩具を扱うかのように弄ってくる。零君に後ろから抱きしめられながら、穂乃果は零君のイヤラシい手付きに身を捧げる。

 

 

 これこれ!!この刺激、この感触!!こんなえっちを望んでいたんだよ♪

 

 

 指て乳首を摘んだり、転がしたり、左右を交互に攻めてきたと思ったら、今度は同時にキュッと摘んできたり……穂乃果はその間、ずっと電流のような刺激が全身に走っていた。

 

 

 

 

「毎回思うけど、穂乃果もみんなも、エッチをするたびに色気が上がっているんだよな」

「また零君に相応しい彼女に一歩近付けたのかな?嬉しい♡」

「何言ってんだ、もうお前は俺に相応しすぎる彼女だよ」

「ありがとう零君♪あぁ……♡気持ちいいよぉ~……♡」

 

 

 零君の執拗な手付きに、穂乃果は気持ちよくなるばかり。おっぱいだけでここまで気持ちよくしてくれるなんて、やっぱり零君ってすごい!!こんなダイエットなら毎日だってできちゃうよ♪

 

 

 穂乃果はずっと艶かしい声を上げながら、零君の身体の中でずっとカラダをくねらせて悦んでいました♪

 

 

 

 

 でも穂乃果だけが気持ちよくなってちゃダメだよね?しっかりと零君にお礼をしないと!!

 

 

「お返しに、今度は穂乃果が零君を気持ちよくしてあげるよ♪」

「どうやって……?」

「零君のソレ、大きくなってるね♪」

「あっ……そりゃあ生理現象だからな。お前のカラダを触れて、しかもあんなエロ可愛い声を聞かされたらイヤでもこうなる」

「それじゃあ穂乃果が静めてあげる♪」

「お、おい……うわっ!!」

 

 

 穂乃果は零君の下半身にダイブした。仰向けになって寝ている零君の下半身の上に、穂乃果のおっぱいが覆い被さる。そう、零君のズボンに、穂乃果のおっぱいが……。

 

 

「こんな感じかなぁ……?」

「くっ!!ほ、穂乃果ぁ!!」

「零君その顔……とっても気持ちよさそうだね♪もっとぎゅうぎゅう押し付けてあげる♪」

「くぅ!!」

 

 

 零君の快楽に溺れる表情を見ていると、穂乃果もとっても興奮してきちゃう♪零君が穂乃果たちを攻めたくなる気持ちが分かってきたよ。

 

 

「程よく汗もかいてきたみたいだな、穂乃果」

「零君もね♪えっちって、とてもいい運動になりそうだよ」

「くっ、俺も痩せちまいそうだ……」

「本当にね。えっちってすごい♪」

 

 

 穂乃果は両手で自分のおっぱいを持ち上げながら、零君のズボンにグイグイと擦り付けていく。零君のテントにおっぱいが触れるたびに、おっぱいの形がふにふにと変わる。

 

 

 

 

「ダメだ穂乃果!!も、もうっ!!」

「…………」

「ほ、穂乃果……?」

 

 

 零君がイキそうなな顔をした瞬間、穂乃果はすぐにおっぱいをテントから離した。

 いつもはずっと零君に主導権を握られているから、たまには穂乃果が零君を焦らしてもいいよね♪焦った顔の零君、とっても可愛いし♪

 

 

「ヤバイ……我慢できねぇ、穂乃果!!」

「もう少し堪えて、今ズボン脱がすから」

「そ、それって……」

 

 

 

 

「これ以上は言わなくても……分かるよね♪」

 

 

 

 

 そしてまた、零君の目が性欲に従順な獣の目に変わりました。

 

 ああっ♡これからどうなっちゃうんだろ♪

 

 

 

「穂乃果ぁあああああああ!!こうなったら痩せるまで毎日ダイエットだ!!」

「ひゃんっ♡零君激しすぎだよぉ~♡」

 

 

 穂乃果は零君に抱きかかえられ、そのままベッドに押し倒されてしまいました。

 

 

 

 

 ここからは零君と穂乃果、2人きりのラブラブで濃厚な時間♪

 

 もう今日のお勉強会はできそうにないね。あっ、でもでも、夜のお勉強会ならできるかな?なぁ~んてね♪

 

 

 




 穂乃果やことりがメインだと大抵こんな展開になる。


 今回は穂乃果の個人回でした。
 前書きでも少しお話したのですが、個人回はμ's視点での恋愛を書きたいので、今回が実質穂乃果の個人回ということになりました。痴漢回は間違えて零君視点で書いていたことを、投稿した後に気付くという……(笑)

 ちなみに残りの個人回は真姫と凛だけとなりました。シスターズの個人回は……どうしましょうかね?

 そしてそろそろ夏編を終わらせて、秋編を書きたいと思う今日この頃。だって夏休み中だと学院での描写が書けないじゃん!!


 次回はネタはいくつか候補があるのですが、まだ未定です。


そしてここからは本編とは全く関係がないのですが、11月7日に私が小説投稿から一周年、そして新日常も同時期に100話を突破するということで、11月にちょっとした企画を立てるつもりです(もう水面下で進行してますが)。
新作小説ではないのですが、『新日常』の一風変わった話がたくさん見られると思うので、是非ご期待ください!!


新たに高評価をくださった方

シベリア香川さん、ぼり(*•∀•*)/さん

ありがとうございました!


付録:メインキャラのピックアップ回数

 μ'sの12人が『新日常』で何回ピックアップされた、つまりメインを張った回を数えてみました。登場回数ではなくて、話の主体になっている(個人回や嫉妬する○○など)話をカウントしています。

穂乃果:6
ことり:6
海未:4
花陽:4
凛:4
真姫:3
絵里:5
希:4
にこ:4
雪穂:2
亜里沙:3
楓:3


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全員集合!ビーチハーレム!!(ロリコン再発)

 今回は久々の水着回です!最近かなりブッ飛んだ話が多かったので、休憩も兼ねて普通の日常回でもあります。

 決して水着回の存在を忘れていた訳ではないんですけどね……折角夏編を進行中なので、1回くらいは出しておかないと思いまして。

 そして今回は次回と合わせて『新日常』のキャラが"ほぼ"全員集合する予定です。


 快晴の青い空!!

 

 地平線へと広がる広大な海!!

 

 白く輝く砂浜!!

 

 そして、水も滴る水着姿の女の子!!

 

 

 

 

 夏休みの終盤。俺とμ'sメンバー+αは、今年の夏最後の思い出作りのため、総勢17人もの大所帯で常夏の海に来ている。ちなみに"海未"じゃなくて"海"だから。いつもの王道ネタはやっておかないとな。

 

 夏のシーズンがもうすぐで終了ということもあってか、海にはたくさんの人が訪れていた。屋台や海の家も大いに賑わっており、ここがお祭りの会場ではないのかと勘違いしてしまうほどだ。そのお祭り気分に浮かれた穂乃果がまた太ってしまわないように、こっそり屋台に行ってパクパク食べないよう見張っておかなければ。

 

 

 そして俺が今何をしているのかと言うと、穂乃果たちが水着に着替えてくるまでの間、パラソルの下で寝っころがりながら、海に入っている可愛い女の子の水着を当てるクイズをしていた。

 

 

 ショタっ子を1人携えて……。

 

 

「次はどの女の子にしようか。誰か可愛い子がいたら教えてくれ、虎太郎」

「あのひと~」

「おっ、お前はお姉さんタイプが好みなのか。可愛い系よりも美人系と、なるほどなるほど」

 

 

 虎太郎は俺の隣でピコピコハンマーを振り回しながら、海に浸かっている大学生くらいの美人お姉さんを指差す。あんなレベルの高い美人さんを瞬時に見つけることができるなんて、将来大物になるんじゃないか?これは虎太郎が道を踏み外さぬよう、今の間に俺がみっちり仕込んでやらねば。

 

 

「美人系と言うことは、水着もきっと派手な色に違いない」

「あか~」

「赤か、攻めるな虎太郎。だが俺はピンク色と見た。確かにあの人は美人だけど、どうやら女友達と来ているみたいだから、派手だけどその中でも落ち着いた色だと思うんだよ。男持ちだったら派手な水着を着るだろうけどな」

 

 

 ちなみこれは3回戦。ここまで難なく2連勝してきた俺の目に一切の狂いはない。伊達に9人の彼女やシスターズに囲まれた生活を送っている訳じゃないからな。女の子のことなら、そんじゃそこらの男子高校生よりも知識も経験も断然上だ。

 

 

 

 

 そして美人さんは海から出ると同時に水飛沫を上げ、綺麗な身体をこの世に顕現させた。

 その水着の色は――――――!!

 

 

 

 

「ほら来た!!やっぱりピンクだ!!」

「お~」

「どうだ思い知っただろ?俺の女の子観察眼は最強なんだ」

「すご~い」

「でもお前もいい線行ってたよ。やはり将来有望だな」

 

 

 何故だかは知らないが、虎太郎は寝ている俺の腹をピコピコハンマーで優しく叩く。それがお前なりの祝福のつもりか……?

 それにしても俺の観察眼は素晴らしいの一言に尽きる。女性の顔、若さ、雰囲気、スタイルなど、それらをすべて考慮してその女性に一番相応しい色を選び出す。これも数年掛けて培ってきた経験の賜物だな。

 

 

 だがその時、俺の顔に小さな影が掛かった。

 そして液体のようなものが――――――!!

 

 

 

 

「うわっ!!冷てぇ!!」

 

 

 

 

 自分の能力の素晴らしさに自分で浸っていると、突如として目に冷たい水がぶっ掛けられた。手で目を拭いながら身体を起こし、俺の優越感を邪魔した輩を仕留めるため、素早く後ろを振り向いた。

 

 

「なぁ~に人の弟を巻き込んで、女の水着当てクイズなんてやってる訳?しかも幼稚園児相手に……やらしいわね」

「にこか……急に水掛けんなよ、ビックリするだろ」

「だったら虎太郎に変な知識を教えないでくれる!?」

「男なら必須のスキルだ」

「ただし変態に限るわね」

 

 

 やっぱりいくら俺たちが強い絆で結ばれていたとしても、男と女じゃあ分かり合えないことがあるんだよな~。男にとって女性を観察し妄想する力は、夜の自分磨きで大いに発揮されるというのに……。

 

 

 そんな淫猥なことを考えていて気付かなかったのだが、にこの姿をよく見てみると、彼女の水着が今まで俺が見たことがない新しい水着だったことに今気付いた。

 

 

「にこ……その水着」

「ようやく気付いたのね、わざわざ今日のために新しい水着を買ってきたのよ♪」

 

 

 にこはその場でクルッと綺麗に一回転をする。流石1年間スクールアイドルでダンスのレッスンをしてきただけのことはある、とても整ったフォームだ。

 

 にこの水着は鮮やかなピンク色を基調とし、フリフリのスカートが付いている水着だ。胸の部分にある大きめのリボンが特徴的で、スカートをハイビスカスで装飾するなど、いかにも可愛いモノ好きでファッション好きのにこらしい。

 

 

 胸に関しては控えめと言わざるを得ないが、大学生になってから大人の魅力も相まって、一回り胸も大きくなったように感じる(感じるだけ)。これも俺との交尾の賜物――――待て待て!!いきなり興奮しようとしてどうする!?今日は水着だから、アレが膨らんじゃったら丸分かりだぞ……とりあえず妄想を一旦抑えよう。

 

 

「すげぇ可愛いよ。かなり派手だけど、それがお前らしい」

「ありがと♪これでも結構迷って、時間を掛けて選んだのよ」

「それじゃあみんなの水着にも期待だな。それで……アイツらは?」

「もう遊びに行っちゃったわよ。にこは虎太郎を迎えに来たの」

「俺たちずっと待ってたのに……一言くらい言ってくれよな」

「だからこうして来てあげたじゃない。ほら行くわよ」

「へいへい」

 

 

 正直あまり人混みは好きじゃないから、ずっとここで寝ていたいのだが、どう足掻いても穂乃果たちに無理矢理起こされる未来しか見えない。また突然水をぶっ掛けられるのだけは勘弁だ。

 

 

 俺は虎太郎の手を握り、一緒に穂乃果たちのところへ向かおうとしたのだが、1つだけ問題を見つけてしまった。

 

 

「おいにこ、荷物はどうすんだ?誰か見張る人が必要だろ」

「あぁ、その件に関しては――――」

 

 

 

 

「私が見張っておくから心配無用♪」

 

 

 

 

「秋葉!?」

 

 

 いつの間に忍び寄ったのかは分からないが、さっきまで俺が寝ていた場所に既に秋葉が座っていた。嫌な気配には敏感な俺だけど、堕天使化したことりといい、悪魔の秋葉といい、何故か俺にとっての危険因子は忍者のように雰囲気を隠してくるから尚恐ろしい。

 

 

 ちなみに秋葉の水着は……もはや水着っていうよりかは、ワンピースに近い。それでも肩とか太ももとか、露出するべき部分はしっかりと剥き出しになっていて、秋葉の大人の色気が感じられる。相変わらず胸でけぇし……。

 

 

「あれぇ~零君どうしたのかなぁ~?もしかして、お姉ちゃんに見惚れちゃってる?」

「馬鹿言え、血が繋がっている奴に欲情するとか頭おかしいから」

「あるぇ~?誰も欲情するなんて言ってないぞぉ~」

「いいからちゃんと荷物見張っとけよ!!」

「はいはい~♪あとから水着の感想聞かせてねぇ~♪」

 

 

 今回は完全にアイツに言い負かされたような気がする……。

 そりゃあそこら辺にいる大学生、言ってしまえば大人よりもスタイルがいいし、胸も大きいし、何よりガッツリと女性の色気を感じられる。そんな奴が近くにいたら、例え自分の姉でも気になっちまうだろ!!もしかして俺が異端なのか!?

 

 

「零く~ん!!あまりみんなの水着姿に欲情しちゃダメだよ~!!」

「でかい声で欲情とか言うな!!女として恥を知れ!!」

「男としての恥を知れ!!この9股野郎♪」

「おいやめろォ!!」

 

 

 突然なんてことを言い出すんだあの悪魔は!?こんな人の多いところで9股を叫ぶなんて、俺を社会的に抹殺しようとしているとしか思えねぇ。

 

 

 折角バカンスに来たっていうのに、これじゃあ逆に疲れちまうぞ……。

 

 

 パラソルの下で俺たちに"笑顔"で手を振る秋葉に、虎太郎も小さく手を振り返す。

 とりあえず秋葉から離れよう。今日のアイツは危険だ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 秋葉から逃げてきた俺と虎太郎は、みんなを探しながら人の多い砂浜を彷徨いていた。

 ちなみににこは穂乃果や凛にビーチボールをぶつけられ、更に2人の挑発にまんまと引っ掛かりビーチバレーに参戦することになったため、俺たちとは別行動となってしまった。あそこでは女同士の血生臭くも醜い争いが行われていると思われるので、男の俺たちが近付いたら確実に殺されるだろう。

 

 

 そんな訳で他のみんなを探し回っていると、浮き輪に乗ってプカプカ浮いている2人組を見つけた。

 その2人とは、クセ者揃いのμ'sメンバーきっての脳トロ甘々ボイスの2人組――――

 

 

「お~い、ことり~、花陽~!!」

 

 

 …………

 

 

 …………

 

 

 返事なし……っと。まさかアイツら、寝てるんじゃねぇだろうな!?

 確かに今日は日差しもそこまで強くなく、風も涼しく心地いいから仕方がないと言えば仕方がない。波もかなり緩やかだけど、万が一沖の方まで流されたら面倒だ。

 

 俺と俺に連れられるように手を引かれている虎太郎は、あの呑気な2人を起こすため海へ入った。入ったとは言っても、海に浸かっているのは俺のふくらはぎに差し掛かるか差し掛からないかぐらいだけど。

 

 

 2人に近付いてみると、案の定浮き輪の上でプカプカ浮きながら眠っていた。

 

 

 ことりの水着はエメラルドグリーンを基調とした、白い水玉模様の水着だ。下はにこと同じくフリフリのスカートになっていて、エメラルドグリーンと薄いピンクのヒラヒラが付いている。

 

 花陽の水着は、上は白を基調としたシンプルな水着。胸の部分には小さな茶色のリボンが付いている。そして下は流行っているのか、またしてもフリフリのスカート。白と深緑のヒラヒラが特徴的だ。

 

 

 

 

 それにしてもこの2人……おっぱいが強調され過ぎだろ!!

 浮き輪に乗ってプカプカ浮いているためか、おっぱいがやたら際立って見える。しかもこの2人は高校生にしてはかなり大きな部類、もうこのまま上から鷲掴みにしたいぞ!!こんな無防備な姿を晒して、俺からタダで帰れると思うな!!

 

 

 俺の欲求が高ぶってきたその時、突然横からピコッと柔らかいハンマーで腕を叩かれた。

 

 

「おい虎太郎、お兄さんの邪魔をしちゃあいけないなぁ~」

「あぶないひと~」

「危ない人ってお前なぁ、男ってものは可愛い女の子の前では獣になっちまうんだよ。それに俺はこの2人の彼氏だから問題ないの」

 

 

 

 

「じゃあ早く触ってよぉ~♪」

 

 

 

 

「こ、ことり!?起きていたのか!?」

 

 

 突如脳トロボイスが聞こえたと思ってことりの顔を見てみたら、彼女の眼はバッチリと開いていた。しかも期待しか込めていない、キラキラと輝く眼差しを俺にぶつけてくる。どこまで行っても脳内お花畑だな……。

 

 そしてその隣では――――――

 

 

 

 

「はうぅ……」

 

 

 

 

 花陽が顔を沸騰させてトリップしていた……。

 

 

「お前ら寝てなかったのかよ……」

「海の心地よさに浸ってただけだもん♪ねぇ~花陽ちゃん♪」

「えっ、あ、う、うん!!波の揺れも緩やかで、まるでゆりかごに乗っているみたいに気持ちよかったんだよ♪」

 

 

 トリップ状態から戻ってきた花陽も、顔をウットリさせて再び海の心地よさに酔いしれる。この2人のぼぉ~っとした顔を見ていると、こっちまで力が抜けてしまう。脳をトロけさせた後は、全身の力をガス抜きのように放出させられる……一緒にいるだけで脳内がお花畑になっちまいそうだ。

 

 

「零くんも虎太郎もおいでよ♪」

「いやいや。虎太郎はいいとしても、俺が浮き輪に乗ったら確実に沈むだろ」

「らぶらぶえっちなら沈んでもいいよね♪」

「口を慎め淫乱鳥!!周りに人どれだけ人がいると思ってんだ!?」

「えぇ~、ことりは零くんとなら誰に見られても問題ないよ」

「俺がイヤだよ!!」

 

 

 学院内の人間ならある程度俺たちの言動に耐性が付いているからまだマシなのだが、ここにいるのは見ず知らずの人たちだ。流石の俺でも、顔も知らない人の前で堂々と淫行を働くほど屈強な性格は持ち合わせていない。

 

 

「花陽はみんなとビーチバレーとかしないのか?」

「私はこうしてのんびり過ごすのがいいんですぅ~……」

「もう海の心地よさに溺れてるじゃねぇか」

「ふわぁ~、眠くなってきちゃいました……」

「そうだねぇ~、ちょっと一眠りしようかなぁ」

「その声を聞くと俺まで眠くなっちまいそうだ。とりあえず、流されないようにヒモだけ付けておいてやるからな」

「ありがとぉ~♪」

「ありがとうございますぅ~♪」

 

 

 もうダメだ、ここにいるとメルヘンチックな夢の世界へ連れて行かれてしまう。そうなる前に早くここから退散しないければ。

 水着姿の2人と一緒に寝たいのは山々だけど、それはまたの機会にでも。

 

 

 あっ、最後に自己主張の激しい2人のおっぱいをもう一度拝んでおこう。

 

 

 

 

ピコッ!!

 

 

 

「いてっ、おい虎太郎……」

「へんなひと~」

「人前で言うのだけはマジでやめてくれよ……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 夢の世界へ旅立った2人を置いて、俺と虎太郎は砂浜に戻って他のメンバー探しを再開した。

 もうすぐお昼ということで屋台や海の家に行く人が多く、砂浜にいる人が体感だが少なくなったような気がする。だが潮風に乗って屋台からやたらいい匂いが流れてくるようにもなったため、俺の食欲も大きく刺激され屋台に釣られそうになってしまう。

 

 

 そんな中、虎太郎が手を引いてきた。

 

 

 

「ん?どうした?」

「おしろ~」

「お城…………?えっ……!?な、なんじゃありゃ!?!?」

 

 

 虎太郎が指を差した先を見てみると、そこには砂で作られた豪勢なお城が建てられていた。

 砂で作られていると分かっていても、小さくなってそのお城に住んでみたくなるような細部まで作り込まれた造形。その作り込みようは、そのお城の窓を一目見てステンドグラスの窓と分かるくらいだ。

 

 こんな、一般の芸術の域を余裕で振り切っている芸術家は誰だ!?

 

 

 その疑問は、製作者を見てすぐに解けた。

 

 

「あ、亜里沙!?」

「あっ、零くんだ!!こんにちは!!」

「こんにちはだけど、これは一体……」

「この砂のお城ですか?えへへ、下手ながらも作ってみたんですが……」

「どれだけ謙遜してんだよ!?普通に凄いわ!!」

「そうですか!?ありがとうございます♪」

 

 

 これを褒めない奴がいたら、逆に俺がぶっ飛ばしに行くってくらいすげぇぞ。もうさっきから『凄い』という言葉しか出ないくらいには……。

 それでこの砂のお城をよく見てみたら、お城の屋根が尽くタマネギ型だ。この屋根の形はロシア風のお城の特徴なんだが、そう考えれば誰が作ったのかなんてすぐに分かったな。

 

 

 亜里沙の水着は、上下共に透き通った白の水着。肌や髪が元々白っぽい亜里沙に似合い過ぎるほど似合う純白さ。これこそまさに天使だな。どこぞの堕天使とは違って……。

 

 

 それにしても亜里沙の奴、中学生の頃と比べたら本当に胸が大きくなった。姉の絵里と同様の遺伝子を持っているのか、スタイルも日に日に良くなっているような気がする。これ以上肉付きが良くなったら……その時が食べ時かな?アレな意味で……ゴクリ。

 

 

「おっ、虎太郎にロリコンのお兄さんじゃん!!」

「あ゛っ!?誰がロリコンだぁゴルァ!!人前で言うなって言っただろここあ!!」

「いやぁ~、ロリコンのお兄さんの反応が面白くって♪」

「ちょっとこころ、ここあに言ってやってくれよ……」

「もうここあ、零さんに失礼でしょ!!いくら相手がロリコンだからって、人前で言ったらダメです!!」

「それフォローになってねぇからな!?」

 

 

 相変わらず矢澤のチビ姉妹たちは俺を社会的に消そうとしやがる。お前らと会うたびに俺の株価が大暴落している気がするぞ……。

 

 どうやらこころもここあも亜里沙に習って砂でオブジェを作っていたみたいだ。お城の周りに家がいくつか立ち並んでいる。だけどロシア風のお城の周りに日本風の家って、若干滑稽だな。

 

 

 そして……俺はここでこころとここあの水着の解説をしなければいけないのだろうか?なんかどことなく犯罪臭がするんですけど!?ただでさえロリコンの烙印を押されようとしているのに、ここでロリっ子の水着を真面目に解説なんてしてしまったら最後、今度こそ逮捕確定じゃん!!

 

 

「だ、大丈夫ですか零さん?顔が絶望してますけど……」

「心配するな。犯罪的な行為はこれまでに何回も穂乃果たちでやってきてるんだ、何を今更怖がる必要がある!!」

「なぁ~んだ、てっきり逮捕されちゃいそうだから怯えてるのかよ思ったよ♪」

「ぐっ、コイツぅ~……!!」

 

 

 ここあは両手を後頭部に当てながら、矢澤姉妹伝統である小悪魔の笑顔で俺を見つめる。ここあもこころも、本当に小学生と中学一年生とは思えないほどしっかりしてやがるな。そして無駄に俺を煽る技術まで身に着けやがって……これもにこの影響か。

 

 

 えぇい分かった、もうヤケだ!!解説すればいいんだろ!?

 

 

 こころの水着は水色を基調とした、スクール水着に近い感じの水着だ。だが下はいつもの如く、スカートのようなヒラヒラが付いている。中学生になって、ちょっと背伸びしたな。

 ここあの水着は黄色を基調とした、ちょっぴり子供が着るには派手な色をした水着だ。こちらはスクール水着の造形とさほど変わりはない。小学生が着る水着だから当たり前だけど。

 

 

「ろりこん~」

「おいやめろ」

 

 

 虎太郎も、俺への煽りスキルがこの海へ来てから格段に上昇しているような気がするのは俺の錯覚か!?矢澤のガチんチョたちは対神崎零用の特訓を、にこから施してもらっているのかもしれない。俺の顔を見たら即警察へ通報しろと、にこが命じていたらしいし。(『日常』39話「ロリコン注意報」参照)

 

 

 

 

「あれ?零君に虎太郎君、いたんだ」

「おっ、雪穂――――って、そんなにいっぱい手に何持ってんだ?かき氷?」

 

 

 後ろから雪穂に話し掛けられたため振り返ってみると、雪穂は『氷』と書かれたカップ4つを器用に持っていた。もしかしなくても、あの結構な人混みの中へ飛び込んで買いに行っていたのか。

 

 

「お前、かき氷を4つって……食いしん坊だな」

「違います!!亜里沙たちに買ってきただけですから!!」

「分かってるって。それよりどうしてお前だけ?パシリ?」

「口の中にかき氷を丸ごと放り込んであげましょうか……?」

「冗談だって」

 

 

 雪穂はジト目で俺を睨みつけながら4つのかき氷を構える。

 まるで今から氷属性の魔法を打つ構えのようだ。こっちは守るどころか上半身が裸だし……あれ?これって効果抜群なんじゃあ……。

 

 

 そんなくだらない茶番はいいとして、雪歩の水着はえんじ色の至って落ち着いた雰囲気の水着だ。特に派手な装飾がないところがまさに雪穂らしい。そう言えばこれ、水着でPV撮影した時にものと同じだな。気に入ってるのかな?

 

 

 雪穂のスタイルは亜里沙とは反対に、そこまで中学生の時とは変わっていない。これは確実に凛と同じルート確定だろうが、普段から恥ずかしがって肌を露出させることがないため、こうして柔らかそうな二の腕や太もも見るのは久しぶりだ。小柄な女の子の柔らかそうな部位を見ていると、今にもむしゃぶりつきたくなる。

 

 

 クソッ!!2人きりなら前から思いっきり抱きしめて、カラダ中をしゃぶってやるのにっ!!

 

 

「わぁ~かき氷だ!!ありがとう雪穂姉ちゃん!!」

「わざわざすみません、雪穂お姉さん」

「いいよいいよ、これも年上の仕事だしね。それよりもほら、早く食べないと溶けちゃうよ」

「わわっ、急がなきゃ!!」

「ここあ、そんなに早く食べたら頭がキーンってするよ!!」

「こらこら、そんなに慌てちゃダメだよ。2人共落ち着いて」

 

 

 おぉ~!!雪穂がお姉さんになっているところは初めて見るな。中々様になっているというか、普通にこころとここあのお姉さんみたいだ。でも当の姉があんな怠け者だし、元からお姉さんっぽくはあったけどな。

 

 

「ほら亜里沙も。かき氷買ってきたよ」

「ありがとう雪穂!!あっ、虎太郎くんも食べる」

「うん」

「それじゃあはい、あ~ん」

「あ~ん、もぐもぐ」

「美味しい?」

「うん」

 

 

 ここで亜里沙もお姉さんモード発動か。雪穂と違って亜里沙は姉もしっかり(ポンコツにならなければ)しているし、普段はお姉さんキャラになることなんてまずないから、この光景はかなり新鮮だ。亜里沙のお姉さんキャラか……うん、全然妄想できねぇ。これほど妹キャラが似合う女の子はそういないからな。

 

 

「それで、どうして雪穂が1人で買いに行ってたんだ?しかもあの人混みに……」

「亜里沙は真面目にお城を作ってたし、こころちゃんとここあちゃんをあそこに紛れ込ませるのはちょっと……」

「なるほど、雪穂のお姉さん心だったって訳だ」

「別にお姉さんだなんて思ってないですよ。それに雑用は慣れてるし、あの呑気なお姉ちゃんで……」

「なるほど、よく分かるよその気持ち」

 

 

 俺もどうしようもない姉がいるからな。クセの多い姉を持つと苦労するよ……。

 

 そういや、今ここにいるのは俺と虎太郎を除けば雪穂に亜里沙、こころにここあ、全員妹じゃん。これぞまさにシスターズ!!ここに楓が加われば――――と思ったけど、あれ?

 

 

「なあ雪穂、楓は?」

「さぁ?多分お姉ちゃんたちと一緒にいるんじゃないですか?なんか変に目を輝かせてましたけど……」

 

 

 おぉう、急に背中に寒気が走ってきたぞ……!!

 これはよからぬことが起きるフラグって奴なのでは!?

 

 

 

 

ピコッ!!

 

 

 

 

「さがしにいく~」

「分かったけど、いちいちハンマーで叩くのやめてくれない?」

「いや~」

「さいですか……」

 

 

 

 

 俺とμ's+αのハーレム(?)バカンスは、怒涛の後半戦へ続く!!

 

 

 




 ことりちゃんと花陽ちゃんの水着は素直にエロいと思いました(小並感)


 今回は『水着でPV撮影!』回以来の水着回でした!言ってもそこまで水着が強調されていた訳ではありませんが、彼女たちの可愛い水着姿を妄想して頂ければと思います。でもこころやここあ、秋葉さんは別の意味で妄想レベルが高くないといけませんが……(笑)

 次回は残りのメンバーと、遂に『新日常』93話目にして初のA-RISEが参戦予定です!

 そして夏編はもうすぐ終了して、秋編に移行しようと考えています。移行してももちろん、いつもと何も変わらない日常ですがね(笑)

そしてここからは本編とは全く関係がないのですが、11月7日に私が小説投稿から一周年、そして新日常も同時期に100話を突破するということで、11月にちょっとした企画を立てるつもりです(もう水面下で進行してますが)。
新作小説ではないのですが、『新日常』の一風変わった話がたくさん見られると思うので、是非ご期待ください!!

新たに高評価をくださった宏六さん、ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全員集合!ビーチハーレム!!(ラッキースケベ)

 今回も前回に引き続き、真夏の海での零君ハーレム回です!
 そうは言っても今回はギャグ路線の話がメインですが……(笑)


 

 再び砂でお城とその城下町の作成を開始したシスターズと別れ、俺たちは一度荷物を見張っている秋葉の元へと戻ってきた。

 今日は普段より涼しいといっても夏の暑さなことには変わりはなく、虎太郎が熱中症になってしまわぬよう水分の補給をしに来たのだ。俺って気が利くぅ~!!

 

 

 俺たちの荷物が置いてあるパラソルに戻ってみると、何故かそこにいるはずの秋葉がおらず、代わりに赤毛のツンデレちゃんが俺のカバンを枕にして優雅に本を読んでいた。

 

 

「何してんだ、真姫ちゃんよぉ」

「どうしてヤクザ口調なのよ……。ただ本を読んでるだけだけど。騒がしいのは好きじゃないし」

「お前らしいな」

 

 

 そういや去年の夏合宿の時も、みんながビーチで遊んでいたのにも関わらずずっと本を読んでいたっけ。

 スクールアイドルとして舞台に上がっている時のテンションと比べてみると、真姫って普段と全然キャラが違うよな。アイドル姿の真姫は可愛い印象だが、こうしてサングラスを頭に掛け、持ち前のスタイルを見せびらかすように仰向けで横になっているその姿は、まさに気品溢れるお嬢様だ。本当に高校2年生かよ……。

 

 

 真姫の水着はヘソ出しワンピースって言ったらいいのかな?結構生地が厚めの水着だ。下は紺色ヒラヒラの付いたスカートで、見た目だけでも高級感しか感じられない。

 

 つうか運動嫌いなのに、どうしてここまでスタイルも肉付きもよくなれるんだ?明らかに彼氏である俺を誘ってるよね!?そうだよな!?しかも真姫が堂々とヘソや太ももを晒すことは日常でもないため、これは襲ってOKのサインだったり!?

 

 

 でも虎太郎にはまだ刺激が強すぎるな。流石の俺でも幼稚園児を性欲に目覚めさせるほど外道ではない。ここはグッと抑えよう。

 

 

「そういや、秋葉はどうした?」

「みんなの分のお昼ご飯を買いに行ったわよ。私たちが持ち寄ったお弁当だけだと、どう考えても少なかったし」

「それでお前が荷物番を任された訳か。俺のカバンは枕にされてるけど……」

「近くにあって、頭の高さ的にもピッタリだったから使わせてもらってるわ」

「枕にする前に断ってくれませんかねぇ……」

 

 

 しかもコイツ、俺の目を見ず読書をしながら適当に会話してやがる……人と話す時は相手の目を見ろって子供の時に習わなかったのかぁああああああああ!!

 

 まぁそんなツンデレかつクーデレな性格が真姫なんだろうけども。

 

 

「じゅーす~」

 

 

ピコッ!!

 

 

「だからいちいちハンマーで叩かなくても分かってるって」

「おれんじ~」

「へいへい」

 

 

 俺はクーラーボックスから程よく冷えたペットボトルを取り出し、キャップを開けて虎太郎に渡す。

 虎太郎はペットボトルに口を付け、小さな喉をコクコクと可愛らしく鳴らしてオレンジジュースを飲み始めた。

 

 

 こうして見るとやっぱり幼い子供って可愛いな――――――ハッ!!ち、違うんだ!!さっきの発言は決してロリコンやショタコンを意識した発言じゃないからな!!気にするんじゃねぇぞ!!

 

 

「なに1人で頭抱えて震えてるのよ……」

「俺は何も悪くない……自分の中の純粋な気持ちを素直に吐き出しただけなんだ」

「なにそれイミワカンナイ……」

 

 

 でも邪な気持ちを抜きにしても、こころやここあ、虎太郎ってすごく可愛くないか?どこか危なっかしいから面倒を見てやりたいという、お兄さん心が生まれてしまうほどには。にこがいいお姉さんになった理由が分かる気がするよ。

 

 

「読書もいいけど、ちょっとくらいはみんなと遊ぼうぜ。真姫が来たら、穂乃果や凛や俺が喜ぶと思うぞ」

「さっきさらっとあなたまでいなかった……?ま、後から適当に合流するわ」

「おう、じゃあ俺たちはみんなに昼飯だって伝えてくるよ」

「えぇ」

 

 

 結局真姫は俺の顔を一度も見ることなく読書を続けていた。

 でも俺は知ってるぞ、アイツの顔が赤くなっていたことを!!多分だけど、自分の水着姿見られるのが恥ずかしくて、俺に興味がないよう装ってたな。もう付き合い始めてから半年以上も経ってんだ、それくらい余裕で分かるって。

 

 

 お昼ご飯の時に、敢えてみんなの前で水着を褒めてやるか!!

 真姫の羞恥に悶える顔を想像すると……うん、ゾクゾクしてきた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 俺と虎太郎はみんなに昼飯の招集を掛けるため、再びビーチへと繰り出す。

 屋台や海の家へ昼飯を買いに行った人も続々と自分の陣地に戻りつつあり、また浜辺に人が多くなってきてアイツらの捜索は困難になるかと思われたのだが――――――

 

 

「いた~」

「ホントにな。アイツらどんだけ騒いでるんだよ……」

 

 

 女の子同士でキャッキャウフフしている声が聞こえたと思って近付いてみたら、ギャーギャーと叫び声と怒声が飛び交う怪しい集団だった。それが俺の彼女たちだとは思いたくなかったのだが、現実は非情である……。

 

 

 試合を見てみると、穂乃果・楓ペアvsにこ・凛ペアのバトルらしい。審判・得点ボード係には希が任命されている。

 

 

「穂乃果先輩!!あんなひんにゅー組なんて、とっとと蹴散らしてくださいよ!!」

「モチのロンだよ!!にこちゃんの無い乳に、この希ちゃんクラスのビーチボールぶち込んであげるから!!」

「流石のウチでもそこまで大きくはないんやけど……」

 

 

 楓の奴、また胸の大きさであの2人を煽っているのか……いつも通りと言われればいつも通りだけども。それより穂乃果まで楓に便乗するとは珍しい。胸が去年よりも一回り大きくなったとは言え、そこまで友達を煽る奴じゃないんだけど……希もちょっと呆気に取られてるじゃん。

 

 

「そんな脂肪の塊、なくたって零くんは凛たちを愛してくれるもん!!」

「その通り!!大切なのは、零から手を出されるか出されないかよ!!」

 

 

 オイ!!大きな声で手を出されるとか言うんじゃない!!まるで俺が所構わず女の子を食い荒らすクズ野郎にしか聞こえねぇだろ!!自重しろよお前ら!!――――とか言っても、恐らく試合に燃えているコイツらの耳には入らないんだろうな……。

 

 

 ここで一気に4人の水着を解説するぞ。にこは一番初めにやったからカットで。

 

 穂乃果の水着は、自分のイメージカラーと同様であるオレンジ色のビキニだ。ちょっと生地が薄めなのは俺を誘っているからなのだろうか……?ビーチバレーの試合が激化しているせいか、お尻に水着がキュッと食い込んでいるのが何ともエロい。

 

 凛の水着は、これまた彼女のイメージカラーである鮮やかな黄色の水着だ。下はスカートになっているのだが、若干露出が多くて、彼女のカラダ付きから見ると色気はないがエロさはある。恋人同士になるとやっぱりカラダがちょっとばかり貧相でも、そういう目で見てしまうんだよな。

 

 希の水着は白を基調とし、周りに紫色の装飾が付いている水着だ。よく見てみれば、にこの水着と非常によく似ていて、ヒラヒラのスカートに紫の薔薇が際立っている。それに何より、一番目立つのは彼女の豊満な胸!!通りがかる男も振り返ってしまうようなその果実が、水着によって締め付けられ、その大きさをより主張させている。クソエロい……。

 

 楓の水着は紐のような際どいを通り越した究極の水着……ではなくて、ちょっと大人びた黒のビキニだ。どちらかといえば色白なコイツが黒を身に纏っているため、逆にその綺麗な白い素肌がより強調されている。妹にこんな目を向けるのはどうかと思うのだが……。

 

 

「このゲームさえ取れば私たちの勝利ですよ、穂乃果先輩!!」

「うん!!にこちゃんと凛ちゃんには悪いけど、ボコボコにしてあげるよ!!」

 

 

 楓と穂乃果の殺気がヤバイ。同じアイドルグループで活動しているメンバーにそこまで言うのか……やはり恐ろしいな、女の争いは。デパートの安売り商品に群がる、何が何でも商品をもぎ取らんとするおばさんの鉄の強さと鋼の意志とまるで同等だ。何で争っているのかは知らないけども。

 

 

「凛!!いくらあと1点取られたら負けだからって、怯んじゃダメよ!!」

「分かってるにゃ!!だって凛たちもあと2点取れば勝てるもん!!」

 

 

 も、燃えている……4人の闘志が燃え盛る火炎のように熱い。目は相手を突き刺すような目線をしていて、舞台に立っている穂乃果たちとはまた別の意味で輝いている。

 

 一体何故ビーチバレー如きでここまで盛り上がれるんだよ……。

 

 

 そう思った時、希がボソッと声を漏らした。

 

 

「零君の水着を賭けるだけでこんなことになっちゃうとは……にこっちを焚きつけるためとは言え、少しやり過ぎたかな?」

 

 

 

 

 ――――あれれ~?おっかしいぞぉ~?どうして俺の水着が、俺の知らないところで譲渡されようとしているんだ~?

 

 

 こ、コイツら……!!

 

 

 

 

「おいお前ら!!勝手に人の水着で賭けバレーやってんじゃねぇぞ!!」

 

 

 

 

 だがこの直後、この集団の中へ出しゃばったことを後悔することになる……。

 

 

 

 

「あっ、零君だ!!穂乃果の応援に来てくれたの?」

「何を言ってるの!?零くんは凛の応援に来てくれたに決まってるにゃ!!」

「はぁ?アンタたちの脳内は本当にお花畑ね。にこの応援に間違いないでしょ!!」

「ハッ!!お兄ちゃんが妹である私を応援しない訳ないじゃないですか、この雌豚共!!」

 

 

 ぐわぁああああああ!!何この殺気!?心地よい潮の空気が一瞬にして、息が詰まりそうなくらいのおどろおどろしい空気に変わったぞ!?水を刺さなければよかった……。

 

 虎太郎は大丈夫か!?――――と思ったが、心配する必要もないみたいだな、いつも通りぼぉ~としている。どちらかといえば、この状況を理解できていないまである。

 

 

「零君」

「なんだ希。悪いが今それどころじゃあ……」

「逃げるなら早く逃げた方がいいよ。穂乃果ちゃんたち……獰猛なる獣やから」

「は、はい……?」

 

 

 意味は何となく把握できたが、希の口調はいつものゆったりとした口調ではなく、今まさに緊急事態のような真剣な口ぶりだった。もしかして……またしても俺が怪我するオチとか!?今回俺何も悪くねぇよな!?

 

 

 そこで突然、穂乃果がビーチボールを上へ放り投げ、その場で大きく飛び上がる。

 

 

 どう考えても人間業とは思えない跳躍力。これは明らかにサーブの体勢……しかも俺に向かって!?!?

 

 

 

「零く~ん♪穂乃果の愛を受け止めてぇえええええええ!!」

「ふ、ふざけんな!?」

 

 

 ビーチボールが穂乃果の手のひらによって鈍い音を立てて叩きつけられ、勢いが付いたボールが俺の元へ一直線に飛び掛ってくる。

 

 

 つうかボールのスピードが速すぎる!!バレー選手でもこんな速度でサーブできねぇぞ!?なんか空気を切り裂く音が聞こえてくるし!!これも愛の力なのか……!?

 

 

 ――――って、そんな馬鹿なことを言っている場合じゃねぇ!!もう避けられないぞこれ!?どうする……?レシーブするしかないか?でもあんな速度のボールを、バレード素人の俺がレシーブできるのか!?

 

 

 えっ、これってもしかして……詰んだ?あんな速度のボールをぶつけられたら、吹き飛ばされる距離数十メートルは硬いぞ……。

 

 

 

 

 もう諦めて覚悟を決めよう。

 

 

 

 だがそんな俺の前に、俺を庇うようにして立つ影があった。それは、今日ずっと俺の隣にいたアイツ――――――

 

 

「こ、虎太郎!?何してんだ!?」

「…………」

 

 

 な、何も喋らない!?

 だけどその冷静さのせいか、何故か俺の目から見たら虎太郎の背中が頼もしく見えてきた。でもこのままだと俺と一緒に吹き飛ばされるのがオチだ。コイツ、一体何を考えて……?

 

 

 頭の中がパニックになっている俺は、とりあえず虎太郎だけでも逃がそうと手を伸ばしたのだが、虎太郎は突如ピコピコハンマーを強く握り締める。

 

 

 え……まさかコイツ!?

 

 

 

 穂乃果の愛が籠ったビーチボールは、空気を切り裂く音を轟かせながら俺たちを射程圏内に捉える。そして俺の目の前にはピコピコハンマーを構える虎太郎。

 

 

 

 

 そして。

 ついに。

 

 

 

 

 両者がぶつかり合う。

 

 

 

 

 ――――あれ?この話って、俺の彼女たちとシスターズ+αを紹介する話だよな!?

 無駄に臨場感溢れる戦闘シーン(?)があるって何事!?しかもショタっ子に庇われる始末……うわぁ~俺、悲劇のヒロインっぽい。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 あの場を何とか鎮圧し、俺たちはトボトボと浜辺を歩いていた。

 まさか時空を切り裂く勢いで迫ってきたビーチボールを、小さなピコピコハンマー1つで打ち返してしまうとは……穂乃果たち唖然として立ち尽くしてたぞ。過程はどうであれ、燃え上がりすぎた闘志を押さえ込めたことに関してはよくやってくれたとしか言い様がない。今まで冗談混じりで虎太郎が大物になるとか言っていたのだが、これはもしかすると、もしかするかもしれないな。

 

 

 一応穂乃果たちには昼飯だからパラソルへ戻れと伝えた(唖然としていた彼女たちに伝わっているかどうかは別として)ので、最後は海未と絵里だけなんだけど……アイツらどこにいるんだ?水着だから携帯も持ち歩けないし、不便だな。

 

 

 すると突然後ろから、甲高い女性の声が聞こえてきた。

 

 

 

 

「零くーーーん!!」

 

 

「ん?俺?――――――ああっ!!お前は!?」

 

 

 まだ俺と同じ高校生のはずなのに、そこら辺の女子高校生とは違い、その姿を見るだけで気品やオーラをひしひしと感じる、まさにスクールアイドル王者の貫禄。背は低いのだが、溢れ出る大人の魅力は男性だけではなく女性の目も惹きつける。そして何より、夏の日差しによって一際輝くおでこがチャームポイントなコイツは――――

 

 

「つ、ツバサ!?」

「久しぶりだね零君!!元気にしてた?」

 

 

 綺羅ツバサ。

 あのスクールアイドルの頂点であるA-RISEのリーダーだ。前回の『ラブライブ!』ではμ'sが優勝したのだが、今回の予選では堂々の1位通過。やはり人間の底力っていうのは敗北から湧き上がるものなんだな。コイツらの今年のPV、音楽にさほど興味がない俺でも凄く感動したし。

 

 

 ツバサの水着は、シンプルに紺色のビキニだ。さっきも言ったけど、背は低いのにどことなく大人の色気を感じるのはスクールアイドルをやっている影響だからなのか、それともコイツ自身の魅力だからなのか……。

 

 

「お前、こんなところで何してんだ!?」

「何って、ただ遊びに来てるだけだけど。なに?私が海に来てたらおかしい?私だって女の子なんだから、たまには羽を伸ばして遊びたいの」

「そこまで言ってないだろ」

「零君と……その子は?」

「矢澤虎太郎。にこの弟だよ」

「へぇ矢澤さんの……ということは、μ'sのみんなで来てるんだ」

「あぁ。それに加えてあと数人の大所帯でな」

 

 

 俺+μ's12人+秋葉+矢澤のちびたち3人の合計17人。その中でも男が俺と虎太郎しかいないという、明らかに不釣合いな男女比だ。しかも虎太郎はまだ幼稚園児だから、年頃の男は俺しかないことになる。これをハーレムと言わずに何と呼ぶ。

 

 

「それで今日はお前だけなのか?英玲奈とあんじゅは?」

「ここにいるよ~♪」

「うおっ!!」

 

 

 ことりと同じく力が抜けるくらいの甘ったるい声が、俺の背中をくすぐる。振り返ってみると、してやったり顔の優木あんじゅが、更にその後ろには呆れた表情の統堂英玲奈の姿があった。

 

 

 あんじゅの水着は、髪の色と同じ鮮やかな茶色の水着だ。普段から髪にウェーブを掛けているせいか、水着に付いているヒラヒラの装飾が髪の靡きとマッチしてとても似合っている。あとやはりおっぱい大きいな。ことりや花陽もそうだけど、おっとり組は胸がデカイのが通例なのか?

 

 英玲奈の水着は、かなり濃い紫のビキニだ。自身のスタイルの良さと相まって、大人っぽさはμ'sを含めたとしても一番高いと思う。胸はそこまで大きい訳じゃないが、彼女の引き締まったカラダのくびれを見ていると、両手でワシワシっと揉みしだきたくなってくる。頼んだらやらせてもらえるかな……?

 

 

「お前らいつの間に……」

「ツバサが君を見つけて全速力で走っていってしまったから、私たちは後を追ってきたんだ。文句を言うならツバサに言ってくれ」

「でもツバサちゃん、日頃から『零君に会いたいなぁ~』とか言ってたし、零くんの姿を見て我慢できなかったんだよね♪」

「ちょっとあんじゅ!!それは言わない約束でしょ!?」

「へぇ~」

「ち、違うから!!いちいち携帯でやり取りするより、喋った方が早いって意味だから!!」

 

 

 いやいや、どう考えてもその意味には聞こえないだろ……お前のような美人さんに『会いたい』とか言われたら、普通に勘違いしちゃうからやめなさい。俺には可愛い9人の彼女と、3人のシスターズたちが……でも友達だったらいいかな?流石に浮気じゃないと思うし……しょっちゅう連絡は取ってるし。

 

 

「会うくらいなら、適当に休みの日を見つけて会わないか?」

「ホントに!?」

「お、おう……」

 

 

 突然ツバサは背伸びをして、俺の顔に自分の顔をグイッと近付けてきた。

 いい匂い、いい匂い、いい匂い、いい匂い、いい匂い、いい匂い、いい匂い、いい匂い……ハッ!!危ない危ない、彼女の芳香に惑わされるところだった。でも彼女の輝く目を見ていると、油断してなくても吸い込まれそうになる。今はプライベートでアイドル活動中ではないのに、ここまで自分を魅せることができるのか……そりゃあこの俺も惹きつけられちゃうよ。言っておくけど浮気じゃないからね。

 

 

「あらあら、ツバサちゃんったら……可愛い♪」

「アイドルとはまた違って意味で輝いてるな。でもスクールアイドル一辺倒だったあのツバサが、男に興味を持つとはね」

「しょうがないよ~。だって女の子だもん♪好きな男の子がいたら、それ以外のことなんて霞んじゃうから」

「フッ、だけど零が相手なら分かる気がするよ」

 

 

「ちょっとそこ!!変な被害妄想しないでくれる!?あらぬ誤解を植え付けるだけじゃない!!」

 

 

 えっ、誤解だったの!?あんじゅと英玲奈の会話を聞いている間、心臓バクバクだったんですけど!?安易に男の純情な心を弄ぶのはやめてもらっていいですかねぇ!!

 

 でもツバサは否定はしているものの、顔を真っ赤にし大きく腕を振ってまるで子供のような身振りで弁解する。

 

 ふ、普通に可愛いじゃねぇか……。

 

 

「か、勘違いしないでね零君!!私はあんじゅや英玲奈が言っていることなんて事実無根だから!!私はそんな――――」

「分かったから落ち着け!!アイツらからかってるだけだから」

 

 

 俺はツバサの肩に両手を当て彼女を静止させようとする。だがツバサが暴れていたこともあってか、彼女の肩に手を当てようとした瞬間、手が滑って俺の身体が彼女に向かって大きく傾いてしまった。

 

 

 

 

「うわぁあ!!」

「きゃあっ!!」

 

 

 

 

 ま、マズイ!!このままではビーチの真ん中で女の子を押し倒して――――――!!

 

 

 

 

「ツバサ!!」

「零くん!?」

「お~」

 

 

 

 

 この砂の音は――――うん、やってしまったようだ……。

 

 

「いてて……」

「んっ、れ、零君……」

「わ、悪い!!」

「いいから早く……手を」

「手……?」

 

 

 "手"と言われて反射的に自分の右手を動かしてみると、とてつもなく柔らかい、でもどことなく馴染みのある感触が伝わってきた。俺の右手にジャストフィットするこのプリンのような柔軟さ。そのてっぺんには小さな突起物があり、それを指で転がすと、ツバサの口から小さく嬌声が漏れ出す。

 

 

 これは間違いなく――――――ツバサの……!!

 

 

「れ、零君……?」

「あっ、いや、悪い、没頭してた……って、何言ってんだ俺!?」

「フフッ、でも女の子としては……ちょっと嬉しい、かな?」

「え……?」

「そのまんまの意味だよ」

「ツバサ……」

 

 

 ツバサは顔を茹で上がらせながらも、その綺麗な瞳で真っ直ぐ俺の瞳を捕える。

 未だに右手はツバサの胸を鷲掴みにしたまま、俺たちはしばらくの間、お互いの瞳をずっと眺めていた。まるで俺たち2人だけが別世界にいるかのように……。

 

 

 

ピコッ!!

 

 

 

 

「いてっ、こ、虎太郎……?」

「2人共その辺でやめておけ。周りに人もいるというのに……」

「零くんとツバサちゃんが熱すぎて、ビーチに立っていられないよぉ♪」

 

 

 

 

「あっ、すまんツバサ!!」

「えっ、う、うぅん!!全然大丈夫だから、アハハ……」

 

 

 虎太郎のハンマー攻撃、そして英玲奈とあんじゅの声が聞こえ、ようやく俺たちは元の世界へと帰ってきた。

 おっぱいを揉んでしまった時は、この身をボコボコにされることを覚悟したのだが、当の本人は怒るどころか逆に笑って済ませてくれた。助かったのか、それとも……。

 

 

 そして周りの目が俺たちに集中する前に、俺はようやくツバサの上から離れた。

 

 

「わ、私お昼ご飯買ってくるよ!!英玲奈とあんじゅは先に戻ってて!!」

「お、おいツバサ!?――――行っちゃったよ」

 

 

 ツバサは起き上がってから俺の顔を見ることなく、そのまま屋台へと走っていってしまった。

 頬を赤く染め上げながら―――――

 

 

 

 

「これはちゃんと責任取ってあげないとね、零くん♪」

「せ、責任って……確かに俺が悪かったけどさぁ」

「ま、次に会う時にしっかり埋め合わせをしておくんだな。ツバサは結構容赦ないぞ」

「もちろん分かってるけど、何もここで脅さなくてもいいだろ……」

 

 

 英玲奈もあんじゅもここぞとばかりに俺の懐を啄いてきやがって……これは後でツバサも散々弄られるな。

 よしっ、俺も男だ!!こうなったからには全力でアイツを楽しませてやるか!!

 

 

 

 

 今回はビーチバレーやらA-RISEにエンカウントやらラッキースケベやら、色々なことがあったが結局まだμ'sの全員に会っていないという事実。

 

 とりあえず、また次回へと続く。

 

 

 




 A-RISEのメンバーにもフラグを立てていく、ハーレム主人公の鏡!


 そんな訳で今回は水着&ハーレム回の第二弾でした。しかも収まり切らなかったのでまた次回に続くという……。A-RISEのメンバーを含めたら登場人物は総勢で20人、これを1話や2話で終わらせる実力が欲しい!!一応全員に見せ場を作っているので、引き伸ばしているという感覚はありませんがね。

 よって次回がラストです。ちなみに夏編も次回で終了して、秋編に移行したいと思っています。


そしてここからは本編とは全く関係がないのですが、11月7日に私が小説投稿から一周年、そして新日常も同時期に100話を突破するということで、11月にちょっとした企画を立てるつもりです(もう水面下で進行してますが)。
新作小説ではないのですが、『新日常』の一風変わった話がたくさん見られると思うので、是非ご期待ください!!
投稿は11月1日からを予定しています。


新たに高評価をくださった 19:10さん、ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全員集合!ビーチハーレム!!(夏の終わり)

 今回でビーチハーレム編終了です。
 ハーレムと言っても、話の内容自体は真面目回でうみえり回となっています。たまにはこんなロマンチックな場所で真面目な話っていうのもいいですね!


※諸事情があり、もう一度投稿し直しました。


 

 

 A-RISEのメンツと別れた俺たちは、まだ声を掛けていない海未と絵里を探しに砂浜をぐるっと一周してみたのだが――――――

 

 

 どこにもいねぇ……一体アイツらどこ行ったんだよ。もしかしてすれ違いになってしまったとか……?これだけ人がいたらすれ違っていても気付かないし、余裕で有り得そう。

 

 

「おなかすいた~」

「これだけ歩けばそうなるわな。俺ももう疲れてきたし、闇雲に探すんじゃなくて、海未と絵里がいそうな場所を推理してみっか」

「おぉ~」

 

 

 虎太郎の奴、俺の言ってること分かってんのかな?まあいっか。

 海未も絵里も、みんなと一緒にワイワイ騒ぐのは嫌いではないけど、どちらかといえば静かでゆっくりできる場所を好む。特に海未は歌詞作りのために海へと出かけ、静かな波の音を聞いてインスピレーションを研ぎ澄ませているらしい。絵里も海未に同行して、たまに一緒に歌詞作りを手伝うこともあると言っていた。

 

 

 ここから導きだされる解答は――――――

 

 

「よし行くぞ虎太郎!!昼飯までもうひと踏ん張りだ!!」

「お~」

「お、おぅ……」

 

 

 虎太郎の声を聞くと、折角意気込んだのに力が抜けてしまう。この行き場のなくなったやる気はどうすればいい……?

 とにかくみんな待ってるかもしれないし、海未と絵里を探しに行こう。俺の推理が正しければ、アイツらは恐らくこの海のあそこにいるはずだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 波の音が耳元で囁くように聞こえてくる。入り江の細波が岩浜の縁を洗う音だ。

 俺たちは砂浜から少し離れた、岩が天然の防波堤となった小さな入り江に来ていた。入り江の海を湖のような形にみせる役をしている細長い岬があり、日の光を受けて刻一刻とその表情を変える。人がたくさんいる砂浜の海と同じ海とは思えない、まさに幻想的だ。

 

 

 そして――――――

 

 

「あら、零に虎太郎君じゃない」

「人の影が見えたと思ったら、あなたたちだったのですね」

 

 

 俺の推理通り、絵里と海未は平たい大きな岩の上に2人仲良く並んで座っていた。

 この2人が幻想的な入江に鎮座しているその光景は、2人の落ち着いたクールな雰囲気と、若干暗めだが僅かに光が差し込む神秘的な入江と相まって、とても絵になる。

 

 

 海未の水着は花模様が描かれた、ビスチェのような水着。下は藍色のスカートになっていて、微かな風で靡くスカートがまるでオーロラのようだ。

 

 絵里の水着は、まるで深海の綺麗な珊瑚礁をイメージした、濃くも鮮やかな青色のビキニだ。アクアリウムのようなその水着をサマーガールの絵里が着ていることによって、入江の神秘的な光景に一役買っている。

 

 

「こんな人目の付かないところで何してんだ?」

「本当は穂乃果たちと一緒にビーチバレーをするつもりだったんだけど……」

「行く末がよからぬ方向へ捻じ曲がりそうだったので、こっそり抜け出してきたのです」

「あぁ、あれな……」

「穂乃果たちのところへ行ったの?」

「行ったよ。吹き飛ばされそうになったけど」

「やはり抜け出してきて正解だったようですね……」

 

 

 あのビーチバレーは俺の水着が勝手に賭けとして出されるわ、穂乃果に愛の籠ったビーチボールを打たれ吹き飛ばされそうになるわ、挙げ句の果てに幼稚園児である虎太郎に守ってもらうわで散々だった。ここまでされる程に愛されているのを喜ぶべきなのか、愛の方向が少しズレていることに危機感を覚えた方がいいのか……。

 

 

 とりあえず俺たちも2人の横に並び、虎太郎を抱きかかえる形であぐらをかいて座る。

 

 

「ここから海を見ていると、砂浜の賑やかな海が嘘のように静かだな」

「砂浜から見る海も活気があって好きなのですが、やはり私はこの静かな波の音を聞くのが一番心が落ち着きます」

「私も海未と一緒に来るまでは半信半疑だったけど、こうして実際にささやかな波の音を聞いていると、心に溜まっていたストレスや疲れが波に流されていくような感じがしてスッキリできるのよ」

「言いたいことは分かるよ。俺の口から上手いことは言えないけど、確かにずっと聞いていたくなる」

 

 

 海未も絵里も、目を閉じて海からの囁きに耳を傾けている。

 俺もそっと目を閉じてみると、潮騒が海の健康な寝息のように規則正しく寧らかに聞こえてきた。さっきまでのロリコン騒動やビーチバレー、ラッキースケベなどで心身共にかなり疲労がたまっていたのだが、この声を聞くだけで絵里の言う通りすべて流されてしまいそうだ。

 

 

 元々今日は受験勉強やμ'sの練習の慰安としてこの海へ訪れた。穂乃果たちのように頭をカラッポにして楽しむのも1つの休息になるだろうが、俺はやはりこうやってぼぉ~っとしている方が性に合ってるな。

 

 

 そうだ、μ'sの練習と言えば――――――

 

 

「もうすぐでラブライブだな」

「えぇ、あと1ヶ月程度。前回の大会から半年だけど、もう次のラブライブなのよね。時の流れが早く感じるわ」

「その言葉、年寄りくせぇぞ」

「失礼ね。本当にそう思ってるんだから仕方ないでしょ」

「でも新生μ'sが結成されてからというもの、本当に時の流れは早く感じましたよ。雪穂や亜里沙、楓がメンバーになったことで、より日々が楽しくなったからかもしれませんね」

 

 

 シスターズの3人がμ'sのメンバーになってから、去年よりも賑やかになったというよりかは騒がしくなったに近い。それも9割方は楓のせいだなんだが……まぁ良くも悪くも、みんな楽しく馬鹿騒ぎできるのはいいことだとは思うけどな。

 

 初めはラブライブを優勝したグループとして、絆が完成された穂乃果たち9人に付け入る隙などないと俺は懸念していたのだが、雪穂も亜里沙も楓も今やμ'sに欠かせないメンバーとなり、俺たちと同じ1つの目標を目指している。

 

 

「今回のラブライブは私たちは出られないから、楓たちには私たちの分まで全力で楽しんで欲しいわね」

「そうか、絵里たちは大学生だからラブライブに出られないもんな」

 

 

 『ラブライブ!』はスクールアイドルの祭典のため、もちろんだが大学生は出場することができない。通常の『μ's』としての活動ならば12人でステージに上がることができるのだが、スクールアイドルとしての『μ's』は大学生組である絵里、希、にこを除いた9人での活動となる。つまり『ラブライブ!』の舞台に立てるのは現役高校生までってことだな。

 

 

「一つ懸念があるとすれば、絵里たちが抜けることで雪穂たちの調子が狂ってしまわないかですが……」

 

 

 海未は怪訝そうな顔で静かに俯く。

 新生μ'sが結成してからも、結局絵里たち大学生組を除いた9人でライブをすることはなく、『μ's』として12人でライブイベントに望むばかりだった。だから9人で歌って踊るのは今まで練習の中のみ。そのため『ラブライブ!』のステージが公式で初のスクールアイドル『μ's』としての活動になるのだ。

 

 

 

 

 いきなり9人でのぶっつけ本番。海未が心配になるのも分かる。

 

 

 

 

 でも――――――

 

 

 

 

「問題ないと思うぞ」

 

 

 

 

「え……?」

 

 

 

 

 海未は驚きの表情を見せる。

 それと同時に絵里は優しく微笑んだ。まるで俺の言うことが初めから分かっているみたいに……。

 

 

 

 

「海未の気持ちも分かるよ。頼れる先輩たちが3人も抜けちまって、心細くならないか心配になること。特に亜里沙は絵里がいなくなったら緊張の糸が切れちまわないかってな」

 

「だったらどうして問題ないと……?」

 

「それ以上にアイツらには、ライブを楽しむという心があるからだよ。μ'sのライブの時、俺は毎回前列で見てるけど、雪穂も亜里沙も楓もいい笑顔をしている。心の底からライブを楽しんでいなければ、あんなキラキラした笑顔を絶対に見せることなんてできないよ。だから心配するな、アイツらは前回のラブライブのお前らと同じ、スクールアイドルとしてライブを楽しむ心、そして笑顔を持っているから。絵里たちが参加できなくとも、アイツらの心は揺るがない」

 

 

 同棲生活中、雪穂に『ライブ中、自分だけが笑っていなかった。だから自分はスクールアイドルには向いていない』と相談を受けたこともあった。そしてμ'sに迷惑を掛けることを恐れた雪穂は、自らスクールアイドルを辞めようとしたんだったな。

 

 でも彼女はスクールアイドルを辞めなかった。それはスクールアイドルの活動やライブを、精一杯楽しむことを思い出したから。誰かに劣等感を感じる必要もなく、ただ純粋に歌って踊ることを楽しむ心を取り戻したんだ。

 

 そして亜里沙と楓からも相談を受け、彼女たちの心をまた1つ解放した。

 

 それから彼女たちは強くなった。スクールアイドルとしての技能だけでなく、自分たちの心も大きく成長したんだ。心の成長に関しては、もう穂乃果たちとそれほど変わらないんじゃないかな。

 

 

「私はまだまだステージの上に立つ前や、ステージに立った後も少し緊張してしまいます」

「緊張しない奴なんてこの世にはいねぇよ。それに、その緊張を解してくれる奴ならいるだろ?」

「はい。穂乃果やことり、そしてみんなが……あっ」

「ようやく分かったか。お前らは1人じゃない、みんながいるじゃないか。それに、俺も全力で激励してやるよ」

 

 

 この世に完璧な人間などいない。だから仲間と共に支えあうんだ。

 

 緊張の糸が切れそうなら、仲間に抑えてもらえばいい。足が震えて動けなくなったら、仲間に背中を押してもらえばいい。1人で解決する必要なんて、どこにもない。スクールアイドルとしてのμ'sは9人なんだ。それに俺や絵里、希やにこもいる。

 

 

「更に、μ'sを応援してくれる人たちもたくさんいるし。な?」

 

 

 俺は抱きかかえている虎太郎の頭を優しく撫でる。虎太郎は俺の手の動きに合わせて、揺ら揺らと身体を動かす。

 いつもぼぉ~っとしているコイツでも、今までにこやμ'sのことを一生懸命応援くれたんだ。その応援の1つ1つが、μ'sへの励みになっただろう。

 

 

 するとここで、絵里が口を開いた。

 

 

「でも一度ラブライブに出場した私たちとは違って、雪穂たちにとっては初めての大会だから、緊張しないことはないと思うの。だからその時は海未たちが支えてあげて」

 

「私たちが……ですか?」

 

「えぇ。後戻りしそうになったら背中を押して、こけてしまいそうになったら手を引いて助けて欲しいのよ。私にできるか、なんて心配しなくても大丈夫。μ'sの絆があれば……ね♪」

 

 

 俺の言いたかったセリフ、全部取られたんだけど……ま、いっか。俺からより、今まで一緒に歌って踊ってきた絵里の口から伝えてもらった方が効果は大きいだろ。

 

 

 俺が海未に伝えたかったことは、絵里がすべて代弁してくれた。μ'sの絆の強ささえあれば、どんな困難も共に乗り越えていくことができる。もちろん俺もμ'sを見守るだけの存在ではない。彼女たちの誰かが道を踏み外しそうになった時、道を間違えそうになった時、みんなから離れてしまいそうになった時、俺はどんな時でも彼女たちの手を引っ張ってやる。

 

 

 そう、俺も同棲生活中に決めたんだ。μ'sの前へ行き彼女たちを先導するのでも、彼女たちの後ろから見守るのでもない。俺は彼女たちと共に、この道を歩んでいくと決めた。

 

 

「ステージに上がるのはお前ら9人だけど、お前らの心にはいつも俺たちがいる。13人の心が1つになっているんだ。だから心細くなんてない。俺も絵里たちも、ずっと隣にいるから」

 

「私たちは観客席だけど、海未たちと一緒にステージで踊っているかのように、精一杯応援するから。穂乃果の言葉を借りるなら……ファイトだよ!!って感じね」

 

「フフッ!!」

「ちょっ、ちょっと海未!?そこは笑うところじゃないでしょ!?」

「フフッ、ごめんなさい。急に穂乃果の真似をし出したのが面白くって……!!」

「も、もうっ!!折角元気付けてあげようと思ったのに!!」

「ありがとうございます。お陰さまで元気になりました♪」

 

 

 海未ももう全然問題なさそうだな。この調子だったら雪穂や亜里沙、楓を支えてあげることができそうだ。やはりμ'sの絆は世界一!!絵里は頬を赤くして恥ずかしがっているけれども、それも照れ隠しってことで。

 

 

「やらなければよかった……」

「とても可愛かったですよ♪ 特に穂乃果と同じガッツポーズをしたところとか」

「う~み~!!」

「フフッ♪」

 

 

 おぉう……今にも絵里が海未に飛びつきそうになっている。普段は2人の立場が逆なので、こんな光景を見るのは初めてだ。もうそんじゃそこらの女の子グループよりも、μ'sは絆も友情も深くて強いと言える自信がある。

 

 まさか2人のこんな一面を見られるとは、俺もまだまだ彼女たちのすべてを見られていないってことだな。また彼女たちと一緒にいる楽しみができたよ。

 

 

「おひる~」

「あっ、そうだった。昼飯にするからお前らを呼びに来たんだった」

「えっ、そうだったの!?それならそうと早く言いなさいよ」

「でももし零が来てこの話をしてくれなかったら、私の心に重圧が伸し掛っていたままでした。皆さんを待たせることになったのはもちろん反省していますが、私はとても嬉しかったですよ」

 

 

 海未のその笑顔は、静かな海にさざなみが広がっていくような爽やかな笑顔だった。海未の笑顔に、俺の心が安らぐ。

 俺が励ます側だったはずなのに、逆に俺が安心させられてどうするんだよ……でも、それだけ海未も心の整理ができたってことだから、これでよかったんだろうな。

 

 

 

 

 そして俺たちは、しばらくその場所に留まっていた。聞こえるのは、入江に流れる静かな波の音だけ。

 

 

 

 

「終わるわね……夏が」

「そうですね……」

 

 

 

 

 清らかな白波に、入江の僅かな隙間から入り込んだ日光が煌く。

 

 

 

 

「頑張ろうな、みんな一緒に」

「はい」

「えぇ」

 

 

 

 そして俺たちは安らかな波の音に癒されながら、決意を新たにした。

 




 攻める海未に攻められる絵里、いいコンビですね!


 そんな訳で今回で夏編は終了となります。
 夏編の思い出と言えば、穂乃果のダイエット回や痴漢回、ことりとのえっち回が印象強いです。でも一番はやはりらぶくえ編ですかね。『日常』当初から書きたかった話なので、5話に渡る長編になってしまいましたが、R-17.9回と同じくらい妄想を爆発できたかなぁと思っています。

 皆さんはどのお話が気に入ったでしょうか?


 次回からは『新日常』も秋編に突入します。
 1発目のタイトルは『性欲の秋!禁欲の秋!?』。章の一発目はいつも通り零君+ことほのうみで大暴走!!(笑)


 そしてここからは本編とは全く関係がないのですが、11月7日に私が小説投稿から一周年、そして新日常も同時期に100話を突破するということで、11月にちょっとした企画を立てるつもりです(もう水面下で進行してますが)。
新作小説ではないのですが、『新日常』の一風変わった話がたくさん見られると思うので、是非ご期待ください!!
投稿は11月1日からを予定しています。参加人数は今のところ19人の予定です。


新たに高評価をくださった 政行さん、アリゆめさん、忍者使いのWILLさん ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

性欲の秋!!禁欲の秋!?

 今回から新章である秋編に突入します。もちろん新章だからと言って、何かが変わる訳ではありませんがね(笑)

新章の一発目はやはりこの4人から!!

――ということで、またいつもの日常のはじまりはじまり!


 

 9月。夏の残暑は残りながらも、朝や夜は少し肌寒くなってきた今日この頃、学生たちは夏休みの浮かれ気分(俺たちは受験勉強で忙しかったが)が抜け、まだいつも通りの日常が戻ってきた。

 

 それなりに授業を受け、それなりに友達と駄弁り、それなりに部活やアルバイトに従事し、そして帰宅する。年末の冬休みまでこのサイクルを繰り返すのが学生の日常だ。

 

 だがその間には文化祭や修学旅行、ハロウィンにクリスマスなど、季節の変わり目を感じられる行事がてんこ盛りのため、いつもの日常に一味も二味も刺激が加わる。そしてスクールアイドルたちにとっては『ラブライブ!』という全国規模の祭典もあり、より一層意気込みや気合が入る季節となるだろう。

 

 

 

 

 俺たち3年生組もそんな学生たちの一部で、この先に待ち受けるイベントに心を躍らせながらいつもの日常を過ごしているのだが――――――

 

 

「なあ海未、俺のタオル知らないか?確かカバンに入っていたはずなんだけど……」

「いえ。そもそも零がタオルを持ってきていただなんて、今知りましたよ」

「そうだよなぁ。だって教室に入ってから、一度もカバンの中から出してないんだ。どこかに行くこと自体がおかしいんだが……」

 

 

 タオルを使ったタイミングを思い出しても、学院に登校してから教室に入るまでに汗を拭った時だけだ。それ以外はずっとカバンの中に入れっぱなしにしていたから、消失するってことはないと思うんだけど……汗臭いタオルを狭い教室内で取り出す訳がないし。

 

 

 

 

 ――――――待てよ。

 

 

 汗……

 

 

 汗の匂い……

 

 

 汗付きのタオル……

 

 

 突然の消失……

 

 

 これってもしかして!!

 

 

 

 

「なあ穂乃果、俺のタオル知らないか?」

「知らないよ♪」

 

 

 なぜ笑顔なんだ……?

 まあいいや、一応アイツにも――――

 

 

「なあことり、俺のタオ――――」

「知らないよ♪」

 

 

 まだ喋っている途中だっただろうが!!しかもまた笑顔で応答してきやがって……2人揃ってこの反応、絶対コイツらの仕業だろ!!"どちらか1人"じゃなくって、"コイツら2人"の仕業に間違いない!!

 

 

「お前ら……今ならまだ許してやる」

「許す……?穂乃果たち何かしたっけ?ことりちゃんは心当たりある?」

「う~ん、特にないかなぁ。本当に、どこへ行っちゃったんだろうね♪」

 

 

 コイツら、あくまでシラを切り通すつもりかよ……。

 

 そうか、そうくるのか。だったら俺にもいくつか考えがあるぞ。その明るい笑顔の裏に隠された悪魔の笑顔を、白日の下に晒してやる。

 

 

「くそ~あのタオル、授業中にムラムラした時にこっそりズボンの中に忍ばせて使おうと思ってたのになぁ」

 

 

「はいこのタオルでしょ!?今さっき見つけたよ!!」

「見つけてあげたお礼に、その使用済みタオルをことりたちに頂戴ね!!ねっ!?」

「うぉっ!!」

 

 

 穂乃果とことりは目の瞳孔を大きく開かせながら、俺の眼前まで迫り寄る。そして穂乃果の手には俺のモノと思われる、いや、確実に俺のモノであるブルーのタオルが握られていた。

 

 こ、コイツら、若干興奮してるな……ことりなんてはぁはぁと呼吸が乱れてるし。

 

 

「このタオル……お前たちが盗んだんだよな?」

「「チガウヨ」」

「片言になってんじゃねぇか!!いいか正直に答えろ。答えたら俺の使用済み――――――」

 

 

 

 

「はいはいはーーーい!!ことりが盗みました!!」

「あーーー!!ズルイよことりちゃん!!実際に零君のカバンを開けてタオルを取り出したのは穂乃果なのにぃ~!!」

「でも零くんの汗付きタオルを取っちゃおうって提案したのはことりだよ?」

 

 

 

 

 白状するの早いなオイ。もっと作戦を考えていたのに一発目でカタがつくとは……。

 学年が上がってからというもの、この2人の性欲は俺をも凌駕するほど肥大化してしまった。去年までの純愛さを見ていると、まさか俺たちが裸の付き合いをするような関係になるとは誰が思っただろうか。俺の色に染まってくれたのは嬉しい限りだが……。

 

 

 とにかく、今はタオルを取り返すことを最優先にしよう。これ以上俺の私物を持っていかれる訳にはいかないからな。ちなみに同棲生活中に盗まれた服は、未だにコイツらの手中にある。

 

 

「とりあえずこれは返してもらうぞ」

「あっ……でもとりあえずだからね!!授業中に使ったらちゃんと穂乃果に返してよ!!」

「えぇ~それじゃあことりの分がなくなっちゃうよぉ!!せめて半分に切ろうよ~」

「うぅ~……でも初めっからそのつもりだったし、提案してくれたのはことりちゃんだし、よしそうしよう!!」

「やったぁ~!!ありがとう穂乃果ちゃん!!」

「だって大切な幼馴染だもん!!1人で楽しもうなんてするはずがないよ!!一緒に零君を感じようね♪」

「もちろん♪」

 

 

 こ、怖い……コイツら怖すぎる!!人の私物を堂々と盗み取ること自体も恐ろしいのだが、何が一番恐ろしいかって、教室に他の生徒がいるのにも関わらず、こんな会話を何の躊躇もなく平気で繰り広げていることだ。

 

 誰だ!!こんなに可愛くて純情だった子たちを淫乱色に染めたのは!?

 

 

 あっ、俺か……。

 

 

 穂乃果とことりがこうなったのは反省もしてないし後悔もしていないが、クラスの問題児として笹原先生が俺たち3人をマークしてしまったのは事実だ。俺は秋葉の弟ということで、3年間ずっとマークされてたけど。

 

 

「まさかカバンの中に入ってるタオルの匂いまで嗅ぎつけるとは……」

「零君の匂いなら遠くからでも嗅ぎ分けられるよ♪それに、嗅いでるだけで身体が疼いちゃうし♪」

「ことりは自分の部屋に零くんの服、ずっと飾ってあるよ♪匂いが取れないように真空パックに入れて、いつでも嗅げるようにしてるんだ♪」

 

 

 その瞬間、俺の背中に悪寒が走った。

 俺を愛してくれるのは嬉しいが、この2人の場合は愛の方向があらぬ方向へ捻じ曲がっている。微妙にヤンデレ臭がするのは俺だけか!?

 

 

「そろそろ俺の服を返してくれませんかねぇ!!」

「え、零君の服?ちょっとカピカピになってるけどいいの?」

「カピカピって、穂乃果お前何をした!?勝手に人の服にブッ掛けてんじゃねぇぞ!!」

「えへ♪我慢できなくてつい♪」

 

 

 くそぅ、この可愛い笑顔を見ると何があっても許したくなる。それに俺の私物で俺を妄想に自分磨きをしてくれるのも、ちょっぴり嬉しかったり。こうなると素直に怒れないのが複雑だな……。

 

 

「ことりなんて零くんの服を着ながら自分磨きしてるもん♪」

「自慢気に語ってるけど、ただ変態なだけだからな!?」

「週に8回もやってるから、もう服がヨレヨレだよ♪」

「な、なんだと……!!」

 

 

 数ヶ月前、秋葉に変なメガネを掛けられた時に見た、ことりの自分磨きの回数は7回だったはずだ!?何故か1回増えているんですけど!?週のどこかで1日2回やってるってことだよな……?どれだけ欲求不満なんだよ……。

 

 

 

 穂乃果とことりの淫行に四苦八苦しながら対応していると、後ろから怒りを込めた声、そして背中を突き刺すような禍々しいオーラを感じた。

 

 そう、この雰囲気は……今まで一切喋っていなかったアイツだ。

 

 

「あなたたち、いい加減にしなさい……」

「海未……」

「「海未ちゃん……」」

 

 

 こ、これはマズイ!!激怒大明神海未様のお怒りじゃぁあああああ!!

 さっきの会話をずっと聞いて遂に堪忍袋の緒が切れたのか、目尻を険しく釣り上げて、憤怒の念がこれでもかというくらいに噴出している。まだ一言しか喋っていないのに、俺たちがここまで海未の激昴を感じられるのは、やはりコイツに怒られることに慣れっこだからだろうか。

 

 

「と、とりあえず落ち着けよ……ここは教室だし、な?」

「これが落ち着いていられますか!!黙って聞いていれば破廉恥な会話ばかり!!周りに私だけだったらまだ許せます!!でもここは教室なのですよ!!零はともかく、穂乃果とことりは生徒会でありスクールアイドルでもあるのですから、もう少し節度を守って生徒のお手本になるように振舞わなければダメでしょう!?」

 

「うっ!!」

「ひぃ!!」

 

 

 海未の放った言葉の弓矢が俺たちの心の的にグサグサと刺さる。穂乃果とことりが心臓を抑えてちまったぞ……。

 確かにこんな淫乱な生徒会長が生徒を引っ張っていくなんて……これは音ノ木坂学院の全校生徒を、ピンク色の脳に染める性悪な計画なのかもしれない。だって理事長もあんな性格だしなぁ……。

 

 それにしても、俺はともかくってどういうことだよ!?海未の奴、俺を更生させることをもう諦めてるじゃねぇか!!ようやく分かってくれたかと喜ぶべきなのか、構ってくれなくなって寂しいと思うべきなのか、どちらにせよ納得いかねぇ!!

 

 

「この際ですので言わせてもらいますが、最近のあなたたちの言動は淫ら過ぎます。これは生徒会やスクールアイドル以前に、女性として問題があると思うのです」

 

「うぐっ!!」

「ちゅん!!」

 

 

 女性としての是非を疑われるとなると、そりゃあダメージも大きいわな。穂乃果とことりが淫乱っ娘になってからというもの、2人は海未の苦手な淫乱語録を連発することによって散々彼女を苦しめてきたが、そのツケを全てここで支払うハメになったか。

 

 

「うぅ……だって夜の自分磨きだけだったら、零君への愛が止まらないんだもん」

「ことりも1人だけでスるのは満足できないよ……」

 

 

「それが問題だと言っているのです!!」

 

 

「「ひぃ!!」」

 

 

 ここまで来て夜の自家発電を主張するとは……怒られていたとしてもブレないな。俺の無駄なところまで彼女たちに伝染してしまっているようだ。

 

 

 穂乃果とことりはお互いに抱き合って、海未から注がれる激怒と恐怖を必死になって耐えている。海未は額に青筋を張らせ、俺の見たことのないもの凄い剣幕で癇癪玉を爆発させていた。

 

 コイツら、よくここまで幼馴染をやってこらたな……いや、むしろ感情を思う存分剥き出しにできるからこそ幼馴染なのかもしれないが。

 

 

「決めました。穂乃果とことりにはこの秋、受験とラブライブ以外にもう1つ目標を立ててもらいます。それは――――」

 

 

 すると突然海未はA4サイズの紙を取り出し、その裏に筆ペンで大きく文字を書く。俺たちからは海未の背中が邪魔で何を書いているのかは見ることができないが、その背中の迫力と真剣さたるや、(恐らく)蚊帳の外であろう俺も萎縮せざるを得ない。

 

 

 そして海未は筆ペンを置き、紙を右手にこちらへ振り返る。

 

 

 

「あなたたちの目標はこれです!!」

 

 

 

 遂に穂乃果とことりの前に、達筆な字で書かれた目標が掲げられた。

 その瞬間、2人は目を丸くする。それもそのはず、その紙に書かれていたのは、漢字2文字で――――――

 

 

 

 

『禁欲』

 

 

 

 

「う、海未ちゃん!?禁欲ってどういうこと!?」

「そのままの意味です。日常生活で淫猥な言動が多いのは、普段から性欲に従順になりすぎているせいだと考えました。あなたたちにはこの目標を何としてでも達成してもらいますから。最悪雪穂や理事長にも協力を要請するのでそのつもりで」

「そ、そんなの横暴だよ海未ちゃ~ん!!ことりたち、受験勉強やラブライブに向けて一生懸命頑張ってるんだよ!?」

「甘えですね。それはそれ、これはこれです。甘えなどという心の弱さは今すぐにでも捨てるべきなのです」

「海未ちゃんの鬼!!悪魔!!」

「何とでもいいなさい」

 

 

 ここで『貧乳!!』と叫びたくなった俺は間違ってないよな?ないよな!?でも今の海未に対して火に油を注ぐほど俺も馬鹿ではない。

 そんなどうでもいいことはさて置き、これはかなり本気だぞ。海未が穂乃果に対して厳しいのはいつものことだが、ことりに対してもここまで厳粛な対処を取るとは……。

 

 

「まあまあ、お前も少し落ち着けよ。一応教室なんだし……な?」

「零……」

「な、なに……?」

 

 

 海未は目くじらを立てて俺を睨みつける。

 こ、この全身を弓矢で射抜かれるような目線は、確かに精神的にもダメージを被る。メデューサの眼に見つめられたかように動けなくなってしまったんだが……。これは穂乃果やことりが抱き合って怯える訳だ。

 

 

「そもそも、穂乃果とことりがこうなってしまったのはあなたのせいでしょう?」

「う゛っ!!反論できない……」

「本来はあなたの方を更生させる予定でしたが、あなたと出会って1年間の経験上、それは不可能だと判断しました」

「やっぱり諦めてたのか……」

「ですが、だからと言ってあなたの淫猥な言動を許すつもりはありません。これからは今まで以上に厳しく取り締まるので、覚悟してくださいね♪」

 

 

 なんだなんだ最後のドス黒い笑顔は!?まさに俺を痛み付けることで悦びを感じるドSの顔じゃねぇか!?海未の雰囲気的にも、ドSキャラは全然似合うから余計に怖いんだが……。

 

 

「俺のことはその対処でも別にいいけど、目標のことに関して言えば、いきなり禁欲はキツイと思うぞ?」

「もちろん重々承知しています。なので1週間の禁欲からスタートにしようと考えているのですが、それでいいですか?」

 

 

 海未は絶望に打ち拉がれている穂乃果とことりに向かって言葉を投げかける。

 だがその時、穂乃果とことりはかなり焦った様子で海未に詰め寄った。

 

 

「そ、そんなの無理だよ海未ちゃん!!穂乃果、1週間も自家発電できないと死んじゃう!!」

「ことりは毎日シてるんだよ!?1週間なんて絶対にもたない!!途中で絶対零くんを襲っちゃう!!」

「襲うとか……マジっすか」

「穂乃果もことりもその発言がいけないのです!!もっと言動を慎みなさい!!零も発情しない!!」

「してねぇよ!!襲ってくれるのは嬉しいけどしてねぇから!!」

 

 

 相変わらず教室でギャーギャーと騒ぎ立てる俺たち。俺たちの教室前の廊下を通りかかった生徒ならば、生徒会役員かつμ'sのメンバーである彼女たちが騒いでいることに驚愕するだろうが、俺たちと同じ教室の生徒は『あぁ、またいつものか』といった顔で気にしてすらいない。訓練されすぎだろ……。

 

 

「ことりちゃん!!こうなったらアレをやるしかないね……フフフ」

「そうだね穂乃果ちゃん♪海未ちゃんに……フフフ」

「なんですかその不気味な笑みは……?」

 

 

 立場が逆転した訳ではないが、さっきまで絶望に染まった目をしていた2人が急に不敵な笑みを見せ、海未の肩をガッチリ掴み逃走を不可能にする。逆に海未は2人の変貌具合に若干押され気味になっていた。

 

 穂乃果とことりのこの顔は、明らかによからぬことを考え、それでいてどうしようもないことを2人で結託して実行しようとしている時の顔だ。同棲生活中、俺の私物を盗みやがった時もこんな顔をしていたから。

 

 2人がどのような経緯で幼馴染になったのかは知らないが、まさしく出会うべくして出会った関係だな。ここまで似た性格で以心伝心ができるところを見ると、そう思わざるを得ない。

 

 

「海未ちゃんにえっちなことをもっと分かってもらえれば、穂乃果たちの気持ちも理解してもらえるよね♪」

「だから今から海未ちゃんに、女の子というものを知ってもらいま~す♪」

 

 

 な゛っ!!まさかの百合展開だと!?

 俺は断然異性交遊派なのだが、ソフトなプレイに限り百合でも認めている。もちろん俺が支配する環境の中のみでの話だけどな。

 

 幼馴染組3人の百合プレイ……これは高みの見物と洒落込むしかない。おっと、この光景を他の奴らには見られたくないので、3人には別の場所でヤってもらわなければ……。

 

 そして3人がお互いをお互いに弄り合って疲れたところを、俺がまとめて頂くと。うん、いいシナリオだ!!

 

 

「いつまでも私が、あなたたちの淫猥なる言葉責めに屈してばかりいるとでもお思いで?返り討ちにしてあげますよ」

「おっ、海未ちゃんやる気だね~、いや、ヤる気だねぇ~」

「ちょっと言葉のニュアンスが気になりましたが、もういちいちそんなことでは動じませんよ」

「これはこれは、面白くなりそう……遂に海未ちゃんをことりのおやつに!!」

 

 

 穂乃果もことりも海未も、みんなやる気だと!?いや、ヤる気だと!?

 け、携帯の容量は大丈夫か!?動画を撮っている間に容量が一杯になるとか、充電が切れるとかハプニングはやめてくれよ!!

 

 蚊帳の外だけど漲ってきたぁあああああ!!

 

 

 

 

 だがここで、俺の後ろから轟々しい気配を感じた。

 こ、この感覚は……ま、まさか……!!

 

 

 い、今の時間は――――――!?

 

 

 あっ、じゅ、授業が既に始まっている……!?そしてこの教科の担当は――――――

 

 

 

 

「おいお前ら、授業時間なのにまだバカ騒ぎしているとは……いい度胸をしているじゃないか」

 

 

 

 

「「「「さ、笹原先生……」」」」

 

 

 だが気付いた頃には時すでに遅し。俺たちの後ろで仁王立ちをして、その物々しい姿から、真っ黒な炎が燃え上がっているような激怒を感じる。ちょっと動くだけでも焼却されてしまいそうな憤激を、教室全体に禍々しく振りまいていた。

 

 身体の芯から悪寒が生まれ、全身を駆け巡った。体調が悪い訳でもないのに、身体の小刻みに震えて止まらない。

 

 

 あの秋葉を抑制していた先生だ。俺たち4人をシバき上げることなど造作もないだろう。

 

 

「夏休みを終えて少しはマシになったかと思えば、やはりお前らはお前らだったようだな。なぁ神崎?」

「だからなんで毎回俺を目の敵にするんですか!?騒いでたのは穂乃果たちですよ!!」

「どうせ高坂たちが騒いでいた理由も、元を辿ればお前が元凶に決まっている」

「ぐぅ……」

「図星のようだな。罰として、今回も1週間の屋上掃除だ」

「はぁ!?またですか!?」

「文句があるなら簡潔に言ってみろ」

「な、ないです……」

 

 

 確かに元を辿れば俺が穂乃果とことりを堕天使色に染め上げたのが悪いんだけど、なんか納得いかねぇ!!騒ぎ立てたのは穂乃果とことりが海未を言葉責めにするとか言い出したからで、俺完全に部外者だったんですけど!?

 

 

 なぁ~んて言っても聞いちゃくれないだろうなぁ……。

 

 

 

 

「高坂、南、園田」

「「「は、はい!!」」」

「お前らもだぞ」

「「「は、はい……」」」

 

 

 さっきまで若干百合百合モードだった3人も、笹原先生の前では形無しだな。

 そりゃあこんな殺意に満ちたオーラをプンプン醸し出されたら逆らうに逆らえない。もう俺はこの先生に何度頭を殴られ、何度俺の脳細胞が死滅したか分からないからな……。

 

 

「はぁ~……また巻き込まれてしまいました。でも私も感情的になり過ぎたことは事実ですね」

「じゃあ穂乃果たちの禁欲はなし!?」

「それはやめません。禁欲も掃除も頑張ってください」

「そ、そんなぁ~……」

 

 

 

 

 こうして穂乃果とことりは屋上掃除というオマケ付きで、今日から1週間禁欲生活をすることになった。

 

 

 本当に大丈夫!?!?

 

 

 




 果たして穂乃果とことりは一週間禁欲できるのか!?


 そんな訳で新章がスタートしました。話の冒頭で零君も言っていた通り、秋にはイベントがたくさんあるので書けるのならば出来るだけ書いていこうと思っています。まずはとりあえず、この話の一週間後を書かなければいけませんね(笑)

 1週間の禁欲とか余裕だ!!と思っているあなた、かなり正常ですので自慢していいですよ。むしろ1週間も我慢できないあなたはこっち側の人間です!!
私ですか?そんなもの1日も我慢できる訳(ry


そしてここからは本編とは全く関係がないのですが、11月7日に私が小説投稿から一周年、そして新日常も同時期に100話を突破するということで、11月にちょっとした企画を立てるつもりです(もう水面下で進行してますが)。
新作小説ではないのですが、『新日常』の一風変わった話がたくさん見られると思うので、是非ご期待ください!!
投稿は11月1日からを予定しています。参加人数は今のところ19人の予定です。真面目な回からえっちぃ回まで様々なネタを取り揃えています!


新たに高評価をくださった、

Bナイトさん、ユカタびよりさん、 めっしゅさん

ありがとうございました!


次回のタイトルは『μ's、100万円を手にする』です!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

μ's、1000万円を手にする

 突然1000万円が手に入るとしたら、皆さんは何に使いますか?そもそも1000万を一気に使い込むことなんて、一般庶民には不可能な気もしますが……。

 今回は金に目と欲が眩んだμ'sのお話。

 ちなみに登場人物は3年生組であることほのうみを除いた10人。しかも部室に全員集合状態なので、誰が喋っているのかは皆さんの妄想力に委ねられます!(笑)


 ではどうぞ!


 

「秋になったとはいえ、まだまだ暑いな……特に屋上掃除は」

 

 

 笹原先生からの1週間屋上掃除命令と、海未から穂乃果とことりへの1週間禁欲命令から2日が経過した。

 

 屋上掃除に関しては夏より多少涼しくなったとは言えども、そこそこ広い屋上を掃除するのはかなり大変であり、しかもその間ずっと太陽の日に照らされるので、半袖半ズボン+タオル+水分は秋になってもまだまだ必須のアイテムだ。正直な話、俺たち4人にとって屋上掃除の罰など日常茶飯事なので、今更文句を垂らすこともないしする気もない。

 

 

 

 

 問題は穂乃果とことり、あの2人だ。

 

 

 

 

 流石に2日程度なら我慢できると俺も海未も思っていたのだが、目論見は見事に外れた。

 登校中も、授業中も、昼飯の時も、掃除も、生徒会業務も、魂が抜けたように呆然としていた。普段とキャラが違いすぎて、クラスメイトからも驚愕されるレベル。休み時間には海未にバレないよう欲求不満を改善するため、こっそり俺を校舎裏に連れ去るほどだ。

 

 見るに見兼ねた海未は、勉学や生徒会業務に支障が出ることを最大の危機として捉え、1週間の禁欲期間を2日に縮めた。今はまだ耐えられなくても、徐々に禁欲期間を伸ばしていった方がアイツらの効率的にも精神的にも都合がいいしな。

 

 

 結局俺の予想通り、2日も持たなかった訳だ。でもアイツらが放心状態になるのも分かるよ。俺だって毎日してるもん。あっ、野郎の回数なんていらない情報だったか。

 

 

 近況報告は以上。どのみち穂乃果とことりの地獄が先延ばしになっただけなのだが……。

 

 

 

 

 穂乃果たち3人はしばらく生徒会業務に従事するということで、俺は1人で部室に向かっている。ただでさえ屋上掃除で時間を奪われたのに、これ以上遅れると絵里たちが大学から来ちまうぞ。

 

 

 急ぎ気味で部室に入ると、そこには2年生組と1年生組が既に集まっていた。何やら埃の被ったダンボールを出して――――

 

 

「お~っす、何してんだ?部室が埃臭いんだが……」

「あっ、お兄ちゃんいいところに!!このダンボール、部室の物置から見つかったんだけど誰のか分かる?」

「ダンボール?知らねぇな」

 

 

 そもそもこのアイドル研究部の部室に置いてあったモノって、一度3月ににこが全部持って帰らなかったっけ?だったらにこのモノなんじゃねぇのか……?

 

 

「それにしても物置か、そういやそんなのもあったなぁ~。話題にすら上がらないから忘れてたよ。誰にも見向きもされなかったら、そりゃあ埃も溜まるわな」

「去年の大掃除はみんなが遊び過ぎて、結局部室と更衣室しか掃除しなかったものね」

「真姫も一緒に凛と騒いでただろうが」

「去年の大掃除かぁ~懐かしいにゃ~♪あの時の涼しさが恋しいよ」

 

 

 去年の年末に、寒さに耐えながら部室の大掃除をしたっけ。あの時はGが出て阿鼻叫喚の図になっていたり、校舎内に誰もいないのをいいことに追いかけっこをしていたりと散々だったな。真姫の言った通り、ふざけていたせいで時間が押してしまい、物置だけは掃除ができなかったんだ。

 

 

「それにしてもどうして急に物置を漁ったりしたんだ、花陽?」

「新しくμ'sを結成してから、また部室にモノが増えてきたからそろそろ掃除をしようと思ってたんだ。それだったら去年できなかった物置の掃除もしようかなぁ~って。部長として、部室を清潔に保つのも私の役目だから」

「部長?あぁ、そういやお前ってアイドル研究部の部長なんだっけか。忘れてた」

「えぇ!?それはヒドイよぉ~!?」

 

 

 今の今まで花陽が部長らしいことしてきたっけ?そもそも部長と公言していたのかすらも怪しいが。もしかして、始めて"部長"という肩書きを発揮した瞬間なのかもしれない。生徒会の部活会議には参加してるらしいけど、俺行ったことないから。

 

 

「とにかく、この中に何が入っているのか確かめましょう!!こうやって物置の奥にある得体の知れないモノを開封していくのって、とてもワクワクします!!」

「なんだ亜里沙、お前そんな冒険心に満ち溢れている奴だったっけ?」

「いつものことですよ。音ノ木坂やUTXのオープンキャンパスの時なんて、校舎の隅々まで引っ張り回されましたし」

「去年から苦労してんだな、雪穂……」

 

 

 亜里沙は目を輝かせながらダンボールの口に手を掛けている。

 何でもかんでも興味を持つのは結構なことだが、亜里沙ってどこか危なっかしいからハラハラするんだよな。怪しい男についていかないよう、お兄さんが守ってやらないと。

 

 

 すると部室のドアが突然開いて、ダンボールに集中していた俺たちの胸が少しドキッと音を立てた。

 

 

「こんにちは、みんな揃ってる?」

「穂乃果ちゃんたちは……生徒会みたいやね」

「全くそんなもの、にこたちが来る前に終わらせておきなさいよ」

 

 

 ここで大学生組のお出ましか。生憎だが今日全員が集合するのはもっと後になると思うぞ。教室で淫語を連発し過ぎて、その罰で屋上掃除をしてました~なんて恥ずかしくて言える訳ねぇな。

 

 

「あっ、そのダンボール!!まだあったんだ」

「にこちゃんこのダンボールの中身を知ってるの?」

「いや、知らないわ」

「どっちなんだよ……」

「存在自体は知ってたけど、中身までは知らないのよね。にこがこの部室に入り浸っていた時には既にあったものだし」

「そんな前からあったのかよ……まあいいや、とりあえず開けてみようぜ」

「私が開けます!!」

 

 

 絵里たちに事のあらましを伝え終え、1人だけやけにハイテンションの亜里沙がダンボールの口を勢いよく開ける。

 大きなダンボールだからどれだけ大きい荷物が入っているのかと思いきや、工具や小さな部品らしきものがたくさん入っているだけだった。

 

 

「なにこれ?もっと面白いものだと思ってたのに、ガラクタばかりでつまんないにゃ~」

「なにかの工具みたいやけど、見たことのない形のモノばかり……」

「ペンチとかやすりとかもあるけど、昔のアイドル研究部って何をしていたのかしら……?」

 

 

 工具や部品と言っても、俺たちにとっては見慣れないものばかりだ。凛の言う通り、このままだとただのガラクタの集合にしか見えない。でもわざわざ物置の奥に大切そうに保管してあったということは、それなりに価値の高いものである可能性もあるな。

 

 ダンボールの中身を取り出していくと、底の方に大きな黒い物体が見えた。

 俺たちはその物体以外の工具や部品らしきものを全て机の上に並べ、ダンボールの底一杯を占める黒い物体を引っ張り出す。

 

 

「これってもしかして、ギターケースなんじゃないですか?」

「ギターにしては小さすぎるんじゃない?お兄ちゃん、これってもしかして――――」

「あぁ、ギターじゃなかったら恐らく……」

 

 

 形状的にはギターケースのようだが、大きさはギターケースよりも一回り小さい。更にこのケース、かなり痛んで相当年季を感じられる。ここ3、4年前の……いや、恐らくもっと前からあったに違いない。

 

 俺は適当にケースの埃を拭った後、留め金を外してケースの蓋を持ち上げた。

 

 中に入っていたのは――――

 

 

「やっぱりヴァイオリンか。しかもこの古臭さ、かなりアンティークっぽいな」

「弦も痛んでるし、張り替えなきゃ弾けそうにないわね」

「でもどうしてアイドル研究部の物置にヴァイオリンが……?」

「そう言えば私が生徒会長をやってた頃に、昔の部活リストを見つけて眺めていたことがあったんだけど、その中にヴァイオリン部があったわ。中々オシャレな名前をしているから、印象に残ってるよね」

「じゃあこれはそのヴァイオリン部の部員か顧問の私物なのか……?」

「あれ?ケースの中に紙がありますけど……」

 

 

 雪穂はバイオリンの下敷きになっていた、ヨレヨレでシワシワになっている2つ折りの紙を取り出した。そこには学年と出席番号と思われる数字と、名前が英字の筆記体で書かれているみたいだ。

 

 

「えぇ~と、これなんて読むんだろう……お願い楓!!」

「なになに……Autumn Leaf?"秋"と"葉"ってことだよね?あっ……このヴァイオリン、お姉ちゃんのだ!!」

「えぇっ!?秋葉さんのものだったのォ!?」

「どうして先輩のヴァイオリンが物置にあるのよ……そもそもヴァイオリン部だったっていうのが意外だわ」

「アイツがヴァイオリンを弾いてるところなんて見たことないんだけどな……とりあえず電話して聞いてみるか」

 

 

 このまま、『ヴァイオリンが見つかりました、でも他人のモノなのでどうしたらいいのか分かりません、はいしゅーりょー』では面白くないので、このヴァイオリンの行く末を秋葉に聞くことにした。あの研究バカがヴァイオリンを演奏したことがあるなんて初めて知ったぞ……。

 

 

 とりあえず秋葉に電話をしてみると、まさかのワンコールで出やがった。暇人かよ!!

 

 

『零君?急にどうしたの~?』

「アイドル研究部の物置でヴァイオリンが見つかったんだけど、これお前のだろ?名前が書いてある紙も一緒に入ってたぞ」

『ん?ヴァイオリン……?あっ、そう言えばそんなモノもあったねぇ~。もういらないからそっちで処分しちゃってもいいよ』

「あのなぁ~、処分にも手間が掛かるんだぞ」

『へへっ♪聞いて驚け!!通話をしながらそのヴァイオリンの買取価格を調べたんだけどね、実は――――――』

「え゛っ、ま、マジで!?!?」

 

 

 秋葉から言い渡された売値は、文字通り目が飛び出るくらいの金額だった。思わず大声を出してしまったため、みんなの肩をビクつかせてしまうほど驚かせてしまったのだが、これは声を上げざるを得ない。

 

 

「零君どうしたんかなぁ~?急に顔色が変わったけど……」

「あの零が本気で動揺するなんて珍しいわね……」

「ヴァイオリンを凝視したまま硬直してますよ!?大丈夫ですか零くん!?」

 

 

 周りは俺のことを好き勝手言っているようだが、どんな言葉も右の耳から左の耳を通り抜けていくため全く頭に入ってこない。秋葉の口から語られた衝撃の真実により、口をあんぐりと開けて固まることしかできなかった。

 

 

『それじゃあまたそのヴァイオリン行く末のこと聞かせてね♪バイバ~イ♪』

「あ、あぁ……」

 

 

 最後はロクに応対もできず、秋葉の言葉をただただ一歩的に聞き入れるだけで通話が終わってしまった。

 だがこんな事実を突きつけられたら、誰でもそうなるに決まってんだろ!!

 

 

「どうしたんですか?さっきから顔色が優れませんけど……」

「雪穂、みんな……このヴァイオリンだけどな、アイツは俺たちでこいつを売ってきてもいいと言ってきたんだ」

「なによそれ、どうして私たちがわざわざ行かなくちゃならないのよ」

「真姫、聞いて驚くなよ。どうやらこのヴァイオリン……"1000万"で売れるみたいなんだ」

「は…………?」

 

 

 その瞬間、真姫だけではなくみんなの顔色が変わり、部室全体の空気が凍りつく。『一体この変態バカは何を言っているんだ?とうとう頭がおかしくなったか』みたいな顔で、一斉に俺の顔を凝視したまま動かない。

 

 俺の頭がおかしいのは元々なんだけどな!!――――自分で言ってて虚しくなってきた……それはそれでいいとして、こんな状況で嘘を付くほど、俺は悪魔ではないぞ。

 

 

「れ、零。本当ならもう一度言ってくれる?にこたちの聞き間違いかもしれないし……」

「だからこのヴァイオリン……"1000万"で売れるみたいなんだ」

 

 

 

 

「「「「「「「「「い、いっせんまん~~~~!?!?!?!?」」」」」」」」」

 

 

 

 

「えぇい!!同時に叫ぶな頭に響く!!」

 

 

 ただでさえ俺も気が動転しているのに、これ以上脳内に追い討ちを掛けないでくれ!!このままだと確実にショートしちまうから!!俺だって携帯を持っている手が震えて制御できないんだからな!!

 

 

「い、いいいいっせんまんって、どんな金額!?ご飯何杯食べられるのかな!?!?」

「GOHANYAで売っている、通常サイズの白米は1杯100円だ。つまり1000万あれば10万杯食べることができる。1日3杯食べるとしても、33333日連続で同じサイクルを繰り返せるから、年単位に換算すると91年、もう一生ご飯には困らないな」

「ぴゃあああああああああああああああああああああああああ!!すごいですすごいですすごいです!!一生ご飯を食べ続けられるなんて夢のようです!!」

 

 

 花陽のテンションの上がり具合が異常過ぎて、このまま昇天してしまいそうなんだが……眼が完全にイっちまってるぞ!?飲酒して酔ったらこんなテンションになるのか……?今までご飯やアイドル関係のことでテンション爆上げになることはよくあったが、ここまで暴走するのは後にも先にももうないだろうな……。

 

 

「ねぇねぇ零くん!!ラーメンは!?ラーメンはどれだけ食べられるの!?凛たちがよく行く店で一番豪華な、こってり豚骨チャーシュー麺温玉付きはどうなの!?」

「確かそのラーメンは900円ぐらいだったから、1000万あれば11111杯。つまり1日1杯のペースだと11111日、年換算で30年といったところだな」

「にゃぁああああああああああああああああ!?!?30年もあの豪華ラーメンを食べることができるの!?今まで高くてあまり手が出せなかったけど、これからは毎日食べに行くにゃ~♪」

 

 

 そんなこってりとしたラーメンを毎日食べてたら、30年に到達する前に高血圧で死んじまいそうだな。でも今の凛ははぁはぁと吐息が荒くなるほど興奮していて、俺の忠告など聞く耳持たないだろう。もうこれからずっとラーメン漬け生活を送るつもりだ、コイツ……。

 

 

「お前は冷静なんだな、真姫」

「まあ1000万のヴァイオリンなんて家にもあるし。さっき驚いたのは、この部室からこれだけ高価なヴァイオリンが発見されるとは思わなかったからよ」

「今だけはその余裕の表情が羨ましく見える」

「今だけはってどういうことよ!?今だけはって!?」

 

 

 流石はお嬢様と言うべきなのか、真姫は腕と脚を組んで座りながら、暴走する俺たちを呆れた目で眺めている。そういや真姫の家のピアノも相当なお値段とお聞きしたことがあるな……100万の楽器でも恐れ多くて触れられないのに、1000万の楽器ともなれば俺の穢れた目で見ることすらも申し訳なくなってくる。

 

 

「「ハ、ハッ、ハラ、ハラ…………ハラショーーーー!!!!」」

「はい久々のWハラショー頂きましたぁ~」

「お、お姉ちゃん!!れ、零くん!!い、いっせんまんですよいっせんまん!!」

「お、落ち着きなさい亜里沙!!こ、こんなことで由緒正しき絢瀬の家系の人間が動揺しちゃ、だ、ダメなんだから!!あ、絢瀬たるもの、つ、常に優雅であるべきなのよ!!」

「で、でもいっせんまんあればどんなモノでも買えちゃうんだよ!?お姉ちゃんが大好きなチョコレートだって……!!」

「ハッ!!それは盲点だったわ!!」

「おいお前ら……」

「「ハ、ハッ、ハラ、ハラ…………ハラショーーーー!!!!」」

「もういいって!!2回もハラショーはいらん!!」

 

 

 なにが絢瀬は常に優雅であるべきだよ……2人共ただのポンコツじゃねぇか!!絵里に関しては、こんな生徒会長でよく今まで学院の秩序が守れていたな!?今のコイツを見ていると、まだ穂乃果の方がマシに見えるレベルだわ!!亜里沙も亜里沙で気絶しそうなくらい目を回してるし……大丈夫かよ絢瀬の家系。

 

 

「フフフ……フフフフ!!」

「に、にこっちが負の方向に壊れ始めた!?零君に1週間以上会えなかった時と同じ顔をしてる……」

「にこも堕ちたか……頑張って家計を支えてるもんな、仕方がない。でも希は冷静なんだな」

「もちろん驚いてはいるんやけど、1000万って金額が大きすぎてイマイチ受け入れられてないって感じかな、ハハハ……」

「毎月これだけ家計に回しても、これだけのアイドルグッズを買うことができる。それだけじゃなくて洋服や人形、部屋のインテリアまで可愛くできちゃいそう。これって、天国?……フフフ、フフフフ!!アハハハハハハ!!」

「笑い方が完全に悪役だぞ!?」

「にこっちの黒い部分が全部表に出てきてる。にこっちがこうなったら、いつ暴れだすか分からへん……」

 

 

 にこは携帯を見ながら高らかな笑い声を部室に響かせる。俺に会えない時も同じことしているのかよ……にこじゃなくてにこの周りの人に迷惑を掛けているみたいで罪悪感なんだが。

 希は至って冷静に見えるが、凛同様息遣いも荒く目を丸くしたまま元には戻っていないため、それなりに1000万という高額に興奮を煽られているのだろう。まぁお金に興味がない学生がいない訳ないからな。

 

 

「1000万あれば、お兄ちゃんと私の部屋を1つにして、外に音が漏れないように部屋を防音加工して、ベッドはエッチ用に腰が痛くなりにくいフカフカなモノに変えて、照明はムード満点のロマンチックな――――」

「楓の中で俺の家が恐ろしい改装を遂げようとしているんだが……もうラブホテルじゃねぇか」

「家がラブホだったら毎日にゃんにゃんできるよね♪」

「毎日とか俺が持たねぇよ!!俺はそこまで絶倫じゃない!!」

「へぇ~ヤる気はあるんだねぇ~♪」

「お前なぁ……」

 

 

 ああ言えばこう言う……例え1000万が手に入ったとしても、家をラブホに改装するのだけは絶対に阻止してみせるからな!!そういうのに興味がない訳ではないけど、近所の人に『お宅、ラブホなんですって?』って言われたら、なんて返していいのか分からねぇよ!?

 

 

「雪穂は1000万の使い道とか考えてるのか?」

「…………」

「雪穂?」

「えっ、あっ、す、すみません!!ぼぉ~っとしてました!!」

「お前、ここにいる誰よりも気絶寸前だったぞ……」

「私も希先輩みたいに1000万というスケールの大きさが把握できていなくて……いざそんな大金を手にしても、何に使ったらいいのか迷いそうです」

「確かに庶民派の俺たちにとってはそうなるかもな……恐れ多くて使えなさそう」

「無難に将来のために貯金ですかね」

 

 

 欲に駆られない堅実さに惚れて、今にも雪穂を俺の嫁に迎えたくなったわ。今ここにはいない穂乃果とことりは確実に暴走するだろうし、海未も冷静そうに見えて気が動転すると絵里のように暴走してしまうからなぁ~。大金を安全に任せられそうなのは雪穂か真姫くらいしかいねぇじゃん……。

 

 

 でも1000万かぁ~。流石に独り占めはできないだろうけど、13人で山分けをしたとしても1人約77万円を手にすることができる。とてつもなく高価なモノに手を出すことはできないが、学生にとっては十分すぎるほどの大金だ。

 

 

「零君は考えているんですか?お金の使い道を」

「そうだなぁ~俺もお前と同じく、まだ迷い中かな」

「なぁ~んだ。あれだけツッコミを入れてたのに、お兄ちゃんも全然考えてないじゃん」

「甘いな楓」

「ん……?」

 

 

 

 

「俺はな、1000万という大金よりも、お前らの笑顔の方が俺にとっての宝物なんだ。お前らがずっと笑顔でいてくれるのなら、俺はそれで満足なんだよ。1000万の喜びなんかより、お前らのキラキラした可愛い笑顔を一生見ていたいな」

 

 

 

 

 さっきまであちこちで騒いでいたみんなが、急に黙りこくってしまった。

 やはり俺の発言がイケメン過ぎたせいだな。でも実際にこう思っているんだから仕方がない。また俺のことを好きにさせてしまったかぁ~~魔性の女ならぬ魔性の男って奴だな。

 

 

 だが楓は目を細め、ジト目で俺に目線を突き刺す。

 

 

「ふ~ん、じゃあお兄ちゃんは1000万いらないんだね」

「え゛っ!?」

「ホント!?じゃあにこたち1人1人の分け前も増えるわね!!」

「これでラーメンを食べ続けられる期間も増えたにゃ~!!」

「零君の分を貰ったら、ご、ご飯は何杯増えるのかな!?!?」

「「ハ、ハッ、ハラ、ハラ…………ハラショーーーー!!!!」」

「みんなまた壊れちゃったね……もうウチだけじゃみんなを制御できないかも……」

「はぁ~……」

「なにしてるのよ全く……」

 

 

 こ、コイツら!!俺がどんな気持ちであんなクサいセリフ吐いたと思ってんだ!?俺は金に目と欲が眩んだお前らの薄汚れた心を、綺麗に浄化してやろうと必死になってたんだぞ!?

 

 1000万なんかよりμ'sの笑顔、1000万なんかよりμ'sの笑顔、1000万なんかよりμ'sの笑顔、1000万なんかよりμ'sの笑顔、1000万なんかよりμ'sの笑顔…………

 

 

 

 

 だ、だけど――――――

 

 

 

 

「俺だって1000万欲しいんじゃぁあああああああああああああああああああ!!お前らだけで豪遊しようたってそうはいかねぇぞ!!!!」

 

 

「わっ、零くんが壊れたにゃ!!真姫ちゃんどうしよう!?」

「放っておきなさい。いくら強がったって、1000万には敵わなかったようね……無理しちゃって」

 

 

 そりゃそうだろうよ!!1000万なんて大金、人間だったら飛びつかない訳がないだろ!!指咥えて1000万を仲良く山分けされる様を見てるだけって、そんなもの我慢できるはずがない!!俺にも寄越せやぁああああああああああ!!

 

 

 頭に血が上って暴走している最中、突然俺の携帯が鳴り出す。画面を見てみると、通話相手は秋葉だった。

 なんだなんだ今忙しいんだよ!!1000万がコイツらに取られようとしているんだぞ!?

 

 

 とりあえず無視をするのは悪いので、今度はみんなに聞こえるようスピーカーモードにして通話に出る。

 

 

『やっほ♪大金を目の前にした、みんなの反応はどうだった?』

「みんなほとんど暴走してたよ!!俺もだけどな!!」

『あはは♪やっぱり面白いことになってた』

「や、やっぱり……?」

『よぉ~く考えてみてよ。1000万もするヴァイオリンを、私があっさり手放したりすると思う?』

「な゛っ……!?」

 

 

 その瞬間、すべてが繋がった。

 もしかして、いや、もしかしなくてもこのヴァイオリンは……!!

 

 

『本当に馬鹿だねぇ~君たちは♪そのヴァイオリン、ただの安物だから♪』

「お、お前……」

『あははは!!みんなが欲に眩んで暴走している姿を想像するだけでも面白いよ!!』

「て、てめぇえええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」

 

 

 もちろん怒りに震えているのは俺だけじゃない。ここにいる奴ら全員が、部室を包み込むような邪気を放っている。今までショタにされたり美少女にされたりスポンジにされたり……アイツの悪行に幾度となく苦しめられてきたが、今回だけは絶対に許せん!!

 

 人間の欲に付け込んで、弄り回して遊んだ罪は重いぞ!!!!

 

 

『あははは!!ダメだ、笑いすぎてお腹が痛い!!それじゃあまた詳しい話を聞かせてね♪ばぁ~い♪』

「お、おい秋葉!?――――切りやがった……」

 

 

 俺たちの心を弄るだけ弄って、大声で笑うだけ笑って、満足したから話を切ると。なるほどなるほど、如何にもアイツらしいやり方だ……。

 

 

 だが今回だけはやられっぱなしじゃ終わらねぇえええええええええええええ!!今に見てろ、こんのクソ野郎がぁあああああああああああああ!!

 

 

「ちょっとアイツを討伐してくる」

「私も行くよお兄ちゃん」

「凛も!!」

「にこも!!」

 

 

「はぁ~……何やってるのよあなたたちは」

「「「「「………」」」」」

「花陽?絵里?希?雪穂?亜里沙?も、もしかして放心状態……?全く、もう勝手にして……」

 

 

 唯一冷静な真姫に花陽たちを託し、俺たち秋葉討伐部隊は進行を開始した。

 その途中で海未に捕まり部室に引き戻され、モヤモヤした気持ちで練習することになったのはまた別の話……。

 

 

 秋葉……いつか絶対に仕返ししてやる!!

 




 儚く散る1000万の夢……(笑)


 今回は大金に目が眩んだμ'sのお話でした!
 もしμ'sが大金を手に入れたらという仮定で、どのキャラがどのような反応をするのか想像して書いていました。作中での描写の通り、冷静でいられるのは真姫と雪穂くらいだと思うんですよね~、雪穂も雪穂で本心は気が動転してそうですが(笑)


 次回は零君たち3年生組が、音ノ木坂学院に伝わる怪現象を解決するために、夜の学院を大冒険!


そしてここからは本編とは全く関係がないのですが、11月7日に私が小説投稿から一周年、そして新日常も同時期に100話を突破するということで、11月にちょっとした企画を立てるつもりです(もう水面下で進行してますが)。
新作小説ではないのですが、『新日常』の一風変わった話がたくさん見られると思うので、是非ご期待ください!!
投稿は11月1日からを予定しています。参加人数は今のところ19人の予定です。真面目な回からえっちぃ回まで様々なネタを取り揃えています!


新たに高評価をくださった、

さんぼる@唐揚げ好きさん、TRUTHさん

ありがとうございました!



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

音ノ木坂学院の怪(前編)

 今回は季節外れのオカルト話!
 音ノ木坂学院に広がる怪現象の噂。その怪現象に零君たち3年生組が挑む!

※先生についてはスクフェス参照

※今回の話は元ネタありです。


「はぁ?この学院が呪われてる?」

 

 

 まだ眠気が残る1時間目の授業中、俺の後ろの席である穂乃果が唐突にヒソヒソ声で話し掛けてきた。

 2学期の席替えで俺の後ろの席を陣取ってからというもの、授業中や休み時間を問わず嬉しそうに俺に話し掛けてくる。どうせ授業中に寝ちまうなら起きていた方が幾分かマシなのだが、それでも生徒会長なのかよ……。

 

 その穂乃果が口にしたのは、まさに胡散臭いオカルト話が始まりそうな言葉だった。残念ながら俺は、占いとかオカルトとかは信用しないタチなんだよ。もちろん実際に見せつけられれば手のひらを返す覚悟はある。

 

 

「ホントだよ!!昨日の生徒会会議でも議題に上がったくらいなんだから」

「もう学院中で噂になってるんだよ」

 

 

 俺の左隣の席のことりも穂乃果に便乗して話し掛けてくる。

 生徒会でそんなオカルト話が議題に上がるとは、生徒会も随分暇なもんだ。言い換えれば平和?俺としてはこの古臭い校舎を立て直すため、生徒の署名を集めた方が俺たちのためになると思うがな。

 

 

「どうせよくある学校七不思議ってヤツだろ?ピアノが勝手に鳴ってる~とか、階段の段数が数えるたびに違う~とか」

「そんな子供騙しじゃないよ!!ね?ことりちゃん」

「うんっ!!一週間前の早朝なんだけどね、この学院の生徒が美術室に入った時のことなの。その子は美術室の大きな絵が好きで、毎朝眺めに行ってたらしいんだ」

「あぁ、それで?」

「でもその日はいつもと美術室の様子が違って、気味が悪くなり教室に戻ろうとしたその時、彼女は見てしまったの!!」

「なにを?」

 

 

 

 

「美術室にある8体の石膏像全部が、その凍てつくような白い眼で彼女の方を睨んでたんだって!!」

 

 

 

 

 ことりは一旦間を置き、俺を怖がらせようとしているのか自分の顔を恐怖に震えた表情に変化させる。真夏の怖い話披露会じゃねぇんだから……。

 

 

「石膏像って、美術で使う人間の首から上の白い像のことだよな?偶然だろそんなの……」

「偶然じゃないよ。その彼女もそう思って確かめたらしいし」

「確かめた?」

「うん。その日の放課後、像と机に鉛筆で印を付けたんだ。像と机を一本の線で結んでね」

「なるほど、それで像が動かされていたら、線がズレて分かるって訳か。それで?」

「翌朝来てみたら、本当に動いていたんだよ。8体の像が、一晩の間に!!そしてその日以来、彼女は熱にうなされて今日も学校を休んでるみたい……」

 

 

 にわかには信じがたいがちゃんと確かめたということは、ただの偶然で片付けるのは賢い手じゃねぇな。美術部の部員が動かしたって説もあるから、考え過ぎなのかもしれないけど。

 

 

「穂乃果が聞いたのは、石膏像なんかよりももっとすごいんだよ!!」

「噂って1つじゃないのかよ……」

「保健室に気持ちの悪いお人形があるでしょ?」

「気持ちの悪いお人形って、それ人体モデルのことか?」

「そうそうそのお人形がね、4日前の夜に……」

「夜に……?」

「走ってたんだって!!廊下を凄いスピードで!!」

 

 

 穂乃果も一旦間を置いて、ことりと同じ恐怖に駆られた表情を俺に見せつける。

 どいつもコイツも、夏の風物詩はもう終わったんだよ……。

 

 

「……んなアホな」

「見てたのは1人や2人じゃないんだよ!!塾帰りの生徒が5人揃って見たって言ってたもん!!」

「そいつらが適当な噂を振りまいて、学院中が騒いでるのを面白がってるだけじゃねぇの?どうも胡散臭ぇなぁ~……」

 

 

 あの人体モデルが腕を振りながら全速力で走ってる光景なんて、俺だったら驚きを通り越して爆笑するまであるわ。想像するだけでさえ声が漏れてしまいそうなのに……。

 

 でももしその噂が本当であった場合、この音ノ木坂学院内で何かが起こっているのは間違いなさそうだな。ただのイタズラや偶然で済ますのはやはり得策ではないか……。

 

 

「ほら、海未ちゃんの話も聞かせてあげなよ」

「えっ、海未も何か見たのか?」

「穂乃果たちと同じ、言伝で聞いただけですよ。話したいのは山々ですが、今は授業中――――」

 

 

 

 

「そこの4人!!何コソコソ喋っているのですか!!静かにしなさい!!」

 

 

 

 

 も、もしかして……俺たちさっき怒られた?

 いや、難聴とかそういうのではなくて。俺たちの国語の先生、山内奈々子先生の声自体がことりや花陽と同等、もしくはそれ以上に脳を溶かすような甘ったるさがあるのだ。しかも声も高いため、どう聞いても怒っているようには聞こえなかったぞ……。

 

 

「山内先生って優しそうに見えるのに、意外と声を上げて怒ること多いよね」

「この2学期からの新任で、しかも教師として授業を教えるのも初めてだって聞いたから緊張してんじゃねぇか?」

「でもあの声で怒られても全然迫力がないんだよねぇ~」

「お喋りはその辺にしておきなさい。また怒られますよ」

「「「は~い……」」」

 

 

 俺の左後ろ、穂乃果の左の席の海未が、先生に怒られてもなお喋り続けていた俺たちを静止する。

 山内先生のことはいいとして、とりあえずこの学院のことについて詳しく調べてみた方が良さそうだな。先生に連絡は……しなくてもいっか。もし連絡して事の騒ぎが学院にバレ、その騒ぎでいつの間にか怪現象も消滅してしまいました~では面白くない。

 

 

 そう、面白くない。どうせまだ深刻な問題じゃないんだ。どうせなら怪現象の原因究明、ちょっくら楽しんでみるか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「変な人を見ただって?」

「はい。この学院の生徒2、3人が見たと言っていました」

 

 

 笹原先生からの罰として屋上掃除をしている最中、俺は海未に授業中聞けなかった音ノ木坂の怪現象について聞いてみた。話す本人が若干暗い顔をしているので、穂乃果たちの話よりかは現実的なのだろうか。

 

 そもそも怪しい奴が彷徨いている時点で、怪現象でもなんでもないような……。

 

 

「3日前の夜、私たちの教室で見たらしいのです」

「どうして夜に学校にいたんだ?」

「部室の掃除をしていたら、時間どころか完全下校時刻すらも忘れていたらしく、先生に見つからないようこっそり帰ろうとした時に見たと言っていました。真っ暗の教室の中に、大きな白いマスクを着けてウロウロしている不気味な人を……」

 

 

 明かりを点けずにしかもマスクまで……?穂乃果やことりの話よりかは現実的で、確かに気味が悪いな。でも警備員という線も考えられるから、まだ怪しい奴だと決まった訳じゃないけど……。

 

 

「その教室を彷徨いていた奴の顔は、誰も見てなかったのか?」

「えぇ。その生徒たちも気味が悪くなって、走って帰ったと言っていましたから」

「その後、先生には相談しなかったのか?」

「生活指導の笹原先生にしましたよ。しかし『分かった、対処する』と言ったきり――――」

「音沙汰なしって訳か……」

「はい……」

 

 

 あの堅物真面目の笹原先生が、いくら問題児認定されている俺たちからの頼みを無視するとは考えられない。たまたま怪しい奴の尻尾が掴めていないだけなのか、それとも……いや、俺の考え過ぎかもしれないけど。

 

 

 

 

「こら!!何騒いでるの!?ちゃんと掃除しなさい!!」

 

 

 

 

 ま~た山内先生に怒られたよ……もちろん声が甘々だから怒られている気は一切しないがな。

 そもそも何で山内先生が俺たちの見張りをしているんだって話だ。一昨日までは笹原先生が見張りに立っていたのに……。

 

 

「山内先生。なんか無理して怒ってない?穂乃果はそう思うんだけど……」

「新任だから緊張してるんだよきっと。慣れてくればことりたちにも優しくしてくれるよ♪」

「そうだといいんだけどな」

 

 

 先生の怒りの声に覇気が籠っていないのは甘い声だけが理由じゃない。穂乃果の言う通り、どこか自分を抑えながら怒っているようにも感じられるんだ。本当は怒りたくないのに、無理をして渋々怒っているみたいに……。

 

 

 その後も何度か全然甘ったるい怒りの声で俺たちの心が癒されながらも、1週間の屋上掃除にようやくケリを付けた。

 

 でもそんなことよりも今はこの学院に起きている怪現象のことだ。海未が言っていた人影も気になるし、学院の生徒に何かがあってからでは遅い。これは早急に調べる必要があるぞ。

 

 

 

 

 こうなったら、作戦決行は今晩だ!!不謹慎かもしれないが、ちょっとワクワクしていたり。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 深夜……と言っても夜の10時。教師や警備員たちも帰宅し、恐らくこの学院にいるのは海未の話に出ていた怪しい奴だけだろう。そう考えると、いつも何気なく通っているこの校舎が不気味な雰囲気を漂わせているように感じる。さながらゾンビが彷徨く廃校みたいな……割とオンボロ校舎だからシャレにならないところもあるけど。

 

 

 そんなことよりも、もっと気がかりなことが――――――

 

 

「どうしてお前らまでいるんだよ……来るなって言っただろ?」

「だっていつもテレビでしか見られなかった怪現象が、今穂乃果たちの周りで起こってるんだよ!?気になっちゃうよ!!」

「ことりも結構興味があるよ~。夜の学院を探索するって、あの時のRPGみたいで楽しいし♪」

「私は生徒会副会長として、学院の秩序を守るためにですね――――」

「はいはい分かった分かった。全くお前らは……」

 

 

 俺たちは校舎の前に集まり、各々興味本位でここへ来た理由を吐露していた。どうやら全員、受験勉強で俺の家に行っているという設定で家を抜け出してきたらしい。ちなみにそんな俺も受験勉強で海未の家に行くと楓に言ってきたから、コイツらと全く同じ思考なんだけどな。

 

 

「でもどうやって校舎に入ろう?扉も窓も全部閉まってるよね?」

「そんな時はこれを使えばいい!!」

「そ、それって……秋葉さんの発明品じゃないですか?」

「そう、鍵複製マシーン改二だ。これは鍵を複製するだけじゃなく、簡単な鍵なら無理矢理こじ開けることもできる。原理は知らなけども」

 

 

 こういう時にしか役に立たない秋葉の発明品を使って窓を開け、靴に付いている砂を丹念に払い校舎内に侵入する。折角極秘で潜入しているのに、靴で廊下が汚れるという凡ミスで後々罰を喰らいたくないからな。

 

 そして廊下に降り立った後――――――穂乃果たちが来る前に窓を閉めた。

 

 

「れ、零!?どうして閉めるのですか!?」

「危ねぇから、お前らは早く帰れ」

「零くんおねがぁい♪開けて?」

「うぐぅ……いくらことりのお願いでも、今回は危険かもしれないからダメだ」

「開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろぉ~!!」

 

 

 穂乃果は窓を両手でドカドカと叩く。

 コイツ、今の状況分かってんのか!?この校舎内に怪しい奴がいるかもしれねぇって言ってただろ!?そいつに音を聞かれて逃げられたらどうすんだよ!?

 

 

「分かった分かった!!入れてやるから窓叩くな!!」

 

 

 結局穂乃果の無茶な勢いに負け、3人を校舎の中に入れることにした。こんな大所帯でゾロゾロと、見つかったりしねぇのかコレ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 とりあえず俺たちは下駄箱に靴を置き、上履きに履き替えてから例の石膏像がある3階の美術室へと向かった。

 中はもちろん真っ暗で、微かな月明かりに照らされている石膏像がいい感じに夜の学院の不気味さを際立たせている。絵里が見たら魂抜けるだろうな……一度連れてきてみたいという俺のドS心が働く。

 

 

「電気、電気っと……」

「ダメだ穂乃果。無闇に明かりを点けたら、俺たちのことがバレちまうだろ」

「えっ?じゃあ何も見えないよ!?」

「懐中電灯くらいは持って来いよな……ないなら携帯の明かりで代用しとけ」

 

 

 8体の石膏像は美術室の奥にまとめて置かれていた。ことりの話では、朝にこの美術室に来た生徒が8体の石膏像に見つめられていたって話だったけど、今のこの配置を見るに目線はそれぞれ全く別の方向を向いている。

 

 

「ねぇねぇ零くんこれ見て」

「どうしたことり?」

「これだよこれ!!その生徒さんが付けたっていう鉛筆の跡」

「本当だ……」

 

 

 像と机の接点に、鉛筆で黒いL字型の印が付けられている。どうやらことりの話は噂じゃないみたいだな……。

 

 

「鉛筆の跡以外に、特に変わったところはなさそうですね」

「そうだな。像に仕掛けがある訳でもないみたいだし……ん?」

 

 

 像の額になんかくっついてる。これは……セロハンテープ?どうしてこんなものが像にくっついてるんだ……?。

 

 

「零く~ん、もう行くよ~!!」

「あ、あぁ……」

「次は保健室に行ってみよ!!」

 

 

 あまり有力な情報は得られなかったけど、像と机の印を見る限り、ただ噂話を流して騒ぎを引き立てようとしている奴がいる訳ではなさそうだ。この学院に何かが起こっているのは間違いない。海未の話に出てきた怪しい奴のせいなのか、それとも別の誰かがいるのか……もっと調べる必要がありそうだな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 俺たちは再び1階へ戻り、深夜廊下を全速力で走っているという滑稽な人体モデルがある保険室へとやって来た。美術室に比べれば雰囲気はそれほどでもないが、真っ暗な場所で救急セットや薬剤を見ると、まるで廃校のダンジョンを探索している気分になる。

 

 

「えぇ~と、人体モデル人体モデル……」

「変だな。どこにあるんだ?」

「もしかして本当に廊下を走ってたり!?」

「んなアホな……」

 

 

 懐中電灯で辺りを照らして見渡せども、穂乃果が言っていた走る人体モデルは見つからない。噂通り腕を振って廊下を……な訳はなく、誰かが持ち去ってしまったのだろうか。

 

 

 するとことりは懐中電灯の明かりで、白い布で覆われた背の高い置物らしきモノを照らす。更にその布のスリット状になっている部分に手を当て、その中身に光を当てながらゆっくりと布を捲った。

 

 

 

 

 そこには、懐中電灯の明かりで怪しく照らされる――――――

 

 

 

 

 人体モデルの姿があった。

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 その瞬間、ことりの表情が眼球が飛び出るくらいの衝撃に変わる。

 

 

 

 

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 ことりは恐怖に震えた声で叫びながら、保健室を飛び出した。

 

 

「お、おいことり!!」

「こ、ことりちゃん!?」

「どこへ行くのです!?」

 

 

 保健室を飛び出したことりは、縦横無尽に廊下を駆け巡る。俺たちはこの暗さで彼女を見失わないよう、携帯のライトで何とかことりの背中を照らし、何度も名前を呼び掛けながら追い掛けるが、ことりはスピードを落とすことはなく走り続ける。

 

 そして階段と教室の間にあるスペースに入り込んだことりが、何かにぶつかって尻餅をついたところでようやく追いつくことができた。

 

 

「やっと追いついたよぉ~……」

「ことり!?大丈夫か!?」

「う、うん……もう平気なんだけど、ハンカチをどこかに落としちゃったみたい」

「廊下にはなかったので、美術室か保健室かもしれませんね」

「そうだな――――って、なんだこれ?人形?」

 

 

 尻餅をついたことりの周りには、ダンボールから溢れ出たたくさんの人形が散らばっていた。そしてそのダンボールの中には、数え切れないほどの人形がこれでもかというくらいに詰め込まれている。恐らくことりがダンボールにぶつかった時に、中身の人形が一部廊下に飛び散ってしまったのだろう。

 

 そのほとんどが動物の可愛らしい人形ばかりなのだが、こんな暗闇の中で光を照らしながら見ると、これらの人形に申し訳ないが――――結構不気味だ。

 

 

「この人形の量。文化祭でどこかのクラスが人形劇でもするのでしょうか?」

「あっ!!このお人形可愛い~♪穂乃果持って帰っちゃおうかなぁ~♪」

 

 

 でもおかしいな……どうしてこんなところに人形が?廊下と教室の間のスペースは収納スペースとなっていて、そこに閉まってあったのは分かるんだけど、何故こんな真夜中に外に出ているのかが謎だ。

 

 

「わぁ~見てみて!!このクマさんのお人形、穂乃果と同じ名前の名札が付いてるよ!!ほら、『高坂』って」

「このウサギの人形には、『園田』と名前が付いてますね」

「ことりは……ヒツジさんだ。可愛い~♪」

「俺のは――――サルか」

 

 

 俺は『神崎』と名札が貼られたサルの人形を持ち上げる。

 なんだろう?この人形だけ他の人形よりもやけにボロボロだな……しかも頭がグラグラして今にも落ちそう――――――

 

 

「!!!」

 

 

 

 

 そう思ったその時――――――人形の首が根元からポッキリと折れ、廊下へ落下した。

 

 

 

 

「れ、れれれ零君!?く、くっ、首が取れてるよ!?」

「その言い方だと俺の首が取れたみたいだろ!!人形の首な!!」

「こ、これは呪いの人形というモノでは!?人形を傷つけた部分と同じところが傷付くという……!!」

「ま、まさか誰かが零くんを狙ってるの!?れ、零くんに何かあったらことりが守ってあげるからね!!」

「落ち着けって。ただ人形の首が折れただけだ」

 

 

 俺に恨みを持っているのか何かは知らないけど、これが呪いの藁人形的なノリならば、そんなことをする奴が学院の収納スペースにこんな人形を置いておく訳がない。誰かが意図して、この学院内でしかできないことのために使っているんだ。

 

 

「た、たまたま零君と同じ苗字だっただけだよね……きっと」

「どうかな。『神崎』って、そこまで多い苗字でもないし、お前らの苗字の人形と一緒に収納されていたってことは、この人形は俺を模していると見て間違いないよ」

「じゃ、じゃあやっぱりこの人形は穂乃果たち!?」

 

 

 人形が大量に詰め込まれているダンボールの中身を詳しく漁ってみると、結構な数の人形に俺たちの人形同様に苗字の書かれた名札が付けられていた。しかもその苗字は、すべて俺たちのクラスメイトの名前ばかり…………どういうことだよ一体。

 

 

「ことりや穂乃果ちゃんのお人形も、他のお人形に比べたらちょっとボロボロだね……ま、まさかことりたちも狙われてたり!?」

「えぇっ!?穂乃果、誰かに怒らせるようなことしないよ!!」

「そ、そんなことはないでしょう。私たちはただ噂に振り回されているだけです。石膏像に異変はありませんでしたし、人体モデルだってあの保健室の……中に……」

 

 

 

 

 突然、海未はある一点を凝視したまま硬直する。

 

 

 

 

 具体的には窓と中庭を挟んだ、俺たちのいる廊下とは反対側の保健室前の廊下。海未はそこの一点を見つめながら、一歩後ずさりする。これまで見たこともない光景が眼前に展開されるみたいに、息を呑んだまま唖然としていた。

 

 

 それもそのはず。そこから見えていてはおかしいものが、そこにあったのだから。

 

 

 

 

 海未は声も出せず、ただ衝撃を受けるしかなかった――――――

 

 

 

 

 何故か保健室に置かれているはずの人体モデルが、窓越しに俺たちを凝視していたことに――――――

 

 

 

 

 徐々に海未の口から小さな声が漏れ出す。そして――――――

 

 

 

 

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 遂に海未は恐怖を抑えきれなくなったのか、震えた声で奇声を上げ、その場で屈み込んでしまった。

 

 

 

 

「う、海未!?どうした!?」

「ほ、保健室の前に……あの人体モデルが私たちを!!」

「なんだって!?」

 

 

 俺たちは海未が凝視していた窓に寄り添って、保健室側の廊下の窓を確認する。

 しかし――――――

 

 

「え……海未ちゃん、何もないよ?」

「えぇっ!?で、でもさっきは本当に……」

「やはりか……!!」

「零くん!?どこへ行くの!?」

 

 

 俺はことりの落とした懐中電灯を拾って来た道を引き返し、再び保健室へと駆け出す。その後に穂乃果たちも俺の名前を呼びながら追従した。

 

 人体モデルが勝手に保健室から廊下に出て来るはずがない。だが海未が嘘を付いているとも思えない。だったら、そこから考えられるのはただ1つ――――――

 

 

 

 

 俺は保健室の扉を開け、懐中電灯で元々人体モデルが置いてあった場所を明るく照らす。

 そこには――――――

 

 

「あれ?穂乃果たちが来た時と同じ場所にあるよ、人体モデル……」

「きっと怖くて見間違えちゃったんだよ」

「そ、そうなのでしょうか……」

 

 

 見間違えで人体モデルが見えたりするか……?そんなはずはないだろう。なにかあるはずだ……この人体モデルに、さっきの騒動の痕跡が。

 

 ――――ん?人体モデルの台と床の間に正方形の布切れが挟まっている。さっきはこんなモノなかったぞ……。

 

 あれ?しかもこの布切れって……!!

 

 

「いや、海未が見たのは間違いなくコイツだ」

「「「えっ?」」」

「この人形の台と床の間に布切れが挟まってる。これ、ことりのハンカチだろ?」

「あっ、うん、そうだよ。保健室で落としちゃったんだ……」

 

 

 俺は人形を持ち上げてハンカチを取り出し、ことりに返す。

 さっきことりが落としたはずのハンカチの上に、人体モデルが乗っていたということは――――――

 

 

「つまり俺たちがこの保健室から出て行った後に、コイツが動いて再びこの位置に戻ってきたってことだ」

「えっ!?じゃ、じゃあこの人形が勝手に!?廊下を走る噂はやっぱり……!?」

「んな訳ねぇよ。誰かが動かして元に戻したに決まってんだろ」

「でもどうしてそんなことを?まさか穂乃果たちを脅かすために!?」

「脅かすためなら、人形をわざわざ保健室に戻さなくていいだろ」

 

 

 誰かが動かさなければ、ことりが落としたハンカチの上に人体モデルが乗っているはずがない。つまり、俺たちが保健室を飛び出してから廊下で人形を漁っている間に、何者かが保健室にやって来て、俺たちに見せびらかすために人体モデルを廊下の窓際に立てたんだ。

 

 

「コイツを使って何をしようとしていたのかは知らないけど、ご丁寧に保健室に戻したってことは、俺たちに自分のやっていることがバレたくないからだろうな」

「よかったぁ~じゃあオバケのせいじゃないってことだよね」

「じゃあ噂の怪現象は、ただのオカルトではなかったということですね」

「ことりもちょっと落ち着いたかも……」

「ハッ……オバケなんかよりよっぽど気味が悪いよ。こんな真夜中に学院でコソコソ奇妙なことをやっている――――」

 

 

 

 

 一瞬安心した穂乃果たちの顔が……再び曇る。

 

 

 

 

「人間の方がな……」

 

 

 




 μ'sのキャラって、希や楓を除けば全員お化け屋敷とか怖がりそう。


 ――ということで今回はホラー回でした。しかし本編を読んでもらった通り、ホラーというよりも怪しい自分物を突き止めるミステリーに変わってしまったのは否めませんがね(笑)元ネタもそんな感じでしたし。

 今回は話の展開上、ことほのうみのメンバーでの探索でしたが、初めは誰を零君と一緒に連れて行くか迷ったんですよね。絵里がいたら怖がりすぎて話が進まないだろうなぁとか、花陽や凛はいい叫び声を上げるだろうなぁとか、誰を連れて行っても面白い回になりそうですね!

 今回新たにでてきた山内奈々子先生の容姿が知りたい方は、「スクフェス 先生」で検索すると見られます!

 元ネタに関しては次回の後書きにでも!内容的にも先生をμ'sに絡ませるいい機会かなぁと思います。


 次回は解決編『音ノ木坂学院の怪(後編)』です。
 そして100話まであと3話!100話記念の小説や、100話突破記念企画(後述)もあるのでご期待ください!


そしてここからは本編とは全く関係がないのですが、11月7日に私が小説投稿から一周年、そして新日常も同時期に100話を突破するということで、11月にちょっとした企画を立てるつもりです(もう水面下で進行してますが)。
新作小説ではないのですが、『新日常』の一風変わった話がたくさん見られると思うので、是非ご期待ください!!
投稿は11月1日からスタートし、毎日投稿の予定です。


新たに高評価をくださった、きょんちゃんちゃんさん、ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

音ノ木坂学院の怪(後編)

 今回は前回の続きで、真夜中の音ノ木坂学院探検回です!
 そして今回は解決編!元ネタはありますが、後半は割とオリジナルの展開となっているので、ネタを知っている方も知らない方も楽しんでいってください!


 

 この学院に怪しい奴がいることが分かった。そしてソイツが何か目的を持って、俺たちの行動を阻害しようとしているのも分かった。

 

 ここからすべきことはソイツの妨害を如何に掻い潜り、その正体を暴くことだ。オバケだとかオカルトでないことは既に証明された。今から俺たちが相手にするのは、オバケのような紛い物の存在ではない。種も仕掛けもある人間だ。ある意味でオバケなんかより遥かに恐ろしい存在だけどな……。

 

 

「ねぇ零君、これからどうする……?」

「奴が俺たちの存在に気付いていることは確かだ。それに人体モデルの件からすると、相当焦ってように見えるし、逃げられる前に捕まえられればいいけど――――――な、なんだ!?」

 

 

 

 

 何やら目線を感じたので振り返ると――――――窓越しに俺たちを覗く人影が見えた……!!

 

 

 

 

「だ、誰だ!?」

「な、何ですか!?」

「見えたんだよ!!向こうの窓から俺たちを覗いている人影がな!!」

 

 

 俺は廊下を回り込み、怪しい人影が見えた窓へと向かう。

 俺たちのいた場所と人影がいた場所は近いから、もしかしたら追いつけるかも!!

 

 

 だが――――――

 

 

「っ……」

「だ、誰もいないじゃん……」

「いるわけないじゃないですか。私たちが人体モデルを見たのは、保健室の向かいの教室の窓からです。その人が私の叫び声を聞いて人体モデルを保健室へ戻し、その後でこの窓から私たちを見ていたのだとしたら……保健室に駆けつけた私たちとどこかですれ違っているはずでは?」

 

 

 海未の言っていることも最もだが、保健室の周りには柱や階段があり隠れるところはいくらでもある。あの時の俺たちは人体モデルの行方を探ることに躍起となっていたため、怪しい奴の動向は疎かになっていた。もう少し気を配っておくべきだったか……。

 

 

 ――――ん?確かこの窓から人影が覗いてたんだよな……?これってまさか……。

 

 

「きっと零くんの見間違えだったんだよ」

「いいや、誰かここにいたのは間違いないよ。人影のいた窓を見てみろ」

「窓?」

「白く曇ってるだろ?誰かが頬を窓ガラスにくっつけて、俺たちを覗いていた証拠だ」

 

 

 窓ガラスのそこそこ背の高い位置に、頬を擦り付けていたと思われる白い曇りがある。こんなものすぐに消えるはずなのに、それを俺たちが確認できているってことは、俺が見た人影は見間違えでないことが分かってもらえるだろう。

 

 

 

 

 さて、ここからどうしようか……?

 

 

 

 

 相手がどんな奴なのかは知らないが、俺たちだけでは危険かもしれない。かと言って警備の人はもう帰っちまってるだろうし、事件も起こっていないのに警察を呼ぶわけにもいかない。秋葉に連絡するのも1つの手だが、イマイチ信用できねぇんだよなアイツ……こんな状況でも遊びそうだし。

 

 

 何かあった場合、コイツらだけでもここから逃がさねぇとな……。

 

 

「職員室に誰か残ってないかな?残ってたら助けを求められるし。穂乃果行ってくる!!」

「ほ、穂乃果ちゃん、1人じゃ危ないよぉ~!!」

「ったくアイツは……」

 

 

 ここで俺たちがバラバラになるのはマズイので、仕方なく穂乃果の後を追い掛ける。

 もう夜もいい時間なのに、職員室に人がいる訳ないだろ……そもそも職員室に明かりも点いてないし。

 

 

 そして職員室なんかに行っても無駄な一番の理由は――――――

 

 

「あれぇ~誰もいない」

「やはりもう帰ってしまわれたみたいですね。こんな時間なので仕方ないと言えば仕方ないですが……」

「え?」

 

 

 一番の理由を言おうとした時、穂乃果たちが職員室の扉を開けて中を確認する。

 そもそもの話、誰もいないなら職員室に鍵が掛かっているはずだ。俺の言いたかったのはそのことなんだが……やはり俺たちを監視している奴は、学校の関係者である可能性が高いな。

 

 

「もう少しこの学院を探ってみるか……お前らはどうする?怖いなら帰ってもいいんだぞ?」

 

 

 俺は若干煽りを含めた言葉を穂乃果たちに投げ掛ける。そこには遠まわしに帰った方がいいという意図を含めたのだが――――――

 

 

「穂乃果は絶対に帰らないよ!!零君たちと一緒に、この学院の謎を解き明かすまではね!!」

「ことりも零くんだけを残して帰るなんてできない!!もし零くんに何かあったら、ことりたちが支えてあげるんだもん!!」

「今更1人だけで解決しようだなんて、それで私たちが満足するとでも思いますか?私たちも精一杯お手伝いさせて頂きます」

 

 

「お前ら……」

 

 

 初めは危険だからどこかでコイツらを帰らせる予定だったのだが、やはり隣にいてくれるだけで暖かい気持ちになり安心できる。俺がここまで落ち着いて推理や行動ができたのは、もしかしたら穂乃果たちのお陰なのかもしれない。それにことりのハンカチや海未が目撃した人体モデルの件は、真相の解明へ向けて前進させてくれた。

 

 

 全く……しょうがねぇなコイツらは!!

 

 

「分かった、一緒に行こう」

「やった!!ありがとう零君♪ぎゅ~♪」

「ことりもぎゅ~♪」

「むぐっ!!きゅ、急にどうした!?」

「やっぱり変わりませんね、私たちは……フフッ♪」

 

 

 俺は身体の両サイドから穂乃果とことりに抱きつかれる。

 う、嬉しいけど状況を考えると素直に喜べねぇ!!うわぁあん、いい匂いする!!この2人、お風呂に入った後だな……いつものシャンプーの匂いがする。

 

 そしてさっきの怪しい奴がこの光景を見ていたとしたら……こんな可愛い子たちに抱きつかれているから、別の意味で俺が恨まれそうだな。まだソイツが男だと決まった訳じゃないけど。

 

 

 

 そんなこんなで俺たちは、4人で再び学院の探索を開始した。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「しかし、あの人は夜の学院で何をやっているのでしょう……?」

「う~ん……ことりには分かんないや」

 

 

 俺たちは1階から2階への階段を上りつつ、怪しい奴の動向について考えていた。

 俺たちを直接襲って来ないということは、よほど自分の存在を俺たちの知られたくないのだろう。それに人体モデルも見せつけるように窓際に置いてやがったし……どうにかして俺たちを追っ払おうとしているみたいだ。ビビっているのか、それとも相当用心しているのか……どちらにせよこちらも慎重に行動しなければならない。

 

 

「でもこの4人で夜の学院を探索していると、RPGの世界に行ったことを思い出すよね。穂乃果またウキウキしてきちゃった♪」

「呑気だなお前……」

「だってほら、なんか階段がモクモクとした雲みたいなのになってるよ!!夢の中にいるみたい♪」

「えっ!?」

 

 

 懐中電灯で足元を照らしてみると、そこには穂乃果の言う通り白い煙のようなもので階段が敷き詰められていた。

 綿にしては足に掛かる感触に物理感がないし……そもそもどこから流れてきてるんだ!?さっきこの階段で美術室へ行った時にはこんなものなかったぞ!?

 

 

 

 

 そして、更に俺たちへ追い討ちが掛けられる。

 

 

 

 

「えっ……あ、あわわわ……!!れ、れれ零くん……!!」

「どうしたことり!?」

「こ、ことり……手が真っ赤ですよ!?」

「血が……階段の手すりに血が流れてる!?!?」

 

 

 懐中電灯で手すりを照らしてみると、赤い液体が怪しい線を描きながら流れていた。ビチャビチャと怪しい音を立てながら、俺たちのいる階の手すりを伝って上方からダラダラと垂れる。

 

 

 でも血にしては少し鮮やかすぎるような……これってまさか――――――

 

 

「慌てるな、これは血じゃねぇよ。ただの赤い絵の具だ」

「え、絵の具……?」

「誰かが上から、手すりの隙間を通して絵の具を垂らしてるんだよ」

 

 

 俺は穂乃果たちに絵の具の仕掛けが見えるよう、懐中電灯を上げて上の階を照らす。

 赤い絵の具は俺たちのいる階段の手すりを目掛けて、上の階から一直線に垂れていた。手すりが折り返す部分に紙を貼り付け、そこを伝うように絵の具が手すりを流れるようにしているんだ。

 

 

「じゃあこの煙は一体なんです……?」

「理科で使われる、実験用のドライアイスだよ。ビーカーに水を入れて煙を出していたんだ」

 

 

 俺は階段の踊り場にあったビーカーを持ち海未たちに見せる。

 これは本格的に俺たちをビビらせて、この学院から追い出そうとしてやがるな。こんな付け焼刃の子供騙しを仕掛けるくらいだから、お相手さんも相当焦っているようだ。しかしわざわざ俺たちの邪魔をするくらいだから、逃げる気は更々ないらしい。

 

 

 上に行って捕まえようにも、既に逃げられちまってるだろうし……。よしっ、奴がその気ならこっちも……!!

 

 

 俺は携帯の連絡アプリを起動し、俺たち3年生組のグループトークにこう書き込んだ。

 

 

『零:今からみんなで怖がって、ここから帰るフリをするぞ』

『穂乃果:どうして?』

『海未:あの人を油断させるためですか?』

『零:そうだ。俺たちが逃げたと知ったら、尻尾を出すかもしれない』

『ことり:いいね!やってみよう!!』

『零:近くにいない可能性もあるから、できるだけ声を大きくだ。いくぞ』

 

 

「もうこれ以上ここにいるのか危険だ!!帰るぞ!!」

「そうだね!!穂乃果ももう怖くなってきたよ!!」

「ことりも血がついっちゃたから早く帰りた~い!!」

「オバケの仕業だったら私たちじゃ相手できません!!」

 

 

 さて、これで奴がどう動くかどうか。俺たちがこの学院から立ち去ったと思わせれれば万々歳なんだがな……。

 

 とりあえず俺たちは、どこかの教室に息を潜めておくか。時間が経ち次第、奴の尻尾を掴みに行けばいい。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 30分後。空き教室で待機していた俺たちは、遂に行動を開始することにした。窓からも見つからないよう、頭を下げて長時間座っていたため多少身体が痛い。奴はこの30分、俺たちを探すような真似もしていなかったみたいなので、もしかしたらアイツの行動を垣間見れる時が来たのかもしれない。

 

 

「さぁて、奴を探しに行くぞ……って、お前ら何してんだ?」

 

 

 空き教室を出た途端、穂乃果たちは揃って窓を見つめたまま驚愕していた。

 も、もしかして奴を見つけたのか!?

 

 

「どうしたんだ?」

「い、いるんです……人が!!」

「ことりたちの教室に……!!」

「それも1人や2人じゃないんだよ!!たくさんいる!!」

「なんだって!?」

 

 

 窓越しに見えるのは俺たちの教室。そこには背の低い人から高い人まで、ざっと数えても10人以上もいる。しかもあんな真っ暗な部屋で……一体何やってんだ?

 

 そして海未の話に出ていた、大きなマスクを着けた奴もいるじゃねぇか。黒板の前でウロウロしてるけど、アイツだけやけに動いている。逆に他の奴らが一切動いていないような気も……それにマスクの奴、右手に何か持ってる?

 

 

 あれは……指し棒?

 

 

 

 ――――――!!!!

 

 

 

 

 なるほど、そういうことか!!

 

 

 

 

「よしっ、行くぞ」

「えっ、行くってどこに……?」

 

 

「決まってんだろ、こんな真夜中に学院をコソコソしている、怪しい奴を捕まえにな」

 

 

「「「へ?」」」

 

 

 怪しい奴がいる教室の窓からこちらの存在を気付かれないよう、俺は身を屈めて教室に近付く。

 その途中で何度か穂乃果たちに話し掛けられるも、『すぐに分かる』と一言で片付けながら彼女たちに静寂を促す。

 

 ここまで来てアイツに逃げられたらアホらしいからな……でもそこまで慎重になる必要はあまりなかったりもする。その理由?すぐに分かる。

 

 

 教室の前まで来ると、これまで以上に息を潜めつつ扉に近付く。

 

 

 さぁて、どんな反応を見せてくれるのかな~?

 

 

 教室の扉をコンコンとノックする。俺の行動が予想外過ぎたのか、穂乃果たちは目を見開いて驚いているがそんなものは無視して、相手の返事を待たず勢いよく扉を開ける。

 

 

 もう俺たちの存在を隠す必要はない。とりあえず明かりを点けるか。

 

 

 真っ暗だった教室が、一瞬にして光に照らされる。

 真っ暗闇からいきなり明るくなったので目が慣れるまで多少時間が掛かったが、それさえ乗り越え教室中を見てみれば、今までの謎も暗闇と同じくすべて明るく照らされるだろう。

 

 

「わぁ~なにこれ!!さっきのお人形さんたちがいっぱい並んでる!!穂乃果たちのもあるよ!!」

「窓際には美術室の石膏像もありますね」

「あっ、さっきの人体モデルまである!!」

 

 

 教室の机の上には名札が貼られた人形が、その周りには机たちを囲むように石膏像や人体モデルが置かれていた。俺の名札が付いた人形が俺の席に置かれているなど、人形の名札に書かれている苗字と俺たちの座席は一致している。

 

 

「ん?なんだろ、人体モデルの顔に貼られているあの紙……父兄って書かれてるよ」

「この石膏像にも父兄と書かれています。しかもすべての石膏像に……」

「なんか授業参観みたいだね!!」

 

 

 おっ、穂乃果の奴いい線いってるじゃん!!

 それじゃあそろそろ謎解きかな。

 

 

「そう、噂に出ていた怪しい奴は人形を生徒に、石膏像と人体モデルを父兄や教師に見立てて、夜な夜な練習していたんだよ。来週行われる学院開放日に、俺たちの親や他の教師が見に来ることを想定した練習をな……声が外にもれないように、大きなマスクを着けて……そうだろ?教壇の中に隠れている、俺たちの国語教師の――――

 

 

 

 

山内奈々子先生!!」

 

 

 

 

 俺が先生の名前を名指ししたその時、教壇がガタンと揺れる。

 驚きすぎだろ、一瞬地震が起こったかと思って身構えちまったじゃねぇか……。

 

 

「あ、ホントに山内先生だ!!」

「こ、高坂さん!?」

 

 

 穂乃果が教壇の中を覗き込むと、そこには山内奈々子先生が膝を抱えて丸まっていた。

 教師であるが如く指し棒を握り締めながら……あっ、教師だったな。まだあの人が教師に見えていない俺がいる……。

 

 

「それでは、毎日位置が変わる石膏像や走る人体モデルの噂は……山内先生の仕業だったのですか?」

「先生が毎晩教室に運んでいたんだよ。8体の像の視線が生徒に集中していたのはたまたまで、走る人体モデルは先生が急いで運んでいたのを見間違えたんだよ」

 

 

 つまり今回の噂の現況は、すべて山内先生だったという訳だ。人騒がせにも程があるというか、教師にもなって人形を使って練習をしていて可愛いというか……どちらにせよ怪しい奴がいなくてよかったよ。

 

 

「でも、練習するくらいなら怒りっぽい性格を直した方がいいと思うんだけどなぁ~」

「穂乃果!!先生に向かって何を!?」

「えぇ~でも本当のことだし……」

「もしかして、ことりたちのこと……嫌いなんですか!?」

 

 

「ち、違うんです!!その逆なんですよ!!先生は――――――皆さんのことが大好きなんです!!」

 

 

「「「「え?」」」」

 

 

 山内先生は顔を曇らせ、俯いたまま心中を吐露し始めた。

 授業中あんなに頬を膨らまして、プリプリと可愛らしく怒っていたというのに……甘々声過ぎて怒られている感覚は皆無に等しいけどな。でも先生のこんなに落ち込んだ顔を見るのは、新任以来初めてだ。

 

 

「夢だったんです、生徒さんたちに授業を教えることが。私が学生の頃、教えを被っていた先生方がとても魅力的で、私も先生方のように生徒を導く存在になりたい。そう思って教師の道を選んだんです」

 

 

 先生は更に表情を暗くし、身を縮こませながら話を続ける。

 

 

「でも、いざ教師に新任して授業をしてみると緊張しちゃって……教育実習の時は担当の先生が見守ってくれていたからよかったのですが、1人で授業をするとなるとつい冷静さを失っちゃうんです。だから感情を上手く抑えきれずに、言葉が強くなってしまいます……」

 

「先生……」

 

「そのことを笹原先生に相談したら、『とりあえず慣れることだ』と言われ、笹原先生がまとめた問題児リストを渡されました。その生徒たちの相手をしていれば、自ずと生徒への対応が慣れていくと……」

 

「ま、まさかその問題児って……」

 

「はい。神崎君に高坂さん、南さんに園田さんです」

 

 

 マジかよ……あの先生やってくれたな。まさか新任の教師にまで俺たちの危険を教えるとは……逆効果な気もするが。でも笹原先生はスパルタだから、こんな暴挙に出るのも考えられなくはない。

 

 

「その問題児に私が入っているのが気になるのですが……」

「海未ちゃんも穂乃果たちの仲間だね♪」

「流石ことりたちの幼馴染♪」

「便利ですねぇ~仲間や幼馴染という言葉は……!!」

 

 

 海未が眉を小刻みに動かしながら怒ってるぞ……。本人はこう言っているが、コイツだって俺たちとよく騒いでるからな。初めは俺たちを注意するけど、そのあと穂乃果やことりの挑発で俺たちの闘争に参戦するのが定例だ。

 

 

「もしかして屋上掃除の監視が、笹原先生から山内先生に変わったのも?」

「はい。笹原先生が私を生徒に慣れさせるために交代を命じられたのです。でもすぐに慣れることなんてできませんでした。来週に行われる学院開放日は、生徒の親御さんや他の先生方、地域の方々も見に来られるので、せめて無様な姿だけは見せたくないと思い、こうして毎晩こっそり練習していたんです」

 

 

 なるほど、俺たちの人形が他の生徒の人形に比べてボロボロだったのは、こうした経緯で俺たちに目を付けていたからだったのか。

 

 待てよ。この4人の中でも俺の人形が一番ボロボロだったということは、俺が一番の問題児なんじゃ……?ひ、否定できないけども……穂乃果やことりもかなり暴れてると思うぞ。

 

 

 

 

「怒ろうにも上手く怒れないし、生徒さんの前でずっと緊張しっぱなしだし……向いてないのかな、私が先生だなんて……」

 

 

 

 

「そんなことないよ!!穂乃果、先生が優しいこと知ってるもん!!」

 

 

 山内先生の辛い心境を聞いて張り詰めた雰囲気の中、穂乃果は一歩前へ出て、先生にとびきりの笑顔を見せる。暗雲が掛かった心を明るく照らす光のような、そんな笑顔で――――――

 

 

「山内先生だけだよ、穂乃果たちと一緒にお掃除のお手伝いしてくれるの!!それに水槽の水を取り替えたり花壇のお花にお水をあげたり……でも穂乃果たちのことをいつも怒ってたから、穂乃果たちのことは好きじゃないのかなぁ~って思ってたけど、今の話を聞いて分かったよ!!先生は、この学院や穂乃果たちのことが大好きなんだって!!」

 

 

「ことりはよくアルパカさんに会いに行くんですけど、飼育小屋の掃除もしているんですよね?飼育係の花陽ちゃんが言ってました、自分が生徒会の部長会議に参加している時、先生が代わりに掃除をやってくれていたということ、そしてさっきの話……先生がことりたちを大好きだって気持ちがたくさん伝わってきました!!」

 

 

「自分に厳しすぎるがゆえ、素っ気ない態度を取られていたのですね。しかしそれは私たちへの愛情であること、しかとこの心で受け止めました。私は穂乃果やことりと違って、何も知らず先生のことを誤解していたことをお詫びします。ですがこれからは、私たちも先生を精一杯支えていけるよう頑張りますね!!」

 

 

「皆さん……」

 

 

「要するに、いくら自分を偽っても生徒の目は誤魔化しきれないってことだよ。現に無理して怒っているのはバレバレだったし。どうせバレてるのなら、本当の自分をさらけ出した方がいいんじゃねぇの?先生の優しさは、もう結構な生徒が知っていると思うしさ。まぁ先生の場合は、あがり性な性格からなんとかする方が先だと思うけど」

 

「わ、分かってますよ!!」

 

 

 生徒に励まされる先生か……それもいいんじゃねぇか?こうして俺たちが先生の心の扉を開いたおかげで、ほら――――先生も笑顔になった。やっぱり無理をして怒っている表情より、そうして生徒たちと一緒に笑っている方が魅力的だな。

 

 

「でも先生ヒドイよぉ~!!煙や絵の具で穂乃果たちを脅かすんだもん!!」

「え?」

「先生ですよね?窓越しにことりたちを覗いていたのって……」

 

 

 そうだそうだ。いくら自分の存在が知られたくないからって、煙を出したり赤い絵の具て血を表現したりするかね……意外にエグい思考も持ち合わせてるのな。

 

 

 だが――――――

 

 

 

「違いますよ。今夜神崎君たちを見たのは今が初めてなんです。だって園田さんの声に驚いて、人体モデルを戻した後、しばらく保健室の中に隠れていたんですから……」

 

「え……!?じゃ、じゃあ職員室の鍵を開けたのは!?」

 

「えっ!?な、なんのことですか!?」

 

「くそっ!!」

 

「れ、零君!?」

「零くんどこへ行くの!?」

「零!?突然どうしたのです!?」

 

 

 俺は先生の言葉を聞いた瞬間、教室の扉を乱暴に開けて外へ飛び出す。

 やっぱり……やっぱりいたんだ!!山内先生以外にも、もう1人!!この学院内で怪しい行動をしていた奴が!!どこだ……どこにいる!?

 

 

 ――――ん?職員室から光が!!

 

 

「誰だお前は!!」

 

 

 俺は薄らと見えた人影に、懐中電灯の光をMAXにして照らす。同時に穂乃果たちと先生も到着した。

 

 

 ――――――って、あれ?この人は見覚えがあるというか、見覚え過ぎて逆に呆れそうなくらいの…………

 

 

「「「「「笹原先生!?」」」」」

 

 

「うっ、見つかったか……」

 

 

 なんと、俺たちを帰らせようと脅かしていたのは笹原先生だった。

 

 実は笹原先生と山内先生は大学の先輩後輩の関係であり、笹原先生は山内先生から教師として相談を受けていたらしい。そして教師として生徒たちと馴染めない山内先生のことを気遣って、笹原先生は山内先生が夜な夜な学院で練習していたことを黙認していたそうだ。

 

 だがもしそんな夜中に誰かが訪れて山内先生の行動がバレたら、先生がバッシングの被害を受けるかもしれない。そう危惧した笹原先生は、夜中にこっそり山内先生のことを見守っていたそうだ。そこで俺たちが現れたから、脅かして帰らせようとした訳。

 

 

 なんというか……あの堅物だと思っていた笹原先生がこんなことをねぇ~~。

 

 

「どうして俺たちの前に姿を現さなかったんですか?」

「…………かっただけだ」

「えっ?今なんて――――」

 

 

「恥ずかしかっただけだ!!」

 

 

「あっ……意外と可愛いところもあるんですね」

「神崎……お前、一生屋上掃除な」

「なんで!?そして卒業させて!!!!」

 

 

 こうして俺たち生徒と先生の信頼は、より密接になっていきましたとさ。

 

 

 

 

 

 

「休日も屋上掃除な」

「なんでやねん!!」

 

 

 

 ほ、本当に信頼関係築けてる!?

 




 これで先生たちもある程度キャラ付けできたかな?


 前回と今回は音ノ木坂学院に起こる怪現象の謎解き回でした。
 私は登場キャラを増やしすぎるのはそこまで好きではないのですが、スクフェスで出ているのなら思い切って登場させて、話のネタの幅を広げてもいいかなぁと思い、今回は2人の先生を前面に押し出してキャラを確立させてみました。
先生キャラはまだあと1人いるので、そちらも近いうちに登場させるつもりです。


 次回は遂に話数二桁の最後、第99話目です。実はネタは数個思い浮かんでいるのですが、まだどれを採用しようか検討中です。折角二桁最後の話なのですから、思い切って弾けてやろうと思います!


 そしてここからは本編とは全く関係がないのですが、11月7日に私が小説投稿から一周年、そして新日常も同時期に100話を突破するということで、11月にちょっとした企画を立てるつもりです(もう水面下で進行してますが)。
新作小説ではないのですが、『新日常』の一風変わった話がたくさん見られると思うので、是非ご期待ください!!
投稿は11月1日からスタートし、毎日投稿の予定です。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

μ's崩壊!?第一次きのこたけのこ大戦

 今回はあの戦争に1つの決着を着けます!
 この話を読む前にμ'sのキャラがそれぞれどちらの派閥(きのこ or たけのこ)なのか、想像しておくとより楽しめるかもしれません。そして是非自分の所属する派閥を応援してあげてください!


「うぃ~す」

「あっ、こんにちは零君♪」

 

 

 とある秋の放課後、部室にやって来た俺は笑顔の花陽に迎えられる。

 あぁ~やっぱり花陽の笑顔は天使だなぁ~!!今日1日の疲れがみるみる浄化されていく。笹原先生からの制裁も癒されるってもんだ。ことりの堕天使具合にも参ってたし、俺の中での真の天使は花陽と亜里沙だけだよ。

 

 

 部室には、俺と花陽以外に真姫と凛もいる。

 真姫は足を組み、コーヒーを飲みながら優雅に読書をしていた。更にその手元には、如何にも高級そうな箱に詰められているクッキーもある。この光景を写真に撮るだけでも、そこら辺の適当コンクールなら余裕で優勝できそうだな。

 

 凛は机の上にお菓子を広げながら、オレンジジュースを片手に様々なお菓子を順番に摘んで食っている。これだけ食って太らない方が凛のすげぇところだよ。普段から馬鹿みたいに走り回って騒いでるから、余計な脂肪も燃焼されているのだろう。だが胸に脂肪は付けた方がいいと思うがな。

 

 

「凛、練習前なんだからもう少し食うの抑えたらどうだ?」

「えぇ~……ラーメンを食べてないだけ褒めて欲しいにゃ~。それにかよちんだってずっとおにぎり食べてるし」

「ふぇっ!?そんな食いしん坊みたいな言い方しないでよ!?それに今日だってお弁当はおにぎりじゃなくてサンドイッチだったし」

「は、花陽がご飯じゃない……だと!?明日は氷か……」

「別にいつもいつもおにぎりばかり食べてる訳じゃないよぉ~……」

 

 

 どうだか。去年じゃなかったっけ?特大おにぎり食べて体重が激増したのは。どこからどう見ても胸以外はふくよかに見えなかったんだが、女の子ってすぐ身体や体重を気にするよな。見た目は全然変わってないっていうのに。これを言うといつもデリカシーがないと全員に罵倒されるから絶対に言わないが。

 

 

 机の上のお菓子を見てみると、ポテトのチップスやらキャラメルのコーン、かっぱのえびせんに辛いムーチョなど、見事にスナック菓子だけが広げられていた。

 

 

 そしてその中で一際輝く、スナック菓子ではなくチョコレートの類のお菓子があった。

 

 

 

 

 きのこの形をした、傘の部分がチョコレートで柄の部分がビスケットである、あの有名なチョコレート菓子だ。

 

 

 

 

 な、なんだろう……大波乱の予兆を感じる!!

 

 

 そしてその予兆はすぐに現実になる――――――

 凛が美味しそうにきのこを頬張っていると、急に真姫が本を置いて立ち上がり、机をバンと強く叩きながら凛に顔を近付けた。

 

 

「にゃっ!?ま、真姫ちゃん……?」

「きのこ……凛はきのこ派なの?」

「当たり前だにゃ!!きのこの方がチョコレートの量多いもん!!」

「ふん!!そんなのきのこ派が流した悪質なデマに決まってるわ!!たけのここそ至高よ!!」

「はぁ?真姫ちゃんイミワカンナイ~」

「ちょっとそれ私の真似!?きのこが真似しないでくれる!?」

 

 

 い、いきなりなにやってんだコイツら……いや、争っている意味は分かる。これはかの有名な"きのこたけのこ戦争"って奴だろ?いつまで経っても決着が着かない、あの不毛な争い。この戦争の名前ですら、たけのこ派からすれば"たけのこきのこ戦争"と、たけのこを先にしろと怒られるくらいだからな。

 

 これは巻き込まれない内に退散した方がいいのか……花陽もオドオドして焦ってるし、こっそり天使を連れ出して、後は2人でしっぽりと――――――

 

 

「かよちんは!?かよちんはどっち派!?どっちが好きなの!?」

「えぇっ!?わ、私は……どっちかと言えばきのこかなぁ」

「きのこぉ!?まさか花陽まで裏切り者だったなんて……」

「う、裏切り者ぉ!?別にそんなことは全然、ただ好きな方を言えって言われたから……」

「やっぱりかよちんは凛の味方だったにゃ~♪」

「り、凛ちゃん!?」

 

 

 凛は真正面から花陽に抱きつき、頬をスリスリと擦り寄せる。

 真姫はそんな2人をバカバカしそうな横目で見ているが、実は混ざりたいんじゃねぇか?顔もどこか寂しそうだし……全く、つまらない維持張りやがって可愛い奴め!!

 

 

 だが、きのことたけのこの戦争に私情を持ち込んではならない。これは歴史上にも残るであろう全世界を股に掛けた大戦であり、勝利した方は地位と名誉を同時に手に入れることができる。そのため私情というつまらない理由で戦いを放棄しては、共に戦う世界中の仲間たちを見捨てたことと同意なのだ。

 

 

 

 

 ここで部室の扉が開き、穂乃果たち3年生組が入ってくる。

 

 

「やっほ~!!穂乃果だよ!!」

「なんですかそのセリフは……」

「さっきまで生徒会業務でヘトヘトだったのに、急に元気になったね穂乃果ちゃん」

「次舞台に立った時のMCを考え中なんだよ。だからその練習!!」

 

 

 マズイ……ここできのこたけのこ両軍に新たな増援が送り込まれてきたか。穂乃果たちがどっちの軍に付くのかは分からないが、増員されることで戦争が更に苛烈を極めることは紛うことなき事実だ。

 

 

「穂乃果ちゃんたち!!穂乃果ちゃんたちはきのこかたけのこどっち派なの!?まぁどうせきのこだと思うけど」

「何言ってるのよ凛!!穂乃果たちはたけのこ派だって信じてるから!!」

「きのこ?たけのこ?あぁ、あのお菓子のことですか……」

 

 

 凛も真姫も必死だなオイ。海未なんて『またくだらないことで騒いで……』みたいな顔で呆れてるじゃねぇか……そうだよ、くだらないことだよ。でもそんなくだらないことを全力で楽しむって、素敵じゃん。

 

 

「きのこにたけのこ……」

「ことり……なぜ俺を見る?」

「ん~ことりはあまり食べないんだけど、零くんのたけのこならずっと食べていたいよ♪あっ、しゃぶっていたいよ♡」

「言い直さなくてもいいわ!!てかどこ見てんだ!?」

 

 

 ことりは座っている俺の下半身を覗き込みながら、頬に手を当ててウットリしている。

 またコイツは……!!そんな表情をされると――――――可愛くて俺のが元気になってしまうからやめてくれ!!更にそれを見たことりが、また更に興奮すると……あれ?これ淫猥な方向に連鎖してるような……。

 

 

「穂乃果も零君のきのこなら、1日中頬張っていられるかも♪チョコレートなんかよりも断然……ジュル」

「ちょっと涎垂れてるから!?」

 

 

 穂乃果は目を輝かせ涎をハンカチで拭いながら、ことりと並んで俺を見つめる。もちろん俺の下腹部を……。

 もうコイツらどうにかしてくれ!?この2人をこんなキャラに仕立て上げたのは俺だけど、まさかここまで末期になるとは思ってなかった。第二第三の楓と化すとは……もうお手上げ。

 

 

「――――ということは、ことりはたけのこ派ね。お菓子好きのことりがこっち側だと、俄然たけのこ優勢ね」

「ふんだ!!たけのことかいうチョコレートの面汚しなんて、凛と穂乃果ちゃんの元気パワーで一撃だにゃ」

「そんな子供騙しが通用すると思う?これだらきのこ派はお子ちゃまなのよ……」

「たけのこが随分と粋がるにゃ!!」

 

 

 どうすんだよこの状況……真姫と凛はお互いに煽り合っているし、穂乃果とことりは気持ち良さそうな表情をして妄想の世界に浸っている。そして花陽はチラチラと俺を見て、俺に助けを求めている。むしろ俺が助けて欲しいよ……。

 

 

 そういや海未はどっちなんだろう?コイツのことだから、適当に答えた後は聞き流すと思うがな。

 

 

「海未ちゃんはどっち!?」

「凛……残念ながら私はたけのこ派です」

「海未!!信じてたわ!!」

「ぐぬぬ……まさか凛の尊敬する海未ちゃんまでもがたけのこだっただなんて。これからは軽蔑するにゃ!!」

「勝手にどうぞ。きのこに尊敬されても虫唾が走るだけです」

「凛だってたけのこを尊敬するなんて末代までの恥、こちらから願い下げだよ!!ね?かよちん!?」

「ふぇぇええ!?ここで私に振るの!?」

 

 

 ドンマイ花陽…………

 

 そして海未まで参戦し出したぞ。あの海未がここまで熱くなるなんて……いや、勝負事なら何事にも熱くなる奴だったなそう言えば。そもそも海未や真姫がこのようなお菓子を食べていることに驚きなんだが……なんか一気に庶民派っぽく見える。

 

 

ここで一旦派閥をまとめておこう。

 

 

 

 

きのこ派

花陽

穂乃果(ただし俺のきのこ)

 

たけのこ派

真姫

海未

ことり(ただし俺のたけのこ)

 

 

 

 

 穂乃果とことりがひでぇ……コイツらをこの派閥に入れておく必要があるのか?脳内ラブホテルさんは文字通りラブホテルに帰ってくれ!!

 

 

 

 

 そこでまた、室の扉が開き、私服姿の3人組が入って来る。

 

 

「一体どうしたの?廊下まで騒ぎ声が聞こえていたわよ」

「でもいつものことと言えば、いつものことやね」

「全く、にこが来る前に面白そうなことやってんじゃないわよ」

 

 

 最悪の状況で大学生組が来やがった。コイツらもコイツらで一癖も二癖もある奴らばかりだから、戦争が混戦になるのは必死。火を見るよりも明らかだ。面倒事に巻き込まれる前に帰りたい!!帰りたいけど、ちょっとでも動いたらコイツらに存在を気付かれて巻き込まれそう……。

 

 

 ここは賢い可愛いエリーチカ、略してKKEに戦争を鎮圧してもらうしかない!!

 

 

「またあんなに騒いで……先生に怒られるわよ」

「だって真姫ちゃんと海未ちゃんがたけのこだって抜かすから、粛清しようとしていたんだにゃ!!」

「たけのこ?あぁ、あのビスケットの部分が美味しいお菓子ね」

「じゃ、じゃあ絵里もたけのこ派なのですか!?」

「何を言ってるのかしら?賢くて可愛い私がそんな卑劣なお菓子を好きになる訳ないでしょ。私はきのこ派よ!!」

 

 

 あっ、これは賢くないわ。ただのポンコツだわ……どうしてこうなるんだよ、はぁ~……

 折角同棲生活中に更生させてやったというのに……もう手伝ってやんねぇからな。

 

 

「やった!!絵里ちゃんはこっち側だにゃ~!!」

「フッ、賢くないですね……流石は絵里、巷からPKEと呼ばれるだけのことはあります」

「たけのこの挑発になんて乗らないんだから。そもそもきのこの方が圧倒的勝利と、既に数値でデータは出ているわ」

「フンッ、そんなのきのこ派の悪質なデマに決まってるわよ」

「それぞれ1つあたりのチョコレートの量は、きのこが1.792g、たけのこが1.273gなのよ。チョコレート好きの私としては、僅か0.5gの差でも決定的な差だわ」

 

 

 なんだよその数値データは……俺初めて知ったんだけど。チョコレート好きな絵里だからこそ調べたのか、それともたけのこを完膚なきまで叩きのめすために調べたのか、どちらのせよたけのこ派にとっては不利な情報には変わりないな。

 

 

「絵里ち、まさか絵里ちが敵やったとはね……」

「の、希、あなたまさか……!!」

「カードがウチに告げるんや!!たけのこに魂を捧げてたけのこ派を援護せよと!!」

「希!!私は信じてましたよ!!」

 

 

 なんだよその意味不明な展開!?どんなお告げを聞いてたけのこ派になった!?

 それにどんどん話がくだらない方向に進んでいるような気が……もちろんくだらないなんて口に出してしまったら、確実に両軍から成敗されるから黙っておくけど。

 

 

「希……まさか同学年に裏切り者がいただなんてね」

「それはウチのセリフや……異端者は切り捨てないとね」

「れ、零君!!ど、どうしよぉ~」

「だから俺に振るな……」

 

 

 絵里と希は地を揺るがす効果音を立てながら対峙する。花陽も俺の肩を揺らして助けを求めてくるが、正直な話、不毛な争いに自ら飛び込むほど俺は無鉄砲じゃない。そもそもこの戦争の決着ってどうやったら着くの!?

 

 

「きのこは柄の部分を掴めば手が汚れないけど、たけのこは掴む場所がないからチョコの部分を掴むしかない。つまりたけのこなんて欠陥品だわ!!」

「きのこだって傘と柄の付け根の脆さから、封を開けた時には柄がポッキリ折れていることだってあるでしょ?」

「そもそも折れた時点できのこじゃないもんね。やはりきのこの方が欠陥品や!!」

「全部が全部そうなっている訳じゃないにゃ!!もし折れてたとしてもたけのことイーブンだから!!初めから掴むところのない、常に手が汚れる欠陥品と一緒にしないで!!」

 

 

 確かにきのこを食べる時に、傘と柄が折れていると少し萎えるもんな。しかしたけのこもチョコが手に付いて、いちいち手を拭かないといけないのが煩わしくもある。もうどっちもどっちじゃねぇか?なぁ~んて言ったら殺されるんだろうな。だからさっきから全然口を出せねぇ……。

 

 

「ちなみににこちゃんはどっちなの?」

「愚問ね花陽。にこはぁ~♪」

「だからなぜ俺を見る!!」

「零のきのこならなんでもいいっていうかぁ~♪そんな戦争よりも、冬限定きのこのホワイトチョコレートの含有量を多くして欲しいわね♪エロくない?きのこの傘の部分がホワイトチョコレートだと……」

「分かるよにこちゃん!!きのこの先っぽが白いと……穂乃果も興奮してきちゃった♪」

「たけのこだってそうだよ、あのホワイトチョコレートはまさに男の子特有のあの液体みたい♪ことりの大好物のアレ……」

「やめろやめろ!!エロいのはお前らの頭だろ!?真面目な戦争をしている前で発情しないでくれる!?」

 

 

 にこも穂乃果とことりの隣に並んで妄想の世界へダイブしてしまった。コイツらだけきのこたけのこ関係ねぇじゃん!!

 もうコイツらは放っておこう。俺としてはきのこたけのこ戦争の決着なんかよりも、脳内ラブホのコイツらを相手にする方が数万倍難しいと思うぞ。

 

 

「きのこの1箱辺りの個数は、たけのこの個数を上回ってるわ!!どう考えてもたくさん入っている方がお得じゃない?同じ値段で個数の少ないたけのこを選ぶ理由なんてないわ」

「それだけきのこが大量生産されているってことやろ?たけのこの方が時間を掛けて真心を込めて作られている証拠や!!」

「たけのこはビスケットをチョコレートで綺麗にコーティングしなければなりませんからね、それだけ丹精を込めて手間暇が掛かっている証拠です!!」

「きのこなんてチョコに棒を刺しただけでしょ。高貴な私としては、そんな杜撰なお菓子なんて意味分かんないから」

「どれだけ手間暇掛けても、要は味だよ!!所詮たけのこなんて、きのこの美味しさには敵わないから意味ないにゃ!!」

 

 

 たけのこよりきのこの方が数が多いって、それも初めて知ったわ。コイツら相手を叩き潰すために、敵の情報調べ上げ過ぎだろ。むしろ調べ過ぎて、相手方のお菓子も好きなんじゃねぇかと勘違いするレベルに……もしかして、戦争に参加している奴らって全員ツンデレか?

 

 

 

 

~ここまでの派閥まとめ~

 

 

きのこ派

花陽

絵里

穂乃果(ただし俺のきのこ)

にこ(ただし俺のきのこ)

 

たけのこ派

真姫

海未

ことり(ただし俺のたけのこ)

 

 

 

 

 そしてここでまた部室の扉が開き、μ's最後のメンバーである1年生組が入ってきた。

 

 

「遅くなりました!!済みません!!」

「全く、掃除中に楓が遊ぶから」

「えぇ~雪穂だってノってたじゃん」

「あれは楓を止めようとしただけだからね!!」

 

 

 これが最後の増兵か……楓は予想できるとしても、雪穂と亜里沙がどちら側に付くかは見ものだな。くだらねぇ戦争だけど、傍から見ている分には嘲笑える程度に楽しい。あの冷静沈着な海未や真姫ですら暴走しているんだ、この2人は果たしてどのような反応を見せてくるのか。

 

 

「ねぇねぇ!!3人はきのこ派かたけのこ派、どっちかにゃ!?」

「きのことたけのこ?」

「もしかして、あのチョコレート菓子ですか?私は……どちらかと言われたらきのこかな」

「私はたけのこです。どちらもあまり食べたことはないですけど」

「な、なんですって!?!?」

「お、お姉ちゃん!?」

 

 

 突然絵里が亜里沙の肩を鷲掴みにし、彼女の身体をブンブンと揺さぶる。

 そういや絵里はきのこ派だったな。穂乃果と雪穂は姉妹できのこ派だが、絵里と亜里沙は見事に分裂。これはシスコンである絵里にとっては死活問題だ……面白いけど。

 

 

「亜里沙がたけのこ派だっただなんて、まさか洗脳!?これだからたけのこは……正々堂々勝負しなさい!!」

「いやお姉ちゃん、私は別にどっちでも……」

「中立の立場!?ここから徐々にたけのこ派になるように洗脳する気ね!?」

 

 

 あの賢かった絵里を返してくれぇえええええええええ!!クールで美人で憧れのお姉さんキャラだった頃の絢瀬絵里をもう一度見たい!!どんな超常現象が起こったらここまでキャラが様変わりするんだよ!!

 

 

「たけのこはやっぱり汚い手ばかり使うにゃ!!きのこを弄ぶ、悪意のある画像もたくさん作ってるし!!実力で勝てないから画像に頼るんでしょ!?」

「なによ!!きのこだって捏造ばかりしてるじゃない!!」

「知っていますよ私は。きのこの検索結果は166,000件、たけのこの検索結果は989件と、きのこ派が大嘘と付いていたってことを。いくらたけのこに勝てないからと言って、このような陰湿な手を使うとは……」

「それは一部のきのこ派だけで、凛たちには関係ないにゃ!!」

「仲間全員と戦ってこその戦争なのよ!!統率の取れていないきのこ派が壊滅するのも時間の問題ね!!」

 

 

 やっぱりお前らきのこもたけのこも両方好きだろ!!そこまでお互いにお互いの情報を知っているって、つまりはそういうことなんだよな?もうとっとと和解しろよ、案外すんなり行くかもしれないぞ?もちろんさっきと同じ理由でこの場では言わないけど。

 

 

「零君、これは一体……」

「雪穂、俺に助けを求めても無駄だぞ。俺はアイツらに巻き込まれないように、雰囲気すらもかき消しているから」

「私も面倒事は疲れるので、一緒に消えます」

「それが正解だよ。きのこ派だって知られたら、凛や絵里に捕まって強制的に戦争に参加させられるから」

「私も亜里沙と一緒で、別にどっちだっていいんですよね。そこまで食べないし」

「そうそう、結局それなんだよな……」

 

 

 食べる時は気分によって変えるとか、割と交互に買っている記憶もあるから、一概にどっち派かなんて言われても迷うだけだ。

 それにしてもこの前の1000万円騒動と同じく、雪穂とはよく思考が合致する。これはお嫁さん候補決定ですわ。

 

 

「お・に・い・ちゃ~ん♪」

「お前には聞いてないぞ、楓」

「私はお兄ちゃんのたけのこ派かなぁ~♪あの刺々しく尖っているフォルム。まるでお兄ちゃんのアレみたい♪」

「無視するなよ!!そして見たことねぇだろお前!!」

「タイミングならいくらでもあるよ。深夜、こぉ~そりお兄ちゃんの部屋に忍び込んだ時とか、一緒にお風呂に入った時とか、チラッとね♪」

「ま、マジで……?」

「さぁ~?どうなんだろうねぇ~♪」

 

 

 楓は神崎家の女性特有の、明るい悪魔の笑顔を振りまく。

 確かに寝ている時は無防備だし、風呂の時は俺が気付いてないだけでもしかしたら垣間見えているかもしれない。それに楓のこの黒い笑顔……ほ、本当に俺のモノを知ってる!?そういや朝、やけに下半身が気持ちよくてスッキリとした目覚めだったような……ま、まさかねぇ~。

 

 

 

 

~ここまでの派閥まとめ~

 

きのこ派

花陽

絵里

雪穂

穂乃果(ただし俺のきのこ)

にこ(ただし俺のきのこ)

 

たけのこ派

真姫

海未

亜里沙

ことり(ただし俺のたけのこ)

楓(ただし俺のたけのこ)

 

 

 結局どっちの派閥も6人ずつで人数的には一緒か。。

 そして残っているのは俺だけと。そして俺の投票次第で決着が着くと……どちらを選んでも面倒だから、よぉ~しこっそり逃げちゃおうぞぉ~!!

 

 

 だがしかし、俺の進路を楓が悪魔の笑顔で妨害する。

 

 

「あれれぇ~!!お兄ちゃんだけどっちの派閥にも入ってないぞぉ~!?どっちどっちだ!?」

「おいこら楓!!大声でなんてことを言い出すん……だ?」

 

 

 楓が叫び出した瞬間、凛たちきのこ派と真姫たちたけのこ派が争いを止め、一斉に俺に注目する。さっきまで妄想に浸っていた穂乃果たちや、中立寄りの立場であった花陽たちまで……。

 

 

 これだから巻き込まれるのは嫌だったんだ!!きのこと答えればたけのこ派が、たけのこと答えればきのこ派が、中立と答えればどちらの派閥も俺に襲いかかってくるからな!!

 

 

「零君はどっちなの!?凛たちの味方だよね!?」

「きのこの卑猥な形に騙されてはダメよ!!真面目な時のあなたは、いつもマトモな決断を下してるでしょ!?」

「たけのこに洗脳されていないことを祈るわ!!さぁ零、どっち!?」

「零、私は信じています。私たちはこの1年半で築き上げてきた絆がありますから!!」

「卑劣な手を使う、きのこの誘導尋問に惑わされたらいかんよ!!」

 

 

「お、俺は……」

 

 

 ここで自分を偽る必要などどこにもない。俺が好きなお菓子を答えればいいだけだ。それにきのこ派もたけのこ派も、みんな笑顔で笑い合えるように、この俺がこの戦争を終戦に導いてやる!!

 

 

 

 

「俺は…………パイの実派だ」

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「!!!!」」」」」」」」」」」」

 

 

 俺の所属する派閥を知った瞬間、全員が目を丸くして驚く。

 だって、だって――――こっちの方が好きなんだから仕方ねぇじゃん!!きのことたけのこよりも、コンビニに行って買うお菓子といえばこれなんだ!!

 

 外はサクっとしたパイ生地で、中は少しトロっとしたチョコレート、俺はこの絶妙な組み合わせが好きなんだよ。それに暖めると、中のチョコレートが更に溶けて口の中でとろけるような美味さになる!!俺の中ではきのこやたけのこよりも天下一品なのだ。

 

 

 だが、みんなは黙ったまま動かない。特にきのこ派とたけのこ派で罵倒し合っていた奴らは前髪で表情が隠れ、非常に危ない雰囲気を醸し出していた。まるで"あの9日間"のように……。

 

 

 

 

 み、身の危険を感じる――――!!

 

 

 

 

「零くん失望したにゃ……まさか異端者だっただなんて……頭、大丈夫?病院行く?」

「零……今度私の家に来た時に、とびきりのパイを食べさせてあげるわ……私が食べさせてあげる、お腹がいっぱいでイヤと言っても食べさせてあげる……」

「零、洗脳も何もなかったわね……初めからきのことたけのこ、共通する敵だったんですもの……腕が鳴るわ」

「零、私たちがこの1年半で築き上げてきた絆は、すべて嘘だったのですね……なるほどなるほど」

「零君、カードがウチに示すんや。零君をきのことたけのこ、共通の敵として成敗しろってね……」

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!!どうしてそこまで言われなきゃいけねぇんだよ!?ただ俺は自分がよく食べるお菓子をだな……」

 

 

 凛も真姫も絵里も海未も希も、ここまで殺意の籠った目をしているのは"あの時"以来だ。もしかしたら"あの時"よりも簡単に人を殺めることができそうな、鋭い視線で身体を貫かれる。

 

 中立派の花陽、雪穂、亜里沙は苦笑しながら目を背けてるし、エロ派(?)の穂乃果、ことり、にこは『私にたちには関係ないですよ~』みたいな顔で口笛を吹いている。

 

 

 こ、コイツら、さっきまで俺を頼っていたクセに!!!!

 

 

 

 

「さぁ審判の時です。覚悟はいいですか?」

 

 

 

 

 俺からの忠告だ。

 きのこたけのこ戦争に参加する時は、絶対に他のお菓子の名前を出さないこと。でないと俺みたいに、理不尽にボコボコにされるぞ☆

 

 

 そう、ボコボコに……ね。

 

 




 ちなみに私はアポロチョコ派です(異端者)


 今回はここ数十年間も行われているきのこたけのこ戦争の話でした。結果的には決着しなかった(できなかった)ので、Twitterや前書きで詐欺して申し訳なかったということでどうか!(笑)

 1つ分かったことは、この2つの派閥の戦争中に他のチョコレート菓子の名前を出したら殲滅させられるので気を付けましょう。

 自分の推しキャラと見事派閥が被った人はおめでとうございます!被らなかった人は残念でした!
μ's内でのきのことたけのこの派閥はただの適当です(笑)。でも凛と真姫を対峙させたいとか、絵里と希を戦わせたいなど、普段から仲のいいキャラが敢えて激突する描写を書いてみたいというのは1つ考えにありました。でも真っ先に思いついた展開は、穂乃果やことりのあの淫語だらけの展開ですが(笑)


 遂に次回は記念すべき第100話目の話となります!ネタは既に考えてあり本編に関係のない番外編となる予定ですが、当日までどんな話になるのかは伏せておくので是非ご期待下さい!


そしてここからは本編とは全く関係がないのですが、11月7日に私が小説投稿から一周年、そして新日常も同時期に100話を突破するということで、11月に企画を立てました。
新作小説ではないのですが、『新日常』の一風変わった話がたくさん見られると思うので、是非ご期待ください!!
投稿は11月1日からスタートし、毎日投稿の予定です。
もうあと1週間でスタートなので、私も楽しみにしています!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】μ'sハーレムの主になった(前編)

 遂にやって来ました第100話目です!
 たくさん語りたいことがあるのですが、とりあえずまずは第100話記念回をどうぞ!

 内容としては本編の未来と言いますか、1つのハーレムルートとして描いてみました。恐らくこれがμ'sハーレムの究極系だと思います!


 俺の朝は、愛する彼女たちのモーニングコールから始まる。

 

 

「零君朝だよ!!起きて♪」

「うぅん……おはよう穂乃果。今日も元気いっぱいだな」

「おはよう零君♪だって2週間に1度の添い寝なんだもん、いつもより元気いっぱいだよ♪」

 

 

 俺の腕の中で、穂乃果は頬を桃色に染めながら俺の身体に擦り寄る。

 彼女のトレードマークであるサイドポニーは外れ、普段の活気の中にも女性の色気が垣間見える。そしてこの毛布を開ければ、生まれたままの彼女の姿。昨晩しっぽりと愛を深め合ったせいか、敷布団には至るところにシミが付いている。それは穂乃果の股の部分に顕著だ。

 

 

「零君、目覚めのキスだよ♪」

 

 

 穂乃果は俺の上に股がって、腕を首に回し顔をゆっくりと近付けてくる。同時に穂乃果の胸が俺の胸に当たり、その造形がふにっと変化した。穂乃果の胸は大きさ、柔らかさ、弾力、感度、全てにおいて俺の性欲を一瞬で引き立てるまでに達している。そんな彼女が俺のモノだと思うと、ただならぬ優越感に浸ってしまう。

 

 

 そして、遂に穂乃果の唇が俺の唇に軽く触れる――――――

 

 

「んっ……はぁ、んっ」

「はぁ……あぁ、んんっ……」

 

 

 俺たちはキスの前から、既に欲求が乱れていた。目覚めのキス、本来ならソフトであるはずなのに、昨晩の余韻が俺たちを欲求の深みへ誘う。穂乃果が唇を動かすたびに、彼女の胸が俺の胸の上で蠢いて俺の興奮を更に高ぶらせる。

 

 

「ふぅ、っ……はぁ、ちゅっ……んっ……んんっ、ちゅぅ……」

「はぁ……あっ、ちゅ……ん……んっ、ちゅっ……」

 

 

 ソフトからディープへ。俺がキスをしているというよりかは、全てを穂乃果に委ねて彼女から一歩的にキスをしてもらっている。俺も彼女を優しく抱きしめながら、穂乃果から捧げられる愛を素直に受け止めていた。

 

 

 

 

 彼女、いや彼女たちから俺に捧げられる寵愛は、日々休まることがない。主である俺が欲求不満になれば、彼女たちはどんな状況であろうとその不満を改善するために動く。もちろんキスだけでなく、その先の行為でも……。

 

 俺たちの住んでいる家は、高校時代に住んでいた住居とは全くの別物。俺は秋葉の共同研究の成功で莫大な富を手に入れたため、12人の彼女たちと同棲できる豪邸に住んでいるのだ。

 

 彼女たちは全員俺の妻として、13人仲良く生活しているという訳だ。

 

 

 これも、一夫多妻制が世の中で認められたからこそできることだな。

 

 

「あっ、零君のココ、膨らんでる……」

「昨日だけじゃ、俺の身体は満足していないみたいだな」

「それじゃあ穂乃果がおクチで全部出してあげるね♪寝ている間に溜まっちゃった、悪いモノをぜ~んぶ!」

「流石、俺の可愛い穂乃果だよ」

「えへへ♪だってみんなとの約束事だから。零君が困っていたら、自分の身体を差し出してでも零君を気持ちよくさせるって。それが穂乃果たちが零君へ送る、精一杯の恩返しだから♪」

「ありがとな、穂乃果」

「こちらこそ!大好きだよ、零君♪」

 

 

 俺は穂乃果の頭を撫でながら、彼女を更に自分の身体に引き寄せる。穂乃果もそれに応えるように俺の身体にもたれ込んだ。直に肌と肌が触れ合うことで、彼女の温もりがダイレクトに伝わってくる。穂乃果の胸が俺の胸に押しつぶされるその光景だけでも、俺の性欲を煽る十分な要因だ。

 

 

 

 

 豪邸での掟。もう高校時代のように俺たちの男女間の行為を咎める者は誰もいない。むしろ彼女たちが自分から俺に擦り寄り行為を行う。もちろん複数人での行為も日常茶飯事であり不思議ではない。もうそれが常識、それが俺たちの日常となっているのだ。

 

 

「そろそろお世話するね。零君の零君に、いつも穂乃果たちを気持ちよくしてくれてありがとうって♪」

「あぁ、頼む」

 

 

 そして穂乃果は俺の下半身に唇を近付ける――――――

 

 

 

 

 こうして俺の1日は12人の彼女たちによるローテーションで、毎朝飽きることのない気持ちいい目覚めから始まるのだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 穂乃果と共に朝の身支度を済ませた俺は、朝食を取るため食堂へと向かう。

 1日3食の食事も、穂乃果たちがローテーションを組んで交代で作っている。俺や秋葉の英才教育のお陰か、料理が苦手な奴はもういない。だから俺は彼女たちの愛情が籠った料理を毎日堪能できるのだ。

 

 

 廊下の窓から外を見てみると、玄関先を掃除していることりと海未の姿が見えた。

 料理だけでなく、俺の身の回りのことや家事全般も彼女たちが分担して仕事をしている。それもみんな規則正しくきっちりと時間を厳守して。時間厳守なんて言葉、高校時代の穂乃果や凛にはなかった言葉だぞ。

 

 

 よし、食堂で待たせている彼女たちには悪いけど、ことりと海未にも挨拶していくか。

 

 

 俺は廊下を外れて階段を降り、そのまま玄関へと向かった。

 

 

「おはよう、ことり、海未」

「あっ、零くんだ!!おはよ~♪わざわざことりたちに会いに来てくれたんだ!?嬉しいなぁ~♪」

「おはようございます。目覚めはどうですか?穂乃果があなたに無礼を働いていないか心配で……」

「おはよう。大丈夫、穂乃果のお陰で最高の目覚めだったから」

 

 

 ことりも海未も、わざわざ掃除の手を止めてまで俺のところに駆け寄ってくれた。我ながら出来たお嫁さんたちだよ。俺好みの俺の色に染まりに染まった、俺のためだけのお嫁さんだ。

 

 

「ことりは朝からミナリンスキーのメイド服なんだな」

「アルバイトはもうやめちゃったから、今のことりは零くんだけのメイドさんだよ♪」

「それじゃあ朝のご奉仕も頼めるかな?」

「はい、かしこまりましたご主人様♪」

 

 

 ことりの俺への忠誠心は高校時代よりも更に増し、俺の言うことならどんなことでも従う主人とメイドの関係になっていた。俺たちは夫婦だから立場は同じなのだが、彼女自身がメイドとして俺に仕えたいと申し出てきたので、俺はそれを受け入れ今の関係に至る。

 

 

 ことりは俺の首に腕を回し、小さく背伸びをして可愛くぷりっとした唇を俺の唇に優しく押し付ける。穂乃果の元気いっぱいのキスとはまた違った、ことり特有の穏やかなキス。高校時代から成長して、性を前面に押し出さなくなったゆえの優しげな暖かさがある。

 

 

「んっ……はぁ……」

「んんっ……あぁ……」

 

 

 ことりの艶かしい喘ぎ声は、俺の欲求を大きく刺激する。甲高い甘い声で鳴かれると、もっと彼女を攻めたくなる衝動に駆られ、俺はいつの間にかことりを抱いてしまう。彼女を自分の身体に強く抱きしめながら彼女の嬌声を聞くため、キスと同時に彼女の胸を大きく鷲掴みにして攻め立てた。

 

 

「ふぅ、っ……んっ、はぁ……んっ……ちゅっ、ちゅぅ……」

「はぁん……あっ、ちゅ……零、くん大好き♪……んっ、もっと、ちゅぅ……もっとことりの身体を触って♡」

 

 

 性を前面に押し出さなくなったと言ってもことりの性は身体の奥底で息を潜めていて、少しでも興奮すると彼女の性欲は俺をも凌駕する。自分から胸を揉まれやすい位置に身体を動かすなど、その淫乱さは昔と全然変わっていない。故に優しいキスもすぐに濃厚なキスに変化し、俺からの愛をその身でたっぷりと味わっている。

 

 

「はぁ……気持ちよかったよ、ことり」

「ありがとうございます!ご主人様の命令なら、ことりはどんなことだって受け入れます♪なのでもし欲求不満になってしまったら、是非ことりをお呼びくださいね♪」

「あぁ、ありがとな」

「えへへ……ご主人様!!」

「おっと」

 

 

 ことりは再び勢いよく俺へ抱きつき、俺の胸に顔を埋めた。まるで犬のように俺の匂いを嗅ぐ癖、やはり高校時代の習性は完全には抜けきっていないようだ。

 ことりの頭を撫でてやると、彼女はその欲情に浸る淫らな声を上げる。そんな色っぽい彼女が愛おしく、また興奮してしまったり。

 

 

「あっ、零くんの……大きくなってるね♪」

「お前の淫猥な姿、最高だったからな」

「ありがとうございます!今すぐ処理しますね――――海未ちゃんが♪」

「海未が?」

 

 

 ことりに指名された海未は掃除の手を止め、俺の奉仕をするためにまずは自ら服を脱ぎ始めた。

 大和撫子が魅せるストリップショーは、朝の穏やかな雰囲気も相まり俺の目を釘付けにさせる。一枚一枚服を脱いでいくその姿に魅了されながらも、遂に下着姿となった海未は、最後の一枚も躊躇なく取り払う。残ったのは、下の下着一枚のみ……。

 

 海未の艶かしい脚線美と、俺の手に収まるくらいの程よい綺麗な胸が顕となり、一瞬にして俺の目を奪う。

 

 

「ここからは私があなたのお相手をさせて頂きます。驚きましたか?」

「あ、あぁ……珍しいな、お前が自分から脱ぐなんて」

「穂乃果やことりと同じ、私もあなたに全てを捧げた身。主であるあなたを、私たちがご奉仕するのが当たり前ではないですか」

「海未……」

「今までの感謝を込めて、精一杯あなたをご奉仕します。私の身体を使って気持ちよくなってくださいね♪」

 

 

 ことりが俺の身体から離れ、その代わりに海未が俺の身体に密着した。

 ことりが身体から離れたことによって寂しくなった温もりが、海未によって再び蘇らせられる。生の胸を通して伝わってくる心臓の鼓動が俺の鼓動と同期して、より一層彼女と1つになった。そして自分の身体を上下に動かして、俺の身体に刺激を与える。海未の胸の感触が、俺をまた快楽へと引きずり込む。

 

 

「こうして胸でマッサージするのは久しぶりですね。どうですか?もっと強くした方がいいですかね?」

「いや、丁度いいよ……続けてくれ」

「はい♪フフッ私たちの身体は全てあなたのモノですから、もっと好きなように使ってくれても構わないのですよ」

「そんな乱暴にできる訳ないだろ。俺の大切な彼女たちの身体なんだ、傷付けることなんてできないよ」

「零……やはりあなたは優しいですね。それだから私たちは、もっとあなたに愛されたくなってしまうではありませんか♪」

 

 

 海未は俺を玄関近くにある柱まで誘導し、柱と自分で俺を挟み込むような体勢を作る。

 ここまで積極的でも緊張していない訳ではないのか、頬を赤く染めて多少戸惑いながらもその場で屈み込む。その時の海未の表情は、ウットリとした大人の女性の顔に変わっていた。

 

 

「この匂い……穂乃果のお掃除が不完全だったのではないですか?」

「アイツは奉仕は激しいからな。そりゃあ多少掃除のし残しもあるんじゃないか」

「全く、それでしたら私が処理からお掃除まで、完璧に仕上げて差し上げます。リラックスしてくださいね」

「あぁ、頼むよ」

「はい♪それでは失礼します――――――」

 

 

 そして海未は俺のズボンに手を掛け――――――

 

 

 

 

 こうして俺たちの生活は、早朝からしっぽりと迎える。仕事の手を止めてまで主を出迎え、欲求不満と判断したら自らの身体を差し出すその忠誠心は、俺への愛を思う存分に示してくれているのだろう。

 

 これが、愛情の深みにどっぷりと浸かった俺たちの日常である。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 ことりと海未と別れ、現在再び家の中。いい加減腹が減ってきた俺は、足早に廊下を歩き食堂へと向かっている。

 朝から2度も搾り取られたため、これは精の出るものを食べないと今日一日もたないぞ。俺のために一生懸命尽くしてくれている彼女たちを目の前に、精を与えることができず干からびるとか迷惑極まりないからな。

 

 

 そんな時とある部屋から、ピアノの調律音が足を止めて聞き惚れてしまうほどに冴え冴えと響いてきた。俺はその音に誘われるまま部屋の扉に近付き、扉のノブの手を掛ける。

 

 

 演奏が終わったのだろうか、部屋に入ると同時に俺を誘った調律音が止む。部屋を見渡してみると、演奏が上手くいって満足そうな表情をしている真姫がピアノの前に座っていた。

 

 

「おはよう真姫。いい演奏だったぞ」

「おはよう零。聞いていたのね、ありがとう。でも……朝からうるさかったかしら?」

「いや全然そんなことないよ。むしろさっきまで激しいことしてたから、心が落ち着いた」

「また朝からやってたの?飽きないわね、あなたもみんなも」

「それはお前も、だろ?」

「みんなほどがっつきはしないわよ。だけど期待はしてるけどね」

「ま、真姫……?」

 

 

 真姫はピアノ椅子から立ち上がり、くせっ毛のある髪を整えながら俺に近付く。

 そして俺の前に立つと、突然自分の服をお腹が出るくらいに捲くって俺の腹にぐっと押し付けた。更に背伸びをして俺の首に手を回し、口を耳元に近付けこう囁く。

 

 

「できちゃったみたい。あなたと私の……」

「できたって……まさか!?」

「そう。あなたと私の、愛の結晶が……ね♪」

 

 

 遂に……遂にこの時がやってきたのか!?彼女たちと結婚してまだ間もないというのに、もう俺たちの愛が形となって具現化するとは!!いつかこうなることは分かっていたのだが、実際に事実を突き付けられるとどう反応していいのか困るくらい焦燥してしまう。もちろんいい意味でだけどな。

 

 

「私だけじゃないわ。昨日私の病院で検査をした時、みんなあなたの愛をお腹の中に身篭っていたのよ」

「穂乃果たちもか?どうして言ってくれなかったんだよ」

「みんなで伝えて、あなたを驚かせようと思って。でも我慢できずに先に言っちゃった♪あなたとの愛を身篭ることが、私の夢だったもの。待ってなんていられなかったわ」

 

 

 みんなから一斉にその事実を伝えられたら、恐らく嬉しさで舞い上がって気絶しちゃうぞ。今ですら喜びに満ち溢れているというのに。傍から見れば冷静に振舞っているように見えるけど、無事に真姫のお腹に愛の結晶が芽生えてくれて、安心しているって方が大きい。

 

 

「でも、意外と早かったな」

「夜這いの時にあなたが寝かせてくれないからでしょ。何回出せば気が済むのよ。それに私たちは日中でもあなたに身体を差し出している。それでできない訳ないじゃない」

「確かに、思い返せば結構盛ってるよな」

「それがあなたの望んだことなんでしょ?それに……」

「それに……?」

 

 

 

 

 真姫は俺の身体から3歩ほど後ろに離れた。

 そして両手でスカートの裾を摘み、ゆっくりと持ち上げる。徐々に顕になる真姫の生足、太もも……そして衣類に包み隠されていた赤い下着が、俺の目の前に晒される。

 

 

 

 

「私たちがこうなっちゃったのは、全てあなたのせいなんだから。もうあなたの手で触られないと、満足できない身体にされてしまった……だから、最後までちゃんと責任取ってよね♪」

 

 

 

 真姫が自らスカートをたくし上げるその姿に、俺は目を奪われる。朝の日差しが部屋に照りつけ、美しく輝く彼女に心まで魅了されてしまった。

 

 

 もちろん、黙って立っていることなんてできるはずがなく――――――

 

 

「真姫!!」

「んんっ!!いきなりキスなんて、あっ!!がっつきすぎ!!んんっ!!」

「ちゅるっ、んんっ、ちゅう……!!」

「ちゅっ、んっ、ちゅっ……!!あぁ、零!!好き……♪ああっ!!んっ……」

 

 

 俺は真姫に抱きつき、そのままベッドに誘導して押し倒す。そして初っ端から濃厚にキスをすることで、真姫の興奮を一気に最高潮まで登らせてやる。

 

 あんな綺麗な脚線美と下着を見せつけながら誘惑されて、靡かない男なんていない。ここまで俺の欲求を高めてくれたお礼に、今朝はたっぷりと可愛がってやろう。自分からその身を差し出してきたんだ、文句はあるまい。

 

 

 このまま、2つ目の愛の結晶を芽生えさせてもいいかもな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 マズイマズイ!!真姫と愛し合っていたら朝食の時間に遅刻してる!!

 これまでも朝のご奉仕から行為に発展してしまったせいで、何度か遅刻しそうになったことはあったのだが、ここまで時間を忘れて身体を重ね合ったのは初めてだ。これは主とあろうものが平謝りも辞さないぞ……。

 

 食堂へ向かう足も足早から小走りに変わり、寝起きから穂乃果たちと交じり合っていたせいで若干疲れた身体にムチを打つ。

 

 そして、遂に食堂の扉の前に到着した。本来なら1分程度で辿り着けるはずなんだけどな……今日は無駄に時間が掛かった。

 

 

 扉を開けると、そこには俺が来なくて暇そうに椅子に座っている雪穂と亜里沙の姿があった。

 だが2人は俺の姿を確認するなり、勢いよく椅子から立ち上がって俺の元へ駆け足で詰め寄って来る。

 

 

「零くん遅いです!!今までどこに行ってたんですか!?」

「もう朝食の時間はとっくに過ぎているんですからね!!」

「悪かったよ、ちょっと穂乃果たちと……な」

「『な』じゃないですよ!!私たちずぅ~っと待ってたんですからね!!」

「昨晩の夜這い担当はお姉ちゃんだったっけ。お姉ちゃんが担当の時はいつも遅刻するんですから……」

「いつもではないだろ、多分……」

 

 

 穂乃果から奉仕してもらった後、ことりや海未、真姫にも奉仕をしてもらって遅れたなんて言えるはずないよな……日常茶飯事なことなんだけども。

 

 そういや雪穂と亜里沙のお腹にも、愛の結晶が芽生えつつあるんだったな。彼女たちの中でも特に小柄なこの2人に種を送り込んで発芽させたのか……なんか妄想だけでも興奮する。

 

 

 あぁ~ダメだ。穂乃果たちから注ぎ込まれた快楽の余韻がまだ残ってやがる。もうこの2人を見ているだけでも我慢できなくなってきた……。

 

 

「きゃっ!!れ、零くん!?」

「きゅ、急に抱きついて……どうしたんですか!?」

「もう我慢できねぇよ。朝食の前にまずはお前たちから頂こうかな。2人同時に……」

「私たちから……零くんが求めるというのなら私の身体、たくさん堪能してください♪」

「わ、私だって零君に触られたくて昨日の夜からずっとウズウズしてるんです。私の身体、いっぱい気持ちよくしてください♪」

 

 

 亜里沙は俺に従順で元気よく、雪穂は少し恥ずかしがりながらも、俺に身体を差し出す気は満々のようだ。

 

 2人は自分から服と下着を脱ぎ去り、上半身を露出させる。

 亜里沙の肌は髪の色と同化しそうなくらい真っ白で、胸も姉の絵里と同じくらい立派に成長している。背はそこまで高くないのに胸だけ大きいという、そのギャップだけでも俺の欲求を沸き立たせる。

 雪穂もそこそこ小柄だが、胸は穂乃果並みに成長と遂げているので俺の手にジャストフィットする、まさに俺のためだけに生まれてきたかような胸だ。

 

 

「さぁ雪穂♪」

「うん♪」

 

 

 亜里沙と雪穂はお互いに抱き合って、お互いに胸を押し付け合う。2人の胸がお互いの胸でぷにっと押しつぶされている艶かしいこの光景に、俺の研ぎ澄まされていた性欲を解放寸前にまで至る。

 

 

 そして既に淫らな目で俺を見つめている2人が、同時に口を開いた。 

 

 

 

 

「「今日の朝食は私たちです♪たっぷりと味わってくださいね、"お兄ちゃん"♪」」

 

 

 

 

 "お兄ちゃん"

 

 俺の彼女たち最年少組にだけ与えられた特権。妹キャラに成りきって、背徳感のあるプレイを求める時に使われる。もちろん俺の返答は――――――

 

 

「頂きます!!」

「ふわぁ、はぁん!!」

「んんっ、あぁん!!」

 

 

 俺は抱きつき合っている2人の上から更に抱きつく。

 そしてお互いに押し付け合っている胸に顔を近付け、その胸の尖端を舌を使って2つ同時に攻め立てる。

 

 

「ひゃんっ!あっ、んあっ♪」

「あんっ!んっ、はぁんっ♪」

 

 

 お互いに先端を擦りつけ合って感じているのも相まって、いつもよりかなり敏感なようだ。攻めるたびに可愛い嬌声が食堂に響き、俺の性欲も徐々に解放されていく。彼女たちの喘ぎ声は俺の下腹部に大きく響き、俺の俺も元気を取り戻しつつあった。

 

 

「あんっ♡ど、どうですかお兄ちゃん?ひゃんっ♡私たちの朝ごはんは美味しいですか?やんっ♡」

「あぁ、美味しいよ雪穂。こんな甘い果実、ずっと味わっていたいくらいだ」

「んっ♡私たちの身体は……あっ♡お兄ちゃんのモノですから……ん♡いつでもどこでも味わってくれて、いいんですよ♪」

「ありがとな亜里沙。また今度、ゆっくりと食べさせてもらおうかな。もちろん雪穂と亜里沙を一緒にな」

「「はい♪お好きな時にいつでもどうぞ、お兄ちゃん♪」」

 

 

 日頃から俺に尽くしてくれているお礼だ、朝から腰が抜けて立てなくなるくらい攻め立ててやる。そしてこれからお腹が空いた時は、この2人を呼べば万事解決だな。しかも同時に己の性欲も発散でき2人を気持ちよくさせることができる。彼女たちの身体は俺のモノ、これからもたっぷりと愛を注いでやろう。

 

 

「それじゃあ次はお前たちにも朝食をあげよう」

「私たちにも、ですか?」

「あぁ、元気になっちまったコレを静めながらな」

 

 

 俺は2人の胸から顔を離し、一歩後ろへと下がる。

 その時、雪穂も亜里沙も俺の膨らんだ下腹部を期待を込めた目線でじっと見つめていた。やっぱり俺の彼女たちは、コレが大好きらしい。そこまで輝かしい目で見つめられたら、俺も全力で答えてやるしかないな。

 

 

「雪穂、亜里沙……下も、脱いでくれるか?」

 

 

 

 

 2人の応答は、一瞬だった。

 

 

 

 

「「はい、お兄ちゃん♪」」

 

 

 

 

 そしてまた朝食が遅れていく……でも可愛い彼女たちと愛し合えるのなら、それ以外はどうなったっていいや。

 

 

 

 

To Be Continued……

 

 




 今回は零君を主としたμ'sハーレムの話でした。
 この話は『新日常』を連載し始めた当初からずっと書きたかった話で、「100話到達時に書いてやる!!」という意気込みの元、ここまで我武者羅に頑張ってきました(笑)
折角なので1話に収めたいという気持ちはあったのですが、そのためには1人1人の描写の文字数を荒削りしなければならなかったので敢え無く分割しました。待ちに待った100話記念なので、文字数を削るのは勿体無いですしね。
前半は穂乃果、ことり、海未、真姫、雪穂、亜里沙の6人とのいちゃらぶを描写してみましたが如何だったでしょうか?どこで萌え死んだか教えてもらえると私が喜びます(笑)
後編では花陽、凛、楓、絵里、希、にこの6人との際どい描写を書いていきますよ!


 そしてようやく『新日常』が100話を突破しました!!
 100話という目標自体は『日常』を書き始めた当初からあったのですが、あちらは『非日常』との兼ね合いで3月中にケリを付けるという目標も同時にあったので、前作ではそっちを優先に執筆をしていました。
なので今回は当初の目的がようやく達成されて本当に感無量です!『日常』『非日常』『新日常』の話数を合計すると215話。ハーメルン内でのラブライブ小説の中ではトップクラスの話数、更に執筆した文字数は私がダントツなので、これは執筆廃人と呼ばれてもおかしくないですね(笑)
もう1つ自慢するならば、この1年間一切変わらぬ更新頻度で投稿し続けたことですかね。

読者の皆様にはここまで応援して頂き本当に感謝をしています!ありがとうございました!
――なんか最終回みたいになっちゃいましたけど、まだ続けていくつもりですよ!でも目標である100話は達成しましたし、少し更新頻度を落としていこうとも考えています。それでも応援してくださるのなら幸いです。


 『新日常』の中で皆さんはどの話が好みなのでしょうか?私が気に入っている話は全部です!――と言うと話にならないので、特に気に入っている話を挙げますと……

日常回なら
ラブライブクエスト編:全5話

真面目回なら
『私、スクールアイドルをやめます』

R-17.9回なら
『μ'sハーレムの主になった』(まだ書いてないけど次回も含めて)

 みなさんが何度も読み返す回があると、作者としては嬉しい限りです!


 そして11月より、ハーメルンのラブライブ小説の作家さんたちによる『新日常』100話記念アンソロジー企画が順次投稿されます!
20人近くの作家さんたちがそれぞれ『新日常』の話を執筆してくださったので、毎日ちょっぴり変わった『新日常』の世界が味わえると思います!もちろんその間にも、本編は更新し続けていく予定です。


 改めて、ここまで応援してくださった読者の皆さん、そして同じラ!作家の皆さん、本当にありがとうございました!これからも妄想パワー全開でμ'sのあんな姿やこんな姿を淫らに書いていきたいと思います!(笑)

 そして『新日常』に感想を書いてくださったり、高評価を入れてくださった方には多大なる感謝を!ありがとうございます!


付録:各キャラクターの登場回数(登場回数/100)

零(100)
穂乃果(62)
ことり(58)
海未(58)

凛(47)
花陽(47)
真姫(50)

絵里(49)
希(43)
にこ(47)

雪穂(46)
亜里沙(47)
楓(43)


Twitter始めてみた。企画小説の投稿日は31日~投稿までに掲載予定。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】μ'sハーレムの主になった(後編)

 1週間ほどお待たせしました!今回から11月投稿分となります。
 11月一発目は前回の続きで第100話記念の後半戦となっております!今回は花陽、凛、楓、にこ、絵里、希の6人がお相手!


 朝食(雪穂と亜里沙、ちゃんとした朝食の2食)を取った俺は、朝の身支度をするため洗面所へ向かう。

 本来は朝食の前に粗方済ませるのだが、今日に限ってはかなり盛ってしまったので朝食を取った後の身支度となってしまった。中で待ってる子たち怒ってるだろうな……。

 

 だが雪穂と亜里沙もそうだったように、怒っている彼女たちも可愛いんだよなぁ~!!だからわざと遅刻して、ぷりぷりと怒っている彼女たちの表情を和やかに眺めるのもいいかもしれない。

 

 

 そんな浮かれた気持ちで、洗面所の扉を開け放った。

 

 

「あっ、やっと来た!!遅いわよ!!」

「悪かったよ、にこ。ゆっくり朝食を食べてたから……そう、ゆっくりと」

 

 

 洗面所には自慢のツインテールを上下にぴょこぴょこ動かしながら、大量の洗濯物を抱えるにこの姿があった。

 13人の同棲生活の欠点を言えば、こうして洗濯物が溢れるのが困りもの。普段なら穂乃果たちが2人以上で分担をするぐらい大量にあるのだが、そこは高校生時代からずっと家事を一手に受け持っている彼女のこと、このくらいのことも1人で平気でやってのける。

 

 

 

 

 だがそれ以上に、1人で家事をするのは理由があって――――――

 

 

 

 

「今朝はにこを待たせた分、たっぷりと可愛がってもらうんだから♪」

 

 

 

 

 にこは洗濯物を放り出し、いつまで経っても変わらない小柄な全身で俺の身体へと抱きつく。その勢いに俺は多少仰け反りながらも、彼女の背中に手を回して受け止めた。

 

 そう、彼女はこうして俺を独り占めして自分だけ愛を注いてもらう時間を少しでも増やそうという魂胆なのだ。もちろん穂乃果たちを目の敵にしたり出し抜こうとしている訳ではなく、単純に俺に構ってもらいたい、ただそれだけの話。むしろ彼女以上に穂乃果たちを見ている人はいないだろう。これでもお姉さんキャラだし。

 

 

「もちろん。お前の身体は一口で全身を味わえるから好きなんだよな」

「それってにこがおこちゃま体型だって言いたいの――――――んんっ♡」

「お?どうした?」

「きゅ、急におっぱい弄るからぁ~♡……あんっ♪」

 

 

 相変わらずにこの胸はいい感度してるなぁ~!これも毎日、胸だけでだらしなくイけるように開発してやったお陰だ。彼女の独特の高音から放たれる嬌声は俺の性欲に大いなる刺激を与え、彼女を攻める手さばきがより器用となる。そして更ににこから甲高い喘ぎ声が漏れ出して――――――

 

 

「はぁ……あんっ♡」

「もっと、もっとだ!!もっと俺を悦ばせてくれ!!」

「んんっ、んあっ♡」

 

 

 今度はにこの服の隙間から手を忍ばせ、胸の先端を親指と人差し指で直に摘む。すると彼女の身体がビクンと大きく震え上がり、そのまま俺に身をよじらせてよがる。彼女の顔は快楽により緩みに緩みきっており、頬を真っ赤にしながらただ卑猥な声を漏らすだけだった。

 

 

「んっ、あぁあああああ♡」

「どうだにこ。俺からの愛、たっぷり感じてるか?」

「えぇ♪零からの愛、にこの身体でたくさん感じてるのぉおおおおおお♡もうあなたの手でしか満足できない♡もっと、もっとにこに愛を注いでぇえええええええ♡」

「あぁ、もちろん。大好きだよ、にこ」

「にこも零のこと大好きなのぉおおおおおおおおおおおおお♡」

 

 

 にこはツインテールを大きく揺らしながら、身体をビクビクと震わせて悦ぶ。

 彼女だけでなく穂乃果たちもそうだが、全員俺の手で弄られないと満足できない身体になっていた。だから彼女たちは俺と身体を重ねる時間を何よりも大切にし、何事よりも貪欲になるのだ。

 

 

 そしてにこの胸を十分に堪能し終えた俺は、指を彼女の胸の先端から弾くように離す。

 

 

「あ゛ぁあああああああああああんっ♡」

 

 

 今日一番の嬌声が洗面所に大きく響き渡る。

 にこははぁはぁと卑猥な吐息を漏らして、俺の身体にもたれ掛かった。本人は乱れに乱れた性欲を一度落ち着かせようとしているみたいだが、まだまだヤりたりない俺が簡単に休ませる訳ないだろ。

 

 

「にこ、次はここの処理を頼めるかな?」

「あっ♡これこれこの匂いよ!!にこがこの世で一番大好きな匂いは♪もう既に何回かヤってきたんでしょ?絶倫ね全くぅ♡」

「そう言う割には嬉しそうだな」

「当たり前でしょ!!これからにこが一番大好きなモノを食べられるんだから♪」

「そうだな。じゃあよろしく頼むよ」

「えぇ♪頂きます♡」

 

 

 そして、にこは俺のズボンに手を伸ばす――――――

 

 

 彼女の小さなおクチで精一杯アレを頬張るその姿は、俺の性欲も大きく刺激させる。今日もたっぷり搾り取られそうだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 日も高く昇り始め、ぽかぽかとした陽気な暖かさとなってきた。まぁ俺たちはそんな太陽よりも朝からお熱いプレイをして、身体は色んな意味で火照っている訳だが……。

 

 朝の身支度を済ませた俺は玄関を出て、豪邸の前を埋め尽くすほど広大な庭園へとやって来ていた。そこにはこの庭を作ろうと言った本人の希望により、辺り一面お花畑となっている。

 初めは何となしに大切な彼女だからという理由で庭を作ることを承諾したのだが、実際にこの光景を見てみると、朝の穏やかな雰囲気とお花畑ののどかさが相まって、乱れに乱れた心が浄化されスッキリとする。

 

 

 するとそこで、庭の手入れをしていた凛と花陽が俺の元へと駆け寄ってきた。

 

 

「おはよう零くん!!今日もカッコいいにゃ~♪」

「おはようございます零くん♪わざわざ私たちのところまで来て顔を出してくれるなんて、ありがとうございます!」

「当然だろ。お前らは俺の可愛いお嫁さんで――――俺を悦ばせる可愛いお人形さんでもあるんだから」

 

 

 同時に俺は凛と花陽を両腕で包み込むように抱き寄せた。雪穂と亜里沙のコンビ程ではないがこの2人も相当小柄なので、俺の身体なら彼女たちをすっぽりと腕の中に収めることができる。

 

 

「零くん暖かい~♪やっぱりこうして零くんと抱き合っていると、身体も心もポカポカするにゃ~♪」

「私も、零君に抱きしめられている時が一番落ち着きます。零君のモノになれて、本当によかったって思えるんだ♪」

「俺もだよ。2人だけじゃない、みんなのような可愛い女の子を全員お嫁さんに迎えられて、俺も嬉しいよ」

 

 

 凛と花陽は俺の胸に顔を埋めながら、まるで猫のように俺にじゃれついてくる。さっきまで庭の手入れをしていたせいか、2人から花の香りが漂ってきた。その香りは凛と花陽の甘い匂いと相まって、俺の性欲を高ぶらせる卑猥な芳香と化している。もちろん性に乱れた俺が我慢できるはずもなく――――――

 

 

「2人共。庭のお世話だけじゃなくて、俺のお世話も頼めるか?」

「もちろんです!零君と身体を交えることが、毎日の楽しみなんですから♪」

「零くんが気持ちよくなってくれるなら、凛たちの身体をいくらでも好きにしていいんだよ♪」

「ありがとな。でも乱暴にはできない。俺の大切な、お嫁さんの身体だからな」

「「ふわぁ~♪」」

 

 

 2人の頭を優しく撫でてやると、凛も花陽も瞳をトロンとさせて俺の手の温もりに浸っている。この2人は特に頭を撫でられるのが大好きで、このまま行けば撫でられるだけでイッてしまう特異な身体になってしまうかもしれない。

 

 

「そうだな……じゃあ最初は花陽から。おいで」

「はい♪よろしくお願いします♡」

 

 

 俺は2人の興奮を煽らせるため、まず花陽の肉付きのいい唇に自分の唇をそっと押し付けた。

 

 

「んっ……あっ、んっ……」

「んっ……はぁ、んんっ……」

 

 

 花陽は恥ずかしがりながらも、いざ俺と身体を寄り添い合うと自分から貪欲に俺を求めてくる。キスの時も行為の時も、自分の豊満な胸を俺に押しつぶすように押し付け、主を悦ばせるだけの大人の女となる。高校時代から積み重ねてきた積極さが、主への忠誠となって体現化していた。

 

 

「かよちんだけずる~い!!凛も凛もぉ~!!」

「相変わらず甘えん坊だな凛は。もちろん今からやってやる」

「えへへ~♪零くんとキスすると、身体が疼いちゃって気持ちいいんだ♪」

「じゃあ一緒にしよ、凛ちゃん♪」

「かよちんと凛、2人で零くんにキスするにゃ~♪」

 

 

 次に凛が背伸びをして、俺の唇へ飛びつくように自分の唇を重ねた。花陽も続けて俺の唇に自分の唇を当てる。

 

 

「あっ……はぁ、ちゅっ……んっ……」

「はぁ……あっ、ちゅ……ん……」

「ふぅ、っ……んっ、はぁ……んっ……」

 

 

 凛の小さくもふっくらと柔らかい唇は、俺の唇に大きく吸い付いて離さない。ぴちゃぴちゃと卑猥な唾液の音を立てながら、彼女は俺に全身を預けてくる。花陽も負けじと俺の唇に食らいつき、お互いの身体が絡みつきそうなくらいに俺たち3人の身体は一体となっていた。

 

 

 そして凛と花陽からの愛情をたっぷりと受け取った俺は、一旦2人の唇から自分の唇を離し、そのまま2人の耳元に顔を近付け囁くように呟いた。

 

 

「もう我慢できない。だから……脱いでくれないか?」

 

 

 彼女たちはピクンと肩を揺らす。凛も花陽も俺のその言葉を待ってましたかと言わんばかりに、頬を赤く高陽させて自分の服に手をかけ始めた。脱いでくれと言ったら脱いでくれる彼女たち。まさに俺の思い描いていた夢そのものだ。

 

 

 花陽も凛もさっきのキスでよほど興奮してしまったのか、漏れ出す卑猥な吐息が止まらない。頭を撫でたりキスだけでここまで性欲を掻き立てられるとは、やはりこの2人は変態μ'sの中でも純粋に最も近い子たちだ。

 

 

「見てください……私の身体♡零君を悦ばせるためだけの、零君だけのモノを……♡」

「凛もおっぱい大きくなってきたんだよ♡もっと大人の女性になるために、たくさん可愛がって欲しいにゃ~♡」

「もちろん2人同時に可愛がってあげるよ。だから今日は下も脱いで、脚を開いて俺におねだりするんだ」

「「はい♡」」

 

 

 こんな美少女たちの心と身体を支配していると思うと、更なる支配欲が湧き上がり、彼女たちをもっともっと可愛がりたくなってくる。今日もその小柄で俺のモノであるその身体で、たっぷりと俺の性欲を発散させてもらおう。そして2人には、今まで味わったことのない快楽を全身に注ぎ込んでやる。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 3人プレイで果ててしまった凛と花陽を、同じく玄関先で掃除をしていたことりと海未に任せ、俺は仕事の用意をするために自室へ向かっていた。仕事と言っても秋葉の研究室に行くだけなので、適当にラフな格好でいいのだが、一応体裁だけは整えておかないとな。

 

 

 自室の扉の前まで来ると、扉がほんの少しだけ開いていることに気が付いた。しかもベッドが軋む音まで微かに廊下まで漏れ出している。誰かがベッドの掃除をしている?でも今日のベッド掃除は、昨晩の夜這い担当の穂乃果のはずだし……。

 

 

 俺は中にいる誰かに気付かれないように、ゆっくりと扉を開けて部屋へ入った。

 

 

「んはっ♡あぁっ!!――――――あっ、お兄ちゃん♡おはよ~♪」

「か、楓!?」

 

 

 俺の部屋で卑猥な声を上げていたのは楓だった。もしかしなくても、俺のベッドの上で自分磨きの真っ最中だったようだ。服もスカートも乱れに乱れた半裸状態で……しかも上下の下着がモロに見え、それすらもズレているのでもはや衣類や下着としての機能を果たしてない。

 

 だがそこはスタイル抜群の楓のこと、その身体の色気で俺の目を奪い魅了するなど容易いことだった。

 

 

「どうしてお前がこの部屋に?穂乃果はどうした?」

「さぁ?枕がなくなってるから、自分の部屋に持ち帰って色々やってるんじゃない♪」

「またかアイツは……高校時代から俺の私物を持ち去るクセだけは、全然変わってないな」

 

 

 だが楓も楓でベッドに敷かれていたシーツを剥ぎ取り、まるで自分の衣服かのように身に纏う。そしてそのシーツの匂いを嗅ぎながら、自分の胸や下半身に指を当て始めた。

 

 シーツの防壁で下半身は見えないが、花陽よりも大きく実った果実の先端が彼女の指に触れるたびにふるふると揺れる様を見て、俺の興奮は一気に最高潮に上り詰める。

 

 

「あぁん!!お兄ちゃ~ん♡気持ちいいよぉ~~!!」

 

 

 まだ俺は何もしていないというのに、楓は自分の身体を弄り回しながら俺と行為をしているかのような嬌声を部屋中に響かせる。普段の彼女の顔は大人びて非常に誠実で整った顔をしているが、今の彼女の顔は目元も垂れ、頬は真っ赤に染め上がり、口から涎が漏れ出していても気にしていない、性によって崩れに崩れていた。

 

 

 俺も実の妹の艶かしい姿、甘い誘惑に、瞬く間に心を奪われる。同時にさっき静めてもらった欲求が、彼女によって再び呼び戻された。

 

 

「はぁ……あん♡はぁはぁ……お兄ちゃん♪お兄ちゃ~ん♡そこ、弄っちゃダメぇ~~♡」

「か、楓……」

 

 

 楓は目の前に俺がいると知りながら、妄想内の俺との行為(傍から見ると自分磨きだが)をひたすらに続ける。喘ぎ声が一部叫び声に聞こえるなど、彼女の性欲は最高潮を超えて限界突破してしまっているのだろう。

 

 

 もう、俺は…………。

 

 

 

 

「お兄ちゃん♪一緒に……シよ♡」

 

 

 

 さっきまで楓の淫猥な姿に魅了されて動けなかった俺だが、彼女の誘惑に遂に俺の性欲が爆発した。自分磨きをしていた楓に覆い被さるように、俺もベッドに飛び込んだ。

 

 

「きゃっ!!お兄ちゃん、がっつき過ぎ♪やんっ♡」

「今度は妄想の俺じゃなくて、本物の俺がお前を果てさせてやるよ。妄想なんかには負けない、本当の刺激をな……」

「あっ♪言葉だけでも果てちゃいそう♡来て、お兄ちゃん♡」

 

 

 俺は楓が身に纏っていたシーツを掴み、思いっきり剥ぎ取った。そして彼女の生まれたままの姿が、俺美術のような輝きを放ちながら俺の目の前に現れる。

 

 

 血の繋がった実の兄妹?そんなものは関係ない。こうしてお互いに愛情さえあれば、俺たちは一線どころかその先だって乗り越えてみせる。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 この朝だけで10人もの女の子たちと身体を交じり合わせた。だが未だに尽きることのないこの欲求は、やはりまだ"あの2人"と身体を重ねていないからだろう。俺の彼女たちの中でも、最高級の身体付きであるあの2人と……。

 

 そいつらがいるのは恐らく浴場に違いない。俺も彼女たちもそうだが、何人かは朝風呂を好む人もいる。だから今まで家を歩いていて出会わなかったということは、その2人は今浴場にいるのだろう。ついでに俺も彼女たちの体液で塗れたこの身体を洗うとするかな。

 

 

 脱衣所で服を脱いで腰にタオルを巻き、浴場に誰かいるなんて躊躇もせずに扉を開ける。結婚して夫婦になったんだ、今更裸を見たり見られたところでなんら不思議ではない。

 

 

 そして俺の予想通り、浴場にはμ'sトップクラスの身体を持つ絵里と希が身体を洗っている最中だった。

 

 

「あら、おはよう零。あなたも来たのね」

「おはよう零くん♪まさか、お風呂に入ってるウチらを狙って入って来た?」

「もちろん。女の子の身体を見るのなら、浴場が一番手っ取り早い」

「別にあなたの命令なら、私たちはいつでもどこでも服を脱ぐけど」

「それはそうだが、泡に塗れた水も滴るお前たちは、ここでしか見られないだろ?」

 

 

 絵里と希は身体を洗っている最中だった。全身が泡に包まれてアダルティなだけではなく、綺麗な肌から弾かれて滴り落ちる水滴が、大人の女性としての魅力を最大限に引き立たせる。

 

 

「それじゃあウチらが零君の身体を洗ってあげるね!」

「あぁ、ありがとう。それじゃあお言葉に甘えようかな」

 

 

 俺は希に手を引かれ、先ほどまで彼女が座っていた場所まで案内される。

 もちろんなのだが、ここは浴場なので絵里も希も当然全裸だ。歩くたびに高校時代より一層成長した果実が大きく揺れ、それを見ているだけでも性的欲求が大きく高ぶる。大切な箇所は泡で隠れているが、隠れていることによって淫猥さも増すというものだ。

 

 

「この匂い……今朝もかなり盛ってたみたいね」

「それが俺たちの日常なんだよ。それにお前らだって、夜這い当番の時にはいつも乱れ過ぎてるからな」

「やっぱり零君と身体を重ねるのは、ずっとウチらが夢見ていたことやから、嬉しさのあまり……ね♪」

「昨晩は穂乃果が当番で疲れたでしょ?あの子は本当に容赦ないから。だから今だけは私たちに身を委ねて、ゆっくりしていってね♪」

「ウチらの身体で、零君をたぁ~ぷりと癒してあげる!リラックスリラックス♪」

 

 

 俺の前に座っている絵里は俺の頭をそっと抱きしめ、そのまま自分の胸の谷間に抱き寄せた。"ぱふっ"という効果音が似合い過ぎて似合うくらいに、俺の顔は絵里の果実に優しく押し付けられる。そして後ろからはμ's最高級の果実をぶら下げている希が、その自慢の2つの果実で俺の首元を挟み込む。

 

 

「あぁ~気持ちいい。このままダメになりそう……」

「私たちの身体でゆっくり休んでいいのよ。私たちの身体は、全部あなたのモノなんだから」

「ウチらの身体で零君が癒されてくれるなら、それがウチらにとって一番の喜びなんよ♪」

 

 

 いつもは俺が主導権を握り、その豊満な胸から大人な身体付きまで全てを余すことなく使って自分の性欲を発散させているのだが、今回ばかりはお姉さんキャラとなっている彼女たちに任せよう。たまにはこうして身を委ねて相手に導いてもらうのもいいものだな。

 

 

「私たちはあなたが全てなの。あなたの疲れている表情なんて見たくない。だから私たちはあなたに身体を差し出す。あなたが気持ちよくなって、それで悦んでくれるのなら、それが私たちのなによりの喜び。あなたの幸せは私たちの幸せ。ずっと一緒にいたい、零とみんなと……」

 

「身体的にも、精神的にも、そして性欲的にも、辛いことがあったらいつでもウチらを頼ってね。零くんにプロポーズされた時に、みんなあなたにこの身を捧げて愛を伝えるって誓ったから。これが高校時代にあなたからたくさんのものを貰ったウチたちの、精一杯の恩返しや♪」

 

 

 俺が全員一斉にプロポーズをして、それを受け入れられた背景にはそんなことがあったらしい。μ'sのみんなで話し合って、俺への愛と忠誠を誓った。愛をもって、これからの人生一生を掛けて俺に恩返しという名のご奉仕をする。それが彼女たちの愛情表現であり、俺もそれを受け入れる。

 

 もう俺たちを阻む壁は存在しない。一夫多妻も近親相姦も何のその。そこに愛がある限り、俺たちはずっと"いつもの日常"を送り続けるだろう。それに彼女たちのお腹の中には新たな命が芽生え始めている。俺たちの日常は、これからが本番だ。

 

 

 だからこそ、今は今で彼女たちと身体を交えて愛を確かめ合う。こうして前後から胸を押し付けられ、俺の性欲が何度目か分からないくらいに引き戻されてきた。その性欲に従順となって、俺は――――――

 

 

「絵里、希……癒されようと思ったが、やっぱり俺は性に支配されているらしい。もう抑えられない……」

「フフッ、やっぱり零は零ね♪私たちをどうしたい?」

「零くんの好きなようにしてくれてええんよ?なんでも言って♪」

 

 

 彼女たちの胸の中で、俺は性に忠実となって欲望を吐き出した。

 

 

「2人共、脚を開いて床に寝そべってくれ。交互に出し入れしてやる」

「そう来ると思って、もう私のは濡れに濡れて準備OKみたい。やっぱり私の身体はあなたを求めていたんだわ♡よろしくお願いね♪」

「ウチも零君が浴場に入ってきてから、ずっと準備万端や♪零君が満足するまで、いくらでもウチを使ってくれてもいいからね♡」

 

 

 2人は寄り添い合って、浴場の床へと寝そべる。そしてタオルを取り去り、ゆっくりと脚を開いて――――――

 

 

 

 

 これが俺たちの日常、しかもまだ朝だけの出来事だ。12人の彼女たちと、こうして毎日毎日飽きずに愛を深め合っている。そして俺たちはこれからも、底の見えぬ愛の深みにどっぷり浸かっていくのだろう。

 

 

 

 

 大好きだよ、みんな。

 




 欲望を全て吐き出した結果がこれだよ!!


 そんな訳で前後編通しての記念回、いかがだったでしょうか?穂乃果やことりの場合は本編でも同じような内容が書けますが、海未や真姫、ましてや楓とは本編でこのような展開はあまり書けないので、今まで溜まっていた鬱憤や欲望を全て放出することができてとても楽しかったです!

 この記念回は零君とμ'sの未来の1つとして執筆しました。ハーレムにするのはもちろんですが、主と従順に仕える彼女たちという構図が私にとって好きな設定だったので、今回は思い切って全員が零君に惚れて自分から身体を委ねてくるという、私としては最高に萌える展開を執筆してみました。これで読者の皆さんにもハーレム好きが1人でも増えると……いいなぁ(笑)


 次回の投稿は11月7日の予定。その日こそが私が『日常』の1話目を投稿した日付、つまり一周年記念なのです!そうまた記念回です(笑)


 現在、『新日常』のアンソロジー企画小説として『ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 for Anthology~』が『新日常』と同時連載中です。ハーメルンのラブライブの作家様たちが集まって『新日常』の話を執筆してくださったので、そちらも是非ご覧下さい。
投稿日時は11月1日から21日まで、3週間近く毎日21時に投稿予定です。


新たに高評価を着けて頂いた シグナル!さん ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】PV撮影直前(黒歴史編)

 本日は、私がハーメルンにて処女作『ラブライブ!~μ'sとの日常~』の第一話目を投稿した日、つまり一周年記念となります!

 今回のサブタイトルを見て『あっ!』と思った方は、私の『日常』シリーズ大ファンですね(笑)


「やっぱりPVは、他のスクールアイドルに負けないようなインパクトが大事だよ!!」

「なんかどこかで聞いたような気が……」

 

 

 突然穂乃果が机から身を乗り出して、俺の顔にグイっと詰め寄った。

 顔が近い近い近い近い近い近い近い近いいい匂い近い近い近い近い近い近い近い近い………。

 

 

 

 "ラブライブ!"の本戦まであと1ヶ月を切った。本戦に出場するスクールアイドルたちは更なる追い込みを掛けるため、"ラブライブ!"のPV専用の動画サイトに新たにPVを投稿するなど、どのグループもラストスパートに向け必死となっている。

 

 ちなみにμ'sのPVはというと、以前夏に撮った水着でのPVで更新が止まっているため、今日はμ'sのPRも兼ねて今までよりもインパクトのある動画を撮ろうという算段になったのだ。

 

 

 そんな訳で俺+μ'sメンバー12人は狭い部室で寄り添って、本戦に向けてのPVを考えることにした。

 

 

「水着はこの前やったから、今回はメイド服でどうだ?」

「それはあなたの趣味でしょう……」

「だけどメイド服を着たのは1年前のライブ時だけだから、ことりはもう一度着てみたいなぁ~」

「似合ってるのになぁ~海未のメイド姿。普段の清楚な雰囲気とのギャップが感じられて、別の可愛さがある」

「そ、そんな褒め殺しで、わ、私が靡くとでも!?」

「あ~海未ちゃん顔真っ赤だぁ~♪零くんに褒められて照れてる照れてるぅ~♪」

「や、やめてくださいことり!!」

 

 

 うん、やっぱり海未は羞恥で顔を赤く染めている表情が可愛過ぎる!!真姫や絵里もそうだけど、普段からキリッと真面目な奴が、メイド服を着て恥じる姿をするだけでも十分な客寄せになると思うんだけどなぁ。それに加えアキバで有名なミナリンスキーと一緒に絡めば、PVの再生数爆上げ間違いなし!!

 

 

「かよちんはどんな衣装でPVに出たい?」

「私!?う~ん、無難に"ラブライブ!"で着る衣装でいいと思うけど」

「PVで当日の衣装を着てしまうと、それこそインパクトに欠けるだろ。やはりここはメイド服!!」

「あなたのメイド服への異常なこだわりは何なのよ……」

「愚問だな真姫。メイド服に萌えない男などいない!!それにお前らがメイド服を着れば可愛さも倍増!!そこで更に俺のためだけの従順なメイドさんになればなおOK!!」

「もうPVとか関係なくて、あなたが私たちに命令したいだけでしょ!!」

「でも真姫ちゃんのメイド姿、もう一度見てみたいかも……ほら、いつも恥ずかしがって着ないから」

「凛も真姫ちゃんの可愛いメイドさん姿、見てみたいにゃ~♪」

「絶対やらない!!」

 

 

 真姫は気付いていないだろう、自分がいつもの王道パターンに飲み込まれていることに。

 流れとしては、

 

 

『俺と凛が煽る』

『真姫が怒る』

『花陽が甘くお願いする』

『花陽に抵抗しづらい真姫は、初めは抵抗しつつもやがて渋々言う事を聞く』←今ココ!

 

 

 俺や凛には辛辣な態度を取る真姫だが、花陽におねだりされると戸惑って、最終的には嫌々言いながらも従ってくれる、まさに彼女は"ツンデレ"という言葉を擬人化させたような姿。そのデレ具合を利用して上手く彼女を手篭めにすれば、ご主人様に従順となるメイドさんとして覚醒しそうだ。

 

 

「まあにこはどんな衣装でも華麗に着こなしてみせるけどね♪」

「にこがメイド服を着ると、ロリっ子メイドという如何にも犯罪臭が漂って、それはそれで唆られるんだよな」

「誰がロリっ子よ!?こんなにプリティなメイドさん、世界を探してもにこに勝てる人はいないわよ!!」

「でもにこのような可愛さがあってこそのメイドだと思うのよね。私はほら、メイドとか柄じゃないし」

「絵里ちは持ち前のスタイルがあるから、全然気にしなくてもいいと思うんやけど」

「アンタたち、それにこに対するイヤミ?」

「にこっちはにこっちで、一定の需要があるから大丈夫や!一部マニアの層にね♪」

「おちょくってるのアンタは!?なんでにこの同級生は全員おっぱい魔人なのよぉ~!!」

「私もその魔人とやらに入ってるの……?」

 

 

 確かににこからしてみれば、周りにはスタイル抜群でおっぱいも大きい絵里と希に挟まれて肩身が狭いのはよく分かる。だがな、おっぱいはただ大きければいいってもんじゃないんだよ。重要なのは触り心地と感度!!にこのちっぱいでも、その2つの条件をクリアしているから全然OK!!

 

 

 あれ?これ何の話だったっけ……?――――――あぁ、PVの話だったか。おっぱいのことになるとつい語り過ぎてしまう。

 

 

「雪穂たちは何かいい案ないか?こう、どーんとインパクトのあるアイデアをさ」

「う~ん、インパクトって言いますけど、具体的にどんな風に撮ればいいのか……」

「他のスクールアイドルのPVはかなりインパクトがあるので、それを超えるハラショーなインパクト……う~ん」

「お兄ちゃん。考えるだけじゃ思いつかないから過去のPVとかないの?去年もこのくらいの時期にμ'sもPV出してるんでしょ?」

「そう言えば、ハロウィンイベントの時にインパクトインパクトってコイツらが騒いで、おふざけで撮ったPVがあったような――――」

 

 

 

 

「「「「「「「「「ダメぇ~~~~!!!!」」」」」」」」」

 

 

 

 

「うぉっ!?ど、どうしたお前ら!?!?」

 

 

 今度は穂乃果だけでなく、シスターズを除いた9人が一斉に立ち上がって俺に詰め寄る。

 あぁ~いい匂いなんじゃ~~!!――――じゃなくて!!どうしてこんな状況になった。また青少年に不適切な発言でもしてしまったか?…………うん、してないしてない。だったら何故怒られた……?

 

 

 俺は9人の見たことのない迫力に圧倒されながらも、恐る恐る理由を模索することにした。

 

 

「ど、どうしてダメなんだ?」

「だって、それは穂乃果たちの黒歴史なんだよぉーー!!」

「黒歴史!?まぁ、確かに……ププッ。悪い、思い出したら急に腹の底から笑いが……ククク!!」

「そうやって笑われるから黒歴史なんです!!私や絵里なんて、渋々やった矢先、本気で後悔したんですから!!」

「えぇ。あのPVを思い出すだけでも熱が出そうだわ……私たちが血迷っていたのが悪いんだけど」

 

 

 あの時のコイツら、本当にμ'sの方向性を迷走してたもんなぁ~。それぞれ部活のコスプレをして"イミワカンナイ!!"だったし。A-RISEに勝つことばかり考えて、ライブの楽しさや、何より自分たちの笑顔をすっかり忘れていたんだ。俺の口からはほとんど助言をせず、コイツらだけで乗り越えさせたのは、1年前だけど記憶に新しい。

 

 

「でも凛はちょっと楽しかったにゃ!改めて見たら恥ずかしくて目を逸らしちゃうと思うけど、あんなPV滅多に撮れないし!」

「凛ちゃんは前向きやなぁ~。いくらウチでもあれは……うん、ダメ、思い出したくもない」

「ことりはまぁまぁ楽しかったかな、あはは……」

「思い出したら顔が熱くなってきました……誰かたすけてぇ~!!」

「にこもあれは……ねぇ。完全に悪ノリだったわ……」

「まぁあのPVデータは全部消したし、今更見られるものじゃないのが救いね」

 

 

「ん?あの時のPVデータか?俺の携帯に残ってるぞ」

 

 

 

 

「「「「「「「「「え゛ぇぇぇえっ!?!?」」」」」」」」」

 

 

 

 

「うおっ!?耳元で叫ぶなよ!?」

 

 

 9人の叫び声が俺の両耳の鼓膜を大きく振動させた。もう1年以上スクールアイドルとしてボイストレーニングをやってきたコイツらの声量だ、耳元で一斉に叫ばれたら脳が麻痺を起こすくらいクラクラしてしまう。

 

 

「零君!!あの時のデータが残ってるってどういうこと!?」

「喚くな穂乃果。あれもお前たちとの貴重な思い出だから」

「零君……」

「騙されちゃダメよ穂乃果、零の顔をよく見てみなさい」

「どういうこと真姫ちゃん?顔?――――――って、零君!?何笑ってるの!?」

「う、くくっ……すまんすまん!!あのPVを思い出すだけでも笑いを抑えられなくて!!」

「もうっ!!穂乃果の純情な心を返して!!」

「ぐぇっ!!首掴んでシェイクすんな!!もげるだろ!!」

 

 

 純情な心って言うけど、今の穂乃果の心に純情さがあるかどうかと言われたら……甚だ疑問しかねぇ。まだ淫語の知識には疎いとはいえ、性欲レベルならあのことりやにこと同類だからな。

 

 

「お姉ちゃんたちがそこまで隠したがるなんて……亜里沙、逆に見てみたいです!!恥ずかしがりながらも頑張ってPV撮ったんですよね?」

「亜里沙の優しさが心にズキズキ突き刺さるわ……」

「お姉ちゃんや皆さんのインパクトのある姿……楽しみ♪」

「や、やめてぇええええ!!」

 

 

 絵里がここまで震え上がるなんて、相当な黒歴史だったんだな……。穂乃果や凛はノリノリだった気もするが、やはり黒歴史というものは思い出した時に真価を発揮する。

 

PVの出来はともかく、俺はいつもとは違うμ'sの一面が見られていいと思うんだけど。もちろん笑いなしには見られない点でも評価するが……ぷっ、心の中でも笑いが!!

 

 

「ふ~ん、その映像さえあればお姉ちゃんを……ふ~ん……」

「ど、どうしたの雪穂!?黒いオーラ出てるよ!?穂乃果に何する気なの!?」

「いやぁ~仕返しでもしようかと思って。おやつを勝手に食べられた恨みとか、雑誌を踏まれてくちゃくちゃにされた恨みとか、店番押し付けられた恨みとか、それと――――」

「ちょ、ちょっと待ってどれだけ恨みあるの!?穂乃果が悪かったよ謝るからぁ~!!」

 

 

 雪穂の奴、心に闇抱えすぎだろ!!でもあのぐぅたらな穂乃果からこんな奇行をされたら、そりゃあヘイトも貯まるわな、同情するよ……。ここまで雪穂のツッコミスキルが育ってきたのは穂乃果のお陰に違いない。その成長が人生に必要であったかどうかは別として……。

 

 

「フフッ、フフフフフフ……♪」

「か、楓ちゃんが不敵な笑みを浮かべてるにゃ……」

「フフフフフ……アハハハハハハハ!!遂にこの時が来たね!!私が先輩たちを完膚なきまでに蔑み、地に這いつくばらせる時が!!」

「楓ちゃんそんなに恐ろしいこと考えてたのォ!?」

「私はですね花陽せんぱぁ~い、人を見下すことにこの上ない愉悦を感じちゃうんですよぉ~♪先輩たちの弱みを握った今、私に逆らうことはもう誰にも許されない、フフフフフフ……あっ、お兄ちゃんの命令なら何でも受け入れるからね♪」

「そ、そうか……ありがと、な?」

 

 

 先輩すらも恐れぬ図太い精神は、もはや感服ものだな。μ'sが先輩後輩禁止を謳っていなくとも、楓は穂乃果たちを見下していたに違いない。見下していると言っても、おふざけでやっていることだから本気ではないと思うが……多分。

 

 

「シスターズがここまで期待しているんだ、ここはμ'sの"栄光"の記憶として、是非見てもらって今後の参考にしようじゃないか」

「見ましょう見ましょう!!日頃の恨みとして、お姉ちゃんに一泡も二泡も吹かせるチャンス!!」

「先輩たちをなぎ倒して、私がリーダーに返り咲く日も近いね♪だから早く見ようよお兄ちゃん!!」

「ウチ、楓ちゃんはともかく、こんなにも悪魔の顔をした雪穂ちゃんは初めて見た……」

「とにかく視聴禁止ですからね!!あんなものなんの参考にもなりませんから!!」

「えっ、見せてくれないんですか……?」

「えっ、あ、亜里沙……?」

 

 

 亜里沙は目に軽く涙を溜め、その涙をうるうると匠に操りながら目を輝かせる。更に胸の前に両手を合わせ、まさにことりのあの必殺技同様のポーズだ。普段からこの技でことりに敗北し続けている海未、それが今度は純粋無垢で可愛い後輩の亜里沙なんだからさぁ大変!!

 

 

「ダメ……ですか?」

「うっ……!!」

 

 

 亜里沙は首を軽く傾げ、海未の瞳を真っ直ぐ見つめながら少々涙声で呟いた。

 な、なんだこの可愛い生き物は!?生き物じゃない、天使だ!!しかも純粋過ぎて穢れどころか、"穢れ"という概念すら存在していない、純白の翼を纏った天使の姿が見えるぞ!これは同性であっても心打たれること間違いなし!現に海未だけでなく、他のメンバーも謎の衝撃を受けていた。

 

 亜里沙は楓や雪穂のように悪気など一切ない。もちろん海未たちも意地悪をしてPVを見せまいとしている訳ではない。だが亜里沙はそんな海未たちを、無実の罪悪感で包み殺してしまうほどの神々しさを放っていた。

 

 

 そして、極めつけは大天使様の上目遣いで――――――

 

 

 

 

「先輩方、おねがいします!!」

 

 

 

 

「「「「「「「「「う゛っ……!!」」」」」」」」」

 

 

 俺には聞こえた、穂乃果たちの心がポッキリと折れた音が…………。

 整った可愛い顔+甘く高い声+純白に近い髪色+涙目+上目遣い+ロリ体型+おっぱいは大きいetc……この要素で心を打たれない奴がいるだろうか?いや、いない。

 

 俺だって久々に鼻血が出ちまいそうになったぞ……一応ティッシュを目の前に置いておこう。

 

 

「あ、亜里沙ちゃんがことりと同じ技を使うなんて……ことりの専売特許がぁ~!!」

「純粋さがないお前にはもう無理だろ」

「そう言えば、最近零くん鼻血を吹き出してない!?うぅ~こうなったらことり、もっともっと頑張って零くんからたくさん鼻血噴き出させるもん!!」

「オイ!!俺を殺す気か!?」

 

 

 しかも"吹き出す"と"噴き出す"で漢字が違うし、後者の方が致死率高そう。これは更なる耐性を身に付けておかなければ……殺られる!!

 

 

「し、仕方ないわね!亜里沙がそこまで言うのなら、ここはお姉ちゃんとして……」

「あ、アンタ本気!?にこたちのあられもない姿が露呈するのよ!?」

「にこちゃん、諦めましょう……」

「真姫まで!?うぅ~……し、仕方ないわねぇ~!!好きにしなさいよ!!」

「やった!!ありがとうございます!!」

 

 

 亜里沙の表情が先程とは一転、穂乃果のような明るい太陽の笑顔になる。この笑顔が見られるなら、自分から折れてしまっても悪くないと思うのか、それともそう誘導されて騙されたと思うのか……。どちらにせよ、彼女の笑顔は純粋無垢でこちらも笑顔が溢れてしまうのは確かだ。

 

 

「フフッ、流石亜里沙。私の読み通りの展開に持って行ってくれたね」

「これでお姉ちゃんに復讐ができるよ……フフッ」

「お前ら……」

 

 

 そしてそんな大天使亜里沙様とは対称的に、ドス黒い雰囲気を醸し出しながら、人を地の底まで陥れることに躊躇しない、最悪の思想を持った2人が並んで口角を上げて微笑んでいた。

 

 

「元部長のにこからお許しも出たことだし、ちょっくら見てみるか」

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

「なんだお前ら元気出せよ!黒歴史ってものはな、ほじくり返されるから黒歴史なんだよ。黒歴史だからこそ記憶に残る思い出もある。そう考えれば清々しい気持ちになってこないか?」

「「「「「「「「「ならない(です)」」」」」」」」」

「あっ、そう……」

 

 

 なんだよみんな真顔で返しやがってぇ~!これでも割と正論を言ったつもりなんだが、割とだけど……。それにしても黒歴史か……俺もアイツのせいで女の子やらショタっ子やらにされた記憶がある。一応あれはあれで楽しかったからいいけども。

 

 

 穂乃果たちはもう諦めムード、亜里沙は目を輝かせて、雪穂と楓は暗黒微笑を浮かべて待機している。ここまで引き伸ばしたんだ、満を持してあの黒歴史PVを再生しよう!

 

 俺は携帯をPCに繋いで、動画をフルスクリーンで再生した。穂乃果たちは俺の後ろで俺の肩などを掴みながら、恐る恐る画面を覗き込む。雪穂たちは俺の前でPVに釘付けとなっていた。

 

 

 そして、あの黒歴史PVが遂に――――――

 

 

 

 

『あなたの想いをリターンエース!高坂穂乃果です!!』

『誘惑リボンで狂わせるわ!西木野真姫!』

『剥かないで!まだまだ私は青い果実!小泉花陽です!』

『スピリチュアル東洋の魔女、東條希!』

『恋愛未満の化学式、園田海未です!!』

『私のシュートで、ハートのマークを付けちゃうぞ♪南ことり!』

『きゅ~とすぷらぁ~しゅ!星空凛!!』

『必殺のピンクポンポン!!絢瀬絵里よ!!』

『そして私♪不動のセンター、矢澤にこにこ~♪』

 

 

『私たち!!部活系アイドル、μ'sです!!』

 

 

 

 

「ぷっ、くくく……!」

「あははははははは!!ダメっ、腹がよじれる!!」

「す、すごいです皆さん!!カッコいいですねぇ~!!」

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

 

 雪穂は口を抑えて声が漏れ出さないよう(全くの無駄だが)に笑い、楓は腹を抱えて大笑いしている。対して亜里沙は穂乃果たちを褒めちぎっていた。だがそれが逆に穂乃果たちを追い詰めていることに気付かないのは、やはり純粋だからだろうか。大天使様、恐ろしい子!!

 

 

「海未せんぱぁ~い♪恋愛未満の化学式解けましたぁ~??」

「か~え~でぇ~!!」

「きゃ~♪」

 

 

「お姉ちゃん、案外普通じゃん……つまんない」

「穂乃果はそこそこ楽しかったから!今見たらちょっと恥ずかしいけど!!」

 

 

「お姉ちゃんのこんな可愛い姿……ハラショ~!!」

「やめて亜里沙!!顔が熱くなって止まらないから!!」

 

 

 穂乃果たち以外にも、花陽や真姫は部室の隅で気絶しそうになってるし、ことり、凛、にこ、希はある程度平静を保っているものの、浮き出る苦い顔は隠せていない。

 

 

 あぁ、これ無駄に時間を浪費して、PVも撮れないし練習時間も削られるいつものパターンだ……。

 

 

 そして案の定、今日の練習時間は大幅にカットされてしまった。




 今回は前書きの通り、私の一周年記念回でした!
 思えばここまで長かったようで短く、この1年で投稿した総話数は217話。平均すると1日と17時間に1話投稿しているペースに……今でこそ投稿ペースは落ちていますが、それでもほぼ一定のペースで投稿し続けることができました。
これもここまで応援して頂いた読者様のお陰です!『日常』の第一話から読んでくださった方も、『非日常』のヤンデレ小説から入ってくださった方も、『新日常』から初めて読んでくださった方も、この話だけ読んでくださった方も、ありがとうございました!!


 今回は、丁度一年前に初投稿した『日常』の第一話と同じタイトルとなっています。自分の中でもやはり第一話目は黒歴史で、まだまだ文章が未熟だと今見ると思います。当時は全然そんなことは思ってなかったので、これも成長……ですかね(笑)
私自身が黒歴史を味わったのなら、μ'sにも黒歴史を味あわせてやろうということであのハロウィンイベント前の自己紹介を参考にすることに……。


 次回からはまた通常回としてバシバシ投稿していきます!


現在、『新日常』のアンソロジー企画小説として『ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 for Anthology~』が『新日常』と同時連載中です。ハーメルンのラブライブの作家様たちが集まって『新日常』の話を執筆してくださったので、そちらも是非ご覧下さい。
投稿日時は11月1日から21日まで、3週間近く毎日21時に投稿予定です。


 前回の記念回に感想を下さった

 とある物書きMr.Rさん、アルクシェイドさん、アリアンキングさん

 ありがとうございました!


 新たに高評価を入れてくださった

 ヘンリー発生さん、コシえもんさん、和同開珎さん

 ありがとうございました!


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

しゃせーたいかい

 記念回も一段落したので、ここからまたのんびりと投稿を開始していきます。

 タイトルを見て真っ先にアッチの意味を想像した方は、零君や楓ちゃんと同じピンク色の脳をお持ちでしょう!


 そんな訳で、今回はシスターズ大活躍回!!


 夏の残暑もすっかりなくなり、日中も涼しくなりかけている今日この頃。俺はそんな移り変わる日々とは逆に、放課後はいつも通り部室へと通っている。

 

 最近穂乃果たちは生徒会役員の任期終了が近く忙しいためか、掃除が終わったあとに生徒会業務に従事することが多くなった。1人で部室に通うのは若干寂しかったけど、既にこれが日常となっている今、特に何も考えずふらぁ~と部室に足を向けるようになってしまった。日常というのもは、自分が意識せずとも習慣化されてしまうのが日常なのだ。

 

 

 そんなことを考えながらぼぉ~っと歩いていると、突然後ろから廊下に響くような大声で呼び止められる。廊下を走ってはいけないという校則を無視した、全速力の足音と共に……。

 

 

「お兄ちゃ~ん♪」

「ぐふっ!か、楓!?急に首にまとわりつくなよ!!首締まる!!」

「もしお兄ちゃんが死んでも、私がお兄ちゃんの亡骸を抱き枕にして一緒にいてあげるからね♪」

「嬉しいのか嬉しくないのか分かんねぇ……」

 

 

 なんかブラコン発言の究極系を聞いたような気がする……想像するだけでも怖いからやめてくれ。今までもそうだったけど、最近は特にブラコンレベルが明らかに以前より上がっている。そこまで俺に尽くしてくれるのを感謝するべきなのか、危惧するべきなのか……。

 

 

「そういやお前、雪穂と亜里沙は一緒じゃねぇのか?」

「いやぁ~実はね、掃除中にふざけてたら笹原先生に見つかっちゃってさぁ~♪」

「なるほど、その先は言わなくても分かった。やっぱり神崎兄妹は先生と因縁があるみたいだな……」

「そう!だからお兄ちゃんだけが私の癒しなんだよぉ~!」

 

 

 男が癒しって言う発言もかなり危ないような気もするけどな。ホモとか腐女子的な意味で……別にそれが悪いとは思ってないけども。それ以前に俺は清楚系でもクール系でもないし、癒し要素なんてゼロだと思うぞ。むしろ癒しをぶち壊してピンク色の雰囲気にする方が俺には向いている。

 

 

 そんなこんなで俺は楓と"いつも通り"の会話をしながら、流れ作業のように部室に入った。

 

 

「お~す」

「やっと笹原先生から解放されて戻ってきたよ~」

「あはは、大変だったね楓。零くんもお疲れ様です♪」

「こんにちは零君。楓は誰がどう見ても自業自得だったけどね。いつものことだけど」

 

 

 既に部室にいた雪穂と亜里沙は、楓の自爆行為に苦笑する。"いつものこと"と称されるくらい、楓も笹原先生に怒られてんのかよ……神崎兄妹ってマジ神崎兄妹。

 

 

 カバンを置いて椅子に腰掛けようとした時、雪穂と亜里沙の2人が鉛筆を持って何やら絵を描いていることに気が付いた。机には鉛筆数本と消しゴム、描いている紙もデッサン用の画用紙とかなり本格的だ。それぞれ目の前にモデル(雪穂はヘッドホン、亜里沙は時計)を置き、俺たちの応対をしながら描き進める。

 

 

「お前ら、絵描いてんのか?」

「はい。今週と来週は音ノ木坂学院の芸術週間なので、1年生は美術でデッサンの課題が出ているんですよ」

「あぁ、そういや俺もやったなぁ~懐かしい!」

「零君は何を描いたんですか?」

「俺?俺は美術の教科書に載っている女性の中で、一番綺麗だった女性の裸体を描いたよ」

「……」

「いや引くなよ雪穂!!俺の芸術性を舐めてもらっちゃ困る。評価は良かったんだぞ」

「零君らしいですね……」

 

 

 基本的に何でも完璧にこなす俺は芸術のセンスに関してもピカイチだ。しかも被写体が女性の裸体となれば芸術は爆発する。別に興奮するからという理由で描いた訳じゃないぞ!昔から女性の裸体は神秘的で、よく被写体として使われてきたくらいなんだからな。

 

 

 

 

「でも折角の"写生大会"なんですし、亜里沙は一等賞を目指して頑張ります!!」

 

 

 

 

 亜里沙が優勝宣言をしたその瞬間、楓は目を大きく見開き、何故か俺たち3人の顔を一斉に見つめながらわざとらしく口を開いた。

 

 

 

 

「えっ!?しゃ、"射精大会"!?」

 

 

 

 

「オイッ!!!!」

 

 

 

 

 楓の奴、亜里沙の目の前でなんてこと言い出すんだ!?!?ここまで直球なのにも関わらず顔色を変えているのは俺だけで、雪穂と亜里沙は言葉のまま"写生大会"と思い込んいるらしい。すぐに"射精"を連想する俺も俺で末期かもしれないけど……。

 

 

「射精大会かぁ~、私も優勝狙ってみようかな」

「楓は絵も上手いし、普通に上位はいけそうな気もするけどね」

「上手い!?だってさお兄ちゃん。私、射精大会優勝できるほど上手いんだって♪」

「何故俺に振る!?お前、まさか夜中俺に何かしてるんじゃないだろうな!?」

「さぁね♪」

 

 

 胡散くせぇええええええええええ!!流石に夜中ともなれば俺でも抵抗することはできない。しかも楓のことだから、上手く気付かれぬよう俺の下半身に忍び寄ることなど造作もないだろうし……もしかして、本当に真夜中に"射精大会"が行われていたり!?

 

 

「でも写生って難しいですよね。特に風景画とか、見えているもの全体を描くのって難しそう」

「風景があった方が雰囲気も出るし、豪華に見えるのは間違いないだろうな」

「そうそう雰囲気は大切だよねぇ~。私はヤるならやっぱり夜かな♪」

「へぇ~夜の風景画かぁ~!ロマンチックだね!」

「でしょ~♪」

 

 

 亜里沙と楓、いつも一緒にいるはずなのに、ここまで純粋さが違うとは……色で言えば白と黒。お互いに対極の関係でありながらも、白黒とセットで扱われることも多いため、まさに今のコイツらの関係そのものみたいだ。もちろん心の色としては対極だけど。

 

 

「月明かりが差し込む部屋でロマンチックな夜。そこには背も高く形も完璧である立派なモノがそびえ勃っている……」

「それってビルが立ち並ぶ夜景のことでしょ?楓ってそういうのが好きなの?」

「暗闇の中にてっぺんが光ってそそり勃っているのを見るのが大好きなんだよ♪」

「へぇ~意外」

「雪穂も好きになれるよ。なんたってお兄ちゃんのアレ……だからね♪」

「こっちを見るなよ……」

 

 

 楓は親子丼の時のことりと同じく、"とてもいい笑顔"で俺を見つめてきやがる。知ってるぞ俺は、その笑顔の裏にはドス黒さしか隠れていないことをな!!

 それにコイツ、本当に俺のを見たことあるのか?コイツのことだから写真とか撮ってそうで怖いんだけど……。

 

 

 正直こんな汚い話、早々に雪穂と亜里沙に話してネタバレをしたい。したいんだけど、俺の口から純粋なこの2人のそんな話ができるはずないだろ!!そんなことをしたらただのセクハラだし!!もしかして楓の奴、そのことを見越して……!?

 

 

「亜里沙はお祭りの明るい雰囲気の夜景も結構好きだよ。ビルの夜景も落ち着いた感じがして好き……って、もう全部好きかも!?」

「なんでも興味を持って、すぐに釘付けになっちゃうからね亜里沙は」

「私も真夜中のビンビンとそり勃つアレを見ると、何もかも忘れて釘付けになっちゃうよ!あっ、お兄ちゃんのだけだから安心してね♪」

「なにそのフォロー!?どう反応したらいいのか分かんねぇよ!?」

 

 

 楓は若干頬を赤く染めながら、ウインクまでして俺をフォローしたつもりでいるらしい。正直その仕草が可愛過ぎて普通に勘違いしそうになるからやめてもらいたい。俺以外の男だったら即ノックアウトだろうが、そもそもコイツが他の男にこんな仕草を見せるはずがなかったな。なんか尚更騙されそう……。

 

 

 ちなみに雪穂と亜里沙は、楓が俺に話題を振るたびに頭の上に"?"マークを浮かべている。亜里沙に気付かれることはないと思うが、もしかしたら雪穂には怪しまれる可能性があるぞ。雪穂の性の知識がどれほどかは知らないけど……。

 

 性に乱れた雪穂かぁ~……ハッ!ダメだダメだ!!まだ純粋な彼女を脳内であろうと汚すことは許されない!!でも同じクール属性を持つ真姫はそこそこ知識があるし、もしかして雪穂も……!?淫乱な雪穂……いいかもしれない。

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

『零君♡ちゃんと雪穂を見て……』

 

『汗かいちゃった♪零君のせいだよ、脱いじゃおっかなぁ~』

 

『ほら零君も脱ごうよ♪熱くなっちゃったでしょ?』

 

『ね?我慢しないで……』

 

『ねぇ零君、もっと熱い夜を過ごしたいよぉ』

 

『私とイケないこといっぱい――――しよ♡』

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

 いかんいかん!!妄想だけで自分磨きが捗りそうだ!!しかもここは部室で、更に本人が目の前にいるというのにそれは……!!とりあえず溜まった欲求は今晩のオカズにしようそうしよう!そう考えでもしないと今にも雪穂に襲いかかってしまいそうだからな。

 

 

「やっぱり写生はモデルが重要だよね!楓は美人さんだし、写生のモデルに似合いそう」

「それを言うなら亜里沙だって似合うと思うけどね。でも私たちより、もっとモデルにピッタリの人がいるよ」

「あれ意外。楓だったら『私なんだからモデルになって当然でしょ!!』とか言いそうだったのに」

「そりゃあそうだけど、残念ながら私が唯一勝てない人が今ここに……」

「そ、それってもしかして……零くん!?」

「イエース!!写生のモデルならお兄ちゃんしかいないでしょ!!ていうか、射精はお兄ちゃんしかできなしね♪」

「オイもう直球じゃねぇか……」

 

 

 "写生"も"射精"もイントネーションが同じだから、文脈を上手く聞き取って理解しないと楓が卑猥な発言をしているとは気付かないだろう。現に雪穂と亜里沙は楓が"写生大会"の話をしていると思い込んでるし。当の本人はずっとニヤニヤしながら話してるけど……。

 

 

「零くんはカッコいいし美形だから、モデルに似合いそうですね!一度亜里沙の絵のモデルになってもらってもいいですか?」

「俺が?そんなモデルになんてなったことないから、ちょっと緊張するな。でも、亜里沙のためなら頑張ってみるよ!」

「本当ですか!?ありがとうございます♪実際の人物を写生するのは初めてなので、私の方が緊張しそうです。上手くできるかなぁ~?」

「私はお兄ちゃんのお兄ちゃんをモデルにするからね♪実際の人物を射精させるのは初めてだから、私の方が緊張しそう。上手くできるかなぁ~?」

「亜里沙のセリフと被せてんじぇねぇよ……」

 

 

 亜里沙の純粋無垢な想いが詰まったセリフが、楓によって瞬く間に穢された感じがする。普通の文章を一瞬で意味深な文章に変更できる辺り、楓の能力を評価するべきなのか否か……こんな奴と一緒にいたら、雪穂と亜里沙の純情がいつ穢されてもおかしくはない。

 

 

「あっ、そろそろ鉛筆削らないと。鉛筆削り鉛筆削り……あれ、ない。もしかして教室に忘れてきちゃったのかなぁ?」

「俺の鉛筆削り使うか、雪穂?」

「ありがとうございます!それではお言葉に甘えて」

「お兄ちゃんのは鉛筆削りじゃなくて、挿れる方だから鉛筆だけどね♪鉛筆削りは挿れられる方だから私たちのことだよ♪あっ、もしかして俺の鉛筆削りってそういうこと……ふぅ~ん」

「お前少し黙ろうか!!」

 

 

 だが正直な話、俺も少し楓と同じ妄想をしていたとは口が裂けても言えねぇ……。『俺の鉛筆削り』=『俺の彼女の秘所』だなんてレベルの高い想像、一体何人が思い浮かぶのだろうか。でも意味深発言としては上手く隠せてるから、ちょっとイイと思ってしまった俺はやはり神崎兄妹の一員らしい。

 

 

 そしてまた、今度は亜里沙で卑猥な妄想が俺の脳内を支配する。

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

『零くん、そろそろ零くんの鉛筆……スッキリしたくはありませんか?』

 

『私のここ……是非私の鉛筆削りを使ってください♡』

 

『零くんの鉛筆がスッキリするまで、私の中でたっぷり不要なモノを吐き出してくださいね♪』

 

『あっ、きてる♡零くんの鉛筆から削られた、白い黒鉛が♪』

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

 ぐぁ゛あ゛ああああああああああああ!!やめてくれ!!俺の妄想よ、その先は踏み込んでは行けない領域だ!!いやもう既に踏み込んでいるような気もするけど、これ以上部室で発情するのはマズイ!!雪穂の妄想とまとめて夜中に相手をしてやるから、今は勘弁してくれ!!

 

 

「写生って、別に鉛筆に拘る必要はないんだよね。水彩や油彩の作品に仕上げることもできるし。風景を描くならそっちの方が向いてるかも」

「でも絵の具とかインクとか、用意するものは多いけどな」

「白いインクならその場で調達できるけどね♪お兄ちゃんのアレを少し摩ってあげれば、お兄ちゃんの白いインクがどぴゅ~って♪」

「言いたいことは山ほどあるが、ここは1つだけ。俺はな、そこまで早く出さねぇよ!!」

「私のテクニックさえあれば、未経験のお兄ちゃんなんてイチコロだよ」

「お前だって経験ないだろ……」

 

 

 さり気なく遠まわしに他人から童貞宣言をされると、中々くるものがあるな……俺だって、好きで童貞貫いてるんじゃねぇんだよ!!まだ高校生だから、自分自身が責任を持てる年齢になるまで"お預け"をしようと10人で決めたんだ。それでもことりやにこは危ない領域まで到達しているし、その直前の行為までなら経験あるけど――――って、どうしてこんなところでこんな話をしなきゃいけねぇの!?

 

 

 

 

「あの~零君と楓、さっきから2人で何コソコソ喋ってるんですか?」

「写生大会の話……ですよね?」

「そうだよ射精大会の話だよ!」

「写生大会の?」

「うん射精大会の」

「う~ん……?」

 

 

 遂にと言うべきか今更と言うべきか、雪穂と亜里沙が勘付いてしまいそうになってるじゃん!!亜里沙はまだ疑いが弱いものの、雪穂は楓のニヤついた顔を見て怪しさを感じ取ったのか、かなり疑いが強い。雪穂の性の知識の度合いによって、ここからバレるかバレないか決まるぞ――――ん?もしかして俺、楽しんでるかもしれない。雪穂の性知識が垣間見えそうだから……。

 

 

「雰囲気は真夜中……そそり勃つアレ……写生を"する"のではなく"させる"……零君が鉛筆で私たちが鉛筆削り……あとは――――」

「お兄ちゃんの白いインクだよ♪」

「そうそうそれ――――――ん……?んんっ??こ、こここここここれって、ま、まさか……!?」

「ありゃ?分かっちゃったぁ~?」

「『分かっちゃったぁ~』じゃないよ!!知っていてわざと言ってたでしょ!?」

 

 

 雪穂は全てを察したのか、みるみる顔を真っ赤にする。だが込み上げてくる羞恥を抑えきれないのか、首や手まで真っ赤に染まっているところを見ると、全身に広がっているに違いない。瞬きの回数も多くなり、はぁはぁと呼吸が逐一声に出て現れている。

 

 

「もう呆れて怒る気にもなれないよ。ずっと遊ばれていたのか、楓に……」

「でも私のセリフだけで察したということはぁ~、雪穂も意外にそっち側の知識はあるってことだよねぇ~♪いつもはそんな素振り一切見せないのに。このむっつりさん♪」

「違うから!!これはその……そう!一般常識だから!!この情報化社会、今の高校生ならこれくらい知ってるでしょ!!」

「えぇ~でもぉ~、ほら!」

「ん?」

 

 

 楓が指を指したのは、雪穂の反対側に座っていた亜里沙だ。全てを察して羞恥に悶えている雪穂に対し、亜里沙は何も分かっていないようで、キョトンとした顔で俺たちの顔を眺めていた。

 

 

「あのぉ~さっきから雪穂は、何に怒っているの?」

「え゛っ!?い、いやぁ~零君と楓が写生大会の話から話題を逸らそうとしてたから」

「どうして俺を入れた!?」

「説明するのも言い訳するのも面倒なので、そういうことにしておけばいいんです!!」

「なんて理不尽な!?」

 

 

 こうして物事を深く考えず猪突猛進する辺り、やはり姉の穂乃果と性格が似ているところはある。単にいつも通りの冷静さを失っているからかもしれないけど、俺を巻き込むのだけはマジ勘弁!!俺は雪穂と亜里沙に勘付かれない程度に、頑張って楓を止めていたのに!!失敗したけど……。

 

 

「亜里沙、そのピュアな心がいつまで保てるのか……私は見ものだよ!」

「ピュア……?」

「それすらも分かってない!?天然過ぎて、今すぐにでも亜里沙の白いキャンパスに黒いインクをぶちまけたいよ……う~ん、ゾクゾクする♪」

 

 

 亜里沙……お前は友達や先輩を間違えたようだ。初めは彼女を穢す背徳感に俺もゾクゾクしたことはあったけど、楓やことりたちを見ていると逆に守ってやりたくなる。亜里沙の背後には、彼女を穢そうとせん奴らが何人もいるからな……。

 

 

「よ~し!テンションも上がってきたし、私も射精大会がんばろ~っと♪」

「写生大会だからね!!しゃ・せ・い!!」

「うわぁ~雪穂、そんな言葉を強調して……やっぱりむっつりぃ~♪」

「ぐっ……ああ言えばこう言う!!」

「???」

 

 

 卑猥発言で雪穂を煽り、亜里沙をも狙う楓。ひたすら楓の意味深発言に翻弄される雪穂。そしてピュア過ぎるが故に、2人がただ遊んでいるだけとしか思っていない亜里沙。

 

 

 半年間よく親友でいられたもんだ。もしかして逆に、案外いいトリオだったりするのかも……!?これだけ仲が良かったら、この先もこの3人でやっていけそうだな。

 

 

「プッ、雪穂顔赤くなり過ぎだって♪」

「楓のせいでしょ!!」

「雪穂、楽しそうだね♪」

「どこが!?!?」

 

 

 ほ、本当に大丈夫か……?

 




 喧嘩するほど仲がいい……ってね!(笑)


 今回は前回が大好評(?)だった言葉遊び回でした!
"半殺し皆殺し"、"ノーブラ"、"自撮り"、"親子丼"に続いて早くも5回目。今回はタイトルからして危ない香りが漂っていましたが、このネタを思いついたのは『ご注文はうさぎですか?』のアニメを見ている最中。あんなほのぼのアニメの間にこんなことを考える自分は、既に末期かもしれない……

 言葉遊びをやりたかったというのもそうなのですが、今回はシスターズの仲の良さも読者の皆さんにアピールしたいという狙いもありました。新生μ's結成から時系列では半年、話数では100話近くにもなるのですが、もう『新日常』になくてはならないキャラとして暴れまくっています(笑)

 初めは書くのに戸惑っていた雪穂と亜里沙も、やっと慣れてきた気がします。楓に関しては初めからこのようなキャラが好きだったので、登場時にはノリノリで書いています!(笑)


 現在、『新日常』のアンソロジー企画小説として『ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 Anthology~』が『新日常』と同時連載中です。ハーメルンのラブライブの作家様たちが集まって『新日常』の話を執筆してくださったので、そちらも是非ご覧下さい。
投稿日時は11月1日から22日まで、3週間近く毎日21時に投稿予定です。


新たに高評価を入れてくださった

(ちゅん)さん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エリーチカとのんたんの、にこにー変態更生計画

 今回は大学生組が主役!
 基本的に『新日常』は高校が舞台なので、絵里たちの大学生活を詳しく描くのはこれが始めてですね。でも今回の話が日常になっているのかと思うと……(苦笑)


 

 私、絢瀬絵里と、親友である希、にこは同じ大学に通う大学1年生。初めての大学で入学当初は不安があったけど、μ'sの活動で少しは顔が知られていることもあったためか話し掛けてくれる人も多く、入学してからもたくさんの友達ができた。零のお姉さんであり私たちの先輩に当たる秋葉先輩にも色々とお世話になってるし、今のところは順調に大学生活を過ごすことができている。

 

 あれだけ勉強が苦手だったにこも、私たちが目を見張るくらいの成績で前期の授業を突破したし、もうこれで心配することは何もなし!

 

 

 

 

 ――――――と思っていたんだけど、最近危惧しなければならないことが……。

 

 

 

 

 それは実を言うとにこのことなのよね。さっきも言った通り、勉学に関しては何の問題もないし、μ'sとしての活動が疎かになっている訳でもない。交友関係も良好だし、毎日楽しいキャンパスライフ送っている。

 

 

 それじゃあ何が問題なのかって?それは――――――

 

 

「はぁ~……」

「にこっち、またため息ついてる。まあ何となく理由は分かるけど」

「そりゃあため息だってつきたくなるわよ。だって今日は遅くまで講義があるから、零と一緒にいられる時間が少ないんだから!!」

「昨日は講義が早く終わってずっと一緒にいられたから、今日ぐらいは別にいいんと違う?」

「ダメよ!!にこは零に毎日会いたいの!!毎日会ってアイツのエネルギーを補給しないと、1日で枯渇しちゃうんだから!!」

 

 

 私たちは教室棟の廊下を歩きながら、愚痴を垂れるにこの様子を後ろから見守る。

 このようににこは、零に会える時間が少ない日は決まって『零、零……』と、壊れた時計のように彼の名前を連呼する。激しい時には、本人が意識せずとも漏れ出していることもあったわね……あの時私たちが注意したら、にこ本人が一番驚いてたから。

 

 

「あ~……想像するだけでも目の前に零がいるように見えるわ……」

「絵里ち!!遂ににこっちが幻覚を見始めた!?」

「わ、私に言われても……!!」

「あっ、零が腕を広げてにこを迎えてくれてる♪今行くわ♪」

「待ってにこっち!!それはただの自動販売機!!」

 

 

 希はにこの腰に腕を回して、自動販売機に飛びつこうした彼女を必死に抑える。

 初めは零に一途なにこを見て、私たちも微笑ましい限りだったけど、ここまで来るともう本当に末期ね……にこが大学生になってから零へのスキンシップが増えた理由は、まさにこれなのよ。特に今日みたいに零に会える時間が少ない日は、にこを1人でキャンパス内を歩かせるのが怖いわ……。

 

 

 実は……これだけだったらまだ可愛い方。彼女の真価は妄想の飛躍によって発揮される。

 

 

「最近欲求不満なのよねぇ~……あぁ零に抱きつきたい!!抱きついてキスしてその流れで服を脱がされて……いや、零が脱がさなくても自分で脱いじゃうんだから♪」

「また妄想がいけない方向に……いつかウチら、零くんと間違って襲われてしまうかも」

「ちょっと希!!縁起でもないこと言わないでよ!!」

 

 

 そう言って反論する私だけど、本心では危惧していることは確か。だって穂乃果やことりみたいに、公衆の面前でも破廉恥なことを言い出すんだから!

 

 もちろん私や希だって零と一緒にイチャイチャしたいと思っているわよ!!私たちは恋人同士なんだから、キスの1つや2つ毎日したいとも思ってる!!高校と大学で離れ離れになってしまったからこそ、彼と一緒にいる時間を大切にして愛を深め合いたいわよ!!でも3人全員が暴走したら誰が私たちを静止するっていうのよ!!

 

 

 と、取り乱したわ……。と、とにかく私と希はにこほどの暴走じゃないけど、零への愛はにこにも負けてないわ――――って、何言わせてるのよ!!もう、零のことになるとつい冷静さを失っちゃうわ……。

 

 

「零……零……れい♡次一緒にお風呂に入った時は、にこが主導権を握らせてもらうんだから♪」

「零君と一緒に入浴する妄想まで……もう手遅れかも」

「ま、まぁ入浴くらいだったら、私も妄想しないと言えば嘘になるけど……」

「え、絵里ちまで!?」

「い、いや彼氏なんだしそれくらいはいいかなぁ~って……そういう希はどうなの!?」

「えっ、う、ウチ!?ま、まぁそれは絵里ちと同じ考えやけど……うん、恋人同士だから変なことではないと思う……多分」

 

 

 もしかして、私と希も相当末期!?でも恋人同士なんだし、会いたいと思う気持ちは嘘じゃないわよ。嘘じゃないけど、やっぱり一緒に入浴する妄想は変かしら?これはにこのせいで私たちにまで破廉恥な妄想が移ったのか、それとも私たちの意志で想像しているのか……どちらにせよ恥ずかしい!!

 

 と、とりあえず私たちのことは置いておいて、目下の目標は――――――

 

 

「とりあえず、この前零のカバンから盗んでおいたこのタオルで、自分を慰めるしかないわね……ちょっとトイレに行ってくるわ!」

「ちょっ!?もうちょっとで講義始まるよ!?それに大学のトイレでなんて……!!」

「離しなさい希!!にこは……にこは……零が欲しいのよぉおおおおおおお!!」

 

 

 零を求めて発狂寸前(?)にまで陥っているにこを、私たちの手で更生させなければならないわ……。親友が苦しんでいる姿なんてみたくないもの、にこにとっては苦痛かもしれないけど、更生すればきっと気持ちも軽くなるから。

 

 

「にこ!希!」

「わっ!?急にどうしたのよ大きな声出して……」

「絵里ち……?」

 

 

 もうこのまま放っておく訳にはいかないわ。にこのためにもここは――――――

 

 

 

 

「特訓よ!!!!」

 

 

 

 

 こうして私と希による、にこの変態更生プログラムが始動した。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 2時間目の講義が早めに終了し、更に昼食も食堂で素早く済ませて昼休みの時間をたんまり用意した私たちは、人の往来が少ないキャンパスの裏手に来ていた。

 

 

「特訓ってどういうことよ?まさかにこと零の愛を、アンタたちは消し炭にしようとしてる訳!?」

「違うわよ!せめて普通のキャンパスライフが送れるよう、今のにこをちょこっと更生させてあげるだけよ」

「今のにこっちはあまり見てられない言動も多いからなぁ~」

「えっ、にこそんなにヒドイ……?」

「うん。少なくともさっきの講義の前は……ね」

「嘘でしょ。このスーパーアイドルにこちゃんが、公衆の面前でそんな恥ずかしいことをするなんて……!!」

「ウチらが必死に止めるくらいには……」

「な゛っ……!!」

 

 

 多少冷静さを取り戻さなければ、自分がどれだけの奇行をしているのか分からないなんて……これは相当重症ね。これは私たちも初めから本腰を入れていかないといけないわ。

 

 

「不本意だけど、アンタたちがそう言うのならそうなんでしょうね……しょうがない!付き合ってあげるわよ!」

「どうして上から目線……?」

「とりあえず本人がやる気になっただけでもプラスだわ。希も気合を入れて頑張って頂戴」

「もちろん!それに、零君に会えたくても会えなくて悶えるにこっちを見るのは楽しいし♪」

「希……もしかして楽しんでる?」

「零君も言っとるやん、何事も楽しむことが重要って♪」

 

 

 ま、まあ動機がどうであれ、希もやる気になったならそれでいいのかしら……?希も悪乗りして妙なテンションになることがあるから、特訓の軌道が逸れてしまわないようにしないとね。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

□エリーチカからのレッスン:抱きつきたくなる衝動を抑えよう!□

 

 

「で?具体的には何をするのよ?」

「初めから厳しくしても途中でギブアップしちゃうでしょうし、まずは軽めにこんな感じで――――」

 

 

 にこを私たちと少し離れた位置に立たせ、彼女の足元の地面に木の枝で直線を引く。

 この直線こそが、にこが理性を抑えられるかのデッドラインとなるわ!

 

 

「いい?今から何があってもその線から飛び出してはダメよ?」

「にこっちの場合、自分の欲望に忠実になり過ぎていることが問題やから、少しは自分を抑えてもらわないとね」

「ふんっ!にこに不可能なんてないわ!とっととこの特訓を終わらせて、トイレで溜まった欲求を発散するためににこにーするんだから!!」

「…………」

「…………」

 

 

 前言撤回、全然冷静になってなかったわ……もうこれがいつものにこだと認知している辺り、私たちの方が毒されているのかも……?それは穂乃果やことりにも言えることだけどね。にこはその2人とは違って学校生活でも常に一緒にいる訳ではないから、尚更零への愛情が漏れ出してしまうのは分かるけど。

 

 

「じゃあそんな自信満々のにこ!まずはこれを見なさい!」

「えっ!?そ、それは……!?零の写真!?」

「そうよ。以前私だけが先に部室に向かった時があったでしょ?その時に見てしまったの、零が部室の机に身体を預け、座りながらスヤスヤと眠っているところをね」

 

 

 私は携帯でにこに、零が気持ちよさそうに眠っている姿が写った画像を見せびらかす。

 画像ぐらいだったら耐えられるはず――――と思っていたのは早計、にこは瞬く間に目の色を変え線を超えぬよう身体を前のめりにして携帯を覗き込んできた。

 

 

「零の無防備な寝顔……可愛い~♪普段のかっこよさも崩さずに、どことなく垣間見える可愛さ……流石零!にこの心をくすぐってくるわね♪それに頬っぺにちょっと垂れている涎が子供っぽくて……舐め取りたい!!」

「でしょ?私もこの写真と撮った時から、もう何度見返したか分からないくらいなんだから♪この少し顔を傾けてすぅすぅと寝息を立てている零がもうかっこよくて可愛くって♪」

「絵里ち!!にこっち化してる!!」

「ハッ!しまった!!」

 

 

 うぅ……零のことになると彼への想いが少なからず暴走してしまうのは、もうμ'sの特性みたいなものなのよね。そう、私だけじゃない私だけじゃない私だけじゃない私だけじゃない私だけじゃない……よし、これだけ言い聞かせれば大丈夫!にこの特訓に戻りましょう!

 

 

「絵里!!その写真にこにも頂戴!!お昼寝する時に隣に置いておくと、安眠快楽できる自信があるわ!!だから頂戴!!」

「ダメよ。この写真を渡したら、今まで以上に暴走するのは目に見えているもの。だから我慢我慢」

「ぐっ、飛びつきたい……今すぐあの写真の零に飛びつきたい!!」

「いかんよにこっち、その線から一歩でもこっち側に来たら」

「う゛ぅううううううううううううううううううううう!!零!!れーーーーーい!!」

 

 

 にこは自分の理性を何とか押さえ込みながら、線の手前で身体をプルプルと震わせている。僅かでも緊張の糸が切れたら、今にも襲いかかってきそうな獰猛さね……。

 

 それにこの状況を傍から見たら、私たちがただにこをイジメているだけのようにしか見えない気が……。彼を想う気持ちは私たちも同じだから心は痛むけど、これもにこのことを思っての特訓なのよ、許して!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

□のんたんからのレッスン:変態を抑えよう!□

 

 

「はぁ、はぁ……」

「大丈夫にこっち?特訓開始早々息が上がってるけど……」

「思ったより過酷なのね……はぁ、はぁ。でもこれを耐えた先に、零が待っていると思えば!!」

「あれ?ウチらそんなこと言ったけ?零君へ欲望を抑えるための特訓やのに、最後に零君が出てきたら本末転倒やん!」

「今のにこだったら、さっきのレッスンを耐えられただけでも褒めるべきなのかもね」

 

 

 結果的ににこはファーストレッスンを耐え切った。だけどその代償として、己の内に潜む零への欲望をより肥大化させてしまったことは間違いないわね。

 

 でも大丈夫!今から変態発言や卑猥な妄想が欲望と共に漏れださぬよう、私たちがみっちり特訓してあげるから!

 

 

「つ、次はにこに何をしようっていうの……エロ同人みたいに!!あっ、でもにこと零の官能本なら見てみたいかも♪誰か書いてくれないかなぁ~」

「またにこっちの妄想が飛躍してる……」

 

 

 妄想で零との行為を想像して、そのシチュエーションを口に出してしまうくらい症状は悪化している。それを聞いてたまにちょっぴり興奮してしまう私たちも私たちなんだけど、今は私たちのことよりにこのこと!!さっきの特訓を耐えた勢いで、この特訓も耐え抜いてくれると……いいわね。あまり自信がないのが心配だけど。

 

 

「次の特訓は、その桃色の妄想を口から漏れ出さないようにする特訓ね」

「それじゃあ次の特訓の指揮はウチにやらせて?」

「希が?別にいいけど……にこの欲望をこれ以上肥大化させてはダメよ」

「分かってるって♪」

 

 

 高校時代から希とはずっと一緒にいるけど、どうも信用ならない時があるのよね。特に、取り繕っていないように見えるこの笑顔。今まで散々にこのことを弄ってきた希にとって、この特訓は合法的ににこで遊べる絶好の機会とか思ってそう……。

 

 

「次の特訓もその線から出ちゃいかんよ。それに変態発言も禁止!これがウチの特訓や」

「更なる条件が!?それまで禁止にされたら、零への愛をどうやって叫べばいいのよ!?」

「所構わず叫ぶこと自体が間違ってるってこと、まだ分かってへんみたいやね……まあとりあえず、これを見てにこっち!」

「へ……?な゛っ……あっ、あ゛っ……そ、それは……!?!?」

 

 

 にこの顔が急激に赤くなったわ。流石にいつも妄想を垂れ流しているにこでも、ここまで顔を赤くするのは珍しいわね。ま、まさか希、破廉恥な画像とか見せてるんじゃないでしょうね……私は希の後ろにいるから携帯の画面は見られないけど。

 

 

 気になるから覗いてみようかしら?

 

 

 私は希とにこの間に割り込んで、希がにこに見せびらかしている携帯を覗き込む。

 そこに映っていたのは――――――

 

 

「の、希!?あ、あなたねぇ!!!!」

 

 

「フフッ♪怒られること承知でこっそり撮った、零君の脱衣動画や♪」

 

 

 動画に写っていたのは零の脱衣シーンだった。それにこの脱衣所、どこかで見覚えがあるような……あっ!ここは希が住むマンションの部屋の脱衣所だわ!!何回か泊まらせてもらって見覚えがあるから間違いない!!恐らく零を自分の部屋に泊めた時に撮ったのね……全く。

 

 

「大変やったんよ?零君にバレたら大目玉は間違いない。だから呼吸音すら消しながら、脱衣所の扉の隙間から携帯を構えてたんやから」

「もうただの犯罪じゃない……」

「でも絵里ち、さっきからこの動画を凝視し続けてるのはなんでかなぁ~??」

「う゛っ!気のせいよ気のせい!!零の裸が見たいとか、そんなことは一切……ないんだから」

「ちょっと間が空いたのも気のせいかなぁ~??」

「の~ぞ~み~!!今はにこの特訓でしょ!?」

「まぁまぁ落ち着いて♪本当にもう、にこっちも絵里ちも可愛いなぁ♪」

「か、可愛って……もうっ!!」

 

 

 希ってば、にこだけじゃなく私を弄るためにレッスンの指揮を名乗り出たのね……まさか自分までこんな辱めを受けるなんて、完全に予想外だったわ。でも恋人の脱衣動画とかを見せられたら、そりゃあ……ねぇ?

 

 

 コホンッ!私のことはいいとして、にこの様子は――――って、今にも希に飛びかかりそうになってる!?身体を縮めて、足さえ踏ん張ればもう飛べる体勢に入ってるじゃない!?正しくは希じゃなくて、希の携帯の動画に映っている零にだけど。

 

 顔も真っ赤だし、目を大きく見開いて、零の行動や仕草を1つ1つ逃さぬよう事細かに監視をしている。吐息も荒くなってるし、これはもしかしなくても興奮状態に陥っちゃっているわね。上手く抑えられればいいんだけど、希はにこの欲求を高ぶらせる気満々だし、これって本当に特訓なのかしら……?

 

 

「希!!もっと携帯をこっちに近づけなさいよ!!零の身体が見えないでしょうが!!」

「おっと、それ以上動いちゃいかんよ!これは特訓なんやから♪」

「だったらその笑顔をやめなさい!!にこを煽っているようにしか見えないのよ!!あっ、零が上の服を脱いだ。零、こっち向いて!!よ、横顔が見えたぁ!!」

「これは重症やなぁにこっち」

「一部あなたのせいでもあるけどね……」

 

 

 でも意外にも、にこは感情を高ぶらせつつもデッドラインを超えることは一切ない。何度かこっちに飛びかかってきそうな時はあったけど、デッドラインに足すら掛かることはなく、まだ線は地面に綺麗に残っていた。

もしかすると、思ったより特訓が上手く言っているのかしら?それににこのことを少し過小評価し過ぎてたとか?でもこの2人の会話を聞いていると、全然そんな実感はないけどね……。

 

 

 だけどここで、にこは零の脱衣動画で興奮し悶えながら大声で叫びだす。

 

 

「まさか希、夜な夜なその画像で自分を慰めてるんじゃないでしょうね?ズルいわよ!!にこは零の脱いでいる動画は愚か、そんな画像なんて1枚も持ってないのに!?脱いだ動画さえあれば、自分磨きが捗ること間違いなしよ!!だって零の程よい筋肉質の腕に包まれてみたいとか、裸だといつも厚い胸板がより逞しく見えるとか、それに下半身を直に見ると意外に大きいとか♡――――って、その動画に下を脱いでいるシーンは入ってるの!?早く見せなさい!!もう毎日にこの小さいにこにーに零のをぶち込まれる想像してるけど、もう妄想だけでは満足できなくなってきたんだから!!」

 

 

「ちょっとちょっと!落ち着きなさいにこ!!思っててもそんなこと口に出しちゃダメ!!希!どうするのよこれ!?」

「あちゃ~失敗失敗♪」

 

 

「あぁ~もうダメ!零に会いたくなってきた!!次の講義抜け出そうかな……確か欠席は4回まで大丈夫なのよね。だったらまだ一度も欠席してないにこは問題ないはず!!れい~♪今会いに行くからね♪」

 

 

「どうしてこんなことになってしまったんやろ……プッ!」

「あなたねぇ……最後で笑ったの隠しても無駄だから」

 

 

 結局その後、お昼休みの時間を全て費やして何とかにこをなだめることができた。最終的には私がさっき見せた零のおねんね画像や、希の見せた零の脱衣動画を渡すことで解決したんだけどね。でもこれのせいでまた新たな火種になりそうで怖いわ……。

 

 

 

 

 あっ、そう言えばこの件に関して、私たちが謝らなければならない人が1人――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

音ノ木坂学院の部室にて――――

 

 

 

「零♪会いたかったわ♪とりあえずキスにする?それとも、に ・ こ ?もうっ、がっつき過ぎよぉ♡それは、にこの部屋でゆっくりと……ね♪」

「なぁ、今日のにこ、いつもよりスキンシップが激しいんだけど何かあったのか!?」

 

「えっ、まぁ……いつも通りじゃない?」

「うんうん、ちょっと気持ちが高ぶってるだけだと思うよ♪」

「なんだ希のその笑顔は……絶対なんかあっただろ!?」

「零~♪」

「うわぁ!!にこ!?倒れる!!椅子が後ろに倒れるから!?」

 

 

 にこは部室に着いた瞬間、溜まりに溜まっていた零への愛情を爆発させ、椅子に座っている零の膝の上に飛び乗り、今の今までずっと零に抱きついたまま離れない。

 

 

 これは確実に……私たちのせい、よね?

 

 

「ねぇねぇ零!子供は何人がいい?4人?も~う♪そんなににことしたいの?仕方ないわねぇ~♪」

「何も言ってないんだけど!?!?」

 

 

 零、ゴメンなさい!耐えて!!

 




 にこを更生させようと思ったら、更にヒドくなってしまった件……


 今回はにこの溢れ出る欲望と変態を更生させよう!という算段だったのですが、やっぱりにこは零君に一途でエッチなところがあった方が個人的には可愛いです!!じゃなかったらこんなキャラに仕立て上げませんしね(笑)

私はμ'sメンバー(1年生組を含む)箱押しなのですが、特に穂乃果、ことり、にこが大好きなのです。そしてこの3人は尽くこの小説で変態キャラと化しているという……可愛いと思うんですけどねぇ淫乱な女の子(開き直り)


 最近はハイテンションは話ばかり続いたので、次回は割と落ち着いた話にする予定です。


 現在、『新日常』のアンソロジー企画小説として『ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 Anthology~』が『新日常』と同時連載中です。ハーメルンのラブライブの作家様たちが集まって『新日常』の話を執筆してくださったので、そちらも是非ご覧下さい。
投稿日時は11月1日から23日まで、3週間近く毎日21時に投稿予定です。


新たに高評価をくださった霧兎さん、ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

名前を呼んだあの日

 今回はまったり過去のお話となっております。
 最近はハイテンションは話が多かった分、箸休め的な感じで読めるようにしましたのでくつろぎながらお読みください。

 時系列的にはことほのうみ3人との出会いから、ファーストライブ終了後までを、4人の回想という形でなぞっています。


 それではどうぞ!


 9月中旬になると、音ノ木坂学院は毎年忙しなくなる。

 教室や廊下などの至るところに軽い装飾が見られ、普段は厳粛な学院もこの時期だけは華やかに見える。もちろん生徒たちも活気付いており、9月末の授業だけは居眠りしている生徒数が急激に減るとか減らないとか……居眠り常習犯の俺が言うのもアレだけど。

 

 

 つまり、言ってしまえば学園祭が近付いているということだ。

 今年もμ'sはその学園祭でライブを行うことになっているのだが、今回は"ラブライブ!"のリハーサルも兼ねているので参加するのは高校生組である9人のみ。大学生組の参加を求める声も多かったのだが、それはμ'sの今後の活躍にご期待をということで。

 

 

 そして只今放課後。

 どのクラスもあと数日に迫った学園祭を目の前に期待が高まっていた。もしかしたら、授業のある日中よりも放課後の方が生徒たちのやる気が満ち溢れているまである。それほど音ノ木坂学院の学園祭は毎年大盛り上りで、お客さんにも大盛況なのだから、みんなの気合が入らない訳がないだろう。

 

 

 そんな俺はμ'sのお手伝い――――ではなく、ことりたちが衣装を作っているであろう被服室へ向かっている。衣装と言っても"ラブライブ!"で着る衣装は既に完成しているので、今作っているのは学園祭の企画に向けての衣装だ。

 

 ちなみに俺たちのクラスはメイド喫茶、俺の威光と穂乃果とことりを唆してほぼ無理矢理決定した。でもみんなやる気は満々みたいで、俺も俄然テンションが上がっている。ちなみに当日の俺の役目は、穂乃果たちに下衆な目を向けた男を学院の地下に連れ込んで拷問――――ではなくて、恐らく料理と教室前での接客がメインになると思われる。

 

 

 おっと、話している間に被服室に到着したので、とりあえずここまで。

 

 

「おっす、やってるか~?」

「あっ、零君遅いよぉ~!穂乃果たちのこと忘れてるのかと思った」

「仕方ないだろ、教室で他の仕事も手伝ってたんだから。それに衣装作りなら、お前らの方が圧倒的に効率いいだろ」

「でも零くんもことりたちのお手伝いをしてくれていたお陰で、最近は裁縫も得意になってきたよね♪」

「そうですね。一年前と比べれば、段々と女子力が身に付いてきたようにも思えます」

「やめろやめろ!俺はどちらかといえば養われる側になりてぇんだ」

「それはそれでどうかと思いますが……」

 

 

 いつも通り何の生産性もない会話を繰り広げつつ、俺はことりの向かいに座ってミシンの用意をする。こうしてテキパキ衣装作りの用意ができるようになった自分が我ながらに恐ろしい。コイツらと出会う1年半前は、まさか自分が女の子が着る服を作るなんて思いもしなかったからな。

 

 

「でもこうして4人で衣装を作っていると、ファーストライブの前を思い出すよね。あの時は穂乃果も衣装作り初めてだったから」

「もうあの時から1年以上経ってるのか。この間、本当に色々あったな」

「そうですね。まさか零と恋人同士になるなんて、あの頃は思いもしませんでしたよ」

「ことりたちと零くんの出会いは、本当に突然だったからねぇ~」

「出会いとか、えらく懐かしい話題だなオイ……」

「零君との出会いって、廃校が発表された当日だったよね?」

「そうだな。あの時は確か……」

 

 

 思い出すのは俺が穂乃果たちと出会ったあの日。

 今思い返せば、あの時の出会いはマジで奇跡だったのかもしれない――――

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

 そう、あれは丁度一年半前の春のことだった。

 2年生に進級して気分も心機一転しようと思っていた矢先、1年生が1クラスしかないという現状に、若干の不安を覚えた人がポツポツと出始めた時期でもあったんだ。

 

 そして、その予感はすぐに現実となった。

 

 

「は、廃校……」

「今年の1年生は1クラス分の生徒しか入学者がいなかったのは分かりますが、急に廃校宣言をされるとくるものがありますね……」

「廃校……」

「最近お母さんが険しい顔をしていたのはこのせいだったんだ……」

「廃校……」

 

 

 この時だった、

 

 穂乃果

 

 ことり

 

 海未

 

 この3人を認知したのは。

 

 もちろん毎年春の恒例行事である可愛い子探しの時に既に目は付けてはいて、同じクラスであることも知っていたのだが、こうして3人の存在をしっかりと意識したのはこれが始めてだったんだ。

 

 

 穂乃果は教室でも元気いっぱいのハイテンションだから特に目立つ。その時は知り合いでも顔見知りかどうかも怪しかったけど、同じ教室ってだけでも元気を分け与えてもらっていたくらい活発な女の子だった。

 

 ことりは今では考えられないくらいぽわぽわしていて、おっとりしたイメージが強い。男子の一部界隈では天使と称されるだけのことはあると、同じクラスになって始めて分かったんだ。

 

 海未は同級生に対しても敬語で、物凄く固くて律儀な奴だと思ったな。それにその端正な顔立ちは、まさに大和撫子に相応しい。弓道部のエースでも有名だったし、本人にその気はないだろうが結構目立っていた。

 

 

 俺が当初イメージしていた3人はこんな感じだ。だが今思い返せばどこれもこれも、彼女たちと同じ空間に数分間一緒にいるだけで言えそうなイメージばかりだな。コイツらと恋人同士となった今、穂乃果たちのことを語り出せば話が丸々1話あっても足りないぞ。

 

 

「廃校……」

「ほ、穂乃果……ちゃん?大丈夫?」

「穂乃果がこの学院を誰よりも好きなのは知っていますが、とにかく落ち着いてください!」

 

 

 俺は彼女たちの後ろから、唐突に発表された廃校通知と彼女たちの綺麗な後ろ姿を眺めていた。どちらかといえば後者の方が強かったかもしれない。

 

 だって可愛い女の子たちの身体が少し前のめりになっていることで、若干お尻を突き出すようにして廃校通知を眺めているんだぞ、そんなの女の子のお尻にしか目がいかないだろ!!――――と、当時から俺は俺だったという余計なことも思い出してしまった。

 

 

 だがそんな至福の時間も束の間、さっきから廃校廃校と壊れた時計のように連呼していた穂乃果の身体が、急に後ろに倒れ出したんだ。

 

 

「あ、あぶねぇ!!」

 

 

 その時の俺は、考えるより先に身体が動いていた。俺は見ず知らずの人誰もかもに手を差し伸べるほど善人ではない。面倒事だったら知り合いでもきっぱりと断るし、そもそもこっちから願い下げだ。それはただのクラスメイトだった場合もそれに当てはまるはずだった。それに俺が動かなくとも、すぐ隣にいることりや海未が穂乃果の身体を支えるだろう。

 

 

 だけど、俺は動いていた。

 

 

 そして気付いた時には、俺の腕の中に穂乃果がいたんだ。俺は穂乃果の顔を見下げるように、そして穂乃果は俺の顔を見上げるように――――――これが、俺と穂乃果のファーストコンタクトだった。

 

 

「あ、ありがと……」

「あ、あぁ……」

 

 

 突然すぎて、俺も穂乃果も言葉に詰まっていた。そりゃあそうだ、だって穂乃果は話したこともないクラスメイトの男子に急に助けられ、俺も気付いた時には腕の中に女の子がいたんだから。だが俺の方は穂乃果の顔に見とれていたというのもあったけどな。こんな可愛い顔が間近にあったら、当時女の子に免疫力のなかった俺が戸惑っちまうのは仕方ない。

 

 

 そして、今だからこそ言えることがある。

 

 

 俺が穂乃果を助けた理由は、彼女のことを好きになっていたからだって。言うなれば一目惚れっていう奴だ。それは穂乃果だけじゃなくてことりと海未も同じ。3人が幼馴染だということは知っていたから、その幼馴染が倒れ込んでしまって、2人の悲しむ顔も見たくなかったんだ。

 

 だがその時の俺は恋愛の"れ"の字も知らないウブな思春期男子だったから、自分自身彼女たちに惹かれているなんて思いもしないどころか意識すらしていなかっただろうが。

 

 

 そこで穂乃果は俺の身体から離れ、体勢を立て直す。当時、自分の身体から穂乃果の温もりが消え若干寂しい気持ちになったのは、やはり彼女に惹かれていたからだと今思い出して気付く。

 

 

「大丈夫か?崩れるように倒れてたけど……」

「うん、ありがとね。助かったよ!」

「私からもありがとうございます。えぇ~と、あなたは確か……」

「ことりたちと同じクラスの神崎くんだよね?」

「神崎零だ、よろしくな。高坂、南、園田」

「あれ?穂乃果たちの名前知ってるの?」

「え゛っ!?あ、あぁ、そのぉ~ほら!3人共結構教室で目立つから……ハハハ」

 

 

 この時は言えなかった。始業式の日の恒例行事で、俺の可愛い子リストに登録するために名前からスリーサイズまで徹底的に調べていたことなんて……今なら笑い飛ばせるだろうが、この状況で言ったら間違いなくドン引きされるだろう。

 

 

 こんな感じで、俺たちのファーストコンタクトは唐突に巻き起こったんだ。

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

 ――――と、俺はミシンを動かしながらちょっとした昔話をしたのだが……。

 

 

「へぇ~零君が穂乃果たちのことをねぇ~♪」

「まさかことりたちのことを一目惚れだっただなんてねぇ~♪」

「意外と可愛いところもあったんですね♪」

「くそっ、話すんじゃなかった……」

 

 

 コイツら……いい笑顔してやがって!!今まで恥ずかし過ぎて暴露できなかったが、もう恋人同士になったしいいかなと思ったらこれだよ!!普段俺がコイツらを馬鹿にすることが多い分、ここぞとばかりに反撃に出やがって……まぁ自分で暴露しちゃったから自爆なんだけども、なんか悔しい。

 

 

「その頃はまだ穂乃果たち、零君のことを"神崎君"って苗字で呼んでたんだよねぇ。久しぶりに思い出したら懐かしくなってきちゃったよ」

「まああの頃は親しい間柄でもなかったし、他人行儀なのも当然だろ。正直女の子を下の名前で呼ぶのは俺も恥ずかしかったから」

「だったら尚更私たちがこの関係になったのが驚きですね。僅か1年半で親友どころか恋人同士になるなんて……もう人生何が起こっても驚かなくなるくらいには、衝撃的な1年でした」

「なんか年寄りくせぇ言い方だな……」

「感傷に浸るくらいいいではありませんか」

 

 

 こうして『冗談を言う』⇒『適当にあしらう』のサイクルができるようになったのも、俺たちの心が隣同士にあるからだろう。これまでねじれの位置にあった俺たちの道が、ファーストコンタクトによって交差し、そして告白によって全員の道が一本となった。コイツらと出会ってから、今までなんとなくて過ごしてきた日常が劇的に変化した瞬間でもあったな。

 

 

「零くんと出会ってすぐだったよね、穂乃果ちゃんがスクールアイドルをやろうって言いだしたの」

「A-RISEの歌とダンスを見ていたら、穂乃果の中でビビっときて『これだ!!』と思ったんだよ」

「そうだったな。でもその時俺とお前らはまだ名前程度しか知らない仲だったし、スクールアイドルって聞いても『ふ~ん』みたいな反応しかしなかったのを今でも覚えてるよ」

「それでも私たちがスクールアイドルをやると知っていたってことは、その時から私たちのことを気遣ってくれていたってことですよね♪」

「なにその笑顔!?お前そんなドSキャラだったっけ!?今まで弄られてきた分の復讐か何か!?」

「いえいえ。出会った頃から私たちのことを見守ってくれていたと思うと、嬉しくなってしまいまして♪」

 

 

 海未の奴、俺がウブだった過去をいいことに、ここぞとばかりに俺の羞恥心を攻めてきやがって……いつか絶対倍返しにして羞恥をあじあわせてやるからな!!

 

 話を戻すと、スクールアイドルに関しては全く興味がなかったのは本当だ。それにスクールアイドル以前に、アイドルなんてもの自体にすら疎かったからな。

 そんなことで廃校を阻止できるのかよと、心のどこかで若干馬鹿にする気持ちもあったが……なんだろうな、スクールアイドルをやろうと言い出した穂乃果からはただの女の子にはない、不思議な魅力を感じ取れた。不可能を可能にしてしまいそうな、そんな雰囲気が。

 

 同時に俺も廃校を阻止できないかと色々解決策を考えたり、当時から因縁があった笹原先生からアドバイスを貰おうと動いていたのだが、どれもこれも改善の兆しすら見えなかったんだ。

 

 そして迷走中の俺の耳に、穂乃果たちがスクールアイドルを始めるという噂が入ってきたんだったな。自分1人なら無理かもしれないけど、この3人と力を合わせればもしかしたら――――という、どこか根拠のない自信が湧き上がってきたんだ。

 

 

 そこから俺は、穂乃果たちのスクールアイドルの活動に首を突っ込むようになった。

 

 

「でも驚きましたよ。突然零が弓道場に来た時は……」

「あの頃の海未ちゃん、ことりたちとスクールアイドルをやるのは反対だったもんね。それで活動を手伝ってくれている零くんにそのことを話したら、海未ちゃんを説得するために弓道場に行っちゃうんだもん!ビックリしたよ!!」

「あの時は海未と一緒にいた時間は全然短かったけど、その短期間でも伝わってくる海未の魅力があったんだよ。俺はそれをありのままにお前にぶつけただけさ」

「自分のことをあそこまで褒めてもらえるなんて、あの時が初めてでしたよ。まだ出会っても間もないのに、私のことをあそこまで……」

「だから言ったろ、それだけの魅力がお前にはあるって」

 

 

 まだあの頃は付き合いが浅くて、海未を外面的にしか捉えていない部分も多かった。まるで遊園地の中に入らず外観だけを見て中の感想を言っているみたいに、ありきたりのことしか言えなかったような気もする。そんな俺の言葉でも、海未が自信を持ってくれたからあの時の言葉が失敗だとは全く思っていない。

 

 

「それからだよね、零君と穂乃果たちが仲良くなったのって。曲を作るために真姫ちゃんを説得したり、どのような衣装にするか考えて、そしてその衣装を作ったり、ダンスの振り付けを考える時もずっと零君と一緒だった気がするよ!」

「自然とお前たち3人の仲に溶け込んで、ファーストライブ前のお祈りまで一緒にしたっけか」

「ファーストライブかぁ~……あれも今となったらいい経験と思い出だよ。当時は穂乃果、舞台の上で泣きそうになっちゃったけど、零君の言葉のお陰で立ち直ることができたんだったね。あの言葉は今でも覚えてるよ♪」

 

 

 穂乃果、ことり、海未の3人で挑んだファーストライブ。いざ講堂の舞台に立ってみたら、お客さんは俺やヒフミ除けば後にμ'sに入る仲間だけで、それ以外は"0"だった。俯いて暗い顔をする海未、目を見開いて絶望することり、今にも泣き出しそうになっていた穂乃果、そんな3人の悲愴な表情を見て、俺はこう思ったんだ。

 

 

 彼女たちに、こんな表情をさせたくないって。

 

 

 そこからだったかもしれない、彼女たちの笑顔を見たいと思うようになったのは。そして、その笑顔を守ってやりたいと思ったのは――――――

 

 俺が咄嗟に彼女たちに掛けた言葉は、僅か数秒で言い終わるような短い言葉。だけど周りが静寂に包まれ過ぎていて、時間の流れがとてつもなく長く感じたことを今でも覚えている。

 

 

 

 

『見せてくれ!お前たちの3人の笑顔を俺たちに!!穂乃果!!ことり!!海未!!』

 

 

 

 

 俺が、初めて3人のことを名前で呼んだ瞬間だった。

 無我夢中だった。1人だけでは廃校を阻止することは愚か、その策まで考えつかなかったから。でもこの3人と一緒なら、絶対成し遂げられると信じていたんだ。だから、ここで諦めたくはなかった。

 

 

 

 

「あの時は、急に名前で呼ばれて驚きましたよ。舞台の上では緊張で自分たちのことばかりしか考えられませんでしたから」

「でも零君の言葉がすごく心に響いてきて、ここまで頑張ってきたのは穂乃果たちの力だけじゃない、零君や曲を作ってくれた真姫ちゃん、舞台をセッティングしてくれたヒフミのみんな、その他色々な人のお陰でこの舞台に立てたんだって思い出すことができたんだ」

「その時からだったよね、ことりたちが自分たちのためだけじゃなく、みんなのために踊ろうって思ったのは。もちろん自分たちが笑顔で楽しむことも忘れずにね♪」

 

 

 穂乃果たちは人の少ない講堂で、見事に自分たちの曲を披露した。いくら音楽知識のない俺でも分かる。お世辞にもダンスや歌が上手いとは思わなかったし、素人目から見ても改善点だらけだったということは。

 

 でも彼女たちにはとびきりの"笑顔"があった。あの時講堂にいたお客は俺やヒフミだけではなく、絵里や希、にこ、真姫、花陽、凛……その全員に彼女たちの魅力と笑顔が伝わったと思う。単純にダンスや歌の上手さではなく、彼女たちの"想い"が。

 

 

「そしてファーストライブが終わった後だったよね。穂乃果たちと零君の距離がぐっと近付いたのって」

「そうだな。それは今でも時々思い返すよ。俺たちの今が関係になる、第一歩だったから」

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

 ファーストライブ終了後、俺たちは夕日に彩られた道を歩きながら、軽い打ち上げをするため俺の家へと向かっていた。

 

 そもそも年頃の女の子を家にすら上げたことがなく、しかもその一発目がついさっき仲が急接近した3人。ファーストライブとは別の緊張が走っていた。あの頃は本当にウブだったからなぁ~俺。

 

 

 今日のライブについて仲良く談笑している穂乃果たちの少し後ろを歩いていると、突然穂乃果が後ろを振り返った。その時の穂乃果は、普段の活発な彼女にしては珍しく若干よそよそしかったんだ。

 

 

「ん?どうした?」

「あのね……今日はありがとう!!」

「お礼なんていらねぇって。むしろこっちから顔を突っ込んだんだ、最後まで役目は果たすよ」

「それでもここまで付き合ってもらったことに関しては感謝しかありません。ありがとうございます」

「講堂で掛けてくれた言葉、とっても嬉しかったよ!ありがとう♪」

「高坂、園田、南も……」

 

 

 こうして俺が3人の苗字を口走った時だった――――――

 

 

 

 

「それ!!どうして苗字なの!?」

 

 

 

 

 突然穂乃果が俺に詰め寄って、まるで尋問のような体勢になったのは今でも鮮明に覚えている。そして初めてのライブで緊張したのか疲れたのか、女の子特有の汗のいい匂いも感じられて――――って、それは今はどうでもいっか。

 

 とにかく大きな声を出されてビックリしたから、なにかデリカシーのないことを呟いたかもとここ数秒の記憶を遡っていたんだ。もちろんその頃の俺に女性の気持ちなんて分からなかったから、全く無駄な時間だったけども。

 

 

 そして穂乃果が話を続けたことで、俺は再び現実に引き戻される。

 

 

「講堂で穂乃果たちの名前を呼んでくれたのに……」

「あれは……勢いというか、無我夢中だったからな……」

「でも心の距離がうんと近くなったような気がして、とても嬉しかったんだよ。まだ出会って数週間しか経ってないけど、ここまで一緒に頑張ってきたんだもん!もう友達じゃなくて親友だよね!!」

 

 

 夕日に照らされた穂乃果の明るい笑顔が俺の瞳に映る。

 そして続けてことりと海未も俺の元へと歩み寄った。

 

 

「出会って数週間だけど、ことりはあなたと一緒にいた時間はとても楽しかったよ!明日はどんな話をしようかなぁって、無意識で楽しみにしちゃうくらいにね♪」

「こんな短い期間で、ここまで濃密な時間を過ごしたのは初めてでした。それだけこの4人で一緒にいることが、私たちにとっての日常になってしまったのでしょう」

 

 

 ことりと海未の綺麗な笑みが、俺の脳裏に焼き付けられる。

 この時なんとなく分かったような気がしたんだ。なぜ穂乃果たちに目を付けて、ここまで一緒に頑張ってきたのか。俺と同じ廃校阻止という志を持っていて、そしてなにより、彼女たちのこの笑顔に惹かれたからなんだ。

 

 

 

 

 だから俺は、この先も彼女たちと――――――

 

 

 

 

「廃校阻止への道のりは途方もなく長いかもしれない。でも俺1人だけじゃなく、みんなの力が合わさればきっと廃校を阻止できる!廃校と聞いて暗い雰囲気に包まれている学院を盛り上げて、みんなを笑顔にしよう!だから、これからも一緒に頑張ろうぜ!!よろしくな穂乃果、ことり、海未!!」

 

 

 

 そして、彼女たちもにっこり笑って――――――

 

 

 

「うん!これからもよろしくね!零君!!」

「ことりもよろしくお願いします♪零くん!」

「えぇ、今後共よろしくお願いしますね、零!」

 

 

 

 

 これが俺たちの、お互いを名前で呼んだ初めての日だった。

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

「懐かしぃ~!!もうだいぶ前のことのように感じられるよ」

「名前で呼ぶことになってから、普段の学院生活も4人で一緒にいることが多くなったよね♪」

「笹原先生から要注意人物として挙げられる4人になるくらいだもんな」

「そこは誇らしげに言うことではないでしょう……」

 

 

 俺たちは衣装を作りながら、昔懐かしい話をして感傷に浸る。

 これ以上昔話をしてしまうと、真姫たちの話題となってそれこそ衣装作りの手が止まってしまうため、それはそれでまたの機会ということで。μ'sの活動としてはここからの話が本番なんだけどな。

 

 

「もうすぐ学園祭かぁ~。そしてそれが終わったら"ラブライブ!"。う~ん!テンション上がってきたぁあああ!!」

「テンションが上がる前に手を動かしてください。このままだと学園祭までに間に合いませんよ」

「ぶ~!折角いい気分だったのに……海未ちゃん空気読めぇ~!!」

「まぁまぁ……」

 

 

 穂乃果がボケて、海未がツッコミ、ことりが仲裁に入るのはもはやお決まりのパターン。今やそこに俺がいると思うと――――――うん、やっぱり楽しいわ!コイツらと一緒にいると、自然と笑顔が溢れてしまうほどに。

 

 

「もう廃校も阻止したし、"ラブライブ!"優勝という夢も叶えたけど。俺たちはそこで立ち止まらない。次の目標は新生μ'sで"ラブライブ!"優勝だ。それに向けてラストスパート、頑張っていこうぜ!!」

「「おーーーーー!!」」

「お、おぉ~……!」

「海未ちゃん空気読めぇ~!!」

「突然だったのですから仕方ないでしょう!?」

 

 

 そんな感じで、多少の齟齬はありながらも彼女たちと共に歩んできたこの1年半。だが俺たちはまだ未来の入口に立ったに過ぎない。これからも穂乃果たち、そしてμ'sのみんなと共に、笑顔で未来を歩んでいけたらいいな。

 

 

 いや、歩んでいくんだ!!

 




 今回は零君たち3年生組の懐かしい過去話でした。
 元々アニメ準拠で書いていない分、読者様から"出会いの話を書いて!"と過去編を求める声が多かったのですが、今回満を持して採用させてもらいました。待っていた方は長らくお待たせしましたということで(笑)

 彼らがお互いに恋愛というものを意識しだしたのは、回想であった通り名前で呼び合ってからとなっています。もちろんその時は、4人共まだ芽生え始めた恋心には気付いてないですがね。

 また機会があるならば、他のメンバーの出会いの話も書きたいなぁと思っています。それこそアニメ沿いになってしまうので、本編が一段落付いてからになりそうですが。


 次回はTwitterのアンケートで好評だった、真姫ちゃん回の予定です。


現在、『新日常』のアンソロジー企画小説として『ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 Anthology~』が『新日常』と同時連載中です。ハーメルンのラブライブの作家様たちが集まって『新日常』の話を執筆してくださったので、そちらも是非ご覧下さい。
投稿日時は11月1日から23日まで、3週間近く毎日21時に投稿予定です。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

零と真姫、鎖繋ぎの2人(前編)

 今回は真姫回、しかもちょっぴりヤンデレな真姫ちゃんの個人回です!
 前編の前半は真姫視点、後半からは零君視点でお送りいたします。前編も次回の後編もまさかの真姫ちゃんづくし、是非お楽しみください!


 

 珍しく、私は部屋の片付けをしている。

 元々普段から部屋を綺麗にしているし、することと言えば軽い掃除くらいのもの。海未や絵里から見たら当然と言われ、穂乃果や凛から見たら何故か異常だと言われたこともある。唯一散らかってしまうものと言えば、作曲の途中に片手間に書いていたメモ帳くらい。それも捨てることはなく、今後の作曲のヒントになるかもしれないから、例え殴り書きであるメモ帳でもきちんとファイリングしてある。

 

 

 だったら、私が何故部屋中を片付けしてるかって?

 理由は単純。

 

 零が来るから。

 

 彼を部屋に招くのは初めてではないけど、その時はμ'sのメンバーがいたり、応接室で話すことも多かった。だから零と2人きりで、しかも私の部屋でなんて恋人同士になってから初めてだったりする。

 

 2人きりと言っても特に用事がある訳ではなく、所謂自宅デートというものなのかしら?私も零も外出はそれほど好きではないから、満場一致で私の部屋でデートをしようと決まったって訳。彼の家には何度もお邪魔してるけど、私の部屋に彼を呼んだことはないからという理由もあるけどね。

 

 

「これで粗方終わったかしら……?」

 

 

 一応いつもより丹念に掃除機を掛け、この前にこちゃんにオススメされた100円アイテム『ホコリ取り』を駆使して、机周りから目に見えない棚の上まで隅々掃除をしたつもり。やっぱり自分では綺麗だと思っていても、案外部屋は汚れているものなのね。このホコリ取りがなかったら気付かなったかも。正直100円アイテムを舐めてたわ……。

 

 

 まあそんなことはいいとして、次はタンスの中を片付ける作業に入る。

 別にそんなところまで片付けなくてもいいと思うけど、タンスの中とかを見られるのって恥ずかしくない?そんなところを見る人なんていないと思う人が大半だろうけど、零はそういう奴なのよ。私が飲み物を取ってくるために部屋を離れた時、こっそり引き出しやタンスを覗くような趣味の悪い性格してるし。

 

 

 私はタンスの下段、一番下の引き出しの取っ手を両手で掴んでゆっくりと引っ張る。その引き出しは私が小学生の頃以来ほとんど開けたことがなかったから、長年封印されてきた棺を開けるかのように重々しい。

 

 

 なんとか中身が見える位置まで引っ張ると、子供の頃に遊んでいた玩具の入ったカゴが目に入った。

 

 

「あっ、懐かしい。これこんなところにあったのね」

 

 

 このタンスの引き出しなんて全然開けたことがなかったから、この玩具たちの存在すら忘れていた。小学生や中学生へ進級するにつれてピアノや勉強に集中するようになり、そして高校生になってμ'sの練習や作曲をするようになってから毎日が忙しく充実していたからかもね。

 

 

「ん?これなにかしら……?」

 

 

 1つ1つ玩具を取り出して懐かしんでいると、カゴの底に銀色で一際キラリと輝くモノがあった。

 手首が通るくらいの2つの輪っかあって、それが一本の鎖で繋がれている――――――そう、手錠だ。あまり使ってなかったのか、そもそも使ったり貰った記憶さえ怪しいけど、他の玩具と比べると汚れが一切ついてない。

 

 私はその手錠と隣に置いてあった手錠の鍵を手に取って、怪しい白銀の光沢を放つ拘束具を、その輝きに吸い寄せられるように凝視する。

 

 

 何故だかは分からない。

 片付けのことなんて一瞬で忘れ去り、私はその手錠を眺めていた。まるでその怪し気な輝きに心を奪われてしまったかのように……。

 

 

 

 

 ここで、私に1つの欲望がよぎる。

 

 

 

 

 零と――――繋がってみたい……と。

 

 

 彼と2人きりでいる時間は非常に限られている。家が離れているとかそんな物理的な問題ではなく、彼には9人もの彼女がいるという私たち特有の問題。

 

 当然だけど、彼が私たちに平等に愛を注いでいるかと言われると、本人はそうしているつもりだろうが多少差異は出てくる。特に穂乃果やことり、にこちゃんは常に零とベタベタしているし、凛や花陽、一年生組まで最近積極的で、恐らく私は零との絡みが少ないμ'sメンバーワーストランキングなら上位にランクインできる自信がある。

 

 

 

 

 だけど今日は、誰にも邪魔されず彼と2人きりになるチャンス。

 私だって零の恋人。彼の隣にいたい、彼に寄り添いたい、彼と離れたくない――――――そんな欲求が、私の中で大きく渦巻く。彼と一緒にいたいという恋人同士ならごく自然な欲求なのに、その欲求が欲望となって私を侵食していくのが分かる。

 

 

 穂乃果やことりたちに圧倒されて、零の隣にいられないことに悔しい固唾を飲んできたこともあった。もちろん彼女たちも私の大切な親友であり仲間、恨んだりなどは一切していない。

 

 

 だけど、この欲望だけは抑えきれない。

 

 

 彼と2人きり、それも今日一日中ずっと隣にいられる絶好のチャンス。これで彼と私を繋いでしまえば、私が外さない限り、永遠に彼と一緒――――――

 

 

 

 

 私は怪しく白銀に光る手錠をギュッと握り締め、そのままポケットへ入れる。

 

 

 

 

 いつもはμ'sの誰かに彼を譲っているんだもの、今日くらいは、彼と一緒に――――――

 

 

 

 

 繋がりたい。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ひっさしぶりに来たけど、相変わらずデケェ家だなオイ……」

 

 

 毎回来るたび来るたびに西木野邸に圧倒されているような気がする……。

 今日は真姫に誘われて彼女の家へやって来た。真姫からデートに誘ってくるなんて珍しいこともあったもんだ。しかも今回は自宅デートという奴らしい。まあ真姫の家ならそこらのホテルよりも優雅にくつろげそうではあるがな。

 

 

 無駄に装飾が豪華絢爛な門を開き、庭に舗装された白石の道を進む。インターホンまでの道のりが遠すぎぃ!!と思いながらも、もう少しで真姫と2人きりであんなことやこんなことができると思うと足が弾んでしまう。傍から見たらニヤニヤしながらスキップモドキをしている不審者にしか見えねぇな……。

 

 

 そんなこんなでこれまた豪華なお屋敷の玄関に到着し、これまたお高そうなインターホンのボタンを押す。

 

 

 

 

 すると、玄関の扉が勢いよく開いた。しかもインターホンを押してから扉が開くまで数秒あるかないか。まるで扉の向こうで待ち伏せをしていたみたいに――――――

 

 

「こんにちは、零」

「よ、よぉ真姫……」

 

 

 俺はてっきり使用人か真姫の母親が出てくるものとばかり思っていたため、突然真姫が眼前に現れて少々驚いてしまった。しかも彼女、満面の笑み。それだけ俺との自宅デートを楽しみにしていてくれたのだろうか。それも家の玄関で待つほどに――――普段は大人びた彼女だが、やはり年相応の可愛いところもあるもんだ。

 

 

「こんなところで立ち話なんて時間がもったいないわ、早く行きましょ」

「あぁ、なんかお前、楽しそうだな。そんなに俺が来るのを待ち望んでたのかぁ~」

「えぇ、もう我慢できずに一時間も前から玄関の周りをウロウロしていたんだから。私を待たせた代わりに、今日はうんと楽しませてもらうわよ」

「あ、あぁ、もちろん!!真姫と2人きりなんて久しぶりだしな」

「そうね、久しぶりね。フフッ」

「……?」

 

 

 なんか俺の思っていた反応と違うな……いつもの真姫なら俺の煽りに対し激烈なツンデレを発揮するのだが、今日は素直に俺の言葉に乗ってきやがった。やっぱりそこまで俺と2人きりになれるのを楽しみにしていたのか。それでもやけに素直な気もするけど。

 

 でも、素直に好意を伝えてくれる真姫も可愛いから問題ナッシング!!むしろ素直になってくれた方が、あんなことやこんなことを期待できたり!?穂乃果やことりじゃあるまいし、流石に夢見すぎかな。

 

 

 

 

 そして俺は真姫に導かれるまま、彼女の部屋へと案内された。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「…………」

「どうしたの?私の部屋、落ち着かない?」

「い、いやぁ俺はどんなところでもくつろげるタイプなんだが……」

「なんだが……?」

「すげぇ近いなって思って……」

「そう?」

 

 

 真姫の部屋は、テレビや漫画でよく見るお姫様ベッドがあるお嬢様部屋――――なんてことはなく、案外普通の部屋だった。女子高校生らしく人形も飾られており、穂乃果の部屋を綺麗にしたら真姫の部屋と同じようになるくらいには普通だった。

 

 そんなことはいいとして、問題は俺が部屋に入って彼女が飲み物を取りに行き、戻ってきた直後からだ。これが問題と言うべきなのかは怪しく、むしろ心躍ることなんだけど、やたら真姫が俺の身体に寄り添ってくる。まるで普段の穂乃果やことりのような、部屋に案内される時も手を握られていたし、今日のコイツはかなり積極的だな。

 

 

 でもここまで近付かれると、真姫の高貴でかつ甘い香りが漂ってきて、今にも彼女に飛びついてしまいそうだ。だが流石にまだ早いよな……?部屋に到着して数分で女の子を襲うとか男の風上にも置けない。重要なのはムードだムード!!

 

 

 だが、そのムードさえぶち壊しそうなくらい、積極的な真姫にドキドキしているのは事実だ。だって――――さっきからずっと顔を見つめられてるんだもん!!目が合うとニッコリと微笑んで、目を離すとシュンとして……くぅ~~!!こんなの襲わない方が男じゃねぇだろ!!

 

 

「零!!」

「うおっ!?ど、どうした……?」

「さっきから何度も呼んでるのに、気が付かなかったの?」

「悪い、ちょっと煩悩を滅却してた。お前の出番はまだ早い!!ってな」

「フフッ、そうね。まだお昼だものね」

 

 

 えっ!?やっぱり今日の真姫は羞恥心というものがないのか!?いつもなら『ぼ、煩悩!?あなたまた変なこと考えてるのね!?本当に意味分かんない!!』とか、顔を真っ赤にして言いそうなものなのに……。真姫の慌てている表情を見られなくてつまらないと思う反面、ここまで従順だと夜の期待が高まってくる。

 

 だが真姫も2人きりの時は冗談交じりの会話を含め、若干小悪魔っぽいところがない訳ではないので、もしかしたらコイツの掌の上で踊らされている可能性も無きにしも非ず……もしそんなことをされた場合、コイツに一生忘れられないくらいの快楽をブチ込んでやろう。

 

 

 あぁ、そんなことを妄想してたら多少だけどムラついてきた。自分磨きをするほどではないけど、このままだと真昼間から真姫を襲いかねないので、トイレで用を足しがてら心を落ち着かせるとするか。

 

 

「ちょっとトイレに行ってくるわ。トイレってどこだっ――――」

 

 

 俺が真姫にトイレの場所を聞いた。まさにその時だった――――――

 

 

 右手首に何やら金属の冷たい感触がした。

 もしかしてと思い、恐る恐る自分の右手首に目を落としてみると、まさにビンゴ。俺の想像と全く同一のモノが手首にはめられていた。俺の手首に白銀の輪っか、それが一本の鎖で繋がれていて、その先へと目をやってみると、今まさに真姫がもう1つの輪っかを自分の左手首にはめているところだった。

 

 

 そして、また金属音が鳴る。

 

 

 一本の鎖によって、俺たちが繋がった。

 

 

「お、おい!?何してんだお前!?」

「なにって……手錠をはめているんだけど?」

「いやいや手錠って普通は両手首にはめるものだろ――――って、手錠の解説はいいんだよ!!どうして俺を手錠で拘束したのかって話!!」

「えっ、零と一緒にいたかったからだけどそれが?」

「いやいや、そんな『お前何言ってんの当たり前じゃん』みたいな顔されても……」

 

 

 真姫はごく自然な顔で、キョトンとしながら俺の顔をジッと見つめ続ける。でもそのとぼけた表情が、無邪気な子供っぽくて可愛い――――とは言い出せない。言ってしまったら最後、この状況が悪化しそうだから……。

 

 手錠のひんやりとした感触に若干怖気が走りながらも、"あぁまたか"で自己完結する辺り俺も俺で相当毒されてるな。だって穂乃果やことり、にこから同じようなことされそうだし、ことりからは実際にされたこともあるし……。(※第67話『狂気の南家』参照)

 

 

「私はあなたと一緒にいたいの。ずっとあなたの側で、こうしていたい……」

 

 

 真姫は更に俺の身体に寄り添い、自分の頭を俺の肩に預ける。更に手錠で繋がれた左手で、俺の右手をギュッと握り締めた。

 

 そして彼女は顔をゆっくりと上げ、俺の瞳を寂しそうな上目遣いで見つめてきた。

 

 

 

 

「ダメ……?」

 

 

 

 

 ぐふぅうううっ!!そんな瞳で俺を見るなぁああああああああああああああああああああああ!!

 

 普段は羞恥心に阻まれてこんなことを絶対しないような奴なのに、何で今日はこんなに積極的で乙女チックなんだよ!?しかもちょっと首ちょっと傾げ、頬が赤く染まっているのも相まって大人っぽいというより子供っぽい。いつもの冷静沈着なクールさはどこにもなく、可愛さとあざとさにステータスを全振りしてやがる!!

 

 ダメだ!!そんなことを考えていたら、余計に俺の妄想が真姫に侵食される。無邪気に俺を求めるこの瞳、寂しそうな表情と俺を甘く誘う声、そんなことをされたら俺は……俺は――――!!

 

 

 

 

「いいよ」

 

 

 

 

 こう言うしかねぇじゃねぇか馬鹿野郎!!

 だってしょうがないじゃん、男だもん!!こんな幼気な女の子を、まして恋人を、拒否する理由があるだろうか?いや、ないね!

 

 

「やった!今日はずっと一緒よ♪」

「あ、あぁ、そうだな……」

 

 

 そうだよ。真姫のこの笑顔さえ見られるのであれば、一日の拘束くらいいくらでもしてやっていい。まんまとコイツの作戦にハマってしまったのかもしれないが、それはそれで普段とは違うギャップ萌えを感じられるのでプラスとして受け取っておこう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零」

「なんだ?」

「呼んでみただけよ」

「そ、そうか……」

 

 

 俺たちが一本の鎖で繋がれてから早数分、真姫は嬉しそうに俺の身体に自分の身体を預け、俺たちは他愛もない話を淡々と続けている。

 

 元々真姫との会話は彼女の性格上淡々としていることも多いのだが、それはそれで俺も真姫も楽しいからつまらないと思ったことは全然ない。むしろそんな会話こそが俺と真姫の日常となっているくらいだ。

 

 

 だが今日はいつもの真姫とは違って、淡々としているがどこかノリノリで、口調も嬉しさの余りかなり弾んでいる。例えば、

 

『零』⇒『なんだ?』⇒『今日は絶好のデート日和ね』⇒『そうだな』

 

 これだけで会話が終わったとしても、とても中身の濃い会話をしているような、そんな感じがしてしまうのは普段の真姫に陽気さプラスされているからだろう。

 

 

 誰にも見せない彼女の一面を、俺だけが見られるのはもちろん嬉しいんだけども、やはり真姫のこのギャップに対しては少々戸惑いもある。

 

 

「零」

「……なんだ?」

「どうしてもっと私に寄り添ってこないの?私はこんなにもあなたに抱きついているっていうのに……」

「あのぉ~……正面から抱きつかれているのに、これ以上どうやって寄り添えばいいって言うんですかねぇ~」

「そんなの、心と心でも繋がるに決まってるじゃない。今のあなたの心、少しだけだけど私の心から一歩後ろに引いている感じがするから」

「そりゃお前、昨日までツンデレ極めてた奴が、今日突然デレデレになってたら驚くだろ」

「だったら私が心の距離を詰めてあげるわね」

「うおっ!?」

 

 

 もうこれ以上抱きつきようがないってくらい真姫に抱きつかれてたけど、彼女は脚すらも俺の腰の下へ回して俺の身体に絡みついてきた。

 

 これは……俗に言う"だいしゅきホールド"という奴だ!!ま、まさか真姫自らこんなことをしてくるなんて……彼女の全身に密着するのは何気に初めてかもしれない。

 

 

 真姫の身体って、こんなにも柔らかかったんだな……しかも彼女特有の癖っ毛から放たれる、お高いシャンプーの香りが俺の鼻を刺激する。もう身体の感触とこの匂いだけで魅惑の虜にされてしまいそうだ…………おっぱいもめちゃくちゃ当たってるし。

 

 

「零」

「なんだ?」

「キスしない?」

「…………いいよ」

 

 

 もう俺は真姫の魅惑に取り付かれてしまったのかもしれない。でもまぁいっか、いつもは俺から攻めている訳だし、彼女にその気があるのならば今日はコイツの好きにさせてやろう。

 

 

 俺は真姫の顔と真っ直ぐ向かい合って、唇を重ねる体勢を作る。

 だが体勢が整ったその瞬間、真姫はその時を狙ったかのように勢いよく俺の唇に飛びついてきた。

 

 

「んっ……はぁ、んっ」

「はぁ……あぁ、んんっ……」

 

 

 いきなり真姫の顔がドアップで迫ってきた驚いたが、もはやこの程度のキスなら慣れっこだ。右手は手錠で拘束されているため、真姫の身体を左手で優しく抱きしめて彼女の唇を受け入れる。

 

 まだ自宅デート開始から数十分しか経過していない。だからいきなり激しいキスをするのはどうかと真姫も分かっているようで、ひたすら俺の唇をゆっくりとなぞるように自分の唇を動かしていた。

 

 

「ふぅ、っ……はぁ、ちゅっ……んっ……んんっ、ちゅぅ……」

「はぁ……あっ、ちゅ……ん……んっ、ちゅっ……」

 

 

 僅かに唾液の卑猥な音を漏らしながら、俺たちは2人だけの世界で愛を確かめ合う。

 結局どんな真姫でも、俺は彼女が大好きなんだ。ツンな彼女もデレな彼女も、自らの欲望に忠実となる彼女も俺に従順となってくれる彼女も、どんな彼女も全部……そうでなきゃ、こんな気持ちのいいキスなんてできない。

 

 

「ふぅ、っ……んっ、はぁ……んっ……ちゅっ、ちゅぅ……」

「はぁん……あっ、ちゅ……もっと……んっ、もっと、ちゅぅ……もっと♡」

 

 

 自分から一心不乱に吸い付いてくるのにも関わらず、"もっと"とは……もっと俺から来いってことか?

 

 欲望の歯止めが段々効かなくなってきたのか、真姫は俺の口内に舌を侵入させ、唾液を絡め取ったあと自分の口内に引っ込める。同時に真姫の甘い唾液が俺の口内にねっとりと流れ込んできた。

 

 俺たちは顔と顔を、唇と唇を更に密着させ合う。身体と身体も余すところなく抱きつき合っているので、もう俺たちとの心と身体の間には隙間など一切ない。心も身体も唇も……俺たちは全て繋がっていた。そして手錠の鎖で物理的にも繋がっている。もう真姫から離らなくなっちまいそうだ。

 

 

 しかしキスがディープになりすぎてそろそろ息苦しくなってきたため、仕方なく真姫の唇からそっと自分の唇を離す。その時一瞬垣間見えた真姫の寂しげな表情が、俺の心にチクリと刺さる。

 

 分かってくれ真姫、愛を深めすぎて窒息死なんて報道の笑いものになるだけだから。

 

 

「真姫。お前いきなり盛りすぎだろ……」

「言ったでしょ、心の距離を詰めてあげるって。どうだった?私からの愛は……?」

「たっぷりと、身体全体が支配されるくらいには注がれたよ。たまには女の子からしてもらうってのもいいものだな」

「でしょ?いつも零は攻める側だから、私にもちゃんとあなたへの愛があるってことを証明したかったのよ。これからもずっとあなたの側にいて、こうして毎日でも愛を確かめ合いたいわ。この鎖のように、永遠に途切れぬ愛をね……フフッ」

 

 

 真姫は左腕を持ち上げて、俺たちを繋ぐ手錠を俺に見せつける。

 うん、これはやはり……ことりと同じヤンデレの素質があるな。ことりよりかは全然軽いけど、そのこじらせると面倒ではありそう。いつもとみんなの性格が違うとビビる時もあるのだが、これも俺を想いに想ってくれての愛情、俺も全身全霊で受け止めてやる。

 

 

 それに……ヤンデレな子って、一途で可愛いじゃん!!

 

 

 

 

 そんな呑気なことを考えていると、突然真姫が身体をモジモジし始めた。

 

 待て待て待て待て!!まさかもうヤっちまうのか!?まだ真昼間なのにいくらなんでも早すぎだろ!?やはりそういう行為は、真夜中の静まり返っているムードが一番だと思うんだ。しかも俺たちは手錠で繋がれているから、まずはそれに慣れてからじゃないと満足にできないぞ!?

 

 

「真姫、流石の俺でもそこまで獣じゃない。だから――――」

「お花……」

「へ……?」

「お花を摘みに行きたくなったんだけど……」

 

 

………………

 

 

………………

 

 

………………

 

 

………………

 

 

………………え?

 

 

 

 

「え゛ぇえええええええええええええええええ!?!?」

 

 

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 今回は、ちょっぴりヤンデレな真姫ちゃんのお話でした!
 久しぶりにヤンデレキャラを書いたのですが、やっぱり可愛いですねぇ~!!普段とは違う一面が見られるというのもありますが、ヤンデレって良くも悪くも好きな人に一途なので、そのキャラにグッとくるというのが一番です!『新日常』の読者さんの中にはヤンデレが苦手だったり、『非日常』は読んでないよという方もいらっしゃるようで、私はなるべくその人たちにもヤンデレμ'sの可愛さを伝えていけるようにしたいと思っています。

 特に今回のヤンデレは非常にマイルドなので、苦手な方でも読みやすかったのではないかと思われます。


 次回は鎖つなぎの2人の後編です。もちろん真姫ちゃんづくし!個人回でここまで掘り下げるのは何気に初めてですね。


 現在、『新日常』のアンソロジー企画小説として『ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 Anthology~』が『新日常』と同時連載中です。ハーメルンのラブライブの作家様たちが集まって『新日常』の話を執筆してくださったので、そちらも是非ご覧下さい。
投稿日時は11月1日から23日まで、3週間近く毎日21時に投稿予定です。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

零と真姫、鎖繋ぎの2人(後編)

 今回は真姫個人回の後編となります。
 前回はヤンデレ色が強かったのですが、今回は過去に類を見ないくらいの変態話となってしまいました。

 零君の妄想全開でお送りしますので、読者の皆さんも是非頑張って彼について行ってください(笑)


 

 前回までのあらすじ!!

 真姫との自宅デートで心も身体もウキウキしていた俺は、突如彼女にモノホンの手錠で拘束され、更にそのもう片方は彼女の手首に……。

 

 そこまでならまだ許容範囲なのだが、俺たちが愛を深め合っている最中に真姫が放った衝撃の一言で、俺は2人だけの世界から現実世界に引き戻された。

 

 

 

 

「…………悪い、別に難聴キャラとかそういうのじゃないんだけど……なんだって?」

「お花を摘みに行きたくなったんだけど……」

「…………」

 

 

 どうやら聞き間違えではなかったようだ。

 『お花を摘みに行く』って、女の子界隈の業界用語でトイレに行くってことだよな……つまり真姫は今トイレに行きたいと。そして今俺たちは手錠の鎖で1つになっていると、なるほどなるほど…………ゴクリ。

 

 

 あっ、翌々考えてみたら鍵を使って普通に手錠を外せばいいじゃん。なんか"あの時"の印象が強すぎて、永遠にこのまま拘束されっぱなしだと思ってたわ。

 

 

「それなら鍵で手錠を外して、垂れ流さない内に早く行ってこい」

「嫌よ」

「は……?トイレに行きたいんじゃないの?」

「今日1日は、ずっと零と繋がってるって決めたもの」

「じゃあ俺が動かなかったら……」

「私もずっとここにいることになるわね」

「でも我慢してるんだろ!?」

「零がそんなプレイを望んでいるというのなら、私は……」

 

 

 す、凄く頬を赤く染めてらっしゃる!?!?トイレ焦らしプレイなんて、あのにこでさえ抵抗したんだぞ!?それを自ら進んで実行し、更にちょっと興奮しているだと!?

 

 頑固なのか一途なのか、どちらにせよこのままでは真姫が垂れ流してしまう。俺としてはそんな彼女の姿を見てみたくはあるのだが、これが彼女のお母様にバレた場合、俺が西木野家のパワーで抹殺されるのは明白だ。

 

 

 ど、どうする……?

 

 

「れ、零……」

「真姫、お前声震えてるぞ……まさか?」

「もう、出ちゃいそう……」

 

 

 あ゛ぁああああああああああああ!!!!俺に身体を寄り添わせて脚をモジモジさせながら『出ちゃいそう……』だなんて卑怯過ぎるだろうがぁああああああああああ!!そんなことされたら、俺の理性がプッツリと切れちゃうよ!?今すぐにでも下半身を刺激して、目の前で真姫の黄金水を放出させてやりたいよ!!悪いか!?!?

 

 

 だがここは俺の部屋じゃない、彼女の家で真姫の部屋だ。俺の部屋ならば最悪楓に見つかるだけで事なきを得る(恐らく脅しのネタに使われて、また一週間お風呂を共にされる)だろうが、さっきも言った通り、西木野家からの重圧に潰されたくはない。

 

 

 うん、ここは穏便に済ませよう。少々危険あるが……。

 

 

「分かったよ真姫、一緒にトイレ行こう」

「やった、ありがとね零♪」

「ぬほっ!」

 

 

 こんな満面の笑顔の真姫に抱きつかれるなんて、ここは楽園ですか聖域ですかサンクチュアリですか!?その聖域で俺の欲望を発散させちゃうよ?まあ今から真姫の聖域から黄金水が放たれるんだけどな!!――――――うん、今まででトップ3に入るくらいの最低発言なことは分かってるから。引かないで。

 

 

 それにしても真姫の奴、急に俺に抱きついたりしたら――――――

 

 

「お前、身体を激しく動かすと……出ちゃうんじゃ?」

「あ……」

「お、おいまさか!?」

「出そうだった……」

「ビビらせんな手遅れかと思っただろ!!まあとにかく、そうと決まったら早く行こうぜ」

 

 

 このまま外の世界へ旅立とうとする黄金水を必死で塞き止める真姫を、焦らしプレイの一環として眺めておくのもまた一興かもしれない。聖域に溜まりに溜まっていた聖水が、この世に流れ出す光景を見るその興奮と言ったら……。

 

 聖水を放出し、やってしまったと涙目になる真姫、遂に解き放つことができたと気持ちよさそうに身体を震わせる真姫、どっちを妄想しても今夜の自家発電の電力として使えそうだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 俺たちはこっそりと部屋を抜け出し、誰にも見つからないようにトイレへと向かった。

 いくら恋人同士でも一緒にトイレなど常識的に考えて御法度だし、そもそも誰かに見つかって部屋を抜け出した理由を説明していたら、真姫が耐え切れず聖域からシャワーが漏れ出してしまうだろう。

 

 

 彼女の黄金水を拝んでいいのは俺だけだから!!ぜってぇ誰にも見せねぇからな!!

 

 

 なんとかトイレの前まで来た俺たちは、これまた無駄に高級そうな扉のノブを音を立てずに回し、彼女の身体を刺激しないよう手を引いてゆっくりとトイレに侵入する。

 

 トイレの中は高級ホテルのように、用を足すのも恐れ多いほど綺麗で豪華な造りとなっていた。

 だがどんなに綺麗トイレを見せられようと、どれだけ素晴らしい景色を見せられようと、今の俺には真姫の黄金水より美しさで勝るものはない。もうそれだけしか考えられていなかった。

 

 

 『もうすぐだから堪えてくれ』とか『もう大丈夫だ』とか、そんな気の利いた声は絶対に掛けない。

 その言葉で真姫が安堵してしまった場合、今まで必死に押さえ込んでいたダムが決壊してしまう可能性もある。そんな大惨事になるくらいなら、初めから黙って彼女をトイレへ導いた方がいい。

 

 

 そんなことに気を付けながら、真姫をトイレの便座の前まで誘導する。そのままゆっくりと右手を離そうとするが、ジャラ、という鎖の音を聞いて俺は直面している現実が真姫ダムの決壊だけでないことを思い出した。

 

 

 

 

 そう、今俺たちは手錠で繋がっているのだと――――――

 

 

 

「そうか俺、ずっとここにいなきゃいけないんだ……」

「えぇ。私はあなたとずっと一緒にいたい、そう言ったでしょ?」

「お前こそいいのか?俺はお前が花を摘むところを見て興奮する、ただの変態だぞ」

「いいわよそれくらい。だって恋人同士なんだから……フフッ」

 

 

 今の真姫にとって俺に花を摘む姿を見られるのは"それくらい"で済む程度なのか……いやぁ、俺もメチャくちゃ興奮を煽られてるけどね!

 

 女の子がお花を摘むシーンなんて、これまで薄っぺらい本やアダルティックな動画でしか見たことがなかったのだが、また1つ、媒体でしか拝めなかった光景が現実のものとして俺の目の前に具象化されようとしている。

 

 ここまで何度も妄想しているだろうが、もう一度真姫がトイレを我慢している姿を思い浮かべて欲しい。そして彼女の秘所から溢れ出す、黄金の聖水を。その解放感に浸る彼女の表情を。どうだ高まってきただろ?

 

 

 相変わらず天を突き抜けるくらい妄想を飛躍させていると、真姫が俺の服の袖を摘んで何度も軽く引っ張っていたことに気が付いた。

 

 

「ねぇ、ねぇってば」

「わ、悪い。どうした?」

「スカート……脱がしてくれない?」

「は?お、俺が……?」

「手錠で繋がれて手が上手く動かないの、だから脱がせて」

 

 

 ま、まさか、真姫からこの言葉が聞けるなんて……いつかは言わせてみたいと思っていたのだが、今このタイミングで聞けるとは思ってなかったから少し驚いた。

 

 真姫のスカートか……穂乃果やことり、にことは違って、彼女を脱がすのはどこか神聖感が漂う。脱いでいる姿ですら美術になるというか、ここのトイレを一目見た時と同様に僅かながらの申し訳なさもある。穂乃果たちのスカートだったら喜んで脱がすのに。

 

 

 だがしかし!!だからこそ興奮するってものだ!!本来ならどう足掻こうが彼女のガードが固くて突破できないのだが、今回は彼女自ら自分の痴態を俺だけに晒してくれるらしい。このチャンスを生かさず彼氏を名乗れるかってんだ!!全て脱がしちまえば、その先には女神の聖水。ここまで来たら俺もとことん欲望を吐き出してやる!!

 

 

「分かった、俺も男だ。女の子が困ってたら助けるのが男の役目、俺に任せろ」

「早くしてくれない?もう寸前まで来てるんだけど」

「もう少し耐えてくれ。それで……どこから脱がせばいいんだ?」

「ここよ。少しスカートを上げて、このジッパーを下げてちょうだい」

 

 

 真姫はジッパーが俺の正面に来るようスカートを回す。そして俺はジッパーを摘んでゆっくりと指を降ろし、同時に反対の手でスカートの裾を掴んで脱がしながら彼女の聖域へと一歩、また一歩と近付いて行く。

 

 

 

 

 そして遂に、真姫の下着がこの世に降誕する。

 

 

 

 

 基調としている色は彼女のイメージカラーでもある"赤"。下着の両端にある赤いリボンが一際目立ち、上部には豪華な刺繍が施されている。その下着だけを見ても相当綺麗なのだが、それが真姫の綺麗な白い太ももと相まってよりアダルティックに見えるのが何とも唆られる。

 

 

「綺麗、だな」

「あ、ありがと……」

 

 

 俺は一瞬トイレに来ていることや手錠で繋がっていることなど何もかもを忘れ、ただただ真姫のランジェリー姿に目を奪われていた。真姫も恥ずかしくはないことはないのか、頬を赤くして俯いたままそっぽを向いている。

 

 でもよく考えてみればこの下着、日常生活で着けるには派手過ぎるし、装飾も凝っている分脱ぎにくそうではある。だが俺のためにこれを着てくれているのだと思うと、今にも彼女の下半身に飛びつきそうになってしまう。もちろんそんなことをすれば、女神の聖水を顔面で受け止めることになってしまうが……。

 

 

 真姫の秘所を拝みたい、そんな欲望が渦巻いて段々と俺の性的衝動を刺激する。

 俺と彼女の聖域を阻む壁はあとあの1枚。その壁さえ取り払ってしまえば、彼女の花園に辿り着くことができるのだ。花園にある黄金を放つ噴水、日本三大絶景如きでは越えられぬ絶景を、俺は拝みたい。

 

 

 俺はそんな衝動に耐え切れず、真姫の下着に手を伸ばそうと左手を動かした時だった。さっきまで顔を真っ赤にして俯いていた真姫が、突然顔を上げる。

 

 

「脱ぐから……少しの間、あっち向いてて」

「え……?脱がせてって言ったのはそっちだろ?」

「流石にスカートだけよ。そんな、いくら零でも自分の大切なところを見られるのは……は、恥ずかしいじゃない」

 

 

 ま、マジかよ!?てっきり俺は真姫の下を全て脱がせられるものとばかり思っていた。だが真姫は身体をモジモジさせながら、横目+上目遣いのコンボ攻撃で俺に静止を求める。

 

 うぐぐぐぐ……そんな可愛い行動をされたら、素直に従うしかねぇじゃん!!もう今日だけで何度真姫の表情や行動に心を打ち抜かれたか分からない。そのせいで無理矢理見ようとする俺の欲望塗れの思考に罪悪感を感じる(もちろん初めから罪しかないのだが)。折角花園の入口にまで漕ぎ着けたっていうのに、くそぅ……。

 

 

 名残惜しいが、ここは最悪の状況が起きる前提でシナリオを考え、見なくてよかったと思えるように全てを正当化しよう。

 

 

『俺が無理矢理真姫の噴水を見てしまう』

『真姫がそれに驚いて、噴水を暴走させてしまう』

『噴水から噴き出す黄金水が俺にブッ掛けられる』

『後々真姫の母親にそのシミが見つかって、"あら?どうしたの零くんその黄色いシミ……こ、この匂いはまさか!?"と追求される』

『GAMEOVER』

 

 

 うん、こうなる危険性があるから初めからあっちを向いておこう。こうしてでも自分に言い聞かせないと、自分も気付かぬ間に横目で真姫を見てしまいそうだからな。

 

 

 そして俺はその場で180度回転し、トイレの純白な壁と向かい合う。その白さを見習って、俺の思考もしばらくの間"無"にしようと思っていたのだが、そもそも俺たちは手錠で1つに繋がっている身、すぐ後ろで真姫がパンツを脱いで聖水を放出するシーンを妄想するだけで、今にも身体が再び180度回転しそうになる。

 

 

「ぜ、絶対に振り返らないでよ!?」

「……分かってるって」

「一瞬間があったような……」

「気のせい気のせい、あぁ気のせいだ」

「零のことだから油断できないわ……」

「待て待てーーい!!元々お前が手錠で拘束さえしなければ、こんな状況にはなってなかったからな!?それに俺と一緒にトイレに行って欲しいって言ったのはお前だろ!?鍵がどこにあるのかは知らないが、あんな甘い誘われ方をして、最終的にはあっちを向いてろだって?そんなの生殺しじゃねぇかぁあああああああ!?」

「うるさい!お母さんに見つかる!!」

「あっさり一蹴しやがって……分かった分かった、黙って壁とでも話していればいいんだろ」

 

 

 このままだと真姫がパンツを脱ぐ前に噴射するお漏らしプレイになりかねないので、言いたいことは全て後回しにしよう。彼女のお花摘みが終わったあとも、誰にも見つからず彼女の部屋に戻るというミッションが残されているため、こんなところで無駄に体力を消費したくはない。

 

 

 そんな無音の最中、布が肌に擦れるような音が聞こえてきた。

 いやこれは"ような"じゃない、まさしく真姫が下着を脱いでいる音だ!!真剣に耳を澄ませていないと聞こえないくらいの小さな音で、太もも、次にふくらはぎと、下着がスルスルと微弱な音を立ててを彼女の美脚を上から下へ通過していくのが容易に想像できる。

 

 

 よく考えてみれば、自分でパンツが脱げるなら俺にスカートを脱がせる意味はあったのか?そこまでは羞恥心の歯止めが解放されていたけど、流石に自分の秘所を見せるのは積極的な真姫でも躊躇われたのだろう。

 

 

 

 

 そして俺の右手首が手錠につられて後ろに引っ張られる。どうやら真姫は下半身を纏うモノを全て脱ぎ去り、トイレに股がったようだ。『真姫が股がっていいのは俺の腰の上だけだ!!』と自分でも一歩引きそうになるくらいのツッコミを考えたのだが、速攻で脳内の奥底に封印する。

 

 

 ここまでの道のりは長かった。突然真姫に手錠を掛けられ俺たち2人は一体となり、いつも通り愛を確かめ合ったあと、まさかのお花摘みに行く宣言。それに半無理矢理同行させられた俺は、彼女のスカートを器用に脱がし、そして今、俺の後ろでは黄金の聖水を外界へ放つ神聖なる儀式が行われようとしている。

 

 

 

 

 ここからは描写的にアウトなので、俺が実際に聞いた"音"と共に、想像と妄想で解説をする。

 真姫のぷにっとしたマシュマロの裂け目から、ジョロジョロと外界へ放たれる黄金水。これまで水を溜めに溜めてきたダムの壁を取り壊したかのように、彼女の小さな裂け目を目一杯広げて聖水が流れ出す。その時に彼女の口から『あ、んっ……』と気持ち良さそうな声も漏れ出していた。

 

 聖水の放出される音が段々小さくなってくると、またしても真姫が『ふぅ……』とエロい吐息を漏らし、身体を軽くブルブルっと震わせる。彼女のすぐ隣にいる俺は、当然黄金水の流れる音も彼女の微弱な嬌声も吐息も、全てが直に伝わってくる。それに手錠で1つに繋がっていることで、真姫が身体を少しでも動かせばその動きが俺の右手首にもシンクロする。まさに俺と彼女は一心同体になっているかのようであった。

 

 

 

 

 そしてお花摘みが終わって、真姫が下着とスカートを履き直したところで。

 

 

「ようやくスッキリできたわ」

「俺は行きどころのない欲望が溜まって全然スッキリできてないけどな」

「フフッ、それは……また誰かに発散してもらったら?」

「えっ?真姫はしてくれないのか!?」

「どうしようかしらね♪」

「おいおい……」

 

 

 今日は手錠の件といいトイレの件といい、真姫に主導権を握られているような気がするぞ……ちょっぴりSっ気があるのも彼女の魅力の1つだけど、ここまで焦らされるとは――――って、あれ?焦らしプレイをされていたのって、実は俺の方だったんじゃ……。

 

 

 

 もう今日はこのトイレでの騒動だけで体力も精神も全て持って行かれた。

 その後は再び誰にも見つからずトイレから彼女の部屋に戻ったり、真姫のお母さんのご好意でお昼を頂いたり(もちろん手錠を見つからないように)、一緒に作曲をしたりしたが、トイレという修羅場をくぐり抜けた俺にとってはその場面を割愛するほど他の場面を切り抜けるなど容易であった。

 

 

 ちなみにだけど、あとでちゃんと真姫に欲求の処理をしてもらった。

 やっぱ焦らしプレイだったんじゃねぇか!!!!

 

 

 

 

 そして真姫のお母さんに、

 

 

 

 

『やるならもう少し声を抑えて……ね♪』

 

 

 

 

 と言われて、背筋が凍りそうになったのは内緒……。

 

 

 あのメチャくちゃ嬉しそうな笑顔はなんだったんだ……?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして休み明けの朝。学院にて。

 俺は登校中の真姫の背中を発見し、駆け足で彼女を追い掛ける。

 

 

「お~い真姫、昨日は――――」

 

 

 そう言いかけた瞬間、真姫は素早く後ろを振り返り、俺の駆け足より数倍も早いスピードで鬼のような形相をして詰め寄って来た。しかも昨日のトイレの時よりも顔を赤くしながら。

 

 

「よ、よぉ真姫……どうした?」

「忘れなさい」

「は……?」

「昨日のトイレのこと、全て忘れなさいって言ったのよ」

「いや聞こえてたけど、急にどうした?」

「今朝起きて冷静になってみたら、私ってばなんて恥ずかしいことを……!!」

「なるほど、賢者になったってことね……」

 

 

 こうして後々反省して悶え苦しむ辺り、まだまだ真姫もウブってことだ。でも彼女がお花を摘みに行くたびに俺をトイレへ連れ込むようなキャラになったら?自分が用を足しているところを見られるのが快感になってしまったら?…………折角の清々しい朝だ、これ以上考えるのはやめよう。

 

 

「いい!?この話、絶対他の人にはしないでよね!?」

「言われなくてもしねぇから!!そんなことをしたら俺が犯罪者扱いされるわ!!」

「もうずっとこのこと引きずりそう。黒歴史ってこのことを言うのね……」

「トイレを我慢するお前、可愛かったけどな」

「だからその話題禁止って言ったでしょ!?」

「お前が話題振ってきたんだろ!?」

 

 

 先日のPVといい、真姫に次々と黒歴史が刻み込まれていく。俺からしてみればPVの真姫もトイレを我慢する真姫も、どっちも可愛かったんだけどなぁ~、本人は俺の記憶から抹消したいほどの過去らしい。人間なんて黒歴史を作ってナンボだろ。そんなことを言ったら俺なんて毎日どれだけの黒歴史を生み出してんだって話だし。

 

 

「もうこの話は終わり!!早く行くわよ!!」

「お、おぅ……」

 

 

 真姫は自分から振ってきた話題をバッサリと切り捨て、逆走してきた道を再び歩き始める。手錠で繋がれていた時と同じ手で、俺の手をギュッと握り締めながら――――――

 

 

 うん、やっぱり俺はどんな真姫も大好きだ!

 

 




 黄金水、聖水、シャワー、聖域……(今回大活躍の比喩軍団)


 今回は前後編通しての真姫個人回でした。
 個人会で2話連続というのはこれが初めてだったのですが、自分的には個人回というよりもお漏らし我慢回という位置づけの方がしっくりくるんですよね(笑)
今回の描写は全体的に初挑戦なところが多く、どこまでの描写がセーフでどこからがアウトなのか、自分なりにラインを決めて模索しながら執筆していました。正直もっと書きたい描写はあったのですが、この1話で話を収めなければならない都合上、他の描写はカットせざるを得ませんでした。
具体的には手錠で繋がれたまま、お風呂、食事、夜の描写などなど……それは他のメンバーの個人回でやらせましょうかね。


 現在、『新日常』のアンソロジー企画小説として『ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 Anthology~』が『新日常』と同時連載中です。ハーメルンのラブライブの作家様たちが集まって『新日常』の話を執筆してくださったので、そちらも是非ご覧下さい。
投稿日時は11月1日から23日まで、3週間近く毎日21時に投稿予定です。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10人目の彼女!?

 今回はμ'sに衝撃走る!?まさか零君に10人目の彼女がいたなんて……。

 あまり言うとネタバレになるので、早速最新話をどうぞ!


 

 やっほ~!神崎楓だよ♪

 

 

 学園祭も無事に終了し、次はとうとう"ラブライブ!"。学園祭でのステージはたくさんのお客さんに来てもらって、声援を貰って、アンコールを受けて……う~ん!今思い出すだけでもあの時の興奮が蘇りそうだよ!!まあ私がいるんだし、盛り上がるのは当然だけどね♪

 

 

 そんな学園祭の余韻がまだ残ったまま、私たちはまたいつもの日常へと戻ってきた。

 "ラブライブ!"のために気を引き締めなきゃいけないんだけど、最近は学園祭に"ラブライブ!"に向けての練習と、私にしては働きすぎる程に働いたから、ちょっとは気を緩めてもいいよね?というかたまには1日中ぐてぇ~としながら休みたい!!

 

 

 最近は学園祭や受験勉強のせいだからかお兄ちゃんにあまり構ってもらってないし、私の身体からお兄ちゃんエネルギーが枯渇しちゃってるんだよねぇ~……三度の飯よりお兄ちゃん!!衣食住お兄ちゃん!!の私にとって、それは死活問題なんだよぉ~!!

 

 

 よ~し!そうと決まればお兄ちゃん分を注入しに行こう!!

 

 

 あっ、注入って言っても、下のおクチに貰う訳じゃないからね♪

 流石の私でも、ヤル時はお兄ちゃんと2人きりじゃないと無理だよぉ~……な~んてね♪

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「楓ちゃぁああああああああああああああん!!」

「うわぁ!?」

 

 

 唐突過ぎて美しくない声が漏れちゃったよ!?

 何が起きたのかというと、お兄ちゃん分を注入するために3年生教室へ行こうと思って廊下を歩いてたら、突如前から穂乃果先輩が爆走してきて抱きつかれてしまったのだ!!

 

 いや私百合属性とかないから!!それに生徒会長なのに廊下をドタドタ音を響かせて走るなんて……威厳もクソもないね。元々生徒会の実権は海未先輩が握ってるから、穂乃果先輩は……マスコット?

 

 

「ちょっと聞いてよ楓ちゃん!!あのねあのね!!」

「肩ブンブン揺らすな!落ち着いて、はい深呼吸」

「すぅ~はぁ~」

「はい吸って」

「すぅ~」

「吸って」

「すぅ~」

「吸って」

「すぅ~……ケホッ!ケホッ!そ、そんなに吸えないよ!!」

「あはは♪」

 

 

 やっぱり穂乃果先輩で遊ぶのは楽しいなぁ~♪穂乃果先輩だけに限らずだけど、誰かを弄ったりからかったりすることに物凄い愉悦を感じる。身体の芯からゾクゾクするっていうのかな?特に先輩たちよりも優位に立った時の快感と言ったら!!う~ん気持ちいい♪

 

 

「それで、一体何があったんです?」

「そうだそうだ!実はね、零君に新しい彼女ができたみたいなの!!」

「は………………?」

「零君に、彼女ができたみたいなの」

「は………………?」

 

 

 今コイツなんつった?お兄ちゃんに彼女ができた?は…………?いや………はぁ?

 

 

 はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?

 

 

「か、楓ちゃん……顔怖いよ……」

「いやだなぁ~麗しき乙女に向かって怖いだなんて、アハハハハ……!!フフフフフフ……」

「本当に怖いよ!!穂乃果にその顔向けられてもどうしようもないからね!?」

 

 

 ただでさえお兄ちゃんの周りには女の子しかいないハーレム状態なのに、これ以上増えたら私が構ってもらえる時間が減っちゃうじゃん。μ'sの皆さんはしょうがなく、ホントにしょ~がなく許してるけど、それ以外の雌豚がお兄ちゃんに色目でも使ってたりしたら…………滅殺!!

 

 

「それで?お兄ちゃんの彼女と偽っている馬の骨はどこの誰なんですか?」

「顔とか名前は見たことがないから、誰なのかはまだ……」

「はぁ?じゃあなんでお兄ちゃんに彼女がいるって言い出したんです?私を騙し遊んで陥れようとしているのなら、それこそ容赦はしませんから……」

「してないよ!!だから胸ぐら掴むのやめてぇ~!!」

 

 

 背の高さ的に私の方が先輩よりちょっとばかり高いから、胸ぐらが掴みやすいのなんのって……やっぱり先輩に突っかかてビビらせるのは爽快感あるねぇ~♪

 

 でも今はそんなことより、お兄ちゃんにまとわりつく雌豚を焼却処分するため、先輩から情報を引っかき集めないと……。

 

 

「で?お兄ちゃんに謎の彼女がいるという根拠は?」

「穂乃果が零君エネルギーを補給しようとして、後ろからそっと近付いた時に聞こえちゃったんだ。零君のボソボソ声が……」

「私と同じことやろうとしてる……まぁいいや。ボソボソ声?」

「うん。携帯を見ながら『来週かぁ~』とか、『なんか買って行ってやろうかな?』とか、『服、どれにしようかなぁ~』とか、もう絶対にデートだよこれは!!」

「皆さんの中の誰かとデートという可能性は?」

「穂乃果もそう思ってみんなに確認したんだけど、みんなそんな予定は入ってないって……」

 

 

 お兄ちゃんの彼女である9人全員が違うとなると、残る可能性は雪穂と亜里沙か……。亜里沙は純粋にお兄ちゃんのことが好きだから、お兄ちゃんとデートをするとなったら舞い上がって私たちに言いふらしそう。そうなると、怪しいのは雪穂だけ。雪穂なら亜里沙とは逆で、デートのこと黙ってそうな正確だし。お兄ちゃんと2人きりならなおさら……。

 

 

「行きましょう先輩!」

「ど、どこに……?」

「真実を暴く旅にですよ!!このままお兄ちゃんがどこぞの雌豚にたぶらかされてもいいって言うんですか!?『俺はもう、穂乃果たちの身体では満足できないんだ……』って言われてもいいんですか!?」

「そ、それはダメぇええええええええええええ!!零君に触ってもらえないとか……穂乃果死んじゃう!!」

「お兄ちゃんから聞かされてはいましたが、相当末期ですね先輩……でもこれで真実を追求する理由ができたはずです!」

「うん!一緒に頑張ろう、楓ちゃん!!」

「こちらこそです!!」

 

 

 私と穂乃果先輩は女同士の熱い握手を交わす。

 絶対にお兄ちゃんをたぶらかす糞女の正体を暴いてやるんだから!そして事の次第によっては、浮気をしたお兄ちゃんも徹底的に私の玩具にしてあげるよ♪フフッ、楽しみになってきて今からでも涎が出てきそう……。

 

 

「じゃあ早速零君に――――ぐぇっ!!」

 

 

 私はなんの考えもなしに廊下を走り出そうとした先輩の首根っこを掴んで、こちらに引きずり戻す。

 本当に先輩は先走り屋さんなんだから。そんなことだからお兄ちゃんに弄られて即イっちゃうんだよ。エッチしてる現場は見たことないけど、穂乃果先輩なら即イキしそう。

 

 

「なぁ~に馬鹿なこと言ってるんですか?『あなた、浮気してますよね?』なんて言われて、素直に答える人なんていませんよ」

「だからって首根っこ掴まなくてもいいじゃん……でもまあそうだね、じゃあどうするの?」

「皆さんから情報を収集するんですよ。最近お兄ちゃんにおかしなところがなかったかとか」

「なるほど……さっすが楓ちゃん!!」

「いつもなら誇りたいところですが、これくらい普通のことですよ」

「穂乃果、普通じゃない!?!?」

「今更何言ってんですか……」

 

 

 むしろμ'sに普通の人とかいるのってレベル。少なくとも私たち最年少組の目から見る限り、先輩たちのキャラが濃すぎて中々μ'sの輪の中に入って行きづらかったんだから。お兄ちゃんの恋人になってから更にキャラ崩壊が進んだ先輩もいるしねぇ~目の前にも。

 

 

「よし、それじゃあ早速行きますよ」

「ぐぇっ!!だから首根っこ掴まなくてもいいって!!楓ちゃ~ん!!」

 

 

 そんなこんなで息ピッタリ(?)の私たちは、お兄ちゃんの浮気相手を探し出して締め上げるため、μ'sメンバーからの聞き取り調査を開始した。

 

 精々私の足を引っ張らないでくださいね、相棒♪

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「最近の零の様子?」

「うん!海未ちゃんもことりちゃん、何か心当たり無い?」

「…………」

「こ、ことりちゃん……?」

「ハッ、ごめ~ん♪もし零くんが浮気してた時の罰ゲームを、何にしようか考えててぇ~♪」

「この人はこの人で末期だ……」

 

 

 まず初めに私たちは、3年生教室にいた海未先輩とことり先輩の話を聞きに来た。

 聞きに来たんだけど、既に妄想堕天使であることり先輩はお兄ちゃんをどのようにおやつにするのか、それだけで頭がいっぱいのようだった。お兄ちゃんの話では『天使の頃もあった』らしいけど、私の目からすればどこからどう見ても腹の奥が黒に煮えたぎる性悪女にしか見えないよ……。

 

 

「私は信じていますから、零が浮気などしないと」

「海未先輩一途ですねぇ~。でももしですよ?もしお兄ちゃんが浮気してたとしたら……?」

「その時は弓道の的にでもなってもらいましょう……フフッ♪」

 

 

 こわっ!!全然一途じゃないじゃん思いっきり疑ってるよこの人!?弓を持ってないのに弓を構えるポーズしてるし、隣のことり先輩も"おやつ"の盛り付けを嬉しそうに妄想してる……もしかしたらだけど、μ'sのメンツって私より変な人多くない?

 

 

「あっ、そういえば」

「何か思い出したことりちゃん?」

「今朝なんだけど、男性モノの服について聞かれたよ。『今の流行はなんだ~』とか、『服の上下ってどんな色の組み合わせがいいんだ?』とか。普段零くんってファッションにはあまりこだわらないから、珍しいなぁ~と思って」

 

 

 穂乃果先輩もお兄ちゃんのボソボソ声を聞いた時に、お兄ちゃんが服を気にしているって言ってたね……確かに珍しい。だってお兄ちゃんのクローゼットを開けてみると、服なんてほんの数着しかないもん。あまりにもクローゼットがすっからかんだから、誰かに服を盗まれたのかと思うくらいには……。

 

 

「あのファッションに無頓着な零君が……なんでだろ?」

「とりあえず、他の人にも話を聞きに行きましょう」

「そうだね。じゃあ海未ちゃんことりちゃん、ちょっと行ってくるよ!」

「ちゃんと授業までには戻ってくるのですよ」

「分かってるって!行こう楓ちゃ――――ぐえっ!!だから首根っこ掴まないで」

「先輩がタラタラしてるのがいけないんです」

 

 

 ことり先輩からの情報で、穂乃果先輩が聞いたボソボソ声が嘘ではないことが証明された。これで一歩真実に近付いたってことだよ。お兄ちゃんにまとわりつく雌豚を、炙り焼きにして調理できる未来も見えてきたね。そしてお兄ちゃんへの脅しのネタも……あはっ♪

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零くんのおかしなところ?」

「うん。花陽ちゃんたち心当たりない?」

「う~ん、凛は今日まだ零くんに会ってないし……分からないにゃ」

「私も。さっき連絡を貰ってみんなで驚いてただけで……ゴメンね」

 

 

 私たちは自動販売機エリアに屯っていた2年生の先輩たち+雪穂と亜里沙に話を聞くことにした。

 唯一事の次第を知らされていなかった雪穂と亜里沙は、穂乃果先輩の口からお兄ちゃんに10人目の彼女ができたと聞いて目を丸くして驚く。

 

 

「そ、それ本当なのお姉ちゃん!?零君がお姉ちゃんたちに黙って彼女を作るなんてそんなこと……」

「でも零くん優しくてカッコイイし、女の人の方から零くんに惹かれたってことも……」

「まだそこが分からないから、穂乃果と楓ちゃんで調査してるの」

 

 

 亜里沙、相変わらずお兄ちゃんの評価値がMAXだね。でも亜里沙の言う通り、お兄ちゃんは優しくてカッコイイし頭もいいしエッチも上手いしいいカラダしてるしアレも大きいし……言いだしたらキリがないよ!!お兄ちゃんへの褒め言葉合戦なら、例えμ'sの先輩たちにも負ける気がしない。

 

 

「それで雪穂に亜里沙ちゃん、今日零君と会ったりした?」

「会ったよ。廊下ですれ違いざまに少し話をしただけだけど。言われてみればいつもと違ったかなぁ~」

「どんな感じ?」

「すれ違った時に挨拶をしたら急に『なぁ雪穂、亜里沙、俺の髪型ってどう思う?』って。零君が自分の髪型について質問するなんて珍しくない?」

「へぇ~あの零君が髪型のことを……確かに穂乃果も初めて聞くかも」

 

 

 お兄ちゃんがファッションに続いて髪型まで気にしてるなんて……。基本的にお兄ちゃんは自分の身のことに関しては無頓着だからなぁ。服も髪もある程度整っていればいいやってタイプで、1日中家にいる時なんて着替えないうえボサボサ髪のままである時も多いし。

 

 

 でもさっきから何か引っ掛かるんだよね、お兄ちゃんがファッションと髪型に拘るってところが。なんだろう、歯にモノが挟まって爪楊枝で取ろうとするけど中々取れないようなこのモヤモヤは……存在は分かっているのに届かない煩わしさ、そんな感じがする。

 

 

「零だったら、今日私も会ったけど」

「真姫先輩も?」

「えぇ。でも雪穂と同じで、廊下ですれ違いざまに話しただけだけどね」

「それで?真姫ちゃんは零君とどんな話を?」

「朝の挨拶をした直後に突然『なぁ真姫、日本土産って何がいいと思う?』って聞かれたわ。唐突だったからよく覚えてる」

「日本のお土産?ことりちゃんや雪穂たちにはファッションとか髪型について聞いてたのに、急に話題が変わっちゃったよ……ファッションに髪型、それにプレゼント、やっぱり穂乃果たちの知らない誰かとデートなのかなぁ」

 

 

 話題のベクトルが違って見えるのは私たちだけ、絶対に今までの話題を1本に結びつける何かがあるはずなんだ。でもそれが全然思い出せない!!もうちょっと!もうちょっとで引っ掛かっている何かが取れそうなんだけど、あと誰かがひと押ししてくれれば!!

 

 

「でも凛は零くんを信じるよ!浮気なんて絶対にしないって!」

「私も!零君は私たち一筋なはずだもんね!」

 

 

 割と言いますねぇ~花陽先輩も。でもここまで信頼されて愛されているお兄ちゃんとμ'sの皆さんを見ていると、妹とは言え嫉妬しちゃうなぁ~♪うん、嫉妬しちゃう……嫉妬に燃える炎でお兄ちゃんの浮気相手の雌豚を、炙って甘酢タレと香味ソースで味付けしちゃうくらいに……。そして神崎家の食卓にそれが並ぶと……フフフ♪

 

 

 

 

「でももし女の子へのプレゼントだとしたら、どうして日本のお土産なんだろう?まるで海外から日本へ旅行に来るみたい」

「!!!!」

「ど、どうしたの楓……?」

「亜里沙、さっきのもう一回言って」

「へ……?『でももし女の子へのプレゼントだとしたら、どうして日本のお土産なんだろう?』のところ?」

「違う!そのあと!!」

「えぇ~と、『まるで海外から日本へ旅行に来るみたい』」

「!!!!」

 

 

 なぁ~るほど、そういうことだったの。なんか今まであぁでもないこうでもないって考えてたのが馬鹿らしくなってきちゃったよ。でもまあ先輩たちの面白い反応を見れたし、それで我慢してやるかぁ~!

 

 

「楓……その口元が緩んだしてやったりみたいな顔、何か分かったの?」

「いやぜぇ~んぜん!私、雪穂みたいに頭が良くないから分かんなぁ~い」

「何ソレ嫌味!?」

「えぇ!?楓ちゃん分かったの!?相棒の穂乃果に教えてよ!!」

「ん?なんのことやらぁ~」

「楓ちゃんが先に言い出したんでしょ!?も~う、楓ちゃ~ん!!」

「えぇい!!抱きつくな暑苦しい!!」

 

 

 年上が年下の身体にしがみついておねだりするって、アンタ本当に最上級生か生徒会長か!?よくこの1年間この学院の生徒の長をやったこれたと思うよ全く……。

 

 でも高坂姉妹のこの反応が見たかったから、敢えて答えを言わなかったんだけどね。私の思惑通りの反応をしてくれるっていうか、素直に煽りに乗ってくれるのが嬉しくて♪

 

 

 とりあえず今のところはこれで解散。

 答え合わせは大学生の先輩たちが部室に来てからということで!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「もし零が浮気してたら、1日中にこのラブドールになってもらうんだから!!」

「いきなり飛ばすねにこっち。そりゃあウチも気にならないと言えば嘘になるけど……」

「零に限ってそんなことするはずないじゃない。私は信じてるから……大丈夫よね?」

 

 

 部室に来るなり、大学生の先輩たちもお兄ちゃんの話題で持ちきりだった。話によると、大学にいる間もずっと同じ話をしていたらしい。どんだけお兄ちゃんのことが好きなんだよ!?!?

 

 にこ先輩は私と全く同じことを考えてるし、希先輩や絵里先輩は信じたいけど素直になれないって感じかな。もう全て分かってしまってる私からすれば、その反応だけでも滑稽で面白いんだけど♪

 

 

 

 

 するとここで部室の扉がガチャリと開かれ、1日中私たちの純情な心を引っ掻き回していた元凶が、遂にμ'sメンバー全員がいるところにその姿を見せた。

 

 

「お~す……って、なにこの空気!?重い……」

 

 

 やはり自分のせいで部室の空気が淀んでいることに気が付いてないみたい。でもお兄ちゃんがファッションや髪型を気にして、日本のお土産を探しているのは仕方のないことなんだけどね。私だってそうしちゃうもん。というより、私もしなくちゃいけないんだけどね。

 

 どういう意味かはもうすぐ明らかになるはずだから焦らないで。早漏の皆さん♪

 

 

「零君……穂乃果たちに内緒だなんてヒドイよ!!」

「は?はぁ!?」

 

「フフフ……ことりのおやつにしちゃいます♪もちろんアッチの意味で……ね♪」

「そろそろ弓道場の的を買い換えようと思ってたんですよねぇ……」

「私、零君を信じてますから!!」

「零くんは凛たちを裏切ったりしないよね?」

「私はそんなことにあなたがうつつを抜かしたりしないと思ってるわよ。いや本当に思ってるから!!」

「零が……にこのラブドールに!!よ、涎が……!!」

「こればっかりはカードじゃなくて、零君の口から聞きたいなぁ~なんて」

「零、素直に話して頂戴。怒らないから」

「零君……ど、どうなんですか?」

「私も信じてます!零くんはμ's一筋だってこと!!」

 

 

 うわぁ~みんな一斉にお兄ちゃんへ詰め寄ってるよ。お兄ちゃんってば、どれだけハーレム拡大させれば気が済むのやら……。それに先輩たちだけじゃなくて雪穂と亜里沙まで……もうお兄ちゃんのこと好きだって言ってるようなものじゃん。

 

 でも、全てを知っているからこそこの状況を楽しめるんだけどね♪

 いいぞもっとやれぇ~!!お兄ちゃん焦り苦しめぇ~!!フフッ、みんないい顔してる♪

 

 

 ま、そろそろかな?

 

 

 

 

「お前らが何に怒ってるのかは知らないけど、自分の母親に会うのがそこまで許せないのか!?」

 

 

「「「「「「「「「「「………………へ?」」」」」」」」」」」

 

 

「さっきから何言ってんだお前ら……」

 

 

「「「「「「「「「「「………………え?」」」」」」」」」」」

 

 

「はーいじゃあこっからは私の出番だね~」

 

 

 どうやらお兄ちゃんもみんなも事態を飲み込めていないみたいだから、私が間に割り込んで説明することにした。

 

 

「まずはお兄ちゃん」

「お、おう……」

「穂乃果先輩は、お兄ちゃんが携帯を見ながら何かボソボソ言っているのを聞いて、新しい彼女ができたと勘違いしたんだよ」

「な、なんだって!?」

「『来週かぁ~』とか、『なんか買って行ってやろうかな?』とか、『服、どれにしようかなぁ~』とか、口に出てたらしいよ」

「マジかよ……全然気付かなかった。でもそれって穂乃果のせいだろ?さっき俺が怒られたのってただの冤罪じゃねぇか!?」

 

 

 そうそう、今回お兄ちゃんは全然悪くないんだよねぇ~。元はと言えば穂乃果先輩が勘違いしたのが原因だし。でもお兄ちゃんのそのボソボソ声だけを聞いたら、彼女さんである先輩たちが勘違いするのも無理ないか。

 

 

「次にみんな」

「えぇ~と、零君のお母さんって言ってたよね。もしかしなくても、穂乃果が先走っちゃった?」

「そうですよ全く、無駄な時間と労力使わせてくれちゃって……これから一ヶ月パン抜きですからね」

「ちょっと待って!?その罰ゲームだけは許して!!穂乃果死んじゃうよぉ~!!」

「だからいちいち抱きつかないでくださいって!!」

 

 

 今日は穂乃果先輩のせいで本当に無駄に気を張っちゃったんだから。これは先輩を徹底的に弄って煽ってイジメないと私の気がすまないよ♪覚悟してくださいね、せ~んぱい♪

 

 

「それで、どうして零はファッションや髪型を気にしていたんですか?」

「母さんがファッションにうるさいんだよ、本人の職業上仕方ないけどさぁ。だから身形をしっかりしておかないと、久しぶりに会って早々お説教が始まっちまう」

「久しぶりって、ご両親は今どこに?日本に住んでいると言ってませんでしたっけ?」

「今は海外にいるんだよ。それで母さんだけ久々に帰って来るっていうから、帰って来られない父さんのために日本土産を探してたんだ」

「なるほど……穂乃果、凄く盛大な勘違いをしていたみたい」

 

 

 まさか私も自分のお母さんに嫉妬するなんて思ってもみなかったよ……。これで分かったでしょ?私が『今まであぁでもないこうでもないって考えてたのが馬鹿らしくなってきちゃった』と言ってた訳が。つまりこういうことなんだよ。

 

 もう怒った!!このやりどころのない怒りをぜ~んぶ穂乃果先輩にぶつけてやるんだから!!

 

 でもその前にお兄ちゃんに言っておきたいことが――――

 

 

「どうして私にお母さんが帰ってくるって言ってくれなかったの?」

「授業中だったんだよ。どうせ部室で会うし、そこで言えばいいかなぁって」

「はぁ~……そのせいで私は無駄に振り回されたけどね」

 

 

 なぁ~んかもう色々冷めちゃった、"ラブライブ!"直前だけど練習する気起きないや……帰ろっかな。

 

 

「そういや母さんが、一度お前らに会ってみたいって言ってたぞ。だから来週俺の家に集まってくれ」

「え……?零君のお母さんが?」

「ああ。生きて帰れるといいな……」

「なにその遠い目!?穂乃果たちどうなっちゃうの!?」

 

 

 ご愁傷様μ'sの皆さん♪これはフラグでも何でもない、お兄ちゃんやお姉ちゃん、そして私の母親なんだから、ある程度察しは付くでしょ?つまりはそういうことなんだよねぇ……。

 

 

 "ラブライブ!"の開催直前にして、μ'sに新たな試練が訪れた!!

 

 

 

 

 ちなみに、贔屓目なんて一切ないから……。

 

 




 そろそろ神崎家の家族を解禁するとき!!


 結局全て穂乃果の勘違いだったということで、良くも悪くもいつも穂乃果に振り回されている気がしますねμ'sのメンバーは。

 この話の目的としては、零君や楓の母親を登場させるための前段階としての側面がもちろん一番なのですが、折角楓というキャラが立ったオリキャラがμ'sのメンバーなので、楓と原作キャラとの絡みを密接に書いてみたいという私の我が儘も一緒に入っていたりします。この前(と言っても結構前ですが)楓と海未、真姫、絵里の3人との絡みを書いていてとても楽しかったのが理由ですね。機会があれば彼女視点で残りのキャラとの絡みの話も書いてみようと思っています。

 もちろん零君たちのお母上の登場回も近々予定しています。一体そのお母上がどんな方なのかは本編の最後、零君と楓の反応を見てお察しください(笑)


現在、『新日常』のアンソロジー企画小説として『ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 Anthology~』が『新日常』と同時連載中です。ハーメルンのラブライブの作家様たちが集まって『新日常』の話を執筆してくださったので、そちらも是非ご覧下さい。
投稿日時は11月1日から23日まで、3週間近く毎日21時に投稿予定です。
もうラストが近付いて来ました。こちらも最後まで応援よろしくお願いします!

いつも感想や評価ありがとうございます!
これからもお声をお聞かせしてもらえると幸いです。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

今更聞けない!?ことりの淫語講座(初級編)

 この前書きを見ているということは、タイトルを見て帰らなかった健全ではない方ばかりですね?(謎煽り)

 今回はことりちゃん暴走編。いつもとは違うR-17.9をお楽しみください(笑)


「皆さんよくお集まりになられました。南ことりです♪」

「いや、お集まりになられたって、お前が無理矢理呼んだんだろうが……」

「またくだらないことを……」

「かよちん、凛たちどうしてこんなことに巻き込まれてるの……?」

「さ、さぁ……?」

 

 

 アイドル研究部部室。

 俺たちはことりに無理矢理部室へ連れ込まれ、長机の前に座らされていた。そしてホワイトボードに書かれている文字を見てみると、早くもこれから起こるヤバさを予感させられる。早急に退出したいところだが、もう相変わらずとなっていることりの堕天使スマイルが俺たちを本能的に拘束して逃がさない。

 

 俺の左隣には海未、凛、花陽の順番で座っているが、どいつもこいつもやる気がなさそうなのは俺と全く同じだ。こんなことばっかりしてるから、各所から"アイドル活動してんの?"とか"暇だなコイツら"とか言われんだよ……。各所がどことは言わないけども。

 

 

「はいそこ、私語は慎むよーに!これからお勉強会の時間なんだから♪」

 

 

 ことりが講師役ってところで大体察しがつくと思うが、この勉強会はただの勉強会ではない。ホワイトボードの上部、お勉強会のタイトルにこう書かれていた。

 

 

 

 

《今更聞けない!?ことりの淫語講座》

 

 

 

 

 どこをどう考えてもこれから俺たちがカオスに堕とされるのは火を見るよりも明らかだ。このために準備をしてきたであろう謎の資料がことりの隣に積み重ねられているし、まだ講義が始まってないにも関わらずことりの顔は微妙に赤く高陽している。既に興奮してんじゃねぇのかコイツ……。

 

 

「どうせ逃げられないのでこれ以上文句を言うつもりはありません。ですが1つだけ……」

「はい海未ちゃんどうぞ!」

「どうして参加しているのがこのメンバーなんです?は、破廉恥なことがしたいのであれば穂乃果やにこを誘えばいいでしょう」

「うん、いい質問だね!それではことりが答えてあげましょ~♪」

「完全に講師になりきってやがる……」

「ことりがこうなるとただ面倒なだけです。無理に触れるのはもうやめましょう……」

 

 

 一年前のことりならばこうではなかっただろう。だが"恋"と"性"に塗れた片翼の堕天使は、穂乃果と海未の仲裁役という大義すらも投げ捨てて、常にラブホテルを建設して歩く猥褻物と化している。

 

 

 

「これも全て凛ちゃんたちのためなんだよ♪」

「凛たちの?」

「そう!淫語だろうがなんだろうが、知らないことは罪なんだよ!!もう今更淫語なんて人に聞けないから!!だからこれを機に勉強するの!!ドゥーユーアンダースタァンド?」

「「「え、えぇ……」」」

 

 

 なるほど、だから性知識が疎そうな海未、凛、花陽を呼んだのか。穂乃果やにこ、希はある程度出来上がってるし、真姫や絵里ももうことりたちと同じラインに足を踏み入れてしまっているから、健全と言えるのはこの3人だけという訳だ。

 

 だがことりの超理論により、海未たち3人もそのラインへ向けての第一歩を踏み出そうとしている(正確には踏み出させられようとしている)。正直、淫語の意味を知って羞恥に悶える3人の表情を見てみたいという気持ちもなくはないけど……。

 

 

「でも何故俺が参加させられているのか理由が未だに分からないが……。自分で言うのもアレだけど、性知識なんてお前に教えられなくても豊富なんだけど」

「なぁ~に言ってるの零くんは!零くんが聴いてくれていた方が、ことりが興奮できるからに決まってるじゃん!零くんに視姦プレイされながら海未ちゃんたちにエッチなことを教えるなんて……きゃぁ~♪」

「「「「…………」」」」

 

 

 ことりは真っ赤に染めた頬に両手を当てながら、身体をクネクネとよじらせる。

 もうコイツの妄想の飛躍っぷりには毎回呆れてため息すらも出ない。ことりがこのモードに入ったが最後、彼女の性欲を発散させる以外に元に戻すすべはないからな。このまま黙っていてもお勉強会が始まっちまうし、ことりを賢者モードにしようとしてもアレな行為に勤しむことになるし、結局コイツの得じゃねぇか……。

 

 

 

 

 これ以上ことりに触れるとピンク色の妄想世界に連れ込まれ迷い込んでしまいそうなので、おとなしく彼女の講義を受講することにした。もう既にコイツの妄想に取り込まれているような気がしないでもないがな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

~1限目のお題~

《フェ○チオ》

 

 

 

 

「ちょっと待てぇえええええええええええええええい!!」

「え、なになにどうしたの零くん?いきなり発情しちゃった?」

「んな訳ねぇだろ!!勉強するならもっとマイルドな言葉から入れよ!!いきなり飛ばしすぎだ!!」

「えぇ~じゃあ例えばどんな言葉?」

「え?そ、そりゃあお前アレだよ……アレ」

 

 

 何故かことりだけじゃなくて、海未や凛、花陽の3人も俺へ一斉に注目する。

 なんだろう……いつもだったら淫語の1つや2つくらい軽く言えるのに、こう女の子たちから一斉に注目されると一気に気恥かしさが増してくる。しかも相手はμ's内でまだ純情な心を持っているこの3人、俺がためらう気持ちも分かってもらえるだろう。

 

 

「ふふ~ん♪たまに見られる零くんのウブなところ、ことりは大好きだよ♪」

「喜んでいいのかソレ……」

 

 

 この弄られ方は"どこぞ"の異星人の姉と妹を思い出す。ことりが俺を攻める時の攻め方が、段々とアイツら姉妹に似てきたと思うのは気のせいか……?

 

 

「海未ちゃん!凛ちゃん!花陽ちゃん!この言葉知ってる?」

「それ以前にさっきから全然喋っていないような……」

「喋ったら負けだと思っていますので……」

「下手に口を開くと、積極的に講義に参加しているように思われるし……」

「あ、あはは……」

「じゃあみんなが講義にもエッチにも積極的になれるように、ことりが詳しく解説するね!」

「相変わらず直球だなお前……」

 

 

 ことりと海未たちでこのテンションの差、そりゃあ黙ってるのは賢明な判断だな。下手に出しゃばるとコイツに目を付けられて淫語録の嵐を吹き掛けられそうだし、適度に軽く反応しながら適当に聞き流す程度が精神的にも一番だと思う。

 

 

「《フェ○チオ》って言うのは略して《フ○ラ》とも呼ばれる、女の人が男の人にシてあげる行為のことなんだよ。具体的にはねぇ~……そうだ!零くんのアレを思い浮かべると分かりやすいかも!そしてことりたちが零くんのおっきなアレをね、舌を使ってペロッと舐めてあげるんだよ♪」

「あ、アレ……とは?」

「またまたぁ~海未ちゃんも知ってるくせにぃ~♪」

「うっ、そ、ソレを舐めるって、は、破廉恥な……うぅううううううう!!」

 

 

 あっつ!!隣にいるだけでも海未の顔から漏れ出す熱気が伝わってくる。恐らく普段から妄想しない訳ではないだろうが、ことりに煽られている相乗効果で羞恥心は増し増しになっているのだろう。

 

 ことりの思惑には乗りたくないのだが……うん、まぁ、女の子の恥じる表情は可愛いからもっと見てみたいと思ったりもする。決してことりに加担する気はないけど。

 

 

「にゃ……にゃにゃにゃ!!」

「ふわっ……あわわわ!!」

「ほら、凛ちゃんと花陽ちゃんは妄想できてるみたいだよ。これだけでショートしちゃうなんて、2人共純粋で可愛いねぇ~♪」

「これ講義じゃなくて、ただお前がコイツらで遊びたいだけじゃね……?」

「えぇ~、そんなことないよぉ~♪」

「その口調にその笑顔、完全に黒じゃねぇか!!」

 

 

 結局お勉強会というのは茶番で、結局ことりのブレイクタイム、つまり"おやつ"の時間だったという訳だ。

 しかし俺が海未たちをなだめようにも、何と声を掛けていいのか分からない。俺が出しゃばれば出しゃばるほどことりはそれに乗っかってくるし、かと言って黙ってるとことりが1人で暴走するし……あれ、これもしかして詰んでね?

 

 

「海未ちゃんも妄想できた?」

「み、見たこともないのに妄想なんてできるはずないでしょう!?」

「零くんのアレを見たことない?そうなんだぁ~へぇ~」

「な、なんですかその目は……」

「海未ちゃんはぁ~零くんのアレをペロペロしたことないんだぁ~♪だったらことりや穂乃果ちゃんたちが一歩リードだね♪」

「リードってなんですか!?男女交際は何事も早ければいいってものではありません!!不純異性交遊にならぬよう、お互いの愛をゆっくり時間を掛けて確かめ合ってから責任が持てるその時までですね――――」

「へぇ~つまり、いずれ零くんに《フェ○チオ》してあげるってことだよね♪」

「な゛ぁ!!は、破廉恥な!!そ、そんなこと……零はして欲しいのですか!?」

「ここで俺に振るのかよ!?」

 

 

 そ、そりゃあ海未に舐めらたくないと言えば嘘になる。穂乃果、ことり、にこの3人とは違って懇切丁寧にアレを扱ってくれそうだし、舐めているその姿を妄想するだけで気品が溢れていて、もうそれだけでも興奮してしまいそう……。恍惚な表情で俺のアレの先っぽをパクッと……うん、イイ。

 

 

「俺はしたいと思う……いや、お前にして欲しい!!――――――って、あれ?海未?」

「………………」

「こ、コイツ、気絶してやがる!?」

「あーあ、零くん、海未ちゃんをショートさせちゃった~」

「オイ元凶、どの口が言っている……?」

「この口だよ。零くんとのキスと《フェ○チオ》専用のね♪」

「よくスラスラとそんな言葉が出てくるな……もう慣れたけど」

 

 

 俺専用って言ってくれるのはもちろん嬉しいよ!?嬉しいけど、男女交遊には何事にもムードってものがあってだな……つまり常日頃から淫語を躊躇なく発しながら歩く猥褻物さんたちは許せない訳ですよ、えぇ!!

 

 でも現実は非情で出来上がっているもの、穂乃果やことりのノリに流されてしまうと何故か男の俺が睨まれるはめに……女の子ってズルい!!

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「海未が気絶したままだけど、いいのか?」

「まあ無理は禁物だから。それに……凛ちゃんと花陽ちゃんがいるもんね♪」

「このまま行くと、午後の授業中凛たちずっと保健室だにゃ……」

「あまり激しくしないようにお願いします……」

「激しくしないようにって、同性愛はちょっと……」

「そ、そんな意味で言ったんじゃないよ!!も、もう誰か助けてぇ~!!」

 

 

 これはあれだ、周りの発言が全部意味深な言葉に変換される変態特有の能力だな。俺も穂乃果の『一緒にしようよ!』が『一緒にシようよ!』などに脳内変換させられることがよくある。しかも決まって女の子たちの発言の時に――――って、俺ってばなに解説してんだろ……。

 

 

 あれから何とか復活した凛と花陽だが、顔は既に真っ赤だし、エロ耐性がほぼ皆無に等しいこの2人にとってことりの講義はどんな学校の授業よりも地獄だろう。ことりの笑顔がトラウマになりそうだな、この2人……。

 

 

 そして、ことりが水性の黒ペンでホワイトボードに2限目のお題を書いた。

 

 

 

 

~2限目のお題~

《ク○ニリングス》

 

 

 

 

「もうね、いちいち反応するのが面倒になってくるよこれは」

「えぇ~!零くんのツッコミがあるから面白いのにぃ~!!あっ、ツッコミと言っても下半身同士の突っ込みじゃないからね♪」

「毎度毎度需要のない補足入れなくていいっての……」

 

 

 普段は海未と一緒にいるためか、彼女に激しくツッコミを入れられるせいで発言に"ある程度"はセーブが掛かっている。だが幼馴染でもあり天敵でもある海未が気絶した今、ことりはここぞとばかりにラブホテルと化している脳をフルスロットルで回転させていた。

 

 凛と花陽はまだお題の意味が分かっていないためキョトンとしているが、その意味を知ったら最後、ことりの"おやつ"は免れないだろう。

 

 

「《ク○ニリングス》は正式名称で、一般には《ク○ニ》と略されることが多いね。そしてこの《ク○ニ》って言うのは、さっき紹介した《フェ○チオ》の逆、つまり男の子が女の子の大切な部分を弄りまわして、気持ちよ~くすることをなんだよ♪」

「れ、零くんが私のを……!?」

「そうそう花陽ちゃん、いい妄想だね!この説明だけで自分の大切なところを零くんに弄られる妄想をするなんてぇ~♪」

「ち、違うよぉ~!!零くんは私の彼氏だし、やってもらえるなら零くんしかいないかなぁ~って……はっ!わ、私ってば何言ってるのぉ~!!!!」

「かよちんが暴走しちゃった!?こんなかよちん初めて見るよ!?」

 

 

 手の込んだ自爆とはまさにこのこと……割と花陽は自爆率高いと思うけど。

 もしかしたら花陽は、意外と性知識豊富な隠れむっつりなのかもしれない。春頃から恋愛に積極的になり始めた反動で、ことりたちと同じ領域に足を踏み込んでいる可能性は無きにしも非ず。《ク○ニ》って言葉を聞いただけで速攻で妄想できるくらいだし……まだ一応清純キャラだとは思っていたのだが、まさか?

 

 

「凛ちゃんもしっかりお勉強しないとダメだよ。淫語を覚えるには妄想が大切なんだから!ことりなんて零くんの妄想で毎日ヤってるよ♪」

「だからちょいちょい変な補足を入れるのやめい!!凛も妄想しづらいなら無理にやらなくてもいいからな――――って……」

「うにゃ~……れ、零くん!!そこはダメぇえええええええええええ♡」

「妄想するのはえぇよ!!」

「イクのも早いね♪」

「…………」

「やん♪そんなに見つめて……視姦プレイ?もしくは放置プレイかな?」

「黙っててもダメなのかよ!?」

 

 

 花陽の暴走に凛の妄想の早さ、そしてことりの淫語録、もう横槍を入れる気力もなくなってきた。しかもことりからは、こうして黙っていても何かのプレイと勘違いされる始末……もうどうすりゃいいって言うんだよ!!俺も午後の授業バックれて、凛たちと一緒に保健室で休もうかな……。

 

 

「妄想してただけなのに汗かいてきちゃったよ……」

「凛も、動き回ってないのにこんなに暑くなることってあるんだね……」

「それはね花陽ちゃん、凛ちゃん。それだけ零くんへの想いがアツアツだってことなんだよ♪だからこれからも今日習った淫語と共に、毎日妄想しようね!毎日ヤれば、きっとことりと同じ境地に辿り着けるよ!『継続は力なり』ってね♪」

「ここまで模範したくない継続は初めてだな……」

 

 

 それにみんながことりと同じ境地に達してしまったら、それはそれで俺が阿鼻叫喚の事態に陥ってしまう。ことり1人だけでも手を焼いているのに……もしμ'sの全員がそうなった場合、抵抗せず彼女たちに身を委ねる方が正解かもな。いや、悟りとかなじゃくてマジで。

 

 

「……ん?あれ、もう終わりましたか……?」

「おぉ海未、起きたか。ようやく終わりが見えてきたよ」

「凛と花陽はことりの魔の手から逃れられたのですね」

「凛ちゃんも花陽ちゃんも、海未ちゃんよりはエッチだったってことだね♪」

「えぇ!?何その解釈!?」

「その言い方は悪意があり過ぎるよぉ!?」

「もうそれ以上言うな、強制的に墓穴を掘らされるから」

 

 

 ことりの奴、卑猥な妄想への変換といい解釈といい、もう身の回りのモノを手に取っただけで大人の玩具に変換できてしまいそうだな。俺が肘を付いているこの机も、座っている椅子も、ことりが持っている指し棒も、逐一それを使ってどんなプレイができるのか考えていそう。

 

 

「は~い!昼休みの時間も終わりが迫ってきているので、そろそろまとめに入りたいと思いま~す!」

「こういうところだけ本格的なのな……」

 

 

 ことりは右手に持った指し棒で左手の手のひらをパンパン叩きながら、俺たちを自分へ注目させる。今までの話の中でこの場面だけを切り取ってみればマトモな講義に見えるのだが、よく考えてみてくれ、ここしかマトモなところがないってのが恐ろしいだろ?

 

 

「《フ○ラ》って言うのはことりたちが零くんのアレにご奉仕することで、《ク○ニ》って言うのは零くんがことりたちの大切なところを弄って気持ちよくしてくれることだよ♪」

「どうして例えに俺たちを使う……だけど分かりやすいまとめだけにちょっとムカつく」

「でしょ?ことりはどっちのプレイの妄想もするから、説明なら任せて!」

 

 

 これほど任せたくない任せては初めてだ。頼りにならないのではなくて、頼りにしたくないという新ジャンルね。

 

 

「海未ちゃんはどっちが好き?」

「す、好き!?そ、そんなどっちもどっちと言うか……」

「どっちも好きなんだね!?ことりと一緒かぁ~♪」

「そんなこと言ってないですよね!?」

「凛ちゃんと花陽ちゃんは……攻められる方が好きそうだから《ク○ニ》かな?」

「どうして勝手に決められたの!?い、いや別に凛がそのく、く、《ク○ニ》嫌いって訳じゃないけど……」

「わ、私も零くんにご奉仕してあげたいというか、多分そっちの方が好き……って、また私自爆してる!?」

 

 

 この2つに関してだったら、俺はやるよりやられる派かなぁ~。とは、ことりの前では口が裂けても言わねぇけどな。

 

 

 はぁ~……疲れた!まだこの後に午後の授業があると思うと憂鬱になるわ。ここまで有意義ではない昼休みなんて、後にも先にも今日だけだと思いたい。

 

 

「それでは今日の講義はこれまで!次は《ことりの淫語講座・上級編》でお会いしましょう!それではまた♪」

「「「つ、次!?!?」」」

「おいおい……」

 

 

 ことりの次回予告に部室が再びどよめきながらも、受講者の羞恥を晒し上げる悪魔の講座は幕を降ろした。

 

 

 ――――って、本当にまたやるの!?!?

 

 




 まさかこの小説を読んでいる読者の方で、2つの言葉の意味を知らないなんて方はいらっしゃいませんよね?ねっ?(謎煽り)

 今回こんなふざけたネタを持ち込んだ理由は、ズバリ淫乱ことりと羞恥に悶える海未、凛、花陽の3人が書きたかったからです。特に海未たち3人は穂乃果やことりなどの淫乱キャラより、エッチなことやその言葉で恥ずかしがっている姿の方が似合っていると思うんですよね。まさか私だけだったり!?共感を得られたことがないですが……


 次回以降《ことりの淫語講座・上級編》をやるのか否かは、今回の読者様の反響によりますかねぇ……。恐らくもっとことりちゃんが荒れると思いますが(笑)


 先日、ハーメルンのラブライブ!小説の作家様たちが執筆してくださった『ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 Anthology~』が完結しました!
あちらの小説ではこの小説では見られない個性的なお話ばかりなので、まだ見てないよという方は是非覗いてみてください!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

花陽、人生初めての……

 今回は超久々に花陽の個人回です!
 全編花陽視点でお送りしますが今回、彼女にとって1つのターニングポイントかもしれません。もちろんアッチの意味でですが……


 

 

「ぴゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!た、体重が……!?!?」

 

 

 私、小泉花陽は体重計の上で自分でもビックリするような変な叫び声を上げてしまいました。

 それもそのはず、9月の上旬に比べると私の体重が……うぅ、これ以上は言いたくありません!!できれば無視したい事実なのです!!

 

 

 "収穫の秋!秋といえば、何と言っても新米の季節です♪"

 

 

 なんて笑顔で言っていた去年が思い出されて恥ずかしいよぉ~……。何が恥ずかしいって、去年私自身が『来年こそは食の誘惑なんかには負けません!!』とμ'sのみんなの前で意気込んだのにこの体たらく。みんなに何とお詫びをすればいいのか……。

 

 

 でも、もうすぐで"ラブライブ!"だから無視できないんだよね……もし体重が増えて身体の動きが鈍ったりでもしたら、みんなに迷惑掛かっちゃうし……。

 

 

「やっぱりお米の食べ過ぎだよね……今晩もお茶碗山盛りのご飯を3杯もおかわりしちゃったし……」

 

 

 毎年秋になると各地の美味しいお米を食べ漁るほどたくさんのお米を食べるんだけど、確かに今年は今までよりもパクパク食べ過ぎていたような気がする。去年よりもμ'sの練習量が多くなったから、ちょっとくらい食べ過ぎてもいいかなぁと思ってたのが失敗だったよ……。

 

 

「やるしかないよねぇ、ダイエット……」

 

 

 ダイエット。

 去年は穂乃果ちゃんと一緒に海未ちゃんのダイエットプログラムを強制的に参加させられたんだよね。結果的には痩せることができたんだけど、あの時は毎日のランニングにご飯がたった一杯の晩御飯、あれほどの拷問を味わったのは始めてだったよ……。

 

 

 でも一つ懸念することがあるとすれば――――――

 

 

「去年に引き続いて2回目なんだよね、私……」

 

 

 去年あれだけみんなに迷惑を掛けて注意もされたのに、また体重が増えたなんて知られたら、今度はなんて言われるのか……特にこのことが海未ちゃんの耳に入ったりでもしたら、もう生きて帰っては来られないかも!!去年ランニング中にこっそりお店でご飯を食べていた前科があるから、尚更怒られそう……。

 

 

 だけど、やっぱりこのままって訳にもいかないよね。だって今年は雪穂ちゃん、亜里沙ちゃん、楓ちゃんもいる。私より年下の3人が"ラブライブ!"に向けて頑張っているのに、私だけが妥協をするなんて許されない。ここは自分の心を鬼にして痩せる努力をしないと!!

 

 

 だけど、私はそこまでダイエットのことについて詳しくない。普段からスタイル維持のために何かをしているってこともないし、具体的にどうすればいいんだろう?

 

 こうなったら、思い切ってμ'sのみんなに聞いてみよう!μ'sにはスタイルのいいメンバーもたくさんいるし、その人から話を聞けばきっと痩せられるはずだよね!うん、痩せられる……はず!!

 

 

 

 

 でも、零君と海未ちゃんに聞くのだけはやめておこうかな?

 零君の私の彼氏。大好きな彼に自分の体重が増えたとは、やっぱり言いにくい。

 海未ちゃんに関しても……真っ先に地獄へ赴くのは、私としてはちょっと気が引けるかな?でも解決できなそうなら海未ちゃんに頼る予定だから!!決して逃げてる訳じゃないからね!!本当だよ!?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 翌日、私のダイエット大作戦はこっそりとスタートしました。

 

 まず、聞き取り調査1人目は穂乃果ちゃん。

 私と穂乃果ちゃんは去年恐怖のダイエットプログラムを共にした仲間だけど、今年の秋は穂乃果ちゃんのそう言った話は全然耳にしない。あの穂乃果ちゃんが食欲の秋に負けずどうやって体重を維持しているのか、一番気になるのです。

 

 もし私にも有効的な方法ならば、それをそのまま実行してみようかなぁと考えていたり。

 だってあの食欲魔人の穂乃果ちゃんだよ!?食欲の秋にも関わらず体重が増えていないなんて有り得ない!!これは何か効果的なマジックがあるに間違いありません!!

 

 

「穂乃果ちゃーーん!!」

「あっ、花陽ちゃん!どうしたの?」

 

 

 私は穂乃果ちゃんが1人の時を見計らって、廊下で声を掛けました。

 思えば、こうして穂乃果ちゃんと2人きりで話すのは久々かも。お互い食を愛する者同士色々お喋りしたことはありますが、今はダイエットの話に集中しよう!

 

 

「今、ちょっとお話大丈夫?」

「なんだか改まって、結構重要なお話?」

「私にとっては重要な話なんだけどね。穂乃果ちゃんってこの秋、毎日の3食とか間食とか、食べる量を減らしてたりする?」

「食べてる量?うぅん、全然」

「えぇっ!?う、嘘……」

「嘘じゃないよ!!むしろ今年は去年よりも食べてるかも」

 

 

 えっ?去年よりも食べてる!?だって穂乃果ちゃんは私と同じでたくさん食べると体重が増えやすい体質のはずなのに、今年は体重が一切増えてないってどういうこと!?細かいことは飽きっぽい穂乃果ちゃんのこと、ダイエットが捗るとは思えない。やっぱり減量しやすくなるマジックでもあるのかな?

 

 

「そのぉ……もしかして、こっそりダイエットでもしてるの?」

「ダイエット?う~ん、ダイエットと言えばダイエットになるのかなぁ~?」

「どういうこと?」

「知りたい知りたい?」

「え……?」

 

 

 穂乃果ちゃんはお得意の満面な笑顔で私に詰め寄ってきました。

 でも、その笑顔の中に若干黒さが混じっているような気がするのは私だけ?もしかして私、踏んではいけないスイッチを踏んじゃった可能性が……。なにやら不穏な雰囲気が漂います。

 

 

「しょうがないなぁ~花陽ちゃんは!仕方ないから教えてあげるよ♪」

「えぇ!?私、何も言ってないないんだけど!?」

「穂乃果のダイエット方法はねぇ~……"零君"なんだよ!」

「えっ、れ、零君?」

 

 

 この時、私は確信しました。あぁ、穂乃果ちゃんの変なスイッチを踏んじゃったのだと。

 穂乃果ちゃんは頬を赤く染めて、まるで零君に抱きついているかのようです。それにどことなく大人びた女性の顔をしているのは、恐らく穂乃果ちゃんのダイエット方法に関係しているのでしょう。

 

 

 初めからことりちゃんは避けようと思ってたんだけど、穂乃果ちゃんも同類だったね……。

 

 

「一応聞くけど、どうして零君なの……?」

「毎日零君のことを想って色々シてるとね、秋になっても汗をたくさんかいちゃうんだ。多分そのおかげかな?ご飯をパクパク食べても全然太らなくなっちゃった♪」

「そ、そう……」

「昨日の零君ってば凄かったんだよ!穂乃果が居眠りしてたらね、普通に起こせばいいのに穂乃果のパンツを脱がせてきて、そのまま零君のアレが穂乃果の大切なところに――――ズブッと。今思い出すだけでも興奮してきちゃう♪」

「そ、それって穂乃果ちゃんの妄想の話だよね!?」

 

 

 なんかダイエットの話だったのに、いつの間にか穂乃果ちゃんの自分磨きの話になってる!?しかも妄想が生々し過ぎて、私の方が恥ずかしくなってきちゃったよ!!私の顔、絶対に真っ赤になってるよぉ~……だって、とっても熱いし――――――

 

 

 

 

 熱い……?そうか、穂乃果ちゃんはこの熱さを利用して汗をかいていたんだ。

 

 

 

 でも私はそんなの恥ずかし過ぎて無理だよぉおおおおおおおおおおおお!!

 

 

「ま、そういうことで花陽ちゃん、もしヤったら初感想聞かせてね~♪」

「こ、これを実践するのォ!?」

「一回激しい妄想をしてみれば分かるって、絶対に気持ちいいから!じゃ、穂乃果はもう行くよ!いい夜になるといいね♪」

 

 

 穂乃果ちゃんはそう言うと、廊下をスキップしながら教室へと帰って行きました。しかも頬を赤く染めたまま……このあと零君、穂乃果ちゃんの相手大変だろうなぁ……。

 

 

 それにしても気になるのは穂乃果ちゃん流のダイエットのこと。

 もしかして、他のみんなも夜な夜な自分で自分の欲求を慰めたりしてるのかな……?進級してから穂乃果ちゃんたちが外でも構わず零君にアピールするようになったのは、それにも原因があるのかもしれない。

 

 

 と、とりあえず他のみんなにも話を聞いてみよう。

 穂乃果ちゃんのダイエット法は特殊だと思いたいから!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 聞き取り調査の2人目は真姫ちゃん。

 言わずもがな、真姫ちゃんは私と同学年とは思えないほどのプロポーションの持ち主で、真姫ちゃんからダイエットなんて言葉は一切聞いたことがない。それほど綺麗なスタイルを長年ずっと保ち続けている真姫ちゃんなら、効果的な体重維持の方法についても詳しいはず!

 

 私たちは今、日直の仕事でプリントの束を手分けして教室へ運んでいる最中。聞くなら2人きりの今しかないよね。

 

 

「ねぇ真姫ちゃん。真姫ちゃんて、スタイル綺麗だよね」

「どうしたのよ藪から棒に。褒めたって代わりにプリント運んであげないから」

「そんなことしないよぉ!!そうじゃなくて、そのスタイルってどうやって維持してるのかなぁって」

「花陽、あなたまさか今年も……」

「い、言わないで!分かってるから!!」

 

 

 流石真姫ちゃん、この僅かな会話だけで私の状況を察するなんて……怒られるかもしれないけど私が悪いんだし、ここはダイエットのために我慢我慢!!

 

 

「それで、効率のいいダイエット法とか、真姫ちゃんが普段気を付けていることがあれば教えて欲しいんだけど……」

「はぁ~……あなたって人は。気にしていると言えば、普段からの食生活や生活習慣くらいかしら。気にするというよりかは、もう自然と規則正しい生活が身に付いちゃってる、と言った方が正しいわね」

 

 

 そうだよね、普段から生活習慣が規則正しいいからこそのスタイルだもんね。それは真姫ちゃんだけではなく、海未ちゃんや絵里ちゃんも同じかも。楓ちゃんもスタイルはいいけど……楓ちゃんにダイエット法を聞くのは絶対に間違いだと思うやめておこう。

 

 

 そして真姫ちゃんがこう答えてくるだろうってことは大体分かっていたんだよね。本番はむしろその先。これを聞いておかないと私の気が収まらない。

 

 

 

 さっき穂乃果ちゃんが言っていたダイエット法を、真姫ちゃんもしているのかどうかを……。

 

 

 

 

「ね、ねぇ真姫ちゃん……」

「今度はなに?」

「そのぉ~、真姫ちゃんも毎晩してるの?」

「な、なにを……?」

「じ、自分磨きっていうのを……」

「な゛ぁ!?!?!?」

 

 

 その瞬間、真姫ちゃんは手に持っていたプリントの束を盛大に廊下へ落としてしまいました。

 大量のプリントがヒラヒラと空中を舞っていますが、真姫ちゃんはそんなことお構いなしに顔を真っ赤にしながら私を睨みつけてきます。

 

 

 うぅ、ゴメン真姫ちゃん!!でも聞いておきたかったんだよ、みんなが毎晩零君を妄想しながら"そういうこと"をしてるのかを……。

 

 

「ど、どうしてそんなことを学院内で聞くのよ!?まるで零やことりじゃない!!」

「ゴメンなさい!!でもみんなが毎晩しているのか知りたくって……。それで、どうなの?」

「ど、どうって……?」

「真姫ちゃんは夜、そのぉ~……零君のことを想ってそういうことをしているのかなぁって」

「この状況でもなお答えなきゃいけないの!?」

 

 

 多分だけど、真姫ちゃんは私がこういう質問をしてきたこと自体に驚いているんだと思う。猥談って言うのかな?流石に恥ずかしくて普段の会話では言い出せないから……。

 

 でも今は体重増加という緊急事態。多少の羞恥を被っても、あのスタイルとプロポーションが共に抜群な真姫ちゃんに聞いておきたいの!零君とのあんなことやこんなことを妄想しながら、夜な夜なやっているのか否かを!!

 

 

「それで、どうなの真姫ちゃん!!」

「テンションおかしいわよあなた!?ど、どうって言われても……」

「真姫ちゃん……」

「ちょ、ちょっと涙目にならないでよ!!…………はぁ~……や、やってるわよ」

「へ、今なんて?」

「一回で聞き取りなさいよ!!やってるって言ってるのよ!!」

 

 

 あの真姫ちゃんですらやっているなんて、もしかしてやってないのって私だけだったり!?凛ちゃんや海未ちゃんはどうなのかな……?この前ことりちゃんの講座を無理矢理受講させられたけど、もしかしてそれを機にそっちの方向へ目覚めちゃったとか!?で、でもでも!雪穂ちゃんや亜里沙ちゃんはやってないよね!2人共純粋だもん!!…………多分だけど。

 

 

「さっきからなに頭を抱えてるのよ。頭抱えたいのはこっちなんだけど!!」

「ご、ゴメン……みんなのやってるところを想像すると、なんだか恥ずかしくなってきちゃって……」

「もうっ!零やことりみたいに変な妄想しないでくれる!?」

「うぅっ、でも、みんなやってるのかな?毎晩……」

「知らない!!やってるんじゃないの!!」

 

 

 この時の真姫ちゃんは、廊下に落ちたプリントを拾いながら自棄糞な発言をしていました。もちろんみんながやっているなんて真姫ちゃんが知るはずがありません。でも気が動転しておかしなテンションになっていた私は、その真姫ちゃんの発言を素直に受け止めてしまったのです。

 

 

 つまり、私がどうなったのかと言うと――――――

 

 

(みんなやってる……?穂乃果ちゃんやことりちゃん、にこちゃんだけじゃなくて、あの海未ちゃんや凛ちゃんまで……?特に穂乃果ちゃんや凛ちゃんは私と同じくらいパクパク食べるのに……それでも体重が増えないのは、毎晩零君とやっているところを妄想して自分を磨いているからなのかな……?だ、だったら私も!!話を聞く限り気持ちいいって聞くし、それに痩せることができるのならこれ以上いいダイエットはないよね?そう思い込もう!!)

 

 

 真姫ちゃんと同じく冷静な判断ができていませんでした。

 μ'sのみんながやっているなら、気持ちよくなれるなら、妄想でも零君に愛してもらえるなら……そんな欲望にあっさりと負け、私は1つの決心をしたのです。

 

 

 

 

 本番は、今日の夜――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「すぅ~~はぁ~~」

 

 

 夜、自室のベッドの上。私は仰向けで寝転がりながら大きく深呼吸をしました。

 今からμ'sのみんながやっていると噂される自分磨き(調べたところによると自家発電、マスターベーションとも言うらしい)を実行するため、息を整えて準備をしているところです。

 

 

 そう言えば。

 

 

「まず何からすればいいんだろう……?」

 

 

 普段ことりちゃんやにこちゃんの話を聞いているから、何をするのかは大体理解しているつもりだけど、自分磨きの一発目って何をどうしたらいいんだろう?とりあえず零君を思い浮かべればいいのかな……?

 

 

 私は目を瞑って零君の姿を想像します。

 真剣でカッコいい彼の顔、驚いた時の目を丸くした彼の顔、呆れてため息をつく彼の顔、寝ている時のちょっぴり可愛い彼の顔、私を励ましてくれる優しい彼の顔、

 

 

 そして。

 

 

 

 

 一緒にいるだけで元気が貰える、彼の明るい笑顔。

 

 

 

 

 

 零君の色んな顔が次々と私の妄想を支配していきます。胸がドキドキして止まらない。身体も僅かにですが熱くなってきました。

 零君の顔を思い浮かべるだけでこうなるなんて……これ以上妄想を飛躍させたら一体どうなっちゃうんだろう?まだほんの少しだけ抵抗はあるけど、今の私は身体の疼きをもっと高めたいという好奇心の方が勝っています。だから、もう妄想を止めることはありません。

 

 

 そして、妄想の中の零君が私に語りかけてきました。

 

 

『花陽、今日も練習よく頑張ったな』

 

 

 優しく暖かい彼の声。この声を聞くだけで頭を撫でられている感じがして、とても心が落ち着いてほっこりします。練習中に掛けてくれる些細な気遣いも嬉しくて、笑顔の彼を見るともっと頑張ろうとやる気が出て、零君と恋人同士になってから積極的な性格になれたのも、全部彼のおかげ。

 

 零君への愛はどんどん増幅していって、留まることを知らない。そして今、私はイケナイことに手を染めようとしている……もうそれくらい、私は零君の虜となっているのです。

 

 

『ほら、こっちにおいで。ご褒美をあげるよ』

「ご褒美……?」

 

 

 私は妄想の中の零君に話し掛けていることにさえ気付きませんでした。

 零君は私の後ろへ回り込むと、そのまま背中から私をギュッと抱きしめました。突然のことで、私の口から小さく『あっ……』と声が漏れ出します。零君に抱きつかれ慣れている私ですが、今日はまたいつもと違った別の暖かさを感じる……。

 

 

『花陽、ダイエットに悩んでるんだって?』

「うぅ……」

『心配するな。俺が効果的なダイエットを教えてやるよ』

「え?そ、それってなに?」

『こうするんだよ』

「ひゃうっ♡」

 

 

 突然零君は私の服の中に手を入れて、私の胸をゆっくりと撫で回しました。

 器用な手付きで下着も外され、その手は私の胸を下から摩ったり、軽く揉んだり、乳首を優しく摘んだり、手のひらでゆっくりと転がしたり、彼の手付きは普段よりも"何故か"ぎこちないのですが、私の興奮と快楽を煽るには十分でした。

 

 

 その"何故か"の理由が、自分で自分の胸を弄っていたからというのに気付くのは、まだ先の話。

 

 

『ダイエットはたっぷりと汗をかくといいんだぞ』

「私、熱くなってきました……零くぅん♪」

『うん、いい感じに高まってきてるな。次はどうして欲しい?花陽の口から聞きたいな』

「もっと……もっと激しく揉んでください!!」

『了解。じゃあ肩の力を抜いて、リラックスな』

「はい♪」

 

 

 さっきまで優しかった零君の手付きが、一気に激しくなりました。

 零君は親指と人差し指で乳首を摘みながら私の胸を大きく揉みしだきます。もう胸の愛撫だけで果てちゃいそう……あっ♡んんっ!!妄想の中でもえっちな声が漏れちゃうよ♪

 

 

「ひゃ、んっ♡」

『いい声だ、もっと聞かせてくれ。俺はな、女の子が俺の手によって喘いでいる姿、俺に服従している様が大好きなんだ』

「うん♪零君のためなら、あんっ♡もっともっと、んん♪えっちな子になるね!」

『いい子だ。それでこそ俺の恋人、小泉花陽だ』

「あぁああああああああああ♡零君!!」

 

 

 胸だけでこんなにも熱くなってしまうなんて、私はイケナイ子なんでしょうか?でもそれでもいいんです。零君が喜んでくれて、私が気持ちよくなればそれで……。

 

 そしてまだ零君からの愛撫は止まりません。また零君は私の耳元で欲求を煽るような甘い声で囁いてきました。

 

 

『どうやらまだ満足し足りないらしいな。だったら……』

「れ、零君……ひゃぅ♡」

『もうここはびちょびちょじゃん。女の子がここを濡らしてるってことはな、気持ちよく果てるまで弄ってくださいってことなんだよ』

「うん♪お願い零君、私の大切なところを触って!!そしてたくさん気持ちよくさせてください!!もう我慢できないよぉ♪」

『よく言った。それじゃあ今日はたっぷりと可愛がってあげるよ』

「ありがとうございます♡」

 

 

 零君は私のパンツの上に人差し指を当て、私の大切な割れ目に沿ってゆっくりと指を押し込むようになぞる。私の大切なところからクチュッとイヤラシい音が漏れながら、零君は指を私の割れ目を執拗に攻め続けました。なぞり終わったらまた折り返してなぞり、またなぞり終わったら折り返して……私はずっと焦らされ続けられます。

 

 

『花陽、息がメチャくちゃ荒くなってきたぞ……声も乱れてるし、もうイっちゃうんじゃないのか?我慢できなくなったら言えよ。すぐにでもお前を昇天させてやる』

「あぁ♡んっ♪零君……私を、私をイかせさせてください!!もう!焦らされるのはもう限界です!!」

『待ってたよその言葉!』

 

 

 そして零君は私のパンツをゆっくり脱がしながら、人差し指を私の大切なところに当てて――――――

 

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああ♡♡」

 

 

 

 

 

 あまりにも気持ちのいい快楽に昇天し、そこから私の記憶は途切れてしまいました。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「……ん?ここは、私の部屋……?」

 

 

 気が付くと、私はベッドの上で仰向けに寝転がっていました。

 あれ?私、零君と一緒にいたはずじゃあ……。

 

 

「あ、そっか、全部私の妄想だったんだ……」

 

 

 ――――ということは、零君に胸や割れ目を弄られていたのって全部私の手と指だったんだね……どうりで手や指が変に乾燥している訳だよ。途中から零君に愛撫されているものだと本気で思ってたんだよね。そう思うとずっと独り言を言ってたことに……ううっ、恥ずかしい!!誰にも見られてないけど恥ずかしい!!

 

 

 でも。

 

 

「気持ちよかったな。穂乃果ちゃんたちの気持ちが、ちょっとだけ分かった気がするよ」

 

 

 初めは自分で自分を慰めるなんて抵抗があったけど、いざやってみるとあっさりと快楽に負けてしまい、結果的にはとてもスッキリすることができた。これは穂乃果ちゃんたちだけじゃなくて、真姫ちゃんもしちゃうのは無理ないね……だって、こんなに気持ちいいんだもん♪

 

 

「あっ、たくさん汗かいてる……これを続けていけば私も痩せられるかも!!」

 

 

 ベッドから身体を起こしてみると、全身がグッショリと濡れていることに気が付いた。

 その中でも特に濡れていたのは、もちろん下半身、私の大切なところ……。

 

 

「こんなに気持ちいいダイエットがあっただなんて、これだったら毎日続けられそう♪」

 

 

 もしかして、穂乃果ちゃんたちもこうしてドツボにハマっていったのかも……でも、こんなに気持ちいいのなら仕方ないよね♪私もクセになっちゃいそうだよ♪

 

 

「さて、色々濡れちゃったし、お風呂にでも入ろうかな♪」

 

 

 私は自分磨きの余韻を残したまま、浮ついた気分で今晩を過ごすのでした。

 そして翌朝、妙なテンションの自分を思い出し、枕に顔を埋めて悶えてしまったのはまた内緒の話です……。

 




 遂に快楽の悦びを知ってしまった天使さん。ことりと同じ道を歩み始める!!


 今回は花陽の個人回でした。実は花陽個人回は第26話の『花陽とのほんわか日和』以来、実に84話ぶりとなります。花陽推しの方にはお待たせしましたとしか言い様がないですね……本当にお待たせしました!なんせ他のラブライブ小説とは違ってμ'sが12人もいるもので、個人回を作るのが中々……。言い訳はこの辺にして、最近個人回をサボリ気味だったので、またちょくちょく挟んでいこうと思っています。


 そして次回は、遂に零君と楓ちゃんのお母様が登場!
 どんな人かって?それは秋葉や楓を見れば分かるでしょう(笑)


 先日、ハーメルンのラブライブ!小説の作家様たちが執筆してくださった『ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 Anthology~』が完結しました!
あちらの小説ではこの小説では見られない個性的なお話ばかりなので、まだ見てないよという方は是非覗いてみてください!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ひとハグで尋常でないもふもふだと見抜いたよ

 今回の話を執筆中に思った、このタイトルしかないと!
 ということで今回は、以前話題に出ていた零君や楓ちゃんのお母様襲来編となっています。

 どんなお母様かって?
 それは本編を読んでどうぞ!!
 


 放課後。

 今日の練習も終わり、まだあまり日も傾いていない中、俺たちは相変わらず13人もの大所帯で下校中。

 

 最近は"ラブライブ!"本番に向けての練習がほぼ歌やダンスの確認で終わっていて、実際に身体を動かす時間は練習を煮詰めていた頃と比べると半分程度となっている。これも本番に向けて身体に負荷を掛けないため、去年も行われていた配慮だ。そのため、俺たちが下校する時間も当然早くなる。

 

 

 普段なら13人でぺちゃくちゃ喋ったり馬鹿し合いながら歩き、途中で1人、また1人と挨拶を交わして別れるのが普通だが、今日だけはいつもの日常と違っていた。今日は誰も途中で別れることはなく、俺たち全員は同じ場所を目指して歩いている。

 

 

 そう、俺たちの目的地はみんな同じ"神崎家"だ。

 

 

 遂に明日、俺と楓の母さんが僅かな期間だが家に帰ってくる。だから母さんの出迎えをするために、今日からみんなで泊り込もうという、穂乃果の思い付きで決まったことなのだ。既に着替えなどは事前に準備をして学院に置いてあったため、今日はそれを持ってみんな俺の家へ直帰という訳。

 

 3ヶ月前に2週間もの同棲生活をしたので、今更みんなと一緒に一晩を過ごすことに新鮮味は感じないのだが、同棲生活が終わった後、物静かになった家を見てちょっぴりしんみりした辺り、やっぱりコイツらと同棲した日々は楽しかったんだよな。

 

 つまり何が言いたのかといえば、今日も楽しみにしてるってことだよ!!

 

 

 

 

 近所迷惑になるんじゃないかってくらいハイテンションで帰宅した俺たちは、ようやく家の前まで辿り着いた。

 ただの下校なのに何十分掛かってるんだよ……これだけ大勢で歩いていたから、騒ぎすぎて気付かぬ間に足が遅くなっていたらしい。なんのために早く帰宅しているのやら……。

 

 

 

 

 俺はカバンから鍵を取り出して扉の鍵穴に差し込もうとした時、とある異変に気が付いた。

 

 

 鍵が、開いてる……!!

 

 

「お兄ちゃん……?もしかして……」

「ああ、家の鍵が開いてる」

 

 

 俺の隣にいる楓、そして家の外にいるみんなが一斉に驚く。

 まさか秋葉が帰ってきてるのか?いや、アイツは今日は帰って来られないから明日帰って来ることになっていたはず。母さんも帰って来るのは明日だし……もしかして、空き巣とか?

 

 

「お前らはここにいろ!」

「お、お兄ちゃん!?」

 

 

 俺は玄関の扉をなるべく音を立てないようゆっくりと開け、家の中に侵入する。

 家の明かりは一切点いておらず、秋になって日が落ちるのも早くなったせいか家の中はかなり薄暗い。目の前が見えないほどではないが、家の中に誰かいるのにも関わらずこの薄暗さで明かりが点いていないは不自然だ。

 

 

 そう考えると、今この家にいるのはやっぱり空き巣?

 上等じゃねぇか。この神崎零の家に忍び込んだことを後悔させてやる。外には楓もいるし、穂乃果たちの心配は必要ないだろ。俺、とっとと空き巣をとっ捕まえて、みんなといちゃいちゃ同棲生活するんだ。

 

 

 なんて馬鹿みたいなフラグを立てたせいか俺は、背後から気配を消して近付いてくる影に全然気が付かなかった。

 

 

「つっかまえたぁ~♪」

「うぉ!?な、なんだ!?」

 

 

 突然後ろから、謎の包容力を持った人物に全身を抱きしめられた。

 母性煽るる香り、背中に押し付けられる豊満な胸、全身を優しく包み込むこの柔らかい肉付き、そして何より、この懐かしい包容は……。

 

 

「か、母さん!?」

「ハロ~零くん元気にしてた~♪」

「ちょっとこんなところで抱きつくなって!!みんなが見てるから……って――――!!」

 

 

 気付いた頃にはもう遅かった。

 玄関先を見てみると、俺の声を聞いて家に雪崩込んできた穂乃果たちが口をあんぐりと開けて呆然と立ち尽くしていた。楓もまさか母さんがいるとは思わなかったのか、目をパチパチと大きく瞬きさせている。

 

 

 だがみんなが見ているこの状況でも、母さんは俺に抱きつくのをやめない。それどころか俺の前に回り込んで、自分の胸の俺の顔を押し当てるように抱きしめ始めた。

 

 

「やっぱり零くんあったかぁ~い♪モフモフ~♪」

「うぶっ!!はぁ、そんな前から抱きつかれると、うぐっ!息できねぇって!!」

「この匂いなっつかしぃ~!!この匂いを嗅ぐために帰ってきたと言っても過言ではないよ♪」

「過言じゃねぇのかよ!!いいから一度離れろって!!」

「一度でいいの?じゃあまたすぐに抱きつかせてくれるってことだよね♪」

「揚げ足取らんでもいい!!むぐぅ!!」

「モフモフ~♪」

 

 

 えぇええい!!母さんは会うたび会うたびいつもいつも俺がバテるまで抱きつきやがる!!下手をしたら俺がバテて言葉を発せなくなってもずっと抱きつきっぱなしという事態もよくあるからな……。一度抱きついたら全然離してくれねぇんだもん、特に今みたいに久しぶりに会った時なんてそりゃあもうヒドイことヒドイこと……はぁ~……。

 

 

「お母さん!!お兄ちゃん苦しそうだよ!!このままじゃ窒息死しちゃうよ!!」

「あっ、楓ちゃ~ん♪」

「ちょ、ちょっと待ってお母さん……」

「楓ちゃんも久しぶり~♪むぎゅぅ~!!」

「うぐっ!!く、苦しぃ~!!」

 

 

 ようやく俺から離れたと思ったら、母さんは休む間もなく楓へと乗り移る。俺より小柄な楓は高身長な母さんの身体にスッポリと収まり、母さんの得意技通称"モフモフ"の餌食となってしまった。少しは抵抗する楓だが久々に母さんに会えて嬉しいのか、ちょっぴり笑顔になっていた。

 

 

 もしかして、俺もそうだった!?なんかみんなが見てる前でそんな顔を晒すなんて恥ずかしいな……。

 

 

 ――――ん?みんなが見てる……?そ、そうだった!?

 

 

「母さん!!μ'sのみんなが来てるから、一旦落ち着けって!!」

「えっ?μ's?」

「「「「「「「「「「「ど、どうも……」」」」」」」」」」」

「はい、こんにちは♪」

「何事もなかったかのように流すなよ……」

 

 

 もう穂乃果たち唖然としてんじゃねぇか……いきなり親子の包容シーンを見せつけられたら、そりゃあ驚くわな。楓も母さんの包容から突然切り離されて凄くむせてるし……相変わらず自由だな。

 

 とりあえず、この場をなだめて穂乃果たちに事情を説明しないと。そして母さんにも何故今ここにいるのか理由を聞き出さなきゃならねぇし。全く、予定通りに来いよなメンドくせぇ!!!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 とにかく母さんの暴走を抑えないと事情の説明もあったものじゃないので、一旦全員をリビングへ通して一息つく。

 その間にも母さんは穂乃果たちの顔を1人1人、じっくりと眺めて目をキラキラさせていた。穂乃果たちは自分の顔を覗かれる順番が来るたびに、どこか緊張しているような硬い表情を見せる。さっきの母さんの暴走具合を見ていれば、そうなるのも仕方はないわな。

 

 

「1日前倒しになったが紹介するよ。この人が俺と楓の母さんの――――」

神崎詩織(かんざきしおり)です!よろしくね、μ'sの皆さん♪」

「「「「「「「「「「「よ、よろしくお願いします……」」」」」」」」」」」

 

 

 か、硬いなみんな……。穂乃果やことりだったら俺の母さんと知った瞬間に交友的に接しそうなものなんだが、やはりファーストコンタクトはその人の第一印象が大きく影響を与えるらしい。さっきの第一印象だけを見れば、秋葉並み、もしくは秋葉以上のクセ者だってすぐに分かるからな……。

 

 

 

 神崎詩織(かんざきしおり)

 さっき紹介した通り、俺たち神崎兄妹の母親である。外見は息子の俺が言うのもアレだけど、魅力の塊だ。娘である秋葉や楓が美人美少女の類に入っているなら、母さんももちろん2人と肩を並べる。スタイルはμ'sでも随一のスタイルを持つ絵里をも凌駕。背は女性ながらに男性の平均身長近くはあり、胸のサイズは天下一品など、まるでモデル(実は職業柄という理由もある)のようだ。

 

 髪の色は凛の髪の色を更に明るくした感じ、鮮やかな茶髪、またオレンジ色と言っても差し支えない。ただし凛とは違って髪にはウェーブが掛かっていて、清純かつ清楚にも見える。そのせいでやたら優しそうな性格に思われることが多いのだが、それは外見の話であって実は心には邪悪しか住み着いていない。

 

 

 だってよく考えてみろ、あの秋葉と楓の母親でもあるんだぞ。つまりその2人に悪魔の魂を吹き込んだ存在ということだ。これだけでも如何に恐ろしい存在なのかは想像してもらえただろう。

 

 

「それじゃあ穂乃果たちも自己紹介しよっか!」

「そうだな。でもこれだけの人数だ、一度に紹介しても覚えられないだろうから学年別に紹介しよう」

「はいはいーい!まずは穂乃果たちからね!」

「よし、健闘を祈る。生きて帰って来い」

「な、何その不穏な言葉……」

 

 

 なぁに、すぐに分かるさ。とは口が裂けても言えなかった。恐らく母さんのことをよく知るには俺と楓がさっき受けた"洗礼"を、その身に味わった方が早いだろうからな。

 

 

「初めまして!高坂穂乃果です!」

「初めましてお義母様、南ことりです♪」

「園田海未です。どうぞ以後お見知り置きください」

「おーおーこれはこれは元気が良かったりご丁寧だったり、いきなり個性的だねぇ~」

 

 

 初めに自己紹介したのは穂乃果たち3年生組。その中に若干気の早い奴もいたようだが、あながち間違いでもないか。いずれはそうなる関係だし!

 

 そして母さんは早速目をギラギラと輝かせて穂乃果たちに熱い眼差しを送る。それは決して憧れという意味ではなく、むしろ――――――

 

 

「3人同時にもっふもふ~♪」

「わぁ!?」

「きゃ!?」

「詩織さん!?」

 

 

 そう、こうして女の子をお人形のように扱って抱きつくためだ。しかも複数人同時にモフモフと。

 これが母さん、神崎詩織の第一の特徴。可愛い子には所構わず抱きつくという、嬉しいのか嬉しくないのか分からない愛情表現が日常茶飯事となっている。そしてやはりと言うべきか、穂乃果たちも無事母さんの犠牲になった。どうやら母さん、穂乃果たちを一目で気に入ったみたいだし、自分が満足するまでモフモフし続けるだろうな……。

 

 

「わぁ~穂乃果ちゃんとってもあったかぁ~い♪おっ!ことりちゃんは柔らかくてお人形さんみたいだねぇ~♪うほっ!海未ちゃんは身体が細くで抱きつきやす~い♪もっふもふ~♪」

「うぐっ、し、詩織さぁ~ん!!」

「きゅ~く、苦しい!!」

「れ、零!?これはどういう……!?」

「だから言っただろ、健闘を祈るってな」

 

 

 母さんは穂乃果たち3人を両手で同時に抱きしめながら、頬同士を擦りつけたり彼女たちの身体の感触や温もりを味わっている。

 

 これが通称"モフモフ"と呼ばれる(母さん命名)、可愛い女の子の身体を隅から隅まで抱きつき倒すテクニックなのだ。どさくさに紛れて女の子のおっぱいを揉んでいたという事案もあったらしい。くそっ!女性同士なら合法的に許されるってことかよ!!

 

 

「えぇえい!!もう普通に自己紹介するなんてメンドくさい!!こんなに可愛い子がいっぱいいるんだもん!!詩織流自己紹介術でみんなもっふもっふにしてやる~!!」

「お、おい!!落ち着けって!!」

「離して零くん!!女の子が私を呼んでるの!!」

「みんな明らかにお呼びじゃねぇ顔してんだろ!!」

 

 

 くっそぉ~最近俺こんなキャラばっかだよ!!特にこの秋になってからというもの、ツッコミスキルが尋常じゃないくらい上達してる。俺の周りに頭おかしい奴が増えてきた証拠だろこれ!もう俺ってマトモな人間じゃね?今まで俺のことを変態変態と罵ってきて奴を見返してやりたい!!

 

 

 ちなみに言っておくけど、母さんが女の子好きだからって百合属性とかレズではないからな。俺と同じく単に可愛い女の子にちょっかいを掛けたい願望があるだけ。それが母さんの場合、すぐ行動に現れるってことだ。

 

 

「はぁはぁ……こんな可愛い女の子たちを目の前にして我慢なんてできますか!!」

「お、おい!!」

 

 

 俺の押さえつけ如きで立ち止まる母さんではない。母さんは俺の手を振りほどき、そのままμ'sのメンバーに向かって突撃して行った。

 もう母さんがこのモードに入ったら、いくら止めても本人が満足するまでこの状態は沈静化しない。ここは素直に抱きつかれて慌てるμ'sの顔でも拝んどくか。割と珍しい表情が見られるかもしれないし。

 

 

「わぁ~あなたたち小柄で抱きつきやす~い♪お姉さんに名前教えてくれる?」

「こ、高坂雪穂です!!あ、あまり変なところ触らないでください!!」

「絢瀬亜里沙です!!あっ、そ、そこは……!!」

 

 

 おいおい母さん2人のどこ触ってんだよ……俺にも触らせろって!!その2人の身体なんて早々触れるものじゃねぇんだからさぁ!!だってほら、恋人同士でもないのに恐れ多いじゃん?もしかしてこんな根性なしだから最近ツッコミキャラになっているのか!?

 

 

 そして母さんは見境なく次のメンバーへと突撃し、モフモフしていく。

 

 

「おぉう!!赤毛とツインテールとはこれまた個性的な!!お名前はなんていうのかな?な?」

「に、西木野真姫です!!ちょ、く、苦しい!!」

「矢澤にこです!!ちょ、急にそんな頬っぺをつつかれたら……!!」

 

 

 普段は強気の真姫とにこも、母さんの前ではタジタジだな。この2人、変にプライドが高くて自分の調子を乱されることに嫌悪感を示すタイプだから、母さんのこと軽くトラウマになりそう。

 

 

 まだまだ母さんの快進撃は止まらない。止まって欲しいが……。

 

 

「おおぉ!!これまたお人形さんみたいな子と子猫みたいな子だぁ~♪お名前は?」

「こ、小泉花陽ですぅ~!!あっ、全身ぷにぷにしないでくださぁ~い!!」

「ほ、星空凛です!!うにゃ~くすぐったいにゃ~!!」

 

 

 花陽も凛も小柄だから、完全に母さんの身体に全身包まれてるな。しかも花陽の頬や太もも、たまにおっぱいを指でツンツン啄いてるし、凛の頭は子猫をあやすようにナデナデと……。穂乃果たちの時もそうだったけど、初対面なのに抱きついただけでその子の身体の特徴を理解しそこを重点的に攻めるなんて、これぞ俺の母さんって感じだな。

 

 

 そして母さんの最後の餌食は……。

 

 

「おっ!なんというスタイルなんという肉付き!!μ'sにはこんな大人びた子たちもいたのかぁ~♪お名前は?」

「あ、絢瀬絵里です……こ、こんなに抱きつかれるなんて初めてかも」

「東條希です……あっ、あまり胸を弄られると!!」

「しょうがないじゃな~い!あなたたちが魅力的過ぎるのがいけないんだから!!」

 

 

 まあその理屈は分からなくもない。俺だって幾度となくみんなに手を出してきたし……よくよく考えれば、やっぱり俺って母さんの息子なんだなと思うよ。俺が女の子の匂いや身体の感触に敏感なのも、恐らく母さんの性格が遺伝したものなんだろう。

 

 

 そしてやっとこさ母さんは満足気な表情でμ'sのみんなから離れる。

 何もイヤラシいことをしている訳ではないのに、肌がツヤツヤしているのは何故なんだ……?逆にみんなはようやくホールド攻撃から解放されて、各々息遣いが荒くなってるけど。なんかエロいな……。

 

 

「もうそのくらいにしておけよ。今日もみんな練習で疲れてんだ、休ませてやれ」

「おぉそっかそっか。ゴメンねみんなぁ~」

「い、いえ、穂乃果は元気が取り柄ですから、まだまだ暴れられますよ!!」

「おっ!頼もしいねぇ~♪私はね、零くんや可愛い女の子たちが顔を赤くして悶える表情を見るのが大好きなんだよねぇ~♪だから穂乃果ちゃん、私の相手、してくれる?」

「へ?い、いやぁ~そ、それは……」

 

 

 穂乃果の奴、母さんがガチで謝ってると思ったな。それで自ら墓穴を掘ってしまったと……。母さんは秋葉や楓を"あんな風"にした元凶だぞ、情けを掛けるだけ無駄ってもんだ。俺が秋葉の策略にハマっても、助けずに大笑いするような人だからな……。

 

 これが母さんの第二の特徴。人の不幸は蜜の味。

 

 

 すると床にペタリと座り込んでいた花陽が、まだ息が乱れながらも口を開いた。

 

 

「あ、あのぉ~……」

「およ?どうしたの花陽ちゃん?またモフモフされたいのかな~?」

「ち、違います!!えぇ~と、どこかで見たことあると思ったのですが、もしかして……テレビとかに出てます?」

「それそれ!にこも同じこと思ってたのよ!それで、どうなんですか?」

「いやぁ~バレちゃったら仕方ない!隠してもなかったんだけどね」

「あれ、知らないか?"藤峰詩織(ふじみねしおり)"って、女優。それ母さんだから」

「知ってます!!海外でも活躍する超大物女優ですよね!?――――――って」

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「じょ、女優ぅーーーーーー!?!?」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

「わぉ!いい反応!!」

 

 

 

 

 もう今日だけで何回驚いてんだろうな、穂乃果たち……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 

 

 




 お母様、すごく子供っぽくなった(笑)


 今回は神崎兄妹のお母様襲来編でした!
 『新日常』を計画当初から出そう出そうとは思っていたのですが、あまりいい機会がなく、話もあまり思いつかなかったのでずっと保留にしてたんですよね。今回、本編が"ラブライブ!"直前という時系列のため、ようやく話の構想を練ることができたって感じです。

 "詩織"という名前は完全にフィーリングで、清純で清楚っぽいからという理由だけで名付けました。本編を見てもらったら分かる通り、実際は秋葉や楓と同じくドス黒い人間ですが(笑)
 ちなみに"秋葉"という名前は大人っぽい美人イメージ、"楓"という名前は子供っぽい可愛いイメージで名付けたりしています。

 "零"はμ'sの0人目という意味……というのは完全に後付けで、どの小説の主人公とも被らない名前でかつ、私がカッコいいと思う名前にしただけです(笑)


 次回は今回の続きからです。
 本当は1話に収めるつもりだったのですが、詩織さんの暴走を書いていたら楽しくなっちゃって!秋葉や楓を書いている時も全く同じ現象が起きます(笑)


 先日、ハーメルンのラブライブ!小説の作家様たちが執筆してくださった『ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 Anthology~』が完結しました!
あちらの小説ではこの小説では見られない個性的なお話ばかりなので、まだ見てないよという方は是非覗いてみてください!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

対μ's用決戦部隊、通称モフリスト

 今回は、前回に引き続き零君や楓の母親である詩織さん回です。
 詩織さんとμ'sメンバーの掛け合いをメインにして、神崎家族の設定について掘り下げる回でもあります。


 それでは前回に引き続き、大波乱のお母様編をどうぞ!(笑)


 

 前回のあらすじ!!

 俺たち神崎兄妹の母親である"神崎詩織(かんざきしおり)"が帰還した。

 μ'sとは初対面だというのに、母さんはその天真爛漫な性格が揺らぐことはなく、見事μ's全員をもっふもふ地獄に陥れた。もうこの時点で疲れきっているμ'sだが、こんなもので母さんに驚いていてはまだ早い。それは――――――

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「じょ、女優ぅーーーーーー!?!?」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 楓を除くμ's全員が一斉に声を上げる。

 コイツらがいくらスクールアイドルのアマチュアだと言ってもアイドルはアイドル、テレビに出ている有名なアイドルや女優くらいは把握しているだろう。だから突然目の前に本物の女優がいたとなれば、驚くのも無理はない。母さんの社交的な性格、すれ違う人が思わず振り返る美貌、世界の女性が羨むスタイルは、女優が故だったという訳だ。

 

 

「ふ、藤峰詩織(ふじみねしおり)って、に、にこが尊敬する女優だったんだけど、まさか零たちのお母さんだっただなんて……えっ?えぇっ!?さ、さささサインを!!」

「わ、私からお願いします!!『花陽ちゃんへ』と書いて頂けると嬉しいです!!」

「おぉ~!2人共さっきと全然キャラが違うねぇ~」

「凛はこっちのかよちんも好きだにゃ~♪」

 

 

 モノホンの女優が目の前に現れて、さっきとは明らかに目の色が変わったにこと花陽。

 つうか一目見た時は全然気が付かなかったのかコイツら。まぁ世界で活躍する大女優が、まさか彼氏の母親だとは普通思わないもんな。しかも自己紹介をしながら抱きつかれてたから、母さんの顔をしっかり確認する暇はなかっただろうし。

 

 

 すると俺の隣にいた絵里がジト目で話し掛けてきた。

 

 

「それで?どうして今まで教えてくれなかったのよ。あなたのお母様が海外にいること自体この前初めて知ったのに……」

「いや聞かれなかったし。それに自分の親の職業の話とかするか普通?穂乃果の家みたいに店を構えてるなら話は別だけどさ」

「でも私たちはスクールアイドルをやっている訳だし、教えてくれてもよかったんじゃない?」

「話したら話したでほら、ああなるから」

「え……?」

 

 

 俺は現在絶賛暴走中のにこと花陽に顔を向ける。

 すると絵里や俺たちの会話を聞いていたμ'sの面々は、苦笑しながら納得した。この2人がアイドルや女優のことで暴走状態になると、最悪練習に手が付かなくなってしまう可能性があるからな。

 

 

「そういえばさっき詩織さんに抱きつかれたわよね!?この服、もう洗えないわ!!」

「だったらいっそのこと、この服にサインをしてもらうというのはどう!?」

「なるほど、そうすれば必然的に洗うことはできなくなる。ナイスよ花陽!!」

「おい、戻ってこいお前ら……」

 

 

 やべぇコイツら、目の焦点が合ってねぇ……もう完全に錯乱してんじゃねぇか!!

 でも母さんのおかげで2人の士気が上がるならそれに越したことはないか。特に心配性の花陽が積極的になってくれればそれはそれで。

 

 全く関係ない話だけど、最近花陽の機嫌がいいのは俺の気のせい?もしかして、また食べ過ぎたけどダイエットが成功したからやったぜ!!みたいな?どんなダイエットをしたのだろうか。

 

 

「おーおーこんなに可愛い子の尊敬の的になるなんて、私は嬉しいよ!!ほら2人共、もっとギュってしてあげるね♪」

「ほ、本当ですか!?この私なんかが詩織さんに、恐れ多いです……!!」

「ちょ、ちょっと待ってもらっていいですか!?お気に入りの服に変えてくるので!!」

「お前らさっき迷惑がってなかったっけ!?」

 

 

 母さんとのファーストコンタクトハグの時にはあれだけ苦しそうな顔して母さんの身体に埋もれてたのに、女優と知った瞬間手のひら返しかよ……。それにこの2人、規模は違うけど自分も母さんと同じ立場だってこと知ってんのかな。去年"ラブライブ!"を優勝したチームのメンバーとして、割と有名なんだけど。

 

 

「なるほど、そういうことですか……」

「なんだよ、海未。急に納得して」

「詩織さんの性格と零の性格を照らし合わせてみたら、かなり一致するんですよね。抱きつき癖は別としても、匂いに敏感だったり、勝手に胸や太ももを触ったり、私たちの表情を見てニヤニヤして楽しむその陰険さ、可愛い女の子なら誰彼構わず手を出す犯罪者予備軍、それから――――」

「ちょっと待ってくれまだあんのかよ!?さっきからいいところ1つもねぇじゃん!?」

「詩織さんのいいところをまだ見つけられていないので、それは仕方ないですよ。良くも悪くも積極的とも捉えられますね」

「あの~、それって褒めてる……?」

 

 

 確かに母さんの性格のほとんどは俺、秋葉、楓の誰かに分配されているか全員に継承されている。

 セクハラ体質は俺に、性的感情の強さは俺と楓に、自分勝手過ぎるところは秋葉に、誰かを貶めてあざ笑う陰険な性格は全員に……などなど。うん、やっぱりいいところがない!!

 

 

「でも女優さんってことは、それくらい演技も素晴らしいんやろうなぁ」

「あぁ。高校時代から演劇部で、しかも世界に注目されるくらいの演技力だったから。女優をやる前はアイドルもやってたし、ダンスや歌唱力も一級品だよ」

「へぇ~、じゃあ零君や楓ちゃんのダンスや歌の上手さは詩織さん譲りやったってことやね」

「そうかもな。特に楓を見ているとそう思うよ」

「咄嗟の演技力や1つのことに集中すると周りが見えなくなるほど熱中するのも、詩織さんと全く同じで面白いやん♪」

「そんなに似てるかぁ俺たち?」

「似てる似てる♪」

 

 

 1年以上の俺と付き合いのある希がそういうのだからそうなんだろう。

 でも俺は秋葉や楓とだけは一緒にされたくねぇぞ、特に秋葉とは!俺ってそこまで性悪か!?確かに今まで悪いこともした、同時にいいこともした。だから邪悪さ99.9%で固められている秋葉となんて絶対一緒にされたくないね!!

 

 

 ちなみに神崎兄妹全員が聡明なのは父さん譲りだったりもする。特に秋葉がそのいい例なのだが、まぁその話はまたいずれやるとしよう。

 

 

「それで母さん。どうして家にいるんだよ?帰省は明日だったはずだろ」

「そんなの、零くんたちの驚く顔が見たいからに決まってるじゃない♪」

「ただそれだけのためにわざわざ嘘の日程を教えて、飛行機の時間も変えたってのかよ……」

「何言ってるの!!零くんたちが驚く可愛い表情が見られるなら、地球の裏側どころか地球外からも飛んできちゃうよ♪」

 

 

 やはり神崎家の女性陣は地球外生命体だったか……ならば可愛い楓以外を即座に別の惑星へ追放しなければなるまい。はっきり言って秋葉だけでも地球を混沌に陥れることができそうなのに、そこに母さんが加わりでもしたらもう……秋葉が帰ってくる明日が心配だ。もうこの時点でツッコミ疲れてんだよなぁ。

 

 

「可愛い女の子で思い出した!そう言えばμ'sのみんなって、零くんの彼女さんなんだよね?ね?」

「そうですよ!穂乃果たちみ~んなで零君と付き合ってるんです!」

「わおっ!なんだよ零くんハーレムかよぉ~。毎晩女の子を取っ替え引っ変え抱いてるんじゃないのぉ~?」

「してねぇよ!!」

 

 

 そんな夢のような生活ができたら人生どれだけ勝ち組だと思ってんだ。それは俺の夢であって、今はその夢のために穂乃果たちと親密なお付き合いをしている最中なんだよ。同棲生活中に何度かみんなと一緒に寝たことはあったのだが、母さんにこの話をすると100%弄られるから絶対に言わねぇ!

 

 

 それにしても女の子を取っ替え引っ変え抱ける夢のハーレム生活かぁ~。

 俺はどちらかといえば女の子に身体を求めるより、女の子から俺の身体を求められる方が好きなんだよな。いずれ穂乃果たち全員がそういう性格になって、毎日代わる代わる身体を重ねることができるのなら…………な、なんて素晴らしい日常なんだ!!

 

 俺が黙っていても、みんなから俺の身体を求めて自分から脱いでくれるそんな生活……よし、夢が段々具体化されてきたぞ。穂乃果やことり、にこはもう俺の色に染まってるし、あとはどんどん他のメンバーにも侵食させていけば……くぅ~!ドス黒い妄想をするってやっぱ気持ちいいな!!

 

 

 あっ……だから海未と希に俺は母さんと同類だって言われるのか。

 もういいや、認めよ。

 

 

「取っ替え引っ変えなんてしなくても、ことりは毎日抱いてくれたっていいんだよ零くん♪」

「ま、マジで!?じゃあ俺のベッドの抱き枕になってくれ」

「零くんのためなら、抱き枕じゃなくてオ○ホにしてくれたっていいんだよ♪ことり、一切抵抗しないから……」

「お、オ○ホだと……!?女の子が自ら俺を求めてくれるこのシチュエーションは、まさに俺の夢そのもの!!」

「それなら穂乃果も零君と毎日一緒に寝るもん!なんなら今から家族になるまであるもんね!!」

「ちょっと待ってください。お兄ちゃんの妹である私を差し置いて、ベッドを共にするやら家族なるなんてよく言えましたね……お兄ちゃんの貞操はそう簡単には渡しませんよ!!」

「じゃあ楓ちゃんも穂乃果たちと一緒に零君の貞操を奪えばいんだよ♪」

「あっ、それならいいかも」

「心変わりはえぇな!?」

 

 

 だが俺の思った以上に夢の実現へと近付いているのは確かだ。あとは夢の障害となるメンバーが数人いるのだが、それは俺に従順な彼女たちを利用すれば俺色に染め上げることはできる。

 穂乃果とことりを使って海未を、楓を使って雪穂を、にこと希を使って絵里を、2年生組の真姫は……花陽に弱いから花陽をけしかければいっか。

 

 

 あれ?そういやにこはことりたちの騒ぎに参戦しないのか……?

 あぁそっか、花陽と一緒になって母さんに見とれてるんだった。突然ながらも憧れの女優に会えたんだ、しばらくはその幸福感に浸らせてやろう。

 

 

「へぇ~零くん凄いねぇ~!こんなにたくさんの恋人を同時に愛せるなんて」

「認めてるんですね。零と私たちのこと」

「なぁに?真姫ちゃんは零くんと自分の仲を私に認めてもらえているか心配だった?全く、クールに見えて考えてることは可愛いんだから♪」

「そ、そんなのじゃないです!!ただ、男1人に女複数人なんておかしいでしょ普通」

「いいんじゃない♪」

「か、軽いですね……」

「だって零くんがみんなと結婚するってことは、私が家に帰ったら可愛い女の子たちが出迎えてくれるってことじゃない!!そんな夢みたいなシチュエーションが実現しようとしてるんだよ?応援する意外なんて有り得ないって!!」

「はぁ~……やっぱり零のお母さんだわこの人」

 

 

 もういいよ認めればいんだろ認めるよ!!俺は母さんの性格をふんだんに受け継いだ息子だってことをな!!

 

 

 どうやら母さんには事前に秋葉から話を通してあったみたい(俺の許可なく勝手に)で、先日母さんの口から『零くんって、彼女いっぱいいるんでしょ?』と言われた時は心底驚いた。だが母さんの性格を考えるに、反対されることはないと思ってたけど。

 

 しかし俺のけじめとして、母さんや父さんにはまた俺の口から直接話さなければならない。9股を認めてもらっているとはいえ、普通でないことをやってる訳だし。

 

 

「あのぉ~詩織さん、なんか勘違いしてません?」

「ん?どうした雪穂ちゃん?私が勘違い?」

「はい。私や亜里沙、楓は零君の恋人じゃないですよ」

「えぇ!?私は秋葉ちゃんから、μ's全員が零君の彼女だって聞いてたよ!?」

「アイツ、また話をややこしくしやがって……」

 

 

 この瞬間、秋葉の憎たらしい笑顔が頭に浮かびやがった。恐らく今頃アイツは、俺たちと母さんの話がすれ違っているところを想像して笑っているのだろう。性悪、陰湿、陰険etc……どの言葉を当てはめても合致する。やっぱ母さんのマイナス部分を多く引き継いでいるのは秋葉だな、非常に迷惑だけども。

 

 

「へぇ~意外。零くんなら既に手を出してるのかと思った。亜里沙ちゃんなんて、さっきからもう何回も零くんの顔見てるもんね♪」

「わわっ!?私、そんなに零くんの顔見てましたか!?」

「うん!だから付き合ってるのかと思っちゃったよ」

「ぜ、全然気付かなかったです……か、顔が熱くなってきちゃいました!!」

「おーおー可愛いね亜里沙ちゃん♪」

 

 

 さっきからやたら視線を感じていたのだが、全部亜里沙の仕業だったのか。これだけ女の子たちがいっぱいいると、もう誰に見られてるのか全然分かんねぇ。ほら俺ってカッコいいからさ、自然と女の子たちの視線も集まっちゃう訳よ。

 

 

 でも亜里沙は穂乃果みたいに感情が表情に出やすいから、本当に考えてることが分かりやすい。特に恋愛話や猥談になると決まって顔だけじゃなく耳まで赤くなるし。今だって恥ずかしそうにわなわなと震えている。本当に、可愛い奴め!

 

 

「それじゃあ雪穂ちゃんも零君と付き合ってないの?雪穂ちゃん堅物そうだもんねぇ~」

「お姉ちゃんたちに比べれば、零君とはそこまで長い付き合いじゃないですし。まだ恋人として付き合う仲じゃないというか……」

「えっ?"まだ"??へぇ~"まだ"ねぇ~♪」

「へっ!?そ、それは言葉の綾ですよ!!」

「なるほどねぇ~、言葉の綾に出てしまうくらい零君が好きってことなんだよねぇ~♪なるほどなるほど」

「うぅ~~~!!!!」

 

 

 あぁ……雪穂が絶賛悪魔モード突入中の母さんに、ここぞとばかりに弄られてる。これで母さんと秋葉がほぼ同格だってことが証明できただろ?ただ、可愛い女の子の恥ずかしがる姿が見たいって気持ちは俺も分からなくはない。でも雪穂の奴、このことで一生母さんに弄られ続けるだろうな。合掌……。

 

 

 そして雪穂は顔を沸騰させて母さんに対抗するも、もちろん敵うはずもなく、最終的には羞恥心の爆発により頭から湯気を出して気絶してしまった。また合掌……。

 

 

「一番意外なのは楓ちゃんだよ。お兄ちゃん大好きっ子の楓ちゃんのことだから、てっきりもう零くんに告白して恋人になってるのかと思った」

「それが意外とお兄ちゃんが堅物でね、中々エッチまで持ち込むことができないんだよ。こっちはいつでも準備万端なのにさ」

「そういう時はね、もう無理矢理襲っちゃいなさい!零くん変に真面目だから、一度既成事実を作ってしまえば一生面倒見てくれるから。それに一度ハメちゃえば、変態の零君ならすぐ楓ちゃんのアソコの虜になっちゃうよ」

「そうだよね!!私のアソコはお兄ちゃん専用で、まだ一度も使ってないキツマンだから期待してていいよお兄ちゃん♪締まりのよさならバッチリ!!」

「お前ら親子でなんて話してんだ!?」

 

 

 それにいくら俺とμ'sの面々しかいないからって、"キツマン"は流石にNGワードだろ!!ちなみに意味が分からない人はそのまま純粋なままでいてくれ。いちいち説明はしない。

 

 

 それにしてもこの親子、息子や兄を妄想の種にして話をするのは百歩譲って許そう。だが俺の目の前でする話じゃねぇだろ!!もう今晩から気持ちよく寝られそうにないんだが。代わりに楓と交わることで別のところが気持ちよくなったりするかもしれないけどさ……。

 

 

 でも正直な話、楓が騎乗位で起こしてくれるんだったら……うん、アリかもしれない。しれないじゃない、アリだ。

 寝坊助な兄を起こすために、兄の身体の上に股がって必死に腰を振る妹。そして何故か妹は全裸になっていて、腰を振るたびに2つの果実が大きく揺れると……よしっ、今日のオカズは妹モノに決定だな。

 

 

 そしてどんな妹モノの動画や薄い本を見ても、妹キャラの顔が楓に脳内変換されるという末期状態に陥っている俺がいたりする……。まだ稀にだけど一緒に風呂入ったりするから、その影響か。

 

 

「オホン!!もうその話はそれくらいにしましょう!!」

「ナイスだ海未、流石μ'sのブレーキ」

「ブレーキって、もっと美しい表現を考えてもらいたかったのですが、この際はもういいです。もう夕方もいい時間になってきたので、夕食にしませんか?」

「さんせ~い!!凛もうお腹ペコペコだにゃ~。零くんたちのことに関してはお腹いっぱいだけどね」

「確かにこの短時間で神崎家の驚異がよく伝わった気がする。伝わって嬉しいかどうかは別だけども」

「でも凛は零くんのお母さんと話すことができて楽しかったよ!」

「おっ、嬉しいこと言ってくれるねぇ凛ちゃんは!!代わりにもっふもふにしてあげるね♪」

「そ、それは勘弁願いたいというか――――って、にゃああああああああああああああああ!!!!」

「もっふもふ~♪」

 

 

 だから母さんをおだてるとこうなるんだって。この凛の愚行が教訓となって、μ's全員の身に染みただろう。神崎家の女性陣は恐ろしい……と。

 

 

 

 

 ちなみにこのあとはみんなで一緒に晩飯を食ったり、母さんにμ'sのことについて話をしたり、またモフモフされたり……とりあえず"ラブライブ!"直前で気を張っていた穂乃果たちの緊張が、少しは解れたかな?

 

 

 そして明日は秋葉が家に帰ってくる日だ。俺、母さん、秋葉、楓の4人が久々に集まる日でもある。

 

 ツッコミのスキルを磨いておかないと死んじまいそうだな、俺……。

 




 モフリストって響きがいいから勝手に使わせてもらった。(本編に出すとは言ってない)


 今回は詩織さん回第二弾でした。
 前書きでも言った通り、今回のコンセプトは詩織さんとμ'sメンバーの掛け合いがメインです。そして私の小説では初である零君たち神崎兄妹についての設定も深く掘り下げました。まだお父様が出てないので、完全に設定は放出しきってないですがね。
それにしても『日常』『非日常』『新日常』合計227話も連載しているのにも関わらず、主人公家族の設定を出すのが今になったというのもすごい話です(笑)


 次回は零君が本編の最後で言っていた通り、家族4人での話となります。それゆえ原作キャラは登場しないのですが、合計227を掛けて育ててきたオリキャラでも読者様を楽しませるように頑張るので、是非ご期待を!!


 先日、ハーメルンのラブライブ!小説の作家様たちが執筆してくださった『ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 Anthology~』が完結しました!
あちらの小説ではこの小説では見られない個性的なお話ばかりなので、まだ見てないよという方は是非覗いてみてください!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia













実は前回から密かに、『新日常』の主軸となる物語が動き出していたり……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

家族の食卓

 今回も詩織さん襲来回第三弾。そして詩織さん編は一旦今回で終わりです。
 ちなみに今回は神崎家族がメインとなっているので、原作キャラ未登場なのはご了承を。


 

 μ'sと母さんが会合した翌日、俺と楓は泊りがけで家に来ていた穂乃果たちと別れ、同棲生活終了と同様静かになった家に寂しさを感じて――――――

 

 

 は、いなかった。

 

 

「うぅ~!!μ'sのみんながいなくなっちゃったよぉ~!!もう毎日取っ替え引っ変えもふもふできなくちゃっちゃったよぉ~!!」

 

 

 こんな感じで、家は寂しくなるどころか余計に騒がしさを増していた。

 母さんがこのような性格なのは重々承知していたのだが、久しぶりに会ってみると引くぐらいに騒がしいのがよく分かる。

 

 

「いつまで嘆いてんだよ。とりあえず落ち着けって」

「これが落ち着いていられますか!!もう明日にはアメリカに戻らないといけないんだよ!?そうしたらまたいつみんなに会えるのか……」

「今度は定期的に練習風景の動画とか送ってやるから」

「そんなことをしたら余計に会いたくなっちゃうでしょ!?」

「じゃあどうすりゃいいって言うんだよ……」

 

 

 黙ってたら黙ってたで『どうして連絡して来ないの!?お母さん泣いちゃうよ!?』って文句言ってくるし、連絡したらしたで『零くんと別れたくないよぉ~!!』って嘆くし、俺が生まれて17年、未だにこの人の扱いはよく分からん。

 

 楓は今晩飯を作ってる最中だし、このクソ面倒モードに入った母さんを俺1人で相手にしないといけないのか……。

 

 

 

 

 すると、玄関が開く音が聞こえた。

 そしてリビングにまで聞こえる甲高い声が響く。

 

 

「みんなーー!!秋葉お姉ちゃんが帰ってきたよーー!!」

 

 

 あぁ、遂にやって来てしまったか。そして揃ってしまうのか神崎一家の女性陣が。

 母さんと秋葉は言わずもがな、楓も普段相当危ない(規制的な意味で)キャラなのだが、前者2人と比べればまだ可愛いもの。もう実妹で癒されるしかない。

 

 

「あっ、秋葉ちゃんが帰ってきた!お帰りーーーーーー!!」

「か、母さん!?」

 

 

 さっきまで泣き崩れていた母さんが、リビングのドアを殴り開けて玄関の方へ駆け出して行った。

 相変わらずテンションがコロコロ変わりやがる。だから周りから子供っぽいとか言われんだよ。

 

 

 

 

 リビングから出て玄関を覗いてみると、今まさに母さんが秋葉に飛びつこうとしている最中だった。

 

 

「秋葉ちゃーーーん!久しぶりーーー!!」

「お帰りなさいお母さーーーん!!」

「いやぁ秋葉ちゃんもっふもふ~♪」

「もうお母さんくすぐったいよ~♪でもこの感じ、懐かしいなぁ♪」

 

 

 大人の女性同士のマジなハグを見てしまった……この2人が会うといつもこんな感じだけど。そして多分、母さんのもふもふ攻撃に耐えることができるのは秋葉だけだろう。やはりこの2人は似た者同士共感し合えるんだろうな。

 

 

「零君もただいま♪」

「おう、お帰り。昨日帰ってこればμ'sのみんなに会えたのにな」

「だってしょうがないじゃん仕事だったんだからぁ~。あーあ、穂乃果ちゃんたちがお母さんに苦しめられる姿、見たかったなぁ~」

「その分ちゃんと私が堪能したから大丈夫大丈夫♪」

「もうお母さんずるい!!」

 

 

 似てる!!やっぱりこの2人、性格が激似だ!!

 しかもいいところが似ているならまだしも、性悪な部分だけが似ているってどういうことだよ。まさにこの親にしてこの子ありだな……。

 

 

 

 

 しばらく母さんと秋葉の謎の包容合戦を苦い顔で眺めながら時間を潰していると、リビングから楓がひょっこり顔を出した。

 

 

「もうっ!何してるのみんな!!晩御飯できたよ!!」

「あっ、楓ちゃんただいま~♪」

「お、お帰り……」

「おや~?もしかして久しぶりのお姉ちゃんに緊張してる?」

「してないから。玄関先でずっと抱き合っている2人に引いてるだけだから」

「相変わらずお姉ちゃんには辛辣な態度だね、楓ちゃんは♪」

「なんで嬉しそうなの……?」

 

 

 あれだけ学院で暴れている楓でも、こうして秋葉や母さんの前ではただの常識人ツッコミキャラにならざるを得ない。楓がまともなのか、それとも秋葉と母さんがブッ飛んでいるのか……これは確実に後者だ。

 

 

「お~いい匂い!帰国する時も、楓ちゃんの料理が久しぶりに食べられるからワクワクしてたんだよね♪」

「私も最近研究室で質素な物ばかり食べてから、ようやくまともな食事にありつけるよぉ~」

「2人共仕事や研究で忙しいのは分かるけど、食事くらいはちゃんと取ってよね。私やお兄ちゃんに迷惑掛けないで欲しいから」

「「分かってる分かってる♪」」

「ホントにぃ~……?」

 

 

 母さんと秋葉は家へ帰ってくるたびに毎回楓の料理を楽しみにしているらしい。

 正直毎日食っている俺としてはもはや胃袋を完全に掴まれて特別感はしないのだが、2人曰く楓の料理は"絶品"だとか。母さんなんて海外で活躍する女優なんだから美味い飯なんてたらふく食えるはずなのに、世界一の料理は楓の料理と言い張るくらいだ。

 

 

 

 

 そして俺たちは秋葉の帰宅で再び騒ぎ立てながらも、ようやく食卓につくこととなった。

 何気に家族で食卓を囲むのは久しぶりだから、俺もちょっぴり嬉しかったり。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「それで?μ'sの活動は順調?」

「すげぇ唐突だな……」

 

 

 俺、右隣に楓、俺の前に母さん、その左隣に秋葉という席順で食卓を囲んで飯をつついていたら、突然秋葉が俺と楓に質問を投げかけてきた。

 

 俺たちの目の前にはそれぞれ、デミグラスソースで身を包んだハンバーグにクルトン入りのコーンスープ、海苔を塗したツナパスタ、ほっかほかのライスが置かれており、大皿には色とりどりのサラダの盛り合わせがテーブルの真ん中を支配していた。ちなみにこれは楓の王道メニューであり、俺が一番好きなメニューでもある。

 

 俺はハンバーグ:コーンスープ:ツナパスタ:ライス:サラダ=2:2:2:2:2の黄金比を維持しながら食べる傍らで、秋葉の質問に答える。

 

 

「"ラブライブ!"の直前なのに、順調じゃなかったらダメだろ。つまり準備OKってことだ」

「最近は練習がない日もあるし、完全に準備期間だよね。ていうか、お姉ちゃんμ'sの顧問なのに何も知らないの?」

「あはは、最近忙しいからさぁ~ゴメンゴメン♪」

「謝る気あんのかお前……」

 

 

 牛肉の旨みが最大限に引き出された濃厚ハンバーグが美味すぎて黄金比を崩されそうになりながら、秋葉の言葉に呆れ口調で応対する。

 

 そういや9月に入ってから秋葉が俺たちの練習を見に来たことってあったっけ?いや、ないな。まあ初めから顧問の名を借りる名目だった訳だし、別にいなくてもいいっちゃいいんだけど。

 

 

「あーあ、私もμ'sが"ラブライブ!"で優勝する姿を見てみたかったなぁ~」

「安心してお母さん!この私がいる限り、絶対にμ'sの晴れ姿を海外に届けてみせるから!!動画でね♪」

「くっそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!私は間近で見たいんだよぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「お母さんの分まで顧問の私が間近で見てあげるから♪」

「ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおお!!零くーーーん!2人が私をイジメるよ~!!」

「知るかよ……」

 

 

 俺はフォークでツナパスタを巻き取りながら、珍しく弄られる母さんに辛辣な言葉を投げつけた。

 どうせ慰めたところで調子に乗るだけだ、下手に触れない方がいい。それに楓はここぞとばかりに母さんに復讐して弄り倒そうとしているし、ここは俺も憂さ晴らしを兼ねて放っておこう。

 

 

「お母さんは置いといて、零君」

「なんだよ」

「もう何人とエッチしたの?」

「ブッ!!お、お前食事中にいきなり何言い出すんだ!?」

「だってこうして会った時にしか聞けないじゃない。電話だと零君の恥ずかしがる顔を見られないしね♪」

「お前なぁ……って、え゛っ!?」

 

 

 相変わらず陰険な秋葉に呆れていると、隣の席から物凄い邪気が漂っているのを感じ取ってしまった。

 恐る恐るそちらへ目を向けてみると、楓が鬼のような形相で俺の顔を凝視していた。自分で作った自慢のハンバーグをナイフでザクザクと切り裂き、その先端からポタポタとデミグラソースが垂れている。

 

 楓は何も語らない。でもその雰囲気だけで"お兄ちゃんの貞操は実妹である私のもの"という狂気に満ちあふれた信念がひしひしと伝わってくる。このままコイツを見続けていると、いつかナイフが飛んできそうなので俺は再び食事へと戻った。

 

 楓自身、俺たちの交際を認めていない訳ではないのだが、やはり俺と穂乃果たちが不純異性交遊をすることには反対らしい。当たり前のことだが、コイツの場合理由が理由だからな……。

 

 

「し、してねぇよ……」

「嘘ね」

「へ……?」

「だって南先生が言ってたもん、最近ことりが零君とエッチをしてたんだって。ことりちゃんがそう言うのなら間違いなよね♪」

「くそアイツ何言ってやがるんだ……はぁ~ちょっとだけ、ちょっとだけだよ」

「フンッ!!」

「うおっ!?」

 

 

 楓はナイフをハンバーグに思いっきり突き刺した。普段から若干ツリ目がちな目が更にツリ上がる。女の嫉妬とは恐ろしい……もう流石にあんな事態は経験したくないが。

 でもことりの言った通り事実なんだから仕方ないだろ……。夏休みにも穂乃果やことり、にこと色々やったしな。もちろん本番は責任が取れる年齢になるまでだからまだだけど……。

 

 

「お母さんが知らない間に、零くんたちそんな関係になってたんだねぇ~。もしかして、もうすぐ孫の顔が見れちゃったり?この歳でもうおばあちゃんかぁ~……」

「いちいち気が早いって!!」

「そうそう、お兄ちゃんの子供を一番初めに身籠るのは私だから……フフ♪」

「お前そんなこと考えてたのかよ……」

 

 

 俺さえ話題に絡まなかったら楓も割と常識人のはずなのに、"お兄ちゃん"が絡むだけで暴走ヤンデレ天使楓ちゃんに様変わり。まだ目の前の2人よりは全然可愛げがあるだけマシだけど……。

 

 

「楓ちゃんもそうだけどさ、雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんとはどうなの?」

「どうなのって言われても、関係は良好だよ」

「ふ~ん、手を出す準備は着々と進んでいる訳ね」

「なんか悪意のある言い方だな……」

「もうこのまま彼女にしちゃえば?9人もいるんだったら12人いても変わらないでしょ!それだけ可愛い女の子がいれば、私が帰国する楽しみも増えるし」

「結局自分のことじゃねぇか!!」

 

 

 俺のことを考えてくれているのは分かるけど、ちゃっかり自分の利益になるように誘導してるもんなぁ。その辺、秋葉と同じく抜かりがない。まあ応援してくれるだけありがたいんだけどね。

 

 

 

 

 そして俺たちはその後も、お互いの近況報告や他愛もない話しながら晩飯を食べ進めた。

 晩飯を食い終わってからもまた一波乱あり、折角母さんが帰ってきたんだから4人で一緒にお風呂に入ろうとか提案される始末。秋葉も楓もノリノリだったが、女の子好きの俺でも流石に楓以外と入る勇気はない。それ以前に恥ずかしいし。

 

 

 ――――とまあこんな感じで、家族の日常が騒がしく過ぎ去っていった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 真夜中。

 母さんたちは風呂から出たあとも馬鹿騒ぎしていたせいか、ベッドに入るとすぐにぐっすりと眠ってしまったようだ。数十分前まであれだけ賑やかだった我が家も、ようやく休息の時を迎えたように静まり返っていた。

 

 こうして毎回家の中が静かになると寂しい気持ちになる辺り、俺もワイワイ馬鹿騒ぎするのが好きなのかもしれない。自分ではうるさいのは苦手だと思ってんだけどな。なんだかんだ言って、久々に母さんや秋葉と一緒に食卓を囲めて嬉しかったし……それに楽しかった。今頃みんなはさっきまでの賑やかさが嘘のように、ベッドの中で静かに寝息を立てている頃だろう。

 

 

 

 

 ちなみにそんな俺はと言うと、星がよく見えるとμ's内で評判のベランダにいる。

 だが目的は天体観測ではなく、晩飯の時に母さんに言われたことを自分なりにだが考えをまとめていた。ベランダの手すりに両腕を置いてもたれ掛かり、ぼぉ~っと星空を眺めながら。

 

 

「雪穂に亜里沙、そして楓との関係か……」

 

 

 母さんからこの3人との関係を聞かれた時、ありきたりな言葉で誤魔化してしまった感じが否めなかった。あの時は母さんがボケの方向に走ってくれたから話題もそっちの方向へ逸れたけど、あのまま真面目に3人との関係に話題を突っ込まれたら……俺はなんて答えていたんだろうか?

 

 

 

 

 また、答えを先延ばしにしている。

 

 

 

 

 そのせいで穂乃果たちが"ああなって"しまったことは今でも忘れない忘れるはずもない。俺はあの出来事を今後一生の教訓として、アイツらと向き合っていくと心に決めているから。

 

 

 だが同棲生活で雪穂たち3人の悩みを解決したあと、3人と何か進展はあったか?俺から一歩でも彼女たちに踏み込んだか?

 

 同棲生活以降、俺は彼女たちから鈍感(穂乃果たちからはそう言われる)な俺でもアプローチを何回も受けている。それに昨日、雪穂と亜里沙が母さんに弄られていた時のあの態度を見てみるに、俺への好意は誰が見ても明らかだ。

 

 

 

 

 もしかしたら俺は、彼女たちの方から歩み寄ってくれることに甘えているのかもしれない。

 

 

 

 

 恐らく、いや確実に俺がこのまま黙っていても、彼女たちは俺にアプローチをし続けるだろう。俺はその流れに乗ってこちらからも好意を伝えることで、何もかもが丸く収まる。晴れて俺たちは結ばれて、それで見事に解決。誰も傷つかない、みんなが笑顔になれる。不利益なことなど一切ない。

 

 

 

 

 だけど、本当にそれでいいのか?

 

 

 

 

 すると突然、ベランダの扉が物静かな音を立てて開いた。

 今日は風など吹いてないから扉が勝手に音を立てる訳がない。ということは誰かがベランダに入ってきたのだろう。てっきりもうみんな寝ていると思ったのだが……。

 

 

 俺はそっと後ろを振り返る。そこにいたのは――――――

 

 

「母さん……」

「よっ、なにこんなところで黄昏てるの?」

「寝てたんじゃなかったのか」

「なんだかずっと騒いで興奮してたから眠れなくって。でも秋葉ちゃんと楓ちゃんはぐっすり寝てるよ。2人仲良く並んでね。なんだかんだ言って、仲のいい姉妹だよあの2人」

「そうだな。風呂も一緒に入ってたし」

 

 

 ベランダに入ってきたのは母さんだった。夜に馬鹿騒ぎして眠れない辺り、やっぱり子供っぽい。これでも世界に羽ばたく大物女優なんだけど、俺の前ではひたすら幼い姿しか見せないから実感沸かねぇんだよな。

 

 

 母さんは俺の右隣まで来ると、両手に持っていたマグカップの1つを俺の手元に置いた。

 秋の肌寒い夜に、ホットコーヒーの暖かさが伝わってくる。

 

 

 どこかで見たシチュエーションだと思ったら、そういや同棲生活の時に真姫と一緒に天体観測した時とほぼ同じだな。コーヒーを持ってくるのが俺じゃなくて母さんになっただけで。

 

 

「もう秋も本番なんだから、そんな薄着で外に出てると寒いでしょ」

「そうだけど、そっちの方が神経を集中しやすくなるからさ」

「そう。でもあまり煮詰めすぎは身体によくないよ。お母さん特製コーヒーをお飲みなさい」

「母さんのコーヒーってあまり飲んだことないな。まあ、頂きます」

 

 

 俺はほどよく温まったマグカップに口を付けて、母さん自慢のコーヒーを一口流し込む。

 

 

 

 ――――――って、こ、これって!?!?

 

 

「にがっ!!おいこれブラックじゃねぇか!!俺が黒のまま飲めねぇって知ってるだろ!!」

「いやぁ~まさかまだ克服してなかったとは♪」

「いや明らかに確信犯だろ!!」

「あはっ♪でもこれで心が軽くなったんじゃない?」

「……まあな」

 

 

 いつもは騒動の元凶となる母さんだが、こうして隣にいてくれると何故か心が落ち着く。自分の母親って、こういうものなのかもしれない。心の(わだかま)りを優しく包み込んで消し去ってくれる、そんな存在。

 

 

 そしてしばらくの間その暖かさに浸って心を落ち着けていると、母さんがいつになく真面目な口調で口を開いた。

 

 

「全部聞いたよ。秋葉ちゃんから」

「……具体的には?」

「去年、零くんと穂乃果ちゃんたち9人の間で起こった出来事。そして数ヶ月前、みんなで同棲生活をした理由……主にその2つかな」

「そうなのか。全くアイツ、ペラペラ喋りやがって」

「秋葉ちゃんも零くんたちのことが心配なんだよ。それだけあなたたちのことが大好きなんだね。大好きなモノにはとことん熱中する、それがあの子の性格だから」

「μ'sの顧問になる前もなった後も、何気に俺たちのことをしっかり見てたんだな、秋葉の奴」

「そうそう。大好きな人が困っているなら手を差し伸べる、秋葉ちゃんも零くんも全く同じだよ♪」

 

 

 そっか、俺が気付いてないだけでしっかりとそういうところも似てたのか。言われてみないと気付かないもんだな自分の身内のことって。それが分かる母さんはすげぇよ。

 

 

 それより、俺たちのいざこざが母さんの耳に入っていたとはな。話す手間が省けたというか、俺から話したかったというか……。

 

 

「雪穂ちゃん、亜里沙ちゃん、楓ちゃんのことでしょ?今悩んでたのは」

「え……?」

 

 

 母さんは俺の心を読み通しているのか?さっきから俺の考えていることが母さんにドカドカ的中されているんだが……これも母親がゆえってことなのか。読心術ではないけど元々母さんはそのようなことが得意だから、今更驚くことでもない。だがここまで見事に読まれると、どこか気恥かしさを感じてしまう。

 

 

「よく分かったな」

「晩御飯の時の返事が適当だったからね。そのことで悩んでいるのかなぁ~って思っただけだよ。たったそれだけ」

「敵わねぇよ、母さんには」

「そりゃあ母親ですから!」

 

 

 我が母親の渾身のドヤ顔を見て、この2日間で母さんのことが一番頼りになると思った瞬間が訪れた。まるで今までが茶番かのように思えてくるな。

 

 

 でも、何故か心が落ち着いてしまうんだよこれが。

 

 

「だけどこうして見ると、もう悩みはある程度吹っ切れてるみたいだね」

「あぁ、母さんが来てくれたおかげかもしれない」

「れ、零くんがデレた!?明日は大雪!?雹!?あられ!?」

「大袈裟過ぎんだろ」

 

 

 いつもは呆れ返って流すようにツッコミを入れてしまうのに、今は自分でも分かるほど嬉しそうにツッコミを入れていた。これも心の整理ができて落ち着いたからかもしれない。

 

 

「俺、今度は自分からアイツらに向き合うよ。雪穂、亜里沙、楓の3人に……」

「そう。私や秋葉ちゃんはいつでも応援してるから、手を差し伸べてあげることだってできるんだよ」

「あぁ、今日で母さんと秋葉が如何に俺たちの面倒を見てくれているのかがよく分かったよ」

「でしょ?」

「だけど」

「?」

 

 

 

 

「これは俺たちの問題なんだ。だから最後まで、俺たちの手できっちりとケリを付ける。母さんたちは手を出すなとは言わないけど、見守るだけにして欲しいんだ。俺と穂乃果たち、そして雪穂や亜里沙、楓との関係が一段落付く、その時まで。母さんたちに頼るのは本当の最終手段。俺たちは去年のあの事件や同棲生活の出来事を機に少し大人に成長したとは思うけど、まだまだ子供の域を抜け出せていない。だからどこかで知らず知らずの間に道を踏み外してしまう可能性もある。その時はもしかしたら頼るかもしれない。本当に本当の最終手段だけどさ」

 

 

 これは俺たちが自分たちで選んだ道なんだ。最後がどこか、ゴールなんてあるのかすら分からないけど、だったら穂乃果たちと一緒にゴールを模索すればいい。ゴールがないなら、一緒に手を取り合って歩いていけばいい。だが俺たちはまだまだ未熟、またどこかで道を違える可能性もあるだろう。もし修正不可能な事態に陥った場合は、助けを求めればいい。俺たちを応援してくれている人がいるってことは、絶対に忘れはしない。

 

 

 

 

「そっか。成長したね、零くんも。私が海外へ行く前よりずっと……」

「自分でもそう思うよ。それもμ'sと出会えたから……かな?」

「フフッ、本当にお似合いねあなたたち♪」

「その言葉、素直に受け取っておくよ」

 

 

 母さんが飾りのない言葉を言ってくれるなんて、それこそ俺がデレるより数十倍も珍しい。

 でもやっぱり、背中を後押ししてくれる存在というのは心強い。さっきも言ったけど、俺たち自身の問題を全部俺たちで抱え込む必要はないんだ。穂乃果たち、そして雪穂、亜里沙、楓を笑顔にできるのなら、母さんたちの力も存分に借りるさ。もちろん俺たちが全力を尽くすことが前提条件だけど。

 

 

 

「それじゃあ、私はそろそろ寝ようかな?」

「そっか……ありがとな」

「お礼を言われるほどでもないよ。私は零くんの母親なんだから♪それじゃあおやすみ」

「ああ、おやすみ」

 

 

 母さんはベランダのドアを静かに開けて家の中へと戻っていった。

 ふと星空を見上げてみると、さっきぼぉ~と眺めていた時よりも星たちがより輝いているように見えた。まるで俺の心を具現化しているかように……。

 

 

「よし、そうと決まったら早速行動しないとな」

 

 

 今まで雪穂たちの好意に甘え、彼女たちに対して受身の対応しかしていなかったけど、もうそんな"待ち"の体勢は絶対に作らない。これからは俺が攻める。もう二度と先延ばしにしないため、彼女たちに俺の今の想いをぶつける。

 

 

 彼女たちに伝えなければならない気持ちが、俺の中に確固として存在するから。

 

 

 

 

 そこで決意を胸に秘めて意気込んでいた俺は、手元に湯気がゆらゆらと揺れるマグカップが置いてあることに気が付いた。

 何故だかは知らない。だけどふと、一口だけで終わっていたブラックコーヒーに再び口を付けてみた。

 

 

 

 

「にっが……」

 

 

 

 

 やっぱり、ブラックは苦手だ。

 

 




 今回で詩織さん襲来回は終わりとなります。
 初めはギャグメインだと思っていた方も多かったでしょうが、本来の目的は『新日常』としての話を動かす先駆的な扱いだったのです(笑)
特に最近は雪穂、亜里沙、楓の恋愛についてはほったらかしだったので、ようやく話を動かすことができて私自身とても安心しています。『新日常』の主軸となっていたハーレム問題は既に秋葉との対決で解決しているので、あとはシスターズとの恋愛にどうケリを付けるのかが、『新日常』の大きな枠組みとなってきます。もちろんいつも通り馬鹿騒ぎな回もたくさん執筆していく予定ですがね(笑)


 次回からは3連続でシスターズ回です。雪穂、亜里沙、楓の3人の個人回を1回ずつ計3回+αで一旦この章は終了です。つまりしばらく真面目な回が続く模様。それが朗報か悲報かはその人次第!?


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

高坂雪穂の告白:ずっと、この手を繋いで

 今回から3回連続でシスターズの個人回となります。
 まずトップバッターは雪穂から!他の2人と比べると素直になれない彼女が、彼にどう想いを伝えるのか?

ちなみにこの話は、

『非日常』第四章 第一話‐妹たち‐
『新日常』第44話 私、スクールアイドルをやめます
『新日常』第77話 ラブライブクエスト5~究極の選択

の内容を思い出しておくとより楽しめると思います。


※ここから個人回は雪穂、亜里沙、楓のそれぞれの視点でお送りします。


 "ラブライブ!"の開催まであと3日となった。

 もう間近にまで迫っている本番にμ'sのメンバーはというと、それぞれ三者三様の反応を見せている。お姉ちゃんやことりちゃん、凛ちゃんはやる気満々で、海未ちゃんや花陽ちゃんは緊張気味、真姫ちゃんはいつも通り落ち着いていた。

 

 ちなみに私はやっぱり少し緊張。これまでアキバや学園祭など何度かライブをやってきたんだけど、"ラブライブ!"のような大舞台に立つのはこれが初めてだからね。既に1度舞台に立っているお姉ちゃんたちから励まされたりはしたけど、今まで観客席で見ていたあの大舞台に自分が立つと思うとちょっとばかり腰が引けてしまう。

 

 だけど私とは対称的に、亜里沙と楓は"ラブライブ!"開催に胸を躍らせていた。

 特に最近は"ラブライブ!"の話題が留まることを知らず、クラス中からも応援の声が集まっているせいか、2人の期待と興奮は更に熱を増している。緊張の"き"の字も知らないだからあの2人は……。なんか自分だけ緊張してるのがおかしく思えてきちゃったり。

 

 

 

 

 そんな感じでμ'sが期待と若干の不安で沸き立っている中で、私はまた更に別の緊張と戦っていた。

 

 

 それは――――――

 

 

「悪い雪穂、待たせたな」

「い、いえ!さっき来たばかりなので」

 

 

 私が校門で待っていたのは零君。まさか、突然放課後に零君とデートをすることになるとは思ってもいなかったよ。

 

 

 デートに誘われたのは本当に突然。最近は"ラブライブ!"に向け身体を壊さないよう練習時間が控えめで、そもそも練習がない日まで存在する。

 

 そして今日がまさにその日。今日はお店の手伝いもないし、特に用事もないから家でのんびり休もうかなと思っていた時に、零君に声を掛けられた。『雪穂、今日暇だったら一緒にどこか寄り道しないか?』って。

 

 

 誘われた時は正直嬉しかった。だってほら、私って素直になれない性格だから、中々自分から言い出せないし……。

 最近零君とお話する機会は増えたけど、こうして2人きりで話をすることはあまりない。亜里沙や楓みたいに私も零君にグイグイ迫っていければいんだけど、どうしても気恥かしさに邪魔されちゃって……。

 

 

 だからこれは絶好の機会かもしれない。同棲生活の時に近付いた彼との距離を、もっと縮めるチャンスだ。

 

 

「おい雪穂」

「えっ!?ご、ゴメンなさい、ぼぉ~っとしてました」

「大丈夫か?やっぱ"ラブライブ!"みたいな大舞台に緊張してるとか」

「それもありますけど……」

「けど?」

 

 

 ここで『零君と一緒にデートできるから』って言えば、素直に気持ちが伝わるのになぁ~!!まだ私にはその勇気はないみたい。亜里沙や楓だったら簡単にやってのけそうなのに……でも焦る必要なんてないよ、2人きりの時間はまだまだこれからなんだから!!

 

 

「そ、それよりもう行きませんか?この時期は暗くなるのも早いですし……」

「そうだな、もういい感じに夕日になってるし。最近日が落ちるのホントに早くなったよな」

「そうですね、秋も本番ですから」

「よし、だったら早く行こうか。ほら」

「え……?」

 

 

 私の目の前に、零君の手が……こ、これってもしかしてもしかしなくても、一緒に手を繋いでデートするってことだよね!?ど、どうしていきなりそんな……お姉ちゃんたちと手を繋いでいるのは見たことあるけど、それはお互いが恋人同士だからで私は違う訳だし……ど、どうしよう!?

 

 

「あれ?もしかして……いやだったか?」

「い、いえ、そういうことでは……」

「そうなのか?なんか凄く緊張してるみたいだったから、手を繋げば緊張も和らぐかなぁ~って」

 

 

 それが余計に緊張するんですよ!!!!

 天然でやっているのか狙ってやっているのかは知らないけど、でもこれは偶然にも積極的になれるチャンスなのかもしれない。自分から零君に踏み込みづらいなら、まず彼の誘いに乗って少しずつ彼に近付いていけばいい。

 

 そ、それに零君の好意を無駄にはできないしね!!そうそう、ただ緊張を解すためなんだから!!

 

 

 私は差し出された零君の左手に自分の右手をそっと重ねる。すると零君は私の目を見て微笑んだあと、私の手を優しくギュッと包み込んでくれた。

 

 零君の手は大きくて暖かくて、緊張した私の心がみるみるうちに解れていく。緊張で震えていた私の心まで、彼に優しく抱きしめられているかのよう。彼の手に触れてから本当に一瞬の出来事、手を握られただけなのにここまで心が落ち着くなんて……お姉ちゃんたちが零君の側にずっといたいという気持ち、それがまた分かった気がするよ。

 

 

「女の子の手って、すごくちっちゃいよな」

「なんかイヤラシいこと考えてます……?」

「なんでそうなるんだよ!?考えてないから!!」

「どうだか……」

「あのなぁ~……まあいっか、いつものお前に戻ったみたいだしな」

「あっ……」

 

 

 確かに言われてみれば、さっきの一連の会話って私と零君がいつもしている日常会話そのものだった。私も気付かない間にいつもの会話ができるくらい、さっきまでの緊張が嘘のように解れていた。やっぱり落ち着くかも、零君の隣は。

 

 

「よしっ、雪穂の調子が戻ったところで行くとするか!」

「そうですね」

 

 

 ほんの数分前まで"ラブライブ!"やデートのことで緊張していたはずなのに、今では自分でも分かるくらい私は笑顔になっていた。これが大好きな人と一緒にいるってことなのかな?

 

 

 大好きな人……もう自然とその言葉が出てしまうくらい、私の中で彼の存在が大きくなっている。今までだったら勘違いで済ましていただろうけど、亜里沙も楓も積極的になってきているんだ、私だけがうかうかしていられない。

 

 それに、言わなきゃ絶対に伝わらないから。そう、"あの時"のように……。

 

 

 この時、私は決意した。

 私が秘めている零君への想いを、今日は全部伝えるんだって。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 私と零君は学院を去り、2人並んで街中を歩いていた。

 この時間帯になると学校帰りの学生が多く、友達同士であちらこちらに寄り道をしている光景が伺える。そんな私たちも並んで手を繋いでいるものだから、もしかして周りから見たら私と零君って恋人同士に見えちゃったりするのかな……?

 

 そう思うと解れてきた緊張がまた復活してきたよ。さっきは周りに人がいなかったからね……。

 でも零君はそんなのお構いなしに堂々としている。やっぱり彼女9人持ちの精神はやわじゃないってことか。

 

 

 そう言えば寄り道で思い出したけど私、今からどこへ行くのか全く知らないや。零君は足を止めることなくどんどん歩いてるけど、私は手を繋いで連れられているだけだし……。

 

 

「あのぉ、どこへ向かってるんです?」

「さぁ、どこだろうな?」

「はぁ!?用事があるからって私を呼び出したんですよね!?」

「確かに用事があるのは事実だけど、どこへ行くとは一言も言ってないだろ」

「なんですかその子供みたいな理屈は……」

「まあまあ。とにかく俺は雪穂と2人きりで話せればそれでいいんだよ」

「私と、ですか……?」

 

 

 私はてっきり零君の行きたいところに振り回されるとばかり思ってたのに、零君も私と同じ目的だったんだ。それだったら私も想いを伝えやすいのかな?でもどっちが先に話を切り出すかという駆け引きが…………あぁ、また私難しいこと考えちゃってるよ。私にも亜里沙や楓みたいにグイグイいける図太い性格があればいいんだけどなぁ。

 

 

「"ラブライブ!"の本番までに、お前に伝えておきたいことがあるんだ」

「私に……」

「ああ。だけど歩きながらだと集中できないし、どこか2人きりで話せるいい場所ねぇかなってさっきから見て回ってるんだよ。どうせなら飲み物でも飲みながらゆっくりとと思って街中に来てみたけど、学生も多いし失敗だったな」

 

 

 零君は笑いながら髪の毛を掻いた。

 私に伝えたいことがある……そう聞いてから私の心が激しく鼓動していた。その伝えたいことってもしかして私と同じことなのでは、と妙に勘ぐってしまう。2人きりになるためにわざわざ放課後に呼び出して一緒にデートだなんて、期待しない方がおかしい。それとも私の考えが浅はかなのか。

 

 

 心臓の鼓動がどんどん高鳴ってくる。

 このまま待っていれば、零君は私への想いを語ってくれるだろう。それが告白かどうかは分からないけど、確実に私たちの関係を進展させる何かにはなると思う。私が彼からの言葉を素直に受け止めれば、それで私の恋は成就する。それが零君と結ばれるための一番の近道。

 

 

 でも、それで終わるのだけはイヤだ!!

 私からも、ちゃんと零君に伝えたい!隣にいるだけで高鳴ってきてしまう、この想いを!!

 

 

 その想いを伝える場所。

 それは私が零君のことを意識し出した、あの場所しかない!

 

 

「2人きりになれるいい場所があるんですけど、よかったらその場所に行きませんか?多分人はあまりいないと思いますし、もしいたとしても大して気にならないところなので」

「そんな都合のいい場所があんのか。それじゃあ頼もうかな」

「はい。それでは早速行きましょう、こっちです」

「あ、あぁ」

 

 

 私は零君の手を引く形でその場所に向かって歩き始めた。

 そう言えば、こうして自分から率先して零君の手を引くのはこれが初めてかも。いつもは零君に手を引っ張ってもらったり、背中を押されてばかりだったからちょっと新鮮。

 

 でも"恋"に関しては"待ち"状態にだけは絶対になりたくない。特に自分の想いを隠したままにして、相手の好意に甘えるのだけは絶対に。

 

 

 伝えよう、私の想いを。あの場所で!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「……こ、この場所って」

「はい。私と零君の思い出の場所です」

 

 

 私が零君を連れてきた場所は、文字通り私たちの思い出、そして私の人生の分岐点にもなった公園。

 一見すると、いや一見しなくてもただの公園だけど、私にとっては零君との思い出が詰まった大切な場所。彼に想いを伝えるならここでと、ずっと心に決めていたんだ。

 

 

 平日の夕方にも関わらず、公園内には数人の子供が遊具で遊んでいるだけだった。最近は外で遊ぶ子供自体がめっきり少なくなってるもんね。遊具も危ないから遊んじゃダメ!っていう大人も増えたみたいだし。

 

 

 私たちは遊具からそこそこ離れたベンチに腰を掛けた。

 "あの時"も"またあの時"も、このベンチに零君と隣同士で座ったな。そしてまたこの時が来るなんて……未来を見据えていない訳ではなかったけど、その未来がまさに今なんだよね。やっぱりこの状況になると解れていた緊張がまたしても蘇っちゃったけど、気を引き締めなきゃ!!

 

 

「雪穂とここへ来るたびに、毎回懐かしさに浸ってしまうな。まあ公園なんてこの歳になったら用事がなければ絶対に立ち寄らないから、当たり前と言えば当たり前だけどさ」

 

 

 そうだ、私の心が大きく揺れて迷っている時は毎回ここに立ち寄っている。特にこの公園自体に思い入れはないけど、最初に零君に頼った場所がたまたまここだったからね。それがそのまま思い出の場所になっちゃった。

 

 

「"あの時"からもう少しで1年になるのか。そしてこの公園で雪穂と亜里沙に頼み事をされたのも……」

「そうですね。時が経つのは早いです」

 

 

 全ての始まりは、お姉ちゃんたちが零君へ歪んだ愛を向けていた時のこと。あの時は亜里沙と2人で零君にお姉ちゃんたちのことを相談した。私たちでは手がつけられなくなったお姉ちゃんたちを救い出すことのできる唯一の人、零君に。

 

 その時はまだ零君のことをあまり知らなかったから、ただの変態で女ったらしくらいの印象しかなかったんだよね。でもあの時、頼れるのはもう零君しかいなかったという切羽詰った状況だった。自分としては苦肉の策だったけど、亜里沙が『零さんなら絶対に頼りになる』と言われて渋々相談しに行ったんだっけ。

 

 そこで私の中の零君の印象はガラリと変わった。

 いつもはおちゃらけた態度でお姉ちゃんたちを妄想の種にして変態なことばかり考えている人だと思っていたけど、その時の彼はいつになく真面目な面持ちで、お姉ちゃんたちを救い出そうという想いはまさに本物だった。あの時の零君はμ'sと出会ってまだ半年くらいしか経ってないはずなのに、どうしてあそこまでお姉ちゃんたちを救い出すことに本気になれるのか、まだ私も疑問だったな。でもその勇気と覚悟がこれでもかってくらいに伝わってきたから、私も彼にお姉ちゃんを任せることができたんだよね。

 

 

 その時からだったと思う、私が少なからず零君を意識し始めたのは。μ'sを救い出すために必死となる彼のその姿に、いつの間にか惹かれていたのかもしれない。もちろんまだ恋愛感情なんて一切なかったし、そもそもそんな感情があるなんてその時の私は信じなかっただろうけど。

 

 

「そして、零君に私の悩みを聞いてもらったのもこの公園でこのベンチでしたよね」

「そうだな。あれからもまだ3ヶ月しか経ってないのか。いや、3ヶ月も経ったというべきなのか?」

「私はあの同棲生活から"ラブライブ!"まで、凄く早かった印象があります」

「確かに、そう言われてみればそうだな」

 

 

 次に零君とこの公園に来たのは3ヶ月前、私たちμ'sメンバーが秋葉さんの威光により同棲生活を余儀なくされた期間内の出来事。

 

 あの時、私は"劣等感"を抱いていた。どれだけ練習してもお姉ちゃんたちは愚か亜里沙や楓にも追いつけない、ライブの時に自分だけ笑顔を作れない、自分だけがみんなと比べて劣っている、そんな思いを抱いていたんだ。そのことを零君に気づかれて、私は一緒に買い物へ行くという名目でこの公園に誘われて相談を受けてもらった。

 

 その時、零君に教えてもらったのはスクールアイドルの活動を"楽しむ"こと。

 スクールアイドルを始めた頃の私は親友の亜里沙や廃校を救って"ラブライブ!"という大舞台で優勝したお姉ちゃんたち、そして新しい親友の楓と一緒に歌って踊れることが楽しくて、毎日がワクワクの連続だった。でもいつの間にか歌やダンスの出来や亜里沙と楓に置いていかれることばかりに気を掛けていて、楽しむなんて気持ちを忘れていたんだよね。

 

 そんなスクールアイドルの活動を"楽しむ"ことを再度教えてくれたのが零君。

 心の奥まで土足で上がり込んで来たのは驚いたけど、そのおかげで今の私がいる。今でもライブには緊張してしまうけど、それ以上に期待をワクワクが胸を躍らせるようになった。ここまでスクールアイドルを続けてこられたのは、零君のおかげ。

 

 

 

 

 そう、零君の……。

 私が道に迷ってしまった時、諦めてしまった時、いつも隣に彼がいた。彼はいつも笑顔で、私の進むべき道を明るく照らしくれる。そんな彼に、いつの間にか私の心は奪われていた。

 

 繋がっているだけで安心できる、大きくて暖かい手。自分が立ち止まってしまった時は、その手に引っ張られたり背中を押してもらうだけで、ひたすら前だけを見て突き進むことができる。

 

 

 その笑顔と優しい手に、私はずっと導かれてきた。

 

 

 

 

 だけど。

 

 

 

 

「あのさ雪穂。実は」

「待ってください!!」

「えっ……?」

「途中で遮っちゃってすみません。でも、もう抑えられないんです!!言わせてください、私に。あなたへの想いを!!」

「雪穂…………分かった。聞かせてくれ、お前の気持ちを」

「はい、ありがとうございます」

 

 

 零君も零君で私に伝えたいことがあるはずなのに、それを言う前に遮るなんて最低なことしちゃったな……。でも、もう自分の気持ちを抑えきれないの!!今にも爆発してしまいそう、零君への想いが!!

 

 

 私はとりあえず一回大きく深呼吸をして零君に向き合った。零君も私の眼を真剣に見つめて、その瞳は決してブレない。

 

 

 伝えよう、この想いを全て!

 

 

 

 

「零君にはこれまで色々お世話になりました。私が道を踏み外しそうになった時、零君はいつも私の手を握って私を元の道へと連れ戻してくれた。そして、私が戻ってきたその道の先はいつも明るく照らされている。今の私がいるのは、零君のおかげなんです。そんな零君に、私はいつの間にか惹かれていました。私たちためにまるで自分のことのように必死となるその姿、私たちが困っていたら問答無用で手を差し伸べてくれるその優しさ、そして、私たちの不安を全て取り除いてくれるその笑顔……そんなあなたの魅力に、私は心を奪われてしまいました。そんなあなたが側にいるからこそ、私はいつでも前を見て進んでいくことができる」

 

 

「雪穂……」

 

 

「だけど、これからは導かれるままではなく、あなたと一緒に人生を歩んでいきたいんです!!どちらかが道を踏み外しそうになったら、どちらかが手を引いて助けてあげる、そんな関係に……。その役目にお姉ちゃんたちがいることも分かっています。ですが、この気持ちはお姉ちゃんたちにも負けません!!あなたを想う気持ちは、お姉ちゃんたちにも絶対に!!私は、私は――――」

 

 

 

 

 これで最後。

 胸に秘めた最後の想いを、彼に――――

 

 

 

 

「私は、あなたのことが好きです!!!!」

 

 

 

 

 言っちゃった……。

 でも胸の内を全て曝け出すことができて、意外にも私は零君の返事を聞く前に一瞬だけホッとしていた。だけどまだドキドキは止まらない。彼がどう答えるのか、この一瞬の間にも様々な未来を頭に浮かべる。

 

 私たちの勝手な願いで零君たちをゲームの世界へ連れ込んだこともあった。その時はまだ現実で告白する決心がつかなかったから、バーチャルリアリティの世界での告白に踏み切ったんだ。

 

 その時の零君の答えは"イエス"か"ノー"で言ったら、"ノー"だった。

 零君自身答えを見つけていなかったみたいだし、そもそも私たちが現実世界ではなく、バーチャルリアリティの世界で告白するなんて生半可な気持ちだったのが一番の原因だったと思う。

 

 

 でも、今回はちゃんと彼に想いを伝えた。自分の秘めた想いは全て。

 もう嘘や偽り、誤魔化し、生半可、そんな気持ちは一切ない、私の本当の想いを、この現実世界で。

 

 だからどんな零君からどんな返事が返って来ても、それを受け入れる覚悟がある。

 

 

 

 

「ハッ、アハハハハハハ!!」

「れ、零君?」

「いやぁ悪い悪い!相変わらず俺って情けねぇなぁって思っちゃってさ」

「情けない?」

「あぁ。俺の言いたいこと、先に雪穂に言われちゃったから」

「えっ?それじゃあ……」

「俺からも言わせてもらうよ」

 

 

 零君は一旦間を置いて、再び私の眼と真剣に向き合った。

 

 そして――――――

 

 

 

 

「好きだよ、雪穂。友達や後輩としてじゃない、1人の女性としてな」

 

 

 

 

 一瞬、零君の言葉を理解しきれなかった私がいた。

 私のことが好き……好き……友達としてじゃない、後輩としてでもない、1人の女性として……好き?

 

 

 

 

 好きぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?

 

 

 

 

「お、おい!!お前顔メチャくちゃ赤くなってるぞ大丈夫か!?」

「ら、らいじょうぶれす……」

「呂律も回ってないぞ!?おーい戻ってこーい!!」

 

 

 あぁ、なんか身体がふわふわ浮いてるみたいでとても気持ちいいよ。

 まさか、零君が私の告白を素直に受け入れてくれるなんて……ということは私たち、両想いだったってことだよね?へへ、えへへ♪

 

 

「おい雪穂!!」

「うわぁ!?す、すみません!!気分が浮ついてました」

「全く、俺の話はまだ終わってないつうの」

「まだ?」

「ああ。さっきの告白も重要だけど、ここからも同じくらい重要なんだ。よく聞いてくれ」

「は、はい……」

 

 

 零君は告白してもなお真剣な表情を崩していない。どうやら浮ついていたのは私だけみたい……。

 零君は私の想いを全て受け止めてくれた。だったら次は私が零君の想いを全て受け止める番だ。

 

 

「単刀直入に言うと、まだお前と付き合うことはできない」

「えっ……?」

 

 

 えっ……つ、付き合う!?

 そ、そっか、好きな人同士だったら付き合うのが普通だよね!?ん?ふ、普通なの?でも付き合うことはできないって……えっ!?

 

 

「なんか混乱してるみたいだな……もしかして、付き合うつもりはなかったとか?」

「い、いえ……自分の告白で精一杯で、そこまで考えが行き着いてなかったと言いますか」

「なるほど、俺が考えすぎたってことか。いや別に考えすぎが悪いことじゃないんだけど……まぁとにかく、恋人として付き合うのはもう少し待ってくれないか?お前からの告白に、俺は胸を打たれた。だったら今度は俺からお前に告白したいんだ」

「零君から私に?」

「そうだ。お前の告白に負けないくらいの、本気の告白をな。本当は今日俺からするつもりだったんだけど、まさかお前からの告白をされちまうとは思ってもなかったからな。お前の想いを胸に、また1から心の整理をして告白をしたいんだ」

「零君……」

「だから、もう少しだけ待っててくれないか?俺がお前に本気の想いを伝える、その時まで」

 

 

 零君に私の想いは全て伝わっていた。そしてその想いを全て受け入れてくれた。お互いにお互いを"好き"だという感情を、遂に彼と共有することができた。今の私は、それだけでも十分に嬉しい。もうこれからこの溢れ出る彼への愛情を隠す必要なんてなくなるんだから。もう自分の気持ちを、殺さなくてもいい。

 

 

 

 

 だから私の答えなんて、既に決まってる。

 

 

 

 

「待ちます!今は零君と相思相愛になれたことだけで満足ですから!!」

「はぁ~、やっぱりお前らの笑顔には敵わねぇよ。よし任せろ!お前が心がキュンキュンして気絶しそうになるくらいの告白をしてやっからよ!!」

「そんなの当たり前です!可愛い彼女を待たせてるんですから」

「急に元気になったなお前……ま、精々胸を打たれて昇天しないように心を鍛えておくんだな」

「これからはもっと零君の側にいられますから、心配ご無用です」

 

 

 

 零君との心の距離がここまで近付いただけで、いつもの日常会話がここまで楽しくなるなんて。やっぱり思い切って告白してよかったよ。返事はまた今度になっちゃったけど、私が零君のことを好きだという気持ちは変わらない。そして零君が私のことを好きだという気持ちも……。

 

 

 そうだ、最後にやっておきたいことが1つ――――――

 

 

「おっと、もうこんな時間か。日もかなり落ちかけてるし、そろそろ帰るか」

「そうですね。でもこれだけ」

「えっ……?」

 

 

 

 

 夕日に照らされる公園で、私は零君の頬っぺに――――――キスをした。

 

 

 

 

「雪穂……」

「まだ恋人同士ではないので口と口ではできませんけど、これくらいならいいかなぁと思いまして。これが今、私からあなたに送ることのできる、一番の愛のカタチです♪」

 

 

 零君は目を大きく開いて私の顔をジッと見つめている。

 フフッ、あなたのそういう可愛い顔も大好きですよ♪零君って、表情がコロコロ変わって面白いから見ていて全然飽きないんだよね。そして何事も笑顔で馬鹿みたいに突っ走るところに、私は惚れてしまったり。

 

 

「さぁ、行きましょうか」

 

 

 今度は私から零君に手を差し出す。

 ずっとこの手を握って、あなたの側に……。

 

 

「よし、行こうか」

「はい!!」

 

 

 私たちは夕日をバックに、2人並んで帰路に着いた。

 お互いの指と指を絡ませながら、ギュッと握りしめて……。

 

 

 

 

 これからもよろしくお願いします!

 大好きですよ、零君♪

 

 




 今回はシスターズ編の1発目、雪穂の告白回でした。
 今まで『日常』から200話以上執筆してきましたが、ここまでガチ恋愛の話は初めてだったので、自分としては割と頭を回転させて執筆をしていました。ことりの淫語講座みたいに頭をカラッポにして書ける話は楽だと、この話を執筆している最中に実感しましたよ(笑)

 こういった恋愛回を書いていると、別の視点でも書きたくなってくる私がいます。今回は雪穂視点だったので、零君視点も書いてみて彼がどのような想いを抱いていたのか、雪穂の告白をどのような気持ちで受け止めたのか、などなど。それは零君が本編で言っていた『本気の告白』の際に描写してみようと思います。

 結局恋人同士になるのは先延ばしになってしまいましたが、お互いに相思相愛だということを認めたので、今までやりたいけどできなかった話も書けるようになりました。特に雪穂のR-17.9が解放されたのはデカイ!!(笑)


 次回はシスターズ編第二弾、亜里沙回となります。また次回までに亜里沙のターニングポイントとなった回を思い出しておくといいかもしれません。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絢瀬亜里沙の告白:憧れから、あなたの隣に

 今回はシスターズ編第二弾、亜里沙編となります。
 純粋無垢な彼女が零くんに対して抱いていた想いが、全て今回で爆発します!

 そして前回の雪穂編と同じく、本編の内容に以下の話の内容が引用されているので思い出しておくといいかもしれません。

『非日常』第四章 第一話‐妹たち‐
『新日常』第49話 私、ずっとあなたのことが好きでした
『新日常』第77話 ラブライブクエスト5~究極の選択~


 "ラブライブ!"の開催まであと2日となりました。

 日に日に迫る本番を前に、μ'sの皆さんは意気揚々としています。ですが意外にも一番テンションの上がっているのはお姉ちゃんたちだったり。大学生は"ラブライブ!"に出られないためか、今日も本番に向けて練習中の私たちのことを気遣ってばかりいました。お姉ちゃんも希ちゃんもにこちゃんも、みんな心配性なんですから♪

 

 その理由の1つとして、今日の練習が本番までの最後の練習だったということもあると思います。

 練習と言っても本番までに身体がなまらないよう軽めのストレッチと、当日の通しをざっとおさらいしただけでしたけど。

 

 本番の段取りも終わって、遂に"ラブライブ!"当日を残すことになった私たち。当然皆さんのやる気は十分なのですが、まさか雪穂まで期待十分だとは思ってもみませんでした。昨日までは昼休みや掃除の時間すらも緊張していたのに、今日はやけに張り切っていたのです。雪穂のそんな姿を見るのは、ここ数年一緒にいた中でも初めてかも……。

 

 それになにより、雪穂が零くんへ向ける態度が明らかに変わっていました。

 いつもは憎まれ口を叩くような話し方をしているのに、なんていうのかな……こう、零くんに対して穏やかになったというか、とても気さくに話し掛けていたのです。

 

 

 そして一番印象が強かったのは、雪穂のあの笑顔。

 

 

 どうやら昨日、零くんと雪穂は一緒にどこかへ出かけていたみたいだし、恐らくその時に雪穂の心境が大きく変化したんだと思います。それは零くんも同じ、雪穂に対する態度が以前よりも優しくなっていました。もちろん今までもずっと優しかったけど、明らかに2人の心の距離が縮まって、まるで恋人のよう……。

 

 

「恋人……」

 

 

 零くんとそのような関係になれたら、今まで楽しかった毎日が更に楽しくなるだろうなぁ~と、私はずっと夢見ています。

 特の穂乃果ちゃんやことりちゃんは毎日が桃色のような学校生活をしているし、もしかしたら私も零くんとそんな生活が送れちゃったりするのかな!?そりゃあ恋人だもんね、ずっと一緒にいるなんて当たり前だもんね!あぁ、零くんに会う前から顔が熱くなってきちゃったよぉ~!!

 

 

 そう、今日は放課後に零くんからお誘いがあったのです。

 昨日の夜突然零くんから連絡があって、『今日の練習が終わったあとに2人きりになれないか』と。

 

 思いがけない事態に私は部屋で飛び上がりそうにでした。

 だって零くんの方からお誘いをしてくださるなんて、夢にも思っていませんでしたから。私の憧れで、そして私が初めて"恋"をしてしまったあなたに……。

 

 

 もうこの際はっきりと言います、私は零くんのことが好きです!!

 

 

 いつかこのことを伝えよう伝えようと思っているのですが、その機会が中々訪れず未だに言えずじまいになっています。

 

 しかし、今日こそがその機会!零くんがどんな用事で私を呼び出したのかは分からないのですが、もし告白できるようなタイミングが訪れたら今度こそしっかりと零くんに思いを伝えないと。いや、タイミングが訪れたらじゃなくって、自分で作らなきゃ!!

 

 機会が訪れないとか言っていましたが、それは単に私が零くんへ告白することに緊張して、意図的にその機会を避けてきたからだと思ってるんです。周りからは私は天然であまり物事を考えず突っ走るタイプだと見られていますが、割と緊張もするんですよ?想いを伝えたかったのに、笑顔で誤魔化すなんてことも何度かありましたから……。

 

 だから今度こそ私の本当の笑顔を、零くんに見せてあげるんです!!

 

 

 

 

 まだ零くんに会ってもないのにそんな想いを胸に抱きながら、私は部室で皆さんと別れて1人零くんとの待ち合わせ場所である屋上へと向かっています。

 

 2人きりでの大事な話と聞いて、私は今日1日ずっと心が躍っていました。階段を駆け上がる足も、自然と軽くなっちゃいます。

 

 私が音ノ木坂学院に入学してから零くんとの距離はより近しいものになりましたが、恐らく今日が零くんの心に一番近づける運命の日。今まで溜め込んできた零くんへの想いを、今日全てぶつける。もう誤魔化したりはしない。

 

 

 私の本当の笑顔とこの想いを一途に、あなたの心へ届けます!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 扉を開けると、屋上全体が夕日によって茜色に染まっていました。

 その中に立つ人影が1つ。零くんは、フェンス越しに学院のグラウンドを見下ろしていました。そして私が屋上にやって来たことに気が付くと、その場で後ろを振り返り私と向かい合います。

 

 

「よぉ、亜里沙。練習後に呼び出して悪いな」

「いえいえ!こちらこそ、わざわざ着替えが終わるまで待って頂いてありがとうございます!」

 

 

 夕日に照らされた零くんの笑顔。しばらく私はその笑顔に見惚れてしまいました。

 私の元気の源、常に前向きでいられた私の原動力。その笑顔に触れるだけで、私も自然と笑顔が溢れてしまうのです。

 

 すると私は、自分でも気付かぬ間に零くんの隣へ向かって歩を進めていました。

 トクン、トクンと、彼へ近づくたびに心臓の鼓動が段々大きくなってきているのが分かります。彼の側にいる時はいつもドキドキするのですが、ここまで明確に彼への恋心を意識して近付いたのはこれが初めてです。

 

 

 そして、遂に零くんの隣にまでやって来ました。

 自分から歩み寄ったのですが、今日はやけに零くんとの距離が近いような気がします。ちょっと指を動かせば、零くんの指に触れてしまいそうなくらいに……。

 

 ちょっとだけ、ちょっとだけ触れても大丈夫かな?失礼……かな?

 

 

 

 

 そうやって私が迷っていたその時でした。

 突然私の右手が、暖かい温もりに包まれたのです。

 

 そう、それは正しく零くんの手。

 私の小さな手は、零くんの大きく暖かい手にギュッと握られていました。

 

 手を握られているだけなのに、身体全体がポカポカしてくるのはやっぱり私の大好きな人の手、だからかな?好きな人と一緒に手を繋ぐって、ここまで暖かいものだったんだね。お姉ちゃんたちが零くんの虜になった理由が、また分かった気がします。

 

 

「なんかそわそわしてたからさ、緊張してるのか、単純に寒いのかなぁって思って。ビックリさせちまったか?」

「いえいえ!むしろありがとうございます♪おかげで落ち着きました」

「そっか、よかった」

 

 

 まただ。

 零くんの優しい笑顔を見るたびに、胸のドキドキが高鳴って止まらなくなる。こんな調子で告白なんてできるのかな……?いや、やるしかないんだ。

 

 

 私が彼の手をギュッと握ると、彼も私の手をギュッと握り返してくれる。

 秋本番の夕暮れ。日が落ちて気温も低下しているのにも関わらず、私の身体も心もポカポカでした。

 

 

 ずっと握っていたい、この手を。そのためには零くんの隣にいないといけない。

 零くんを"憧れ"の存在として遠くから見ているだけじゃもうダメ。ずっと手を握っていられるくらいに近く、彼の隣へと歩み寄らなければ。

 

 

 

 

 私が零くんのことを気になり始めたのは、お姉ちゃんたちのことに関して雪穂と一緒に助けを求めに行った時でした。お姉ちゃんから幾度となく零くんの話を聞いていた私は、あれだけ堅物だったお姉ちゃんがμ'sに入るきっかけを作ってくれた彼のことを信じて、おかしくなっていたお姉ちゃんたちを救い出すよう彼にお願いをしに行ったのです。

 

 そして零くんの答えは――――

 

 

『これだけは約束する。穂乃果も絵里も、絶対に取り戻す。だからもう少しだけ待っててくれ』

 

 

 そう答えることに、零くんは一切迷いませんでした。わざわざそんなことを他人の口から言われなくても、初めからそう決心をしていたみたいに。この時、私は思ったんです。この人なら、絶対にμ'sを取り戻してくれる……と。

 

 

 ですが一番印象に残ったのが、零くんの次の言葉でした。

 私たちが零くんのことを信じますと言った時に、彼は――――

 

 

『ありがとう』

 

 

 こう言ったのです。しかも、"笑顔"で。

 この笑顔に私は救われ、そして恐らく雪穂も同じだったと思います。

 お互いに姉が黒に染まっていく様を見て、私たちはただ見ていることだけしかできませんでした。そんな絶望と不安で塗り固められた私たちの心を、零くんの笑顔が全て希望に塗り替えてくれたのです。

 

 あの時、あの事件の一番中心にいたのは自分だったはずなのに、どうしてあそこまで優しい笑顔ができるのか。そう考えた時に私は分かったんです、この笑顔こそがお姉ちゃんたちを1つに結びつけ、μ'sの絆を生まれさせたのだと。そんな零くんだからこそ、私たちは彼に安心と信頼を寄せることができたのです。私たちの心が希望に変わったのも、そのおかげ。

 

 

 そして私も、いつの間にか彼の笑顔に惹かれていました。

 その時はまだ、ただの"憧れ"だったんですけどね。

 

 

「亜里沙、折角だしもっと上へ行ってみないか?」

「上って給水塔があるところですよね?勝手に登っちゃっていいんですか?」

「いいんだよ別に。去年だって登ったことあるし。それに話をするなら、この学院の屋上を含めて全部を見渡しながら話したいからさ」

「零くん……はい、そういうことなら行きましょう!何気に初めてなんですよね、屋上より上へ行くなんて」

「足を滑らせて落ちないようにな」

「も、もうっ!!驚かせないでくださいよ!!」

 

 

 こうして零くんと、冗談交じりで会話するだけでも楽しい。零くんと一緒ならどんなことでも楽しめる自信まで湧いてくるくらいですから♪

 

 

 零くんは一旦私の手を離し、はしごをよじ登って給水塔の足元まで辿り着きました。

 続いて私もはしごに手と足を掛けて上へと登り、最後は零くんの手を借りてはしごを完全に登りきろうとした、その時でした。

 

 

「きゃっ!!」

 

 

 はしごの手すりに足を滑らせてしまい、私の身体が勢いよく前へ倒れようとしました。

 地面に激突する。そう思い、目を閉じ受身を取ることすら諦めていましたが――――

 

 

「おっと!」

 

 

 優しい温もり、暖かい感触。そしてなにより、全ての緊張と不安を消し飛ばしてくれる落ち着きと安心感。

 

 気付くと私は、零くんの腕の中にいました。

 

 

「あ、ありがとうございます……」

「どういたしまして」

 

 

 すぐに離れればいいものの、私はずっと零くんの腕に包まれていました。彼の胸に顔を押し付け、零くんの高鳴る鼓動を感じながら……。

 

 

 もっと彼に抱きつかれたい。もっと彼に抱きつきたい。

 ずっとこの時間が続けばいいのに……と、私の中で巡り巡る彼への想いは、留まることを知らず強くなっていきます。

 

 

「このまま、私も抱きついていいですか……?」

「あぁ、もちろん」

 

 

 その言葉を聞いて私は零くんの背中に腕を回し、身体全体を零くんの身体に密着させました。

 さっきまで微かに感じていた零くんの心臓の鼓動が、はっきりと私にも伝わってきます。そしてその鼓動が若干乱れているということは、少なからず私を意識してくれているってことですよね?

 

 私は嬉しくなって、零くんを更に強く抱きしめます。そのたびに彼から伝わってくる優しい温もりもより一層強くなり、私と零くんがまるで一体になっているかのよう。大好きな人と1つになるのが、こんなにも気持ちのいいものだっただなんて……。

 

 

「俺が亜里沙と話す場所にここを選んだのは、この場所で一番お前の笑顔を見ることができたからなんだ」

「私の、笑顔を……?」

「うん。つまり練習の時だってことだな。亜里沙の笑顔はいつも輝いているけど、ここでダンスの練習をしている時のお前の笑顔が、俺にとって最高の笑顔なんだよ。いつもお前の練習姿を見ていて思うんだ。亜里沙って、本当にみんなで歌って踊るのが大好きなんだなって。そしてその時のお前の笑顔がとても眩しくて、心を奪われてた」

「そうですか?練習の最中はあまり意識したことないんですけど……」

「それはお前が心の底からスクールアイドルを楽しんでるってことだよ。その自然な笑顔に、俺はずっと惹かれてた」

「零くんが、私を!?」

 

 

 れ、零くんが私のことをそこまで見てくれていたなんて!?いや、よく面倒を見てもらってはいたけど、まさか……ひ、惹かれているって、零くんが私のことを女性として見てるってことなんだよね!?と、突然すぎて頭がぐちゃぐちゃになってきちゃったよぉ~!!

 

 

「亜里沙のそのキラキラした笑顔、そして俺に一途な想いを寄せてくれていること。特に俺が悩み事を解決した時にお前が見せてくれた、笑顔と想いを受け止めてようやく分かったんだ。俺はお前に惹かれていて、お前のことが好きなんだって」

「わ、私のことが……す、好き、だったんですか!?」

「あれ?気付いてなかったか?俺は好きだよ、μ'sのみんなのこと。そして亜里沙、お前のことも。もちろん仲間や友達としても好きだけど、1人の女性としても大好きなんだ」

 

 

 零くんの腕の中で、私の顔が急激に熱くなっているのが分かります。

 だって!!まさか!!零くんが私のことを好きだっただなんて!?これって相思相愛なんだよね!?今まで零くんが私のことを気に掛けてくれたのは知っていました。だけどそれは後輩のためを思って、仲間や友達としての関係だと私はずっと勘違いしていたのです。

 

 

 そう、かつて私が零くんに抱いていた"憧れ"だった頃みたいに……。

 

 

 3ヶ月前、私には皆さんにずっと隠してきた悩み事がありました。

 それは零くんに対する"憧れ"。その頃から私は零くんのことが大好きで、密かに想いを寄せていたのですが、私は気付いてしまったのです。私が好きな零くんは、お姉ちゃんたち9人と一緒にいる時の零くんだってことに。お姉ちゃんたちと一緒にいる零くんはいつも楽しそうで、その明るい笑顔を常に絶やすことはありません。そしてお姉ちゃんたちがピンチに陥った時は、まるでヒーローのように皆さんを救い出す。そんな零くんに、私は惚れていました。

 

 ですが私の惹かれていた零くんは、お姉ちゃんたち9人と一緒にいる時の零くんでした。そこに私が興味本位で入ってしまったら、もしかすると零くんやお姉ちゃんたちの笑顔が壊れてしまうかもしれない。今まで続いてきた幸せが、私が原因で崩れ去ってしまうかもしれないと、ずっと危惧していたのです。私が入ったことでその笑顔が崩れてしまうのなら、いっそのこと零くんへの想いは胸に秘めたままにしておこうと、私は決心していました。

 

 でも、その想いは抑えきれませんでした。

 どうやら表情や気持ちに余裕がないことが表に出ていたみたいで、零くんに勘付かれてしまいました。そして零くんと2人きりで話した時に、私は彼にそのことを全てぶつけたのです。彼にも私が恋人になった場合の驚異を知ってもらって、私はこの恋心を永遠に封印しようとしました。

 

 しかし、零くんはそれを否定した。

 『自分やμ'sはそんなことで笑顔が崩れるほど絆は弱くない』と、零くんの言葉が私の胸に大きく響いたのです。『もし壊れてしまったら』という私の質問に対し、彼は一貫して『壊れない壊させない』の一点張りでした。どう考えても支離滅裂で根拠すらもない答えなのですが、零くんという人間から放たれたその言葉は、私を納得にまで結び付けられました。その時、私は思ったんです。彼だからその言葉を信じられる。理由や根拠がなくても、彼なら信頼できる。私が好きな彼だからこそ、私はあなたと共に人生を歩みたいと……。

 

 

 

 

 そんな零くんのおかげで、私はようやく恋のスタートラインに立つことができました。

 そして今、私はそのゴールの直前に立っています。途中で恋に迷走してしまい、ゲームの世界で無理矢理零くんにキスを求めてしまったこともあったけど、もう迷いません!彼の待つゴールに向かって、私の想いを彼に全て伝えます!!

 

 

 私の想いをもう隠すことなく余すことなく、大好きなあなたに!!

 

 

「私も、零くんのことが好きです!!ずっと思い描いていました、あなたと一緒に笑顔で過ごせる日々を。しかしそんな未来を目指している途中、何度か挫折したこともありました。でもその度に私の心を優しく支えてくれたのが、あなたの言葉だったんです。そして今でも、あなたの言葉は私の希望となっています。もう私の心は零くん一色なんです!!ずっと、ずっとあなたの笑顔が私の心から消えることはない!!」

 

 

 零くんの腕の中で、私は顔を上げて彼の瞳を真っ直ぐに見つめます。零くんもそれに応えるように、私の瞳、そして心と真剣に向き合ってくれているみたいです。

 

 

 私の想いは、止まらない。

 

 

「そんな私はあなたのことを、いつも心の中で愛していました。ですがもう心の中だけでは満足できないんです!!憧れのままで終わらせたくない!!私も皆さんと同じ、この現実世界であなたの隣にいたい!!隣でずっとあなたの優しさを感じたい!!隣であなたの希望に満ち溢れた笑顔を見ていたい!!そして、私も一緒にあなたと笑顔でいたい!!」

 

 

 

 

 胸に秘めた最後の想いが、今――――

 

 

 

 

「私は、あなたのことが好きです!!私と、付き合ってください!!!!」

 

 

 

 

 やっと、自分の気持ちを素直に伝えることができた。今までは無我夢中で零くんにアピールをしていただけだったけど、ようやく想いの整理ができて、遂に私が抱いていた彼への恋心を言葉にして伝えることができたんだ。

 

 零くんからも告白してもらったし、これで晴れて恋人同士ってことなんだよね?

 これまでずっと待ちわびていた時がようやく訪れた。もう心いっぱいに幸せが膨らんで、零くんに抱きついていなかったらそこら中をスキップしながら走り回っちゃいそう♪

 

 

 すると零くんは、私の身体を更に強く抱きしめました。

 

 

「なんかお前の告白に胸を打たれすぎて、俺の告白がしょぼく見えるな」

「全然そんなことないですよ!!むしろ零くんから告白してくれたからこそ、私も告白しようと決心がついたんですから!!」

「そっか、そう言ってもらえると嬉しいよ。ありがとな」

「はい、こちらこそありがとうございます♪」

 

 

 零くんの頭を撫でられて、すっかりさっきまでの緊張が消えてなくなった私がいます。

 秋本番の冷え込む夕方にも関わらず、私の身体も心も零くんの温もりでぽっかぽかです♪ずっとこうしていたいなぁ~。

 

 

「さっきの告白の返事だけどさ」

「は、はい!!そう言えば告白し終わった達成感と零くんの包容が気持ちよすぎて、すっかり返事を聞くこと忘れてました……」

「ははは!何ともどこか抜けてる亜里沙らしいな」

「むぅ~笑わないでくださいよぉ~!」

「わりぃわりぃ!そんなに頬っぺを膨らませなくてもいいだろ」

「わわっ!頬っぺたつつかないでください!!」

 

 

 確かに皆さんからもよく天然だと言われますが、私ってそんなに天然かなぁ~?あまり納得ができない自分がいます。それにさっきみたいにお人形さん扱いされる時もあるし、主にことりちゃんから……。

 

 

 とにかく今はそんなことよりも、零くんからの返事に集中しないと!!

 

 

「俺の気持ちもお前の気持ちと全く同じだ。ずっと亜里沙の隣にいたい。俺もお前から元気と希望を貰ってるんだ。こうして抱きしめ合ったりもしたい。だけど」

「だけど?」

「俺が本気の告白をするまで、付き合うのは待ってくれないか?お前の告白を聞いて、また俺の中で亜里沙に対する新しい感情が生まれたんだ。だから一旦その気持ちを整理してまとまった時、改めて俺からお前に告白させて欲しい。ダメかな?」

 

 

 もう一度私に告白……ということは、あのドキドキをまた味わえるってことだよね!?さっき告白されたばかりなのに、もう次の告白に興奮しそうになってるよぉ~!!零くんに抱きしめられながら言われたっていうのもあるかもしれないけど、それでもまた零くんから告白してくれると思うとドキドキが止まらない!!

 

 

 そして、私が零くんを想う気持ちも一生止まらない。だから答えは決まっていますよ♪

 

 

「私が零くんが好きだという気持ちは絶対に変わることはありません。だからもう一度聞かせてください、零くんの本気の告白を。それまで私は、ずっと変わらぬ愛であなたを待ってますから♪」

「ホントに、そんな心に来る言葉をストレートに言えるんだからすごいよお前は。よしっ、それじゃあ今回亜里沙に思いっきりドキドキさせられた分、今度は俺がお前の心臓を破裂しそうなくらいドキドキさせてやるからな!!」

「はい!楽しみにしています♪」

 

 

 私は少し身体を起こして、再度零くんに抱きつきました。

 さっきよりも顔と顔が近くなって、このまま勢いでキスができちゃいそう……。でもキスは愛の証、零くんが待ってくれって言ったのなら、残念だけどその時までお預けです。もうゲームの世界みたいに、先走る私じゃないんですよ?

 

 

 だけど、これくらいなら――――――

 

 

 

 

 私は零くんの唇の隣に自分の唇を素早く近づけます。

 

 

 

 

 そして、零くんの唇と頬っぺとの間に――――――自分の唇を押し当てました。

 

 

 

 

「あ、亜里沙……」

「えへへ、我慢できませんでした♪でも唇ではないので安心してください♪今はこれくらいしかできませんけど、いつか本物のキスができる日を待ってますから!その時は、是非零くんからお願いしますね♪」

「もちろんそのつもりだよ。楽しみにしておけ!!」

「はい♪」

 

 

 やっぱり零くんと一緒にいるのは楽しい!!毎日学院に行くのが楽しみになって、たくさんの笑顔を貰って、そしてこうして愛を確かめ合う……もう私の心は、これ以上にないってくらい幸福で満たされています。でもまだまだこれは序の口。今までよりももっと心が躍る出来事が待っているのかな?うぅ~楽しみぃ~♪そしてこれからは、零くんがすぐ隣にいてくれるから尚更楽しい日々になりそうだね♪

 

 

「日も暮れてきたし、そろそろ帰ろうか」

「そうですね。でもこうして零くんと抱き合うひと時が終わってしまうのは残念ですけど……」

「俺だって、亜里沙とずっとこのままでいたいよ。でもお互いに好きだってことを伝えたんだ。これからは毎日堂々とハグでもなんでもできるから、今日のところは……な?」

「むぅ~仕方ないです。でもこれからはもっとグイグイ行きますからね!!覚悟してください♪」

「俺だって伊達にたくさん彼女を持ってる訳じゃないから、どんとこの胸で受け止めてやるよ」

 

 

 零くんは得意気な表情で胸に拳を当てました。

 こうして彼の言葉に安心できるのも、私が彼のことを信頼して、そして大好きだからってことですよね!それに零くんの胸に顔を押し当てると、とても安心できますし♪これからももっともっと零くんに抱きしめられたいです!

 

 

「ほら亜里沙、手。またはしごで足を滑らせないようにな」

「あっ……はい!よろしくお願いします♪」

 

 

 私は差し出された零くんの手を取って、そのまま一緒に屋上へと降り立ちました。

 そしてその手をずっと握ったまま、私たちは2人並んで学院を去ります。

 

 

 指と指を絡ませ合って、解けないようにしっかりと。

 

 

 帰宅途中で別れてしまうので、いつかはこの手を離さないといけないのですが、私とあなたの心の距離はもう永遠に離れることはありません!私の恋心は、あなたのハートをガッチリ掴んで離しませんから♪

 

 

 ずっと隣でお慕い申し上げます。これからもよろしくお願いしますね!

 大好きですよ、零くん♪

 

 




 今回はシスターズ編第二弾、亜里沙編でした。
 亜里沙のことだから、もっとストレートに告白すると予想していた方も多かったのではないでしょうか?何気に今回の告白は前回の雪穂編とは違って、『零君からの告白⇒亜里沙からの告白』の順番となっています。それだけ恋に関しては、雪穂より亜里沙の方が冷静であったということですね。

 前回同様まだ完全に結ばれてはいませんが、お互いをお互いに相思相愛だと認識したので、これからは亜里沙も穂乃果たちと同様の扱いにすることができます。

 つまり――――亜里沙のR-17.9も解禁されたってことですよ!!

 私はこの大天使を穢すことができるのだろうか……?(笑)




 そして次回はシスターズ編のラスト、楓編となります。

 前回の雪穂編を含め、ご感想や高評価を頂ければ次回の楓編の執筆意欲が急上昇するかもしれません!!
応援の声を頂ければその分、楓ちゃんがちょっぴりエッチになるかも!?

是非よろしくお願いします!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神崎楓の告白:兄妹から、その先へ

 今回はシスターズ編のラスト、楓回となります!
 雪穂と亜里沙と違うのは、何と言っても実妹だというところ。妹として、そして1人の女性として零君を想う乙女な楓ちゃんをたっぷり堪能してくれればと思います!


今回も以下の話の内容を思い出しておくとより楽しめます。

『新日常』第28話 浮気調査員:神崎楓
『新日常』第54話  私だって、"零くん"の彼女になりたかった!!
『新日常』第77話 ラブライブクエスト5~究極の選択~




ちなみに内容はエロくないです(笑)


 "ラブライブ"の開催まであと1日。とうとう明日が本番当日となる。

 今日は練習など一切なく、部室で数十分のミーティングだけでμ'sの活動は終わってしまった。ミーティングと言っても集合場所や時間の確認くらいで、あとは穂乃果先輩たちが無駄にテンションアゲアゲで騒いでただけだから、真面目な話はミーティング開始からほんの数分といったところ。まあ私もそれに便乗してたんだけどね♪

 

 

 でも意外だったのが、雪穂と亜里沙のやる気が有頂天にまで達するかってくらい満ち溢れていたこと。

 亜里沙はまだ分からなくもないけど、雪穂のテンションがこの2日だけ劇的に違っていた。普段は現実的でそれゆえ緊張しがちな性格をしてるのに、それこそ今の雪穂からは緊張の"き"の字も感じられない。それに亜里沙も亜里沙で今日はやけに穂乃果先輩たちと一緒にノリノリだったし……最近の子はよく分かんないや!

 

 

 まぁ、大体の予想はついてるけどね。ミーティング中も2人がチラチラと目線を寄せるその先には、決まってお兄ちゃんがいた。

 

 元々この2人がお兄ちゃんに好意を抱いてることも知ってたし、それが恋心であると薄々感じてはいたんだよ。だけど今日、2人がお兄ちゃんに浴びせていた視線は恋する乙女じゃなくて、紛れもなく恋が成就した恋人へ向ける目線!!

 

 まさか2人共、お兄ちゃんに告白したりした……?

 だってお兄ちゃんは一昨日も昨日も雪穂と亜里沙に会ってたみたいだし、2人がお兄ちゃんのことを好きならば、告白なんて暴挙に出てもおかしくない。それに今日のミーティングの時、2人とお兄ちゃんの関係がかなり柔和になってたし、その可能性が大だね。

 

 

 

 

 あれ……?そうなると、μ'sの中でお兄ちゃんと恋人じゃないのって私だけなんじゃあ……。

 

 

 

 

「なんか行き遅れた感が半端ないんだけど……」

 

 

 私は台所で夕飯を作りながら、アラフォーの独身女性のような愚痴を垂れ流す。

 でもお兄ちゃんに告白せず残っているのが私だけというのは紛れもない事実。あの恋愛に奥手な雪穂も、天然純粋っ子の亜里沙も、2人共お兄ちゃんにその想いをぶつけたんだよね。勇気を出して、自分の心をお兄ちゃんの心にしっかりと向かい合わせて……。

 

 

「私もそろそろ動かないとダメかぁ~……」

 

 

 お兄ちゃんに想いを伝えるのなんて普段からやっていること。だから告白なんてものに緊張もしないし躊躇もない。それに私は他の皆んなと違ってお兄ちゃんとは家でも一緒にいられるんだから、お兄ちゃんと2人きりで話すタイミングなんていくらでもある。

 

 だったら何故そうしないのか、理由は簡単。

 

 

 

 

 "兄妹"だから。

 

 

 

 

 いくら私が近親相姦OKの異星人だとしても、その壁を乗り越えるのは結構臆してしまう。

 気持ちではお兄ちゃんと交わることは全然いいんだけど、やはり心のどこかで周りの体裁を気にしている自分がいるのかもしれない。それか今のこんな兄妹関係で満足しちゃっているのかも……。

 

 どちらにせよ、私は先輩たちや雪穂、亜里沙とは告白をする土台が全然違う。

 恋に障害はつきものだって言うけれど、恋をする前から障害がある私にとって、まずはその障害から乗り越えなければならない。

 

 じゃあその障害とは一体なにか?兄妹であること?でもそれは周りさえ認めてくれれば解決できる話。

 私の周りと言えば、まずμ'sの先輩たち。この9人だったら私がお兄ちゃんの彼女になることなんてまず容認してくれるだろう。だって自分たちも9人で1人の男の彼女になってる訳だしね。

 雪穂と亜里沙も、私がお兄ちゃんの妹とかお構いなしに祝福してくれそう。親友だからってこともあるだろうけど、それ以前に2人なら私とお兄ちゃんの想いをよく知ってるし。

 あとはお姉ちゃんとお母さんくらいか。うん、この2人は近親相姦&ハーレム容認派だから全然問題ない。お父さんもまあ、大丈夫でしょ。

 

 

 周りは私とお兄ちゃんの関係を祝福してくれそうな人ばかり。

 結局考えは巡り巡って私とお兄ちゃんに行き着くってことか。こればっかりは、お兄ちゃんの本心に直接問いかけないと分からないな。

 

 それに私も心のどこかで告白にブレーキを掛けているのなら、それを取り外さないとお兄ちゃんに私の想いは伝わらない。

 

 

「今日だ……今日の夜、お兄ちゃんにこの想いを伝えよう」

 

 

 いつまでも先延ばしにしてはいられない。雪穂や亜里沙が先に告白したから焦っている訳じゃないけど、告白を決心した日に実行しなければ、この先もまた先延ばしにして自分の心から逃げてしまいそうな気がしたから。

 

 

「お~い楓、飯もうすぐできるか?」

「うん!もうちょっとだから待ってて!」

「ほ~い」

 

 

 そう、こうしていつも2人きりでいられるからこそ、お兄ちゃんと向き合うのはまた今度でいいやと先延ばしにしてしまう。

 

 

 近すぎる故の弊害。

 

 

 でも先延ばしにするのはもう今日で終わり。いつか想いを打ち明ける、そのいつかを今日にする。

 "ラブライブ!"本番に、こんな迷いに満ちた気持ちを引きずりたくない。

 

 

 そして進みたい。お兄ちゃんと、更にもう一歩先の関係に!!

 

 

「お兄ちゃ~ん!もうすぐできるからお皿こっちに持ってきてぇ~!」

「おう、分かった!」

 

 

 

 

 そう、ただの兄妹から、その先へと……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 夕飯もお風呂も済ませ、適当に学校の宿題も片付けた私は今、お兄ちゃんの部屋のドアの前に立っている。

 1人でベッドに寝転がって色々考えをまとめていたら、いつの間にか夜もいい時間になっていた。明日のは早朝に集合だから、もう寝床に就かなければまともに寝る時間もなくなってしまう。

 

 でも、お兄ちゃんへの想いを残したままでは寝られない。

 今晩の私の目標は、

 

 

『お兄ちゃんに私の愛を伝える』

『お兄ちゃんが受け入れてくれる』

『恋人になる』

『1つのベッドでお兄ちゃんに寄り添いながら寝る』

 

 

 よしっ、完璧なシナリオ!

 既にこの時点で私はマイ枕を持参している。なんだかんだ言って女の子には甘いお兄ちゃんのこと、強引に迫れば一緒にベッドインするなんて簡単なことだよ♪

 

 だけどまぁ、告白の本番はベッドに入ったあとなんだけどね。

 

 

 

 

 私は一旦大きく深呼吸をしてから、お兄ちゃんの部屋のドアをコンコンとノックした。

 

 

「お兄ちゃ~ん、まだ起きてる?」

『あ、あぁ起きてるぞ!ちょっと待ってくれ!!』

 

 

 どうしたんだろう?やけに慌ててるような声だったけど、もしかして自分磨きの最中だったとか……?

 私たちでよからぬことを想像して、たくさんせーえきを放出し明日に備えている最中だったと。なんかそう考えたら、私があれこれ1人で悩んでたのが馬鹿らしくなってきちゃったよ……。

 

 

 そうだ、いつも通りに行こう。いつも通りにお兄ちゃんと接して、そこで想いを伝えればいいんだ。ようやくガチガチに固くなっていた心が柔らかくなった気がするよ。まさかお兄ちゃんの自分磨きに助けられるとはね♪

 

 

 よしっ!落ち着いたところで、早速突撃だ!!

 

 

「もういーい?入るよ~?」

『ああ』

 

 

 私はドアを開けてお兄ちゃんの部屋へ入る。

 まず目に入ってきたのは、お兄ちゃんがベッドではなく椅子に座っていたこと。明日は朝早いっていうのに、まだ寝床に就いていなかったらしい。それは私も同じか。

 

 でも布団が若干乱れているから、私が来るまでベッドに転がっていたんだと思う。

 もしかして私と同じく何か考え事でもしてたのかな?明日の"ラブライブ!"のことなのか、それとも……。

 

 

「どうした枕なんて持って。まさかとは思うが……」

「そのまさかだよお兄ちゃん!一緒に寝よ♪」

「明日本番なんだから、ゆっくり寝ないとダメだろうが……」

「なにお兄ちゃん!?まさか今晩は寝かさないぞ的なノリなの!?本番に緊張している私のことを思って、遂に愛を注いでくれるんだね♪」

「ち、違う!!そういう意味じゃなくてだな!!」

 

 

 あはは♪やっぱりお兄ちゃんと一緒にいると心が落ち着くよ!家だったら、いつでもお兄ちゃんの隣にいられるのは妹の特権だもんね。先輩たちには悪いけど、家にいるお兄ちゃんは私だけのものだから♪

 

 

 だけど、こうしていつもと同じ日常に満足しているからお兄ちゃんに想いを伝える機会を逃しちゃうんだよね。今晩は妹でもあり、1人の女性としてお兄ちゃんに、"零くん"の心に近づかなくっちゃ!!

 

 

「もう夜も遅いし、明日も朝早いんだから寝なきゃダメだよ!ほらほら早く早くぅ~!!」

「はぁ~……分かったよ。今日くらいは明日の労いのために一緒に寝てやるか」

「やったぁ♪それじゃあ私が壁際ね!」

「その配置に意味はあるのか……?」

「えへへ♪お兄ちゃんと壁に挟まれてるから逃げ出すことができないんだ。つまり、襲われても抵抗できないってことだよ!」

「しねぇよ!!……多分」

「えっ!?今なんて言った!?」

「やべっ、咄嗟に出ちまった!聞き流してくれ」

 

 

 なぁ~んだ、やっぱりお兄ちゃんもやる気満々じゃん♪

 私としては変にシリアスな空気のまま告白するより、いつもの楽しい雰囲気でお兄ちゃんに愛を伝えたい、そう思ってる。ほら、私って辛気臭い雰囲気似合わないでしょ?

 

 1人であーでもないこーでもないと悩んでたけど、お兄ちゃんと話したらそんな(わだかま)りも全部吹き飛んじゃった♪さっすがお兄ちゃん、私が唯一認めた男性!

 

 

 

 

 そして私の心もカラダも虜にした、最愛の人……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 おいおいおいおいおいおい!!遂に来ちゃったよこの時が!!

 何が来たって?お兄ちゃんと2人きりのベッドインに決まってるじゃん♪

 

 しかももう電気も消して、カーテンの隙間から月明かりが薄らと差し込んでいるこのロマンチックなシチュエーション!!これはもう兄妹同士のラブラブエッチ……じゃなくって、いい告白の舞台だね♪

 

 

 だけど、お兄ちゃんは私に背を向けてずっと黙りこくっていた。

 

 

「お兄ちゃぁ~ん!どうしてこっち向いてくれないのぉ~?」

「妹だからってやっぱり気になるだろ、一緒に寝るだなんて……」

「へぇ~気にしてくれてるんだ」

「あぁ。お前が俺の部屋に来なかったら、俺からお前の部屋に行くつもりだったからな」

「えっ……?」

 

 

 お、お兄ちゃんから私の部屋に!?それってどんなご褒美!?

 私からお兄ちゃんの部屋に行くことはよくあるけど、その逆は中々ない。こんなことなら自室でずっと待機しておくんだったぁ~!!でも、こうしてお兄ちゃんと一緒に寝られるんだから結果オーライだね♪

 

 

「お前も目的があって俺の部屋に来たんだろ?」

「分かってたんだ……」

「当たり前だ。俺はお前のお兄ちゃんだぞ、隠してても考えてることくらいすぐに分かるって」

「さっすが、私の大好きなお兄ちゃんだぁ……♪」

「楓……」

 

 

 私は私に背を向けたままのお兄ちゃんを、後ろから抱きしめた。

 布団の暖かさが霞むくらいに、お兄ちゃんの温もりを感じる。生まれた時からずっと見てきたお兄ちゃんの背中、抱きしめてみるとこんなに大きかったんだ……。近くにいたのに全然気が付かなかったよ。

 

 もしかして、近くにいるだけでも分からないお兄ちゃんがまだまだたくさんいるのかな?これだけ近くにいても、気付かないお兄ちゃんが……。これも先輩たちみたいに恋人になってみないと分からないのかも……。

 

 

 

 私がお兄ちゃんを1人の男性として好きになった理由は至極単純、生まれた時からずっと一緒にいたから。いや家族だから当然だろって言う人が大半だと思うけど、私にとってはお兄ちゃんとの思い出はただの家族だけでは語れない。

 

 まず、私がまだ歩けないし言葉も覚束無(おぼつかな)い頃からよく面倒を見てくれたのがお兄ちゃんだった。お母さんもお父さんも職業柄忙しかったし、お姉ちゃんもお姉ちゃんで幼い頃から意味不明な研究ごっこばっかやってたから、必然的に私はお兄ちゃんと2人きりでいることが多かったんだよね。

 

 そして言葉を覚えた時も近くにいたのがお兄ちゃん、幼稚園もお兄ちゃんと一緒、小学校も中学校もぜ~んぶお兄ちゃんが近くにいた。高校になってお兄ちゃんが2年間1人暮らしをしていたからその期間だけは一緒ではなかったものの、今は私もお兄ちゃんと同じ高校に入学して再びお兄ちゃんの隣にいる。

 

 2年間の空白はあったけれど、私の人生はほぼお兄ちゃん一色で塗り固められてきた。だからそこら辺にいる兄妹よりも仲がいいのは当然だし、私みたいに妹がお兄ちゃんに恋をしてしまう事態にもなってしまう。逆に2年間の空白も、お兄ちゃんへの想いを募らせるいいきっかけになったと思ってるしね。

 

 

 

 そしてお兄ちゃんに想いを最大限に募らせたきっかけは、まだ記憶に新しい同棲生活の時の話。

 妹という立場が故に、もうお兄ちゃんと恋人関係になるのは諦めて"今"の関係のままを保とうとしていた。だけど私は自分の本当の想いに嘘は付けず、お兄ちゃんと2人きりで話した時に今までずっと隠してきた感情を全てお兄ちゃんに吐き出してしまった。

 

 兄妹同士の恋愛なんて反対される。

 いくらシスコンのお兄ちゃんでも、妹との恋愛は御法度だと私も思っていた。

 

 でもお兄ちゃんは、私の全てを受け入れてくれたんだ。

 まだ妹としか見られないけど、内に秘めた愛は本物なんだって。この時私は思った。やっぱりこの人は私のお兄ちゃんで、私が好きになった唯一の男性だと。兄妹という壁をちゃんと考慮しつつも、しっかりと私の想いを一身に受け止めてくれた、優しいお兄ちゃん。

 

 

 それが私がお兄ちゃんへの愛を更に深めることになった、一番の出来事だ。

 

 

 それに私は、お兄ちゃんへの恋を捻じ曲がっているとは思うけど悪いことだとは一切思っていない。周りの体裁も少しは気になるけど、もう私にとって男性はお兄ちゃんしか考えられないよ。

 

 

 だってこうして後ろから抱きついているだけなのに、こんなに胸がドキドキするんだもん。

 心臓が鼓動するたびに、お兄ちゃんへの愛が私を支配していく。止まらない愛情がよりお兄ちゃんへの包容を強くして、更にお兄ちゃんからの温もりを求める。

 

 

 ずっと、ずっとこうしていたい。妹という立場である私も、先輩や雪穂、亜里沙たちと同じく、お兄ちゃんへ愛を送りたい。"零くん"の恋人になりたい……。

 

 

 

 

 すると突然、お兄ちゃんの身体が私の腕から抜け出したと思ったら、お兄ちゃんは寝転がったままクルリと回転して、なんと私と向かい合った。

 

 そして私の身体に両腕を伸ばし、そのまま私を――――――ギュッと抱きしめた。

 

 

 あまりにも突然のこと&お兄ちゃんから抱きしめてくるなんて思ってもなかったから、私は珍しく気が動転していた。

 

 

「えっ……えっ!?」

「やっぱりお前だけに愛を語らせるのは不公平だよな。こういう時は男がビシッと決めないといけないのに」

「わ、私、何か喋ってたっけ?」

「さっきお前に抱きつかれて思い出したんだよ。幼い頃からのお前との思い出を。そしてお前の想いが背中を通じて伝わってきたんだ。やっぱり俺たち、普通の兄弟よりも心が近いからお互いの想いが分かるんだろうな。お前の心臓の鼓動が高鳴るたびに俺のことを考えてくれていると思うと、なんだか居ても立ってもいられなくなったんだ」

「だからこうして私に……?」

「ああ。俺からこうして抱きしめるのって、一緒に住むようになってからは初めてかもな」

「そうだね。お兄ちゃんの身体って、こんなに暖かくて気持ちよかったんだぁ~♪」

 

 

 お兄ちゃんの優しい包容に応え、私もお兄ちゃんに身体を擦り寄せて抱きついた。

 まさかお兄ちゃんと抱き合える日が来るなんて。しかもお互いの愛を知ったうえで……。やっぱり安心するよ、お兄ちゃんに包まれるのは。こんな感覚久しぶりだなぁ~♪

 

 いつもお兄ちゃんお兄ちゃんと言って無邪気になっていた時と比べると、明らかに違う胸の鼓動。これが本物の恋、お兄ちゃんへの愛の証なんだね。

 

 

「楓、俺はお前のことが好きだ。兄妹なんて関係なく、お前のことを1人の女性として。今までずっと一緒に人生を歩んできたからこそ、お前の魅力は俺が一番よく知っている。そして俺は、いつの間にかお前の魅力に惚れてしまっていた。いつも俺の側にいて俺の味方でいてくれるその優しさ。こんな俺のことをずっと変わらぬ愛で慕ってくれるその心。そして、いつも変わらず"お兄ちゃん"と微笑み掛けてくれるその笑顔。お前の魅力を言いだしたらキリがないってくらい、俺はお前のことが大好きなんだ!!」

 

 

「お兄ちゃん……」

 

 

 

 

 お兄ちゃんからの告白。今まではこの愛をお兄ちゃんに伝えてきただけ、つまり一方通行だった。

 でもたった今、お兄ちゃんは私への本気の愛を示してくれたんだ!

 

 

 ずっと、ずっとこの時を夢見てきた。幼い時から抱いていた恋が、遂に成就したんだ!

 

 

 嬉しすぎて今にも涙が出そう。ずっと待ってたから!お兄ちゃんと恋人同士になれるこの時を!!

 

 

 

 

「私も好き!大好き!!今までもずっと言ってきたことだけど、もう何度でも言うよ!好きだよ、お兄ちゃん♪お兄ちゃんの隣で育ってきた私にとって、人生の伴侶はもうお兄ちゃんしか有り得ない!!兄妹だからとか、もうそんなの関係ない!!私のことをずっと支えてくれたお兄ちゃんが好き!!私にこんなドキドキする恋をさせてくれた、"零くん"も大好き!!」

 

 

 そして私の本当の想いもやっと伝えることができた。今までの想いが偽物だったって訳じゃないけど、これほどまでにお兄ちゃんの愛情に満ち溢れた告白は今回が初めて。

 

 告白をして想いを全てさらけ出せたからか、私の心がスッと軽くなった。同時にお兄ちゃんからの返事にまた別のドキドキが生まれてきたり。ベッドで2人並んで寝転んで、抱きしめ合いながら愛の告白なんて、想像以上のシチュエーションで興奮が止まらないよ♪

 

 

「兄妹か。なぁ楓、俺ずっと思ってたんだ」

「何を?」

「このまま、兄妹の関係でもいいんじゃないかってな」

「え゛っ!?」

「勘違いするなよ。兄妹でもあり、恋人でもあるってことだ。そのなんだ、今更お前から"零くん"って呼ばれるよりも、"お兄ちゃん"呼びのままの方がしっくりくるというか、萌えるというか……だから、今はとりあえず兄妹の関係のままでいないか?また俺がお前に正式な告白をするまでさ」

「お兄ちゃん……」

「な、なんだ……?やっぱダメか?」

「お兄ちゃん、なんだか可愛いねぇ♪」

「はぁ!?!?」

 

 

 お兄ちゃんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして驚いた。

 だってねぇ~♪お兄ちゃんと呼ばれることにそこまで執着していたなんて。だったからこれからはもっと"お兄ちゃん"って呼んであげなきゃダメかなぁ~フフッ♪

 

 

「そういやお兄ちゃん妹萌えだもんね♪じゃあいっぱい呼んであげるよ!」

「は、はい?」

 

 

 私はお兄ちゃんを更に強く抱きしめながら、お兄ちゃんの顔へ自分の顔を近づける。

 そして顔を真っ赤にしたお兄ちゃんに向かって、とびきりの笑顔を見せて――――――

 

 

「お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪」

「ぐはっ!!し、死ぬ……」

「えへへ、まさか私があのお兄ちゃんを萌殺しにできる日が来るなんてねぇ♪」

 

 

 お兄ちゃんは私にしがみつきながら必死に苦しみに耐えている。

 もう!そんなに抱きつかれたら、またお兄ちゃんへの愛を囁きたくなっちゃうじゃん!!好きなんだからお兄ちゃんも♪

 

 

「はぁ、はぁ……お前なぁ。そ、それで?さっきの返事は?」

「もちろんOKだよ!お兄ちゃんの恋人になれるって分かってるのなら、私はいくらでも待つからね!」

「楓……ありがとな」

「うぅん、お兄ちゃんこそありがとね。私の気持ちに答えてくれて」

「こちらこそ。お前への想いは、俺だってずっと満ち溢れてから」

「もうっ、すぐそうやってドキドキさせることばかり言うんだから!…………もっと、近付いていい?」

「もちろんだよ。今日はこのまま寝るか?」

「うん!」

 

 

 お兄ちゃんに頭を撫でられ、心に広がっていた幸福感が全身に伝わったよ。

 お兄ちゃんと両思いになることができた。それだけでも満足なのに、本番前日にお兄ちゃんとこうして抱き合いながら寝られるなんて……多分明日、私のテンションは誰よりも高いだろうなぁ♪

 

 

「遂に明日だな」

「うん……」

「頑張ってる奴に頑張れなんて言わない。全力で楽しんでこい」

「もちろんだよ♪舞台からお兄ちゃんに、私の最高の笑顔を届けるからね!」

「あぁ、ありがとう」

 

 

 お兄ちゃんに分けてもらった勇気と元気で、お兄ちゃんがまた私に惚れ直すような姿を明日の舞台で見せてあげる!

 

 

「おやすみ、楓」

「おやすみ、お兄ちゃん」

 

 

 

 

 私の大切な"お兄ちゃん"。これからも、ずぅ~と一緒だよ♪

 

 

 

 

 




 今回はシスターズ編のラスト、楓の告白回でした。
 楓の告白にスポットを当てたのはもちろんですが、今回は零君の告白も同様に光を当てました。これで彼の告白はまだ本気ではないので、もし零君が本気の告白をした場合、楓ちゃん気絶しちゃうかも……?

 妹だからこそ、その心の近さを生かした恋人になると誓った楓。恋人になり妹でもあり続ける、敢えて兄妹という壁を取り払わずに結ばれることを決意した楓でした。零君も同じことを考えていたみたいですし、やはり兄妹といったところですね(笑)

 そして、今回で一年生組の告白回はすべて終了したのですがいかがだったでしょうか?
それぞれが内に秘めていた想いを全部愛しの彼に打ち明け、恋が成就するという王道パターンでしたが、私は王道が大好きなのです!(笑)
本来は零君視点で3話共《零→一年生組》のような感じで書こうと思っていたのですが、一年生組視点での恋愛をあまり書いたことがなかったので、急遽視点変更が行われた次第です。そのせいで零君の告白より3人の告白の方が目立っちゃいましたが(笑)

 1つこの小説の異端な点を挙げるなら、ラブライブの小説にも関わらずまさかのオリ主×オリキャラの恋愛も話の主軸にしているってことですかね。
よくよく考えてみれば物凄く異端なことなのですが、もう私の中では楓ちゃんも立派なヒロインなので穂乃果たちと同格の存在として扱っています。もしかしたら読者さんの中にも『言われてみればそうかも……』と納得された方も多いのでは?(笑)
それくらい楓ちゃんが好きな読者さんが多くて私も嬉しい限りです!

 これからシスターズと零君の関係はμ's9人と零君の関係とほぼ同様になります。つまりR-17.9が……!?


 次回は最近本編の話題になっていた"ラブライブ!"の後日談を投稿予定です。今回連続で投稿したシスターズ編のまとめでもあります。


 雪穂回、亜里沙回、そして今回の楓回を含め、ご感想・評価お待ちしています!
特に前回の感想と評価は、今回の楓回を執筆するいい活力となりました!


高評価を入れてくださった、yoshi4128さん、☆コウキ☆さん、たまドラさん、豚汁さん、yuto555さん
ありがとうございました!

Twitter始めてみた。
https://twitter.com/CamelliaDahlia












最後に、タグにご注目あれ!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たなる日常

 サブタイトルがタイトルと同じってことは、恐らく最終回的な何か。
 今回のメインは最近出番が薄かった穂乃果たち9人だったり。


 

 目標を達成した後というのは実に清々しくて気持ちがいい。それは掲げていた目標が達成困難であればあるほど尚更達成感に満ち溢れる。逆にこの達成感が清々しく思えれば思えるほどその目標に向かってもがき足掻き苦しんで、そして努力したということだろう。

 

 

 こんな時は何も考えず、その思いに浸って寝転がっているのが一番だ。

 

 

 そんな訳で、俺は相変わらず授業をサボって学院の中庭で秋の清涼さを感じていた。

 静かな慰めるような秋の日光が木々の間に差し込んで、冷たく澄んだ秋の空気で若干冷えた俺の身体を程よく温めてくれている。

 

 更にそよ風が吹くたびにイチョウの木がまるで子守唄を歌っているかのように葉を揺らすので、俺の眠気がその音に釣られ誘い出されてしまう。もういっそのことこの後の授業も全部バッくれてもいいかもしれない。授業は明日以降もずっと続くけど、この気持ちのいい瞬間は今しか味わえないからな。

 

 

 俺はついこの間までの緊張が嘘のように腑抜けとなっていた。もう身体も心も軽くなりすぎて、このまま天まで浮いて行ってしまうくらいには……。

 

 

 

 

 俺がここまで気を抜いているのには2つ理由がある。

 

 

 1つ目は雪穂、亜里沙、楓との仲が大きく進展、詳しく言えば恋人一歩手前にまで迫ったこと。

 この3人とは恋愛関係で多少ギクシャクしたこともあったけど、お互いに秘めていた想いを伝えた合ったことで、俺たちの仲はほぼ恋人と言ってもいいくらいの関係にまで進展したんだ。

 

 ちなみにだが、まだ恋人にはなっていない。

 アイツらからの告白を受け取って、俺の心はまた大きく揺れ動かされた。その心に従ってもう一度俺なりに想いを整理して、再度アイツらに告白する。それまで3人には待ってもらうことになってしまったけど、もう"あの時"みたいに恋愛で失敗はしたくないんだ。それに恋愛であっても、ケリを付けるのならスッキリとケリを付けたいしな。

 

 

 2つ目は、μ'sの"ラブライブ!"優勝の件だ。

 突然優勝したと言われて驚いたかもしれないが、これは紛れもない事実。μ'sが2連覇を果たすことになるとは想像していなかった訳ではないし、優勝を目標に頑張ってきたんだからこの結果に不思議も感じない。だが俺たちの周りは意外だったらしく、会場は2度目の優勝だというのに初優勝の時と同じ盛り上がりを見せていた。それは同時に、例えメンバーが入れ替わったとしてもμ'sはμ'sなんだということを全国に知らしめることができたんだ。あの時の皆んなの笑顔はこの先ずっと忘れないだろう。

 

 一度"ラブライブ!"の運営に返還した優勝旗が、舞台に立った穂乃果たち9人と観客席で見ていた俺と絵里たちの希望が重なり、再び俺たちの手に渡った時はまさに快感だった。

 

 

 そんな感じで、1年生たちとの恋愛も"ラブライブ!"も目指していたゴールに辿り着いた俺は、授業をサボってまでこうして達成感の余韻に浸っている訳だ。

 

 

 

 

 すると遠くの方から、誰かが落ち葉を踏み分けて走ってくる音が聞こえてきた。

 忙しながらもどこか一定のリズムで走るこの足音は……。

 

 

「お~い!!零く~ん!!」

「穂乃果……」

 

 

 声がした方を横目でチラッと見てみると、穂乃果が手を振ってこちらへ向かって走って来ていた。

 このどこかリズムの取れた足音がするのは、彼女が普段からスクールアイドルとしてダンスの練習をしているからだろう。知らず知らずの間に日常生活でもテンポが生まれている。もちろん生活のリズムは相変わらずぐぅたらだけど。

 

 

「もうっ、そんなところで何してるの?授業始まってるよ!」

「そんなお前こそ、授業が始まっているのにどうしてここにいる?」

「山内先生に『穂乃果が零君を探してきまーす!!』って言って、授業抜け出してきちゃった♪」

「なんか嬉しそうだな、お前」

「どんな形でも、零君と2人きりになれるのなら嬉しいよ♪」

「そうかい」

 

 

 そう言って穂乃果は俺の隣に座り込んだ。

 俺は寝転がっている状態なので、必然的に座り込んだ穂乃果の太ももが俺の目のすぐ隣に来ることになる。そしてちょっと目線をずらせば、もしかしたらパンツが見えちゃうかもしれない。

 

 

 ――――と、まあいつもの俺ならこれくらいは考えるのだが、今は妙な眠気と先ほど言った達成感の余韻に支配されて完全に賢者モードと同様の状態になっていた。

 

 

「どうしたの零君?今日なんか冷めてない?」

「そりゃあやっと肩の荷が降りたんだ。何も考えずぼぉ~っと休みたくもなるさ」

「優勝の打ち上げパーティの時も、零君静かだったもんねぇ~」

「騒がしいのは好きだけど苦手だから」

「分かるよその気持ち!穂乃果だって和菓子は好きだけど、おやつに出されると『え~!!』ってなるもん」

 

 

 穂乃果のクセに割と的確な例え話を挙げやがる。

 こうして対して言葉を選ばず、思ったことを適当に口に出して穂乃果たちと会話をするのは久しぶりなきがする。精神的に追い詰められていた訳じゃないけど、ここ数日ずっと気を張っていたのだけは確かだ。去年とは違うメンバーでの"ラブライブ!"、そして"あの3人"との関係、いつもの自由気ままな俺とは思えないほど真面目だったな。

 

 

「そうだ、零君に言わなきゃいけないことがあったんだ!」

「どうした藪から棒に?」

「"ラブライブ!"に優勝できたのは零君のおかげだよ。ありがとね、零君♪」

「!!」

 

 

 穂乃果の満面の笑顔に、眠気に釣られていた俺の意識が一瞬にして明るく照らされた。

 全く、急にそんなキラキラした笑顔見せんじゃねぇよ……心の準備ができてないから思った以上にドキドキするだろうが。それに……顔近いし!!

 

 

「優勝できたのは、お前たちの絆の強さのおかげだろ」

「その絆を作ってくれたのは零君でしょ?初めはバラバラだった穂乃果たちがこうして集まって、スクールアイドルのグループを組んで、一緒に練習して、そしてあの大舞台に立って優勝する……この奇跡に巡り合ったのは零君のおかげだから、いつかお礼を言いたかったんだ」

「奇跡か……もしかしたら必然だったのかもしれないぞ?」

「必然?」

「そう。多分お前たちは俺がいなくても1つに巡り合って、μ'sというグループを組んでいたんじゃないか?その先の結末は流石の俺でも分からないけど、それでもお前たちは共に挫折や困難を乗り越えて行けたと思うぞ」

 

 

 もし仮に平行世界なんてものがあったとしても、穂乃果たちは全員揃って"ラブライブ!"の優勝にまで漕ぎ着けていただろう。途中の挫折や困難は今の俺たちとは違うものかもしれないが、穂乃果たちならどんな障害でも絆の力で突破できると俺は思っている。普段のこいつらを見ていれば、そう確信しても仕方がない。

 

 

「でも穂乃果は、零君がいない世界なんて考えられないよ!ここまでの途中経過がどうであれ、今の穂乃果たちがいるのは零君のおかげだしね♪」

「そっか、ありがとな。ぼぉ~っとしながらも元気を貰ったよ」

「だって穂乃果の取り柄は元気だもん!皆んなにもたくさん分け与えちゃうよ~!!」

 

 

 もう穂乃果からは持て余してしまうくらいの元気を貰っているけどな。もちろん穂乃果からだけではなく、μ'sの全員から何度も元気と活力を分けてもらった。アイツらの絆の強さを見てると、何事も諦めず前を向いて進んでいこうという勇気が湧いてくる。ここでアイツらの一生懸命な表情や、困難を乗り越え満足した笑顔が頭に浮かぶ辺り、俺も皆んなの色んな表情を見てきて心が育ったのだとしみじみ思うよ。

 

 

「そして零君には、μ'sを代表して穂乃果からもう1つお礼を言っておかなくちゃいけないんだ」

「ん?まだあるのか?」

「うん!雪穂に亜里沙ちゃん、そして楓ちゃんの心に応えてくれてありがとうってね!」

「その3人のこと……?どうしてそれをお前が?」

「流石の穂乃果でも、雪穂たちが零君に恋をしていることぐらい分かるよ。だって穂乃果たちも同じような時があったし、皆んなも気付いてるよ」

「マジかよ……お前らそんな話一回もしてなかったじゃねぇか」

「したことあるよ、元μ'sのメンバーの9人だけで」

「えっ!?」

 

 

 寝転がっていた俺は思わず驚きで身体を上げてしまった。

 まさか俺抜きで雪穂たちの恋愛について話していたなんて……なんだか仲間外れの気分。どうせなら女の子の繊細な恋心とか、雪穂たちの想いとか、詳しく教えてくれればよかったのに。

 

 

 ――――待てよ、よくよく考えてみれば違う。穂乃果たちは俺をハブにしていたんじゃなくて恐らく……。

 

 

「穂乃果たちは分かってたんだな。この恋愛事については、俺と1年生の3人で解決しなければいけないって」

「うん。穂乃果たちが零君や雪穂たちの背中を押してあげることはいくらでも出来たんだよ。現に穂乃果もそうしようとしてたしね」

「そうなのか……」

「でもね、一度皆んなと話し合って決めたんだ。『この問題は零君と雪穂、亜里沙ちゃん、楓ちゃんの4人だけで解決させよう』ってね。穂乃果たちはいつも一緒に手を取り合って同じ道を進んできた。そしてこれからもそれは変わらない」

 

 

 そうだ、穂乃果たち9人とは恋人同士に、雪穂たち3人とは恋人一歩手前になった今、俺たちが今後も共に手を繋いで同じ人生を歩んでいくことが決まったようなものだ。お互いの笑顔を守り、そしてその笑顔をずっと見ていられるように、俺たちは自ら茨の道を歩み始めた。それは穂乃果たちも重々承知の上だ。

 

 だからこそ、穂乃果たちは俺と雪穂たちに一切の口出しをしなかった。俺もさっきその理由が分かったけど、ここは敢えて穂乃果の口から聞いてみたい。1年前とは打って変わって大きく成長した、穂乃果の口から。

 

 

「だけど、零君と雪穂たちの4人で乗り越えなくちゃ意味がないって思ったんだ。零君の"本当の想い"は零君自身にしか見つけることはできないし、なにより雪穂たちには自分自身で気持ちの整理をして欲しかったから」

「どうしてそう思ったんだ?」

「一度失敗しちゃったからね、穂乃果たち……」

「あぁ、"あの時"のことか……」

「そう。雪穂たちにあんな辛い経験をさせたくない。穂乃果たちはあの出来事のおかげで零君への本当の想いに気付いたけど、雪穂たちだったらそんな悲痛な経験を背負わなくても、絶対に自分の心に素直になって零君に告白できるって信じてたから」

 

 

 穂乃果は一瞬暗い表情になったが、すぐに優しく微笑んで空を眺めた。

 自分たちの辛い過去があったからこそ、敢えて俺や雪穂たちに甘さを与えなかったのか。それは逆に解釈をすれば穂乃果の言った通り、雪穂たち3人を信頼しているがゆえということだ。"あの時"の自分たちのように心が乱れることはない、だけど成長するためには乗り越えなければならない壁もある。穂乃果たちは自分たちの経験からそのことをいち早く理解して、意図的に俺や雪穂たちの背中を押さなかったんだ。

 

 いや、"背中を押さないこと"が俺たちの背中を押してくれていたのか。なんともややこしい……。

 背中を押されていたら押されていたで、3人との恋愛に一旦ケリはついていただろうが、恐らくここまで清々しい気持ちに浸れているのは俺自身、そしてアイツら自身が1人で自分の秘めた想いを整理してお互いにその気持ちをぶつけ合えたからだろう。自分たちの想いに不純物(穂乃果たちには怒られそうな例えだが)が入っていないことで、本物の気持ちを相手の心に届けられたんだ。

 

 

「そのことに関しては穂乃果たちに感謝してるよ。これで恋愛事にスッキリとケリをつけられそうだから」

「あれ?感謝してるのは穂乃果の方だったんだけど……いつの間にか変わっちゃったね」

「お前らがそこまで俺たちのことを考えてくれてると知って嬉しかったんだよ。まさか影で支えてくれていたなんて思わなかったから」

 

 

 穂乃果たちは何もしないことで俺たちの背中を押すという少々意味の解釈に困る行動を取っていたのだが、結果的にそれが俺と雪穂たちの恋の成就に繋がったし、今更詳しく語る必要もないか。終わりよければ全てよし!ってな。

 

 

「穂乃果たちが"ラブライブ!"に優勝できたのも、雪穂たちの想いを受け止めてくれた零君のおかげだよ。本番直前だっていうのに、1年生の皆んなずっとどこか腑に落ちない雰囲気がしてたんだもん。本番に向けての練習は完璧なのに、気持ちに余裕がないっていうか、"ラブライブ!"とはまた別の緊張があるみたいだったんだよね」

「なるほど、だから雪穂たちに恋心があるって気付いたのか。流石恋の経験者は違うな」

「あははっ♪楓ちゃんはともかくとして、雪穂と亜里沙ちゃんは最近零君をチラチラ見ることが多くなっていたから、あまり考えなくてもすぐに分かったけどね」

 

 

 恋を一通り経験した女性は他人の女心にも強し、と言ったところか。まさか穂乃果がここまで先輩風をビュンビュン吹かせているとはな……世も末ではないが中々に珍しい。元々リーダー気質はあるけど、普段の素行のせいで頼りがいのある先輩には見えねぇからな。

 

 

 

 

「それで?これからどうするんだ?」

「どうするって……何が?」

「これからのμ'sだよ。まさかこの前の"ラブライブ!"優勝で終わりとか言い出さねぇだろうな?」

「もちろんだよ!また年明けにも"ラブライブ!"があるからね!今度は3連覇を目指してこれまで以上に頑張るよ!!それにあわよくば海外進出、なぁ~んてことも考えちゃったり♪」

「最後だけ偉く大きく出たな……でもその意気だ!目標は高く、そして叶えることのできる範囲にしておくのが諦めることもなく、達成した時の清々しい気分も味わえるから」

 

 

 μ'sは音ノ木坂学院を救い、そして"ラブライブ!"に2度も優勝した奇跡のグループだ。もしかしたら本当に海外進出のチャンスが巡ってくるかもしれないぞ。そうなったら父さんと母さんに生でμ'sのライブを見せてやることができるな。

 

 

「でもまぁそれ以前に、お前は受験勉強を頑張るのが先だと思うけど」

「わ~ん!!嫌なこと思い出させないでよぉ~!!」

「うぐっ!!急に被さってくるなって!!」

 

 

 穂乃果は泣きながら(恐らく泣き真似)俺の身体に覆い被さるように飛びついてきた。そのせいで俺の身体は再び地面に寝転がってしまう。

 

 さっきは俺自身が冷めていたせいで、コイツの太ももを見ても賢者モードだったが今は違う!!

 穂乃果の身体の柔らかさ、匂い、そしてなにより1年前より成長したおっぱいが俺の身体に容赦なく押し付けられて気持ちいいのなんのって!!地面は秋の涼しい空気でひんやりしてるのに、身体は穂乃果の温もりでぽっかぽかに……穂乃果、一生俺のホッカイロとなってくれないか?

 

 

 

 

「あぁああああああああああああああああああ!!そんなところで何やってるの!?ことりも混ざりたい!!」

「えっ、こ、ことり!?」

「あなたたち……全然教室に帰って来ないと思ったら、まさか授業を抜け出してまでそんなことをしたかったのですか……?」

「う、海未まで!?違うって!いや授業を抜け出したのは本当だが、俺は決してこういうことをしたかった訳じゃあ……」

「えぇ~!!穂乃果とは遊びだったの……?」

「いらねぇこと言わなくていい!!しかも事実無根だし!!」

「穂乃果ちゃんだけずる~い!!ことりも零くんと一緒に寝るぅ~!!」

「ぐはぁ!!」

 

 

 ことりのダイビングにより俺は穂乃果とことり、2人同時に抱きつかれるはめに……なんか久しぶりだなこの感覚。最近ずっとセンチな気持ちだったから、しばらく己の欲望なんてものすら忘れていたよ。

 

 

 よしっ!こうなったら!!

 

 

「えぇい!!こうなったら一気に全員抱けばいいんだろ!?久々に欲望を解放してやる!!」

「やん♪零君強く抱きしめすぎだよぉ~♪」

「ことりに手加減なんていらないから!激しくお願いします♪」

「何を言ってるんですか!?まだ授業中なのですよ!?全然戻ってこない2人を探すために私たちがこうしてやって来たというのに、このままではミイラ取りがミイラになってしまうではありませんか!!」

 

 

 あぁ、このやり取りこの会話、いつもの日常に戻ってきたって感じがするな。やっぱり俺はコイツらが大好きなんだ。一緒にいるだけで心が暖かくなって、勇気がもらえて、そして笑顔になれる。さっきまで冷めていた心もどこへやら行ってしまった。これは俺の人生飽きそうにねぇな。

 

 

「じゃあさ、海未ちゃんも……ヤる?」

「やりません!!」

「そんなに顔赤くしちゃってぇ~♪零くんなら優しくシてくれるよ?」

「…………やりません」

「さっきの沈黙……やっぱ海未ちゃんも変態さんだねぇ~♪」

「ことりたちと同類だよ、同類♪」

「例え地球がひっくり返ったとしても、あなたたちと同類にだけは絶対にされたくありませんから!!」

「まあまあ、お前らとりあえず落ち着けよ」

「元々あなたが授業をサボったせいでは……?」

 

 

 これからもこうして何も変わらない日常が続けばいいけど、もちろんそうはいかないだろう。

 俺たち13人の道はここから始まる。まだスタートラインに立っただけに過ぎない俺たちの先には、これまで以上の困難が待ち構えているに違いない。でもコイツらとなら絶対に乗り越えていける。俺たちが作り上げてきた絆があれば、絶対に。

 

 

「しゃあねぇ、授業にもどるか」

「今日はやけに素直ですね。いつもだったら頑なにその場から動かないというのに」

「冷めていた心も落ち着いたし、そろそろ戻ってやろうかなぁと思ってさ。それにサボってることが笹原先生にバレたら、多分もう俺に命はない」

「なのに何故サボろうと思っていたのかが疑問です……」

「それは新たなる日常に、どこかワクワクしていたから……かな?」

「???」

「まあお前にも分かる時が来るさ。ほら、穂乃果もことりも行こうぜ」

「「は~い♪」」

 

 

 またいつもの日常が戻ってきたけど、その中にもまた新しい日常がある。

 穂乃果たちの新しい魅力に気付いたり、雪穂や亜里沙、楓との関係が更に進展したり、時にはまた困難が立ちはだかる……なんてこともあるかもしれないな。

 

 でもどんな新しい日常が来たとしても、俺はいつも通りコイツらと一緒に毎日を過ごしていくだけだ。それだけは、この先の人生永遠に変わることはないだろう。皆んなと愛を確かめ合いながら、ずっと……。

 

 

 

 

 よしっ!新たなる日常へ向けて共に歩こう、μ's!!

 

 




THE END……?




高評価を入れてくださった、

刀彼方さん、J.スマッシュさん、ワッフェルさん、アリアンキングさん、ellieさん

ありがとうございました!

感想や評価、お待ちしています!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新生徒会発足!生徒会長・星空凛!!

 何事もなかったかのように最新話を投稿しました(笑)

 今回から新章に突入します!
 新章第一発目はタイトル通り凛たち2年生組がメイン。今まで真面目な話が連続で続いたので、今回のような日常回は割と新鮮かもしれません。


 それではまたいつも通りの日常をどうぞ!


 10月。

 衣替えの季節となり、女の子たちがどんどん厚着になってしまい意気消沈する俺を他所に、音ノ木坂学院には新たなる風が吹き始めていた。

 

 音ノ木坂学院講堂。

 そのステージの上には、オレンジ色の髪をした小柄な少女がマイクを片手に自己紹介をしようとしていた。

 

 

「皆さんこんにちは!!本日よりこの音ノ木坂学院の生徒会長を務めさせて頂く――――――星空凛です!!」

 

 

 そう、先月で穂乃果たち生徒会役員の任期が終了し、この10月から新しい生徒会役員が任命されたのだ。そして今現在行われている全校集会で、新たな生徒会役員のお披露目回が始まっているという訳。

 

 

 凛が生徒会長になるなんて意外と思われるかもしれないが、以前は穂乃果が生徒会長だったため今更驚くことでもない。それにあの穂乃果だって何だかんだ言って1年間ちゃんと職務を勤めてきたんだ、凛ならきっとできるさ。

 

 でも自分から生徒会長に立候補したのは驚いた。去年の凛はダンスのセンターになるのすらも嫌がっていたのに、自ら生徒の長となって学院を引っ張っていく決意をするとは……成長したな、凛。

 

 

 でも――――――

 

 

「マイク投げんなよ……」

 

 

 凛は自分の名前を高らかに叫ぶ際に、去年の穂乃果と全く同じ軌道でマイクを投げやがった。

 そんないらないところまで真似しなくてもいいからな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「うにゃ~!!疲れたよぉ~!!」

「お疲れ様、凛ちゃん♪」

 

 

 場所を移して生徒会室。凛は自分で考えたとは思えない堅苦しい文章の自己紹介文を読み、現在グロッキー状態となっていた。

 机に伏せている凛を花陽が下敷きでパタパタと仰ぎ、真姫は相変わらず足を組みながら本を読んでいる。本当に大丈夫なのだろうかこの生徒会。花陽は流されやすいし、頼りになりそうなのは真姫だけ。ちなみに俺はただ遊びで生徒会室に来てるだけだから、役員でもなんでもないただのお邪魔キャラである。

 

 

「あの堅苦しい自己紹介の文章、真姫が考えたんだろ?」

「えぇ。初めは試しに凛に書かせてみたんだけど、内容は……まぁ、察して」

「なるほど」

「どうしてそこで納得するの!?凛、頑張って書いたのに!?」

「いやぁ流石にあの文章はちょっと……」

「ガーーーン!!か、かよちんまで!?」

 

 

 あの花陽が一切フォローしないなんて、実際にどんな文章だったのか見てみたい気もする。だけどどうやらその文章が書かれた紙は、凛のお粗末な文章に怒りの火山が噴火した真姫に焼却処分されてしまったらしい。どんだけひでぇ文章だったんだよ……確かに凛は丁寧な言葉とか苦手そうだけどさ。

 

 

「私が生徒会に入ったからには、あなたをビシバシ鍛え直してあげるからそのつもりでね」

「なんか最近真姫ちゃんが怖いにゃ~……」

「あはは……私もいるし、一緒に頑張ろ!」

「かよち~ん!!」

 

 

 凛は机を飛び越えて花陽に抱きついた。

 こんな生徒会長に引っ張られて大丈夫なのか!?音ノ木坂学院!!

 

 

 ちなみに生徒会の役職は凛が生徒会長、真姫が副会長、花陽が書記と会計を担当している。本来花陽はアイドル研究部の部長、真姫が副部長なのだが、それほどアイドル研究部自体に仕事はなく、生徒会と部長の兼任も認められているらしいので、花陽と真姫が危なかっしい凛をサポートすることになったのだ。

 

 ちなみに楓に『お前、暇だったら生徒会の会計の仕事とかやってみねぇか?』と訪ねたら、今世紀最大のムカつく顔で『ハッ!』と一蹴して逃げやがった。思い出しただけでもイライラしてくるんだが……。

 

 

「とにかく!練習にも遅れちゃうし、早く仕事を片付けましょ」

「そうだね。とは言っても、今のところ仕事はこれだけだけど」

 

 

 花陽が机の上に置いたのは、いわゆる投書箱というものだ。

 現在、一般の生徒が学院側に意見を言う場が中々ないのが現状。だがこの投書箱を使えばその問題をズバリ解決できる!生徒が学院側への要望を紙に書いてこの投書箱に投書し、生徒会がそれを開封して要望を議論し検討するのだ。もしかしたら俺たちの願いが学院側に届くかもしれないぞ!

 

 なんて通販番組風の解説をしたが、要はよくあるご意見ボックスみたいなものだ。

 

 

 まず凛たち新生徒会最初の仕事は、この投書箱に入っている要望を仕分ける作業からだ。

 穂乃果たち曰く、毎回相当な数の要望が入っていてとてもじゃないけど全部議論はできないらしい。だから要望にざっと目を通して、明らかに通りそうにもない要望はその場で破棄するのだ。

 

 

 そして案の定、今回も要望の紙が大量に入っていた。

 

 

「凛、この要望の仕分け一度やってみたかったんだぁ~!面白そうだし!!」

「でもこんなに数があったとはね……仕分け作業だけとは言え、これは時間が掛かりそうだわ」

「タラタラ喋ってても時間の無駄だ。とっとと片付けようぜ」

「そうだね。練習の時間もなくなっちゃうし」

 

 

 俺、生徒会役員でもないのにシレっと凛たちに混じっているけど、仕事を手伝おうとしてるんだし別にいいよな?実は俺も凛と同じく、この仕分け作業をやってみたかったりもする。この学院に対してどんな要望が来ているのか知りたいし。

 

 

「よ~し!記念すべき第一発目、いっくにゃ~!!」

 

 

 凛は投書箱から二つ折となっている投書の紙を勢いよく取り出して、その内容を読み上げながら確認する。

 

 

「なになに?『購買部のパンの種類が少ないのでもっと増やしてください』」

「そ、それってもしかして……いやもしかしなくても」

「穂乃果ね」

「なんで前生徒会長が投書してんだよ!自分が生徒会長の時に議論しろ!!」

 

 

 それに購買に売っているパンの種類って相当な数だと思うんだけど、アイツそれでも足りないのか……そういや最近"ラブライブ!"が終わった影響からか、休み時間でも構わずパンをパクパク食っている。こりゃあまた俺と一緒にダイエットコースだな。

 

 

「じゃあ次は私が読むね。えぇ~と、『気持ちよく日向ぼっこできる場所が欲しいです 高坂穂乃果』」

「匿名性なのになんで自分の名前書いてるのよ……」

「生徒会で署名するクセが付いてしまったんだろう。しかし投書でも戸惑いなく名前を書く辺り、間が抜けているというか、何というか……」

「おバカさんなのかな?おバカさんだったにゃ……」

 

 

 しかも連投してんじゃねぇよ。たくさん投書すれば当たりやすくなるシステムとか一切ないから。そして名前を書けば知り合いよしみで要望を叶えてあげるとかいうシステムもない。

 

 

 やはり毎回思うけど、穂乃果が生徒会長でよくこの学院は生き残っていられたよな。カリスマ性はあるけど、物事をコイツに任せるのは相当勇気がいる。穂乃果の"任せて!!"ほど信頼がないものはない。特に本人がドヤ顔の時は……。

 

 俺とシスターズをバックアップしてくれた、あの成長した穂乃果をもう一度見せてくれよ!!あのネタばらしの時は本当にカッコよかったのに……。

 

 

「じゃあ俺も1つ開封してみるか。どれどれ、『学食のラーメンの種類をもっと増やして欲しいにゃ~』」

「あ、それ凛のだ!」

「あなた……」

「凛ちゃん……」

「お前も穂乃果と全然変わんねぇじゃん!!さっき穂乃果のことボロクソ言ってなかったっけ!?」

「ふーふー!」

「口笛、吹けてねぇからな」

 

 

 如何にも凛らしい要望だが、仮にも生徒会に提出する投書なんだから、語尾付けで要望を送るのはやめろよな……。だから真姫の般若顔を拝む羽目になるんだよ。

 

 

「もう、さっきからいちいち手に取った要望に文句言ってるけど、それじゃあいつまで経っても終わらないわよ」

「そうだね。まだたくさん投書が残ってるし、このペースだと夜になっちゃいそう」

「だって零くんがいちいちツッコむから!」

「俺のせいにすんな!お前らが好き勝手なこと書きすぎなんだよ!!」

 

 

 つうかパンとかラーメンとか、こんなところに投書してる暇があったら購買や学食のおばちゃんに直接言えばいいだろうが。おばちゃん気前いいし、穂乃果たちμ'sのメンバーだったら特別に要望を叶えてくれそうではある。

 

 

「まぁまぁ凛のことは置いておいて、よしじゃあ次行ってみよう!次は真姫ちゃんの番ね」

「サラッと流したわね……まあいいわ、じゃあ適当にこれ」

「おっ、それを選ぶとはお目が高いにゃ!」

「適当に取っただけだけど……『この学院、女の子のスカートの中が覗きにくいので、階段をもっと急にして下から覗けるようにしてください』…………」

「「…………」」

 

 

 3人の目線が一気に俺の元へと集まる。

 真姫と凛は鋭いジト目で俺を容赦なく貫き、花陽は引き笑いをしながらこの張り詰めた空気から1人逃げ出そうとしたいた。俺はその空気に当てられ、身体中に嫌な汗が流れ出している。

 

 

 そして真姫は、無言のまま要望の書かれた紙を片手で力強く握り締め、そのままゴミ箱へと叩き込んだ。

 

 

「オイ!!ちょっとは要望の議論ぐらいしてもいいんじゃねぇか!?」

「あなたねぇ!!今まで散々穂乃果や凛のことを馬鹿にしてきて、よくそんな口が叩けるわね!?」

「そうだよ!!一番くだらないこと書いてるの零くんじゃん!!」

「くだらなくねぇよ!!俺が真心を込めて書いた要望の紙を、無言でクシャクシャにしてポイするなんて……俺がどんな思いで書いたと思ってんだ!?」

「ちなみに……どんな思い?」

「この要望を読んで、お前らの恥ずかしがる顔を見てみたいという思いだ」

「「「…………」」」

 

 

 どちらかと言えば、3人共恥ずかしがるというより呆れた顔に近い表情をしている。まぁ俺と出会って1年半以上経ってるんだ、セクハラ発言程度で今更顔を赤くすることもないか。

 

 

「とにかく、この要望はなしね」

「知ってた。お前らの反応もイマイチだったし、とんだ骨折り損だったな」

「ただ自分の欲望を書いただけでしょ」

「それでも割と切実な願いなんだけど」

「なんで私、こんな人と付き合ってるのかしら……」

 

 

 それは自分の思っている以上に俺のことを好きだからに決まってるじゃん!どれだけセクハラ発言されても俺を見限らないってことは、それだけ真姫も変態だってことだな。なんせ手錠を掛けた上にトイレにまで連れ込もうとしたんだから。その話をしようとすると、俺を殴り飛ばしてでも阻止してくるけど……。

 

 

「もうこの話は終わり!ほら零くん!次の投書を読んで!!」

「へいへい……」

 

 

 俺の素直な欲望を綴った要望がいつの間にかスルーされていたことに悲愴を感じながら、俺はもう投げやりな気持ちで投書箱に手を突っ込む。

 

 その時だった――――

 

 

「あ、あれ……?」

「どうしたの?」

「投書箱に手を突っ込んだら、紙が1枚だけ俺の手に吸い寄せられるように張り付いて来たんだが……」

「えぇ~紙の方から!?そんなことある訳ないにゃ~」

「いや本当なんだって!しかもこの紙、振りほどこうと思っても俺の手に張り付いたまま離れようとしないんだけど!?どうなってんだ!?」

 

 

 一体投書箱の中で、俺の手と1枚の紙の間に何が起きている!?

 まるで俺の手とその紙が磁力で引き合っているかのようにピタッとくっついて、引き剥がそうにも引き剥がすことができない。

 

 その正体を確かめるため、俺は恐る恐る手に張り付いた1枚の紙と共に、自分の手を投書箱から引き抜いた。

 

 そしてその引き抜かれた紙を見た瞬間、俺たちは戦慄する……。

 

 

「こ、この紙……ピンク色のオーラを放ってるんだけど……」

「私にも見えるよ!でも紙自体は他と同じ紙のはずだよね!?」

「紙は普通なのに、凛にもその紙からお花畑のような雰囲気を感じるよ……」

「ね、ねぇ零。その紙に要望を書いた人の正体ってまさか……」

「あぁ、このピンク色はお花畑のような穏やかなピンク色じゃない。言うなればそう、ラブホテルのような淫乱なピンク色……」

 

 

 俺はピンク色の淫猥なオーラを放つ2つ折りの紙を両手で持って、恐る恐る開封してみる。

 そこには、普通の要望とは思えないほどの文章量が書き記されていた。だがこの文章からは謎の狂気しか感じない……。口に出して読んではないけないと俺の脳が命令しているのだが、その淫猥なる桃色オーラは開封される時を待ってましたかのように俺をその紙に釘付けにし、俺の意識を逃さずキャッチする。

 

 俺を捕捉するようなこのオーラは……やはりアイツの!?

 そして俺は知らず知らずの間に口が動いていた。

 

 

「『この投書を読んでくれているってことは、零くんが読んでくれているってことだよね?きゃぁ~やっぱりことりと零くんは離れていても心はいつも繋がってるんだね♪そして、今度は生身のカラダ同士で繋がろうね♪もうこの投書を書いている時点でことりの下はトロトロだから、もう前戯なんて必要ないよ♪そしてここから要望なのですが、もっと制服を可愛くして欲しいです!だって今の制服だと全然零くんが襲ってくれなくて困ってます。だから年明けからでもいいので、もっと可愛く、そしてエッチな服装にしてもらえると嬉しいです♪』……って、長げぇよ!!」

 

 

 しかも前半部分全く要望と関係ねぇだろ!!いや後半の要望部分も相当頭イっちゃってるけどさぁ……。

 言うまでもなく、この要望を書いたのはことりだ。もう文章中で名前言ってしまっているが、どうやらこの投書は俺にしか開封できないようになっていたらしい。たかが1枚の投書からあんなオーラを醸し出せるなんて、どれだけ俺への想いを込めたんだよ……嬉しいけど愛が重すぎる!!

 

 

「花陽、この紙捨てておいてくれ。俺が捨てようとしても紙が手から離れてくれない……」

「う、うん。大変だね……」

「正直なところ、もう慣れたんだよな。こんなことりが普通のことりだと思ってしまうくらいには」

 

 

 俺たちは窓の外の景色を遠い目で眺める。

 1年前のアイツは天使のような笑顔をしていた。だけど今のアイツの笑顔は別の意味で明るく輝いている。特に獲物(主に俺、というか俺しかいない)を虎視眈々と付け狙い、舌舐りして今にも捕捉しに掛かってくるようなギラギラした目は、本当に身の危険を感じる。一瞬でも気を抜いたらいつの間にか性行為をしてましたぁ~なんて事態になりかねん。冗談じゃなくてマジで……。

 

 

「さて、気を取り直して次に行くか」

「ここまでまともな要望が一個もないから、そろそろ来て欲しいものだけど」

「ちょっと真姫ちゃん!凛の要望は比較的まともだったよ!?」

「比較的ね。他が論外過ぎるのよ……」

「もしかしてみんな、遊び感覚で投書していたり?」

「その可能性はあるな。俺もそうだし」

「そんな好き勝手に書かれてたら、全然投書の意味を成してないじゃない!」

 

 

 確かに匿名記入で好きなように要望を書いていいとはいえ、これは明らかに自己の欲望アピールにしかなっていない。基本的には学院生活をよりよくするための改善点を挙げるべきなのだが、ここまでの投書の内容を見る限りそれを分かってない奴が多すぎる!

 

 俺の要望はどうなんだって?あれは男子生徒のやる気が上がるから悪くないと思うんだけどなぁ。

 

 

「とりあえず次の投書はっと……『エッチな服装と言っても、スカートが短過ぎるのは厳禁です!パンツというのは見えそうで見えない方が興奮を煽られると思っています!だからスカートは極限まで短く、なおかつパンツがギリギリ見えないくらいがベストなのです!そっちの方が焦らされて興奮の限界に達した零くんが、我慢できずことりを襲ってくれそうだし♪あっ、妄想で濡れちゃったのでパンツ変えてきますね♪』」

「「「…………」」」

「これ、さっきの続きじゃねぇか……」

 

 

 あの1枚ですら重たい愛だったのに、まさかの2連投。しかもさっきの続きと来たもんだ……コイツ、完全に投書箱をポストか何かと勘違いしてるな。前生徒会役員であったのにも関わらず投書箱の使い方分かってねぇのか……?

 

 俺たちは特にこれ以上反応もせず、ことりの要望が書かれた紙を何も見なかったかのようにゴミ箱へ捨てた。そうだ何も見なかったんだ、何も……。

 

 

「次だ!!もうこうなったら片っ端から処理してやる!!」

「零くんがヤケになった!?お、落ち着いて零くん!!」

「そもそもこんな空気になったのはあなたのせいでもあるんだから、ちょっとは反省しなさいよ」

「分かってるし反省は……まぁ少しはしてる。でもこれ以上アイツらの好きにさせるのは気に食わん」

「さっきからμ'sのメンバーの投書しか見かけてないもんね……」

 

 

 そこなんだよなぁ。どうしてさっきから俺ら身内の欲望に塗れた意見ばかりを聞かされなきゃならんのだ!!絵里たちや穂乃果たちもいつもこんな目に遭ってたのか?だとしたら相当精神的に苦痛な作業だぞこれは。

 

 

「もう俺はこの投書を読んだら部室へ戻る!なになに、『弓道部倉庫の扉の立て付けが悪いため、近い内に直してもらえると助かります』……こ、この要望は!?」

「弓道部ってことはもしかして……」

「海未ちゃんだにゃ!!」

 

 

 海未の要望を聞き、俺たちの心にようやく安静が訪れる。

 これだよ!こんなまともな要望を待ってたんだよ!!己の欲に塗れていない、純粋に学院のためを思った要望。傍から見たら普通の要望なのに、欲望の泥で地を這いつくばっていた俺たちにとっては投書してくれた海未が天使にしか見えない。

 

 

「普通の投書でこんなに感動するなんて……」

「私、今にも涙が出ちゃいそう……」

「凛、これから海未ちゃんに一生ついていくよ!!」

 

 

 まさか海未もこんなところで自分の株が急上昇しているとは思うまい。ただ普通に要望を投書しただけなのに、ここまで感動されるとは海未も本望だろう。そしてこの学院の生徒(主にμ'sの一部メンツ)が如何に頭のネジがブッ飛んでいるかが分かるな。

 

 

「はぁ~……それにしても、生徒会の仕事ってこんなにも大変なんだね。凛、もうこれだけで疲れちゃったにゃ~……」

「結局要望も数えるくらいしか見てないから、この仕事もまだまだ時間が掛かりそうだね」

「そっかぁ~まだ終わってなかったんだぁ~……真姫ちゃぁ~ん!」

「なに?自分だけ休憩するとかはなしだから。早く終わらせて部室に行くわよ」

「えぇ~ちょっとくらい休憩しようよぉ~!!」

「これくらいで音をあげてたら、これからの生徒会業務ちっとも終わらなくなるわよ!」

「うぐっ!かよち~ん……」

「私も最後まで手伝うから、頑張ろ凛ちゃん!」

「かよちんまでぇ~!?」

 

 

 なんだろう、この見慣れた光景は。あぁそうか、これ穂乃果、ことり、海未の関係と全く同じだ。穂乃果が音を上げ、海未が喝を入れ、ことりが優しく手伝う。前生徒会役員たちと全く同じ道を歩みつつあるなこの3人。

 

 

 

 

 そして、やはり毎回思うことがある。

 

 

 

 

 こんな生徒会で、この学院は大丈夫なのか!?

 

 

 

 

「ほら、続きやるわよ!」

「うにゃ~!!真姫ちゃん勘弁してよぉ~!!」

「もうちょっとだから、頑張って凛ちゃん!」

 

 

 

 

 ま、なんとかなるだろ。

 

 

 …………多分。

 




 前回の最終回詐欺から復活しました(笑)

 そんな訳で今回は新章の1発目でした。
 前回までが5話くらい連続で真面目な回が続いたので、今回久々にのんびりと日常回を執筆したのですが、やはり生き生きとした零君やμ'sのメンバーを書けるのは楽しいですね!久しぶりにノリだけで執筆できたんじゃないかと思っています(笑)

 そして前回の最終回詐欺はやってみたかっただけです。もし本気で勘違いされた方がいるならば、それは申し訳ありませんでしたということで(笑)
一発ネタとして許してもらえれば!まだまだ『新日常』で執筆したい話は山ほどあるので、それを書かずして流石に終わることなんてできません!


 次回以降もいつも通りの日常を綴っていくので、また応援してくださると幸いです。


新たに高評価をくださった、

☆コウキ☆さん、宏六さん、夢見る青年さん、蒼川 健太さん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いっぱいのおっぱいに圧敗!?

 どんな話かはタイトルでお察し(笑)
 今回はおっぱい回!零君がおっぱいに掛ける情熱をとくとご覧あれ!(笑)


 

 秋真っ盛りのこの時期にもなってくると、夜は相当冷え込む。そんな俺たちの身体を暖かく癒してくれるのが、そう――――お風呂だ。

 

 1日の疲れと冷えた身体を冷やす、毎日の日常生活最後の快楽。

 程よく暖まったお湯に全身を浸けると、寒く凍えた身体に希望を与えてくれるかのような温かい湯が胸のうちに広がっていく。身体に溜まった疲れも滲み出て、いつの間にかお風呂の暖かさに酔いしれて眠ってしまいそうにもなる。

 

 

 だがしかし、そんな快楽を脅かす出来事が今まさに起きていた。

 

 

「えぇ~!?お風呂が壊れたぁ!?」

「何故か知らねぇけどお湯が出ないんだ。冷水でもいいなら入れるが」

「そんなのイヤに決まってるじゃん!!お風呂は現状、お兄ちゃんと唯一カラダの付き合いができる、いわば楽園なんだよ!?それなのに……それなのにこんな仕打ちなんてあんまりだよ!!お兄ちゃんお風呂直してよ!!」

「無茶言うなって。明日修理に来てもらうよう頼んでおいたから、今日だけの辛抱だ」

「あぁ、これがこの世の終わりか…………」

「お前の世界って脆いな……」

 

 

 このように、神崎家のお風呂場はものの見事に役立たずとなっていた。昨日までは普通に景気よくお湯を放出していたのに、いつの間にこうなったんだ?いくらいくつもの困難を乗り越え"ラブライブ!"に優勝した俺たちと言っても、冷水風呂なんて試練は全力でスルーさせてもらおう。

 

 

「でも1日くらい風呂に入らなくてもいいんじゃねぇか。馬鹿騒ぎして汗を流したりしなければ、翌日匂うことなんてないだろ」

「ダメだよそんなの!!お風呂はね、美貌を保つのに必須なんだよ!!お肌や髪なんて、1日手入れしなかったらすぐ傷んじゃうんだからね!!」

「そんなもんなのか……?」

「いくらお兄ちゃんでも、女性の美学をそんなのもで片付けるのは許さないから!!ぐっすり寝ている時に逆レイプされたくなかったら、お風呂に入るための対策を何か考えてよ!!」

「なにその脅し!?」

 

 

 楓は相当ご立腹らしく、珍しく俺以外のことで必死となっている。

 でもその脅しの仕方は何なんだよ……全くお風呂と関係ねぇし。でも、なんだ……ちょっと興味あるかもしれない、楓の逆レイプ。ダメだダメだ!!これ以上の妄想はやめよう、色々規制の対象となってしまう。

 

 

 でもこんな馬鹿げた論争で互いに貞操を散らすのはそれこそ笑い話にもならないので、しょうがないから何か対策でも考えるか。

 そうは言っても、お風呂を短時間で直すなんて荒業、秋葉じゃないんだし俺に出来る訳がない。もちろんアイツに頼むという選択肢は速攻で外した。アイツに任せると媚薬入りのお風呂とかになりかねんからな。

 

 

 あっ!そう言えば1つ心辺りがあるぞ、この事態を解決する方法が!!

 

 

「楓、銭湯に行こう!そこなら暖い風呂にも入れるし、文句ないだろ?」

「銭湯かぁ……でもお兄ちゃんと一緒に入れないじゃん」

「混浴の銭湯なんて聞いたことねぇし、それだけは我慢しろ」

「う~ん、まあしょうがないね。今回はそれで妥協してあげるよ」

「どうして俺が許される側になってんの?俺、別に悪いことしてないよな……?」

 

 

 相変わらず楓の理不尽さに振り回されているが、それが日常となっているのでさほど頭にも来なければイラついたりもしない。もう反射的に呆れてツッコミを入れるだけの機械と化していると言っても過言では……流石に自虐が過ぎたか。

 

 

「でもたまにはいいんじゃねぇの?いつもの日常生活に新たな刺激が加わると、それだけで脳が活性化するって言うし」

「私はお兄ちゃんの裸を見てるだけで活性化するけどね!色んなところが♪」

「ブレねぇなお前……まあいいや、どうせならアイツらも呼ぶか。急な誘いに何人集まるかは分かんないけど」

「いいんじゃない。どうせ1人でお風呂入ってても暇だし、しょうがないから一緒に入ってあげるか!」

 

 

 おっ、楓がμ'sのメンバーを邪険に扱わないなんて珍しいこともあったもんだ。

 何だかんだ言って、やっぱりコイツも穂乃果たちのことが好きなんだよな。そうでないと"ラブライブ!"にも優勝できなかっただろうし、それに――――

 

 

 とってもいい表情してるじゃん。言葉は素直じゃないけど、その楽しみにしてそうな表情は一切隠せてないぞ?可愛い奴め!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そしてその後すぐにμ'sのグループチャットで銭湯に行きたい奴の募集を掛け、指定の時間に現地集合ということで実際に集まってみたのだが――――

 

 

「わぁ~!穂乃果、銭湯なんて久しぶりだよ!」

「ことりも小さい頃以来かな?」

「確かに今の時代、銭湯に赴くこと自体が少ないですからね」

「凛は初めてだから、ちょっと楽しみだにゃ~♪」

「私も。家の近くだけど来たことなかったなぁ」

「銭湯……本当に名前くらいしか知らないわね」

「へぇ~、割と年季が入って風情があるじゃない」

「ウチも昭和な雰囲気がする銭湯は割と好きかな」

「このスーパーアイドルのにこちゃんが庶民の銭湯なんて……まあ付き合ってあげるわよ」

「私も銭湯には初めてくるので楽しみです!」

「普通の温泉とあまり変わらないと思うけど……」

 

 

 ――――という訳で、急な募集にも関わらずμ'sメンバーが全員集合するという謎の事態となっていた。コイツら暇なのかよ……俺がグループチャットで誘いを掛けたら、穂乃果やことり、にこ辺りは返信がメチャくちゃ早くてビビったわ。でもまさか全員が来るとは思わなかったけど。

 

 そして全員がゾロゾロと銭湯へ入っていく中、絵里が俺と並んで話し掛けてきた。

 

 

「災難だったわね、お風呂が壊れちゃうなんて。いきなり『一緒に銭湯に行く奴いないか?』なんて連絡が来たから何事かと思ったわ」

「急に冷水しか出ないもんだからビックリしてさ。それで楓は我が儘ばかりでうるさいし、仕方ないから久々に銭湯にでもってことになって、ついでにお前らを誘ったんだよ」

「なるほどね。でも私は皆んなと一緒にお風呂に入るのは結構好きよ。凛や亜里沙ほどじゃないけど、私も銭湯初めてだから少し楽しみなのよね」

「お前らは楽しいだろうよ。俺なんて1人で入らないといけねぇんだぞ。俺も一緒に入りてぇ」

「残念でした♪お一人でごゆっくりどうぞ」

 

 

 何故か絵里は勝ち誇った表情で俺を煽ってきやがる。

 馬鹿にすんなよ!例え銭湯が男女別々で区切られていようとも、俺にそんな隔たりは関係ない!!外道な手段をフルに使って、その引き締まったエロい裸体をたっぷりねっとり視姦してやるから覚悟しておけ!!

 

 だけど銭湯には他の客もいるだろうし、流石にそんな目立つ真似はできねぇか。あんな狭い空間で変な行動を起こせば目に付きやすいし……。

 

 他の客がいるだけで風呂覗きを諦めるとは、俺も随分丸くなったもんだ。いや、肝が小さくなったというべきか。

 

 

 銭湯の中は、如何にも昭和の香りがする木製造りだった。台風が来たら吹き飛ばされてしまうのではないかと心配になりそうだが、今の今まで耐えてきたのだからそれなりに耐久性はあるのだろう。

 古いからといってボロっちい訳ではなく、古臭さを感じさせながらも建物の隅々は綺麗でかなり丁寧に掃除されているようだ。この豆な手入れこそがボロっちい銭湯をこの時代まで営業させてきた秘訣なのかもしれない。

 

 なんて久しぶりの銭湯を総評し、俺は皆んなを代表して受付へと向かった。

 こんな銭湯の受付だから、それはそれは寂れた婆さんがいるのだろうと思っていたのだが――――

 

 

「や、山内先生!?」

「か、神崎君!?それにμ'sの皆さんも……!!」

「あれぇ~?先生どうしてこんなところにいるの!?」

 

 

 穂乃果、こんなところとは失礼だろ!!

 確かに見た目は昭和臭がしてボロっちいけどさぁ……。

 

 

「私の親がこの銭湯を経営していて、こうしてたまに手伝っているんです。皆さんこそどうして銭湯に?」

「俺の家の風呂がブッ壊れたので、どうせなら皆んなと一緒に銭湯に行かないかってなったんですよ」

「なるほど。銭湯は家のお風呂とはまた違った気持ちよさがありますから、是非楽しんでいってくださいね♪」

「俺は1人なんですがそれは……って、そういや他にお客さんはいないんですか?」

「最近は銭湯自体があまり流行らないですから……今日は神崎君たちが一番初めのお客さんなんですよ」

「やったぁ~!凛たちが一番風呂だにゃ!!」

 

 

 確かに家のお風呂があるのに、わざわざ寒い外を歩いてここまで来ようと思わないもんな。

 客がいないのは銭湯側にとっては不利益なことだけど、俺たちは貸切だと思ってたっぷりと楽しませてもらうか。

 

 

「13人分の料金受け取りました。それではごゆっくり!」

「「「「「「「「「「「「「は~い!」」」」」」」」」」」」」

 

 

 そして俺たちは人生久しぶり、もしくは初めての銭湯を貸切というVIP待遇で満喫することになった。

 まぁ、俺は寂しく1人ぼっち風呂なんだけどな……。誰かの胸を借りてすすり泣きたい。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ふわぁ~……生き返るなぁ~!!」

 

 

 先生の言った通り、確かに家の風呂とは違う気持ちよさがある。まず家の風呂では狭すぎて、全身を伸ばしてくつろぎながら入るなんてできないからな。更に銭湯や温泉のお湯は適温より少し高めの温度なので、身体の老廃物が一気に流れ出す感じがまさに気持ちいい。今日1日は風呂に入れないと思っていたから尚更だ。

 

 

「それにしても、本当に人がいないんだな……」

 

 

 この銭湯、そこまで広くないのに全く人いないせいで凄く広大に感じる。1人でこんな伸び伸びとして申し訳ない気もするが、銭湯に来ることすらもいい機会だし、この際たっぷりとこの気持ちよさに浸らせてもらおう。

 

 

 すると、誰もいないはずなのにどこからか声が聞こえてきた。

 

 

『あっ!雪穂、もしかしておっぱい大きくなった?』

『な゛っ!お、お姉ちゃん!?勝手に見ないでよ!?』

『妹の成長を確かめるのはお姉ちゃんの役目だからね!やっぱ零君を想って大きくしたのかなぁ~?』

『う゛っ……ち、違うもん!!零くんなんて……零くんなんて』

『あはは!相変わらず素直じゃないねぇ~雪穂は!』

『ほ、ほっといてよ!!』

 

 

 こ、これは……女湯の会話がモロ男湯に流れ込んでいる!!穂乃果たちの声が丸聞こえじゃないか!?

 それに雪穂が俺のことを想っておっぱいを大きくしただって!?くそぅなんて可愛いことしてるんだ!俺にもその姿を見せろ!!ていうかおっぱい見せろ!!

 

 

『海未先輩ももっとお兄ちゃんを想像して、その控えめなおっぱいを膨らませたらどうです?』

『よ、余計なお世話です!!私は楓がするような下品な行動は謹んでいるので』

『えぇ~でもことり知ってるよ♪海未ちゃん授業中、零くんのことをチラチラ見てるってこと』

『おぉ~!やっぱり先輩もお兄ちゃんににゃんにゃんされることを想像してるんじゃないですかぁ~♪』

『してませんから!!そんな破廉恥な妄想なんて決して!!』

『ムキになるところが怪しなぁ♪』

『ことりじゃあるまいし、授業中にそんなこと一切考えてませんから!』

 

 

 破廉恥な妄想"は"していないのか?だったら普通の妄想はしてるってことだよな!?あの海未も妄想性癖に手を染めていたとは……一体俺にどんなことをされる妄想してるんだ!?き、気になる……。

 

 

『花陽ちゃんの胸、大きくて羨ましいです!』

『あ、亜里沙ちゃん!?あまり見つめないで恥ずかしいよぉ~!!』

『でも零くんって、おっぱいが大きな子が好きなんですよね?』

『甘いわね亜里沙!零はおっぱいの大きさなんて関係なく、女の子のおっぱいなら平等に愛してくれるわよ!』

『おぉ~流石にこちゃんです!説得力あります!!』

『なんかそう言われると負けた気分になるわね……』

『にこちゃん、亜里沙ちゃんより胸ちっさいからだにゃ!』

『アンタに言われたくないわよ!!』

 

 

 そうだ、俺はおっぱいの大きさなんて気にしない!大事なのは感度だ!!俺の手に吸い付いついて程よい柔らかさがあればそれでいい!!加えておっぱいを弄られて感じる女の子のイキ声が聞ければそれで満足だから!!

 

 くそぉ~おっぱいの話ばかりしてたら、マジで生のおっぱいを見たくなってきたじゃねぇか!!アイツら1人ぼっちの俺の性欲煽ってんじゃねぇぞ!!

 

 

『これは真姫ちゃんもウカウカしてられへんなぁ~♪』

『何がよ!?別に零のために胸を大きくしようだなんて思ったことないから』

『別にウチ、零君のために~だなんて一言も言ってないけど?』

『あなたねぇ!!」

『希、もうそれくらいにしておきなさい。真姫の顔が蒸発し掛かってるから』

『ほぉ~やっぱり絵里ちくらいのスタイルになると、いつでも余裕ってことやね♪ウチらに対する嫌味やわぁ~♪』

『どうしてそんな発想になるのよ!!』

『でも零君のことを考えたら、スタイルのいい身体でよかったと思ったことない?』

『…………た、多少は』

 

 

 マジで!?スタイルや身体付きの話になるといつも自分を謙遜する絵里だけど、やっぱり自分の身体を誇りに思ってたのか。ここで暴露したってことは『いつでも私を襲っていいですよ』というサインなのかもしれない。それに真姫も満更ではない様子だし……ますます性欲が沸き立ってきた!!

 

 

 もう我慢できねぇ!!俺は隣の女湯に突撃する!!幸い俺たち以外にお客さんはいないみたいだし、受付に座っている山内先生にさえ見つからなければそれでミッション達成だ。

 

 それによくよく考えてみれば、穂乃果たち9人とは恋人同士なんだから、別に一緒の風呂に入ってもやましいことは何もないはずだ!!それに雪穂、亜里沙、楓の3人も恋人一歩手前の関係にまで進展した訳だし、将来いつかは見せてもらうことになる全裸だ、今見ても変わんないだろ!

 

 そうと決まったらこんな1人ぼっちの風呂にいる訳にはいかない!とっととアイツらのおっぱいを拝みに行くとするか!!もうこの溢れ出る性欲、特におっぱいの誘惑に逆らうことなんでできねぇからな!!

 

 

 俺は男湯を勢いよく飛び出し、自分の衣服が入ってるカゴからバスタオルを取り出す。巧みな手付きで濡れた身体を早急に拭き取って、そのまま腰にタオルを巻きながらこっそりと受付カウンターのあるロビーに戻った。

 

 俺の予想通り、まだ俺たち以外に客がいる気配はない。山内先生は受付で本を読んでいるみたいだし、もしかしたら忍び足で女湯の脱衣所に忍び込めるかも。脱衣所に入ることができたのならもうこっちのものだ。後は皆んなとの桃色の展開が待っている。桃源郷を目の前にした俺は、勢いが違うぞ!!

 

 12×2=24個のおっぱいが俺を待っている!!見えるぞ!たくさんのおっぱいに囲まれる俺の姿が!!

 

 

 俺は男湯の脱衣所をこのために鍛え上げた忍び足で抜け出し、そのままロビーの壁際を伝って女湯の脱衣所へと向かう。

 先生は読書に集中している。身を縮こませ、上手いこと植木の陰に隠れながら行けば確実に侵入できる!!

 

 

 行ける!!行けるぞ!!もう少しだ!!女湯の暖簾がもうすぐそこに――――!!

 

 

 

 

「神崎君、何をやっているんですか?」

「い゛っ……!!」

 

 

 いつの間にか、山内先生が腰に手を当てて俺の隣に立っていた。

 クソッ!いつもの俺なら人の気配に敏感なはずなのに、目の前の桃源郷にうつつを抜かして判断力が鈍っていたのか!?まさか如何にも鈍くさそうな山内先生に見つかってしまうとは……神崎零一生の不覚!!

 

 

「い、いやぁ~男湯のコーヒー牛乳が売り切れちゃってて。女湯に貰いに行こうかなぁ~と」

「そんなはずありません。あなたたちが来る前にちゃんと確認しましたから」

 

 

 やはり付け焼刃の嘘はすぐにバレるか……いつもほんわかしていてどこか抜けている山内先生なら黙せると思ったんだがな。でも山内先生相手なら、俺の持論をぶつけて無理矢理この場を押し通ることができるかもしれない。

 

 

「先生!!」

「な、なんですか!?」

「俺は何としてでも女湯に行かなければならないんだ!!いつも一緒にいる彼女たちがおっぱいの話題で盛り上がっている……しかも俺の名前を出して!!そんなの俺の性欲が耐え切れる訳ないじゃないですか!!だからこの性欲を発散するためにアイツらの成長したおっぱいを一目見て、あわよくば揉みしだくため、俺は女湯に行かないと行けないんだ!!そうすれば俺もアイツらも気持ちよくなってwin-winの関係になる!!誰も不快な思いはしない!!聡明な先生なら、俺の言っていることが分かるはずでしょう!?」

「いや、全然……」

「そうか、まだ俺の熱弁が聞き足りないんですね……」

 

 

 ここまで言ってもまだ分からないとは……山内先生は男の性欲というのもがどれほど恐ろしいのか分かっていないみたいだ。流石に『先生の身体に直接教え込んでやりますよ!!』なんて言葉、冗談でも言えたものじゃないけど、性に支配された男を甘く見ると痛い目に遭うってことだけは教えておかないと。

 

 

「いいですか先生。今の俺がこの性欲を発散させず外に出たら、どうなるか分かります?」

「ど、どうなるんですか……?」

「まだ分からないか……男っていうのは獣なんです。性に支配された男は、所構わず女の子を食い散らす獰猛な獣と化すんですよ。だから女湯に入れなかった俺が、風呂から出てきた穂乃果たちに何を仕出かすのか……もうお分かりですよね?」

「そ、そんな……まさか!?」

「ご想像の通りですよ。もしかしたら、この銭湯で派手な大乱交会が行われるかもしれません。そうなってしまった場合、銭湯の信用もガタ落ち、経営難に陥るかもしれません」

「あ、あわわ……」

「でも俺を女湯に通してくれさえすれば、アイツらのおっぱいを拝んで揉みしだくだけで事が済みます。それで先生が黙ってくれさえいれば、銭湯の信用も失わずに済むって訳ですよ。どうです?お互いにとってもいい案だとは思いませんか?」

 

 

 山内先生は目を丸くして驚いている。よほど俺の熱弁に感動したのだろう、今にも泣いてしまいそうな目をしているじゃないか。いやぁ~先生にも俺の気持ちが伝わってきてよかったよ!これで晴れて俺も合法的に女湯に入ることができる訳だ。

 

 まぁこうして必死にならなくても、穂乃果やことり、にこだったら言えばおっぱいくらい見させてくれそうなものだけど。でもこうして苦労して見ることのできる桃源郷だからこそ興奮するんじゃないか!それに今日はμ's全員分のおっぱいを拝める訳だし、元々簡単にはいかなかっただろうしな。

 

 

 よしっ、最後に追い討ちを掛けてフィニッシュだ!!

 

 

「例え控えめでも感度は抜群なにこ、凛、雪穂、海未の綺麗なおっぱい!!俺の手にジャストフィットする、俺のために育ったような穂乃果、亜里沙、真姫、楓、ことりの程よいおっぱい!!そして、俺の手にも余るような顔を埋めたい花陽、絵里、希の巨乳おっぱい!!俺はこんなにも彼女たちのことを知り、愛しているんだ!!だからもう一緒の風呂に入ってもいいでしょう?」

 

「…………」

 

 

 先生はもう言葉が出ないほど、俺がアイツらに向ける愛に心を打たれたらしい。自分の学校の先生にまで愛する彼女たちの魅力をここまで熱弁できるなんて……これで先生も納得したはずだ、俺が女湯に行くべきだと。

 

 

「お~い先生。俺の気持ちを分かってくれたのなら、早く俺を女湯に通して――――」

「か、神崎君……」

「なんです?あぁ、俺の素晴らしき持論が聞きたいのなら、また時間がある時にでも聞かせてあげますよ!」

「あ、あのぉ~……非常に申し上げにくいのですが……」

「だから何ですか!?」

「う、後ろ……」

「へ……?」

 

 

 その瞬間、背後から俺の全身を突き刺すような禍々しいオーラが放たれていることに気付いた。まだ振り返ってその正体を確かめていないのにも関わらず、俺の全身が恐怖でガクガクと震え止まらない。

 

 そして俺は、この身も毛もよだつ怒りに満ちたオーラの持ち主を誰だか知っている。だってこのオーラを纏った人物に制裁を受けることなど、日常茶飯事なのだから……。

 

 俺は覚悟を決め、ゆっくりと後ろを振り返った。

 

 

「さ、笹原先生……き、奇遇ですねぇ~」

「奈々子が銭湯の手伝いをしていると聞いて様子を見に来たら、まさかこんなところで出会うとは……本当に奇遇だな、神崎」

「そうですねぇ~……それじゃあ俺は男湯に戻りますんで!!ごゆっくりぃ~」

「待て。さっき面白い持論を吐いていたな、もう一度聞かせてもらおうか?」

「だったらどうして俺の肩をそんなに強く握り締めるんですか……って、痛い痛い!!痛いですって!!!!」

 

 

 なんか俺の肩、ミシミシと音が鳴ってるんですけど!?もしかして骨砕けてる!?笹原先生が馬鹿力なのは知ってたけど、今日はいつもより数倍ご立腹のようだ。これは抵抗しないと――――殺られる!!

 

 

「まあまあ先生、とりあえず落ち着きましょうよ。ここは銭湯、1日の疲れを取りつつ他のお客さんとのコミュニケーションを楽しむ憩いの場ですよ?そこでこんな殺伐とした雰囲気を漂わせていたら……客が逃げちゃいますって」

「お前の目は節穴らしいな。周りを見てみろ」

「あっ……」

 

 

 そうだ……この銭湯、俺たち以外の客がいないんだったぁあああああああああああああああああああ!!

 苦肉の抵抗策にも失敗し、遂に万事休すか……?いや、諦めるな!!1年前、穂乃果たちがヤンデレ化した時も決して諦めない気持ちで頑張ってきたじゃないか!!そんな俺がこんなところで命を散らせてたまるかよ!!

 

 

「私とお前は教師と生徒の関係だ。もちろん学外でもな。だから今日はたっぷりとお前に指導してやる。学外だから、手加減をする必要もなさそうだしな」

「いや、いつも手加減しているようには見えないんですけど……」

「それにお前にとっても願ってもないことじゃないか。女性と2人きりが好きなんだろ?」

「顔が怖いんですけど!?それに、年の行った人とはちょっと……」

 

 

 その時、ロビー内に俺たちにも聞こえる音量で"ブチッ"と何かがキレるような音がした。

 山内先生はこれから起きることを予知しているのか、目をギュッと瞑ったまま動かない。先生!!そんなことしてないで俺を助けてくれよ!!

 

 

「よし、屍になる準備はできたか……?」

「う、うっす……」

 

 

 

 

 そして古びた銭湯に、男の大人気ない叫び声が大きく響き渡った。

 

 

 

 

 そんな中、女湯では――――――

 

 

「この声、零君の声だよね?」

「お兄ちゃん、何だかんだ言って1人で楽しんでるじゃん♪」

 

 

 楽しんでねぇよ!!!!

 

 




 おっぱいは、皆んな違って皆んないい(格言)


 今回はおっぱい回でした!とは言っても、実際にμ'sのおっぱいが曝け出されたわけではないのですが(笑)
 この話を執筆しようと思った理由は、ここ最近零君が真面目モード(告白回)だったりツッコミモードであることが多かったので、ここら辺で彼に本来の姿を取り戻させてあげようという、作者である私のありがたい慈悲により執筆されました。
生き生きとした零君を書くのは久しぶりで、執筆最中は私も零君と一緒になって生き生きしていた始末。特におっぱいの持論を語っているところでは、零君と意識がシンクロしてました(笑)

 この調子が続けば、R-17.9回も近いかもしれません。まだお相手を誰にするのかは全然決めていませんが……。

 次回は予定さえ合えば、24日のクリスマスイブか25日のクリスマスの日に『ことりちゃんの淫語講座:第二弾』を投稿予定です!
聖夜を性夜に変える予定なのでご容赦を!(笑)


 先日、この小説の感想数が1000件を突破しました!
 ハーメルンでのラブライブ!小説では初の快挙であり、私自身も当初からずっと目標として掲げてきたことなのでとても嬉しく思います。
これまで感想をくださった皆さん、本当にありがとうございました!これからもツッコミあり、変態妄想ありの感想をくださると嬉しいです(笑)
また今まで感想を書いたことないよという方も、これを機会に是非お声を聞かせてください!
実は感想以外でも、お気に入りは1000件、評価は100件を達成しそうなので、そちらもよろしければよろしくお願いします!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

実践付き!?ことりの淫語講座(中級編)

 またやってきてしまいました、ことりちゃんのありがたい講座のお時間です!
しかも今回はクリスマスイブという聖夜にお届けするという、何ともありがた迷惑な話です(笑)

聖夜を性夜に変える準備は整っていますので、心の準備が出来次第読み始めちゃってください!


「は~い皆さん!ためになる講座の時間がやって来ましたよぉ~♪」

 

 

 悪・夢・再・来!!

 俺たちはまたしてもことりに連行され、アイドル研究部の部室に閉じ込められてしまった。相変わらずこの部室の雰囲気は、ことりのピンク色によって全体が充満し、逃げ出そうものなら全力で取り押さえられ、コイツの妄想の世界へと追放されてしまいそうだ。

 

 もちろんこの部室に連行されたのは俺だけではない。かと言って前回と同じメンバーでもなく、受講者の顔ぶれはガラリと変わっていた。

 

 

「何よこれ……今から作曲しようと思ってたんだけど」

「確実にいいことが始まる雰囲気ではなさそうね……」

「ウチは割と楽しみやけどね!真姫ちゃんと絵里ちのいい表情が見られそうだし♪」

 

 

 今回の犠牲者は真姫、絵里、希の3人だ。そうは言っても、希はこの状況を楽しんでいるため実質的に精神を削られるのは真姫と絵里の2人だろう。希がことりに悪ノリすれば、下手をすると前回よりも危険(規制的な意味で)ヒドイ講座になりそうだな……。

 

 

「はいはい私語は慎むよーに!今日は主に真姫ちゃんと絵里ちゃんに、エッチのノウハウを知ってもらうよ♪」

「別に知りたくないんだけど……」

「またまたぁ~真姫ちゃん強がっちゃって!エッチが上手くなれば、それだけ零くんに抱かれる回数が増えるかもしれないよ♪」

「はぁ!?べ、べべ別にどうでもいいわよそんなの!!」

「あれれぇ~動揺してるよ♪やっぱり真姫ちゃん素直じゃないねぇ~顔には『知りたい』って書いてあるのに!」

「えっ!?そ、そうなの!?」

「俺に聞くなよ……」

 

 

 そりゃあ俺だって行為をするならエッチの上手い女の子を抱いてみたいよ。でも愛するμ'sのためだ!例えエッチが下手くそでも、俺が優しく導いてやるから安心しろ!!

 

 なんて思っているのだが、間違ってもこの場で口に出してはいけない。確実にことりのペースに持って行かれて、そのままズルズルとコイツの思惑にハマってしまうだけだから。

 

 

「それで?どうして私たちが呼ばれたのかしら……?」

「前回と同じ海未たちだと、今から行われる講座に耐え切れなくなって全員気絶しちまうからじゃねぇの。ことりのやる気も前回とは段違いだし」

「さっすが零くん!!やっぱりことりと零くんは心で通じ合ってる仲なんだね♪後でカラダでも繋がろ?」

 

 

 普段から俺にベッタリなことりが、これ以上身体で繋がると言ったら……もうアッチの意味でしかないよな。いつからことりはこんな淫乱な子に育ってしまったんだ……女の子からエッチを求めてくるのは、俺の好きなシチュエーションなんだけどね。

 

 

「それって、私たちが海未たちより……その、言いにくいけど……変態って言いたいの?」

「そうだよ♪」

「まあそれはウチも認めてもいいかもね♪」

「あなたたち……いつか覚えておきなさいよ」

「はぁ……帰りたい」

 

 

 残念ながら、俺もことりと希が言いたいことが分かってしまう。

 穂乃果たちほどではないにしても、絵里も真姫も性に従順なところがある。初めは恥ずかしがっているが、いざ快楽に身を任せると途端に自分から俺を求めるようになるからな。あと少しでも(たが)が外れれば、ことりのような性欲まみれの女の子に様変わりしてしまうかもしれない。

 

 

 そんな絵里と真姫を見たいと思ってしまう俺は、やはりエッチな女の子が大好きらしい。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

~1限目のお題~

《正常位》

 

 

 

 

「おいおい、今回は伏字もなしかよ!?」

「えぇ~なんのことかなぁ~?」

 

 

 とぼけやがってこの淫乱鳥が……。確かに伏字にしてしまうと、良い子の皆さんには言葉が伝わりづらくなってしまうけれども……あっ、これを読んでいる受講者さんたちはみんな変態さんだったな。なら大丈夫か。

 

 

「正常位とは、人間が性交を行う際の性交体位のひとつで、比較的一般的に行われる体勢なんだよ♪」

「せ、せせ性交って!?いきなり何言い出すのよ!?」

「真姫ちゃん!!将来お医者さんを目指すんだったら、性交のやり方1つや2つ覚えておかなくてどうするの!?」

「そんなの医者とどんな関係が!?」

「え?だって手が上手く動かせない男性患者さんのオ○ニーを、女医さんが手伝ってあげるのって普通じゃないの?エッチなビデオだとよくあるよ?」

「知らないわよそんなの!!全国の女医さんに謝りさないよ!!」

 

 

 真姫の奴、いきなりことりの術中にハマってるな……もう顔をトマトのように真っ赤にしているのが日常茶飯事ってくらい、最近真姫の弄られようがヤバイ。

 

 でも真姫が女医さん役で俺が患者役か……中々にいいシチュエーションじゃないか。彼女だったら必死に頼み込めば色々ヤってくれそうだし。そう、色々と……。

 

 

「まあまあ真姫ちゃん落ち着いて。それでことりちゃん?正常位っていうのはどんな体位なん?」

「よくぞ聞いてくれました希ちゃん!正常位というのは、女性が仰向けになり、膝を立てて股を広げた状態のところに男性が上から覆い被さる体位、つまり2人が正面に向かい合うんです♪お互い大切なところの結合部分の密着挿入感と全身の接触感を得ることができるので、さぞかし気持ちいいんだろうねぇ~♪ねっ、零くん?」

「前回もそうだけど、何故俺に同意を求める……」

 

 

 笑顔で俺の方を振り向き、無理矢理同意を求めてくるところは前回と変わらずか。俺はこんな欲望に満ちた黒い笑顔を守るために今まで頑張ってきたのだろうか……?なんか急に肩の力が抜けた気がする……。

 

 

「説明だけを聞いてもよく分からないと思うので、ここで実践た~いむ♪」

「じ、実践!?ことり、お前一体何を!?」

「お相手は……さっきからそこで黙って気配を消そうとしている絵里ちゃん!!君に決めた!!」

「え、わ、私!?別に消してはなかったんだけど……」

「はいはい。指名されたら早く前に出てきてくださいねぇ~」

「い、一体何が始まろうとしているのかしら……」

「さあ零くんもだよ!!むしろこの実践の主役は零くんなんだから♪」

「や、やっぱり?」

「あっ、服は着たままでいいから安心してね♪」

 

 

 当たり前だろそんなの!?ガチでヤったら俺が通報されて監獄行きになっちまうだろ!!

 ていうか、本当にやるの?絵里はもう渋々席を立ち上がってるし、服を着たまま擬似的とは言え、絵里と正常位を!?ことりの思惑に乗っかるのは癪だけど、期待がみるみる高まってきている俺がいる。許せ絵里、男は何より性欲の解放が最優先なんだ。

 

 

「ここにマットを用意したので、絵里ちゃんはここに仰向けで寝転がってね♪」

「おぉ、偉く本格的やなぁ~」

「実践なんだし、ことりは一切妥協しないよ!本当はことりと零くんでみんなに実践を披露したかったんだけど、今日のことりは教師役だから、泣く泣く身を引いたんだよ!!」

 

 

 それが正解だと思う。だって俺とことりがそんなプレイをし始めたら、お互いに歯止めが効かなくなってそれこそ"本番"になりかねない。だからと言って絵里相手ではそんな気持ちにならないかと言われれば、明らかに"No"だけども……。

 

 

「絵里、お前本当にやるのか?」

「どうせ逃げられないんでしょ。だったら早く終わらせるまでよ」

「いさぎいいなお前……恥ずかしくないのか」

「恥かしいに決まってるでしょ!!で、でも……将来に役立つと考えれば、そのぉ~……やってもいいかなぁって」

 

 

 め、珍しい、絵里が人前でここまで恥じる姿を見せるなんて……!!

 基本的に彼女は2人きりの時にしか甘えず、みんなといる時はお姉さんキャラとして騒ぎ立てる俺たちを統制する立場にある。その絵里が、自らみんなの前で俺の性の捌け口になろうとしてるだと!?

 

 

 絵里はマット上に座り込むと、そのまま足を伸ばして仰向けに寝転がった。

 もちろん恥ずかしくない訳がないようで、何度も俺の顔をチラチラと見てはどんどん顔が真っ赤に染まっていく。真姫もそっぽを向いて、顔を赤くしながら横目で俺たちを見ているし、ことりと希は目を輝かせながら俺が絵里に覆い被さるのを今か今かと待っているようだ。

 

 どんな形であろうとも、合法的に絵里と身体を重ねられるのなら願ってもないことだ。

 それに絵里は自分の羞恥心に逆らってまで正常位の実技の模範を受け入れたんだ、俺がここでやめるなんてこと、できる訳ないよな。

 

 

「絵里……」

「零……」

 

 

 俺たちはキスする寸前の恋人(恋人なんだけど)のようにお互いの名前を呼び合い、俺は膝を付いて絵里の身体の上で四つん這いとなった。このまま身体を前進させれば、正面から彼女と密着することになる。主に下腹部が……。

 

 

「絵里……膝を曲げて脚を開いてくれ。正常位って、そういうものだから……」

「え、えぇ、分かったわ……」

 

 

 絵里は俺の目を火照った顔で見つめながら、ゆっくりと自分の脚を開いた。

 そのせいで、スカートの中はモロ見えとなっているだろう。四つん這いとなっている俺からでは確認できないのが惜しすぎる。

 

 ここでふと絵里の顔を見てみると、恍惚な表情で俺を見つめていて呼吸もかなり乱れていた。死ぬほど恥ずかしいだろうに俺の顔から一切目を背けることはない。それどころか彼女の妖艶な目線は俺を引き付けようとしているみたいだ。

 

 そして俺の心はその誘惑にあっさりと負けてしまった。

 このまま俺が前進すれば、俺のアレと絵里の秘所が見事に擦り合ってしまう(もちろん衣類越しにだが)。だが俺の身体は俺の意思とは関係なく、既に前進し始めている。自分の中に眠る絵里と繋がりたいという本能だけが、身体を突き動かしているようだ。

 

 

 衣類越しでも何でもいい、擬似的でもいいから俺は絵里と繋がりたい!!

 そしてこのまま抱きしめ合って、この豊麗(ほうれい)な身体を全て俺のものにしたい!!

 絵里の恍惚として表情は、俺の欲求を爆発させる。もう、この前進する身体を止めることなんてできないぞ!!

 

 

 

 

 そして、俺の下半身と絵里の下半身が――――――

 

 

 

 

「あっ……♡」

 

 

 

 

「ストォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオップ!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「もうっ真姫ちゃん!!どうして邪魔するの!?もうちょっとで零くんと絵里ちゃんのセッ○スが見られたのに!!」

「あのまま続けたら、確実にその先にまで発展してたでしょ!?零も絵里も何故かやる気満々だったし……」

「それは否めない……」

 

 

 桃色ムード一色に包まれていた俺たちは、真姫によって現実世界へと引き戻されてしまった。

 真姫は息を荒げながら俺と絵里を引き剥がしたばかりか、その自慢のツリ目で俺をギロっと睨んできたのだが……悪いの俺じゃないよな!?言いだしっぺはことりだし!!

 

 結局その後は絵里が羞恥心で気絶してしまったため、それより先の行為を行うことなく実技は終了した。

 まぁあのまま続けていたら確実にこの話は自主規制され強制終了していただろう。

 

 

「でも中々の刺激で、ウチもちょっとドキドキしちゃった♪しかも絵里ちのあんな乱れた顔が見られるなんて珍しいし!」

「ことりも♪流石手馴れているだけのことはあるね、零くん♪」

「それって褒めてんのか……?」

 

 

 でもエッチが上手いというのは一種のステータスなのかもしれない。上手ければそれだけで女の子がエッチを求めてくるかもしれないし……ちょっと練習しておきたいと思ってしまったじゃねぇか。

 

 

「さて、じゃあ2限目の授業に行くよ!!」

「まだやんのかよ……絵里が気絶したっていうのに」

「あれぇ~?ウチ、一番期待しているのは零君やと思うんやけどなぁ~?」

「くっ……」

 

 

 流石カンの鋭い希というべきか、俺の心をズバリ当てやがった。いや、俺の性格を考えたら誰でも分かるか。希もことりも笑顔(ブラック)で俺を見つめてきやがるし……もうこの2人を満足させない限り、この講義は終わりそうにないな。真姫には耐えてもらわなきゃいけないけど。

 

 

「さぁ、次のお題はこれだよ!!」

 

 

 

 

~2限目のお題~

《騎乗位》

 

 

 

 

「やっぱりか……」

「やっぱりって……いやぁ~ん、零くんいんら~ん♪」

「うるせぇ!!お前だけには言われたくねぇよ!!」

 

 

 正常位って来たら、その次は騎乗位を思い浮かべるのが普通だろ。え?普通……だよな?もしかして俺が異端だとか?そんなバカなぁ……!!

 

 

「騎乗位とは、仰向けの男性の上に女性が跨ってお互いに大事なところを結合させながら、男性が女性の腰に手を添えて身体を上下前後に動かすか、女性が自らそういった動きを行うことでピストン運動をする体位のことだよ!ちなみに騎乗位の体位には2種類あって、男女が向き合う対面騎乗位と、女性が男性に背中を向ける背面騎乗位があるんだ♪」

「ことりちゃん物知りやねぇ~♪」

「えへへ、いつか零くんに朝のお目覚め騎乗位をしてあげるのが夢なんだ♪」

 

 

 な、なにそのご褒美!?愛しの彼女にフェ○チオか騎乗位で起こしてもらうのは、俺の大好きなシチュエーションであり夢でもある。こ、これは何としてでも早くことりを嫁に貰わないと……!!

 

 でも実のところ、最近俺は楓の騎乗位紛いな体位で朝起こされている。もちろん衣類は装着して俺の腰にただ乗っているだけなのだが、俺が騎乗位好きだと知ってか、恋人一歩手前になった楓のアプローチが更に激しくなっていた。俺が夢にまでみたシチュエーションなのだが、如何せん朝から刺激が強すぎるのが困りものだな。

 

 

「それじゃあ騎乗位の実践もやってみましょ~!次のお相手は希ちゃんね♪」

「えっ、ウチ?ここは真姫ちゃんじゃないん?」

「ちょっ、どうして私なのよ!?」

「だって真姫ちゃんの方が反応面白そうやし♪」

「本当にあなたって性格悪いわね!!私はやらないから!!」

「なんや真姫ちゃん根性ないなぁ~。あの絵里ちですら受け入れたのに、真姫ちゃんは逃げるんやぁ~ふぅ~ん……」

「な、なによその顔……馬鹿にしないでくれる!?分かったわよ、やればいいんでしょやれば!!」

 

 

 チョロ!!真姫ちゃん流石にチョロ過ぎやしませんかねぇ!?

 それにことりと希はお互いに悪い顔をしながら親指を立て合っている。コイツら、初めっから真姫のチョロさを利用するために演技してやがったな……。それに簡単に引っかかる真姫も真姫だけど。

 

 

「それじゃあまず零くんはこのマットの上に寝そべってね!」

「真姫……本当にやるのか?」

「どうせやるまでこの馬鹿みたいな話を終わらせる気ないんでしょ?だったらやってあげるわよ!!」

「そ、そうか……」

 

 

 もはや真姫は莫大に膨れ上がる羞恥心からか、俺の方を向こうともしない。顔がトマトのように赤面し、ことりと希の暴走を止めるために渋々受け入れたような感じもするが、どこか積極的に見えるのは俺だけだろうか?

 

 ちなみに俺はというと、絵里の時と同様に心と身体は正直なようで、いつの間にかマットの上に仰向けで寝転がっていた。やはり恥じている彼女たちの表情を見て、無意識的にヤる気になっていたらしい。しょうがないだろ、俺は男だ。真姫のような綺麗な女の子が自分の腰の上に乗ってくれるなんてご褒美じゃないか!!

 

 

「の、乗るわよ!!重いとか言ったら承知しないから!!」

「そんなこと言う訳ないだろ!!さぁ早く来い!!」

「っ……!!」

 

 

 真姫は俺の身体を挟むようにして両脚を広げる。

 その瞬間、彼女のスカートの中、主にパンツとそこから伸びている綺麗な太ももが俺の眼前に顕となり、俺の中で息を潜めていた性的な衝動が再び目を覚まし始めた。なにが興奮したかって、今日の真姫のパンツ、俺と真姫が手錠で繋がれて一緒にトイレに入った"あの時"と全く同じパンツだったってことだ!!

 

 基調としている色は彼女のイメージカラーでもある"赤"。下着の両端にある赤いリボンが一際目立ち、上部には豪華な刺繍が施されている。その下着だけを見ても相当綺麗なのだが、それが真姫の綺麗な白い太ももと相まってよりアダルティックに見えるのが何とも唆られる。ちなみにこの説明、"あの時"の引用な。

 

 

 真姫は俺の腰下を目掛けてゆっくりと腰を下ろす。

 彼女の腰が俺の腰下に近づくほどパンツと太ももがスカートに隠されてしまうものの、あのパンツ越しに真姫のアレと俺の下半身がドッキングする時が来ると思うと、自然と下半身に血が通ってしまう。そうなればもちろん下腹部にテントが張ってしまう訳で……。

 

 彼女からは俺の下腹部は見えない。だがことりと希はその状況がバッチリと見えているようで、2人共顔を沸騰させながら期待を込めた眼差しで俺と真姫の下腹部が密着する瞬間を待っているようだ。

 

 

 

 

 真姫の腰が、俺の下腹部へと近づく。

 

 

 息を呑む、俺も真姫も。

 

 

 そして――――――

 

 

 

 

「んっ……♡」

 

 

 

 

「「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああ♡」」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「なんだよ急に奇声上げやがって……真姫が驚いて気絶しちまっただろうが」

「いやぁ~あまりにも刺激的だったから♪」

「アハハ!ゴメンね!あとで真姫ちゃんには謝っておくよ♪」

「お前らなぁ……」

 

 

 絵里と真姫の反応を見て散々楽しんだ挙句、一切反省の色が見えないとは……ことりも希も、元から腹黒い一面があることは知ってたけどもここまでとはな……。

 

 ちなみに絵里と真姫はマットの上に2人並んで寝かせてある。

 ちょっと無理矢理系のプレイが好きな俺としては、ここでこの2人を襲ったらどうなるのか試してみたい衝動に駆られるが、未だに暗黒の笑顔が途絶えていない性悪な2人と同類にならないためにも、必死にその衝動を押さえ込んだ。

 

 

 でもなんかこのままコイツらの手のひらの上で踊らされて終わるのは癪だな……ここはどう転ぶか分からないけど、ちょっとからかってみるか。

 

 

「絵里も真姫も実技をしたんだし、希はやらなくていいのか?」

「えっ、う、ウチ?ウチは……いいかな?」

「じゃあどうして顔を赤くしてんだよ?もしかして俺たちの実技を見て興奮したんじゃねぇのか?」

「そ、そんなことは……」

「行為の体位には正常位と騎乗位以外に『立ちバック』という、マニアックな体位もあってだな。それを希で実践してみようと思うんだけど」

「えぇ!?う、ウチで!?そ、そんな……いくら服を着てるからって言っても……」

 

 

 やはり希は押しには弱い。普段はエッチなことに興味津々な淫乱お姉ちゃん的キャラなのに、いざこういった卑猥な言動でグイグイ押していけば途端にウブな後輩的なキャラに変身してしまう。まあ、そんなギャップがあるからこそ希は可愛いんだけどね!

 

 

「こ、ことりちゃん……」

「いい考えだね零くん!!希ちゃんが乱れてる姿ってあまり見たことないから、ことりも見てみたいなぁ~」

「ことりちゃん裏切るの!?講座が始まる前に、私と結託して絵里ちと真姫ちゃんを辱めようって約束したよね!?」

「標準語に戻ってるよ希ちゃぁ~ん♪それほど零くんとの実技に興奮してるのかなぁ~♪」

「ことりちゃん!!」

 

 

 ことりってここまで人を煽るようなキャラだったっけ……?ここまで希が追い詰められるのも珍しいが、ことりが誰かを煽るっていうのも珍しい。絵里と真姫の乱れる姿を見てテンションが上がっているのか、希が羞恥に悶える姿を見て楽しんでいるのか……どっちもだな。元々俺が煽る予定だったのに、もう俺が出る幕ねぇじゃん!!

 

 

「とりあえず最後にまとめ!!正常位というのは、女性が仰向けになり、膝を立てて股を広げた状態のところに男性が上からおおい被さる体位のこと。騎乗位は仰向けの男性の上に女性が跨ってお互いに大事なところを結合させながら、男性が女性の腰に手を添えて上下前後に動かすか、女性が自らそういった動きを行うことでピストン運動をする体位のことだよ♪受講している皆さんも、是非覚えて帰ってくださいね!」

 

 

 なにがムカつくって、全く役に立たない無駄知識じゃないのが余計に腹が立つ。これを覚えておくことで、将来いつかきっと役に立つ日が来るだろう。多分な……。

 

 

「それではここから希ちゃんの補習授業に行きましょ~!さぁ希ちゃん、立ちバックだよ!マットの上に立って身体を"く"の字にして!!」

「ほ、本当にするん……?」

「もちろんだよ♪フフフフ……」

 

 

 そして第二回目の講座は、ことりの邪悪に満ち溢れた笑顔と共に終了した。

 

 希の受ける辱めは、まだ終わっていないが……。

 




 どうでしたか?私からのクリスマスプレゼントは?

 今回はことりちゃんの淫語講座の第二回でした!
 初級編は何気なくいつも通りのノリで書いたのですが、その時の反響が凄まじかったので続編を執筆する形となりました。私もまさかクリスマスイブ(投稿日的にはクリスマス)に投稿することになるとは思ってませんでしたが(笑)

 今回は中級編ということで、ことりちゃんの暴走も前回より増し増しにしてみました。割とウザキャラにもなったりして、どこか楓にも似た雰囲気になっていました(笑)

 上級編に関しては、これも読者さんからのお声次第ですかね……
 今回以上の暴走を書くとなると、今度は本番になるかも!?


新しく高評価を入れてくださった

土菜さん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

こころとここあ、妖精と天使の誘惑

 今回はタイトル通り、矢澤姉妹であるこころとここあとの掛け合いがメインとなっています。

 果たして今回も零君は、ロリコンの境地に辿り着くことなく無事に話を終えることができるのでしょうか?(笑)


 そもそもの話、俺がロリコンというのは間違っている。

 ロリコンとは『幼女・少女への性的嗜好や恋愛感情のこと』を指すのだが、俺は特段幼女や少女に何の興味もなければ性的欲求などもってのほかだ。確かに可愛いと思う時はあるけども、それだけでロリコン扱いされていたら世の中のお父さん方はどうなってしまうんだって話だろ?そう、俺が幼女を可愛いと思う感情は、赤ちゃんを可愛いと思う親と同じ類なのだ。

 

 

 だからもう一度言おう。俺がロリコンというのは間違っている。

 

 

「何やってるんですか零さん!サボらないでください!!」

「サボってねぇよ!!そもそも、何故客人の俺が他人の家の掃除を手伝わなきゃならんのだ!!」

「まぁまぁ落ち着いて、ロリコンのお兄さん♪」

「…………」

 

 

 またこのガキ、俺のことをロリコンロリコンって……ブチ犯して、じゃなかった、ちょっと仕付けしてあげようか。

 

 俺は今、矢澤家族の部屋の掃除を無理矢理手伝わされているところである。

 何故こんな事態に陥ってしまったかというと、にことにこのお母さんが虎太郎を幼稚園に体験入園させるため家を離れているから、代わりに俺がこのガキたちのお守りをするためにここへ呼ばれたという訳だ。

そこでこころとここあの3人と、何をしようかと話し合っていると、どんな流れでこうなったのかは分からないが、いつの間にか部屋の掃除をしようということになり俺も巻き込まれていた。

 

 俺の説明を聞いてもどんな脈略でこんな事態になったのか意味分かんないだろ?俺も意味分かんないから。

 

 

「ぼぉ~っとしてないで、テキパキ働いてください」

「いやこれ、バイト代出んの?」

「私たちと一緒にいられることがご褒美でしょ?ロリコンのお兄さん♪」

「ここあ……ちょっと表出ろ。男の怖さを思い知らせてやる」

「きゃぁ~♪誘拐される~!!」

「お前間違ってもそれ外で叫ぶなよ!?」

 

 

 こころもここあも、俺のことを玩具か何かと勘違いしてないか……?もっと俺は頼れるカッコいいお兄さんだということを、にこの奴が教えておいてくれればこんなことにはならなかったのに。アイツ、妹たちにどんな教育してんだよ……。

 

 でもこれ以上大きな声で叫ばれて、近所の住民にここあの叫び声が聞こえてしまったら、俺は一発でお縄となってしまうので、渋々部屋掃除に従事することにした。コイツらは一回叫ぶだけで俺たち大人を監獄にブチ込むことができるもんなぁ……幼女ってズルい。

 

 

「でも掃除って言われても、他人の部屋を勝手に触ったりするのはちょっとな……」

「大丈夫ですよ。お姉様もお母様も、零さんにならOKって言ってましたから」

「なにその妙な信頼は……」

「それにね!お姉ちゃんが私たちに言ってたよ、『零はあなたたちのお兄ちゃんなの。どうせ将来にこのお婿さんになる男なんだから、今のうちからアイツの妹になっておきなさい』って」

「アイツ何言ってんの!?」

 

 

 相変わらず気がお早いことで……既にちゃんと将来設計について考えてるからなぁにこは。逆にまだほとんど考えていない俺の方が問題なのかもしれないけど。いやまだ高校生だし!!

 

 だけど、μ'sのみんなと将来こういうプレイをしてみたい!という妄想だけは無数にあるがな。

 

 

「ということで、今日からはロリコンのお兄さんのことを"お兄ちゃん"って呼ぶね♪」

「えっ?」

「なに?もしかして嬉しかったり?やっぱりお兄ちゃんロリコンだったんだね!」

「違うわ!!やっと"ロリコンのお兄さん"と呼ばれなくなってホッとしてたんだよ!!」

「だよねぇ~。それにいちいち"ロリコンのお兄さん"って呼ぶの、長くて面倒だし!」

「お前、わざと無理して呼んでたのかよ……」

 

 

 自分が楽しむためだけに、わざと無理をしてでも相手を貶めようとするその精神、本当に姉のにこにそっくりだ。最近アイツの小悪魔要素はあまり見られないが、腹黒いところは何も変わっちゃいない。その性格が妹たちにもしっかり受け継がれているようだ。特にここあには……。

 

 

「へへっ、お兄ちゃん♪」

「うおっ!!」

「こ、ここあ!?」

 

 

 何の前触れもなく、いきなりここあが俺に抱きついてきた!?

 ここあはその小さい身体全身を使って、俺の腰辺りに腕を回してギュッと抱きつく。さっきまで俺のことをロリコン扱いして馬鹿にしていた奴が急にデレるなんて……まさかこの年で男心を揺さぶる術を会得しているのか!?普通に愛らしくて可愛いんだけど……マ、マズイ、俺の中で動いてはいけない何かが動き出そうとしている!!

 

 

「私、一度でいいからお兄ちゃんが欲しかったんだぁ~♪それにね、お兄ちゃんができたらこうしてぎゅ~って抱きつきたいと思ってたんだよ!」

「そ、そうなのか……」

「周りにいるお兄ちゃんって呼べる人はお兄さんくらいしかいなかったし、いつかお兄さんに思いっきり抱きつかせてもらうのが夢だったんだよ♪」

「ここあ……」

 

 

 何とも小学生が考えそうな安直な夢だ。でもよくよく考えたら『お兄ちゃんが欲しい』なんて夢、どう足掻いても叶うはずがない。初めはコイツのお兄ちゃんになるなんて面倒なことになりそうだと思ってたけど、ここはここあの夢のため、そしてこの可愛い笑顔のためにも、1日くらいはコイツのお兄ちゃんになってやってもいいかな?

 

 あぁ……ホント女の子の笑顔に弱いよな俺って……。

 

 

「ねぇねぇ!お兄ちゃんからも抱きしめて!!」

「えっ、いいのか?」

「いいに決まってるじゃ~ん♪だって、お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだから!!」

「分かったよ。可愛い妹のお願いだ、お兄ちゃんが聞き入れてあげよう!」

「やったぁ♪」

 

 

 ここあは俺の腹に顔を擦り付けながら、更に俺を強く抱きしめた。

 この甘えっぷりを見るに、本当にお兄ちゃんが欲しかったんだな。こんな純粋無垢な笑顔を見せられたら、俺がそれに答えないはずないじゃないか!今だけは"ロリコン"という言葉を俺の世界から全て消そう。そうでないと変に自制してしまってここあの気持ちに答えられないからな。

 

 

 そうだ、俺は断じてロリコンなんかじゃない。ただ妹を可愛がる、それだけのこと。

 

 

 俺たちの間には身長差があるため、俺からは上手く抱きつくことはできない。だから彼女の小さな背中に自分の腕を回して、優しく俺の身体へと抱き寄せる。

 

 するとここあは頬を染めながら、目を瞑って俺の身体にもたれ掛かった。俺の身体がよっぽど暖かいのか、彼女はそのまま眠ってしまうかのような心地よい表情をしている。今までは人のことをロリコン呼ばわりする生意気なガキだと思ってたけど、案外可愛い面もあるじゃん。小学生ながらも、その天使のような笑顔に惹かれてしまいそうだ。

 

 

 ようやく夢が叶って良かったなと彼女の気持ちに答えることができて満足した反面、傍から見たら小学生を抱きしめる危険な奴だという邪念はやはり消えて亡くならない。逆に考えれば誰にも見られない今なら、ここあとずっとこうしていられるということ――――――ん?誰にも見られてない……?

 

 

 あっ……!!

 

 

 俺はここで、この部屋にはもう1人の幼女がいたことを今思い出した。

 

 

「…………」

「こ、こころ……?ずっと黙ってるけど……どうした?」

「私も……」

「へ?」

「私も"お兄様"に甘えたいです!!」

「ええっ!?」

「うえっ!?こ、こころ!?」

 

 

 さっきまでずっと俺たちの包容を眺めていたこころだったが、何かの糸がプッツリ切れたのか、耐え切れず俺に抱きついてきた。ここあの身体を少しばかり横へ押しのけ、その勢いで俺の腰に腕を巻きつけて抱き掛かる。俺のお腹ちょっと上辺りに顔を埋め、自分の表情を俺に見せようとはしない。だがチラッと見える頬が赤くなっている辺り、ここあにやきもちを焼いていたのだろう。

 

 

 そしてこの、幼女2人に抱きつかれている男の図である。

 俺の意思だけでこうなった訳ではないので、絶対に通報しないように。

 

 

 しばらく俺に抱きついて気持ちが落ち着いたのか、こころは顔を上げてようやく俺にその表情を見せてくれた――――――目に涙を溜め、少し寂しげ表情で。

 

 

「私も"お兄様"って、呼んでいいですか?」

 

 

 ぐぁあっ!!!!

 ちょ、ちょっと待ってくれ!?何故今吐血しそうになった!?俺は既に9人もの彼女を持っていて、加えて彼女候補が3人もいるこの状況、どうしてまた別の女の子にトキメかなければならない!?しかも相手はまだ中学一年生だぞ!?待った待った待った!!

 

 

「ダメ……ですか?」

 

 

 涙目になりながらそんな弱々しい声で話し掛けないでくれ!!今まで必死に押さえ込んでいた鋼のハートが揺れ動いちまうだろ!!こんな中学生になりたての子相手にそんな……そんな……。

 

 とりあえず一旦落ち着くんだ。この状況を脱却するには、こころが流している妖精の涙を止めればいい。例え幼女でも、涙を流す女の子を俺が放っておくはずがないだろ!!だったら答えはもちろん――――――

 

 

「あぁ、いいよ」

「本当ですか!?ありがとうございます♪」

 

 

 ダメだ、今度はこの妖精の笑顔にしてやられてしまった。このままだとここあだけでなくこころにまでハートキャッチされかねない。まさか……まさかこの俺がこんな小さな女の子に(たぶら)かされるなんて!!可愛ければ誰でもいいのかよ、俺!!

 

 

「ぶぅ~!お兄ちゃん私のことも構ってよぉ~!!」

「こ、ここあ!?」

 

 

 さっきからこころに気を散らされて、ここあのこと忘れてた。その結果がこの膨れっ面なんだけど……正直小さな頬を頑張って膨らませているその表情が可愛過ぎて、軽く胸を打たれてしまう。俺、とうとう脱出できない領域にまでどっぷり浸かってしまったのかもしれない。

 

 

 こころに構っているとここあがやきもちを焼き、ここあに構っているとこころがやきもちを焼く。

 だったらどうすればいいのか?それを彼女9人持ちの俺に聞くこと自体が愚行だ。

 

 

 こうするんだよ!!

 

 

「わわっ!お兄様!?」

「うわっ!お、お兄ちゃん!?」

「なんだよその反応……頭を撫でてるだけだろ」

 

 

 答えは簡単、両方可愛がってやるだけだ。

 俺はこころとここあ、2人の頭に手を当ててゆっくりと撫で回した。身長差もあって手を置きやすい位置に2人の頭があるため、疲れることなくずっと撫で回してやることができそうだ。もちろん永遠にって訳にはいかないけど、2人が満足するまではこうしていてやろう。

 

 

「お姉ちゃんの言う通りだよぉ~♪お兄ちゃんのなでなでは気持ちいいねぇ~♪」

「これはお姉様が惚気たくなる気持ちも分かりますぅ~♪」

 

 

 2人はさっきとは打って変わって、うっとりとした表情を浮かべている。

 そしてこころとここあが新しい表情を見せるたびに、俺の鋼の心が溶かされていくまでが1つのテンプレと化していた。こんな小さな女の子に見蕩れてしまうのは、彼女たちがそれだけ魅力的だからだろう。

 こころが大人しい妖精なら、ここあの表情は元気いっぱいの天使だ。こんな例えをしてしまう時点で、俺は既にロリコンへの道を開拓しているのかもしれない。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 その後、俺はこころとここあが満足するまで2人の頭を撫で続けさせられた。詳しい時間は測ってないが、相当な時間俺は彼女たちを抱きしめ合ったりなでなでしていた気がする。この字面だけ見れば、もうただの犯罪者だな……。

 

 そうやってあらかた幼女2人組とじゃれあった後、もうすっかり記憶の彼方に消し飛ばされていた部屋の掃除をすることになった。

 掃除の途中、妙にやる気となったこころとここあがまるで大掃除かの如く部屋の隅々まで掃除をし出したので、それに付き合わされた俺はもうヘトヘトに……。

 

 

「子供は元気だなぁ……」

「だらしないですよ!しかもお兄様はまだ高校生ではありませんか!」

「インドア派の体力舐めんなよ。そこら辺のコンビニに行くだけでも過呼吸になるから」

「それ自慢じゃないでしょお兄ちゃん……」

 

 

 逆にあれだけ騒ぎながら掃除をしていたのに、どうしてこの2人はこんなに元気なんだよ……。やはり年を取ってしまうと若い者の勢いにはついていけなくなる、というのは本当らしい。まさか高校生の時代からそれを感じることになるとは……。

 

 それもこれも掃除の途中で、にこの部屋から俺の私物が大量に見つかったせいだ。見つかったのはいいことなんだけど、見つけるたびにいちいち大声でツッコミを入れていたら体力をごっそり奪われてしまった。

 

 にこにはいずれ制裁を加えなければ……それすらも悦びそうだけど。

 

 

「あっ、ここあ!顔こんなに汚しちゃって!」

「ホントだ。頬とか鼻とか黒く汚れちまってるな」

「そういうこころもおでことか手とか、たくさん汚れてるよ!」

「えっ、そうなんですか!?」

「気付いてなかったのかよ……遊びながら掃除してるからだろ」

 

 

 あれだけキャッキャとはしゃぎながら掃除をしていたらそうなるわな……現に俺だってコイツらの遊びに巻き込まれて、顔や腕とか汚れてるし。

 一度ここあに床を拭きたての雑巾を押し当てられた時は、マジでコイツに大人というものを分からせてやろうと思ったぞ。なにが『変態さんの顔はここあが綺麗にしてあげるね♪』だよ。さっきお前にトキメいた心を返せこの野郎!!

 

 

「よしっ!じゃあお風呂に入ろうよ!!」

「そっか。なら早く入ってこい」

「え?何言ってるの?お兄ちゃんも一緒に入ろうよ♪」

 

 

 なにィいいいぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?

 

 い、一緒にお風呂に入る!?ここあと一緒に!?そんなことをしたら今度こそ務所行き確定じゃねぇか!?

 

 断るか?で、でもここあの期待の篭ったこの笑顔は……。さっき雑巾を顔に押し当ててきた時とは違う、純粋無垢な明るい笑顔。ここで俺が断れば、この天使の笑顔を崩してしまうことになるだろう。かと言って、一緒に入りでもしたら俺の社会的立場が……。つ、詰んでる!!

 

 

 そ、そうだこころだ!矢澤の家系で珍しく聡明なこころなら、男と一緒に風呂に入るなんて暴挙を止めてくれるはずだ!!こころが止められるならここあもそこまで悲しむことはないだろう。さぁこころ!!こんな獣みたいな変態男と一緒に風呂に入りたがっているここあを止めてくれ!!

 

 

「それはいい考えだねここあ!お兄様、私たちと一緒に入りましょう♪」

 

 

 詰んだァあああぁぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

 お、俺の最後の砦が……今まで俺のことを警戒してきたこころが、どうして俺なんかと一緒に風呂へ入ろうとする!?お前はもう少し賢い判断ができる子のはずだ!!1年前は知らない男(つまり俺)に声を掛けられたら、即警察に通報するくらい警戒心が強かったのに……。

 

 

 過去を振り返っていても仕方がない!今は犯罪者になってしまうこの瀬戸際を切り抜けるのが先決だ!!

 だけど断ったことによって、彼女たちの落ち込む表情は見たくない。いくら幼女だからって、彼女たちは俺を慕ってくれる妹のような存在だ。そんな2人に悲しい表情をさせてたまるか!!

 

 

 じゃあ……だったらどうするの!?

 

 

「一緒に入りましょう、お兄様♪」

「身体洗いっこしよ、お兄ちゃん♪」

「ぐあっ……!」

 

 

 

 

 幼女の笑顔には……勝てなかったよ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 矢澤ホーム、脱衣所にて……。

 

 

「あっ!ここあこんなところまで汚れてる!」

「腕を捲ってたから、肘のところまで汚れが付いちゃったんだよ」

「これは湯船に入る前に、まず全身をしっかり洗った方がいいね」

「だね~♪」

 

 

 どうすればいい……?中学に進級したての女の子と、現役の女子小学生と一緒に脱衣所に押し込められているんだが!?2人は何のためらいもなく服を脱いでるし、俺はそっぽを向いて2人の脱衣シーンを見ないようにするのが精一杯だ。

 

 正直に言おう、こころとここあの生まれたままの姿を見たい気持ちがないことはない。服が肌に擦れる音がするたびに、俺の心臓の鼓動が1オクターブ高くなる。俺の心の奥底から真っ黒な欲望が湧き上がり、理性を侵食してしまいそうだ……。

 

 だがもし欲に駆られて見てしまった場合、俺は色々なものを失うだろう。例えば社会的立場とか、今後皆さんから向けられる目線とか……。

 

 

「どうしたのお兄ちゃん?脱がないとお風呂に入れないよ?」

「分かってる。分かってるけどさぁ……」

「もしかして私たちを気遣ってくれているのですか?それだったら大丈夫ですよ、ちゃんとタオルは巻きますし」

 

 

 いや、タオルを巻く巻かない以前に、お前らと一緒に風呂というシチュエーション自体が俺を犯罪者に仕立て上げるんだよ!!どうすんの!?2人に『俺と一緒に風呂に入ったことは黙ってて』と念を押しておけば一応解決するかもしれないが、やんちゃガールのここあが口を滑らしそうだからなぁ……。

 

 でもここまで来て入らないなんて言えないし、ここあが黙ってくれることを信じてここは覚悟を決めるしかない!!

 

 

「分かったよ。入ればいいんだろ入れば……って、う゛えぇっ!?」

「お、お兄様!?」

「お兄ちゃん!?ど、どうしたの……?」

 

 

 いざ覚悟を決めて2人の方を振り向いてみたら、2人は既に生まれたままの姿にタオルを巻いていた。思わず真姫のような驚き方をしてしまったじゃねぇか……。

 

 妄想の中では平気だったのに、こうして現実世界で2人のタオル1枚姿を見てみると、穂乃果たちとは違った破壊力がある。この姿だけで世界のロリコンが全員死滅するくらいには……。

 

 

「な、なんでもない。そうだよな、脱がないと風呂には入れないよな」

「そうだよ早くぅ~!」

 

 

 ここあの奴、俺の気も知らないで……。というかコイツらは俺と風呂に入ることに関して何の抵抗もないのだろうか。抵抗がないからこうして誘っているんだろうけども、流石に無防備や過ぎないか?やはりまだ小学生と中学一年生か。

 

 

 しかしコイツら、何故か俺のことをジーッと見つめてきやがる。そんなに見つめられたら服脱ぎにくいだろうが!!ただでさえ焦ってんのに、更に焦燥を煽るのはやめてもらいたい。

 

 くそぉ~……変に感情が高ぶっているせいで、段々息が荒くなってきやがった。

 コイツらにまだ性的な知識はないだろうが、社会の目から見たら幼女のタオル1枚姿を見て興奮するただのロリコン野郎にしか見えねぇ――――――

 

 

 

 

 その時だった。

 突然、俺の後ろにある脱衣所の扉が開いたのだ!

 

 

 あまりにも唐突過ぎて心臓が止まりそうになる。もしかしたら一瞬止まってしまったかもしれない。

 俺は壊れたロボットのように、身体を震わせながら後ろを振り向く。

 

 

「あら?」

「に、にこ!?帰ってきてたのか!?」

「え、えぇ。お母さんたちは帰宅ついでに買い物に行ったけど」

 

 

 脱衣所に入ってきたのはにこだった!

 遂に、遂に俺たち以外の誰かにこの現場を見られてしまった!!マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ……。

 

 

「部屋にいないと思ったらここにいたのね――――って、な゛っ!?な゛、ななななななななななななななななななな!?」

「ちょっ、ちょっと待て!!これには深い事情が……!!」

「なにやってんのよアンタ!!人の妹、しかも小学生とまだ中学に上がりたての女の子連れ込んでお風呂!?いい身分じゃない!!」

「だから違うって!!違わないけど違うんだ!!」

「意味分かんないわよ!!いーい?正直に言いなさい、どうしてこんなことしたの?返答次第では、彼氏だからって容赦しないわよ!!」

「うぐっ……」

 

 

 とりあえず話は聞いてくれそうなので、俺は幼女2人と風呂に入ることになった経緯をにこに説明した。

 2人のお兄ちゃんになったこと、抱きつきあったこと、馬鹿騒ぎしながら掃除をしたこと、つまり今日コイツらと一緒にしたこと全部だ。それを聞いたにこは怒るというよりかは、むしろ羨ましそうな表情で俺の説明を聞いていた。その小さな頬っぺを膨らませながら――――

 

 にこのこの表情は……そうだ、こころとここあの嫉妬している表情と全く一緒だ。にこも完全に嫉妬モードに入っているようだった。

 

 

「そう、それなら許してあげるわよ。零が悪い訳ではないみたいだし。お風呂もこころとここあの2人だけで入らせるわ」

「助かるよ……」

「でもねぇ♪」

「な、なんだ!?」

 

 

 にこは俺の顔をにんまりとした顔で覗き込むと、お得意の小悪魔スマイルで俺を嘲笑うかのように見つめてきた。

 

 

「2人がお風呂を上がった後に、にこと2人きりで一緒にお風呂へ入ること!もし拒否した場合、このことお母さんやμ'sのみんなに喋っちゃうから♪」

「うっ、ちゃっかりしてるなお前……分かった。それならいいよ」

「やった♪」

 

 

 こういったあざといやり方は、まさに矢澤姉妹と言ったところだ。こころもここあも笑顔で俺を誑かしてくるし……アイツらの笑顔はまだ天然だと思うけど、いつかにこに仕込まれて小悪魔のようなあざとさを覚えそう。

 

 

「さぁアンタたち、2人でサッサとお風呂に入っちゃいなさい。零はにこと大切なお話があるから」

「そうなの?じゃあお兄ちゃん!今度は一緒に入ろうね!!」

「お兄様!次は私とも是非ご一緒に!!絶対ですよ!!」

「あ、あぁ……」

「零……」

「何故睨む!?」

 

 

 こうしてにこのおかげで、幼女たちと一緒にお風呂に入るという最悪(最高?)の事態を避けることができた。同時に、ロリコンの烙印を押されずに済んだな……。

 

 でも今日だけで、俺の人生一生分の精神を使い果たしたかもしれない……。

 

 

「さぁ零。こころたちがお風呂から上がったら、次はにこたちの番よ♪」

 

 

 そして悟った。俺は一生矢澤姉妹に振り回されるのだと……。

 




 もうロリコンでいいよ……


 ということで、今回はこころとここあ回でした!
 彼女たちをメインとするのはかなり久々で、そもそもこの2人をメインにした話を書く予定など一切なかったのですが、同じラ!小説の作家仲間の1人に超絶ロリコンな野郎がいまして、その人に焚きつけられたせいで今回の話を執筆することとなりました。
結果的には私もノリノリで執筆していたので、やっぱり私もロリコン……いや、穂乃果たちだけでなく小さな女の子にも愛を注げるハーレム小説作家の鏡だったという訳ですね!(笑)

 ちなみに12股を超えた14股という展開には"恐らく"ならないと思うので、期待するだけ無駄ですよ?


 今年の『新日常』の投稿は次回でラストとなります。
 今年最後にメインを飾るのは――――海未ちゃんです!

 タイトルは『海未ちゃん、巨乳になる』

 ということで、今年最後の投稿もよろしくお願いします!


新たに高評価をくださった方

雨月の夜さん、be-yanさん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海未、巨乳になる

 2015年『新日常』のラストを飾るのは、前回の予告通り海未ちゃんです!
 年内最後の大一番、海未ちゃんの乱れに乱れる姿が遂に――――!!


「ふっふっふ~、よく来たね海未ちゃん♪」

「いや、秋葉さんが無理矢理呼んだのではありませんか……」

 

 

 私は放課後練習から帰宅途中、突然秋葉さんからの連絡を受け、彼女の研究室にまで足を運んでいました。

 私が"無理矢理"と言ったのはあながち間違いでもなく、『研究室へ来なかったら、楓ちゃんをヤンヤンデレにしちゃうぞ♪お兄ちゃん大好きっ子の楓ちゃんのことだから、ヤンデレになると零くんの彼女である海未ちゃんたち大変かもねぇ~』なんて脅してきたのです。

 

 全く、こっちは練習で疲れているというのに、迷惑な話ですよ……。

 

 

「海未ちゃんをここへ呼んだのは他でもない――――」

「いいから早く要件を言ってください。こちらは練習後で疲れているので、早く帰宅したいのですが」

「もうっ!辛辣ぅ~!最近μ'sのみんなからも私の扱いがヒドイ気がするんだけど……」

「それは今に始まったことではないですよ。扱いを良くしてもらいたければ、顧問としてちゃんと練習に出席してください!」

「だって忙しいんだも~ん♪」

「――――――帰りますよ」

「ゴメンゴメン!でも忙しいのは本当だから許して!」

「はぁ……もちろん承知していますが、たまには顔を出してくださいね」

「ほ~い♪」

 

 

 どうして神崎家の兄妹はこうも不真面目なのでしょうか……?しかしやる時はキッチリとやるため、怒るに怒れないんですよね……。現に秋葉さん以上に、私たちμ'sのことを見てくれている大人はいないですし。

 

 

「それで、何故私をここへ?」

「私が開発したおクスリの実験台――――」

「帰ります」

「待って待って!!話はまだ終わってないよ!!」

「聞かなくても、どうせまた変なことに巻き込むんですよね!?」

「違う違う!!今回ばかりは海未ちゃんに朗報なんだよ!!」

「は、はぁ?」

 

 

 秋葉さんは必死に私の腕を掴んで帰宅を阻止してきます。いつもならおちゃらけた笑顔で私たちを実験台にするはずなのに、今回ばかりは本気で私に懇願しているご様子。それに私にとって朗報とは一体……とりあえず、話だけでも聞いてみましょう。判断はそれからでも遅くはないでしょうし。

 

 

「一応聞いてあげます。ですがくだらない話だった場合、即帰らせてもらいますから」

「ありがとう海未ちゃ~ん!それで早速なんだけど、自分のおっぱいを大きくしたいとは思わない?」

「な゛っ……!!か、帰らせてもらいます!!」

「待って待って待って待って!!だからまだ話は途中なんだってば!!」

 

 

 秋葉さんは私の腰に巻きついて、全力で私の帰宅を阻止してきます。逆に私は秋葉さんを引きずりながら、また妙なことに巻き込まれない内にこの研究室から退散しようとしました。

 

 秋葉さんの実験台という時点で、良からぬことしか頭に浮かばないので当然です!!

 

 

「破廉恥な話なら、穂乃果やことりにすればいいでしょう!?」

「違うんだって!これは海未ちゃんにしかできない相談なの!海未ちゃんが一番適任なんだよ!」

「ど、どういうことです!?」

「今私はとある会社から頼まれて、おっぱいを大きくする薬を作ってるんだけど、それが実現できそうなんだよ!だから海未ちゃんには最初に使ってもらいたくて!!」

 

 

 む、胸を大きくする薬ですか……なんとも破廉恥極まりないですが、実は興味がない訳ではありません。自分と同い年の穂乃果やことりは胸がどんどん大きくなっていくのに対し、私は去年からほとんど変わっていませんから。それを零にも指摘されて嘲笑われる始末……。

 

 

「あっ、今零君のこと考えてたでしょ?」

「えっ!?な、何故!?」

「顔に書いてあるもん♪零君おっぱい大好きだもんねぇ~」

「仮に私が零のことを考えてたとして、一体どうするつもりです……」

「素直じゃないなぁ~!その薬さえあればおっぱいが大きくなって、今まで海未ちゃんのことを貧乳と馬鹿にしてきた零君を見返すことができるかもしれないんだよ?」

「別に見返したいだなんて思ったことありませんけど」

「それだけじゃないよ♪」

「えっ……?」

 

 

 秋葉さんのこの悪い笑顔……今から明らかに何か良からぬことが起きそうな、そんな予感がします。この先の話を聞いてしまうと、もう後には引けない様な気がしてなりません。帰宅するのなら今しかない……今しかないのですが、さっきの豊胸の話に靡いてしまう私をどうか許してください!!

 

 

「おっぱいが大きくなれば、それだけ零君に愛してもらえるかもよ?」

「!?!?」

「零君はおっぱい好きだからね。そのおっぱいが大きくなるだけで、零君がもっともぉ~っと海未ちゃんのことを見てくれるかもしれないよ?」

「零が……私のことを?」

「うん♪あわよくば、手を出してくれるかも……」

 

 

 そ、そんな!!私は穂乃果やことりみたいにところ構わず発情するような淫乱な女性ではありません!!それに零が手を出して来ずとも、彼は私のことをちゃんと好きでいてくれているはずです。わざわざ身体で繋がらなくても、心で繋がっていればなんの問題もありません!!

 

 

「は、はれん――――」

「破廉恥?私が?違うでしょ?破廉恥なのは海未ちゃんだよ♪」

「え……?」

「本心では零君に手を出されたいと思ってるんでしょ?穂乃果ちゃんやことりちゃんから聞いているはずだよ、自分たちが零君とイチャイチャしたっていう話を。その話を聞いて、自分も……と思ったことくらいあるでしょ?口では反論してるけど、顔を見ればすぐ分かるもん♪」

「わ、私が……そんな……」

 

 

 零に手を出されたいと思っている?私が?そ、そんなはずは……!!

 しかし、たまに彼を妄想して1人寂しくベッドの上で自分を慰めているのは事実。それに対して、穂乃果たちは零と本番とまでは行かないものの、お互いにお互いの欲求を鎮め合っている……。私は1人で、穂乃果たちは彼と2人きりで――――

 

 

 もし胸が大きくなれば、零は私のことを襲ってくれるのでしょうか……?

 もう1人寂しく慰めなくてもいいのでしょうか……?

 

 

 私の中に真っ黒に染まった欲望が渦巻き、徐々に心を侵食していきます。

 そしていつの間にか、私の心はその欲望にどっぷりと浸かってしまい、気がつけば私の口がこう動いていました――――

 

 

「秋葉さん……そのおクスリ、私にください!!」

「フフッ♪毎度ありぃ~!!」

「えっ?お金取るんですか!?」

「そんな訳ないじゃん!海未ちゃんは私の大切な教え子だからね、お金なんて受け取れないよ!だけどあとで使用感を教えてね♪」

「は、はい!ありがとうございます!!」

 

 

 結局、私は豊胸のおクスリを受け取ってしまいました。

 ですが後悔はしていません。自分の欲望に忠実となった結果です。いつも他のμ'sメンバーに彼を譲っているのですから、たまには私も彼に甘えて……いいですよね?胸が大きくさえなれば、彼に触ってもらうことだってできるはず。うぅ……もう既に顔が熱くなってきました!!

 

 

「それじゃあはいこれ。おクスリを飲むのは寝る前で、最低6時間は寝ること。その条件さえ乗り切れば、海未ちゃんのカラダがムフフなことになるから♪」

 

 

 私は受け取ったおクスリを見つめながら息を呑みました。

 今まで穂乃果やことりには散々胸のことで馬鹿にされてきましたからね……特に2人が淫乱になってからは。しかしそんな屈辱も今日で終わりです!!私も零を惹きつけるような、魅力的な胸を手に入れてみせます!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ま、まさか……!?」

 

 

 翌朝、いつも通り穂乃果、雪穂、ことりの3人と一緒に登校するため、待ち合わせ場所に向かっている最中なのですが、私の日常はいつもとは違っていました。

 

 なんと……胸が本当に大きくなっていたのです!!

 秋葉さんのことなので若干疑ってはいたのですが、まさかあのおクスリにちゃんと豊胸効果があったとは!!起床したら本当に胸が大きくなっていて、思わず自分の胸を二度見どころか三度見してしまったくらい衝撃的だったのです。

 

 しかもよりリアルなのは一気に希サイズまで大きくなるのではなく、ことりサイズの少し上、花陽や楓サイズとほぼ同等にまで私の胸が成長していました。これなら変に怪しまれることもないでしょう。秋葉さん、たまにはいい仕事するじゃないですか!

 

 

「おーい海未ちゃーーん!」

「おはよう海未ちゃん」

「おはようございます、穂乃果、雪穂。珍しく早いですね」

「いや、今日は海未ちゃんの方が遅いんだよ。なんだか珍しいね」

「ホントに!海未ちゃんも寝坊するんだねぇ~♪」

「していません。身支度に少し手間取っていただけです」

 

 

 何も間違ったことは言ってないんですよね。胸のサイズを測ったり、胸に合うサイズの下着がなかったので、お母様に頼んで拝借させてもらったり……などなど、いつもの朝とは全然違いましたから。

 

 

 すると、隣から何やら突き刺すような視線を感じました。

 その視線の主は、ここにいる人の中で未だ一言も喋っていない、私の幼馴染の1人――――

 

 

「海未ちゃん……」

「ことり……」

 

 

 ことりは不思議そうな表情で私の顔、そして身体をジロジロと見つめてきます。やはり普段から脳内がお花畑の彼女だからこそ、私の胸が大きくなったことに気付いたのでしょうか?別に秘密という訳ではありませんが、自分から『胸が大きくなりました』と話すのは少々気恥ずかしかったりします。できれば話題を振ってくれると助かるのですが……。

 

 

「ねぇ海未ちゃん」

「はい、なんでしょうか?」

「雰囲気変わった?大人っぽくなったというか、いや前から大人っぽくはあったんだけど、大人の女性になったというか……うぅ~ん?」

 

 

 やはりいきなり胸が大きくなっただなんて思わないのでしょうか、あのことりですら私の変化に気付いてないみたいです。でもここまで自分の身体をジロジロ見られると恥ずかしいですね……。

 

 

「あっ、あそこに歩いてるのは零君!お〜い!零く〜ん!!」

「えっ零くん!?零くんおはよ〜!!」

「お姉ちゃんもことりちゃんも、零君を見かけた瞬間一直線に……」

「普段の練習でもあれくらいの瞬発力を見せてくれればいいんですけどね……」

 

 

 穂乃果もことりも、零に引っ付いていないと死んでしまう病気にでも掛かっているんでしょうか……?学院でも授業中以外は彼にベッタリですし、たまには私に譲ってくれてもいいと思うんですけど……それもこの胸さえあれば叶うかもしれませんね!

 

 

「おはよう穂乃果、ことり。相変わらず朝からうるせぇな」

「穂乃果もさっきまで眠かったんだけど、零君の顔見たら眠気全部吹き飛んじゃった♪」

「登校から零くんの顔が見られるなんて幸せだよぉ〜♪」

「大袈裟だなお前ら」

 

 

 またあの2人、周りに人の目があるというのに男女であんなにも近付いて……彼も満更でもない表情をしてますし、あの楽しそうな雰囲気を壊すのは毎回少々気が引けるんですよね。

 

 

「あれ?零君、楓はいないんですか?」

「アイツは今日日直らしいから、先に登校したよ」

「だったら今朝は零君に好きだなだけ抱きつけるってことだよね!楓ちゃんがいると邪魔されちゃうし」

「零くんぎゅ〜♪」

「穂乃果もぎゅ〜♪」

「おぉう!そうか、そう来るのか……だったら男を誘惑するとどうなるか教えてやる!!」

「「きゃぁ〜♪」」

 

 

 零は自分に抱きついていた穂乃果とことりを、上から更に抱きしめました。

 また公衆の面前であんなことを……いつもは止めに入るのですが、羨ましいというのが正直な話です。素直になれないのがここまで足を引っ張るとは……同志の雪穂も、頬を染めたまま3人の熱い抱擁を眺めてますし。

 

 

「おい海未」

「ひゃっ!!」

「な、なんでそんなに驚くんだよ?」

「す、すみません!あ、あれ?穂乃果とことりは……?」

「あそこで妄想に耽ってるよ。雪穂が面倒見てる」

 

 

 先ほどまで零たちのいたところを見てみると、穂乃果とことりは情けない緩んだ表情をしながらブツブツと妄想に明け暮れていました。

 私も彼にあのようにされてしまうのでしょうか!?心なしか、彼の私を見る目がどことなく卑猥な感じがしてならないのですが、私が破廉恥なだけですかね……?

 

 

「海未、お前……」

「ひゃい!!なんでしょうか!!」

 

 

 やはり変態の零ですから、私の胸の変化にも気付いたのでしょう!!柄にもなく破廉恥なことに期待してしまっている私がいます!!声も少し裏返ってしまいましたし。

 

 変に胸が高鳴ってきました……。不安定な心臓の鼓動に涼しい朝の中、全身が汗で濡れていくのが分かります。ここまで淫猥なことに胸を踊らせてしまうなんて、やっぱり秋葉さんの言う通り私は破廉恥な女性なのでしょうか!?でも彼が私の胸を求めるというのなら、差し出す勇気はもうできています!!

 

 

「ちょっとこっちに来い」

「えっ?れ、零……?」

 

 

 私の予想に反した彼の行動に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまいました。

 零は私の腕を掴んで、半ば無理やり私を引っ張ります。そして気付けばいつの間にか、私は彼に建物と建物の間、朝の日差しも届かぬ薄暗い裏路地に連れ込まれていました。

 

 すると突然零は私の腕から手を離し、強引に私を建物の壁に押し付けました。唐突過ぎて私はなんの抵抗もできずに、彼の為されるがままになってしまいます。そして零は壁と自分の身体で私を挟むように自分の手を壁に付け、顔を私の眼前にまで近付けたのです。

 

 

 こ、これは俗に言う"壁ドン"なのではないでしょうか!?

 一度穂乃果の部屋にあった少女マンガを読んだことがあるのですが、まさか現実で、しかも私が体験することになるとは……!!れ、零の顔が近い!!

 

 

「海未……お前」

「は、はいぃ……」

 

 

 零のこんな真剣な顔は久々に見た気がします。もう顔と顔とが近すぎて、彼をまともに直視するのさえも恥ずかしいです!!自分の声も段々情けない声になってきていますし、私が望んでいた展開とはいえ、ここまで緊張するものとは……穂乃果やことりの凄さが今になって分かったような気がします。

 

 

「正直に話せよ。どんな手を使っておっぱいを大きくしたんだ?」

「へ……?」

「とぼけても無駄だぞ、俺は女の子のおっぱいのサイズなんて一目で見ただけで分かるんだ。今までのお前のおっぱいと今日のお前のおっぱいは大きさが明らかに違いすぎる。1日でそこまで大きくなるはずないだろ」

「…………」

「秋葉か?」

 

 

 うっ、やっぱり零の勘は鋭いです。制服の上からでも私の胸が大きくなっていることを見抜いただけではなく、誰の差金かすらも見破ってしまうとは……。これは隠し通すことはできなさそうですね……。

 

 

「――――――はい」

「はぁ……やっぱりな」

「な゛ぁっ!?」

 

 

 零は呆れて溜息を付いたのですが、その言葉に全くそぐわない行動に私は驚いてしまいました。なんと彼は私の制服のブレザーに手を掛け、巧みな指さばきでボタンを順に上から、1つ1つ外してきたのです!!

 

 抵抗しようとするも本来私が胸を大きくようとした目的を思い出すと、中々自分の身体が動いてくれません。それ以前に、彼に壁ドンされている状態なので初めからまともに動けはしないのですが……。

 

 

「あのな海未。俺はおっぱいの大きさなんていちいち気にしないんだよ」

 

 

 そう言いながら零は私のブレザーを脱がすと、今度はシャツのボタンに手を掛け始めます。

 しかし彼の身体によって私は身体を抑えつけられて動けないため、ただただ自分の服を脱がされていくのを傍観するしかありませんでした。シャツのボタンが上から外され、段々と下着が顕になっていくこの光景に、私は羞恥で身体が燃えるように暑くなりながらも、どこか彼を求めているみたいです。

 

 私は自分から胸を大きくしてしまったという自責の念と、彼にこのようなことをされる期待が相まって、緊張しながらも心が高鳴っているのが分かります。やはり私は破廉恥な女性みたいです……。

 

 

「俺が重要視しているのはな、おっぱいの感度なんだよ――――っと、本当に大きくなってるな。花陽と楓クラスか、それ以上かも……」

 

 

 とうとう私の上半身は下着1枚だけとなってしまいました。

 もしかしたら零に見てもらえるかもと思い、今日の下着は濃い青を貴重とした大人っぽいものを選んできたのですが、こうまじまじと見れれると羞恥心が爆発していまいそうです!!

 

 

「つまり感度っていうのはな、こういうことだ」

「ひゃっ♪」

 

 

 突然零に胸を触られ、私の口から淫猥な声が漏れだしてしまいました。

 彼は他のメンバーでもう慣れているのでしょう、巧みな手付きで私の胸を刺激してきます。下着の上から両手で力いっぱい私の胸を揉みしだき、途中で少し力を緩ませ私を安心させ油断を煽った後もう一度激しく揉みしだく。女性を弄ぶその淫らなテクニックに、私はただ快楽に溺れるしかありませんでした。

 

 しかし、彼からの寵愛はそれだけではありません。

 零は私の胸を刺激する間にも、私の背中に自分の腕を回し、下着の留め具をいとも簡単に外してしまいました。留め具の拘束が解けて緩くなった下着は、そのまま地面にヒラヒラと舞い落ちていきます。しかし零は私の下着などには目もくれず、顕になった生の胸を両手で鷲掴みにしました。身体に電流が走ったかのように、一気に私の全身が彼からの刺激によって震え出します。

 

 

 零は私の胸とその先端を激しく刺激しながら、私に語りかけてきました。それに対して私は、喘ぎ声を出しながら答えることしかできません……。

 

 

「海未」

「ん……♡あぁ!!は、はい!!」

「秋葉のクスリなんか使わなくてもいい。俺はいつもの海未のおっぱいが大好きなんだ。現にほら、これだけ感じてるんだからな」

「ひゃっ♡れ、零は、んんっ♪胸が大きい子が好きなのでは、あぁっ♡ないのですか?」

「さっきも言ったろ、重要なのは感度なんだ」

「は、はい……あんっ♡」

 

 

 零の手付きは素晴らしいの一言でした。今となっては穂乃果やことりが彼に夢中になってしまうのも分かります。なぜなら、私も彼からの快楽にどっぷりと浸ってしまったのですから……。

 

 まだ高校生の私たちがこんな破廉恥な行為をするなんて、止めなければならないのは分かっています。しかし、快楽には勝てないのです!!こんな気持ちいいこと、やめられるはずないじゃないですか!!

 

 

「ほら、やっぱりいい声で鳴く。俺はこの声が聞きたいんだよ」

「ん、んんっ♡れ、零……す、少し、ひゃっ♡休ませて……」

「やだね」

「あ゛ぁああああああ♡」

 

 

 身体の芯から熱くなり、1人で慰めている時よりも遥かに激しい刺激が私を襲います。この気持ちよさからは、もう戻れません……。

 

 

 しかし、彼からの愛撫はまだまだこんなものではありませんでした。

 彼は私の胸の先端に唇を付けると、そのまま勢い良くジュルジュルっと吸い上げたのです!その艶めかしい音は私を更に興奮へと導き、まるで精気を吸い取られるかのように全身の力が抜け、彼に身を委ねてしまいます。

 

 これは、これは――――――気持ちいいです♪もっと、もっと触ってください!!あなたの手で、もっと私を乱れさせてください!!今まで我慢してきた私が愚かでした!!

 

 

「ひゃっ♪んっ♪あぁっあああああ♡」

「それに俺は女性のおっぱいの中でも、お前たちのおっぱいが特段に好きなんだ。なんたって俺の彼女なんだから。無理に大きくしようとせず、自然の状態で俺を愉しませてくれればいんだよ。俺は今お前が叫んでいるような卑猥な声を聞けるだけで満足なんだから」

「あっ♪ひゃん♡」

 

 

 嬉しいです……零がありのままの私を好きだと言ってくれて。そうですよね、着飾る必要なんてどこにもありませんでしたよね。みんなもありのままの姿をあなたに見せている。欲望に忠実となって、素直な気持ちをあなたに……。ですから私もこれからは、変わらぬ愛と着飾らない純粋な気持ちを、あなたに伝えます!!

 

 

「だけど海未がこうして胸を大きくしたのも、俺に振り向いて貰いたかったからだろ?フッ、可愛いヤツめ!!」

「あぁあああぁあああああああんっ♡」

「聞かせろ!!もっとお前の自然な声を!!期待してたんだろ!?」

「はい……!!んっ♪ですからもっと、もっと私を――――!!」

「当たり前だ!!本当のお前を見せてみろ!!」

「は、はいっ!!あっ♪あぁあああぁあああああああああああぁあああああああ♡」

 

 

 そして私はとうとう全身を骨抜きにされ、彼に愛撫をされるがままとなってしまいました。

 でももうそれでいいのです。なんたって私から望んだことなのですから……。もうおクスリは必要ありませんね。彼から愛してもらえば、それ以外は何も。

 

 

 

 

 

 そのあと私たちは、しばらくお互いに欲求を満たすことばかりに気が行ってしまい、私たちを探しに来た穂乃果たちに気付くことができず――――

 

 その時の穂乃果とことりの悪魔のような笑顔は、私の中で一生忘れられない表情となりました……。

 

 

 そして後から分かったのですが、あの豊胸のおクスリには胸を刺激されると感度が数十倍にも跳ね上がる媚薬が仕込まれていたみたいです。もうあの頃の自分を思い出すだけで……う、うぅううううううううううううううううううううううう!!!!




 年内最後の大番狂わせ、どうだったでしょうか?
 実は海未がここまで乱れる姿を見せるのは、『新日常』本編では何気に初めてなんですよね。100話記念の番外編やコラボ小説、企画小説などでは既に描かれているので、あまり新鮮味はなかったかもしれませんが、私自身はほぼ初めて書いたと言っていいくらいです。感想ですか?海未ちゃんのエッチなシーン最高!!特に媚薬プレイ!!(笑)


 そういうことで、『新日常』の年内更新は今回でラストとなります。
 思い返せば日常回に真面目回、はたまたR-17.9回など今年も様々な話を投稿してきました。その投稿数は実に195話となります!単純計算で2日に1回は投稿しているペースなので相当ですね。皆さんはどの話が印象に残ったでしょうか?

 今年も笑いあり涙あり興奮ありの零君たちの日常を描いてきましたが、来年も変わらず、そして完結を向けて精一杯頑張りますので、新年も応援のほどよろしくお願いします!

 それでは良いお年を!!


新たに高評価をくださった

奥山 玲於さん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

亜里沙と野球拳☆祭!

 あけましておめでとうございます!

 新年一発目はタイトル通り亜里沙回となります!新年に相応しい遊びでしょ?(笑)
 2人の関係が進展してから初めての個人回なので、もしかしたらあ~んな展開になってしまうかも……?


「よぉ~す!来たぞ亜里沙ぁ~」

「こんにちは零くん!どうぞどうぞ上がってください!」

「邪魔するよ」

 

 

 本日俺は、亜里沙からのお誘いを受け絢瀬邸へとやって来た。

 特段これといって用事はないのだが、亜里沙が俺と遊びたい(彼女のことだから意味深ではない)とわざわざ電話でなく直に懇願してきたので、これは行くしかないと思い二つ返事で承諾したのだ。正直亜里沙と遊べる(俺のことだから意味深)なんて、むしろ俺からお願いしたいくらいだからな!

 

 こんな可愛い子からお誘いをしてもらえるなんて、流石俺!

 やっぱり『彼女持ち+彼女候補=12人』の男は格が違う!!

 

 

 ――――と、自分の境遇の良さに浸る時間は置いておいて、これからは天使と天国でご遊戯回だ!

 

 

「早速ですが、私の部屋に行きましょう!」

「楽しそうだなお前。そこまで俺との自宅デートを楽しみにしてくれていたとは」

「こ、これってデートになるんですか!?でも2人きりだし、零くんとはもう恋人みたいなものだし、もしかしてそうなのかな……?」

 

 

 亜里沙は頬を染めながら何やらブツブツと呟き、混乱している頭を無理矢理正当化しようとしているようだ。こういうところが純粋で可愛いんだよなぁ~亜里沙は!最近μ'sに足りない要素はこの純粋さなんだよ。ことりやにこと自宅デートなんかしてみろ、開始3分で俺ら服脱いでるぞ。

 

 

「デート……デート……そうですよね!だったら早く行きましょう!ちょっとでも長く零くんと遊びたいですから、時間を無駄にはできません!」

「お、おい亜里沙!?」

 

 

 自ら俺の手を握って自分の部屋へ先導してくれるなんて、告白の時も思ったけど亜里沙の積極的なところは恋人一歩手前の関係になっても全然変わらない。これはもしコイツが淫乱美少女になった場合、ことりと同じ道を歩みそうだ……。でも亜里沙のそういう姿、いいかも!!

 

 

 そして俺は亜里沙に連れられるがままに彼女の部屋へと誘導された。

 彼女の太陽のような明るい笑顔に俺も自然と笑顔になりながらも、どこか心の奥で彼女の純粋な笑顔を性に乱れた表情に変えたいという真っ黒な欲望が生まれ始めていることに、俺はまだ気付いていない……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ここが私の部屋です、どうぞ!」

「おぉ~!」

 

 

 人生初めて亜里沙の部屋に入ったのだが、割と普通の部屋で驚いた。予想ではことりやにこのような女の子女の子してる部屋かと思っていたからな。流石に海未の部屋の地味さ加減よりは全然マシだけど。いや、別に海未の部屋を馬鹿にしてる訳じゃないからね!!あれはあれで……うん、味がある。

 

 

 だが普通の部屋でも、他のメンバーの部屋よりも明らかに異彩を放っている箇所が1つだけあった。

 

 

「あっ、これってμ'sの写真か?それにしてもたくさん飾ってあるなぁ~」

「まだ私がμ'sに入って半年ですけど、今までの人生よりも楽しい思い出がたくさん作れました。だからそれを1つ1つ大切にして、ずっと忘れないようにしたいんです。それにこの写真を見ていると、自然と"頑張ろう!!"という気持ちになれるんですよね♪」

「なるほど、お前らしいな」

 

 

 1年前からずっと憧れだったμ'sに入り、そして一緒に練習して"ラブライブ!"まで優勝してしまった。そして俺ともほぼ恋人のような関係にまで発展したし、亜里沙にとってこの半年間は激動で忘れられない思い出となったのだろう。その思い出を、1枚1枚記憶のピースとして残しておきたい気持ちは物凄くよく分かる。

 

 

「これからはお前が今まで以上に楽しい思い出を作れるよう、俺も頑張らないとな」

「ありがとうございます!嬉しいです♪」

 

 

 何度見ても胸を打たれてしまう、この天使のような笑顔。亜里沙の笑顔なんて日常茶飯事のはずなのに、俺はいつもドキドキしてしまう。特に彼女の告白を受け入れたあの時からは……。

 

 "アイツら"とは一切違う、穢れも邪な気持ちも籠っていない純粋な笑顔。見ているだけでも今までの自分の変態行為を悔い改めさせられるくらい、この笑顔は崇め奉りたくなる。この天使を崇拝すればするほど、濁りに濁りきったこの腐った心も浄化されるだろう。

 

 

 

 

 だがしかし、今日の俺は一味も二味も違っていた。

 

 

 

 

 ふとこんなことを考えてしまったのが、運の尽きだったんだ。

 

 

『亜里沙が羞恥に悶えて恥ずかしがる姿、そして、性欲に支配されたその表情を見ていたい』

 

 

 数少ないμ'sの天使に対してこんな邪な妄想、もちろん振り払おうと思った。

 だけど妄想は俺を逃がしはしない。俺の意思に反して、亜里沙との"アレ"な行為が脳内シチュエーションによって再現される。その妄想は俺の性欲を大いに掻き立て、俺の様子を見て不思議そうな顔をしている彼女の顔が淫乱な表情へと脳内変換されるくらいだ。

 

 しかしそれはあくまで俺の妄想の世界。俺は見てみたい。この現実で、亜里沙が自分の欲望に忠実となる、そんな姿を。

 

 先日海未が巨乳になって、その彼女を攻め立てた時の記憶が蘇る。あの時は彼女のエロい喘ぎ声に、俺の性欲と理性のリミッターが危うく振り切ってしまいそうになった。だがその時に感じていた興奮はまさに快楽の一言。だから今度は大天使である亜里沙に、俺の性欲を増幅させて気持ちよくさせる礎となってもらいたい。この前告白されたばかりだからと言って、慈悲も情けもない。

 

 

「なぁ亜里沙」

「はい、なんでしょうか?」

「今日ってなんかやること決めてるのか?」

「いえ、得には。零くんとお話出来るだけでも私、すっごく楽しいので♪」

 

 

 俺に今までと何も変わらぬ純粋な笑顔を見せてくれる亜里沙。自分が今から何をされるのか分かってないこの清純さを見ていると、もはや言葉では表現し難い欲望が心の内からドクドクと溢れ出してくる。

 

 今まで清純な少女を守りたいという気持ちが欲望よりも勝っていたが、恋人一歩手前の関係になったためか、彼女が着ている可愛らしい洋服を引っペ返してエロいことがしたいという欲望が、己の自制心を塗り替えたのだ。

 

 

 洋服を引っペ返す、か……亜里沙の服の下ってどうなってるんだろうな?

 

 まず目を引くのはここ1年で格段に成長したその胸。中学の時と今では胸の大きさが倍になったと言っても過言ではない。制服や洋服の上からでも、そのぷっくりと膨らんだ胸が際立つほどに成長している。

 

 次にスタイル。背はまだそこまで高くなく、どちらかと言えば低い部類なのだが、薄着の彼女を見てみるとその引き締まった身体はもはやロリ体型とは呼ばせない。小さいながらも胸が大きくスタイルもいいとか、俺を満足させるにピッタリのカラダじゃねぇか。

 

 

 よしっ、欲求もいい感じに高まってきたし、そろそろ亜里沙には堕ちてもらうか。

 

 

「だったらいい遊びがあるんだが、やってみるか?」

「いい遊び……?」

「ああ、古来から伝わる日本の遊戯と言っても差し支えない」

「ということは、日本の文化ってことですよね?私、日本のこともっともっと知りたいので是非やりましょう!!」

 

 

 掛かった……!!

 いつもなら亜里沙を騙すなんて罪悪感しか感じないのだが、今の俺は性欲魔人、そんなこと一切考えもしないし思いもしない。ただただ目の前の女の子を我が手で雌に変える、犯罪者予備軍である。

 

 

「それで、どういった遊びなんでしょうか?」

「その名は――――"野球拳"だ」

「"野球拳"……?野球と関係あるんですか?」

「初めはそう思うよな。でも安心しろ、野球とは全く関係なから知らなくてもすぐにできる」

「そうなんですか?μ'sに入ってから体力は付きましたけど、運動はまだ苦手なのでよかったです」

 

 

 雪穂の言う通り、亜里沙は何にでも興味を持つ。ロシア住まいだった彼女は日本文化に特に興味があるらしいから、こうして日本を引き合いに出せば余裕で釣れるという訳だ。

 

 でも本当に悪いおじさんに騙されそうだよな亜里沙って……。そんなことにならないためにも、俺でしか興奮できないカラダに仕上げておかなくては。

 

 

「ルールは簡単だ。まずじゃんけんをする」

「本当に簡単ですね……」

「もちろんこれだけじゃないぞ。そのじゃんけんに負けた方はな、罰ゲームとして――――」

「ば、罰ゲームとして……?」

 

 

 

 

「自分の着ている服を、1枚脱がなければならない」

 

 

 

 

「は、はい……?ちょっ、ちょっと待ってください服を脱ぐって……えっ?えぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?」

 

 

 

 

 いい反応だ!亜里沙の顔がみるみる内に赤く沸騰していくぞぉ~!!

 早速俺が見たい表情が見られてとりあえず満足だ。恐らくこのようなことに一切耐性のない亜里沙だからこそ、天然モノの反応が見られる。それにこんなもので恥ずかしがっていてはまだ早い、本番はこれからだぞ……。

 

 

「じゃあ早速やるか!」

「えっ?そんな軽いノリでやっちゃうんですか!?ふ、服を脱ぐんですよね!?それって、零くんの前で裸になるっていうことじゃあ……」

「なぁに、イヤだったらじゃんけんに負けなければ問題ない」

「そんなに簡単に行きませんよぉ~……」

「俺は亜里沙と一緒にゲームがしたいなぁ。あの時、お互いに気持ちを伝え合ってから初めての2人きりなんだ。俺は、お前のことをもっともっと知りたい。"絢瀬亜里沙"っていう子を隅から隅まで余すことなくな。だって将来俺の彼女になる女の子なんだぞ、知りたくない訳ないじゃないか。ダメかな……?」

「!!……零くん、私のことをそこまで……えへへ♪分かりました!!私も零くんのこともっとたくさん知りたいです!!だからこのゲーム、やります!!」

「よく言った!!」

 

 

 こうして見ると、亜里沙の純粋さ加減は極限を振り切っているよな……過去に知らないおじさんについて行ったことはないのだろうか。

 

 ちなみにさっきの説得の言葉、変態な人ならいちいち解説しなくても分かると思うけど、真の意味はこうだ。

 

 

『俺は亜里沙と一緒に(エッチな)ゲームがしたいなぁ。あの時、お互いに気持ちを伝え合ってから初めての2人きりなんだ。俺は、お前のこと(主にカラダとかエッチな表情とか)をもっともっと知りたい。"絢瀬亜里沙"っていう子を隅から隅まで(もちろんカラダ)余すことなくな。だって将来俺の彼女になる女の子なんだぞ、知りたくない訳ないじゃないか。ダメかな……?」』

 

 

 自分でも思う、最低な文章だと。しかしここまで卑猥なことを考えておきながら、言葉に出す時はそれと気付かれぬよう隠蔽して喋ることができるこの能力、高く評価して欲しい。

 

 

 まあそんなことはどうでもいいや。

 いよいよ、亜里沙の裸体を拝む時がやって来るくるんだからな!!

 

 ちなみに野球拳はじゃんけんの時にとある歌を歌わなければいけないんだけど、今回は早く彼女の裸体が見たいので全てカットさせてもらうぞ。

 

 

「前置きが長かったけど、そろそろ始めるか!いくぞ亜里沙!!」

「はい、いつでもどうぞ!」

「「じゃーんけーんポンッ!!」」

 

 

 俺の手がグー、亜里沙の手はチョキ、ということは――――

 

 

「ま、負けてしまいました……」

「ドンマイ。だけど罰ゲームは受けてもらうぞ」

「る、ルールですもんね!!ま、まずはどれから脱げば……」

「そうだなぁ……じゃあ手始めに上着から脱ぐか」

「は、はい!!」

 

 

 いいねいいねぇ!!恥ずかしがってるけど積極的なところ、これまた俺の好きなシチュエーションなんだよ!!しかも本来は脱ぐ服は自分で決めてもいいんだけど、亜里沙はルールを知らないし、脱がせる服はこのまま俺が決めさせてもらうぞ!

 

 

 亜里沙は腕をクロスさせて上着の裾を掴むと、勢いよく腕を上げて上着を脱いだ。その時、上着に引っかかったおっぱいが大きく揺れ動いたその光景に堪らない興奮を感じてしまう。

 シャツ1枚となったせいか、外見から見てもおっぱいが強調される格好となってしまった亜里沙。彼女は頬を染めながらも、まだ上下共に着衣している状態なのでまだ理性は保っていられるようだ。

 

 

「つ、次の勝負です!!」

「お前、そんなに脱がされたいのか。いい度胸だな」

「違います!今度は負けませんから!!」

「結果はすぐに分かるさ。じゃあいくぞ!」

「「じゃーんけーんポンッ!!」」

 

 

 俺の手はチョキ、亜里沙の手は――――パー。

 

 

「ど、どうしてぇ~……」

「ゴメンな、これも勝負だから。えぇと、次はどうしようかなぁ……うん、スカートにしよう!」

「す、スカートですか!?うぅ……」

「どうする、ギブアップするか?まぁ負けを認めるってことだから、結局全部脱ぐことになるけど」

「ギブアップはしません!ぬ、脱ぎます!!」

 

 

 一緒に回転寿司に行った時もそうだったけど、案外亜里沙って勝負事が好きなんだよな。こうして負けず嫌いなところを見るとよく分かる。しかしいくら負けず嫌いと言っても、負ければ相応の罰ゲームが待っている、それが野球拳だ。

 

 

 亜里沙はスカートのジッパーに手を掛けると、躊躇いながらもジッパーを下ろしてスカートを緩める。そして今回は先ほどの勢いとは裏腹に、チラチラと何度も俺の顔を伺いながらゆっくりとスカートを下ろしていった。スカートが下がっていくにつれ、綺麗な白いパンツ、そして舐め回したくなるふわふわとした太ももが俺の眼前に現れ、俺は思わず息を呑んでしまう。

 

 

「そ、そんなに見ないでください!!恥ずかしいです!!」

「いや、目を離せないくらい綺麗なんだよ」

「褒められるとそれはそれで恥ずかしいです!!」

 

 

 純白のパンツと太ももにももちろん目が行くのだが、何より天使のような少女が自分の目の前でシャツとパンツ1枚だけというこの状況にとてつもない興奮を覚えてしまう!!恥ずかしがりながらシャツの裾をギュッと握りしめているこの光景、シャツが股の方まで伸びてしまってパンツを履いてないように見える。やはり天使いるところに天国ありだな。

 

 

「つ、次の勝負です!!」

「なんだ、そんなに俺を脱がしたいのか。亜里沙も変態さんだな」

「ち、違いますよ!!私はこのまま負け続けるのがイヤなだけで、決して零くんの裸を見たい訳では……」

「へぇ~、でもやる気みたいだけど」

「うぅ……つ、次のじゃんけんやりますよ!!」

「へいへい。じゃあいくぞ」

「「じゃーんけーんポンッ!!」」

 

 

 俺の手はパー、亜里沙の手は――――グー。

 

 

「な、なんで!?どうして!?」

「俺にはお前の手が読めるから」

「な゛ぁ!?それってズルじゃないですかぁ!?」

「俺はな、自分の彼女の考えていることくらいお見通しなんだよ。それは彼女候補であるお前も同じだ」

「そ、そんなぁ~……」

「次はシャツな」

「…………はい」

 

 

 やけに従順になったな、初めはあんなに騒いでたのに。流石に俺に抵抗することが如何に愚かな行為か分かったきたようだ。こうして抵抗する女の子を段々と従順にしていくのは心底興奮する。可愛い美少女が俺の色に染まっていく快感と言ったらもう……ね!

 

 

 亜里沙はもうヤケくそ気味に自分のシャツを乱暴に掴むと、今度は何の躊躇いもなく一気にシャツを脱ぎ捨てた。そこに顕現したのはもちろん彼女の下着姿。上下ともに純白で揃えているのは好感が持てる。下手に派手で着飾っていないこの自然な感じが、男の欲求をより刺激させるのだ。

 

 彼女のこんな姿が生で拝めるなんて、出会った頃は想像もしていなかった。だけど現に今、彼女が俺の前でストリップショーを披露しているのを見ると、こんな幼気な少女を俺だけのモノにできたんだという快感と愉悦が高ぶって止まらなくなる。

 

 

「可愛いよ、亜里沙」

「うぅ……ありがとうございます」

「ここまで羞恥心に負けずによく耐えてきたな。しょうがないから次でラストにしてやろう」

「最後、ですか……」

「あぁ、でもお前が負けたら2枚脱げ。代わりに俺が負けたら、俺が全部脱いでやる。つまりこのじゃんけんに勝った方が、野球拳の勝者となる訳だ」

「っ……!!わ、分かりました!!その条件乗ります!!」

「言ったな……」

 

 

 もう1枚1枚脱がすなんてメンドくせぇ!!ここで一気に全裸にして、俺の性欲を満たすためのラブド○ルになってもらおう!!もう我慢できねぇんだよぉおおおおおおお!!

 

 

「行くぞ、せーの!」

「「じゃーんけーんポンッ!!」」

 

 

 俺の手はパー、亜里沙の手はグー。もう分かりきっていた結果だけどな。

 

 

「うっ、結局最後まで勝てませんでした……」

「残念。でもルールはルールだ、最後に下着を上下共脱いでもらうぞ」

「じょ、上下ですか!?せめてパンツはやめて靴下に……」

「敗者は勝者の言いなりになるしかないんだ。それに靴下は履いていた方が興奮する」

「零くん、やっぱりとんだ変態さんです……」

 

 

 全裸だけどソックスだけ履いてる女の子ってよくない!?男じゃねぇとこの気持ちは分かんないか。いいと思うんだけどなぁ裸ソックス。

 

 

 亜里沙は今日一番の躊躇いを見せていたが、遂に決心が着いたのか、上の下着の後ろに手を回し、"プチッ"という卑猥な音と共に下着を外す。

 

 そして俺は初めて、天使のおっぱいをこの目で捉えた。穂乃果と真姫同様、俺の手にジャストフィットするであろう程よい大きさ。しかしその2人と違うところは、おっぱいが若干張っているところだ。羞恥と興奮で胸の先端が立っているのも相まって、プリンと張ったおっぱいがとてもイヤラシい。まるで吸い付いてくださいと言っているようなものだ。まさか亜里沙がここまでエロく成長していたとは……。

 

 

 こんなの、我慢できるはずねぇよな。

 俺は亜里沙に近付くと、右手で亜里沙のおっぱいを掴み、左手で彼女を自分の身体に抱き寄せた。

 

 

「ひゃん♡れ、零くん!?」

「お前が可愛過ぎるからいけないんだ。こんなエロいカラダをして、俺のためにここまで……」

「べ、別に零くんのためじゃないんですけど!?あぁん♡む、胸ぇ……触りながらなんて……はぁっ♡」

「目の前におっぱいがあったら触るのが男ってものだろ?それにお前にその気がなくても、お前のカラダは俺を悦ばせるのに適している。亜里沙がこんなエッチな子で、俺は嬉しいよ」

「れ、零くんに満足して頂けるのなら……んっ♪あ、ありがとうございます!!あんっ♡」

 

 

 イキ声上げるの早くないか……?穂乃果たちとは違って慣れてないだろうし、恐らく自分磨きもやってことないだろうから尚更だろうな。それに甘い言葉を掛けたらまさかの即堕ち……もちろん甘い言葉と言っても嘘ではなく俺の本心なので、彼女への愛はたっぷりと詰まってるぞ。

 

 

 そしてこの流れなら言える。最後の1枚を脱がすあの言葉を――――――

 

 

 

 

「亜里沙……下も、脱いでくれないか?」

「――――――はいぃ……♪」

 

 

 

 

 そして俺たちの濃厚で濃密な時間は、ゆっくりと過ぎ去っていった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして翌日、俺が部室でのんびりとお茶を啜っていると、突然部室のドアが乱暴に開かれた。

 騒がしい音を立てた犯人は絵里。そして彼女は部室に入るなり、俺の目の前にまで詰め寄ってきた。ホントにモテモテだなぁ俺って!!……そう、こうやって誤魔化さないと、絵里の鬼の形相に怯んでしまいそうになる。

 

 

「ちょっと零!!」

「おぉ、どうした絵里?」

「どうしたじゃないわよ!昨日私が帰ってきてからずっと亜里沙の様子がおかしいのよ。なんかぼぉ~っとしているというか、たまにあなたの名前を呟いてはずっとニヤけてるし、こっちから話し掛けても返事をしてくれないし……」

「へぇ~そりゃ重症だな」

「なに人事みたいに言ってるのよ。どうせあなたが亜里沙に何かしたんでしょう?怒らないから言いなさい」

「いやもう怒ってんじゃん!?」

 

 

 どこかシスコンの毛がある絵里に、昨日俺と亜里沙がしていた遊びを教えたら、俺の命は一滴しか残らないだろう。だがここまで来てもう逃げられるような状況ではない。亜里沙が直接喋っちまうかもしれないし、死の直前を追い込まれるのなら早い方がいいだろ。

 

 なに?メチャくちゃ冷静じゃないかって?

 当たり前だろ、慣れっこなんだから!!

 

 

「絵里!!」

「な、なによ……」

「昨日起こったことを文章1つで表してやる」

「なんでもいいっから、とにかく早く言いなさい!」

「せっかちな奴だ……」

 

 

 俺は椅子から立ち上がって、絵里と正々堂々正面を向き合った。

 

 

 

 

「亜里沙の大切なところなんだけどな、生えてなかっ――――」

 

 

 

 

 とある秋の夕方、部室の周りに"グキッ"という謎の骨折音が響いたらしい………。

 

 




 天使が堕ちるのも、既に秒読み状態に……


 という訳で、今回は亜里沙の個人回でした!
 R-17.9を目指していたのですが、今回の内容は多めに見積もってもR-16、もっと言ってしまえばR-15の内容だと私は思うんですよね。これってもしかして感覚麻痺……?おっぱいを出して触っただけでは完全に満足できない私がいます(笑)

 とりあえず亜里沙も零君の手によって堕ち掛けてしまったので、今後彼女がことりたちのような全力全開淫乱ルートに行くのか、真姫たちのような隠れ淫乱ルートに行くのかは見ものということで!ちなみに淫乱にならないルートはありません!(断言)


 年末に久しぶりに超短編を投稿したので、私の活動報告を是非覗いてみてください!
 タイトルは『楓ちゃんに"お兄ちゃん"と呼んでもらうだけ』
 楓ちゃん好きは必見です!


 次回は希回です。個人会ではなくメインなのですが、これもちょっぴりアレな展開となりそうです。最近多いな……(歓喜)


 それでは今年も応援よろしくお願いします!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

希ちゃんのおしりは肉厚でもっちりとしていました

 とりあえずタイトルで釣ってみた(笑)
 今回はこれまた久々の希回です。希っていつもこんな役回りのような……カラダ付きがえっちぃから仕方ないですね!


 

 μ'sが"ラブライブ!"で二度目の優勝を果たしてから、早くも2週間が経過した。

 優勝の余韻に浸っているのも束の間、μ'sは更なる目標へ向けてまた新たに走り出している。それはもちろん"ラブライブ!"の三連覇。しかしそれだけではなく、普段行われる通常のライブの練習も欠かさない。数週間に一度はライブのオファーが来るくらいなんだから、1年半前まで弱小グループだったとは思えないな。

 

 そんなμ'sに"ラブライブ!"の事務局から優勝の副賞として、最近できたばかりの温泉旅館の宿泊券をグループの人数分(重要!!)用意してもらえたのだ。だから今日明日の2日間で、俺とμ'sのメンバーはその温泉旅館へ慰安旅行に来ていた。もちろんμ'sじゃない俺は自腹(超重要!!)での参加だけど……。

 

 

 そんなこんなで、1日をまったりと過ごしていたらいつの間にか夜になっていた。

 俺は混み合う温泉が大嫌いなので、一足先にみんなから離脱し1人温泉へと向かっている。

 

 

「そういや2ヶ月前にも温泉に来たばかりなんだよな。あの時は散々だった……」

 

 

 夏休みにも温泉に行ったのだが、あの時は亜里沙のパンツを不意に拾ってしまい、アイツにどう返そうか奮闘していた記憶が鮮明に蘇る。今日ももし女の子のパンツが落ちていたとしても、絶対に拾わねぇから。あの騒動のせいで慰安旅行のはずなのに逆に疲れちまったからな……。

 

 

「この時間だったら温泉にあまり人もいないだろうし、さっさと入って部屋でゆっくりしよう」

 

 

 どうせ穂乃果たちに振り回され、夜も中々寝かせてくれない(意味深ではない)と思うので、今の間にゆっくりしておこうという算段だ。部屋は俺だけ宿泊券の対象となっていないためか、普通の部屋で1人きり。彼女が9人もいて寂しいというべきか、変に興奮して暴走しないだけマシというべきなのか……。

 

 

 

 

 『ゆ』と書かれた青色の暖簾を潜り、男湯の脱衣所へと入り込む。

 周りをざっと見渡してみると、見事に俺以外の客は誰もいなかった。俺の予想以上で驚いたが、貸切みたいな感じでたっぷりと温泉を満喫できそうだ。

 

 

 服を脱いで温泉への扉を開け放つと、そこには下町の綺麗な夜景が一望できる露天風呂が広がっていた。元々夜景でそこまで感動できる方ではないのだが、今はたった1人の貸切のようなもので満悦感を味わっていたためか、柄にもなく『おぉ~!』と声に出してしまうくらい、目の前の夜景に感銘を受けてしまう。

 

 

「女の子以外で俺を感動させるなんてやるねぇ夜景くん」

 

 

 なんて何も面白くない冗談を吐きながら、俺は軽く身体をお湯で流し洗う。そして露天風呂の端の方にでかでかと置かれている岩に背を掛け、肩まで温泉に浸かりながら再び目の前に広がる夜景を眺めた。

 

 

「ふぅ~……やっぱ温泉はいいわぁ~。身体の老廃物が一気に流れ出す感じが気持ちいい!」

 

 

 この前、μ'sのみんなと一緒に銭湯へ行った時も同じようなことを言ったような気がする。まぁいっか、同じことを言いたくなるくらい温泉や銭湯は気持ちいいんだよ。でも段々と俺、オッサンみたいな思考になってきてないか……?若い女の子好きでお風呂好きって、完全にいい歳のオヤジだぞ……。

 

 

 ふと女湯がある方を眺めてみると、見事に竹の柵が空高く設置されていて変態の侵入を防いでいる。でも今回は覗きに行くような馬鹿な真似はしない。なんたって旅館には一般客がいるからな、流石の俺でも最低限の常識だけはわきまえるよ。だから今日の俺は健全で安心な神崎零さんって訳だ。いつもみたいにμ'sのみんなと温泉に来た時特有の、俺の精神がゴリゴリ削られるような展開は起こらないだろう。

 

 

「それにしても、"ラブライブ!"の運営は随分と気前がいいよなぁ。この旅館の宿泊費割と高かったんだけど、それを12人分チャラにしてくれるなんて」

 

 

 そのせいで宿泊券を持っていない俺は、財布の貯蓄を泣く泣く切り崩さなければならなかったけども……。俺はμ'sのメンバーではないが、一応アイドル研究部の部員なんだから宿泊券くらいくれたっていいと思うんだけどなぁ。同じμ'sだが舞台に立っていない絵里たち大学生組ですら貰っているというのに……。

 

 

 

 

 温泉に浸かりながらそんな愚痴を垂れ流していると、脱衣所へ続く扉が開かれ誰かの足音が聞こえてきた。

 やはりこの時間帯でも温泉に入ってくる人はいるよな。短い貸切期間だったけど、結構ゆっくりできたしよしとするか。人がたくさん入ってくるようなら、俺はそろそろ上がらせてもらう――――――

 

 

 そう思った時だった。露天風呂に入ってきた客の声が聞こえたのは。

 その声を聞いた瞬間に、怖気が走ってしまったのは……。

 

 

「ウチが一番のりやね~♪」

 

 

 若干力の抜けるゆるふわ系の声、そしてなによりこの特徴的なエセ関西弁は――――!?!?

 

 

「の、希!?」

「えっ!?れ、零君!?」

 

 

 な、なんで希がここにいるんだよ!?この露天風呂は混浴じゃないはずだろ!?

 

 だがそんなことより、俺は希の姿に目を奪われていた。

 タオルは巻かずに自分の前だけを隠すように持っているため、肉付きのよい太ももやふくらはぎがチラチラと見えるのがこれまたエロい。そのタオルの後ろに彼女の全裸があると思うと、想像だけで自家発電が捗りそうだ。

 

 そして極めつけは、タオルの横から垣間見える横乳!!もう少しタオルが横へズレれば、そのおっぱいの先端まで見えるのに……見えるのに!!だが見えそうで見えないこの興奮もたまんねぇな!!

 

 

 希は顔を真っ赤にしながらも、タオルを自分の身体に巻いて俺の元へと近寄ってきた。

 

 

「どうして零君がここにおんの!?ここ女湯やん!?」

「はぁ!?何言ってんだお前?男湯の暖簾掛かってただろ!?」

「えっ?ウチらが入ってきた時は女湯の暖簾やったよ?」

「な、なんだと……!!」

 

 

 脱衣所に入る前に男湯の暖簾が掛かっていることを確認したはず……ま、まさか時間帯で男湯と女湯が入れ替わるシステムだったのか!?いやでも、こんなまだ夜も早い時間帯に何の報告もなしに入れ替わる訳がない!どうなってんだよ……。

 

 

「ま、待て!今さっきお前"ウチら"はって言ったよな?じゃあ他のみんなも……?」

「もうすぐ来ると思うよ……」

「マズイ!こんなところを海未や絵里に見つかったら!!」

「それだけやないよ!さっき脱衣所に、ウチら以外の一般のお客さんもいたから……」

「それって尚更マズイじゃねぇか!?」

 

 

 最悪μ'sの裸を見るのは海未や絵里の制裁を喰らえば済む話なので、一応なんとかはなる。だが一般客がいるとなれば話は別。これまでの人生史上、一番刑務所に近い事態が起こってしまった!!

 

 脱出を試みようとしても、旅館へ戻るには脱衣所を経由するしか方法はない。だがそれではもちろん他の客と鉢合わせになってしまうので、そんなことをしたら即刻独房行きだ。

 

 

 え……じゃあどうすんの!?

 

 

「あっ、穂乃果ちゃんたちが来る……零君!早くそこの岩陰に隠れて!!」

「あ、ああ!」

 

 

 気が動転している俺は、とりあえず希の指示に従って背もたれにしていた大きな岩の陰に身を潜めた。とりあえずここにいれば、露天風呂の入口や洗い場からは俺の姿をシャットアウトできる。そしてこの岩は露天風呂の端の方にあるので、広大な風呂を下手に回り込まない限り湯船からも俺の姿を確認されることはない。

 

 だが逆に言えば、回り込まれたらアウトだ。特に人が多くなればなるほど湯船に浸かる場所も少なくなり、俺の姿を確認できる位置に人が来る可能性も高くなる。これはとっとと脱出法を見つけてとんずらした方がよさそうだ。

 

 

 ちなみに希は俺の隠れている岩陰に誰も回り込まないよう、上手く自分の身体でブロックしてくれている。しかし1人でこの大きな岩を守るには限界があるので、これも人が多くなるまでの応急処置に過ぎない。

 

 

「わぁ~!広い露天風呂だねぇ~!!」

「穂乃果、私たち以外のお客様もいるんですから、静かにしないとダメですよ」

「穂乃果ちゃん、ここの露天風呂ずっと楽しみにしてたもんね♪」

「わっ、本当に広い。やっぱり広いと落ち着かないなぁ~」

「かよちん、真姫ちゃんの別荘に行った時も部屋の隅っこにいたもんね」

「別にそこまで萎縮する必要ないのに」

 

 

 穂乃果たち3年生組と、花陽たち2年生組が遂に露天風呂に入ってきてしまった。ここからはもう下手に動くことはできねぇぞ……それにタオル1枚姿のみんながいることに気が散って、脱出法を考えられそうにもない。

 

 

「にゃ~♪やっぱ温泉は気持ちいい~♪」

「凛!湯船に入る前に、先に身体を洗わないといけませんよ」

「海未ちゃんかたぁ~い」

「待ちきれないから穂乃果も入っちゃお!!」

「あ、こら穂乃果まで!!」

「あはは、穂乃果ちゃんも凛ちゃんも相変わらずだね……」

「ホント、子供なんだから……」

 

 

 俺にとって先に身体を洗うとか、そんなことは今どうでもいい!!湯船に浸かっているってことは、穂乃果と凛は今全裸なんだろ!?そうなんだろ!?

 

 見てぇ……その成長した裸体を拝みてぇ!!今すぐこの岩陰から飛び出して、裸体の2人を思いっきり抱きしめたい!!そして先日、銭湯の時に叶わなかった夢をここで果たしたい!!

 

 

「零くん」

「の、希……」

 

 

 希はみんなにバレないよう、ヒソヒソ声で俺に話し掛ける。正直さっきから希の綺麗な背中で俺の視界が阻まれているので、彼女の背中に無性に興奮を覚えてきた。彼女も焦って身体が熱くなっているのか、夜の露天風呂に輝く一粒の汗が純白の背中に滴り落ちる様がとても艶かしい。

 

 

「絶対にそこから動いたらいかんよ。どうせ零君のことやから、穂乃果ちゃんと凛ちゃんの裸を見たいとでも思ってるんやろ?」

「ぐぅ……」

 

 

 バレてる……!完全に俺の思考が読まれてる!!

 確かにちょっとでもここから動けば希のカラダと岩の間から俺の姿が見えてしまうかもしれない。かと言ってこのまま動かないのは、変態の名を冠している自分にとってプライドを痛く傷付けられる。どうせなら隠れながらもアイツらの裸を拝みたかったのだが、もう既に一般客も入ってきているので、ここは断腸の思いで断念することにした。

 

 

「あれぇ~?お~い希ちゃん!どうしてそんな端っこにいるの~?」

「えっ?ちょ、ちょっと背もたれが欲しいなぁ~と思ってね!」

「じゃあ凛もそっちへ行くにゃ~!」

「「え゛っ!?」」

 

 

 どういう思考に行き着いてこの岩陰に来るという発想になった!?希に見つかった時は大声を出しても周りに人がいなかったからよかったものの、今凛に見つかったら彼女の驚きの声で周りに見つかってしまう可能性は大だ。

 

 俺はまたヒソヒソ声で希に話し掛ける。

 

 

「おい、なんで凛をこっちへ呼んだ!?」

「凛ちゃんの考えなんて斜め上過ぎて、ウチが分かるわけないやん!!」

「一里どころか万里あるけど、とにかく早く追い払ってくれ!このままでは見つかっちまう!!」

「でももう凛ちゃんこっちへ向かってきてるし、もう今更どうしようも……」

「希?」

 

 

 希は"う~ん"と唸って俯いたまま動かない。動揺している俺とは違って、冷静に緊急事態への対応を考えているようだ。女の子の裸が絡まない事態だったら、俺も脳をフル回転させられるんだけど……。とにかく今は彼女の策に委ねるしかない。

 

 

「零君、そこから動かんといてね」

「あ、あぁ」

「それじゃあちょっと失礼して」

「え゛ぇ!?」

「しっ!!静かに!!」

 

 

 希が取った行動は凛を追い払うのではなく、俺の姿を隠すように自分の背中を俺の身体に密着させてきたのだ。これで岩陰と希の身体の2重防壁体制で見つかりにくくはなって焦りは減ったものの、全裸の希と完全密着しているという興奮が新たに生まれ、俺の心臓の鼓動が乱れに乱れてきた。

 

 

「わぁ~!ここから見る夜景も綺麗だにゃ~♪」

「そ、そうやろ?」

 

 

 もう凛の声が間近に聞こえてくる。まさか岩を挟んだ反対側に俺がいるなんて思うまい。希も冷静そうだが、微かに震えた声を聞く限り相当焦っていることが分かる。

 

 しかし俺が焦っていることと言えば、希の背中が俺に密着しているということだ。何より俺が興奮しているかって、希が俺に密着してきた時に俺の手が彼女のおしりに踏み潰されてしまった、その事態に俺はとてつもない焦りと興奮を感じている。

 

 お互いに切羽詰っていたので仕方がないのだが、まさかこんな形で彼女のカタチのいいおしりを触る機会が訪れるとは……。今も俺の手のひらで、彼女のスベスベな桃の感触が温泉の湯の暖かさと共に伝わってくる。

 

 

 も、揉みてぇ……!!今すぐにでもこの指を動かして、μ'sトップクラスの肉付きを誇る、希のおしりを思う存分揉みしだきてぇ!!

 

 

 希は凛に俺を見つけさせないよう彼女と会話を続け、自分の方へ気を引こうと頑張っている。だから俺のためにここまで必死になっている彼女の気持ちを無駄にすることなんてできない。俺にも一応良心がある。

 

 

 だが。

 

 

 しかし。

 

 

 やはり性欲に勝つことはできなかった!!

 俺は、俺は――――――希のおしりを揉みたい!!

 

 

 そう、ちょこぉっとだけ!揉みしだくとはいかなくても、ちょこぉっとだけなら許してくれ!!

 

 

 俺は希のおしりにより押しつぶされ開きっぱなしだった指に力を込め、この体勢のまま彼女のおしりをガシッと鷲掴みにした。

 

 

「んっ♪」

 

 

 希のおしりは肉厚で、5本の指が吸い付かれそうなくらいとてももっちりとしていた。

 

 そして同時に、希から可愛い声が漏れ出す。さっきまで希と話していた凛は不思議そうに彼女の顔を伺うが、まだ気のせいの範疇なようで彼女の異変には気付かない。

 

 そして俺は、快楽の刺激によって漏れ出す女の子の声に非常と言っていいほど欲求を煽られる。この指が食い込むほどの柔らかいおしりも相まって、もっと彼女の揉みしだきたい、もっと彼女の卑猥な声を聞きたいという欲望が湧き上がってきた。

 

 

 俺は一旦指の力を弱めた後、再び、しかも先ほどより強い力で希のおしりをワシワシとする。

 

 

「ん、んんっ♪」

「希ちゃん……?もしかしてのぼせちゃった?」

「う、うぅん!そんなことないよ!!」

 

 

 自分の身体に電流のような刺激が走っているはずなのに、俺の姿を誰にも見つけさせぬよう必死に耐える希。そんな彼女の好意を無視して、自分の快楽のために彼女のおしりを揉み続ける俺。片や女神、片や悪魔のこの構図、何とも唆られるじゃねぇか……!!自分の体温が温泉の湯と性的興奮のせいでみるみる上昇していくのが分かる。

 

 

 この魅力にハマってしまった俺は、もはや無心となって彼女のおしりを揉み続けていた。

 

 

「あっ、ん……♪」

「希ちゃん顔が赤くなってるよ?一度湯船から上がった方がよくない?」

「だ、大丈夫……ウチ、いつもこれくらいの温度のお風呂に入ってるから慣れてるんよ……」

 

 

 俺におしりを揉まれ続けてもなお、俺を守るために適当な会話で凛の気を逸らそうというその優しさ、まさに女神様だ!!今までお前のカラダでエロいことばかり考えてゴメン!!でも――――――

 

 

 今だけはおしりを揉ませてくれ!!この感触この気持ちよさ、もう止めることなんてできねぇんだよ!!

 

 

 こんなことを続けていたら、みんなに見つかってしまうかもしれない。しかも今回は周りに数人一般の客さんまでいる。もし見つかったらいつも通りの制裁だけでは済まされない。

 

 

 だけど揉む。こんな背徳感を感じるシチュエーションなんて、後にも先にももうないかもしれないから。俺は自分の欲望だけには忠実になる男、一般人に見つかるハラハラよりも、希のおしりを揉んでドキドキする方が何よりも勝ってしまう。

 

 

 だがここで、俺を追い詰める更なる事態が訪れた。

 

 

「ん~?お兄ちゃんの匂いがする……」

「にこも感じるわ。近くに零がいるような……」

 

 

 なにぃ!?

 気付けばいつの間にか、楓たち1年生組とにこたち大学生組もこの露天風呂に入ってきていた。しかも楓とにこの2人は持ち前の謎の嗅覚で俺の存在を察知している!!

 

 

「なに言ってるのよ、零が女湯にいる訳ないでしょ」

「そうですよ、と言いたいところですが、零君ならありえなくないのが何とも……」

「零くんと一緒にお風呂……ハラショー!」

 

 

 亜里沙は相変わらずいつもの調子だな……。

 だが絵里たちも来たってことは、俺の逃げ場が更に封じられてしまった。

 

 

 だったらどうする?

 

 

 揉むしかないでしょ!おしりを!!

 

 

「ふぁ、んんっ♪」

「希ちゃん!?無理して凛に付き合わなくてもいいから、早く湯船から上がろ?顔凄く赤いよ!?」

 

 

 なんとか声を漏らさぬよう努力はしているみたいだが、明らかに普段とは声の質が違うため、凛も本気で希を心配しているようだ。少し離れたところにいた穂乃果たちも彼女の様子に疑いを持ったのか、俺の隠れている岩場にまでみんなが歩いてくる。

 

 

 みんなが来る……デッドゾーン一歩手前。

 希は涙目になりながら俺を横目で制してくるが、逆にその表情は俺の興奮を煽っていることに、彼女は一切気付いていない。

 

 

 そして俺は、更に重大なことに気付いてしまった。

 今の状況は既にお察しの通りなのだが、ここで俺が中指を少し伸ばしてみたらどうなるだろうか?女の子のおしりの前面には、2つに分かれた裂け目、つまり女の子にとって大切なモノが付いている訳で、俺の手のひらが彼女のおしりに押しつぶされている今、中指を伸ばせば当然その指は女の子の大切なところへと――――――

 

 

 つまり俺の中指が、希の割れ目の間に――――――

 

 

 もしかして、今までも俺が気付かないだけで触れていた……とか?希の奴、明らかにおしりだけで感じ過ぎだったし、もしかすると、もしかするのかも……!!

 

 

 そう考えた瞬間、俺の熱くなっていた身体がより一層加熱された。

 もう頭のてっぺんから湯気が出てしまうくらい顔も熱くなり、頭もぼぉ~っとし視界もぐにゃぐにゃと揺らいで、身体もフラフラと……って、これは――――

 

 

 そう気付いたのも束の間、俺の身体は横へ倒れ顔面からお湯にダイブしてしまった。

 

 

「ゴボッ!!」

「れ、零君!?」

「えぇ!?零くん!?どうしてここにいるのかにゃ!?」

 

 

 終わった。凛に見つかってしまった……。

 だがしかし、人生終了のホイッスルを聞く前に、俺の意識はそこで――――――

 

 

 

 

 どうやら希の話では、あのあとμ'sのみんなが駆け付けてくれて、一般客に見つからないよう全員で結託して俺をなんとか部屋まで運んでくれたらしい。あとから海未や絵里からは多大なお説教を頂いてしまったのだが、あの時のぼせていたせいか、露天風呂に入っていた時の記憶自体が曖昧なんだよな。

 

 

 しかし唯一覚えているのが、希のおしりの、肉付きの良いもっちりとしたあの感触。その感触だけは、もう俺の手にひらに染み付いて忘れることはない。

 

 

 

 

 あぁ、また触りたい……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして後日、俺は1つ気になっていたことをアイツに聞くことに――――

 

 

『もしも~し、零くんどうしたの?』

「露天風呂の男湯と女湯の暖簾、入れ替えたのお前だろ?」

『えぇ~、なんのことぉ~?』

「よくよく考えたら、あんな馬鹿高い旅館の宿泊券を用意してくれる気前の良さが怪しかったんだ。しかも"ラブライブ!"に参加してない絵里たちの分まで用意して……。お前は"ラブライブ!"事務局とも繋がりがあるから、副賞を用意させることも可能だろ。そしてこれが一番の理由なんだが、あんなイタズラをして影で笑ってそうな奴はお前しかいない!!」

『おぉ~!大正解!!さっすが我が弟!!』

 

 

 分かりきっていたことだが、反省の色は一切見えないな……またしてもコイツにヘイトが溜まってしまうのか。もう既に携帯をブン投げようとしているんだけど……。

 

 

「これ以上話すことはないが、あと1つだけ聞かせろ」

『なぁ~に?』

「どうして俺だけ宿泊券がないんだ?そのせいでクソ高い金払って温泉に行くはめになったんだぞ」

『えっ?そんなの決まってるじゃ~ん♪零君がそうやって憤慨するところが見たかった――――』

 

 

 

 

 俺はここで、携帯をブン投げた。

 




 今回は希回でした!
 彼女がメインとなる時は、毎回おしりがピックアップされているような気がしてなりません(笑)
でもやはり前書きでも言った通り、あんなカラダ付きをしているのが悪いんですよ!!むしろそこに触れないと変態小説の名前を汚してしまうことになりますからね!

 年末から年始に掛けて、海未⇒亜里沙⇒希のメイン回を執筆してきたのですが、どれもこれも際どい回が続いてるんですよねぇ(笑)
そろそろ軌道修正しなければ!!


 さて、次回のメインは――――穂乃果!ことり!にこ!楓!!
 あれ、このメンツは……!!


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

学院裏のおしゃぶり会

 今回のメインは穂乃果、ことり、にこ、楓の4人がメインです!
 『新日常』の読者の方なら、このメンバーがいかに危ない集団かが分かってもらえるはず。今から全く先の読めない展開へお連れしますよ……


 

「全く、どうして俺がこんなことを……」

 

 

 とある秋の日の放課後、俺は学院の校舎から少し離れた場所にある旧講堂へとやって来ていた。

 

 どうして俺がこんなオンボロな講堂へ来ているのかと言うと、凛たち生徒会からの依頼、いや押し付けである。どうやら凛たちの話では、ここ最近放課後になるとこの旧講堂に入り浸っている音ノ木坂学院の生徒がいるらしい、とのことだ。しかも1人2人ではなく何人も。

 

 旧講堂という名前を聞いてもらえれば分かる通り、新しい講堂が建設された今、その旧講堂が使われることはない。かと言って立ち入り禁止ではないのだが、旧講堂を使用する際には生徒会の許可が必要なのである。

 

 

 問題はそこ、ここ最近旧講堂に入り浸っている生徒は生徒会から使用許可を得ていない。

 

 

 誰の許可も得ず、放課後に学院の裏でコソコソやっている連中の正体を暴くのが俺のミッションという訳だ。ちなみに生徒会である凛たちはと言うと――――

 

 

『怪しい人から凛たちを守ってくれるのが、彼氏である零くんの役目でしょ?』

『怖い人たちがいても、零君なら大丈夫ですよ!』

『ま、精々怪我をしないように頑張りなさい』

 

 

 などと言い訳をしやがる。怖くて旧講堂に行きたくないだけだろ……彼女というポジションを最大限に生かして人をこき使いやがって。俺、生徒会役員でも何でもないんだけどな……。

 

 でももし旧講堂に出入りしている連中が野蛮な奴らだったら困るし、今思えば1人で来て正解だったのかも。

 

 

 そして1人で愚痴と納得を繰り返す間に、とうとう旧講堂の前へ辿り着いた。

 

 

「外から見るだけでも年季が入ってるな。こんなところでコソコソやってる奴らの気が知れねぇ」

 

 

 生徒会の許可があれば一応使用できるため、定期的に手入れや掃除はされているらしいのだが、それを考慮してもこのボロさは倒壊の危険を感じさせる。なおさらこんなところを拠点にする奴らが怪しく思えてきたぞ……。

 

 

 講堂の扉を開けて中へ入ってみると、元々ぼろっちいのも相まってか、まるでお化け屋敷のような雰囲気が漂っていた。照明や灯りなどは一切点いておらず、視界の確保は外から差し込んでくる僅かな夕日の光に頼るしかない。そのせいで、程よい薄暗さがより一層旧講堂の気味悪さを際立たせている。

 

 

「こんな薄暗い講堂に人なんているのか……?」

 

 

 折角ここまで足を運んだんだから、何の成果も上げられずに帰るという無駄足だけは避けたい。どうせならとっとと違法者を捕まえて、気分良く家へ帰りたいものだ。

 

 

「ん?あの部屋、電気が点いてる……」

 

 

 講堂のステージ袖を抜けると、そこにはいくつか控え室となる部屋があるのだが、その中の一部屋に明かりが点いており、廊下にまでその明かりが漏れ出していた。しかもその部屋の中から声まで聞こえてくる。それに1人や2人じゃない、もっといる。凛たちから聞いた情報と全く同じだ。

 

 

「本当にいるのかよ……しかも廊下にまで声ダダ漏れだし。一体誰なんだ?こんな気味悪いところで馬鹿騒ぎしている馬鹿共は」

 

 

 多少足音を立てても部屋の中で騒いでいる奴らに気付かれることはないだろうが、一応念には念を入れてゆっくりと歩きながらで部屋の前まで忍び寄る。そして指一本入るか入らないか分からないような扉の隙間から、部屋の中を覗き込んだ。

 

 

「な゛っ!?なんじゃこりゃ!?!?」

 

 

 部屋の中は、俺の想像を絶する空前絶後な事態が起こっていた。

 

 それは――――――

 

 

 

 

「はいはーーい!!今日の掘り出し物は、お兄ちゃんが昨日履いていた下着で~す!もちろん洗濯なんてしていない、生モノですよ♪」

「零のパンツ!?な、なんて破壊力……絶対ににこが手に入れるんだから!!」

「穂乃果だって負けないもん!!近々零君のパンツが入荷するって情報を聞いてから、ずっと眠れない夜が続いてたんだよね。だから何が何でも手に入れる!!」

「零くんのパンツと聞いただけで、ことり、もうクラクラしちゃいそうです……既にいい匂いが伝わってくるよぉ~……」

 

 

 な、何やってんだコイツら!?まずどこからツッコめばいいのか、それすらも分かんねぇ!!

 どうして俺の下着が楓の手に!?にこは口から涎が垂れそうになり、息遣いも荒くなっている。穂乃果はずっと眠れない夜とか言っているが、授業中に白昼堂々気持ちよさそうに寝ているのはどこの誰だっけ!?ことりの表情は緩みに緩みきって、身体が左右にフラフラと揺れている。確実にもう欲情してんじゃねぇか!!

 

 もうこの数秒間のワンシーンだけで、俺の頭がパンク寸前なんだけど!?

 

 

 そして俺に覗かれていることに全く気付いてない4人の会議は、更にヒートアップしていく。

 

 もちろん俺の想像を遥かに超えた、斜め上の方向に――――――

 

 

 

 

「さぁ!お兄ちゃんが丸一日履いていたこのパンツ、2000円からどうぞ!!」

 

 

 

 

 はぁ!?!?何言ってんのコイツ!?人の下着を勝手に売ろうとしてんのかよ!?

 でもなんとなくこの旧講堂で行われようとしていることが分かった。これだけで状況を把握して、それを飲み込める俺も相当毒されてるな、コイツらの奇々怪々な異常さに……。

 

 でも、旧講堂に出入りしている連中が怪しい奴らじゃなくてよかったよ。だがある意味で、俺にとっては一番厄介な奴らなんだけどな……。

 

 

 しかし、最近俺の私物がよく消えると思っていたんだが、まさか横流しされていたとは……。誰が喜んでそんな2000円もする馬鹿高いパンツを買うんだよ。女の子のパンツなら需要はあるだろうが、野郎が履いていたパンツだぞ?いくら穂乃果たちが変態だからって、たかが男の布切れ1枚にそんな金を払うはずが――――――

 

 

「2500!!」

「3000!!」

「4000!!」

 

 

 そうだったな、コイツらは俺の想像以上の変態ちゃんだった。まさか一瞬で元値の倍になるとは思わなかったけど……。俺のパンツってここまで価値のあるものだったのか。だけどあのパンツの今後どのように使用されるのかを想像すると、素直に喜べねぇ……。

 

 

「これ以上高くなると、今月のパン代を節約しないといけなくなっちゃう。でも零君のパンツのためだもん!それくらい我慢できるよ!!4500!!」

「にこはもう見なくなったアイドルのCDやBDをたくさん売って、資金をたんまり稼いできたからまだまだ余裕よ!5000!!」

「ことりも部費から出ている衣装費削って自分のお小遣いにしてるから、全然余裕があるもんね♪6000!!」

 

 

 オイちょっと待て!!今さっきサラッと部費の横領を告白しなかったか!?しかも周りにいる奴ら誰もそのことについて追求しないし、どれだけ俺のパンツにうつつを抜かしてんだよ!?

 

 ことりの告白のインパクトも凄かったが、穂乃果とにこの告白も衝撃的だ。穂乃果はパン代、にこはアイドルのCDやBDなど、自分たちの好きなモノに掛ける金を削ってまで俺のパンツが欲しいのか……。今までとことん変態道を突き進んできた俺でさえ引いてしまうこの状況、コイツらの間に割り込むのも怖くなってきた。

 

 

 もう何も見なかったことにしてここから退散した方がいいのかもしれない。このままツッコミを入れ続けるのも俺の精神的にツライし、家に帰ってから楓に釘を刺しておけば、少なくともこのふざけたオークションが開かれることはなくなるだろう。多分……。

 

 

 そう決心して俺がこの場から立ち去ろうとした時、アイツらの声が再び聞こえてきた。

 耳を傾けちゃいけないのは分かっているけど、今度はどんな奇行を仕出かすのか気になりはする。そう考えると自然と立ち止まってしまう俺の足。物好きだな俺も……。

 

 

「ねぇ楓ちゃん。今日は零君のパンツ以外のモノって、何かないの?」

「焦らないでください穂乃果先輩。そんなせっかちだからすぐに潮吹いちゃうんですよ!」

「ほ、穂乃果そんなに早くないもん!それに楓ちゃん、穂乃果のヤってるところ見たことないでしょ!!」

「確かに。す~ぐ快楽に負けそうだもんね、穂乃果って」

「にこちゃんまでぇ~……」

 

 

 なんていう会話してんだコイツら!?これが俗に言う女子会トークってやつなのか?女の子同士の会話はエグいと聞いたことがあるが、まさかここまでとは……コイツらだからかもしれないけど。

 

 

 それにしても、ことりが一切喋らないのは珍しいな。こういう話ならノリノリで参加していてもおかしくないはずなのに……。

 

 

「潮吹き……零くん、そこは!!んんっ♪」

 

 

 あぁ、いつも通り妄想の世界に耽っているのね……。本日も脳内ラブホテルは元気に営業中のようだ。

 

 

 穂乃果、ことり、にこ、楓――――μ's屈指の変態メンバー同士の会話は留まることを知らない。それもそうだ、だって止める役が誰もいないんだから、話は横道にも逸れず一直線に進んでいく。その話がどこへ向かっているのかは別として……。

 

 

「実はですねぇ~今日は特別な掘り出し物があるんですよぉ~」

「特別な掘り出し物?」

「はい♪これは絶対に、皆さんが喉から手が出るほど欲しがる一品なんですよねぇ~♪」

「勿体ぶらないで、早く出しなさいよ!!」

「落ち着いてくださいにこ先輩♪興奮するのはまだ早いですよ♪」

 

 

 毎回毎回会話の先を聞くのが怖いんだけど……だが何故だろう、ここから退散したいとは思うけど足が動いてくれない。多分このまま立ち去ってしまったら、コイツらの動向が気になってしょうがなくなるからだろう。だがここにいるのは――――身も毛もよだつほど怖い!!

 

 

「今日一番、いや、もしかしたら今までで一番の掘り出し物かもしれない一品は――――これです!!」

「あ、アンタそれって……!!」

「ま、まさか……!!」

「れ、零くんの……!!」

 

 

 な、なんだアレ?

 色は全体的に黒。そこそこ太くて縦に長く、バナナのような形状をしていて、先っぽの方はキノコみたいな笠がついている。それに何より、どこかで見たことがあるような気が……それも一回や二回じゃない、もう何度も見たことがある。どこだ?一体どこで見たんだ?そういやことりが『零くんの……』って言ってたけど……。

 

 

 ん?あ、アレってまさか!!??

 

 

「先輩たちは、実際に見たことある人ばかりですよね?お兄ちゃんの……アレを。コレはお兄ちゃんの分身のカタチを、そのままそっくり再現したモノなんですよ!!」

「「「!!!!」」」

 

 

 やはりか!!許可無く勝手に私物を盗むばかりか、いつの間にか人の大切な所の型まで採ってたのかよ!?別に許可があればいいってものじゃないけどじゃないけどさぁ……もうこれ以上ツッコミたくねぇよ、疲れた。

 

 

「い、いくらよ楓!!それいくらで売ってくれるの!?」

「それがあれば、毎日零くんと擬似セッ○スできるんだよね……」

「欲しい……穂乃果もそれが欲しいよぉ……」

 

 

 3人の目が、パンツの時の目付きとは比べ物にならないくらい獰猛になった。飢えた獣の眼光とはまさにこのことか、3人は楓が高らかに掲げている黒光りする某をずっと凝視している。

 

 

「コレの型を採るのも苦労したんですよ。ですから並大抵の値段ではお売りできません!」

「えぇ!?穂乃果、もうそんなにお金持ってないよ!?」

「それじゃあ、ここで試してみます?」

「た、試す?」

「はい♪ちょっと舐めてみます?いつもお兄ちゃんにやっているような感じで……」

「零君に……」

「にこたちがいつも……」

「やっている……」

 

 

 ま、マジで!?超展開過ぎて逆にこの先が気になっちまうんだが!?

 この3人とは一瞬の気の迷いで、すこぉ~しだけ下のお世話をしてもらったことがあったりなかったり。ていうか何でこんなところで暴露してんだ、俺……。

 

 

 さっきまでコイツらの会話にドン引きしていた俺だが、今は超絶ノリノリで部屋を覗いている。傍から見れば、女子更衣室を気持ち悪い顔で覗く変態野郎に見えなくもない。でも見てみたくない?穂乃果たちがおしゃぶりするところ。

 

 

「穂乃果先輩はいつもお兄ちゃんのアレをどうやってペロペロしてるんですかね?ちょっとやって見せてくださいよ♪」

「えぇ~恥ずかしいよぉ~♪」

「そう言ってしっかりとお兄ちゃんのコレ、受け取っちゃってますね」

「も~う、しょうがないなぁ~♪」

 

 

 メチャくちゃ嬉しそうじゃねぇか……よく人前で公開フ○ラとかできるもんだ。

 穂乃果は楓から黒光りする某を受け取ると、それを自分の顔の前まで持ってくる。そして舌を延ばして黒い某の裏の部分を――――ペロッと舐め始めた。

 

 

「んっ……」

「おぉ~!意外と優しくお世話をしてあげているんですね。穂乃果先輩のことだから、もっとがっつくのかと思ってました」

「零君からこうしろって言われてるからね。裏スジの方を、こうして舌の先を使って……ん、んっ」

「フ○ラの仕方まで命令されているなんて。徹底的にお兄ちゃんに調教されてますね、穂乃果先輩」

 

 

 不覚にもこの光景だけで興奮できてしまう俺がいる!!実際に穂乃果が舐めているのが俺のアレの模型だと思うとなおさらだ。しかも今まで穂乃果が舐めてくれる姿を上からしか見たことがなかったので、こうして横から、しかも扉の隙間から覗き見るとただならぬ背徳感を感じる。

 

 

「じゃあ次はにこの番よ!ほら穂乃果、もういいでしょ?早く貸しなさい」

「にこ先輩はどんなお世話を見せてくれるんですかねぇ~」

「まずはやっぱり愛を伝えないとダメでしょ♪」

 

 

 穂乃果から某を受け取ったにこは、その某の先端を自分の唇の方へ向ける。

 そして彼女のぷっくりとした小さい唇と、某の先端が徐々に近付いて行き――――

 

 

「んっ、ちゅっ……」

「おぉ~!!さっすがにこ先輩!お世話の仕方を心得ているって感じですね♪」

「ちゅ、はぁ……」

「にこちゃんの舐め方、凄く上品だね!」

「まずは優しくキスをして、零の興奮を高めるのよ。そしてアイツが気持ち良さそうな表情をしたら、一気に吸い付く。これがにこの王道パターンよ!」

 

 

 そして俺はいつもその王道パターンにしてやられているんだけどな。だって気持ちいいんだもん、仕方ねぇだろ!!あんなちっこい唇で、一生懸命しゃぶってくれる姿を想像してみろ!!出すモノ出しちまうに決まってる!!

 

 

「それじゃあ次はことりの番だね♪」

「ことり、アンタ顔真っ赤だけど大丈夫?」

「少し興奮してるだけだよ♪」

「どう見ても少しには見えないんだけど……にこたちのおしゃぶりを見て発情したんじゃないでしょうね?」

「えへへぇ~♪」

「完全にデキあがっちゃってますね」

 

 

 ことりの奴、さっきからずっと自分もやりたそうな目で穂乃果とにこのおしゃぶりを見ていたもんな。そんな彼女の表情を見て、俺自身も若干興奮しているなんて言えない……。このあとすぐに見せてくれるであろう、彼女のお世話のスタイルを知っているならなおさらだ。

 

 

 ことりはにこと同じく、黒い某の先端を自分の唇に近付ける。

 そしてその先端をしばらくの間うっとりと眺めていた彼女は、唐突に大きく口を開いてそのまま――――

 

 

「んんっ……!!」

「ことり先輩!?まさかいきなり食らいつくとは思いませんでしたよ。おしゃぶりでも肉食系なんですね」

「ん……ちゅっ、ぷはあっ!はぁ、はぁ……」

「凄く息遣い荒くなってるよ!?大丈夫ことりちゃん!?」

「大丈夫大丈夫!零くんに喜んでもらえるのなら、ことり、精一杯頑張れちゃうから♪」

 

 

 ことりが一途過ぎて、今にも部屋の中に飛び行って彼女を抱きしめてしまいそうだ。普段はことりのことを淫乱鳥やら脳内ラブホやら馬鹿にしているが、それも愛ゆえ。淫乱な女の子は俺の大好物です!!

 

 

「皆さんそれぞれお世話の仕方が違うんですねぇ~。勉強になりました♪」

「楓ちゃんにお礼を言われるなんて初めてかも!穂乃果ちょっと嬉しい!」

「お兄ちゃんの彼女歴では先輩方は文字通り先輩なんですから、教えを請うのは当然です」

「でも楓はいいわよねぇ~。いつでも零におしゃぶりできるんだから」

「今までグッと我慢してたんですけど、もう告白も済ませましたし、そろそろヤっていいと思うんですよねぇ。朝のお兄ちゃんを起こす時に、アソコをペろぉっと♪お兄ちゃん、そういうシチュエーション大好きですし♪」

 

 

 ひ、否定できない……!!妹に限らずだよ、朝起きた時に女の子が自分の身体に跨って腰を振っていたり、おしゃぶりをしてくれているなんて夢のような光景じゃないか!!

 

 

 あぁ、アイツらのおしゃぶりを見ていたら、俺も高ぶる欲求が止まらなくなってきた。しかし旧講堂とは言え、校内で猥褻事件を起こすのは流石にマズイ。ここ最近自分の性欲が抑えきれずよく暴走するから、自我を保っている今の間に退散した方がよさそうだな。

 

 

 そして俺が部屋の扉から離れ、廊下を歩きだそうとしたその時だった。さっきとは明らかに違う大きな声量で、楓の声が聞こえてきた。

 

 

「じゃあそろそろ本番ヤっちゃいますかねぇ~!!さっきからずっとそこでコソコソ私たちを覗いている、変態のお兄ちゃん♪」

 

 

 

 心臓と身体が一緒にビクンと跳ね上がる。

 部屋に顔を向けてみると、既に穂乃果たちが部屋の扉を開け、獲物を見つけた獣のような目で俺を凝視していた。

 

 

「わざわざ零君から来てくれるなんて、穂乃果嬉しいなぁ~♪」

「どうせにこたちのおしゃぶりを見て興奮してるんでしょ?にこたちが鎮めてあげるわよ♪」

「もうことり、我慢できないよぉ~!だから零くん、脱がすね♪」

「ちょっと待って!!いくら恋人同士でも学院内ではマズイって!!」

「大丈夫よ、どうせこんなボロっちい講堂に誰も来ないから。だからおとなしくにこたちに性欲を発散させなさい♪」

「やっぱりあんな玩具より、本物の零君のがいいよぉ~♪」

 

 

 完全にデキあがってしまった3人に身体を擦り寄せられ、抵抗するにもできない状況になってしまう。なんせ俺もそこそこデキあがっているため、俺の身体は抵抗するどころかむしろ彼女たちを受け入れる体勢になっている。

 

 

「コソコソ覗くからこんなことになるんだよ、お兄ちゃん♪」

「待て待て!!どう考えてもお前らの行動の方が怪しいだろうが!!」

()()で怪しい()()をする?いやぁお兄ちゃんおもしろくな~い♪」

「話をはぐらかすんじゃねぇ!!」

 

 

 楓に追求してもすぐに話題を逸らされるだろうし、今は俺の身体にへばりつく穂乃果たちを何とかしないと。μ's屈指の性欲女神3人衆を相手に、俺の興奮がこれ以上爆発してしまったら……絶対に放送事故になる!!

 

 

「は~い零くん脱ぎ脱ぎしましょうねぇ~♪」

「ちょっ、ことり!!」

「もう、さっきからうるさいわね!そんなうるさい口は、にこのおクチで防いじゃうんだから♪んっ……!」

「むぐっ!んんっ!!」

「あぁ~!!にこちゃんずるぅ~い!穂乃果もやる!!」

 

 

 ことりには制服を脱がされようとして、にこにはキスで口を防がれ、穂乃果には腕に絡みつかれている。

 あぁ、淫乱な女の子ってやっぱりいいな。自然と性欲も煽られるし、何より向こうから求めてくるなんて最高のシチュエーションじゃないか。こんなにたくさんの女の子のカラダと香りに包まれて、もうクラクラしてきた……。

 

 

 もういいや、コイツらに身を委ねよう。あとは俺のカラダを好きなように使って――――――

 

 

 

 

「あ、あなたたち……な、なにやってるのよ!?」

「えっ!?――――って、ま、真姫!?どうしてここに!?」

 

 

 穂乃果たちに自分の身を捧げようと決意したその時、俺たちの目の前に真姫が現れた。

 どうしてコイツがここにいる……?いくら散歩でも、こんなボロっちい講堂に足を踏み入れる訳がない。

 

 

「楓が電話で教えてくれたのよ。『お兄ちゃんたちが旧講堂でコソコソやってるみたいだから、様子を見に行ってください』ってね」

「楓!!てめぇ……って、いねぇし!?アイツ逃げやがったな!!」

「最近旧講堂で怪しいことをしている生徒がいるって噂があったけど、犯人はあなたたちだったの。まさか穂乃果たちとこんなことをしていたなんてね……」

「誤解だって!!ほら、お前らからも何とか言ってやれ!!」

 

 

 このままだと誤解に誤解が積み重なり、いずれ先生たちの耳に入るのはもはや明白だ。正直穂乃果たちを頼るのは間違っているけど、俺が言っても真姫は信用しないだろうし、今はコイツらの証言に賭けるしかない。

 

 

「もう零くん動かないで!脱がせにくいよぉ~」

「零君!にこちゃんだけにキスして穂乃果にはしてくれないの!?」

「こんなのじゃまだにこは満足できないんだからね!」

「お、お前ら……」

「ほら見なさい!次の生徒会会議で審問会ね」

「いやだから誤解だってぇええええええええええええええええ!!」

 

 

 

 

 淫乱組の暴走に楓の逃走、そして真姫の盛大なる誤解。神経がここまで極限に磨り減ったのは初めてかもしれない……。

 

 

 ちなみに真姫に土下座して頼み込んで、生徒会の審問会は何とか回避することができた。

 つうか、どうして俺が謝る立場なんだよ!!俺、今回ばかりは被害者だよね?だよ……ね?

 

 




 あなたはどのおしゃぶりスタイル(穂乃果、にこ、ことり)が好きですか?


 という訳で、今回はμ's屈指の変態メンバーの話でした!
 とにかく思い付くままに執筆していたので、話があちらこちらに飛んで訳の分からない展開に……でもこの訳の分からなさが逆にこのメンバーならではだと思います!


 Twitterでも予告したのですが、ここからしばらくの間、投稿ペースを落とします。投稿回数としては週に1、2回を目処にして頂ければと。


前回を含め、新たに高評価を入れてくださった

チェイスさん、大阪の栗さん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秋葉の初恋

 お久しぶりでございます!今日からまた少しずつ投稿していこうと思います。

 今回の話の主体はまさかの秋葉さん!
 男や恋に無縁な彼女が、唯一好きになった相手とは……?


※後書きに宣伝があるので、是非最後までご覧下さい!


「ったく、どうして私がこんなことを……」

「ゴメンね楓。どうしても人手が欲しくって」

 

 

 何故か私は今、絵里先輩たち大学生組と一緒にお姉ちゃんの研究室の掃除をしていた。

 本当は私の枠はお兄ちゃんだったらしいんだけど、お兄ちゃんは穂乃果先輩たちに受験勉強を教えているので、その代わりに私がここへ狩り出されたって訳。

 

 折角今日はお兄ちゃんのベッドで一日中あ~んなことやこ~んなことをしようと思ってたのに、迷惑過ぎるよホント。

 

 

「最近秋葉先輩忙しそうだし、こうしてにこたちが定期的に掃除してあげないと研究室がゴミだらけになっちゃうのよね」

「妹の私が言うのもアレですが、苦労かけます……」

「別にいいよ。ウチらが好きでやってることやし。それに秋葉先輩には大学に入って色々お世話になってるから」

「何だかんだ言って面倒見はいいですからね、お姉ちゃんは」

 

 

 正直なところ、私やお兄ちゃんにとってお姉ちゃんとの思い出なんて忘れたい思い出ばかりなんだけど、肝心なところでちゃんとお姉ちゃんをするから本気で憎もうと思っても憎めない。何だかんだ言って自分の仕事や勉強で忙しい中でも、μ'sや絵里先輩たちの面倒をしっかり見てくれてるしね。

 

 

「それにしても、見ない間にここまで書類が溜まっていたとは」

「実験結果のレポートに、新規プロジェクトの企画書、免許更新の催促状なんてものまであるわよ。しかも全部同じ書類の束の中に入ってるし」

「先輩の書類管理の雑さは相変わらずやね……」

「書類でも手紙でも何でも、お姉ちゃんは読んだら適当にそこら辺に置いておくクセがありますから」

 

 

 たまにいるでしょ?片付けができない女の人って。お姉ちゃんはまさにその部族に当てはまるんだよ。一緒に住んでいた頃も、私が定期的に掃除してあげないとすぐに部屋を散らかしちゃってたし。やっぱり完璧な人なんてこの世にはいないもんだね。

 

 

「あら、これ何かしら?写真立て?」

 

 

 絵里先輩が書類の山の中から、木製のフレームで縁どられた写真立てを発掘した。

 初めは海外企業への招待状など、本当に大切なモノをしまっておくだけという本来の用途とは違う使い方をされているのかと思ってたけど、先輩が興味津々で見ているのでそうではないのだろう。

 

 

「これ、小さい頃の零と楓じゃない?」

「どれどれ、ウチにも見せて!」

「ほら、秋葉さんも含めて3人で写ってるわ」

「にこにも見せなさいよ!」

 

 

 絵里先輩と希先輩の間に割り込むように、にこ先輩も写真立てに収められている写真を覗き込む。

 私たちが小さい頃の写真……私が中学に上がる前は3人一緒に暮らしていたから、少なくとも私が小学生の頃だよね。むっ、急に幼い頃の自分を見られるのが恥ずかしくなってきた。なんか先輩たちに弄られそうだし!!

 

 

「わぁ~!零くん幼くて可愛いなぁ~♪」

「ホント。アイツの幼い頃の写真って見たことなかったけど、今とは全然違うのね」

「にこっち、幼い零くんに興奮しちゃった?」

「はぁ!?流石に彼氏の幼い姿を見て興奮するほど、()()捻じ曲がっちゃいないわよ!!」

()()……?」

 

 

 にこ先輩、あなたまだこれ以上変態になる気ですか……?先日もお兄ちゃんにドン引きされるほど、お兄ちゃんのパンツにがっついていたのに、これ以上変態さんになったらお兄ちゃんの精神力が持たないよ。

 

 え、私はどうなんだって?もう半年以上も2人で住んでるけど、お兄ちゃんまだピンピンしてるから大丈夫でしょ☆

 

 

「あっ、これ私たち2人がまだ小学生の頃の写真ですね。お姉ちゃんがセーラー服を着てるってことは、この時お姉ちゃんは中学生か」

「へぇ~、秋葉先輩若いわねぇ~」

「にこ、それ先輩の前で言ったら怒られるわよ……」

 

 

 お姉ちゃんまだ21歳だけど、普段からずっと研究室に篭ったり日本や世界の各地を飛び回ったりしてるから、見た目より大人っぽく見えることがあるんだよね。でも今まで幾度となく私たちにされたイタズラの数々を思い出せば、精神年齢はまだまだ小学生並みの子供だよ。

 

 

「楓ちゃんも可愛いなぁ~お人形さんみたいやん♪」

「何言ってるの希。楓は今でも可愛いわよ♪ねぇ?」

「薄々こんな展開になるのは予想してました……」

「顔真っ赤よ楓♪アンタたち兄妹はホントに表情がコロコロ変わって面白いわ!」

「先輩方、いつか燃やします……」

 

 

 なんだろう、この手玉に取られて弄ばれるや~な感じは。初めて先輩たちと会った時は完全にこっちが手玉に取って遊んでいたのに、今ではこうして愛でるように攻め立てられる始末。もう完璧に私の攻略法が分かってきてる……これは早くどうにかしないと。

 

 

「でも秋葉先輩が楓たちの幼い頃の写真を飾っているなんて知らなかったわ」

「ずっと書類の中に埋もれてたんでしょう。お姉ちゃんまともに掃除もしませんし」

「容姿もスタイルも胸の大きさも完璧なのに、どうしてこうもズボラなんだか先輩は……」

「黙っていればモテるんやろうけどね、黙っていれば……」

 

 

 口を開けば憎まれ口を叩き、人を妙なクスリで不幸のどん底に陥れてはそれを見て大笑い、お兄ちゃんの言う通りまさに異星人だよ。お姉ちゃんは地球を侵略しに来た宇宙人で、人間たちを抹殺しようとしているに違いない!!

 

 

「モテると言えば、秋葉先輩って男の人に興味あるのかしら?」

「どうだか。先輩の周りに男の気配なんて全然ないし。それに先輩のことだから、『私の彼氏は研究』とか何とか言い出しそうだけどね」

「先輩自身が男性に興味なさそうやもんね。誰かを好きになったこととかないんと違う?」

 

 

「あるらしいですよ、恋したこと」

 

 

「「「えぇ!?!?」」」

「ちかっ!?」

 

 

 先輩たち3人が私の眼前へと詰め寄った。

 確かにお姉ちゃんに恋なんて無縁な言葉に思えるもんねぇ~。私も片腹痛くなって初めは鼻で笑っていたんだけど、どうやら事実らしいんだよ。

 

 

「どういうこと!?秋葉先輩が恋って……う、嘘でしょ!?」

「相手!!相手は誰なのよ!?」

「どうして楓ちゃんはそんなこと知ってるん!?」

「なに興奮してるんですか落ち着いてください!!一から話しますから!!」

 

 

 先輩たちは目を丸くして驚いているけど、同性(しかも先輩)の興奮姿なんて見たくないって。私が発情するのはお兄ちゃんの前だけだって心に決めてるから。

 

 

「この前お姉ちゃんが家へ帰ってきた時、酒に酔った勢いで色々愚痴ってたんですよ。『高校生は若くていいわぁ~』とか、『お姉ちゃんも学生時代は輝いてたんだよぉ~』とか」

「うわぁ、完全に酔っ払いのノリじゃない……」

「しかも学生時代って、今でも大学生なんやけどね……」

「そうなんですよぉ~。でもあの時はただの酔っ払ったおばさんでしたけど……」

 

 

 酒癖が悪いのはお母さんからの遺伝なのかもしれない。お母さんもお姉ちゃんも酒に酔うとお兄ちゃんや私に鬼絡みしてくるし。将来私は絶対にああはならないから!愛しのお兄ちゃんに迷惑を掛ける訳にはいかないしね!えっ、もう迷惑掛けてるって?またまたぁ~♪

 

 

「それでその時、酔ったお姉ちゃんが口を滑らせたんです。『私も中学の頃は好きな人がいたんだよぉ~』『しかもそれは私の初恋だったんだよぉ~』ってね」

「ま、まさか本当に秋葉先輩が……!?」

「それで相手は!?相手は誰なのよ!?」

「残念ながらそこまでは……」

「なぁ~んだ!面白そうな話だったのに♪」

「先輩の初恋の相手、知りたかったなぁ~♪」

「あなたたち、先輩のことをからかおうと思ってたでしょ……」

 

 

 そりゃあ私だって幼い頃から幾度となくお姉ちゃんの実験台にされてきたし、逆襲できるのならこれをダシに逆襲したかったけど、肝心の初恋相手が分からないとどうにもねぇ~。

 

 無理矢理研究室の掃除を手伝わされて苛立ってるし、掃除なんてやめてお姉ちゃんの悶え苦しむ姿を拝むための材料でも探そうかな。この書類の山の中にお姉ちゃんの痴態となるモノが隠されてるかもしれないし。初恋の経験があるって話だけでも、相当なダメージを負わせられると思うけどね。でも私はそんなのだけじゃ満足できないよ、フフフ……。

 

 

「ねぇ楓。酔っ払った先輩との会話、もっと思い出せないの?」

「あの時は酔っ払いおばさんのウザ絡みから逃げるので精一杯でしたから。でも待てよ、確か――――」

「何か思い出したん?」

「薄らと記憶の片隅に残ってたんですけど、お姉ちゃんが『初恋の人へラブレターを書いたことがある。結局渡してないけどね』って言ってたような……」

「「「ラブレタぁああああああ!?!?」」」

「先輩方、息ピッタリですね……」

 

 

 お姉ちゃんと話していた、というより一方的に絡まれていた時は、逃げるのに必死でお姉ちゃんの話なんてあまり気にしてなかったけど、よくよく考えてみればこの話ってかなりの暴露話、それもお姉ちゃんにとって物凄い黒歴史なのでは?今では男や恋なんて興味ないって公言していたお姉ちゃんが、まさか男を好きになって、しかもラブレターまで書いていたなんてこと……。

 

 

「そのラブレター、この研究室に残っていたりしないかしら。どこかの書類の山に埋もれてるとか」

「絵里ちも何だかんだ言ってノリノリになってきたやん♪」

「だってあの秋葉先輩よ?研究一筋のあの人が、好きな男性にラブレターを送ろうとしていたなんて衝撃的な事実じゃない?」

「それはそうですけど流石にそんな黒歴史、とっくに捨てられていると思いますよ――――って、にこ先輩?さっきから何をしてるんです?」

 

 

 こういった恋愛話が好きなにこ先輩なら会話に割り込んできそうなのに、先輩は先ほど私たちが見ていた写真立てを何やらゴソゴソと弄っていた。

 

 まさかその写真をダシに、お姉ちゃんを脅迫するんじゃ……人の恥ずかしい過去を弄るなんて最低です!!えっ、私も同じだって?またまたぁ~♪私は弄るなんて生温いものじゃないよ、言うなれば復讐なんだよねぇ……フフッ♪

 

 

「この写真立ての中の写真なんだけど、写真が2枚重なってるように見えるのよね。楓たちの写真の裏にもう1枚あるような――――あっ、本当にあった!!」

「うそぉ!?私にも見せてください先輩!!それがあればお姉ちゃんを、お姉ちゃんを!!」

「楓ちゃんもいつものテンションに戻ってきたね」

「さっきまで面倒な顔をしながら掃除してたのに……」

「あのお姉ちゃんに逆襲できる機会が訪れるかもしれないんですよ!?いつも自信満々で憎たらしい笑顔をしているお姉ちゃんを屈服させ、顔を真っ赤にして恥ずかしさに悶える表情を拝めるかもしれないんですよ!?掃除なんてしている場合ですか!!」

「楓が零以外のことでここまで必死になるなんて……」

「秋葉先輩に対して相当深い闇を抱えてるんやね……」

 

 

 まさかこんな簡単にお姉ちゃんに反逆できる機会が訪れるとは思ってもなかったから、余計にテンションが上がっちゃうよ♪これまで幼い頃から私を実験に利用してきた恨み、何百倍にも増幅させて返してあげるからね♪

 

 

 にこ先輩は写真立てから私たちの幼い頃の写真と、その写真と写真立ての間に挟まっていた"もう1枚"を取り出す。

 

 しかしその瞬間、私たちは目を大きく開けて驚いた。なんと私たちの写真と写真立ての間に挟まっていたのは"写真"ではなく、赤いハートマークのシールが貼られている真っ白な封筒だったから。

 

 

 これは、これは間違いなく……!!

 

 

「「「「ラブレタぁああああああああああああああああああああああ!?!?」」」」

 

 

 今度は私も含めた4人全員の声がハモる。

 こんなトントン拍子にお姉ちゃんを追い詰める材料が見つかるなんて……これは神様がお姉ちゃんに復讐しなさいと私に命令しているに違いないよ!!今までお姉ちゃんに会いたいなんて一度も思ったことはなかったけど、今だけは無性にお姉ちゃんに会いたい。会ってお姉ちゃんを悶え苦しませたい!!

 

 

「真っ白な封筒にハートマークのシール……お手本のようなラブレターね」

「あの先輩がこんな可愛いラブレターを初恋の相手に送ろうとしていたなんて……ふふっ、くくっ!」

「にこっち、笑い堪えられてないよ……ふっ♪」

「そういう希先輩だって……フフフ♪」

「あなたたち……先輩が知ったら何されるか分からないわよ」

 

 

 人の恋を笑うなんて最低だってことぐらい分かってる。分かってるけどあのお姉ちゃんだよ?あのお姉ちゃんが誰かに恋をして、しかもこんなテンプレ通りのラブレターを作って、更に今の今まで捨てずに大事に取ってあるなんて、こんなの妹の私からしたら笑うしかないんだよ!!

 

 

「相手は誰なんだろう?にこ先輩、早くラブレター開けてくださいよ!!」

「ちょ、ちょっと待って!流石にこれ以上はマズイんじゃあ……だってそのラブレターのシールを見る限り一回も開けられないみたいだし、もし秋葉先輩がそのラブレターを見たら、誰かがラブレターを見つけて開けたってことがバレると思うのよ」

「何よ絵里、ここまで来て怖気づいたの?先輩の初恋の相手が気にならない訳?」

「き、気になると言えばもちろん気になるわよ。私たちの面倒をよく見てくれてる先輩でもあるんだし……」

「別に見てもいいんと違う?ウチとしては、このまま先輩の初恋の謎を抱えたままこの先を生きていくなんて耐えられへんし。それに後日先輩と会った時、うっかり口を滑らせてしまいそうや♪」

 

 

 にこ先輩も希先輩ももはや心がブラックに染まりに染まりきっている。普通の女性の初恋ならここまで盛り上がらなかっただろうけど、今回の話題の中心はお姉ちゃんなんだもん、そりゃあ自分でも感じたことのない真っ黒な欲望が心の内から湧き出てくる訳だよ。これはもうラブレターを見るしかない!!

 

 

「見たくないなら絵里先輩は研究室から出て行ってください。もしお姉ちゃんにバレても、絵里先輩は関与してないって言いますので」

「楓にそう言われると疑いしかないのよね……はぁ、分かった、私も見るわよ。興味がないこともないしね」

「よしっ!じゃあそうと決まれば早速開封するわよ!!」

「早く、にこ先輩早く!!」

「急かさない急かさない!!」

 

 

 にこ先輩はラブレターを破かないよう、慎重にハートマークのシールを剥がす。もし上手いこと剥がれたら、開封したことがバレずに済むかもしれないもんね。

 

 いつになく真剣なにこ先輩だけど、先輩も早くラブレターの中身を見たいという焦りがあるのか、シールを剥がす指がプルプルと小刻みに震えている。絵里先輩も希先輩ももう少しでお姉ちゃんの初恋の相手が分かると知ってか、ラブレターを凝視しながら固唾を呑んでいる。

 

 それは私も同じ。いよいよお姉ちゃんに復讐、逆襲、反逆……そのすべてを遂行するための材料が手に入る。あの憎たらしいお姉ちゃんを完膚なきまでに叩きのめし、地に這いつくばらせて土下座をさせるまでの一連の計画が頭をよぎってならない。

 

 

 たった1枚。この1枚のラブレターだけで、お姉ちゃんの吠え面を拝むことができるんだ。

 

 

 フフフフフフ……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

 

 

 

 

 私が勝利を確信して心の中で高笑いを決めているその時だった、私たちの後ろにある研究室の扉が開いたのは――――

 

 

「いやぁ~まさかこんなに早く日本(こっち)に帰って来られるとは!やっぱり日本の空気はいいねぇ~♪」

 

 

「な゛ぁ!?」

「に、にこ先輩!?」

「およ?みんなそんなところで固まってなにしてるの?」

 

 

 お、お姉ちゃん!!帰ってくるの早すぎだよ!!

 お姉ちゃんの突然の帰宅にももちろん驚いたけど、私たちが一番驚いたのはそこではない。

 

 私たちが何に驚愕したかって、驚いた勢いでにこ先輩がラブレターの一部を破ってしまったことなんだよ!!さっきまで慎重にシールを剥がしていた先輩の指が、驚きのあまり勢い余って滑ってしまったのがすべての原因。お姉ちゃんが帰ってきた時も心臓が飛び出そうだったけど、すぐ隣で"ビリッ"とラブレターが破れる音がした時は心臓が止まるかと思ったよ……。

 

 

 私たちに冷や汗が流れる。まだラブレターの中身を読んでいないこの状況、もしお姉ちゃんにこのことがバレたら私たちに反撃の手立てがない。少なくとも初恋の相手さえ分かればお姉ちゃんを苦しませることができるかもしれないのに……。

 

 

 この状況を脱するため、私たちはアイコンタクトで()()()対処法を考える。

 

 

(にこ先輩!とりあえずラブレター貸してください!!)

(ど、どうするのよ……?もうシールに封筒の紙が付いちゃったから、隠し通すのは無理よ!!)

(分かってます!!絵里先輩、希先輩!ちょっと適当な会話でお姉ちゃんの気を引いてくださいません?)

(えっ!?私たちが!?)

(この状況で四の五の言ってられへんみたいやね……絵里ち!)

(分かったわよ……その代わり、全力で隠し通しなさい)

(もちです!)

 

 

 ここで会話が成立するのもμ'sの絆の強さのおかげだね♪なぁ~んて余裕を振りかざしている場合じゃないんだよねぇ~……とりあえず先輩たちがお姉ちゃんの気を引いている間に、何とか対策を練らないと。

 

 

「先輩、やけに早いお帰りですね……」

「そうなのよぉ~!向こうでの会議が意外と早く終わってね。でも私としては、早くこっちに帰ってこられて嬉しいけど」

「そうなんですか……こちらはあまり掃除が進んでいなくって……」

「いいよいいよ!私が無理矢理頼んだんだし。今から私もやるからさ」

 

 

 よしっ、いいですよぉ絵里先輩、希先輩!そのままお姉ちゃんの気を引いてくださいね。

 

 そして私もやることをやらないと……。まずラブレターのシールに封筒の破れた紙が引っ付いてしまった時点で修復は不可能。だけど破れたのは封筒の部分だけで、肝心の中身の便箋は無事みたい。このまま写真立てに戻すのもアリだけど、正直な話、ラブレターの内容を読んでみたいという気持ちはこの状況でも変わらない。

 

 

 だったら、取るべき選択肢はただ1つ!ラブレターの中身を――――――盗む!!

 

 

(か、楓!?アンタさっきラブレターの中身、ポケットに入れたわよね!?)

(見たいんですから仕方ないでしょう!!それに今の今までラブレターを開封した形跡がなかったってことは、お姉ちゃんがラブレターを読み返したことはないということ。つまりこうすればいんですよ)

 

 

 私はカラになったラブレターの封筒を、私たちの幼い頃の写真と写真立ての間、つまり初めに隠してあった状態と同じ状態になるように戻した。これで写真立ての中身を覗かない限り、ラブレターが開封されたってことには気付かない……と思う。

 

 

(先輩!もう大丈夫ですよ、とりあえず応急処置は施しました)

(そう……なんかどっと疲れたわ)

("ラブライブ!"以上の緊張やったかも……)

 

 

 バレる可能性は0ではないけど、バレたらその時はその時だ。それに私にはとっておきの秘密兵器がある。たった今ポケットの中に入れた1枚の紙切れ、それだけでお姉ちゃんを屈服させることができるかもしれないんだから……フフッ♪

 

 

「あれ、楓ちゃんも来てたんだ。やっほ~!」

「やっほお姉ちゃん♪またこんなに部屋を散らかして、ちゃんと定期的に掃除しないとダメだよ!!」

「楓ちゃん、なんか今日テンション高くない?いつも顔を合わせるといや~な顔するのに」

「えぇ~そんなことないよぉ~♪」

「楓、あなた……」

「ん?どうしたんです絵里先輩?ほら、ちゃっちゃと掃除しちゃいましょう!」

「楓ちゃんの笑顔が黒い……」

「本当に神崎兄妹は、似た者同士ね」

「???」

 

 

 状況が飲み込めず、頭にハテナマークを浮かべるお姉ちゃん。フフッ、その表情可愛いねぇ~。

 さぁ~て、今後どうやってお姉ちゃんを料理してあげようかなぁ~♪煮るなり焼くなり、蒸すなり炒めるなり、ポケットの中のこの紙切れさえあれば何だってできちゃうんだよねぇ~。もう私はお姉ちゃんの実験ペットじゃないよ。もしかしたらこの関係が逆転しちゃうかも……フフフ、楽しみだよ!

 

 

 

 

 そうやって笑っていられるのも今の間だけだから、覚悟しておいてね、お姉ちゃん♪

 

 




 え?秋葉さんの初恋の相手が明かされてないだって?またまたぁ~(笑)


 今回は秋葉さんの過去を少しだけ明らかにしてみました。そうは言っても話の主体が秋葉さんだっただけで、楓の心情の方が目立っていた気もしますが。秋葉"ちゃん"の可愛い姿を期待していた方は済まない。次回以降に期待してもらえれば!
結局初恋の相手は明かされませんでしたが、また機会があれば楓が盗んだラブレターの中身を公表しようかなぁと思っています。もしかしたら、いやもしかしなくても彼女の初恋相手を誰だか予想できる人が大半だと思いますが(笑)

 そして次回以降のいつになるかは分かりませんが、暴走天使楓ちゃんの復讐劇の幕が遂に上がるかもしれません……。


 ちなみに今回、秋葉さんの初恋という新しい設定が明かされたのですが、それ以外にもう1つ『新日常』が始まって以来初めての出来事が起きています。分かった人はいますかね……?


 一応次回は復讐劇……ではなく、穂乃果と雪穂回になる予定です。

 『穂乃果』+『雪穂』=『姉妹丼』

 よし、神回ですね!!(笑)


 そしてここからは宣伝です!
 私と同じハーメルンのラブライブ!小説の作家である、たーぼさんが執筆されている小説『ラブライブ! ~奇跡と軌跡の物語~』とのコラボ小説の制作が決定しました!既に相手方の小説では宣伝されているので、知っている方も多いかもしれませんね(笑)
たーぼさんの小説が先日一周年を迎えたということで、相手方の小説共々盛り上げられるように全力で頑張ります!
そしてまだ相手方の小説をまだ読んでないよという方は、コラボ小説の投稿までに是非読みに行きましょう!

 という訳なので、応援よろしくお願いします!

 投稿日についてはまだ未定なので、決まり次第最新話の後書きにて報告していきます。


新たに高評価を入れてくださった

kokitukaiさん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

穂乃果 + 雪穂 = 姉妹丼

 お待たせいたしましたと言った方がいいのでしょうか?ついに穂乃果と雪穂、高坂姉妹回がやって来ました!

 とは言っても話の主体は雪穂で話も雪穂視点なので、実質雪穂回と言った方がいいのかもしれませんが。


 それではどうぞ!


 

 いつからだっただろう、お姉ちゃんがこんなに賢くなってしまったのは。

 いや別に賢くなることが悪いことではなく、むしろ受験生のお姉ちゃんにとってはいい傾向なんだけど、明らかに今年の夏辺りから、お姉ちゃんのテストや模試の成績が飛躍的に伸びている。生まれた時からずっとお姉ちゃんを見てきた私が断言するけど、これは奇跡だよ。

 

 お姉ちゃんと言えば、家では勉強せずにダラダラして授業中も居眠り、宿題を忘れて幼馴染であることりちゃんや海未ちゃんに泣きつき、テスト勉強すらロクにしない――――と、勉学に関する欠点を挙げたらキリがない。

 

 だからこそ、そんなお姉ちゃんがここまで真面目に勉強し、テストの点数や模試の判定をメキメキ上げているなんて初めは信じられなかったんだよね。お母さんなんてお姉ちゃんの頑張りを見て泣きそうになってたし。お母さんの中でもお姉ちゃんの受験は諦めムードになってたってことだよね……。

 

 

 お姉ちゃんがここまで勉強に対してやる気を出したのも、全部あの人のおかげなのかな?

 

 

 神崎零君。

 お姉ちゃんの彼氏でありながらも、ことりちゃんや海未ちゃんなど旧μ'sメンバー全員を彼女に持つハーレム野郎。私も初めはその事実に驚愕したけど、やっぱり私は場の雰囲気に流されやすいのか、もうその状況に納得してしまっている。しかも私自身も零君に告白しちゃったし……まぁ後悔は一切してないけどね。私も零君のこと大好きだし!

 

 

 うぅ、物凄く恥ずかしいことを言ったような気がする……。

 

 

 とにかく!お姉ちゃんが勉強を進んでやるようになった理由は、彼氏である零君と同じ大学に入りたいからだと思うんだよね。でなきゃあのぐぅたらなお姉ちゃんがここまで必死に勉強するはずないし!

 

 

 そして受験生のその2人は、今お姉ちゃんの部屋で仲良く勉強中……のはず。零君とお姉ちゃんが部屋で2人きりで勉強することは今まで何度かあったけど、時々お姉ちゃんの艶かしい声が聞こえることがあるんだよね。私が隣の自室でくつろいでいると、壁の向こうからお姉ちゃんの淫らな声が……ってことがたまに。

 

 本当にちゃんと勉強しているのかと疑いたくなるけど、お姉ちゃんの成績が上がっているのを見たら文句を言いづらい。だけど、あんな声を定期的に聞かされる私の身にもなって欲しいよ!!け、決して羨ましいとか、そういうのじゃないから!!迷惑してるんだよ、うん……。

 

 

 だから今日は2人がちゃんと勉強しているのか、抜き打ちでチェックしたいと思ってる。お姉ちゃんの部屋の扉の隙間から2人の様子を覗いてみて、もし変な展開になったら割って入って止めてやるんだから!

 

 

 ということで、私は現在お姉ちゃんの部屋の前に立っている。

 イチャイチャするのは構わないんだけど、やるなら別の場所で2人だけの空間でやって欲しいよ。お姉ちゃんの気持ち良さそうな声を聞いて、私は1人寂しく自分を――――って、こんな話は今どうでもいい!!とにかくお姉ちゃんたちの様子を確認しよう……。

 

 

 私は部屋の扉をほんの僅かだけ開け、部屋の中を片目で覗き込む。

 そこにはもちろんだけど、零君とお姉ちゃんの姿があった。いつも2人が扉に背を向けるように座っているのは知っていたから、こんな暴挙に出られたんだけどね。

 

 今の2人の状況、どうやらお姉ちゃんが問題を解き、零君はそれを見守っているみたい。お姉ちゃんがこんなに勉強に集中している姿、やっぱり夢か何かと勘違いしそうになるよ。ここまで真剣だったら、わざわざ私が監視する必要なんてないのかな?流石に受験勉強も本腰を入れなきゃいけない時期だし、変なことをする暇なんてないのかも。

 

 

 しばらく観察し続けて、何もなさそうなら退散しよう。視線を感じられて集中が途切れちゃったら申し訳ないから。

 

 

「よしっ、零君!問題全部解き終わったよ!!」

「早いな。もしかして簡単だったか?」

「簡単かどうかは分からないけど、自信はあるよ♪」

「穂乃果のクセに、言うようになったな」

「むぅ~なにソレ!!全問正解したら、約束通りご褒美だからね!!」

「分かってる分かってる」

 

 

 ご褒美?ご褒美ってなんだろう……?

 お姉ちゃんのことだから、頭を撫でてもらうとか子供っぽいことだと思うけど。それ以前に小テストでも満点を取れないお姉ちゃんが、零君の作ったテストで満点を取れるはずないよ。厳しいこと言うなぁと思う人もいるかもしれないけど、もう15年以上もお姉ちゃんと一緒にいる私の見解に間違いはない。

 

 

 

 

 ――――と考えていたのは、ついさっきまでの話。

 零君はお姉ちゃんの解いた問題の解答を確認しながら赤ペンを走らせているけど、その手が止まることはない。ペンを走らせる手の動きは常に"丸"。まさか、まさかとは思うけど……!!

 

 

「……れ、零君?最後の問題はどうなの?合ってる!?」

「あ、合ってる……すごいじゃないか穂乃果!!全問正解だ!!」

「ホントに!?やったぁ♪」

 

 

 嘘でしょ……あのお姉ちゃんが満点だなんて!?まるで今いるこの世界が別の世界みたい……世界線を飛び越えちゃったとか。考えてることはSFで非現実的だけど、私にはそう思えるほどありえない事態なんだよ!!

 

 

「それじゃあ零くん、ご褒美……ちょうだい?」

「ごほう……び?」

「とぼけたって無駄だよ!このテストで満点取ったら、やってくれるって言ったじゃん!!」

「そうだ言ったよ言った。でもまさか本当に全問正解するとは……」

「ふふ~ん♪穂乃果だってやればできるんだよ!」

 

 

 勉強でお姉ちゃんが得意気な表情をするなんて、まだ10月だけど明日は大雪かもしれない……。それにやるってなにをやるんだろう?息抜きにゲームとかかな?

 

 

「でも、満点を取れたのは零君のおかげなんだよね。だからご褒美というより、穂乃果が零君に恩返ししないと♪」

「穂乃果……」

「零君は動かなくていいよ。穂乃果にぜ~んぶ任せておいて♪」

 

 

 零君とお姉ちゃんが頬を染めながら見つめ合っている……ま、まさかご褒美って!!

 お姉ちゃんは恍惚な表情で零君の顔へ近付くと、目を瞑って唇を少し開き、そのままゆっくりと零君の唇へ――――!!

 

 

「んっ……!!」

「むっ!……んんっ!!」

 

 

 えぇ!?き、ききききキスしちゃったよ!?しかもいきなりディープだし!!お姉ちゃんたち毎回こんなキスしてるの!?

 

 ど、どうしよう……これは止めるべきなのかな?でも2人は恋人同士なんだからキスくらいはするよね。何も淫らなことはしていないし、こうやって恋人の営みを覗き続けるのは気が引けるから、早くこの場から退散しよう、うん。

 

 

「ちゅっ……んっ……んんっ!」

「はぁ……ちゅ……んっ!」

 

 

 うわぁ~激し過ぎるよ2人ともぉ~!!もうキスをすることに慣れてるよね絶対……。

 息継ぎをするため唇同士が離れるたびに、粘り強い銀の糸が2人の口を結んでいるのが見える。それはまるで零君とお姉ちゃんの愛の強さを具現化しているかのよう。

 

 

「ふぅ、っ……はぁ……んっ……ちゅっ……」

「はぁん……あっ……零、くん♪……んっ、もっと……!!」

 

 

 お姉ちゃんってこんなに積極的だったんだ……。もう一年前の今頃から、家でお姉ちゃんの口から出る話題と言えば全部"零君"のこと。それくらいお姉ちゃんは零君のことが大好きで、そんな彼と結ばれたからこそこうして積極的になったのかも。

 

 それに零君も零君でお姉ちゃんから繰り出される怒涛のディープキス攻撃を、お姉ちゃんの身体を抱きかかえながら自分の唇で完全に受け止めている。やっぱりキス慣れしているのかな?そりゃあ9人も彼女がいたら、キスをする回数はお姉ちゃんより何倍も多いもんね。慣れてるのは当然か。

 

 

 そして帰るとか言ったのにも関わらず、零君とお姉ちゃんのキスシーンの覗き見をやめない私がいる。このあと2人はどうするんだろうと期待して、さっきから何故か心臓の鼓動が止まらない。

 

 もし私も零君の恋人の1人になったら、ああやってディープなキスをされちゃうのかな?

 お互いに絡みつくように抱きついて、貪るように唾液を交換し合って、そして今のお姉ちゃんみたいに服を脱いで……って――――

 

 

 え゛ぇええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?

 

 

 お姉ちゃん、自分から服脱いじゃった!?

 しかも続いて零君は、何の躊躇いもなくお姉ちゃんの下着に手を伸ばし、お姉ちゃんの上の下着をズリ下げる。これで私の目の前に、男性の前で上半身が裸となった実の姉の姿が顕現した。

 

 

 こ、これが恋人同士の営みなの……?

 でも多分これだけでは終わらないよね?だって日常生活で常に性欲に取り憑かれている零君だよ!?そしてここ最近お姉ちゃんも色っぽくなったり、色々と発言も危ないし、この2人が交わったらもしかして、もしかしてこ、こここ子作りなんかしちゃったり!?う、嘘でしょ!?め、目の前でそんなことになったら、私どうすればいいの!?

 

 

「お前のカラダ、綺麗なったな。ダイエットでもしたのか?」

「うん。零君の理想に近付けるように、最近はカラダにも気を使っているんだよ♪」

「俺のためにか、ありがとな。去年と比べれば、カラダのくびれもエロくなったもんだ」

「えへへ、零君のためにいっぱい努力したんだから♪だからね、今日はテストもダイエットも頑張ったご褒美として、たくさん穂乃果を触って?」

「もちろん、約束は守るよ」

 

 

 零君は右手でお姉ちゃんの胸を下から鷲掴みにし、親指と人差し指でお姉ちゃんの胸の先端を弄りながら優しく胸を揉み始める。そして左手はお姉ちゃんのカラダのくびれに当てて、そのまま滑らせるような手つきで太もも、そしてスカートの中へと手を侵入させた。ここから見ても分かる、お姉ちゃんのスカートの中で、零君の指が動いていることが。

 

 お姉ちゃんは零君にカラダを預けて、艶かしい表情で淫らな声を漏らし続けている。その中でたまに垣間見える笑顔が、お姉ちゃんの悦びを最大限に表していた。

 

 

 こうしてしばらくの間ずっと2人の営みを傍観していた私だけど、ここでようやく本来の目的を思い出す。

 

 

 と、止めないと!!今止めないと歯止めが効かなくなって、絶対にこの2人は子作りしちゃうよ!?私、この歳で"おばさん"って呼ばれるようになるの!?それはヤダよぉおおおおおおおおおおお!!

 

 でもでも、零君もお姉ちゃんもとっても気持ちよさそうで幸せそうだし、私が口出しする権利はないのかも……。

 

 それになんだろう、私のカラダも段々熱くなってきてる……。カラダの芯から燃え上がるような熱さ、そして下半身が妙にムズムズするのはどうして?零君とお姉ちゃんの営みを見ているだけで、何故か私まで興奮しちゃってる……!!

 

 

「あっ、穂乃果お前、濡れてきたな」

「昨日からずっとこの時を楽しみにしてたんだよ♪だから我慢なんてできないんだよぉ~」

「我慢なんてする必要ないぞ。もっとお前を見せてくれ」

「あっ♡んんっ♡」

「スカート邪魔だな。脱がしていいか?」

「うん♪」

 

 

 お姉ちゃんの息遣いの荒らさがヒドくなってきてる……そして、それは私も同じ。私も柄にもなく興奮しちゃって、気付かぬ間に自分の指をスカートの中へ入れ、パンツの上から指で弄ってしまっていた。パンツの上からでも弄るたびにカラダにビクビクと刺激が走り、今まで感じていた快楽に更なる快楽が上乗せされる。

 

 

 へ、変な気持ちになってきちゃった……ん、んっ♪き、気持ちいい……これが零君たちの言ってた、"自分でヤる"ってことなんだぁ♪こんなにも気持ちのいいものだっただなんて、もう私、今までの自分に戻って来られなくなりそう。

 

 

「はぁ!んんっ、ふぁ♡零、くぅん♡」

 

 

 お姉ちゃんの淫猥な声を聞くたびに、私も自分の指をより激しく動かしてしまう。そしてそれによって与えられる快楽に溺れ、更に興奮が高まってくる。

 

 

 熱い……心もカラダも頭も……なんだかぼぉ~っとしてきちゃった……。

 

 

 もう零君とお姉ちゃんの営みを見て、自分を慰めることにしか考えていない私は、気付かぬ間にお姉ちゃんの部屋の扉に身体を預けようとしていた。部屋を覗くために扉はほんの少しだけ開いているから、人間の身体が寄りかかったらどうなるかは明白。

 

 

 つまり――――

 

 

「うわぁ!!」

 

 

 私の身体が扉を開けてしまい、その勢いでお姉ちゃんの部屋に倒れ込んでしまった。

 

 

「ゆ、雪穂!?」

「えっ、あっ、あ、あははは……」

 

 

 や、やっちゃったぁああああああああああああああああああ!!

 快楽に身を任せていたせいで、こんなことになるとは微塵も考えてなかったよ。どうしよう……覗いていた言い訳を考えないと!!でもまだ頭がぼぉ~っとして、カラダもさっきまでの疼きが収まってないから全然脳が働いてくれない。

 

 それに間近で零君とパンツ1枚のお姉ちゃんを見て、より自分の興奮が高ぶってきている。こんなに近くで生々しい男女の抱擁が……す、すごくえっち……。

 

 

「雪穂……?」

「い、いや!勉強を頑張ってる2人のために、お茶とお菓子でもと思って……」

「お前、何も持ってないじゃん」

「あっ……」

 

 

 そうだよね、付け焼刃の言い訳なんてすぐにバレルよね……じゃ、じゃあ一体どうすれば!?零君とお姉ちゃんのえっちな光景を見て、自分で自分を慰めていたなんて知られたら……!!

 

 

「雪穂、顔赤いよどうしたの?それに息遣いも荒いし、目も垂れてる……ま、まさか!!」

「ち、ちがっ!!」

「見てたんだろ?俺はな、女の子が発情してるかそうでないかなんて、顔を見ればすぐに分かるんだよ」

「そ、それは……」

「もう一度聞くぞ。見てたんだろ?」

「…………はい」

 

 

 言っちゃった!!今まで散々零君に変態変態って言ってきたのに、恋人同士の営みを覗き見て興奮しちゃってるって、もう私も変態じゃん!!でも言い逃れできる状況じゃなかったし、確実に零君とお姉ちゃんに馬鹿にされちゃうよ……。

 

 でももういいや、事実なんだし。どれだけ2人から変態と言われても一心に受け止めよう。

 

 

「辛かっただろ?1人でするのは?」

「え……?」

「そうだ!雪穂も零君にしてもらいなよ!」

「えぇ!?」

 

 

 お姉ちゃんの突然の提案に、困惑していた頭が更に困惑して話についていけなくなる。

 私が零君に、してもらう?でもまだ恋人じゃないし……だけどお姉ちゃんのあの気持ちよさそうな顔が私の脳内に現れて、執拗に私を誘惑する。零君に触ってもらえば、私もお姉ちゃんみたいに気持ちよくなれるのかな……?

 

 

「でもいいの?お姉ちゃんたちは2人きりでやってるんでしょ……?」

「雪穂も零君の未来の彼女なんだし、全然オッケー!それに妹が苦しんでるのに、そのままそこで見てなさいだなんて言えないよ♪」

「お姉ちゃん……」

「我慢なんてしなくてもいいんだよ。雪穂も一緒に零君に可愛がってもらお?零君なら、雪穂のこと絶対満足させてくれるから♪」

「穂乃果の言うとおりだ。そのままだと辛いだろ?ほら、こっちにおいで」

「零君……」

 

 

 零君は腕を広げて甘い声で私を誘う。お姉ちゃんも優しい笑顔で私を()()()の世界へ誘おうとしてくるし……もう、我慢しなくていいよね?

 

 

 私は零君の甘い声に釣られるように、彼の身体に自分の身体をギュッと密着させる。すると零君は、私の背中に腕を回して優しく抱きしめてくれた。

 

 はぁ♪暖かいよぉ……でもただ抱きしめられているだけなのに、どうしてここまで興奮しちゃうんだろう……?さっきよりも呼吸が乱れている……。

 

 

 そして零君は私の背中に回していた腕を下げた。一瞬もう抱擁タイムが終了するのかと寂しい気持ちになったけど、それは全くの勘違い。ここからが刺激のある時間の幕開けだった。

 

 

「はぁん♪あっ……!」

「いい声だな雪穂。やっぱりさっきまで自分でシていただけのことはある」

 

 

 急に下半身に刺激が走ったかと思ったら、零君が右手で私のおしりを撫で回していた。

 ゆっくり撫で回したかと思えば、突然力を入れて鷲掴みにする緩急のある刺激に、私は卑猥な声を漏らさざるを得ない。

 

 もちろんだけど零君の愛撫がこれで終わる訳がなく、おしりに伸ばしていた手が、今度は私のスカートの中に侵入してきた。

 

 

「んんっ♪あんっ♡」

「触る前から濡れてるじゃねぇか。どれだけ1人でヤってたんだよ」

「ずっと……零君とお姉ちゃんのキスのところから、ずっとです……はぁ♡」

「初めからかよ。そんなエッチな奴にはお仕置きだな」

「ふぁ……ひゃん♡」

 

 

 ダメ……さっきから喘ぎ声しか出ない。でもそれだけ気持ちいいんだもん、仕方ないよね。カラダの疼きが全然止まらない♪

 

 お姉ちゃんたちは定期的にこんな気持ちのいいことをしてたんだ……今やっと、お姉ちゃんやことりちゃんが零君を執拗に求める理由が分かったような気がする。これはもう、ハマってしまったら抜け出せないよ。自分の手で1人でヤってる時とは比べ物にならないくらい気持ちがいい。もう零君の手じゃないと満足できなくなるカラダになっちゃうよ……いや、なっちゃったかも♪

 

 

「もう零君!穂乃果のこと忘れてな~い?」

「忘れてないって。ほら、穂乃果も来い」

「わ~い♪零くぅ~ん♪」

 

 

 私の右隣にお姉ちゃんが並び、私たち2人は零君に抱きしめられる形となる。

 そして零君は右手で私の、左手でお姉ちゃんのスカートの中に手を入れ、5本の指を巧みに使ってパンツの上から私たちを弄り倒す。

 

 

「あっ……♡はあっ♡」

「んあっ……♡ああっ♡」

 

 

 私たちは零君の身体に寄り掛かりながら、彼から与えられる快楽を全身で感じている。特に指でキュッと摘まれれると、今まで感じたのことのない最大級の快楽で勝手にカラダがよがってしまう。そのたびにカラダは更にウズウズし、次なる快楽が待ち遠しくなってくる。もう私たちは完全に零君の虜にされてしまった。

 

 

「2人共同じところで同じように感じるとは、やっぱり姉妹だなお前ら。一度快楽に溺れたら、自分の欲求に素直になって乱れに乱れるところもそっくりだ」

「でもまだ足りないよ……もっと!もっとだよ零君♪」

「分かってる。雪穂もまだいけるよな?」

「はい……♡」

 

 

 はぁ……零君なしでは生きていけないカラダになっちゃいそう。これは決して大袈裟なんかじゃなくて、もう無意識的に私のカラダが彼を求めてしまっている。早く触って欲しいと、カラダが零君を欲していてならない。だから下もこんなに濡れているんだよね♡

 

 

「その前に、次は穂乃果たちの番だよ♪」

「"たち"って、私も?」

「うん。穂乃果たちを気持ちよくしてくれたお礼に、零君にもご奉仕しないとね♪」

「ご奉仕って一体何を……」

「雪穂は初めてだよね、零君の"ココ"にご奉仕するのは……」

「そ、そこ!?」

 

 

 お姉ちゃんが優しく撫で回しているのは、まさしく零君の大切なところ。まだズボンの上からとはいえ、既に零君はお姉ちゃんに愛撫されて表情が緩みに緩みきっている。さっきはずっと私たちが気持ちよくなってたけど、零君も相当溜まってたんだ……。

 

 

「穂乃果!あまり撫でられると……!!」

「あっ、ゴメンつい張り切っちゃって♪それでどう?雪穂もやるでしょ?」

「でも私は初めてだし、零君を気持ちよくさせられるか分からないよ」

「そこは大丈夫だ。お前ら姉妹が揃ってしゃぶってくれるその光景を見られるだけでも、俺は十分だから」

「そうですか……だったらやってみようかな?興味がないことはないし。それに私も、零君を気持ちよくしてあげたいんです♪」

「初めはお姉ちゃんが教えてあげるから、零君にい~ぱいご奉仕しよ♪雪穂の感謝の気持ちを全部込めてね♪」

「なんか激しくなりそうだな……お手柔らかにお願いするよ」

 

 

 お姉ちゃんのやった通りに私も零君の下半身に顔を近付けてみると、不思議で独特な匂いが私の鼻を刺激した。あまりいい匂いとは言い難いけどなんだろう……とっても興奮してきちゃった♪大好きな零君のだから……かな?

 

 

 

 

 そして私たちは零君のズボンに手を掛けて、それから――――――

 

 

 

 今日で私は、えっちに対する悦びを知ってしまいました。流石にお姉ちゃんやことりちゃんまでとは行かないけど、零君にヤってもらうことに興奮を覚えちゃったり……やっぱ私はお姉ちゃんの妹みたいだね。でも気持ちいいんだから仕方ない、これも零君へ向けた愛なんだよ!

 

 

 そしてもう、以前の私には戻れそうにもありません……♪

 




 こうして零君の理想のハーレム計画が着々と進行していく……


 ということで、今回は穂乃果と雪穂の姉妹丼回でした!
 そうは言ったものの、今回は主に雪穂の性の目覚めに重点を置いたもので、姉妹丼はついでみたいになっちゃいましたね(笑)
次回以降また書くときは、もっと乱れさせますので!!

 そしてこれで残る姉妹は絢瀬姉妹だけに……えっ、神崎姉妹?


 次回のタイトル(仮)は『零とことり』です。
 2人の"純粋"な日常生活を描こうと思います。あくまで純粋に!


 そしてここからは宣伝です!
 私と同じハーメルンのラブライブ!小説の作家である、たーぼさんが執筆されている小説『ラブライブ! ~奇跡と軌跡の物語~』とのコラボ小説の制作が決定しました!
たーぼさんの小説が先日一周年を迎えたということで、相手方の小説共々盛り上げられるように全力で頑張ります!
そしてまだ相手方の小説をまだ読んでないよという方は、コラボ小説の投稿までに是非読みに行きましょう!感想等があれば向こうの小説にも応援の言葉を掛けてくださると、恐らく向こうは泣いて喜ぶと思いますよ(笑)


新たに高評価をくださった

赤坂サカスさん、エコ猿さん、ふぁんしーさん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

零とことりの、至って普通な日常

 今回は日常回です!
 ことりちゃんが出てくるからってことりちゃん回が毎回危険な回とは限りません。至って普通です。なんと言われようが普通です。もうこれが普通なのです。


 これは俺とことりの、至って普通な日常の話である。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 南ことり。

 俺と同じ高校三年生であり、現在9人いる俺の彼女の内の1人だ。

 μ'sのメンバー内では、ライブの衣装の構想や制作を一手に引き受けており、アルバイトでメイド喫茶でメイドさんを勤めている(現在は受験のため欠勤中)など、常時暇人の俺からしてみれば多忙の毎日を送っている。

 

 そんな多忙な彼女でも、周りに心配を掛けないようにするためか、弱音や疲れた表情は一切表に出さない。むしろ俺たちの前では常に笑顔であることから、世間ではμ'sの天使と言われるまでになっている。

 

 そう、天使。彼女の笑顔は見る者全員を癒し、心に潜む蟠りを浄化してくれる。それにチャームポイントは天使の笑顔だけではなく、怒った顔、落ち込んだ顔、得意気な顔――――そのすべてが可愛く、見る者を自分の虜にする。それゆえ男性女性関わらず、彼女の魅力に惹かれていくのだろう。特に目に涙を溜めて口に出す『おねがぁい♪』に、俺は何度血を吐かされたか……。

 

 

 

 

 ――――と、そんな時期が俺にもあった。

 

 

 じゃあ今はどうなんだって?今はと言うと――――

 

 

 

 

「なぁことり、どうしてついて来るんだ?」

「へ?だってことりと零くんは恋人同士でしょ?一緒にいるのは当たり前だよ♪」

「あのぉ~……俺が今からどこへ行くのか知ってる?」

「うん!トイレでしょ?」

「…………」

 

 

 その輝かしいくも眩しい笑顔は一年前と何ら変わりはない。だが、どこかその笑顔に黒さが混じっているのは何故だろう……。人のトイレ、しかも男のトイレにお供するなんてどういう思考してんだコイツは……。

 

 

「わざわざ教室の外に出なくっても、トイレならここにあるのに」

「はぁ?どこに?」

「だからぁ~ことりだよ♪」

「え……」

「だってことり自身が零くんの専属トイレなんだもん♪あっ、でも流石に廊下じゃ恥ずかしいよね?だったら早く校舎裏に行こ?ことりのおクチでも下の穴でも、どこに出してもいいからね♪零くんがご希望とあらば、そのままことりの全身に掛けてくれちゃっても……いいよ♪」

「ちょっと口をチャックしようかことりさんや!!」

 

 

 このように、今となっては"天使?"状態なのだ。笑顔の可愛いさは天使時代と変わってないんだけど、俺と一緒にいる時は大体口を開けばどこかで卑猥なネタをブチ込みやがる。もはや"堕天使"となったその姿に、かつての"天使"の面影はない。

 

 

「でもでも、実は零くんも期待してるんでしょ?」

「うっ、ま、まぁそうだけど、休み時間は10分しかないんだ。俺はそんなに早く出せねぇよ。早漏じゃあるまいし」

「確かに最近よく零くん粘るよね。ことりもしゃぶりがいがあって嬉しいよ♪」

「…………」

 

 

 学院内なのに"隠語"ならぬ"淫語"を連発するこの羞恥心のなさ、怖い。今にも人前で俺のカラダを求めてきそうな勢いだから、なおさらコイツとの2人きりは怖いのだ。流石の俺でも学院内でヤれるほど肝が据わってはいない。笹原先生の耳にでも噂が入ってみろ、今の会話だけでも十分殺されるのに、もしその時になったら塵一つ残らない身体にされてしまうだろう。

 

 

「どうしてそうなっちゃったんだろうな、お前は」

「えっ?ことりをこんな風にしちゃったのは零くんでしょ?」

「マジな回答ありがとう。確かにエッチな女の子は大好きだけど、まさかここまでとは……」

「零くんが求めるなら、もっともっとエッチな子になるよ♪」

「今よりも更に!?」

 

 

 ことりの奴、まだ進化を残しているのか……これ以上淫乱っ娘になったら、マジ物の歩く猥褻物になっちまうぞ。だがこうなってしまったのは俺の調教のせいだから、ことりを責めることもできないっていうね……。コイツを教訓に、雪穂や亜里沙はじっくりと丁寧に仕立て上げていこう。

 

 

「もう一年前のことりはことりじゃないんだよ!今のことりこそが真のことり!ことりは初めから零くんに仕えることを運命付けられていたんだよ!!でなきゃあんなにカラダの相性がいいわけないしね♪」

「どちらかといえば、俺のカラダに合うように無理矢理調教してやった、と言った方が近いと思うが」

「あぁん♡もう零くんったら廊下でそんなこと……恥ずかしいよぉ♡」

「恥ずかしいって気持ちあったのかよ……」

 

 

 さっきより顔が少し赤くなってやがる……もしかして、ちょっと発情してる?最近は淫語を交えて言葉責めにするだけでも濡れるような体質になったから、普段の日常生活でもパンツの替えを持ってきているらしい。

 

 しかもパンツを変えたら、いちいち俺に自分の履いているパンツがどんなパンツか見せに来るんだぞ……まぁ、それはそれで興奮しちまうけど。自分からスカートをたくし上げてくれる美少女、まさに俺の好きなシチュエーションの1つだ。やべ、想像したら俺もことりみたいになってしまう。抑えろ抑えろ……。

 

 

「ことりをこんなにエッチにしちゃった責任は、ちゃんと取ってもらうからね♪」

「こ、ことり!?」

「えへへ♪」

 

 

 ことりは俺の右腕に絡みついて、自分の顔を俺の肩に預けてくる。

 どうしてこんなどうしようもない淫乱っ娘なのに、お花畑のようなふんわりとした匂いがするのだろうか。こうして普通に寄り添っている分には、彼女も普通の女の子なんだよな。黙っていれば美少女、口を開けば脳内ラブホの淫乱っ娘。俺が自ら調教したとはいえ、このギャップは凄まじい。

 

 そして時たま見せる上目遣いから笑顔のコンボで、俺の心をくすぐることも忘れない。ことりのそんな表情を見るたびに、彼女の日頃の淫行も許したくなる。やっぱ俺って、可愛い子には甘いよな……。

 

 

「さっきから物凄くおっぱいが当たっているんだけども」

「当ててるんだよぉ~♪」

「知ってた。でもあまり俺を刺激すると、今ここで襲ってしまうかもしれないぞ」

「ことりは零くんに襲ってもらえるなら、いつでもどこでもオッケーだよ♪零くんの好きなタイミングでいいからね!」

 

 

 あぁ、やっぱり自分に従順な女の子っていいわぁ~!女の子を自分の思い通りにできるという支配欲が、心の底から吹き出すように湧き上がってくる。

 しかもそのお相手が、今や全国で活躍するほどの知名度を持つ"μ's"のメンバー、南ことりだ。もちろんスクールアイドルとしての彼女のファンは多く、巷ではメイドのミナリンスキーとしても有名だから、彼女を天使や女神と崇める男は相当な数だろう。

 

 

 そんな彼女を!!天使や女神と崇められる彼女を!!俺はこうして懐柔して、自分だけのモノに仕立て上げている。俺が黙っていても彼女は俺の側に来て、カラダを求め、そしてご奉仕してくれる――――俺たちはもうそんな関係になっているのだ。

 

 ファンの人たちには決して見せない彼女の顔を、俺だけがたくさん知っているんだ。特にことりの艶っぽい表情ときたら……もうドス黒い支配欲が止まりそうもない。

 

 想像してみろ!もしことりが自分の彼女だとして、彼女がファンに笑顔を見せている裏で自分のことを想って下着を濡らしている、その光景を!!ファンへのサービスが終わったあとに、ファンには見せないような色っぽい表情でカラダを求めてるくる彼女の姿を!!これを興奮せずにどこで興奮するんだよ!!

 

 

 

 

 おっと危ない危ない!もう少しで規制のラインを踏み越えてしまいそうだった。話を元に戻さないと……って、どこまで戻せばいいんだっけ?

 

 

「そうだよ、俺はトイレに行きたかったんだ。話が脱線に脱線を重ねて別次元に飛んでしまってたな……」

「そう言えば忘れてたね、ことりが零くんのトイレになってあげるって話」

「え!?そんな話だっけ!?」

「ことりはいつでも待ってるんだからね♪おクチでも下のおクチでも、どっちでもウェルカムだから♪」

 

 

 可愛い笑顔で誘惑しやがってこのやろぉ……もうこの場でブチ犯○てやりたいくらいだが、それはもう少し大人になってから。流石に最低限、本当に最低限の常識だけは弁えているから。

 

 

「零くん零くん!トイレに行くついでにスッキリもしてみない?色んな意味で♪」

「お前なぁ……さっきも言っただろ、俺は10分の休み時間で出すほど早漏じゃねぇってな」

「えぇ~でも零くんのココは元気みたいだね♪」

「それはお前がさっきからずっとおっぱいを押し付けてるからだ。柔らかすぎて、今にもお前のおっぱいに飛びつきそう」

「いつもみたいに欲望に忠実になっていいんだよ♪」

「ただでさえこの光景を周りに見られてるのに、そんなことはできねぇよ。ここは我慢だ……」

 

 

 もはや周りの生徒からも俺とことりのコンビを見たら『あぁいつものことか』で片付けられるほどに、学院中が謎の納得で染まりつつある。それは穂乃果や海未と一緒にいる時でも一緒だ。特に同じクラスの連中は、俺たちの馬鹿騒ぎを微笑ましい表情で見てるからな……。

 

 だがあまり目立ちすぎると、笹原先生の鉄拳制裁で地獄を見ることになるのは明らか。だからなるべく騒ぐのは抑えようとはしてるんだぞ。なるべくだけど。

 

 

「うぅ~、ことりもウズウズしてきちゃったよ♪」

「どうせ尿的な意味じゃなくてアッチの意味でだろ」

「うん!零くんに見てもらいながらスれば、気持ちよくイけるんだけどなぁ~」

「一応念の為に聞くけど、お前あと5分ちょっとの時間でイけんの?」

「零くんに視姦されながらだったら一瞬だよ♪」

「それはそれでどうなんだ……」

 

 

 言葉責めだけでパンツを濡らすくらいだもんな。週に何回ヤってるのかは知らないけど、少なくとも1日に1回はヤっている彼女のことだ、既にデキ上がっているのなら5分でフィニッシュすることは造作もないだろう。

 

 ていうかさ、男は早いと馬鹿にされるのに、女の子は早くても馬鹿にされないのっておかしくない?

 

 

「でも零くん好きでしょ?女の子のお漏らし」

「ちょっと待て!!勝手に人に変な趣味を押し付けるな!!」

「だってにこちゃんから聞いたよ。みんなと同棲生活している時、零くんにお漏らし我慢プレイをさせられたって」

「懐かしいなぁオイ。あれは俺の復讐なのであって、にこはお前みたいに見せびらかそうとはしてなかったからな」

 

 

 あの時はいつも変態なアイツらに振り回されていた復讐として、にこをあんな痴態に陥れたんだ。一ヶ月ほど前に真姫ともそのような変態プレイ(しかも真姫自身から)をしたのだが、まぁアレだ……ゾクゾクするね。だからといって趣味と言われるほど俺はド変態ではないぞ!

 

 

「折角零くんに命令されて剃ってるのになぁ、下のおクチの――――」

「それ以上は廊下で言っちゃダメだ!!」

「えぇ~!だって零くんが命令したんでしょ?しかもことりたち全員に『俺に見られてもいいように、下の毛はいつも剃っておけ!』って♪」

「やめろォオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ことりその時思ったんだよ。いくらことりたちが零くんの彼女でも、女の子の前で堂々とそんなことを言えるなんて、零くんは度し難い変態なんだってね♪」

「謝る!!今までの愚行を全て懺悔するから、頼むから廊下で言いふらすのだけは勘弁してくれぇええええええええええ!!」

 

 

 もうどんな恥ずかしいことでも人前で堂々と言ってしまうになったことりは、同時に俺の変態発言も軽々と口に出してしまうようになった。さっきみたいに過去の俺の命令は一字一句覚えているようで、今のように人前であっても平気で言いふらす。毎回毎回周りの目が痛いんだよぉ~……。

 

 

「他人の口から言われたら相当恥ずかしいな、変態発言って……」

「そーお?ことりは別に構わないんだけど。むしろ零くんから言葉責めしてくれるなら大歓迎だよ♪」

「お前の言葉をリピートするとか、なにそれ罰ゲーム?」

「穂乃果ちゃんやにこちゃんなら乗ってくれるのに」

「それはアイツらが特殊なだけだ。他の一般人と一緒にすんな」

 

 

 μ'sのメンバーで変態といえばことりや楓に目が行きがちだけど、穂乃果やにこも相当ヤバイ。だって旧講堂で俺の私物を賭けてオークションをしていたり、お互いのフ○ラのやり方を披露し合っているんだぞ。これを変態ちゃんと呼ばずに何と呼ぶ。

 

 ちなみにだけど、俺の私物が返ってくる気配は未だに全然ない。

 

 

「あぁ、もうちょっとでトイレについちゃう!零くんと離れ離れになっちゃうんだね……」

「男のトイレなんてたかが数十秒なんだから、文句言うなよ」

「たかが数十秒でも零くんとギュってしていたいの!!」

 

 

 や、柔らかっ!!

 ことりが腕に絡みつく力が更に強くなる。そうなればもちろん彼女のおっぱいも更に俺の腕に押し付けられる訳で……。手で触ってもいないのに、彼女のおっぱいの形状がふにふにと変化するのが伝わってくる。

 

 ことりのおっぱいはどこまで成長するのか。もうこの時点で俺の理想のおっぱいには到達しているのに、そこから更に進化するとか、俺をどこまで満足させれば気が済むんだ!!

 

 しかしそれにしても、このおっぱいが俺だけのモノだと考えると、またドス黒い支配欲が湧き出てきそうになるな。

 

 

 

 

 ――――――ん?なんか急に歩きづらくなったぞ。一体何が……。

 

 

 自分の脚に違和感を感じて足元を見てみると、ことりが自分の脚を俺の脚と脚の間に絡ませていた。

 コイツ、急に何やってんだ!?

 

 

「お、おいことり……歩きにくいんだけど」

「ことりね、もっと零くんにくっつきたいんだよぉ~♡」

「だからって、太ももまで擦り付けられたら歩きにくいどころか歩けねぇって!」

「零くん女の子の太ももも大好きだもんね♪」

「ちょっ!スカート捲るなって!!見たいのは見たいけどここではマズイ!!」

 

 

 俺の脚にことりの弾力性のある太ももが押し付けられて、またしても俺の性欲をくすぐりやがる。しかも自らスカートをたくし上げて、パンツと太ももの境界線が見えそうで見えない状態に!!

 

 コイツ、男の焦らし方を心得てやがる!!意地でも自分からではなく、俺に襲ってもらいたいらしい。

 だがさっきから何度も言っているように、ここは学院の廊下、シてしまったら一瞬で独房行き決定だ。

 

 

 しかし、俺の腕にはおっぱい、脚には太ももという、女の子の柔らかいカラダの部位ベスト5に食い込むであろう部分をこれでもかと言うくらいに押し付けられ、俺も平静を保っていられるかと言われたら決してそうではない。このまま彼女を押し倒して、この天使を装っている明るい笑顔を淫乱な表情に変えたいという欲望が俺の脳も心も支配する。

 

 

「いつもみたいに乱暴に触ってくれてもいいんだよ♪」

「で、でもやっぱりここでは……」

「だったらこっちから行っちゃうよ?ほらほらぁ~♪」

 

 

 ことりの奴、俺を堕としに掛かってやがるな。おっぱいと太ももをこれでもかというくらい俺の身体に密着させ、傍から見ればもはや熱い抱擁を交わしているようにしか見えない。それだけでも十分に俺の興奮を煽ってくるのに、加えて彼女特有のおっとりボイスが俺の耳をくすぐって、更なる誘惑を重ねてくる。

 

 

「ことりのカラダはご主人様のモノなんですよ?だからご主人様の満足のいくまで、ことりを使ってくださいね♪」

「うっ、ぐっ……」

 

 

 ことりが本格的にメイドさんモードになりやがった!ことりに"ご主人様"って言われると、今にもこの手で彼女を穢したくなる。あの柔らかい唇を自分の口で封じ、俺の理想となったおっぱいを先端と共に攻め、今も絶対に濡れているであろう下の口を、指で思いっきり弄り回してやりてぇ!!

 

 彼女の乱れに乱れた艶っぽい表情と淫猥な喘ぎ声が脳内再生され、俺の欲求は最高潮に達しようとしていた。淫乱な女の子が自ら俺に擦り寄ってくれるこのシチュエーションは、まさに俺が思い描いていた将来目指すべきビジョンの1つ。それが今目の前で起きているんだ、興奮しないわけがない。

 

 

 しかし何度も何度も言うように、ここは学院内。しかも休み時間は残りわずか。こんな短時間でシろというのが間違いだ。

 

 

 だが、こんなにムラムラした状態で次の授業をまともに受けることができるだろうか?いや、できない。

 

 

 だったらどうするのか。

 やることはただ1つ――――――

 

 

「こっちだことり」

「ふぇ!?零くん!?」

 

 

 我慢は身体に毒。廊下なのにも関わらずそう悟った俺の理性は、あっさりと崩壊してしまった。

 俺はことりを自分の身体から引き剥がし、彼女の手首を掴んで一緒に男子トイレへと連れ込む。そして個室のトイレの便器にことりを座らせ、俺はそのまま彼女のカラダに覆い被さるような体勢を取った。

 

 

「れ、零くん……」

「手っ取り早く終わらせるぞ。お前を好きに使っていいんだったよな?だったら俺の好きにさせてもらう」

「やっとその気になってくれたんだね♡」

「ご主人様を誘惑するなんて悪いメイドさんだ。これはご主人様が直々にお仕置きしてやらなければな……」

「はぅ♡よろしくお願いします♪」

 

 

 結局、ことりの誘惑には勝てなかったよ。そして自分の性欲にも……。

 

 

 

 

 そう、これが俺とことりの至って ()()な日常なのである。

 これが()()?と思う人もいるかもしれないが、実際にこのような生活を送っているのだから仕方がない。お互いの性欲をお互いが解消し合う、そんな生活を……。

 

 これからも俺たちは、お互いの愛にどっぷりと浸かっていくのだろう。

 それはことりだけではなく、他の彼女たちともこのような生活を送ることのできる日々は……案外近いのかもしれない。もしそうなったら俺の身体が持たないか。嬉しい悲鳴だ。

 

 

 

 

――――――ちなみに事後

 

 

「あっ、結局トイレすんの忘れた!」

「もうトイレに戻る時間もないし、やっぱりことりのおクチに出すしかないね♪」

「流石にその趣味はねぇよ……」

 

 

 そして改めて分かった。ことりは超が付くほどのド変態だということを……。

 




 いやぁ~至って普通でしたねぇ~(錯乱)

 そんな訳で今回は久々に日常回を描いてみたのですが、どう足掻いても話題がアッチ方面にしか伸びないこの2人に、何故か作者である私自身も困惑しています(笑)
ことりちゃんは本当にいつからこんなキャラになってしまったのだろうか……

 でも淫乱な女の子キャラは私自身物凄く大好きで、μ'sのメンバーで誰をそのキャラに当てはめるのかと聞かれたら、間違いなくほとんどの人はことりちゃんを選ぶんじゃないですかね?もしかしたらこの小説の影響で、『ことりちゃん=淫乱キャラ』の式が根付いてしまったのかもしれませんが(笑)

 よく感想でもお声を頂くのですが、アニメの再放送を見返していると、アニメのことりちゃんがガチの天使に見える現象があるみたいです。そういう人は確実にこの小説に毒されてますね(笑)
いい傾向です!!


 次回は今までとは結構趣向を変えた話をやってみようかと思っています。まさにこの小説の自由さならではの話になる予定です。


 たーぼさんの小説『ラブライブ! ~奇跡と軌跡の物語~』とのコラボ小説の件なのですが、投稿日が2月7日(日)に決定しました!
ネタに関してはお互いに投稿されるまで全くの内緒なので、読者の皆様も投稿されるまでのお楽しみということで!


新たに高評価を入れてくださった

アダチさん

ありがとうございました!


また、前回の投稿分で『新日常』のお気に入り数が1000件を超え、感想数が1100件を超えました。こちらもありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

メタ発言だらけの日常

 今回は恐らく後にも先にもないであろう、一風変わった回となります。
 サブタイトル通りメタ発言が横行していますので、逆に今までの話とのギャップを楽しんでいただければ嬉しいです!


「納得いかへん!!」

「どうした希、急に叫びだして……」

 

 

 今回の『新日常』の舞台は部室らしい。『新日常』の連載が始まってから、部室が舞台になっている話って尽くまともな話がないよな。"ことりの淫語講座"シリーズ然り、"おやこどんぶり"や"しゃせーたいかい"などの言葉遊び回然り……もはやタイトルだけでも規制されそうだ。

 

 そんな様々な黒歴史を生み出しつつあるこの部室で、希は何故か知らないけど大声を上げて嘆いていた。あの希がネガティブになること自体が珍しいので、彼女にとってよほどのことが起こったと伺える。

 

 

「零君!!ウチは納得いかん!!」

「俺かよ!?もしかして俺、また知らない間に何かしちまったのか!?」

「いや、零君は関係ないんやけど……まぁとりあえず、このデータを見てくれる?」

「ん、どれどれ」

 

 

零:127

穂乃果:73

ことり:70

海未:69

花陽:57

凛:56

真姫:61

絵里:59

希:53

にこ:58

雪穂:56

亜里沙:56

楓:53

 

 

「これって『新日常』のレギュラーメンバーだよな?でもなんだ、名前の横に書いてあるこの数字は?」

「その数字は、これまでの『新日常』全128話の中で、そのキャラクターが何回登場したかカウントしたものなんよ」

「なるほどな。俺はこの前の『秋葉の初恋』の回で登場していなかったから、一回分少ない127回なのか」

 

 

 こうサラッと言っているが、前作の『日常』では俺の出演していなかった回が何回かあったため、それを考慮するとついこの前まで全話出演できていたこと自体が奇跡に近い。まあ俺はこの作品の主人公だし、不思議ではないのかも。

 

 でもこうして見ると、穂乃果たち3年生組の出番が他のメンバーに比べて多いな。俺と同じ学年だからってのもあるだろうけど、これは作者の好みも入っているんだろうな……。全員を均等に出演させるのは難しいだろうから、出演回数が多い者もいれば少ない者もいる。

 

 

 ――――ん?出演回数が少ない……?

 

 

 ――――あっ!!

 

 

「その顔、零君も察したみたいやね……」

「待て待て!!何も悪気があってお前の出演回数が最低になった訳じゃないだろ!!」

「そうやって口に出して言われると余計に腹が立つんやぁあああああああああああああああああ!!」

「落ち着け!!俺は悪くない!!」

 

 

 さっきの表を見てみると、確かに希の出演回数がレギュラーメンバーの中では一番少ない。割と懐の大きい奴だと思ってたけど、内心は気にしてたんだな。つうかいつもより彼女のキャラが激しいのは、この話が特別異端だからなのか……?

 

 

「でも1人だけ少ないってことはないじゃないか。ほら、楓も同じ出演回数だし」

「楓ちゃんは『新日常』からの新レギュラーやん!!ウチは前作の『日常』と『非日常』からずっとレギュラーを張ってるんやで?」

「『張ってるんやで?』と言われてもなぁ……」

「新レギュラーである雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんに出演回数が負け、しかも最下位タイだなんて……」

「そりゃあ雪穂や亜里沙は"告白イベント"っていう大切な話の主軸なんだ。俺に恋をしているアイツらがピックアップされるのは当然だろ」

 

 

 それは楓にも言えることだけど、流石に実妹キャラでR‐17.9のシーンというものは作者も書きづらいようだ。だから楓は雪穂や亜里沙より出演回数が少し少ない訳だな。それを考慮しても、希と楓の出演回数が一緒の点に関しては擁護できないから黙っておこう……。

 

 

「それにや」

「まだあるのかよ……」

「ウチと同級生の絵里ちとにこっちの方が出演回数が多いっていうのも、ちょっと気になるんよ。大学生になって高校生の零君たちとは絡ませづらいのは分かるんやけど、一体何故同じ大学生の絵里ちとにこっちに差を付けられるんやろ……?」

「ほ、ほら!絵里は亜里沙とセットで出演もできるし、にこは変態爆発キャラだから出演させやすいんだよ」

「もしかして、ウチって無個性!?」

「いや、お前が無個性だったら、この世の女の子のほとんどが無個性に属することになるぞ……」

 

 

 巨乳巫女、タロットカードでの胡散臭い占いにエセ関西弁……どう考えても個性の塊じゃねぇか。それに個性の強さなら、俺やμ'sはそこら辺にいる奴らの誰にも負けてないと思うのは気のせいか。特に最近のμ'sは徐々に変態度が増し増しになっているからなおさらだ。

 

 

「このまま雪穂ちゃんたちが零君の彼女になったら全員で12人、更にウチの出番が減るんやね。分かってる、分かってるよ……」

「そう僻むなよ。データがある以上、出演回数に関しては擁護できねぇけど」

「グスッ」

「口で言っても、涙流してないのバレバレだからな」

「ウチの心は涙の大洪水で悲しみの底に沈んでるけどね!!」

 

 

 穂乃果たち3年生組は突出して出演回数が多いけど、それ以外の奴らに関してはほぼ同じくらいだと思うけどなぁ。この考え自体もほぼ毎回出演している俺の驕りなのかもしれないが。

 

 

「でもよく考えてみろ。『新日常』の全128話中、希の出演回数が53回。計算すれば2、3話に1回は出てるってことじゃん。そう思うと出演回数も多く感じねぇか?レギュラーキャラが13人もいるのに、2、3話いに一度のペースの出演を続けているんだぞ?」

「確かに……そう考えるとあまり気にならなくなるかも。急にやる気出てきた!」

「なんのやる気かは知らないけど、それはよかった。やっぱりお前にはその優しい笑顔が似合ってるって。だからクヨクヨすんな」

「零君……」

 

 

 ぐっ!!希の目元に少し涙目が溜まって、意図知れず涙目+上目遣いのコンボを仕掛けられてしまった。今までコイツのテンションはかなりギャグテイストだったように思えたのだが、やはり本心は少しばかり悲しみが混じっていたのか……。でも安心しきったこの笑顔、どうやら怒りを抑えることができたようだな。

 

 

 

 

 よぉ~し!それじゃあこんなメタい発言ばっかの話はここで終わるか!!

 

 

 

 

「甘いにゃ!!希ちゃんは甘すぎるよ!!」

「り、凛!?」

「凛ちゃん!?」

 

 

 凛の奴、いつどのタイミングで部室に入ってきたんだ!?この話が始まった時には俺と希しかいなかったはずなのに……くノ一になれそうな忍びの良さだな。

 

 

「凛ちゃん、いつから部室におったん?」

「そんなの今この話には関係ない!!この回は凛たちが『新日常』に対して、日頃募らせている怒りをぶつける回でしょ!?」

「え、そんな回だったっけ!?唐突に始まって思いつきで話が進んでるから何とも言えないけどさぁ……」

「凛の怒りは相当だよ!!希ちゃんの怒りも分かるけど、それは穂乃果ちゃんのお店のほむまん以上に甘いよ!!」

「ほむまんってそんなに甘かったっけか」

「ウチはそこまでやと思うんやけど」

「そこ!!揚げ足を取らない!!」

「いや甘さなんて個人の主観だし、取ってはないぞ……」

 

 

 凛のテンションが、この話が始まってすぐの希のように高い。もしかしたら今までのどの回の凛よりも高いかもしれない。元々コイツは毎回これくらい平気で暴走するけども、それでも凛がここまで怒りを顕にするのは希と同じく非常に珍しい。だが彼女の場合は怒った表情が微笑ましいほどに可愛く、本気で怒っているのかどうかすらも怪しくなるくらいだ。

 

 でも生半可な慰めだと余計な怒りを買ってしまうだけなので、一応話は聞いておくか。

 

 

「それで?凛は何に怒ってるんだ?」

「まずはこのデータを見て欲しいにゃ!」

「またデータかよ……」

 

 

穂乃果:16

ことり:18

海未:14

花陽:11

凛:8

真姫:11

絵里:12

希:11

にこ:9

雪穂:10

亜里沙:13

楓:11

 

 

「えぇと、これは一体なんのデータなん?」

「これは『新日常』でμ'sのメンバーがメインを張った回数だにゃ!基本的に話の主軸として出演している場合をカウントして、零くんがメインだったりμ's全員が登場していたりする回はカウントしてないよ」

 

 

 これまた細かいデータを集計したもんだ……暇なのかよ。

 そしてこのデータを見て、一凛の言いたいことが一瞬で分かった。なるほど、コイツも希と同じような文句が言いたい訳ね。

 

 

「凛が……凛がメインを張った回数が一番少ないってどういうこと!?」

「やはりか。そりゃあ回数をカウントすれば、誰かが最下位になるのはしょうがねぇだろ」

「でも凛もみんなと同じ零くんの彼女なんだよ!?なのにこの扱いはヒドくない!?」

「確かに希の時みたいに、まだ彼女になってないシスターズにも負けてるな。でもさっきも言ったけど、シスターズは同棲生活中のお悩み相談回や、ついこの前の告白回もあるからメインが多くなるのは当然だと思うぞ」

「それでも納得がいかないにゃ!!せめて最下位タイくらいなら、懐が広くて深い凛は許したよ?」

「本当かよ……」

 

 

 今の凛は明らかに怒りの満ちた顔で、許そうと思っていたとは到底見えないんだが……。

 だがここで考えてみると、そこまで凛の出番が薄かった印象は俺にはない。流石にド変態ちゃんである穂乃果やことりまでとはいかないけど、凛もかなり目立っている印象があるけどなぁ。

 

 

「凛が登場する回は、凛自身がサブで登場することも結構あるんだよ。だから希ちゃんが持ってきたデータだと凛の出演回数は多く見えるけど、こうしてメインを張った回数を数えてみるとそうでもないんだにゃ!!」

「確かにこの前ウチがメインだった温泉回でも、凛ちゃんはサブやったなぁ」

「希ちゃんはいいよね……」

「え、どうして?」

「だって希ちゃんは出演回数が少ないといっても、メイン回でのインパクトが凄く大きいんだもん!」

「そ、そう?」

「巫女さんの姿で零くんとエッチしたり、同棲生活中も1人で寝ている零くんを襲ったり、お風呂でスポンジになっちゃった零くんを使って絵里ちゃんとカラダを洗いっこしたり、温泉で零くんにおしりをモミモミされたり――――」

「待って凛ちゃん!!恥ずかしい!!恥ずかしいからこれ以上言わんといてぇえええええええええ!!」

 

 

 これまた凛が希を屈服させるという珍しい光景だ。今日は珍しい光景が多いなぁと、少しほのぼのしてみたり。希はそんな状況ではないだろうけど……。

 

 それにしても、希がメインの回って言われてみると本当に色々とヤっちゃてるんだな。そりゃああの手に余るおっぱいともっちりしたおしりを持っていれば、自ずとそうなっちまうか。彼女のメイン回でおっぱいとおしり以外が逆に取り入れられたことがないのが、その事実を証明している。しょうがねぇじゃん、エロいものはエロイんだから。

 

 

「しかしこうして見ると、にこも案外メインを張った回数が少ないんだな」

「零くんも知ってるでしょ、『新日常』におけるにこちゃんのキャラを……」

「あぁ、納得。メインで出演していても、サブでしか出演していなくても、アイツのキャラは濃すぎるほどに濃いから凄く目立ってるもんな」

「それに比べて凛は、前作の『日常』時代とキャラがほぼ変わってないんだよねぇ~……『新日常』だけでも128話あったのに全くだよ」

「なに?お前まさか変態になりたいの?」

「それで凛の出番が増えるのなら……」

 

 

 オイオイ、それは完全に堕ちる寸前の女のセリフだぞ。よく同人誌とかでもあるじゃん、アイドル活動が不調になって、やけにガタイのいい男社長に自らのカラダを売ってプロデュースされるっていう展開が。そういうのって結局その社長のペットになっちまうんだよな――――って、なんて話してんだ俺……。

 

 

「凛」

「なに……?」

「そうむくれるな。確かにメインを張る回数は少ないかもしれない。だけど俺はお前の元気で可愛い笑顔を見られて満足なんだぞ。それにメインを張っていない回でも、お前の自慢の元気で俺たちの話を盛り上げてくれてた。その事実だけは変わらない」

「零くん……」

「だからさ、そんなにカリカリすんな!凛もみんなもメインサブ関係なく、出演したら輝いてるよ!!」

「ホントに?凛、輝いてる?」

「あぁ!また元気で可愛く輝いている凛の姿を、俺に見せてくれ!」

「可愛いって、もう零くんったら恥ずかしいにゃ~♪」

 

 

 頬を染めて猫のように俺の胸に抱きついてくる、この愛くるしい少女はまさに愛おしい!!

 見たか脳内ラブホテルさん、これが"天使"というものだぞ。最近では感想などでも『アニメのことりちゃんが天使に見えます』と、この小説のことりとは別人と思われている始末だからな。

 

 

「ふ~ん、凛ちゃんには抱きついてウチには抱きつかへんのやぁ~」

「いやいや、凛から抱きついて来たんだけど……つうかいちいち拗ねるなよ」

「じゃ、じゃあウチから抱きついても……いいの?」

「いいよ別に。俺たち恋人同士なんだし、それくらいは普通だろ?」

「そ、そうやね、普通やね。じゃあ遠慮なく――――」

 

 

 穂乃果やことりたちと同様に、希もどちらかといえば変態の部類に入る人種なのだが、μ'sの変態ちゃんグループと違うところは、意外と内気な面もあるということだ。

 

 特に今のようにネタも卑猥なこともない純粋な恋愛になると、途端に純情乙女になるのが彼女の可愛いところであり、萌えポイントの1つである。さっき俺が素直に慰めた時、目に涙を溜めて笑顔になったのはその性格がゆえだ。

 

 

 

 

 よぉ~し!今度こそこれでこの話は終われそうだ。もうこの時点で5000文字を超えたみたいだし、そろそろ頃合だろ。

 

 

 

 

「いいですねあなたたちは、そうのんびりとしていられて……」

「「海未ちゃん!?」」

「う、海未……何しに来た?」

 

 

 またしてもいつの間にか、今度は海未が部室に紛れ込んでいた。いくら今回がメタ発言ありの異端な回と言っても、この展開の適当さはなんなんだよ……。しかもまた怒ってるし。

 

 

「凛は海未ちゃんだけには言われたくないにゃ!だって海未ちゃん常に目立ってるじゃん!!」

「海未ちゃんはメイン回も多いし、これ以上の不平があるって相当欲張りさんやね」

「まあほとんどの人はそう思うでしょうね」

「どういうことだよ?」

 

 

 凛たちの言う通り、海未は俺と同じ学年で3年生組の中では唯一のツッコミ役でもあるから、自ずと出番は多いはずだ。それなのにこの小説に対して文句があるのか……。

 

 

「希や凛の持ってきたデータを見れば、確かに私の出番は多いです。ですが大体暴走する零や穂乃果たちのツッコミ役ばかりで、私自身にはスポットが当たってないことが多いんですよ」

「そ、そうか?」

「やはり自覚がないんですね!!やはり主役を張っているあなたからすれば私の悩みなんて……悩みなんて!!」

 

 

 あ~あ、また勝手に怒って勝手に落ち込んじゃったよ……この話って俺のお悩み解決の話だったの?もうはっきりと言うけど――――メンドくせぇ!!

 

 

「私たち3年生組で出演することも多いのですが、その時は決まって変態キャラの穂乃果やことりが目立ち、私は常に脇役なんです」

「…………」

「ど、どうして黙るのです!?やはり私程度の人間は、変態たちを際立たせるための脇役に過ぎないんですね!!『新日常』の序盤なんてほとんど脇役としての出番しかありませんでしたし、その上そのことをアンソロジーでネタにされたんですよ!?」

「いや、だったらお前も変態キャラになればいいんじゃねぇの?」

「な、なったら私の出番ももっと増えますかね……?」

 

 

 あれ、てっきり顔を真っ赤にして否定されるかと思っていたのに、案外ノリ気でビックリした。まさか海未も凛と同じように薄い本的な展開に陥ってしまうのか!?そもそもコイツは以前秋葉に、媚薬入りの豊胸のクスリを飲ませれて快感に堕ちていたような……。

 

 

「海未ちゃんって、個人回自体もえっちな回少ないもんなぁ。"海未と海へ行く"回なんて凄くロマンチックやったし。ウチはあの話の雰囲気が、いつもの『新日常』と違って好きなんよ♪」

「そういう意味では逆に海未ちゃんは優遇されているのかもね!だって変態さんばかりのμ'sのメンバーで、もうあんなロマンチックな話なんて書けないもん!」

「そ、そうですかね?」

「そうそう。お前にはお前にしか出せない色があるんだから、いつも通りでいいんだよ。それに俺たちはお前のことを脇役なんて思ったことはないぞ。話ごとにメインやサブの扱いはあるかもしれないけど、俺たちにとってはみんなが主役なんだ!」

「零……」

 

 

 例え出演回数が少なくても、例えメインを張った回数が少なくても、例え主役の引き立て役だったとしても、ソイツが輝いていないことなんてない。『新日常』ではμ's全員がレギュラー全員が主役、そして全員が俺の彼女なんだ!!

 

 ――――おっと、流石に気が早すぎたか。正確には彼女が9人、彼女候補が3人だな。

 

 

「皆さんのおかげで気が晴れたような気がします」

「まあお前が堕ちてしまったら今後誰が『新日常』のツッコミ役をするんだよって話になるし、お前のポジションは必要不可欠なんだよ」

「必要……私は零にとって必要なのですか?」

「あぁ!もちろんだ!」

「そうですか、零にとって私は必要な存在……フフッ♪」

 

 

 どうやら機嫌が治ったようで助かった。やはり女の子が落ち込みを解消したあとに見せる笑顔は最高だな!

 でも海未が優しく微笑むと、どこかヤンデレの雰囲気が漂っているように見えるのは何故だろうか……。コイツもことりと並んで中々に生粋のヤンデレ持ちだったからな。

 

 

「つうわけで、そろそろ終わりにすっか」

「そうだね。悩みも解消したし、これでいい気分でラーメンを食べられるにゃ~♪あっ、かよちんとの約束に遅れちゃう!!」

「ウチももうすぐでバイトやから、早く行かないと!!」

「私も今日は家で弓道の練習があるんでした!!」

「お前ら全員予定あったのかよ!?貴重な時間を削ってホントに何しに来たんだ……」

 

 

 わざわざ不平を言うためだけにこの部室に来たってのか。だったら相当腹の中に怒りを溜め込んでたんだな……。結局あまり気にしなくてもいい悩みばかりだったけども、やはり女の子って繊細なのかねぇ。

 

 

「さぁ零くん!凛とかよちんと一緒にラーメン食べに行こ!!」

「零君、実は今日、巫女さんたちがたくさん神社に来るんや。だからこれからウチと一緒にバイトしよ?零君巫女さん大好きやろ♪」

「ダメです。零は私とこれから弓道や剣道の鍛錬があるので。そしてそのあとは、一緒にお食事でもどうです……?」

「め、目の前でトリプルブッキングだと!?」

 

 

 デートがブッキングするなんて、なんかデジャヴを感じる……。

 そうだよ、一年ほど前に旧μ'sメンバー9人全員とデートの予定がブッキングした事件があってだな……その時の苦悩はいつまで経っても忘れないだろう。

 

 

「凛が初めに零くんを誘ったんだよ!!だから零くんは凛が連れてくからね!!そしてあーんしたりあーんしてあーんし合うんだもん!!」

「何言ってるん?零君も若い巫女さん見たいやんな!?巫女さんの間でも零君は大人気やから、いくらでも彼女たちを視姦してもええんやで?」

「零は最近受験勉強で身体が鈍っているはずなので、私と一緒に鍛錬をするのです!!そしてあわよくば、アッチの方の鍛錬も――――って、やっぱり恥ずかしすぎて穂乃果たちみたいに言えません!!」

「…………」

 

 

 俺は悟った。こんなにキャラが濃い奴らが、脇役だなんて有り得ないと。

 

 

 全然目立ってんじゃねぇか……心配して損したわ。

 

 

 ちなみにこのあと、3人全員のデートになんとか付き合った。

 体力と精神は削がれたけどな……。

 

 




 登場回数が少ない?愛さえあれば関係ないよね?ねっ!?


 今回はサブタイ通り、メタ発言連発の回でした!
 ここまで読んでくださった方なら前書きの意味が分かってもらえたかと思います。まさに"一風変わった『新日常』"ということで、こんな話を執筆できるのも短編集ならではですね!初めてこの小説が短編集だということを活かせたかもしれません(笑)

 本編中に出てきたデータ(登場回数とメインを張った回数)はガチで一から数えました。そうは言っても登場回数は常に数えてきたので、苦労したのはメインを張った回数ですね。意外とメインを張った回数が少なく見えるかもしれませんが、基本は零君がメインなので穂乃果たち自体の回数は少なくなる傾向にあります。


 次回はりんぱな回になる予定です。
 メインを張れるよやったね凛ちゃん!!


 たーぼさんの小説『ラブライブ! ~奇跡と軌跡の物語~』とのコラボ小説の件なのですが、投稿日が2月7日(日)に決定しました!
ネタに関してはお互いに投稿されるまで全くの内緒なので、読者の皆様も投稿されるまでのお楽しみということで!


新たに高評価を入れてくださった

鳳凰0610さん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

りんぱな魅惑の撮影会

 今回は久々のりんぱな回!
 幼気な彼女たちだからこそ、沸き立つ興奮があるのです!(笑)


「えぇー!?凛たちが、音ノ木坂学院のパンフレットのモデルに!?」

「わ、私がも、モデル!?信じられないよ……」

「信じられないかもしれないけど本当だよ。お前ら2人が今年のパンフのモデルに選ばれたんだ」

 

 

 やっぱり凛と花陽なら驚くと思ってたよ。

 とある秋の日の放課後、俺たち3人は練習を抜け出して、撮影用のスタジオがある教室へやって来ていた。そこで初めて今回の目的を明かしたのだが、まさかここまで驚かれるとは……。

 

 凛と花陽の2人自身、あまり積極的に前へグイグイ出る性格ではない。花陽は引っ込み思案で謙遜する性格もあるから言わずもがな、凛も舞台などで自分がメインとなって前へ出るのは未だに少し気恥ずかしさを感じるらしい。

 

 2人共『可愛い』と言っただけで顔を真っ赤にするくらいまだ純情乙女だから、モデルになれと言われて驚くのも無理ないわな。

 

 

「でもどうして凛たちなの?モデルなら絵里ちゃんとか希ちゃんの方が似合うと思うけど……」

「待て待て。これは音ノ木坂のパンフレットなんだ、絵里たちは大学生だろ」

「あ、そっか。いつも一緒にいるから忘れてた」

「それはそれでヒドイぞ……」

 

 

 絵里たちが音ノ木坂を卒業したと言っても、放課後はこの学院で一緒にμ'sの練習をしたりミーティングをしているから、離れ離れになったという感覚はないんだよな。むしろ一年前よりμ'sの絆が強くなったためか、より近しい存在になった感じがする。

 

 

「それでも私たちより、穂乃果ちゃんたちの方が最上級生だからいいんじゃあ……」

「あのなぁ、俺たちは今年度で卒業するのに、穂乃果たちをパンフに載せてどうすんだよ」

「あっ、そっか」

「お前ら……」

 

 

 いきなりモデルになれと言われて緊張しているのか焦っているのかは知らないけど、流石に抜けすぎだろ……。凛は元々だけど、意外と花陽もどこか抜けてることがある。そこら辺はやはり幼馴染というべきなのか、似た者同士ってことだな。

 

 

「お前らが選ばれた理由としては、来年お前らが最上級生でありかつμ'sとして全国的にも活躍しているから、いい宣伝になると理事長が思ったからじゃねぇかな」

「なるほどぉ~。でもそれだったら真姫ちゃんはどうなの?凛たちより真姫ちゃんの方が美人さんだし、男子生徒をたくさん釣れると思うんだけど?」

「釣れるって……まあ確かに真姫もいて欲しかったけど、アイツは別撮りがあるんだよ。音楽室でアイツがピアノを弾いている姿を撮りたいらしいからな」

「だからここには私たちだけが呼ばれたんだね」

「そういうことだ」

 

 

 μ'sはスクールアイドルとして学生界隈ではかなり認知されているし、μ'sのメンバーが出ている学院のパンフレットってだけで相当な数の人が見てくれるんじゃないか。それで音ノ木坂に入りたいって人が増えるかは知らないけど、今時パンフレットなんて大してじっくり見られないだろうから、まず手に取ってもらうことが重要だ。言い方は悪くなるけど、μ'sはその餌として最適なのだ。

 

 

「それで零君はどうしてここに?3年生だからモデルじゃないよね?」

「あぁ俺か。何を隠そう、この俺がお前らのカメラマン役なんだ」

「えっ!?どうして?」

「そっちの方が学院としても人件費が削減できるだろ。俺なんてほら、タダ働きだし」

「ふ~ん……」

「なんだ凛、その人を蔑むような目は……」

「零くんのことだから、凛たちにえっちな格好をさせるんじゃないかなぁって」

「そ、そそそそそそんなことないぞ!!」

「動揺しすぎだよ、零君……」

 

 

 流石俺の彼女!!俺の思考を完全に読み取ってやがる!!

 決して口に出しては言わないが、2人を撮影するカメラマンを申し出たのは学院側からじゃなく実は俺なのだ。だってどこぞの馬の骨とも分からぬ男に、コイツらの撮影を任せたくないじゃん。それにさっき凛も言った通り、もしかしたら際どい写真が撮れるかもしれないしな!

 

 

「よしっ!うだうだ言ってると時間がなくなるから、早速始めるぞ!」

「本当に変な写真、撮らない……よね?」

「大丈夫!俺がお前らを可愛く見せるためのポーズを考えてきてやったから!」

「それ絶対に危ないポーズだよね!?もう危険な香りがプンプンするにゃ!!」

「失礼だな。エロいと思わなければ何でもエロくはねぇんだよ。なっ!花陽!」

「えぇ!?私に振るのぉ!?」

 

 

 マズイ、このままでは俺の計画がすべて台無しになってしまう。なんとか凛と花陽を懐柔して、撮影にまで持ち込まなければ。だが2人共既に警戒状態に入っていて、簡単に撮影を許可してくれないだろう。

 

 

 だったらどうするか。ここは2人の共通の弱点を突いていくしかない!!

 

 

「凛、花陽。俺はお前たちと思い出を作りたいんだ」

「私たちと……?」

「あぁ。俺もあと数ヶ月で卒業だろ?だとしたらお前たちとこの学院で過ごせる毎日も残り僅か、毎日を無駄に過ごしたくはない。今日はお前たちの撮影ができると聞いて、俺は嬉しかったんだ。2人とまた新しい思い出を作ることができるってことがな。だからさ、この撮影に協力してくれないか?決して悪いようにはしない!この写真も、俺たちの思い出の1ページになるんだよ!!ずっと忘れない思い出を、俺と作ってくれ!!」

「零君……うん、分かった!私も撮影に協力するよ!学院のため、そして私たちの思い出のために!」

「凛も凛も!零くんとかよちんと一緒なら、凛なんでも楽しいもん♪」

「よしっ!」

「よし?」

「い、いやなんでもない!!あはは……」

 

 

 危ねぇ危ねぇ、もう少しで本音が漏れ出してしまいそうだった。2人の弱点は感動的な話に弱いところ。もちろん凛と花陽のあんな姿やこんな姿を見たいっていうのは当然だけど、思い出作りという側面ももちろんある。だから俺は決して2人を騙そうとしている訳じゃないからね。絶対に!!

 

 

「それにしてもこんなスタジオみたいな教室あったんだ。凛初めて知ったよ」

「いや、元々空き教室だったらしいんだけど、学院側がこの撮影ために教室をスタジオ風にセッティングしたらしいぞ」

「へぇ~、結構凝ってるんだね」

「そうだよな。こんなところに金を掛けるなら、校舎内のボロくなったところの修繕費に当てりゃあいいのに」

 

 

 撮影のことは詳しく聞かされてないが、元々この教室で撮る予定だったのだろうか?それにしては初めからカメラや照明がセッティングしてあって、かなり気前がいい。外部のカメラマンの代わりに俺がカメラマンになったせいだとは思うんだけど、なんか初めから俺がカメラマンになることが分かっていたみたいな……なぁ~んて、考え過ぎか。

 

 

「そろそろ本当に時間がなくなってきたし、撮影を初めよう!まずは普通に立っている写真から撮るぞ」

「普通に立つって言っても、どう立てばいいの?」

「両手を自然な感じに身体の前で握り合わせて、お淑やかな雰囲気で頼む」

「お淑やか……凛には似合わない言葉だにゃ」

「そんなことねぇって。じゃあ撮るぞ」

「わわっ!待って待って!どうせなら可愛くお願い!!」

「分かってるって」

 

 

 凛の口から"可愛くお願い"なんて言葉が出てくるとは、コイツも随分と成長したもんだ。1年前は凛に"可愛い"と言っても謙遜に謙遜を重ねて全力で否定されていたっていうのに。

 

 そしてカメラを目の前にしても2人共一切緊張した顔を見せないのは、やはり1年以上スクールアイドルをやってきたおかげだろうか。もう校外ライブも割とやってるし、あの"ラブライブ!"に二度出場して連覇するくらいだ、こんなちっぽけなカメラごときではもはや緊張などしないのだろう。

 

 

「おぉ、いい笑顔だ!可愛いぞ2人共」

「今そんなこと言わないで!恥ずかしいよぉ!!」

「すまんすまん!それじゃあ撮るぞ」

 

 

 俺はセッティングされたカメラの位置や高さを調節し、カメラを覗き込んで2人にピントを合わせる。

 よしっ、2人共可愛い可愛い!あとでこっそりこのカメラのデータを俺の携帯へ送っておこう。

 

 なんて雑念を交えながら、俺はカメラのシャッターを切る。

 

 ピカッとフラッシュが焚かれ、撮られた写真を確認しようとしたその時だった。

 

 

「んんっ♪」

「あ、んっ♪」

「えっ……?」

 

 

 突然2人から色っぽい声が小さく漏れ出した。

 なんだなんだ?2人の頬がほんのりと赤くなっている。一体さっき何が起こったんだ……?至って普通に写真撮影をしていただけなんだけど……まさか大好きな彼氏に写真を撮られて興奮してるとか?いやいや、流石にそれは俺も擁護できないほどの変態だわ。多分気のせいだろ、気のせい。

 

 

「凛ちゃん、さっきのだけど……ちょっと身体が熱くならなかった?」

「うん。なんか自分の身体が一瞬ビクってなったような……気のせいかな?」

「お~い!今度はカバンを肩に掛けた状態で写真を撮るから準備してくれー!」

「あ、うん!分かったにゃ!」

 

 

 2人は特に気にしていないみたいだし、やっぱり俺の聞き間違えだったみたいだ。

 まあ流石にそうだよな、たかがパンフレットの撮影ごときで発情する訳ないよな。そこまで凛と花陽が変態だとは思いたくねぇぞ。μ'sの中で恐らく一番ぴゅあぴゅあな2人が、実はド変態でした~なんてオチはいらないから。

 

 

 そして2人はあらかじめ持ってくるように伝えておいた自分のスクールバッグを肩に掛け、2人仲良く手を繋いで笑顔で並ぶ。

 

 この見た目だけでも伝わってくる仲の良さは、やはりガキの頃からの幼馴染だからか。

 しかし本来は幼気な顔をしている2人だが、今はどこか頬が赤くなって少々色っぽくなっている。本当にさっき何も起きてないんだよな……?女の子のそんな表情を見ると、俺まで興奮してくるからやめろって。

 

 

「2人共もっとくっついてくれないか?」

「こ、こう?」

「そうそう。それじゃあ撮るぞ~」

「ばっちこいにゃ!!」

 

 

 μ'sで2人組と言えば、真っ先に凛と花陽を思い浮かべる人も多いだろう。だからこそこの2人がくっついていると、それだけで百合百合しいんだよな。でもこの2人の場合は百合の花や薔薇の花というよりかは、のどかなお花畑が似合うイメージだ。現に俺の脳内は2人のバックにお花畑がイメージされてるし。

 

 

 そんな完璧なシチュエーション(脳内)をカメラで捉えながら、俺の指が再びシャッターのボタンを押し込んだ。もちろん先程と同じく、2人にフラッシュが焚かれる訳なのだが――――――

 

 

「ひゃっ♡」

「あぁっ♡」

「えっ!?」

 

 

 今度もまた聞き間違い……じゃない!!さっきの声はまさしく喘ぎ声に近い何かだった。もう彼女たちのこんな声は何度も聞いて聞き慣れているんだ、確信はある。

 

 だけど俺は2人に触ってもないし動いてもいない。2人も自分磨きをしているような素振りは一切ない、というか撮影中だからそんなことできないし……だったらなんで2人がこんなに顔が赤くなっている!?どうして息が荒くなっている!?なぜ脚をくねらせてムズムズしているんだ!?

 

 何もしていないのに発情してるって、それってどこの淫乱鳥さん……?

 

 

「はぁ、はぁ……なんだろう、さっきから身体がビクビクってなって、凄く気持ちいい……」

「カラダが熱い……頭もぼぉ~っとするにゃ……」

「おいおいマジかよ」

 

 

 なんだなんだ!?μ'sの中でも変態度が著しく低いコイツらが、何もないところで発情し始めたぞ!?床の上に女の子座りでペタンと座り込み、彼女たちの表情は普段の子供っぽい表情とは打って変わって非常に艶っぽい。『はぁはぁ』と漏れ出す吐息は留まることを知らず、どうしてこうなっているのか彼女たちにも分からないようで首を傾げていた。

 

 俺はてっきりスカート中にこっそりローターを仕込んでいるのかと思っていたのだが、流石にそんな変態プレイを彼女たちに許容する奴はいないだろう。うん、いない。

 

 だったらどうしてこんなことになっている?まさかことりの妄想が現実に漏れ出して、淫乱鳥ウイルスが蔓延しているんじゃないだろうな……それに感染した者は所構わず発情すると――――って、こんな冗談を言っている場合か!!

 

 

「大丈夫なのかお前ら?」

「さぁ……でもさっきからたまに、カラダに電流が走ったかのように刺激がするんだよね……」

「その度になんか気持ちよくなっちゃって……変な声も漏れちゃうし……」

「今はどうなんだ?」

「今はあまり感じないよ。でも頭はぼぉ~っとしちゃうけど……」

 

 

 今頃2人のパンツは湿ってんだろうなぁと妄想をしつつ、俺は2人がこうなってしまった原因の究明に取り掛かる。

 

 いきなり2人がエロい声を上げたのはいつだっけか……確か1枚目の写真を撮った時だったような。そして今回はスクールバッグを肩に掛けながら写真を――――あっ、なるほど!毎回写真を撮った時にイってんのかコイツら。だったら悪さをしているのはやはりローターじゃなくて……。

 

 

「このカメラか……」

「えっ、凛たちがこうなったのってカメラのせいなの?」

「まだ確証はないけどな。でもどうやって確認するか……ふむ」

「れ、零君?どうして納得した表情で私たちを見るの……?ま、まさか!?」

「お前ら、もう一回だけでいいから被写体になってくれ」

「やっぱりぃ!?」

 

 

 仮定がどうであれ、我が彼女たちの艶かしい表情を見られるのならそれに越したことはない。どうせこんな被写体となった人を発情させるふざけたカメラを仕込む奴なんて、広大な世界を探しても1人しかないだろうし。このままアイツの手で弄ばれるくらいなら、俺も少し遊ばせてもらう!カメラをブッ壊すのはそのあとでも問題ないはずだ!

 

 

「よし、撮るぞ~」

「待って零くん!凛まだ心の準備が!!」

「そうだよ!分かっていると余計に緊張しちゃうよ!!」

「だからそれを確かめるためにやるんだろ。はいパチリ」

 

「あぁあああああああああああ♡」

「ふわぁあああああああああん♡」

 

「おおっ!やっぱりこのカメラのせいだったのか」

 

 

 カメラのシャッターを切った瞬間、凛と花陽の艶やかな声が教室中に響き渡った。

 しかもさっきよりも威力が上がっているみたいで、2人はビクビク震えながらカラダをよがらせる。目もトロンと垂れ、若干口から涎も垂れているその姿、そして俺の手にはカメラと、まさに大人のビデオ撮影みたいな光景だ。教室もスタジオ風だし、この光景を誰かに見られたら言い逃れできねぇぞ……。

 

 

 でも今はとりあえず、快感にカラダを支配されている2人を介抱してやるか。

 

 

「お~い、大丈夫か~?」

「もう、ヒドイよ零く~ん!待ってって言ったのにぃ~!」

「すまんすまん!」

「顔、笑ってるよ……」

 

 

 正直に話すとこのカメラの正体云々より、2人のエロティックな姿を見たかったからシャッターを切ったんだけどな。さっき一瞬の隙を突いてカメラのデータを確認してみたんだけど、そこには凛と花陽の快楽に浸っている表情の写真が3つ、データとして残されていた。これは夜の妄想に使える!!俺がこのカメラを破壊しないでおこうと思った瞬間だった。

 

 

「パンフレットの写真に関しては俺のカメラを使うから、とりあえず一旦休もうか」

「う、うん、そうしてもらえると助かるよ……」

「うぅ、まだカラダが疼くにゃ……」

 

 

 軽くヒクヒクとカラダを震わせる彼女たちを見てみると、ちょっぴりイジメたくなる衝動に駆られる。

 いきなり抱きついたりしたらどんな反応を見せてくれるのか……とか、突然パンツの中に手を入れてパンツの湿り具合を確認したらどうなるのか……とか、考え出すとキリがない。

 

 でもやりすぎると彼女たちが再起不能になりこのあとの撮影に支障が出てしまうので、軽めに肩辺りにボディタッチしてみるか。さりげなく肩を貸してやると装って……。

 

 

「歩けるか花陽、肩貸してやるよ」

「ひゃあああああああああああああああああああっ♡」

「うえっ!?そ、そこまで!?」

「も、もう零君!!今カラダが敏感なんだよぉ~……!!」

 

 

 敏感といってもあそこまで嬌声を上げるほどなのか!?1回目にシャッターを切った時と3回目にシャッターを切った時とでは、2人の発情具合が明らかに違う。こんな色っぽい姿の2人をこの教室から外に出したら、そこら辺の汚い男に速攻でブチ犯○れるぞ。

 

 よしっ、そうならないように俺が守ってあげよう!

 

 どう守るって?そりゃあ、ねぇ……。

 

 

「零くん、今凛に触っちゃダメだよ……」

「触るって、こうか?」

「はぁあああああああああああああああああっ♡」

「すっごいな、このカメラの力……」

「もう零くん!凛たちで遊ばないで――」

「遊ぶってこう?」

「にゃあああああああああああああああああんっ♡も、もうっ!!」

「悪い悪い!」

 

 

 もうボディタッチだけでこれほどまでの嬌声を上げるなんて、カメラのせいとはいえ、これは凛と花陽がことり並みの変態ちゃんに覚醒するかもしれない。カラダに走る快感の良さを覚えていって、自らどっぷりハマっていくと……。

 

 そうやって妄想すると、もっとコイツらに手を出したくなってきたぞ!!この教室には俺たちしかいないし、もう少しだけ遊ばせてもらおう!!

 

 

 

 

 ――――と思ったその瞬間、俺の後ろの教室の扉が静かに音を立てて開いた。

 

 こ、これはまさかいつものオチでは……!?

 教室に入ってきたのは誰だ!?海未?絵里?それとも笹原先生!?誰が来ても詰みじゃねぇか!!こんなAV撮影のスタジオなんて見られたら、まず言い逃れできずに殺される!!

 

 

 俺は恐る恐る後ろを振り返った。そこにいたのは――――

 

 

「皆さん、撮影は進んでますか?」

「や、山内先生!?」

「えぇ!?どうしてそんなに驚かれなきゃいけないんですか!?」

「い、いや、別に、むしろ安心したっていうか……」

「は、はぁ」

 

 

 あ、危ねぇ~……教室に入ってきたのが温厚温情な山内先生で本当に助かった。

 山内先生がこのスタジオ風の教室や凛と花陽の様子を見て何も言ってこないところを見ると、どうやらAV撮影をしていたとは思われていないようだ。むしろ穏やかな山内先生がそれを指摘してきたら、完全に先生のイメージが崩れるな。

 

 

「先生はどうしてここに?」

「今日の仕事が終了したので、撮影のお手伝いをしようと思いまして。もしかしたら、もう終わっちゃいました?」

「いや、むしろこれからですよ。2人がこの調子ですし」

「2人共顔が赤くなってますよ?大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です、少し緊張しているだけですから……」

「ちょっと休めば問題ないです……多分」

 

 

 ちくしょう!先生が来たから2人と遊ぶことはできなくなったか……でもまあいっか、このカメラに2人のイキ顔は収められている訳だし。それだけで満足するしかねぇ!それに生でAV撮影っぽいことができたし、俺は楽しったよ!俺はね!

 

 

 そしてその後は至って普通に撮影が進んだ。

 一瞬山内先生を被写体にしてカメラのシャッターを切ってやろうかとも考えたけど、流石の俺でもそこまで曲がった趣味はなかったのですぐにやめた。

 

 

 

 

 あとはこのカメラ、まだ何かに使えそうだな……。

 

 




 りんぱなはガッツリとしたエロより微エロが似合うと思うんです!


 今回は久々のりんぱな回でした!
 そうは言ってもμ'sのメンバー自体が12人もいるので、毎回個人回やコンビ回をやる時は久々のような気もします。多く出演してそうでも、数えてみると案外少なかったりしますからね。前回のメタ発言回を見てくださった方は分かってもらえるのかな?

 凛も花陽も、『新日常』のμ'sの中ではまだ純情ガールズなので、このまま堕ちずに踏ん張って欲しいところです。"まだ"というところがポイントだったり(笑)


 次回はまだ未定です。ネタがないのではなくて、執筆したいネタが多すぎて、どれにしようか迷ってるんですよね(笑)


 たーぼさんの小説『ラブライブ! ~奇跡と軌跡の物語~』とのコラボは2月7日(日)投稿予定です!

 また今週か来週辺りに、『ご注文はうさぎですか?』の短編小説を投稿する予定です。主人公は引き続き零くんを起用しますので、恐らく読みやすいかなぁと!ノリは完全に『新日常』と同じになる予定です(笑)


新たに高評価を下さった

優鳴さん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ぱんつくった

 今回は言葉遊び回の第6弾です!
 あらぬ方向に飛躍するにこちゃんの妄想と可愛さを楽しんでもらえればと(笑)


「あれ?零だけ?」

「おぉ、にこ。みんな生徒会やら掃除やらで遅れているらしい」

「ふ~ん」

 

 

 にこが大学から音ノ木坂学院の部室へやって来ると、そこには零が1人で机に参考書とルーズリーフを開けて勉強をしていた。

 あの超人的な頭脳を持つ零が、こうやって空き時間で勉強をしているなんて珍しいこともあったものね。にこが知らないだけで、意外と裏で苦労していたりするのかも。もしそうだとしたら、にこたち9人と付き合いつつ受験勉強をしているってことか……なんか急に申し訳なくなってきたわ。

 

 

 零と2人きりのシチュエーションなんて、本当なら彼に思いっきり甘えるところだけど、今はそんな雰囲気じゃないわね。にこだって流石にそれくらいの空気は読めるし、自分の高ぶる欲求を抑えることくらいできる。まぁ、ちょっと残念な気持ちはあるけど……。

 

 

「アンタが空き時間を有効活用しているなんて珍しいわね。やっと受験の恐ろしさが分かってきた?」

「ん?何言ってんのお前?」

「えっ?勉強してるんでしょ?」

「いや、おっぱいの揉み方について考察してたんだ。最近ちょっとばかりマンネリ化してきてるからな」

「…………」

「ど、どうした?」

「にこの気持ち返せ!!」

「な、なんで!?」

 

 

 さっき一瞬でもコイツに情けを感じたのが馬鹿みたいだわ……そうよね、コイツの頭なら大して勉強なんてする必要ないわ。

 

 そんなことより気になったのは、おっぱいの揉み方ってやつ。それはにこにも適用できるのかしら……?自虐じゃないけど、にこは零の恋人たちの中では一番胸が小さい。そうなると胸の揉み方も大きく制限されるはず――――うん、この話はやめましょう、虚しくなってくるわ。

 

 

 そこでふと、机に広げられたルーズリーフの1枚に目が止まった。

 それは案の定英文も数式も書いていないほとんど白紙同然のルーズリーフなんだけど、左上の一角にだけ箇条書きで食品の名前が書き連ねられていた。

 

 

「牛肉、ネギ、白菜、豆腐……?」

「あぁそれか。最近寒くなってきたから、久々にすき焼きでも食おうと思って」

「すき焼き……いいわね!にこも混ぜなさいよ!」

「もちろんみんな誘うつもりだよ。鍋物はたくさん人がいてこそだしな」

 

 

 ヤバ……すき焼きの話なんてしていたらお腹が空いてきちゃったじゃない。でも練習前に食べる訳にもいかないし、困るのよねこういう時って。穂乃果や凛みたいにいつでもパンやお菓子をパクパクボリボリ食べられる、あの腑抜けた生活スタイルが羨ましいわ。これでもにこはμ'sの誰よりも、美貌や体型にこだわってるんだから!

 

 

「それにみんながいる方が、俺の鍋奉行も光るってもんだ!」

「鍋奉行ぉ~?大して料理もできないくせに、よく言えたものね」

「確かに俺のできる料理は男飯くらいだ。楓と2人で暮らすようになってからは、アイツにお株を奪われてばかり……」

「お株と言うほどアンタに料理の腕はないでしょ」

「ひどっ!!今日のお前辛辣じゃない!?」

「さっきにこの気持ちを盛大に裏切った罰よ」

 

 

 零の料理は味はいいんだけど、体裁が全然整っていないのよね。食べられればいいってのは分かるけど、普段から料理を嗜んでいる(というかやらなきゃいけない)私にとっては考えられないわ。

 

 

「そういや絵里と希は?」

「生徒会を覗いてくるって言ってたわよ。どうやら凛、相当苦労しているみたいね」

「まあな。でもあの穂乃果ですら一年間やってきたんだ、嫌でも慣れるだろ」

 

 

 穂乃果が生徒会長をやるって聞いた時は驚いたけど、凛が生徒会長になると聞いた時は更に驚いた。

 穂乃果はμ'sのリーダーの経験を活かせるし、元々リーダーシップがあるからいいけど、凛はそういうの苦手だから。これでもちゃんと後輩を心配する、優しい先輩なのよにこは。

 

 

「そういや話変わるけどさ」

「ん?」

「この前、パン作ったんだよね」

「は……?」

「いやこの前の休日、暇だたったからパン作ったんだよね」

「パンツ食った!?」

「そんなに驚くことか!?」

 

 

 暇だったからとはいえ、自分の彼女にパンツを食べてたことを伝えるなんてどれだけ変態なのよ!?あっ、変態だったわね……でもパンツをしゃぶってたことを真顔で暴露するなんて、例え変態であっても度が過ぎてるわよ!!

 

 

「アンタねぇ~……ここまで変態を曝け出して嫌われないのはにこたちのおかげよ。感謝しなさい」

「どうして感謝されなきゃいかんのだ!?変態……?よく分かんねぇけど、変態だったらお前の方がヒドイだろ!?」

「ちょっと!華の女子大生に変態とは何よ!!それに彼氏のことを想うのは普通でしょ!?」

「自覚がないってのが凄いよ……」

 

 

 えっ、彼氏のことを想って、毎晩夜な夜な彼氏の私物で自分磨きをするのって普通じゃないの!?凄く一途で可憐な彼女だと思うんだけど……。

 

 

「まさかパン作ってただけで変態扱いとは。そこまで俺がパン作ってたことがおかしいのか?」

 

 

 普通だったらおかしいことだけど、零のことだから有り得なくもないのが事実。

 だけどにことしてはそんなことよりも、誰のパンツを食べていたのかが気になってしょうがない。一応同棲生活中や零の家にお邪魔した時に、わざとにこのパンツを置いて帰ったことがあるけど、その時のパンツを使ってくれているのかな……?それとも他のメンバーのパンツを……?

 

 

「ねぇ、誰のを食べたの?」

「誰って、自分で作ったものだけど」

「お手製!?」

 

 

 つまり零は自分で作ったお手製パンティを穂乃果たちの誰かに履かせて、それを再び受け取って食べたってこと!?どんだけ手の込んだことしてんのよ……でも自分のお手製だからこそ沸き立つ興奮があるのかも。実際にこも零に下着を作ってもらったら、それだけで嬉しいし。

 

 でもにこは零からお手製のパンツなんて貰ってない。一体誰に渡したのよ……ことり辺りが零に無理矢理頼んだとか?あの子どうしようもない変態だしね。

 

 

「どうせお前もいつもさぞ美味いパン作ってるんだろ?」

「え゛っ!?」

「なんだその反応……」

 

 

 ば、バレてる!?いつも零のパンツを使ってひたすら自分を慰めているって、バレてる!!

 そういやこの前、旧講堂でにこたちの集会を覗いていたわね……まさかその時に察したのかも。でもにこが零のパンツを持っていったとは一言も言ってないはず!なのにバレてる!?

 

 

 ――――と、今のにこは気に動転と動転が重なって、正常な判断ができなくなっていた。

 

 

「にこのことだ、こころたちのためにパン作ってんじゃないのか?」

「なんでこころたちのためににこがパンツ食わなきゃいけないのよ!?そんな訳ないでしょ!!」

「なるほど、おまえんちごはん派か」

「ご、ごはんと一緒に食べる訳ないでしょ!!ま、まぁある意味にこにとってはご飯だけど……」

「えぇ、どっちなんだよ……」

 

 

 正式な言葉で言うのなら、ご飯というよりオカズって言ったほうがいいのかしら?どちらのせよ真夜中の主食には変わりない。でも流石に零のパンツをこころたちに渡すなんて……あの子たちに余計な知識を付けさせる訳にはいかないわ!

 

 

「そうだ!せっかく作ったんだし、お前に食べてもらおうかな?」

「えぇぇええぇえええ!?」

「いちいちその大袈裟なテンションはなんなんだよ……」

 

 

 なになに!?もしかして、零のパンツを食べられるの!?それは間接的に、これからも俺のパンツを食っていいぞっていうお許しが出たってことじゃない!?お許しが出ていなくてもやってたけど、これからは合法的にヤれるってことよね!?これは俄然テンションが上がってきたわ!!

 

 

「もしかして、持ってきてくれたの!?」

「実は持ってきたんだけど、穂乃果が食っちゃってさ……また今度な」

「なぁ~んだ、生で食べられると思ったのになぁ~」

「な、生……?お前偏った趣味してんのな。詳しくはないけど、普通は焼くモノだろ?」

「焼くぅ?」

 

 

 普通は焼くって、パンツを焼いたり炒めたりしてオカズに使うのが普通なの!?そんなことをしたら、零のパンツに付着している匂いとかアソコの液とかが消えちゃわない!?そこのところはどうなのかしら……。でも自慰マイスターの零がそう言うんだし、そうなのかも……。

 

 

「おっ、マジか!」

「ん、どうしたの?」

「今持ってきた袋の中身を確認したんだけど、穂乃果の奴が全部食べてたと思ったら少しだけ余ってたんだ」

 

 

 さっきはパンツを"焼く"に意識が行ってスルーしてたけど、穂乃果って学院内であっても割とがめついのね。流石の私でもμ'sのメンバー以外の人の前で、彼氏のパンツをオカズにすることなんてできないわ。

 

 それに、零がさっき『少しだけ余ってた』って言ってなかった?どれだけ自分のパンツを学院に持ってきてるのよ……それはそれで偏った趣味してるじゃない。

 

 

「でも残念ながら、お前の言う生じゃないからな」

「だって生の方がふわふわしてて気持ちいいでしょ?でもあまりプリントがあるものは好きじゃないわね」

「ん……?プリンと、合う……?まぁそういうのは珍しいだろうな」

 

 

 変にパンツのプリントが凝っていると、顔に押し付けたりする分それだけで目障りなのよね。シミている部分が分かりにくくなったりするし、やっぱオカズに使うのなら無地のパンツでしょ!楓からもそういうのばかり売ってもらってるし。

 

 

 そしてようやく零のお手製パンツを食べられるのね。にこがオカズに使ったパンツを、更に零がオカズに使うと。うん、想像だけで色々捗っちゃいそう……。

 

 食べるんだったら流石に部室の扉の鍵は閉めておかないとね。誰かが入ってきたらイヤだし。それにこの邪魔な服も――――――

 

 

「この際、食べられるんだったら何でもいいわ」

「オイ、どうして部室の鍵を掛けた……」

「どうしてって、誰かに見られたりでもしたら……」

「――――お、お前!!だからどうして急に服を脱ぎ出す!?」

「えっ、いつもこうするんだけど……」

 

 

 自分を慰める時ってみんな服を脱がないの?これだけ零が驚くってことは、にこが異端なのかも……。だけど零に見られながらスるのは興奮しちゃうし、服なんて着ている場合じゃないでしょ!!もう既にカラダが熱くなってるもの!!

 

 

「ここ部室だろ!いいから服着直せって!!」

「着たままだったらお気に入りの服が汚れちゃうじゃない!!」

「汚すのかよ!子供か!!」

「はぁ?そもそも子供が汚すわけないでしょ!!」

「子供の方が汚すだろ普通は。口からポロポロこぼしてさ」

「口から……こぼす!?」

 

 

 ま、まさか零、子供の口に自分のアレを突っ込んで、口内で出したことがあるっていうの!?さっきの言い方的に、そうとしか思えないんだけど!?

 

 零の身近にいる子供と言えば誰だろう……?まさかとは思うけど、こころとここあじゃないでしょうね!?そういえばこの前、零がこころとここあの2人と一緒にお風呂に入りそうになっていたけど、そのお風呂に一緒に入ろうとした理由はもしかして、こころとここあの口に自分の白濁液を出したから……!?さっき口からポロポロこぼしたって言ってたし、どれだけ出したのよこの絶倫!!

 

 

 まだこころとここあと確定した訳じゃないけど、子供の口内に出したのは事実らしいし、さり気なく探ってみますか。

 

 

「ねぇ零、その子供が口からポロポロこぼしたあと、どうなったの……?」

「はぁ?こぼしたのならそりゃあ舐め取ったりするだろ。子供だし、美味しそうにペロペロって」

「ぺ、ペロペロ!?」

「もうその反応慣れた……」

 

 

 美味しそうにペロペロ舐めるって、零の奴、既に子供に自分の味を覚えさせているってこと!?口内で出すってことは、確実のその子供は女の子だろうし、攻略するのなら子供の時点でもう堕としておこうって算段みたいね……。これ以上彼女を増やしてどうするのよ!!

 

 こころとここあからはそんなことされたって話聞いたことないし、2人に釘を刺しているのなら自分から暴露するなんて馬鹿なことはしないはず。だったらにこの知らない子供?一体誰の子よそれ!!

 

 

「いやぁ俺も子供の頃はやんちゃ坊主だったからさ、よくこぼしまくって親に怒られたよ」

「え゛っ!?零もこぼしまくってたの……?」

「子供の頃の話で、もちろん今はそんなことないぞ」

「…………」

「遂に声まで上げなくなったか……今日のお前なんか変だぞ」

 

 

 零が……女の子に対してドSで調教大好きっ子の零が、まさか子供の頃に口内で出されていたなんて!?子供の頃がドMだったから、逆に大人になってドSに目覚めたってこと?

 

 零の家族は姉の秋葉先輩と妹の楓、お母さんの詩織さんとお父さんの5人家族だったはず。その中で零の口に出すことができるのはもちろん男性の……え゛っ、じゃあ男同士でやってたってこと!?自分の彼氏にそんな趣味があっただなんて……!!

 

 

「アンタ……」

「なんだその蔑んだ目は!?」

「もう自分のことを変態だと認めるわ。だけどね、アンタだけには言われたくない!!いくらアンタが変態でも、子供の口内に出したり男同士でヤるだなんて認められないわぁ!!」

「なんか昔の絵里の口調になってるぞ!?それに今日のお前やっぱおかしいって!!」

「おかしいのはそっちでしょ!?急にパンツ食ったなんて言い出すから!!」

「はぁ?パンを作るくらい普通だろ!?」

「へ……」

「こ、今度はなんだよ……」

 

 

 零、今さっきなんて言った……?もしかしたらもしかしなくても、盛大な勘違いをしていたような、そんな気がするんだけど……。か、顔が熱くなってきたじゃない!!

 

 

「い、一応確認するけど、パンツを食べていたのよね……?」

「なんでやねん!!この前の休日にパンを作ったんだよ――――って、あぁ、なるほど」

「パンツ食った……パン作った……あっ、あぁああああ!!」

「お前、今まで俺の『パンを作った』を『パンツを食った』と勘違いしていたな。だから会話が妙にズレているところがあったのか。むしろズレていたのにここまで会話が成り立ってたのが凄いけど……」

 

 

 あ゛ぁああああああああああああああああああ!!恥ずかしくて顔が沸騰しそう、っていうか、もう沸騰してるかも!!こんな簡単な言葉遊びにハメられるなんて……気が動転していて全然疑うこともできなかったわ。

 

 

「はぁ……一気にどっと疲れが襲ってきたわ。もう今日の練習休もうかしら……」

「変なテンションになって暴れてたからなぁお前」

「零が紛らわしい言葉遣いするのがいけないんでしょ」

「俺のせいかよ……お前が卑猥な妄想に結びつけるのが悪いんだろ」

「うぅ、言い返せない……」

 

 

 一年前はこんな妄想をするのがバカバカしいと思っていたのに、気付けば普段の日常でもあんな妄想が広がってしまってしょうがない。恋は盲目という言葉もあるくらいだし、彼のことを一途に思っている可愛い彼女ってことで、自画自賛して納得しておきましょう。

 

 

「そんなに落ち込むなって。ほら、話題に出てたパンやるから。一口サイズだから食べやすいと思うぞ」

「本当にパンツじゃなかったんだ」

「流石にあの穂乃果でも、教室でパンツをオカズにするほど変態じゃねぇぞ。多分……」

「なんで少し遠い目になってるのよ……まああの子変態だもんねぇ」

「お前のところにブーメラン返ってきてるぞ……」

 

 

 ただ喋っていただけなのに、ここまで疲れたことって今まであったかしら……?なんか1人で勝手に変な妄想をして盛り上がっていたのが恥ずかしい!!穴があったら入りたい気分だわ……まあ穴に入れられるのはにこの方なんだけど――――って、こんなこと考えてるから零の言葉が全部卑猥に聞こえたのよね……。

 

 

 これからは今日のことを戒めに、少しはまともになってみようかな……。

 

 

 

 

 でも今日だけは――――!!

 

 

 

 

「あ゛ぁあああああああああ!!もうこうなったらヤケ食いよ!!このパン全部食べちゃうんだから!!」

「おいおい、太るぞ」

「女の子に向かって太るとは失礼ね!!」

「今日のにこはそっとしておいた方が良さげだな……」

 




 変態は自分が変態だと自覚していないらしいですよ(笑)


 今回は前作の『日常』から続く、伝統ある言葉遊び回の第6弾でした!
 まさか"ぱんつくった"だけでここまで妄想が飛躍するとは……最近ことりに変態の株を奪われがちだったにこの大躍進でしたね(笑)

 そして『新日常』になって、言葉遊び回も段々汚い話題が多くなってきたような気がします。でももうこの小説は既に"綺麗"という言葉は捨ててきているので、今後またこのような回をやることがあっても恐らく話題はアッチ系の方向に飛躍すると思われます(笑)


 次回はまだどのネタかは未定ですが、新章でまだメインを張っていない真姫か絵里の回を書きたいところ。


 たーぼさんの小説『ラブライブ! ~奇跡と軌跡の物語~』とのコラボは2月7日(日)投稿予定です!


 また今週か来週辺りに、『ご注文はうさぎですか?』の短編小説を投稿する予定です。主人公は引き続き零くんを起用しますので、恐らく読みやすいかなぁと!ノリは完全に『新日常』と同じになる予定です(笑)


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ヤンデレ妹 楓ちゃん!

 今回は楓ちゃん回!
 そして久々のヤンデレ回なので、苦手な方は一応閲覧注意で。しかしヤンデレ以上に可愛い楓ちゃんが見られますので、是非勇気を振り絞ってどうぞ!


 現在の状況を確認しよう。

 まず俺の身体が完全に縛られている。朝目が覚めたらベッドの上で縄で身体がぐるぐる巻きにされている始末。一瞬秋葉の人体実験の道具にされそうだと勘違いしたのだが、周りを見渡してみると紛れもない俺の部屋、その可能性は著しく低いと思う。俺がそう思いたいだけだが……。

 

 

 こんな状況でもある程度は冷静でいられるのは、やはり過去に()()()()()があったからだろうか。その経験に関わらず、これまで幾度となく奇想天外な荒波に揉まれてきたし、慣れってつくづく怖い。

 

 

 なんて大して状況も分析せずに余計なことばかり考えている俺は、やっぱりこの摩訶不思議な生活に毒されてきているな……。そもそも彼女9人持ちの時点でまともな生活は送っていないが。

 

 

「おーい!楓ぇーーー!!」

 

 

 …………

 

 

 音沙汰なしと。一応俺より先に起きているだろう妹の楓の名前を呼んでみるが、アイツの声どころか家からは物音1つ聞こえない。これが秋葉の仕業だとしたら、邪魔になる楓をどこかに連れ去ったと考えられるけど……。怖い考えをするなと思われるかもしれないが、秋葉に常識は通用せず、どんな状況でも起こり得る。アイツのせいで今にも地球が滅亡すると言われても、何ら不思議ではない。

 

 

「休日だからって変なことに巻き込むなよな。こっちは受験生だっつうの。あまり勉強はしてねぇけど……」

 

 

 休日は休む日と書いて休日、だからこそ俺は彼女たちとデートのお約束が入っていない限り昼まで寝ていたい所存である。

 

 だが俺の身に降りかかっている現状を見れば、これからロクでもないことに巻き込まれるのは明白。ここは今まで俺が鍛え上げてきた、どんなことが起きても驚かない肝の据わり具合を見せる時がきたようだな……。

 

 

 そしてふと、俺が寝返りを打ったその時だった。

 

 

「お兄ちゃん♪」

「うわぁああああ!!か、楓!?いつの間に……」

「えへへ、さっきからいたよぉ~♪」

 

 

 楓がいつの間にか俺のベッドの隣に座っていたという驚きと、さっき意気込んだのにも関わらず高速でフラグを回収したことの2重の驚きが俺を襲う。さっきまで物音1つしなかったのに、寝返り1つで目の前の世界がガラリと変わったら、そりゃあ驚くだろ!まさか楓が俺の顔を覗き込むように眺めていたなんて思わないって!

 

 

「よ、よぉ、おはよう」

「おはよ~お兄ちゃん♪今日もいい朝だね!」

「あ、あぁ」

 

 

 なんだ……いつもの楓とは違うような、どこか様子がおかしい。

 俺の寝起きを笑顔で迎えてくれることに変わりはないのだが、その笑顔が明るい笑顔ではなく、クスクス笑うような小悪魔のような笑顔。元々彼女は小悪魔的な要素はあるのだが、家の中では割と俺に対して塩対応も珍しくはないため、早朝から彼女がこんな態度を取っているのは極めて珍しい。

 

 

 もしかして、何か企んでいるのか……?いや、この状況を見れば言わずもがなか。

 

 

「俺をミノムシみたいに縛ったのはお前か?」

「そうだよぉ~」

「そうか。ダメ元で言ってみるが、外す気は?」

「ないよぉ~」

「うん、知ってた」

 

 

 そう安々と縄を外すくらいなら、夜中にこっそり俺の部屋にしのびこんだりする苦労なんて掛けないよな。

 そんなことより気になるのは、楓のこの妙な笑顔。さっきからクスクスと俺を小馬鹿にしているかのような微笑みが止むことはない。流石我自慢の妹というべきなのか、そんな表情も可愛いのだが、もちろんそれ以上に不気味さを感じられる。

 

 

「お前、なんでそんなに嬉しそうなんだ……?」

「えっ?だって、お兄ちゃんはこれから私とずぅ~っとここで暮らすんだよ♪私にお世話されながら、この部屋で永遠にね……お兄ちゃんに余計な雌豚が近付かないように、ずっと私が一緒にいてあげる!」

「…………」

 

 

 オーケー、状況は大方理解した。これだけで察することができる辺り、やはり俺はこの奇々怪々な日常にどっぷりと溶け込んでいるんだと思う。

 

 それにしてもヤンデレとはかなり久々だ。しかし久々すぎるからといって、ヤンデレちゃんの対処法に手馴れていると言われたらそうではない。一手でもミスをすれば、確実にその場で刺されるだろう。

 

 サラッと緊張感なくして言っているように聞こえるかもしれないけど、これでも一応()()()()()を無事に乗り越えてきた人間なもので。それ以降も何度か同じような状況に遭遇しているしな。

 

 

「別にこんなに縛らなくても、お前とならずっと一緒にいてやるのに」

「え、そぉ~お?えへへっ」

 

 

 ヤンデレを相手にした時の最も有効な対策、それは優しくすること。単純な方法だが、大体ヤンデレちゃんは褒められると普通にデレるだけで、自分に害が及ぶ可能性は極めて低い。上手いこと"ヤンデレ"の"デレ"の部分だけを引き出してやれば、そこほど気を張らなくても対処可能なのだ。むしろいつもとは違う可愛さのギャップに、こっちから惚れるまである。

 

 

 おっと話が脱線した。もし今の俺のように女の子に拘束されてしまったら、こうやって褒めることで相手を徐々に懐柔させ、掛けられた枷を1つ1つ向こうから解かせるように仕向ければ問題ない。これ豆知識な。

 

 

「だからせめて手の縄くらいは外してくれないか?」

「心配しないで。お兄ちゃんの性処理は全部私がしてあげるから♪お兄ちゃんの性処理をしていいのは私だけ……μ'sの先輩たちには一切お兄ちゃんのお兄ちゃんを触らせないから」

「その独占の仕方はどうなんだ……」

「えぇ、気に入らない?お兄ちゃんの命令ならどんなプレイだって受け入れるのに」

「ま、マジか!!」

「お兄ちゃん、期待しちゃってるね♪」

「あっ……」

 

 

 待て待て!俺が懐柔されそうになってどうする!!危うく楓の策略に乗せられそうだった……。

 ヤンデレを相手し慣れている俺をここまで欺くとは、流石に俺の妹と言ったところか、俺の弱点を分かってやがる。ヤンデレになってもまともに知性は働いているのか、ただただ俺を縛って我が物にしようとする量産型ヤンデレとは違うな。

 

 

「ま、お兄ちゃんがイヤというのなら、少々強引な手を使っても、私と一緒にいられるようにするしかないよねぇ」

「お、おいそれって……」

「フフッ♪」

 

 

 楓が取り出したのは、彼女が愛用している料理用の包丁だった。今までベッドで隠れて見えなかったけど、コイツそんな武器を隠し持っていたのか!!

 

 さっきから何度も言っているが、俺はこんな状況など既に慣れっこだ。しかしこうして女の子が刃物を持っている光景を間近で見ると、少々血の気は引いてしまう。いくら経験があっても、現実を目の当たりにすると恐怖感が改めて伝わってくる。

 

 

「お兄ちゃんはね、ずっと私と一緒なの!なるべくなら私もお兄ちゃんを傷つけたくない。だから私にこれを使わせないで欲しいなぁ」

「じゃあ使わなかったらいいじゃん」

「あまりお兄ちゃんが我が儘を言うと、私、我慢できなくなっちゃうかもね♪」

「お前、いい笑顔してるよな……」

「へへっ、ありがとぉ~♪」

 

 

 にんまりと何故か得意げな表情をする楓。その愛おしい表情に一瞬気を引かれそうになるが、懐に閉まってある包丁を忘れてはならない。ブラコン気質が限界突破している彼女のこと、下手に琴線に触れればマジで刺されるかもしれないぞ……。

 

 

「そうだ!朝ごはんを作ってきたの忘れてた!」

「さっきからずっといい匂いがするなぁと思っていたら、わざわざ朝食持ってきてたのか」

「その格好じゃ食べられないでしょ?だから私が食べさせてあげるよ♪」

「食べさせてあげるって、箸すらないじゃないか」

「そんなものいらないよぉ~。だってこうするんだから」

 

 

 楓は皿の上に乗っていた卵焼きを1つ摘むと、それを自分の唇で咥える。そして俺のベッドへ身を乗り入れて、卵焼きを咥えた自分の唇を俺の口元へと近付けた。

 

 これは口移しで食えってことだよな……?別に食べるのはいいんだけど、あわよくばでキスしてきそうで怖いんだが。流石にこんな訳も分からない状況で楓とのファーストキスを経験したくはないので、卵焼きの端を咥えてひったくるように奪えば問題ないか。

 

 

「んー!んー!」

 

 

 早く口移しさせろと楓の催促。飲み物の回し飲みならいくらでもやったことあるのだが、こんな恋人同士みたいな行為は、そこら辺の仲のいい兄妹よりもよっぽど仲のいい俺たちですらやったことがないため、口移しの相手が実妹だとしても少し緊張してしまう。

 

 彼女はただの妹ではない。お互いに異性として好きだと認め合った仲、もう彼女は穂乃果たちと同様に俺の大切な人となっているのだ。だからキスが成立するかしないかの瀬戸際まで詰め寄られたら、そりゃあドキドキするのは当たり前だろ。

 

 

 俺は楓の唇で挟まれた卵焼きの本当に端っこを自分の唇で挟み、そのまま彼女の唇から引き抜く感じで自分の顔全体を後ろに下げる。

 

 

 その時、楓の笑顔が急に黒くなった。笑顔を表す擬音を使えば、今まで"ニコッ"としていたのが急に"ニタッ"と変わったのだ。

 

 

 これは……来る!!

 

 

 そして案の定、楓は俺の唇を目掛けて自分の顔を勢いよく押し付けようとしてきた。事前に何とか彼女の行動を察知していた俺は、卵焼きを落とさないように自分の顔を迅速に後ろへと下げる。

 

 

「んぐっ!!」

 

 

 すると楓は勢い余って、俺のベッドに顔を思いっきりダイブさせてしまう、可愛い。

 いつも完璧に見える彼女だからこそ、こんなおマヌケな姿は余計に微笑ましかったりする。そして顔を上げて、ちょっと涙目になっている姿も愛おしいじゃないか。こんなあざとい表情をするコイツは非常に珍しいけども。

 

 

 俺は楓からひったくった卵焼きを一口で飲み込んで、よく噛んで体内に放り入れる。

 甘い……と思ったけど、今日のは少し甘さ控えめかな。

 

 

「もうっ、お兄ちゃん避けないでよ!」

「お前、完全にキスするつもりだっただろ……」

「だってお兄ちゃんは私とずぅ~と一緒にいるんだよ?一緒にいるってことはもう恋人、いや夫婦なんだよ!!分かる?分かるよね!?」

「近い!近いって!!」

 

 

 またしてもキスをしそうな勢いで、楓は自分の顔を俺の眼前へ近付ける。顔は笑っているけど目が怖いとは、まさにこのことか。目の虹彩が有り得ないくらい光を失っているんだけど、人間ってこんな目できるの!?

 

 

「全く。こんな調子だったら朝食を食い終わるのにどれだけ時間掛かるんだよ……」

「私はお兄ちゃんとの口移しを楽しめるから、全然いいんだけどね!」

「飯が冷めちまうだろ」

「そこまでお兄ちゃんが私との口移しを楽しみにしてくれているなんて!!嬉しさでもっとお兄ちゃんを縛り付けちゃいそう♪」

「やめろやめろ!!」

 

 

 コイツ、俺を縛った縄とは別にもう1束縄を持ってやがる!!もう俺の身体はこれでもかというくらいにぐるぐる巻きにされているのに、これ以上縛るところなんてないんだが……。ていうか、よく俺を起こさずに縄で縛れたな。俺はコイツのヤンデレ気質よりも、その拘束技術を褒め称えてあげたい。

 

 

「じゃあ次はもう一度卵焼きね!」

「今度はキスしようとするなよ」

「ん~どうしよっかなぁ~♪そんなことよりお兄ちゃん、私の卵焼きどうだった?味付け変えてみたんだけど」

「確かに少し変わってたな。いつもよりも甘さが控えめっていうか、ほの――――」

 

 

 そして俺はここで言葉を詰まらせる。むしろ自分から故意に詰まらせたのだが、遅かったと感じたのは楓の顔を見た時だった。一見するとその表情は"無"、特に何も考えていないように見える。だがその瞳の奥は、底が見通せないほどの"黒"が広がっていた。

 

 

 やっちまった……つい好物の卵焼きのことを聞かれて、話し相手がヤンデレちゃんだってことを忘れてしまっていた。俺はヤンデレちゃんに言ってはならない禁止用語、つまりタブーを犯してしまったのだ。

 

 

「ねぇお兄ちゃん、どうして他の女の名前を出したの……?」

「い、いや、出してないだろ……」

「出してない?"ほの"って、どう考えても穂乃果先輩のことだよね?ねぇ?」

「違うよ。ほのかに香る甘さだって言いたかったんだ」

「嘘つかないで!!」

「!!!!」

 

 

 楓は懐から勢いよく包丁を取り出すと、刃物の先端を俺の鼻の頭に向けた。あと一寸ズレていたら、俺の鼻が見事に縦真っ二つになっていただろう。俺に包丁を向けることに一切の躊躇がないのか、彼女が包丁を握る手は微動だにしない。コイツも俺を本気で切ろうとは思ってないだろうが、この覚悟は本気だ!!早く楓をなだめないと!!

 

 

「いくら先輩たちがお兄ちゃんの彼女だからって、私といる時くらい私を見てよ!!そうだよ、やっぱりお兄ちゃんは私と一緒にこの部屋で暮らすべきなんだ。そうすれば誰も邪魔は入らないし、お兄ちゃんも私だけを見てくれる。そのために私とお兄ちゃんの愛の証を付けないとね……どうしよう?お兄ちゃんのカッコいい顔を切りたくないし、腕や手を切ったらお兄ちゃんにハグやナデナデをしてもらえなくなる。いっそ雌豚の名前を二度と口走らないように口を切っちゃう……?いや、そうすると私への愛も囁けなくなるか……お兄ちゃんから私を愛してるって言ってくれるのを、ずっと待ってるんだからね。そして何より、お兄ちゃんの大切な唇は私のモノになるんだから、傷付けることなんてできないよ。フフッ……」

 

 

 目の光を失った楓はマシンガンのような口調で俺への重い愛を囁く。割と早口で喋っていたのにも関わらず、俺は彼女の放った言葉を一字一句正確に聞き取ることができた。またさっきみたいに墓穴を掘らないよう、相手の言葉を冷静に理解し、何とかこの場を打開する一手を探し出す。

 

 さっきも言ったけど、何故かコイツは本気だ。目も行動も言葉も、まるで()()()を思い出すかのように、俺に冷汗が流れる。彼女は目から光が消えつつも、強烈な目線で俺を精神的に捕食する。俺は息を飲んで、彼女を見つめることしかできなかった。

 

 

「そうだお兄ちゃん」

「な、なんだ……」

「さっきの卵焼きねぇ、味付けがいつもと違うって言ったでしょ?」

「それがどうしたんだ……」

「まだ気付かない?あの卵焼き、隠し味にねぇ~私の唾液を混ぜてみたんだ♪ど~お?甘かったでしょ~?」

「ま、マジで……」

「それだけじゃないよ。あの卵焼き、いつもよりちょっと赤みがかってたでしょ?」

「あぁ……って、ま、まさか!?」

「そうだよぉ、私の血液も入れてみたんだぁ♪これでお兄ちゃんの身体の中に、たくさん私の体液が入っちゃったね♪これでお兄ちゃんの身体は私のモノにしたも同然!」

 

 

 楓はそう言うと、左手の人差し指を俺に見せつける。その指には絆創膏が張ってあるが、既に血液によって赤く染まっていた。それどころか、赤の滲みは徐々にその範囲を拡大させていく。

 

 ま、まさか、まだ傷口が閉じていないのか!?もしかしてさっきごちゃごちゃと暴れていた時に、閉じていた傷口が開いてしまったのかもしれない。それなのにコイツ、笑顔を崩さず俺と戯れてたのかよ……。

 

 

「おい、この指大丈夫なのかよ!?無理してんじゃねぇのか!?」

 

 

 そう考えると、俺は思わず楓の左手を掴んでしまった。それで特に何も解決できる訳ではないけど、そうせざるを得なかった。というより、俺でも気付かぬ内に、無意識的にそうしてしまっていた。

 

 すると楓は目を丸くして少し驚いたような表情をしていたが、その直後に一変、彼女の目も表情も()()()()彼女へと戻った。

 

 

 そしてそんな彼女を見て、俺も一度冷静になって分かったのだが、何やら嗅ぎ慣れている調味料の匂いがプンプンしていた。

 

 

 この匂いは――――ケチャップ?

 

 

 あっ、も、もしかして……あの指の血液って!?

 

 

「プッ、フフフ……もうダメ、笑いが収まらない!!」

「な゛ぁ!?お前まさか……」

「ゴメン、一度大声で笑わせて……」

 

 

 その瞬間、俺の部屋に彼女の高らかな笑い声が響き渡った。

 一言でまとめれば、俺はコイツに遊ばれていたってことだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁ?ヤンデレを一度やってみたかっただとぉ?」

「そうそう!それでお兄ちゃんがどういう反応するかなぁと思って楽しみにしていたんだけど、想像以上に面白い表情がたくさん見られたから満足だよ♪」

「お前なぁ……」

 

 

 話を総合すると、俺はコイツのお遊戯に付き合わされていたらしい。俺の慌てふためく顔を見たいがために、自らヤンデレを演じていたんだと。初めは冷静に対処ができていたが、途中からガチだと思うほどに焦ったぞ……。それだけコイツの演技が上手かったってことだけど、コイツの手のひらで踊らされていたみたいで、素直に褒めるのはなんか癪だな。

 

 

 確かによく考えてみれば、何故楓がヤンデレ化していたのか、その理由を全く考えていなかった。割と俺もあの状況を楽しんでいたのかもしれない。精神力は持って行かれたけども、彼女の可愛い一面も見られたから、それでイーブンにしておいてやろう。

 

 

「まさかケチャップを血液に見せていたとは……あの時はお前に気が散っていて、匂いに気付くのが遅れちまったよ」

「でもそれだけお兄ちゃんが私のことを心配してくれていたってことだよね?」

「まあ、あの時は必死だったから」

「だって私、お兄ちゃんに包丁を突き付けていたんだよ!それなのに自分じゃなくて私の心配をしてくれるなんて、私感動しちゃったよ!!ありがと♪」

「どういたしまして……で、いいのか?」

 

 

 いかん、素直に褒められると口数が少なくなってしまう病気を発症してしまっている。別に俺を試していた訳ではなさそうな分、こうして素の行動を褒められると恥ずかしいんだよな。楓の明るい笑顔を向けられると特に……。

 

 

「さっきの卵焼きには特に何も入れてないから安心してね。味付けは甘さが控えめになるように、ちょっと変えたけど」

「唾液や血液が両方入ってるって聞いた時はビビったよ。またそんなモノ食わされたのかって思ったから」

「また……?」

「あぁ、一度そんなことがあったからさ」

「へぇ~……私以外にもこんなことしてもらってたんだぁ~へぇ~……」

「なになに!?そこ病むところなの!?ていうか本当に演技だった!?」

「演技に決まってるじゃ~ん♪」

 

 

 じゃあさっきの口ぶりはなんだったんだよ!?また刃物を突き付けられそうな雰囲気だったんですけど!?『妹』+『ブラコン』+『ヤンデレ』の組み合わせって、似合いすぎるほど似合っているから逆に怖くなる。

 

 

「それでどうだった?私のヤンデレキャラは?」

「本格的すぎて結構ビビらせてもらったよ。でもやっぱり一番思ったことは、どんなお前でも可愛かったってことかな」

「も、もうなに素直に褒めてるのお兄ちゃん!!」

「お返しだ」

 

 

 コイツも俺と同じくド直球で褒められるのにはかなり弱い。穂乃果たちからも真面目モードで褒められるとかなりどもるし。そこのところまだガキなんだよなぁ……それは俺もだったか。

 

 

「私もお兄ちゃんが私のことを本気で想ってくれていると知って、とても嬉しかったよ♪あぁ~このままお兄ちゃんと()()()()で暮らせないかなぁ~♪」

「おい、どうして2人きりを強調した……」

「あ、そうだ。この縄、そのままでもいいかもねぇ~」

「ふざけんな!!とにかく俺は今トイレに行きたいんだ!!だから早く解け!!」

「えぇ~、ぜぇ~んぶ私のおクチが処理してあげるよ♪」

「っ……!!」

「あ!!今期待したでしょ!?ねぇねぇ今さっき期待したでしょ!?」

「うるせぇ!!」

「あはは!お兄ちゃん可愛いなぁ♪」

 

 

 なんだろうか。やっぱり俺って、秋葉や楓に一生遊ばれる生活を送り続けるのかもしれない……。

 

 

 その後、ミノムシ状態だった俺は何とか解放された。しかし、楓はさっきまでのヤンデレキャラが染み付いてしまっていたせいか、今日一日何度かヤンデレの兆候が見られる発言や行動があった。それを本人に問いただすと、決まって『無意識だった』と言う。演技じゃないのが逆に怖いんだが……。

 

 

 『妹』+『ブラコン』+『ヤンデレ』の組み合わせは可愛くもあるんだけど、毎日はやめてくれよな。俺の精神力的にも……。

 




 『妹』+『ブラコン』+『ヤンデレ』って最高じゃないですか?


 今回は楓の個人回でした!
 個人回ならR-17.9を執筆したかったのですが、前々からリクエスト(のようなもの)がTwitterの話題に上がっていたので、今回は久々にヤンデレちゃんを執筆させてもらいました。

 ヤンデレを執筆するのは数ヶ月に一度なので、毎回ヤンデレをどう書いていたのか忘れてちゃうんですよね(笑)
だから『この展開、前のヤンデレ回でも見たぞ』ってツッコミがあっても目を瞑ってください。一応毎回ヤンデレるキャラは変えているので、マンネリ化はないと思われます。

 それよりもそもそも、『あれ、ヤンデレって何だっけ?』と自問する始末。基本的に私のヤンデレは怖さと可愛さを上手く両立しようとしているので、ガチのヤンデレを求めている人にとっては生温いかもしれませんね。


 たーぼさんの小説『ラブライブ! ~奇跡と軌跡の物語~』とのコラボは2月7日(日)投稿予定です!


 先日『ご注文はうさぎですか?』の小説を投稿しました!少なくとも3話、続けば5話くらい執筆してみようと思うので是非ご覧下さい!
ちなみにノリは完全に『新日常』と同じですのでご安心(?)を。またあちらの小説にも感想や評価をくださると嬉しいです。


新たに高評価を入れてくださった

トランサミンさん、覇王神 ゾディアークさん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

零と絵里のパニックトレイン!

 今回はタイトル通りの絵里回です!
 そして舞台は電車内ということで、電車内と言えば……そう、痴漢ですよね!(笑)


※今回は元ネタありです


 11月。秋の寒さもいよいよピークに達し、厚着の女性が多くなってきて落ち込む一方で、俺は言いたいことがある。

 もうこんなこと周知の事実だし、今までも散々言ってきた。だがもう一度、執拗いかもしれないが敢えてもう一度言わせてもらう。

 

 

 俺は、人混みが嫌いだ。

 

 

 別に学院内だったら平気なんだけど、不特定多数の人が集まるショッピングモールや電車などはかなり煩わしい。こんな時に自分の隣に可愛い彼女がいてくれたら心も休まるのに、今日は生憎ぼっちで買い物だ。

 

 彼女が9人、彼女候補が3人もいるこの幸福なポジションの俺がぼっちで休日に買い物だなんて、悲しくなるね全く。

 

 

 駅のホームで電車を待ちながら、俺はぼぉ~とそんなことを考えていた。

 この駅は大型ショッピングモールの最寄駅ということもあり、休日は特に混雑する。今もホームには多くの家族連れやリア充カップルなど、老若男女問わずひしめき合っていた。

 

 本来ならこんなところに駆り出される依頼なんて断るに決まっているのだが、俺の可愛い彼女の1人である花陽から頼まれたらイヤとは言い出せない。本来は彼女が一緒に来てくれるはずだったのに、急な用事で来られなくなったとは……人混み以前に彼女とデートできなくなったことに意気消沈してしまうよ。

 

 

 軽く溜息を付いていると、ホームに電車到着のアナウンスが流れた。

 これから地獄の満員電車の旅が始まると思うと、意気消沈するどころか廃人になってしまいそうだ。でもこの駅から家まで歩いて帰ろうとは流石に思わない。ここは覚悟を決めて乗り込むしかなさそうだな。どうせ満員電車に乗るなら、周りが全員美少女だらけの電車に乗り込みたいものだ。

 

 

 電車が到着し、俺は渋々ながらも車両に乗り込む。

 乗り込んだ車両は一番後ろ。人が少ない訳ではないが、最後尾の車両は体感だけど一番乗車客が少なく思えたからだ。今の俺のように気持ちがブルーになっている時は、まずちょっとした心の安らぎを見つけることが重要なんだよ。

 

 そして最後尾の車両に乗り込んでみたのだが、意外にも乗車客は少なかった。席は空いてないものの、立っていても人辺りのスペースは十分確保できる。この後の駅でたくさん人が乗り込んでくる可能性もあるけど、今はとりあえず安心だ。

 

 

「あら、零じゃない」

「絵里!」

 

 

 名前を呼ばれたので振り向いてみると、乗車した扉の反対側の扉の角に絵里が立っていた。

 一瞬別人だと思ってしまったのは、今日の彼女の髪型がいつものポニテではなく、普通にストレートだったからだろう。彼女の学生離れした体型と相まって、大学生というよりかは社会人っぽく見える。

 

 

「零が1人で出かけてるなんて珍しいわね。楓に家から追い出されたの?」

「そんなことが起こりそうだったら、俺は命を捨ててでも抵抗するぞ」

「どれだけ家から出たくないのよ……それで、本当の理由は?」

「おもちゃの買い出しだよ。この前μ'sに幼稚園から、こっちに来て園児たちと触れ合ってやってくれって依頼があってな、それで俺、花陽、凛、にこが出向くことになったんだ」

「その依頼なら昨日にこから聞いたわ。なるほど、その時に使うおもちゃをね」

「そうそう。ガキでもできるようなゲームでもしようってことで買いに来たんだけど、生憎一緒に来るはずの花陽が急用でな」

「それであなた1人が買い出しに来ていたのね」

 

 

 絵里が"お疲れ様"と声を掛けてくれたのだが、彼女がいなかったら俺はこの後の満員電車でグロッキー状態になっていたかもしれないと考えると、俺から彼女にお礼を言いたいくらいだ。俺を地獄から救い出してくれた女神様として。

 

 

「絵里は何してたんだ?」

「私も買い物。秋葉先輩、またここのところ研究室に篭ってるのよ。だから先輩のために日用品をね」

「アイツ、自分の後輩をパシリにしてんのかよ……」

「違う違う!私が勝手にやってるのよ。先輩には入学当初からお世話になってるし、μ'sの面倒も見てくれているしね」

「それならいいんだがな」

 

 

 普段からイタズラしてばかりだから勘違いするかもしれないが、秋葉を指導者の立場として見れば、アイツほど優秀な人材はいない。現にこうして絵里が自ら身の回りの世話をするくらいだし、大学ではかなり可愛がられているのだろう。そういうところがあるせいで、憎みに憎みきれないんだよな。

 

 

「そういえばお前、髪型がいつもと違うとは思ってたけど、今日はスカートなのか」

「えぇ。制服や衣装以外で着るのは慣れないんだけど……」

「だけど?」

「そのぉ、ほら、零ってスカートの女の子好きじゃない?だから慣れておこうかなぁって思って」

「絵里……」

 

 

 そう言うと絵里は俺から目線を外し、頬を染めたまま電車の窓の外を眺めてしまった。どう考えても慣れないスカートとさっきの恥ずかしい発言のせいだろうが、本人は何とか誤魔化そうとしているようだ。全然できてねぇけど……。

 

 普段大人びている彼女にこういった仕草をされると、いつも以上に彼女を愛おしく感じてしまう。子供を抱きしめるように、優しく抱きかかえてあげたいと思ってしまうくらいに。

 

 

「と、ところで、どんなおもちゃを買ったの?」

「上手く話を逸らしたな」

「も、もうっ!」

「ハハハ!ゴメンゴメン!!おもちゃは色々買ったよ。ほら」

「こんなに入ってたの!?どれだけ買ってきてるのよ……」

 

 

 俺が持っている紙袋の中には、子供用のおもちゃがぎっしりと詰め込まれている。

 このおもちゃたちを買う時は割と苦労したんだぞ。男子高校生が1人で、子供のおもちゃをカゴ一杯に片っ端からブチ込んでいるシュールな光景だったからな……。

 

 

「あら、これは……猫の手?」

「あぁこれか。このボタンを押すと、猫の手が猫まねきをするんだよ、ほら」

「本当だ。可愛いわね!」

「あれ、もしかしてお前意外とこういったもの好きだったりするの?可愛い趣味あるんだな」

「か、可愛いってそんな……小さい頃、亜里沙と一緒にそのようなおもちゃで遊んでいた時の記憶が蘇っただけよ」

「亜里沙のせいにしなくてもいいのに~」

「れ~い~!!」

「悪い悪い!」

 

 

 絵里はツリ目でこちらを睨んでくるものの、猫まねきをしている猫の手のおもちゃにチラチラと目線が行っていることから、興味がない訳ではないようだ。女の子が可愛いものに惹かれるのなんて当然なんだし、別に隠そうとしなくてもいいのに。

 

 

 俺が猫の手のスイッチを切って紙袋に戻すと、何故か絵里の惜しそうな顔が……どれだけハマってんだよ!!可愛いところあるなオイ。

 

 

 そして気分が落ち着いた(であろう)絵里と世間話をしている内に、電車が次の駅に到着した。

 

 

「あぁ、結構人が乗ってきそうだな……」

「見るからにイヤそうな顔ね……ほら、もっとこっちに来ないと他の人が乗れないでしょ」

「おっと!」

 

 

 絵里に手首を掴まれ、俺の身体が彼女の方へと引き寄せられる。

 人が乗り込んでくるため仕方なくだが寄り添う形になってしまった俺たち。だがこんな人混みで周りの目がある状況だからこそ、彼女とこうしてくっついているのは相当恥ずかしい。それは絵里も同じのようで、自分から引っ張ってきたくせに、顔を真っ赤にさせて目が泳ぎに泳いでいる。

 

 そして次から次へとなだれ込んでくる乗車客たち。

 これだから休日の電車はイヤなんだよと愚痴を垂れ流す間もなく、あっという間に車両が満員になってしまった。俺と絵里もその人混みの波に揉まれて、お互いの距離がどんどん近くなっていく。気付いた頃には、既にお互いに正面から抱き合う形となっていた。

 

 

「え、絵里……窮屈じゃないか?」

「満員電車なんだから窮屈に決まってるでしょ」

「それもそうだな……」

 

 

 とりあえず、絵里を他の男に触らせないようにしないと。そのためには、もっと絵里を俺の方へ抱き寄せて……。

 

 

 そう思って手を動かそうとしたのだが、身動きすら取れないこの満員電車の中では満足に手を動かすことができなかった。そして俺の右の手のひらに伝わってくる、この柔らかな感触。このすべすべぷにぷにの感触は、この前μ'sのみんなと温泉へ行った時に味わったことがある。これは間違いなく――――――

 

 

 

 

 絵里の、おしりッ!!!!

 

 

 

 

 人混みでぎゅうぎゅうなせいで手をどけようと思ってもどけることができない。むしろ電車の揺れと手の揺れがシンクロして、絵里のおしりを意識せずとも勝手に撫で回してしまう。彼女も声を上げないように頑張っているみたいだが、俺としてはその我慢する顔を見ているだけで気持ちが高ぶってきてしまう。

 

 うっ、絵里の奴、すげぇ睨んでくる……でも仕方ないだろ!!この状況で下手に動けばそれこそ痴漢と勘違いされてしまう!!いやもう完全にやってることは痴漢そのものだけれども、一応恋人同士なんだし許されるよね?よね?

 

 

「ちょっと!もうそのままでもいいから!!あまり動かれると……んっ!」

「ちょっ、こんなところでそんな声出すな!興奮すんだろ!!」

「あなたが手を動かすからでしょ!!」

「電車が揺れるんだから仕方ないだろ!!」

 

 

 俺たちはお互いにしか聞こえないように小声で会話をするが、たまに絵里が気持ちよさそうな声を上げるため、俺の感情も次第にヒートアップしてしまう。周りに気付かれないように何とか声を抑えているが、正直手の揺れだけは電車のせいで抑えることができない。

 

 だから『電車に揺られて俺の手が絵里のおしりを撫でる』⇒『絵里が気持ちよさそうな声を上げる』⇒『俺の欲求が高まる』のループ現象から、一切抜け出すことができなくなってしまっていた。

 

 

「零、そろそろいい加減にしないと……」

「待ってくれ!これは不可抗力なんだって!どうせお前も次の駅で降りるんだろ?それまでの辛抱だ」

「そうだけど……ひゃっ!!」

「わ、悪い!!」

 

 

 またしても電車が揺れることによって、俺の手が絵里の桃を大きく撫で回してしまう。

 しかし今度はそれだけではなかった。何やらさっきから人差し指に布の感触がしてならない。おしりを触って布の感触がするって、もうそれってパンツじゃねぇか!?

 

 待てよ……ということは、俺は今、絵里のパンツの中に人差し指が入ってるってことなのか!?確かに俺の右手人差し指は今、柔らかい桃の感触とパンツの感触に挟まれている。これってもう少し指を伸ばせば、彼女の大切な部分を弄ることができるのでは……?

 

 

 ここでドス黒い欲望が、俺を侵食し始めた。

 いつもとは違う状況だと分かっている。いつもは自宅か誰かの家、それか学院内のいずれか。だけど今回は不特定多数の人がひしめき合って、しかもぎゅうぎゅう詰めになっているというこの状況。もし女の子の大切なところをまさぐっているなんてバレたら、例え恋人同士の営みであっても連行ものだ。

 

 だがしかし、そんな状況だからこそ興奮できる何かがある。快感を必死で我慢する絵里の表情、声、姿、ありとあらゆる彼女をこの目に焼き付けたい。

 

 

 スイッチは入った。もう誰も俺を止められない。

 

 

「零、あなた息荒くなってるわよ!?あまり耳に吹きかけられると……ふあっん!」

「しっ!静かに!」

「あなたがしたんでしょ――――って、ちょっと!どこ触ってるのよ!?」

「あまり大きな声を出すと、周りに気付かれるぞ」

「そんなこと言われても……んんっ!」

 

 

 他の乗客に気付かれないよう、必死に声を抑える絵里が可愛いのなんのって!!

 さっきから何度も言っているように、俺たちはぎゅうぎゅう詰めで車両に押し込められているので、手を動かそうと思ってももう彼女のおしりから動くことはない。手が動かないのはもちろん絵里も同じで、手で口を抑えて声を漏れないようにすることもできない。

 

 

 抵抗できない女の子を攻めるっていうのは、これほど興奮できるものだったのか。

 今までに感じたことのない欲求が、みるみる俺を支配していく。もう触るだけなんて我慢できねぇ、いっそのこと指に力を入れてしまうか……?この人差し指に軽く力を込めるだけで、彼女の柔らかなおしりなら簡単に指が沈むだろう。それにあわよくば、彼女の大切なところをクリクリっと……。

 

 

 そう思った瞬間だった、電車がカーブに差し掛かったためか、車両全体が大きく揺れ動いた。

 その反動で俺の指に強制的に力が入り、そのまま絵里を――――――

 

 

「ひゃっ!!あ、ん……」

 

 

 もはや周りに聞こえているんじゃなかこの声……絵里の頑張りの甲斐もなく、自分が乱れていくところを他の乗客に見られるしかないという……うん、とてもいいシチュエーションだ!もちろん彼女を誰にも触らせる気はないけどな。

 

 

 だけど1つ気になるのは、俺が指を意図的に動かしていない時でも、彼女はずっと快楽を我慢しているようなのだ。確かに彼女のおしりに俺の手が当たってはいる。だが俺は指に力を入れていないどころか、撫で回してすらもいない。

 

 まさか、俺以外の誰かに触られていたりしないだろうな!?満員電車のせいで絵里の下半身を見て確かめることは不可能なため、その場で軽く周りを見渡してみるが、特に変態な顔をした男の姿は見受けられない。男がいないというか、周りにはほぼ女性しかいない。一瞬女性専用車両かと勘違いしてしまったぞ。

 

 だが安心はできない。この世には女性同士、つまりレズ属性というものも存在する。例え女性であろうとも、俺の絵里に手出ししようなんて許せねぇ。誰だ……誰が俺の絵里を発情させているんだ!!

 

 

 するとここで、何やら機械音のようなものが鳴っていることに気が付いた。

 だけどこの音、どっかで聞いたことがあるような?しかもつい最近……。

 

 

「れ、零……」

「どうした絵里、誰にやられているんだ!?」

「ね、猫……んっ!」

「猫……?あっ!」

 

 

 この微かに聞こえる機械音の正体を今思い出した。さっき絵里に見せていた猫の手のおもちゃだ!電車に揺られた弾みでスイッチが入ってしまったのか。

 

 しかし猫の手のおもちゃに目を輝かせていた絵里であっても、こんな子供騙しのおもちゃの音で興奮するほど変態ではないだろう。だが彼女の表情はさっきよりも格段に艶やかになってる……おもちゃの音だけで発情できるってレベル高すぎだろ!!

 

 

 だが俺が異変に気付いたのはすぐだった。右手は相変わらず彼女のおしりに当てられているのだが、紙袋を持っている左手は絵里の脚と脚の間に挟まれている。そして紙袋の口の部分が丁度彼女の大切な部分に当たっていて、そこら辺から例の機械音が聞こえてくる。

 

 

 これは……もしかしてもしかしなくても!!猫の手が絵里の秘部を――――!!

 

 

「零……あまり左手動かないで、その猫の手が私に……ひゃ!んっ……!」

「分かってる。分かってるけど動かすに動かせねぇんだよ」

「でもさっきから押し上げられて……あ!んんっ!!」

 

 

 どうやら猫の手のおもちゃの猫まねきによって、絵里の下半身が思いっきりまさぐられているのだろう。俺からその場面を見ることはできないが、想像だけは大いに捗る。猫の手がゴソゴソと彼女の大切な部分を弄るたびに、彼女の喘ぎ声が可愛く俺の耳に響く。

 

 他の誰かに触られていないことが分かって安心はしたが、今度は絵里が玩具によってイキそうになっている表情を見て、さっきまで抑えられていた興奮が再び蘇ってしまう。

 

 

「はぁ!んん、あっ♡」

 

 

 とうとう絵里の喘ぎ声がガチでエロくなってきやがった。そんな声を目の前で聞かされて、欲求が高まらない男はいないだろ!!

 

 本当は紙袋を彼女の下半身から離さなければならないんだけど、痴漢電車という背徳的興奮を味わいたい俺は、逆に紙袋を持っている左手を、更に彼女の大切なところへ、敢えて近付けた。

 

 

「れ、零……さっきよりも猫が……近くに……んんっ!あっ♡」

「電車が揺れるせいだ、もう少し我慢しろ」

「だ、ダメ、ダメなの……」

 

 

 もう絵里の我慢は限界のようだ。もし彼女の抑えていた理性が崩壊した場合、彼女の淫らな声が車両全体に響き渡ることになるだろう。玩具の猫の手に大切なところをまさぐられて、満員電車内で盛大にイってしまう。もしそんなことになったら人生の汚点としか言い様がない。

 

 

「零……」

「絵里……」

「もう、もうダメ……!!」

 

 

 そして、電車内に絵里の喘ぎ声が――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁ、ようやく人混みから脱出できたぁ~!!」

 

 

 なんとか地獄の人混みに耐え、ようやく家の最寄駅へと辿り着いた。電車の中では、人混みの息詰まる空気と絵里からの淫猥な空気の板挟みになっていたから、なおさら息苦しかったぞ。

 

 でも今はそんなことより、アイツの心配をしてやるか。

 

 

「お~い絵里ぃ~、大丈夫かぁ?」

「はぁ、はぁ……」

「興奮しすぎて息を切らしたか。それに汗びっしょりだぞ、11月なのに」

「あなたが調子に乗るからでしょ!!」

「いやいや、猫の手に関しては完全に不可抗力なんだって!!」

「ホントにぃ~?突然キスまでしてきたのに……」

「ホントだって!それにキスのおかげで助かっただろ」

 

 

 まあ正確に言えば、最後以外は完全に不可抗力だったな。正確に言ったら確実にお説教タイムになるので絶対に言わないが。

 

 ちなみに絵里が電車内で淫らな声を上げることはなかった。流石にあの状況でそんな声を出させる訳にはいかないので、あの場で唯一動かすことのできた部位、つまり自分の顔を絵里の顔に近付けて、彼女にキスをする形で声を防いだのだ。声は防げたが、周りの目は痛かったけどな……。

 

 

 そして猫の手のスイッチを止める時に気が付いたんだけど、猫の手のおもちゃの先端が微かに濡れていた。これは絵里の汗なのか、それとも大切なところから漏れ出したアレなのか……さっきこっそり匂いを嗅いでみたけど分からねぇんだよ。

 

 

「零!!」

「うおっ!な、なんだ!?」

 

 

 絵里は俺の手首を力強く握り締め、上目遣い――――と言っても俺を睨む形でこちらへ詰め寄ってきた。

 

 

「今日はこれからずっと私に付き合ってもらうから」

「おい待て、俺はさっき人混みに揉まれていたせいでヘトヘトなんだ!」

「へぇ~そんなこと言うんだ~。へぇ~」

「な、なんだよ……」

「電車の中で零に痴漢されたって、みんなに言いふらしちゃおうかなぁ~?」

「な゛っ!?お、お前!言っていいことと悪いことあるだろ!!ブラックジョーク過ぎるぞそれは!!」

「海未や真姫、笹原先生に言いふらしたらあなた、どんな仕打ちを受けるのか楽しみだわ♪それに穂乃果やことり、にこに言ったら間違いなく無理矢理襲われるわよ。色んな意味で♪」

「お前なぁ~……」

 

 

 海未や真姫はまだしも、笹原先生を引き合いに出されたら、もうこっちが従うしかねぇじゃん!!それに穂乃果たちに知られるのもマズイ。一日中交代交代で痴漢電車ごっこをさせられてしまうぞ……。

 

 

「はぁ~……分かった付き合うよ。だからせめてこのおもちゃたちは家に置いていってもいいか?」

「まぁそれくらいなら。今日は私と一緒に……ね!」

「なんかお前嬉しそうだな」

「これは罰よ罰!あなたが私にした仕打ちの分だけ、今日はたっぷりと償ってもらうんだから♪」

「…………」

 

 

 本人は反論しているようだが、言動や表情はとても嬉しそうだ。別に絵里と一緒にいることが苦な訳じゃないし、こうなったら徹底的にこの陰険なお嬢様を楽しませてやるか!!

 

 それにさっきの出来事の反動からか、絵里の頬がほんのり赤くなっている。

 ま、まさか!!未だに少し興奮が残っているんじゃ……ということは、もしかしてあ~んな展開を期待してもよかったり!?

 

 

「言っておくけど、あなたが期待しているような展開はないわよ」

「お前、人の希望を簡単に打ち崩すなよな……ていうか、どうして俺の考えが分かった!?」

「変態の顔してたから」

「マジで……?」

「フフッ、冗談よ」

「絵里ぃ~覚えとけよ」

 

 

 かくして俺と絵里の痴漢電車の旅は、俺が出し抜かれるというある意味いつもの結果で幕を下ろした。

 なんか最近、自分の彼女たちに押されることが多いような……彼氏としての威厳が台無しになってない!?

 




 抵抗できない子を攻めるのは楽しいですね!!(笑)


 今回は零君の痴漢プレイに絵里が犠牲になる回でした!
 実は痴漢プレイ自体は穂乃果で一度書いているのですが、元ネタを見ていたら私も同じシチュエーションで書きたくなってしまいまして、今回は絵里に犠牲となって書かせてもらいました。

 やはりこのような話は執筆中に妄想がどんどん肥大化しちゃいまして、文字数が多めになってしまうんですよね。『日常』の頃は4000字書くだけでも精一杯だったのに、今では7000字、8000字はもはや普通に……私の妄想力も着実に進化しているようです(笑)


 次回は木曜日か金曜日辺りに真姫回、それかそのまま日曜日まで飛んでコラボ回のいずれかになります。また段々と投稿ペースは落ち込んできそう……


たーぼさんの小説『ラブライブ! ~奇跡と軌跡の物語~』とのコラボは2月7日(日)投稿予定です!


 先日『ご注文はうさぎですか?』の小説を投稿しました!少なくとも3話、続けば5話くらい執筆してみようと思うので是非ご覧下さい!
ちなみにノリは完全に『新日常』と同じですのでご安心(?)を。またあちらの小説にも感想や評価をくださると嬉しいです。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ツンデレっ娘と一心同体!?

 今回は真姫回です!
 前回の絵里回同様の元ネタを参考にしてみたのですが、文字にしてみると思った以上に犯罪臭がプンプンと(笑)


 

「はぁ?真姫の様子がおかしい?」

「うん。そうなんだよねぇ」

 

 

 今まさに寝ようとしていた時、突然楓が俺の部屋にやって来た。

 また一緒に寝ようとか言い出すんじゃないかと思ってたけど、彼女の口から出たのは真姫の様子が最近いつもと違うという、彼女としては珍しく他人を心配する言葉だった。

 

 

「様子がおかしいって、どうおかしいんだよ?」

「なんだかぼぉ~っとしてたり、難しそうな顔してたり、思い当たる節は結構あるんだよ」

「そうなのか。俺が見る限りではそんなことないような気がするんだけど……俺が気付いてないだけなのかなぁ」

 

 

 彼女たちの様子を伺うために常にアンテナを張っているなんて、そんな精神力が削れることはしていないけど、彼女たちの異変にはこの俺がいち早く察知するべきだった。恋人として、そして仲間として、共に歩いて行くと決めたのに……。

 

 でも今はそんなことで悩んでいても仕方がない。目下の目標は真姫の様子がおかしい原因を探ることだ。

 

 

「その様子だと、お兄ちゃんは全く心当たりがないみたいだね」

「あぁ、情けねぇけどな。言い訳じゃないけど、真姫は悩み事があっても自分の中で溜め込むタイプだから」

「こっちから聞き出さないと原因は分からないってことか」

「そうそう。素直じゃねぇからなアイツ」

 

 

 いくら俺に相手の様子を察知する能力があっても、根本的に解決するには相手から悩みを打ち明けてくれないとどうしようもない。真姫はそこのところが不器用だから、こっちから聞いても中々打ち明けてくれないことがあるんだよな。

 

 

「どうするのお兄ちゃん?」

「そりゃあ解決したい決まってるだろ。でも平日は放課後くらいしか会えねぇし、その放課後はμ'sの練習だしで、中々聞く暇がねぇんだよな」

「休日は?」

「俺が家から出たくない」

「本当に悩み解決する気ある……?」

「アイツに悩みがあるかってのはお前の推測なんだろ?そんな推測に休日を潰されてたまるか。真姫の様子は俺が自分の目で見極める」

 

 

 真姫は最近少なくとも俺の前では苦い表情を見せたことはないが、単なる思いすごしで済ますのは俺自身が気になってしまうため、見過ごす訳にはいかない。上手いこと休み時間に呼び出して聞いてみるのが得策かな。

 

 

 そしてもう1つ気になるのが、ここにいるコイツ、楓だ。

 なんか妙に悪い顔をしているような気がするのは俺の思い過ごしか?俺の勘が告げている、今から良からぬことが始まりそうだから、全力で避けろと。

 

 

「実はねお兄ちゃん、私にいい考えがあるんだけどぉ~」

「却下」

「えぇ、どうしてぇ~!?」

「今のお前の顔。確実に良からぬことを企んでいる顔だから」

「フフッ、バレちゃったらしょうがないか……じゃあちょっくら手荒になっちゃうけど、許してね♪」

「お、おい!なんだそれは!?」

 

 

 楓は突然、おもちゃの光線銃の銃口を俺に向けてきた。

 単なる子供騙しのおもちゃなら俺は驚かない。でもそのおもちゃの正体をすぐに察してしまった俺に、大量の冷汗が流れる。

 

 

 この光線銃、絶対にmade in 秋葉だ!!

 

 

「はいばきゅーん!!」

「うわぁ!?」

 

 

 コイツ、なんの躊躇いもなく打ちやがった!?秋葉製の製品の取り扱いにはいつも注意しろって言ってんのに!!

 

 光線銃の銃口から一直線に光が放たれ俺の身体にぶち当たると、その光が瞬く間に全身を包み込む。この感覚……いつやらか感じたことがあるぞ。この身体が不自然なく変形していく、この異質でありもう慣れっこになっているこの感覚を!!

 

 

 そこで俺は一瞬気を失っていたのだが、目が覚めて気付いてみたら――――――

 

 

 

 

 パンツになっていた。

 

 

 

 

「おぉ~!さっすがお姉ちゃんの発明品!!まさかヒトをここまで本物そっくりのパンツに擬態させちゃうなんて。可愛いパンツだよお兄ちゃん♪」

 

 

 パンツ、パンツ、パンツぅううううううううううううううううううううううううう!?なんでこんなことになってんだぁあああああああああああああああああああ!!

 

 今までガキになったり女の子になったりしたことは数あれど、無機物になってのはこれで――――あ、2回目か。そういやスポンジになって絵里と希の身体を洗ったこともあったっけ。だから光線銃のあの光に慣れていたのか……。

 

 

「お兄ちゃんがスポンジになった時のメカを小型化したモノらしいんだよ。この前お姉ちゃんの研究室を掃除した時に勝手に持ってきちゃった♪」

 

 

 怪しいモノをこの家に持ち込むなってあれほど言ってるだろ!!

 ――――と声を出そうとしても出せない。そりゃあパンツになってるんだから仕方ないか。

 

 

「作戦はこうだよ。話によると、真姫先輩は朝シャワーを浴びるらしんだよね。だから私が夜中にあらかじめ先輩の家に忍び込んで、パンツになったお兄ちゃんを洗面所に仕込んでおくの」

 

 

 忍び込むって、また物騒なことを……でも待てよ、そうなるとパンツとなった俺は真姫に履かれるってことだよな……?

 

 

「だからお兄ちゃんは真姫先輩の下着となって、先輩の悩みを探ってきてね♪無理矢理聞き出したら誤魔化されるかもしれないし。あぁ、でもできることなら私が履きたかったなぁ~」

 

 

 まぁパンツにされた時点から大体こうなるだろうとは予想が付いていたよ。真姫の悩みを解決するためとはいえ、バレたら確実に俺をパンツごと八つ裂きするだろうな……。

 

 

「一応念には念を入れて先輩が朝シャワーを浴びたくなるように、寝ている間寝室の暖房をフルパワーにしておいてあげるよ!これで先輩は汗だくになって、確実に朝シャワーを浴びるはず」

 

 

 賢い手なのかそうでないのかは別として、やっていることは完全に嫌がらせの何物でもない。楓の奴、真姫の悩みなんて二の次で、この状況を存分に楽しんでやがる。まあいつものことだがな……。

 

 

「それじゃあお兄ちゃんはちょっと眠っててね!催眠ガスだから、気にしなくても快適な眠りをサポートしてくれるよ!えっ、どうして眠らせるのかって?だって変に暴れられたら、侵入した時に見つかってしまうかもしれないでしょ?ということで、は~いプシュー♪」

 

 

 ゲホッ!ゲホッ!!コイツ、有無を言わさず催眠ガスを吹きかけやがった!!スプレー缶から大量がガスが放出され、パンツとなった俺を包み込む。しかも自分はちゃっかりいつの間にかガスマスクを装着しているし、ただのイタズラにどれだけ用意周到なんだよ!!

 

 ダメだ、抵抗する間もなく眠気が襲ってきやがった。でもこの状態じゃどうすることもできないし、ここは腹をくくって真姫の下着に成りきるしか…………

 

 

「おやすみ、お兄ちゃん。先輩のために頑張ってね♪」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして再び気が付いた時には俺は、真姫の家の洗面所にいた。

 初めは夢であってくれと願っていたのだが、この高級感煽るる無駄に広い洗面所を見渡せる辺り、残念ながら俺は正真正銘のパンツとなっているようだ。しかも楓によると、かなり可愛いパンツになっているみたいで……。

 

 

 窓の外から光が差し込んでいるので、どうやら今は朝みたいだ。

 何より、風呂の中から聞こえてくるシャワーの音にドキドキしてならない。今まで幾度となく女の子のシャワー音を聞いてきたのだが、これほど心臓(パンツの俺にあるのかは知らないが)がバクバク不規則に鼓動するのは初めてだ。今から真姫の局部に直接触れると思えば、そりゃあねぇ……。

 

 

 すると遂に洗面所の扉が開いた。

 そこには、そこには、バスタオルを手に持った真姫の姿が!!水も滴るいい女とはまさにこのことか!!髪や肌から垂れる雫がなんとも艶かしくて色っぽい。

 

 

「ふぅ、昨日はやたら蒸し暑かったわね。まさか部屋の暖房が入っていたとは思ってなかったわ」

 

 

 み、見えた!!真姫の生まれたままの姿を、この目でしっかりと捉えてしまった!!

 俺の手にジャストフィットする程よい胸、引き締まったスタイル、そして今から俺が守ることになる、彼女の大切なところが!!なんか興奮して鼻血出そう!!パンツだけど鼻血が出そう!!

 

 

 そして真姫はバスタオルで自分の身体を拭きながら、パンツとなっている俺に手を伸ばす。

 右足を通し、左足を通し、ふくらはぎ、太ももを経由しつつ、最終的にはもちろん――――――

 

 

 彼女の大切なところへ、ピタッとくっついた。

 

 

 ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 真姫の大切な部分のカタチがそのままそっくり俺に伝わってきやがる!!まさかこんな形で彼女の局部に触れることになるなんて、もう自分がパンツだってことを忘れて興奮してしまいそうだ。いや、してるんだ!!それにシャワーを浴びた直後だからか、彼女の下半身がほんのり暖かいのが余計にリアルさを際立たせる。まだ彼女に履かれて数秒なのにもうオーバーヒートしてしまいそうだ。

 

 

「なんかこの下着、妙に暖いような……気のせい?」

 

 

 や、やべっ!俺が熱くなると同時にパンツも熱を帯びるのか……じゃあ下手に興奮することもできねぇじゃねぇか!!女の子の大切な部分に触れているってのに、今日一日中ずっと無心でいろっていうのか!?心頭滅却の境地に辿り着かない限り無理だろ!!

 

 だがもし見つかってしまうと、パンツごと廃棄に出される未来しか見えない。ここは彼女の悩みを解決するためにも、まずはその原因を探らなければ!もちろん無心で……って、できるかなぁ?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そしてただいま真姫さんは絶賛登校中!

 こんな実況ができるほど、一応心の平静を取り戻した――――かのように思えた。実際には家にいる時と登校中では明らかな違いがある。

 

 それは真姫が歩くために足を動かすたびに、パンツである俺も当然それに合わせて動いてしまう。そうすると伝わってくるのだ、彼女の大切な部分の感触が、手に取るように!!

 

 こんなことを言ったら究極の変態に思えるかもしれないが、今の俺は彼女のおしりと大切な部分の両方を撫で回している感覚なのだ!この感触がさっきから延々と繰り返されているんだぞ!?こんなの無心でいられる訳ねぇだろいい加減にしろ!!

 

 

 いつ気付かれるか分からない恐怖には怯えなければならないものの、気付かれなければこれほどの役得はないのでは?しかも今は彼女のパンツとなっているので、俺の全身で彼女の下半身の感触を味わっていることになる。こんな大胆なセクハラ見たことも聞いたこともないぞ……。

 

 

「ん……?」

 

 

 あっ、真姫が違和感を抱き始めた。パンツのことなのかは定かではないが、察しの良い彼女のこと、もしかしたら俺がパンツになっていることくらいバレてもおかしくはない。だってこれまで何度か秋葉の奇想天外な発明の犠牲になっているんだから、もう今更並大抵の仰天現象でも驚かないだろう。それくらい俺たちは訓練されてきているのだ。

 

 

 その後は無心には成りきれなかったものの、ある程度は慣れてきたので熱暴走だけは抑えることができた。だが結局真姫の局部とおしりに密着していることには変わりないので、いつまた興奮が煽られるか分からない。真姫たちのクラスに体育がないことを祈る!激しい動きをされたら俺が持たなくなりそうだから……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はーい!それじゃあストレッチを始めてくださーい!」

 

 

 俺の願いは儚く散った。フラグでもないネタでもない、まさか本当に体育があるとは……。

 歩いているだけでも真姫の下半身の感触が手に取るように伝わってきたというのに、あれ以上激しく動かれたら欲求が高ぶりすぎて果てちゃうよ俺。

 

 

 体育の先生の掛け声と共に、2人組でのストレッチが始まった。体操服姿の女の子のストレッチとか、男子の俺は中々見られない光景で非常にワクワクするのだが、残念ながら真姫の体操ズボンに阻まれて見ることはできない。

 

 会話から推測するに、真姫と花陽が組んでいるようだ。

 そして現在、真姫が両足を開いて地面へ座り、花陽が真姫の背中を前へ押して前屈のストレッチをしている最中なのだが、何がヤバイって、予想以上に食い込んでヤバイ!!何が食い込んでるって?俺と真姫のアレだよ察して!!

 

 

「真姫ちゃんどうしたの?調子悪い?」

「えっ、別にそんなことはないけど」

「けど……?」

「いや下着が――――って、なんでもない!!」

「下着……?まさかサイズが合ってないから苦しいとか?」

「……そう。ちょっと食い込んでるというか……ストレッチしながら話す内容じゃないわね」

「そうだね、あはは……」

 

 

 真姫の奴、相当違和感持ってるな……違和感が彼女に伝われば伝わるほど、俺がパンツだとバレた時の極刑が重くなっていくだろう。

 

 だが真姫が動くたびに反応して彼女の下半身を締め付けてしまう。もう俺自身が大人の玩具の一種のようだ。女の子を気持ちよくさせる玩具たちは毎回こんな気持ちを味わっていたんだな。俺は女の子を気持ちよくさせるのが仕事じゃねぇけど……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「真姫ちゃーーーん!!英語の宿題見せてくれない?ちょこっと、ちょこぉ~っとだけでいいから」

「イヤ」

「もーー!真姫ちゃんのケチ!!」

 

 

 凛の奴、やってること一年前の穂乃果と変わらなんな……。

 そんな訳で体育の授業から何とか生還したのだが、肝心なこと、つまり真姫の悩みについては全く分かっていない。そもそも悩みどころかずっとパンツのことを気にしているみたいだし……折角彼女の悩みを解決するためにパンツになったのに、ずっとパンツのことを気にされたら結局本末転倒じゃねぇか。

 

 

「そういえばこの前真姫ちゃん、また男子に声を掛けられてたよね。相変わらず真姫ちゃん人気者だにゃ~!」

「最近また話し掛けられる回数増えたよね。もしかして、真姫ちゃんのことが好きだったりするのかな?」

 

 

 なんだとォ!?俺の真姫に手を出そうとしている輩がいるってのか!?凛と花陽の話が本当なら、俺はその男子を骨にして墓に埋葬しなければならない。

 

 あっ、もしかして、悩みっていうのはそのことだったりするのか?執拗い男子に付き纏われて困っているとか。でも彼女は言いたいことがあるならズバッとストレートに言う性格だし、いちいちそんなことでは悩まないと思うんだけどなぁ。

 

 

「さぁどうかしらね。多分そうだったとしても、適当にあしらうけど」

「そもそも凛たちは零くんたちと付き合ってるしねぇ~」

「流石に同じ彼氏と付き合ってるなんて言えないもんね……」

 

 

 言えないからこそストレートに断ることができず、諦めの悪い男子に付き纏われているとか?そうだとしたら俺も他人事じゃなくなってくるぞ。だけどこの問題に第三者の俺が安易に首を突っ込んでいいものかどうか……やっぱり恋愛は苦手だな。考えるだけでも頭がごちゃごちゃしてきやがる!

 

 

 いかん、考えすぎて段々熱くなってきた。これが知恵熱ってやつなのか?ただでさえ真姫と密着していて蒸し暑いのに、自分から熱くなったらそれこそ彼女にバレてちまうぞ!?とりあえず軽く息を吐いて冷却しよう。彼女に気付かれないように細心の注意を払いながら……。

 

 

「!?」

「真姫ちゃん、どうしたの……?」

「凛、宿題見せてあげるから自分の席に戻りなさい」

「わーい!ありがとう真姫ちゃん!!」

「も、もしかして、さっき言っていた下着のこと?」

「えぇ、なんだか湿っぽくて」

「さっき体育だったからじゃない?今日は結構気温も高いし、いつもより汗かいちゃったんだよ」

「そうなのかしら……」

 

 

 なんか思った以上に怪しまれてる!?もしこれが秋葉の発明品のせいだと気付いた暁には、この2人が真実へ辿り着く時も近い。何とか心を落ち着けて平静を保たなければ!今の俺は真姫を守るパンツ!!彼女の大切な部分をガードするパンツなんだ!!神崎零じゃない、彼女のパンツだ!!

 

 

「気になるから、μ'sの練習前に一度家に帰って着替えてくるわ。みんなには忘れ物して遅くなるって言っておいてくれる?」

「うん、分かった」

 

 

 ふぅ~とりあえず助かった。体育よりμ'sの練習の方が動きが激しいから、練習の時もパンツのままだったら確実に彼女の下半身をグイグイ押し付けられて窒息死していたな……。女の子の大切なところで死ぬのなら本望だけど。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 現在、真姫は下着を着替えるために一旦学院から下校中。

 11月なのにも関わらず今日はいつも以上に蒸し暑かった。そのせいでパンツは蒸れ蒸れになるし、真姫には何度も怪しまれるしで散々だったぞ。それに彼女の悩みに関しても一切収穫がなく、唯一楽しめたのは彼女の下半身を全身で感じられたことくらいだ。

 

 

「はぁ、いちいち家まで戻るのは面倒ね。今まで下着に違和感なんて感じたことないのに……」

 

 

 そりゃあ自分の彼氏がパンツに擬態しているなんて今までなかっただろうからな。俺だって真姫の感触を味わったことと引き換えに、多大なる精神力を削がれてしまったから、こんなことになるのは後にも先にもこれ一回にして欲しい。これも秋葉や楓のさじ加減だけどさ……。

 

 

 

 

 その時だった。俺の身体に異変が起きたのは。

 パンツとなった俺の身体から僅かに煙が出始めていた。それに俺が意図していないのに俺の身体が、勝手に彼女の下半身をぎゅうぎゅうに締め付けている。

 

 

「ちょっ、なによこれ!?そ、そんなところに……んっ!!」

 

 

 真姫のおしりや大切なところに、俺の身体がどんどん食い込んでいく。本来ならその感触を楽しみたいのだが、この後に起こるであろう展開を予測すると、呑気にそんなのを楽しんではいられない。それに身体がぐにゃぐにゃと押しつぶされる気持ちの悪い感覚で、それどころでもない。

 

 

「あっ、はああっ!」

 

 

 真姫は道の真ん中で色っぽい声を上げているが、俺はそれを気にする余裕もなかった。

 

 そして誰もが予想していたであろうことが遂に現実となる。

 煙が真姫を中心として煙幕となって広がった。その瞬間、俺はさっきまでの押しつぶされた感覚から一気に解放される。動く、手も足も身体全体も……だが、顔だけは真っ暗なままだった。

 

 

「けほっ、けほっ!もう、一体なんなのよ……!!」

「むぐぐぐ……」

「れ、零!?」

 

 

 俺の顔面には、真姫が跨っていた。もちろんパンツとなっていた俺はもう人間に戻ったため、今の彼女のスカートの中は当然――――――

 

 

 

 

 そして閑静な住宅街に、手のひらと頬っぺの衝突音が甲高く鳴り響いた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「で?私の悩みを探るため、秋葉さんの発明品を使って私の下着に擬態していたと……」

「…………」

「…………」

 

 

 俺は真姫から頬に特大級の平手打ちを貰ったあと、密かに後をつけていた楓と共に俺の家で正座をさせられていた。さっきからイライラしたりため息を繰り返したり、怒りと呆れを交互に繰り返しているようだ。今回ばかりは流石に同情するよ。

 

 

「いやぁまさかこんなに早く効果が切れるとは思ってなくって。ゴメンなさい先輩♪」

「謝るのはそこじゃないでしょう!!まず人のパンツに成りすまそうとする、その穢れた発想を反省しなさいよ!!」

「ご、ゴメンなさーーい!!」

 

 

 楓は冗談交じりで謝るも、キレにキレている真姫に圧倒されてしまった。楓が素直に謝罪の言葉を口にするなんて珍しいぞ。それだけ今の真姫に恐れをなしているってことか。それは俺もだけどさ……こんな鬼の形相の彼女初めて見た、今にも首を刈り取られそうなんだけど……。

 

 

「今日のことといいこの前の旧講堂のオークションといい、アンタのことで頭を悩ませていたのよ!!ちょっとは反省しなさい!!」

「えぇ!?私が原因だっただなんてーーっ!!」

 

 

 なるほど、真姫は楓のことで悩んでいたのか。だから俺の前で悩んでいるは姿を見せず、楓の前では苦い表情を見せていたんだな。悩みの原因は楓なんだから、そりゃあそうなるわ。

 

 

「まあまあ、一応楓はお前のことを心配して――――」

「あなたは黙ってて!!」

「はい……」

 

 

 結局、真姫の説教は2時間以上も続いた。

 今日のμ'sの練習に参加できなかったことは言うまでもない……。

 

 

 

 

 ていうか、今回俺も被害者だよね!?

 




 素直な話、真姫ちゃんのパンツになりたい人はたくさんいるはず(断言)


 今回は真姫回でした!
 最近元ネタとなった漫画を一気読みした影響で、ネタの引用が2連発になってしまいましたが、やはりこのネタの発想力は素晴らしいものです。私ももっと勉強しなければ!

 これで新章に入ってからμ's全員のメイン回は一通り完了しました。これからはいつも以上にまたのんびりと執筆していきましょうかね。そして零君自身の回、俗に言う真面目な回も今後予定しています。


 そして次回はいよいよコラボ回です!まだ相手方の小説を読んでいない場合は是非今の間に読んでおきましょう!
 たーぼさんの小説『ラブライブ! ~奇跡と軌跡の物語~』とのコラボ小説は2月7日(日)の21時に投稿予定です!


新たに高評価を下さった

絢未さん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別コラボ企画】ヤンデレシスターズの遊戯

 今回は前々から予告していた、たーぼさんの小説『ラブライブ! ~奇跡と軌跡の物語~』とのコラボ小説となります!

 自分の得意分野である妹キャラ成分、ヤンデレ成分、R-17.9成分をここぞとばかりに詰め込んだので、たーぼさん側から来た読者さんも是非楽しんでもらえればと!

 ヤンデレ成分につきましては今回かなりマイルドに仕上げましたので、苦手でもお楽しみ頂けると思います。


※注意事項
・学年はこちらの小説に合わせます(拓哉くん3年、唯ちゃん1年)
・コラボ小説なので、基本的に相手方の小説とのキャラの絡みをメイン
・μ'sの出番は希薄


 それではいつもの『新日常』のように、ゆっくりまったりとしながらご覧下さい!





「なに?拓哉がいなくなっただぁ?」

「はい、いくら携帯で呼び掛けても出ないんです!!」

 

 

 廊下を歩いていた俺に突然後ろから話し掛けてきたのは、俺の親友である岡崎拓哉の妹、岡崎唯だった。唯は膝に手を付いて、無駄に色っぽくはぁはぁと息を切らせている。

 

 なに?もしかして襲っていいよってサインなの?こんな可愛い妹を1人で放置させておくなんて、随分危ない真似してるじゃねぇか拓哉クンよぉ~。

 

 なんて冗談はさて置き、どうやら唯は相当焦っているご様子。よっぽどの急用があるのだろうか?

 

 

「零さん、お兄ちゃんがどこへ行ったのか知りませんか?」

「さぁね」

「なんでそんなに返事が軽いんですか!?お兄ちゃんが音信不通なんですよ!?」

「ただトイレで気張ってるだけかもしれないだろ」

「お兄ちゃんはトイレなんてしません!!」

「いつの時代のアイドルだよ!!つうか拓哉は別にアイドルでもなんでもねぇし!!」

 

 

 全く、どうして俺の周りはこうもブラコンシスコンの妹たちしかいないんですかねぇ……。雪穂はまだいいとしても、亜里沙はお姉ちゃん大好きっ子だし、楓や唯は言わずもがな。1年生組のキャラが変な方向に偏っているんだよな。

 

 

「俺が教室を出る頃にはもういなかったし、部室で誰かと話し込んでいるとかそんなところだろ」

「真面目に考えてます?」

「控えめに言って、考えてない」

「零さーーーん!!」

「ぐぅぅぅ!!首絞めんな!!」

 

 

 いくら愛しのお兄ちゃんに会えないからって、お兄ちゃんの親友の首を躊躇なく締め上げるかね!?もしかしてコイツ、普段も拓哉にこういうことしてないだろうな!?自分の身の回りも相当危ないけど、この唯のブラコンっぷりを見る限り、アイツの周りも相当修羅じゃないのか……南無阿弥陀仏。

 

 

「だったら一緒にお兄ちゃんを探してください」

「お前そんなに過激な奴だったっけ!?」

「妹がお兄ちゃんを心配するのは当然ですよ!さぁ吐いてください!お兄ちゃんの居場所を!!」

「だから知らねぇっつてんだろ!!」

 

 

 拓哉が溺愛し過ぎているから唯がこんなにヤンデレちっくになるんだよ。去年まではまだ普通のブラコン妹だったのに、今年になって妙にヤンデレの兆候が見え始めた。首を締める強さも中々容赦がなかったんだが……。

 

 それにしても今日の唯、いつも以上に気性が荒いような気が……拓哉に会えないだけでここまで過激になったりはしたことないんだけど。ていうかアイツに会えないだけで毎回こんなことをされていたら、俺の方が死んじまうって。

 

 とりあえず行方が分からないものは本当に分からないので、こんな話をしていても無駄だ。とっととあしらおう。今のコイツといるのはかなり危険だと、事あるごとにヤンデレと遭遇する俺の勘がそう告げている。

 

 

「どうせあれだろ。またそこら辺で女の子でも助けてるんじゃねぇのか」

「…………は?」

 

 

 あっ、しまった!コイツに一番言ってはならない言葉を言っちまった!?

 ついつい相手をするのが面倒になって本音を漏らしてしまったよ。そう本音、拓哉は無自覚でそういうことをする奴だから、あながち間違ってはない。もちろん唯に掛ける言葉としてはこの上なく最悪だが……。

 

 

 いかん、すっごい睨まれてる……。

 こんなツリ目の唯は見たことがないぞ……それに妙に髪の毛も逆だっているし、これって相当ヤバイやつでは?ていうか、俺完全にとばっちりじゃん!!アイツが勝手にいなくなるのが悪いんだろ!?

 

 

 さて、この状況をどうしたものか。

 思わず失言を漏らしてしまったことで、唯の様子がいつもの穏やかな雰囲気から、鬼のような風貌に変貌してしまった。この唯を抑えられるのって拓哉しかいないんじゃあ……あれ、もしかして……詰んだ?

 

 さっきまでのどかな放課後を過ごしてたはずなのにおかしいな、突然魔界のモンスターにエンカウントしてしまったぞ。なるほどここは魔王城だったかぁ~それなら仕方ないなぁ~!

 

 

 ――――てな具合で現実逃避したいほど、目の前のヤンデレ気味のブラコン妹ちゃんの迫力が半端ない。

 

 

 つうか本当にどうするのこの状況!?頑張って応戦して元の優しい彼女に戻してあげる?でも拓哉みたいに男女平等に女の子を殴るなんて真似、俺にはできないんだけど!?このままやられるのを待つだけなんてイヤぁああああああああああ!!

 

 

 

 

「あれ?零君、唯?」

 

 

 

 

「雪穂!?」

「雪穂……」

 

 

 今にも唯に性的な意味ではなくマジで襲われそうになっていた俺の目の前に、救世主である雪穂が現れた。女の子に廊下の角に追い詰められている情けない男子生徒(3年生)と、髪の毛が若干逆上しているブラックオーラ全開の女子生徒(1年生)。そんな奇々怪々な状況に雪穂は目を丸くして驚いている。

 

 

「零君、何してるんです……」

「何をしていると思う?」

「とりあえず唯の迫力に圧倒されているのは分かりました」

「正解。だから助けて」

「情けないですね……」

「あぁ、自分でもそう思う……」

 

 

 失言はあったけども、俺は完全に被害者なんだよ分かる!?可愛い女の子の行方なら多少ストーカーをしてでも知りたいと思うけど、例え親友だろうと野郎の行き先なんていちいち知りたいとか思うかよ。

 

 

「ほら唯、落ち着いて。零君困ってるから」

「まあ、雪穂がそう言うのなら……」

「どうして雪穂の言うことを聞いて俺の言うことは聞かないんですかねぇ!!」

「変態野郎の言うことを聞く義理はありません」

「唯、お前サラッとそんなこというなよ。俺の繊細な心が傷ついちゃうぞ」

「可愛い女の子になら何をされても喜びますよね?」

「ひでぇなお前!もう何度も言ってるけど、Mじゃないからね!!」

 

 

 どうしてお兄ちゃんに対してはあんなに甘えん坊なのに、俺に対してはこんなに辛辣なんだよ。これは一刻も早く拓哉を見つけ出して唯のご機嫌を取らないと、ずっと彼女のストレス発散のためのサンドバッグにされてしまうぞ……。

 

 

 すると座り込んでいた俺の目の前に雪穂が歩いてきて、唐突に俺の手首を力強く握った。いや、握ったというよりかは握り締めている。ちょっ、普通に痛いんだけど!!

 

 

「さあ行きますよ零君」

「そ、それはいいけど」

「けど?」

「痛いんですけど……」

「たく兄もそうだけど、零君もすぐ可愛い女の子に靡いちゃうんですから。だから私が守ってあげますよ、一生ね……フフッ」

 

 

 ゾクッと、全身に怖気が走る。一瞬こちらに覗かせてきた笑顔に、そこはかとない黒さを感じた。一言で言えば独占欲、そんな欲望がひしひしと彼女から伝わってくる。それは決して俺の勝手な感覚ではなく、俺の手首を脈を止めるかのように握り締める彼女の力の強さが証明している。

 

 

 それにしても今日の2人、やけに俺や拓哉を求めているような、そんな気がする。それも甘えたいとか構って欲しいとかそんな可愛いものじゃなく、さっき言った真っ黒な独占欲がこの2人からドロドロと放出されている。下手に触れれば即座に切られてしまいそうな、危険な雰囲気……。

 

 

 なるほど、また俺に『妹』+『ヤンデレ』のコンボを仕掛けてきたんだな。だが俺はヤンデレ対処マイスター、もう身の回りの女の子たちが突然ヤンデレになっても驚かねぇからな。

 

 

 周りの女の子……そうだ、他の1年生のメンツはどこへ行ったんだろうか。

 

 

「そういえば楓と亜里沙は一緒じゃないのか?」

「私が教室を出る時には、もういませんでしたけど」

「え、それって……」

 

 

 俺が教室を出る時にも拓哉は既にいなかった。そして楓と亜里沙も既にいなかったという。

 あれ、まさかとは思うけど……この3人もしかして!!

 

 

「多分だが、拓哉が誰といるかが分かった気がする」

「誰ですか!?お兄ちゃんは誰と一緒にいるんですか!?どこぞの雌にちょっかいを!?」

「ぐぇっ!?だから首絞めんなって言ってんだろ!!」

「ほら零君、早くたく兄を探しに行きますよ!!」

「助けろや!!ていうかそろそろ脈を握りつぶされそうなんですけど!?」

 

 

 これ、拓哉を見つけ出す前に俺が死んじゃうのでは……?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、拓哉くん……」

「亜里沙!?いきなり何この状況!?」

「やっと目が覚めたんですね、拓哉先輩♪」

「楓まで……」

 

 

 呑気に眠っていた先輩を可愛い笑顔で迎える、後輩の鏡とは私のことだよ!

 てなわけで、ただいま私は窓もない密室に拓哉先輩を監禁している最中なのです。どうしてそんなことをしているのかって?そりゃあ今までずっと練りに練ってきた計画を遂行するためだよ!

 

 どんな計画かって?慌てない慌てない、そんなことだから早漏って言われるんだよ♪

 

 

「色々聞きたいことがあるんだが、とりあえず亜里沙、俺の上からどいてくれないか?」

「えへへ、イヤです♪」

「いやぁ相変わらずモテモテですねぇ先輩」

「いや全く状況が掴めねえんだけど」

「でも亜里沙に抱きつかれて嬉しいでしょ?」

「…………はい」

 

 

 椅子に縛り付けられた拓哉先輩に亜里沙がよじ登って、まるで恋人かの如く抱きつく。

 私知ってるよ、拓哉先輩が案外むっつりスケベだってこと。やっぱり男の子はみんな変態さんなんだよ。亜里沙に抱きつかれて先輩の顔がみるみる赤くなってるし!

 

 

「これは楓がやったのか……?」

「そうですよ!先輩がアホ面下げてぼけぇと廊下を歩いていたので、後ろから殴って気絶させちゃいました♪」

「なんで流れ作業のように人を殴ってんの!?やってること完全に通り魔じゃねえか!?」

「まあまあ落ち着いてください。私の要求に従ってくれたらすぐに解放しますんで」

「要求?」

 

 

 そう、拓哉先輩を監禁したのも、すべては私の計画を実行に移すため。もちろん先輩が簡単に私の計画に乗ってくれるとは思わないけどね。だからこそとっておきの秘密兵器を用意してあるのだよ!!

 

 

「ただ手伝って欲しいだけですよ、お兄ちゃんの周りにいる雌豚の殲滅に……」

「は、はい……?」

「拓哉先輩もそうですけど、お兄ちゃんも大概女の子に好かれる性格ですから。私たちのクラスでもいつの間にかお兄ちゃんに助けられて、好意を持っている子が多いみたいで」

「別にいいことなんじゃないのか?零だって女の子にいい顔しようと思ってる訳じゃないだろうし」

「むしろ無自覚にフラグを立てるお兄ちゃんの方がタチ悪いですよ!!だから私は決意したんです。お兄ちゃんの女ったらしはどう足掻いても直せない。だったら周りにいる女を消し去るしかないんだって」

「なにその超理論!?そんなの俺にどうにかできる問題じゃないだろ」

 

 

 先輩は分かってないなぁ~!むしろ先輩だからこそできる、いや、先輩にしかできないことだから私はわざわざ手間を掛けてまで監禁したんだよ。それに亜里沙という先輩を懐柔させるための要因を連れてきた訳だし、これ以上私に手間を掛けさせないでね♪

 

 

「先輩がお兄ちゃんの周りの女の子を堕とす、それで一人ぼっちになって寂しがっているお兄ちゃんを私が慰めて、そのままお兄ちゃんとゴールイン!!完璧な計画ですよね?ね?」

「お前人の心をいいように……そんな恐ろしいこと考えてたのか。流石あのお姉さんの妹のことだけはあるな」

「いやぁそれほどでもありますよ!!」

「褒めてないんだが!?」

 

 

 正直あの地球外生命体のお姉ちゃんと一緒にされるのはむず痒いけど、お兄ちゃんたちをイジって精神疲労のどん底に陥れることに関しては、お姉ちゃんにも負けていないレベルだと思うよ。現に拓哉先輩も今、相当疲れているみたいだし!そうそうその顔、そんな顔が私の大好物なんだよ♪

 

 

「まあタダで協力してくれとは言いません。亜里沙!」

「うん!拓哉くんっ、楓に協力してあげてください!」

「むぐっ、む、胸が……」

「楓が約束してくれたんです。零くんの周りの女を消し去る手伝いをしてくれた暁に、拓哉くんを好きにしていいって」

「俺の意見は無視かよ……って、胸が!!胸が顔に、むぐっ!!」

「どうです?協力してくれたら、亜里沙のぱふぱふをこれから好きなだけ味わえるんですよ」

「そんなことに協力できるか!!それに今日の亜里沙、なんか様子がおかしいぞ!?」

 

 

 むぅ、意外と頑固だなぁ。流石にお兄ちゃんよりかは変態さんではないと。お兄ちゃんだったらおっぱいを押し付けておけば大体何とでもなるから♪

 

 でもね、私は拓哉先輩を確実に堕とすための秘密兵器があるんだよねぇ。亜里沙はその尖兵に過ぎなったんだよ!

 

 

「まあここまでは予想の範囲内です。でも、これを出されたら先輩も私に従わざるを得ません」

「な、なんだそのCD-ROMは?」

「ここにはですね、唯の自分磨きの映像が事細かに記録されているんですよ。この前の夜、こっそり隠し撮りしちゃいました♪」

「なんだと!?ちょっと見せろ――――い、いやなんでもない」

「アハハ!!やっぱり食いついてきた!!全然誤魔化しきれていませんよぉ~♪」

 

 

 唯も大概ブラコン気質があるけど、拓哉先輩も相当なシスコン兄貴だよねぇ~。だから唯を餌にしてぶら下げておけば、絶対に釣れると思ってたんだよ。これで私の勝利は確定だね!第三部完!!

 

 

「もし協力してくれるのならこのCD-ROM、先輩にあげてもいいですよ」

「ほ、本当に?」

「協力してくれたらですよ?お兄ちゃんの周りの雌豚たちの駆逐にね」

「そ、それは……」

 

 

 先輩は亜里沙のハグ+おっぱいの攻撃に耐えながら、歯を食いしばって私の持つCD-ROMを見つめる。

 意外や意外、割と強情なんだね。ただ単にシスコン野郎だとばかり思っていたから、そこだけは素直に見直したよ。喉から手が出るほど欲しいのは変わらないと思うけど。

 

 

 よしっ、もう面倒だから一気に攻め立ててみますか!

 

 

「もしかしたらもしかしたらですよ?唯が拓哉先輩のことを想って、自分磨きをしているかもしれませんよ?」

「お、俺のことを……」

「ですです!『お兄ちゃんお兄ちゃん♪』って、先輩のことを口に出しながら、ベッドの上で自分のパンツの中に手を入れて、指を使って女の子の大切なところをクチュクチュと弄っているのかもしれません。更に大好きなお兄ちゃんと一緒に行為に勤しんでいる妄想をして、『あぁん!お兄ちゃんイっちゃうよぉ~!!』って喘いでいる、先輩の可愛い妹の姿を拝めるかもしれませんよ♪」

 

 

 先輩は唾を飲み込みながら目を見開く。どうやら先輩の頭の中でも良からぬ妄想が捗っているみたいだね。でもそれは私の計画通り!唯を溺愛している先輩なら、妹の性事情を知っておきたいはず!

 

 そして亜里沙も顔を真っ赤に染めているところを見ると、自分と先輩のセック……いやいやまぐわるところを妄想できているみたいだね。これで亜里沙が先輩に対して更に暴走してくれれば、計画の成就はまさに目の前だよ!

 

 

「なあ楓、それってそのぉ、そのシーンは本当に収録されているのか?」

「それは分かりません!!見てみるまでのお楽しみでぇ~す♪」

「ですよねぇ……」

「正直な話、見たいですか?」

「そりゃあ見たいよ!!嫁にしてもいいと思ってるくらい可愛い妹なんだぞ!?それに俺のことを想って自分磨きだなんて、そんなの永久保存版に決まってるじゃん!!拓哉さんの心はな、もうお前からの攻撃でボロボロなんだよ!!そこに唯という癒しをブッ込んできたら、靡いてしまうに決まってんだろォオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「わっ!拓哉くんが壊れた!!」

 

 

 まさに計画通り!!このまま拓哉先輩をこちら側に引き入れれば、お兄ちゃんの周りにいる雌豚たちを先輩に任せ、あとは私がお兄ちゃんとイチャイチャラブラブなセ○クス漬け生活だよ♪

 

 

 さぁて、先輩のシスコン熱も丁度いい頃合だし、ここらでいっちょ爆弾を投下してみますか。もしそれで靡かなくても、先輩の焦る顔が見られるだけでも私は楽しいし♪

 

 

「でも残念ながら、唯の大切なところにはモザイク処理をしてありますから」

「えっ……も、モザイク?」

「その反応……はっは~ん、もしかしてもしかしなくても、無修正をご希望ですねぇ?」

「む、無修正、だと!?そんなことができるのか!?」

「も~う!先輩がっつきすぎですよぉ~。もし先輩が私に協力してくれるというのなら、唯の自分磨きを収めた無修正動画をそのままそっくりお渡ししますよ♪」

 

 

 先輩の身体はわなわなと震え、唯への欲望がこれでもかというくらいに表に出てきている。

 もう少し、もう少しで先輩が堕ちる。そうなれば私とお兄ちゃんが結ばれる日もそう遠くはないね!あぁ、もう今からでも濡れちゃいそう♪

 

 

 よぉし、あとひと押し!!

 

 

「想像してください。唯が拓哉先輩を想って、先輩にしか触らせたくないであろうところに指をじゅぷっと突っ込んで、クチュクチュとイヤラシい音を立てながら唯はこう言うんです。『お兄ちゃん、はぁ、お兄ちゃんそこはダメだよぉ~』って。まるで先輩と唯が男女の営みをしているかのように。でも実の兄弟でこんなことをしてはいけないから初めは抵抗するんです。しかし大好きなお兄ちゃんに指を入れられて、次第に身体は喜んでしまっている。『はぁん♡お兄ちゃん!拓哉お兄ちゃ~ん♡』と、どんどん艶かしい声を上げてしまうんですよ。そして結局その快感に負けてしまって『もうダメ、お兄ちゃん、お兄ちゃぁあああああああああああああああああん!!』と叫びながら、先輩のアレで果てちゃう唯の姿が……フフッ、このCD-ROMに収められているかもしれないんですよ?」

 

「あ゛ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「た、拓哉くん!?楓どうしよう!!拓哉くんが、拓哉くんがぁ……」

「落ち着いて亜里沙、先輩は今自分の欲望と必死に戦っているの。どう足掻こうが負けると思うけどね♪」

 

 

 これで私の戦いは終わった。あとは先輩を上手く使って雌豚を先輩の元へ惹きつけるだけ。まさかこんなに話がポンポン先へ進むとは思ってなかったよ。余計な手間を掛けてない分、逆に張り合いがないっていうか、まあ変態さんの対処はお兄ちゃんで慣れてるからね。

 

 

「くっ……」

 

 

 えっ、嘘でしょ、まだ堕ちないの……?私の計画では先輩の口から直接『協力する』と言わせる算段だったのに、先輩はまだ耐えようとしている。一体どうしてそんなことが……。

 

 

 すると突然、密室なはずのこの部屋の扉が開かれた。

 まさかと思ってそっちを見てみると、そこには想像通りの人が――――――

 

 

「もうそこら辺でやめておけ楓」

「お、お兄ちゃん……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 学院内の本当に端っこにある、まるで尋問室のような窓のない密室。そこの鍵を開けて突撃してみると、今世紀最大の悪い顔をしていた楓と、椅子にぐるぐる巻きに縛り付けられている拓哉、そして拓哉の膝の上に乗り彼の様子を心配している亜里沙がいた。

 

 

「お兄ちゃん、どうしてここが……」

「いやぁ全てはコイツのおかげで――――」

「ようやく見つけたよ、お兄ちゃぁああああああああああああああん!!」

「ゆ、唯!?なんだそのテンションは!?ぶはっ!!」

「きゃぁ!!」

 

 遂に愛しのお兄ちゃんを見つけた唯は、拓哉の懐を目掛けて大きく飛びついた。しかも拓哉に寄り添っていた亜里沙を巻き込んで、椅子を倒しながらも拓哉に抱きつく。いつもの穏やかな雰囲気とは一変、この妙なテンションは楓が2人いるようだ。

 

 

「唯!?お前どうしたんだよ……」

「さっきからずっとそんなテンションなんだよ。おかげでもう少しで命を刈り取られそうだったぞ」

「そうか、なんかすまない……」

「お互いにな……」

 

 

 これが妹たちに痛めつけられる、威厳もクソもないお兄ちゃんたちの図である。どっちも妹様の権力が強いのか、それとも俺たちが尻に敷かれやすいタイプなのか……うん、どっちもかな。

 

 

「楓……まさかお兄ちゃんを1人占めてたの?」

「いやぁちょっと私の計画に協力してもらおうと思って、頑張って交渉していたんだけどぉ」

「か~え~で~!!」

「ちょっ!なんでこっちに来るの!?」

「お兄ちゃんを1人占めなんて許さない!!」

「まさか唯がここまで変貌しているなんて!?」

 

 

 ん?楓の奴、唯がこうなった理由を知っているのか?雪穂も変だし、亜里沙もさっきから頬が赤く染まったままだ。まさかコイツらが変貌した理由って、全部楓にあるのでは……。

 

 

 とりあえず椅子に縛られて横転したままの拓哉が可哀想だから、とっとと縄を外してやるか。楓と唯はお互いに格闘していてこっちに気が回っていないみたいだし。

 

 

「お前、顔赤いぞ。楓と亜里沙に一体何をされていたんだ?」

「絶対に言わねえ!!今日俺は楓に人生の汚点を作らされてしまったから……」

「やはり楓に遊ばれていたのか。でもあんな誘導尋問に引っ掛かるようでは、これからもアイツのおもちゃにされるだけだぞ」

「……ん!?ちょっと待て、零、お前、なんで知ってるんだ!?」

「いやぁすぐに突入しようと思ってたんだけどさ、様子を伺うために部屋の前で聞き耳を立てていたら、聞こえてきたお前の反応が面白いのなんのって!」

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「安心しろ、俺なんてそれくらいの汚点、ほぼ毎日アイツに作らされているから」

「それフォローになってないよな!?底辺の争いじゃないんだから」

 

 

 恐らくというか絶対にこれから、今日のことをダシに拓哉も楓に遊ばれるだろう。これでアイツのストレス発散用サンドバッグがまた1つ増えた訳だ。アイツにとってはもうμ's全体が自分のサンドバッグと化しているんだろうけど……。

 

 

「助けてもらって悪んだけど、もうちょっと早く縄解けない?」

「それがな、コイツが俺の右手首を握り締めたまま離してくれないんだ。だから片手作業」

「ゆ、雪穂?」

「フフッ、零君もう逃しませんよ……これからはずっと私の傍に……私の部屋でもいいかも……」

「こわっ!!何さっきからブツブツ言ってんの!?」

「数十分前からこうなんだよ。見たところ、亜里沙の様子も変だし」

「拓哉くんを好きにできる、拓哉くんを好きにできる……えへへ、えへへへへへへ♪」

 

 

 妹たちの様子が全員尽く変貌していた。唯はやけにブラコンをこじらせてるし、雪穂はヤンデレの"病み"成分がMAXだし、逆に亜里沙は"デレ"成分がメーターを振り切っている。唯一まともなのは楓だけだけど、アイツをまともと言っていいのかは疑問しか残らない。

 

 

「よしっ、縄解けたぞ」

「サンキュ。それにしても、よくここが分かったな」

「ああそのことに関しては、唯の鼻のおかげだ」

「唯の、鼻?」

「『お兄ちゃんの匂いがする!!こっちです!!』って叫びながら、俺の首根っこを掴んでズルズルと引き摺ってここまで来たんだよ」

「唯がそんなに不良になっていたなんて……」

「多分楓に聞けばその理由が分かると思うけど」

 

 

 拓哉は楓と亜里沙に精神的に滅ぼされそうになっていたけど、俺は唯と雪穂に身体的に殺されそうになっていたんだ。口答えしようにも唯も雪穂も迫力満点で、こっちの意見すらも満足に発言させてくれない。相変わらず『妹』+『ブラコン』+『ヤンデレ』の組み合わせは夢のようであり恐ろしくもある。まさに紙一重だ。

 

 

「お兄ちゃん!!どういうことなの!?」

「唯!?いきなりどうした!?」

「私は必死でお兄ちゃんのことを心配してたのに、その間にお兄ちゃんは楓とずぅぅうううううううううううううううううううっとイチャイチャしていたの!?」

「イチャイチャ!?してないしてない断じてしてない!ただ俺は楓に虐められていただけだぞ!?」

「えっ、ヒドイです!!あんなに激しく暴れていたのに……」

「そこ!誤解を招く言い方はやめてもらえないかな!?そしてその話題はもうやめてくれ、俺の精神が削がれる!!」

「楓……やっぱり楓の仕業だったんだね……フフフ」

「さっきからコロコロと標的変わるよな……」

 

 

 唯の情緒が不安定になってきている……このままだとこの部屋にいる人間を全員殲滅してしまいそうな勢いだ。これは俺が空気になっている今の内にこの部屋から脱出した方がよくないか?いや、雪穂に()()()()()()()で手首を握り締められているから無理だった。

 

 

「まあまあ唯、落ち着いて!楓も唯みたいにお兄ちゃんを思ってのことだし、ね?」

「どいて亜里沙、そいつを殺せない!!」

 

 

 はいヤンデレちゃんのテンプレセリフ頂きましたぁ~。

 もはや俺はこの状況を改善するどころか唖然として見守るしかない。下手に介入すれば巻き込み事故に遭い謎テンションの妹たちに轢き殺されるのは明白、素直に事態の終息を迎えるのが正しい選択だ……と思う。

 

 

「拓哉、ちょっとあの3人に割り込んで事態を解決してきてくれないか。女の子のためにボロボロになるのがお前だろ」

「そんな固定観念はそこら辺のドブにでも捨ててくれ。第一に、面倒事は嫌いだ。零もそうだろ、もう足が完全に部屋の外に向いてるし」

「俺はな、ずっと俺に引っ付いている雪穂をなだめるのに精一杯なんだ」

「零君零君……2人の愛の証として、堅い手錠で繋ぐのもいいかもね……」

 

 

 こっちはこっちでまた恐ろしいことを考えているわ、向こうは向こうで妹大戦争が起こっているわで、俺と拓哉が完璧に放置されている感がしてならない。あれぇ~お互いに両作品の主人公なはずなのにおかしいなぁ~!

 

 

「それにしても、どこからどうなってこんなカオスな事態になったんだ……」

「それは私が答えてあげるよお兄ちゃん!」

「やっぱお前の仕業か……」

「実は私の野望を成就させるために、亜里沙にはこれを使って私の駒になってもらってたんだよねぇ」

「なんだそれ?」

 

 

 楓が取り出したのは1つの小さいビン。その中にはいかにも怪しく煮えたぎる、謎の液体が少量入っていた。

 

 そして俺、そして隣にいる拓哉も同時に察した。こんな危険な香りがするクスリを作って楓に渡しそうな奴は、この広大な世界を探しても1人しかいない。

 

 

「お姉ちゃんから渡された、この"やんやんでれでれ"のクスリを使って、亜里沙を先輩にデレデレしちゃいました♪それで先輩を懐柔しようとしていたんですけど、思いのほか強情だったのは想定外でしたよ」

「どうりでやたら亜里沙が俺に懐いてたのか……じゃあ雪穂と唯にも?」

「元は2人に使う予定は一切なかったんです。でも一回効果を確かめたくって、亜里沙に使う前に雪穂と唯を実験台にして水筒にクスリを盛ってみたんですけど、まさかここまでヤンデレとブラコンを拗らせるとは♪」

「じゃあ雪穂も唯もとばっちりじゃねえか!!謝って、俺にも謝って欲しいけどまず2人に謝ろうか!!」

「野望を成就するためなら、多少の犠牲は仕方のない話なんですよ!」

「なんかもう怒る気にもなれない……」

 

 

 ここでいつもの拓哉クンお得意のお説教タイムかと思っていたのだが、既に楓に精神をボロボロにされているせいか、そんな元気もないようだ。それに俺だってもう()()()()()()すぎて、敢えてそこに突っ込もうとも思わない。実は裏で秋葉が暗躍してましたぁなんて、今更珍しい事態でも何でもないしな。

 

 

「それで、この状態になった唯たちはいつ戻るんだ?」

「さあ?」

「さ、さあってお前!!」

「詳しい期間は聞かされていませんけど、最低でも3日は続くらしいですよ」

「3日!?それまでこの状態の唯と一緒にいなきゃいけないの!?その期間ずっと部屋に監禁されそうなんですけど!?」

「俺もこの雪穂とずっと……?」

 

 

 突然通達されたヤンデレとの生活に、俺たちはこの時点で残っていた精神力が一気に削られる。

 無事に明日を迎えられるのかどうかすらも怪しいのに、最低でも3日って……途中でミンチになっていてもおかしくはないぞ。もう命を捨てる覚悟で望むしかない。ガチのヤンデレちゃんの相手とはそういうものだ。

 

 

「そうですね、3日とは言わず、一生一緒にいましょう……一生ね」

「お兄ちゃん、もうどこにも行かないように、私の目が届くところに置いてあげるからね……」

「そ、それじゃあ私も拓哉くんを好きにしていいですか?いいですよね!?」

「まあ精々頑張ってください、お兄ちゃん方♪私も精一杯お兄ちゃん好みのヤンデレに成りきるので!」

 

 

 結論、妹たちがブラコンとヤンデレを拗らせると怖い、以上!!

 




 さてどうだったでしょうか?結局いつも通りでしたけどね(笑)

 今回のコンセプトとしては、『妹』+『ブラコン』+『ヤンデレ』という究極の組み合わせ!以前投稿したヤンデレ回がかなり好評だったので、コラボ回ではありますが思い切って採用してみました。そして『ブラコン』と平行して実は『シスコン』もコンセプトの1つだったりもしますが、零くんに関してはあまりシスコンの部分を出せませんでしたね。それ以上に拓哉くんや唯ちゃんのキャラ崩壊が凄まじかったかもしれませんが、この小説に出演している以上それは許容してもらう範囲内だと勝手に思っています(笑)

 物語としましては、前半が零くんと唯ちゃん、中盤が拓哉くんと楓ちゃん、後半に全員集合という、以前のコラボ回と同じ形式を取りました。理由としてはオリ主同士だと立場が被ってしまって、物語一貫して出演させるのが難しかったからです。

 どちらかといえば、目立っていたのはオリ主2人ではなくてオリ主の妹ちゃんたち2人のような気もしますね。物語自体もシスターズがメインだったので、本編中にもあったようにオリ主2人が放置プレイ状態になっていたかもしれません。今回は完全に2人共被害者役でしたから(笑)


 そしてこの場を借りて、たーぼさんコラボ小説ありがとうございました&お疲れ様でした!
 元々たーぼさんの小説の一周年記念として企画されたものなのですが、そんな記念すべきコラボ回の相手に私を選んでくださって嬉しい限りです!

 もう一ヶ月が経とうとしていますが、一周年おめでとうございます!


新たに高評価を入れてくださった

紺碧の剣さん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。次回予告、更新報告など。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

未来の分岐点

 前回の予告で一瞬だけほのりん回をやりますと予告していたのですが、唐突に真面目な回をやりたくなったので変更しました。

 ということで、今回はいつもと雰囲気をガラリと変えて真面目な回となっております。


 

「さっむ」

 

 

 玄関の扉を開けると、凍えるような冷たい風が俺の身体を叩きつけてきた。流石に寝巻きのまま外に出るのは11月の朝を舐めすぎていたか。ただそこのポストまで新聞を取りに行くだけでも億劫になってしまうくらいだ。その代わりにいい目覚ましにはなるのだが、寒すぎて残念ながら目覚めがいい訳ではない。

 

 

 俺は身体の体温を保つため、腕組みをしながらとぼとぼとポストへ向かう。そしてポストの摘みを捻り、毎朝いつもの通りに新聞と広告の束を右手で掴んで一気に引き抜く。もはや毎朝同じ行動をしているからか、反射的に俺の身体が動いているため、俺自身、新聞と広告の束を引き抜くまで一通の手紙が入っていたことに全く気がつかなかった。

 

 

「ん、なんだこれ?」

 

 

 俺が手紙に気付いたのは、新聞たちを引き抜いた拍子にその手紙が俺の足元に落ちた時。ただ普通の手紙ならいつもの反射行動が崩れることはないのだが、その手紙の形状を見て俺は我に返った。

 

 その手紙の封筒は赤と青で縁取られており、まるで理髪店のサインポールのようだ。表にはもちろんだが俺の家の住所と消印、それも英語――――そう、これはエアメールだ。そしてわざわざ海外から俺たちに手紙を寄越してくるような人物は、この世で1人しかいない。

 

 俺は封筒の裏を見て差出人の名前を確認すると、あらかじめ予想していたのにも関わらず、その人物の名前を口に出してしまった。

 

 

「父さん……」

 

 

 そこで俺はまだ、再び人生の岐路に立たされていることに一切気付いていなかった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 新聞と広告の束、そして父さんからのエアメールを手にリビングへ向かうと、エプロン姿の楓が朝ごはんの用意に勤しんでいた。朝ごはんに昼食のための弁当作り、本来なら俺も手伝うべきなのだが、そうすると決まって楓は『私が好きでやってることだから、私にやらせて』と、丁重にお断りされてしまう。俺の男飯の腕を知らないのか?いや、知っているから突き放しているのか……。

 

 

 それはそれでもう暗黙の了解になっているからいいとして、気になるのは父さんからの手紙だ。

 別に父さんからの連絡は珍しいことでもないのだが、このご時世にわざわざ手紙で連絡など寄越さなくても、メールや連絡用のアプリなどの対話手段はいくらでもある。なのに手紙を送ってきた。俺は父さんの手紙の内容よりもそっちの意図の方が気になっている。

 

 

「あれ?それってもしかして、エアメール?」

「あぁ、父さんが送ってきたんだ」

「へぇお父さんが。読んだら後で何が書いてあったか教えてね」

「おう」

 

 

 俺がテーブルの席についたと同時に、楓はコーヒーの入ったマグカップを俺の目の前に置いてくれた。そしてまた改めて朝食作りに戻ると……相変わらずできた妹過ぎて、一刻も早く告白して俺の彼女にして一生俺の傍に置いておきたい。そんなシスコン発言をして恥ずかしくないのも、朝でまだ寝ぼけているからだと思っておこう。

 

 

 どうせ近況報告か何かだと思い、俺は適当にコーヒーを啜りながら封筒を開けていく。特に封筒や包装紙を綺麗に剥がす性格でもないので、封をビリビリに破り捨てゴミ箱に投げ捨てる。

 

 そして中に入っていた2つ折りの便箋を、特に何も考えずにぼぉーとしたまま開け、適当に目を通す。文章自体は自然な入りで、悪く言えば定型文のような挨拶だ。もちろんそれがいけないと言っている訳じゃないけど……。

 

 

 文章を流すように読んでいた俺だが、途中で話題が切り替わったことで俺もようやく父さんからの手紙に集中するようになった。いつもは普通に携帯に連絡を入れてくるのに、わざわざこうして手紙を送りつけてくるから、それ相応の話があると若干ながら覚悟していたからだ。

 

 

 だがしかし、そんな僅かな覚悟は速攻で打ち破られる。

 声を上げるほどではないのだが、目を見開いて何度も読み直してしまうくらいには衝撃だった。便箋に書かれていた内容を一部抜粋してみる。

 

 

『この前お前が気まぐれで受けた、私が勤める大学の入試テストの結果なんだが、上層部からの連絡によれば合格ラインを軽々と超えていたらしい。それどころか全受験生の中でも上位の成績だったと聞く。つまりお前は私の勤める大学への入学を認められた訳だ。そこで私からの提案なんだが、音ノ木坂学院を卒業後、私の大学に来てみないか?日本からの学生は珍しいらしく、大学側も大いに歓迎すると言っていた。お前は私や秋葉の研究に少なからず興味はあるのだろう?それなら私の大学が最も打って付けだ。もちろんお前の将来はお前のものだ、私から無理強いは一切しない。自分で考えて、お前の進みたい道を選ぶといい。だだ私の提示した道も存在するとだけ、念頭に入れておいてくれ』

 

 

 この文章の後にもまだ父さんの言葉は続くのだが、重要なところだけ文章を抜粋すると先ほどの通りだ。俺が父さんや秋葉の仕事に興味があることも本当だし、それを学ぶなら海外へ進出した方がいいという父さんの提案した道も、秋葉という前例がいるからこそその道がいかに素晴らしい道かはよく分かっている。

 

 

 自分の道。そう言えば自分の未来って俺自身あまり考えたことがなかった。いつも穂乃果たちと一緒にいることばかり考えて、気ままに生活して、アイツらとバカやって、大学もアイツらが絵里たちと同じ大学に行くから俺もふら~っと便乗しただけだし、完全にアイツらの後をついて行くように進学しようとしている。

 

 

 こう思い返すとこの1年半、俺の人生はアイツらに左右されていた。そして父さんから大学の入学を誘われるまでは、そんな人生でもいいと思っていた。

 

 

 だけど、本当にそれでいいのだろうか?ずっと他人に振り回される人生で、将来の俺は満足できているのだろうか?

 

 

 未来なら何度も岐路に立たされたことがある。俺が優柔不断であったせいで穂乃果たち9人が豹変したあの出来事もあった。俺がスクールアイドルになった時、未来の彼女たちの笑顔だけを追い求めて今の彼女たちを蔑ろにしていたこともあった。そして雪穂、亜里沙、楓の心の叫びを受け止めたこともあった。

 

 しかしそれは全て穂乃果たち絡み話だ。俺と彼女たちの未来は何度も追い求めて、何度も決断してきた。俺たちの選択した未来に間違いはないと思っているし、これからどんな困難が待ち受けていようとも、アイツらと一緒に乗り越えていくと決心している。

 

 

 そこで問われるのは、俺自身の未来。

 父さんの手紙を見て、俺がいかに自分自身の未来を見据えていないかを認識させられた。

 

 

 俺は一体、どうすればいいんだ……?

 

 

 穂乃果たちが絡めばすぐにでも決断できる自信があるのに、自分のことになるとこんなに迷ってしまうのか。自分が未来の選択でこれほど迷ってしまうこと自体今分かったことだ。もしかして俺って自分のことがほとんど分かっていないのかもしれない。

 

 

「お兄ちゃん?」

「か、楓……」

「朝ごはんできたよ。ぼぉ~っとしてないで、早く食べよ」

「あっ、悪い」

 

 

 楓に声を掛けられたことで、俺の意識が現実に引き戻される。

 彼女は自分の作った朝食を無視されていたことに腹を立てているのか、ムッとした表情でテーブルに着いた。本来なら可愛い妹の作ってくれる飯なら飛びついて食べるのだが、さっきから未来の話で頭がいっぱいになって意識が夢と現実を行き来している。ここまで自分自身のことで悩むのは初めてかもしれない。

 

 

「そういやお父さんからの手紙、なんて書いてあったの?」

「あぁ、特にこれといって。ただの近況報告だよ」

「ふ~ん……ま、どうせお母さんとよろしくやってるんでしょ」

「そんなところだよ」

「ふ~ん……」

 

 

 楓に手紙のことを聞かれて、俺は咄嗟にその内容を誤魔化してしまった。"しまった"と言っているが、割りと意図したところはある。俺自身が自分の未来を決めあぐねているというのに、楓に余計な心配を掛けたくない。もちろん彼女を信頼してない訳ではないが、また自分の未来の決断に誰かの思考を混入させてしまったらと考えると、俺はこの先一生自分で自分のことを英断できないような、そんな気がしたから。

 

 

 そこからは楓はいつもの調子に戻ったため、結局いつも通りの平日の朝に戻ってきた。さっきまでいかにも怒ってますよな表情だったのに、いつの間にテンションが回復したのか。

 

 しかし俺は、それ以降も頭の片隅に未来の選択肢の画面が消えてなくなることはなかった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零君おっはよーー!!」

「おはよう零くん♪」

「おはようございます、零」

「おっす」

 

 

 教室に入ると毎朝彼女たちに笑顔で迎えられるなんて、なんと幸せな人生なんだろうか。

 ――――と、今まではそう呑気に考えていた。やっぱり俺の人生には常に彼女たちがいる。

 

 ここで勘違いしないで欲しいのだが、俺は彼女たちと一緒に歩む人生がイヤだという訳じゃない。むしろ俺が好きで彼女たちと人生を一緒に歩むと決めたんだから、イヤだと思うなんて有り得ない話だ。

 

 

 俺が問題視しているのは、俺自身の人生を決める時に彼女たちまで巻き込んでしまわないか、ということだ。いくら俺たちが共に人生を歩んでいこうとしても、俺自身だけで未来を決断しなければならない時が必ず出てくる。その時になってまで彼女たちを巻き込みたくはないんだ。

 

 

「零君!今日の体育は穂乃果のタオルを使ってね!」

「えっ!ことりも零くんのためにタオルを持ってきたのにぃ~!!」

「ことりちゃんは絶対にそのタオルを良からぬ用途で使うよね?」

「それは穂乃果ちゃんに言われたくないよ!」

「あなたたちどっちもどっちでしょう……零からも2人に何か言ってやってください」

「…………」

「零?」

「えっ、あ、ど、どうした?」

 

 

 やべっ、さっきの一連の会話を全く聞いていなかった。実際に穂乃果たちと合間見えてみると、思い描いていた人生の岐路がより現実のように思えてくるな。穂乃果たちの前では普段と同じでいようとして、朝ようやく頭の片隅にまで追いやることができたのに、逆に今はまたそのことについて考えを巡らせてしまっている。

 

 

「もうっ!穂乃果たちの話、ちゃんと聞いてた?穂乃果のタオルを使うのかことりちゃんのタオルを使うのか、今ここで決めてね!」

「た、タオル?そんなのどっちも使えばいいじぇねぇか」

「どっちも……なるほどその選択肢があったね!さっすが零くん♪」

「零、あなた正気ですか……?まさか自ら2人に提供するなんて……」

「はぁ?タオルだろ……あっ!!」

「零君、ごちになりまーーす!!」

 

 

 穂乃果とことりのテンションが早朝からMAXになる。コイツらはこのテンションでいつも放課後の練習まで持つから相当なんだよな。凄くお気楽というか何というか、俺以上に気ままに生きているような気がする。そんな穂乃果たちと一緒にいると、未来のことだからと言って難しく考えすぎなのかなと妙に勘ぐってしまう。

 

 

「ほら、静かにしないとまた笹原先生に怒られますよ。穂乃果とことりの声は廊下にまでよく響くんですから」

「えぇ~、そんなに騒いでるかなぁ?」

「騒いでます!」

「海未ちゃんも結構大きな声出してるけどね。ことりたちに負けないくらいに」

「別に勝ちたくないので構わないのですが……それに大きな声を出させている原因はあなたたちでしょう全く……」

 

 

 穂乃果とことりが騒ぎ立て、俺が盛大にツッコミを入れ、海未が俺たち3人を粛清する。そんないつもの構図を想像して、俺はμ'sの中でもコイツら3人とはより近い間柄で共に同じ道を歩んで来たんだと感じさせられる。いずれ結ばれ合う未来があるとしても、その途中の道はお互いに分岐するかもしれない。その時になって穂乃果たち3人は、果たしてどのような選択肢を選ぶのだろうか?

 

 

「零くん」

「ん?どうしたことり?」

「なんか元気ない?さっきから全然喋ってないけど……」

「そ、そうか?」

「もしかして、熱でもあるのかな?」

「ちょっ、ことり!?」

 

 

 突然ことりは俺の肩を両手で掴んで、自分の身体を押し上げる形で背伸びをする。そして前髪かき上げて、自分のおでこを俺のおでこに――――ピタッとくっつけた。

 

 

「えっ、ちょ、えぇ!?」

「動いちゃダメ!!今熱を測ってるから!!」

「は、はい……」

「ことりちゃん、大胆だね……」

「いつものことではありますが……」

 

 

 近い!!ことりの顔が……近い!!しかも彼女は目を瞑ったまま俺のおでこに自分のおでこを当てているせいか、傍から見たらまるでキスをしているかのような体勢に見える。むしろそうにしか見えねぇ!!しかもここは教室、周りにクラスメイトたちがいるせいか余計に緊張するんですけど!?

 

 それにあのことりのことだ、隙を見て本当にキスをしてくるかもしれない。流石に周りにたくさん人がいて、しかも俺たちに思いっきり注目が集まっているこの状況でそんなことをされたら……何とか回避しないと!!

 

 

「う~ん、熱はないみたい」

「ま、まあ別に体調が悪い訳ではないからな」

「そうなの?それならそうと早く言ってよぉ~」

「その前にお前が飛び込んできたんだろ」

「まあまあ、何ともないならおっけーだよ♪」

「そ、そうか……」

 

 

 意外にもことりは俺の唇に飛びついてくることはなく、そのまま俺の身体から離れてしまった。

 あの脳内ラブホテルと言われた彼女が、そのまま何もせずに引き下がるなんて考えられないんだが……秋葉の発明品で性格や人格を変えられたと勘ぐってしまうくらいには。

 

 もしかして俺を気遣って、意図的に理由を聞き出そうとしなかったのかもしれない。久しぶりにことりの本来の優しさに触れたような気がする。最近の彼女が()()()()だからな……。

 

 

「そういえば明日のホームルームで進路調査があるんだったっけ?」

「そうですよ。もう11月なのですから、今までみたいに適当に書いてはいけませんからね」

「そんなことしないよぉ!むしろ穂乃果は狙っている大学もうはっきりと決めたからね。あとはそこへ向けて一直線に進むだけだよ!」

 

 

 進路調査か……そういやそんなものが放課後にあったな。ん、でも待てよ、ということは遅くても明日の放課後までには俺自身の道を決めないといけないってことか!?まだ全然何も決まってないし、最初の一歩すら踏み出してないのにマジかよ……。

 

 

 そのまま穂乃果たちと同じ大学に進む道と、父さんが勤める海外の大学に進む道。俺は現在この2つの道の岐路に立たされている。

 

 穂乃果たちと同じ道に進めばその先に絵里たちもいるし、今の高校生活同様楽しい人生が送れることは間違いないだろう。父さんが示してくれた道を進めば穂乃果たちとは一定期間だけ離れ離れになるものの、その先の将来はほぼ確実に安定していると言っても過言ではない。先程その大学の就職先をチラッと見てみたのだが、有名どころが軒並み名を連ねていた。穂乃果たち9人、加えて雪穂や亜里沙、楓すらも十分に養っていけるくらいだ。

 

 そして父さんの大学に行けば俺がやりたかったこと、興味がある研究に触れることができる。それ以外にも向こうの大学なら絶対に不自由はしないだろう。自分のこと以外では一切動かない秋葉ですらもわざわざ海外へ飛びその大学にお世話になっているのだから、父さんの示してくれた道がどれだけ魅力的かは分かっているつもりだ。

 

 

 どちらの道を選ぼうがデメリットはない。俺にとってどちらも有意義な道になることだけは確かだ。

 

 

 だから、迷う。

 

 

 

 

 そこでまた穂乃果たちの会話が耳に入ってきた。

 

 

「大学に入れば絵里ちゃんや希ちゃん、にこちゃんと一緒にキャンパスライフを送れるし、それだけで穂乃果頑張れちゃうよ!」

「それだけであの大学に?就職で苦労しそうですよ穂乃果は」

「大丈夫だよ!いざとなれば穂むらを継げばいいし。でもお父さんからは自分のやりたいことをやりなさいって言われてるんだよねぇ~。どうせなら子供の頃からの夢だった幼稚園の先生とかケーキ屋さんとかになるのもいいし、穂乃果たちスクールアイドルで有名だしアイドルとしてスカウトされちゃったりするかも!?」

「それは夢の見すぎだと思いますが……」

「でも幼稚園の先生やケーキ屋さんは穂乃果ちゃんにピッタリだと思うよ♪ことりは将来ファッションに関して留学してみようかなぁって思ってるんだ。一年前のリベンジを果たしに!」

「ことりはしっかりとした未来があるのですね。私は大学で更なる教養を身につけたあと、武道や作法などの先生になろうと考えています」

「いかにも海未ちゃんらしいね~!とても厳しそうだけど」

「どういう意味ですかそれ!!」

 

 

 そうか、穂乃果たちは夢でありながらも、その実現に向けて自分の道を歩き始めていたのか。今まで俺と一緒にただ単純に青春を謳歌し、自由気ままに生きてきたと俺が勝手に思い込んでいただけで、本当は自分のやりたいことをこうして口に出して言えるほどはっきりとしていたんだ。

 

 対して俺はまだふわぁっとしか未来を見据えられていない。いきなり提示された選択肢に、人の声が聞こえなくなるほど頭を悩ませてしまうほどだから。

 

 穂乃果たちが確固とした未来を抱いていることに、俺は今まで以上の危機感を感じてしまった。彼女たちに寄り添ってずっと一緒に歩いていくのか、それとも彼女たちの未来を見据えて一定期間だけ我が道を進んだ方がいいのか。正解がないからこそ迷ってしまう。

 

 今まで何度も人生の岐路に立たされてきたが、それは全て正解の道があったから乗り越えられてきたんだ。彼女たちの心を傷付けないような道が、俺の最善だったから。

 

 だが今回は俺だけの道だ。自分の将来が正解かどうかなんて初めから分かるはずがない。そもそも正解とか不正解とか、そんな概念自体が存在しないのかもしれない。ぶっちゃけて言ってしまえば、俺が選んだ道ならそれが正解になり得る道なのだ。

 

 

 

 

 だから、今の俺が一番されたくない質問がある。そしてこの会話の流れで、その質問が飛んでくることは既に明白――――――

 

 

 

 

「ねぇねぇ!零君は将来何になりたいとか、子供の頃の夢ってあった?」

 

 

 

 

 その質問に対して俺は、こう答えるしかない。

 

 

 

 

「ない、かな……」

 

 

 

 

To Be Continued……




 ここまで読み終えた人はこう思うと思います。「あれ?読む小説間違えたかな?」と。安心してください、作者は薮椿ですよ(笑)


 今回は久々に真面目回を執筆しました!
 いやぁ慣れないことはするものではないですね。いつもとは違って執筆していて疲れました(笑)
私は堅い文章が苦手なので、真面目回の執筆の最初は物凄く躊躇してしまうんですよね。でも書き始めると普段のドタバタ回よりも一気に文字数が増えていく謎現象。普段と雰囲気が違うからこそ本腰入るのでしょうか。

 本編中でもありましたが、零君がμ'sのことではなくて自分のことについて葛藤する話はこれが初めてです。つまり零君自身の話を書くのはこれが初なんですよねビックリ!!『日常』『非日常』『新日常』で合計251話も連載しているのに、主人公のことについてようやく語られるのはどうなんですかね?そもそもそんなことに気付いていなかった読者さんの方が多いような気もしますが(笑)


 そんな訳で次回はお悩み解決編です。
 でも零君がどの道を選ぶのかは、ハーレム小説なので大体分かる人が多いかもしれませんね(笑)


新たに高評価に入れてくださった

カイカイXさん、ハイドレンジアさん、bocchiさん

ありがとうございました!

あとたまにあるのですが、一度評価を入れてくださった方の再評価分に関しては名前を掲示しないのでご了承ください。
(例:最初に☆10を付けて、また同じ☆10を付ける)
(※☆9⇒☆10などで評価値が上昇した場合は掲示します)


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

明日への飛翔

 今回は前回の続きでクソ真面目回です。
 零君がどんな決断を下すのかは予想している方も多いと思うので、そしてそこへ至る彼の考えにも注目して頂ければと。


 結局、授業中も上の空だった。

 穂乃果に投げかけられた質問は予想通りと言うべきか、曖昧な答えでお茶を濁してしまった。夢や未来を決めていないならいないとはっきり言えない辺り、やはり俺は優柔不断野郎だったらしい。単に俺が穂乃果たちに夢も未来も持たないつまらない野郎だと思われたくないから答えを濁した、それすらも自分で分かっていない状況だ。

 

 高校の数学の範囲なら余裕なので授業など無視してもいいのだが、一応担当が笹原先生なので聞いている風を装って、再び選択肢の画面で頭を悩ませていた。まあ案の定答えは出せなかったが。

 

 

 そして今丁度授業が終わり、笹原先生のスパルタ受験勉強にヒーヒーと唸り悲鳴を上げていた生徒たちが羽を伸ばす。流石にこの気の抜けたほのぼのムードの中で1人空気を悪くするのは良くないと思ったので、俺は(おもむ)ろに席を立ち上がって教室の外へ出る。

 

 その時、俺の後を追うように後ろから駆け足で誰かが近寄ってきた。

 

 

「零くん!」

「ことり……」

 

 

 彼女はニコニコとした表情を崩さずに、まるで何かを期待しているかのようなキラキラした眼で俺の顔を眺めてくる。いつもこんな感じだけど、今日は特に近いような……主に俺とことりの身体が。あぁなるほど、今朝俺の使用済みタオルをあげると言ってしまったからか。

 

 

「で?何か用か?」

「用がなければくっついちゃいけないの?」

「お前に用はないけど俺は用を足したい」

「じゃあことりのおクチに――――」

「言わせねぇからな!!」

 

 

 以前もこんなことがあったなそういや……相変わらずコイツはブレないというか、むしろブレたらそれはそれで驚きだけど。それに彼女に嘘でも『用を足す』と言ったのは完全に俺のミスだった。だってコイツなら絶対に――――

 

 

「ことりも一緒に行くね♪別にそこに意味はないけど」

 

 

 そう、こうなることは確定事項だからだ。そこに意味はないとか言っているが、明らかにまた誘惑する気満々だろ。この常にニコニコした怪しい笑顔が全てを物語っている。ことりがこの状態になったら決して説得することは不可能だから、おとなしく同行させるしかなさそうだ。

 

 

 そして俺とことりは隣同士で廊下を歩いている。驚いたのは、俺たちの間に一切会話がないことだ。大体ことりはマシンガンのように下ネタを連発してはあの手この手で俺とヤろうとする淫乱ちゃんなのに、今日はやけにしおらしい。ことりがこんな感じだと逆に心配になってくるな。

 

 

 自分の悩みを一旦放棄してそんなことを考えていると、ことりが唐突に口を開いた。

 

 

「何かしらの悩みを持っていた人ならね、同じ悩みを持っている人の気持ちが分かるの」

「え……?」

 

 

 てっきりまた下ネタが飛び出してくると思ってそっち方面の警戒を強めていたせいか、それとは全く逆の雰囲気の言葉を掛けられて俺は思わず足を止めてしまう。

 

 そして改めて彼女の眼を見てみると、その瞳は本当に真剣だった。いつもの脳内ラブホの淫乱な彼女とはまるで別人のようだ。

 

 

「寂しさを知っている人は、誰かの寂しさに気付いてあげられる。今の零くんは、あの時のことりと同じ顔をしているから」

「あの時……もしかして、お前の留学の話か?」

「うん。あの頃の自分の顔を、毎朝鏡で見ていたから今でもはっきりと覚えてるんだ」

 

 

 ことりが海未以外には内緒にして海外留学へ行こうとしていた時の話。そう言われればあの頃のことりも今の俺と同じく、頭を悩ませて授業も練習も上の空だった記憶がある。だからことりは俺の様子がおかしいことにすぐに気が付いたのか。過去の自分と同じ顔をしていたから……。

 

 

「零くんはことりたちのことを信用してくれているって信じてる。だから零くんからことりたちに話してくれないってことは、自分自身で決断しなければならない選択があるってことだよね」

「あぁ、よく分かったな」

「ことりは海未ちゃんだけには話しちゃったけど、それでも零くんと同じような悩みを抱えてたから」

 

 

 もう彼女は俺の悩みの本質をそこまで理解していたのか。しかも俺は彼女に一度も悩みのことなんて相談していないのに、俺の様子を見ただけでここまで……。つまりそれだけ俺の心とことりの心が近いということだろうか。もう一年半以上も一緒にいて、同じ悩みを抱えたことのある唯一の存在として。

 

 

「だからね、ことりからは何も聞かない。零くんなら自分の進むべき道を自分で決断できるって信じてるから。迷いに迷って、自分の本当にやりたいことが分かっていたはずなのに正直になれなかったことりよりも、いつもμ'sのみんなを真っ直ぐに突き動かしてきた零くんなら絶対に……」

 

 

 また意外だった。話の流れで自分の悩みを打ち明けなければいけない、そんな気がしたから余計に。特にことりから助言された訳でも、励まされた訳でもない。恐らく彼女もそんなつもりで言ったとは一切思ってないだろう。

 

 

 だけど、心がスッと軽くなったような気がした。自分の胸の内を曝け出した訳でもないのに何故か。その理由も自分自身の悩みも解決していないのに、俺の心に掛かっていた(もや)が少し晴れたのは、やはりことりの言葉のおかげなのだろうか。

 

 

「それに誰かに甘えないってことは、誰かに頼ってはいけないってことじゃないんだよ」

「ことり……」

「まあ、最終的に答えを出すのは零くんだから、もうことりはこれ以上何も言わない」

「そっか……ありがとな。そして心配掛けて悪かった」

「心配は掛けるものでしょ。それにことりと零くんはほら、恋人同士なんだから♪」

 

 

 ことりはそう言うと俺の返答を聞かずに、その場でUターンをして教室へと戻っていった。

 本当に俺に言葉を掛けるためだけに、わざわざいつもの雰囲気を装って俺についてきたのか。そもそもトイレに行くこと自体嘘だったんだけどな……。

 

 

 でもことりのおかげでさっきまで真っ暗な迷宮を彷徨っていた俺に、少しばかり光が差し込んだような気がした。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 結局その日の授業の内容はほとんど覚えていない。大体自分の進路について考えていたか、考えすぎて頭が疲れて爆睡していたかのどちらかだ。あそこで寝るという選択肢が取れたのも、ことりが言葉を掛けてくれたからかもしれない。

 

 

 そして今はところ変わって、空き教室を海未と2人で掃除中。普段ならそこまで話題が途切れることなく喋り続けられるのだが、今日はどうも会話が続かない。明日提出の進路届けまでに自分の進路を決めなければならないという、若干の焦りがあるからだろうか。

 

 

 するとここで、海未が口を開いた。

 

 

「珍しいですね、零が真面目に黙々と掃除をするなんて」

「そうか?いつもそれなりにやってるぞ」

「いつもは喋ってばかりで、それなりにもやってないでしょう……」

「そ、そうだっけ……?」

 

 

 確かに言われてみれば……うん、口ばかりで手を一切動かしていないような気がしなくもない。そのたびに毎回海未に怒られるのがテンプレになっているんだよな。お前は俺のオカンかよ。

 

 でも今日はそこまで饒舌にぺちゃくちゃ喋るテンションにもなれないし、たまには真面目になってもいいかな。そうすれば心もまた落ち着くかもしれないし、頭も一旦整理できる。

 

 

 そして俺が再び手を動かし始めようとした時、海未が続けて口を開く。

 

 

「今日は結構、いや、かなりおとなしかったですね」

「まあそういう時もあるさ。俺って意外とナイーブだから」

「それは嘘として、何か考え込んでいることがあるならば、煮詰めすぎは良くないと思いますよ」

「海未……」

 

 

 薄々勘づいてはいたのだが、やっぱり海未も俺の様子が普段と違うこと、そして俺が何かに悩んでいることに気付いていたか。彼女はμ'sのメンバーからも特に相談相手として選ばれることが多いため、相手の心情の変化には敏感なのだろう。

 

 

「俺ってそんなに分かりやすい?」

「はい、μ'sのメンバーの誰よりも。あなたは考えていること思っていることが顔や行動にすぐ出ますから」

「ほ、ホントに……?」

「試しに皆さんにも聞いてみたらいかがですか?全員同じ答えだと思いますけど」

 

 

 えっ、海未だけじゃなくて他のみんなもそう思ってんのか。それにまた自分で自分自身のことが分かっていなかったと改めて実感した。そんな奴がビシッと未来を決断できる訳ねぇよな。もう今日一日中迷ってばかりだし……。

 

 

「自分のことって難しいよな」

「そうですね。そもそも自分のことを完全に理解している人なんていないと思いますよ。自分は自分にしか分からない側面もありますし、相手にしか分からない側面もある。だから自分のことが分からないからといって、そこでずっと悩み続けるのはお門違いだと思うんですよね」

「そんなもんなのか」

「私個人の意見なので、一概に正解とは言えませんが。そもそも正解なんてあるのかすらも分かりません」

 

 

 海未の話を聞いて俺は、なんだか未来のことについて考えていたのに、その前段階のところで足踏みをしているように感じた。どうも俺はこういった真面目な話になると深くまで考え過ぎてしまうようだ。もちろんそれが悪くはないのだが、それで問題の本質を見失ってしまったら本末転倒だよな。

 

 

「そもそも正解の道を探すのではなく、自分の選んだ道を正解にするのが正しいのではないでしょうか。今この時点で将来のことが予言できる訳ではないですし。だったら自分が後悔しないように生きるのが普通のことだと、私はそう思うんですよね」

「そうだな、俺もそう思ってる。でもどっちの道も恐らく間違いはない。だから迷ってるんだ。俺ってほら、優柔不断だから」

 

 

 すると今まで掃除をしながら口を動かしていた海未がその手を止め、俺の目を真剣な眼差しで見つめた。しかしその表情は優しく柔らかく、見ているだけで心が落ち着きそうだ。

 

 

「あなたは揺るがぬ強い信念を持っています。信念がない人なら、迷いなんてせずにただ流されるだけでしょうから。迷うのはあなたの中に正しいと信じる何かがあるから。それがあなたの誠実さへと繋がっている。だから思いっきり悩んだっていいんです」

「そう、なのか……」

「迷ったり悩んだりすること自体に更に迷ったり悩んだりするのは、それこそ自分のことを考えることと一緒で、中々抜け出せないと思いますよ」

 

 

 そっか、俺は未来の選択肢で悩んでいたんじゃなくて、自分が迷ったり悩んでいることについて迷って悩んでいたのか。そりゃあいくら考えても選択肢を選べない訳だよ。そう考えると、道しるべとして示されていたけど先は見通せなかった理由も簡単に分かる。単純に俺がその道を見ていなかっただけだ。

 

 

 要するに難しく考えすぎていたってことかな。思い返せばここまで遠回りをしてきた。

 だが、それでもまだスタートラインに立っただけ。本当の選択はここからだ。

 

 

「もう掃除も終わりの時間ですね。早いところ仕上げてしまいましょう」

「そうだな。今日は真面目にやったし、こうなったら徹底的に綺麗にしてやるか!」

「ようやくいつもの調子が戻ってきましたね」

「まあ、心境の変化ってやつかな」

 

 

 結局まだ自分の未来の選択はできていない。

 だけど今の俺なら明日までにはちゃんと決断できるような気がする。あるのはそんな曖昧な自信だけだけど、それが何より俺の足を未来の道へ動かす原動力になるんだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 μ'sの練習を終え、俺たちはいつも通り全員で帰宅しながら1人、また1人と別れ、遂に俺と穂乃果の2人だけになった。ちなみに雪穂と楓は、楓が半ば雪穂を強引に連れて行く形で買い物に行ってしまったので、取り残された俺たち兄と姉だけでの帰宅となっている。

 

 

 穂乃果とは相変わらずたわいもない話をしながら歩いているのだが、どうも会話のペースが掴みにくいというか、穂乃果が別の話題を振りたそうでならない様子だ。恐らくその機会を伺っているが中々切り出せないのだろう。

 

 こうやって他の人、特に穂乃果たちのことならよ~く分かるんだけどな。よし、どうせなら俺から切り込んでやるか。

 

 

「なあ穂乃果、何か言いたいことでもあるのか?」

「ふえっ!?そ、そうだけど……どうして分かったの?」

「お前顔に全部出てるんだよ」

「ほ、ホントに……?」

「ホントに」

 

 

 穂乃果の反応、俺が海未にした反応と全く同じだな。大体穂乃果は表情を見ているだけで今のテンションが丸分かりだから、良くも悪くも分かりやすくていい。

 

 

「穂乃果のことはいいとして、穂乃果が話したかったのは今日の零君のことだよ。なぁ~んかずっと機嫌が悪かったみたいだし」

「別に機嫌はいつも通りだったよ。ちょっと悩んでいただけだ」

「へぇ~、零君でも悩む時があるんだ~」

「どう言う意味だよそれ。まぁ、天真爛漫なお前よりはよく考えて行動してるけどな」

「むぅ~、それはそこはかとなく馬鹿にされているような……」

 

 

 馬鹿にしてなんていないさ。だって穂乃果はまだ(おぼろ)げながらも、俺よりもずっと先の未来を見据えているからだ。子供の夢でも何であっても、将来自分のやりたいことを人に向かって言えるのは素晴らしいことだと思う。だって俺はそれができなかったから……。

 

 

「でもよかった!零君元気そうで!」

「元気?そうかな?」

「昼間の時と比べたら全然違うもん。あの時は穂乃果が話し掛けてもすごく淡々としてたし」

「確かに今思い返してみればそうだったな。でも今はある程度心の整理もできたから、もう大丈夫だ」

 

 

 ことりと海未の言葉を受け、心の中に溜まっていた(わだかま)りもほとんど解放された。まだ自分自身の道を見据えられてはいないけど、落ち着いて悩めば今日中には決断できそうだ。流石に今日の昼間のような俺を、明日またみんなに見せる訳にはいかないからな。

 

 

「多分零君は、自分だけで考えなければならない重要なことで悩んでいるんだよね。穂乃果には零君がどんなことで悩んでいるのかまでは分からないけど、それが嬉しいんだ」

「嬉しい?」

「うん。夏にも言ったんだけど、零君はいつも穂乃果たちのために尽くしてくれた。穂乃果たちを抱きしめてくれた、守ってくれた、笑顔をくれた。いつも穂乃果たちμ'sの未来を支えてくれていたんだよね。でも今の零君は自分のために自分のことを考えている。自分自身の未来を見つけるために……穂乃果はそれが何よりも嬉しいんだ」

 

 

 そういや夏祭りに行く途中だったっけか、その言葉を聞いたのは。

 自分のためか……俺が穂乃果たちμ'sを支えてきたのも自己満足なんだよな。ただ彼女たちに好かれたかったから、構ってもらいたかったから、助けたかったから、他にも様々な感情があるけど、結局は俺の自己満足。

 

 しかし自己満足だからと言って、相手の好意や感謝を無下にする権利はない。穂乃果もことりも海未も、敢えて俺の心には踏み込まず俺を支えてくれた。そのことにはむしろこちらから感謝したいくらいだ。穂乃果たちがいなかったら、もしかしたら迷いと悩みの迷宮から抜け出せなかったかもしれない。

 

 

「もう一年半も零君と一緒にいるから、零君がどんなことで悩んでどう迷うのか、穂乃果は分かってるつもり。恋人同士になってからも何度か(つまず)いたことはあったけど、それがあったからこそ零君のことが色々分かって、零君のことをいっぱいい~っぱい知れたから、穂乃果は嬉しんだよ!――――って、結局何が言いたいのか穂乃果も分からなくなっちゃった!?やっぱり難しいことは性に合わないや、あはは……」

 

「穂乃果らしいよ。本当にお前らしい安心するくらいだ」

「あっ、また馬鹿にしてるね!!」

「してねぇって!むしろ言いたいことをビシッと言えるお前の性格が羨ましいよ」

「零君も言いたいことを何でも言ってるような気がするんだけどなぁ」

「どうでもいいことならスラスラ口に出せるんだけどな。真面目な話題になるとどうも考え込んでしまうんだ」

 

 

 でも、考え込むのはもう終わりだ。穂乃果たちの会話の中で自分がどの道を選ぶべきなのか、俺の中で明確になった。多分その道を選んだ理由を聞いたら誰もが落胆するかもしれないけど、それが俺の進みたい道なんだ仕方がないだろう。

 

 

「あっ、もうここでお別れだね」

「そうだな。今日はありがとう」

「れ、零君が素直にお礼を言うなんて……地球の明日が心配だよ!!」

「お前も馬鹿にしてるだろ!!とにかく、心の整理ができたのは穂乃果と、そしてことりと海未のおかげなんだ」

「穂乃果は言いたいことを言っただけだけどね」

「それでも俺にとっては感謝なんだって」

 

 

 俺はこれまで以上に穂乃果たちに支えられてきたことを実感したことはない。穂乃果たち以外のメンバーも、俺の気付かないところで俺を支えてくれていたりするのかな。きっとそうだろう。

 

 

「それじゃあな」

「うん、また明日!ばいばーい!!」

 

 

 笑顔の穂乃果を見届け、俺は1人帰路についた。

 迷いに迷って、悩みに悩んで決めた、1つの決断と共に――――――

 

 

 

 

 そしてこれは後から分かったことなんだけど、穂乃果が1人で帰宅途中にこんな話があったそうな。

 

 

「もう楓ちゃん、後ろからついてくるなら零君に直接何か言えばよかったじゃん」

 

 

 電信柱に隠れていた楓が姿を現して、穂乃果の横に並ぶ。

 

 

「妹の私からは何も言うことないですよ。お兄ちゃんがどんな選択をしようとも、私は一生お兄ちゃんの側にいるだけですから」

「ブレないね楓ちゃんも……」

「全くお兄ちゃんも、嘘をつくならもっと誤魔化さないと。お父さんが近況報告だけをするために、わざわざエアメールなんて送ってくる訳ないのに」

「確かにそうだよねぇ。でも楓ちゃんにはびっくりしたよ、穂乃果が零君に言いたいことがあると練習中に察知して、雪穂まで誘って穂乃果と零君を2人きりにさせてくれたんだもん」

「まあ妹なりの優しさってやつですよ。穂乃果先輩と同じくらい、私もお兄ちゃんのことは分かっていますから」

 

 

 楓は朝食の時点でもう俺の様子の異変に気付いていたのだ。

 流石我が妹……と思ったけど、俺の言動を見ていれば誰でも分かるか。楓にも後からお礼を言っておかないとな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 夜。

 俺は自室で椅子に深く腰を掛けながら、携帯を持ってある人へと電話を掛けた。

 

 もちろん相手は――――――

 

 

『もしもし。意外と早かったな』

「明日が進路希望調査だから。今時間あるか、父さん」

『あぁ、今日は休みだからいくらでも』

「そりゃあ丁度よかった。決めたんだ、自分の道を」

『そうか。なら聞かせてくれ』

 

 

 俺は大きく息を吸い込んで、一旦深呼吸をする。

 遂に俺が一日をかけて決断した道を、父さんに示す時だ。緊張はしない。むしろ自分の未来を誰かに話すのはこれが初めてなので、自然と意気が上がる。

 

 

 

 

「俺、日本(こっち)に残るよ」

 

 

 

 

 そう、これが俺が悩んだ末に辿り着いた、俺自身の決断。穂乃果たちに支えてもらったりはしたけど、自分で選んだ選択肢なのは間違いない。

 

 そして俺のこの言葉を聞いて、父さんはどんな反応をするのかと身構えていたのだが。父さんが口に出した言葉は――――

 

 

『そうか』

 

 

 この一言だった。だがその一言に残念そうな気持ちとか、憤りを込めた気持ちとか、そんなものは一切含まれていない。それとは逆にどこか安心したような、もう既に納得がいっているような気持ちが感じられた。電話越しだから恐らくだけど、父さんは笑みを零しているんじゃないか、そう思う。

 

 

『お前が選んだ道だ、私から何も言うべきことはない。だが1つだけ聞かせてくれ』

「なんだ?」

『どうしてその道を選んだんだ?お前の性格だから、相当迷いに迷ったんだろう?』

 

 

 ご名答。例え遠く離れていても、息子のことは何でもお見通しって訳か。

 そしてこの質問は絶対に飛んでくると予測していた。道を選択するだけなら誰でもできる。だから重要なのは、その未来に掛ける想いと、その先の展望だ。

 

 

「他人に聞かせたら盛大に呆れられる理由なんだけどな。俺は――――」

 

 

 そう、これが俺がこの道を選んだ最大の理由。

 

 

 

 

「俺はただ、穂乃果たちとずっと一緒にいたかったから。それだけだよ」

 

 

 

 

 呆れてもらっても構わない、笑ってもらっても構わない。誰もが単純にして簡素な理由だと思うだろう。

 でも俺にとってはこれが全てなんだ。穂乃果たちと、自分の恋人たちとずっと離れず一緒にいたい。ただこれだけの理由。

 

 今日穂乃果たちと話して1つ分かったことがある。それは俺の人生がもう俺だけの人生ではないということ。俺の隣には常にμ'sがいて、俺がアイツらに告白した時点でもう同じ道を歩んでいるんだ。

 

 

 ことりは言っていた、誰かに甘えないことは誰かに頼ってはいけないことではないと。

 

 海未は言っていた、正解の道を選ぶのではなくて自分の選んだ道を正解にしろと。

 

 穂乃果は言っていた、(つまず)いたことはあったけど、それがあったからこそ俺のことをたくさん知ることができたと。

 

 

 その時、俺は思い出したんだ。俺は穂乃果たちと一緒に未来を歩み、例え途中で障害があったとしても、取り合って共に乗り越えていくって誓ったことを。頼る、ひたすらに彼女たちを。そして彼女たちと共に選んだ道を幸福だと思えるように、これからも突き進む。これが俺の考えだ。

 

 そもそもの話、自分1人で人生を歩もうなんて考える必要さえなかったんだ。もしまた自分の未来を決断する時があったら、その時は彼女たちと一緒に迷えばいい。だってもうこれからずっと一緒にいるって決めたんだから。

 

 

『実にお前らしい理由だ。その言葉だけで納得したよ』

「父さん……悪い。父さんの示してくれた道も魅力的だった。だけど、俺はそれ以上に穂乃果たちの傍にいたいんだ。考えが浅はかで子供かもしれないけど、俺はこの未来以外有り得ないと思ってる」

『謝ることはない。お前が選んだ道なら、私はどんな道でも期待しているよ。その代わり彼女たちを、ずっと笑顔にしてやるんだぞ』

「あぁ、もちろん!!」

 

 

 もう選択した。もう戻れない。戻るつもりもない。俺はずっと、彼女たちの隣にいると決めたんだ。他の誰かの人生を自分に重ねる。それに何の抵抗もない。だって俺たちはもう人生を共に歩むと決めた、()()()()なんだから。

 

 

 新たな一歩を踏み出した俺は、彼女たちの笑顔を1人1人想像しながら、更なる決意を固めた。

 




 どうでしたでしょうか久々のクソド真面目な回は(笑)
 そもそもこの話が物語にガッツリと絡むというわけではないのです。自分がただ真面目な回、真面目な文章を書きたかったからという至極単純な理由でした(笑)

 元々今回は零君の葛藤について書きたかったのですが、成長した穂乃果たちを書きたかったという側面もあります。今まで救う側だった零君が、今度は穂乃果たちに救われる……なんていい展開!!

そして何より、今の零君と穂乃果たちの絆の強さを書きたかったのです。本当はμ's全員を出したかったのですが、それをしてしまうと4、5話平気で使ってしまうので、今回は零君と同級生で一番一緒にいる時間が長い幼馴染組に頑張ってもらいました。当の本人たちは自分の言いたいことを言っているだけで、頑張っているなんてさらさら思ってないでしょうが(笑)


 次回は穂乃果と凛回の予定。テーマは中二病!?


新たに高評価を下さった

シグナル!さん、レイン0012さん、Re:A-RISEさん、Dronesさん、マメちさん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ほのりんは中二病!?

 はい、別にバレンタイン関係なく今回はタイトル通り中二病回です。
 私自身にわか中二病ですが、にわかはにわからしくセリフやワードを考えてみました。是非楽しんでもらえればと!


 今日も今日とて放課後練習。いつものようにみんなの綺麗な肌に汗水が垂れる、ちょっとエロティックな姿を見てドキドキする時間がやってきたのだ。そうは言っても今日は掃除やら生徒会やら大学の授業やらで全員が揃う時間はバラバラになるので、練習の時間は割りと遅めだ。だからそれまで部室でゆっくりしようと思っていたのだが……。

 

 

「な、なんだこれ!?」

 

 

 部室の目の前までやって来ると、その辺り一帯が異質な空間となっていた。

 なんと部室の扉の隙間から、緑色の明るい光が廊下に漏れ出していたのだ。まるでこの扉の先が異次元空間へのワープホールになっているかのような、とにかく現実的ではない謎の光が廊下の壁や天井を含め辺りに広がっている。

 

 そして俺は、一刻も早くこの場を離れたかった。

 だってこの扉を開けたら最後、また変なことに巻き込まれるのは目に見えてるじゃん!!どうせまた秋葉が何か企んでいるのか、楓のイタズラだろ?最近のコイツらがすることはマジで命に関わることがあるから、できることなら扉を開けずにこのまま真っ直ぐ家に帰りたい!

 

 

 だけどどうせ開けないと話が進まないんだろ?はいはい開けますよ開ければいいんでしょ!!

 

 

 俺は溜息を付きながら、緑色の光を放っている怪しい扉のノブを握り、ゆっくりと回して扉を開ける。

 するとさっきまで微かに漏れ出していた緑色の光が扉という障害物がなくなったのをいいことに、俺の身体を包む勢いで一気に放出された。あまりの眩しさに、俺は思わず目を瞑ってしまう。この光を目にまともに浴びたら視覚を失いそうだ。

 

 

 段々と目を開けながら部室の様子を確認すると、中は非常に暗かった。それもそのはず、部屋一面が黒いカーテンで覆い尽くされていたからだ。そして床には謎の魔法陣が書かれた絨毯、部屋の隅に追いやられた机の上には燭台やロウソク、そして一冊のノート。そのノートのタイトルは英語で、えぇっと……"Mabinogion"。日本語読みでそのまま"マビノギオン"か。

 

 さっきの緑色の光は、棚の上からスポットライトで扉を照らしていたらしい。こんなものどっから持ってきたんだよ……。

 

 

 極めつけは、部室の真ん中に黒いローブを纏った魔術師みたいな風貌の人間(?)が2人いる。1人は栗色の髪をしたサイドポニーの少女、もう1人はオレンジ色の髪をしたショートカットの少女……うん、いかにも()()()()()()()()でこういうことをしそうな奴らだと一瞬で分かった。

 

 それはいいとしてこの2人、俺が部室に入ってきたことに気付いてないのか?さっきから俺に背を向けて(うつむ)いたままだ。ちょっと声を掛けてみるか。正直なところ、見て見ぬふりをしてとっとと帰りたいけど……。

 

 

「おいお前ら」

「「わぁっ!?」」

「いい反応だなオイ……」

「れ、零君!?もう驚かさないでよ!!」

「心臓が飛び出るかと思ったにゃ!!」

 

 

 黒のローブを纏っていたのは、まぁ今更言うのもアレだけど穂乃果と凛だ。

 そして2人がこっちへ振り向いて初めて分かったのだが、穂乃果は左目に眼帯を付け、凛は右腕に包帯を巻いている。何も前情報がなければ怪我をしたと思われるかもしれないが、穂乃果は同じクラスだし凛は日中に一度会っているからその線はない。そもそも眼帯や包帯に謎のマークが描かれている時点で怪しさMAXなんだが……。

 

 

「お前ら何してんだ。こんな照明まで持ってきたりして……」

「実はね、この前――――」

「穂乃果ちゃん!キャラがブレてる!!」

「あっ、そっか。フフフ、我が解き放つ忌まわしき能力(ちから)に耐えることができたならば、その理由を教えてしんぜよう……まあ零君ごときでは、穂乃果の瞳の奥に眠る創造と破壊を司る2対の竜を止められないだろうけど」

「は、はぁ?」

 

 

 穂乃果は眼帯に手を当てながら、意味不明な言葉を漏らし始めた。

 眼帯に包帯、そしてこの暗い空間に魔法陣に燭台、そしてあの怪しい緑色の閃光――――ああなるほど、要するに俗に言う"中二病"ってやつね。この小物やセットをどこから調達してきたのかは知らないが、やけにリアルな空間だったから普通に混乱してたわ。

 

 

「別にお前の力に耐えなくても分かったよ。どうせテレビや漫画の影響でも受けたんだろ?」

「うぅ、折角カッコよく決めたのに、すぐに答えを言わないでよぉ~」

「お前ら流されやすいからな」

「凛たち馬鹿にされてる……?こうなったら永遠なる光(アガルティア)の使者である凛が、光の下で零くんに裁きをくだすにゃ!!」

「あ、あがる?なんだって?」

 

 

 早速中二病特有の意味不明な単語が飛び出してきやがった。俺は特段その道を辿ってきた訳ではないから、その辺の知識はかなり疎い。そもそも疎くても困らないし勉強しようとは思わないが、これからコイツらの相手をするのにその辺の言葉が分からなければ、確実に俺の頭はパンクする。もう逃げられるような状況でもないし、くっそメンドくせぇええええええええええええええ!!

 

 

「凛ちゃんの傲慢なる雷(イーラ・トニトルスギニラール)はこの世に蔓延る悪を徹底的に根絶する究極の雷だからね、零くんじゃひとたまりもないよ」

「さっき東洋より伝来せし混沌の末湯(ラーメン)を食べてきたから、精神(エナ)の回復はバッチリだよ!さぁ、零くんこの世に残しておく言葉はない?」

 

 

 ちょっと解読班!!解読班はまだか!?もうこの2人が何を言っているのか全然分かんないんですけど!?唯一分かるのは何故か俺が悪役となって、この2人が俺を抹殺しようとしていることくらいだ。そもそもなんで俺が標的になってんのかすらも分からないんだが……。

 

 

「なぁ、俺もう帰っていい?」

「フフフ、それはできないよ零君。零君は既に穂乃果たちが発動させた魔法陣に潜む闇の蛇王によって、身体も精神も徐々に喰われているんだから……蛇王は実体がないから、零君じゃあどうしようもないけどね」

「そしてその奪った精神力は、凛たちの魔力として吸引されているんだよ。気付かないと思うけど、零くんの体力はもう――――」

 

「じゃあな」

 

「待って待って待って!!まだ話は終わってないよーーー!!」

「もう少し!もう少しで終わるからぁ~!!」

「知るか!離せ!!」

 

 

 俺が部室から立ち去ろうとした時、穂乃果と凛が涙目になりながら俺の腰に抱きついてきた。ていうかキャラブレブレじゃねぇか……やるならちゃんと貫き通せよな。

 

 あのまま話を続けられても煩わしいけど、身体にまとわりつかれて泣かれたらそれこそうるさいので、仕方なく部室に残ることにした。早く他の誰かが来てくれればツッコミの負担も減るのだが。

 

 

「で?俺は何すればいいんだ?」

「何をって、零くんやられそうになってるんだよ!戦わないと!!」

「た、戦う!?俺はそんなイタイこと絶対にやらねぇぞ!!」

「零君は聖戦を放棄するの!?光と闇が今にも対立してぶつかり合おうとしている、この瞬間を見ても!?そんなの穂乃果の知っている零君じゃないよ!!」

「お前らこそ俺の知っているお前らじゃねぇよ!!ブーメラン投げるのも大概にしろ!!」

 

 

 コイツら、俺までも()()()()()に巻き込もうとしやがる……。俺はそんな挑発を受けても絶対にやらねぇからな。戦いの途中でもし誰かが部室に入ってきてそんな俺の姿を見られてみろ、俺は一生μ'sの前で生きていけなくなる、羞恥心的な意味で……。特に真姫や雪穂の場合は、ゴミどころかこの世のどの塵よりも見下されることは確実だ。

 

 

「じゃあ零くんはそこで見ててね、今から凛の神々しい裁きの光で穂乃果ちゃんの禍々しい闇の力をかき消すから」

「零くん1人裁けないちっぽけな光で、穂乃果の闇を払えるかな?この左目を開放すれば、この世の災いが全て凛ちゃんに降り注ぐんだよ?」

「そんな災い、凛が全部裁いてあげるにゃ!」

「口だけではなんとでも言えるよ。どうやら決着をつけるしかないみたいだね」

「うん。それじゃあいくよ!!」

 

 

 えっ、なに?何が始まんの!?それにさっきまで俺が標的にされていたはずなのに、もう2人で勝手に話を進めてんじゃねぇか訳わかんねぇ!!本当に帰っていいですか!?

 

 

 ――――と、そう思った瞬間だった。凛には光、穂乃果には闇のオーラが纏い始める。そして俺たちの足元の魔法陣が白い光を放ち出すと、2人は一斉に口を開いた。

 

 

「我が真名は"邪龍真眼(じゃりゅうしんがん)"。混沌より出てし闇の力をその目に宿す者」

「我が真名は" 聖光神雷(セイントライジング)"。悪しき闇を裂き裁きを下す者」

 

 

 自分の真名を言い終えると、穂乃果は眼帯に、凛は腕の包帯に手を掛ける。2人を纏う光と闇のオーラも、床に描かれた魔法陣も、それに応じて光の眩さをみるみる増していく。そして2人はお互いににらみ合い、更に仲良く(重要)詠唱と続けた。

 

 

「我が真名に応え、今こそその姿を顕現せよ!!漆黒の闇集いし邪悪なる世界!!」

「契約に従えし我が真名に応えよ!!正義の光集いし神聖なる聖域!!」

 

 

 遂に詠唱がクライマックスを迎える。もう既に魔法陣の光は俺たちを包み込み、もう穂乃果と凛の姿どころか部室の中さえ何も見えなくなってきているうえ、自分の姿さえまともに確認することができなくなっていた。

 

 だがしかし、穂乃果と凛は最後の詠唱をやめることはない。

 

 

「顕現せよ我が戦場!地獄の古戦場(ヘルサルガッソ)!!」

「降誕せよ守護なる神殿!天の聖域(ヘブンズサンクチュアリ)!!」

 

 

 最後の詠唱と同時に、穂乃果は眼帯を、凛は包帯を外した。その時、穂乃果の黄色い眼(恐らくカラコン)と凛の腕の紋章(恐らく自分で描いた)が闇と光を放ち、俺たちを一瞬にして包み込んだ。あまりにも強烈な光を浴び、俺は一瞬だけ意識を失ってしまう。

 

 

 何もかもが砕け、あらゆる物が再生した。

 

 

――――妄想が走る。

 

 

 行き過ぎた妄想は壁となって境界を造り、世界を一変させる。

 

 

 そして俺が目を開けた時には――――

 

 

「な、なんじゃこりゃァああああああああああああああああああああああああ!?!?」

 

 

 片や闇の空が広がる古戦場、片や天空に浮かぶ神殿が広がっていた。俺は丁度その境界線に尻餅を着いた状態で座り込んでいる。そもそも何故俺がこんなファンタジックな空間に!?さっきまで狭い部室にいたはずだよな!?

 

 そしてその古戦場には穂乃果、神殿には凛が、それぞれ武器を手に持って――――って、えぇ!?ぶ、武器!?アイツらあんなの持ってたっけ!?

 

 穂乃果が持っているのは先端が尖った、いわゆる槍だろうか。恐らくその槍を立てれば彼女の身長よりも背が高い。凛が持っているのは自分の身体より数倍も大きいハンマーだ。だが彼女はそれを軽々と持ち上げて振り回している。

 

 

「やったね凛ちゃん。穂乃果のグングニルで貫かれる使徒は、凛ちゃんで1000人目だよ」

「そんな華奢な槍で凛を貫けるかな?その前に凛のミョルニルが、槍ごと穂乃果ちゃんを潰しちゃうにゃ!」

 

 

 またお互いにお互いを挑発し合うと、2人は武器を構えて向かい合う。

 静かな風の音だけが聞こえてくる。だがその音は、これから起こる激戦の始まりを告げていたのかもしれない……。

 

 

 そして遂に2人が動き出した。

 穂乃果も凛もその場で助走もなしに大きく飛び上がり、お互いの武器に力を込めてぶつかり合おうとする。

 

 

「このグングニルに闇の炎を込め、忌々しき光を断つ!!裁きの業火(ジャッジメント・ルシファー)!!」

「ミョルニルに集いし雷よ、蔓延る悪を殲滅せよ!!風狂う雷(ダーゴナイズ・ホーローカーン)!!」

 

 

 闇の炎と聖なる雷、両者が激突する。

 俺の目から見たら互いの力は全くの互角。グングニルとハンマーは、それぞれの属性を纏って唸りを上げながら互いを削り合う。穂乃果も凛も一歩も引かず身体から、穂乃果は闇、凛は光のオーラを増幅させている。相手を叩き潰すため、全力で内なる魔力を開放しているようだ。

 

 

――――って、待て待て!どうしてこんなに的確な解説をしているんだ!?まるで俺まで中二病みたいじゃねぇか!!もう帰りたい!!だけどここって一体どこなんだよ!?どうしてこうなった……確か穂乃果と凛が変な詠唱を始めた途端に魔法陣がピカッと光って……うん、よし、考えるのをやめよう!

 

 

「やるね凛ちゃん。でもその程度の雷じゃあ穂乃果を裁けないよ!」

「こんなのまだまだ序の口だよ!穂乃果ちゃんこそ、そんなしょぼい炎で闇の炎(ダークフレイム)の化身を名乗るとは片腹痛いにゃ!」

「この炎は言わばマッチの火と同じくらい。こんな低級技で瀕死になってもらっちゃ、逆に張り合いがないよ!」

「減らず口を!」

 

 

 空中で激突していた穂乃果と凛は一旦武器を下げ、お互いの領域の地へと再び足を着ける。だが2人は休む間もなく今度は全速力で、俺の目では追えない超スピードでまたしてもぶつかり合う。

 

 

「今こそ、穂乃果の左目に宿る厄災を1つ解放する時。その七つの大罪は、降り注いだ者を堕落の底へと突き落とす――――怠惰なる深淵(イグナーウス・テネブライ)!!」

 

 

 穂乃果はグングニルで凛ではなく、何もない空間を突き刺す。

 初めは外したと思ったのだが、穂乃果の不敵な笑みを見た途端にこの行動がその技の発動条件だと察した。

 

 刹那、空間に小さなヒビが入る。そのヒビは瞬く間に広がっていき、遂にその空間がガラスが大破したように勢いよく割れた。そしてその中から出てきたのは、おどろおどろしい"闇"。穂乃果は深淵と言っていたか。そこから得体の知れない、形も何もない()()が凛へと襲いかかる。

 

 

 しかし、凛は怯まない。むしろ彼女も笑みを浮かべ、待ってましたかと言わんばかりの表情だ。

 

 

「ならば凛も見せてあげるよ。七つの大罪を司る、裁きの雷を!!」

 

 

 神なのに大罪を司っているのか、もうこれ訳分かんねぇな――――とツッコミを入れたくなるが、俺が口出しできるような状況ではなさそうだ。そもそもこの戦闘に介入したいとは思わないが、普段ゲームの中で繰り広げられるであろうバトルが目の前で見られて、ちょっと興奮していたりもする。ちょっとだけな!

 

 

「天を引き裂き地を砕く、銀の雲より出でし黄金の剣!神の怒りで全ての(とが)を滅し、森羅万象を雷鳴の下に無へと帰せ!!強欲の無限雷(アワリーティア・インフィニットトニルス)!!」

 

 

 凛のミョルニルから目も眩む雷が(ほとばし)る。その雷は穂乃果が放った"何か"と激突し、一瞬にして雷が深淵の闇を包み込んだ。

 

 

「へっ!どう?凛の雷に裁けない悪はないんだよ」

「それはどうかな?それだったら凛ちゃんには穂乃果とっておきの死に惑い永遠に終わりし屍の戯曲(アガナエル)を聴かせてあげる!」

「なるほど。じゃあそろそろ凛も大技いっちゃうにゃ!穂乃果ちゃんに敗北の鎮魂歌(レクイエム)を奏でてあげる!!」

 

 

 2人は攻撃同士を衝突させたまま、大技を繰り出すために自身の魔力を高める。光と闇、その2つのオーラが増幅しすぎて今にも交わってしまいそうだ。見れば周りの世界も2人の交戦によって徐々に歪み始めている。そんな中で大技同士を叩き込んだら……俺、元の世界に戻れるの!?

 

 

「漆黒の炎が我が眼に宿り終焉の道(エンドロール)へと導く竜念の想と共に、幻想曲(ファンタジア)を奏で巻き上がる!!」

「天に輝く希望が我が手中に堕ちしとき、我は閃光の輝きと無限の能力(ちから)を得る。光よ、今こそ暗黒(ダークマター)に審判を下す時!!」

 

 

 この世界が発動した時と同じ、穂乃果の黄金の左目と凛の右腕の紋章が眩く光った。世界は既に崩壊の序曲を迎えているが、この2人にとってはそんなもの関係ないようだ。ただ目の前の敵を殲滅する、完全なる戦乙女(ヴァルキリー)となっていた。

 

 

 そして遂に、両者最後の技が発動する――――!!

 

 

 

 

「屍となって消えろ!!(トリガーハッピーエンド)ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「正義の名のもとに鉄槌を!!正義の光(ジャスディスレイ)ェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!」

 

 

 

 

 2つの技が、激突する。

 

 

 

 

 そこで、世界は壊れた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零君!大丈夫?」

「零く~ん!!」

「ん、んん……こ、ここは?」

「安心して、部室だよ」

 

 

 目が覚めると、そこは見慣れた部室……とは言っても黒のカーテンやら魔法陣やらで内装は様変わりしているが間違いない、いつのも部室に何とか戻ってきたようだ。気が付けば俺が来た時よりも部屋の中が散らかっている。恐らくさっきの戦闘中にコイツらが暴れすぎてしまったせいだろう。

 

 

「なんかさっきまでファンタジーの世界にいたような……」

「それはきっと零君にも中二病の素質があるってことだよ!」

「凛たちはあの世界を創造するのに数日掛かったのに、零くんはたった数分であの世界にのめり込めちゃうんだもん、すごいにゃ!!」

「創造って、ただの妄想だろ……」

 

 

 妄想にしてはやけにリアルだったけど、これも穂乃果と凛の妄想力がそれほど強かったってことなのか。まさかこの俺がイメージ拉致されるなんて……案外本気なのかコイツら。

 

 見れば魔法陣には等間隔に小さな電球が付けられていたし、さっきまでは暗さで目が慣れてなくて見えなかったが、部室のあちらこちらにも白い光を放つ電球が設置されていた。ただの遊びだと思っていたが、相当手の込んだことしてるな、やっぱり本気なのか。

 

 

「でも凛知ってるよ!零くんが凛たちの戦い、意外とノリノリで見ていたってこと♪」

「うぐっ、ま、まぁ男ならカッコいい戦闘は一度くらい夢を見るものだからな」

「じゃあ折角だからさ、零君の必殺技も考えようよ!穂乃果たちも一緒に考えてあげるから!」

「そ、そうか。なら一個くらいいいかな」

 

 

 ま、まあこんなことをするのは今日だけだし!2人の戦闘シーンを見て、ちょっとカッコいいと思っただけだから!別に技名を考えるだけだったらノーカンでしょ!そもそも何のカウントをしているのかって話だけど……とにかく!俺は《そっち方面》じゃないことだけ留意してもらえればそれでいいから!!

 

 

「穂乃果思いついたよ!零君の技名は色欲の迷宮(リヒド・ラスビリントゥ)でどう?変態だし♪」

「変態をこんなところでフューチャーするなよ。それにお前ら、七つの大罪好きだよな……」

「それじゃあ凛が前口上を考えてあげるね!えぇとねぇ……血の盟約に従い、我、永久(とこしえ)の迷宮を創造す――――なんてどう?即席だからまだ短いけど」

「いや、パッとすぐにそのセリフが出てくることが凄いわ……」

「じゃあ実際にやってみよう!前口上を言ったあとに技の名前を高らかに叫んでね!」

 

 

 あれ?俺段々と2人に流されてね……?このままだと本格的に中二病ロードに足を踏み入れてしまうんだが……。ま、まあ今だけ、今だけだから!!

 

 

 俺は凛から黒のローブを借りて身に纏うと、軽く咳払いをして喉の調子を整える。

 

 

 よし、行くぞ――――

 

 

「血の盟約に従い、我、永久(とこしえ)の迷宮を創造す!発動せよ!!色欲の迷宮(リヒド・ラスビリントゥ)!!」

 

 

 言ってしまった……でも案外カッコよく決まったような気がするのは俺だけか?

 だがしかし、穂乃果と凛は黙ったままだった。

 

 

「お、オイ!!なんとか言えよ!!」

「れ、零君……」

「なんだよ」

「後ろ……」

「へ……」

 

 

 2人に言われて後ろを振り返ると、そこには……そこには――――!!

 

 

「ま、真姫……」

 

 

 真姫が口を開けて唖然としていた。

 み、見られた!?よりにもよって一番こんな俺を見下してきそうな奴に見られた!!見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた!!

 

 

 あ゛ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

 

 

「真姫!!」

「ちょっと近付かないでもらえますか?」

「えぇっ!?なんでそんなに他人行儀なんだよ!?」

「今日はもう帰ります。さようなら神崎零さん」

「お゛ぉおおおい!!敬称付きはやめて!!一番心に来るからぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「あぁもう!!近寄らないで!!」

「今度は犯罪者を見る目に!?俺なにもしてないだろぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「あれで何もしてないってよく言えたわね!!ていうか、その変なマント着たまま抱きつかないでよ恥ずかしい!!」

 

 

 そして本日付けでこの俺、神崎零は人生終わりの日を迎えたのであった。

 

 

「やっぱり零くんはいつもの零くんが一番だにゃ~♪」 

「だね~♪」

「お前らが乗せてきたんだろ!!」

 




 執筆し終えて一言―――――疲れた!!


 ということで今回は中二病回でしたと。
 私自身まずこのような文章を書かないので、執筆途中はかなり悲鳴を上げてました(笑)
そのため本物の中二病の皆様からしたら、私の中二病のセリフやワードは生温かったかもしれませんね。多分これが私の限界です(笑)
限界は感じましたが楽しく執筆できたのは事実で、前回の真面目回もそうだったのですが、やはりいつもと違う文章を書くのは自分にとっていい刺激となりますしマンネリ化も防げますし、割りと執筆して良かったんじゃないかと思っています。


 次回は久々にR-17.9回になる予定ですが、そのお相手はA-RISEのツバサさん!!


新たに高評価を下さった

元SEALs隊員さん、ロキロキさん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

音ノ木坂学院 ツバサ参る!

 今回はまさかのツバサ回!
 この小説における彼女のキャラは私も大好きなので、この話もかなりのボリュームになってしましました。もちろんあんな展開やこんな展開も!?


 

「ということで、今日は特別講演の講師として、スクールアイドル"A-RISE"の綺羅ツバサさんをお招きして、芸能界のお仕事についてお話して頂きましたーー!!」

「どうもありがとうございました!是非よろしければ私たちのライブ、見に来てくださいね♪」

 

 

 生徒会長である凛の締めくくりの言葉とツバサの挨拶で、講堂に拍手と歓声が巻き起こる。

 

 先程凛の紹介にもあったが、今日はあのトップスクールアイドルである"A-RISE"のツバサが直々に、音ノ木坂学院の特別講演の講師としてやって来た。実は俺たち生徒全員は今日の講演の講師が誰なのか全く知らされてはいなかったので、ツバサが舞台袖から現れた時は他の生徒の誰よりも驚いた。

 

 もちろん"A-RISE"はメディアに取り上げられるほど注目されているグループなので、この学院の生徒にも当然ファンは多い。さっきから聞こえる歓声も『ツバサちゃーーん!!』など、講演とは全く無関係な熱い声援ばかりが聞こえている。まるでさっきまでA-RISEのライブでも見ていたみたいだなコイツらのテンション……。

 

 

 そして俺の隣で講演を聞いていた穂乃果たちも、周りのテンションと何ら相違はなかった。

 

 

「まさかツバサさんが来てくれるなんて……スクールアイドルのお話もいっぱい聞けたし、ためになったね!」

「お前ずっと目輝かせてたもんな。やっぱスクールアイドル同士分かり合えるものなのか」

「それ以前に芸能界の話なんて中々聞けるものではありませんし、最近μ'sもメディアに取り上げられることはありますから、知っておいて損はないかと」

「A-RISEはもうテレビや雑誌にもたくさん出てるからね。ことりもたくさん勉強させてもらったよ」

 

 

 俺にとってはふ~んなるほどレベルの話だったが、穂乃果たちにとっては思わぬ収穫だったらしい。同じ生徒会で舞台袖に立っていた花陽なんて、目をギラギラさせながらペンとメモ帳を持って常に何かを走り書きしていたし……ツバサも光ってたが花陽も相当インパクトあったな。

 

 そしてこのことをにこが知ったら俺たち首を絞められるんじゃないか。アイツもA-RISEの大ファンだし、今晩電話で延々と今日の講演の内容を話すよう強要されそうで怖い。これは確実に寝かせてもらえそうにないな……。

 

 

 そんなこんなで拍手と歓声(というより声援)に包まれながら、講演は終了した。

 どうせならどうして音ノ木坂にまでこんな話をしに来たのか、その理由を聞きたくはあったのだが、流石に忙しいだろうしすぐに帰っちまうだろう。まあ後から電話で聞けばいいか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「失礼しま~す」

 

 

 俺は気の抜けた声で職員室の扉を開けた。

 あの講演が終わったあと、笹原先生からの呼び出し(というよりもはや命令)でここへやって来た次第だ。

 

 また俺何かやっちまったのかと内心ビクビクしている。心当たりがないことはないけど、今日一日は割りと真っ当に生活をしていたはずだ。先生の授業でウトウトしていたこと以外、逆鱗に触れるようなことは一切ないと思ったのだが……また残虐な処刑(主に頭を殴られることによる脳細胞の死滅)が行われるのか。

 

 

 なんてビビっていると、笹原先生の隣にこの学院の制服ではない女子生徒がいることに気が付いた。

 というよりコイツは――――!!

 

 

「つ、ツバサ!?」

「あっ、零君だ!やっほ♪」

 

 

 ツバサは持ち前の笑顔で俺に手を振りながら挨拶をする。

 これが営業スマイルというやつなのかそうでないのかは別として、女の子の笑顔に簡単に惚れてしまう俺にそんな明るい表情を向けないでくれ!!μ'sという彼女がいるのにお前に靡いてしまうだろ!!

 

 ていうかトップスクールアイドルということもあってか、やっぱルックスもスタイルもいいし、何より普通に可愛いんだよなツバサって。あっ、これ別に浮気とかじゃないから!!男なら可愛い女の子に見惚れるのは当然だろ!?

 

 

「どうした神崎、さっきから頭を振って」

「い、いやなんでもないです……それより、どうして俺をここへ?まさかツバサの前で俺を公開処刑ですか?相当ドSですね先生も」

「そうか、お望みとあらばそうしてやってもいいが」

「やだなぁ~冗談ですよ先生!だから教科書の角を振り上げるのやめてもらていいですかねぇ!!」

 

 

 ほ~らすぐに暴力に走る!!まあ先生は秋葉が在学していた頃に彼女の副担任だったみたいだし、俺たちとの因縁は相当深い。つまり先生は"神崎"に対してストレスを抱いている訳で、こうなるのも仕方がないのか。俺が卒業しても、あと2年間妹がお世話になります先生!

 

 

 でもまぁ今はそんなことよりも――――

 

 

「そ、それで、俺に用とは……?」

「お前には彼女の案内役をやってもらう。この学院のな」

「えっ、俺が!?だったら生徒会の凛とかにやらせれば……」

「アイツらはアイツらで他に生徒会業務があるんだ。それに引き換えどうせお前は暇だろ?ならば案内してやれ」

「ひでぇ言われようだ……」

 

 

 いくらなんでも俺たち"神崎"に溜め込んだヘイトを解放し過ぎじゃないですかねぇ……。

 それにさっきからツバサはやけにニコニコしてるし、そんなに俺が虐められる現場が楽しいのか?彼女も中々小悪魔的なところがあるし、人の不幸は蜜の味ってか、あぁ?全くいい性格してやがる。

 

 

「よろしくね、零君♪」

 

 

 そして勝手に決まってるっていうね。

 俺も聞きたいことがあったから別にいいんだけど、またなんで俺なんだよ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「外から何回か見たことはあるけど、こうして校舎内を歩くのは初めてだなぁ~。私たちの高校とは随分違うのね」

「お前なぁ、あんな最先端技術が詰め込まれたUTXと、こんなオンボロの音ノ木坂を比べんじゃねぇよ。勝負どころか、こっちは初めから土俵すら上がれねぇよ」

「あはは!でも私は好きだよ、この学院の雰囲気」

 

 

 職員室を出た俺たちは、とりあえず適当に校舎内をブラブラと適当に歩く。いくら歴史が深い学院だと言っても、特段よそからやって来た人様に紹介するような施設や教室がある訳ではない。だから何故コイツが学院の案内を頼んだできたのかが謎なのだが、彼女が楽しそうならばそれはそれでよかったのだろう。

 

 

「この学院からは活気が伝わってくるっていうのかな。先生たちも生徒たちも楽しそうなんだよね」

「そうなのか?全然分からないけど」

「零君はここの生徒だから、自分の身近な雰囲気って案外気付かないものなんだよ。でも外から来た私にはよく分かる、この学院の暖かくて元気な雰囲気が。これもμ'sのおかげだね!」

「ふ~ん、そんなものなのか」

「あーー!!興味ないって顔してる!零君顔にすぐ出るんだからぁ~」

「興味ない以前に俺には分からないからな。そしてそれ、前に穂乃果たちにも言われた」

 

 

 どうやら俺の機嫌やテンションは穂乃果と同じくらい、もしくはそれ以上に表情に出やすいらしい。なんか心の中を読まれているみたいで少し恥ずかしいんだよな。だがそれはもう今更のことだし、別に治そうとは思わない。好きなだけ俺のイケメンな顔を見るがいいさ!

 

 

「でも笹原先生はどうして俺をお前の案内役に任命したんだろうな?凛たちは生徒会で忙しいし楓たちはまだお前との付き合いが短いから無理だとしても、穂乃果たちでも良さそうなのに」

「それはね、零君に案内役をお願いしたいって、私が笹原先生に頼んだからだよ♪」

「えっ、どうして俺?」

「う~ん、ただ単に私が零君とお話したかったからかな。最近忙しくてロクに電話もしてなかったし」

 

 

 なんかこの会話だけ聞くと、遠距離恋愛をしている恋人同士の話に聞こえるな。しかも最近電話していないって、確実に破局が訪れる展開のパターンだこれ。もちろん俺とコイツは恋人同士でもなんでもないから関係のない話だけど。

 

 

「そ、それに……」

「それに?」

 

 

 すると、急にツバサは俺から顔を背けてしまった。あれ、もしかしてさっきの言葉口に出ちゃってた?いやそんなことはないだろう。そして心なしか、彼女の頬がほんの少しだけ染まっているようないないような……気のせい?

 

 

「まあいいや!そういえば零君は休日とか何してるの?」

「急に話題変わったな……俺インドア派だし、休日は家にいるよ。そもそも遅くまで寝ていることが大半で、起きてもPC弄ったりゲームしたりするくらいかな」

「ふむふむ、休みは暇ってことね」

「俺は暇じゃないんだが……」

「世間ではそれを暇って言うの」

 

 

 さっきまではしおらしかったのに、今はやけに嬉しそうな表情をしてやがる。見た目でここまで態度があからさまなくせに俺を馬鹿にしてたのか……お前も大概だっつうの。

 

 

 するとここで俺の隣を歩いていたツバサが、突然俺と向かい合った。そして俺の元へと近付いてくると、下から俺の顔を覗き込むように上目遣いで見つめてくる。トップスクールアイドルだからだとか、そんなものは関係なく、俺はただ綺羅ツバサという1人の女の子の顔を間近で見てこう思った。

 

 

 綺麗で可愛いと。

 

 

 そして――――

 

 

「じゃあさ、今度の休みに私とデートでもしてみない?」

「へ……」

 

 

 な、なにコレ……俺、誘われてる?あのトップスクールアイドルのA-RISEのリーダーで、もはやメディアにも取り上げられるほどの魅力を持った彼女に俺、誘われてる……?ま、マジで……!?それ以前にこんなに綺麗な女の子からデートのお誘い……?う、嘘ぉ!?

 

 

「お前、い、いきなりそんな!?」

「あはは!慌てすぎ慌てすぎ!」

「そりゃああんな風に誘われたら、男なら誰でも動揺するって……」

「私がこんな風に誘うのは零君だけだから……」

「へ……!?」

 

 

 なになになになになになに!?!?もしかして逆ナンですか!?それ以上に脈アリみたいなこの言動、本当に勘違いしてしまうぞ……。それにさっきから周りの目線が痛いよ!ただでさえ一緒に歩いていて目立つのに、こんな恋愛ドラマみたいなことをされたら余計に目立つって!!

 

 ツバサは俺をからかっているのか思っていたのだが、本人も顔を赤くしたままその場を動こうとしない。これって本気?それとも演技!?冗談なら冗談と早く言ってくれ!!俺の心臓が破裂する前に!!

 

 

「それじゃあ次はどこを案内してくれるの?」

 

 

 えぇっ!?さっきの話題終わり!?俺のこの高ぶった心はどう発散すればいいんだよ!?でも周りの目もあるし、ツバサは意図的にこの話題を終わらせてきたみたいだから、これ以上さっきのことに触れるのは場違いだろう。うぅ~でも気になるぅ~!!電話でも聞きにくい内容だし……。

 

 

 その時、周りの目線が更に増えたことに気が付いた。ツバサが帰らないで校内に残っていることをどこからか聞きつけたのか、俺たちの周りに生徒たちがゾロゾロと集まってくる。もう放課後なのにまだこんなに生徒が残っていたのかよ。大方ツバサファンだから講演が終わったあとも彼女の話にうつつを抜かしていたんだろうが、まさかこんなことになるなんて……。

 

 

「す、すみませんサイン貰えますか?」

「僕も!僕もお願いします!!」

「私も私も!!」

「お、おい勝手にそんな!!」

 

 

 ツバサのファンの人たちが一斉にツバサに群がった。俺が何とか静止しようとするも人の波が押し寄せて、俺一人ではただ後ろに流されてしまうだけだ。更にこの騒ぎを聞きつけた奴らも現れたみたいで、どうやら彼女のサインを貰えるというデマが拡散しているらしい。全くコイツら、獲物を狙うハイエナみたいに群がりやがって……!!

 

 

「おい、サインだってよ!」

「えっ、もらっていいの!?」

「お、俺もください!」

「私も!」

 

 

 そしてさっきよりも多くのファンの大群が押し寄せてきたことで、俺はその波から押し出され、ツバサは廊下の隅にまで追い込まれて俺たちは離れ離れになってしまう。いくら大勢のファンに囲まれることに慣れている彼女といっても、これだけ大挙として押し寄せられたら敵わないだろう。現に今、彼女はファンたちに押し潰されそうになっている。

 

 

「ツバサ!!」

 

 

 人の波の隙間から彼女の息苦しそうな表情を見て俺は、反射的に身体が動いていた。

 

 

「やめろお前ら!!」

 

 

 俺は人の波を掻き分け、ツバサに向かって右腕を伸ばす。ツバサは驚いたような目で俺を見つめた後、ゆっくりとその手を伸ばしてくれた。俺も必死に彼女の手を目掛けて自分の手を伸ばし、遂に俺の彼女の手が――――ギュッと握られた。

 

 実は彼女の手を握ったのはこれが初めてだったりするし、そもそも俺は女の子と手を握ること自体緊張するウブ野郎なのだが、今は彼女を助けることに夢中でそんなもの考えてすらいなかった。

 

 俺はツバサの手を握り締めた後、やや乱暴に彼女をファンたちの波から引き抜く。その勢いでファンの大群は大きくバランスを崩すが俺にとってはどうでもいい。しかしこのままだとまた後からきたファンに彼女が狙われかねないので、俺は荒波から引き抜いた彼女を自分の身体に抱き寄せ、そのまま彼女を抱きかかえその場から逃げるように走った。

 

 傍から見たらただのお姫様抱っこなのだが、もちろん今の俺はそんなことで羞恥を感じている余裕すらなく、頭の中はツバサを無事にこの場から退散させること、ただそれだけだ。

 

 

 だからその時、彼女の顔が真っ赤に染め上がっていたことにも全く気付くことはなかった……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……」

「ご、ゴメンね零君!私のせいなのに助けてもらっちゃって……」

「なんで何もやってないお前が謝るんだよ」

「だって私のファンのみんなが迷惑掛けちゃったし……」

「むしろ一番迷惑してたのはお前だろ。だから謝られる言われはねぇよ」

「そ、そう、ありがと」

「どういたしまして。でもあの大群に見つからずこの学院から去るのは無理そうだな……」

 

 

 結局あの後、俺たちは空き教室に逃げ込んだ。鍵が空いていたのは幸いだが、それは同時にあの大群もこの教室に入って来られるのと同義。アイツら変に目の色が変わっていたし、熱狂的なファンもいたようだから今頃血眼になってツバサを探し回っているだろう。そうなればこの教室からのこのこ出ていくのは得策ではない。見つからないことを祈って、嵐が静まるまで待機するのが正解か。

 

 

 すると教室の外から足音が聞こえてきた。それも1人や2人じゃない、結構な数の足音が聞こえる。もうここまで来たのか……?あれだけ数がいれば、それほど広くないこの校内を探し回るのは屁でもないってことかよ!

 

 しかしこの教室は空き教室のため机の数も少ないし、隠れることのできる場所がない。つまり教室の窓を覗かれた時点でアウトだ。どうする……。

 

 

 ――――ん?そうだ、そういえばあそこなら!!

 

 

 この前、海未とこの教室を掃除した時に分かったことなのだが、この教室の掃除用具箱の中身はすっからかんだったな。だからあの時はわざわざ他の教室から箒を持ってきたんだ。ということは、今もこの掃除用具箱の中は――――

 

 

「ビンゴ、やっぱり何も入ってないな。ツバサ、悪いけどちょっとこの中に隠れていてくれないか?」

「えっ、掃除用具箱に!?」

「お前の体型なら余裕で収まるだろうし、あの大群をやり過ごすまでの間だけだ。頼む」

「それはいいけど、零君はどうするの?」

「ま、まぁ何とかするさ……」

 

 

 その瞬間、ツバサが俺の手首を掴んだ。彼女の真剣な表情を見るに、恐らく俺が何の考えもなしにあの大群の相手をすることがバレているのだろう。

 

 

「零君も一緒に隠れよ。でなきゃみんなに追い詰められちゃうよ。ファンの中には結構熱狂的な人もいるから……」

「で、でも俺と一緒に隠れるなんて!!」

「えぇい!!もうみんなが来ちゃうよ!!早く!!」

「お、おい!!」

 

 

 ツバサは俺の手首を掴んだまま俺の身体を無理矢理引っ張る。そして俺を掃除用具箱に押し込んだあと彼女も俺に抱きつくように入ってくると、そのまま片手で掃除用具箱の扉を――――完全に閉めた。

 

 

 な、何なんだこの状況は!?あの綺羅ツバサと2人きりで、しかも抱き合いながら掃除用具箱に押し込められるなんて、一体どんなご褒美!?さっきまで走って少し汗をかいていたためか、女の子特有の甘い熱気が掃除用具箱内に充満している。

 

 それに正面から抱き合っているせいで、俺たちの胸と胸がピタッと密着している。もちろん彼女の胸が俺の胸で形を変える感触が直に伝わってくる訳で、こんな状況にも関わらず興奮が高まってきてしまう。

 

 女の子にしても小柄な体格の彼女だが、こうして密着するとその胸が意外と大きいことがよく分かる。俺の手にマッチする、穂乃果や真姫の大きさと同じくらいだ。身体に押し付けられる胸のこの柔らかさこの弾力。これが穂乃果たちだったらもう既に俺の手が伸びているだろう。今でさえ触ってみたいと思うくらいなんだから……。

 

 

 ふと掃除用具箱の扉の隙間から教室の窓を見てみると、丁度ツバサのファンの大群がこの教室を横切るところだった。ここで下手に音を立ててはツバサの好意も全て水の泡と化してしまう。ここは何とか耐えないと!!

 

 

「は、あっ!」

「つ、ツバサ……?」

「零君、あまり動かないで……」

「そう言われても、お前が後ろに倒れたらここから飛び出してしまうし……」

「で、でも足が……んんっ!」

 

 

 よく見てみると、俺の足が丁度ツバサの脚と脚の間に挟み込まれている。そして俺の膝上の部分が彼女の大切なところをグイグイと押し込んでいることに今気付いた。できるなら離れてやりたいけど、この狭い掃除用具箱の中ではまともに身動きすら取ることはできない。

 

 

「ひゃっ!れ、零くぅん……」

「そ、そんな声出すなよ!」

「だって零君が動くから……あっ、そこはダメ……!!」

 

 

 俺も男だ、ツバサような可愛い女の子のこんな声を聞かされては勝手に身体が熱くなってくる。もうそれほど彼女に興奮してしまっているのだ。そしてそれは彼女も同じことらしい。ずっと抱きしめ合っているから分かるのだが、彼女の身体も段々と熱を帯びてきている。同時に肌も汗で濡れてきて、お互いにその肌が触れ合いぐっしょりと密着するのが物凄く淫らに感じる。

 

 

「はぁはぁ、零君……」

 

 

 何故かツバサは俺の首に腕を回して更に密着してきた。この状況で吐息を漏らして更に自分の名前をそんな色っぽく呼ばれると、例え目の前の女の子が自分の彼女でなくても、このまま掃除用具箱の扉を突き破って押し倒したくなる衝動に駆られる。

 

 だがもしこの姿を誰かに見つかってしまえば、彼女自身のスキャンダルにも関わる。ここは何とか耐え凌ぎたいが、押し付けられる彼女の肌、吐息、香り、そして胸――――その全てが俺の理性に襲いかかる。

 

 彼女はギュッと俺を抱きしめてくるので、俺からも抱きしめ返さないと身体のバランスを崩しそうなのだが、イマイチ彼女のどの部分を触って抱きつけばいいのかが分からない。胸元辺りを触っても腰を触っても、どちらも彼女から色っぽい嬌声が漏れ出して俺自身が欲求をそそられてしまう。

 

 だからといって太もも辺りを触る訳にはいかないし、結局軽く背中に手を回しているだけだけど、俺が軽く抱きついている分彼女は思いっきり俺に詰め寄ってくる。

 

 ど、どうしてコイツはこんなに積極的なんだ……!?彼女も強烈な熱さを感じているはずなのに、何故ここまで俺に抱きつく?熱い……だけど軽く抱きついていても分かる彼女のカラダの柔らかさ。熱いけど抱き付いていたい――――ん、そうか、もしかして彼女も同じ感覚を共有しているのかも……?

 

 

「私がここに来た理由はね……」

「つ、ツバサ?」

 

 

 ここで唐突にツバサが口を開く。それもさっきみたいな嬌声ではなく、普通に俺に語り掛けてきた。

 

 

「零君に会いたかったからなの。最近は忙しくて電話もしてなかったし、久しぶりに零君の姿を見て声を聞きたいなぁと思って……」

「そ、そうなのか……」

「ねぇ、最近私の声を聞いてなくて寂しいなぁとか、思ったりした?」

 

 

 な、なんだよその質問は……?なんだろう、適当に答えてはいけない、そんな気がする。

 ツバサは俺の目を真っ直ぐ見つめたまま一切逸らそうとしない。この状況を少しでも忘れたいからという苦し紛れの会話ではなく、コイツは本気だ。本気で俺に問いかけている。

 

 

 だったら俺も素直な気持ちで――――――

 

 

「寂しかったっていう気持ちはないけど、声を聞きたいとは思ったよ。でもお前ら忙しそうだし、無理にこっちから電話をするのはよくないかなぁって。だから突然だったけど、こうしてまた会って話ができて楽しかったよ」

「そう……そっか」

 

 

 ツバサは優しく微笑むと、俺の首に回していた腕を解く。そして背中で押し出すように、掃除用具箱の扉を開け放った。その瞬間に冷たい空気が一気に掃除用具箱の中に流れ込んできて、さっきまで汗をかいていたせいか大きく身震いしてしまう。

 

 

「おぉ~涼しい~♪」

「お前、さっきの質問……」

「もう廊下には誰もいないみたいだね。ならそろそろ帰ろっかな」

「そ、そうか……なら一応念のため穂乃果たちを頼んで先生を連れてきてもらうか。一応な」

「うん、ありがと♪」

 

 

 質問の意図を聞こうとしたけど途中で遮られてしまった……恐らく彼女にとってはこれ以上触れたくない話題なんだろう。もしかして、答え方を間違えた?でも自分の素直な気持ちを言葉にしただけだし、そもそも感の鋭い彼女に嘘偽りの言葉なんて通用しないだろうしな。

 

 

 その後、穂乃果たちが先生を呼んできてくれたので俺の出番はここで終了。裏口からこっそり帰宅するツバサを見届けた。やけに満足そうな表情をして去る、彼女の背中を。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 翌日、UTXにて。

 

 

「どうだったツバサちゃん、講演会の方は。いやむしろツバサちゃんの目的は零くんだったかぁ~♪」

「も、もうっあんじゅ!それは言わないでよ!!」

「でも合ってるだろ?昨日の君のテンションを見ていたら、普段とは尋常じゃないくらい高かったからな」

「英玲奈まで……ま、まぁ楽しかったよ!久々に零君とも話せたし。行ってよかったぁ♪」

「ツバサちゃんが楽しそうでなによりだねぇ~」

「ただ零と話しただけではなさそうだな。彼女の"心"をくすぐる何かがあったのだろう」

 

 

 

 

 ――――と、A-RISEの間でこんな会話があったそうな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして――――

 

 

「零君はツバサさんと空き教室で何をやっていたのかな?かな?」

「まさか手を出したりはしてないでしょうね……」

「零くんとツバサさんが空き教室で……なんてエッチな響き!!」

「とりあえず落ち着けお前ら!!」

 

 

 

 

 ――――と、何故か俺が責められる展開もあったそうな……って、なんでやねん!!

 




 もう既にフラグがビンビンに……


 そんな訳で、今回はツバサ回でした!
 本当はA-RISEのメンバーを3人共メインで出したかったのですが、今回は私が密かに好きなツバサさんに重点を置きました。アニメでは大物感漂う先輩キャラにしか見えないのですが、こうして友達関係になると平気で冗談交じりの発言をしてきそうですよね。そこが可愛いところなのですが。

 そしてあからさまにフラグを立てていますが、これが回収される日は来るのだろうか……?自分でも定かではないというね(笑)

ちなみに現時点でのフラグの状況はというと――――

穂乃果:回収済み(恋人)
ことり:回収済み(恋人)
海未:回収済み(恋人)
花陽:回収済み(恋人)
凛:回収済み(恋人)
真姫:回収済み(恋人)
絵里:回収済み(恋人)
希:回収済み(恋人)
にこ:回収済み(恋人)
雪穂:回収一歩手前(恋人候補)
亜里沙:回収一歩手前(恋人候補)
楓:回収一歩手前(恋人候補、実妹)
ツバサ:フラグ建設
英玲奈:なし
あんじゅ:なし
こころ:フラグ建設?(中学性)
ここあ:フラグ建設?(小学生)
秋葉:???(実姉)

こんな感じです。こうして見ると、零君のハーレム具合が一発で実感できますね(笑)


次回は……あのことりちゃんの講座の上級編です。遂に来てしまったのか……


新たに高評価をくださった

凄まじき戦士さん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空前絶後!?ことりの淫語講座(上級編)

 はい、とうとうやって来ましたあの講座の上級編でございます。
 内容自体は危険過ぎるので、どうぞ覚悟の上での閲覧を!


「はぁ、はぁ……ことりぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

「いやん♪その目線ゾクゾクするよ♪」

 

 

 カラダが……カラダが疼く!!

 音ノ木坂学院のアイドル研究部の部室は、これまで以上に淫猥な熱気が充満していた。いつものようにことりが発情しているだけではない、俺のカラダも猛烈に熱くなっていて、さっきから何もしていないのに興奮が止まらない。カラダの制御もまともにできないし、初っ端からクライマックスすぎるだろ……!!

 

 俺がこうなってしまった理由はただ1つ。ことりがこっそりと俺の水筒に媚薬を仕込んでいたからだ。おかげで俺のカラダはもう既にボロボロになっていた。

 

 

「今日はことりの講座の第三回目だけど、今回は今までと一味も二味も違うよ!なんたって零くん自身がやる気モードだからね!」

「お前がやったんだろ!!はぁ、はぁ……」

「零くん弱りに弱ってたから、女のことりでも簡単に部室に監禁できたよ♪やったね!」

「もうサラッと監禁とか言い出すから恐ろしいよ……」

 

 

 俺は抵抗することもままならず、ことりに抱かれてこの部室に連れ込まれてしまった。俺は女の子を屈服させる征服感を味わいたい性格なのに、これじゃあただことり、いやことりたちのお人形さんだ……。

 

 そう、ここにいるのはことりだけじゃない。

 

 

「零く~ん、大丈夫♪ツンツン」

「うわぁ!!ほ、穂乃果!!勝手にカラダを触るな敏感なんだから!!」

「まさかあの零君を穂乃果の手で……楽しみぃ~♪」

「ほら、茶番はそこまでにしてさっさと始めましょ。にこはもう今すぐにでも零に飛びつきたくてウズウズしてるんだから……」

「お、おい、蛇みたいににじり寄ってくるんじゃねぇ!!」

「なによこんな可憐な女の子に向かって蛇って!!そんな零には……オ・シ・オ・キ♪」

「がぁああああっ!!」

 

 

 突然上半身をにこに抱きしめられ、俺の全身に刺激が走る。しかもただ女の子に触れただけでは走らない、興奮を覚えるような快感を……。

 

 そもそも男に媚薬を使うってどういう神経してんだ!?女の子に使うならまだしも、男に使っても誰も得しねぇだろうが!!需要あんのかよ!!

 

 

「は~い!もう講義は始まっていますから、みんな静かにしましょ~♪特に零くんは騒ぎすぎです」

「うるせぇよ……口塞いどけ」

「零くんの唇で?それか零くんの立派なアレを、ことりのおクチにねじ込んで塞いでくれるなら喜んで♪」

 

 

 これはもうことりに何を言っても無意味のようだ。俺の言葉も文句も全て卑猥な妄想へと変換されてしまう。コイツの相手をするだけ時間と体力の無駄だな……。

 

 

「零くんが早速エッチな発言をしてくれたことだし、今日のお題を発表しちゃうよ!」

「してねぇし……」

「はい!今日の皆さんに学んで欲しいのは……これ!!」

 

 

 

 

《子作りセッ○ス》

 

 

 

 

「おぉ!遂にこの時がやってきたんだね!」

「むしろ何故今までヤってこなかったのかが不思議なくらいよ。さぁ零、準備はいい?まあその興奮しきったカラダなら、いつでも準備OKよね?」

「もはやツッコミどころしかなくてツッコむ気力も失せるわ……」

「零君が穂乃果たちの中に突っ込まないなら、穂乃果たちが勝手に零君のアレを挿れさせてもらうね♪」

「その発想力が怖すぎる……」

 

 

 まだ話が始まってすぐなのに、もう体力と精神力がゴリゴリと削られている。媚薬さえ仕込まれていなければ、この3人ごとき俺1人で黙らせることができるってのに……まあちょっと色っぽい方法だけども。だがこのボロボロのカラダではどうしようもない。

 

 

「さてさて、今日のことりの講座は今までの講座の総括を含めた、本当の実践編です!前回が擬似的な実践だったから、今回は本当にヤっちゃいますよ~♪もちろん生で!!」

「な、生!!なんてイケナイアイドルな響き……!!」

 

 

 さぁて、とうとう講座が始まってしまったぞ。ここから俺が助かるには、この部室から抜け出すか誰かを呼ぶしかないのだが、生憎それはできない。まず部室の扉はどこからか持ってきたであろう錠前で固く閉ざされているし、俺の携帯は奴らに奪われてしまった。そもそもこのカラダではコイツらに反抗することすら難しい。

 

 

 も、もしかして俺、今回で脱童貞!?しかも女の子3人から集団逆レイプで!?そんな童貞の散らし方イヤなんですけどぉおおおおおおおおおおお!!

 

 

「やったわね零!今日で童貞とはおさらばよ!まあ零なら、生ハメする相手に困ることはないでしょうけど。だってもう9人も彼女がいるものね」

「俺は……まだスるつもりはない!!」

「今時童貞を守ったところでなんの価値もないわよ。そんな汚名は早々に捨てて、早くにこたちの処女を貫きなさい」

 

 

 一説では、30歳まで童貞を守り通すと魔法使いになれるという噂があるんだぞ。魔法使いになった者は今後同じ魔法使いになりたい者、つまり童貞を守り通さなければならないという使命が課せられる。だが今はどこの童貞よりも俺の童貞を守り抜いて欲しい!!流石に責任も取れぬ歳で女の子と合体するのはマズイから!!

 

 

「この世が童貞を蔑んでいるのは分かる。だけど何故童貞はダメで処女は許される……どうして童貞以上に処女が重宝されているんだよ!!おかしくねぇか!?」

「例えばだよ零くん。攻め込まれたことがないお城と、攻め込んだことのない兵士、どっちが魅力的なのかなぁ~?つまりはそういうことなんだよ♪」

「くそっ、ちょっと納得してしまった自分が嫌いになりそう……」

「だから今こそその忌まわしき汚名を払拭する時なんだよ!」

 

 

 ものは言いようだな……だがこのままでは本当にコイツらとヤるはめになってしまう。そうなれば放送禁止、この話はここで終了して、次回からは新章『μ'sとのラブラブ子作り&子育て生活編』がスタートしかねない。そして舞台もR-18という無法地帯に移って……ダメだダメだ!そんなことできるかよ!!

 

 

「とにかく、零くんをことりたちのおやつにするのはまた後で。今は講義の最中だから、まずは《子作りセッ○ス》の説明をしま~す!」

「そんなの説明しなくてもどうせみんな知ってるよ!男性のアレを女性のアレの中に挿れる、腰を振る、出す。たったそれだけでしょ!」

「穂乃果の説明を聞いているとすげぇ事務的な作業に思えるな。そんな業務工程みたいに言わなくても……」

「あれ、もしかしてもっと具体的な説明をご所望?零君も好きだねぇ~♪」

 

 

 いかんいかん、つい普段のクセでツッコミを入れてしまう。この3人が一つに集まったらいつも俺は精神が枯れ果てるまでツッコミをし続けるマシーンと化すからな……今は媚薬のせいで最初からグロッキーだけど。

 

 それにしても、ここに楓がいなくてよかったよ。アイツがいたら《子作りセッ○ス》かつ《近親相姦》の講座まで開かざるを得なくなってしまう。そうなってしまったら最後、俺は犯罪者の汚名を着せられるかもしれない……。えっ、もう着てるだろって?そんな馬鹿な……。

 

 

 とにかく、適当な話で長引かせて部室に誰かが来るのを待つしかないな。

 

 

「そもそも、どうしてこんな講座が第三回まで続いてしまったんだ……」

「それはね、受講者からの声が多かったからだよ。感想でたくさん来てたんだ『上級編楽しみにしています!』とか、『この講座のおかげでオトナの単語の意味を知ることができました!』ってね♪零くんは、楽しみにしくださっている受講者の皆様の期待を裏切っていいの?よくないよね?だからね零くん、ことりたちに……挿れちゃお?」

「お前のすぐそんな卑猥な発想に結びつける能力。決して見習いたくはないけどスゲェと思うよ」

「えへへ、零くんに褒められちゃったぁ~♪濡れちゃいそう!あっ、もう既に濡れてたんだった」

「あっそ……」

 

 

 μ'sのファンの皆さん、あの天使と呼ばれた南ことりちゃんがどうしてこんな姿になってしまったのでしょうか?明らかに私のせいです本当に済みませんでした!!

 

 だってまさかここまで淫乱な子になるとは思ってなかったんだって!俺はただ自分に従順な、ちょこっとだけ淫乱な女の子に染め上げたかっただけなのに、今は歩く猥褻物となっちゃって……。

 

 

「もう茶番はたくさんだわ!零、早速始めるわよ!」

「うわぁ!?いきなり跨るなよ!!」

「いいじゃないどうせスるんだから!!」

「くっそぉ……」

 

 

 俺が座り込んで息を整えていたところに、突然にこが跨ってきてきた。もちろん全身に大きく刺激が走る。そしてにこに抱きしめられることで、その刺激は快感に代わり、心もカラダも快楽に堕ちそうになる。男が媚薬漬けにされて堕ちる瞬間なんて誰が見たいんだよ!!俺は絶対に耐えてみせるぞ!!

 

 

 そうやって意気込みを改めてにこの顔を見てみると、微妙に汗をかいていて、息遣いも微かに荒い。ただ俺と抱き合って興奮しているだけかもしれないけど、いくらなんでもこれは発情し過ぎでは?

 

 

「おいにこ。お前やけに顔赤くなってないか……?」

「ああこれ?にこもアンタが飲んだ媚薬を少しだけ飲んだのよ」

「な、なんだって!?」

「だってそっちの方が興奮できるでしょ?それにどうせヤるなら、絶頂を迎えている時にヤりたいしね♪よいしょっと」

「わ゛ぁあ゛ああああああああ!!急に動くなって!!」

「ど~お?カラダにたくさん快楽が走るでしょ?もうにことヤっちゃった方が気持ちよくなれると思うのよねぇ~」

「がぁっ!!きゅ、急に腰を動かすな!!」

 

 

 にこは俺に正面から抱きつきながら、俺の下半身を摩るように腰を動かし始めた。もちろん俺たちは一切脱いではないので()()()()()()()に発展することはないのだが、媚薬漬けにされた俺の下半身には物凄い快感が伝わってくる。ズボン越しなのにまるで生で触られているかのようだ。

 

 

「零君!穂乃果の相手もしてよぉ~!!」

「ぐぅ!!あ゛ぁ!!」

「おぉ!零君いい声だね♪」

 

 

 にこの攻撃の最中、援護射撃のように穂乃果が後ろから抱きついてきた。またしても全身に走る快感に、遂に俺のカラダは我慢できずにビクビクと震えてしまう。そして背中に穂乃果のおっぱいが押し付けられるたびに、俺は声と吐息が同時に漏れ出してしまう。

 

 

「ほら零、相手は1人だけじゃないのよ!」

「に、にこ!?ふ、服!!」

「もうこれだけ暑いのに、服なんて着ていられる訳ないじゃない」

 

 

 穂乃果に散っていた気をにこに戻してみると、いつの間にか彼女は服のボタンを外して半裸状態になっていた。服の間からチラチラと見え隠れする下着と綺麗な素肌に更なる興奮を覚えてしまう。だが半裸になっただけでもちろんにこの攻撃が終わった訳ではない。彼女は口角を上げながら、小悪魔のような笑顔で自分の下半身を俺の下半身にグイグイ押し付ける。

 

 

「あ゛っ!がっ……!!」

「もう堕ちちゃいなさいよ。我慢はカラダに毒なんだから。早くにこの小さいアソコに零の逞しいアレを――――じゅぷっと挿れちゃいなさい」

「イヤ、だ……」

「しょうがないから挿れさせてあげるわよ。零は動かなくてもいいから」

 

 

 オイオイオイオイオイオイオイオイッ!!このままだと本気でこの講座のお題通りになっちゃうぞ!?なんとか抵抗しようとするけど、前からにこ、後ろから穂乃果にガッチリとホールドされているため動くに動けない。これは遂に脱童貞なのか……!?

 

 

「ほ~ら零君、暴れちゃダメだよ♪」

「ぐぅ、ほ、穂乃果ぁ……!!」

「穂乃果のおっぱいクッションの寝心地はどう?気持ちいいでしょ?零君のために育てたおっぱいだから、たっぷりと味わってね♪」

 

 

 現在俺は頭を穂乃果のおっぱいに乗せられている状況なのだが、それが柔らかくて気持ちいいのなんのって!!しかしさっきからじわりじわりと堕ちる寸前にまで追い込まれてしまっているな……これはマズイ!!

 

 

「もうっ!にこちゃんと穂乃果ちゃんばかりズルいよぉ~!!でもでもことりは講師役だし、ゲストの皆さんよりも楽しんじゃダメなんだよね……」

「もうそんなのいいでしょことり。講座?実技?これはね、もう本番なの!男と女の神聖なる営みなのよ!そこに遠慮なんて一切いらないわ!!」

「にこちゃん……そうだね!じゃあことりも思う存分参加させてもらうよ!!」

 

 

 こんなのもはや乱交パーティとさして変わらねぇじゃねぇか!!さっきから下半身に伝わる刺激は半端ないし、頭には穂乃果のおっぱいの感触が直に伝わって――――って、直に!?

 

 

「穂乃果、お前も服を!?」

「えへへ、さっきことりちゃんとにこちゃんが話している間に素早く上だけ脱いじゃった。これで零君は穂乃果の生おっぱいまくらを堪能できるんだよ!うりゃうりゃ~♪」

「そ、そんなに押し付けるな!!がっ、あぁあああああああああああああああああああ!!」

 

 

 おっぱいまくら。普通の状態なら大歓迎なのだが、今はどこを触られてもカラダに電流が流れるように刺激が駆け巡ってしまう。つまりおっぱいを押し付けられるたびに、カラダがガクガクと振動してしまうのだ。そんなもの長時間耐えられるはずもなく、今にも理性の糸が切れそうだ。

 

 

「零くん、あまりうるさくすると他の部室に迷惑だよ!だから零くんのおクチを塞いじゃいます♪」

「むぐぅ、んっ!!」

「んっ……♪」

 

 

 ことりに顔を無理矢理右に傾けられ、彼女の顔がドアップで目に映ったのと同時に唇が彼女に奪われた。彼女は俺のカラダが媚薬でボロボロなのを知ってか知らずか、俺の唇に激しく吸い付く。そして自分だけたっぷりとキスを堪能した後、今度は自分の舌を俺の口内へと滑り込ませた。淫らに響く唾液の音に本来は俺も唆られるはずなのだが、今は全身に伝わる快楽に耐えるだけで精一杯だ。

 

 

「んっ、はぁ……!!あぁ、んっ♪」

 

 

 どうしてキスだけでそんな色っぽい声が漏れるんだ!!カラダの快感とは別に興奮が高まってくるだろうが!!もう本気でコイツらを襲いかかってしまいそうなくらいには……。

 

 ことりの舌は俺の口内の唾液を乱暴に絡め取り、それを自分の口内へと流し込んでいるようだ。唾液がなくなれば彼女はまた俺の唇に激しく吸い付き、新たな俺の味を求める。俺を楽しませるというよりかは、完全に自分だけが楽しんでるだろコイツ……。

 

 

 そしてことりは俺の唇からそっと離れた。俺たちの口と口の間を引く粘り強い銀色の糸が、この部室の淫らな光景に一役買っている。

 

 

「零、いつまでそうしているつもり?そのズボンの中で苦しそうにしている可哀想な子を、にこたちの中に突き入れて、いっぱい気持ちよくしてあげたいとは思わない?にこたちを……性欲処理奴隷にしちゃってもいいのよ?」

「やめろ……今そんなこと言われると……」

「零くんが強引にことりたちを押し倒して、部室の中でヤっちゃうの。零くんはことりたちの中を何度もズボズボして、その奥をいっぱい叩いちゃうんだよ♪」

「う゛ぅ!!あ゛ぁああああああ……」

「零君に突かれるたびに穂乃果たちは何度も何度も絶頂を迎えて、遂に零君は穂乃果たちの奥に真っ白なアレを流し込んじゃうんだぁ♪」

「ぐぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!」

 

 

 穂乃果たちからの執拗なる淫語責めは、俺の脳内に強制的に妄想を働かせる。その妄想から繰り出される光景はどれも生々しいものばかりで、俺の性欲が最高潮寸前にまで高められた。媚薬漬けのカラダが俺の興奮に更なる拍車をかけ、今にもこの3人を押し倒して屈服させたくなる。

 

 

「零君、もう常識だとか良識だとか、そんなものどうでもよくない?穂乃果たちは零君が、今、何をしたいのかが知りたいんだよ♪」

「よくここまで耐えることができたわね。でももう我慢しなくてもいいの。にこたちにその性欲を全て吐き出すだけ。それだけで今まで味わったことのない最高の快楽を感じられるんだから。零も、そしてにこたちにもね!」

「ことりたちは零くんからシてもらいたいの。だから待ってますよ――――ご主人様♪」

 

 

 我慢しなくてもいいだと……そうか、なるほどな。俺は悪くない、全ては淫らに誘惑してくるコイツらが悪いんだ……そして今の俺は媚薬漬け……だからこれは事故。そうだよ、この溜まった性欲を外に持ち出す訳にはいかない。だったらコイツらで俺は……俺自身の性欲をブチ撒ける!!

 

 

 理性の糸が切れる、その寸前。机の上に何やら液体の入ったビンが置いてあることに気が付いた。初めは俺が飲まされた媚薬だと思っていたのだが、そのラベルを見た瞬間、思わず俺の手がビン伸びた。"Antidote"、つまり"解毒薬"と書いてあるラベルのビンに……。

 

 何故そうしたのかは分からない。恐らくまだほんの少しだけ理性が残っていたからだろう。さっきあそこで理性の糸が切れていたら、解毒剤があっても絶対に無視していただろうから。

 

 

 そしてそのビンを手にした俺は、それが偽物だと疑うこともせず中身の液体を一気に自分のカラダに流し込む。すると間もなくカラダがみるみる内に熱くなってきた。先ほどの興奮の熱さとは違う!カラダの内から、熱がみるみる湧き上がってくる!!カラダが溶けてるみてぇだ!!

 

 

「あ゛っ!!がぁあ゛あああああああああああああああああ!!」

「れ、零くん大丈夫!?」

「零!?」

「零君!?」

 

 

 …………

 

 

 …………

 

 

 …………

 

 

 あれ?収まった。それもカラダの熱気だけでなく、さっきまでカラダに走っていた刺激、疼き、興奮も全部。

 

 なるほど。だったらやることは、たった1つだよな……。

 

 

「れ、零くん?もしかして……元に戻っちゃった?」

「ああ、何もかもが元通りだよ」

「さっきの興奮も……?」

「なんだか一瞬にして賢者モードになったみたいだ。だがまだ残っているものがある……!!それはな……!!」

「れ、零!?お、落ち着きなさい!!」

「それは、お前らへの逆襲の念だぁあ゛ぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!よくも今まで散々弄んでくれたなぁ!?こっからは俺の独壇場だぁああああああああああああ!!」

 

「「「ひぃいいいいいいいい!!」」」

 

 

 そして俺は、再び性欲に取り憑かれた獣となった。しかし今度はちゃんとした理性を保って。

 

 

 あれ、でもこれ結局ことりたちが喜ぶんじゃね?

 

 

 だがこれで世界一無駄な講座はこれで閉講になることだろう。

 

 

 なる、よな……?

 




 もはや講座でもなんでもない件について。


 そんな感じで今回はことりちゃんの講座の上級編でした!
 初めはお題の内容を何にするのか迷っていたのですが、恐らくもう最後なのでここは今までの総括の意味を込めて実技を採用してみました。
しかし結局初級編と中級編の内容は一切この話に出てきていないので、総括と言いながらも彼や彼女たちにとっては全く無意味な話でした(笑)


 次回はまだ未定ですが、なるべく最近出てきていないキャラを出してあげたいなぁとは思っています。


 先日、"ご注文はうさぎですか?"の小説『ご注文はハーレムですか?』の第二話を投稿しました!そちらにも是非感想や評価、よろしくお願いします!


新たに高評価を下さった

黄色の閃光さん、まもるさん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

花陽、欲望の防衛戦!

 今回は花陽回!
 回を増すごとに段々と変態度が増していく花陽ですが、一体今回はどこまでパワーアップするんでしょうね?


 

「こんにちは~って、あれ、まだ誰もいないんだ」

 

 

 小泉花陽です。

 今日は生徒会業務もなく掃除当番でもなかったので、いつもより早く部室にやって来たのですが、やはりと言うべきか中には誰もいませんでした。一番乗りは久しぶりだけど、特に何もすることがないや。特に宿題も出てないし。

 

 

「ん……?この部室、ちょっと臭う?」

 

 

 カバンを開けて飲み物を取ろうとしたその時、少しだけど鼻につく匂いが部室内に広がっていることに気付きました。この匂いは……多分汗の匂いか何かかな?

 

 そして私は、この匂いの正体を知っている。本当なら近寄りがたく一刻も早く消臭したい匂いのはずなんだけど、この匂いだけは違います。

 

 

 誘われる。

 

 

 その匂いにする方向へ、私の身体が勝手に動き出していました。私の身体がその匂いを求めているかのような、そんな奇妙な感覚。私は無心となって、部室内を一歩、また一歩と歩いていきます。部室の窓際、カーテンのレールの淵に掛けられている一着の服へと……。

 

 

「こ、これってやっぱり……零君の、体操服……だよね?」

 

 

 私の目の前には"神崎"と名前の書かれた体操服が、汗の匂いを撒き散らしながら干されていました。

 どうして零君の体操服がこんなところに……?私は一瞬そう考えましたが、そんな()()はすぐに振りほどきます。肝心なのは私1人の状況で彼の体操服と対面したこと。周りには誰もいない、たった1人の空間であること。ただそれだけなのです。

 

 

 体操服……零君の……い、いい匂い……。

 私は思わず彼の体操服に顔を当て、服から滲み出る匂いをくんくんと嗅いでしまいました。そういえば今日零君たちのクラスは、午後に体育の授業があった気がする。だからなんだね、こんなに湯気が立つかのような温もりが残っているのは。汗の匂いはそこまで好きじゃないけど、零君の汗と言われたら話は別。この鼻につく刺激が逆に快感を覚えちゃいそう……。

 

 

 ――――って、待って待って!それじゃあ私変態さんみたいだよぉ~!!私はただ零君の匂いが好きなのであって、汗の匂いが好きな訳じゃあ……って、これも変態さんみたい!?

 

 

「そんなことより、これどうしよう……」

 

 

 どうしようもなにも、零君の体操服はもちろん零君のモノなんだから、私が手を出す権利はない。だけど、もし穂乃果ちゃんやことりちゃんが零君より先にこの部室に来ちゃったらどうなるだろう。この体操服は一生変なことに使われちゃうと思うんだよね。にこちゃんや楓ちゃんが先に来ても危ないかも。そんなことを言いだしたらμ'sで危なくない人の方が少ないと思うけど……。

 

 

 でももしそうなったら零君絶対に困っちゃうよ。だ、だったら私が、この私が零君の体操服を守らないと!!だって海未ちゃんから教えられたμ's内要注意人物の4人(穂乃果ちゃん、ことりちゃん、にこちゃん、楓ちゃん)に体操服が取られたら、確実に零君のところには返ってこなくなるだろうし。

 

 

「よし、そうと決まったら……」

 

 

 私は体操服を吊るしているハンガーに手を掛けました。彼の体操服は誰にも悪用されぬよう私が守る、そう決意して。

 

 しかし、ここで私は重要なことに気が付きます。

 この部室、体操服を隠すような場所がない!?更衣室の扉は閉まってるし、この部室自体にこちゃんの私物がほとんどなくなったせいで服を隠せそうなところが一切ないのです!このまま持っている訳にはいかないし、一旦別の場所に移す?それがいいかも!

 

 

「誰にも見つからない様にそぉっと外に出よう――――えっ?廊下を走る音が聞こえる……ま、まさか!?」

 

 

 足音はどんどん大きくなり、この部室に近付いてきているのが分かります。

 つまりμ'sの誰かがこの部室に来る!?まだ体操服を隠しきれていないこの状況で!?もう一度ハンガーに吊るしている時間はないし、一体どうしたら!?

 

 

 早速絶体絶命に陥った私はふと机の上を見ました。そこには飲み物を取るために開けっ放しにしていた私のカバンが……。

 

 

 ここだ、もうここしかない!!

 

 

 私は手に持っていた零君の体操服を、素早く自分のカバンの中に押し込んで、急いでカバンを閉めます。そして私がカバンを閉めたのと同時に、部室の扉が勢いよく開かれました。

 

 

「はぁ、はぁ……れ、零の体操服は……?」

「う、海未ちゃん!?」

「花陽!?い、いたんですか……」

「う、うん、いたよ……あはは」

 

 

 部室に入ってきたのは意外や意外、少し顔に汗が滲んでいる海未ちゃんでした。

 私はてっきり穂乃果ちゃんやことりちゃん辺りが全力で零君の体操服を狙っているものとばかり思っていたけど、どうやらそれは思い過ごしだったみたい。

 

 でも安心はできません!!さっき私ははっきりと海未ちゃんの言葉が聞こえていました。『零の体操服は……?』と。つまり、海未ちゃんも零君の体操服を狙っているということなのです!そしてこの慌てよう、本気で狙いに来ているとしか思えません!!

 

 あっ、でも海未ちゃんだったら体操服を変なことに使わないかな?だってあの誠実な海未ちゃんだし。もしよければ一緒に体操服を零君に返しに行ってくれるかも。目的が私と同じ可能性だって一応あり得る訳だし……。

 

 

「花陽!!」

「は、はい!?な、なにかな……?」

「ここにその……体操服が干してあったりしませんでした?」

「た、体操服?知らないけど……」

「そうですか。部室に干してあると思ったんですけど……」

 

 

 海未ちゃんの目が怖い……あれは獲物を狙う、獰猛な狼の目だよ!!

 そっか、じゃあ海未ちゃんにはこの体操服は渡せない。絶対に私利私欲のために使うに決まってるから!さっき咄嗟に知らないって嘘を付いちゃったけど、それは間違いじゃなかったね。

 

 

「零君の体操服がどうかしたの……?」

「午後に体育の授業がグラウンドであったのですが、今日は11月なのにやけに気温が高かったためか、零が汗だくになって帰ってきたんですよ。そして体育のあと体操服を干しに行くと言っていたので、多分ここに干してあると思って飛んできたのですが、どうやらここではなかったようですね」

「そ、そうだね、ここにはなかったよ、うん……」

「では一体どこに……他の誰かに見つかってしまう前に、早急に確保しないと……」

「海未ちゃん?さっきからなにぶつぶつ言ってるの……?」

「い、いえなんでもありません!!」

 

 

 いつもの冷静沈着な海未ちゃんとは違う、目から光が失われてる……どれだけ零君の体操服が欲しいの!?まさかあの海未ちゃんがこんな風になっちゃうなんて……穂乃果ちゃんやことりちゃんの勢いが激しいだけで、本当は海未ちゃんも意外と零君推しが強いのかな?だとしたら尚更この体操服は渡せません!!

 

 

「穂乃果、ことり……今日こそ笑うのはこの私ですよ……フフフ」

「う、海未ちゃん怖いよ……」

「何か言いましたか?」

「い、いえ何も!!」

 

 

 どうして怒られてもないのにこんなに萎縮しなくちゃいけないのぉ~誰か助けてぇ~!!

 海未ちゃんの様子もなんだかおかしいし、ここは手っ取り早く私もこの部室から出た方が良さそうだね。穂乃果ちゃんたちに迫られたら私じゃ勝目ないよ絶対に……。

 

 

「それでは私は零の体操服を探しに行ってきます。穂乃果とことりは日直仕事と掃除当番がブッキングしているので時間的に余裕はありますが、敵は2人だけじゃありませんしね」

「う、うん。頑張ってね」

「もし零の体操服を見かけたら、()()連絡してくださいね!!」

「わ、わかったわかりました!!」

「それではまた後ほど練習で」

「い、いってらっしゃい」

 

 

 海未ちゃんは"私に"の部分を強調して、部室を後にした。よほど穂乃果ちゃんとことりちゃんを出し抜きたいんだなぁ。そして私に体操服のことを話すってことは、私だったら零君の体操服を取らないと思っているからだよね?本当は私のカバンの中にあるのに……。

 

 

 そういえばさっきこの体操服は部室の中を汗の匂いで満たしていたんだよね……?と言うことは、今このカバンの中って、零君の匂いでいっぱいなんじゃあ……。

 

 

 私は、思わず息を飲みました。

 

 

「ちょっとだけ、ちょこっとだけだから……」

 

 

 私は自分のカバンに手を伸ばし、ファスナーに右手を掛けました。そして左手でカバンを掴んで自分の顔元に近付け、そのままゆっくりとファスナーを動かしてカバンを開けます。

 

 普段は穂乃果ちゃんたちに零君の私物を持って行かれるので、彼の匂いを嗅ぐ機会はそうそうない。だから今は絶好のチャンス。零君の汗付き体操服は今私の手中にある。私だけが脱ぎたてほやほやほっかほかの零君の匂いを嗅ぐことができる。いつもはみんなに譲ってるんだから、今日くらいは……いいよね?

 

 

 そしてこれがあれば夜、零君が一緒になって私を慰めてくれる。もう1人でスる必要がなくなるんだ……。

 

 

 そう思うと、なんだか興奮してきちゃ――――――

 

 

「こんにちは!あら?花陽だけ?」

「ぴゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「は、花陽!?」

「ウチらが来ただけでそこまで驚くなんて……」

「絵里ちゃん、希ちゃん……」

 

 

 あともう少し、もう少しで零君の匂いが堪能できるその直前にして、部室に絵里ちゃんと希ちゃんが入ってきちゃった……。私は咄嗟にカバンのファスナーを閉めて、カバンをやや乱暴に机の上に置きます。どうやら絵里ちゃんも希ちゃんも私が驚いたことに驚いているみたいで、私がさっき何をやっていたのかは気付いていないみたい。よかったぁ~……。

 

 

「どうしたの花陽?さっきから落ち着かないわよ?」

「別になんでもないよ、あははは……」

「ん~?なぁ~んか怪しいなぁ~」

「の、希ちゃん……?」

 

 

 希ちゃんは私の顔を覗き込むように、私の周りをウロウロとします。

 希ちゃんに見つめられると、心の中を読まれているような気がして緊張するんだよね……。しかも私が挙動不審だってこともすぐにバレちゃったし、ここは素直に白状するしかないのかな……?

 

 あ、諦めちゃダメ!!なんとしても私が零君の体操服を守るって決めたんだ、そう簡単に決意を曲げちゃダメだよ!!絵里ちゃんと希ちゃんは強敵だけど、何とか隠し通さなくちゃ!!

 

 

「はっは~ん分かった!ズバリ!今さっき花陽ちゃん、零君のことを想って1人でシようとしていたんと違う?」

「へ…………えぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?」

「な、何言ってるのよ希!!あの花陽よ?そんなことする訳ないじゃない!!」

「えぇ~。表では純粋無垢な子ほど、意外と裏で何しているのか分からんもんやで?絵里ちもそうやろ?」

「ど、どうして私!?今私は関係ないでしょ!?」

 

 

 希ちゃんの的外れだけど的外れじゃない指摘に、思わずまた変な叫び声を上げちゃったよぉ……。

 そしてゴメンなさい絵里ちゃん!!私、もうそういうことを覚えてシてしまっています!!夜な夜な大好きな零君のことを想って、ベッドの上で1人で……。

 

 

「花陽ちゃんも、絵里ちはむっつりスケベさんと思うやろ?」

「わ、私は別に……」

「ほら見なさい。花陽がそんなこと思うはずないじゃない」

「多分それは花陽ちゃん自身もむっつりスケベちゃんやからや!間違いない!!」

「えぇ!?どうしてそうなるのぉおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

「花陽さっきから叫びすぎだけど、本当に大丈夫……?」

 

 

 零君の体操服のことをずっと気に掛けていたから、まさか私自身のことで弄られるなんて思ってなかったんだよぉ~!!しかも希ちゃんは希ちゃんで的確に私の夜事情を言い当ててくるし……。もしかしてみんな、自分で自分を慰めたりしてるのかな?で、でも凛ちゃんや亜里沙ちゃんだけは違うはず!!もう欲望に塗れてしまった私とは違うんです……グスン。

 

 

「あっ、そうだ絵里ち。理事長のところに挨拶に行くんと違ったん?こんな話で油を売っている場合じゃないと思うけど」

「こんな話をし始めたのはあなたでしょ……まあいいわ、ということで花陽、私たちは一度理事長に挨拶しに行ってくるから」

「あ、うん」

「それじゃあまた後でね~」

 

 

 私の夜事情を明かされたりはしたけど、体操服のことは一切追求されなかったし、今はそれで満足しておこう。これ以上さっきの話が膨らむと、また希ちゃんから辱めを受けていただろうし……。

 

 そうやってホッとしたのも束の間、希ちゃんは私とすれ違う際に、私の耳元に顔を近付けて口を開きました。そして絵里ちゃんには聞こえない微かな声が、私の耳に聞こえてきます。

 

 

「ウチな、意外と匂いには敏感な方なんよ」

「えっ……」

「そういうことだから、じゃあね♪」

「…………」

 

 

 も、もしかして……零君の体操服を自分のカバンに隠していたことがバレてた!?そう言えばさっき希ちゃん、私の周りをウロウロしていた時に、私のカバンにも近付いていたような……あっ、あぁあああああああああああああああああああああああああ!!やっぱりバレてたんだ!?あぁ……。

 

 

「ど、どうしたの花陽、突然机に手を付いて……?」

「花陽ちゃんも多感な時期なんよ。ほら絵里ち、早く行こ」

「えぇ……花陽、具合が悪くなったらすぐに保健室へ行くのよ」

「う、うんありがとう、絵里ちゃん……」

()()()()ね、花陽ちゃん♪」

「うぅ……」

 

 

 そう言って私を気遣う絵里ちゃんと、どう考えても笑って楽しんでいる希ちゃんは部室を後にしました。

 絵里ちゃんの心配は心に染みるけど、バレちゃったという事実が精神的にきちゃうよ……。ショックという気持ちもあるし、恥ずかしいという気持ちもある。

 

 あぁああああああああああああああ!!どうしよう……もう守るのはやめて元の場所に戻しておこうかな?でもでも、穂乃果ちゃんたちは問答無用で盗んでいくよね。だったらどうすればいいんだろ……。

 

 

「え……?」

 

 

 私がまだ迷っているその時、再び部室の扉のノブが回る音がした。

 もしかしてもしかしなくても、また誰かがやって来たんだ!!海未ちゃんや希ちゃんの対応だけでも疲れたのに、ここで要注意人物の4人の誰かが来たら、もう絶対にボロが出ちゃうよぉ……。

 

 お願い!今扉を開けようとしているのがその4人以外であって!私がお願いしてもどうしようもないけど、これ以上隠し通すのは私の精神的に無理なの!!

 

 

 そして扉が開かれる。

 誰……誰が来るの!?!?

 

 

「おっす。とは言っても、花陽だけか?」

「れ、零君……」

「ん?どうした?」

「よかったぁ~!本当によかったよぉ~!」

「えっ、なに!?ていうか、何で涙目になってんのお前!?」

「それくらい零君に会えたことが嬉しいんだよ!」

「そ、そうか。そう思ってくれるなら俺も嬉しいけどさ」

 

 

 安心し過ぎちゃって、本当に涙が出てきそうなんだけど。これほどまでに零君に会えて嬉しかったことはないよ!まさか体操服1枚でここまで苦労することになるとは……やっぱり零君って人気者なんだね。

 

 

「花陽。お前物凄く汗かいてるけど大丈夫か?」

「大丈夫だよ。もう安心したから」

「安心……?よく分かんねぇけど、今日は11月なのに暑いから、水分補給はこまめに取っておいた方がいいぞ。脱水症状は夏だけじゃなく年中起きるんだから」

「そうだね、ありがとう零君!」

 

 

 零君の優しさが疲労の溜まった私の心に響きます。心がぽかぽかと暖かくなるくらいの安心感は、やっぱり零君が隣にいてくれているからなのかな?零君の姿が見えた途端、焦りや緊張も一瞬にして全部解れたんだもん、それほど私が零君のことを好きってことだよね……あわわ、そう考えるとまた別の意味で緊張するかも!!

 

 でももう焦る必要はないんだし、一旦飲み物でも飲んで落ち着こう。

 

 

 零君の登場で安心に安心を重ねていた私は、無意識の内にカバンを開け、その中に入っているペットボトルを掴んでカバンから抜き取ります。

 

 その時でした、私の手に何かが引っかかって、ペットボトルと共にカバンの中からその何かが飛び出したのは……。

 

 

「は、花陽、それって……」

「へ……あっ!!」

「それ体操服だよな……?しかも"神崎"って書かれているから俺の体操服……」

「あぁ……あぁ!!」

 

 

 そうです、私が零君の体操服を守っていたのは間違いありません。しかし何も知らない零君はこう思うでしょう。

 

 

 私が零君の体操服を盗んで、カバンの中に入れていた――――――と。

 

 

「花陽……お前……」

「ち、違うの零君!!これには深い理由が!!」

「まさか穂乃果やことりと同類だったとは。でも俺は淫乱な子は大好きだから、花陽がそっちの属性に染まりたいというのなら、俺は止めない。むしろ俺の体操服を使って自分磨きをするというのなら、俺は俺を妄想してヤっている花陽を妄想して自分磨きをするまである」

「ちょ、ちょっと待って!!どうしていきなり語りだしてるの!?私の話を聞いてくださぁああああああああああああああああああああい!!」

「いいんだいいんだ、みなまで言うな。天使が堕ちるのはもはや普通のことだから、俺は今更怒ったりすることはない」

「違うの零君!!だから話を聞いてぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 そして私が必死の説得を開始して数十分、一応零君に事の概要を理解してもらうことはできた。

 でも零君の言っていた欲望が全くなかった訳ではない私は、やっぱり変態さんなのかな……?

 




 天使は堕ちるのが定めみたいなところがある。つまり絢瀬の妹ちゃんも……?


 そんなわけで今回は花陽回でした!
 前書きでも言った通り、回を増すごとに変態度が増えていく花陽ちゃん。私はね、純粋な女の子が淫乱になる姿が非常に大好きなんですよ!でも花陽にはいつまで経っても奥手であって欲しいと思ってますが。そこが彼女の魅力の1つでもあるので!


 次回は以前『秋葉の初恋』の回を火種とした、楓vs秋葉を予定です。後書きを書いている時に気付いたのですが、2人共久々の登場かな?


 先日、"ご注文はうさぎですか?"の小説の第2話を投稿しました!そちらも是非ご覧下さい!


新たに高評価を下さった

KeiN0417さん、なお丸さん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仁義なき姉妹調教対決 楓vs秋葉

 今回は以前の話にあった秋葉のラブレター騒動の続きとなっています。
 そうは言ってもやっていることはR指定の方向ですがね(笑)


 

 みんなは覚えているかな?以前私がお姉ちゃんの研究室の掃除に駆り出され時に見つけた、お姉ちゃんへの復讐の火種を……。そう、それはお姉ちゃんが初恋相手に綴ったと思われるラブレター。これがあれば、あのお姉ちゃんの薄ら笑いを絶望の顔に変えることができる。

 

 そして今日が、その復讐の決行日。お姉ちゃんが家に帰ってくるこの日を、復讐を誓ったあの日からずっと待ってたんだよ!!お姉ちゃんは仕事や研究の都合でたまにしか家に帰ってこないから随分と待たされたけど、その待たされた分だけ募った欲望を全て解放して、お姉ちゃんを絶望のどん底に堕としてあげる……。

 

 

 だからいつもはやらないけど、お姉ちゃんを出迎える準備でもしておこうかな。どうせ後から私に屈服する雌奴隷のような扱いになるんだから、家に帰ってきた直後くらいはいい思いをさせてあげないとね♪

 

 

 あっ、そろそろ帰ってくる時間かなぁ。スクールアイドルで培った営業スマイルでおもてなししてあげるよ、お姉ちゃん♪

 

 

 そしてその直後、家の扉が開かれた。既に戦いは今から始まっているとは知らず、のこのこと帰ってきたね……私はこの時をどれだけ楽しみにしていたか!さあ、開戦だ!

 

 

「おかえりーー!って、あれ?楓ちゃん、もしかして私の帰りを待っていてくれたの?」

「そうなんだよぉ~!お仕事や研究お疲れ様、お姉ちゃん♪」

「久々の我が家でようやくのんびりできるよ。ここのところまた研究室に篭ってたからねぇ~」

 

 

 のんびり……か。今から私にたっぷりと調教されるとも知らずに呑気なものだよ。

 これまで幾度となく妙な実験の被検体にされた恨み、ここで全て晴らさせてもらうから!小学生の頃からずっとぞんざいな扱いだったからね私……。

 

 

 そしてお姉ちゃんは靴を脱いで、私の横を通ってリビングへと向かう。その足取りは、久しぶりの我が家で安心しているかのように軽やかだ。

 

 しかしその時、お姉ちゃんは足を止め、顔だけを私の方へ振り向かせた。

 

 

「あっ、そうそう」

「なにかな?」

 

 

「変なことを企んでいるんだったらやめておいた方がいいよ。楓ちゃんの身のためにも……ね♪」

 

 

「…………へぇ」

 

 

 なるほど、私のことなんて全てお見通しって訳か。

 それならそれでいいよ。相手が強者であるほど屈服させがいがあるってものだから。ゴミ虫のような弱者を踏み潰してもつまらないからね♪

 

 

 それに私は、お姉ちゃんの初恋ラブレターという主砲もあるし。

 

 

「そんな余裕ぶってられるのも今の内だけだよ、お姉ちゃん♪」

「案外素直に吐くのね。もう少しくらい猫を被るかと思ってたけど」

「お姉ちゃん相手に余計な小細工は無駄だからね」

「お褒めに預かり光栄だよ。だからとっととその妙な策を巡らすのはやめなさい。私には通用しないから」

「果たしてそれはどうかな?これを見てよ」

「ん……?」

 

 

 私はポケットの中から1枚の封筒を取り出す。もちろんそれはお姉ちゃんの研究室に隠されていた、黒歴史たっぷりの初恋ラブレター。あれだけ私たちの目を欺くように隠してあったってことは、そこまでしてまで誰かに見られたくないということ。だけどこのラブレターは今私の手中にある。つまりこの時点でもうチェックメイトって訳だよ!!

 

 

「それ……ふ~ん、なるほどねぇ」

「無理して体裁を取り繕わなくても、素直に驚けばいいのに……」

「それをあなたが持っているってことは、容赦なく私好みに調教してもいいってことよね?」

「へぇ~そんなこと言うんだ。もっと動揺するかと思ってたよ」

「そんなことでいちいちショックを受けるほど、私の精神がヤワだと思う?」

「ま、どうでもいいけどね。あとで泣いても知らないよ?」

「それはどっちのセリフだろうね!!」

「!?!?」

 

 

 リビングに向いていたお姉ちゃんの身体がぐるりと180度回転し、そのまま突如として私の懐に突撃してきた。長期間研究室に篭っていたとは思えないくらいの瞬発力だけど、私としては問題はそこではない。

 

 お姉ちゃんの右手にいつの間にか縦長で少し野太い、マイクのような形状の機械が握られいる。先端は男性の亀頭のようなカタチのモノが備え付けられていて、お姉ちゃんが親指を弾いてスイッチを入れると、それがブルブルと振動しだして――――――こ、これは、確実に……バイブ!!

 

 

 なんとか横に避けようとするも、(すんで)のところでお姉ちゃんのバイブが私の胸に押し当てられた。

 

 

「あっ、んんっ!!」

「ちょっと押し当てただけなのに、いい声で鳴くね♪」

「そ、そんなことは……あんっ!」

「どうせ楓ちゃんのことだから毎晩零君のことを想って、おっぱいや下のおクチを自分の手で弄りまわしているんでしょ?そのせいで敏感になっちゃってるのかなぁ~??」

「ん、はぁ……!!」

 

 

 私は気付かぬ間にお姉ちゃんに廊下の角にまで追い詰められ、バイブを胸の先端部分に押し当てられ刺激を加えられる。しかもこんな体術をどうやって覚えてきたのか、絶妙なマウントポジションを取られ私は満足に身動きが取れなくなっていた。研究室に篭もりっきりの引きこもりのくせにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!

 

 

「はぁ、はぁ、どうしていきなりこんなことを……」

「そのラブレターを見られた事実は、もう何をしようが覆らない。だったら人のラブレターを勝手に見た無礼な子を調教して、私に従順な子に仕立て上げ口封じするしかないでしょ」

「女の子同士とか……偏った趣味してるね。んっ、はぁ……」

「勘違いしないで。私は性奴隷が欲しいんじゃなくて、ただの奴隷が欲しいだけなの。私の実験の被検体になってくれる、モルモットちゃんをね♪」

「どちらにせよ、はぁ……趣味悪いね……あっ、はぁ」

「段々と声が色っぽくなってるよ。もう我慢せずにイっちゃいなよ♪」

「こんな玩具ごときで……」

 

 

 でも正直なところ強制的に興奮が煽られてしまっている。毎晩の自分磨きで乳首が敏感になっていることが、まさかこんなところでアダになるなんて……だからと言って自分磨きをやめたりはしないけど、お姉ちゃんのいいようにされるのだけは無性に腹が立つ!!私が人生で最も負けたくない相手だから!!

 

 

 しかしこのままだと……確実にイかされる!!この私がこんな粗末な玩具ごときにぃいいいいいいいいいいいいいいいい!私をイかしていいのはお兄ちゃんだけなんだぁああああああああああああああ!!

 

 

「楓ちゃん、このバイブの先っぽ、実はある人のアレをモチーフにしてあるんだよねぇ~」

「はぁ、はぁ、あ、ある人……?」

「またまたとぼけちゃって!私たちの周りにいる魅力的な男は、ただ1人しかいないでしょ?」

「お、お兄ちゃん……」

「その通り!だから楓ちゃんが『ゴメンなさい。もうラブレターのことなんて忘れて、お姉ちゃんの奴隷になります!』って誓うのなら、零くんのアレを模したこのバイブを、楓ちゃんの大切な部分に突っ込んであげてもいいよ♪」

 

 

 お兄ちゃんのアレが私のナカに!?毎日夢を見ていたお兄ちゃんとの直結が、こんなところで果たされるっていうの!?それは私にとって願ってもないことだけど、お兄ちゃんのアレとは決定的に違うものがある!!だから私は――――――

 

 

「そんな玩具には屈しない!!私はお兄ちゃんにナマで挿れてもらうまで、自分の処女を取っておくんだ!!」

「へぇ~。だったらその身に火照る興奮を抱いたまま、ずっともがき苦しむといいよ。どうせ楓ちゃんのことだから、自らの興奮を抑えられなくなって私に泣きついてくると思うけど♪」

 

 

 私の胸からブルブルと激しく揺れていたバイブが離れていく。正直なところ、お兄ちゃんのアレと同じカタチをしていると聞いて若干興奮していたけど、そんな玩具で私を絶頂させようなんて片腹痛いよ。

 

 しかしお姉ちゃんもお姉ちゃんでまだ諦めていない様子。まあそう簡単には屈服してくれないよね……そっちの方が楽しめるけどさ♪

 

 

「今のところは見逃してあげる。久々の我が家でゆっくり休みたいし。じゃあね~」

 

 

 お姉ちゃんは私に背を向けながら、手を振ってリビングへと向かった。

 

 こうして見るとお姉ちゃんは随分と余裕そうだけど、反撃の糸口が切れた訳ではない。

 私と交戦している時にお姉ちゃんは自ら"ラブレター"という言葉を何度か口に出していた。さらに私を奴隷にしようとしていた時、私に『ラブレターのことなんて忘れて』と、わざわざラブレターを強調していたところを見ると、お姉ちゃんは私にラブレターを見られたことに対して完全に未練を断ち切った訳ではない。

 

 つまり、ラブレターのことをこれ以上追求するなということ。裏を返せば、そこを的確に突いていけば確実に勝てる!!

 

 

 フフフ……本当の勝負はここからだよ、お姉ちゃん♪

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁ~喉渇いた。どうして家に帰ってきまであんなに騒がなきゃいけないのよぉ~」

 

 

 いやいや、先に仕掛けてきたのはお姉ちゃんでしょ!!

 そんな訳で私は今、リビングでくつろいでいるお姉ちゃんを扉の隙間から観察しているところ。もう第二ラウンドは既に始まっているというのに、相変わらず呑気すぎるよあの人は。でもそうやって気を抜いていられるのも今のうち、さっき私が受けた屈辱を倍返ししてあげるよ……。

 

 

 そしてお姉ちゃんはキッチンへ向かい、冷蔵庫からキンキンに冷えた麦茶を取り出した。

 11月になって寒くなったと言っても、家の中は暖かいから冷たいお茶を飲みたくなるもの。それにウチのお茶は代々お手製で私たちが幼い頃からずっと飲み親しんできたものだから、久しぶりに家へ帰ってきたお姉ちゃんが麦茶を飲みたくなるのも計算のうち。

 

 

 つまり、どうなるのかと言うと……。

 

 

「ふぅ~やっぱりこの味だよねぇ~。飲むたびに懐かしい味がするわ!」

 

 

 フフッ、遂に飲んじゃったね!

 ここから私の逆襲ショーが開演するよ!心してね、お姉ちゃん♪

 

 

「んっ……急にカラダが熱く……ど、どうして……」

「お姉ちゃ~ん♪気分はいかがかなぁ~♪」

「楓ちゃん……なるほどそういうこと……はぁ、はぁ」

「ど~お?私特製の媚薬入り麦茶は?」

「やってくれたわね……はぁ、はぁ」

 

 

 お姉ちゃんは机に手を付いて、フラフラになりながら私を睨む。

 いいねいいねその眼!その反抗的な眼を叩き潰すのが私の愉悦なんだよ♪それにお姉ちゃんの火照った顔なんて、珍しくてイジメたくなっちゃうしね♪

 

 

 私はお姉ちゃんの元に近付いて顔を覗き込んだ。お姉ちゃんの顔は既に真っ赤に染め上がっており、淫らな息遣いが元々色っぽいお姉ちゃんを更にオトナのオンナとして覚醒させている。でも今の私にとっては、ただの調教の対象でしかないけどね!

 

 

「カラダが疼いて仕方がないんじゃない?私が沈めてあげようかぁ~?ツンツン♪」

「ひゃっ!!くぅ……」

「う~んいい声で鳴くねぇ~♪その声を聞くと、自分の心の内からドス黒い欲望が湧き上がってくるのが分かるよ!これだから人をイジメて陥れるのはやめられないんだよねぇ~」

「相変わらずのクズね、あなた……」

「それ本気で言ってる?絶対にお姉ちゃんが言うことじゃないでしょ!!」

 

 

 この女、自分のことを棚に上げてよくそんな罵倒が言えたものだよ。今までもそうだし、さっき私にした仕打ちを胸に手を当てて考えてみろっての。だけどそんなお姉ちゃんを雌奴隷の顔に変えられると思うと……あっ、ちなみに勘違いしないで欲しいんだけど、別に私は女の子同士の趣味はないからね。これはただの復讐だよ、ふ・く・しゅ・う♪

 

 

「お姉ちゃんカラダ熱いのぉ~?だったら私が脱ぎ脱ぎさせてあげるよ♪」

「や、やめなさい!!んっ、んあ!」

「カラダに触れるたびに刺激が走っちゃうでしょ?この前ことり先輩がくれた超強力な媚薬なんだ」

「ひゃん!あっ!!」

 

 

 私は故意にお姉ちゃんの肌に触れながら、徐々に服を脱がしていく。焦らせた方が屈辱的な時間が長く続くからダメージ大きいでしょ?このままお姉ちゃんを恥辱の深淵へと突き落としてあげるからね♪

 

 

「おぉ~お姉ちゃんやっぱスタイルいいねぇ~おっぱいも私より大きいし、ほれほれ!」

「あんっ!か、勝手に揉むんじゃないわよ!!」

「じゃあ事前に言っておけばいいんだね。揉むよ、ほらほらぁ~」

「ひゃっ!あ、ん……♪」

「喘ぎ声がオトナのオンナになってきてるよぉ~♪気持ちいいならイっちゃいなよ!」

「ふざけ、ないで……あぁっ♡」

 

 

 来てるよ来てるよ!!私の天下が!!このままお姉ちゃんの痴態をお兄ちゃんに見せつければ、お姉ちゃんは羞恥に押し潰されて私に降伏せざるを得ないはず!お姉ちゃんが私に跪く姿を、遂に見られるんだよみんな!楽しみすぎでしょ!!

 

 

 しかしここで、私は慢心していたことに気付いていなかった。お姉ちゃんがなけなしの力を振り絞って、机の上に置いてあった麦茶の入っている容器を掴んでいたことに……

 

 そして私がそれを察知した頃にはもう遅い。お姉ちゃんは悪い笑みを浮かべた後、麦茶の入っている容器を私の頭の上でひっくり返した。容器に入っていた媚薬入りの麦茶が、私の頭から全身を伝って溢れ出す。

 

 

「つ、冷たい!!」

「ふっふ~ん!油断大敵だよ、楓ちゃん♪」

「か、カラダが……熱い!!」

 

 

 ことり先輩から貰ったビンの中の媚薬を全て麦茶に投与していたため、飲む以前に肌にその麦茶が触れただけでも電流のような刺激が走る。私もまさかここまでの威力だとは思ってなかったよ……。

 

 

「ほらほら楓ちゃぁ~ん!さっきの威勢はどうしたのぉ~?ツンツン♪」

「あぁああんっ!カラダに浴びただけなのに……はぁ、はぁ」

「はぁ、はぁ……私の苦しみ、よく分かったでしょう?だからラブレターのことはもう忘れて私に返しなさい!!」

「い、イヤだね……お姉ちゃんが私に完全屈服するまでは、一生それで弄り続けてやるんだから……」

「そう、だったらもっと触ってあげるわ!」

「はぁ♡んんっ!!お、お返し!!」

「ひゃう♡はぁ……」

 

 

 私たちは2人共服がはだけてしまっていることには目もくれず、ただ相手を無理矢理興奮させて絶頂へと導くため、互いのカラダに触れまくっていた。相手の手が自分のカラダに触れるたびに、リビングに艶かしい嬌声が響き渡る。姉妹で何してんのと思っているかもしれないけど、私たちは全力で相手を屈服させようとしているんだよ!!

 

 

「無駄に大きいおっぱいぶら下げて!!研究バカなお姉ちゃんにはこんなに大きいの必要ないでしょ!!」

「好きでこんなに大きくなった訳じゃないわよ!!もう面倒だからさっきのコレで私の奴隷にしてあげる!!」

「またバイブ……あ、ひゃん♡ぶ、武器に頼るのはズルいよ……えいっ!!」

「はぁん♡か、勝てばなんでもいいのよ!!」

 

 

 もうお互いに意地。女のプライドを掛けて相手を調教し自分の奴隷にする、どんな方法を使ってでも……。リビングに響き渡る嬌声とバイブ音、もはや女の死闘場になっていた。

 

 

「どうせその無駄な巨乳で、お兄ちゃんをたぶらかそうとしているんでしょ!?はっ、あぁ……♪」

「ど、どうして……んっ♪零くんが出てくるのよ!!」

「とぼけたって無駄だよ……ひゃあっ♡ラブレターの中身、ちゃんと見てるんだからね!」

「なるほど、だったら尚更このまま生かしておく訳にはいかなくなったよ!徹底的に調教して、二度とそのことを口にできないようにしてあげる!!」

 

 

 もはやお互いに服もスカートもはだけ、上下の下着がモロ見えになっている。更にその下着さえもズレ、もう少しで生の胸まで曝け出してしまいそう。さっきからお姉ちゃんの無駄おっぱいが、私の目の前でぶるぶると震えている。不快……!!

 

 

 

 

 だが私たちは、お互いを調教しようと躍起になっていて気が付かなかった。この家には私たちの他にもう1人いることを。そしてその人はこの家の主にして、私の最愛の――――――

 

 

「お、お前ら……何やってんだ?」

「お、お兄ちゃん!?」

「零君!?」

 

 

 いつの間にか、リビングの入口にお兄ちゃんが立っていた。髪の毛がボサボサのところを見ると、恐らく今起きてきたんだと思うけど、これは最悪の現場を見られてしまった気がする!!

 

 

「いや、俺は別に女の子同士だからと言ってお前らを淘汰したりはしない。だけどそういうのはもっと別のところでやって欲しいというか、一応俺もこの家の住民なんだから場所くらいは(わきま)えよう……な?」

 

 

 やっぱり勘違いされるぅうううううううううううううううううううううううううううううううううう!嫌な予感的中だよ!!でも言い訳しようにもこの状況が私の言い分を全て否定しちゃう!!

 

 

「お前ら顔真っ赤だし服もはだけてるし……お互いに久しぶりに会って嬉しいのは分かるけどさ、リビングでヤるのはちょっとな」

「零君、これは違うの!!」

「じゃあお前の右手に持ってるソレはなんだよ……?」

「あっ、こ、これは……」

 

 

 お姉ちゃんの右手に握られていているのは、お兄ちゃんのアレを模したバイブレータ。それこそ私たちの言い訳を掻き消す最大の要因となっていた。お互い半裸のこの状況に加えてバイブだなんて、もう言い逃れの言葉すら言えないじゃん……。

 

 

「そういやこの前、花陽も俺の体操服でコソコソやってたな。やっぱり女の子は裏で何をやっているのか分からねぇ……」

「なに悟り開いてるの!?別に私はお姉ちゃんを調教したいだけで……」

「楓ちゃん!!そんなことを言ったら余計に!!」

「あっ……」

「オーケー把握した。俺は顔を洗ってくるからあとはご自由に」

「ちょ、ちょっと待ってお兄ちゃん!!お兄ちゃぁああああああああああああああああああああん!!」

 

 

 そして無慈悲にも、私の耳にはリビングの扉が閉まる音だけが聞こえてきた。私たちは決して百合やレズの属性がある訳ではなく、単に相手を調教したかっただけなのに……って、こんなことを思っているから勘違いされるのか。

 

 

「お姉ちゃん、案外落ち着いてるね……」

「あなたほど零君に固執している訳じゃないし。さっき楓ちゃんの絶望した顔を見られたから、それで満足かなぁってね♪」

「私にとってはお兄ちゃんが最愛の人であり、一番の難敵だったよ……まさか見られちゃうとは」

「お互いに発情しちゃってたからねぇ……今は割りと落ち着いてきたけど。こんな短時間で興奮が静まるなんて、ことりちゃんの媚薬はまだまだ生温いわね」

「もう、また変な欲を起こさないでよ。面倒だから」

「麦茶に媚薬を仕込んだあなたがそれを言う……?」

 

 

 まあどっちもどっちっていうことだよ!私はお姉ちゃんの妹なんだから、性格が似るのも無理はない。それにお兄ちゃんに目撃されたことで、なんか一気に媚薬の興奮も覚めちゃったし、騒ぐ気にもなれないよ。

 

 

「はい、これ返しておくね」

「これって私のラブレター……どういうつもり?」

「もうどうでもよくなってきちゃった。調教とまではいかなかったけど、初めてお姉ちゃんに対抗できて満足したしね」

「あれで私に勝ったつもり?まだまだ甘いわね」

「それでも私は満足なんだよ」

 

 

 そして私たちは微笑み合う。喧嘩するほど仲がいいっていうのはこういうことを言うのかな?たまにはお姉ちゃんとこうしてギャーギャーうるさく馬鹿騒ぎするのも悪くないと思った私でした。

 

 

「ま、楽しかったから、これ以上のラブレターの追求はしないであげるよ♪」

「楽しかった?まさか楓ちゃん、レズ属性?」

「違うわ!!!!」

 




 楓と秋葉、初めての微エロ。


 今回は楓と秋葉さんの回でした!
 この2人でR指定の話を書くのは、100話記念の楓の描写を除けば初めてです。まだR-17.9には到達していないものの初めてオリキャラで、しかもオリキャラ同士のエロを書くのはかなり新鮮で楽しかったです!

 しかも今回は女の子同士だったので、もしかしたら敬遠された方もいるかもしれませんが、私としてはこの程度の微エロだったら女の子同士も少しはありかなぁと思っています。ガッツリとしたレズプレイは無理ですがね(笑)


 今回で2月分の投稿は終了で次回から3月分に突入していくのですが、3月からは投稿ペースが落ちます。週に1回、多くても2回更新になってしまうことをご了承ください。


新たに高評価を下さった

ビルトインスタビライザーさん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

デートブッキングは修羅の道

 今回は前作の『日常』にもあったデートブッキングのお話。
 流石に9人や12人をまとめて書く気力はないので、今回はにこまきのコンビの修羅場展開へとご案内!


「さみぃ……ひたすら寒い」

 

 

 休日というのは、休む日と書いて休日と読む――――というくだりはもういっか。これまでも散々演説してきたことだから、もはや誰しも耳に穴があくほど聞き飽きているだろう。

 

 まあこの文句でお察しの通り、俺はまたしても休日だというのに買い出しに駆り出されている。さっき楓に叩き起され、『今日は買わなきゃいけないモノがたくさんあるんだけど、虚弱な女の子に荷物を持たせる気?こういう時こそ男の出番でしょ!!』と、朝の身支度も満足にさせてもらえず家から放り出されてしまった。

 

 なにが虚弱な女の子だよ。μ'sの練習でそこら辺の女の子よりは十分筋力があるくせに、そんなことがよく言えたものだ。女の子の前で『筋肉あるね』とか言ったら、全員から大バッシングを受けるので絶対に言えないが。

 

 

「とにかく、用事を済ませてサッサと帰ろう。俺のワイフ(こたつ)が待っている!」

 

 

 秋の終わりから冬に掛けて、毎年俺はこたつと結婚しているかってくらいこたつの虜となっている。あれは確実に人をダメにし、どんな男でも骨抜きにして腑抜けさせる、まさに魔性の女と何ら変わりはない。しかも男だけでなく女の子も同じように快楽の世界に陥落させてしまうのだから、案外そっちの毛もあると見た。こたつになればハーレムも逆ハーレムも作り放題だなこりゃ。

 

 

 なんてそんな馬鹿なことを考えながらぼぉ~と歩いていると、後ろから俺の名前を呼ぶような声が聞こえていたことに気が付いた。俺は一旦くだらない妄想から離れ、意識を現実へと引き戻す。

 

 

「零!ちょっと聞いてるの!?」

「なんだ真姫か」

「なんだとはご挨拶ね。さっきから何回も呼んでたのに」

「悪い。自宅で俺の帰宅を待ってくれている女の子の妄想をしてたから、全然気付かなかった」

「そ、それって、私たちの誰かってこと……?」

 

 

 ありゃりゃ、これはμ'sの誰かで妄想していたと勘違いされてるな。本当は帰宅した俺の冷たい身体を暖かく包み込んでくれるこたつのことを妄想していたのに……人間×無機物という、ある種かなり世紀末な妄想をな。

 

 

「まあそれはどうでもいいや。お前はこんなところで何してんだ?」

「欲しい本があるから、書店へ行こうと思って。あなたは?」

「俺は楓に家から追い出されて、買い出しに行っている途中だよ。今日は買うモノが多いからって、俺が駆り出されたんだ」

「へぇ、特に誰かに会いに行くのではないと……」

「まあ、そうだな」

「そっか、今は1人きりなのね……」

 

 

 なんか真姫がブツブツと言い始めたぞ。も、もしかしてこれは……この2人きりの状況、男と女の子が偶然出会って、女の子が男に要求してくることと言えば――――

 

 

 

 

 買い物の荷物持ちだ!!間違いない!!

 

 

 

 

「じゃ、俺そろそろ行くから!」

「ま、待って!!」

「なんでしょうか真姫お嬢様……もしかして私に荷物持ちなんていう雑用をお任せになるのでは……」

「どうしてそんなに低姿勢なのよ!私はただあなたの買い物に付き合ってあげようと思っただけよ」

「えっ、お前の買い物じゃなくて……俺の?」

「そもそも私の買い物って書店に行くだけだし。それに荷物多くなりそうなんでしょ?手伝ってあげるわよ」

 

 

 手伝ってくれるのはありがたいが、さっきからどうして上から目線なんだよ……ツンデレの特有の高圧的態度が遺憾なく発揮されてやがる。

 

 しかし女の子に荷物持ちを頼むのは男としてどうなんだ……?でも断ると真姫に悪いし、ここはお言葉に甘えて手を借りようか。

 

 

 あれ、そういやこれって普通に……デート、だよな?

 

 なるほど、だからさっきから真姫の顔が妙に紅潮していたのか。そりゃあコイツは自分からデートに誘うことがあまりないから、緊張するのも無理ないわな。

 

 

 よしっ、唐突に決まったデートだけど、勇気を出して誘ってくれた真姫のためにも彼女を楽しませてやるか!

 

 

「ほら、そうと決まれば行こう。いつまでも外にいちゃ寒すぎるから」

「えっ、付き合せてくれるの?」

「逆に付き合わせない理由がないしな。手伝ってくれるならなおさらのことだ」

「そ、そう、ありがとう」

「どうしてお前がお礼言うんだよ。ほら行くぞ」

「ま、待ちなさいよ!」

 

 

 先に歩き出した俺の後を、真姫が駆け足で追いついてくる。

 

 

 デートとあれば外に出るのも悪くはない、むしろ真姫とゆっくり話せる機会ができてラッキーだと。

 

 

 そう思っていた。もう既に修羅の道に足を踏み入れていることを知らずに……。

 

 

 

 

 しばらく2人でたわいもない話をしたり、最初は真姫の書店に行くかなどを一応デートのプランを考えていて意識を現実に保っていなかったせいか、俺は曲がり角から曲がってくる人に気付かなかった。

 

 

「きゃっ!」

「うおっ!」

「ちょっとなによ急に……ちゃんと前を見なさいよね――――って、零?」

「にこ!?」

 

 

 俺とぶつかりそうになったのはなんとにこだった。出会い頭にうっすらと小さな女の子の影が見えたから、『これはぶつかったらロリコン罪で逮捕で逮捕される!!』と危機感を募らせていたんだよ。いやぁにこでよかった!!最近は男にとって不平等社会だから、にこ以外のロリっ子だったら言い逃れすらさせてもらえなかっただろう。

 

 

「こんなところで会うなんて偶然ね。いや、もしかして必然かしら。ほら、にこたちはいつもお互いの愛で惹かれ合っているから♪」

「おう、そうだな」

「どうしてそんな軽く流すのよ……まあいいわ、零!」

「な、なんだ?嫌な予感がするけど……」

「にこにぶつかった罰として、これからにこの買い物に付き合いなさい!!」

「うん、知ってた」

 

 

 この理不尽さはいかにもにこらしい。ていうかぶつかりそうにはなったけど、ぶつかってはいないんだが……これも女性の言ったもの勝ちということか、おのれ男不平等社会。

 

 でもにことデートできるのなら俺も願ったり叶ったりだ。彼女は大学生だから、こうして面と向かって話す機会が減ってきてるんだよな。だったら今日はそのいい機会なんだけど……。

 

 

 

 

 ――――――なにか忘れているような……。

 

 

 

 

「ちょっと!!私のこと忘れてない!?」

「あっ……」

「あれ、真姫もいたんだ」

「いたわよ!!にこちゃんと会う前からずっと零と一緒にいたわよ!!」

 

 

 ずっと一緒なのかどうかは疑問だけど、一瞬でも真姫のことを忘れてしまったのは本当に申し訳ない。にことこうして休日にゆっくりと話ができる機会が訪れて、少し舞い上がってしまっただけだ。もちろん真姫とデートできるのは嬉しいよ!当たり前だろ!!

 

 

 だが……この2人はそうでもないらしい。

 真姫とにこ、2人の鋭い目線は火花を散らせながら激突する。俺の穏やかな休日は、女の子2人のデートブッキングにより修羅場と化してしまった。去年一度穂乃果たち9人とこんなことがあったけど、今はみんな俺の彼女なんだし、3人仲良くデートくらいしてもいいようなものだが……。しかしこの殺伐とした雰囲気を察するに、そんな穏便には話が進まないようだ。

 

 

「私の方が先にいたんだけど……」

「先にいたとか後から来たとかは問題じゃない。零が誰と行きたいのかが重要なのよ」

「零の意見を尊重したいのは分かるわ。でもデートは先着順よ」

「真姫は学院でいつでも零に会えるでしょ?にこは零と離れ離れになって、いつもいつも零のことを想ってハンカチを涙で濡らす毎日なのよ!?だからここは譲りなさい!」

「それこそ私には関係ないわね」

「なんですって!」

 

 

 こ、これがガチの修羅場って奴か……どう足掻いても3人仲良くデートできるような状況ではなさそうだな。それもそうか、だって真姫もにこもμ'sの中ではトップクラスの頑固者だし、素直に自分から引き下がるような奴らじゃない。俺のために争ってくれるのは嬉しいけど、徐々に胃がキリキリしてくるのは気のせい!?

 

 これが穂乃果や凛だったら仲良く和やかな雰囲気でデートできそうなのに……。

 

 

 そしてお互いに睨み合っていた2人が、次は同時に俺を睨みつける。こ、今度は俺が標的ですか!?!?

 

 

「零!!あなたはどっちとデートするの!?」

「この際だからハッキリしてもらうわよ!!」

「えぇ……」

 

 

 この俺に女の子に関する二者択一を迫るだと!?しかもこんな胃が切り詰められそうな状況で!?

 う~む……しかしどんな状況であれ、我が恋人たちに対する選択ならこれしかない!!

 

 

「3人でデートしよう!なっ?」

「…………」

「…………」

「な、なんだよその沈黙は……」

「なんとなく、アンタならそう言うと思ってたから」

「まあ大方予想通りよね」

 

 

 だったら何故聞いた……ああ見えて結構勇気を出して提案したんだぞ。もしかしたら刺されるかもしれないという怖気が……まあ刺されるのなら9股した時点で刺されてるか。

 

 

 そんな訳で2人に謎の納得をされながらも、俺たちの奇妙なデートが始まった。にこと真姫の間にピリピリとした空気が張り詰めながら……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零♪」

「うおっ!ど、どうしたにこ!?」

 

 

 スーパーへ向けて歩いている途中、突然にこが俺の左腕に絡み付いてきた。大学生になったと言っても未だに彼女の慎ましやかな胸では流石におっぱいの感触はあまり感じないが、腕に笑顔の女の子が絡み付いているこの状況だけでも相当浮ついた気分になってしまう。そして背丈の都合上、必然的に彼女に上目遣いをされるのが本当に唆られるんだよ。容赦なく俺の心を奪いに来てるな。

 

 

 だがしかし、()()()()の彼女がそれを見て黙っている訳もなく――――

 

 

「ま、真姫……?」

「にこちゃんだけズルいじゃない」

「だからって無理に対抗しなくても……」

「私がしたいからいいの!!」

「さいですか……」

 

 

 今度は真姫が俺の右腕に絡み付いてきた。にことは違う、程よい大きさから少しばかり成長した、少々俺の手に余るサイズのおっぱいが腕に押し付けられる。そして自慢のツリ目で俺を睨むように見上げているのだが、頬が赤く染めて恥ずかしそうにしているそのギャップがまた堪らない。これがツンデレ特有の可愛さか。

 

 

 するとにこも真姫に更に対抗するためか、俺の腕に絡み付く強さが先程よりも格段に強くなった。腕だけでなく脚も絡ませてきそうな勢いで、俺の身体に密着する。

 

 

「ちょっとにこちゃん!いくらなんでもそれは抱きつきすぎじゃない!?」

「にこは零への愛を行動で示しているだけよ!まさか真姫ちゃんの愛はそんなものなのぉ~?」

「そんな訳ないでしょ!!私だってそのくらい……」

「お、おい真姫!!」

 

 

 にこが小悪魔顔で挑発し、相変わらず乗せられやすい真姫が簡単に誘導されて反抗する。まさに()()()()構図だなこれは。

 

 意地でもにこに負けたくないのか、真姫も俺の腕にコアラのように抱きつく。

 もうここまで抱きつかれると胸の大小は関係なく、にこと真姫の胸と胸の間に俺の腕がぎゅうぎゅうに押し込まれる。いわば擬似パイ○リのようで何とも唆られるシチュエーションだ。

 

 彼女たちが狙ってそうしているのかは分からないが、恐らくお互いに対抗意識を燃やしているため俺が興奮しそうになっていることなんて気付いてないだろう。

 

 

「零が歩きにくそうで困ってるわよ。そろそろ離れたらどう?」

「そんなこと言ったらにこちゃんもそうじゃない!零の腕がにこちゃんの体重で疲れちゃったらどうするのよ!」

「残念ながらにこはアンタよりも体重が軽いから問題ないわ。普段はロリだのなんだのをネタにされるけど、こうして恋人の腕にぶら下がれるのなら小柄なのも悪くないわね♪」

「あなたには余計な脂肪が付いてないものね。女性の胸が大好きな零にとっては致命的よ」

「誰がひんにゅーですって!?零が好きなのは女性の胸の感度よ!大きさは二の次だわ!!」

 

 

 その場に俺がいるのにも関わらず、俺を蚊帳の外に差し置いて2人の話題に勝手に俺が出演する謎の現象。しかもにこと真姫はそれぞれ俺の両腕に抱きついているから、2人の会話は俺を介しての口論となる。逆にこの口論に巻き込まれないだけマシと言えるのか……?

 

 

 いや、この2人の口論には終着点はない。だからこの論争を終結させるために2人が取る行動は絶対に――――

 

 

「零!私とにこちゃん、どっちが重い?胸の大きさも考慮に入れて!!」

「零!おっぱいはやっぱり感度なんでしょ!?大きさはそのあとじゃない!?」

「やっぱり!?でもなんか思ってた質問とちがぁーーーーーーーーう!!」

 

 

 俺はてっきり『どちらに抱きつかれたい?』と結論を急かされると思っていたのだが、コイツらなんていう質問してんだ!?しかも道のド真ん中で!!完全に痴女じゃねぇか!!

 

 

 おっぱいに関しては感度は確かに重要だ。でも手触りはやはり大きい方が揉み心地もいい訳で、感度は大きさに付随するものだと考えると、大きさの方が重要にも見える。だが小さくてもにこみたいに感度がいいおっぱいは少なからずあるしなぁ……うん、難しい。

 

 

「とにかくだ!2人共、重いから一旦離れてくれ」

 

 

 その瞬間だった、彼女たちの全体重を掛けた(かかと)落としが俺の両足にクリーンヒットする。

 

 

「いってぇえええええええええええええええええええええええええええ!!」

「女の子に向かって"重い"とか、道のド真ん中で言うんじゃないわよ!!反省しなさい!!」

「全くあなたはいつもいつもデリカシーの欠片もないんだから!!」

「お前らそういうところだけ結託してんじゃねぇよ!!」

 

 

 喧嘩するほど仲がいい典型的な例だなこれは……まあ仲が良くなければ同じμ'sで一年半以上一緒にやってきてないと思うが。にこも真姫も頑固者でツンデレ属性があり、面倒なことは避けようとするけどなんだかんだ言って手を差し伸べてしまう優しさを持っている。やっぱり似た者同士じゃんコイツら。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「そうだ。折角だし、明日にでも晩御飯を作りに行ってあげるわよ。どうせ家事を楓に任せてるんでしょ?だったらたまにはあの子にも楽をさせてあげないとね」

「急にどうした真姫……お前からそんな提案を持ちかけてくるなんて珍しい」

「別に!たまには彼女として、あなたに手料理を食べてもらいたいだけよ」

「真姫が物凄くデレてる!?明日は槍が降るかも!?」

「あなたねぇ……」

 

 

 スーパーマーケットでカートを引きながらダラダラと食材を選んでいたところに、まさかの真姫デレ。唐突な爆撃に俺も足を止めて困惑せざるを得なかった。だってあのツンデレ女王の真姫様だよ!?自ら手料理を振舞ってくれるなんて、デレ要素MAXすぎてキャラ崩壊も辞さない行動だぞ!!

 

 

「零~!買い物終わった?」

「えっ、まだだけど……」

 

 

 一旦俺たちとは別行動で他の食材を探しに行っていたにこが俺たちと合流した。彼女はこのスーパーの食材の位置を全て把握しているのだろう、俺と同時に入店したのにも関わらず既に自分の買い物は終えてしまったようだ。流石女子大生主婦、伊達に高校時代から妹の面倒を見てはいないということか。

 

 

「よし、それなら丁度良かった!明日、楓も連れてにこの家に来ない?久しぶりに一緒に食卓を囲みましょうよ。零が来てくれればこころたちも喜ぶと思うし」

「あ、明日……」

「ん?なにか用事でもあった?」

「明日は私が零たちの晩御飯を作ってあげるのよ」

「…………それいつ決まったの?」

「さっきよ」

「…………」

 

 

 あぁ、また始まってしまうこの2人の対決が……。さっきから何度も何度も、しかも俺を挟んで論争をするもんだから胃に穴が空きそうなんだよぉ~!!今も2人の鋭い目線の火花がバチバチと俺の目の前でぶつかり合ってるし……俺のために争うのはやめてくれ!!あっ、これ女の子が言うセリフか。

 

 

「にこがいない間に勝手に決めないでくれる?」

「勝手にいなくなるのが悪いのよ。それにあなたはよく零に手料理やお菓子を作ってきてるでしょ?たまには私に譲ってくれてもいいんじゃない?」

「それこそにこの勝手じゃない。そもそも真姫は料理自分で作ったことあるの?家に料理人がいる環境で」

「零の恋人になってからずっと練習してるから問題ないわよ。少なくとも家の料理人に褒められるくらいには成長してるわ。もしかしたらにこちゃんよりも上手になってるかも」

「フンッ、一年そこらしか料理をしたことのないひよっこが、もう3年以上も家庭の味を支えてきているにこに勝てるとでも?」

「なんですって?」

「なによ?」

 

 

 がぁああああああああああああああああああ!!どうしたらいいのこれ!?何故か胃が痛い!!錐か何かで胃を抉られているかのような感覚なんですけど!?しかもここはスーパーの中、周りに主婦や子供たちがいるんですが……。でも仲介に入ったら入ったで『零は引っ込んでて!!』と2人同時に言われそうじゃない?だってこの2人仲いいし!!

 

 

「男は胃袋を掴まれるのが弱いから、にこの家庭の味が零をメロメロにするに違いないわ!いや、もうとっくになってるかも」

「料理は要するに作った人の気持ちよ!零への愛情なら私だって負けてないわ!!」

「それはにこだって同じことが言えるわよ!」

 

 

 話が平行線で全く終結の兆しが見えねぇ……そこまで話が続くだけ、やはりこの2人は似た者同士で仲がいいってことなのか。

 

 

 似た者同士で仲がいい……か。だったらこの状況の解決手段が見つかったかもしれないぞ。怒られるかもしれないしイチかバチかだけど、この状況を終息できるのならやってみる価値はある!

 

 

「にこ!真姫!」

「「なに!?」」

 

 

 やっぱり邪魔すんなみたいな目で睨みつけてきやがったか……でもここで怯む訳にはいかない。

 

 

「きゃっ!!」

「あっ……れ、零?!」

 

 

 俺は両腕でにこと真姫を自分の身体に2人同時に抱き寄せ、耳元で囁くように呟いた。

 

 

「2人共俺の恋人なんだしさ、俺はどちらか1人の料理じゃなくてお前ら2人の料理を食べたいんだ。だからお互いに争わないで、協力して俺のために手料理を振舞ってくれよ。明日真姫と楓と一緒ににこの家に行くからさ、その時に2人の手料理の合作、楽しみにしてるよ。とびきりの愛情が籠った、2人で仲良く作った最高の手料理をな」

「零……」

「そう、私たち2人の……」

 

 

 さっきまでいがみ合っていた2人の威圧が沈下していくのが分かる。どうやら無事に俺の想いが彼女たちの心に届いたらしい。

 

 

「まあ、零がそういうのなら仕方ないわね。今日のところは許してあげるわよ。零が喜んでくれるのならそれでいいし」

「私も零がそれでいいって言うのなら異論はないわね。私はただ私の作った料理を零が美味しそうに食べるところを見たいだけだし」

 

 

 チョロいと言ってしまうと聞こえは悪いが、やはりツンデレっ娘にはこちらからデレを見せつけることによって態度を軟化させることができる。現ににこも真姫も頬を染めてそっぽを向きながら何やらブツブツ言ってるし、多分これでよかったのだろう。やっぱり似た者同士だわこの2人。

 

 

 よしっ、これで大団円!!――――――と、思っていたのだが……。

 

 

 

 

 

「それにしても、全くしょうがないねぇ零は。にこたち2人の手料理が食べたいだなんて、どれだけ貪欲なのよ」

「そうそう、女の子が同時に手料理を作ってくれることなんて普通は有り得ないんだから、感謝して欲しいくらいね」

「お、お前らなぁ……誰のために謙ったと思ってんだ」

 

 

 折角いい感じで終われそうだったのに、微妙に素直になれず強がってしまうところもやっぱり似た者同士だ。

 

 まあそれがこの2人の可愛いところでもあるんだけどね!

 




 喧嘩するほど仲がいいというのは、にこまきのためにあるような言葉だと思うんだ。


 今回はにこまきコンビとの修羅場回でした。
 デートブッキングというよりかは、修羅場展開に重点を置いてみました。そもそもこの小説自体がμ's全員と恋人同士になっているので、修羅場展開を書こうと思ってもμ'sメンバー同士の仲が良すぎて修羅場にならないというある意味での欠点がありました。しかしにこまきに至っては本編でも零君が言った通りかなり頑固な性格を持っているので、この2人だけに至っては恋人同士になっても修羅場展開にはなりそうなんですよね。

 そもそもにこまきのコンビ自体、世間一般ではかなり人気なカップリングなのに本編でこの2人を明確に絡ませたのはこれが初だと思われます。別に嫌いだったからとかそういう訳ではなく、単純にたまたまです。そんなことを言いだしたら、まだ絡みが薄いカップリングはかなりいそうですが。というより確実にいますねこれは(笑)


 しばらくは次回予告はなしで。投稿に間が空くので、予告をしても途中でネタを変更したくなる可能性がありますから。


新たに高評価を下さった

山神さん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

おっぱい依存症にご注意を!

 どうしてこんな話を執筆してしまったのか……
 ちなみにR-17.9要素よりかはギャグ要素よりです。


 なんだろう、今日はやけに気分が高ぶる。

 しかし特段体調がおかしい訳でもなく、むしろいつも以上に良好なくらいだ。良好……という言い方は少し語弊があるか、正しくは()()()()()()()()を見ると無意識的にテンションが上がってしまう。

 

 ある部分ってどこかって?それは――――

 

 

「ねぇねぇ零君!ちょっと数学で教えて欲しいところがあるんだけど、いいかな?」

「あ、あぁ……」

 

 

 俺の席の前にトコトコとやってきた穂乃果。いつもなら彼女の可愛い笑顔を眺めて元気を貰うところなのだが、今日は俺の目に彼女の笑顔は一切映らない。俺の目が捉えているのは、穂乃果の制服を押し上げる、そのぷっくりとした膨らみだけ……。

 

 

 そう、今日は朝から何故か女の子のおっぱいにやたら目が行ってしまうのだ。『いやいや、いつものことだろ!!』と言いたい気持ちは分かる!分かるけど、今日だけは何かが違うんだ!!こう、対して意識してもないのに気付いたら俺の目には女の子のおっぱいが映し出されている。ある種末期症状に近い状態なんだ。

 

 どうしてこんなことになってんだろう……自分でもおっぱい星人だって自覚はあるんだけど、まさか進化の予兆か何かなのか!?でもこれ以上進化しちゃったら、それこそ両手に手錠は逃れられないだろう。

 

 

「もう零君!さっきからどこ見てるの!?ていうか聞いてる!?」

「き、聞いてるから肩を揺らすなって!!」

 

 

 穂乃果は俺の意識が飛んでると思ったのか、俺の両肩を鷲掴みにして身体を大きく揺らしてくる。

 だが今の俺にとっては自分のことは問題じゃない。もちろんだけど、俺の身体を揺らしている穂乃果の身体も当然揺れている。だから俺の目に映るんだよ、穂乃果の身体が揺れると同時に上下に揺れるほのパイが!!いくら下着を着けていると言っても、揺れるものは揺れている。男ならそこに目が行っても不思議ではない。

 

 普段でもそのような光景には釘付けになるのだが、今日だけはやたら興奮を煽られてしまう。心臓がバクバクと鼓動し、息遣いも鼻息も乱れている。明らかに俺の身体がいつもとは違う。一体どうしちまったんだ俺!!

 

 

「穂乃果ちゃん!そろそろやめてあげないと零くんが……」

「穂乃果、零が苦しがってるじゃないですか!」

「だって零君ぼぉ~っとして聞いてなさそうだったんだもん」

「どうせまた夜遅くまで起きていたせいで、溜まっていた眠気が襲ってきている。こんなところでしょう」

「ま、まあそんなところかな……」

「いつもの零くんで逆に安心できるね……」

 

 

 ことりと海未が穂乃果を止めてくれたのはいいのだが、俺の目線はおっぱいから離れることはない。それどころかことりと海未まで現れたことで、俺の目が休むことなく3人のおっぱいを次から次へと凝視する。大きさで言えば左から大、中、小……これ以上は口を慎んだ方が身のためか。

 

 

「零……」

「ど、どうした海未……」

「妙に破廉恥な目線になっていると思いまして」

「え゛っ!?そんなことないよ……」

「だったらその犯罪者の目線はなんですか!!」

「してない!!そんな目してないって!!」

 

 

 嘘です!海未の制服の内に眠る美乳を想像しながら眺めてました!!

 まあそんなことは口が裂けても言えない訳で……でも何故か眺めてしまう訳で……それにさっきからとてつもなく女の子のおっぱいを触りたい衝動が湧き上がってきてる訳で!!普段も同じ欲望を抱いていると言えば抱いているけど、今日はおっぱいを触らなければ死んでしまいそうな、そんな気がするんだ。

 

 

「零くん、もしかして……我慢してる?」

「……何故そう思う?」

「ことりは零くんのことな~んでも知ってるし、どんなことでも分かっちゃうんだ!それに零くんがエッチなことを考えている時の顔なんて、今まで何度も見てきてるしね♪」

「マジか……」

「ねぇねぇ、ことりのおっぱい……触りたい?」

「なんだと……!!」

 

 

 改めてことりのおっぱいを見る。

 で、デカイ……去年より明らかに大きくなっているのが制服の上からでも分かる。確か俺のために大きくしたと言っていたか。だとしたら、その大きさを確かめる権利が俺にはあるのではなかろうか?この右手でかつて天使と言われた彼女のおっぱいを揉むことが、俺には許されているはず!!

 

 

 だったら――――!!

 

 

「ダメです!教室で何をやろうとしているのですか!!」

「そうだよ!!ことりちゃんだけなんてズルい!!」

「問題はそこではないでしょう!?ことりも、いい加減にしないと怒りますよ」

「えぇ~もう怒ってるような気もするけど……」

「分かった!海未ちゃん、零君におっぱいを触ってもらえなくてヤキモチ焼いてるんでしょ~?」

「ち・が・い・ま・す!!」

 

 

 幼馴染組3人の言い争いが始まり、俺のおっぱいを揉む祈願は叶わず。

 いつもならここで仕方ないと諦めが付くのだが、今日の俺の欲望は一段も二段も違う。女の子のおっぱい、特にμ'sの誰かのおっぱいを揉みたいという欲望が消えてなくならず、それどころか俺の深層意識までその欲望に支配されている。

 

 

 触りたい、揉みたい、突っつきたい、舐めたい、しゃぶりたい、挟まれたい……あらゆる感情が妄想となって俺に襲いかかる。

 

 

 だったらここにいてはダメだ。飛び出さなければ、この教室から!!

 

 

「ちょっとトイレ行ってくる!!」

「あっ、零君――――って、行っちゃった……」

「あんなに急いてトイレ……まさか、自分磨き!?」

「ことり、それ以上言うと怒りますよ……」

「だから、もう怒ってるよね……?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、どうして、どうしてこんなにおっぱいを求めてしまうんだ……」

 

 

 穂乃果たちのおっぱいの誘惑を振り切り教室を飛び出した俺は、息を切らせながらトボトボと廊下を歩いていた。

 俺自身、あそこまでおっぱいを求めてしまう理由が分からない。いつも飢えているのは間違いないのだが、今日は制服の上からおっぱいの膨らみを見るだけで無性にむしゃぶりつきたくなる。しかも今朝からこんな調子なのだ。まさかとは思うけど、俺がこんなことになった犯人ってやっぱり……。

 

 

「あっ、零くんだにゃ!お~い!!」

「凛……花陽も真姫も一緒か」

「零君、顔赤いけど大丈夫?」

「また変なことを考えているんじゃないでしょうね?」

「……そんなことはない」

「なによさっきの間は!!」

 

 

 また出会ってしまったμ'sのメンツに!!このままだと欲望が限界突破してコイツらのおっぱいに飛びかかりかねない。だから早急にここから立ち去りたいんだけど、俺の本能が勝手に凛たちのおっぱいに目を向けさせてしまう。

 

 

 おっぱい、おっぱい……おっぱいのことを想うたびに身体が熱くなる!!

 

 

 そうだ花陽だ。花陽だったら土下座してお願いすればきっと触らせてくれるはずだ。あわよくばしゃぶらせてもくれるかも……。プライド?そんなものはとっくの昔に俺の性欲に飲み込まれたよ。

 

 

「花陽!!」

「うぇえ!?な、なに!?」

「お前にしか頼めないお願いがあるんだ!!」

「わ、私にしか?私にできることなら……」

 

 

 よしきたぁあああああああああ!!やっぱり花陽は天使だったよ!!

 まだ彼女に頼み込んでもいないのに、もうあの豊満なおっぱいに飛びついてしまいそうだ。まだ高校二年生で、しかも小柄な彼女の身体にぶら下がっているあの大きな果実を、この興奮した状態でしゃぶりついたら……考えるだけでも唆られる!!

 

 

「待って!零くん、なんだか変態さんの目をしてるにゃ……」

「そうね。さっきから息遣いも鼻息も荒いし、この零に近付くのは危険だわ」

「っ……」

「えぇ、でも零君困ってるって言ってるよ……?」

「それすらも罠の可能性があるにゃ……かよちんの目は誤魔化せても、凛の目は誤魔化せないよ!!」

 

 

 クソッ!凛と真姫が花陽の前に出て、俺の前に立ちはだかってきやがった!!念願の果実を手中に収めるまで、あともう少しだったのに!!

 

 凛と真姫は普段でもエロに対する警戒心は強い。特に俺に流されやすい花陽を守るためならなおさらだ。

 

 だがしかし、俺としてはそこまで躍起となって花陽のおっぱいを狙わなくてもいい。そう、μ'sのおっぱいなら俺は誰のでも満足できるのだから……。

 

 

「れ、零くん?どうして黙って凛たちに近付いてくるの……?」

「それ以上動かないで!!通報するわよ!!」

 

 

 通報されたっていい。警察が来る前にこの3人のおっぱいを思う存分堪能できれば、それで俺の欲求は満たされる。このまま一生おっぱいに飢えて苦しむくらいなら、一度刑務所に入ってでもおっぱいを生揉みして欲望を発散するのが妥当だろう。

 

 凛のおっぱいは慎ましやかだが、日々の運動でキュッと引き締まった腰に手を当てながら触るおっぱいは格別だろう。それに真姫のおっぱいは以前にことの修羅場デートの時に、その柔らかな感触を服越しだけど自分の腕に味わったばかりだ。

 

 

 つまりだ、味わうのなら誰のでもいい。できるなら3人同時に堪能したいものだがな。

 

 

「なぁ凛、真姫、頼むよぉ……」

「そんな弱々しい声で言われたら、私たちが悪者みたいじゃない」

「ねぇ凛ちゃん、真姫ちゃん。零君相当困ってるみたいだし、お願い聞いてあげない?」

「う~ん、かよちんの頼みなら……」

 

 

 きたきた!ガードは堅いが頼み込んだらすぐに折れてくれるチョロ……いやいや優しいところが2年生組の魅力だ。これでようやく俺の欲求も解消される。ここまで辛く長い道のりだったよ。

 

 

「それで?凛たちに頼みたいことって?」

「ああ実はな、お前らのおっぱ――――――」

 

 

 あと"い"の言葉を言うだけ。目の前の大小とりどりのおっぱいにありつける、まさにその直前だった。

 

 

 俺の声をかき消すように、学院のチャイムが鳴った。

 

 

「あっ、早く音楽室に行かないと!!次音楽の授業だよ!!」

「そうだったにゃ!!このままじゃ遅刻しちゃうよぉ~!!」

「いやもうこの時点で遅刻してるから!!」

「えっ、え……」

「ゴメンね零君!相談はまたあとでもいいかな?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」

「かよちん早くぅ~!!」

「零君も早く教室に戻ったほうがいいよ。それじゃあね!」

「おーーーーーーーーーーーーーい!!」

 

 

 い、行ってしまった。俺のおっぱいが、もう少しでありつけるはずだったおっぱいが、どんどん遠ざかっていく……。

 

 

 そして3人の姿が見えなくなると、俺の身体は再び謎の興奮に煽られた。俺の本能がおっぱいのお預けをくらって怒っているのだろうか、またしても身体が燃えたぎるように熱くなってくる。もうμ's関係なく、目の前に可愛い女の子が通りかかったら誰とも構わず飛びついてしまいそうだ。

 

 

「少し休んでから教室へ戻ろう。うん、それがいい」

 

 

 とりあえず多少の冷静さを保っていはいるが、またこの欲望がいつ爆発してもおかしくはない……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 なんとか全ての授業を乗り切り放課後を迎えた。

 授業中も休み時間も、なるべく女子生徒の方を見ないように心掛けようと思っていたのだが、俺の意思とは関係なく目線は女の子のおっぱいへと釘付けとなってしまう。挙げ句の果てにはもはや飢えた獣のような目線のようだと穂乃果たちに言われる始末……。

 

 そしてこのあとはいつも通りμ'sの練習がある。もちろんだが制服よりも練習着の方が生地が薄めなため、おっぱいが揺れる頻度も振幅も大幅に上昇、つまり俺の理性が切れる可能性も増し増しだということだ。これは練習に参加しない方がいいんじゃないのか……。

 

 

 とりあえず真面目に掃除でもして心を落ち着けよう。あわよくば無の境地に辿り着くまで……ここでまた女の子に出会って、おっぱいの魅惑に取り憑かれて正気を失ってしまう前に……。

 

 

「お~に~い~ちゃん♪」

「がぁっ!!か、楓!?」

 

 

 そんなことを思っていた矢先の出来事、突然俺の背中に楓が飛び掛ってきた!

 まだ高校一年生のくせに無駄に大きなおっぱいが俺の背中に押し付けられ、さっきまで沈着していた欲求が再度呼び覚まされる。身体もまた熱くなってきたし、楓の奴余計なことを!!

 

 

 それに楓がいるってことは、もしかして雪穂と亜里沙も……?

 

 

「もう楓!急に走り出したと思ったら、やっぱり零君だったんだね」

「こんにちは――――ってあれ?なんだか疲れてます?」

「よ、よぉ……疲れてはいないかな」

 

 

 やっぱりこの2人もいたか!!まだ彼女になっていないこの3人に度を過ぎた淫らな行為はできないため、今日だけは接触を避けようと思っていたのに!!

 

 だが出会ってしまった以上、意識してしまうのはもちろんおっぱい。しかもさっき後ろから楓に抱きつかれおっぱいがむにゅむにゅと押し付けられたせいか、湧き上がる欲望を抑えることもできない。だから俺の足は既に亜里沙の元へ動き始めていた。

 

 彼女なら、俺の要求を押し通せる。そんな欲に塗れた期待を抱きながら……。

 

 

「れ、零くん……?どうしたの息荒いよ?」

「亜里沙……やっぱりおっぱいには、勝てなかったよ」

「お、おっぱ……って、えぇ!?」

 

 

 亜里沙の顔が一瞬にして真っ赤になる。やはりまだエロ耐性は一切付いていないのか。しかしだからこそおっぱいの弄りがいもあるってもんだ。絵里と同じ血筋を引いているからか、中学生の時と比べれば彼女のおっぱいは一回りも二回りも格段に成長している。この時期の高校生は日々発育していくから、お兄さんが身体検査をしてあげなければいけないなぁ……。

 

 

「おぉ~お兄ちゃん、今日も盛ってるねぇ~!」

「そんな呑気に解説してる場合!?亜里沙がどんどん廊下の隅っこに追い詰められていくんだけど!?」

「確かにいつもより貪欲かもねぇ。ま、亜里沙もお兄ちゃんに襲われるなら本望でしょ!」

「それ以前にここ学院の中なんだけど!?」

 

 

 なにやら後ろでゴチャゴチャ言ってるが、亜里沙のおっぱいを堪能したあとはお前らだからな。実の妹もいるって?それが興奮するんじゃねぇか馬鹿ヤロウ!!

 

 

「零くん……」

「頼む亜里沙。黙って俺の言うことを聞いてくれ。今だけ、今だけだから……」

「零くんが困っているのなら、私、力になりたいです!なんでも言ってください!!」

「なんでもか……」

 

 

 つまりだ。こんなに健気な亜里沙の成長期おっぱいを、俺の好きにしていいってことだな!!もうさっきから何度もお預けをくらってんだ、そろそろ俺におっぱい、できるなら生のままの新鮮な果実を味あわせてくれ!!

 

 

「ど、どうしよう……」

「そんなに亜里沙を助けたい?じゃあお兄ちゃんにこう言えばいいと思うよ♪」

「えっ、なになに……?」

 

 

 また後ろでごちゃごちゃ言っているが、今の俺に何を言っても無駄だ。この火照る身体をようやく静めることができそうなんだ、ここで引き下がる訳はないだろう。もう目の前のおっぱいを逃がさない。今まで溜め込んできた欲望をこの3人で発散してやる!!

 

 

「零君!!」

「なんだ雪穂、今忙しいんだけど……」

「向こうから笹原先生が来るよ!!」

「な゛っ!?なんだって!?」

 

 

 笹原先生。

 その単語を聞いた途端、俺の脳内、意識、更には本能から"おっぱい"という単語が忘れ去られる。その代わりに湧き上がってきたのは恐怖。笹原先生は幾度とない前科を持っている俺には本当に容赦がないから、そろそろ死の淵にまで追い詰めてきてもおかしくないのだ。

 

 

 しょうがねぇ!名残惜しいがここは――――!!

 

 

「悪い亜里沙!お悩み相談はまた今度!!」

「え、いいんですか?」

「事情が変わったんだ!それじゃあな!!」

「は、はい……」

 

 

 俺は後ろを振り返らず全速力でその場を立ち去った。正直走っている間はずっと背中にゾワゾワとした悪寒も一緒に走ってたけど……。

 

 

 そして、俺が走り去ったあとにこんな会話があったそうな――――

 

 

「ホントだ。楓の言った通り……」 

「でしょ?お兄ちゃんにとっては天敵だから、名前を叫ぶだけでも驚いちゃうんだよね。可愛い♪」

「ビックリした~本当に先生が来たのかと思ったよ……」

「もし来ていたら、私1人でこっそり逃げるから♪」

「「…………」」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 必死に廊下を駆けずり回っていた俺は、唯一の避難場所であるアイドル研究部の部室に転がり込んだ。

 もうおっぱいへの執着が肥大化しすぎて、μ'sに関わらず他の女子生徒のおっぱいを鷲掴みにしてしまうところだった。さっきから可愛い女の子とすれ違うたびに、煮えたぎる感情を抑え込んでいたからもう我慢の限界だ。部室なら誰にも邪魔されない、そう思ってここを訪れたのだが……。

 

 

「零、どうしたのよそんなに急いで」

「顔色が優れへんみたいやけど、なんかあったん?」

「そ、それは――――な゛ぁ!!」

「零……?」

 

 

 絵里と希、正しくは絵里と希のおっぱいに目を向けた途端、俺の世界がガラリと変わる。

 これまでの誰よりもデカイおっぱいに、何故かその場で気絶してしまいそうなくらい心を打たれてしまった。まさに女性の神秘を具現化したその存在に、俺は若干怖気づく。

 

 だが神秘的だからこそ拝みたくなるのがおっぱい星人の常。絵里と希が纏う羽衣を引っ剥がして、その奥に眠る神秘の双峰をめちゃくちゃにしたい!!

 

 

 もはや何度目か分からない欲望が、またしても俺の身体を乗っ取って突き動かす。

 

 

 自分自身、どうしてここまでおっぱいを求めるのかは分からない。いつも可愛い女の子のおっぱいのことばかり考えているから、遂にその欲望が自制できなくなったのだろうか。

 

 

「零!さっきからどうして絵里と希ばっかり凝視してるのよ!!」

「にこ……お前もあとで美味しく頂いてやるからそこで待っとけ」

「頂くって……まさか零、遂にその気になってくれたのね!」

「あぁ、今まで抑えていた俺が馬鹿だった。目の前にこんな大小様々なおっぱいがあったというのに、全然堪能してなかったんだからな……」

「え、おっぱい?」

「絵里ち、これは……」

「えぇ、危険な香りがするわね……」

 

 

 絵里と希が臨戦態勢に入る。だがおっぱいの魅力に取り憑かれた俺が女の子に負けるはずがないだろう。その無駄に強調されている男のロマンの塊を徹底的に攻め上げて、俺の前でだらしなく果ててもらうからそう思え。

 

 ちなみにどこへ逃げたって無駄だ。お前らの走る際に揺れるおっぱいの僅かな振動を、俺の耳が的確にキャッチする。だから女の子の居場所なんて、身体におっぱいがぶら下がっていれば世界の裏側からでも分かるんだよ……。

 

 

「零!アンタ涎垂れてるわよ!!」

「にこ、これ以上邪魔すると先にお前を食っちまうぞ?オードブルとしては最適だから……」

「えっ、そんな……零がそう言うのなら」

「にこっち騙されとるよ!!」

「そうよ!今の零はただ女性の胸を攻めたいだけ!そこに愛もなにもないわ!!」

 

 

 そう、俺が満足できればいい。俺が気持ちよくなることができればそれでいいんだよ……。

 

 

 だから!!

 

 

「さっきから全身がウズウズしてしょうがねぇんだよ!!だからお前らのおっぱいを触らせてくれ揉ませてくれ突っつかせてくれ舐めさせてくれしゃぶらせてくれ!!もう俺が生きる道はそれしかないんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 俺は貪欲にも、両手を伸ばして絵里と希のおっぱいを同時に触ろうとする。2人は俺の勢いに怯んでその場から動くこともできないようだ。

 

 もう少し、もう少しで俺の欲望は解放される……俺の悲願がようやく達成される時が来たのだ!!

 

 

 

 

 が、しかし。

 

 

 

 

「れ、零……?」

「零、君?」

「あれ……」

 

 

 絵里と希だけでなく、俺まで困惑していた。2人のおっぱいに目掛けて伸びていた俺の腕が、急に動きを止めたからだ。さっきまで俺の身体は欲望に支配されていたはずなのに……それが止まっただと?

 

 

 もしかして……。

 

 

 俺は試しに腕を動かしてみる。

 

 

「あっ、動く!自分の意思で動くぞ!!」

「「「…………」」」

 

 

 気が付けば自分の身体の動きだけでなく、火照りや疼きも全て消えてなくなっていた。

 ようやく自由を取り戻して歓喜する俺。そして次々と目まぐるしく変わる状況に頭がついてこない絵里たち3人。部室の温度差は完全に2分されていた。

 

 でもどうして急に元に戻った?まだおっぱいに触ってすらいなかったのに……。

 

 

 おっぱい……?

 そういや俺、今日1日ずっと恥ずかしい痴態をみんなに晒してしまっていたのでは……?普段は他の生徒がいる前では変態なことをするなと言い続けてきた俺が、教室や廊下でおっぱいおっぱいって……。

 

 

 今までの痴態が全て思い出され、俺の顔に血液が激しく循環する。同時にあまりにも耐え難い羞恥が血液の活動を活発にさせ、遂に――――

 

 

「ガハッ!!」

「零君!?血なんて吐いてどうしたん!?」

「自らの痴態を思い出して死にそう……」

「はぁ!?ちょっと縁起でもないこと言わないでよ!!」

「でも、血の量が尋常じゃないわ……」

「なるほど、ショック死の概念が分かった気がする……」

「冗談言ってる場合じゃないでしょ!!」

 

 

 おっぱいのことが頭から抜けさって安心したのも束の間、今まで晒してきた痴態が一気に俺の脳内にフラッシュバックされ、あまりの恥ずかしさに出血多量。これは久々に輸血が必要かもしれない……つうか死ぬ。

 

 

 

 

 ちなみに誰も気付かなかったが、俺の携帯にこんなメールが届いていた。

 

 

『また今日の夜にでも感想聞かせてね♪』

 

 

 やはり、お前か……。

 




 さあこの話で何回"おっぱい"の単語が出てきたでしょう?


 さて今回はおっぱい依存症の話だった訳ですが、結局オチはいつものあの人でしたと!彼女がいれば大体のことは彼女のせいにできるので非常に便利なお方です(笑)

 今回は色んな意味でかなりヒドイ話でしたが、男性なら誰しも零君のような経験はあると思います。すれ違いざまに女性の服の膨らみを見てしまったり、その奥の果実を想像してしまったり……あれ、ないですか??


 次回は穂乃果ちゃん!ホノカチャン!!回です。
 実は穂乃果の個人回はとても久々だったり。


 そしてこの章はあと3話で終了し、その後は新章である冬編に突入します。物語も段々と真骨頂へと向かいますよ!


新たに高評価をくださった方……は今回いないので、面白い!と思ったら是非高評価よろしくお願いします!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ドSっ子穂乃果ちゃんの戯れ

 穂乃果ちゃん!ホノカチャン!!

 ということで、私は特別ほのキチではないのですが、推しキャラではあるので自らの欲望に忠実となって彼女にぶつけてみました(笑)


「どういうつもりだ……」

「えへへ、久しぶりに零君と2人きりになりたいと思って♪」

 

 

 もうね、そろそろ起きたら拘束されている可能性を考慮しないといけなくなったな。

 休日の昼下がり、起床した俺の右手首には、ベッドの支柱に繋がれた手錠がはめられていた。もうこの光景だけでも今俺がどんな状況に陥っているのかが分かる。今まで幾度なく修羅を乗り越えてきた経験の賜物だな。

 

 

「そもそもなんでお前が俺の部屋にいるんだよ」

「楓ちゃんに土下座して合鍵を貰ったんだ。今日雪穂が楓ちゃんたちと買い物に行くって聞いてたから、これは零君と2人きりになれるチャンスだと思ってね」

「この手錠はどうした?」

「この前真姫ちゃんの家に遊びに行った時に、この手錠いらないって言ってたから、穂乃果がもらっちゃった♪」

 

 

 どこかで見覚えのある手錠だと思ったら、これ真姫の持ってたやつだったのか。以前この手錠で真姫と繋がっていたことがある。あの時はアイツと一緒にトイレに入った記憶があるな……。俺も大概暴走してたけど、アイツも新たな黒歴史を生み出すほど暴走していた。だから穂乃果に手錠を押し付けたのか、その黒歴史を思い出したくないから……。

 

 

「今日はね、いつもお世話になってる零君に、穂乃果がご奉仕しちゃいま~す!!」

「お世話?なんかお世話してたっけ?」

「またまたぁ~いつも零君の体操服にはお世話になってるよ♪」

「おいそれ返せこのやろ!!お前らが勝手に盗むせいで、この前また新しいのに買い換えたんだけど!?」

「まあまあそんなにカリカリしないで!その代わり今日は穂乃果が零君の身の回りのお世話をしてあげるから!」

 

 

 なんかいつもこうして上手く丸め込まれている気がする。その体操服代でどれだけの薄い本やアダルティなビデオを買うことができたと思ってんだ。それを買わせないってことは、思春期男子から精子を奪ってるのと同義だって分かんねぇかなぁ~?今度コイツらの家の中を家宅捜索してやろうか……。

 

 

「そもそもご奉仕なのに、どうして俺を拘束する必要があるんだよ」

「楓ちゃんやことりちゃんから聞いたんだけど、やんでれプレイ?っていうのをやってみたくって!2人の話によれば、手錠で零君を拘束すればいいって話だったから。そうすれば零君も喜ぶって言ってたよ!」

「アイツら穂乃果になんて知識詰め込んでんだ……それに喜ばねぇからな。俺はMじゃない」

「あれぇ~??」

 

 

 ヤンデレは二次元の世界で見るのなら許容できるが、現実でやられたら精神力がゴリゴリ削られるから面倒なこと極まりない。この前楓にヤンデられた時も結構悪寒が走ることもあったし、精神衛生上よろしくないんだよな……。

 

 

「ところでね零君」

「今度はなんだよ?」

 

 

 

 

「ヤンデレってなに?」

「…………」

 

 

 

 

 こ、コイツ、ヤンデレも知らずに今まで生きてきたってのか!?ていうか、1年前に自分自身がヤンデレになっていたあの感覚を覚えてないのかよ!それだよそれ!!

 

 ――――とは言い出せない。俺自身またヤンデレに絡まれるのは面倒だということもあるけど、あまりあの話題を口に出したくないから……。

 

 

 そもそも穂乃果は性に乱れることが多いくせに、その手の知識は全然知らないんだよな。さっき言ってたヤンデレプレイも、楓やことりから聞いただけなのだろう。しかし教えたら教えたであの猪突猛進の穂乃果のことだ、妙な快感に浸って俺を攻め立ててくるに違いない。ことりの淫語講座の時の乱れっぷりはまだ忘れてないからな。

 

 

「それで、ヤンデレってなんなの?」

「あ、あぁそれはだな……自分が病気になってしまいそうなくらい、俺のことを愛することだよ」

「えっ、それならもうやってるよ?」

「はい……?」

「だって盗ん……頂いた体操服の匂いを、毎晩毎晩頭が痛くなりそうなくらい嗅いでるからね!翌朝起きた時にも頭がクラクラしちゃうくらい♪」

「それはただお前が変態なだけだろ……」

「失礼な!花麗しき女子高生に、そんなこと言っちゃダメだよ!!」

「お前、今更よくそんな口が叩けるよな……」

 

 

 そもそも花麗しき女子高生が1人で男の家に上がり込んで、寝ている相手に対して手首に手錠をかける行為に関してはどうお考えなのだろうかコイツは……。それにこの前、俺に媚薬を飲ませた時に襲いかかってきたことをもう忘れたのか。

 

 

「…………」

「どうした?急に黙りこくって……」

「う~……えいっ!!」

「うわっ!!」

 

 

 黙って俺のことを見つめていた穂乃果が、突然俺の懐に飛びついてきた。

 彼女は恍惚とした表情のまま俺の胸元辺りに顔を当て、鼻で大きく深呼吸する。

 

 

「はぁ……これが寝起き零君の匂いかぁ~♪」

「寝起きで匂いとか変わるものなのか……?」

「変わるよ!幾度となく零君に抱きついてきた穂乃果が言うんだもん、間違いないよ!!」

「妙に説得力があって困る……」

 

 

 登校して教室で俺を見かけたら抱きつき、俺が休み時間に机で休んでいる最中にも後ろから抱きつき、挙げ句の果てにはトイレなどで扉を開けたら待ち伏せしてまで抱きついてくる始末。もちろん嬉しいんだけど、抱きつかれるたびに匂いをテイスティングされていたとは……。

 

 

「そうだ、零君脱いでよ!!」

「はぁ!?」

「朝起きたら服を着替えるのは当然でしょ?さあ早く!!」

「ちょっと勝手に脱がそうとすんな!休日はどこにも出かけない限りいつもずっとこの格好なんだよ!!」

「脱いでくれないと穂乃果の計画……じゃなくてもう洗濯機のスタンバイはできてるんだから早くぅ~!!」

「お前さっき完全に計画って言ったよな!?やっぱり疚しいことしか考えてねぇだろ!?」

「そんなことないよ!零君の生寝巻きなんて貴重だから、自分用とことりちゃんたちへの布教用の2つを貰ってお小遣い稼ぎしようなんて思ってないから!!」

「欲望ダダ漏れじゃねぇかこの変態がァアああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 穂乃果は俺の寝巻きを脱がす、というよりもはや奪おうと必死になって俺にしがみついてくる。普段は()()ことりがいつも一緒にいるから幾分マシに見えるのだが、やはりコイツも相当危ない。歩く猥褻物化待ったなしだな……。

 

 

「じゃあ零君が自分から脱いでくれるように仕向けるしかないね」

「なに……?そんな欲望を剥き出しにしてる奴に服なんて渡す訳ないだろ」

「ふ~ん、それじゃあこうしたら……どう?」

「えっ……」

 

 

 さっきまで俺の身体の上で暴れていた穂乃果だが急に静かになると、口角を上げて薄らわらいをする。更に彼女は自分の右手を、徐々に俺の下半身へと近付けていく。さっき穂乃果が密着してきた時に、すこしテントが張ってしまった男のあの場所へと……。

 

 そして彼女の右手は、俺の欲望の塊に吸い込まれるように――――

 

 

「ぐっ!!」

「あっ、やっぱりことりちゃんの言う通りだぁ~♪」

「な、なに……?」

「ことりちゃんが言うには、男の人は朝起きた直後は勃っちゃうんだって!でも今はお昼だからもう萎えちゃったかなぁと思ってたけど、さっすが零君!いつでもここは元気いっぱいだね♪」

「ちょっ、あまり触るなって!!くっ……!!」

 

 

 穂乃果は男のテントを容赦なく手のひらで転がしてくる。かなり優しく触れているのだがやはり男の急所、ズボン越しからでも伝わってくる刺激はかなり強い。手首がベッドと手錠で繋がれているうえ、身体の上には穂乃果が乗っかっているため抵抗しようにも一切身動きが取れなかった。

 

 

「そういえば、男の子のコレってどれだけ大きくなるのかな?」

「知るかそんなの……」

「それじゃあさ、どこまでおっきくなるのか試してみようよ!もっと強くなでなでしてみるね♪」

「ぐ、あぁ!!」

 

 

 穂乃果の奴、俺の大切なアレを玩具のように扱いやがって!!それは遊び道具じゃありません!!

 だがそんな思いとは裏腹に、気持ちよくなってしまっているのは事実。ズボン越しとはいえ、身体を拘束されながら手でされるとか中々に唆られるシチュエーションなんだけど……これは思った以上の刺激だぞ!!

 

 

「ねぇ零くぅ~ん♪ズボン越しじゃなくて、直に触って欲しいでしょ?」

「そんな甘い言葉で……くっ、俺の服を奪おうなんて……くあっ!!そうはいかないぞ……」

「さっきから気持ちよさそうな声上げてぇ~、説得力ないよぉ♪」

「くそっ……」

 

 

 穂乃果は微笑みながら俺のモノを優しく丁寧に撫で回す。

 コイツ……初めから俺の服を盗むためにこんなことをし始めたのか。そうすれば俺が脱ぐと思って……。だけど穂乃果の言いなりになるのは癪だ。俺は女の子を屈服させるのは好きだが、逆に屈服させられるのは嫌いなんだよ!!いつか隙を見つけて逆転してやる……。

 

 

「どうしよっかなぁ~?このまま握っちゃおうかなぁ~?」

「穂乃果のクセに、俺を焦らすだと……はぁ、はぁ」

「でもさ零君。やっぱり撫でるのと握るのでは全然気持ちよさが違うと思うんだよね。穂乃果は男の子じゃないからよく分からないけど♪」

「コイツ……」

「穂乃果が零君の大切なところをにぎにぎして、しゅっしゅっしゅってしてあげるからさぁ~早く脱ごうよぉ~」

 

 

 穂乃果は左手で男のアレを握る真似をし、その手を上下に動かして俺に見せつける。

 敢えて俺にその動作を見せつけ、俺の興奮を煽ろうという気だな。しかも擬音付きで……そんなの……そんなもの……。

 

 

 

 

 してもらいたいに決まってるじゃねぇか!!

 

 

 

 

 想像してみろ!!あの穂乃果に!!しかも自分の彼女となった穂乃果に!!手でされるところを!!

 普通に考えてそんな夢のような状況で拒む方がどうかしてるよ!!でもな、手錠で繋がれて抵抗できない上、俺の服もズボンも、恐らく下着も全て差し出さなければならないという、コイツに完全に支配されたこの状況だけは許せない。しかしここで手捌きを容認したら、俺がドMというレッテルも張られ兼ねないし……。

 

 

 とにかく、穂乃果に屈服することだけは認められないんだ!!

 

 

「いいから手錠外せ。トイレにも行きたいし……」

「だったらここで一発出してからでいいんじゃない?ていうか、出すまで手錠外して上げないから♪」

「お前ヤンデレを知らないと言ったな、もう立派なヤンデレだよ」

「ほぇ……?」

 

 

 これが無自覚系ヤンデレというものか……。

 しかし穂乃果がヤンデレと言っても、病み成分よりかはデレ成分が多いのが精神的にもいいところだ。正直痴女成分の方がどの成分よりも満点だけどな……。

 

 

「零君強情なんだから!いいもん、もう握ちゃうからね!えいっ!!」

「ちょっ、あ゛あっ!!」

 

 

 穂乃果は5本の指全てを使って、俺の最高潮に膨らんだアレをズボンの上から勢いよく握り締めた!

 朧気(おぼろけ)ながらも男のアレを扱う知識はあるようで、強く握り締めたと思ったら次は優しく握ったりと緩急を付けて、俺と俺のアレを大いに焦らせてくる。どこでこんなテクニックを覚えたんだよ!!

 

 

「ふっふっふ~♪零君の息子は預かった!返して欲しければ服を脱いでね!」

「誘拐犯かお前は……くぅ」

「気持ちよさそうだね零君♪そろそろ直に触って欲しいんじゃない?」

「はぁ、はぁ……」

 

 

 あの穂乃果にアレを触られているってだけでも興奮すんのに、そうやって誘惑されたら余計に我慢できなくなってくる。左腕だけは動くので彼女を引き剥がすことはできなくもないが、男は大切な部分を握られただけで力が抜けるため、泣く泣く彼女の手捌きを受け入れるしかない。

 

 

「まだ脱いでくれないの?だったらこうしてやるぅ~!!」

「お、お前!それは!!ぐぁあああああ!!」

「えいえ~い♪」

 

 

 そして遂に、穂乃果は右手を上下に動かし始めた。

 ズボン越しだから直にシゴかれるよりかは刺激は控えめだが、目覚めたばかりで敏感になっているアレに対しては十分すぎるくらいだ。寝ている間に溜まっていた射精感がみるみる高まってくる。もう直に触ってもらう前にこの状態で出してしまいそうだ。

 

 

「ねぇねぇ零君、穂乃果のゴシゴシ気持ちいい?」

「くっ、はぁ……」

「あっ、聞くまでもなかったね!ごめ~ん♪」

「お前なぁ……」

 

 

 穂乃果ってこんなにドSだったっけ?このまま俺を攻めることに快感を覚えてもらっては、俺が女の子を屈服させて楽しむことができなくなってしまう。なんとしてでも逆転したいところだが、俺のアレが穂乃果のシゴきで悦んでしまっている。彼女の手で揺さぶられるたびに、俺の欲望の塊は更に硬化していく。

 

 このまま穂乃果に好き勝手やられるのは俺のプライドが許さない。でも俺の身体は彼女の手で悦びに満ちている。プライドと性欲、この2つの背反が俺の判断を鈍らせる。

 

 

 しかし穂乃果は俺のモノをシゴき上げることをやめない。このままではズボンの中で出してしまい、脱力したところを彼女に脱がされて下着ごと全て持って行かれてしまうだろう。そうなったらコイツの思う壺だ。他人の思い通りになるのだけはどうも気に食わない。

 

 だが性欲は高ぶる。穂乃果の手でシゴかれて出したいという気持ちも同時に……。

 

 

 

 

 だったらどうする?俺は迷ってきた時にいつもどうしていたと思う? 

 

 そう、選択肢が2つあるならば――――――どっちも取ればいいじゃないか!!

 

 

 

 

「穂乃果ぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「えっ、手錠の鎖が切れた!?れ、零君!?うぐっ!!」

 

 

 耐え切れなくなった性欲に塗れた俺は手錠の鎖を引きちぎり、勝ち誇っていた顔をしていた穂乃果を思いっきり押し倒す。

 これで攻守逆転。俺は彼女の身体の上で四つん這いとなり、息を整えることもせずに彼女の唇に貪りついた。

 

 

「んんっ!んっ……!!」

「ん、んっ……」

 

 

 俺は穂乃果を攻めながら自分の性欲を発散させる道を取る。どちらか一方だけなんて、俺の欲望も性欲も満たせなくなるからゴメンだ。俺は彼女たちの身体も心も、全て俺の色に染めて支配する。そのためにはどっちか一方なんて選んでられないよなあ!!

 

 

「ぷはっ!れ、零君?いきなりどうしたの……?」

「男の欲望を舐めんなよ。性欲に取り憑かれた男がどれだけ恐ろしいか、お前の身体に刻み込んでやる……」

「零君……」

 

 

 どんな顔をすると思っていたけど、意外にも驚いた表情はすぐに消え、むしろ頬を染めたまま優しく微笑んだ。どうやら受け入れる体勢は万全のようだ。だけどあのまま穂乃果のペースで続けていても、このまま俺のペースで続けても、結局コイツが悦ぶことには変わりないんだよな。

 

 

 だがそんなことはどうでもいい。今は俺の溜まりに溜まりきった性欲、これを発散することが重要だ。しかも今日は俺の部屋で2人きり、もう何でもできるじゃねぇか……。

 

 

「穂乃果、お前やけに落ち着いてるな。これから俺の中に溜まった欲求を全てお前にぶつけるってのに……」

「どんな形であれ、零君と一緒にやれるのは嬉しいから♪やっぱり大好きな恋人……だからかな?えへへ♪」

 

 

 唆られる……そんな心に来る言葉を言われたら、もっともっと穂乃果の乱れた表情を見たくなってくるじゃねぇか!!もう我慢はできない。最悪途中で出してしまってもいい。自分の性欲の高ぶりが収まるまで、彼女を徹底的に性の虜にしてやる!!

 

 

「穂乃果……脱いでくれ、自分で」

「自分では脱がなかったのに、穂乃果には容赦なく脱がせるんだね」

「女の子を無理矢理従わせるのって興奮するからな」

「あはは、相変わらず偏ってるよね。でも……穂乃果たちはそんな零君が大好きなんだ。ブレることなく一直線に穂乃果たちを見てくれる零君のことがね」

「俺もだよ。だから早く……」

「もうっ、せっかちさん♪待っててね……」

 

 

 穂乃果は服のボタンを上から順番に外していく。ボタンが外れるたびに服の前がはだけ、オレンジ色の下着がチラチラと見え隠れしていた。女の子が自ら脱いでくれるこの状況と、徐々に顕になる彼女の白く綺麗な肌に俺の性欲は今にも爆発しそうになるが、この溜まった性欲は最高のシチュエーションで暴走させたいため、今は我慢だ。

 

 

 服を完全に脱ぎ切った穂乃果が次に手を掛けたのは下着。ここでも俺を焦らすように下着をゆっくりと外していく。

 

 そして、遂に上半身が生まれたままとなった穂乃果が誕生した。スクールアイドルの練習による引き締まったカラダつき、そしてそこに盛り上がる2つの果実。彼女の恍惚な表情と相まったあまりにも美しいその光景に、俺は唾を飲み込んだ。それと同時に、このカラダを弄り回してやりたいという欲望も俺の中で十分に煮えたぎっている。

 

 

 もう引き返せない。引き返すつもりもない。

 俺は、彼女と――――

 

 

 

 

「行くぞ、穂乃果……」

「来て、零君……」

 

 

 

 

 お互いに見つめ合い、俺たちは火照るカラダを――――重ね合わせた。

 




 なんか穂乃果の個人回ってこんな話ばかりじゃね!?!?


 今回は穂乃果回でした!
 実はこの話を書こうと思ったきっかけがありまして、とあるほのキチが執筆されている小説に影響を受けたからですね。今日の朝にも投稿されているのでご存知の方も多いと思われます。勝手に宣伝したけど、普通に交流もあるし、別にいいよね……?

 その小説では穂乃果は妹キャラなので、今回の話を書くに当たっては私の得意なヤンデレキャラで行こうと思っていたのですが、執筆していたらいつの間にかまたR-17.9になっていたという事実。やはり私はエロの道から抜け出せそうにありません(笑)
ちなみにこの話の序盤でヤンデレと言っていたのはその名残だったり。


 ほのキチさんたちの感想お待ちしています!(笑)


 次回は海未回の予定です!
 またこの3月末で『新日常』が一周年を迎えるので、ちょっとした特別編の小説を執筆してみようかと思っています。


新たに高評価をくださった

東條九音さん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

猥談をするお話

 2日遅れですが、海未ちゃん誕生日おめでとう!ということで、今回は海未回です。

 ちなみに先に言っておきますと、エロなしのほのぼのを目指そうとした結果がこれです(笑)


 

「あのさ、お前って性知識どんだけあんの?」

「は……?」

 

 

 あまりにも突拍子もない質問に、海未は鳩が豆鉄砲を食らった表情をする。

 

 俺たちはいつも通りアイドル研究部の部室……ではなく、海未の家にいた。海未と2人きりというのはかなり珍しいが、穂乃果は店番、ことりは衣装作りで受験勉強ができない日に彼女から俺を誘ってきたのだ。まさか2人が忙しい時を狙ったのではなかろうか……?

 

 まあそんなことはいいとして、さっきまでは一緒に受験勉強をしていたのだが、今は休憩がてら2人で作詞をしている最中だ。だが作詞の知識がない俺はぼぉ~っと見てるだけなのですぐに飽きる。だから暇つぶしがてらにさっきのような質問をしてみたのだが、ここまで場が凍りつくとは……。

 

 

「わ、猥談って……は、破廉恥な話題ってことですよね!?急に何を言い出すんですか!!」

「お前顔赤いぞ。やっぱりむっつりなのか?」

「違います!!突然変な話を振られたので驚いただけです!!」

「変な話?思春期の高校生なら普通するだろ」

「花陽や亜里沙がこんな話すると思います?」

「……いや」

「すぐに折れるならそんな話題振らないでください」

「うっせ……」

 

 

 あれぇ~?俺が話の主導権を握ろうと思ったら、あっという間に逆転されちまったぞ!?流石俺の彼女!俺の扱いも一級品ってか?最近はこうしてサラッとあしらわれることが多くなってきたような気がするぞ……。

 

 

「ていうか話題変えんな!俺はお前の性知識について知りたいんだよ」

「そんなものを知ってどうしようというのですか!まさか、私の弱みを知りたいとか?相変わらず下心丸出しですね」

「お前のツッコミはいつも以上にキレっキレだな。鋭すぎて俺の心が傷ついちゃうぞ」

「そんなことで傷が付くような弱小メンタルの人が、恋人9人同時に告白して付き合う度胸があるとは思えないので心配しなくてもいいですよ」

「それって褒めてる!?今日俺に辛辣すぎない!?」

「いつものことですよ。いつものです♪」

 

 

 うわぁ~すげぇいい顔してるよ。日頃俺たちのツッコミ役に徹していたそのストレスを、今存分に吐き出そうとしてね?海未がここまで饒舌に煽ってくるなんて珍しいもん。

 

 

「話を戻すぞ。議題はお前の性事情についてだ」

「勝手に人の夜を探ろうとしないでください」

「えっ、夜?」

「あっ……」

「あるれぇ~海未ちゃ~ん。誰も夜の性事情について聞いてないんだけどぉ~。夜な夜な何をしてるのかなぁ~?」

「くっ……!!」

 

 

 海未は顔を真っ赤にしながらそっぽを向いた。

 穂乃果やことりは淫乱が似合うと思うけど、海未はどちらかといえばエロに対して恥じている姿の方が可愛いよな。だからこそ彼女に猥談を持ちかけたんだけども。

 

 

「分かってる分かってる!俺たちは思春期真っ盛りの高校生だ、1日に2、3回はしてもおかしくないから」

「どんな擁護の仕方ですか!!それにあなたじゃあるまいし、1日に複数回なんてしませんよ!!」

「え、じゃあ1日1回はすると。なるほどなるほど」

「うっ、また墓穴を……もうこの話は終わりです!!ほら、黙って早く次の曲に使えそうなフレーズを考えてください!!」

「夜の自分磨き、とか?ロマンチックじゃね?」

「張り倒しますよ」

「自分が上になるのが好きなのか。俺もその体位は好きだぞ」

「…………」

 

 

 あぁ、海未の目から光が消えていく。このままでは張り倒された勢いで昇天させられそうだ。

 でもあの海未が、あの清楚な大和撫子の彼女が1日1回ペースでやっているとは……その妄想だけで自分磨きが捗りそう。しかし春に秋葉に掛けさせられた妙なメガネの計測では、彼女は確か週一でやってたはずなんだが……なるほど、俺の知らないところで淫乱化が始まっているということか。良きかな良きかな。

 

 

 そんな謎の感心をしていると、さっきから海未が黙ったままなことに気が付いた。

 "つーん"という効果音が似合うような不貞腐れっぷりで、目を閉じたまま俺から顔を逸している。うん、可愛いなオイ。だが無視は寂しいのよ!!

 

 

「…………」

「う、海未?海未さ~ん?」

「…………」

「ちょ、ちょっと!何か言ってくれよ!!」

「…………」

「悪かった!悪かったって!!お前の性事情に興味がない訳じゃなかったけどさ……でもこうして2人きりの時にしか聞けないというか、むしろエロというのは人間共通の話題であって――――って、え゛っ!?」

「…………」

 

 

 海未様が未だかつて見たことのないツリ目で俺を睨みつけてくる。あと少しでも彼女のリミッターを外したら、俺は粗大ゴミとして破棄されてしまうだろう。

 

 しかしエロとは追求するもの。女の子の好きなプレイ、好きな体位、感じやすいスポット、その全てを知ることで初めてその子を知ったことになるのだ。彼女が9人もいれば、それだけ行為の仕方も変えなきゃいけないから苦労するんだよ。

 

 

 でもまあ、この無視されている状況をいつまでも耐えきれるはずもなく……さてはてどうしたものかな。

 

 

 そうだ、どうせならいっそのこと――――

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「………………」

「っ………………」

 

 

 海未は痺れを切らしたのか、作詞をしながらもチラチラと見ながらそわそわしている。

 俺はその仕草が見たかったんだよね!だって仕掛けた俺自信、その仕草にドキドキしっぱなしだし!思ったより破壊力でかかったな……。

 

 

「どうして黙っているのです?」

「だってお前が黙ってろって言ったからさ、それに従ったまでだ」

「なぜ急にそんな聞き分けのいい人になってるんですか。折角の2人きりなんですし、やっぱりお互いに黙ったままは勿体無いというか、あなたと喋っていた方が作詞も捗るというか……」

 

 

 海未は頬を染めながら、当たり障りのない理由をボソボソと呟く。俺と目線を合わさないようにしているのは、自分の恥ずかしさを紛らわすためだろう。

 

 それにしても、逐一仕草が可愛い奴だ。普段は誠実で落ち着いた態度だからこそ、取り乱した彼女の姿をより愛おしく感じるんだと思う。幼気があると言ったら多少語弊があるかもしれないが、やっぱり彼女も俺に恋をしている乙女の1人なんだと思うと、どっぷりと幸福感に浸れそうだよ。

 

 

「なぁ~んだ、やっぱり俺と喋りたかったんじゃねぇか。お前も寂しがりやだな」

「ズルいですよあなたは……。毎回毎回ずる賢くて意地悪で、悪魔で自分勝手で――――」

「お、おい!よくそんなポンポンと人の悪口を……」

「そして、いつもドキドキさせられてばかり……」

「え……もしかして、嫌だった?」

「違います、その逆です。好きですよ、この胸の高鳴りは。今でも結構緊張しちゃいますけどね」

「海未……」

 

 

 コイツ、さっき俺のことをズルいと言ったか。だけど俺からしてみればお前も十分ズルいんだよ。いきなりそんなこと言われたら気恥ずかしいじゃねぇか……。相手をドキドキさせてその反応を見ようと思っていたのが、逆にドキドキさせられたパターンだわこれ。

 

 

「じゃあさ、今日はたくさん話をしよう!お前のことを隅から隅までたくさん話してみろ!」

「うっ、また変なことを考えているでしょう?」

「は……?い、いやそんなことは一切考えてなかったって!確かに初めは狙ってたけど、今のは別に変な意味はないからな!!」

「本当ですか……?」

「本当だって!!それに、すぐにそんな発想をしてしまうお前もお前だ!やっぱりお前むっつりだったんじゃねぇか!!折角いい雰囲気だったのにさぁ!」

「零が意味深な言葉遣いをするのがいけないんです」

「そんな理不尽な……」

 

 

 『隅から隅まで』のどこがエロいっていうんだよ。そのセリフの前に『女の子のカラダ』って付け加えればまだ分かるけどさぁ……。もうただ単にコイツ自身が変態に染まってるだけじゃねぇのか。まあ、この俺と一年半以上も一緒にいるから、俺の言うこと1つ1つが自然と意味深に聞こえるのは無理もない。あれ、結局俺のせいじゃね?

 

 

「この際だ、自分磨きをする時にどんなネタでやってるのか言ってみたらどうだ?」

「またそんな話題を!言いませんからね!」

「そうか。言ったら言ったであとのお楽しみが増えると思うんだけどなぁ」

「お楽しみ?」

「そうそう。お前の好みのスポットを教えてくれれば、俺が優しくそこを攻めて上げるぞ。将来子作りする時に、もしかしたら役に立つかもしれないぞ」

「こ、ここ、子作りって!!」

 

 

 今日の海未は顔が沸騰しっぱなしだな。まあ俺がコイツのそんな反応が好きだから、意図的に猥談攻めを仕掛けているんだが、相変わらず俺の思惑に簡単に引っかかってくれて嬉しいぞ。純粋な女の子って取り乱した顔がより可愛く見えるんだよね。花陽然り、凛然り。

 

 

「エロいことがイヤイヤ言ってるお前だけど、いずれは俺と子作りをするはめになるんだ。だから今の内に慣れておいた方がいいんじゃねぇの?」

「そんなに子作り子作り言わないでください!!恥ずかしいです……」

「お前ってさ、そういった漫画とか動画って見たりしないの?流石に純情すぎるぞ反応は」

「だって純情ですから。もう手遅れなあなたと一緒にしないでください」

「うっそだぁ~。さっきだって俺の言葉で勝手に意味深な妄想してたくせに」

「してないです」

 

 

 顔を真っ赤にしながら否定されても全然説得力ないんだが……。

 

 しかし海未が意固地なせいで全く話が進まない。上手く話の流れを掴んで彼女の性事情を知ろ画策をしていたっていうのに、ただ話してるだけなんて、こんなんじゃただそこら辺のカップルとやってること変わらねぇじゃねぇか。女の子の上っ面だけでなく、自分の恋人の悦ぶポイント、いわゆるGスポットまで熟知しようとしている俺を見習いたまえ諸君。

 

 

 このまま話していても埒が明かない。ここは大きく一歩踏み込んで、コイツの心に揺さぶりを掛けてみるか。受験勉強?作詞?そんなものより海未のGスポットの方が知りたくないか?あの清楚な大和撫子が淫らに塗れてイクポイントを、知りたくないやつなんていないよなぁ!!

 

 

「海未」

「なんです?またさっきみたいな猥談をするのなら、今度こそ本気で黙りますからね」

「もしお前のGスポットを教えてくれたら、今度俺の使用済み体操服あげるよ」

「……そう、ですか」

 

 

 あら、俺の渾身の一撃だったのに、意外と反応薄い……?

 そうかそうか、流石に海未は穂乃果やことりとは違って俺の匂いフェチではなかったのか。揺さぶりを掛けられなかったのは残念だが、それはそれで安心したよ。海未まであの2人と同じ色に染まってしまったら、誰が俺たちを止めるんだよって話だからな。

 

 それにしても興味がないのはいいことだが、ここまで反応が希薄だとなんだか負けた気がする。海未には純情でいて欲しい気もするが、どこかもっと俺のことを貪欲に求めて欲しい、そう思ってしまう俺がいる。妙に変なジレンマが俺の中で渦巻いてるぞ。

 

 

 そこでふと海未の顔を見てみると、何故だかは知らないが僅かに汗をかいていることに気が付いた。

 この部屋が暑い?今日は暑くもなければ暖かくもない、どちらかといえば涼しいくらいだ。だけど別に暖房も掛かってないし……。

 

 でもどうして急に汗なんて……俺が体操服の話をしてからだよな。どうも気になるから、()()()から聞いたあの話でもう少し揺さぶりを掛けてみるか。

 

 

「あのさ海未。この前、鬼のような形相で部室に入ってきたことがあるって、花陽が言ってたんだけど……」

「!?!?」

「その驚きようは、マジなのか?」

「さて、なんのことやら」

「花陽言ってたぞ。お前が俺の体操服を探してたって」

「…………」

「一応確認するけど、お前は俺の体操服を奪われないように守ろうとしてくれてたんだよな?」

「……はい」

 

 

 イマイチ歯切れが悪いな。本当に鬼の形相になってまで、必死に体操服を死守しようとしてくれたのか?なぁ~んか怪しいんだよなぁ~。さっきから作詞の作業も進んでないし、そわそわして落ち着きもない。もしかしてコイツ……。

 

 

 頭の中に1つの結論が出た瞬間、俺はその場で飛び上がり、机の反対側にいた海未の目の前に着地した。突然の俺の奇行に、海未は目を丸くして驚く。

 

 そして俺は彼女の両肩に手を置いて、その琥珀色の瞳を真っ直ぐと見つめる。

 

 

「正直に言えよ。お前――――――俺の体操服、持ってるよな?」

「え゛……!!」

「俺が体操服をやるって言った時、お前は大した反応をしなかった。でも花陽の話ではお前は俺の体操服を求めていた。つまりだ、お前は最近俺の体操服を手に入れた……違うか?」

「そ、それは……」

「言え」

「きゃっ!」

 

 

 俺は海未の肩に置いていた手に力を入れ、そのまま彼女を押し倒した。

 そして彼女の上に覆い被さり、自分の顔を彼女の顔に至近距離まで近付ける。

 

 

「れ、零……」

「正直に言え。言ったら淫らな行為だけは避けてやる」

「…………」

「言わないのか、それとも言えないのか。どちらのせよ、俺にカラダを好きにされるのがお望みらしいな。お前もとんだ変態ちゃんだった訳だ」

「そ、そんなことは……」

「素直に吐いてお前の痴態を晒すか、俺のカラダを弄られて痴態を晒すか、どちらかを選べ。後者は今なら絶頂にまで導いてやるオプション付きだ」

「うぅ……」

 

 

 おっ、迷ってる迷ってる!やはりこうして女の子を俺の手のひらで自由に動かして支配している感じが堪らなく大好きだ。性に関して迷っている女の子ならなおさらな。

 

 

「さあ、どうする?」

「ひゃっ!!急に胸を触らないでください!!」

「このままだと家族にお前の嬌声が聞こえるくらいに興奮させてやるぞ」

「そ、それだけは!!」

「ならどうする?」

「ひゃっ!はぁ、あぁ……」

 

 

 俺は海未の服の下から右手を入れ、彼女の左胸をギュッと鷲掴みにする。

 そのたびに彼女から淫猥な声が部屋中に響き渡るため、もしかしたら彼女の家族にまで聞こえる可能性があるのだが、そんなもの俺には関係ない。とにかく彼女の乱れる姿が見られればあとはどうなったっていい。

 

 

「はぅ……んっ……」

「どうした?このままだと素直になる前にお前がイっちまうのが先かもな」

「~~~~っ!言います!!言いますから!!」

「早く!!」

「ひぐ……うぅ……貰ったんです、ことりから。『海未ちゃんも一度使ってみなよ、捗るから。色々とね♪』と言われ、つい魔が差したというか……気付いたら毎日使っていたのです」

「なるほど。だから俺が体操服を提示した時に、そこまで反応しなかったのか。もう既に持ってたから」

「はい……あっ!んっ、あんっ!や、約束が違います!!」

「おっ、そうだったな。触るのはやめるって約束だった」

 

 

 俺は海未の言いつけ通り、彼女の服の中から右手を抜き出した。

 海未の息遣いは非常に荒く、胸を弄っている間に彼女のカラダがどんどん熱くなっていることが分かった。目の焦点も十分に定まっていないようだけど、まさか胸を弄っただけでここまでとは……これはもっと教育が必要かな?教育というよりかは躾と言った方がいいか。ま、どちらにせよやることは変わらないが。

 

 

 そして俺は身体を起こし、海未の身体から離れる。

 彼女の愛おしそうな表情を眺めながら……。

 

 

「どうしたそんな顔をして。俺は約束に従って、触るのをやめただけだぞ」

「やっぱり、あなたはズルいです……あんなことされて、我慢できる訳ないじゃないですか」

 

 

 焦らされ続けて寸止めされたら、どんな女の子も自分の欲望に忠実にならざるを得ないんだよな。どれだけ元が純情でも、心の内から湧き上がる性欲には勝てっこない。

 

 

「だったら、どうして欲しい?」

「うぅ……」

「言わないと分からないぞ。どこをどうして欲しいのか、具体的に」

「…………し、して欲しいです。あなたの手で、私を満足させて欲しいのです!!」

「ま、及第点か」

 

 

 そして俺は再び海未の身体に覆い被さった。

 しかし今度は海未が声を上げることはなく、むしろ俺を受け入れるように身体を抱きしめてくれた。耳や頬をほんのり赤くした、彼女の優しい笑顔と共に――――

 




 もう一度言いますと、エロなしのほのぼのを目指した結果がこれです(笑)

 今回は海未回でした!
 海未には一度でいいからガッツリとしたエロを執筆してみたいと思ったのですが、既に媚薬を盛られた回で書いていたことを思い出したので、今回は思い切ってほのぼの回を目指すぞ!!と意気込んでいた結果……まあ、ね(笑)

 言っても今回は日常会話がメインだったので、その中で海未の可愛さが少しでも伝わっていたら嬉しいです!


 次回は以前の予告通りこの章のラストにしようと思っていたのですが、一周年記念を投稿したあとの方が区切りがいいので、3月いっぱいはこの章を続行します。

 改めて次回は凛回か希回になるかもです。


新たに高評価をくださった

ユウアラウンドさん、小鳥遊 未来さん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スピリチュアルなご奉仕

 ほのぼの回を目指しました(前回以来n回目)
 サブタイに"ご奉仕"とあるように、今回は希+メイド回となっています。そして希といえば、注目されるべきところはやっぱり……


「なに?お金がないだと?」

「うん。今月ちょっと厳しくて……」

 

 

 いつも通りの放課後、μ'sの練習が終わった帰宅途中、突然希に相談を持ち掛けられた。それもお金がないという、かなりリアルな相談を。

 

 

「お前神社でアルバイトしてるじゃん。そんなにバイト代安いのか?」

「そこまで高いとは言えへんけど、安くもないかな」

「だったらどうして困ることがあるんだよ」

「一応今までは親からの仕送りとバイト代で学費や住宅費を工面してたんやけど、今月はそれだけでは結構ギリギリなんよ。それが今まで何回かあったせいで、もうこれ以上親に仕送りを増やしてとは言いにくいし……」

 

 

 希は1人暮らしだから、俺の知らない金銭面の苦労も多々あるのだろう。特に大学生なんてお金を湯水のように使うらしいし、生活費との兼ね合いで、1人暮らしの大学生に苦学生が多いと聞く。希もめでたくその一員の仲間入りって訳だ。

 

 

「大体の事情は分かったけど、どうして俺に相談するんだ?」

「なにかいいアルバイトでも知らないかなぁと思って」

「サボり癖のある俺が、アルバイトのことを知ってるとでも思ったか」

「でも秋葉さんも詩織さんも、世界に羽ばたく科学者と女優さんやん?だから2人の家族の零君やったら、いいアルバイト先紹介してくれるかもって、若干の欲望はあったんよ」

「結局コネかよ……しかし残念だったな、そんな出来すぎた話は一切ないから」

「え~、零君使えへんなぁ」

「お前が頭を下げる立場なんだよな、これって……」

 

 

 バイトを紹介する以前に、秋葉や母さんから紹介されたバイトなんて俺たちにはハードル高そうだけどな。特に秋葉の紹介するバイトなんて、いくら時給がよくても働きたいとは思わないね。アイツのことだし何をされるか分かったもんじゃないから。

 

 

 でもバイトか……新しく増やすと言っても、今まで通りμ'sの練習も神社のバイトもあるし、自分に合わないバイトをしたら余計に苦痛になるだけだよな。希に合ってそうで、それでいて働きやすいバイトと言えば――――あっ、1つだけあったぞ!

 

 

「お前に合いそうなバイト、1つだけ心当たりがある」

「えっ、さっきは知らないって言ってたのに」

「よく考えたら身近にあったんだよ。アットホームな職場であり、残業はなく経験も不問。どうだ?」

「それ、ブラック企業の売り文句やんか……」

「俺が紹介するんだ、間違いはない」

「本当に……?信用してええの?」

「おう。なんなら1日だけ体験させてやるから、明日俺の家に来い!」

「零君の家に?いいけど、職場に行くんと違うの?」

「まあ、来れば分かるさ」

 

 

 掛かった……とは口が裂けても言えない。

 でも思わぬところでいい人材を引き入れることができた。これで俺の欲望の1つが満たされることになる。明日は退屈することはなさそうだなこりゃ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「それで……」

「なんだ?」

「どうしてウチがメイド服を着せられているん!?」

 

 

 翌日、俺の部屋にメイド服を着た希が姿を現した。

 

 まず彼女に一番目が行くのはやはり胸元だろう。普通のメイド服を改造して作ったこの服、特に胸元はかなりはだけていて、彼女の白い肌が惜しげもなく晒されている。対してスカートは足首が隠れるくらいのロングなのだが、あまりキャピキャピしていない方が巫女さんイメージの彼女には似合う。そして頭には白のカチューシャと、俺好みのメイドさんがここに誕生したのだ。

 

 

「いい姿だな。今日1日退屈させるなよ、俺の専属メイドさん?」

「まさかバイトって、零君のお世話することなん!?」

「その姿で今更何を言っている。昨日わざわざ教えてあげたじゃねぇか。アットホームな職場だって」

「職場は安心できたけど……」

「ん?」

 

 

 俺の部屋に入ってきてから、希の様子が少し変だ。頬だけでなく顔全体を紅潮させながら俯いて、腕や脚をモジモジとさせ落ち着かない。つうかメイド姿でそんなことをされると、俺の欲求も落ち着きがなくなるんだがそれは……。

 

 

「どうした?緊張してるのか、今更俺と2人きりになることが」

「そこじゃなくて、零君の前でメイド服っていうのがね……」

「いつも巫女服着てるお前がここで恥じらうのか。あんなクソ萌える服を着こなしている奴が」

「あれはもう1年以上着てるから慣れたというか、あれがウチの制服みたいなところがあるから……。それに巫女服は和服でメイド服は洋服やん?やっぱり洋服は慣れないかなぁ……」

「そんなことねぇよ。思った以上に着こなしてくれて、俺も満足してるから」

「そう?……あ、ありがとね」

 

 

 むしろ駄々もこねず俺のいいなりとなってメイド服を着てくれたことに、俺の方から感謝したいくらいだ。それも普通のメイド服じゃない、胸元が大きく曝け出されているエロメイド服だってのに。本心では案外ノリ気だったりするのかも……。

 

 

「それじゃあ早速仕事!まずはこの家の掃除だ。今日は楓が学校の語学研修でいないから、その分テキパキとやってくれよ」

「えぇ、この家全部をウチ1人で!?零君も手伝ってくれたらええやん!」

「オイ、メイドの分際でその口の聞き方はなんだ。ご主人様だろ、ご主人様」

「うっ、そこまで徹底せんといかんの……?」

「何事も形から入るのが一番なんだ。このバイトが終わってからも、一生俺の奉仕をしたくなる従順メイドに教育してやるから安心しろ。俺が命令したら、すぐにカラダを差し出してしまうくらいにはな」

「それが目的やったんやね……お断りします」

 

 

 メイド精神が足りてない奴だな。ことりだったら『ことりのカラダはご主人様のおもちゃですから、いつでも好きな時にお使いください♪』って言うくらいのメイド精神を見せてくれるのだが、流石にコイツに期待しすぎか。

 

 

「まあいいや。それじゃあ早く、テキパキ働く!まずはリビングからだ」

「リビングって、さっき見た時かなり綺麗やったけど……」

「言葉遣い」

「……さっき見た時かなり綺麗でしたけど」

「楓が常に掃除してるからな。そしてアイツが帰ってきた時に家が汚いと、確実に俺がどやされる」

「なるほど、だからウチをメイドとして雇ったんですね」

「そういうことだ」

 

 

 基本的にズボラな俺とは違い、楓は非常に綺麗好きだ。今年の春に2人暮らしをするからとアイツが勝手に家に上がり込んだ時には、それはそれはこっぴどく怒られた。去年まではあまり掃除なんてしてなかったからなぁ。それで1日掛りで家の大掃除をしたっけ。なんかその瞬間から感じていたよ、これから家ではアイツの尻に敷かれる生活を送るのだと……。

 

 

「隅々まで綺麗に掃除してくれよ。俺の命が掛かってるから」

「楓ちゃんの権力強すぎません……?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんなこんなで希にリビングの掃除を任せているのだが、彼女の手際の良さは目を見張るものがある。彼女はここ数年ずっと一人暮らしだから、自ずと掃除も効率が良くなるのか。彼女の部屋を訪れるたびに、潔癖症かよってくらい部屋が綺麗でモノも整頓されていて毎回びっくりするんだよ。

 

 

 しかしそんな手際の良さはさて置き、俺はさっきからずっと気になっていることがある。

 

 それは――――――

 

 

「ご主人様」

「な、なんだ?」

「さっきからどうして私のことをジロジロと見つめてくるのでしょうか……?」

「気のせいだ」

「それに宿題なら、リビングでやらずともご自分のお部屋でやればよろしいのでは?」

「お前がちゃんと掃除をしているか見張るためだ。俺が見てないところでサボってたら、しっかりと躾ないといけないからな」

「ズボラなご主人様とは違いますのでご安心を」

 

 

 コイツ……メイドのくせにどうしてこんな生意気なんだ、あぁ?その無駄にデカイおっぱいを弄りまくって、快楽でカラダをガクガク震わせてやろうかこの腹黒メイド。

 

 そうおっぱい。希の着ているメイド服が胸元を大きく露出させているせいで、彼女が掃除のためにせっせと動くたびにその大きなおっぱいがやたら揺れるんだよ。男だったら目が行ってしまうのは自然の摂理だろ?まあそのせいでさっき希に不審がられたのだが、そんなのいちいち気にしていたらセクハラなんてできねぇよ!!

 

 

 ……取り乱した。でも希が両手で掃除機を動かすたびに、その両腕に挟まれた2つのおっぱいが縦に潰れたり、棚の下を掃除する時に身体を縮こませた時なんて、思いっきりおっぱいの谷間が見えるんだぞ、エロい目線を向けない男の方がどうかしてる。どんな状況であっても、男ってのは性欲を忘れられない人種なんだよ。

 

 

「ご主人様、宿題の手が止まっていますがどうなされました?」

「……お前さ、俺に敬意を払う気ある?」

「初めにご提示されたのが、ご主人様と呼ぶこと、そして敬語を使うことの2つで、敬意を払えとは契約には入っていなかったので」

「さいで……まあいいや、さっきから宿題漬けで肩が凝ったんだ、ちょっと揉んでくれないか?」

「でもリビングの掃除がまだ……」

「メイドは何事もご主人様優先だ。ほら早く」

 

 

 希は何故かため息をつくと、手を洗ってソファに座っている俺の後ろへと回り込んだ。

 面倒だと思ってはいるが一応やってはくれるらしい。だけどどうして俺が許容される側になってんだ……。でも分かるだろ?メイドを従えたらあれこれと命令したい気分。

 

 

「それでは失礼します」

 

 

 またしてもそんな欲望を妄想していると、俺の両肩に希の手が掛かった。

 首が彼女のふわりとした柔らかい手に包まれて、それだけで気持ちよくなってしまいそうだ。そして親指を優しく押し込むようにマッサージをし始めたのだが――――

 

 

 なにこれ!?みるみる肩こりが解れる!!えっ!!マッサージ上手すぎるんだけど!!このまま肩がクッションのように柔らかくなってしまいそうなくらいだ。しかも肩だけでなく、全身から疲れが抜け落ちるこの感覚。もうこのマッサージだけで希に懐柔されてしまいそうだ。

 

 

「お前、どこでこんなテクニック身に付けたんだ?お金取れるレベルだぞ」

「いつかご主人様に振舞うために、密かに練習していたんですよ♪」

「マジか、俺のために……あっ、そこそこ」

「気持ちよさそうですね、ご主人様♪」

 

 

 コイツらに性的な興奮で気持ちよくされることは多々あったものの、こうして精神的にリラックスしながら気持ちよくなるのはあまりなかったかもしれない。しかも彼女のマッサージからは優しい母性を感じて心が落ち着く。肩を揉まれているだけなのに、まるで全身で抱きしめられているかのような、そんな暖かさも伝わってくる。

 

 

「それじゃあ別の意味でも、ご主人様を気持ちよくさせてあげます♪」

「へ……?」

 

 

 その瞬間、俺の首元がふくよかな2つの双丘に挟まれた。

 これはもしかしなくても……希のおっぱい!?しかも生!!コイツ、いつの間に上を脱いでたんだ!?

 

 

「フフッ、あっという間に息遣いが荒くなりましたね、ご主人様♪」

「どういうつもりだ……?いきなりこんな……」

「私はただ、ご主人様にとっておきの快楽を堪能してもらいたいだけですから。ご主人様のためならいつでもどこでもカラダを差し出す、それがメイドなんですよね、ご主人様?」

 

 

 希は一旦俺から離れ、座っている俺の後ろから首に優しく腕を回してきた。今度は背中に彼女のおっぱいが押し付けられる。この肉厚に弾力、俺の背中でおっぱいの形が自在に変わる感触が伝わってくる。それにおっぱいは軽く当たっているだけなのに全身が火照ってきた。ただ単に俺の欲求が高まっているだけなのかもしれないけど……。

 

 くそぉ、おっぱいが俺の背中で潰れている場面を横から見てみたい!正面を向いているせいでそれが叶わないから!!

 

 

「こうしてご主人様と触れ合うのって、久しぶりのような気がします」

「そうだな。お前のおっぱいの感触を久々に味わったよ。やっぱりμ'sの中で一番大きいだけのことはある。おっぱいで全身が包み込まれそうな感じだよ」

「フフッ、相変わらずご主人様はご主人様ですね。口を開けば卑猥な言葉ばっかり」

「仕方ねぇだろおっぱい好きなんだから。ていうか、おっぱいに惹かれるのは男の摂理だ」

「そういうところがご主人様らしいんですよ♪」

 

 

 女性の神秘に魅力を感じるのがそんなに不思議なことか?むしろその欲望を押さえ込んでいる方が身体に毒だぞ。欲望は暴走させるものだからな。それにこんな大いなる神秘をぶら下げた女の子がいるんだから、それを堪能することのどこが悪い。希を恋人にしている俺の特権だろ?

 

 

「私もご主人様とこうして触れ合っていると、心が落ち着くんです。穂乃果ちゃんたちがご主人様に甘えたいという気持ちがよく分かります」

「お前ももっと甘えてきてもいいんだぞ?もう恋人同士なんだ、気兼ねする必要がどこにある」

「う~ん、やっぱり人前では少し恥ずかしいというか、こうして2人でまったりとしている時の方が私も気が楽なんですよ」

「お前って意外と羞恥心とか感じる人間だったんだな。普段からワシワシとか言って女の子のおっぱいを揉んでるから、そんなこと気にしないのかと思った」

「同性と異性では違いますから。こんなことをするのも、ご主人様と2人きりになれる時だけです」

 

 

 大学生の3人と一緒にいる時間が明らかに少なくなっているのは事実。だからにこが俺への会いたさで禁断症状を引き起こしたと、以前に聞いたことがある。だが俺に会いたいというのはにこだけじゃなく、希や絵里もそう思っているのかもしれない。特に転勤族であちこちを転々としていた希にとっては、大好きな人と2人きりでまったりといられる時間が何よりも大切なのだろう。

 

 

「ご主人様の周りには魅力的な恋人たちがたくさんいて、中々2人きりの時間を取れませんから」

「魅力的か、それはお前もだぞ。ま、いずれ9人、いや12人をまとめて同時に愛してやるからそう思っておけ。誰の足腰も立たなくなるまで、夜通しずっとな」

「12人まとめてって、まさかそれが目的でハーレムを作ったんじゃあ……」

「違うな。ハーレムを作ったんじゃない、ハーレムが出来上がっていたんだ。お前たちの想いを、1つ1つ俺の心で受け取った結果だ」

 

 

 何も別に初めから、自分の周りにたくさんの女の子を(はべ)らせようと思っていた訳ではない。確かにハーレムは大好きだが、これは希たちの想いを真剣に受け止めて、自分なりの答えを出した結果こうなっただけだ。それに俺もみんなに伝えることは伝えた。そして気付いたらいつの間にかハーレム状態だったという訳だ。

 

 

 ――――と、こうして希に生おっぱいを押し当てられながら言うと妙な説得力があるな。

 

 

「だから、俺がみんなを同時に愛するのは当然なんだ」

「でも、私たちのカラダにもちょっとは期待していますよね?」

「ちょっとどころじゃなく過度に過度を重ねた期待をしているぞ。お前らは俺の恋人なんだ。お前らのカラダをどうするのかなんて、俺の自由だろ?穂乃果やことりなんて、もう俺への忠誠心に満ち溢れているしな」

「そうやってμ'sのみんなをご主人様の色に染め上げていくんですね。まあ、私も既に期待しちゃってますけど♪」

「もうとっくに俺の色に染め上げられているよ、お前は」

 

 

 μ'sの連中がいくらライブやファンミで客に笑顔を振りまこうが、それはコイツらの側面の1つでしかない。μ'sの真の顔を知っているのは俺だけ。特に性の快感に悶えるコイツらの表情は俺だけのものだ。それを見ているだけで俺も欲求を煽られゾクゾクする。そのような表情を俺以外の誰にも見せてたまるか。

 

 だから俺の色に染め上げる。もう俺のことしか見れなくなるように、コイツらの心もカラダも全て俺のモノにしてみせる。

 

 

 なぁ~んて、すごくヤンデレっぽくなっちまった。でもさっきの想いは俺の本心だ。野望とか大層な言葉を使う必要もないくらい、もう支配は進んでいるがな。

 

 

「さぁてそろそろ、奉仕をしてくれたメイドにご褒美をあげる時間だ」

「ご、ご褒美?」

「あぁ。ちょっと失礼するぞ」

 

 

 俺は希の腕を振りほどいて素早く立ち上がると、その場で彼女の方へと振り向く。

 突然のことで目を丸くしている希。そしてそんな彼女の顕現されている豊満な生おっぱいに俺も目を丸くしてしまうが、そんなものはあとからいくらでもたっぷりと味わえる。

 

 多少おっぱいに気を取られはしたが、すぐに我に返り彼女の身体に手を伸ばす。右手を腰の少し上に、左手は膝の下に当て、彼女の身体を一気に持ち上げた。あまりにも勢いが付きすぎていたため、彼女のおっぱいがぶるんと大きく揺れる。どんな状況でも俺の性欲を退屈させないなコイツは。

 

 

「きゃっ!れ、零君!?これって、お、お姫様だっこじゃ……」

「口調が戻ってんぞ。まあもういっか、今から俺のご褒美タイムだし」

 

 

 おっぱいを丸出しにしている希をお姫様抱っこした俺は、そのまま彼女をゆっくりとソファの上に仰向けに寝かせる。いちいちそのデカイおっぱいが揺れるのを見られて眼福眼福。

 

 

「ご、ご褒美ってまさか……」

「これで察することができるなんて、お前も相当淫乱少女だな」

「零君にこんなことをされたら、誰でも想像できるよ」

「そうだろうよ。そんなエロいカラダ付きをして、俺に襲われないと思う方がおかしいよな」

「え、エロいって……」

「もうおっぱいを押し付けられた時点から、俺は我慢できなくなってたんだ。お前のカラダは俺のモノ、そしてメイドはご主人様の命令に従う。そうだろ?」

 

 

 俺はソファで仰向けになっている希の上に跨がる。

 こうして希を征服して改めて分かったけど、ホントに男の性欲を覚醒させるカラダしてるよなコイツ。唇、胸、くびれ、脚、太もも、おしり――――どこを見ても綺麗だし、何より肉付きがよくて一生専用の抱き枕にしたくなる。まあ今の俺だったら、その願いも叶うだろうがな。

 

 

 希は頬を赤く染めながら、うっとりとした表情で俺を見つめる。

 なるほど、もう俺に襲われる覚悟はできて準備はOKって訳か。そんな従順なメイド精神を見せられたら、俺だって容赦はしないぞ。もはや全国で活躍して男女問わず大人気のμ'sのカラダを、こうして俺の手で弄りまくって快楽の底へ突き落とす背徳感はいつも興奮する。

 

 

 μ'sのみんなが自分から俺にカラダを求めてくる、そんな未来もありかもしれないな……。

 

 

「今日は俺たち以外、この家には誰もいない。つまりどういうことか分かるな?」

「うん。実はウチも零君とこういうことをするのは久々で、ちょっとだけ期待してたんよ」

「そうか……なら確かめてみるか」

 

 

 俺は希のスカートの中へ右手を侵入させた。

 もちろんその右手が向かう先は――――――

 

 

「ひゃっ!!」

「濡れてる……それも思った以上に」

「れ、零君……ゆびぃ……」

 

 

 パンツの上から希の大切な部分を人差し指でなぞってみると、軽く触れただけなのに指が謎の液体で湿る。そして大切な部分を何度も往復してなぞっていると、くちゅっという淫らな音が漏れ出す。同時に彼女は微かに嬌声を上げた。さてはていつまでもつかな?

 

 

「んっ、はぁ……あぁ!」

「もうこんなに濡らしてるのかよ」

「零君に後ろから抱きついている時に、ずっとこうなることを想像してたから……かな」

「なるほど。濡れてるパンツなんてもう必要ないだろ、脱がしてやる」

「うん……」

 

 

 俺はパンツの淵を摘むと、そのまま彼女の脚を伝わせて一気にパンツを引き脱がす。

 色は鮮やかな薄紫。だが秘部に当たっていたところは、濡れているせいで濃い紫色に変色していた。メイドのくせにこんなエロいシミ付けやがって、これはご褒美というよりお仕置きかな。

 

 

「もう我慢できないだろ?始めるぞ」

「うん、来て……」

 

 

 俺は手に持っていたパンツを遠くに放り投げた。もはや彼女に服とか下着とか、身体に纏うモノなんて一切必要ない。俺の前では、生まれたままの姿で十分――――

 

 

 ここから、2人だけの本当の時間が始まる。

 




 もうほのぼの回=エロ回の認識になってきた今日のこの頃(笑)


 今回は希回でした!
 実は当初はシリアス路線で話を構成していたのですが、やはり私に真面目な話は合いませんでした。そして寝る前に自分が大好きなシチュエーションを考えていたら、今回のような主従プレイが真っ先に頭に浮かんだのでこれを採用した次第です。

希の個人回は特にR-17.9描写が激しくなる傾向にあったので、今回だけはほのぼの路線にしようと思っていた結果がコレです(笑)
まあね、我慢できないよね、彼女のカラダを想像すると!


 次回と次々回は『新日常』投稿が4月2日で一周年を迎えるため、連続してその記念回の投稿をしようと考えています。
1つは最近ハーメルンにハーレムタグが付いているのにハーレムしていない小説が増えてきたので、ハーレムの真髄を見せる小説を。
もう1つは投稿時まで隠しておきます(笑)

投稿順はどちらが先になるかはまだ未定です。


それでは感想・高評価、よろしくお願いします!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】ラビットハウスいらっしゃいませ!(前編)

 今回は『新日常』の一周年記念として、私が執筆している"ラブライブ!"と"ご注文はうさぎですか?"の小説のクロス回となっています。

 私が執筆をしていると言っても"ラブライブ!"は『新日常』寄り、"ご注文はうさぎですか?"は概ね原作通りのキャラ設定となっています。


 「ごちうさを知らないよ!!」という方にも楽しめるように書き上げましたので、是非最後まで楽しんでいってください!


「わぁ~!この街、絵本の世界みたいだね!!」

「そうですね。写真で見るよりもとても綺麗です」

「うん!ここなら可愛い衣装のアイデアが浮かんできそう!」

 

 

 俺たちは目の前に広がる西洋風の綺麗な街並みに、立ち止まってしまうほどに目を奪われる。

 

 俺、穂乃果、ことり、海未の4人は、受験勉強の息抜き兼ライブの衣装と歌詞の新たなアイデア模索のために旅行へ来ていた。この街は"木組みの家と石畳の街"として有名らしく、実際に見てみるとその謳い文句が嘘ではないことがよく分かる。

 

 しかしこうして実際に眺めてみると、東フランスのヨーロッパのような街並みで日本とはとても思えない。穂乃果の言う通り、東京育ちの俺たちにとってはファンタジックな雰囲気がするな。

 

 

「あっ、零くん見て見て!あそこにウサギさんがいるよ!あそこにも!!」

「耳元でうるせぇな!分かってるって!!」

「すご~い!なんでこんなにウサギさんがいっぱいいるんだろ?はっ、まさかウサギに支配された街とか……?もしかしてここのウサギさんたちは、街の人が魔法でウサギに変えられた姿で――――」

「はいはいそこまで。変な被害妄想はやめろ」

「それに街の人、普通にいらっしゃいますし……」

 

 

 穂乃果のくだらない妄想はさて置き、すれ違う街の人を見るたびに、その人たちから爽やかな雰囲気が感じられる。空気が澄んでいて街も綺麗なだけでなく、単純に居心地がいいというか、街全体が活気に溢れている。野良ウサギも俺たち部外者にちょっかいを掛けてくることはないが、人に撫でられれば気持ちよさそうな表情を見せるため、かなり人懐っこい。

 

 総括すれば、街の環境、人、動物たち全てが一体となってこの街を作り上げているってところかな。だから部外者の俺たちでも居心地がいいと思えるのだろう。

 

 

「それで、まずはどこに行く?お前らそれぞれ行きたいところがあるんだろ?」

「ことりはフルール・ド・ラパンに行きたいな。お母さんが一度行ったらしいんだけど、その店のハーブティーが美味しかったって言ってたから」

「私は甘兎庵(あまうさあん)ですね。そこの和菓子がかなり独特と聞いているので、和菓子好きの私としては一目見ておこうかと」

「じゃあその2店は確定だな。おい穂乃果、お前はどこに――――」

「わぁ~!あそこにいっぱいウサギさんが!待ってぇ~!!」

「聞いてねぇし……」

「穂乃果ちゃん、相変わらずいつも通りだね……」

 

 

 見知らぬ土地に来て間もなく、ここまで街に馴染める能力は評価するべきだとは思うがな。しかし如何せん穂乃果のことだ、周りを巻き込んだ挙句いつの間にか自分だけ迷子になってましたぁ~なんて展開になりそうだ。だからこの俺がしっかりと見張っておかないと。

 

 

「ということで穂乃果、お前はどこへ行きたい――――って、あれ、穂乃果は!?」

「えっ、さっきまでそこでウサギと遊んでいたはずですが……」

「ま、まさか穂乃果ちゃん、ウサギを追いかけて行って……」

「くそっ、あの馬鹿野郎!!」

 

 

 光の速さでフラグを回収してんじゃねぇよ!!フリで見張っておくとか言ったんじゃないんだぞ!?どうして毎回いい意味でも悪い意味でもアイツは俺の期待を裏切らないのか。恋人同士だから?それにしても旅行先に来て早々行方不明になれる能力を発揮するのだけは勘弁して欲しい。日本だからまだいいとしても、アイツに絶対海外へ行かせられないな。

 

 

「穂乃果ちゃーーん!どこにいるの~!?」

「呼んでもどうせウサギに夢中で聞こえてないだろう。1つのことに熱中すると中々戻ってこない奴だから。まあ、勉強だけは例外だけど」

「確かにそうですけど、今は穂乃果と合流することが先決です」

「全く、面倒なことしてくれるなアイツは。とりあえず海未、一応穂乃果に電話してみろ」

「はい」

 

 

 なんにせよ、見知らぬ土地で迷子になるのは相当マズイ。だってアイツ地図読めねぇからな。とにかくこれ以上面倒なことにならないためには、早急に穂乃果を見つけ出す必要がある。

 

 どんなところでもちょっとした事件に巻き込まれる俺らって、ホントに不幸。まあそれが俺たちらしいんだけども。

 

 

「…………出ませんね」

「じゃあ自分が迷子になっているって気付いたら、そこから一切動くなと連絡しておけ。下手に動き回られると、探す手間が増えるだけだから」

「分かりました」

「いきなり大波乱な旅行になっちゃったね」

 

 

 俺たちは同時にため息をついて呆れる。

 

 

 

 

 すると俺は、俺たちに近付いてくる人影に気が付いた。和菓子のほのかな香りがふわりと鼻をくすぐる。

 

 

「あの~どうかしましたか?お困りのようですけど?」

 

 

 目の前に現れたのは、俺たちと同じ歳くらいの女の子だった。黒髪の長髪で、姫カットな容姿に違わぬ大和撫子然とした和服を着用している。その和を具現化したような風情から、海未とどことなく雰囲気が似ているな。しかし海未とは違って肉付きは彼女の方がよく、頬っぺとか胸とか、触ったら気持ちよさそう……。

 

 

 初対面からこんなことを考えてしまう辺り、俺もことりのことを言えないくらい末期の変態だと思うよ。色々と妄想が捗りそうだけど、今はとりあえず穂乃果の探索に集中するか。

 

 

「実は友達が迷子になったんだ。携帯に連絡しても出ねぇし」

「大変!この街って似たような建物が多いから、旅行に来た人が道に迷うことがよくあるんですよ」

「マジかよ……」

「友達にも連絡を入れて、見かけたら伝えてもらうように言っておきますね」

「助かる。ありがとう」

 

 

 そして俺たちは黒髪の大和撫子さんに穂乃果の名前と容姿を伝え、彼女の友達にも協力を要請した。

 まさか他人まで巻き込むことになるとは……合流したら穂乃果の土下座会見だな。

 

 

「本当にありがとうございます。あっ、えぇと……」

「宇治松千夜です。よろしくお願いします♪」

「宇治松さんですね。私は園田海未と申します」

「南ことりです♪」

「神崎零だ。穂乃果が迷惑を掛けて申し訳ない」

「いえいえ。それに名前呼びでいいですよ。こうして会ったのも何かの縁ですし、あなたたちとはすぐに仲良くなれるような感じがしますから」

「そっか。だったら別に敬語もいらねぇよ。高校生同士だろ?」

「そう?それじゃあそうさせてもらうわね♪」

 

 

 かつてはいきなり初対面で女の子を名前呼びするのは抵抗があったのだが、μ'sのみんなと触れ合っていく内にそれももう慣れた。それにこれからあのおバカちゃんを彼女と一緒に捜索するんだ、他人行儀な関係は極力排除しておいた方がいいだろう。幸い彼女、外部から来た俺たちのことを何の警戒もなく信用してくれているみたいだし。別に俺がいきなり女の子を食ってかかる訳じゃないけどね!

 

 

 

 

「よしっ、それじゃあ俺たちも穂乃果を探しに――――――」

 

 

 その時、俺は気付いていなかった。遥か上空から、黒い物体が俺の頭目掛けて真っ逆さまに落下していることに……。

 

 そしてその黒い物体は遂に、穂乃果捜索に意気込みを入れていた俺の脳天を――――

 

 

「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 直撃した。

 

 

「れ、零君!?な、なにが起こったの!?急に零くんが瀕死に!?」

「さっき零の上に何かが落ちてきたような気がしましたけど……」

「あっ!あんこ、またカラスにさらわれたのね」

「そ、その子……ウサギ?」

「えぇ。あんこってば、よくカラスにさらわれては突然空から落ちてくるのよ。フフッ、可愛いわよね♪」

「笑いごとじゃねぇんだけど……あ~頭クラクラするぅ~」

 

 

 これ本当に穂乃果を探し出せるのか?もうアイツを見つける前に俺の方が気絶して黄泉の国に送られそうなんだが……幸先が不安だ。

 

 

 それにしても、目の前がぐるぐる回って身体がフラフラするぅ~……。

 どうやらウサギが俺に直撃したらしいのだが、生き物が空から降ってくるほどこの街は殺伐としてるのか?そのせいでもう意識が飛んじゃいそうなんだけど……。

 

 

 その時だった。俺の脚の近くをウサギ通りかかったのは。

 通りかかるだけならまだいい。だけど俺はそのウサギを踏まぬよう、ただでさえフラフラの身体を更に倒してウサギを避けようとした。

 

 だがもう既に意識の半分が飛んでいる俺に、身体を自在に制御する力は残されていない。当然身体を倒したら最後起き上がれる力もなく、俺の身体はそのまま地面に――――

 

 

「きゃっ!!」

「うぷっ……!!」

 

 

 倒れなかった。いや厳密には倒れたけど、地面には衝突せず柔らかいクッションのようなものに守られたようだ。

 でもなんだこのクッション、やけに人肌のような暖かさを感じるぞ。それに右手に程よい大きさのおまんじゅうが握られているような――――って、これは、この感触、弾力、温もりは、まさしく女の子の――――!!

 

 

「あ、んっ……零くん、くすぐったいわ……」

「零くん、道の真ん中で大胆だね♪」

「ち、千夜……」

 

 

 俺の下敷きになっていたのは千夜だった。

 そして俺の手が握り続けているのは、紛れもなく千夜のお胸さん!この大きさはことりや花陽と同じ、小柄ながらもボリューム満天のおっぱいだ!!

 

 もう少し、もう少しだけでいいから触っていい……?

 

 

「あっ、あ、ん……」

 

 

 おおっ、指が……指が食い込む!!もしかして和服だから下着を着けてないのか!?手に馴染むこの感触、やっぱり揉み心地は最高――――――

 

 

 

 

「零……そろそろいい加減にしないと、どうなるのか分かってますよね?私も見知らぬ土地でこんなことをしたくはありませんが、これ以上続けるというのなら容赦はしません」

 

 

 

 

「う、うっす……」

 

 

 海未の邪気が当社比1.5倍くらいに膨れ上がっている。見知らぬ土地で知り合ったばかりの女の子のおっぱいに触れる、それもまた一興だとは思わないか?思わないかぁ~……。

 

 

 結局至福の時間はほんの数秒で終了し、あのおバカさんの探索へと戻ることにした。

 ちなみに俺は気付かなかったけど、ことりと千夜でこんな会話が行われていたそうな。

 

 

「ねぇねぇ千夜ちゃん、零くんに触られた感想は?」

「そうねぇ~、とても上手だったわ♪ちょっと気持ちよくなっちゃうくらいに……」

「あの短時間で零くんのテクニックに気付けるなんて、ことりと千夜ちゃんって、どこか似てるところがあるのかも♪」

「そうね、フフフ♪」

 

 

 どうやら、出会ってはいけない2人が出会ってしまったようだ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ウサギさん待ってぇ~!!」

 

 

 穂乃果は今、ウサギさんを追いかけているんだけど、ただのウサギさんじゃないんだよ!人間のような前髪があって、右目の十字傷が特徴的な強面でとてもワイルド!でも身体はとてももふもふしていて抱きしめたら絶対に気持ちがいいよあの子!

 

 だけど穂乃果が近付いたらすぐに逃げちゃうんだよね。警戒心が強いのか、それとも嫌われちゃってる?うぅ~でもこんなに珍しいウサギさんは初めて見るから、この街に来た記念に一回くらい抱きしめたいんだよ!

 

 

 すると突然、ワイルドなウサギさんが十字路の真ん中で立ち止まった。

 建物の間に逃げ込まれて苦労したけど、もう観念したみたいだね。一気に飛びついて捕まえちゃお!

 

 

「よ~し、いい子だからそこから動かないでね……」

 

 

 穂乃果は抜き足差し足である程度ウサギさんに近づいた後、両腕を前に出してウサギさんをダイビングキャッチしようとした。

 

 だけどその時、道の角から女の子の声が聞こえてくる。

 

 

 

 

「あっ、ワイルドギースだ!こんなところで会うなんて偶然だね♪」

 

 

 

 

 その声の主がどんどん近付いてきているのが分かる!でも穂乃果のこの勢いは誰にも止められない!!ていうか誰か穂乃果を止めてぇえええええええええええええええ!!このままじゃ出会い頭にぶつかっちゃうからぁあああああああああああああああああああ!!

 

 

 声の主である女の子の影が建物の角から見えた。その一瞬で確認できたのは、茶髪でパンの香ばしい匂いを漂わせているってことだけど――――

 

 ぶ、ぶつかるぅううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!

 

 

「ど、どいてぇえええええええええええええええ!!」

「こんにちはワイルドギース――――って、えぇぇえええええええええ!?」

 

 

 そして穂乃果は勢いのまま、その女の子の懐に飛び込んでしまった。

 

 

「ぐふぅ!!」

「ぐあっ!!」

 

 

 穂乃果は女の子に飛びつく形で、その子を道端で押し倒してしまう。飛び掛った衝撃で頭がぐるぐるしてお星様が見えるけど、自分の両頬をペチンと叩いて正気を取り戻す。早く穂乃果の下敷きになった女の子を助けないといけないからね!

 

 

「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」

「ふにゅ~……」

「えっ、もしかして……死んでる!?あわわわ、穂乃果まさかの殺人者!?お、落ち着いて、こういう時は探偵モノの漫画で見た証拠の隠滅方法を……」

「ちょっとちょっと!助けてよぉ~!!」

「あっ、生き返った」

「初めから死んでないよ!!」

 

 

 死んでない……?あれほどの勢いで突撃されたのに、すぐに復活するなんて……。やっぱりこの街、人もウサギも只者じゃないね!

 

 

「それにしてもよかったぁ~!!死んでなくてよかったです!!」

「わぁーー!!そんなに抱きつかれると苦しーーー!!逆にそれで圧死しちゃいそうだからぁーーー!!」

「ご、ごめんなさい……穂乃果、いつもいつもつい先走っちゃって」

「あはは、私も似たようなものですよ~」

「あれ、そう言う意味では穂乃果たち……」

「結構似てるかもですね♪」

 

 

 この子、笑顔が眩しい!!今回は全面的に穂乃果が悪いのに、こんなキラキラとした明るい笑顔を向けてくれるなんて優しいなぁ――――あっ、そういえばまだ許してもらってないや!勝手に自己完結しちゃってた!!

 

 

 そして一旦穂乃果たちは立ち上がって、近くの噴水に腰を掛けてお話をすることにした。

 穂乃果がぶつかった女の子は保登心愛ちゃん。ココアってすごく可愛い名前だよね!にこちゃんの妹にも同じ名前の子がいるから、なんだか初めて会った気がしないよ。

 

 

 そういえば、なんか忘れているような気もするけど、忘れるくらいならそこまで重要なことじゃないよね!

 

 

「それじゃあ穂乃果ちゃんたちはスクールアイドルなんだ!?すごいっ!アイドルなんて憧れちゃうなぁ~」

「いやぁそれほどでも~……あるかな?"ラブライブ!"っていう、大きな大会で2回も優勝してるし」

「大会で優勝!?もう私には穂乃果ちゃんが眩しすぎて見ていられないよぉ!!」

「大袈裟だよココアちゃん」

 

 

 "ラブライブ!"で優勝したことは高らかに自慢することではないけど、それは武器になるから自己紹介の際にどんどん主張してやれというのが零君からの命令。こうやってプライベートで注目されるのは若干気恥ずかしさもあるけど、尊敬の目で見られるのはちょっと優越感を感じちゃったり。零君が色々なことを自慢したがる気持ちが分かったような気がするよ。

 

 

「ココアちゃんはパン作りが得意なんでしょ?いいないいなぁ~」

「え、どうして?」

「穂乃果もパン大好きなんだけど、実家が和菓子屋で、出てくるおやつは毎回毎回和菓子なんだよ……だからたまにはパンも食べさせろぉおおおおおってなるよね」

「あはは。だったら折角だし、私のバイト先の店に来る?そこで私お手製のティッピーパンをご馳走してあ上げる!」

「ホントに!?ありがとぉ~ココアちゃん!さっきは勢いよくぶつかっちゃったのに、パンまでご馳走になるなんて……」

「でもあの激突があったから穂乃果ちゃんとお友達になれたんだし、むしろぶつかってよかったと思ってるよ!」

「ココアちゃん……あなたが神か」

 

 

 神様っていうのは意外と近くにいたんだね。ここまで心が寛大な人には出会ったことがないよ。強いて言えば、ことりちゃんや花陽ちゃんなら対抗できるかな?それにしても怒ってばっかりの海未ちゃんには、ココアちゃんの寛大さを見習って欲しいものだよ、うんうん。

 

 

「その代わり、一曲私の前で披露してくれない?穂乃果ちゃんの話を聞いてたら、スクールアイドルに興味が出てきちゃった!」

「ココアちゃんの高校にスクールアイドルはいないの?」

「そうなんだよ。だから私がスクールアイドルになるのもいいかなぁって」

「それじゃあココアちゃんには他にも夢が?」

「うんっ!街の国際バリスタ弁護士として、パンを焼きながら小説家として生きる。これが私の目指す道、私の人生!!」

「ちょっと、いや、とても欲張りしてるような……」

 

 

 バリスタで弁護士でパン職人で小説家……ココアちゃんが今までどんな道を歩いてきたのか気になってきたよ。それだけココアちゃんが多才だってことなのかな?もしそうだったらスクールアイドルも難なくこなせちゃうかも!

 

 

「でも1人だとスクールアイドルはできないよ?一緒にやってくれそうな人いるの?」

「もちろんいるよ!チノちゃんでしょ、リゼちゃんでしょ、千夜ちゃんにシャロちゃん!」

「おぉ、すぐに協力してくれそうな人の名前が出るなんてすごいね~!穂乃果もね…………あっ!!」

「ど、どうしたの急に大声出して?」

「零君たちのこと忘れてた……」

「零、くん?」

「うん、穂乃果と一緒にここへ旅行に来た人たちがいるんだよ!でもウサギを追いかけてたら、いつの間にか穂乃果、迷子になってた……」

「今気付いたんだ……」

 

 

 ワイルドなウサギさんにうつつを抜かしていたり、ココアちゃんと楽しくお喋りしていて、零君たちのことをすっかり忘れてたよ……。そっか、穂乃果迷子になっちゃったかぁ~アハハハ、ハハハ……はぁ~。

 

 

「ど、どうしよう……この街のこと全然知らないのに」

「私も一緒に探してあげるから元気出して、ね?」

「何から何までご迷惑をおかけします……」

 

 

 穂乃果から激突した挙句、パンまでご馳走になる約束をして、更には一緒に零君たちを探してもらうだなんて……これは後でしっかりとココアちゃんにお礼をしよう。なんなら、穂むらのほむまん24個セットを一年分贈呈することも辞さないよこれは。

 

 

 そんなお詫びの印で頭を駆け巡らせていると、穂乃果が通ってきた道から、上品そうな女の子がこちらに向かってきていることに気が付いた。

 

 

 

 

「見つけたわよココア!!」

 

 

 

 

「ん?あれ、シャロちゃんだ!やっほぉ~」

「シャロちゃん?」

 

 

 シャロちゃんと呼ばれた女の子は、ウェーブの掛かったくせ毛の金髪が特徴的で、カチューシャを着用している。なんだろう、一目見るだけで気品溢れるオーラを感じるというか、すごくお嬢様っぽい。でも背丈は小さくて可愛いけどね♪

 

 

「やっほーじゃいないわよ。アンタ、今買い出しの途中なんじゃないの?先輩から聞いたわよ」

「あ……忘れてたァアあああああああああああああああああああああああ!!」

「なぁ~んだ、ココアちゃんも穂乃果と一緒じゃん♪激突した時から、ココアちゃんとは波長が合うと思ってたんだ」

「私もだよ!やっぱり私と穂乃果ちゃんが出会ったのは、運命でもあり必然でもあったんだね!」

 

 

 パン愛好家というだけでも同志なのに、ここまでノリや意見が一致するのは珍しすぎるよ!穂乃果たちを出会わせてくれた、あのワイルドなウサギさんには感謝だね!

 

 

「あのぉ~2人共?それぞれ迷惑を掛けている人がいるってこと、忘れてない?」

「「あっ……」」

「全く、本当に似た者同士だわ……」

「アハハ……えぇと、シャロちゃんでよかったんだっけ?」

「えぇ、桐間紗路よ。よろしくね、高坂穂乃果さん」

「あれ、穂乃果の名前知ってるの?」

「さっきから自分のことを穂乃果って言ってたじゃない。それに千夜から聞いてるの、『高坂穂乃果って人が迷子だから、見かけたら教えてくれ』ってね。そしてあなたが神崎零さんの連れだって伝えられたけど」

「そうそう零君にことりちゃんに海未ちゃん!早く穂乃果のお友達を2人にも紹介したいよ!」

「だ・か・ら!今あなた迷子なのよ!!自覚あるの!?」

 

 

 そうだったそうだった!いやぁ~こうやってどんどんお友達の輪が広がって嬉しいから、つい話し込んじゃうんだよね。シャロちゃんのツッコミには勢いがあるし、話していて全然飽きないよ!

 

 でも、零君と海未ちゃんはカンカンに怒ってるだろうなぁ……今帰ると怖いから、もうちょっとだけ話し込んでちゃダメ?ダメですか……はい。

 

 

「千夜の話では、穂乃果の携帯に零さんたちが連絡を入れたって言ってたけど」

「携帯……あっ、それも忘れてた!!」

「もう~穂乃果ちゃんってば、うっかりさん♪」

「えへへ、よく言われるんだぁ~♪」

「アンタたちねぇ……はぁ」

 

 

 シャロちゃんは呆れたようにため息を吐く――――いや、もう完全に穂乃果たちに呆れてるねこれは。確かに穂乃果は結構うっかりさんなところはあるけど、今日はココアちゃんたちと出会って楽しくなっちゃっただけだもん!嬉しさが先行しちゃってたから、この忘れはノーカンノーカン。

 

 

「それじゃあ早く戻るわよ」

「そうだね、穂乃果ちゃんをお友達のところに送り届けてあげないと」

「人の心配もいいけど、アンタも早くラビットハウスに戻りなさい!!バイト中にサボってんじゃないわよ!!」

「はいぃぃ申し訳ございません!!」

 

 

 この時、穂乃果は悟った。

 シャロちゃん、海未ちゃん並に苦労してるんだなぁと。海未ちゃんとはいいお酒……はまだ未成年だから無理だけど、いいコーヒーが飲めそうだね。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 ここでもう一度サブタイを見てみましょう。いいツッコミをお待ちしています(笑)


 今回は『新日常』の一周年記念として、私の小説同士なのですがコラボ回を執筆してみました!
元々この2作品のキャラクターが非常に大好きで、いつかはクロスさせてみたかったのです。しかし『新日常』はメインキャラが13人、ごちうさでもメインと呼べるキャラは8~9人くらいはいるので、流石に全員を出演させることは不可能だということをお察しください。"ラブライブ!"側のメンバーは零君を入れて4人、ごちうさ側はココアたち5人が限度ですかね。

 そして元々は1話で収めるつもりだったのですが、これでようやく半分位です(笑)
なのでチノちゃんやリゼの登場は次回ということで、彼女たち推しの方には申し訳ないです!


 一周年記念と謳っているように、4月2日でこの小説が1歳の誕生日を迎えます!本当は2日にハーレム回を投稿しようと思っていたのですが、前述の理由から、その日はクロス回の後編となりそうです。その後、ハーレムの真髄回を投稿します。また一周年の感想は、4月2日投稿時にでも語ろうかと思っています。


新たに高評価を下さった

孤独の龍さん、与那覇さん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】ラビットハウスいらっしゃいませ!(後編)

 本日4月2日は『新日常』の連載開始から一周年です!!


 "ラブライブ!"と"ご注文はうさぎですか?"のクロス回、今回はその後半戦となります。

 前半はかなりドタバタした雰囲気で、どちらかといえば"ラブライブ!"寄りでしたが、今回はかなりほのぼのとした日常モノですので"ごちうさ"寄りな回となっています。


 なんとか海未の制裁を逃れた俺は、彼女たちと共に"ラビットハウス"と呼ばれる喫茶店へ向かうことになった。闇雲に探すよりも、穂乃果が俺たちの連絡に気付いて電話をしてくるまで待った方がいいという千夜の判断だ。それにその喫茶店には彼女の友達が働いているらしく、情報共有する場でも便利だと言う。

 

 

 そして俺たちは、そのラビットハウスとやらの前までやって来たのだが――――

 

 

「えらくボロ……いや、年季の入った建物だな」

「祖父の代からずっと営んでいる喫茶店だもの。それに私は風情があって好きよ、この店の雰囲気」

 

 

 確かに年代モノのシャレオツな喫茶店なのだが、周りが綺麗な西洋風の建物ばかりなので、この店だけ若干浮いて見える。でも派手な装飾を付けて常連さん以外お断りの店よりも遥かに入りやすか。

 

 

「いつまでも外で喋り込んでいるのもアレだし、そろそろ入りましょうか」

 

 

 千夜の号令で、俺たちはラビットハウスへと入店する。

 ドアに付いていた大きな鈴の音が店内に響き渡ると、入口とカウンター付近から2人の女の子の声が聞こえてきた。

 

 

「いらっしゃいませ!」

「いらっしゃいませ」

 

 

 入口の近くに立っていたのは、濃い紫色の髪をツインテールにしている女の子だ。歳は俺たちと同じくらいだろうか。でも声は女の子にしてかなりのイケメンボイスで、演劇でもやってそうないい声をしている。そして何より目立つのは、千夜よりも大きなあの胸だろう。制服に包まれはしているが、あの大きさは絵里や希並じゃないか?

 

 そしてカウンター席でコーヒー豆を挽いているのは、薄水色のストレートロングヘアの少女だ。年齢は……中学生っぽい?矢澤のチビ姉妹たちより少し大きいくらいだ。"いらっしゃいませ"の声に覇気がなかったり、表情が一切変化していないのは気になるが、一番特徴的なのは頭に乗っている……あの毛玉みたいなのはなんだ?アンゴラウサギ??

 

 

「あれ、千夜じゃないか。一緒に来店してきたその人たちは、千夜の友達?」

「ええ。そうは言っても、さっき知り合ったばかりだけど」

「まあお友達だろうが何だろうが、ここへ来た人はみんなお客様だ。お待たせしてすみません、こちらのお席にどうぞ!」

 

 

 俺たちは紫ツインテールの女の子の導きにより、テーブル席へと案内された。

 この子、やけに接客慣れしてるな。見ているだけで気持ちが良くなるというか、この店の雰囲気が明るく感じる。まあ俺の目はその大きな胸に行っちゃうんだけども……男だからしょうがない。

 

 

「ご注文はどうなさいますか?」

「そうだなぁ。それじゃあコーヒーで」

「では私は紅茶を」

「ことりはホットココアにしようかな」

「かしこまりました。チノ!コーヒー、紅茶、ホットココア、それぞれ1つずつ頼む」

「はい」

 

 

 なんていうか、普通に喫茶店に来てお茶をしに来たみたいになってるな。もう穂乃果が行方不明になっていることなんて忘れてしまいそうだ。まあアイツもそこまで馬鹿じゃないから、そこら辺の人に道を聞いてこっちに戻ってくることくらいはできるだろ。そもそもアイツ自身が、自分が迷子になってるってことに気付かないといけないけど。

 

 

「紹介するわね。注文を取ってくれたのが天々座理世(てでざりぜ)ちゃん。リゼちゃん、こちらこの街に旅行へやって来た、スクールアイドルの方々よ」

「アイドル!?す、すごい……」

「そ、そんな大層な者ではないですよ!!ですよねことり!?」

「ん~?それでも一応大きな大会では優勝したけどね♪」

「大会で優勝!?この店にサインを飾る時が来たのかもしれないな……」

「いいけど、俺たちのサインは高いぞ?」

「あなたはスクールアイドルでも何でもないでしょう……」

 

 

 一時期スクールアイドルをやっていた頃は、それはそれは女の子にモテモテだったんだけどなぁ。まあ、今でもμ'sのみんなからの恋愛光線は常に浴びまくってるけどね。

 

 

「取り乱して申し訳ない。改めて、天々座理世だ。年齢も近いみたいだし、気軽に名前で呼んでくれ」

「南ことりです♪よろしくね、リゼちゃん!」

「園田海未です。よろしくお願いします」

「神崎零だ。勝手にこの喫茶店を会議の場所に使わせてもらって悪いな」

「よろしく!会議というのはよく分からないけど……」

「そうそう!ことりたちのお友達にもう1人穂乃果ちゃんっていう女の子がいたんだけど、途中で迷子になっちゃって……」

「高校生で迷子って……携帯とかで連絡は取れないのか?」

「取れてたらこんなに苦労してねぇよ」

 

 

 俺たちがラビットハウスへ向かっている途中にでも連絡が来ると思ってたのに、今この瞬間になっても携帯に音沙汰はない。まだウサギを追いかけているのか、それともアイツの性格のことだ、街の人と意気投合して話しにうつつを抜かしているかのどちらかだろう。

 

 

「リゼさん、お仕事してください」

「あっ、悪い!わざわざ持って来させてしまって」

「いいですよもう……。お待たせしました、コーヒーと紅茶、ホットココアになります」

「ありがとうございます」

「ありがと~♪」

 

 

 今更気付いたんだけど、中学生なのに喫茶店で働いているんだな。中学生ながらに苦学生だったりするのか?そもそも中学生ってバイトできんの?

 

 しかし中学生と言っても、ただ可愛いだけじゃなくて大人びた可愛さまで秘めている。率直に言ってしまえば、うん、物凄く抱きつきたい。背丈的に俺の身体にすっぽりと収まるだろうから、抱き枕として俺の家に来て欲しいものだ。

 

 

「ほら、チノも自己紹介」

「今仕事中なんですけど……」

「別にいいだろ。ほら、零たち以外にお客さんいないし」

「しょうがないですね……」

 

 

 確かに真昼間なのに、喫茶店の中には俺たち以外人っ子一人いない。もしかして、そこまで流行ってないのか?この街のガイドマップを見る限り、かなり喫茶店が多かったから客を取り合っているのかもしれない。

 

 そしてチノと呼ばれた女の子が一歩前へ出る。

 何故だろうか、近くで見れば見るほど抱きしめたくなる。でもどうせまたロリコンとか言われるんだろ?知ってるから!!

 

 

「香風智乃です。よろしくお願いします。ちなみに皆さんの名前は、さっきリゼさんに紹介している時に聞いていました」

「チノはここのマスターの娘さんなんだ。料理も上手いし、バリスタとしても一流なんだよ」

「は、恥ずかしいですリゼさん!!」

「チノちゃんすご~い!ことりの妹にならない?歓迎するよ~♪」

「こ、ことりさん!?抱きつかないでください!!」

 

 

 ことりはチノを自分の席に引きずり込んで強く抱きしめる。そしてチノの頬っぺに自分の頬っぺを擦り付けて……くそぅ、俺もやりてぇよ!!矢澤の生意気姉妹を抱きしめようとすると、十中八九ロリコン呼ばわりされるからな。いや、別に小さい女の子に愛があるとかじゃなくて、単純に可愛いからだよ!!そう人形を抱きしめるみたいな感じだから!!

 

 

「チノちゃんも頭の上の毛玉ちゃんも、モフモフして気持ちいい~!!」

「おいおい、いつの間にかティッピーまで巻き込まれてるぞ」

「ティッピー?」

「あぁ、このアンゴラウサギの名前だよ。この喫茶店のマスコットなんだ」

「私、初めて見ました。一目見た時は、ただの太っているウサギかと……」

 

 

 

 

「誰が太っているじゃ!!ワシのボディはスマートでパーフェクトじゃわい!!」

 

 

 

 

「「「「「………………?」」」」」

 

 

 な、なんなんださっきの野太いおじいちゃん声は!?ここにいる男って俺しかいないんだけど……まさかこの中の誰かが女の子と見せかけて男の子だったり!?

 

 

 まあそんな冗談はさて置き、女の子たちがあんな声を出せる訳がない。だからと言って唯一の男である俺は喋っていない。だとすればだ、残っているのはこのアンゴラウサギだけとなるが……本当にそうか?俺は今世紀最大のおバカなことを考えているのではなかろうか。動物が喋るなんて……一応確かめるか。

 

 

「なあチノ、さっき喋ったのって……コイツか?」

「腹話術です」

「いや、どう足掻いてもお前じゃさっきの声は――――」

「腹話術です」

「でもさっきコイツから声が聞こえたような――――」

「腹話術です」

「はい……」

 

 

 ここまで追い詰めても返答内容一辺倒を貫き通すとは、やるなこの中学生。この俺を自ら折らせるとは……。

 

 でもこのウサギ野郎が喋っていると思うんだけどなぁ~。何故かは知らないけど、彼女はさっきからコーヒーを運んできたトレイを自分の口を隠すように当ててるし……本当に腹話術だったのか?謎は深まる。

 

 

「でもことりってココアみたいだな。チノやティッピーへの抱きつき方がまるで一緒だ」

「ココア……さん?お友達ですか?」

「そうだ。この喫茶店で一緒にバイトもやってる。やってるんだけど、アイツ買い出しに時間掛かり過ぎだろ……」

「その子、いつもそうなのか?」

「可愛いウサギを見掛けたら、道を外れてまで追いかける。興味の惹かれる物が店に並んでいたら始まる、唐突なウインドウショッピング。甘い匂いがしたら、一目散に匂いのする方へ駆け出して買い食い――――まだあるぞ」

「なんだろう、もうアイツしか頭に浮かばねぇ……」

「でも今日は時間が掛かり過ぎです!全く、ココアさんは本当にココアさんなんですから」

「なんだよその超理論は……」

 

 

 そのココアって子、ますます穂乃果に似てるかもな。興味を持ったものにはとことん惹かれ、外出の際には道草を食い、そして遅刻癖ときた。どこの街にも似たようなお騒がせちゃんがいたものだ。

 

 

「なんにせよ、私たちは穂乃果自身から連絡があるまで待つしかないようですね。下手に探し回ってすれ違いでもしたら、余計に時間を取られますし」

「そのココアって子と意気投合して話し込んでいる可能性があるな。俺の見解ではその2人、相性抜群だから」

「もしそうだとしたら、ココアにはあとでたっぷり説教をしてやる……」

「本来はここで作戦会議をしようと思ってたけど、どうやらやる必要はなさそうだな」

「作戦会議!?!?」

「おおぅ……どうしたリゼ?」

 

 

 さっきまで冷静に俺たちと情報交換をしていたリゼが、突然机に手を付いて顔を俺の間近にまで近づけてきた。そんなに接近されると、女の子特有の甘い匂いで俺の欲求が唆られるからやめろって!俺ってほら、女の子限定の匂いフェチだからさ。

 

 

「リゼちゃん、ワイルドなことが好きだものね♪」

「作戦会議がワイルドなのかよ……ん?リゼ、お前何か落としたぞ――――って!?」

「あっ、悪い」

「「!?!?」」

 

 

 リゼのポケットから何やら黒い物体が落下し、床との衝突と同時に謎の金属音が鳴り響いた。その造形は、さながら銃器そのもので――――

 

 

「なっ、お、お前……」

「リゼさん……」

「リゼちゃん、まさか強盗さん!?この喫茶店のスパイだったり!?」

「えぇ!?り、リゼさん、本当ですか……?」

「あらあら、面白いことになってきたわね♪」

「違う何言ってるんだよことり!!ただのモデルガンだ、よく見ろ!!それにチノまでどうして間に受けてるんだ!?お前は知ってるだろ!?」

「いや、いつかモデルガンと間違えて本物を持ってきそうで……」

「そんなに私を犯罪者に仕立てあげたいのか……」

 

 

 リゼってミリオタだったんだな。どうりで男勝りな口調な訳だ。

 それにしても、さっきから出会う人出会う人みんなが個性的なんだが……。まだ姿を見ぬココアって子も穂乃果の写身のような性格らしいし、街の穏やかでほのぼのとした雰囲気とは真逆のようだ。

 

 

 

 

 ここで、誰かの携帯が鳴る。どうやらポケットをゴソゴソとしている千夜の携帯みたいだ。

 

 

「あっ、シャロちゃんから電話だわ。恐らく穂乃果ちゃんを見つけたのね――――もしもし、シャロちゃん?」

『見つけたわよ、アンタから頼まれてた穂乃果って子。今からラビットハウスに向かうわね』

「ありがとうシャロちゃん♪」

『それに、余計な子も1人釣れたしね』

「え……?」

 

 

 電話越しから『シャロちゃん変わって変わって~!』と声が聞こえてきた。なんか亜里沙の声に似ているような気もするが、まさかな……。

 

 

『お電話変わりました~!!』

「ココア!?」

「ココアさん!?全然帰ってこないと思っていたら……」

『そうなのよ。私が駆けつけた時には、既に穂乃果と2人で仲良く談笑してたわ。それも自分たちが迷子であり、寄り道をしているとも気付かずにね』

「お疲れ様、シャロちゃん……」

 

 

 やっぱりな、完全に俺の予想通りだったんじゃねぇか。俺たちが心配していた時間と労力を返して欲しいよ……。

 

 

「全くアイツは……おい穂乃果、どうせそこで聞いてんだろ。早く帰って来い!」

『怒らない……?』

「子供かお前は!!多分怒らないから安心しろ」

『多分ってなに!?絶対に土下座会見させる気じゃん!!』

「そこまで読めてるんだったら、覚悟はしておけ」

『まあまあ。零くん、だよね?既に千夜ちゃんたちか聞いてるかもしれないけど、この私がココアです!よろしくね♪』

「あ、あぁ、よろしく」

 

 

 いやいや自己紹介する前に、まずラビットハウスに帰って来ようぜ?という質問は野暮なのだろうか……?でも声とテンションだけで分かる、やはりこの子は穂乃果と同類だったのだと。

 

 

『あまり穂乃果ちゃんを怒らないであげて!お話をしようって言ったのは私なんだから』

『ココアちゃん、私のためにそんな……』

『お友達だもん!もちろんだよ!』

『やっぱりココアちゃんは天使、いや神様だよ~!!』

「電話越しでなにやってんだ!!ネタはいいから早く帰って来い!!」

『『は、は~い……』』

 

 

 なるほど、2人してこの調子だったら、俺たちの連絡にも気付かずに話し込んでしまう訳だ。これは奇跡的にでも2人を見つけ出してくれたシャロって子に、ちゃんと後からお礼を言っておこう。

 

 

『それじゃあ穂乃果ちゃんは、私が責任を持って送り届けてあげるからね!』

「それはいいですけど、買い出しの荷物が重いからって、人様に持たせるのだけはやめてくださいね」

『あっ……』

「どうしたココア?ま、まさかとは思うけどお前……」

『あ、あははは……買い出しの途中だってこと、すっかり忘れちゃってたぁ~……』

「ココアさん!!」

『ごめ~んチノちゃん!!今すぐ行ってくるから、シャロちゃんと穂乃果ちゃんは先に戻ってて!!μ'sの皆さんもまたあとで!!』

 

 

 どいつもこいつも忙しねぇな……。トラブルメーカーが2人になった途端、こんなにツッコミが疲れるものだと思ってもいなかったぞ。まあ今のμ'sは、半数近くがトラブルメーカーな気もするけど。顧問の秋葉(アイツ)からしてもμ'sが相当危険なグループだってことは、既に周知の事実だろう。

 

 

「苦労してんだな、お前らも」

「分かってくれるか?ココアがいると賑やかにはなるんだけど」

「それ以上に騒がしいです」

「あの娘はもっと落ち着きを持たんといかんな」

「またそのウサギ喋った?」

「腹話術です」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「いやぁ~一時はどうなるかと思ったよ!しかもあのワイルドなウサギさん、シャロちゃんの家に住んでいるって知って、更にみんなとの運命を感じちゃった♪」

「穂乃果……お前、反省してる?」

「してるよぉ~。これからは一言掛けてからウサギさんを追いかけるから」

「そういう意味じゃねぇよ!!」

 

 

 俺たちはラビットハウスで無事に穂乃果と合流、そのあと買い出しに行っていたココアも戻ってきた。

 しかし穂乃果もココアも、さっきまでの行いを反省しているのかしていないのか、海未やチノにみっちり怒られたあともハイテンションは相変わらずだ。

 

 

「ねぇねぇチノちゃん!その頭の上のウサギさん、モフモフさせてくれない?」

「コーヒー1杯で1回です」

「じゃあ3杯!!」

「初めてここへ来た私と同じやり取りしてる!懐かしいなぁ~♪」

「お前らが同じ性格で同じ思考回路なのがよく分かったよ……」

「でも穂乃果ちゃん、コーヒー飲めないんじゃなかったっけ?」

「あっ……」

 

 

 飲み物がいつもジュースである穂乃果のおこちゃま舌には、コーヒーの苦味が良くも悪くも染みるだろう。まあ斯く言う俺も無糖のままだと一切飲めない人種だから、そこまで馬鹿にはできねぇけど。

 

 

「それにしてもラビットハウスの制服って可愛いよね!穂乃果、働くならここで働こっかなぁ~」

「現役のスクールアイドルさんが働いてくれれば、それだけでラビットハウスは大繁盛だよ!二号店への進出も夢じゃない!!」

「それはいいんだけど、ココアと穂乃果の2人を相手にするのは大変そうだな」

「そうですね。私とリゼさんの精神が持つかどうか……」

「「そこまで!?」」

 

 

 なになに?いつも穂乃果やことり、楓といった暴走機関車の対応を、まとめて一手に引き受けている俺の勇士の話でもすればいいの?そして絶えることのない淫語攻めに、沸き立つ興奮を抑えながら毎日を過ごす俺の話もする?俺がここ1年半で鍛えられた精神力を舐めてもらっちゃ困る!

 

 

「それじゃあ私は海未ちゃんを貰おうかしら?」

「えっ、どうして私なんですか!?」

「だって話に聞けば、海未ちゃん普段から日舞や武道を嗜む、根っからの和風女子でしょ?しかも海未ちゃんから漂う並々ならぬ淑女の雰囲気は、まさに甘兎庵にピッタリだもの♪」

「そこまで褒められると嬉しいですね。着物を着て接客するのは、恥ずかしいですが楽しそうでもあります」

「でも甘兎庵で働くには、まずメニューを覚えるところから始めなきゃいけないわよ。それも千夜の中二病が尽く発揮された謎のメニューを……」

「シャロちゃん!!中二病はヒドイわ!!」

「あのメニューを100人見たら100人全員同じこと言うわよ、絶対に……」

 

 

 中二病……以前穂乃果と凛に巻き込まれて、自ら中二病を演じてしまった黒歴史が蘇ってきやがった。あの時の真姫の冷たい目線は今でも忘れられない。

 

 しかし高校生にして現役中二病とは、千夜もやるな。一体どんなメニューなのか、実際に見てみたくはある。

 

 

「確か携帯のメモ帳にメニューがメモしてあるはずだったけど――――あっ、あったわ!」

「どれどれ。えぇと、煌めく三宝珠、雪原の赤宝石、海に映る月と星々、フローズン・エバーグリーン――――って、分かるかぁあああああああああああああああ!!」

「………………」

「海未が煙を上げてショートしている……お~い、大丈夫か~?」

「穂乃果、このクリームあんみつ白玉ぜんざいがいいなぁ~」

「お前分かるのかよ!?」

 

 

 流石、一時期中二病にハマっていただけのことはある。同じ電波少女同士惹かれあうものがあるのだろう。俺はもう絶対に黒歴史量産機にはなりたくない!

 

 

「それじゃあ、ことりはシャロちゃんのお店に行こうかな?さっき千夜ちゃんにシャロちゃんのお店の制服を見せてもらったんだけど、その服に一目惚れしちゃったぁ~♪」

「えぇっ!?あの制服そんなにいいの?ロップイヤーとか付いてるけど……」

「それが可愛いんだよ!!普通のメイド服とは違う、ミニスカとウサ耳なんて、あぁ~羨ましいなぁ~♪」

「そこまでウチの店の制服が褒められたのは初めてね……」

「それに……ちょっとエッチな制服だしね♪」

「ん……?んっ!?」

「えへへ……」

 

 

 どうしてこっちを見るんだあの脳内ラブホちゃんは……。この街に来てからはかなり大人しかったのに、急に淫乱バードになるからシャロが言葉を失ってるだろ。普段からことりの淫語録を聞きなれている俺たちならともかく、シャロたちがそれを聞いたら羞恥に悶えて卒倒しそうだな。それで平静を保っていられる俺たちも相当訓練されているが……。

 

 

「ことりはメイド喫茶でアルバイトしてるの?」

「うんっ!だからあんなエッ……可愛い制服を着ているシャロちゃんに、メイドのいろはを教えて欲しいな♪」

「さっき"エッチ"って言い掛けたでしょ!?それにメイドじゃなくて、普通の従業員だから!!」

「えぇ~あんなに太もも出してるのに?」

「人を露出狂みたいに言わないで!ああいうデザインなんだから仕方ないでしょ!!」

「ことりちゃんとシャロちゃん息ピッタリ……なんだか私、嫉妬しちゃうわ」

「もうっ!更に面倒になること言わないでよ!!」

 

 

 マズイぞ、このままだとシャロがツッコミ死してしまいそうだ。しかもことりの奴が段々本性を現してきているし。ことりが暴走したら、俺が例え会話の蚊帳の外にいたとしても、無理矢理巻き込んできやがるから困ったもんだ。しかも初対面の人たちの前で……。

 

 

 だがしかし、ことりの言わんとしていることは分からなくもない。さっき俺も千夜にシャロの制服写真を見せてもらったのだが、ミニスカートからスラリと伸びる脚にしか目が行かなかったし。胸に関してはかなり控えめだし背もそこまで高くないが、引き締まった足腰でいいくびれを持っていることには間違いない。

 

 

 なぁ~んて初対面のこにそんな劣情を抱く辺り、俺もいつも通り過ぎて穂乃果のこと言えないな。

 

 

「へぇ~ことりちゃんって大人しい人だと思ってたけど、案外賑やかな子だったんだねぇ~。チノちゃんみたい♪」

「私、そんなに騒いでますか!?」

「まあココアに対抗してムキになることはよくあるよな」

「私からしてみればそれが意外です。かなり落ち着いている子だと思っていたんですけど……」

「いくら大人びていると言っても中学生だしな。ココアみたいに騒がしい奴と一緒にいれば自然とそうなるだろ」

「むむ、なんか馬鹿にされているような気がします……」

「右に同じだよ、チノちゃん……」

「客観的に見ても……うん、事実だ」

「リゼちゃん!!」「リゼさん!?」

 

 

 なんとなく、ラビットハウスの慌ただしい光景が目に浮かぶよ。俺たちのようなお騒がせ集団っていうのはどこにでもいるんだな。しかもこの喫茶店も街もすごく落ち着いた雰囲気だから、騒がしいと余計に目立ちそう。

 

 

「そうだ!穂乃果ちゃんたちスクールアイドルなんでしょ?だったら一曲踊って見せてくれない?」

「どうしたんですか急に!?」

「ウチの裏庭を使うといいですよ。結構広いので」

「おぉ!意外とチノちゃんも本気だ!!」

「最近スクールアイドルは有名なので、興味はあります」

「穂乃果はさんせーい!!」

「みんなにはお世話になったし、やろ、海未ちゃん!」

「う~ん……そうですね、やりましょうか。折角お友達になれて、皆さんのことを色々と教えてもらいましたから、今度は私たちの番ですね」

「よーし!それじゃあ早速裏庭へレッツゴー!!」

 

 

 そんな訳で、唐突に穂乃果たちのミニライブの開催が決定した。

 

 

 旅行初っ端から穂乃果が迷子になった時はどうなることかと思ったが、そのおかげで新しい友達もできたし、これはこれでよかったのかな。しかもその友達の前でライブを披露することになったし、この旅行中はココアたちともいい思い出が作れそうだ。この話をμ'sの他の奴らにしたら、絶対に羨ましがるだろうなぁ。

 

 

 

 

 ここで穂乃果やココアたちが裏庭へ向かい、必然的に残された俺と毛玉ことアンゴラウサギ。

 

 そうだ、俺には思い出以前に1つだけ解決しておかなければならないことが――――

 

 

「ココアたちまだ仕事中だってのに……アンタも大変だな」

「まあ、賑やかなのは嫌いではないがの」

「オイ、確実に喋ったよな今」

「…………」

 

 

 すると、部屋の遠方から。

 

 

「腹話術です!!」

「そんな遠くから言っても説得力ねぇからな!!」

 

 

 結論、この街の住民は人もウサギもイロモノ揃いだった。

 




 ラブライブとごちうさのクロスワールド、いかがだったでしょうか?
 今回のクロス回では、基本的にラブライブ側のキャラとごちうさ側のキャラの絡みをなるべく多くしようと心掛けていました。折角のクロスオーバーなので、それぞれのグループ同士だけで物語が進んでいくと勿体無いですしね。それゆえに、零君の出番が終始控えめとなってしまいました。この作品の主人公なのに……。ですがそうは言っても地の文はすべて彼なので、あまりその印象はなかったかもしれません(笑)


 本日4月2日は『新日常』の連載が開始した日、つまり一歳の誕生日記念ですね!
 前作の『日常』や『非日常』と比べると、読んでくださっている方の数が圧倒的に増え、お気に入り数や感想数、評価もハーメルンのラブライブ小説の中でトップクラスになるなど、今でも驚きが隠せません。それだけラブライブのハーレム小説を読みたいと思ってくださる方が多いということなので、ハーレム好きの私としてもとても嬉しいです!しかしハーメルンのラブライブ小説を代表する作品となったことに関しては、未だに若干ビビっていますけど(笑)
 完結の目標はサンシャインのアニメが始まるまでには……と思っていたのですが、このペースを考えるにそれは無理です!!できるだけ長続きして欲しい皆さんにとっては朗報なんですかね??

 最近は以前よりも投稿ペースが落ちてしまいましたが、また変わらぬ応援をしていただけると幸いです。そして、先日行われたラストライブの飢えをこの小説で凌いでもらえればと(笑)


 次回はまたしても一周年記念の特別編で、ガチハーレム回の予定です。これが私のハーレムの真髄だ!



新しく高評価を下さった

雄斧クミンさん、ペンギン#913さん、Taiga1109さん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【小説一周年記念】μ's完全支配

※注意※
 今回はそこそこハードな描写があるので、気分を害されたらすぐに後書きまで飛ばすことを推奨します。


 ハーレムタグが付いてないのにハーレムしてないラブライブ小説が最近増えてきたので、ここらで私が本当のハーレムを見せてあげましょう!

 遅れましたが『新日常』一周年記念ということで、いつもは書けないような作風と描写で執筆してみました。サブタイ通り、万人受けするネタではないので、読むのか読まないのかは適宜見定めてもらうようお願いします。

 また、後書きにて告知があるので、この話を飛ばされる方も後書きだけは是非ご覧下さい。

※番外編なので、本編との関連はありません。



「どうしたの零くん?こんな素敵な空間に呼び出してくれるなんて……」

「よぉことり。素敵な空間と言っても、ただの校舎裏だろ」

「でも校舎裏って、なんか意味深な響きがしない?」

「そうだな……」

 

 

 先程の会話から分かってもらえるように、俺はことりを音ノ木坂学院の校舎裏へと呼び出した。

 

 その理由は、単刀直入に言うと――――我慢できなくなったんだ。

 よく考えてみろ、俺の周りには俺のことを慕ってくれる女の子たちがたくさんにいる。しかもその一部はことりみたいに、他人に自分の痴態を見られても俺への愛を示す、古臭い言葉で言えば俺にゾッコンだということだ。もちろんそれ以外の子たちも、俺への愛が溢れ出ていることに変わりはない。

 

 

 そこで俺は悟った。そこまで俺に愛を向けてくれる彼女たちを、今まで放置してきたのは馬鹿だったんじゃないかと。ちょっとでも手を伸ばせば彼女たちを俺の手中に収めることができるのに、これまでしてこなかったとは愚の骨頂。

 

 ハーレムを作ろうと思って彼女たちの告白を受け入れた訳ではない。図らずともいつの間にか勝手にハーレムが形成されていたのだ。

 

 

 

 

 だったら、それを利用しない手はない。

 

 

 

 

 彼女たちを俺専用のメイドでもいい、奴隷でもいい、肉便器でもいい、とにかく俺のモノにする。そう考えるだけでも凄まじい背徳感でゾクゾクしてきた。止められない、止めるつもりもない。俺がμ'sを支配する。もう俺以外の誰も見られなくなるよう、たっぷりと彼女たちの心を俺好みの色に染め上げてやる。

 

 

 だからまずはその礎として、既に俺に支配されていることりを呼んだ訳だ。

 

 

「ことり……」

「零くん?なんだか今日は雰囲気が――――きゃっ!!」

 

 

 俺はことりを壁に追い詰め、腕と身体で彼女を囲い逃走不能にさせる。

 目的の実現のためには、まずは俺の命令に忠実に従ってくれる子が最低1人でも必要だ。それを彼女に任せる。もう俺に身も心も支配された彼女なら、反発することなく俺に協力してくれるだろう。そう、μ'sを俺の支配下に置く、この計画に……。

 

 

 そして唐突に、俺は彼女の唇を自分の唇で塞いだ。あまりにも突然すぎて驚いたのか、ことりは目を丸くして俺の顔を凝視する。いつもは必死に淫乱アピールをしても校内では決してやってもらえないのに、今日は俺の方から直々にキスをしてきたから困惑するのも無理はない。

 

 

「ふぁ、んんっ……!!」

 

 

 ことりも次第に俺を受け入れ、今度は自分から激しく吸い付いてくる。

 俺を気持ちよくさせようという心意気は合格。だったらこっちからももっと快楽の底に沈めてあげよう。

 

 

 俺は右腕を壁から離し、そのままその右手をことりの胸へ飛び付くように鷲掴みにする。彼女の嬌声が校舎裏に響き渡る中、更に俺は左手を彼女のスカートの中へと侵入させた。そして人差し指を使って、パンツの上から彼女の大切な部分をゆっくりとなぞり焦らせる。容赦なんて一切ない、彼女は俺のモノなんだから。俺が思うがまま、欲望のままに彼女を俺の手で堕としていく。

 

 

「あっ!あ、はぁ……あんっ!!」

「俺に協力しろ。μ's全員を俺のモノにする、この計画に……」

「ふぁ、んっ、あっ……やんっ!!」

「いつまでも喘いでないで、早く誠意を示せ!!俺の奴隷になると、この場で誓え!!」

「はぁ、あっ……も、もちろんだよ、零くんの命令なら……んっ♪」

「ご主人様だ!!」

「あっ、そこぉ……ひゃっ!も、申し訳ございませんでした、ご主人様ぁ……」

 

 

 予想通り、ことりはすぐに堕ちたな。これで俺の野望のカウントダウンが始まったってことだ。まあ、彼女たちを堕とすことなんて俺にとっては造作もないことだが。それにどうせ堕ちるのなら、俺の興奮を最高潮にまで高めてもらわなければ。今からでも俺に服従する彼女たちの姿が楽しみだよ。蕩けた表情で俺に奉仕を懇願する、その姿もな……。

 

 

「さあことり、全部脱いで」

「え……」

「もう我慢できないんだ。ここでお前は俺のモノだという証を刻み込む」

「ということは、とうとうことりの夢が……」

「早く脱げ、命令だ!!」

「はいっ!ことりの初めて、貰ってください♪」

 

 

 そうだ、責任だとか何だとか、余計なことを考える必要なんてもうない。自身の欲望に忠実となって、俺がやりたいことをする。ただそれだけだ。もう誰も逃れられない、逃すつもりもない。俺の言いなりとなり一生を過ごす牝として、俺が全員を調教してやる。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「な、なんなのよ、これ……」

 

 

 真姫が部室に入ってきた瞬間、彼女の顔色が一気に真っ青になった。

 それもそのはず、ここはいつもの部室であっても雰囲気だけはいつもと違って、淫らで妖艶な熱気に包まれているからだ。

 

 

「花陽、凛、あなたたち、何してるのよ……」

「何って、零くんにご奉仕してるんだにゃ~♪」

「それが私たちの役目だから」

 

 

 凛は半裸の状態で俺の膝の上に跨り、その小さな唇を目一杯使って俺の唇に吸い付いている。花陽は上半身の服を全て脱ぎ捨て、後ろから胸を押し当てながら、俺の肩を揉んでマッサージをしてくれている。俺の言葉1つで、彼女たちは躊躇いもなくこのような奉仕をしてくれるのだ。

 

 

「んっ、ん……はぁ、零くん激しすぎるよぉ~」

「その割には嬉しそうに見えるけど?」

「えへへ……だって零くんとのちゅーは、頭がぽわぽわするから気持ちいいんだぁ~」

「キスだけで昇天するのは早いぞ。本番はまだまだこれからだ」

「零君、私もそろそろして欲しいな♪」

「花陽もありがとう。やっぱお前のマッサージは最高だ。いいお嫁さんになれるぞ」

「そ、そ~お?零くんの専属奴隷として、一生傍でお仕えするね♪」

 

 

 もう凛も花陽も、俺の牝奴隷としての役目を十分に全うしている。特にこの2人はことりとは違って、優しく対応をしてあげることで、俺への愛情をより増幅させることができるのだ。甘い言葉を掛けてあげれば

すぐにデレデレになるしな。だからこの2人を堕とすのは、ことりの力がなくても容易だった。

 

 

「そんな、花陽も凛もどうして……零、あなた一体どういうつもりなのよ!?」

「そんなの、零くんがμ'sのご主人様だからに決まってるよ」

「こ、ことり!?いつの間に!?」

 

 

 真姫は突如として現れたことりに、後ろから抱きつかれる。しかしことりは真姫を逃さないようにガッチリとホールドしているため、抱きつくとは少し語弊があるか。とにかくことりは薄ら笑いを浮かべながら、真姫の耳元にくすぐるように囁く。

 

 

「ことりも花陽ちゃんも凛ちゃんもね、心と身体をご主人様に捧げ、ご命令には絶対服従することを誓ったんだよ。牝奴隷としてお仕えし、性奴隷として心を込めて身体でご奉仕することもね」

「そんな……」

「だから真姫ちゃんもご主人様のモノになろ?ご主人様が抱いている真姫ちゃんへの愛は間違いなく本物だから、きっと真姫ちゃんも気持ちよくなれるよ。真姫ちゃんも零くんのこと、大好きでしょ?」

「っ……」

 

 

 やはり真姫は一筋縄ではいかないか。素直になれない性格のせいだろうが、俺としては抵抗する女の子を徐々に懐柔させていくその過程を楽しめるから、全然問題ないけどな。

 

 

「迷っているのなら、実際にご主人様からの寵愛を受けてみるといいよ。えいっ!!」

「きゃっ!!」

「は~い!真姫ちゃんご案内だにゃ~♪」

「早く零君のモノになって、私たちと一緒に気持ちよくなろ?そして一緒に零くんにご奉仕しよ?」

「凛、花陽、あなたたちまでそんなことを……」

 

 

 真姫はことりに背中を押され、俺の前にまで押し出される。そして今度は凛と花陽に両脇からガッチリと掴まれた。

 一番の親友である2人に誘惑されて、彼女の心は大きく揺らいでいるようだ。初めは反抗的な目をしていたのに、今の彼女の目は困惑で淀んでいる。俺のことが少しでも好きだという気持ちがある限り、抵抗なんてできないはずだ。

 

 

「真姫……俺はお前が欲しい。俺を愛しているというのなら、俺の愛を受け入れてくれ。」

「わ、私は……」

「しょうがない。言っても分からないなら――――」

「んんっ!!」

 

 

 俺は真姫の身体を抱きしめ、彼女の唇に自分の唇を押し当てる。そして間もなく自分の舌を彼女の口内へと滑り込ませ、いわゆるディープなキスで執拗に攻め立てた。もう既にお互いの唾液が大量に分泌されて、部室内に唾液の交わる卑猥な音が響き渡る。

 

 更に唇だけではなく、俺の手に合うその程よい胸も強く刺激してやる。指を胸に食い込ませる度に、彼女の口から甘い喘ぎ声が漏れ出した。その声をもっと聞きたくなって、俺は凛と花陽に真姫の制服を脱がすように促す。もちろん2人は俺の命令を嬉しそうに受け入れ、真姫のブレザー、シャツ、リボンを丁寧に脱がしていった。

 

 そして、顕になった彼女の胸。もちろんこれも全て俺のモノだ。

 

 

「はぁ、はぁ……そ、そんな直接ぅ……はぁんっ!」

「真姫ちゃん、とっても気持ちよさそうだね♪あっという間に零くんの虜になってるにゃ~」

「だって大好きな零君から愛情を注がれているんだもん。仕方ないよ♪」

 

 

 快楽に堕ちる女の子はいい。俺の興奮を限界以上に上昇させてくれる。俺自身の手で彼女たちを快楽の底へ堕としていると思うと、その興奮も収まらなくなる。いい声で鳴いてくれ!もっと俺を楽しませろ!!

 

 

「フフフ、さっすがことりのご主人様!これは真姫ちゃんがご主人様の牝奴隷になる時も近いね♪」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 教室棟から離れた空き教室。そこでも俺の快感を引き立たたせる女の子の嬌声が、廊下にまで響き渡っていた。ことりとは違うもう1人、俺が仕向けた奴が上手くやってくれているようだ。

 

 俺は再び湧き出てきた内なる欲望を胸に抱き、空き教室の扉を開けた。

 

 

「あっ、お兄ちゃん!」

「どうだ楓?雪穂と亜里沙の様子は?」

「もうね、2人共とろっとろだよ!お兄ちゃんがいつでも抱ける状態にしておいたから♪」

「ご苦労、よくやった」

「えへへ、だから私にも……ね♪」

「もちろん。でもまずはこの2人の調教からだな……」

 

 

 楓には、雪穂と亜里沙の相手を任せていた。2人の上半身は全て脱がされており、まだ成長途中の胸が剥き出しになっている。この胸をこれからどう成長させていくのか、俺の楽しみの1つでもある。どうであれ俺専用の胸であることに変わりはないが。そして下半身はスカートを穿いてはいるが、床にペタンと座り込んでいるからか、パンツが丸見えとなっていた。

 

 楓にはいつやらか俺の家で使っていたバイブレーターを渡して、それを2人の胸や下半身に当てるだけの簡単なお仕事を任せていた。そして既に2人の顔は真っ赤に火照り、身体をビクビクと震わせている。

 

 そうだな……どれだけ快楽の虜になっているのか、2人の身体を触ってみるか。まずは亜里沙から。

 

 

「ひゃっ!!あぅ……」

「おぉ、想像以上に乱れてるな。そんなに気持ちがいいのか、俺に触られるのは」

「はい……もうさっきから身体が熱くなって、興奮が止められないんです!しかも零くんが教室に入ってきてから、胸もずっとドキドキしています……」

「なるほど、亜里沙は既に準備OKって訳だな」

「はい♪私、零くんが来るのをずっと待ってたんです!こんな淫乱な私を、満足なさるまでオシオキしてください!そして零くんにもいっぱい気持ちよくなってもらえるように、私も心を込めてご奉仕させていただきます!」

 

 

 亜里沙の奴隷根性は、俺がここに来るまでに楓によって仕込まれたものだろう。元々亜里沙は俺への好意を隠すことなく、普段でも俺の言いつけはしっかりと聞くいい子だったから、あっさりと俺の手中に収まるのは当然と言えば当然だ。これからは俺専用の牝として、そのまだ未熟な身体をオトナに成長させてやろう。

 

 

「亜里沙……ダメ、だよ……」

「何がダメなの?雪穂も早くお兄ちゃんのモノになっちゃいなよ!こうしてずっと焦らされたくなければ……ね!!」

「あっ、あぁん!!はぁはぁ、それ以上は――――あ、あんっ!!」

 

 

 胸と下半身に大人の玩具を押し当てられ、雪穂は快感に支配された卑猥な喘ぎ声を漏らす。これまた真姫と同様にお堅い雪穂だが、それももう限界のようだ。亜里沙もそうだけど、雪穂のパンツもかなり濡れている。俺が来る前に一度てっぺんを迎えたに違いない。

 

 

「いい雪穂?私たちは心も身体の全てをお兄ちゃんに捧げ、永遠の愛と絶対の服従を誓わなきゃいけないの。どんな時でもお兄ちゃんの性欲を満たし続ける牝奴隷として、一生ご奉仕に努めるのが、私たちμ'sの役目なんだから!」

「そ、そんなこと間違って――――」

「お兄ちゃんに間違いはないの!!お兄ちゃんの言うことは絶対なんだから!!」

「ひゃっ!!か、楓、やめて……」

 

 

 下手に楓の怒りを買うと、こうして徹底的になぶり殺しされるから気をつけた方がいいぞ。特に俺を侮辱した瞬間、ソイツの命はなくなると思ってもいい。相手がμ'sの仲間だから、まだ快楽を与えるだけで済んではいるが……。

 

 

「なあ雪穂、我慢してなんになる?俺たちはお互いに愛を確かめ合った仲じゃないか。それでも、俺のモノになるのがイヤか?」

「違う……イヤじゃない、けど」

「まぁ、今から慣れていけばいいよ。一生俺に仕える、牝としての悦びを……」

「ふぁ、あ、んっ……」

 

 

 ここで俺は雪穂を優しく抱きしめた。しかし全身が性感帯になっている彼女にとったら、この軽い抱擁でも身体中に快楽が走ることだろう。その刺激で心が怯んだところに踏み込めば……あとの展開はお察しだ。

 

 

 こうして直に妹キャラ抜群のシスターズも、俺の支配下に収まることになるのは間違いないだろう。3人に"お兄ちゃん"と呼ばせながら、同時に奉仕させるのも悪くないな。

 

 

 それにもちろんまだ、これだけでは終わらない――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あっ、そ、そこは!ん、あっ!!」

「絵里ち、そろそろ限界と違う?声が段々色っぽくなってきたよ♪」

「むしろここまで攻められても首を縦に振らないなんて、いい度胸してるじゃない!」

 

 

 どうやらこっちはこっちで開発の準備を進めていたらしい。半裸状態の希とにこによって、絵里はパンツ以外の全てを脱がされ胸や下半身を攻められている。その光景を見ているだけでも満足はできそうだが、μ'sのメンバーは俺の手によって支配すると決めた。だから絵里を真の牝に堕とすのは俺の役目だ。

 

 ちなみに絵里に希とにこを差し向けたのは、もちろん俺の命令によるもの。にこは元々俺への奴隷精神は溢れていたし、希も甘く誘惑したらあっさり俺の牝になってくれた。

 

 

「零!遅かったわね!じゃあ早速――――」

「待て待て。お前はこの前散々愛してやっただろ?もう足腰が立たないくらいに、一晩中……」

「もうっ!思い出したら余計にアンタが欲しくなってきたじゃない!!」

「あの時のにこは顔が蕩けてたもんなぁ。自分から腰を振って、何度も何度も突かれて、卑猥な声を響かせながら中にどっぷりと――――」

「あっ、その言葉だけでも興奮しちゃうわ♪濡れちゃいそ……」

 

 

 言葉だけで興奮できるとは、にこの奴意外とM気質もあるのかもしれない。流石ことりと並んでオープンスケベだったことはある、俺への奴隷根性丸出しだな。

 

 

 さて、そろそろ絵里も俺に従順な牝奴隷にしてやるか。

 俺は近くにあった長椅子に腰を掛け、胸を顕にしているにこと希を俺の両脇に座らせる。そして彼女たちの身体の後ろから手を回して、2人の胸を乱暴に揉みしだく。

 

 

「ひゃっ!あぁああんっ!!」

「んあっ!はぁ、あああっ!!」

 

 

 これぞご主人様と奴隷って感じがしてゾクゾクするな。いずれはμ's全員を隣ではべらせることが俺の目標であり未来の展望。完全に私利私欲のためなのだが、彼女たちは自分の意思で俺に従ってくれっているので、咎められる言われもない。

 

 

「にこ……希……」

「ほら、絵里もこっちにおいで。もう常識とか体裁だとか、そんなものどうでもいいんだよ。ただお前は俺の性欲を満たしてくれさえいればそれでいい。それが俺に示す、一番の愛の形だ」

「はぁ、はぁ……そうすれば、あなたに悦んでもらえるの?私も、満足できる……?」

「もちろん。愛を受け取ったらこちらからも与えるのが普通だ。さっきからずっと身体が疼いて仕方がないんだろ?だったら俺の元へ来い。俺のモノになれば、至上の快楽をお前に与えてやる」

「………………」

 

 

 絵里は目を見開いたまま、その場を動かない。いくら考え込んでも、その疼く身体ではまともな思考を走らせることすらできないだろう。

 

 そしてすぐに動きがあった。

 絵里は四つん這いのまま俺の足元に近付くと、その場でゆらゆらと立ち上がる。はだけた服からモロ出しになっている胸が、その動きに合わせて揺れる様は艶かしい"美"を感じた。金髪、白い美肌、巨乳――――素晴らしいじゃないか。

 

 

「私は、どうすればいいの……?」

「にこと希が両脇なら、お前は前しかないだろ」

「前……?」

「俺に跨って抱きつけ。そして胸を押し当てるように俺の身体に倒れ込むんだ。俺に服従のポーズを見せてみろ」

「えぇ、分かったわ……」

 

 

 そして絵里は躊躇なく俺の膝の上に跨って、首に腕を回す。まあ俗に言うだいしゅきホールドってやつなのだが、胸が大きく程よい肉厚な身体を持つ彼女だからこそ、男と女の全身が密着するこの体位が輝くのだ。この状態で彼女が腰を振ってくれれば……もうどれだけの興奮が沸き立つのか、分かってもらえるだろう。

 

 

「れ、零ぃ~にこも相手してよぉ~……んっ!」

「はぁ……本当に零君は焦らすの上手なんやから……あ、んんっ!!」

 

 

 もちろんにこと希の相手をすることも忘れない。左手にはμ's最低ボリュームの胸、対して右手にはμ's最大級の胸と、2人の胸の差は触ってみるとより歴然だ。だが俺は胸の大きさなどどうでもいい。そう、ただ彼女たちが俺の手で屈服し、牝の声を上げる。俺を興奮さえさせてくれれば、それで満足なのだから……。

 

 

 大学生となり多少色っぽくなった3人も、俺の手に掛かればご主人様に従順な牝奴隷にすることなど造作もない話だ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そしてこれが最後の仕上げ。μ'sの中でも一番堅い彼女を俺のモノにするためには、やはり幼馴染たちの協力が必要だ。信頼できる味方である幼馴染たちが奴隷になっていることを知れば、彼女も従わざるを得ない。そんな状況を作り上げた。

 

 

「やっぱり海未ちゃんのお肌綺麗だなぁ~。穂乃果もこんなスベスベお肌が欲しいよぉ~!」

「そうだよねぇ~。普段どんなお手入れをしたらこんなにスベスベになるんだろうね?」

「穂乃果!ことり!勝手に服を脱がさないでください!!そ、それに変なところも……んっ、触らないで……」

 

 

 海未は部室の床に横にさせられながら、穂乃果とことりによって次々と服を脱がされていく。

 俺はそれを椅子に座って見下ろしながら見てるのだが、やはり女の子のストリップショーはいい。女の子が次第に肌を露出させ、妙に焦らされる感じが堪らないのだ。それに今回はその対象が大和撫子の海未だってこともあるんだろうな。艶かしくて、非常に愉快な光景だ。

 

 

「相変わらずいい身体だな海未。俺のモノになるには相応しい格好だ」

「零、あなたこんなことをしてタダで済むと……あっ、そこは!!」

「ほら海未ちゃん、もっとご主人様に蕩けた表情を見せて差し上げないと」

「そうだよ!早く零君の牝奴隷なって、ことりちゃんと3人で一緒にご奉仕してあげよ♪」

「うぅ……お、おかしいですこんなこと!!穂乃果もことりも、そして零も!」

 

 

 まあ海未がお堅くて抵抗も激しいことくらい、初めから読んでいたことだ。だからこの時のために、穂乃果とことり以外の別の手を用意してある。海未が俺に牝を示すための、そしてμ'sが完全に俺のモノになるための、最後の一手を。

 

 

 そこで部室に入ってきたのは――――

 

 

「真姫……」

「海未……そう、やっぱりあなたも」

「真姫、助けてください!!こんなことは間違っていますよね!?あなたならそれが――――」

「何を言ってるの?ご主人様の命令に従うのは、牝奴隷としての義務でしょ。いえ、私たちが生きる意味と言ってもいいわ。ご主人様に全てを尽くすこと、それが私たちμ'sの存在意義なのよ」

「え、あなた一体何を……!?」

 

 

 その驚きの反応も表情も、まさに俺の予想通りだ。自分同様俺の野望に反発しそうな真姫が、まさか俺に屈して牝奴隷に堕とされているなんて思わなかったのだろう。これこそが、海未の心や思考を最も掻き乱す手段。一度乱れたら困惑の渦からもう逃れられない。そうなったらあとは、俺がたっぷりと彼女の身も心も染め上げてやる。

 

 

「私は今とっても幸せよ。その幸せを噛み締めながら、自分の部屋のカーテン越しに窓の外を見下ろしてこう思ったわ。

 

通学している女子学生、会社に向かうOL、そしてスクールアイドルたち、みんなが哀れになる。きっと彼女らは一生牝奴隷としてご主人様にお仕えすることもなく、それどころか自分達がご主人様を持たない野良の牝とも気付かずに一生を送るのだろうって。私もその一人だったのだと思うとゾッとしたわ」

 

 

 海未は今どのような感情を抱いているのだろうか。μ'sの仲間の口から、直接奴隷宣言を聞いたその感想が気になるところだ。

 

 そんな彼女に更に追い討ちを掛けるかのように、穂乃果が胸を揺らしながら俺の元へとやって来た。そして座っている俺に優しく寄り添うように抱きつきながら、海未に囁くように呟く。

 

 

「一生奴隷、肉便器。こんなに幸せでいいのかって、逆に不安になっちゃった時もあったよ。でもご主人様は穂乃果たちを一生奴隷として飼ってくれるんだ。それだけでも穂乃果、ご主人様の奴隷になれてよかったよ♪」

 

 

 海未の表情は、恐怖のどん底に堕とされたかのように曇っていく。

 穂乃果、ことり――――幼馴染としてずっと一緒にいると言ってくれた彼女たちが、こうも簡単に自分を裏切るなんて思っていなかっただろう。それに自分の元を離れていったのは幼馴染だけじゃなくμ's全体だと知って、更に心が惑いに惑っているに違いない。

 

 

「ほら、海未ちゃんもご主人様に可愛がってもらおうよ!」

「ことり!?きゃっ!!」

 

 

 ことりは海未の身体を無理矢理起き上がらせると、そのまま背中を押して俺の元へと飛び込ませた。俺はそんな彼女の身体を右腕で抑え、自分の身体へと抱き寄せる。

 

 海未は既に上半身が脱がされているため、彼女の体温が直に俺へと伝わってくる。もちろん、彼女の引き締まった綺麗な身体を触らない訳にはいかない。

 

 

「ふぁ、んっ……!!」

「やっぱり自分で触ったり幼馴染に触られるよりも、恋人に触られた方が一番気持ちいいだろ?それはな、お前が俺のモノだって証拠なんだ」

「あぁっ!んっ、あっ!」

 

 

 俺の手は、海未の太ももを伝ってスカートの中へと侵入する。パンツの上から彼女の割れ目を指でなぞってみると、触る前からぐちょぐちょに濡れていたらしく、指の先が一瞬で湿っぽくなる。あそこまで抵抗を重ねたお堅い彼女も、所詮は牝。俺に期待を抱いていたって訳だ。

 

 

 すると左から穂乃果が、後ろからことりが腕を回して俺に強く抱きついてきた。

 

 

「海未ちゃんばっかじゃなくて、穂乃果も可愛がってよぉ~!」

「そうですよご主人様。ことりたち、嫉妬しちゃいます!」

「分かってる。海未を堕とす手伝いをしてくれたんだ、ちゃんとあとからご褒美をあげるよ」

 

 

 親子丼や姉妹丼があるなら、幼馴染丼っていうのもアリかもしれない。直に海未も俺の奴隷になってくれるだろうし、その実現ももう目の前だ。

 

 そして海未が堕ちれば、μ'sを完全に俺のモノにすることができる。大勢のスクールアイドルとファンの憧れの的であり、女神として讃えられる彼女たちを、牝として堕とすこの快感は堪らない。もう女神たちを性の塊へと変える背徳感を味わえないのは残念だが、これからは彼女たちの身体を使って俺の性欲をたっぷりと発散させてもらおう。

 

 

 μ'sの裏の顔、それは1人の男に一生ご奉仕をし続ける牝奴隷。俺たちの"愛"は、もう決して揺らぐことはない――――――

 

 

 

 

「海未。俺のモノに、なってくれるな?」

「はぁ、あんっ!はぁ、はぁ…………はい……んっ!」

 

 

 

 

 俺のμ'sハーレムは、もうすぐ完成する。

 




 ここまで全部読んでくださった方も、飛ばしてここまで来られた方もお疲れ様でした。


 何故こんなネタで話を執筆しようと思ったのか、その理由としては単純で、単に私がこういった調教/奴隷モノが大好きだからですね(笑)
通常の回でもそのような傾向が強いので、もしかしたら知っていた方も多いかもしれませんが。それにTwitterでは思いっきり暴露してますし(笑)

 『新日常』投稿一周年のお礼は前回ダラダラと書いたので、今回は割愛させていただきます。


 そしてここからは告知です。

 ハーメルンで"ラブライブ!"そして"ラブライブ!サンシャイン!!"の小説を執筆なさっている鍵のすけさんの企画で、サンシャインの短編小説を執筆することになりました。
この企画は以前私が主催した企画と似たようなもので、ハーメルンのラブライブ作家、また普段はラブライブ以外の小説を投稿している作家さんも多数参加予定です。

 まだ投稿日時は決まっていませんが、私のサンシャイン小説が投稿された際には、是非そちらにも感想をくださると嬉しいです!

 企画についての情報は入り次第、今後の後書きにて掲載していきます。


 次回からこの小説はようやく新章に突入します!
 雪穂、亜里沙、楓との恋愛が主軸になる予定ですので、是非ご期待を!


新たに高評価をくださった

こーさかほたかさん、K.U@LL!さん、takanistさん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シスターズの1日お兄ちゃん!?

 今回から新章に突入します!
 この章のメインがシスターズになるので、一発目もシスターズとのお話から。サブタイ通り、妹キャラ増し増しでお送りします!


 妹とはいいものだ。

 

 朝は"おはよう"と元気な声で起こしてもらい、手作りの朝食をご馳走になる。『寝巻き』+『エプロン』姿は破壊力満天だ。その後は一緒に登校し、学年の違いで離れ離れにはなるものの、昼には愛妻弁当ならぬ愛妹弁当で腹と心を満たす。そして放課後は部活を共に頑張って下校。夜にはまた2人で食卓を囲み、風呂でお互いの身体を洗いっこ。1日の締めに妹のカラダを使って己の欲望を吐き出し、最後はベッドに添い寝してもらう。

 

 

 妹がいる男は毎日こんな生活をしているんだ。え、違う?俺はさっきの説明の半分くらいは経験しているんだが、理想が高すぎたか……。

 

 

 俺が唐突にこんなことを言いだしたのは、これまた突然、亜里沙がブッ込んできたとある発言からだった――――

 

 

「零くん!私のお兄ちゃんになってくれませんか?」

「嬉しさで舞い上がってすぐにでもなってやるところだが、一応理由を聞いておこう。下手にお前に手を出して、シスコンの絵里に抹殺されるのだけは避けたいから」

「お姉ちゃんはそんなことしないと思いますけど……とにかく、私、お姉ちゃんだけじゃなくてお兄ちゃんも欲しいなぁって思ってたんですよ!そしてそんなことを頼めるのは、零くんを置いて他にはいないですから!!」

「そうか、そこまで俺にお兄ちゃんになって欲しいのか……いいだろう!俺に尽くしてくれる可愛い妹が増えるならそれでいい。だけど、1つだけ条件がある」

「条件?」

 

 

 俺は首をかしげる亜里沙を他所に、自分は関係ないとお茶を啜っている雪穂に向かって指を差す。自分に話が振られると思っていなかったのか、彼女は軽くお茶を吹き出しながら反応した。

 

 

「な、なんですか……?」

「お前も俺の妹になれ。どうせならお前ら1年全員のお兄ちゃんになってやる!」

「別にお兄ちゃんが欲しいと思ったことはないので、お断りします」

「えぇ~!?お願い雪穂!!折角零くんの妹になれるチャンスなんだよ!?」

「亜里沙……零君の妹になるってことがどういうことか分かってる?兄という特権を利用して、何をされるか分かったもんじゃないよ」

 

 

 ひでぇ奴だなお前……だが確かに妹萌えの俺としては、雪穂と亜里沙に甘い声で"お兄ちゃん"と呼ばれるだけで心がキュン死して、そのまま妹たちを押し倒してしまうかもしれない。萌えも興奮も性欲に自動変換される人種なものでね……。

 

 

「でも、零くんになら何をされてもいいっていうか……零くんとなら許せるというか……」

「亜里沙!?なに言ってるの!?」

「雪穂も零くんに告白したんでしょ?好きなんだよね、零くんのこと?」

「そ、それは……そ、そうだけど……」

 

 

 雪穂の顔が燃え上がるように真っ赤になった。

 告白されたことは事実だが、他の人の口からその事実を突きつけられるのは確かに恥ずかしいわな。

 

 

「お願い雪穂!1日だけ、1日だけ私と一緒に零くんの妹になって!お願い!!」

「う~ん……しょ、しょうがないなぁ~」

「やった!ありがとぉ~雪穂ぉ~!!」

「悩んでるフリをしてたけど、口角が上がってるよ?雪穂もお兄ちゃんの妹になりたかったんじゃないのぉ~?妹になれて嬉しいんじゃないのぉ~??」

「か、楓は黙ってて!!」

 

 

 雪穂の奴、俺や楓にはとことん厳しいくせに、亜里沙には滅法弱いんだよなぁ。海未がことりに、真姫が花陽に弱いのと一緒で、おっとりぽわぽわ系には反抗できないのがμ'sのお堅いメンバーの特徴らしい。俺も不思議ちゃん系になってみようか――――うっ、想像して吐き気がしたのでやめた。

 

 

「俺の妹になるからには、真の妹道を極めてもらう!そのために楓からしっかり妹としてのノウハウを学んでおけよ」

「お兄ちゃんに尽くす専属妹として生きてきて早16年。2人のカラダにお兄ちゃんの魅力をたっぷりと注ぎ込んであげるよ♪」

「なんか一気に妹やめたくなってきたんだけど……」

 

 

 そんな訳で、雪穂と亜里沙は明日の休日に俺の家で1日妹体験をすることとなった。

 妹となった2人に何をさせるべきか、じっくりと考えておかないといけないな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん起きて!」

 

 

 んん……なんだこんな朝早くから。いつもの休日なら俺が勝手に起きてくるまで、楓は俺の安眠を絶対に妨害しないはずなのに、今日は何故俺を起こしてくる?

 

 

「お兄ちゃん。お兄ちゃ~ん!」

 

 

 違う!これは楓じゃない!!

 楓だったら俺に気持ちよく起きてもらうために、身体を一定のリズムに従って揺らしてくれるはずだ。だけどこの身体の揺らし方のリズムは不規則、明らかに楓じゃない。

 

 意識が夢の世界から現実へと戻り、ようやく"お兄ちゃん"と呼ぶ声が誰のものなのかがはっきりとしてきた。このあらゆる男の心をくすぐりそうなふるゆわボイスの正体は――――

 

 

「亜里沙か……」

「あっ、やっと起きた。おはようございます!お兄ちゃん!」

「うぐぅ……」

「ど、どうしたんですかお兄ちゃん!?口に手を当てて……」

 

 

 亜里沙に笑顔でお兄ちゃんと言われ、久々に口から血を吐いてしまいそうだった……。彼女の妹キャラが際立っていることは知っていたが、実際に元気な声で"お兄ちゃん"と呼ばれると、猛烈に来るものがあるな。こんな天使のような笑顔の少女に妹キャラでモーニングコールされてみろ、死ぬぞ本当に。

 

 

「そういや、どうしてこんな朝早くから俺の家に?」

「楓が教えてくれたんです。『まずお兄ちゃんを起こすことが、1日の最初の仕事だからね。お兄ちゃんに気持ちのいい朝を迎えてもらうためには、妹からのモーニングコールが一番なんだよ!』って言われまして……」

「それでこんな朝っぱらから俺を起こしに来たってことか

「休日なのに早く起こしてしまって、迷惑でしたか?」

「いいや、そんなことないよ。むしろこんなに可愛い妹に起こしてもらえるなら嬉しいって!」

「ありがとうございます!お兄ちゃん!!」

 

 

 何故お礼を言われているのかは分からないけど、俺もお世辞で言っている訳じゃないからね。妹だけに限らないが、朝起こしてくれる女の子っていいじゃん?起きたら目の前に美少女がいるって状況だけでも今日1日頑張れるしな。それに目覚ましで無理矢理起こされるよりも、よっぽど清々しい朝を迎えることができる。

 

 

「それじゃあ、朝のご奉仕をしますね♪」

「ご、ご奉仕……?」

「恥ずかしいですけど、お兄ちゃんの妹として精一杯頑張ります!!」

「えっ……?」

 

 

 一体何を言っているのか理解に苦しんでいたが、亜里沙がしようとしていたことはこのあとの行動ですぐに分かることになる。

 

 彼女はベッドに乗り込み俺のズボンに手を掛けると、そのまま脱がそうとしてきたのだ!!

 

 

「ちょっ、ちょっと!?急に何すんだ!?」

「へ?楓が言ってましたよ。男の人のア、アソコは、起床した時に膨らんで苦しいはずだから、しゃぶって元の大きさに直してあげてって……うぅ、やっぱり恥ずかしい!!」

 

 

 羞恥で顔を染める亜里沙は非常に愛おしいのだが、楓の奴、やっぱり変なことを亜里沙に叩き込みやがったな。妹道を教えてやれと言った時、人間とは思えないほど悪い顔をしていたから、なんとなく察しはしていたが……。

 

 

「いわゆる朝勃ちってやつだね!」

「言っちゃったよ……ていうか楓、お前いたのか」

「亜里沙がちゃんとお兄ちゃんにご奉仕してあげられるかなぁって心配してたけど、問題なかったみたいだね。あとは2人でごゆっくり~♪」

「お兄ちゃんに満足してもらえるように頑張りますね!」

「本気かお前……」

 

 

 本当に、マジでしゃぶってくれるっていうのか!?確かに亜里沙の妹キャラが衝撃的過ぎて、俺の下半身が反応していることはしている。しゃぶってくれると聞いた途端、俺の下半身の角度が跳ね上がりもした。俺は、亜里沙のおしゃぶりに期待している!いつかはμ'sの全員にやらせるつもりだったが、今この瞬間に夢の1つが叶ってしまうのか!?しかもまだ恋人ではない亜里沙と!?

 

 いつかしゃぶってもらうなら、今この場でしゃぶってもらっても変わらないだろう。亜里沙の小さなおクチで清めてもらいてぇ……。

 

 

「ダメです!!」

「ゆ、雪穂!?」

 

 

 部屋の入口で、雪穂が腕を組みながらこちらを睨みつけていた。

 例え俺の妹になったとしても、傀儡にだけはなるつもりはないらしい。見上げた精神だが、果たして本心ではどうなのかな?

 

 

「そうかそうか、お前もそんなに俺のアレをしゃぶりたかったのか。そうだよな、亜里沙1人だけじゃ不公平だもんな」

「ち・が・い・ま・す!!」

「顔が赤くなってるぞ。やっぱりお前も素直じゃないなぁ~。したいならシたいって言わないと損するぞ?」

「さっきイントネーションがおかしいところがあったような……とにかく!朝食ができたので早くリビングに来てください、お兄ちゃん!」

「おぉ……」

 

 

 あの雪穂が躊躇わずに俺のことを"お兄ちゃん"だって……なんか普通に照れてしまう。ただ彼女も恥ずかしくないことはないみたいで、お兄ちゃん呼びをした直後から目がかなり泳いでいる。でも詰まらずに言えたということは、昨日自分の部屋で俺の写真を見ながら、何度も"お兄ちゃん"呼びの練習をしていたに違いない。そう思うと急に彼女を抱きしめたくなってきたな。

 

 

「分かった。お前のお兄ちゃん呼びで落ち着いたし、雪穂の愛妹飯をいただくことにするよ」

「別にしたいとか思ってない、思ってないから……」

「お~い、なにブツブツ言ってんだ?」

「なんでもないです!!早く支度して降りてきてください、馬鹿お兄ちゃん!!」

「お、おう……」

 

 

 まさか罵られるとは思ってなかったけど、これはこれで妹って感じがしていいな。実際に雪穂はちょっと生意気っぽいところもあるし。

 

 

 それにだ、やっぱ妹って最高だわ!!特に兄に誠意を持って尽くしてくれる妹はね。楓から笑顔で"お兄ちゃん"と呼ばれるだけでもドキッとするのに、更にこの2人まで加わったら俺、ドキドキで心臓破裂しちゃうんじゃないか?それでももうこのまま雪穂と亜里沙を俺の妹にしてしまいたいくらいだよ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「うお~すげぇいい匂いするじゃん!」

「雪穂、朝早くから来て頑張って作ってたもんね!お兄ちゃんに食べてもらいたい一心で……」

「もうっ!余計なこと言わなくていいってば!!」

 

 

 なんだ、やっぱり雪穂もちゃんと俺の妹をしているじゃないか。それにお兄ちゃんのことを想い、真心を込めて朝食を作ってくれただなんて、どこまで俺を妹萌えにさせれば気が済むんだシスターズたちよ。本当は俺って妹に甘えられたい人種なんだけど、さっきから逆に俺が妹たちに甘えたいくらいだ。このままだと妹依存症になっちゃいそう……いやもうなってるか。

 

 

 そして俺、楓、亜里沙は席に着き、雪穂は台所でご飯や味噌汁などの盛り付けに取り掛かった。

 台所をせっせと動き回るエプロン姿の雪穂に、またしても俺の心臓が高鳴ってしまう。でも分かるよな?エプロン姿の妹の素晴らしさを。

 

 いつもはここからエプロン姿の楓を眺めているのだが、その姿を視姦するのは決して飽きない。妹でありながらも俺を包み込んでくれるお姉さん的な優しさを、唯一感じられる瞬間なのだ。

 

 

「はいどうぞ、お兄ちゃん」

「おおっ、ありがとな雪穂」

「えっ……う、うん、こちらこそ……」

 

 

 俺が素直に褒めてくれるとは思わなかったのか、雪穂は頬を染めたままそっぽを向く。言動にはあまり現れないが、頬が緩んでいるところを見る限り、内心では喜んでいるに違いない。可愛い奴め!!

 

 

 俺の前に並べられたのは、先程から香ばしい匂いが漂っていた、朝食のメインであろうサバ味噌、そして白米に味噌汁、野菜たっぷりのおひたしサラダだ。いかにも和菓子屋の娘と言った和食のラインナップ。普段は洋食なことが多い俺にとってはここまでガッツリとした和食は久しぶりなので、期待と共にもう既に口内に唾液が分泌されてしまう。

 

 

「それじゃあお味を拝見させてもらうか。いただきます!」

「…………」

「どうした雪穂?お前も早く座って食べようぜ」

「いや、そのぉ~……」

「ほら雪穂、私教えてあげたでしょ?食事の時、妹がお兄ちゃんにしてあげなきゃいけないことを」

「分かってるけどさぁ~……うぅ、あ、あのお兄ちゃん!!」

「あ、ああ、なんだ?」

「私が……食べさせてあげます!!」

 

 

 ホワッツ!?それって妹じゃなくて、もはや彼女とか愛妻の域なのでは!?

 それにだ、そもそも食事の時はいつも普通に食べてるんですけど!!楓に食べさせてもらったことなんて、おふざけの時以外は一度もないぞ!?

 

 

 しかしエプロンの裾を両手でギュッと握っている雪穂の姿。愛おし過ぎてこのまま抱きしめたくなっちまう。さっきから同じことしか言ってないような気もするが、本当に可愛いんだよ!!語彙力が行方不明になるくらい、妹たちの愛くるしさに心を奪われている。

 

 

「ダメ……ですか?」

「ダメなもんか!むしろ是非やってくれ!!さあ!!俺の口はお前が愛を込めて作ってくれたサバ味噌を待ってるぞ!!」

「愛ってそんな……でもお兄ちゃんのことを想って作ったのは、間違いないかな」

「デレてる。雪穂がデレてる!!」

「もうっ!あ~んしてあげませんよ?」

「それは全力で謝る!!なんならこの場で土下座することも厭わない」

「妹に土下座ってプライドないんですか……だけどそこまで期待してくれると、私も嬉しいです♪」

 

 

 ふとした瞬間に現れるツンデレっ子の笑顔。ズルい、本当にズルいよその優しい笑顔はよぉ……。

 

 雪穂は箸を持ってサバ味噌を綺麗に切り分けると、左手を添えながら箸を俺の口元まで持ってくる。

 見た目は普通のサバ味噌のはずなのに、朝の光が差し込んでいるからか、はたまた雪穂が作ってくれたものだからだろうか、サバ味噌が宝石のように輝いて見える。あまりにも高級感溢れる見た目から、俺は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 

「はいお兄ちゃん、あ~ん」

 

 

 雪穂の掛け声と共に俺は口を開き、彼女の運んでくれたサバ味噌を遂に口の中に招き入れた。

 楓が作ってくれたサバ味噌とは違い、かなり煮込んであるようで味が濃い。しかしこの味の濃さも、雪穂が俺に込めてくれた愛情の濃さだと思えば尚更美味しく感じる。腹だけでなく心まで満たされそうだ。

 

 

「楓以外のサバ味噌が、ここまで美味しいと思ったことは初めてだ。美味いよ雪穂」

「ありがとうございます!えへへ♪」

 

 

 すげぇ頬緩んでますけど雪穂さん。そこまで照れられると、素直にお礼を言ったかいがあるというものだ。よし、このまま雪穂も亜里沙も俺の妹として生きることを許してやろう。一生お兄ちゃんのために尽くす、可愛い妹になってくれ。と言ったら、穂乃果と絵里に何を言われるのだろうか……。

 

 

「雪穂のあんな可愛い笑顔、久しぶりに見たかも。料理を褒めてもらうのってそこまで嬉しいんだ」

「当たり前でしょ。お兄ちゃんに褒めてもらうことこそ、妹としての一番の喜びなんだから」

「楓がお兄ちゃんに尽くす気持ちが私にも分かった気がするよ。私も料理が上手くなるよう頑張らなくっちゃ!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 なんだかんだで1日はあっという間に過ぎ去っていった。ゲームをしたり買い物に出掛けたりと、いつものグダグダな休日が嘘のように充実していた。俺としてはみんな一緒にお風呂に入るという、仲良し兄妹特有のフラグイベントを期待していたのだが、雪穂と亜里沙の羞恥心の限界を考えると、流石に混浴はお流れとなってしまった。

 

 

 そして、とうとう就寝前を迎える。シスターズの1日お兄ちゃんも、もうこれで終わりと思うとしんみりしてしまう。特に別れがある訳でもなく、明日からも普通に雪穂や亜里沙と一緒にいられるというのに……。

 

 

 その時、俺の部屋のドアがコンコンとノックされた。

 

 

「入っていいぞ」

 

 

 ドアがゆっくりと開かれ、中に入ってきたのは――――楓だった。

 いつも見慣れているはずのパジャマ姿にいつも通り見惚れていると、楓はそのままズカズカと俺の部屋に入り込み、俺の左隣に密着するようにベッドに腰を掛けた。

 

 

「どうだった?雪穂と亜里沙の妹っぷりは?」

「流石お前が仕込んだだけのことはあるよ。まあそんなことしなくても、あの2人なら天然のまま俺の妹になれる素質はあると思うけどな」

「お兄ちゃんがよくても、私はそれじゃあダメなの!お兄ちゃんの前で生半可な妹なんて許さないから」

「お前はホントによくできた妹だよ……」

「お兄ちゃんのためのお兄ちゃんに尽くすお兄ちゃんだけの妹ですから!」

 

 

 楓はある胸を張って自慢げな顔をする。ここまで兄を慕ってくれる妹は、いくら世界を探し回っても楓以外には存在しないだろう。思えば1年前1人暮らしをしていた時は、かなりズボラな生活をしていたと今になって感じるよ。楓がいてくれるからこそ、この充実した生活が送れているのは間違いない。楓がお兄ちゃん依存症になっているのはもちろんだが、俺も十分なシスコンかもな。

 

 

「私、お兄ちゃんのためなら何でもするよ。だってお兄ちゃんのことが好きだもん。兄としても、異性としても……」

「俺もだよ。楓も雪穂も亜里沙も、いずれは俺の妹として、そして恋人としてもたっぷり可愛がってやるから」

「お兄ちゃん……お兄ちゃ~ん!!」

「うぐっ!!」

 

 

 楓は横から俺に覆い被さるように抱きついてきた。さっき風呂から出たばかりだからか、女の子特有のシャンプーのいい匂いが俺の精神を惑わせてくる。そしてどことなく艶かしく思えるのは、俺の心が邪に満ちているからだろうか……?

 

 

「楓だけズルいです!私も抱きしめてください!お兄ちゃん!!」

「亜里沙!?いや抱きしめられてんのは俺なんだけど!?ていうかいたの!?」

「部屋の外で聞いてましたから。そんなことより、私も行きますよ?えいっ!!」

「うがぁ!!」

 

 

 亜里沙は俺の真正面から突撃するように抱きついてきた。彼女はシスターズの中では一番小柄なため、身体を抱きしめると俺の全身にすっぽりと余裕で収まる。絵里と同じ血を引く彼女のこと、今後はみるみる成長していくだろうから、こうして抱き枕にできるのも今の間だけか。だったら今の内にたっぷりと彼女の身体を味わっておかなければ。

 

 

 すると、俺の右袖が何度か引っ張られていることに気が付く。

 いつの間に俺の部屋に入ってきたのか、右隣には雪穂がベッドに腰を掛け、頬を紅潮させながら俺の服の袖を親指と人差し指で摘んでいた。

 

 

「あ、あの……私も甘えていいですか、お兄ちゃん?」

「当たり前だろ。お前は俺の妹なんだから」

「そうですよね!それじゃあ失礼して……えいっ!!」

 

 

 雪穂は遠慮なく俺の身体に大きく密着してきた。彼女がここまで積極的に俺に甘えてくることは珍しいのだが、今日1日兄妹として一緒にいたことで緊張もかなり解れたらしい。いつも素直になれない子が素直になってくれるのは、そのギャップだけも可愛いし愛でたくなる。

 

 

 そして俺の右隣にいる雪穂が俺に抱きついてきたことで、左右正面から3人の妹たちに囲まれる形となった。もう何度目かは分からないけど、何度でも言いたくなる。

 

 

 

 

 やっぱり、妹とはいいものだ!!

 

 

 

 

 ここで1つ気付いたことがある。さっき雪穂と亜里沙と別れるのが寂しいと思ったのは、この2人を妹として、そして女の子として以前よりももっと好きになったからだろう。また明日からいつも通りだとは言っても、この幸せな時間が終わると思うとしんみりしてしまうものだ。それくらい、俺は彼女たちを心に想い続けている。

 

 

「よぉ~し!それじゃあ4人一緒にお兄ちゃんのベッドで寝ようよ!今日くらいはいいでしょ、お兄ちゃん?」

「ああ、俺もそう提案しようと思っていたところだ」

「いいですけど、変なことはしないでくださいね……?」

「お兄ちゃんを抱き枕にしながらお兄ちゃんに添い寝……ハラショー!」

「多分しないしない。そして亜里沙は戻ってこーい」

 

 

 そんなこんなで、俺たちは4人一緒に1つのベッドで寝ることとなった。

 目が覚めたらもう雪穂と亜里沙のお兄ちゃんではいられなくなるけど、将来は3人まとめて俺の妹、そして恋人にしてやるからな。幸福が膨らんで心が破裂しないように覚悟しておけよ、俺の可愛い妹たち。

 




 やはり妹とはいいものだ(本日n回目)


 今回はシスターズのお兄ちゃんになる回でした!
 雪穂や亜里沙の兄である小説はあっても、2人から同時にお兄ちゃんと呼ばれる小説はないと思ったので、今回はガチ妹萌えの私の欲望を発揮してみました(笑)

 ところでところでなんですが、姉萌え属性を持っている方ってどれくらいいらっしゃるんですかね?お声があれば、今度は零君が弟になる回も執筆してみようかなぁと考えています。


 そしてここからは鍵のすけさんのサンシャイン企画の告知(その2)です。

 以前告知したサンシャイン企画の参加者は、私が把握している限りでは以下の方々が参加予定です。(五十音順、敬称略)

相原末吉、紅葉久、あやか、鍵のすけ、カゲショウ、笠雲、希ー、くおえ、真城光、たーぼ、秩序鉄拳、ちゃん丸、豚汁、トゥーン、ヒロア、真姫神ramble、瞬音、ゆいろう


 ちなみに執筆するネタは大体決まっているので、また今後の後書きで情報を公開していきます!



 次回は凛ちゃん回の予定です!


 それでは感想/評価、お待ちしています!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

猫になった凛、凛になった猫

 今回は凛ちゃん中心のまきりんぱな回です!
 そして今回こそ本当のほのぼの回に……なっているはず。猫になった凛ちゃん(?)凛になった猫ちゃん(?)をお楽しみください!


 12月に入り、日が昇っている昼間でも寒さがかなり極まってきた。暑いのも寒いのも大嫌いな俺にとっては真夏や真冬は迷惑極まりない。この俺がいくら天才超人であったとしても、唯一自然サマには逆らえねぇ。人間というのはつくづくちっぽけな生き物だと、柄でもないことを考えるほどには自然サマの寒さにしてやられている。自然サマも俺のハーレムの取り込んで、地球の気温を俺の意のままにしてやろうか……。

 

 

「って、な~にくだらねぇこと考えてんだ俺……」

 

 

 これは頭の方も相当参ってるな。暑すぎたり寒すぎたりするのは、本能的に俺の身体が外に出るのを躊躇ってしまう。そうは言っても今は掃除へ行く途中、しかもその場所が屋上だから更に憂鬱になる。学院の一番高いところだから当然学院のどこよりも寒いだろうし、主な仕事内容が冷たい水をそこら辺に撒き散らしてブラシで擦るという、かき氷を食べてる最中にシャーベットを飲まされるような極寒の地獄である。

 

 

 こんな時こそ穂乃果やことりに抱きつかれて、彼女たちを湯たんぽ代わりにしたいもんだ。その2人以外にも俺の周りにはたくさんの女の子がいるというのに、どうして俺がこんなに寒い思いをしなくてはならない?冬の間はμ'sの中から1人、常に俺に抱きついておかなければいけない指令でも出してやろうか。1日ごとに交代する感じでさ。あれ、これ結構名案じゃね?

 

 

「もう学院内だからとか、海未に制裁されるからとかいちいち気にしてられるか!!むしろ海未の方が俺の身体から離れられなくしてやる!!」

 

 

 とにかくこの寒さをなんとかしないと、俺の生命活動が凍結して止まってしまう。そしてやはり俺の身も心も暖めてくれるのは、女の子の温もりを直に感じるしかない。

 

 こうなったら初めのターゲットはことりか花陽が適切だろう。2人共おっぱいも大きいし、なにより肉付きがエロい。そのエロさがあれば身体的な温もりはもちろん、心に湧き上がる興奮的な温もりも同時に感じられるな。ここまで画期的な湯たんぽがこれまであっただろうか?いや、ない。

 

 

「となれば早速……」

 

 

 ことりか花陽を探しに行こうと、元来た道を引き返すためその場で180度回転する、その時だった。

 

 

「にゃぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「うぐぁっ!!」

 

 

 突然後ろから何者かが俺の首に腕を巻きつけ、さながらチョークスリーパーを掛けている体勢となった。

 姿は見えずとも女の子を熟知している俺なら分かる!この小柄な体型、エネルギッシュなテンション、元気の良い声、そして何より、その特徴的な叫び方は――――――

 

 

「凛!?」

「にゃんにゃんにゃ~ん♪」

「いやいや"にゃんにゃん"じゃなくてさ!そんなに首を絞められると……うぐぐっ、苦しいって!!」

「にゃにゃ~ん♪」

「俺に会えて嬉しいのは分かるけど、そろそろ普通に喋ってもらえませんかねぇ!?」

「にゃぁ~♪」

「お、おい……凛?」

 

 

 おかしい。凛がハイテンションになって猫語になることはよくあるのだが、それはあくまでもノリに任せて言っている訳で、ここまで聞き分けの悪い子ではない。何とかチョークスリーパーが緩まって平静を保つことはできたので、俺は彼女を一旦引き剥がしお互いに正面を向き合う。

 

 

「いいか凛、真面目に答えてくれ」

「にゃ……?」

「お前、本当に猫になってたり――――」

「にゃーーーっ!!」

「オイッ!!だから首絞めるように抱きつくなって!!」

 

 

 抱きつかれたいと言ったり抱きつくなと言ったり、俺も相当なツンデレだな……男のツンデレなんて興味ねぇか。

 

 そんなことよりも凛だ。彼女がおふざけで猫真似やっているようには思えない。彼女は嘘をついても顔や行動に現れすぐに露呈するから、ここまで動揺もなしに演技をするとは考えづらいのだ。

 

 でもだとしたらどうしてこんなことに……?普段から猫語ばかり使ってるから、とうとう精神まで猫に侵食されてしまったのか。その役に成りきっていると、日常生活でもその仕草や行動が伝染ってしまうと言うしな。

 

 

「にゃ~ゴロゴロ」

 

 

 凛は背伸びをして、俺の頬に自分の頬っぺを擦り付けてくる。

 何この子、全身を撫で回したくなるくらい可愛いんですけど!?いつもの凛もかなり甘えてくる方なのだが、こうして人目が付くところで堂々と俺に密着してくるのは中々に珍しい。普段の彼女は恥ずかしがり屋な部分も多いので、穂乃果やことりみたいにオープンに俺へ抱きついてくることはあまりしないのだ。

 

 だけど今は違う!!凛が元々持っている妹のような可愛さと、子猫の抱きしめたくなる愛くるしさが同時に感じられる。つまりは最高、最強、マキシマム!!よしっ、このまま俺のペットにしてあげよう。まさに猫人間かのごとく猫耳も付いてるし――――

 

 

 

 

 ………………えっ!?

 

 

 

 

 ね、猫耳ィイイイイイイイイイイイイイイイイ!?

 

 

 

 

「その猫耳いつ生えてきた!?さっきまでなかっただろ!?」

「にゃん?」

「がはっ!!俺が妹とメイド以外で血を吐きそうになるとは……」

 

 

 猫耳を付けたまま、不思議そうな表情で首を横にへ傾げる仕草をやめようか。その仕草だけで、自分の彼氏が心と一緒に心臓まで打ち抜かれて死にそうになってんだぞ。

 

 このまま凛と2人きりでいたら、あと数分後には口から血を流した男の遺体がこの穏やかな学院の真ん中に転がるハメになるだろう。まさか猫に殺されたなんて誰も思わないだろうから、そんなことになったら永遠の迷宮入りだ。

 

 

 とにかく、凛は俺の言葉が分からないみたいだし、ここは早急に原因を究明して変死体になるのだけは防がないと。萌え死という、男にとって本望かつ情けない死に方はない。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ということで、お前らの助言を聞きに来た」

「にゃ~ん♪」

「「…………」」

 

 

 とりあえず生徒会役員である花陽と真姫がいる生徒会室へと訪れ、事のあらましを探ることにした。

 2人は俺の膝の上に座って身体を密着させてくる凛を見て、目を丸くして驚いている。それもそのはず、凛が恥ずかしがらずここまで積極的になること自体も珍しいのに、ましてやモノホンの猫耳まで付いているんだからな……。

 

 

「本当に凛ちゃん?凛ちゃんなんだよね!?」

「落ち着け。このスレンダーな身体にフレッシュな匂い、そして妹のような愛くるしさ。コイツが凛じゃなかったら誰が凛だって言うんだ」

「あなたは私たちのどこを見て判断しているのよ……」

「そりゃあ女の子なんだから、身体のくびれとか胸に決まってるだろ?」

「女の子の前でもそんなことがいえる、その図太い精神を見習いたいわ」

「恥ずかしがることはない。俺はμ'sのおっぱいなら誰のでも好きだぞ」

「別に見せることが恥ずかしいとは言ってないでしょ!!」

 

 

 まだ俺に裸を見せることに羞恥を感じているのか。でもこんな俺のことをμ'sは決して見限らないから、このグループは尽くツンデレの集まりだと思う。

 

 

「今はそんなことより凛ちゃんだよ!凛ちゃんを元に戻す方法を考えてあげようよぉ~」

「俺は確かにその方法を求めてお前らを呼んだ。だけどな」

「だけど……?」

「最悪元に戻らなくても、俺がご主人様として凛を飼ってやれば済む話じゃね?ご主人様か……いい響きだ」

「じゃあ何しにここへ来たのよ……」

「にゃ~ん♪」

「よしよし、俺が一生世話をしてやるからな。そう、一生……」

 

 

 凛の顎に手を当ててくすぐってやると、彼女の口から気持ちよさそうな嬌声が漏れ出す。この声だけを聞くとなんかエロいな……。それに俺のことを完全にご主人様と思っているみたいだし、こんなに俺に従順な子猫ちゃんを手放すのは勿体無い。やっぱもうこのままでもいいんじゃねぇか?

 

 

 それにしても、凛の猫気質がさっきよりも格段に極まってきたような気がする。さっきまで垂れていた猫耳がピンと立ってきてるし、スカートの中からは毛むくじゃらで細長いしっぽが――――

 

 

 

 

「し、しっぽォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?」

 

 

 

 

 またしてもいつの間にか、凛の身体から猫の象徴の1つがぴこぴこと揺れていた。まるで生まれてきた時から生えていて慣れ親しんでいるかの如く、彼女はしっぽを自在に動かしている。

 

 

「凛ちゃんがどんどん猫になっていっちゃうよ!?一体どうしたらいいの!?誰か助けてぇ~!!」

「ちょっと待ってろ。俺がその原因を今確かめてやるからさ」

「さっきまで凛のご主人様になってやるとか言ってたのはどこの誰だっけ……?」

「過去を振り返るな、常に未来を見据えろ。という訳だ、ちょっくら身体を調べさせてもらうぞ」

 

 

 俺は身体にずっと抱きついてきていた凛を一旦引き剥がす。そしてその軽い身体を持ち上げると同時にこちらを向いていた彼女を180度回転させ、俺に背中を向けた状態で目の前に立たせた。

 

 

「いいか凛?そのまま動くなよ」

「にゃん?」

 

 

 凛は首だけ振り返って軽く首を傾げる。なんだろうか、俺はその仕草に弱いのか?さっきからこのちょっととぼけた表情と仕草に俺の鋼のメンタルがしてやられている。

 

 だが愛くるくキュート(死語)な誘惑に惑わされている場合じゃない。凛が猫になった原因を究明するためには、どう考えても()()()()()()()()()が必要なのだ。

 

 

 俺は再び凛に前を向かせるとその場でしゃがみ込み、左手で彼女の太もも、右手はパンツに手を掛けた。柔らかい……猫になっているというのに、この肉厚な感触はまさに女の子の太ももそのものだ!!

 

 俺が凛の太ももを撫で回すたびに、凛の身体がビクッと大きく垂直に揺れる。まさか太ももだけで感じているのか?相変わらず相当ウブだな。まあそんなところが凛らしいチャームポイントでもあるんだけどさ。

 

 

「にゃっ!?ぎにゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「お、おい凛!逃げるなって!!」

 

 

 凛は顔を真っ赤にしたまま走り出し、花陽の胸へと飛び込んだ。怯えているのか、花陽の胸に顔を擦り寄せて弱々しく泣いている。

 

 くっそぉ俺だって花陽のおっぱいに顔をうずめてぇよ……そうか、俺も猫になれば――――

 

 

「零、あなた……」

「とりあえず落ち着け。俺はただ、凛のしっぽがどのように生えているのかが知りたかったんだ。もしかしたらこのしっぽが玩具かもしれない。その可能性さえ確実に潰せれば、この事態の解決へ一歩前進するだろ?」

「最もらしいことばかり言ってるけど、要するにセクハラしたかったって訳ね」

「それは流石に要約しすぎだろ……。俺の発言を何でもかんでもセクハラに帰結させておけばOKみたいな風潮やめろ」

 

 

 まぁ、『凛のパンツが見たい:真面目に問題解決したい』の割合は8:2くらいだったけどね。だって気になるじゃん!スカートの中からしっぽが伸びてんだぞ!?そのしっぽが動くたびにスカートがめくれて、パンツがチラチラと顔を見せようとしているんだぞ!?そんなもの、スカートの中身を見たくなるのが男の常だろ!!

 

 

「みゃ~お……」

「よしよし凛ちゃん。怖かったね~」

「にゃふぅ~♪」

「あはは!くすぐったいよぉ~♪」

 

 

 凛は花陽に頬に自分の頬を擦り合わせ、花陽は凛の頭を優しく撫でていた。

 信頼を築き上げるのは大変だ。だけどそれが崩れ去ってしまうことはいとも簡単である。今がまさにその構図。たった一瞬でご主人様が入れ替わった瞬間。猫のご機嫌を取るのは難しいな……。

 

 

 しょうがねぇ。そろそろ真面目に凛を元に戻す方法でも考えるか

 

 

「花陽、真姫、教室での凛の様子はどうだった?」

「ようやくまともに考える気になったのね。教室ではいつも通り、元気が漏れ出すくらいいっぱいの凛だったわ」

「うん、いつもと特に変わった様子はなかったよ。だから凛ちゃんが猫になったって聞いた時には驚いちゃったけど」

「日中に変わったところはなしか……」

 

 

 少なくとも、2人と一緒にいた時に凛の状態が変わってしまったということはなさそうだ。だとしたら考えられるのは、2人と別行動をした時だけど……。

 

 

「お前らが凛と別れたのはいつだ?」

「私たちは掃除当番じゃなかったから、先に生徒会室へ来たのよ。別れたのはその時ね」

「でも別れる時はいつもの凛ちゃんだったよ。掃除当番だから嫌な顔はしてたけど……」

「それはいつもだろ。でもこれではっきりしたな、凛に何かがあったのは2人と別れたあとだ」

 

 

 そうは言っても結局そのあとのことが重要な訳で、そこの部分を知らないと根本的な解決にはならない。凛を目撃した人の証言でも聞きに行くか?しかしそれは流石に骨が折れる。そもそも誰がどの掃除場所で掃除をしていたかも分からないこの状況、更に言えばもう掃除が終わって下校、部活に行っている生徒もいるだろうから、聞いて回るのは不可能に近い。

 

 

「おい凛。ちょっとくらいは日本語喋れねぇのか?」

「フシャー!!」

「すげぇ警戒されてる……。ちょっと太ももを触ってパンツを見ようとしてただけだろ、どうしてそこまで怒るんだ……」

「そりゃあ猫だってセクハラされたら怒るでしょ」

「でも猫だぞ?そんなことが分かるのか……?」

「シュー!!」

「零君を威嚇していることだけは確かみたいだね。ほら、猫って身体の後ろを触られるのが嫌いって聞くし」

「それを先に言ってくれませんかねぇ花陽さん」

 

 

 凛は花陽の腕の中で、髪の毛やしっぽを逆立てて俺を警戒している。俺たちの間にリアルファイトが始まりそうな淀めく雰囲気が流れた。ここで襲われたら、全ての思考を停止して凛を助けることをやめてやる。凛が悪い訳ではないけどやめてやる。

 

 

「結局、どうすれば凛ちゃんが元に戻るのか分からないね……」

「せめてお前らと別れた凛がどこで何をやっていたのかが分かればなぁ~」

 

 

 行き詰まって意気消沈する俺たち。

 しかしそこで、生徒会室の扉がノックされた。ただしそのノックは規則的なものではなく、言ってしまえば異常に下品。コンコンの音の間にタイムラグがあったりなかったり、そもそも手で扉を叩いているのか怪しい鈍い音だった。

 

 

「ど、どうぞ」

 

 

 花陽が若干怖気づいたような小さい声で、生徒会室の外にいるだろう人物に入室を促す。

 だがしかし、その人物は一向に入ってくる気配がない。それ以前に誰かがいる気配すら感じないのは俺の気のせいか?ノックの音が変だったことも気になるし……。

 

 

 俺は扉に近付くと、一向に開け放たれない扉を自らの手で開放した。

 

 

 そこにいたのは――――――

 

 

「やっぱ誰もいねぇじゃねぇか。新手のピンポンダッシュか何かか?」

「「…………」」

「ん?どうした2人共?」

「下……零、あなたの足元に……」

「えっ……うおっ!?」

 

 

 真姫に促されて足元を見てみると、そこには黒、白、茶色の和風チックなカラーリングの小さな三毛猫が佇んでいた。何故校内に猫がいるのかは甚だ疑問ではあるが、そもそも今の凛自体も猫みたいなものなのでそこは言及しないでおく。

 

 

 俺たちはしばらくの間その猫を見つめ様子を伺っていたが、肝心の猫の方はというと、俺たちの顔を見て喜んでいるようだった。

 

 

 そして――――――

 

 

 

 

「よかったぁ~!やっと零くんたちに会えたにゃ~!!」

 

 

 

 これは凛の声、凛の口調だ。でもその声が発せられたのは花陽が抱えている凛からではない。紛うことなきこの猫から発せられたものだ!

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「ど、どうしてみんな黙ってるの!?」

「ああ、これは夢か。化け猫に化かされてんだ」

「違うにゃ!!とにかく凛の話を聞いてぇえええええええええええええ!!」

 

 

 そりゃあいきなり猫が喋りだしたら唖然とするだろ。それも三毛猫が凛の口調で――――ってあれ?凛が猫になっていて、猫が凛になっているのか?

 

 

 あぁ、ようやく何が起こったのかが分かってきたような気がするぞ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 焦っているのか、それとも俺たちに会えた嬉しさで歓喜しているのか、凛の説明が非常にたどたどしかったので代わりに俺が要点を絞って話そう。

 

 

 凛は花陽と真姫の2人と別れたあと、真っ直ぐ掃除場所に向かって早急に掃除を終わらせたらしい。そしてゴミ袋を校舎裏のゴミ捨て場へ捨てに行こうとしていた途中、今凛の憑依元となっているこの三毛猫に遭遇。猫アレルギーな彼女だが同時に猫を愛でたいとも思っている凛は、その猫に近づいたんだと。

 

 しかしそこで足を滑らせてすってんころりん。なんとその際に自分の頭と猫の頭がごっつんこ、まるで漫画みたいな要領で身体はそのままで中身が入れ替わってしまったんだってさ。

 

 

「本来ならあり得ない話だが、現にそうなっているんだから信じざるを得ないな」

「まさかまた猫になっちゃうなんて思ってもいなかったよ……」

 

 

 そういや凛は一年前も猫になっちまったことがあった。あの時は秋葉の策略にハマってたし、もしかしたら今回もとか考えていなくはなかったのだが、蓋を開けるとなんともオマヌケな話だったな。

 

 

「本当はもっと早く零くんたちに会いたかったんだけど、誰にも見つからずにここへ来るのが難しくて……」

「でもまあちゃんと元に戻れそうだからよかったじゃん」

「えっ、どうやって凛ちゃんを元に戻すの?」

「そりゃあもう一度同じ手順を巻き戻せばいいに決まってるだろ」

「えぇっ!?また頭ぶつけるの?あれ結構痛かったんだにゃ……」

「元に戻りたくないのかよ?それとも他の手があるとでも?」

「うぅ……」

「痛みは一瞬だ。我慢しろよ」

「にゃにゃっ!!れ、零くん!?」

 

 

 俺は猫となった凛の下腹部を両手で抱え込む。そして手の甲で顔を洗っている凛となった猫に標準を定め、凛(猫)の頭を目掛けて猫(凛)を頭から振り下ろした。

 

 

 ゴチーーーン!!と、鈍い音が生徒会室に大きく響き渡る。

 

 

「いったぁあああああああああああ!!」

「にゃぁああああああああああああ!!」

 

 

 凛は頭を抱えてクラクラと目を回し、猫も身体をゆらゆらと揺らす。

 こういうのは勢いが肝心だからな、躊躇していたらいつまで経っても実行に移せなくなる。男の仕事の8割は決断だ、覚えておくように。

 

 

「もうっ!もっと優しくしてよ零くん!!」

「おっ!」

「凛ちゃん……!!」

「凛、あなた!!」

「へ……あっ、も、戻ってる!!凛、元の身体に戻ってるよ!!」

「やったね凛ちゃん!」

「やったよかよちん!!」

 

 

 花陽と凛は歓喜に満ち溢れ、お互いに熱い抱擁を交わす。いつもどこでも抱き合ってんなコイツら……。

 ともかく無事に凛は凛の、猫は猫の身体を取り戻したって訳だ。猫も自分の精神が元の宿主に戻ってきたおかげで、動きがさっきより機敏になっているような気がする。

 

 

「あ~あ、今日はもう疲れたよぉ~。外は寒いし、色んな人に抱きしめられそうになるし、餌を与えられそうにもなるし、先生には見つかりそうになるし、扉のノックはできないし……あぁもうっ!!今日の生徒会はおやすみ!!」

 

 

 凛は椅子に深く腰を掛け、口を尖らせながら自らの苦行の愚痴を漏らす。ここへ来る道のりは中々の修羅だったらしい。それにしてもこのたるみ具合、あまり猫の行動と変わっていないような……。

 

 

「ふわぁ~。生徒会室って、日の光が差し込んできてとても気持ちがいいにゃぁ~♪」

「にゃ~♪」

 

 

 凛と猫は同時に仲良くあくびをした。

 そして凛は机に寝そべり、猫は凛の隣の椅子の上で丸くなる。

 

 

「ちょっ、ちょっと!凛ちゃん寝ちゃうの!?これから練習もあるんだよ!?」

「それに猫も……これじゃあ結局どっちもどっちね」

「凛と猫は似た者同士ってことなのか?やっぱ凛の奴、あのまま猫のままでも対して変わらなかったんじゃあ……」

 

 

「「にゃ~♪」」

 

 

 そして凛も猫は、2人(正確には1人と1匹)仲良く昼寝をしてしまった。

 

 そんなこんなで、最後は冬の寒さを忘れさせるようなほっこり具合で幕を閉じた。

 

 

 

 

 そのあとすぐに気付いたことなのだが、俺は掃除場所に行く途中だったんだ。そして今日掃除を共にする相手は海未。そうか、遅刻してしまったか……どうりでさっきからポケットの携帯が震えて――――

 

 

 こんなオチいらねぇって!!

 




 凛ちゃんを飼いたい(超願望)

 今回は凛ちゃん猫になるの回でした!
 実は前作でも同じようなネタで執筆はしたのですが、今回はネタも織り交ぜつつ、本当の猫になった凛の可愛さも前面に押し出してみました。私も零君と同じく「もう元の姿に戻らなくてもいいんじゃね?」と思うくらいには、猫の凛に心が揺さぶられていました(笑)

 次回からはまたいくつかリクエスト小説を執筆していこうと思います。
 実は活動報告でひっそりと募集しているところがあるので、この機会に是非!かといって時系列が冬なので、その点はご留意を。


 そしてここからはいつもの宣伝を――――

 ハーメルンで"ラブライブ!"そして"ラブライブ!サンシャイン!!"の小説を執筆なさっている鍵のすけさんの企画で、サンシャインの短編小説を執筆することになりました。
この企画は以前私が主催した企画と似たようなもので、ハーメルンのラブライブ作家、また普段はラブライブ以外の小説を投稿している作家さんも多数参加予定です。

 まだ投稿日時は決まっていませんが、私のサンシャイン小説が投稿された際には、是非そちらにも感想をくださると嬉しいです!

 企画についての情報は入り次第、今後の後書きにて掲載していきます。



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

闇鍋乱交饗宴黙示録

 サブタイトルにホイホイ釣られた方はいらっしゃいませ(笑)
 結構前にこのような話が見たいというリクエストがあったような気がしたので執筆。まさかこんな内容になるとは私自身も思ってもいなかったですが……


 冬といえば鍋!そして鍋といえば闇鍋!

 ということで、俺たちはまた悪ふざけの思いつきで自らを死地に追い込もうとしていた。たまにはみんなでお食事会でもと思っていた矢先、穂乃果が提案した闇鍋の意見、そしてそれに同調した凛や楓の勢いに逆らえず、流れのままに俺の家で鍋を囲うことが決定したのだ。

 

 

 闇鍋とは、それぞれ自分以外には不明な突飛な材料を複数人で持ち寄り、暗中で調理して食べる鍋料理のこと。通常、鍋料理には用いない食材が利用されるが、そこら辺はやる人の裁量次第といったところか。どちらかといえば食事を目的とした料理というよりは遊び、イベントとしての色彩が濃い。

 

 

 だが遊びと言っても、ルール無用の無法地帯となっては本当の意味で地獄を見ることになる。だから持ち寄る食材には一定の規制を掛けることにした。

 

 

 

 

《闇鍋五箇条の御誓文》

 

1. 食材は溶けないものを持参するべし!

→ 箸で掴めないものは『具』としての役割を果たさない。さらに溶けるものだとスープの味まで大きく変貌してしまう。

 

2. ナマで食べても健康を損なわないものを持参するべし!

→ 暗闇の中で食べる都合上、火が通っているのかは全く分からない。

 

3. お開きになるまで暗闇のままで決行するべし!

→ 下手に明かりを点けて鍋の中身が見えてしまうと、瞬く間に食欲が失せる。

 

4. 一度箸をつけたものは責任を持って食べきるべし!

→ メンバーが決まった瞬間から、メンバーとは運命共同体。相手を信じて、そして食べ物は大切に、責任を持って最後まで食べきる。

 

5. 全力で楽しむべし!

→ 例え遊びであっても全力で盛り上がれ!!

 

 

以上

 

 

 

 

 正直闇鍋なんてやったことすらないから、案外楽しめるのか、それとも想像以上に阿鼻叫喚の図になるのか……。それもこれも全てみんなが持ってくる食材にかかっている。また俺が事後処理するはめにならなければいいのだが……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「みんなでお鍋を囲うのって初めてだから、穂乃果楽しみだよ!」

「ただの鍋ならよかったんだけどな……」

 

 

 闇鍋祭り当日、μ'sの面々は俺の家へと集合し、各々緊張の面持ちで鍋が煮えたぎるのを待っていた。その中でも大はしゃぎしているのは穂乃果と凛くらいなもので、他のメンツは渋い顔をしてまだ一切食材の入っていない鍋を見つめている。これから訪れるのは天国か地獄か、俺たちが立たされているのはまさに運命の岐路だ。だから明日突然μ'sが解散していたら察してくれ。

 

 

「よし、そろそろ電気を消すか」

「も、もう始めるんですか!?あと少しくらいは……」

「そんなこと言ってたらいつまで経っても始められないだろ」

「零君、意外とやる気なんやね」

「ここまで来たらもう覚悟を決めるしかねぇだろ。それに不味くなると限った訳じゃないしな」

 

 

 食べてみたら意外と『ああ美味しかったぁ~!!』ってなるかもしれない。それにみんなも地獄を味わいたくないから、鍋の食材も無難なモノをチョイスしているはずだ。変に冒険するからクソ不味い鍋が出来上がるわけで、無難に無難を重ねていけば被害は最小限に抑えられる可能性もある。

 

 

 まあ、被害が出ないとは言っていないが……。

 

 

「でも私知ってるよ!お兄ちゃんのその言葉、フラグって言うんだよね♪」

「ちょっと楓、変なこと言わないでよ!折角零くんの言葉で落ち着きを取り戻したのに……」

「そんなこと言って、意外と雪穂が爆弾を投下しようとしてるんじゃないのぉ~?ほら、自分のトコのお饅頭とかさ」

「えぇっ!?そうなの雪穂!?流石にお饅頭鍋は……」

「亜里沙、楓の言うことなんて9割9分信じなくていいからね」

 

 

 雪穂の仰る通りである。楓が涼しい顔をしている時は、大体自分のことしか考えていないか相手をからかっているかのどちらかだ。最も、今回の鍋に関してはみんながお互いに持ち寄った食材を内緒にしているため、もしかしたら遊び心で変なモノを投入しようとしている輩がいるかもしれない。ほら、去年鍋にケーキを入れてしまったことりとか……。

 

 そんな当の本人はと言うと――――何故か笑顔だった。

 

 

「おいことり、その不気味な笑顔はなんだ……?」

「ただ単純にみんなでお鍋をするのが楽しいだけだよ!ホントだよ!」

「そこで念を押してくるのが怖いんだけど……」

「大丈夫!ことりは一度やった失態を二度と犯さないから。()()()()から」

 

 

 なぜ"犯さない"を強調した……。この場でいつもの淫乱バードの本領を発揮している辺り、コイツは闇鍋になんら恐怖を感じてないみたいだな。今だけならその強靭な精神を見習いたいくらいだよ。

 

 

「うだうだ騒いでいても仕方ねぇ。もう電気消すぞ」

「真姫ちゃん、いよいよ始まっちゃうんだね……」

「零の言う通り、奇跡的に美味しくなることを祈るしかないわ」

「みんなで作るお鍋なんだから、きっと美味しいに決まってるにゃ~♪」

 

 

 そうだ、美味くなると思い込まなければ俺もこんなに落ち着いてはいられない。気持ちは味に現れると言うだろ?ポジティブな方が料理がより美味く感じられる、ある意味で錯覚のようなものだが。

 

 

 外は既に暗いが、部屋に一ミリの残光も許さないのが闇鍋のルール。部屋のカーテンは全て閉め、不意に明るくならないよう全員の携帯の電源も落としている。この状態で俺は部屋の電気の紐を引っ張った。

 

 

 部屋一面が、隣の人の顔すらも確認できないほどの暗黒に包まれる。

 

 

「うわっ、本当に何も見えないわね……にこ自身の姿も。これじゃあ鍋に食材を入れられないじゃない」

「目が慣れてくれば鍋ぐらいは見えるようになるさ。最悪鍋の火を頼りにすればいい訳だし。それじゃあ各々食材を――――」

 

 

 その時だった、不意に俺の腕が何者かによって掴まれたのは。隣の人も見えないこの暗闇、鍋に食材を入れようとしていた俺の腕を誰が掴んだのか分からない若干の恐怖があった。やはり人間たるもの、認識できないものには警戒心を抱いてしまう。

 

 

 だがそれも、俺の隣の奴の言葉であっさりと解決する羽目になる。

 

 

「れ、零……」

「この声は……絵里か?」

「暗い……真っ暗なのよ零!!」

「落ち着け、見れば分かる!ていうか見なくても分かる!!」

「うぅ……」

 

 

 俺の右隣に座っていた絵里は、俺の右腕にコアラのようにガッチリと絡みついていた。絵里がやけにそわそわしてさっきから全然喋らなかったのは、闇鍋の恐怖よりこの暗闇を危惧していたからなのか。

 

 それにおっぱいとおっぱいの間に腕が挟まれるほどに抱きしめられているんだが。役得すぎるんだが!!柔らかくて気持ちがいいんだが!!例え姿や表情が見えなくても、おっぱいの感触だけは触るだけで誰のものか分かる。最悪暗黒の中で何かがあったら、この方法でみんなを判別しよう。

 

 

「鍋の火の明かりを頼りにして食材を入れていこう。食材を入れた時に鍋の中身を跳ね飛ばさないよう慎重にな」

 

 

 俺の合図を元に、みんなは恐る恐る鍋に食材を詰め込んでいく。豆腐のような柔らかい食材が入った音、野菜のような固体が入り込んだ音、そしてどんな食材を入れたのかすら不明な少々鈍い音まで、様々な音が俺たちを緊張の渦に巻き込む。

 

 誰がどんな食材を持ってきたのかすらも分かっていないこの状況、増して今から鍋の中の惨状を認識することもできずに箸を付けることになる。だが意外だったのは匂いは思っていたよりも普通で、近寄りがたいドギツイ匂いは一切しない。あれ、もしかして案外イケルのでは……?

 

 

 食材を煮込ませるため少々時間を置く。その間も特段変な匂いが充満することはなく、俺たちの間に闇鍋成功の兆しが差し掛かっていた。恐怖を抱いていた人の心にも安堵の芽が芽生える。

 

 

「穂乃果もドキドキしてきたけど、そろそろ食べてみよっか」

「そうだな。煮詰めすぎるとそれだけで味が悪くなるし」

 

 

 暗闇のせいでみんながどんな表情をしているのかは分からない。だけど闇鍋を始まる前に比べれば格段に場の雰囲気は落ち着いている。1人だけ慌ただしいと言えば、隣の絵里だけは闇鍋というよりこの暗闇に怯えて俺の身体に擦り寄っているが……。

 

 

 とにかく絵里の背中を軽く撫で回して落ち着かせつつ、俺も穂乃果たちに続いて鍋の具材を皿に取り分けた。一体自分が鍋から何を取ったのか、少々目が慣れてきた今でも知ることはできない。いくら安心してるからと言っても、一口目は相当な覚悟がいるぞ。

 

 

「みんな取り終わった?それじゃあ皆さんご一緒に――――」

『いただきます!!』

 

 

 食事の様式美を済ませ、みんなは鍋の具に一斉に口を付ける。当の俺はと言うと、利き腕を絵里に擦り寄られているせいで未だに箸を動かせないでいた。

 

 

「ん?案外美味しいじゃないこのお鍋。にこの口に合うとは中々ね」

「意外と皆さん無難な食材を選んできたみたいですね」

「ウチとしては闇鍋やし、もう少し刺激が欲しくもあったけどね」

「みんな美味しく食べられているんだったら、もう電気を点けていいんじゃあ……」

「ダメだよ雪穂。変な食材は入ってるけど、まだ誰も取っていないだけかもしれないし」

「えぇっ!?楓ちゃん、驚かさないでよぉ~」

 

 

 お互いに気さくな会話ができているこの状況ならば、とりあえず阿鼻叫喚の地獄絵図になることだけは避けられたみたいだ。俺としても、女の子が吐きそうで苦しんでいるシーンはあまり見たくない。

 

 

 

 

 しかしそんな安心は、容赦なく打ち崩される。

 まず一番初めに異変が起こったのは絵里。急に彼女が俺の肩に頭を乗せてきたのだ。そして彼女の口からははぁはぁと艶かしい吐息が聞こえてくる。これは呻き声と言うより発情している声なのでは……?

 

 まさかこの鍋のせい?みんなは――――

 

 

「にゃ~……凛、なんだか身体が熱くなってきたよ~……」

「そうね……さっきから心臓の鼓動が早くなってきて……熱い」

「ことり……胸がウズウズしてきちゃったぁ……」

「亜里沙も身体が疼いて……なんだか気持ちよくなってきました……」

 

「えっ……」

 

 

 どうやらこの症状は絵里だけではなく、μ'sの全員が発症しているようだ。リビング全体に、女の子たちの淫らな吐息が響き渡る。ちょっとした乱交会場みたいで俺の興奮も一気に沸き立つが、今は彼女たちの容態の確認が先決だ。しかし電気を点けようにも、このまま動いたら絵里が床に倒れてしまいそうで動くことができない。

 

 

「おいお前ら!一体どうした!?」

「零君の声……穂乃果、はぁ、はぁ……もっと身体が熱く……はぁ、はぁ」

「マジで……本当にみんな……?」

 

 

 俺の声を聞くだけで発情できるなんてどれだけレベル高いんだよ!!

 しかし体感的にもこの部屋の温度が上がってきた気がする。それもこれも彼女たちから放たれている熱気によるものだろうが、如何せん俺の欲求も高ぶってきてヤバイ。何がヤバイって、暗闇で彼女たちの姿が認識できないからこその淫らな妄想が頭の中で繰り広げられてしまう。

 

 

 

 

 そして彼女たちの発情具合は更にエスカレートすることとなる。

 

 

「零!!」

「絵里!?どうした!?」

「怖い……暗い……熱い……好き……」

「そ、そうか……って、お前服着てる!?」

「熱いから脱いじゃった……はぁ、はぁ。もっと私を触って、私の身体を火照りを収めて……好きに触っていいから……はぁ、はぁ」

 

 

 またしても絵里に抱きつかれるが、今度は彼女の素肌の温もり(というかもはや熱)が直に俺に伝わって来ている。もしかしたらと思ったけど、本当に脱いでやがったのか!?彼女のおっぱいが俺の腕に当たって自在に形を変えているのが分かる。くっそぉ……電気!!電気を点けろ!!俺の生乳を拝ませろやぁあああああああああああああああ!!

 

 

「お兄ちゃ~ん!絵里先輩ばかり気持ちよくしてズル~い!!」

「いやしてねぇし!それにお前も後ろから抱きついて来るなって……てか、お前も脱いでんのか?!」

「はぁ、はぁ……お兄ちゃんに命令は絶対だもんね♪妹は、お兄ちゃんの性処理用具だもんね!!」

「ちょっと待て!そんなにもたれ掛かられると……」

 

 

 高校一年生のくせに無駄に成長した楓のおっぱいが、俺の背中を押し潰すかのように押し付けられる。女の子が身体をヒートアップした状態で抱きついてくるわ、至ることろからおっぱいの感触が感じられるわで、俺も身体が熱くなってきやがった!!

 

 

 しかしそんな発情し始めた俺のことなんて全く関係なく、彼女たちの攻撃は続いていく。

 

 

「零く~ん、ウチも構ってぇなぁ~♪」

「希、お前酔ってんのか?ガチの大阪弁使ってるじゃねぇか――――んぷっ!!」

「ほらほらぁ~零君のために大きくしたんやで~♪」

「んーーーっ!!ん゛ーーーっ!!」

「あっ、あまり暴れられると余計に気持ちよくなっちゃうよ……」

 

 

 この暗闇でどこから俺の位置を嗅ぎつけたのか俺の頭がいきなり希に捕まれ、彼女のおっぱいの谷間へと強制ダイブさせられた。そしてやはりというべきか、彼女も上半身生まれたままの状態だった。俺の頭が希によって擬似パイ○リされているような状況、俺も俺で本能的におっぱいにがっついてしまう。

 

 

「零くん……私の身体の疼きも沈めてください!!」

「今度は亜里沙か!?ちょっと勝手に手を――――や、柔らかっ!!しかも生かよ!?」

「はぁんっ!零くんの手、胸に当たって気持ちいです♪んっ……はぁ」

「やっぱ俺が今触っているのって、亜里沙のおっぱいなのか……」

 

 

 すげぇ、中学生の頃よりも格段に成長してるじゃねぇか!流石クォーター女子なだけのことはある、発育がよろしいことで。

 

 しかし亜里沙がここまで乱れるなんて、普通じゃ考えられないことだぞ。だからこそ自分の手で乱れさせたいと支配欲に駆られるのだが、まさか彼女から俺を求めてくるとは――――!!

 

 

「零君、私も……私も身体の疼きが止まりません……はぁ、はぁ」

「その声は雪穂か?ていうか近くね!?」

「はぁ、はぁ……零君の身体に触れていると、余計に自分の身体が気持ちよくなってくるんですよ♪零君のことが好きだから……ですかね?はぁ、はぁ……もっと私の傍に来てください……」

 

 

 なにナチュラルに告白してきてんのこのパッツン少女は!?胸が変にドキドキするからやめろって!!それにさっきから俺の顔の間近に彼女の顔があるからか、彼女の吐息が直接俺の耳に掛かって超くすぐったい。身体はまだまだ幼い方なのに、こんなに色っぽい嬌声を出せるのかこの娘!?

 

 

「零……私の胸を触りなさいさあ早く!さっきから胸が熱くて仕方がないのよ!!」

「真姫か?どうしてそんなに上から目線なんだよ発情しても相変わらずだな!」

「いいから触りなさい!ガシッと掴みなさい揉みしだきなさい!!」

「勝手に手を引っ張るなって!!――――うおぉ、いい感度……相変わらず脱いでるし」

「んっ、はぁ……いいわ、いいわその手つき♪」

 

 

 あの真姫が自ら『胸を揉め』なんて、こんなデレデレ(?)な彼女一生に見られるかどうかだぞ。そして俺の手は無意識に指を彼女のおっぱいへと食い込ませる。これで真姫はこれで興奮を抑えたいらしいが、どう考えても逆効果にしかならないだろうこれ……。手のひらに当たるおっぱいの先端の感触が何とも唆られる。

 

 

「私の相手もしてください!!」

「うぐぅ!!は、花陽か……な、生の胸が顔に……ッ!!」

「零君は女の子のおっぱい大好きなんですよね!?おっぱいなんて好きなだけ差し出しますから、この身体疼きを止めてください!!」

「むぐぅ……おっぱいは嬉しいけど、お前らの身体の原因は知らん!!」

「あっ、んっ……胸の先っぽに零君の吐息が……♪」

 

 

 もう上半身を脱いでいるのはみんなデフォらしい。そして今回は俺の鼻元に花陽のおっぱいを当てられ、非常に苦しい状況となっていた。相変わらずいい大きさいい弾力をしているが、おっぱいに挟まれて圧死だけは避けたい!!しかし俺の鼻息が花陽の胸の先端に当たるたびに彼女は更に強く俺を抱き寄せてくるため、地獄(ある意味では天国)のスパイラルが形成されてしまっていた。

 

 

「零く~ん、はむっ!」

「うぉおおいっ!?急に耳を噛むな猫かよ!?」

「だって零くんに甘えてないと落ち着かないんだも~ん……はぁ、はぁ、なんだかずっと興奮しちゃうし」

「だったら好きなだけ俺に甘えろ。それで身体の火照りが収まるのならな」

「にゃ~♪ありがと零く~ん、はむっ」

「耳を噛んでいいとは言ってねぇ!!」

 

 

 凛の奴、この前の猫の精神が戻りきってないんじゃないのか……?耳だけでなく、首筋や指などやたら俺の身体を甘噛みしてきやがる。これだけならまだ健全のように思えるが、さっきから俺のズボンを脱がして男のアレに甘噛みをしようと画策しているようなので、全然安心はできなかった。この淫乱猫め!!

 

 

「零……私思うんです。そろそろ私たち、繋がってもいいんじゃないかって」

「海未、お前本当にそう思ってんのか?」

「逆に聞きますが、好きな人に抱かれたいと思うのは至極当然なことではないですか?だから私を抱いてください!むしろ抱かれてください!!」

「おぉおいッ!!いきなり肩掴むな!!ていうか力強っ!?」

「逃しませんよ零……あなたは私と下半身で繋がる運命になるんですから……はぁ、はぁ」

 

 

 性格変わりすぎてませんかねぇ海未さんや!?さっきから淫乱属性を持たない子たちの方が乱れているような気がするぞ。海未なんて自分から俺を押し倒そうとしてくるし……。ていうかコイツら、どうして暗闇なのに俺の姿が見えるんだよ。まさに性に飢えたハイエナだな。

 

 

「ちょっと誰だ!?また勝手にズボン脱がそうとしてくる奴は!?」

「もうおとなしくしなさいよ。にこの食事の邪魔しないでくれる!?」

「食事ってお前、どこを食べようとしているんだ……」

「そりゃあもちろん零のアツアツのアレに決まってるでしょ♪もうね、さっきからにこの口が寂しいのよ。何かを咥えていないと興奮が収まらないわ。さあ早く出しなさい!その仰々しい形をした肉棒を!!」

「逆に俺の興奮が高ぶりそうなんだが……って、が、はっ!そ、そこを強く握るなって!ぐっ、あぁ!!」

 

 

 あの小さな身体のどこにこんな力があるのか、にこは俺の抵抗を跳ね除けてズボンの上から俺のモノを弄り回す。擬似パイ○リの次は擬似手○キ、今まで我慢してきたが遂に俺もあまりの気持ちよさに声が漏れ出してしまう。今のにこの表情はさぞかし小悪魔になっているのだろう、憎たらしい……。

 

 

「零くん♪」

「ことり……お前はとりあえずあっち行ってろ」

「えぇ~ことりだけ扱いヒドくない!?折角パンツを濡らしてきたのに……んっ♪」

「おいおい、自分で弄ってんのかよ……」

「だから零くんの手で触ってもらいたいんだよ!手、貸してね」

「お、おいっ!つ、冷た!!これ……本当に下着?こんなに濡れるものなのか女の子って……」

「はぁ、あんっ!零くんの指、気持ちいいよぉ~♪はぁ、はぁ……」

 

 

 マズイ……これ以上ことりを発情させたら、この闇鍋パーティが乱交祭になりかねない。だが俺の指の動きはことりの嬌声を聞きたいがために止まることはない。彼女の喘ぎ声は股間に響く。もう俺の本能が勝手に彼女を求めてしまっているのかもしれない。そしてパンツの上からでも分かる、彼女の下半身の肉厚。これが女の子か……。

 

 

「零くぅ~ん……穂乃果にも入れて入れて♪」

「一応聞いてやる。何をどこに入れるんだ?」

「ことりちゃんみたいに指でもいいし~もし零君がその気なら、赤ちゃん作ってもいいよ♪」

「ぐっ……」

「ねぇねぇ零君。さっきからみんなに誘惑されて辛いでしょ?穂乃果もずっと身体が熱くて、気持ちよくて、興奮して……はぁ、はぁ……もう穂乃果のココも準備万端だよ?ていうかもう勝手にしちゃうもんね!」

「お、おいッ!!」

 

 

 穂乃果は対面座位で俺にのしかかってきた。暗いけど分かる、穂乃果の頬を伝って汗が流れていること、そしてその汗が俺の身体にポタポタと滴り落ちていること。エロい、想像するだけで艶かしい。女の子の肉汁が顔にも垂れてくる。俺は滴り落ちてきた彼女の水滴を、舌を使って自分の体内に取り込んでみる。少々酸っぱい、でも後に甘さが広がってくる。俺はもう無心となっていた。

 

 

 (たが)が外れてしまいそう。みんながやる気なら、少々そのような行為に挑んでも問題ないのではなかろうか。ここは俺の家、多少なら誤魔化しはきく。ここで電気を点けさえすれば、みんなを俺の手で――――

 

 

 

 そこで突然、部屋の灯りが点いた。しかし俺は何もしていない。目に眩い光が差し込んだため、俺たちは咄嗟に腕で顔を抑えた。

 

 段々目が慣れてきたので辺りを見渡してみると、上半身が生まれたままの、中にはスカートまで乱れている子たちもいた。彼女たちの淫らな吐息は収まることを知らず、その表情は俺を誘惑するように見つめながら蕩けている。何も知らない人が見れば、本当(マジ)の乱交パーティにしか見えねぇなこれ……。

 

 

 すると、俺はここで机に上に見慣れないものが置いてあることに気が付いた。もちろんみんなが持ってきた食材は知らないのだが、肉だの白菜だのしらたきだの、明らかに食材と思われるものの中にポツンと液体の入ったビンが置かれていた。それも俺の皿の隣に――――

 

 

「ねぇねぇことりちゃん、これってなんだろう……?どこかで見たことあるような~……」

「思い出した!これってこの前ことりが使ってた媚薬だよ!でもどうして零くんのところに……?」

「もしかして零、あなた……」

 

 

「へ……え゛ぇぇぇええええええええええええええええええええええええええ!?!?」

 

 

 全員の目が、再び一斉に俺へと向けられる。さっきのトロンとした目はどこへ行ったのか、みんなの目はある者は戸惑い、ある者は冷徹に、ある者は怒りを、ある者は何故か期待した目線を俺に送っていた。

 

 

「違う違う!!俺は断じて知らない!!誤解だって!!」

 

 

「零……あなたねぇ……はぁ、はぁ」

「お兄ちゃん……策士だねぇ……まあ私はその気ならいつでも初めてを捧げるけど」

「はぁ、はぁ……まさか零くんの仕業だっただなんて……」

「でも零くんなら納得だにゃ……」

「にこの処女が欲しいなら……わざわざこんな手を使わなくてもすぐあげるのに……はぁ、はぁ」

 

 

「だからちっがァァァあああああああああああああああああああああああああああああああう!!!!」

 

 

 誰だ!?俺とμ'sの仲を切り裂こうとする輩は!?確かに興奮はした、発情もした、下半身に血液が溜まったりもした。だけど鍋に媚薬を入れて乱交パーティをしたいとは断じて思っていない!!

 

 

…………

 

 

…………

 

 

 

 まあちょっとくらいなくはないけど、今回の件については俺は無実だから!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして家の廊下から、こっそりリビングを覗いている女が1人――――――

 

 

「さっすが我が弟!もう1年生たちにもモッテモテだね!やっぱりハーレムの主はこうでなくっちゃ♪」

 

 

 白衣の女の右手には媚薬のビン、そして暗闇の中を透視できるメガネが握られていた。ま、これで犯人はお察しだろう……。

 




 おクスリのチカラってすごいっ!!(小並感)


 今回は久々に全員集合、そして闇鍋饗宴回でした!
 実は『日常』でも同じような話を執筆して、あの時はお酒のチカラを借りました。『新日常』になってつくづくエロも描写も使うモノもパワーアップしたと思っています。媚薬もそうですが、大人の玩具が普通に出てくるような小説ですからねぇ~(笑)


 そしてここからはいつもの宣伝+新規情報を。

 ハーメルンで"ラブライブ!"そして"ラブライブ!サンシャイン!!"の小説を執筆なさっている鍵のすけさんの企画で、サンシャインの短編小説を執筆することになりました。
この企画は以前私が主催した企画と似たようなもので、ハーメルンのラブライブ作家、また普段はラブライブ以外の小説を投稿している作家さんも多数参加予定です。

 投稿日時は4月25日(月)からの予定です。私は大トリを飾ることになりましたので、参加者の変動がなければ私の小説は5月16日(月)になります。そちらでも感想をくださると嬉しいです!


 次回はリクエスト小説、または絵里or絢瀬姉妹回になる予定です。
 またリクエストは既にいくつかネタを貰っているのですが、なるべく小説の方に感想や高評価をくださった方を優先して採用いきます。自分の妄想が話になるチャンスなので、リクエストがある方は是非どうぞ!


 それでは感想/評価/リクエスト、お待ちしています!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絢瀬姉妹の性事情

 今回は絢瀬姉妹回です!
 最近妙に変態気質が上がってきているこの姉妹ですが、今回で遂に彼女たちの性事情が明らかになるかも……?


「お願い零!私に力を貸して!!」

 

 

 俺に対して頭を下げているのは、意外や意外μ'sのお姉さん担当である絢瀬絵里だ。

 彼女からはμ'sの活動関連で仕事を頼まれることは多々あるものの、こうしてプライベートで俺に手を合わせてお願いしてくるのは珍しい。しかも彼女の表情を見る限り相当切羽詰っている様子、一体何があった?

 

 

「もし断るって言ったら?」

「お願いよ!!あなたにしか頼めないことなの!!」

「ちょっ!?!?」

 

 

 俺の想像以上に問題は深刻なのか、なんと絵里は俺に抱きついてまで懇願してきた。しかも涙目になって、いつも大人びている彼女がとても子供っぽく見えて可愛いらしい。普段はこんなに大胆にならないのに、絵里が背負ってる問題はそこまで重大なのことなのか……。なんかちょっと悪いことをしてしまったような気がする。

 

 ていうか、抱きつかれた拍子に胸や太ももが身体中に当たって気持ちいいのなんのって!!俺がそんな色仕掛けに騙されるとでも……うん、まあ男だったら騙されるのが普通だろ。

 

 

「分かったから一旦離れよう。とりあえず鼻をかめ」

「うん……」

 

 

 絵里は目に涙を溜めながら、ティッシュで目や鼻元を拭う。

 それにしても、絵里ってこんなに幼い奴だったっけ?さっきも言ったけど普段はお姉さん気質が強いから、こうして幼気な彼女を見るとギャップ萌えというか、ああやっぱり女の子なんだなと納得してしまう。この弱った心につけ込み抱きしめて誘惑すれば、もしかしたらベッドインまで容易なんじゃね?――――と、薄汚い感情が湧き上がってくるくらいには……。

 

 

「それで何があったんだ?手短に話してみろ」

「うん。ここ最近、亜里沙の様子がおかしいのよ」

「亜里沙の?アイツはドが付くほどの天然だから、普通の人とは少し違った挙動をしていてもおかしくないだろ」

「いくらあなたが私の恋人だとしても、亜里沙を侮辱するのだけは許さないわよ……」

「えぇ……」

 

 

 そういや絵里も俺と同じくそこそこのシスコンだったな。でもついさっきまで泣いていたのに突然真っ黒な顔付きに変わるんだもん、さっきの涙が偽りだと思っちまうよ。

 

 

「分かった分かった。で、どのように様子がおかしいのかを具体的に教えてくれ」

「えぇ。亜里沙が部屋で1人の時、部屋から変な声が聞こえるのよ」

「例えば?」

「そ、そのぉ~……ちょっと言いにくいんだけど、あ、喘ぎ声みたいな……?」

「オイもっと詳しく教えろ!!」

「どうして急にやる気になってるのよ!?本当に現金ねあなた!!」

 

 

 当たり前だろ!!世界一ぴゅあっぴゅあな亜里沙の、自ら性に溺れている姿が見られるチャンスかもしれないんだぞ!!そんなの冷静で黙っていられるはずがない!!女の子の乱れた姿を見られるのなら、体裁もプライドも全て投げ出してやる!!

 

 

「ほらもっと……もっと話してくれ」

「目が怖いわよ……もっとと言われても、私が知っているのはこれだけだから」

「そっかぁ~くっそぉ~……。でもさ、それなら本人に直接聞けばいいんじゃねぇの?」

「聞ける訳ないじゃない!亜里沙の前ではいいお姉ちゃんでいたいのよ!!それなのに『亜里沙、あなた自分磨きとかしてるの?』とか聞いたら、私が破廉恥なお姉ちゃんだと思われるでしょ!?」

「お前そこまでシスコンだったのか……ていうかそんなこと思わねぇよ。多分……」

 

 

 これは賢くない、全然賢くない。絵里は真面目さ一辺倒の中でも少しドジっ子さが垣間見えるのが可愛いのだが、今日に限ってはドジっ子が垣間見えるどころか全面に押し出されている。久々にこんな無邪気な彼女を見たよ。

 

 

「大体事情は分かった。つまり自分が亜里沙に聞くことができないから俺に聞いて欲しい、そういうことだな?」

「いいえ。ストレートに聞いても恥ずかしがって話してくれないかもしれないわ」

「えっ?だったらどうしろって言うんだ?」

「私の部屋に来て」

「へ……?」

 

 

 な、なんだと……絵里が俺を自分の部屋に連れ込むとは、彼女は既に俺と交わる決心ができたということなのか!?変にドキドキしちまうじゃねぇかちくしょう!!

 

 

「あなたの思っているようなことじゃないから!私の部屋で亜里沙の動向を探って欲しいだけよ!」

「なるほど。期待して損したけど、亜里沙の自分磨きが見られる可能性があるなら悪くない」

「仮に、もしそうだとしてもあなたには絶対に見せないから」

「シスコン極まってんなぁお前」

 

 

 俺が亜里沙をイヤらしい目線で見ると、絵里の目付きがμ'sに反抗していた頃よりも鋭くなる。どれだけ亜里沙を溺愛しているのか……まああの純粋無垢でピュアの化身とも呼べる彼女を穢したくないという気持ちは、若干分からなくもないがな。でも俺はどちらかといえば、綺麗なものほど汚したくなる人間なんでね……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 善は急げ、思い立ったが吉日ということで、絵里に依頼された日の夜に俺は彼女の部屋へと潜り込んだ。俺が絵里の部屋にいることは絵里以外誰も知らない。亜里沙に俺の存在がバレたら、普段の自慰行為をしなくなる可能性があるからな。それに絵里の両親が今晩仕事で遅くなることも幸いして、これなら亜里沙のエッチな声をたっぷりと聞き浸れそうだ。

 

 絵里の話では、亜里沙の淫らな行為は毎晩行われいるらしい。毎日盛ってるとか、もうことりやにことなんら変わらない変態じゃないか。明日亜里沙に天使のような笑顔を向けられたら、俺どう接していこう……?

 

 

「そういやお前の部屋に来るのって久しぶりだよな」

「そうね。でもあまりジロジロ見ないでくれると嬉しいかな。穂乃果たちの部屋と比べて全然女の子っぽくないでしょ?」

「確かにそうだけど、俺としてはこっちの方が落ち着くよ。女の子女の子してる部屋は悪くないが、男にとっては肩身が狭いからさ」

「そう……あなたが来るから部屋を掃除している時になんとなくそう思ったんだけど、あなたにそう言ってもらえると安心だわ」

 

 

 掃除なんてしなくても、絵里の部屋だったら元々綺麗だとは思うがな。人を呼び寄せておいて部屋を全く掃除しない穂乃果や凛の部屋に比べれば。

 

 

「で?この部屋にいたら亜里沙の喘ぎ声が聞こえてくるんだよな?」

「いや、この部屋にいるだけでは聞こえないわ」

「あぁ、アイツの部屋の前を通った時とか?」

「違う。ここの壁に耳を当てたら微かに聞こえるのよ。亜里沙のイヤらしい声が」

 

 

 は……?今コイツなんつった?俺は今まで隣の絵里の部屋に聞こえるほどの喘ぎ声だから絵里が迷惑しているとばかり思っていたのだが、まさかコイツ……。

 

 

「お前、自ら壁に耳を当てて妹の声を盗み聞きしてたのか。とんだ変態シスコン女だな」

「ちょっと!変なあだ名付けないでよ!!たまたま!たまたま寝ている時に耳が壁に当たって、その時に亜里沙の声が聞こえてきちゃっただけだから!!」

「それでもすぐに耳を離そうとせず、ずっとアイツの声を聞き続けていたのは否定できねぇだろ」

「ぐっ……」

 

 

 絵里のシスコン気質が遂に限界点を振り切ってきたな。亜里沙もまさかここまで姉から愛されているとは思うまい。いや逆に愛されすぎてその愛が段々妙な方向へとシフトしているような気もするが、まあそれは俺も楓に対して溺愛を持っているから人のことはあまり言えない。

 

 

「とにかく真相を確かめるためには、アイツの喘ぎ声とやらを実際に聞いてみるしかないな」

「真相を確かめるのはいいけど、その右手に持っているスマホは何なの!?まさか録音するつもりじゃないでしょうね!?」

「絵里、あまり察しが良すぎると人に嫌われるぞ」

「カッコよく言ってるつもりだけど、やってることはただの盗聴よ。それだけはさせないから!!」

「ちょっとくらいいいだろうが!俺はこの事件の報酬として、亜里沙のイキ声を貰うんだよ!!」

「そんなこと大声で言わないで!もし亜里沙に見つかったらどうするのよ!!」

「お前も相当声デカイけどな……」

 

 

 こうやってお互いにグダグダ言い争いをしているが、結局の話どっちも変態なのは明らかだ。同じ妹好きとして同調し合うべきなのか、それとも女の子と一緒にその子の妹の喘ぎ声を盗聴しようと目論んでいることに危機感を持った方がいいのか……。

 

 

 しかし彼女の依頼を完遂するために、亜里沙の動向を知る必要があるのは事実。スマホはあっさり絵里に没収されてしまったので、俺は仕方なく絵里のベッドに座り込み壁に耳を当てた。どうやらこの壁の向こう側に亜里沙の部屋があるらしい。

 

 どこからどう見ても俺の行動は犯罪臭しかしないのだが、だからこその背徳感というものがある。俺は亜里沙の謎の行動の真相を突き止めるよりも、やはり清純ぴゅあぴゅあな彼女の淫らな声を聞いてみたいという邪な心があった。もう少しで天使の喘ぎ声が聞けると思うと自然に心臓が高鳴ってくる。その心臓の音で彼女の声を聞き逃してしまいそうになるくらいには、俺の興奮も沸き立っていた。

 

 

「どう?何か聞こえる?」

「う~ん……今は何も」

「声が聞こえる時間帯はまちまちだから、気長に待つしかないわね」

「アイツがいつヤるかも分かってねぇのにお前何回もアイツの喘ぎ声聞いてんのかよ……見上げた執念だな。そこだけはお前を見習ってやってもいいぞ」

「執念って、私はただ亜里沙が何をやっているのか気になってるだけよ」

「それだけのために壁に耳を当てて見張ってるのがすげぇんだって」

 

 

 まあ俺でもμ'sのみんなのエロい声を聞けるのならコイツ以上の執念は見せるだろうが、流石に毎日毎日夜の時間を潰してまで壁の反対側で待機しようとは思わない。愛する妹のためならってことなのか……こりゃあ俺以外に亜里沙に声を掛ける男子がいたら、ソイツ絶対絵里に殺されるだろうな。

 

 

 

 絵里との罵り合いが終わり再び壁に耳を当てたその時だった。壁の向こうから、微かだが亜里沙の声が聞こえてきた。しかもその声はただの声じゃない。

 

 

 

 

 これは……これは――――――!!

 

 

 

 

『あっ……んっ!』

 

 

 

 

「き、聞こえた……お前が言っていたのって、もしかしてこの声か!?」

「えっ!?どれどれ……」

 

 

 絵里もベッドに飛び乗り壁に耳を当てる。

 そしてその瞬間、彼女は目を大きく見開いた。どうやらコイツがいつも聞いていた声と全く同じらしい。遂に……遂に亜里沙の自分磨きの声を聞ける時が来たのか!!今日はこのために絢瀬家に上がり込んだんだ、俄然テンションが上がってきたぞ!!

 

 

 

 

『ふぁ、んっ……あ、ん!』

 

 

 

 

「おいおいおいおいマジかよ。あの純粋無垢で穢れ無き天使の亜里沙が自分磨きを……?」

「はぁ……あなたのせいで亜里沙がこんなことに……」

「俺のせいかよ!?」

 

 

 でも可愛い美少女の嬌声さえ聞ければ俺は悪魔にだってなる。そもそも女の子の喘ぎ声を聞くためだけに生きていると言っても過言ではない。

 

 

 

 

 そう喘ぎ声。亜里沙のそのような声も気になるのだが、俺はそれと同じくらい気になることがあった。

 今、俺と絵里はベッドの上に座って仲良く壁に耳を当て亜里沙の部屋を盗聴しているのだが、何故かお互いに向かい合っている。絵里は亜里沙の声を聞こうと必死で気付いてないみたいだが、男女2人がベッドの上で向かい合っているこの状況……心底唆られるものがある。

 

 

 もしこのまま絵里を押し倒したら、彼女はどのような反応をするんだろう……。驚き?それとも怒り?それとも悦び?

 

 

 俺は亜里沙の喘ぎ声を聞きたいと思う傍らで、唐突に絵里をベッドに押し倒してみたくなった。そして彼女がどのような表情をするのか見てみたい。そんな欲が心の奥底からふつふつと湧き上がってきた。

 

 

「れ、零?どうしたの?私の顔に何かついてる……?」

 

 

 どうやら絵里もようやく俺の様子がおかしいことに気付いたようだ。そして俺とかなりの至近距離で向かい合っていることも。そのせいで彼女の顔がみるみる内に赤くなっていく。

 

 

 その表情を見た俺は、いつの間にか右手が絵里に伸びていた。

 

 

「きゃっ!!」

 

 

 俺は絵里をベッドに押し倒す。

 もう大学生の彼女だが、ベッドの上だと尚更大人の女性に見える。部屋着であるせいか身体のラインがくっきりと現れ、胸がいつもよりも自己主張を増している、そして唯一肌がさらけ出されているのが首筋。彼女の首筋は非常に艶やかで、思わず息を飲んでしまう。

 

 彼女の表情も初めは戸惑っていた様子だったのだが、徐々に状況を理解してきたのか段々と目を麗せてこちらを誘惑するように見つめてくる。もちろん本人に俺を誘う意図はないのだろうが、俺は既に亜里沙の部屋を盗聴することなど忘れ絵里に見惚れていた。

 

 

「零……ダメよ、隣の部屋に亜里沙がいるのよ?」

「それがどうした。アイツの喘ぎ声も聞きたい。だがお前の淫らな嬌声も聞きたいんだ」

「あっ……」

 

 

 俺は絵里の身体に跨ると、彼女の服のボタンへと右手を掛ける。上から順番に1つ1つゆっくりとボタンを外していくと、次第に彼女の胸の谷間が俺の眼前へと顕になっていく。そして、その途中で気付いたことがあった。

 

 

「お前、下着してないのか……?」

「え、えぇ。部屋着の時はしないこともあるから……」

「つまりする時もあると。もしかして、俺のために着けないでくれていたとか?」

「そ、そんなことは……」

 

 

 絵里は顔を染めながらプイッとそっぽを向く。大人の魅力を醸し出している彼女でも、そんな行動だけは子供っぽくて愛おしくなる。そのせいで俺の欲情が高ぶっているとも知らずに……。

 

 俺は湧き上がる感情を抑えきれず、再び彼女の服のボタンに手を掛けた。ボタンを外していくたびに胸の谷間が広がり、俺の目を釘付けにする。

 

 

 そして遂にボタンを全て外す。

 服の間からチラチラと見える白い双丘の谷間に見惚れてしまうが、真に彼女の双丘を拝むのはここからだ。俺は両手で彼女の服を持ち、微かに前がはだけている服を左右に大きく解き放った。

 

 

「あっ……」

「おぉ……!!」

 

 

 自身を押さえつける衣がなくなったせいか、服をはだけた瞬間に絵里の胸が大きく揺れて姿を現す。二つの張りのある乳房は、形よく均整美を保って隆起して美しい。そして蕾のように上向いた乳首が彼女の羞恥心を具現化しているようで、艶やかながらもちょっぴり可愛らしくもある。

 

 

 気が付くと、俺の右手は彼女の胸の先端へ吸い寄せられるように伸びていた。そして親指と人差し指を立てその突起を――――軽く摘んだ。

 

 

「んっっ!ああっ!!」

「全然力を入れてないのにそこまで喘ぐのか……もっと俺にその声を聞かせてくれ」

「ふあっ、あ……っっ!!」

「この感度……もしかして普段から乳首を弄ってたりするのか?」

「そ、そこまでは……あっ、はぁん!!」

「女の子っていつもどうやってオナニーするんだ?やっぱ乳首と股が主流なのか?」

「ど、どうして……んっ!そんなことばかり聞くのよ……はぁ、あっっ!!」

 

 

 俺は絵里の乳首を指で摘んだり手のひらでコロコロと転がしながら、彼女の蕩けた表情と漏れ出す淫らな声を楽しむ。同時に女の子がいつもどのように自分磨きをするのか気になってもいた。隣の部屋で亜里沙が自分磨きをしていると知って尚更だ。ことりや楓に頼めば公開オナニーしてくれるだろうか。

 

 

 俺は再び絵里の身体に目を向ける。男の興奮を煽る艶かしい身体に、俺の欲求も止まることはない。特に未だにピンと立っている胸の先端に目が惹きつけられてしまう。

 

 

「なあ、吸ってもいいか……?」

「え、えぇ。私の身体を好きにしていいのは、あなただけなんだから……」

「絵里……」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが崩壊した。μ'sのみんなの身体は俺のモノだと世界の真理で決まっているのだが、本人から許可が出ると歯止めをしていた最後のリミッターですらあっさりと外しれてしまいそうだ。

 

 

 俺は絵里の身体に覆い被さると、そのまま顔を彼女の右胸へと近づける。そして軽く唇を開き、さっきからピン立ちしている自己主張の激しい胸の突起を――――唇で咥えた。

 

 

「はっ、ああっ……!!」

 

 

 もちろん咥えただけで留まる俺ではない。絵里の喘ぎ声を聞いて彼女の興奮が極限まで高まっていることを確認した後、今度はその突起を思いっきり吸い上げる。

 

 

「ひゃっ!あっ、ああ……っっ!!」

 

 

 乳首を吸ったところで俺に気持ちのいい感触もなければ、女の子特有の柔らかい温もりも感じられない。だが全身に電流のように走る刺激と快感に耐え切れず、声を上げて身体をよがらせる女の子を見るのは視覚的興奮を覚える。絵里は身体をビクビク震わせながら、吐息と共に淫らな声を部屋中に響かせていた。

 

 

「はぁ……!ああっ!!」

 

 

 もっと……もっとだ!!こんなものじゃ俺を満足させることはできないぞ!!もっと俺に聞かせてくれ、俺に服従する牝の叫びを!!

 

 

 

 

 しかしこの時、俺たちは忘れていた。隣の部屋に亜里沙がいて、そして俺たちが声を荒げて大暴れしていることに。そして俺たちは気付かなかった。絵里の部屋のドアから、何やら音がしていることに――――

 

 

「あ……えっ!?零くん……お姉ちゃん?」

 

「「亜里沙!?!?」」

 

 

 後ろを振り返ってみるとそこには亜里沙がドアの隙間から、ベッドで重なり合っている俺たちを目を見開いて凝視していた。それもそうだろう。だって亜里沙には俺が来ることすら伝えてなかったし、その上自分の恋焦がれる男性と上半身裸の姉がベッドの上で喘ぎ声を漏らしながら格闘技をしている真っ最中なんだから……。

 

 

「ご、ごごごごめんなさい!決して覗き見るつもりはなかったんです!でも隣の部屋がやけに騒がしかったから、お姉ちゃんに何かあったのかと思って焦っていただけで……と、とにかくごゆっくり!!」

「ちょ、ちょっと待って亜里沙!!」

「そうだ!お前も同類じゃないのか!?」

「えぇ!?ど、同類ってどういうことですか!?」

「お前、この期に及んではぐらかすつもりじゃねぇだろうな?絵里から聞いたぞ、お前が夜な夜な自分磨きをして喘いでいるってことを」

「え……えぇ!?」

 

 

 ん?イマイチ話が噛み合ってないような……まあ自分から自分磨きしてましたなんて言う奴は、よほどの淫乱か変態じゃないといないだろうが。とりあえずさり気なく事情を聞いてみるか。

 

 

「なあ、お前最近夜になにしてんだ?絵里の話では日課にしていることがあるって話だけど」

「夜ですか?ああ、体力作りをしているんですよ。私ってμ'sの中でも体力が全然ない方ですから、そのために最近は夜もストレッチをしているんです」

「「す、ストレッチ……?」」

 

 

 これは……もしかしてもしかしなくても、俺たちの勘違いだった?なんか勝手に盛り上がって勝手に騒ぎ合ってた俺たちが馬鹿みてぇじゃん……いや馬鹿か。

 

 

「なるほど、ストレッチでの息継ぎや呼吸の声が卑猥に聞こえてきたってことか。要するに絵里、お前の勘違いだったんだ。人騒がせな」

「な゛っ!?悪かったとは思うけど、さっきあなたも壁に耳を当てた時は勘違いしてたじゃない!!それにスマホまで持って盗聴しようとしていたものね!!」

「おい!この世には言ってもいい事実と言ってはならん事実があるんだ!!ここに亜里沙がいる手前、どう考えても後者だろ!!」

「あなたがやろうとしていたことは犯罪だから」

「そこは否定できねぇけど……つうかお前早く服着ろよ。さっきからおっぱい丸出しだぞ」

「っ~~~~!!あ、あなたねぇもっと早く言いなさいよ!!」

 

 

 俺にそう言われ、絵里は顔を真っ赤に沸騰させながら身体に腕を回して胸を隠す。

 

 なんだ、折角大天使亜里沙の淫らなお声をお聞かせ願えると思ったのにとんだ骨折り損だったな。もう少しで亜里沙の性事情、あわよくばあのまま絵里の性事情も聞き出せるところだったのに……。

 

 

「あのぉ~これって私のせいですか?」

「いいや全然、絵里のせいだ」

「ごめんなさい亜里沙。私の早とちりだったみたい……」

「いいよいいよ!それより零くんが遊びに来てくれてくれたんだし、3人で一緒に遊びましょう♪」

「亜里沙……」

「これが天使か……」

 

 

 そうだよそうだよ亜里沙は天使なんだ!天使が自分磨きなんてそんなこと……ある訳ないよな?ていうかコイツはしたことあるのかな?自分を慰め自分を磨く行為、通称オナニーを……。

 

 

「な、なぁ亜里沙」

「はい?なんですか零くん♪」

「い、いやぁ……なんでもない」

 

 

 ダメだ、俺はこの笑顔に一生勝てない聞き出せない。

 気になる……亜里沙が自慰をしたことあるのか物凄く気になるんですけど!!絶対に亜里沙の性事情を暴いてやる、いつの日か……。

 




 天使は穢したくなるもの。それが私です……


 今回は絢瀬姉妹の性事情を明らかにしよう!という回だったのですが、書き上げてみればあまり明らかになっていかなったという……。亜里沙に至ってはまだ自分磨きの行為自体知らないぴゅあぴゅあちゃんでしたから。でもそんな純白の彼女を堕とすのが私と零君の役目なので、あの天使がどのように乱れるのかは今後をお楽しみということで!ちなみに以前投稿した亜里沙と野球拳をする回でなら、一足先に天使の乱れる姿が見られたりします(宣伝)

 ちなみに今回の話を執筆していて思ったのですが零君と絵里、仲良すぎやしませんか??ボケとツッコミが上手く入れ替わっていいコンビに仕上がりました!しかし絵里に関しては終始ポンコツキャラよりも、真面目キャラの中で稀にポンコツなところがある方が可愛げがあると思っています!


 次回はリクエスト小説を1つ執筆してみようと思っています!




 そしてここからはいつもの宣伝を。

 ハーメルンで"ラブライブ!"そして"ラブライブ!サンシャイン!!"の小説を執筆なさっている鍵のすけさんの企画で、サンシャインの短編小説を執筆することになりました。
この企画は以前私が主催した企画と似たようなもので、ハーメルンのラブライブ作家、また普段はラブライブ以外の小説を投稿している作家さんも多数参加予定です。

 投稿日時は4月25日(月)からの予定です。私は大トリを飾ることになりましたので、参加者の変動がなければ私の小説は5月16日(月)になります。そちらでも感想をくださると嬉しいです!


新たに高評価を下さった

ジマリスさん、雷電pさん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

淫乱な奴ら、清純な奴ら

 今回はリクエストを頂いたのでお答えしてみました回。淫乱な子が清純な子で清純な子が淫乱になる、この小説では極めてアブノーマルなお話。


 いつからだっただろうか、μ'sの一部メンバーが変態化してきたのは。確かに変態化の原因は俺にある。俺がそうなるように望んでいたから。でもまさか人目を憚らず俺にじゃれついてくるとは思いもしなかったぞ……。

 

 そんな訳でみんなご存知の通り、俺は一部メンバーから淫猥な誘惑を受けながら毎日を過ごしている。そしてそれを止める者もいれば傍から苦笑いする者――――全員それぞれに独特すぎる性格があって、そのキャラは簡単にブレることはないと思っていた。

 

 

 そう、この不思議な現場に直面するまでは……。

 

 

「はぁ……昨晩は2回しか自分磨きができませんでした」

「えぇ!?1日2回とかやりすぎだよ海未ちゃん。ことりなんて一ヶ月に……うぅ、これ以上は恥ずかしくて言えない~!!」

「もう海未ちゃん!()()なことりちゃんにそんな話しちゃダメだよ!!」

「仕方ないじゃないですか!昨日全然できなくて、今でも欲求不満なんですから!!」

「あまりエッチな話をされるとことり、頭がクラクラしてきちゃう……」

 

 

 オイオイオイオイオイオイッッ!!なんなんだこの会話は!?

 海未が自ら自分磨きの回数を告白し、ことりが猥談に羞恥を感じ、穂乃果が真面目なツッコミ役に……これもう訳分かんねぇ……3人の性格がいつもとは違って完全に真逆だ。まさかいつの間にか別の世界線にバタフライしてしまったんじゃあ……。

 

 

「あぁ、あの()()の化身とも呼ばれたことりちゃんが穢されていく……」

「その純粋は仮面です。ことりも思っているんじゃないですか?自分のカラダを零にメチャクチャにされたいと」

「そ、そんなことないよぉ~!!ことりは零くんと健全なお付き合いをしたいの!!」

「私は一日中零と下半身で繋がっていてもいいですけどね。おはようからおやすみまで、ずっと一緒に繋がっていられるなんて素晴らしいと思いません?」

「もうっ!海未ちゃんの変態!!」

「穂乃果たちに欲がなさすぎるのです。人はもっと貪欲にならなければ人生損しますよ」

 

 

 嘘だろ……あのことりがエロいことに関してがっついてこないはずがない。いつもなら笑顔で俺に猥談を振ってくるのに、今の彼女はあろうことか"健全"などという自身から最もかけ離れた言葉を言い出す始末。もう既に健全さの欠片もない脳内ラブホテルちゃんが何を言ってるんだか。

 

 そして海未。コイツは性に関してはμ'sの中でも一番無縁(だと思う)なはずなのだが、こうも自分の妄想をたらたらと公衆の面前で垂れ流すとは、急な性格変貌に若干不気味さまで感じる。今までのことりの雰囲気が全て海未に乗り移ったってこともあるけど、それ以上に海未が淫乱だと大人の色気で誘惑されているような気がして別の興奮があるんだよ……。

 

 穂乃果に関してはことりと同じ。いつもならことりの猥談に平気で乗っかってくるくせに、今日はことりの清純(笑)を守るためにひたすらツッコミ役に徹している。海未に対してここまで強気な穂乃果も珍しいけどな。

 

 

 あぁ、いきなり理解不能なことが起きて頭が痛くなってきた、ちょっと外の風でも当たりに行こう。

 

 

「零、どこに行くのですか?まさかトイレに?トイレなら、あなたの専属便器の私がいるではありませんか♪私の口はいつでもあなたの逞しいアレを咥えるために準備万端ですから!なんなら授業中もずっと机の下であなたのアレを咥えておきましょうか?」

「いやまあそれは願ったり叶ったりだけどさぁ……お前、本当に海未か?」

「何を言ってるのです?私はいつでもあなたの性奴隷ですよ?」

「お前本当にそれ本気で言ってんの!?どこかで頭打ったのか!?」

「あっ、そんなに近付いてきて……犯してくれるのですか?でも流石に教室でヤるのは……せめて校舎裏に行きましょう!」

 

 

 あの海未が自ら奴隷宣言をするなんて、まさしく俺が待ち望んでいた光景!!でも俺は特段目立った手出しをした訳じゃない。どうやら俺の恋人であることは海未だけでなく穂乃果もことりも共通認識なのだが、如何せん3人がいつものテンションとは真逆だと俺の調子が狂う。やはり俺の中で海未は清純でいて欲しいという微かな希望でもあるらしい。

 

 

「ことり、貧血で倒れちゃいそう……エッチな話にはついていけないよぉ……」

「お前もいつもと様子がおかしいぞ?普段だったら所構わず俺におっぱいを押し付けてくるのに。俺のために育てたっていうそのおっぱいを」

「お、おっぱ……もう零くん破廉恥だよぉ~!!そんなの恥ずかしいもん……」

 

 

 天使が……天使が復活してるぞぉおおおおおおお!!もはや手遅れかと思われていた脳内ラブホの堕天使が、まさか再びこの世に光を帯びて降臨するとは思いもしなかった。彼女が羞恥心で悶える姿なんてもう見られないと思っていたからこの表情は貴重だ。そう思うとこの弱々しいことりに妙な欲情が芽生えてくるな……敢えて無理矢理襲ってみたい、みたいな?

 

 

「もう零君、海未ちゃんをあまり甘やかしたらダメだよ!すーぐあっちの話題に持っていくんだから!」

「穂乃果……お前も休み時間になったらすぐに俺に抱きついてくるほどオープンだったじゃないか。そしてことりとの猥談に花を咲かせていただろ?そんなお前はどこへ行ったんだ……」

「ふぇええええええええええええ!?穂乃果そんなスキンシップしないよぉ~!穂乃果が零君の恋人と考えるだけでも心臓がバクバクして緊張するのに!!」

「あの穂乃果が緊張!?俺に!?」

「零君変態さんだから、いつ何をされるのか分からないからドキドキだもん!」

 

 

 俺が変態なのは重々承知だが、穂乃果がこんなにウブな奴だとは認めない!!これじゃあまさしく恋したての純情な乙女じゃないか。俺が知っている、俺が愛した穂乃果はこんなに清純で純粋な子じゃなかったはずだ!もっと淫乱で性に敏感で、俺の言うことなら何でも聞いてくれる従順さこそが俺の求めていた穂乃果なんだ!!

 

 

 そう、コイツらは俺の恋人であって恋人ではない!穂乃果は天然スケベちゃん、ことりは性欲の淫魔、海未は清純乙女、ソイツらこそが俺の知る彼女たちだ!俺は認めねぇぞ、3人がこうなった理由を絶対に暴いて――――――

 

 

 

 

「お兄ちゃんたち、教室の入口一体何をやってるの……?」

 

 

 

 

「か、楓!?」

 

 

 いつの間にか楓が俺たちの教室の入口前に立って、俺たちを呆れた表情で見つめていた。そして彼女の後ろには雪穂がいるのだが、何故かキラキラとした輝かしい目をしている。あの冷静沈着で常に年相応以上の雪穂が子供のような振る舞いを見せるのは珍しい。それに対して、楓はいつもよりクールダウンしているみたいだ。

 

 

「どうしたお前ら?3年生の教室まで来て」

「放課後の練習少し遅れるって言いに来たんだけど、どうやらそんな雰囲気じゃなかったみたいだね」

「そうなんですよ。私と零は今から校舎裏に行かなければならないので。楓と雪穂もご一緒にどうです?」

「お前、楓はともかく雪穂は――――」

「いいですね行きましょう!!私最近自分の指だけじゃ全然満足できないんですよ。そう、零君の指じゃないと……」

「は、はぁ!?!?」

 

 

 雪穂は頬を赤らめながら俺の手を取った。そしてそのまま俺の手を引いて、自分のスカートの中へと――――って、おいおい!!

 

 俺は驚きのあまり咄嗟に雪穂の手を振り払く。本来なら女の子の方からこんなことをしてくれるのだったら導かれるままに弄り倒すのが普通だが、その相手が雪穂という衝撃に思わず手を引っ込めてしまった。

 

 

「やっぱここでは恥ずかしいですもんね!だったら早く校舎裏に行きましょう!!」

「お前ら校舎裏好きだな!!つうかお前もキャラ変わってね!?自分からこういうことをする奴じゃなかっただろ!!」

「何言ってるんですか!私のカラダは零君に弄ってもらいたくて、いつもウズウズしているんですよ!」

「痴女かよ!楓が2人になったみてぇだ……」

「お兄ちゃん?今なんて言った……?」

「へ……?」

 

 

 こんな話真っ先に乗ってきそうというか、学校で顔を合わせたらコイツ自身から振ってきそうな話題なのだが、今の楓は自慢のツリ目を逆立てるかのように俺を睨みつけてくる。穂乃果たちの様子がいつもと真逆、雪穂の性格も淫乱になってるし、まさかコイツは――――

 

 

「私が痴女ってどういうこと!?大体そういうことは大人になって結婚してからでしょ!!それなのにお兄ちゃんはいっつもセクハラばかり……これじゃあ一緒に住んでいる私の貞操が危ないよ。ホントに変態なんだから」

「お前に変態と呆れられたら、人生やり直すレベルの恥辱だぞ!」

「家でも私のカラダを舐め回すように見てくるし、朝も騎乗位で起こせとせがんでくるしでもう散々だよ……」

「お前が勝手に身体のラインの目立つ服を着ているだけだし、朝は頼んでもないのに俺の身体に跨っているのはどこの誰だよ!」

「誰そんな破廉恥な女」

「おめぇだよ!!自分の胸に手を当てて考えてみろ!!」

「それで自分の手を私の胸に当てて揉もうとしてるんでしょ?うっわ……」

「いくら真面目でお堅い性格になっても、お前のそのウザイ性格は一切変わらねぇんだな……」

 

 

 それに結局卑猥な妄想に行き着いていることに変わりはない。しかも兄と妹同士で結婚とか言っちゃってる時点で、コイツの性格の根底は穂乃果たちと違って変わってはいないらしい。あくまで性に関する性格だけが真逆になっているということか。

 

 

 そしてこんな緻密で繊細な技術を施せそうな人物に、俺は1人しか心当たりがない。相変わらずまた厄介なことに巻き込んでくれるなアイツは……。

 

 

「ここで会ったのも何かの縁です。さあ、私と一緒に校舎裏へ向かいましょう!それとも便器プレイならトイレでやるのも一興ですね。零君が望むなら男子トイレの個室でも……私、声を漏らさないように我慢しますから♪」

「俺に会いに来るのが目的だったのに縁もクソもねぇだろ。それに便器プレイなんて初めて聞いたぞ。なんかいつもよりもツッコミ疲れるんだけど気のせい……?」

「もう雪穂!学校ではそんな話題を慎むようにって、穂乃果いつも言ってるよね?お姉ちゃんは妹をそんな子に育てた覚えはありません!」

「別にお姉ちゃんに育てられた覚えはないし。それにお姉ちゃんこそ零君にエッチに素晴らしさを教えてもらった方がいいよ!自分の手でするよりも何十倍、何百倍も気持ちいいんだから。ね、零君♪」

「俺に聞かれても女の子の感度は分からん……」

「そ、そんなエッチなんて……そりゃあ穂乃果のお相手は零君以外には考えられないけど、でも、でもエッチ……ふわぁ、あぁ……」

 

 

 おいおい、まさか穂乃果がこんな軽い猥談でショートすることになるとは……淫乱雪穂恐るべし!!いつもなら逆の立場なんだが、ある意味ではこれが正しい姉妹の姿かもしれない。穂乃果の方が雪穂より威厳のある光景なんて、この世界線に住んでいたらまず見られないからな。

 

 

 

 

 よし、ここで今起きている現状をまとめてみよう。

 いつも脳内ピンクの淫乱ちゃんが今はドが付くほどの真面目さんに、逆に変態な俺たちに反抗的な真面目ちゃんたちが今は脳内ラブホに様変わりしている。特に淫乱になっている海未や雪穂は、今まで自分たちが変態キャラでしたと言わんばかりに淫語録が達者だ。本来のこの2人ならことりや楓の猥談を聞いてるだけでも気絶するくらいウブなところがあるというのに……。

 

 

「ことり、ちょっと貧血気味だから保健室行ってくるね。やっぱりエッチな話はことりには無理だったよ……」

「大丈夫ですかことり先輩?私が付き添います。こんな淫乱な人たちのところに天使のようなあなたを置いてはおけませんから」

「そんなことでは、零の赤ちゃんを身籠ることなんてできませんよ」

「れ、零くんの赤ちゃん!?それってことりと零くんがそ、その、え、ええエッチをするってこと!?ふ、ふわぁ……」

「ああっ!ことりちゃんしっかりして!!もう海未ちゃん!!ことりちゃんが気絶しちゃったじゃん!!」

「今時エッチなことに耐性がないのが悪いんだよお姉ちゃん。そんなことじゃあ零君を満足させてあげられないよ。いつでも挿れてもらえるように濡らしておかなきゃ。零君はいつでも私たちを求めてるんだから」

「俺をヤリチンみたいに言うな……」

 

 

 そりゃあ俺だって男だもん、美女美少女しかいないμ'sメンバーと()()()()()()()をしてみたいという願望はあるさ!自らケツを振って誘ってくる女の子のアソコに、俺の欲望を体現化した某をズッポリとハメてみたいと思うことだってあるさ!!しょうがないじゃん、健全な男の子なんだから!!しかも俺たちは恋人同士だから、ゆくゆくはそうなると考えると妄想が沸き立つわけじゃん!!

 

 でもそう簡単に女の子を抱けたら苦労しない!!もし本当にμ'sのみんなを妊娠させてしまったら、まだ高校生の俺はどうしたらいいの!?俺のせいでμ'sが産休に入りましたとかになったら目も当てられない!!学内新聞にはμ'sを無責任に妊娠させたと変態、いや鬼畜のレッテルを貼られ晒し者に……。

 

 とにかく、とっとと諸悪の根源に電話をしてこの状況を打開しよう。このままだと俺の精神がヤバイ。いつもとみんなの性格が違うだけでここまで居心地が悪くなるものなのか。なんだかんだことりには淫乱堕天使が似合ってるし、海未は清純乙女じゃないとしっくりこないな。

 

 

 

 

 だけど折角貴重な機会が訪れたんだ。ちょっとだけ、少しくらいなら遊んでやってもいいかな。なぁ~んて思っちゃったり。このままコイツらに振り回されているだけじゃあ癪だしな。

 

 

「穂乃果!!」

「零君!?急に穂乃果の肩を掴んでどうしたの!?ま、まさか廊下で穂乃果を……また破廉恥なことばっかり!そんなの許さないよ!!」

「違うな、お前は喜んでいる。俺に襲われることを、俺に身体をめちゃくちゃにしてもらえることにな」

「何言ってるの零君……」

 

 

 穂乃果に『は?お前頭沸いてんじゃねぇの?』的な顔をされてしまった。あの穂乃果に馬鹿にされるとは何物にも代え難い屈辱なのだが、ここはグッと堪えてコイツで遊んでやる。そうすることで諸悪の根源であるあの悪魔のような姉、いや悪魔を驚かせられるかもしれないし。

 

 

「いいか穂乃果思い出すんだ、俺とお前が歩んできた日々を」

「いきなりなに?熱血スポ根アニメの見過ぎ?」

「違う。あっただろ、夏祭りに行く電車の中で痴漢ごっこをしたことが!!ダイエットとは名ばかりでエロいことをしまくっていたことも!!旧講堂でおしゃぶりの練習をしていたことも!!お前がヤンデレ調で俺の寝込みを襲いに来たことも!!」

「うっ!頭が……」

 

 

 やはり穂乃果から俺との淫猥な行為に関する記憶は抹消されていたか。だけど人とは積み重ねてきた歴史を崩すなんてことはできない。記憶がないのは自分が目を背けているだけ。脳内には必ず俺との淫行の記憶が眠っているはずだ。戯れになるけど、俺は穂乃果のその記憶を呼び覚まそうとしている。そして彼女が頭を抑えているということは、それなりに記憶が復活してきているということだろう。

 

 

「俺がお前の胸を弄った時、お前は気持ちよさそうに喘ぎ声を漏らしていたよ。胸の先端を摘んだ時、お前は身体をビクビクさせながら俺の快楽を受け入れていたよ。そしてパンツの上からお前の割れ目をなぞった時、お前は牝のごとく艶やかな声を部屋中に叫ばせていたよ」

「う、うぅ……そんなことが、あったような……」

「あったようなじゃないあったんだ!思い出せ、快楽に身を任せていた時のお前を!!常に俺の身体を求めていたお前を!!夜な夜な自分磨きをして身をよがらせているお前を!!俺に身体をめちゃくちゃにされる、自分の姿を!!」

「うっ、うわぁあああああああああああああああああああああああああああ!!恥ずかしぃいいいいいいいいいいいい!!だけどこの懐かしい感じは……!!」

 

 

 来てる来てる!!穂乃果の記憶が戻ってきている!!恐らくあの悪魔に妙なクスリでも飲まされたんだろうが、俺と穂乃果の愛にそんなものが付け入る余地はない。さぁ思い出せ、俺との淫らな思い出を!!そし元の淫乱な少女に戻るんだ!!

 

 

 

 

 しばらく頭を抑えながら叫んでいた穂乃果だが、少し経つと俺の顔を見上げキョトンとした表情で首を傾げる。これは……これはもしかして――――!!

 

 

「あれ、零君?どうしたの穂乃果の肩なんか掴んで、こんな廊下の隅っこに追い込んで……ま、まさか……やっとヤる気になってくれたんだね!!いやぁやっぱり零君は我慢できなくなって、今年中には襲われちゃうんじゃないかって思ってたんだよねぇ~♪いつかその時のために下も濡らして…………ない!?どうして!?パンツがこんなに乾燥して肌触りがいいなんて久しぶりなんだけど!」

 

 

 おっ、これぞいつもの穂乃果だ!ダメ元で遊びのつもりでやってみたんだけど、まさか本当に元に性格を戻せるとは思わなかった。それにしてもさっきとのギャップで全くの別人に見えるな……。

 

 

 するとここで携帯が鳴る。このタイミングで電話をしてくるということは相手が誰か大体分かっていたので、俺は携帯の画面を見ずに通話に出た。

 

 

『いやぁすごいねぇ~。まさか言葉だけで穂乃果ちゃんを元に戻すとは』

「どこから見てんだお前……俺を監視してんのか?」

『愛しの可愛い弟を見守らない姉がどこにいるの?お姉ちゃんはいつも零君の傍にいるよ♪』

「こっわ、ヤンデレかよ……」

『零君はヤンデレお姉ちゃんをご所望?それなら張り切っちゃおうかなぁ~』

「やめろ。お前がヤンデレ化したら俺じゃあ対処できない。ていうか対処することすら放棄するから」

 

 

 そもそも今回のような性格を変えるクスリを飲まされて、一生奴隷のような生活を送り続けるハメになるだろう。秋葉がヤンデレになったところを想像するだけで鳥肌が立つ。

 

 

 そんな訳で、淫乱な奴らと清純な奴らの性格入れ替わりっこ騒動はひとまず幕を下ろした。秋葉の話ではそこまで長く効力は続かないそうで、直にみんな元に戻るようだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 ――――――それで、みんなの性格が元に戻ったのはいいのだが……。

 

 

「あぁん♪零くんに抱きついてるだけでことり幸せぇ~……零くんの身体にお股を擦り付けたらもっと気持ちいいんだろうなぁ~♪ねぇ零くん、やってもいい?イヤって言われてもしちゃうけどね♪」

「お兄ちゃん明日の朝はどうやって起こして欲しい?おしゃぶり?騎乗位?それとも初めから繋がったまま寝る?それとも全種プレイを合わせたフルコース?ホントにお兄ちゃんは変態さんなんだからぁ~♪」

 

 

 これはこれで精神が疲れると、改めて思い知らされた一件だった……。

 




 やっぱりことりと楓は淫乱でこそ輝くのだ!


 今回はμ'sメンバーの性格が入れ替わってしまった!回でした。
 本来は全員を出演させるつもりだったのですが、雪穂と楓とのやり取りが終わった時点で文字数が嵩んでしまったため敢え無く5人だけに。特に普段真面目ちゃんな絵里や真姫、そして淫乱候補生であるにこは出してあげたかったなぁと今更後悔(笑)

 リクエストの採用に関しては、少しでもシリアスな雰囲気になりそうなものは採用しません。またシリアスでなくても私の裁量次第で選別されるのでご了承のうえ。


 そしてここからはいつもの宣伝+αを。

 ハーメルンで"ラブライブ!"そして"ラブライブ!サンシャイン!!"の小説を執筆なさっている鍵のすけさんの企画で、サンシャインの短編小説を執筆することになりました。
この企画は以前私が主催した企画と似たようなもので、ハーメルンのラブライブ作家、また普段はラブライブ以外の小説を投稿している作家さんも多数参加予定です。

 前回、投稿は25日から始まると言ったのですが、投稿日は5月1日から1人ずつ投稿されます。総勢22人なので、私は最終の5月22日に投稿されます。その時は是非ご感想よろしくお願いします!



 次回以降の予定としては、にこ回、真姫回、楓&ツバサ回と色々用意していますが、どの順番で投稿されるかはまだ未定です。全く違う話が投稿されるかも。



新たに高評価をくださった

南ツバサさん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

楓ちゃんバーサス

 今回は全編通して楓ちゃん一色な回です!
 作者の自分が言うのもアレですが、彼女やっぱりいいキャラしてます(笑)


 

【vs 穂乃果】

 

 

 

 

「ねぇねぇ楓ちゃん!楓ちゃんって、穂乃果たちのことずっと先輩呼びだよね」

「藪から棒に何ですか?まさか穂乃果先輩の口から猥談以外のトークが飛び出してくるなんて、穂乃果先輩が和菓子じゃなくてパンを食べてる時くらい驚きです」

「それ全然驚いてないじゃん……」

「おっ、穂乃果先輩の頭でよく気付きましたね。偉い偉い」

「ちょっと子供扱いしないでよ!!」

 

 

 なんだろう、穂乃果先輩はどう見ても先輩って柄じゃないんだよねぇ。だって普段からの素行を思い出してみてよ、あんなの尊敬する要素がどこにあるっていうの?むしろあのドジっ子さ具合は弄って弄って弄り倒して遊びたくなっちゃうんだよねぇ~♪

 

 

「話を戻すけど、穂乃果たちのことずっと――――」

「穂乃果先輩の分際で、私を話の軌道に乗らせるなんて片腹痛いですよ。片腹大激痛です」

「また話題が逸れちゃったし!!もしかして穂乃果、下級生に馬鹿にされてる!?」

「よく気付きましたね……さぞかしその無い頭を回転させたんでしょう」

「あのぉ、穂乃果泣いていい?」

「女に女の涙を見せびらかせたところで、逆にもっと泣かせたくなるだけなのでやめておいた方がいいですよ」

「なんというドS!?楓ちゃん鬼畜すぎない!?」

 

 

 そもそも私は誰かに敬意を払うってこと自体大嫌いなんだよ。なんかイヤじゃない?わざわざ自分から誰かの下に立つなんて。そのために鍛えた営業スマイルだけは完璧だから!そして私が唯一敬意を払うのはお兄ちゃんだけなんだからね!!

 

 

「先輩呼びや敬語が抜けないのは、単純に慣れちゃったからですね。しかし先輩禁止の概念と意図は心得ていますから。まあ、先輩たちごときに敬意を払う訳ないってことですよ♪」

「楓ちゃん上げて落とすよねいつも……嬉しいのやら悲しいのやら」

「この私と同等の扱いをされているんです。喜んでいいですよ♪」

「そこら辺、本当に零君の妹だよね。自分に自信満々のところとか……」

 

 

 お兄ちゃんの妹だからと言うか、神埼家の特徴だねこれは。お父さんは違うけど、お母さんがそんな性格だったせいかお姉ちゃんを含め兄妹全員が傲慢な態度で振る舞うようになってしまったらしい。まあ私は何でもできる超スーパー妹だし、人を見下す権利は十分なんだよ♪

 

 

 しかしそんな私でも、先輩たちのことはちょっとくらい凄いなぁと思うことは合ったりする。この私をμ'sに引き込んだグループとしてね。

 

 

「ああやって言いましたが、穂乃果先輩の人を惹きつける力は尊敬するところがあります。無自覚なカリスマ性というか、みんなを引っ張っていく力は素晴らしいと。初めは何でこの人がμ’sのリーダーなのか甚だ疑問でしたが、同じチームになってみて先輩の魅力がひしひしと感じられましたよ」

「か、楓ちゃんがデレた……楓ちゃんがデレたぁああああああああああああああああああああ!!まさか楓ちゃんにそう言ってもらえるなんて思ってもいなかったからなんだろう、嬉しさで穂乃果、なんてお礼を言ったらいいのか分からない……え、えへへ」

 

 

 あ~あ、こんな簡単なお世辞で頬を緩めちゃって!そんなのだから先輩に見えないんですよ、自覚あるんですかねぇ~。まあそういうところも穂乃果先輩らしくて可愛いいんですけどね!うん、やっぱり先輩には見えないや!ごめんなさい穂乃果先輩♪

 

 

 

 

勝者:楓

 

 

 

 

【vs ことり】

 

 

 

 

「ことり先輩とは一度決着をつけておくべきだと思ってたんですよ」

「そうだね。どっちが零くんに相応しいエッチな女の子かを……」

「ですです。お兄ちゃんにおはよう騎乗位をしてあげられるのは1人だけですから……」

 

 

 私とことり先輩は犬猿の仲。という訳ではないんだけど、前々からどっちがエロいのかお互いにハッキリさせなければならないと火花をぶつけ合っていた。そして遂にその時がやってきたんだよね。ようやくあの淫乱堕天使と呼ばれたことり先輩を、リアルでも地に這い蹲らせることができるんだよ!楽しみぃ~♪

 

 

「お兄ちゃんのパンツのシミの匂いを嗅げるのは妹の特権です!これ1ポイントですね」

「それならことりは今まで幾度となく零くんにエッチしてもらったことあるもん!これは10ポイントくらいだよね?だって楓ちゃん妹だしねぇ~♪」

「くっ……このクソ痴女ビッチが」

「それを決める戦いでしょ?褒め言葉なんだよねぇ~♪」

 

 

 マズイ、このままではことり先輩に敗北してしまう。ことり先輩とは違って私は何十倍以上もお兄ちゃんと一緒に人生を過ごしているのに、ぽっと出の雌豚に負けてたまるものですか!!絶対に地に這い蹲らせてアヘ顔させてやる!そのためには妹だからこその特権を活かさないと……。

 

 

「フンッ!それだったら私はいつでもお兄ちゃんの私物でオナニーできますから。過去に一度だけお兄ちゃんが脱ぎ捨てたシャツ、ズボン、パンツ、靴下、それを全部着てオナったこともあります。もう全身がお兄ちゃんに抱きしめられているみたいで、普通のオナニーより断然気持ちよかったですよ♪」

「うっ、それは羨ましい……。零くんに抱きしめられながらするとか、絶対に秒でイっちゃいそう……」

「それもこれもお兄ちゃんの妹であり一緒に住んでいる私の特権です!ポイント100貰いますね♪」

「だったらことりはまだパンツの上からだけだけど、零くんに直接指でお股弄ってもらったことあるもん!それに零くんのアレをしゃぶって気持ちよくさせてあげたこともあるし、恋人らしいことはたくさんしてるんだよ!!」

「うぐっ、私もやってもらいたい。そしてやってあげたい……」

 

 

 私はいつでも準備万端なのに、お兄ちゃんが全然攻めてきてくれないんだよねぇ。近くにこんな肉付きのいいオナホがあるっていうのにさ、お兄ちゃんきっとウブなんだね。やっぱ恋人同士になってからじゃないとダメかなぁ~?

 

 

 それにしても私たちはエロいことを語ってるけど、その土俵が全く違うため勝負にならない。私は妹としての立場、先輩は恋人としての立場でそれぞれ惚気けてるからお互いにお互いを羨ましいって思うんだろう。

 

 

「楓ちゃん、これはことりたちで争っていても仕方ないかもね……」

「そうですねぇ~。むしろお互いにお兄ちゃんの魅力について語り合っていた方が全然無難な気も……」

「それだよ!立ち位置が違う訳だし、それぞれの視点から零くんを語って語って零くんが裸になるくらいにまで赤裸々にして――――」

「そのままお兄ちゃんを襲っちゃおうということですね?」

「さっすが楓ちゃん!話がわかる~!」

 

 

 ことり先輩とはこうしてお兄ちゃんの話題だけでも1日中夜も寝ずに語り尽くすことができそう。お互い同じ好きな人のために性の道を極める者同士、啀み合うんじゃなくてもっともっとアッチの知識を深めていかなきゃ!

 

 それによく考えてみれば、朝のおはよう騎乗位だってお兄ちゃんが一発出しただけでは満足しないかもしれないじゃん!だから2人掛りでお兄ちゃんのお相手をしなきゃいけなさそうだね♪

 

 

 

 

勝者:引き分け

 

 

 

 

【vsにこ】

 

 

 

 

「にこ先輩とは戦わずして私の勝ちですから、この戦自体無意味ですね」

「ちょっとそれどういう意味よ!!」

「胸に手を当てて考えてみてください。あっ、当てる胸がないですね……すみませ~ん♪」

「絶対に狙って言ったでしょうが……相変わらず人を苛立たせるのだけは一級品ね」

「褒め言葉ですよ、先輩♪」

 

 

 μ'sには煽り耐性のある人が少ないからね、みんな面白い反応をしてくれて私も楽しくなっちゃうよ!一緒にいて全然飽きないんだよねぇこの人たち。まるで私に弄られるために生まれてきたみたい♪

 

 

「そもそも先輩の貧相な身体では、どう足掻いても私に太刀打ちすることなんてできませんよ」

「そうね」

「あれ、あっさり認めた……あの無駄なプライドしかないにこ先輩が!?」

「無駄は余計よ!!身体については大学生になってもチビっちゃいままだしもう諦めたわ。でもそこで逆の発想を考えたの。もうロリだの幼児体型だの言われてもいいから、この身体をウリにアイドル活動をしていけばいいってね!」

「確かにロリキャラは巷でも人気は高いですが、やっぱりおっぱいの大きい方が見栄えはいいですよ。エロ同人的な意味でも」

「ちょっとにこたちスクールアイドルなんだから、そんな生々しい話題出すんじゃないわよ!!」

 

 

 そうだよ私たちはスクールアイドルだから、もしかしたらどこかでエロ同人のネタとして使われていてもおかしくない。でもまあ仮にそんなものがあったとしても、結局私たちの身体はみ~んなお兄ちゃんのモノなんだけどね♪他の男が私たちの画像や動画で自分磨きをする中、お兄ちゃんは生の私たちを使って……これ以上の妄想は濡れてきちゃうからダメダメ!!

 

 

「ま、エロさを追求するならやっぱり大人な身体である私の勝ちってことですよ!お兄ちゃんの手からちょっと漏れ出すくらいのこのジャストフィットおっぱい。お兄ちゃんが抱きしめやすいようなこのスタイル。完璧ですよね?」

「アンタ本当に零のことしか考えてないのね。実の兄のために完璧な身体を追求するなんて、普通の妹だったら有り得ないわよ」

「だって普通の妹じゃないですし。それにお兄ちゃんがいなければ私の生きていく意味なんて存在しないので。にこ先輩だってそうでしょ?」

「そりゃそうだけど、例え仲間内であってもそんな大胆告白は中々できないものよ」

「だってにこ先輩より大人な身体なので自信満々ですから!」

「アンタねぇ!!」

 

 

 お兄ちゃんの理想の妹になるなんて普通のことじゃないの?えっ、違う?

 お兄ちゃんのためならおっぱいも大きくする。お兄ちゃんのためなら抜群のスタイルだって維持する。お兄ちゃんが求める女性の体型こそが真のパーフェクトボディ。つまりそれを達成した私に叶う女の身体なんてほとんど存在しないのだ!!

 

 

「ロリボディもそれなりに需要はありますよ。抱きしめると犯罪っぽく見えるから、背徳感とか味わえますし♪」

「くっ、まさか3つ下の後輩にここまで馬鹿にされる日が来るとは……にこ大学生なのに」

「まあまあ精々頑張ってくださいよ!お兄ちゃんが好きになった先輩たちは、決して身体だけで判断されませんから。大切なのは心ですよ、お兄ちゃんを恋するこ・こ・ろ」

「楓……たまにはいいこと言うのね」

「恋する心が大きければ問題ないですよ。おっぱいの大きい人は心も大きいと言いますし!――――ん?あっ……」

「アンタ、わざと言ってるでしょうがぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 やっぱ先輩たちで遊ぶのは楽しいねぇ♪簡単にちょろっと騙される人たちが多くて全然退屈しないよ。そしてこれからも先輩の幼児体型維持のために、私ももっと協力してあげなきゃ!ま、何もしなくても先輩は永遠のロリっ子だとは思うけどね!

 

 

 

 

勝者:楓

 

 

 

 

【vs希】

 

 

 

 

「おぉ!楓ちゃん巫女服似合ってるやん♪」

「そうですか?薄着のせいかあちこちがスースーするんですけど」

「そーお?それも露出プレイやと思えば耐えられるんと違う?楓ちゃん変態ちゃんやし♪」

「私が変態になるのはお兄ちゃんのためなのであって、決して公衆の面前でそんなことは――――ハッ!!」

 

 

 話のペースが……初っ端から希先輩にペースを握られている。このままではツッコミを入れるだけのマシーンと化してしまうよ。いくら神社の巫女のアルバイトに誘われて相手の土俵に立っているとは言え、このままでは私の立場が……私は常に人の上に立っていたいんだ!!

 

 

「まあ折角だし、巫女服を着た私の写真をお兄ちゃんに送ってあ~げよっと!これで今日の夜のオカズは私で確定だね!」

「それならウチと一緒に写ろうや~!μ'sの誰かと巫女姿で撮影するの、密かに夢やったから!」

「!?!?」

 

 

 私が自撮りをしようとした時、希先輩が突然私に身体を寄り添わせてきた。どう考えても私の自撮りに映り込むためだと分かっているけど、私の身体に……私の身体に希先輩のおっぱいが"むにゅ♪"って――――――

 

 

 ふざけんじゃねぇえええええええええええええええええええええ!!私より大きなおっぱいを持ってますよアピールしてんじゃねぇえええええええええええええええええええええ!!しかも巫女服の生地が薄いせいか、先輩のおっぱいの大きさと感触が腕に当てられているだけでもこれでもかってくらい感じられるし!!人を見下すのもいい加減にしろこのクソアマがぁああああああああああああああああ!!

 

 

「どうしたん楓ちゃん?さっきから身体がピクピク震えとるよ?寒い?」

「確かに若干肌寒いですが、私の心は怒りの業火で燃え上がるように温まってますけどね……。こうなったら――――えいっ!!」

「きゃっ!か、楓ちゃん!?急に抱きついてきてどうしたん?」

「そうですそうですその顔その表情!!私は先輩の驚く表情が見たかったんですよ!!私に対して優位に立つなんて、お兄ちゃん以外に許されませんから」

「相変わらず変な趣味してるなぁ……」

 

 

 勝った。このまま私のペースに誘い込んで希先輩を困らせ続ければ、私の勝利は揺るぎないものとなる。1年前も今も身体で先輩より優位に立つことはできなかった。だったら私のもう1つの武器、暴走ハイテンションの車輪をフルスロットルで回転させて希先輩を轢き殺すくらいに巻き込むしかないよ。そして私のテンションはもう止まらない……勝ちだ!!

 

 

「それならウチも楓ちゃんに抱きついちゃお♪はい、ぎゅ~!!」

「!?!?!?!?」

 

 

 な、なに……さっきまで私が抱きついていたのに、いつの間にか希先輩に抱きしめられていた。しかもこの心落ち着く暖かい包容力は一体!?今すぐに離れて先輩を困らせなきゃいけないのに、先輩に抱きしめられると物凄く安心する……離れるどころかギュってされるたびに先輩の身体から離れられなくなっちゃう!!

 

 

 この私がお兄ちゃん以外の身体で……お兄ちゃん以外の身体でぇええええええええええええええええええええええええ!!しかも女同士でぇええええええええええええええええええええええええ!!

 

 

「どう?少しは暖かくなった?ウチの身体はご利益満天やから、温もりと共にスピリチュアルパワーもプレゼントしちゃった♪」

「うぅ……ほ、ほら!サボってないで早く仕事しますよ!!」

「えっ!?楓ちゃんが寒いって言ったり自撮りを撮ろうって言ったりしてたやん!」

「ほら早く!私は鈍臭い人は嫌いです!!」

「えぇ……」

 

 

 今の私の顔、超絶真っ赤になってるだろうなぁ……。まさかここまで恥辱を与えられるとは、もうプライドもズタズタにされた気分なんだけど。希先輩にそんな気は一切ないだろうけど、むしろ天然で私のプライドを引き裂かれたことの方が腹が立つ!!

 

 

 いつか絶対に復讐してやるんだから!!

 

 

 

 

勝者:希

 

 

 

 

【vs真姫】

 

 

 

 

「真姫先輩って、意外と変態さんですよね?」

「はぁ!?なんなのよ急に!?」

「だってお兄ちゃんと触れ合う時は割りと積極的になるって聞きますよ?それなのに普段はツンツンしてばかり、お手本のようなツンデレですね!」

「零、勝手に話したのね……別に積極的じゃないから!ああすれば零が喜んでくれるかもって……」

「そういうところが積極的なんですよ、先輩♪」

「違うから!私が変態なんてある訳ないでしょ……うん、ある訳ない」

 

 

 これだよこれ!この手応えのある反発!やっぱ真姫先輩は必死になって抵抗してくれるから、こっちも煽りがいがあっていいね!まあなんにせよ、先輩が変態さんなことは変わらないケド。表立って否定している人ほど、裏で何をやっているのか分からないものなんだよ。

 

 

「どうせなら腹を割って話をしましょう」

「私はしたくないんだけど。それに作曲の途中なんだけど……」

「この際だから聞きます!先輩は週に何回自分磨きをしています?アバウトに7回前後の数字だけでも教えてください♪」

「週に1回はやってる前提をやめなさいよ!!してないから!!」

「ほぉ~。でも性欲を溜め込むと身体に毒ですよ。折角お兄ちゃんの恋人という神相当の立場にいるんですから、もっとお兄ちゃんにおねだりしないと。『零、そろそろ赤ちゃん……欲しいな♪』なぁ~んてね!」

「そ、そんなこと言える訳ないでしょ馬鹿!!」

 

 

 とうとう暴言まで飛び出しちゃったよ……でも真姫先輩はお兄ちゃんへの押しがイマイチ足りないんだよねぇ。苦渋に苦渋を重ねた決断でμ'sをお兄ちゃんの彼女として認めた私としては、もっと先輩たちには積極的になってもらわないと困るっていうか、このままだとその立場を奪っちゃうよ?フフッ……♪

 

 

「でもそんなツンデレな先輩だからこそ、デレた時の衝撃が強いんでしょうねぇ。ギャップ萌えというやつですか。先輩がメイド服を着て、おしりを振りながらお兄ちゃんを誘えばイケると思いますよ♪」

「どうしてあなたはいつもそっち方面にしか話を振らないのよ。恋愛話イコール猥談とか思ってるんじゃあ……」

「えっ、お兄ちゃんの気を引くならお兄ちゃんの悦ぶことをしてあげるのは当然じゃないですか?」

「いや零だけの話じゃなくて、一般の恋愛の話なんだけど……」

「私はお兄ちゃん以外の男なんて興味もないし認識すらしてないから、一般論とか関係ありません」

「私とあなたで話が合わない理由がようやく分かった気がするわ……」

 

 

 正直お兄ちゃんさえいれば男以外に女もいらないんだけどね♪お兄ちゃんと誰もいない無人島に移り住んで、そこで私たちだけの帝国を築き上げるのもアリだね!兄妹同士でエッチをしていけば、子孫の反映にも困らないし!うん結構いい考えかも!!ま、μ'sの皆さんくらいは呼んであげてもいいかな?

 

 

「とにかく、お兄ちゃんの好きな体位は騎乗位。全裸よりも半裸でソックスありの方が好みらしいですよ」

「どうして私にそんな情報教えるのよ!?私はやらない!!」

「強情ですねぇ~。まあそんなに簡単に折れたらツンデレの称号が泣きますから。でもこれでお兄ちゃんの自分磨きの隠し撮り動画はいらないってことでOKですね♪」

「!?…………い、いくらよ?」

 

 

 おっ、あの真姫先輩が反応した!?やっぱり変態だったんじゃ~ん♪いやぁ今の私の顔、絶対悪い顔してるよニヤケが止まらな~い♪

 

 

 私は右手を挙げると、先輩に見せつけるように指を5本立てた。本当は3本のつもりだったけど、相手が真姫先輩ということで指5本の出血大サービスだ。

 

 

「そ、そう。ま、まぁあなたたち2人暮らしで経済的にも困ってるだろうし、これを足しにでもしておきなさい」

 

 

 真姫先輩は財布を取り出すと、お札を何枚か取り出して机の上に置いた。そして私の顔を見る間もなくピアノの方へ向いて作曲作業に戻る。

 

 

 そして、私の目の前の机には諭吉が5枚。

 あれぇ~??私は5000円のつもりだったんだけど流石お嬢様。太っ腹すぎて終始先輩を圧倒していた私が一瞬で先輩のペースに巻き込まれてしまった。

 

 でも先輩のありがたい寄付金を返す訳にもいかないし、これで画質のいいカメラでも買っちゃおうかなぁ~♪

 

 

 そして――――やっぱり真姫先輩は変態さんだったね!

 

 

 

 

勝者:真姫……?

 




 楓ちゃんは可愛い(真理)


 今回は楓vsμ'sメンバーの戦い(?)でした!
 この話を書こうと思ったきっかけとして、楓は雪穂と亜里沙との絡みは濃いものの、それ以外の9人とはあまり会話らしい会話をしてなかったように感じたので、今回は敢えて1vs1の構図の短編集として執筆してみました!

 今回はμ's9人の仲の5人だけだったのですが、皆さんの反響があれば残りの4人の話も執筆してみようと思っています!


 そして楓メインの話を書くと毎回思うのですが、彼女めちゃくちゃ可愛いですね!思わず前書きでも言っちゃうくらいには、作者である私自身も惚れ込んでいます!彼女を執筆していると原作キャラよりも彼女推しになってしまいそうで、若干危機感を感じていたりします(笑)
やっぱり『ブラコン』+『淫乱』の妹はいいぞ!!


 そしてここからはいつもの宣伝+αを。

 以前から告知していたラブライブ!サンシャイン!!の企画小説"ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――待ちわびて』"が、5月1日より始動しています。毎日21時に投稿される予定なので、気になるサブタイがありましたら是非覗いてみてください!
ちなみに私は5月22日の企画小説最終日に投稿される予定です。その際は是非ご感想を頂けると嬉しいです!



次回は真姫回になる予定です。




新たに高評価をくださった

藤川莉桜さん、あんじ[エリチカ]さん、AQUA BLUEさん、頭文字Fさん、白犬のトトさん、みさきちさん、イチハ★ルイリさん、7777777さん

ありがとうございました!
今回はたくさんの方に評価してもらって嬉しい限りです!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

病気のあの子が寝ている隙に……

 一週間ぶりになります!私自身が病気で遅れました(笑)
 そして今回はその病気で寝込んでいる時に思いついたネタ。つまり病気の時でも平常運転で妄想してました(笑)


 真姫が熱で寝込んでいると知ったのは昨晩のことだ。

 その翌日、つまり本日、俺はお見舞いのために1人西木野邸へとやって来ていた。相変わらず豪勢な外観のお家で、一般庶民の俺からしてみればチャイムを押すことすら躊躇われる。しかしこんなところで立ち往生していては、周りから逆に不審者として間違えられるかもしれない別の怖さもある。12月の極寒にいつまでも耐えうる強靭な精神を持っている訳でもないので、俺は妙な覚悟を決め西木野邸のチャイムを押す。

 

 

 数秒後、インターホンからどこか聴き慣れた綺麗な声が発せられた。

 

 

『あら零君。真姫のお見舞いに来てくれたの?』

「はい。昨晩から熱で寝込んでいると真姫から連絡を貰ったので」

『あの子から直接……?ウフフ、全くあの子ったら!』

「…………??」

 

 

 俺の応対をしてくれているのは真姫の母さんなのだが、何笑ってんだこの人?しかも嬉しそうに……。

 インターホンで向こうからこちらの顔は見えているのだろうが、逆にこっちから真姫の母さんの顔を見ることはできない。だが声からして彼女が喜んでいるのは分かる。なんだなんだ?こっちはただでさえ豪邸に踏み入ることですら緊張するんだから、変に不安を煽るのはやめてくれ。

 

 

『ここで立ち話もアレだし、早く入って真姫のお見舞いしてあげて!多分あの子すっごく喜ぶと思うから!』

「そもそも真姫が大喜びするところなんて、普段でも滅多に見たことないんですがそれは……」

『あなたと一緒にいる時は内心いつもドキドキしてるはずよ!さあ入って入って!』

 

 

 真姫の母さんの号令の元、豪邸の門がゆっくりと左右に開く。こうして見るとさながらRPGの魔王城を彷彿とさせるので、RPG好きの俺としては若干心が熱くなってしまう。まあ今回は何を対決する訳でもなく、むしろお嬢様のお見舞いなのだが。

 

 

 そして俺が西木野邸へ一歩踏み出そうとした時、突然インターホンから真姫の母さんの声が発せられ俺は足を止めた。

 

 

『あっ、零君。一応言っておくけど……』

「なんですか?」

『いくら目の前に病気で弱っている女の子がいるからって、安易に手を出しちゃダメよ?女の子はその辺りデリケートなんだから、初めてはお互い元気で万全な状態でね!』

「…………俺がそんなことをするとお思いで?」

『思わなかったらこんな忠告しないわよ』

 

 

 よく分かってるじゃねぇか真姫ママよぉ……。それにしてもこの人もあの親鳥みたいに、自分の娘と俺を身体で交わらせてもいいと思ってんだな。そういや風の噂でことりの母さんと真姫の母さんは学生時代親友だったとかどうとか聞いたことがある。そりゃあ同じノリになる訳だ。

 

 

 だが1つだけ言えることは、手を出さない保証はないということだ。病弱で満足に動けない女の子を無理矢理ってシチュエーションは俺のストライクゾーンの範囲内だし、今回それがあのお堅い真姫なんだ。もしかしたらもしかするかもしれんぞ……。まあ彼女に手を出す出さないも、全てその時の俺の欲求次第だがな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「入るぞ~」

「もう入ってるじゃない……」

 

 

 俺はノックと同時に真姫の部屋へ侵入する。思春期男子がお母さんに最もされたくないランキング上位の行動だな。世の中の男子諸君、自慰行為をする時は部屋の外にいる人の気配に常に気を配っておけよ。突然お母さんにドアを開けられて、その粗末なモノを見られたくなかったらな……。

 

 

 そんな訳でどんな訳で、俺は礼儀もへったくれもなく真姫の部屋へとやって来た。

 もっと高熱でうなされているものとばかり思っていたのだが、ちゃんとツッコミができる辺りそこまで重症ではないのだろう。とりあえず一安心だ。

 

 

「熱の具合はどうだ?」

「昨晩に比べればかなり引いたわ。今もまだ多少あるけど……」

「そっか。ならおとなしく寝ておけ。穂乃果たちが来ると騒がしくなるしな」

 

 

 俺は真姫の部屋の椅子を1つ拝借すると、彼女のベッドの傍に置いて腰を掛ける。

 こうしてみると彼女の顔は熱のせいか少し赤みがかっており、病気で寝ている彼女に向かってこんなことを言っていいのかは分からないが、どこかエロスを感じる。鼻で息をしづらいのか若干口呼吸となり『はぁはぁ』と吐息が漏れ出しているのも相まって、妙に彼女が艶っぽい。病気なのにも関わらず俺の興奮を沸き立てようとするとは流石俺の選んだ恋人、俺へのサービス精神は旺盛だな。

 

 

 ――――とまあそんな冗談は置きつつ、真姫の母さんの言動から察するにお見舞いに来たのは俺1人だけらしい。お人好し集団のμ'sならこぞって真姫宅に突撃して部屋を荒らしていきそうな気もするのだが……。

 

 

「なあ、アイツらはまだ来てないのか。来てるにしちゃあ部屋が綺麗すぎるけど」

「どんな判断基準なのよ……結論から言えば来てないわ。そもそも熱で倒れたってことすらも言ってないし」

「えっ、誰にも?」

「えぇ。薬を飲んで安静にしていればこの休日で治る算段だし、みんなに心配をかけたくなかったから」

「治る算段って……流石名医の娘なだけのことはあるな。でもみんなには言ってないのにどうして俺には言ってきたんだ?」

「…………」

「ま、真姫……?」

 

 

 あれ?俺さっき変なこと言った!?また思いもよらず妙なことを口走って呆れられているのかと思ったが、彼女の様子を見る限りそうではないようだ。むしろ呆れるというよりも紅潮していた頬が更に赤くなり、両手で布団を持ち上げて顔を半分隠してしまった。なに……もしかして、恥ずかしがってる??

 

 

「どうした?」

「…………よ」

「へ?」

「ずっと寝てるだけってのもつまらないから、喋り相手になって欲しかっただけよ!文句ある!?」

「そ、それだけのために俺を呼び寄せたのか……可愛い奴だなお前」

「うぅ……」

 

 

 顔の半分を覆っていた布団が更に目の下を隠すまで覆われた。真姫は両手で布団を掴んだまま、目をウルウルさせてこちらを睨んでくる。目元しか見えないが彼女の顔が熱と羞恥で真っ赤になっていることは分かる。そんな仕草や表情の1つ1つが可愛くて堪らないんだけども!

 

 

「いやぁまさか真姫の方から俺を誘ってくれるなんて!」

「か、勘違いしないで!あなたはただの喋り相手!それ以上でもそれ以下でもないわ!そう、μ'sのみんなだと熱が移っちゃうかもしれないから心配でしょ!!だからあなたなのよ!!」

「風邪じゃねぇんだし熱は移らねぇだろうが。素直に寂しいから俺と話したかったって言えばいいのに」

「言ったらすぐ調子に乗るじゃない……」

「バレた?」

「はぁ、結局病人に対しても全く対応が変わらないのねあなたって」

 

 

 それは俺のセリフでもあるんだけど……。俺はもっと病気に屈服した弱々しい真姫を見られるかと思って期待していたのに、いざ話してみればいつものやり取りとなんら変わらない。もっとこうあるじゃん!いつもはツンツンしていた女の子が、病気の時だけは優しく抱きしめてあげたくなるような華奢な女の子になる時が!俺はそういうのを期待していたんだけど真姫の奴、いつもと一緒でやけにストロングだ。

 

 

「あなたのせいで熱上がってきたかも……あまり叫ばさないでよね」

「俺を呼び寄せたのはお前だろ……ま、病人は静かに寝てろ。寝付くまで俺が傍にいてやるから」

「な、なによ急に優しくなって!まさかまた変なこと企んでるんじゃあ……」

「何も企んでねぇって!どうしてお前はすぐ俺を犯罪者の方向へ持って行きたがるんだ!?」

「今までの自分の素行を思い返して見なさいよ……」

 

 

 いやでも12月に入ってからは割りとまともな生活を送ってないか?シスターズの良きお兄ちゃんになったり、猫になった凛を元に戻してあげたり、闇鍋でみんなの欲情を抑えたり、亜里沙の自慰行為の謎を解き明かしたり――――ほら!やっぱ俺っていい奴じゃん!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 真姫が寝付いてから数十分が経過した。無音の静寂の中に聞こえるのは眠れる姫の整った寝息のみ。熱を出していても変わらず俺に反抗し続けた彼女も、眠ってしまえばただの幼気な少女と変わらない。さぁて完全無防備となったこの少女を一体どうしてくれようか……。

 

 

「すぅ、すぅ……」

「なぁ~んて。こんなぐっすりと眠っている女の子を襲うなんてできねぇよなぁ~。だから俺はいざという時に意気地なしと言われるのか」

 

 

 だがただ女の子を襲うだけではそこら辺の強姦魔とやっていることは変わらない。女の子に抵抗されながらの行為も楽しそうではあるのだが、恋人同士なんだし素直にやらせてと言ってやらせてはもらえないだろうか?真姫相手には無理だろうなぁ……。

 

 

「全くさっきまであんなに騒いでいたのに、今となっちゃ規則正しい寝息を立てて寝てやがんの。まあ病気だしそこはいいんだけどさ、俺はどうすりゃいいんだ?」

 

 

 誰かと話そうにも話し相手は夢の中、かと言って真姫に何も言わずに帰るのも締まりが悪いし、やっぱ傍にいてやるのが一番いいのかな?もしかしたら俺が傍にいるおかげで安心して眠っているのかもしれないから。そう考えると彼女が余計に幼く見えてきて愛おしくなる。やっぱり俺を呼んだのは心を落ち着けるためだったのだろうか?さっきも何だかんだ楽しそうだったし。

 

 

 すると俺は自然と手が彼女の頬へと伸びる。そして気付いた時には、指が彼女の頬を優しく突っついていた。

 

 

「ん……んんっ」

 

 

 いい反応をするじゃん!いくら恋人同士だからと言っても別居しているため、こうして彼女たちの寝顔を見られること事態が珍しい。同じクラスで居眠り常習犯の穂乃果だけは例外だが……。

 

 

 すると俺はそこで真姫の頬っぺを触った指が湿っていることに気が付いた。まさかと思ってもう一度彼女の顔を見てみると、想像以上に汗をかいている。さっき暴れすぎた影響で身体が熱くなっていたのだろうか?それとも熱のせいか?どちらにせよさっきまで気持ちよさそうに眠っていたのに、熱さで呼吸も乱れてきている。

 

 

 俺は近くに置いてあったハンドタオルで真姫の髪を上げ額を拭ってやる。女の子はあまり自分の額を見られたくないらしいのだが、今のこの状況でそんなプライドを発揮されても困るだけだ。恋人同士なんだし我慢してもらいたい。

 

 しかし身体の熱さは止まらないようで、汗を拭っても拭っても一定量は分泌され続ける。触ってみれば服もかなり湿ってきてるし、このままでは風邪を引いちまうぞ……。

 

 

 こうなったら、取るべき手段はただ1つ――――

 

 

「着替えさせるしか、ねぇよな?」

 

 

 そう決心してからの俺の行動は早かった。

 まず真姫を覆っている布団を全て取り去りベッドの端へ寄せる。そしてこの時のために用意してあったのだろう近くにまとめてあった着替えを手繰り寄せベッドの脇に置いた。これで準備は万端、あとは――――――彼女を脱がすだけだ。

 

 女の子の服なら今まで幾度となく脱がしてきたことがあるのに、今回ばかりは何故か緊張する。眠っていて無防備な女の子の服を脱がす経験は初めてだからな。別に起こして着替えさせてもいいのだが、どこまでバレずに脱がすことができるのか、一種のチキンレース的なドキドキ要素が俺の興奮を高める。

 

 それにもしバレずに脱がすことに成功した場合、罵声も制裁もなしにタダで真姫の裸体を拝むことができるんだぞ!最悪バレても汗をかいていたから着替えさせようとしたと言えば多少なりとも弁解できるので、こちらに分のある戦いであることに間違いはない。

 

 

「よし……いくか」

 

 

 俺は真姫の服のボタンに手をかけ、上から順番に外していく。ゆっくりと起こさないように。途中で興奮が漲って手に力が入ったら負けフラグだ。完全にボタンを外し終え、彼女の生胸をこの目で拝むまでは油断してはならない。

 

 

 1つ、2つ、3つ、4つ……上から順番に外していくと、段々服がはだけてきて真姫の下着がチラチラと目に映りこんでくる。その色は単純に白。家から出ないのであれば妥当なところだろう。もしかしたら下着を着けてない可能性も考慮していたのだが、それは俺の妄想が行き過ぎていたか。逆に俺が来ることを見越して勝負下着っていう可能性もあったが、それもなかったみたいだ。

 

 だが正直下着の色なんてものはどうでもいい。真姫の下着を見られるこの事実こそが俺を興奮へと誘うんだ。色や柄なんてものは全て二の次、恋人の下着姿を拝むことさえできれば上々だ。

 

 

 しかし横からだとどうも脱がしにくいので、ここで俺は真姫のベッドに乗り込み、彼女を脚で挟むような体勢でベッドの上に跪いた。もう傍から見たら病弱な女の子を襲うただの畜生なのだが、恋人同士という超絶無二の特権がある以上誰にも文句は言わせない。あくまでこれは汗をかいた真姫を着替えさせるため。そう言わば風邪を引かないための立派な予防なのだ。

 

 

「もうちょっとだ……頼むから起きるなよ」

 

 

 俺は真姫の服の表前立を両手で掴み、服と肌が擦れる音すらしないようゆっくりと左右に開かせる。そして俺の目の前の真姫は上半身下着姿で眠っている、だらしなくも大人の色気が感じられる格好になってしまった。普段はこんな格好を真姫が見せる訳がないので余計に唆られるものがある。もう来るところまで来てしまったな……。

 

 

 もはや女の子の下着姿だけでは動揺すらしない。俺が目指すのは更にその先、その身に纏っている衣を全て剥ぎ取り裸体の神秘をこの目で拝む。決して見せることのない彼女の裸を、今ここに顕現させてやる!

 

 

 幸いなのは下着がフロントホックだったことだ。これが普通に後ろに付いていた場合、真姫の背中を少し浮かせなければならなかったからな。そんな心配は解消され、俺はもう何の躊躇いもなく彼女の下着に手を掛けた。ここで起きられたらもはや弁解の余地はない。だったら多少強引でも勢いに任せて下着を取り去った方がいい。俺としては真姫の裸体さえ見られればそれで勝ちなのだから。

 

 

 俺は汗で湿った下着のホックを外すと、もう我慢できないと言わんばかりの勢いで下着を剥がし床に放り捨てた。その下着がどこへ行ったのかは分からない。俺の目に映っているのは――――

 

 

「おぉ……!」

 

 

 思わず声が漏れてしまった。いくら上半身だけとは言え、真姫の裸体をこうしてまじまじと舐め回すように見るのはこれが初めてだからだ。

 

 真姫の胸はほっそりとした身体に比べるとどきっとするくらい大きくしっかりとしていた。まるで双生児のような白いつやつやした隆起が、胸いっぱいに行儀よく並んでいる。ここまで見て気付いたのだが、彼女の胸は以前よりも明らかに大きくなっている。今まで俺の手にジャストフィットするサイズだったのにも関わらず、今軽く彼女の胸に手のひらを当ててみると俺の手に余る大きさになっていることがよく分かった。

 

 俺のために大きくしてくれたのだろうか?表では性に関して反抗的な彼女が、実は裏では俺のためにせっせと頑張って胸を大きくする努力をしていたと思うと嬉しさが込み上げてくる。やっぱり可愛いわ、コイツ。

 

 

「さて、ここからどうするか……」

 

 

 睡眠プレイは相手が起きたら終わりだ。つまり強く刺激を与える行動は1度だけに制限される。彼女の胸を揉むのかそれとも吸うのか、それとも挟んでもらうのかetc……中々経験できない睡眠プレイなのでやりたいことはたくさんあるが、ここでやるべきなのは――――!!

 

 

 

 

 

 

「あらあら、最近の若い子は大胆なのね!」

 

 

 

 

「な゛っ……!?」

 

 

 

 いつの間にそこにいたのか、部屋の入口には真姫の母さんがジュースと洋菓子を持って立ち往生していた。それも微笑ましそうな笑顔で……どうしてそんなに嬉しそうなんだコイツ。

 

 でも今はそんなことよりこの状況!!病人の女の子をベッドに仰向けで寝かせ、その上を跨るように男が彼女の服を脱がしている。しかも彼女の胸を見て興奮している男がいたもんだ。そんな現場を見てしまったら例え真姫の母さんでなくともこう思うだろう――――寝ている無防備な女の子を襲っている畜生だと。ただの()()()だと。うん、まさにその通りだ。

 

 

「別に私はあなたたちの関係を認めているから……でも寝ている子に乱暴をするのは男の子としてどうかなぁって」

「確かに真姫の寝込みを襲ったが乱暴はしてねぇよ!!今からだよ!!」

 

 

 

 

「えっ、今……から?」

 

 

 

 

「ちょっ、えっ、ま、真姫!?起きたのか……」

 

 

 あ゛ぁあああああああああああああもう次から次へと!!真姫の母さんに大声でツッコんでしまったせいか、真姫すらも起こしてしまうという失態を犯してしまった。真姫は不思議そうな顔で()()()ベッドに乗って自分に跨っている俺の顔を凝視している。

 

 そして自分の身体がやけに寒いことに気付いたのだろう、俺を見つめていた目線を下げ、遂にはだけられた上半身へと――――

 

 

「ちょっと……これどういうことよ!!どうして脱がされてるの!?」

「それはお前が汗をダラダラかいてたから着替えさせようと思っただけだ。他意はない」

「本音は?」

「お前の綺麗な身体が見たかった――――あっ……」

 

 

 真姫の怒りが沸点を通り越したような気がした。同時に彼女の顔が熱を帯びたトマトのように真っ赤になる。

 

 素早く布団を俺の顔にぶつけると腕で胸を隠し、そのままベッドの端っこに移動し俺を睨みつける。このままじわりじわりと顔を真っ赤にした彼女を部屋の隅に追い詰めるのも一興だが、真姫の母さんもいるこの状況に免じて許してやろう。

 

 

「いくら私が病気でもあなたはいつも通りなのね。逆に安心したわ……」

「俺が女の子の身体を求めなくなったら、それは俺ではないからな」

「最もらしいこと言ってるけど、ただのクズね」

「あまり熱くなるなよまた熱上がるぞ。ほら早く寝ろって」

「熱くさせてるのはあなたでしょ!それに寝たらどうせまた脱がすんでしょ!?」

「それは今後俺の欲求がどれだけ高まるかにもよるな。収まったら脱がさない、収まらなかったら脱がす」

「あなたの欲求なんて今まで収まったことないでしょ……」

「よくわかってるじゃん!流石俺の彼女」

「本当に何でこんな人好きになったんだろう……」

 

 

 それは俺が素晴らしい人間だからだ。正直俺って魅力の塊だから、女の子が惚れてしまうのも無理はない。現に音ノ木坂学院でも俺に惚れている女子生徒はたくさんいるし。

 

 

 まあそれはさて置き、この調子なら真姫の回復はもうすぐだろう。俺といつも通りのやり取りいつも通りのツッコミを入れてくれてるし。1つ残念なのは、折角初めて睡眠プレイが出来るかと思ったのにできなかったことかな。だが今回でその興奮だけは分かったから、次やる時が楽しみだ!

 

 

 

 

 そしてもう1つ分かったことが――――――

 

 

 

 

「零君、やる時はあまり大きな音を立てないようにね!」

 

 

 

 

 この人もどこぞの親鳥と同じ思考を持っているらしい。どうなってんだμ'sの親たちは……。

 




 病気のμ'sを看病するか、もしくはμ'sに看病されるか皆さんどっちが好きですか?


 今回は零君が真姫を看病する側でした!
 本当は立場を逆にするつもりだったのですが、そうなるとエロいことができない事態に陥ってしまったので敢え無くポジション変更。それに零君の看病ならμ'sを押しのけてまで楓ちゃんが率先して全部やってくれそうですから(笑)

 私は看病される側が好きですねぇ~。原作キャラに限定すればことりか海未に優しく看病されてみたいものです。原作キャラを度外視すればやっぱり楓ちゃんに妹キャラ全開で看病して欲しいなぁ~!!


 次回はにこ回になります。かなり久々な気もするので今から気合が高まってます!



 そしてここからはいつもの宣伝+αを。

 以前から告知していたラブライブ!サンシャイン!!の企画小説"ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――待ちわびて』"が、5月1日より始動しています。毎日21時に投稿される予定なので、気になるサブタイがありましたら是非覗いてみてください!
ちなみに私は5月22日の企画小説最終日に投稿される予定です。その際は是非ご感想を頂けると嬉しいです!

 私が投稿する小説の内容は、『薮椿さんだったらコレ!』と言っちゃうような内容に仕上がってます!



新たに高評価をくださった

断魂さん、リョーマさん

ありがとうございました!
そして最近以前評価を付けてくださった方が再度付けてくれることが頻発しています。同じ数字で評価を入れてもらっても名前は掲載されないので、評価する際には以前この小説に評価したことがあるかご確認のほどよろしくお願いします。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神崎零式催眠治療法

 催眠モノっていいよね?そして催眠掛かった女の子を支配する感じもいいよね?

 今回はそんなお話……


「はぁ~……」

「のっけから溜息なんてついてどうした?幸せが逃げていくぞ」

「にこはアンタと一緒にいるだけで幸せだから、それはないわね」

「おぉう、突然嬉しいこと言われて反応に困るだろうが……」

 

 

 にこは部室に入ってくるなり、そそくさと椅子に座り溜息を漏らした。何か悩み事があるなら励ましてやろうかとも思ったが、心を高ぶらせることを言われて逆にこっちが取り乱しちまったよ……。

 

 

「ま、悩みがあるなら彼氏として解決してやらない訳でもないが」

「悩みというか、ただ大学が忙しくなってきただけよ。ほらもう年末でしょ?冬休みに合わせてレポートがかなり溜まってるのよねぇ。そのせいで最近疲れが取れないのよ」

「なるほど、精神的疲労ってやつか。それならいい療法があるぞ」

「残念ながら今はあまり性的な興奮は湧いてこないから、そっち方面ならパスで」

「ストレス解消法が男女間の交じり合いとか、風俗に通うサラリーマンじゃねぇんだから……」

 

 

 まあ羨ましくはあるけどな、疲れやストレスが溜まったから性交渉し合う関係は。俺の場合恋人がたくさんいるから、逆に性交渉で疲れてしまいそうだけども。え?お前なら疲れてなくても所構わずヤるだろって?俺はエロには貪欲だけど、猿みたいに発情してヤりまくるような下品さは持ち合わせていないのでな。

 

 

 それにしても、にこがここまでナーバスになっているのも珍しい。数ヵ月前だが俺を求めすぎて大学で暴走しそうになっていたらしいし、それ以外でも俺と合う時はめちゃくちゃ嬉しそうにしている。なのに今は机の上にぐてーんと身体を寝そべらせているだけ……決して恥ずかしくて口には出せないが、ちょっと寂しいじゃねぇか!

 

 だがそれだけ大きなストレスを抱えているということだろう。だったらここは1つ、昨日たまたま見て調べたあのストレス解消法を試すしかない!

 

 

「折角だし、ちょっと俺の医学知識を見せびらかせてくれよ。疲れてるならいい療法があるからさ」

「さっき言ってたやつね。元気になるツボとかをマッサージしてくれるのかしら?」

「そんな古典的な方法じゃねぇよ。お前、現代の療法を知らないな?」

「とりあえずマッサージ師の人に謝りなさい。ま、にこは疲れが取れれば何でもいいけど」

「何でもいい?言ったな……」

「ちょっ、急に立ち上がってどうしたのよ……!?」

 

 

 俺は勢いよく席を立ち上がると、机の反対側に回り込んでにこの身体を無理矢理こちらへと向けた。彼女は今から何をされるのか知ってか知らずか、俺が彼女の肩を掴んだ時には耳まで顔を真っ赤にしていた。コイツ、まさか変な期待をしているんじゃあ……。

 

 

「お前は何もしなくてもいい。気が付いたらいつの間にか身体から疲れが取れてるから」

「えっ、そ、それってにこが気絶しちゃうくらい激しくってこと!?だ、ダメよ部室でそんな……でも零がどうしてもって言うのなら……」

「お前さっき性的興奮は湧いてこないとか言ってなかったか??」

 

 

 にこは借りてきた猫みたいに畏まると、そっぽを向きながらぶつぶつと己の欲望を垂れる。結局いつもの痴女に変わりねぇじゃん!やっぱり女の子の疲れを癒すには性交渉が手っ取り早いのか……?でも全員の相手をすることになったら流石の俺でも死んじゃうよ!?

 

 

「ここにベッドがあればそうしてやりたいのだが、生憎部室だからな。その代わり俺が昨日会得した療法でお前を性とはまた別の快楽へと誘ってやる」

「昨日会得したって、そんな取って付けたみたいな……まさかテレビに影響された催眠術とかじゃないでしょうね?にこは見てないけど、昨日特集やってたし」

「察しのいいガキは嫌われるぞ」

「読みやすいのよアンタの思考は!!それにアンタより年上なんですけど!?」

 

 

 にこは自慢のツインテールを揺らしながらブンブンと腕を振る。そういうところがガキっぽいんだよなぁ~。μ's内ではいい先輩の時もあれば家の中ではしっかりとお姉ちゃんなのに、俺といる時だけはやけに子供っぽくなる。それだけ俺に甘えられると思ってくれているなら嬉しいことだが。

 

 

 まあ何にせよ催眠術だ!にこは俺が昨日テレビ番組で会得したと思っているようだが甘い。俺はいつか女の子に催眠を掛けて俺の人形にするため、日々催眠術の特訓をしてきたのだ!!だって催眠モノのビデオとか薄い本とか興奮しない?一度でいいから女の子を俺の意のままに操りたいじゃん!

 

 本当はエロいことに反発する海未や雪穂辺りに試したいと思っていたのだが、折角のいい機会だ。このチャンスを逃す訳にはいかない。

 

 

「正直胡散臭さMAXだけど、暇つぶし程度にはなりそうね」

「油断してると、俺のいつの間にか俺の操りラブドールになってるぞ」

「それなら安心ね、もうなってるようなものだし」

「…………」

 

 

 これ催眠術を掛ける相手間違ってないか?どう考えても普段エロ行為をしなさそうな奴に掛けた方が興奮できたと思う。そもそもこの催眠術が効くかどうかはまだ定かではないが……。

 

 

「とにかくやってみるぞ!ほら、まずは俺の目をジッと見つめるんだ。絶対に逸らすなよ」

「え、えぇ……」

 

 

 俺も改めてにこの瞳を見つめ続けているがコイツの瞳、綺麗だよな。まるでルビーのような輝きの瞳に吸い込まれそうになる。この瞳を見るだけでも伊達にトップスクールアイドルを名乗っていない、不思議と惹かれてしまう魅力的な眼だ。今まで女の子の眼に注目したことは全然なかったのだが、これはいいチャームポイントを見つけたぞ。

 

 

「ねぇってば!!」

「おぉう悪い。どうした?」

「そ、そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど!身体も熱くなってきちゃうし全く……」

「なるほど、俺に見蕩れてたって訳か。まあ俺は世界一カッコイイし無理もない。それに俺も宇宙ナンバーワンアイドルの瞳に魅了されていたところだ」

「ホントに平気な顔で恥ずかしいこと言うわよねアンタって。ま、悪い気はしないけど……」

 

 

 そういやにこも真姫と同じく結構なツンデレ属性を持っていたな。恋人同士になってからデレの要素しかなくて忘れてしまっていた。久々に彼女のツンデレ具合を垣間見てなんだろう、突然抱きしめたくなる衝動に駆られるのは俺だけ?文句を垂れながらも俺の言うことに従ってくれるところが律儀で健気で可愛いんだよ。

 

 

「いいから俺の目を見ろ。恥ずかしくても決して目線を逸らすんじゃないぞ」

「わ、分かったわ……」

 

 

 そして俺たちは再びお互いにお互いの瞳を見つめ合う。ムード的には完全にこのあとキスをする雰囲気で俺もしたい気持ちは山々なのだが、今は催眠術に集中しよう。にこの自由さえ手中に収めてしまえば、あとは俺の独壇場、俺のステージだからな!

 

 

 もちろんただ瞳を見つめているだけでは催眠術は成功しない。俺は両手をにこの頬に当てると、そのまま自分の顔を彼女に近づけた。

 

 

「ちょ、ちょっと!部室でこんな……でも零がどうしてもしたいって言うのなら……」

「集中が途切れる。少し黙ってろ」

「で、でもぉ~……!!」

 

 

 頬に当てていた手をにこの肩、そして胸元へと身体を伝うように下ろしていく。俺の手がにこの胸を通過する時に、彼女の身体がピクリと震える。

 

 

「あっ、ん……ど、どうして身体を……」

「催眠術にはお前の全身を支配しなければならない。つまりお前の身体を知らなければならないということだ。だから触って確かめているってわけ」

「そんな取って付けたような言い訳……あっ、そこは!!」

 

 

 俺の手が今度はにこのくびれの部分に添えられる。優しく触れているためこそばゆいのか、はたまた普段誰にも触らせないところを触られて恥ずかしいのか、にこは頬を紅潮させながら目をギュッと瞑っていた。

 

 

「よしこのくらいでいいだろう。今から俺が両手を叩くとお前は意識を失う。覚悟はいいか?」

「そんな突然!?ちょっと怖くなってきたんだけど……」

「安心しろ。お前の身体は俺が責任を持って管理してやる」

「それが一番心配なのよ……でも催眠術なんて素人がやっても無意味だって聞くし、乗るだけ乗ってあげるわよ」

「ほう、言ったな?」

 

 

 俺は自分の目の前に両手を持ってくる。俺もこの催眠療法が本当に効くのか内心ドッキドキだが、もしこれで催眠術が上手くいったら、俺はあらゆる女の子を自分の手に――――って、今は集中を乱す時ではないな。

 

 

 そして――――部室に俺が手を叩く音だけが響き渡った。

 

 

「…………」

「おい、にこ」

「…………」

「ペチャパイ、壁、貧乳」

「…………」

「なるほど、まさか本当に成功するとは……」

 

 

 あれだけの罵倒に言い返しもしないとなると、これは催眠術が成功したと言っていいだろう。にこの目をよく見てみると、完全に輝きを失って虚ろになっているようだ。流石俺、何をやらせても完璧にこなす。とうとう催眠の力も手に入れたぞ!!

 

 ――――と言うことは、俺だけのラブドールが遂に完成!?折角だし何か命令してみよう!

 

 

「にこ、お前は俺だけの人形だ。俺の言うことだけを聞く従順な操り人形として、これから生きていくんだぞ」

「……はい、ご主人様」

「マジかよ、これが……これが女の子を支配するチカラ!?」

 

 

 まさか今まで夢を見ていた催眠モノのビデオや薄い本の内容を、目の前で現実にしてしまうとは!?今の俺の中にはただならぬ興奮と、にこを完全に手中に収めたという支配欲が混じり合って渦巻いている。まさか本当に女の子を従わせるチカラを手に入れたってのか!?これって犯罪?捕まらないよね!?

 

 

「とりあえず人形が服を着ているのは変だろう。まずは脱げ。ご主人様に見せつけるようにゆっくりとな」

「はい……」

 

 

 にこは何の躊躇いもなく自分の服に手を掛けた。いつものにこですら多少は恥じらうというのに、今は俺の命令通り堂々と見せつけている。にこは上着を脱ぐと、そのまま休むことなく次の服に手を掛けた。冬だからある程度着込んでいるため、1枚1枚脱いでいくたびに徐々に薄着となっていく様が堪らなく唆られる。

 

 女の子が恥らいながら服を脱ぐというシチュエーションにグッと来るのは誰しもが思っていることだろう。でも敢えてその恥じらいを消し、こうして無表情のまま何の躊躇いもなく服を脱ぐシチュエーションも非常に艶かしい。特に自分自身の手で女の子を支配している感じがして、程よい背徳感で全身がゾクゾクしてくる。

 

 

 そして遂に、にこの上半身を纏う衣類は下着だけとなった。桃色の色鮮やかな下着に目を奪われてしまうが、俺の興味は女の子の身体のみ。ここまで来て脱がさない選択肢はないだろう。

 

 

「その下着も外して、俺の膝に跨がれ」

「はい……」

 

 

 もはや俺のいい操り人形、もといラブドールとなってしまったにこ。彼女は下着を外すと、虚ろな目をしながら俺の元へと歩み寄ってきた。上半身裸でスカートを穿いた女の子が自ら俺に歩み寄ってくるこの光景、催眠術でないと実現できないぞこれ……!!

 

 彼女の身体は一般の大学生と比べても、というより他のμ'sのメンバーと比べても貧相なのは1年前と変わらずだ。だけどそのちんちくりんな身体だからこそ味わえる快感もある。例えば――――――

 

 

「ご主人様、これでいいですか……?」

「ああ。まさかここまで抱きつかれるとは思わなかったけど……」

 

 

 にこは命令通りに椅子に座っている俺の膝へと跨り、俺に抱きついてきた。彼女のような小柄な女の子だからこそできること、それは全身が俺の身体にすっぽりと収まるということだ。だからこうしてギュッと抱きしめると、彼女の全身から熱い温もりが一斉に感じられる。特に今は彼女の上半身が裸であることも相まって、柔らかな肌の感触が直に伝わってくる。

 

 俺は抑えきれなくなり、にこの背中に腕を回している手で彼女のくびれを舐め回すように撫でた。彼女の口からは淫猥な吐息が俺の耳に吹き掛かり、身体もピクッと可愛く震わせている。この催眠術に感じやすくなる効果でもあるのだろうか、いつもより興奮に達するのが早い気がする。俺の身体に抱きつく力も強くなり、意図せずだいしゅきホールドの体位になってしまっていた。

 

 

 俺は試しににこの首筋、胸、太ももなど、あらゆるところを撫で回してみた。するとにこの身体はまるで自慰行為をしているかのごとく熱くなっていく。これが催眠術の効果なのであろう、全身を撫でているだけでイってしまいそうだな。まあ、それはそれで一興だが……。

 

 

「いい感じに身体が火照ってきたみたいだな」

「はぁ、はぁ……」

「そうだ、自分でやって見せてくれよ。いつもどうやって自分を磨いているのか、どうやって己の性欲を発散しているのかをな」

「にこがいつもやってる……?」

 

 

 にこは自分の右手を見つめると、そのまま手を自分の胸へと当てた。そしてその5本の指を巧みに動かして胸をゆっくりと揉み始める。それだけじゃない、今度は左手をスカートの中へ入れると、恐らくパンツの上からだろう自分の秘部を弄り始めた。弄り始めた時に"くちゅ"っと音がしたあたり、にこは既に相当興奮していたのだろう。

 

 

 まさか女の子の自分磨きが目の前で見られるとは、恐るべし催眠術!

 だが普通では女の子の自分磨きなんて見ることのできない、いわゆる神秘のシーンのはずだ。それが今まさに目の前で行われている!!オナニーというのは自室で隠れてやるものだから、普段表に出ない女の子の性事情を間近で見られるのは心底興奮が唆られる。

 

 

「零、零!はぁ……零!そこは……んっ!」

 

 

 にこは段々自制が効かなくなってきたのか、俺の名前を叫びながら俺の身体へともたれ掛かってきた。目の前にオカズにしている人がいる興奮からなのか、催眠術により俺をちゃんと意識できているのかすら怪しいが、自分をオカズにして乱れてくれていると思うとそれもまた唆られる。

 

 

 右手は胸、左手をパンツの中に沿わせ、俺の名前を漏らしながらにこは本人の目の前で自慰行為。これぞ催眠術の真骨頂と言ってもいい。常識でないことを常識だと思い込ませ無理矢理エロいことをさせるこの背徳感!そして催眠術を掛けられた当の本人はそれが普通だと思い込んでいるのがまたいいんだよ!!特にエロに鈍感な子や反抗する子を従わせられた時はね!!

 

 

「はぁ、あっ!ん、ああっ!!」

 

 

 にこは俺の膝の上で自分磨きを続けている。催眠術を掛けられる前に溜まっていた疲れなど、もはやとっくに忘れているだろう。今はただ性の快感に溺れた牝のごとく、自分の性欲を満たすことしか考えていない。

 

 俺の命令に彼女が従っている。その事実だけでも心がゾクゾクしてくる。もっともっと命令してにこを恥辱の底にまで沈めたい。もちろん彼女自身は催眠で羞恥など全く感じないだろうが、それがまた催眠のいいところだ。

 

 

 本当ならただの牝となった彼女でもっと遊びたかったのだが、生憎これからμ'sの練習があるためみんながこの部室に集まってしまう。余計な制裁をもらう前に、にこをちゃんと元の状態へ戻しておかないとな。

 

 

「いいか?俺が手を叩くとお前は催眠前の状態に戻る。いくぞ!3、2、1――――」

 

 

 パンッと部室に手の叩く音が響き渡る。

 しばらくすると、にこの目にいつもの光が戻っていた。そして周りをキョロキョロと見渡すと、眼前に俺がいてビックリしたのだろう、目を丸くしてまたしても顔が一気に赤く燃え上がる。更に自分の上半身が全て脱がされていることに気付いた時には、相当気が動転しているようだった。

 

 

「あ、アンタまさか催眠術でにこの身体を……!?にこの処女を!?!?」

「落ち着け。抵抗できない女の子を襲うなど、そんな外道なことはしない。それよりどうだ?疲れは取れただろう?」

「ほ、ホントだ……どうして?本当にアンタの催眠療法が効いたっていうの……?」

「言っただろう、気付いた頃には身体の疲れが取れていると。まああれだけ俺の目の前で欲求を発散すればそうもなるだろ」

 

 

 でも自分磨きってかなり体力を使うって聞いたんだが実際どうなんだろうな?男だったら白濁液を出す行為に関しては結構な体力が消耗されるらしい。じゃあ女の子がイった時は?こればっかりはセクハラ覚悟で女の子に聞いてみるしかない。

 

 

「女の子にとって処女貫通は一種の様式美なんだから、寝ている間とかに勝手に襲うんじゃないわよ!」

「だから襲ってないって。普段見られないいいものは見せてもらったけどな」

「脱がされている時点で何をされたのか、大体お察しなんだけど……」

「まあ疲れが取れたからいいじゃねぇか。俺ちょっとトイレ行ってくるから、みんなが来る前に服着とけよ」

 

 

 そんな訳で、気まぐれに試してみた催眠術がまさか女の子を操るまでの効力を発揮するとは思わなかった。もしこのチカラをもっと鍛え上げれば、μ'sだけじゃなくて世界中の可愛い子を俺の手中に収めることができるのでは!?なんだかテンションが上がってきたぞ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして俺がトイレに行ったあと、部室に1人残ったにこはこんなことを言っていたそうな。

 

 

「全く、本当に催眠術が効いたと勘違いしちゃって。あんな子供騙しに引っかかる訳ないでしょ。でも……零の前でのオナニーは流石に恥ずかしかったかな?催眠術に掛かった()()とはいえ、零の前で興奮しちゃったことは事実だし…………にこもトイレ行こ」

 

 




 催眠モノはいいぞ~!!


 今回はにこ回+催眠回でした!
 催眠術云々の話はいつかやってみたかったのですが、とうとう実現しちゃいました!私自身催眠モノやMC(マインドコントロール)モノが好きな、若干アブノーマルな性癖の持ち主です。この小説の読者さんなら私の性癖が尋常ではないことくらいお分かりだとは思いますが(笑)

 ちなみにサブタイトルに(にこ編)と書かれていますが、いいサブタイが思いつかなかっただけでシリーズ化するつもりはないです。また催眠ネタが思いつけば話は別ですが……


 そして次回からの『新日常』はシスターズ編となります。シスターズがメインの話が多くなりますが、零君と彼女たちの関係がどうなるのか、是非見届けてやってください!



 そしてここからはいつもの宣伝+αを。

 以前から告知していたラブライブ!サンシャイン!!の企画小説"ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――待ちわびて』"が、5月1日より始動しています。毎日21時に投稿される予定なので、気になるサブタイがありましたら是非覗いてみてください!
ちなみに私は5月22日の企画小説最終日に投稿される予定です。その際は是非ご感想を頂けると嬉しいです!

 私が投稿する小説の内容は、『薮椿さんだったらコレ!』と言っちゃうような内容に仕上がってます!



新たに高評価をくださった

ヤマト・カンザキさん、りゅーかっちさん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嫉妬するシスターズ

 今回は多くの人が忘れていたであろう嫉妬シリーズのラストになります!
 一途な恋をする妹たちの嫉妬する可愛さを存分に堪能してもらえればと!


 

 恋なんて今までしたこともなかったし、そもそも異性を好きになるなんて考えたこともなかった。そういう漫画はよく読むけど、まさか実際に自分が恋をすることになるなんて……。

 

 思い切って告白したあの日から、私は常日頃から零君を想うことが多くなった。授業中でも気を抜くとふと彼の顔が思い浮かんだり、一緒にいる時はいつの間にか目線が彼の方に向いていたり、休日には思わず会いたいと思ってしまう。そして挙げ句の果てには隣に彼がいるだけで、私の心は物凄くドキドキするようになってしまった。

 

 常日頃からこんな感情を抱かされて迷惑、本当に迷惑。だけどこの気持ち、自然と嫌だとは思わない。やっぱり恋って漫画やドラマで見るよりも複雑で不思議だな。それでいてどこか暖かい。

 

 

「あっ、あれは……」

 

 

 そんなことを考えながら廊下を歩いている途中、遠方に零君の姿が見えた。ただ姿が見えただけなのに、私の心は勝手に踊ってしまう。私はいつの間にか零君の元へと駆け出していた。やはり私は零君が好きみたいだ。またいつものように一緒にお喋りをして、その綺麗な笑顔を私に向けて欲しい。私をドキドキさせて欲しい!その想い一心で、私は零君へと近付く。

 

 

 だけど、彼の隣に女子生徒がいることに気が付いた。それはμ'sのメンバーではなく、私たちと同じ緑のリボンを付けた1年生の生徒だ。確か隣のクラスの子だった気がする。

 

 私は思わず足を止め、何故か柱の陰に隠れてしまった。自分でもどうしてこんな行動を取ってしまったのかは分からない。でも零君と彼女の会話が気になって仕方がなかった。

 

 

「また今度料理を教えてくださいよ~師匠」

「だからどうして師匠呼びなんだ!?俺が作れる飯は体裁なんて整ってない、食えるだけで満足な男飯なんだぞ?」

「私も別に食べられれば多少ゴテゴテの料理でも問題ないですし!それに私に料理のノウハウを教えてくれたのは先輩ですから、私の料理の師匠です!」

「ノウハウって、それこそ楓の頼めばいいじゃねぇか。ほら、お前と同じ学年の俺の妹だよ」

「そ、それはぁ~……せ、先輩が作るような男らしい料理に憧れていたんです!!本当ですよ??」

 

 

 嘘だ。あの慌てよう、絶対に初めから零君に近付く算段だったに決まってるよ。それに零君のことを馴れ馴れしく"師匠"だなんて……私ですら零君と一緒に料理したことないのに、あんな見ず知らずの子とは一緒にしたことあるんだ。やっぱり可愛い女の子なら誰でもいいのかな零君は。私、あんなに必死に想いを伝えて告白したのに……。

 

 

 ――――――あれ?どうして私、こんなにも怒ってるんだろう……?別に零君が誰と一緒にいようが私には関係ないのに。関係ないはずなのに……どうしてだろう、さっきまで踊っていた心にモヤが掛かったみたい。腹立たしい、それでいて寂しい。零君と女の子が話している光景を見るだけで、そんな負の感情がふつふつと湧き上がってきた。

 

 

 

 

 もっと私を見て欲しい!!こんなことを言うのは我が儘だけど、他の女の子を見るくらいならもっと私を見てよ!!

 

 

 

 

「おい雪穂!」

「ひゃぁああああああああっ!!」

「な、なんだよ急に叫ぶな」

「れ、零君……!?」

 

 

 さっきまで女の子と話していた零君が、いつの間にか私の前に立っていて思わず叫んじゃったよ……。あの子との話はもう終わったのかな?その子には申し訳ないけど、今私の心はホッとして落ち着きを取り戻している。こうして零君と話せる機会ができたからなのか、さっきまでのモヤモヤも全て消え去っていた。零君が女の子と話していただけでここまで嫉妬するなんて、私最低だ……。

 

 

 するとその時、私の頭に手が添えられた。もちろんそれは零君の大きい手。零君は優しく微笑むと、私の頭をゆっくりと撫で回し始めた。ただ撫でられているだけなのに、こうも安心するのは何故だろう?心も身体もポカポカと暖かくなって、ずっとこうされていたい。お姉ちゃんたちが執拗に零君に擦り寄る理由が分かった気がするよ。

 

 

「あのぉ……どうして突然?」

「お前が険しい表情をしていたからだ。それに寂しそうな雰囲気も感じられたしな。だからこうやって俺を感じられれば落ち着くだろうと思った、ただそれだけ」

「そう、ですか……」

 

 

 そこで私は自然と笑顔になっていた。私ってば案外チョロいとか思ってしまいながらも、零君に撫でられるのはやはり気持ちがいい。心臓の鼓動も早くなり、身体もより一層熱くなってしまう。多分今の私の顔は赤みがかっているのだろう。本来なら素直になれずツンケンしてしまう私だけど、今だけは正直に想いを伝えられる気がする。

 

 

 

 

 やっぱり私は、あなたのことが好き。

 

 

 

 

「そろそろ授業か。もう大丈夫か?」

「はい、ありがとうございます!おかげで胸につっかえていたものが取れました」

「俺が慰めてやったんだから当然だな」

「そのように自信家なところは本当に零君ですよね。安心します♪」

 

 

 いつも自分のことをよいしょして、自信満々で傲慢な彼だけど、私はそんな彼だからこそ一緒にいて落ち着くのだと思っている。安心して隣にいられるからかな?だからこそどんどん零君に惹かれちゃうんだよね。

 

 

「それじゃあ俺は教室に戻るぞ。最近授業サボり過ぎて、笹原先生に監視が厳しくなってるからな~」

「相変わらずですね……」

「ん?どうした立ち止まって?」

「1つお願いがあるんですけど……今度私と一緒に和菓子作りをしませんか?今まで一度も零君と一緒に料理とかお菓子作りとかしたことないなぁって思いまして……どうですか?」

「そういや穂むらの和菓子を食べたことはあっても作ったことはなかったな。いいぞ、次の休日にでもやるか!」

「はいっ!ありがとうございます!」

 

 

 よかったぁ~何とか誘えた!2人エプロン姿で並んでお菓子作りかぁ~……何だか今からドキドキしちゃってるよ♪ホントに私って単純だなぁ。でも想いの人と初めての料理なんだよ期待しない方がおかしいよね。

 

 私は心を躍らせながら、教室へと向かう零君の隣に並び一緒に歩き始めた。いつもよりも彼との距離を縮めながら――――――

 

 

 こうやってもう私の心の準備はできていますから、あなたからの告白、楽しみに待っていますよ♪

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 あの告白の日からもう2ヶ月以上が経ちました。私の想いを正直に、何も包み隠すことなく零くんに伝えたあの日から、私の毎日はドキドキとワクワクの連続です!

 

 零くんと顔を合わせるのが毎日の楽しみとなり、私も告白前と比べればかなり積極的になれている気がします。零くんに抱きつくと全身が幸せに満ち溢れるように暖かくなり、もっともっと一緒にいたいと思ってしまうのです!あまりしつこいと嫌われてしまいますかね?でも零くんから『可愛いよ』などと一声掛けてもらうだけでも嬉しいのです!そのためにはもっともぉ~っと積極的になっていかないと!!

 

 

 そんな期待とワクワクを抱きながら、私と零くんの思い出の場所の1つでもある学院の中庭へとやって来ました。すると私の想いが通じたのか、それとも運命の赤い糸で惹かれ合っているのか、なんとベンチに腰掛けている零くんの姿が見えたのです!

 

 

 しかしその隣に、女の子の姿も――――――

 

 

「そ、そんな!奢ってもらうなんて悪いですよ!ジュースくらい自分で買いますから!!」

「ジュースくらいだからこそ俺に奢らせろって。折角お前が書道の大会で優勝したんだ、祝いにそれくらいやらせろ」

「それならお言葉に甘えて……ありがとうございます♪」

 

 

 あの人は確か私と同じクラスの書道部の人……大会で優勝したんだ。それはおめでたいことなんだけど、何だか零くんとの距離が近いような――――あっ、今一瞬あの人、零くんに近付いた!!あの人も零くんのことが好きだったりするのかな?それに零くんもあの人のことを……。

 

 

「そんなに畏まらなくてもいいって。お前いつも縮こまってるよな。まあそれが可愛いんだけどさ」

「か、可愛い……ですか!?」

「あぁ、お前背丈も低いし人形みたいな愛くるしさがあるよ」

「そ、そうですか……私にそんなお言葉、勿体無いですよ!」

「お前いつもそんな感じだよなぁ。謙遜すんなって」

 

 

 この時、私の胸にズキッと痛みが走りました。確かにあの子は同性の私から見ても可愛いです。だけど零くんの口から私とμ'sの皆さん以外に"可愛い"と発せられると、胸の奥でズキズキと痛みが走ります。その言葉は私たちだけに言って欲しい。こんなことを言ったら零くんに嫌われるかもしれませんが、勝手な嫉妬を抱いてしまいます。

 

 零くんが私に日頃から掛けてくれる言葉、笑顔、何1つ偽りがないことなんて分かっています。だからこそその言葉は私だけに向けて欲しい!他の女の子に目移りしないで、私だけを見て欲しい!もっと零くんに褒められたい!もっともっと構って欲しい!!もっともーーっと私を満たして!!あなたがいないと私は……私は――――――!!

 

 

「んっ、亜里沙じゃないか。そんなトコでどうした?」

「れ、零くん!?さっきそこの女の子と――――って、あれ??」

「あぁさっきの子か?今から書道部があるからって部室に向かったよ。折角ジュース奢ってやろうと思ったのに……よしっ、それじゃあお前に奢ってやるよ」

「脈略がよく分からないんですけど、いいんですか?」

「なんだろうな、今は善行をしたい気分なんだ。こんな俺を見られるのは人生で一度かもしれないぞ。それで?どれにするんだ?」

「あっ、えぇとじゃあオレンジジュースで」

「はいよ」

 

 

 零くんは自動販売機にお金を入れると、オレンジジュースのボタンを2回連続で押します。そして取り出し口から両手で缶を2つ取り出すと、その中の1つを私へと放り投げました。ずっと零くんを見つめていた私は、慌てながらも何とかオレンジジュースをキャッチします。

 

 こんな何気ないやり取りですが、知らず知らずの間に私の胸の痛みは引いていました。零くんとこうして一緒に喋っているだけで心が落ち着くなんて、やっぱり私は零くんのことが大好きみたいです♪私の手にあるのはただのオレンジジュースなのですが、これも零くんからのプレゼントと考えると心が嬉しさで満ち溢れてしまいます。それくらい私にとって零くんの存在は大きいのです。

 

 

「ありがとうございます、零くん♪」

「亜里沙……」

「な、なんですか……?」

「やっぱお前の笑顔最高だよ。語彙力がないと言われてもいいから何度でも言うぞ。可愛いよ、亜里沙」

「ふぇっ!?そ、そんな直球に言われるとですね私も恥ずかしくなっちゃうというか!零くんの笑顔もカッコイイよと褒めるべきなのか……」

「いやぁ慌てるお前も愛くるしくていいわ!抱きしめていい?」

「だ、抱きしめるってここ学院内ですよ!?」

「いつもはお前から抱きしめてくるじゃねぇか。本当に喜怒哀楽が分かりやすくて面白いな亜里沙は」

「うぅ……」

 

 

 いやぁあああああああ私の顔絶対に沸騰して赤くなってるよぉ~!!

 

 でもいつもは恥ずかしいとは思わないのに今恥ずかしくなるのは、やっぱり零くんと一緒にいられる時間が何よりも楽しいと改めて認識できたからかも。ありきたりな言葉だけど、零くんに『可愛い』と言ってもらえるだけで身体が舞い上がっちゃいそう。こうやって普通に話しているだけでも嫌なことは全部忘れられる。私にとって一番の癒しの時。

 

 

 

 

 もっと零くんの傍にいたい!だって――――あなたのことが大好きだから!!

 

 

 

 

「どうした?さっきまで慌ててたと思ったら急にニコニコして……。そんなに俺からの贈り物が嬉しかったのかそうかそうか」

「はいっ!零くんから貰ったものなら何でも嬉しいですよ♪」

「おぉう……冗談で言ったつもりなのにそんな笑顔で返されたら罪悪感が……」

「やっぱり零くんと一緒にいるのは楽しいです!えへへ、失礼します♪」

「あ、亜里沙!?」

 

 

 私は自分の身体を零くんの身体へと擦り寄せました。身体同士をくっつけると、零くんの優しい温もりが私の全身に流れ込んできてとても心地いいです♪もうずっと一緒にいたい、あなたと――――――

 

 

 私はあなたから想いを伝えてくれる時をずっと待ってます!これからもずっと私をドキドキさせてください♪

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 私はお兄ちゃんのたった1人の妹。お兄ちゃんにいくら彼女ができようとも、私が妹というポジションから永遠に降ろされることはない。お兄ちゃんのために尽くし、お兄ちゃんのために生きる。そこら辺にいる生半可な妹とは違う、私は妹、そして1人の女性の両方としてお兄ちゃんを愛しているんだよ!

 

 お兄ちゃんのためだったら何だってする。お兄ちゃんの身の回りの世話は全部私がやるし、お兄ちゃんが望めば私の身体なんて喜んで差し出す。お兄ちゃんに使ってもらえるのなら、それほど幸福なことはない。狂っていると言われるかもしれないけど、それくらいお兄ちゃんを想っているってことなんだよ!

 

 

 だがしかし、私とお兄ちゃんの仲を切り崩すような事態が今――――――

 

 

「先輩のこと、1日だけお兄ちゃんって呼んでもいいですか?」

「いきなりどうしたお前……」

「だって先輩どこからどう見てもお兄様臭が溢れ出てるじゃないですかぁ?それに私前々からお兄ちゃんが欲しいなぁと思っていたので、いい機会なんです!」

 

 

 たまたま別の1年生教室の前を通りかかろうとしたら、何故か教室前の廊下にお兄ちゃんがいて見知らぬ女と会話をしていた。

 

 会話をするだけなら断腸の思いでまあ許す。だけどなぁ~にが『お兄ちゃんって呼んでもいいですか?』だ!!お兄ちゃんの妹は世界、いや宇宙でただ1人私だけなんだけど!?そんな軽い気持ちでお兄ちゃんの妹を名乗ろうとしてんじゃねぇよこのゴミが!!

 

 

「1日だけ!今日だけでいいですから!」

「う~ん……それじゃああまり人のいないところだけにしてくれよ。流石に勘違いされたらお前も困るだろ」

「やったぁ!ありがとうございます!まあ私は先輩となら兄妹と勘違いされても全然オッケーですけどね♪」

「おいおい冗談はよせ!あくまで人のいないところでだからな」

「はいはい分かってますよ♪」

 

 

 は……?いや、はぁ…………?

 何言ってるのお兄ちゃん?あなたの妹はこの私でしょ?なんでそんな得体の知れない雌豚なんかを妹にしちゃうの……?アイツもアイツで馴れ馴れしくお兄ちゃんの妹になろうとしてるんじゃねぇよ。しかもあんなにお兄ちゃんに近付いて……ここが学院内でなかったら速攻で始末していることだよ。命拾いしたね……フフッ♪

 

 

 でも私というものがありながら、お兄ちゃんは何故また新しく妹を作ったりしたんだろう?もしかして私、お兄ちゃんを満足させてあげられてない!?そっかぁ~、もっとお兄ちゃんを性的に満たすしかないみたいだね。折角お兄ちゃん好みのこの身体になったんだから、お兄ちゃんの喜ぶプレイを何だってしてあげるよ♪

 

 そして、どこぞの馬の骨とも分からない出来損ないのクソ妹のことなんて忘れさせてあげる……♪

 

 

「おい、そんなところでドス黒い顔してどうした……?」

「お、おおおおお兄ちゃんいつの間に!?ていうかどうしてここに!?」

 

 

 うひゃぁああああああああああああ!!お兄ちゃんが私の目の前にぃいいいいいいいいい!!お兄ちゃんと向かい合うだけで心臓がバクバクしちゃうよぉ~!さっきからずっとお兄ちゃんのことを考えていたせいか、お兄ちゃんへの愛と恋心が止まらない!!胸がキュンキュンするぅうううううううう!!

 

 

「どうしてって、お前に用があって来たんだよ」

「えっ、私に……?」

「あぁ、一緒に弁当食おうと思ってさ。ほら、この前たまには学院内でも俺と昼食を取りたいって言ってたじゃん」

「そう言えばそんなことも……覚えていてくれたんだ」

「普段からお前にはお世話になりっぱなしだからな。これくらいはお安い御用だし、それにまだお前に返せないくらいのお釣りがたんまり溜まってるよ」

「お兄ちゃん……」

 

 

 お兄ちゃん、初めから私に会いに来る予定だったんだ。だったらあの子は()()()()会っただけなんだね。変な嫉妬心を抱いちゃって損したよぉ~。

 

 でもそんなことより、お兄ちゃんがわざわざ私の元へ出向いてくれたことが何よりも嬉しすぎる!!だっていつもは私からお兄ちゃんに何かをしてばかりで、お兄ちゃんから私にって行為はかなり少ない。だからこそお兄ちゃんが私と一緒に昼食を取ろうと誘ってくれたその瞬間から、私のテンションは最高潮を振り切ってるんだよ!!

 

 

「それに、たまにはその場でお弁当の感想を言ってもいいかなと思って」

「そんな感想だなんて。お兄ちゃんにお弁当を作るのは妹として当然の義務だから……」

「だからこそお前に感謝してるんだよ。毎日毎日俺のために早起きしてお弁当を作ってくれているし、飯や家事もお前に任せっきりだからな」

「それは私が好きでやっているだけだから。お兄ちゃんに快適に生活してもらいたくて、お兄ちゃんの喜ぶ顔も見たいから……」

「なんか俺、もうお前から離れられそうにねぇな。こんな幸せな毎日を送っていたら、1人暮らしなんて到底無理だ」

「お兄ちゃんの面倒はずっと私が見るから!!私とお兄ちゃんはずっとずぅーーーっと一緒だよ♪」

「なんか俺がダメ人間みてぇだな……まあ、ずっと一緒ってのは同意だ」

 

 

 お兄ちゃんはそう言うと、私の頭に手を乗せて優しく撫でてくれた。そう言えばお兄ちゃんに撫でられるなんていつ以来だろう?いつもこっちから甘えるばかりで、お兄ちゃんからしてくれたことは最近なかった気がする。だからこそ幸せが溢れすぎて、逆に私だけがこんなに人生勝ち組の道を歩んでいいのか恐れ多いくらい。先輩たちはいつもこんな気分を味わっていたんだね、羨ましいよ。

 

 1年前までは家の都合でお兄ちゃんとは別居してたけど、もう一生お兄ちゃんから離れないから!お兄ちゃんのたった1人の妹として、お兄ちゃんと共に人生を歩んでいくって小さい頃からずっと決めてたんだ。そのためにお兄ちゃん好みの妹に成長したつもり。ずっとお兄ちゃんの隣にいるために……。

 

 

 私は絶えずお兄ちゃんへ愛を捧げます。だからお兄ちゃんからも私にたくさんの愛を注いで欲しいな。そして、いつの日か私に告白してくれる日をずっと楽しみにしてるよ♪

 




 たまには純愛モノもいいなと思いました(小並感)


 今回の嫉妬する妹たちはどうだったでしょうか?執筆している私自身、3人の零君に対する一途な恋心に不覚ながらもグッと来てしまう場面もありました!特に妹たち3人は本編中にもあった通り、零君からの告白も控えてますので彼を想う気持ちはより一層強くなっていると思います。

 そしてこうして読み返してみると、3人が少々ヤンデレっぽく見えるのは私だけでしょうか??ヤンデレを書くことに慣れてしまっているので、自然とヤンデレの雰囲気になってしまうのはある種仕方のないことなのです(笑)


 次回からはクリスマス編に入ります。今回で告白の話題を出したってことは、どういうことか分かるな……?




 そしてここからはいつもの宣伝を。

 以前から告知していたラブライブ!サンシャイン!!の企画小説"ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――待ちわびて』"が、5月1日より始動しています。毎日21時に投稿される予定なので、気になるサブタイがありましたら是非覗いてみてください!
ちなみに私は5月22日の企画小説最終日に投稿される予定です。その際は是非ご感想を頂けると嬉しいです!

 私が投稿する小説の内容は、『薮椿さんだったらコレ!』と言っちゃうような内容に仕上がってます!




 それでは感想/評価、お待ちしています!!




Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

聖夜の予兆、運命のカウントダウン

 区切りがいいのかそうでないのかは分かりませんが、160話に到達しました!

 今回は告白の日に向けた繋ぎの日常回です。
 ちなみに"聖夜"を"性夜"と勘違いした人は、穂乃果やことりと同じ脳内ラブホさんということで(笑)


※サンシャイン企画について、私の日程がズレましたので詳しくは後書きをご覧下さい。


 

「零君!クリスマスだよクリスマス!!」

「分かったから顔近い」

「えへへ、そのままちゅーしちゃう?」

「したらしたで隣にいる淫乱鳥までせがんでくるからダメ」

 

 

 もう教室内でキスを迫ってくることなど日常茶飯事なため、敢えてここでこれ以上言及はしない。

 

 そんなことよりも、もうすぐクリスマスという事実だ。12月に入ってから穂乃果や凛がクリスマスパーティの計画を練っていたことは知っているので、クリスマスがあるということ自体は忘れていない。楓も張り切ってクリスマスに作る料理を考えている。更に今日で今年の授業も終わりだし、クリスマスの実感は毎日のように感じていた。

 

 

 しかし、今年のクリスマスはいつもとは違う。いや、いつもとは違うクリスマスにすると言った方が正解か。1年の中で最も神聖な日、俺はある事柄に1つ決着を付けようとしていた。

 

 

「去年は穂乃果の家でパーティをしたけど、今年は零君の家でやろうよ!μ'sのメンバーも増えたし、零君の家なら広いから。ねぇねぇいいでしょ~?」

「いいけど、騒ぎすぎて夜遅くならないようにな。お前らがいくら恋人だと言っても、流石に全員を家まで送り届けるなんて面倒だから」

「え、ことりたち零くんの家に泊まるつもりだよ?」

「マジで!?いつぞやの同棲生活みたいだな……」

「またあの時みたいに、ことりと穂乃果ちゃんが背中流してあげようか?」

「えっ!!?」

「いけません!!」

「う、海未……」

 

 

 いつの間に俺の席にやって来たのかは知らないが、海未は座っている俺を見下すように睨みつけてくる。ていうか提案してきたのはことりなのに、どうして俺だけが睨まれなきゃいかんのだ!!

 

 同棲生活1日目の夜、俺が風呂に入っている最中に突然穂乃果とことりが乱入してきたことがあった。あの時は勢いに任せて思わずアレを咥えさせてしまったが、それはそれは今まで味わったことのない極上の快楽だったな。今となってはそれも日常となっているのだが、これを海未が知ったらどれだけの怒声を浴びせられるのだろうか?それとも案外乗り気になってくれたり……しないか。

 

 

「にしても意外だな。お前も俺の家に泊まるなんて」

「わ、私は零や穂乃果たちがハメを外し過ぎないように見張るためです!!他意は一切ありません!!」

「そんなこと言っちゃってぇ~♪本当は零君と一緒にお泊りしたかったくせにぃ~♪なんだかんだ同棲生活は楽しかったでしょ?」

「それはそうですけど……でも男性と共にベッドを一緒にするなんて、まだ早すぎます!!」

「あれれ~?穂乃果、一緒にお泊りするって言っただけで、一緒に寝るとは言ってないんだけどなぁ~♪」

「ほ~の~か~!!」

「きゃ~襲われる~!レズプレイはご勘弁を~!!」

「教室でそんなこと叫ばないでください!!」

 

 

 もはやこれが俺たちのいつもの日常になり過ぎて、他のクラスメイトもツッコミすらしない。それどころか日常の一風景としてそのまま流されてしまっている。訓練され過ぎだろここの連中……。

 

 

「穂乃果ちゃんと海未ちゃんが()()()一緒に寝るのなら、零くんの隣で寝るのはことりで決まりだね!楓ちゃんの代わりに、ことりが朝のご奉仕もやってあげるから♪」

「ほぉ~。それじゃあずっと寝たフリをしていたら、お前もずっと奉仕し続けてくれるんだな?」

「それって、零くんとことりが1日中下半身で繋がったままってこと!?これはお互いに何回イクのか勝負だね♪」

「なんでやねん!!それに俺はまだお前らと繋がる気はないの」

「据え膳食わぬは男の恥っていうでしょ?零くんが恥をかかないように、ことりたちの処女を食べさせてあげるから♪」

「……お前ホントにそういう妄想尽きねぇよな」

「それもこれも零くんに調教されたからね。それに零くんの妄想力には負けるよ♪」

 

 

 笑顔でそんなこと言われたら否定しようにも否定しにくいじゃねぇか……。

 ていうか俺はそんな穢れた話題なんかよりも、もっと重要なことをコイツらと話したかったのだが、穂乃果と海未は未だに言い争いをしているし、しょうがねぇからことりに聞くか。

 

 

「なぁことり、女の子って何をプレゼントすれば喜ぶんだ?」

「そりゃあ零くんそのものに決まってるよ!!零くんが身体を差し出してくれて、興奮しない女の子はいないから!!」

「お前に聞いた俺が馬鹿だったよ……」

「待って待って冗談!さっきのは2割くらい冗談だから!!」

「じゃあ8割マジなんじゃねぇか!!」

「まぁまぁ。でも零くんそのものっていうのは1つのプレゼントだと思うよ。零くんの想い、3人に伝えるんでしょ?」

「ことり、お前……」

 

 

 さっきまでエロ妄想全開だったくせに、急に優しい顔になった。なんかコイツのこんな顔、久々に見た気がする。それにことりの奴、俺が女の子にプレゼントを渡す意図に感づいていたのか。俺のことになると妙に察しがいいと言うか、心の中まで読まれちゃうんだよな。

 

 

 

 

 そう、俺はクリスマスを利用してシスターズの3人に想いを伝えようと考えているのだ。

 しかし9人の彼女を持っているのにも関わらず、女心にはまだ疎い。だから告白と同時にプレゼントを贈ろうと思っているのだが、どうも候補がたくさんあってどれにするか迷ってしまう。しかもその候補すらも当たり障りのないものばかりだしな。まあ変に凝ったものを渡しても、向こうが困るだけだが……。

 

 今はプレゼントのことだけで悩んでいるが、告白する場所や時間なども全然決まってないままだ。しかもクリスマスまであと数日だって言うのに、雪穂も亜里沙も楓も誰1人誘えてもいない。楓は常に俺と一緒だからいいとしても、早く予定を決めないと雪穂と亜里沙の予定が先に埋まってしまうかも。それだけは何としてでも避けないと。

 

 

「プレゼントかぁ~。でもことりはどんなモノよりも、零くんからの言葉が一番嬉しいプレゼントなんだよ。ことりだけじゃなくて、μ'sのみんななら絶対にそうだと思うんだ」

「そうなのか……?」

「そうだよ♪だってことりは零くんと喋っているといつも楽しいし、みんなも零くんと話している時はいつも笑顔だもん!」

「穂乃果は零君と恋人になってから毎日が楽しすぎて、幸せが溢れ出そうなんだから!」

「私もです。なので変に考え込まずに自分の素直な気持ちだけを相手に伝えれば、それだけで女の子は満足ですよ」

「お前らいつの間に……ていうか聞いてたのか」

 

 

 言い争いの最中にどうやって俺たちの会話を盗み聞きしていたのかは知らないが、2人からの意見は図らずとも俺への励ましとなった。俺自身、考え込んでしまうとドツボに嵌ってくどくど迷う性格だから。

 

 

「確かにプレゼントなんか考えている暇があったら、女の子の心をくすぐる言葉を考えておいた方がいいかもなぁ」

「零くんならわざわざ考え込まなくても、素直に気持ちを伝えるだけでどんな女の子もイチコロだと思うよ?ことりなんて零くんに話し掛けられるだけで興奮しちゃうし♪」

「俺の声にはフェロモンか何か混じってるのかよ……」

「穂乃果は零君の声を聞くと元気になるよ!もし優しい言葉を掛けられちゃった時には……えへへ、へへへへへへへ♪」

「おい、妄想が限界突破してるぞ……」

 

 

 全くこの2人は、俺が珍しく真面目な話題をしているっつうのにいつも通りの変態ちゃんかよ。ま、いつも通りだからこそ話していて安心できるけどな。それに穂乃果とことりを見ていると、変に考え込むのがアホらしくなってくる。脳内が常にお花畑っていうのも悩みがなさそうで、それはそれで一種の幸せかもしれない。

 

 

「あとは告白する時間だが、これはクリスマスの夜が一番ムードがあっていいかな」

「聖夜の夜に告白かぁ~。零君だったら"聖夜"じゃなくて"性夜"に変えちゃうかもね♪」

「変えねぇよ!!変えたい気持ちはあるけど変えないから」

「でもエッチな本とかアニメだったら、告白した勢いで女の子をホテルに連れ込んで、男の子が女の子をガバッと襲う展開は普通だよ?ことりはよく自分と零くんに置き換えて妄想してるから♪」

「二次と現実をごっちゃにすんな!それにちょいちょい自分の性事情を話さなくてもいいからな!?」

「えぇ~?でも男の子は女の子の性事情を聞くと興奮するって話だし……」

「それは否定できない。ていうか大好物だけどさ、空気を読もうな」

 

 

 ちなみにクリスマスイブの夜というのは世界で一番性交渉の多い時間らしい。自分の彼女や幼馴染、女友達、姉、妹が近くにいなかったら、漏れなく全員パコパコされていると考えた方がいいと言われているくらいだ。何ともバカバカしいが生々しいジョークである

 

 

 ――――って、また脱線してるし!!俺はクリスマスでの告白に向けての対策をだな……と思ったけど、穂乃果やことりにバラしたのはマズかったか?でもたまぁ~に的確なアドバイスをくれるからタチが悪いんだよ。

 

 

「クリスマスの夜に告白するのはいいとしても、3人同時というのは緊張しません?」

「そりゃあするだろ。だから1日1人ずつ、23、24、25日の3日に分けてだな」

「えぇっ!?穂乃果たちの時は9人全員同時に告白してきた零君が、今更緊張……?」

「嘲笑うなら嘲笑え!あの時の俺は女心なんて全く分かってなかったんだよ。でもお前らと恋人同士になって1年間過ごして、ようやく女心を僅かに理解してきたところなんだ。そりゃあちょっとくらい緊張もするって。とは言っても、その緊張が悩みの種になることはないから心配はしてないけど」

 

 

 穂乃果たちと恋人同士になってからも、色々迷ったり悩んだりしたんだよなぁ。俺がスクールアイドルになった時もそうだし。でもその経験があったからこそアイツらの告白を真っ直ぐ受け入れることができた訳だし、迷ったり悩んだりするのは悪いことではない。まあ運命は絶えず俺の味方だし、上手くいくのは当然のことだ。

 

 

「じゃあさじゃあさ!零君がもう一度穂乃果たちに告白するっていうのはど~お?あの時は9人同時で1人ずつじゃなかったから。今の零君なら余裕でできるよね?」

「はぁ!?!?できるよねって、勝手に決め付けてんじゃねぇよ!?つうかどこからそんな無茶振りが出てきた!?」

「零くん、無茶振りは突然ぽっと出てくるから無茶振りなんだよ♪」

「無茶振りの説明はいらねぇから!!」

「さぁ零君、穂乃果たちに愛を囁いてぇ~!!」

「きゃ~♪ことり、まだ心の準備が……」

「マズイ、このままではやらされる流れになっちまう……海未!!」

「1人ずつ零からの告白ですか……いいかもしれませんね♪」

「み、味方が……いない!?」

 

 

 いつもは俺たちが騒がしくなると止めに掛かるのに、今の海未は頬を赤く染め、何やら妄想を繰り広げてそれどころではないようだ。エロい話題は速攻で潰そうとしてくるくせに、こうして恋愛の話題になると穂乃果たちと同調する。純粋な乙女アピールのつもりかよ!!また媚薬飲ませてやろうか!?

 

 

「やっぱり私も零の彼女なんですし、耳元で愛を囁かれるのは夢見ていたことではあるんですよね」

「耳元って、告白の方法まで指定されてるのかよ……」

「多分ことり、零くんが告白してくれている最中に倒れちゃいそう……耳に零くんの息が吹き掛かると思うと……」

「穂乃果も今からニヤケが止まらないよ~♪」

「逃げ場所がどんどん封鎖されていく……ていうか、どうしてこんな話題になった!?」

「あれぇ~?なんでだろ?」

「言いだしっぺはお前だろ。それはそれでまたやってやるから」

「「「ホントに!?」」」

「うぉおっ!!」

 

 

 3人同時に顔を思いっきり近付けられ、俺は椅子ごと後ろへ倒れそうになる。

 勢いで言っちまったけど、やっぱやめておいた方がよかったか?穂乃果たち3人にやれば確実に他の6人も迫ってくるだろうし……。でも穂乃果たち9人に告白する分については何の緊張もない。むしろ1日中コイツらに愛を囁き続けることができるくらい、言いたいことなんて山ほどあるからな。

 

 

「愛を囁いて欲しいならいくらでも言ってやる。むしろ嬉しさで心が爆発して気絶しないように、今から精神を鍛えておけ」

「穂乃果の無茶振りに応えてくれるなんて、さっすが零君!」

「お前らに振り回されるのはもう慣れた。伊達に1年間付き合っていないっつうの」

「でもその調子なら、クリスマスも大丈夫そうですね」

「そうだな。変に悩んでたけど、お前らと話しているとそれもバカバカしくなったからなぁ。いつも通りの俺でいくよ」

「いつものカッコいい零君が一番!穂乃果は馬鹿にされた気分だけど……」

「ま、馬鹿にしたから」

「ヒドイッ!!」

 

 

 穂乃果たちが騒がしかったことはどうであれ、俺の心に落ち着きを取り戻してくれたのは感謝するべきだ。穂乃果、ことり、海未――――この3人と一緒にいると迷いも悩みもすぐに吹っ切れる。俺が進路の岐路で立ち往生していた時もそうだったし。やっぱり同じ学年同じクラスで俺といた時間がμ'sの中でも最も長いからなのだろう。穂乃果もことりもふざけているようで、ちゃんと俺の話に向き合って真っ当な意見をくれるし。だから途中で猥談に脱線しても憎みに憎めない。

 

 

「零君、雪穂たちのことよろしくね。雪穂たちの心に応えてあげることができるのは、世界でたった1人、零君だけなんだから」

「分かってる。クリスマスが終わった頃には、恋人12人をはべらせてやるから覚悟しておけ」

「あなたはまたそんなことを……さっきまで悩んでいたくせに調子がいいですね」

「でもこれがことりたちが大好きな零くんだから。零くんは自信満々に構えているのが一番似合ってるよ!」

 

 

 もう既に向こうから告白をされているから、俺がそれを受け入れてさえしまえばそこで恋人成立となる。そういう意味では、恋人になるだけなら簡単だ。だがそれだけでは俺が物足りない。こちらからもしっかりとアイツらに想いを伝えなければ。アイツらも俺からの告白を待っているはずだ。お互いにお互いの想いを伝えてそれに応えてこそ、俺たちは本当の恋人になる。いい加減では、絶対に済まされない。

 

 

 もう少し、待たせているアイツらの想いに応えるまでもう少しだ。

 

 

 

 

 ――――――運命の告白初日まで、あと2日。俺たちの関係は、どう変わっていくのだろうか?

 

 




 次回以降、神回。


 今回は告白への繋ぎの回だったので、文量も少々短めでした。次回以降の本番で本気を出しますから!!

 何気に穂乃果たち3年生組メインが久しぶりで、私も執筆している最中に妙な懐かしさを感じてしまったり。零君と穂乃果たち3人の掛け合いは、今まで一番執筆してきただけあります。


 次回から3話連続でクリスマス告白回です。『新日常』の物語としても佳境なので、俄然やる気も上がってます!!


 先日、活動報告に超短編小説を投稿しました。楓と穂乃果の4コマ風の寸劇なので、この話を読み終わった際に是非ご覧下さい。


 そしてここからはいつもの宣伝+変更点を。

 以前から告知していたラブライブ!サンシャイン!!の企画小説"ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――待ちわびて』"が、5月1日より始動しています。毎日21時に投稿される予定なので、気になるサブタイがありましたら是非覗いてみてください!
そして私の投稿は今まで5月22日と告知してきたのですが、明日の23日の21時に変更になりましたのでお間違えのないよう。

投稿日が遂に明日へと迫ってきたので、明日は皆さん是非そちらの小説に感想をよろしくお願いします!多分この小説をここまで読んでくださっている方なら大満足できる話になっているかと(笑)



新たに高評価をくださった

towa.02さん

ありがとうございました!
もう少しで☆10評価が100件に達するので、これまで評価したことないよという方は是非よろしくお願いします!



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

告白の時:心から溢れる想いを

 今回から3話連続で、零君がシスターズへ向ける告白回です。ここまでガチガチの純愛モノは久しぶりなので、かなり気合が入ってます!事前に雪穂からの告白回を思い出しておくと、より楽しめるかも?


 3連続の一発目は雪穂からです。それではどうぞ!


 12月23日。クリスマスイブの直前だけあってか、もう既に街はクリスマスムード一色だ。電飾やライトアップのせいで、夜だというのにこの明るさは尋常じゃない。下手をしたら昼と間違えそうなくらいだ。

 

 街を練り歩く人たちは大半が家族やカップル、友達などのグループで、この人混みを見ているだけで非リア充は卒倒してしまいそうだ。まだクリスマスイブの前日だっていうのに、この盛り上がり具合は異常だな。俺は人混みが嫌いだから、クリスマスが近付いてくると家に引き籠もるのだが、クリスマスってのは毎年こうなのか?来年からは大人しく非リア充な生活を送りたいもんだ。

 

 

 既にクリスマス気分の連中に不平を漏らしている俺が、こうしてその人混みに混じって街に繰り出している理由はたった1つ。

 

 

 

 

 ――――――告白。

 

 

 

 

 前々からこの時期に1年生の3人に想いを伝えようと決めていた。秋の始まり頃には3人の方から告白をしてもらったため、今度は俺の番って訳だ。そして折角想いを伝えるのなら、多少なりともこうしてムードがあった方がいい。だからクリスマスの時期まで俺から返事は引っ張ってきたのだ。そのせいでアイツらを無意味に待たせることになっちまったけど……。

 

 結局この前から唸りながらも悩んでいたプレゼントや告白文などは一切考えないことにした。穂乃果たちからそう促されたってのもそうだけど、やっぱ告白するなら自然出てきた想いを伝えるべきだよな。穂乃果たちへの告白の時はそんなこと一切迷うどころか考えもしなかったのに、今はあーでもないこーでもないと無駄に思考を巡らせるようになってしまった。まあそれは悪いことではないが、穂乃果たちと付き合い始めて決断力は鈍ったと感じる。でもそれだけ女の子の気持ちを考えるようになったと思えばプラスかな。

 

 

「思ったより人が多いな。これは待ち合わせ場所しくじったか?」

 

 

 まだ彼女との待ち合わせ場所へ向かう途中なのだが、すれ違う人、横切る人、俺と同じ波に乗って歩いている人、どれを取っても人がごった返していている。世間ではこんなにリア充がいたのかと実感すると共に、ちゃんと()()()を見つけ出せるかどうか心配になってくる。

 

 

 そして待ち合わせ場所へと差し掛かったのだが、案の定人でいっぱいだった。定番の待ち合わせスポットは人が多いから敢えて避けたのだが、みんな考えることは一緒だったか。仕方ないので周りを見渡しながらアイツを散策することにする。

 

 

「これだけ人がいたら、探すのも大変だな。これから待ち合わせをするなら、大人しく人がいなさそうな公園とかの方が――――いやいや、クリスマスシーズンの夜の公園なんて想像したくもねぇ。どう考えてもヤり場だろうし……」

 

 

 "聖夜"は"性夜"と解釈もできる。ここで先日ことりに『零くんなら"聖夜"を"性夜"に変えてしまいそう』と言われたことを思い出し、速攻で脳内からデリートした。今の俺ならこのムードに当てられてマジで変えてしまいそうで怖い。人の気配がしないところには行かない方がいいかもな……。

 

 

 そんなこんなで探し回っていると、ようやく俺が求めていた彼女の姿を見つけた。

 

 

「おーい!」

「あっ、零君!」

「悪い!待たせたな、雪穂」

 

 

 俺は街灯にもたれ掛かっていた雪穂の元に走り寄る。

 彼女はブラウンでショート丈のダッフルコートを着用し、下はボルドーでミディアム丈のフレアスカートだ。何だか色のチョイスが彼女らしい落ち着いたコーディネイトだな。いつもファッション誌を読んでいる彼女のこと、自分に合った色彩を理解しているようだ。まあ、ファッションセンス皆無の俺が上から目線で言うべきことではないが。

 

 

 しかし、俺はそこで驚いたことがある。

 

 

「お前がスカートなんて珍しいな。寒くないのか?」

「そりゃあ寒いです。猛烈に寒いです。でも零君がスカートを穿いている女の子が好きだとお姉ちゃんから聞いたもので、今日は頑張っちゃいました♪」

「マジかよ……」

 

 

 わざわざ俺のために、寒いのを我慢してスカートを穿いてきてくれたってことなのか。雪穂は普段私服でスカートを着用することは少ない、いや、ないと言ってもいい。スカートを持っているのかどうかすら怪しかったのだが、俺とのデートのために俺好みのファッションをしてきてくれるなんて……なんていい彼女なんだ!!あっ、まだ恋人ではないか。

 

 

「お前の私服でスカート姿なんて初めて見たけど、やっぱ普段からファッションに気を使っていることだけはあるな。可愛いよ」

「あ、ありがとうございます……!!いつもは着ない服ばかりだったので、零君に喜んでもらえるのか不安でしたけど……」

「もっと自信を持て!こんなに可愛かったら、誰かにナンパされそうだぞ」

「それは零君が守ってくれるんですよね?」

「当たり前だ。お前は俺のモノだ、どの男にも渡さないし指一本触れさせたりもしねぇよ」

「そ、そそそんなこと急に……!!」

 

 

 あ、あれ?急に雪穂が顔を真っ赤にして俯いてしまった。もしかしてさっきのが告白だと捉えられてたり……?だとしたら、なんという俺様系の告白だよ!?だが俺も結構俺様系の性格だし、そんな告白でもあり――――じゃねぇよ!!これだけで俺の想いを伝えたなんて思われたくない!!

 

 

「熱い……スカートなのに一瞬で身体が熱くなってきました……」

「意外とメンタル脆いのな。とりあえず落ち着け」

「こんなクリスマスムードの中であんなことを言われたら、そりゃあドキッとしますよ!私も一応女の子なんですから……」

「一応ってなんだ一応って。完全完璧に女の子だろうが……」

 

 

 心が乱れ過ぎているせいか、もはや彼女の言っていることの意味も分からなくなっていた。サラッと口に出した言葉だけで身体が熱くなるなんて、雪穂もしっかりと恋する乙女なんだな。いつもが大人びた雰囲気だから、何故か安心してしまう。そしてまたそのギャップが可愛いんだよ!

 

 

「そういやまだ連絡した集合時間より10分も早いのに、お前いつからここにいたんだ?」

「に、20分前からいました……た、楽しみだったんです悪いですか!?」

「そ、そうか……でもむしろ嬉しいよ。本当は男の俺が先に来るべきだったんだろうけどな」

「私が勝手に盛り上がっていただけなので、それは別にいいですよ。でもその分、待ち時間で冷えてしまった身体、零君が暖めてくださいね♪」

「ああ、もちろん。身体だけでなく、さっきみたいに心も燃えるように暖めてやるよ」

 

 

 そこで俺は左手で雪穂の右手をギュッと握る。手袋もしていないせいか、彼女の手はかなり冷たい。でも手袋をしてないのは、こうしてお互いの手と手で人肌を感じるためだろう。俺もそうするために手袋は外してきた。冬は厚着になるせいで必然的に人肌に触れることは少なくなるから、こうして想いの人と少しでも触れ合っていたい。そう思っていたのはお互い様だったようだ。

 

 

 雪穂の手を握った瞬間から、周りにたくさん人がいるのにも関わらず、ここが俺たち2人だけの世界のように感じた。身も凍るような冬の夜、幾多の人混みを掻き分けて、ようやく彼女に出会えて繋がることのできた喜び。手を握った直後の彼女の手はかなり冷たかったが、今は唯一の拠り所のように暖かい。

 

 

「どうだ?暖まってきただろ?」

「はい。手を握ってるだけなのに、全身も心もポカポカしてきました」

「俺もだよ。いい感じに暖もとれたし、別の場所に移動すっか。流石にここだと人が多過ぎるから」

「そうですね。でもどこへ?」

「そうだな、なるべく人がいなさそうなところ……」

「え゛っ!?」

「……ん?お、おいおい!変な妄想するなよ!?俺はお前と2人きりになれるところを真剣に考えてただけだ!!」

「い、一応分かってます!!全く、変な妄想をするようになったのも、零君の日頃の行いのせいです」

「俺のせいかよ……ん~俺のせいか」

 

 

 でも人がいなさそうと言っただけで卑猥な妄想をしてしまう辺り、雪穂も相当俺に毒されてるな。俺だけでなくあんな姉と姉の幼馴染を持っていれば、流石にそうもなるか。

 

 しかしさっきまでいいムードだったのに、雪穂のせい(俺のせい?)で崩れちまったじゃねぇか。まあ俺たちにとっては、楽しげなムードの方が性に合ってるのかもしれないが。

 

 

「とにかく移動するぞ。一応言っておくけど、変な期待はしないように」

「しません!」

 

 

 そこで俺たちは改めてお互いの顔を見合わすと、自然と笑みが溢れた。これは雪穂だけに限ったじゃないけど、μ'sのメンツとはこうして冗談を言って馬鹿やり合ったりしているのが楽しい。それができるってことは、心の距離が隣り合わせという証明にもなる。

 

 

 もちろん、やるべきことはしっかりと成し遂げる。今日はそのためのデートなんだから。

 

 

「それじゃあ行こうか」

「はいっ!」

 

 

 俺たちはお互いの手を更に強く握り、2人並んで歩き始めた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「結局ここへ来ちゃいましたね」

「どこへ行くか迷っている間に、勝手に足がこの公園へ向いちまったんだ。仕方がない」

 

 

 俺と雪穂は街で待ち合わせしていたのにも関わらず、気付けばいつの間にか2人の思い出の公園へとやって来ていた。ここは同棲生活中に雪穂の悩みを受けたり、そして秋に彼女から告白されたりと、俺たち2人だけの思い出がたっぷりと詰まっている場所だ。

 

 

 周りを見渡してみると人影は一切ない。やはりクリスマス前夜に、こんなちっぽけな公園に来る奴なんていないか。とりあえず俺が危惧していた、"性夜"の行為が行われていなさそうで安心した。しかし街灯が多いとは言えないので、場所によってはかなり真っ暗なところもある。もしかするともしかするかもしれないから、暗いところには近付かない方がいいだろう。男女の野外の営みを見たくなければな……。

 

 

 俺たちはこれまで何度か座ったことのあるベンチに腰を掛ける。その間もずっとお互いの手を握ったままだ。意図的に握ったままというよりも、もう繋がっていること自体が自然となって特に意識はしていない。俺たちは本能的に相手と1つになりたいと思っているのだろう。

 

 

「このベンチに座るのも何回目だろうな」

「そうですね。ここで色々なことがありました、本当に色々と……」

 

 

 雪穂とはあまり交流のなかった頃からここで合っている。こうして親しげに会話するようになったのは彼女が音ノ木坂学院に入学してからだが、彼女との思い出はそれ以上に長い。ここで何度もお互いの人生の壁や岐路に立ち、手を取り合って共に歩んできた。

 

 こうして思い出の感傷に浸っていると、雪穂への想いも同時に心から溢れ出してくる。そして彼女から告白されたことも――――――

 

 

「雪穂」

「は、はい!」

 

 

 これから俺が口に出す言葉を察したのか、雪穂は改まった態度で俺と向き合った。彼女の翠色の瞳は、さっきまで見てきた街の電飾やライトアップなんかよりも遥かに輝いている。思わず彼女に見蕩れてしまったが、すぐに意識を取り戻して俺も改めて彼女と向かい合った。

 

 

 

 

「もう結論から先に言う。俺は

 

 

 

 

――――――お前が好きだ」

 

 

 

 

 その瞬間、雪穂は目を大きく見開いた。そう言われることは分かっていたとしても、実際に口に出して直接言われると衝撃が大きかったのだろう。

 

 

「お前は思っていることを押し殺してしまう面倒な奴だから、同棲生活中に悩みを相談してきた時は単純に放っておけない奴だと思ってたんだよ。そう、初めは雪穂を守ってあげたいってだけの想いだった」

「そうだったんですか。それじゃあその時は……」

「ああ。恋愛感情はあったかもしれないけど、全然認識はしてなかったな」

 

 

 あの時は雪穂が俺の想像以上に弱くて、心に悩みを溜め込んでしまいやすい面倒な性格だから、俺が守ってやろうと思ったんだ。それは恋愛感情ではなく、悪く言ってしまえば俺の我が儘だった。

 

 

「だけど、ゲームの世界で雪穂が俺のことが好きだと知った。そこからお前の見方が変わったんだ。そしてこの前の告白。そこでお前の想いを受け取った。あの時はまさか告白されるとは思ってもなかったから驚いたけど、こんな俺を好きになってくれて嬉しかったよ」

「あれは私の想いを素直にぶつけただけですから。思い返してみれば、今ではもっともっと伝えたいことがあります。もう抑えられず心から溢れ出ちゃいそうです」

「俺もだよ。このままお前への想いを吐き出し続けたら朝になっちまいそうだ」

 

 

 でもまあそれもそれで悪くはない。後で思い出して羞恥で悶えることになりそうだが……。ダラダラと喋り続けてもう雪穂を待たせる真似はしたくない。ここは掻い摘んで、彼女の心に想いをぶつけよう。

 

 

「普段のお前は冷めてるけど、時々見せてくれる優しい表情に心を打たれたんだ。こんな先輩でも慕ってくれて、一緒に隣にいてくれるところとか、お前の何気ない仕草や行動に俺は惚れた。いつしか隣にいることが当たり前になって、顔を思い浮かべては一緒に喋りたい、出掛けたい、なんなら傍にいるだけでもいい、そう思い始めている」

 

 

 一般用語ではないが、雪穂はクーデレ(クール+デレ)な性格だ。俺の冗談も何食わぬ顔でサラッと流すことも多いが、決して俺から離反したりはしない。渋い顔をしながらも俺に付き合ってくれて、時には優しく微笑んでくれたり、時には彼女から冗談で返してきたりと、もう彼女が隣にいること自体が当たり前になってきている。姉の穂乃果のように馬鹿騒ぎはしないものの、雪穂とはゆったりと話しているだけでも楽しい。俺はいつの間にか、彼女の何気ないたくさんの小さな魅力に惚れ込んでいたんだ。

 

 

「それくらいお前は俺の心の中を支配してしまっている。お前の存在が膨れ上がってきてるんだ。俺が好きになった雪穂の魅力の1つ1つは小さいけれど、それが集まればどんなに大きい魅力よりも勝る。その魅力が俺の心から飛び出してしまいそうだ。だからもう、お前のいない人生なんて考えられない。ずっと傍にいて欲しい……」

「零君……」

 

 

 雪穂と同じだ。いざ告白すると自分の気持ちが抑えきれなくなる。このまま変に暴走するより、ここで俺の想いを一気に伝えてやる。

 

 

 俺はまたしても改めて雪穂に向き直り、彼女の輝く瞳を真っ直ぐ見つめる。彼女もそれに応えるように、そして期待するかのように、俺と目線を一寸のブレもなく合わせてくれた。俺は軽く深呼吸をする。

 

 

 そして――――――

 

 

 

 

「お前が好きだ。俺と――――――付き合ってくれ」

 

 

 

 

 もう応えは決まっている。雪穂はそのように微笑む。

 

 

 

 

「はいっ!よろしくお願いします!!」

 

 

 

 

 雪穂はそう言った瞬間、俺の胸へ飛び込んできた。溢れる想いが我慢できなかったのは雪穂も同じだったようだ。多分俺たちの心は全く同じ、遂にお互いの想いを受け止め合って、そして結ばれた喜びでいっぱいだろう。俺も冷静そうに見えるが、実は今にも舞い上がってしまいそうなのだ。

 

 

 冬の寒さなど微塵も感じない。感じられるのは、雪穂を抱きしめながら伝わってくる彼女の温もりだけだ。

 

 

 そこで俺は両手で彼女の頬に優しく触れると、俺の胸に埋めていた彼女の顔を俺の顔と向き合うように持ち上げる。彼女の翠色の瞳は、今日一番輝いていた。

 

 

「いいか……?」

「はい……」

 

 

 俺は僅かに頬が染まって蕩け気味の雪穂の表情に釣られるように、彼女の唇に自分の唇を――――――そっと押し当てた。

 

 

 穂乃果たちとは幾度となくキスをしてきた。だがそれだけのキスを経験してきても、雪穂とのキスは全く別の味がする。今までに味わったことのない、やさしくて穏やかで、そして暖かくて親密な気分になる。そのことを何かのかたちで残しておきたいと無意識に考えていたのだろう、お互いの唇を求め、だけど激しくならないように、俺たちは沈黙のまま口付けを続ける。周りの世界が切り離され、俺たちだけの世界が形成されている雰囲気だ。

 

 

 口付けの最中にお互いの目が合う。この時、俺たちは恋人同士になったんだと実感できた。

 

 

 

 

 そして、たっぷりお互いに自分の愛を注ぎあった後、俺は彼女の唇から自分の唇を話した。若干引いている糸が夜の闇に光って非常に艶かしい。

 

 

「恋人同士になったんですね、私と零君。これまで今日という今日の日を夢見てきたんです。零君とこうして抱き合えること、そして唇同士で繋がること――――――もう嬉しさで何が何だか分からなくなってます」

「俺もだ。いつかはこうなるって分かっていたのに、いざやってみると現実か疑ってしまいそうだな。でもこれは現実。もう俺とお前は恋人同士、もうこの事実は覆らない」

「本当に結ばれたんですよね…………零君!!」

「おっと!また急に抱きついてきてどうした……?」

「これからもずっとずぅ~っと一緒ですよ?約束ですからね?」

「雪穂……あぁ、当たり前だ!」

 

 

 

 

 俺たちは抱きしめ合いながら、再びお互いの手を握る。もう一生この手を離さない。これからはずっと一緒だぞ、雪穂。

 

 




 純愛モノが久々すぎて、普通にイチャイチャさせる方法を忘れれたの巻()


 今回は告白回の第一発目、雪穂回でした。
 雪穂と次回の亜里沙は何気に『非日常』時代からフラグを立てていたので、これまでの話数を総計すると、180話越しに結ばれたことになります。そう考えると引っ張りすぎたかなぁと思っちゃいます(笑)
しかしこれまでにしっかりと雪穂の気持ちを描写できていたので、私としては作戦通りに進んでいます。

 雪穂からの告白回では"手を繋ぐことで1つになる"という題材をメインにしていたので、今回も2人が手を繋ぐ描写を目立つようにしてみたのですが、気付いた読者さんはいらっしゃるかな……?


 次回はさっきネタバレをしてしまいましたが亜里沙回です。



 そしてここからは今までの宣伝のラストを。

 以前から告知していたラブライブ!サンシャイン!!の企画小説"ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――待ちわびて』"が、5月1日より始動し、先日すべての投稿が終了しました。

私は最後に投稿されている、『奴隷告白~Aqoursハーレムの主になった~』というサブタイトルで執筆しました。よろしければあちらの小説に是非ご感想をよろしくお願いします!

―小説のURL―
https://novel.syosetu.org/84310/



新たに高評価をくださった

りんりんお燐さん、特三型さん、炒飯大盛りさん、てぃーのよしさん

ありがとうございました!
先日、☆10評価が100件を達成しました。気付けばハーメルン内の全作品で一番平均評価が高い小説となっており、それを知ったときは目玉が飛び出そうでした(笑)
これからもこの小説をご贔屓に、評価を付けたことないよという方は是非付けてくれると嬉しいです!



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

告白の時:その笑顔に魅せられて

 今回は告白編の第二弾、亜里沙回です!
 クリスマスイブの聖夜に、奇跡は起こるのか??これまでの亜里沙回の話を思い出しておくと、より楽しめるかもしれません。


 

 12月24日、クリスマスイブの夜。今日こそ俺は部屋に篭って充実した生活を……ではなく、μ'sのみんなとクリスマスパーティをしていた。何故過去形なのかと言うと、俺以外がみんな遊び疲れて寝ちまったからだ。にこや楓が作ったご馳走をいただいたり、ことりが作ったお菓子を嗜んだり、みんながそれぞれ持ち込んだゲームでワイワイしたり、プレゼントを交換し合ったりなどと、近所迷惑確定の大騒ぎでみんな数時間でグロッキー状態となってしまった。

 

 しかし、こうたくさん女の子がリビングで寝転がっている光景を見ると、乱交現場の跡地みたいで変に興奮を覚えてしまう。しかも今日はクリスマスイブ、つまり聖夜だ。唯一公式で性の時間と認められているこの時間帯、少しくらい手を出してしまっていいのではないかと妙に唆られる。みんな暴れていたせいか、服も結構はだけてるし、これは誘っているとしか思えねぇ……。

 

 

 まあそんな邪な気持ちは断腸の思いで押し殺し、俺にはもっと気にしなければならないことがある。

 

 

 

 

 それはもちろん――――――告白。

 

 

 

 

 昨日、雪穂への告白を無事に達成し、俺たちは見事結ばれることができた。その余韻がまだ残っていたのか、今日のクリスマスパーティでも雪穂との距離がやけに近かったし、μ'sの中で一番喋った気がする。そこまで積極的な雪穂は珍しかったが、彼女との時間はとてつもなく楽しかった。

 

 亜里沙や楓とも恋人同士になったら、雪穂みたいに今まで以上に充実した人生が送れるのだろうか?そう考えるだけでもその2人への想いはどんどん強くなっていく。昨日の告白後の幸福感を知ってしまうと、緊張するどころか早く想いを伝えたいという気持ちの方が大きくなってきていた。

 

 

 だが――――――

 

 

「こんな調子じゃあ無理だよなぁ……」

 

 

 さっきμ'sのみんなが遊び疲れてリビングで寝てしまったと言った。それは亜里沙と楓ももちろんそうであり、楽しさの余韻がまだ残っているのかいい笑顔で眠っている。そんな気持ちよさそうに寝ている2人のどちらかを、無理矢理起こすことなどできるだろうか?いや、俺にはできない。

 

 これは詰んだか?折角のクリスマスイブの聖夜なのでロマンチックな雰囲気で告白しようと思っていたのに、その相手がグースカと寝ているのでは仕方がない。何か他にやることは……そうだ、まだ机の上に食いかけのケーキやら何やらたくさん残っていることだし、適当にラップでも掛けて冷蔵庫に入れておくか。そしてずっと放置してある皿も全部洗わねぇと。何が悲しくてクリスマスイブの夜を洗い物で済まさなければいかんのだ……。

 

 

 流石に13人分の皿を1回で運ぶことはできないので、俺はリビングとキッチンの往復を何度か繰り返す。俺は基本夜行性(夜ふかし体質)なので、みんなのようにまだ0時も回っていない時間で眠くなることはない。だが穂乃果たちと暴れすぎたせいか、若干の眠気は襲ってくる。洗い物を済ませておくのはいいが皿を割らないようにしないとな。

 

 

 そんなこんなで皿を全て流し台に運び終え、いざ洗い物をしようと腕を捲った時、俺の隣に誰かがやって来たことに気が付いた。薄めの金髪でふわりとした甘い匂い、そしてマスコットのように小さい体型のコイツは――――――

 

 

「あ、亜里沙!?」

「おはようございます!――――とは言っても、まだ日付も変わってないですけど」

「お前、寝てたんじゃないのか?」

「零くんの足が身体に当たって起きちゃいました」

「あっ、それは悪い」

「いえいえ!むしろ謝るのは私の方ですよ!眠気に負け、後片付けを零くん1人に任せてしまって……。私も手伝います!」

 

 

 すると亜里沙も腕を捲り、蛇口の栓を捻って水を出し、自ら進んで皿を洗い始めた。

 なんだろう、亜里沙のこういう小さな気遣いは、男として本当にドキッとくる。恐らく本人は大したことをしていないと謙遜するだろうが、その何気ない心遣いに惹かれるものなんだよ。良くも悪くも、そういうところ純粋だからなコイツは。

 

 

 亜里沙だけに洗い物を任せる訳にはいかないので、俺も考え事を終えて皿洗いに参戦する。俺が水に手を掛けた時には、水を出して少し時間が経っていたからか水温がかなり温まっていた。流石にこの時期にキンキンの冷水で皿洗いなんて暴挙、俺は絶対にやりたくない。そういう意味では、毎日皿洗いを任せている楓には感謝をしないとな。

 

 

 しかし、こうして2人で並んで皿洗いをしていると――――――

 

 

「夫婦みたいですね」

「えっ!?」

「あっ、す、すみません!!思っていたことがつい口に――――って、これももしかして失礼!?ご、ごめんなさい!!」

「落ち着け!実は俺もなんだよ」

「へ?まさか零くんも……?」

「どうやら俺たち、全く同じことを考えてたみたいだな」

「あ…………あわわわわわわわわわわわわわ……!!」

「だ、大丈夫か!?」

 

 

 亜里沙は顔を赤くしてぷるぷると震えだした。俺と一緒の思考をしていたことに驚いたのか、両想いでお互いに夫婦っぽいと思っていたことに衝撃を受けたのか、多分その両方だろう。亜里沙が顔を赤くすると元々純白な肌なことも相まって、顔色や表情の変化がとてもよく目立つ。なんかもう興奮で目を回して倒れてしまいそうだな。

 

 

「零くんと夫婦だなんて……えへへ、へへへ♪」

「今度は妄想の世界に浸りやがった……お~い、帰ってこ~い!」

「はっ!す、すみません!!また1人でアタフタしちゃって……」

「まあ、俺はお前の表情がコロコロ入れ替わる姿が好きなんだけどな。可愛いし」

「ま、またそうやってすぐに可愛いって!!相変わらず零くん女の子たらしなんですね」

「流石に言い方が悪すぎるだろ……。でもそれが俺の本音なんだ、仕方がない」

「そうですか……ありがとうございます♪」

 

 

 洗い物をしながらだけど、亜里沙は俺の顔を笑顔で見上げる。

 これまで何度も言ってきたが、やはり亜里沙は笑顔が似合う。どんな暗闇ですらも明るく照らすような、太陽の笑顔。俺は真正面からその輝きを受け、眩しくて思わず目を瞑ってしまいそうだ。同時に、俺の心は破裂しそうなくらいバクバクと鼓動している。まるで恋する乙女のようにドキドキが止まらない。

 

 

「――――くん?零くん!?」

「うぉお……!どうした?」

「急に黙ってしまってどうしました?やっぱり私、お気に障るようなこと言っちゃいましたか……?」

「いやいや!シュンとなったり慌てたり、笑顔になるお前を見てると飽きなくて楽しいなぁって」

「へ……も、もうっ!零くん私で遊びすぎです!!」

 

 

 頬をぷく~っと膨らませながらそっぽを向く亜里沙。うん、普通に可愛い。指で頬を突っついてやりたいくらいに。むしろ可愛いと思う奴がいなかったら、俺が直々に首根っこを掴んで可愛いと言わせてやる。

 

 

 そんなことを思いながらも、俺は1つの決心をした。

 

 

 

 

 告白をするなら、今が絶好のチャンスだ。

 

 

 

 

 他のみんなは気持ちよさそうに寝息を立ててるし、今は丁度亜里沙と2人きりだ。さっきから彼女の移り変わる表情を見ているだけでも心が高鳴ってくる。伝えよう、俺の想いを。伝えるなら今日この時間しかない。

 

 

「なあ亜里沙」

「……なんですか?」

 

 

 まだ機嫌が悪いのか、さっきから笑ったり怒ったり忙しい奴だな。でも怒っている姿すら愛おしいと思えるのは、やはり彼女の魅力だからだろう。

 

 

「洗い物が終わったら、少し俺に付き合ってくれないか?」

「はい。でももう夜中ですよ?」

「別に出かける訳じゃない。ちょっとだけ、お前の時間を俺にくれるだけでいい」

「はぁ……分かりました。なら一緒に頑張って、洗い物全部片付けちゃいましょう!」

 

 

 さっきの不機嫌はどこへ行ったのやら、今度は真剣に皿洗いをし始めた。

 でも男女並んで小言を言いながら皿洗いをしていると、やっぱ新婚夫婦に見えなくもない。それが現実になるかどうか……いや、絶対にしてみせる。一途な彼女以上の一途な愛を、その心に届けてやるからな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「星が綺麗ですね……」

「あぁ。やっぱりここから見る夜空はいいな」

 

 

 俺たちは洗い物を済ませた後、星がよく見えるとμ's内でも評判のベランダに出た。今晩は曇りも一切なく、夜空いっぱいに星が輝いている。これまで綺麗に星を見ることができたのは、今日が初めてかもしれない。まるで今からの俺の告白を見守ってくれているみたいだが、そう考えると若干気恥ずかしいな。

 

 

 俺はそこで亜里沙の顔を見つめてみる。亜里沙はベランダの手すりに手を掛けて、新しい玩具を買ってもらった子供のような表情で星空を眺めていた。神秘的とも言える彼女の姿に、俺は心を打たれてしまう。彼女のキラキラと輝く嬉しそうな表情は、夜空に輝くどの星よりも明るい。もう俺は星よりも亜里沙にしか目が行っていなかった。それくらい彼女の笑顔に魅了されているのだ。

 

 

 窓際にいた俺は、亜里沙の隣へと歩み寄った。彼女は俺が真面目な雰囲気を放出させていることに気付いたのか、見上げていた顔を下げ俺の方へと向き直る。やはり俺の言いたいこと、そして自分が何を言われるのか、大体察しは付いているらしいな。だったらすぐにでもその気持ちに応えてやろう。

 

 

「こうして綺麗な星空が広がっていても、お前が一番輝いてるよ、亜里沙」

「そ、そうですか?お星様には負けると思いますけど……」

「そういうトコ変に純粋なんだよなぁお前は。そりゃあ一般的に考えれば比べられないけど、俺から見ればお前が一番輝いているんだよ。ほら、オーラ……的な?それに俺は星なんて掴めないものより、全身を抱きしめられるお前の方が好きだよ」

「す、好き……ですか!?いきなりそんな……でも、零くんにそう言ってもらえると嬉しいです♪」

「それだ、その笑顔だ。俺は亜里沙の笑顔が大好きなんだよ」

 

 

 そうだ、俺は亜里沙の笑顔に魅了されていたんだ。彼女を意識し始めたのはいつだっただろうか?同棲生活中に相談に乗った時?それともゲームの世界で彼女の心中を知った時?具体的には覚えていないけど、俺はいつの間にか亜里沙を目で追っていた。常にコロコロと変わる彼女の表情が面白く、愛おしい。そして彼女の笑顔を見るたびに、俺の目も心もその笑顔に惹きつけられてしまっていたんだ。

 

 

「もしかしたら初めて出会った時から、お前の笑顔に心を鷲掴みにされていたのかもしれない。俺って女の子の明るい表情に弱いから、お前の太陽のような笑顔は一度見た時から忘れることはなかったよ。笑顔以外にも焦っている表情、羞恥に悶える表情、シュンと僅かに悲愴感が漂う表情、さっきみたいに頬を膨らませて怒っている表情、どれもが表情豊かでずっと見ていたくなる。そう、ずっとな……」

 

 

 亜里沙は褒め殺しに弱いので、今も羞恥で体温が上昇し、寒さなどとっくに超越しているだろう。逐一変わる彼女の言動を見ているだけでも飽きは来ない。むしろずっと隣で眺めていたい。この先、俺が卒業して彼女と会える時間が減ってしまうのが嘆かわしい。だからこそ、一緒にいたい。お互いの心をゼロ距離にしてずっと……。

 

 

 

 

 よし……伝えよう、想いを。もうこの想いを留めておくのは我慢できない。

 

 

 

 

「明るい笑顔のお前に惚れた。好きだよ――――――亜里沙」

 

 

 

 

 そこで亜里沙は両手で口を抑えた。想像とは違った反応で驚いたのだが、その後の彼女の表情を見て、俺は一瞬でその心境を理解する。

 

 

 亜里沙の目から、涙が滴り落ちていたのだ。

 

 

「あっ……う、うぅ……」

「おいおい、どうして泣くんだ?」

「うぅ、れ、零くんにちゃんと好きって言ってもらえて……っ、嬉しくて……ぅぅ、そうしたら急に涙が……」

 

 

 心中を吐露して溜め込んでいた想いが溢れ出てきたのか、亜里沙の涙もダムが決壊したかのように流れ出している。頑張って両手で拭おうとしても、多量の涙は留まることを知らず、目元から頬まで涙の雫が滴り落ちる。だがそんな涙も星空の光に照らされて、何故かとても神々しく見えた。普段から彼女のことを決まり文句のように天使と言っているが、もう本当の天使にしか見えない。彼女のこの表情ですらも、俺の心をばっちり奪ってくる。

 

 

「うっ、ぅぅ……いつか零くんから告白されることをずっと夢に見てきて……っっ、2人きりになった時にはまさかかもと思ったんですけど……うぅ、っ……直接零くんから告白されて……っ、ぅぅ、それでも嬉しさが止まらなくて……っ、もう自分でも何を言っているのか分からないくらいに……ひっ、う、ぅぅ」

「そこまで待たせてしまったのは悪かったよ。俺の想いはお前から告白された時にもう決まっていたんだ。でもこうして2人きりになれる時間が欲しかった。中途半端な告白なんてしたら、自分自身が許せなくなるからな。だけどこうして、溢れ出そうな想いを堪えてまで俺を待っていてくれたことは嬉しいよ。ありがとう、亜里沙」

 

 

 亜里沙はずっと俺を待っていてくれた。思わず涙が出てしまうくらい、俺へのと期待と想い、そして愛を溜め込んでいた。そんな一途な彼女にまたしても胸を打たれてしまう。もう何度でも言う。そこまで俺を慕ってくれる彼女と、俺は一緒にいたい。そして今度は彼女を本気で笑顔にする。もうどんな些細なことでも悲しませない。

 

 彼女の笑顔が、俺の笑顔になる。もちろん俺の笑顔も、彼女の笑顔にしてみせる。そんな関係を築いていきたい。

 

 

 亜里沙はその後もしばらく涙を流し続けた。溢れる幸福に、どこか嬉しそうな表情も垣間見える。俺はその間ずっと彼女を抱きしめ、胸に抱き寄せていた。この幸せを共有するように熱く、強く、もうずっと離さないという意思を込めながら……。

 

 

 そして――――――

 

 

 

 

「これからもずっと、俺の隣で元気な笑顔を見せてくれないか?だから亜里沙、俺と――――――付き合ってくれ」

 

 

 

 

 亜里沙は俺の胸から顔を離す。その顔にもう涙はなく、それとは逆の――――――満面の笑みだった。

 

 

 

 

「はいっ!喜んで!!」

 

 

 

 

 この先、この笑顔にはどう足掻いても勝てないだろうな。俺の顔もみるみる熱くなっているのが分かる。これから一生彼女の笑顔を独り占めできるなんて、嬉しさで悶えそうなってくるよ。決して涙は流さないけど、心から溢れてくる想いは、俺も一緒だ。

 

 

 ようやく亜里沙と結ばれた。その感動を胸に抱いていると、彼女が更に一歩俺に近付いてきた。もう足が絡まって転んでしまいそうなのだが、俺は彼女の輝く瞳に心を奪われそれどころではなかった。

 

 

「零くん……いいですか?恋人の証を、あなたから私にください……♪」

「あぁ、行くぞ」

「はい……」

 

 

 亜里沙は唇を僅かに突き出して背伸びをする。わざわざ俺の身長に合わせてきてくれる辺り、やはり彼女の一途さは心に響く。俺は彼女の肩の横を掴むと、抱擁するように自分の唇を彼女の唇へ近付け――――――優しく触れ合う。

 

 

 優しくもすがりつくように執拗な彼女の厚い唇の感触。触れるだけのキスだというのに、亜里沙はびくりと細い肩を跳ねさせ、俺を上目遣いで凝視する。その仕草に俺の心は大きく揺れ、より彼女からの愛を求めてしまう。そして彼女も自分が与えたものよりも、もっと強く応えようとする。過ぎていく時を防ぐように、重ねられた唇は離れなかった。

 

 

 唇だけじゃない、俺たちは心でも1つになったんだ。恋人同士――――いつも使っている言葉なのに、ここまで感情が高ぶる言葉はない。

 

 

 俺たちは十分にお互いの愛を相手に送り込んだので、名残惜しいが顔を遠ざけた。キスで気持ちよくなったのか、亜里沙の蕩けている表情に多少欲情してしまいそうになる。もちろんこんなロマンチックな雰囲気をぶち壊すほど、俺も人間が腐ってはいない。

 

 

 俺たちは再び対面する。相手を見つめる目線で、相手の心を捕らえてしまうかのように、俺たちはお互いの瞳を見つめ合う。

 

 

「これからもよろしくな、亜里沙」

「はいっ!私も零くんにたくさんの笑顔を届けます!だから零くんも、私にとびっきりの笑顔をくださいね♪」

「もちろん!」

 

 

 ここで俺たちはこれまで以上の熱い抱擁を交わした。冬の寒さなんて感じられない、もう相手の体温で身も心も包まれている。しかしこれからはずっと、彼女からの溶けてしまいそうな明るい笑顔を隣で見ることができるだろう。

 

 

 

 

 大好きだよ、亜里沙。

 




 純粋な子ほど笑顔が光る!


 今回は告白編の第二弾、亜里沙編でした。
 彼女の魅力は今回のメインの話題にもなっていた"笑顔"ですね。普段から本編では『天使の笑顔』と称しているのはネタでもなんでもなく、私自身本当にそう思っているからです。穂乃果のように笑顔が似合うキャラは他にはいれど、ここまで心にグッとくる可愛い笑顔を持つキャラはそこまでいないでしょう。まあ彼女自体がアニメではサブなので、その笑顔も全部私の妄想なのですが(笑) でも私の小説を読んでくださっている方だったら、亜里沙の笑顔くらいすぐに妄想できますよね??


 次回はシスターズ最後の1人、楓編になります。
 実の妹、しかも原作キャラが一切登場しない、完全にオリジナル小説になる予感……




新たに高評価をくださった

リッチココアさん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

告白の時:最愛の妹

 今回は告白編のラスト、楓回です。
 実妹でもあり、何より二次創作なのにオリキャラ同士の恋愛をするという謎の暴挙。でもここまで読んでくださった読者さんなら受け入れられるはず(?)

 毎度ながら、以前の楓の告白回を思い出しておくといいかもです。


 12月25日、クリスマス。昨日の激動の夜とは裏腹に、今晩は家で楓とまったり2人だけのプチクリスマスパーティを決行しようとしている。そうは言っても、飾り付けなどは昨晩μ'sで行ったパーティのものをそのまま流用しているだけだが。楓が作る料理も昨日豪勢なご馳走を振舞ったので、今日はいつも通りの夕食メニューとなる。まあ、俺からしたら楓の料理はなんでもご馳走だがな。

 

 

 現在、楓はお手製であるフリルの付いたピンク色のエプロンを装着し、キッチンで楽しそうに料理をしている。昨日にこやことりと料理している時も和気あいあいとしていたが、今日は昨日とは違った雰囲気だ。なんかこう、友達同士での楽しみというより、夫の仕事帰りを楽しみに待つ妻のような感じ。一言で言えば"優しさ"が伝わってくる。

 

 そんな吞気に妹の分析をしている俺は、リビングで昨日のパーティのゴミ処理や片付けをしながら楓のエプロン姿を後ろから眺めていた。エプロンを装備してキッチンで料理をしている女の子の後ろ姿、唆られない?思わず後ろからギュッと抱きしめたくなってくる。そして女の子に『今料理中だから……』と言われ、その言葉を無視して襲いかかりたい――――――

 

 あっ、ダメだダメだ。今日まではそんなエロい妄想は捨てようと決めたじゃないか。そう、今日も俺にとって大切な日であり、そしてこの今日こそがその大切な日のラストなんだ。最後の最後も今まで通りにビシッと決めないと。

 

 

「お兄ちゃーん!そろそろお皿の準備してー!」

「うーい、分かった~」

 

 

 こうして見ると、ただの夫婦にしか見えねぇな。亜里沙の時もそうだったけど、もはや俺たちは結ばれているんじゃないかと傍から見たら勘違いされそうだ。そもそも俺たち兄妹は秋葉を含め、一緒にいると芸能人やモデルのカップル同士かと誤認されることもままあるから、勘違いされるのは特に珍しいことでもない。

 

 

 

 

 俺は食器棚から皿を取り出しながら考える。そう、もちろん告白のことだ。

 これまで雪穂と亜里沙、2人に告白をしてお互いの愛を確かめ合った。結ばれるのは必然だったのだが、互いに互いの想いを心で受け止めることで愛を共有し合ったのだ。以前の告白でそのまま相手の告白を受け入れて結ばれる流れでも全然ありだったのかもしれないが、その点改めて俺から告白をして良かったと思っている。

 

 

そして今回は、俺と楓がその想いを確かめ合う番。

 

 

 昨日までの2人と違うのは、楓が俺の実の妹であること。しかし、もはや兄妹同士で恋人になるのは変だとか、想像も絶する障害が立ちはだかっているだとか、そんなことはとっくの昔から知っているし、覚悟も出来ている。同棲生活で彼女の悩みを聞いた時、そして秋の初旬に彼女から告白された際に、俺たちはそんなもの既に乗り越えていたのだ。

 

 俺は楓を妹しても見ているし、1人の女性としても見ている。だから俺の告白が雪穂や亜里沙と違うことなんて全くない。妹だからと言って(はばか)るものもないし、一切の躊躇もしてない。いくら実妹であろうとも、俺は楓に全力で想いを伝えるだけだ。

 

 

「そういや、結局お母さんもお父さんも帰ってこなかったね~」

「仕事が忙しいみたいだし、それに向こうは向こうで2人でいちゃらぶしてんだろ」

「じゃあ私もお兄ちゃんと、今晩ずっといちゃらぶして身体を交わらせたりしよかな♪」

「唐突に秋葉が帰ってくるかもしれないぞ」

「うわぁ……思い出したくない顔を思い出させないでよ」

 

 

 楓は背中に怖気が走ったかのように身体を震わせる。認めたくはないが、あの偏屈な秋葉(あね)も一応兄妹だからな。あんなのでも俺の後押しをしてくれたこともあるし、憎めに憎めないのが腹立つ。俺の姉妹や母はみんなそうなのだ。

 

 ちなみに秋葉は研究や仕事やらでいつ帰ってくるのかは分からない。もしかしたら一緒にクリスマスを過ごせるかもとは言っていたが、何の連絡もない辺り残念ながらクリスマスには間に合わなかったようだ。まあ俺としては告白の機会が訪れるいいチャンスだから、秋葉には申し訳ないけど助かったよ。

 

 

「おっ、すげぇいい匂いしてきた」

「もう少しで出来るから、しっかり手を洗って待っててね!」

「ガキ扱いすんなよ……」

「そんな後片付けをした泥沼のような手で、私の神聖な料理をいただく気?」

「へいへい、それじゃあ石鹸でちゃんと清めてくるよ」

「よろしい♪」

 

 

 いつもは外であろうが人の目があろうが構わず俺にくっついて、意味深発言ばかり連発する彼女だが、家の中では普通に家庭的な妹だ。俺の世話もよく焼いてくれるし、この前も言ったがもう俺は楓がいない日常生活には絶対に戻れなくなっている。これも楓の刷り込みなのか……ま、心地よい生活が送れるならそれでも全然いいけども。

 

 ここまで俺のために尽くしてくれる女の子は、μ'sの中でも楓がトップだろう。俺を第一に率先して動き、掃除も料理も俺のために心が籠っていて、俺の毎日を自然と充実させてくれる。それだけ聞くと大人びてしっかりとした女の子に思えるが、実は嫉妬深い甘えん坊さんでもあるのだ。寂しいからという理由だけで俺のベッドに潜り込んでくることもあるし、俺が可愛い女の子に目移りすると、あからさまに嫉妬を含んだ目線をグサグサ突き刺してくる。そんな彼女を見ると、今度は子供を愛でるかのように可愛がってやりたくなるんだよな。

 

 

 大人っぽい楓と子供っぽい楓。2つの顔を持っているが、俺が言いたいことはただ1つ。どちらの顔も魅力的だということだ。大人な彼女は俺の心を射抜き、子供の彼女は俺の心をくすぐる。μ'sの他のメンバーとは違い彼女とは毎日一緒にいるため、その心の刺激はどの女の子よりも多く味わっている。

 

 

 そしてなにより、楓は俺のことを兄としても慕い、1人の男性としても見ている。彼女の想いは本気だ。兄妹という垣根を乗り越えて、俺に愛の詰まった告白をしてくれたんだから。そして俺も、あの時から楓のことをずっと――――――

 

 

「お兄ちゃん!なにさっきからぼぉ~っとしてるの?料理できたから早く運んだ運んだ」

「あ、あぁ……」

 

 

 楓に耳元で叫ばれ、俺は軽くフラつきながらも料理をせっせとテーブルに運び始めた。今日のメインは楓が得意なデミグラスハンバーグ。早速その香ばしい匂いが俺の口内に唾液を分泌させる。もうこの匂いだけで味も肉の感触も思い出せるくらいには、楓に胃袋を掴まれていた。

 

 

 楓が俺に込める想いは口や行動だけではなく、料理、掃除、洗濯――――挙げていけばキリがない。彼女の世界には、もう俺と自分しかいないのかと思ってしまう。これほど俺のことを真っ直ぐ愛してくれている女の子なんて、世界各地を探し回ったとしても彼女だけだろう。

 

 

 そして、俺もそうだ。だから、伝える。

 

 

「楓」

「なぁに?」

「飯食い終わって風呂に入って、今日やることが全て終わってからでいい、ちょっと話をしないか?」

「…………珍しいね、お兄ちゃんから誘ってくるのって」

 

 

 最初の方に少し間があったが、もしかして俺がどんな用事で自分を呼び出したのか察したのかもしれない。彼女ならクリスマスパーティの時に、雪穂のテンションがいつもより高かったことに気付いていてもおかしくないし、俺と亜里沙が2人でこっそりリビングを抜け出していたことも知っているのかも。洞察力はピカイチだからな。

 

 

 しかしどちらにせよ、俺がやることは変わらない。

 

 

 するとここで、楓は優しく微笑んだ。

 

 

「うん、いいよ。お兄ちゃんからのお誘いなんだもん、断る訳ないじゃん♪」

「そっか、ありがとな」

「いえいえ。さ、早く食べよ!」

 

 

 そして楓は、わざわざ俺の座る椅子を引いて着席を促してくれた。こんな何気ない気遣いも、俺の妹としてこれまで生きてきた故なのだろう。

 

 

 

 

 今日が俺の最後の告白となる。最後は最後らしく、だけど今までと変わらぬよう、しっかりと俺の想いを楓に伝えるんだ。兄として、そして1人の異性として。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「お待たせ、お兄ちゃん」

「もう風呂上がったのか?別に急がなくたってよかったんだぞ?」

「だってお兄ちゃんからのお誘いだもん!もう食事中からウキウキして待ちきれなかったんだよ!お風呂に入るのも面倒なくらいにね♪」

 

 

 楓はソファに座っている俺の元に駆け寄ると、嬉しそうに俺の隣に腰を下ろした。

 さっきの会話の通り、楓は少し前に風呂から出たばかりである。つまり、彼女の髪からシャンプーのいい匂いが俺の鼻をくすぐってきやがる。しかも身体同士がほぼ密着している上に楓の全身が火照っているためか、俺の身体もみるみる内に熱くなっていく。今から告白するって時に、変な誘惑してんじゃねぇよ!本人はそのつもり――――はないだろうと思ったけど、楓のことだからあるかもしれない……。

 

 

「あ~!今、私のシャンプーの香りと体温でドキドキしてるでしょ?」

「お、お前……!?」

「あははっ!やっぱりそうなんだぁ~!お兄ちゃんまだ童貞だもんねぇ~仕方ないよねぇ~」

「お前だってまだ処女だろうが」

「違うよ。実はね、私の処女もお兄ちゃんの童貞も、この前お兄ちゃんが寝ている間に……フフッ♪」

「え……まさか……?」

「うっそ~♪」

 

 

 これぞ小悪魔と化した楓の姿だ。世界の万物全てを見下すかのような黒く悪い笑顔を作り、俺の鼻をツンと突っついてくる。人をからかい嘲笑い、そして煽ることに全力を尽くすのが神崎楓。どうやら人を弄ることで愉悦を感じるのが堪らなく楽しいらしい。

 

 

 だがしかし、そんな小悪魔な彼女も、こう上手く切り返してやれば――――――

 

 

「それじゃあ今からそれを現実にするか?」

「へ……えっ!?ウソ!?」

「はい、うっそ~」

「はぁ!?!?ちょっとお兄ちゃん!!私の期待返してくれない!?ねぇねぇねぇ!!」

「お前が最初にやり始めたんだろうが……」

 

 

 こうやって案外簡単にボロを出し、慌てふためく可愛い表情が見られる。楓は性格的にドSだが、何だかんだ言って心をくすぐる攻めには弱いのが、彼女の微笑ましいところでもあり、そして俺の好きなところでもある。

 

 

 

 

 そう、好きなんだ。

 

 

 

 

「楓」

「お兄ちゃん……」

 

 

 俺の名前の呼ぶ声が真剣だったからか、楓もさっきのおふざけモードは解除して俺と向き合う。

 改めて楓を見てみると、相変わらず整った容姿で妹でなかったら即座に手を出している自信がある。身体も高校一年生とは思えないくらいスタイルがよく、パジャマの胸部を押し上げる豊満な膨らみを、思わず両手で鷲掴みにしたくなる。

 

 実妹ながらに襲ってしまいそうだが、その理由は可愛いから、身体付きがいいからだけではない。単純に彼女を愛しているからだ。でなきゃ、こんなに胸が激しく鼓動するはずがない。

 

 

 俺はゆっくりと楓の肩に手を伸ばし、若干後ろに仰け反らせる形で彼女に迫る。

 未来を変える一言。この言葉を伝えたら最後、俺たちはもう今の関係には戻れない。だがそれでもいい。楓も以前の告白でそれを受け入れた。だから、俺も――――――

 

 

 

 

「妹として、1人の異性として、楓――――――お前が好きだ」

 

 

 

 

 その時、楓の頬が一瞬の内に赤みがかかる。身体も僅かに縮こませているから、予想していたよりも彼女の心を強く射抜いてしまったようだ。楓は軽く息を吐くと、微笑しながら口を開く。

 

 

「やっと……やっとお兄ちゃんから告白してもらえたよ」

「意外と冷静なんだな。もっと取り乱すものとばかり思ってた」

「そりゃあ心が踊りに踊りまくって、今にも床をゴロゴロのたうち回りたいくらい悶絶してるよ。でもなんだろ、どこか安心してるんだよね。もしかしたら心のどこかで不安に思っていたのかも。でもお兄ちゃんから直接告白してもらえたことで、そんな不安も消えて安心したってことかな」

 

 

 実は俺も楓と同じ気持ちだった。実妹、家族、そんな大きな障害に囚われず告白ができたからだろうか。

 

 俺は一度、彼女のことを1人の女性とだけ見て、兄妹の垣根など飛び越えてしまおうとも思っていた。しかし、それはできなかった。やはり楓は俺の唯一の妹であり、大切な家族だ。告白の時はその(しがらみ)を切り離したとしても、俺はずっと楓の兄でいたいし、楓も俺の妹であり続けて欲しい。こうして2人で生活を始めてまだ1年も経っていないが、俺にはもう彼女が必要なのだ。

 

 

「俺はもうお前のいない生活なんて考えられない。お前を他の誰にも渡したくない。お前を俺だけのモノにしたい。そんな独占欲が湧き上がってくるくらい、俺はお前の愛にどっぷりと浸かっていたんだ。だからこれからは俺も負けない。お前が俺に捧げてくれる愛に負けないくらい、俺もお前を寵愛してやる」

「結構上から目線の告白だね。でも私はそんなお兄ちゃんが大好き。いつも自信満々なお兄ちゃん、カッコよくていつも惚れちゃうもん。そんなお兄ちゃんだからこそ、私は一生を共にしようと思ったんだ。兄妹なんて関係なく、でも兄妹として……ね」

 

 

 兄妹なんて関係ない、だけど兄妹として。この矛盾。兄妹の枠を逸脱してでも俺たちは男女として愛し合う、だけど兄妹として共に手を取り合って今までと同じように生きていく。

 

 

 それでいい。誰にも俺と楓の邪魔はさせない。

 

 

 俺は同棲生活中に楓から悩み相談を受けた時、彼女の流した涙を見て覚悟を決めた。楓を妹と異性、両方として見て生きていくことを。そして彼女からの告白を聞いて、その決心はより強固なものとなった。もうあんな涙は流させない。例え実の兄妹であったとしても、2人で笑い合えるような道を築いていく。できるはずだ、俺たちなら。楓もそれを覚悟で俺に告白をしてきた。もう兄妹だからって、家族だからって、道に迷うことなんてない。

 

 

「俺はずっとお前のお世話になっていたいな。一度お前からの奉仕を受けたら、もう二度と元の生活には戻れない。俺はそんな身体にされてしまったんだよ」

「フフッ、お兄ちゃんダメ人間みたい」

「それくらい、お前の存在が俺の中で大きいってことだ。妹依存症になっちゃってるんだよ、俺は」

 

 

 もちろんただの妹依存症ではない。妹が楓だからだ。それに楓の魅力の1つは、年下で妹だけどとても甘えやすいこと。妹ながらにそんな母性まで持ち合わせている。それに信用もできるし頼りにもなる。親や秋葉が仕事などで忙しかった関係上、子供の頃から2人で一緒に遊んでいた俺たちは、既に心をお互いに補完し合っていたのかもしれない。告白する以前に結ばれていた、今思えばそう解釈してもおかしくないくらい、俺たちは常に隣同士だった。

 

 優しくて甘えやすくて、そしてなにより俺のために誰よりも一途に尽くしてくれる。そんな女の子に、俺の心が揺れ動かないはずがない。もう俺たちがお互いに恋心を抱く以前から、知らず知らずの間に相手のことを好きになっていたのかもな。

 

 

 俺は小さく深呼吸をして、楓との距離をほぼゼロ距離になるまで詰める。彼女の胸の鼓動が俺に伝わってくるくらい、そして今の俺たちの仲のように身体を急接近させた。必然的に楓は俺を見上げる形になる。その上目遣いを含んだ表情に心を打たれ、俺は遂に最後の言葉を言い放つ。

 

 

 

 

「これからもずっと、俺のために尽くしてくれ。付き合おう――――――楓」

 

 

 

 

 そして、楓は待ってましたと言わんばかりの満面の笑みを浮かべた。その笑顔には、これまでの俺との人生を振り返った様々な感情が込められているのだろう。俺だけの想像では余りあるに違いない。

 

 

 これまでの雪穂や亜里沙と同じく、彼女の返答は分かっている。分かっているけども、実際に直接口に出して聞くまでは少し緊張してしまうものだ。

 

 

 楓は改めて俺の目を見つめ直し、ゆっくり口を開いた。

 

 

 

 

「これからもよろしくお願いします。"零くん"」

 

 

 

 

 呼び方が、お兄ちゃんから名前呼びに変わった。これは楓が俺のことを1人の男性として見ている証拠だ。今の彼女は俺を兄ではなく、異性として意識しているのだろう。突然の不意打ちに思わず心が飛び上がってしまう。楓に笑顔名前を言われるのはここまでドキドキするものなのか……。

 

 

 もう我慢ができなくなった。俺は楓の肩に置いていた手に力を入れ、彼女の身体を少し上へと持ち上げる。楓も今から何をされるのかわかっているのだろう、彼女は目を閉じ、唇を半開きにして準備を整えた。頬は最高潮に染まっており、見ているだけでも柔らかそうな唇は、先程まで風呂に入っていた影響か非常に艶やかだ。

 

 

「楓……」

「うん、お兄ちゃん……私、ずっと待ってたの。貰って、私のファーストキス」

 

 

 

 

 俺はその鮮やかに輝く唇に吸い込まれるように、自分の唇と彼女の唇を――――――強く重ねた。

 

 

 

 

 俺たちの唇は磁石のようにお互いの唇を引き合い、吸い寄せ合う。驚くほど柔らかい唇の感触に、俺は彼女を攻めるように唇に吸い付いてしまう。唇が溶接するかのように密着しやっているせいか、火花が飛び散るかの如く熱い。だがそれでもなお俺たちは求め合う。この熱さこそが愛の証。熱くなればなるほど、俺たちの愛は高まっていく。リビングにいやらしい音を立てながら、俺たちはお互いの唇を貪りあった。

 

 

 しかし段々と息も続かなくなってきたので、名残を惜しみながらもそっと顔を離す。楓はキスする前よりも蕩けた表情をしており、流し込まれた愛情を全身で感じているようだった。

 

 憧れだった妹とのキス。俺も楓のように蕩けた顔になっているのだろうか?男のそんな表情なんて情けないのだが、本来実妹や家族だという理由で叶うはずのない恋を叶えさせることができたという、その事実が俺に幸福感を満たさせる。もう俺たちは兄妹であり兄妹ではない、これからもそんな不思議な関係を続けていくだろう。それでいいじゃないか、俺たちが幸せならば。

 

 

「えへへ、もうさっきから私の願いが叶いすぎて夢かと思っちゃうよ」

「確かにそうだがこれは夢じゃない、現実だ。もう俺とお前は兄妹でもあり恋人同士でもある」

「いいね、そういう関係って。ただの恋人だったらそこら中にたくさんいるけど、兄妹で恋人同士って特別感あるもん」

「μ'sの中でもお前だけだからな、こんな特別な関係は。ていうか兄妹で恋人なんて普通ならありえねぇよ。でもだからと言って、お前に捧げる想いは変わらない。愛してるよ、楓」

「うん!私も愛してるよ、お兄ちゃん♪」

 

 

 そこで俺たちは抱き合って、2回目の口付けをした。

 一生消えることのない兄妹と家族の壁。それを乗り越え、そして受け入れてお互いの愛を掴み合った。もうこれから兄妹だからって我慢することは何もない。これからは兄妹として、そして恋人として、ずっと俺の隣にいてくれ――――――楓、好きだよ。

 




 今回でめでたくシスターズの告白編は全て終了です。私はハッピーエンド派なので、どの展開も純愛全開のあまあま展開になってしまいました。普段純愛を執筆しない私としても、どの展開も上手く恋模様を描写できたと内心でガッツポーズしています(笑)

 楓との恋愛は本編で腐る程できたように、兄妹と家族であることが一番の壁となっていました。そのせいで2人の関係は『兄妹であり兄妹ではない』という、言葉だけでは何とも矛盾した関係になってしまいました。しかしこれから楓のアプローチがより一層強くなるような気がして、零君の身体が心配に……


 そして先程述べた通り、告白編はこれにて終了です。
 元々シスターズの恋愛がこの小説の一大テーマだったので、その目標を無事に達成できました。これでタグの『12股』も本気が出せそうです!

雪穂と亜里沙の告白回の評判がかなり良かったは非常に嬉しかったです!特にいつもは書かない純愛回に感想や高評価が入ると、いつも以上に執筆と投稿が捗ってしまう現金な性格なので。今回で告白編が終わったので、読者の皆さんが今回の告白回を通じてどう思ったのか、感想をくださると嬉しいです。

 零君とシスターズが無事にゴールインし、この小説も目標を達成して何やら終わる雰囲気ですが、もちろんまだまだ続きます!むしろ恋人同士になったこれからが本番ですから!(笑)



 次回以降はクリスマス終了~大晦日に掛けての期間、つまり冬休み編を何話か投稿するつもりです。



新たに高評価をくださった

雪乃せんりさん

ありがとうございます!



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia










最後に……
 折角クリスマスの時期に告白させたのに、全くその要素を活かせてないという罠()


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハーレム野郎は燃え尽き症候群

 今回は告白回の後日談――――のつもりでしたが、執筆してみると普通の日常回に。久々にギャグやほのぼの、ちょっぴりR指定要素が入り混じった回となっております。


「はぁ~……」

 

 

 今の俺は――――――燃え尽きていた。

 

 

 先日のクリスマスにシスターズの3人、雪穂と亜里沙、そして楓にそれぞれ告白をし、見事結ばれることができた。どの告白も俺の想いを率直に伝えただけで、頭を悩ませてカッコいい告白文を考えていた訳でもないのに、彼女たちへの告白を終えた翌日から妙に何もやる気が起きない。やはり気付かなかっただけで結構気を張っていたのかな?これが燃え尽き症候群ってやつか……。

 

 だがしかし、俺が今にも真っ白な灰となって風に飛ばされてしまうほどのローテンションなのには、もう1つ理由がある。むしろそっちの方が燃え尽き症候群への影響が強いかもしれない。折角3人と恋人同士になれたのに、なんでこんなことになっているのかねぇ~……。

 

 

 するとふと、俺の目に赤毛のツリ目少女が映り込んだ。

 

 

「ほら零、何サボってるのよ」

「うおっ、埃はたきで頭をポンポンすんな!俺はゴミか!!」

「掃除もせずにぼぉ~っとして机に肘を付いてるだけなら、私にとってはゴミね」

「相変わらず容赦ねぇなお前……」

 

 

 何もわざわざ俺の隣にまで来て頭をポンポンと掃除しなくてもいいだろ。確かに俺の頭は掃除されるほど卑猥と下衆な思考で腐ってるけど、もうどうにもならないから諦めろ。ていうか俺の髪に埃付いてるんじゃね?――――と思ったが、どうやら机の上に埃はたきの袋が置いてあるから、まだ使ってない新品か。脅かしやがって。

 

 

 ちなみに俺は年末大掃除ということで、アイドル研究部の部室と更衣室の掃除に駆り出されている。ただでさえ寒いのにまさかの早朝から呼び出されるなんて、実妹の楓に告白する以上に苦行だぞ。

 

 しかもこの場に穂乃果、ことり、海未の3年生組はいない。理由はもちろん、残り一ヶ月を切ったセンター試験の勉強のためだ。だったら何故俺がここにいるのかって?俺はもう勉強しなくても余裕だってことくらいμ'sの面々は知っているから、『だったら零は呼び出しても問題ないんじゃね?』理論で徴兵令を食らった訳だ。こんなことなら初めから勉強に付き添ってやればよかったよ……。

 

 

「やけにテンション低いわね。早く掃除しないと終わらないわよ。あの凛ですらまともに掃除してるのに……」

「ホントだ……。あの凛が真面目に掃除とか、明日は絶対零度で凍結するぞ日本は」

 

 

 凛は部室の端でコソコソと何かやっているみたいだ。あれってちゃんと掃除してんのか?元々にこの私物が多かったこの部室だが、彼女の卒業を機にほとんど持って帰ったため、今の部室はそこそこ広くなり逆に掃除が面倒になってしまっている。そこら辺をせっせと掃除している花陽が可愛いなぁと思いつつも、俺はまだローテンションから抜け出せなかった。

 

 ちなみに絵里、希、にこの3人は更衣室の掃除をしている。もうこの学院の生徒ではないのにご苦労なことだ。どうせなら俺の分まで頑張って働いて欲しい。

 

 

「はぁ~……」

「また溜息ついてる……もしかして、1年生たちのこと?」

「よく分かったな。そうだよそうなんだよ!アイツら仲良く温泉旅行に行ってんだぞ!?恋人の俺を放っておいて温泉!?告白からまだ数日しか経ってないよ!?つまり恋人に成り立てホヤホヤだぞ!?そんな俺を放って温泉!?マジかよ!!」

 

 

 俺は立ち上がって真姫に至近距離まで詰め寄る。真姫は頬を少し赤くしつつも、俺の身体を強く押して俺を突き放した。

 

 

 そう、これがローテンションの一番の理由。クリスマスの翌日はシスターズのみんなと仲良く4人でデートしたのに、今日に限って俺はお呼ばれでない。なんというありふれた悲しみの果て。

 

 そしてちなみにばかりで申し訳なのだが、真姫たちμ'sの9人には俺たちが正式に恋人同士になったことは既に伝えてある。もちろんみんな笑顔で歓迎してくれた。まあ、そもそも9人と付き合ってること事態が異端なんだから、今更12人に増えてもなんら変わりはないだろう。

 

 

「しょうがないでしょ、商店街のくじ引きの景品が旅行券3人分だったんだから。あの子達にも積もる話がたくさんあるだろうから、ここは我慢しなさいよ」

「いやいいよ、その分アイツらが帰ってきたらたっぷりと可愛がってやるから……」

「その犯罪者の顔やめなさい。ここにいるのが私たちじゃなかったら即通報されてるわよ」

「そっちの方が神経が研ぎ澄まされて、ギアも入りなおすかもな」

「どれだけ心が空虚なのあなた……」

 

 

 何が悲しくて部室の掃除などしなきゃいかんのだ。本当だったら今頃シスターズの面々と温泉に行って、あわよくば混浴風呂であんなことやこんなことができたかもしれないのに、まさか頭を埃はたきでポンポンとゴミ扱いをされる仕打ちを受けるとは……俺の人生、どこで間違えた?

 

 

 すると、真姫の背後に何やらオレンジの髪の毛をした頭がちょろちょろと動いているのが見えた。一瞬で『あっ、凛の奴、何か企んでるな』と察したが、俺が声をかける前に、ソイツは真姫にちょっかいを掛ける。

 

 

「ねぇねぇ真姫ちゃん」

「なに凛?あなたもサボり――――って、き゛ゃぁあ゛あ゛ぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「な、なんだ!?」

 

 

 凛の方を振り向いた真姫は、その刹那硬直したあと、普段では絶対に聞くことのできない喉を潰すかのような汚い声で叫びだした。あまりにも突然の奇声に、1人真面目に掃除をしていた花陽は驚いて尻餅をつく。

 

 

「な、なに!?真姫ちゃんどうしたの!?」

「ちょっと凛!?早く……早くソレ捨てなさい!!」

「え~こんな珍しいもの捨てられないよ。ほら、こんなに足が長い蜘蛛なんて初めて見るにゃ!!」

「「き゛ゃぁあ゛あ゛ぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」

 

 

 今度は花陽も一緒に奇声を上げた。まるで殺人現場で死体を見たかのような、恐怖と驚愕が混同した声。凛の手の上では確かに足の長い蜘蛛が――――って、蜘蛛の解説なんてしたら気分悪くなるだろうし、流石にやめるか。

 

 そして凛がさっきから部室の隅でコソコソと怪しい動きをしていたのは、その蜘蛛を捕まえるためだったのだろう。やっぱりサボってたじゃん!

 

 

「ちょっとどうしたの!?真姫と花陽の悲鳴が聞こえてきたけど!?」

「また零君がなんかやらかしたん?」

 

 

 すると部室に、掃除用具を取りに行っていた絵里と希が勢いよくダイナミックに入場してきた。絵里は焦燥の表情を浮かべながら、希は面白そうなことが起こりそうと言わんばかりのニヤケ顔で……。つうか、どうして毎回俺が犯人役にされるんだよ。

 

 

「あっ、絵里ちゃんと希ちゃんも見る?足の長い蜘蛛!」

「ホンマや珍しい!折角だし、写真を撮って穂乃果ちゃんたちに送ってみよ♪」

「さんせ~い!ことりちゃんと海未ちゃんはいい顔して驚きそうにゃ~♪」

「お前らクズだな……ん?え、絵里?どうした?」

「…………」

 

 

 あっ、コイツ立ったまま硬直して全く動かねぇ。絵里もGとか蜘蛛とか、家の中でうろちょろする虫は苦手そうだもんな。それに真姫も花陽も部室の隅で震えてるし、そろそろ助け舟を出してやるか。俺はそんな馬鹿騒ぎできるようなテンションじゃないっていうのに全く……。

 

 

「ほら凛、早くその蜘蛛を外に逃がしてやれ。真姫たちが硬直し過ぎて、このままじゃ銅像になっちまうぞ」

「む~しょうがない、バイバイ蜘蛛さん!」

 

 

 凛は蜘蛛を窓の外へポイッと捨てる。名残惜しそうにしているにも関わらず、案外あっさりと外へ放り投げるんだな……。

 

 

「ちょっと絵里!希!廊下に掃除用具投げ捨てて行くんじゃないわよ!!」

「ゴメンなさい、にこ。真姫と花陽の悲鳴を聞いたらつい……」

「ま、可愛い後輩のための思ってのことだろうけど」

「絵里はいいとしても、希は不気味な笑顔だったけどな」

「もう零君!余計なことは言わんでええって!!」

「多分今年最後のお前が言うなだな、これは……」

 

 

 どう考えてもお前が一番余計なこと言ってたじゃねぇか。そして案の定、俺に悪いところなぞどこにもなかったし。

 

 

 どうやら絵里と希が放ったらかしていった掃除用具を、全部にこが持ってきたようだ。部室にある箒やちりとりの数が圧倒的に足りなかったため、他所から借りてきたらしい。面倒だが、ここから部室と更衣室の掃除が本格再開か。そう思うとより一層気が滅入ってしまう。帰ろっかなもう……。

 

 

「で?悲鳴の原因は?」

「凛ちゃんが足の長い蜘蛛を私たちに見せてきたんだよ。あ~驚いたぁ……」

「全く、蜘蛛ぐらいでギャーギャー騒ぐんじゃないわよ」

「にこっち、えらく逞しいなぁ」

「そんなもの、家を掃除してたらしょっちゅう見かけるからね」

 

 

 確かに矢澤家の家事全般を任されているにこだったら、流石にGや蜘蛛ごとき何度も目にして耐性が付いてるか。背はちっこいくせに、こういう時だけやたらお姉さんキャラに見えるんだよなにこって。

 

 

「でも凛は零くんの元気を取り戻してあげようと思って、苦労して足の長い珍しい蜘蛛を捕まえたのに、零くん全然元気戻ってないじゃん!」

「お前、俺が蜘蛛ごときで元気を取り戻すと思ったか?」

「あれだけ真姫ちゃんとかよちんの悲鳴を聞いても、零くんずっと座ったままだったし。今日の零くんは冷静過ぎるにゃ」

「その前に、私たちは零の元気を取り戻すための生贄だったって訳……?」

「う~んまぁ……許して♪」

「ヒドイよ凛ちゃん!!」

 

 

 凛はウインクをして舌を出しながら謝る。ていうか謝る気ねぇだろお前……。しかも俺のテンションは一切戻ちゃいないから、真姫と花陽は無駄死にってことになるな。南~無~。

 

 

「零、アンタ元気ないの?やっぱシスターズの温泉旅行が原因?」

「はぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ぁああ…………」

「なんて長い溜息ついてるのよ……。それじゃあ全宇宙の生命体を笑顔にしてきた、このスーパーアイドルにこにーが元気付けてあげるわ!」

「言っておくけどにこ、学院内でいかがわしい行為は禁止よ」

「まだ何もしてないじゃないの絵里ぃ……」

 

 

 ナイス釘差しだ絵里さんや。正直今の俺は、エロ妄想すらも膨らまないほど性欲が萎みに萎みきっている。そんな時に誘惑されても靡くはずがない。今の俺は常時賢者モード、あらゆる誘惑も跳ね返す無敵モードなのだ。

 

 

 そして絵里の隣で、希がまたしてもニヤニヤと怪しい笑顔を浮かべていることに気が付いた。出来れば気が付きたくなかったが、見てしまった以上変に警戒してしまう。でもこんなローテンションでは、並大抵のイタズラでも取り乱さないがな。掛かってこいや。

 

 

「いかがわしいって、スーパーアイドルのにこがそんな痴女に見える訳?」

「見えるにゃ」

「見えるわね」

「見える……かな?」

「花陽まで!?アンタたちあとで屋上ね!!」

 

 

 むしろ何故見えないと思った?これまで俺に行ってきた数々の痴態を思い浮かべて見ろよ。そして胸に手を当ててみれば分かるはずだ――――――あっ、残念ながらコイツに胸なんてなかったわ、すまんな。

 

 それにだ、高校生のスクールアイドルって時点で卑猥な響きがするのは俺だけか?さっき言った通り今はクールテンションなので激しい妄想は出来ないが、やはり高校生でアイドルというと男共のオナネタの格好の餌だ。痴女妄想されてしまっても仕方がない部分はある。

 

 

「まあ誰にどう思われていようが、にこは零にさえいい顔が出来れば、それで満足なんだから♪」

「おう、それはありがと」

「ホントに冷めてるわね……にこが元気を分け与えてあげるから、覚悟しなさい!」

「へ……?」

「ちょっと失礼するわよ」

「お、おい!?」

「「「「「!?!?」」」」」

 

 

 突然にこが座っている俺の膝の上に跨ってきた。しかもこちらに向かい合うように対面で。これには他の5人も目を丸くして驚いている。女の子特有のふわりとした甘い匂いで、俺の身体があっという間に支配される感覚に陥った。しかも今日のにこはスカートなので、彼女のパンツと太ももの感触が俺の服の上からでも感じられる。このまま自分の脚を動かせば、彼女の股を刺激できるのでは……??

 

 

 待て待て、今の俺は何事にも冷静沈着に対処する超クールな青年なのだ。そんな見え見えのあっまあまの色仕掛けに引っかかるはずが――――――

 

 

「ご主人様、最近全然にこに構ってくれないくて寂しいにこぉ~♪」

「お、おい……」

 

 

 にこは甘い声で俺をご主人様呼びをし、指で俺の胸にハートマークを描くようになぞり続ける。しかも座高の差から必然的ににこが俺を見上げる形になるため、彼女の上目遣い攻撃がモロにクリーンヒットしやがる。極めつけに、完全に作っている表情だろうが目に涙まで溜めて、確実に俺をオトそうとしているじゃねぇか……クッソ、可愛い!!

 

 

「うっ、凛、不覚にもにこちゃんに心を打たれそうになったにゃ……」

「へぇ~、やるやんにこっち。これは絵里ちも負けてられないね♪」

「どうして張り合わなきゃいけないのよ!?」

「そ、そんなくらい……零を喜ばせることなら私だって……」

「流石にこちゃん!あっという間に男性を虜にするシチュエーションを作れるなんて!!」

 

 

 みんな三者三様の反応を見せるが、この状況を何とかしてくれそうにはないな。

 にこは俺のためにというよりかは、完全に俺の様子を見て楽しむために跨ってきたに違いない。涙目上目遣いの合間に、時折見せる小悪魔の黒い微笑みが俺の目に映っているからだ。コイツにここまで手玉に取られるのは、来世までの不覚なんですけど……。

 

 

「もしご主人様がその気ならぁ~、すぐにでもにこを乱暴にしてくれてもいいにこぉ~♪」

「ぐっ……俺は今賢者モードも同然なんだ。そんな気は起きねぇよ」

「へぇ~。でもぉ~、さっきから心臓がバクバク鳴ってるわよ♪」

「お、おいっ!?」

 

 

 ただ俺の膝に跨っていたにこが、突然俺の胸へと飛び込んできた。しかも俺を椅子に縛り付けるように身体に強く絡み付いてくる。そしてにこの慎ましやかな胸が辛うじて俺の胸元に当たった時には、何故か無駄な感動をしてしまう。しかし不覚なのは、妙に興奮してきてしまったってことだ!

 

 俺の身体は椅子と彼女で挟まれる体勢となり、逃げ出すことはできない。まあ逃げ出すつもりなんて毛頭ないが、このままでは数秒後にはにこを押し倒してR指定の展開も止むなしになるだろう。しかし今の俺はクールで通している、相手の色仕掛けに乗ってはいけない。俺は賢者俺は賢者俺は賢者俺は賢者俺は賢者俺は賢者俺は賢者俺は賢者俺は賢者俺は賢者俺は賢者……よしっ!!

 

 

「やっぱりにこっちはその手で零君を元気付けようとしていたんやね。だったらウチは――――絵里ち、協力して!」

「協力……?」

「あぁ~脚が(もつ)れちゃったぁ~」

「ちょっ、希!?きゃぁっ!!」

 

 

 希の奴、明らかに棒読みの悲鳴で絵里の脚に自分の脚を引っ掛ける。そして絵里の身体をガッチリとホールドすると、部室に散乱していた人形の軍団をクッションにするように、2人一緒に後ろへと倒れた。

 

 

「絵里ちゃん希ちゃん大丈夫!?」

「いや花陽、どう見ても希の悪ふざけだから――――――!?!?」

「ど、どうしたの零君?」

「絵里、お前……」

「へ……?」

「いやその……スカート……」

「スカート……?――――えっ!?~~~~~っっ!?」

 

 

 そうだ、絵里のスカートの中が丸見えになっていたのだ!希は器用に絵里の両足を持って左右に広げている。いわゆるM字開脚というやつだ。そんな器用な転け方、ハーレムモノの主人公じゃあるまいし現実で起こり得る訳がない。希の奴、初めから絵里のスカートの中を俺に見せびらかすつもりだったな!

 

 

 それにしても、絵里の純白で綺麗な脚に似合う、天使の羽のように真っ白なパンツだ。スカートが微妙にはだけているせいで、パンツ全体が見えていないのもまた唆られる。その美しい脚線美の奥に待ち受ける女神の糸物は、その先の天国へと続く扉のようで、どこか神々しさを感じてしまうほど艶かしい。パンツと股の間から指を入れて彼女の大切なところを思いっきり掻き回してやりたいと、俺の中の欲望がふつふつと沸き上がってきた。

 

 

「絵里ちゃん……やっぱり綺麗だにゃ~……」

「スタイルもいいし、私と同じスクールアイドルには思えません!」

「そんなこと言われても恥ずかしいだけだから!!早く助けて!!」

「まあまあ絵里ち、これも零君の元気復活のためと思えば頑張れるやん♪」

「じゃああなたが見せればいいじゃない!!」

「そ、それは~……絵里ちとにこっちの役目やから……」

 

 

 絵里からの予想外の返しに思わず頬を染めてしまう希。計算高い子って、こうして計算外のことが起きて取り乱す姿が可愛かったりするんだよな。

 

 しかし今はそれよりも、さっきから腰をグイグイと前後に動かして、俺の股間を刺激し続けるにこと、希に捕まってスカートの中を御開帳している絵里に、俺の欲情が全身に染み込んできた。さっきまでの賢者モードはどこへやら、かつて感じていたゾクゾクとした興奮が熱を帯びて俺の心も身体も支配する。そう、元の俺に戻りつつあるのだ。

 

 

 女の子をメチャくちゃにしたい、もう脳ではなく本能的にそう感じている。

 でもいいんじゃないか?だってみんな俺の彼女だし、みんな俺のモノなんだから!!どうしようが俺の勝手だ!!

 

 

「にこも絵里も希も!そこで見てばかりの凛も花陽も真姫も、みんなそこに並べ!!スカートを捲くって並べぇええええええええええええええええええええええええ!!」

「あわわわわわ!どうしようかよちん、零くんが元に戻るどころか壊れちゃったにゃ!?」

「と、とにかく零君の興奮を鎮めないと……でも鎮めるためにはスカートを……うぅ」

「馬鹿みたい。私は別のところの掃除に行くから」

「逃がすかよ!!」

「きゃっ!?」

 

 

 俺は部室から出ていこうとする真姫の手首を掴み、そのまま俺の身体に抱きつかせるように引き寄せる。これで俺の身体にはにこと真姫、2人のツンデレガールたちが身を預けていることになるな。なんとも眼福な光景!これからコイツらをどうしてやろうか……ここまで俺の欲情と興奮を復活させた代償は、身体をもって償ってもらうぞ!!

 

 

「真姫ちゃんもぉ~、にこと一緒にご主人様に奉仕するにこぉ~♪」

「さっきからにこちゃんのそのテンションはなんなのよ、気持ち悪い!」

「なんですってぇえええええ!?」

 

「ちょっと希!そろそろ離してよ!!」

「ウチが零くんにスカートの中を……もっといいパンツを穿いてこればよかったかも……」

「の、希……?いつの間にか妄想の世界に旅立ってる!?」

 

 

 なんかもういつもの俺たちに戻ってきたって感じの騒ぎ具合だな。でも今は冬休み中、しかももう年末だから部活に来ている生徒もごく僅かだ。つまり多少騒いでも見つかることはない。よって俺の大勝利でこの物語は完結――――――

 

 

 

 

 するはずだった。

 

 

 

 

 部室の扉が開かれ、そこに入ってきた人影を見るまでは――――――

 

 

 

 

「神崎、冬休みだからってハメを外し過ぎだぞ」

「さ、笹原先生……お、お久しぶりですね何故学院に……?」

「教師はお前ら生徒みたいに冬休みを長くはもらえないからな。だから少しストレスが溜まっているんだが、どうすればいいと思う?」

 

 

 ここで笹原先生から全身を突き刺すような目付きで睨まれる。

 これは……これは確実に俺をサンドバッグにするつもりだ!!しかもみんな騒いでいるのに俺だけが理不尽に!!口角が少し上がっているのがその証拠。先生が私欲のために生徒を体罰したら、どうなるのか分かっているのか!?――――と、口答えできたらとっくの昔にやっている。この恐怖を前に口を開くこと自体が不可能なのだ。

 

 

 それにもちろんだが、μ'sのみんなは黙ったまま俺を助けようとしてくれない。それ以前に笹原先生の威圧を前にそれができたら、もう世界を救える勇者レベルの勇気だ。逆にそれを無謀とも呼ぶ。

 

 

「とりあえず生徒指導室へ行こうか。なぁに、あそこは暖房も完備されているし暖かいお茶もある。掃除の合間に休むにはもってこいの場所だ」

「くっそぉ……はいはい分かりました行きますよ行けばいいんですよね!!」

「お前の躾は秋葉やお母様からたっぷりするようにお達しが来ているからな。いい家族を持って良かったな、神崎」

「アイツらいつか絶対呪い殺す……」

 

 

 そして、俺は生徒指導室と言う名の拷問部屋へと連行された。

 どうしてこういつもいつも俺が女の子に手を出すその時に邪魔が入るんだよ。まあ、これが俺のいつもの日常ってことか……。

 

 

 

 

 取り残されたμ'sメンバーは――――――

 

 

「なんか色々あったけど、最終的にはいつも通りの零くんに戻ってくれて嬉しいにゃ~!」

「むぅ~、ちゃんとにこが零のテンションも性欲も元に戻してあげたかったのに」

「でも最後に邪魔が入る辺り、やっぱり零君は零君やね」

「私はただ辱めを受けただけなんだけど……」

「こんなことになるなら、ローテンションの零のままで良かった気もするわ……」

「あはは……とりあえず、お掃除……しよっか?」

 

 

 いつものテンションに戻ったのはいいけど、周りにたくさん女の子がいるにも関わらず手を出せないこのもどかしさは変わらねぇ……。

 

 ていうか、誰も俺を心配してくれないのかよ!!

 

 

 

 

 ちなみにこのあと、笹原先生にたっぷり拷問(意味深ではない)された。

 




 いつもの日常に戻ってきた気分がして、私も安心しています(笑)

 元々今回は、本編にもちょろっと話題に出てきたシスターズとのデート回を執筆しようと思っていたのですが、告白回で純愛モノに満足してしまったので、今回はギャグ+ほのぼの+ちょっぴりエロ要素を含めた、いわゆるいつもの日常回になってしまいました。またいずれシスターズとのデート回も執筆するかもしれません。多分しばらくはこのような"いつもの"が続くと思われます。そもそもオチがある話自体も久しぶりだったという(笑)


 前回の告白回で、感想数が1400件になりました!そして告白編を執筆してい期間に☆10評価をたくさん頂いたので、執筆モチベが無駄に満ち溢れています!そのモチベを保って、これからもしばらくはこの調子で投稿していけたら……いいなぁ(笑)


 最近ラブライブサンシャインの話題も活発となり、しかもあと一ヶ月後にはアニメも放送開始ということで、次回は特別編としてサンシャインから一部のキャラを登場させ、この章を締めくくろうかと思います。



新たに高評価をくださった

辛いさん、かみら@141さん、すどかんさん、仁聖和礼勇さん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】最高で最悪の出会い!?

 今回は"ラブライブ!サンシャイン!!"のアニメ化があと一ヶ月と直前に迫ってきているので、私と皆さんの期待を高めるための特別編です。

※この話の時系列に関しては、通常のラブライブとサンシャイン相互の時系列がまだ明らかになっていないので、今回は無視しました。本編にも一切リンクしません。


 

 

『いて座のあなたの運勢は――――――サイアク。あなたの人生が終わりを告げるかも……。今日は外へ出歩かず、家の中でのんびりと過ごすのがよいでしょう』

 

 

 俺は、唐突にニート生活を強要されていた。

 たまたまテレビを点けてみたら、ニュース番組の終了間際によくやっている占いコーナーが映った。もう知っての通り、俺は占いなどに一切興味もなければ信じてもいない。しかしこうして露骨に不幸を通達されると、多少なりとも身構えてしまう。しかも出かけなければならない日に限ってだ。

 

 

「アホらし。こんな占いごときで俺の運命を左右できると思うなよ」

 

 

 ――――とは言いながらも、俺は適当に楓が作り置きしてくれた朝食を食いながら片手間に携帯を弄り、『血液型 占い』で検索を掛ける。星座占いがダメならせめて血液型占いと、俺の心の中では悪い結果を受け入れられないようだ。俺の運命は常に最高でなければならない、これ世界の真理な。

 

 そして血液型占いのページを開くと、血液型入力欄に『AB』と入力して占いの結果を表示する。

 

 

『AB型のあなたの運勢は――――――超最高!!もしかしたら思いがけない出会いがあるかも!?』

 

 

 最悪なのか最高なのかどっちかにしろや!!ここは敢えて最悪と言ってくれた方がネタになっただろ分かってねぇな!!

 

 まあネタ云々はさて置き、思いがけない出会いとは一体……。正直μ'sのみんなに出会えたこと自体が奇跡なのに、これ以上俺の人生を揺るがす出会いがあるってのか?流石にμ'sと同等の出会いがあるとはもう思えねぇな。ま、所詮占いは占い、信じすぎない方が気持ちも軽い。

 

 

 そう心の中で軽い期待を抱きつつも、朝食の皿を洗っている最中にはもう占いのことなど既に忘れていた。朝の占いなんて見ても、出かける支度をしている時にはとっくに忘却の彼方なのが常だ。いちいち結果を思い出したりもしない。

 

 

 

 だがその時の俺は、まだ気付いていなかった。

 最高の運命と最悪の運命、その両方が俺に迫ってきていることに――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「久々にここへ来たなぁ~。相変わらず人多いし……」

 

 

 俺は人混み嫌いの柄にもなく秋葉原へとやって来た。本来なら1人でこんな人の密集地帯へ来ることなんてありえないのだが、今日は達成しなければならないミッションがある。そのためなら俺は例え火の中水の中、地球を割って裏側へ行くことも辞さないぞ。

 

 

「待ってろ……あのエロ漫画」

 

 

 そう、俺のミッションはとあるエロ漫画の購入だ。

 普段からエロ漫画を買っていると言われればそうではない。実は昨日、戯れにネット上であるエロ漫画を見ていた時、エロサイトの広告に俺好みのイラスト、シチュエーションの漫画っぽい宣伝を見つけたのだ。しかしお金を出して購入するのは俺のポリシーに反するので、その漫画のタイトルで検索を掛けネット上にないか一晩中探し回っていたのだが、その努力も虚しく見つかることはなかった。

 

 なるべくお金を掛けずにエロを求める、この精神が分かる人いるだろ?昨日までの俺はまさにそれだった。だけど、俺はその漫画の魅力に負けた。あんなに女の子のカラダが綺麗で肉付きがよく、そして艶かしい絵は始めてみた。しかもシチュエーションがセクハラ痴漢モノ、これをただ指を咥えて我慢している方が無理ってもんだ。

 

 だから俺は自ら足を伸ばした。待っていればいつかはネット上にアップロードされるだろうが、そんな悠長に待機できるほど俺の性欲は持ち堪えられない。例え大嫌いな人混みであっても、この性欲エンジンがあれば切り抜けられるはずだ。

 

 

 待っていろ、俺を誘惑しわざわざ外へと連れ出したエロ漫画よ。無事購入できた暁には、お前に俺の子供(種子)を見せつけてやるからな!!

 

 

 

 

 よーし!なんだか活力が漲ってきた!!早く目的のブツを買って早急に帰って、自室に籠って自分磨きを――――――

 

 

 俺がそう決意し、歩き始めたその時だった。建物の陰から女の子が飛び出してきた。ぶつかると思ったその一瞬の間に、女の子同士の会話が耳に入る。

 

 

「待ってよ梨子ちゃ~ん!これ可愛いよ♪」

「千歌ちゃん!それ持ってこっちに来ないでぇ~!!」

 

 

 聞こえた会話はそれだけ。もう建物の陰から見えた女の子の姿が、眼前にまで迫っていた。この後の展開が容易に想像できた俺は、反射的にその女の子を受け止める体勢を作り、自らが受身となろうとした。

 

 

「きゃっ!!」

「うわぁ!!」

「り、梨子ちゃん!?」

 

 

 もちろん彼女の飛び出してきた勢いには耐え切れず、俺たちは正面から抱き合う形で道に倒れる。幸いにも頭だけは守ろうと必死だったので、道端で気絶して人々の晒し者になる事態だけは避けられた。我ながらナイス回避、伊達にヤンデレμ'sからの猛攻を凌ぎきってはいない。

 

 まあ今はそんなことよりも、俺に受け止めてもらえた人生幸運な女の子の様子を確認しようか。

 

 

「う、う~ん――――って、えぇっ!?!?」

「梨子ちゃん大丈夫――――――え……!?」

 

 

 どうした?俺が受け止めた女の子と、駆け寄ってきた友達らしき女の子の様子がおかしい。明らかにさっきまでの衝突事故などなかったかのような、別の何かで驚いているような顔だ。そして2人の目は俺の手元、彼女の胸辺りに向いていた。

 

 そういや、さっきから俺の手がそこそこ弾力あふるる物体に触れている。しかも両手。大き過ぎず小さ過ぎず、俺の手にすっぽりと収まる球体状のようなもの。女の子の身体でこれほど柔らかいところと言ったら、やっぱり二の腕か?俺は彼女を受け止める時に両腕を掴もうとしたからその可能性は高い。

 

 だけど、この感触は過去に何度も味わったことのある。俺は二の腕マイスターではないのだが、この感触が明らかに二の腕とは程遠いことが分かる。女の子の身体で球体状の形をしているモノと言えばもちろん……。多分この手を動かすと、彼女の口から女の子の声が漏れ出すだろう。試しにやってみるか。

 

 俺は綺麗に張っている2つの双丘に対し、両手の計10本の指に力を入れた。すると一瞬の内に指が食い込み、身に覚えのある感触が伝わってくる。

 

 

「ひゃっ!!あっ、ちょ、ちょっと……んっ!!」

 

 

 やはりこの感触は、μ'sのみんなのモノを触っているあの柔軟性と全く一緒だ!!

 もうここまで来たら言わなくても分かるだろうが、俺は彼女を正面から受け止めて倒れた際に、無意識的に手が彼女の胸へと伸びていたらしい。これが男の性ってやつか、いやはや恐ろしいものだ。もう慣れたけど……。

 

 

 しかし今回の相手は恋人同士のμ'sではなく、全く見ず知らずの女の子だ。μ's相手ならなんだかんだで許してもらえるのだが、今の相手は通りすがりの女の子……なるほどねぇ~。

 

 よ~し!逮捕されるくらいなら今の間に思いっきりおっぱいを堪能しておくか!μ'sの彼氏なった現状、彼女たちへ卑猥な行為をしても、それは純愛行動にしかならない。つまりだ、マジモノのセクハラ痴漢プレイを楽しめるのは今だけなのだ!!

 

 

 だがまあ、そんなに上手くいけば俺の欲求も満たされた上で人生を終了させられたのだが、現実はそう甘くなく、女の子の目には涙が溜まっていた。

 

 

 そして、大きく手のひらが振り上げられれる。

 

 

「きっ……!」

「き?」

「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「うぐぁあ゛あああああ!!」

 

 

 人が大勢いる秋葉原で、男の頬を打ち抜くかのような平手打ちが炸裂した。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「梨子ちゃんを助けた王子様が、まさかセクハラ魔だったなんて!」

「セクハラ魔言うな!あれは事故なんだよ!!」

 

 

 あの平手打ちの後、初めて周りから注目されていると気付いた俺たちは、世間の目を掻い潜るためそそくさと大通りから外れた。正直助けた女の子やその友達の子、周りからも通報されないか心配だったが、どうやら女の子の胸を弄っていた事実は俺たち3人以外には明らかになっていないらしくて助かった。

 

 だがしかし、穂乃果より若干明るいオレンジ色の髪をした女の子が、ひたすら俺をセクハラ魔と罵ってきやがる。まさか警察に内緒にする代わりに、巨額の金を要求してくるとかそういうパターンか……。

 

 

「分かった皆まで言うな。いくら欲しいんだ?1万?10万?それ以上は出世払いで頼む」

「いやいや、それを被害者じゃない私に言われても……」

「確かに……」

 

 

 冷静になってみれば、どうして俺は被害者でもない子にここまで罵倒されなければならないのだろうか?まあセクハラしようと思っていたことは事実だから、ぐうの音も出ねぇけどさ。でもセクハラをしようと狙って女の子を庇った訳じゃないから許して欲しい。

 

 

 ちなみに俺が助けた髪がローズバイオレット(横文字がカッコいい)色の女の子は、俺たちよりも少し離れたところでベンチに座っている。まああんな目に遭った上に、そのセクハラ野郎が近くにいるんだからそりゃあ畏まるわな。あの行為に関しては完全に俺の欲望のせいだから、彼女に謝っておこう。

 

 

「あのさ、さっきは――――」

「すみませんでした!!!!」

「は……?」

「え……?」

 

 

 まさか俺の謝罪読みで先に謝罪を仕掛けてくるなんて、この女……できる!!

 まあそんな冗談はさて置き、あまりに予想だにしない事態に俺の隣にいたオレンジ色の髪の子までもがポカーンとしていた。俺、逆に何か謝られることあったっけ?

 

 

「先程は倒れそうなところを助けていただいたのに、引っぱたいてしまうなんてとんでもないことを……すみませんでした!!」

「なるほどそういうことか。でもあれは当然のことだから。可愛い女の子を助けるのは俺の義務だ」

「か、可愛い!?あ、ありがとうございます……」

「え、あ、あぁ。どうしたしまして」

 

 

 なんか俺の方が全面的に非があったのに、こうして感謝されると流石の俺もしどろもどろになってしまう。見た目は海未っぽくて清楚だが、中身は控えめそうで落ち着いていて時には慌てもの、まるで花陽みたいな性格だ。そう考えるとこうしてペコペコと丁寧に謝ってくるのは納得できるな。

 

 それになにより、可愛いと言った時に顔が燃えるように赤くなったその表情に、μ'sの面影を感じて心が揺れ動かされた。この俺の心をμ's以外が動かすなんて、この子やはりできる!!

 

 

「セクハラの次はナンパですか~?」

「お前……折角いい雰囲気だったのにぶち壊すなよな」

「お前……?そんな態度でいいんです?千歌が今すぐ通報すればあなたの人生なんて――――」

「分かった分かった!すまなかった!!」

「あははっ!冗談ですよ冗談♪」

 

 

 このアマ、街中だけど服引っペ返してこの場でブチ犯してやろうか……?さっきのコイツの表情、もう悪魔ではなく男の人生を刈り取る死神の笑顔だったぞ。

 

 そしてここでようやく分かった。今朝の占いの人生が終わりを告げるかもって、さっきのセクハラのことだと……。

 

 

「でもさっきは本当にゴメンな」

「いえいえ!助けてもらわなかったらそのまま地面に激突してましたし、むしろお礼を言うのは私の方です!それにあれは……不可抗力だったんですよね?」

「えっ、そ、そうだな。キミを受け止めることに必死で、手の位置なんて全然気にしてなかったら。そう全然……」

「そうですよね!だったらその件に関しては目を瞑ります」

 

 

 ヤバイ、この子の優しさが心にグサグサと突き刺さる!!でも故意に胸を揉んでしまったと、清楚なこの子に言えるはずがない。ここは俺の人生のためだ、事実は永遠に隠蔽させてもらおう。そしてタダでおっぱいを触ることができたと、心の中でガッツポーズでもしておくか。

 

 

「本当に事故だったんですかぁ~?梨子ちゃんの胸を触りたいから触ったとか……?だってセクハラさんだし!」

「お前はちょっと黙ろうか!!」

 

 

 コイツさっきからずっと俺を笑顔で煽ってきやがる。これは捕まってはいけない奴に捕まってしまったぞ。適当なところで2人とおさらばして、早く漫画を買いに行きたかったのだがどうもそう上手くはいかなそうだ。

 

 

「いやぁ~実は私、朝ごはんをほとんど食べていなくて今とってもお腹が空いているんですよね~」

「それを俺に言ってどうする気だ……」

「さっきいい感じのメイドカフェ見つけたんですけど、学生の千歌からしたらちょ~っと値段が張りましてぇ~」

「俺に奢らせようという魂胆か。出会ってばかりの男と飯を食うだなんて、お前も相当危ない思考してるな」

「だってこうして喋っている感じ、とても優しそうですから!セクハラ魔でナンパ野郎だけど優しそうです♪」

「もうっ!千歌ちゃん失礼だよ!」

「ホントに余計な一言ばかり付けるよなお前は……しかもまた不名誉な異名が増えてるし」

 

 

 しかしセクハラ魔もナンパ野郎も一概に間違ってはいないので、強く言い返せないから困る。このオレンジ髪の子に言われるのだけは腹が立つけど……。

 

 

 そんなことよりも、そろそろ身体的特徴で2人を判別するのが面倒になってきた。確かこの子達の名前は今までの会話から察するに、オレンジ色の髪をした生意気でアホっぽいのが千歌ちゃんで、ローズバイオレットの髪をした控えめで大人しそうな子が梨子ちゃんだろう。あまり親しくない女の子の名前を下の名前で呼ぶのは慣れないが、苗字が分からない以上仕方ないか。

 

 

「えぇと、千歌に梨子……で合ってるよな?」

「どうして私たちの名前を!?ま、まさか……千歌たちのファンとか!?」

「えぇっ!?まだ私たち活動し始めてそこまで時間経ってないよ!?それなのにファンがいる訳……え、えぇ!?」

「ファン……?」

「千歌たち、スクールアイドルをやっているんです!」

「なるほど、だからお前らの名前を知っているからファンだと思ったのか。でも残念、さっきまでの会話から推測しただけだ」

「デスヨネ~……」

 

 

 千歌が真っ白な灰となって風に飛ばされそうになる。案外ショックが大きかったんだな、それは悪かったと心の中で謝罪しておいてやろう。

 

 それにしてもスクールアイドルか、これは占い通りの思いがけない出会いだ。何だかんだ今までA-RISE以外に他のスクールアイドルと関わりを持つことはなかったからな。でもまだグループ結成から時間が経ってないとなると、まだまだ駆け出しってことか。そう考えると相対的にμ'sが大きく見える。

 

 

「スクールアイドルで秋葉原にいるってことは、もしかしてライブでもやりに来たのか?」

「いえ、今日はただ遊びに来ただけです。千歌たちの学校は静岡の方ですから」

「元々私が秋葉原に住んでいて、しかも東京はスクールアイドルの聖地でもあるので、どうしても行きたいって千歌ちゃんが」

「要はアニメで言う聖地巡礼みたいなものか」

「そうです!梨子ちゃんに案内してもらって、あのμ'sやA-RISEがライブをした聖地を回っているんですよ!」

「μ's、A-RISE……」

「どうしました?」

「えっ、いや何も!」

 

 

 もしここで俺がその2グループのメンバー全員の連絡先を知っていると告白したら、彼女たちはどんな反応をするのだろうか?千歌には『それもナンパで手に入れた連絡先ですかぁ~?』と罵られるか、『会わせてください!!』と懇願されそうな気もする。どちらにせよ、彼女たちの士気が上がるなら会わせてやってもいいかもしれない。たったそれだけで女の子の笑顔が見られるのならばな。

 

 

「千歌、穂乃果ちゃんたちやツバサちゃんたちのようなスクールアイドルになるのが夢なんです!歌とダンスでみんなを笑顔にできる、そんなスクールアイドルに!千歌たちの高校は生徒不足で廃校が決まっているけど、最後の最後くらいはみんな笑顔にしてあげたいなって」

「私も同じです。千歌ちゃんに誘われていつの間にかスクールアイドルになっていたけど、千歌ちゃんたちの夢を聞いたら、それを一緒に叶えたい!そう思ったんです」

 

 

 そっか、この2人は今まさに夢に向かって突っ走っている最中なのか。だったら俺から余計なことはしなくていいな。穂乃果たちμ'sやツバサたちA-RISEに会うのは、自分たちの力で叶えさせよう。スクールアイドルとして成長していけば、いつかライブの舞台で一緒に踊れる日が訪れるだろうから。

 

 

「ありきたりな言葉しか掛けられなくて悪いけど――――頑張れよ」

「ありがとうございます!今はまだ駆け出しなので、応援してくれる人が1人でもいると俄然張り切っちゃいます♪あっ、そう言えばお名前はえぇ~っと……」

「神崎零だ。俺がどんな奴かと言えばそうだな……スクールアイドルたちを導く男かな」

「あははっ!今度は零さんが冗談ですかぁ?」

 

 

 それは全然冗談でもなんでもないんだよなぁ~。μ'sを導いて更に全員恋人にしたってことを自慢したいんだけど、それができないこのもどかしさ。まあこの告白は、コイツらがμ'sやA-RISEと同じ舞台に立った時の出世払いにしておこう。

 

 

 

 

 あぁそう言えば全く関係ない話題になるけど、どうして梨子は千歌に追われていたのだろうか?その疑問だけ解決しないと夜も8時間しか眠れねぇ。

 

 

「なあ、話は初めに戻るけど、梨子はどうして俺に突っ込んできたんだ?」

「あっ、それはですね~」

「千歌ちゃん!?もうそれ出さなくていいから!!」

「えぇ~可愛いのにぃ~。まさか秋葉原でこんな運命的な出会いがあるなんてね~♪」

「私にとっては最悪の出会いだよぉ~……」

 

 

 千歌はカバンをゴソゴソ漁って、何かを取り出そうとしているみたいだ。しかし梨子はその行為を必死に食い止めようとしている。逆にそこまで恐怖に怯えていると、何が出てくるのか無駄に期待が高まるじゃねぇか。

 

 そして千歌はカバンから淡い緑色の物体、どこか両生類のアレ似た――――というか、完全にカエルそのものにしか見えない玩具を取り出した。

 

 

「ちょ、ちょっと早くそれ閉まって……リアル過ぎて近くで見るのは……」

「確かに本物と全く変わらない造形だな。梨子はこれを見て逃げ出したのか」

「それだけじゃないんですよ!ここのネジを回すと――――」

「や、やめて!せめてカエルをこっちに向けないでぇ~!」

「今度はしっかりと梨子ちゃんに挨拶をするんだよ、カエルさん。さあ行っておいで!」

「や……やめてぇえええええええええええええええええええええええ!!」

「うおぉ!!」

 

 

 カエルが梨子に飛びかかろうとしているのは、2人のやり取りを見て想像が付いていた。だけど予想外なのは、梨子がまた俺に飛びついてきたことだ。思わずさっきと同じ反射行動で彼女を正面から抱きしめる。だがもちろん突撃の勢いには耐え切れず、またしても後ろに――――――って、これどんなデジャブ??

 

 

「きゃっ!!」

「うわぁ!!」

 

 

 叫び声までさっきと全く同じじゃないか……?だったらまたセクハラ魔になる前に、手の場所を意識しないと!!でもそんな暇は――――――

 

 

 俺は対策をする間もなく、梨子を抱えたまま再び倒れ込んでしまった。

 そして手を通じて伝わってくるひと時の安らぎ。このずっと触っていたくなる揉み心地、服の上からでも分かる程よい張りの良さ、まさに芸術。手を離そうとしても俺の本能がそうはさせない。俺はおっぱい魔人だ。目の前に触ってもいいおっぱいがあるんだから、その機会を逃すことなどありえない。

 

 

「れ、零さぁん……」

 

 

 いい声だ。男の欲情を唆ってくるいい声をしている。

 よく考えてみれば、突っ込んできたのは梨子の方なんだ。これは事故、これは不可抗力、決して故意ではない。だからもう少しだけ触っても……いいよな?

 

 

 ここで俺が両手の計10本の指に力を入れると、梨子は『ひぃ!』と声を漏らす。そして再び、右手が天高く振り上げられた。

 

 

 うん、まあ、この展開は甘んじて受け入れよう。どうやら俺にまともなオチは訪れないようだ。

 

 

「き……」

「うん、来いよ」

「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「があ゛っ!!」

 

 

 人が大勢いる秋葉原で、またしても男の頬を打ち抜くかのような平手打ちが炸裂した。しかも今度は3割増のパワーで……知り合いになったことで容赦がなくなったのかなこの子は??

 

 

「やっぱりセクハラ魔だったんですね♪」

「うるせぇ元凶」

 

 

 千歌だけは色んな意味で性的に復讐してやろうと、今この時心に誓った俺なのであった。

 




 ラッキースケベは男の基本!


 今回はサンシャイン特別編ということで、千歌と梨子に登場してもらいました。本当は全員出演させたかったのですが、流石に引き伸ばしたくはなかったので敢え無くこの2人に。元々先月行われていたサンシャイン企画でキャラの口調や動かし方はなんとなく分かっていたので、その中でも一番動かしやすい子たちを選んだ次第です。確かスクフェスにもこの2人が先行で出演すると聞いたので、このタイミングでの特別編は丁度良かったのではないでしょうか。

 今回の話でもし今までサンシャインに興味がなかった人が、少しでも興味を向けてくれたら嬉しいです!

 前書きでも書いた通り作品ごとの時系列が分からないため、今回は無視しました。それに伴ってこの話はこの小説本編と一切リンクしないので、一応ご留意ください。



 12月編はこれにて終了し、次回からは新章(1月~)として再びスタートしていきます!



新たに高評価をくださった

AirMacさん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

矢澤のロリ姉妹に子供の作り方をお勉強させる話

 今回から新章に突入します!
 そうは言うものの、いきなりμ's以外のメイン回となってしまいましたが(笑)


 

 新年明けましておめでとう――――ということで、遂に高校生活最後の年明けを迎えた。この前のクリスマスにシスターズへの告白も無事成功したし、俺たちはここから心機一転新たなスタートを切る訳だ。

 

 だがそのスタート直後なのも束の間、俺や穂乃果たち3年生組には受験本番という高校最後の試練がある。もう2週間後に迎えたセンター試験当日に向けて、俺たちは年末年始も返上して勉強をしていた。そうは言っても、俺は余裕だから3人に勉強を教えていただけだけど。そのおかげでことりも海未も、あの穂乃果も1年前とは比べ物にならないくらい学力が向上した。やっぱ俺に任せておけばどんなことでも安心なんだよな~。

 

 

 しかしあまり煮詰めすぎるのも身体に毒なので、今日は久々に1日休みを貰った。まだ冬休み中だし外も寒いし、外出など隠れニートの俺にとっては言語道断なのだが、残念なことに、にこからの連絡によりその計画は破綻する羽目になる。

 

 その連絡の内容が――――――

 

 

『突然だけどお願いがあるの!お母さんと虎太郎と一緒に出かける用事が出来ちゃったから、こころとここあの面倒を見て欲しいのよ。お願い!』

 

 

 ところどころ要約してあるけどこんな感じだ。恐らくあの2人と一番親しい年上が俺だから頼んできたのだろう。自分の彼女が困っているなら見過ごすことはできない。俺も久々に矢澤の生意気姉妹の顔を見たいと思っていた(決してロリコン的な意思はない)し、いい機会だと思いその用事を引き受けた次第だ。

 

 

 

 

 またアイツらと軽口を叩きながら煽ったり煽られたりするんだろうなぁ――――――と、思っていた時期が俺にもありました。まさかただのガキのお守りが、あらぬ方向に進んでいくとは……。

 

 

 

 

「ねーねーおにーちゃん!この男の人と女の人は、どうして裸で抱き合ってるの?」

 

 

 

 

 俺の全身が嫌な汗に包まれる。

 ここあが持っているのは、どう見てもR-18指定の同人誌。しかも開いているページが丁度男がアレを女の秘所に挿入しているシーンである。そしてお互いに抱きしめ合って、男がズンズンと腰を――――これ以上は規制されそうだからやめようか。

 

 簡単に言ってしまえば、まだ小学生のここあがエロ本を読んでいたのである。俺がこころにリビングへ誘導されたその時には既に……だから俺が読ませている訳じゃないから勘違いするなよ?

 

 

「ここあ!それお姉様の本でしょ!?どうして持ってきちゃったの!?」

「だってお姉ちゃんいつもいつも買ってきた本を隠してるんだもん。だから気になっちゃって♪」

「だからって、勝手にお姉様の部屋から持ち出したら怒られちゃうよ」

「帰ってくる前にちゃんと戻しておくからヘーキヘーキ!」

 

 

 この2人はエロ本を読んでも何とも思わないのだろうか?さっきからずっと男と女が身体を交わらせるシーンのページが開かれているのに、2人は気に留めやしない。中途半端なすら知識がなく、皆無だったのが逆に功を奏したな。

 

 そしてこの状況。俺は一切悪くないのだが、もしにこたちが突然帰ってきたら、あらぬ罪を着せられるのは明白だ。ここは早急に目の前の淫行をやめさせるしかない!!

 

 

「おいここあ、その本を早く片付け――――」

「わぁ~すご~い!!この男の人も女の人も、2人共楽しそうだね」

「ホントだ……でもどうして裸で抱き合う必要があるんでしょうか……?」

「お、おいっ!!」

 

 

 ここあは次のページをめくってエロ本の続きを読み始めた。それに今度はさっきまで俺の味方であったこころまでもが、ここあと一緒になってエロ本を眺めている。

 

 ロリっ子2人が堂々とR-18本を見ているこの状況、特に興奮はしないが、言葉では説明できない得体の知れない感情が湧き上がってくる。俺はどうしたらいいんだ……?無理やり取り上げるか?いやいや、絶対に反抗されるに決まってる。そしてその後の最悪のシナリオが――――

 

 

『無理矢理本を取り上げたことを根に持たれる』

『小学校、または中学校で、彼女たちのコミュニティに俺の悪口が広まる』

『その噂を聞きつけたPTAが学校に直訴』

『学校の捜査で俺が犯人として浮上。俺に疑いの目が掛かる』

『通報』

『社会的抹殺』

 

 

 そうなった場合、俺はロリっ子にエロ本を読ませていたとして、公然猥褻罪に問われるかもしれない。

 クッソ……じゃあどうすりゃいいんだこの状況!!いっそのこと、2人に性知識を身に付けさせるのは一つの手かもしれない。どうせいつかは学ぶことになるし、そもそもあの淫乱美少女のにこの妹だ、近いうちに性知識くらい勝手に会得することになるだろう。

 

 

「ねーねーおにーちゃん!この男の人と女の人は、一体何をやってるの?」

「私も知りたいです、お兄様!」

「え、えぇ~と……それはぁ……」

 

 

 こころとここあは純粋で綺麗な瞳で俺を見つめてきやがる。そ、そんな目で俺を見るなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

 

 さっきちょっとくらい教えていいかもとか思っていた自分の心が、ドブ川のヘドロよりも汚れていることがより鮮明になっちまったじゃねぇか!!でもこの歳頃の子供は好奇心旺盛、エロ本の中にいる男と女の行為の意味が分かるまで、決して俺から期待の目を背けることはないだろう。

 

 

「あっ、もしかして分からないの?おにーさん賢いのに分からないの?」

「そ、そうなんだよ!俺は賢いし天才だよ?でも俺にだって分からないことくらい、1つや2つくらいあるって」

「でもお姉様が夜な夜なその本を読みながら、『流石零が勧めてくれた本、いいシチュエーションじゃない♪今度実践してあげようかしら……』と呟いていたのが部屋から聞こえてきたので、お兄様が知らないはずないと思いますけど」

「なん、だと……」

 

 

 にこの奴、妹に聞こえるような声でなんてこと言ってくれてんの!?エロ本は隠れて読むって相場が決まってるだろうが!!

 

 もしやと思い、ここあの持っている本をよく見てみたら、俺がこの前にこに勧めた本と全く同じだった。これは完全に逃げ場を閉ざされちまったぞ!?もうロリコン猥褻犯罪者の汚名は避けられない。仕方ない、ここは少しでも罪を軽くすることだけを考えよう。

 

 

「あっ、男の人が『お前の子宮に赤ちゃんの素を注ぎ込んでやる!!』って言ってるよ。これってどういうこと、おにーちゃん?」

「だから次のページを捲るなって!!」

「だっておにーちゃん全然教えてくれないんだもん。続きを読んで理解するしかないんだけど……うぅ~ん、分からないや」

 

 

 このままここあがページを進めていけば進めていくほど、俺が解説しなければならない性知識と淫語録が増えていくだろう。時間が経てばそれだけ後の負担が大きくなる。

 

 だったら、ここで軽く解説してコイツらを満足させるしかない。どうせ2人に性知識は皆無なんだ、適当にそれらしい話ででっち上げておけばそれでイージーウィンのはず。

 

 

「分かったよ、教えてやる」

「ホントに!?やったぁ~♪」

「なんだかんだ私も気になっていたので楽しみです♪」

 

 

 そんな期待した目で俺を見るんじゃねぇよ!!話し辛いだろうが!!

 でも言ってしまった以上、もう引き下がることはできない。猥談がここまで恥ずかしいことだと感じたのは始めてだ。今だけことりのオープンスケベな性格が羨ましいよ。あの強靭な精神は真似できないからな……。

 

 

 ここでくすぶっていてもしょうがない。俺も腹をくくろう!

 

 

 

 

「この2人はな、その……あれだ――――――子作りをしているんだ」

「「子作り……」」

 

 

 

 

 あ゛ぁあああああああああああああああああああああああ!!遂に……遂に言っちまった!!まだ小学生と中学生の純粋で天使な少女たちを、この手で穢してしまったァアああああああああああああああああああ!!

 

 恋人である花陽や亜里沙を穢すことに、もう躊躇いを感じることはないだろう。だけどこの2人は話が別だ。花陽や亜里沙もまだ天使だけど、この2人はまだ真っ白な羽が生えたばかりのウブな小天使、花陽と亜里沙に比べれば罪悪感が全然違う。俺にまだ罪悪感を感じる心が残っていたことにも驚いたが、それ以上に小中学生のロリっ子に性知識を会得させようとしている、この状況がとてつもなくツライ!!ここまで俺が罪悪感で押しつぶされそうになるとは……。

 

 だがさっきも言った通り、言ってしまった以上もう引き返せない。こころとここあはポカーンとしていたが、またしても期待を込めた瞳で俺を見つめる。どうやらコイツらの好奇心はまだ収まっていないようだ。

 

 

「へぇ~男の人と女の人が抱き合ったら子供が産まれるんだぁ~」

「えっ!?だったら以前私、お兄様と抱き合ったことありませんでしたっけ!?もしかして、私のお腹の中にお兄様の赤ちゃんが!?」

「そう言えば私もだ!おにーちゃんと抱き合ったことあるよ!!」

「おいおい勝手に話を歪曲させるな!!ただ抱き合うだけじゃ赤ちゃんなんてできねぇよ!!」

「それじゃあどうやったらできるの?」

「あ……」

 

 

 し、しまった!!更にドツボにハマってるじゃねぇか俺!?適当な説明でこの話題を終わらせようと思ったのに、またコイツらの好奇心を煽ることを……!!

 

 

「この本を見る限り、男の人がたくさん腰を動かしていますね。これが子作りと関係あるんでしょうか?」

「関係あると言えばあるし、ないといえばない……かな?」

「この男の人の下半身に付いてるのって、虎太郎にも付いているおち○ちんだよね?それが女の人のお股に――――」

「おぉっと!!それ以上言ったらダメだ!!規制的な意味でダメだから!!」

 

 

 どんどんロリ少女たちに無駄知識が詰め込まれていく。いや、後々の人生のことを考えれば全然無駄ではないのだが……。とにかく、説明しなかったら質問が飛んでくるし、説明をしても更なる好奇心を揺さぶって新たな疑問をぶつけられてしまうだけだ。

 

 

 つまり――――――詰んでる??最近四方八方塞がりになること多くね!?

 

 

「詳しいことはこれから保健の授業で学ぶだろ。だから今はその本を片付けて――――」

「でもこの人のおち○ちん大きいね、虎太郎のとは全然違う。男の人って大きくなったらここも大きくなるのかな、こころ?」

「私に聞かれても……どうなのですかお兄様?」

「いや俺に聞かれても……」

「なんでさ!おにーちゃん男の子なんだから知ってるでしょ!」

「知ってるけどさぁ……」

「なら教えてよ!おにーちゃんが妹に勉強を教えるのは普通のことじゃないの?」

 

 

 いつもは生意気に俺のことをロリコン野郎とか罵ってくるくせに、こういう時だけはちゃっかりと兄妹のシステムを活用するんだもんなぁここあの奴。もちろん俺たちは本当の兄妹ではないが、こころもここあも妹のように可愛がっていることは事実、兄としてちゃんと教育させてやるべきなのか……?

 

 

「そうだよ。男は成長すればあそこも大きくなるんだ。たまに短小っていう例外もあるけど、大体は大きくなると思うぞ」

「へぇ~。じゃあ虎太郎のもこうなるんですね……不思議です」

「そうだ!折角だし、おにーちゃんのを見せてよ♪」

「ん????」

「え……?」

 

 

 あれ、難聴主人公じゃないけど今の言葉は全く理解できなかった。今コイツなんて言った?会話の自然な流れで言ったにしては、かなり衝撃的な言葉が発せられたような……あぁ、多分聞き間違いだろうな。小さな女の子であろうが、男のグロデスクなアレを見たがるなんて有り得ない。そろそろ俺も耳掃除をした方が良さそうだな~。でも――――

 

 

「一応だけどもう一度聞くぞ。ここあ、お前さっきなんて言った?」

 

 

 

 

「見せてよ、おにーちゃんのおち○ちん!」

 

 

 

 

 これほどもう一度聞き返したことを後悔した瞬間はない。ここあのことだから聞き返さなくても同じことをまた言っただろうが、興味本位から抜け出せずこちらから聞き返した分の衝撃が凄まじい。しかも"見せてよ"と笑顔で言ってくるんだぞ?この場を穏便に切り抜けられる手段を教えてくれた人に、俺のμ'sハーレムを1日だけ貸してやってもいい。だから助けろ……助けてください。

 

 あまりの衝撃に開いた口が塞がらず、そして身体も小刻みに震えている。やはりロリっ子は怖い。こんなことを純粋な瞳、明るい笑顔で平気で言ってくるんだから。同じ瞳と笑顔を向けてくるが黒さしか感じられないことりや楓とは全然違う。ここあの純白さが眩しく輝き、そしてたじろいでしまう。

 

 

「もうここあ!そんなこと言ったらお兄様に迷惑でしょ!!」

「え~でもこころは見たくないの?」

「興味ないことはないけど、お兄様が困っていらっしゃるし……」

「まあ、こころがそう言うのなら仕方ないな。諦めろ」

「む~!もしかしておにーちゃんのおち○ちん、ちっちゃいの?だから恥ずかしいの?」

「は……?」

 

 

 これには俺もマジなトーンでの『は?』が出てしまう。実際に人のと比べたことはないから分からないけど、流石に小さくはないと思う。しかしそれを証明するにはこころとここあの前で、俺の分身を出さなければならない。小学生と中学生の目の前で性器を曝け出す男子高校生……うん、もう立派な犯罪者だな。

 

 だがここでここあの挑発に乗る訳にはいかない。彼女は挑発をしているなんて微塵も思っちゃいないだろうが、ここで大人気無く下半身を曝け出してしまうのは、俺のプライドが許さない。決して小さい訳じゃねぇからな!!

 

 

「とにかく見せるのはなしだ。お前も俺に『股を見せろ』って言われたら、恥ずかしいだろ?」

「確かにおしっこをするところを見られるのは嫌かも……」

「私も恥ずかしいです……」

 

 

 あぁ、やっぱり2人にとっては女の子の股は放尿目的だけって認識なんだな。まあそれ以外の知識がないからそう思っていても仕方ないか。そう、これから徐々に学んでいけばいいんだ。ここで敢えて俺が教える必要もない。

 

 

「でも、私はお兄様だけだったらいいと思ってます」

「は、はい……?」

「だって私、お兄様のこと大好きですし♪」

「えっ…………え゛ぇえええええええええええええええええええええっ!?!?」

「むっ、だった私もおにーちゃんのこと好きだよ!この本みたいに、好き同士だったら見せ合ってもいいんだよね?」

「違うから!!いや違ってはないけど違うから!!色々過程をすっ飛ばし過ぎだ!!」

 

 

 恐らくコイツらの"好き"は、俗に言う"LOVE"ではなくて"LIKE"の方だろう。兄妹として兄を慕っている、その意味での"好き"だと思う。むしろそうでなかったとしたら、俺は混乱で脳細胞ごと身体が破裂してしまう自信がある。ただでさえシスターズの恋愛で散々悩んだり迷ったりしたのに、中学1年生と小学6年生の女の子に対してどう返事をすればいいのか、全く頭に浮かばない。本当に"LIKE"だよね……?

 

 

「でもこの本の男の人も女の人も、とても気持ちよさそうに抱き合ってますよね?」

「女の人とか『もっともっと♡』とか言ってるし、おち○ちんを入れてもらうのってそんなに気持ちいいの?」

「言っちゃったよコイツ!?しかしそれはマジで知らない。俺には経験がないからな。それに男だから、挿れられたらどうとか分かんねぇ」

 

 

 ――――って俺、子供相手になんて会話してんだ……。

 でも経験がないのは本当だ。彼女が12人いるのにも関わらず、まだ下半身と下半身で繋がったことがないのは褒めて欲しい。俺が性欲魔人だからとっくに手を出していると思っただろ?何度も言っているが、責任が持てる時になるまで悔しいけどお預けだ。

 

 

 するとここで、ここあが何かを閃いたかのような顔になった。頭の上に電球が見えそうだ。

 しかし、俺にとってはその顔は悪魔の笑顔にしか見えない。

 

 

 

 

「経験がないなら、経験しちゃえばいいんだよおにーちゃん!私とおにーちゃんで繋がればいいんじゃない?」

「はい……?」

 

 

 

 

 もう今日何度目か分からない爆弾発言。俺の思考回路をオーバーヒートさせる気かコイツ!!

 しかも厄介なのは、こころもここあの発言には何の悪意も込められていない。ただ子供特有の好奇心、自分たちの知らないことを知りたいという探究心、その純粋な気持ちが逆に俺の心に突き刺さるのだ。

 

 

 これは命を掛けてでもこの状況を打開しないとマズイ!いつもみたいに欲望に囚われてしまったら最後、もうロリコンのレッテルだけでは済まされない事態に陥る。

 

 

「あれ?おち○ちんから液体みたいなのが出てるよ?これなんだろ……おしっこじゃないよね?」

「本当だ。しかも白いくて粘り強そうで、たくさん漏れ出してます……お兄様、一体これは何なのですか?」

「もう勘弁してくれ……」

 

 

 2人は更に本を読み進め目を付けたページは、男女の性交渉が丁度クライマックスを迎えている場面だった。遂に俺は彼女たちを止めることはできず、ロリっ子2人にエロ本を最後まで読むことを許してしまった。これをにこやにこの母さんに知られたら、一体俺はどんな仕打ちを受けるのだろうか?いつもはなんだかんだ許してもらていたが、今回ばかりは穏便に解決しそうには思えねぇ……。

 

 

「まあそれもこれも、おにーちゃんと繋がれば分かることだよ!すっごく気持ちよくなれるらしいし、一度でいいからやりたいな~♪」

「この本の最後、お互いにキスし合って終わってます!まさかキスも赤ちゃんを作るために必要……?」

 

 

 あぁ、もう俺考えるのはやめようかな……。いっそのこと周りにバレなければいいんじゃないかと、思考停止で錯覚するようになってきている。それくらい2人の純粋無垢な勢いに圧倒されていた。

 

 

 しかしそう諦めかけていたその瞬間、俺の下半身に刺激が走る。

 

 

「がぁっ!!」

「あっ、ゴメン痛かった?」

「こ、ここあ……どこ触ってんだ?勝手に触るなよ!!」

「でもさっきのお兄様の顔、結構気持ちよさそうでしたけど……」

「そ、そんなことは断じてない!!うん、俺は小さい子の手で触られただけでそんな……」

「じゃあ脱がしていーい??ていうかもう脱がすね♪」

「お、おいやめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 その後、数十分掛けて矢澤のロリ姉妹と死闘を繰り広げるハメとなる。その結果、無事犯罪者になることはなくこの場を収束させることができた。そのために俺はこの薄い本の状況を詳細に説明することになったのだが、2人に性知識を教え込んでいる時の記憶はあまりない。羞恥心と罪悪感でもう思い出したくもなかった。

 

 

 しかし、またこの世に堕ちた天使が降臨したことに関しては、いつか絶対に懺悔するから許してくれ……。

 




 無知なロリというのは今回のように色々と性知識を教え込むことができて、私としては興奮するポイントの1つです。逆にちょっと性知識に長けてはいるけど、未経験だからこっちから迫ると顔を真っ赤にして恥ずかしがるロリキャラも好きですけど(笑)

 零君のせいで、もしかしたらこころとここあが『エロ』+『ビッチ』+『ロリ』の驚異の3属性を持つ可能性も無きにしも非ず。天使を穢したという苦情は私でなく彼にお願いします!!!!


 次回は海未回となります。彼女には是非やってもらいたいことが……



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海未ちゃんのギリギリアウト(前編)

 今回はサブタイで分かる人もいるかもしれませんが、とある漫画の設定をお借りして、海未ちゃんに犠牲となってもらいました!(笑)


 

 

 本当の災難というのは、何の前触れもなく突然やってくるもので――――

 

 

「どうして縛られているんですか!!」

「う~ん、最近忙しくてイライラしてたから……かな?」

「私が聞いているのです!!」

 

 

 今のこの状況、一体何が起こっているのかを簡潔に説明しましょう。

 私、園田海未はいつの間にか誰かに眠らされ、気付いたら秋葉さんの研究室に囚われの身となっていました。以上です。

 

 

「道端で突然意識を失わせて密室に監禁するだなんて、ただの犯罪者ですよ」

「マッドサイエンティストは自らの手を汚しまくるものなんだよ。そんなことより、ほら」

「な、なんですかその緑の液体が入った怪しげな小瓶は……!!」

 

 

 もう暴走する零や秋葉さんには何度も関わっているので、認めてしまうのは不服ですがこの状況にも段々慣れてきています。だから彼女の持っている謎の液体が、また私の人生の汚点を造り上げる魔の薬物だということも分かっている訳でありまして……。

 

 

「だって海未ちゃん、まだ零君に対して素直になれないんでしょ?だけど大丈夫、このおクスリを使えば簡単にお近づきになれるから!」

「またですか!?以前も勝手に薬を盛られて、そのせいでヒドイ目にあったんですからね!!」

「うん知ってるよ、私が仕組んだんだし。でも今回は勝手に発情することはないから大丈夫だって!自然な形で零君にお近づきになれるから」

 

 

 零は言っていました。『仲間を信じろ、そしてその仲間が信じる仲間も信じろ。信じる力は絆を生む』と。しかし、こうも言っていました。『秋葉だけは信じるな』と。その言葉が今物凄く脳内でリピートされています。以前妙な薬を盛られて、胸が大きくなったのと同時に感度が数百倍に上がる恐怖を体験しました。今まさにその恐怖が蘇ってくるのが分かるのです!!早く……早く逃げないとまたしても!!

 

 しかしどれだけ動いても縄は解けるどころか縛りが弱まる素振りすら見せません。もう何回も人を実験台として縛って監禁しているので、彼女の束縛スキルは並大抵ではないのでしょう。

 

 

「縛られてるのに、この密室の研究室から逃げられる訳ないでしょ?フフフ……」

「あ、悪魔がいます……」

「私が楽しめるならそれでいいんだよ♪それに欲望が溢れ出ないと、こんなおクスリなんて作れないでしょ」

「もはや人間じゃないですね、秋葉さん……本当の悪魔です!!」

「悪魔?このおクスリは海未ちゃんの恋を大きく促進させてくれるものなんだよ?たまには零君といちゃらぶエッチしてみたいでしょ?」

「い、いちゃらぶはしてみたいですが……そ、そのあとの行為はまだ早いです!!」

「全く、私に対しても素直じゃないんだから……。まぁ、それもこれもこのおクスリがあればぜ~んぶ解決できるけどね♪」

 

 

 私への手助けなど、恐らく私で遊ぶための口実でしかないしょう。あの憎たらしい笑顔を見れば分かります。零や楓の黒い笑顔も大概ですが、私はこれほどの悪魔の笑顔を見たことはありません。

 

 しかし、危険だと察知していながらも逃げられないのが事実。縛られているから逃走は不可能、手も満足に動かせないので携帯にも触れられない、そして研究室は防音完備で大声も届かず――――完璧な監禁に一周回って関心してしまいそうですよ……。

 

 

「さぁて、最近仕事や実験が忙しかった恨みも込めて、海未ちゃんにこのおクスリを使ってみよう!」

「そんな子供の好奇心みたいに……それにやっぱりそっちが本心なんじゃないですか!!」

「まぁまぁそうカリカリしなさんな。これを機会にたっぷりと零君に甘えられるようになるから。もちろん自然にね♪」

「そ、そんな真っ黒な笑顔で近付かないでください!!」

「ん~?フフッ、悪魔はね、イタズラが大好きなんだ♪」

「い、い……イヤァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 そこで、私の意識は再び途切れた。

 途切れた意識の中で何があったのか……いや、知りたくないです。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 結局、私が目覚めたのは翌日の朝でした。

 しかし妙なのは、私の身体に一切の変化がないことです。この前のように胸が大きくなっていたり、感度が上昇していたりなどという症状が一切ありません。もしかして秋葉さんに監禁される夢でも見ていたかのようですが、あれは間違いなく現実の恐怖に間違いないです。それにあの人のことなので、まだ全然油断もできませんね。

 

 

 そして現在、私は穂乃果とことりと一緒に登校中です。そこでも特に違和感を感じることはなく、彼女たちと普段通りの会話をしている間に、秋葉さんとの一件などもう忘れ去られようとしていました。私の心に一抹の不安を残しつつも、徐々に安心の色が滲み出てきています。

 

 

 しかし、いつもの日常に戻った私に再び不安が実ったのは、穂乃果とことりと談笑しながらしばらく歩いているその途中でした。

 

 

「海未ちゃんどうしたの?歩くのちょっと遅くない?」

「そ、そうですか?穂乃果が浮き足立っているだけなのでは?」

「む~どうしていきなり馬鹿にされてるのかな!?そりゃあ冬休みが終わって零君に会えるんだから、嬉しくはあるけどね」

「ことりも零くんに会うのが楽しみすぎて、昨日は全然眠れなかったよ。零くんの声が聞きたくて、毎晩ずっと出てくれるまで電話を掛けてたくらいだしね♪」

「零君寒がりだから全然家から出てくれないもんね~困っちゃうよ!」

 

 

 ことりの異常な行動にツッコミを入れるのも忘れるくらいに、私の身体に変化が起きていたのです。さっきから……さっきからずっと――――――

 

 

 

 

 ト……トイレに行きたいです!!

 

 

 

 

 あまりこんなことは言いたくないのですが、さっき突然尿意が襲いかかってきました。もちろん我慢してはいるのですが、何故か膀胱が活発に仕事をしているのが手に取るように分かります。そのせいで我慢しようとも我慢しきれない、尿が今にも出そうな感覚に陥っているのです!!

 

 もう私は穂乃果とことりの会話など耳に入って来ず、周りの景色でさえも目に入らなくなっていました。もう脳内はどうやってこの尿意を抑えるか、その方法を探るためだけにしか働いていません。

 

 うぅ……でも迫り来る尿意のせいで、考えても考えてもいい策は思いつきません!こ、このままでは本当に漏らしてしまいます!!

 

 私は脚を内股に寄せ、もし漏らした際に少しでも被害を軽減できるように対策をしますが、果たしてこれが有効なのかは分からないです。1月だというのに汗もかき、私はいつの間にか手をスカートの上から股に当てていました。苦肉ですが、もうこれくらいしかやれることはありません!!

 

 

「海未ちゃん!」

「ひゃっ!!な、なんですか!?」

「さっきの穂乃果の話、ちゃんと聞いてた?」

「へ?あ、あぁちょっと考え事をしてたもので……すみません」

「も~!冬休みは勉強ばかりだったから、今日の放課後くらいは気分転換に遊びに行こうって話だよ」

「い、いいんじゃないでしょうか。私は別に構いませんよ……う、うぅ」

「ことりちゃん、まさか海未ちゃんがこんなにあっさり同意してくれるなんて……別人かな?」

「確かに意外だけど、海未ちゃんも勉強の煮詰めすぎで疲れてるんじゃないかな?」

 

 

 話にうつつを抜かして気を抜いてしまうと、その瞬間に漏らしてしまいそうで怖いのです!いっそのこと建物の陰に入ってやってしまっても――――い、いけません!私はなんてはしたないことを……。幸いにも学院へ行く途中にコンビニがありますから、そこで済ませられれば私の勝利です!そこに辿り着くまでは死に物狂いで持ちこたえなければ!!

 

 

「海未ちゃ~ん!元気がないんだったら穂乃果が元気付けてあげるよ♪それっ!」

「~~~~~~~~~~~~ッ!!!!」

 

 

 突然穂乃果が後ろから抱きついてきたことで、私の膀胱に衝撃が……衝撃がぁ~~……。

 さっきまで一定の位置をキープしていた尿意メーターが、穂乃果のせいで一気に決壊に近付いてます!!漏らす……耐えてください、私!!

 

 

「や、あぁ……ほ、穂乃果ぁ~……」

「おっ?海未ちゃんからそんな色っぽい声が出るなんて珍しいですなぁ~」

「穂乃果ちゃん、危ないおじさんみたいだよ……」

「ぐへへ、お姉ちゃんいいカラダしてますなぁ~」

「う、はぁ、んんっ……」

 

 

 あぁ~もう穂乃果ぁ~~!!そんなに身体を揺らされたら我慢するしない以前に、もう勝手に漏らしてしまいそう……。

 

 

「海未ちゃんのその蕩けそうな顔……もしかして、穂乃果ちゃんに抱きつかれて興奮しちゃってたり??」

「そ、そんな訳ないじゃないですか!!」

「もう、穂乃果たちには零君がいるんだよ?流石に百合は許してくれないと思うけど……」

「違います!!そんなのじゃありませんから!!」

 

 

 あっ、ダメです……大声を出せば出すほど膀胱に力が入って尿意が……。んっ、あぁ……登校前にしっかりトイレに行ってきたはずなのに、どうして急にこんなこと……。

 

 そしてふと、私は1人の女性の顔が頭に浮かびました。それはもちろんあの悪魔、秋葉さんの憎たらしい笑顔です。昨日私が彼女に捕まって意識を失う前、何やら妙な薬を投与された記憶があるんですよね。もしかしたらそれが原因?この猛烈な尿意は秋葉さんの薬の魔力によるものなのではと、勝手に推測します。

 

 ですが、秋葉さんはこう言っていました。『これを機会にたっぷりと零君に甘えられるようになるから』と。この尿意の暴走と、零に甘えられるのは一体どのような関係が?完全に気休めのため零を引き合いに出してきたとしか思えません!!もう絶対に信じないです、あの人の言葉だけは……。

 

 

 しかし、絶望の淵に立たされていた私に、遂に転機が!

 

 

「あっ、あそこのコンビニでパン買ってくるよ!」

「穂乃果ちゃん、年末年始に食べ過ぎたから今はダイエット中だって言ってたよね?」

「そ、そうだったぁ~……」

「コンビニ……コンビニ……コンビニ!?!?」

「うわっ!もう海未ちゃん急に叫ばないでよ!」

 

 

 ようやくトイレにありつくことができそうです。ですがここで安堵してはいけません。トイレの中に入って便座に腰を掛けるまでは……一瞬でも気を抜けば、私の膀胱ダムは速攻で決壊して、道端に黄金の滝が流れ出すことに――――って、何を言っているんですか私は。こんな破廉恥な表現をするなんて、まるで零みたいです……。あまりの尿意に私の思考回路がおかしくなっているだけでしょう。絶対にそうです。

 

 

「ちょっと私はコンビニに用事があるので、穂乃果とことりはここで待っていてください。ここから動いてはいけませんよ?分かりましたね!?」

「そんなに念を押さなくても……小学生じゃないんだから」

「でも海未ちゃんが登校中にコンビニに行くなんて珍しいね」

「へ?あ、あぁ、それは飲み物を忘れてきたので買いに行きたかったのですはい……」

「ふ~ん、忘れ物をするのも珍しいよね」

「そ、そうなんですよ!今朝は結構ドタバタしていて……とにかく、すぐに戻ってきますのでここで待っていてください!」

「う、うん……」

 

 

 私は2人を強引にこの場に待機させ、足早にコンビニへと向かいました。もし2人がコンビニについてきてしまった場合、すぐトイレに駆け込んだら今まで私がずっとトイレを我慢していたことがバレてしまいますからね。例え幼馴染であっても、それは流石に恥ずかしいですから。

 

 

 そして私はコンビニに突入すると、商品棚の間をそそくさと抜けトイレへと向かいます。

 あと数十秒、数秒。もうすぐでこの1人我慢大会から解放される時が来るのです。しかしさっきも言った通り気を抜いてはいけません。もしかしたら誰か他の人がトイレに入っている可能性も考慮して、まだ精神は研ぎ澄ませておいた方いいですから。

 

 もう少し……あともうちょっとでトイレの前です。誰も入っていないことを祈りながら、私は一歩一歩トイレへ歩を進めていきます。

 

 

「あ……」

 

 

 遂にトイレの前へと辿り着きドアの鍵を見てみると、どうやら鍵は空いているみたいです。

 ようやく私が尿意の恐怖から解放される時が来たのですね!尿意を感じ始めてからここまでまだたった十数分程度なのですが、今の私のとっては長年連絡が取れなかった友達に出会えたような、トイレに対してそんな喜びを感じてしまいます。

 

 さあ、私を天国に連れて行ってください。このドアこそが天国への入口。早く私に至高の快楽を――――――ん?あ、あれ……?

 

 

 

 

 ど、ドアが……開かない?

 

 

 

 

 一体どうなっているのです!?鍵は空いているのに、ドアは開かないなんて……!!

 

 

 するとここで、初めて私はトイレのドアに貼ってあった張り紙を見つけました。その張り紙には、無慈悲にも私を絶望させる文章が――――――

 

 

『トイレの鍵が故障中で、現在ご使用いただけません。不便をお掛けします。 店長』

 

 

 喜びも、安心も、天国も、その全てが私の中で崩れ去っていきます。そして同時に私の膀胱のダムも崩れ去りそうになり、私は思わずスカートの上から下半身を押さえ込みました。

 

 そ、そんなことって……どうして今日は私に不幸ばかり舞い降りるのでしょう!?そこまでして人の期待を打ち砕くのが楽しいのですか神様ァアあああああああああああああああああああ!!

 

 

 あっ……トイレに行けないと分かった瞬間に、再び膀胱が活発に仕事をし始めて――――!!不安と絶望が襲いかかってくることで、今まで以上に尿意メーターの進行が早く、このままでは店内に漏らしてしまいそう……せめて外に出ないと!でももう脚を動かすだけでダムが決壊してしまいそうなこの状況、コンビニの外へ出ることができるのかすらも危ういです!!

 

 

 

 

 あっ、また猛烈に尿意が……!!

 

 

 

 

 うっ、うぅ……店内で漏らしてしまう、この変態をどうかお許し下さい……。

 

 

 

 

 ふぁ、んっ……ダメ……もう、限界……です。

 

 

 

 

「おい、そんなところで(うずくま)って何やってんだ?」

「れ、零……?」

 

 

 誰かに肩に手を置かれ思わず振り向くと、そこにいたのは我が想いの人である零でした。彼は不思議そうな表情で私の顔を覗き込んで――――――あれ?

 

 

「どうした?さっきまで身体が震えていたのに、俺が触れた瞬間にピタッと止まったけど」

「消えてます……」

「な、何が……?」

 

 

 肩に零の手が触れたその時、私の尿意がスゥーッと引いていくのが感じられました。もうあと数秒で漏らしてもおかしくない状況だったのに、彼の手によって尿意が鎮まっていったのです!そしてさっきまで感じていた膀胱の重みも普段通り、まるで今さっき用を足してきたかのように軽くなっています。

 

 零がどんな力を発揮したのかは知りませんが、尿意の恐怖さえ跳ね除けてくれさえすれば、私はそれで満足です!やはり彼が私の白馬の王子様だったのですね!!私がどんなピンチに陥っても助けてくれると信じていましたから!!

 

 

「零!!」

「なんだよさっきから表情がコロコロ変わりやがって!?今度は明るい笑顔になってるし……」

「ありがとうございます!あなたのおかげで人生を棒に振らずに済みそうです!」

「はぁ?」

「私は今まであなたに何度も助けてもらいましたが、ここまで感謝をしたいと思ったことはありません!私が出来る範囲なら何度もしますから、是非なんなりとお申し付けを!」

「お、おう、それは嬉しいけどさ……ここコンビニだから、もう少し静かにしろよ。な?」

「あっ……」

 

 

 早朝のコンビニなので、学校や仕事に行く人でコンビニにはそこそこの人数が……うぅ、結局恥ずかしい思いをしてしまったじゃないですかぁ~……。でもこの場で漏らしてしまうことを考えたら全然マシですね。

 

 

 しかし秋葉さんの薬のことです、これからも尿意に苦しめられる時が来るかもしれません。ですが零さえいてくれればその尿意も鎮めることができます。

 

 いいでしょう、秋葉さんの卑劣な攻撃に真っ向から迎撃ってあげます。彼と一緒ならもう怖いことなど一切ありません!秋葉さんは私が尿意で苦しんで悶える姿を想像して面白がろうとしているみたいですが、その憎らしい笑顔を焦燥に変えてあげることが出来るかもしれませんね。

 

 

 

 

 だがしかし、この時の私はまだ気付いていませんでした。

 

 

 秋葉さんの罠が、これだけでは終わっていなかったと――――――

 

 

 

 

To Be Continued……

 

 




 秋葉姉ちゃんおひさ!(数カ月ぶり)


 今回は電撃コミックス『ギリギリアウト』から設定をお借りしました。
 原作も同じような作風なので、この話を読んでお漏らし我慢プレイが見たいという物好きさんがいましたら、是非読んでみてください。Webで試し読みも出来るので、購入の際に参考になりますよ!(ダイレクトマーケティング)

 そして、秋葉姉ちゃんは最近出番がなさすぎて悪魔になってしまったようです()


 次回はこの続きから。秋葉姉ちゃん、最大のトラップ!



新たに高評価をくださった

迷えるチキンさん

ありがとうございました!



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海未ちゃんのギリギリアウト(後編)

 お漏らしコメディの後半戦。今回の天敵は、なんといっても悪魔と小悪魔である神崎姉妹。前回よりも卑劣な罠が海未ちゃんに……


 

 前回、秋葉さんの薬によって、私は激しく尿意を感じる体質に変えられてしまいました。登校途中に膀胱が破裂しそうになった時には、周りの目線に己の人生の終わりを予感してしまうくらい追い込まれ……。

 

 しかし、そんな私を救ってくれたのは、我が想い人である零でした。彼が私の肩に手を触れると、尿が溜まってずっしり重かった膀胱が、みるみる内に軽くなったのです。どんなマジックを使ったのかは知りませんが、彼ならば秋葉さんの薬の力に対抗できる!そう思った私は今――――――

 

 

「おい海未……近くないか?」

「たまにはこうして触れ合っていてもいいじゃないですか。恋人同士なんですし」

「そりゃあそうだし俺も嬉しいけどさ――――ここ、教室だぞ?」

「たまにはいいんです!!」

 

 

 普段は穂乃果やことりが零にベタベタと引っ付き、私が叱りつけるといった流れが定番なのですが、今日に限っては事情が事情、2人を跳ね除けてでも彼とくっついていたいのです!だってそうしないと……も、漏れちゃいそうですし。緊張が高まれば高まるほど、尿意が強くなっている気がします。

 

 

「それにほら、あなたに引っ付いていると暖かいですし!湯たんぽ代わりに家に欲しいくらいですよ、ハハハ……」

「そんな一家に一台神崎零みたいな言い方すんなよ。それよりお前、なんか無理してね?」

「そ、そんなことないですよえぇ。ただ単に私があなたの隣にいたいだけです。嬉しいでしょう?」

「最後の煽りさえなければ良かったんだが……ま、女の子にくっつかれるのは悪くないし、好きにしろ」

「言われなくても好きにします」

「お前そんなに強情だったっけ……?まあいっか」

 

 

 ふぅ~。いくら零でも、私の身に起きていることは察せなかったようですね。流石にいくら相手が自分の彼氏であっても、『あなたと一緒にいないと漏らしちゃうのです!!』とは恥ずかしくて言えませんから。それを羞恥を感じずに相談できれば、もっと楽に日常生活を過ごせると思うんですけどね。こういう時だけは穂乃果やことりの積極さと無頓着さが羨ましく思います。

 

 

「む~なんか零君、穂乃果たちが抱きつく時と海未ちゃんにくっつかれる時で、全然対応が違うよね??」

「ことりたちが抱きついたら、零くん全力で拒否してくるのにね」

「お前らは人目が付くところでも突然抱きついてくるからだろうが。あれ結構恥ずかしいんだからな」

「じゃあこれからは『抱きつくよ♪』って言ってから抱き掛かるね!」

「事前申告の問題じゃねぇよ!それ以前に海未が自ら俺に引っ付いてくるなんて珍しいから、敢えて許容している部分はある」

「ぶーぶー!エコ贔屓だーー!!」

「ことりたちも海未ちゃんも同じ零くんの恋人なんだから、差別は禁止だよ!!」

「お前ら、これまでの自分の行動を振り返ってみろって……」

 

 

 いつもは2人を叱ってばかりの私ですが、彼の隣りにいると尿意とか関係なく、心がドキドキしてしまうのも事実です。穂乃果とことりには悪いですが、もうしばらく彼の隣りを陣取らせてもらいましょう。普段は2人に譲っているのですから、今日くらいは別にいいですよね?

 

 

 しかし、ここで授業開始のチャイムが鳴ってしまいました。ここまで休み時間が短いと感じたのはこれが初めてかもしれません。名残惜しいですがもう離れないと……。彼と私の席はそこそこ離れてしまっているので、ここから45分、またなんとしてでも膀胱の重圧を耐え切らなければ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「うぅ……早く!早く!!」

 

 

 授業終了のチャイムが鳴ると同時に、私は教室を飛び出しました。

 目的はもちろん女子トイレに突撃すること。授業開始直前まで零に触れていたので、授業中は安心だと思っていたのですが、そこは秋葉さんの作った薬、そう甘い展開にはならないみたいです。授業開始十数分後にはもう尿意を催し、授業時間残り10分を切った時点で登校中に襲いかかってきた尿意と、全く同じ勢いで襲いかかってきました。

 

 

 幸いなことに、教室からトイレまでは近いので、途中で漏らしてしまうなんてことはないでしょう。しかも授業終了と同時に飛び出してきたので、誰かがトイレに入っているなんてこともない。さらに、コンビニでの失敗を活かして、事前にトイレが故障で使用不可になっていないことまでも確認してあるという用意周到っぷりです。これで私の勝利は確定!もうなにも邪魔するものはありません!!

 

 

 しかし、勝利を確信したその直後でした。

 トイレ直前の階段から、誰かがこちらの階に上がってくるのが見えたのです。そしてその人影は、私の目の前に――――――

 

 

「あれ、海未先輩。こんにちはです~♪」

「か、楓……」

 

 

 その時、私は戦慄しました。

 あの姉にしてこの妹。もし私の身に起こっているこの状況を察知でもされたら、彼女は確実に私の邪魔をするでしょう。どうして彼女が3年生のフロアに上がってきたのかは分かりませんが、そんなことよりもとりあえずここを穏便に切り抜けなければ!!こんなところで黄色の水たまりを作る訳にはいきませんから。

 

 

「先輩、なにか急いでます?」

「べ、別にそんなことは……あなたは零に会いに来たのですか?」

「はい♪学院内でもたまにはお兄ちゃんと一緒に過ごしたいなと思いまして。それにお兄ちゃんのクラスの女にも、私がお兄ちゃんの恋人だってことを見せつけないと!」

「そうですか……。それでは私はこれで……」

「ま、それよりももっと――――」

「えっ!?」

 

 

 私が楓の隣りを通り抜けようとした時、彼女は私の進路を塞ぐように立ちはだかりました。私は何とか切り返して彼女をスルーしようとするも、私よりも何倍もフットワークが上の楓には敵わず、尽く進路を防がれてしまいます。そしてその時の彼女の表情を見て、私の戦慄が高まりつつありました。一言で言えば"黒"、彼女に小悪魔の片鱗が現れ始めていたのです!

 

 

「なっ……一体何を!!」

「まあお兄ちゃんとも戯れたいけど、今はそれ以上にもっと面白いことを思いついちゃいましたから♪」

「楓、あなたって人は……」

「フフッ、トイレに行きたいんでしょ先輩?折角なので邪魔しちゃいます♪」

 

 

 やっぱりィいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!

 一瞬小悪魔の笑顔が見えたのでもしやと思ったのですが、やはりこの展開に……。どうして神様は私に試練ばかりをお与えになるのですか!!日頃の行いなら穂乃果やことりに比べれば、全然真っ当だと思うんですけど!?どうして今日はこんなにも不幸が立て続けに……。

 

 

 んっ……あ、ふぁ……にょ、尿意がまた強く!?このままでは楓に邪魔されている間に限界を迎えて、廊下で垂れ流してしまうはめに……。

 

 

「楓、もし私に可能な範囲であれば、なんでも1つ言うことを聞いてあげましょう。だからこの場だけは通してください!!」

「皆まで言わなくていいですよ。私、分かってますから」

「分かってるのなら尚更通してくださいよ……」

「まあお兄ちゃんが海未先輩の変化に気付けないのも無理はないです。やはり女の子は女の子同士でしか、分かり合えないこともありますよね」

「は、はい……?」

「とぼけたって無駄ですよ?女性特有のアレですよね?アレですよ、生理」

「へ……?」

「え……?」

 

 

 私たちはお互いにキョトンとした表情で相手の顔を見つめます。もしかして、これはチャンスかも?このまま女性特有の生理ということで話を進めれば、楓も納得してここを通してくれるかもしれません。もう膀胱に一刻の猶予もないので、こちらから早急に仕掛けなければ!!

 

 

「あれ、違うんですか?」

「じ、実はそうなんですよ~。困っちゃいますよね~……アハハ」

「ですよね!私も分かりますよぉ~」

「だったら早くここを通してもらっていいですか?ていうか通りますね」

「――――――ダメです」

「はぁ!?!?」

 

 

 女の子同士お互いに理解し合ったはずなのに、何故そうまでして私の邪魔を!?もう漏れそうなんですけど!!あぁ、こうしている間にも廊下に生徒たちが教室から出てきています。同級生だらけのこんなところで漏らすなんて……。

 

 

「先輩、普通にトイレに行きたいんでしょ?無意識だと思うけど、さっきからずっと下半身に手を当ててるし、そんなの見ただけですぐ分かりますって。でも邪魔したいってことには変わりません。敢えて生理の話題で先輩を誘導して安心させて、そこから一気に突き落とすこの快楽、いいですねぇ~♪」

「あなたは小悪魔なんかじゃありません、本当の悪魔ですね……」

「どうです?尿意貯まりましたぁ?」

「あなたって人は本当に……」

 

 

 やはりあの姉にしてこの妹ありです。自分の興味本位だけで他人を絶望の底に突き落とすことに、全くの躊躇がない。零の彼女となって一生を共にするということは、彼女たちとも一生付き合っていかなければならないということ。もう恐怖しかありません……。

 

 それに楓の煽りに同調して、私の尿意は限界まで膨れ上がってきています。一瞬トイレに行けそうだと、ホッと安心させられたのが逆に膀胱を緩める原因となってしまいました。楓の策略に、私もうここで人生を終わらされるかもしれません。

 

 

「まあ、そろそろ許してあげますよ。流石にあのμ'sのメンバーが、校内で垂れ流しをしたなんて情報が流れたら、同じメンバーの私にまで被害を受けますから」

「そ、それなら初めから邪魔せずにですね……」

「先輩の尿意に悶え苦しむ姿を見られたので、私はそれで満足です!逆に今度私が何か奢ってあげますから、期待しててください♪」

 

 

 すると楓は私の横に移動し、道を開けてくれました。いつも通っている廊下なのに、今は天国へ続く道にしか見えないほど、私の目には目の前の道が神々しく映っています。ようやく、ようやくなのですね!!

 

 

「ほら行った行った。早くしないと、先に誰かにトイレ取られちゃいますよ」

 

 

 目の前には天国、そしてヘブンへと続く道のり。あと数秒後には私も至高の快楽を堪能している。本当にも、邪魔するものは何もない。

 

 

 

 

 ――――――そのはずだったのですが……。

 

 

 

 

 楓からトイレに行くことを急かされ、背中を"どんっ!"と押されました。

 その時、膀胱が急激に締まる感覚がしたと思うと、中の尿が私の意思に反して蠢きだしたのです。もう自分でも何が何やら、身に起こっている事態を理解できません!!とにかく言いたいことは、少しでも動いたらもう垂れ流してしまうほど、尿意メーターももう限界に近づいてきているということです!!

 

 

「あぁ、んっ、はぁ……あっ!」

「ちょ、ちょっと先輩!こんなところで発情しないでくださいよ!!」

「ち、違います……さっき何故か急激に尿意が……」

「先輩?マジで大丈夫ですか??」

「はぅ!!うぅ……」

「えぇ!?触っただけなのにこの反応!?」

 

 

 さっきから、楓が私の身体に触れてくるたびに尿意がどんどん増していきます。ただでさえ限界が近いのにこれ以上尿意を高ぶらせられたら、もう私自身の意思で膀胱を止めることができなくなってしまいます!!他の生徒にこんな姿を見せたくないので、なんとか必死をこいて廊下の陰にまで漕ぎ着けたのですが、逆に妙な安心感を感じてしまってもう出ちゃいそうです……。

 

 

 でも身体を触られただけでここまで反応するなんて。穂乃果やことりに触れられた時は何ともなかったのですが……。楓に触れられる前も、彼女と対面していた時からやたら尿意を感じるようになっていました。まるで彼女から尿意のオーラが出ているかのようです。

 

 

「先輩?」

 

 

 あぁっ!!尿意のオーラを意識すればするほど、楓と一緒にいると膀胱が破裂しそうになってしまいます!!この今まで感じたことのない尿意は、明らかに彼女からの尿意の気迫、つまり"尿気"のせいでしょう。ようやく彼女の束縛から解放されたというのに、今度は彼女の"尿気"に捕らわれてしまうとは!!

 

 

「あ、先輩がモタモタしてるから、あそこのトイレもう埋まっちゃいましたよ」

「え……ふぁ、あぁ……」

「だからどうしてそんなに色っぽい声を出してるんですか!とにかく、他のトイレを探しましょう。手を貸してあげますから、早く行きますよ」

「ひゃっ!!あぅ……」

「触れただけで尿意を感じるとか、今までどれだけ我慢してたんですか!?今更ながらとてつもない罪悪感が……なんかゴメンなさい」

 

 

 あの楓が謝罪するなんて、貴重すぎて録音して起きたいレベルなのですが、今はそんなことを気にしている場合ではありません!それに楓は何も悪くなく、こうなってしまった元凶である、あの悪女こそが諸悪の根源。楓から溢れ出るこの"尿気"も、薬の力によって感じるものなのでしょう。とことん私の苦しむ姿を想像したいようですね。その罠に尽く嵌ってしまう私も私ですが……。

 

 

「はぁ、も、もうダメです。私に構わず教室へ戻ってください」

「いやそうしたいのは山々ですけど、変に罪悪感が残るのが嫌なんですよねぇ。ほら、座り込んでないで気合で歩いてください!」

「そんなの無理ですよぉ~……もうちょっとでも動くと――――漏らしちゃいます」

「あの海未先輩から、そんな汚い言葉が飛び出すなんて……」

 

 

 正直な話、近くに楓がいなかったらもう少し我慢することができたでしょう。でもあの小悪魔の楓がここまで私のことを心配してくれて、しかも善意で手まで貸してくれているのに、『あなたのせいで尿意が爆発してしまいそうだから帰って』と言えるでしょうか?いえ、私には言えません!!

 

 もうプライドも何もかも捨てます。μ'sのメンバーだからとか、生徒会役員だとか、淑女だとか、そんなもの関係ありません!下手に動いて漏らしているところを誰かに見つかってしまうのなら、丁度廊下の陰になっているここで垂れ流し、楓に後処理をしてもらった方がまだマシです。後々彼女からネタにされることは間違いないでしょうが、それだけで私の人生が保たれるのなら安いもの。学院で晒し者になる事態だけは避けなければなりません。

 

 

「う、うぅ……か、楓、せめて私のスカートを上げて下着だけでも脱がしてもらってもいいですか?替えを持ってきていないので……」

「はぁ!?もうここでやる気満々じゃないですか」

「もうそれしか方法がないのです!!あなたも責任の一端を感じているのなら、どうかお願いします」

「えぇ~。私が脱がすパンツはお兄ちゃんのだけって決めてるのに、仕方ないなぁもう」

 

 

 楓は座り込んでいる私のスカートを捲ると、私の下半身に向かって手を伸ばします。しかし、下着を脱がす行為を彼女に頼んだのは間違いだとすぐに気付きました。彼女の手が私の脚に当たるたびに、身体がビクリと震えるほど尿意を感じてしまうからです。

 

 

「あっ、はぁっ!!」

「女の子の手で身体をビクつかせるなんて、レズ属性でもあるんですか?ジッとしててくださいね、脱がせにくいですから」

「はぁ、だ、ダメです、あまり肌に触れては……」

「触れないと脱がせられないでしょ!!」

「そんなに触られると――――あっ、あぁ!!も、もう限界……」

「へ!?もう少しの辛抱ですから我慢我慢!!」

 

 

 ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい!!誰に謝っているのかも分かりませんがゴメンなさい!!もう無理です!!

 

 

「ほら、今から脱がしますから」

 

 

 膀胱をギュッと締め、最後の気力を振り絞って何とか耐えてはいますが、楓の"尿気"にもう敗北してしまいました。やってしまうならせめて楓の前だけで、誰にも見つからないようにこっそりと――――――

 

 

 

 

 だがしかし、不幸は連鎖するもの。

 

 

 

 

「海未に楓?お前ら、こんなところで何してんだ?」

 

 

 

 

 廊下の影に隠れていた私たちを見つけたのは、私がこの世でこの姿を一番見られたくないと思った人物――――――

 

 

 

 

「お、お兄ちゃん!?」

「零、あ、あぁああああああああああ!!」

「先輩!?抑えて――――あ……」

「あっ、ああああああああああ……」

「う、海未!?パンツが黄色くなってるぞ――――って、こ、これってまさか!?」

「うぅ……」

 

 

 

 零に見つかった衝撃で、遂に私は人生の汚点を1つ生み出してしまいました……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「まあ、その~なんだ、俺たち以外にバレなかったから、とりあえず安心しろって」

「一番バレたくない人にバレてしまったのがショックなんです!!」

 

 

 あの後、零と楓の機転により廊下は早急に掃除され、保健室で替えのスカートと下着を調達してもらって現在に至ります。学院内でやってしまったことを、多分これからずっと引きずって生きていくのでしょうね……。

 

 

「あの出来事は忘れてください!!あなたの頭を掻っ捌いてでも記憶を消します!!」

「えらく過激だなオイ!つうか忘れられる訳ねぇだろ、あんな衝撃的な展開。むしろ脳内HDに保存してるわ」

「コロス……」

「恨むべき対象を間違ってるだろ。元凶はあの悪魔だ。まあ恨んだところで、アイツの暴走が止まることはないだろうが」

「さっき電話でお姉ちゃんに聞いたんだけど、先輩の飲まされた薬の効果は、一度お漏らしすれば消えるみたい。だからもう安心ですよ」

 

 

 これは安心していいのかどうか。漏らしてしまった時点で安心も何もないんですよねぇ……。しかも彼氏に垂れ流すところを見られ、後輩にまで手を貸してもらったとなると、恥ずかしさや申し訳なさで心も頭もいっぱいです!はぁ、まだ朝ですが今日はもう疲れました……。

 

 

「どうやらお兄ちゃんに触れると尿意が引いて、私の近くにいると尿意が高まるような薬だったみたいですよ。全く、お姉ちゃんって無駄にこういうところ手が込んでるんだよね~」

「秋葉さんが言っていた、零に自然と近付けるとはそういう意味だったんですね。だけど楓と一緒にいると尿意が高まるというのは、完全に罠でした」

「お姉ちゃんが救済処置を用意するのは珍しいけど、人を恐怖に突き落とす罠を用意しているのはいつものことです」

「ま、これでアイツに復讐したいメンバーがまた1人増えた訳だ」

「そうですね、いつか絶対に秋葉さんの悶え苦しむ表情を見てみたいと思いましたよ……」

「一気に顔が怖くなったぞ、お前……」

 

 

 この屈辱は、いつか何万倍にも肥大化させて返してやります!私に一生の枷を背負わせたあなたに……フフフ、楽しみです♪

 




 尿意を我慢している女の子って可愛いですよね?ね??
 もうこのようなプレイはにこと真姫に続いて海未で3人目なのですが、全員分のシチュエーションを執筆してみたいと思った今日この頃でした(笑)

 
 次回はこれまた久々にことり回を予定しています。あのことりちゃんなので、内容はまあ……お察しを。


新たに高評価をくださった

なこHIMさん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

俺のことりがとってもエロい件

 やっとシスターズとの告白が終わったのに、全然シスターズが出てないのはどうかと思う今日この頃。でも今回はことりちゃん回。


 

 寝起きに自分の身体がずっしり重たいことなんて、もうここのところ日常茶飯事だ。騎乗位が好きな俺に対して、楓は学校のある平日は毎日その体位で俺を起こしてくる。もちろん騎乗位と言っても擬似的なものであるため、本気で性行為をしている訳ではない。あくまで雰囲気だけを楽しむ"フリ"なのだ。

 

 だがしかし、今朝は違った。

 男性特有の朝の生理現象に、何者かの身体が擦り付けられている。今まで感じたことのない刺激に、俺は思わず小さく声を漏らしてしまう。楓も似たようなことはするが、ここまで身体に電流が走るような刺激的なものではなかった。今まさに俺の下半身に刺激を与えている主は、明らかに共に気持ちよくなることを望んでいる。下手をしたら一線を超えるかのような勢いで。それくらい激しく身体の上下運動が活発だった。

 

 分かっているだろうがちなみに言っておくと、これはマジモノの性行為ではなく、お互いに寝巻き越しでの行為であるからお間違えのないよう。正直、生でやられたらこんなに冷静ではいられない。

 

 

 さあ誰だ?今俺の身体の上に跨って、自分の身体を揺らしているのは。俺の下半身を刺激している淫乱な奴は。

 

 

 俺はゆっくりと目を開け、俺の身体の上で腰を振っている陰の正体を確かめた。

 

 

「あっ、零くんおはよ~。はぁ、はぁ……」

「ことり、お前だったのか」

 

 

 寝巻き越し(重要)に腰をゆっさゆさと揺らしていたのは、俺の彼女の1人である南ことりだった。最も、俺の寝込みを襲う犯人は楓かことりの2人のどちらかだろうと思っていた。しかも今回の起こし方はいつもより激しいため、もしかしたらと察した矢先にこれだよ。

 

 ていうかそもそも――――――どうして俺の部屋にコイツがいる??

 

 

「何故お前がここに?それに外まだ真っ暗じゃねぇか、今何時だ?」

「はぁ、はぁ……寝巻き越しだけど、結構身体に刺激来るね。寒さを忘れちゃうくらい身体も熱くなってきたし。気持ちよくなったらいつでも出していいんだよ、零くん♪」

「ちょっ、まず腰の動きをやめろ。くっ、無駄に刺激が……俺の質問に答えろ!!」

「ん~っとね、最近勉強漬けでことりも溜まってたから、たまには性欲を発散しないとと思ってね。だからいつかやってみたかった、お目覚め騎乗位を試してみたんだ。まあ、今はまだ朝の3時だけどね」

「3時!?変な時間に強襲すんなよな……」

「楓ちゃんに邪魔されたくなかったからね。心配しなくても、楓ちゃんが起きる時間までには全部終わらせるから。ふぅ~……」

「ぜ、全部ってなんだよ……」

 

 

 ことりは不穏な言葉を漏らすと腰を振るのを止め、そのまま俺の身体に覆い被さるようにうつ伏せに寝転がってきた。もちろん俺の身体とことりの身体が密着し合うため、彼女の胸が俺たちの身体でサンドイッチされる状態となる。寝巻きの上からでも感じる、彼女の胸の柔らかさ。俺の胸元で自在に形が変化しているのが手に取るように分かるので、これは確実に下着を着けていないだろう。

 

 彼女は妖艶な雰囲気を醸し出し、自分の顔を俺の顔へと近付けてくる。本来なら俺は女の子から攻められるより、女の子を攻める方が好きで興奮するのだが、この状況だけは彼女のその魅惑に圧倒されていた。窓から差し込む月明かりに照らされ、いつもおっとりして大人しいことりが、今はオトナの魅力を感じる。

 

 

「おはようございます、ご主人様」

「お前、その呼び方は……」

「2人きりの時くらいは、こう呼んでもいいかなって。学校でご主人様って呼ぶと、零くん恥ずかしがっちゃうし」

「そりゃそうだろうよ。誰が好き好んで自分から冷たい目を浴びなきゃいかんのだ。お前が間違えてそう呼んだ時は、どれだけヒヤヒヤしたことか……」

「ゴメンゴメン。でも学校だろうがどこだろうが、零くんがことりのご主人様であることは変わらないけどね」

 

 

 ことりは俺と2人きりになると、俺のことを"ご主人様"呼び、自分のことを"私"呼びに切り替えて畏まる。それが俺に対して一番伝えやすい愛の証らしい。俺も俺でご主人様呼ばわりされると、女の子を支配している気持ちになってゾクゾクして堪らなくなる。つまりお互いに合意の上、2人だけの時はこのような主従関係になるのだ。

 

 

「はぁ……ご主人様の身体、暖かいです~」

「そりゃあお前、そんな薄着だったら寒いに決まってるだろ。どうしてそんな格好してんだ」

「だってご主人様の体温をなるべく直に感じたかったから。もしかして、脱いだ方がいいですか?」

「当たり前だ。夜這いを掛けるなら、もっとご主人様の好みを知っておかないとな」

「申し訳ありません!今すぐご主人様を悦ばせますので!」

 

 

 俺も段々とご主人様モードに切り替わってきているな。やはり女の子を自分の色に染め上げて、命令に従順な女の子に堕とし込むのは欲望が唆られる。ことりは俺に服従することを嫌がっているどころか、むしろ喜んで俺のお人形さんになってくれるので、こんなプレイは彼女としか実現できない。

 

 

「そうだ、脱ぐのはいいけど全部は脱ぐなよ。半裸の方が興奮するんだ」

「ご主人様って、意外とマニアックなんですね」

「俺は並大抵のプレイもいけるし、あまり過激なものでなければ少々趣向を凝らしたプレイも全然いけるぞ」

「ご主人様がもしやりたくなった時は、いつでも私を呼んでくださいね。ことりの身体でよければ喜んでお貸ししますから」

「貸すって、お前の身体は既に俺のモノなんだが」

「そ、そうでした!またご主人様に粗相を……。無礼を働いた罰として、どうかこの哀れな雌豚に厳粛な懲罰をお与えください」

「いやいやお前の場合、俺から手を出されたらどんなことでもご褒美だろうが」

「あっ、バレました?」

 

 

 ことりは何故か笑顔で認めたが、そもそも初めから懲罰を受けることに期待の眼差ししか向けていなかったので、俺でなくても流石にバレるだろう。μ'sが相手だと猥談を駆使して平気で相手を煽ったりするくせに、俺の前だと途端にM気質を存分に発揮するこの淫乱鳥。まあ俺はそんな彼女が大好きだから、こうして突然の夜這いも受け入れている訳だが。

 

 

 ことりは俺に跨りながら起き上がると、パジャマのボタンを1つ1つ、俺に見せつけるようにゆっくりと外していく。徐々に顕になる彼女の綺麗な肌、それが差し込む月明かりに照らされて、より一層艶やかに見える。ムードは抜群。さっきまでも十分に色っぽかったのだが、脱ぎ出し始めるとやはり男の色欲が身体の内から込み上げてくる。

 

 そして彼女に魅惑を感じる要因の1つに、普段とは髪型が違う点もあるだろう。いつもは本当に鳥のトサカみたいな髪型をしているのに、今はストレートに髪を下ろしているのだ。絵里やにこもそうなのだが、いつも長い髪を縛っている子がそれを解くと、一回りオトナの魅力が生まれる。特にお風呂やベッドの上でそのような状態の彼女たちを見ると――――あとは分かるな?

 

 

 俺が妄想に浸りかけていたその時、突然また下半身に微かだが刺激が走った。俺は慌てて妄想の世界から離れ、現実の妖艶な光景に直面する。

 

 

「ことり、お前どこ触って……!」

「むぅ~!だってご主人様、さっきからぼぉ~っとして全然私の方を見てくれないじゃないですか」

「お前のあんな姿やこんな姿で妄想してただけだよ」

「そんな妄想しなくてもいいように、今から私がご主人様をうんと気持ちよくさせてあげます。妄想の世界に浸れないほど、快楽に溺れさせてあげますから♪」

「うっ、く、はぁ……そ、そうか」

 

 

 ことりは既にパジャマのボタンを全て外し終えており、隙間から俺のために立派に成長させた胸が垣間見えていた。そして同時に俺の下半身を握らない程度に、手のひらで優しく触れる。まだ若干高校生にして、男の悦ばせ方を完全に熟知してやがる。もうどこをどう攻めれば俺を気持ちよくさせられるか、彼女にとっては容易なことなのだろう。

 

 しかも俺が女の子の笑顔好きだと知っているため、常に微笑で俺の心を惹きつけるのも忘れない。流石俺の彼女であり従者でありメイドであり、そして奴隷でもある。そんな彼女の忠誠心に関心すると共に、俺もどんどん彼女の魅力に取り憑かれていく。

 

 

 暗い部屋の中に微かな月明かり。ムードはもう完璧だ。

 

 

「どうせ出すなら、お前の口の中で出してやる。それがお前の朝飯だ」

「嬉しいです!これからずっと私の朝御飯になるんですよね。だったら今のうちに味を覚えておかなくちゃ」

「そうか。だったら白濁液をもっと濃厚にするために、俺の興奮を高めてもらわなきゃな」

「はい、ご主人様のご命令とあらば」

 

 

 ことりは再び俺の身体の上にうつ伏せで覆い被さると、自分の顔を俺の顔へと近付けてくる。そして俺たちは何かに引かれ合うように、お互いの唇と唇を重ね合わせた。

 

 

「ん……」

 

 

 ことりは小さく吐息を漏らす。

 この時をずっと待っていたのだろう、彼女はいきなり舌を俺の口内へと侵入させてきた。そして俺も彼女の甘い匂いに誘惑され、自然と舌を差し出していた。ことりとの口付けはもう慣れたもので、お互いに何の躊躇いもなく舌を絡め合う。口内でみるみる唾液が分泌され、舌と共に卑しい水音を部屋に響かせながら2人の唾液が交じり合う。

 

 

「はぁ……んっ、ちゅ……」

 

 

 脳内にまで響く、舌と唾液が絡み合う音。舌同士が絡み合った時に、粘膜から伝わってくる熱さ。直接鼻に侵入してくる、彼女の微かな甘い匂い。それら諸々の影響で、俺の頭が今にも蕩けそうになっていた。

 

 もはやことりは何も意識せず、本能で俺への吸い付きを激しくしているのだろう。彼女の目が虚ろになっているのが分かる。ただ目の前の愛する人に気持ちよくなったもらいたい。そんな一心で俺の口内を攻め続けご奉仕している、そんな雰囲気が感じられた。

 

 

「んっ、はぁっ……ん……あぁ!」

 

 

 もう理性を失った動物かのように、ことりは俺への吸い付きと舌を絡める激しさを増していく。俺のためだけに一心不乱にご奉仕をしてくれる彼女の健気さを見ると、俺の欲情も大いに湧き上がってくる。

 

 この劣情を彼女にぶつけてやりたいと、俺はもう主従プレイということすらも忘れて彼女の舌に対抗していた。俺が激しく吸い付き舌を絡める度に、彼女の口から抑えきれない吐息交じりに喘ぎ声が漏れ出す。同時に彼女の身体はビクッビクッと跳ね上がるが、それでもなお俺への奉仕をやめないその忠誠心の高さに、俺も余計に感情が高ぶってしまう。楓の部屋に聞こえてしまわないかと一瞬だけ心配するが、彼女の魅惑に意識を引き寄せられ、すぐにそんな心配は消え失せた。

 

 

 もうどれだけの時間が経ったのか分からない。ことりに全ての意識を奪われていたので、時間感覚など毛頭なかった。俺の意識が戻ってきたのは、若干息苦しくなってきてお互いに唇を離した頃だ。俺と彼女の口元を繋ぐ銀の糸が艶かしく輝いて、俺たちがどれだけ濃厚な口付けをしていたのかが具現化されている。その糸はやがて重力に耐え切れず、寝転がっている俺の喉元にたらりと垂れた。

 

 

 ことりは"くすっ"と微笑むと、俺に跨ったまま身体を上げる。そして既にボタンを外してあるパジャマに手を掛けると、僅かにはだけている前をゆっくりと開いていく。徐々に顕になる彼女の胸に、俺は唾を飲んで釘付けとなった。

 

 薄らと見えてくる胸の先端。僅かな月明かりしか頼りにならないこんな暗い状況でもよく分かる、既にピンと張った桃色の突起。まるでここにしゃぶりついてくださいと言わんばかりの勃ちっぷりに、俺の興奮が一気に最高潮近くまで上昇する。そして俺はいつの間にか身体を上げ、彼女の右胸の先端に唇を挟んでいた。

 

 

「あんっ!あぁ、ご主人様ぁ……んっ」

 

 

 もう俺と何度もこんなことをやっているのだから、こうなることは初めから分かっていたはずなのに、ことりは驚くように喘ぎ声を上げた。胸を吸い付く刺激に僅かに身を縮こませながらも、俺が吸いやすいように体勢を整え直す。

 

 俺は胸の先端を飲み込んでしまうかのような勢いで、唾液を絡めながらじゅるじゅるっと吸い上げる。それに伴ってことりが雌の嬌声で鳴くため、もっともっと彼女を虐めて悦ばせたいという欲から、吸い上げる力もどんどん強くなっていく。口付けの過程で身体が火照って熱くなっていたためか、彼女の胸はかなり甘酸っぱい。それがことりの身体から分泌された味だと思うと、俺の興奮はまだ収まるところを知らなかった。

 

 

「ひゃっ、んっ……はぁっ!わ、私の身体は全部ご主人様のモノですから、はぁ……もっとご主人様の好きにしてもらって……あんっ、いいんですよ……」

 

 

 俺はその言葉を聞いて、手持ち無沙汰になっていた右手でことりの左胸を鷲掴みにした。その時、彼女は今度こそ楓の部屋に聞こえてしまうかのような大きな喘ぎ声を上げる。今回ばかりは突然すぎて、声を抑える余裕もなかったのだろう。ことりは必死に口を抑えているが、両胸が愛するご主人様の口と手で同時に攻められているため、そのあまりの刺激と興奮から口を抑える手すら乗り越えて、淫らな声が俺の耳に伝わってきた。

 

 

「んっ……ふぁっ……ぁ……ひゃ、うぅ……」

 

 

 女の子の嬌声は、どうしてここまで男の欲情を駆り立てるのだろうか。こんな声を聞かされてしまっては、口も手も一生止まらないぞ。ことりが果てるその時まで、俺は永遠に彼女に快感を与え続けるだろう。

 

 ことりの胸は触るたびに成長している気がする。もう1年前の絵里とほぼ同等の大きさになっているとこの前聞いた。5本の指を巧みに使わないと上手に揉めないくらいのボリュームに。そして揉んだら揉んだで指の間から胸が溢れ出そうで、もう俺の手には余りある胸に成長してしまった。これを俺のために育ててくれたというのだから、たっぷり味わって弄ってあげなければ申し訳ないよな。

 

 彼女の胸は、本当に俺だけのために成長しているようだ。さっきいった通り手に有り余るくらいの大きさもそうだが、胸の先端に触れた時の感度も素晴らしい。指で軽く挟むだけでも、部屋中に響く淫声を上げる。そして指で胸を突っつくと、その指を容赦なく跳ね返してくるこの弾力。指に力を入れれば胸にめり込むほど吸い付きが良いくせに、軽く触れると弾き返す。まさに胸の張りの良さを物語っている。

 

 

「あぁ、ふぁ……ご主人様のためなら、私はメイドにだって奴隷にだってなります。だからもっと……はぁ……もっと私を虐めて!!ご主人様の欲望で、この哀れで淫乱な雌豚をめちゃくちゃにしてください!!んぁ……あぁあっ!!」

 

 

 俺とことりが恋人同士になってからというもの、彼女は俺への依存度が目に見えるほど増している。学院内でも周りの目を気にせず躊躇なく誘惑してくるし、一度周りの目がなくなれば、胸や股を押し付けてくるなんて日常茶飯事だ。お弁当は俺にいつでも「あ~ん」が出来るように、自分の弁当なのに俺の好物ばかりで取り揃えられている。そして日々の自分磨きのオカズは毎日俺に手を出される妄想、またはいつの間にやら盗んだ俺の私物。休日で会えない時でも、定期的に携帯に連絡を入れてくるほどである。

 

 そんな肉食系の彼女だが、こうして淫行になればたちまちMの気質を発揮する。もう俺にやられることならどんなことで悦び、勝手に身体に快楽が走ってしまうとも言っていた。もはや俺を愉しませるためだけに生きている、そう感じてしまうのだが、本人はそれが自分の運命で、自分の好きでやっていることだからと、むしろ俺にめちゃくちゃにされることを望んでいる。

 

 完全に俺のモノと化していることり。色々と捻じ曲がってはいるが、唯一真っ直ぐなのは俺への愛情。そんな彼女の一途さに感化させられ、俺は沸き立つ欲望を日々彼女に注いでいる。大勢の人の目線にさえ晒されなければ、俺だって彼女のような性欲魔人にもなろう。もうお互いにお互いの身体を熟知し過ぎた故に、どこをどう攻めれば相手に至高の快楽を堪能してもらえるのか、それすらも分かっているくらいだ。

 

 だから容赦はしない。自分の欲望に忠実となって、彼女の身も心も攻め上げ俺の色に染めていく。まあもう既に俺の色に染まりきっている気もするが、更にそこから上書きする形で、もうどんな色にも染まらぬよう執拗に色濃く彼女を支配する。

 

 

「はぁ……んんっ、ふぁ……はぁ、ああああっ!!」

「ん?まさかお前、さっきもしかして……?」

「はい、ご主人様に激しく攻められて――――イっちゃいました♪」

「キスと胸だけでかよ。とんだ淫乱牝奴隷だな」

「それは私にとって褒め言葉ですよ。ご主人様のモノになれたと、実感できて嬉しいんです」

「そうか、ならこれだけじゃまだ物足りないだろ。もっとお前を虐めてやるよ」

「ひゃっ!!あっ、ご、ご主人様ぁ……」

 

 

 俺は乱暴にことりのパジャマのズボンを脱がし、そして顕になったパンツの上から下半身に指を当てる。さっき絶頂に達し身体をビクビクと痙攣していたからか、パンツは湿りに湿っていた。一瞬だけ触れた俺の指でさえ、彼女の液体で湿りを感じる。パンツ越しだからまだいいものの、脱がしたら確実にぐしょぐしょと濡れた彼女の大切なところが見られるだろう。でもそれをしてしまうと俺の理性が保てなくなり、軽々と一線を超えてしまいそうなので我慢する。もう何度も言ってるが、責任が持てるまで一線は超えない。

 

 

「まだやれないのがもどかしいな」

「はぁ、はぁ……ご主人様のそういう律儀なところも大好きですよ。むしろそうやって私たちを大切にしてくれているからこそ、私もμ'sのみんなもあなたに惹かれたのです。でも高校を卒業したら、私の身体が壊れるまで、いや壊れたとしてもたくさん使ってくださいね♪」

「ああ、もちろん。もうあと数カ月の辛抱だ。その時は、俺がμ'sの本当の支配者になる時かな」

「ご主人様なら、きっとみんな虜にできますよ。万が一拒むような躾の悪い子がいたとしたら、私もお手伝いしますから、フフッ……」

 

 

 おぉぅ、今少しことりの黒い部分が見えたような気がする。俺に対してはただの淫乱な雌に成り下がるのに、μ'sメンバーに対してはドS気質満載の小悪魔となる。一度ことりに誰かを襲わせ、それを高みの見物するのもいいな。もちろんその後は2人で俺の性欲を処理させると。うん、いい流れだ。

 

 

「私ばかり気持ちよくなってばかりでは申し訳ないです。次はご主人様の番ですよ♪」

 

 

 ことりはベッドから降り、俺をベッドに腰掛けるように座らせる。そして彼女は俺の脚と脚の間に跪き、上目遣いで俺を見つめた。この体勢こそが、ご主人様に示す服従の体勢だ。これから何が起こるのかもう知っている。知っているからこそ、彼女のこの体勢だけでも劣情を感じてしまう。

 

 

「まだ下半身同士では繋がれませんが、ご主人様のここを私の口で気持ちよくさせることはできます。リラックスしてください。これまでに溜まったご主人様の性欲、全て私の口で受け止めますから……♪」

 

 

 妖艶なことりの表情に魅了され、俺は「あぁ」としか呟けなかった。

 ことりは俺のズボンを丁寧に脱がし、そして下着も――――――

 

 

 

 

 俺たちの時間は、まだまだ続きそうだ――――――

 




 なんかことりの個人回って、毎回エロいことしかしてないような気がします。たまにはギャグ回にもメインで出演させてみたくはあるのですが、よくよく考えれば淫語講座の回って、エロよりギャグ要素の方が強いような……。あれ以上のレベルになると、ガチR-18になりそうですが(笑)

 ちなみに今回は無駄な描写を一切省いた、終始一貫してR-17.9展開にしてみました。本当はシチュエーションを2つに分け、もう1つは学院内の校舎裏での出来事も執筆しようとしていたのですが、まさか1つのシーンだけで1話を使ってしまうとは。残りのシーンはまた機会があればということで。


 次回は穂乃果回か花陽回のどちらかにする予定。最近ずっとエロ要素満載だったので、たまにはまともの話に……できたらいいなぁ()




Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

vs 酔いどれ穂乃果ちゃん

 170話ですよ170話!!

 酔っ払った女の子って、いつもより大人の色気が感じられますよね? 今回は穂乃果のそんなお話です。


 センター試験も間近に控えた1月中旬、穂乃果たちは試験対策に追い込みを掛けるため、今日は1日中俺の家に集まって勉強合宿をすることになった。

 

 しかし正直な話、3人共俺の素晴らしい指導のおかげで、学力が1年前と比べて格段に上昇している。そのためわざわざプチ合宿などする必要もないのだが、心配性な海未の猛烈な押しによりやむなく決行されることになった。しかし海未は間違いなく勉強目的だろうが、穂乃果とことりは明らかに俺の家に泊まることが目的ってくらいに喜んでたな。これは深夜寝ている時に襲われぬよう気を付けないと……。

 

 

 そんな訳で、今日は朝から晩までみっちりと勉強漬けである。そんな退屈で地獄のような計画を立てたのはもちろん海未。アイツに予定を決めさせるとロクなスケジュールにならないどころか、人間業では到底達成し得ることのできない計画ばかり立ててきやがる。合宿で海に行った時を思い出してもらえれば分かるだろう。

 

 

 そんなことをリビングのソファに座ってぼぉ~っと愚痴っている内に、家のインターホンが鳴る。

 俺は(おもむ)ろに立ち上がって玄関へと向かい、家のドアを開けた。

 

 

「おっはよーう!!零君♪」

「うぉいっ!!急に飛び込んでくんな!!」

 

 

 ドアを開けたと同時に、穂乃果が俺の懐へと飛び掛ってきた。いい感じにボディーブローを受け、俺は2、3歩後ずさりしながらも彼女を支える。

 

 しかし穂乃果の身体をギュッと抱きしめるたびに、彼女の口から小さい吐息が漏れ出しているのだが、まさかこんな秒速で発情しているとは流石に思いたくない。確かに俺はμ'sの一部メンバーを変態化させた張本人だ。だけどたった1回のハグで発情してしまうほど、俺の調教はまだ進んでいないはずなのだが……大丈夫だよな?

 

 

「わぁ~零君あったか~い♪このまま穂乃果専用のホッカイロにしたいくらいだよ」

「ご生憎様、そんなダッチワイフみたいな扱いはゴメンだね」

「だったら穂乃果が零君のその、だっちわいふ……? になってあげようか?」

「お前、絶対意味知らないだろ。もう少し勉強してこい」

「もちろん!零君に喜んでもらえるなら!」

「普段学校の勉強は嫌がる癖に、そういう勉強はマジになるのな……」

 

 

 人の身体を求めてくるにも関わらず、そういった淫語録は全くと言っていいほど無知なのが穂乃果の可愛いところでもある。言うなればウブなビッチなのだが、淫乱なのかそうでないのか訳分かんねぇなこれ。

 

 

「そういや、ことりと海未はどうした?一緒じゃないのか?」

「うん。ことりちゃんは途中で忘れ物したから途中で帰っちゃって、海未ちゃんは家の用事で少し遅くなるってさ。だから穂乃果だけ先に来たんだ」

「あっそ。ていうか、遅れるなら俺に連絡して来いよな……」

「あはは……でも2人共もうすぐ来ると思うよ。ん~そういえば、楓ちゃんは?」

「アイツは今買い物に出掛けてるよ」

「そっか。なら零君と2人きりってことか……えへへ」

「2人きりって、もうすぐみんな来るんだろ?」

「それでも誰にも邪魔されず、零君と2人きりでいる時間は楽しいから♪」

 

 

 太陽の笑顔でそんなセリフを言われたら、冬の寒さも吹き飛んでしまいそうだ。コイツはこれまで何人の男をその無邪気な笑顔で誑かしてきたのだろうか。そんな笑顔されたら誰でも惚れるっつうの。俺だってそうだったし……。まあ今の穂乃果は俺だけの彼女、あらゆる男を勘違いさせてきたコイツを1人占めできる優越感が素晴らしく堪らないね。

 

 

「それじゃあ零君、早く行こ!」

「言っておくけど、あくまで今日は勉強だからな」

「分かってるって!お邪魔しまーす!!」

「オイッ!ちゃんと靴整えて行けって!!はぁ……全く」

 

 

 穂乃果は靴を放り脱ぐと、そのまま小走りでリビングへと向かった。俺の家をマイホームと勘違いしてないか?ほんの些細なことでも、昔から穂乃果と付き合ってきたことりと海未の苦労が分かるな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ねぇ零君、喉渇いたから飲み物貰うね!」

「お前、勝手に冷蔵庫開けるなよ……」

 

 

 リビングに向かった矢先にこれである。人の家の冷蔵庫を勝手に開けたり、「頂戴」ではなく「貰うね」という半ば貰うことを強制的に確定させていたりと、穂乃果の親と海未と雪穂はコイツにどんな教育してんだ……。それだけ俺の家にマイホームのような安らぎを感じるっていうのなら、それはそれでいいんだけども。

 

 

「どれにしよっかなぁ~?」

「まだ許可出してないよな……?もういいや、勝手にしろ」

 

 

 こういった身勝手な理不尽さが高坂穂乃果という人間なのだろう。でなきゃ靴も揃えず人の家に上がり込んで、真っ先に冷蔵庫へと向かい、更に冷蔵庫の扉を開けっ放しにしながら飲み物を選定するなんて奇々怪々な行動、普通の人間ならするはずがない。それは俺に心を許しているからだと考えると、素直に怒れないのがまた悩むところだ。どちらにせよ理不尽じゃねぇか!!

 

 

 まあもうそれはいいとして、穂乃果が飲んでいるジュース、あれはなんだ?見た目は果汁100%に加え、オレンジの粒まで入ってるかってくらい濃い色をしたオレンジジュースに見える。でもあんなの家にあったっけ?確か昨日飲み物がなくなりかけているから、今日楓は朝早くから買い出しに出かけているはずだ。だからジュースなんて高級な嗜好品は、今の俺の家にある訳がない。

 

 

「結構濃厚だけど、このオレンジジュースおいし~♪」

 

 

 ここで俺の脳裏に、超極悪な悪魔の笑顔が過ぎった。穂乃果なんかよりも何万倍も理不尽な、あの姉の憎たらしい笑顔がまただ。俺と楓以外でこの家に入ることができるのはアイツ1人だけ。そして穂乃果の飲んでいるジュースをよく見ると、さっきまでは感じられなかった禍々しい雰囲気があの飲み物から漂ってくる。

 

 俺の中の緊急秋葉速報が、身体を震わせるほどの唸りを上げていた。

 ヤバイ……あれを穂乃果が飲みきったら最後、俺の平穏な生活がまたしても打ち崩される。そんな予感がビンビンするぞ!!

 

 

「穂乃果!飲むのをやめろ!!」

「へ?そう言われても、もうコップ一杯飲んじゃったけど……ヒック!」

「ま、まさかもう!?」

「ヒック!な、なんらか気持ちよくなってきちゃったぁ~……♪」

 

 

 遅かったァアアああああああああああああああああああああああ!!

 もう少し早く気付いていれば、俺の平穏は保たれたのに……。でも過ぎてしまったことはしょうがない、今はこの状況を打破する方法を考えよう。

 

 見たところ、穂乃果は完全に酔っているようだ。ただの酒でここまで早く酔いが回る訳がないから、これは確実に秋葉の薬の力だろう。アイツの薬にはこれまで様々な効果があった。子供になったり女の子になったり、性格が真逆になったり――――だが今回は一番面倒なパターンだ。だって俺は、酔っぱらいの相手が大嫌いだからだ。

 

 秋葉が家に帰ってくるたびに俺はアイツのヤケ酒に付き合わされるのだが、アイツの酔った時の絡みがウザイのなんのって!酔った勢いか何か知らないが、俺のことを好きでもなんでもない癖にキスをしようとしてきたり、抱きついて胸を押し当ててきたりしやがる。正直役得と思ったことはあるのだが、抵抗しないとマジで性行為からの下半身挿入のプロセスを達成しそうなので、俺の精神衛生上よろしくない。男には全く興味がないって言ってるくせに、どうして俺に対してはあんなに積極的なんだよ……。

 

 そんな訳で、俺は酔っぱらいの相手が苦手で大嫌いなのである。穂乃果が秋葉みたいな暴走機関車になっていないことを祈るしかないな。

 

 

「零くぅ~ん!なんだかね、穂乃果ね、胸がウズウズしてきちゃってるの……零君の手で、鎮めて欲しいな……」

「あ、そう……」

 

 

 その希望はあっという間に消し去られてしまった。穂乃果も秋葉同様に、酔っ払うと淫乱度が増すタイプの人間だったか。これは面倒なことになってきた、早く海未たちが来てくれることを願って、ここは耐えるしかないか。ことりと楓は悪ノリしてきそうだから、頼りになるのが海未しかいないってのも問題だが……。

 

 

「えへへ……ヒック、零君ってカッコいいけど、割りと可愛い顔してるよね。穂乃果、そういう零君も好きらよ~♪」

「それはどうもありがとよ。呂律が回ってないから、とっとと休みな」

「零君もう一回ギュ~ってしてぇ~」

「話がさっきからコロコロ変わりやがる……」

 

 

 穂乃果は千鳥足で俺の元へと歩み寄ってくる。顔は既にトマトのように真っ赤っかであり、目も半開きではぁはぁとちょっぴり卑猥な小さい吐息を漏らしている。そんな彼女の姿に、不覚にも大人の魅力を感じてしまった。秋葉が酔った時もそうだが、酔っ払った女の人って妙な色気を感じることない?いつもよりオープンな性格になったり、フェロモンが放出されていたりするからだろうか。

 

 酔っ払いの厄介なところは、面倒を見るのが嫌だからといって放ってはおけないこと。今の穂乃果も千鳥足になっているので、いつ転んでしまうかどうか分からない。だから常に見守ってあげないといけないのだ。もうどう足掻いても絶望。俺は酔っ払いとは縁を切れない人間らしい。

 

 

「零く~ん!ほら、ギュ~~♪」

「お、おいっ!力強いって――――うわぁあああっ!?」

「えへへ~……ヒック、零くんを押し倒しちゃったぁ~♪」

「穂乃果……ぐぅっ、な、なんだこの力は!?離してくれ!!」

「へっへ~ん、逃がさないよ~♪穂乃果を満足させてくれるまで、ずっとね……ヒック」

 

 

 俺は穂乃果に抱きつかれるのと同時に、その勢いで後ろに押し倒されてしまった。しかも彼女からは、俺を凌駕するほどの物凄い力が感じられる。これが酔っ払った女の子の力だっていうのか?秋葉でもこんなに力強くねぇぞ!?

 

 確かに少し油断していたってのもある。だがこの俺が女の子に組み伏せられるとは、プライドを切りつける刃と屈辱の汚名が同時に襲いかかってきているみたいだ。いくらスクールアイドルのために体力作りをしている穂乃果であっても、男の俺に敵うはずがない。一体こいつの華奢な身体のどこにこんな力が蓄えられているんだ!?

 

 

「ヒック、も~う!そんなに動かれると、穂乃果酔っちゃうよぉ~」

「もう酔ってるだろうが!!俺の身体から降りろ!!」

「やだよ~んだ!今日は零君と2人きりでいちゃいちゃしまくるの♪だから絶対に離さないからぁ~」

「勉強をしに来たんだろ!!いいから離せって!!」

 

 

 なんか段々とヤンデレ気味になってきてないか!?目が半開きで光彩がよく見えないので、余計にヤンデレの兆候を感じてしまう。それに顔も赤く吐息も次第に激しくなってきているため、酔っていると知らなければ発情しているようにも見えなくはない。そんな穂乃果に心をくすぐられながらも、女の子に組み伏せられているという屈辱的なこの体位を、何としてでも崩そうと画策する。

 

 だが俺が暴れれば暴れるほど、俺の身体を押さえつける力は強まっていくばかりだ。まさか穂乃果に屈服させられるとは、プライドだけでなくメンタルまで崩壊させられそうだ。

 

 

「もう!零君うるさいから口塞いじゃお!!」

「えっ――――むぐっ!!」

「んっ……ちゅ……」

「んんっ!!」

 

 

 いきなり唇を奪われ、一瞬酸素の吸引が滞ってしまう。それでもなんとか意識を保って、穂乃果のキスの迎撃に備えた。

 

 いつもの甘く優しい口付けとは全然違う。アルコールの匂いをプンプン漂わせ非常に鼻に付く。しかも穂乃果はただキスがしたいだけのようで、俺を気持ちよくさせることなど一切考えず、好き勝手に唇を動かして舌を俺の口内へと侵入させてきた。にゅるっ、と触手を滑り込ませてくるかのような舌さばきで、口内の唾液を乱暴に絡め取る。まるで彼女の舌に捕食されている感覚だ。

 

 

「はぁっ、んっ、ちゅ……ん!!」

 

 

 酒のアルコールと穂乃果特有の甘い唾液が混じり合い、何とも言えない味となって俺の体内に流れ込む。彼女は俺を求めているのか、はたまたただ酔った勢いで自己満足のためにキスをしているのかは知らない。だがひたすらに顔を動かし、執拗に唇に吸い付いてくる執着心だけはひしひしと伝わってきた。

 

 ここまで唇が熱く感じたことは初めてだ。穂乃果が酔って身体が火照っているからだろうが、このままでは彼女の激しい濃厚なキスに飲み込まれてしまいそうになる。どこでこんな舌使いを覚えてきたのかは知らないが、口内をここまで巧みに荒らされると、段々と謎の快感に襲われてしまう。このままでは、コイツの虜になりそうだ……。だがお互いの唇は溶接されているかのように熱く密着し、もう生半可な力では離れそうにもない。

 

 

 俺は穂乃果の口内攻めに耐えながら、両手で彼女の肩を掴む。そして舌を噛まれないように注意をしながら、両手に渾身の力を入れ彼女を思いっきり引き剥がした。

 

 

 ぷはっ、と唇が離れる音がしたと共に、穂乃果の舌によって分泌されていた大量の唾液が宙を舞う。

 途中から呼吸困難に陥っていたため、お互いに酸素を十分に吸引するインターバル。だが、その間も穂乃果は俺に不満そうな表情を向けていた。

 

 

「どうして離れようとするの!?もっと零君を堪能したかったのにぃ~!!」

「酔っ払いにキスされても嬉しくないんだよ」

「うぅ、足りない……まだ零君エネルギーが足りないよぉ~……ヒック」

「あんなに激しくキスしたのに、まだ酔い覚めてないのか。こりゃあ秋葉よりもヒドイぞ……」

「むっ、今は穂乃果の相手をしてよ!!他の女の人の話題はダメぇええええええええええええ!!」

「がぁっ!!けほっ、けほっ!」

 

 

 穂乃果はいきなり立ち上がると、無駄に体力を使わされて寝転がっている俺の身体に思いっきりのしかかってきた!あまりにも容赦のない衝撃に身体の酸素が一気に抜け出し、回復していた呼吸が再び乱れ咳き込んでしまう。

 

 

「穂乃果はね……ヒック、ずぅ~っと零君と一緒らの。だから零君も一生穂乃果のことだけを見ていればいいんらよ♪ヒック……うぅ、なんだか頭がふわふわして気持ちいい~……これが愛する人とのキスの力なんらね……ヒック」

「いやいや、それはただ酔っ払ってるだけだから。だからさっさと休め!もうちょっとで海未たちも来るし、楓も帰ってくるから!」

「穂乃果酔ってないもん!穂乃果酔ってないもん!」

「2回言わんでいい!それに酔ってないと言っている奴が一番酔ってるって、これ常識だから」

「あぁ~零君の身体、暖かいなぁ~♪」

「話聞けよ!!」

 

 

 もうどこからツッコめばいいのやら分からねぇな。とにかくこの酔っ払いをなんとかしないと、みんなにこの俺の痴態を拝ませてしまうはめになる。俺が下で穂乃果が上、男が女に押し倒されているこの状況を見られるなんて、俺のプライドに反する。何度も言っているが、俺は女の子を支配したい人間なんだ。だからこうして女の子にいいように攻められる展開があってはならない!!

 

 

 だがしかし、穂乃果の拘束の強度は計り知れない。柔道経験でもあるかのような体位で俺を組み伏せ、単なる力技だけでは彼女を振り解くどころか、腕や脚すらまともに動かすことができないのだ。これが酔っ払いの実力なのか?まさか酔っ払うと潜在的な力を引き出せるとでも……?冗談じゃない!!やられた分まできっちり仕返ししてやるからな!!

 

 

「ヒック、あぁ~……気持ちよすぎて眠くなってきちゃったぁ~……」

「寝るならそこソファで寝ろ!俺の上で寝るなって!!」

「動いちゃダ~メ!零君は穂乃果の抱き枕にするんだからぁ~♪」

「この状況よく見ろ!完全に俺が敷布団にされてるじゃねぇか!!おーーい!聞いてんのか!?」

「よしよし、零君も早く寝ないと大きくなれないよ~……ヒック」

「子供かよ俺は!?はぁ、疲れた……」

 

 

 もうツッコミを入れる気力すら失せてきた。どうせ寝ちまうんなら夢の奥深くまでたっぷりと熟睡させ、その後で穂乃果を俺の身体の上から動かせばいい。流石に睡眠の最中なら、酔っ払った時よりも抱きしめる力は弱まるだろう。

 

 

「ぐ~……すぅ」

「寝るの早いなオイ。でもこれでやっと酔っ払いから解放されるぞ、ふぅ~」

 

 

 まだ10秒も経ってないのに寝やがった……某の○太もビックリの熟睡スピードだな。だけどようやくドタバタも収まり、家の中も静かになった。

 

 俺は穂乃果を持ち上げ一旦床に寝かせる。気持ちよく寝ている彼女を見ていると、どうも復讐する気が削がれてしまうのだが、例え恋人であっても心を傷つけた罪は重い。俺の心はもう鬼神と化している。寝ていて抵抗できない今が復讐のチャンスだ。無防備だからって手加減なんてしないからな……。

 

 

 そして今度は俺が彼女の上に跨り、そのまま四つん這いとなって彼女の顔に自分の顔を近づけた。

 

 

 コイツ、今日は散々俺のプライドをズタズタにしてくれたじゃねぇか。そして幾度となく俺に屈辱の泥水を飲ませやがって……その気持ちよさそうな顔を、別の意味で心地よい表情に変えてやろうか??その可愛いおクチからどんな喘ぎ声が漏れ出すのか気になるなぁ~。さあ、男の本当の怖さを教えてやろう……。

 

 

 

 

 しかしその時だった。リビングのドアが開いて、3人の女の子が入ってきたのは――――

 

 

 

 

 俺の背中に、ゾワゾワとした悪寒が走る。

 

 

 

 

「お兄ちゃん、たっだいま~って――――えぇっ!?」

「お邪魔しま~す♪そこで楓ちゃんに会ったんだよ、って――――ひゃっ!れ、零くん、穂乃果ちゃんに一体なにを……」

「あなた、もしかして昼寝している穂乃果を無理矢理……?」

 

「お、おかえり楓。ことりと海未もいらっしゃい……」

 

 

 し、失念していた!!穂乃果への復讐に業を煮やしていたせいで、3人がもう少しでやって来る事実をすっかり忘れてた!?あまりの衝撃に、俺は3人に対して普通に挨拶をしてしまうほどだ。

 

 この状況、誰がどう見ても俺が気持ちよく熟睡している穂乃果に、無理矢理襲いかかっているようにしか見えないよな。しかもこんなに顔を近付けて、勝手に唇を奪おうとしているみたいに……。

 

 

「お兄ちゃん、まさか私たちに見せつけるように性行為だなんて、まさかここまで大胆になっているとは……」

「いいよいいよ、ことりたちなんて気にしないでそのまま続けてもらっても。穂乃果ちゃんをめちゃくちゃにしてどうぞ♪」

「いや、これは違う!!」

「零、今日は勉強会のはずでしたよね……?」

「いやこれは穂乃果と秋葉が悪いのであって、俺はむしろ被害者で――――」

「言い訳は後から聞きますので、2人きりで一緒にお話しましょうか♪」

「だから俺は悪くないんだってぇえええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 今日も今日とて、理不尽な結末が俺を襲うのか……。でももうね、段々と慣れてきたよ。悟りすら開いちゃうもん。はいはいどうぞ殴るなり蹴るなり、好き勝手にしたらいいだろ!!――――はぁ……。

 

 

 

 

 そして、俺が理不尽な目に遭っていることなど知らず、未だいい顔で眠り続けているコイツは――――

 

 

「零君暖か~い……大好きだよぉ~♪むにゃむにゃ……」

 

 

 ま、まあ今回だけは許してやるか。でも今回だけだからな、許すのは!!

 




 私も酔った穂乃果ちゃんに襲われたいです(切なる願望)
 穂乃果を飲み会の席で酔わせて、そのまま自宅へお持ち帰りする展開が来ないかなぁとずっと妄想しています。妄想だけです(悲愴)

 前書きでも本編でも言いましたが、酔った女の人って色気がいつもより数割増しだと思いません??テンションは子供っぽくなるのに、フェロモンは大人びているとかズルいんですけど!!


 次回は花陽回です。エロになるかそうでないかは……知りません!でもそろそろ堕ちる時かなぁ~()



新たに高評価をくださった

Kearnyさん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

堕ちゆく花びら

 遂に、この時が――――


 

 最近というか、この間からずっと思っていることがある。

 

 

 花陽の色気が、上がってきてないか?

 

 

 これは俺の勘違いかもしれないが、今まで幾度となく色んな女の子の相手をしてきた俺の目に、ほぼ狂いはないと思っている。どこか身体的に変化したところなどはなく、花陽も自分から意識して色気を上げているようにも見えない。

 

 だが、彼女からは1年前にはなかった女性のオーラが感じられる。なんて言ったらいいのかよく分からないが、なんかこう、女性的な魅力があるんだ。根拠もへったくれもないが、もう1年間も花陽の彼氏を勤めている俺なら分かる、大人の魅惑が彼女から放出されているんだ。

 

 もう御託を並べるのはいっか。一言で言うとだな――――――

 

 

 

 

 

 花陽からエロスを感じるってことなんだよ!!

 

 

 

 

 

 そして俺はここで考えてみた。

 極度のアガリ症でおっとりとした性格の花陽は、こう言っては申し訳ないが、大人な女性のイメージとは遠くかけ離れた子だ。どちらかといえば魅惑で男を誘惑するよりも、優しい聖母のような雰囲気で男を包み込む、そんなイメージの方が近い。しかしそんな彼女から、前者の魅力を感じるのだから驚きだ。今でも彼女の振る舞いや話し方も、天使のような性格も何も変わっていないのに、大人の女性のオーラを感じるのは何故なんだ……?

 

 あの花陽にエロスを感じることなんて、日常生活でそうそうどころか全くない。むしろ彼女に欲情するのは、天使を穢しているようで若干だけど罪悪感が生まれてしまう。だが、今の彼女はそんなことすらも忘れさせるほど、俺の男の欲望をくすぐりやがる。あのエロ属性の一切ない、超純粋な彼女からだ。

 

 

 だから俺は確かめなければなるまい、彼女の身に何が起こっているのかを。俺をここまで欲情させる、その理由を。

 

 

 そう、どんな方法を使ってでも――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 私は今日もまた寝る前に、ベッドの上で寝転がりながら携帯を眺めている。

 私の指は自然と画面の"写真"のアイコンをタッチし、μ'sの写真アルバムとは別の、凛ちゃんにすら内緒にしているパスワード付きのアルバムを見た。このアルバムの中の写真を眺めることが、私の毎晩寝る前の日課となっているのです。今日はすぐに寝ようと思っていても、気が付いたらこのアルバムを開いている。もう無意識にそう行動してしまうくらい、私は()()()()()()()()()に毒されているみたいです。

 

 

 私の秘蔵のアルバムに入ってる写真、そこにメインで写っているのはたった1人。

 

 

 神崎零くん。

 

 

 アイドル研究部は活動報告の一貫で、練習中もどこでも所構わず写真を撮ります。そうなればもちろん、私たちの手伝いをしてくれている零君も写真に写ってしまうのです。初めは零君が写っているのは当たり前だろうと、特に何も思うところはありませんでした。ですがいつからか、写真がグループ間で共有された時に、私は零君のよく写っている写真を誰にも内緒で、普段使っているものとは別のアルバムに保存するようになったのです。

 

 何故零君の写真だけ別に保存してあるのか、私自身でもよく分かりませんでした。しかしやがて気付いたのです、私は毎日――――彼の写真ばかり見ていると。

 

 落ち込んで元気をもらいたい時、零君と会いたくて仕方がない時、ただ単に彼の顔を見たい時、私はベッドの上で寝転がりながら、その写真を見ることが条件反射のように習慣となっていたのです。写真の中の零君の笑顔を見ているだけで心が暖かくなって、迷いも焦燥も落ち込んだ心も晴れやかになります。もうこの写真がなければ私という存在が保てなくなるくらいには、彼に依存してしまっているのです。

 

 

 そしていつも、写真を見ていると段々零君が愛おしくなってきて、心もドキドキしてきます。自然と身体も熱くなり、私と零君だけの世界にのめり込んでいく……。私が見ているのはただの写真だけど、その中の笑顔の零君が、私に優しい言葉を投げかけてくれているようで、余計にその写真に釘付けとなってしまうのです。

 

 

「はぁ……」

 

 

 こうなるといつも、私の口から吐息が漏れてくる。

 疲れている訳でもないし、体調が悪い訳でもない。ただ写真の中の零君と見つめ合っているだけなのに、私の身体が火照ってきて仕方がない。むしろ疲労や体調不良とは全くの逆、身体も心もふわふわして気持ちがいい。私の身体は、いつからこんな風になっちゃったのかな……。

 

 

 いつしか右手の指先が、私も無意識の内にパジャマを押し上げる胸へと伸びる。そして左手の指は太ももの間、女の子の大切な部分が隠されている下着の上に当てられていました。

 

 

「んっ、ふぁ……」

 

 

 携帯を顔の隣に置いて、零君と添い寝をしている感覚になりながら、私は両手の指先をゆっくりと動かし始めました。右手の人差し指は胸の先端の周りをなぞるように、それ以外の4本で胸の側面を弄る。左手の指は人差し指だけを使って、下着の上から私の湿らせている元凶を、割れ目に食い込む強さで上下に動かします。

 

 熱い……胸と下半身を弄っている最中に、携帯に映った零君の写真が目に入ることで、私の心臓が早鐘のように鳴る。熱さで頭もぼぉっとし、もう気持ちよくなることしか考えられなくなってしまいます。

 

 

「はぁ……ん……あっ!」

 

 

 こんなことをしちゃダメ……そう思っているのに、指の動きは留まるどころかより巧みに蠢いています。まるで指に私の身体が犯されているかのような、そんな感覚。

 

 きっと私がこんなことをしているなんて、μ'sのみんなは誰も知らない。それどころかみんなは私に「花陽ちゃんは純粋で天使みたいだね」と言ってくれる。

 

 

 違う、私はそんな純白ではないのです。

 

 

 恋人の写真を眺めるだけで、こうして1人で自分を慰めてしまうくらいにエッチな子。今まで零君に何度か身体を攻められ、そしてその快感に堕ちてしまった哀れな子。気持ちよくなりたい、そう思っても、己の羞恥心から彼に相手をしてもらえるよう懇願することもできず、こうして毎晩1人で寂しく自営をするしかないのです。彼に作り変えられてしまった、この身体を自分で弄って……。

 

 

「零、くぅん……っうぁ……あっ、んぁ……ッ!」

 

 

 身体中に電流が走るこの快感、知ってしまう前は非常に怖かった。ことりちゃんや楓ちゃんの話から、自分の身体に今まで感じたことのない快楽に襲われると聞いて、私は絶対にそんなことはしないと決めていた。

 

 だけど一度この快楽を覚えてしまうと、もう抜け出せない。そして毎回自分を慰めている時に蘇る、零君によって辱められた恥辱の記憶。公園の陰に連れ込まれ、身体中を弄られたことを思い出してしまう。

 

 

――――胸の先端を執拗に攻め立ててくる、零君の右手。

――――おしりに指が食い込むほどに揉みしだいてくる、零君の左手。

――――そして、下着の上から女の子の大切なところを時には優しく、時には激しく弄り回す、零君の指。

 

 

「もっと……っ……あっ、んっ……!」

 

 

 触って欲しい、もっと私を。零君の手で、卑しく支配して欲しい。

 動き始めた私の手は止まらない。今は自分の手を彼の手に見立てて、欲望のままに蠢かせる。だけど、自分の手では十分に満足することはできない。やっぱり零君じゃないと……私の愛しの彼の手じゃないと、満足できないよ……。

 

 

 心が満たされないと悟り、私は無理矢理指遊びを止めました。もちろん身体の疼きと火照りはまだ残ったままです。早くこの欲情を抑えないと、自分がもっともっと壊れちゃいそう……。そしてそんな淫らな私を助けてくれるのは、この世でたった1人――――

 

 

「零、くん……」

 

 

 私は微かな声で愛しの恋人の名前を呟くと、激しく自分を磨いていたことの疲労から、そのまま夢の中へと旅立っていきました。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 翌日、思いがけないことが起こりました。なんと零君から私とお話がしたいと連絡が来て、人気のない校舎裏に呼び出されたのです。ただ彼と2人きりでお話をするだけでも舞い上がってしまいそうなのに、何故校舎裏なのかを勘ぐると、更なる期待を抱いてしまう私がいます。こんなことを考えてしまう辺り、私ももうことりちゃんや楓ちゃんと同じ淫乱さんなのでしょうか……。

 

 

 そんなこんなで校舎裏へ行ってみると、もうそこには既に零君が腕を組みながら、校舎の壁にもたれ掛かっていました。その表情はいつになく真剣で、まるで別れ話を切り出すかのような重々しい雰囲気が……。さ、流石に違うよね?でもでも、わざわざ人気のないところに呼び出されたし……。そういえば最近生徒会が忙しくて、零君のお手伝いをしてあげてないような気がする……。

 

 だ、大丈夫!零君の性格上、一度心に決めた女性を見捨てるはずなんてないよね!!そうだよ……ね?

 

 

「あのぉ……零君?」

「おっ、来たか――――って、どうしてそんなに離れてんだ?もっと近くに来いよ」

「へっ!?あっ、う、うんそうだね……」

「お前なんでそんなに畏まってんだ?」

「いやだって、零君と2人きりでの校舎裏だなんて、誰でも緊張しちゃうよぉ……」

 

 

 別れ話かもしれないという緊張感から来る不安と、もしかして私の身体がめちゃくちゃにされてしまうかもしれないという、ちょっぴり淫猥な妄想から来る期待。その2つが今同時に私の中で揺れ動いています。1つ言えるのは、どちらにせよこのドキドキは収まらないことです。今から零君に何を言われるのだろう、何をされるのだろう、募る不安と高ぶる期待に、心が弱い私は押し潰されそうになります。

 

 

「そうか、ならとっとと本題に入るか」

「へ…………きゃっ!!」

 

 

 零君はいきなり私の手首を掴み壁際に引っ張ると、素早く自分の立ち位置と私の立ち位置を入れ替えました。そうすると必然的に私が校舎の壁に背を預けることになり、零君の身体と壁に挟まれ身動きが取れない状態になってしまいます。これが壁ドンと言われるものなのかな……?

 

 それにしても、零君の顔が近すぎるよ!!

 自分の顔がどんどん朱に染まっていくのが分かります。そして何故か身体まで熱くなってきました……もしかして、昨日身体の疼きをそのままにして寝ちゃったから、今それがぶり返してきたとか……?まだそっち系の話題になると限った訳じゃないのに、やっぱり私ってもうことりちゃんたちと一緒だよぉ~……!!

 

 

 すると零君は、未だ真剣な表情を崩さないまま口を開きます。

 

 

「もう単刀直入に言うぞ。お前、欲求不満なんじゃないのか?」

「ふぇっ!?ど、どどどどうしてそんなことを……」

 

 

 その瞬間、私の心臓が止まりそうになりました。まさかいきなりそんな話題で切り込んでくることと、心眼を持っているかのような的確な指摘に、思わず吃ってしまいます。

 

 

「あれ、違うのか?でも最近のお前を見ていると、どうも大人の雰囲気を感じてな。いつものおっとりしているお前と違って、近頃はどうも艶っぽい。こうして近くで見ても、化粧をしている訳でも身だしなみが変わった訳でもねぇし、なんでだろうって気になっていたんだ」

「へ、へぇ……」

「そこで俺は1つの結論に至った。もしかしてお前が、1人で自慰行為をしているんじゃないかってな。言ってしまえばアレだよ、オナニーだよ」

「えっ、あっ、そ、それは、そのぉ……」

「大方、俺に相談するのが恥ずかしくて、やむを得ず1人でやっちまってるパターンだと踏んでいるんだけど。どうだ?」

「うぅ……正解です」

 

 

 やっぱり零君は凄い。普段の私の様子だけで、日常習慣まで的中させちゃうんだから……。

 でも、それだけ学校生活でも零君に気を掛けてもらっていたってことだから、そういう意味では結構嬉しかったり。最近は生徒会とμ'sの練習で忙しくて、零君と話す暇が中々なかった分、これからはしっかりとお相手しないと!

 

 

 するとここで、零君は再び私の手首を掴みました。さっきからずっと近かった顔が更に近付けられ、もうお互いの吐息が相手の顔に当たるかの至近距離にまで詰め寄られます。私の身体は完全に固定され、私の目にはもう零君の顔しか見えません。

 

 

「壁に手を当てて、俺におしりを突き出せ」

「え……?」

「なぁに、もう休み時間は終わる。そこまで長引かせたりはしない」

「わ、私は……」

「早く!!」

「は、はい!」

 

 

 私の中に一瞬の迷いがありましたが、零君の一喝によって強制的に従わされてしまいました。

 私は少し身を屈め壁に両手を着くと、おしりを真っ直ぐ零君の方へと突き出します。この体勢だと、もう何もしなくてもスカートからパンツが見えてしまいそうで、物凄く恥ずかしいです!!

 

 でも、昨日の夜から待ちに待ち焦がれていた展開が訪れ、期待が膨れ上がっている私がいることも事実。まだ触られてもいないというのに、私の身体は既に熱を帯びています。

 

 

「やっぱり花陽にはこの体勢が似合う。半年前にデートした時も、確かこんな格好だったかな。その時からずっと、またお前とこの体勢で色々やりたいと思っていたんだよ。そう、色々とな……」

「色々!?零君、早く……早く触って!もう私、我慢できないよぉ……」

「おっ、まさかお前からせがんでくるとは。まぁお前に頼まれなくても、最初からそのつもりで校舎裏に呼び出したんだけどさ。よし、俺が解消してやるよ、お前の欲求不満を全て」

 

 

 初めからそのつもりだったんだ……。だったら妙な緊張をしなくてもよかったんだね。私は一度心の安らぎを取り戻します。そしてこれから零君から注がれる寵愛に、もう身も心も悦んでいました。

 

 ここで零君が動き始めます。右手で私の胸を、左手で私のおしりを強く握り締めました。

 

 

「ひゃうっ!あぁっ……!!」

「そうだ、この花陽の身体の感触!これを久々に味わいたかったんだよ!身体を曲げているせいで垂れているお前の大きなおっぱいを、こうして後ろから揉みしだくこの感触を!!触ってくださいとばかりに突き出されているこのおしりを、指が食い込むくらい弄り倒すこの快感を!!」

「ふぁ……あぁ……ん、んあっ!!」

 

 

 零君は食事に飢えたケモノのように、私の身体にがっついてきます。

 でも、それが何よりも嬉しい。この時の彼こそが、私を愛してくれていると一番実感できるから。彼女が12人もいる彼にとって、全員平等に時間を割いて愛することなんて不可能。だからこそこうやって彼に私の身体が求められている、この瞬間こそが私が幸福に満ち溢れる時なのです!!

 

 そして1人でやっている時とは、快楽の感じ方が全然違う!零君の大きな手で胸もおしりも弄られて、もう私の身体が勝手に悦んでいます!彼の手が私の身体に俺のモノになれと、徐々に調教されているみたい……。

 

 

「校舎裏だからといってあまり声を出すと、誰かに聞かれちまうかもしれねぇぞ」

「ッあ、あぅん……っ……いいんです!だからもっと……あ、んっ……!私を、満足させてください!!」

 

 

 今まで私の身体は、零君からねちっこく調教を繰り返されてきました。それは決して激しいものではなかったけど、もうこの身体は日々の自分磨きと相まって、彼の手でしか満足できないよう仕込まれてしまったようです。彼から与えられる快感に、もはや私は順応してしまっています。

 

 

「お前の身体は、どこも柔らかくて大好きだよ。まさに全身オナホだな」

「そ、そんな恥ずかしいことぉ……あっ、んぁ……ッ!」

「さて、こっちの方はどうかな?」

「あっ、そこは……んっ、ふぁ……」

 

 

 零君はおしりを触っていた左手を離すと、すぐ隣、女の子の秘所へと人差し指を伸ばしました。

 もうここまで辱められ、至高の快楽を感じてしまっている私の秘所は、触られる前から蕩けて濡れていました。

 

 

 零君の指が触れ、くちゅり、と淫らな水音が小さく校舎裏に響きます。

 

 

「ふわぁ、あっ、ほんとに逝っちゃ、うぅぅ……っ!!」

「おいおい、まだちょっと触っただけだぞ。まあこんなにも濡れてるんじゃあ無理もないか」

「うぅ、あ、はぁ……っ!!」

「我慢しなくてもいいんだ。お前の欲求不満を改善するためにしているんだからさ」

 

 

 その言葉を引き金に、私の(たが)が外れる音がしました。

 羞恥心という最後の砦すら打ち崩され、私はもう彼から快楽を求めるだけの、性に乱れて彼を悦ばせるだけの奴隷のような存在になっていました。もう咎めるものはなにもない。

 

 

――――ただ私を愛して欲しい!!

――――もっと快楽を与えて欲しい!!

――――触ってください、私の身体を!私の全てを!あなたの手で、あなたの色で染め上げて、私を満足させて!!

 

 

 下着の上から下半身を、そして制服の上から胸を同時に攻められ、私の頭は真っ白になっていました。もうひたすらに与えられる快感で喘ぐだけ。それでもいいんです。欲求が満たされればそれだけで……。

 

 

「あぁ!も、もう……もうらめれす!!」

「我慢しなくてもいい。溜まった性欲を全部ぶちまけろ!!」

 

 

 

 

「あっ、あ゛ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 人気のない校舎裏に、男の人の手によって果てさせられた女の声が、淫らにも響き渡りました。しかし、もう誰にバレてもいい。そう開き直ってしまうくらいには、私の心は満たされたのです。

 

 

 

 

 私はその場でおしりを突き出していた体勢を崩し、ガクッと地面に座り込んでしまいました。

 さっきまで茹で上がっていた興奮が一気に冷め、激しく息が切れます。

 

 

「はぁ、はぁ……」

「大丈夫か?」

「はい。疲れたけど、とっても気持ちよかったです……」

「それならよかった。これからは我慢せずに、ちゃんと俺に相談するんだぞ?欲求ならいつでも満たしてやるからさ」

「零君……。はいっ!ありがとうございます!!」

 

 

 笑顔でそう答えてしまう辺り、もう私は性欲に取り憑かれてしまってるのでしょうか……?

 でも、もうそれでいいんです。これからはずっと、零君が私の欲望に応えてくれるのだから――――

 




 言い訳をさせてもらうと、天使は堕ちる定めだと、どこかのお偉いさんが言っていたので実行してみただけです。私は悪くありません()

 でもやはり純粋な子が堕ちていく過程は素晴しいですね!本当は零君の視点で書くつもりだったのですが、堕ちる過程での女の子の心を描写してみたくもあったので、今回は花陽視点で書かせてもらいました。ご満足いただけたでしょうか?(笑)


 次回は、大学生組のターン!
 主に希&にこがメインになりそうです。


新たに高評価をくださった

シャラットさん

ありがとうございます!

そしてこれまでに何度か言っているのですが、これまでに高評価をくださった方で、また同じ☆の数の評価に入れ直している人が何人か見受けられます。その際に名前の掲示は行いませんのでご了承ください。



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

貧乳の反乱 巨乳の堕ちる日

 にこ&希メインの日常回。今回で遂に巨乳と貧乳の対決に終止符が打たれる……?


 

 俺はおっぱいの大きさなどどうでもいい、重要なのは感度だと思っている。そう言い続けてもう何年になるだろうか。

 

 おっぱいの感触はもちろん興奮を高めるためのファクターだが、そこから最高潮の興奮へと到達するために必須なのは、おっぱいを触った時に漏れ出す女の子の淫声だと、俺の中で結論が出ている。

 

 大きいおっぱいを揉みしだけば、それだけで一定の興奮を得ることはできる。しかし、それだけでは沸き立つ興奮は平行線を保ったままだ。それ以上の快楽を感じ得ることはできない。

 

 自身の欲望をより高みへ上昇させるためには、女の子の感じる姿を視覚的に、そして聴覚的に得ることが必須なのだ。おっぱいを揉まれて身体に走る刺激を感じ、顔を真っ赤にして蕩ける表情。与えられる快感に我慢が出来ず、口から漏れ出す淫猥な喘ぎ声。その2つを視覚と聴覚で受け取ってこそ、真の興奮が得られる訳だ。結論、女の子自身の感度が最も重要である。おっぱいを触っているのに女の子が全くの無関心では唆られない。逆にそれがいいという特殊な男もいるかもしれないが、これはあくまでも一般論である。

 

 

 さて、ここまでの話を聞くと巨乳と貧乳の差なんてないようにも思える。だがしかし、巨乳でしか味わえない興奮があることも事実だ。

 

 1つ目はまず視覚的効果。明らかにおっぱいが小さい子より、大きい子のモノを見ていた方が興奮が高ぶりやすいのが普通ではないだろうか。全裸や着衣に関わらず、ゆさゆさと揺れているおっぱいの視覚効果は凄まじい。

 2つ目は性交渉時において。男のシンボルを、大きな2つの果実で挟まれる快感。男の欲望の源を女の子の秘所に出し入れしている時にぶるんぶるんと震える、女性の象徴。それらは大きいおっぱいだからこそ成せる技と言えよう。

 

 

 ここまでをまとめると、俺はおっぱいの大きさにさほど興味はない。だけど大きいおっぱいの持ち主とは、それ相応のプレイが出来るメリットがあるということだ。そこで貧乳を卑下するなどという、女性の心を傷つけるような真似はしないから勘違いなさらぬよう。

 

 

 まあ、何を主張したいのかと言うと――――――

 

 

「おっぱいっていいよなぁ……」

「現実逃避してないで、早くそっちを片付けて」

「はぁ~…………」

 

 

 俺のためになるおっぱい講義も、絵里によって一蹴される。

 俺は秋葉の研究室の隅っこで座り込みながら、大量の資料の仕分け作業に追われていた。そうは言ってもほとんど捨てるみたいなので、もう中身なんて見ずにダンボールにせっせと詰め込んでいるだけだが。ていうか、俺が秋葉の研究資料など見ても一ミリも理解できないしな。

 

 そんな訳で現在、俺は秋葉により強制的に呼び出され、研究室内の大掃除をしている。年末年始は忙してくてロクに掃除もできなかったらしいから、俺と絵里、希、にこを使役したのだ。面倒、ただただ面倒な奴。

 

 

「どうして俺まで駆り出されなきゃいけねぇんだよ……」

「どうせ暇でしょ零君。それに年末年始にあまり会えなかったし、ちゃんと零君分を補給しないとね♪」

「あのさ、俺、受験生なんだけど」

「海外の大学すら簡単に入学できちゃうような子が、日本の受験なんて余裕でしょ?」

「仰る通りで……」

 

 

 普段から秋葉に世話になっている絵里たちならともかく、大して世話になってないどころか、むしろ面倒ばかり掛けさせられている俺がコイツの手伝いなどしてやる義理はない。だけど何やらマジでゴミが溜まって掃除が必要みたいだったので、仕方なく駆けつけてやったのだ。ホントに俺っていい奴。だからたくさんの女の子に好かれるんだろうな。

 

 

「まあまあ、掃除が終わったら先輩が焼肉を奢ってくれるって言ってたやん?だから頑張ろ!」

「希、お前絶対に肉が目的だろ……。さっきからずっと楽しそうなのはそのせいか」

「えっ、ウチそんなにニヤニヤしてる??」

「してるしてる。幸せそうでいいなお前」

 

 

 希は焼肉好きという、女の子としては珍しい好物だ。美味いのは確かだけどそこまで頻繁に食べれるものでもないし、増して彼女はスクールアイドル、体重管理には普通の女子よりも人一倍気を付けなければならない(守れない輩には、海未のキツ~イお仕置き)。だからこういったいい機会、しかも奢りというのだからテンションが上がってしまうのも分かる。

 

 

「私たちのおっぱい見て現実逃避したい気持ちは分かるけど、早く手を動かして仕事を終わらせないと、焼肉お留守番になるからね。お姉ちゃんたちだけで行っちゃうから」

「冗談じゃねぇ、タダ働きとかやってられっか。それに、おっぱいに目が行くのは男の習性だから」

「まあ、ウチらのおっぱいを見てるだけで仕事が進むのなら、いくらでも見てもらってもいいけどね」

「もう、秋葉さんも希もどうしてそんな話題に……」

「心配しなくても大丈夫!さっき零君、絵里ちのおっぱいも見てたから♪」

「えっ!?そ、そうなの……?」

「聞くなよ!!逆に恥ずかしくなるだろ!!」

 

 

 秋葉に絵里、そして希、俺の眼前にいるのはおっぱいが無駄に大きい連中ばかりだ。例え冬で厚着しているからと言っても、流石にその大きなおっぱいを完全に包み込むことはできず、服の上からでもその巨大果実を視姦可能だ。それにさっきから掃除で忙しなく動いているためか、その果実も揺れる訳で……童貞を殺しに来てんのかコイツら。

 

 

 ――――――ん?な、なんだこの殺気?

 

 

 隣から俺を威圧するようなオーラを感じる。そしてドスッと、人を押しつぶすような勢いで、ダンボールを床に叩き落とす鈍い音まで聞こえた。まあ、その正体は振り向かなくとも分かるが……。

 

 

「にこ、俺を潰す気か?」

「にこはおっぱい魔人には少々手荒なのよ。巨乳を眺めるイコール、貧乳を馬鹿にしてるってことだしね」

「なんだその超理論は。だったらもう絵里や希を見ることもできねぇじゃねぇか……」

「おっぱいにしか目が行かない下衆変態には、丁度いいお仕置きよ」

「なに?怒ってる?」

「怒ってないわよ!!」

「怒ってんじゃねぇか……」

 

 

 おっぱいの話題になるといつもにこの機嫌が悪くなる。コイツの胸の大きさを考えた場合、それは仕方のないことかもしれないが。特に彼女は周りに秋葉、絵里、希と、E~Fカップクラスの巨乳しかいないため、どこのどの貧乳ちゃんよりもやさぐれてしまうのも無理はない。俺は男なので同情はできないが、慰めて(意味深)やることはできるぞ。

 

 

 しかしにこの表情は、怒っていると思ったら、いつの間にか明らかによからぬことを企んでますよ的な笑顔に変わっていた。いつもの小悪魔笑顔の数十倍のドス黒さに……。

 

 

「まあいいわ。今からにこの大逆転劇を見せてあげる。この巨乳至高主義の世界を覆す瞬間を、そのおっぱいによって腐敗された目に焼き付けておきなさい」

「どんだけデカイおっぱい嫌いなんだよ。別にアイツらも好きで大きくなった訳じゃないからな」

「だからよ!!生まれ持って秀た体質なんて覆しようがないことで差別され続けてきた、貧乳の苦痛を思い知らせてあげるわ!!」

「お、おい、お前その手に持ってるのって……」

「フフフ……さっき別室を掃除していた時に、このガラクタの詰まったダンボールに入ってたのを見つけたのよ。そしてこの発明品に関する資料も一緒に読んだの。見てなさい、今この世界の常識が覆される瞬間を!」

 

 

 にこが持っているのは紛れもない、秋葉(あくま)が開発したであろう発明品だ。その形状は細長いチューブの両端に、トイレで使うスッポンの黒い半球が2つずつ取り付けられている。見た目はどうも滑稽だが、アイツの作ったモノなんだから間違いなくロクなことになりはしない。

 

 もちろん止めようと思ったのだが、にこの嬉しそうな笑顔(ただし真っ黒)を見ていると、どうも声を掛けづらかった。アイドル活動と俺との性行為以外でここまでイキイキしているアイツ、初めて見たかもしれない。文字通り、歴史が変わる前兆か……?

 

 

「希!」

「どうしたんにこっち――――って、えぇっ!?な、なにこれぇええええええええええ!?」

 

 

 にこはいきなり希の服をめくり手馴れた手付きで下着を脱がすと、両方のおっぱいにトイレのスッポンの半球をはめ込んだ。そこで悔しそうな顔をしている辺り、何の抵抗もなくすっぽりとはまったことに苛立っているのだろう。でもなんかエロいな、おっぱいにスッポンの半球が刺さっている光景。一度でいいからおっぱいに、トイレのスッポンを吸い付かせてみたいと思ったことない?ないよなぁ~……。

 

 

「ちょっ、これ全然外れへん!!」

「にこ!一体希に一体何をしたの!?」

「何が起こるのかは今から分かるわ。そうでしょ秋葉先輩?」

「うんうん♪これは面白そうな展開になってきたぁ~~!!」

 

 

 俺と同じ事態を重く見ている絵里。だがその反面、当製作者の秋葉は自分の実験器具の被験者が現れたことで、またしても心が邪悪に染まっているようだ。アイツのテンションが上がる時、すわなち俺たちの誰かが不幸に陥る時だからな。

 

 そしてにこは自分から服をめくって下着をずらすと、希のおっぱいにはめ込んだ半球とは反対側の半球を自分のおっぱいに装着する。希のおっぱいはデカイから半球も上手く密着したものの、にこのおっぱいの大きさでは辛うじてひっついている程度だった。手で抑えなければ落ちてしまうくらいには……寂しいなオイ。

 

 

「このボタンを推せば、社会の縮図が様変わりするわよ。アンタに今まで貧乳を馬鹿にされてきた恨み、絶対ここで晴らしてみせるから。全世界の貧乳たちに告ぐわ、今こそ革命の時よ!!」

「にこっち、怖い……」

 

 

 にこは親の敵に復讐をするかのような、おどろおどろしい表情で希を襲う。目も血走り、これまで受けてきた屈辱を、全て彼女へぶつけようとしている。そして彼女の手元には、2人を繋いでいる発明品を稼働させるためのスイッチが握られていた。そのスイッチのボタンに親指を強く押し込んで起動させる。

 

 傍から見ただけでは、2人の様子に大きく変わったところはない。しかし、その刹那――――――

 

 

「ああっ、んっ、あぁ……」

「ひゃぁ!こ、これって……あっ、ん……」

「えっ?希、にこ、どうしたの!?」

 

 

 突然2人の表情が赤く蕩ける。何をいきなり発情してんだかと思っていると、2人のおっぱいに装着されている半球が激しく蠢いていることに気が付いた。ボタンを押して作動させたのが原因だろう、半球はその形をぐにゃぐにゃと変形させ、にこと希のおっぱいを強く刺激している。もう俺に何度も胸を揉まれて感じ方が半端ではなくなっているのだろう、2人は漏れ出す喘ぎ声を我慢できないようだ。

 

 

「あぁぁ……はぁ、んっ……な、なに……おっぱいの形が、変わっちゃう……ひゃん!」

「む、胸が吸われてる……ん、あっ、みたいや……はぁ、はぁ」

 

 

 にこはおっぱいが圧迫されている感覚で、希は逆に押し出されている感覚らしい。

 まるで授乳期を装着しているみたいに、2人の胸は謎の機械に弄りに弄られている。2人の身体は震え、(ほとばし)る快感にもう立っていることもできないようで、もう床にペタリと座り込んでいた。それでもなお怪しげな機械は、2人の胸を刺激することをやめない。

 

 

「ひゃっ、あぁ……お、おっぱいが疼いて……ああっ!」

「そ、そんなに吸ったら……んっ、あぁ……ッ!」

 

 

 研究室に嬌声が響き渡る中、俺はにこと希のあられもない姿に釘付けに、絵里はおどおどしながら、秋葉は自分の実験道具がどのような結果を招くのか知りたいのであろう、目をキラキラさせて2人を凝視していた。そこで絵里が思わず秋葉に詰め寄る。

 

 

「秋葉さん!これ一体何が起こってるんですか!?このままだと2人が危ないんじゃあ……」

「そんなに危険なモノじゃないから大丈夫だよぉ~。まあ、何が起こるかと言いますと――――見てれば分かるよ」

「えぇ……」

 

 

 その時だった。2人のおっぱいに装着されていた半球が、ポンッ、という大きな音を立てながら外れ床に落ちる。にこも希もさっきまでの快感がまだ身体に疼いているのか、はぁはぁと吐息を含めた淫声を漏らす。オトナの玩具によって胸を弄られたためか、2人の顔は真っ赤に茹で上がっていた。

 

 

 ここで俺は、にこと希の表情だけでなく身体に大きな変化が現れていることに気が付いた。息を整え直したにこと希も、傍観者の絵里も気付いたようで、秋葉は口角を上げて嬉しそうにしている。

 

 

 まさか……まさかにこと希の胸が――――!!

 

 

「あっ、あぁ……う、ウチのおっぱいが……なくなってる!?」

「それに対してにこの胸が……嘗ての希くらいの大きさに!?」

「そう、これが私の開発した貧乳ちゃん救済アイテム。おっぱい入れ替えくんなのだ!!」

「名前そのまんまじゃねぇか!ていうか、なんか予想だにしない事態になってきたな……」

 

 

 にこが使用した発明品は、どうやらトイレのスッポンの半球を装着した者同士の胸の大きさ入れ替える、貧乳の復讐用アイテムらしい。つまりにこが巨乳となり希が貧乳になっているという、まさに革命が起こったのだ。

 

 にこは目を輝かせて、手で自分の胸を揉み始めた。

 

 

「く、食い込む……おっぱいに指が食い込むなんて!!これが夢にまで見たにこの理想のおっぱい。これがあれば……」

「にこっち!人のおっぱいを好き勝手に弄らんといて!!」

「ざんね~ん。今はにこのおっぱいだから、自分のおっぱいをどうしようがにこの勝手でしょ貧乳ちゃん♪今まで世界中の貧乳たちが飲まされてきた苦汁を、たっぷりと味合うといいわ!」

 

 

 この憎たらしく人を見下す悪い笑顔、段々秋葉の笑顔とそっくりになってきたぞ……。

 にこは胸下に腕を組むと、そのままおっぱいをグイっと押し上げて自慢の巨乳を強調する。絵里や希にその仕草をやられると心底唆られるが、にこがやるとなんか微笑ましいな。おっぱいは大きくなっても背丈は変わらないから、子供っぽく見えるのは変わりない。むしろロリ巨乳という新しい属性を手に入れ、貧乳だった頃よりも妙に幼さを感じてしまうのは俺だけ?

 

 希は逆に背の高さに対して、色んな意味でスラッとした体型となってしまった。希の一番のアピールポイントであったホイルスタン級のおっぱいは、ほぼ無乳と言っていいほどに萎んでいる。にことおっぱいを交換したはずなのだが、あれは明らかににこのよりも小さい。無乳過ぎて、胸だけ見たらもしかしたら男と間違われてしまいそうだ。

 

 

「そ、そんな……ウチのおっぱいが……」

「ふっふ~ん!ねぇねぇ、今どんな気持ち??」

「うぅ、これじゃあ零君にご奉仕してあげることができない……」

「そうだそれよ!零!」

「な、なんだよ」

「どう、にこのおっぱいは?おっぱい魔人の零だったら、このにこにーにこちゃんの可愛さも相まって、即ノックアウトでしょ!うりうり~零の好きなおっぱいよ♪」

「ちょっ、急に押し当てるな!!」

 

 

 にこは俺に抱きついてくると、ここぞとばかりに人から奪った巨乳を俺の身体に擦り付けてくる。だが人のモノとは言え、あのにこからおっぱい奉仕をしてもらっていうというその事実だけでも己の興奮が高まってくる。本来なら絶対に有り得ないシチュエーションだからだろう。にこのおっぱいの形が自由自在に変化している光景なんて、そうそう見られないぞ。それにまあ……普通に気持ちいいし。

 

 だけど、心の中で「なんか違うなぁ」と思い始めている自分もいた。

 

 

「本当ならその役目はウチのはずやのにぃ……」

「やっぱりおっぱいの大きさなのよね~男を悦ばせるためには」

「男が誰しもおっぱいの大きさだけに固執してると思うなよ」

「零は違うの?」

「ちが…………わない」

 

 

 ここで否定できない辺り、やはりおっぱいは大きいことに越したことはないと思っているのだろう。巨乳の方が手触りや与えられる感触も心地いいものだしな。

 

 

「零君がにこっちのおっぱいに寝取られた……。絵里ち何とかして!!」

「そんなこと言われても……」

「このままにこを馬鹿にしてきた巨乳共を、全員無乳にしてくれるわ!!絵里、アンタもね!!」

「私!?別に私は馬鹿にしてなんかないわよ!それに自分や他の人の胸のことなんて、いちいち気にしてないし」

「あっそ、じゃあ凛のおっぱいとアンタのを交換ね」

「…………それはいや、かな」

「なによ気にしてないとか言って、全然未練ありまくりじゃない!!」

「そりゃあこのままの方が零に喜んでもらえるし……」

「やっぱり巨乳ウザイわ」

 

 

 絵里は頬を赤く染めながらも、自分の胸を死守するためにおっぱいに腕を回す。可愛い。

 俺のためか、そうか俺のためかぁ~。やっぱりそうそう簡単におっぱいを手放せないわな。大きいだけで女としてのステータスも上がるし。

 

 

「いやぁモテモテだねぇ零君♪女の子たちが1人の男の子を巡っておっぱいで争う。とんだハーレム野郎だ爆発してしまえ!」

「まあ嬉しいことだけどさ……。ていうかこれ、いつ元に戻るんだ?」

「さあ?だって捨てようと思ってた試作品だし、分かんない」

「も、戻らない!?じゃあウチはこのままずっと無乳のままの可能性も……??そんなのイヤやぁああああああああああああああああああああ!!」

「フフフ……ようやく反旗を翻す時がやってきたみたいね。そこで永遠に泣き叫んでおけばいいわ」

 

 

 秋葉の言葉を聞いて、更なる栄光を掴み取ろうとするにこと、絶望のどん底に突き落とされる希。まさか本当に女社会の縮図が変化してしまうとは。巨乳のにこに貧乳の希、これから俺は2人とどう接してやればいいのだろうか……。

 

 

「ま、零君ならおっぱいの大小なんて関係なく、ウチを可愛がってくれるからいいもん!」

「負け犬の遠吠えね。確かに可愛がってはくれるけど、おっぱいが大きいに越したことはないんだから」

「そう……だったら確かめておかなくちゃねぇ~……」

「な、なによこっちに近付いて来ないで!!」

 

 

 だがここで攻守逆転。希は絶望の底から這い上がると、いつものイタズラな笑顔でにこの元へとにじり寄っていく。その両手の指を卑しく動かしながら――――

 

 

「にこっちが零君のおっぱい攻めに耐えられるかどうか、まずはウチのワシワシで確かめてあげるよ!さっき散々ウチを馬鹿にしてきた恨みも込めてね♪」

「え゛……ちょっと待ちなさい!話せば分かる!!」

「問答無用!!」

「や、やめて……ぎ、ギャァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「何やってんだお前ら……」

 

 

 結局、おっぱいの大きさは変わっても、懐のデカさと攻守だけは変わらなかったようだ。やっぱもう今更巨乳と貧乳が入れ替わっても大して興奮もしない。「希=巨乳」と認識が紐付けされているみたいに、「にこ=貧乳」の方が似合ってるし、俺はそっちの方が好きだ。さっきにこにおっぱいを押し当てられていた時の違和感はこれだったのか。

 

 

 ちなみにだが、お互いのおっぱいはこの後すぐ元に戻った。良くも悪くも試作品で良かったな。

 

 

「おっ、にこっちいい感度やね♪」

「ひゃっ、どこ触って……あぁっ!!ご、ゴメン、謝るからぁあああああああああああああああああああああああ!! あっ、んん♪」

 




 やっぱデカイおっぱいに勝てる訳ないだろいい加減にしろ!!()
 ちなみに私のおっぱいに対する見解は、全て零君に言わせたのでご参考のほど。皆さんもおっぱいについては色々と思うことがあるでしょうが、お暇があれば私の境地まで辿り着いてみてください(笑)


 次回はまだ未定ですが、折角シスターズと結ばれたのに最近彼女たちに全然出番がないので、そろそろ出演させてあげなければ。それに加え真姫と凛にもまだ……とにかく次回は多分その中の誰かをメインに据えた話になるかと。


新たに高評価をくださった

見習い魔導師さん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

凛ちゃんと密室生徒会

 純粋な凛ちゃんに癒されるだけの回。ホントにただそれだけ。


 

「で?どうして俺が生徒会室に呼び出されている訳?俺また何かやらかした!?」

「違う違う!零くんは凛の独断で来てもらったんだにゃ!」

「はぁ……」

 

 

 凛がいきなり生徒会室に来てと、半ば強制連行される形で連れて来られたから、また真姫からのお説教タイムかと思ってヒヤヒヤしたぞ。最近は受験やらセンター試験やらで忙しかったし、特に何かをやらかした記憶もない。そう、最近は……だけど。

 

 

「それで、俺は一体何のために呼ばれたんだ?」

「実はね、凛あまり国語力ないでしょ?だから一緒に考えて欲しいんだ」

「だから何を?」

「送辞」

「送辞……あぁ、卒業式のか?」

「うん。笹原先生から頼まれて昨日一晩中考えてたんだけど、堅苦しい文章が全然書けなくってぇ……」

 

 

 そういや現音ノ木坂の生徒会長は凛だったな。だから俺たちの卒業式の送辞はコイツが読むことになる訳か……うんなんだろう、こう言っちゃ悪いが締まらねぇな。穂乃果もそうだけど、なんか凛って威厳が感じられないんだよ。穂乃果には海未が、凛には真姫という監視員が付いてないと仕事効率が半減以下になってしまうというデータが既に取れている。絵里と希の優秀さが、2年を経て浮き彫りになってきたぞ。

 

 

 よしっ、ここで本題に入ろう。

 

 

「凛、1ついいか?」

「な~に?」

「何が悲しくて自分に送られる送辞の文章を自分で考えなきゃいかんのだ!!それに俺じゃなくて花陽か真姫に頼めばいいだろ!?」

「ふぇぇ~……で、でも、かよちんはいつも頼ってばかりだし、真姫ちゃんは鬼だし……ほら、いつもいつも凛を怒ってばっかりなんだよ!『喋ってないで早く仕事しなさい!』とか、『うたた寝したら叩き起こすから』とか!!」

「逆ギレすんな!それにどう考えてもお前がサボってんのが悪いんだろ!!」

「いいじゃん零くん手伝ってよぉ~!」

 

 

 ここで凛の頼みを聞いてしまうと、送辞の文章を9割方俺が書いてしまうはめになるのは目に見えている。送辞は卒業式の中でもトップクラスのお涙頂戴項目だ。なのにそこで自分が考えた文章が読まれれば、確実に激萎えするに違いない。

 

 

「ね?お願い零くん!!」

「なんでそんなに必死なんだ?」

「ふぇ?あっ、いやぁ、まあ……と、とにかく、もう生徒会室まできちゃったんだから、手伝うこと決定ね!」

「おいっ!!ったく、しょうがねぇなぁ……」

 

 

 凛は俺の手を引っ張って、入口に立っていた俺を生徒会室の中へと無理矢理引きずり込む。俺の卒業式がお涙バイバイな展開になることは確定してしまったことに悲しさを感じつつも、変に必死となっている彼女が少し気になってはいた。さっきから妙に頬も赤いし、どこか緊張しているように見えるんだよな。もう恋人としてやってきて1年以上、今更俺との間で緊張することなんてあるのか?

 

 

「じゃあ零くんはここに座ってね!」

「ここって……生徒会長の席だから、お前が座る椅子だろ?」

「いいから早く!!」

「だからいちいち引っ張るなって!それに何をさっきから焦ってんだ!?」

「あ、焦ってないよ!!早くしないとかよちんと真姫ちゃんが来ちゃ――あっ」

「えっ?さっきなんつった?」

「な、なんでもないよ!ほら早く座って座って!」

 

 

 凛は耳まで真っ赤に染め上げると、背中を押して由緒正しき生徒会長の椅子に俺を座らせた。さっきから何を慌てているのかは知らないが、お得意のイタズラを仕込んでいるようには見えないし、一体何なんだ……?

 

 

「俺がここに座るのはいいけど、それじゃあお前の座る場所がないじゃん」

「あるよ」

「どこに?」

「零くんちょっと動かないでね……」

 

 

 凛はそう言いながら、椅子に座っている俺の前に立つ。今から何が起こるのか皆目見当も付かない。それ以前に、目の前にいる彼女がずっと頬を染めながら俺を上目遣いでじぃっと眺めてくるため、その表情に心が揺さぶられていた。そんな愛くるしい凛の姿に、俺は目を奪われる。時たま見せる彼女の可憐さに弱いのが、俺という人間なのだ。

 

 

 すると、凛はその場でクルリと後ろを向く。そして俺の脚に手を掛けると、そのまま勢いで俺の身体に飛び座ってきた。

 

 

「うぉい!!い、いきなりなんなんだ……??」

「今日の零くんはこうやって、凛の椅子になってもらうにゃ!」

 

 

 いきなり椅子になれ宣言とか、SMプレイじゃねぇんだから……。

 椅子に座っている俺の上に、凛が座っている形となっていた。座高や体格差から、彼女の小柄な身体が俺の身体に丁度すっぽりと収まっている。そして当の本人は俺に飛び乗るや否や、しばらく俺の胸に背中を預けて身体をモジモジとさせていた。俺からは凛の顔を見ることはできないが、耳の裏まで真っ赤になっていることから、頑張って羞恥心を乗り越えて行動を起こしたのだろう。

 

 

「まぁ俺はこのままでもいいけど、どうして急に?」

「最近、凛は生徒会、零くんは受験でお互いに忙しかったでしょ?それに冬休みは恋人になったばかりの雪穂ちゃんや亜里沙ちゃん、楓ちゃんと遊んでいることが多くて、あまり会えなかったし……まあ、そのぉ~……」

「なるほど、要するに俺と触れ合う時間が少なくなって寂しかったって訳ね」

「うぅ~~!人から直接そう言われると恥ずかしいよぉ~~!!」

 

 

 俺からは顔が見えないのに、凛は手で顔を覆っている。

 俺に会えなかった寂しさと、シスターズに対する僅かな嫉妬。それが相まって我慢できなくなったから、こうして俺に触れ合ってきたってことなんだろう。非常にウブな凛らしい言動だ。まあ、そうやって恋愛に奥手なところがコイツの可愛いところなんだけどね。

 

 

「そういや去年までは普通に学院内でも抱きついてきたのに、今日はやけにしおらしかったよな」

「だって久しぶりに零くんと2人きりだから、なんか緊張しちゃって……。初めは凛なんかのお願いを聞いてくれるはずないって思ってたから、零くんがこうやって凛の我が儘に付き合ってくれたことが嬉しかったんだ。だから余計にドキドキしちゃったんだよね」

「凛、お前……」

「えっ、なに?」

「やっぱお前可愛いなぁ~!!」

「にゃにゃっ!?何するのぉおおおおお!?!?」

 

 

 俺は凛の身体を包み込むように、力強く彼女を抱き寄せた。凛はあまりに突然のことでビックリしたのか、身体を大きくビクつかせ、顔だけこちらに振り向かせる。そんな下から覗き込まれるような真似をされたら、お前がより可愛く見えちまうだろうが!!さっきから彼女の乙女チックな仕草に、こちとらずっと心を刺激されっぱなしだっつうの!!

 

 俺は思わず、凛を一回り強く抱き寄せた。

 

 

「ちょっとしたことでも寂しくなったり嫉妬したり、ホントに可愛いやつだよお前は」

「あぅぅ……あまり可愛いって言わないで!顔これ以上熱くなったら溶けちゃうからぁ~!!」

「それは困るな。俺の大切な凛の顔が崩れちまったら大変だ」

「も、もうっ!そういうのも禁止!!」

 

 

 普段の凛は俺に抱きつくことに抵抗もないのだが、こういったウブな面を見せてくれるのがとても乙女らしい。流石他のメンバーからもμ'sの中で最も女の子と言われるだけのことはある。小学生の頃、男にスカートを馬鹿にされたことがあるらしいが、そのガキたちは凛を見る目がない。むしろ彼女はスカートこそ至高。練習中も一生懸命踊っている凛のスカートを何度捲りたくなったことか。それで慌てふためく姿も、凛の魅力の1つなのだ。

 

 

「さっきから否定してるけど、こうやって抱きしめて欲しかったんじゃないのか?」

「……う、うん。零くんにギュッてされるの久しぶりでちょっとドキドキしちゃったけど、やっぱり暖かいね」

「そりゃこっちのセリフだよ。暖かいというか、もう熱いくらいだ。興奮しすぎだぞお前」

「そ、それは零くんが凛をイジメてくるからぁ~……」

「イジメる?それはこんな感じで――――」

「にゃっ!?そ、そこはぁ~……!」

 

 

 こうして抱きしめていると、凛の身体の温もりと髪の香りがダイレクトに伝わってくる。そして俺も凛と触れ合うのは久々でテンションが上がったのか、彼女の腰に回していた腕を腰から胸元へと少しずつスライドさせるように上昇させていく。やがて俺の腕に柔らかい感触を感じ、凛の胸が制服ごと押し上げられているのだろう。一応持ち上げられるくらいの胸はあるんだと再認識しながら、回した腕で彼女の胸を押し上げたり、軽く押し潰したりしながら弄り倒す。

 

 

「ふぁ、あっ……ちょっ、零くん……」

「もう感じてんのか?もしかして、普段からそういうことをやってるとか?」

「はぁ……んっ、す、少しだけ……」

「なるほど。だったらエッチな子にはお仕置きだな」

「ど、どうしてぇ~……ひゃっ!うぅ……そんなに強くされたら……」

 

 

 まさか花陽に続いて凛まで自分磨きをしていたとは、やはり元がどんなに純粋でも、裏で何をやっているかなんて分からないものだ。しかしそれを知ってしまった以上、彼女をこのまま帰らせる訳にはいかない。あとで欲求不満にならないよう、俺がここできっちり性欲を解消してやらなければ。まあ性欲が溜まってるとは言われていないが……ぶっちゃけてしまえば、俺が凛で遊びたいだけなんだよ。

 

 まだ少し胸を弄っただけなのにこの感じ方。そこまで俺を求めていたと思うと、自然と可愛がってやりたくなる。凛の幼さが残る声で喘ぎ声を上げられると、どうも俺の中のドS精神がくすぐられてしまう。この体勢だと彼女の表情を見ることができないので残念だが、こうして全身を包み込んでいると、凛を自分のモノにしている征服感だけは半端ではない。

 

 抱きしめられているが故に脱出もできず、ただ俺からの攻撃に腰をくねらせて感じているアピールをするしかないこの状況、何ともいい光景じゃないか。やっぱこの支配欲こそが俺の欲情を高める最高の手段だ。

 

 

 そしてここからが本番。

 凛の身体に回している腕を離すと、今度は両手で彼女の胸を制服の上から鷲掴みにした。

 

 

「にゃっ!?ひゃぅ……んっ」

 

 

 う~ん、見事な貧乳。だがちゃんと掌サイズに収まり、持ち上げることができるのでしっかりと女の子のおっぱいをしている。まだ掴んでいる程度なのにこの感じ方は、やはり胸が弱点なのか。なんともまあウブな女の子らしい。

 

 ただ指で弄っているだけでも反応の面白味に欠けるため、両手の親指と人差し指で胸の先端を弄り当て、制服の上からだが彼女の蕾を2本の指でギュッと摘み挟んだ。

 

 

「ひっ!?ひゃぁぁ……あっ、あぁっ……ッ!!」

「先っぽを摘んだだけでもこれか。自分の身体を自分で調教しすぎじゃないか?」

「そ、そんなこと言われてもぉ~……うっ、あぁ……にゃぁぁ……」

 

 

 子供のような淫声で身体をくねらせる仕草が、他のメンバーとの性交渉とは感覚が違って、今までにないくらいゾクゾクしている。服の上からでもこの反応なんだから、直接触ったらどうなるんだろう?そもそもさっきから凛がずっと腰をぐねぐねと動かしているので、俺の下半身に刺激が走りまくってヤバイ。必然的に凛のおしりで俺のモノをしごかれているみたいで、彼女の感度と淫声も相まって、俺のはもうガッチガチに……。

 

 

「ひゃっ!れ、零くんこれって……」

「あぁ、気付いてしまったか。そうだよ、お前のせいでこうなったんだ。凛がエロすぎるせいでな」

「えぇ~凛のせいなのぉ?」

「そうだよ。お前が激しく腰を動かしているせいで、おしりがずっと俺のここに擦り付けられていたんだ。俺も男だ、こうなっちまうのは仕方がない」

「そ、そう……それは、凛が治してあげた方がいいの?」

「うん。お互いの欲求不満を解消させるのが、恋人としての役目だろ?だからさ、俺の言うこと――――聞いてくれないか?」

「うぅ、それで零くん満足するって言うのなら……いいよ」

 

 

 ええ子や、物凄くええ子や。性に乱れているはずなのに、まだ純粋さを残しているこの弱々しく従順なところに心をくすぐられる。凛に対しては性に目覚めさせるために攻めるというよりかは、ただ単に反応が可愛いから愛でたくなるって思いの方が強い。それこそ小学生の頃に好きな女の子にちょっかいを掛ける、そんな感じなのだ。もちろん凛は小学生ではない、スポーツで引き締まったいい身体をしているため、性的興奮も高まってくる訳だが。

 

 

 俺は凛を自分の膝の上から下ろすと、彼女の身体を抱えて机に上に脚がM字になるように座らせた。まだスカートの裾が脚の間に垂れているためパンツは見えない。そして今度はお互いに対面しているため、彼女の羞恥に悶える愛しい顔をたっぷりと拝むこともできる。もう既に顔も茹で上がって、あのまま胸を弄り続けていたら俺の身体の中で果てていたことだろう。

 

 自分の表情を見られたくないが今から何をされるのか気になりはしている凛は、手でグーを作って口元だけを隠している。恥ずかしがってはいるが、全く抵抗の色を見せない健気さ。それが逆に俺の欲望を高めているとは知らずに……。

 

 

「もうちょっと脚を開いてくれないか?」

「うぅ……」

 

 

 凛自身から脚を広げさせてみたくなった俺は、彼女にそう指示をした。しかし決心がつかないのか、はたまた羞恥心に邪魔されてか、中々股を開いてはくれない。もうこれ以上自分で股を広げるのは無理みたいだ。

 

 仕方がないので、俺が彼女の両足に手を掛け股を広げてやる。彼女から若干の抵抗を感じたものの、俺が手に力を入れて無理矢理脚をこじ開けようとすると、彼女は素直に従った。そして完全に脚がMの形になるまで股を広げてやると、段々とスカートの裾も上昇し、日に焼けていない純白の太ももが顕になる。しかし上手いことスカートの裾がパンツと太ももの境目を隠していて、スカートを捲りたくなる衝動に駆られた。

 

 

「捲っても、いいか?」

「うん……」

 

 

 俺は座っている椅子ごと身体を机に近付けると、右手の親指と人差し指で、垂れている凛のスカートを摘む。そして徐々に上げていくと、もちろん彼女のパンツが顕現されていくのだが――――

 

 

「あっ、少し濡れてる……」

「み、見ないでぇ~!!」

 

 

 俺の目の前に脚がぱっくりと開かれ、凛の下着がさらけ出される。パンツの色は純白、だがクロッチの部分だけは僅かにシミができていた。

 

 俺は凛の言葉など気にせず彼女のパンツに指を伸ばすと、シミが付着している部分に当てる。そして裂け目をなぞるようにして指を動かした。

 

 

「あっ、あぁ……」

 

 

 指がパンツの生地ごと凛の股に、グイッと食い込む。今まで何度か他のメンバーにも同じことをしたことはあったが、実際にここまで指を挿入れるのは初めてだ。未知の感覚に捕らわれてしまった俺は一旦指を離すと、もう一度同じ場所に指を当てて押し込む。

 

 

「ひゃっ!うぅ……」

 

 

 ここまで女の子の秘所の形を体感したのも初めてだ。指を押す力を強くすればするほど、パンツが凛の裂け目に食い込み、彼女の口から可愛い淫声も漏れ出す。そして再びパンツがじわじわと湿り始め、さっきのシミがより濃く、より広範囲に広がる。目の前で女の子がM字でパンツをさらけ出し、更には愛液をトロけ垂らしているその光景に、俺は未開の地を探索するようなワクワクと興奮が全身に滾っていた。

 

 女の子の秘所ってこんなにも柔らかかったんだな。パンツの上からでも指をねっとりと包み込んでくれる肉壷に、俺は謎の感動を覚えてしまった。未だ俺の感じたことのない女の子の部位、その一端を知ってしまったことで、欲望のスロットルが全開、いやもうオーバーヒートしそうになっている。

 

 

 そして、俺はもう衝動的に言葉を発してしまった。

 

 

「凛、もうパンツも脱がすぞ」

「えぇっ!?そ、それはダメぇえええええ!!」

「なんでも言うこと聞いてくれるんだろ?俺のためならなんでも!!」

「や、優しくしてくれるなら…………うぅ、やっぱ無理だにゃぁああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 ここで凛は、今まで必死に抑えてきた羞恥心が遂に爆発する。

 俺の吐息も鼻息も、犯罪者級に荒くなりながら股に釘付けになっていると、凛はいきなり脚を閉じ、俺の顔を挟み込んできた。

 

 

「ぐぅっ、いきなり何すんだ!」

「だってぇ、恥ずかしいもん……見ちゃやだにゃぁ……」

 

 

 やっぱいきなり脱がすのは芸がなさ過ぎたか。凛とこんなことをするのは久しぶりだったから、ここは唇や胸から責めて、しっかりと慣らしていってからの方がよかったかも。股を広げた時点で、押さえ込んでいた羞恥心がいつ暴発してもおかしくなかったしな。

 

 そして俺もようやく落ち着く。さっきは肉壷の感触に我を洗脳され、ただ女体を感じたいだけの下半身でしか物事を考えられない存在に成り下がっていた。もはや淫獣と呼ばれてもおかしくないくらいには……。

 

 

「ゴメンな凛、今日はもうこれで終わろうか」

「えっ、もういいの?」

「なんだその名残惜しそうな顔は……もしかして、まだ欲求不満か?」

「うぅん、逆にとても気持ちよかったにゃ~♪たくさんドキドキできたし、やっぱり零くんと一緒にいる時が一番落ち着くかも……」

 

 

 今まで溜まっていた欲求は、いつの間にか解消されていたみたいだ。途中から凛の顔を全く見てなかったから定かではないが、多分パンツのシミが広がった時に果ててしまったのだろう。今の彼女はどこかスッキリとしているような気がする。

 

 俺も久々に凛の可愛い表情が見られて大満足だ。さっきまで性的なことをしていたから感じる身体的な熱さともう1つ、心に優しい温もりを感じていた。

 

 

 ……ん?そういや、何か忘れているような――――――

 

 

「思い出したぞ。俺って、送辞の文章を一緒に考えるためにここに呼ばれたんだったよな」

「あぁ、そういえばそうだったにゃ……」

「しょうがねぇ、とっとと終わらせるか。お前も気分良くなったみたいだし」

「あっ、零くん!!」

「ん?」

 

 

 俺が適当な椅子に座ろうとすると、ここでまた凛に腕を掴まれる。

 どことなく数十分前のデジャヴを感じるも、凛の表情はその時とは違って晴れやかになっていた。

 

 

「もう一回この席に座って?今日だけは凛の椅子になるって約束、忘れちゃダメだよ!」

 

 

 そんな約束した覚えあるかなぁと疑問に思いながらも、凛の無邪気な笑顔にはどうも逆らうことができず。

 

 

「はい、はい」

 

 

 俺は微笑みながら、そう答えた。

 




 この話を執筆している途中に、凛ちゃんの薄い本を数冊読んで活力を付けていました。それくらい凛ちゃんの可愛さに胸を打たれていました(笑) やはりこうやって執筆をしていると、キャラの可愛さを再認識できたり新たな発見があったり、ラブライブのキャラがより好きになりました!

 サンシャインのアニメも始まったことですし、これからはサンシャインのキャラもしっかり愛でていかないと。まあ愛でるのは零君なのですが(笑) ちなみにサンシャインのアニメ放送記念として、そのうちまた特別編を投稿するかもしれません。(するとは言ってない)


 今回がエロ回だったので、次回はギャグっぽい回でいきます。ヒロイン12人フルキャストの予定!



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

零キチμ'sが愛しの彼の魅力を語り尽くすだけ

 とんでもなくどうしようもないギャグ回。キャラ崩壊がなんぼのもんじゃい!!


 

 

「ひっさびさの出番だぁ~!!」

「ミカ、流石に名乗らないと誰も分からないって……」

「あっ、そっか。皆さんこんにちは!新聞部のミカです!そしてさっきツッコミを入れてくれたのがヒデコで、1人黙々と新聞の制作作業に追われているのがフミコだよ!」

「いかにも説明口調って感じね……。いきなり私たちが出てきて、皆さんも困ってると思うよ」

 

 

 確かに私たちの出番なんて、この小説に入ってからあったっけレベルだもんねぇ~。だから少々メタ発言が入っても自己紹介させてちょーだい!ちなみに今日の地の文を担当するのは、由緒正しき音ノ木坂学院新聞部部長、ミカです!以後お見知りおきを!

 

 

「いやぁ~まさか私たちがメインになる時が来るとはね~」

「いやいや、今回のメインはμ'sのみんなでしょ。もう私たちも卒業しちゃうし、新聞部最後の特集記事として、この学院を廃校から救い伝説となったμ'sを取材するって話、したわよねぇ?」

「あはは……そうだったかなぁ~……。でもμ'sは過去に何度も記事にしてるし、今更何を取材するって言うのさ?」

「零くんよ」

「零くん?」

 

 

 零くんと言えば、この学院でμ'sと並んで知らない人はいないとされる超人であり変人さん。私たちとは1年生の頃からの友達でもあり、誰よりもμ'sとの交流も深い。μ'sのメンバーと零くんはもう切っても切り離せない関係らしいから、彼を取材すれば私たちの知らないμ'sの魅力が明らかになるかもしれないね!

 

 

「よしっ、それじゃあ零くんのところへ――――」

「ちょっと待った!取材するのはあくまでμ'sよ!」

「へっ?零くんからμ'sの魅力を聞き出すんじゃないの??」

「むしろその逆、μ'sから零くんの魅力を聞き出すの。ねっ、フミコ」

「うん。今回のタイトルが『μ'sのメンバーの恋愛に迫る!!』だから、μ'sのメンバーから零くんの話を聞く過程で、みんなの恋愛に対する自然な反応が見られればいいかなって。ほら、初めから『μ'sの恋愛を記事にします』って言ったら、穂乃果ちゃんたち警戒したり緊張したりしちゃうでしょ?」

「確かに……多少騙す感じでも、真実を追い求めるためなら自らの手を汚す。なんかプロのジャーナリストみたいでカッコいい!!」

「そうかな……?」

 

 

 まあとにかく、今回の取材の趣旨は分かったよ。そう言えば今までμ'sのライブの特集はしたことあったけど、こうして『有名人のプライベートに迫る!!』みたいなことはやってなかったなぁ。今回が私たち新聞部の最後の取材になるってのもあるけど、ただ単純に穂乃果たちの恋愛にも興味出てきたよ!だってあんなカッコよくてイケメンな男性が傍にいるんだもん、女の子なら何の感情も抱かないってことはないよね。

 

 

「よ~しっ!それじゃあ高校生活最後の取材に行ってきますか!」

「はしゃぎすぎて、私たちの狙いをμ'sに悟られないようにね」

「分かってる分かってる!それじゃあフミコ、いいネタ仕込んでくるから記事のテンプレ作成お願いね!」

「うん、いってらっしゃい」

 

 

 まさか今回の特集記事が、自分たちの恋愛を赤裸々に暴露されるとはμ'sの誰も思うまいよ。男女問わず人気も高いμ'sの恋愛事情はみんな知りたいだろうし、ここは心を悪魔にしてでも穂乃果たちを騙して、顔が真っ赤になるくらいの面白い反応を見てやろ~っと♪

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「お~い、穂乃果ぁ~!」

「あっミカ、ヒデコも。どうしたの?」

「ちょっと新聞部の取材で聞きたいことがあって。ことりちゃんと海未ちゃんもね!」

「えっ、私たちもですか?」

「いきなり取材とか言われると緊張しちゃうね~」

「大丈夫大丈夫。今日はμ'sのことじゃないから」

 

 

 親友を騙すのはちょっと心苦しいけど、これも記事のクオリティを上げるため。だから心を邪悪に染めなければ!

 私たちはまず同級生の穂乃果、ことりちゃん、海未ちゃんに零くんの話を聞くことにした。さっきも言ったけど、メインは零くんじゃなくてμ'sの恋愛。零くんの話題でみんながどんな反応をするのか、この目と耳でしっかりと確かめないと!

 

 

「みんなには零くんのことについて聞きたいんだ。穂乃果たちは零くんをどう思ってる?」

「零君かぁ~。カッコいいしイケメンだし、頼りになるし甘えやすいし、優しいし面倒見もいいし、抱きつきやすいし暖かいし、一緒にいるとドキドキするし安心するし、それに気持ちよくしてくれるところかな」

「お、多いね……それに最後のって……」

「ん?穂乃果はただ純粋に零君への想いを言っただけだよ?」

「そ、そうだよね、アハハ……」

 

 

 うん、これ以上言及しない方がいいのかもしれない。最後の『気持ちよくしてくれる』っていうのは、多分マッサージのことだよ……ね?毎日練習が終わった後、身体に疲労がたまった穂乃果たちを、零くんがマッサージしてあげている。むしろそう考えないと変な意味にしか聞こえなくなるから、無理矢理でもそう信じておこう……。

 

 

「それじゃあことりちゃんは?」

「う~んことりはねぇ~、零くんは朝も夜も激しいってことかな?」

「ん……!?」

「この前勝手に零くんの部屋に上がり込んで、夜這いと朝のご奉仕をしてあげたんだ。だけどいつの間にかことり、零くんのペースに飲み込まれちゃって、そのままなし崩しで……きゃぁ♪」

「ちょっ、ちょっと!?ツッコミが追いつかないんだけど、勝手に?夜這い?えっ……!?」

「零くんとってもテクニシャンなんだよ!あの手付きで身体を触られたら、どんな女の子でも絶対にイチコロで堕ちよぉ~♪あっ、そんな話をしてたらまた……」

「また!?またって何!?!?」

「それはぁ、女の子の秘密だよ♪」

 

 

 ことりちゃんは顔を真っ赤にして、頬っぺに両手を当てながら身体をくねらせる。教室でも何度か同じような光景を目にしたことはあるけど、まさか零くんとの関係がここまで進んでいたなんて……。子供っぽいと思っていた穂乃果やことりちゃんが、大人の階段を上り始めていたとは驚愕過ぎて言葉が出ないよ!!

 

 でも、あの真面目な海未ちゃんならまともに彼を語ってくれるはず!ここまで怪し気な言動が多くて記事にできるか微妙なモノばかりだったから、そろそろモノホンの彼の魅力を知りたいなぁ~なんて。

 

 

「それじゃあ最後は海未ちゃんどうぞ」

「ドスケベな変態野郎です」

「あれ、急な悪口が」

「真っ先に思い浮かんだのはそれでしたから。女性の前でも堂々とセクハラ発言をしますし、それを実行に移そうともします。しかもそのような行為に罪悪感を抱くどころか、セクハラは日々エスカレートをするばかりで困ったものですよ」

「まあ知ってはいたけど、そこまでとは意外だねぇ~」

「でも優しいところもあるんですよ。私たちが本気で嫌がることはしてこないですし、責任が取れるまで一線を超えないよう自分の中での制約はしっかりと守っています。だからまぁ、零とそのようなことをするのはイヤではないと言いますか、彼が私を望んでくれるのならそれはそれで嬉しいと言いますか、1人で夜な夜なやるよりかは全然気持ちがいい――――って、何を言わせるんですか!!」

「知らないよ!?海未ちゃんが勝手に語りだしたんでしょ!?」

 

 

 な、なんでみんなこんなにエッチなの!?それにどうして私が理不尽に怒られなきゃいけないのかなぁ……。何気に穂乃果たちの中で一番語ってたの海未ちゃんだし。堅物なように見えるけど、内心は物凄くデレデレだったんだ。それはそれでいい一面を発見できて記事にできそうだけど、話の内容が内容だからねぇ……。

 

 

「ねぇヒデコ、メモ取った?」

「一応取ったけど、流石に校内新聞にこれを書くのはちょっと……」

「え?零くんとのエピソードが足りない?それじゃあことりが校舎裏に連れ込まれた話を――――」

「じゃあ穂乃果は零君にマッサージをされた時の話を――――」

「そ、それでは私はえぇ~と――――」

「対抗しなくていいからね!!それにもう色んな意味でお腹いっぱいだから、取材ありがと!いくよヒデコ!」

「そ、そうだねそれじゃあまた!」

「あっ、2人とも~!穂乃果たち、まだ全然話し足りないのに……」

 

 

 私はヒデコを半ば引っ張るような形でこの場を退散した。

 これ以上エスカレートさせたら、絶対に私たちの零くんと穂乃果たちを見る目が変わっちゃう!ていうかもう変わったような気もするけど……それに話を聞いたところで、記事にできるような内容ではないと思う。高校生活最後の特集記事がエロ新聞だなんて、ある意味伝説になれるかもだけど……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 続いて私たちは、2年生の教室へとやって来た。ちょうど廊下で花陽ちゃん、凛ちゃん、真姫ちゃんを捕まえることができたから、今回はこの3人に零くんの魅力を語ってもらうことにするよ!もちろん私が見たいのは、愛しの人を想い描くときに現れる、3人の乙女チックな表情だけどね!

 

 私が取材の趣旨を説明すると、2年生ちゃんたちは頬を赤く染めて――――

 

 

「れ、零君の魅力ですか!?私、上手く言えるかな……?」

「うぅ、直接誰かに語るのは恥ずかしいにゃ……」

「零をどう想っているかなんてアレよ……うんアレよ……」

 

 

 おぉっ!私が見たかったのは、まさに思春期女子を彷彿とさせるこの乙女の顔なんだよ!!ようやくμ'sの恋愛に近付けてホッとした。穂乃果たちの卑猥妄想全開の会話を新聞にしたら、確実にμ'sの評判が……。まあ少々色気があった方がアイドルはいいのかもしれないけど、AV女優じゃないんだしねぇ。

 

 

「それじゃあまずは花陽ちゃんから」

「私ですか!?そ、そうですね……零君は私たちの欲求を満たしてくれる、唯一の存在だと思います」

「ん、ん?その欲求っていうのはもしかして……」

「い、いや!決して変な意味ではなくてですね!例えば一緒にいたいという願望を抱いてたら、それを察して話しかけてくれるとか、そうやって私たちをよく見てくれているってことですから!!」

「そう。じゃあそのなんだ、えっちな意味はないと」

「うっ、ま、まぁそれは……すこぉしだけ」

「あるんかい!!」

 

 

 花陽ちゃん、見た目は凄く純粋そうなのに、意外と"そっち方面"にも興味ありなのか……。なんだろう、知ってはいけない事実を知ってしまった気がする。だって今の花陽ちゃん、多分本人は気付いてないだろうけどとても頬が緩んでいるから。あの男、この純情ガールに何をした。

 

 

「凛ちゃんはどう?」

「凛もかよちんと一緒かなぁ。少し強引なところもあるけど、手解きしてくれるのは奥手の凛にとっては嬉しいから。それに、構ってもらえるだけで身も心もポカポカしてきちゃうにゃ♪」

「おぉ、ようやくまともな話が!」

「強引な中にも優しさがあって、この前生徒会室でも凛のお願いを聞いてくれたんです。膝の上に座らせてもらってギュってされて、その後は机の上で脚を開い――――ハッ!なんでもないですエッチなことなんて全然やってないです!!」

「アンタもか……」

 

 

 途中まで純愛な凛ちゃんが見られて微笑ましかったのに、またあの男のせいで1人、私の中でμ'sの印象が穢れてしまったよ。自然と口からエッチな妄想が漏れ出してしまう辺り、相当調教されてないみんな?これ以上続けると女神のイメージが崩壊しそうなので、もうやめたいんだけどこの取材……。

 

 

「一応聞くけど、真姫ちゃんは?」

「ふざけているように見えるけど、頼りになるってところかしら。とりあえず零に頼っておけば大丈夫みたいな風潮がμ'sにあるくらいだし」

「よかった普通で。真姫ちゃんも2人みたいに変な話題があると思ったよ~」

「はぁ?話す訳ないでしょこんなところで!!」

「じゃあ真姫ちゃんは零くんとそういうことをしたことないのか。オッケー取材受けてくれてありがと!それじゃあ私たちは次の取材に――――」

「あるに決まってるでしょ!!」

「はいッ!?」

「私だってみんなより回数は少ないかもしれないけど、それでもその……あの人から身体を求められたりするし、毎回喜んでもらってるんだから!私だけが仲間はずれみたいな言い方しないで!!」

「言ってねぇよ!!」

 

 

 あっ、思わず口調が荒くなっちゃった。でもこんなところでツンデレ発揮されても困るんですけど!!どうしてこうも勝手に話題を飛躍させるかなぁ!?もしかして、変に広げようとしている私が悪かったり……?よしじゃあこれから変に突っ込まないようにしよう。毎回ツッコミを入れてるとこっちの体力がもたなくなるから……。

 

 

「ヒデコ、メモの調子は……?」

「多分書いていることの1割しか使えないと思う……」

 

 

 あのμ'sがここまで変貌を遂げていたなんて、恐るべし魅力の持ち主だね零くんは。やっぱ彼を取材した方がいいような気もしてきたぞぉ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 次の取材は1年生の雪穂ちゃん、亜里沙ちゃん、楓ちゃんに、零くんの魅力を聞いてみることにした。

 1年生なら零くんと過ごした時間が穂乃果たちより短いこともあって、初々しい反応が見られるかもしれないね。それに彼の妹もいるんだから、今回は流石に卑猥な話題は出てこないでしょ!これで1年生たちが染まっていた場合、あの男を縛り上げてでも原因を追求しなければならないかも。

 

 

「最初は雪穂ちゃんから行ってみよう!」

「私はその、私たちが困っていると問答無用で手を差し伸べてくれる優しさが、零君の魅力だと思ってます」

「ふむふむ。その心は?」

「悩みがある時に、何度も零君が助けてくれたからですね。私にとって零君はもう心の支えになっていて、いつ片時も忘れたことはないんです。彼の笑顔を思い出すだけで、全身を抱きしめられているみたいに暖かくなって――――」

「ん、あれぇ~?」

「いつも素直になれない私でも、零君の温もりに包まれている間だけは正直になれるんです。クリスマスの時なんて手を握られているだけで、私の心の内も全てさらけ出せましたし。笑顔が可愛いなんて言ってくれた時にはそれはもう……♪零君は心を懐柔させてくれる不思議な魅力でもあるんですかね?」

「いや、私に聞かれても……」

 

 

 エロい話はなかったけど、高坂の姉妹はマシンガントークをしてしまう性格でも持ち合わせているのかな?しかもいつの間にか惚気話になってたし。1年生たちは零くんとそこまで関係が進んでないと思ったけどあの男、既にハーレムインさせていたか。

 

 

「じゃ、じゃあ亜里沙ちゃんどうぞ!」

「私が零くんに抱いている魅力は、やっぱり"優しい"。これに尽きます!皆さん零くんを変態だとか言ってますが、それを引っ括めても零くんは優しく誠実な人だと思っていますから」

「亜里沙ちゃん……凄くいい子だねぇ~涙が出そう。でも、どうしてそう思うの?」

「私まだ日本の知識に疎くて、零くんが丁寧に色々と教えてくれるんですよ。この前はえぇと、お、おなにぃというのを教えてもらいました」

「は……?」

「昨晩試しに1人でやってみたんですけど、ビビッと刺激が来たところで緊張してやめちゃいました。やっぱり零くんにもっとコツを教えてもらわないとダメみたいですね♪」

「あのクソ変態野郎がぁあああああああああああああああああああ!!こんな純情な子に何を教えとるんじゃぁあああああああああああああああああああああ!!」

「えぇっ!?」

 

 

 神崎零、まさか君がまだ知識のない少女にオナニーを教える鬼畜だったとは……友達が犯罪者として逮捕される日も近いねこりゃ。むしろそうなれ!!『オナニーのコツを教えてもらわないとダメみたいですね♪』と、天使に笑顔でそんなことを言わせるなんて処刑よりも思い処罰だよこれ!!

 

 

「ん~、楓ちゃんはいいや」

「むっ、なんでですか!?折角話す内容をまとめたのに!」

「だってさっきから変なこと言う気満々みたいな顔してるし。あなた零くんの妹さんだよね?」

「だからこそ他の人が知らないお兄ちゃんの魅力を語れるんですよ!例えばお風呂でお兄ちゃんが最初に身体のどこを洗うかとか、オナニーする時の利き手とか、集めているエロ媒体のジャンルとか――――」

「ストップストップ!!零くんのことよりも、どうしてあなたが彼のプライベートをそこまで知ってるのかが気になるんだけど!?」

「聞いちゃいますか?」

「いや、やっぱいいっす……」

 

 

 さっきは零くんのことをボロッカスに言ったけど、楓ちゃんの話を聞いてたら急に同情したくなってきちゃったよ。そういや2人暮らしだって言ってたけど、ここまでプライベートを赤裸々にされるものなの?!零くんに隠す気がないのか、それともこの子が特殊性癖なのか……。さっきから黒い笑顔が絶えないし、怖い。

 

 

「ヒデコ~収穫あったぁ?」

「まあ今までで一番あったと言えばあったかな?それでも使えるものは少ないけど……」

「頼みの綱だった1年生たちまで、彼の魔の手に侵食されていたなんてねぇ~」

 

 

 零くんの話題を振るだけで、あの全国的スクールアイドルのμ'sがここまで変態ちゃんたちになっちゃうなんて、私たちの読みが外れたというか、初めから読めないよこんな展開!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 最後はアイドル研究部の部室にやって来ていたこの学院の卒業生、絵里さん、希さん、にこさんの3人に話を聞くことにした。

 今までの9人からは、とにかく零くんがどうしようもないハーレム変態野郎って情報しか得られなかったし、そもそも放送禁止レベルの話題を連発するせいでロクに取材にならなかったから、ここはもう先輩たちに賭けるしかないよ!

 

 

「はい、それでは絵里さんどうぞ!」

「そうね……彼は面倒臭がりだけど、イヤイヤ言いながらも私たちの頼みなら付き合ってくれることかしら。そういう素直じゃないところが可愛いのよね」

「これはいける。この話題を続投させれば……」

「まあ私の場合、大抵はそのぉ……身体を弄ばれる展開になっちゃうんだけど、それはそれで彼も可愛いのよ?本人は攻めるのが好きだって言ってるけど、欲望に塗れて必死に攻める表情が微笑ましくなる時もあるわね♪」

「はぁ……」

 

 

 かつて難攻不落だった生徒会長が、まさか後輩に自分たちの男女の営みについて話すとは……。しかも頬を染めてウットリしてるし、誰も零くんとのそんな体験を話せなんて言ってないんだけどなぁ~どうしてみんな聞かせつけてくるんだろ。よく思い返せばさっきから惚気ばかりでイライラしてきた!!

 

 

「ウチも絵里ちとそんな変わらんかなぁ~。おっぱいに一生懸命吸い付く零君を見ていると、赤ちゃんみたいで抱きしめたくなる衝動に駆られるんよ」

「お、おっぱ――って、普段あなたたちどんなプレイしてるんですか!?ていうか誰もそんなこと聞いてないです!!」

「どんなプレイって言っても、零君の好きなようにウチの身体を使わせてあげてるだけやけどね。ほら、零くんって征服欲があるやん?あれでも結構我が儘やから、彼の好きなプレイをさせてあげないと満足させてあげられないんよ♪」

「いや知りませんからそんなの……」

 

 

 なんかね、もうツッコミを入れる気力さえ失われたよ。取材に行く先々で惚気を聞かされ、零くんとμ'sが肉体的に関係を持っていたことが次々と露呈されていく。じゃあ聞くけど、この内容をどうやって記事にしろって言うの……?これを全年齢対象の記事にできた人に、時期新聞部部長の座を譲っちゃうよ。

 

 

「2人共その程度のプレイで、零とのエッチを語ってもらっちゃ困るのよね~」

「あのぉ、この取材は零くんの魅力であって――――」

「ああもう皆まで言わなくてもいいわ。初めからにこに取材をすればよかったのよ。あなたが聞きたがっている零の性癖、テクニック、プレイング、余すことなく全部聞かせてあげるから!」

「だーかーらー!!」

「にこはねぇ~Gスポットを執拗に攻められるのが弱いかなぁ~。零もちゃんとそこのところは分かってくれているみたいで――――」

 

 

 ここで私はヒデコを連れて、こっそりと部室から抜け出した。

 このままあの部室にいたら、頭がパンクしていつか絶対にブチ切れてたね。興味のないジャンルのAVの話を延々と聞かされているみたいでストレスがががががが!!今日はもう早く帰って頭を冷やそう、それがいいよ……。

 

 

 

 

 ――――が、しかし。

 

 

 

 

「あっ、ミカ!ヒデコ!穂乃果たちまだ全然零君のこと語れてないから、もうちょっと付き合ってくれな~い?」

「もういい加減にしろォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ふぇぇ!?どうして怒られたのぉ~!?」

 

 




 なんだかんだ言ってμ'sのみんなは零君のことが大好きだと認識してもらう回でした。ここまで全員を暴走させることこそ、彼の魅力なのかも……。

 そしてヒフミトリオは何話ぶりの出演ですか??遡るのが面倒なので、誰か教えてください(笑) こういったヒフミやA-RISE、秋葉ねーちゃんなどサブキャラのメイン回はまたいつもとは一味違ったテイストで、執筆も新鮮なのでまたいつか!


次回は真姫ちゃん個人回!





Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真姫と極寒の中で

なんかサブタイを見てみると感動モノのストーリーみたいですが、中身はしっかりあんなことやこんなことしてます(笑)

 そんな訳で今回は真姫回です。


 1月下旬にもなると、冬の寒さが頂点を極まってくる。日中にも関わらず氷点下に相当する気温に学院が包まれ、暖房が効いている教室から出るのも億劫だ。だから体育など言わずもがな、運動場で薄着の体操服+ジャージでは、ジッと佇んでいるだけで氷像となってしまいそうだ。それくらい今年の冬の寒さは厳しい。

 

 まるで雪国のような気温の中、さっきまで俺たち3年生と2年生で合同体育の授業があった。みんながみんなガタガタと震え、いつも暑苦しいくらい元気いっぱいの穂乃果と凛でさえも猫のように運動場の隅で丸くなっていた。サボんなと喝を入れるまでまともに動かなかったくらいに。

 

 逆に海未は寒さは神経が研ぎ澄まされるのなんだの言って、この寒さにも物怖じせずにいつも通りの様子だった。そこで俺が「この寒さで何も感じないのは、歳をとってきたせいじゃね?」と言ったら、いや言い切る前に平手打ちされたんだが……何故に??

 

 

 まあそんなことはさて置き、3年生と2年生の合同体育を終えた俺と真姫は、授業で使った体育用具を片付けるために体育倉庫の前まで来ていた。

 

 

「どうして日直が片付けをしなきゃいけないんですかねぇ~。こういうのは体育委員に任せろよ」

「仕方ないでしょ。あなたのクラスも私のクラスも、体育委員が休みなんだから」

「謀ったなソイツら。ただでさえ寒いのに、体育倉庫なんていう冷凍庫に俺を赴かせるんじゃねぇよ」

 

 

 この学院の体育倉庫は、どういう訳か知らないが何故か校舎裏にある。だから行くだけでも一苦労な上に、段々と日が当たらなくなってくるので寒いのなんのって。今はまだ体育で動いていたおかげで身体も火照っているが、心身に点っている炎が消えたときこそ俺たちの命日となるだろう。

 

 俺はそんな愚痴を言いながら、水の結晶がこびり付いている体育倉庫の扉を、冷たさを我慢しながら開け放った。

 

 

「うおっ、さっむ!冗談で言ってたけど、マジで冷凍庫じゃねぇかここ!!」

「運動靴の裏からも寒さが伝わってくるわね……早く片付けて戻りましょ」

「そうだな。手が(かじか)んで作業効率は落ちそうだけど……」

 

 

 覚悟はしていたのだが、やはりこの寒さは異常だ。中に入った途端、体育倉庫内で(くすぶ)っていた冷気がここぞとばかりに俺たちへと襲いかかってきた。

 しかも今日に限って片付けるべき体育用具もたくさんある上に、体育倉庫内が散らかっていてまず足の踏み馬を確保しなければまともに片付けもできない状況だ。恐らく過去俺たちと同じ経験した生徒が、寒さに耐え切れず体育用具を適当にそこらに放り捨ててそそくさと帰ったのだろう。

 

 

「外からの風が寒いわね。そこそこ陽も当たってきたし、扉を閉めておくわ」

「あぁ、頼む―――――って、あっ!!待て閉めるな!!」

「へっ!?」

 

 

 俺が重大な過ちに気付いた頃には、体位倉庫の扉の閉まる鈍い音が内部に響いた。俺は急いで扉のノブを回すが、予想通りノブは回っても扉が開くことはない。こ、これはやっちまった……。

 

 

「ちょっ、ちょっと何が起こってるのよ!?」

「忘れてたんだ。体育倉庫の扉が壊れていて、内側からは開かないって話を、先生から聞いていたことをな……」

「な゛っ!?どうしてそんな重要なことすぐに話さないのよ!!」

「扉を開けた時のあまりの寒さに、脳細胞まで凍結しちまったらしい……」

「全くもう、どうするのよこの状況」

 

 

 何度か扉のノブを回してはみるが、一向に開く気配がない。そもそもノブがこの寒さで凍結しているため、握る手に力が入らないから余計にだ。強硬手段で扉をぶち破ろうとも思ったが、体育倉庫の扉ってどうもこう分厚く頑丈なんだろうか。流石に俺たち2人の力を合わせてもビクともしないことは、この鉄壁を見るだけでも分かる。

 

 そして、また体育倉庫に閉じ込められてしまったと。そういや1年前は絵里と一緒に監禁されたっけか。どうして俺ってこんなにも部屋に閉じ込められることが多いのだろうか?女の子と2人きりの監禁と聞くとゾクゾクしなくもないが……。

 

 

「次の授業までに別のクラスの連中がここへ来るだろ。それまでの辛抱だ」

「もし来なかったら?」

「お互いにこれまでの人生の汚点を懺悔し合って凍死するしかない」

「ちょっと縁起でもないこと言わないでよ!とりあえず、片付けだけでも済ませましょ」

「ああ。幸いにも、若干光が差し込んでいるから目が見えなくもないし」

 

 

 なんかこのような珍事でも取り乱さない辺り、俺たちって相当訓練されているよな。あんな色物揃いのμ'sの中にいればそりゃそうだし、秋葉によって奇想天外な事態に見舞われてしまうことも多い。この学院で一番鍛えられたのは、もしかして精神の図太さなのかもしれない。

 

 

 そんなこんなで悴む手を無理矢理に操りながらも、俺たちは他の生徒が放置した体育用具を含めて片付けを開始した。本来この俺が他人の放置した仕事なぞするはずがないのだが、どうせこんな密閉空間でやることなんてないから仕方なくだ。それに少しでも身体を動かしていた方が温まるからな。

 

 しかし――――

 

 

「おい真姫、このボールはそっち側だから片付けておいてくれ」

「…………」

「真姫?聞いてんのか?」

「…………」

「おいっ!――――って、どうした?」

「いや、ちょっと寒くて……」

 

 

 真姫をよく見てみると、全身が小刻みに震え、心なしか顔色も良くなさそうだ。それもそのはず、今日は寒さも極まっているため、体育倉庫内は冷凍庫も同然の温度。しかも体育の授業から数十分は経過しているから、温まっていた身体も湯冷めしたかのように冷えてくる頃だ。更に言ってしまえば、今の俺たちの格好は半袖の体操服の上にジャージを羽織っているだけ。上着もなにもない状況で、冷凍庫同然の場所に押し込められていてはこうなってしまうのも仕方ないだろう。

 

 

「大丈夫なのか?俺のジャージ羽織ってろ」

「べ、別に平気よ。そ、それにそのジャージを貰ったら、あ、あなた半袖になっちゃうじゃない」

「声思いっきり寒そうじゃねぇか。そんな奴を放っておけるかって」

「だから大丈夫って言ってるでしょ。心配してくれるのはありがたいけど」

 

 

 こんな時まで素直になれないツンツンな性格を発揮するんじゃねぇよ。とは言ってもコイツの強情さは中々崩せるものでもないし……でも強がってるけど寒そうなのは変わらないしで、相変わらず面倒な性格してやがる。

 

 その後、しばらく真姫の様子を見つつ片付けを続行していたのだが、大丈夫と言った割には身体の震えは止まるどころかさっきよりも激しくなるばかりだ。変なプライド張ってないで素直に寒いって言えばいいものの……ったく、しょうがねぇなぁ。

 

 

「おい真姫」

「なに――――きゃっ!いきなり何するのよ!?」

 

 

 俺はこちらに振り向いてきた真姫の身体に、正面から抱きついた。彼女の全身を俺の身体で包むように、腕でガッチリとホールドする。案の定と言うべきか、彼女の身体は思った以上に冷たく、まるで雪だるまに抱きついているかのようだった。まあ流石にそれは言い過ぎだが、それくらい彼女が冷えているってことだ。

 

 

「服を貸してもらいたくないんだったら、もうこうして人肌で温めるしかないだろ。それに何か?他に手があるってのか?」

「うっ……な、ないけど」

「じゃあおとなしく抱かれとけ。お前の凍えそうな姿なんて見てられん」

「…………ありがと」

 

 

 意外にも素直に俺を受け入れたな。やはり口では強がっていたけど、本当は寒くてならなかったらしい。その証拠に、真姫も俺の背中にそっと腕を回し始めていた。

 

 彼女はいつもオープン淫乱の穂乃果やことりとは違って、普段からこうやって俺と触れ合う機会は少ない。だからこそこうして俺と抱き合えることに喜びを感じていたりするのだろうか?少なくとも俺はそんな気持ちを抱いている。こうやって誰もいない2人きりの状況でないと彼女が恥ずかしがって、恋人らしいこともできないからな。

 

 

「下手に動くよりも、2人で寄り添っていた方がよっぽど暖かいだろ?」

「えぇ。でもこんなに寒いのに、あなたの身体どうしてこんなに暖かいのよ」

「さあ。さっきの体育のせいかもしれないけど、一番の理由は久々にお前とこうして抱き合うことができて嬉しいからかな」

「な゛ぁ!?も、もうっ、あなたはすぐそんなことを……」

「顔真っ赤になってるぞ。まあ、そっちの方が温まっていいと思うけど」

「からかわないでよもうっ!!」

 

 

 俺の腕の中にいて身動きが取れないのに、ジタバタと暴れる真姫が非常に微笑ましい。高校2年生にしては大人び過ぎている彼女だが、取り乱すとまるで小学生のように突っかかってるくるのが、これまた真姫の魅力だ。そんな健気に当てられた俺は、彼女の身体を更に強く抱きしめる。

 

 そこで真姫は「あっ……」と小声を漏らすが、その直後に俺をホールドする力も強まった。なんだかんだ口では反抗しそうになっていたが、抱きしめること自体は受け入れてくれたらしい。身体も程よく温まってきたためか、寒さによる震えも止まっていた。

 

 

 だがこんなほのぼのとした状況にも関わらず、余計なことを考えてしまうのは男の性であろう。俺の中では()()()()()()()()が煮えたぎり始めていた。

 

 正面から全身を密着させて抱き合っているということは、真姫の胸が俺の身体にダイレクトに当たっていることになる。しかも俺たちは薄着の体操着なためか、制服や普段着で抱き合っている時よりもその感触は強い。俺が少しでも身体を動かせば、彼女の胸の形状はふにっと柔らかく変化し、その度に真姫の表情が僅かに崩れる。彼女も全く気にしていない訳ではないのだろうが、俺の好意を無下にしないためにも我慢して黙っているみたいだ。

 

 

「ね、ねぇ零、ちょっと……」

「ん?まだ寒いのか?」

「い、いやそうじゃないけど……」

「けど?」

「うっ……なんでもない!」

 

 

 いやぁ胸が思いっきり押し付けられているのに、それを言い出せずにもどかしくしているその表情が堪らなくイイ!女の子を手玉に取っているみたいで、嗜虐心にゾクゾクと火を点ける。俺がわざと(とぼ)けるたびに、さっきまで寒がっていた彼女が汗をかいてまで焦る姿は、俺の欲望の高鳴りを大いに助長させた。そして俺の中で、真姫を攻め堕としたいと思う気持ちが膨張して破裂しそうになる。

 

 

「全く、まだ寒いなら素直にそう言えって」

「だからそうじゃないから!」

「皆まで言うな分かってるから。俺がもっとお前を温めてやる。寒さなんか一切感じないほど熱くしてやるから」

「い、一体何をする気!?」

「動くなよ。変に動くと身体を痛めるぞ。そらっ!」

「きゃあっ!!」

 

 

 俺は真姫を抱えたままグルリと身体を捻ると、何故か丁度よく敷かれてあったマットに上に真姫を押し倒した。その際に衝撃が掛からぬよう、彼女の頭をを含め全身を自分の身体でカバーしていたため、逆に俺が物凄い振動を被ってしまう。だがこれから真姫を好き勝手できるのなら安いものだ。

 

 もう俺との付き合いが長い真姫のこと、これから自分の身に何が起こるのか分かっているのだろう。冷凍庫のような寒さの体育倉庫とは裏腹に、彼女の身体は微かに火照っているようだ。なんだもう準備万端なんじゃねぇか。

 

 

「あなた、こんなところで女の子を押し倒すなんて正気?」

「俺はいつだって自分の欲求に忠実なんだから正気だよ。それにお前こそ期待してるんじゃないのか?まだ触ってもないのにお前の身体、暖まってるのが分かるぞ」

「そ、それは……」

 

 

 真姫は頬をより一層赤面させながら、プイッとそっぽを向く。本当に嫌なら暴れて抵抗することもできるのに、それをしないってことは少なからず期待はしているってことだ。まあいくら抵抗しようがこの体育倉庫から逃げることはできないので、どちらにせよ俺に身体を弄り倒されるはめになるがな。

 

 俺は真姫のジャージのファスナーに手を掛けゆっくりと降ろす。徐々に中に着ている白の体操着が顕になるが、いきなり押し倒された焦りで汗をかいているのか、この寒さの中なのにも関わらず体操着が薄らと透けている。もちろん彼女の下着の色もじんわりと映りだしている訳で……。

 

 

「赤か。毎回思うけど、お前って結構大胆な下着してるよな」

「自分に似合うと思ってるからその色にしてるだけよ!!別にあなたに見てもらいたいとか、そんなことは全然!!」

「そんなの一言も言ってないだろ」

「あっ……~~~~~~ッ!!!!」

「耳まで真っ赤になってるぞ。まあそんなに見て欲しいんだったら、ゆっくりねっとり鑑賞してやるから」

「ちょっ、ちょっと!?」

 

 

 羞恥心によって慌てふためく真姫に、とうとう我慢の限界を迎えてきた。俺は彼女の体操服の裾を掴んでずり上げ、服の中で息を潜めていた下着をこの下界に引きずり出す。燃えるように真っ赤な下着は、真姫の純白な肌とは対照的でより際立って見える。そしてなにより高校2年生のくせに、オトナの女の魅力がひしひしと感じられる。

 

 真姫は羞恥に襲われながらも何とか胸を隠すため腕を動かそうとするが、俺に身体を押さえつけられているため身動きがとれない。だからただ耳の裏まで顔を真っ赤にして、俺からの辱めに耐えるしかないようだ。そんな表情をされると尚更女の子に屈辱を与えたくなるのが俺。もう下着なんぞでは俺の興奮は発散できねぇ。

 

 

 俺は真姫の下着の前中心を掴むと、下カップに引っかかる胸を無視して無理矢理引き上げる。するとその反動で彼女のベストジャストバストな双胸が、ぷるんと俺の目の前で震えて顕現した。プリンやゼリーが揺れるところを見ても何とも思わないのに、どうして女の子の胸が揺れる光景はこれほど惹きつけられるのだろうか。純白の双丘の頂点に立つ、ピンク色の小さな突起物。そんなちっぽけな存在に、俺は目と意識の両方を奪われてしまう。

 

 

 俺は真姫の柔らかな双胸を両手で鷲掴みにすると、人差し指で突起物を胸の肉に埋没させるように押し込んだ。

 

 

「あっ……んぅっっ!?」

「おっと、いきなり刺激が強すぎたか」

「ちょっ、やっ……!? 指、ギュって……んぁっ、あんっ!?」

 

 

 俺の腕の中で身をよじらせ、抵抗の素振りを見せる真姫。しかし、俺の目から見ればその抵抗は驚きと羞恥心が際さって可愛さしか感じられない。そしてすぐに諦めて俺の寵愛を受けるあたり、俺たちの関係も1年前とは大きく変わったと感慨深くなる。だからこそ、彼女をもっと弄り倒して俺の手で蕩ける表情を見たくなるのだ。

 

 

「巨乳になると、こうやって乳首が沈んでしまうらしいぞ」

「ふぁ、なっ、知らないわよぉそんなのぉ!!」

「見た目の派手さもいいが、お前は俺の手で程よく鷲掴みにできる胸が似合ってるよ」

「っっひゃうぅっっ!?さっきから、触り方がぁっ!!」

「そりゃあもうお前らμ's全員の胸くらい網羅してるっつうの。だから1人1人、どこを攻めればより可愛く喘いでくれるのかくらい知ってるって」

「バカ!この変態ぃぃっ!!」

 

 

 真姫は文句を言いながら抵抗するが、俺は聞かぬふりをして彼女の身体を更に強く押さえつける。右手を胸から離し脇腹を押さえてやると、意外にも弱点だったのかビクビクっと、背中を弓なりによがらせた。そして目だけは彼女の瞳をずっと見つめながら、お嬢様の羞恥心を大いに煽ってやる。

 

 

「そんな変態の手で気持ちよくなっているのはどこのどいつかなぁ~?」

「わ、私は別に気持ちよくなんてぇぇええええええっ!?」

「そんな卑猥な声を漏らしてよく抵抗する気になるよな。まあお前の場合、抵抗して堕ちるそのツンデレ具合が最高なんだけども」

 

 

 初めから堕ちている奴を従わせるのもいいが、背徳感を味わいたいのならコイツのような反抗的な奴をレイプ……もとい襲った方が攻めがいもある。現に気持ちよさそうな声を出していることは事実だし、あとは欲望に忠実になるよう堕とし入れるだけだ。

 

 

「こんな場所でとか言っておいて、やっぱ相当期待してんだなお前。だってこれだけ身体が熱くなってるんだから」

 

 

 卑しい手付きで脇腹から腰へと流れるように撫で回すと、真姫はその動きに呼応するかのように全身をビクつかせる。その光景は非常に滑稽で、見ていて微笑ましい。

 

 

「寒いのにこれだけ身体が火照っていたら、助けに来てくれた人に気づかれちゃうかもな。エロいことして興奮してたって」

「えっ、そ、それは……!!ひっ、ひゃぅぅ……喋ってる間に胸触らないで……」

「μ'sのメンバーでもあって生徒会副会長でもあり、しかもあの西木野家のご令嬢が、これほどまでにエッチを感じてしまう身体になってるなんて誰かに知られたら、どうなるだろうなぁ」

「だったら弄るのやめなさいよぉ……んっ、あんっ!ま、またぁ……」

 

 

 誰かが助けに来たとしても、覆い被さっている俺が離れない限り真姫はこの痴態を見られてしまうことになる。それを恐れてか、真姫は軽く首を振った。まだ胸しか弄ってないのにこの蕩けようは、さてはコイツも花陽や凛みたいに1人でやってやがるな。これはオシオキものだぞ。

 

 

「さあもっと暖まろうか。直接人肌を重ね合って」

「ま、待って、それこそ誰かが来たら取り返しのつかないことに……」

「いいよ別に。真姫と交わることができたって事実があれば、後はどうでもな」

「この変態ぃぃっ!!」

 

 

 変態がなんだ、変態がどうした。目の前に胸を丸出しにした女の子が転がっている上に、興奮に煽られている状態ときた。そんな状況で女の子を襲わない男がどこにいるんだ??後先のことなぞ考えなくてもいい。男なら煮えたぎる欲望を満足させてから前へ進め!性欲を溜めておくと身体が腐っちまうぞ!

 

 

 

 

 しかしそんな意気込みも束の間、タイムリミットの時はすぐに訪れた。体育倉庫の扉を引く音が聞こえ始めてきたのだ。

 それでもなお俺は真姫の胸を弄ろうとしたのだが、本人はそれどころではないようで、脚で俺の身体を軽く押しのける。その後、急ピッチで体操着を正しジャージを羽織った。この間僅か0.0数秒、このような事態のために練習してたみたいだ。

 

 そして、直後に扉が開け放たれた。

 

 

「あれ、零くん、真姫ちゃん?」

「な、なにしてるんですか?そんなところに座り込んで……」

「亜里沙に雪穂か」

「と、特に何もしてないわ!この寒さのせいで床滑っちゃっただけよ!!」

「あれ、私たち何で怒られてるの……?」

「さぁ?」

 

 

 俺たちを救出しに来てくれた雪穂と亜里沙に、半ば八つ当たり感覚で苦しい言い訳をぶつける真姫。まあ合理的な理由と言えばそうだが、急いでいたためか上手く体操着もジャージも羽織れておらず、どこか半裸に見えるのはマイナスポイントだ。だが実際に目の前の2人は真姫の言い訳に納得しているみたいだし、バレてはないみたいだな。

 

 

「体育倉庫の扉って壊れていて、内側から開けないんじゃなかったですか?」

「そうなのよ。でも零が早く言わないせいで……」

「でもよかったじゃん。そのおかげでお互いに暖まれたし」

「えっ、こんな寒いところで?」

「な、なんでもないわよ!!もうっ、この変態……」

 

 

 余計なことを口走ってしまった(故意)俺を、自慢のツリ目で睨みつける真姫。例え仲間でもよほど自分の痴態を知られたくないらしいな。穂乃果やことりを見習……ってはダメか。

 

 でもまあバレないことに越したことはないし、俺もタダで真姫の身体を弄れて楽しかったよ。監禁プレイはあまり好きじゃないけど、ああやって閉鎖空間で2人きりのシチュエーションは割と好みだぞ。今回のように何をやっても誰にも知られることはないし。今日の残りの時間も、なんか清々しい気持ちで過ごせそうだ。

 

 

 

 

 ――――と、意気揚々と体育倉庫を出ようとしたその矢先、扉の影に隠れていた()()()()の声が聞こえてきた。

 

 

「先輩すっごく顔赤いね!フフッ♪この中のことをバラされたくなかったら今晩、私の相手もよろしく、お兄ちゃん♪」

 

 

 そこで俺は今日初めての冷や汗を流しつつ、沈黙のまま体育倉庫を立ち去った。

 




 人肌を重ねてお互いの温もりを感じる。こうして見るとロマンチックに見えるのに、この小説に限り卑猥な表現にしか見えないのが何とも惜しい!

 今回は今までの個人回よりも、真姫のツンデレ要素を活かして話を構成できたかなぁと思っています。本編でも零君が言っていた通り、普段は大人びている彼女ですが、時折見せる小学生並みの突っかかりっぷりに幼さを感じることもあるのが魅力の1つかと思いますね。


 新章に入って残る個人回はシスターズと大学生組の6人になりました。なので次回はその中の誰かになるかも。それ以外にも秋葉さんやA-RISE、久々の詩織さん登場など、執筆したい回がたくさんあってもう……(笑)



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お母様襲来!ベッドは大人の戦場です!?

 久々に神崎兄妹の母親である詩織さん登場回。原作キャラは出ないけど、それ以上に内容(とキャラ)が濃くなったようなそうでないような……。


 

 冬の朝というのはどうも寝起きが悪くなる。それは気分的な問題というより、寒すぎて布団の温もりの魔力から抜け出せないって意味で上手く起きられない。布団を抜け出した直後にブルブルっと走る寒気に耐えなければならないと思うと、起きなければと思う意志に反して身体が動かなくなるのである。だから俺は毎日楓からのモーニングコール……言ってしまえば無理矢理起こされるまで、ずっとこのまま二度寝三度寝を繰り返すのだ。

 

 

 しかし、今朝はいつもと状況が違った。

 

 

 本来なら布団の温もりに包まれて目を覚ますのだが、今日は暖かいというよりむしろ暑い。明らかに布団ではない何かに覆い被さられているような、そんな感覚。毛布以上にずっしりとしたその体重は、俺の動きを1ミリも許さない。だが俺の被さっている()()は謎の包容力があり、布団にはない心へと伝わってくる暖かさもある。そして俺の胸のあたりには、身体に当たっているどこよりも柔らかいモノが押し付けられていた。例えるならそう、女の子の胸のような――――!?

 

 ここで俺は大体の事情を察した。

 いつもは早く起きろと布団を引っペ返してくる楓が、今朝は俺の布団の中に潜り込んで一緒に寝ていると勝手に推測する。アイツならやりかねないし、気持ちよく寝ている俺の姿を見て、反射的に布団に潜り込んできたと考えることくらい容易い。今日は平日で、楓はいつも朝の支度にそこそこ追われているからこんなことをする時間があるのか甚だ疑問ではあるが、「性欲」>「その他」の構図のアイツには関係ないだろう。

 

 

 俺は目を半開きにしながら、身体の上に乗っかっている楓を引き剥がすために彼女の背中を摩る。

 

 

「おいもう起きたからどいてくれ」

「あっ、もう起きちゃったんだ!ざんね~ん!」

「は……?」

 

 

 発せられた言葉自体は予想通りの台詞だった。しかし楓にしては声色が少々大人っぽいというか、これまた俺の耳に響く謎の懐かしさを感じる。毎日耳に穴が空くほど聞いているμ'sメンバーの声でも、最愛の妹の声でも、たまに脳内で勝手にリピートされ、一種のウイルスとも言える秋葉の悪魔の囁きでもない。

 

 ただいま絶賛包容されている俺だが、その声を聞いただけでも優しさに包まれる。そして大人っぽい声のはずなのに、この子供っぽい反応。そんな特徴に該当する人物は、俺の記憶の中ではただ1人――――

 

 

「か、母さん!?」

「おはよ零くん♪」

「な゛ぁ……!?」

 

 

 俺に抱きつきながら寝ていたのは、なんと俺の母さんである神崎詩織だった。

 母さんは眠い目を擦りながらも、笑顔で俺の目覚めを迎えてくれる。彼女なりに俺に気持ちのいい目覚めを提供したいのだろうが、今の俺はそんなことよりも目の前に母さんがいる事態に驚いて、ここ最近一番のバッチリとした目覚めになってしまった。

 

 

「なにが『おはよ♪』だ!!ていうかいつ家に帰ってきたんだ!?どうして俺の部屋にいる!?何故俺と一緒のベッドで寝てるんだ!?」

「質問が多いなぁ~。あまり女性を詮索すると嫌われるよ?」

「母さんが俺を嫌うことなんて、絶対に有り得ねぇから別にいいよ」

「さっすがぁ!お母さんのこと分かってるねぇ零くんは!」

「ぐぇっ!?いきなり抱きつくな!!」

「やっぱ零くんのもふもふ具合は最高だねぇ~♪」

 

 

 母さんは俺の質問を無視して、上半身を起こした俺の身体に再び抱きついてきた。自分の胸で俺を包み込むように、頭をガッチリとホールドして離さない。息子だから何とも思っていないのだろうか、自慢の豊満な胸に俺の顔をグイグイと押し付けやがる。多分母さん自体に卑猥なことをしている意図は一切ないのだろうが、思春期男子からしてみれば、例え相手が母親でも女性の胸を顔面に押し付けられたら意識するしかない。

 

 以前にも母さんの性格を話したが、とにかく子供っぽい。世界中を羽ばたく人気女優で、たまにテレビや雑誌を見ると大人の女性の見本みたいな風格をしているのだが、プライベートではここぞとばかりに甘い母性を発揮する。秋に帰国した時もμ'sに甘えていた――というか、一方的に甘えさせていたと言った方が多分正しい。

 

 そして変に抱きつき癖があるのも魅力(?)の1つである。人肌を感じることが好きなのかは知らないが、挨拶には包容が主流なアメリカに滞在していた影響で、家の中はもちろん外でもその抱きつき癖が発揮されるので困ったものだ。しかし彼女曰く、男に抱きつくのは父さんと俺だけらしい。しかもそんな大きな胸で抱きつかれたら……うん、この話題はやめよう。母親の胸について語るとか、俺の性癖があらぬ方向に捻じ曲がっていると思われてしまう。

 

 

「いいからちょっと離れろ!」

「えぇ~久しぶりなんだからいいじゃん!それに私に抱きつかれて眠っていた零くんの顔、とっても気持ちよさそうだったよ♪」

「そ、そんなの嘘だろ……」

「だったらμ'sのみんなとエッチする夢でも見てたのかなぁ~?でないとあんなにいい表情で眠れないでしょ!」

「見てねぇよ!!多分……」

 

 

 夢というのは実際には見ているか見ていないか、本人は認識できないらしい。朝起きた時に思い出す夢は、実は自分自身が勝手に作った妄想だと言われている。もちろん仮説なので明らかになっている訳ではないが、もしそうだとしたら朝勃ちの原理はやっぱり自分が覚えていないだけで、無意識の内に卑猥な夢を見ているのかもしれない。ってか、なんでこんな解説してんの俺……突然母さんが襲来したことで相当気が動転してるな。

 

 

 するとここで、俺の部屋のドアが開いた。同時に今度はいつもの聞き慣れた声が俺の耳に飛び込んでくる。

 

 

「お兄ちゃんさっきから1人で何騒いでるの?朝ごはん出来てるから、起きてるんなら早く――――えっ!?」

「あっ、楓ちゃんおはよ~♪」

 

 

 俺の部屋に入ってきたのはもちろん楓だ。しかしいつものように流れ作業感覚で俺を起こしに来た楓は心底ビックリしているだろう、この目の前で起きている状況に……。

 

 楓は一瞬目を見開いて驚いていたが、素早く現状を察すると、ドカドカと大きな足音を立ててベッドの上にいる俺と母さんの元へと歩み寄ってきた。そうだそうだ、母さんにガツンと言ってやれ。朝から何をしているのかってな。

 

 

「ちょっとお母さん!お兄ちゃんを起こすのは私の役目なの!!」

「そっち!?お前どこに突っかかってんの!?」

「せっかく久々に帰国したんだし、今日くらいは譲ってくれてもよくない?」

「ダメ!お兄ちゃんの1日の始まりは私って、これ世界の真理に定められてるんだから!」

「あらあら、随分と狭い世界に住んでるのね~」

「む~!お母さん早くどいて!!お兄ちゃんも自分の母親にデレデレしない!!」

「してねぇよ!!てか勝手にベッドに上がり込んでくるな!!」

 

 

 楓は母さんを押しのける勢いで、俺のベッドへと飛び乗ってきた。そして俺から母さんを無理やり引き剥がす。いつもは余裕ぶっていることが多い彼女だが、朝から顔を真っ赤にさせて必死に俺を母さんから奪い返そうとしている。そこまで愛してくれて嬉しいというか、逆に愛が重すぎてなんとやら……。

 

 それに対して母さんは、楓の猛攻を笑顔で軽く抵抗していた。恐らく我が娘の可愛い姿を見られて喜んでいるのだろう、心の奥底でほくそ笑んでいるのが雰囲気から伝わってくる。流石あの秋葉に悪魔を注入した元凶。しかしアイツはすぐに表情に出るが、母さんは決して笑顔を絶やさない。女優をやっているからポーカーフェイスが得意だってのが、俺には不気味に思える。

 

 

 そして目の前に広がるのは、ベッドに座り込んで俺に群がる妹と母。いくらベッドの上の戦場兵士と言われる俺でも、こうして肉親たちに迫られては唖然とするばかりだ。楓は朝食を作った直後にここへ来たのだろう、彼女のエプロン姿に唆られる。強いて萌えるとするならそこくらいだ。決して自分の母親に欲情するほど、俺も人間は終わっていない。

 

 

「もしかしてお兄ちゃん、妹より母親を取るって言うの?」

「待て待て、その質問は常識的に考えて全てがおかしい」

「零くんはおっぱいが大きい女の子の方が大好きでしょ?だったら私の方が楓ちゃんのよりも大きいし、朝のご奉仕もしっかり勤められると思うんだけど」

「はぁ!?お兄ちゃん、お母さんにそんなこと頼んでたの!?」

「知るか!!母さんも適当なこと言って、楓を興奮させてんじゃねぇ!!」

 

 

 母さんのブラックジョークがものの見事に楓の琴線を揺らしている。あのいつも傲慢な彼女をここまで焦燥の淵に追い込むなんて、やはり俺たち偏屈3兄妹を育ててきただけのことはある。楓だけじゃなくあの秋葉ですら手玉に取られる存在だからな。もしかして、俺にとってのホントの悪魔は母さんなのかもしれない。

 

 

「前に電話で話したでしょ?私はお兄ちゃんの妹であり彼女なんだから、朝のお勤めは私がするの!」

「あっ、そうそうそれだよ!話を聞いた時はビックリしたけどおめでと~!」

「母親なのに兄妹の恋愛をあっさり認めるもんなぁ……」

「むしろさぁ、私が反対したところであなたたち、絶対に自分たちの意見を曲げたりしないでしょ?そこのところ分かってるのよ私は。秋葉ちゃんも含め、私の子供たちはどうしてこうもう強情なのかしら」

「ひ、否定できねぇ……」

「右に同じく……」

 

 

 母さんは初めから俺たちの性格を考慮に入れての決断だったって訳だ。そもそも兄妹同士の恋愛なんて否定するのが普通だから、あっさり受け入れられた時は逆に「否定しろよ!」と言ってしまいそうになったくらいである。母さんも、そして父さんも秋葉も、俺たちのそんな性格を知った上で半ば諦めながらも祝福してくれたってことだ。そう思うと俺の思考が全部3人に読まれていたみたいで、なんか癪だな。

 

 

「まあ楓ちゃんが零くんの彼女になろうがどうなろうが、私が零くんに愛を注ぐのは変わらないけどね♪」

「おいっ!さっきいい感じで事態を収束できそうだっただろ!どうして挑発すんだよ!?」

「だってぇ、最愛の息子を可愛がりたいのは母親の性だと思わない?」

「思わないよ!!だからお母さんはあっち行ってて!」

「な~に?もしかしてお母さんにジェラシーを感じてるの?男を巡って母親に嫉妬するなんて、楓ちゃんも業が深いわね」

「いくらお母さんでもお兄ちゃんを寝取ることは絶対に許さないから!!」

「ちょっと待て、いつから昼ドラ展開になった……」

 

 

 そうは言ったものの、妹と母親の恋愛騒動なんて昼ドラも真っ青のドロドロ展開に違いない。しかし楓はかなりムキになってるものの母さんはただ楓で遊んでいるだけだから、そんな息が詰まる展開にはならないが。それでもベッドの上で繰り広げられる"お兄ちゃん"と"息子"の奪い合いには溜息を付くしかない。

 

 

「そこまで言うんだったら楓ちゃん、零くんとの愛の証を見せてよ。見せてくれたら楓ちゃんがお兄ちゃんを想う愛を受け止めて、この場を引いてあげるから」

「いいよ別に」

「マジかよ。親に見られながらキスするなんて、どんな罰ゲームだっつうの」

「キス……?ノンノン!そんな生ぬるい行為じゃ私は満足できないからね!もっと大人の女性の興奮を煽るようなことしてくれないと♪」

「「はぁああああああああああああああああああああああああああああ!?!?」」

 

 

 俺と楓は母さんの言い出した暴挙に、近所迷惑上等の声で叫ぶ。

 もしかしてもしかしなくても、母さんが言いたいのは男女の営みのことではないだろうか。まだ1ヶ月前に恋人になったばかりだってのに、そんなエロいことできる訳――――と思ったが正直な話、楓と()()()()()()をやっていないと言えば嘘になるので否定はできない。だがお互いに内緒で公言しないようにしているので、うっかり漏らさなければバレることはないだろう。ちなみに何度も言っているが、一線を超えるようなことはしてないのであしらかず。

 

 

「大丈夫!ここで起こったことは誰にも言わないから♪」

「いやアンタに見られること自体がこちとら恥ずかしいんだよ!そもそもそんなことしてねぇけどな」

「え~!思春期真っ只中の高校生カップルが、性行為をしたことないなんてことないでしょ~」

「アンタは俺たちに何を求めているんだ……」

「私はただ可愛い息子と娘の晴れやかな舞台を見守りたいだけよ。お母さんとしてね♪」

「どう考えても淫らな舞台なんだがそれは……」

 

 

 この人は俺たちの反応を見て楽しんでいるのか、はたまた本当に性行為を見たいのか、ニコニコした表情からは全然判断ができない。こういう時はいっそのことおっぱじめてしまうのが逆転チャンスなのだが、この人の場合もし仮にここで楓と営んだとしても、興味津々で凝視してきそうだから怖い。

 

 

「いやぁ出来ないんだったらいいんだよ?私にも零くんを可愛がるチャンスがあるってことで!」

「出来ないことなんてないよ!だってたまに――――」

「ちょっ!?」

「あっ……」

「へぇ~、たまに……ねぇ。そっかそっかぁ~♪」

 

 

 楓はうっかり事実を漏らしてしまったと言わんばかりに口を抑えているが、もう時すでに遅し。母さんはこの状況になることをあらかじめ見越していたのだろう、さっきまでのニコニコ笑顔が一瞬だけ崩れ、闇よりも濃い黒さが差し込んでいた。

 

 

「母さん違うから!たまに一緒に風呂に入るくらいだって!なぁ楓?」

「そうそう!決してお風呂でお兄ちゃんと……いやなんでもない」

「ほうほう大体分かったよ。最終防衛ラインはきっちり守る零くんのことだから、まだフィニッシュまでは言ってないってことだよね。でも楓ちゃんに()()()はしてもらってると」

「うぐっ……」

「その反応、まさに図星って感じだねぇ。ま、それ以降は言わなくてもいいよ。2人の大切な思い出をほじくり返すのは酷だから♪」

「なんかお母さんの前だと調子狂う……」

 

 

 完全に遊ばれてるなこりゃ。自分の子供の性事情を知りたいだなんて、どんな悪趣味してんだよ。いい意味では面倒見の良い母親にも見えるが、悪い意味では過剰なまでの子煩悩にしか思えない。それだけ愛されているってことで納得するしかないのか……?

 

 

 そう言えば戦場(ベッド)での惨劇で、うやむやになっていたことがあったな。

 

 

「そろそろ俺の質問に答えろ。そもそもどうして母さんがここにいるんだ?」

「あぁ~それね。結局年末年始は忙しくて帰って来られなかったでしょ?だからそれが過ぎ去ったこの時期にお暇をもらったのよ」

「だからってこんな朝っぱらに、しかも俺のベッドに勝手に潜り込む必要はないだろ」

「だって零くんも楓ちゃんも、秋葉ちゃんもμ'sのみんなもずぅ~っと恋しかったんだから!こうやってもふもふするくらい許してよ~」

「ちょっ、今度は私!?」

「いやぁ~楓ちゃん柔らかくてお人形さんみたいだね♪」

「そんなこと言われても嬉しくない!!」

 

 

 結局は私利私欲のために息子のベッドに上がり込んで一緒に添い寝して、自分の胸に俺の顔を当てるように抱きしめ、そして楓の慌てる可愛い表情を見るためにおちょくっていたと。まさに"神崎兄妹を育てた母親です!"といった自分勝手さだ。

 

 楓は外では()()()()だが、家では割とクールでドライな面もある。しかし、秋葉や母さんは違う。この2人がいると毎日が騒音のように騒がしくてならない。2人の方が俺たちよりも歳上なのに、妙に子供っぽさが抜け切れていないのは可愛いと思っていいのだろうか?甚だ疑問が残るが、とにかくここ2、3日は家でも安息の時はなさそうだ。マジかよ……。

 

 

「あっそうだ、言い忘れてたけど」

「なんだ?その前に楓を離してやれ、苦しそうだぞ」

「えぇ~!これはきっと嬉しさで泣きそうなんだよね♪」

「ぷはっ、ち、違うよ!胸で窒息しそうだったじゃん……」

 

 

 楓の奴、さっきから弄られ興奮させられ抱きつかれで散々な目に遭ってるな……。もちろん母さんが帰ってきたのは嬉しいだろうけど、ここまで手厚い"ただいま"をされたら疲労困憊にもなるわ。

 

 

「それで言い忘れてたことって?」

「今日から私、しばらくこの家にいるからね」

「「え゛っ……!?」」

「ヒドくないその反応……」

「しばらくって、どのくらい?」

「う~ん。2週間くらい?」

「「2週間!?!?」」

「さっきから子供達が辛辣なんですけど……まさか反抗期!?」

 

 

 俺と楓の日常は、こうしてあっさりと崩れ去るのだった……。

 

 

 

 

 ―――――――ていうか、本当に一緒に暮らすの!?

 

 




 はい、ここからしばらく詩織さんもちょくちょく話に登場するかもしれません。いつも同じキャラで基本新キャラの追加もない小説ので、たまにはこれからの話の雰囲気を入れ替えてみたいと思い、彼女の白羽の矢が立ちました。しかし神崎一家のキャラが濃すぎて、μ'sのメンバーが逆に目立たない状況にならないようにだけ頑張ります(笑)


 次回は残る大学生かシスターズの個人回になるか、はたまたA-RISE回になるのかは未定。そろそろサンシャイン特別編ももう1本執筆したいので、それは近々。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

矢澤にこ、欲望の決断

 にこ回は微エロなことが多かった気もするので、今回はそこそこガッツリと。真面目なようで全然そんなことはないお話。


 1月下旬の朝。部屋を凍てつかせるような寒さに身を震わせながら、俺はベッドから抜け出した。

 ふと時計を見てみると、短針は既に11時を指しており、今日が休日だということを改めて実感する。もはや昨日、いや今日か、何時に寝たのかすらも覚えてないくらい吞気な生活を送っているもんだ。しかも俺はこれでも受験生。もう私立大学の入試は始まっているというのにこの体たらく、みんなは見習っちゃダメだぞ。

 

 俺はその場で適当に部屋着に着替えると、あくびをしながら階段を下りてリビングへと向かう。

 この時間だったら、もう朝飯と昼飯は兼用した方が良さそうだな。今日はずっと家にいるからたいして腹も減らないだろうし、また昼寝をする可能性もあるからそこまでモノを食べたくはない。こんなだらしない生活を送っているようで、案外健康には気を使っているのだ。

 

 

 まだ寝起きで頭がぼぉ~っとしながらもリビングのドアを開けると、そこには母さんと楓の姿が――――じゃない!?エプロンを装着してキッチンで料理をしているのは母さんだが、テーブルについているのは特徴的な黒髪ツインテールの――――

 

 

「にこ?」

「あっ零、おはよ」

「零くんおはよ~」

「お、おはよう……」

 

 

 俺は目の前に映る意外な組み合わせに少し驚いてしまう。母さんはいつもの調子と変わらず鼻歌を歌いながら料理をしているのだが、にこはかなり畏まって、借りてきた猫のようにおとなしい。

 

 

「お前どうしてここに?来るって連絡してきたっけ?」

「いや、してないわ。ちょっと相談があってね」

「そっか。それにしてもやけに萎縮してないか?その小さな身体が余計に一回り縮小されてる感じがするんだが」

「し、失礼ね!緊張しちゃうのは当たり前でしょうが!!」

「はぁ?俺の家ならもう腐るほど来てるだろ」

「違うわよ!!まさか詩織さんがいるなんて思ってなかったの!!」

「あぁ……」

 

 

 そういや母さんが帰国したこと、誰にも話してなかったな。特に言う必要がないからってのもあるが、単純に忘れてた。そりゃあ俺の家に来て、楓じゃなく突然母さんが現れたら驚くわ。まあ勝手に息子のベッドに潜り込んでビックリさせられた俺の方が、圧倒的に衝撃はデカイが……。

 

 

「それでもさ、母さんとは一度会ってるじゃん」

「にこだって、ただμ'sのメンバーの家に行って、そこのお母さんに会うだけなら特別緊張したりはしないわよ。でもね!にこが一番尊敬していて世界に羽ばたく女優の詩織さんと2人きりだなんて、萎縮しちゃうのは当たり前でしょうが!!こんな時に限って楓はいないし……」

 

 

 確かににこと花陽は母さんのファンでもあるから、そんな憧れの人と家で突然2人きりだなんて気が動転してしまうのも無理ないか。だから今でも石像のように身体がガチガチになっていると。俺が来たことで少しは気持ちが和らいだようだが、声はまだまだ震えが残っていた。目も瞳孔が開いてテンパっているみたいだし、これは母さんと対面した時のコイツの表情を見たくなってきたぞ。そしてそれをネタに弄ってやりてぇ……。

 

 

「そこまで畏まらなくてもいいって言ったんだけどねぇ~。にこちゃんさっきから私の問いかけに"はい"か"いいえ"しか答えてくれないのよ」

「どれだけガッチガチなんだお前は……」

「す、すみません!!やっぱり詩織さんの前ではどうもいつもの調子が出なくて……」

「まあそこまで尊敬してくれるのは嬉しいけどね。それに私はμ'sのみんなのことも尊敬してるから♪」

「う、うそっ!?あの詩織さんがにこたちを!?ほ、ほほほほほほほんとですか!?!?」

「落ち着けって。これじゃあなんのために俺の家に来たのか分かんねぇぞ……」

 

 

 母さんは女優として、世界の著名人たちと何度か顔を合わせているはずだ。だからこの母さんがμ'sに特別注目していると知れば、にこだけでなく穂乃果たちも意外に思うに違いない。今だってほら、現ににこのやつ卒倒しそうだし――――って!?

 

 

「おいっ!気絶しそうになってんじゃねぇよ!!」

「ご、ごめん。つい嬉しくて……。喜びで有頂天になるって、こういうことなのね……」

「なに悟ってんだよ。それに母さんじゃなくて俺に用事があるんじゃないのか?」

「あっ、そうそうそうなのよ!早くアンタの部屋に行くわよ!」

「急に切り替わったな。分かったから引っ張るなって!」

 

 

 にこはハッと思い出したような表情で俺の手首を掴む。憧れの女優さんを目の前にして嬉しいという気持ちと、この気まずい空気から抜け出したいという気持ち、どうやら後者が勝ったらしい。

 

 そして俺をズルズルと引きずりながらリビングを出ようとする、その直後だった。

 

 

「やるなら絶対に避妊をしなきゃダメよ~!私もこの歳でおばあちゃんなんて言われるのイヤなんだからね~!」

 

「な゛っ!?」

「…………!?」

 

 

 その言葉を聞いた途端、俺たちの顔は燃えるように赤くなる。

 なんてこと言い出すんだあのクソ母は!!あまり俺の言えたことではないかもしれないが、いい大人が変態発言してんじゃねぇと一度説教をしなければならんようだな。しかし、にこは否定言葉を口にすることもなくさっきより俺の手首を強く引っ張ってくるため、俺は何も言えずにリビングをあとにする形となった。

 

 

 あぁ、もう一体何が何やら。でもとにかく、母さんのあのいい笑顔だけは許せねぇ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「えっ、スカウトされた?誰が?」

「だからにこがってさっき言ったでしょ?」

「マジで?」

「マジで」

 

 

 さっきの母さんの爆弾発言も凄まじかったが、にこの相談内容もそこそこに衝撃的だった。

 にこの話した内容を簡単に言ってしまえば、街中で芸能プロダクションからスカウトを受けたらしい。芸能界にはそこまで詳しくないのでイマイチ把握はしていないが、どうやら有名なところらしく、彼女曰くアイドルを目指す人からすればその事務所に入ることこそ成功への近道だそうだ。

 

 街中でのスカウトと聞くとあまり信用できないが、現にこのようなスカウトでトップアイドルになっている女優が何人もその事務所から誕生しているみたいだし、これは本物と見て間違いないのかも。それに将来アイドルを目指す彼女としては願ったり叶ったりのオファーである。だからむしろどこに相談事があるのか気になるくらいだ。

 

 

「概要は大体分かったけど、どうして誰よりも真っ先に俺に相談を?」

「そのぉ……ね、スカウトされたことはとても嬉しいんだけど、まだにこの中に迷いがあって……」

「宇宙スーパーアイドルになりたいんだろ?この機会を逃す手はないじゃん」

「それはそうだけど、にこがその事務所に行くってことは、μ'sから抜けなきゃいけないってことでしょ?」

「そっか、なるほど」

 

 

 確かにスクールアイドルと芸能アイドルの両立は難しいかもな。自分の夢を叶えるためにμ'sを脱退するのか、それともみんなとの夢を紡ぐために自分だけの夢を諦めるのか、にこにとっては究極の選択だってことだ。しかし流石の俺でも、他人の道を勝手に選ぶなんて真似はできない。申し訳ないがここはにこ自身に道を決めてもらって――――

 

 

 その時だった。にこはその場で静かに立ち上がると、ベッドに腰を掛けている俺の目の前まで歩み寄ってきた。さっきまで真剣で堅い面持ちだったのに、いつの間にか頬を染めて、まるで結婚初夜の女性のような初々しい雰囲気が漂っている。ま、まさかとは思うけどこんな状況で!?

 

 

「にこ自身の夢とかμ'sの夢とか、それももちろん大切よ。でもね、にこにはもっと重要なことがあるの」

「な、なんだよ……」

「それはね――――」

 

 

 すると突然、俺の身体がにこによって押し倒され、ベッドの上に仰向けの状態で軽くバウンドする。一瞬の出来事で、何が起こったのかを把握した時には既に俺の身体の上ににこが四つん這いになっていた。

 

 女の子に押し倒される屈辱よりも、あんな超真面目な話から唐突にベッドインの展開になるなんて思ってもみなかったため、俺はそっちに驚いてしまった。そしてこの体勢、俺はただ彼女の顔を見つめることしかできない。

 

 

「どういうつもりだ……?」

「だってプロのアイドルになったら、零とこんなことをする機会なんて滅多になくなるでしょ?」

「もうプロ気取りなのか……まあいいけど」

「当たり前よ、にこなんだから。話を戻すと、つまりは未練タラタラってわけ。夢が叶うチャンスがあるならにこ自身も決断できるし、μ'sのみんなも喜んで送り出してくれると思う」

「だったら――」

「でもね、にこは絶対に零のことだけは忘れられない。もうこの身も心も、常にあなたを求めているのよ。部屋で1人でいる時もそう、妹たちに聞こえないように自分を慰めているくらいにはね。まだ回数はそこまでだけど、零と交わった記憶が蘇るたびにアイドルへの道を躊躇しちゃうの。そこで分かったことが1つ。にこはプロのアイドルになるよりも、今はあなたと一緒にいたい。あなたと一緒に――――交わりたい」

 

 

 にこのルビー色の目が、切なげに輝いた。

 彼女の話を総合すると、未練があるのはμ'sのことでも俺のことでもなく、自分の夢を断ち切ることだ。もちろん将来の夢だから()()()()()といった形だろう。そして彼女は俺を取った。自分の夢を殴り捨ててまで俺を求めてくれているのは、果たして喜ぶべきなのだろうか?

 

 

 だがそんな迷いはすぐに消え失せた。気づけばいつの間にか、にこが自分の服を脱ぎ始めていたからだ。シュルッと肌に布が擦れる音が艶かしく、いくら彼女が小柄な女の子と言ってもやはり女子大学生、色気が半端ではない。徐々に垣間見える彼女の白い肌を見て、俺は唾を飲む。そして最後に上が下着1枚だけになり、その最後の防壁さえも彼女はあっさりと脱ぎ捨てた。

 

 俺の目の前には胸をさらけ出した小さな恋人が、四つん這いとなって俺に跨っている。しかも脱いでいるのは上だけで下はちゃっかりスカートを履いているので、俺の興奮の刺激ポイントをしっかりと押さえているようだ。胸は擁護すらできないほど控えめな大きさのため、そもそも垂れるという概念すら存在しないが、眼前に乳首をピンと立たせた胸があるって事実だけでも俺の欲情は止まらない。

 

 

「にこの身体、好きなように使って?自分が零のモノだって感じられれば、未練や迷いなんか全て捨てられるはずだから……」

 

 

 この時、俺の中で何かが切れたような音がした。

 俺はにこの背中に腕を回すと、四つん這いになっている彼女の身体を腕で押しつぶすように力を入れる。すると仰向けとなっている俺の身体と、うつ伏せとなっているにこの身体は正面から密着した。しかしあんな小さい胸でも、ちゃんと俺の胸に押し潰される感触がするんだな。

 

 そして、俺たちはしばらくの間お互いの瞳を見つめ合う。アイドル活動に日々闘士を燃やし、夢へと一直線へ突き進んできた情熱の籠った赤い瞳。この瞳に飲み込まれたら最後、俺は彼女の魅力にどっぷり浸かって抜け出せなくなるだろう。だったらこっちから仕掛けるまでだ。

 

 俺はにこの頭の後ろに手を当てると、そのまま自分の顔へと彼女の顔を近づけた。にこは今から起こることを察知したのか、目を瞑り、唇を僅かに開く。もちろん俺はそれに応えるように、唇と唇を触れ合わせた。

 

 

「ん……」

 

 

 にこが小さく吐息を漏らす。

 彼女から微かな甘い匂いを感じて、俺はそれに誘惑されるように自然と舌を差し入れた。にこは当然の如くそれを受け入れ、向こうからもゆっくりと舌を絡めてくる。

 

 

「はぁ……ちゅ……」

 

 

 分泌されてきた唾液と、ねっとりと絡み合う舌の音が直接脳内に響く。久々の口付けだからだろうか、慣れているはずなのにやけに劣情を感じてしまう。自分の夢を諦めてまで俺のことを求めてくれた喜びが、形容し難い背徳感を含んだ興奮へと変換されていく。どうして何度もやってきたキスに、ここまで激しい劣情を抱いているのかは分からない。だが、そんなことはどうでもいい。ただ目の前の女の子が雌の顔になるのを楽しむ、それだけで俺は満足なんだ。

 

 だから俺たちは理性を失った獣のように、お互いの舌を貪る。久々だから若干のぎこちなさはあるが、舌の粘膜同士が熱く絡み合う感覚は、俺の頭をすっかりどろどろに蕩けさせていた。

 

 

「はぁっ、ん……はぁ、んちゅ……」

 

 

 下の階にいる母さんにこの声を聞かれたら絶対に弄られると思い、にこの口を必死に塞ごうとしたが、結局それは全くの無意味だった。こうして吐息交じりの喘ぎ声が溢れ出してしまっている。部屋の外にこの声が漏れ出している懸念もあるが、それでもなお俺たちはお互いに口付けをやめない。そんな事実が考えられるとしても、目の前の口付けに気分が高揚し、もっとお互いを求めたくなるのだ。

 

 そこで俺はにこの身体を少し浮かし、右手で彼女の胸を先端を弄りだす。その間ももちろん口付けをやめることはなく、口内と胸の両方を同時に蹂躙していく。

 

 

「んむっ、はぁっ……ん……ぁ」

 

 

 にこの口から漏れ出す吐息が、段々と淫らなものへと変わっていく。

 俺の指先がにこの胸の先端をくりくりっと攻め上げるたびに溢れる彼女の可愛い声は、俺の欲情を一気に膨れ上がらせる。小さくても感度は抜群、手触りも良好。まさに俺好みの胸へと進化していた。

 

 そして胸を攻め続けている間も、口内攻めの勢いを衰えさせない。本来なら身体に(ほとばし)る快楽を発散するためにもっと声を上げたいはずなのに、俺に唇を防がれているためか満足に声を出せないでいる。しかし快感はずっと与え続けられているので、そのジレンマがにこの興奮をより際立たせているのだろう。性欲を発散したいのにできない、そんな限界に焦らされる彼女の蕩けた表情を見ていると、もっともっとイジメたくなってくる。

 

 

「ふぁっ、あっ……はぁむ、ちゅっ……んっ」

 

 

 にこの吐息が一段と高くなる。

 俺が指で胸の先端を弄ると、律儀にビクッビクッと跳ねるにこの身体。今度は両手で巧みに胸を揉みしだいてやると、その反応も強くなっていく。しかも催促するかのように彼女は腰の位置をずらして座り直したため、それを察知した俺は更に強く乳首への刺激を始める。胸は柔らかいのに乳首は固い、そのギャップこそが俺のサディスト精神を大いに引き立たせた。

 

 そろそろ素の反応を見て楽しみたくもあったため、彼女の顔から顎を引いて唇を離した。そして起き上がって彼女をベッドに座らせると、俺は後ろから抱きしめる形で腕を回す。そこですっかり固くなった突起を指で摘んで、擦り合わせるように刺激を開始した。

 

 

「んっ……あ、あぁっ!!」

 

 

 俺の唇から解放された反動からか、にこの口から部屋中に響き渡る淫声が漏れ出した。今まで溜め込んでいた快楽を声によって一気に放出し、それでもなお刺激され身体に走る快感に身をよじらせて感じている。

 

 丹念な愛撫の甲斐もあり、にこの身体は相当温まってきているようだ。もう全身に力が入らないためか、背中を俺に預けてもたれ掛かってきている。その体温のせいか、俺の手もしっとりと汗で湿り気を帯び始めていた。彼女の胸を触るたびに熱く、その熱気は与える刺激をより一層強くしているようだ。

 

 そこでこれまで言葉にならない吐息ばかり漏らしていたにこが、ここへ来てはっきりと口を動かした。

 

 

「ね、ねぇ……」

「なんだ?」

「もっと……もっと強くして。そんなんじゃにこがアンタのモノだって証に、全然ならないんだから……」

「ならこんな風にしてみるか」

「ひゃっ!!あっ、そ、それよそんな感じ……んっ、あぁっ!!」

 

 

 俺は右手で胸を、左手はスカートの中に入れて、下着の上から秘所を人差し指で軽く撫で回した。明らかに性に乱れて感じていたと思われる、ぐっしょりと湿った下着。胸は激しく、下半身は優しくと緩急を付けながら攻め立てる。太ももですら手が触れるとピクッと身体が揺れるため、これは初めからこのような展開を期待していたに違いないだろう。

 

 そして、俺の指が太ももを伝って再び彼女の敏感なところに辿り着くと、にこの身体が一際強く跳ねる。胸と秘所の(ダブル)愛撫に、にこは涎を垂らしてまで表情が蕩け崩れていた。

 

 

「こんな顔をしたアイドル、みんなの前では見せられねぇな」

「んっ、あぁ……別にいいわよ、にこはアンタだけのアイドルなんだから。あぁんっ、んんっ……にこの色んな姿、全部見せてあげる」

「そっか。ならもっとイキ狂え!!」

「や、あぁんっ!!はぁ……あっ、もっと!零の手で、もっとにこを気持ちよくして!!にこは零のモノだって、ご主人様のモノだって身体に刻み込んで!!」

「あぁ、俺の手でしっかりと快楽に堕としてやるから」

「あ、ぁん、それだめ、いくっ、ん……忘れさせて、アイドルの未練もなにもかも。あなた以外のことを考えられなくなるくらいに、にこの身体に快楽を叩き込んでぇええええええええええええええ!!」

 

 

 にこはもう声を我慢することもなく、服従の言葉と共に嬌声を大きく響かせた。

 彼女は()()()()()()()()()()()()()()()を捨ててまで俺を選んでくれた。だったら俺もその決断に応えてやらねばなるまい。その道を選んで後悔しないよう、もう身も心も一生俺から絶対に離れられないように調教してやる……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そしてその頃、神崎家のリビングでは――――

 

 

「この音、そして微かに聞こえるにこちゃんの声……なぁ~るほど♪近い内におばあちゃんになっちゃうのかなぁ~?」

 

 

 この後、俺たちがここぞとばかりに弄られたのは言うまでもない……。

 

 




 にこの誕生日に合わせてこの回を執筆したと思っている人が多いでしょうが、実はたまたまです。でも、どの小説のにこ誕生日回よりもエロい自信はあります(予言)

 そして前回せっかく詩織さんがしばらくメインに加わったので、今回はいい感じに彼女も出していました。ちょい役なのにインパクト大きすぎましたかね(笑)

 次回はまた個人回になるのかそれ以外になるのかは未定。だったら次回予告の文章を書かなかったらいいじゃん、っていう意見はなしで(笑)



新たに高評価をくださった

カプレンさん

ありがとうございます!
最近高評価が少なくなってきたのですが、貰えると普通に嬉しいですね!



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】るびまるとの満員電車物語

 今回は執筆するすると言ってきたサンシャイン編の第二弾です!
 メインは先日の放送でも主役を務めた花丸とルビィの2人。そしてこの小説の舞台で電車と聞いて、嫌な予感しかしないのはお察し……


 

 電車の中ってのは、女性絡みの様々なハプニングが起こることで有名だ。座っている女性のスカートの中が見えたり、背丈の差で胸の谷間を覗いたり、満員電車になれば合法的に身体にも触れられる。特に都会であればそういった機会に巡り会える可能性も高い。日常に溶け込んだ可愛い私服の女の子、ちょっとファッションやオシャレに背伸びをし始める中高生、パンチラしそうでも無防備な体勢となる幼女、スーツで大人びた魅力を醸し出す大学生や社会人――――ただ視姦するだけなら、見てるだけで飽きることはない。

 

 ちなみに、俺はμ'sといったこの世で一番可愛い彼女たちがいる。もちろん12人全員愛して止まない存在なのだが、だからと言って別の女の子に目移りしないとは言い難い。だって俺、男だもん。男だったら可愛い女の子、綺麗な女性に目が惹きつけられるのは仕方ないだろ。しかもその人の胸が大きい、パンツが見えそうなどのエロい事項があれば、男なら本能的に見続けてしまうものだ。

 

 だからさ、俺が今やっている行為に関しても許してくれよ、な?

 

 

「やっぱ都会は電車も人多いね」

「うん。電車に乗るだけで緊張しちゃうよ……」

 

 

 俺はドア付近でもたれ掛かりながら、1つ前の駅で乗車してきた女の子2人組を観察していた。観察って言い方は犯罪者みたいで語弊があるな、たまたま目に入ったと言っておこう。

 

 1人は茶髪で全体的に丸っこい。でも胸の大きさだけは格別で、小柄だけど巨乳の花陽みたいな体型だ。もう1人はルビー色の髪をツインテールにした子。傍から見てもかなりオドオドしていて、話を盗み聞きした限りでは電車の人の多さにビビっているらしい。

 

 2人共揃ってちびっこいが、彼女たちを初めて目にした途端、俺の美少女センサーがビンビン反応した。こんなに俺の心を惹きつけるなんて、今までμ'sとA-RISE、そして以前出会った千歌と梨子ぐらいしかいねぇぞ――――って、結構いるな……。

 

 

 そんなこんなで俺はその場で立ち止まって彼女たちの様子をまじまじと眺めていると、電車が次の駅に到着した。俺と反対側のドア付近にいたその2人組は、駅からなだれ込んでくる乗客の波に巻き込まれぬよう辺りをキョロキョロ見渡しながら空いているスペースを探す。しかし元からそこそこ乗客がいたためか、座席も座席前の釣り革も完全に占領されていて、空いているスペースと言えば俺の傍くらいしか――――え!?俺の!?

 

 自分で言ったことに自分で驚きながらも、その間に茶髪とルビー髪の子が何の躊躇いもなく俺の元へと近寄ってきた。この俺が君たちのことを「微笑ましい目線:下衆な気持ち=3:7」の割合くらいで見てたっていうのに、そっちからのこのこと寄ってくるとは愚かな奴らめ。俺の華麗で卑しい手付きで、お前らの身体を快楽のどん底に――――

 

 と、そう思っていたのだが、人が多い割に満員電車と言う訳でもないため、これじゃあ合法的に女の子の身体を楽しめねぇじゃん!!満員電車なら身体を触れ合うのは仕方がないので触ることはできる。だが今は普通に1、2歩程度は余裕で立っているポジションを直すスペースはあるので、こんな状況で手を出したら速攻でお縄だ。

 

 いくら痴漢と言っても捕まってしまう痴漢は雑魚、究極の痴漢プレイを目指すなら、誰にも気づかれぬよう、そして相手の女の子すらも許してしまうような快楽を与えてこそのモノホンの痴漢なのだ。

 

 

 しかし改めて2人を見ると、まだ何もしていないのに余裕がない表情をしていた。

 

 

「うぅ、どこかに掴まってないと身体が……まる、バランス感覚ないから」

「大丈夫花丸ちゃん?ルビィの肩に掴まる?」

「ありがとう。でもそれだとルビィちゃんも危ないかも……」

「あはは、ルビィもあまり電車には慣れてないから。でも座れもしなければもたれ掛かかれるところもないし……」

 

 

 花丸と呼ばれた子とルビィと呼ばれた子は、どうやら電車の揺れが苦手らしく、さっきから車両が振動するたびに何度も足を着き直している。若干1人あたりのスペースに余裕があると言ってもそれは1歩程度、これ以上の大きな揺れが来たら他の乗客の身体に倒れ込んでしまうぞ。

 

 そして周りを見てみれば、その子たちの周りは野郎しかいない。こんな可憐な子たちを、どこの馬の骨とも分からない野郎に触れさせてたまるかってんだ。それにだ、一番初めにこの子たちに目をつけたのは俺なんだよ。だからこの子たちは俺のモノ。何事も早い者勝ちと言うしな。

 

 

「おい」

「「ひゃぁっ!?」」

「ちょっ!?そんな大きな声出さなくてもいいだろ!!」

 

 

 一声掛けただけなのにこの驚かれようかよ……。俺ってそんなに悪人面してるのか?そういやさっきのこの2人の会話を聞いてると、たかが電車なのに妙におどおどしてたな。

 

 とにかく、周りの乗客が横目で不審がって俺たちを見ているし、早く俺が無害だってことを証明しないと通報されてしまいそうだ。このご時世、小中学生の女の子に挨拶をしただけで通報される極悪な世の中だからなぁ。ナンパも最近じゃ流行らねぇし、どこからどう見ても俺が不審者と思われてもおかしくないぞこれ。まあちょっとは邪な気持ちがないかと聞かれると、それはNOなんだが……。

 

 

「何も掴まらずに立ってるのがツライんだろ?だったらこっちに来い。ここなら壁に寄り掛かることができるから」

「あ、ありがとうございます!それではお言葉に甘えて」

「この先結構揺れるところあるから、手すりもしっかり握っておいた方がいいぞ。それと……君はいいのか?」

「ふぇっ!?は、はい、私は……」

「そ、そうか……」

 

 

 ルビー髪の子は小柄な身体を更に縮こませて、何故かずっと萎縮している。

 そこまで怖がられると俺が悪いみたいになってるけど、別に変なことはしてないよな!?そりゃあ気持ちにはちょっと黒があったけど、傍から見たらいいことしかしてない善人なんだし、何も俺が引く必要はない。むしろ誇ってやろう。

 

 

「悪気はないんです!ルビィちゃんはかなり人見知りなので……」

「なるほど。別に座席の角に追い込んで、取って食おうとする訳じゃないから安心しろ。俺は人畜無害だから」

「取って食べる!?」

「そこだけフィーチャーすんな!それこそ痴漢に見えるからやめてくれ!」

「あぅぅ、す、すみません……」

 

 

 こりゃあ出会って初期の花陽以上に扱いが難しいかもな。ここで「シュンと落ち込んだ表情も可愛いよ」とか言ったら、更に火に油を注ぐだけか。彼女はたくさんいても女性経験の短さが短さだから、こんな時になんて声を掛けていいのやら。もしかしたら俺は、とんでもない難攻不落の少女に目をつけてしまったのかもしれない。

 

 とりあえず、場の空気とルビィと呼ばれた子の気を落ち着かせるためにも、ここは手堅く当たり障りのない会話から切り込もう。それこそ俺が今までの拙い女性経験から学んだ技の1つだ。

 

 

「お前ら、東京には旅行で来たのか?」

「は、花丸ちゃんこれって……」

「うん、聞いたことがあるよ。都会に行ったらイケメンのお兄さんだけには気をつけろって。声を掛けられたら、間違いなくナンパだから……」

「えぇ!?る、ルビィたちがナンパに!?」

「おい!だから勝手に変なレッテル張るなよ!お前らが何も掴まらずに突っ立ってるのを見かねて、その場所を譲ったってのによぉ」

「ご、ゴメンなさい!男性とお話するのは慣れてなくて……」

「ルビィもです。でもお兄さんは優しそうな人なので少し安心しました」

「そ、そっか」

 

 

 驚いた、意外とあっさり信用してくれるんだな。まあ実際に俺が()()()()()()()だからよかったものの、チャラい優男に声を掛けられてもホイホイ信じ込みそうだもんなぁこのツインテガールは。警戒心は強いけど、ちょっとでも心に入り込むことに成功すれば案外チョロそう――――なぁーんて、失礼すぎるな俺。

 

 

「さっきの質問にお答えしますと、その通り旅行でこっちに来ました」

「やっぱりな。会話を聞いてたらまるで田舎者みたいに挙動不審だったからさ」

「あはは……東京に比べたら、まるたちが住んでいるところなんて田舎みたいなものですよ」

「まる?あぁ、自分の名前か」

「はい、国木田花丸と言います。そして……ほら、ルビィちゃんも」

「う、うん。黒澤ルビィです。よろしくお願いします」

「花丸にルビィか、珍しい名前だな。俺は神崎零、何かのご縁ってことで覚えておいてくれ」

 

 

 花丸とはえらく和風というか、昔ながらの名前してんな。少なくとも現代ではあまり見ない。そしてルビー髪の女の子の名前が、そのままルビィだったことに内心驚きを隠せない。2人共名前のインパクトが強すぎて、一生忘れられそうにないなこれ。

 

 

「それにしても女子中学生が2人で旅行だなんて、俺が親だったら心配で送り出せねぇわ」

「中学生……?おらたちは高校生ずら!!」

「えっ、マジで!?お前ら背丈低いからてっきり中学生かと――――って、おら?ずら?」

「あっ、いや、噛んだだけです!!」

「でもさっき――」

「噛んだだけですから!!」

「はい……」

 

 

 さっきまで俺に怯えてるかってくらい大人しかったのに、急に迫ってくるくらいの威勢になりやがった。でも確かにさっき自分のことを"おら"って言ってたし、語尾が"ずら"になってたんだよなぁ。もちろん馬鹿にするつもりは一切ないのであしからず。

 

 

「まあそれはいいとして、どうして東京へ?」

「それはもちろん、あの秋葉原へ行くためですよ!!」

「おぉう、今度はお前かよ……。秋葉原っていうと、アニオタちゃん?」

「もちろんそれも楽しみですが、ルビィたちの一番の目的はスクールアイドルショップと聖地巡礼です!!あそこには今なお活躍する生きる伝説、μ'sやA-RISEなどの有名スクールアイドルの活動拠点でもありますから!!そこに行ってたくさん写真を撮って、いっぱいグッズを買って―――う~ん!今から想像するだけでも楽しみです!!」

「そ、そうか……旅の目的がよ~く分かったよ」

 

 

 コイツも花陽やにこと同じく熱狂的なスクールアイドルのファンらしい。目を太陽以上に眩しく輝かせながら、花丸と同じく俺にグイッと迫ってくる。コイツら恥ずかしがり屋なんじゃなかったのかよ。その点はずっと頭に花陽がチラついてならない。

 

 そして思い出したのだが、確か以前にも同じような展開があったような気がする。そうだ、あの時も静岡から来たって言っていた女の子2人組、千歌と梨子に出会ったんだった。そしてその中の1人が全く同じことを叫んでいたな。秋葉原は全国のスクールアイドル憧れの聖地でもあるから、こうしてファンが来ることも珍しくない。もちろん千歌たちのように他所からスクールアイドルが来ることもある。

 

 

「最近増えたんだよな、スクールアイドルのファンでここへ来る人が」

「確かにルビィはμ'sやA-RISEのファンですけど、それ以前にスクールアイドルとして伝説の聖地は回っておきたいなぁと思いまして」

「えっ、じゃあルビィはスクールアイドルなのか?」

「はい。それにルビィだけじゃなくて花丸ちゃんもそうですよ」

「ま、マジで??」

「不束者ながら、まるもスクールアイドルとして頑張ってます」

「へぇ、またスクールアイドルに出会っちまったよ。世の中は狭いのか、それともスクールアイドルの数が多いのか……」

 

 

 どうやら俺はスクールアイドルの女の子たちとよほど縁があるらしい。毎回毎回、秋葉原に出向くたびにスクールアイドルの子たちと会っている気がする。それにこれだけ女の子と出会っていたら、μ'sのみんなが嫉妬しそうで怖い。逆にわざと嫉妬させてアイツらの反応を見るのも面白いが、そんなことをしたらヤンデレ気質のあることりや楓から本気で刺されそうだからやめよう。

 

 

「あのぉ~、身体が震えてるようですけど大丈夫ですか?」

「あ、あぁ平気。それよりなんて名前なんだ、お前らのグループ名は?」

「Aqoursです。ルビィたち、あまり有名ではないですけど……」

「Aqours?その名前もどこかで――――――あ、思い出した!それじゃあ千歌や梨子と同じグループなのか!?」

「えっ、千歌さんたちを知ってるんですか?」

「知ってるよ。まあアイツらが一度ここへ来た時に、たまたま顔を合わせただけだけどさ」

「じゃ、じゃあ千歌さんが言っていた『秋葉原に行った時に、イケメンで優しいけど変態な人に会ったよ』と言っていた人はまさか――――」

「神崎さんのことずら!?」

「あのオレンジ頭、なんてこと口走ってんだ……」

 

 

 "イケメン"と"優しい"で上げるだけ上げておいて、最後は"変態"で急降下させるとか、流石あの時の悪賢さが際立ってるな。グループのメンバーにまだ見ぬ俺の悪評を広めるのだけはやめてもらいたい。ま、"変態"なのは間違ってはねぇけど。

 

 

「まるたちがここへ来たのは、スクールアイドルとして人に慣れるための特訓でもあるんです」

「特訓?」

「はい。ルビィも花丸ちゃんも小心者で、ライブ前も大勢のお客さんを見ると決まって緊張しちゃって。だから秋葉原に来れば人がたくさんいるので、そこでAqoursの宣伝をしつつ緊張も解して来いって千歌さんが……」

「で?これまでの成果は?」

「ぜ、全然……」

「やっぱりか。こんなこと言っちゃアレだけど、積極的にビラ配りするお前らを想像できねぇもん」

「「ですよね~……」」

 

 

 自分たちが変に他人の目線に敏感だと自覚しているからこそ、余計に目立ちにくいってのもあるのだろう。でも名が通っていないスクールアイドルだからこそ、ライブの宣伝は頑張らないといけない。俺はそれほどスクールアイドルに詳しくはないが、どうやら現時点で5000以上のグループがいるらしいし、とにかく名前を知ってもらうことから始めないと大量の中に埋もれてしまう。そんな状況で羞恥心MAXのこの2人に宣伝を任せるとか、千歌の奴も相当鬼だな。

 

 

 しょうがねぇ、ここは俺が一肌脱いでやるか!

 

 

「それじゃあ特訓だ。湧き上がってくる羞恥心を押さえ付ける、効果的な特訓をお前らに施してやる」

「えっ、それって――」

「声を上げるなよ。特訓だからな」

「「ふぇっ!?」」

 

 

 俺は2人の正面から、左手を花丸の右肩、右手をルビィの左肩に置くと、そのまま2人をまとめて座席の角へと追い込んだ。もちろん花丸もルビィも、突然訳の分からない行動をされて目を丸くして驚いている。恐らく彼女たちの性格上男性と接したことがあまりないのだろう、俺に半ば抱きつかれる形となって、2人の顔がみるみる内に真っ赤になっていく。

 

 電車内の空気がそこそこ籠っているからか、少女たちからはむわぁっとした暖かい熱気と鼻をくすぐる女の子特有の甘い匂いが伝わってきた。そして2人共小柄なように見えるが流石スクールアイドルと言うべきか、案外肩幅もしっかりとしている。俺が肩から徐々に二の腕に手を下ろして撫で回すと、2人は目を瞑ってその愛撫に耐えていた。

 

 

「ん……んっ」

「ふぁ……あっ」

 

 

 二の腕を触っているだけなのに、なんでエロい声を上げてんだコイツら。でもオナニーの"オ"の字も知らないような可憐な少女たちだから、出会った男に突然こんなことをされたら声を漏らしてしまうのも仕方ないのかもしれない。

 

 そんな彼女たちの表情が可愛くてもっと眺めていたくなる。だから俺は二の腕から脇、そして脇腹に手をねっとりと肌に沿わせた。もちろん胸横に手を当てれば、その子の胸に手が僅かに当たるわけで……。ルビィはそこそこの大きさでレギュラーサイズなのだが、花丸は予想通りこの体型にしてかなりのボリュームがあった。親指が触れただけだけど、2人の身体から感じる"ふにょん"として柔らかい感覚。おっぱいマイスターの俺が言うんだ間違いない。

 

 普通ならこんな暴挙に出るなんてありえない。だが花丸とルビィが羞恥心に弱いという点を逆手に取れば、痴漢プレイをすることなぞ容易いのだ。今までμ'sのメンバーと痴漢プレイをしたことはあったが、やっぱり痴漢は見知らぬ女の子を襲う方が背徳感が半端ない。2人はこれが特訓だと思い込んでいるので、そういった素直で騙されやすい純粋な子を襲うのは全身がゾクゾクとしてくる。

 

 しかし、直接おっぱいを触るような真似はしない。あくまで紳士的に、特訓の範囲を超えない程度で楽しむのが痴漢通だ。そして俺は待っていた。痴漢プレイなんて模倣じゃない、マジモノの痴漢ができる時を!!

 

 

「か、神崎さん?これ特訓なんですよね……?まる、そんなに近付かれると恥ずかしいずら……んっ」

「そう特訓だ。スクールアイドルのファンには男もいるんだから、俺で慣れておけ」

「な、なんだかドキドキして……。それに手が……ひゃっ」

「手がなんだって??」

「い、いやなんでも……これも特訓なんですよね?ルビィ頑張ります!!」

 

 

 電車の車両の隅っこで、女の子2人を抱きしめるかのような体勢で追い込む変態の図である。

 しかもこんな素直な子たちを騙して、心にひしひしと感じる罪悪感と言ったらもうそれすらも快感だ。2人の胸にはガッツリ触れないよう指で軽く触れる程度に抑えているので、2人は不審に思っても俺が善意で特訓してくれていると思って口には出せない。それこそが俺の狙いなのだ。まあ、俺に目をつけられた時点で諦めるんだな。

 

 

 しかし、ここで電車が大きく揺れた。

 座席の隅の壁にもたれ掛かっている2人は無事だが、なんの支えもなく立っていた俺の身体は突然の揺れに対応しきれず前のめりになってしまう。そしてあまりにも揺れの勢いが強かったため、俺は自分で自分の身体を制御できずにそのまま花丸とルビィ目掛けて――――

 

 

「うぐっ!!」

「ひゃっ!!」

「きゃっ!!」

 

 

 気が付くと、顔に何やら柔らかいモノが当たっていた。顔の左半分はふかふかとした布団のような、右半分はぷよぷよとしたプリンのような感覚。どちらにも言えることは、俺にとって馴染みありまくりの感触だってことだ。

 

 そう、これはどう考えても花丸とルビィの胸。俺は電車の揺れに足を取られて、並んでいる2人の胸元へと綺麗にダイブしたらしい。顔に伝わってくるふかふかとぷよぷよの暖かい感覚にただならぬ母性を感じ、しばらくこのままでいようとも思ったが、2人が身体を震わせていることに気付き即座に胸から顔を話した。

 

 

「「きっ……」」

 

 

 マズイ!このままじゃ数秒後には叫ばれ、周りから冷たい視線の集中砲火に遭うのは確実だ!何か対策を考えねぇと!!

 

 

 するとここで天からの声が聞こえた。電車のアナウンスによると、もうすぐ秋葉原の駅に着くらしい。

 ここだ。逃げるならここしかない!!電車が止まる時を見計らって、最速でこの車両から抜け出すんだ。

 

 俺は電車が止まりドアが開く時間を逆算して、まず2人に奇声を上げさせないために両手を花丸とルビィ2人の口にそれぞれ当てる。すると奇声を発しようとしていた声が、俺の手に邪魔されて小さな呻き声に変わったため、まだ周りには気付かれていないだろう(多分)。そしてその直後に2人の手首を掴むと、そのまま一目散に人混みを掻き分け電車のドアへと向かう。俺の予想通り、ドアの前に到着した頃には丁度ドアが開いている最中だった。

 

 

 勝った!!

 

 

 そう心の中でガッツポーズをしながら、俺は2人の手を引きながらダイナミックに下車をした。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁはぁ、あっぶねぇ~もう少しで人生終了するところだった……」

 

 

 とりあえず乗車口から離れたところで休憩することにした。花丸もルビィも、いくらスクールアイドルとはいえ準備運動なしの全速力では流石に息は切れている。はぁはぁと息を吐くそんな姿が色っぽいなどと劣情を抱きながらも、一応フォローはしておこう。

 

 

「悪いな急に走らせて」

「どうしていきなり走らされたのかは分かりませんが、あれも特訓なんですか?」

「えっ、あぁ……そ、そうだな!これくらいで息が切れてちゃまだまだだぞ」

「神崎さんの特訓はキツイずら……」

「キツくないと特訓にならないだろ?そして、このことを誰にもはなさないようにな」

「千歌さんたちにも?」

「あぁ。お前らも電車内で奇声を上げそうになったって、知られたくないだろ?」

「で、ですね……」

 

 

 よしっ、これで口封じも完璧だ!さっき起こった、いや引き起こした痴漢は俺たち3人の中に封じ込められた。俺としては2人の可愛い表情と微量ながらも喘ぎ声も聞けたし、初めての痴漢としては満足満足!この調子でもっと戦術を極めていくとしよう。

 

 

「それじゃあここでお別れだな」

「はい。ありがとうございました、まるたちに付き合ってもらっちゃって」

「しかもルビィたちのために特訓までしてくれるなんて、感謝します!」

「そ、そうか……まあいつでも頼ってくれよ!あはは……」

 

 

 なんか私利私欲のために痴漢をしていたのに、こうして純粋にお礼を言われると普通に罪悪感が……。花陽や亜里沙並に純粋か、もしかしたらそれ以上かもしれない。とにかく不審に思われていないだけマシか。

 

 そして俺たちはここで別れ、それぞれの日常へと戻った。

 その後、俺の知らぬところでこんな会話が繰り広げられていたらしい。

 

 

「今日の特訓で少し自信が付いたよ!ね、ルビィちゃん!」

「うん!それに神崎さんに抱きしめられている時、緊張じゃない別のドキドキがあったんだけど、あれってなんだったんだろう?」

「あ、それまるも同じだ。上手く言葉にできないけど、暖かかったよね♪」

「そうそう!電話番号ももらったし、また会えるかな?」

「今度会ったらまた特訓してもらおう!」

「うんっ!」

 

 

 う、嬉しいけど……純粋すぎて心が痛む!!

 




 サンシャイン編をずっと楽しみにしてくれていた人も結構いらっしゃるみたいなので、その方はお待たせしました(笑) アニメの放送も始まりましたが、やはりキャラが可愛くイキイキとしている姿はいいですね!ストーリーの内容よりもキャラの可愛さに目が行く人間なもので!

 ちなみに今回の話の内容は、若干ですが実体験に基づいた内容だったりそうでなかったり……。まあそれもこれも花丸とルビィの乙女な表情を見られればチャラってことでどうか1つ!

 次回はありゆき回かもしれない。


 前回のにこ回の感想もまだまだ募集中!もちろん今回のサンシャインの感想も是非に!


新たに高評価をくださった

タコ村さん、kuri☆さん

ありがとうございます!
リクエストにあった秋葉ちゃんの恋愛も……そろそろかな?



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雪穂と亜里沙と、ハーレムコスプレプレイ(前編)

 前回の予告通り、今回はゆきあり回です。
 恋人同士になってから初めてのメイン回なのでボリューム大。前後編に分けるまでになってしまいました(笑)


 

「な、なんですかこの衣装は!?」

「ことりから借りてきたんだ。お前たちに着せたいものがたくさんあったからな」

「どれもこれもとっても可愛いですね!」

「だろ?ことりに頼んで、わざわざお前たち用に調整してもらったんだよ」

 

 

 2月に入り寒さも真骨頂に上り詰める中、俺はホットな気分を味わいたいがために、雪穂と亜里沙を部室に呼びつけた。会話の流れからお察しの通り、部室の更衣室にはハンガーで吊るされたたくさんの衣装が軒を連ねている。様々なシチュエーションに対応した衣装ってこともあり、見た目の派手さも相まって目がチカチカしてきそうだ。まあそれも今から目の保養にさせてもらうのだが。

 

 相変わらず雪穂は呆れた表情でこの衣装軍を眺め、今から起こる事態を察して溜息を付いている。だがそんな彼女と打って変わって、亜里沙は衣装の派手さ以上に目を輝かせながら、早速立ち並ぶコスプレに手を掛けていた。2人の性格が如実に現れているが、これはこれでいいコンビ。それに亜里沙を連れてこないと、雪穂だけでは絶対にこんなことをしてくれないからな。こんなことってどんなことかって?もうすぐ分かるよ。

 

 

「どうして私たちがこんなことを……」

「俺は受験勉強漬けで疲れてんだ。だから癒しが欲しいんだよ理解した?」

「受験勉強って、どうせしてないですよね?」

「あっ、バレた?まあなんにせよ折角俺の彼女になったんだから、俺好みのプレイくらい引き受けてくれよ」

「まあ零君の彼女になるって決めた時から、変なことをされるのは覚悟してましたけど」

「変なこととは侵害だな。これはスクールアイドルとして、衣装をキッチリ着こなすための特訓でもあるんだ」

「また口の上手いことを……」

 

 

 いつにも増してドライな雪穂だが、俺としてはクールで冷静な女の子ほど素直な子はいないと思っている。ここで彼女を攻め立てることはしないが、恐らく心の中ではこの可愛い衣装たちにどこか期待をしているのだろう。だって雪穂の目がチラチラと衣装に傾いてるし。

 

 

「普段着ないような衣装ばかりですね~。早く着てみたいです!」

「そうだろうそうだろう。いつも見慣れている衣装だと新鮮味が薄いし、俺だって興奮できねぇだろ」

「やっぱりそれが目的だったんですね」

「いいじゃん雪穂、一緒に着ようよ!こんなに可愛いのに、見てるだけなんて勿体無いでしょ?」

「そうそう。俺はお前らのエロ可愛い姿を見たいんだ。雪穂も亜里沙も、たっぷりと俺を満足させてくれよ?」

「はいっ!零くんのために、私頑張ります!」

 

 

 俺の命令に、笑顔で軽く敬礼しながら応えてくれる亜里沙。その何気ない仕草に、俺の心は一瞬にして鷲掴みにされてしまった。何この可愛い生き物!?まだ衣装すら着てないのにこんなに取り乱されるなんて生意気な……でも愛くるしくて許しちゃうのが亜里沙なんだよねぇ。

 

 そんな亜里沙の健気さに当てられて、俺は自然と亜里沙の頭に手を乗せ優しく撫で回していた。

 

 

「ふぇっ!?零くん……?」

「可愛い子にはご褒美をあげろって言うしな。今からもこれからも、俺のために頑張ってくれよな」

「えへへ、もちろんですよ♪」

「ちょっ、私だって……」

「そっかそっか、お前も撫でられたいのか。お安い御用だ!」

「そ、そんなのじゃありません!!あっ……」

「口元が緩んでるぞ?やっぱ撫でられたかったんじゃねぇか」

「ち、違います!!」

 

 

 口元だけじゃなく頬も緩んでるのに、いつも以上に口だけは抵抗してくるのな。だがそんな表情で否定されても、全然説得力がないのは当たり前である。雪穂もいずれは亜里沙のように従順で素直な子になってくれればいいんだけどなぁ。彼女はこのツンデレ具合が魅力ってのもあるけどね。

 

 

「雪穂雪穂!まずはどれを着る?これいいなぁ~。あっ、こっちもいい!」

「もう亜里沙、どの衣装も可愛いのは分かるけど少し落ち着いて!」

「よしこれにしよう!ほら着替えに行くよ雪穂!」

「ちょっと!引っ張らなくても行くから!!」

 

 

 やはり雪穂は亜里沙にはめっぽう弱い。この2人をセットで連れ込んだのは正解だったな。雪穂や真姫のようなツンデレちゃんは、亜里沙や凛みたいに悪意のない純粋な子に無理やり誘われると断れないから、その弱点を見事に突いてやった訳だ。

 

 そして今から始まるのは、俺の満足を満たすためだけのパーティ。精々俺の興奮を大いに盛り上げてくれよ、お二人さん!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「初めはこの衣装から着てみました!ど……どうですか?」

「うぅ、いきなりこんな恥ずかしい衣装だなんて……」

「おぉっ!俺の萌えポイントをしっかり押さえてるじゃん」

 

 

 雪穂と亜里沙が纏っているのは、ホワイトブリムとエプロンドレス――――つまり、メイドの格好をした2人が俺の前に現れた。

 あれだけはしゃいでいた亜里沙も、いざ衣装を着て俺に見せるとなると少々緊張しているらしい。若干(うつむ)きながら、上目遣いで俺の表情を確かめる。雪穂も両手でスカートの裾を握りしめて、顔を赤くしながら俺の様子を伺っている。"メイド"+"恥じらい"という見事にマッチする属性を遺憾なく具現化してくれて、俺の萌えポイントが一気に上昇しちまった。今にも2人に飛びつきたくなってウズウズしてしまう。

 

 しかし、こうして見てみると結構エロいなこのメイドさんたち。だってエプロンドレスの丈がこの学院のスカートの丈よりも短く、ミニスカートと言っても差し支えのないくらいいかがわしい。そしてそのスカートから伸びる、色素が薄く白磁を思わせる純白の脚。その脚に魅了されるかのように俺の目が惹きつけられる。まだ若干高校1年生にしてこの艶かしい脚、流石普段からスクールアイドルの活動を行っているだけのことはある引き締まったいい脚だ。

 

 

「すげぇよ2人共。似合うとは思っていたが、まさかここまで可愛く着こなすとは思ってなかったよ」

「ありがとうございます♪零くんに喜んでもらえて、私も嬉しいです!」

「私も嬉しいですけど……」

「けど?」

「どうしてこんなにスカート短いんですか!?メイドさんのスカートはロングですよね!?」

「グチグチ言うなよ。いいか?メイドってのはご主人様を喜ばせるものだ。つまり、メイドに自分の趣味趣向を押し付けるのもご主人様次第ってことなんだよ」

「じゃあこれは零君の趣味と……」

「そういうことだな」

 

 

 端的に言えば俺の趣味でもあるけど、衣装を作ったことりの趣味ってのもあるな。まあ俺としてもミニスカートの方が嗜虐心や加虐心を唆られるから、そっちの方が断然興奮できる。メイドさんだからこそ意地悪してみたい、あると思います。

 

 

「せっかくだ、2人共その場で回ってみてくれよ」

「えっ?スカート短いんですよ!?」

「ま、回るとそのぉ……中が」

「なに?ここでは俺がご主人様なんだ。分かってるよな?」

「は、はいっ!回ります!」

「亜里沙!?」

 

 

 ごねる雪穂をよそに、亜里沙はメイドとしての精神を新たに決心をしたようだった。

 亜里沙は片足を軸にして、その場でくるりと回る。もちろんミニサイズのスカートは風圧で翻り、落ち着いた感じの水色の下着が垣間見えた。なんだろう、クッソエロいなこの光景。今日は2人のコスプレを見て癒されようと思っていたのだが、妙にムラムラしてきやがった。

 

 

「いいね!これから制服の時も、その動きやってもらおうかな」

「えっ、それじゃあ毎日ってことに……うぅ、それは恥ずかしいです!」

「2人きりの時に、誰もいないところでだけだからさ」

「れ、零くんがそう仰るならば頑張ります!」

 

 

 よしっ!素直な子を懐柔させるのは楽で精神的にもいいな。なんだか俺の言うことは全て正しいと認識してそうではあるが、それはそれで純白の亜里沙を好きなように俺色に染められるってことで悪くない。むしろ調教しがいがあって大変よろしい。

 

 ここで雪穂の様子を見てみると、まだ覚悟が恥じらいを超えていないのか、今度は身体ごと他所を向きながらモジモジと身体をくねらせていた。ミニスカでそんな動きをすると相当エロいのだが、どうせなら彼女にはもっと恥辱を与えてやろう。だって俺、ご主人様だもん。命令に従わないダメメイドさんには徹底的におしおきしないとね。

 

 

「どうしてもやりたくないってのならそれでもいい。だったら、自分でスカートを捲って下着を見せてくれよ」

「はぁ!?」

 

 

 さっきまでそっぽを向いていた雪穂は、驚きのあまりか身体ごとこちらに振り向いた。その勢いの風圧でスカートがちょいと捲れ上がったが、微妙に太ももの奥までしか見えなかったのが悔やまれてならない。だがもうそんな絶対領域など気にしなくても良い。俺は間近で見てやる、雪穂の生パンを!!

 

 

「やらないんだったらおしおきが必要だな。だって俺はご主人様なんだから、躾のなってないメイドをお世話するのも俺の役目だ」

「ほら、雪穂。ご主人様なら絶対に喜んでくれるよ♪」

「う、うぅ……」

 

 

 亜里沙の援護射撃はありがたいが、多分雪穂にとっては俺に喜んでもらうとかそれ以前に、決心が羞恥心が越えられないんだと思う。なんと言葉を発していいのか分からず呻き声だけを漏らしながら、雪穂はギュッとスカートの裾を掴む。まだ全ての恥じらいを捨て切れた訳ではなさそうだが、後ろから亜里沙に背中を押され、その勢いで何かが吹っ切れたかのように突然手を動かし始めた。

 

 スカートの裾が徐々に上がって行き、白い太ももが顕になっていく。やはりこの行為は、羞恥心全開の女の子の恥じらう表情を見ながら鑑賞するのが一番だ。恥辱に塗れながらの姿は非常に扇情的だが、同時に俺の我慢も煽られ限界に近づいていた。

 

 

「ほら早く、へそが見えるまで捲るんだよ」

「えぇっ!?さ、さっき下着が見えるまでって……」

「お前のご主人様は気まぐれだからな。仕方ないよ」

「……うぅ」

 

 

 雪穂の顔の隣にトマトを置いたら、もうどっちが彼女でどっちがトマトか分からないな。それくらい雪穂の顔面は真っ赤に茹で上がっていた。穂乃果たち9人とは違い俺の彼女になり立てで、ただでさえこんな恥辱プレイには慣れてないのに、いきなり自分でスカートを捲くって下着を見せろと言われたらこんな反応をしてしまうのはしょうがない。俺ももちろん分かっている。分かっているからこそ余計に困らせたくなるのだ。この気持ち分かる?

 

 しかしこれだけ言っても頑なに手の動きがゆっくりなので、俺は雪穂の手を掴んで上へと力を入れる。半ば強制的になってしまったが、ようやく彼女はスカートを捲り上げた。

 

 

 遂に見えた、雪穂の白いショーツがこの目に!レースのような飾りが控えめに付いていて、落ち着きのある彼女をよく表したいい下着だ。そしてショーツから少し目を上げると、そこには白いお腹と小さなおへそが下界に晒されている。更に今度はショーツから目を下げると、未だ残存する羞恥で震えている白い太ももも全て顕になっていた。エプロンドレスが紺色のためか、白さがより際立って見える。

 

 

「お前今まで脚が太いだのお尻が大きいだの愚痴を言ってたけど、そんなこと全然ねぇじゃん。綺麗だよ」

「そ、そんなに褒めないでください!この恥ずかしさを抑えるのだけで精一杯なんですから!!」

「謙遜しなくてもいいよ雪穂!私も思わず見とれちゃった♪」

「亜里沙まで……。亜里沙の方が綺麗でしょどう見ても」

「そうなのか。じゃあ亜里沙もスカート捲ってみよっか!」

「私もですか!?」

「ご主人様の言うこと、聞けない?」

「め、捲ります!!」

 

 

 さっきもそうだったが亜里沙も羞恥心を感じていない訳ではないようで、スカートの裾を掴む手が震えて僅かな躊躇いが見て取れる。だが決心を固めるのは雪穂より早く、両手に力を込め勢いよくスカートをおへそが見える高さまで捲った。

 

 亜里沙のお腹も小さなおへそも、そして太ももも雪穂に負けないくらいの純白さ。紺色のメイド服とのコントラストで白さが映っている。水色のショーツも、自然と純白の肌に溶け込んで見えた。もっちりとしていて柔らかそうなお腹と太ももは、その艶を強調するかのように光り輝いている。今すぐにでも飛びついて舐め回したいという、男の野生本能を大いにくすぐられた。

 

 そして後輩であり、メイドでもあり、恋人でもある美少女2人が、目の前で自分から下着を晒してくれるこの光景に己の支配欲が刺激されてしまう。こうして白い脚が隣り合わせに並んでいると、天界の神殿の柱のような神々しさが感じられる。こんなの……我慢できるはずがないじゃないか。

 

 

 俺は誘われるかのように、2人の身体に手を伸ばした。

 

 

「んっ……!」

「はぁ、零、くん……!」

 

 

 俺はいつの間にか、2人の太ももに片方ずつ手を添わせていた。それに気付いたのは、雪穂と亜里沙の抑え目の嬌声が耳に入った時。だが自分がセクハラをしていると自覚してからも、なお手の動きは止まらない。どちらの太もももスベスベしていて、ずっと触っていたくなる。

 

 

「んぅ、あっ……」

「んっ、ふぁ……」

 

 

 綺麗な脚線美をなぞるように、いやらしく手を動かしてやる。部室内なので声を抑えてはいるようだが、感じているのは確かなようだ。脚を撫でられただけで感じちゃうとは、よほど敏感な身体をしているらしい。だがスカートを捲ったままの体勢を崩さないのは、ご主人様の言いつけをしっかりと守っているからなのか、それとももっと俺に触って欲しいからなのか。どちらにせよ触り続けるけどね。

 

 だけどこのまま愛撫を続けると、いずれショーツが濡れてこないだろうか?衣装はたくさんあるけど流石に下着の替えはないため、あまり攻め続けるのは可哀想かもしれない。本人たちが下半身びちょびちょになるまでやっていいと言うのならそれでもいいけど、俺だって鬼ではない。だが、我慢する分だけもっと楽しませてもらうぞ。

 

 

 俺は雪穂と亜里沙の顔と顔の間、2人の耳元に口を添える。

 

 

「濡れちゃいそう?」

 

 

 耳をくすぐるように呟くと、2人の身体が一瞬ビクリと跳ねる。既に赤く染まっている頬、目と口は俺の愛撫に耐えるようにギュッと閉じられ、脚も小刻みに震えていた。そして下着と太ももの境目のラインをなぞるように指を沿わせると、2人は身体を微かにくねらせる。嫌々ながらも、俺の満足のために必死となって耐えてくれるその心意気がなんとも愛おしい。

 

 俺自身の荒い呼吸が自分の耳にも伝わってくる。心臓の音も全身を振動させるかのようにバクバクと鼓動し、もっとこの子たちを弄りたいという暴力的な心情がふつふつと湧き上がってきた。雌の怯える姿は雄の本能を掻き立て、俺は遂に2人の下着の上から割れ目をなぞるように指を動かした。

 

 

「ふぁっ、あっ……!」

「ひゃぅ、あ、ん……!!」

 

 

 2人から漏れ出す淫声が一オクターブ高くなる。この前にことエッチした時もそうだったが、俺から与えられる快楽に絶対勝つことはできない。いくら声を抑えようと思っても、身体は快感に負けてしまうのだ。もしかしたら廊下に声が聞こえているかもしれないけど、後のリスクよりも今の興奮だ。欲求が高ぶっている内に楽しんでおかないとな。

 

 俺は既に今回の目的がコスプレプレイをする日だということすらも忘れ、雪穂と亜里沙をどう可愛がってやろうか、その方法だけをずっと考えている。もはや今のプレイにメイドが関係あるかと言われればそれほど関係はないが、メイド服という俺のサディスト精神を揺さぶってくる格好だから多少意味はあるだろう。無理矢理に命令をしたからこそ、目の前で夢の(ダブル)スカートたくし上げが実現したんだからな。

 

 そして、ここまで来たらもう徹底的にご主人様をやらなければ気がすまない。他の衣装も着させてみたいけど、とりあえずこの加虐心が落ち着くまで雪穂と亜里沙を弄り倒させてくれ。

 

 

「そうだ、いいこと思いついた」

「それ絶対聞かなかった方がよかったってなるやつですよね!?聞いたら後悔するやつですよね!?」

「こらこら、今のお前は俺のメイドさんだ。口答えは厳禁だぞ」

「そ、それで……いいことって?」

 

 

 流石雪穂の察しの良さ、俺の考えていることをもう読み取っているとは。初めはノリ気だった亜里沙も、俺の羞恥プレイには自慢の純粋さがドロドロと溶けているようだ。だが、この先もっともっと俺のために辱めを受けてもらうことになるぞ!

 

 

 

 

「下着を脱いで、俺に渡せ」

 

 

 

 

「「は、はい……?」」

 

 

 

 

 俺の爆弾発言、雪穂と亜里沙の素っ頓狂な声に、部室の空気がガラリと変わった。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 際どい描写は次回まとめて描きます。
 サブタイがコスプレプレイなのに、メイド服しか出てないってどういうことでしょうねぇ~。雪穂と亜里沙にメイド服でやらせたいことがありすぎて、もしかしたらそこまでコスプレ衣装が出ないかもしれません。まあ2人の可愛いところが見られれば、それでいいですよね??


 次回はエロくしたる!!



新たに高評価をくださった

♯にゃんこ先生‼︎さん、シュウナ・アカネさん

ありがとうございます!



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雪穂と亜里沙と、ハーレムコスプレプレイ(後編)

 今回で通算180話達成。長いですね~(笑)

 後編の前に1つ言っておくと、コスプレと謳っていますが私の欲望が止まらず、結局メイドさんプレイしか描けなかった模様。でもそれだけ描写は濃くしたのでお許しを!


 

「下着を脱いで、俺に渡せ」

 

 

「「は、はい……?」」

 

 

 雪穂と亜里沙は素っ頓狂な声を漏らしながら、目を丸くして俺を見つめる。それに対して俺は敢えて低めの声とテンションで、彼女たちに突き刺すような冷たい目線を送った。こうすることで、おふざけじゃないマジモノの命令だと彼女たちに染み渡らせることができるのだ。もちろん内心ではドキドキワクワクで、今にも息が荒くなりそうなのだがそこはグッと我慢。

 

 それに今は2人がメイドで俺がご主人様なのである。だからご主人様がメイドに対して慈悲など与える必要はない。俺のやりたいように彼女たちを卑しめて愉しむ。それこそがこのプレイの魅力だろう。

 

 

「まあお前らが脱がなくても、俺が勝手に脱がすから問題ないけどな」

「か、勝手に!?」

「やっぱりどうしようもない変態さんですね……」

「元からそう言ってるだろ。だから脱げ。でないと満足できない変態さんだからさ俺」

「うっ……」

 

 

 ここでいくら蔑まれようが罵られようが、雪穂と亜里沙のショーツさえ頂ければ俺の大勝利で事が運ぶ。そもそもご主人様とメイドの立場の時点で、コイツらに勝ち目など存在しないが。

 

 そしてもう亜里沙は観念したのか、スカートの中に手を入れてショーツを下ろし、片足ずつ引き抜いた。

 目の前で女の子が立ちながらショーツを脱ぐ光景に、今度は逆に俺が目を見開いて彼女を凝視する。喉もカラカラに乾き、息も目立って荒くなってきた。心臓の音が自分の耳に入ってくるくらいに鼓動し、今にも男の本性が暴走してしまいそうだ。

 

 

「こ、これでいいですか……?」

「あぁ。早くそれを俺に渡せ」

「は、はい……」

 

 

 俺は亜里沙から水色のショーツを受け取る。もちろん脱ぎたてだから、彼女の体温でかなり温かい。ショーツをギュッと握り締めると、まるで彼女に触れているかのような温もりを感じる。女の子の下着をこうして生で触ったことはあまりないから、これは新たな興奮が生まれそうだぞ。

 

 

「ほら雪穂も」

「えっ……う、うぅ」

「ここで無理矢理脱がされたい?俺の大切なところを見られたい?それがイヤなら、さっさと脱いでしまった方がこの場を無難に切り抜けられると思うんだけどなぁ~」

「脱ぐ時点で無難じゃないんですが……わ、分かりました!脱げばいんですよね脱げば!」

「よしよしそれでいいんだよ、俺の可愛いメイドさん」

 

 

 雪穂も片足を上げ、震えた手付きでショーツを脱いでいく。あの真面目な彼女が素直に俺の命令に従って、最後の砦を崩すしている様に男を狂わせられる。そして、雪穂はおどおどとした様子で俺に脱ぎたてのショーツを手渡した。手のひらに純白の下着が置かれた瞬間、さっきまで脚を弄られて感じていた分の熱気が手を包み込むかのように伝わってくる。

 

 

「2人の穿いていたショーツ、どっちもホッカイロ以上に温かい。さっき脚を触られて、それだけ興奮していたって証拠だな」

「そ、そんなことは……」

「そうです。こそばゆかっただけですよ……」

「ほう、だったら確かめてみるか?」

「「へ……?」」

 

 

 あまりの羞恥心のせいか反論も弱々しいが、自分たちが性に溺れそうになっていたことを認めようとはしない。でも逆にそうやって抵抗してくれた方が後から降り注いでやる恥辱でいい表情が見られるから、俺としてはありがたいがな。

 

 

「どちらのショーツも温かいんだけど、ちょっと湿り気も感じるんだよね。どうしてかなぁ~?」

「そ、それは……」

「この辺が湿ってるような気がする。広げて確かめてみればいっか」

「ひ、広げて!?」

 

 

 俺はまず亜里沙の水色のショーツを両手で摘む。そしてバッと広げてその中身、つまり彼女の秘所に触れていた部分をまじまじと眺めた。

 

 

「色が濃くなってる部分があるぞ。それに少しエロい匂いもする。これで言い訳も何もできなくなったな」

「や、やぁ……ご主人様ぁ……」

 

 

 小声で囁くような声、弱々しくも非難の籠った瞳。それを見た俺の中で、凶暴的な心が更に掻き立てられた。

 亜里沙のショーツには薄らとシミが出来上がっており、それを顔に近づけると僅かだが、男の性を煽る女の子の匂いがツンと鼻を刺した。これが今まさに彼女の秘所から垂れ流されたものと考えると、この天使の聖水を味わいたいと思わず舌が伸びてしまいそうになる。だけどそのようなはしたない行為はグッと我慢。今は冷徹なご主人様を演じて、彼女たちの不安と恥辱を大いに奮い立たせなければならないからな。

 

 

「亜里沙の罪は立証されたから、次は雪穂の罪でも裁くか」

「罪って、手を出してきたのは零く――ご主人様の方ですよね?」

「それがどうした。お前のショーツも広げて確認すれば分かる話だ」

「あっ……」

 

 

 今度は雪穂のショーツを、彼女に見せつけるように広げる。例え真っ白なショーツでもくっきりと分かる、色が濃くなっている部分があった。彼女の秘所が当たっていた部分、これで刑の執行は確定したぞ。ほんの僅かだが、これこそ雪穂がエッチな気持ちになって多少なりとも興奮していた何よりの証拠だ。

 

 

「脚を触られただけで濡らしちゃうなんて、お前ら相当淫乱だな。この1年で楓にでも影響されたか」

「それはぁ……あ、汗です!」

「見苦しい言い訳はよせ。汗だったらこんなに卑猥な匂いはしない。俺が今まで何度この匂いを嗅いできていると思ってる?ざっと9人分の匂いなら、この鼻で余裕で嗅ぎ分けられるんだからな」

「その9人って、もしかしなくてもお姉ちゃんたちのことですよね……?」

「そうだ。だから嘘をついても無駄無駄。指紋照合認証よりも正確な俺の鼻が、お前らのショーツのシミに反応してるんだ。もう逃れられないぞ」

 

 

 一線は超えていないものの、穂乃果たち9人を抱いてきた俺なら女の子特有の匂いなどすぐ分かる。隠しても無駄。むしろ隠せば隠そうとするほど、このあとのお仕置きがキツイものになっていくとは知らずに……。

 本当はメイド以外の衣装でもたんまり遊びたかったのだが、これじゃあ今日はご主人様とメイドさんプレイで終わっていきそうだ。ま、エロければそれで何の問題もないんだけど。

 

 俺は2人のショーツを乱暴に握り締めると、そのままポケットに突っ込んだ。雪穂と亜里沙は「えっ!?」とした表情で俺の行動に驚くが、これまでの状況からして反抗しても意味はないと思っているのだろう、特に咎められることはなかった。あとでこのショーツたちをどう使うのか、想像するだけで余りある。

 

 ちなみに2人は「返して」と言うこともできず、顔を紅潮させてただただ俺の奇々怪々な行動を眺めることしかできないようだった。そんなおずおずとした様子を見ているだけでも、腹から煮え滾る欲望が全身を支配しそうだ。ドス黒い何かがゾクゾクと背中を駆け巡り、俺が2人に更なる命令を下すよう促す。

 

 

「なぁ。うつ伏せになっておしりを上げてくれないか?」

「「え゛……?」」

「そこですぐに"はい"と言わないあたり、まだまだメイド根性が身についてないようだな。穂乃果やことりだったら躊躇いもなく、むしろ自分からやってくれるっていうのに全く……」

 

 

 確かに雪穂と亜里沙はこのような羞恥プレイに慣れていないのは分かる。分かるからこそこうやって指導してやっているのだ。そう考えれば、逆に俺に感謝して欲しいくらいだよ。

 

 

「さっきは亜里沙からだったから、次はお前からな雪穂。よっこらしょっと」

「ひゃっ!い、いきなりこんなこと……!?」

「なんだイヤだったか?お姫様抱っこ」

「い…………イヤじゃないです」

「そうそう、そうやって素直になっておけばいいんだよ。エロ可愛いところだけ俺に見せてくれればそれでね」

「うぅ、あまり可愛い可愛い言わないでください……」

「いいなぁ雪穂、私も……」

「もちろん亜里沙にもしてやるよ。もう少し待ってな」

 

 

 さっきとは一転して、今度は俺のことを求め出す雪穂と亜里沙。やはり本心ではどこか俺に期待していたってバレバレだ。現在絶賛お姫様抱っこをされている雪穂は、恥ずかしそうにしているも口元が緩んで嬉しそうにしているのが目に見えて明らかだし、亜里沙も人差し指を口に当てて物惜しそうに俺たちを眺めている。エロいことにまだ耐性はないが、このような普通の恋人プレイだったら2人のガチガチの緊張を解すことができそうだな。この性格はこの先も利用させてもらうとするか。

 

 俺はお姫様抱っこをした雪穂を、部室の端に敷かれてあった柔らかいマットの上に下ろした。これも何かに使えるだろうと思いことりに頼んで持ってきてもらったんだが、まさか本当に役に立つとは。

 

 

「亜里沙も。ほらおいで」

「は、はい!よろしくお願いします♪」

 

 

 亜里沙は待ってましたかと言わんばかりに、腕を広げた俺の胸に飛び込んできた。さっきまで見せていた不安げな表情とは打って変わって、頬を朱に染めた初々しい幸せそうな顔をしている。そんな彼女の姿だけでも十分に愛おしいのだが、今の俺は鬼畜成分MAXのご主人様だ。そんな生ぬるい恋人プレイなんかで終わるはずがないだろう。

 

 俺は彼女の腰と膝下を抱えると、マットの上に座り込んでいる雪穂の隣に下ろす。もうお姫様抱っこが終わりになると知って一瞬シュンとした表情になる亜里沙だが、そんな顔が逆に俺の暴力的な感情を引き立たせていると分かっているのだろうか。純粋な表情をされればされるほど、穢したくなるのが俺なんだよ。以前は純白すぎる彼女を穢すことに恐れを抱いていた時期もあったが、恋人同士になった今はもうそんな躊躇はいらない。徹底的に俺の色に染めてやる。

 

 

「よしさっきの続きだ。うつ伏せになっておしりを上げろ」

 

 

 俺の欲望にぎらついた声に怯えているのか、2人の口から怖気づいて声にもならない吐息が漏れ出す。

 その刹那、もう観念したのか2人は揃ってマットの上でうつ伏せとなり、こちらにおしりを向けた。あまり抵抗されると無理矢理にでも襲って、俺自身の性欲に耐え切れない可能性があったから、素直に従ってくれて助かったよ。

 

 マットの上でご主人様におしりを向けるメイドさん。そんな服従ポーズに改めてゾクゾクする。

 目の前にはスカートに包まれたおしりが2つ。そのスカートもミニなため、あと少しでもおしりを上げればそのまま中身が見えてしまいそうだ。今のところは上手いこと隠れていて絶対領域のようになってるが、こんなので俺が満足するはずがないだろう。秘所が見えるか見えないか、極限を目指してやる。

 

 

「もっとだ。もっとおしりを上げろ」

「これ以上上げたら……み、見えちゃいますよぉ……」

「大丈夫だ。ギリギリ見えないところで止めてやるから」

「あぅ……わ、分かりました、ご主人様」

「うんそれでいいんだ。ほら、雪穂も固まってないでもっとおしりを突き出せ」

「は、はい……!」

 

 

 雪穂と亜里沙のおしりが、スカートと共に俺に向かってやって来る。このスカートを捲れば生のおしりを拝めると思うと、俺は唾を飲み込んだ。だがそれをやってしまうとさっきも言った通り、己の性欲を抑えきれずにコイツらを襲ってしまいかねない。ぶっちゃけてしまえばレイプしてしまうってことだ。だから興奮は絶頂の一歩手前までに抑えておく。

 

 それにスカートの奥は生の下半身だ。ここまでおしりを突き出せば、絶対に彼女たちの秘所も丸見えになっているに違いない。このスカートを捲るだけで既にトロついている秘所が拝めると思えば欲求は高まってくるが、ここは自慢の理性を必死に押さえ込んで、今できるだけのプレイで満足するしかない。もし高校を卒業して最初にやることは、もう決まったようなものだなこれ。

 

 

「やぁ、あぁ……」

「うぅ……」

 

 

 もう2人共頭の中を空っぽにして、恥じらいもなにも捨てているのだろう。メイド精神がようやく板についてきたみたいだな。

 プルプルと震えるおしりから伝わってくる我慢が、どう見ても男を誘っているようにしか見えなくてめちゃくちゃエロい。もちろんスカートの上から触らせてもらおう。

 

 

「ひゃっ!あ、あぅ……」

「んっ、あ、あっ……」

 

 

 下着を穿いていないからか、スカートの上からでもおしりの柔からさ、弾力、温もり、その全てが俺の手にダイレクトに伝わってきた。どちらのおしりも揉み心地は抜群で、胸とはまた違った愉しみがある。胸の場合は手に程よくフィットするのだが、おしりの場合は男の手でも余りある肉付きなのだ。つまり手のひらいっぱいに、豪勢に揉むことが可能となる。指だけでなく腕にも力を入れ、手を大きく動かしながら揉みしだく。

 

 

「あっ、ん……あぁ!!」

「やっ……あ、んっ!!」

 

 

 我慢せずにあっさりと喘ぎ声を漏らしてしまうあたり、もしかして普段から自分磨き、いわゆるオナニーをしているのかコイツら。そういえば亜里沙にそれとなく自分磨きの方法を教えた気がしなくもないが、まさか実行してたりするのかな?2人共常人ではないこの感度だ、少なからず何かしらの方法で自分を慰めているに違いない。脚を触った時も相当感じていたしな。

 

 そして、俺はここでイケナイことを思いついてしまった。

 スカートを捲ることは俺の性欲が爆発してレイプに繋がってしまうからダメだが、逆言えばスカートを捲らなければいいってことだ。俺の目に彼女たちの秘所が映らなければ、性欲が最大にまで到達することは()()ない……と思う。今までしたことがないプレイに、俺の好奇心は抑えられそうにない。

 

 俺は何の前触れもなく、2人のスカートの中に手を侵入させた。雪穂も亜里沙もまさか直接触られるとは思ってなかったのだろう、まだ手がおしりに軽く触れただけなのに、全身をびくりと震わせる。

 

 

「はぁ、んっ!ご、ご主人様、そこはぁ……!!」

「も、もしかして捲ったんですか!?ひゃ、あぁ……」

「ただスカートの中に手を入れているだけだ。大丈夫、大切なところは()()見ないから。興奮が滾って仕方ないと思うけど、これだけで勘弁してくれ」

「勘弁って、十分に激しい気が……んっ!」

 

 

 スカート上から触ったおしりも相当柔らかくて温かかったけど、やはり生の方が弾力から何から何まで違う。力を入れずに軽く触っただけでは、おしりの弾力に弾かれて手が押し返されてしまうほどだ。そのため手にギュッと力を入れると、今度はそれに反応して2人は淫声を部室中に響き渡らせる。まさに俺の手で彼女たちを堕としている感覚だ。

 

 

「またちょっと濡れてきてるんじゃないのか?そんなエッチなメイドにはこうしてやる」

 

 

 俺は2人のおしりにそこそこの力で平手打ちをした。思った以上に"バチン"と、大きないい音が響く。

 

 

「ひっ!」

「んっ!」

 

 

 2人のおしりはビクビクっと震えるが、その動きは男の野生本能を解放させようとしていた。目の前で女の子がおしりを振って誘っているようで、自ずと揉みしだく指に力が入る。更に強く揉むたびに彼女たちから嬌声が上がるため、その声に唆られてまた欲求が高ぶるという無限ループに陥っていた。

 

 だが、もう少しで練習の時間だ。最悪誰かがやって来てこの淫行がバレてしまうかもしれない。そうならない内にやりたいことだけは最後にやっておかないと。

 

 

「雪穂、亜里沙。最後にこのセリフだけ言え」

 

 

 俺は1枚のメモ用紙を、うつ伏せになっている雪穂と亜里沙の顔の前に置いた。2人はそこに書かれている内容を見ると、本日何度目か分からない目を丸くして驚いた表情をする。おしりを揉まれ叩かれながら、そしてその度にエロい声を漏らしながら、この状況から解放されるために蕩けた表情で2人は揃って口を動かした。

 

 

「「私たちはご主人様からのご指導の最中に、エッチな気持ちになって興奮してしまった悪いメイドです。どうかこの卑しいメイドに、ご主人様から懲罰をお与えください。この淫乱なメイドに、どうかご主人様の気が済むまでお仕置きしてくださ――――あぁああああああああああっ!?」」

 

 

 なんか面白そうだったから、2人がセリフを言い切る前に指を少しおしりに突っ込んでやった。少しだけだから、アナル開発プレイとかそういう激しいのじゃないから!でもそれも初めての2人にとっては相当な衝撃だったのだろう、うつ伏せの体勢を崩してまで身体をビクつかせていた。

 

 

「きゅ、急に何をするんですかぁ~……」

「えっ?だってお前らがお仕置きして欲しいって言ったんだろ。俺はそれを実行したまでだ」

「そ、それはご主人様が無理やり言わせたんじゃあ……」

「なんだ?口答えするならまた突っ込んでやろうか?」

「「ご、ゴメンなさい!!」」

 

 

 いやぁやっぱいいねご主人様プレイは!女の子を我が物にしているって感覚が一番感じられるプレイだ。今日はかなり過激なところまで攻めることができて楽しめたし、雪穂と亜里沙の可愛いところもたくさん見られた。それに俺のポケットには、彼女たちから奪ったアレがまだ熱気を帯びて息を潜めてるしな。

 

 

「よし、そろそろ練習だから着替えてこいよ」

「その前に下着を返してください!!」

「そ、そうです!さっきから下半身がスースーして、どうしても落ち着かなくって……」

「何言ってんだ。これもお仕置きの一環だから、今日はノーパンで練習するんだよ。精々大切なところから汗を漏らして、短パンを濡らさないように気をつけな」

「「え……えぇええええええええええええええええええええええええっ!?!?」」

 

 

 残念ながら俺が満足するまでこのプレイを続けると言っただろう?最後って言ったのはおしりを触るのが最後って意味なのだ。子供のような屁理屈だって?知らんな。俺さえ興奮できればなんでもいいんだよ。

 

 そして雪穂も亜里沙も、俺と付き合っていくってことがどのようなことか身をもって知ったことだろう。2人共ウブでかなりメイドとして様になってたし、これからもちょくちょくメイド服を着てもらおうかな?それに結局コスプレと言いながらメイド服しか使わなかったから、是非他にも着させて俺に奉仕させよう。

 

 

 やべ、今から興奮してきたぞ……今回のところはとりあえず抑えて、今晩は奪った2人ショーツでたっぷりと――――――

 




 前書きでも語りましたが、結局メイド服以外が登場していないのはお察し。もうこれコスプレプレイじゃなくてメイドプレイではというツッコミはなしで!わかってますので(笑)
でも、それだけ雪穂と亜里沙のメイドが魅力的だったんですよ!前後編に分かれている時点で、私の妄想が抑えられなくなったと思って頂ければ……
 ちなみに今回はゆきありのコンビでしたが、雪穂と亜里沙それぞれの個人回もちゃんと執筆するつもりです。

 次回は最近結構エロい回が続いたので、久々にギャグ方面にしようかな?そう言いつつ予告詐欺していくのが私なので、ある適度にご期待を(?)


新たに高評価をくださった

Blue!さん

ありがとうございます!




Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

性欲の消える日

 この小説にとって、"性欲"が消えるとこの小説の存在意義そのものも消えてしまう由々しき事態の回(笑)


 

 性欲。

 今やこの私、"神崎楓"にとっては生きる原動力のようなもの。お兄ちゃんを想うことで分泌される性的欲求は、もはや留まるところを知らない。お兄ちゃんをオカズにしてオナニーをしたり、たまにお兄ちゃんの性欲処理を手伝ってあげたりと、高校入学当初と比べればかなり性に塗れた生活を送ってる。私のライフサイクルは、お兄ちゃんと性欲だけで回っているといっても過言じゃないね。

 

 それもこれも、妹だけには堅物だったお兄ちゃんがやる気、もといヤる気になってくれたからだ。去年のクリスマスに恋人同士となり、それ以降お兄ちゃんは私にμ'sの先輩方と変わらぬ愛情を注いでくれている。妹として、そして1人の女性として。まあその話はおいおいしていこうかな。

 

 

 さて、話の本題はここから。まさか私のライフスタイルを脅かす事態が起こるなんて……。その号砲となったのが、後ろから誰かがこちらに向けて走ってくる足音だった。

 

 

「楓ち゛ゃぁあああああああああああああああああああああああああああん!!」

「こ、ことり先輩!?柄にもなく取り乱してどうしたんですか!?ていうか苦しい!!」

 

 

 突如としてことり先輩が、私の首を絞めるかのように抱きつきてきた。ふわりと背中に触れる私より大きな胸にイラッと来るけど、どうやら緊急事態のようなので呪い殺すのは後回しにしよう。巨乳死すべし。貧乳は笑い飛ばす。

 

 そんなことよりも、あのいつもニコニコしていて何を考えているのか全く分からない先輩が、ここまで感情を顕にするなんて珍しいこともあるんだ。あっ、でもどうせお兄ちゃんか性欲処理の方法しか考えていないか。だって先輩、淫乱だし。

 

 

「楓ちゃん!零くんがぁ……零くんがぁ~!」

「お兄ちゃんがどうかしたんですか?」

「さっきことりが階段を上っていたらね、零くんが下の階にいるのが見えたから、パンツが見えやすい位置に移動してあげたんだ」

「へ、へぇ~。また痴女みたいなことを……」

「でもね!零くんそれを無視したんだよ!!ことりに気づいていたのにも関わらず、パンツを覗こうともしないで!!」

「は、はぁ……」

 

 

 内容的にはかなりくだらない話だけど、まあ言われてみれば確かに不可解だね。性の権化と言われたお兄ちゃんが、女性のパンチラに興味を示さないなんて。普通ならこっちがパンチラをしようと画策せずとも、お兄ちゃんなら自分から覗いてきそうなものなのに。

 

 

「1つ考えられることとすれば、お兄ちゃんはもう先輩のパンツに興味ないってことじゃないですか?」

「ガーーーーーーーーーーーーーーーン!!そ、そんなぁ……今までの統計的に、今日の柄のパンツは零くんのお気に入りのはずなのに、どうして!?」

「統計?」

「零くんがことりのパンチラに反応した回数と、パンツを見つめていた時間を毎回記録してあるんだよ。その記録から総合して、毎日穿いていく下着を決めているんだけど……えへへ♪」

「へ、へぇ~……」

 

 

 なんか怖い!!ことり先輩怖い!!

 私もお兄ちゃんに1秒でも長く見てもらうためなら何だってするけど、ここまで戦略的なのは私としたことが尊敬しちゃうよ。しかもそれを何の恥じらいもなく、明るい笑顔で言えることがスゴイ。先輩からしたら多分それは当然ことで、むしろ"抵抗なにそれ美味しいの?"レベルなんだと思うけどさぁ。

 

 私自身も自覚がありつつブッ飛んでる性格をしているけど、ことり先輩はその逆、天然でブッ飛んでいるんだ。まさかこの私がここまで勢いに押されてツッコミ役にさせられるとは、相当性欲キメてるよこの人……。いずれ公然猥褻罪で、お兄ちゃんよりも早くお縄になりそう。

 

 

「とにかく楓ちゃん!ことりと一緒に零くんを元に戻すの手伝って!」

「えぇ……」

「楓ちゃんも、もし零くんが変態さんじゃなくなったらイヤでしょ?」

「ま、まぁそれはそうですけど……」

 

 

 確かにお兄ちゃんが変態からド真面目な人間になったら、ただカッコよくて勉強もでき、さらに女の子に優しい今度こそ非の打ち所が無い完璧超人になっちゃもんね。あれ?別にそれでもよくない?でもお兄ちゃんから性欲が消えたら、私のライフスタイルも崩れちゃうし……。それに、お兄ちゃんから押し倒して犯してもらう夢も潰えてしまう。

 

 はぁ、仕方ないか。

 

 

「ねぇ、おねがぁ~い♪」

「だから、女の私にその攻撃は通用しませんって。でもお兄ちゃんのことならば、力は貸してあげますよ」

「ホントに!?じゃあ早く零くんのところに行こ!」

「ちょっ、引っ張らなくっても行きますって!!」

 

 

 ことり先輩は私の手首を手錠で繋ぐかのごとくガッチリと掴み、元生徒会役員の称号を捨て廊下を全速力で走り出した。

 先輩を見ていると、お兄ちゃん溺愛されてるなぁって思うよ。お兄ちゃんが先輩をヤンデレに一番近いと認めていた理由がようやく分かったような気がする。だって、話しているだけで愛が重いもん。表面上では純粋そうに見えるけど、絶対に心は邪念しかないね。

 

 でも今は先輩よりお兄ちゃんの件。女の子のパンチラに反応しないなんて、ある意味地球の滅亡より次にありえないことだから。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「さあ零くん吐いて!どうしてことりのパンツに反応しなくなったのかを!!」

「えっ、えぇ……」

「落ち着いてください先輩。目、血走ってますよ……」

 

 

 ことり先輩は廊下でお兄ちゃんを見かけた途端、無理矢理壁に追い込んで尋問を始めた。いつもなら立場は逆のはずだから、なんか違和感があるねこの状況。

 でも当の本人はというと、女の子に追い詰められて顔を間近にまで接近させられているのにも関わらず、頬をほんのり赤くするだけで困惑した表情丸出しだ。いつものお兄ちゃんなら迷惑がりながらも、鼻の下くらいは自然と伸びそうなものだけど。反応からして初心が出まくりのウブさで、まるで偽物や影武者みたい。

 

 

「はぁ、はぁ……零くんどうしちゃったの?」

「俺はなんともないぞ、いつも通りだ」

「嘘!!だったらさっきどうしてことりのパンツを覗かずにスルーしたの!?ねぇねぇねぇ!!」

「だから落ち着いてくださいって!息も切れてますよ!!」

「はぁ、はぁ……ゴメン、取り乱しちゃったね」

 

 

「そうです。周りに人もいるというのに、破廉恥な話題で騒がないでください」

 

 

「海未ちゃん!?」

「海未先輩……」

「……」

 

 

 いつの間にか私たちの隣に海未先輩が腕を組んで、こちらをジト目で睨んでいた。

 いつも猥談で暴走するお兄ちゃんたち3年生を取り仕切る海未先輩が来たってことは、お兄ちゃん非変態化の原因を探るのがちょっと難しくなったかも。元々卑猥な話で攻めて見ようって考えてたからね。

 

 

「勝手ながら、話は全て聞かせてもらいました。零もこれまでの行為を反省しているってことなので、無理に追求しなくても良いのでは?」

「れ、零くんが変態を卒業だなんて……本当?」

「あ、あぁ、まあそんなところかな……」

「「う、嘘ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?」」

 

 

 私とことり先輩の叫び声が、3年生教室前の廊下に響き渡る。

 あ、あのお兄ちゃんが変態をやめた?つまり自身の性欲を抑えることができたってことだよね……?性欲リミッターがガバガバで、通報されるのも時間の問題と言われたあのお兄ちゃんが!?う、嘘でしょ……。

 

 ここでふとことり先輩の様子を確認してみると、口から魂が抜けていくのが見えてしまった。自慢の白い肌が更に純白になって石化し、今にもヒビが入って崩れてしまいそうだ。私以上にお兄ちゃんとは淫行で深く結びついていた仲だったせいか、お兄ちゃんの性欲が消えているショックが大きいらしい。

 

 

「そういうことなので、こんな破廉恥な話はここで終わりにしましょう。はい終了です」

「終わらせないよ!本当の零くんを取り戻すまでは!!」

「いやだから、これが本当の俺なんだって……」

「違う!ことりの知っている零くんは、女の子を無理矢理襲って、勝手に気持ちよくさせて、そしていつの間にか性に従順になるよう調教してくる変態さんなんだから!!」

「それ、零を褒めてます……?」

「そんな大きな声で俺の印象話すなよな……」

 

 

 あまりの衝撃的な暴露に、流石の私も口をポカーンとさせて見守るしかないんだけど……。なにが凄いって、その内容を大声で、しかもお兄ちゃんの長所として堂々と言えることだよね。確かに誰にも真似できない能力だとは思う。真似したいかどうかは別として……。

 

 

「じゃあ零くん!ことりのスカート好きに捲ってもいいよ!ほらっ!!」

「えっ!?え、あぁ、や、やめとけそんなこと……」

「ことりを好きにしていいって言ってるんだよ!?それでも手を出さないの!?」

「お前のことは大切だから、そんなことできねぇだろ」

「大切だからこそ襲ってくれる零くんだったのに……。いいよ、もう勝手にスカート捲っちゃうもん!」

「ちょっ、スカート掴むな勝手に捲るな!うおっ、い、いやとにかくやめろ!!」

「ことりぃ~!あまり過度な行為は、いくらことりと言えども制裁ですよ!」

「ことり、もう海未ちゃんには屈しないから!!零くんを取り戻すまでは絶対にっ!!」

 

 

 自分からスカートを捲りに行くだなんて、もう完全に痴女だよ先輩ぃ~……。それだけお兄ちゃんが好きだって気持ちは伝わってくるけどね。

 

 そんなことよりも、私はこの一連の騒動を部外者目線で冷静に観察していた。

 気になったことは2つ。まずお兄ちゃんがことり先輩の痴女行為に対して、若干期待していたことだ。先輩がスカートを捲っていいよと勧めてきた時、どちらかといえば期待の眼差しで驚いていたしね。そして先輩が自ら捲ろうとした時も、チラッと見えた生太ももに目玉が飛び出るほど食いついていた。

 

 そしてもう1つは海未先輩の言動。いつもお兄ちゃんたちの暴走を止めているのはよく見かけるけど、今日は明らかに必死になっていることが見て取れる。ことり先輩だけには甘い海未先輩が、さっき"制裁"の言葉を出してまで止めようとしていたしねぇ~。

 

 私は当初、お兄ちゃんの性欲がなくなったのはお姉ちゃんのせいだと思ってたんだけど、どうも違うみたい。とにかく、もっと様子を見てみますか。

 

 するとその時、ことり先輩は一大決心を着けた真剣な表情で、お兄ちゃんへと向き直った。

 

 

「もうこうなったら、奥手のを使うしかないね……」

「お、奥の手?」

「うん。零くん、ちょっと手を貸してね」

「へ……?」

 

 

 ことり先輩はお兄ちゃんの右手を両手で掴むと、そのまま自分の胸へ――――むにゅっと押し付けた。

 

 

「んっ!」

「えぇっ!?」

「こ、ことり!?」

「これは……」

 

 

 もうね、さっきから先輩の行動がぶっ飛びすぎて驚かなくなっちゃったよ。先輩ならこれくらいはするだろうとは思ってたしね。でもお兄ちゃんと海未先輩は、ことり先輩の大胆行動に困惑している。特にお兄ちゃん。自分は変態じゃないと主張していたくせに、今は鼻を伸ばしそうになっているんだけど。

 

 やっぱりお兄ちゃんも男の子、本当は性欲なんて消えてないんじゃないかな?だって性欲を持たない人間なんていないでしょ!人間は性行為で繁殖する、つまり性欲は本能的に組み込まれているものだからね。あの性の権化と言われたお兄ちゃんだからこそ、性欲がなくなるなんてありえない話なんだよ。

 

 

「どう?柔らかいでしょ?いつもみたいにたくさん揉んでもいいんだよ……?」

「ま、マジか……」

「零!!」

「今ちょっといつもの零くんに戻った!戻ったよね楓ちゃん!!」

「そうですね。湧き上がる性欲に勝てないのがお兄ちゃんですから!」

「またケモノになった零くんを見たいよぉ~。だから胸に触るだけじゃなくて、もっと激しくして」

「う、ぐっ……」

 

 

 お兄ちゃんの仮面が徐々に剥がれていくのが分かる。やっぱり我慢していたみたいだね。ことり先輩に甘く誘われた途端、顔を真っ赤にして胸を触っている手の指がプルプルと震えだしてるから。心の中では、先輩の胸を揉みたくて仕方がないと思っているに違いない。せっかくだし、もう少し後押ししてあげますか。

 

 お兄ちゃんと海未先輩が何を考えているのかはまだ検討は付かないけど、2人共必死になってことり先輩の誘惑を拒絶しようとしているってことは、ことり先輩の手助けをすれば邪魔できるってことだしね♪ほら私、人の邪魔をして愉しむのが趣味だから!

 

 

「お兄ちゃ~ん♪ずっと我慢していてツライんでしょ?女の子が自分からおっぱい揉んでいいよって言ってくれてるんだよ。それなのに、手をこまねいて躊躇するような臆病者だったっけ?例え学院内でも、女の子が自分を求めてくるなら襲う。それがお兄ちゃんじゃないの?」

「そうだよ!いつも軽くあしらわれてるけど、零くんを見てたらヤりたいって雰囲気ビンビンに伝わってくるんだから。だから下半身もビンビンにして、ことりを襲ってもいいんだよ?海未ちゃんなんかの邪魔に負けるな!!」

「な゛ぁ!?私なんかってどういうことですか!?ただ私たちは健全なお付き合いをしようとですね」

「ぐっ、うぅ……」

 

 

 あーあーお兄ちゃんったら唸り声を上げてまで耐えちゃってぇ~。でもその右手はもうことり先輩の胸を鷲掴みにし、あと少しでも指を動かせば揉みしだきが成立する寸前まで来ている。それにμ'sメンバーの胸を知り尽くしているお兄ちゃんなら、なおさらこの状況は耐えられないはず。だからもう私が余計なことをしなくても、あとは勝手に――――

 

 

「う゛ぁあ゛ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!ことり、こっちに来い!!」

「ひゃんっ!れ、零くんがいつもの雰囲気に……元に戻ったんだ!!」

「いいから早く来い!!俺を誘惑した罪は重いぞ……」

「いいよぉ~ゾクゾクするよそのセリフぅ~♪」

 

 

 ほらね!結局男ってのはただ欲望に支配された、どうしようもない生き物なんだよ。女の子をどう犯すかしか考えていないよどうせ。きゃ~怖い♪

 

 

「零、やっぱりあなた……」

「せんぱ~い♪」

「うっ、楓……」

「お兄ちゃんたちが戻ってきたら、何があったのかを洗いざらい話してくださいね!」

「は、はい……バレているのだったら仕方ないですね」

 

 

 正直、そこまで事の概要を知ることはできなかったんだけど、これも結果オーライってことで!

 それにしても、どこからともなくことり先輩の淫猥な声が微かに聞こえてくるのは、多分気のせいじゃないよね。クソッ、羨ましい!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「じゃあ、やっぱりあれは演技だったんだね」

「あぁ。約束を守れば自分を好きにしていいって言うからさ」

「それは言葉の綾だったんですけど、それで零の変態が少しでも解消されるならって……」

「なぁ~んだ。本当に零くんの性欲が消えたのかと思ったよぉ~」

 

 

 2人の話によれば、お兄ちゃんは海未先輩と約束事をしていたらしい。それはさっきの流れからお察しの通り、性欲を抑えること。1日だけ学院内で変態な振る舞いをせず、真っ当な人間として生活することができたのなら、海未先輩を好きにしていいって言われたみたいなんだよ。あの堅物先輩を好きにできると聞いて、もちろんお兄ちゃんはその賭けに乗った。

 

 だからことり先輩に誘惑されても耐えてたんだね。ことり先輩はいつでも可愛がれるけど、海未先輩はそうもいかないから仕方ないしねぇ~。

 

 

「でもさぁ、変態を解消した結果が海未先輩を好きにするって、それ本末転倒でしょ」

「私もそう言ったのですが、零がもうやる気になってしまって。私も思わず『言ってしまった』と後悔したのですが、一度言ったことを撤回するのは私としてどうかと……」

「先輩も変に負けず嫌いなところがありますからねぇ」

「そこは否定できませんね……」

 

 

 根は負けず嫌いじゃなかったら、このスクールアイドル戦争真っ只中で伝説なんて言われてないだろうしね。それでもさっき先輩はお兄ちゃん側についていたから、そう考えるとお兄ちゃんとあ~んなことやこ~んなことをしたいって願望はあったってことか。お兄ちゃんがことり先輩の誘惑に耐えて健全なままでいれば、確実にエッチができた訳だし……ホント、素直じゃないなぁ海未先輩は!

 

 

「それで、約束の方は?」

「なしに決まってるでしょう!バレてしまったんですから!!」

「だよなぁ~……くっそぉ~……」

「だったらぁ、ことりがいくらでもしてあげるよ♪全然相手をしてくれない海未ちゃんとは違ってね!」

「マジで!?」

「ダメです!私の目が黒いうちは――――」

「零く~ん♪」

「お、おいここでかよ!?」

「ちょっと!無視しないでください!!」

 

 

 はぁ、やっぱりこうなっちゃうのか。でもお兄ちゃんたちはこの関係が一番似合ってるかも。それにもしお兄ちゃんから性欲が消えたら……ブルブル、ダメだ想像するだけで死んじゃいそう。やっぱお兄ちゃんは変態さんじゃないとねっ!

 




 なんとかこの小説を存続させることができましたとさ。ことりと楓に感謝!零君の性欲が消える=この小説の終わりと言っても過言じゃなかったですから(笑)

 次回は絵里の個人回の予定です。



最近評価が伸びてきたことに伴い、評価の名前公開は☆10の方のみにさせていただきます。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絵里、初めてのショタ御守り

 今回はマイブームのおねショタモノをメインとした内容。絵里って毎回エロハプニングに巻き込まれてる気がする……


 

「えっ、こ、これが……零?」

「そうなのよ~。ちょっと調整に失敗しちゃって、零君がショタっ子にねぇ……」

「……?」

 

 

 私、絢瀬絵里は秋葉先輩の研究室に呼び出されていた。突然、しかもかなり切羽詰った声で電話をしてきたから何事かと思っていたんだけど、まさか零が子供になっているなんて……。

 でも、この光景を見てあまり驚いていない自分に驚いている。秋葉さんと関わっていれば、こんなこと日常茶飯事だしね。それでも毎回被害に遭う零には同情しちゃうけど。

 

 彼の見た目は小学校低学年くらいの背丈で、言動を見る限りでは元の記憶は引き継いでないみたい。もう完全なる幼児退行で、さっきから私たちをジッと見つめて不思議そうにしている。

 

 

「早く零君を元に戻してあげたいんだけど、今からどうしても外せない用事があってね」

「なるほど。だから私に御守りを押し付けようって訳ですね」

「That's right!御守りが得意そうな希ちゃんもにこちゃんもバイトでいないから、絵里ちゃんに頼むしかないのよ。お願い!!」

「まあこのまま零を放ってはおけませんし、仕方ありませんね」

「やった!ありがとぉ~♪」

 

 

 また断れずに引き受けてしまった……。零に秋葉先輩のお願いだけは聞くなと念を押されていたんだけど、今回はかなり困ってるみたいだったし、それに危険薬物が置いてあるような研究室に、幼児化した彼をそのまま放置はできない。

 

 でも今回は幼児の零を見守るだけだし、いつもみたいに妙なことには起こらなさそうかな。いつも暴走しがちな彼も、この姿なら可愛いものだろうしね。

 

 

「おもちゃならそこのダンボールに入ってるから、適当に使っていいよ」

「え、それって秋葉さんの発明品とか入ってるんじゃあ……」

「もちろん」

「だったらダメじゃないですか!私は今日こそ健全にこの場を乗り切りたいんです!!」

「まあそんなカッカしなさんな。失敗作の不良品で、ちゃんと動かないようになってるから大丈夫。子供をあやすくらいはできるから」

「心配しかないんですけど……」

「この私が保証しているんだよ?」

「あなたが保証しているから心配なんです!!」

 

 

 彼女ほど裏で何を企んでいるのか分からない人はいない。もしかしたらこの状況さえも仕組まれたものかもしれないし。出かけるフリをして、どこかで私の様子を見て楽しむつもりかも――――って、考えすぎよね。あの秋葉さんだって1つや2つ、困り事だってあるわよきっと。

 

 

「ほら、零君が別の部屋に行っちゃうわよ!早く止めないと!」

「えっ……れ、零!そっちに行ったら危ないわよ!」

「よ~しそれじゃあ出かけるから、あとはよろしくね~♪」

「あっ!?秋葉先輩!!」

 

 

 先輩はどさくさに紛れて、風のように研究室から立ち去ってしまった。初めから絶対にこれを狙って出ていこうとしていたわね。半強制的に押し付けられる形になっちゃったけど、子供になった零なら私でも簡単に押さえ込めそうだし、そこまで重大なことには――――

 

 

「おねえちゃん、これな~に?」

「え゛っ!?そ、それは!!」

 

 

 そう思ったのも束の間、零が持ってきたのは怪し気な機械だった。形状は水鉄砲そのもので、ボディが無色透明のクリアなためか、中の造形が透けて見えている。そして中にはどこから汲んできたのだろう、ちゃっかり水が装填されていた。あれは水……よね?若干濁っている気がしなくもないけど、とにかく触らぬ神に祟りなし!早く零から水鉄砲を取り上げないと!!

 

 

「零、いい子だからそれをお姉さんに頂戴?」

「いやっ!」

「えぇ……」

 

 

 意外にも頑固で、これは思った以上に厳しい戦いになりそうね。いくら相手が零と言っても子供だから、無理矢理取り上げるのは可愛そうだし、とりあえず優しい言葉で上手く誘導しないと。秋葉さんの発明品なんて、何が起こるのか分かったものじゃないもの。

 

 

「零、そんなものよりお姉さんと一緒に遊ばない?ほら、絵本とか読んであげるから」

「じゃあこの水鉄砲で遊ぶ~!えいっ!」

「きゃっ!冷たいっ!!」

 

 

 零は無邪気な笑顔を向け、水鉄砲で私の身体を打ち抜いた。

 噴射された水の勢いは思っていた以上で、流石秋葉さんの発明品と感心するべきか、片手サイズの水鉄砲から私の全身を濡らされてしまった。零はケラケラと笑ってまた私に水を発射しようとするが、まさかの一発で弾数限界に到達したので、不思議そうに水鉄砲を眺めている。

 

 結果的に止めることはできなかったけど、案外こんな無邪気な彼も悪くないわね。なんたって見ていて微笑ましいし、いつもみたいにセクハラされるよりはよっぽど可愛いわ。まあ、これくらいなら許してあげようかしら。

 

 

 ――――そう思ったのも束の間、零は私、いや私の服を見つめながら指を指して呟いた。

 

 

「お姉ちゃん、服が……!」

「えっ……きゃぁっ!?」

 

 

 目線を自分の服へ落としてみると、そこには予想だにしない事態が起こっていた。

 私の服が――――消え始めている!?大量の水を浴びてしまったところから衣服がどんどん溶け始め、中に来ているシャツにも侵食していく。もちろん下着にも進行を開始し、やがては水に濡れていない部分まで水鉄砲の水に貪り食われていた。

 

 初めは綻びを始めた部分を腕や手で隠していたけれど、肩やお腹、太ももに脚、そして胸――――肌という肌が彼の目の前に晒されて、もう腕と手だけでは覆い隠せないほどに服が消え去っていく。そして私の肌が露出されていくにつれ、零の顔つきが無邪気な表情からいつもの"男の顔"になってきているわ……。

 

 秋葉先輩、ダンボールの中には不良品しか入ってないって言ったたのに……この嘘つきっ!!

 

 

「あ、あのね、お姉ちゃんちょっと取り込み中だから、向こうで遊んでてて欲しいんだけど……」

「お姉ちゃん、とっても綺麗だね!」

「ふぇっ、そ、そお?フフッ……♪」

 

 

 突然の告白に、焦りに塗れていた心が一瞬輝きを取り戻した。いくら子供であっても、零に褒められるのは悪い気はしないわね。なんたってこの可愛い笑顔に惚れちゃいそう。悪戯好きなのもご愛嬌ってことで許してあげようかしら――――

 

 なんて考えさせられていたことが、彼の策略だったんだと思う。

 零は私の腕の力が鈍った、その隙を突いて私の身体から腕を振りほどき、小さな身体全体を使って私に抱きついてきた。

 

 

「きゃっ!れ、零!?」

「お姉ちゃん!すっごくやわらか~い♪」

「ちょっと!そこは……あ、んっ!」

 

 

 零は私に抱きつくやいなや、右手を胸に左手を太ももに添えて卑しい手付きで弄りだした。

 もう既にさっきの水の侵食がかなり進んでいるので、胸も太ももも裸同然にさらけ出されている。彼はそれを見て興奮したのだろう、息を荒くしながら私の身体を徹底的に陵辱し始めた。

 

 

「ふぁ、んっ……や、やめなさい!!」

「お姉ちゃん、すっごく敏感だね!」

「こ、子供なのにどうしてこんな……やぁ、ああっ!!」

 

 

 小さい指を胸と太ももに食い込ませながら、あくまで無邪気な表情で私を蹂躙する。

 しかし彼の手付きはまさにいつも通り。子供になって記憶を引き継いでいないはずなのに、ここまで大人の女性を感じさせてしまう手付きをしているなんて……。これが彼の才能だって言うの!?抵抗しようにも、それを阻止するように私の身体を弄りながらホールドしてくるため、逃げるに逃げさせないのもいつもの彼と同じ。

 

 このままではいつもみたいに性の虜にされてしまうわ!は、早いところ抜け出さないと……相手は子供なんだから、力ずくでも振りほどけるはず!腕に力を入れて彼の身体を押し返せばいいのよ、いくら零でも子供だからそんな仕打ちは少し可愛そうだけど、このまま子供に主導権を握られているよりかマシよね?

 

 私は有言実行するために、片方の手で彼の腰を掴んで、もう片方の手で身体を押し返そうとする。

 しかし、私より彼の方が先に動いていたことに気付いた時には、もう手遅れだった。私の胸と太ももを触っていた手はいつの間にか両肩に置かれていて、私は何の抵抗もできずに一瞬の内に押し倒されてしまう。

 

 

「ねぇねぇ、お姉ちゃん遊んでくれるんだよね?もっとボクと遊ぼ!」

「あ、遊ぶって、この体勢は……」

「ボクがお姉ちゃんの身体で遊ぶんだよ!お姉ちゃんはただ気持ちよくなって、いい声で鳴いてくれればいいからね♪」

「ひゃっ!ん、あぁっ!!」

 

 

 零はとことん無邪気さを出しながら、私の胸を両手ですくい上げるように下から揉みしだいてきた。

 こんな子供に気持ちよくさせられているだなんてあまり思いたくはないけれども、与えられる快感は本物。声を上げるのを我慢しようとしても我慢できない。悔しいけど彼の言った通り、私は研究室に響き渡る嬌声を上げてしまっていた。

 

 

「はぁ、あっ………んっ、あんっ!ど、どうしてこんなに、上手なの!?」

「えへへ、気持ちよくなれて嬉しいでしょ?それじゃあ次はこっちを!」

「そ、そこは―――あっ、あぁあああっ!!」

 

 

 今度は両胸の乳首を激しく摘まれて、叫び声に近い嬌声を上げてしまった。私の身体は熱く沸騰し、私に覆い被さっている零を振り落とす力さえ快楽に奪われてしまっている。ただ彼からの猛攻に耐え、電流が流れるような快感に身をよじらせるしかなかった。

 

 

「お姉ちゃんとても敏感だね。いつも乳首弄ってるの?」

「そ、そんなことは……ひゃっ!と、突然弄ら――あぁっ!はぁ……」

「こんなに感じてるんだもん、毎日シてるってことだよね♪えいっえいっ!」

「んぁ、あぁっ!!」

 

 

 零に日頃の行いがバレたこともあってか、身体の抵抗が完全に抜けきってしまった。さっきまでは一応彼の肩を掴もうとしたりして抗いの色を見せていたものの、もう今はそれも無駄だと悟ってしまう。子供だと思って舐めて扱ってしまったのが間違いで、彼の言葉通り私の方が()()()()しまっている。

 

 だけどね、それでも何故かいい気がしてきたの。子供であっても相手は零、可愛がってもらえるならそれでもいいかなぁって。彼に抵抗するだけ無駄なんだから、いっそのことこの状況を楽しんでみてもいいかもしれない。この考え、相当零に堕とされちゃっているような……でもそんな彼を好きになったんだから、仕方ないわよね。

 

 

「お姉ちゃん、おっぱい出る?」

「へ?で、出ないわよそんなもの!!」

「だけど、確かめてみないと分からないよね?」

「ま、まさか……!?」

「もちろんそのまさかだよ。それじゃあいただきま~す!――ん、ちゅぅ」

「あんっ!あぁ……!!そ、そこはぁ!!」

 

 

 零はやはり無邪気な表情を崩さないまま、私の乳首へと吸い付いてきた。

 さっき彼からの快楽に身を委ねることを決意したためか、私の身体は乳首が唇に挟まれただけでもビクビクと震えてしまっている。もう簡単に感じてしまうようになった私は、せめてもの抵抗として抑えていた声のリミッターも解放し、研究室の外に聞こえるかもしれない淫声を響かせて彼に身を預ける。

 

 

「ちゅ……じゅるっ!」

「はぁ、あぁ……あ゛ぁあああああああああああんっ!!」

「あれぇ~全然出ないなぁ~。もっと強く吸わないとダメかな?ちゅ……」

「こ、これ以上は――あっ、はぁあああん!!はぁ、はぁ……」

 

 

 じゅるじゅると卑しく唾液の音を響かせながら、零は私の乳首を捕食してしまうかのように吸い上げる。

 もう我慢をしなくなった私の脳内は、もはや何も考えられない真っ白の状態だ。彼に弄られて喘ぎ続けるだけのダッチワイフみたいに、身に降り注ぐ快感に本能で反応をし続ける。幼児姿の子供に組み伏せられている大学生。プライドも羞恥心も何もない。ただ性奴隷のように淫声を漏らして、己の興奮に火を点けてくれる彼に全てを捧げていた。

 

 逆に彼の加虐心は留まることをしらない。

 片方の乳首から母乳が出ないから、もう片方も吸ってみようと結局両方の胸を攻められてしまった。その時の記憶はあまり定かじゃないけど、ただ単に"あんあん"と淫らに叫んでいただけのような気もする……。

 完全に彼に支配されてしまったこの身体。簡単に感じさせられてしまって疎ましいって思うけど、その反面、彼の好みの私になれたと思うと嬉しくもなってくる。最愛の人にここまで気持ちよくさせてもらえるのなら、拒む理由などない。もう完璧に彼のモノになってるわね、私……。

 

 

「う~ん、結局ミルク出なかった……」

「まだ出る身体になってないもの、仕方ないわ」

「じゃあさ、これからミルクが出る身体になる?」

「は、はい!?!?」

 

 

 み、ミルクの出る身体って、つまり身体を重ね合わせたりするってことよね!?今も身体は重なり合っているけど、それとは全く別の意味の、男女があそことあそこで繋がるってこと――――――だ、ダメよ!!いくら彼に服従してしまったからと言っても、まだ一線を超える訳にはいかないわ!

 

 それに、その防壁は彼が一番守ってきたものでもある。幼児姿になって理性も幼児化してしまったのか、超えてはいけないボーダーラインの認識も甘くなっているみたい。ここは私が彼の意志を受け継いで、しっかりと阻止していかないと!

 

 

「お姉ちゃんショーツも脱いじゃってるし、準備万端だね!」

「え゛っ、うそ……」

 

 

 そう意気込んだ直後、彼の言葉によって気付かされる。自分の服が徐々に消えていくのは分かっていたのだが、さっきまで感じていた下半身の布の擦れが段々となくなっていることに。つまり、正真正銘の全裸に成りかけているということ。辛うじてまだ下半身は守られているようだが、零の言動を見る限りでは私の大切な部分が彼の目に止まるのは時間の問題。こ、このままでは本当に本番を……!?

 

 

「裸に靴下って、お姉ちゃんもエッチだね~。ボク好みの格好ではあるけど、裸ソックス」

「あなたが水鉄砲を打ったせいでしょ!?」

「でも、なんだか水じゃないシミでショーツが濡れてるよ。これは何かなぁ~?どうして濡れてるのかなぁ~?」

「そ、それはぁ……」

 

 

 零は消えかけている私のショーツを()()()に見つめながら、ショーツのシミに指を当てる。口に出して言いたくはないし大体察しは付いているだろうけど、さっき胸を弄られている時に秘所から垂れてしまったもの――――って、自分で説明するのは恥ずかしいわねこれ。

 

 

「もうちょっとで割れ目が見えそうだね!そろそろ挿れる準備しておいた方がいいかなぁ?」

「ダメよそれだけは!!あなたはいつも無理矢理だけど、最後の理性だけはしっかりと保つ人間でしょ!?」

「ボク、子供だから難しいことわかんな~い」

「こんな時だけ白々しい……」

 

 

 さっきからずっとそうだけど、子供のように振舞っているようで胸を触る手付きはいつもの彼だった。本当に元の記憶があるのかそうでないのかは分からない。だけど、この無邪気な笑顔は悪い意味で捉えてしまえば私を見下しているようにも見える。もし元の記憶があったとしたら、あとでどうしてやろうかしら……。

 

 でも、今はこの状況を乗り越えることが先決。このままでは子供を孕まされ母乳が出る身体にされてしまう。いずれはそうなる身体だとしても、彼がこんな姿で私の初めてを奪われるのはイヤだから。

 

 

「じゃあさじゃあさ!"私は小学生に組み伏せられ、胸を弄られてイっちゃう淫乱女です"って言ってくれたら許してあげるよ」

「どうして許されなきゃいけないのよ……。それにそんなセリフ、何があっても――」

「だったら、お姉ちゃんのココに挿れちゃうよ?小学生におっぱいを弄られて、たくさん感じてトロトロになってるココに挿れちゃうよ?」

「こ、子供がそんな言葉ばかり使わないの!うぅ、い、言えば許してくれるのね?」

「うんっ、お姉ちゃんの身体から下りてあげるよ。ちゃんと服も着させてあげる!」

 

 

 どうして着衣の権利すら彼に委ねられているのかしら……。

 しかしさっきの興奮から全身に力が入らないため、力技でどうこうできる問題ではない。だからここは渋々ながらも従うしかないんだけど、誰にも見られてないし、別にいいかな……?

 

 

「分かったわ。言えばいいんでしょ言えば」

「そうそう。物分りのいいお姉ちゃんは大好きだよ♪」

「も、もうっ、またサラッとそんなことを……」

「ただし感情を込めて。棒読みは許さないよ!またこうやっておっぱい触っちゃうから!」

「あっ、んんっ!もうっ、分かったからぁ~!!」

 

 

 私は大きく息を吸い込む。そう、ここには零以外に誰もいない。それに彼も元の姿に戻れば、さっきまでの記憶は全部消える可能性だってある。そうなればこの痴態を覚えているのは私だけ、変に恥ずかしがらなくてもいい。誰も見てない誰の記憶にも残らない――――よしっ!

 

 

 

 

「私は小学生に組み伏せられ、胸を弄られてイっちゃう淫乱女です!!」

 

 

 

 

 その時だった。無慈悲にも、研究室のドアが開け放たれた音がしたのは――――

 

 

「えっ?絵里、ちゃん……?」

「は……あ、秋葉先輩!?ど、どうして……」

「忘れ物をしたから戻ってきたんだけど、まさか絵里ちゃんが奴隷告白を!?」

「違います!!言わされてるだけですから!!」

「言わされてる?さっきまでこうやっておっぱいを弄ったら、あんあん喘いでたじゃん」

「ひゃっ、うぅ……そ、そんなに強くしないで……あ、んっ!」

「こ、これは……」

 

 

 先輩はほんのり頬を赤くしながら、零を止めることもせずにただただ私たちのプレイを凝視する。

 私はあの恥ずかしいセリフを叫んでしまった羞恥心と、よりにもよって先輩に聞かれてしまった恐怖に、胸を攻められながら身体を震わせていた。しかも零はここぞとばかりに再び私の肩を掴んで押し倒し、もはや無邪気とは言えない真っ黒な表情で私を見下している。

 

 ま、まさか本当に本番を!?う、嘘よね……?

 

 

「そ、それじゃあ2人きりでごゆっくりぃ~……」

「あっ、ちょっと待ってください先輩!!」

「さぁて、終わらないパーティを始めよう!」

「ま、待って……!!だ、ダメぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 そして遂に、私は零の子供を孕む準備を――――――

 

 

 

 

 とはならなかったので、安心して大丈夫よ。

 

 ちなみに、一線を超える前にしっかり秋葉先輩が助けてくれた。零の身体もすぐに元に戻り、何とか理性も回復したみたいで助かったわ。もう少しで処女を奪われていたとなると……。

 

 でも、小さい彼は案外可愛かったかも……。また会いたいと思ったり思わなかったり。エッチなことはもう勘弁だけどね!

 




 初めておねショタモノを扱ってみましたが如何だったでしょうか?
 零君はもはやショタっ子というよりかは、完全に悪ガキと化していましたが(笑) まあ子供のやっていることなので許してあげてくださいな!
ちなみにおねショタモノは、お姉さん側がショタっ子のアレにどんどん堕とされていく展開が好きだったり。やっぱ男性側が攻める展開こそ至高。


 次回の内容は、130話がヒント!


新たに高評価をくださった

SNNMさん、園田海未推しのラブライバーさん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦慄の快感、堕ちる女神たち

 今回は、この小説の第130話『りんぱな魅惑の撮影会』のフラグを雑に回収する回。ちなみにヒロインフルキャスト!!


 

「ねーねー零くーん!ちょっと来てー!」

「なんだよ母さん、大声出して……」

 

 

 2月の寒い冷気に我が身を凍らされないよう、自室に籠ってぬくぬくと過ごしていたら、突然一階から母さんの声が聞こえてきた。

 受験も私立大学の入試予定は全て終了し、後は3月に行われる国立大学のためにみんな一心不乱に頑張っているのだろうが、完璧超人な俺はこうやってのんびりしているって訳だ。俺が家にいることがほとんど、そんな丁度いいタイミングで母さんが帰国してきたため、当の本人も大いに喜んでいた。だけど、朝たまに俺の部屋に忍び込んで寝起きドッキリのように起こしてくるのだけはやめてもらいたい。これもアメリカンジョークってやつか。

 

 

 俺は渋々部屋を出て一階へ降りてみると、母さんが階段近くの押入れを整理しているのが見えた。押し入れの前には古臭いダンボールが鎮座し、中にはかつて秋葉が使っていたであろう謎の小道具の姿もある。

 

 

「さっきから下でゴソゴソ音がしていたのは母さんのせいだったのか。ていうか、どうしてこんな時期に押入れ整理なんてやってんだか」

「久々に開けたらこの有様だから、暇な時に片付けちゃおうかと思って。楓ちゃんはここの掃除してなかったの?」

「さぁ?そもそもそんなとこ、俺たち全然見ねぇしなぁ」

 

 

 神崎一家の歴史(一部黒歴史)がたんまりと詰まっているこの押入れだが、よほどのことがない限りこの扉が開かれることはない。捨てようと思って捨てられなかった未練を置いておくためだけの場所だから、わざわざ中を確認することもしないしな。大抵捨てずに捨てられないモノなんて、結局は不必要だったってのが相場なんだよ。

 

 

「それに俺は決断できる人間だから、そんなとこにモノなんて置いておかないぞ」

「そうなの?じゃあこのカメラは誰の何だろ?」

「カメラだと?」

「ほらこれ。店に売っているようなカメラじゃなくて、撮影用のちゃんとしたモノだと思うけど、どうして家に……」

「それは……」

 

 

 俺の脳に過去の記憶が蘇る。そう言えば忘れていた。花陽と凛の撮影会のあと、このカメラを勝手に持ち帰ってここにおいていたことを。もしかしたら何かよからぬことに使えるのではないかと画策したはいいが、そのままリアルの押入れにも記憶の押し入れにも詰め込んだまま放置しちまってたな。

 

 このカメラは一見普通のカメラに見えるが、その正体は撮った相手に性的快感を与える妙に凝った代物だ。製作者はもちろん秋葉。当時の俺はカメラにそんな機能が潜んでいることなど全く知らず、これを使って花陽と凛をモデルに音ノ木坂のパンフレット撮影を行っていた。撮影が進むたびに2人の顔が真っ赤になって息も荒くなると思ったら、まさかまさかこんな隠し機能が備わっていたなんてビックリしたもんだ。

 

 

 でも、今となってこのカメラが発掘されるなんて……そうだ!

 

 

「母さん、それ俺のだから返してくれ」

「そーお?零くん写真撮影の趣味とかあったっけ?」

「ん~最近ハマりだしたってとこかな」

「じゃあ1枚お母さんを撮ってくれる?世界を羽ばたく女優をカメラに収めるなんて、中々できることじゃないわよ!」

「え゛っ……!?」

 

 

 さっきも言ったが、このカメラで撮られた女性の身体には強い刺激が走る。そうなればもちろん母さんのイキ狂う姿を見てしまう訳だが……そんなの誰得だよ!!自分の母親のエロい姿を見ても、興奮も何もしねぇっつうの!!女性好きの俺でも、流石に自分の母親で発情できるほど性欲は腐っていない。

 

 

「そ、それはまた今度な。いくらなんでも、駆け出しの写真家に女優は荷が重いからさ。まずはμ'sのみんなで練習してからだ」

「ふ~ん」

「何笑ってんだ……?」

「いやぁそのカメラで、みんなのどんな姿の写真を撮りたいのかなぁと思ってね♪」

「何を想像してるか知らないけど、普通の写真だよ。ホームページに載せる写真とか色々あるだろ」

 

 

 嘘だ。俺の心の中では深淵よりも深いところから、欲望という名の闇が光を侵食するために表の世界へ侵攻しようとしている。このカメラを見た瞬間から、俺のやることはただ1つに決まった。だからこの場だけは何とか切り抜けて、カメラの正体をバレないようにしなければならない。

 

 

「はいはいそういうことにしておいてあげるよ♪」

「だから違うんだって……」

「ほら、片付けの邪魔になるから行った行った。それとも手伝ってくれるの?」

「そんな雑用をするなんて冗談じゃねぇ。部屋に戻らせてもらう」

 

 

 上手く(?)その場を切り抜けて、カメラを強奪することに成功した。

 どうも俺の考えが母さんに見抜かれていたみたいだけど、このカメラの真の姿がバレなかっただけでも幸いか。そんなことよりも、俺が楽しみにしているのは次のμ'sの練習だ。いい絵になってくれよ、みんな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 翌日。μ'sはいつも通り屋上に集まり、練習前のストレッチを始めていた。

 3月に開催される"ラブライブ!"へ向け、受験も一山超えた穂乃果たち3年生組も再び練習に加わり、μ'sはグループとして更なる一体感とやる気を見せている。特に穂乃果、ことり、海未にとっては高校生活の集大成となるイベントだから、テンションが上がってしまうのも分かる。他のメンバーももちろんそのことは分かっているので、穂乃果たちのためにも、そしてμ'sのためにも最高のライブにしようと1人1人が頑張っているのだ。

 

 しかしそんな青春を謳歌する少女たちを、舐めまわすような目線で眺めるクソ野郎がここに1人。そして手に握られているのは、昨日自宅の押入れから発掘された秋葉開発の淫乱カメラ。

 

 そう、もういちいち1人や2人ちまちま撮影するのはメンドくせぇ!!どうせ全員撮影する気でいたんだから、μ'sの日常風景を撮影するって名目でこうしてカメラを持ち込めばよかったんだ。それに真面目に練習中だからこそ、身体に走る刺激を必死で我慢する可愛い姿が見られるかもしれないしな。

 

 

 そして、そんなこんなで練習が始まった。

 開始前に今日のレッスンメニューや今後の予定についていくつか確認事項があったのだが、今の俺にはそんなもの一切頭に入ってこない。俺の眼光は夢に向かって汗水垂らして頑張っている少女たちを捉え、シャッターチャンスを虎視眈々と狙っている。

 

 

「穂乃果、凛!この先大きく動きすぎないように!」

「「はいっ!」」

「雪穂と亜里沙は、逆にもう少し腕を伸ばして!」

「「はいっ!」」

 

 

 海未の指導の元、μ'sメンバーのダンスはいよいよサビの部分を迎える。

 俺はそのタイミングを逃すまいと、手に抱えていたカメラをみんなの方へと構えた。流石に1枚の写真に全員を入れることはできないので、まずは狙いを絞って撮ってみよう。そうした方が、周りの子たちとの落差を楽しめるしね。

 

 μ'sのみんなはダンスを軽快に、そして笑顔を絶やさない。俺はそんな彼女たちを嘲笑うかのように、一生懸命となっている雪穂と亜里沙に狙いを定め――――シャッターを切った。

 

 

「あっ、んっ!」

「ふぅ、あぁっ!」

 

 

 おおっ!なんか思った以上にいい反応で、俺も驚いちまったよ!ずっと押し入れに入れられてこのカメラも腹が立っていたのか、この前よりも本気を出している気がするぞ。

 

 見事にシャッターを切られた雪穂と亜里沙は、みんなが歌って踊っている最中で顔を緩ませ、淫らな声を上げる。周りのみんなは歌の合間に変な声が混ざっていたことに気付いたのかそうでないのか、目だけをキョロキョロさせて辺りを伺っている。多少の喘ぎ声ならみんなの歌声でかき消されてしまうため、疑われることはあっても不審に思われることはない。存分に眼福させてもらおう。

 

 もちろんだが、雪穂と亜里沙が一番自分たちの身に起こってる事態に「?」を浮かべている。周りの流れに合わせて歌もダンスも続行しているが、微妙に身体が震えているのを俺は見逃していない。身に降りかかる快感に耐え、健気に踊っている姿は美しくもあり滑稽でもある。そんな彼女たちを見て、俺はニヤケが止まらなかった。

 

 

「はいラストー!!」

 

 

 屋上なのに高らかに響く海未の声。もうすぐ曲が終わりのようだ。よし、そろそろ次のターゲットを絞るとするか。

 俺はカメラを穂乃果と凛、μ's内のやかましい担当2人に狙いを定める。今も他のメンバーに比べれば動きが走り気味なので、その機敏さがどう崩れるのか見ものだな。それにどうせ楽しむのなら、最後の決めポーズのところで最高の快楽を与えてやるか。

 

 あまり息を荒くすると後で怪しまれるかもしれないから、ここは精気を込めて落ち着こう。痴漢プレイだろうがエロい行為なら何でもそうだが、こちらが取り乱してしまうと女の子より優位に立てない。エロに対して男に求められているのは冷静さだ。

 

 まあそんなことは今どうだっていい。いよいよ曲の大トリ。みんなが一番可愛く輝くところ、最後の最後の締めの場面で――――――シャッター!!

 

 

「ふぁっ!!」

「ひゃっ!!」

 

 

 みんなが一箇所に集まってラストのポーズを決めている最中に、無慈悲にも穂乃果と凛がシャッターの光に襲われる。

 曲の集大成が淫声で崩れてしまい、今度は歌が止まっていたからもあってか、周りのメンバーも疑いではなく不信感を抱いていた。穂乃果と凛は目に見て明らかなほどビクビクと身体を震わせ、少し舌を垂らして犬のように息を吐き出している。このカメラの威力が想像以上に上がっていたためか、彼女たちへ与えられる快楽も凄まじくなっているようだ。

 

 

「穂乃果、凛?どうしたのよ急に……」

「真姫ちゃん……さっき突然身体がビリビリって!」

「はぁ?」

「さっき穂乃果の身体に電気が走ったみたいになったんだよぉ~」

「凛の身体も同じだよ。なんだったんだろう……」

 

 

 目の前で快楽に溺れる女の子を見るのは心底楽しい。しかも女の子側からは何が起こっているのかさっぱりなため、焦燥に駆られている表情も非常にGOODだ。更に俺が普段から調教開発してやっているせいか、みんな性的欲求を刺激されると敏感になってしまうらしい。だから反応も可愛いんだよチクショウ!!

 

 そして、穂乃果たちはまさか俺の手によって踊らされているとは思うまい。だが花陽と凛は過去に同じ経験をしたことがあるため、あまり過度に暴れ回らない方がよさそうだ。

 

 

 するとここで、絵里がみんなの前に出る。そろそろ休憩の時間かな?もちろん君たちにそんな安息なんて与えないけど。

 

 

「それじゃあ少し休憩しましょうか。身体の震えも、連日の長時間の練習で疲れているだけかもしれないし」

「全く、アンタたち情けないわね~。にこみたいなスーパーアイドルになれば、こんな練習ごときへっちゃらよ!」

「言ってもにこ先輩、相当息あがってますけど大丈夫ですかぁ~♪」

「それだけにこが一生懸命だって証拠よ。むしろ誇りなさい、楓」

「はいはい煽り合いはその辺りにして、しっかり水分取りなさいよ。冬でも熱中症になるんだから」

 

 

 そうだな、身体を襲う熱い快感で倒れないように、しっかりと事前処置をしてもらわないと。

 そして、もううだうだ考えるのは面倒になってきた。ここからは休憩中のμ'sの写真を撮るって名目を立て、連続でシャッターを切ってやるからそう思え。このフィルムに収めるのはμ'sとしてのお前らじゃない、"オンナ"としてお前らだ!!

 

 まずは俺の近くに固まっている絵里、にこ、楓にカメラを向け――――ポチッと。

 

 

「ああっ!!」

「ふっ、あっ……!!」

「ふぁっ!!」

 

 

 3人はシャッターを切られた瞬間、身体をグイッとくねらせて"オンナ"の声を上げる。

 やはりカメラの威力が上がっているのは間違いないようで、身体に走る強烈な刺激で絵里もにこも楓も、その場で(うずくま)ってしまった。まるで本物の電流を流されたかのようなこのダメージ。蹲っている最中でも、身体はピクリと一定の間隔で震えている。快楽によって与えられた気持ちよさ気な表情と、いきなり何が起こったのかと慌てる表情が同時に見られて非常に愉快である。

 

 

「だ、大丈夫……?」

「花陽……えぇ、なんとかね」

「にこっちも、さっきまで得意気やったのにやっぱり疲れてたんやなぁ~。意地張っちゃって♪」

「違うわよ!なんか身体が勝手に……」

「楓ちゃんのそんな姿、初めて見たかも」

「まさかことり先輩に己の恥辱を見られるなんて、一生の恥です」

「そこまでっ!?」

 

 

 その間に他のメンバーたちが何事かと絵里たちに駆け寄るが、そうやって1つに固まってしまったことが運の尽きだ。丁度いい、次はことり、花陽、希のおっとり系淫乱ちゃんたちに狙いを定めよう。

 

 俺は3人が絵里たちを心配して固まっている隙を見計らって、4度目のシャッターを切った。

 

 

「ふえっ!?」

「ひゃ、あぅ!!」

「んっ!はぁ……!!」

「ちょ、ちょっと希!?」

 

 

 おっと、これは予想外の展開!

 ことり、花陽、希は他のメンバー以上の快感を身体に受けたため、未だ刺激が抜けきっていない絵里たちへ倒れ込んでしまった。先ほどの刺激でプルプルと震えた手では到底受身を取ることもできなかったためか、倒れてきた3人と合わせた6人の女の子たちで大混戦となる。絵里とにこ、楓は収まりつつあった身体の刺激がことりたちが倒れてきた反動で再び呼び戻され、表情もまた性感に屈服していた。

 

 快楽と恥辱に塗れた女の子たちが、勝手に湧き上がってくる性欲に我慢できずに身をよがらせ合う姿は実に絵になるな。さっきまでは青春真っ盛りの部活だったのに、今では喘ぎ声が飛び交うAV現場さながらとなっていた。

 

 

「かよち~ん!!なんかスゴイことになってるよ……。どうしよ穂乃果ちゃん!?」

「えぇ!?穂乃果に言われても……。でもみんなどうしちゃったのかな?」

「みんな一斉に変な病気に掛かっちゃったとか!?でも少し気持ちよかったりもしたし、どんな病気なんだろ雪穂?」

「知らないよ……。亜里沙もちょっと落ち着いて」

 

 

 最初の方にこのカメラの餌食になった組は、もう元気を取り戻してしまったのか。じゃあまた元に戻してやるか!どうせなら全員一斉にイキ狂う光景も見てみたいし、そんな芸当は今まさにこの状況でしか実現できないことだ。みんなの身体も小刻みに揺れているが、俺の手も期待と背徳心で震えている。

 

 見せてくれ!もっとお前らの痴態を!!唯一の恋人である俺だけに認められた聖域で、μ'sの恥ずかしい姿を全身舐めまわすように拝んでやる!!

 

 そのためには、まだこのカメラに収めていない奴らを俺の前に跪かせて――――って、あれ?海未と真姫はどこへ行った?

 

 

「零、ちょっとそのカメラを見せてもらっていいですか?」

「う、海未……いつの間に」

「私もいるんだけど」

「真姫……」

 

 

 こ、コイツらくノ一か!?ここまで近付かれているのに全く気配を感じなかったんだが。いや、ただ俺が美少女たちの混戦に目を奪われていたからか。どちらにせよ、この状況はいつもの展開になりそうでヤバイ。もう数え切れないほどのオチの数々が、俺の頭でフラッシュバックする。逆に思い出しすぎて、記憶メモリーがクラッシュしてしまいそうなんだが……。

 

 とにかく、ここまで来て野望の達成を阻止されてはならん!なんとかしらばくれよう!

 

 

「このカメラがどうかしたか?」

「さっきからみんなの様子がおかしくなる直前に、あなたが私たちの写真を撮っていたように見えるのよね」

「はぁ?そんなことねぇだろ」

「私たち、もう分かるんですよ。あなたってすぐ顔に出ますから、私と同じポーカーフェイスは苦手だってことも知っています」

「…………」

 

 

 バレてる……確実にバレてる!?でもまあ付き合いの長さ的にも、相手の表情を見ただけで考えてることが分かるってのは俺も同じだが――――そんなこと言ってる場合じゃねぇな。どうしよ、また制裁かよぉ~……。

 

 いや、いつもいつも同じオチでは色んな意味で飽きてくるに違いない!こうなったらヤケだ――――――

 

 

「よし、そこまで言うのなら身をもって体験してみるといい。このカメラに何の害もないことをな」

「「へ……?」」

 

 

 俺は海未と真姫に返答の暇を与える間もなく、すかさず2人にカメラを向け悪魔のスイッチを人差し指で押し込んだ。

 

 

「ひっ、あ゛ぁああああああああああああああああんっ♡」

「ふぁああああああああああああああああああんっ♡」

「おおっ、すっげぇなコレ……」

 

 

 海未と真姫から放たれる、今日一番の淫声。カメラも既にかなり熱を帯びており、そのパワーを遺憾なく発揮している証拠だ。

 2人はその場で脚からうつ伏せで崩れ去る。あまりの衝撃で気絶してしまったのかと心配するが、身体がピクリと震えるたびに可愛い吐息を漏らすため、幸いにも感じているだけのようだ。まあ本人たちにとってはそれが問題なんだろうが。

 

 しかしこんなに声が大きいと、学院中に響き渡ってんじゃねぇか?もっと声を抑えてくれないと、μ'sが淫乱の集まりだと思われてしまうだろ。スクールアイドルなんだから、そこのところはもっと純粋さを貫いて欲しいものだな。

 

 

 さてと!危険因子も排除したし、あとは――――

 

 

「れ、零くん?どうして凛たちを見てるの……?」

「ま、まさかとは思うけど、穂乃果たちを――」

「だってみんなが快楽に打ちひしがれて倒れてるんだぞ?お前らだけピンピンしてたら不公平だろ」

「その理屈がおかしいです!!」

「え~。気持ちよくなってよがりながらもダンスを続ける雪穂、可愛かったんだけどな~」

「そ、そんなのでは騙されません……」

「亜里沙も健気で可愛かったよ」

「そうですか!?えへへ……♪」

 

 

 せっかく目の前に天国が広がろうとしているんだ、穂乃果たちもその光景の一部となって貢献してもらわなきゃ困る。俺の欲望を満たすために身体を張ってくれる彼女たち、いい子たちだよホントに!そのご褒美として、特大の快感をその身体の奥深くに刻み込んでやろう。

 

 俺はカメラを構え、もう既に恐怖に満ち溢れている彼女たちを捉える。凛や雪穂はまだしも、あの淫乱属性を持つ穂乃果がここまで怯えるとは、序盤でもこのカメラの威力は相当だったことが伺える。

 

 だったら段々と威力が上がってきているこのカメラのパワー、とくと味うがいい!はいポチッと!

 

 

『あ、あああああああああああああああああああああああああああ♡』

 

 

 

 穂乃果たち4人は同時に声を上げ、その場にパタリと倒れ込んだ。

 そして俺の目の前に広がるのは、あまりの性的快楽に敗北した哀れな女神たち。そう、かつてμ'sが女神として崇められていたこともあったが、俺の手にかかればこうしてみんなを雌に堕とすことだってできるんだ。

 

 身体に残留している快感が駆け巡るたびに、みんなの口から卑猥な声と吐息が漏れ出す。12人の女の子たちが性に塗れた緩んだ表情で倒れているこの現場は、マジでAV撮影後みたいに見える。この映像もしっかりと録画して、あとから使わせてもらうとしよう。

 

 

 

 

 ――――ん?これで終わりだって?そうだよ終わりだよ!

 たまには俺の大勝利で終わったっていいじゃん!!

 




 いつもの制裁オチでは芸がなさすぎるので、たまには零君の勝利で終わっていいと思うんですよ!彼にも栄光を掴ませてやってください、今回だけなので(笑)

 それにしても、この話を執筆していて女の子が同時に卑猥な声を上げるシーンはやはりいいと思いました!これも一種のハーレムプレイになるのかな?


 次回はやろうやろうと思ってずっと先延ばしにしてきた、恐怖の講座回の続編を執筆しようと思っています。今からでも怖いですねこれは……(笑)



新たに高評価をくださった

ジャンヌかわいいよね!さん、ピリーカさん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ウブは恥!!ことりの淫語講座(補習授業編)

 いつの間にか大人気になってたシリーズ。
 最近ウブな人やエロ耐性のない人が多く見受けられたので、ことりちゃんが勝手に講座を開講しました。だからどんな展開になろうが、私は決して悪くありませんので()


 

 "無知の知"という言葉がある。

 無知であるということを知っているという時点で、相手より優れていると考えること。また、真の知への探求は、まず自分が無知であることを知ることから始まるということ。哲学者のソクラテスが唱えた概念だ。

 

 しかしこの世には、知らない方が幸福になれることなどいくらでもある。知ろうとしても敢えて無視して、自分は無知であることを自覚した上で知らぬふりをする。"知"を得てしまうことで自分の思想や信念が捻じ曲がってしまうのなら、知ることを回避するのは聡明な判断だろう。知らぬ知識を詰め込むことだけが、賢く生きる道とは限らないのだ。

 

 

 そもそも俺がどうしてこんな似つかわしくない話をしているのかと言うと、見慣れたこの光景に全てが起因している。

 

 俺とシスターズの3人は例にもよって、強制的に部室に連れ込まれ着席させられていた。そして目の前にはことりが右手で指し棒を持ち、その先を左手のひらにトントンと小刻みに叩いている。明らかに「私は怒っていますよ」的な態度を取って、俺たちを威圧しようとしているみたいだ。だがもうかれこれ4回目になる俺や、みんなからの噂で今から起こる面倒な茶番を知っているシスターズの面々は、呆れ顔で彼女を眺めていた。

 

 

「ことりはねぇ~、皆さんに怒っています!」

「あっそう」

「過去に3回も講座を開いたのに、まだ数々の淫語を知らない人がいるなんて!ことりは皆さんを、そんなピュアな生徒に仕立て上げた覚えはありません!!」

「皆さんって俺たちかよ……」

「み、皆さんは皆さんだよ!皆さんが純粋すぎるから、今日は特別に補習授業を開講します!」

 

 

 あっ、なるほどそういうことね。分かったけど敢えて言わないでおこう。

 どうやらことり先生曰く、()()()のピュアっぷりに驚いているみたいだ。俺とことりの純粋の定義が曖昧で齟齬があるかもしれないが、先生は()()()の知識不足に相当ご立腹らしい。今回は前回みたいに媚薬を盛られてないので、R指定展開にはならないと……信じたいなぁ。

 

 

「あの~。これって参加しないといけないんですか……?」

「参加しなきゃいけないよ!雪穂ちゃんもいつまでも恥ずかしがってないで、零くんにたくさんご奉仕してあげなきゃ!零くんは淫乱な女の子が大大大好きなんだから!!」

「おいっ!そうだけど、目の前で言いふらすなよ恥ずかしいだろうが!!」

「そうだったんですね……」

「まぁお兄ちゃんがそうでなきゃ、私はこんなキャラになってないけどね」

「零くんがえっちな女の子好き……ほぇ~」

「いや亜里沙、納得すんな。合ってるけど納得はするな……」

 

 

 ことりのこの講座が開かれるたびに、毎回μ'sの面々からゲストが呼ばれる(強制連行)のだが、被害を一番受けてるのって実は俺なんじゃね?実技の実験――まあこれは若干役得だが、媚薬を飲まされた時は死に物狂いだった。毎度毎度ことりの闇に引きずり込まれ、男として情けない痴態を曝け出しているような気がするぞ……。

 

 

「時間も尺もないし、無駄口を叩いてないで早く授業を始めますよ!」

「無駄口どころか、この授業自体が無駄なんだけどな」

「Shut Up!!文句はラブラブセックスの後に受け付けます」

「せ、せせせせせせっく……!?」

「あぁ、亜里沙が既にもう……」

 

 

 この調子で亜里沙にことりの講座を受講させて大丈夫なのかぁ?エロ耐性のない人が猥談をすると貧血になるって聞くから、彼女にとっては地獄確定だろう。いや、案外と興味津々で没頭するかもしれないが……。雪穂は逃げられないと悟って諦め、楓は面白いことが起きるだろうとやる気みたいだし、これは俺も腹をくくるしかないか。

 

 

 そしてそんなこんなで、4度目のことり講座が開講された。もう俺たちは、彼女の世界から戻ってこられないかもしれない……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「は~い!まず学んで欲しいお題はこれだよ~」

 

 

~First Word~

《69》

 

 

「えっ、数字?」

「そのウブさ!ことりはみんなをそんな子に育てた覚えはありません!もう~これくらいはことりが講座を開くまでもないと思っていたのにぃ~」

「ろ、ろくじゅうきゅう……ですか?」

 

 

 この講座ではもういつものことだが、相変わらず危険なワードばかりブッ込んできやがる。知っている人も多いとは思うが、この言葉をリアルで実行した場合、高校生の不純異性交遊では済まされないほど激しい映像になってしまうだろう。しかも当の本人がやる気満々なのが怖い……。

 

 

「読み方は"69"と書いて、"シックスナイン"って読むんだよ。これを機にちゃんと覚えて帰ってね!」

「へぇ、あまり変な言葉には思えないんですけど」

「亜里沙、それは偏見だよ。知っている人からすれば、もう"69"って字面だけでエロいもん」

「へ?どこが?」

「まあそれはおいおい説明するとして、まずはどんなプレイかをこのホワイトボードに図として描いてきたので、それを見て勉強しましょ~」

 

 

 ことりはそう言うと、ホワイトボードをくるりとひっくり返して裏面を俺たちに見せる。

 そこに描かれていたのは男と女、2人の人間の裸体だったのだが――――――

 

 

「ひっ、な、なんですかこれぇ~!?」

「あ、あわわわわわわわわわ……!!」

「これ、先輩が描いたんですか?」

「うん♪この日のために絵を練習してきた甲斐があったよ!」

「な、なななんて絵を描いてるんですか!」

 

 

 雪穂と亜里沙は、手で真っ赤に染め上がった顔を抑え目を逸らしてしまった。

 それもそのはず、ホワイトボードには男と女の裸体が双方の性器をしゃぶっている絵が生々しく描かれていたのである。まるでエロ雑誌に掲載されている漫画のように、しかもモザイクも何もなしで堂々と。そのまま漫画として連載できる上手さに、逆に俺は思わず目を見開いてしまう。

 

 それにしても、こんなエロい絵を描くために今まで絵を練習してきたのかよ。スケッチブックにライブで着る可愛い衣装の絵を描いて微笑んでいた彼女は、果たして今どこにいるのだろうか……?

 

 

「シックスナインとは、男女が双方の性器に唇や舌で刺激を与えながら、性的興奮や快楽を求め合う行為のことだよ。"69"って文字を横に倒してみると――ほらっ!お互いの下半身に顔を当てているように見えるでしょ?この図みたいにね!」

「ちょっ、え、えぇっ!?」

「せ、先輩方はこの講座によく耐えられましたね……。わ、私もう頭が……!!」

「2人共情けないなー。ま、お兄ちゃんとの付き合いが短いから仕方ないね」

「なに?俺と一緒にいたら変態度が増すみたいな言い方やめてくれない??」

 

 

 俺の偏見はこの際いいとして、下ネタや猥談に耐性がない雪穂と亜里沙はもうこの時点でグロッキーになってしまいそうだ。シックスナインなんて、普通の人からしたら至って数字の羅列にしか見えねぇからな。もしこれから"69"って数字を見かけたら、いちいち顔を赤くするに違いない。やっぱ知らない方がコイツらにとっては幸せだわ。何でもかんでも知識を蓄えればいいってものじゃない。

 

 

「さっきも少し言ったけど、ちょうど69の数字の形のように、双方の頭と足の位置が逆になることからこの名前になったらしいのです。そして通常は前戯として行われる場合が多いけど、ファッションヘルスなどの風俗店では、このまま射精に至るものもあるんだって」

「ふ、風俗!?しゃ、しゃ……もうこの話題やめません!?」

「ダメだよ!今日はその固いウブさを少しでも和らげるための特別補習なんだから!!」

 

 

 "風俗"と"射精"に反応するあたり、雪穂と亜里沙も一応その言葉の意味は知っているみたいだ。ピュアな子たちが無理矢理に淫語知識と言う名の泥を塗られていくその様は、背徳感がありつつ痛々しくもある。亜里沙なんてショート寸前なのか、口をパクパクさせるだけで全然喋れていないし。

 

 

「じゃあ実際にやってみましょ~♪」

「は……?や、やるって何をですか……?」

「逆に聞くけど、何のためにこの講座に男の子と女の子がいると思ってるの?講義で習ったことを実践するために決まってるじゃ~ん♪」

「男って俺しかいないんだけど……」

「もちろん!零くんと雪穂ちゃんの、公開生シックスナインでお勉強だよ!」

「え゛っ……え゛ぇぇぇええええええええええええええええええええ!?!?」

「いや、そこは妹である私の出番でしょ!!」

「それはただの近親相姦のAVだからダメだよ!」

「「「「…………」」」」

 

 

 いやそれ以前にこの講座自体がAV相当だろ、と心の中で同時にツッコミを入れた俺たちだった。

 この講座ではいつものことだが、ことり先生は下ネタも猥談も日常会話のように自然と話しやがる。普段は海未に牽制されていて抑えていた力を、今はここぞとばかりに発揮する。その結果、雪穂と亜里沙は何もしていないのに己の羞恥心で爆発しそうになっているが。

 

 

「ちなみにだけど、やるまで一生ここに閉じ込めておくからね!ほらどっちが上でどっちが下になるの??本当はことりが零くんのお相手をしたいんだけど、先生という立場上生徒に手を出す訳にはいかないから、仕方なく譲ってあげるんだよ。だから生半可なイカせ方じゃあ許しません!!」

「零君、どうすればいいんですか……?」

「こうなったことりはもう止められないんだ。仕方ない」

「お兄ちゃんやけに落ち着いてるね。もしかして、やったことあるのシックスナイン?」

「ねぇよ!!悟りでも開いてねぇと、ツッコミで俺の脳までパンクしそうなんだ!!」

 

 

 この状況でまともな精神状態でいられたら、俺の冠する変態の名を譲ってやってもいいぞ。毎回ことりへのツッコミから淫語連発によってショートした子の介抱まで一手に引き受けている俺を、みんなどうか労わって欲しい。

 

 

「あのぉ~本当にやるんですか……?」

「やるしか切り抜ける方法はないぞ」

「とか言っちゃって、零くんも期待してるんじゃないのぉ~?」

「うぐっ!そりゃあ若干役得だとは思ってるよ」

「私、絶対にやりませんからね!!」

「あとから何でも1つ言うこと聞いてやるから、ここは我慢してくれ。でないとガチでことりに犯される……」

「大丈夫!ことりは零くんから攻めてもらう方が大好きなんだから♪よほどのことがない限り、こっちからは手を出さないよ」

「どの口が言ってんだ……」

「零くんをアレをおしゃぶりするためのおクチでだよ♪」

 

 

 普通の話をしていても、いつの間にか猥談になっている謎事態。何を言ってもエロい話題に変えられるのはいつものことだが、この講座になると猥褻話への変換率が爆発的に上がる。講座とは名目で、単に自分が楽しみたいだけなんじゃねぇかコイツ……。

 

 文句を言ってもこの講座は終わらないので、俺は仕方なく敷かれていたマット上に仰向けで寝転んだ。雪穂も腹をくくったのか、ゆっくりと俺の身体の上に跨り、下半身に向かって顔を降ろしていく。そうなればもちろん彼女の下半身が俺に近付いてくる訳で、スカートの中の白いショーツが丸見えになっている訳で!!

 

 俺は思わず唾を飲み込んだ。目の前で女の子が自ら脚を開いてくれている、その光景だけでも下半身が成長してしまいそうになる。しかも相手はあのクーデレ系の雪穂、興奮しない訳がない。こんな体勢だけどおしりを見られまいと高く突き出しているのが逆に微笑ましく、内腿あたりにじんわりと汗が滲んでいるのがこれまた艶めかしさを感じさせる。

 

 

「おぉ~!生で見ると、案外エロいねその格好。お兄ちゃんも雪穂も似合ってるよ♪」

「褒められても嬉しくないよ!もう離れてもいいですよね!?」

「ちゃんとお互いの性器を舐め回さないと実践じゃないでしょ!ほら早くズボンもスカートも脱いで!下着も邪魔だよ!!早く早くぅ~!!」

「お前、勉強のためとか言ってるけど、ただ自分が興奮したいだけだろうが」

「そうだよそうですよ悪い!?ことりはね、零くんと雪穂ちゃんがエッチしているところを見てオナニーに耽りたいだけだよ!!そして場が暖まってきたら、こっそりと侵入して3Pをしようと思っていたり……だから早く始めて!!」

「ようやく本性を現しやがったなこの淫乱鳥め。ていうか、何故逆ギレされてんのか全然分かんねぇんだけど……」

 

 

 やっぱ結局自分の性欲を発散したいがための講座だったらしい。俺たちのこの体勢を見ただけでも既に頬を染めて興奮気味になってるっていうのに、これ以上の行為をしたら亜里沙とは別の意味で気絶してしまうんじゃねぇの?楓は楓で興味津々でこっちを見てニヤケてるし。味方がいない恐怖の中、俺たちは今からお互いの性器を舐め回し合うのか……。

 

 俺も男だ、もちろんやってはみたい。だけど俺は誰かに導かれたエロよりも、自分から欲望に任せて攻め上げるエロが好きなんだ。今回みたいにことりが用意した舞台、シナリオで淫行をしてもあまり興奮しない。真の性欲は女の子を完全支配下に置いたその瞬間。その時こそ俺の興奮は最高潮となるのだ。

 

 

「いやぁこうして見ると、"オーラルセックス"もいいものだねぇ~」

「お、オーラル……?」

「あれ雪穂ちゃん知らないの?じゃあこれも解説だね」

「俺たちこの体勢のままかよ……」

「ことりが解説している間、2人はお互いの性器を舐め合っていていいよ♪」

「「やらない!!」」

 

 

~Second Word~

《オーラルセックス》

 

 

「"オーラルセックス"とは、歯や唇や舌や口腔を駆使して行う性行為全般のことだよ。別名で"口内性交"とも言うね。ちなみにさっきの"シックスナイン"は、この"オーラルセックス"の一種なのです」

「も、もう亜里沙、保健室に行って寝てますね……」

「あっ、復活したんだ亜里沙ちゃん。だったらちゃんと最後まで受講していかないとダメだよ!!亜里沙ちゃんにも後でオーラルセックスを体験してもらうから♪」

「ふぇ~~ん!!」

 

 

 ことりはこっそり部室から出ていこうとした亜里沙を抱えて、ホールドしたまま自分の膝に座らせる。字面だけで説明すれば微笑ましいが、ことりの顔は黒さ満点なので騙されてはいけない。

 

 そして新たな用語が解説されてしまったことで、復活したての亜里沙も実践の参加が決定してしまった。まあこの講座に強制参加させられている時点でタダでは帰れないことは確定事項なのだが、今にも羞恥心で破裂しそうな子をエロの海に突き落とすことりの黒さには、もう目を背けるしかない。既に完治不可能な境地に達してしまっているからなコイツは、更生させようよ思うこと自体が愚行だ。

 

 

ことりは更に追い討ちをかけるためか、亜里沙の耳元で囁くように解説を続ける。

 

 

「"オーラルセックス"は"シックスナイン"の他にね、男性器を口腔などで愛撫する"フェラチオ"や"イラマチオ"、女性器を口唇などで愛撫する"クンニリングス"、そして"アニリングス"などのプレイに分類されるんだよ」

「知らない単語ばかりですけど、何故か顔が熱くなってきます……」

「え~!だってほとんど以前の講座で取り上げたじゃん!あっ、さては予習不足だね亜里沙ちゃん。こうなったらお仕置きだよ~♪」

「ぷっ、あはははははははっ!!くすぐらないで――あはははははは!!」

 

 

 亜里沙はことりのくすぐり攻撃に、涙を流しながら悶え苦しむ。あの純粋でおとなしい亜里沙がここまで大声を上げるってのも珍しいが、これも彼女の興奮を引き立たせる一種の作戦なのだろう。その程度で彼女が淫行に乗ってくれるとは思えんが、純粋が故の堕としやすさは確かにある。

 

 一年半前の()()()()の時もそうだったが、ことりって笑顔で人を陥れるのが上手いよなぁ。今はそんな感心をしている場合ではないけども。

 

 

「雪穂は全部知ってたの?さっきことり先輩が言ってた単語」

「さ、最後のだけは知らない……」

「最後のって"アニリングス"のことか。じゃあ他はしっかり予習をしてきてるんだ」

「違うよ!!」

「じゃあどこで覚えてきたのかなぁ~?」

「楓までそんなことを……もう怒るよ!!」

「いや既に怒ってるじゃん!」

 

 

 俺の上に跨りながら、変わらず顔を真っ赤にして怒りに吠えている雪穂。姉の穂乃果とは違ってそのような言葉にある程度の知識はあるみたいだ。穂乃果はああやって淫乱面しているが、知識はないビッチ系素人みたいな感じだからな。そう考えれば雪穂はむっつり系?意外とそのような知識を知っていたことに驚きなんだが……。

 

 

「せっかくこの講座に来てるんだから、知らないことは全部覚えて帰った方がいいよね!だから解説しちゃおー!」

 

 

~Third Word~

《アニリングス》

 

 

「"アニリングス"はオーラルセックスの一種で、肛門に口をつけ舌や唇、歯などで性的刺激を与える行為だよ!まあいわゆる"アナル舐め"で、零くんが好きそうなプレイだね♪」

「おい勝手に決めんな!!」

「えっ、お、おしりを舐めるんですか……?」

「そうだよ!だからお兄ちゃんのために、雪穂も亜里沙もちゃんとアナニーをしておかないとね」

「あ、あな……?」

「おしりを使ってオナニーすることだよ――って、私に解説させないでよぉ~♪」

「全然ノリノリじゃんお前も……」

 

 

 ここまで淫語が大安売りかのごとく連発された講座が、かつてあっただろうか?いや、ない。ていうかあっては困る。淫語の紹介と解説の回数も過去最大だし、尺さえあれば無尽蔵に続けられそうだなこの講座。

 

 そして、俺がおしり好きってのはどこから漏れた情報だ?確かにおしりは好きだけど、女の子の部位ならどこでもOKみたいなところは男なら誰でもあるだろ。なにもおしりフェチな訳じゃないからね。

 

 

「それじゃあシックスナインはできないみたいだから、アニリングスで我慢してあげるよ♪」

「我慢してあげるよって、それやれってことか……?」

「そうそう♪ほら零くん、雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんのおしりのアナを舐めてあげて」

「「ふぇっ!?!?」」

「そんな軽い感じで無茶を言うなよ……。流石の俺でも結構レベル高いぞそのプレイは」

「だったら私のアナを舐めさせてあげようか、お兄ちゃん♪」

「それは近親相姦のAVになるだけだからダメ」

「お前のエロの境界線がよく分からん……」

 

 

 "シックスナイン"と"アニリングス"はOKで"近親相姦"がNGとは、ことりの中でどのような線引きがなされているのか。もしかしたら"近親相姦"だと自分が参加する余地がないから、敢えてドライに回避しているのかもしれない。どちらにせよことりとヤるか楓とヤるかの二択になるのだが、そんな幸せな選択ができるだけでも喜ぶべきなのかもしれない。だがこの状況だけは全く喜べないけど……。

 

 

「あっ、もう尺がない!もぉ~零くんたちがモタモタしてるから、全然実技できなかったよぉ~」

「実技なんてしたら消されるからな。色々と消されるから」

「仕方ないなぁ。それじゃあこの講座が終わったあとに、ことりがみんなの前で直々に実践してあげるから。もちろん零くんと一緒にね……きゃ♪」

「海未ちゃんたちが"講座"って言葉を聞いただけで、げっそりとしていた理由が分かった気がします……」

「亜里沙もです。とりあえず今日は帰って寝ようかと……」

「私は結構楽しめたけどね♪」

 

 

 強制的に部室に連れ込まれ、淫語の知識を脳に焼き付けるように押し付けられ、無理矢理にでも実技をやらされ、終いには暴れるだけ暴れて勝手に終わる――――やりたい放題だな全く。

 

 どんな知識も覚えておいて損はないと言うが、この講座の知識だけは覚えない方が逆によかったのは言うまでもない。これを機に淫語に興味が出て、そこからズブズブとピンクの世界に堕ちていくのを避けることができるのならばな。

 

 

「今日は"69(シックスナイン)"と"オーラルセックス"、そして"アニリングス"の3つを勉強しました!この講座が終わったらすぐにテストをしますので、今のうちに解説できるようになっておかないといけませんよ!」

「は?テストだぁ?」

「実技を絡めた、先生も参加型の乱交風のテストだから♪」

「"風"じゃなくて、ただの乱交だろそれ!」

 

 

 改めて分かったよ。もうただヤリたいだけの淫乱ビッチちゃんだなコイツ。見た目はこんなゆるふわ系なのにこの股の緩さ、ファンの人たちが見たらどう思うのだろうか。もはや1年前の天使の面影など、今は見える気配もない。いい意味でも悪い意味でも、人間って豹変できちまうんだな……。

 

 

「それでは本日の講座はここまで!次もまた()()()のウブさが露呈したその時に、補習が開かれるかもしれませんよ♪ありがとうございました!」

 

 

 なにやら不穏な発言を残し、ようやく第4回の講座は閉幕した。

 強制ではないけどエロにあまり耐性のない人は、今回学んだ単語を検索しない方が身のためだぞ。受講している時点でそんな人はあまりいないと思うが一応ね。

 




 今回出てきた淫語の中で、1つでも知らない単語があった場合は要復習です。ちなみに全部知っていた人は感想欄にて私に教えてください、特別変態賞をあげます(笑)

 前書きでも語りましたが、いつの間にかこの小説の大人気シリーズとなっていたことりの講座回。このシリーズはことりを一番淫乱に描け、更に淫語を躊躇なくバンバン言わせることができるので、個人的にもお気に入りです(笑)

 ことり先生が最後に怪しい発言を残していきましたが、恐らく今回で終わりになるかなぁと思っています。作中がもう2月で、零君たちが3月で卒業してこの小説が一区切りとなるので。


 次回は希の個人回(の予定)です!



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

希と真夜中の車内事情

 今回は希回となっています!
 案外普通な話に出来上がったと思います(?)


 

 俺はあまり景色を見て感動する人間ではない。

 夜景が綺麗に見えると謳っているスポットへ行こうとも心が揺れ動かないのは、単純に俺の純粋さが失われているからだろうか。ならお前が神秘的に見えるものは何かって?そりゃあ女の子の身体に決まってるだろ、いちいち言わせないで欲しい。

 

 そんなことを思いながら俺は車の助手席に乗り、窓から夜の街をぼぉ~っと眺めていた。それよりも俺はあることに気が散ってならなく、素直に夜景を見ることもできないのだが。

 ちなみに運転席には我が恋人の1人である希が乗り込み、慣れた操作でスイスイと運転をこなしていた。

 

 

「それにしても、免許取り立てでいきなり誰かを助手席に乗せて運転するかね」

「逆に1人やと不安やん?今まではずっと指導員が傍にいてくれてた訳やし」

「何でもそつなくこなすお前なら問題ないかもだけど、やっぱ初心者ドライバーの助手席は怖いんだよ」

「え~なんでなん!心配せんでええのに!」

「初心者のくせに、免許取ってから一発目の走りが夜道ってどういうことだよ!心配するに決まってんだろ!」

 

 

 話の流れから分かってもらえる通り、希は先日自動車の運転免許を取得した。それで今日、突然「一緒に街の夜景を見に行こ!もう車で零君の家の近くまで来てるから!」と断る暇も与えずに予定を決められてしまったのだ。別に断るつもりはなかったのだが、どうして彼女たちは予定を立てる時こうも俺の退路を断つのだろうか。そんなに俺のことが好きか?そうなんだと納得しておくしかない。

 

 希のドライブテクニックは初心者とは思えないほどで、不自由そうな動作も一切なくて()()()()安心できただろう。こんな夜の時間帯で、免許取り立て一発目のドライブじゃなかったらな。他の車の通りも決して少なくないため、視界が悪いことも相まってか気になって夜景どころではなかった。

 

 

「免許を取ったら、まずは零君と一緒にドライブデートしたいと思ってたんよ。絵里ちもにこっちもまだ免許は取ってないし、誰よりも先に零君とこうしたデートができるって、ちょっと優越感やん♪」

「やっぱそういうのあるのか女の子って」

「もちろん!みんなのことが大切なのは当然やけど、それを度外視してでもちょっとでも長く零君と一緒にいたいって欲は誰にでもあると思うよ」

「ふ~ん、初めて知った」

「12人も彼女を持つハーレム野郎なんやから、それくらいは認識しておかなあかんよ」

「ハーレム野郎ねぇ~」

 

 

 もちろん俺が凄まじいハーレム環境で生きているっことは自覚している。俺はそんな環境で満足しているが、彼女たちにとってはどうなのだろうとたまに考えてしまうこともある。希の言っていた通り、やはり少しでも俺と一緒にいる時間を作りたいと誰しもが思っているのだろう。俺としてもみんなと平等に接したいが、12人もいる上に同じクラスの穂乃果たちや妹の楓との付き合いの方がどうしても多くなってしまう。もう1年半前のような惨劇は訪れないだろうが、だからこそ恋人たちの気持ちを受け止め、このようなデートは俺が先導して楽しませてやるべきなのだろう。

 

 とは言っても車を運転しているのは希なので、このデートの主導権は既に彼女に握られている訳だが。

 希はいつものおさげの髪型とは違って、去年卒業式で結んでいた髪型(なんて名前か知らん)をしている。これが彼女の本気というか、勝負髪型なのだろうか。初見で見た時からめちゃくちゃ綺麗だと思ったので、個人的にはドストライクだ。車を運転してその髪型だと、ますます大人っぽく見えて母性が感じられる。

 

 

「まぁせっかく誘ってくれたんだし、欲求不満で帰らせる訳にもいかねぇよな」

「よ、欲求って、零君またそんなことを……」

「えっ?いや、別に欲求って言葉に元々変な意味はないだろ。どんな想像したんだぁ~純情少女希ちゃんは。たまにそういうとこ乙女チックで可愛くなるよな」

「か、かわっ!?もう零君いつもいきなりすぎ!!」

 

 

 希は炎が灯ったかのように、顔面がボッと赤く染まる。

 そうそうそういうところなんだよコイツの乙女チックな部分は。いつもは余裕ぶって他のメンバーにわしわしするほどの積極性と悪戯心を見せるが、いざ自分の心がくすぐられるとメンタルの弱さを見せる。見た目のお姉さんっぽさに対してそのギャップがあるからこそ、余計に純情さが際立っているのだろう。

 

 

 そんなことを考えつつも、再びの希の顔に目を向けてみると――――

 

 

「お、おいっ!!前を見ろ前!!」

「えっ、あっ、ご、ゴメン!!」

「なにぼぉ~っとしてんだよ!さっき自分で心配するなって言ってたろ!」

「零君に可愛いと言われたのが久しぶりやったから、ちょっと舞いがっちゃって♪」

 

 

 もしかしたらだけど、希は花陽や亜里沙と同程度かそれ以上に純情乙女なんじゃないかと今更ながらに思う。見た目ではエロに寛容な雰囲気だけど、時折垣間見えるウブさがこれまた男心をくすぐられるんだよ。可愛いと言われて謙遜する訳でも自慢する訳でもなく、ただただ顔を赤くしてたじろぐ。そんな姿がまさにピュアっぽい。もちろんエロに積極的な部分はあるから、純白天使ではないのであしからず。

 

 だが純粋な反応で取り乱して、正面の車と衝突するのだけは避けて欲しいが……。

 

 

「そうそうウチ夕飯まだやったから、そろそろどこかで一服でもしたいなぁ」

「俺はもう食ってきたんだけど。そして今から風呂って時に呼び出されて……」

「それはさっき謝ったから許してよ~。でもそれならそんなガッツリと食べなくてもええってことやね」

「まあそうだけど。じゃあ適当にファミレスとか?」

「いや。ウチ零君と車で一緒に行きたいところがあるから、そこに付き合ってくれる?」

「へ……?」

「フフッ♪」

 

 

 何やら不敵で悪戯な笑みを(ほの)めかす希。

 まさかこんな深夜に妙な心霊スポットで食事とか、このスピリチュアルガールなら普通にやりそう。確か霊感が強い体質で本人もその手の話は大好きだと聞いたから、車で変なトコへ連れて行かれる可能性は無きにしも非ずか。こんな冬場に夏の風物詩を持ってくるのはやめてもらいたいんだがなぁ~。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「お待たせ~!この時間やとお店混んでなくて助かったわ~」

「なあ、まずこの状況を説明してくれ」

「ん?車の中で一緒にお食事すること?」

「それだよそれ!どうして車内飲食なんだ旅の途中かよ!!」

 

 

 深夜のデパート前の駐車場。他の車とは少し離れた場所に俺たちの乗っている車が位置している。

 ここに訪れた時、てっきりデパート内のレストランにでも飯を食いに行くと思っていたのだが、希は俺を車内に残してそそくさと1人で何かを買いに行った。そして帰ってきた彼女の持ち物を見てみると、世界に名を連ねるハンバーガー主体のファーストフード店の紙袋が握られていたのだ。

 

 仮にも大学生と高校生、しかもカップルでの夜デートだっていうのに、まさかこんな形で晩飯を取るなんて思ってもみなかったぞ。もっとほら、オシャンティーなレストランでムード満点で優雅なひと時とかあるじゃん。既に夕食済みな俺への配慮なのか、それとも――――

 

 

「だってせっかくのドライブデートなんやから、車内飲食も一興やない?こうした若者チックなことするの、ウチやってみたかったんよ!」

「若者ってお前もバリバリの若者だろうが……。まあいいや、そこまでガッツリ食べられる訳でもないし」

「でしょ?そう思って零君の分は少なめにしてきたから」

「配慮があるのかないのか、どっちか分かんねぇな」

 

 

 どちらにせよ、希がこれで楽しんでくれるのなら断る理由は一切ない。正直さっきから車内に漂うハンバーガーやポテトの香ばしい匂いが、俺の腹の虫を僅かだが活性化させている。ファーストフードってのはいつ食べても一定の旨さがあるから、長い歳月を掛けて無意識の間に身体が覚えてしまっているものだ。それに触発されて食欲も少し湧いてきた。

 

 そしていつの間にやら、俺は紙袋からテリヤキのハンバーガーを手にとって口に含んでいた。久しぶりに食ったからだろうか、まるでお袋の味を彷彿とさせる謎の懐かしさを感じる。この劇的な味の濃さもファーストフードの魅力だろう。口内が完全にテリヤキの香味とハンバーグの肉汁で支配される。

 

 

「やっぱウチはお高くまとまったレストランよりも、こうして雑食で生きている方が自分らしいって思えるな~」

「庶民派かよ。まあ俺もこっちの方がリラックスできていいけども」

「そうそう。μ'sにはいいトコのお嬢さんが多くて、ウチの肩身が狭いんよ。真姫ちゃんはもちろん、絵里ちたち絢瀬姉妹に海未ちゃん、ことりちゃんもそんな感じやし」

「むしろお嬢様なほどこんな飯に憧れね?絵里や亜里沙なんて、回転寿司ですげぇテンション上がってたぞ」

 

 

 対して俺たちは"THE 庶民"。1億のダイヤと模造品のダイヤを同時に見せられても区別がつかず、回転寿司で回るマグロも養殖モノで満足してしまうくらいの庶民。だが俺はそれでもいい。俺にとって一番の高級品は、μ'sの彼女たちなんだから――――うわ、めっちゃカッコイイこと言ってるぅうううううう!!

 

 

「あっ零君、頬っぺにソースついてるよ」

「マジで?車内が暗すぎて手元すら怪しい状況だからなぁ」

「ほらこっち向いて、拭いてあげるから」

「あ、あぁ……」

 

 

 俺は首を右に回転させて希の方を向くと、既に彼女はハンカチを持ってスタンバイしていた。まるでこの状況になることをあらかじめ想定していたような、そんな気がする。まさか狙ってた……とか?

 

 しかし意外にも周りは暗く、車を止めている場所もデパートから結構離れた位置なため、建物のネオンの輝きや街灯の光は全くと言っていいほど当たっていない。それゆえか車内はお互いの表情がギリギリ確認できるかできないか、目を凝らさないとパッと見では分からない状態だった。

 俺はハンバーガーを食すことを忘れ、迫り来る彼女の顔をじっと眺める。暗いと言っても流石に隣同士にいるためある程度の距離感は掴める。迫り来る希。

 

 

 そして、俺の頬に彼女のハンカチ――――――ではなく、温かい人肌を感じた。

 

 

「お、お前、まさか指で……!?」

「そのまさか。零君の頬っぺについたソース、美味しいなぁ~♪」

「俺の頬は関係ないだろ……」

「いや、()()()()()()()()()()()()()()()やから美味しいんよ!フフッ♪」

 

 

 とても嬉しいセリフなのは間違いないのだが、周りの暗さとこの冬の寒さのせいで何故か一瞬背中がゾッとしてしまった。どうやらヤンデレ風のセリフに身体から敏感になっているらしい。穂乃果やことり、楓から執拗な寵愛を受けていれば、そうなるのも仕方ないか。

 

 そんなことよりも頬についてしまったソースを指で拭ってペロッ、だなんてデートの定番に、俺は柄にもなく心臓が高鳴っていた。彼女の行動が計算されたものなのかそうでないのかはどうでもいい。真夜中で2人きりの密室空間という素晴らしいシチュエーションの中であれば、恋愛マニュアルに書かれていることをそのまま実行されるだけでも大いに心が揺れ動く。更に周りが暗いためか、逆に俺の目に映るのは彼女の笑顔だけだ。だからこそその明るい笑顔がより際立って見えて、思わず俺もたじろいでしまう。

 

 

「あぁ!?手が滑っちゃったぁ~」

「なっ、うぉっ!?」

「あ~あ、また頬っぺにソースついちゃったやん♪」

「お、お前なぁ……」

 

 

 どう聞いても、これ見よがしの棒読みにしか聞こえなかったんだがそれは。

 これもあらかじめ考えていた作戦なのか、希は指に付着させていたソースを俺の頬っぺに擦り付けてきた。そして自分で押し付けてきたのにも関わらず、俺の頬のソースを再び指で拭い自分の口に運ぶ。希は悪戯な笑顔を俺に向けながら、美味しそうに()()()()()を舐めていた。

 

 そして押し付けられたと言えば、さっきから腕に女の子の一番柔らかいところが密着していることに今気付く。いつの間にか希に腕同士を絡められ、彼女の豊満な胸を横から押し当てられていた。自慢の胸を自己主張するかのように、俺の腕に当たっている胸は彼女が少しでも動くと変幻自在に形を変え、そのボリュームを存分にアピールしている。

 

 

「お、おい……」

「零君も期待してたんと違うの?こんな真っ暗な車内の中で、愛する人と2人きり。それでドキドキしない方がおかしいやん」

 

 

 さっきまでデートを楽しんでいた純情少女の声じゃない、大人っぽいねっとりとした声が俺の耳をくすぐる。その巨乳を当てられているだけでも欲情モノなのに、そんな淫猥なボイスで誘惑されたら性欲リミッターがみるみる上昇してしまう。真夜中、2人きり、野外、車内――――今まで体験したことのない要素も相まって、俺の性欲が高まっていく。

 

 極めつけに、希は俺の右手を取って自分の胸に――――勢いよく押し当てた。

 

 

「んっ!ど、どう?ウチの心臓もすごくドキドキしてるって、伝わる……?」

「あ、あぁ……」

 

 

 そう呟いてしまったが本当のところ、あまり伝わってはないかった。俺が感じられるのは、久しぶりに触った希の果実の感触だけ。もう無心で指を蠢かせ、彼女の胸に食い込ませていく。その間に耳に入ってくる彼女の小さな喘ぎ声と吐息が、更に俺の性欲を加速させていった。

 

 

「えっ?!れ、零君!?」

 

 

 無意識だった。おもむろに助手席から立ち上がり、運転席に座っている希の膝の上に跨ったのは。

 改めて見て分かる彼女の極上ボディ。一体どんな奇跡が起こってこんな男を欲情させるだけの身体つきになったのか、甚だ疑問が残る。男に触られるのに最適な胸と身体。男が求める理想の女性のボディそのもの。

 

 俺はもう我慢できず、両手で彼女の胸を貫くかのような勢いで揉み始めた。本来ならキスや下着越しの肉壷攻めなどの軽いジャブを入れるところだが、今の俺はもはや性に飢えた獣のように彼女の胸を貪り弄る。

 

 

「はぁ、あんっ!あっ、そ、そんな激しっ!ひゃあぁぁ……!!」

 

 

 このデート自体、彼女が主導権を握っていた。特にさっき頬につけられたソースだなんて、まさに彼女が敷いたテンプレのレールに乗せられているようで、ドキドキしたけど不満足な部分もあったんだ。

 

 だけど今は違う。

 完全に俺の手に主導権が握られ、男に犯されるだけ、いや()()犯されるだけに生まれてきたこの身体を存分に堪能することができる。しかもここは車内、そこまで大きな車ではないためシートに座っている希はほどんど身動きが取れない。

 

 そしてこの状況。真夜中で人目がつかない離れたところにある駐車場。車の中で女の子に馬乗り、性欲の思うがままに破廉恥行為。

 

 

 カーセックス。

 

 

 性行為と言えるほど俺たちのプレイはまだ濃くないが、カーセックスの名くらいなら準じてもいいだろう。μ'sのみんなとは今まで幾度となく破廉恥行為をしてきたが、車内でこのようなオトナのプレイをするのは初めてだ。そして卑猥な行為に対する"初めて"ほど興奮するものはない。俺はそんな気持ちを無意識の内に秘めながら、彼女の胸を力強く攻めあげていた。

 

 

「ひゃっ、はぁぁ……!ふぁ、んあっ……!」

 

 

 希の淫声が車内に響く。もしかしたら外に聞こえているかもしれないが、それでも別にいいだろう。むしろ聞かせてやれ、お前の可愛い声を。私は彼氏に為すがままにヤられて、気持ちよくよがってしまう淫乱だと見せつけてやるんだ。お前が俺のモノであるって証をもっと、もっと……!!

 

 あまりにも暗すぎるためか、希の表情はあまり見えない。俺が胸に執心なせいでもあるが、彼女の様子はほとんど声だけで察していた。それでも俺は分かる、彼女がカーセックスで悦んでいることくらいは。セックスほど大層なものではないのだが、今の俺たちのとってはこれほどまでにないほど至高なプレイ。

 

 互いの顔がよく見えないからこその興奮、もしかしたら車の周りに誰かがいるかもしれない緊張感、気持ちよすぎて身体をよじらせたいけど身動きが不十分しか取れない密室空間。俺はカーセックスの醍醐味と魅力を一心に感じながら希の、いや俺のモノである彼女の胸ばかりを猟奇的に弄り続ける。

 

 

「ひゃぁ……あっ!あっ、あぁっ!!」

 

 

 女の子の喘ぎ声はどうして俺の嗜虐心をここまで揺さぶるのだろうか。別に答えは求めていない。ただ興奮が高まりさえすればそれでいい。この手で女の子を堕としている、その事実から快楽さえ感じられれば満足できるからだ。

 

 もはやただ喘ぐだけのダッチワイフにしか見えない希。そんな彼女に俺は身体を、具体的には下半身をより密着させる。雌の嬌声によって肥大化した雄の象徴がズボン越しに、彼女のスカート越し、つまり雌の象徴の部分へと触れる。もちろん衣類を挟んでいるので挿る訳がないのだが、気分と雰囲気だけは存分に味わえた。

 

 よし、そろそろフィニッシュさせてやるか。これから運転して帰らないといけないのに、イキ狂って気絶しちまったらここで野宿するはめになってしまう。

 

 

「希、舌噛むなよ」

「へ……?ちょっと――――んんっ!!」

 

 

 俺は強引に希の服を脱がすと、下着をずり上げて生の胸を顕にする。そして両手でその巨大な果実を掴むと、親指と人差し指で乳首を形が変化しそうなくらいの力で摘み込んだ。同時に適度に膨らんだ下半身を、スカート越しの大切な部分に向かって突き刺すような勢いで密着させる。

 

 擬似挿入の勢いは初めてだったのだろう、暗闇の中の希の顔が緩みに緩みきっているのが見えた。

 そして――――――

 

 

「あっ、あ゛ぁああああああああああああああああああああああああああ♪」

 

 

 希の本気の嬌声が車内にエコーするくらいに響き渡った。

 えらく敏感な身体をしていることで、他のμ'sのメンバーもそうだけど普段から1人エッチを欠かさないようだ。俺を楽しませるためにそこまで乱れてくれるとは、流石ハーレムメンバーの鏡。主人を喜ばせるためならなんでもしてくれるんだな~。

 

 

 その後、希は本当に疲れてしまったらしく車内のシートを倒して眠ってしまった。

 こんな極寒の真夜中、1人で残された俺の心の寒さを考えて欲しくはあったが、こうなってしまったのも自分のせいなのでここはぐっと堪る。

 そんなことよりも、彼女の気持ちよさそうな寝顔を覗き込みながら、俺はまた誰かとドライブデートしたいなぁと徒然なるまま欲望に満ちた想像を膨らませていた。

 

 

 もちろん、俺が望んでいるのは()()()()()()()()()()なのだが。

 

 

 しかしこれからずっと、カーセックスの緊張感による刺激を忘れられそうにもない。

 




 いつもは薄い本によくあるようなエロ行為だったので今回はちょっと大人っぽく、表現も緊迫感のある雰囲気にしてみました。残念ながら私はカーセッ○スの経験がないため、車の中特有のプレイがあると知っている方は是非教えてください(笑)

 そして残る個人回はシスターズの3人だけとなりました。一応最終回までには秋葉さん回やA-RISE回、サンシャインの残りのメンバーメインの特別編も投稿するつもりです。


 次回は久々に花陽主体のまきりんぱな回を投稿予定。エロとギャグを程よく融合させた話になると思われます!


新たに高評価をくださった

ずらまるヨーソローさん、一向一揆さん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

純情魔法少女花陽ちゃん!(淫乱化)

 今回は唐突にやってみたくなった魔法少女モノです!(2部構成)
 内容は読む人によってはそこそこ気分を害するかもしれないので、危ないと感じたらそうなる前にブラウザバッグ推奨。


 

「花陽!淫魔が出たわよ!」

「かよちん!あそこっ!」

「うんっ!花陽、行きます!!」

 

 

 学院の女子生徒に憑依し、その人を淫乱へと変貌させてしまう通称"淫魔"。

 私、小泉花陽は人知れずその淫魔と戦う――――

 

 

「変身!!」

 

 

 ――――魔法少女なのです!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁ~今回も弱っちい淫魔ばかりで、敵のしっぽを掴めなかったにゃ~」

「そうね。最近被害も広がってきてるし、敵の親玉の情報を早く掴まないと……」

「そうだけど、あまり煮詰めすぎるのは身体によくないよ。ほら、お弁当食べよ」

「そうだね!お昼休みを無駄にしなかっただけでよしとするにゃ!」

 

 

 お昼休み前。とある女子生徒が淫魔に変貌したという情報を聞きつけ、私はその淫魔を撃破、その子を元の純粋な子に戻すことができました。

 私と凛ちゃん、そして真姫ちゃんはこうして人知れず淫魔と戦い、音ノ木坂学院の平和を守っているのです。そのせいで授業や休み時間が無駄になってしまうこともあるけど、みんなを淫魔の手から助けられるのは私たちしかいません。だから私たちは戦う、理由なんてそれだけで十分なのです!

 

 

「あの淫魔はまだ弱かったけど、ここのところ力が強まってきているのは確かだわ。こちらも油断しないようにしないとね」

「この凛がいれば大丈夫!しっかりかよちんをサポートしてあげるからね!」

「うんっ、ありがとう!」

 

 

 凛ちゃんと真姫ちゃんは魔法少女じゃないけど、1人で淫魔と戦う私を偶然目撃してからは共に戦う仲間となりました。2人の担当は淫魔の弱点を探ったり、周りの人の避難誘導、攻撃チャンスの見計らいなど、私の戦闘を的確に手助けしてくれます。初めは襲い来る淫乱少女たちに驚いていましたが、今では3人一丸となって淫魔を撲滅しているのです。

 

 "淫魔"――――女の子に憑依して、その子の性格をとてつもなく淫乱に変えてしまうという魔物。

 どこから来るのか誰によって操られているのか、その目的、どれもまだ全然分かっていません。1つ事実を上げるとすれば、淫魔が憑依するのは学院内の中でも美人または美少女と言ってもいいほど綺麗で可愛い女の子だということ。憑依された子はみんな"ご主人様"と呼ばれる存在に忠誠を誓うようになり、人前であろうが淫語連発、痴女行為すらも気にしない、常に発情した淫乱少女になってしまうのです。

 

 その"ご主人様"と呼ばれる存在が恐らく敵の親玉であり全ての元凶。今の私たちがすべきことはその元凶の居場所と正体を暴き、撃破すること。学院の自由と平和を取り戻すには、なんとしてでも早く敵の根城を探さないといけないのです。

 

 

「ん?携帯が――――あっ、淫魔が現れたわ!花陽、凛、行くわよ!」

「えぇ~!?まだお弁当食べてるのにぃ~!!」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ、ほら早く!!」

「3人で協力すればすぐに倒せるよ!すぐに戻ってくればまだお昼休みの時間あるから」

「う~仕方ない。この空腹の怒りを、全部淫魔にぶつけるにゃーー!!」

 

 

 こうして私たちの戦いは、真姫ちゃんの携帯に仕込まれた淫魔感知レーダーの反応によって始まる。淫魔特有の淫猥な雰囲気を認識できるみたいで、3人で戦うようになってから敵の発見が迅速になってとても助かってます。

 

 さっきまでふてくされていた凛ちゃんが真っ先に教室を飛び出していったのを皮切りに、私たちも淫魔の元へと走り出しました。え?あなたたちは生徒会役員だろうって?そ、それは緊急事態なので勘弁してください!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あはは!魔法少女っていうのはその程度なのぉ~?」

「うぅ、ほ、穂乃果ちゃん……」

 

 

 私は黄緑色の魔法少女衣装を身に纏い、現場で暴れていた淫魔の元へ辿り着いたのですが、相手はまさかの穂乃果ちゃんでした!スクールアイドルμ'sに一緒に所属し、頼れる先輩でもあり親友でもあった穂乃果ちゃんと、まさか戦うことになるなんて……。

 

 

「ほらほら、攻撃してこないと穂乃果から攻撃しちゃうよぉ~。花陽ちゃんも淫乱にしてあげるね♪常にお股を弄ってないと満足できない身体にしてあげる!」

「卑怯だにゃ!かよちんが攻撃できないと知って!」

「でも穂乃果の淫魔力は今までの淫魔の比じゃないわ。もし花陽がちゃんと戦えたとしても、果たして太刀打ちできるかどうか……」

 

 

 穂乃果ちゃんはバイオレットのパーカーにフードを被り、頭からはピンク色の角が生えている。そして背中にはコウモリの羽、おしりには悪魔のしっぽがスカートを押し上げ意志を持つようにぴこぴこ動いていた。顔はほんのり赤く染まっており、淫魔に憑依されて淫乱化しているのは間違いなさそう。

 

 でも2人の言う通り、今まで戦ってきた淫魔とは圧倒的に力の差が歴然でした。私が親友を攻撃できないのも相まってか、穂乃果ちゃんの波動の前に屈することしかできません。

 

 

「んっ、はぁ♪ご主人様に開発されたおっぱいとお股、気持ちいいよぉ~♪」

「ほ、穂乃果ちゃん戦闘中に破廉恥だにゃ!!」

「こうすることで淫魔力が増幅されるんだも~ん!ひゃっ、あぁっ!!」

「この波動は淫魔力によるものなの!?凄まじ過ぎるわよこんなの!!」

「うぅ、どうやって対抗すれば……」

 

 

 穂乃果ちゃんは自分の手で胸と股を弄り、自ら絶頂に達しようとしている。このまま自分磨きを続けられてしまったら、穂乃果ちゃんの淫魔力が増大し確実に勝てなくなってしまう。私たちがやられたら、この学院の女の子たちがみんな淫乱に……でも一体どうすれば!?

 

 

 

 

「おいっ!大丈夫か!?」

 

 

 

 

 その声を聞いた私の心は、絶望から希望に変わりました。

 心に掛かっていた闇をかき消すかのように、天から光が差し込んできたのです。

 

 

「零!?」

「零くん!また来てくれたんだ!!」

「零君……」

 

 

 そう、()()彼が来てくれた。

 私たちがピンチに陥るとどこからともなくやって来てくれる、私たちの救世主である愛する人。その姿を見ただけで再び希望が持てる。今まさに淫魔と戦闘中なのに、胸がドキドキと高鳴って止まない。それくらい彼の存在は私の中で大きいのです。

 

 零君は倒れ込んでいる私に駆け寄り、肩を支えて抱きかかえてくれました。

 目の前に淫魔がいるっていうのに、私ってば心臓の鼓動が激しくなったまま止まりません!彼がこうして心配してくれるだけでも、魔法少女となり戦ってきてよかったと思います。

 

 

「花陽、お前そんなボロボロになって……。早く魔力を注入しないと!」

「は、はいっ!よろしくお願いします……!」

 

 

 私がよそよそしくなるのは自身の性格上なのですが、それ以上に身が引き締まってしまう理由があります。それは――――

 

 

「ほら花陽、少し口を開けて」

「は、はい……」

「いくぞ――」

 

 

 私の目に、零君の顔がどんどん大きくなって映っています。零君も私と同じく僅かに唇を開き、そのまま私の唇と――――優しく触れ合わせました。

 

 そう、これが魔力を注入する方法。零君からキスをされると、何故か私の身体は大量の魔力で満ち溢れるのです。魔法少女は魔力によって活動する魔法使い、魔力が切れたらもちろん淫魔とは戦えません。ですが彼がいればその魔力が切れる心配もないのです。

 だから私の救世主。今まで何度か手ごわい淫魔との戦闘中に魔力が切れかけて諦めそうになったこともありました。だけど彼がいてくれたから、私はここまで戦ってこられたのです。

 

 

「はぁ……んっ、ちゅ……」

 

 

 零君の唇の熱さを感じながら、私は彼からの口付けを全身を使って受け入れます。身体をくねらせ、お互いの唇がより密接に絡みつくように。あまりの熱さに脳がとろけそうになるけど、それでも私はキスをやめない。彼から流し込まれる唾液を身体に含むと、心から魔力が湧き上がってきます。同時にあまりの快楽に頭がぼぉっとしてきちゃうけど、彼の腕の中で気持ちよく意識を失えたのならそれはそれで本望ですかね……?

 

 

「あわわ、いつ見ても零くんとかよちんのキスは激しいにゃ~……」

「激しい方が魔力の注入も早いって言うから、仕方ないんでしょ」

 

 

 うぅん、それは違うよ真姫ちゃん。私は自分の意思で零君を求めているの。だってこんなに気持ちいいことをしている上に魔法使いとして強くなれるなんて、嬉しいことだらけだもん!だからもっとたくさん零君からの愛を注いでもらって、どんどん淫魔を倒して、零君やみんなと平和に暮らせる日々を取り戻すんだ!

 

 

 そしてたっぷりと零君の愛(魔力)を受け取り、私たちは同時に唇を離した。再び徐々に見えてくる零君の顔。この時間が終わってしまうのは寂しいけれど、今は淫魔から学院の秩序を守るために戦わないと!女の子達が次々と淫乱になっていくのは、もう見てられない。そう、目の前の穂乃果ちゃんも――――

 

 

「お待たせしました!もう私は迷いません。穂乃果ちゃんを取り戻すために、あなたを撲滅します!」

「うぅ、さっきより強い魔力の波動を感じる。ここはどうするべきか……」

「かよちん!そのまま穂乃果ちゃんに憑依する淫魔をやっつけちゃえーー!!」

「相手が動揺している今がチャンスよ!」

「うんっ!」

 

 

 みんなからの声援は、私に底知れぬ力を与えてくれます。目の前の穂乃果ちゃんは穂乃果ちゃんであって穂乃果ちゃんではない。彼女に憑依している淫魔だけをやっつければ、いつもの純粋な穂乃果ちゃんに戻ってくれるはずです!零君のおかげで力も回復したから、ここからは私の独壇場で行かせてもらいます!

 

 だけど、戦闘に不測の事態は付き物と誰かが言っていました――――

 

 

 

 

「一旦引いて、穂乃果ちゃん」

 

 

 

 

「えっ!?!?」

「こ、ことりちゃん……。穂乃果たちの戦闘、見てたの?」

「そうだよ、ず~っとね。フフッ♪」

 

 

 突然戦場に現れたのは、不敵な笑みを浮かべていることりちゃんでした。

 ことりちゃんも穂乃果ちゃんと同じく、μ'sの中から淫魔に憑依されてしまったメンバーの1人です。頭には禍々しく光る真っ黒なカチューシャに短い黒い角。背中には黒とピンク色の羽が1枚ずつ生えており、何が嬉しいのかぱたぱたと軽く羽ばたかせています。しっぽも配色は同じで胴体は黒、先端はピンク。まさに自らの淫乱さを具現化しているようです。

 

 ここで、ここで私に旋律が走ります。

 ことりちゃんの淫魔の力は凄まじく、以前に一度戦ったことがあるのですが、零君からの魔力補給があっても引き分けに持ち込むのがやっとでした。だから相手に穂乃果ちゃんを加え2vs1で戦うのはあまりにも無謀だと直感的に悟ったのです。

 

 

「一旦引くってどういうこと?ご主人様からの命令は絶対なんだよ!」

「大量の魔力を得た花陽ちゃんは強いよ?ここで無駄に体力を消費するよりも、作戦を練って戦闘に挑んだ方がいいと思うけど」

「そっか。なら今日のところは引いてあげるよ花陽ちゃん!」

「えっ、ちょ、ちょっと待って!リーダーの穂乃果ちゃんが抜けちゃったら、これからμ'sの練習はどうなっちゃうの!?」

「穂乃果たちご主人様へのご奉仕で忙しいから、永久的にお休みね♪」

「え゛ぇっ!?」

「そういうことで魔法少女とその取り巻きのみんな、いずれこの学院がことりたちのご主人様の手によって制圧される日を心待ちにしておくといいよ!凛ちゃんも真姫ちゃんも、それに花陽ちゃんも、み~んなご主人様のモノになっちゃうんだから……。それじゃあね~♪」

 

 

 そう置きセリフを残すと、穂乃果ちゃんとことりちゃんは羽を羽ばたかせて飛び去ってしまいました。

 ことりちゃんクラスの淫魔がまた1人増えたとなれば、もうグズグズしている時間はありません。敵が行動するのを待つのではなく、こちらから仕掛けていかないと。手遅れになってしまったその暁には、この学院の女の子たちがみんな淫乱になっちゃう……。そんな破廉恥なこと、生徒会長であり魔法少女の私が絶対に阻止してみせます!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 穂乃果ちゃんが私の前に現れてから数日。妙なことに、あれだけ暴れていた淫魔が最近は全く顔を見せなくなりました。凛ちゃんと真姫ちゃんが捜査を進めていますが、まだその原因は分かっていません。

 出ないなら出ないに越したことはないのですが、ことりちゃんの発言を思い出すとそう気を抜いてはいられない。私を倒すために力を蓄えているとか、こっそりと淫魔を増やして戦力を増強させているとか、考えられることは色々ありますから。

 

 

 しかしそれ以前に、私の身体が違和感に包まれていました。

 

 

「なんだろう、最近身体が熱くなること多いな……。でも熱を測ってみたけど異常はなかったし、どうして……?」

 

 

 穂乃果ちゃんとの戦闘以降、こうして突然身体が熱くなる現象が多くなりました。身体の芯から吹き出るような熱さ。同時に微力ながらも性的な快感が全身を駆け巡ります。それは1日中いつ起こるか分からないので、恥ずかしながら授業中に思わず破廉恥な声が出てしまったこともありました。一定時間経てば元に戻るものの、戻った後もしばらく身体に残った快感に身を震わせるほどです。

 

 でもそれはそれで、少し気持ちよかったり……。

 私はちょっと魔が差して、廊下の真ん中で立ち止まり胸に指を当ててしまいます。

 

 

「んっ……!」

 

 

 想像以上の気持ちよさに、卑猥な声と共に身体がビクンと震えました。

 どうしてこんなことになってるんだろう。まさか純情魔法少女である私は魔力に守られているため、淫乱になる訳はないのですが……。

 

 

 

「かよちーん!身体の具合どーお?」

「あっ、凛ちゃん。大丈夫、今回はすぐに熱さも引いたから」

「そうなんだ、よかったぁ~!もしかよちんがダウンしちゃったら、淫魔と戦える人が誰もいなくなっちゃうもんね」

「そうなんだよね~。だから早くこの病気を治さないと」

 

 

 そもそも身に降りかかっているこの現象が病気なのかどうか、私は全く分かりません。お医者さんの卵である真姫ちゃんに聞いても「そんな症状は聞いたことがない」って言ってたし……。これ以上ヒドくなるようだったら病院に行ってみようかな?

 

 

「病気ねぇ……。そろそろ頃合いかしら」

「ま、真姫ちゃん……?」

 

 

 いつの間にか私の後ろに、真姫ちゃんが腕を組んで立っていました。その表情はいつもの冷静で整った顔立ちではなく、頬を緩ませ口角を上げた悪戯っ子のような表情。真姫ちゃんにそんな顔は似合わない訳ではないけど、普段あまりしない顔を見てしまったので多分私の方が変な顔をして驚いていると思います。

 

 それにしてもさっきの"頃合い"ってどういうことだろう……?

 

 

 そして私はまだ気付かなかった。廊下、私を挟むようにして凛ちゃんと真姫ちゃんが立っていることに。これではまるで私の逃げ道を防いでいるかのようで――――

 

 

「花陽。あなたここ最近身体が熱くなる症状に掛かってるわよね?」

「うん。だから真姫ちゃんにも相談したんだよ」

「かよちん。それって具体的にいつから発症したのか覚えてる?」

「えぇと、穂乃果ちゃんと戦闘した日の夜からだったと思うけど……」

「やっぱり!流石ご主人様だにゃ~♪」

「えっ、ご、ご主人様!?それに何の話をしているの凛ちゃん真姫ちゃん……?」

 

 

 ここで私の背中にぞわぞわと怖気と冷汗が走ります。

 凛ちゃんが言った"ご主人様"。その言葉は私が魔法少女になってから頻繁に聞くようになった――そう、淫魔たちが自分たちの親玉を呼ぶときに使う言葉。そしてもう一度凛ちゃんと真姫ちゃんの顔を見てみると、どちらも穂乃果ちゃんとことりちゃんと同じ不敵な笑みを浮かべていたのです。

 

 も、もしかして2人共――――!!

 

 

「うっ、か、身体が……!!」

「そろそろ本格的に効いてくる頃だと思ってたわ。ご主人様の魔力がね」

「そ、そんな……凛ちゃんも真姫ちゃんも……!!か、身体が熱い!!」

「それを我慢すれば、かよちんも吹っ切れることができるはずだにゃ!」

「うっ……!」

 

 

 それからの出来事はあまり覚えていません。身体が燃え上がるような熱さに、私がその場で気絶してしまったからです。

 

 

 凛ちゃん、真姫ちゃん――――――

 




 あぁ~クソいい展開だとは思いませんかこれ??
 前書きで忠告したおかげで批判する人はこの後書きを読んでいないはず。ということは、ここまで読んでくださった方なら賛同してもらえると……信じたい!

 ちなみに次回は純情魔法少女花陽ちゃん(快楽堕ち編)。これまでのネタばらしとガッツリとしたエロ展開は次回へ!


新たに☆10評価をくださった

ズコックさん、豆打サロさん、ことりちゃああんさん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

純情魔法少女花陽ちゃん!(快楽堕ち)

 快楽堕ちはいいぞ。今回言いたいことはそれだけです。
 前回以上に偏った描写が多いので、気分を害される前にブラウザバック推奨です。


 

 私はゆっくりと目を覚ましました。ここがどこなのか、今が朝なのか夜なのか、それすらも分かりません。頭がぼぉっとして目も焦点が合ってないのですが、はっきり覚えていることが1つあります。

 

 

 凛ちゃんと真姫ちゃんに裏切られた。

 

 

 あの時は身体の熱さに悶えていたせいで意識も朦朧としていたけど、落ち着いている今ならようやく分かる。私は騙されていたんだと。気絶する寸前に一瞬だけ見えた。2人の頭に角、背中に羽、おしりにはしっぽが生えていたあの光景を。

 

 私はふらふらと上半身を起こすと、焦点が整いつつあった目に人影が薄らと映りこみました。

 

 

「ようやく目が覚めたか。その顔は全てを察したって表情だな」

「れ、零君どうして……?――――って、えぇっ!?」

 

 

 学院のどこにこんな広い場所があったんだろう。西洋風のお城の王座の部屋のような広い場所。いかにも高そうな絨毯が敷かれシャンデリアも綺麗だけど、窓がないため部屋は全体的に暗い。そんな部屋の真ん中に置かれている大きな椅子に、零君は私を見下すように座っていました。しかし私が驚いたのはそこじゃない――――

 

 

「はぁ……あぁんっ!ご主人様そこは……あんっ!敏感になってますからぁ~♪」

「どうですかご主人様?ことりのおっぱいは気持ちいですか~?」

「もうっ!穂乃果だけじゃなくて私も可愛がりなさいよ!」

「んっ……ご主人様の美味しいにゃ~♪」

 

 

 穂乃果ちゃんは零君の膝に乗り、身体に右腕を回され胸を激しく揉まれ喘いでいる。

 ことりちゃんは零君の後ろから、その大きな胸を枕にするように彼の後頭部へと押し当てていた。

 真姫ちゃんは穂乃果ちゃんの反対側から零君の膝に乗り、胸を腕に擦り付けておねだりしている。

 凛ちゃんは……何も言えない。察して欲しいな……。

 

 みんな共通しているのは零君にご奉仕してあげていること。そして上半身は生まれたままの状態で、羽だけが最初から生えていたかのように自然に剥き出しとなっていました。下半身はそれぞれのイメージカラーで飾ったショーツ1枚。みんなしっぽをピコピコと動かしているので、興奮の絶頂にあることがよく分かります。

 

 

「もう大体理解しているみたいだけど、一応答え合わせをしておくか」

「うぅ……」

 

 

 正直、その話は聞きたくありませんでした。聞けば絶対に親友や恋人に裏切られた悲壮感に駆られ、泣き出しそうになってしまうからです。だけどもちろん、零君はその口を止めようとはしてくれません。穂乃果ちゃんたちも零君の奉仕をしながら、クスクスと私を嘲笑います。穂乃果ちゃんやことりちゃんはもちろん、凛ちゃんも真姫ちゃんももう既に零君の淫魔となっているみたいです。

 

 

「音ノ木坂学院の中でも容姿がいい女の子たちを、ご主人様の俺に忠実となる淫魔に変えていたのはもう分かっているだろう。それはもちろんμ'sのメンバーだろうが例外ではなかった。でもそこである障害が立ちふさがったんだ。それがお前なんだよ、花陽」

「わ、私……?」

「そう、お前の身体は淫魔の憑依を跳ね除ける力を持っていたんだ。つまり、俺の淫魔力は通用しなかった。だから凛と真姫をお前の傍に置いて観察させていたんだ。お前のことを調べ上げ、その特異体質への対抗策を考えるためにな」

「そんな……。それじゃあこの魔法少女になるための変身道具ってなんなの!?」

「もちろん俺からのプレゼントだ。まず魔力を必要とする身体になってもらう必要があったからな。魔力が枯渇すれば、俺からの魔力供給が必要になるだろ?」

「えっ、じゃあ私に送り込んでいたのは"魔力"じゃなくて――――"淫魔力"!?」

「ご明察」

 

 

 零君は適当に手を叩いて私を褒め称え(馬鹿にしている?)ます。

 私は今まで零君から、淫魔と戦うための魔力を受け取っていたものとばかり思っていました。だけど思い返してみれば、魔力を受け取るたびにやたら性的興奮を感じていたのです。よくよく考えればすぐに分かるのに……。ですが最愛の人との口付けですから、そうなってしまうのも仕方ないのでは……あっ、ご、ゴメンなさい!許してください!私は淫魔なんかに絶対に負けたりは――――

 

 

「何故凛が淫魔の弱点を知っていたと思う?どうして真姫が淫魔の場所をすぐに特定できたと思う?」

「2人共淫魔で、零君の下僕だったから……」

「よしよし、賢い子は大好きだぞ。でもこれからお前もみんなと一緒だ。俺専属の淫魔にしてやるから、花陽の可愛い姿をもっともっと見せてくれ!」

「わ、私はそんな……うぅっ!!」

「身体が熱くなってきただろ?それは俺が今まで注入してきた淫魔力が、身体の中で暴走し始めてるんだ。もうお前の抵抗体質でも抑えきれないくらいにな。それもこれも、花陽を俺のモノにするための作戦だったんだよ。穂乃果やことりに演技で戦闘をさせたのもそのためだ」

 

 

 私はずっと零君やみんなに踊らされていたんだ。魔法少女になったのも学院や生徒のみんなを守れるからって、そう信じてずっと戦ってきたのに、それがまさか私を淫魔にするための作戦だっただなんて……。しかも信じていた仲間たちにも裏切られ――――いや、初めから騙されていたんだよね……。

 

 私の中で、希望が崩れ去っていく音が聞こえます。喪失感で心にぽっかりと穴が空いたみたいで、しばらくその場を動けませんでした。あまりの衝撃的な事実に涙も出せず、ずっと一点を集中して床を凝視するばかり。まさに本当の絶望を味わったのです。

 

 

「そんな気に止むことじゃないと思うが。だって俺に一生ご奉仕できるんだぞ――――と言っても聞こえてないか。おい凛、真姫、ちょっと花陽の目を覚まさせてやれ。もう身体はかなり敏感になってるはずだからさ」

「は~い♪」

「仕方ないわね」

 

 

 零君の命令で、凛ちゃんと真姫ちゃんがゆっくりと私に近づいてきます。

 既に淫魔となっている2人は、本来なら私が撲滅するべき存在。だけど私は一歩も動けませんでした。裏切られた絶望と身体に疼く快感に身を震わせることしかできません。ただそこに留まっているだけでも快楽が身体の芯から滲み出てきます。

 

 2人が私の元へと辿り着く。

 その顔は淫魔に支配された妖艶な表情。女性の私でも分かります、2人に漂う淫猥な色気が。今まで一緒に戦ってきた私を容赦なく堕とそうとしていることが――――

 

 

「かよちんのおっぱい、前々からこうしたいと思っていたんだにゃ~♪」

「ひゃあぁあぁぁぁっ!!」

「相変わらずいい声で鳴くわね。それじゃあ私は下の方を触ってあげるわ」

「んっ!あぁっ!!そ、そんなところ触らないでぇ~……ひぃっ!」

 

 

 凛ちゃんには胸を、真姫ちゃんにはスカートの中に手を入れられショーツの上から指で弄られてしまいます。上半身、下半身共に電流が走ったような快感が感じられ、火照っている身体もどんどんヒートアップしていきます。

 

 熱い……熱いけど……気持ちいい!!

 乳首を撫で回すように優しく攻められ、秘所の筋をなぞるように指を何度も往復されている。

 流石淫魔と言うべきでしょうか、女の子の気持ちよくなるポイントを熟知しているようです。抵抗しようと思えばできるのですが、2人の巧みな指さばきによって私の身体は悦んでしまっています。心では抵抗しているのに身体は快楽を欲している……。私は既に零君の淫魔力によって支配されているみたいです。

 

 

「ひゃぁ……あぁっ!!」

「ねぇかよちん、もっと気持ちよくなりたいでしょ?だったらおねだりしなきゃダメだよ」

「あっ、んっ……あぁ!お、おねだり……?」

「私たちはあなたをイかせてあげられない。だからご主人様にしっかり頼まないとね」

「そ、そんなぁ……ひゃっ!」

 

 

 確かに2人から一定の快楽は与えられるけど、淫魔力が暴れだすほどの力ではありません。それはつまり、イク寸前の寸止めが永遠と繰り返されるということ。私の身体はビクビクと振動し、今か今かと溜まりに溜まった性欲を発散できる時を待っています。しかし、2人は性欲が暴発するボーダーラインギリギリのところで手を緩めてくるのです。そのせいで私は無慈悲にも空イキを繰り返し、不満足のまま性欲の(わだかま)りが溜まっていきます。

 

 

「もうかよちんもさぁ、ご主人様のモノになっちゃおうよ!ご主人様の手なら、凛たちの手以上に気持ちよくなれると思うよ!」

「そ、それは……」

「身体が疼いて仕方がないんでしょ?だったら我慢は身体に毒よ。ほら、すぐこんな風になっちゃうんだから」

「はぁ……あんっ!!」

 

 

 私の口からは淫らな声が漏れ出し、耳には悪魔の囁きが流れ込んできます。

 私もできることなら我慢なんてしたくない。こんなにも身体が疼いて仕方ないのに、ずっと生殺しの状態だなんて耐えられません。だけど魔法少女として淫魔に屈してはならないというプライドが、私の欲望の解放を邪魔します。今まで淫魔に憑依されてきた女の子たちに、申し訳ない気持ちでもあるのでしょうか。

 

 ここでふと零君たちを見てみると、先程から胸を弄られている穂乃果ちゃんがまさに絶頂に達する瞬間を目撃してしまいました。目からは光彩が消え、零君から与えられる快楽にただただ身をよじらせて愉しむ。自分からは何もせず、まさにご主人様のお人形さんのよう。自らの性欲に従順となり、この大広間全体に響き渡る大きな嬌声が穂乃果ちゃんの興奮具合を物語っています。

 

 そして胸を使って零君の背もたれとなっていることりちゃんも、穂乃果ちゃんがイキ狂う姿を眺めて胸を動かしていた手が完全に止まっていました。もう我慢の限界のようで、片手が下半身に向かっていくのが分かります。

 

 

「かよちんも穂乃果ちゃんみたいに気持ちよくなりたいんでしょ?凛もご主人様のところへ一緒に行ってあげるから、頑張っておねだりしてみよ!」

「わ、私は気持ちよくだなんて……」

「もうっ、じれったいわね!いい加減素直になりなさい!ご主人様は絶対にあなたを受け入れてくれる。もう性欲を溜め込んでおく必要なんてないの」

「ほ、本当……?」

「そうよ。淫魔となって私たちと共にご主人様に仕えるの。そうすればたっぷりご褒美がもらえるんだから」

「ご褒美……」

 

 

 私の中で、何かの糸がぷっつりと切れた音がしました。身体の震えに耐えながらその場を立ち上がると、ガクガクと小刻みに揺れる脚を必死に制御しながら、私は零君の――いや()()()()の元へと歩み寄ります。

 

 もう耐えられない。もう我慢できない。

 私の中に潜む淫魔力はもう完全に全身を蝕み、身も心も快楽の渦に飲み込まれてしまっています。ご主人様が欲しい……。ご主人様の手でこの性欲を発散させて欲しい!!

 

 

「覚悟は決めたのか?」

「はい……。私の……私の身体をご主人様に捧げます!!だから……私をご主人様の淫魔にしてください!!」

 

 

 言っちゃった……。

 

 

「よしっ、ならばこっちへ来い!今までお前の中に溜め込んできた淫魔力、ここで一気に解放してやろう!」

「きゃっ!あ、あんっ♪」

 

 

 ご主人様は私の胸を鷲掴みにすると、そのまま私を自分へと引き寄せました。半ば無理矢理に掴まれたので、胸の形状が彼の手によってぐにゃりと変化します。私はそのあまりの力に思わず淫らな声を上げてしまいましたが、既に敏感となっている全身は待ってましたと言わんばかりに悦んでいます。

 

 これです!この時をずっと待っていたのです!!

 

 

「あっ、ふぁ……やぁっ!」

「いい声だよ花陽。俺はな、お前のその声が聞きたくて今まで頑張ってたんだ。だからその努力をお前のエッチな姿で讃えてくれ」

「ひゃぁ……んっ!あぁぁああああっ!!」

 

 

 ご主人様は乱暴に私の魔法少女服を脱がすと、顕になった胸を5本の指を食い込ませながら揉みしだきます。

 私はいつの間にか自分でご主人様の膝の上に跨り、両腕でしっかりとホールドをしてご主人様に求愛していました。両手で両胸を弄られ、指で乳首を転がされ、1人でやっている時とは違う格別な快感が全身を走り抜けます。

 

 そしてご主人様が脚を振動させて私の下半身を刺激しているので、まるで大人の玩具を秘所に当てられているような感じがして今にも漏らしてしまいそうになります。ショーツも乾いているところがないってくらいぐしょぐしょに濡れ、私の中に溜まっていた性欲がここぞとばかりに解放されているのが感覚だけで分かりました。

 

 

「どうだ花陽。俺の淫魔になってよかっただろ?毎日こんなに気持ちいいことができるんだから」

「はいぃ……ご主人様のお側に置いていただけるなんて、私とっても幸せです!!だから……だからもっとお願いします♪」

「もう顔も声も蕩けて性欲の虜になってるな。だったらお望み通りにしてやるよ」

 

 

 もう学院を守るだとか、清純な女の子たちを取り戻すだとか、そんな意味不明なプライドなんてどうでもよくなりました。ただ気持ちよくなりたい。その欲望こそが私の本当の望みだったのです。

 

 私は今までなんて愚かなことをしてきたんだろう。学院の目星い女の子たちを淫乱に変化させ、己の抱く欲望を解放するためにご主人様の下僕となる。こんな崇高なお考えに私は反してきた。ご主人様に仕えることができれば、一生この快楽を身に纏って生きていけるというのに。

 

 

「これからずっと俺のために働くと誓うか?」

「ち、誓います!!んっ、あぁ♪魔法少女として、ご主人様のために学院中の女の子を淫乱に堕とし入れますぅうううううううううう!!」

「そうか。ならこれは前払いだ受け取れ!!」

「んっ、ちゅ……!!」

 

 

 突然私の唇がご主人様の唇に奪われます。

 今までは魔力供給としての清純な口付けでしたが、この口付けは全く違う。唾液に混じった淫魔力をどんどん身体に流し込まれ、舌と舌を密接に絡ませながら口内にも淫魔力を染み込ませられます。沸騰寸前になっていた身体の熱が更に温度を増していき、脳も熱い性欲によって溶けてしまいそうです。これが淫魔たちが言っていた至高の快楽なのでしょうか。もうご主人様の顔を見ているだけでも発情してきてしまいます。

 

 すると、いきなり背中がムズムズする感覚に襲われました。そこから立て続けに頭とおしりまで、快感とは別の疼きが唐突に発生したのです。

 

 

「あっ、かよちんとうとう変わっちゃうんだね」

「そうみたい。これで正式にご主人様の淫魔ってことになるわ」

「な、なにこれぇ~……身体から何かが」

「それこそがご主人様への忠誠の証だよ。花陽ちゃんはね、ことりたちと同じように生まれ変わるの」

「またμ'sの中から淫魔が誕生するなんて、穂乃果嬉しいなぁ~♪」

「淫魔……もしかして!?」

 

 

 その時でした。私の頭に黒い角、背中に黒とピンク2色の羽、おしりからは黒のしっぽが生えてきたのは。

 これぞ淫魔の特徴。私は正式に淫魔になってしまったみたいです。今まで魔法少女として撲滅してきた淫魔に自分がなってしまうなんて、なんという皮肉なのでしょうか。でも、ご主人様が私にそう望んでくれているのなら喜んで受け入れます!私はご主人様の淫魔なのですから!!

 

 

「はぁ……んっ、ちゅ……ぷはっ!はぁ、はぁ……熱い……だけど、気持ちいいです!!」

「そうだろうそうだろう。もっとお前の欲望を見せてみろ」

「あ……あんっ!……はぁ……んっ……んんっ♪」

 

 

 ご主人様は先程と同じく私の胸を両手で揉みつつ、脚で下半身を刺激します。力の入れ方にも強弱を付け、右に左に、乳首も乳房も、私の感じるところは余すところなくご主人様に蹂躙されてしまっています。脚で秘所を押し上げられるたびに、ねっとりとした液体の音も卑しく聞こえてきました。全身を弄られているせいか、私の全てがご主人様に支配されてしまう……。

 

 

「ご主人様、私……もう限界です!!」

 

 

 私はそう訴えましたが、ご主人様は沈黙したままでした。

 媚びなきゃ……。ご主人様を求め、そして屈しなきゃ……。ご主人様がお望みの通りに。

 

 

 

 

「ご主人様、どうか私を……抱いていただけないでしょうか?」

 

 

 

 

 そこからの記憶は、またしても覚えていませんでした。

 唯一分かっているのは、これまでの戦いで溜まっていた性欲を一気に解放されて気絶してしまったこと。ご主人様だけでなく穂乃果ちゃんたち淫魔からも攻められ、私の身体は瞬時に果ててしまったようです。

 

 でもこんな気持ちいいことができるのなら、これからは淫魔として一生ご主人様にお仕えします。ご主人様の野望は私の夢。学院中の女性だけでなく、ゆくゆくは世界の女性たちも――――

 

 

 

 

 その日、私の魔法少女としての戦いは幕を下ろしたのでした。

 




 やはり本番を描けないのはR-17.9の弊害と言いますか、残念なところではあります。ですが逆にその寸止め具合を楽しんでいただければと思っています。もうここまで連載してこんなことを言うのは今更ですけど(笑)

 今回魔法少女に抜擢されたのは花陽でしたが、理由としてはμ'sメンバーの中で多少淫乱の毛があり、それでもなお純粋な子にしたかったからです。じゃあ亜里沙でもいいじゃんって思いますが、彼女を乱れさせるのはまだ抵抗がありまして(笑)

 何度も言ってますが最終回も近いので、たまには記念にイラストでも描こうかなぁと思っていたりいなかったり(描くとは言ってない)。イラストをもらえるのなら死ぬほど喜びます。ていうか死にます()

 恐らく次回の投稿は9月。そして3度目のサンシャイン特別編になります!



新たに☆10評価をくださった

リーパー?さん、花陽さん

ありがとうございます!



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】天使と堕天使と変態と

 サンシャイン特別編の第3弾です!
 サンシャインの特別編に関しては本編との繋がりはないものの、他の特別編とは繋がりがある面倒な設定となっているのでご了承を。


 俺が休日に外へ出る理由は、大きく分けて以下の3つしかない。

 

 

1. 楓から買い出しを頼まれる

2. μ'sのメンバーの誰かからデートのお誘いを受ける

3. 個人的な私用

 

 

 基本それ以外の理由で外出することは一切せず、家でゴロゴロと寝て過ごすことが多い。この話をもう何度しているのか分からないが、俺がこのような愚痴を垂れているということはもう何が起こっているのかお察しだろう。そう、休日にも関わらず無理矢理外へと繰り出しているのだ。

 

 しかし今回の外出の動機がこれまでと違う点は、上記の3つの理由のどれにも当てはまっていないことだ。事の概要は、昨晩俺の携帯に舞い込んできた1つのメッセージに起因する。それがこの文章。

 

 

『明日、私と同じAqoursのメンバーの2人が秋葉原に行くので、しっかりとエスコートしてあげてくださいね! 高海千歌』

 

 

 う~ん、この一文だけで人の苛立ちを引き立たせる文章を書くとは……流石初対面でウザ絡みしてきただけのことはある。感心することじゃねぇんだけどな。

 

 何が苛立つって、なぜ人の都合も聞かずに勝手に予定を決め付けるのか。どうもμ'sのリーダーといいAqoursのリーダーといい、俺を都合のいい男と勘違いしてないか?おぉん??穂乃果と千歌はどこか似ているように感じたのだが、人を誘う時のこの強引さと適当さが似てるんだ。スクールアイドルのリーダーってのは頭のネジがブッ飛んでる奴がなる法則でもあんのかよ……。

 

 

「とは言いつつも、来ちゃったんだなこれが」

 

 

 結局、千歌に指定された集合場所に到着してしまった。もし勝手にバックレたら秋葉原に来たそのAqoursのメンバー2人が可哀想だし、それに俺だって女の子との出会いがあるのなら是非ともお会いしたいものだ。ていうか千歌の奴、まだお互いに面識がないのに俺たち同士で会わせようとしてんのか。襲っちまっても知らねぇぞ。

 

 ちなみに、集合場所行ってみればその2人のインパクトが強いから探さなくても分かると千歌からメッセージがあったのだが、秋葉原にはインパクトが強い奴なんてごまんといる。その集団の中から田舎のスクールアイドルの女の子なんて簡単に見つかる訳が――――

 

 

 

 

「フフフフ……天つ雲居の彼方から、堕天使たるこの私が、冥府より数多のリトルデーモンを召喚しましょう」

 

 

 

 

「…………」

 

 

 前言撤回。

 

 

 インパクトつぇえのいたぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

 

 なんだなんなんだよコイツ!!

 服装はゴスロリだし顔は化粧をしているのか無駄に漂白だし、爪も赤くて長いし黒い羽も付けてるしでインパクトしかねぇ。こんなの逆に見つからない方が無理だろうよ。集合場所はここと指定するよりも、コイツがいるところを集合場所にした方が絶対分かりやすいなコレ。

 

 でもまあ落ち着け。まだコイツが俺の探しているAqoursの女の子だと決まった訳ではない。ただ中二病でコスプレ趣味があるだけの変人ちゃんかもしれないし、ここは華麗にスルーするのが吉というものだろう。

 

 

「全く、善子ちゃんはいつもいつも……」

「善子じゃない!私はヨハネよ!!」

「はいはい……」

 

 

 ここで俺の背中に不穏な悪寒が走る。確か千歌から送られてきたメッセージには、今日ここに来るメンバー2人の名前が書いてあった。

 

"渡辺曜"と"津島善子"

 

 そして銀髪っぽいボーイッシュな少女が口走ったこの言葉――善子ちゃん。

 あぁ、なるほどね。俺はとことん厄介事に巻き込まれるタイプの人間らしい。関わりたくないのにわざわざ向こうから厄災が降ってくるこの感じ、まるでμ'sの連中と一緒にいる時と同じだ。俺の休息はないのかよできれば関わりたくねぇなぁオイ。

 

 このまま無意味に待たせ続けるのも悪いけど、変に2人に注目が集まっているこの状況で声を掛けづらくもある。とは言っても"善子"って子が中二病スタイルでいる限り目立ち続けるのは必死だし……えぇいメンドくせぇ!!もうパパッと合流してこの場から捌けよう!!

 

 

「おいそこのエセ堕天使!」

「はぁ!?誰よ堕天使ヨハネを侮辱する愚民は!!」

 

 

 いきなり馬鹿にされたんですがそれは……。人に注目されながらも勇気を出してこの変人に声を掛けたんだ、むしろ褒めろ。だが今はとにかく迅速にここから離れないと。そうしなければ周りの人たちから変人に話しかける変人だと思われてしまうから。

 

 

「いいからこっち来い!君もな!」

「えっ、私もですか!?それよりあなたは……?」

「神崎零だ。お前らんトコのリーダーから聞いてんだろ」

「あっ、じゃあ千歌ちゃんが言ってた変態さんだけど頼りになる人って……」

「アイツまたそんなことを……まあいい、とりあえずここから離れるぞ」

「ちょっと離しなさいよ!!」

「そうですね。ほら善子ちゃん早く!」

「だから善子じゃなくてヨハネ!!」

 

 

 俺はヨハネと名乗る善子の腕を、銀髪の子が背中を無理矢理押して人混みから離脱した。

 これまでもμ'sやA-RISE、Aqoursの面々と出会ってインパクトが強い奴らだとは思っていたけど、初対面でここまで度肝を抜かされるとは予想もしてなかった。絶滅危惧種だと聞いていたが、まだ中二病少女っていたんだな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁ~。変な人に声を掛けられたと思ったら、あなたが噂の変態さんだったとはねぇ~」

「お前に変な人とは言われたくねぇ。それに変態言うな」

 

 

 どうやら俺の目も耳も届かぬところでよからぬ噂が一人歩きしているらしい。まあ変態っていうのはあながち間違ってはいないのだが、初対面の女の子からの第一印象が変態なのは流石に悲しいぞ。それでも通報されずに一緒に行動を共にしてくれるらしいから、それなりの印象も抱いてくれているらしい。

 

 

 ヨハネもとい善子から堕天使衣装やメイクを引き剥がして分かったのだが、彼女の素の顔が普通に綺麗でビックリした。あんな奇抜な化粧をしていたから容姿に自信がないのかと思っていたけど、案外大人っぽく整った顔立ちだ。伊達にスクールアイドルをやってる訳じゃないってことか。

 

 もう1人の女の子の曜は、善子とは真逆の常識人ちゃんだ。軽く話しただけでもしっかりしてそうな雰囲気が伝わってきたし、俺だけが堕天使ちゃんの相手をしなくて済みそうでホントに助かった。あとパッと見た感じ胸が大きい。これ重要な。

 

 

 お互いに軽く自己紹介した後、2人は以前秋葉原に来た時に立ち寄ったファッション店や黒魔術専門店(?)に行く予定だったらしいので、適当に駄弁りながらその店へと向かう。ていうか黒魔術はもちろんファッションにも興味ない俺がそんな店を知っている訳がないので、携帯で地図を見ながらフラフラと探すことにした。

 

 

「それにしても、Aqoursの中で俺はどういう扱いを受けてんだ?」

「千歌ちゃんが言うには、セクハラ魔だったけど紳士に対応してくれた優しい人だって」

「前半と後半で評価がプラスマイナスゼロなんだが……」

「でもズラ丸とルビィは、あなたのおかげでスクールアイドルとして勇気を持てたって言ってたわよ」

「あっ、そうなのか……」

「なに?もしかしてやましいことでもあるの?」

「いや全然!!まさかあの引っ込み思案の2人がそこまでやる気を出してくれるなんて思ってなかったからさ~アハハ……」

 

 

 善子の言葉で以前俺が花丸とルビィに痴漢プレイを仕掛けたことを思い出す。現在人気上昇中のスクールアイドルの少女に痴漢を働いたなんて知られれば、メンバーだけでなくファンからも串刺しにされることは間違いないだろう。あの後Aqoursの活動や動画を調べてみたのだが、そこそこ熱狂的なファンもいるみたいだし。

 

 そして俺が痴漢プレイをしていたってことは、2人の反応を見る限りでは他のメンバーにバレていないらしい。そもそもあの純情の言葉を具現化したような花丸とルビィなら、自分たちが痴漢をされていたことにすら気付いてないかもしれないが。まぁとにかく、この話題を引きずり続けるのは俺の得にはならない。

 

 

「おっ、あったぞあの店じゃないか2人共!!」

「むっ、なんかはぐらかされた気もするけどこの際どうでもいいわ。この前ここへ来た時にお金がなくて買えなかったあの魔法陣も、あのマントも今日は……フフフ」

「そうそうこのお店です神崎さん!ほら、善子ちゃんに着て欲しいコスプレがたくさんあるから早く行くよ!ヨーソロー!!」

「ふぇっ!?どうして私までっ!?それに善子じゃなくてヨハネ!!」

「そのツッコミだけはちゃんとするのね……」

 

 

 ショーウインドウに陳列されたコスプレ衣装を見た瞬間、曜のテンションが先程までの善子とは正反対に入れ替わった。綺麗な服を見てあの目の輝かせ具合はことりを思い出す。そういやことりと曜って髪の色も似てるしそこそこ共通点があるよな。まさかとは思うけど曜も淫乱ちゃんってことは……流石にないよな?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「よしまずはこれとこれとこれ!あっ、これも着てみたいなぁ~!」

「そんなにたくさん試着室に入らないでしょうが!1つずつにしなさいよ!!」

 

 

 あの中二病ちゃんの善子が常識人発言をしている!!

 店内に入ってからというもの、さっきとは違って完全にボケとツッコミが入れ替わっていた。曜が手に持っているのはメイド、ナース、チャイナ、魔法少女――――とにかく目に止まって気に入った衣装が片っ端から握り締められていた。

 

 

「他の誰かに買われちゃったらどうするの!?ほら文句言わずに試着室に入った入った!」

「ど、どうして同じ部屋なのよ!!私は隣にぃいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 無慈悲にも閉められる試着室のカーテン。善子の抵抗も虚しく、曜に無理矢理引きずり込まれてしまった。

 しかしスクールアイドルの女の子ってのはとことんキャラが濃い奴しかいねぇな。善子は堕天使とかヨハネとかキャラを作っているだけで本当は常識人だったみたいだし、逆に曜は常識人なように見えて好きなことになると天然でテンションがオーバトップするみたいだ。これはμ'sと同程度に扱いに難がありそうなグループだなAqoursは。

 

 

 だがそんなことよりも、さっきから気になっていることが1つ――――――

 

 

「あっ、ちょっ……そんなとこ触らないでよ!」

「ちょっと肌に触れただけでしょ。善子ちゃん敏感なんだから~♪」

「へ、変なこと言うな!!あっ、だからそこはぁ~……んっ」

 

 

 試着室から漏れ出す謎の百合百合しい雰囲気。どうやら曜が善子の服を脱がせようとしているみたいなのだが、敢えてその光景が見えないことによって余計に妄想が掻き立てられてしまう。この薄いカーテン1枚の向こうに下着の女の子が互いの肌を触れ合わせているのか、はたまた全裸になろうとしているのか、あらゆるシチュエーションが脳内再生されている。

 

 出会ってまだ数十分しか経っていない女の子の全裸を想像するとか、俺自身も相当極まってるよな……。でもこんなエロい声を聞かされて、期待するなと言われる方が無理だろ。妄想だけは一切法に触れることのない無秩序地帯なんだから俺の好きにさせてくれ。

 

 

「う~ん、これはちょっと小さいかなぁ。むっちりしていて胸も苦しいし」

「なによそれ当てつけ?」

「善子ちゃんもそんなこと気にするタイプだったんだね。胸は揉めば大きくなるって言うよ?」

「じ、自分で揉むなんて変態行為する訳ないでしょ!!」

「だったら私がやってあげようかぁ~?」

「やぁ……その指の動きやめなさいよオッサンか!」

 

 

 おいぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!この試着室のカーテン破り捨ててもいいか!?なんか素敵な百合プレイが繰り広げられようとしているんですけどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 つうかコイツら、目の前に男を待たせてるって事実を忘れてんじゃねぇだろうな。分かっていてなお男の欲情を駆り立てるマネをしているのなら、俺の性欲が暴走してお前らの身体に性的快楽を刻み込んでやるからそう思え。俺は特別百合モノが好きな訳ではないが、実際に女の子たちが乳房を弄り合っている(かもしれない)光景を見て何も思わない奴はいないだろう。つまりそういうことだ。

 

 

「こら!試着室狭いんだからあまり暴れないの!」

「誰のせいだと思ってるのよ!こうなったら……」

「んっ……あぁっ!」

「へぇ~そんな声を上げちゃって、よくもまぁ人に変態行為ができたものねぇ~。こんな風に!!」

「ちょっと待って――――ひゃぁ……あっ!」

 

 

 まさかの攻守逆転。やはり試着室の中では女同士の苛烈な乳揉み合戦が行われていると見て間違いない。くそぉ~参加してぇ~!女の子を押し倒して2人がイキ狂うくらいに胸を攻め立ててやりてよぉ~!!

 

 幸いにも店内に他の客はおらず店員はレジの奥で何やら作業をしているみたいだから、今この場にいるのは俺たち3人だけ。試着室から声が漏れていると言っても、目の前にいる俺でもよく耳を凝らさないと聴き取れないような声量なので店員に気付かれる可能性は低いだろう。

 

 つまりだ、突撃するならこのタイミングしかない。あの2人が全裸なのか下着姿なのかは知らないが、どちらにせよ美少女たちの裸体を拝めるのなら姿なぞなんでもいい。しかも相手は現在人気急上昇中のスクールアイドル"Aqours"のメンバーだ。そんな有名人を襲うとなるともう背徳感がヤバイ。

 

 期待と焦燥で指が自ら意志を持っているかのように蠢き、既に足が前に出かかっている。今日初対面の女の子だからとか、女性の試着室に侵入するとか、そんな問題はどうでもいい。目の前に花園が広がっているのなら、その光景を堪能しない手はないだろう。2人だけで楽しむなんて許せない、俺も花園に入園させてもらおう。そして咲き乱れる花を荒らしに荒らして散らすに散らして暴れ回りたい。湧き上がる欲望を溜め込んでいては毒だもんな、うん。

 

 

「こうなったら……えいっ!」

「きゃっ!あまりこっちに近付くなぁあああああああ!!んっ……あぁっ!」

「さっきの仕返しだよ!おりゃっ!」

「ひぃっ!だったらこっちも――」

「ひゃっ……うぅ……。お、お返し!!」

「ちょっ、こっちカーテンあるから――――!!」

 

 

 あれ、なんだかやけにカーテンが揺れているような。それに少しずつ開いてきてね!?このままだと俺が花園に足を踏み入れる前に裸体の彼女たちを拝めるのでは!?

 

 なんて冗談気味にそんなことを思っていると突如としてカーテンの繋ぎ目が切れ、曜の身体が善子の身体に覆い被さるように俺の元へと倒れ込んできた。

 

 

「「きゃっ!!」」

「ぐふぁ!!」

 

 

 なんとか彼女たちの身体を支え衝撃を抑えてやろうとするが、逆に俺自身が受身を取ることができずに床に叩きつけられてしまった。

 

 しかしそんな痛みよりも、俺の手に当たっている滑らかで艷やかな肌の感触が気になって仕方がない。右手も左手もどちらの身体を触っているのかは分からないが、このずっとなぞっていたくなる脚線美は善子のものだろうか。指を押し込むといい感じに押し返してくれる、肉付きのいい太ももは曜のものか。

 

 

「あぁ……ん!」

「はぁ……やぁ……!」

 

 

 俺は無心のまま両手を動かす。そして両手にフィットする、"ふにっ"と言った効果音が似合う女性の一番柔らかい部分に手が触れた。この程よい膨らみは2人の……2人の――――――

 

 

「ちょっ、どこ触ってぇ……んっ!」

「か、神崎さぁん……ひゃっ!」

 

 

 ラッキースケベ、ここに極まれり。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「やっぱり千歌ちゃんが言ってた通りの人だった……」

「この堕天使ヨハネの生身を、下界の人間ごときに晒してしまうなんて……」

「言っておくけど、倒れてきてのはお前らの方だからな」

 

 

 下手に騒ぎになると店に迷惑なるってことで、俺たちは一旦店内から離脱して近くの公園で休憩をしていた。

 乳房を揉まれたことを根に持っているのか、2人からの目線が痛い。そもそも俺に突撃してきたのはそっちだっていうのにこの仕打ちはヒドくね?まあこっちから手を出そうと画策していたのは事実だけどさ、実際にやってないんだから無罪だろ。さっきも言ったけど、妄想だけならタダだから。

 

 

「あ~あ、騒いじゃったせいであの店に行きづらくなっちゃったじゃない」

「だからそれはお前らのせいだって……」

「でも胸は揉まなくてもよかったですよね……?」

「ま、まぁあれは男の生理現象だ。野生本能みたいなやつだよ」

「どうですかね~。梨子ちゃんの胸も触ったって聞いてますけど」

「お前それは捏造だぞ!さっきみたいにたまたまそうなっただけだから!」

 

 

 なんだかAqoursの中で俺がスケベで変態でセクハラ魔だとマジで誤認識されているらしい。あながち間違ってはいないが、それが伝聞的に伝わって他のメンバーやスクールアイドルから「東京にスクールアイドルの身体を狙う変質者がいる」と思われたくはない。自業自得な面もあるのだろうが、どうも納得がいかないんだよなぁ……。

 

 

「えぇいもう分かった分かった!だったらとっておきのファッション店を教えてやるから、それで今回は手を打ってくれ」

「とっておき……?」

「そう。あまり教えたくはないけどね」

 

 

 実はμ's内の衣装担当であることりが通う店なんだけど、最近スクールアイドルの数が爆発的に増えてきたこともあってか、なるべく衣装を委託している店を包み隠しているのだ。意地悪をしているようだが、あまりに注文数が多いと店側の対応も遅れてしまうから仕方ない。スクールアイドル界も過酷なのだ。

 

 だが、今回は俺の汚いレッテルを剥がすためにも一役買ってもらわないと。訳の分からない冤罪のせいで俺の人生が掛かってるしな。

 

 

「それじゃあ早く行きましょう変態さん♪」

「地を這い蹲る変質の民よ。今回は特別に私を永久の闇へと導くことを許すわ、フフフ」

「お前らなぁ……」

 

 

 どうやら今日でまた新たによからぬ噂を流されることが確定したっぽい。なんかAqoursのメンバーに会うたびに黒歴史ばかり生成しているような気がするぞ……。

 




 今回はかなり百合百合しい展開に。ハーレム小説なのでこのような話自体が珍しく、もう累計300話以上も執筆しているのに新鮮さを感じてしまいました(笑)

 執筆し終えて思ったのが、曜ちゃんの天使さをあまり描写できていなかったような気が……。あの子の笑顔がとても好きなので、作中のどこかで入れればよかったと少し後悔。まあまた出番はあるでしょう!(多分)

 そして次のサンシャイン特別編がラストになります。そうなれば必然的に登場するAqoursのメンバーも分かると思うので、残り3人推しの方はもうしばしお待ちを。アニメでも3人の仲の良さが大きくクローズアップされていましたし、これはいつもの特別編より力が入るかも(多分part2)


 次回は久々に本編に戻り、世にも危険なバレンタイン回の予定です。







Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ブラッディでハーレムなバレンタイン(前編)

 いつもは零君が完全に主導権を握る展開が多いので、今回はμ'sのターン!!だってバレンタインは女の子主役の日ですからね(笑)


 2月14日。毎年世間一般で大々的にメディアで取り上げられる一大イベント、バレンタインの日がやってきた。

 チョコを貰えない側の男からしてみれば、やれお菓子業界の戦略だの、やれ甘いものが苦手だの、それらしい正論でネットの掲示板が荒れるのが毎年の常だ。リア充たちは恋の駆け引きで熱くなり、非リア充たちは嫉妬と欲望の業火を撒き散らすため、もしかしたらこのバレンタインの日が色んな意味で一番熱くなる時期なのかもしれない。

 

 斯く言う俺は、お生憎様だが前者の人間である。バレンタイン直前になってμ'sのみんなから甘いものの好みを事細かく聞かれたので、とりあえず貰えることは確定だろう。あんな可愛い恋人たち、しかも今まさに世間を賑わす超人気のスクールアイドルの面子から貰えるなんて、もう今回自慢しまくるわ俺。

 

 前日にそう心を躍らせながら、遂にバレンタインの当日がやって来た。

 

 

 やって来たのだが――――――

 

 

「な、なにこれ!?動けないんですけど!!」

 

 

 俺の目覚めの原因、それは身体に束縛感を感じたからだ。それで目を覚ましたら案の定、腕も脚も拘束されミノムシみたいにぐるぐる巻きにされていた。

 こんなことをしそうな奴は……結構いるな。楓に秋葉に穂乃果にことりに――――言いだしたらキリがない。じたばたと暴れて縄を解こうとするも、俺を縛ったのは相当な束縛のプロなのだろうか、縄はビクともしないどころか逆に強く縛り付けられているような気がした。

 

 

「誰だよこんなことをした奴はよぉ……」

「まあまあ落ち着きなさいな」

「起きてすぐこんな状況なのに落ち着いてられっか――――って、母さん!?」

「おはよ~零くん♪」

 

 

 いつの間にかベッドの脇に、俺の母さんこと神崎詩織が非常ににこやかな表情で俺の目覚めを出迎えてくれた。しかし今の俺が感じているのは、ただならぬ負の雰囲気。あの秋葉を育ててきた母さんのことだ、もしかしたら今からえげつない事態に陥るのかもしれない。

 

 嫌な悪寒が走る。今年はμ'sのみんなからたくさんチョコを貰って、大フィーバーのハッピーバレンタインなはずだったのに!どうして俺には素直な安息が訪れないんだ!?

 

 

「言いたいことは分かってるよ。みんなちゃんとチョコを持ってきてるから♪零くんはそのままベッドの上で、みんなからのチョコを受け取ればいいの」

「……ちょっと意味が分かんないんだが」

「今から代わる代わるみんながこの部屋に入ってくるから、零くんは何もせずともこの場でチョコを受け取ればいいって話だよ」

「なるほど、また訳の分からんイベントを……。でも縛る必要あんのか?」

「バレンタインは女の子のイベントなんだよ!!チョコを渡している最中に、変に零くんが欲情してがっついちゃったらどうするの!?今回零くんは受けなのです!」

「欲情!?母さんはアイツらに何をさせる気なんだよ!?」

「さぁ?零くんにチョコを渡す方法は、それぞれ個人で考えてきてって言ってあるから♪」

「前々から計画してたのね……」

 

 

 とりあえず、みんなからはチョコを貰えるらしいので一応安心はした。だがこの束縛されている状況では手足どころか、まともに身体すら動かせない。みんながどうやってチョコを渡してくるのかは知らないけど、もう既に何人かヤバイ奴の検討は付いてしまっている。厄介なことにならなければいいが……。

 

 

「そうだ、みんなの前にこれ!」

「これって……チョコ?それに2つも」

「そう、私と秋葉ちゃんの分ね!秋葉ちゃん忙しくて、今日は帰って来られないみたいだから」

「アイツのチョコとか核兵器にしか見えねぇんだけど……まぁいっか、ありがとな」

「へへ、どういたしまして!可愛い息子のためですから!」

 

 

 こうして見ると、やっぱり母さんは子供っぽい。女優としての母さんはとても美人でお淑やかなのに、俺たち子供の前だと子煩悩全開になる。それはそれで勝手に添い寝されたり大変な面もあるけど……。

 

 それより秋葉がチョコをくれるなんて珍しい。例年は適当に買ってきたモノなのに、今年は自分で包んだのだろう、少々雑なラッピングまでしてある始末。それってつまり、チョコも自作したってことだよな……?アイツのチョコとか想像するだけで怖いんだけど。食ったら性別が変わるとか、背が縮むとか――――考えだしたらそれこそ一生が終わってしまうからやめよう。

 

 とにかく、今はみんなからチョコを貰えることだけを楽しみにしておくか。

 

 

『現在のチョコ数:2個』

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ほらお兄ちゃん!ちゃんと舌をチョコを使って取り出さないと、おっぱいで窒息死しちゃうよ~♪」

「んぐぅーーーーっ!!」

 

 

 突然だが、俺はいきなり楓からの洗礼を受けていた。

 一番初めに俺の部屋に入ってきたのは雪穂、亜里沙、楓の仲良しシスターズトリオ。初めなんだから穏便にチョコを渡してもらえるのかと思っていた俺がバカだった。

 

 楓はまず俺の身体に跨ると、上半身の服を脱いで半裸になり、胸の谷間にチョコを沈ませて俺の口元に押し付けてきたのだ。

 実妹の胸のボリューム、弾力、暖かさ、乳圧――どれを取ってもパーフェクトなのだが、胸で窒息死しそうになっているのが今の状況。楓は胸の谷間に沈めたチョコがなくなるまでおっぱい攻撃をやめようとはしないみたいだ。

 

 

「楓……すっごく大胆だね。私たちもああやってあげれば、零くん喜んでくれるかな?ねぇ雪穂」

「わ、私に聞かないでよ!!それに楓みたいに胸大きくないし……」

「胸の大きさは関係ないんだよ。こうやってお兄ちゃんを喜ばせてあげられれば……ねっ♪」

「んぐーーーーっ!!むーーーーっ!!」

「ひゃんっ♪お兄ちゃんくすぐった~い!」

 

 

 亜里沙は興味津々で、雪穂は恥ずかしがりながらも楓の大胆な行動を凝視している。もちろん2人が助けてくれそうな雰囲気もなく、俺は彼女の2つの果実で顔を挟まれていた。

 

 正直な話、物凄く息苦しいがこれほど興奮を煽られる展開はない。実の妹だろうが何であれ、胸に顔が包まれる行為を拒む男はいないだろう。楓が手で胸を動かすたびに、俺の頬に暖かく柔らかい乳房がむにゅむにゅと押し付けられ、もうこのまま窒息死して天国に登ってしまってもいいってくらい極楽浄土な気分になれる。ていうか、もうここが天国なのかもしれない。

 

 楓の胸の谷間にはチョコが埋め込まれているので、その甘い風味と彼女の甘い匂いが相まって、俺を興奮を鼻でも刺激する。顔に押し付けられる極上の乳圧に包み込まれ、俺の満足に動かない身体は可能な範囲で暴れている。そしていつの間にか無意識に舌を出し、まるで触手が蠢くかのごとく彼女の谷間に潜り込ませた。

 

 

「ひゃっ!お兄ちゃんの舌捌きえっちぃよぉ~……胸が犯されているみたい♪」

「むぐっ、んぅ……」

「あっ、ようやくチョコに辿り着いたんだね!えらいえら~い♪」

「んーーーーっ!!」

「もうっ、おっぱいの中で暴れちゃくすぐったいよぉ~♪」

 

 

 なんか子供扱いされてる気がするから声を荒げたのだが、胸に埋もれているからか上手く声を出せず逆に楓を悦ばせてしまう結果となった。

 仕方ないので、舌で巻き取ったチョコを堪能してみる。暖かい胸に挟まれていたためだろう、チョコは既に形を崩していたのだが、俺好みの絶妙な甘さに変わりはなかった。流石は愛する妹、俺の味覚をとことん熟知しているようだ。伊達に毎日俺のメシを作っていないな。

 

 

「零くん零くん!私のチョコも受け取ってください――――んっ」

「あ、亜里沙!?お前……!!」

「ほう、これは大胆な……」

 

 

 おっぱい攻撃から解放されたと思ったら、いつの間にか俺の枕元にいた亜里沙が、なんと口にチョコを含んでこちらに差し出してきた。

 亜里沙も亜里沙で恥ずかしくはないようで、目をギュッと瞑り頬はほんのりと赤みがかっている。今か今かと俺の受け取りを待っているこの状況に、楓は「早く」と焦らせ、雪穂は自分で作ったチョコを片手にそわそわしていた。

 

 亜里沙のキス顔+唇にチョコのコンボ――――ヤバイ、興奮する。

 そうだ、彼女とは恋人同士なんだ。気を咎める必要なんてないじゃないか!!

 

 

「あっ、ん……ちゅ……」

 

 

 俺は彼女の唇を奪う形でチョコを受け取った。

 受け取るだけですぐに唇を離せばいいものの、亜里沙の口内に広がっていた彼女の唾液とチョコの甘さを堪能したいがためにそのまま口付けを続ける。彼女もそれを受け入れてくれたようで、舌を差し出して一緒にチョコを絡め取りその甘さを味わう。

 

 

「はぁ……む……ちゅ……」

 

「わわわ……亜里沙といい楓といい、こんなに大胆だったっけ……?」

「私はいつも通りだけど、まさか亜里沙がここまでするとはね。雪穂もお兄ちゃんに何かしてあげれば?」

「わ、私は普通に渡すからいいよぉ~……」

「ちゃっかり右手にチョコ持ってるのに?」

「うっ、別に他意なんてないから!!」

 

 

 そんな会話が行われている横で、俺は聞き耳を立てながらも亜里沙との口付けを堪能していた。

 くちゅくちゅ、と舌同士がゆっくり絡み合う音が直接脳内に響く。亜里沙の口付けはまだぎこちない動きではあるが、彼女と唇で触れ合っているという事実、そして舌の粘膜どうしが触れ合う快感はまさに至高の快楽だ。

 

 俺たちの口内を行き来していたチョコが完全に溶けると、俺は彼女から唇を離した。

 

 

「えぇっと……とても美味しかったです♪」

「俺のためのチョコなのに、自分で味わっちゃってどうすんだよ」

「あっ、そうでした!!ゴメンなさい!!」

「いや別にいいよ。俺も美味しかったからさ」

「そ、そうですか?ありがとうございます!」

 

 

 いやぁ相変わらずいい笑顔だ!この笑顔のためにこれからの人生を生きてもいいってくらいの眩しさ。こんな一途な彼女からチョコをもらえるなんて、身も心も幸福に満ち溢れそうだ。

 

 そして最後。雪穂がモジモジしながら俺の元へと歩み寄ってきた。

 先程の亜里沙と楓の行動が大胆すぎて、自分も何かやらなければと思っているのだろう。だが未だその手の耐性がない彼女のことだ、踏ん切ることができないに違いない。

 

 

「こ、これ!私からです、受け取ってください!!」

 

 

 結局、このように普通に手渡される。

 だが――――――

 

 

「ありがとう!美味しく頂くよ!」

 

 

 シンプルイズベスト!楓のようなソープ嬢顔負けのプレイも嬉しいが、みんなから逐一あんなことをされていたら俺の身体がもたない。ハーレムだって楽じゃないんだよ?

 

 

「ありがとうございます!」

「いやいや。亜里沙といいお前といい、お礼を言うのは俺の方だって」

「でも今まで友チョコや義理チョコしか作ったことがなかったので……。誰かを想って本命チョコを作り、それを手渡すなんて初めてでしたから、つい嬉しくなっちゃって!」

「そっか。なら一口一口丁寧に味わって、後日食レポ並みの感想を言わないとな」

「そ、それは恥ずかしいのでやめてください!!」

 

 

 この初心な反応がこれまた見ていて微笑ましい。あのクーデレな雪穂がここまで俺に愛情を見せてくれるのは珍しいから、ついついからかっちまった。いずれ雪穂も楓みたいに大胆になる日が来るのかな?

 

 

『現在のチョコ数:5個』

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ちょっ、え、絵里……お前なんて格好してんだ!!」

「こ、これは希とにこに無理矢理……。私だって望んでこんな格好してるんじゃないわよぉ~……」

 

 

 次に俺の部屋に入ってきたのは大学生組だったのだが、早速俺の度肝を抜かされてしまった。

 何やら部屋の外で入室を拒んでいた絵里。希とにこに抱きかかえられて俺のベッドに放り投げられたと思ったら、彼女の身体は――――全裸だったのだ。

 

 いやその言い方には語弊があるか。全裸と言っても、身体中が赤いリボンで結ばれていて、特に胸の先端と秘所の部分を隠すように覆われているので完全に肌を露出している訳ではない。しかし所詮たかがリボン、肌を隠している面積は極少。もはや全裸と言っても差し支えないほどの姿だった。

 

 

「あ、あまり見ないでぇ……」

「そんなこと言われてもなぁ……」

 

 

 μ'sの中ではズバ抜けてスタイルのいい絵里が、これでもかと言うくらいに素肌を晒して、俺の上に乗っかっている。"全裸"+"リボン"のコンボ攻撃に加え、彼女の綺麗な肌が光り輝いて俺の目を奪う。しかも恥じらう姿に羞恥心で潤った目。なんだ、これが芸術か。

 

 

「それじゃあ、そろそろ本番に行っちゃうわよ!にこにー特性、旦那様への愛情たっぷりチョコを味わってもらうから」

「ほら絵里ち、動いたらいかんよ!」

「も、もうっ!こんなことをするなんて聞いてないわよ!!」

「そりゃあ言ってないしね。ほら、暴れたら身体中チョコ塗れになるからおとなしくしてなさい」

「身体中ってまさか……!!」

「そのまさかよ。はい、べっとり」

「きゃぁっ!!」

 

 

 にこはトレイに入っているドロドロに溶かしたチョコを刷毛に漬け、絵里の胸に塗り始めた。

 胸の先端を隠していたリボンは簡単に解かれ、乳首の上からもチョコ付きの刷毛が絵里の真っ白な胸をビター色へと侵食していく。

 

 

「ひゃっ、んっ……あっ」

「絵里ち、乳首に刷毛が当たって感じちゃってる?」

「そ、そんなことは……あっ、んんっ!!」

「口で抵抗していても身体は正直ね。希、もっと絵里の身体を抑えて!」

「はいはい♪」

「ちょっと2人共、あまり冗談が過ぎると――――ひゃぅっ……ああっ!!」

「"ひゃうっ"だなんて、絵里ち可愛い反応するんやねぇ~♪」

 

 

 あれだけ刷毛で胸の先端を撫で回されると、相当くすぐったいんだろうなぁと傍観者目線で思う。現に絵里はそのこそばゆさに耐え切れず、小刻みに可愛い嬌声を上げて身体もビクビク震わせている。

 

 にこは故意に絵里の興奮を煽っているのだろう、乳首を攻める刷毛の塗り方がいちいちエロい。乳輪をなぞるように刷毛を動かしたり、乳首のさらに先の部分をピンポイントで攻め上げたりと、女性の悦ぶポイントを熟知しているようだった。これも普段の自分磨きの賜物なのだろうか。

 

 そして気付けば、絵里の胸の3分の1くらいがチョコによって塗り固められた。胸の先端部分がチョコで残りの部分が純白肌なので、その2階層はまるでプリンのように見えなくもない。彼女が少しでも動くと顕になっている胸がぷるんと揺れるので、見えなくもないというよりもうプリンにしか見えない。そう考えると、俺の中で変態特有の野生衝動がみるみる高まってきた。

 

 

 揺れている胸にはむしゃぶりつく、これが変態の本能!!

 

 

「絵里、もう我慢できないからいいよな!?なっ!?」

「れ、零!?ちょっと――――あっ……あんっ!!」

 

 

 俺は揺れているプリンの先端を目掛けて、勢いよく口を近づけ捕食した。

 元々女の子の胸は甘かったり甘酸っぱかったりと色々な味があり、これまでも何度か体験してきたのだが、こうして味付けして楽しむのは初めてだったりする。

 

 ちゅるちゅる、と卑しい音を立てて絵里の胸を吸い上げる。チョコの風味と香味、胸をしゃぶっている興奮、彼女の口から漏れ出す甘い嬌声―――様々な要因が重なり、俺の中で渦巻く性欲が極限まで引き上げられた。一心不乱に、何も考えずに、目の前のプリンにがっつく。

 

 

「あっ、だ、ダメよ零!そ、そこはぁ……ひゃっ、ああっ!!」

「予想通りの展開やね。零君がケモノさんになるのも想定内!」

「理性を失わせてあげれば、このまま流れでにこたちも……フフッ♪」

 

 

 どうやら絵里に裸リボンをさせて俺を興奮させたのは、彼女たちの策略だったらしい。しかし今の俺はそんなことなど耳にも入らず、ただ目の前に曝け出されているプリンにむしゃぶりつくことしか考えていなかった。

 

 胸を唇で摘み圧迫するだけで、彼女から漏れ出す卑猥な吐息。男の欲望を覚醒させる雌の声。白い乳房の先端に輝く、妖艶に映るチョコの頂き。興奮と同時に食欲まで唆られる。

 更に絵里が暴れているせいか、リボンが徐々に解け始めていた。そうなればもちろん今まで隠れていたところが晒される訳で。そう上半身も下半身も全て……。俺は彼女の大切なところが現れる緊張で唾を飲み込む。

 

 すると、さっきまで横で俺たちを眺めて楽しんでいた2人が再び動き出した。

 

 

「ねぇねぇ零。そろそろにこたちの相手もしてよぉ~!」

「そうやね――――あっ、手が滑って零君の口元にチョコが付いちゃったぁ~」

 

 

 なんという説明口調の棒読み……。希は明らかに俺の唇を狙って、チョコの付いた刷毛を俺の顔に押し付けてきた。そのせいで口元から頬までがべっとりと生チョコで濡れ、さっきまで感じていたチョコの風味に俺の鼻が支配される。

 

 

「ほら、にこたちが舐め取ってあげるわよ――――れろっ……ちゅ……んむっ……」

「零君、手も足も使えへんもんね。だからウチらがお掃除してあげるから――――ん……はぁ……んちゅ……」

「お、お前ら……!!ん、ぐぅ……!!」

 

 

 ここで俺は正気に戻った。さっきまで女の子の胸を捕食していたはずなのに、いつの間にか捕食される側になっていたからだ。にこも希も俺の顔に付着した(明らかに故意)チョコを舌で、そして唇に付いたものは口付けをする形で綺麗に舐め取っていく。ベッドの両サイドから、女の子に顔を舐められ唇を奪われるこの光景。情けないと見るべきか、それとも役得と思うべきなのか……。

 

 ただまあ、不思議と気分は悪くない。たまには女の子の方から攻めてきて、ご奉仕されるのもいいものだ。

 

 

「ふぅ、やっと休めるのね……」

「ちゅ……何言ってるのよ……れろっ……まだ塗ってないところがあるでしょ」

「おい、人の顔舐めながら喋るな!」

「絵里ちの大切なところ、零君に食べてもらわなくていいん?ん……ちゅ……」

「な゛ぁ!?そ、そんなことしないわよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 遂に絵里の羞恥心に導火線の火花が辿り着いたようだ。そりゃあいきなり全裸にさせられリボンで拘束され、こんな変態野獣に胸をしゃぶり尽くされたらそうもなるわな。同情するよ、うんうん。

 

 ちなみにだけど、3人からあとでちゃんとチョコは貰いました。

 

 

『現在のチョコ数:8個』

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 μ'sがいつもの仕返しとばかりに零君を攻めているこの光景、割と好きになってしまったかも……。いつもは零君が主導権を握っているので、前後編を通してこのような展開になるのは新鮮だったりします。たまには無理矢理にでもご奉仕される展開もいいのではないでしょうか。

 次回は怒涛の後半戦。2年生組と3年生組のターン!!
 ブラッディの意味も次回明らかになるかと。


 先日、私の活動報告にて『日常』『非日常』『新日常』の設定集を投稿しました。小説2話分程度でかなりのボリュームがあるので、読んでみるとそこそこ楽しめるかと。
オリキャラの設定を確認したい方は以下のリンクから、もしくは私の活動報告にて。文字数制限で1つにまとめられなかったので、2つに分けました。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=124823&uid=81126
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=124825&uid=81126




Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ブラッディでハーレムなバレンタイン(後編)

 遂に190話まで来てしまった……
 今回は『癒し』→『地獄』→『癒し』の順番でお送りいたします!


「な、なんでそんなにやつれてるのよ……!?」

「まぁ……さっきまで無心で暴走していたせいか、体力がなぁ」

「それに、どうしてそんなに身構えているのかにゃ……?」

「みんな部屋に入ってくるなり、服脱いで俺に飛びかかってきたからさ……」

「ど、どんなチョコの受け取り方してたの……?」

「身体でだ。文字通りに……」

 

 

 俺の部屋に入ってきた3組目は、真姫、凛、花陽の2年生組だった。

 今までの2組が部屋に入るなりいきなりクライマックスだったので、今回も身を挺すことも覚悟で身構えていたのだ。チョコを渡すという名目で胸を顔に押し付けられたり、全裸リボンの少女にダイブされたり(本人非公認)と、波乱万丈なバレンタインを無理矢理満喫させられていた。

 

 ちなみに復習しておくと、俺は手も足もミノムシみたいに縄でぐるぐる巻きにされて身動きが取れない状態である。さっきは性欲がエンジンとなって限界を突破してたような気がするけど、正直あまり覚えてない。

 

 そんな激闘を2連続で繰り広げたんだ、警戒してもおかしくはないだろう。

 だが真姫たちは違った。よくよく考えてみれば、2年生組は変に性欲を刺激しなければ純粋っ子ちゃんの部類なのだ。3人共未だに猥談をするだけでも顔を沸騰させるし、胸を触るだけでも思春期真っ盛りの乙女チックな反応を見せる。だからそんな彼女たちが自ら卑猥な行動をするなんてあるはずがない。

 

 

至福の休息。

 

 

 μ'sを学年ごとにテキトーな異名を付けるのなら、天使と悪魔が共生するシスターズ。妙なレズレズさとアダルティな色気を持った大学生組。淫乱の一言で全てを片付けられる3年生組。そして、心の癒しを授けてくれる2年生組。こんなところか。それにしても、μ'sの淫乱化が進み過ぎだろこれ……。

 

 

「さっきからこの部屋が騒がしかった理由が大体分かったわ。まあ楓やにこちゃんがいればそうなるのも無理ないけど」

「俺がこんな無防備だとアイツらが知ってりゃあ、暴走するのはもはや必然だからなぁ。だからお前らが来てくれて助かったよ」

「それって、凛たちがそのぉ……えっちなことをしないと思ってるの?」

「逆にすんのか!?おっぱいにチョコを挟んで舌で舐め取らせようとしたり、全裸リボンで乳首にチョコを塗って誘惑したりできんのか!?」

「にゃっ、にゃにゃにゃっ!?み、みんなそんなことしてたのぉ!?!?」

「自爆すんなよオイ……」

 

 

 凛は自分も何か特別なことをして俺にチョコを渡したいという欲があったのだろうが、想像していたよりもアイツらの行動が大胆すぎたせいか、あっという間に脳がショートしてやがる。やっぱり凛は耐性の低さが問題だな。もはやこんな反応を楽しめるのは、μ'sの中でも少なくなってきたから逆に新鮮だけど。

 

 

「気を取り直してはいこれっ!凛からのバレンタインチョコだよ!」

「おっ、ありがとな凛。これって……手作りか?」

「なんかそこはかとなく馬鹿にされてるような気がするにゃ……ちゃんと手作りだよ!しかも1人で頑張って作ったんだから!」

「そういや進級してから料理の勉強してるって言ってたなぁ」

「うんっ!零くんに凛の料理を美味しく食べてもらうためにね!」

「ほ~う。それじゃあ結婚してからが待ち遠しいな」

「け、けけけけ結婚!?そ、そんなまだ早いにゃぁああああああああああ!!」

 

 

 やべぇこの反応は可愛すぎるぞ!!ありきたりのセリフでもここまで悶え苦しんでくれるんだから、猥談で茹でダコになっちまうのも分かる。亜里沙は純白すぎて逆に穢してやりたいって欲があるけど、どうも凛だけはこのまま初心のままでいて欲しい。最近周りのメンバーの淫乱度が劇的に増加しているから、清涼剤となる子は1人くらいいていいだろ。でなきゃ俺の身体が持たない。これこそまさに自業自得か。

 

 

「はいこれ、私からよ」

「えらく淡々と……もうちょっと恥じらいとか、男心をグッと掴む渡し方はない訳?」

「どんな期待してるのよ!この私が作ってあげたってだけでも光栄に思うことね」

「えっ、手作り!?一個数百万円のチョコじゃなくて!?」

「悪かったわね高級チョコじゃなくて!」

「いや嬉しくて驚いたんだよ。あの真姫がわざわざ俺のために手作りしてくれるなんてさ」

「そ、そう。私だって、好きな人のためなら手作りのお菓子くらい普通に振舞うわよ……」

「それじゃあ1つ1つ、丁寧に真心を込めて食べさせてもらうかな」

「そこまでしなくてもいいから!まあでも……あ、ありがとう」

 

 

 なんだなんだ!?さっきから渾身のデレタイムが続いて、性欲によって腐敗していた心がみるみる浄化されていくぞ!?

 やはり普段ツンツンしている女の子は、デレた時が一番魅力的だと思うんだ。そのデレすらもぎこちない感じがまた心を惹きつけられる。それに凛も真姫も普段は手作りお菓子なんて作らないから、その献身的な様がとても嬉しい。もうチョコを食う前から既に、受け取った愛情が心から溢れてしまいそう。

 

 

「最後は私だね。どうぞ、受け取ってください!ハッピーバレンタインですっ!」

「ありがとう花陽!お前は料理もお菓子作りも得意だからな、期待せざるを得ないよ」

「もうっ、褒めてもチョコ以外に何も出ないよ~♪」

「ほう、それなら俺が出させてやろうか?花陽の口からえっちぃ声とか……」

「えっ、えぇえええっ!?!?そ、それはぁ……みんながいないところでと言いますか……」

「あぁ、やる気なのね」

「ち、ちがっ!今のなしで!!違うからぁあああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 うん、やっぱり花陽は淫乱さが滲み出ているのが最大の魅力となっている。1年前まではオナニーの"オ"の文字も知らない純情少女だったのに、今では夜な夜なベッドで自分を慰めているみたいだから。校舎裏に連れ込んでエッチした時のあの乱れようと言ったらもう……あぁ、これ以上思い出したら興奮が高ぶって、このあま~い純愛な雰囲気をブチ壊してしまう。抑えないと抑えないと……。

 

 

 そして本当に何事もなく、ただただいちゃいちゃしていただけで2年生組のチョコ贈与式は終了した。

 もうこれでバレンタイン終わっていいんじゃないかな?だってもう既に俺の部屋の扉がガタガタと震えているような気がするのは、マジで気のせいだろう……。

 

 

『現在のチョコ数:11個』

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「穂乃果はねぇ~、食べ物を粗末にする人は嫌いんだよぉ~」

「そうだよ。零くんはことりたちが真心を込めて作ったお菓子を無下にする、そんなヒドイ彼氏さんじゃないよねぇ~?」

「んぐぅーーーーっ!!んーーーーっ!!」

「やんっ♪零くんがことりの大切なところを――――ああっ♪」

 

 

 今の状況を簡潔に説明すると、俺の口元にことりの秘所がのしかかっている。言わずとももちろん下着越しではあるが……。

 

 俺の予感は当たり前のように的中で、穂乃果とことりは部屋に入ってくるなりいきなり俺のベッドに飛び乗り、各々ここぞとばかりに俺を好き勝手に扱いやがった。

 

 穂乃果は割座、いわゆる女の子座りで俺に膝枕をしてくれたのはいいのだが、生の乳房にチョコを垂らしているせいか、俺の顔面にボトボトと溢れ落ちてくる。乳首から垂れるチョコは見ようによってはビター色の母乳が垂れているようで、普通に興奮させられそうになっているのが憎い。

 ことりはショーツ1枚の状態で、自分の秘所を俺の口元に押し付けてきやがる。穂乃果の胸から垂れたチョコがショーツに染み渡り、擬似的にチョコを俺に摂取させようとしているみたいだ。それに彼女、そこそこ興奮しているのか秘所から女の子の匂いがしてヤバイ。これがマジモノの女の子の匂いなのかと再認識させられる。

 

 

「ほら零君、早く穂乃果のチョコ食べて!おっぱいから出てると思えばえっちな気分にもなれるでしょ♪」

「んんーーーーっ!!んぐーーーーっ!!」

「ひゃっ!?も、もう零くんってばそんなにことりのココが美味しいの~?穂乃果ちゃんのチョコとの共同作成だから、たっぷり味わってね♪」

「ことりちゃん!あとでその役目交代だからね!」

「もちろん分かってる分かってる!」

 

 

 俺が大声を出そうとするたびに口元が動くから、もちろんことりの秘所がその動きの分だけ刺激されることになる。だから彼女が腰をよじらせるたびに俺が更に息苦しくなるって訳だ。いやぁもちろん役得だし気分はいい方だけど、やるならもっと手厚く優しくチョコをくれませんかねぇ~……。

 

 そしてやはり穂乃果とことりは共同戦線を張っていたようで、元々俺にチョコを食わせる気があまりなく、自分たちの淫行を優先している。普段は俺が主導権を握る場合がほとんどなため、こうして自分たちから攻めることに一種の嗜虐を感じているのだろう。なんか2人の目がセクハラする時の俺みたいに、獰猛な野獣のようになってるから……。

 

 

 そういや、海未はどこへ行ったんだ?確か一緒に部屋へ入ってきたところまでは覚えているんだけど……。正直、穂乃果とことりの相手で忙しくて忘れていた。とにかくこの2人を止めてもらわないと、主に俺の性欲が暴発して放送規制されてしまう。あまりに性欲が溜まり過ぎると、この縄さえもブチ切って暴れてしまいそうだ。

 

 海未の様子を確かめるため、穂乃果のおっぱいチョコ垂れ流しとことりの秘所攻撃の包囲網を掻い潜り、なんとかベッドから顔だけを出すことに成功する。

 近くにはいないようなので少し辺りを見回すと、部屋の隅っこで耳を真っ赤に染めながらそっぽを向いていた。

 

 

「おい海未!どうしていつもみたいに2人を止めないんだ!?」

「わ、私は普通に手渡すので、後は3人でごゆっくり!!」

「何故!?いつもは半暴力的に止めるのに!?」

「関わり合えば確実に巻き込まれるでしょう!?そ、そんな破廉恥なこと私は……」

 

 

 なるほど、身の保身のために故意に存在を消していたのか。

 しかしこれで俺が穂乃果の胸とことりの秘所の同時攻撃を、己の理性だけで耐え抜かねばならない事態に陥ってしまった。手を貸してくれる者はいない。もう既に一度崩壊してしまった理性に再び鞭を打ち、チョコとかバレンタインとか、本日のイベント諸々を殴り捨てた淫行に、俺はたった1人で挑まなければならないのだ。

 

 

「あっ、チョコ足りないよね!もっとたくさん垂らしてあげるから、これでおっぱいたくさん吸ってね♪」

「ほらほら零くん!作りたてほやほやのあつあつチョコと、ことりの分泌したての愛の液が混じりあった特性パンツだよ!早く食べないと味が薄くなっちゃ~う♪」

「んぐっ!んふっ!!」

「そうそうその調子!んっ……やぁ……♪」

 

 

 穂乃果は妖艶な微笑みで、チューブを使って胸にチョコを垂らす。彼女の胸元、正確には乳首の先端から、ブラウンに輝くチョコが俺の顔に雫となって滴る。まるで彼女の胸から漏れ出す母乳かのように。ただのチョコだと分かっていても、そう考えるだけで勝手な妄想が膨らんで勝手に欲情しそうになる。

 

 ことりはさっきから一貫して己の秘所を俺に押し付けていた。唇で彼女の割れ目の筋が分かるくらいにはショーツの生地が薄く、穂乃果の垂らしたチョコと割れ目から分泌されてきた女の子液の卑しい水音が俺の脳内に響く。ことり自身はここまでで既に何度か果てているのか、顔を蕩けさせ僅かに涎も漏らしていた。

 

 地獄絵図なのか。それとも楽園なのか。そんなことすらも考えている余裕もなかった。チョコの甘い香り、女の子の胸と秘所、裂け目から流れ出る愛の液――――その全てに身も心も包まれ、俺は再び野生の本能を呼び覚まされていた。

 

 

 2人の言いなりになるのは癪だったが、デッドヒートする理性はもう抑えられない。

 俺は遂に舌を出し、その先端でことりの秘所をショーツ越しに、割れ目の筋をなぞるようにペロッと舐めた。

 

 

「ふぁ……ひゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああぅぅっ♪」

 

 

 今までずっと我慢していたのか、舌が一瞬秘所の部分に触れただけなのに、ことりは部屋中に響き渡るほどの大きい嬌声を漏らした。

 

 そしてことりのそんな淫らな姿を見て俺のリミッターは外れ、ついでに意志も失った。

 次は俺に膝枕をしているせいで胸がぷらんと垂れている穂乃果の乳首を唇で挟み、下へ引っ張りながら力強く吸い上げる。

 

 

「ひゃっ、あぁあああああんっ♪」

 

 

 そこから俺に記憶はない。断片的に覚えているのは穂乃果とことりを交互に、ただただ目の前に晒される女性の象徴にむしゃぶりついていたことくらいか。

 

 

 

 

 気が付けば、穂乃果もことりもベッドでぐったりとして、しかしいい笑顔で眠っていた。

 

 

「なにが……起こったんだ?」

「あ、あんなことをしておいてよくそんなことが!!」

「海未!?お前は生きてたのか」

「い・き・て・ま・し・た!!それより、どうするんですかこの状況……」

「あ、あぁ……」

 

 

 見た目だけなら完全に事後。上半身丸出しの女の子2人が顔を火照らせながら男のベッドで寝ているとか、勘違いすんなと言われる方が無理だろう。俺も途中からの記憶があまりないため、「つい出来心で」とセリフが漏れてしまいそうなあたり犯罪染みている。でも逆レイプ紛いなことをされたのは俺の方だ、俺は無罪なんだ!!

 

 

「こんな状況ですが、とりあえずやるべきことはやっておくべきですね」

「な、なに?まさかお前まで……!?」

「勘違いをしないでください!これですよこれ!!」

「あっ、チョコか……」

「どうせ穂乃果とことりにデレデレしていて忘れていたんでしょう?」

「…………まあ、うん」

 

 

 完全に心を見透かされていて、反論する気にもなれなかった。デレデレしていたって言うよりかはあの2人の勢いに圧倒されて、今行われているのがバレンタインチョコを受け取るイベントだってことを忘れていただけなんだけどな。まあ結局途中から()()()()()()を意志もなく淡々と繰り返していただけなので、彼女たちに夢中になっていたと言えばそりゃあそうだけど。

 

 

「どうぞ、一応渡しておきます」

「あ、あぁ、ありがとう」

 

 

 少し素っ気ない感じがするけど、あんな騒動があった後だからか普通に癒される。海未も緊張はしているのか、身体をもじもじとさせ落ち着きのない様子だった。2度目の理性崩壊から復活した俺はもちろん賢者モードだから、そんなさり気ない仕草をされるとこちらも釣られて緊張してしまう。そのせいで全く女性経験のない非リア男子の返事みたいに(ども)ってしまった。

 

 

「あ、あのっ!」

「ん?」

「あなたはやはりその……穂乃果たちのような渡し方をされたいのでしょうか?」

「えっ……!?」

 

 

 海未は頬を染めて目をキョロキョロさせながら、だからと言って誘惑するような雰囲気はなく俺に質問を投げかけてきた。

 こんなことを聞くってことは、もし肯定したらキスでの口移しや女体盛り、胸にチョコを挟んだりなどのプレイをやってくれるのだろうか。それはそれで夢が溢れるからやってもらいたいけど、俺はやっぱり――――

 

 

「穂乃果とことりが暴走体質だから、海未だけはお淑やかでいて欲しいな。同級生にあんな淫乱ちゃんがいる中で、お前は俺の癒しだからさホントに」

「そ、そうですか?私が癒し……そうですか……フフッ♪」

「そうそう。まあいつか着物姿で穂乃果たちみたいなことをやってくれれば、もっと癒しを得られるから楽しみにしておくよ!」

「はぁ、期待した私が馬鹿でした……」

「なんで!?!?」

 

 

 え~着物姿の海未にあれこれご奉仕されるシチュエーションよくない?こうやって自分の欲望をつい漏らしちゃうのが、俺の悪い癖なのか。

 

 

「まあそれは……2人きりの時にでも」

「えっ!?今なんて……?」

「さあもう全員チョコを渡し終えたみたいですし、そろそろお開きにしましょうか」

「おいちょっと待て!今なんつったんだ!?おーーーーーーーーーーーーいっ!!」

 

 

 なんか心が躍るセリフを言われたような気がしながらも、天国or地獄のバレンタインはこれにて閉幕した。

 みんなそれぞれのやり方でチョコを渡してくれたけど、1つ共通しているのは俺のために俺を想って手作りしてくれたことだ。幸福で死ぬ準備はできてるから、むしろもっと俺にみんなの愛を見せてくれ。そのお返しは身体で払ってやるからさ!

 

 

 ちなみに、穂乃果とことりからも普通のチョコを貰ったのでご心配なく。

 

 

 更についでみたいになっちゃうけど、あのあと俺の家にやって来たA-RISEの3人と矢澤のロリ姉妹からもチョコを受け取った。もちろんμ'sみたいにエロいことはしていないのであしからず。

 

 

『貰ったチョコ合計数:19個』

 




 前回の感想にて、皆さん3年生組が一番ヤバイと仰っていたのですが案の定でした(笑)

 本来はサブタイの"ブラッディ"を前面に押し出すつもりでヤンデレ風味にしようと思ったのですが、何故かエロ描写の妄想ばかり浮かんできたのであえなくそっちにシフト。だからあまりブラッディ要素はなかったかもしれません。純愛過ぎて血を吐いたって意味ならブラッディかも(笑)


 次回は秋葉さん回です。彼女の抱く想いに決着をつける、この小説で秋葉さん最後の見せ場……かも。一応これまでの秋葉さん回を思い出しておくといいかもしれません。



新たに☆10評価をくださった

nami0610さん

ありがとうございます!



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう伝えられない想い

 今回は今までラブレター云々で微妙にフラグが立っていた秋葉さん回の決着編となります。真面目なところから可愛いところまで、彼女最後の活躍をご覧あれ!


「な~んでこんな気持ちになっちゃったかなぁ~……」

 

 

 私、神崎秋葉は1人、研究室で悩んでいた。

 

 きっかけは、掃除中に見つけてしまった1通の手紙。私の黒歴史がふんだんに詰まっている、決して人に見られてはならないもの。だけど数ヶ月前に楓ちゃんに見つかって、物凄くからかわれた苦い過去を生み出した悲劇の手紙。

 

 

 そう、彼への――――零君へ向けて書いたラブレターだ。

 

 

 これを書いたのは私も彼も小学生の頃、ほんの出来心で遊びのつもりだった。小学生特有の、気になる子を困らせたくなる行動と原理は同じだと思う。その時はただ面白くて、零君の慌てる表情が見たくて書いたものだったけど、未だ手元に置いてあるということは、まだそれなりに未練が残っているのだろう。

 

 

 この歳になっても気になりはする。でも多分"恋"ではない。

 

 

 私の中ではそう結論を出して、それ以上の感情を生み出してしまわないように心を整理した。

 彼と一緒にいてドキドキするとか、鼓動が高鳴って胸が痛いとか、そんな思春期女子のような純粋な想いは一切ない。だけど傍にはいたい、そう思っている。私の実験モルモットにして楽しみたいとか、そんな邪な気持ちじゃない。傍にいて欲しい、あるのはそんな単純な欲求だけ。

 

 好きなんだと思う、彼のことは。もちろん"恋"ではなく家族として、姉弟としてだけどね。そうでもなければ、この私が誰かに興味を持つことなんて有り得ないんだから。

 

 中学も高校も色々な男に告白されてきた。イケメンだったり秀才だったり、スポーツマンだったりお金持ちだったり――――もうこれ以上にないってくらいのステータスを持つ男たち。だけど、私の心にちっともその告白は響かなかった。私自身、男に興味がないからかもしれない。大学に入って自分の研究室が与えられ、そこから研究に没頭するようになってからは、男たちからの告白も減って清々している方だ。

 

 感情に惑いが出ている理由は、今でも零君が気になっている……からだと思う。正直、自分自身この気持ちがなんなのかは理解できない。世界の頭脳と言われた私が理解不能なことがあるなんて……。

 

 

「こんな気持ちになるからイヤだったのよねぇ~彼氏を作るってのはさぁ」

 

 

 ここまで迷っているなら直接本人に伝えればいい。そうすれば胸につっかえていたものも取れるかもしれない。私自身の性格上、ウジウジと悩んでいるのは性に合わないんだけど、どうしても彼に伝えられない訳がある。

 

 理由なんて単純、彼にはμ'sがいるから。

 

 別に彼に恋をしてはいないけど、今更この時期になって思いを伝えるのは変だし、例え愛の告白じゃなくても彼やμ'sのみんなに勘違いされちゃうかもしれない。それに彼らにまた恋沙汰で無駄に悩ませる必要なんてないしね。

 

 

「よしっ、たまには家に帰ってのんびりしますか!お母さんにも顔見せないと!」

 

 

 あれこれ考えて悩むなんて私らしくないや。私と零君、μ'sのみんなとの距離感は今のままでも十分。それで楽しいんだから全然問題なし!そうだよ、悩む必要なんて全くなかったんだよね!

 

 

 ないんだよ……ね?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ただいま~」

 

 

 久しぶりに我が家へ帰ってきた気がする。普段は研究室に籠りっきりで、そもそも外へ出ることが嫌いな私には、この家まで辿り着くまでの距離を考えると帰宅すること自体が億劫に思えてしまう。ただ一度家に足を踏み入れてしまえば、研究室にはない安らぎを感じるんだよね。やっぱり零君や楓ちゃんがいてくれるおかげなのか、帰ってきた時に家族が出迎えてくれるとそれだけで安心しちゃうのかも。

 

 

「おかえり~って、あっ!秋葉ちゃんやっと帰ってきた!!」

「あっ、お母さん。いやぁゴメンゴメン!最近仕事で忙しくってさぁ~」

「それなら仕方ないけど、私もう明日には向こうに帰っちゃうんだから」

「そうなの!?じゃあナイスタイミングだね!」

「どこが!?ギリギリのタイミングよ全く……」

「アハハ……ゴメンゴメン」

 

 

 私を出迎えてくれたお母さんは、かなりご立腹の様子。まあお母さんが日本へ帰ってくると知っていながらも、自分の研究に没頭してダラダラと日々を過ごしていた私が言える言葉なんてないんだけどね。

 

 

「ようやく秋葉ちゃんともゆっくりお話できる日が来たことだし、ほら早く入って。どうせあなたのことだから、お昼もまだなんでしょ?」

「どうせってなにどうせって。微妙に馬鹿にされているような……」

「昔から1つのことに集中すると、自分のことすらも見失っちゃうんだから秋葉ちゃんは」

「へぇ~。なんでもお見通しってわけ」

「お母さんですから!」

 

 

 自慢の大きな胸を張って自らを誇示するお母さん。テレビや雑誌で見ると色気満載の女優なのに、プライベートではこういうところが子供っぽいんだよね~。でもそのおかげで逆に包容力があって、近くにいるだけでも落ち着く。なんか気まぐれで家に帰ってきたけど、来てよかったと思うよ。私の心も結構乱れちゃってたし、お母さんがいい清涼剤になってくれそう。

 

 

 久しぶりの我が家は本当に相変わらずで、綺麗好きの楓ちゃんとお母さんの両方が家にいるせいか、リビングはまるで新居のように整えられていた。零君が1人暮らししていた頃とは思えない、全く別の家みたい。ここまで綺麗だと、ズボラな私にとっては結構萎縮しちゃうのよね。多少雑に散らかっていた方が居心地いいってことあるでしょ。

 

 

「そう言えばさぁ、零君と楓ちゃんは?」

「今日は部活だからって学校に行ってるよ。もうすぐ"ラブライブ!"の本戦だからって。休日なのに大変だよねぇ~」

「へぇ~そりゃあ大変だぁ~」

「秋葉ちゃん。あなた一応アイドル研究部の顧問なのよね……?」

「あぁ、そう言えばそんな肩書きもあったようななかったような……」

「顧問がこんな調子だったら、あの子たち本当に大変だぁこりゃ」

 

 

 毎回「あなたは顧問でしょ」と指摘される度に、忘却の彼方から自分の立場を思い出す。でも私はμ'sが顧問不在でライブに出られなくて困っていたから名前だけを貸しただけだしぃ~!それに私がいなくたってあの子たちだけでも練習くらいできるしぃ~!それに部活の度に学院まで行くの面倒だしぃ~!

 

 あっ、つい本音が……!!いやぁ失敬失敬♪

 

 

 そうやって自分で自分にノリツッコミをしていると、突然お母さんが似合わない真面目な表情で私の顔を覗き込んできた。

 

 

「秋葉ちゃん……悩み事でもある?」

「えっ、どうしたの急に??」

「いやぁいつもハイテンションのあなたが、今日はやけに落ち着いてるなぁと思ってね」

「そう……?久しぶりに帰ってきたからじゃないかな」

「違うね。テンションが上げられない理由があるからなんじゃないの?お母さんのカンだけどね、雰囲気で分かるのよあなたたち兄妹のことは。特に秋葉ちゃんは零君や楓ちゃんと違って、心に溜め込みやすいタイプだからねぇ」

 

 

 まるで心の真ん中を的確に打ち抜かれたような感覚だった。忘れようとしていた想いが、感情が、再び心の内から滲み出てくる。いつもは適当に体裁で取り繕っているせいか、こうしてド直球に射抜かれるとどうしても隠すに隠せなくなってしまう。しかも相手はお母さん、私の性格から何までお見通しか。

 

 はぁ……仕方がない。

 私はテーブルの椅子に座ると、肘を付きながら心中を吐露した。

 

 

「はいはい負け負け。そうだよ、ちょっと思うところがあってねぇ~」

「そうやって未だに自慢気に振舞っている辺り、本当にあなた素直じゃない。楓ちゃんを見習ったら?お兄ちゃんへの純粋な気持ちは、捻じ曲がってるけど素直なものだし」

「あの子をねぇ~……」

 

 

 楓ちゃんは何事も直球で物事を伝えられるし、気に入らないことがあったら例え親友であっても堂々と指摘する。それが誰かの為であっても自分の我が儘であっても。そんな一長一短な彼女だけど、零君への愛の伝え方は本当に一途なのよねぇ。変態の方向にシフトするのも、それだけ愛情表現が豊かとも考えられる。そう思えば、あの一切物怖じしない態度は見習うべきなのかもしれない。

 

 

「できるだけの範囲でいいから、とりあえず話してみたら?」

「……零君のこと。それだけ」

「なるほどね、大方理解した」

「はやっ!?」

 

 

 いくら親子の関係だからと言って、彼の名前を聞いただけで人の悩み分かる普通!?もしかして、私の顔にそう書いてあるとか……?なんか久しぶりに調子を狂わされているような気がする。あぁやりづらい。

 

 

 ここでお母さんが、私の座っている席の反対側の席についた。こちらをジッと見つめて、さっき言葉で私の心を突き刺したのに、今度は目線でも私を刺し殺そうとするのか。流石メディアに引っ張りだこの女優さん、常に人の目を見て話すことを心掛けているみたい。全く、やりづらい。

 

 でももうどう足掻いても逃げられないので、仕方なくお母さんの話に耳を傾けることにした。

 

 

「気にしなくてもいいんじゃない?零君だったら特に。12人も彼女を作っちゃう子だし、実の妹すらも恋人にするくらいなんだから」

「本当に悩みの細部までお見通しって訳か。まぁ、私も零君のことだからそうだとは思うんだけどねぇ~」

「何か他に心配事でも?」

「あるよ。もうこれ以上、零君とμ'sのみんなを恋愛関係で悩ませたくはないってこと。実の姉が弟に告白……ってほどじゃないけど、今更になって複雑な話を持ち込んだら彼も困っちゃうでしょ」

 

 

 何回も言うけど、私は別に彼の恋人になりたい訳じゃない。もちろん恋愛感情もない。私の願いはただ1つ――――彼の側にいたいだけ。零君と一緒にいるのは実験にしろ日常にしろ、色んな意味で楽しい。たったそれだけ。

 

 だけど、今までμ'sとの恋愛騒動で"死"に近い出来事まで経験してきた彼だったら、例え恋愛感情のない私の告白でもいい意味では真剣に、悪い意味では重く受け止めるだろう。だったらこのままの関係でもいい。結局は今の関係を維持したいってだけなんだから、わざわざこの想いを伝える必要もないよね。

 

 

「それができないから悩んでるんでしょ?」

「ま、また心の中を勝手に……ま、そうだけどね」

「大丈夫、零君の心はあなたが思っているよりも弱くなんかない」

「そうかな……」

「あの子から去年の話を色々聞いたけど、私はそう思うな。それにね、あなたも弱くない。いつもの自信満々のあなたはどこへ行ったの?」

「!? そっか、そうだねぇ~」

 

 

 なんだろう、お母さんの言葉で急に自分が戻ってきた気がした。今まで路頭に迷っていた私が帰ってきたみたいに。あなたはどこへ行ったの……か。

 そっか、そうだよね。しどろもどろばかりしてたら私らしくないや。なんでさっきまであんなに迷ってたんだろう。私は神崎秋葉。1000年に1人の才女で、その気があれば世界を動かす発明だってできちゃう超天才。そんな私が誰に臆する必要なんてある?そんなのある訳ないじゃん!!

 

 

「ちょっとウジウジし過ぎたかもしれないね。悩んで迷って逆に零君に心配を掛けるくらいだったら、直接伝えてみようかな。あの子への想いを」

「そうそう。あなたたち姉弟はそうやって自信満々に生きていくのが一番!」

「だよね~♪よしっ、それじゃあ零君の部屋に待機しておこうかな。話し合うなら2人きりの方がいいし」

「零君にくっつく楓ちゃんは、私が捕まえておくから安心して」

「ありがとお母さん!元気出た!」

 

 

 身も心も軽くなった私は、軽やかな足取りでリビングを飛び出し彼の部屋で帰宅待ちをすることにした。

 ラブレターとか悩み事とか、もうそんないざこざには全部決着をつけよう。LOVE(好き)とは違ってLIKE(すき)を伝えるのなんてタダなんだ。私だって、彼の側にずっと……。

 

 

 

 

 そして、私がいなくなったリビングで1人、お母さんは――――――

 

 

「全く、零君も秋葉ちゃんも普段は自分のことばかりしか考えていないのに、恋愛方面になると途端に自分を見失うほど相手の気持ちばかり考えるんだから。でもμ'sのみんなはそんな零君に惹かれたのかもしれないし、零君もなんだかんだ秋葉ちゃんと縁を切らないのは、お互いにそういう優しい面があるからなのかもね」

 

 

 やはり私たちのことは、お母さんに全てお見通しだったみたい。

 

 

「でも、これで私もスッキリと向こうへ帰れそう。我が子たちが、ちゃんと自分たちの未来を選択できたからね」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「で?どうして俺の部屋にいるんだ?てかいつ帰ってきたんだお前」

「も~う!零君毎回質問多すぎ!」

 

 

 そりゃあ姉弟とは言え勝手に人の部屋に上がり込んで、ベッドの上に寝転んでたらそんな反応にもなるよね~。

 私は零君の帰宅を待つために彼の部屋で待機していたんだけど、なんか妙に居ても立ってもいられない気持ちになっちゃったから、思わずベッドに飛び乗ってしまった。勘違いしないで欲しいのは、楓ちゃんみたいに枕をクンカクンカしたりする変態行為はしてないってこと!ただ寝てただけなんだからね!!

 

 

「ま、いいや。お前がそんなに改まってるのなんて珍しいし、俺に用事でもあんのか?」

「改まってるって……そう見える?」

「なんて言うかなぁ~。お前いつも口角上げて人を小馬鹿にするような笑顔してるじゃん。でも今日はそんな雰囲気じゃないからなんとなく」

「相当私の印象悪いみたいねぇ……」

 

 

 普段から実験モルモットに仕立て上げられて遊ばれていたら、そんな印象になるのも無理ないか。私も分かってやってるから、今更それを払拭しようとは思わないけど。

 しかし零君も一瞬で私の心中を察した辺り、あのお母さんの息子だなって思うよ。だけどそのおかげかな、話を切り出しやすくなって変に緊張する必要がないから、その点は嬉しいことだけどね。

 

 机にカバンを置き、中から教科書やノートを取り出しながらの零君の背に向かって、私は口を開く。

 

 

「零君はさぁ、私があなたの隣にずっといたいって言ったら……どう思う?」

「…………いいんじゃねぇの」

「へ……?えっ!?」

 

 

 あっさりと。ワンテンポくらいは考えたみたいだけど、返答は迷わずあっさりだった。なんかこう、もっとシリアスな雰囲気になりμ'sの彼女たちも雪崩込んできて、修羅場展開はっせーいっ!――みたいになると思ってたんだけど……予想外なことに、この場の空気は一切変わっていなかった。

 

 もしかして、冗談だと思われてるのかな?今まで私が彼にしてきた数々の悪行を思い出せば、そう思われても仕方ないけどさぁ。

 

 

「楓のせいで兄妹の距離感があやふやになっちまったんだよな。だからもう来るもの拒まず!お前にどんな思惑や感情があるのかは知らないけど、もう受け入れちまった方が話も早いよ」

「聞きようによれば最低な返答じゃないそれ。私じゃなかったら、確実にフラられてるわよきっと」

「だろうな。お前だからこそ言ったんだ」

「来るもの拒まずって、どこまでハーレム拡大させれば気が済むのよ……」

「はいはい褒め言葉褒め言葉」

 

 

 昔は恋愛に対して鈍感な奥手野郎だったくせに、今では年上の女性相手にもこの余裕。確かにお母さんの言う通り、思った以上に零君強くなってるよ。心の強さもそうだけど、常識外れの言動にも着々と耐性が付いている。楓ちゃんが音ノ木坂に入学する前は、妹との恋愛なんてクソくらえだった彼がねぇ~。

 

 

「ちなみにだけど、別に私はあなたに恋愛感情がある訳じゃない。そこのところ勘違いしないように」

「それは俺も一緒だよ。だけどなんとなくお前とずっと一緒にいたい、そんな気がするんだ」

「小さい頃から嫌々言いながらも私の遊びに付き合ってくれて、今でも縁を切らずにこうして受け入れてくれる。1人で研究や実験をしている時も、この研究結果をあなたにどう試してやろうとか、どんな反応をしてくれるだろうとか、とにかく零君ばかり思い浮かべてたんだ。そのせいかもね、こんな気持ちになっちゃったのは」

「なるほど。まあ俺も、なんだかんだ言ってお前と絡めるのは楽しかったりするしな。お互い様じゃねぇの」

 

 

 多分こんな結論に至る時点で、私たちは普通の姉弟ではないのだろう。実の妹を含む12人の彼女持ちの男の側にいたいだなんて、私も零君のことを言えないほど相当変人だと思う。でも、()()()()と一緒にいられるのならどうだっていいや。元々私たちは普通から逸脱しているんだから、この際とことん普通の軌道から逸れまくってやる!!

 

 

「弟としては大好きだよ、零君のこと」

「だったら俺は姉として好きだ、秋葉のこと」

 

 

 聞く人によっては盛大な勘違いをされそうなセリフを平気で交わす私たち。もう世界から切り離されたどこか別の場所へ隔離した方が、世間体的にも私たち的にも幸せになれるってくらいには。あからさまに常識外れなことをしているのに、私の心は無事に想いを打ち明けられて軽くなっていた。

 

 

 するとさっきまでこっちに背を向けていて零君が、突然振り向いて私が寝転んでいるベッドまで近付いてきた。なんせいきなりだったため、私も思わず息を呑む。いつになく真剣な眼差しで私を見下げる彼。そんな彼に対し、ちょっとカッコいいと思ってしまったのは内緒。弟にそんな感情を抱くなんて、やっぱ私末期だなぁ~。

 

 それにしても、零君は一体なにを――――――

 

 

「俺がさっきまで背を向けていた理由、分かるか?」

「えっ……い、いや」

「ベッドの上に女の子が寝転んでいると、どうも興奮に等しい感情が湧き上がってくるんだよ。いつも俺のベッドを昼寝に使っている楓はもう見飽きたけど、他の女の子、特にいつもそんなことをやらないような奴が寝転んでいるとな……」

「そ、それってもしかして……」

「なんだ?お前だってちょっとは期待してたから、ベッドに寝てたんじゃないのか」

 

 

 零君が、迫ってくる。

 話によればまだμ'sのみんなとは一線を超えていないみたいだけど、裏でコソコソと手を出しているという噂もある。今の彼は完全に女の扱い知った手練。彼から伝わってくるオーラも、経験豊富なホストみたいで無駄に色気付いてるし……って、このままじゃ襲われる!?何故か私は意味不明な恐怖心に駆られていた。

 

 零君は私の身体に手を伸ばす。しかし私は動揺しているせいか、反応がワンテンポ遅れてしまった。

 

 

 迫り来る魔の手。私の顔が引きつる。

 

 

 そして、私の胸に――――――

 

 

「だ、ダメぇっ!!」

「えっ――――ぐあ゛ぁああっ!?」

「あっ……!!」

 

 

 私は両手で零君の身体を勢いよく後ろに突き飛ばしてしまった。反射的に手を出してしまったので、自分でもこの突拍子もない行動に驚いている。何故ここまで大胆に拒絶したのか、その訳も分からぬままお互いにしばらく見つめ合っていた。

 

 そして、なにより私よりも彼の方が驚いているだろう。後ろに倒れた反動でおしりや背中にそこそこ衝撃が走っているはずなのに、まるでその痛みを感じていないと言わんばかりに彼は目を丸くして口をポカーンとさせていた。

 

 

「お前……まさか……」

 

 

 ここで私も分かってしまった。自分の盲点、自分の弱点を――――

 

 

「秋葉……お前まさか、エロいこと苦手なのか?」

「~~~~っ!!!!」

 

 

 私の顔が燃えるように熱くなる。

 ま、まさかこの歳にもなって卑猥なことに耐性がないだなんて……。思い返せば今まではこっちから攻めるばかりで、相手から攻められた展開はなかった。これまでの人生を振り返ってみても、エッチな気分になる薬を作ったり発明品を開発したりはしたけど、それはいつも試す側、自分が被験者になったことは一度もない。

 

 だから知らなかった。まさか私が淫行にここまで奥手で臆病になるだなんて。零君の手が迫ってくる時に感じていた、あの理解不能な恐怖心の正体は自分の心の弱さだったのだ。羞恥心に負けている、その一言に尽きる。

 

 顔が熱い。鏡なんて見なくても分かる。今の私の顔は真っ赤に染め上がり、思春期真っ盛りの乙女のような顔をしているのだろう。大学生にもなって恋愛経験が一切なかったことがこんなところで響いてくるなんて……。

 

 そして逆に零君はここぞとばかりに私を攻められると思ったのか、口角を上げどこぞの悪魔みたいな不敵な笑みで私に顔を近付けてきた。

 

 

「なんだなんだ、男からエロいことをされるのは恥ずかしいってか。随分と可愛い奴だな秋葉」

「う、うぅ……まさかこんなことになるなんて……」

「なぁに、これから俺の傍にいれば勝手に慣れていくって。でもあの秋葉が、まさかここまで純情だったとはねぇ~。弱い奴はその弱さを隠すために強気でいるって言うし、お前も同じだったみたいだな」

「うぅ~!ぜ、絶対に虐めてやる!!これから一生実験動物にしてやるぅうううううううううううううううう!!」

「はいはい、純情乙女の秋葉ちゃん!可愛いですねぇ~」

「くっ……!!」

 

 

 私は襲い来る羞恥に耐えられず、咄嗟に毛布を掴んでそのまま全身に被った。

 こ、この私がここまで馬鹿にされるなんて……1000年に1度の才女で、世界も動かせる頭脳と力を持つこの私にこんな弱点があっただなんてぇええええええええええええええええ!!

 

 

「く、屈辱……」

 

 

 私は毛布にくるまりながら苦い心中を漏らした。

 このまま零君の側にいてみんなと付き合っていかなくちゃいけないのかぁ。前途多難になりそう……うぅ……。

 

 

「いやぁ可愛いなお前!」

「うるさいっ!!」

 




 秋葉さんの話はこれにて決着。最終的に恋人にはならなかったのですが、零君と彼女はこれくらいの距離感が一番似合っていると思いました。え?秋葉さんのガチ恋愛が見たい?それは自分で執筆して私に送ってください(笑) 私も見てみたいので!

 そして最後に秋葉さんの思わぬ弱点も露呈してしまいました。これで秋葉さん好きの方がたくさん増えてくれると……いいなぁ。


 次回は亜里沙の個人回となります!ここからシスターズの回が続くかも……?


新たに☆10評価をくださった

ブルーキャットさん

ありがとうございます!




Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

亜里沙と非人道で退廃的な生活

 今回は亜里沙と今までこの小説でやってこなかったプレイを実行する回。特に私が好きなシチュエーション2つをピックアップしてみました!


 

「俺思うわけよ。恋人になるのはいいんだが、それによってどうしてもできなくなることがあるってな」

「あの零くんに不可能なことがあるだなんて……。私、気になります!!」

 

 

 亜里沙は両手で軽く拳を握り、目をキラキラと輝かせている。

 今日は絢瀬宅にお邪魔し、亜里沙に勉強を教える名目で自宅デートを決行している。絵里は秋葉の手伝い、両親も夜まで外出して帰って来ないそうなので、しばらくの間は亜里沙と2人きりって訳だ。

 

 しかしだな、彼女と一緒にいると色々間違いを犯してしまいそうで怖くはある。凛の純情さは守りたい母性のような感情が沸き立つのだが、亜里沙の純情さは何故だか理由は分からないけど穢したい欲に駆られる。恐らく彼女を黒く染めたらどうなるのか見てみたい好奇心でもあるのだろう、こんな無防備で無警戒だと今すぐにでも飛びついてしまいそうだ。

 

 そして、μ's随一の純粋乙女である彼女だからこそ、やっておかなければならないことがある。

 それは恋人になってしまったら到底できないこと。恋人同士になるってのは決して幸ばかりとは限らない。赤い糸で結ばれたからこその弊害も確実に存在する。その問題を解決するためには、相手が亜里沙じゃないとできないんだ。

 

 

「気になるだろう。そうか気になるか……」

「もったいぶらずに教えてくださいよ!恋人同士なんですから、内緒ごとは禁止ですっ!」

「そうか。でもそのできないことを果たすためには、お前の協力が必要不可欠なんだよ」

「私が必要?私が零くんに頼られるなんて……えへへ♪私、どんなことでも手伝います!いえ手伝わせてください!!」

「いい心がけだ。本当にどんな悩みを打ち明けようが俺を裏切らないと、そう誓えるか?」

「もちろんですっ!零くんの言うことは全て正しいと、楓に教えられましたから!」

 

 

 アイツなんてこと教えてるんだよ……。俺の知らぬところで勝手に洗脳手術が施されているぞ。亜里沙はいい意味でも悪い意味でも純粋だから、楓のような小悪魔女の言うことすらも嘘だと疑わず信じ込んでしまう。俺も初めは言葉巧みに亜里沙をこの話に乗せようと思っていたのだが、今回もその純情パワーを遺憾なく発揮してあっさりと俺の軌道に連れ去られてしまった。逆にこっちが心配になるほどあっけなくな。

 

 

「なるほどいい心がけだ。それじゃあシチュエーションごとに、お前は俺の指定した役柄になりきってもらう。できるか?」

「はいっ!任せてください!」

 

 

 なんだろう、こうも抵抗なしにポンポン話が進んでいくと張り合いがないって言うか、女の子を屈服させることが好きな俺としてはどうも味気ない。多分亜里沙は俺が今物凄くエロいことを考えているってことに気付いていないからだろうが……。ここまで来たら、その純粋さを大いに利用させてもらおう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「うぅ……ま、まさかこんなことになるなんて……」

「ただ俺の話し相手をしただけで帰れると思ったら大間違いだ。むしろ本番はこれからだぞ」

 

 

 いきなり犯罪臭がプンプンする現場になったが、これも俺が設定したシチュエーションの一部だ。

 亜里沙がスクールアイドル活動のための資金を稼ぐために、男と1対1での話し相手になるバイトを引き受ける。だが男は時間になっても帰らせてはくれず、亜里沙の身体を求めてきた――――っていう設定でのシチュエーションを、俺たちは彼女の部屋で再現している。

 

 そう、俺がやりたかったのはこれ。恋人同士になることで非人道的プレイができなくなるから、一度このようなことがやってみたいと思ってたんだ。まあ一言で言ってしまえばアレだ、援交だよ。恋人同士だったらレイプでもただのいちゃらぶエッチにしかならねぇから、背徳感満載のシチュエーションなんて演出しなければできないからな。

 

 そんな訳で、俺は立っている亜里沙の後ろから抱きついているところだ。

 

 

「や、やめてください……帰らせてくれませんか!?」

「おいおい、バイトの内容を忘れたのか?俺の話し相手になってくれるって約束だろ」

「で、でもこれは……」

「男にとっちゃ、これもコミュニケーションの一種なんだよ。大丈夫、追加料金はたんまり払うからさ」

「そんなぁ……」

 

 

 亜里沙の演技力もかなりのものだ。最初にこのシチュエーションを提案した時は顔を真っ赤にして驚いていたが、俺のためならとやる気を奮い立たせてまで提案に乗ってくれたから、そこら辺はやっぱ一途だと思う。でもここまでノリノリでやってくれると、俺も設定だとか演技だとか忘れて役にのめり込んでしまいそう。だったらここは援交のシチュエーションに則って、全力で汚いオジさんを演じるとするか!

 

 俺は手を亜里沙の太ももに添えると、その肉付きを確かめるように脚線美に沿って撫で始めた。

 

 

「ひゃっ!」

 

 

 なんで女の子の太ももってこんなに柔らかくてすべすべなんだろうか。亜里沙の太ももはマシュマロのように肉付きも柔軟で、指を少し食い込ませるだけでもすぐに押し返されてしまう。しかも肌が白すぎて、手に軽く力を入れただけでその純白な肌に赤みができてしまうほどだ。下手に触って手の油を付けることさえも憚られるこのもも肉、またいつかゆっくりと楽しませてもらおう。

 

 

「うぅ……も、もういいですよね!?早く帰らせてください!!」

「何言ってるんだ、まだ始まったばかりだよ。それにここで帰ろうとしたら、μ'sのみんなや学院に亜里沙が援交してたってことバラしちゃうかもなぁ~」

「えっ……!?」

「もし学院にこのことがバレちゃったら、君のお友達もスクールアイドルを続けられないかもしれないなぁ~。なぁに、亜里沙が俺の言うことに従ってくれればバラさないよ。俺たち2人だけの秘密にしておいてあげるから……」

 

 

 このセリフだよ!この言葉が言いたくてこのシチュエーションを選んだんだよ!!

 こんなシチュもセリフも、恋人同士になったら絶対にできないことだ。ていうか恋人じゃなくても無理だなこれは。援交モノなんて薄い本や大人のビデオでしか見たことがないから、まさか自分でこの設定の男優役ができるだなんて……亜里沙様様だな。

 

 俺は亜里沙の太ももに沿わせていた手を、次は胸に移動させる。そしてこの1年で急速に成長を遂げている果実を、ギュッと鷲掴みにした。

 

 

「あぁんっ!!やだ、触らないでください!!」

「おぉ、亜里沙のおっぱい柔らかいなぁ。中学の頃までは貧乳だったのに、高校に入った途端制服の上からでも分かるくらいの双丘になっちゃって」

「好きでそうなったわけじゃ……」

「だろうな。でもいきなり胸が大きくなるってことは、それだけエッチなことを覚えてきたからじゃないのか?」

「…………そんなことはないです」

 

 

 謎のワンクッションを置いた辺り、心のどこかで認めてやがるなコイツ。噂によればオナニーを覚えたとかなんとか。この純情天使の亜里沙がまさか自分で自分を慰めているとは思えないが、マジでそうだとしたら妄想だけでもオカズにできそう。

 

 そんなことを考えながら、俺は亜里沙の胸を弄り続ける。

 中学生の彼女はそこら辺にいるただの量産型貧乳ロリと何一つ変わらなかったのに、今では絵里と同じ血を引いているからか知らないが、たった1年で驚くべき大きさに成長した。もう穂乃果や真姫の胸の大きさを超え、下手したら今年でことりや花陽以上になるんじゃないか。

 

 そんな彼女の胸は服の上からでも手に吸い付き、もっちりとした感触が直触りをしているかのように伝わってくる。下からすくい上げて持ち上げた時には、しっかりと俺の手のひらに収まってくれる程よい大きさ。どうして2月の真っ只中なのにこんな薄い服を着てスカートを履いているのかは知らないが、恐らくこのようなことを期待していたのだろう。

 

 それに今は援交シチュのレイプシーンの再現中。いつもみたいにただいちゃらぶとしているだけでは俺の気も収まらない。ここから更に攻めさせてもらおう。

 

 

「顔が赤くなってきてるぞ。やっぱりお前も期待してるんじゃないのか?」

「し、してません!!無駄口なんてせずに、早く終わらせてください!!」

「強気だねぇ~。身体はこんなに従順になっちゃってるのに」

「ひゃぅっ……んっ……あぁっ!!」

 

 

 可愛い声を漏らせば漏らすほど、女の子を自分のモノにしているって支配欲が満たされてゾクゾクしてくる。これこそがレイプモノの魅力だ。嫌がる女の子を無理矢理なんて、普通だったら犯罪確定。だけどシチュエーションだけなら好きなだけこの雰囲気を堪能できる。特に後ろから立ちバックの要領で攻めている感じがなんともね。亜里沙の名演技も相まって、さながらAVの撮影現場みたいになって非常に加虐心が高まってくる。

 

 俺は揺さぶられる欲情に我慢できず、彼女を抱きしめている後ろから自分もろともベッドに飛び込んだ。

 

 

「ひゃっ!」

「ここからが本当のコミュニケーションタイムだぞ。男と女の、身体同士のコミュニケーションをしようじゃないか」

「い、いや……」

「ほら、自分でパンツを脱いでみて」

「そんなことできません!!」

「そうか、なら学院にこのこと言っちゃうよ?スクールアイドルが援交してたと知ったら、学院は君たちスクールアイドルを解散させるだろうね。そうしたら、みんなもうスクールアイドルができなくなっちゃう。それでもいいのか?」

「そ、それは……」

 

 

 よしよし、いい感じに場が暖まってきたな。いくら演技力爆発の亜里沙と言えども自分から下着を脱ぐってことは恥ずかしいだろうから、援交モノのシチュはここらで終わりとするか。初めて薄い本のような体験ができて、俺はとても満足――――――

 

 

 

 

「分かりました、脱ぎます!!」

 

 

 

 

「は、はい……?」

 

 

 

 

 目に涙を溜め、悔しそうな表情をしながら自らのパンツに手をかける亜里沙。

 こ、これは雲行きが怪しくなってきた……!!

 

 

「待て待て待てぇーーーーいっ!!お前、恥ずかしくないのかよ……?」

「だって、零くんが何が何でも設定した人物になりきれって……。もちろん恥ずかしいですけど、零くんのためなら恥は捨てますから!」

「ま、マジで……?」

「マジです!」

 

 

 まさか亜里沙がここまで純粋ガールだったとは……。羞恥心を投げ捨ててまで俺の言いつけを守ってくれる。もはやただの純粋の一言では片付けられない、どちらかと言えば洗脳に近い形になっているような気もするぞ。だがここまで一途に一生懸命となって下着を脱ぐ流れになると、逆に命令した俺が申し訳なくなってくる。

 

 もちろん彼女が脱いでくれるんだったら喜ぶべきなんだろうが、女の子の秘所を見た瞬間に今の俺の高ぶる欲情具合では、速攻で飛びついてしまうに違いない。そうなれば確実に彼女を襲って下半身結合まで至ってしまだろう。まだ一線を超えるのは許されないので、ここはなんとしてでも亜里沙の脱衣を止めなければ。俺の暴走スイッチ壊れてオーバーヒートしてしまう前に……。

 

 

「とにかく、このシチュエーションはこれで終わりだ!」

「そうですか。ちょっと残念です……」

 

 

 なにが残念!?俺にパンツを見せることか!?俺に脱衣シーンを見せることか!?俺に自分の秘所をくぱぁと開帳することか!?それとも、俺と性行為をすることか!?気になるけど聞いたら最後、ヤらなくて後悔する可能性もあるから、ここは敢えて黙っておこう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はい、それじゃあ服を捲って」

「えっ、捲るんですか……この場で?」

「当たり前だろ。そうしなきゃ診察できないからな」

 

 

 俺と対面に座っている亜里沙は、困惑していた。

 今回のシチュエーションは、学校で定期的に行われる健康診断。俺がお医者さんで亜里沙が生徒という設定だ。エロビデオとかではよくある、病院内でのセクハラ診断を再現してみた。診察なのに執拗に女の子の胸を触ったり、注射器とか言って男のアレを女の子に突き刺したりと――――まあそこまで激しいことはしないが、医者になれない立場上あのようなシチュに憧れるのだ。

 

 そして両手で服の裾を握り締めながら、目をキョロキョロさせて困惑する亜里沙。やはり面と向かって恥じらう女の子を見るのは心がみるみるブラックに染まっていく。お医者さんってこんなことができるんだからズルいよな。俺も医者を目指せばよかったよ。

 

 

「早く脱いで。待っている人がたくさんいるんだから」

「で、でも……」

「これは診察なんだよ?もし君の身体に異常があった場合はどうするんだ?病気は医者である俺しか見つけられないんだけど」

「それはそうですけど……」

 

 

 これぞ魔法の言葉『診察だから』。とりあえずこのセリフを言っておけば、表向きでは悪意があるとは思われない。それで女の子を無理矢理納得させて、自ら服を脱がさせるのだ。そう、俺の前で自分から服を脱いでくれるのが堪らなくいいんだよな、健康診断のシチュエーションってのは!

 

 

()()()()()()。君が気にするところなんて何もないんだよ」

「うぅ……わ、分かりました」

「それじゃあ早く服を上げてね」

「…………はい」

 

 

 亜里沙は観念したのか(そういう設定)、両手で握っていた服の裾を持つと、ゆっくりと上げて自ら服を捲った。胸を覆っている白の下着が肌の純白さと競い合うように輝く。ここまで完全に医者としての役割に従事していた俺だが、その美しい光景を見て思わず息を飲んでたじろいでしまった。

 

 自分で服が落ちないように裾を握って、成長過程の思春期おっぱいを男に晒す夢のようなシチュエーション。それが学校の健康診断モノなのである。特に亜里沙は華の現役JKでありスクールアイドルでもあり、その日々成長しまくりの果実をぶら下げているってことでもこの役にピッタリだ。

 

 

 ここから診察を開始するのだが、あいにく聴診器なんてものは持ち合わせていない。だったらどうするか?手で直接心拍を図るに決まってんだろ。

 

 

「ちょっと冷たいけど我慢してね~」

「は、はい……ひぅっ!」

 

 

 もちろん手だから全然冷たくないんだけどね。亜里沙が声を上げたのは、俺の手が横乳に当たったからだろう。診察モノではよくあるんだよな、医者の聴診器を当てる手が女の子の胸に当たっていることなんて。しかし、いくら医者の手が卑猥な手つきだろうが、診察のためだから仕方ないと思っているから女の子側は文句を言えない。そのジレンマを抱えている女の子の表情と言ったらもう興奮するよな?なっ??

 

 そして亜里沙の表情も何かを言いたげに口を緩めているが、診察の最中だから言い出せない様子(もちろん設定だが)。だがこうして手で直接心拍を図っていると、彼女の心臓の鼓動の回数が多くなってきているのが分かる。いくら演技と言えども、それなりに緊張しているみたいだ。

 

 

「はい次は下着を取ってください」

「えっ……!?」

「そうしないと上手く心臓の音が聞こえないからね。ほら早く、これも診察だよ」

「は、はい……」

 

 

 そうそう、結局医学に精通していない素人ちゃんは渋々医者の言うことに従うしかないんだよ。診察の一貫だからと自分に言い聞かせて、できるだけ羞恥を感じないようにと無駄な努力をする女の子が可愛いんだよね。

 

 亜里沙は背中に腕を回し、下着の紐をスルッと卑猥な音を立てて外した。下着の拘束から解放された乳房が、その柔らかさを自己主張するように揺れる。本当なら機械的な作業で診察を始めなければならないのだが、俺は目の前に曝け出された立派な双丘に目を奪われていた。

 

 以前、彼女と野球拳をした時に見た胸とは違いまた一回り大きくなっていた。白の双丘とピンク色でピンと立った頂点が織り成す輝きは、今にもむしゃぶりつきたくなるほどの魅力を感じ誘惑されているみたいだ。この胸を俺が育ててきたのだと思うと、まるで我が子のようにこの乳房を愛してやりたくなる。

 

 

「それじゃあ心臓の音を聴くことも兼ねて、同時に乳がん検診もしようか」

「そ、そんな私まだ高校生ですよ?」

「高校生でも胸が張ってくれば乳がんになるんだよ。ほら、もっと胸を突き出して」

「は、はい……」

「これは診察なんだから、動いちゃダメだよ」

「うぅ……ひっ!んっ……!」

 

 

 まずは両手で軽く亜里沙の胸を掴むと、もう彼女はそれだけで声を上げていた。もしかして普段の自分磨きから胸を使っているんじゃないかと勘ぐりながらも、10本の指を巧みに蠢かせて乳房の柔らかさを直に確かめる。さっき服の上から触った時とは違う、乳房のほんのりとした暖かさも感じられて、知らず知らずの間に触ることに夢中となっていた。

 

 ただ触っているだけでは飽きてくるので、左右に揺らしてみたり乳首を摘んでみたり、揉む力を強くしてみたりと色々緩急を付けてみる。

 

 

「んっ……はぁ……ああっ!!」

「どうしたの?動かないでって言ったよね?」

「は、はい……すみません……あ、んっ!」

 

 

 いいよいいよ~そうやって我慢しながら耐えているのは。あくまで診察だから気持ちよくなってはいけないという頑固たる意志。だけど医者の手つきが卑猥すぎて求めてもいないのに感じちゃう。神聖なる医療の場でこんなことをされるとは考えていないだろうから、なおさら女の子の悶える姿が可愛く見えるのだ。

 

 だけどいつもμ'sの胸を触っている俺からすれば、触診だけでは生ぬるい。ここはもっとこのシチュエーションを活かして、診察だと信じてならない目の前の哀れな女の子を徹底的に虐めてやろう。

 

 

「ちょっと心臓の音が悪いかなぁ~?よしっ、注射をしよう!」

「えっ、いきなりですか!?」

「大丈夫。挿し始めは痛いかもしれないけど、段々と気持ちよくなってくるからさ」

「気持ちよく……それって……」

「そうだよ。君の身体が悪玉菌に犯されている可能性があるから、俺の消毒液をたっぷりと注ぎ込んであげる」

「い、いやぁ……!!」

「逃げちゃダメだよ。これも()()だからね」

 

 

 そこで俺は胸を丸出しにしている亜里沙に勢いよく覆い被さった。

 

 シチュエーションや設定された役柄とは言え、ここまで興奮できたんだから俺自身相当飢えてたんだなぁて思うよ。もう途中から亜里沙の淫らな姿を見たいがために、いつも通り性欲に従順となっていたし。これも純粋な亜里沙だからこそ協力してもらえたことだ。海未なんかではもちろん不可能だし、ことりや楓の場合は役柄も忘れて痴女ってきそうだしな……。

 

 

 ちなみにだけど、亜里沙に抱きついただけで本番はやってないので勘違いしないように。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そしてシチュエーション終了後。

 

 

「やってみると、案外楽しかったです♪」

「マジか。あんなことされたのに?」

「零くんにされるのなら、私は喜んで受け入れますよ!零くんのお悩みを解決できるのなら私、どんなことだってやります!!」

 

 

 うぉおおおおお眩しぃいいいいいいいいい!!

 いくらなんでも純粋すぎるだろう亜里沙さんよぉ。俺が今まで犯した淫行を全て悔い改めなければならないほどの天の輝き。あんなことをされたのに笑顔でいられるとは、従順すぎるのも如何なものかと今更ながらに思ったよ。

 

 

「そうだ、今度はお姉ちゃんも交えて一緒にやりましょう!お姉ちゃんなら私よりも、零くんのお悩みもっともっと解決してくれると思いますよ」

「え゛っ!?い、いやぁそれはぁ~……」

 

 

 マズイ……絵里はかなりシスコンの毛がある。いくらシチュエーションとは言え亜里沙にレイプしようとしたり触診したことがバレると、海未以上の轟雷が降り注ぐ可能性があるんだ。それに亜里沙自身が非人道的なことをしていると思っていない分、絵里にそのまま率直に今日のことを話してしまうかもしれない……。

 

 

「あっ、玄関から音が。多分お姉ちゃんが帰ってきたんですよ!お姉ちゃーーーーんっ!!」

「お、おい待て亜里沙!!それだけは勘弁してくれぇえええええええええええ!!」

 

 

 俺の場合、エロと地獄は常に隣り合わせ……なのか!?

 




 ここまで女の子と非人道的で堕落した生活を遅れているだけで勝ち組と思える回でした(笑)
 読者の皆さんからしたら、今回取り上げた2つのシチュエーションはどうだったでしょうか?こんな変態小説を読んでいる方々なら、好きな人はきっと多いはず!


 次回は雪穂の個人回です!


新たに☆10評価をくださった

梨味さん、金色の雀さん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雪穂熟睡中!寝込みを襲うのはマナー違反です!

 今回のテーマは睡眠中の女の子。もちろん雪穂の可愛いところも同時に描写していきます!


 『睡姦』という言葉がある。

 "近親相姦"や"獣姦"などの字面を参考にしてもらえれば分かる通り、いわゆる猥褻行為の一種だ。眠って抵抗できない女の子に対して淫らなことをする、外道中の外道プレイ。夢に旅立っている無意識の女の子の反応を見て楽しみ、どこまで起こさないことができるかチキンレースをするのがその目的である。もちろんされる側にとってメリットはないが、実は狸寝入りで声を我慢し、どこまでバレずに耐えられるかを楽しむ女の子もいるらしい。

 

 なんにせよ、あまりに特殊なプレイであることには変わりない。そもそも猥褻行為ってのは女の子の反応を見て楽しむものだし、その相手が睡眠中とあれば反応も薄いはず。そのようなプレイに興奮できるなんてあるはずがない。

 

 そう思っていたのは、たった数秒前のことだった。

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 

 小さな口から可愛い寝息を立てて眠る天使、高坂雪穂。

 俺はそんな彼女の無防備な姿を見ただけで、謎の興奮を感じていた。ただ彼女が寝ているだけなのに、眠っている姿は今まで何度も見てきたはずなのに、俺は欲情に似た感情がぐつぐつと煮えたぎってならない。美女と野獣、いや性欲魔獣。そんな言葉がピッタリだ。

 

 どうしてこんな状況になっているのかって?それじゃあ話を数十分前ほど遡ってみよう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「雪穂!?お前どうしてウチに……?」

「い、いやたまたま用事の帰りに通りかかったので、一応挨拶しておこうかなぁって……」

 

 

 玄関先で驚く俺と、顔を赤らめたまま身体をモジモジさせる雪穂。

 いきなり俺の家に誰かが訪ねてくるのはそこまで珍しいことじゃない。穂乃果やことりはよくアポなしで襲来するし、花陽や凛もどこかへ遊びに行ったついでに俺の家に寄ることはままある。家のチャイムがなった時は「またアイツらか」とあくびをしながらドアを開けたもんだ。

 

 しかし、ドアの前に立っていたのは雪穂だったので驚いた。

 μ'sの中でもとりわけ家にやって来たことは少なく、しかも誰かに誘われてだとか、俺との予定があったとかそういうのでもない。本当に突然なのだ。

 

 

「挨拶って、別に休日なんかに来なくても平日なら毎日学院で会うだろ」

「通りかかったついでですから!!それより、寒いので早く中に入れてくれませんか?」

「あ、あぁ。それにしてもやけに強引だなお前。なんか焦ってる?」

「あ、焦ってません!!極めて平常です!!」

「平常な奴は自分のことを平常なんて言わねぇんだよなぁ……」

 

 

 どうして顔を真っ赤にしているのかは知らないけど、こんな寒い中わざわざ来てくれたんだ、お茶くらいは出してやるか。とか思っている間にも、雪穂は俺のドアノブを持つ腕の下を潜って勝手に家に上がり込んでしまった。

 

 彼女は会話の中で自分に悪い流れが来ると、強引に話を切り替える癖がある。今回もその類だとすると、コイツが俺の家に来た理由って――――ま、余計な詮索はしなくてもいっか。

 

 

「俺の部屋の場所分かるよな?お茶入れたら俺も行くから、そこで待っててくれ」

「は、はい」

「そういやお菓子とかあったっけなぁ~?楓に聞こうにも、アイツ外出中だし……」

「……………それを知っていたから来たんですけどね」

「ん?何か言った?」

「い、いえ!なんでもありません!とびきり美味しいお菓子とジュース頼みますね!!」

「こちとら喫茶店じゃねぇんだよ……」

 

 

 また無理矢理話を捻じ曲げやがったよコイツ……。どうやら何かを隠していることに間違いはなさそうだ。まあそれはおいおい問い詰めていけばいいかな。心を揺さぶられるとめちゃくちゃ可愛い反応するからなぁコイツは、楽しみにしておくよ。

 

 

 そして雪穂はそそくさと2階へ上がって行ってしまった。

 俺はリビングに向かい、温かいお茶を入れるためにお茶っぱを探しているのだが――――

 

 

「どこだ……?」

 

 

 見つからなかった。

 高2までは一人暮らしをしていたため流石にどこに何が置いてあるのかは把握していたのだが、高3になってからは楓が引っ越してきたため、全ての家事を彼女の一任するようになってからは物の所在がさっぱり分からなくなっていた。料理、掃除、洗濯、買い物――――この時点でヒモのような生活をしている俺にとって、自分の家が他人の家に見えることがしばしばある。楓が来てからというもの、家が清潔すぎて畏まってしまうことも多い。

 

 当然ながらアイツにほとんど買い物も任せているので、家のどこに何があるのかなんて家主のくせに全然把握できていない。俺がいかに楓に甘やかされて堕落生活を送っているのかが一瞬で分かるな。情けなすぎるだろこれは……。

 

 その後、結局お茶っぱなどという嗜好品は存在していなかったので、仕方なく冷蔵庫でキンキンに冷えたオレンジジュースをグラスに注いで持っていくことにした。そこそこ時間経っちまったから、また雪穂に嫌味を言われそう。

 

 

 そして部屋に入ってみると――――ここで話の冒頭に戻る訳だ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「すぅ……」

 

 

 リビングで探し物をしていた時間的には5分程度。その間に雪穂は俺のベッドに上がって寝ちまったことになる。流石穂乃果の妹と言うべきか、どこでもぐっすりと眠れる体質は全く同じのようだ。部屋に上がってすぐに寝るなんて、一体何をしに来たのか疑いたくなってくる。

 

 だがしかし、今の俺にとってはそんなことはどうでもよかった。

 雪穂の身体、主に下半身に目が行ってしまったが最後、俺は彼女の魅惑に取り付かれていた。

 

 今日はいつもより特に寒い日なのに、彼女は何故かスカートを履いている。しかもレギンスなどは履かず、生脚を思いっきり曝け出して。それにシャツは彼女の身体のラインを魅せつけるかのような薄めの生地だ。上着を脱いでいるせいか、上半身も下半身も無駄に見せつけて俺を誘っているようにしか見えない。

 控えめながらも一目で1年の成長が分かるバスト、くびれたウェストから丸みのある腰つきのラインは蠱惑的だ。中学の頃は腰周りが気になっていたと言っていたが、もうそんなことなんて気にする必要のないくらい女性の身体をしている。きめ細かな肌は透き通るように白く、カーテンの隙間から差し込んだ斜陽が艶かしい美麗な脚をより輝かせていた。

 

 

 ジュースの入ったグラスを乗せたトレイを持ったまま、俺はしばらくの間彼女のそんな姿を見て硬直していた。

 まだ去年中学を卒業して高校生になり立ての女の子だと、彼女には申し訳ないが悪く言えば馬鹿にしていた節がある。お世辞とも身体に起伏がある訳でもなく、子供扱いしていたと言ってしまえばそうだ。

 

 でも、それは数秒前までの話。

 スクールアイドルとして適度に運動をしているおかげなのか、彼女の身体付きは目を見張るほどに変わっていた。幼児体型とは程遠い、男の目を惹きつける大人の身体。胸も徐々にだが成長が見られるし、もしかしたら音ノ木坂在学中に穂乃果のスタイルを超えてしまうかもしれない。

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 

 それに加えて、この可愛い寝息が俺の煩悩を呼び覚ます。

 身体はちゃんと大人になっているのに、眠っている表情はまるで赤子同然のような愛くるしさがあった。一定の間隔で漏れ出す寝息はさながら子守唄に聞こえてくるので、聞き惚れていたら一緒に夢の世界へと誘われてしまいそうだ。口からは僅かに涎が垂れ、彼女が気持ちよくぐっすりと眠っていることが見て取れる。

 

 俺は持っていたトレイを机に置くと、彼女に惹きつけられるかのごとくベッドに近づいた。

 スカートからすらっと伸びる美脚。ちょっとでも動けばスカートの中が見えてしまいそうだ。

 

 

 俺を、誘っているのか?

 

 

 男の部屋で、しかも彼氏のベッドでこれほどまでに堂々と寝ているんだ。どこからどう考えても手を出してOKのサインに違いない。もし違っていても男を誘う寝相をしているコイツも悪いんだから、俺に100%の非がある訳でもない。

 

 そう自分に言い聞かせながら、俺はいつの間にかベッドに上がり、彼女の上で四つん這いとなっていた。

 心地よく眠る幼気な少女を性的な目線で見つめ、無抵抗のまま襲いかかろうとするその姿は間違いなく犯罪者。いくら恋人同士の関係であっても、寝込みを襲撃するのはマナー違反なのではないだろうか。俺の中で一瞬そのような疑念が浮かび上がった。

 

 

「ちょっとだけ。ちょっとだけだから……」

 

 

 心では若干の迷いがあるのだが、自分の身体は正直だった。

 俺は横になっている彼女を仰向けにして、服のボタンを下着が露出する程度に外す。服を左右に開くと、肌の色とマッチしたベージュ色の下着が現れる。いつもなら一旦ここで女の子の下着姿に見蕩れるのだが、今日はまさに性欲魔獣かのごとく、下着には一切目もくれない。彼女の背中に手を回して下着を取ることすら面倒だったので、ブラの両カップをやや乱暴に押し上げた。

 

 すると、押し上げた下着に引っかかっていた胸がぽろんと零れるように現れた。特別何かを言及するほど大きくもなく、逆に馬鹿にするほど小さくもない美乳。体型は小柄なのにこんなところはしっかりと女の子をしているため、そのギャップだけでも欲求を唆られてしまう。そんなことを思いつつ、俺は形崩れのない胸に触れた。

 

 むにゅむにゅとした柔らかい感触が手のひらに広がる。手に余る訳でも足りない訳でもない、スベスベとした手触りに吸い付くような弾力。亜里沙と同じくこの1年で急激に成長していることが確固として明らかになった。

 

 

「んっ……」

 

 

 胸を揉みしだいていると、雪穂の口から甘い吐息が漏れ出した。もしかして起きてしまったのだろうか?そんな懸念を抱きながらも、俺は胸を揉むことをやめない。むしろもっと可愛い反応を見てみたいと、今度は乳首に刺激を与える。触る前から硬くなっていたため、恐らく寝ながら感じていたのだろう。コイツも相当エロく育ったものだ。

 

 

「はぁ……んんっ」

 

 

 思ったけど、μ'sのみんなって全員おっぱいが性感帯になってないか?これだけ強く乳首を刺激しているのにも関わらず、口から漏れ出すのは男の欲望を刺激するような甘い声ばかり。俺に開発されてそうなったのか、それとも日々自分でやっているからそうなったのか。どちらにせよ、俺を悦ばせるために育ってくれた身体なんだ、思う存分使ってやることにしよう。

 

 乳首を摘んだりはもちろん、乳房に押し入れたり舐めてみたり噛んでみたりもした。雪穂は眠りこけながらもしっかりと感じているようで、漏れ出す吐息もどんどん荒らさを増していく。

 

 

「んっ……あぁっ、んんっ」

 

 

 左胸の乳首を吸い上げながら、右胸をすくい上げるように揉みしだく。雪穂が上半身を反らせて反応するたびにシーツが擦れる音が立ち、部屋中に響く乳首を吸う卑しい水音も相まってとても淫猥な雰囲気が漂っている。俺の唾液で胸がベトベトになっているが、窓から差し込む光のせいで無駄に輝いているため、どこか神々しくも見えた。

 

 ていうか、これだけ攻めてんのに全然起きねぇんだなコイツ。やはりあの穂乃果の妹、寝ぼすけの性格も同じなのか。穂乃果も何度も起こさないと全然目を覚まさないし、雪穂も一度寝てしまったらとことん夢世界に囚われてしまう鈍い性格のようだ。まあ、感度だけは物凄く敏感だけどね。

 

 

 そしてこれが『睡姦』なのである。

 無抵抗の女の子を襲ってその反応を見て楽しむ。ここまでの俺の行為を見てくれたら分かる通り、やっていることは外道中の外道だ。だがエロってものは非人道的で非道徳的、つまりいかに外道なプレイをするかで興奮の度合いも変わるってもんだ。もちろん彼女たちといちゃらぶするのは大好きだよ。大好きだけど、たまには今まで憧れていた捻じ曲がったプレイをしてもいいじゃない!

 

 

 雪穂の胸をたんまりと堪能した俺は、次なるターゲットとして彼女の下半身へと狙いを定める。スカートを全開になるまで捲り上げ、上の下着と合わせたベージュのショーツを拝む。胸攻めだけでかなり感じていたせいか、女の子特有の蜜によってショーツがぐっしょりと濡れていた。胸だけでイクなんて毎日相当ヤってんのかコイツは。μ'sの淫乱度がどんどん上がってきて、スクールアイドルとしてやっていけるのか心配になってくるよ俺。

 

 

「脱がすと一線を超えることも厭わなくなるからな、ここで我慢しておいてやるか」

 

 

 もちろん脱がしたい気持ちは山々だが、俺のリミッターが外れる可能性があるのでここはグッと堪る。その代わり俺は人差し指を突き出して、ショーツ越しに雪穂の割れ目と思われる部分に突き刺した。

 

 

「んんっ、はぁ……」

 

 

 おぉ~これでもまだ起きないのか。それとも既に起きていて、このプレイを楽しむだけ楽しんでから目を覚ますつもりなのかもしれない。もし雪穂がそんなことをしていたら、これからはことりと同じく淫乱ちゃんの称号を与えてやろう。

 

 まあそれはいいとして、俺は再び彼女のショーツに指を突き刺してみる。

 僅かではあったが、くちゅりと淫らな水音が聞こえてきた。あのクーデレで普段はあまり隙を見せない彼女が、今や俺の手で好き放題されるお人形さんとなっている。そんなゾクゾクとした感覚が、俺の性欲エンジンのモーターをフル回転させた。右手で胸を揉みしだき、左手の指をショーツの割れ目に合わせて卑しい手つきで動かしてみる。

 

 

「あんっ!!はぁっ、んああっ……んっ、な、なに!?」

「おっ、ようやく起きたか」

 

 

 ここまで刺激してついに目を覚ました雪穂。胸と下半身のダブル攻めじゃないと起きないとは、これはそこそこのオナニー猛者と見た。そういや一度高坂姉妹におしゃぶりさせたこともあったから、そのせいで軽度の刺激では満足できない身体になっているのかもしれない。

 

 

「ひゃっ、はぁあああんっ!れ、零君!?何してるの!?」

「お前が勝手に俺のベッドで寝ているのが悪いんだ。冬なのに短いスカート履いて俺を誘惑しやがって……この!!」

「あぁああああんっ!!そ、それはぁ……!!」

 

 

 速攻で否定しないところを見ると、やはり俺に見せびらかすためにこの薄目の服と短いスカートを着てきたってことか。今までは性欲が暴走していてあまり服に目が行ってなかったが、よく見てみると上下の服共に新品のように綺麗だ。シワも綻びもなく、まるでさっき買ったばかりかのように。

 

 

「まさかとは思うけどさ。お前が俺の家に来たのって、通りかかったからじゃないよな?」

「えっ……んっ、あぁぁああっ!と、とりあえず触るのやめて――んんっ、はぁあああんっ!」

 

 

 質問を投げかけながらも、俺は雪穂の胸と下半身を弄ることをやめない。目が覚めて自分がレイプ紛いな行為をされていることを認識したせいか、乳首はよりコリコリと硬くなっていた。もちろん下半身の敏感さも増していて、さっきよりもぐちょぐちょにショーツを濡らしている。

 

 そしてなにより、彼女がここまで興奮しているのは俺に核心を突かれてしまったことだろう。

 想定外のことが起きるといつものクールさを忘れて取り乱してしまう雪穂のこと、今も必死に焦りを隠そうとしているが、俺に胸も下半身も攻められているせいで表情を緩めて喘ぐしかない。体裁はボロボロにしてやったから、後は本音を絞り出すだけだ。

 

 

「お前もエロくなったよなぁ。まさか自ら薄着スカートで俺を誘惑しに来るなんてさ」

「べ、別に誘惑なんて……んっ、あぁああああんっ!そろそろ触るのやめてください!!」

「本当のことを言うまで、ずっとこうしてるから」

「そ、そんな……ひゃっ!そ、そんな先っぽばかり……!!」

「やめてほしかったら本心を曝け出せよ。でないと、俺の前で無様な姿を晒すことになるぞ?」

「んっ、ひゃぁああああんっ!分かりました!言いますから!!」

 

 

 乳首を弄りすぎたせいか、その色が綺麗なピンクから赤く染まっていた。そしてショーツも鮮やかなベージュだったのに、今や女の子液によって色濃いシミで塗り固められている。これ以上やられたら自分も壊れてしまうと悟ってようやく観念したらしい。こうやって女の子を堕としていく感覚は、やはりいつになっても興奮するな(n回目)。

 

 

「たまには零君と2人きりでお話したくって、楓がいない今日を選んでぇぇええええええええええええっ!?あぁ、んっ!ど、どうしてまだ触ってるんですか!?話したらやめてくれるはずですよね!?」

「いやぁお前の反応が可愛くってさ。それに俺のためにおしゃれしてくれたんだろ?だったらこっちもそれ相応のおもてなしをしてあげないと」

「そ、そんなおもてなし結構です!あっ、はぁんっ……」

「なんだかんだ身体は気持ちよくなってるじゃん」

「ふわぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!こ、こんなぁ……」

 

 

 口では抵抗しているが身体はビクビクと震わせているため、快楽に負けてよがっているのが丸分かりだ。そんな彼女の嬌声は俺の性欲に響き、もっともっと雪穂を辱めたくなってくる。

 

 俺はラストスパートをかけるため、胸と下半身を触る手の動きをより激しくした。大切にしている彼女をめちゃくちゃにする、そんな欲望だけに忠実となって。

 

 

「やぁあああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!ダメッ、あっ、あ゛ぁあああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 雪穂の乱れに乱れた嬌声が部屋中に響き渡る。気が付けば、俺のベッドは淫乱な液体によってぐっしょりと湿っていた。この惨状を見るだけで、彼女がいかに快感に支配されていたのかが分かる。

 

 しばらくの間ピクピクと身体を震わせていた雪穂は、ようやく身体の痺れが落ち着いたのかゆっくりと深呼吸をする。はぁはぁとした吐息がこれまたエロい雰囲気を漂わせるのだが、彼女の体力はもう限界のようで身体もぐったりしているので、これ以上攻めるのはやめてあげよう。

 

 

「ヒドイです。寝込みを襲うなんて……マナー違反です」

 

 

  雪穂はベッドに寝転がりながら、俺に向けて恨みがましい冷徹な視線を突き刺してくる。いかにも怒ってますよと言わんばかりの目線だが、顕になっている生乳に捲られているスカート、濡れに濡れているショーツを見ればそれも可愛いものだ。

 

 

 その後、楓にこのことがバレると俺の貞操が危ないので急いで部屋の掃除をした。雪穂は冷めた態度で全く手伝ってくれなかったのだが……まあ当然か。

 

 

 でもアリだな――――『睡姦』プレイ。

 




 人間の三大欲求は『食欲』『睡眠欲』『性欲』ですから、その中の2つを融合させた『睡姦』は最強(?)なはず!1つ欠点なのは、眠っている女の子を相手にするのでそのキャラを生かしづらいってことですかね。でも今回は雪穂の魅力も十分に伝わったかと!

 次回はギャグエロっぽいネタを1つ。最終回も近いですし、そのようなネタをするのもそろそろ終わりかもしれません。


新たに☆10評価をくださった

Kana13820さん

ありがとうございます!
今更ですが、評価してもらった際のコメントには返信できていませんが、ちゃんと全てに目を通して励みにさせてもらっています!
特によくあるコメントで面白いのが「この小説の穂乃果たちに慣れすぎて、もうアニメの穂乃果たちに違和感がある」旨の内容ですね(笑)


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

性感共有スイッチ~私の快楽はあなたのもの~

 いい更新頻度だ()
 サブタイを見たらヤンデレっぽく捉えられなくもないですが、内容は全然普通なのでご安心を!


「復讐よ」

「は……?」

 

 

 起きたら目の前に――――秋葉がいた。

 

 

 冬の朝。まだ薄暗い部屋の中で、押し倒し押し倒されている男女が2人。押し倒しているのが、先日兄妹愛に満ちた告白により恋人一歩手前クラスまで距離が近づいてしまった我が姉、神崎秋葉。そして押し倒されているのがその愛すらも受け入れてしまった弟、これ俺、神崎零である。

 

 傍から見れば「なにこいつら?兄妹愛とか言いながらも一線を超えるのか?神崎兄妹ってやっぱり近親相姦趣味かよ」と思われるかもしれない。

 違う。目を覚ましたらコイツが目の前にいただけだ。初めは俺も秋葉の頭がブッ飛んだ(別の意味で)んじゃないかと思っていたのだが、コイツの悪魔のような笑顔を見るなりそんな卑しい考えはすぐに消え去った。

 

 

「今零君の身に起きていること、説明なんてしないよ。復讐だからね」

「だからなんの?」

「この前、私のあられもない姿を見られたから。屈辱だったわあの出来事は……」

「あぁ、意外とお前がウブだったってやつか」

「そう、認めたくないけど受け入れざるを得ないわ。だけど屈辱を味わったのだけは話が別。私を辱めた罪、倍返しで償ってもらうんだから」

「罪って……」

 

 

 秋葉にとってあの出来事は相当な恥辱だったらしいのだが、俺は普通に可愛いと思った。前々から大人としての魅力はあったのだが、そこに健気さが加わってより一層完璧な女性に近づいた気がする。まあ、これを言ってしまうと報復の度合いが更に増しそうだから絶対に言わねぇけどな。

 

 

「あまり取り乱さないのね。もっとギャーギャー騒いで悶え苦しむ姿を見たかったのに」

「もう慣れてんだよ、お前に実験モルモットになるのは」

「自分から奴隷宣言をするなんて、零君もしかして……M?」

「んな訳ねぇだろふざけんな。それより、そろそろ俺から離れないと怒られるぞ」

「へ……?」

 

 

 その瞬間、俺の部屋のドアが解き放たれる。

 朝食の香りに身を包んだ、エプロン姿の我が妹のご降臨だ。その表情に『驚愕』の2文字を伴って――――

 

 

「な゛ぁ!?あ、あぁぁぁ……!!」

「あっ、楓ちゃん……」

「なっ、ななななななななななな………!!」

 

 

 ドアを開けた時に見えた彼女の表情はとても穏やかで、恐らくいつもの調子で俺を優しく起こすつもりだったのだろう。しかし俺の上に秋葉が四つん這いになっている光景を見て、その表情が一瞬で一変した。楓はお兄ちゃんを起こすのは自分の役目だと誇りに思っている。拳を握り締め、身体をプルプルと震わせ――――あっ、これヤバイ!

 

 

 

 

「なにやっとるんじゃおのれらァァあ゛ぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 長閑な冬の朝に、家の屋根に止まっていた鳩も飛び立ってしまうほどの少女の怒声が響き渡った。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「もうっ、お兄ちゃん油断しすぎだよ!」

「いやいや、寝てるのにどうやって抵抗すればいいんだよ……」

 

 

 俺は通学路をトボトボと歩きながら、ひたすら楓からの説教を受けていた。

 この前は雪穂の寝込みを襲ったりしたのだが、今日改めて分かったことがある。確かにあの状況では何をされても対抗できない。人によってはちょっとの振動でも目を覚ます眠りの浅い体質もいるみたいだが、残念ながら俺は眠りの深い方だから、寝込みで逆レイプされてもフィニッシュまで気付かないだろう。改めて睡姦プレイが非人道的だと悟ったよ。

 

 

「それで?お姉ちゃんに何かされてない?」

「多分されてるとは思うけど、それがなんなのかはさっぱり」

 

 

 秋葉の言動を思い出せば、俺の身に何かしらの細工を施されたのは間違いないようだ。だがそれがなんなのかは全く教えてくれなかった。今まではどんな効力でいつその効果が切れるのか、1から10まで明らかにしてくれたのに。もしかして、これが復讐なのか?いつどこでどのように俺の身に異常が起こるのか、その効果の持続時間から何から何まで分からぬまま今日を過ごせってことらしい。

 

 どちらにせよもう身体を弄られてしまったんだ、警戒するだけ無駄だってことだろう。敢えて冷静に振舞っていれば、アイツの思惑も外れるだろうし。何か起きたら起きた時に対処法を考えればいい。こうして取り乱さない辺り、アイツの実験モルモットになることが日常的すぎて、もう危機感すら抱かなくなってしまった。相当訓練されてんなぁ俺も。

 

 

「はぁ、今日はお兄ちゃん起こせなかった……。毎朝お兄ちゃんの寝顔を見て、ひとヌキしてからの蕩けた笑顔で目覚めを迎えさせるのが私の責務なのに」

「おい、公衆の面前でそんなこと言うな!俺たちの関係バレるだろうが!」

「私はバレてもいいけど?むしろ私とお兄ちゃんが交わるところをみんなに見せつけてやりたいよ♪」

「…………っ!?」

「ん?お兄ちゃん……?」

 

 

 なんだろう、さっき俺の身体に電流が走ったような気がした。しかもただの痺れではなく、興奮している時に感じる快楽に近いものだ。身体にもじんわりと熱が灯っているみたいで、冬だから厚着をしていると言い訳できないくらいに暖かくなっていた。

 もう何度もそのような快感を味わっているから分かる。でも楓の発情気味なセリフを聞いただけで、この俺がここまで発情するとは……!!今まで何度もμ's全員の裸体を見てきた俺だ、そんなセリフで今更興奮する訳がないだろ!!

 

 

「あら、零に楓じゃない」

「絵里……希ににこも」

「おはようさん♪朝から2人に会えるなんて、今日はいいことありそうやね」

 

 

 身体が謎の快感に襲われている最中、絵里たち大学生組にエンカウントした。

 こんな時間に会うなんて珍しいとか、普段はそう思うだろう。だが、さっきから身体が変に疼いて堪らないのでそれどころの話ではない。確かに朝から恋人たちに会えるのは嬉しいよ?でも女の子を見ただけで興奮するって、それどんな変態なんだよ!!

 

 服をふっくらと押し上げる胸を見て内部に秘められたおっぱいを想像したり、スラッと伸びる美脚で唆られたりはするけれども、それだけでここまで性的興奮を覚えるなんてことは一切ない。まして、ここまで身体が熱くなるなんてことも……。

 

 そんな中、にこが獲物を見つけたような目でジリジリとこちらににじり寄ってきた。

 あっ、コイツ相当飢えてんな。もう2年の付き合いだからすぐに察せる。にこが目を光らせるのは、お気に入りアイドルを目撃した時か俺に襲いかかりたい時だけだってな!!

 

 

「そうね……ホント、ラッキーだわ……」

「にこ……」

「昨日の夜はここあたちの面倒を見ていたせいで、1人でできなかったのよ」

「そんなこと誰も聞いてないけどな……」

「だからここでにこの欲求不満を改善しなさい!!ほら早く脱いで!!ガンガン突いて!!」

「落ち着け!!そんな大声で痴女晒してんじぇねぇ――――うっ、ぐっ!!」

「零……?」

 

 

 ま、まただ……。また全身に電流が走る感覚が伝わってきた。自分の身も心も全て性感帯になったかのように、身体の芯から快楽が湧き出てくるようだ。もしかして、これが秋葉の言っていた復讐なのか?このまま刺激を与えられ続けられたら、女の子を見つめているだけで道端に果てた素人変態だと勝手に勘違いされるだろう。女の子を見ているだけでイっちまうなんて、楓やにこのことを言えないばかりか絶対に馬鹿にされるに違いない。それはなんとしてでも避けなければ!!

 

 

「零くんどうしたん?さっきから顔が赤いけど……」

「身体も震えてるし、熱でもあるの?」

「い、いやなんでもないよ。ちょっと今朝色々あって疲れてるだけだ」

「色々?」

「お兄ちゃん、朝っぱらからお姉ちゃんと『やんやん♪』やってたんですよ。私という最愛の妹を差し置いて……」

「やんやん!?欲求不満のにこを他所に、自分だけ楽しんでたって訳ぇえええええええええええええええ!?こちとらずっと妄想の中のアンタに寸止め食らわせれて腹たってんのよぉおおおおおおお!!」

「知るか!!アイツが勝手にやったことだしお前の事情も知ら――――ぐっ!!」

「れ、零!?」

 

 

 またしても例の快感に襲われる。発生条件も何もかもが分からず、いきなり襲いかかってくるため身構えようにもどうすることもできない。ただ痛いとか苦しいとか、そんな俺を縛り付けるような感覚ではなく、むしろ気持ちいい。だが自分磨きで徐々に性欲を高ぶらせていく大器晩成型快楽ではなく、媚薬でも盛られたかのように興奮が無理矢理最高潮に押し上げられている瞬発型快楽だ。それだけ一気に快楽を注入されたら、身体がビクついてしまうのも仕方がない。

 

 このままここにいては道端の途中で出してしまうかもしれない、白いアレを。そして4人に掃除をしてもらってお世話されて……うわぁ、無様すぎて想像するだけでも頭が痛い。とりあえずなんとかしないと……。

 

 

「わ、悪い!そういや今日日直だって思い出したから先行くわ!それじゃあまた放課後!」

「えっ、お、お兄ちゃん!?」

「もうっ!にこの溜まった欲求はどうするのよぉおおおおおおおおおおおお!!」

「それはぁ~ウチがたっぷりと発散させてあげるよ♪」

「う゛っ、手をワキワキさせるのやめなさい!!にこは女の子同士に興味なんかは――――ギャァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「零、大丈夫かしら……?」

 

 

 後ろでピンク色の光景が繰り広げられているみたいだが、俺は身体の震えを抑えるだけで精一杯で振り返る余裕なんてなかった。

 これ以上アイツらと一緒にいると、この身がボロボロになって朽ち果てかねない。道の真ん中でイキながら倒れたって噂が流れたら、もう人生一生立ち直ることができねぇな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁはぁ……どうすんだよこの身体」

 

 

 結局、身体の痺れは未だ残ったままだった。段々と息も荒くなり、自分から発情しようと思ってないのに強制的に性欲を呼び起こされる妙な感じがこれまた気持ち悪い。だけどその中にも一抹の快楽があるので身体だけは悦んでいる、そんな状況だ。

 

 俺は学院内の廊下をフラフラと歩く。確かに傍から見たら体調が悪いように見えてしまうのは当然かもしれない。だが、廊下で身に降りかかる快感に身をよじらせている変態だと誰が思うだろうか。周りからは俺が奇抜な行動をする人間だと認識されてはいるだろうが、学院内での猥褻行為は人目を避けているため変態だってことはまだバレていないはずだ。もうすぐで卒業。そんな華やかな門出の前に汚らしい印象は絶対に残したくない。俺はμ'sと共に輝かしい伝説を残して卒業してやるんだ!

 

 

「零君おっはよ~!!」

「うぉっ!?ほ、穂乃果!?」

 

 

 突然後ろから穂乃果に首を絞める勢いで抱きつかれ、思わず仰け反ってしまう。

 背中に押し当てられる胸の柔らかさに、やっとこさ本物の興奮が沸き起こったことに何故か喜びを感じてていた。さっきまでは俺の意思関係なく身体が勝手に暴走していた、つまり作られた興奮だったから余計に。やはり性欲ってのは与えられるものじゃない、自分から感じてこそ至高なんだ。これ定説にしていこう。

 

 

「おはよう零くん♪」

「おはようございます。珍しく朝早いですね」

「あぁおはよ。まあ色々あってなぁ……」

「ん~?零君いつもよりとっても暖かいよ!ははぁ~ん、さては寒くて家から出たくないからずっとコタツに入ってたなぁ~!」

「お前と一緒にすんな。それにいくらコタツに入ろうが、こんな寒い時期に外歩いたら身体なんて速攻で冷えるだろ」

「え~!じゃあなんでこんなに身体暖かいの?」

「…………」

 

 

 さっきから興奮に興奮が重なっているせいで、暖かいというよりむしろ暑いくらいだ。だがそんな情報を穂乃果とことりに与えたら最後、別の意味で熱い展開が訪れてしまうに違いない。秋葉に弄られて興奮が自動的に発生してしまうこの身体に、加えて自分が生み出した興奮が合わさってしまうと――――今度こそ性欲に負けて死んでしまうだろう。ここは頑張ってシラを切り通すか。

 

 

「多分厚着しているせいだから、うんうん」

「でもいつもと一緒の上着とマフラーだよね?」

「………今朝はちょっと気温が高かったようなぁ~」

「むしろ今日はいつもより寒いくらいですが」

「…………」

 

 

 いかん。弱みを隠すために城壁を固めようとしているのに、逆に墓穴を掘ってる……。

 そして俺が一番懸念していたことが、遂に起こってしまった。ことりが俺の身体に顔を当てて、くんくんと匂いを嗅ぎ始めたのだ。頬を赤く染めながら、ワインのテイスティングをするかのように丁寧に。俺のどこにそんないい匂いがするのか、彼女はうっとりとした表情で食い入るように俺に顔を擦りついてきた。

 

 

「零くん……とってもエッチな匂いがするよぉ♪」

「そ、そうか?」

「うんっ!ことり分かるもん。零くんがエッチなことを考えている時の匂いも雰囲気もね……。ことりはそんな零くんを見ながら、自分も気持ちよくなるのが何よりも大好きなんだよぉ♪零くんが興奮してる今なら、ことりのこと襲ってくれるかなぁ?」

「ぐっ、あぁっ!!」

「えっ、なになに!?」

「零、くん……?」

「零、どうしたのですか!?」

 

 

 ことりの相変わらずの発言に背中に悪寒が走るゾワゾワとした感覚に陥りながらも、同時に例の快楽を加えたダブル攻撃に俺は廊下の壁にもたれ掛かってしまった。一体こうなってしまう原因はなんなんだ?日常的にこんなことが起きるのだとしたら、授業中とか卒業式とかで俺の恥辱に満ちた姿を晒してしまうことになる。このまま快楽に身を委ねていては秋葉の思う壺、ここらで対策を考えるか。

 

 思い返してみれば、この症状を発症したのは楓、にこ、ことりと話している時だ。この3人の共通点と言えば――――まあ考える必要もなく、μ'sの淫乱ちゃんグループの一員ってことだろう。この3人との会話の内容は……あぁ、なんとなく分かった気がする。

 

 

 俺の身体は、μ'sのみんなの発情に呼応しているんだ。つまり、みんながエロい気持ちになればなるほど俺の身体に刺激が加わる。いつもながらに厄介なことしやがってあの悪魔め……。

 

 待てよ……?それじゃあμ'sの中でも天然淫乱の穂乃果と、脳内ラブホのことりの2人と一緒にいるのが一番マズイのでは!?

 

 

「あぁ~トイレに行きたくなってきたからちょっくら行ってくるわ!」

「…………ダメだよ」

「ことり?離してくれトイレに行きたいんだけど……」

「何言ってるの?トイレならここにあるでしょ?」

「まさか……」

「うんっ!ことりが零くんのトイレになってあげるって、毎日言ってるよね忘れちゃったの~?」

「うっ、ぐあああっ!!」

「零?さっきから様子がおかしいですよ!?」

「ことりをトイレとして使えるから興奮しちゃってるんだよね♪」

「んな訳……あ゛ぁあああああああああああっ!!」

 

 

 ヤバイ!ことりが暴走し始めている!!

 口から漏れ出す言葉が全てR-18になるコイツの傍にいたら、声を聞いているだけでもイってしまいそうだ。ことりの性感と俺の性感はリンクしている状態だから、常時発情中のコイツの近くにいると俺にも常に刺激が送られ続ける。まるでスタンガンを押し当てられているかのような電流攻撃に、俺は情けなく身をよがらせてしまう。

 

 

「そんなにことりをトイレにするのが嬉しいだなんて……ほら早く、ことりのスカート捲ってパンツも脱がして?」

「あ゛ぁああああああああああああああああああああああああっ!!」

「な゛っ!?こ、ことり!!スカートをたくし上げるのはやめなさい破廉恥ですよ!!」

「えぇ~海未ちゃんだって興奮してるんじゃないのぉ~?」

「ちょっ、勝手にスカート捲らないでください!!」

「ぐぁあああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 ここで快感が走るってことは、海未の奴スカート捲られて発情してやがるな!?この隠れ淫乱め!普段は常識人ぶってるけど、実は家で夜な夜な自分磨きをしているってこと知ってるんだからな!!この状況で頼れるのは海未だと思ったのにこのやろォおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 

「大丈夫、零君?」

「あぁ、頼りになるのはお前だけだよ穂乃果」

「だよね!やっぱりトイレに使うなら穂乃果だよね!!」

「はぁ……がぁ、がああああああああああああああああああああああああああっ!!」

「わぁ♪零君そんなに嬉しいんだぁやったぁ~♪」

「ちげぇよそんなことはぁああ゛あぁぁぁぁあああああああああああああ!!」

 

 

 もう頼りとか救いとか、俺にそんなものは一切ないらしい。あの海未でさえ興奮を感じているこの状況、3人の性感が俺の身体に一斉に同期され、与えられる快楽によって全身がパンクしてしまいそうだ。いやもうパンクしているのかもしれない……。

 

 

「零君がここまで興奮してくれるなんて……。海未ちゃんがデレてくれたからかもね!」

「デレてません!それに学院でこんなことを――――って、ことりっ!!下着に手をかけて何をやってるのですか!?」

「だってぇ~こうしたら零くんがもっともっと喜んでくれるかなぁっと」

「だから喜んでないって言ってんだろぉがあぁあああああああああああああああああああああああ!!」

「すっごいよ海未ちゃん!パンツだけで零君をここまで興奮させるなんて!!」

 

 

 その興奮でもう絶頂に達して死にそうなんですけどそれは……。

 海未がスカートを捲っている、正しくは捲られていると言った方が正確なのか、まあどちらのせよ彼女のスカートの中をまじまじと見られるだなんて滅多なことではない。そう、こんな身体じゃなかったら素直に楽しめたのに……。

 

 

「海未……ことりに絡まれてないで、早く俺を助けてくれ……」

「絡み!?零くんそんな、ことりを脳内でぐちゃぐちゃに犯すシーンを想像してるんだね……♪」

「そんなこと誰も言ってぎやぁあああああああああああああああああああああああああああああ……あぁ……あぁ」

「れ、零君が昇天しちゃった!?」

「ほらみなさい!あなたたちが暴走するから!」

「え~海未ちゃんもノリノリだったよ♪」

「そんなことはないです!!」

 

 

 いいから、誰か俺を助けてくれ……。

 そこから、俺の記憶はぷっつりと途絶えた。

 

 

 そして後々知ったことなのだが、気絶している間も快感の同期は行われていたらしく、無様に下半身を濡らしてしまう痴態を晒してしまったらしい。

 

 よしっ、自殺すっか!!止めるなよ……誰も止めるなァあ゛あああああああああああああああああああああああ!!

 




 執筆し終わってスイッチ関係ないことに気付いたのは内緒。

 秋葉さんの発明シリーズもこれにて最後となります。
 いやぁ最後の最後まで零君やμ'sを振り回してくれて執筆している私も楽しかったですし、そして話のネタとしても役に立ったので秋葉さんグッジョブです!これまでの話の中で自分も使ってみたい、または使われてみたいと思った発明品はあったでしょうか?(笑)


 次回は今までやるやると言って全然執筆してこなかったA-RISE編です!


新たに☆10評価をくださった

にゃんびゃーさんさんさん、白猫@曜推しさん、狐狗狸さんさん

ありがとうございます!
評価してもらった際のコメントには返信できていませんが、ちゃんと全てに目を通して励みにさせてもらっています!
中でも『日常』『非日常』も見てくれた旨のコメントは非常に嬉しいです!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

A-RISEと恋とアニマルパーティ

 お待たせしました、いるのか分からないアライザーとツバサ推しの皆さん!


「おーい零くーん!こっちこっちーーっ!!」

「そんな大声で呼ぶなよな……」

 

 

 とある冬の休日、俺はA-RISEの優木あんじゅと統堂英玲奈に呼び出されて隣町まで来ていた。

 

 駅の改札を抜けると、明るい茶髪のゆるふわ系の女の子が俺に手を振っているのが見える。そしてその隣には、存在を激しく自己主張する友人に呆れた目線を送る、紫ロングのクール美人の姿もあった。

 周りにあまり人がいないとは言え、不特定多数の人混みの中で名前を大声で叫ばれると恥ずかしいものがある。しかも俺なんかよりもコイツらの方がよっぽど有名人なのに、そんなに目立って大丈夫なのか……?

 

 

「久しぶりだね零くん!元気にしてた~?」

「あぁ久しぶり。いつもながらダラダラとした生活ばっか送ってるよ」

「フフッ、予想通り相変わらずだな君は」

「誰にも邪魔されないマイペースな生活を送るのがモットーなんでね」

 

 

 優木あんじゅと統堂英玲奈。共にμ'sと双璧をなすスクールアイドル"A-RISE"のメンバーであり、今なお雑誌やテレビで取り上げられる回数で言えばスクールアイドルの中でもトップを誇る超有名人。そんな彼女たちとこのようにごく普通に遊びに行けるなんて、我ながら中々いいポジションを確立できたと思う。まあごく普通と言っても、面と向かって会うこと自体が久々なんだけども。

 

 A-RISEの面々とはそこまで頻繁に交流をしている訳ではなく、たまに携帯で多少お話をしたりするだけだ。だからと言って別に付き合いが疎遠になってはおらず、単にあの名門UTXに通う彼女たちが忙しいだけだろう。俺たちと同じくもうすぐで卒業だし、それに名門となれば難関大学へ行くだろうから、その受験勉強の邪魔もしたくないしな。

 

 

「そういや、俺は何の用で呼び出されたんだ?いきなり集合日時と場所を伝えられて、予定合わせるの大変だったんだぞ」

「絶対嘘!どうせ零くん休日暇してるでしょ?」

「ぐっ、そ、そうだけどさ……。それよりお前らは受験勉強大丈夫なのかよ?」

「たまには息抜きも重要さ。それに日々スクールアイドルの練習と受験勉強で疲れが溜まっているから、ちょうど癒しも欲しいと思っていたところだしな」

「癒し……?」

「そう。可愛いもの好きの零くんなら、絶対に楽しめると思うよ!」

 

 

 可愛いものと言えば、やっぱり女の子だよな。それじゃああんじゅや英玲奈は俺と可愛い女の子を合わせようとしているのか?可愛い女の子がたくさんいるところ、例えばメイド喫茶とか女性客にも人気だし行き先としてはありえそう。メイド喫茶は行きたいとは思うんだけど男1人では中々入りづらいから、こうして女性と一緒に行けば周りの目を気にしなくていいな。

 

 おおっ!そう考えるとなんだかテンションが上がってきたぞ!!

 

 

「よしっ!こんなトコで道草食ってないで、早速行こうぜ!」

「そうだな。ほらあんじゅ、君が案内してくれるんだろ?」

「ん?お前も行き先知らないのか?」

「あぁ、私も君と同じくあんじゅに突然呼び出されたクチだから。練習や勉強の休憩がてらに癒しを求めてみない、ってな」

「あんじゅ…………なんか企んでる?」

「よ~しっ、それじゃあしゅっぱ~つ!!」

「はぐらかしやがったコイツ!?」

 

 

 うわぁ一気に胡散臭くなってきたぞ今日のデート。あんじゅの口角が微妙に上がっていたことから、まだ何かを隠していることは間違いなさそうだ。彼女の不敵な笑みから察するに、俺のことを財布と見てんじゃねぇだろうな……。最近練習やら勉強やらで忙しいって言ってたから、ここでドカーンと甘いものをバカ食いしたり、高級な服を大人買いなど豪遊してストレスの発散をするかもしれない。さっき可愛いものが見られると言ったのは俺を帰らせないようにするための罠か?でもいくら相手が美人だからって、下手に貢ぐほど俺は男が腐っちゃいないから。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「そういや、今日ツバサは来ないのか?」

 

 

 そこまで人がいない歩道を歩きながら、俺はあの生意気デコ娘がいないことに気が付いた。さっきはあんじゅの思惑を詮索しようと必死だっただけで、決して存在を忘れていたとかそんなことないから!アイツの背が低いから、もしかしたら俺が存在確認できてないと思っただけだから!!

 

 

「ツバサちゃんはバイトだから来ないよ」

「バイト?あのA-RISEのリーダーたるものが?もう芸能人並みにガッポガッポ儲けてそうなイメージだけど」

「まだ私たちはただの高校生だ。スクールアイドルも部活の領域を出ないし、メディアへの出演料の大半はA-RISEの活動資金に当てているから、儲けるだなんて文字通り夢物語だよ」

「へぇ~割と真面目にやってんだなぁ」

「そうそう、だからお小遣いを稼ぐにはアルバイトも必要だって訳」

「だったら、ツバサのバイトが休みの日に遊べばよかったんじゃないか?」

「ダメダメ!今日じゃないと私の計…………画が」

「おい早速ボロ出てんぞ」

 

 

 思わず口走ってしまい言葉を濁そうとしたあんじゅだが、もうはっきりと聞こえてしまった。どうやら俺と英玲奈は彼女のご遊戯に付き合わされているらしい。本人もバレてしまったから隠すつもりはないのか、()()()()()()()で俺たちの前を歩いている。ことりもそうなんだけど、どうしてゆるふわ系の女の子はここまで腹黒いのだろうか。表向きでは体裁を取り繕って、裏では底知れぬ闇を抱えている、そんな感じがする。怖い……女の子って怖い。

 

 

「まあまあそんなに警戒する必要はないよ。このお店を見れば分かってもらえるから!」

「えっ、もう着いたのか――――って、アニマルカフェ?」

「アニマルカフェって、最近流行りの喫茶店の中に動物がいると噂の?」

「イエス!」

「お前が来たかったのってここ?案外普通っていうか、もっと財布の中身が搾り取られるところに行くかと思った……」

「どうやら私に対してかなりの偏見を持ってるみたいだけど、私ってとっても純情ガールなんだから!」

 

 

 もう最近誰の口から純情って言葉を聞いても全然信用ならなくなっていた。主にμ'sのせいで……。

 そんなことよりも意外や意外、連れてこられれたのはいかにもメルヘン全開なアニマルカフェだった。店の周りに置かれている動物の置物がかなりアニメのキャラクター調なので、純粋に動物を楽しむと同時におとぎ話のような雰囲気も味わえそうだ。

 

 俺はあまりこのようなところには来ないのだが、テレビで見る限りでは癒しを求める空間として最近男女問わず人気があると聞いて気になってはいた。中には家でペットを飼えない人も多いだろうから、人懐っこい子犬や子猫と戯れることができ、しかも一緒に食事もできるのだからかなりの需要はあるのだろう。俺たちがこうして店の前で突っ立っている間にも、後から来た何人かお客さんが入店していた。

 

 

「まあ今日は勉強も何かも忘れてパーっと楽しもうよ!!」

「お前は別の意味で楽しんでそうだけど……まあいいや、いつまでも立ってたら邪魔だし、早く入ろう」

 

 

 先に着いたのに、後から来た客に席を取られて待ち時間を過ごすのは馬鹿らしい。俺は初めて足を踏み入れる空間に少し緊張しながらも、扉の取っ手を掴んでゆっくりと開ける。

 

 すると、目の前に俺の性癖をくすぐる華やかな光景が飛び込んできた。

 

 

 

 

「「「「お帰りなさいませ、ご主人様♪」」」」

 

 

 

 

 ご、ご主人様だ……と?主従プレイが好きな俺のこと、可愛い子から"ご主人様"と呼ばれてしまうと一瞬の内に己のドS精神を掻き乱される。身体が震えるほどゾクゾクとした高揚感に、俺は出迎えてくれた4人メイドさんたちを食い入るように見つめていた。

 

 ただのメイドさんなら俺もここまでは胸が熱くはならない。だがこのように血沸き肉踊っている理由は1つ、メイドさんたちが動物のコスプレをしているからだ。この喫茶店共通の衣装として肩を露出させたえんじ色の和服に、上から白のエプロン、頭には純白のカチューシャが施されている。そしてメイドさん各々に特徴を与えるかの如く、犬や猫、ウサギやクマといった動物の耳としっぽが装着されていた。

 

 なんだよなんだよ!あんじゅに騙されているかもと想って少し落胆してたところだから、こんなお出迎えをされると逆にいつも以上に地に足がつかない気分になっちまうよ!メイドさんの見た目はみんな高校生から大学生くらいの女性で、幼気から色気まで様々なオーラも兼ね備えている子たちばかりだ。あまりの容姿レベルの高さに、このまま全員をハーレムインさせてしまいそう……。

 

 

「ほ~ら、零くんやっぱり喜んだ♪」

「お前が言ってた可愛いものって、動物とメイドさんのことだったのか。可愛いもの2つが融合すれば、もうそれ最強じゃん……」

「零、さっきから目がずっと犯罪者だぞ。いつものことだが自重したほうがいい」

「失礼な奴だな。今まで逮捕されてないんだから、俺は俺のままでいいんだよ」

「それは周りの女性たちの善意で成り立っていることに感謝するんだな……」

「お前らは動物と戯れていろ!俺はメイドさんたちとしっぽりと……」

「はいはい。早く席行くよ~」

 

 

 

 あれぇ~??メイドさんについてまだ語ることが2時間ほどあったっていうのにコイツら……。

 2人に腕を掴まれ、強制的に席へと連行されてしまった。いつか絶対にメイドさんを語るだけで話終わらせてやるから覚悟しておけよ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あぁ~この猫ちゃん可愛い~♪」

「私も初めてここに来たけど、うん、悪くない」

 

 

 あんじゅは子猫、英玲奈は子犬を膝に置いて撫で回しながらメニューを眺める。あの猫と犬、まだ子供の分際で中々に羨ましい状況に身を委ねてるじゃねぇか。あのA-RISEの膝の上に座れるなんて、全国の男たちが大金を積んででも争いそうだな。だからこそそのポジションで、しっかりと彼女たちの匂いと膝上の柔らかさを噛み締めておくんだぞ。

 

 

「2人も似合うと思うんだよね、動物のコスプレ」

「どうせ変態的な目線でしか私たちを見ないくせによく言うよ」

「それはまぁ……男だから仕方がないだろ」

「零くんが変態さんなのは知ってるけど、このお店の衣装が可愛いことは事実だし、一度は着てみたいかな♪」

「ただ着るだけで済めばいいけど」

「100%済まないな」

「絶対に着ないぞ……」

 

 

 とりあえずだ!まず目の前に犬と猫のコスプレをした女の子たちがいたとしよう。その子たちは抜群に可愛く、しかも自分にしっぽを振り、しかも太陽のような笑顔で「お帰りなさいませ、ご主人様」と出迎えてくれるのだ。そんなメイドさん兼ペットな彼女たちを、何の劣情も抱かずにいられるだろうか。いや、できない。つまりそういうことなんだよ。

 

 仮にそれがA-RISEの面々と来たら最後、俺はファンに殺されてしまうほどに彼女たちを美味しく頂いてしまうかもしれない。まあそれもこれも羞恥心を捨てメンタルが強くないと、とてもじゃないが動物コスプレなんて着てられないだろうけど――――

 

 

 

 その時だった。床に白銀のトレイが落ち、店内に大きくその音が響いたのは。どうやら俺たちのテーブルに注文を取りに来るはずだったメイドさんの1人が落としてしまったらしいのだが、そんなことはどうでもよかった。俺はそのメイドさんの顔を見て愕然とする。彼女も俺たちの顔を見て、全身が恐怖に襲われているかの如く震えていた。

 

 

「な゛ぁ……な゛なななななななんでみんながここに!?ていうか零くんまで……!!」

「つ、ツバサ……!?」

「驚いた。まさか君がここにいるとは……でもその格好」

「あぁ……あ゛ぁぁぁ……!!」

 

 

 謎の奇声を発しながら、わなわなと身震いするツバサ。まるで全裸でも見られたかのように顔を真っ赤にし、落としたトレイも拾おうとせずに俯きながら俺たちのテーブルへと近付いてきた。

 

 彼女の格好は他のメイドさんと同じく肩を露出させた和服エプロンを身に纏い、頭には白のカチューシャと犬の垂れ耳という最強の組み合わせでコーディネイトされている。他のメイドさんと違って一際可愛く見えるのは、普段からスクールアイドルの活動で自信を磨き上げているからだろうか、俺は思わず口を開きながら目を奪われてしまった。いつもはどちらかといえばクールなイメージを抱く彼女だが、今の彼女は子犬。そんな格好のおかげで幼く感じてしまうほどだ。

 

 ツバサは俺の元までやってくると、突然腕を伸ばして胸ぐらを掴んだ。そしてその華奢な身体のどこにそんな力があるのか、椅子ごと俺を引き寄せた。

 

 

「どうしてこんなところにいるのよ!?変態さんだから!?メイドさん目当てで鼻の下伸ばしに来たって訳!?変態変態変態!!」

「まだ何も言ってねぇだろ!!てか揺らすな苦しぃいいいいいいい!!」

「ツバサちゃん、私たちはお客様であなたはご主人様のペットなんだよ。そこのところOK?」

「うっ、うぅ……」

 

 

 俺の身体を揺らしていたツバサの手が止まる。

 動物のコスプレをしているってことは、やっぱり彼女はここでアルバイトをしているってことだよな……?つまり、俺がツバサのご主人様ってことじゃん!!そうかそうかご主人様かぁ~。あのメディアにも引っ張りだこの超絶美人スクールアイドルが俺のご主人様かぁ~なるほどなるほど。

 

 よぉーーーーしっ!!また血が滾ってきたぞ!!

 

 

「あらあら、零くんがまた犯罪者の顔になっちゃった♪」

「それは君のせいだろあんじゅ。それに、ツバサがここにいると知っていて零をここへ連れてきたんだな」

「その通り!いやぁツバサちゃんの可愛い表情が見られるかなぁと思ってたんだけど、予想以上の反応で私はもう満足だよ♪」

「悪魔か君は……」

「ホントに!!バレないようにわざわざ隣町でバイトしてたのに、どうして来ちゃうのよ!?しかもこんな変態野郎を連れてきて!!」

「先日たまたまこっちに用事があったからこの辺をぶらついてたんだけど、その時見かけちゃったんだよ、ツバサちゃんがこの店に入っていくのをね。そして外から中を覗いてみたらさぁビックリ!まさかツバサちゃんがご主人様に向かってしっぽを嬉しそうに振る犬耳メイドさんになっていたとは!!」

「それでツバサと私たちの反応を同時に見るために、行き先まで内緒にしてたってことか。本当に、君って奴は……」

「悪魔!!鬼!!うわぁあああああああああああああああああああああああんっ!!」

 

 

 これ、下手したら友情崩壊に繋がりかねないけど大丈夫か……?新聞記事で『あのA-RISEが解散!?原因は内輪揉め!?』みたいな報道になってみろ、その場にいた俺に罪悪感が降りかかるだろうが。

 

 しかし、あんじゅがツバサをからかいたい気持ちも分からなくはない。だって――――こんなに可愛いんだから!!犬耳だぞしっぽだぞ!?しかもあのスーパースクールアイドルのツバサが、肩を丸出しにした和服を来てるんだぞ!?今にも舐め回したくなる、露出した白い肌。そして涙目で恥じる純情乙女。そんな子を何もせずただ見守ってるだけなんて、この俺ができるはずなかろう!!

 

 

「ほらツバサ!早く注文取って!!」

「い、いやよ!!変態さんは早く帰ってちょうだい!!」

「何言ってんだ?ここでの俺はお前のご主人様で、お前は俺のペットなんだぞ?」

「う、ぐっ……お、お帰りくださいませ!ご主人様!!」

「おうおう、そんな態度でいいのかなぁ~?ほらほら、あのメイドさんたちみたいに注文を取る時のセリフがあるんだろぉ~?」

「こんのぉ~……うぅ……こ、こんにちはご主人様。ペットにご注文をください……ワン」

 

 

 いいねいいねぇ~!やっぱり女の子からご主人様と呼ばれるのは、全身に悪意が漲る感じがして堪らない。しかもそのセリフをあのツバサが言ってくれてるんだから、なおさら奮い立ってしまう。だったらもっともっと可愛がってあげないと!ここは一応メイド喫茶の部類だろうから、恐らくメニューを確認すれば――――おっ、あったあったこれにしてみるか!

 

 

「これこれ!この和風オムレツwithアニマルメイドさんからのメッセージ入りと、ご主人様への愛を囁きながら最初の一口あ~んサービス1980円で!」

「はぁ!?オプション全部乗せ!?そ、そんなの私やったことない……」

「そうかなるほど、俺が最初のご指名ってことなんだな。だったらみっちり仕込んでやるよ、ご主人様への忠誠って奴をなぁ!!」

「は、はぁぁぁああああああああああ!?!?」

「文句あるのか?さっきも言ったけど、ここでのお前はご主人様に仕えるペット。ご主人様の前では常に笑顔でいなきゃダメだろ」

「うっ……」

 

 

 痛いところを突かれまくっているからか、ツバサの表情がどんどん険しくなっていく。チクチクと攻めて徐々に追い詰められていく女の子を見るのは楽しいなぁ!特にその子が顔を染めて涙目になっている時はね!!

 

 

「か、かしこまりました……ワン……」

「ん?」

「ご、ご、ご主人様のために頑張るワン!!ワンワンわーーーーーーーーーーんっ!!!!」

「お、おいツバサ!?行っちゃった……」

 

 

 ツバサは明らかに羞恥心を捨てた、造形な笑顔を俺へ向けて走り去ってしまった。最後の"ワン"の部分だけは普通に泣いていたような気がするが……まあ女の子の涙は宝石と言われるくらいだし、風情があっていいんじゃないか?俺としても普段はクールで高貴な気品の煽るる彼女が、ここまでキャラ崩壊した姿を晒しているところを見られて大いに満足だけどな!

 

 

「いやぁやっぱり動物ってのは癒されるからいいねぇ~」

「君も大概悪魔だな……ツバサに同情するくらいには」

「私も思惑通りツバサちゃんの可愛いところと、零くんの暴走する姿が同時に見られてとても面白かったけどね♪」

 

 

 流石癒しを大々的に売りにしているアニマルカフェ、俺の心を超スカッとさせてもらったぞ!これからこの喫茶店に通うのもアリだな。毎回毎回ツバサをご指名すれば、そのうち専属メイドとしての根性が身に付いてくれるかも!?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「もうっ、いきなり来るなんて本当に驚いたわよ……」

「俺はお前のコスプレ姿が貴重すぎて驚いたけどな。あぁ~やっちまった!写真撮っておけばよかったぁ!!」

「残念ながら、あそこは撮影禁止だから」

「盗撮ならお手の物だ!」

「やっぱり一度逮捕されてみる?」

 

 

 ツバサからバイトが午前中で終わると連絡が来たため、俺たちは店の外で彼女を待つことになった。そして現在、前にあんじゅと英玲奈、その後ろに俺とツバサが並んで歩道を練り歩いている。

 

 もちろん彼女はご機嫌斜めで、このあとどんな報復が待ち受けているのか想像したくもなかったのだが、話してみると意外と普通に会話をしてくれて安心した。冷たくあしらわれてしまうけど、一応無視はされていないみたいでよかったよ。

 

 そして前を歩く2人は、俺たちの聞こえないようにこんな会話を繰り広げていた。

 

 

「ツバサちゃん、案外満更でもないみたい」

「思ったより根に持ってないみたいだし、君も恨まれずに済むんじゃないか。それにしても、ツバサがアニマルカフェでバイトをしていたのってやはり……」

「多分英玲奈ちゃんの想像で合ってると思うよ。ホントに、健気で可愛いところあるんだからあの子は♪」

「フフッ、そうだな」

 

 

「あの2人、こっち見ながら笑って何の話してんだろ」

「あなたがいつ逮捕されるのか、賭けでもしてるんじゃない」

「いやだからゴメンって言ってるじゃん!そろそろ許してくれよ……」

 

 

 口を聞いてはくれるけど、ご立腹なことには間違いないようだ。店を出てからというもの、俺への悪意なき罵倒が絶え間なく続いている。前々から思っていたのだが、案外彼女は根に持つタイプのようで、それこそ危惧していた甘いものをバカ食いしたり、高級な服を大人買いをしたりなどの豪遊に財布として付き合わされるかもしれない……。

 

 まあそんな危機感よりも気になっていることがあるから、俺は彼女に質問を投げかける。

 

 

「なぁ、どうしてアニマルカフェでバイトしてたんだ?やっぱそういう趣味があったとか……?」

「しゅ、趣味ってそんな……可愛いとは思ってるわよ!でも目的は別、自分自身の魅力を磨くためよ」

「えっ、まだそんなことする必要あんのか?今でも十分魅力的だと思うけど」

「~~~~っっ!?!?あ、あなたいつも突然すぎるのよ……ずるいわ全く」

「な、なにが……?」

 

 

 ツバサは喫茶店で俺たちに会った時以上に顔を赤くして、表情を悟られないようにするためかそっぽを向いてしまった。ただ率直に褒めただけなのに、ここまで効果が抜群だとは思わなかったぞ。多少小生意気なところはあるが、意外とツバサも純情乙女なのかもしれない。俺に惚れてるってことは……うん、流石にないかな?

 

 

「私が今まで磨いてきた魅力っていうのは、あくまでスクールアイドルとしての私だけ。つまり、スクールアイドルの肩書きを背負った綺羅ツバサなのよ。でもそれじゃあダメなの。私自身、1人の女性としての魅力を磨かなきゃね」

「なるほど、そうやってお前をやる気にさせるほどの何かがあるって訳か」

「そう……ね。その人に私の本当の魅力を見てもらうまで、ずっとあそこで働き続けるわ。ま、もうみんなにはバレちゃったけどね。1人修行するために、わざわざ隣町の喫茶店を選んだのに」

「文句はあんじゅに言ってくれ……。それにしてもすごいんだな、お前をそこまで奮い立たせる奴は」

「そうだね、すごいよ。それにその人は可愛い子が大大大好きだから、今でもちょっと恥ずかしいけどあの喫茶店で働いて、今よりももっと可愛い女の子を目指すために勉強しているの」

 

 

 ようやく全ての謎が1つに繋がった。巷で流行りのアニマルカフェなら、いちいち隣町まで来なくても俺たちの地域にいくつかありそうなものだと思っていたのだが、れっきとした、それでいて健気な理由があったんだ。大切な人のために、スクールアイドルの練習や受験勉強の合間を縫って彼女にここまでさせるとは、相当罪な奴だなツバサの想い人は。

 

 

「その人は女の子に敏感なように見えて鈍感だから、苦労するのよ私も」

「女の子に鈍感とか、俺とは正反対な奴で大変だなお前も」

「はぁ~……」

「な、なんだよその蔑んだ目は……!?」

「べっつに~」

 

 

 あらら、なんか怒ってらっしゃいますかツバサさん。今までよりも明らかに態度が氷点下並みに下がったような気がするんだが……。俺を置いて一歩前を歩いちゃってるし、また変なこと言っちゃったかな~?恋人が12人もいる俺だけど、女心を読むのはやっぱ難しいよ。

 だから上手く言えないんだけど、純粋に努力する彼女を見ていると陰ながらでも応援したくなってくる。人の恋愛に口は出せないけど、せめて俺とμ'sみたいに歪んだ方向へ捻じ曲がることだけは避けて欲しいものだ。でもまあツバサだったら大丈夫だと、なんとなくそう思った。

 

 

「振り向いてくれるといいな、その人」

「そうね。絶対に振り向かせてみせるから!」

 

 

 その時、こちらを振り返ったツバサの明るい笑顔に、俺は取り憑かれたように見蕩れてしまう。喫茶店で見せてくれた営業スマイルなんかよりも格別な、スクールアイドルの彼女とも違う、綺羅ツバサ本来の笑顔を見た気がした。大切な人へ向けた、1人の女性としての魅力を心から感じる。

 

 ツバサがここまで頑張って、しかもこんなに心を打たれる笑顔まで見られるなんて、お相手さんに嫉妬するレベルで羨ましいよ。

 

 

「その人の周りにはたくさん女の子がいるから、今までよりもっともっと自分を磨かないとね!」

「じゃあライバルがいるってことか。それにたくさんとか、女ったらしかよソイツ」

「はぁ~……バカな人」

「だからなんで溜め息!?それにさりげなく罵倒するのやめてもらえる!?」

 

 

 どうして呆れられてんのかは分かんないけど乗りかかった船だ、ツバサの恋、全力で応援してあげますか!俺が馬鹿にされた理由は知らないけど、もしかして俺……鈍い??

 

 

「全く、君は本当にバカな男だよ」

「そうそう、零くんってばおバカさん♪」

「な゛っ、なんだよお前らまで!!」

 

 

 ツバサに続き英玲奈とあんじゅにも馬鹿にされる始末。そして今日一日、俺への罵倒は留まることを知らなかった。

 

 な、なんでぇ!?!?

 




 ツバサとの恋愛の決着は、彼女がもっともっと自分の魅力を磨き上げてからのお楽しみってことで一旦幕を下ろしました。個人的にはフられるところは描写したくなかったので、とりあえず私の戦いはこれからだエンドにしてみましたがいかがだったでしょうか?私としてはツバサの可愛い面や健気な面を同時に描写できて、今回は満足しています!

 特にアライザーやツバサ推しの人がいたら感想が欲しかったり……!


 次回はμ'sの個人回もいよいよラスト、楓ちゃん回となります!
 彼女のことが大好きだと言ってくれる方も多いので、俄然気合が入ります!


新たに☆10評価をくださった

黒川 雄さん、竜也53さん

ありがとうございます!
もう少しで投票者200人になりそう……




Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

兄妹だから一緒にお風呂に入るのは当然だよね!

 今回は最後の個人回なので、今までよりも一層本気を出しました。やはり妹キャラは最高!


「お兄ちゃん!一緒にお風呂入ろうよ!」

「はい……?」

 

 

 妹のあまりにも直球すぎる爆弾発言に、俺はいつものあしらい方も忘れ呆気に取られていた。

 2月も終わりに近付き、春の暖かさを感じるようになってきた日の夜、突然俺の部屋に突入してきた第一声がこれである。

 

 よく勘違いされるのだが、俺たち兄妹の仲がいいと言っても風呂まで一緒に入ってる訳ではない。風呂が狭いとかモラルの問題だとかは、実の兄妹で恋人になっているから無視するとして、単純に俺自身が不甲斐ないからである。

 だってあの楓だぞ?高校一年生のくせに胸はF~Gカップ並、スタイルも抜群で、そのわがままな身体を存分に使って誘惑してくるような子なのだ。それに風呂だと当然裸の付き合いになる。そんなの妹であっても襲ってしまうに決まってんだろ。一緒のベッドで寝るだけでも欲情しそうなのに、コイツの胸や裸なんてみたらその場でママにしてしまいかねないのだ。

 

 

「まだ私とお風呂に入るの避けてるのぉ~?理性を守るだのなんだの、相変わらずお堅いんだから。固くするのはお兄ちゃんのソコだけでいいのに♪」

「お前のエロジョークも相変わらずだな……」

「こんなに安売りするのはお兄ちゃんの前だけだから!ちなみに代金は、私のココでたっぷりと受け取るから♪」

「買った覚えはないんだけど……」

「いいお兄ちゃん?今の日本は少子化で、もしかしたら将来精子が枯渇しちゃうかもしれないんだよ。そうなったら日本は誰が救うの?日本唯一の男であるお兄ちゃんしかいないでしょ!!そのためにも、今のうちから私のナカに精子を貯蔵しておかないと!!」

「それっぽいこと言ってるようで、メチャくちゃ言いやがってお前!!」

 

 

 今日も我が妹の痴女っぷりは絶好調である。楓と恋人関係になってからというもの、兄妹という垣根を感じないほど彼女の積極性が激しくなっていた。禁断の愛で悩んでいた頃の楓はどこへ行ったのか、今や一緒に添い寝してきたり勝手に性欲処理をされる始末。まぁ、一部は俺が望んだことでもあるから文句は言えねぇけど。

 

 ちなみに楓が『唯一の男』と言ったのは、彼女が周りの男を全く認識していないからだろう。噂によれば、言い寄ってくる男子生徒を完全無視しているらしい。そもそもクラスメイトの男子の名前すら覚えていないと言っていたので、彼女の世界に男は俺しかいないのだろう。男性諸君、元気出せ。

 

 

「たまにはいいじゃん!恋人になってから、一度も一緒にお風呂入ってないでしょ?恋人同士だったら混浴なんて当たり前だよぉ!」

「俺もそうしたいんだけど、お前がママになっちまう可能性が高い」

「私のことを考えてくれる優しいお兄ちゃんは好きだけど、性に乱れて息を荒くしているお兄ちゃんはもっと大好きだよ♪」

「それって喜んでいいのか……?」

「いいんだよ!だから入ろうよね~ね~!!」

 

 

 楓は俺の右腕に絡みつき、胸を押し付けながらおねだりする。それに加え甘く囁くような誘惑をしてくるものだから、俺の心は大きく揺れ動かされてしまう。さりげなくそんなテクニックを使ってくるなんて、流石我が妹、俺の陥落のさせ方はμ'sの誰よりも理解しているようだ。

 

 彼女は俺の腕を抱きしめて、2つの胸にむにゅむにゅと絡ませてくる。右腕が胸の谷間にすっぽりとはまり、擬似パイズリのような形となっているため感覚的にも視覚的にも欲情して、今にも身体が熱くなってしまいそう。いつもは俺も軽くあしらって、楓も冗談風味な雰囲気で、言わばこのような行動は日常的なノリなのだが、今日の彼女は本気のようだ。でなきゃここまで身体を使って誘ってくるはずがない。

 

 そして楓は俺が焦っていることを察知したのか、今度は大胆にも正面から抱きつき、そのまま俺をベッドの上に押し倒した。

 

 

「お、おい……」

「もう私ね、我慢できなくなっちゃったの。恋人になって2ヶ月だし、もうそろそろ一歩先へ進んでもいいかなぁって」

「でも……なぁ」

「据え膳食わねばなんとやらっていうでしょ?それに、お兄ちゃんも期待してるじゃん。雰囲気で分かるんだよ、お兄ちゃんの考えてることなんて」

「ぐっ……」

 

 

 率直に言おう、俺だって楓と一緒にお風呂に入りたいよもちろん!!まだ童貞だけど俺だって男だ、わがままボディのエロい女の子の生裸を見たいと思うのは当然だろ!!しかもその相手が愛する妹と来れば、拒否する理由なんて99%ない!!

 

 だけど、残りの1%が俺の邪魔をする。他のみんなには俺自身のケジメのため、高校卒業までそのような行為は待ってもらっているのだ。だからいくら兄妹で特別な関係とは言っても、楓だけに手を出してしまうのはどうかと思っている。楓のことだから言いふらしたりは……しそうなんだよなぁこれが。

 

 

「もしかしてお兄ちゃん、先輩たちに申し訳ないと思ってる?私だけとエッチをするのが……」

「えっ……」

「図星って顔してるね。でもいいんじゃない、誰にも言うつもりないし」

「ほ、ホントか……」

「もちろん。それに黙っているのが条件でお兄ちゃんとヤれるのなら、むしろ言いふらしたりしないよ」

「マジで言ってんのかそれ」

「マジでマジで」

 

 

 楓はベッドに押し倒した俺の上に跨りながら、こちらへゆっくりと顔を近付けてくる。少し釣り上がった目、くっきりとした瞳、誰もが羨む美貌を兼ね備えた整った顔立ち、淡く桃色に光る唇、非の打ち所が無い。そして頬を赤くし、俺の心を鷲掴みにする妖艶な表情を見せながら、楓は耳元で囁く。

 

 

「私はただお兄ちゃんとお風呂に入りたいだけなの。別にエッチな意味じゃない。ただ兄妹で、ただただ普通に入浴するだけだよ。そう、普通に……ね♪」

「っ…………」

 

 

 楓の官能的な声が、俺の脳内へ吸い込まれるように流れてきた。

 何も一緒にお風呂に入ることが淫行に繋がる訳じゃない。そんな気持ちでいるからこそ間違いを犯す。ただ兄妹が仲睦まじく風呂に入る、小学生の頃のような純粋な心を持てばきっと大丈夫なはずだ――――と、彼女の声が俺の脳内に響いていた。さっきまでの僅かながらの抵抗は、彼女の煽られた俺の意志によって上塗りされる。彼女に身も心も操られている、そんな感覚に陥っているが、当の俺はそんなことに全く気付いていなかった。

 

 

「だから一緒にお風呂入ろ、お兄ちゃん♪」

「あ、あぁ……」

「やったぁ~フフッ♪それじゃあ先に入ってて、私も後から行くから……」

「分かったよ……」

 

 

 俺は反射的に返事をしていた。言われるままに流されるままに、フラフラと立ち上がって部屋を後にする。

 恐らく楓と混浴したいという今まで溜め込んできた欲望をダシに使われたのだろう、俺はその欲望に捕らわれているらしい。もちろん、今の俺はそんなことすら考えられないだろうが……。

 

 

 そして、俺が出て行った後の部屋では。

 

 

「私知ってるよ。お兄ちゃんのことならぜ~んぶ♪お兄ちゃんの弱いところも、どうやったら私の言うことを聞いてくれるのかも、ぜ~んぶね……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あぁ……とうとう言ってしまった」

 

 

 風呂場に、俺の脱力した声が響いた。

 一息ついてようやく我に返ったので、湯船に浸かりながらさっき部屋で起こったことを思い出す。楓に見事心を揺さぶられ、彼女の思惑にまんまと乗ってしまった。エロいことをする訳ではないと言っていたが、あの淫乱を具現化したような子が我慢できるはずがない。そして俺も理性を保っていられる自信がない。だが一度混浴を承諾してしまった以上、ここから抜け出すことはアイツが死に物狂いでも阻止してくるだろう。

 

 それに、俺もそこまで逃げたいとは思ってない。あんな可愛い妹と一緒に風呂が入れるなんて、むしろこっちから歓迎したいくらいだ。途中で道を踏み外さなければの話だが……。

 

 そして、遂に風呂場の扉が開け放たれる。

 

 

「お邪魔しま~す!」

 

 

 バスタオル姿の楓が中に入る。いつも聞いている彼女の声だが、今は何故かその声を聞くだけで心臓がドクンと跳ねた。妹相手に緊張しているのか、唐突な浮遊感に見舞われる。俺は思わず湯船の中を覗き込んで、底に足が着いているのかを確認してしまうほどに。

 

 湯船に落ちた俺の視界に、楓の綺麗な脚が映った。すらりとしてしなやかな脚。スクールアイドルによって程よく鍛えられているにも関わらず、どうやってその造形美を保っているのか不思議なくらいだ。

 

 

「身体洗ってあげるよ、お兄ちゃん」

「も、もう……?」

「湯船に入る前に身体を洗うのは常識でしょ?」

「そんな、銭湯じゃねぇんだから……」

「はいはいいいから早く出た出た。そこに座って、全身くまなく洗ってあげるから……ね♪」

 

 

 ここで抵抗の言葉が出て来ない辺り、やはり俺も真意では期待しているらしい。俺は楓に背を向けてその場で立ち上がると、湯船の脇に置いてあったタオルを掴んで腰に巻く。

 

 

「別に隠さなくってもいいのに。どうせあとから洗うんだから。それとも、身体を洗う前に先にそっちを綺麗にしておく?私の口なら、いつでも使えるよ」

「……今は勘弁してくれ。多分歯止めが効かなくなる」

「もうっ、いつもは変態さんなのに、どうしてこんな時だけは紳士になるかなぁ~」

「変態紳士だからな」

 

 

 楓は口を尖らせながら文句を垂れる。いつでもどこでも盛ってしまったら、それこそμ'sのスクールアイドル活動に支障が出る。腹ボテスクールアイドルなんて汚名、絶対にみんなに着させたくはない。

 

 俺は湯船から出ると、楓に導かれるままに風呂椅子に腰を掛ける。するとすぐに、楓が後ろから胸を押し当てるように密着してきた。やはりエロいことをしないというのは嘘だったみたいで、本人は気付いてないだろうがクスクスとした笑い声が漏れ出し俺の耳をくすぐっている。だが俺は言葉も出せず、バスタオル越しでも分かる彼女の胸の柔らかさに浸るだけだった。布切れ1枚くらいなら、いっそのこと脱いでくればいいのにと思ってしまう。

 

 

「ねぇ、これ着てきたけどいらなかったかな?どうせお兄ちゃんのことだから、生のおっぱいを堪能したいと思ってるんでしょ」

「俺のことは何でもお見通しってことか」

「妹ですから♪それに最初から裸じゃなくて、脱がす方が興奮すると思ったんだけど」

「それは間違いない」

 

 

 全裸は全裸で女の子の全てが見られていいけど、こちらから中途半端に脱がすのもそれはそれで一興である。特に制服なんかは半脱ぎの状態で止めておく方が至高だし、バスタオルだって胸や秘所が見えるか見えないかギリギリのラインの方が唆り立つものがある。もちろん全裸も魅力的なので、シチュエーションごとの使い分けが必要だな。

 

 

「う~ん、でもバスタオルのままだとお兄ちゃんの身体洗いにくいから、もう取っちゃうね」

 

 

 さっきまでの考察は一体なんだったんだよ……。

 楓は石鹸を手に取ると、何やら後ろでゴソゴソと身体を動かし始めた。背中に泡のくすぐったい感触が伝わってくることから、恐らく石鹸を泡立てているのだろうが、それをどこでやっているのかが気になるところ。バスタオルは床に放置したままだし、石鹸以外のものを持ち去った形跡もない。

 

 しばらくした後、俺の背中にソープに身を包んだ2つの果実が押し当てられた。背筋に広がるひんやりとしたソープの感触、生温かい乳房の圧力。これは胸で石鹸を泡立てていたに違いない。

 

 

「えへへ、お兄ちゃん気持ちいい?」

「あぁ。それにしてもまた大きくなったんだな」

「そうだよ。毎日お兄ちゃんを想って、お兄ちゃんのために育ててきたんだから♪」

 

 

 俺のため――――そう、楓はいつでも俺のために生きてきた。曰く、生まれてきた時から俺にご奉仕し続けることを使命付けられていたらしい。子供の頃から俺のために生き、俺のために成長し、俺のための身体に育ってきた。男からの告白もファッション誌のスカウトも、モデルへの招待なども全て断り、俺のためだけの存在になっている楓。本人はそれで幸せだと言う。曰く、世界のあらゆる万物は2つに分けられる。すなわち俺とそれ以外。それ以外のものは、自分の世界から存在を消していると公言するほどだ。

 

 俺のためだけに、俺の好みを全て兼ね備えた女の子。それが例え妹であったとしても、惚れてしまうに決まってる。むしろ、虜になっているのは俺の方なのかもしれない。

 

 

 楓は身体を軽く上下に動かす。そうすればもちろん胸が俺の背中をスライドするように動くため、その大きさ、弾力、柔軟さ、彼女の胸が持ち得る全ての特性が生で伝わってくる。すべらかな双丘は突き出ていながらも柔らかで、肌はしっとりと濡れていた。

 

 

「どう?痒いところない?」

「それは頭を洗う時のセリフだろ」

「えへへ、余裕があるみたいだから、もっとゴシゴシ洗ってあげるね♪」

「おいおい……」

 

 

 楓は身体の上下運動を保ったまま、今度は俺の胸元に手を当ててきた。ただ闇雲に手を動かすだけではなく、ねっとりと卑しい手付きで脇腹や横腹など、人間の弱い部分を重点的に攻め上げる。思わず反射的に身体をピクっと反らせると、背中に当てられていた乳房を乳首ごと押し潰した。

 

 

「んっ……」

 

 

 俺の耳元で、欲望を助長させるような艶っぽい声が漏れ出す。

 急に頭が熱くなった。今までそれなりに我慢してきた欲求が、楓の淫猥な吐息で一気に爆発しそうになる。ただの吐息でここまで熱くなるなんて……。今まで必死に押さえつけていたように見えた欲求だが、実は俺の知らないところで相当溜まっていたらしい。

 

 

「お兄ちゃん、不意打ちなんて卑怯なマネするんだぁ……」

「知らねぇよ。お前が勝手に気持ちよくなっただけだろ」

「へぇ~そんなこと言っちゃうんだぁ。だったら……」

 

 

 楓の手が、徐々に身体の下へと降り始める。彼女がどこを洗おうとしているのか一瞬で分かったのだが、意外にも強く背中を包容されているため動くことができなかった。あそこを触られると本格的に歯止めが効かなくなると危惧した俺は、僅かに動く身体を全力で上下させ、彼女の乳房を先端ごとまとめて刺激する。

 

 

「んっ……ほ、本当に抜け目無いねお兄ちゃんは。ちょっとした隙も逃さずに、女の子を気持ちよくさせるなんて。私も負けていられないよ」

 

 

 楓の行動を阻止しようとして乳房を刺激してやったのだが、それが逆に彼女の対抗心に火を点けてしまったようだ。こちらも下半身のタオルを取られてはなるまいと抵抗したいのだが、乳首が背中に擦れているせいか、楓から漏れ出す吐息が耳をくすぐってこちらが脱力してしまう。それも彼女の狙いなのかは分からないが、このままだと確実に子作りコースだ。着衣ならまだしも、全裸同士であそこをシゴかれたら理性なんて速攻で捨て去ってしまうだろう。

 

 しかし、さっきから性欲の高まり具合が半端ではない。ここで楓の手を逃れたとしても、風呂を出た後でまたお世話になることは必死だ。せっかく一緒に身体を洗いっこしているのだから、ここは俺のためにも身体を差し出すのが順当なのではないか。そう勝手な理由を考えている間にも、彼女の手は着々と俺のタオルを引き剥がすために進行を続けている。

 

 逆転するなら今しかない。あれに触れられたら最後、俺はその快楽に身を委ねてしまうだろうから。

 

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

 

 俺は楓の包容から逃れその場で180度すると、両手で彼女の脇腹を掴む。その動きに合わせて、ボリュームに満ちた双乳がぷるんと揺れた。肉丘のまろやかさを視覚的に感じ、薄桃色に色づいた先端部分に目を奪われながらも、楓の身体を椅子ごと180度回転させる。

 

 これで俺たちの立場が逆転した。楓が前となり、俺がその背中を陣取る。

 

 

「まさかお兄ちゃんがここまで積極的だなんてねぇ」

「洗ってくれたんだから洗い返すのは普通だろ?疚しいことなんて何もない」

「そうだね、普通だよね♪」

 

 

 楓は驚いている様子も焦っている様子もない。恐らく自分から手を出そうが俺から手を出されようが、そんなものどちらでもいいのだろう。ただ自分が俺と気持ちよくなれればそれで。だからどちらにせよ、俺は楓の思惑通りに行動させられている。冷静でいる辺り、ここで俺が自身の欲求を抑えられなくなることもお見通しだったのだろう。流石、俺の妹なだけのことはある。

 

 そして気が付けば、無意識のうちに手で石鹸を泡立てていた。俺の手はもう楓の身体に触れたくて仕方がないらしい。楓も楓で何も臆することはなく、俺が自分に触れるのを今か今かと待っている。

 

 

「洗うぞ?」

「うん、来て――――んっ……」

 

 

 俺はまず、彼女の横腹に優しく手を当てた。次に背中を経由して脇腹へと、彼女にやられた方法をやり返すように卑しい手付きで洗っていく。

 

 少し横に身体を逸らせると、楓の横乳が身体からはみ出しているのが見えた。多少仰向けになっていても崩れない豊満なバスト、触ってみるとより際立つくびれたウエスト、そして水滴が滴り落ちてより艶かしく見える透き通るような純白の肌。白い首筋から水滴が一筋流れた。恐らく深い胸の谷間に吸い込まれていったのだろう。想像だけでも興奮が余りある。

 

 

「お兄ちゃんの手付き、とってもえっち……んっ」

 

 

 もちろんこれだけで満足できるほど、俺の欲求は満たされていない。お次はメインディッシュ。脇腹に当てていた手を身体の前へとスライドさせ、両手同時に彼女の乳房を握り締める。

 

 

「ふぁんっ、あぁっ!!」

 

 

 指を食い込ませると、挑発的に押し返す弾力と、蕩けるように沈み込む食感が並列して伝わってきた。掴みきれない白い乳肉が、指の間から溢れ出る。手のひらに肉感と柔らかさたっぷりとが広がり、楓の甘い匂いが鼻孔に入り込んでいく。恍惚が押し寄せてきて、己の理性が狂っていくのが分かる。豊乳が手によって自在に形を変え、強く揉みしだくたびに楓から嬌声に近い吐息が漏れ出す。そんな声を聞くたびに、ゾクリと嗜虐心が響く。

 

 

「いいよぉ~お兄ちゃん♪その調子!」

 

 

 楓は胸を揉みしだいている俺の手を持って、自ら動かし始めた。そのままぐっと押し込められる。

 

 

「んっ……はぁっ、あぁっ!」

 

 

 彼女が俺の手を押すたびに、その下で形の良い膨らみが潰れる。その自慢の弾力により弾んで揺れ、豊かな肉圧を返してくる。俺のために16年を掛けて育て上げられてきた乳房は、文句の付けようのない素晴らしさだ。もうこれから一生弄っていたくなる、それくらい俺は彼女の胸に没頭していた。

 

 すると、楓が首を捻って顔だけをこちらへ向けてきた。既に目は蕩けていて、俺の欲望を誘うかのように瞳を怪しく光らせる。

 

 

「お兄ちゃぁん、ちゅーしよ?」

 

 

 さっきまで色っぽい吐息を漏らしていたのに、唐突に子供っぽく甘い誘惑をしてくる楓。しかしそんな彼女にも俺はドキンと心を打たれる。俺は薄く開いた彼女の唇に、自分の唇を被せた。同時に乳房をあやすように撫でながら。

 

 

「んぅぅっ」

 

 

 楓はうなりをこぼし、身体をビクビクと軽く痙攣させる。

 唇を重ねたまま、舌を伸ばして口内をまさぐった。楓もそれに応えるように舌を絡ませ、唾液同士が複雑に絡み合う。お互いにお互いの粘液を全て舐め取るように、ぴちゃぴちゃと卑しい水音を立てながらより一層相手を求めるため、強く唇を重ね合わせる。

 

 

「ふぁ、あっ」

 

 

 首を揺らして楓が喘ぎ、その拍子に唇が外れた。お互いにはぁはぁと息が切れており、接吻の時間は短かったがさっきのキスがどれだけ激しかったのかが分かる。

 

 そして、楓は性に揺らいだ表情ながらも笑顔を作り、再び俺に向き直った。

 

 

「続き……しちゃう?」

「…………少しだけな」

「あはっ、やっぱりお兄ちゃんも我慢できなくなっちゃんたんだねぇ~♪」

「あぁ、お前のおかげでな」

 

 

 そこからの俺たちは、もう性欲に捕らわれた獣のようになってしまった。

 本番はやったのかって?それはご想像にお任せするとしよう。

 




 今更ですが私は妹キャラが大好きなので、楓は私が妄想する妹キャラの特性を全部取り入れた最強の妹となっています。読者さんの中にも「楓ちゃんが好き」と感想をくださる方が多くて嬉しいです!やはり共感してもらえると楓をもっともっと活躍させてあげたくなりますね!

 そして、これにてμ'sの個人回は全て終了しました。アニメの性格とは程遠くなってしまったキャラもいますが、逆にそのキャラ崩壊がもはや普通と言ってくれる読者さんもたくさんいるので、この小説の影響力が凄まじいことがよく分かります(笑)

皆さんはこの小説のキャラの中(原作キャラ、オリキャラ問わず)で誰が一番好きでしょうか?全員と言いたい気持ちは分かりますが、誰か1人を選ぶならってことでお聞かせ願いたいです。


 先日、感想数1700件&投票者数200人を突破しました!もうすぐ最終回を迎えますが、またの感想&評価お待ちしています!



 次回はサンシャイン特別編のラストです!



新たに☆10評価をくださった

シャウタッタさん、やっき~さん

ありがとうございます!




Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】お色気向上大作戦!

Q. どうしてAqoursのメンバーは、零君への好感度があんなに高いの?

A. ※仕様です


 そんなわけでこんなわけで、最後のサンシャイン編をどうぞ!


「全く、あなたのせいでAqoursがどんどん過激な方向へ進んでますわ!!そこのところ自覚はしているんですの!?」

「い、いやぁ……」

 

 

 俺は何故か初対面の女の子に――――正座させられていた。

 またしても千歌からの連絡により、Aqoursのメンバーに東京案内をして欲しいと頼まれ、都内某所の公園へとやって来た。初めは『メンドくせぇ』とだけのメッセージを返したのだが、アイツがこんな返信をしてくるものだから思わず戦慄してしまったのだ。

 

『断るんですか?もし断るんだったら私や梨子ちゃんのおっぱいを触ったこと、花丸ちゃんとルビィちゃんに痴漢したこと、曜ちゃんと善子ちゃんの着替えを覗いたこと、全部ダイヤさんに言っちゃいますね♪あっ、ダイヤさんはルビィちゃんのお姉さんで、物凄く規律と秩序に厳しい方ですから覚悟しておいた方がいいですよ♪』

 

 こんな長々とした内容で俺を脅しに掛かってきやがった。

 言いたいことはいくつかあるが、ここは要点だけ。まずは――――バレてる!!俺がやってきたこと見てしまったこと、全て洗いざらいAqoursの中で広まってやがる!!一応毎回みんなと別れる時に、誰にも言わないでくれ、と釘を刺しておいたのだが、誰か密告しやがったな!!

 そしてもう1つ言いたいことがある。俺はな、千歌にだけは何もしてないんだぞ!!メッセージの内容からして自分も被害者面してるけど、アイツには何もしてないから!!以前の話読み直してこい!!

 

 それでも、千歌以外に手を出していたのは紛れもない事実だ。俺の悪態が広まったせいなのか、そのお噂のダイヤさんが直々に俺へ会いに来たらしい。出会う前に遠目で彼女を見かけた時から負のオーラが凄まじかったけど、こうして対面してみると彼女が如何に()()()()()のかがよく分かる。リアルで額に青筋が入ってる表情なんて初めて見たぞ……。

 

 

「あなたが千歌さんたちに手を出したせいで、Aqours内の色気が無駄に上がっていますわ!!スクールアイドルたるもの、身も心も清純でなければいけません。それをあなたが……あなたが壊してしまったんですよ!?それなのに自覚がないとか……!!」

「まあまあダイヤ、別に神崎君に悪気があった訳じゃないと思うし、許してあげようよ」

「それにアイドル論を語るなら、そんな怖い顔しない方がいいと思うわ。ほら、キュートキュート♪」

「あなたたちは犯罪者を野放しにしておくのですか……?」

 

 

 綺麗な黒髪を靡かせながら、こっちを向いたりお友達の方を向いたりと忙しない少女、黒澤ダイヤ。整った顔立ちで目も釣り上がっている感じから、見た目だけでいかにも堅物そうな雰囲気がしたのだが案の定だった。出会った瞬間にベンチに正座を強要され、こちらの有無を言わさずお説教を開講するその強引さは、どこぞの園田を思い出す。頭に血が上ったら取り乱してしまうタイプだと見た。心が小さい奴は早死するぞ。胸はまあ……海未よりは大きいか。

 

 彼女の後ろにいる2人は、ダイヤの友達で同じAqoursのメンバーである松浦果南と小原鞠莉。青みがかった髪を後ろで結んで、ロングポニテみたいにしているのが果南。出会った際の自己紹介でも1人だけ落ち着いてたし、この人がAqoursの実質的なまとめ役だとすぐに推測できた。だってあの千歌が統制を取れると思う訳ないだろ普通。そして注目すべきはその身体。実にいいスタイルをお持ちになっている。くびれとか触ってみたい、以上。

 

 そして最後は金髪のハーフ少女である鞠莉。どのメンバーにもない独特なノリは、まるで希を彷彿とさせる。今はダイヤを抑える立場としてお淑やかな態度だが、自己紹介の際には海外での生活の影響なのか、思いっきりハグをされたのは女性慣れした俺と言えどもドキドキした。まあそれがダイヤの怒りに油を注いだだけだったのだが。ていうか、俺全く悪くないよなそれ……。そして抱きつかれた時に感じた胸のボリュームと言ったらもう!!ライブのたびに日本人離れしたいい胸をぶるぶるさせ、男のファンを無自覚に誘惑していることだろう。

 

 

 そんな訳で、今日はこの3人の相手をしながら東京を案内してあげて、と千歌からのお願いなのだが、もう前途多難なんですけど……。

 

 

「ルビィがあなたに痴漢をされたせいで、日々艶やかになっていくのを私はどのような目で見ればいいのか……あぁ、ルビィ!!」

「いいじゃん。エロい女の子もそれはそれで魅力的だって」

「反省の色はないんですの!?」

 

 

 反省と言っても、俺はただ痴漢をしただけだからなぁ。それからルビィにちょっと色気が出始めたんだとしたら、それはあの子が自慰行為でもやってんじぇねぇのかと思う。だから俺は直接的に関わっていない。まあそんなことを説明しても、目の前の堅物ちゃんは分かってくれないだろう。名前を読んで字の如く、ダイヤだけにお堅いってな。

 

 

「でも、神崎君に会って東京から帰ってきた頃だったような……花丸とルビィのやる気が上がったのって。そこはちゃんと彼に感謝すべきなんじゃない?」

「そ、それはそうですが……」

「それにちょっとくらい色気があった方が、スクールアイドルとしても注目されると思うけど?そのうちダイヤ、ルビィちゃんにインパクト負けちゃうかもね♪」

「それは許しません!!いや、負けるとか勝つとかそんな問題ではなくて、男の欲にはらんだ目がルビィへ向けられることが許せないのです!!」

「相当シスコンだなお前。なんかAqoursの苦労が更に1つ分かった気がする」

「あっ、そこに同情してくれる人がいてなによりだよ」

「神崎さん、果南さん、変なところで友情を築き上げないでもらえます……?」

 

 

 μ'sよりもキャラが濃いスクールアイドルグループはこの世に存在しないと思っていたのだが、Aqoursのメンバーと出会っていく間に、コイツらのグループも相当奇抜な奴らばかり集まっていることを思い知らされた。これでよくメンバー間の連携が取れていると不思議に思えてくる。だってリーダーが穂乃果似の千歌だろ?見てる限りでは内部波乱が起きそうな感じで若干不安だったのだが、こうして俺にわざわざ説教しに来る子がいる辺り、メンバー同士の仲は良好なのだろう。

 

 それにしてもこの説教、いつまで続くんだ……?いくら仏の心を持っている神崎零と言えども、このままガミガミと言われっぱなしでは癪に障る。特に千歌に手を出したという無実の罪だけは許せない。でも俺がAqoursのメンバーに何かしらの影響力を与えてしまったことは事実みたいだし、仕方ねぇから対策法を考えてやるか。

 

 

「よし分かった!Aqours全体の色気が上がっているのなら、それを解決する方法を教えてやる!」

「えっ、そんな方法があるの?私はそのままでもいいと思うんだけどなぁ~」

「鞠莉さんは黙っていてください!神崎さん、自分が蒔いた種なんですから、きっちり後始末は頼みますよ」

「はいはい分かってるって」

「それで、その解決方法って?」

「まず第一に、色気を消すなんて無理だ。鞠莉も言ってたけど、女の子の魅力の1つでもあるんだから消そうと思わなくてもいい。むしろ纏っている魅力を最大限に引き出してこそ、スクールアイドルとして立派に輝けるんじゃないのか?」

「な、なんかそれっぽいこと言ってますけど、分からなくはないですわ……」

 

 

 何も自分の魅力を隠さなくてもいい。全身から溢れ出る自分を嘘偽りなく観客に見せることによってこそ、己の魅力を伝えることができるんだ。スクールアイドルとは清純。まあそれはそれでもいいだろう。でも色気を感じちゃダメって訳じゃない。あのA-RISEなんて大人の色気満載だし、逆にそこをウリにしていけば個人の、そしてグループの輝きも増すと思うんだ。

 

 

「もうAqoursから色気を消すことはできない。だったらどうするのか?それじゃあお前らがルビィたちに追いつくように、自身の色気を上げるしかないだろうよ!」

「「「は……?」」」

 

 

 3人共、頭の上に"?"マークが見えそうになるくらいポカーンとなっている。なるほど、俺の崇高な考えが伝わってないってことだな。

 

 

「もう一度言うぞ、もうAqoursから――」

「いや聞こえてから!!私たちが言いたいのは、その……色気を上げるとかなんだとかって話」

「これは実際に体験してみた方が早そうだな」

「た、体験!?」

「ほら果南、ちょっとこっちに来い」

「えっ……えぇ!?」

「果南!?」

「果南さん!?」

 

 

 俺は果南の肩を両手で掴むと、そのまま前進、果南は後退する形で進行する。そして俺は果南を押しながら大きな木の幹にまでたどり着くと、少し強引に彼女を木にもたれ掛からせた。未だ目を見開いたまま俺を呆然と見つめ続ける果南。しかし、現状を理解する隙など与えない。俺は左手を木に押し当てると、自分の身体と木の幹で彼女を挟み込むような体制を取った。ちょっと古いが、壁ドンってやつだ。

 

 

「ちょっ……えっ!?」

 

 

 果南は驚きのあまり、言葉にならない言葉を発してなんとか落ち着きを取り戻そうとする。だけど顔が真っ赤に染め上がっている辺り、落ち着くどころか逆に心をどんどん惑わされているようだ。俺と目を合わせるのが恥ずかしいのか、目をキョロキョロとさせ現実逃避しようとしている。

 

 だが逃がさない。俺は待ちに待っていた、彼女の身体に手を触れる。

 

 

「あっ……」

 

 

 突然くびれを触られてこそばゆかったのか、果南は軽く声を漏らす。

 少し触れただけでも感じる、このスタイルの良さ。まるで生で触っているかのように、身体のラインが手にくっきりと伝わってくる。そこから腕を降ろすと、次は引き締まった脚に手が止まった。ズボン越しでも分かる脚線美に、手が脚を滑らかに沿っていく。スクールアイドルの活動だけで育て上げられたものじゃない。日々の鍛錬により鍛えられた身体と脚。男女共に惚れる理想的な女性のスタイルに、あっち方面の人形だと勘違いしてしまうほどだ。

 

 だが果南は違う。俺は彼女のふくらはぎから太ももを伝って、再び彼女のくびれを触っていた。いつの間にか夢中になっていることにすら気付かないほど、その身体付きは艶かしい。

 

 

「か、神崎君……あっ、そ、そこは……」

 

 

 ここで彼女の言葉がようやく耳に入り、我に返る。

 

 

「あ、あぁ。どうだった?ちょっとは大人の興奮を感じたんじゃないか?」

「ちょ、ちょっとね……。わ、悪くはなかったと思う……」

 

 

 もっと激しく罵倒されるかと思っていたので、案外好印象だったのが驚きだ。普段からμ'sのみんなの身体を触って、テクニックを磨き上げていたおかげかな。将来これを仕事にして稼げるかも……。

 

 果南はさっきの余熱(ほとぼり)が冷めていないのか、表情を見せず俯きながら木の幹から離れた。Aqoursの中では一番大人っぽく見えた彼女だけど、意外と可愛い面もあるじゃん。むしろ普段お姉さんキャラしている子の方が、ギャップを感じられて良きかな良きかな。

 

 

「それじゃあ次は鞠莉な」

「えっ、私も?私は別に……色気とかは元々備わってる自信が……」

「悪いことは言わないからやってもらいなよ、うん」

「果南がそう言うなら……」

 

 

 自己紹介の時は容赦なくアメリカン式ハグをブチかましてきた鞠莉だが、やはりそのような積極的な子に限ってこちらから攻めると取り乱す。さっきまで色気だのなんだの話題はノリノリだったのに、今は頬を染めて果南と同じく俺と目を合わさないように振舞っている。意外と健気な仕草もできるじゃん。

 

 俺は鞠莉の手を引いて、果南の時と同一の状況を作った。こうなると分かっていてもなお鞠莉の緊張は収まらないようで、さっきからずっと脚を不規則にモジモジと動かしている。俺はそんな彼女の脇腹に、突然手を添えた。

 

 

「ひゃっ!」

 

 

 まるで痴漢に襲われた時のような軽い悲鳴。シチュエーションは違えど何も間違ってはいないか。

 鞠莉の身体は果南と比べると引き締まってはないが、逆に肉付きが良い。どこを触ってもぷよぷよとしていて、指がいい感じに食い込む感触が堪らない。だからと言って太っているなんてとんでもなく、包み込まれたいと思うほどの柔軟さを持ちながら、どうやってこのプロポーションを保っているのか不思議である。

 

 

「か、神崎くん……んっ」

 

 

 そして、俺は気付かぬ間に彼女の胸に手を触れていた。もちろん大胆に鷲掴みにしている訳ではなく、単に横乳に指がかすり当たる程度。しかしそれだけでもむぎゅっと胸の形が変わり、指がどんどん乳肉にめり込んでいく。下着を着けているのか疑ってしまうくらいの弾力だが、僅かな固い感触がするから流石に着けているみたいだ。

 

 さっきまで俺から目を逸らしていた鞠莉だが、いつの間にかその光景を凝視していた。やはりμ'sのみんなと違って初心だから、今何をされているのか、何故興奮の芽が生まれているのかが気になって仕方ないのだろう。

 

 まだ触っていたい気持ちは山々だったが、ここで痺れを切らしたのかダイヤが一歩前へ出てきた。

 

 

「も、もう言い逃れできないくらいのセクハラですわよ!!」

「文句垂れてる場合じゃねぇぞ。最後はお前の番だ」

「わ、私は結構です!!」

 

 

 ダイヤは2人が壁ドン(木ドン?)されている現場を見て相当羞恥心を煽られたのか、頭から煙を上げて後ずさりする。口では強気だが声は震えているので、正座させられていた頃と比べると全く迫力がない。

 

 このままだと本気で逃げられてしまいそうなので、俺は素早くダイヤに近づく。そして背中に腕を回すと、さっきまで2人を押し倒していた木とは反対方向の木に半ば抱き合う形でもたれ掛からせた。

 

 

「な゛ぁ……あ゛ぁ……」

 

 

 ダイヤは理解不能な言葉を漏らし、口をパクパクさせながら瞬きを激しく繰り返す。果南や鞠莉以上に男に耐性がないのか、気が動転しているのが丸分かりだ。でも、そんな純粋な女の子だからこそイジメたくなるのがドSの常。俺も内心は品行方正な女の子にここまで近づいてドキドキしているのだが、そこは悟られたくないのでひた隠しにする。

 

 ここで、改めて彼女の顔をよく見てみる。出会った時も思ったけど、整ったいい顔立ちをしている。非常にお堅い雰囲気だった女の子が、ここまで緩い表情をされるとグッと心を掴まれそうになる。ふと髪に触れてみると、自分の手が櫛だと勘違いしてしまうくらいに綺麗に髪を流れた。容姿端麗なのはこのようなところにも気を使っているからなのだろう。だからこそ、もっと彼女に触れたくなってくる。特に口元にある特徴的なほくろ、そしてさっきから唇が乾いて仕方がないのか、自らの唾液で軽く濡らして卑しく桃色に光っているのが非常に艶やかだ。そこに触れてみたいと、意識せず本能的に動いていた。

 

 

「えっ……あっ、か、神崎さん!?それ以上近づくと……あっ」

 

 

 自分の唇が、彼女の唇に触れそうになる。恋人でもない、今日出会ったばかりの子にこんなことをするなんて――――とは、今の俺は考えてすらないのだろう。

 

 

「だ、ダメですわ!!!!」

「うぐっ!!」

 

 

 唇が触れる前、その一瞬、俺はダイヤに力強く胸を押されその場で倒れ込んだ。そこで俺も、自分がさっき何をしでかそうとしていたのかはっきりと把握する。だが3人共、顔の沸騰が冷めぬままずっと黙っているので、誰に声を掛けていいのか分からない。とりあえず、謝っておいた方が良さげかな。

 

 

「悪い。調子に乗ってた……」

「う、うぅん別に大丈夫だよ!むしろ……あっ、いや何でもない!!アハハ……」

「千歌っちたち、東京に来た時にこんなことを……。意外とシャイニーだったかも……」

「しゃ、シャイニー?意味が分からん……」

「よ、余計な詮索をしなくてもいいから!!それじゃあ私たちはこの辺で!!」

「えっ、東京案内はいいのか?」

「う、うん!あとは私たちで回れるから!」

「そ、そうか……」

 

 

 とにかく佇んだままの雰囲気を打破しようと、俺たちはただ我武者羅に言葉を発しているが、この微妙な空気のせいでかなりぎこちない。もしかして……やっちまった俺!?でも決して空気が悪いって訳ではなく、どちらかといえば生暖かい。発生源が彼女たちからなのか、元々今日が暖かいからなのか――――これこそ余計な詮索をすると、更に気まずくなるからやめよう。まあ俺の予想では、多分前者だと……。

 

 

「ま、鞠莉、ダイヤのそっちの腕持って。まだ意識飛んでるみたいで歩けなさそうだから」

「お、オッケー!じゃあ私たちはこれで、楽しかったよ……?ちゃ、チャオ~」

「それじゃあね。千歌たちにもよろしく言っておくから……」

「あ、あぁ。またな……」

 

 

 果南と鞠莉は気絶寸前のダイヤ腕を取り、そのまま公園を後にしてしまった。

 この空気は……うん、もう一度悪かったと言っておこう。もちろんあんな可愛い女の子たちに合法的に触れられたのだから、反省もしていないし後悔もしていないのだが。

 

 

 ちなみに数日後、Aqoursのスクールアイドルランキングが急上昇したのは別の話……なのか?

 




 惚れたな(確信)

 今回でサンシャイン特別編も全て終了です。個人回も秋葉さんの発明品回も次々と終了しているので、段々と終わりに近づいているって感じがして寂しい気持ちになっちゃいますね。でもまだあと数話残っているので、皆さん最後の最後まで楽しんでいってください!

 サンシャインキャラも描いていくうちにその魅力が伝わってきて、μ'sのキャラにはない新たな個性や可愛さも発見できたので、また機会があれば彼女たちの物語も執筆してみようと思います。特別編だけでは流石にキャラを全て掴みきれてはいないので、いつかもっと魅力的な彼女たちを皆さんに届けられればと思います。


 次回は1月~2月の章のラスト。メインとなるのは零と穂乃果と、そして未来のもう1人。
 そして次回以降、リアルの都合により投稿がそこそこ遅れる可能性があります。最終回目前なのにまさかの失速……気長にお待ちください!





Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幸せの先、未来の形

 今回はちょっと今までになかったようなお話。作中に出てくる女の子が一体誰なのか、ご想像しながらお読みください。


「なあ穂乃果」

「ん~?な~に?」

「歩きにくいんだけど……」

「我慢我慢♪」

 

 

 俺は穂乃果から左腕に抱きつかれ、というより絡みつかれながら下校していた。学院を出る前から彼女は屈託のないニコニコとした表情を絶やさず、調子のいい鼻歌も止まることはない。ほんのりと染まった赤い頬から、子供のような無垢なものが感じられる。いつもは頭の中が淫乱お花畑ちゃんな穂乃果だが、今の彼女に邪な心はない。いくらコイツが淫乱組であってもそこはあの穂乃果、表情を見るだけで考えていることくらい大体分かる。

 

 

「そんなに嬉しいのか、俺と一緒に帰れるのが」

「もちろん!」

「いつも一緒に帰ってるだろうが」

「違うの!今日は2人きりなんだよ!いつもみんなと一緒に帰ってるから、零君と2人きりなのが嬉しくって♪もちろんみんなと帰るのが嫌って訳じゃないけど、たまにはこうして零君を1人占めするのもいいね♪」

 

 

 まあつまりそういうことだ。今日はみんなの都合が狙ったかのように重なって、暇になって取り残された俺たち2人。確かに周りに女の子がたくさんいると、誰かと2人きりになること自体が珍しい。特にほぼ毎日μ'sの練習がある最近では、下校もみんなと一緒になるのはもはや必然である。

 

 μ'sの中で誰よりも穂乃果と一緒にいる時間が多いが、放課後に2人きりだと改めて新鮮味を感じる。女の子に囲まれた生活の中でも、まだまだ俺の未開拓なシチュエーションがあると思うと胸が踊ってくるな。

 

 

「零君♪」

 

 

 穂乃果が俺の肩に頭を置く。なんだろう、ありきたりな行動をされているのに妙に胸がざわつくこの感覚。テンプレの行動は男の心を確実にくすぐるからこそのテンプレである。もちろんそんなことは分かっているはずなのに、やはり俺は女の子から直球で愛を伝えられるのには弱い。吃ることすらできず、ただのコミュ障人間にまで成り下がってしまうくらいには。

 

 穂乃果の頬は肩越しでも伝わってくるほど艶があり、思わず触りたくなって人差し指が立ってしまう。しかし、朱に染まった可憐極まる彼女の頬へ夕日が重なっている神秘的なその光景に、俺は目を奪われるしかなかった。

 

 

「零君?さっきから穂乃果の顔ばかり見てる……ちょっと恥ずかしいかも」

「別にいつも見てるだろ。どうしていきなり乙女になるんだよ……」

「穂乃果はいつだって乙女だよ!!」

「そうかぁ~?毎日毎日誘われている気しかしねぇぞ」

「嘘だぁ~!零君はもっと女心を勉強した方がいいよ」

 

 

 確かに女心に疎いのは認めるが、日常的に身体を求められているのは確実に本当だ。だが穂乃果はあのことりと違って天然でこの性格だから、本人は全くと言っていいほど自分が淫乱だという自覚はない。ある意味で恐ろしい存在かもしれないぞ、俺の身体への負担的な意味でも……。

 

 

 そんな()()()()()のやりとりを続けながら、俺たちは練習場所にも使っている神社へとやって来た。2人の家へ帰るルート上ここを通過する必要はないのだが、お互いもう少し相手と一緒にいたい心理が働いていたのか、無意識の間に遠回りをしてしまった。穂乃果に諭したのにも関わらず、俺も俺で心の中ではこの状況が楽しくて仕方ないのだろう。もう人のことをツンデレと呼べないかもしれない。

 

 

「ここで練習し続けて2年かぁ~。時が流れるのは早いねぇ~」

「そうだなぁ~。バイトの巫女さんたちに手を出し続けて2年になるなぁ~」

「零君あとでお説教ね」

「嘘だよ嘘……」

 

 

 一瞬だけ、いつもより低いマジトーンになった穂乃果の声に、俺は若干背筋を伸ばしながら誤魔化す。

 そんな冗談はさて置き、この神社には足を踏み入れたら反射的に蘇るほどの思い出が詰まっている。μ's結成時はここでよく練習をしていたし、ファーストライブへの祈祷やラブライブ本戦直前祈願など、重要な局面では毎回ここを訪れていた。μ'sを語る上では、もはや切っても切れない場所になっているだろう。もしμ'sが伝説になったら、いつか聖地として観光客が押し寄せる事態になるかもな。

 

 

「そんなに巫女さんが好きなんだったら、穂乃果が着てあげるのに。ふ~んだ」

「拗ねるなよ……まあ、着て欲しいけどさぁ」

 

 

 そっぽを向く穂乃果を宥めようとしたその時、後ろから静かに謎の影が近寄ってきていることに気付く。そしてその影の主から、まるで純粋無垢な子供のような声色が聞こえてきた。

 

 

「その後は、どんなプレイをするのぉ~??」

「そりゃあお前、女の子にコスプレさせたらやることなんて1つだろ――――って、えっ?」

 

 

 声のした後方を振り向いてみると、そこには栗色の髪をした高校生くらいの少女が興味津々に俺たちの話を聞いていた。眼は見惚れるくらいの綺麗なサファイア色で、顔は丸みを帯びている。胸は女子高校生の平均よりちょっと大きいくらい。そして特徴的なのが、髪をポニテにまとめて左側にぶら下げる――――つまりサイドポニーにしていることだ。そう、どことなく俺の隣りにいるコイツと似てるような気が……。

 

 

「う~ん……」

 

 

「零君、誰この子?知り合い?」

「さ、さぁ……」

 

 

 その子は品定めするように、俺と穂乃果の周りをぐるりと一周する。出会って早々意味不明な行動をする奴なんて無視するのが当然だが、何故だか不思議と警戒心は薄い。むしろこの子のことが気になる。俺は自分でもどうしてこんな気持になっているのか理解できなかった。

 

 

「やっぱり!わぁ~今と全然変わってないなぁ~!」

「はぁ?」

「おと……じゃなかった、神崎零さんと高坂穂乃果さんですよね?」

「えっ、穂乃果たちを知ってるの?」

「はいっ、それはそれは知りすぎているってほど知ってます♪」

 

 

 μ'sとして大活躍している穂乃果ならともかく、ほぼ裏方作業の俺の名前が世間に知れ渡っているとは思えない。この子が着ている服は私服だが高校生には間違いないだろうから、その高校のスクールアイドルを経由して俺の情報を得ていたのだろうか。ということは……俺のファン!?なわけねーだろなぁ……。

 

 

「それじゃあ改めまして、高坂穂乃果ですっ!えぇと、あなたは?」

「えへへ、それは秘密です♪」

「えぇっ!?どうして!?」

「女の子は秘密が多い方が綺麗になれるんですよ!」

「いやいや、名前を秘密にしたら逆に何を教えてくれるんだよ!一番重要だろそこ!?」

「女性で一番重要なのは……ここですよ」

「お、お前……」

 

 

 目の前にいる謎の少女は、突然スカートをゆっくりとたくし上げた。この行動が暗示していること、つまりコイツが一番大切にしているのって……。

 

 

「なるほど、君もそっち系って訳ね」

「どうして穂乃果も見るの!?この子だけでいいよね!?」

「似てるんだよ。お前とこの子の性格がな」

 

 

 もちろん容姿が似ているなんて言うまでもない。世界には自分のそっくりさんが3人いると言われているが、ここまで似ている2人を実際に見るのは始めてだ。サイドポニーの位置が逆なだけで、あとはほとんど同じ。まあケチを付ければ目元とか顔のパーツとかが微妙に違って見えるが、正直誤差の範囲内。サイドポニーの位置さえ入れ替えれば、いつも穂乃果と顔を合わせている俺やμ's以外なら簡単に騙せるかもしれない。

 

 それにしても、μ's以外にもリアルで淫乱な女の子っているもんだなぁ。まあ俺はそんな性格の子が大好きだから、必然的に周りに淫乱っ子集まってきちゃうのかもしれない。さながら淫乱ホイホイと言ったところか。嬉しくねぇなこの異名……。

 

 

「そんなことよりさっきの話の続きなんですけど、おか……じゃなかった、穂乃果さんが巫女服を着たら、零さんはどうする気ですか?」

「そこまで率直に質問されると逆に答えづらいわ!むしろどんな解答を期待してんだ!?」

「零さんの頭のなかでどんな妄想プレイが行われているのかなぁと思って♪」

「零君、妄想でも穂乃果をたくさん愛してくれてるんだね……嬉しい♪」

「そこ喜ぶところ!?」

 

 

 穂乃果が2人いるとツッコミもいつもの2倍になるから、俺の精神的負担が半端ない。もう謎の少女が穂乃果のドッペルゲンガーだと勝手に解釈しているが、容姿だけでなく性格も話し方も似ているものだから仕方ない。それ以前に、俺は気になっていることがあって微妙に会話に集中できないでいた。

 

 謎の少女、穂乃果モドキ。彼女の話し方が時たまぎこちないことがある。俺の名前を呼ぶ時に「おと……」と言いかけたし、穂乃果を呼ぶ時には「おか……」だった。それに俺たちを品定めするように見回していたのも気になる。もしかして……本来なら有り得ない話だけどもしかしてこの子って――――

 

 

「なぁ、君ってまさか――――」

 

 

 俺が確信を突く、その時に事件は起こった。

 

 

「んっ……」

「んんっ!?」

 

 

 突然目の前の視界が暗くなったらと思ったら、その直後、唇にほんのりと暖かく柔らかい肉厚を感じた。

 そう、俺は名前も知らぬ少女に――――――キスをされたのだ。

 

 

「な゛ぁ!?あ゛ぁ!?あ゛ぁぁぁぁあああ……!?」

 

 

 穂乃果は目と鼻と口を大きく開き、スクールアイドルにあるまじき顔をしながら後ずさりする。

 なんだなんだ!?急に何が起こった!?いきなりスカートを捲り上げたと思ったら、今度は唐突な口付け。唇と唇が軽く触れ合うようなフレンチなキスだが、美少女がお相手ということも相まって心臓がバクバクと激しく鼓動する。だけどこのキスの仕方、どこか既視感を覚えるような……。

 

 謎の少女はハッとした顔をすると、自分の唇を俺の唇から素早く離してその場で一歩後退する。

 

 

「アハハ……ゴメンなさい。ちょっといつもの癖が出ちゃいました♪」

「い、いつもの癖だと……?」

「気にしたら負けですよ」

「いや名も知らぬ女の子からいきなりキスされて、気にするなって方が無理あるだろ……」

「あぁ……あぁ……あ゛ぁ……」

「いい加減帰ってこい、穂乃果」

 

 

 俺は温もりの残る唇を手で抑えながら、未だに発狂している穂乃果を軽く叩いて正気に戻してやる。でも目の前で愛する恋人が突然見ず知らずの女にキスされたら、そりゃあこうもなるわな。もし逆の立場だったらその相手を殺すまである。

 

 だが出会ったばかりの相手にいきなりキスだなんて、随分とアメリカンな性格をしていらっしゃる。しかし俺の予想では、恐らくこの子に海外の血は混じっていない。それは見た目でも分かるし、穂乃果似の容姿と性格からでも伺える。何故頑なに自分の正体を明かさないのかは分からないが、言わないってことは言ってはならない事情があるのだろう。だったら俺も妙な詮索をしなくてもいいか。

 

 そこでようやく穂乃果が我を取り戻した。そして頬をぷくぅ~っと含まらせて、謎の少女に詰め寄る。

 

 

「もうっ!あなた一体どういうつもり!?まさか、零君に気があるとか……?」

「そりゃあありまくりですよ!こんなにカッコよくて優しくて変態な男の人を見つけるなんて、1000年あっても足りませんって!」

「最後のは褒め言葉じゃねぇだろ……合ってるけどさぁ」

「まあ、私よりいい女性を見つけるのはもっと不可能ですけどね♪」

 

 

 この無駄に自信満々な性格は、穂乃果じゃなくて俺だよな……?まだ確固たる証拠はないけど、やっぱりこの子は――――

 

 

「しっーーですよ!次また口走りそうになったら、舌を入れちゃう濃密なちゅーしちゃいますから♪」

「だ、ダメダメダメ!!零君は穂乃果のものなんだから!!」

「あはは!可愛いですね穂乃果さん!」

「むぅ~。自分にバカにされてるようで釈然としない……」

 

 

 妙に煽りレベルが高いのは俺の性格に似てるな。俺の予想が当たっているとすれば、彼女がスカートを捲ることに抵抗がなかったのも、突然キスをしてきたのも頷ける。ということは、やはり穂乃果の淫乱化はこれから先誰も止められなかったのか……。

 

 

「まあちゅーの話は置いておいて」

「置いておくの!?穂乃果はそのことで日が暮れるまで話がしたいんだけど!!」

「もう暮れかかってるけどな」

「まあまあ落ち着いてください。そろそろ私の質問に答えてもらわないと」

「質問?あぁ、さっきの巫女服がどうのこうのってやつ?」

「そうです!やっぱり巫女さんを襲うなら境内ですか?零さんはシチュエーションを完璧にする人だとお聞きしましたから!」

「どこ情報だよそれ!?あぁ、でもお前なら知っていて当然か……」

「はいっ♪」

 

 

 笑顔で返事をする辺り、俺が相手の正体を察していることに向こうも気付いてるみたいだ。口に出して詮索さえしなければ、また突然襲いかかってくることはしないらしい。正直なところ、次はどんなキスをされるのか気になってはいるけど、相手の正体が把握できた以上どうもやりづらい。

 

 それ以前に、さっきからどうしてコイツは俺たちの営みについてここまで言及してくるのだろうか。しかも嬉しそうに……。他人のエッチな話も興味津々に聞くタイプだな。それって、やっぱ丸っきり穂乃果じゃん!

 

 

「気になりません?親がどんなシチュエーションでどんなプレイでセックスをしたから自分が生まれたのかって」

「気にならん!ていうか、気にしたくもねぇよ!!」

「そうですかぁ~♪」

 

 

 コイツ……白々しい笑顔しやがって!!まさかこのガキ、その話を聞きに来るためだけに俺たちの目の前に現れたんじゃねぇだろうな?もしそうだとしたら、これから穂乃果をもっと真っ当な人間に更生させてやる必要があるぞ。あっ、俺自身もか……。

 

 

「零君、穂乃果に巫女服着させてヤってみたいの?」

「そりゃあお前とはどんなシチュエーションでもやってみたいと思ってるけど」

「へ、へぇ~……」

 

 

 穂乃果は真姫みたいに髪をくるくると回しながら、前髪で表情を隠すように俯いた。でも顔面が真っ赤になっているのは見なくても丸分かりだ。普段は猥談だろうが俺の身体を求めてこようがグイグイ攻めてくる穂乃果だが、いざ実際にやる流れになると年頃の思春期女子と同等になるのが彼女の可愛い一面でもある。身体を求めはするけど本番では俺に任せるタイプだな。ことりや楓のような肉食系とは違う、素人淫乱とでも名付けておいてやろう。

 

 

「それなら実際に巫女服を着てヤってみてくださいよ!ほら、カバンの中に用意してありますから」

「どうして巫女服なんて持ち歩いてんだ……」

「この状況を想定してたからですよ!はい、穂乃果さん!」

「えぇっ!?ここで着替えるの……?」

「面倒なので服の上からでもいいんじゃないですか?」

「いや、巫女服の下は何も着ちゃダメだ。ちなみに下着の装着も認めない。それが俺の好きな巫女さんとのシチュエーションなんだ」

「だそうですよ?」

「えぇ~……でも零君が好きなら……。ちょ、ちょっとだけだからね!」

「そうこなくっちゃ♪」

 

 

 さっきから上手いことこの子の口車に乗せられているような気がするぞ俺たち。しかしコイツの立場上、俺たちのことを熟知しているのは必然か。この子の背後に俺か穂乃果の面影しか見えないのは、それだけ俺たちが凄まじい影響力を与えているのだろう。

 

 穂乃果もこの子の言いなりになっているようで気が気ではないのか、そわそわとしながら建物の陰へ移動しようとする。だがそこで、少女に手首をガシッと強く握り締められ引き戻された。

 

 

「な、なに!?」

「穂乃果さんはいつもいつも零さんの前で脱いでるでしょ?今更恥ずかしがることなんてないじゃないですか!」

「い、いつも!?そんな頻繁には脱いでないよ!!」

「えっ、じゃあたまには脱いでヤってるんですね。この歳からねぇ……なるほどなるほど」

「ちょっとなに納得してるの!?あ、あれは流れに身を任せていたら零君が勝手に脱がしてきただけで……」

「あれっていつの話だよ!?俺を巻き込むな!!」

「ほうほう、心当たりがありすぎるほどお二人は盛ってるんですねぇ~♪」

「「……」」

 

 

 人の言葉に揚げ足を取ったりするのは俺で、グイグイと強引に攻めてくるのは穂乃果の性格からだろう。俺たちの負の面をいいとこ取りして最強に見える。小生意気なところも憎たらしいが、まさに()()()()()()()()()()()()愛らしくもある。出会い頭に妙な行動をされて怒るに怒れなかったのは、つまり()()()()()()なんだろう。

 

 

「あっ!?もうこんな時間だ。早く戻らないと……」

「戻る?」

「はい。残念ながら、あまり長い時間ここにはいられないので」

「そうなのか。じゃあさ、帰る前に1つだけ聞いていい?」

「私に答えられる範囲だったらどうぞ」

「お前がここへ来たのは、やっぱ秋葉(アイツ)の差金か?」

「近からずも遠からずって感じです。確かに私がここへ来られたのはあの人のおかげですけど、2人に会いに来たのは私の意志ですから」

「なるほど、やっぱりアイツか……」

 

 

 この子からの返答で全てを理解した。俺の予想は間違っていなかったんだ。こんなSFっぽい出来事が起こり得るのかと思っていたのだが、秋葉ならやりかねない。アイツが本気を出せば()()()()()()()()()できる発明くらい、今の段階でも作れちゃいそうだもんな。

 

 

「あ~あ、穂乃果さんが零さんの手でイキ狂うところを見に来たのになぁ~」

「なんかとっても陰湿だよあなた!!そんな穂乃果を見てどうする気!?」

「決まってるじゃないですか、観察ですよ観察。私の出生の秘密を探るためにね♪」

「お前、本気でそれを見に来たんだな」

「はい♪」

「ん~2人の会話がよく分かんない。もしかして、いやもしかしなくても仲間外れ!?」

「お前もこの日を思い出す時がきっとくるさ」

「そうですね!その時になったら、穂乃果さんが驚く顔を見にまた来ますよ!」

「えぇ~どういうことぉ~!!」

 

 

 今までの会話から察せない辺り、穂乃果もまだまだ甘いな。でもまあそっちの方が将来面白くなりそうだから、敢えてこのままネタばらしはしないでおこう。

 

 

「それでは私はここでお暇させてもらいます」

「あぁ、じゃあな」

「はいっ、さようなら零さん!穂乃果さんも!また会いましょう!」

「う、うんっ。でも、今度会っても脱がないからね!!」

「う~ん、脱がないと私には会えないんだよねぇ……」

「何か言った?」

「いえいえ!それではまた!」

 

 

 名を名乗らなかった少女は神社前の長い石段を駆け下りて、その場で消えてしまった。まるでタイムスリップしたかのように……いや、まるでではないか。

穂乃果は突然少女が消えたのが目の錯覚だと信じたかったのか、何度も目を擦って階段先を眺める。だがそのあと夕日を見つめていたので、その明かりのせいで幻覚を見たのだと勘違いして納得したようだ。果てさて、その表情が驚愕に変わるのは何年後になるのだろうか。

 

 

「結局、最後まで不思議な子だったねあの子。なんとなくだけど、心当たりがあるような気がするんだよねぇ~」

「ほう、そこまでは悟ったか。流石、いつも感覚だけで生きているだけのことはある」

「馬鹿にしてるでしょそれ……。でも一体誰だったんだろ、あの女の子」

「未来だよ、俺たちの」

「未来……」

 

 

 あの子を見ていたら穂乃果を、そしてμ'sのみんなを今よりももっともっと大切にしなければいけない、そんな決心が生まれてきた。あの子が名前を名乗らず、自分の情報を一切開示しなかったのは、恐らくそれを知った俺たちのせいで未来が歪むかもしれないからだろう。ま、そんなことで未来が変わっちまうと思うあの子もあの子でまだまだ甘いな。やっぱりあの子は穂乃果の――――いや、なんでもない。今日起こったことは、俺たちの中だけに閉まっておこう。

 

 

 会いに行ってやるよ、また絶対に。穂乃果と、みんなと、今以上に幸せとなったその時に――――

 




 謎の少女については本編で明らかにしませんでしたが、皆さんもちろん分かってますよね……?

 SFっぽい描写はRPG編以来でした。そもそもそのようなシチュエーションは日常モノには合わなかったので今まで執筆してこなかったのですが、もう最終回も近いのでここで敢えて解禁。それにしても秋葉さんが便利すぎて思わず笑いが溢れてしまいます(笑)

 そして今回で1月~2月編の章は終了で、次回から3月に突入します。「なんだあと1章あるじゃん」と思うかもしれませんが、高校では3月初めに卒業式を迎えることが多いので、本作もそれにあやかります。つまり――――あと2話!

 次回は最終回の前編となります。また投稿遅れるかも……



新たに☆10評価をくださった

しょうぷーさん、鹿子様~!さん、お砂糖!さん

ありがとうございます!



Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハーレムの条件

 最終章であり、最終回の直前回。
 こんなほのぼのとした日常も、もうこれで終わりかと思うとちょっぴり寂しくなったり。


 3月、初頭。冬の寒さも少しは和らぎ、日中は心地よい暖かさであることが多くなった。駆け抜ける風に凍てつく冷たさはなくなり、肌をくすぐるかのように穏やかだ。木々の葉は目に見えて青みを増し、光は丸みを帯び柔らかくなっていく。寒さで神経質になっていた人の心も、春の陽気で少々浮かれつつある。

 

 そんな中、俺は相変わらず学院の芝生が広がるスペースに寝転がっていた。何かをやろうとしている訳でも、考え事をしている訳でもない。ただ単純にぼぉ~っと、取り留めもなくダラダラと過ぎ行く時間を過ごしている。そう、残り僅かな高校生活を。

 

 俺たち3年生は明日、ついに卒業式を迎える。高校生活最後の授業や卒業式のリハーサルなど、やるべきことは全て終え、あとは卒業を残すのみとなった。

 とは言うものの、正直卒業するっていう実感はあまり沸かない。俺たち3年生組の4人は絵里たちや秋葉のいる大学に通うことになるから、友達と離れ離れになる云々のお涙頂戴ストーリーは成り立たないのだ。それに学院と大学の距離も近いし、後輩たちにも会おうと思えばすぐにでも会える。だから大学生になっても、高校3年生から学年が1つ上がる程度の認識でしかないのだ。多分まだ子供なんだろうな、俺。それにあまりしみじみとした雰囲気は好きじゃない。これでいいんだよこれで。

 

 新緑の香りを含んだ、気持ちのいい芝生の暖かい空気が流れ込む。あぁ、このままうたた寝してしまいそう。別に授業をサボっている訳でもなく、卒業式のリハが終わってそのまま家に直行ってのも寂しいからここにいるだけだ。むしろこの学院にとっても俺の顔を拝めるのは今日と明日だけなんだ。むしろ顔を見せてやっているんだから感謝して欲しい。

 

 

 ――――って、何言ってんだ俺。自分でも言ってることがよく分からなくなってきた。これも春の心地よさが俺を腑抜けにしているせいだ。そうに違いない。

 

 

 そんな中、背後から太陽の光を遮るように影が差し込んだ。

 

 

「零、何してるのよこんなところで」

「真姫かよ……」

 

 

 仰向けで寝転がっている俺の視界にひょっこり現れたのは真姫だった。真姫は怪訝な表情で目をぱちぱちさせながら、俺の顔を覗き込む。相変わらず整った顔してるなぁと淡白な感想を抱きながらも、俺は彼女の顔から少し目線を下げた。

 

 特に何も考えていない、ふとして取った行動だった。だがこの状況から察しがつくだろう。寝転がっている俺、真姫は立ったまま俺を見下げている。つまりだ、顎を上げて目線をどんどん逸らせると、スカートの中身が――――!!!!

 

 気付くと、視界には真姫の顔ではなく靴の裏側が見えていた。

 もう回避は間に合わないと察知し、瞬時に首だけを数センチ動かす。その直後、地が響くような鈍い音が耳の奥まで振動した。恐る恐るさっきまで俺の顔が置いてあった場所を見てみると、芝の草は散り、土はボロボロとなり、真姫の靴と地面の接触面からは白い煙が上がっていた。あまりの破壊力に思わず声も出ない。淫乱ちゃんたちから逃れるための危機回避スキルを育成してなかったら、今頃鼻の高さがマイナスになっていただろう。てか、この押し潰し攻撃は過去に何度も受けそうになってきたことがあるから経験が生きた。

 

 

「危ねぇだろお前!!」

「勝手にスカート覗くような変態に、弁明なんて許されないわよ!!」

「お前がそんな位置にいるのが悪いんだ!!」

「あなた、そのうち『俺の前でスカートを履いてるのが悪い』とか極論吐きそうで怖いわ……」

 

 

 もっと言ってしまえば、おっぱいを触るのも『胸が膨らんでいるから悪い』と言えるし、最悪『お前が女の子だから悪い』と結論付ければ、どんな女の子に手出しをしようが許されるまである。まあそんな理由でセクハラが蔓延るのは、世界の終幕が訪れる直前くらいだろうが。

 

 

「それより、お前何しに来たんだ?もうすぐ卒業しちまう愛する彼氏の顔を見に来たってか。可愛い奴だ。素直にそう言えばいいのに相変わらずツンデレちゃんだな」

「自分で質問して自分で納得しないで!手伝って欲しいことがあるだけよ。どうせ暇でしょ?」

「必死に眠気と戦ってるから全然暇じゃない」

「暇そうね。じゃあ倉庫から一緒に椅子の運び出すから手伝って」

「お前こそ話聞けよ……」

 

 

 平日だろうが休日だろうが、いついかなる時問わず、周りの女の子たちが俺を呼び出す時は大抵『暇でしょ?』って言葉が文頭に来る。これほど失礼な挨拶の文章がかつてあっただろうか。俺だってぼぉ~っとしているようで、目の前を忙しなく通る女の子たちを観察する大義名分があるのだ。あの子のおっぱい半年前に比べて成長したなぁとか、あの子最近ちょっと色気付いてきたから毎晩オナニー捗ってるなぁとか、音ノ木坂学院の少女たちの健康診断も欠かさない。しかもタダで身体を見てやってるんだ、感謝くらいして欲しい。

 

 

「ただでさえ男手が少ないんだから、暇なら手伝ってよ」

「椅子の運び出しって言ったが、一体どこへ?」

「講堂よ。卒業式の会場作りのためのね。来賓の人たちの机や椅子はまだセッティングしてないから」

「あのさぁ、何が悲しくて自分の卒業式の会場の準備を手伝わなきゃならんのだ!!」

「案外そんな小さいことを気にするのね。もっと懐の大きい男かと思ってたわ」

「そんな淡々とした煽りで俺が動くとでも……?」

 

 

 煽りでムキになるお前とは違うんだから、そんな手に安々と引っかかる訳ないだろ。それにさっき言った通り、俺は女の子の観察で忙しいのだ。卒業する前に少なくとも俺が手を出してきた女の子たちの発育だけは確かめなければならん。それが男の義務ってものだろう?それに、人を働かせるならそれ相応の対価ってものが必要になるはずだ。

 

 

「どうしても俺に手伝って欲しいんだったらパンツ見せてみろ」

「はぁ!?」

「お前のパンツ見たらやる気でる。むしろお前は指示だけ出して、俺だけが働いてもいいぞ」

「そ、そんなこと……」

「それじゃあことりのパンツ見る?」

「マジで!?――――って、えぇっ!?」

「えへへ……♪」

「ことり……いつの間に!?」

 

 

 気配なんてものは一切ない。耳元でそよ風でも当たったと思っていたのだが、それはことりの囁きの声だった。ことりはいつの間にか寝転がっている俺の隣に座り込み、ニコニコとした怪しい笑顔で顔を覗き込んでいた。

 

 普段の日常でも気付かぬうちに音もなく接近されていることはままあるが、ここまで密着されたのは初めてだ。突然隣に女の子がいるとか、普通では喜ばしいことなんだけど、コイツに至っては怖い。ことりと付き合い始めてから彼女の女子力はグングン上がっているが、同時にこういった怪奇行動もどんどん増えている。油断してたらいつの間にか精液搾り取られてるとか、ありそうでビビっちまうんだけど……。

 

 

「ことりちゃん!急に走り出すなんてどうしたの!?」

「突然凛の目の前から消えたから、マジックかと思ってビックリしたにゃ!」

「ゴメンね~。ちょっと零くんの口からことりの欲求を刺激する言葉が聞こえてきたから♪」

「穂乃果、凛、お前らことりと一緒にさっきまでどこにいた?」

「講堂で卒業式の準備を手伝ってたんだけど……」

 

 

 その瞬間、俺の全身がブルブルと震えた。ここから講堂まではそこそこ離れていて、だからこそ真姫は俺に椅子の運び出しを頼んできたと思うのだが、問題はことりに俺の声が聞こえていたって事実だ。地獄耳なんてものじゃない、身体のどこかに盗聴器でも仕掛けられているんじゃねぇだろうな!?

 

 

「フフフ……♪」

 

 

 なんだことりのこの不敵な笑みは!?まさか本当に……本当に!?

 俺が手で身体中をゴソゴソ弄るたびに、ことりの笑みがどんどん黒濃くなっていく。これだけ探しても見つからないんだから、もしかして体内に埋め込まれているとか?俺が就寝中に持ち前の忍び足スキルで勝手に部屋に忍び込んで、秋葉直伝の手術で盗聴器を内蔵したとか……普通にありそうで怖い!!

 

 

「穂乃果、ことりちゃんともう十数年一緒にいるけど、1年でここまで変わったことりちゃんを見るのは初めてだよ……」

「留学騒動で涙を見せていた、あの純粋なことりちゃんはどこへ行ったのかにゃ……」

 

 

 あの頃のことりはもういない、全く別人に生まれ変わってしまったんだ。これは誰かの陰謀か、それとも因果律が狂ったのか、それは分からない。だけど今の彼女は歩く猥褻物の異名を誇らしげに掲げる、ただの脳内ラブホテルなのだ。決してあの時のことりを取り戻そうなんて考えてはいけない。逆に淫乱病を伝染されて仲間になってしまうぞ。

 

 

「全くあなたたち、サボってないで早く講堂に戻ってきてください」

「こっち全然人手が足りてないんだよぉ~」

「海未、花陽……」

「ゴメンゴメン、零君からことりちゃんを引き剥がすの大変で」

「零が素直に手伝ってくれれば、ことりも引っ付いてくるだろうから一石二鳥なんだけどね」

「ぜってー手伝わねぇからな俺は」

 

 

 ここまで命令されたら逆に手伝いたくなくなってくる。こうなったらもうヤケだ、絶対この身体を起こさねぇから。俺はここで高校生活最後の昼寝をするんだ!邪魔をする奴は例え恋人たちだって許さない!!

 

 

「ん?そういや海未たち、お前らも卒業式の準備手伝ってんのか?」

「えぇ、2年生だけでは大変そうだったので。私たちはもう帰るだけで暇もありましたし」

「自分がメインの卒業式なのに頑張るねぇ~」

「2年生は1クラスしかないから、花陽たち以外にも人手があると嬉しいなぁって……」

「だから、パンツ見せてくれたら行くって言ってるだろ」

「パ!?ぱ、ぱぱぱぱパン……!?!?」

「かよちんが壊れた!?」

 

 

 花陽の奴、実は自分が隠れ淫乱だってことをまだ隠しているのか。普段の優等生は仮の姿、ただ装ってるだけなんだよ。だって校舎裏に呼び出して、壁に手をつきおしりをこちらに向けてきたり、もっと触ってぇ~とか叫んでいたんだから。根の純粋さはまだ残っているんだろうけど、実際に()()()()()()()になった瞬間μ'sの誰よりも溜め込んだ性欲が爆発するに違いない。花陽も1年前と比べてエロくなったもんだ、身体も心も。

 

 

 そしてまた、俺の昼寝を脅かす影が後ろに――――

 

 

「こんな華奢で幼気な少女たちを働かせて、先輩たちは悠々とご休憩ですか。そうですかそうですか」

「楓!?雪穂に亜里沙も……」

「お姉ちゃんが手伝ってくれって言ってきたのに、こんなところでサボってるってどういうこと?」

「サボってないよ!零君に協力要請してるんだから!」

「一切動く気はないけどな。誰かがパンツを見せてくれるまで」

「ぱ、パン……!?」

「だ~か~ら~!ことりが見せてあげるって言ってるよねぇ~!」

「お前のは見飽きた」

「ヒドイ!?」

 

 

 だってなぁ、俺が望んでもないのに毎日見せつけられたらそりゃあマンネリ化もするって。そのせいでことりがどのような周期でどのパンツを履いてくるのか、大体分かるようになってしまった。だからと言ってそれで何かしようって訳ではないが、痴女プレイに慣れてきたのは自分でも割と驚いてしまう。女の子のパンツなんて、1年前の俺だったら鼻血が暴発して輸血パック必須レベルだったのになぁ。よくよく思い返せば、俺もかなりウブだった。

 

 

「な~んだ、パンツだったら妹の私のをいつも見てるじゃん」

「洗濯物としてならな。やっぱパンツはスカートと共に拝むのが一番興奮できるんだよ」

「そっかぁ~。それじゃあ亜里沙、お兄ちゃんに見せてあげて」

「えぇっ!?どうして私なの!?」

「この中では亜里沙が一番羞恥心がないと思ったからね」

「あるよ!!私にだって恥ずかしいって思う気持ちあるよ!!この前零くんにパンツ脱げって言われた時、とても身体熱かったんだから!!」

「おい亜里沙それは!!」

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

 

 亜里沙と雪穂以外の7人が、ある者はジト目で、ある者はゴミを見るような目で、ある者は羨むような目で俺を見つめる。三者三様の目線だが、共通しているのは呆然、軽蔑、嫉妬などの悲観的な思考だ。

 

 対して亜里沙と雪穂は、以前俺にコスプレをさせられて、とんでもなく卑猥な行為をされた苦い記憶を思い出しているのだろう。頬を紅潮させ弁解もせず黙ったままだ。あのコスプレプレイは他のメンバーには内緒ってことで3人の中で取り決めをしていたので、弁解も何もあったものではないのだが。

 

 

「雪穂たちズルイよ!!穂乃果だって色んな衣装で零君を喜ばせてあげたいのに!!」

「零くん!衣装担当のことりを呼ばないってどういうこと!?」

「全くあなたって人は、結局出会ってからの2年間全然成長していませんね……」

「あわわ……今日どんなパンツ履いてたっけ……??」

「変態の卒業は一生無理そうだにゃ……」

「強く抵抗できない2人に対して、まさに鬼畜の所業ね」

「どうして私も呼んでくれなかったのお兄ちゃん!!」

 

 

 コイツら好き好きに勝手なこと言いやがってぇ~!!俺はまだ恋人になりたてな雪穂と亜里沙に、男と付き合うってことはどういうことなのかを社会勉強させてやったんだ。それに2人は恥ずかしがっていた反面、流れに身を任せていたからそこそこ楽しんでいたんじゃないかと推測する。まあこれを口に出したら、また冷たい目線の矢を浴びることになるから言わねぇけどさ。

 

 

「相変わらず、ロクでもないことばかりしてるわねアンタ。にこにもやりなさいよ」

「でも逆に零君が健全になったらウチらが戸惑っちゃうから、今のままでいてくれた方が安心するけどね」

「分かってるじゃん。郷に入れば郷に従えって言うだろ?つまり俺と付き合うのなら俺の趣味に合わせてくれないと――――って、にこ!?希!?」

「気付くの遅すぎでしょ……」

「絵里もいたのか」

 

 

 いつの間にやら大学生組が自然と輪に加わっていた。そういや大学生は今頃春休みの真っ最中なんだっけ。2月から3月に掛けて長期間の休みがあるのはいいよなぁ~。まあ俺もみんなが受験でひーひー言ってる間に、何食わぬ顔で授業サボってたりした訳だが。しかし春休みの名目があるのとないのでは罪悪感の感じ方が違う。

 

 

「どうしてここにいるんだ?自分たちが春休みだからって、受験真っ盛りの俺たちを冷やかしにでも来たのか」

「そんな訳ないでしょ。音ノ木坂学院の卒業式前っていつも忙しくてバタバタしてるから、何か手伝えることがあればと思ってね」

「それじゃあ丁度よかった。真姫が手伝え手伝えうるせぇから、早く行ってやってくれ」

「へぇ~真姫は零に手伝ってもらいたくて仕方ないみたいねぇ~」

「なによにこちゃんその嫌味な言い方!!こっち見てニヤけないで!!」

「べっつにぃ~!他意はないわよ」

「真姫ちゃんはちょっとでも長く零君と一緒にいたいんやもんね♪」

「希!!」

 

 

 ま~たにこと希のμ'sメンバー弄りが始まったよ。その標的にされるのは大抵海未、真姫、絵里の3人。やっぱ素直にならずツンツンな性格を前面に押し出すと、結局こうやってボロが出るまでいびられることになるからやめておいた方がいいぞ。だからと言って、ことりや楓みたいに世間体を気にせず欲望丸出しの淫乱ちゃんになれとは言わないが……。

 

 

「それにしても、よく俺たちのいる場所が分かったな」

「分かったも何も、あなたたち目立ちすぎなのよ。遠くからでも騒いでる声がよく聞こえてきたし、すれ違った生徒さんたちに『μ'sの皆さんに会いに来たんですよね?なら芝生のところでいつも通り盛り上がってますよ』と言われたくらいなんだから」

「マジかよ。誰のせいだ?」

「強情な零のせいじゃない?」

「なんでやねん!ことりが暴走してたからじゃないか?」

「お姉ちゃんたちがサボり出した頃からうるさくなったと思う」

「それはおかしいよ雪穂!亜里沙ちゃんが素直にパンツを見せていれば……」

「わ、私のせいですか!?」

 

 

 もう俺を除くみんな悪いってことでいいよ。だって俺、寝てただけだもん。寝転がってるだけで何もしていないのに、周りに女の子たちがどんどん集まってくるんだから。そしていつの間にか、俺を取り囲むように芝生に立っていたり腰を下ろしたり、お前ら卒業式の手伝いをしていたんじゃないのかと思ってしまう。

 

 そう、女の子たちが向こうから勝手にやって来て勝手に話し掛けてくれる。自然と。みんな何の連絡も取り合っていないのに。我ながらいい身分にいるなぁと感じながらも、卒業してしまったらこの光景を拝みにくくなると思うとちょっぴり寂しくなってきた。μ'sが生まれたこの音ノ木坂学院で、このメンバー全員で集まるなんてことはもうこの先ないのかもしれない。卒業の実感が沸かないと言ったが、色々考えてみると募る思い出はたくさんあったんだ。涙は出ないけど感傷に浸るものはあるな。

 

 

「零……アンタ悟った顔してどうしたの?もしかして絶頂?」

「この淫乱ツインテールが。折角いい気分になってたのに邪魔すんなよ」

 

 

 μ'sのみんなのキャラが徐々に変わっていったのも、これまた思い出か。穂乃果たちに手を焼くことは幾度となくあったけど、それ以上に楽しかった記憶が蘇る。この1年本当にたくさんの出来事があったよなぁ。まあそれを思い出すのは卒業式の日が相応しいから、今はこの程度に留めておこう。

 

 

「ほら、零君いこ!」

 

 

 穂乃果が目の前で屈み、寝転がっている俺に向かって手を伸ばす。

 視界に映るのは、12人の彼女たちの微笑み。これだけの可愛い女の子たちに囲まれて、改めて自分が幸福の絶頂にいるのだと感じた。もうこの状況が普通であったから忘れてたけど、俺って相当厄介で癖者揃いで、そして美女美少女だらけの全国トップスクールアイドルメンバーの中心にいる。中心にいるからこそ終わらせない。例え卒業だとしても、この関係だけは絶対に。

 

 

 

 

 ここで俺は穂乃果の手を握る。仕方ないから卒業式の準備くらい手伝ってやるか。

そう意気込み、穂乃果が腕を引く力に身を任せようと思った、その時だった。

 

 

「ちょっ、零君!?」

「あっ……!!」

 

 

 思いのほか穂乃果の手を握る力が強くて、逆に彼女がその力に身を任せてしまう形となった。

 そうなればもちろん――――

 

 

「わっ!!」

「うぐっ!!」

 

 

 穂乃果が俺に覆いかぶさる形になる訳で。さらに彼女を受け止めようとした手が――――

 

 

「んっ……零くぅんそこはぁ〜!!」

 

 

 おっぱいをダイレクトに揉みしだいちゃってる訳で!!

 

 

「あっ、穂乃果ちゃんズルイ!!零くん、ことりにもやってくれなきゃ平等じゃないよ!!」

「本当に、あなたは一生変わることはないと断言できますね」

「あはは……私はそろそろ準備に……」

「いつもの零くんで凛は安心するにゃ~♪」

「いつか変態も卒業してくれないかしら……」

「お兄ちゃん、家に帰ったらもちろん私にも……ね♪」

「は、ハラショ~」

「なんかこの展開ももう慣れた……」

「ここまで来ると、むしろ才能よね」

「ウチにとっては親の顔より見た光景やけど♪」

「にこにもっと激しい方が満足できそうだけどね♪」

 

 

 俺たちのこんな日常だけは卒業なんて知らず、これから先ずっと続いていくんだろうな……。




なんと零君、今回寝転んでいただけ!何もしてないのにたくさんの女の子が集まってくることこそ、真のハーレムだと思います。完全に持論ですが(笑)

語りたいことは色々ありますが、それは全部最終回の後書きで思いの内をぶちまけようかと思います。

最終回の更新は、今週末か来週の頭の予定です。



新しく☆10評価をくださった

まーぶるちょこさん、由夢&音姫love♪さん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【最終話】ずっと変わらぬ笑顔のままで

 最終話です!そして200話!
 この物語を経て、零君や穂乃果たちがどう成長したのか。最後までお楽しみください!


 卒業式当日。空は俺たちの未来を照らすかのように晴れ渡り、絶好の卒業式日和だ。とは言っても、朝から特別なことをした訳でもなく、いつも通り起床していつも通り楓の朝食を取り、いつもの時間に登校した。

 しかしこんないつも通りの日常も、今日で最後かと思うと若干だがしみじみとしてしまう。やはり人間の心境を変化させるのは、環境が移り変わることだと妙に心理学的な想像をしてしまう辺り、恐らく俺も心のどこかでこの日常に焦がれているらしい。

 

 そんなことをぼぉ~っと考えつつも楓と分かれて教室へ向かっていると、その途中に花陽が長机の傍に立っていた。彼女は箱の中から赤いバラを取り出し、机に上に並べている。何をしているのかと思い近づくと彼女も気付いたみたいで、わざわざ作業の手を止めてまで俺に駆け寄ってきてくれた。

 

 

「零君おはよう!」

「あぁ、おはよう。朝からなにしてんだ?」

「これ?これはね、卒業生の皆さんの胸に付けるバラを並べてるんだ。私がここの係だから」

「そういや毎年卒業生が付けてたなぁ。まさか自分がその番になるとは、1年前までは思ってもなかったけど」

「1年って先のように見えてあっという間だからね」

「そうなんだよ。だから今でもイマイチ実感が沸かないというか、まだ卒業を受け入れられてない様な気がするんだよな」

「あはは……零君も結構ナイーブなところがあるんだね」

「失礼だなお前。俺はいつだって感情に従順だって」

「本当に、色んな意味で従順な気も……」

 

 

 花陽は何か言いたげな(いぶか)しげな表情をするが、苦笑いでその場をサラッと流す。でも言いたいことは分かるぞ。俺があらゆる感情に従順だってことが。もちろん欲望的な意味でだけど……。

 

 それにしても、1年が過ぎ去るのは早い。ちょっと前に絵里たちの卒業を祝してた感じがするため、自分が卒業するという実感が沸かないのは本当だ。いつもの日常が、環境が、生活が変わってしまう未来を未だに見据えられていないのか。寂しいって気持ちはあるんだけどな。

 

 そこで俺はふと、机に並べられたバラを1つ手に取る。心もある程度落ち着いたのか、遂にこの日がやって来たのだと改めて思い知る。滅多なことではこんな繊細にならないのに、こうして感傷的になるのはやはりμ'sとの思い出のおかげなのだろう。

 

 

「あっ、そうだ。零君のお花は私が付けてあげる!いや、付けさせてください!!」

「あ、あぁいいけど……」

「えへへ、やった!」

「ただ花を付けるだけだろ。そんなに喜ぶことか……?」

「私がやりたいだけだから。ちょっと動かないでね――――――はい、できました!!」

 

 

 花陽は夫のネクタイを結ぶ妻のように俺の身体の前に立ち、ブレザーの左胸にバラの花を添えた。こうして見ると、いつも着崩しているせいで少しヨレヨレとなっている制服も、なんだかシャキッと畏まって見える。

 

 

「うん、とてもカッコイイよ零君!」

「ま、俺だから当たり前だろ」

「あはは……。相変わらず自信満々だね。それでこそ零君だよ」

「もしかして励まそうとかしてくれちゃった感じ?」

「零君がどんな気持ちで今日の卒業式に出席するのかは分からないけど、在校生なら在校生らしく、卒業生を笑顔でお見送りした方がいいかなぁと思って。もしかして……迷惑だった?」

「いいや、そんなことないよ。強くなったな、花陽」

「そう、かな?」

「あぁ。出会った頃よりも何百倍もな」

 

 

 入学当初の花陽は聞く話によると、教科書の音読すらもまともに声を出せなかったようだ。何事も羞恥心とプレッシャーに負けてしまい、自分を前面に出すことすら叶わなかった。

 しかし今は違う。常に元気いっぱいの穂乃果や凛に負けなくらいの好奇心と自信は、既にクラスメイトたちにも認知されている。μ'sの活動や俺との恋愛の経て、2年前とは比べ物にならないくらい彼女は強くなった。そしてそれは、μ'sのみんなも同じだ。それに対して俺は……あんま変わってない気がする。

 

 

 するとその時、後ろからドタドタと廊下を走る音が聞こえてきた。この軽い足取りと元気に満ち溢れる雰囲気は――――――

 

 

「零くんおっはよーーーーっ!!」

「うぐっ!!おい凛!!お前はいつもいつも首絞めんな!!」

「えへへ~♪今日で最後だから、いつもより100倍増しのハグをプレゼント!」

「うぐぐ……それだと死ぬだろ!!」

 

 

 凛と出会ってからというもの、毎朝この恒例行事で殺されかけている。しかし今日は凛の宣言通り、頭と身体の間を流れる血を止めるかの如く、プロレス技のように抱きついてくる。授業がある日はほぼ毎朝この攻撃を受けているので、俺の身体はもはや血が流れてなくても活動できるような強靭な肉体になっているかもしれない。

 

 しかし、これでも役得だと思うことがある。それは後ろから抱きつかれるたびに、凛の胸がこれでもかと言うくらいに押し付けられるからだ。2年前はかなり慎ましやかな胸だったのだが、今は年相応のそこそこのデカさになっているのでもう気にせずにはいられない。過去のトラウマを乗り越えて成長してきた彼女だが、同時に胸まで大きく育んできたようだ。毎朝おっぱい攻撃を味わってきた俺が言うんだ、間違いない。

 

 

「ほら、凛。まだ練習の途中でしょ」

「にゃっ!!真姫ちゃん首根っこ掴まないで苦しぃ~!!」

「それは俺のセリフだよ……」

 

 

 真姫が、凛の襟を掴む。真姫が凛をあしらう手付きもこの2年で十分に成長しているようで、凛がジタバタと抵抗しても真姫は一歩もその場を動かない。まるで子供をなだめる保護者だな……。

 

 

「凛ちゃんも真姫ちゃんも、ここに来たってことは練習終わったの?」

「練習?」

「ほら、凛ちゃん生徒会長でしょ?だから卒業式で読む送辞を、何度も繰り返し音読して練習してるんだ」

「あぁ~そういや生徒会長だったなお前」

「なにその馬鹿にしたような目……。これでもこの半年はちゃんと生徒会長を務めたにゃ!!」

「ほどんど私たちが仕事を手伝ったおかげだと思うけど」

「それはまぁ……。でも副会長と書記が会長の補佐をするのは当たり前だにゃ!!」

「開き直りやがったよコイツ……」

 

 

 今でも凛が生徒会長なのが信じられないが、彼女の言い分は何も間違ってはいない。凛は真っ当に音ノ木坂学院の生徒会長として、自分の役割を請け負っている。出会った当初は明るい子に見えて意外と謙遜するタイプだったから、こうしてみんなの先頭に立つってだけでも物凄い成長だ。

 

 

「で?送辞の音読は上手くいきそうか?」

「まだ昨日の時点で噛み噛みだったから、直前まで練習しようと思っていた矢先にこれよ。零を見かけた瞬間にピューって走り去っちゃって。普段からそのやる気を勉強や生徒会の仕事にも向けてくれれば……」

「うぅ~真姫ちゃん相変わらずお堅い。そんなのだからいつまで経ってもツンデレをやめられないんだよ!」

「な、何よそれ!?別に好きでこの性格してるんじゃないんだから!!」

 

 

 そのセリフ自体がもうツンデレのテンプレなことに、多分真姫は気付いていないのだろう。まあコイツからツンデレを取るような真似は、俺から性欲を奪うことと等しい。つまり改善しなくてもいいってことだよ。

 

 真姫のこの性格は2年前からずっと変わらない。花陽や凛と比べると心境の変化はあまりないのかもしれないが、出会った頃と比べると格段に素直になることが増えた。特に恋人になって以降はツンを発動する機会も増えたけど、同時にデレを見せることも多くなった。そこのところの不器用さがたまらなく可愛かったりするんだよな。これからもずっと変わらぬツンデレちゃんでいて欲しいよ。

 

 

「とにかく!卒業式までまだ時間はあるわ。早く練習に戻るわよ!」

「だから首根っこ掴まないでよ~!かよちん助けてぇ~」

「あはは、頑張ってねぇ……」

「この白状モノぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ほら、さっさと歩く!!」

 

 

 凛がふざけて真姫がツッコミ、花陽がその場を和ませる。卒業式当日でもいつもと変わらぬ光景が目の前で繰り広げられていた。彼女たちも本当は寂しいはずなのに、その気持ちをグッと抑えて俺たちの門出を祝おうとしている。そう考えると、変にナイーブになって心配をかけるのは迷惑だよな。

 

 やっぱμ'sのみんなと話していると、心の乱れも落ち着く。感傷的になって、突然現実味のあることを口走るのは俺の性に合わない。だったら俺もいつも通り、気ままに振舞いましょうかね。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 花陽たちと別れた俺は教室へ――――向かわずに、校舎内を見回るように歩いていた。

 この目に映るどの場所からも思い出が蘇る。教室や廊下、校庭に体育倉庫、そして校舎裏、学院の隅々どこを見回ってもμ'sのみんなとの懐かしい日々を思い出す。恐らくこの3年間でこの学院内で行ったことがない場所は、精々女子トイレと女子更衣室くらいだろう。むしろこの俺がその聖域に立ち入らなかったことを褒めて欲しい。

 

 1人でそんな冗談を漏らしながら体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下を歩いていると、外から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 

「あっ、お~い零!!」

「にこ……?絵里に希も……お前ら来てたのか」

「μ'sの中で母校の卒業生が出るんだから、もちろん祝いに来るわよ」

「もしかしてお邪魔やった?」

「いや、まさか当日も来るとは思ってなかっただけだよ」

 

 

 完全に俺たちの保護者気取りだなコイツら……。まあでも、あながち間違ってもないか。本人たちの無自覚なのかμ'sメンバーの中で最年長だって自覚のせいかは知らないが、3人のお姉さん力は半端ではない。2年前から変わらず、俺たちを近くで一番面倒を見てくれたのは間違いなく絵里たち大学生組だ。自分たちもμ'sのメンバーでありながらも、他のメンバーたちをサポートも欠かさない。もしかしたら、俺たちの気づかないところで細かい気遣いが行き届いていたのかもしれないな。

 

 

「零君1人だけ?穂乃果ちゃんたちは?」

「さぁな。アイツらもアイツらで思い出に耽りたい時もあるだろ。だから俺は1人で寂しく校内徘徊だ」

「アンタがそこまでしんみりするなんて、ちょっと珍しいわね」

「やっぱり?自分でもそう思うよ」

「だけど分かるわよその気持ち。にこだって卒業式前日までは、あぁ卒業かぁ、みたいな軽い面持ちだったけど、いざ当日になるとやっぱこう、勝手に思い出が湧き上がってきて賢者モードみたいになっちゃうのよね」

「賢者モードって、もっといい例えなかったのかよ……」

「にこもある意味成長したわね。色んな意味で……」

「どういう意味よそれ!!素直に1年前よりも可愛くなったわね、とか褒められないわけ!?」

「「「…………」」」

 

 

 そういうところが成長してないんだよお前、と言ったらまた突っかかってくるのでグッと堪えた。

 でもいい意味でもにこはそこまで変わっていないと思っている。最初はμ'sに反発していたが、それも自責の念からであり、俺たちの仲間になった後は普通に頼りがいのある先輩を貫いていた。まあ、普段の素行を見ているととてもじゃないけどいい先輩どころか体系的にも後輩にしか見えないけど、いざという時の彼女の言動には助けられた記憶がある。ことりの留学騒動の時もスクールアイドルを続けようと凛や花陽たちを誘って頑張っていたし、意志の強さは見習うべきところが多い。

 

 そして唯一変わった点を挙げれば、それは淫乱ちゃんになってしまったという他ないだろう。これは特筆しなくても、スーパーアイドルより淫乱アイドルの肩書きの方が似合っていることはもう周知の事実だ。

 

 

「それにしても、私たちが卒業してもう1年になるのね。まだこの前かのように記憶が鮮明だわ」

「絵里ち、なんか年寄りくさいよ」

「最近絵里そんな発言多いわよ。秋葉先輩の実験に付き合わされてるせいか肩凝りがひどくなってきたから、凝りを解消する健康グッズ探したりしてるのよね。それに携帯でチラチラ安眠グッズ調べてるのも知ってるから」

「絵里、お前……老化か?」

「失礼ね!!で、でも思い返してみれば確かに言動がおばあちゃんっぽくなってるかも……。生徒会の仕事では肩なんて全然凝らなかったから」

「絵里ちはにこっちと違って心も身体も歳もしっかり成長してるんやね……」

「本当に。未だに胸が大きくなり続けてるってどういうことよ」

 

 

 そこで俺は素早く絵里の胸に目を向けると、彼女もそれを察知していたようで、顔を赤くしながら素早く腕を組んで胸を隠す。まだ育っているというのか、ただでさえ高校時代にデカかったあのおっぱいが……今度脱がしてみよう。これ恋人の特権な。

 

 胸のことはいいとして、絵里の成長を感じられたのはやはりお堅い生徒会長時代に遡る。あの時はアイスエイジの異名を与えてもいいくらい冷徹な性格だったから、今こうやって気さくにエロジョークを交えながら会話をしていること自体があの頃から見たら信じられないだろう。しかしその頃から何かを守るために、みんなのためを想って行動するその恩情な性格は変わってない。廃校云々の話に関しても、俺たちも絵里も学院を守ろうとしていた気持ちだけは一緒だったしな。

 

 

「そういや希。お前その髪型って……」

「ようやく気付いた?ウチらの卒業式の時と全く同じ髪型にしてみたんよ。こっちの方が零君喜ぶかなぁと思って!」

「自分の卒業式でもないのによくやるよ。ま、気持ちは素直に嬉しいけどね」

「希がこの髪型をするのは零のためだけだからね~」

「にこっち、それの話は……」

「希のこの髪型、セットにとても時間がかかるのよ。だから希がこの髪型をするのは零、アンタのためだけなのよ。今日も髪のセットが長引いたせいで、何分絵里と部屋の前で待たされたことか。それで――――」

「もうにこっち!!それ以上はアカン!!」

「ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!だからって胸触るなぁああああああああああああああああ!!」

「お仕置きワシワシやん♪」

 

 

 にこを粛清するためのワシワシ攻撃も、もうあまり興奮できないくらいには見慣れてしまった。というか、希も大概成長してない気がする。元々女の子の胸を揉んで罰を与えるくらいには変態の素質があったし、今も純粋なところはあれど脳内は完全にピンク色に染まっているのもその証拠だ。

 

 ちゃんと成長しているところがあるとすれば、自分の意見をしっかり主張して言えるようになったことか。彼女は縁の下の力持ち的なポジションで、仲間のサポートは得意だけどみんなのために自分の意見は押し殺すタイプだった。だからこうして一糸まとわぬ愛情を素直に伝えてくれることに、俺は嬉しさと同時に安心感もあるんだ。

 

 

「変わらないわね、にこも希も」

「この関係は絶対に変わらないだろ。卒業式の最中や終了直後は寂しくなるかもしれないけどさ、それも一抹だよきっと」

「驚いた。あなたってもっとロマンチストな人かと思ってたけど」

「お前ら本当に失礼だな。俺ほど現実を直視してる人間はいねぇぞ」

「いつも私たちのあられもない姿を妄想してばかりなのにね」

「…………」

 

 

 僅か数秒で論破され、ぐぅの音も出ない。もちろん妄想は妄想だけど、彼女たちとは恋人同士なんだからいざとなればその妄想は現実にできる訳で……。俺の妄想癖も2年前となんら変わっていないどころか、むしろパワーアップしてるまである。なんだかんだ言って、一番何も変わってないのは自分自身のような気がしてきたぞ。

 

 

「ほらにこ、希。理事長や先生たちに挨拶しに行きましょう」

「はぁはぁ……いつか絶対に仕返ししてやる!」

「その時はまた返り討ちにしてあげるから♪」

「卒業生が母校で何やってんだか……」

 

 

 しかしこの光景で安心できてしまう辺り、自分が普段からどれだけ騒がしい日常を送っていたのか客観的に思い知った。そして今日、そんな日常も1つの節目を迎える。今更このほのぼのとした日常が崩れ去ることはないだろうが、環境が変わってしまうことで多少なりとも"いつもの"も変化するだろう。

 

 あぁダメダメ、またナイーブになっちまった。さっきからウダウダと辛気臭いセリフばかり連ねているが、結局のところ寂しいだけなんだよ。まあそれも、みんなとの思い出が豊富だってことでポジティブに捉えておこう。涙は見せねぇからな絶対に!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 俺は再び校舎に入り、ある場所へと向けて歩を進める。行き先は――――アイドル研究部の部室だ。

 μ'sとの思い出が詰まっている場所なら部室が随一だろう。そこへ行けば、俺のこのセンチな気持ちも少しは晴れるんじゃないかと思っている。根拠はないけど、学院で一番お世話になったのが部室だから単純に拝んでおきたかっただけだ。この制服で、そしてここの生徒として部室にお世話になるのはこれでラストだしな。

 

 

 頭の中では既にμ'sとの記憶が蘇り始めていた。だからだろうか、そっちに意識が集中してしまったために、部室の中から声が聞こえていることに気付かなかったのは。

 

 ドアノブを握って、そのまま扉を開ける。部室の明かりが付いているとも思わなかったから、隙間から漏れ出した光が眩しくて咄嗟に目を瞑ってしまう。そこまでは一瞬。徐々に目を開けていき、俺の瞳に映ったのは――――

 

 

「「「あっ……」」」

「あ……」

 

 

 部室には雪穂、亜里沙、楓のシスターズが勢揃いしていた。

 

 

 何故か下着姿で――――――

 

 

 

「「「…………」」」

「…………」

 

 

 刹那の静寂。だが俺は途方もないくらい長い時間が経過したように感じていた。状況把握能力には幾分自信があると自負しているが、全く予想だにしない光景に混乱というよりかは何も考えられず立ち尽くしていた。

 そしてそれはシスターズも同じのようで、俺の顔を見つめたまま制服や下着を掴む手を止め硬直している。とにかく真っ先に脳内に浮かんできたのは、白と水色と桃色、まずそれだった。

 

 

 お互いに声も出さずその場で立ち止まっていたのだが、そこで雪穂が無表情のままこちらに近付いくる。そして俺の目の前までやって来ると、目を合わせないまま俺の身体を軽く突き飛ばした。それほど力は篭っていなかったので一歩後ろに下がるだけで済んだのだが、気が付くと部室の扉の音がバタン、と誰もいない廊下に響いていた。

 

 たった今何が起きていたのかようやく理解し始めた矢先、脳内ハードディスクに保存されていたさっきの光景がフラッシュされる。女の子が下着を着けている現場に遭遇したと実感して口元が緩んでしまったのは、その直後だった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 部室に沈黙が流れる。あのあと勝手に立ち去るのも忍びないと思ったのでその場で待っていたら、制服に着替え終わった雪穂が部室の扉を半開きで、その隙間から俺を覗くように睨んできた。とりあえず入ってこいと謎の威圧を感じたためお邪魔したのだが、怒りを通り越した彼女の呆れた目線が俺を襲う。

 

 

「言いたいことはとりあえず1つ。雪穂、どうして部室で着替えてたんだ?」

「卒業式直前に誰もここへは来ないだろうから、手っ取り早く着替えを済ませようと思っただけですよ」

「そもそもどうして練習着なんだ?」

「卒業式当日だと思うとそわそわしちゃって……。それで雪穂と楓に相談したら、いつもの練習のように身体を動かせば緊張も解れるんじゃないかと……」

 

 

 亜里沙の様子を見てみると、座っているにも関わらずソワソワしていて落ち着かないようだ。雪穂は机に肘をついて俺をむすっとした表情をしたままだし、楓はさっきからやたらニコニコしていて不気味なので話を振りたくない。

 

 

「でもまさか私たちが下着姿の時を狙って入ってくるなんて、相変わらずお兄ちゃんのスケベ能力は神業だね♪」

「いやだから不可抗力なんだって!!」

「い~いお兄ちゃん?不可抗力が成り立つならこの世は悪党だらけだよ。心の奥底に少しでも欲望があった場合、それはもう犯罪。どうせ雪穂に追い出された後、脳内にフラッシュバックしてたんじゃないのぉ~?私たちの下着姿♪」

「う、ぐっ……」

「あはは!やっぱ図星じゃん♪」

 

 

 流石俺の妹と言うべきか、こちらが意図せず思わず妄想してしまったことさえも読み当ててきやがる。正直に言ってしまうと、実は今この状況でも3人の顔を見るたびにさっきの光景がフラッシュバックされてしまう。もちろん下着の色と連動して……。

 

 そしてラッキースケベに遭遇しても取り乱さなくなった辺り、こんな日常にも慣れてしまっているのだろう。俺だけでなく彼女たちも『あぁ、またこの展開か……』と思っていたに違いない。女の子の下着姿を見て冷静に妄想する、また変なところが成長してしまったものだ。

 

 

「なぁ雪穂、いい加減許してくれよ。もう慣れっこだろ?」

「開き直らないでください。まあ今日は卒業式ですし、そこまでガミガミ怒る気にもなれませんけど」

「むしろこんなラッキースケベは今日で見納めなんだから、最後にいいものを拝ませてもらったと思っておくよ」

「そういうところを反省してくださいって言ってるんですよ……はぁ~」

「可愛い下着だったぞ」

「も、もう!!ちょっと黙っててくれませんか!!!!」

 

 

 そこで恥じらいを見せながらお礼を言ってくれれば、俺の中での胸キュンポイントが上がったのに勿体無い奴だ。でも雪穂はこれでも自分の意見や感情を前面に押し出すようにはなってきた。μ'sのメンバーになった当初は自分を穂乃果たち、そして同期の亜里沙と楓と比べて卑下することが多かった。自分には魅力がないと思い込んでしまい葛藤していたが、周りの空気を悪い意味で読んでしまって誰にもそのことを吐露できずにいたんだ。

 

 しかし同棲生活の一件で心中を爆発させてからはその蟠りも解消され、μ'sのメンバーとも調和が取れるようになってきた。その辺だっただろうか、俺への対応が段々と冷たくなってきたのは。俺の冗談もクールにあしらわれ、まさにクーデレの道を歩み始めたのはその時からだ。それでもさっきみたいに卑猥なことにはすぐ顔を真っ赤にするウブさも残っているが。

 

 

「亜里沙……?どうしてお前が緊張してるんだよ」

「だって今年の卒業式は今までとは違って大切な人たちが卒業してしまうんですから、緊張もしますし寂しくもなりますよ……」

「心配すんなって。大学も近いし、家同士もそこまで離れてないだろ。会いたくなったらすぐに会えるさ」

「ふぁ……」

 

 

 亜里沙を慰めつつ頭にそっと手を乗せて撫でてやると、彼女は目を見開いた。しかし間もなくその表情は安堵に満ち、頬も緩んでどこか気持ちよさそうにしていた。

 

 そんな彼女を見ているとこちらも触発され、心が透き通るように軽くなる。亜里沙の笑顔はいつも純粋無垢で、荒んだりドス黒くなった心をいつも浄化してくれた。笑顔を見ただけでここまで落ち着けるのは、恐らく彼女が天使のごとく癒しを与えてくれるからだろう。過去、人の幸せのために自分の想いを必死に押し殺していた亜里沙。そんな彼女が俺にここまで感情を見せてくれるなんて、今やもう当たり前だけど守っていかなければならないものだ。

 

 

「「…………」」

「雪穂、楓……どうした?」

「「別に。特に何も」」

 

 

 2人からは明らかな嫉妬オーラがプンプンしている。やさぐれているお前らも可愛いなぁと呟いてもいいが、多分火に油を注ぐだけだろう。女の子の嫉妬する表情は自分への好意が感じられて好きなんだけど、やりすぎはヤンデレを生み出す原因になるからやめた方がいい。

 

 俺は一旦亜里沙の頭から手を離すと、今度は両手で雪穂と楓の頭を撫でる。すると2人は頬をほんのりと染め、満足気に俺の寵愛を受け取っていた。

 

 

「悪かったな。そして、ありがとう」

「えっ、どうしてお兄ちゃんがお礼を言うの?」

「ここまで楽しい高校生活を送れたのも、お前たちのおかげだと思ってさ」

 

 

 恐らくシスターズとの恋愛事情があったからこそ、俺はμ'sのみんなの心にもっともっと近付けたんだと思う。女の子の気持ちを痛感したのは3人との恋愛があってのことだ。その経験がなかったら、穂乃果たちとはここまで心が隣り合わせになかっただろう。

 

 μ'sとの心の距離で言えば、楓の方が急接近している。音ノ木坂に入学した直後は『μ's?あぁ、お兄ちゃんの邪魔する雌豚たちね』くらいの認識でしかなかったはずだ。現に自分が多芸に多才だってことに鼻をかけ、穂乃果たちを馬鹿にしてたしな。しかし、夢を抱いた彼女たちの努力には勝てなかった。そこからだったか、楓がμ'sを徐々に認め始めたのは。そしていつの間にか、穂乃果たちとの絆が芽生えていた。負けず嫌いで強情だけど、だからこそ相手も奮い立つ。彼女の心はμ'sと共に成長してきたと言っても過言ではない。

 

 俺の実妹でありながら恋人である。社会不適合な真似をしているのに、その信念を持ち続けずっと俺にアピールしてきたのも彼女の心の強さがあったからだろう。諦めそうになってもすぐに立ち直る性格こそ、俺たちをこの関係にまで導いてきた1つの要因だ。

 

 

「お兄ちゃん……」

「ん?」

「ちょっと早いけど、卒業おめでとう」

「あぁ、ありがとな」

 

 

 楓も雪穂も亜里沙も、さっきあんなことがあったのにも関わらず微笑んでくれる。この卒業で確実にいつもの日常は変わってしまうけど、この笑顔だけは絶対に変わらず守りぬく。今まで何度も誓ってきたことだけど、改めてここでそう決心をした。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 あと行ってない場所はただ1つ。μ'sとの思い出の場所となれば部室と、残りは言わなくても分かるだろう。俺はその場所に向かって、階段を一歩一歩踏みしめながら上る。この階段もほぼ毎日上っていたのだが、ここまでゆっくりと辺りを見回しながら上るのは最初で最後だろう。段の塗装が剥げていたり、壁にシミがあったことに今更気が付く。そんな妙なことに目が行ってしまう辺り、心持ちがいつもと違うことを実感する。

 

 そして俺は、屋上へと続く扉の前で一時停止した。俺の予想が正しければ、()()()()はこの先にいる。μ'sの夢と努力が一番染み付いているこの場所に――――

 

 扉の隙間から朝日が差し込んでいる。今度はさっきみたいなラッキースケベが起こらないように警戒しながら、俺は扉を開け屋上へ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 ――――――やっぱりか。

 

 

 

 

 屋上の端、フェンスの前に3人の人影が見える。この学院で、俺が最も長く一緒にいた女の子たち。たった2年されど2年、俺は人生を常にこの3人と一緒に歩んできたと言っても過言ではない。3人は俺に気付いているのかそうでないのかは知らないが、屋上から校門を見下ろして物思いに耽っているようだった。

 

 俺はしばらく近付いてから、その子たちに声をかける。

 

 

「穂乃果、ことり、海未」

 

 

 いつも仲良し騒がしい幼馴染3人組。もう腐るほど顔を合わせているっていうのに、今は何故か照れくささがあった。

 穂乃果たちはいきなり声をかけられたからか、身体をピクッと震わせてこちらに振り向く。どうやら俺が来たことに全然気付いていなかったらしい。どれだけ上の空になってたんだか……。

 

 

「零君かぁ~ビックリしたぁ~」

「3人並んでぼぉ~っとして、後ろから襲われたらどうすんだ」

「ことりは零くんなら別にいいよぉ♪」

「そんな冗談を言えるなんて、相変わらずあなたはブレませんね」

「いや、ブレブレだよ。心臓の体積が縮小してしまうかってくらい、胸が押し付けられるような感じがしてさ」

「へぇ、珍しいね零君が。もっとこう『卒業式だぞ!もっと俺の門出を祝え者共!!』とか言い回ってるのかと思ったよ」

「それだけテンションを上げられたらいいんだけどな……」

 

 

 他の卒業生たちも3年間の高校生活に思いを馳せているのに、1人だけそんな奇抜な行動をしてたら雰囲気ブチ壊しだろ。まあある意味で俺らしいってことで、みんなを安心させられるのかもしれないが……。

 

 

「それにしてもすごいね!穂乃果たち何の連絡も取り合ってないのに、みんな屋上に集まったんだよ!」

「えっ、そうなのか?」

「うんっ!穂乃果が最初に来たんだけど、その後にことりちゃんが来て、更にに海未ちゃんまで来た時は穂乃果たち思わず笑っちゃったんだから!」

「やっぱり学院の中でことりたちが一番お世話になったのがこの屋上だから、卒業する前に一目見ておきたかったんだよね」

「考えることはみんな同じですか。私たちも、それに零も」

 

 

 そういや去年の卒業式も、最終的にはみんなでここへ来たっけ。この場所があったからこそμ'sがスクールアイドルとして成長でき、この学院を廃校から救うことができた。なんか俺たちと学院でのギブアンドテイクみたいだな。

 

 μ'sの練習以外にも、この屋上で亜里沙から告白をされたロマンチックな記憶もあれば、笹原先生からの罰で屋上掃除をさせられた苦い記憶、秋葉のカメラでみんなを撮影しまくってイき狂わせた欲望塗れの記憶もある。そう考えると、この屋上に相当迷惑かけてるな俺たち。

 

 

「それにしても、高校生活がまさかこんな形で幕が降りるとは思ってもいませんでした」

「だよね~。1年生の頃は、穂乃果ちゃんと海未ちゃんと普通の日常を送って、何事もなく卒業していくのかなぁってずっと思ってたもん」

「だけど2年生になってスクールアイドルを始めて、たくさんの仲間ができて、とても大切な思い出を作って……なにより零君と出会えたことが、穂乃果の思い出の中で印象深いかな」

「俺もだよ。最初は成り行きでお前らを手伝ってたけど、1年後に恋人同士になるなんてなぁ」

 

 

 出会いは本当に唐突だった。廃校の知らせを見て気絶した穂乃果を保健室へ運んだ、その時にはもうこの運命は決まっていたのかもしれない。

 

 

「2年前からよく見てたから言えるんだけど、色んな意味で変わったよなお前ら」

「これでも穂乃果、生徒会長を任期終了までしっかり努めたんだから!」

「それでも結局授業中に寝る癖も、面倒だと感じたら作業の手を止めてしまう癖も、遅刻癖も怠慢癖も何もかも残ったままですけどね」

「うぅ、そんな罵倒しなくても……」

「でも穂乃果ちゃんがいなかったらμ's自体もなかったんだし、ことりは零君と出会ったりみんなと友達になれたって意味なら穂乃果ちゃんにとても感謝してるよ♪」

「穂乃果も自分で思ったことがあるんだ。ただ我武者羅に、何も考えずに突っ走ってはダメなんだって。今までこうして乗り越えてきたから、次も同じことをすれば乗り越えられる、そんな甘い考えは全く通用しなかった。スクールアイドルをやっていて身に染みるほど分かったよ」

 

 

 ただ単純に突っ走った結果、ことりの留学騒動でμ'sが崩壊の危機に陥った。恋愛も自分のことしか考えていなかったせいで、躊躇なく仲間を討ってしまうような性格が暴走した。周りを巻き込んで無理矢理にでも自分と同じ道を歩ませる、幼少期のことりと海未を元気付けられたのは間違いなくその熱い性格のおかげだろう。だけど、それだけでは何も成長しない。周りに目を向けた上で自分の意志を主張する。そして強引にではなくみんなの手を優しく取ってあげる。そこが穂乃果の成長したところだ。

 

 しかし1つのことにとことん熱中するタイプだから、恋人になって以降は俺の好み似合わせようと徐々に淫乱化していったのは野生への退化かもしれない。スキンシップも目に見えて過激になってきてるし、貞操概念の欠落が顕著な事実を受け止めて欲しい。まあ当の本人が悪い事実は忘れようと無視するタイプだから無理だろうなぁ……。

 

 

「ことりちゃんにもたくさん助けられたよね!衣装を作れる人がいなかったら、穂乃果のスクールアイドル人生確実に詰んでたもん。最初にことりちゃんを勧誘してOKを貰った時、穂乃果とっても嬉しかったんだから!本気でスクールアイドルのやる気が上がったくらいにはね!」

「そうだったの!?ことりがそこまで穂乃果ちゃんの役に立てていたなんて……ことりも嬉しい♪」

「そういやμ'sの癒し担当として、俺もことりに癒されてたなその頃は」

「今でもことりは零くん専属の癒し担当だから!どこを癒してあげるのかは……ちょっとここでは言えないよぉ♪」

「なんで発情してんだお前……」

 

 

 μ'sメンバーの中で最も変わった、豹変したと言ってもいいくらいなことり。脳内ラブホテルの異名に恥じない淫乱っぷりは、俺を何度も困らせ興奮させてきた。穂乃果同様俺の好みに合わせるためらしいのだが、明らかに自分の性欲を発散するダシに俺が使われている。だってまだ行方不明の衣類がたくさんあるし……。

 

 淫乱化の印象が強い彼女だが、それ以外でももちろん成長したところはある。それは己への自信を付けたこと。常に誰かと自分を比べてしまい自己嫌悪に陥ることが多く、しかも笑顔で体裁を取り繕っているため周囲も中々気付けなかった。それくらい自分を押し殺していたのだ。もちろん今では性欲を曝け出すくらいには自分を押し出しているので、何の心配もいらないが。やりすぎな気もするけどね……。

 

 

「ことりちゃんの活躍もそうだけど、海未ちゃんがいなかったらファーストライブの曲もなかったもんね」

「μ'sを実質的に引っ張ってきたのは海未だしな。たまに練習が行き過ぎている時もあったけど、短いスパンでの練習スケジュールの管理は見事なものだったよ」

「そ、そんな、そこまで大したことではないですよ」

「ことりも海未ちゃんには留学のことでもたくさんお世話になったし、μ'sに戻るきっかけを作ってくれたのも海未ちゃんだから感謝してるんだよ♪」

「好意は素直に受け取っておけ。むず痒いだろうけどさ」

「そうですね、ありがとうございます」

 

 

 海未はμ'sの名が定まる前から今までずっと穂乃果たちを引っ張ってきた。誰かが道を踏み外しそうになったら相談に乗り、時には厳しく対応する時もあったけど、それも全部みんなのため。仲間のためにこれだけ献身的になれるのは、俺も見習うべきだな。

 

 ちなみに彼女が成長したところと言えば、やはり羞恥心の克服だろうか。ファーストライブ前までは、衣装を着て人前に出ることを想像するだけでも顔が真っ赤になってたくらいだからな。この調子でセクハラ耐性が付いてくれれば、もっと成長できるのに勿体無い!

 

 

「あっ、もう教室へ集まる時間じゃないか?そろそろ行くか」

「待って!!」

 

 

 俺がその場をターンして教室へ戻ろうとしたその時、穂乃果は慌てて俺の腕を取った。そしていつの間にか、俺の目には彼女の顔しか見えなくなり――――つまり、穂乃果の顔が俺の顔に近付いてきたのだ。訳の分からぬまま、動揺する以前の問題。俺の唇が、じんわりと暖かく柔らかい感触に包まれた。

 

 

「ん……」

 

 

 キスされたと理解するのに、一瞬の時を要した。

 穂乃果と唇で繋がっていると認識した時には、既に口内が甘い味覚に満ち溢れていた。彼女とは数え切れないくらい口付けしてきたはずなのに、まるでファーストキスのように心を焦がしている。穂乃果が唇を蠢かすたびに俺の意気が上がり、心臓が早鐘を打つ。唇だけではなく腕も俺の身体に絡め、自然と胸を押し付けられながら彼女の体温と共にキスの味を堪能する。

 

 穂乃果との口付けは一頻りだった。だけど雰囲気に流されたのか、ここまで初心となって触れ合ったのは久しぶりで、時間感覚は頭がぼぉっとしてあまり意識はしていない。彼女も目は若干蕩けていて、何かに取り憑かれたかのように俺の瞳を見つめてくる。

 

 

「穂乃果ね……いや穂乃果たちはね、零君にお礼を言わなきゃいけないんだ」

「お前たちが、俺に?」

「うん。ここまで穂乃果たちを見守ってくれてありがとう!μ'sを結成する前から、零君にはお世話になりっぱなしだったよね。μ'sのみんなの絆が1つになれたのも、零君のおかげだよ。みんながおかしくなっちゃってバラバラになっちゃった時も、零君は自分を顧みず必死で穂乃果たちを助けてくれた。みんなで零君の恋人になってからは、誰も漏らさず変わらぬ愛を注いでいつも穂乃果たちをドキドキさせてくれた。あと他には……あはは、言いたいことがたくさんあって、どれから言ったらいいのか分かんないや。とにかく、穂乃果たちが成長できたのも、廃校を阻止できたのも、そして恋人になってここまで幸せになれたのも、ぜ~んぶ零君がいてこそなんだよ!」

 

 

 穂乃果の言葉を聞いた瞬間、身体が燃えるように熱くなった。ここまでド直球で感謝を伝えられると、もちろん嬉しいのだが同時に照れてしまう。いつもはそれを悟られぬように誤魔化すのだが、今回ばかりは嬉しさが込み上がってくる勢いが激しくてできそうにもない。

 

 

「直接そう言われてみると、俺って何人もの女の子の人生捻じ曲げてきたんだな。自分自身はあまり変わってないのに……」

「捻じ曲げたと言ってしまうと聞こえは悪いですが、私たちの人生を良い方向に変えてくれたのは、間違いなくあなたの存在が大きかったです。それに、あなたも成長していますよ」

「そうかな?」

「うんっ!零くん、女の子の気持ちに疎かったでしょ?そのおかげで何度も失敗してきたことはことりも知ってる。だけどそのたびに悩んで迷って、時には仲間に道を照らしてもらいながらも、自分の信じる道を歩み続けた。そのおかげだと思うよ、零くんとことりたちの距離がグッと縮まったのって」

 

 

 そっか、俺もみんなと共に成長していたんだ。女心に疎いっていうのはまさにその通りで、μ'sとの恋愛で幾度となく葛藤してきた。特に()()()()()は俺の不甲斐なさから引き起こされた惨劇であり、これから一生忘れず戒めにしておかなければならない事件だ。それ以降も何度か彼女たちの心を受け取れず、悲しませてしまったこともあった。ずっと1人で全てを背負うとしていた代償だ。

 

 だけど、その時に手を差し伸べてくれたのはμ'sや秋葉、母さんと言った周りの人たち。何事も1人で解決したことがないから成長していると実感しにくかったけど、穂乃果たちに教えられてようやく分かった、俺自身もしっかり成長しているんだと。自分だけ置いていかれていると若干危惧していたのだが、そんな心配は無用だったみたいだ。でもまぁ、女心は今でも難解でいつも悩まされるけどな。こればかりは仕方ない。

 

 

「ありがとな。さっきから妙に辛気臭くなってきたのは、もしかしたら自分が見えてなかったからかもしれない。またお前らに助けられたってことだ」

「最後までお騒がせさんだね零君は!」

「ブーメラン投げんな。お前にだけは言われたくねぇよ……」

 

 

 だが穂乃果のお騒がせがなかったら、そもそもμ'sは存在していなかったのであまり強くは反発できない。穂乃果は俺のおかげでみんながいると言ってくれたのだが、それは俺も同じだ。みんながいてくれたからこそ今の俺がいる。これからも俺たちはお互いにお互いの手を取り合って、共に人生を歩んでいくのだろう。卒業という新たな節目を迎えてしまうけれど、そんなことでは俺たちの日常は崩れたりはしない。

 

 

 ――――――ん?なんかさっきから視線を感じるような……。

 

 

「ちょっ……押さないでくださいよ!」

「仕方ないでしょ見えないんだから!」

「あ、あまり騒ぎすぎると見つかっちゃうよ……」

「もっと詰めて、凛も見たい!」

「そ、そんなに押したら――――あっ!!」

 

 

 屋上の扉から何やら大きなヒソヒソ声が聞こえると思ったら、いきなりその扉が勢いよく開く。扉にもたれ掛かって俺たちの話を盗み聞きしていたのだろう、にこ、希、凛、楓、花陽、絵里、亜里沙の順で倒れるように雪崩込んで来た。続いて後ろから真姫と雪穂が呆れた様子でやって来る。

 

 

「みんな何やってるの!?それに絵里ちゃんたちまで……!!」

「学院を歩き回っている間にみんなと会っちゃってね。それで穂乃果たちのいそうな場所に行こうとして屋上に着いたら、かなりいい雰囲気だったから邪魔したくなかったのよ」

「だからコソコソ覗いてたって訳ですね」

「ゴメンなさい。でも気になっちゃて」

 

 

 

 

「ハハッ、アハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

 

 

 この状況を見て、思わず笑い声を上げてしまう。それくらい俺の中では面白おかしく、そして()()()()()()を感じられた瞬間だった。

 

 

「零君……?頭おかしくなった?」

「いや、結局こうなるのかって思ってな」

『???』

「こうして自然と俺たちが集まっちまう。連絡も何もしなくても勝手にこうやって屋上に集合してしまう辺り、やっぱり俺たちは強く繋がっているんだって思うよ」

 

 

 これこそ俺とμ'sの絆の強さだ。共に引かれ合い、いつの間にか同じ人生の道に立っている。今までそうして俺たちは集まってきたのかもしれない、μ'sが名も無きスクールアイドルだった頃からずっと。

 そして、またここにこの13人が集った。みんなが1つの場所にやって来たのは決して偶然ではなく、集まるべくして集まったのだろう。友情、絆、愛――――俺たちを紡ぐ証だ。

 

 

「もう何度も誓ったけど、また言わせてくれ。俺、みんなの笑顔と幸せを守ってみせる。さっき色んなところを回って様々な思い出を見てきた。そしてみんなとの記憶を思い出すたびに、俺により一層気合を入れさせてくれたんだ。これからは、今までよりももっともっとみんなを幸せにしてみせる。だけど、それは俺の力だけでは無理だ。だからみんなも協力してくれ。みんなの幸せは、俺たちみんなで作ろう!」

 

 

 この誓いも穂乃果たちと恋人になった時から変わらない。変わらないからこそ、ずっと胸に抱いておかなければならない。俺がμ'sを守る、そしてみんなもみんなを守る。お互いの幸せは、お互いで築き上げていく。昔の俺だったら1人でμ'sを見守ろうとしただろう。だけど、俺は成長した。μ'sと出会ったことで得たこと、学んだこと、感じたこと――――挙げていけばキリがない。だからと言って、これから失敗しないなんて保証もない。だったら簡単な話、みんながみんなで支えあえばいい。そんな単純なことに気付くまで長かったな。

 

 

 ふとみんなを見てみると、そこには12の笑顔が広がっていた。

 答えはもう、聞かなくても分かった。

 

 

「もちろんだよ!これからもよろしくね、零君!」

「ことりも全力で零くんの思いに応えるよ♪」

「私も初めからそのつもりでした。頑張りましょう!」

「私もみんなともっとたくさんの思い出作りたいです!」

「みんなの幸せはみんなでかぁ~。凛も協力するにゃ!」

「そんなこと言われなくても分かってるけど、仕方ないから乗せられてあげる」

「このままずっと、みんなと一緒にいられるといいわね」

「零君のそういうところ、ウチとても好きや♪」

「ま、このにこがいれば幸せは約束されてるようなものだけどねぇ~」

「私も、微力ながらお手伝いさせてもらいます」

「みんなで幸せになる……とても素敵です♪」

「本当に、お兄ちゃんの夢は大きいよ。そんなところが好きなんだけどね」

 

 

 俺たちが歩んできた道なんて、まだスタート地点付近に過ぎない。これから何年何十年と生きていく中で、また苦難や挫折があるかもしれない。そんな時こそ取り合っている手を引っ張ればいい。そうすれば、すぐに仲間たちの元へ戻ってこられるから。

 

 だから俺は感謝をしなくてはいけない。そんな仲間たちと、この学院で出会えたことに。

 

 

 

 

 ありがとう、μ'sのみんな。

 

 

 

 

 これからもみんなが、ずっと変わらぬ笑顔でいられますように――――――

 




 ここまでのご愛読ありがとうございました!ここまでお付き合いしていただき感謝します!

 零君と穂乃果たちの物語はいかがだったでしょうか?笑いあり恋愛ありエロシーンありの、私が好きな要素を適当にぶち込んだ小説でしたが、お気に召していただけたのなら幸いです。多分ここまで付き合ってくれている方なら、何の嫌悪感も抱かず読んでくださっていると信じたい!

 この小説自体どう完結させるのか、シスターズの扱いはどうするのかなど全く何も決めず見切り発車で始めた小説でした。なのでもしかしたらフラグが投げっぱなしになっているなど物語の不整合があるかもしれませんが、なるべく回収はしたつもりです。『この設定とかどうなってるの?』などの質問があれば、躊躇なく私にお投げください。

 最新話を執筆している時点では、この小説はハーメルンの"ラブライブ!"小説の中で総合評価ランキング2位、平均評価や感想数のランキングでは1位といった快挙を成し遂げています。私自身、前作からここまで伸びるとは思ってもいなかったので心底驚きました(笑) 
でもそれだけ男主と穂乃果たちの恋愛やハーレム、また微エロ展開に需要があるということなのでしょう。特に私が大好きなジャンルであるハーレム要素で、他の小説に負けていないというのは非常に嬉しかったりもします。皆さんに満足してもらえるハーレムを描けたので、私の妄想もまだまだ捨てたものじゃないと勝手に思い込んでいたり(笑)


 さて、かなり寂しくはなってしまいますが、μ'sの12人とは一旦ここでお別れです。原作キャラの9人に加え、雪穂に亜里沙、それにオリキャラの楓。全員が皆さんに受け入れてもらえたようで、作者としてはこれほど嬉しいことはないです。μ'sは9人という固定概念を壊してしまいましたが、小説が進んでいく過程でもう12人じゃないとμ'sではないと、私の中ではそうインプットされてしまいました。それくらいシスターズも思い入れが強かったです。


 次回作に関してですが、Aqoursとの物語を数話執筆してみようと思います。投稿時期は未定で、更にこの小説に投稿するのか新作とするのかもまだ決まっていません。その旨はTwitterかハーメルンの活動報告で告知します。


 それでは、これにて『新日常』の物語の筆を置きます。これまでのご愛読、ご感想、高評価ありがとうございます!

最後の感想も是非待ってます!これまで感想を書いたことなかった人も、これを機会に是非!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】矢澤のJCとJSに痴女られる話(前編)

最終回を迎えましだが、とりあえず200話突破記念を祝して投稿。
そういやこの子たちにあんなことやこんなことをやってなかったなぁと思いながら、相変わらずの欲望満載で書き綴りました。2人は純粋無垢だから、男性器を直接的に言っちゃうのは仕方がない。


時系列は1月〜2月の章となります。


 とある冬の昼下がり、俺は100人が見たら100人が気持ち悪いと思うであろう不敵な笑みを浮かべて街を闊歩していた。μ'sの連中が見たら絶対に『犯罪者の顔をしている』と言うだろう。でも仕方がない。だって、遂にこのお宝を手に入れたんだから!

 

 俺の手には大きめの封筒がまるで郵便物を装って握られている。この言い方から察しが付くかもしれないが実はこれ、カモフラージュなのだ。この封筒の中身は、俺が長年求め続けてきた大人の薄い本が隠されている。この本、あまりにも大人気商品だったために当時は買うことができず、中古でもプレミア価格が付いているから、まだ中学生だった俺には手が出せる代物ではなかったのだ。

 

 しかし、負け組の人生はさっきおさらばしてきた。

 昨日の夜、知り合いが勤めるオタクショップからこのお宝を確保しておいたと連絡が入った時には、μ'sのみんなから告白された時と同様のワクワクを感じた。大げさだと思うかもしれないが、それだけ俺が探し求めてきたお宝本なんだよ。わざわざ俺のために取り置きしてくれた店員さんに感謝しつつ、先程その店で恋焦がれていたお宝を受け取ったって訳だ。おかげで俺の心はハートフル!今日はいつもよりかなり寒い日なのだが、俺の身体は妄想と興奮で熱く煮えたぎっていた。

 

 この封筒は周りから薄い本の存在を察知されないようにするための防御壁。あの店に通っている人ならばこの本の価値を知っている人は多いはずだから、最悪血も涙もない奪い合いの戦場になる可能性もあったのだ。

 だったら手に持ってないでカバンにしまっておけよと言われるかもしれないが、埋蔵金やツチノコを見つけ出した探検家のような興奮を感じている俺は、常に目が届くところに置いて持っておかないと気が済まなくなっている。まあそのための封筒だし、これなら100%誰かに見つかることもない。つまり俺の大勝利編。多分地球上で、この幸福感に勝てる人間は誰一人としていないだろう。

 

 あとはこの本を楓にさえ見つからなければいい。アイツにバレると『そんな本より自分を使え』ってうるさいからな。もちろん現実の彼女たちも最高だけど、二次元には二次元でしか味わえない興奮ってものがあるんだよ。上手く説明できないけどあるんだよ、分かれ!!

 

 

 そんな感じで気ままに歩いていると、突然俺の腰に衝撃が走る。どうやら腕を巻くように、誰かが抱きついてきたみたいだ。

 

 

「おにーちゃんひっさしぶり~~!!」

「うぉっ!?なんだなんだ!?」

 

 

 声だけを聞けば女の子なのだが、全身を使って抱きついているのにも関わらず俺の腰辺りまでしか身長がない。しかも子供特有の幼さが残った高い声。そして俺のことを『おにーちゃん』と慕う。この条件で当てはまる女の子は――――

 

 

「ここあか……」

「久々に会ったのに何その態度!!」

「いやぁ、変なタイミングで来たなぁと思ってさ……」

 

 

 最悪のタイミングだよ畜生!!今からさっさと家に帰って、ベッドの上でこのお宝を隅から隅までねっとりと読み漁る予定だったのに邪魔しやがってぇええええええええええええええええ!!俺の至福の時間を奪うのなら、いくら女子小学生だって容赦はしねぇぞ!!――――なんて言ったら、数分後には手首に金属製の輪っかがはめられてんだろうなぁ。本当にズルいよ幼女は。だって「話しかけられた」の一言で、男の人生終わらせられるもん。

 

 

「ここあ~!!もうっ、突然走らないでよ――――って、お兄様!?」

「こころまでいたのか……」

「アハハ、ゴメンゴメン。おにーちゃんを見たらつい身体が動いちゃって」

 

 

 捕まってはいけない2人に捕獲されてしまった気がするぞ……。こころだけだったらまだ対処できるが、ここあの子供特有の無邪気テンションには怖気づいて勝てないかもしれない。とにかく手に持っている楽園を拝むためにも、この2人を迅速かつ丁寧に帰らせなければ!!

 

 

「お兄様すみません。ここあがご迷惑をお掛けしたみたいで……」

「あ、あぁ別にいいよ」

 

 

 バカか俺は!?ここで『あぁちょっと急いでるから、あまり遊んでいられないんだよね』と少々強引になればこの場を退却できたのに!!

 

 だが、そんな冷酷な対応ができなかった理由はこころにある。だって彼女、とっても律儀じゃん。まだ中学1年生なのに礼儀も配慮も完璧で、しかも背丈の都合上、こころは俺に上目遣いをしながらまるで自分が犯した失態かのように謝ってくる。飛びついてきたのはここあなのに……。そんな純粋で天使のような彼女を見ていたら、強引に突っぱねることなんてできるはずがない。

 

 しかし、早く退散したい気持ちはもちろんある。ここはゆっくりでもいいから穏便に、彼女たちを傷付けず誰もが幸せになる形で別れないと。

 

 

「おにーちゃん暇?どうせ暇だよね!だったら私たちと遊ぼうよ!」

 

 

 早速仕掛けてきたな。勝手に暇と決めつけられたことにキレそうになるが、あながち間違ってもないので怒るに怒れない。それに子供相手に大人気ない行為をするものでもない。さっきも言ったが、穏便にこの場を切り抜けるのが先決だ。

 

 

「残念ながら暇じゃねぇんだよ。受験勉強っていう過酷な戦いがあるんだ」

「へぇ~。でもお姉ちゃんが、『零は受験勉強しなくてもいいくらい頭がいい』って言ってたけど?」

「それは合ってるが、勉強しない訳じゃないぞ。毎日じゃないけどちゃんと定期的にはやってるって」

「え?この前お姉ちゃんが『零がね、受験勉強なんて面倒だから一切しないわって言ってたのよ。相変わらずムカつくわよね~こっちは苦労したのに』って言ってたけど?」

「…………」

 

 

 矢澤にことかいう女、俺との会話をどれだけ妹たちに喋ってんだよ!!お前のせいで言質取られて逃げ場全部潰れちまったじゃねぇか!!

 

…………まあまあ落ち着け。子供相手なんだから焦る必要はないだろ。ゆっくりと、丁寧に対応してお帰宅願おう。

 

 

「それでもやる気があれば一応勉強するんだよ。たまにだけどな、たま~に」

「なるほど、だからそのために参考書を買ってきたんですね!私もお兄様のようなやる気を見習わなくては!」

「そ、そうなんだよ。俺ってエンジンかかるのは遅いけど、スピードだけは誰にも負けないからさ……」

「どんな本買ったの?大学受験の勉強って難しいんでしょ?見せて見せて!」

「小学生にはまだ早いから!!」

 

 

 そう、この本は小学生には本当に早い代物だ。以前コイツらの家で一緒ににこが所有していたエロ本を見たことがあるが、2人は全裸で営まれる男女の行動に興味津々だった。そして俺は純粋なこの子たちに色々教えるはめに……。だからこの封筒の中身がエロ本だと知られたら、また保健体育のお勉強会となってしまう。いくら小学6年生と中学1年生と言っても、世間一般ではまだまだロリの部類だ。そんな子たち相手の脳内に淫語を叩き込むなんて、いくら俺でも躊躇われるぞ……。

 

 

 その時、警戒していたのも束の間の出来事だった。後ろから抱きついていたここあが、突然俺の身体を公園の遊具かのようによじ登る。そして俺の背中から顔越しに腕を伸ばし、薄い本が息を潜めている封筒をヒョイと奪い取った。

 

 

「な゛ぁ!?こ、ここあ!?」

「えへへ、そうやって隠されるとどんな本か気になっちゃうんだよねぇ~♪」

「やめろ!それを開けちゃダメだ!!」

「だからそう言われると開けたくなっちゃうんだって。はい御開帳ぉ~♪」

「あ゛ぁ……あ゛ぁ……!!」

 

 

 ここあは悪気など一切ない無邪気な笑顔で、俺から奪い取った封筒を何の躊躇いもなく開封した。

 ヤバイ……俺の人生が閉ざされる!!この前は家の中だったからまだ事実を隠蔽できたものの、俺たちは今屋外にいる。そこまで人通りは多くないが、男子高校生とロリっ子2人のこの構図が目立たない訳がない。早急に本を取り戻さなければならないが、もう既にここあの目には――――

 

 

「私もこの本を見れば頭良くなれるかな――――――ん……?あっ……」

「ここあ?どうしたの急に黙って……?」

「こ、こころは良い子だから見ちゃダメだ!!」

「え~でもそう言われちゃうと私も気になっちゃいます……よ?―――――あっ……」

 

 

 俺の人生が死んだ瞬間である。ここあだけならまだしも、あの清純なこころにまで穢らわしい欲望の塊を見られてしまった。あと数秒も経たない内に叫び声を上げられ、それを聞きつけた善良な大人たちが駆けつけてくるだろう。そして事の概要を知れば、幼気な幼女2人にエロ本を見せた鬼畜野郎として両手首に金属の輪っかをはめられるに違いない。あぁ、どうせなら逮捕されるなら、いっそのことμ'sのみんなに手を出しておけば良かったな……。

 

 

 だが、2人から叫び声が上がる様子はなかった。それどころか、何故かさっきから何も言わず沈黙が続いている。そのせいなのか、道を行く人たちから注目もされていない。

 

 一体何が起こっているんだ?そう疑問に思い、恐る恐る薄い本を持つ2人に近づいてみる。

 すると驚くべきことに、こころとここあは片方ずつページを持って薄い本の中身を目を見開いて熟読していたのだ。目玉が顔から飛び出すかのごとく、食い入るように二次元キャラの性行為を眺めている。これは以前と全く同じパターンだ。この本はかなり激しい描写を含むのだが、こころもここあも動じるどころかページを送るスピードがどんどん早くなっていた。コイツら、この前よりもエロ耐性が強靭になってやがる!!

 

 もう既に読まれてしまっているため手遅れかもしれないが、一応抵抗したという大義名分は欲しいため、2人の上から本を摘んで勢いよく取り上げた。

 

 

「あぁっ!!もうちょっとで読み終わりそうだったのにぃ~!!」

「ここにR-18って書いてあるだろうが!!お前らは読めねぇの!!」

「でも保健体育の勉強の資料としてなら、私たちでも読む権利はあると思います」

「変な屁理屈を言い出すところも本当ににこに似てるよなお前……。とにかく、これは読むな!」

 

 

 コイツら本当に動じてねぇな。ここまでのエロ耐性を身につけているとは、もしかしたら海未や凛以上に淫乱化が進んでいるのかもしれない。しかも2人はまだ純粋無垢で、薄い本を読む行為がいけないことだと認識していないからこれまた怒るに怒れない。多分どう説得しても、2人はこの本に関しての言及を止めないだろう。なんか時間経過に連れ、俺の退路がどんどん封じられている気がするぞ……。

 

 

「お兄様。お兄様はこの本が受験勉強の参考書になると仰ってましたが?」

「ま、まぁ大人の世界には色々な勉強法があるんだよ。お前らはまだガキだからよく分からないと思うけどさ」

「そうなの?じゃあさ、女の人が男の人のおち○ちん咥えるのも受験勉強のやり方?」

「おいっ!!ここ外だぞ少しは自重しろよ!!」

「だってこれ大人の勉強法なんでしょ?だったら普通のことなんじゃないの?どうして怒られたのか分からないんだけど……」

「あ、あぁ、怒鳴って悪かったよ……」

 

 

 ていうか、どうして俺が謝らなくちゃいけねぇんだよ!!俺は周りの目に卑猥な絵が入らぬよう封筒でカモフラージュして配慮までしていたのに、どうして100:0で俺が悪いみたいな雰囲気になってる訳!?それに加えここあの知識不足のせいで、その雰囲気がさらに助長されている。この2人に出会うと、なぜ毎回毎回人生崩壊の危機に立たされるのか……。

 

 ここまで来たら隠し通すのは無理だ。だったらやるべきことは1つ。ここから保健体育の授業の流れにならないよう、この場から即座に退散することだ。結局やることは変わってない気もするけど……。

 

 

「これが大人の勉強法なんだよ。だからお前たちが見ても役に立たないぞ」

「そうみたいですね。流石に私たちのおっぱいでは、男の人のおち○ちんを挟むことなんてできませんし」

「お、おぅそうだな……」

 

 

 こんな純粋なJCの口から放たれる卑猥な言葉の数々に、俺は思わず吃ってしまう。屋外なのにも関わらず恥じることなくスラスラとそんな発言ができるなんて、彼女たちがどれだけ純白な少女なのかを実感する。発言内容だけを聞けば、完全にことりや楓と同類なんだけどな。もちろん心の穢れ具合は真逆だが。

 

 

「それでもさ、女の子の私たちならおにーちゃんの受験勉強のお手伝いできるんじゃない?」

「はぁ!?」

「確かに!男性と女性で身体を交えることが勉強の効率に繋がるのなら、私たちでも少しはお兄様のお役に立てるかもしれません!!」

「ちょっ、えっ……えぇっ!?!?」

「お兄様は立派な男性、私たちは女性。ちょうど条件にも合致してますし!」

「どうせここあたちこれから暇だったから、おにーちゃんの勉強に付き合ってあげるよ♪」

 

 

 待て待て待て待て!!どうしてこんな展開になった!?ここまでの話を物凄く端的に要約すると、俺は女子中学生と女子小学生の2人とエッチをすることになるんだよな……?そ、そんなことできる訳ねぇだろ!!いくら俺が変態クソ野郎だと言っても、流石に児童に手を出すような鬼畜ではない。

 

 しかし2人はこれがエロいことだとは思っておらず、ありったけの善意で俺の受験勉強をサポートしようとしているのだ。逆に考えれば何のデメリットもなくJCとJSとの性交渉を楽しめるのだが、同意した瞬間に俺の中の何かが崩れ去ってしまうような気がする。

 

 

「おにーちゃんはどの勉強法が好きなの?おち○ちんをおクチでぱっくんされたい?それともおっぱいでぷにぷにされたい?」

「俺はどっちも好きだけど――――って、今のなし!!」

「それとあの本の最後にもう1つありましたよね。確か男性のおち○ちんが女性の下半身のあそこに――――」

「それ以上は言っちゃダメだァアああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 人通りが少ないとはいえ、万が一この会話を誰かに聞かれていたらマズイ。もちろん2人には一切の悪気はないし、それどころか俺の勉強を手伝おうとしてくれているんだから怒るに怒れないのが更にもどかしい。

 

 

「と、とりあえずだな、俺は1人で勉強するのが好きなんだ。だから手助けなんていらないんだよ」

「えぇ~!?せっかく大人の人の勉強を体験できると思ったのにぃ~!!」

「いや体験しなくてもいいから、子供は早く帰りなさい」

「仕方ないから諦めよここあ。お兄様だって忙しいんだから」

「そうだね。別の男の人に教えてもらうしかないか」

「は……はぁ?」

「身近にいる男性と言えばクラスメイト……だけど大人じゃないよね。だったら親戚のおじさまたちに頼みましょう!」

「ちょっ、ちょっと待てェエエえええええええええええええええい!!」

 

 

 コイツら、末恐ろしいこと考えてやがる!!自分から犯されにくるなんて、どこの淫乱鳥や痴女妹だよ。それにクラスメイトでも親戚のおじさんたちでも、こんな小さい子の口からフェラやパイズリを仄めかす言葉が出てきたら、真っ先に疑われるのは間違いなく俺だ。だって2人にそんな知識を与えそうな人間なんて限られてくるだろうからな。

 

 そしてもしこころとここあに性行為の極意を教え込んだと無実の罪を被せられたら最後、もう社会の表舞台に立つことすら叶わなくなるだろう。そうならないためにも、俺が取るべき行動は――――

 

 

「お、お兄様?さっきから息が荒いようですが、大丈夫ですか……?」

「本の中の男の人も"はぁはぁ"ってしてたよね。もしかしておにーちゃんも……」

「そんな訳ねぇだろ。いいか、この勉強方法は誰にも言うなよ?」

「えっ、秘密にしちゃうんですか?効率の良い勉強方法なら、他の人にも実践させた方がいいと思うんですけど」

「実はこの勉強法はな、俺が独自で編み出したんだよ。だから効果的なのかはまだ実験段階で分からないんだ」

「ふ~ん。でも自分で勉強法を作っちゃうなんて、やっぱりおにーちゃん頭いいんだね!」

「だろ?だからここで1つ提案だ。誰にも言わず秘密にしてくれたら、この勉強法をお前たちに手伝わせてやってもいいぞ」

「「本当!?」」

 

 

 苦肉の策だが、このままコイツらを帰してしまうと他の男を痴女ってしまう可能性がある。そうならないためにも、俺がここでこころとここあを引き止めるしかあるまい。そして2人には満足して帰ってもらう。現に以前にこの所持する薄い本でそれなりに保健体育の勉強をした時は満足した様子で、しかもそのことを誰にも喋ってないらしいから今回もこの作戦は有効だと考える。

 

 『とある男子高校生が、幼女2人に性知識と性行為を教え込んだ』

 

 とにかくその事実さえこの2人から漏れなければ、俺の生きる道は安泰になる。つまり、この2人を満足させるのが一番手っ取り早い方法なのだ。しかし、JCとJSにフェラやパイズリのノウハウを教えなければならないことに変わりはない。流れでまさかの本番にならなければいいが……。

 

 そしてこれは余談なのだが、こころとここあを他の男に触れさせたくはない。そんな気持ちも少しはあったりする。

 

 

「もちろん秘密にします!お兄様の勉強法、私も参考したいので是非お手伝いさせてください!」

「面白そうだし、ここあも手伝うよ!」

「そ、そうか……なら俺の家に行こう。今日は楓もいないし、ゆっくり勉強できると思うから……」

「そういやお兄様の家に行くのって初めてですね!ワクワクするなぁ~♪」

「よ~しっ!それじゃあおにーちゃんちにレッツゴー!!」

 

 

 そうだよ、これは仕方のないことだったんだ。俺の未来を守るためにも、この2人が満足するくらいの性知識を埋め込まなければならない。更に薄い本に描かれていたプレイくらいは恐らく強要されるだろう。

 

 遂に迫り来る、JCとJSと身体を交えるその時が。ロリコンの道を開拓する日も、もうすぐそこに迫っているのかもしれない……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 

 




次回、JC&JSとの3P(?)

まさか、こころとここあに手を出す日が来てしまうのか!?乞うご期待!(笑)
恐らく今週中には続きが投稿されます。

話は変わりますが、最終回への感想を送ってくださった方々、ありがとうございました!まさか一度に50件近くも感想をいただけるとは思っていなかったので、驚きと嬉しさで気が動転しちゃいました(笑) まだ全ての感想へ返信しきれていませんので、もうしばらくお待ちを。そして最終回への感想はいつでも受け付けておりますので、時間があれば声をお聞かせください。

高評価を付けてくださった方々にも感謝を!もう少しで☆10評価が150件になる事実に、未だ期待を隠せません(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】矢澤のJCとJSに痴女られる話(後編)

 既に最終回を終えているので、もう犯罪行為の描写でもなんでもござれ!!


 何故こんな展開になった?

 本来なら今頃、俺はベッドの上で寝転がって手に入れた薄い本を隅から隅まで堪能しているはずだったんだ。唯一の同居人である楓は出かけていて日中はいないため、誰にも邪魔されず至福の一時を満喫する――――予定だった。この天使を装った小悪魔2人に捕まるまでは……。まるで天国から地獄に突き落とされたみたいだ。

 

 

「ここがお兄様の部屋ですか?」

「あぁ。一応断っておくけど、散らかってるのは許せよな。お前らが突然来たいって言うから片付ける暇がなかったんだ」

 

 

 こころとここあに不本意ながらも()()()()()()を教えるためとはいえ、遂に現役の女子中学生と女子小学生を自分の部屋に連れ込んでしまった。

 

『男子高校生が誰もいない部屋にJCとJSを呼び込んで、今から真面目にお勉強(意味深)タイム』

 

 この字面だけ見ても犯罪者臭しかしないヤバさが伝わってくる。もちろんお勉強会を実施するのも俺がコイツらに薄い本を読ませたという無実の罪を口止めする手段なのであって、決して自分から興奮して幼女に性知識を教え込むわけではない。そこのところを勘違いしてもらったら困る。

 

 

「わ~いおにーちゃんのベッドだぁ~~!!」

「こらここあ!人様の部屋で騒がないの!」

 

 

 ここあは俺のベッドに勢いよくダイブすると、枕に顔を埋めた。俺の家には初めて来たのに、まるで何度も足を運んでいる友達の家かのようにラフな態度だ。この何事も容赦のない辺りはまだまだ子供だが侮るなかれ、中身は性知識を知りたがる天性の変態ちゃんだから。

 

 それにしても、例え女子小学生だろうとそこまで枕に顔をスリスリされると妙な気持ちになってしまう。見た目はほのぼのとしていて微笑ましいのだが、さっきの路上でのやり取りからコイツらにほんの僅かだが欲情が湧き上がってきていた。俺はロリコンではないはずなのに、純粋無垢で無知な女の子の口から淫語が飛び出すと心がくすぐられるような感覚に陥るのだ。このままでは本当に手首に輪っかをはめる日も近いかも……。

 

 

「こころも来てみなよ!おにーちゃんの匂いでいっぱいだよ~♪」

「そ、そうなの……?それじゃあ私もちょっとだけ……」

「手のひら返し早すぎんだろ……」

 

 

 ここあに続いてこころまで俺のベッドに寝転がってしまった。少しくらいはここあの抑止力になると思っていたのに、やはり根はまだ中学一年生か。

 

 そして、JCとJSが2人横並びになっているこの光景。楓は出掛ける前にベッドを整備してくれていたらしく、そのせいでこころもここあも気持ちよさそうに枕や毛布に顔を埋めている。今晩コイツらの温もりと香りが染み込んだベッドで寝ると思うと……変に心臓の鼓動が高まってくるじゃねぇかこの野郎!!

 

 本来そこまでロリコンの気質はなかったのだが、この2人と関わっていく内にロリ好きに汚染されてしまったらしい。

 俺の中のロリコン気質を更に煽ってくる最大の要因は、さっきからチラチラとスカートの中身が見えそうになっていることだ。ベッドの上でパタパタと脚を動かすたびに、2人のスカートがヒラヒラと舞い純白の太ももが見え隠れする。そうなれば当然スカート奥の布も見えるか見えないかの瀬戸際なわけで、明らかに見えているのならいいものの、そんな焦らしプレイをされたら逆に目を離せなくなってしまう。

 

 

「…………!?」

 

 

 今一瞬だけ、明らかに俺に目に例のブツが映り込んだ。

 生地の色は白、もう1つが薄いピンク。どちらも小さな赤いリボンが付いていて、いかにも小中学生らしかった。いつもは穂乃果たちのちょっと背伸びをした下着を見ているためか、ここまで幼女力全開の下着を見せ付けられると思わず目を奪われしまう。こんな幼気な少女たちのスカートを覗き見る行為こそ、絶世なる背徳を感じるからなのだろう。2人の少女が自分のベッドの上で横になり、スカートの中が丸見えになっているのだ。こんなのロリコンでなくとも湧き上がってくる欲求があるだろ!!

 

 

「どうしたのおにーちゃん?息荒いよ?」

「まさか、本の中の男の人みたいに興奮してるんですか?確か……"欲情"でしたっけ?」

「そ、そんなわけないだろ!!」

 

 

 ここで強く否定する俺。ていうか、JCとJS相手に欲情してないって嘘でも言い張らないと俺の人間性からプライド、地位と名誉まで何もかもが死ぬ。

 

 

「でもさぁ~。さっきから凄く顔が赤いよ?」

「え゛っ!?嘘……」

「ホントホント!ずっと私たちを見つめたまま微動だしないんだもん」

「マジかよ……」

 

 

 正確には2人を見続けていたのではなく、スカートの奥を見ていたんだけど……。

 それにしても、幼女の下着に夢中になっていたのは自覚していたが、それを本人の口から直接言われると本格的にロリコンの道を歩み始めたという現実を突きつけられる。それに2人は今もまだ自分のスカートの中がチラ見えしている事実に気付いていないから隠そうとしないため、目のやり場に困って仕方がない。2人の顔を見て話そうとするも、どうしても透き通った綺麗な太ももと奥に潜む下着が僅かに顔を覗かせているためそちらに目が行ってしまう。

 

 

「男性が興奮しているということは、いよいよ私たちの出番ですよね??」

「よーしっ!おにーちゃんこっち来て!ほらほら!!」

「お、おいっ!?腕引っ張るな!!」

 

 

 ここあに無理強いされる形で腕を引かれ、流れるままベッドに座らされてしまった。左隣にはここあ、右隣にはこころが腰をかけ、どちらも期待を込めた眼差しで目を輝かせている。そこまでして俺の受験勉強の手伝いがしたいのか。それとも薄い本に書かれているような男女のまぐわいを楽しみにしているのか。

 しかしコイツらは勝手に『受験勉強=男女の性行為』という間違った知識を会得してしまっているから、俺が正してやるという意味ではお勉強なのかもしれない。もはや『お勉強(意味深)』状態なのだが……。

 

 

「えぇ~っと、このあとどうするんだっけ?」

「さっきの本では、女の人が服を脱いでいたような。それも男性に見せつけるようにゆっくりと……」

「それじゃあおにーちゃん、私たちが脱ぐところをしっかり見ててね♪」

「裸になるのはちょっと恥ずかしいですけど、お兄様の勉強をお手伝いできるのなら頑張ります!」

「お、おいおい!!」

 

 

 こころは若干躊躇いもあったものの、結局出さなくてもいいやる気を出して服に手をかけ始めてしまう。そして左を見るとここあが腕を上げて上着を脱いでいる最中であり、薄いシャツ1枚の姿を晒そうとしていた。こんな状況だからだろうか、まだ年端も行かない少女の脇にすら欲情を覚えてしまう。再びこころに目を戻してみると、頬をほんのりと染めながらも上着を脱いでおり、JCのくせに大人っぽい雰囲気が漂っていた。男の前で脱ぐというのがどういうことなのか全く理解していない2人を見ると、こころとここあがどれだけ純粋無垢な少女なのか、そして俺が今から何をやらかそうとしているのか改めてはっきりとする。

 

 これは夢でも妄想でもない。目の前でJCとJSが自ら服を脱いで、自ら俺に性行為を求めている。俺だってもう12人もの女の子に手を出してきた身、ここで美味しく頂かなければハーレムの主としての名が廃るのではないだろうか。しかし、そのためにはロリコンという汚名を一生心に刻み込んで生きていかなければならない究極のデメリットがある。

 

 

 どうする……どうする……!?

 

 

「ねぇねぇおにーちゃん!脱いだけど、次は何をしたらいいの?」

「お、お前いつの間に全部脱いで……」

「ん?だってさっき見た本の女の人も全部脱いでたじゃん」

 

 

 焦燥に駆られている俺の心が更に鼓動の激しさを増した。なんたって、ここあがいつの間にか上半身裸になっていたんだから……。

 

 遂にこの世に顕現してしまった女子小学生の生身体。まだ小さいながらも、女の子の身体って事実だけでも唆られるものがある。まだ発展途上のその身体にはシミ1つなく、触れることすら憚られるような艶のある肌が煌く。そして、男なら誰でも目視してしまう女性の部位。そう、胸。小学生なので胸の膨らみは感じられず、文字通りのつるぺただ。しかしそのおかげか、2つの胸の先端がより際立って見えるのが何とも言えないエロスを感じる。白い肌の胸部に卑しくピンク色に輝く先端。相手がJSだと分かっていても、沸き立つ興奮は抑えられない。

 

 そして、こころも最後の砦を全て脱ぎ捨てた。

 彼女の身体もこころと同じ純白の肌で、見る者の目を引きつけてしまうほどに透き通って見える。彼女は姉のにこを崇拝している節があるので、アイツと同様に肌のケアは万全なのだろう。もう見ているだけでも肌触りが最高なのだと思い知らされるくらい艶やかだ。そして、ここあと最も異なる点は胸。女子中学生は胸が大きくなり始める一番の育ち盛りであり、その大きさは2人の身体を比べればすぐに分かる。彼女の胸はまだ成長過程にあるためそこまで大きくはないが、その小さな膨らみは見た目だけでも見て取ることができた。ここあと違って全く羞恥心を抱いていないわけではないようで、羞恥で先端が立っているのがこれまたJCと思えなくらいエロい。

 

 

 こうして、とうとう俺はロリっ子たちの生の身体を拝んでしまった。俺が真っ当な人間なら、いくらロリコンの汚名を晴らす目的で2人を部屋に連れ込んだとは言え、上半身裸にさせるような行為は全力で止めていただろう。

 しかし、やはり俺はどうしようもない変態だったようだ。こころとここあのストリップショーを見て、不覚だが欲情に火が点いてしまった。そして2人の生裸に魅せられ火に油を注いだせいで、只今絶賛興奮しっぱなしである。こんな子供なんかに興奮するのか、と思われるかもしれないが、子供は子供でも上半身裸の美少女2人に挟まれたらこうなってしまうのも仕方がない。それにそう思っておかないと、自発的に興奮したと認めてしまうことになるので癪だ。

 

 

「お兄様、私たちの身体……どうですか?」

「ど、どうって……綺麗だよ、普通に」

「そうですか!?ありがとうございます♪」

「わ~い!おにーちゃんに褒めてもらえるのは、お姉ちゃんに褒めてもらえるより嬉しいかも♪」

 

 

 2人は笑顔を零しながら俺の身体に寄りかかってくる。左右から湯たんぽのような優しい温もりに包まれ、思わずこのまま身を委ねてしまいそうだ。

 

 

「ねぇおにーちゃん、私のおっぱい……触ってみる?」

「えっ!?そ、それは……」

「私もまだ小さいですけど、お兄様のお勉強が捗るなら是非どうぞ!」

「っ……!!」

 

 

 ここあは挑発するような口調で、こころは純粋に自分の胸を俺に差し出そうとしてくる。部屋に連れ込む前からこんな展開になるだろうと思ってはいたのだが、いざこの状況に直面するとどうしたらいいのかと頭がパニクってしまう。無邪気な笑顔とは裏腹に裸を晒しているこの姿。胸も発展途上の幼女体型なのに興奮を煽られるってことは、やはりロリコンだったのか俺……。本来なら女の子から身体を預けてくれる展開は非常に好きなシチュエーションなのだが、ここで素直に性欲に従えないのが辛い。コイツらがあと2、3年育ってくれたら、こっちも容赦なくいただきますができるのに。

 

 

「確かおにーちゃんの持っていた本には、男の人が女の人のおっぱいを舐めてたよね?おにーちゃんはしてくれないの?」

「しないのって言われても、お前らはいいのかよ俺にそんなことをされて……」

「むしろお兄様だからこそです!さぁお兄様、私たちをお勉強のお手伝いとして存分に使ってください!」

 

 

 なにその奴隷宣言みたいなの!?そういうの大好きだから余計に手を出しちゃいそうなんですけど!?あぁもうっ、なんか我慢するのもバカバカしくなってきたような……。

 

 

「おにーちゃんから来ないなら、私から押し付けちゃうもんね!えいっ!!」

「う、ぐっ!!」

 

 

 突然目の前に肌色一色に染まる。そして気付いた時には正面からここあに抱きつかれ、まだ膨らみのない小さな胸を俺の口元に押し付けられていた。ここあは俺の頭をホールドする形で抱きつき、脚も俺の腰に巻き付かせ抵抗不可能な体位を形成する。

 

 

「ほらほら!早く私のおっぱいを召し上がれ♪」

「っ……!!」

 

 

 目には見えないが、唇にここあの胸の先端が当たっている感触が伝わってくる。というか、既に先端が上唇と下唇の間に入り込んでいた。声を出したり息をするために少しでも口を動かせば、その可愛いピンク色の先端を刺激することになるだろう。

 

 冷汗が垂れる。本当にこの状況を受け入れていいのかと地味に葛藤が生まれていた。

 しかし、先端を刺激してやったら彼女がどんな反応をするのか気になってはいる。小学生でも性的興奮を感じたりするのだろうか?俺が考え続けてきた疑問であり、その問は未来永劫解決しないものだと思っていた。だがここでまさかのチャンスが訪れている。元々2人を部屋に連れ込んだのは、勉強の手伝いをさせて満足してもらうためであり、決して邪な気持ちがあるわけではない。まぁ、ないとも言い切れないけど……。とにかく、据え膳食わぬは男の恥。目の前におっぱいがあるなら、それを美味しく頂くのが男ってもんだろ。

 

 プライド?地位?名誉?そんなものは、さっき捨てた。

 

 俺はここあの胸の先端を、唇の肉厚を使って軽く挟み込んでみた。

 

 

「んっ……す、すごぉぃ、さっき身体がビリビリって……」

 

 

 神崎零(18)、遂に女子小学生に対して児童ポルノ案件。

 しかし、これで小学生でも刺激を感じることが証明された。俺はそれを知れただけで満足だよ――――と言い切れたらよかったものの、女の子の興奮に支配される声はいつ聴いても俺のサディスティックな心を震わせる。もっとその声を聞かせてくれ……。いつも通り、性欲の暴走が始まろうとしていた。

 

 ただ咥えるだけでは刺激に欠けるので、今度は舌も使って先端を転がすように舐る。

 

 

「ひゃっ、あっ、んっ………な、なんだか身体が熱くなってきたよぉ……」

 

 

 先端を弄ってやるだけでここまで興奮に取り憑かれるとは、流石にこの妹なだけのことはある。にこも胸の感度は良好で、ちょっと触っただけでも息を荒くするくらいなのだ。咥えただけで身体を熱くするってことは、ここあも姉のにこと同じ淫乱な遺伝子が組み込まれているもしれない。そう考えると、将来の姿がなんとなく想像できてしまうな。

 

 

「あ、あのぉ……」

 

 

 ここあに全身で抱きつかれながらも横目で声がする方を見てみると、こころが俺の服の袖を掴んで控えめに引っ張っていた。彼女は愛しげな表情で、多少顔を俯かせながら上目遣いで俺の目をチラチラと伺う。

 

 

「私だけ放ったらかしは寂しいですよぉ……」

 

 

 目に軽く涙を溜めながら放たれた悲しみ混じりの懇願に、俺は思わず心臓がビクリと跳ね上がる。可愛いや愛おしいと思ったのは当然で、それ以上にここまで甘く真剣に誘われたら構ってやるしかない、そう決心もした。もうこの時点で幼女に手を出してはいけないという倫理より、目の前の女の子をイキ狂わせてやりたという嗜虐心が完全に優っている。

 

 俺はここあの胸の先端を咥えながらこころの胸に右手を伸ばす。すると間もなく、ふにょんとした地味だが柔らかい感触が手のひらに伝わってきた。

 

 

「ひゃっ!!」

 

 

 こ、これがJCの胸なのか……!!

 見た目ではそこまで大きな膨らみではないのにも関わらず、触ってみるとちゃんと女の子のおっぱいをしている。胸を揉みしだく――と言った表現ができないほどのちっぱいなのだが、質感は間違いなく乳房そのものだ。試しに2本の指で胸を挟み込んでみると乳肉がぷっくりと膨らむように形状が変化するので、肉厚の観点から言えば普通の女性の胸と何ら相違はない。先端もピンと立っており、まるで弄ってくださいと言わんばかりの自己主張の強さだ。もちろん触らせてもらおう、指で丁寧にな。

 

 

「んっ、はぁ……そ、そんなところコリコリって……あぁ、ん!」

 

 

 やはり胸が弱いのは矢澤姉妹共通の体質らしい。胸の先端に指が触れるだけでも、面白いようにこころから喘ぎ声と吐息が漏れ出す。そんな高感度だからこそ、摘んだり弾いたりすると部屋に響くまでの嬌声となる。

 

 

「おにーちゃ~ん……ここあにももっとぉ~」

「分かってるよ。でも一旦場所を交代しようか。こころが俺の上に乗って、ここあは横から抱きついてみて」

「うんっ!」

「はいっ♪」

 

 

 2人は笑顔で俺の指示に従う。ここあは膝から降りると俺の左側から抱きつき、空いた膝の上にはこころが座り胸を押し付ける形で抱きついてくる。幼女2人に裸で密着される事案に、犯罪だと分かっていながらも凄まじい背徳感に欲求を支配されていた。もう迷いすらしていない。ただこの天国を我を忘れて堪能していた。

 

 自分たちがどんなことをされているのか全く認識をしていない辺り、無知というのは可愛くもあり滑稽でもある。これはお兄さんが君たちは女の子であるという事実を、身体をもって教え込まなければならないようだ……。

 

 

 俺は目の前に差し出されたこころの胸の先端を、少し危なっかしいが甘噛みしてみる。同時にここあの胸を、無理矢理膨らみを作るように指に力を入れて揉んでやる。

 

 

「ん、あっ!?お、お兄様、歯を立たれては……あぁ、あぅ……」

「お、おにーちゃんちょっと力が……ひゃぅっ、はぁ……でも、気持ちいいかも……」

 

 

 もうこころもここあもJCやJSにあるまじきオンナの顔をしている。頬は真っ赤に染め上がり、身体もかなり熱を帯びていた。息は準備運動なしで短距離走を走ったかのように荒く、喘ぎ声と共に漏れ出すはぁはぁという声だけを聞くと2人が幼女に分類される年齢ってことを忘れてしまいそうだ。

 

 

「あっ……んっ、お兄様、気持ちいいです……もっと、もっとぉ……」

「おにーちゃん、おっぱい触るのとっても上手だね……はぁ、はぁ……私のも、もっと触ってぇ……」

 

 

 完全に堕ちてやがる……。自分たちから(すが)り付き、自分たちから求める。そこに純粋無垢な少女たちの面影は一切なかった。

 

 自分たちから誘ってきたとはいえ、手を出したのは俺だ。だからこそ例え中学生だろうが小学生だろうが、自らの手で女の子を支配している邪悪な快感で全身が満たされる。歳なんて関係ない。目の前に女の子がいるのなら、俺の手で全部喰ってやる。俺が悪いんじゃない、俺の目に映り込む女の子が悪いのだ。

 

 

「あっ、お兄様のここ……」

「おにーちゃんの、膨らんでるね……」

 

 

 自覚してはいたが、とうとう2人にも気付かれてしまったか……。でも男の生理現象だから仕方のないことだ。いくら幼気な少女たちが相手だと言っても、これだけ淫猥な姿を見せられたら抑えるものも抑えられない。できることなら胸を弄る行為だけでお勉強を終了しようかと思っていたのだが、気付かれたのなら補習授業といきますかね。もう既に裸の少女に手を出しているんだ、あと少しくらいお勉強させてあげたって刑罰は変わらない。

 

 

「こころもここあも、ベッドから降りて俺の脚の間に入ってくれないか?」

「えっ、何をするんですか?」

「あの本にもあっただろ。女性が男性のアレをしゃぶるシーンがな」

「おにーちゃん、私たちにしゃぶってもらいたいの?」

「あぁ、こうなったのはお前たちのせいなんだ。だから2人が責任を取ってくれないと……」

「お兄様……分かりました!お兄様のためならどんなことでも!」

「さっきたくさん気持ちよくしてくれたから、次は私たちがおにーちゃんを気持ちよくしてあげるね♪」

 

 

 もうどうにでもなれ。

 俺はここで無心になった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「今日はありがとうございました!受験勉強、捗りそうですか?」

「あ、あぁなんとかな……」

 

 

 何もかもが終わって、ただいま玄関先。こころとここあを見送る最中である。

 結局、最後までやってもらったとだけ伝えておこう。JCとJS相手に何ということをしてしまったんだという後悔はあまりしておらず、むしろ興奮の絶頂と果てしない快感を与えてくれたコイツらに感謝をしたいくらいだ。すべてが終わったあとに2人の頭を撫でてやったら非常に嬉しそうだったので、これで満足してくれただろう。

 

 

「気持ちよさそうな声を出していた時のおにーちゃんの顔、ちょっと可愛かったよ♪」

「う、うるせぇ……。そんなことより、今日やったことは全部黙っとけよ。俺たちだけの秘密だからな」

「分かってるよ♪初めにそう約束したもんね!」

「私たちとお兄様だけの秘密……ドキドキしますね♪」

「あぁ、分かってくれているのならよかったよ……」

 

 

 本当に黙っていてくれるのだろうか……?こころは大丈夫だろうけど、ここあがうっかり口を滑らせてしまいそうで心配だ。でも信じるしかない。JCとJSに白いタンパク質の液体を飲ませたなんて黒歴史は、もうどうしようとも覆らないんだから……。

 




~今回の名言~
・『歳なんて関係ない。目の前に女の子がいるのなら、俺の手で全部喰ってやる』
・『俺が悪いんじゃない、俺の目に映り込む女の子が悪いのだ』


 執筆していて思ったのが、無知な少女もいいなぁ!!
 ちなみに零君を通報したい人は私まで。



 そんな訳で、μ'sとの日常シリーズはこの特別編をもって幕引きです。実はもっと描写したいネタがたくさんあったのですが、残りは全て今後の彼女たちにお任せしましょう。もちろん被害者的な意味ですが……。

 次回からは『ラブライブ!サンシャイン!!』編に突入します。新しい小説としては投稿せず、この『新日常』から連載の形で続けていこうと思っています。それに伴って小説のタイトルとあらすじを変更しますので、タイトル変わってて新連載見逃したぁ~なんてことがないように!!
なおサンシャイン特別編はパラレルワールド的な扱いなので、今一度設定を確認しに戻る必要はありません。

 投稿日はまだ未定ですが、11月の頭には更新できるかと。新作のあらすじは……希望があれば活動報告に載せます。


 それではまた次回作でお会いしましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Aqours編
変態な彼はいつも変わらず


 今回のAqours編から読んでくださる方は初めまして! 前回のμ's編から読んでくださっている方はお久しぶりです!

 この小説は今回から『ラブライブ!サンシャイン!!』の物語に突入します。前回のμ's編のようにアニメには沿わない完全オリジナル展開(になるつもり)で、再び『新日常』ワールドを広げていきたいと思います。


※今作の時系列はアニメの9話(Aqoursのメンバーが全員揃った回)以降。
※μ's編を読んだことのない方でも、これまでの展開が分かるように描写していきます。
※μ's編で執筆した『サンシャイン特別編』と今作は関連がありません。


「ちっくしょォオオおおおおおお!! 相変わらず慣れねぇなこの生活!!」

 

 

 結局のところ、余裕で寝坊した。

 朝っぱらからドタドタと騒がしく家中を駆け回り、適当に顔を洗い適当に髪を整え、そして適当に着慣れないスーツをぎこちなく着用する。本来なら1時間前には起床して準備万全の状態で新たな環境を迎えるはずだったのに、どうも不幸というのは肝心な時に起こるものらしい。新環境当日に寝坊するとは、だらけてるぞ俺の脳と身体。だから決して俺が悪いわけではないのであしからず。

 

 まったく、今日はこの俺、神崎零(かんざきれい)が大人になる晴れ舞台だぞ? もっとシャキッとしろよ俺!! 今ここにあの最愛の妹がいてくれたら、ここまで慌てる必要がなかったんだよ。こうして考えると、俺ってつくづく妹に甘えていたんだと実感させられる。そして妹の顔を思い出すたびに、同時にμ'sのみんなの顔も次々と思い浮かんできた。そういや高校を卒業してから、アイツらのヒモみたいな生活してたなぁ……。

 

 そう、音ノ木坂学院を卒業してから4年が経った。俺と穂乃果、ことり、海未は絵里たちと同じ大学へ通っている。卒業したとはいえ、結局高校生活の時と同様の日常を送っているので毎日は相変わらずだ。

 唯一変わっているところと言えば、俺は今穂乃果たちと離れた土地で暮らしていることだろうか。もちろんだが、別に破局したわけではない。俺がこの静岡の内浦に住んでいるのは大学の教職授業の一貫、つまり教育実習のためなのだ。この土地の高校である、えぇと、名前なんて言ったかな……そうだ、"浦の星女学院"! まさかの女子高デビューってわけだよ!!

 

 しかし、その華々しいデビューも遅刻のせいで儚く散りそうなんだけどね……。

 

 

「さっきから喜んだり落胆したり、どっちかにすれば? それに早く朝ご飯食べなさい。せっかく作ったのに冷めちゃうでしょ」

「こっちは輝かしいデビューが掛かってんだぞ!! 女の子たちへの第一印象が悪くなったらどうすんだ!?」

「相変わらず女の子に飢えてるわねぇ~……」

 

 

 この長身の綺麗な女性――――って、改めて俺から紹介するのも恥ずかしいな。コイツは神崎秋葉(かんざきあきは)。俺の姉でありマッドサイエンティスト、とでも言っておけば通じるだろう。今は訳があってコイツと同棲している。過去にこの悪魔が行ってきた所業を知っている者なら分かるだろう、コイツと一緒に暮らすことがどういうことなのか。もう地球壊滅規模のリスクを背負っているのと同義だ。しかしその壊滅的なリスクを背負ってでも、コイツと一緒にいなければならない訳がある。

 

 本来ならもっと説明したいところなのだが、残念ながら今はそれどころではない。女子高の美少女たちが俺を待ってるんだ!! コイツとの関係の謎は後回しにさせてもらう。

 

 

「恋人が12人もいるっていうのに、まだ女の子に手を出すの? 生きているうちに世界中の女性を虜にでもするつもりなのかしら」

「穂乃果たちは穂乃果たち、女子高の美少女は女子高の美少女だ。メインディッシュをたっぷり食ったあとデザートも別腹でたっぷりといただく。その理論と同じだよ」

「また刺されるわよ。今度は12人から……」

「それは冗談に見えて全然冗談じゃないからやめてくれ……」

 

 

 ヤンデレというより病み成分100%の穂乃果たちから厳しい仕打ちを受けたあの事件を思いだし、俺の身体が大きく震え上がった。5年経った今でも鮮明にあの血生臭い記憶が蘇る。まあ今となってはいい思い出だけどね。

 

 秋葉の口からも語られた通り、俺は穂乃果たち12人と世間一般で言う恋人同士の関係に当たる。元々のμ'sメンバーである穂乃果、ことり、海未、花陽、凛、真姫、絵里、希、にこに加え、新生μ'sとしてメンバーに加わった雪穂、亜里沙、そして実妹である楓。もうこの時点で色々とツッコミたい気持ちは分かるが、俺が正真正銘12股を掛けてるクソ野郎ってことは自分が一番良く理解してる。これに関しては様々ないざこざがあったのだが、今はみんな仲良くやっているからご心配なく。

 

 

「まだちょっと時間あるから朝食食べていけば? というか、私が作ってあげたんだから食べていきなさい」

「分かった分かった。それにしても、片付けもできない家事もできないお前がまさかここまで家庭的になるとはねぇ~」

 

 

 秋葉は研究者の名に恥じず研究所籠もりの生活をしていたため、家事は絶望的だった。だから一緒に同棲すると聞かされた時、コイツの面倒を見なければならないと思って物凄く拒絶した記憶はまだ新しい。

 だが、彼女は変わった。まさか料理や洗濯、その他諸々、あの楓にプライドをかなぐり捨てて頼み込み修行していたとは……。ここでの生活に馴染むために一応2日前からこの土地に上陸して同棲しているのだが、彼女の変貌具合にはずっと驚きっぱなしだ。

 

 

「どういう風の吹き回しなんだよ。お前がここまで家庭的になるなんて」

「そりゃあ大好きな零君と楽しく優雅に暮らすために決まってるじゃん!」

「結構恥ずかしいセリフを平気で言うんだな……」

「もう伝えちゃったしね、4年前にあなたに私の思いを……」

 

 

 実は秋葉ともただの姉と弟では言い表せない関係なのだが、ここで深くは言及しないでおこう。多分説明し出すととてつもなく長くなるから。1つだけ言っておくと恋人同士ではない、それだけ。

 

 

「でもまさかまたお前と同棲するとはな。お前が大学に進学する前以来か」

「そうだね~。私としては、零君で遊ぶ機会が増えたから嬉しいけど♪」

「おい、零君『で』ってなんだよ『で』って! そこは普通『と』だろ怖いんだけど!!」

「大丈夫大丈夫! ちょこぉっと実験モルモットとして大活躍してもらうだけだから♪」

「全然大丈夫じゃないし、活躍もしたくねぇよ!!」

 

 

 とうとう本性を現したなこの悪女め。コイツの実験に付き合わされるのはいい意味でも悪い意味でも慣れてきたのだが、この新しい環境でもいつも通り実験に巻き込まれると思うと、俺の人生ってつくづく変わりがないと実感する。ちょっとはいい気分で晴れやかなスタートを切らせてくれよ……。

 

 では何故こんな奴と一緒に暮らしているのか。それはコイツの研究所がこの内浦にも1つ構えてあるからだ。俺は浦の星女学院に教育実習へ行くため、秋葉は研究所で仕事があるため、つまりお互いの勤務先が近いがために一緒に暮らしているというわけだ。それにこの家は秋葉が用意してくれたものであり、俺は家賃を払わずにタダで住まわせてもらっている。そして秋葉は俺を実験モルモットにしたい。まぁあれだ、言うなれば一緒に暮らしているのは利害の一致ってやつ。秋葉は"害"の要素を背負ってはいないが……。

 

 

 とりあえず、うだうだ文句を垂れていても現状は変わらない。女子高で晴れやかなスタートを切るためにも、とにかく今は落ち着いて飯を食おう。人間三大欲求の1つである睡眠欲はたっぷり寝たから満たされた。そして今から食事。性欲はこのあと気に入った美少女を手にかければいい。欲求も満たされるわ女子高に合法的に入れるわで、いいことづくめじゃん!

 

 

「そういや、みんなからの連絡はどうなの?」

「毎日来てるし、毎日こっちからも連絡してるよ。携帯の通知が騒がしくって仕方ねぇ」

「それだけ愛されてるってことじゃん。おーおーモテる人は羨ましいねぇ~」

「お前さぁ、1日に1000件も来る連絡通知を見ても同じこと言えんの……?」

「プッ、アハハ頑張れ頑張れ♪」

「何故笑った……」

「想像以上の重すぎる愛に、驚きを通り越して思わず笑いが……プッ!」

 

 

 コイツ、人の苦労も知らないで……。こちとら律儀に返信まで返してんだぞ。

 1000件とは言っても、それだけスパム並に連絡を送りつけてくるのは穂乃果やことり、楓くらいなもので、他のメンバーからは1日1件と割と良心的だ。でもよくよく考えてみればまだ2日しか離れていないのに、みんなへそれぞれ1日1回の近況報告をさせられるってのも相当なんだけどな……。

 

 

「苦労はあるけど、この生活も教育実習生としての3週間だけだ。我慢しよう」

「えぇ~!? 零君はお姉ちゃんとの生活がそんなにイヤなのぉ~!?」

「わざとらしい口調だなオイ。それと、もうそろそろ時間だから行くわ」

「あっ、も~う!」

 

 

 秋葉の戯言に付き合っていたら、寿命が万年あっても足りないだろう。せめて穂乃果たちがいてくれたらコイツへのツッコミ役を分散させられるのに……。このままでは教育実習よりもコイツへの対応で過労死してしまいそうだ。

 

 

「そうそう!」

「なんだ……?」

「いってらっしゃい♪」

「!! …………行ってきます」

 

 

 秋葉が笑顔で見送ってくれたので、俺も思わず笑みが溢れてしまった。こういう素直なところがあるから憎めに憎めないんだよなぁ。さっきまで俺をダシに遊んでいたのにも関わらず、しっかりと家庭的なお姉ちゃんキャラを見せつけてくるからタチが悪い。もしかして、これが秋葉の作戦なのか……? それでも気持ちよく早朝に出掛けられるのは、彼女のおかげなのかもしれない。遠まわしに調教されてるなぁ俺……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あっぶね~。バス乗り遅れるところだった」

 

 

 朝からドタバタと騒がしかったが、なんとか遅刻一歩手前のバスに駆け込めた。これで遅刻したらこのバスのせいにできるのでもう心配することはない。乗客には浦の星女学院の生徒たちもいるから、乗るバスを間違えたとか凡ミスもありえないしとりあえず安心かな。

 

 しかし車内を見渡してみると、物の見事にみんなウトウトと眠そうにしていた。朝も早いから当然として、バスの揺れがいいゆらぎとなって心地よくなっているのだろう。見ているだけでこちらまで眠気を誘われそうだが、朝の騒ぎで血の巡りが良くなっていたためか俺の脳も身体も快活そのものだ。

 

 そんなことよりも、座る席がねぇぞ。発車直後に駆け込んだ俺が悪いのだが、学院行きの早朝バスってここまで混むものなのか。空いている席は――――あっ、最後部座席に1つだけあるな。みかんのようなオレンジ色の髪で黄色のリボンと緑のクローバーの髪留めをして、浦の星女学院の制服を着ている女の子の隣。バスの揺れに合わせて身体が揺れかなり眠そうにしているが、こちらも立ったままでは疲れるヤワな身体なんでね。申し訳ないがお邪魔させてもらおう。

 

 

 運転席から見て一番左奥の席に腰を掛ける。俺の左隣ではオレンジ髪の女の子が眠そうに目を擦っていた。なんとか寝まいと目をパチパチさせ夢と現実の境界線を彷徨っていたのだが、やはり人間三大欲求である睡眠欲に勝てるはずもなく、数秒後にはもう完全に夢に捕らわれてしまう。

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 

 まず第一印象として、とても可愛い寝顔だと思った。高校生なのに幼気な少女のようなあどけない表情で、首をこちらに向け小さな寝息を立てている。まだこの子のことを寝顔しか知らないのに、抱きしめて守ってやりたくなる衝動に駆られてしまう。相変わらず可愛い女の子に目のない俺だが、あの頃は高校生だったからよかったものの今は教育実習生、しかも自分が担当する学院の生徒に手を出したとバレれば……これ以上は想像したくもない。

 

 俺は大人になったんだ。高校生の時とは違う。違うん……だけど……。

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 

 ダメだ!! この子の寝顔が無駄に愛おしいせいで変に意識しちまう!! バスの奥の席が空いていたのも、この子の隣になったのも、この子が首をこちら側に向けて寝ているのもすべて運命か!? 相変わらず俺は女性運だけには恵まれているらしい。まだ名前も知らないし生声も聞いたことない女の子に対してここまで……。

 

 しかしそんな純粋な愛情と同時に、微かな欲情も生まれつつあった。隣に誰が来るとも分からないのにここまで無防備な姿を晒すなんて、無神経にもほどがあるだろ。流石田舎の土地と言ったところか、こういった公共交通機関であっても基本は毎日同じ人が乗車する。そのせいで無意識的にガードや警戒が緩くなってしまうのだろう。現に、この子のスカートが少しはだけ綺麗な太ももが顕になってる。だから自分にその気がなくても男を誘っているようにしか見えない。

 

 ドクン、と心臓の激しく鈍い鼓動が脳内にまで響いてきた。この不規則な高鳴りは毎回決まって俺の欲求が煮えたぎる時だ。卒業してからずっとμ'sの愛しか味わってこなかったから、この犯罪臭のする背徳を久々に感じる。

 

 もちろんμ'sのみんなと愛し合っていたのはそれはそれで大いに満足している。だけど見ず知らずの出会ったばかりの女の子に手を出す、その行為のゾクゾクとした感覚も同じくらいに大好きだ。

 

 

 あぁ、俺って高校生の時から全然変わっていないんだな、むしろ安心したわ、と自分で勝手に納得をする。

 

 

 そして気付いた時には、俺の手が彼女の太ももに伸びていた。

 

 

「ふぁ……ん……すぅ、すぅ……」

 

 

 おっと、最初のワンタッチなのに少々力を入れすぎたか。女の子の寝息に不審な声が混ざってしまった。こういうのは周りに気付かれては素人だからな、ゆっくりと慎重に、それでいて自分を満足させられるよう大胆にやらないと……。

 

 やはり現役JKの太ももはいい。このムッチリとしていて張りの良い弾力は女子高校生だからこそだ。それにこの子は運動でもしているのだろうか、脚が適度に引き締まっている。そのせいで脊髄反射的に太ももからふくらはぎに掛けて手を滑らてしまう。脚の肉付きは非常に滑らかで、手が吸い寄せられるかの如くいつまでも触っていたくなる。

 

 

「ん、ぁ……すぅ……」

 

 

 久々にこんな痴漢&セクハラ行為をしているから、手に込める力が無性に強くなってしまう。だがそれでも起きない辺り、かなり眠りは深いようだ。一度寝たら全然起きない穂乃果タイプの女の子みたいだが、こちらにとって鈍い女の子は好都合。もう少しだけ君の身体を堪能させてもらおう。

 

 

 己の欲望に駆られているその時だった。オレンジ髪の女の子が寝たままの体勢を崩して、俺にもたれ掛かってきたのは。一瞬の内に女の子特有の甘い匂いに包まれ、ただでさえ激しかった欲望をさらに助長させてくる。

 それだけじゃない。こちらを向きながら身体が寄りかかってきたせいで、俺の腕にこの子の胸が当たっているのだ。おっぱいマイスターの俺の分析によれば、女子高校生にしてはそこそこのボリュームを誇っていると見た。制服の上からでも柔軟性を感じるので、肌触りの点でも合格と言えるだろう。

 

 だけど、実際に触ってみなければ確固たる証明にはならない。幸いにも奥の席の端だから、誰かに見られる危険性はゼロに近いだろう。触ってやるよ。俺の目の前でこんな無防備な姿を晒している君が悪いんだ。何も分かっていない子には、しっかりとお仕置きをしなきゃな……。

 

 左腕はこの子に寄りかかられているので、人差し指を伸ばした右手で彼女の胸を――――ツン、と突っついた。

 

 

「あ、ん…………すぅ……」

 

 

 おっ、これは太ももと同じくいい弾力。田舎の女の子は外で遊び回る傾向が多いためか、身体の発育はかなりいいと見た。完全に偏見なので想像の域を出ないけども、この子を触っている限りではそう確信できる。次は……次はもっと強く!!

 

 

 しかし、人生の転落は唐突に迎えるものだと知ったのは、その直後だった。

 暖かい人肌を感じる。それは俺に寄りかかっていた女の子の体温ではなく、その子の左隣にいた赤紫色のロング髪の女の子の手だ。伸ばしていた右腕の手首がその子に掴まれたと認識するまで、脳の回転に時間がかかってしまう。俺とその子はお互いに目を合わせながら沈黙する。そして、俺の背中にとてつもない悪寒が走った。

 

 

「千歌ちゃんに何をしていたんですか……?」

「えっ、あ……いや、そのぉ……」

 

 

 ば、バレただと!? 今まで幾度となく痴漢行為を働いてはきたが、バレるなんて愚行に陥ったことは過去に一度もない。その慢心のせいでもしバレてしまった時の対処法を全く考えておらず、赤紫髪の子の威圧にひるんで声も出せずにいた。田舎の人間は痴漢に対して鈍感だと思っていたのだが、この女……できる!!

 

 

「梨子ちゃん。やっぱりこの人、千歌ちゃんの身体触ってたの?」

「うん曜ちゃん。コソコソして怪しいと思ってたけど、さっきこの目でしっかりと見たわ」

 

 

 まさか赤紫髪の子の更に左隣にいたグレーの髪の子にまで俺の行動がバレていたとは……。これはマズイ!! 女の子1人だけならまだアレな方法で対処できたのだが、2人に知られてしまったとなれば口封じで襲いかかる(意味深)こともできない。しかもこの後オレンジ髪の子にもこの子たちの口から俺の所業が伝えられるだろうし、もうこの事実をひた隠しにはできないだろう。

 

 どうすんだこの状況……。みんなバスに揺られウトウトしていたり夢の中にいるせいか、この痴漢騒動はまだ俺たちしか認識していない。だから下手に声を荒げられて周りに事実が拡散されたら確実に人生が詰む。今までどうしてバレてこなかったのにどうしてこんな時に限ってバレてしまうのか。もしかして痴漢行為にかなりのブランクがあったせいか!? まあそんなことは今どうでもいいか。まずはこの場を切り抜けることが最優先だ。

 

 

「とりあえず私もこの場で騒ぎ立てることはしません。千歌ちゃんが痴漢されたって事実がみんなに知られたら、私たちの活動に関わってきますから」

「そ、そうか……ありがとな」

「どうして感謝してるんですか!! バスを降りたら速攻で学院と警察に連絡しますから覚悟しておいてください」

「おぉ~! 梨子ちゃんが頼もしい! ということなので、おとなしくしてくださいね痴漢魔さん」

「いや待て、最低なあだ名付けんな」

「正真正銘の事実じゃないですか……」

 

 

 グレー髪の子にジト目で睨まれ、俺は背中を丸くして萎縮する。ぐぅの音も出ない正論に、取って付けた反論や抗議の言葉も出ない。もうこれで人生が終了してしまうのかと躍起となって諦めそうになるが、東京で待つ恋人たちのためにもこんなところで捕まるわけにはいかない。

 

 俺は赤紫髪の子に手首を掴まれたまま、必死にこの状況の対処法を考え始めた。

 

 

 バスはもう間もなく、学院前に停車する。

 

 

 

 

 あっ、そう言えば1つ気になっていることが……。

 

 

「すぅ、すぅ……」

 

 

「この子まだ寝てるのかよ。意外と図太いんだな……」

「あっ、ホントだ……」

「千歌ちゃん、あなたって人は……」

 

 

 この時だけ、3人の気持ちが1つになった。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 この主人公、いつも人生終わりそうになってんな(n回目)

 今回のAqours編から読んでくださっている方は「なんだこの展開!?」と思うかもしれませんが、μ's編から読んでくださっている方なら「あぁ、いつものか」とむしろ安心できたかと(笑)
 そして秋葉さんもこのままサブキャラとしてですが続投です。彼女にも多大な応援を!

 そんな訳でまたグダグダと更新していくので、今後共よろしくお願いします!

 次回は活動報告に掲示したあらすじまで執筆予定。3話あたりでとりあえず全員集合させ……られるといいなぁ()


Twitter始めてみた。
https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

みかん少女、痴漢魔を脅迫する

 何気にこの『日常』シリーズを執筆し始めて2年になりました。今後共引き続きよろしくお願いします!


 Aqoursのメンバーが全員登場するまでは導入回なので、μ's編のようなドタバタ劇はもうしばしお待ちください。

 ちなみに原作名を『ラブライブ!サンシャイン!!』に変更しました。


 バスは何事もなく無事に浦の星女学院前に到着した。いっそのことエンストやパンクなどの軽い事故が起こり、それで痴漢騒動もお流れになって欲しかったのだが現実はそこまで甘くない。どうやら俺の人生も終着点に到着したみたいだ。

 

 結局、バスを降りるまでずっと赤紫色の髪の子に手首を掴まれ……いや握り締められていた。脈が止まりそうなくらいの力を込められていたので、通報される以前に命が尽きるって意味で人生が終了しそうだったぞ。しかし傍から見たら女の子が男と手を繋いでいる光景に見えなくもなかったから、バスを降りる時のこの子はかなり戸惑っていた。その表情が地味に可愛かったのでそれを眼福として、そして自分への冥土の土産として受け取っておこう。

 

 ちなみに、千歌ちゃんと呼ばれていたオレンジ髪の子はバスを降りても眠気でウトウトしていた。この状況になってもまだ自分が一番の被害者だと認識していないあたり、都会の電車には乗せられないな。あまりに鈍感すぎると車両内で痴漢され放題だぞ。

 

 赤紫髪の子に視線を戻すと、見下すような冷たい目で俺を睨んできた。この雰囲気、うっすらと海未の面影を感じる……。

 

 

「まずは職員室に突き出します。懺悔できるのは今だけですよ」

「どうせ懺悔しても許してくれないんだろ……?」

「その言い方、遠回しに自分が痴漢魔だって認めてますよね」

「ウジウジしたって状況は変わらねぇんだ。だったら毅然としてやるさ」

「どうしてそこまで余裕なんですか……。もしかして、常習犯とか??」

「…………」

「沈黙は肯定ですよねこの不潔!!」

「不潔とか言うな!! 俺ほど自分の欲求に純粋な奴はいねぇって!!」

「その欲求が不潔なんですよ!!」

 

 

 出会ったばかりの美少女に痴漢魔やら不潔やら言われたら、男だったら誰でも傷つくんだぞ。そこのところこの子は分かってんのかなぁ。まぁ、俺が痴漢魔ってのはまさにその通りだから一切反論できねぇんだけどさ……。

 

 ちなみに俺たちの横では、グレー髪の子がオレンジ髪の子の眠気を覚まそうと身体を揺らしていた。

 

 

「千歌ちゃ~ん! そろそろ起きなよ~」

「うぅ~ん……曜ちゃん? おはよぉ~」

「はいおはよう。まだ眠い?」

「うん……」

「それじゃあ目が覚めるとっておきの話をしてあげるね」

「ん~……?」

 

 

 なんだか嫌な予感がする。いやそんなことはないと現実逃避しようとしても、たった1つの答えが頭の想像から消えることはない。遂に……遂にあの事実が露見してしまう!!

 

 

「千歌ちゃんはね、痴漢されたの。さっきのバスの中で……」

「ふぇ……? 今なんて……?」

「千歌ちゃんはね、痴漢されたの。さっきのバスの中で……」

「なぁ~んだそんなことか――――って、え゛ぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええっ!?!?」

 

 

 オレンジ髪の子が放った驚愕の叫びが響き渡り、俺たちの横を通る生徒たちが一斉にこちらを振り向く。これこそ俺の恐れていた事態だ。この子に俺の所業が伝わることは覚悟していたが、外で痴漢行為をバラされると当然この反応で注目を浴びるのは目に見えている。今日来るはずだった教育実習生だが、実は逆に教育指導が必要な奴だったと噂が流れてしまえば俺はもうこの土地で生きてはいけない。

 

 さっきから俺の想定する最悪の事態が次々と正夢かのように訪れている。このままでは一番危惧していたブタ箱行きの予想が現実になる日も近い……?

 

 しかし幸運なことに、周りの生徒たちは歩を進めて俺たちをスルーしていった。もしかしたらこの子が穂乃果のように騒いで叫ぶことなんて日常茶飯事で、もうみんなその日常に慣れているからかもしれない。理由はよく分からないが、とりあえず危機は1つ過ぎ去った。しかし最大の驚異である赤紫髪の子がまだ俺の手首を握り締めたままなのだが。そろそろ脈止まりそう……。

 

 

「犯人はこの人よ。この人が千歌ちゃんの身体を触ろうと、いや完全に触っていたんだから!!」

「お、おいっ!! そんな大声で暴露すんな!!」

「こ、この人が……」

「あ、あぁ。悪かったよ……」

「…………」

 

 

 な、なんだこの沈黙は!? てっきりこの子からも冷たく蔑んだゴミを見るような目で見られると思ったのに、それとは全く違う、むしろ逆で瞳に謎の輝きを浮かべていた。まるで憧れの人を見つけたかのような、そんな感じ。でも流石に初対面だし、多分俺の勝手な思い込みだろう。

 

 

「おい、どうした?」

「ふぇ!? い、いやなんでもないです!!」

 

 

 オレンジ髪の子――――千歌と呼ばれる子は自分の顔の前で両手を振る。少々赤面しているのが気になるが、そこまで痴漢されたことが恥ずかしかったのだろうか。でも普通に考えれば、見ず知らずの男に太ももやら胸やら触られたらそりゃあ恥ずかしいわ。

 

 

「う~ん……」

「千歌ちゃん? どうしたの?」

「私思うんだけど、この人がそこまで悪い人には見えないんだよね」

「えっ、本当にそう思ってくれる!?」

「あなたは黙ってください! 千歌ちゃん、どうしてそう思うの?」

「いやぁなんとなく! なんとなく私の勘!!」

「「はぁ………」」

「梨子ちゃん!? 曜ちゃん!? どうしてため息つくの!?」

 

 

 この一連のやり取りで分かったことがある。この千歌って子、その場の思いつきで動く衝動的なタイプだな。でもそういった感覚だけで行動するタイプに限って、問題解決能力に長けてたり周りの統率を取れたりするんだよな。身近な例として穂乃果がいるが、この千歌って子からはまさに穂乃果と同じような雰囲気が感じ取れた。

 

 彼女の性格批評はひとまずここまでにして、今は最悪な状況を切り抜けるチャンスができたことを喜ぶべきだ。痴漢された本人が何故か俺に好意的だから、示談に持ち込めばお咎めなしで釈放される可能性がある。もちろん梨子ちゃんと呼ばれた子と曜ちゃんと呼ばれた子は反論派だろうから、この2人をどう丸め込むか作戦を練っておかないと。

 

 

「この人は千歌ちゃんの身体を触ったのよ? 男性は獣って言うし、身体を堪能しながら千歌ちゃんのあられもない姿を妄想していたのかも!!」

「落ち着いて梨子ちゃん。私その時ぐっすり寝てたから不快な思いはしてないし、別にいいかなぁって思ってるんだけど……」

「えっ、許しちゃうの!? よ、曜ちゃんはどう?」

「私!? 私は実際にその人が千歌ちゃんに手を出したところを見たわけじゃないから、なんとも言えないよ。梨子ちゃんもチラッと横目で見ただけなんでしょ? だったら本当にその人が手を出したって分からないんじゃないかな?」

「それはそうだけど……」

 

 

 おっ、急に流れが俺の方へと向いてきたぞ!! これは……これはもしかすると無実と偽ってこの場を切り抜けられるかも!? いやぁやっぱり諦めないものだねぇ~。やっぱりチャンスは待ってみるもんだよな、うんうん。

 

 だが、俺の心の中では安心感に混じって若干の怒りが生まれていた。せっかく俺が痴漢してやったのにも関わらず、羞恥に悶える姿も見せず笑顔で許してくれることに、今まで幾度となく女の子を昇天させてきた俺のプライドを傷付けられたような気がしたからだ。そんな薄汚れたプライドを捨ててこの子たちの会話に身を任せていれば穏便に事が運ぶ状況なのに、俺は無性にこの子たちの会話に口を挟みたくなる。人生が転落してもいいのか、と己の心に訴え掛けるが、やはり恋人12人を手玉に取ってきた男としてこの展開だけは見過ごせない。

 

 

「私もウトウトして身体が揺れてたから、たまたまこの人にぶつかっちゃっただけかも。ほら、あのバスの後部座席って席と席の間が全然空いてないでしょ?」

「う~ん、そうなのかな……? 私の見間違い?」

「断定はできないけど、決め付けるのも良くないと思うよ」

 

 

 許せ、俺! 男はプライドを失ったら死ぬんだ!! 俺はまだ死にたくねぇ!!

 

 

「違うな、全部俺が悪いんだ。君に手を出したのは……俺だよ」

 

 

「「「へ……?」」」

 

 

 3人から素っ頓狂な声が上がる。そんな反応をしてしまうのも仕方がない。だってついさっきまで全力で否定していた奴が突然自分がやったと自首したんだから。しかも焦りなどなく堂々と。傍から見たらこんな意味不明な行動、頭がおかしい奴としか思われないだろうが、俺としては自分のプライドを守るためにやったことだから後悔なんてしていない。むしろ俺が睡眠中の君を気持ちよくしてやったと、自らのテクニックを自慢したいくらいだ。

 

 

「えっ、あなたが……?」

「あぁ、さっきは嘘をついて悪かったな。本当は千歌って子と曜って子の話に便乗してこのまま退散するつもりだったんだが、3人がこのまま真実を知らずにモヤモヤすることを考えたら思わず口を挟んじまった」

 

 

 本当は自分のプライド保護のためなのだが、ここは便宜上で対応しておく。一応言ったことに嘘偽りはなく、もしこの場を嘘で切り抜けたとしても、3人は痴漢騒動に心残りが残ったままこの先の日常を過ごすことになるだろう。特に一番初めに俺を庇ってくれた千歌って子に対して申し訳ないと思ったんだ。だからプライドを守るのはもちろん、真実もここで白黒ハッキリと付けておいた方がいい。

 

 

「それでは認めるんですね? 故意に千歌ちゃんの身体を触ったと」

「だからそう言ってるだろ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

「そうですか。じゃあ一緒に職員室へ――――」

「ちょっと待って梨子ちゃん!!」

「ち、千歌ちゃん……?」

「ちょっとぉ~私に考えがあるんですけどぉ~。聞いてくれますかぁ~??」

「お、おぅ……」

 

 

 なんだなんだ!? 突然会話に割り込んできたと思ったら、今度はあざとい口調で俺の元へと歩み寄ってきた。そしてその顔は一目で分かるくらいのニヤリとした悪い表情をしている。さっきまでは俺を庇ってくれてまるで天使みたいだったのに、いつ小悪魔に転生したのか……。

 

 

「お願いというのは――――私たちの顧問になってください!」

「顧問!? 部活でもやってんのか……?」

「私たちAqoursの顧問ですよ! あっ、もしかして知りません? ここら辺だったら有名だと思ったんだけどなぁ」

「残念ながら俺、この土地の人間じゃないんだ」

「そうだったんですか。ならば教えてあげましょう! 私も梨子ちゃんも曜ちゃんも、スクールアイドルをやっているんです!」

「スクールアイドルだと……」

 

 

 いきなり顧問になれと言われたことも驚いたが、何より目の前の子たちがスクールアイドルだってことの衝撃の方が大きかった。μ'sとA-RISEの活躍で全国各地にスクールアイドルが爆発的に増えたと聞いていたので今更そのような子たちに遭遇するのは珍しくもないのだが、痴漢相手がスクールアイドルというのは運命的すぎる。俺ってつくづくスクールアイドルの女の子たちと縁があるらしい。

 

 

「ちょっと千歌ちゃん!? 顧問だなんて……この人痴漢魔なのよ!?」

「だからその呼び名、そろそろやめて欲しいんだが……」

「大丈夫だよ梨子ちゃん。私たちが痴漢のことを黙っている代わりに、この人に顧問をやってもらうように脅し――お願いしてるんだから」

「おい、今さっきはっきりと脅しって言ったよな!?」

「別にいいですよね? ていうか、顧問になってくれないとバラしますから色々と♪」

 

 

 コイツ……咄嗟にそこまでの策を張り巡らせるなんて、将来は詐欺師として活躍できそうだ。

 それにしても、結局逃げ場がなくなったのは痴漢を暴露する前と同じか。正直に言えば、スクールアイドルの顧問にはかなり自信がある。なんたってあのμ'sと2年間一緒に付き合ってきたくらいだから。しかしまだこの子たちのことは名前くらいしか知らないので、流れのまま顧問になるのはどうなのかなぁ。もちろん拒否権など一切ないお願い(脅し)なので、断ることすらできないのだが……。

 

 

「私も別にいいと思うな」

「曜ちゃんまで!?」

「だって顧問がいないせいで今まで何かと活動が窮屈だったでしょ? 東京に遠征へ行く時も鞠莉さんが手を回してくれなかったら行けなかったし。学院に顧問になってくれるほど手が空いてる先生もいないからね」

「それはそうだけど……」

「ここはほら、利害の一致だよ。私たちは顧問が手に入るけど、不本意ながら痴漢魔さんと活動を共にする。痴漢魔さんは痴漢をバラされない代わりに私たちの顧問になる。ちょうどいい取引だと思うけど」

 

 

 あっ、そこ不本意って言っちゃうんだ……。それに大人を上手く言いくるめて自分の土俵へ引きずり込むこのJKたち……怖い!! 完全に自分が利用されようとしているのは分かっているけれども、通報という最強にして最凶の切り札を持っている彼女たちには泣く泣く従わざるを得ないのが悔しい。

 それにしてもこんな犯罪者を顧問にするなんて、今まで相当困ってたんだな。それとも俺に脅しを吹っ掛けて遊んでいるだけなのか……。彼女たちが秋葉のような悪女だとは思いたくないぞ。

 

 

「どうですか? 顧問になってくれますぅ?」

「どうせ拒否権なんてないんだろ。だったら顧問にでも何でもなってやるよ」

「本当ですか!? ありがとうございます♪」

「これでAqoursの活動範囲も広がるね!」

「こうなることくらい分かってたくせに、白々しいなお前ら……」

 

 

 こうしてなし崩し的に顧問になってしまった。まだ教師として何も仕事をしてないっていうのに……。

 あれ? そういやこの子たち知ってんのかな……?

 

 

「千歌ちゃんも曜ちゃんも……。はぁ、仕方ありませんが私からもよろしくお願いします。ですがいくら顧問と言っても外部の方なんですから、あまり学院には近付かないでくださいね」

「なるほど、やっぱり知らなったのか。そりゃあそうだよな」

「どういうことですか?」

「教育実習生なんだよ俺。君たちの学院のな」

 

 

 その瞬間、3人は揃って目を丸くする。

 

 

「「「え゛ぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?」」」

 

 

 女の子が出してはいけない少々野太い声色の驚嘆が響いた。まあ驚くのも無理はないだろう。さっきまで見ず知らずの痴漢魔でしかなかった変態男が、急に生徒と教師という近しい間柄になったんだから。でも声が裏返るほど驚くって、俺ってそこまで教師の風格がないのか……?

 

 

「外部の人より教師が顧問になった方が色々と融通は効くだろ。やっぱ痴漢魔が教師や顧問だと不安か?」

「いえいえ! 教師の人が顧問になってくれた方が私たちも都合がいいですし♪」

「顧問をこき使う気満々な言い方だなオイ……」

「スクールアイドルである私の身体を触ったんです! それだけたぁ~っぷりと働いてもらいますから♪」

「こっちが下手に出ているからってコイツ……」

 

 

 千歌って子は自分の身体を触った男を顧問にするという寛容な心を持っているが、生意気な態度でこちらをズルズルと自分のペースに引きずり込む陰険さも持ち合わせているようだ。俺もμ'sの顧問だった秋葉みたいにもう少し貫禄があればよかったのだが、好感度が底辺のスタートを切ってしまった以上ここから頑張って信用を取り戻していくしかなさそうだ。

 

 

「あっ、そろそろ行かなきゃ朝礼に遅刻しちゃうよ!」

「ホントだ! それじゃあ私たちの顧問の件、よろしくお願いします! それともし私たちの授業を担当することがあれば、成績のほどを少しオマケして欲しいなぁ……とか!」

「残念ながらそれは君との契約外だ。もし授業で会うことがあったら、その時は厳しく指導してやるからそう思え」

「うぅ、鬼ぃ……」

 

 

 いくら痴漢をしたとは言えここまで散々脅されてコケにされてきたんだ、授業の場でくらい報復させてくれないと俺の気が済まない。彼女の言動から察するに、成績は(かんば)しくなさそうだから仕返しが捗りそうだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 学院に到着して職員室に挨拶へ行った後、教育実習期間に俺を指導をしてもらえる先生と共に廊下を歩いていた。

 

 

「まさか神崎君と一緒に教師生活を送るなんて、4年前までは思ってもいませんでしたよ」

「あの頃はただやんちゃ坊主でしたから俺。だから先輩としてよろしくお願いしますよ、山内先生」

 

 

 山内奈々子先生。俺が高校3年生だった時の副担任だ。1年前に音ノ木坂からこの浦の星に異動となり、現在は2年生のクラスの担任となっている。のんびりとした性格であり、生徒たちと同年代にしか見えない童顔と小柄な体格は4年経った今でも相変わらずだ。穏やかすぎて頼りなさそうな雰囲気の先生なのだが、こうして同じ教師の立場に並んでみるとこれほど優しくて頼りがいのある先生はいない。俺が教育実習生としてこの学院に来る手続きをする時も、先生にかなり助けてもらった。

 

 本来教育実習は自分の母校に行くのが普通なのだが、俺以外にも音ノ木坂で教育実習する人がいたのと、ここに山内先生がいると知った自分の希望により俺はここに配属されたのだ。それに音ノ木坂には俺のトラウマであるあの先生がいるので避けたかったってのが一番の理由なんだけどね……。

 

 

「神崎君が主に担当してもらうのは、私が受け持つ2年1組です。みんな良い子ですから、神崎君の社交性があればすぐに打ち解けられると思いますよ」

「そうですかねぇ。女子高だからテンション上がってたんですけど、いざ生徒たちを顔を合わせるとなるとちょっぴり気が引き締まります」

「あはは、神崎君でも緊張するんですね」

「そりゃあ女の子相手だし、その人の印象は顔を合わせて3秒で決まるとも言いますから」

「相手をそこまで意識するあたり、高校生から成長したってことですよ」

 

 

 いつもの俺なら女の子相手でもここまで畏まることはなく、むしろ自分の魅力をこれでもかってくらい曝け出すのだが、さっきの痴漢騒動のせいで女の子を妙に警戒してしまっている。高校時代の俺だったらそんなことすら気にせずもっとハジけられたんだけどなぁ。先生の言う通り、そこのところは成長したと思って納得しておくのがいいのか。

 

 そして心の中で項垂(うなだ)れている間に、先生の足がとある教室の前で止まった。

 

「ここが2年1組の教室です。私が先に入って朝礼をしますので、神崎君は私に呼ばれたら中へ入ってきてください」

「はい、分かりました」

 

 

 やべぇ、これまで生きていた中の緊張とは比べ物にならないくらい心臓がざわついているんだが……。一度にたくさんの女の子たちから好意的に見られるようにするには、どのような挨拶をしたらいいのだろうか? 普通に優男を気取る――のは俺のキャラじゃないし、ナルシストっぽく振る舞う――のは逆に引かれそう。教室の中から先生や生徒たちの挨拶の声が廊下に聞こえてくる。もう時間がないぞ、どうすりゃいんだ……??

 

 そうだ、ここは東京とは違って田舎だから、元気よくフレンドリーな雰囲気を出しておけば人当たりの良い田舎の女の子には受けがいいかもしれない。よしっ、それでいこう!

 

 

「それでは3週間だけですが、皆さんの副担任を努めます教育実習の先生をお呼びします。それでは神崎先生、どうぞ!」

 

 

 遂にこの時が来てしまったか……。変に気取ろうとするなよ俺、いつも通りに行けば大丈夫だ。

 そして教室の扉を開け、教卓へと歩を進める。教卓に着くまでは生徒たちの方を見ないように意識していたのだが、そこで何故か不自然な視線を感じた。ほとんどが珍しいものを見るような視線なのに対し、いくつかの視線に驚き混じりで凝視されているような気がする。

 

 その不可解な視線が気になって、思わず生徒たちの方へ目を向けてしまう。

 すると、そこには見覚えのあるオレンジ髪と赤紫髪、グレー髪の少女たちがまたしても目を丸くしてこちらを見つめていた。まさか、俺が副担任となるクラスって……!!

 

 

「お、お前ら……」

「さっきの先生……だよね?」

「あなたが私たちの……」

「なんか凄い……奇跡だ」

 

 

 やはり俺は、一度狙った女の子たちにとことん縁があるらしい。

 そして、ここから俺の新たなる日常が始まろうとしていた。

 

 

 

 

To Be Continued……




 痴漢は犯罪なので、経験がある人は是非自首を勧めます。では私もそろそろ警察へ行くかな……。


 次回はAqoursのメンバーが全員登場予定。早急に導入回を終わらせていつもの日常を執筆したいので、投稿ペース早めになるかも。


新たに☆10評価をくださった方(μ's編終盤~Aqours編1話まで)

スプリングスノーさん、豆打サロさん、fumiyan2000さん、nekomimi0304さん、リュウツさん、からしぃさん、ふぁいやー☆さん、明日明後日明明後日さん、シュワシュワバンブーさん、キース・シルバーさん、ユッキー@@さん、蘭陵王メビさん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラッキースケベはおてのもの

 今回はAqoursの1年生組のターン! 前回の後書きで全員集合と予告しましたが、案の定無理でした(笑)


「あぁ~つっかれたぁ~」

「あはは……凄い人気でしたね神崎君。お疲れ様です」

 

 

 朝礼という名の質問攻めタイムが終了し、俺と山内先生は職員室へと向かっていた。

 結果的に、俺の自己紹介は想像以上に受けが良かった。まさか女の子たちからあそこまで黄色い歓声が上がるとは思っていなかったので、こちらからみんなの心を掴もうと攻めたつもりが逆に追い詰められて驚いたぞ……。やはりここが田舎だからか、外部からカッコいい男が来るのは相当珍しいのかもしれない。そのせいで怒涛の質問攻めに合ったので、まるで転校生になった気分だった。

 

 

「女の子たちに人気なのはいいけど、毎回あそこまで迫ってこられたら身が持たねぇ……」

「そもそもこの学院に男性教師自体がいませんから、突然若い男性が教育実習に来てみんなテンションが上がっているのかと」

「えっ!? 男って俺だけなんですか!?」

「はい。そういえば言っていなかったような……」

「しっかりしてくださいよ……。まぁ、それはそれで色々と捗りそうですけど」

「捗る?」

「いえ、こっちの話です」

 

 

 生徒も教師も女子ばかりって、それどんなハーレム? まさか実際にラノベやエロゲの世界観を味わえるとは……。ピンク色の妄想がどんどん湧き上がってきやがる。特に女子高の生徒は貞操概念が通常の女子よりも低いらしいから、もしかしたら生徒と教師で禁断の○○(恋愛とか性的行為とか)的なものが実現できるかもしれない。それに俺自身が教育実習生なので、大人のお姉さん教師からご指導(意味深)ってシチュも悪くない。

 

 

「神崎君? 顔が犯罪者ですよ……」

「先生までそんなことを!? これでも生徒を教育する立場なんですから、変なことはしませんって」

「くれぐれも生徒に手を出して、通報されないように気を付けてくださいね」

「は、はい……」

 

 

 残念もうお手遅れだ! もうバスの中でお宅の生徒さんに手を出しちゃいました!! 加えて生徒と教師の禁断のあれこれを妄想していたことすらもバレてるし……。半年間とはいえ俺の副担任を努めていただけのことはある。俺の性格は全て認識済みってわけね。

 

 これからの教師生活が危ぶまれる中、後ろから廊下を走る足音が聞こえてきた。明らかに校則破りなのだが、ここは親しみのある教師らしく優しく注意しよう。と思った矢先、その子の声を聞いて背中がピンと張ってしまう。

 

 

「お~い! 神崎せんせ~!」

「う゛っ! き、君は確か……」

「千歌です! 高海千歌!」

 

 

 もうこの子の声を聞くだけでも戦慄を感じるようになってしまった。笑顔で自己紹介してくれるのはいいのだが、その笑顔の裏の黒さを伺ってしまうほどには警戒をしてしまう。忘れてないからな、さっき笑顔で脅しを掛けてきたこと。

 

 

「山内先生。私、神崎先生とものすご~く大切なお話があるので、ちょっとだけ借りてもいいですかぁ?」

「お前人をモノみたいに……」

「いいですよ。できれば学院内も案内してあげてください」

「ありがとうございます! ほら神崎先生、こっちです!」

「お、おい引っ張るなって!!」

「早速生徒さんと仲良くなって、流石神崎君ですね♪」

 

 

 俺は高海千歌に手首を掴まれ、半ば引きずられる形で山内先生と引き剥がされてしまった。2人きりでの話し合いってことは、これから痴漢騒動で交わした契約通り今から散々な命令を下されるのだろう。教育実習初日なのに生徒の尻に敷かれるなんて、俺って可愛い女の子に出会う運以外は尽くツイてねぇなぁ……。

 

 あと、もうそろそろ手首の脈が止まりそうなので握り締めるのやめてください!! 今朝からずっと握られていたから青あざになってるの!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 ようやく手首の圧迫から解放され、俺と高海は並んで廊下を歩く。どこへ向かうのかは知らないが、今の俺はどんな理不尽な命令が飛んでくるのか身構えるだけで精一杯だった。

 

 

「で? 何の用だ?」

「どうしてそんなにぶっきらぼうなんですか……」

「どうせさっきの痴漢をいいことにこき使おうとしてるんだろ? 俺も暇じゃないんだから早く言ってくれ。購買にパシリに行かせるとか、宿題手伝えとか」

「なんか私が悪いみたいな言い方なんですけど、私の身体を触った先生が悪いんですよね!? それにそんな子供みたいな仕返ししませんって」

「じゃあもっとハードな仕返しをするってか。言っておくけど、いくら脅迫しても金だけは貸さねぇからな」

「私、そんなヤクザみたいに見えます……?」

 

 

 数十分前に口角を上げて俺を脅してきた奴が何言ってんだか。しかしよくよく考えてみれば、俺は高海たちの顧問になるとは言ったが命令に従う奴隷になると言った覚えはない。痴漢を黙っていてくれる代わりに顧問になるのが契約なので、命令をされる筋合いなんてないよな……? それでも痴漢通報という切り札を向こうが持っている以上、こちらは素直に命令に従うしかないのが現状だけど……。

 

 

「安心してください。脅しを掛けようと思ったわけじゃないですから」

「ホントに……?」

「どれだけ疑い深いんですか! ただAqoursのメンバーに会わせたいだけです!」

 

 

 俺の人生は女の子と縁がありすぎて、女性の素晴らしい面はもちろんだがあくどい面もかなり熟知している。女性の優しさと甘い誘惑には気を付けろ。そんな奴に限って裏で何を考えているのか分からんぞ。でも高海は……単純そうだからその心配もいらないか。

 

 

「そっか。それならそうと早く言ってくれれば俺もお前も騒がずに済んだのに」

「先生の想像が飛躍しすぎなんですよ……」

「悪かったよ。それで? 他のメンバーってのはどんな奴らなんだ?」

「みんな個性的で楽しい人たちですよ! あっ、噂をすればあそこに」

「ん……?」

 

 

「ルビィ!! 一度でいいからこの衣装を来て、私の眷属になってお願い!!」

「イヤだよそんな真っ黒な衣装!! それにその手に持ってるカメラはなに!?」

「っていうか、善子ちゃんまたそんなもの持ってきてるずら……?」

 

 

 高海が指を刺した方を見てみると、そこは黒いマントを羽織った怪しい女がツインテのロリっ子を襲っている事案の現場だった。その側で茶髪のロリ巨乳ちゃんが呆れ顔で2人を眺めている。どこへ行っても常識外れの奇抜な奴はいるもので、格好と言動を見ればあの子が中二病を患っていることなどすぐに分かった。そしてそんな奴に関わると大抵ロクなことがないのは経験上明らかであるため、できるならスルーしたいところだ。

 

 

「この堕天使コスプレコンテストに応募するには2人以上の被写体が必要なのよ!! だからお願いルビィ、私の欲望のために黒く染まりなさい!! 一緒にこの人間界を漆黒の闇に染めましょう!!」

「お願いしてるのか命令してるのかどっちなのぉ!?」

「善子ちゃん、ルビィちゃん。誰かが来る前に抱き合うのやめた方が……あっ」

 

「「…………」」

 

 

 スルーしようと思ったら向こうから気付きやがった。赤髪ツインテのロリっ子が黒マントの堕天使ちゃんに羽交い締めにされ、どう見ても抱き合っているようにしか見えないこの状況。驚いているのは俺たちよりもその2人の方だろう。しかも見知らぬ男である俺に見られたとなれば、今の2人の顔のように真っ赤に沸騰するのも分かる。

 

 

「あっ、こ、これは違うんです!! ルビィは別に女の子同士に興味があるとかそんなのじゃないですから!!」

「いや誰も聞いてねぇよ……」

 

 

 もしかしてこの子、どこぞの淫乱鳥さんと同じく脳内ピンク色なのか?? 特に卑猥な発言をしたわけではないが、咄嗟の言い訳に百合要素を持ち出した辺り若干染まっているような気がしなくもない。見た目だけ見ればまだ中学生にしか見えないのに、やはり最近の女の子の性知識は豊富過ぎる。近い未来、もう低年齢女子のビッチ化も待ったなしだな……。

 

 

「私はただルビィにマントと翼と髪飾りを付けようとしただけなんだから!! 変な勘違いしないで!!」

「いやするだろ……。むしろそれを勘違いすんなって言う方が無理あるって」

「一応善子ちゃんは不審者ではないので、それだけ認識してもらえればいいずら」

「ちょっと花丸!! 一応って何よ一応って!! 私はどこからどう見ても()()の女子高校生よ()()の!!」

 

 

 これ見よがしのブーメラン発言にもうツッコミを入れる気も起きない。どこをどう見たら廊下でマントを羽織って女の子を襲っている奴を普通と解釈できるのだろうか? この土地に来てから出会う女の子のキャラが全員色濃すぎて、俺の中での普通の定義が曖昧になってきている。高海が指を指していた子たちだからこの子たちもAqoursのメンバーなんだろうが、スクールアイドルをしてる子たちって変人ばっかだよな……。

 

 

「そういえばえぇと、あなたは誰ずら……ですか?」

「えっ、さっきまで会話してたのに今更かよ!? まあ今日来たばかりだから仕方ねぇけど」

「この人は教育実習に来た神崎零先生だよ。実習期間だけ私たちのクラスの副担任になってくれたんだ」

「あっ、そういえば若くてイケメンな男性が学院に来たから、まさか誰かのお兄さんじゃないかとか、みんなで見に行ってみようとかマルのクラスでも話題になってたような」

「いかにも女子高らしい想像だなオイ……」

 

 

 美化された噂だけが1人歩きしているようで、これも男性が一切いないお嬢様学校ならではだ。でも噂は所詮噂だったみたいで、結局この学院に来てから高海のクラスの女子以外誰にも言い寄られていない。もっとカッコいい俺を見てチヤホヤしてくれてもいいんだぞ?

 

 

「そうだ重要なことを言い忘れてた! なんとっ、この神崎先生が私たちAqoursの顧問になってくれるのです!!」

「「「こ、顧問!?」」」

「もう驚かれるの飽きてきた……」

 

 

 バスを降りて高海たちと正式に初対面してからというもの、ここまで何度驚かれたことか。やはり田舎だと目新しいものがないから、このような環境の変化には人一倍ビックリしてしまうのだろう。ちなみに以前から何度も田舎田舎と言っているが、別に馬鹿にしているわけではないので誤解しないでくれ。

 

 

「あまり話し込んじゃうと1限目の授業に間に合わなくなっちゃうから、また放課後に詳しく話すね! それじゃあ!」

「お、おいっ!! だから手首握るなマジで脈止まるからァアあああああああああああああ!!」

 

 

 ここまで執拗に手首を攻めてくるとは、やっぱり痴漢のこと根に持ってんじゃねぇのか……?

 結局俺は3人に自己紹介する間もなく、そして向こうの名前も知ることなく高海に連れ去られてしまった。さっきからAqoursのメンバーに大した印象を与えられていないが大丈夫かな……。

 

 

 ――――と、この場を立ち去る流れだったから完全に気を抜いていた。

 

 不意に俺の足が地面ではなくて布のような物を踏む。どうして廊下にこんなものが落ちているのかと疑問だったが、自称堕天使ちゃんの背中から伸びる黒いマントを見て全てを察した。

 そしてここからはもちろんお決まりのように、気付いた頃には時すでに遅し。床に垂れるマントに足を取られた俺は、背中から廊下に身体が倒れそうになる。このままだと後頭部挫傷の危険性があったので、なんとか身体を180度回転させて手で受身を取ろうとした。

 

 

 しかし、その行動が間違いだってことに気付いたのはその直後。1年生の3人が思ったより俺の近くにいたのだ。このままではこの勢いを保った俺の身体が3人に倒れ込んでしまう。そうなればどうなるかはもうお察しのこと、今までの経験からよからぬ事態になるのは目に見えている。でももうこの勢いは止められようにも止められない。俺はまた女の子たちから冷たい目で見られる未来を甘んじて受け入れ、倒れこむ身体に身を任せた。

 

 

「ちょっと!! こっちへ来ないで――――きゃっ!!」

「よ、善子ちゃんぶつかる!!」

「ピギィ!!」

 

 

 俺は善子と呼ばれた堕天使ちゃんに激突し、そしてその子が他の子を巻き込んで玉突き事故のように廊下へと倒れこむ。倒れた衝撃は偶然なのか必然なのか、いつも通り女の子たちを下敷きにしているおかげであまり感じなかった。そんなことよりも、案の定俺の右手が柔らかいものに添えられている。

 

 こうなってはどう足掻いてもセクハラに対する罵声を浴びるのは確定なので、もういっそのこと諦めて揉んでみることにしよう。どう考えてもこの感触は――――うん、女の子の胸だ。

 

 

「ひゃっ! あ、アンタどこ触って……んっ!!」

 

 

 どうやら俺の右手が添えてある胸は堕天使ちゃんのモノだったようだ。1年生にしてはそこそこ手触りも良く、今後の発展と成長に期待できる大きさである。ちょっと触っただけなのにここまで反応するとは感度はかなりいいようだ。もしかしたら、夜1人で自分磨きをしているのかもしれない。試しに5本の指で力強く胸を握ってみると、その子から堕天使とは思えない可愛い嬌声が上がった。

 

 

「ん、あぁっ!! こ、このやめなさいって――――はぁ、ん……あっ!!」

 

 

 女の子の甘い喘ぎ声を聞くとだな、俺は自らの暴走を止められなくなっちまうんだ。堕天使を性的な意味で堕とすことくらい朝飯前。いくら中二病を気取ったって、おっぱいを触ってしまえば普通の女の子に成り下がってしまう。この感じ方を見れば一目瞭然、自分が堕天使ではなくて雌だってことを感覚として身体に刻み込んでやったぞ。

 

 それにしても、初めて会う子にまたしてもセクハラをしてしまった……。だがもう既に前科持ちなんだ、今更セクハラを積み重ねようが刑罰は変わらない。だったらいっそのこと開き直って楽しむのが吉だろう。

 

 

 そんなことを考えていると、俺の左手が何やら暖かいものを掴んでいることに気がついた。右手は女の子のおっぱいなのに対し、左手は非常に肌触りの良い布切れのようなモノだ。俺はその正体を知るために、堕天使ちゃんの方に向けていた顔を反転させる。

 すると、左手には逆三角形の形をした真っ白な布切れが握られていた。ハンカチにしてはかなりほかほかで生暖かく、そもそも形状からして四角形ではないので違う。少しその布を広げてみると腕が通りそうな穴が2つ空いていて、まるで女の子の下着のような――――って、これまさにショーツじゃん!! 倒れた時の拍子で脱がしてしまったのか!? ってことは、誰かが今穿いてないってことに……。

 

 

「うっ、うぅ……あ、あのぉ……」

 

 

 少し顔を上げてみると、そこには赤い髪をしたツインテロリっ子が目に涙を溜めてこちらを見つめていた。その幼気な表情に一瞬で心をガッチリと掴まれ思わず抱きしめたくなる衝動に駆られるが、この子のスカートの中を想像するとそんな母性のある愛情は速攻で消え去る。恐らく俺の持っているこのショーツこそ、この子がさっきまで穿いていたものなのだろう。でも待てよ、この温もりはこの子のお股、つまり女の子にとって大切なあそこの温もりなのか……。

 

 

「あ、あの……スースーするので、パンツ返してください……」

 

 

 あまりの羞恥心にツインテロリっ子は前髪で表情を隠しながら、震える右手を差し出してショーツの返還を要求する。ちなみにスカートで肝心な中身が見えないのは残念だ。まあ割れ目が見えたら見えたで俺もどう反応したらいいのか困るのだが……。

 

 この左手に握り締められている白い布切れは、さっきまでこのロリっ子ちゃんが股を擦り付けていたものだ。そう考えると、得体の知れない欲情がふつふつと煮えたぎってくる。この歳で高校一年生のショーツに興奮するなんてただのロリコンなのだが、既に女子中学生と女子小学生に手を出している自分をもうロリコンだって認めている。だから許されるだろう。ていうか許せ。

 

 しかしこのロリっ子ちゃんは廊下に女の子座りでペタンと座り込んでいるが、大切な部分は冷たくないのだろうか。俺はこれほどまで廊下になりたいと思ったことはない。

 

 

 そしてここで俺は、右手でも左手でもない第三の感触に気が付いた。

 右手におっぱい、左手にショーツのダブルパンチの衝撃が大きくて今まで気付かなかったのだが、俺の顔が弾力抜群である2つのおまんじゅうのようなもので挟まれていた。正体は大体勘づいている。だけど、1年生がここまで大きなモノを持っているとは思っていなかったのだ。

 

 おまんじゅうから顔を少し上げてみる。すると想像以上の双丘が目の前に映り、俺が顔を埋めていた場所は綺麗な谷間となっていた。そう、明らかにこれも――――女の子の乳房だ。

 

 

「せ、せんせぇ……あまり動かれるとくすぐったいずら……」

 

 

 この茶髪の子、こんなに身体が小さいくせになんて胸を持ってやがる……!! 一目見た時から立派なおっぱいだと思っていたのだが、こうして顔を埋めてみると見事に顔ズリできる大きさだってことが身に味わいながら実感できる。まるで枕のような心地よさに、このまま胸の中で眠ってしまいそうだ。

 

 

「ひゃんっ! そ、そんな顔を動かされると……!!」

 

 

 少しでも顔を動かすと、制服の上からなのにも関わらず生で触っているかのように双丘の形が自在に変化する。制服越しでもこのボリュームと圧迫感を味わえるんだ、生で弄ったらさぞとろけるような肌触りなのだろう。この子の身体が小さいのも相まってか、胸の大きさが無駄に際立って見える。その扇情的な美形に、俺は性的欲求を駆り立てられそうだ。

 

 右手には堕天使ちゃんのおっぱい、左手にはロリっ子のショーツ、そして顔面がロリ巨乳ちゃんの双丘に挟まれているこの図。1人の男が女の子3人を押し倒し、容赦なく胸を揉みショーツの温もりを感じる。教師の立場としてすぐに生徒の上から立ち上がらないといけないのだが、俺の欲望はこの豪華女体盛りセットに夢中で、立ち上がるどころか手や顔を動かしてこのパラダイスを堪能しようとする。

 ラッキースケベなんて今まで幾度となく体験してきたから今更驚かなかったのだが、ここまで両手に花のハーレムな状況になるのはかなり珍しい。こうしてある程度冷静でいられるのも不思議なくらいだ。

 

 

 しかしもちろん、そんな夢のような状況はいつまでも続くはずもなく――――

 

 

「せ~んせ♪」

「ぐっ、あ゛ぁ!!」

 

 

 高海は女の子を下敷きにうつ伏せになっていた俺の首根っこを掴むと、勢いよく3人から引き剥がす。そして痴漢を告白した直後と同様のブラックスマイルを浮かべながら、俺の眼前に顔を一気に近付けてきた。

 

 

「教育実習の間、先生には私たちのためにしっかり働いてもらいますから♪ 呼ばれたらすぐに駆けつけるくらいの誠意は見せてくださいね♪」

「そ、そんな奴隷みたいな……」

「い ・ い ・ で ・ す ・ ね?」

「はい……」

 

 

 女の子の身体を好き勝手に触れる代わりに女の子の奴隷となった俺、神崎零。こうなることは予想できてたけど、やはり目の前に可愛い女の子がいるなら手を出したくなるものなんだ。

 

 まあどちらにせよ、またしてもAqoursのメンバーに初対面から悪印象を与えてしまったのは言うまでもない。ちゃんと顧問をやっていけるのか不安になってきたぞ……。

 

 

 

 

To Be Continued……




 いやぁやっぱりこの小説でラッキースケベ展開が訪れると安心しちゃいますね(笑) 王道といえば王道なのですが、今回は3人まとめてだったのでμ's編のラッキースケベよりも大幅にパワーアップしています!

 次回は3年生組が登場予定です。そして次回でAqoursとの邂逅編を終了して、μ's編のような短編にシフトしていきます。



新たに☆10評価をくださった、

ユーロ圏さん、宇迦さん、まっさんGさん、新城 カイトさん、中学生見習いさん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハーレムは拡大するもの

 今回は3年生組が登場します!
 そしてこれにてAqoursとの邂逅編は終わりです。


 俺はAqoursの1年生組である国木田花丸、津島善子、黒澤ルビィと別れた後、高海に3年生組がいる生徒会室へと連れてこられた。またどんな色物が現れるのかと若干気を張っていたのだが、生徒会室に入った瞬間、俺を襲ってきたのは怒声による鉄槌だった。

 

 

「全く、あなたは教育実習生なのですから、生徒の模範となる行動をしてもらわないと困ります!!」

「どうしていきなり怒られてんだ俺……」

 

 

 日本人形のような艶やかな黒髪ロングの女の子、黒澤ダイヤにいきなり上から怒声を浴びせられる。彼女の剣幕はかなりの威厳で、もうどちらが年上なのか、どちらが生徒で教師なのか分からなくなってきそうだ。釣り上がった目つきにトゲを突き刺すようなよく通る声。スクールアイドルとしては抜群の魅力なのだが、この雰囲気から伝わってくる威厳は過去に何度も下級生を震え上がらせたことだろう。相手は生徒だっていうのに、俺だって怖いもんこの子。

 

 

「まぁまぁダイヤ、先生も教育実習の1日目だから緊張してるんだよ。しかも周りが女性ばかりだから余計にね」

「それにあまりプリプリ怒ってるとシワが増えるよ。スクールアイドルなんだからもっとスマイルスマイル♪」

「果南さんも鞠莉さんも甘すぎます! 女子高だからこそ男性には節度を守ってもらわなければなりません」

「だから俺が何をしたっていうんだ……」

 

 

 何をしたと言われればバスの中で高海に手を出したり、さっき廊下で1年生たちにラッキースケベという名のセクハラをしたばかりだけど……。それを全て知っている高海はこちらにジト目を送っているが、一応痴漢のことは黙っていてくれるみたいだ。まあここでバラしたらこの堅物生徒会長が発狂して、彼女自身も対処に困るからだろう。

 

 

「Oh! また呟きが更新されたよ!」

「呟き……?」

「浦の星女学院の生徒同士の呟きを、リアルタイムで見られるSNSがあるんですよ。ほとんどの生徒が利用していて、学院の話題もよくここで共有されています」

「ここにほら、先生の話題があるでしょ? まだ先生が来て1時間も経ってないのに、この勢いは今まで見たことがないくらいハイペースね♪ ほら!」

「どれどれ……」

 

 

 小原鞠莉の見せてきたスマホの画面を覗き込むと、そこには生徒たちの呟きが今でもどんどんタイムラインに更新されていた。彼女の言う通り、生徒たちの話題は今日教育実習に来た俺の話で持ちきりだ。タイムライン上の会話を少し目で追っていくと――――

 

 

『【速報】神崎 零先生、イケメン!』

『男の先生って聞いて期待してたけど、思った以上にカッコよかったなぁ~♪』

『いいなぁみんな。私も早く見てみたい!!』

『どうして2年1組の副担任なんだろ。2組の副担任になってほしかったよぉおおお!!』

『教育実習の先生って、3年生のクラスにも来てくれるのでしょうか……』

『勉強苦手だからウチのクラスにも来てぇ~!!』

 

 

 おおっ、すっげなぁこれ! もう少しで授業が始まるのにこの呟きの勢いはどうかと思うが、ここまでベタ褒め&期待されているのは素直に嬉しい。高海たちのクラスの女子生徒たちも凄まじい興奮具合だったが、まさか学院全体が俺に対する熱気で包まれているとは……これは本当に学園ハーレムを築けるんじゃないか??

 

 

「別に普通に俺を歓迎する呟きばかりで、怒られる要素なんて1つもないと思うんだけど……」

「さっきから色々な噂が出回っているのですが、それでもまだ無実を証明できます?」

「噂……?」

「これです。さっきのタイムラインを少し進めるとこんな呟きがいくつか」

「何か見るの怖いんだが……」

 

 

 今度は松浦果南のスマホの画面を渋々覗かせてもらう。するとそこには先程までの歓迎ムードの勢いがそのままに、明らかに話題が飛躍した呟きが乱立していて俺は目を見張った。

 

 

『神崎先生ってかなりのヤり手なんだって!』

『やっぱりね。先生カッコイイから女性経験多そうだもん』

『私たちみたいな高校生でも相手にしてくれるかな??』

『歳の差は8歳……私は全然イケる!!』

『私も遂に春が来た!! 女子高だから一生出会いがないと思ってたからね!!』

『いいホテル知ってる人いない??』

 

 

「こ、これは……」

 

 

 この学院の女子たちは脳内お花畑ちゃんばかりかよ!? 外から男が1人来ただけで盛り上がりすぎだっつうの!! しかもさっきのタイムラインを見る限り、まだ俺を見たこともない奴も絶対この中に混じってるだろ。ここまでよいしょされるのは嫌いではないけど、これから健全な教師生活を送っていけるのか本気で心配になってきた。しかもなんだよホテルって、ヤる気満々じゃねぇか援交かよ……。

 

 

「学院の生徒たちをここまで(たぶら)かせて、一体何をしたんですの……?」

「誤解だって!! 俺はまだこの学院に来て1日目だぞ? ほとんどの生徒たちに出会えてすらいない状況で手なんて出せるかよ!!」

「言質を取りました。今さっき言いましたね、生徒に手を出していないって……」

「あ、あぁそうだよ……」

「そうですよぉ~。こんなに生徒から慕われる素晴らしい神崎先生が、女の子に手を出すわけないじゃないですかぁ~。ねぇ~せんせぇ~♪」

「お、お前……」

 

 

 高海の奴、事あるごとに俺を煽らないと生きていけないのかよ……。しかも脅迫されている都合上、こちらから何も言い返せないのがむず痒い。いつか徹底的に恥辱に塗れた調教をしてやるからそう思え。

 

 しかし今はそんなことよりも、生徒会長:黒澤ダイヤが何やら切り札を出そうとしていることに俺はもう戦慄を感じている。さっきの呟きは思春期女子の会話とはいえ相当な内容だったが、あれだけで俺が怒られるのは理不尽ってものだろう。だって俺、あの子たちに対しては悪いことしてないじゃん? もう何でも神崎零のせいにしておけって風潮が流行り過ぎなんだよ。

 

 

「先生、この呟きの真実を聞きたいですわ」

「今度はなんだよ……」

 

 

 黒澤ダイヤからスマホを受け取った俺は、画面に映し出されている呟きの数々を見る。それから俺の目が飛び出たのは同時だった。

 

 

『なんとっ! あの神崎先生が女の子の胸を触ってたんだって!!』

『嘘でしょ!? やっぱり女性経験豊富な人は違うなぁ~』

『噂によれば、3人の女の子を廊下に押し倒してたらしいよ』

『3人!? 学院に来て早々もう3人も堕としちゃったの!?』

『しかもパンツまで脱がしちゃったっていう情報も……』

『私も頼めば触ってもらえるかな……?』

『大胆すぎるのも素敵だよね♪』

 

 

 こ、これは……まさに数分前に起きたラッキースケベの現場そのものじゃねぇか!! 何故その情報が全校生徒に拡散されているんだ……? あんなドタバタとした状況だったけど、セクハラ紛いなことをするならと一応周りの目がないことは確認していたはず。もちろん自分で事実を拡散するバカなことはしてないから、犯人は残り4人。1年生の3人は被害者なので自分からセクハラされたと呟くことはしないだろう。そうなると、必然的に犯人は1人に絞られる気が……。

 

 

「フフッ、どうしましたぁ~せんせ♪」

 

 

 コイツ……いつか絶対に教師と生徒の立場とか関係なく甚振(いたぶ)って、その口から雌の鳴き声を叫ばせてやるから覚悟しとけ。いくら痴漢を盾にしようが、男を過剰に挑発すると今度は痴漢ごときでは済まない恥辱を与えられるぞ。言うなれば――――そう、レ○プみたいな……。

 

 

「先程から生徒たちの呟きがこの話題で持ちきりなのですが、何か心当たりは?」

「あ、あるわけないだろそんなの……」

「ダイヤの考え過ぎだって。教育実習に来た初日でこんなことをする人なんていないよ」

「果南さん、この人のことを庇うんですの? まあ言っていることは一理ありますが……」

「この学院の生徒さんはみんなアグレッシブだから、若い男性が来てみんなハイテンションになってるだけだよ!」

「鞠莉さんまで……。本当なんですか?」

「だ、だからそう言ってるだろ」

 

 

 この疑い深さ……この生徒会長、デキる!! 見た目の風格も相まって、もし真実を知られた時の制裁を想像するだけでも恐ろしい。ここまで何とか誤魔化せてはいるが、学内SNSが発達している以上詳しく調査されたらバレるのは時間の問題かもしれない。これも全部隣にいる高海千歌って奴が悪いんだ。痴漢は黙っているけどセクハラを黙っている契約は交わしてませ~んみたいな顔しやがって……。

 

 

「Aqoursの顧問を快く引き受けてくれた人だし、信じてあげようよ」

「ダイヤも熱くならずにクールにね♪ これから一緒に活動をする仲間なんだから!」

「松浦も小原も優しいんだな。心に染みるよ色んな意味で……」

「鞠莉の言う通り顧問と言えども私たちの仲間なんですから、(しがらみ)はなるべく取り除いておいた方がいいと思いまして」

「先生は私たちの前に現れた救世主、まさにエンジェルなんだから期待してますよ♪」

「アハハ、頑張るよ……」

 

 

 痛い痛い痛い痛い!! 2人の優しさで良心が実際の痛覚を感じるほどに痛い!! 2人はここまで俺のことを信じてくれているのだが、その男の実態はバスの中での痴漢に学院内でのセクハラ行為、もはや教師失格の悪行を2度も犯してしまっている。だからこそ俺に期待を仰いでいる2人に対して非常に申し訳なく、その期待を裏切りたくもないからもう苦笑いしか浮かばねぇ……。

 

 

「分かりました。皆さんがそう仰るのなら私も信じましょう」

「あぁ、ありがとな――――って、俺がお礼を言うところなのか……?」

「あなたを認めはしましたが、ここは由緒正しき女子高です。いくらあなたが生徒から人気があるとはいえ、不埒な行為をしたら教師や顧問の身分関係なく生徒会で然るべき対処をしますから」

「オーケー。肝に銘じておくよ」

 

 

 これで完全に逃げ場を封鎖されてしまった。下手なことをすればこの高海千歌とかいう悪魔がSNSで呟くだろうし、1年生の3人もセクハラされたって事実を切り札にできる。つまり、俺の人生が尽くAqoursのメンバーの手によって支配されてしまっているのだ。まさかバスの中での一時の小さな欲望が、これほどまでの事態に膨れ上がるとは思ってもいなかった。やはり田舎の情報網は伝達も早ければ共有も早い。正直ナメくさっていたよ、浦の星女学院。音ノ木坂のように淫らな行為をした事実はそう簡単に消えてくれないか。

 

 

「よーしっ、それじゃあ先生にもっとこの学院をエンジョイしてもらうためにも、今日の放課後は先生の歓迎会をやらない?」

「あっ、鞠莉さんそれいいですね! 先生との仲を深めるためにも絶対にやりましょう!! そう、仲を深めるためにも……ね♪」

「高海、どうしてこっちを見るんだ……」

「でも放課後は練習がありますのに……」

「最近は結構煮詰めて練習していたし、今日くらいは羽を伸ばしてもいいんじゃない? それに私も先生のことをもっと知りたいしね」

「決まりね! 小原家の特性フルコースで、先生にショッキングな歓迎をしてあげるわ♪」

「全くもう、皆さんすぐにはしゃぎたがるんですから……」

 

 

 Aqoursのメンバーに会って1つ思ったのは、仲間同士の結び付きが強いってところだ。積極的に人との仲を深めようとしていたり、これまでのメンバー同士の会話を聞いていても、学年関係なくみんなの仲の良さが感じ取れる。みんながここまで分け隔てなく信頼できるということは、恐らくグループ結成からここに来るまでにそれなりの修羅場を乗り越えてきたのだろう。そんな中に俺が入ってもいいのかと少し心配ではあるが、そんな彼女たちだからこそいつか俺も自然に打ち解けられる日が来ると思っている。

 

 まあそれもこれも、俺の犯してきた所業がバレなければの話だが……。

 

 

 そして、無事(?)にAqoursのメンバーとの邂逅は終了した。どいつもこいつもμ'sと同様にキャラが濃い連中ばかりで、ある意味では印象に残りやすい。脅迫と成り行きで顧問になったけど、案外この女子高生活を楽しめそうだ。もちろんこのワクワク感は淫らなことじゃないから勘違いしないように。

 

 ちなみに、またしても俺の携帯に女の子たちの連絡先が追加されたのだが、これって売ったらいくらになるんだろう……?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 Aqoursとの親睦会が終わり、教師生活の1日目も終了しようとしていた。

 夜、俺はベッドの上に転がり、今日起こった出来事を思い出す。バスの中で痴漢し、顧問になれと脅迫され、廊下で3人まとめてセクハラをし、学院全体では俺がヤリチンだと噂が広まり、生徒会長からは疑われ――――なんかロクな1日じゃないような気がしてきたぞ。まあスクールアイドルの卵である可愛い女の子たちと知り合えただけでも良しとしよう。みんな相当ウブそうだったから、顧問になったこれを機に調教……いやいや、しっかりと指導していかなきゃな。

 

 

 今日1日の内容は相当濃かったが、実は第二幕があることにお気づきだろうか? 教育実習生と言えども一応社会人として働くわけだから、ずっと携帯の電源は切っていた。Aqoursのメンバーと連絡先を交換する際に見えてしまった、()()()()からの連絡通知。それを紐解こうと思うだけで手がブルブルと震え出す。スマホの画面を見てみると連絡用アプリの右上に『1000』と数字が表示されており、言ってしまえば1000件の通知が溜まっているということだ。

 

 鬱陶しいから連絡してくんなと言えればいいのだが、そんな可哀想なことできるはずもない。だからと言ってこの量はどうしたものか……。毎日毎日律儀に返信するこっちの身にもなってくれよ。しかも今日はずっと電源を切っていたせいで日中全く返信できていないから、アイツら激おこだろうなぁ。どんな(おぞ)ましい内容が来ているのやら……。

 

 恐る恐る1000件の通知が来ているアプリを開いてみる――――

 

 

『ほの: 零君から全然返信来ないよぉおおおおお!!』

『うみ: 今日から教育実習ですし、忙しいのでしょう』

『えり: そうね。だから日中はあまり連絡しない方が良さそう』

『ゆき: 確か浦の星女学院でしたっけ? 零君が働いてるところ』

『あり: あそこって女子高なんだよね』

『にこ: ま、まさか零! 女子高の女の子をはべらせてるから連絡して来ないんじゃないの!!』

『のぞ: にこっち、話聞いてた……?』

『こと: は……? いや、は……?』

『りん: ことりちゃんの口調が……怖いにゃ』

『かえ: お兄ちゃんす~ぐハーレム作っちゃうんだから。次会った時にこれ以上周りに女の子が増えてたら……フフフッ♪』

『はな: 楓ちゃん今日ずっと同じこと言ってるよね……』

『こと: 零くんを誑かす女の子……? そんな子たち、みんなことりのおやつに……いやもうコロ(不適切な表現のためブロックしました)』

『まき: 一体なんて送信しようとしてたのよ……』

 

 

 案の定俺が女子高に行くことによって一部のメンバーのヤンデレ化が進行していた。ここへ返信をしてしまうと、多分寝る間もなく今日のことを追求されるだろうから見なかったふりをしておこう。現地で女の子たちと仲良くなって、しかもスクールアイドルの顧問になるまで親しくなったと知られたら……。想像するだけで首を絞められそうだから考えるのはやめようか。

 

 

 そこで携帯が鳴る。どうやらさっきの会話がまだ続いているようだ。

 

 

『ほの: ねぇ零君!! そっちで女の子作ってないよね!? 零君は穂乃果たちがいればそれで満足だよね!?』

『にこ: なんか匂いで分かるのよね。アンタが女の子作ってそうなこと……』

『こと: ことり、零くんのことずっと信じてるから。零くんはことりのこと裏切ったりしないよね?ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!?!?』

『かえ: やっぱりお兄ちゃんの手首には手錠が似合うと思うんだよね♪ うぅん、別に他意はないから……♪』

『あり: 私も信じてます!! あんなに愛してくれたんですから!!』

『ゆき: ちょっと亜里沙!? 何言ってるの!?』

 

 

 俺はここで携帯の電源を閉じて充電ケーブルを挿した。こんな混沌とした会場に足を踏み入れろって言う方が無理だろ!!

 

 

 そんな感じで俺の教育実習生としての生活がスタートした。これから一体俺にどんな驚異が降りかかるのか、さっきの会話を見ていて心配になってきたんだけど……。俺の人生を支配しているAqoursとの関係はもちろん、μ'sからの束縛も断ち切れそうにない……。

 




 アニメよりも千歌ちゃんのキャラが濃いので、メインである3年生よりも目立っちゃったかも。今のところ千歌ちゃんくらいしかキャラを前面に押し出せていないので、これから他のキャラももっともっと可愛くエロく掘り下げて行きたいと思います。まだ零君との仲がギクシャクしている子たちもいますので、早く話数を重ねてどんどん仲良くしていきたい!

 今回でAqoursとの邂逅編は終了で、次回からはμ's編と同じく1話完結の短編方式で執筆していきます。



新たに☆10評価をくださった

優雅さん、飯テロさん、神憑さん、ライミさん、kiyosukeさん、普通怪獣ようちさん

ありがとうございます!


Twitter始めてみた。
https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

桜内梨子、恥辱の大告白

 小説の感想やTwitterのDMにて貰った質問に答えるコーナー

Q.サンシャインでの推しキャラは誰ですか?
A.1人に決めることができないのですが、強いて挙げるなら2年生組です。

Q.実際に付き合うならどのキャラがいいですか?
A.μ'sならことり。Aqoursなら曜。家庭的な子がいいです。

Q.実際にエッチをするならどのキャラがいいですか?
A.μ'sならことり。Aqoursなら花丸。でも正直肉付きがいい子なら誰でも……()



あっ、今回は梨子の個人回です!

※どうやら梨子ちゃんはレズキャラらしかったので、初投稿時と内容を一部変えました。


 教育実習生生活の2日目。Aqoursの顧問になった俺は、早速顧問らしい仕事を任された。

 しかしその内容はそこそこ過酷なものでして……。脅しをダシに使われているわけではないんだけど、どうしてもあの子と作業をするのは未だに緊張する。そうは言っても顧問となった今、高校生の頃のように安易にサボることは許されないので、とりあえずその子の家の前に来ているのだが……。

 

 

「また怒られまくるんだろうなぁ俺」

 

 

 表札の『桜内』の苗字を見て、思わず後ずさりしてしまうほどにはあの子に若干の恐怖を感じている。なんたって、これまでの人生で一度もバレなかった俺の素晴らしい痴漢行為を見事に取り押さえてきたんだから。それ以降、梨子からの俺の評価は底辺を辿る一方であり、昨日の放課後に行われた親睦会でもそれほど好感度を取り戻すことはできなかった。顔を合わせるたびに渋い顔されるし、どうすりゃいんだよ……。

 

 

「そんなところで何をしてるんですか……?」

「うおっ!? り、梨子……いたのか」

「人の家の前で苦い顔しながら立ち往生してるなんて、犯罪者と間違えられても仕方ないですよ。あっ、犯罪者でしたね」

「そうやってチクチク心を刺してくるのやめてくんない……?」

 

 

 結局この子と出会ってからというもの、こうやって会うたびに微量ながら俺の心にダメージを蓄積させてくる。痴漢された友達を心配に想う気持ちは分かるが、こっちもそこそこ反省しているからそろそろ許して欲しい。ていうか、この子に1年生組のセクハラがバレたらもう一生この関係は修復不可能だろう。

 

 ちなみに、Aqoursのメンバーのことは名前呼びになった。これも苗字呼びが他人行儀すぎると千歌からの提案だ。もちろん流石に名前で呼ぶのはスクールアイドル活動の間だけである。普通に授業中でも名前呼びだったら、脳内お花畑ちゃんが多い浦の星の生徒たちにどう追求されるか分かったもんじゃねぇからな。

 

 

「こんなところで怪しい行動をされて逮捕されても困りますから、早く家に入ってください」

「だからしてないって……。もういいや、お邪魔します」

「女の子の家だからって、不審な行動は謹んでくださいね」

「お前どれだけ俺のこと警戒してるんだよ……」

 

 

 家には上げてくれるあたり、好感度が底辺ながらも僅かな信用はあるのだろう。それともただ一緒に作曲作業をするために割り切っているのか。どちらにせよ門前払いをされなかっただけでもありがたい。梨子も梨子で俺を追い返したことが千歌たちに知られたら、親睦会をした以上バツが悪いんだと思う。結局、まだ俺のことはただの仕事仲間としての意識しかないってことか。寂しい!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「いいですか? 私は飲み物を取りに行きますけど、その間絶対に部屋のモノに手を出さないでくださいね」

「分かってるって!! 心のない人形にでもなってやるから!!」

「こんな人形不潔です……」

「いいから行ってこい!! お前の危惧してることはしないって!!」

 

 

 梨子の部屋に案内されたのはいいのだが、あまりの信用されなさっぷりに涙出そうなんだけど……。いくらドMの心得がある男でも、この気持ち悪がられ方は心に響くだろ。ちなみに一応言っておくと、俺はMじゃないからな。

 

 そんなこんなで彼女は飲み物を取りに向かい、部屋にはポツンと俺1人になった。

 その場から1ミリでも動いていたらまた怒鳴られるので、石像のように固まりながら部屋を見渡してるんだけど――――何ていうか……うん、地味だ。いつもは俺をどやしていて強気な彼女だが、教室にいる雰囲気を見てみればかなり大人しそうだった。良く言えばお淑やか、悪く言えば地味、そんな印象。それが愚直にこの部屋にも現れている。μ'sで言えば海未のような整いながらも飾りっ気のない部屋だ。もちろん馬鹿にしているわけじゃない。ただ全体が整い過ぎているせいで、アイツに注意されなくても畏まってしまう。

 

 特に面白味のない部屋だと思いぼぉ~っとしていると、ふとタンスとクローゼットの間に何かが挟まっているのが見えた。散らかっている部屋なら特段気にすることもないのだが、部屋全体がキッチリとしているだけに雑に放ってあるモノには勝手に目が行ってしまう。

 

 

「なんだアレ……本か?」

 

 

 しかし、本にしてはかなりページ数が少ない気がする。それにサイズもA4くらいでそこそこ大きい。この2つの条件に当てはまる本と言えば――――

 

 いや、ないな。

 梨子は親友に降りかかった痴漢を、まるで自分のことのように怒って必死で親友を守った。つまり純情を具現化した存在だ。そんな彼女が同人界隈で名を馳せる、通称"薄い本"に手を出すはずがない。俺が千歌に痴漢をする際に梨子に手首を掴まれ阻止されたのだが、その時の彼女の顔はかなり真っ赤だった。だからそのような不純行為に耐性がないはずなんだ。

 

 

 でも――――

 

 

「一度見ちゃったら気になるよなぁ……」

 

 

 目に入ってしまった以上、正体を確かめなければずっと気になってこれからの作業も手が回らないだろう。今なら彼女もいない。一瞬だけ、たった一瞬だけでいい、手を伸ばして表紙を確認するだけ。それさえ確認できれば後は余計な邪念もなく作業に集中できるはずだ。

 

 そう考えてから行動までは早かった。石像のように固まっていた俺は呆気なく石化を解放し、タンスとクローゼットの間に素早く手を滑り込ませる。例のブツを掴んだことを確認すると、そのまま勢いよく腕を引いた。

 

 

「これさえ確認できればあとは戻すだけ……って、これは!?」

 

 

 薄い本の表紙を見た瞬間、今までの想像が見事にはち切れてしまった。表紙に写っているのは女性が2人、しかもとてつもなく美形で長身。作者の妄想が爆発したような女キャラだった。その女の1人が壁に背を付け、もう1人がその女に腕を回して――――そう、いわゆる"壁ドン"ってやつだ。

 

 しかしただの壁ドンだったら驚かない。今時の少女漫画だったらよくある展開で、もちろん薄い本界隈でも定番のシチュだからだ。問題は表紙の女キャラたち。この2人――――上半身が裸なんですけど!?!?

 

 

「ま、まさか梨子の奴……!!」

 

 

 女キャラが見えた瞬間はただの少女漫画好きだと思っていたのだが、キャラの外見を見てしまった今なら確信できる。アイツ……百合属性持ちか。世間一般では"レズ"と呼ばれる人種だ。痴漢から友達を守り欲心が小さいと思ってた子が、まさか女性同士の同性交遊を妄想するレズっ子ちゃんだっただなんて……!!

 

 

 その時、パリンとガラスのようなものが床に落ちて割れた音がした。もしやと思い振り向いてみると、そこには飲み物が入ったグラスをトレイごと落としてわなわなと震える梨子の姿があった。彼女は女の子らしからぬ恐怖に打ちひしがれた形相で、今まさに人生の転落を味わっているかような表情だ。

 

 梨子は床に零した飲み物には目もくれず、無言でどんよりとした雰囲気のまま俺の元へと近付いてくる。俺も俺でもう真実を見てしまったので今更弁解しようにもできず、彼女の禍々しいオーラに圧倒されただその場で硬直するしかなかった。

 

 

「見ましたね……」

 

 

 返事をする間もなく、梨子は俺の手から薄い本を奪うとそのまま丸めてゴミ箱の中にシュートした。薄い本は厚さが薄い割にそこそこ値段も高く、そんな簡単に捨ててしまえるほどの代物ではないはずなのだが、もう彼女はそんな判断すらできないくらい追い詰められているのだろう。

 

 

「殺します!! 絶対に殺します!!」

「お、おい待て!! ハサミ握んなマジの犯罪者になっちゃうからそれ!!」

「うるさいです!! 早くこの世界から消えてなくなってください!!」

「言い方が物騒!? どんだけ俺を粉微塵にしたいわけ!?」

「粉微塵では満足できません!! 塵1つ残しませんから!!」

 

 

 梨子はトマトのように真っ赤な顔をしながら、ハサミの歯をこちらに向けブンブンと振り回す。羞恥心に心も感情も支配されているため、下手に刺激すると本当に殺されかねない。やっぱり羞恥に塗れる女の子の表情は可愛いと思いながらも、その傍らでこの場を切り抜ける策を考えるため必死に脳を回転させる。

 

 ん? そうだ、その手があった! この方法を使えば俺も梨子も両方幸せになれる、まさに夢のような解決策を思いついたぞ。

 

 

「どうせみんなにこのことをバラすんですよね!? そうなる前にあなたをこの世から消します!! 最初から存在がなかったかのように仕組んであげますから!!」

「落ち着け!! とりあえず俺の話を聞いてくれ!!」

「……遺言としてならどうぞ」

「千歌たちには絶対に今日のことはバラさない。信じてくれ、絶対にだ」

「はい……?」

 

 

 そりゃあキョトンとした反応にもなるだろう。誰だって今まで虐げてきた奴が自分の弱みを知ったとなれば、その弱点を突いて仕返しするに決まっている、そう思うのが普通だ。だからここまで相手が低姿勢だと呆気に取られてしまう気持ちも分かる。梨子の顔はまだ真っ赤のままだが、全体の雰囲気はハサミで脅してきた時よりもかなり緩和されていた。まだ俺のことが信用ならないと言っても、恐らく心のどこかでは安心感が生まれつつあるのだろう。

 

 だがしかし、俺が仕返しをしない温厚な人間だと思うか? そんなわけないだろう。ここからが俺の交渉術の真骨頂だ。

 

 

「でも1つ条件がある」

「条件……?」

「お前が俺の痴漢を黙ってくれているのと同じだよ。こっちも今のことを黙ってやる代わりに、お前に1つやってもらいたいことがある。どうだ? この話に乗ってみるか?」

「内容によります……」

 

 

 梨子もかなり切羽詰っているのか、警戒しながらも俺の話に食いついてきた。ここまで来たのならあと一歩だ。

 

 

「なぁに簡単なことだよ。昨日の痴漢の続きがしたい、ただそれだけだ」

「は……?」

「お前に千歌への痴漢を邪魔されたせいで、発散できかなった欲求が溜まりに溜まって仕方ねぇんだ。だから手伝ってくれ、俺の性欲の発散をな」

「な゛っ……な゛っ……何言ってるんですかァアあああああああ!?!?」

 

 

 そう、この世はギブアンドテイク、タダで秘密を守ってもらおうと思っているのならそれは間違いだ。そもそもこんな交渉をせずとも、痴漢の連勝記録をストップしやがった梨子にいつか復讐してみたいと思ってたんだ。だから今回こそ最高の機会。生徒と教師? 知らんな。男の第一欲求は性欲。どんな話をするにもまずはその欲求を満たしてからだ。

 

 

「何もハードなプレイを強要しているわけじゃないんだ。俺に何をされても、そのまま耐えてくれさえいればそれでいい。ちなみに言っておくと、痴漢をバラすって選択はなしだからな。俺が顧問になることでその契約は既に成立済みなんだから」

「うぅ……」

「まさに図星、それでこの状況を切り返そうと思っていたのか。残念ながら諦めて、イエスかノーで答えろ。痴漢の続きをするのかしないのか……」

 

 

 ぺたんとその場で座り込んで俯く梨子。今頃心の中ではあらゆる葛藤に(さいな)まれて、自らの身体を差し出すのか否かで迷っているのだろう。でも、彼女はもう俺から逃げられない。とてもじゃないが自分がレズだったってことなんて、周りに言い出せるものでもないしな。Aqoursのメンバーって純粋な子や堅物な子も多いから余計に。

 

 

「少し……本当に少しだけですか……?」

「あぁ、必要以上に触ったりはしないよ。お前を不快にさせたりなんか絶対にしない」

「今、この状況が非常に不快なんですが……」

「大丈夫安心しろ、紳士だからさ」

「…………少し、だけですよ」

 

 

 梨子は全身の力を抜き、女の子座りのままだらりとした体勢で俺を受け入れる準備をする。もう少し交渉術を考えていたのでここまであっさりと提案を飲んでくれるのは意外だったが、これも結果オーライとしておこう。

 

 改めて彼女を全身を舐めまわすように見回してみる。地味な外見だが、細くスレンダーな身体は女性にとっては理想的だろう。制服のスカートからはみ出る引き締まった脚には目移りせざるを得ない。胸はバストサイズで語ればそこそこなのだろうが、身体が細いことも相まってバストの数値以上の大きさに見える。顔は可愛いというより美人と評されるか。切れ目がちで気が強いこともあって少々近寄り難くはあるのだが、そんな子ほど攻めて攻めて攻めて倒して興奮に緩む表情が見たいというサディスティックな心が働く。

 

 そのせいか、俺は不意に梨子を抱きかかえていた。

 

 

「きゃっ!」

「このくらいで奇声を上げるなんて、薄い本の知識はあっても経験は全然なんだな」

「男性経験は一度もありませんから……」

「そうか。なら俺が一番最初の男ってことね……なるほどなるほど」

 

 

 抱きかかえた梨子を壁際に運び、背を壁に寄りかからせる形で座らせる。そして俺は右腕を壁に着き、左手で彼女の顎を上げ――――つまり"壁ドン"と"顎クイ"を同時に実行した。

 

 

「あ、あ、あのぉ……」

「好きなんだろ、こんなシチュエーション」

「あっ、あぁ……は、はい……」

 

 

 俺の顔と梨子の顔は、少しでも動いたら触れ合いそうな距離にまで詰まっていた。そのせいで彼女の顔から暖かい熱気が伝わってくる。この熱気はさっきまでの怒りによる興奮とは違う。女の心を焚きつけられたかのような、別の何かな気がした。

 

 俺を消そうとしていた梨子に目を真っ直ぐ見つめられ、俺が彼女を追い詰めているつもりが逆に彼女の琥珀色の瞳に囚われそうになっていた。加えて女の子特有の香りで段々と正常な判断ができなくなってきた俺は、左手を彼女の顎から離すと今度は胸部へと手を伸ばす。

 

 

「あぁ……んっ!」

 

 

 男性経験のない彼女のこと、自分の胸を触らせたのは俺が初めてだったに違いない。胸を触った瞬間に伝わってきた、心臓の激しい鼓動。そこそこ敏感なので自分でも弄ったことがあるのだろうか。あんな本を持っているんだからその可能性は十分にある。それに一切抵抗の色を見せないので、緊張しながらも俺のことは受け入れてくれているらしい。もしかしたら、彼女自身も楽しんでいるのかもしれない。

 

 制服の上から胸を鷲掴みにし、契約に反しないよう優しく揉みまわす。成長したμ'sの女の子たちと比べたらもちろん小さいのだが、女子高校生らしい発展途上の張りの良さは制服越しでも明らかだ。俺は指を触手のように卑しく蠢かせて、彼女の胸を執拗に攻めてみる。

 

 

「はぁ、んっ……あ、んっ」

 

 

 段々と淫猥な吐息が漏れ出し、頬を赤くして蕩けた表情のまま俺の寵愛を一身に受け入れている。身体を預けられるほどには俺のことを信用してくれたのだろうか、いつの間にか背中に彼女の腕が巻き付いていた。目も焦点が上手く合わずぼやけているみたいで、初めて異性に触られて感じる電流のような快感に、何も考えず身を任せているようだ。

 

 

「梨子……?」

「本当に……うぅ、あ、んっ……優しくしてくれるなんて……はぁ……思っていませんでした……」

「言っただろ紳士だって。それにな、俺は女の子が本気で嫌がることはしないから」

「優しいんですね、意外と……」

「意外とは余計だ」

 

 

 傍から見れば無理矢理言いくるめて襲っているように見えるが、これも彼女が望んでいたことを実行してあげたんだから文句を言われる筋合いはない。本気で嫌だったら今頃俺は突き飛ばされて通報されているだろうし。

 

 さっきからずっと梨子の左胸を触っていたので、今度は右胸にシフトする。同じ胸を触られているのに、場所が変わっただけで彼女は再び淫声を漏らし始めた。はぁはぁと徐々に激しくなってきた吐息が、眼前にいる俺の顔面にぶち当たる。そんな彼女の興奮具合に触発されなかったのは自分にとって奇跡だった。ここで勢いに任せて手を激しく動かしたら、ようやくこちらに傾けることができた彼女の心がまた遠く離れてしまう。この胸を掴む手は彼女の心を掴む手と同義。ゆっくりと、じっくりと、梨子をその心ごと抱きしめるように近付いた。

 

 

「はぁ、あぁ……変ですよね……」

「何がだ?」

「あんな趣味を……んっ、持っているなんて……」

「そんなことないさ」

「そう、ですか……?」

「あぁ。俺だってこんな性格だろ? 別に自分に趣味なんだから好きにすればいいんだよ。もちろん人には言えないけど、だからと言って好きなことを諦める理由にはならない。だから俺は貫くさ。女の子好きだってことも、女の子とこういうことをするのが好きだってことも」

「先生……。やっぱり最低ですね♪」

「笑顔で言うなよ……」

 

 

 しかし、梨子が初めて笑顔を向けてくれた。それだけで俺も笑みが零れる。

 どうやら彼女の中で1つ(わだかま)りが解消され、悩みも吹っ切れたみたいだ。数分前の鬼の形相と比べると優しく穏やかになっている。俺から見た彼女と言えば怒っている顔や蔑んでいる顔ばかりで、昨日の親睦会でも笑っているところなんて見たことがなかった。教師と生徒が絡み合っているこんな状況だけど、梨子との距離が一気に縮まったような気がして俺の心も落ち着いてきた。俺も彼女と(いが)み合う関係ではなく、もっと仲良くなりたいと焦っていたからな。

 

 

 俺は胸を揉む手を止め、梨子の目をじっと見つめていた。彼女も同じく、壁ドンされたまま俺と目線を交錯させる。最初抱きかかえた時は身体が僅かに震えていたのだが、今はその怯えも消え、興奮によって荒んだ息を整えている。

 顔が近い。身体同士が密着しているせいで火照った身体の体温がお互いにも伝わり、心臓の鼓動も同期している。シチュエーションだけで言えば、もう恋人同士のよう。少しでもお互いが前に動けばキスが成立するこの状況で、俺たちの身体は緊張でより熱くなった。朱に染まった彼女の頬。俺が何をしても動くなと言ったのだが、彼女はこの状況すらも受け入れるのだろうか……?

 

 

 どうする……? いや、どうするもこうするも、考える必要はないか。

 

 

「そろそろ始めようか、作曲」

「あっ、は、はい……そうですね」

 

 

 俺は壁から腕を離すと、後ずさりして梨子を拘束から解放する。一瞬彼女がシュンとした様子になったのだが、もしかして本当にこの子……うん、流石にそれはないか。

 

 

「あ、あの!!」

 

 

 俺が立ち上がって机に向かおうとしていた時、梨子から声を掛けられる。振り向いてみると、彼女は恥ずかしそうに身体をもじもじとさせていた。今まで凶暴な性格の彼女しか見てこなかっただけにしおらしい彼女は新鮮だ。

 

 

「なんだ?」

「あの……もしこれからもよろしければ、作曲を手伝ってくれませんか?」

 

 

 俺は思わず驚いてしまう。あれだけギスギスした関係だったのに、まさか彼女から誘ってくれるとは……。

 もちろん、俺の答えは決まっている。

 

 

「あぁ、俺でよければ手伝わせてくれ」

「ありがとうございます!!」

 

 

 ここで俺は、今までで一番の彼女の笑顔を見た。あまりに綺麗な笑顔だったので、さっきの驚きに追撃される形で心を打たれる。スクールアイドルだとか教師生徒の付き合いだからとか一切関係ない、彼女の本当の笑顔が見られたことが何よりも嬉しかった。

 

 女の子の笑顔ってやっぱりいいよな。笑顔こそその子の魅力が一番良く伝わってくる表情だと思っている。だから梨子以外のAqoursのメンバーとも仲良くなりたい。彼女たちがどんな魅力を秘めているのか、今から楽しみになってきたぞ。

 

 

「先生! 作曲始めますよ!」

「おう。でもとりあえず、割れたグラスとか零したジュースとか片付けないか?」

「あっ……」

「もしかしてお前、案外抜けてる……?」

「そ、そんなことありません!!……た、多分」

「結構面白い奴だったんだな、お前」

「わ、笑わないでください!!」

 




 零君視点だと女の子側の心情を描くのが難しいので悩みどころです。梨子の心情が上手く読者さんに伝わっていればいいのですが……。

 サンシャイン編に入って今まで掲載していなかったのですが、Twitterにて更新予告と報告をしています。
⇒ @CamelliaDahlia
URL: https://twitter.com/CamelliaDahlia

前書きの質問コーナーは感想やTwitterに寄せられた質問で何度か聞かれたことのあるものをピックアップしただけなので、今後もやるかは不明です。また質問が溜まってきたらやるかも……?

次回は花丸とルビィがメインの予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

こけし型マッサージ器は未来ずら!!

 今回は花丸とルビィ回です。健全ではない皆さんなら、サブタイトルの意味がもうわかっているはず!


 

「それで? その桜内さんとは仲良くなれたの?」

「あぁ。途中から一緒に作業してたし、心は開いてくれたと思うよ」

 

 

 俺は秋葉と食卓を囲みながら、Aqoursのみんなとの出会いの経緯や梨子との出来事について話している。どうやら秋葉には俺が女の子を引っ掛けることは読めていたみたいで、痴漢やセクハラをしてしまったことをぶちまけても何食わぬ顔で話を聞いていた。むしろコイツは俺が新しい女の子と仲良くなったことに興味津々みたいだ。

 

 

「それにしても彼女が20人以上になるのかぁ~。そこまで来たら流石の私でも面倒見切れないからね」

「いやいや。Aqoursのみんなとはそんな関係じゃねぇから」

「でも手を出したんでしょ? 話を聞く限りではいつもの零君と全く変わらないじゃん」

「この歳になるとな、女子高校生が恋しくなるものなんだよ。高校時代は毎日腐るほど見てたってのにな……」

 

 

 高校を卒業して制服姿の女の子を見られなくなった後に分かる、JKの希少さと尊さ。もうこれからの人生で制服姿の女の子と絡むことはないと思ってたから、梨子と2人きりになった時は妙なテンションになってしまった。今学生の人は後悔しないよう、しっかり制服女子と遊んでおくんだぞ。ピチピチのJKなんて中々誘いに引っ掛けられないんだから。

 

 

「浦の星の生徒は脳内お花畑が多いけど、Aqoursは純粋な子たちばかりだから下手に手を出せねぇんだよな。梨子の時みたいにムードが伴わないととてもじゃないけど無理だ」

「純粋……純粋ねぇ……♪」

「おい、俺の評判を落とすような真似はやめてくれよ……」

「えぇ~どうしてそう思うのぉ~??」

「お前が変なぶりっ子口調になった時は、大抵ロクなこと考えてないことくらいお見通しなんだよ!!」

 

 

 あからさまに何かを仕掛けようと企んでいる顔をしているので、もう今から警戒せざるを得ない。いくらコイツが家庭的になって一般淑女に近づいたと言っても、根の部分の腹黒さは何一つ変わっていない。むしろ俺や穂乃果たちが同じ大学へ入学したことが嬉しかったのか、高校時代以上に絡んでくる始末。やはりコイツと一緒に内浦へ来たのは間違いだったかも……。

 

 

「安心して。零君の教師生活を脅かすようなことはしないからさ!」

「これほどまでに信用できない言葉を俺は聞いたことがない……」

「弟にここまで侮蔑されるなんて、お姉ちゃん悲しいよーえーんえーん」

「いい歳してどんな演技してんだよ」

「あ?」

「いや、なんでも……」

 

 

 悪戯好きで子供っぽい縁起もお手の物。もう20代も後半だっていうのにここまで遊び心が富んでいるのは、やはり女性だからこそ許された特権だろう。綺麗で容姿が整っている女性がやるからウケるのであって、ちょっとでも俺の気に入らない容姿だったら今頃コイツをブッ飛ばしているところだ。何故神様はコイツに頭脳明晰、容姿端麗、スタイル抜群の男が惹かれる3要素を全てブチ込んだのだろうか……。

 

 

「とにかく、私からは何もしないから安心して! 私からは……ね♪」

「お前の言葉がいちいち不穏すぎて怖いんだけど……」

 

 

 俺の日常って、平穏が訪れている日の方が少ないような気がする……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「お~っす」

「あっ、こんにちは神崎先生!」

「こ、こんにちは……」

 

 

 翌日、部室へ訪れると花丸とルビィの2人がいた。

 教育実習初日で2人とは壮大な出会いを果たしたのだが、あれから少し話し合った結果、善子のマントのせいだという結論に至りあの時のセクハラ行為はお咎めなしにしてもらった。お咎めなしにならなくても普通は男に下着を脱がされたり胸に顔を押し付けられた経験などないはずなので、もし実際にそんなことをされたとなると恥ずかしくて周りには言い出せないだろう。

 

 しかし善子のマントのせいだとはいえ、俺が2人にセクハラをしてしまったことは事実。いつでも死の導火線に火を点けられてしまうことを忘れてはいけない。

 

 

「他のみんなはどうした?」

「今日も練習があるので、後から来ると思うずら」

「なら掃除当番とか何かか……って、お前らさっきから何を見てるんだ?」

「こ、これ、机の上に置いてあったんです。ルビィたちが来た時には既に……」

「ん……?」

 

 

 ルビィが手に取ったのはこけしのような形状をした電気器具だ。胴体はそこそこ長く、側面にはスイッチが付いている。そして先端はこけしの顔のように丸みを帯びており、まるで電マのような――――いや、ようなじゃねぇな。これはれっきとした電動マッサージ器、いわゆる"電マ"だ。健全ではない男子諸君には"バイブ"と言った方が馴染みは深いか。

 

 どうしてこんなものが部室に置いてあるんだよ……。

 

 

「誰のものなんだろう、忘れ物?」

「でも今日は誰もここには来てないって言ってたし……先生は知ってますか?」

「えっ? い、いや……」

 

 

 もしかしたらAqoursの中で相当激しいオナニーを好んでいる奴がいるのかも? それとも百合シチュエーション好きな梨子(アイツ)の仕業か。まあ一番の可能性として考えられるのは、昨日不穏な言葉を残していったあの秋葉(あくま)だ。全く、今度は何を企んでいるのやら……。

 

 

「それにしても変な形ずら。どうやって使うんだろう?」

「とりあえず、スイッチを押してみたら分かるんじゃないかな」

「そうだね。それじゃあポチッとな――――――きゃっ!!」

「わっ!? 先端がブルブルって震えた!?」

 

 

 なんだろう、なんか微笑ましいなこの光景。本来なら教師としてすぐ止めさせるべきなのだが、今後花丸とルビィがバイブに対してどのような反応をするのか気になって見守りたくなる。純情な子が何も知らぬまま試行錯誤して性具を弄る姿、いいと思います!!

 

 

「わわわっ!? 震える勢いが強くなったずら!!」

「花丸ちゃん見て、スイッチの他に『強・中・弱』ってスイッチもあるよ」

「だったらこれを変えれば弱まるかも――――――あっ、振動が優しくなった!」

「本当にビックリしたよぉ~。あんなに激しく震えるなんて……」

「でも今はぷるぷると小さく震えていて可愛いずら♪」

 

 

 か、可愛い!? バイブのことを可愛いって言う奴なんて初めて見たんだけど……花丸の感性が疑われる。そんな純粋な反応をしてしまうのも、この器具が性的なプレイで使われることを知らないからだろうけど。

 

 それにしても、傍から見たらまた俺がセクハラしてるように勘違いされる気がする。何も知らない少女2人に性具を触らせ、それをニヤけ面で眺めているんだから反論のしようもない。

 

 

「でもこれってどうやって使うんだろう? 変な形してるし、おもちゃには見えないよね?」

「あっ、もしかしたら!!」

「えっ、花丸ちゃん分かったの!?」

「多分! ルビィちゃん、ちょっと後ろ向いてくれる?」

「う、うん……」

「よ~し、それじゃあいくよ!」

「へ……?」

「それっ!!」

「ピギャァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 花丸はルビィの脇腹に、バイブの強さを"強"にしたバイブを当てた。対してルビィは唐突な振動にその場で軽く飛び上がり、よろけて俺の元へと倒れ込んでくる。いきなり前触れもなく脇腹にバイブを押し当て、しかもパワーは"強"に設定するとは花丸の奴、中々にドSな精神をお持ちで。ゆるふわな見かけによらず案外黒い面があったりするのかも……。現に今も申し訳なさそうにしながらも笑ってるし、案外黒いのかコイツ。

 

 

「おい、大丈夫か?」

「は、はい、ありがとうございます。もう、花丸ちゃんヒドイよぉ~」

「アハハ! でもルビィちゃんいい反応で、マルの予想は多分当たってるずら!」

「予想……?」

「これはさっきやったみたいに、人を驚かせるためのモノなんだよ! ほら、イタズラグッズみたいなモノも最近流行ってるし、その一種じゃないかな」

「そ、それはいいんだけどソレを震わせたままこっちに向けないでよぉ~!!」

「あっ、ゴメンゴメン」

 

 

 花丸のイタズラのせいで、一瞬でルビィにトラウマが植えつけられてるじゃねぇか。ルビィは"強"のパワーで振動するバイブに恐れをなしているせいか、ずっと俺に張り付いたまま離れようとしない。セクハラされた相手にしがみつくほど怯えるって相当だぞ。

 

 それにしても、バイブをイタズラグッズだと思い込んでいること自体が既に可愛い。脇腹なんかよりも女の子はもっと敏感な部分があるのだが、この子たちはまだ弄ったこともない新品のままなんだろうなぁ。そう考えると花丸がバイブを持って嬉しそうにしている姿は何とも滑稽であり面白い。その性具は君が操っているんじゃない、君を虜にするために作られているんだ。

 

 よし! それじゃあここらで2人がより性具に興味を持つよう、正解のヒントぐらいは与えてやるか。これでもっと可愛い反応を見せてくれ。

 

 

「一応言っておくとだな、それはイタズラグッズではないぞ」

「え? だったら一体何に使うずら……?」

「それはマッサージ器だ。ハンディタイプで手軽に身体を気持ちよくできるモノなんだよ」

「これがあれば手軽にマッサージ!? 未来ずらぁ~!!」

「み、未来??」

「あっ、花丸ちゃんは電化製品に弱くて……。パソコンを見ただけでもああなっちゃうんです」

 

 

 語尾からして地方の人間丸出しだと思ったのだが、まさかここまで現代離れが深刻化しているとは……。だから今もバイブを見つめながら目を輝かせているのだろうが、どこからどう見ても性具に興味津々な危ない女の子にしか見えない。

 

 

「スイッチを押すと先っぽだけ振動するってことは……あぁっ!! 分かったずら!!」

「こ、今度はなに……?」

「これはきっと正解だと思うよ! ルビィちゃん、確かめたいからここに座って!」

「えぇっ!? またさっきみたいにいきなり押し付けるんじゃないのぉ~!?」

「しないしない。今度はマッサージ器を当てる前に声を掛けるから安心して。それに先生が言っていた通り、今回は気持ちよくなれると思うずら」

「気持ちよく……?」

「心配しないで! この近代科学研究家のマルにお任せずら!」

「花丸ちゃんが機械触ってる時点で心配な要素しかないよぉ~!!」

 

 

 近代科学って言うけど、バイブの歴史は何気に100年くらい遡れるほど古かったりする。まあ花丸が楽しんでいるようで何よりだから敢えて口は挟まないでおこう。

 

 花丸はルビィを半ば無理矢理椅子に座らせると、椅子の後ろへ回って強さのスイッチを"弱"に設定する。流石に心配しないでと言っておきながら"強"で押し当てるような黒い真似はしないか。だけどルビィはその可能性を懸念しているようで、座りながら後ろでブルブルと卑しく音を立てるバイブに恐れをなしている。1本のバイブのせいで2人の友情が破壊されかねないけど大丈夫か……?

 

 それ以前に花丸はバイブの使い方が分かったと言っていたのだが、本当に分かったのだろうか。もしここで彼女がルビィの股にバイブを押し当てほくそ笑むなんて展開になったら、俺は彼女を純粋という仮面を被った隠れ痴女淫乱だと認定して周りに言いふらしてやる。見た目も性格も純情ガールなのに裏では卑猥なことばかり妄想しているなんて、そんな奴はどこぞの淫乱バードだけで十分だ。

 

 

「じゃあいくよルビィちゃん」

「う、うん、優しくね……」

「ゆっくりと、軽く当てるだけだから大丈夫だよ」

 

 

 なんかエロいなさっきのセリフ。これで男女の営みが妄想できちゃう人は、俺と同じ変態だから誇っていいぞ。

 

 花丸は震えるバイブをゆっくりとルビィに近付ける。

 遂に来てしまうのか!? 女の子同士で股にバイブを押し付け合い、この部室が恥辱と淫声に満ちたピンク色の空間となってしまうのか!? しかもこんなロリっ子体型の2人が乱れ合うなんて、その手の属性が好きな男だったら卒倒してしまいそうだな。俺は特別百合が好きなわけではないのだが、女の子が欲望と性欲に捕われる様は見ているだけでも大好きだ。

 

 

「当てるよ、ルビィちゃん」

「う、うん!」

「いくよ……えいっ!!」

「あっ、あぁ……ふぁ……」

 

 

「あ、あれ……?」

 

 

 次の瞬間にはルビィの生々しい淫猥な声が聞けると思ってたのに、彼女の口から漏れ出したのは安堵混じりの気持ちよさそうな声だった。それもそのはず、花丸が持つバイブはルビィの股――――ではなく、彼女の肩に当たられていたのだ。

 

 

「どうルビィちゃん?」

「うん、振動がいい感じに強くて気持ちいいよ~」

「ルビィちゃん最近衣装作りで忙しいって言ってたから、肩凝ってると思って」

「曜さんが奇抜なアイデアを次から次へと出すから、手直しするのが大変で……」

「それは災難ずら……。でもこれがあればもう平気! この肩凝り解消マッサージ器があれば!!」

 

 

 あぁ、肩叩き器と勘違いしてたのか。さっきまでコイツらのことを散々脳内ピンク色女と馬鹿にしていたが、本当にピンク色だったのは俺の方だったらしい。もしかしたら俺が思った以上にこの2人って純情ガールなのかも。バイブの存在すらも知らないくらいだし、これはマジで性知識が一ミリもない、富士山の天然水よりも天然で純粋な心をお持ちになっていらっしゃるのか。そう思うと、白は黒に穢したくなる俺の欲望に火が点きそうだ。

 

 

「先生! 使い方これであってるずら??」

「ま、まぁ間違っちゃいないかな」

「ということは、また別の用途があるんですか?」

「あるっちゃあるんだけど、お前たちにはまだ早い」

「そんなぁ~どうして!?」

「この世にはな、知らない方が幸せになれることだってあるんだよ。知識は何でもかんでも詰め込めばいいってものじゃないんだ。だからお前らはそうやっていつまでもぼけぇ~っとした顔でほのぼのしていてくれ」

「なんか馬鹿にされてる気がするずら……」

 

 

 俺が懸念しているのは純情なコイツらに性知識を教え込むことではない。むしろ俺は白いキャンパスを黒でぐちゃぐちゃに塗り潰したいタイプだ。

 だったら何故正解を教えないか、それは黒澤家の長女であるあの堅物生徒会長:黒澤ダイヤの存在だ。あの超絶シスコンのダイヤが溺愛しているルビィの口からバイブなんて言葉を聞いた暁には、狂獣のごとく発狂して俺の元へ殴り込んでくるに違いない。それも理由もなく俺を疑い掛かってくる形で……。そんな理不尽な展開にならないためにも、ここは頑なになっても本来の使い道を教えてはならない。

 

 

 だがしかし、俺は1つ重要なことを見落としていた。

 このバイブを置いた犯人は誰だということだ。レズの趣味がある梨子の線が濃厚だと言っても、部室の机に見せびらかすようにバイブを置いて、自ら自分の趣味を暴露するような真似は絶対にしないはず。だったら犯人は当初の予想通りただ1人。

 

 そう、秋葉(アイツ)が置いたとなれば、アレがただのバイブであるはずがない。

 それに気付いた時には、既に遅かった。

 

 

「あ、あれ!? マッサージ器の強さが急に"強"に!?」

「あ゛ぁぁああああああああああああっ!?は、花丸ちゃん早くルビィの肩から離して振動が強すぎてぇあ゛ぁぁああああああああ!!」

「ご、ゴメン!! でもさっきからこのマッサージ器が勝手に動いて――――ああっ!?」

 

 

 花丸の持っていたバイブの強弱スイッチがいきなり"強"で固定され、しかも手の拘束から抜け出して自律で動き始めた。そしてそのバイブは男の欲望を兼ね備えた知能を持っているのか、花丸の手から離れた直後にルビィの股の部分へ吸い込まれるように落ちていった。

 

 

「ふぁっ、あ、あ゛ぁあああああああああああっ!!」

 

 

 バイブの先端がルビィのスカート越しに股を刺激した。"強"のパワーで震えるこけし型の先端は、ルビィの大切な部分を容赦なく攻め上げる。まだ自分でも触れたことのない割れ目に電流を流し込まれたかのような刺激を受け、ルビィは淫声混じりの奇声を上げた。

 

 

「あっ、あ゛ぁああああ、んっっ、あ、んっ!!」

 

 

 今まで生きてきた中で一度も感じたことのない刺激なのだろう。ルビィの顔は真っ赤に紅潮し、頬も緩んでいる。自分でバイブを取ろうとするも、バイブ側は彼女の股で執拗に振動し続け抵抗されないようにすることで対抗する。大人のおもちゃに負けてしまったルビィは、ただバイブの振動に身体を震わせ強制的に与え続けられる快感に身を任せるしかないようだ。

 

 

「ルビィちゃん大丈夫!? 今マッサージ器取るから!!」

「は、早くぅ……あっ、あ゛ぁああああああっ、んっ、あっ!!」

「よーしよーしマッサージ器さん、いい子だから少しおとなしくしててね……あっ、こ、こっちにきた――――んっ、あ゛ぁああああああああああ!!」

「は、花丸ちゃんっ!?」

 

 

 ルビィのイキ狂う声を聞き飽きたのか、バイブさんは次なる狙いを花丸に絞った。どういう原理かは知らないがバイブはルビィの股から離れ、"強"のパワーのままその先端を今度は花丸の胸へと押し当てる。

 

 

「あ゛ぁあああああああっ!! つ、強い……そんなに強くしないで……あっ、あああああああっ!!」

 

 

 花丸はその場で尻餅を付いてしまうが、バイブさんにとっては関係ないらしい。バイブさんは彼女の胸の先端部分に自らの先端を押し付け、グリグリと胴体ごと回り始めた。ただでさえ最強のパワーで振動しているのに、そこに捻れ運動まで加わったらどうなるのかはもうお察しのこと。花丸ははぁはぁと激しい吐息を漏らしながら、卑猥な声を吐き出し続ける。表情もトロトロに溶けるように歪んでおり、今まで感じたことのない未知の快楽に襲われているようだ。

 

 

「そこ、ダメ! あっ、はぁんっ、ふぁ……あ゛ぁああああああっん!!」

 

 

 変態と化したバイブさんは、女性を攻めるお手本のような巧みな技術で花丸を堕としにかかっている。胸を強く刺激されているせいか、彼女のおっぱいがぶるぶると震える様は非常に艶かしい。こんなに小さな身体なのに、男を虜にする凶悪な双丘を持っているだなんてけしからん。いいぞバイブさんもっとやれ!! 花丸は俺を見つめて助けを求めているのだが、俺は純粋な彼女が乱れている姿に釘付けで助けるどころか見捨てている。バイブが勝手に動いているためか、花丸がオナニーをしているように見えてこっちも少し興奮してんだよ。

 

 

 その時、携帯から通知音がしたので覗いてみた。

 まあ予想通り秋葉(アイツ)からだったので、特に驚くこともない。

 

 

『今頃私の開発した自動型ストーカーバイブレータでお楽しみだったり? 自動型バイブレータは文字通り自動で女の子をストーカーのように付け狙い、その子の一番敏感な部分を察知して襲う機能が付いてるんだよ♪ これなら零君が自ら手を出さなくても女の子のあ~んな姿やこ~んな姿を見られるでしょ? 超天才な私に感謝しなよ!!』

 

 

 自動で女の子のGスポットを検索できるって、それどんな神機能!? ていうかこのバイブが世に出回ったら、もうエッチに男なんていらないと言われる時代になっちまうかもな……。アイツもうAV会社に就職したらいいと思うよ。あっ、でも秋葉は何気にウブだった。

 

 そんなことより、このバイブさんの暴走をどうやって止めるんだろうと俺は焦り始めていた。何故ならもう少しで他のAqoursのメンバーが来てしまう。花丸とルビィが涎を垂らして快楽の余韻に浸っている現場に男が1人。そんなの確実に勘違いされるに決まってるだろ早く止まってくれ!!

 

 

 ――――と思っていた矢先、バイブさんの暴走は鎮静化した。

 床に転がっているバイブを拾い上げよく見てみると、充電ゲージが0になっていたのでどうやらこの暴走は異常なまでに充電を喰うらしい。あとは快感に導かれてぼぉ~っとしている2人の目を覚まさせ、何事もなかったかのように部室を片付けなければならない。そうだバイブも隠さないと……。どうして秋葉のイタズラの事後処理を俺がしなくちゃならねぇんだよ!! しかも全責任が俺に伸し掛ってくるオマケ付き!! 何もかもが理不尽だわ!!

 

 

「おい花丸、そろそろ目を覚ませ」

「んっ、はぁ……」

「ほらルビィも早く」

「ひゃっ、あ、ん……」

「コイツら、完璧に浸ってやがるな……」

 

 

 2人の頬を軽くペチペチと叩くと、それぞれ身体をピクンと反応させた。息遣いも少々エロティックなので、夢へと昇天したまままだ現実に戻ってこられていないようだ。おいおい早く目覚めてくれよ。このままだと俺にあらぬ疑いどころか制裁まで下ってしまうんだって。こんな様子を誰かに見られでもしたら――――――

 

 

「なにを、やっているんですの……?」

「あっ…………」

 

 

 不幸というのは連鎖するもの。これ、教育実習初日から続く俺の厄災な。

 人を貫き殺せそうな冷徹な声で全身が凍りそうになりながら、ゆっくりと背後を振り返る。俺の後ろで仁王立ちで立っていたのは黒澤姉こと黒澤ダイヤ。結局、高校時代であろうが教師であろうがこのようなオチに落ち着いちゃうのね。もう慣れたよクソ野郎!! 慣れたけど納得はいかないけどね……。

 

 

「先生、次の生徒会会議にご参加を。これは強制です」

 

 

 俺の教師生活は、未だ転落の道を辿っているのであった……。

 




 やっぱり初物はいいですね(黒笑)


 次回はお題は多分善子回になるかも。投稿日はポケモンのせいで先になる可能性があります。


新たに☆10評価を下さった

打壱さん

ありがとうございます!

Twitter始めてみた。
https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

堕天使はお手洗いになんて行きません!!

 お久しぶりです!


 

 教師生活にも慣れ、いつものようにAqoursの放課後練習に付き合った日の夜。俺はパソコンの前で特に何の目的もなくぼぉ~っとネットサーフィンをしていた。

 性欲に満ち溢れていた高校生時代なら朝日が昇るまでエロサイトを回っていたところなのだが、大人になった今はもうそんな元気すらない。別に女の子に欲情しなくなった訳ではなく、頼めば12人の恋人たちがあれこれやってくれる関係になっているので学生時代と比べればそこまで下品ではなくなったと思う。それにAqoursという新しい目の保養要因もいるし、女の子成分に関してはむしろ有り余っているくらいだ。もちろん性欲が旺盛なのは昔と変わってないけどね。

 

 

 そんなことを考えながら、俺は行き着く宛もなくとある動画サイトの生放送リストを覗いた。最近は誰もが簡単に動画を配信することができるようになったので、動画サイトでは連日素人さんたちのチャンネルで溢れかえっている。俺が眺めている生放送リストも、ただの雑談からゲーム配信などを筆頭に数千の番組が放送されていた。

 

 その中で一際俺の目を引いたのは、『堕天使とサバトの時』という明らかに厨二臭いタイトルが付けられた放送だ。本来なら厨二病さんたち会話など耳が痛くなるので聞きたくもないのだが、来場者数もコメント数も多い上に、生主のプロフィールを見たらどうやらJKらしいので興味を唆られる。可愛い女の子が厨二病って微笑ましいじゃん? 男がやってたらドン引きだけどさ。

 

 どんなカオスな放送をやっているのかと内心ドキドキしつつ放送の枠に入る。すると画面に放送主の部屋らしき暗い場所が映り込み、放送主の顔は黒いレース布で隠されていた。1画面だけでもおどろおどろしい雰囲気が立ち込めており、画面上部に流れる視聴者のコメントも厨二臭いものばかりで俺の場違い感が半端ではない。

 

 そして、俺がこの放送に入って初めて放送主の口が開いた。

 

 

『今宵のサバトは地に還る者が出るであろう極めて高度な儀式。それでも我が深淵の闇の力を授かりたい者は、堕天使たる我が前に跪け!!』

 

 

 やべぇ帰りたい。帰りたいのは山々だけど、この人の声を聞いてこの放送に居座り続ける理由ができてしまった。その理由は明確。

 

 この声、俺が1年生組にセクハラをする原因を作った堕天使ちゃん、津島善子じゃね?

 まだ数日の教師生活だが、その間にも彼女の厨二語録は結構聞いてきたし、堕天使モードになる時だけやけに大人びたクールな声になることも知っている。更に放送主の髪型が綺麗な黒髪をお団子にしている超特徴的なものなので、もう確信を持ってアイツだと断定できた。

 

 

「コイツ何やってんだ……」

 

 

 学院では封印している自分の欲望をこれでもかというくらいに晒し、後から見たら黒歴史確定なセリフを次から次へと連発している。このような奴もある意味でリア充と言うのだろう、本人が楽しそうなら別にいいか。学院でも普通の女子高生を装っているが、発する言葉の端々に厨二病の片鱗が伺えるので普段は相当飢えているんだな。だからこの放送が彼女なりのストレス解消法だと思うと、なんだか急に可愛く思えてくる。

 

 そうだ、ちょっとばかりこの生放送の最中にイジメてみるか。善子がどんな反応をするのか気になるし。

 俺は未だに理解不能な厨二語録を連発する放送のコメントにこう打ち込んだ。

 

 

『あれ? Aqoursのメンバーの子に似てない?』

 

 

 この内容で俺はコメントを流す。他の人のコメントも流れているので彼女が読んでいるのかは定かではない。ほんの遊び心だから結果はどうであってもいいのだが……。

 

 

『天より堕ちし我がリトルデーモンよ!! 数多の屈辱を闇に変え、今こそ天界に裁きを下す――――って、え゛ぇえええええええっ!?』

 

 

 あっ、急に素に戻りやがった。そのタイミングは俺のコメントが丁度画面に現れた時、つまりこの動揺は俺のコメントを見たせいで間違いない。ただの身バレだけで取り乱すとは、まだまだ厨二病患者として素人だな。普段でもヨハネと呼ばずに善子って呼ぶだけで素が出るくらいだし。まあ末期患者になっていないだけマシなのかもしれないが。

 

 よし、反応が面白いからもう少しだけ遊んでやろう。

 

 

『AqoursのPVでこの人を見た気がする』

 

 

 今度はこの内容でコメントを流した。完全に確信犯だが、先程の動揺を見ればこのコメントで確実に追い討ちできるはずだ。俺のサディスティックな心が爆発しそうで、今から彼女どんな可愛い反応をするのかコメントした自分がドキドキしている。

 

 

『さあ! この結界に力を捧げよ!! 闇は増幅し、堕天使ヨハネの礎と――――ん゛っ、ゴホッ、ゴホッ!! ちょっとなによ!!』

 

 

 おっ、効いてる効いてる。カッコいいセリフで役作りにのめり込んでいたがやはり自分の身バレには相当敏感らしく、レース布越しでも分かるくらい顔を真っ赤にしていた。身体もプルプルと震え、もう誰の目から見ても動揺を隠しきれていない。表情は顔が布で覆われていてあまり見えないのだが、確実に目に涙を溜めた男心をくすぐる表情をしているだろう。想像するだけでももっともっと弄りたくなってくる。

 

 しかし彼女の仕業なのか、直後に俺がNGユーザーとして登録されてしまったため、それ以上コメントを流して弄ぶことはできなくなってしまった。

 

 なるほど、そういうことをしちゃう子なのか……。だったら次は更に弄んでやろう。もちろん現実の世界でなぁ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おいっすぅ~」

「来たわね、リトルデーモン」

 

 

 あんなことがあった翌日。部室へやって来ると、そこには黒マントを羽織った善子が椅子の上に立って何やら決めポーズを取っていた。恐らくそのポーズのまま誰か来るのを待っていたのだろう。そう思うと何故か痛々しく感じて自分の胸にまで痛覚が襲いかかってくる。

 

 

「あれ、お前だけか?」

「なによ、悪い?」

「いや別に。むしろ好都合っていうか」

「好都合?」

「まあこっちの話だよ。好きなだけ堕天使ごっこを続けてくれ」

「ごっこって言うな!!」

 

 

 花丸から聞いた話だけど、コイツって至極普通の女子高校生になりたいんじゃなかったっけ? なるべく自分が堕天使キャラだってことは周りにバレないよう努力しているらしいけど、あまりその成果を見られた試しはない。なのに学院にまでこんな真っ黒なマントを持ち込んで、本当に厨二病を卒業しようと思ってるのかよ……。どちらにせよ、こんな調子では厨二病の更生は程遠いな。

 

 そうだ、どうせならリアルでも昨晩の生放送のようにしっかりと堕天使キャラを保っていられるのか、それを試してやろう。たった2コメントの煽りしかしてないのに俺をブロックしやがった恨みもあるし、羞恥の意味でも堕天させてやる。

 

 

「あぁ早くルビィ来なさいよ。堕天使コスプレコンテストの写真撮らなきゃいけないのに」

「まだ言ってるのかよ。アイツ嫌がってただろ……」

「あれはあの子特有の照れ隠しなの。それにルビィなら身体小さいし、私のリトルデーモンにはピッタリじゃない」

「ふ~ん。でもその堕天使写真が世間に出回ったら、お前がAqoursのメンバーだってことバレるんじゃね? 『ほらあれ? Aqoursのメンバーの子に似てない?』ってな」

「え゛っ!? そ、それは……努力すれば大丈夫だから」

 

 

 目に見えて動揺してんじゃねぇか。絶対に昨晩の生放送で俺が流したコメントが頭に過ぎってるなこりゃ。目も泳ぎに泳いで身体も震えてるし、俺が思っていた以上にあのコメントのダメージが大きかったらしい。

 

 

「いやぁ努力してもファンは気付くものだよ。だから『AqoursのPVでこの人を見た気がする』って言われるのも時間の問題かもしれないぞ」

「あ゛っ、そ、そそそそそんなこと……あるわけないじゃない……よぉ!!」

「語尾おかしくなってんぞ」

「あ、アンタがおかしなこと言うからでしょ!! 昨日の奴みたいに……」

「ん? 昨日の何だって?」

「な、なんでもないわよ!!」

 

 

 これだけビビってたら俺をブロックした理由も納得だわ。ここまで心が揺らぐなら堕天使キャラなんてやめてしまえばいいのに……と言っても、自分の中で根付いたキャラって中々やめられないんだよな。思春期の間は特にそう、厨二病なんてカッコイイと思って始めたことだからなおさらだ。

 

 

「だったらもっとさ、堕天使キャラとして正々堂々振舞ったらどうだ?」

「キャラって言うな!!」

「はいはいそれそれ。お前は素を出しちゃうから身バレする可能性が高いんだよ。やるならもっと徹底しろ」

「してるつもりよこれでも。だけどAqoursの活動の時や学院にいる時くらいは普通でいたいから、そのせいでたまに通常のテンションと堕天使のテンションが混在しちゃうのよね。だから思わず素が出ちゃうのかも」

「ほぉ、案外自分のことはちゃんと分析できてるじゃん。後先構わず黒歴史を振りまくタイプじゃなかったか」

「堕天使たるもの、常に聡明でなければならないからね!!」

 

 

 ドヤ顔で中途半端な胸を張る見習い堕天使 : 津島善子。聡明なことと堕天使だってことは全く繋がりはないと思うんだが……。まあいいか、とりあえず俺としてもリアルと厨二病の境界線でウジウジ悩む女の子を慰めるのは面倒なので、ここは堕天使キャラを極めさせるためにも人肌脱いでやろう。いくら厨二病であっても、リアルとの区別ができてさえすればそれでいいんだよ。コイツは冷静に自分を分析できているから、わざわざ更生させる必要もない気がする。

 

 

「俺も付き合ってやるよ、お前が真っ当な堕天使になれるようにさ。今からすぐってのは無理だけど、これからは堕天使キャラの間に取り乱して素を出さないことを目標にしていけばいいと思うんだ」

「…………」

「な、なんだよジッと睨み付けて……」

「アンタのことだから、何か裏があるんじゃないかと思って。そう安々と協力してくれるのが怪しいのよねぇ」

「そうやって人を疑って生きる人生は楽しいか?」

「何を哲学ぶってるのよ!! アンタ私たちにセクハラしたこと覚えてるの!?」

「それは半分お前のせいだろ!! さり気なく被害者ぶってんじゃねぇよ!!」

「全く、誰のおかげで成り立ってる人生なんだか……」

 

 

 それは少なくともお前ではないと言いたかったのだが、これ以上食いついても埒が明かないのでここは大人の対応で沈黙する。確かにあのセクハラ事件のことは1年生たちと俺の間だけの秘密であり、教師人生を脅かす事故でもあったので黙ってくれていることには感謝している。でも元凶であるコイツの口からそれを誇示されるのはどうも癪で納得がいかない。お前が廊下でルビィを襲う奇抜なことなんてしなければ、あんなラッキースケベは起きなかったんだよ。

 

 

「まあいいわ、そんなことはもう」

「おい、どこへ行くんだ?」

「普通女の子が黙って出て行く時に行き先とか聞くぅ?」

「だってお前、普通の女の子じゃないじゃん」

「うぐぅ……ど、どうでもいいから早くそこどきなさい、急いでるんだから」

 

 

 部室の扉の前に立ち塞がるように椅子に座っている俺に向かって、善子は少々頬を赤く染めながら退去を命じる。

 どうしてコイツの顔はこれほど赤いのか。俺の女の子に対しての価値観はμ'sによって鍛えられたものなので、女の子の顔が赤いと発情していると真っ先に思い込んでしまう。Aqoursの子たちとはそんな関係じゃないと気付く方が遅いからな……。

 

 それにしても、善子の様子が身バレしそうになった時の動揺とは違う。女の子が行き先を伝えることを渋り、全身ではなく脚だけをモジモジとさせ、更に忙しなくしていると来た。この動作から当てはまる女の子の恥ずかしいことと言えばやっぱり――――そう、お花を摘みに行くことだ。

 

 

「なんだお前、トイレに行きたいのか」

「ちょっ、な゛ぁ!? あ、アンタはデリカシーってものがないわけ!?」

「普通ならこんなこと言わねぇよ。でも俺ってほら、普通じゃないからさ」

「普通じゃなくても言っていいことと悪いことがあるでしょ!? いいから早くそこ通して!!」

「やだね」

「は、はぁ??」

 

 

 そうだよ、俺がタダで協力すると思ったら大間違いだ。善子の反応が可愛いからもっと見たいってこともあるけど、ちょっとトイレに行くのを邪魔してやろう。もう俺の中のドS心がここぞとばかりに暴走して抑えられないんだよ。

 

 

「さっきから俺が全面的に悪いみたいな流れになってるがよく考えてみろ。天使がトイレなんていかないだろ。つまりそういうことだ」

「て、天使じゃなくて堕天使だもん……」

「変わんねぇよそんなもの。いくら堕天使だろうが天使と同じ、俺たち下界の人間から見たら尊き存在なんだ。それにお前には崇拝してくれる数多の眷属がいるんだろ? だったらイメージを打ち壊す真似なんてしたらダメだ」

「うぅ、上手いこと言ってぇ~……」

 

 

 善子は少し上半身を屈め始めた。もしかしたら俺の想像以上に膀胱の限界が来ているのかもしれない。だとしたら俺と会話を始めた時からそこそこ尿意に襲われていたのだろうが、これは好都合だ。久しぶりに尿意と戦う女の子の愉快な表情が見られそうだぞ!

 

 

「キャラ付けをするためには、まず他人が持つイメージを崩しちゃいけないことなんだよ。自分がどれだけ体裁を取り繕っても、他人のイメージにそぐわなかったら意味ないからな」

「だ、だからなによ……」

「だからまずは堕天使になりきることなんだ。トイレに行くなんて言語道断。本物の堕天使になりたいのなら、まずは周りから堕天使と思われるような行動をしてみるんだ」

「そ、それはトイレに行った後でするからぁ~……」

 

 

 最初からぐぅの音を上げるとかやる気あんのかコイツ? 折角人が協力してやるって言ってんのに、速攻でそれを無下にするとか堕天使とかの問題じゃなく人としてどうなの?? 

 

 まぁそんな冗談は置いておいて、善子はさっきよりも上半身を前屈みにする角度が大きくなった。2つの太ももを引っ付けて震わせているのが色っぽく、触ったら絶対にその衝撃で聖水が漏れ出すだろうと妄想するだけでゾクリと背徳感が駆け巡る。

 

 

「なぁ、お前もスクールアイドルなら知ってるだろ? μ'sの高坂穂乃果って奴」

「り、リーダーのでしょ? 知ってるけどそれがどうしたっていうの……」

「みんなの憧れの的であり大人気スクールアイドルのリーダーでもある高坂穂乃果が、身体の穢れを放出するためにトイレに行くと思うか? アイドルなんだからトイレになんて行かねぇよ」

「それはそう言われているだけで、裏ではしっかりトイレに籠ってバンバン穢れを放出してるわよ!!」

「お前、夢ってものがねぇよなぁ」

 

 

 まあこの話をするとみんなの夢を壊してしまうかもしれないが、穂乃果のことについては引き合いに出しただけでアイツはしっかりとトイレに行ってるぞ。一緒にトイレに入ったこともあるんだ間違いない。

 

 

「アイドルに夢なんて見てんじゃないわよ!! だから早くそこを通して!!」

「堕天使を目指している奴がそれを言うか……」

「もう天使とか堕天使とかアイドルとかどうでもいいから、早く早く!!」

「尿意を我慢してる女の子っていいよな」

「アンタ、教師としてとか関係なく人として最低ね!!」

「あっ、それ俺もさっき同じこと思ってたぞ」

「うるさい!!」

 

 

 善子は相当切羽詰っているようで、扉の前に椅子を置いて座り込む俺に迫ってきた。ちょっとでも動いたら漏らしてしまいそうなはずなのにそれでも無理矢理俺を引っ張ろうとしているので、もう一切後がないのだろう。流石にこれ以上イジメたら可哀想だし、最後にボディタッチだけしてお花を摘みに行かせてやるか。

 

 

「分かった分かった! 邪魔して悪かったから早く行って……来い!!」

「ひゃあぁああああああぅ!!」

「そこまで叫ぶようなことか!? も、もしかして……」

「う、うぅ……」

 

 

 善子は目をギュッと瞑り、手を股に当て必死に膀胱ダムの欠落を抑えている。その行動からまだ漏らしてないことは確定だが、身体にもうワンタッチして刺激を加えれば途端にダムから聖水がドバドバと流れ出してしまうだろう。お漏らしプレイに興味がないわけではないのでどうなるか試してみたいが、実行に移せば確実に彼女からの信頼はゼロになるに違いない。一応教師としては生徒と仲良くなる術は残しておきたいので、今日はここら辺で我慢してやろう。

 

 

「ほら、もう触んねぇから行け。男にお漏らし処理なんてされたくないだろ?」

「誰のせいよ誰の!! もういいわ、行ってくる!!」

 

 

 ようやく天国(トイレ)への道が開通され、善子は部室を出て行った。その道で間違っても膀胱だけは開通させんなよ。ふぅやれやれ、厨二病になりきれない女の子を教育するのも楽じゃねぇな。途中からは堕天使になる特訓とか全く関係なく己の欲望を吐き出していたような気もしたのだが、まあ気にしない気にしない。

 

 

「如何せん弄りがいがあるなアイツは」

「そうですよねー可愛いですよねー」

「そうそう尿意に襲われる女の子は可愛いんだよ――――って、え゛!? ち、千歌!?」

「えへへ♪」

 

 

 外から意地悪そうな声で俺の天敵 : 高海千歌が部室へ入ってきた。彼女の顔は悪魔そのもので、バックに秋葉と同じ邪悪な念を感じてしまうほどだ。いつものように明らかに何か企んでますよ的な顔をしているので、もう俺の中ではダイヤよりも恐ろしい存在となっている。ダイヤの場合は説教を軽く聞き流しておくだけでいいのだが、コイツの場合は何度もネチネチと過去の所業をネタにしてイジってくるからな。

 

 

「ま~た私に貸し1つですよ、せんせ♪」

 

 

 いつか俺が千歌の呪縛から抜け出せる日が来るのだろうか。その日が来るのを今か今かと待ち続ける日々がまた始まりそう……。

 




 厨二病のセリフは考えるのが難しい以前に面倒なので、ヨハネは基本的に今回のような損な役回りになりそう。まあそっちの方が読者さん的には美味しい展開かもしれませんが(笑)

 次回はまだ未定。思いつき次第Twitterで告知します。


新たに☆10評価をくださった

Bureivarさん、ペコーシャさん、リン@SAO好きさん、ルカートさん、東方マジLOVEさん

ありがとうございます!



Twitter始めてみた。
https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

松浦果南と覗き魔くん

 今回は果南回です!
 また零君の犯罪歴に新たなる一行が加わる時……?


 Aqoursのメンバーもμ'sのメンバーと変わらず個性的な連中が集まっていると実感したのは、顧問就任の歓迎会が開かれた時だった。メンバー1人1人の自己紹介や、痴漢やセクハラなどでギクシャクしながらも交わした会話などでみんなの特徴は大体掴んだつもりだ。μ'sと勝るとも劣らないほど賑やかで、突然やって来た男性教師に対して意外とフレンドリーだったので俺も一瞬で心を許すことができた。

 

 しかし、そんな中でも気がかりな点がない訳ではない。

 松浦果南、高校3年生。教師生活が数日経過してようやく気付いたのだが、実は未だに彼女とまともに会話をしたことがない。練習中では何度か言葉を交わしたことがあるものの、その話題も全てスクールアイドルの活動関係であり、日常会話なんてしたことは一度もなかった。同じ3年生のダイヤとはお説教するされるの間柄で縁があるし、鞠莉は社交的な性格が故に向こうから積極的に話しかけてくるため交流はそこそこ深い。その2人と比べてみると、やはり果南とは顧問と教え子の関係であっても希薄過ぎるのだ。

 

 だからかもしれないが、彼女のことも片手指折りで数える程度にしか分からない。真面目な性格でボケが多すぎるAqoursメンバーの貴重なツッコミ役、運動が得意なのか練習ではダイヤと共に指導役、後は何だろう……真面目なところ? あっ、指2本も余ったぞ……。

 

 まあこんな感じで、俺が彼女のことを紹介しようとしても10秒程度で終わってしまうのが現状だ。たった3週間の顧問と言えども、近すぎずも離れすぎていない微妙な距離感のままでいいのだろうか? 一応俺はこれでもAqoursの正式な顧問で果南は立派なスクールアイドルなんだから、もっと仲良くなっておいた方が話しかけやすいし気も使わなくていいと思うんだ。ちなみに言っておくが、邪な気持ちで彼女に近付きたいとか考えてないから勘違いすんなよ? あくまで顧問としてだから。

 

 

 てな訳で俺は果南の家の前までやって来て、立てかけてある看板を見ていた。

 ちなみに住所は教師という立場を乱用して、生徒の情報を少々盗み見させてもらった。しかもアポなしである。仕方ねぇだろ、その場の思いつきで来たんだから。

 

 

「ダイビングショップ……?」

 

 

 まず1つ、俺の果南メモリーに情報が蓄積される。部活の教え子の実家が何を経営しているのか知らない時点で、俺たちの仲があまりにも進展していないことが分かって頂けただろう。初対面の挨拶や普段の日常会話からでも知り得そうな情報すらもインプットされていないのである。

 

 店の前に置かれている体験用らしきダイビング器具を眺めながら、扉をゆっくりと開けて入店した。中は質素な木造であり、窓からは天然の潮風が心地よく吹き付けている。まさに自然の中のログハウスのようで忘れかけていた少年の心が少し揺さぶられながら、誰もいない店内をぐるりと見渡した。

 

 

「なんか……いかにも地方の店っぽいな」

 

 

 不在なのに扉に鍵を掛けないところとか、窓から自然を感じられるところとか、微妙に床が軋む音がしたりとか、それら全て田舎の雰囲気そのものだ。ここ数日この内浦で暮らして分かったことは、東京に比べれば近所間での繋がりがめちゃくちゃ強いこと。正直、街の全住宅が近所と言っていいほど住民同士が親しかった。そんな関係もあって店の扉を安易に解放しているのだろうが、都会育ちの俺にとっては無用心極まりない。ダイビングショップなんだから観光客もそこそこ来るはずなのに、これでいいのか松浦家……。

 

 不在だからってこのまま帰るのも負けた気がするので、とりあえず店の中を散策してみることにした。もしかしたら奥の部屋にいて俺に気付いてないだけかもしれないからな。それにもし勝手に上がり込んだことがバレても、Aqoursの顧問であると肩書きを高らかに誇示しておけば許してもらえるだろう。

 

 

 年季の入った床を軽く軋ませながら、店内の奥へと向かう。店の電気は点いているため誰かはいるのだろうが、如何せん物音が全くしないので不気味でしょうがない。もしかしたら果南が気付いていて、俺を驚かすためにわざとやっているんじゃないかとお茶目一面を思い浮かべるが、まああの真面目ちゃんには似合わないな。それにまだ交流の薄い俺にそんなイタズラをするとも思えないし。

 

 

 そんなことを考えながら店の廊下を歩いていくと、とある部屋の扉が少しだけ開いていることに気が付いた。片目で覗けるか覗けないかの僅かな隙間で、俺は思わずその隙間から部屋の中を覗いてしまう。

 

 すると微かな視界に映ったのは、なんと水着姿の女性だった。スラリとした体型に、出るところはしっかりと出た美形。その人の手に持っている白と青を基調とした水着は、後ろに束ねられた艶やかな青髪と相まってとても魅力的だ。

 

 そう、この部屋は明らかに更衣室だ。堂々と痴漢やセクハラをした経験は数あれど、生着替えを覗いた経験はあまりないので唆られるものがある。あまりコソコソとするのは好きではないのだが、こうやって隠し撮りのような目線で覗きをするのも些か興奮してしまう。見知らぬ店で女の子を扉の隙間から覗き見、いいシチュエーションじゃないか!

 

 

「う~ん、ちょっと小さくなってきたかな……?」

 

 

 この声……それにこのスタイルは間違いない、果南本人だ。制服や練習着の上からでも相当な膨らみをお持ちになっていると思っていたのだが、実際に薄着となっている姿を見るとその恵まれた体型がよく分かる。やはりスポーツ万能で引き締まっているところは程よく引き締まっているからか、胸やおしりなどがその存在を大きく主張していた。

 

 彼女は水着を机の上に置くと、俺に見られていることなど知らず服を脱ぎ始めた。まさか覗かれているとは思っていないだろうが、その無防備さが逆に俺の欲望を焚きつける。服が脱げていくたびに見える白い肌。練習で常に日光に晒されているはずなのにここまで美肌を維持できるのは素直に凄いと感心すると同時に、触ってみたい味わってみたいという猥褻思考も生まれつつあった。

 

 そして、遂に果南が下着姿となる。下着の色は上下ともに薄い青であり、水着も似たような色だったから青系統が好きなのだろうか。非常に彼女とマッチしている色だと思う――――と、覗きながらの変態がそう批評しておりますですはい……。Aqoursと出会ってからもう何度も犯罪を犯しているのにも関わらず今度は覗きだなんて懲りない奴だと思われるかもしれないが、この状況で目を逸らすことができようか? いやできない。むしろ目の前で女の子が生着替えをしているのに覗かない奴がいたら、ソイツはよほどの賢者モードになっているかホモのどちらかだろう。

 

 

「ふぅ……最近暑いから、やっぱりこの格好の方が落ち着くね」

 

 

 その下着姿の格好だと落ち着くだって!? コイツ、普段は家で下着のままでいるってのか!? 抜群のスタイルの彼女が下着姿でゴロゴロしている姿を想像するだけでも夜のネタに使えそうだ。いつもは真面目で落ち着いたイメージのある子だったけど、案外プライベートではズボラなのかもしれない。未だに覗きを続けている奴が言うのもアレだけど、急に親近感が湧いてきた。俺も下着ではないが家では適当な格好の場合が多いし。

 

 

 そして目の前では更に当たり前だけど衝撃的な展開が訪れた。水着に着替えるんだからもちろん服は脱ぐ訳で、そうなればもちろん下着も脱ぐ訳で――――そう、今まさにその時がやって来たのだ。

 果南は手を背中に回して下着のホックを外す。拘束が緩まってはらりと落ちる下着を手で受け止める、その動作だけでも魅惑的で息を飲んでしまう。だが残念なことに、彼女はこちらに背を向けているため生乳を拝むことは叶わなかった。盗撮モノのエロ動画だったらそんな光景アウトだぞアウト。もっと視聴者にサービスをしなさい。あぁ、もしかして焦らしてんのかな??

 

 

 しかし、神は変態に味方をした。果南が机の上に置いた水着を取る際に、少しだけだが身体が横を向いたのだ。その一瞬を俺の鍛え上げられた視姦能力は見逃さなかった。"美"を具現化する体型から卑しく突き出る肉乳のサイドがはっきりとこの目に映っている。だがギリギリ胸の先端が見えないのが惜しすぎて、動いたら物音で気付かれるも承知で俺は身体を動かして何とか先端を見ようと画策する。いくら後で罵声を浴びせられてもいい、とにかく今を愉しむんだという俺の信念が今回も爆発していた。

 

 それにしてもエロい乳だなオイ。ダイビングショップで働いてるってことは当然ダイビング経験もあるってことだから、男を獰猛な雄に豹変させるあの体型をしているのも納得だ。ダイビングをするなら適度な体型を維持しないといけないもんな。あのボンッと突き出たおっぱいを見て、思わず部屋に突撃してむしゃぶりつきそうになっちまったくらいだから。

 

 

 ――――と、そんな妄想をしていて果南から目を離していたのが災いした。

 突然、更衣室の扉が開け放たれたのだ。扉に軽くもたれ掛かっていた俺は、支えがなくなった身体の倒れる勢いに抵抗できず、そのまま前のめりになってバランスを崩してしまった。

 

 

 だが俺の顔は硬く冷たい床ではなく、枕やクッションよりも柔らかく暖かいモノに受け止められる。もう幾度となく感じたことのあるこの感触は――――

 

 

「せ、先生……!?」

「あっ……」

 

 

 気付けば俺の鼻が丁度果南の胸の谷間に挿入されていた。つまり、俺は彼女の胸に倒れ込んだのだ。彼女は水着だから胸の露出がそこそこ多く、谷間にダイブした鼻を通じてその生乳の柔軟な肌触りを感じる。2つの生乳が俺の鼻をキュッと挟み込んでくる感じがまた堪らない。そして着替える前に軽く運動でもしてきたのだろうか、若干汗の匂いがするのだが、女の子の汗はそれはそれで興奮できる。少々磯の香りがして、顔を動かすと波に揺られるかのように胸がぷるんと緩やかに反発する。おっぱい好きな俺にとっては覗きがバレて最悪な事態に陥っているにも関わらず、まさに天国のような状況だった。

 

 それと同時に、また罵倒や罵声、弱みを握られたり脅されたりするのかと思い卑屈になってもいた。毎回毎回不幸が舞い降りる展開に慣れたとはいえ、流石に運が悪すぎじゃないかこれ……。まあ全面的に俺に非があるので何も言えないけどさ。

 

 

「こ、これはだな……」

「とにかく、早く顔を離してくれません? 事のあらましは着替えが終わったら聞きますから、店のテーブルに座って待っていてください」

「は、はい……」

 

 

 予想とは全く違うドライな態度であしらわれたため、素っ頓狂な声で返事をしてしまった。

 果南は何事もなかったかのようにこの場を収めると、今度はしっかりと更衣室の扉を閉めて再び着替えを開始する。俺はポカーンとしたまましばらく更衣室の扉を見つめていたのだが、ここで待っていたらどやされるかもしれないので彼女に従って店のテーブルで待つことにした。

 

 今まで女の子の胸に突っ込んだ回数は百を超えるのだが、取り乱さずにあそこまで冷静な対処ができたのは彼女が始めてだ。もしかして果南ってスゴイ奴??

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「お待たせしました」

「あ、あぁ……って、えぇ゛!?」

「なんですかその反応……」

「まさかダイビングスーツで来るとは思わなかったからさ……」

 

 

 店内のテーブルで身体を縮こませて待っていると、果南が青いダイビングスーツを着てソーダを注いだグラス持ち俺の前に姿を現した。グラスを俺の目の前に置くと、彼女は俺の対面に座る。ダイビングスーツ姿だけを見ると変な店だと勘違いしてしまいそうだが、俺はそんなことよりも彼女の様子が不気味で仕方がなかった。

 

 

「ここはダイビングショップなんですから、専用のスーツを着るのがそんなにおかしいですか?」

「い、いや男の前でその格好は……」

「店を経営してるのに恥ずかしがってどうするんですか!」

「そうだよな……うん、そうだよ」

 

 

 コイツ、着替えを覗かれた上に顔を胸にダイブさせられたのにも関わらず、俺のことを全く邪険に扱っていない。今まで千歌に脅され、梨子に虐げられ、ダイヤには説教を喰らうなど散々な目に遭ってきたから、こんなに穏便に事が進むのが逆に不気味でならないのだ。

 

 

「先生、今日はやけにおとなしくないですか? まるで借りてきた猫みたいですよ」

「そりゃあ気になるんだよ、お前のことがさぁ」

「えっ……?」

「あっ、恋愛方面じゃないから勘違いすんなよ!? 気になっているのはお前の態度だよ。さっきあんなことがあったのにここまで平然としていられるなんて」

「あぁ、そのことですか」

「そんな淡白な反応アリかよ……」

 

 

 更衣室の扉が開かれた時、彼女はほんのりと頬を赤くしたがそれだけである。特に騒いだり声を荒げたりすることもなく淡々とあの場を対処したので、本来なら女の子側が驚くべきあの状況で逆に俺が驚いてしまった。今もずっとダイビングスーツ姿で慌てることなく俺と会話してるし、かなり強靭な心をお持ちになっているらしい。

 

 それにしても、中々男の目を釘付けにする姿をしていらっしゃる。ダイビングスーツが身体にピッタリなためか、自慢の腰周りと美脚のラインが浮き彫りとなっている。そしてもう何度も注目しているが、ツンと張っている胸もその丸みを帯びた形がそのまま浮き出ており非常に蠱惑的だ。

 手が出そうなる衝動をグッと堪えながらも目だけは彼女の身体から離れない。もう20歳を過ぎているのにダイビングスーツ女子という新たな夜ネタを発見できて、思春期時代の性欲がまた蘇ってきそう。

 

 

「先生? 先生!!」

「ん? な、なんだ??」

「ずっとソワソワしていると思ったら今度はずっと私のことを見つめて……本当におかしいですよ」

「いいんだよ。俺は元々頭がおかしい人間だから」

「フフッ、そうでしたね」

「自分で言うのはいいけど、他人に肯定されるのは何かムカつく……」

 

 

 一応交流の薄い果南にも、俺がどれだけ変質な人間なのかは伝わっているようだ。聞くところによれば千歌と幼馴染らしいので、もしかしたらアイツが俺の悪行を噂として振りまいているんじゃないかと懸念している。まだAqours以外の学院の女の子たちには少々ヤリ手だけでイケメンの先生として顔が通っているので、あまりイメージを崩すようなことはしたくない。それでも目の前で性欲が掻き立てられることが起きたら、思わず手を出してしまう悲しい性分なんだけど……。

 

 

「俺のことはいいんだよ。本当に気にならないのかさっきのこと?」

「私、こう見えてあまり物事に拘らない性格なんですよね。それに先生がちょっぴりえっちだってことも知ってましたし」

「えっ!? それどこで……?」

「練習の時とか、たまにいやらしい目線で私たちを見てましたよね? 女の子って分かるんですよ、そういう目線で見られてるってこと」

「聞いたことはあるけど、まさか勘付かれているなんて……」

「とは言いますけど、みんな鈍感そうだから気付いている人って少ないと思いますけど」

 

 

 練習で汗水垂らす女の子の姿に劣情を抱かない男はいないだろう。教え子に淫猥な目線を送ってはならないと思いながらも、そんな枷は毎回興奮によって押し潰され、最悪今回のように行動に移してしまったりもする。今後は女の子の感をすり抜けるような視姦方法を考えないとな。

 

 

「だから先生がそんな性格だと予想はついていたので、あの状況でも取り乱さなかったのはそのせいかもしれません」

「それでもいきなり胸を顔面で弄られたり、匂いも嗅がれるなんてセクハラ紛いの行為をされたら誰でも嫌がると思うけどなぁ」

「匂い、嗅いだんですか?」

「あっ……か、嗅いだよ悪いか!? あそこまで来たら胸を堪能するのが男ってもんだろ!!」

「別にそこまで開き直らなくても……いいですよ別に。もう気にしてませんから」

「本当にサバサバしてるよなお前」

「よく言われます♪」

 

 

 胸の匂いを嗅いだと言った時には恥ずかしがらないのに、ここでは普通にはにかむのか……どういう神経してんだか。

 だがこの店に来た当初の予定通り、彼女のことは結構分かってきた。果南はいい意味で図太い神経をしていて、物事に拘らないサバサバとした性格。だからなのか覗き事件の被害者なのに加害者の俺とこうしてフレンドリーに話してくれるし、かなり懐も広く深いようだ。彼女自身落ち着いた性格をしているが、こうして対面で喋ってみるとかなり気さくで普通に会話も弾む。そして胸も大きくて柔らかく暖かいの三拍子で、スタイルもくびれが艶かしく抜群だってことも脳内メモリーに保存された。

 

 

「実はさ、俺がここに来たのはお前のことをもっと知りたかったからなんだ。ほら、あまり俺たちって会話という会話がなかっただろ?」

「先生も思っていたんですか? 実は私もそう思って、先生の時間が空いてる時にでも一緒にお話しようと考えていたんです」

「えっ、マジか。じゃあお互いがお互いを気遣って、微妙な距離があった感じだな」

「そうみたいですね。もしかしたら私たち、ちょっと似ているところがあるかもしれないです♪」

 

 

 人間関係の詰め方という非常に小さい共通点だが、そこから果南との仲が深まったので結果的に覗き見をして良かったと言える。もちろん犯罪なのでみんなは真似しないように。覗き見をして必ずしも女の子と仲良くなれる訳じゃないから!!

 

 

「そうだ! 今度は先生のことも色々教えてください!」

「お、俺の??」

「はい。ああやって覗き見することとか好きなんですか? もしかして今まで部室の更衣室も覗いたことがあったり……?」

「断じてそんなことはしてない!! って、何言わせてんだお前!?」

「さっき私の胸に飛び込んできたくらいなんですから、それくらいのことはしているのかと」

「してねぇから!!」

「だったら女の子の胸は好きなんですか? さっき倒れてきた時は、私の胸から全然顔を離さなかったですし」

「それはまぁ、好きだよ……って、だから言わせんな!!」

「意外と面白いですね、先生♪」

 

 

神崎零一言コメント :

松浦果南は物事に興味がない性格だが、万が一興味を持ち始めると天然のSキャラとなって攻められる。

 

 

 こうして弄られるのも、仲良くなったおかげだと思って満足するしかないのか……? 不本意だけど納得しておいてやろう。

 




 果南は私としても今までにないキャラ付けが出来たので、今後も彼女の懐の広い性格を利用したネタとか作れそうです。
元々Aqours編の課題として、μ'sの12人とキャラが被らないように、そしてキャラの濃さも負けないようにというのが命題でした。それゆえにアニメとは少々キャラが異なってくる可能性がありますが、この小説を盛り上げるためなので許してください! まあμ's編から読んでくださっている方からすれば今更なことですが(笑)

ちなみに零君の犯罪歴(Aqours編のみ)
・バスで痴漢
・廊下でセクハラ
・着替えを覗き見(new!)


 次回は個人回を終えていない千歌、曜、ダイヤ、鞠莉の中から誰かの回になります。そしてまだ全員出演の回がないので、そのような話も執筆していきたい願望もあったり。


 読者さんから『今後μ'sは出てきますか?』と質問がありました。とりあえず何らかの形で出してあげたいとは思っているので期待してもらっていいかと。登場時期はAqours全員との絡みが一通り終わってからになりそうです。


新たに☆10評価をくださった

(´・ω・`)アウーさん、レンブラントさん、 kaitzさん

ありがとうございます!


Twitterで更新を行っています。
https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鞠莉の羞恥心克服講座(超初級編)

 今回は鞠莉とダイヤの回です!
 この小説で講座と言ったらあの子を思い浮かべますが、今回は敢えて純粋な読者さんに媚を売って超初級編にしてみました。果たしてこの小説の読者さんにウブな人がいるかどうかですが(笑)


 

「なぁ。俺はAqoursの顧問であって、生徒会の顧問にまでなった覚えはないんだけど……」

「これは罰です。教師なのにも関わらずルビィにあんな仕打ちを……」

「だからあれは俺がやったんじゃないって言ってるだろ!!」

 

 

 俺はダイヤに無理矢理生徒会室に連れ込まれ、強制的に仕事を手伝わされていた。

 こうなったきっかけは、先日花丸とルビィのハンドマッサージ器騒動の件だ。どうやらダイヤは俺がアイツらにバイブを当ててイカせたと思っているらしいのだが、それは事実無根。犯人はそれこそあのバイブ自身なのだ。勝手に女の子のGスポットを付け狙うストーカーみたいな機能が付いたあのバイブこそが諸悪の根源。いくら痴漢や覗きなどの犯罪を重ねている俺と言えども、バイブを握って女の子を攻めるというエロ本のような教科書プレイなどしないからな。

 

 だがダイヤはそれを信じようともしない。彼女が言うにはバイブにそんな機能が付いてる訳がないと主張しているのだが、まあその通りなんだよね。秋葉の発明は奇想天外なモノが多くて、見た目だけではどんな仕掛けがあるのか分からない場合も多い。だから充電切れで息消沈しているバイブを見せても、そのバイブが根源だと信じてはもらえなかった。

 

 その結果、こうして俺はAqoursの活動だけでなく生徒会にまでコキを使われるようになったのだ。毎回定時帰宅のように訪れるオチに同情してもらおうとは思ってないけど、今回ばかりは俺が徹底的に不憫じゃね?

 

 

「ほらほらダイヤ、顔が怖いよ。スクールアイドルならもっとプリティにね♪ 頬っぺ抓って柔らかくしてあげる!」

「ふがっ!? ま、鞠莉しゃん頬伸ばさないでくらしゃい!!」

「おぉ~いい感じに愉快な顔になってきたね!」

 

 

 どうして生徒会業務を俺に手伝わせているのか分かった。しばしば鞠莉がダイヤにちょっかいをかけて仕事が進まないからだ。話を聞くところによると鞠莉は生徒会役員ではなく、Aqoursの活動と生徒会を両立しているダイヤの手伝いでよくここへ来ているみたいなのだが、さっきから彼女を見ているとダイヤの邪魔しかしていない。やんちゃガールで生徒会と言えば希だが、アイツはまともに副会長を努めていたぞ。どうして鞠莉はこうなった……ていうか、そういや理事長だったなコイツ。まあそんなご大層な肩書きも生徒会では何の意味もないが。

 

 

「まだ先生のこと怒ってるの?」

「もちろんですわ! いくら教育実習生とはいえ教師なのです。なのにルビィにあんな……あんな淫らな……!!」

「だから違うって言ってんだろ!!」

「あの状況で弁解の余地があるとでも?」

「だからあれは俺の姉の仕業で……」

「お姉さんがこの学院に来る理由は!? ルビィと花丸さんにあんなことをする理由は!? それを全て筋が通るように説明してもらわないと納得できません!!」

 

 

 あの時から一貫して理由を求め続けられているが、俺がここで『秋葉は超天才な研究家でイタズラが好き』だと言っても絶対に納得しないだろう。そもそもそんな人がいること自体2次創作のフィクション世界みたいなんだから、信じられないのも無理はない。だけどそれが事実だからこれまた信じてもらえないのがむず痒いんだよな……。

 

 

「確かにダイヤの言うことも一理あるけど、先生が嘘を付いているとも思えないなぁ私は」

「鞠莉、お前だけだよ信じてくれるのは……」

「ん? 別にそこまで信じてないけどね♪」

「なんだよそれ!?」

「そんなことよりも、ダイヤと先生の問題を解決できる素敵でビューティフルな方法があるんだけど!」

「なんか胡散くせぇなぁオイ……」

 

 

 鞠莉も千歌みたいに突拍子もないことを言うから正直期待はしていない。だけどダイヤとの仲がこれ以上拗れるのもどうにかしたいし、俺では何を言っても彼女の心を動かせないので今は藁にもすがる思いだ。

 

 

「それで? その解決方法と言うのは?」

「簡単なことだよ。ダイヤがエッチなことを耐えられるようになればそれでOK!」

「は……? え、えっちってそんな……あ、あなたまたそんなことを!!」

「それそれ! ちょっとアダルティな言葉だけでそうやってすぐに顔を赤くするところを直さないと!」

「あぁ、確かにそれは一理ある」

「先生も納得しないでください!!」

 

 

 鞠莉の奴いきなり何を言い出すのかと思ったが、よくよく考えてみたらダイヤがもう少しエロ耐性があれば花丸とルビィがイキ倒れていたあの状況を見ても大して取り乱さなかったのかもしれない。そうなれば俺が無実の罪を着せられることもなかった訳だ。ダイヤがもっと大人の雰囲気に慣れてさえくれれば、今まで行ってきた俺の淫行のツケも多少は和らぐかもしれない。正直鞠莉の提案は意味不明だが、敢えてここは己の保身のために便乗させてもらおう。

 

 

「ダイヤってば、胸を少し触られただけです~ぐ怒るんだもん!」

「怒るに決まってますわ!! むしろ怒らない女性の方が少ないでしょう!?」

「スクールアイドルとしては、そんなハプニングすらも可愛く、そして手馴れた大人の女性を見せつけながら余裕を持って対処しなきゃ!」

「スクールアイドルは清楚さが命ですわ!! μ'sを見てみなさい。皆さん本物の女神のように純潔でキラキラと輝いているんですから!」

「いやそれはないわ」

「女性を卑猥な目で見る下衆な男は黙っていてくれません? 私はもう穴があくほどμ'sのライブ映像を見ているのですから分かります!」

 

 

 いや、お前なんかよりも遥かにアイツらと結び付きが強いというか、もう恋人同士だからね。それにアイツらが女神だってぇ? そんなバカな話がある訳ないだろう。確かにステージ上では輝いているけど、純潔さがあると言われたら首をかしげざるを得ない。だってあの中の半分くらいは性の魔人に取り憑かれているぞ。もう既に何回か身体を交えてるから知ってるけど、性欲って言葉を具現化したら穂乃果(あいつ)ことり(あいつ)みたいなのが出来上がると言ってもいい。だから俺はもうアイツらを清楚とか純潔とか、そんな清い目で見られなくなっているんだ。もうμ'sは解散していると言ってもイメージは崩したくないから敢えてここでは黙っておくけども、本当は物凄くツッコミたい。

 

 

「とにかく始めるよ! ダイヤの羞恥心克服大作せ~ん♪」

 

 

 1人でやたらテンションが上がっている鞠莉は、ホワイトボードの左半分に黒ペンで『羞恥心を克服する3カ条』とタイトルを書き出した。ちなみに右半分は浦の星女学院の風紀改訂について色々と書かれているため、ホワイトボードに書かれている内容のギャップが凄まじい。

 

 

「これからダイヤには、私が提示した課題を1つずつ達成してもらうから。課題は全部で3つ。それを全てクリアした暁には、ダイヤも少々エッチなことでは動揺しない鋼のマインドを手に入れられるよ!」

「どうして私がそんなことを……」

「男の人って性欲の塊でしょ? だから先生に更生しろって言っても絶対に無理だから、ここはダイヤの方からエッチな耐性を付けるしかないんだよ」

「俺、サラッとバカにされてる……?」

 

 

 今更俺に変態を更生しろって言っても無駄なことは自分でも分かっているのだが、そう簡単に諦められるのも何か癪だ。これでも一度禁欲を目指したことはあるんだぞ、理由は不純だったけども。

 

 

「それじゃあまずはこれからね!」

 

 

 鞠莉は第一のお題をホワイトボードに書き出した。

 

 

『パイタッチ』

 

 

「なんですのこれは……?」

「知らない? 男性がどさくさに紛れて女性のおっぱいを触ることだよ♪」

「そのくらい知ってますわ!! 聞きたいのはそのお題で私はどうすればいいってことですの!!」

「パイタッチは男性がするものなんだから、ダイヤはそのまま何もしなくてOK! ほら先生、出番出番!」

「は……?」

「ここにいる男性は先生だけでしょ? だからダイヤにパイタッチするのは先生じゃなきゃ♪」

「ちょっ、私がこんな不潔大魔王に黙ってめちゃくちゃにされろと!?」

「おい待て、仮にも先生に向かってなんてあだ名付けてんだ!?」

 

 

 まあ最悪あだ名に関してはこの際どうでもいい。だがダイヤの胸を触るのだけは勘弁してくれ!! 男としてならもちろん触りたいのだが、触ったら最後俺の身体が五体満足を保っていられるのかと聞かれれば確実にノーである。ただでさえダイヤの鋭い目つきが更に釣り上がってるし、その目線だけでも身体を貫き殺されそうだ。

 

 

「スクールアイドルなら自分の周りにファンが集まってくることがあると思うの。そして人が押し寄せてきた拍子にちょこぉっと胸をタッチされることくらい、人気アイドルにとっては日常茶飯事だよ」

「だから胸を触られていちいち怒らないよう、先生に触られて慣れておけ、つまりそういうことですの……?」

「That's right! アイドルたるもの、多少エッチなことをされても取り乱しちゃダメってこと」

「そ、そんな横暴な……。せ、先生! 教師の立場としてはどうお思いになってますの!?」

「えぇ、俺に聞かれても……」

「ま、まさか私の胸が触りたいからわざと惚けたフリを!? 穢らわしい……」

「どうしてそうなる!?」

 

 

 女の子のおっぱいを触ってみたいと思うのは男の本能なんだから仕方ないだろう。それにエロに対して反抗してくる女の子の胸ほど弄り回して遊んでやりたい気持ちも強い。その後でどんな仕打ちを受けることになってもだ。相変わらず自分の学習能力の無さに笑いが込み上げてくるが、徐々に高ぶってくる性欲を前に我慢する方が身体に毒ってものだ。

 

 

「ダイヤの胸を揉むのは本来は私の役目なんだけど、この際はリアルを追求して泣く泣く先生にお願いしてみました! だから先生、私の分までダイヤの胸をしっかりとたくさんこねくり回してあげてね♪」

「もう何からツッコミを入れればいいのやら……とにかくあなたに役目も何もないですし、まだ触らせてあげると一言も言ってませんわ!!」

「逃げるの? 果南と3人でスクールアイドルを組んでいたあの時みたいにまた諦めるの??」

「こんな穢らわしいことに、あの時の輝かしい青春を重ねないでください!!」

「ちっ、上手くいくと思ったのに……」

「本音ダダ漏れだなオイ」

 

 

 鞠莉の口調的に胡散臭い奴だと思っていたが、案の定腹黒ろかったと言うか、人の過去を利用するほど残忍だったとは。特徴的な喋り方で平気で人を騙そうとするやんちゃな性格は、まるで希を彷彿とさせる。妙に相手の性事情に興味を持っているところとかまさにアイツみたいだ。

 

 

「でも流石にさっきのはいきなり難易度が高過ぎたかもね。だったら次はこれ!!」

「心配事しかないんですけど……」

 

 

 鞠莉は第二のお題をホワイトボードに書き出した。

 

 

『エロス』

 

 

「またこんな破廉恥な話題ばかり!!」

「どうどう落ち着いて。スクールアイドルで人気になるためには女の子の魅力が一番光る、つまりエロスを磨くのが最大の近道なんだから!」

「いいえ! スクールアイドルは清純さが一番です!!」

「そんな考えだから甘いんだよダイヤは。清純さなんてどのスクールアイドルも目指すべき目標な訳でしょ? だからこそ敢えて清純さから離れた方が個人としてもグループとしても色濃いキャラになれると思うんだよ私は」

「上手く言いくるめようと画策してるようですがそうはいきませんわ! いつもいつもあなたの話にまんまと乗せられていますけど、今回ばかりは騙されませんから!!」

 

 

 確かにエロを売りにするスクールアイドルってのは未だかつて見たことがない。まあそんなことをしたら学校の方から活動停止になっちまうだろうが。ちなみにμ'sのメンバーに関しては脳内ピンクちゃんが多い反面、ステージ上ではその淫らな色気を全く感じない。淫乱と清純、一体どちらが本当の彼女たちなのか……。どうであれ、ダイヤに色気はあると思うがそれを自分から見せびらかすのは到底不可能な話だろう。

 

 

「あまり男に媚びるエロスはスクールアイドルとしていただけないけど、大人の魅力を出すってのなら全然アリだと思うぞ」

「それはそんな私たちが見たいからでは……?」

「いやいや、これマジのアドバイスだから。これでも清らかな心と穢れた心が表裏一体なスクールアイドルを手伝っていたこともあるんだぞ? 間違いねぇよ」

「先生、そろそろどのスクールアイドルを指導していたのか教えてくれてもいいんじゃない?」

「秘密だ。絶対に秘密」

 

 

 俺についての情報は大体Aqoursのメンバーに伝わっているのだが、唯一言っていないのがμ'sを指導していたことだ。指導っつっても、アイツらが練習をしている横でぼぉ~っと眺めていただけだけど。それでも2年間スクールアイドル業務に携わってきたので、まだぺーぺーのAqoursよりかは断然スクールアイドルの知識もあるし効率の良い練習方法も知っている。その経験を顧問なった今かなり活かしているのだが、たった1つ、μ'sとの関係については一切打ち明けてはいなかった。

 

 だって俺がμ'sの関係者だと千歌たちにバレたとするじゃん? そうしたら学内SNSや地方特有の高速伝達ネットワークにより、瞬く間に浦の星女学院全体に俺の正体が明らかとなるだろう。ただでさえ俺のことを謎崇拝している女生徒もいるのに、トップスクールアイドルの指導役とバレたら更に大騒ぎになるに違いない。そしてここからが真骨頂なのだが、もし何らかの因果でμ'sにこの事実が伝わったとしよう。そうしたらアイツらはきっとこう思うだろう、神崎零がJKに言い寄られるために自分たちをダシに使った、と。もしそうなった場合、アイツらに何をされるのか想像もしたくない。ただでさえ数日離れているだけでヤンデレになってる奴もいるってのに……。

 

 

「ダイヤはそうやってすぐに『破廉恥ですわ!!』とか『不潔です!!』って怒るからいけないんだよ。逆にその反応が面白くて私もおっぱい触りたくなっちゃうんだから♪」

「鞠莉さんさっきからセクハラオヤジみたいな思考ですわね……」

「どうとでも言って。ダイヤ自身がエロティックでアダルティになれば高嶺の花みたいな雰囲気が出て、逆に手を出されなくなるかもしれないよ?」

「別にそこまで高貴な存在になろうとは思っていませんけど……」

「思っていなくても、女にはやらなければならないことがあるの。だから先生、ダイヤにセクハラしてあげて」

「おいっ!! それは俺の人生で一、二を争うくらいの無茶ぶりだぞ!?」

 

 

 自分からやるならまだしも、誰かに見られた状態でセクハラ魔を演じるなんて流石の俺でも恥ずかしい。嫌がる女の子を無理矢理襲うって展開は好きだけどね。

 

 

「タダで女の子の胸を触ることができるのに、それを拒否する男がいるなんてショッキング!!」

「誰が好き好んで公開セクハラするんだよ。お前AVとか薄い本の見過ぎじゃねぇのか??」

「それ以前にタダで触らせるとは言っていませんけど。私の貞操観念が低いと思われるじゃないですか……」

「もうっ、私はただダイヤが先生におっぱいを揉みまくられて淫らな声で叫ぶ姿が見たいだけなの!!」

「とうとう素を出しましたわね……」

 

 

 男女のセクハラシーンを見たいとか、マジで鞠莉の趣味がAV視聴なんじゃないかと疑いたくなってくる。同性でしかも親友の興奮状態を見たいって相当だぞ……。まあ自分からセクハラ願望を持ってる奴よりは幾分マシ……いや、やっぱどっちもやべぇわ。

 

 

「ダイヤもいつも言ってるでしょ、日々精進あるのみって。まさか私たちにだけその信念を押し付けて、自分だけは尻尾を巻いて逃げる気?」

「そもそもの話、私自分で羞恥の耐性を付けたいとは一切言っていないのですが……」

「言い訳無用! 最悪制服の上からでもいいから先生に触ってもらってよ!!」

「どうしてそんなに必死なんですの!? それに最初は直に揉ませようとしていたのですか!?」

「言ったでしょ? 私はダイヤがセクシィーな声で乱れるところを見てみたいの!! 口では嫌がってるけど、段々と先生の手付きが気持ちよくなって次第に堕ちていくダイヤが見たい!!」

 

 

 鞠莉が神聖なる生徒会室で女子高生の放ってはいけない言葉を連発している。女の子に興味があるとかコイツも梨子と同じ属性なのか、それとも本当にAVのようなシチュエーションに興味があるのか。どちらにせよ優しいお姉さんキャラの彼女の印象が、この数分で一気にガタ落ちした。一応言っていることは共感できるので、謎のシンパシーを感じてはいるが……。

 

 

「先生、もう覚悟を決めましょう」

「えっ、結局やんのかよ?」

「暴走した鞠莉さんは自分が満足するまで熱が冷めることはありませんから。仕方のないことです」

「いや俺はいいけどさ、お前はどうなんだ?」

「もう腹をくくりました。ですが触ると言っても指一本で、そして一瞬だけですからね!! 鷲掴みにするとか言語道断です!!」

「分かった分かった! 鞠莉もそれでいいか?」

「まぁそこまで言うのなら妥協してあげる」

「どうして私たちが妥協される側になっているのでしょうか……」

 

 

 あのお堅いダイヤまでもが自ら引かないと鞠莉の暴走は止まらないってことか。相変わらず俺はとんでもないスクールアイドルの顧問を引き受けてしまったと思う。かつて12人の癖者たちをまとめていたとはいえ、コイツらを指導していくのも骨が折れそうだ。

 

 そんなことよりも今はこの状況。ダイヤは本当に覚悟を決めたみたいで俺の対面に座った。俺に自分の胸が触られる瞬間を見たくないのだろう、目をギュッと瞑り座ったまま硬直している。そんなに嫌ならやめておけばいいのにと思ったが、隣で鞠莉が新しい玩具を買ってもらったかのような子供の好奇心丸出しのキラキラとした目をしているのでやめるにやめられない。

 

 

「いいのか? 触るぞ?」

「もう声をかけないでください! 余計に緊張しますから!!」

「Oh! とうとう見られるのね! ダイヤが男の欲に溺れる瞬間を!!」

「お前も俺のこと言えねぇくらい変態だよな……」

 

 

 親友が男によって手篭めされている現場を見て悦ぶ変態ちゃんはさておき、俺はダイヤの胸に人差し指を伸ばし始めた。俺も色々と文句を垂れつつこの展開になったのだが、正直女の子の胸に触れるのならこれほど役得なことはない。しかも今回は今までの痴漢や覗きとは違い、相手の許可を得ているのだから合法なのだ。これまで何度も脅されたり説教されたりしたけど、それにめげず心を強く持って生きてりゃいいことはあるもんだ。

 

 

「触られても怒っちゃダメだよ」

「分かってますから、先生早く!!」

 

 

 俺の右人差し指が、ダイヤの左胸へと徐々に接近する。さっきまで騒がしかった生徒会室がお通夜のような緊張感で静まり返っているが、見ようによっては男が女のおっぱいに触れるというちょっとしたAV現場さながらとなる。その雰囲気に俺も思わず唾を飲み、今までお高くまとまってきたダイヤの胸に触れる興奮だけを一身に感じていた。

 

 あと数センチ。俺の人差し指の先がぷるぷると震えだし、今から彼女の胸を触手固めしそうなくらい小刻みに蠢く。それを見た鞠莉は手で顔を隠しながらも、指の間でしっかりと見開いて凝視していた。

 

 

 触れる。今まで俺を罵倒の嵐に(さいな)ませてきたこの子に、品行方正で美人という言葉をそのまま具現化したようなこの子に、もうすぐ性的興奮という新たなる境地の第一歩を踏み出させる時だ。

 

 

 そして人差し指が、彼女の程よく膨らんだ丘に――――ぷにっと触れた。

 

 

「あっ……」

 

 

 その時だった、突然生徒会室の扉が開け放たれたのは。

 

 

「お姉ちゃん、頼まれた資料持ってきたよ―――って、ピギィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!?!?」

「ルビィ!?」

「ルビィあなたなんというタイミングで!?」

 

 

 入口でルビィが持っていた書類を辺りに撒き散らし、目をぐるぐるとさせて混乱の渦に巻き込まれていた。自分がセクハラされている訳でもないのに顔を真っ赤にし、その場であたふたとふためている。

 

 

「ま、まさかお姉ちゃんと先生がそんな関係だっただなんて……ご、ゴメンなさい、ルビィ空気が読めない子で!!」

「ち、違いますわルビィ!! これは鞠莉さんの策略で……!!」

「お、お母さんたちには私から言っておくから、あまり遅くならないでねそれじゃあバイバイ!!」

「待ちなさいルビィ!! だから違うって言ってますでしょォおおおおおおおおおおおおお!!」

「あらら、行っちゃった……」

 

 

 ダイヤは生徒会室から逃げていったルビィを音速を超えるスピードで追いかけていった。

 部屋でポツンと残された俺は、行き場のない指先を眺めながら一瞬だけ感じた彼女の胸の感触に浸る。やっぱり女の子の象徴はいいな。指先でちょっと触れただけでも形がふにょんと変形するから、その感覚を愉しむのが堪らないと再認識した。

 

 ちなみに諸悪の根源は……。

 

 

「胸を触られた時のダイヤの崩れたあの表情、もしかしたら性の目覚めかも!? よしっ、これからもっともぉ~っと弄っちゃお♪」

「お前、友達なくすぞ……」

 

 

 そういやこれって鞠莉が掲げた『羞恥心を克服する3カ条』の2つ目だったんだよな? 3つ目がこれ以上と考えると、まだまだダイヤは羞恥心を克服できそうにない。

 




 本当はμ's編の時に大好評だったことりの淫語講座みたいにやりたかったのですが、やはりあのカオスな雰囲気はことりにしか作り出せなかったです(笑) なのでもし機会があればまたいつかやってみようと思っていたりします。

 次回は千歌と曜の回になります。もしかしたら2人別々の回に分けるかも……?


新たに☆10評価をくださった

宇宙天狗さん

ありがとうございます!



Twitterで小説の更新報告をしています。
https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

曜とスク水と禁断の愛?

 今回はヨーソロー回です!
 この小説で曜がヨーソローって言ったことあったっけ??(今回は言いません)


 

 スクール水着。それは思春期女子の発展途上の身体を限界まで浮き彫りにする魅惑のアイテムである。プールサイドで水も滴る若々しい肌を見せつけながら、我々男子を性的に誘惑してくるその姿はまさに美の象徴。普段は制服に包まれた胸の膨らみや身体のラインを曝け出し、自然と目が惹きつけられるのは必死だろう。

 

 このように性欲真っ盛りの思春期男子にとっては核兵器のような衝撃なのだが、俺のような大学生でもスクール水着の魅力は十分に分かる。というより、大人になってからの方がスク水のありがたみがよく分かると言った方がいい。何故なら大人になればなるほど周りの女の子がスク水を着る機会は減っていき、学生の頃は必然的に拝むことができた女子のスク水姿を満足に拝めなくなるからだ。見られなくなって初めて実感するスク水の良さもある。あの胸とヒップを押し付けるピッチピチのスク水と、そこから伸びる濡れに濡れた二の腕や太ももにもエロスを感じざるを得ない。男なら誰もが好きな女の子のスク水姿を想像したことがあるだろう。

 

 以上のように、スク水とは性欲真っ盛りの男の思春期を直撃する台風の目であることに間違いはない。

 しかし、最近はスク水の存在が消えかけているという事実がある。成長過程のぷりぷりの太ももを見せないよう、スパッツタイプのスク水まで存在している始末。その背景にはやはり今の俺のような邪な思考を持った輩がいることだろう。まだネット社会が発展していない頃は盗撮も流行っていたし、ロリコンの大人の男にとっては身近にいる最も有用なオナネタだったに違いない。だからこそスク水を淘汰する現在の風潮を打ち壊すべきだと動いている変態な大人たちもいるとかいないとか。

 

 

 まあどうして俺がそんな話をしているのかと言うと、今まさに目の前でその光景が映し出されているからだ。

 

 

「せんせ~!! 見てくれてた~??」

 

 

 25mプールの先、スク水姿の渡辺曜が水中から顔を上げ、ゴーグルを額へとずらしこちらに向かって手を振っている。俺はその様子をプールサイドから眺めている訳だが、まさか大学生になって思春期女子のスク水姿をもう一度拝めるとは思っていなかった。よくよく考えてみればこの時期は丁度プール日和であり、そのタイミングで教育実習に来られたのは僥倖と言えよう。

 

 

「ちょっと先生聞いてるのぉ~?」

「聞いてるよ! すげぇ泳ぐの早いんだなビックリした」

「えへへ、これでも水泳部のエースですから!」

 

 

 勝ち誇ったように胸を張る曜。その胸がプールの波に揺られている光景は、未だに思春期を引きずっている俺の目を奪う。さっき初めて彼女のスク水姿を見たのだが、そのボディは衝撃の一言だった。筋トレが趣味なおかげか身体付きは抜群に良く、それでいて3年生組に負けずとも劣らない豊満な胸。それに程よい筋肉と肉付きの良い二の腕や太ももといった、思春期男子を殺すための要素が盛り沢山だ。やはりスク水はその子の身体が余すことなく晒されるので、わがままボディであればあるほど俺たち変態男子への殺傷能力は高い。要注意人物だな、渡辺曜……。

 

 ちなみにどうして俺がこれほどオイシイ状況に立ち会っているのかと言うと、浦の星女学院がもうすぐ授業でプール開きを行うらしく、授業で使う前に水泳部が試しに泳いでプールの水量や何やらをチェックしているらしい(詳しいことはよく分からん)。その役目を担ったのが曜であり、そして山内先生の威光により何故か俺も連れてこられたという訳だ。結局理由がよく分からなかったって? それは俺もだから聞くな。

 

 

「先生は泳がないんですか?」

「俺はプールや海ってのが苦手でな。だから普段はもっぱら女の子鑑賞に浸ってるんだよ」

「もはや隠す気ないんですねその性格……」

「お前らAqoursのメンバーくらいだよ、俺の本性を出せるのは」

 

 

 いつの間に再び25mを泳いだのか、曜は俺の目の前でプカプカと浮かんでいた。

 ここへ教育実習に来た頃は生徒たちに健全で品行方正な先生と印象付けるためある程度仮面を被っていたのだが、やはり内に眠る欲望を抑えることはできずありとあらゆる方法でAqoursのメンバーに手を出してしまったため、Aqoursのメンバーには大体の本性がバレてしまった。隠すのも面倒なのでコイツらだけに限って言えばかなり素を出して接している。

 ちなみに他の浦の星の生徒に対しては(多分)いい先生を演じられていると思う。しかし学内SNSを見る限りではまだ俺のことをヤリチン先生だと思い込んでいる奴がいるようなので、依然としてイメージは払拭できてないっぽい。もういっそのこと女の子全員食ってやろうか??

 

 

「でも先生が素を出してくれたおかげでとてもフレンドリーになった気がして、私は嬉しいですよ♪」

「こんな変態野郎なのに?」

「そりゃあ千歌ちゃんに堂々と痴漢したのは驚きましたけど、それはそれで男らしいと言いますか、いい度胸してるなぁと思いました♪」

「変わってんなお前。痴漢野郎なんて女の宿敵も宿敵だろうが」

「まあまあ女の子の気持ちは複雑なんですよ!」

「それを言われると頷かざるを得ないな……」

 

 

 彼女が12人もいて、しかももう5年の付き合いなのだが未だに自分は女心に疎いと思う。端々にデリカシーのない発言をしたりするのは日常茶飯事であり、特に恋愛方面になるともうお手上げ状態。行動パターンくらいだったらエスパーかのように読み当てられるんだけど、やはり女心というのは人間の知能だけでは理解できないようだ。

 

 

「折角ですし、先生もパァーッと泳ぎましょう! 私とコミュニケーションを取るなら一緒に泳ぐのが一番ですよ!」

「何そのエロゲみたいな設定!? もし仮にお前が攻略対象でも、疲れることはしたくないからパスだ」

「む~。そこまで拒否されると女性として傷付きますよぉ……」

「えっ、もしかしてお前……」

 

 

 な、なにこの乙女な表情!? 頬を少し膨らませながら上目遣いとか威力高すぎ!! 俺はプールサイドで曜はプール内部にいるためか、自然といい感じに上目遣いとなって心を揺さぶってきやがる。しかもスク水姿でそんな表情をするとか、俺が本当の思春期だったら一撃で殺されていたところだ。一応恋人持ちなためそこそこ耐性はできているのだが、やはり現役JKのスク水上目遣いのコンボは恐ろしい……。

 

 

「へへっ、だから一緒に楽しみましょう! せんせ♪」

「へ……?」

「えいっ!!」

「うぁあ゛ぁああああああああああああああ!?!?」

 

 

 プールに大きな水没音が上がる。

 突然プールから曜の腕が伸びてきたので動揺していたら、俺の身体は一瞬の内に水中へ引きずり込まれていた。あらかじめ息を溜め込んでいなかったせいか、水中にダイブして速攻で溺れかけてしまう。ばしゃばしゃと水飛沫を立てながら、俺は決死の思いで顔を浮上させた。

 

 

「ちょっ、お前いきなり何すんだ!? ていうか騙したな!! さっきの表情も作られたものだったのか……女って怖い」

「あはは! そんなことで取り乱していたら、海では本当に溺れちゃいますよ♪」

「だ~か~ら~! 俺は海には行かねぇっつってんだろ!!」

 

 

 悪気のあるような様子は一切なく、ヘラヘラ笑いながら俺の命を奪おうとした殺戮女神:渡辺曜。泳げない訳ではないのだが、そんなの得意不得意関係なくいきなり水中に引きずり込まれたら誰でも溺れるだろ。幸いにも海パン+薄手のパーカーという装備だったので、下手に着衣していて身動きが取れない事態に陥らなく助かった。ていうかむしろ曜もそれを見越してのイタズラだったのだろう。そうでなければ本当に奴は俺を殺すつもりだったってことになるぞ……。

 

 

「先生って逐一反応が面白いですよね! 私も子供みたいにイタズラしたくなっちゃいますよ♪」

「子供って、お前だってまだ高校生のガキだろうが……」

「先生よりは大人っぽいと自負してますけど?」

「言わせておけば……お前なぁ!!」

 

 

 向こうは冗談交じりのイタズラを仕掛けてきたので、こちらも少々イタズラ混じり+怒りをぶつけるためにで曜の肩を掴んでプールの端まで追い詰めた。しかし、その行為が意味深過ぎると気付いたのはそのすぐ後だ。

 

 男が女の子の肩を掴んでプールの端に追い詰める。もう一度この文章を見ると、それだけで卑しい何かを感じられるだろう。しかも俺たちは教師と生徒、もう背徳感満載の匂いしかしない。曜もまさかこんな展開になるとは思っていなかったのか、何も言わず俺の目をジッと見つめたまま動かなかった。俺も俺でここから何を言いたいのか、何をするのか全く考えず衝動的に動いていたため、ただ彼女のサファイアに輝く瞳を吸い込まれるかのように見つめていた。

 

 プールの波の音だけが聞こえる。プールの水ってここまで暖かかったかと疑問まで抱く。

 そして気付けば、曜の頬がほんのり赤くなっていた。さっき俺を騙すために作られた乙女な表情とは違う。これは明らかに素の反応だ。いくらプールの水が暖かく感じると言っても、頬が染まるほどではないはず。だったらまさかコイツ……いや、ただ男に近付かれて緊張しているだけなのか。どうやらAqoursのみんなは男性経験は今まで微塵もないようで、男への耐性が皆無みたいだからな。

 

 時間が停止したような空気に耐え切れなくなった俺は、小さく口を開いた。

 

 

「どうした……?」

「あ、あの……肩……」

「あっ……」

 

 

 いつの間にか曜の肩を掴む手の力が強くなっていたことに気が付いた。それも分からないくらい彼女に夢中になっていたということか。この歳になってもまだ女子高校生に浮気する甲斐性のなさがあるとは、もう自分でも驚きだよ。でも今までAqoursのメンバーを可愛いと思ったことは何度もあったが、それは親が赤ん坊に抱く感情と同じだ。だからこうしてAqoursのメンバーを1人の女の子として真っ直ぐ向き合ったのは初めてかもしれない。

 

 手の力を緩めると、曜は拘束から解放された勢いでゆっくりとプールの角へと背を預けた。

 普段は活発で元気一杯なのが魅力の彼女だが、今はどこか妖艶な雰囲気を漂わせる。ただスク水+わがままボディの属性だけではない、女性としての魅惑を感じた。顔もさっきより赤くなってるし、なんだか目も泳いで身体もそわそわしている。

 

 

「先生は――――」

「ん?」

「やっぱり先生は、女の子の身体に興味あるんですか……?」

「え゛っ……!?」

 

 

 い、いきなり何を言い出すんだコイツは……!? そんな乙女な表情でその発言は誘っているようにしか聞こえねぇぞ……。

 俺の身体の中からゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。自分の教え子がいきなり売春発言とは、これどう答えればいいんだよ教職授業でも習ってねぇぞどうしたらいい!?!?

 

 

「興味ないと言えば嘘になる。お前も知ってるだろ、俺の性格のことは」

「知ってますよ、だから質問したんです」

「お前どうしたんだ? さっきから変だぞ」

「変にしたのは先生のせいなんですけどね……」

「お、俺のせい? どういうことだよ??」

「案外鈍感なんですね、先生」

 

 

 うわぁあああああああああああああああああ!! 女心が分からん!! 全くもってコイツが何を考えてるのか分からん!! もう俺に女心を読み取らせるのはやめてくれよぉ~……今まで何度『零君は鈍感だ』って言われたと思ってんだ。毎日女の子に飢えてるのに、いざとなったらこの体たらく。μ'sのみんなと恋人になってからまるで成長していない。

 

 

「あのぉ……触りたいですか?」

「はい……?」

「触りたいですか? 私の身体……」

「な゛、に゛……!?」

「いいですよ。先生になら触られても」

「あ゛、な゛、あ゛ぁぁぁ……」

 

 

 さっきから曜の衝撃発言で、俺の口からは言葉かどうかすら不明な呻き声しか出ない。女の子側から触ってと言われるのはμ'sの淫乱ちゃんたちのおかげで慣れてはいるのだが、なんたって今回はまだ出会って数日しか経っていないAqoursのメンバー、渡辺曜である。これまで痴漢やセクハラ騒動などでAqoursのメンバーに対してそこまで好感度を稼いだ記憶もなく、どちらかといえば嫌悪感を募らせたメンバー(ダイヤや善子)もいる中でこの爆弾発言だから驚くなという方が無理あるだろう。

 

 しかし、驚いているからといって女の子側から身体を差し出してくれるのならそれを断る理由は一切ない。正直曜のスク水姿を一目見た時からムラムラとした欲望が生まれていたし、この歳になって生JKのボディを堪能できる機会なんて早々ない。つまりこれは天から舞い降りてきたチャンスなのだ。

 

 

「い、いいのか……?」

「はい……一回だけなら」

「どこを触っても怒らない?」

「我慢します。私もよく分からないんですけど、さっきから先生を見てると身体がウズウズしちゃって……はぁ、はぁ」

「お、おい息切れしてるぞ?」

「どうしてでしょう……? 先生に追い詰められた時からずっと身体が火照っちゃって……はぁ、はぁ」

 

 

 プールの角に背を預けていた曜だが、身体がふらふらし始めたのと同時に今度は俺の胸元へと寄りかかってきた。ただでさえあんな誘惑をされて性欲が高ぶってきているのに、ここでボディタッチとは俺の欲望の暴走を助長させるのが目的なのかコイツは!? スク水姿の女の子の口から漏れ出す吐息は普通に聞くよりも数百倍も淫猥で、まるで今から水中姦というマニアックなプレイを行う前触れのようだ。

 

 

「胸もお股も疼いちゃって、どうしちゃったのかな……? せ、せんせぇ~……」

「そんな甘い声で呼ばないでくれ。理性が切れるだろ……」

「どこを触っても怒りませんし誰にも言いませんから、とにかく触ってください!! さっきから胸も股も全身もウズウズして止まらないんです!!」

「誰にも、言わない……?」

 

 

 曜の懇願の強さが秒単位で増していく。俺にしがみつく手にも力が入っているので、本当に彼女の身体が激しく疼いているのだと実感した。既に彼女の顔は緩み、スクールアイドルがしてはならない大人のエロい表情になっている。

 

 ここまでお願いされているんだ、もちろん断る理由などないだろう。それに合法的に女の子の身体に触る機会なんて滅多にないし、こんなエロい女の子を自らの手でイキ狂わせてやりたい欲望も止まらない。相変わらず教師と生徒関係の葛藤はすぐに消え去り、男としての欲望に従っていた。だって男は女の子を性的に支配したいと思う生き物だろ? 違うか? その相手が例え同級生だろうが先輩だろうが後輩だろうが、実の妹だろうが教え子だろうが、そんなものは一切関係ない。しかも今回は周りに誰もいないし、曜も黙っていてくれると言うのだからメリットの塊だらけだ。

 

 

 結論、触る。

 

 

「自分からそう言ってくるってことは、覚悟はいいんだよな?」

「い、一回だけですよ? 身体は疼きますけど恥ずかしいのは恥ずかしいですから……」

「分かってるよ。要望には答える」

 

 

 そして俺は曜を抱きかかえていた右手を彼女の身体から離す。1回しか触れられないのでどこを触ろうか迷っていたのだが、やはり女の子の象徴であるおっぱいを触るのが妥当だろう。さっきから彼女が俺の胸に寄りかかっているせいで、その豊満な果実がグイグイ押し付けられ気が狂いそうだった。だからその腹いせも兼ねて、最初で最後の一揉みに魂を掛けてやる。

 

 俺は曜を一旦自分の身体から優しく引き剥がすと、徐々に右手を彼女の胸へと近付ける。曜もどこを狙われているのかが分かったみたいでギュッと目を瞑った。俺は右手の5本の指を大きく広げ、スクール水着をぷっくりと押し出している卑しい膨らみに向かって――――激しく襲いかかった。

 

 

「ひゃんっ!!」

 

 

 学院のプールに上がってはいけない嬌声が響く。

 果実を掴み取った右手の指は、スク水越しなのにも関わらず指先が見えなくなるくらい食い込んだ。その感触はもはや生の乳肉と変わらない。水泳部としての活動でほぼ毎日水着を着ているせいで、もう身体と水着が一体化してしまったのだろうか。そう思ってしまうくらいには生胸の弾力が感じられた。一回だけという制限付きなのだが、もはや勢いで二揉み、三揉みと連続で指を食い込ませてしまう。

 

 

「んんっ、あぁああっ!! せ、せんせぇ~……!!」

「わ、悪い!!」

 

 

 曜の声を聞いて始めて彼女の身体から手を離す。一瞬で我を忘れさせられてしまうくらいのこのおっぱい、恐るべし……。

 

 

「あっ、もうそろそろAqoursの練習の時間なので行きましょう!! 更衣室の前で待ってますね!!」

「えっ、お、おい!! どうしたいきなり??」

「心配しなくても今日のことは誰にも言いませんから!! それではまた後で!!」

「え、えぇ……」

 

 

 さっきまで発情して俺を求めていたと思ったら、今度は逃げるようにプールから立ち去りやがった。一体彼女の身体に何が起こっていたのか、彼女にどんな心境の変化があったのか、2つの謎を残しながら俺は手に残る曜のおっぱいの感触が忘れられず、指を胸を揉むように動かしながらプールに佇んでいた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 ちなみに職員室にて山内先生と、とある影が1つ――――

 

 

「どう山内先生? あっという間にプールに水が満杯になったでしょ?」

「流石天才発明家の秋葉さんです! プールの水入れ作業は毎年大変だって聞きますけど、まさか数分で終えちゃうなんて」

「でしょ? しかも今年のプールの授業は女の子たちが興奮すること間違いなしなんだから♪」

「興奮……? 生徒たちは毎年プールを楽しんでますけど、それ以上に?」

「はいっ、プールの水に秘密があるんですよ! それにそろそろ楽しんでる頃じゃないかなぁ~? ねぇ、零君♪」

 

 

 旨い話には裏がいるとは、まさにこのこと……。

 

 




 曜ちゃんの心境についてはまだまだ描写されていない部分もあるので、今後の展開にご注目ください!
 梨子ちゃんの時といい、何だか女の子がチョロいような気がするのは気のせいです。ちなみに私はチョロいのも時間を掛けて調教しながらでも、どちらの展開も好きですよ(笑)

 ここまでAqoursのメンバーを1、2人個別にスポットを当ててきましたが、次回の千歌回でとりあえずラストになります。そろそろ全員集合させてあげたい……




ポケモンに侵食されているTwitter(小説の更新報告等)
https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

脅迫の真実とハーレムへの入口

 今回は千歌ちゃん回です!そしてAqours編に入って初めての真面目なお話回でもあります。とりあえず今までちょっとした伏線の回収も兼ねていたり。


 

 Aqoursの女の子たちと親交を深めつつある今日、俺はそのメンバーの1人である高海千歌に呼び出され、彼女の自宅でもある旅館『十千万(とちまん)』へとやって来た。外見はかなり古風で東京育ちの俺からしてみれば古臭いというのが一先ずの感想なのだが、今の時代ここまで日本古来の趣で経営している旅館は珍しい。妙に立て付けが悪そうなのも、ある意味で風情を感じる。台風や地震が来てペシャンコになりそうな怖さはあるけど、今の今までこの外観を保ち続けてきたのだから昔の建築技術って凄いと思う。

 

 そんな旅館批評はさて置き、俺がここに来た理由について話そうか。理由と言っても千歌が一緒に次のライブで使う歌の歌詞を考えてくれとせがまれたからなのだが、俺には彼女に1つ聞きたいことがあった。言っておくけどそこそこ真面目な話題だからね? 性の目覚めの時期とか初オナニーのオナネタとかも気になるけど、それ以上に彼女の口から話してもらいたいことがあるのだ。

 

 

「あっ、先生遅いですよぉ~!!」

「指定時間の3分前だ。余裕でセーフだろうが」

「女の子との約束は男性の方が先に来るものですよ!」

「あのさ、この旅館はお前の自宅なのにどうすれば俺の方が早く来れるんだよ……」

 

 

 旅館の入口に辿り着くやいなや、千歌が意味不明な冗談で俺を迎えてくれた。ていうか冗談じゃなかったらこの子の頭がちょっとイっちゃってるってことに……いや、元々かなり頭がおかしい子だってことは知ってるけどね。教師の立場上、生徒にこんなことを間違っても口に出せないが。

 

 

「でもちゃんと私との約束を守ってくれただけでも嬉しいです♪ それじゃあ早速行きましょう!」

「へ? 行くってどこに?」

「どこって、私の部屋に決まってるじゃないですか。ロビーだとお客さんの邪魔になりますし」

「そ、そうか……」

 

 

 いくら邪魔になるからと言っても、自分の部屋に教師を連れ込むなんて普通に考えてみればタダ事ではない。しかも相手は異性であり、歳は離れてはいるけど他の教師と比べれば俺と千歌の年齢は格段に近い。なのにコイツは無警戒で男を女の部屋に上がらせようとしている。もし間違いが起こる想定は全くしていないということか? だったら男として舐められてるみたいで少々腹が立ってきたぞ。

 

 ちなみに今日の千歌の服装は袖のないシャツにホットパンツ。つまり腋や太ももを丸出しにしているのだ。そんな服で男を迎えるとか、どう考えても誘っているようにしか見えねぇだろ。しかもシャツの隙間から白の下着がチラチラ見えているのも俺の欲求を大いに刺激する。コイツはもっと自分がリアルJKであることを自覚すべきだよな……。

 

 

 

「こっちですよ! ほら行きましょう!」

「あ、あぁ……」

 

 

 そしていきなり千歌に手を取られ、半ば引っ張られる形で彼女の部屋へと向かった。

 よく分かんねぇけど、やたらテンションが高くないかコイツ? しかも何の躊躇いもなく俺の手を取るとは、やはり1人の男として認識されていないのだろうか。そもそも教師としての立場が強くて、恋愛方面に一切思考が傾いていないのかもしれない。まああの千歌だし何も考えてない可能性が高いだろうけど、仮にも容姿が整った可愛い女の子にいきなり手を掴まれるとか、いくら彼女持ちだと言えどもドキっとせざるを得ない。あざとい子よりも無自覚にこういったことをしてくる子の方が心を掴まれるよなぁ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ジャーン!! ここが私の部屋です! 女の子の部屋に入ってドキドキしてますか?」

「しねぇよ別に。普通の部屋じゃねぇか」

 

 

 前言撤回、コイツは俺を脅すくらい陰湿な奴だったってことを忘れてた。さっき少しでもコイツに乙女さを期待していた俺がバカだったよ……。

 

 女の子の部屋にお邪魔するなんて日常茶飯事だった俺からしてみれば、いちいち女性の部屋に上がり込んだだけでたじろぐことはない。女の子経験が薄いウブな男子だったら、女の子の部屋に入った瞬間女子の独特の甘い匂いやその子がいつも就寝しているベッドなどでドキドキするのだろうが、残念ながらμ'sで精神を鍛え上げられた俺にそんなものは通用しない。千歌は自分の部屋に俺を上がり込ませることでドギマギさせようとしていたみたいだが、先生の女性経験の豊富さを舐めていたようだな。

 

 部屋をぐるっと見渡して分かったのだが、壁にμ'sのポスターが貼られている。千歌がμ'sの大ファンで穂乃果たちの触発されてスクールアイドルを始めたってことも聞いたのだが、まさかここまでのファンだったとは。棚にもμ'sが出演していた頃のラブライブのDVDもあるし、相当彼女たちに入れ込んでいるらしい。自分が手塩にかけて育ててきたμ'sにここまで熱狂的なファンがいると、何故だか俺まで嬉しくなってくるな。

 

 それにしても、自分の恋人たちがこうしてスクールアイドルの象徴のようにポスターに写っているのを見ると、身近な存在でありつつも別人に見える。逆に言うと、ありのままの彼女たちを知っているのは俺だけってことになるから地味な優越感を感じていたり。

 

 μ'sのポスターを見ながら丸テーブルに座ると、その対面に腰を掛けた千歌に話しかけられる。

 

 

「あれ? 先生もμ's好きなんでしたっけ?」

「えっ、どうして?」

「いやずっとμ'sのポスターを見てたから……」

「あぁ好きだよ。5年前からずっとな」

「本当ですか!? まさか先生と共通の話題ができるなんて思ってもいませんでした!! それじゃあ早速第三回のラブライブ本戦のDVDを一緒に観ましょう!! A-RISE一強時代を見事に打ち崩した感動のシーンを!!」

「待て待て! 今日は作詞をするんじゃなかったのか!?」

「同胞と出会ってこのμ's熱を抑えることができるでしょうか? いいやできません!!」

「同胞って……」

 

 

 1つ言っておくが、俺と千歌の『μ'sが好き』はニュアンスが違ってくる。千歌はファンとして、そして同じスクールアイドルの憧れとしてμ'sが好きと言っているのだろうが、俺の場合は人生を共に歩んでいくパートナーとしてだからな。もちろんμ'sのファンかと言われれば、地球上のどの生命体よりも俺は彼女たちの一番のファンと名乗れる自信はある。

 

 

「作詞が遅れるとまた梨子に怒られるぞ。それに『先生が付いていながら』みたいな感じで文句言われて俺にまで飛び火してきそうだし……」

「それは毎回LI○Eのスタンプで誤魔化してるから大丈夫ですよ♪ 梨子ちゃんも目が引きつったスタンプで返してくれるし!」

「どう考えても怒ってるだろそれ!!」

 

 

 類は友を呼ぶとはまさにこのことか。穂乃果に憧れてるのが穂乃果と同じ頭を持った人間だとは……。以前梨子が千歌の作詞スピードが遅いと散々愚痴を垂れていた理由が分かったよ。

 

 

「そうだ! だったらμ'sのライブ映像を観ながら作詞しましょうよ! μ'sの曲からヒントを得られるかもしれないですし!」

「いやいや、お前のことだからどうせテレビに没頭して作詞が進まないのは目に見えている!! だからダメだ」

「ぶ~ぶ~!!」

「可愛く捻くれたってダメ」

 

 

 Aqoursのメンバーはよくこんな奴を作詞担当にしたもんだ。μ'sの作詞担当は超真面目ちゃんの海未だったから、同じく超真面目ちゃんである真姫とのコンビで作詞作曲作業についてはほとんど滞ったことはない。だが見てみろ目の前のみかん少女を。もう既に俺の意見を無視してμ'sのライブDVDを手に取ってやがる。ていうか梨子もよく我慢してるよな。もし梨子が海未だったら雷どころの災害じゃ済まないぞ……。

 

 

「あ~あ、折角μ'sの良さを分かり合える同志に出会えたのになぁ~」

「梨子や曜とは一緒に観てないのか? どうせ付き合わせているんだろ?」

「失礼ですね……ま、まぁ何度か誘ってμ'sの良さを布教しようとしましたけど」

「ほら見ろ。そういや黒澤姉妹もμ'sだし、アイツらとは話合うんじゃないのか?」

「そうですけど、身近に話が合う人が欲しかったんです!!」

「同じAqoursのメンバーは身近じゃなくて、顧問の俺は身近なのか……」

「先生は私のクラスの副担任でもありますから!」

 

 

 副担任って言われる方が身近に感じないんだがそれは……。

 ともかく、このままではμ'sのライブ映像を夜通しで観る勢いになりかねない。もう死ぬほどアイツらのライブを見てきた俺にとってそんなもの苦痛でしかないので、何とかしてμ's中毒の千歌に作詞作業をやらせないと。

 

 その時、千歌の身体がいつの間にか俺にほぼ寄り添う形で接近していることに気が付いた。最初俺たちは丸テーブルを囲うように対面で座っていたのだが、気付かぬ間に千歌が俺の身体に密着しそうな距離にまで詰め寄ってきていたのだ。μ'sの話に熱中していたからだろうか? それにしても女性が男にここまで無防備に近寄ってくるなんて……。あまりにも自然に近寄られていたので、俺の中で戸惑いが生まれていた。

 

 

「おい、ちょっと近くないか……?」

「そ、そうですよね! すみません……」

 

 

 突然、空気が変わった。

 

 千歌は借りてきた猫のように身を縮こませたまま俺の対面へと戻る。

 おかしい……明らかにさっきμ'sの話で盛り上がっていた時のテンションとは違う。それに『そうですよね』という発言は、自分から意図して俺に近付いてきたという証明でもある。彼女にどんな思惑があるのかは知らない。また脅迫紛いなことを要求されるのかと思ったが、しおらしい彼女を見ているとそんな雰囲気ではないことが分かる。以前プールで曜を追い詰めた時と全く同じ反応。まさか……まさかコイツも身体を触って欲しいとか淫乱ちゃんみたいなことを言ったりするのか!?

 

 

「あ、あの!!」

「な、なんだ?」

「…………」

「なんなんだよ一体……?」

 

 

 千歌は身を縮こませながら不安げな目で俺を見つめる。もしかして、作詞作業を催促する言葉が強すぎて怖がらせちゃったとか? でも彼女はそんな些細なことでビビる子じゃないし、そもそも俺への脅迫材料(痴漢騒動の件)を握っている時点で彼女の方が俺より立場が上だ。うん、自分で言って惨めになってきたぞ……。

 

 俺の立場はどうでもよくて、千歌がここまで畏まっているのは何か別の理由があるかもって話だ。曜に引き続いてまたしてもこの展開、リアルJKが頬を染めてそわそわしている仕草はいつ見ても心が揺れ動く。しかもギャップ萌えと言うのだろうか、特に千歌は普段の活気とは違って全く真逆の乙女な雰囲気を見せつけてくるのでいい意味で心臓に悪い。あまり健全な男子の心を揺さぶるなよな……。

 

 

「1つ……1つ聞きたいことがあるんですけど……」

「聞きたいこと?」

「はい……。先生って、スクールアイドルをやっていたこと、ありますよね……?」

「え……? あ、あるけど……」

 

 

 どんな質問が飛んでくるのか全然予想できなかったのだが、その範疇さえ超えた質問を投げつけられ俺の方が(ども)ってしまった。

 ちなみに俺がスクールアイドルをやっていたのは紛れもない事実だ。だがその期間は僅か数日で、μ'sとのいざこざがあってやめたんだったな。そう思えば千歌から質問されるまで自分がスクールアイドル経験者だってことをすっかり忘れていた。だからこそ返答に躓いてしまったのだが、自分の周りにあんな可愛いスクールアイドルたちがいるんだから仕方がないだろ。自分のことでもたった数日間のスクールアイドルの記憶なんて忘れちまうって。

 

 

「あぁ~言いたいことはそんなことじゃないのにぃ~!!」

「お、おいどうしたんだよ……」

「ゴメンなさい! 少し深呼吸いいですか?」

「あぁどうぞ」

 

 

 千歌は短い間隔で何度か深呼吸を繰り返した。しかし少々乱雑な深呼吸からかなり緊張していることが伺える。もう出会って数日、毎日顔を合わせては世間話や冗談を言い合ったりしているのにどうして今更緊張する必要があるのか。ただの緊張ではないってことくらいは想像できるけど、だとしたら一体……。

 

 数回の深呼吸を終えた千歌は、うるうると揺れる瞳をこちらへ向けながら再び俺と対面する。いつになく真剣な表情なので、さっきまで崩していた自分の姿勢をきっちりと正す。

 

 

「実はですね、今日先生をここに呼んだのは作詞をするためじゃないんです」

「え? じゃあ何のために……?」

「単純に一緒にいたかったから……じゃダメですかね?」

「一緒にいたいって……まだ話が見えねぇんだけど」

「ですよね。それじゃあ単刀直入に言います!」

 

 

 いきなり千歌に勢いが出てきて俺は思わず唾を飲み込む。何らかの迷いが吹っ切れたのだろう、今度は俺の方に緊張が回ってきやがった。

 

 そして、その緊張はまもなく最高潮を迎えようとしていた。

 

 

 

 

「好きです、先生のことが!!」

 

 

 

 

「は……??」

 

 

 意味が分からなかった。いや言っている意味は分かるのだが、千歌が俺のどこに惚れる要素があるのか、そこが分からない。さっきから千歌の言動が予想外すぎて何度衝撃を受けたことか。それが今まさにピークを迎え、自分でも珍しく頭の中がぐちゃぐちゃに混乱していた。とにかく、千歌に何かフラグを立てた覚えは一切ない。なのに突然の告白展開とかもう訳わかんねぇよ!! 女の子12人に告白された経験を持つ俺ですら意識が現実から離反している。

 

 

「いきなりこんなことを言われても困りますよね……」

「こ、困るってよりどうして俺のことなんか……。バスの中でのこと、忘れてないだろ?」

「もちろんです。忘れられる訳ありませんよ、あんな体験」

「だったらどうして……」

 

 

 自分ではどう足掻いてもパニックを抑えられないので、ここは冷静に千歌の話に耳を傾けることにした。一応これでも女心を少しは勉強してきた身、こういう時はまず女性の気持ちを聞き入れることが先決だ。

 

 

「4年前、たまたま先生がスクールアイドルとして活動している映像を見ました。ありきたりな感想ですけど、先生のスクールアイドル姿はとてもカッコよくて、当時はスクールアイドルのことなんてμ'sくらいしか知らない私の目を釘付けにされちゃったんです。私は周りの友達に比べると平凡で何の特徴もない人間でしたから、ここまで輝ける先生に憧れて、そして見惚れちゃいました」

「そ、それはありがとう――――って、じゃあお前、痴漢事件の時から俺のことを知ってたのか!?」

「はい。一目見た時は寝ぼけていて人違いかなと思ったんですけど、よく顔を見てみたら憧れの人で思わずジッと見つめちゃいましたよ。まさか実際に会えるとは想像もしていなかったので、あの時は痴漢をされたことなんて忘れてただドキドキしちゃって……」

 

 

 なるほど、ようやく気になっていたことの辻褄が合ってきた。バスでうたた寝をしている千歌に痴漢をしてしまって梨子に捕まり、浦の星の最寄りの停留所で始めて彼女と対面した時、千歌がやたら俺を見つめてくるなと思っていたんだ。その時の彼女の目は輝いており、どう考えても痴漢犯罪者を見るような目ではなかった。俺はずっとあの時の千歌の反応が気になっていたのだが、まさかそんな理由があったとはな……。

 

 

「言うなればアレです、一目惚れってやつです。先生のスクールアイドル姿を動画で見てから、胸がチクチクっとするようになりまして……。それでも最初はただの憧れの面が強くて、ほら、女性ファンが男性アイドルに熱中するみたいな、そんな感じだと思っていたんですよ」

「思っていたってことは、実際には違ったのか?」

「初対面は憧れの面の方が強かったですね。ですが先生と毎日世間話をしたり冗談を言い合ったりしている内に、憧れとしてではなく1人の男性として見るようになっていたんです。やる気なさそうな雰囲気をしながらも、勉強で分からないところは優しく丁寧に教えてくれますし、スクールアイドルの活動に関しては先生の指導のおかげでAqoursとしても個人としても目に見えるほどスキルアップしたと実感できました。まだ出会って数日ですけど、先生のことが"好き"だと認識してからはもう4年も経っているんですよ」

 

 

 史上初の男性スクールアイドル登場から女性ファンの急増、そして数年後突如してファンの1人の女性と出会い告白をされる――――あまりにも非現実的で出来すぎたシナリオだが、今まさに目の前でそのシナリオが展開されている以上現実逃避はできない。

 まさか千歌がここまで俺を想っていたなんて……相変わらず女性の心情変化には疎いというか、そもそも彼女を生徒としてしか見ていなかったので仕方ないのかもしれない。しかしその想いを伝えられてしまった以上、もうこれまでの関係のままではいられなくなったのは事実だ。

 

 とりあえず頭の整理をする時間確保のために、もう少しで紐解けそうな謎を敢えて千歌にぶつけてみる。

 

 

「それじゃあもしかしてだけど、俺を痴漢の罪で脅迫して、Aqoursの顧問になれって命令したのも……」

「はい、多分先生の予想通りです。一緒にいたかったんです、先生と。本当なら脅迫なんて汚い手を使うのは卑怯だと思ったんですが、憧れで一目惚れをした先生を前に慌てちゃって、咄嗟に思いついたのが痴漢されたことを利用する方法だったんです」

「なるほど、ようやく謎が解決したよ」

「落ち着いたら本当のことを伝えようとしていたんですけど、いざ言い出そうと思うとドキドキしちゃって、結局痴漢騒動を盾に意地悪な態度を取ってしまうはめに……ゴメンなさい!!」

「なんでお前が謝るんだよ! 悪いのは勝手に手を出した俺の方だろ?」

「いや、別に私は全然気にしていないので。むしろもっと触ってくれてもよかったのに……」

 

 

 千歌の声が小さすぎて後半の部分が聞き取れなかった。なんか不穏な言葉を言っていた気もするが、ここはスルーしておこう。

 千歌が犯罪者の俺に対して全く嫌悪感を抱いていない。俺はずっとそのことが気になっていたのだが、まさか一目惚れした相手だからその甘美で嫌悪感を塗りつぶしていたとは。そう考えると千歌が俺にやたら意地悪そうにしてきた理由も全て納得がいく。嫌悪感を抱くどころか、むしろ俺に振り向いて欲しいから意地悪をしていたと。発想がまさに子供のそれだが、普段から感情を前向きに押し出している彼女だからこそ可愛い一面を感じられた。

 

 しかしここでだ。千歌が『好きです』と告白してきた以上、俺はその言葉に返答する義務がある。さっきからの超展開で返事をなあなあにしてきたが、千歌の想いが俺と共有できたからにはもう避けては通れないだろう。

 

 

「先生はどう思っていますか、私のこと……」

「どう思ってるって言われても、教師と生徒の関係としか見られないよ。でもまあ俺もありきたりな感想を言うけど、可愛いとは思ってる」

「そう、ですよね……だったら!!」

「お、おいっ!?!?」

 

 

 千歌に一大の決心が着いたのか、彼女は俺の横に移動してまたしても寄り添う形で密着してきた。しかも今度は胸に飛び込んで来るやいなや、そのまま俺の身体に抱きついてくる。大胆すぎる行動にようやく落ち着いてきた俺の頭が再びヒートアップしてきた。そしてこれだよこれ、女の子の髪から醸し出されるこの甘い匂い。もうこれだけで判断力が鈍りそうだ……。

 

 

「先生は女の子の身体が好きなんですよね?」

「そ、それは……」

「隠さなくても知ってますよ。見ず知らずの私に痴漢するくらいですから」

「うぐぅ……」

「先生、あの時の続きをしません? 私、一切抵抗しませんから……」

「なんだって……!?」

 

 

 千歌は更に俺の胸に身体を寄り添わせ、抱きつく力も強くする。彼女が何を考えてるのかは分からないが、それ以上に俺の方がパニックになっていた。いきなり告白され、そして痴漢の続きをしようと言われたら誰であってもそうなるだろ普通!!

 

 

「先生が満足するまで私を好きにしていいですから。それで私、高海千歌を先生に知ってもらうことができれば……」

「千歌……」

 

 

 女性が男性に身体を差し出すとか、それはもう生半可な覚悟じゃできないことだぞ。つまりそれだけ千歌は本気ってことだ。俺の胸に顔を埋めているせいで彼女の表情は見えないが、耳が異様に真っ赤になっているので顔面も相当熟しているだろう。圧倒的な羞恥心すら乗り越え行動に移したのだから、ここは俺も相応の決断をしなければならない。そう、己の信念に従ってな……。

 

 

 

 

「できないよ、俺には」

 

 

 

 

「へ……?」

 

 

 

 千歌が素っ頓狂な声を上げ、同時に顔も上げた。恐らく自分の想像と俺の返答が違っていたからなのだろう、キョトンとした面持ちで俺を見つめる。

 

 

「できないよ、そんなことは」

「ど、どうしてですか!? 先生は変態さんで痴漢魔さんでセクハラ魔さんなのに、どうして私から誘ったら拒否するんですか!? 男性にとって女性を好きにしていいって最高の言葉じゃないんですか!? 私は先生のことをもっと知りたくて、一緒にいたくて、一緒に触れ合いたくて、4年前からずっと好きで、ようやく会えて私は!!」

「落ち着け!!」

「!?」

 

 

 俺の一喝で目に涙を溜めて暴走していた千歌のテンションが鎮まる。俺は彼女と会ってまだ数日だ。だけど彼女にとって俺は4年もの間ずっと待ち続けてきた想いの人。周りからはたかが一目惚れと言われるかもしれないが、彼女にとっては本気の恋なんだ。だからこそ、俺は――――

 

 

「俺のことをそこまで大切に想ってくれる子に、そんなことはできないよ。確かに女の子は好きだ。女の子の身体も大好きだ。だけどな、俺がもっと好きなのは女の子の笑顔なんだ。だから千歌にも笑っていて欲しい」

「先生……」

「だから身体で釣ろうなんて考えるな。俺って優柔不断だからまだ告白への返事はできないけど、お前の笑顔を見ていればきっと心の整理もできるはずだ。だからそんな泣きそうな表情をするな、悩んで苦しそうな表情もするな。ずっと笑顔でいてくれ。そうすればきっといつかお前の想いに応えられる日が来る」

「笑顔……か」

「あぁ。俺が女の子の表情で一番好きな顔だ」

 

 

 女の子が好きなことは否定しない、女の子の身体に興奮しちゃうことも否定しない。正直さっき千歌に身体を差し出された時、俺のいつもの欲望が目を醒まそうとしていたしな。だけど大切な子と身体だけの関係にはなりたくない。そんなセフレみたいな関係は本当に愛し合っていると言えるのかどうか微妙なところだから。千歌は本気で俺に想いを伝えてきた。だからここで彼女の誘惑に乗ってしまったら、その本気を潰してしまうことになる。よって否定した。まだ千歌のことを教師と生徒の関係としか見られない俺だが、いつかその関係が変わる時が来るかもしれない。そう思ったんだ。

 

 

「意外と真面目だったんですね、先生って」

「意外とは余計だ。って言いたいけど、今まで悪行を思い返すと全然説得力ねぇな」

「それでも親身になって勉強を教えてくれますし、Aqoursの練習指導も熱心ですからみんな感謝してるんですよ」

「マジ? 初耳なんだけど」

「はいっ! 以前より効率よく練習できるようになったとか、体調管理の仕方とか、本当に色々感謝するべきことがあります」

「そっか。そう思われてると嬉しいな」

「えへへ♪」

 

 

 千歌に笑顔が戻った。彼女の中でどのような心境の変化があったのか俺には分からない。だけど表情が緩やかになっていることから、今まで心をガチガチに取り囲んでいた様々な柵を取り去ることができたのだろう。

 

 千歌は俺の身体から離れると、腕を大きく上げて伸びをした。袖なしシャツでそのポーズをされると胸の膨らみがこれでもかってくらい強調されるからやめて欲しい。折角カッコいいセリフで決めたところなのにもう女の子の身体に興味津々とかこの男、ダメすぎる!!

 

 

「あっ、今おっぱいをってみたいと思いましたね??」

「はぁ!? そ、そんなこと……」

「知ってます? 女の子って男性の卑しい目線を感じ取れるものなんですよ」

「あ、そう……」

「あぁ~そんな態度でいいんですかぁ~?? みんなにバラしますよ痴漢のこと!!」

「おいそれは契約違反だろ!! ていうかさっきのやり取りでバラさないといけない要素あったっけ!?」

「バラすかバラさないかは私の裁量によって決まりますので♪」

「悪女だ……本物の悪女がいる!!」

 

 

 いつにも増して意地悪さMAXだが、これぞ俺の知る高海千歌って感じでどこか安心していた。脅迫されているとかどうであれ、やっぱり女の子は笑っている姿が一番だよ。この意地悪そうな笑みも含めてね。

 

 

「あっ、これでも先生の気を引くことは諦めていませんから。先生の心を掴むまでどんな手を使ってでも攻め続けます。だからこれからも、私の脅迫にたくさん怯えちゃってくださいね♪」

「怖いこと言うなよ……。でもまぁ、受けて立ってやるよ」

 

 

 どうやら千歌との関係はいい方向に崩れ去ったようだ。そしてこれからは今まで以上の覚悟を決めないといけない。そうでなきゃ一瞬で惚れちゃいそうだから。あぁ、チョロいな俺って……。

 




 今まで告白と言えば相当な話数を掛けてフラグを立ててきたものばかりだったので、たまにはこういった一目惚れの高速超展開でもいいかなぁと思いました。まあAqours編は全体の話数が少なめになる予定なので、サクサク進めないと話が進まないという未来を見越してのことですが(笑)

 千歌ちゃんのエロい描写はまだかって? 大丈夫ですもうすぐです(多分)


 これにてAqoursのメンバーごとの話は一周したので、次回はハーレム小説らしく全員出演させてみようと思います。


先日、この小説の平均評価が☆9.80に到達しました!
ハーメルンに投稿している人でないと分かりにくいのですが、評価の最高が☆10なのでほぼMAXに近い値を叩き出したことに私自身驚いています(笑) ちなみにハーメルン全体の小説でもトップの平均評価なので、やっぱりハーレムは王道にして偉大だなぁと思います(笑)

新たに高評価をくださった

roxas013さん、文才皆無。さん

ありがとうございます!



Twitter
https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Aqours vs 淫乱幽霊ちゃん(前編)

 今回はサンシャイン編が始動して初の前後編+Aqours9人が勢ぞろい。相変わらずサブタイトルからロクな展開にならない匂いがするのは内緒。


「山登りに行きますわよ!!」

「「「「「「「「は……?」」」」」」」」

 

 

 ダイヤの突拍子もない発言に、他のメンバーたちが疑問の声を上げる。

 部室でのミーティングを終え、各々帰宅の用意をしている間に新たなる話題が舞い込んできた。今日はミーティングだけで練習もないため、みんな口々にどこかに遊びに行く予定を立てていた矢先の出来事だ。

 

 

「突然どうしたのダイヤ? また特訓? 流石に山登りは慣れてないとキツイと思うけど」

「違いますわ果南さん。私は最近浦の星女学院に広がっている噂の真実を確かめに行きたいのです」

「噂?」

「あっ、それ私も聞いたことがあります! 学内SNSでも話題になってますよね!」

「千歌ちゃん、その噂って……」

「梨子ちゃん知らないの?? 近くの裏山で夜、女性の笑い声が聞こえてくるって噂」

 

 

 どうやら話題は夏恒例の心霊現象のことらしい。そういえば今日女の子たちとお昼ご飯を食べていた時にもそんな話題になってたな。職員室でもその噂について話している先生もいたし、噂の伝達スピードも然ることながら1つの話題でもちきりなのも流石地方の学校と言ったところか。

 

 

「じょ、女性の声……?」

「そう。山を登っていた人たちが聞いたんだって、どこからともなく響いてくる女性の笑い声をね……」

「ひぃ~~~~!!!!」

「おっと! 大丈夫かルビィ?」

「は、はぃぃ……」

 

 

 あまり大丈夫そうに見えないんだがそれは……。

 千歌が心霊番組のごとく暗いトーンで話すものだから、ルビィが怖がって隣にいた俺に抱きついてきた。見た目からビビリな子だとは思っていたが、たったあれだけの話で怖がるとは相当小心者らしい。まあ心霊モノは苦手な人は苦手だからな。某金髪クォーターのスクールアイドルみたいに。

 

 

「ふんっ、全くそんなことで怖がるなんてルビィも臆病ものね」

「そんなこと言って善子ちゃん、ちょっと身体が震えてるずら!」

「え゛っ……」

「Oh! 堕天使なのに幽霊が怖いとか驚きぃ~」

「ち、違うから!! ちょっと部室の冷房が効きすぎてるだけよ!!」

 

 

 言い訳が苦しすぎるだろ……。鞠莉の言う通り、自ら堕天使を名乗っておきながら人間界のオカルト話(しかも噂)ごときで身体まで震えるとは善子も案外可愛いところがある。生放送でもかなり部屋を暗くしていたからその辺は平気だと思ってたよ。多分あれだな、堕天使の最中は平気なのだろう。だから素に戻ったあと夜中1人でトイレに行けない性格だと見た。

 

 

「とにかく! ここまで噂が大きくなってしまった以上、我々生徒会が噂の真実を確かめる必要があるということですわ!」

「なるほど、それで山登りを……面白そうですね!! 山の中で不気味に笑う声の正体を暴くために冒険に出掛ける。一度やってみたかったんだぁ~」

「曜ちゃん!? どうしてそんなやる気なの……?」

「梨子ちゃん、これが曜ちゃんの無駄な好奇心だよ……」

「無駄ってなに!? みんなは気にならないの声の正体。自らの力で正体を暴いて犯人を白日の元に晒す快感を味わいたくない?」

「珍しく曜ちゃんの血が滾ってる……」

 

 

 曜はオカルト話が好きだと思っていたのだが、ただ怪しい声の正体を暴く快感を求めていただけなのね……。真実を突き止めた私カッコいい~みたいな。普段の2年生組は千歌がバカやってるイメージがあるから、曜がここまでハイテンションなのは始めてみた。今日だけでもAqoursの今までと違う一面を見られて面白いな。

 

 

「それでは皆さん、夜に裏山のふもとに集合ですわ!! 私たちAqoursが怪しい噂から浦の星を救うのです!!」

「えぇ~どうしてルビィもぉ~!? 生徒会のお姉ちゃんたちだけが行けばいいんじゃあ……」

「ルビィ、この程度のホラーすらも恐れていてはスクールアイドルは務まりませんわ!!」

「お前らバラエティ番組にでも進出するつもりかよ……」

「先生、あなたもサボらず集合してください!」

「はぁ!? どうして俺まで!!」

「顧問なのですから、私たちに引率するのが合理的ではありません?」

「俺はそんな理に縛られないんでね」

 

 

 なんだよなんだよ!! 俺に時間外労働を申し渡すってか!? 冗談じゃねぇ!! 昼間は働いて夜は家でのびのびするのが俺のスタイルだ。ただでさえ教育実習は給料が出ないっていうのに、加えて夜までガキのお守りをしろだなんてめんどくさ過ぎる。例えその相手が女の子たちだったとしても、労働基準法という国家権力に反する気はさらさらない。

 

 

「まあまあいいじゃないですか先生! 教師としてもこの問題は放っておけないでしょ? それに私もちょっと興味ありますし♪」

「千歌……でもなぁ、俺は教育実習生であってマジモノの教師じゃないからその理屈は当てはまらないんだよ」

「しかしAqoursの顧問をやってる以上、もし私たちに何かあったら例え教育実習生であろうが責任は先生が背負わされますよ?」

「ぐっ、そ、それは……」

「それに引率してくれないと、色々とバラしちゃいますよ? 痴漢(あのこと)とかセクハラ(あのこと)とかぁ~」

「お、お前なぁ……」

 

 

 正直その脅しをされると俺からは一切反抗できない。しかも脅しの掛け方が以前よりもよりダイレクトになっているというか、もう容赦の欠片もないなコイツ。本当に俺に一目惚れして告白してきた奴なのかと疑ってしまうくらいだ。どうも俺に惚れる女の子はみんな一クセも二クセもある奴ばかりでいい意味で面倒だよ。

 

 

「まあそこまで言うなら行ってやるけど、果南や鞠莉たちはいいのか?」

「私は別にいいですよ。近隣住民の人たちが困っているなら見過ごせませんし」

「私も全然OK! 可愛い女の子の幽霊だとしたら一度見てみたいから♪」

「相変わらず神経図太いよなお前ら。それで曜は……聞かなくてもいいか、梨子は?」

「みんなが一緒に行くなら行きますけど……」

「なんだ? 怖いのか?」

「そりゃあさっきの話を聞く限りだと不気味ですし、気味が悪いですよ」

「だったらお留守番でもいいんだぞ。俺としてもお守りをする生徒の人数は少ない方がいい」

「1人でお留守番していても気になるだけですから行きますけどね!!」

 

 

 どうしてそんなにツンデレ口調なのかは知らないが、この話を聞いた以上謎の声の正体を暴いて安心しないと1人で部屋にいられないのだろう。その証拠に梨子は若干冷汗をかいている。この調子で本当に大丈夫なんだか。どこぞの赤毛お嬢様でないにしろ、ツンデレ意識で変な意地を張って身を滅ぼすのだけはやめてくれよ。

 

 そして果南と鞠莉は見た目だけでなく精神も大人なのか、余裕満々やる気上々のご様子。確かにコイツらがお化けにビビる姿は想像できない。お化け屋敷のお化けを怖らがらず逆に興味を持ってしまい、お化け役の人を困惑させるパターンの奴らだな。

 

 

「あとは1年組だが……花丸はいいとしても、ルビィと善子はアウトっぽいな」

「はぁ!? よ、ヨハネはお化けなんて別に怖いことなんて……」

「善子ちゃんさっきよりも身体の震えが激しくなってるずら……」

「善子って言うな!! ヨハネはヨハネ!! 地上の怪奇現象ごとき、堕天使ヨハネの力をもってすればすぐに収められるんだから」

「じゃあ善子は参加な」

「どうしてそうなるのよ!?」

「だってお前がいれば全部解決できるんだろ? 参加させない手はないだろ」

「アンタさっき参加人数は少ない方がいいって言ってなかったっけ……」

「お前が怪現象にビビる姿が見たいだけだ」

「本ッッッッッ当に陰険な野郎ね!!」

 

 

 なんだろうな。本来はここまでチクチク攻める意地悪はしないタチなんだけど、善子だけは例外的に意地悪をしたくなってくる。これは小学生の男子が気になる女の子に意地悪をするあの感覚と多分一緒だ。反応が可愛いくて俺に反発的な女の子ほど逆にこっちから弄りたくなってくる。言うなれば抵抗してくる子ほど調教したくなってくるのと同じだ。

 

 

「ルビィはどうする? 大人しくお留守番してるか?」

「み、皆さんが行くのならルビィも勇気を出して行きます!!」

「おっ、偉いぞ! よしよし~」

「あっ……えへへ♪」

「なんか私の時とは対応違わない!?」

「そりゃあ虚勢や意地を張ってる奴とは扱いが違うに決まってんだろ」

「こんのエコひいき野郎ぉ……」

 

 

 ルビィってどう見てもおどおどしている妹キャラにしか見えないから、妹キャラ好きにとっては無性に可愛がりたくなってくる。しかも普段から献身的に可愛がっていたためか、こうして頭を撫でてやるだけで笑顔になるくらいには懐かれていた。教育実習1日目にパンツを脱がしてしまった過去などもうとっくに忘れ去られているようだ。それにルビィを手懐けておけばダイヤに近づく口実もできるしね。よく言うだろ? 攻める時はまず外壁からって。

 

 

「それでは改めて、皆さん今日の19時に裏山のふもとに集合です! 各自時間までに夕食を済ませて万全な耐性で望むように!!」

 

 

 そんな訳でAqours全員参加の山登り+怪現象調査が計画された。噂は所詮ただの噂、夜の山の中で女性の笑い声が聞こえるなんて有り得ねぇし、多分最初に聞いた人の空耳だとは思う。それよりも女子高生が夜に山登りする方がよっぽど危険なので、みんなをしっかり見張っておかなきゃいけねぇな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「子供の頃に曜ちゃんと何度も登った山だけど、夜に来ると何だか景色が全然違うね……」

「千歌ちゃん、もしかして怖いの?」

「みんなと一緒にいれば大丈夫かな多分……アハハ」

 

 

 ちゃんと指定通りの時間にふもとへ集合した俺たちは、現在絶賛山登りの最中だ。RPGのパーティのように縦に隊列を組みながら練り歩く。懐中電灯を持ったダイヤを先頭、俺を最後尾に置いて夜のダンジョンをズンズン突き進んでいた。俺たちの頭上は木々が邪魔して月明かりがあまり入り込んでいないので周りはかなり薄暗く、ここが心霊スポットと言われてもおかしくないくらいのムードは漂っている。

 ちなみにここまでは特に変わった現象は起きておらず、むしろ鳥の声や風が木を揺らす音にビビるルビィや善子をなだめたりからかったりするのが精一杯で怪現象の解明については一切気が回っていなかった。

 

 

「ルビィちゃん大丈夫……?」

「うん、花丸ちゃんの背中にひっついていれば平気……」

「ちょっと歩きづらいずら……」

「離れちゃダメだよぉ~!! 花丸ちゃんが離れたらルビィ、この山の中で一生女性の怪しい声に頭をうなされて死んじゃうからぁ~!!」

「ちょっ!? ルビィ変なこと言わないでよ!!」

「だ、だってぇ~……」

 

 

 1年生組は山の中に入って数十秒後からずっとこの調子である。いつもは落ち着いていて物静かな雰囲気の花丸が相対的にとても頼もしく見える。彼女はいつも通りにしているのに妙に貫禄を感じるのも、同級生2人のルビィと善子が情けないせいだからだろうか。

 

 

「梨子、顔が硬くなってるけど大丈夫か?」

「み、みんなが近くにいれば大丈夫です!!」

「まぁ、なんかあったら俺が守ってやるから」

「先生……ありがとうございます! 頼りにしてます♪」

「お、おぅ……」

 

 

 強ばった表情からいきなり笑顔になったから驚いちまった。

 そういや梨子の秘密を共有して以来、彼女との距離がグッと近くなった気がする。俺を威嚇してばかりだった彼女が嘘のように丸くなり、今や好意的に接してくれている。向こうから話しかけてくれることの方が多くなったり、作曲作業に誘ってくれるなど、心の扉をほぼ全開に開いてくれたみたいで良かったよ。それでも教育実習生とは言え一応教師の俺に対して結構積極的なような気もするけどな。

 

 

「「…………」」

「千歌、曜? なんだその目は……?」

「なんか梨子ちゃんと仲良くなってません? 最初はあんなに(いが)み合ってたのに」

「まあ色々あったんだよ、色々とな」

「ふ~ん……」

「何なんだよ一体……」

 

 

 千歌と曜は俺と梨子を半ば睨みつける形で交互に見つめる。何を怒っているのかは知らないが、だからと言って梨子の秘密を喋ってしまう訳にもいかない。そもそも千歌と曜は旅館やプールでの一件以来、俺が他の女の子と仲良くしていると何故か機嫌を悪くする。もしかしてあれか、嫉妬って奴か? だとしたら急に2人の仕草が子供っぽく見えて微笑ましくなってきたぞ。

 

 そんな中、先頭を歩いていた3年生組が後ろを振り向いて声を掛けてきた。 

 

 

「先生。あまり騒がれると女性の笑い声とやらが聞こえないので静かにしてくれません?」

「いやいや騒いでるのは他の連中だから。俺はその対処をしているだけだから」

「先生ったら、みんなにモテモテだもんね! 私ジェラシー感じちゃう♪」

「お前本当にそう思ってんのか鞠莉……」

「私だってもっと先生と話したいけど、最近は千歌っちたちに邪魔されてちょっと激おこプンプン――――だって言ったら、先生はどう思う?」

「少しヤンデレっぽいなぁって。まあお前が本気でそう考えてるのなら、俺ももっとお前と仲良くなりたいと思わなくもない」

「そっかぁ……フフフ♪」

「そこまで嬉しいか……?」

 

 

 なんか今日は幽霊騒動とか関係なく様子が読めない子たちが何人かいる。千歌たち2年生組とかその筆頭だし、鞠莉も幽霊退治に向かう表情とは思えないくらいの笑顔だ。やはり女心ってのは分からん。特に思春期の女の子の心なんて繊細すぎて、もう科学的にも論理的にも解明不可能だろう。

 

 

「ブレねぇのは花丸とお前くらいだよな、果南」

「そう見えますか? これでも緊張はしているんですけどね」

「さっきからダイヤよりも先頭に立って歩いてるじゃねぇか。それでよく言えたもんだ」

「この山は体力作りがてらに何度か登ったことがありますから。見慣れた風景だと少しは気持ちが楽になります」

「頼もしすぎるよ、このお姉さん……」

 

 

 一応Aqoursのリーダーは千歌、ミーティングなどの仕切り役はダイヤが中心なのだが、実質的な権力は果南にあると言っても差支えない。特にダイヤの考える練習メニューはどこぞの大和撫子ちゃんを模倣したかのような過酷っぷりで、それに毎回メスを入れるのが果南。彼女のおかげでAqoursの基礎トレーニングや練習メニューが成り立っていると言ってもいい。まあ彼女はドライで目立ちたがりではない性格なゆえ、自分がリーダーになる気なんてないだろうけど。

 

 

 そんなこんなで薄暗い山道を歩き続けていた俺たちは、夜空が満開に見えるほどの開けた場所に辿り着いた。夏なのに心地よいそよ風が吹き込んできてかなり涼しい。夜空には星が各々競うように輝き、もう幽霊の噂とかどうでもよくこの景色を見るためにここへ来たと言っても良さそうなくらいだ。

 

 

「それでは一旦ここで休憩にしましょう。慣れない山道で皆さんお疲れのようですし」

「山道っていうか、本当かどうかすらも分からない幽霊にビビって精神的に疲れてるだけだろうがな」

「でもここまで登っても何もないということは、やはり噂は所詮噂だったのかもしれませんわね」

 

 

 もしかしたら俺たちがギャーギャーと賑やかなせいで幽霊さんの方から逃げ出してしまったのかもしれない。まあどちらにせよ、サッサと帰ってゆっくりできるのならそれに越したことはないな。まだ明日も授業があるのに、これ以上山登りで体力を削られるなんてまっぴらゴメンだ。

 

 さっきまで震えていた善子やルビィも同じことを考えて落ち着いてきたのか、もう花丸に抱きついてなくても大丈夫っぽいし、梨子も普通のテンションで千歌や曜と喋っている。みんなはもう安心しきって完全に帰宅モードになっていた。

 

 

 しかし、その安堵な雰囲気は一瞬の内に消え去ることとなる。

 どこからともなく、不意に女性の声が聞こえてきた。

 

 

『あっ、良さそうな人発見! ウフフフ……♪』

 

 

 

 ルビィや善子だけではない、さっきまで平然としていたダイヤたちの背中もビクリと跳ねる。誰がどう聞いてもさっきの声がAqoursのメンバーではないと分かったからだ。しかもその声は上空から聞こえてきた。そこで改めて俺たちが何を目的でここへ訪れたのかを思い知らされる。

 

 幽霊騒動。

 

 元凶の声が全員の耳に聞こえていたという事実が空耳でないと確信させ、Aqoursのみんなに更なる恐怖を与える。声を聞いてしまった以上、いかに相手が幽霊だろうと正体を確かめざるを得ない。このまま逃げてもいいが、結局その後も幽霊の正体という"謎"に振り回されるだけなので逃げるに逃げられない。それが人間の本能である。

 

 もし本当の幽霊だったら正体を見た瞬間にどうなるのか分かったものじゃない。でもこのまま見過ごせない恐怖に満ちた興味が襲いかかる。

 

 俺を含め、みんなは反射的に首を上げた。

 

 

「ひぃっ!?!?」

「え……?」

 

 

 咄嗟に声を上げそうになったのはルビィだ。上空には俺たちの想像通り女性の幽霊が漂っていた。半透明で足はなく、下半身が一反木綿のような絵本に描かれているみたいな幽霊だ。ソイツがこちらを見下げながら、笑顔でふわふわと旋回しながら飛んでいる。何をそんなに嬉しそうなのかは知らないが、どこか俺たちに会えて嬉しそうな感じではある。謎の光景に全く声も出ず唖然とする俺たちだが、それ以上に俺は思うところがあった。

 

 

 この幽霊、超エロ可愛いんだけど!!

 

 

 見た目は千歌たちと同じ高校生くらいの女の子で、背中まである藍色の髪+三つ編みで幽霊らしく白の三角巾を付けている。目はぱっちりとしていて幼さを感じさせ、服は絵本の幽霊が着ているような白い着物だ。そして何より目を惹くのは、鞠莉にも匹敵する大ボリュームの胸だ。ていうか目測は鞠莉よりも大きく、下手をしたら高校時代のあのスピリチュアルガールよりもデカイ。しかも着ているのが薄い着物だから余計にその乳袋が強調されている。だからもう俺は相手が幽霊と認識する以前にその女の子の身体にしか興味を唆られていなかった。

 

 

『ありゃりゃ? みんな石像みたいに固まっちゃってる……』

 

 

 幽霊ちゃんが首を傾げながら呟く。

 みんなを見てみると唖然としたまま石像のように動かないため、ここは顧問として俺が幽霊少女に問いかけるべきだろう。とは言っても、聞きたいことが山積みだからなんて声を掛ければいいのかも疑問だが。とりあえず日本語を喋っているみたいなので意思疎通ぐらいはできるだろう。

 

 てか、幽霊見ても取り乱さないとは俺って相当訓練されてるなぁ。主に秋葉(あいつ)のせいで大抵のことなら何が起こっても冷静でいられる屈強な人生を歩んできたからだろう。

 

 

「おいお前、巷で噂の幽霊ちゃんか?」

『噂かどうかは分かりませんけど、この山で残留思念として残っている幽霊なら私のことですよ!』

「幽霊のくせにやけに雰囲気明るいな……」

『生前は明るいのが取り柄でしたから♪』

「幽霊のイメージが崩れそうだ……」

 

 

 最強に大きいおっぱいをぷるんと揺らしながら胸を張って自慢をする幽霊ちゃん。生前ってことはやはり死んでいるのだろうが、生きていた頃はその胸で幾多の男の欲情を唆ったに違いない。相手が幽霊だろうとおっぱいばかりに注目している辺り、いかに俺が救いようのない人間かも分かってもらえただろう。

 

 まあ今はそんなことより幽霊ちゃんだ。さっきも言ったけど雰囲気がとことん明るすぎて、幽霊を相手にしている感じがしないんだよな。

 

 

『その幽霊って呼び方はやめてください! ちゃんと本城 愛莉(ほんじょう あいり)っていう可愛い名前があるんですから!! 気軽に愛莉ちゃんって呼んでいいですよ♪』

「何故上から目線? それに自分の名前を自画自賛する奴なんて初めて見たぞ……。まぁいいや、じゃあ愛莉」

『はいっ! なんでしょうか!!』

「いちいちテンション高いなオイ……。お前さ、噂だと笑い声で山登りに来た人を驚かせているって聞いてるんだけど本当か?」

『嫌だなぁ人聞きの悪い! 私はただ素敵な男性を探していただけですよ♪ 私に見合う男性を』

「はぁ?」

 

 

 この幽霊ちゃん、もとい愛莉はかなり痛い子のようだ。まだ出会って数秒だけど俺の直感がそう語っている。これ以上コイツに関わったらロクなことにならないことも俺の勘が告げてるし、もう帰りたくなってきたんだけど……。もう幾度となく面倒事に巻き込まれた俺なら分かる、コイツに関わるとマズイ!!

 

 

『でも山に登ってくる男性はみんな年配の人や顔が微妙な人ばかりで、全然イケメンさんが登ってこないんですもん。そりゃあ腹が立って驚かしちゃいますよ♪』

「何やってんだよ全く……」

『でも待ちに待ってようやく現れたんです!! 私が求め続けてきた完璧な男性が!! これ以上にないってくらいの逸材が!!』

「も、もしかしてそれって俺!?」

『はいっ♪ ようやく私が成仏できる日が来たんですよ!!』

「成仏……?」

『あっ、そう言えば私が成仏する条件を言ってませんでしたね。それは――――』

 

 

 またしても俺の直感が震えだす。

 その条件を聞いてはダメだ。だがもう彼女の口は止まらない。

 

 

 

 

『セックスですよ! セックス!!』

 

 

 

 

 そこで俺とAqoursの9人の空気は、更に凍りついた……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 今回は初めてAqoursが9人全員揃ったということで、もしかしたら会話中に誰が喋っているのか分かりづらかったかも……。一応分かるように努力はしたつもりなので、あとは皆さんの鍛えられた妄想力を活かして脳内補完してください(笑)

 次回の後編は――――

 幽霊である本城愛莉が成仏する条件。それは愛莉が気に入った男性とセックスすることだった! しかし愛莉は幽霊、実体がなければヤることはできない。そこで愛莉は幽霊の憑依能力を活かして、Aqoursのメンバーの1人に取り憑くことでその条件を達成しようとする。つまり彼女を成仏させるためには、Aqoursの誰かが零とセックスをしなければならないことに……!?


 ちなみに今年の投稿はこれにて終了です。μ's編が終了しAqours編に移行しましたが、Aqoursのキャラもμ'sのキャラに負けないくらい濃く、そしてエロ可愛く描いていくので来年も引き続きご愛読いただければ幸いです。


新たに☆10評価をくださった

sinこうのとりさん、西木野琉衛さん

ありがとうございます!





更新報告Twitter
https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Aqours vs 淫乱幽霊ちゃん(後編)

 あけましておめでとうございます! 今年も『新日常』の応援よろしくお願いします!


 

『セックスですよ! セックス!!』

 

 

 虚空に響く淫語筆頭の言葉。凍りつく空気。幽霊ちゃんの興奮具合。全ての要素が混じり合い、文字通りカオスな雰囲気が漂っている。ただでさえAqoursのみんなは幽霊の登場で驚いてるっていうのに、ソイツの口から突然淫語が飛び出すんだから凍りつかない方がおかしいレベルだ。まあ華の女子高生にセックスという言葉は早すぎたか。千歌たちの様子を見るに、μ'sの連中がいかに特殊で変態だったのかがよく分かる。

 

 そしてこの幽霊、本城 愛莉(ほんじょう あいり)と名乗る少女は千歌たちと同じ高校生(らしい)。背中まである藍色の髪+三つ編みで、頭には幽霊らしく白の三角巾を付けている。目はぱっちりとしていて幼さを感じさせ、服は絵本の幽霊が着ているような白い着物だ。極めつけにその着物をどかんと押し上げるその巨乳。Gカップは余裕のその豊満さは、その子が浮きながら移動するたびにぷるぷると震え非常に目の保養となる。下半身が一反木綿のようになってはいるが、幽霊少女をオカズにしろと言われたら全然いけるなこれ。

 

 

 よし、そろそろ本題に入ろう。現実逃避をしていても愛莉の暴走を止められる訳じゃないからな。

 

 

「おい愛莉、一応聞くがどういう意味だ?」

『私はセックスをしたいんですよセックスが!! 苦節17年、一度もセックスをせずにその生涯を終えてしまいました。ですから一度でいい、私はセックスをしてみたいのです!! しなければおちおち成仏もできません!!』

「唯一現世に願うのがそれかよ。とんだ淫乱幽霊だ全く……」

 

 

 明るい雰囲気でフレンドリーな幽霊かと思っていたのだが、蓋を開けてみればあの脳内ラブホテルの淫乱鳥と同様の思考を持つ危ない子だった。千歌たちは未だに状況が把握できてないのか、それとも目の前の現実を受け入れたくないのか、どちらかは知らないが固まったままだ。逆に冷静に淫乱幽霊を分析できている俺自身に自分で驚いている。まあもう何年もあの淫乱鳥と一緒にいるから、こんな捻れた性格の女の子の対処も手馴れたものだ。

 

 

『でもですね、セックスをするのにも1つ問題があるのです』

「勝手に話を進めんな。それに1つどころじゃねぇだろ、もう全部問題だわ!!」

『この幽霊の身体では、生身の身体の人とはセックスできないんですよぉ~!!』

「知らねぇよ……」

『しかぁ~し!! それもバッチリ解決方法があるのです!!』

「もうやかましくなってきたなこの幽霊……」

 

 

 愛莉のテンションと俺たちのテンションの落差がヤバイ。この子、生前では相当空気の読めない子だったに違いない。それともセックスしたさでここまでキャラが変貌してしまったとか。性欲は人間を変えるとも言う。その一番の経験者は間違いなく俺だから分かるんだよ。

 

 それにしても、もう俺とセックスする気でいやがるなコイツ。俺としても愛莉のような巨乳美少女とセックスできるならこれほど役得なことはないが、一応教師としての立場上、生徒の目の前で野外プレイを繰り広げるほどモラルに欠けた人間ではない。

 

 

『それじゃあちょっと試してみますか! そ~れっ!!』

「えっ、ちょっ、わ、私!?」

 

 

 愛莉は上空から千歌に狙いを定めると、そのまま一直線に彼女の身体へ突撃した。幽霊だからそのまますり抜けると思ったが、愛莉は千歌に突撃して消えたっきり姿を現さない。同時に千歌の身体がピクピクと震えだし、目から光彩が消えて灰色の半透明になった。

 

 

「ち、千歌ちゃん……? 大丈夫?」

『あぁ~♪ やっぱり生身の身体はいいですねぇ~♪』

「千歌ちゃん!? 突然自分の身体を触ってどうしたの!?」

『ん~おっぱいは私より小さいかなぁ~??』

「わわわっ!? 自分で自分の胸揉んじゃダメぇ~!!」

 

 

 梨子は顔を真っ赤にしながらいきなり自分の胸を揉み始めた千歌の手を押さえ込む。隣で見ていた他のメンバーも次から次へと起こる謎の現象にようやく思考が追いついたみたいだったのだが、千歌の奇抜な行動にまたしても驚きの表情を浮かべていた。

 

 千歌は俺に告白してきた時、自らの身体を差し出そうとした。だけど人前で胸を弄るほどの淫乱ではなかったはずだ。だけど今の彼女は羞恥心など一切見せず、自分の身体の至るところをまるで今まで知らなかったかのようにベタベタ触って確かめている。そして千歌に突撃したまま消えた愛莉。愛莉が幽霊だってことを考えると、まさかアイツ……!!

 

 

「ちょっと千歌さんやめなさい!! さっきから破廉恥ですわ!!」

「千歌どうしちゃったの……? ちょっとどころじゃなくてかなり変なんだけど……」

「まさか千歌っちがダイヤと同じく淫乱少女に!? ワ~オ♪」

「鞠莉さん!? 嘘を平然と振りまくのはやめてくださりません!?」

「え~? だってダイヤ、先生におっぱいを――――」

「あーあーあー!! 何も聞こえませんわーーー!!」

「そんなことで騒いでないで、今は千歌の様子を確かめようよ」

「果南さん、そんなことって言いましたわねそんなことって……」

 

 

 3年生組はダイヤと鞠莉が相変わらずのテンションで勝手に暴走している。やはり果南が唯一の良心だったか。俺に着替えを覗かれても羞恥に塗れる気配すらなかったしな。そんな彼女も幼馴染の千歌がいきなり自分の胸を揉み出す奇行にはビックリしてるみたいだけど……。

 

 そして鞠莉、俺がダイヤのおっぱいを指で突っついたことをバラすなよ。絶対にだぞ!?

 

 

「あわわわ……千歌さんどうしちゃったのかなぁ」

「さっきから幽霊だの千歌さんがおかしくなるだのもう頭が痛いずら……」

「こ、これは夢よ!! 幽霊も先輩が変なことをしてるのも全部夢よ!!」

「善子ちゃん、まだ現実を受け入れてないの? 冷汗もたっぷり」

「逆にずら丸はどうしてそこまで平気でいられるのよ!?」

「う~ん、そこまで怖い幽霊さんじゃなかったからかな?」

「ルビィも。意外とフレンドリーな幽霊さんで助かったよ。でもあの人が成仏するためには……」

「うぅ……そのことは思い出せさないで欲しいずら」

 

 

 1年生組は愛莉の成仏条件を思い出して顔を真っ赤にしている。2年や3年と比べれば見た目だけでもウブな子が多い1年生組。多少の下ネタすらも抵抗がなさそうだが、それ以前に淫語を全然知らなさそうな純白さが伺える。流石に現代女子だからセックスくらいは知っていたみたいだけどな。

 

 

「どうしよう曜ちゃん、この千歌ちゃん全然手がつけられないよ……」

「どうしようって言われても……。まるでさっきの愛莉って幽霊に取り憑かれちゃってみたいだね」

「そう、それだよ曜」

「えっ……?」

「お前、千歌じゃねぇだろ?」

『あは♪ 気付いちゃいました? さっすが私の初体験となる人、イケメンなうえに聡明だなんてもうドキドキしちゃう♪』

 

 

 もうコイツの言うことにいちいちツッコミを入れていたらこっちがもたなくなる。だから無視だ無視! 淫乱属性だけでなくビッチ属性も浮き彫りになってきやがったが全部無視!!

 

 

「先生、どういうことですの?」

「愛莉が千歌に憑依しているんだよ。だから目の色が濁って、性格も愛莉のモノになってんだ」

『いやぁ別に騙すつもりはなかったんですけどねぇ~♪ 私はとりあえずセックスできればそれでいいかなぁって』

「あなた、さっきからそのセック……破廉恥な言葉を連呼するのはやめなさい!!」

『え~欲望を失ったら人間は本当の意味で死んじゃうんだよぉ~』

「あっ、私その言葉気に入っちゃった♪ とってもディープだね!」

『えっへん!』

「おい鞠莉、コイツを調子に乗らせるな」

 

 

 胸を張ると程よい大きさの千歌の胸が揺れて、目がそこにしか行かなくなるからやめてくれ。しかも隣では梨子と曜がその気配を察してか、俺の身体を貫通するかのような鋭い目つきを向けてくるし……。男ってのはみんなおっぱい星人なんだ許してくれ。

 

 

『う~ん、でもおっぱいの大きさが足りないなぁ~。それにもっとスレンダーな身体付きの方が私に合うっていうかぁ~』

「勝手に人の身体に入っておいてそこまで文句を言えるのもすげぇな……」

『よしっ、それじゃあ次は――――えいっ!!』

「うひゃぁっ!!」

「は、花丸ちゃん!?」

「ズラ丸!?」

 

 

 愛莉は千歌の身体から抜け出すと、今度は花丸の中へと憑依した。千歌は彼女の魂が抜けた勢いでその場でよろめき、花丸は彼女が入り込んだ勢いで後ずさりする。

 花丸の目はさっき愛莉に憑依されていた千歌と同様に灰色の半透明となり、俗に言うレイプ目みたいになっていた。花丸に憑依した愛莉は手足を適当に動かし身体の適合具合を確かめる。そして隣では千歌が羞恥丸出しの顔で顔面を真っ赤に染め上げていた。

 

 

「ちょっ、わ、私なんてことを……!!」

「もしかして、愛莉に憑依されていた時の記憶があるのか?」

「はい。何度も追い出そうとしたんですけど全然身体を取り戻せなくて、ずっと胸を揉まれてる感触だけが伝わってきて……うぅぅぅううううう!!」

「ただ黙って自分が自分の胸を揉む感触を味わうしかないってか。もうやりたい放題だな……」

 

 

 しかし愛莉がちょっと羨ましいと思ったのは内緒だ。そして千歌が無抵抗のままおっぱいに刺激が伝わってくるのを我慢している姿を想像してしまったのも内緒。

 

 

『おぉっ!? この子のおっぱい大きぃ~♪ いい揉み心地だね!』

「は、花丸ちゃん!! いや愛莉さん花丸ちゃんにそんなことさせないでください!! ルビィの知る花丸ちゃんのイメージがどんどん崩れて……」

「いつもは大人しい花丸がまさかこんな……」

「先生、鼻の下が伸びてますよ」

「果南、これは男の生理現象の1つなんだ。だから見なかったことにしてくれないか」

「相変わらず欲望に従順ですね。だからこんな変態な幽霊に目をつけられるんですよ。似た者同士惹かれあってるのかもしれませんが」

 

 

 だって目の前で花丸が売春少女のようなビッチ顔で自分の胸を揉んでるんだぞ? 普段の彼女の清楚さを考えるに、そんなのギャップで興奮しちまうに決まってるだろ!! しかもその小さな手で大きなおっぱいを揉みしだいているため胸の形崩れが凄まじい。今は夏だからみんな薄着ってのもあるけど、女の子のおっぱいってあそこまで形が変形するものなんだな……ちょっとまたいつか試したくなってきた。

 

 

『他の人の身体はどうかな? えいっ!!』

「うっ……!!」

「ダイヤ!?」

『おぉっ!? このスタイル、まさに私にピッタリ!! でもおっぱいがちょっとなぁ~……それじゃあ次!!』

「きゃっ!!」

「善子ちゃん!?」

『う~ん……チェンジ。次!!』

「あっ……!!」

「果南……?」

 

 

 愛莉は次から次へとAqoursのメンバーに憑依し、身体を卑しい手つきで触って適合具合を確かめる。見たところ胸の大きさとスタイルを重点的に考えているようで、ダイヤと善子の身体は受け付けなかったようだ。当の2人は愛莉が自分の身体から抜け安心した様子を見せるも、どこか腑に落ちない様子も浮かべていた。そりゃあ自分の身体を否定されたらそうもなるわな……。

 

 そして次に愛莉が標的にしたのは果南。ダイヤと善子からはちょっと胸を触っただけで抜け出したのに、果南に憑依したところたちまち目の色を変えやがった。それもそのはず、Aqoursの中ではスタイルが抜群であり、胸のボリュームもダイナミックで愛莉が認める女性のスタイルに見事合致している。愛莉に憑依された果南は、指をわきわきと蠢かせながら胸や腰のくびれを痴漢のように卑猥に触り始めた。

 

 

『こ、これは素晴らしいです!! 胸の大きさと柔らかさ、そして身体付きから脚の細さまで、まさに生前の私を彷彿とさせます!!』

「か、果南ちゃんが嬉しそうに自分の胸を揉んでる……。シュールというか衝撃映像だよこれは……。長い間幼馴染をやってきてこんなこと初めてだよ見てられない!!」

「果南っていうか、果南に憑依している愛莉だけどな」

「これはもうスクールアイドルのお宝映像として記録をして、Aqoursのブログにアップロードしちゃおうかなぁ♪」

「鞠莉、携帯で撮影してやるな。いくら温厚な果南でもキレるぞそれは……」

 

 

 さっきの花丸の時もそうだったけど、普段エロに微塵も興味のないやつが唐突に目の前で胸を揉み始めると、もうその光景とギャップだけで心を惑わされてしまう。憑依している愛莉の仕業だと分かってはいるのだが見た目はAqoursのメンツなんだ。初対面の子よりもいつも一緒にいる子がエロくなった方がより興奮するだろ? つまりそういうことだ。

 

 

「おい愛莉、いい加減みんなの身体で遊ぶのはやめろ。一旦外に出て来い」

『む~仕方ないですね――――――ほら、出てあげましたよ』

「うっ……」

「果南ちゃん大丈夫……?」

「ちょっとビックリしちゃったけど平気だよ。そして鞠莉、あとからその携帯壊すから……」

「ええぇっ!? 折角果南のとってもセクシィ~な一面が撮れたのにぃ~」

「それが余計だって言ってるの!!」

 

 

 まあ果南のファンからしてみれば、その映像は貴重以外の何者でもないけどな。むしろファンが増えるって意味ではAqoursの意外な一面として公開した方がいいのかもしれない。もちろん果南のSAN値が犠牲になるのは承知の上でだけど……。

 

 それよりも問題は愛莉だ。果南の身体から抜け出した愛莉は、再び空中をプカプカと浮いていた。

 このままコイツを野放しにしておけば、Aqoursメンバーの黒歴史が秒単位で刻まれていくことになる。既に自分で自分の胸を揉むという衝撃映像を連発しているだけに、千歌たちは幽霊の恐怖とは全く別の恐怖に身を震わせていた。教師としては厳格にこの状況を対処してやらねば。

 

 

「お前の目的は千歌たちの身体で遊ぶことじゃないだろ……」

『そうですセックスですよセックス!! 生身の身体を借りてあなたとセックスしたいんですよ私は!!』

「つまりこういうことだろ。Aqoursのメンバーの誰か1人に憑依して、その子と俺で擬似的にお前と性交渉をすると」

『ですです!』

「それじゃあやっぱり、私たちの中の誰かが先生とそのぉ……しないといけないってことですか?」

「愛莉が成仏するのはそれが条件らしい」

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

 

 今まで敢えて目を背けていた事実を再び突きつけられ凍りつくAqoursメンバー。愛莉を満足させてこの世から追放するには、この中の誰かと俺がセックスをしなければならない。みんなは俯いたりそわそわしたり、そっぽを向いていたりおどおどしていたりと三者三様の反応を見せる。そう、Aqoursはμ'sと違ってほとんどが純粋っ子ばかりなのだ。そんな子たちにいきなり男と、しかも顧問とセックスしろだなんてハードルが雲で見えなくなるくらい高すぎる。だから千歌たちがそんなのを承諾する訳が――――

 

 

「し、仕方ないから、わ、私がみんなの身代わりになります!!」

「ち、千歌!? お前何言ってんだ!?」

「ほ、本気です……!!」

「嘘つけ、声震えてるぞ!」

「千歌ちゃん!! そ、それはどうかなぁって思うんだけど……」

「梨子ちゃん……?」

「千歌ちゃんにそんなことはさせられないよ。だからここは私が先生と……」

「もう2人共もっと自分を大切にして!!」

「「曜ちゃん!?」」

「ま、まぁここは2人の代わりに私が……ね?」

 

 

 な、なにこのやり取りは……? 3人共ぎこちないながらも自ら俺とのセックスに身を委ねようとしてるなんて何を考えてんだ?? 3人と俺の間には謎に包まれた微妙な空気が流れている。千歌と梨子、そして曜は順番に相手を見つめ合い黙ったまま動かない。3人共笑顔とは程遠い引きつった微笑みを浮かべつつも、どこか相手を牽制しているようだ。もしかして、これって修羅場ってやつ……?

 

 

「2年生たちは何を考えてるのよ!! ヨハネは先生となんて絶対に嫌だから!!」

『あっ、初めからあなたの身体に憑依する気はないので大丈夫です』

「なんでよ!!」

『できればあなたとかいいんだけどなぁ~』

「えっ、ま、マル!?」

『生前の私は背が高かったですから、ロリ巨乳体型に興味があるんですよ♪』

「ま、マルがせ、先生と……あわわわわわわわ!!」

「花丸ちゃん落ち着いて!! 文字通り泡吹いて倒れそうだよ!!」

 

 

 そりゃあいきなり男性教諭とセックスしろだなんて過酷なミッションを与えられたら泡も吹きたくなるわな。愛莉が憑依するから自分の意思ではないとは言え、大切な純潔が奪われるのだからたまったものではないだろう。

 

 

「あなた、それ以外に成仏する条件はありませんの!? 聞いていればさっきから破廉恥なことばかり……生前が女子高生ならもっとお淑やかにしなさい!!」

『えぇ~女子高生だからこそ色々と遊ぶんじゃないの?』

「まさかこんな人が浦の星にいたなんて……」

『浦の星? あぁ違う違う、私は別の学校の生徒だったんだよ。たまたま1人観光でここの山に登った時に足を滑らせてドーンってね。そして気付いたらこの身体に、つまり死んじゃってたって訳』

「なのに雰囲気明るいよなお前」

『まあ死んじゃったものはしょうがないし、だったらせめて最期にやりたいことをやって本当の意味で死んじゃおうかなぁって思ってるだけですよ』

 

 

 先程の凍りついた空気とはまた別の、しんみりとした空気がこの場を支配した。

 いくら愛莉がお騒がせ淫乱幽霊だとしても、亡くなってしまった事実を知らされると同情せざるを得ない。俺たちの目の前では明るく振舞っているが、もしかしたら幽霊になった直後はとてつもない悲しみに苛まれたのかもしれない。だからと言ってセックスをするかどうかは別の問題なのだが、彼女を見捨てて"はいさようなら"と言う訳にもいかないだろう。セックス以外の成仏方法を考えてやらないと。

 

 

「俺たちもお前を見捨てることはできない。だけどセックスだけは勘弁してやってくれ」

『ん~それでも私の望みは快楽を得ることですし……』

「1つ言っておく。コイツらは俺のモノだ。千歌も梨子も曜も、花丸も善子もルビィも、ダイヤも鞠莉も果南も、みんな俺のモノだ。だからお前が無理矢理手出しをしようとしたら、俺も無理矢理にでも止めてやる。もちろんお前には同情するけど、みんなに憑依して勝手にセックスしようとしても俺は絶対に応じないからな」

『あ、あなたって……』

 

 

「千歌たちの処女は俺のモノだ。よく覚えとけ」

 

 

『…………』

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

 

 あ、あれ?? なにこの今日一番の微妙な空気は?? まさか愛莉がセックスを連呼していた時よりもみんなが黙りこくるとは思ってもいなかったぞ。俺そんなに変なこと言ったかな……?

 

 

『想像以上に面白い方ですねあなた。お名前を伺ってもいいですか?』

「神崎零だ」

『神崎零さん……うん、名前までカッコいい! ますます好みになっちゃいましたよ♪』

「そりゃあどうも。でもお前とヤる気はないからな」

『もちろん! あんな愛の篭った演説を聞かされたら、こっちからヤる気にもなれませんよ! こんな素敵な方に大切にされているなんて、皆さんが羨ましいです♪』

 

 

 愛莉がAqoursのメンバーにそう声をかけると、みんなの顔にそれぞれ恥じらいの色が溢れた。自ら俺との性交渉に立候補していた千歌たちはもちろん、俺を敵視しているダイヤや善子までもが千歌たちと遜色ないほどに顔を赤くしている。

 

 

『いやぁ満足しました! 今まで性こと青春と思っていたのですが、それ以上にこれぞ青春ってモノを見せつけられて大満足ですよ!』

「えっ、それじゃあ」

『はい、このまま成仏しようと思います。皆さんご迷惑をお掛けして申し訳ありません、と私が驚かせちゃった人にも伝えておいてもらえますか?』

「あ、あぁ。あれだけ拒否してこんなことを言うのはアレだけど、本当にいいのか?」

『まあ誰かの身体を使っても自分がセックスしたことにはなりませんしね。もしかしたら本当はセックスをしたいのではなくて、最後に自分が笑って満足してこの世を去りたかっただけなのかもしれません』

「そうか。ならセックスせずに満足してもらえたみたいで、俺たちとしてはなによりだよ」

 

 

 完全に余談なのだが、セックスって言葉をゲシュタルト崩壊な勢いで普通に言ってるけど、傍から見たら意味不明な会話だよなこれって。更によくよく考えてみれば、Aqoursのみんなもこの雰囲気を受け入れているのが今まででは考えられないくらいだ。本当に余談だけどね。

 

 どうやら愛莉はセックスしたいという欲望よりも、自分がこの世に未練を残さない欲の方が強かったみたいだ。高校生で亡くなってしまったから、もう一度こうして同じ年代の子たちと楽しく騒ぎたかっただけなのかもな。

 

 

『それでは私はこの辺で』

「もう行くのか?」

『はい。この世に残り続けると、それこそまた未練が残っちゃいそうですから』

「分かった。元気でな」

『ありがとうございます! それでは神崎さん、Aqoursの皆さん!』

 

 

 愛莉も俺たちもそれ以上の言葉はなかった。そして俺たちは夜空に昇っていく愛莉の背中を、その姿が見えなくなるまでずっと見つめていた。空には無数の星が輝いていたが、愛莉の姿よりも綺麗に映っていたものはない。彼女の姿が消えてからもしばらく俺たちは無言のまま夜空を眺めていた。

 

 

「騒がしい奴だったけど、いなくなっちまうと寂しいもんだな」

「でも私たちのここにはしっかり残ってますよ。記憶の中にずっと……」

「…………千歌のくせに案外クサいセリフ言うんだな」

「どう言う意味ですかそれ! それにクサさで言えば先生の方が断然クサいですよ!!」

「はぁ? どこがぁ!?」

 

 

 また意地悪そうな顔をしていると思って千歌の方を振り向いてみたら、それとは真逆の優しい笑顔を俺に向けていた。そしてそれは千歌以外のみんなも同じだ。

 

 

「先生、私惚れ直しちゃいました♪」

「まさか先生がそこまで私たちのことを考えてくれていたなんて……更に見直しました!」

「私たちを守ってくれた時、とても嬉しかったです!」

「まぁ、リトルデーモンがヨハネを守るのは当然だけど……あ、ありがとう」

「先生とってもカッコよかったずら!」

「私もそのぉ……嬉しかったです♪」

「ただの変態さんじゃなかったんですね。意外ですけど素敵でしたよ」

「先生のこと、少し誤解していたかもしれません。今回の件に関しては、ありがとうございました」

「女の子みんなを自分のモノだなんて大胆な発言だったけど、逆にそのダイナミックなところが好きになっちゃいそう♪」

 

「お前ら……」

 

 

 うわっ、すっごい照れくさい!! Aqoursのみんなからこうして素直に感謝を言われたことがほとんどないため、どう受け取っていいのか分からず柄にもなくあたふたしている俺がいる。しかも善子やダイヤまで……。あぁ、やっぱり俺ってストレートに好意を伝えられると弱いわ。もっと完璧なご主人様体質になっていかなければ。

 

 

「よしっ、帰るぞみんな!」

「あっ、先生照れてますぅ?」

「うるさい!! 俺より後に山を降りた奴は宿題2倍な!!」

「えっ、なんですかそれぇ~!?!?」

 

 

 あんなこと言ってしまった以上、もうコイツらを守らなければならなくなってしまった。そしてそれは新たなるハーレムの入口だってことに、俺もAqoursもまだ気付いてはいない。

 




 今回の話を経て、本格的に零君とAqoursの仲が深まりました。今まで敵視していた善子やダイヤも少しは零君を見直して、ここからが10人の本当のスタートになりそうです。だからこそ今後ちょっとしたエッチな展開も解禁になったり……?


 そして次からは新章となります。新章ではμ'sのメンバーが続々登場する予定で、特にこの展開を待ち望んでいた方が多かったのでご期待下さい!
流石に全員を一度に登場させるのは難しいので、1話につき1、2人のペースになると思われます。もちろん普通にAqoursのメンバーにスポット当てた通常回も織り交ぜていくつもりです。

 早速、新章一発目の次回には穂乃果が登場!


新たに☆10評価をくださった

泡§さん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

穂乃果と千歌、本妻と現地妻!?(前編)

 今回からμ's襲来編に突入します!
 その記念すべき一発目はやっぱりこの子から!


 俺が浦の星女学院へ教育実習に来てから1週間が経過した。生まれも育ちもずっと東京だったので最初はこの田舎臭い雰囲気の内浦に慣れなかったのだが、住めば都という言葉の如く、1週間も経てばもう長年住居を構えているご老人かのようにここに馴染んでいた。近所の人たちの優しさも暖かく、環境が変わって戸惑っている俺に率先してあれこれ教えてくれたことは感謝している。Aqoursのみんなが地元を愛し、その学校に活気を取り戻そうとする理由も分かった気がするな。

 

 そう、俺の周りの環境が劇的に変わった大きな要因はAqoursだ。教育実習でまさかスクールアイドルの顧問をやらされることになるとは思ってもなかったけど、μ'sとの平凡は日々に少し刺激が欲しかったところではあるので、彼女たちとの出会いは平和ボケしていた自分へのいい清涼剤になったと思う。もちろんμ'sとの日々が退屈だってことではなく、単純にもっとこう女の子との出会いが欲しかったわけだよ。男ならば20歳を過ぎてから恋しくなるJKのピチピチさが分かるだろ?

 

 そしてμ'sとは適度に連絡を取り合って、電話で声も聞かせつつみんなが寂しくならないように一応心がけてはいる。そうでもしないとまた連絡用アプリに千単位で通知が送りつけられてくるからなぁ……。一体どんな顔をして1000件も連絡を送りつけてくるのか、想像するだけで背筋が凍る。しっかりご機嫌を取っておかないと何をされるのか分かったものじゃねぇから。

 

 そんな訳で俺はμ'sの相手もしつつAqoursの相手もしながら毎日を過ごしている。もう両手に花どころか全身に花レベルなのだが、たくさんの可愛い女の子に囲まれたり求められたりするのは悪くない。むしろご主人様気質の俺にとっては非常に気持ちがいい。でも考えてみれば20人以上を股に掛けてるって相当、いや光源氏と同等の畜生なのでは……? ま、いっか。

 

 

 ちなみに俺がブラついているのは駅前のショッピングモール……と言っていいのかは分からないが、とにかく店が軒を連ねているところだ。都会出身だからついつい東京の街並みと比べてしまうのが悪い癖だが、この街の人たちにとっては休日の遊び場に最適な場所だろう。まあ俺は遊びに来たんじゃなくて、ただこの先数日分の飯の食材を買いに来ただけだけどね。

 

 そんな中、唐突に後ろからドタドタと足音が聞こえてきた。

 

 

「せんせ~~ドーーーンッ!!」

「がぁっ!? な、なんだなんだ!?」

 

 

 道を歩いていたら突然背中を刺され――――突撃される事案が発生! 俺はその衝撃で身体が逆"くの字"になりながら吹き飛ばされる。どうやら誰かがラグビー選手並のパワーで俺の腰に突撃してきたようだが、そんなことを明るい声+笑顔でやりそうな奴は自分の知っている中で1人だけだ。

 

 

「いってぇ!! 何すんだ、千歌!!」

「えへへ、たまたま先生に会えたのが嬉しくなっちゃって♪」

「愛情の伝え方が激しすぎるんだよ……」

 

 

 予想通り、俺をひき殺す勢いで突撃してきたのは千歌だった。彼女は満面の笑みで腰をさする俺を眺め、全然申し訳なさそうにしていない。あの告白以来好意の伝え方が目に見えて分かるようになってきたのだが、段々とスキンシップが激しくなってきたので流石に身体がもたなくなってきたぞ……。

 

 

「こんなところで何をしてるんですか?」

「ただの買い物だよ。お前は?」

「私も漫画とか服とか見ようかなぁと思って。でもまさか先生に会えるなんて本当にラッキー♪」

「1つ言っておくけど、1円も奢る気はないからな」

「私がそんながめつい人間だと思いますぅ? こんなに純粋な女の子なのに!」

「お前、俺に幾度となく脅迫してきた事実を忘れてるだろ……」

 

 

 都合のいいように過去を改竄しやがってコイツ。俺だって痴漢やセクハラの事実が消せるなら消したいっつうの。でもあの痴漢がなかったらここまで仲良くなっていなかったのかもしれないし、それ以前に出会ってすらなかったかもな。そう考えるとたまには犯罪もアリだなって思うよ。そう、痴漢がバレても相手を懐柔して自分に惚れさせてしまえば無罪なんだ!!

 

 

「せっかくなので、一緒に買い物しませんか? あっ、でもこれってデートなのかな……」

「ん? どうしたブツブツ言って?」

「い、いえ!! 先生のお時間があるなら一緒にお店とか回りたいなぁ~って」

「別にいいぞ。むしろ内浦では買い物処女だから案内とか頼みたい」

「ありがとうございます♪ では行きましょう!!」

 

 

 いつもテンションの高い千歌だが、今日はその数倍も張り切っているように見える。俺に会えて嬉しいのは分かるけど、Aqoursは内浦ではもう名の知れたスクールアイドルだ。だからそのリーダーと顧問がデート紛いなことをしていると周りに知られたら、ファンから背中を刺されてしまうかもしれない。地方の情報伝達網は光よりも早いからな、注意しないと……。

 

 そしてしばらく2人並んで歩いているが、さっきからずっと千歌が何か言いたげにそわそわしている。頬を染めながらこちらの顔を覗き込んでくるので俺も見つめ返してやったら、今度は身体をビクッと震わせてそっぽを向いてしまう。何もないのかよと思って彼女から目を離すと、その機会を狙ってかまた俺のことを見つめて――――と、さっきからこの繰り返しなのだ。俺は彼女の絵に描いたような思春期少女の様子にどこか愛おしさを覚えた。μ'sに変態が多くなってしまったせいだろう、こうした純情な立ち振る舞いは新鮮すぎる。

 

 

「可愛いな……」

「えっ!? い、今なんて言いました!?」

「あっ、もしかして声に出てたか……」

「~~~ッッ!!!!」

 

 

 千歌の顔が燃え上がるように赤くなる。心の中で呟いていたことが直接口に出てしまうのは俺の悪い癖だ。妄想癖からのコンボで女の子に己の変態思考回路がダダ漏れとなる。特にキザっぽい発言を狙った訳はないのだが、無自覚にこう言ってしまう辺り俺ってラノベやエロゲの主人公みたいだな……。もちろんそんな気は一切ないのだが。

 

 そこで千歌は覚悟を決めたような表情でこちらに向き直る。あの時の告白とほぼ似た表情なのだが、流石にここは街中だぞ!? 無理矢理大人数の前で告白して、周りの雰囲気で断れないようにする策略か……!? Aqoursの小悪魔であるコイツのことだ、有り得なくもない。

 

 しかし、今後起こる展開は俺の予想を遥かに上回っていた。告白の話なんてものの一瞬で忘れ去ってしまうくらいには……。

 

 

「先生!! て、手を繋ぎ――――」

 

 

 

 

「あぁあああああああああああああああっ!!!! いたぁああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

「えっ?」

「へ……?」

 

 

 ムードを完膚なきまでにブチ壊す大声が響く。あまりに都合よく割り込んできた声に、俺と千歌は目を丸くして声の発生源を確かめた。

 

 その声は、今まで何年もの発声練習で鍛えられたようなよく透き通る声。声色だけでも美しい歌唱力を秘めていると感じられるが、声調が大きく元気なため幼気も入り混じっている。そしてなにより姿を見なくても伝わってくる、ほのぼのとしながらも太陽のように明るいオーラ。俺はこの声とオーラの持ち主を知りすぎるほど知っている。知っているというか、俺の隣で共に人生を歩んでいる女の子の1人だ。

 

 ソイツの正体はもう誰もがご存知――――

 

 

「ほ、穂乃果!?」

「うんっ! 数日ぶりだね、零君♪」

 

 

 千歌に負けない満面の笑顔でこちらに駆け寄ってきたのは、我らがμ'sのリーダーである高坂穂乃果だ。髪は高校時代と比べれば少し長髪となり、サイドポニーは解かれストレートにしているため大人の女性の気質が増している。しかしその中でもくりくりとした目で子供っぽさを感じさせているのは変わらず、無邪気な性格もそのままなのでこんなことを言うのは本人に申し訳ないが、高校時代と比べて成長したとは言いづらい。子供がそのまま大人になったと言えば分かるだろうか。もちろん全く変わってない訳ではなく、胸とかスタイルは明らかに男を惑わす蠱惑的なアダルトボディに進化していた。

 

 

「お前、どうしてここにいるんだよ!?」

「どうしてって、零君に会いたかったからに決まってるじゃん♪」

「それはそれでいいけどさ、事前にアポ取れよな。いきなり現れたからビックリしたぞ……」

「だってビックリさせるために来たんだもん。念には念を入れてみんなにも内緒にしてね」

「えっ、誰にも言ってないのかよ!?」

「うんっ! 抜け駆けした気分だけど、みんなより一足先に零君に会えて嬉しいなぁ♪」

「お、おい穂乃果……」

 

 

 穂乃果は()()()()()()()俺の腕に絡みつき、周りに見せつけるようにいちゃついてくる。俺が教育実習でしばらく自分の元を離れていたから相当寂しかったのだろう。ここへ来た当初はみんなからの連絡が凄まじかったが、最近はかなり落ち着いてきた。それでも穂乃果やことり、楓からはまだまだ1日1回に電話するほどである。だからこそなおさら俺と再会できたことが嬉しいに違いない。穂乃果は頬を俺の肩に摺り寄せ、まるで小動物かのようにじゃれてくる。

 

 そんな経緯があるからこそたっぷり穂乃果の相手をしてやりたいのだが、ここで呆然と立ち尽くしている少女が1人いる。千歌は目の前で一体何が起こったのか、躊躇なく俺に抱きついている女性は誰なのか、"穂乃果"と言っていたが自分の憧れのあの"穂乃果"なのか。とにかく頭にハテナマークをたくさん浮かべていた。

 

 

「あ、あのぉ~その方は?」

「ん? あなたは……?」

 

 

 ここで初めてμ'sのリーダーである穂乃果と、Aqoursのリーダーである千歌が対面した。2人はじっと見つめあったまま相手の存在を認識する。お互いに相手に何か運命的なものでも感じたのだろうか? 俺もこの2人の邂逅は、言葉では言い表せないくらい特別なものだと思う。

 

 

「おい穂乃果、あの頃の髪型に戻してみろ」

「う、うん、いいけど……どうして?」

「いいから早く。それで千歌とも仲良くなれるだろうからさ」

 

 

 穂乃果はポケットからリボンを取り出すと、髪の右側を整えてリボンで結びポニーテールを作る。そう、このサイドポニーの髪型はまさに高校生時代の彼女と同じだ。スクールアイドルをやめた影響と大学の進学を機にサイドポニーを外したのだが、やっぱりこの髪型の方が穂乃果らしいな。

 

 そしてそんな穂乃果の髪型を見た千歌は、先程まで丸くしていた目に更に仰天の色を加えて身体まで震わせていた。何かを言いたそうにしているが、憧れの的を目の前に様々な感情が湧き上がってきて逆に何を喋っていいのか分からないのだろう。

 

 少し間を置いたあと、千歌は大声を上げた。

 

 

「えっ……あっ……いっ……え……え、え゛ぇ゛ぇ゛ぇえ゛ええええええええええええええええええええ!?!? こ、高坂穂乃果さん!?」

「驚くの遅いな。やっぱ今まで混乱してたのか」

「だ、だってあの穂乃果さんですよ!? め、目の前にあの穂乃果さん!? ほ、本物!? 夢だよこれはきっと夢だ!!」

「穂乃果には何が何だかさっぱりだけど、とりあえず穂乃果もあなたもちゃんと現実で生きてるよ……」

「最近はバーチャルリアリティという技術もありますから、これは巧妙に仕組まれた私へのドッキリなんですよね!? まだスクールアイドルになりたてなのに、もうこんなバラエティみたいな企画をやっちゃってるんですか!? 分かった、仕掛け人は曜ちゃんだな?? こんなこと面白がってやるの曜ちゃんくらいだもん!!」

「お前さっきから目が回ってるぞ落ち着け!! それにサラッと曜の悪態を晒してんじゃねぇ!!」

 

 

 穂乃果の大ファンである千歌だ、突然目の前に憧れのスクールアイドルが現れたらそんな反応をしてしまうのも分からなくもない。だが流石に大袈裟過ぎるというか、ドッキリっていう発想に至る辺り本当に現実逃避してしまうほど驚いているのだろう。

 

 千歌もそうだが穂乃果もかなり混乱しているようなので、ここはまず俺が落ち着いて1人ずつ順番に相手のことについて説明してやろう。穂乃果を目の当たりにした千歌をこのまま放っておけば、発情したサル同士の性交渉のように体力が尽きてもなお暴走し続けるだろうからな。

 

 しかしだ、お互いをどう説明しようか迷いどころではある。穂乃果に千歌を説明したら、まずAqoursのことについて洗いざらい尋問され、俺がまた不用意に女の子たちと関わっていることがバレてしまう。そうなればその情報がμ's全員に伝達され、また勝手に女の子を惚れ込ませていることに罵倒、軽蔑、嫉妬等々あらゆる非難轟々の言葉を浴びせられるに違いない。

 そして千歌に穂乃果を説明する場合、まず恋人同士だってことを悟れないようにしないといけない。一応まだ隠してるからな、俺が12股をしてるって事実は。

 

 でも逃げていてもいずれは俺が彼女たちを紹介しなければならない。ここは隠すべきところだけは隠して素直に言っちゃうか。

 

 

「穂乃果、この子は高海千歌。この街でスクールアイドルをやっているんだ」

「スクールアイドル!? へぇ~だからさっき穂乃果と近いものを感じたんだね!」

「わ、私も同じです!! まさか穂乃果さんと同じものを感じられるなんて……感動です!!」

「もう穂乃果関連なら何でも感動するんだろお前……」

「よしっ、穂乃果のモットーは出会って3秒でお友達! よろしくね千歌ちゃん♪」

「よ、よろしくお願いします!!」

 

 

 差し出された穂乃果の手を、千歌がギュッと握り締めて握手を交わす。

 千歌の奴、さっきまで震えていたと思ったら今度はガチガチに緊張してやがる。まあ夢の人だと思ってた穂乃果が突然現れたんだから無理もないか。千歌は誰とでもすぐに打ち解けるほどコミュ力が高いが、ここまで相手に一歩引いた姿勢を取る彼女は珍しい。しかし握手を交わしたことで少しは緊張の糸も解れたのか、さっきよりも表情は柔らかくなっていた。

 

 

「私はAqoursってグループでスクールアイドルをやっているんですけど、知ってますかね……?」

「う~ん……ゴメン!! 最近スクールアイドルが多すぎて全然把握しきれてないんだ……」

「デスヨネ~……」

「でも友達になったこれを機にPVとかライブ映像とか見てみるよ! えぇと、アクア……だっけ?」

「はい、英字で綴りがちょっと難しいんですけど」

「じゃあ穂乃果が千歌たちのライブ映像を拝むのは無理だな。英語能力が死んでるせいでネットで検索すらできないから」

「そこっ、失礼だよ!!」

 

 

 失礼も何も事実なんだから仕方ないだろうよ。いくら受験勉強でことりや海未とほぼ同じ学力まで賢くなったとはいえ、数学と英語だけはまだまだ苦手な部類である。まずあの穂乃果が賢くなったって時点で世界崩壊の次に衝撃的なことなんだけど。

 

 だがしかし、そんなことよりももっと衝撃的な展開が訪れようとしていた。

 

 

「そう言えば、先生と穂乃果さんはどのような関係なんですか?」

「あっ、それ穂乃果も聞きたかったんだ! 千歌ちゃんとはどういう関係なの零君?」

「え゛っ、そ、それはぁ……」

「先生!!」

「零君!!」

「ちょっ……近い!!」

 

 

 穂乃果と千歌は並んで俺へと詰め寄ってきた。その勢いに圧倒された俺は後ずさりをするが、背中が電柱にぶつかってしまいとうとう逃げ道がなくなってしまう。さっきまでの和やかなムードが一転、2人の表情に少々嫉妬の色が見え始め空気が淀んできた。

 

 こ、これっていわゆる修羅場展開ってやつなのか!? いやでもまだ2人の嫉妬メーターはそれほど伸びきってはいないから、女心を上手く汲み取って穏便に落ち着かせればこの場を切り抜けられるチャンスはある。女心に疎い俺にとっては地獄の試練なのだが、過去に何度も修羅場展開を経験して解決してきたことからやってやれないことはない。まあ最終的に胃に穴が空きそうで死にかけるんだけどな……。

 

 

「千歌とは教師と生徒の関係だよ……それだけ」

「えっ、顧問と教え子の関係でもありますよね? 副担任だけじゃなくAqoursの顧問もしてくれているのに」

「こ、顧問!? その情報初耳なんだけど!! どういうこと零君!!」

「べ、別に隠すつもりはなかったんだ! でも言うタイミングがなくてな……」

「そんなの電話でも何でも言えるじゃん!!」

「ごもっともで……」

 

 

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!! 本格的に俺の立場が危うくなってきた。穂乃果も俺にじゃれついていた時とは違って若干口調がヤンデレ調になってるし、その雰囲気が明らかに怒りと嫉妬のオーラに満ちている。命をかけて挑んだ試練だが、開始数秒で脱落してしまいそうだ。

 

 

「先生、穂乃果さんとの関係は?」

「穂乃果とはあれだよ、友達だよ友達。そう友達」

「なに友達って!? 穂乃果たち恋人――――」

「あ゛ぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああ!! 熱くなりすぎだぞ穂乃果!!」

「あっ……ご、ゴメン」

 

 

 μ'sの12人を恋人にしてイキっているのはいいが、世間体から見れば最低最悪なことをしているのには変わりない。だから俺と穂乃果たちが恋人同士であるという情報は長年ずっと封印し続けているのだ。まあ仲のいい友達には雰囲気からバレているのだが、だからといってこちらからバラす必要はない。千歌なら信用できるし話してもいいかもしれないが、例外を認めると情報管理が難しくなるから誰であっても特別視するのはなしだ。まあ今回のように穂乃果たちが熱くなってバレてしまいそうになったことは何回もあったがな……。

 

 

「さっき耳障りな言葉が聞こえた気がしましたが、それは気のせいですよね? ですよね??」

「どうして2回言った……。そして目が据わってるんだけど千歌さん……」

「別に怒ってもないですし嫉妬もしていません。だって先生が毎日私たちに手取り足取りスクールアイドルとして、そして女性としてのノウハウを教えてくださっているんですから」

「はぁ!? それって一体どういうこと零君!!」

「千歌が勝手に話を誇張しているだけだ!! 俺は至って真面目に指導してるから!!」

「ふんっ! 零君ってば可愛い女の子が相手だったらす~ぐ手を出しちゃうんだから!!」

「言い返せないのがキツイ……」

 

 

 明らかに怒ってるし嫉妬もしている千歌が放った事実無根の言葉に、穂乃果がまんまと乗せられてしまった。もう終息不可能な殺伐とした雰囲気となってしまい、俺の胃がキリキリと痛みを発し始める。穂乃果はジト目で俺を睨み、千歌は憧れの穂乃果を挑発する言葉を選ぶほどに病み成分が浸透している。あぁ、自分自身が元凶なんだけど誰か助けて……。

 

 

「千歌ちゃん、ちなみに聞くけどAqoursは何人グループなの?」

「9人ですよ。みんな先生からの手解きをねっとりと受けてますから。毎日毎日休まずに……」

「おい千歌、さっきからどうした!? 目が怖いんだけど!?」

「9人……ふ~ん、零君ってば毎日可愛いスクールアイドルたちといちゃいちゃしてるんだぁ~。零君がいなくてずっと寂しがってる穂乃果を差し置いて、毎日淫らなことばっかりしてるんだぁ~ふ~ん……」

「そこまでは断じてやってない!!」

 

 

 最悪他の事実は揉み消されてもいいけど、Aqoursのみんなと淫行をしているって無実の罪だけは訴え続けるぞ。そんな虚偽の情報が広まって教師生活だけでなく人生も終了させられたらたまったものではない。ただでさえ12股っていう最悪なことをしてんのに……。

 

 そして穂乃果もヤンデレ成分が色濃くなってきた。光彩が徐々に消えかけているのがその証拠だ。もうヤンデレの相手は5年前のあの時を経験してるから懲り懲りなんだよ!!

 

 だが俺の胃の痛みが更に激しくなる事態が起きる。

 左腕が急に人肌に包まれた。そう、千歌が俺の左腕に絡みついてきたのだ。それはもう全身を密着させる勢いでベッタリと。

 

 

「ち、千歌さん……?」

「自分でもよく分からないですけど、こうしたくなりました」

「千歌ちゃんズルいよ!! じゃあ穂乃果も!!」

「お、おい穂乃果!?」

 

 

 そして千歌に対抗するように穂乃果が俺の右腕へと絡みついてきた。2人共自分の胸を俺の腕に押し当てるように絡み付いてくるため、振りほどこうと思ってもその柔らかさと気持ちよさで力が抜けてしまう。穂乃果の胸が成長していることは知っているが、千歌も高校生にしてはかなり大きい部類だったと初めて知った。あぁ、2人と世間の目が許せばこの場で揉み比べをしたい……。

 

 いやいや、今はそんなことよりもこの修羅場だろう!?

 2人は再び見つめ合っているが、その目線はファーストコンタクトとは全く違う火花を散らした目線。バチバチという効果音が本当に聞こえてきそうなくらいお互いは目線を衝突させている。もうその目線だけで相手の目を焼き殺せそうなくらいだ。

 

 

「穂乃果さん、今は夏なんです。2人も抱きついたら先生が暑いと思います!!」

「穂乃果は季節関係なく毎日こうしてるもん!!」

「私だって毎日こうしてますよ!!」

「あれ、そうだっけ??」

「「う゛ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」」

 

 

 穂乃果と千歌は獣のように唸りながら、更に相手を威嚇する。

 そして俺はまだ気付かなかった。この修羅場はまだまだ序の口だという事実を――――

 

 

To Be Continued……




 いやぁ女の子の嫉妬は怖いですね。皆さんも安易にハーレムを作らないようにしましょう()

 μ'sとAqoursの絡みがある小説はハーメルンでも少ないので、これを機にμ's&Aqoursのコラボと言えば『新日常』と言われるくらいに頑張って執筆していこうと思います。


 次回は怒涛の後半戦。穂乃果と千歌の旦那奪い合い合戦が更にヒートアップする予感!?



新たに☆10評価をくださった

雨之雀さん、synchroさん、Re:ラムレムは正義、須坂徹さん

ありがとうございます!新年からたくさんの高評価嬉しいです!


Twitter
https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

穂乃果と千歌、本妻と現地妻!?(後編)

穂乃果と千歌のドロドロ修羅修羅したお話の後半戦。
両者の熱気は更にヒートアップし、あることないことの爆弾発言まで……?


 

 穂乃果と千歌の啀み合いは今なお続いている。

 結局俺たちは3人で買い物をすることになったのだが、歩いている途中も相変わらず右腕に穂乃果、左腕に千歌という両手に花状態だ。一般男性からしてみればμ'sとAqoursの両リーダーと同時にデート紛いなことができるなんて夢のような光景なんだけど、雰囲気はどんよりとした修羅場で胃がキリキリとして体調に良くない。愛をたっぷりと向けられるのは嫌いじゃないしむしろ大好きな部類だが、こうも空気が悪いと素直に喜べないのが俺である。さてはてどうしたものかなぁ~……。

 

 

「お前ら、同じスクールアイドルなんだしもっと仲良くしたらどうだ?」

「穂乃果さんが先生から離れてくれたら仲良くします」

「千歌ちゃんが零君から離れてくれたら仲良くするよ」

「全く同じセリフ……似た者同士だな」

「「どこがっ!?」」

 

 

 何だかんだで息ピッタリじゃねぇか……。元々この2人の性格は似ているところがあって、例えばいつも元気で明るいところや何も考えず猪突猛進で突き進むところ、リーダーを務めるだけのカリスマ性など挙げていけばキリがない。類は友を呼ぶという言葉がある通り、この2人が巡り合うのは必然だったのかもしれない。しかし同族嫌悪という言葉もあるように、出会ってしまったが故の惨事が俺を巻き込んで行われているのだが……。

 

 穂乃果も千歌も俺の腕に抱きつくパワーが歩を進めるたびに上がっている。俺の身体が右側、つまり穂乃果側に傾いたら千歌の抱きつく力が増し、左側である千歌側に倒れたら穂乃果の抱きつく力が増す。お互いに少しでも俺をこっちに引き寄せようと無言のバトルが繰り広げられていた。そこまで好意を抱かれていることは非常に嬉しいのだが、この板挟みはやはり体調に悪い。

 

 

「穂乃果の方が零君のことたくさん知ってるもん!」

「それは長い付き合いの穂乃果さんが有利ですけど、私だってこの数日ずっと先生と一緒にいて先生のあることないことたくさん知りましたから!!」

「ずっと一緒!? 零君、もしかして千歌ちゃんと一緒に暮らしてたりとか……?」

「暮らしてねぇから!! てかお前、俺が秋葉と一緒に暮らしてること知ってるだろ!? それにその光を失った目をやめてくれ心臓に悪いから……」

「ウチ旅館ですから部屋もたくさんありますし、先生とお姉さんがよければ私と一緒に暮らしませんか? 海の旅館ならではの新鮮な料理も振る舞えます。それに先生がよろしければ、私が夜のお相手なんかも……」

「残念でした! 零君がそんな単調な色仕掛けで釣られる訳ないよ!!」

「…………」

 

 

 いや、一瞬どころかかなり千歌に靡きそうになったとは恋人の前で言い出せまい……。だって旅館の部屋で女の子と浴衣を着ながら身体を暖め合うなんて男のロマンじゃねぇか! しかも現役JKでスクールアイドルの超絶美少女が、自分の腕に胸を擦り付けながら誘ってくるんだぞ? そんなの恋人持ちでも浮気しそうになるだろ許してくれよ!!

 

 

「零君また気持ち悪い顔してる……このことみんなに言うからね」

「ちょっ、待て!! なんでもするからそれだけはやめろ!!」

「今しっかり言質取ったよ!! だったら今晩は零君の家でずっこんばっこんと……」

「はぁ!? 先生と穂乃果さんって、もしかしてそんな関係だったんですか!?」

 

 

 やべぇ!? また穂乃果がデッドヒートして俺たちの関係を漏らそうとしてやがる!? おバカで察しのよくない千歌でも顔を赤くして追求してくるくらいだし、もう隠そうにも頭隠して尻隠さず状態になっちまってる。

 

 

「た、ただちょっとお互いの家に泊まったりしてるだけだよ。そんなエロいことなんてしてる訳が……なぁ?」

「…………」

「お、おい否定しろよ!!」

「…………してるって言ったら、千歌ちゃんはどうする?」

「えっ……そ、そうですね、とりあえず私にも手を出してもらいます」

「なんでそうなるんだよ!?」

 

 

 穂乃果のもう隠す気のない発言にも驚いたが、千歌が至って真顔で答えたことにも目が飛び出しそうになった。もうヤケクソになっているのかは知らないが、以前告白してきた時の乙女チックな彼女はどこへ行ったのか……。幽霊騒動の時も自ら俺との性交渉を買って出てたし、この子も穂乃果と同じく段々淫乱思考に染まりつつあるようだ。俺の周りの女の子って淫乱しかいような気がしてきた。いや、むしろ俺が無自覚の間に染めてしまっているのか……。

 

 

「ダメダメ!! 零君の身体は穂乃果のモノなんだから!! 零君は穂乃果の性欲処理専用だよ!!」

「人をダッチワイフみたいな言い方すんな!! それに男なのにダッチワイフってもう意味分かんねぇな!!」

「だったら私は先生の性欲処理のお人形さんでも全然大丈夫ですから!! だから一緒に暮らしましょう先生!!」

「そんなこと許される訳ないでしょ!! 零君の性欲処理は穂乃果だけで十分だから!!」

「そっちかよ!?なんの争いしてんだ!!」

 

 

 もう周りの目なんて気にせず大声でオナホ宣言をする2人。俺くらいは周りを気にしたいと思っているがそんなこと言っていられる状況でないことは分かっていた。俺が気にしたところで2人の謎の奴隷宣言合戦は止まらないだろう。どっちが性欲処理係として上なのか決めてるって、周りの人から女の子に変態プレイを強要させてる外道彼氏だと俺が疑われてしまいそうだ。

 

 

「私なんて……私なんてバスの中で先生に痴漢されるくらいなんですから!!」

「は……?」

「ちょっと千歌!? そ、それはぁ……」

「これって先生が私の身体を気に入ったから痴漢してきたってことですよね!? ね、先生??」

「気に入ったって言われても……まぁそうでないと触ろうとは思わないだろ」

「れ~い~く~ん!!」

「つい出来心だったんだ……」

「犯罪者はみんなそう言うよ!!」

 

 

 だって犯罪者だもん……。

 それはそれでいいとして、千歌は俺との条約を無視してあっさりと痴漢のことをバラシやがった。本来は痴漢を黙っている代わりに顧問をやってやる約束だったのに、コイツも頭が回らないくらいに熱くなってるのか。バラされたからと言って顧問をやめる気はないのだが、ここまでストレートに己の罪を突きつけられるともう冷汗が止まらない。このことだけは絶対にμ'sにバレちゃいけないと思っていたので、こんなにも簡単に穂乃果の耳に入っちまって今後俺の人生どうなっちゃう訳!? しかもこのままAqoursのみんなにも洗いざらい暴露されそう……。

 

 

「先生は女子高生のピチピチの身体と、20歳を超えて老いを感じる身体のどちらがいいんですか!?」

「ぜっっっんぜん老いなんて感じてないよ!! むしろ大人になって更に魅力的になったんだからね!! おっぱいも大きくなったから、零君の太いアレだって全部挟み込めるもん!!」

「全部挟み込むよりちょっとはみ出した頭をしゃぶってあげるのが一番いいんですぅ~!!」

「むむむ、まさかそこまでの知識を会得してるなんて……イマドキJKは手強いよ」

「今の高校生を舐めない方がいいですよ。全国の女子高生はいつ好きな相手と身体を交じり合うことになってもいいように、性知識をふんだんに蓄えているものなんです!」

「これ全国じゃなくて地球上の女子高生全員に謝った方がいいな……」

 

 

 コイツら一体何の話をしてんだよ……。俺のような性に塗れた変態野郎が話しているならまだしも、一方は伝説スクールアイドルとして名を刻んだ名誉ある存在、もう一方はまだスクールアイドルのタマゴでありながらも将来有望な現役JKだ。もしファンにこんな姿を見られたら幻滅されるぞ……。もしかしたら俺みたいに淫乱な子が好きって人が中にはいるかもしれないけど。

 

 とにかくこのままでは両者共にイメージがガタ落ちするのは目に見えている上に、そろそろ2人には仲良くなってもらいたいのでここらで仲介してやるか。

 

 

「俺ちょっと飲み物買ってくるから、お前らはあそこのベンチで座ってろ」

「えぇっ!? 零君いなくなっちゃうのぉ……?」

「今先生がいなくなったら私たち……」

「そんな悲しい顔すんなよ離れづらいだろ……。俺のことよりも、せっかくスクールアイドル同士こうして出会えたんだし、啀み合ってるだけじゃなく色々話したいことがあるんじゃないのか?」

「それは、まぁ……」

「決まりだな。それじゃあ行ってくるわ!」

「あっ、零君!! って、行っちゃった……」

 

 

 申し訳ないけど俺はここで離脱だ――――と思わせて、ベンチの裏にある植木の裏まで遠回りをしながら回り込む。そう、飲み物を買いに行くふりをして2人の会話を盗み聞きしようという魂胆だ。あまりいい趣味ではないが、2人がどんな話をするのか気になるじゃん? それに万が一また仲が拗れそうだったら止めに入らないといけないしな。まあ今までの会話のテンポからして2人の相性は抜群なので、心配する必要は皆無だろうが一応ね。

 

 そして俺がポジションに着くまで黙ったままの2人だったが、とうとうこの微妙な空気に耐えられなくなったのか穂乃果が口を開いた。

 

 

「す、座ろうか?」

「そ、そうですね……」

 

 

 おっ、ぎこちないながらもようやく2人の意見が一致した瞬間だな。さっきまでお互いを煽り合っていた手前中々素直になれないのだろう、まだまだお互いに牽制し合っている感じだ。

 

 2人は並んでベンチに腰を掛ける。また少し沈黙が続いたが、今度は千歌から穂乃果に話しかけた。

 

 

「あのぉ……さっきはゴメンなさい。ついつい熱くなっちゃって……」

「そんなことないよ、こっちこそゴメンね。穂乃果って零君のことになると周りが見えなくなっちゃうんだ……」

「あ、それは分かります! 私も先生の前だとドキドキしちゃって、いつもよりテンションが上がっちゃうといいますか……そんな感じです」

「アハハ! 穂乃果と一緒だね♪」

「先生の言っていた通り、私たちに似た者同士かもです♪」

 

 

 ほら見ろ、やっぱりあっという間に仲良くなっただろ? 俺の見る目に狂いはなかったってことだ。

 それにしても、これだけ女の子に好かれているってのも嬉しいねぇ。俺自身はただ欲望に従って普通に振舞っているだけなのに、いつの間にかハーレムと言っていいくらいの女の子が周りに集まっている。もういっそのことどこまでハーレムが拡大できるかギネス記録に挑戦してやってもいいかもな。そして将来はハーレムの女の子を全員メイドさんにして奉仕させてみたり、毎晩女の子を代わる代わる抱いたり――――もう妄想が止まらない。でもそれが実現できそうなので余計に興奮してしまう。結構いいんじゃない? μ's&Aqoursのハーレムって。

 

 そして俺が淫らな妄想を繰り広げている中、穂乃果と千歌は更に交流を深めていた。どうやら今はスクールアイドルの話題らしい。穂乃果が携帯を横にして何やら動画を見ているようだ。

 

 

「わぁ~Aqoursのみんな可愛ね!! それに衣装も素敵だよ♪」

「そ、そんなことないですよ!! 穂乃果さんたちに比べれば全然ですから」

「比べる必要なんてないよ。穂乃果たちは穂乃果たち、千歌ちゃんたちは千歌ちゃんたちだよ。それにもうμ'sは解散してるから、比べようにも比べられないけどね」

「解散していたとしても、μ'sは私がスクールアイドルになるきっかけをくれた一生思い出に残るスクールアイドルなんです。それに梨子ちゃんたちと出会うきっかけをくれたのも穂乃果さんたちμ'sのおかげですし、とても感謝してるんですから!」

「えへへ、そう言われると照れちゃうね♪ 穂乃果たちがたくさんの人たちに笑顔が届けられていたみたいで安心しちゃった!」

 

 

 千歌はもう緊張をすることもなく、穂乃果に素直な気持ちを伝えている。千歌が梨子たちと出会えたのもAqoursがあってこそ、つまり彼女の原動力であるμ'sのおかげってことか。音ノ木坂の廃校を救ってからはなんとなしに楽しいから続けていたスクールアイドルだけど、こうして他の誰かの希望になってるのを目の前で実感できて穂乃果はとても嬉しそうだ。俺もこの会話を聞いて、ただ漠然とAqoursの顧問をするのではなく千歌たちが今までよりももっと輝けるように指導していかなければならないな。

 

 

「それになにより、先生と出会えたことが一番大きいです♪」

「あっ、そうだ。聞きたかったんだけど、千歌ちゃんってやっぱり零君のことが好きなの?」

「はいっ! あまり言いふらしたくはないのですが、一応告白っぽいことはしたつもりです」

「はぁ……零君は本当に零君だよ。すぐ女の子を惚れさせちゃうんだから……」

「梨子ちゃんと曜ちゃん、私の友達なんですけど、その2人も先生を特別な目で見てるんですよね。それにルビィちゃん、私の後輩にも懐かれてますし。先生って意外とタラシなんですか?」

「意外どころじゃないよ。高校の時も可愛い女の子は大体零君のことが気になってたみたいだし、大学だって女の子の友達多いもん。もう慣れたけど、いい加減穂乃果たちの知らないところで女の子を引っ掛ける癖はやめて欲しいよ!」

「あ、あはは……」

 

 

 俺がいないのをいいことに、ここぞとばかりに文句を垂れやがるな穂乃果の奴。でも言ってることは全てが事実なので否定できない。ちなみに他の女の子に唾を付けるのは、別にμ'sが飽きたからとかではないことを念頭に置いて欲しい。μ'sのみんなが魅力的な女の子であることは間違いないが、μ's以外にも魅力的な子は高校にも大学にもたくさんいるのだ。俺は色んな女の子と仲良くなりたい。そしてあわよくばあ~んなことやこ~んなことをしてみたい。だから穂乃果たちにはない毛色の女の子を誘っているのである。異論は認めない。もちろんμ'sが第一なのはずっと変わらないから。

 

 

「零君が好きならもっとアタックした方がいいよ。ああ見えて零君、恋愛に関しては強情なところがあるから」

「承知の上です! 女心が全く分からない先生をもっと私に振り向かせてみせます!」

「その意気だよ千歌ちゃん! デリカシーのカケラもない男をギャフンと言わせる魅力で堕としちゃえ!!」

「もちろん! 練習中に変質者みたいな目線を送ってくる変態さんを頑張って堕としてみせます!」

「零君の変態魂はもう末期で治らないからね。だからその変態魂も泣いて唸るような魅惑で虜にしちゃえ!!」

 

 

 コイツら、さっきから俺のことをバカにしてんだろ……。怒りで思わず植木の陰から飛び出しそうになったぞ。

 しかしこれで千歌のアプローチが更に過激になりそうだ。ただでさえ梨子や曜の目があるってのに、これ以上アイツのスキンシップが増えたら……。そう思ってる最中にまた新たな修羅場の予感が過ぎったので頭から振り払った。

 

 

「それと零君は案外容赦なく手を出してくることもあるから、下着はいつもお気に入りのモノを着けておくといいよ♪」

「そうなんですか!? まあ痴漢をするくらいの変態さんですからねぇ~」

「穂乃果のスタイルは零君が作ってくれたと言っても過言じゃないんだよ。おっぱいもおしりも全身も、もう何度触られたことか……」

「先生って想像以上に肉食系なんですね……」

 

 

 またこんな話題になるのかよ!? しかも穂乃果が何度触られたことかって言ってるけど、高校時代から俺が触るより向こうから求めてきたことの方が多いからな!! 今の穂乃果は千歌に対してかなり人生の先輩を気取っているが、その中身はただの淫乱少女だ。しかもことりやにこのような計算された淫乱ではなく、天然モノの淫乱だから余計にタチが悪い。つまり本人が無自覚に淫語を放ったり身体を差し出そうとしてくるってことだ。過去に何度その無自覚さのせいで性欲を滾らせたことか……。

 

 さっきからいい話をしているようでツッコミどころしかないから、もう俺の身体は植木の陰に隠れておらず、自分でも気付かない間にいつでも飛び出せる体勢となっていた。

 

 

「先生と一緒にいると胸も大きくなるしスタイルも良くなるのかぁ~」

「零君はおっぱい魔人だからね。しかも転んだ拍子に女の子のおっぱいに突撃するとかよくある話だよ」

「あぁ~一度だけあります。廊下で転んだ時に後輩たちの胸を揉んだりパンツを脱がしていたことが――――」

 

 

 そこで俺の身体が反射的に動いた。

 もう耐え切れなかったんだ。千歌が痴漢だけでなくセクハラまでバラしてしまった約束破りの行動に、声よりも先に身体が反応した。素早く穂乃果と千歌の後ろに立ち、あとから追いかけてきた己の声が響く。

 

 

「お前あっさりバラシてんじゃねぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええ!!!!」

 

 

「わぁっ!? 零君!?」

「先生!? いつからそこに!?」

 

 

 2人は身体をビクッとさせ、目を大きく広げてこちらに振り向いた。そりゃあいきなり後ろから大声を出されたらその反応で間違いないが、今はそんなことどうでもいい。千歌の奴が条約を破り捨てて俺の痴態を晒したことの方が問題なのだ。ただでさえ痴漢だけでもμ'sにバレたら波紋を呼ぶのに加えて生徒に対してセクハラ行為までしたとなれば、μ'sのヤンデレ力をもって張り付けの刑にされて一生監禁生活を余儀なくされるかもしれない。それだけは嫌だァああああああああああああああああああああ!!

 

 

「千歌、お前なぁ……」

「先生、まさかとは思いますが盗み聞きですか?」

「はい……?」

 

 

 さっきまで驚いていたのも束の間、千歌はジト目でこちらを睨みつけてくる。しかも隣にいる穂乃果までもが同じ表情でこちらに冷たい目線を送ってきやがる。なんだろう、このアウェイ感。俺なんにも悪いことしてないよね!?

 

 

「零君、ガールズトークを盗み聞きするなんて痴漢よりもセクハラよりも万死に値する行動だよ!!」

「罪が重すぎるだろ!? 俺はお前らがまた暴走しないようにだな……」

「そんなことしないよ。ねぇ~千歌ちゃん♪」

「ねぇ~穂乃果さん♪」

「ぐっ、都合のいい時だけ結託しやがって……」

 

 

 ここで俺は悟った。だってこの2人の笑顔の裏に潜む悪魔が見えたんだから……。

 似た者同士とは言ったが、そう言えば意地の悪さも相当似通っているんだった。機転は効かないくせに悪知恵だけは働くコイツらの悪い癖。今2人の脳内でその極悪思考が巡りに巡っているのだろう、どんどん笑顔が黒くなっている。

 

 

「先生♪ 今日のお買い物は先生の奢りでお願いします! ていうか奢りです、断定です」

「な゛っ!? どうして俺が!?」

「穂乃果も賛成! 言うことを聞いてくれないと、もうさっきの話全部μ'sのみんなに喋っちゃうよ?? それでもいいのぉ~??」

「お、お前……」

「私もAqoursのみんなの前で思わず口が滑っちゃうかもしれませ~ん」

 

 

 あれ!? これって俺が悪いの!? さっきから2人の黒い笑顔と脅迫にビビって言い返せないけど、よくよく考えてみれば俺が被害者だよね!? でもバラされるとμ'sからもAqoursからも酷い仕打ちを受けるのは目に見えているので素直に従わざるを得ない。ハーレムを作るとはなんだったのか……尻に敷かれる生活だけは勘弁だぞ!!

 

 

「あぁもう分かったよ奢ればいんだろ奢れば!! デートなんだから男の俺が全部出してやるよ!!」

「おぉっ、零君だぁ~いすき♪」

「私も先生のこと大好きです♪」

「都合のいい奴らめ……」

「零君いこっ! 久しぶりのデートなんだから楽しまないとね♪ もちろん千歌ちゃんも!」

「はいっ! 今日は穂乃果さんといっぱいアプローチするので覚悟しておいてくださいね、先生♪」

「ひ、引っ張んなって! 自分で歩けるから!!」

 

 

 穂乃果は俺の右手を、千歌が左手を掴んで全速力で走り始めた。

 2人が仲良くなったみたいだし、実質3Pデートだからこれはこれで……まぁ良かったのかな? なんか上手いこと丸め込まれた気もするけど、2人の笑顔を見ていると嫌な気分も全て吹っ飛んでしまう。そういや笑顔も似た者同士だな、穂乃果と千歌。だから俺もこの2人の邂逅に運命を感じたのかもしれない。

 

 

 ちなみにこの2人は容赦のない性格だから、財布をたっぷり減量されたのは言うまでもない。

 




ようやく穂乃果と千歌のコラボを描くことができました!実はμ's編の時からずっとこの2人を絡ませたくて、むしろこの回を描くためにAqours編を始めたまであります(笑)
読者さんの中にもμ'sとAqoursのコラボを心待ちにしていた人が多かったと思うのですが、ご期待に添えましたでしょうか?
今回はμ's&Aqoursの初コラボだったので、是非感想でお声を聞かせてもらえればと思います。この先もちょくちょくコラボ回を執筆するので、穂乃果と千歌以外のカップリングを予想してみるのも面白いかと(笑)


次回は絵里が登場!


新たに☆10評価をくださった

フレアisさん、真紅眼さん、Rinにっしーさん

ありがとうございます!
評価をつけてくださった方の中で、応援コメントを送ってくれているのに☆5〜9などの人がいらっしゃるので、もう一度☆10評価で付け直してくださると嬉しいです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

生徒会長とポンコツは紙一重(前編)

 今回はμ'sより絵里が登場します!
 そして彼女と絡むAqoursのメンバーは皆さん予想通り――――


 よく勘違いされるのだが、俺がいくら女の子好きだからと言っても女の子に甘い訳ではない。ちょっと優しくお願いすれば言うことを聞いてくれるとか、困ったふりをすれば手を差し伸べてくれるとか、そんなあざとい行動はむしろこちらから願い下げである。俺は根っからの利己主義者、例外はあれど基本は自分の利益のために行動するのである。

 まあ俺って頭も良いし運動もできるし、女の子からもモテるしで完璧だから、何か1つくらいは欠点を作っておかないと世の中から嫉妬されてしまう。流石の俺でも世界から淘汰されるのは嫌だからな、こうしてわざわざ神様が与えてくださった欠点を全面に押し出している訳だ。押し出すことで好感度が下がる欠点なのは内緒だが……。

 

 

「先生? さっきから手が止まってますわよ」

 

 

 隣にいるダイヤが作業の手を止めず咎める。

 俺はまたしても生徒会に駆り出され、溜まっている書類整理をさせられていた。

 

 

「どうして俺がこんなことを……」

「どうしてって、これもAqoursの活動の一貫ですから」

「どこをどう見たらスクールアイドルと関係があるんですかねぇ……」

「この仕事が早く終わればそれだけ練習時間も増えます。つまり生徒会の仕事を手伝うことは、Aqoursの成長にも繋がるということです。だから文句を言わず手を動かしてください」

「なんか上手いこと丸め込まれた気がするけど、まぁいいや。今日はお前1人で大変そうだしな」

 

 

 教育実習生として活動報告書も作らないといけないため、本来は生徒会業務を手伝っている暇はないのだが、これもダイヤと仲良くなるためだ。どうも彼女からの好感度はまだまだ低いと思うんだよ。その態度も幽霊騒動をきっかけにかなり軟化してきたが、それでも多少の壁を感じることはある。だからここらでもう少し交流を深めようという訳だ。本来なら手伝わない面倒な仕事だったけど、俺の利己主義に合致するから手伝った、それだけである。

 

 それに今日はいつも生徒会を手伝っている果南も鞠莉もいない。果南は店の用事だから仕方ないのだが、問題は鞠莉だ。ダイヤによれば何の連絡もなく教室からサッと姿を消したらしい。つまりただのサボりだ。アイツは生徒会役員ではないのだが、手伝うと決めた以上しっかり責務は果たして欲しいよ。まあそのサボりのおかげでダイヤと2人きりになることができたから良しと言えば良しなのだが、納得はいかないよな。

 

 

「教育実習生と言ってもお前らの顧問だし、困ってることがあるなら言えよ。ある程度のことなら俺が解決してやる」

「…………」

「ん? どうした?」

「あっ、いえ。この前の幽霊騒動の時もそうでしたが、意外と男らしいところがあると思いまして」

「そりゃあ俺は男の中の男だからな。俺より寛大な奴なんてこの世にはいない!」

「よく言いますよ全く。でも幽霊の件も生徒会を手伝ってくれている件もどちらも助かってますわ。ありがとうございます♪」

「そ、そうだろうそうだろう……」

 

 

 ダイヤに直接お礼を言われるなんて初めてだから、声で分かるくらいに動揺してしまった。これって意外と彼女との仲はそこまで離れていない感じか? もしかしたら俺の勝手な思い込みでダイヤが離れていると錯覚していただけかもしれない。彼女は彼女なりに俺の心へと近づいてきているようだ。そう考えると何だかホッとしたよ。自分のせいとは言え、ずっと嫌われたままだと思ってたからなぁ。

 

 ちょっといい気分になって作業に戻ろうとしたその時、携帯の着信音が生徒会室に響き渡った。ただの着信ならそこまで気にしないのだが、思わず気が散ってしまった要因はその着信音だ。どこかで聞いたことのある歌だと思いながら耳を傾けてみると、この綺麗な歌声はまさにμ'sの絢瀬絵里そのものだった。これは確か、絵里のソロ曲だったかな? でもどうしてダイヤが……?

 

 

「お前その曲って――――」

「ち、違いますわ!! いつもはマナーモードにしているのですが仕事中は集中しているためか携帯が震えても無視してしまうことが多く着信に気づかないので仕方なくマナーモードを解除しているだけですから!!」

「早口でどうも……。てか俺はそんなことを聞いてるんじゃなくて、その曲について聞いてるんだよ」

「も、もしかして先生も絢瀬絵里のファンなのですか!?」

「ファンと言われればファンだけどさ……とりあえず電話出ろよ」

「あっ、しかもルビィからですわ!?」

 

 

 ダイヤは慌ててポケットから携帯を取り出し電話に出る。

 コイツって普段は品行方正だけど、ふとしたことで抜けてるよな。ハキハキとした鋭い口調と丁寧な言葉遣いも相まって堅物のお嬢様と言っても謙遜はないが、その実どこかおっちょこちょいである。話を勝手に1人で進め勝手に勘違いしたりとか、考え事をしていたせいで机や椅子にぶつかって資料をぶちまける光景も何度か見たことがある。まあいつも毅然とした態度を取っているからこそそんな些細なミスが可愛く見えるんだけどね。

 

 

「もしもしルビィ。一体どうしたのです――――」

『た、たたたたたたたた大変だよお姉ちゃん!!』

「ルビィ!? 何か事件でもあったのですか!?」

『あああああああああある意味で事件だよ!! ま、ままままさかあの人がここにいるなんてぇええええええええええええ!!』

「あの人って誰ですの? もしかして不審者が学院内に!?」

 

 

 ここでダイヤがチラリと俺の方を見る。何とも失礼な目線どころか、さっきからずっと一緒にいたのに不審者扱いとはどういうことだよ。俺の本当の実体はここにはなくて、精神だけが1人歩きして女の子に手を出してるとか? そんな夢みたいな能力があったらこの学院だけでなく世界中の女性を襲ってるっつうの。

 

 まあそんなことはさて置き、ルビィの声が大きすぎて電話越しなのに俺にまでその叫び声が聞こえてくる。彼女はその性格上取り乱すことは多いのだが、ここまで声を荒げるは珍しい。息も絶え絶えでかなり興奮しているような気も……。もしかして電話しながら誰かに襲われてんじゃねぇだろうな? 俺の可愛い可愛いルビィに手を出す奴は男でも女でも許せんぞ。アイツの華奢な身体を触っていいのは俺だけだ。

 

 そして再びルビィの話に耳を傾けようと思ったその直後、生徒会室の扉が勢いよく開かれた。

 

 

「お、お姉ちゃん!!」

「うぉっ、ビックリした!?」

「る、ルビィ!?」

 

 

 生徒会にルビィが目を回して駆け込んできた。本当に不審者が来てるかってくらいの慌ただしいテンションで、傍から見てもびっしょりと汗をかいているのが分かる。電話越しで聞くよりも息遣いが激しいため、ここに来るまでずっと興奮しっぱなしだったのだろう。もう何があったのか全く想像できねぇなこれ。

 

 

「き、来てます……!!」

「来てる? 誰が?」

「誰がって、あのあ、あああああ絢瀬――――」

 

 

 ルビィが誰かの名前を言いかけた直後、彼女の後ろから女性の人影が現れた。

 まず目を惹かれるのは煌びやかに靡く金髪だ。決して染物ではない天然の髪色で、本人が歩いて髪が靡くたびに輝きを放つ。そしてその美貌。透き通るようなサファイアの瞳からクォーターの綺麗な顔立ち、男の欲情を唆る胸のボリュームに背の高いモデル体型のようなスタイル。そんな外見完璧な奴の名は――――

 

 

「絵里!?」

「こんにちは零、会いに来たわよ♪」

 

 

 絵里はサプライズが成功して嬉しかったようで俺にウインクをする。

 まさかこんなところで絵里と出会うなんて……いや向こうが秘密にしてたみたいだから出会うもクソもないのだが。しかも穂乃果と同じくアポなし訪問だったから尚更驚いたぞ。

 

 

「お前どうしてここに……?」

「穂乃果が私たちに隠れて零に会いに行ったことがバレちゃってね。それで穂乃果が抜け駆けしたなら私もいいかなぁって」

「どんな理論だよそれ……」

 

 

 しっかりしてそうでひょんなところで適当なのは大人になっても相変わらずである。それに『私も』って言ってたから、コイツもみんなに内緒でここへ来たってことか。まだみんなからの連絡はないので何とも言えないが、多分穂乃果の奴みんなに勝手に抜け駆けしたことをどやされたな。俺の教育実習を邪魔しないよう勝手に訪問しないというμ's内での取り決めがあったんだけど、穂乃果がその壁を壊しちまったせいでもしかしたら絵里だけでなくみんな押し寄せてくるぞ。穂乃果と千歌とのデートの時みたいにあることないこと全てバレなければいいのだが……。

 

 そしてふと隣にいるダイヤを見てみると、もう既に気絶一歩手前レベルまで顔に熱を帯びていた。目も白目を剥きそうになってるし、整った顔が台無しだな。

 そういやルビィから聞いたけど、ダイヤは絵里のファンなんだっけか。生徒会長でスクールアイドルという共通点を持ち、そのクールさに魅せられ大ファンになったと言う。穂乃果の大ファンである千歌ですら本物を見た時に気絶しなかったのに、ダイヤのこの様子を見ると相当ショッキングだったみたいだ。信じられないものを見たような顔をして、もう口から魂が抜けていきそうだぞ。しかし幽霊を目撃した時よりも何百倍も驚いてるのはどうなんだ……?

 

 

「あぁなるほど。だからルビィがこんなに興奮してたのか」

「そうなのよ。学院前でたまたまルビィちゃんに出会って、零のことを知ってるって言うからここまで案内してもらったんだけど、その途中でもずっと緊張しっぱなしで」

「そりゃあ緊張しちゃいますよ!! だってあの絢瀬絵里さんですよ!? お姉ちゃんだって、ほら」

「あ、あぁぁ……あぁ……あぁぁ……」

「壊れたレコードみたいに同じことしか言ってねぇな……」

 

 

 そういや千歌からも聞いたことがある。『ダイヤさんは私よりもμ'sの大ファンで熱心な研究科』だと。その中でも特に尊敬しているのが絵里のようで、その憧れが目の前に現れたら舞い上がってしまうのも仕方ない。それどころか舞い上がりすぎて気絶しかかってるけど大丈夫かな……? さっきからルビィがクリアファイルでパタパタと風送って仰いでいるが全然反応しないし。

 

 

「えぇと、この方は大丈夫なのかしら……」

「お前のせいで大丈夫ではないな」

「私のせいなの!?」

「そりゃあそうだろ。もっと自分が有名人だってことを認識した方がいいぞ」

 

 

 これは絵里だけの問題ではなく、μ'sメンバーのほとんどがそうである。にこや楓は自画自賛が激しいので周りに己の立場を振りまいているが、他のメンバーはイマイチ自分が一世代を築き上げた人間であるのにそうでないと謙遜する。あれだけ雑誌やポスターに掲載されて自分が有名人でないと言い張る方がおかしな話だ。

 

 

「まあそんなことよりも今はコイツを起こすところからだな」

「お姉ちゃ~ん……しっかりしてぇ~」

「あ、あぁぁ……あぁ……あぁぁ……」

「こんなに面白い反応をされるとこっちも嬉しくなっちゃうわね♪」

「いや相手が気絶しかかってることお分かり……?」

 

 

 しっかりしてそうでたまにちょっと抜けているところがあるのが絵里の可愛い一面でもある。そういやダイヤも同じような性格をしているし、生徒会長は堅物な性格とお茶目な一面を両方持ち合わせないといけない決まりでもあるのかよ。

 

 

「せんせぇ~どうしましょぅ……」

「心配する必要はない。気絶した人を目覚めさせる手段は昔から決まっている。そう、ショック療法だ」

「ショック療法!? それって安全なんですか……?」

「何事も完璧なこの俺が治療するんだぞ、起きない訳がないだろ。王子様が眠れる美女の目を覚まさせてやるよ」

「王子様云々の話はいいけど相手は女の子、変なことはしないようにね」

「いちいち言われなくても分かってるって!」

 

 

 流石俺の彼女だ。絵里も完璧に俺の性格を理解しているな。普通だったら眠っている無防備な女の子を見たら手を出さない男がいないように、周りに人がいなかったら確実に俺の毒牙がダイヤに向けられていただろう。まあ今から毒牙とまではいかないけど毒針くらいは刺しちゃうんだけどね。

 

 

「ダイヤ、聞こえるか?」

「あ、あぁぁ……あぁ……あぁぁ……」

「ほら早く起きろ。でないとまた前みたいにおっぱい触るぞ」

「~~~~~~ッ!?!?!?!? な、ななななななななにをいきなり!?!?」

「あっ、お姉ちゃん起きた!!」

「どうだ、これが精神ショック療法だ」

「あなたって人はまた私を下衆な目で……!!」

 

 

 ダイヤは涙目になりながら腕を組んで、自分の胸を隠すように抑える。

 せっかく昇天しそうになっていた魂を現実に取り戻してやったのに、その言い草は流石に酷すぎるだろ。でもこんなことをやってるからダイヤの好感度が上がらないんだろうなぁとしみじみ感じた。

 

 

「この世に存在する全ての美女美少女のおっぱいは俺のためにある。だから素直に差し出せ。なぁに、おっぱいは宝だ。大切に扱ってやる」

「最低の下の下ですわね!!」

「こんなにカッコよくて性格もイケメンな俺に触ってもらえるんだからむしろご褒美だろ。なぁルビィ?」

「きゃっ!?」

「ちょっ!? ルビィを抱き寄せて……彼女を人質に取ってどうするのです!?」

「失礼だな。至って普通のスキンシップだ」

「あうぅぅ……」

 

 

 俺はルビィの背中に手を回して無理矢理抱き寄せたのだが、彼女は特に嫌そうな顔をしていない。それどころか頬を赤く染めたまま俺のなされるがままとなっていた。これぞ男としての魅力。男ってのは突然女の子を抱き寄せても一瞬でその子を懐柔する能力が必要な訳だよ。

 

 そして俺の隣では絵里が頭に手を当てて呆れてますよアピールをしている。そのあと彼女は俺の背後に立つと首根っこに手を伸ばした。

 

 

「零、そろそろ離してあげなさい」

「うぐっ!! 急に首絞めんな死ぬだろ!!」

「そうやってすぐに女の子に手を出すくらいなら、一度天に昇って裁判してもらった方がいいかもね」

「ひでぇなお前……。本当に俺のこと愛してる?」

「もちろん愛してるに決まってるじゃない。だからこれも愛情よ♪」

「さいですか……」

 

 

 苦痛を与えることが愛情だなんて、それってどこのヤンデレちゃん? Cutie Pantherなんて歌ってるからヤンデレ思考になるんだよ!!

 

 絵里に咎められたことで抱き寄せていたルビィを解放し、俺もダイヤの非難の目から解放された。そこでルビィの若干残念そうな顔を見逃さなかったが、彼女との話はまたの機会にさせてもらおう。アポなしと言えども折角絵里が来てくれたんだから、彼女の大ファンであるダイヤと話をするきっかけでも作ってやるか。

 

 

「お前らに改めて紹介するよ。元μ'sメンバーの絢瀬絵里だ」

「あ、ああああ絢瀬絵里ィイイいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?」

「まだ驚き足りないのかよ!! 全然話進まねぇからちょっと黙ってろ!!」

「これが黙っていられますか!! だってあの絢瀬絵里さんですよ!? 憧れのμ'sのメンバーの1人、しかも私が最も尊敬してる方が目の前に……!!」

「お姉ちゃんがここまでハイテンションになるの初めて見ました……」

 

 

 穂乃果と出会った千歌と全く同じ反応をするダイヤ。もしかしてこれからもμ'sメンバーが襲来した時にいちいちこの反応を見せつけられるのか、面倒だなオイ!!

 

 

「は、初めまして黒澤ダイヤと申します! こちらは妹のルビィです!!」

「よ、よろしくお願いします!!」

「こちらこそよろしくね! そして零がいつも迷惑かけてばかりでゴメンなさい」

「おい、いつもってどういうことだ? ん??」

「はいそれはいつもいつも迷惑を被ってばかりで、生徒会長の私としても課題が山積みなのです……」

「私も生徒会長時代はこの問題児の対処だけでどれだけの時間を費やされたか……」

「その気持ち、痛すぎるくらいに分かりますわ……」

「俺を邪険に扱ってシンパシー感じないでくれる!?」

 

 

 絵里もダイヤも同じ生徒会長で同じおっちょこちょいな性格で、しかも同じ相手をダシにしてお互いに共感し合っている。逆に言えば高校生でも教育実習生でも女の子にしか手を出してない俺って相当ブレてないよな? むしろその一貫した態度を長年保ち続けていることを褒めて欲しいくらいだ。

 

 

「でも意外ね、ダイヤさんってAqoursのPVを見る限りではとてもクールなイメージがあったんだけど。私を見て気絶しちゃうなんて案外可愛いところもあるのね♪」

「わ、私たちのことをご存知なのですか!?」

「穂乃果から聞いて私もあなたたちのことを調べたりライブの動画を見たのよ。メンバー紹介が個性的で面白かったわ」

「ど、どどどしましょうルビィ!! こんなことならメンバー紹介欄を千歌さんに任せるべきではありませんでした!! 変なこと書いてないか心配になってきましたわ!?」

「大丈夫だよお姉ちゃん! 私が見た限りでは普通の自己紹介だった……はず」

 

 

 自信ないんかい!! そもそもあの千歌に大勢の人に見せる文章を書かせたのが間違いだろ。

 そういや穂乃果は本当にあらいざらいみんなに内浦での出来事を喋ったんだな。ということは俺の悪行もみんなに広まっている訳で……。あぁ、身体が震え出しそう。

 

 

「私は普段からこんな慌てん坊ではありませんよ!! 突然絵里さんが現れたからこうなって――――」

「お、おいそれ以上後ろに下がると……」

 

 

 ダイヤは身体の前で両手を横に振りながら、恥ずかしさを隠すためなのかズルズルと後ずさりをする。自分の頭が段々背後にある棚の角に近づいているとも知らないで――――

 

 

「もうさっきから調子が――――って、いったァああああああああああああああああああああああ!!」

「ほら言わんこっちゃない……」

「今日は全然調子が出てないねお姉ちゃん……」

 

 

 ダイヤは後頭部を抑えてその場でしゃがみ込んだ。もう誰もが見据えられていた未来なので特に心配はしていないが、さっきから声を荒げて騒いだり自ら不幸に突っ込んだりと、いつもは稀に抜けているところを見せているのが今日はかなり顕著になっている。あまりこの言葉を使いたくはないが、ポンコツの片鱗が見え始めているぞ。いつもが品行方正に見えるから尚更目立つんだよな。

 

 

「やっぱりダイヤさんって、どこか抜けてるところがあるわよね。でもクールな人がいきなり天然っぽくなるのが可愛いんだけど♪」

「絵里、お前が言うな。ブーメラン跳ね返ってきてるぞ」

「へ? 私はそんなことないわよ?」

「もうその反応が物語ってるっつうの!!」

「ん……?」

「その『お前一体何言ってんの?』みたいなキョトンとした顔やめてくれない? 俺が間違ってるように見えるからさ」

 

 

 絵里の凄いところは自分もたまに抜けていると自覚していないところだ。もし自覚をしていてもこの歳になっても全然治っていないため多分気にしてすらいないだろう。今もこうして首を傾げて不思議そうな顔でこちらを見つめているが、もうその反応からしてちょっと抜けていることが分かる。言ってしまえば少し天然、つまり微天然だな。ここまで人に言われているのに無自覚だと怖いわ……。

 

 

「絵里さんってずっと真面目なお姉さんキャラだと思っていましたが、意外とそのような一面もあったのですね」

「みんながそう言ってるだけで、実際はそんなことないわよ?」

「いやいやいやいや、おかしいから。何もかもがおかしい」

「そんなことを言ったらお姉ちゃんだって生徒会長ですけどおっちょこちょいなところはたくさんありますよ! 学院でもそうですけどプライベートでも!」

「ちょっとルビィ!! あなた余計なことを!!」

「あっ、それ私も知りたいわ! せっかく同じスクールアイドルのお友達に出会えたんだし、相手のことをもっと知って仲良くなりたいもの」

「だったら俺は絵里のポンコ――――可愛い部分をみんなに教えてやるかな」

「だから私はそんな部分ないって言ってるでしょ」

「だからあるって言ってるだろ」

 

 

 ここで言い争っても無自覚ちゃんの絵里には全くこちらの主張は通用しないので、仕方なく俺の方から折れて諦める。俺の言ってることは事実なんだけど、終わらない戦いに身を投じるほど馬鹿ではない。口争いは天然な性格な奴の方が強いと思うんだ。

 

 そして気付くとルビィがホワイトボードに『絢瀬絵里と黒澤ダイヤの可愛い一面探し』という題目で表を作っていた。その目に闘志を燃やしているが、それも大好きなお姉ちゃんと憧れのμ'sメンバーとの話題なので心底興奮しているんだろう。今日の黒澤姉妹のテンションがいつもと違いすぎて別人に見えるな……。

 

 

「お姉ちゃんと絵里さんの仲を深めるために、お互いの可愛い一面を教え合いましょう!!」

「だから私は抜けてるところなんてないわよ」

「あぁもういいからいいから!!」

 

 

 珍しくテンションの上がったルビィが発案した、絵里とダイヤの可愛い一面探し(ポンコツさアピール大会)が始まった。この結果を公に公開したら、2人の印象がガラリと変わっちまいそうだけどいいのかな……?

 

 

To Be Continued……

 




 絵里やダイヤは普段は真面目でも、その合間に見せるちょっと抜けた一面がとてつもなく可愛かったりするんですよね! しかしこの小説はギャグ成分が多いので、その抜けている一面が前面に押し出されて全然合間ではないのですが(笑)

 次回は絵里とダイヤの羞恥話暴露大会後半戦。今回が導入だったので後半戦というより次が本編みたいなものです。


新たに☆10評価をくださった

夏白菊さん、真数千手さん、nekomimi0304さん、悪魔っぽい堕天使さん、町の工場屋さん

ありがとうございます!
小説が面白いと思った方は是非☆10評価への投票をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

生徒会長とポンコツは紙一重(後編)

絵里とダイヤの黒歴史暴露回。
普段聡明な人ほどポカした時に可愛いものなのです。


 

 生徒会室の空気はカオスに満ちていた。

 ルビィは大好きなお姉ちゃんと憧れの絵里の暴露話が楽しみでテンション高めだし、絵里は無自覚の抜けっぷりでキョトンとしてるし、ダイヤはまだ絵里の登場に動揺を隠せていない。みんなの様子が三者三様すぎて俺は一体誰の相手をしてあげた方がいいのか分からないんだが……。自分の黒歴史をほじくり返されるのは嫌いだが他人の黒歴史を煽るのは好きなので、とりあえずルビィに話を合わせておくか。

 

 

「先鋒はルビィたちからですね!」

「えっ、これって東西対決か何かだったの?」

「違いますよ! お姉ちゃんと絵里さんの可愛い一面をお互いに知ることで交遊を図る。相手を知るにはまず自分のことを1から100まで曝け出すのが一番なんです!」

「それをお前が言うのか……」

 

 

 根拠としては納得できるのだが、Aqoursの中でもブッちぎりで他人と話すのが苦手なルビィに言われても説得力に欠ける。それに可愛い一面とか言ってるけど、2人のポカしたところを挙げるいわば公開処刑だ。絵里は変に無自覚だからいいとしてもダイヤがなんて言うか。ルビィ本人は全くそんな気はないだろうが、やってることは鬼畜の所業だ。こんなにイキイキとした彼女は初めて見たぞ。

 

 

「お姉ちゃんの可愛いところは、たまに見せるおっちょこちょいなところだと思うんです」

「そこかよ……」

「はいっ! 生徒会長としてのお姉ちゃんは下級生から冷徹だと思われているんですが、さっきみたいに棚に頭をぶつけたり何もないところで躓いたり、とにかく逐一動作が可愛いんです♪」

「ちょっとルビィ恥ずかしいですわ!!」

「だからルビィは学院の皆さんにもっとお姉ちゃんを知ってもらいたいのです! いつか新聞部に乗り込んでお姉ちゃんのコラムを書いてもらうよう脅す――――お願いしに行きます!!」

「ルビィちゃんの目が燃えてるわ……危ない言葉まで聞こえたし」

「なんだよただのシスコンじゃねぇか……」

 

 

 ダイヤがルビィにあまあまなシスコンだってことは大体認知されてるけど、ルビィの奴も相当お姉ちゃんに入れ込んでいるようだ。さっきから彼女のテンションが変な方向に捻じ曲がっているせいで、メインのダイヤよりもスポットが当たっている気がするぞ。熱気を纏って暴走してさり気なくカメラさんを奪うのはやめなさい。ちゃんとカメラを返して、今日のメインはお前じゃねぇからな。

 

 

「スクールアイドルとしてはそういった意外な一面を持っていることが何より重要なんですよ! だからお姉ちゃんのおっちょこちょいはキャラ作りとしては満点なのです!」

「別に作ってはいないのですが、よく考え事をしている最中にぼぉ~っとしてしまい、壁や柱にぶつかってしまうことがあるくらいです」

「いやそれが相当なんだよ。ていうかここまで来るともう可愛い一面とかじゃなくてただの不注意だろ」

「そうね、気をつけなきゃダメよ?」

「だからお前が言うなって……」

 

 

 自分のことは棚の上げるどころか外へ放り出すってくらい自覚ねぇなコイツは。よくファンが話題にしているμ'sに加入する前と後でのお前の評価を見せてやりたいくらいだ。まあ今の絵里の方がμ's加入前よりも数万倍親しみやすいからいいけどね。もし以前の絵里の方が好きって人がいたら、その人は冷徹な彼女に踏まれて罵倒されたい相当なドMと見て間違いないだろう。てかそんな人いるのか……? もし僕または私は絵里ちゃんに踏まれ罵られたいドMですって人がいたら俺に教えてくれ。絵里に教師衣装のコスを着させてけしかけるから。

 

 

「そんなことを言ったら絵里はおっちょこちょいな場面なんて無限にあるぞ」

「私そんなにボケてたかしら……?」

「そう言われてもおかしくないくらいお前は少し天然混じりなんだよ」

「わぁ~♪ 絵里さんのそういうところとても興味があります!」

「そうだな、まずはこんなエピソードを――――」

「えっ!? なになに何が始まるの!?」

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 音ノ木坂学院・部室

 

 

「あら? こんなにたくさんの玩具、一体どうしたの?」

「あぁこれか。先日にこと花陽と凛が幼稚園にボランティアに行ってただろ? その時にお礼として園児たちからもらったんだと」

「へぇ~。でもこの部室は狭いんだから、なるべく持ち帰るようにしてね」

「いや俺に言われても……」

「それより零、甘いお菓子とか持ってないかしら? こうも連日生徒会の仕事をしていると糖分がすぐ抜けちゃってね」

「いいや持ってねぇよ」

「そう残念……って、あっ、こんなところにあるじゃない!」

「えっ、いやお前それは!!」

 

 

 絵里が指で摘んだのは、小さな箱の中に乱雑に入ってる茶色い四角の物体だ。傍目から見るとチョコレートに見えなくもないその物体は、今もう彼女の口の中に、そして歯で噛み砕かれようと――――

 

 

「い、いったぁあああああああああああああああああああ!!」

 

 

 砕かれる訳がない。だって絵里が食ったのは子供のおままごと用のチョコレートなのだ。つまりプラスチック加工のサンプル品みたいなものであり、彼女はそうとも知らずに思いっきり歯を立ててしまった。そうなればもちろん顎が跳ね返されるのは当たり前である。

 

 

「れ、零ぃ~……」

「なに泣きそうになってんだよ!!」

「どうして教えてくれなかったのよ!!」

「それは悪かっ――――」

「このチョコレート硬くて全然食べられないじゃない!! どれだけ冷やしてたの!?」

「そっちかよ!!!!」

「ふぇ……??」

 

 

 俺はこの時初めて見たんだ、絵里の『え? お前一体何言ってんの?』的な顔を。そして今後このポカーンとした表情に何度苦しめられるのか、昔の俺はまだ知らなかった……。

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

「ってなことがあってな」

「絵里さん……憧れで天の存在だったのに急に親近感が沸きましたわ!!」

「そ、そんなことやったかしら……? 記憶にないわね……」

「とぼけんじゃねぇ。ちゃんと覚えてるって顔に出てるぞ」

 

 

 あの時の絵里の反応はマジで意味が分からず、ポカーンとする彼女の顔を見て俺もポカーンとならざるを得なかった。本来ならボケに対してツッコミを入れるのが世界の定石なのだが、絵里があまりにも天然だったから面を食らったのはこっちの方だ。今思い出すとあの時一瞬でもコイツに謝りそうになったことを後悔するな……。

 

 

「『ふぇ……??』って、絵里さん案外可愛い声出すんですね♪」

「ち、違うのよあれは!! 生徒会の仕事で疲れてたから判断能力が鈍ってただけよ!!」

「いやいやその割には躊躇いもなく食ってたじゃん。もうそろそろ認めろって、自分がおっちょこちょいだってこと」

「認めたら負けな気がするから絶対に認めないわ」

「強情なところもお姉ちゃんと似てるね!」

「そうですか? 私は壁や柱にぶつかったりするだけで、おもちゃを食べたことなんて一度もありませんわ」

「傍から見たらどっちも同じレベルだ! それにもう比べるまでもなくどっちもポンコツだよ……」

 

 

 ここまでの話を聞く限りでは同じおっちょこちょいの2人でも傾向が違うと分析できた。ダイヤはまだ自覚があるほうだが、それが自分の欠点だと認識してない。そして絵里は自覚がないどころかむしろ否定までする始末なので、もちろん自分の欠点だと思ってすらいない。どちらにせよ可愛い一面ではあるが、それは微笑ましいという意味でだ。言ってしまえばつまり、赤ちゃんや幼稚園児を眺める親御さんみたいな目だってことだよ。もっと噛み砕けば、若干馬鹿にしてるってこと。

 

 

「これはルビィたちも負けていられないねお姉ちゃん!」

「まだ私の黒歴史があるのですか!?」

「黒歴史じゃないよ可愛いところだよ♪」

「初めてルビィが怖いと思いましたわ……」

 

 

 改めて見るとμ'sもAqoursもまともな奴が少ないなぁと実感させられる。海未も若干天然ボケが入る時があるし、真姫はツンデレ、絵里は()()()()だ。梨子はレズで曜は淫乱道に片足を突っ込み、ダイヤが()()()()だから、本当にまともなのはμ'sだと花陽と雪穂、Aqoursだと花丸と果南くらいである。しかしこういった特色というかギャップがあってこそアイドルは輝けるんだと思う。それはスクールアイドルだって同じなんだろう。

 

 

「このまま私の話だけ晒されるのは気が乗らないから、ダイヤさんの可愛いところもたっぷり聞かせてもらうわ」

「だから私にはもうそんなエピソードなんてありませんから。ルビィが誇張しているだけです」

「それがあるんですよ! 誰にも公開していない秘蔵のエピソードがルビィには!!」

「いいから話してみろよ。聞いたあとでたっぷり嘲笑ってやるからさ」

「馬鹿にすること前提ですか!?」

「それじゃあ遠慮なく!」

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 それはルビィもお姉ちゃんもまだ小学校低学年の頃でした。

 

 

「い、痛い……」

「お姉ちゃん!? 何してるの!?」

 

 

 お姉ちゃんが涙目になってこちらを振り向きました。子供の頃から気が強く、滅多なことでは涙を流さないあのお姉ちゃんが泣いているなんて考えられなかったからです。

 

 しかし、今思えばこの時のルビィの心配は全くの無駄だと実感させられました。お姉ちゃんの行動は、ルビィの想像を遥かに超えていたのです……。

 

 

「お姉ちゃん、どうして自分の鼻に洗濯バサミを付けてるの……?」

「ルビィは『鼻が高い』という言葉を知っていますか……?」

「う、うん、花丸ちゃんの本で読んだことあるから」

「どうやら鼻が高いと誇らしい気持ちになれるみたいです。だから私も人徳を高めるために、自ら痛みを被って鼻の高さを上げているのです!」

「え……?」

 

 

 そう、小学生だから難しい言葉の意味を上手く理解できていなかったお姉ちゃんは、洗濯バサミを使って無理矢理鼻の高さを上げていたのです。その時の私は口をあんぐりと開け、痛みに耐えながら目に涙を溜めて誇らしげに胸を張るお姉ちゃんをただ見つめることしかできませんでした。でもいつも真面目なお姉ちゃんを見ていたためか、ちょっと微笑ましくなったり。

 

 

「お姉ちゃん……可愛いね♪」

「ふぇ……??」

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

「ダイヤ、お前ってやつは……」

「『鼻が高い』という言葉を言葉通りそのまま行動に移すなんて、流石の私でも勝てないわね……」

「あ゛ァ゛ア゛ああああああああああああああああああああああ!! ルビィその話は未来永劫姉妹の中で封印しておくと誓ったじゃないですか!? どうして紐解いてしまうのです!?」

「黒歴史は蘇らせるモノなんだよお姉ちゃん!!」

「る、ルビィが怖い!!!!」

 

 

 ルビィがドヤ顔し、ダイヤが部屋の隅でカタカタ震えているこの構図はいつもとは真反対だ。ここへ来て姉妹の力関係が逆転しようとしているけど、ダイヤのおバカエピソードを聞いていたらそれも納得できてしまうのが凄い。ほとんどが気付いていただろうが、回想中のダイヤの最後の反応が絵里と全く同じだっただろ? もうあの反応から何物にも変えがたいポンコツさが伺える訳だよ。どちらも生徒から尊敬される生徒会長なはずなのに、どうして俺の知り合いの生徒会長はみんなこうなんだ……。

 

 

「これはいい勝負になってきたんじゃないか? もう勝負する意味もないくらい同じレベルだと思うけど」

「だからこそお互いの黒歴史を細部まで曝け出して決着をつけるのです!!」

「ルビィお前イキイキしてんなぁ。それに黒歴史とか言っちゃってるけど、お互いの可愛いところを探るんだよな?」

「だからもっとお姉ちゃんの可愛くてお茶目でキュートなエピソードをお蔵出しします!」

「ひぃぃ……これほどルビィを恐ろしいと思ったことはありませんわ!!」

「まあただの凡ミスだから、そこまで恥ずかしがる必要はないんじゃないかしら? 多少はやっちゃったなぁって思うけど」

「お前はもっと恥じろよ!!」

 

 

 ダイヤが羞恥心MAXなのに対し、絵里は自分のミスをあまり恥ずかしいとは思っていないみたいだ。玩具のチョコを食おうとしたのをただの凡ミスで片付けられるほどこの世は甘くない。絵里は認めないだろうが、もう彼女は立派なポンコツちゃんなのだ。

 

 

「それじゃあお前が恥じるように、もう1つエピソードを暴露してやる」

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 俺が教育実習に行く少し前の出来事だ。

 俺と絵里は買い物途中に本屋に立ち寄り、バスが来るまで時間を潰していた。俺は適当なゲーム雑誌を手に取り、見出しの大きな文字だけ読みながらページをペラペラと捲る。そして絵里は気に入った本があったのか、レジで会計を済ませてこちらへやって来る途中だった。

 

 俺より数メートル離れた場所で、突然絵里が声を上げた。

 

 

「きゃっ、し、失礼しました!!」

 

 

 謝ったということは誰かとぶつかりそうになったからだろう――――と、彼女に目を向けるまではそう思っていた。見てみれば何故か彼女は1人。周りには誰もいなかったのだ。

 

 

「お前誰に謝ってんだ……?」

「それがね、本を眺めながら歩いてたら人にぶつかりそうになったのよ」

「だから誰もいねぇじゃん」

「そうそう誰もいないと思ったら、鏡に映った自分だったのよね。驚いっちゃったわ♪」

「えぇ……」

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

「絵里さん!!」

「は、はい!? だ、ダイヤさん……?」

「神だと思っていたあなたがまさかここまで近しい存在だったとは!! 私感激して涙が出そうですわ!!」

「それは喜んでいいのかしら……?」

 

 

 ダイヤは絵里の前で膝を着き、手を握りしめ涙目+上目遣いでシンパシーを体現する。ダイヤにとっては黒歴史を掘り返され弱った心を埋めてくれる唯一の存在が絵里なのだろう。ルビィという心の拠り所を失った彼女の最後の希望だが、対して絵里はそこまで共感できていないみたいだ。絵里自身がそこまで自覚してないのが災いしてるなこりゃ。

 

 

「ほら、次はお姉ちゃんの番だよ!!」

「もうそれ以上は!! 絵里さん私の心を癒してください!!」

「そんなことを言われても……ルビィちゃんの燃えるような目を見てると止められないわよ」

「女神にまで裏切られた!?」

「ルビィはこのお話で対抗します! しかも絵里さんと同じようなエピソードで!!」

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 これは先日、お姉ちゃんとブティックへ買い物に行った時のお話です。まず一通り店全体を回ってみようと思い、ルビィはお姉ちゃんの後について服を眺めながら歩いていました。

 

 そしてある程度買いたい服の検討を付けた時、いきなり目の前でお姉ちゃんが声を上げて立ち止まったのです。服に気を取られていたルビィはお姉ちゃんの背中にぶつかってしまいました。

 

 

「ふにゅ! お、お姉ちゃん……?」

「す、すみませんしっかり前を見ていなかったばかりに……」

 

 

 その声はルビィに掛けられたものではありませんでした。しかし周りに人はいません。誰と喋っているのだろうと思いお姉ちゃんの背中から顔を出して見てみると、それはモデルさんのような体型で、綺麗な服を着ている長身の――――――マネキンでした。

 

 

「お姉ちゃん……それお人形」

「あっ……これは違います!! さっきまで人だったのですが、突然マネキンに変わったのですわ!!」

「言い訳苦しいよお姉ちゃん……」

 

 

 しかし、お姉ちゃんの可愛いところはこれで終わりではありません。ルビィたちが騒ぎすぎていたためか、1人の女性がこちらに近づいてきたのです。

 

 

「あのぉ、どうかされましたか?」

「ひゃぁ!? マネキンが喋った!?」

「その人はマネキンじゃないよ!! 店員さんだよ!!」

「ふぇ……??」

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

「あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! もうやめてくださいやめてくださいやめてくださいやめてくださいやめてくださいやめてくださいやめてください!!」

 

 

 ダイヤは頭を抱えながら床をのたうち回る。もはや普段のキリっとした聡明な彼女とは思えない光景で、全校生徒どころかAqoursの仲間にも見せられないくらい自我が崩壊している。そりゃあ黒歴史を暴露されつつも現在進行形で黒歴史を刻み続けているんだからこうなるのも仕方がないか。マネキンを人間と勘違いした挙句その直後に人間をマネキンと勘違いするんだから、これは彼女の名前通りダイヤの原石だな。

 

 

「どうでしたか絵里さん? お姉ちゃんはこんなにも可愛いんですよ♪」

「ルビィちゃんは本当にダイヤさんが好きなのね」

「はい♪ それに絵里さんのことももっともっと好きになりましたよ、今回のお話を聞いて!」

「あれはただの不注意よ不注意。人間誰しもミスをするものなんだから、恥ずかしがらなくてもいいのよ。ね、ダイヤさん!」

「そんなことを言われましても黒歴史は黒歴史なのですわ……」

 

 

 絵里がレジェンドだと言い伝えられてきた理由が1つだけ分かった気がする。絵里の奴、精神が他のおっちょこちょいの女の子と比べて図太いんだ。この程度の暴露で悶え苦しむダイヤはまだまだ二流どころか三流以下、真のスクールアイドルというのは黒歴史ごときでは揺るがない精神力が必要なのだ。彼女の場合はそもそも黒歴史と思っていない時点でその精神力すら超越している気もするが……。それに言い換えればただのポンコツってことなのだが、これは言わぬが花だろう。

 

 

 結論、絵里の凄さがまた実感できた暴露大会だった。

 

 

「そういえばまだ秋葉先輩に挨拶してなかったわ」

「お前この状況で他の話題を持ち出すのか。本当に図太い奴だな……」

「ふぇ……??」

 




執筆していて思った。ルビィが一番目立ってた気がする!!それでも絵里、ダイヤ、ルビィのいつもとは違った一面を描けて楽しくはありましたけど(笑)

次はいよいよことりの出番!
しかも2話連続ブチ抜きの講座回の予定です!


新たに☆10評価をくださった

光と闇を司りし堕天使さん、holy nunberさん、nashiさん、2代目堕天使ヨハネ!さん、幻零さん

ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

空き巣も不法侵入も愛ゆえです!!

 マジキチ回。今回はことりが襲来します。
()()()()における彼女の魅力、たっぷりと味わってください(笑)



※ちなみに講座回は次回になりました。


 今日は姉の秋葉の呼び出しで彼女の研究室に来ていた。いつも用件を言わずとりあえず来いとだけ言われるので、警戒心は常にMAXにならざるを得ない。未だかつて彼女の研究室から無事に帰れた記憶がないのでどうしても足を踏み入れるのは躊躇するのだが、行かなかったら行かなかったで何をされるのか分かったものじゃない。μ'sをヤンデレ化させたり俺を小さくしたりなんてのはまだ可愛く、海未の尿意を増幅させ焦らせたり、プールの水に女の子だけが発情する細工をしたりと他の人を人体実験に使うことに心が一切痛まないのだ。俺が被害を受けるのはまだいいが、女の子たちに被害が及ぶのはなるべく避けたい。だからもう強制的に彼女の用事に突き合わせれるハメになるって訳。

 

 そんな経緯で研究室に佇む俺は、目の前の巨大モニターに映し出されている映像を見て唖然としていた。

 

 

「どう? よく撮れてるでしょ♪」

「おい……この映像って俺んちじゃねぇか」

「そうそう! しかも現在進行形のね!」

「どういうことだよこれ!? まるで監視カメラみたいじゃん!!」

「うん、だって監視カメラだもん」

「はぁ……?」

 

 

 こっちに来て早々もう頭が痛いんだけど……。

 目の前の巨大モニターには俺の家の玄関先から庭、リビングや脱衣所、挙げ句の果てには俺個人部屋まで何から何まで晒されていた。一体何が目的でこんなことをしているのか、監視カメラの利用用途は何なのか、もう1から100まで全てが分からん!! もしかしてアレか、秋葉の奴とうとうヤンデレちゃんになっちまったか? こうして研究室から愛しの弟くんを常に監視してないと生きていけない身体になっちまったとか……いい迷惑だなオイ。

 

 

「零君が考えてることとは違うから安心して」

「自室が盗撮されてんのに安心もクソもあるかよ!!」

「まあまあとりあえず話を聞いて頂戴な。実は委託先の企業から新型監視カメラの開発を頼まれていてね、一通りサンプルが完成したからこうして私たちの家で確かめてるんだよ。その監視カメラがちゃんと動くかどうかをね」

「話は分かったけど、それを家で試す必要がどこにあるんだよ?」

「えぇ~? だって愛しの零君が私のいない間に家で何をしてるのか気にならない?」

「聞かれても困るんだが……。それに俺の考えてることと全く一緒だったし」

「アハハ! まあ今回の論点はそこじゃないんだけどね♪」

「俺にとっての論点はそこなんだよ!! サラッと流そうとしてんじゃねぇ!!」

 

 

 知らない間に実の姉に生活を隅々まで監視されている驚愕の事実が発覚した。この字面をタイトルにしたラノベの1本や2本くらい作れそうな勢いだが、コイツはそんなことお構いなしに話を別の方向へ逸らそうとしている。もしかして今の家に引っ越してきてからずっと着替えや脱衣シーンを見られていたのだろうか……? そして弟のその映像を見て興奮して、1人でオナニーしていたとか――――ヤバイ、自分で言っていてゾッとしてきた。

 

 

「まあここで零君を呼んだ本題に入るんだけど、先日この監視カメラに面白いものが映ってね」

「面白いもの? 心霊番組に提供できそうな映像でも撮れたのか?」

「違う違う! でも零君にとっては心霊モノよりもずっと恐ろしいかもね♪」

「なんだよそれ……」

「とりあえず見てもらった方が早いかな。その映像は――――あった、この日のこの時間だ!」

 

 

 秋葉がPCを弄って間もなくモニターの映像が更新された。話によれば数日前の自宅の映像らしいのだが、特に変わった点は見受けられない。俺も秋葉も留守にしている時の映像みたいで、リビングや脱衣所はもちろん、玄関先も庭にもこれといった変化はなかった。そりゃそうだ、だって誰もいないんだから。

 

 

「なんだよ何もねぇじゃん」

「焦らないの。あれだけの女の子とエッチをしておきながら早漏過ぎるよ」

「どこをどう捻じ曲げたらそっちの話に脱線するんだ……」

「あっ、きたきたこれだよこの映像だよ!!」

「そんなに声を上げることか……って、え゛ぇぇええええっ!?!?」

 

 

 いつの間にか玄関先に2つの人影が映っていた。1人はここ毎日スクールアイドルの活動を共にしている女の子で、若干くせっ毛のある豊満おっぱい少女の渡辺曜。そしてその隣には、口を開くだけで周囲の雰囲気をラブホテルのような濃厚なピンク色に染めてしまい、俺たちの界隈では歩く猥褻物の異名を持つ――――

 

 

「ことり!? どうしてアイツが!? それになんで曜と一緒にいるんだよ!?」

「私もこの映像に2人が映った時には驚いたよ。でもね、驚くのはまだ早いよ」

「もうこの先の映像を見るのが怖いんだけど……」

「とりあえず音声をオンにしてあげるね。2人の会話、気になるでしょ?」

「監視カメラなのに会話を聞き取れるくらいの音声が入ってるのか?」

「だから新型監視カメラって言ったしょうに。それじゃあこれから始まる地獄絵図をたっぷり味わってね♪」

「もう地獄ってネタバレしてんじゃねぇか……」

 

 

 秋葉が映像の音声を入れると、モニターから監視カメラに録音された音が流れ出した。

 まさか俺に内緒でことりまで襲来していたなんて全く知らなかったぞ。アイツこそ真っ先に俺の元へやって来そうなものだが、一体家の前で何をしでかすつもりなんだ? 想像するだけでも狂気に満ちていて身体が震えてしまうんだが……。それに曜と一緒にいるってのも気になる。いつどこで出会ったとかその経緯を知りたくはあるのだが、そのためにはこの映像を見なくてはいけない。ここまで緊張するのは穂乃果たちに告白した時以来、いやそれ以上かもしれない……。

 

 

『ここが先生の家……』

『あれ? 曜ちゃんは来たことないの?』

『はい。押しかけようと思ったことはあるんですけどやっぱり緊張しちゃって』

『好きな人の家だもんね。仕方ないよ』

 

 

「ちょっと待った! いきなり衝撃の情報が舞い込んできたんだけどどういうこと!?」

「私も驚いたよ。まさか教師が生徒を毒牙に掛けてるなんて、全く節操がないというか零君らしいというか……」

「いや俺自身も驚きなんだって!! 好きってなんだよ!? 初っぱなから頭パンクしそう……」

 

 

 曜からの熱い目線は最近良く感じていたし、プールで妙に発情して抱きついてきたことを考えるとその片鱗は確かにあった。だけどこうして彼女の口からド直球の言葉を聞くのは始めてだ。次に顔を合わせた時どうしようか……。

 

 

『それにしても、いきなり目の前にことりさんが現れたのでビックリしましたよ』

『本当はすぐ零くんに会いに行く予定だったんだけど、ことりと同じ波動を持ってる子がいたから思わず声を掛けちゃった♪』

『出会った時も言ってましたけど、その波動ってなんですか?』

『その反応からしてまだまだ開花してないみたいだね……。よろしい! だったら今日はことりが曜ちゃんの隠れた魅力を満開に開花させてあげます♪』

『よ、よろしくお願いします……?』

 

 

 ことりは満面の笑顔だが、彼女の笑顔はもはや何の信用もならないことは分かっている。どうせ裏ではロクでもないこと考えているのだろう。その証拠にことりの背景にピンク色のお花畑が見える。あぁ、こうしてまた1人女の子が淫乱化の道を歩んでいくんだな……。元々曜にはその毛があったから、ことりも同じ波動を感じたに違いない。これまで穂乃果と千歌、絵里とダイヤと似た者同士が集まっていたが、ここまで危険な2人は後にも先にもないだろう。ことりだけでも相手にするのが手一杯なのに曜までそうなっちまったらと思うと……。

 

 

『それで、どうして先生の家に来たんですか? どうやら留守みたいですけど』

『それは曜ちゃんに零くんの魅力を知ってもらうためだよ!! それにことりも久々に零くんの私物を盗む――――いや留守中に洗濯でもしてあげようかなぁって思ってね♪』

 

 

 もう完全に盗むって言っちゃってるから、後の言い訳が全く言い訳になってないぞ。ちなみにことりの盗みグセは高校生から大学生になった今でもずっと続いている。どうやら俺の匂いが染み込んだ衣類がなければ1日の活力が100分の1になってしまうとか何だとか。そして挙句の果てにはたまに俺の下着を履いて外に出かけているらしい……もう頭が痛いので今回の話休んでいい? もうね、そんなことが頻繁に起こるからいつの日かツッコミを入れることさえやめてしまったんだ。ツッコミで過労死なんて誰も笑ってくれないからな。

 

 

『さて、それじゃあ早速零くんのおウチに入りましょ~♪』

『でも鍵がないですよ?』

『えっ? そんなの適当にこうやれば――――ほら開いた!』

『えぇええええっ!? 一体どうやったんですか!?』

『あのね曜ちゃん、ことりと零くんは常に一心同体なの。だからこんな鍵ごときではことりたちの仲は阻めないんだよ。つまり愛さえあれば関係ないよねってお話♪』

『先生にそこまでの愛を……すごい! 尊敬します!!』

 

 

 いやいや尊敬すんな冷静に考えてみろ、やってることただの犯罪だからな!! それにどういうメカニズムで鍵を開けたんだコイツ、俺の家のセキュリティガバガバじゃねぇか!! もうさっきから超展開過ぎて頭がパンクしそうなんだけど!?

 

 

『誰もいないけどお邪魔しま~す!』

『お、お邪魔します……勝手に入っていいのかな?』

 

 

 そして何の躊躇いもなくズカズカと家に上がり込む不法侵入者:南ことり。さっきの鍵の開け方やこの余裕を見る限り、コイツ俺の知らないところで何度か家に侵入してる相当な手練だろ。よく俺が痴漢だのセクハラだので犯罪者扱いされるけど、ことりの方が不法侵入常習犯や衣類窃盗犯として立派な犯罪者だと思うのは俺だけか? 叩けば絶対に余罪がホコリのように出てくるぞこりゃ。

 

 そうやって映像内のことりが何かしら行動するたびに俺の不安が広がっていく中、彼女は他の部屋に見向きをすることなく一直線にある場所へと向かっていた。

 

 

『あのぉ、どこへ行くんですか?』

『曜ちゃんは感じない? こっちから零くんの雄の香りが漂ってきてることに……』

『雄……? なんですかそれ?』

『その香りを嗅ぐだけで食欲も睡眠欲も性欲も同時に満たせるんだよ。ことりを呼んでいる、この部屋が!!』

『こ、ここは!?』

 

 

 おいおい、コイツら家に侵入して速攻で脱衣所に入りやがったぞ!? 脱衣所の時点でことりが何を目的としているのかハッキリとしただけでなく、彼女の言っていた『雄の匂い』ってのが何なのか大体想像がついちまった。今まで何度も私物を盗られた経験はあるが、こうしてその現場を直接見るのは初めてなので何故か緊張してしまう。もうツッコミを入れればいいのか呆れればいいのか、どんな反応をしたらいいのかも分かんねぇ。

 

 ことりは洗濯機の横に置いてある洗濯カゴを手に取ると、その中身をゴソゴソと探り始める。家に侵入するのも常習犯かと思えば、一切の断りもなく人の家の洗濯カゴを漁るその度胸は今までの不法侵入で鍛えられたものなのだろう。これもう完全に空き巣じゃん……。家に侵入してからというもの彼女はずっと笑顔なのが不気味で、ある意味普通の空き巣なんかよりも数万倍怖い。この映像を持って裁判に持ち込めば200%勝訴する自信があるぞ。

 

 

『あっ、あったあったこれだよことりが求めていたもの!!』

『そ、それは……男性の下着!? ということは先生の……』

『あぁ♡ まだクンクンしてないのにもういい香りが……この微妙に鼻をつく匂いが最高なんだよぉ♡』

 

 

 やべぇコイツ変態だァああああああああああああああああああああああああ!! お前も変態だろって言われても構わない、自分のことなんていくらでも棚に上げてやる!! だから言わせてくれ、コイツ変態だァああああああああああああああああああああああああ!!

 

 

「どう? 中々の衝撃映像でしょ? お姉ちゃんもビックリしたよ、いきなりこんなホラー映像見せつけられたんだもん」

「もう世界のどのホラー映像よりもショッキングだよこれは……」

 

 

 他人事だと思っている諸君はよく想像して欲しい。女の子が自分の家に勝手に上がり込んで、雄の匂いを頼りに一直線に脱衣所へと向かい、そして躊躇なく洗濯かごを漁って自分の下着を盗み堪能している。相手がいくら超絶美少女のことりだと言っても、度を通り越すと怒ったりすることも呆れたりすることもできなくなるんだな……。それに俺は初めて見た、あの秋葉の顔が本気で引きつっている様を。

 

 

『あぁ~この香りでご飯を何杯でも食べられそうだよ。スタイルには気を使っているつもりだけど、零くんの下着と一緒ならそんなこと気にせずパクパク食べちゃいそう♡』

『そ、そんなにいい匂いなんですか先生の下着って……』

『もちろん! もう5年以上この下着と性生活を共にしてることりが言うんだから間違いないよ!』

『ことりさんがそこまで絶賛するなんて……ゴクリ』

 

 

 あれ、雲行きが怪しくなってきたような……。

 ツッコミどころは多々どころか全てがツッコミどころなのだが、曜の目が俺の下着に釘付けになっていることが何よりの懸念事項だ。以前プールで発情しながら抱きついてきたことはあれど、あれは秋葉の仕掛けた罠であり曜本人はまだそこまで淫乱属性が備わってないと思っていた。

 だが、その根底が今まさに崩れ去ろうとしている。曜は口を小さく開き目を丸くして、自分の世界に自身と俺の下着しか存在していないかのように凝視している。ことりが差し出している俺の下着をまじまじと見つめ、段々思春期の女の子とは到底思えない変態的な目線に変貌していく。

 

 

『欲しい?』

 

 

 たった一言の誘惑。しかしことりの誘惑の仕方は他の女の子とは訳が違う。『お願い』のワードだけでこの世の男たちの心を何度も打ち抜き、メイド喫茶でもそのゆるふわボイスで数多の男を悩殺してきた。そんな彼女が妖艶な表情で曜の目の前に俺の下着を突きつけている。字面だけ見ればシュールな光景なのだが、今の曜は己の煩悩に支配されて正常な判断ができないらしく、そんな光景でもツッコミを入れるようなことはしない。曜はただ真っ直ぐ俺の下着を見つめ、例の雄の匂いを感じ取りたいのか鼻の穴を僅かに動かしていた。自分が華の女子高生だってことすらも忘れ、ただ自らの欲望を満たすためだけの獣のように――――

 

 曜はついに手を伸ばした。清楚なイメージが売りのスクールアイドルが男の下着を手に掴み、そのまま鼻元へと近づけていく。

 そして俺は、天使の羽がポッキリと折れ黒く染まった瞬間を目の当たりにする。

 

 

『あぁ……♡』

 

 

 それは甘くも新たな悦びを知ったかのような声だった。曜の表情がことりと全く同じく頬を染め、周囲に真っピンクのオーラを放つ。曜は未知の快感に当てられ息遣いも荒くなり、到底他のAqoursメンバーに見せられない映像が垂れ流されていた。

 

 

『確かにこれは凄まじいです! この下着1枚で人間の三大欲求なんて余裕で満たせますよ!! それこそ一日三食の定義が霞んで見えるかのような……』

『さっすが! 曜ちゃんなら分かってくれると思ってたよ。なんたってことりと同じ波動を持ってるんだからね! それがあればどんな美味しいものよりもお腹が満たされちゃうし、枕カバーにすれば安眠できるし、もちろんオカズにすれば性欲だって満たせちゃう♪』

『すんすん……あぁ♡』

『やんっ、もう夢中になっちゃったんだ♪ でも仕方ないよ、零くんの匂いも体液もたっぷりと染み込んだお宝なんだから』

『ですね……すんすん……はぁ♡』

 

 

 やべぇコイツら変態だァあああああああああああああああああああああああああああ!!

 変態が2人に増えたことで更にカオス感が高まっている。μ'sとAqours、2大スクールアイドルの一員がここまでの痴態を晒すなんてある意味ではお宝映像かもしれないが、俺にとっては世界崩壊に次ぐ恐怖体験だ。今まで変態力なら誰にも負けない自信があったが、この映像を見てようやく分かった。俺ってまだ健全な部類だったんだな。だからこれから俺を変態やら鬼畜やらと罵るのはやめてくれよ。

 

 

『でも曜ちゃん、その下着はね、未完成品なの』

『未完成……ですか? こんなに美味しいのに……』

『それだけでも世界三大珍味を遥かに凌駕してるけど、そこに白いソースが加わればもうこの世のものとは思えない珍味に変わるんだよ』

『ま、まさかその白いソースって!?』

『そう。たまにね、付いてるんだよ。零くんが1人で寂しくシコシコやった後の残り汁が……ね♪』

『先生の……残り汁』

『昨晩はヤってなかったみたいでざんね~ん! でもね、零くんの傍にいれば絶対にその珍味にありつけるチャンスが来るよ。そして待って待って待ちに待って珍味を口にした時……きゃぁ~もう妄想が爆発しちゃいそうだよぉ♡』

 

 

 人んちの脱衣所で何やってんだコイツら……。いつも通り楽しそうに暴走することりと、みっちり淫乱道を叩き込まれている曜。宇宙一必要のない知識をどんどん教え込まれ、またここに淫乱スクールアイドルが誕生してしまった。もう俺が対処するの面倒だから誰かこの子たちの面倒を見てください。あっ、イヤですかハイ……。

 

 

『そのチャンス、次はいつ来るの? ねぇ零くん♪』

 

「えっ、どうしてこっちを……?」

 

 

 これは先日撮られた映像でLIVE映像ではないはずだ。なのにことりはこちらを向いて、モニター越しに俺へ声を掛けた。まさか未来の俺の気配すらも察知してるとか……だとしたらもうコイツ人間じゃねぇ!!

 

 

「それはね、こういうことだからだよぉ♪」

「な、なんだ!?」

 

 

 そして息つく暇もなく、背後から甘い声と共に柔らかい身体に抱きつかれた。背中に当たる弾力性能抜群の双丘、濃密あまあまなスイーツのような香り、何よりこの耳を卑しくくすぐる脳トロボイスの正体は――――

 

 

「こ、ことり!?」

「零く~ん久しぶり~♪ ことりがいない間の性欲処理はどうしてたの? 1人でシコシコしてた? ティッシュに出すなんて勿体無い、これからはちゃんとことりがご主人様専用の携帯肉便器としてお仕えしますからね♪」

「出会って早々飛ばしすぎだ!! お前もっと普通に喋れないのか!?」

 

 

 ことりは俺の身体と一体化するかのごとくベッタリと張り付いたまま離れない。そのせいで背中が彼女のおっぱいを押し潰し、その形が手に取るように伝わってくる。しかも耳元で淫語を連発されているせいで、今まで抑えていた欲求が解放されそうだ。流石はことり、脳内ラブホテルだけのことはあって男の悦ばせ方を熟知してやがる。ていうより、俺の悦ばせ方? そのせいでこうやって迫られても断れず、いつもズルズルとベッドインしちゃうんだよなぁ……。

 

 

「おい秋葉、これどういうことだ!?」

「アハハ! ことりちゃんが零君にサプライズしたいって言うからね。ちょうど新型監視カメラのテストもしたかったし、実験も兼ねてことりちゃんと曜ちゃんに手伝ってもらったんだよ♪」

「なるほど、要するに最初からグルだったのかお前ら……」

「まあ私は全く知らなかったんですけどね。監視カメラが付いていたって話」

「曜!? お前もいたのか!?」

「いましたよ一応……。部屋の裏で隠れて待ってたんですけど、ことりさんが痺れを切らして先に飛び出しちゃったんです」

「零くんが目の前にいるのに我慢できる訳ないよ!! あっ、でも零くんはしっかり我慢しなきゃダメだよ? 早漏さんだったらことりが楽しめないもん!」

「何の話してんだよ……」

 

 

 とりあえず俺は3人にハメられたってことだな。一応言っておくけど、ハメられたってそう言う意味じゃないからね。くそっ、ことりのせいで逐一解説入れないと全部卑猥な意味に聞こえてしまう。

 

 とにかく1週間ぶりにあったことりは相変わらずで、この暴走具合はむしろ安心できる。もはやお淑やかな彼女なんて想像すらできないから。"純粋"という言葉をここまで汚すゆるふわ系女の子も珍しいよな……。

 

 

「ていうかお前何しに来たんだ?」

「そんなの零くんの顔を見に来たに決まってるよ! それにお土産もあるしね!」

「お土産? たかが一週間ぶりくらいで大層な」

「それでもことりにとっては寂しかったんだよ。だから零くんも寂しくならないように、このことりのアレを型取ったオナホをあげるね♪」

「は……?」

「あっ、オナホとか言ったら規制されるかも! ことりのアレを型取った貫通型の合成樹脂物質をあげるね♪」

「そんなこと聞いてんじゃねぇよ!! それに貫通型とか新たな属性が付け加えられてるし!!」

「1人でヤるくらいならこれを使ってね♪ ことりも零くんのアレを型取ったディルド――――太い棒を使うから!」

「お前わざと言い間違えてんだろ!?」

 

 

 今日もことりの口は絶好調である。口は絶好調とかいうと女性が男のアレを舐めるあの動作を思い浮かべるが、もちろんそっちの意味じゃないのであしからず。本来なら曜に色々と聞きたいことがあるのだが、俺の背中に張り付いているコイツを対処しなければ話は進まない。抱きつかれるのは嬉しいんだけどさ、耳元で淫語を連発されるのは精神衛生上よろしくない。

 

 

「秋葉さんのところへ来たのは、その合成樹脂を改造してもらいたかったからだよ。零くんがそのオナホ――合成樹脂にしろ~いのを出したら、ことりのナカにそのしろ~いのが転送される仕組みを作って欲しくてね♪」

「恐ろしいこと考えてんなお前……」

「でも秋葉さんがそれは無理だって。せっかく離れていてもセック――性交渉できるチャンスだったのに」

「そりゃそうだろ。いやできたとしても間接的とかヤった内に入らねぇから」

「ということは、生でヤってくれるってこと!?」

「違うそういう意味じゃない!!」

 

 

 ことりは頬を俺の頬に擦り付け、そのまま長椅子に押し倒してきた。胸やら太ももも測ったかのように押し当ててくるので力が入らず、()()()()()組み伏せられてしまう。気付いている人もいるかもしれないが、彼女は高校時代と比べて確実にパワーアップしている。身体の柔らかさもそうだが、醸し出すピンクオーラの濃厚具合や発情具合まで何もかもだ。そんな彼女に組み伏せられたら並の男なら一発で射精に導かれKOされてしまうだろう。歩く猥褻物の異名が光に光りまくってるな……。

 

 

「曜ちゃん」

「は、はい!」

「ウチの弟くんを好きになるならね、あれくらいやる覚悟を決めないといけないんだよ」

「みたいですねぇ……。私はまだまだスタート地点なんだと思い知らされました……」

 




 μ'sにもAqoursにも、ことり以上のインパクトを備えた子はいないと思い知らされた回でした(笑) そして彼女と同じポジションに上り詰めようとしている曜ちゃんを、是非皆さん暖かい目で見守ってあげてください。

 これまで穂乃果、絵里、ことりの成長した姿を描いてきましたが、やはりみんなレジェンドの名にふさわしい魅力を持ってますね! その魅力が必要かどうかと言われたら……うん(笑)


 次回はことり先生の講座回です!今回は曜の活躍が希薄だったので次が本番!



新たに☆10評価をくださった

紅奏さん、雪白 氷夢さん、トウロウさん、うぉいどさん、Raltさん、かなた〆さん、小魔王パタポンさん、ユノさん、ジマリスさん、秀:海未ライバーさん、堕天使エリーチカさん

ありがとうございます!1話投稿してここまでもらえるのは多分初めてかな?
そして☆10評価の投票者数が200人を超えました!そちらも感謝です!



Twitter
 https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

青天井下!ことりの淫語講座(課外授業編)

 まさかμ'sの世代を飛び越えてAqoursの世代にまでこの講座を開くことになるとは……


 

 夏の日差しが肌を突き刺すように照りつける某日、俺と曜は内浦のとある公園へとやって来ていた。ただしここでスクールアイドルの練習をしようと思った訳ではなく、こんなクソ暑いのにニコニコと不気味な笑顔を浮かべている悪魔(ことり)に呼び出されたのだ。コイツが俺たちを収集する時は決まって()()が始動することは分かっているが、何も知らない曜はずっとそわそわしている。そりゃそうだ、だって人の家に不法侵入して空き巣紛いな行為を堂々と実行する犯罪者を隣で見ていたんだから。そんな奴に呼び出されたらまた犯罪の片棒を担がされると思って警戒するのも仕方がないだろう。まあ実際のところ、曜も俺の下着に夢中でノリノリだったので同罪なのだが……。

 

 

「あのぉ……どうして私たち呼び出されたんですか?」

「ことりの気まぐれに理由なんてないんだよ。悪意しかない理不尽に付き合わされて救いようのない理不尽で終わる。ただそれだけだ」

「色々悟りすぎですよ先生!? 今までどれだけの修羅場を乗り越えてきたんですか!?」

「手足を縛られてベッドに拘束されたり、血が混入したオムライスを食わされたり、音ノ木坂に仕掛けられた爆弾を解体したり、変な薬を飲まされて記憶喪失にさせられたり――――」

「あぁもう聞いた私が悪かったですゴメンなさい!! 過酷すぎて涙出てきちゃいましたよ……」

 

 

 ようやくこの苦しさを分かってくれる子がいて安心したぞ。そりゃあもう常に命ギリギリまで磨り減ってたよ全く……。しかも驚くべきはこの修羅場が9日間という短期間で起こった出来事ということだ。今となってはそれもいい思い出だけどな。

 

 

「もう2人共うるさいですよ!! 講義中なんですから私語は謹んでくださいね!!」

「補習授業編までやったのにまだやんのかよ……」

「そもそも講義ってなんです?」

「ことりがウブな子に無駄知識を叩き込む、女の子にとっての試練だよ。まあ9割方コイツの自己満足だけどな」

「自己満足なんかじゃないよ!! 零くんはエッチな女の子が大大大好きだから、零くんの知り合いである以上は最低限の性知識は身につけておかなければならないのです!!」

「今まで講座を見る限り、最低限を逸脱したことまで教えてたじゃねぇか……」

「もう零くん! 私語多すぎです!!」

 

 

 都合が悪くなるとそのセリフで危機回避しようとするんだな……。

 そんなことよりも、俺がエッチな女の子が大好きだってことを安易に言いふらさないで欲しい。今まではμ'sというコミュニティ間だけの話だったから良かったものの、今やAqoursもいるし、イケイケな男性教師として浦の星女学院で有名になってしまった以上その性格を暴露されると俺の品位が一気に落ちてしまいかねない。元々品位なんてあったものじゃないだろと言われるかもしれないが……。

 

 

「もう尺がないから本題に入りますよ! 本日の講座は課外授業編です!」

「なぁ~んかまた面倒なことを……」

「そんなこと言っちゃって、零くん講座になるといつもいつもアソコをギンギンに勃たせてるくせに!!」

「な゛ぁ!? それはお前らが毎回毎回発情して迫ってくるからだろ!!」

「先生、やっぱり噂通りのヤリチンだったんですね……」

「曜までそんなことを……違うから、こいつらが痴女ってくるだけだから」

「でも勃たせてたのは事実だよね♪」

「まあそれはそうだけどさぁ……」

 

 

 そりゃあね、μ'sのような美少女集団に痴女られたら男なら誰でも下半身が反応するだろうよ。俺だって可能ならばその場で襲って全員を絶頂させるまで攻めてやりたいさ。でも痴女られて興奮してヤるって、それは男として負けな気がする。やっぱこっちのワンサイドゲームじゃないと俺は満足しない。服従させて屈服させて、女の子自らの口から敗北の言葉を宣言させる。それが一番興奮できるんだよ!!

 

 おっと、俺の好きなプレイの話をしている場合ではないな。

 

 

「今回の講義は野外だよ野外! そして野外と言えば公園! 公園と言えば青姦(せいかん)だよね♪」

「今日も飛ばすねぇいきなり」

「あのぉ~せいかん……ってなんですか?」

「いい質問だね曜ちゃん! それでこそこの講座に来た意味があるよ!」

「なんとな~く講座の内容が分かった気がします……」

「イヤなら帰ってもいいんだぞ。いくらことりが憧れのレジェンドだろうが、萎縮する必要なんて一切ないからな」

「いえ、むしろ興味があるので参加します!!」

「え゛っ!?」

「フフフ、零くんも知ってるでしょ? 曜ちゃんはことりと同じ波動を持ってるんだよ♪」

 

 

 そういえばそうだったな。曜はことりに導かれながらも、俺の下着の匂いを嗅いで人間の三大欲求を満たすほどの変態ちゃんだったってこと忘れてた。そもそもこの講座にノリノリで参加する奴を初めて見たかもしれない。一応前例として穂乃果やにこがいるのだが、アイツらは最初からことりと結託してやがったからノーカンだ。

 

 

 

「せっかくの野外だからね、早速実際のプレイを観ながらお勉強しましょ~♪」

 

 

key Word

《青姦》

 

 

「青姦の語源は諸説あって、()空の下での()淫の略だったり、屋根が無いことを『青天井』と呼んでいた名残から青天井下での姦淫の略だったりと色々あるんだよね」

「ほぇ~えっちな言葉にもしっかり意味があるんですね」

「そう! シチュエーションと体位を言葉通りに実行することによって、更なる臨場感が味わえるんだよ!!」

「なるほど! ただ言葉だけ知ってるだけではまだまだ初心同然ってことですね!」

「意味も知らず適当に淫語を連発してるのは童貞や処女と同じ、つまり人間としてまだまだってことだよ。清楚な淫乱を目指すならまずはしっかりお勉強しなきゃ。心配しなくても、ことりの講座に来てくれた曜ちゃんをビッチな淫乱にはさせないからね」

「ことりさんにそう言われると説得力が段違いです! 大船に乗ったつもりで授業受けられますよ!」

 

 

 こんなブッ飛んだ講座がまともに成り立ってるのはこれが初めてだろ。今まで各講座に1人はツッコミ役がいたものだが、今回は受講生が曜1人+彼女がノリノリなため講座がかつてないほどスムーズに進んでいく。これにはことりも大満悦のようで、いつもより数倍舌の周りが良い。

 

 そしてツッコミどころが多々ありすぎて逐一ツッコミを入れているだけでも尺が死ぬから、ここは1つだけ言わせてくれ。清楚な淫乱もビッチな淫乱もどっちも一緒だわ!! 淫乱に階級付けとかねぇからな。そんな奴は漏れなく全員脳内ラブホテルだから。

 

 

「青姦は外でやる性行為だからまずは場所が大切です。他人に零くんと繋がっているところは見られたくない。だけど見られるかもというギリギリの興奮も味わいたい。そんな葛藤を両方解決してくれるような場所を選びましょう」

「なんで俺と繋がること限定……?」

「だって零くん以外とえっちするなんてありえないもん」

「真顔でそんなこと言うもんなぁお前……。まあ俺もお前ら以外とはありえないけど」

「だよね! だから今日は今まで離れていた分をたっぷりとことりの中で出しちゃってね♪」

「お、おいこんなところで抱きつくな! 周り普通の住宅街だから!!」

「そんなこと言って嬉しいくせに♪」

「うぐっ……」

 

 

 全くもって言い返せないのが困る……。そりゃああのことりに抱きつかれてるうえに胸まで押し付けられてるんだから嬉しいに決まってるだろ。全国の男の欲情を誘うこのエロボディが俺のモノだと思うと、それだけで征服欲がヤバイ。ことりだけでなくμ'sの全員に抱きつかれるだけで俺は世界で一番の勝ち組なんだと実感できるくらいには。でも一応公園の周りは普通の住宅街であり、人通りは少ないがない訳ではないので見られると多少恥ずかしいってのはあるがな。

 

 そして曜はそんな俺たちに羨ましそうな目を向けていた。顔を火照らせてぼぉ~っとしていることから、どうやら妄想の世界に入り浸っているようだ。彼女の脳内では俺とことりがずっぽりばっこりやっているに違いない。

 

 

「おほん! 取り乱しましたがまずやることは物陰探しです。草むらや木の陰でもトイレの裏でも、とりあえず身を隠せるところを探しましょう。見つかって写真や動画でも撮られたら大変ですから。ちなみにことりは零くんとのえっちならいくらでも撮られて構わないよ♪ むしろ零くんに征服されているところを見せつけたいなぁ~」

「誰も聞いてねぇから……」

「また脱線しちゃった! そうだなぁ、曜ちゃんは青姦するならどこでやりたい?」

「私ですか!? そうですねぇ……トイレの裏は衛生上ちょっと気になるので、やはり植木の陰とかですかね」

「よ~しなら早速そこで体験してみましょう♪」

 

 

 ことりは青姦に最適な植木の陰を見つけると、そこに俺たちを導いた。そこは隣に大きな木があるため日光があまり当たっておらず、俺たちがさっきいた場所とは違ってかなり涼しい。同じ公園内とは思えない場所だが、それはイコール青姦にもってこいのベストスポットだ。

 

 

「それじゃあ、はい」

「ちょっ、お前!?」

「ことりさん!?」

 

 

 そんな中、突然ことりが手を地に着いて四つん這いの状態となった。おしりをこちらに向け、首だけをこちらに向けるその仕草に不覚にも心を掴まれる。しかも彼女はミニではないがそこそこ丈の短いスカートを履いているため、四つん這いでおしりを突き出せばもちろん下着が見えそうで見えない絶妙な体勢となる。しかもだ、さっきまでクソ暑いところに立っていたためか、その純白の太ももに汗が卑しく付着していて超絶エロい。テンションが上がりすぎて心身共に熱くなっているからだろうが、スカートの中から汗が太ももに垂れてくるその光景は欲情を唆られてしまう。まるで女の子の淫液のような、そんな想像をしてしまうくらいには艶かしかった。

 

 

「フフッ♪」

 

 

 ことりは妖艶な瞳で俺を誘惑してきた。やはりコイツは男の悦ばせ方を熟知してやがる。だってさっきまでイヤイヤながら講座を受けていた俺を一瞬で()()()にさせちまったからな。そして改めて分かった、ことりってエロいわ。

 

 そんな彼女に釣られて足を一歩前へ出したその時、ことりはおしりを引っ込めそのまま立ち上がった。明らかにやる気満々だったのにいきなりどうした……?

 

 

「続きはまた夜にね♪」

「な、なんで……」

「もぉ~そんな残念そうな顔しないでよ! ことりの代わりに曜ちゃんがお相手するから♪」

「わ、私ですか!?」

「だってこの講座の主役は講師じゃなくて受講生だもん。だから曜ちゃんが実演しないと意味ないよ」

「俺と曜がするのかよ……?」

「先生と……」

 

 

 いくらあの淫乱魔人のことりでも、俺と曜がマジで繋がることは望んでいないだろう……多分。しかし擬似であろうと野外+教師生徒というダブル背徳感で雰囲気だけは非常に色濃くなっている。

 

 

「私、先生とならやってもいいです!!」

「お、お前正気か!?」

「はぁ~い、それじゃあ曜ちゃんごあんな~い♪」

 

 

 曜はことりに手を引かれ、さっきことりがおしりを上げて四つん這いになっていた場所へ腰を下ろした。

 贔屓目に見なくても、曜は紛れもない美少女だ。千歌と並んで元気いっぱいのその姿にはいつも惚れてるし、何より毎日の筋トレで鍛え上げれた身体に目が惹かれる。夏場で薄着のせいか身体のラインが浮き彫りとなっており、まるで高校時代のことりを彷彿とさせる豊満な凹凸具合に男の欲求が反応する。更に肌に滴る汗で妙に色っぽく見えるのもそれに拍車を掛けていた。

 

 

「曜ちゃんもっと寝転がらないと、植木の隙間からヤってるところが見えちゃうよ」

「こう……ですか?」

「そうそう、寝そべるような感じで大丈夫。その体勢で一番の体位といえばなんだろう――――うんっ、これだ! 恥ずかしいかもしれないけどちょっと我慢してね」

「えっ、そ、そんな!?」

 

 

 ことりはこちらを向いて寝そべっている曜の両脚を掴むと、横に広げるように動かし始めた。そうなればもちろん曜の股がどんどん開かれていく訳で、言うなればM字開脚の体勢に近づいていく。曜は顔を真っ赤にしながら口に手を当て、ことりの成されるがままとなっていた。曜の脚がどんどん開かれていくたびにスカートが徐々に捲れ――――

 

 

「はいここまで! 続きは零くんがやってね♪」

「えっ、また……」

 

 

 ことりは曜の下着が見えそうになるギリギリのラインで彼女の脚を止めた。男の悦ばせ方を知っていることりにとって焦らしプレイなんてお手の物らしい。曜の脚が止まった時、心の中で『どうしてそこで止めるんだよ!!』とツッコミを入れてしまったから……。

 

 そしてことりがその場から離れ、遂に俺と曜が相見える。曜は目を麗せながら上目遣いをしているが、これは誘っているのか恥ずかしいのかどっちなのだろうか……? しかしどちらにせよ彼女を攻めたいという加虐心を掻き立てられるのには変わりない。目の前に清楚な現役JKがM字開脚で下着が見えそうで見えない状態で、更に頬を赤らめてこちらを上目遣いで眺めている。そんな夢のような光景が具現化されているのだから何もしないってのは損だろう。しかも曜は受け入れ体勢万全で、咎める者は誰もいない。ことりも口は硬い方だから誰かにバレるなんとこともないだろう。

 

 そうだ、これはことりや曜が誘惑してきたせいで興奮しているんだ。俺は1ミリも悪くない。

 

 

 気付いた時には俺の足が動いていた。曜の前で膝をつき彼女の両脚を掴むと、ことりがやっていた動きと同様に彼女の脚を横に開き始める。ことりが絶妙な位置で脚を止めていたからだろう、俺がちょっと動かしただけで曜のスカートの中身が顕となった。

 

 白を基調とした水色に縁どられたショーツ。とうとう教え子のスカートを捲りその中身を見てしまったためとてつもない背徳感に襲われるも、状況が状況なのでそのゾクゾクとした感覚もすべて性欲の糧に変わる。そして彼女も俺に見られた興奮で身体が火照っているのか、ショーツから伸びる太ももに汗が女の子の淫液のように垂れ流れる。あの液体は本当に太ももの肌から分泌されたものなのか、それとも秘部から分泌され太ももに流れてきたものなのか……。妙な妄想をしてしまい思わずゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 俺は無意識の間に人差し指を伸ばし、曜の太ももに垂れていた液体を絡め取った。

 

 

「ひゃっ!!」

 

 

 不意に太ももに人肌が触れたことで、曜は嬌声混じりの驚嘆を上げる。

 だが俺はそんな彼女に目もくれず、指ですくい取った彼女の液を指ごと口に含んだ。

 

 

「少しすっぱい、けど甘い」

「うぅ、恥ずかしい……」

 

 

 久々に女の子の味を味わったかもしれない。このクセになる甘酸っぱさはμ'sにあれこれ手を出して盛っていた頃を思い出す。一度舐めたら続けて味わいたくなるこの味。今までの教師生活で鈍っていた男子の欲求が蘇ってきたかも。

 

 対して曜は顔を更に赤く染め上げ羞恥で表情が崩れいている。身体もぷるぷると震わせているが脚を閉じることはせず、されるがままに俺の変態行為を眺め続けていた。多分羞恥心が爆発しても心の奥では期待をしているのだろう。

 

 

「せんせぇ……」

 

 

 そんな切なそうな声を出すな、そんな麗しい目でこっちを見るな。本当にここで純潔を散らしてしまうぞ。男の性欲は無限大。だから目の前に性欲処理に最適な身体があるならば、その穴にぶち込んでしまうのが男の性。あの布切れ1枚の奥にとろとろの秘部が待っているのなら、俺は理性とか教師生徒の垣根を越えてその穴を開通してしまうかもしれない。

 

 ふとスカートの中身を見てみると、曜のショーツが若干湿っていることが分かった。シミにはなっていないものの、汗でじんわりと濡れている。それが本当に汗だけで濡れたものかと聞かれたら、それは断定できない。もしかしたら汗ではなく彼女自身が濡らしたものなのかも……。

 

 変に興味が出てしまった俺は、人差し指を再び曜のスカートに侵入させる。しかし今度の狙いは太ももではない。太ももよりも更にその奥、ショーツが最も湿っているであろう秘所に向かって指を伸ばした。

 スカートの中へ伸びた一本の指は、そのまま一直線にショーツの真ん中へ進行する。そして、遂に指が行き止まりに辿り着いた。俺は指先で軽くその行き止まりを啄いてみる。

 

 

「あっ、ひゃぅ!!」

 

 

 人差し指に感じた肉壷の柔らかさ。指にくにっとした柔らかい感触が伝わり、曜の壷の肉の形が俺の指によって変幻自在に変化する。彼女の身体は日々の運動によってかなりの柔軟さを誇っているが、まさかこんなところの柔軟性まで高めていたとは。もし入れた時の気持ちよさを想像すると余りあり過ぎて妄想が止まらなくなりそうだ。

 

 一度触れただけでやめてやろうと思っていたのだが、あまりの触れ心地と曜の反応の良さでもう少し堪能したくなってしまった。曜もまだ脚をM字のまま閉じようとはしないので、これはまだ続けてくれというサインと見て間違いないだろう。いや、間違っていてもこんなシチュエーションでやめられる訳ねぇだろ。

 

 今度は指を2本使ってやろうと中指を立たせた時、公園の入口辺りから聞きなれた声が聞こえてきた。

 

 

「せんせぇ~!! そんなところで何やってるんですかぁ~!!」

 

 

「ち、千歌!?」

「えっ、千歌ちゃんいるんですか!?」

 

 

 俺たちはお互いに夢中になっていて気付かなかったが、そういや青姦の真っ最中だったってことをすっかり忘れていた。しかも青姦における最悪のシチュエーションである他人からの発見を見事に再現してしまい、しかもその相手は自分たちのよく知る人物なので俺も曜も身体中に冷汗が走る。

 

 そうだ、この時こそことり先生の出番だ! 講師ならば青姦で他人に見つかってしまった時の対処を教えてくれるはず! ていうか教えてもらわないと俺と曜が植木の陰に隠れて危なげなことをやっていたのがバレてしまう。幸いにも曜の身体は植木によって完全に隠れているので千歌からは見えない。ここは何とか俺とことりでこの場を対処しないと――――

 

 

「って、アイツいねぇじゃん!! どこ行きやがった!?」

「えぇっ!? ことりさん、いなくなっちゃったんですか!?」

 

 

 いつの間に消えたのか、ことりが俺たちの傍から姿を眩ませていた。どうせピンチになった俺たちを見てどこかでほくそ笑んでいるのだろう。クッソアイツぅぅううううううううううううううううううううう!!!!

 

 

「とりあえず曜、千歌に見つからないよう身を屈めてここから去れ」

「そうしたいのは山々なんですけど、先生にあそこを触られてから腰が抜けちゃって……」

「ま、マジ……?」

 

 

 もしかして、これは究極に大ピンチなのでは……!?!?

 どうする……どうする!?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「どうして逃げた!? もう少しで千歌にバレるとこだっただろうが!?」

「そのゾクゾク感が青姦の魅力でもあるんだよ♪ どうだった? ドキドキした?」

「そんな興奮を味わってる余裕すらなかったですよ……」

 

 

 あの後、俺は曜をその場に置いて自分だけが千歌の目の前に飛び出すことで彼女の存在を隠蔽した。千歌にはボランティアで公園のゴミ拾いをしていたと濃厚な嘘をついておいたので、多分バレていないと思う。

 

 

「でも零くんも勉強不足だよ! 曜ちゃんが上手く隠れられていても、自分が隠れられないと意味ないもん。頭隠して尻隠さず、エロ本は隠すけど使用済みティッシュはゴミ箱に入れただけみたいな♪ あれって結構匂いが充満してすぐ分かるんだよね!」

 

 

 この調子でいつも反省の色が0なのがことり大先生である。まさか狙ってあのシチュエーションを作り出したんじゃねぇだろうな……。わざわざ住宅街の中の公園を選んだのもそのため?

 

 

「それでどうだった曜ちゃん? 今回の講座の感想は!」

「そうですねぇ。千歌ちゃんが現れたのは驚きましたけど、先生に迫られた時はとてもドキドキして、またやってもらいたいなぁ~なんて思ったり♪」

「だよねだよね! 零くんの指捌きはどんな女の子でもメロメロにしちゃうんだから♪」

「はいっ! 自分で触るより男の人に触られる方がそのぉ……気持ちよかったです♪」

「その境地に辿り着くなんて、やっぱり曜ちゃんはことりと同じ波動の持ち主だね!」

 

 

 ことりによって脳内にラブホテルを建設させられた曜。Aqoursが段々と淫ウイルスに汚染されていく様を見て、嬉しいのやら悲しいのやら……。

 




 青姦という言葉を知っている人は多いと思いますが、その語源やシチュエーション選びまで熟知していた方は少ないのではないでしょうか。皆さんもこの講座で変態への道を精進して歩いていきましょう()

 前回の投稿分で☆10評価の投票者が200人、感想数が2000件を突破しました! どちらも私が目標にしていた数値なので、目標達成にご協力いただき感謝します!
せっかくなので記念回でも執筆しようと思っています。久々にμ'sのメンバーを描きたいと思っていたところなので、次回は彼女たちがメインとなる予定です。



新たに☆10評価をくださった

さとそんさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】μ'sのヒモになって甘やかされたい!

 目標としていた感想2000件&☆10評価200人突破記念回。
 この小説の記念回といえばパラレルワールドですが、流石に100回記念のような偏った内容ではないのでご安心を(笑)


 ひもとは女性に働かせ、金銭を貢がせたり、女性に養われている情夫をいう。男女の年齢の上下や年齢差は関係ない。また、女性がそうする理由も特に関係ない。以前は女性が精神的・肉体的に離れたくないといったものが貢ぐ理由として多かったが、女性の経済的自立とともに家事をしてくれて便利な男だから養っているといったものも増えている。これらはどちらもひもにあたるが、婚姻関係にある場合は女性の稼ぎで生活していてもひもと呼ばない。

また、ひもに貢いだり、ひもを養っている女性をひも付きという。(日本語俗語辞書より引用)

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 俺の朝は早い。本当は遅くまで寝ていたいんだけど、彼女たちがそれを許してくれないのだ。彼女たち曰く『あなたという目の保養がいなかったら今日一日の活力が得られない』だそうだ。自分が早起きするだけでみんなが一日頑張れるのならと、俺も渋々早朝に起きることを許容している。でも1人では中々起きられないから、どうやって起こしてもらっているのかと言うと――――

 

 

「ふわぁぁ……」

「あっ、やっと起きた!!」

「穂乃果……?」

「おはよう、零君♪」

 

 

 目覚めると、俺の身体の上で四つん這いになっている穂乃果の姿があった。相変わらず朝から元気いっぱいで、その雰囲気に当てられこちらまで目がパッチリと覚めてしまう。こんな可愛い彼女に朝起こしてもらえるとはなんて最高な1日の始まりなんだろうか。ちなみに俺の彼女は12人いて、毎朝別の子がローテーションで起こしてくれるから毎朝が最高なんだけどね。

 

 

「せっかく穂乃果が朝の一番を絞ってあげたのに、零君全然起きないからビックリしたよ」

「最近みんな同じことをするからもう慣れちゃったんだよ」

「みんな考えてることは一緒なんだね。でも零君の一番搾りが美味し過ぎるから仕方ないよ♪」

 

 

 すると穂乃果は自分の口周りについた白い液体を舌でぺろっと舐めとる。

 これが穂乃果たちの毎朝の日課となっている(おはよう担当という名が付いているらしい)。おはよう担当の人は、俺を起こすというよりこっちの方が目的なんじゃないかってくらいみんな熱心に俺のあそこから白い液体を搾り出す。彼女たち曰く『この一番搾りこそ私たちの朝食』だそうだ。俺は気持ちよくなれるし、彼女たちは仕事が捗るしでwin-winな関係だよこれは。

 

 当初は口淫に対して全く耐性がなく、しゃぶられたちょっとした刺激ですぐに飛び起きちゃったくらいだ。だけど今はみんなが毎朝しゃぶってくるものだから、もうその刺激にも慣れてしまいむしろ眠りがより深くなるくらいに気持ちよく感じるようになってしまった。まあ彼女たちからしてみれば、少しでも長く俺のをしゃぶって楽しめるから寝てて欲しいと思っているらしい。もはやおはよう担当の定義から崩れ去っている。

 

 

「穂乃果ちゃん、零くん起きた~?」

「ことりちゃん! うんしっかり起きたよ!」

 

 

 俺の部屋に入ってきたのはことりだ。彼女も俺の家に同棲している女の子の1人で性欲旺盛ちゃん。多分彼女たちの中では一番エッチが上手いと思う。俺がぐっすり眠っている間に口淫で3発は抜かせた経験があるらしく、更なる記録更新のために日々俺が寝ている時を狙ってチャレンジしているみたいだ。

 

 あっ、そういえばことりに頼みたいことがあるんだった!

 

 

「ことりぃ~」

「ん~? なぁ~に?」

「アプリのガチャにお金全部使っちゃって一文無しなんだよ。だからまたお小遣いちょうだい」

「も~零くんすぐ使っちゃうんだから。今度はいくら欲しい?」

「とりあえず5万くらいあればいいかな。もしかしたら足りないかもだけど」

「この前は3万あげてもすぐに使っちゃったからね」

「だったら穂乃果からもことりちゃんと同じだけあげるよ! それだけあれば余裕で足りるでしょ?」

「マジか!? ことりも穂乃果も大好きだよ!!」

「穂乃果も零君大好きだよぉ~♪」

「ことりも好きぃ~♪」

 

 

 穂乃果に正面から、ことりに横から抱きつかれ最高の朝を迎える。こうして俺たちはお互いに溺愛し、お互いの生活を支えあっているのだ。

 穂乃果は和菓子屋『穂むら』を継いで責任者となっていた。彼女の作った和菓子がメディアに取り上げられるほど有名になったおかげで、国内だけでなく海外からの注文が殺到する事態になっている。そのおかげで責任者の穂乃果には莫大なお金が舞い込んでいた。

 ことりは世界でも有名なファッションコーディネーターだから、穂乃果同様にお金に関しては湯水のように持て余している。そして2人共お金を持て余すくらいだったらと俺に貢いでくれる。実によくできた経済のサイクルだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おはよ~」

「あら零、おはよう」

「おはよう零君。今日もしっかり起きられてえらいえらい♪」

 

 

 2階から1階に降りると、玄関で忙しなくしている絵里と希がいた。彼女たちはスクールアイドル事務局の重役を任されていて、もうすぐ"ラブライブ!"が開催されることから最近は朝から忙しいらしい。だから俺がいくら早く起きようとも、朝彼女たちと目を合わせるのはこの短時間だけとなっている。

 

 

「今日は私も希も早く帰れそうだから、あまり遅くまで外でふらふらしないようにね。せっかくあなたと一緒にいられる時間なんだもの」

「え~穂乃果とことりにお金貰ったから飲み歩きしようと思ってたのに」

「それだったらウチらがいくらでも付き合ってあげるから。そうしたらお金を無駄に使うこともあらへんやろ?」

「おおっ、確かに!」

「これで分かったでしょ? 零は私たちとずっと一緒にいればいいの。本当はあなたの好きにさせてあげたいんだけど、今晩だけは許してね」

「あぁ、俺も絵里と希と飲みたいから夜出掛けるのは我慢するよ」

「ありがとぉ零君! 家に帰って零君が出迎えてくれることが、仕事帰りのウチらにとって一番の清涼剤や♪」

 

 

 そして俺は左右から2人に抱きしめられた。2人とって一日の活力は今この瞬間でしか補充できないようで、毎朝みんなよりも数倍強く抱擁される。しかも自慢の豊満な胸を使って腕を挟み込むように密着させてくるため、さっき穂乃果にシてもらったのにも関わらず興奮が湧き上がってくる。彼女たちと一緒にいると性欲が尽きなくてヤバイ。

 

 

「名残惜しいけど、時間だからそろそろ行くわ」

「今日もお留守番しっかり頼むね♪」

「あぁ、行ってらっしゃい」

「「行ってきます♪」」

 

 

 その言葉のすぐ直後に2人から順番に唇を塞がれた。絵里の赤い花びらに似た薄い唇に甘く誠実なキスされ、希の柔らかい肉厚な唇で優しくも絡みつくようなキスをされる。どちらも俺とのキスを心待ちにしていたのか、口付けをした瞬間に彼女たちの唾液が少し俺の口内に流れ込んだ。毎朝同じことをしているけど、彼女たち曰く『あなたの粘液を少しでも多く体内に入れておきたい』だそうだ。全く、キスしないと仕事に行けないなんて困った彼女たちだよ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あっ、お兄ちゃんおはよう♪」

「おはようございます、零」

「おはよ~」

 

 

 絵里と希を見送ってリビングへ行くと、楓と海未が料理の真っ最中だった。相変わらず可愛い最愛の妹の笑顔と、整った涼しい笑顔の2つに見惚れてしまう。朝起きたらエプロン姿の女の子が笑顔で『おはよう』と声を掛けてくれるこのシチュエーションは毎朝見てるけど毎回癒されるんだよなぁ~。お世辞抜きでこのために早起きしていると言っても過言ではない。

 

 

「なんか今日は気分がいいから、手伝えることがあるなら手伝っちゃうぞ」

「そ、そんな!? お兄ちゃんの手を煩わせるなんて!!」

「そうですよ、零は何もしなくてもいいのです。もしお鍋を触って火傷したり、お皿を割って指が切れたりでもしたら大変ですから」

「うんうん。お兄ちゃんの面倒は私たちがぜ~んぶ見てあげるから、お兄ちゃんは好きなことを好きなだけやっていいんだよ♪」

「そうか、だったらお言葉に甘えさせてもらうよ」

 

 

 いやぁ愛されてるっていいよなぁ。好きな時に好きなだけ遊べて、飯を食って、身体を交じり合わせて、そして寝る。お金は彼女たちが稼いでくれるから尽きることはない。そして毎日四六時中みんなからの寵愛を受けられるときた。これほど素晴らしい生活があるだろうか? いや、ない。

 

 ちなみに楓は定職には就いておらず、俺たちの家事全般をメインに引き受けている。だから家にいることも多く、最も俺の世話をしてくれるのは彼女だ。つまり俺専用のメイドさんみたいな感じ。

 海未は日舞教室の先生として活動している。仕事をしているみんなと比べると昼からの活動が日常なため、手の空いている時間は楓の家事を手伝っていることが多い。

 

 

「お~すげぇいい匂いしてきた!」

「今日の朝食もお兄ちゃんの大好きなものばかりだよ♪」

「食べたいものがあったらいつでも私たちに言ってください。あなたの喜びが私たちの喜びなのです。だからお食事のメニューもあなたの好きに決めてもらっても構いません。栄養バランスは気にせずとも、私たちが腕を振るって不健康にならないように趣向を凝らしますから」

 

 

 このように食事は俺が希望を出せば大抵の場合採用される。もちろん3、4日連続で同じメニューだと流石にかなりのアレンジが加えられちゃうけど、それでも俺の好みに合わせる努力をしてくれるから優しい子たちだよ。それに作る人によっても味が変わり、彼女たち12人全員の特色があって飽きることはない。やっぱ料理ができる女の子はそれだけで惚れちゃう。もうガッチリと胃袋掴まれてるな俺……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零くんと一緒に仕事に行けるなんて今日はツイてるにゃ~♪」

「本当だね。いつも朝ご飯食べ終わったらゴロゴロしてるのに」

「おいおい、俺はニートじゃねぇんだよ。自宅勤務でみんなの帰りを待つって重要な仕事を担ってるんだ。だからちゃんと職はある」

 

 

 今日はいつもよりいい気分で朝を迎えられたから、仕事へ向かう凛と花陽を見送るため一緒に家を出た。まあ俺の仕事は自宅警備だから、外に出たのはただ食後の運動をするためだけどね。

 凛と花陽は共に幼稚園の先生として働いている。どちらも子供に懐かれやすく、幼稚園に入った途端に大人気の先生になったという。本来なら自分の彼女が誰かといちゃこらしてるのは見るに耐えないのだが、ガキに嫉妬するほど俺の懐は狭くない。むしろ可愛い彼女たちが子供たちに人気と聞いて俺も鼻が高いぞ。

 

 

「そうだ! たまには零くんも幼稚園に遊びに来てよ!」

「えっ、またかよ!?」

「うん。子供たちずっと零君を心待ちにしてるんだから。昨日も『花陽せんせい、零せんせいってもう来ないのぉ~?』って言われたくらいなんだから」

「零くんこの前遊びに来た時すぐにみんなと仲良くなってたもんね! 特に女の子たちと!」

「おいおい俺がロリコンみたいに言うなって……」

 

 

 でも凛が言ったことは事実で、何故だか分からないけど園児の女の子たちにやたら好かれた記憶がある。子供だから容赦なく抱きついてくるなどスキンシップは激しく、危うくキスされそうになったこともあった。どうも俺は女の子に好かれる体質らしい。いい迷惑なのか、それとも喜ぶべきなのか……。

 

 

「でもね、子供たちにそう言われた時に言葉に詰まっちゃったんだ。例え相手が小さな女の子でも、零君が取られちゃうのはちょっと寂しいから」

「子供たちと遊ぶのはいいけど、ちゃんと凛たちとも遊んで欲しいなぁ~って」

「もちろん花陽と凛が一番だよ。だから今晩仕事の疲れをたっぷり癒してあげるから。お前たちでじっくり遊んでやるよ……」

「もう零くんったら! 遊ぶのは凛とかよちんの身体で……でしょ?」

「あうぅぅ……なんだか緊張してきた。でも私たちも家でお仕事をしている零君の疲れをたくさん癒してあげるからね♪」

 

 

 花陽も凛も高校時代は純粋な女の子だったのに、今では夜の営みを楽しみにするほどエッチな子になってしまった。μ'sを知るこの世の男は彼女たちがこんなに積極的な子だってことを知らないんだろうなぁ。俺が彼女たちを肉体的に癒し、そして俺も自宅警備で溜まった疲労を彼女たちに代わる代わる気持ちよく癒される。あぁなんて素晴らしい生活!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零! 久しぶりね♪」

「うわぁああ……って、にこか!? 急に後ろから抱きつくなよ!!」

「だって2日ぶりにあなたの背中を見たんだもの、にこの足が勝手に動き出しちゃったわ」

「そっかぁ2日も会ってなかったのか。人気アイドルも大変だな」

「にこちゃん。人気者が男に抱きついてたらすぐスキャンダルになるわよ」

「真姫、お前もいたのか」

「たまたまそこでにこちゃんと会ってね。それにしても、私もあなたと会うの久しぶりだわ」

「たかが2日だろ。もちろん俺だって寂しかったけどさぁ」

「その2日がにこにとっては途方もなく長い時間だったのよ!」

 

 

 なんやかんやあった昼過ぎ、とぼとぼと歩いていた俺を襲ったのはにこと病院帰りの真姫だ。俺の彼女の中でも1、2を争う多忙な2人とこうして日中に会えるなんてなんたる奇跡! にこの小さくも姉に抱きつかれているような暖かい包容力と、地味に俺と手を繋いでいる真姫の温もりも2日ぶりだがいつも以上に熱く感じる。

 

 にこは世界に羽ばたくアイドルで、高校時代におふざけで宣言していた"宇宙No.1アイドル"の異名を本当に手中にしてしまった。だからこそ多忙な毎日なのだが、どうやら今日は仕事が一段落し丁度家に帰る途中だったらしい。

 真姫も世界に認められる医者として活躍している。そのせいでにこと同じく家にいないことも多く、こうして再会した時は恥ずかしながらもさり気なく手を繋ぐなどスキンシップは欠かさない。高校時代に比べてデレ要素が増してより可愛くなったもんだ。

 

 そしてこの2人は俺の彼女たちの中でも飛び抜けてお金を持て余している。トップアイドルと名門医師なんだからそりゃそうだ。

 

 

「2人共あまり家にいないのに、お金ばかり入れてもらってすまないな。にこと真姫のありがたみをしみじみと感じるよ」

「どうしたのよ急に。にこたちが一生養ってあげるから、零は何も気にしなくていいの」

「零に不自由なんて感じて欲しくない。あなたに喜んでもらえるから私たちは仕事を頑張れるの。だから実質お金を稼いでるのは零、あなたなのよ。あなたがいなかったらみんな仕事なんておちおち続けていられないでしょうから」

「お、俺のおかげ……?」

「そう、だから心配しないで。零はにこたちのご主人様として堂々としていればいいのよ」

 

 

 そこで背中から抱きついていたにこが正面へと回り込み、俺の頭を抱えそのまま自分の胸に埋めるように抱きしめてきた。相変わらずボリュームはないが、お姉ちゃん体質の彼女の身体はポカポカと暖かく、あまりの気持ちよさでこのままダメになっちゃいそう……。それと同時に真姫も手を握る力を強くし、口元を俺の耳元に当て囁くように呟いた。

 

 

「だからご主人様、仕事を頑張ったご褒美、もらえるかしら?」

「にこも真姫ちゃんも家を離れていることが多いけど、頭でも心でも常にあなたのことばかり考えてるわ。だから今日は身体でも感じさせてちょうだい。ね、にこたちのご主人様♪」

「あ、あぁ、本当にダメになりそう……」

 

 

 にこと真姫に()()()()()()()囁かれ、身体にゾクゾクとした高鳴る震えを感じる。こうしてたくさんの女の子に必要とされているって嬉しいことだ。彼女たちが仕事で磨り減りそうな精神を俺が家にいることで保っているんだから、自宅警備の仕事も捨てたもんじゃないな。明日からはもっと彼女たちに甘えて遊んで暮らすことにしよう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「うへぇ、金がなくなってしまった……」

「零くん? こんなところでどうしたんですか?」

「あ、亜里沙!?」

「私もいますよ。偶然ですね公園で会うなんて」

「雪穂も!? どうして……?」

「亜里沙たちファッション誌の表紙を飾ることになって、今撮影中なんですよ!」

 

 

 亜里沙が顔を向けた先を見てみると、カメラさんや照明さんなどがテープチェンジのためにせっせと動いていた。ということは雪穂と亜里沙は今休憩中なのか。にこと真姫と別れた後に起こった出来事に意気消沈して全く気付かなかったよ。

 

 雪穂と亜里沙は共に『sisters』というコンビを組んで、現在雑誌やポスターのモデルとして大活躍中だ。本来なら楓も誘われていたのだが、アイツは誰よりも一番間近で俺のお世話をしたいと言い張り、雪穂と亜里沙は経済的に俺に楽をさせたい一心でお互い別の道を選んだ。まあ道は違えど同棲もしているし、俺のために頑張ってくれているのはどちらも一緒だから誰も気にしてはいない。

 

 

「さっきからどんよりしてますけど、何かあったんですか? 私たちでよければ相談に乗りますよ」

「それがな、さっきパチンコで全部金使っちゃってさぁ。今朝穂乃果とことりに貰ったばかりなのに数時間で消えちまった……」

「大変! お金だったら亜里沙がいくらでもあげますよ!!」

「えっ、流石に1日に何度も貰うのは悪い気が……」

「そんなことないですよ。私も亜里沙も零君のために働いているんですから、それくらいむしろ当然です」

「亜里沙ぁ~雪穂ぉ~お前らホントに大好き!」

「もうこんなところで告白なんて恥ずかしいですよぉ~♪」

 

 

 雪穂も亜里沙も高級感が溢れる財布を取り出す。そして2人から分厚い札束ができるほどの万札を貰ったのだが、俺の格安貧乏財布には到底収まらなかった。せっかくだからこれを機に誰かに強請って買ってもらうか。俺が望めばみんな何でも言うことを聞いてくれるしね。それに俺だって自宅で24時間休まず警備してんだから、少々女の子に甘えたってバチは当たらないだろう。

 

 

「ねぇ亜里沙、そろそろ撮影に戻らないと」

「えぇ~珍しく仕事中に零くんとお話できたのに~」

「話くらいなら家でいくらでもできるだろ?」

「うぅ~だったら今晩はたくさん可愛がってください!」

「もちろんだとも! 雪穂も一緒にな」

「私ですか!? 私はそのぉ……別に」

「もぉ本当に雪穂は恥ずかしがり屋さんなんだから。本当は零くんに色々シてもらいたんだよね? シてもらってない時は毎晩悶々としてるんですよ雪穂って♪」

「そうなの!? 意外とむっつりなところがあるんだな」

「うぅぅぅうううううううううううううう!! ほ、ほら亜里沙、もう撮影に戻るよ!!」

 

 

 雪穂はニヤける亜里沙の腕を引いて撮影現場に戻っていった。しかしその途中、俺の耳元で『楽しみにしています』と囁いたのを聞き逃していない。これが何年も掛けて日々磨かれたツンデレ力、デレの破壊力も凄まじくなっている。決めた、こうなったら今晩は雪穂を徹底的に攻めてやろう。雪穂だけを可愛がっていれば嫉妬の目を向ける亜里沙の可愛い表情も見られて一石二鳥だ。

 

 

 ここまでが夕方までのお話。夜は穂乃果たちとしっぽりと、毎晩みんなが俺を満足させるため、そして1日の疲れを取るため抱かれにくる。こんな生活をしているとどこかで道を間違ったかなと思う時はあるけれど、お互いに幸せで不自由はないしこれはこれでいいのではないだろうか。

 

 

 こうして俺の毎日は、μ'sに甘やかされ悠々自適に過ぎ去っていく。

 




 とりあえず執筆中に何度この生活に憧れたかもう数えていません(笑)
 それにしてもμ'sのキャラが砂糖を吐くほど甘々になってますが、一番キャラ崩壊していたんは零君だったり。読み返してみると思った以上のクズ発言もあって見捨てそうになりました(笑)


 次回からはいつもの日常に戻って花丸回となります。μ's襲来編はもうしばらくお待ちください。


新たに☆10評価をくださった

TeaTimeさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

零と花丸の妄想エクスプロージョン

 今回は花丸回です。
 スマホを弄るのさえ苦手な花丸、そしていつもの妄想癖が爆発する零君のお話。

※μ'sはお休み


 

 とある日の夜。今日もいつも通り学院での授業を終えた俺は、ベッドの上でゴロゴロしながら携帯を眺めていた。その画面には連絡用アプリが開かれており、画面上部に『国木田花丸』の文字が映し出されている。

 だがしかし、肝心のトーク履歴は一切ない。連絡先を交換しただけで彼女と今まで一切携帯で会話をしたことがないのだ。千歌や曜はプライベートなことやどうでもいい内容を送りつけてくるためよく会話をしているし、それ以外のメンバーともスクールアイドルの練習など事務的なことなら会話をしたことがある。その中でも唯一会話をしたことがないのが花丸なんだ。

 

 

 俺たちはスクールアイドル活動という共通点を除けばそこまで結び付きが強い訳ではない。千歌たち2年生組となら副担任ということもあり接点は強いが、1年生や3年生とはいざ会話をしようとなると何を喋っていいのか分からなくなるのが現状だ。まあ実際に顔を合わせれば何かしら話題は出てくると思うが、改まって携帯でプライベートな会話をしようとは思えないし、いきなり教師から携帯で会話を振られたら相手も困るだろう。だがAqoursの顧問を受け持っている以上、みんなと仲良くなっておきたいっていうのが俺の本音である。

 

 

「今日は珍しく花丸とマンツーマンで話す機会があったから、こっちから話を振っても大丈夫だよな?」

 

 

 実は今日の放課後、Aqoursの練習前に花丸に数学の勉強を教えていた。しかも自習室で俺と彼女の1:1。今までまともに顔を合わせて会話をしたことがなかったので、勉強を教えるのと共に世間話でも盛り上がったんだ。だから心の距離が近くなった今こそ、こうして携帯でも会話をするチャンスではないだろうか。教師が生徒とプライベートな会話をするのは道徳上問題があるかもしれないが、それ以前に同じ部活のメンバーなんだからそれくらいは許してくれ。

 

 

「そうと決まれば早速メッセージでも送ってみるか」

 

 

 勉強会中の世間話で花丸は寝る時間が結構早いって言ってたから、あまり迷っている時間はない。まだ22時でいくら早く寝るといってもまだ早いと思うけど一応ね。ちなみにμ'sのアイツやアイツのこの時間帯は自慰タイムだってことを思い出してしまったが、すぐに頭から振り払った。

 

 

『今日の勉強会どうだった? ただその場で勉強するだけじゃなくて、ちゃんと復習しないとダメだぞ』

 

 

 当たり障りのないこんな感じの内容でいっか。とりあえず送信っと。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あっ、先生からメッセージがきた! なになに――――あぁ~心配しなくても、マルはいつも予習復習を欠かさないずら! そうだ、メッセージが送られてきたら返すのが普通なんだよね。でもこの前携帯を買ったばかりだし、機械は苦手だから文字を打つのは緊張するずら……」

 

『きょうはありがとうございました! ふくしゅうはもうすませたのでばっちりです! またわからないところがあればよろしくおねがいします!』

 

「これでいいかな? よしっ、送信!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

「あっ、花丸から返信きた」

 

『きょうはありがとうございました! ふくしゅうはもうすませたのでばっちりです! またわからないところがあればよろしくおねがいします!』

 

「なんだこれ、読みにくっ!!」

 

 

 なんで全部平仮名なんだよ……。あぁ、もしかして変換する前に間違えて送信しちゃったパターンのやつか。俺も時々あるんだよな、文字を打つのが慣れすぎて先走って送信ボタンをタッチしちゃうこと。今のところプライベートの連絡でしかそのミスは起こっていないけど、教育実習生として社会に出ている以上俺もケアレスミスには気を付けないと。

 

 それはそれとして、花丸って文学少女だけにかなり勤勉な子だったなぁ。苦手な数学なのに俺の授業を嫌な顔をせず熱心に聞いていた。Aqoursの練習でもダンス中に苦手なところがあればいつも休み時間に練習しているから、運動音痴なのにも関わらずとても頑張り屋さんなのだ。

 

 

「そうだ、今度ダンスも見てやろう。たまには顧問らしいこともしないとな」

 

『勉強ももちろんだけど、練習していたステップもできるようになったか? また練習成果見せてくれよ。あとさっきのメッセージ漢字に変換し忘れてたぞ』

 

 

 頑張っている子には手を差し伸べてやりたくなるんだよ。せっかく教師でもあり顧問なんだから、それくらいは協力しないとね。それじゃあこの内容で送信しよう。

 

 

~※~

 

 

「あっ、返信きた! こうして携帯でお話していると、イマドキ高校生って感じがして嬉しいずら♪ えぇと――――そっか、先生にはまだ練習の成果を見せてなかったんだ。だったら明日にでもマルの成長した姿を披露してあげようかなぁ♪ 先生からの感想も貰いたいし!」

 

『それではあす、かんそうきかしてください!』

 

「これを漢字にするにはどうしたらいいんだろう……。う~ん分からないけど多分これであってるはず。うんっ、これで送信!」

 

 

~※~

 

 

『それでは明日、乾燥機貸してください!』

 

 

「は……?」

 

 

 いやいやいや、どこから乾燥機の話になった?? 激しいダンスで汗だくになるから乾燥機が必要ってことか? 全身生まれたままの花丸が乾燥機の前で身体を乾かすちょっぴりエロい妄想を浮かべてしまうが、あんな純粋で天使な子がそんなことをするはずがない。もちろんそんな光景が実現したら大金を払ってでも見てみたいとは思うけど……。

 

 

「教え子を妄想のネタにするって最低だな俺……。まあ妄想内なら何をしても許されるんだけどさぁ」

 

 

 とにかく今すぐ妄想を止めないと、明日花丸と会ったら罪悪感に押し潰されるかもしれない。だからとりあえず話題を変えよう。そうだなぁ、あの子のことをもっと知りたいから趣味とか聞いてみるか。読書が好きだって言ってたけど、休日とか何してんだろうな。

 

 

『そういや、花丸って休日は何してんの? 読書以外の趣味とかある?』

 

 

 急にプライベートな内容に突っ込んできてなんだコイツを思われねぇかな……。いや、花丸は良い子だからそんな冷たいことなんて考えないはず! それに相手の反応にビビっていてはいつまで経っても仲良くなれないし、この内容で送信!

 

 

~※~

 

 

「先生とこうしてお話できるのは新鮮だなぁ~って、言ってる傍から返信が来たずら! なになに――――休日かぁ、最近は洋菓子作りにハマってるんだよね。マルの実家はお寺でおやつと言えば和菓子ばかりだったから、いつの日か飽きちゃって自分で作るようになっちゃった。この前の休日はパンとか作ってたなぁ。」

 

『ぱんつくってます♪』

 

「えへへ、マルがパン作ってるって言ったら先生驚くだろうなぁ~♪ 送信!」

 

 

~※~

 

 

『パンツ食ってます♪』

 

「え゛ぇ゛え゛え゛えええええええええええええええっ!?!?」

 

 

 パンツを食ってるってことは、噛み砕いて言えばつまりオナニーをしてるってことだよな!? パンツをしゃぶりながらの自慰行為なんてマニアックすぎるだろ!!

 あの純粋天使の花丸がまさか男の俺に堂々とオナニーしてることを伝えてくるなんて……。しかも文末の『♪』マークから俄かに漂ってくる淫乱臭は、どこぞの淫乱鳥やブラコン妹を思い出してしまう。

 

 もしかして花丸の奴、普段は清楚な感じを醸し出しておいて、実は隠れ淫乱でした~なんてドッキリを仕掛けようとしてるのか!? とにかくさっきから心臓がバクバクと激しく鼓動して止まらないんだが……。もう明日からどんな顔で彼女と会えばいいんだよ。

 

 

「冷房かけてるのに身体が熱くなってきた……。今日のオナネタは花丸に――――って、ダメだダメだ!! さっきからよからぬ妄想が止まらなくなってる……」

 

 

 教え子に劣情を抱くなんて教師として失格だぞ……。とは言っても既に痴漢やセクハラだけでは飽き足らず、この前公園で曜を襲ってしまった犯罪歴があるのだが。ことりに導かれたとはいえ、今思えばスクールアイドルを青姦するただの変質者だよな俺……。

 

 とにかくこのまま妄想を続けるとドツボにハマって彼女をオナネタにしかねないので、いい感じに話題を逸らそう。そうだなぁ、そういや料理が得意だって言ってたから、今度の休日にでも家に招待してご馳走してもらうか。現役JKでしかもスクールアイドルの女の子の手料理なんて滅多に食えるものじゃないからな。

 

 

『今度の休日にでも俺の家に遊びに来ないか? 一度花丸の手料理を食べてみたいからさ。調理器具とか材料は揃ってるから気軽にどうぞ』

 

 

 教師が生徒を自宅に連れ込むこと自体どうかと思うのだが、まあ今まで幾多の犯罪を重ねてきたからもう今更だろう。この内容で送信だ。

 

 

~※~

 

 

「うそぉ!? 先生からお誘いの連絡が来た!? しかもマルの料理をいただきたいって!! どうしよう嬉しいけど緊張しちゃうずら……。でもせっかく誘ってもらったのに断るのは申し訳ないよね。よしっ、ここは勇気を出してお邪魔してみようかな。そして――――ふむふむ、材料の心配はいらないと。それじゃあ手ぶらでいいってことだね」

 

『それではてぶらでおじゃまします!』

 

「お父さん以外の男の人に料理を振舞うなんて初めてだからドキドキするずら! 送信っと」

 

 

~※~

 

 

『それでは手ブラでおじゃまします!』

 

 

「ゲホッ、ゲホッ! な、何言ってんだコイツ!? 手ブラで来るの!?!?」

 

 

 なんだなんだ!? 花丸ってあんな童顔なのに中身は痴女だったのかよ!? 誰がどう見ても山奥の村に住んでいる穢れのない箱入り少女にしか見えないのに、まさか上半身裸で外を彷徨くことに一切の抵抗を感じていないとは……。もうこの数分間のやり取りだけで俺の晴れやかな花丸像が一転してピンクに染まっていた。

 

 それにしてもアイツの手ブラかぁ~。1年生にしてはふくよか過ぎるあの胸、もし浦の星が女子高ではなく男子がいたら確実に視姦されていただろう。そんな豊満な胸を小さい手で隠す……いや、絶対に隠しきれねぇな。彼女の小さい手ではあの胸の存在感を隠蔽するなんてまず不可能で、どう隠そうがマイクロビキニのようになるのは否めない。また妄想が暴発して止まりそうにないんだが……。

 

 

「待てよ。手ブラってことは、その上にエプロンを着ければ裸エプロンになるじゃん! やべぇ本格的に興奮してきた」

 

 

 花丸のような巨乳ちゃんの裸エプロンとか、もう想像だけでも一週間はオナネタにできる自信があるぞ。貧乳の裸エプロンは隙間から蕾が魅力であり、巨乳の裸エプロンはエプロンからはみ出る横乳が見所である。だから彼女のぷっくりとしたおっぱいのお肉がエプロンからポロリする瞬間を間近で見られるかもしれない。なんだなんだ最高かよ。

 

 それよりも花丸がここまで淫乱ちゃんだとは思っていなかった。いつもの恥ずかしがり屋の反応はフェイクだったのかな……。だとしたら、意外と下ネタ的な話もOKだったりするのだろうか。下ネタは世界中に通じる人間共通の話題だが、相手にガチで引かれる可能性がある諸刃の剣でもあるので無闇やたらに話を振るようなことをしてはいけない。だが彼女の場合は話が別。自分から振ってきたんだからこちらから振っても問題ないだろう。

 

 

「もしこれでアイツが話に乗ってくるんだったら、()()()()と同じ脳内ピンクちゃんと見て間違いないな。よぉ~しどんな内容を送りつけてやるか……」

 

 

『あぁ~熱くてガチガチになってきちゃったわ』

 

 

 うわぁ~なんて最低な文章を女の子に送りつけようとしてるんだ俺……。しかもJK相手に自分の股間の話題を出すなんて最悪すぎるだろ……。でもさっきも言ったけど、最初に猥談を仕掛けてきたのは花丸だからな! 俺はその振りに便乗しただけだから悪くねぇ!! まあメッセージの内容を見れば見るほど出会い系サイトのイタズラメールにしか見えないけども。

 それにだ、引かれたら引かれたで花丸が健全だってことだからそれはそれで問題はない。猥談を続けようとはしているが、やはり心のどこかでは彼女がまだ純粋なままでいて欲しいという切なる願いがあるのかもしれない。

 

 あぁもうなるようになれ! 送信だ!!

 

 

~※~

 

 

「な、なにこれ……熱くてガチガチ? もしかして先生も何か料理を作ってるのかも!? ということはマルと同じ趣味を持ってるってことだよね? わぁ~先生と共通の趣味があるのって嬉しいずらぁ♪ そうだ、今度先生が料理を作ってる姿も見せてもらおっと! 絶対にカッコイイよね♪」

 

 

『こんど、わたしもみにいっていいですか?』

 

 

「先生の家に行くのが楽しみになってきたずら♪ 送信っと」

 

 

~※~

 

 

『今度、私揉みに行ってもいいですか?』

 

 

「も、揉む!? どこを!? 話の流れ的に考えれば、俺のあそこ……だよな? ていうことは手コキしてくれんの!?!?」

 

 

 もう花丸の発言がデリヘルにしか思えねぇんだけど!? あそこがギンギンになってることを伝えたら、心配してわざわざ向こうから揉みにやって来てくれるなんてとても健気(?)な奴だ。淫乱だけど積極的にがっついてこない点も評価するべきところだろう。もう完全に俺の彼女を見る目が変わってしまった。そりゃそうだ、だって休日にパンツをしゃぶりながら自慰行為をしてるくらいなんだから。

 

 ド直球に揉みに行ってもいいか聞いてくる辺り、やはり自慰する時のオカズは手コキモノなんだろうか。女の子が手コキシーンを見るなんてあまり聞く話ではないが、サディストな女の子なら可愛い男を辱めるためにそんなシチュエーションを勉強するのかもしれない。人ってのは裏では何をやっているのか分からないからな。花丸だって清楚に見えるけど実はこっそりAVや薄い本鑑賞に浸っているのかも。うわぁ想像したくねぇけどもうメッセージの内容がそれを物語ってるもんなぁ……。

 

それだったらもしかして、アイツ手コキするの上手いのかな? ロリ巨乳ちゃんの小さな手であそこを摩ってもらえるなんて、それどんなご褒美? そしてこんな妄想力を働かせたのは数年ぶりかもしれない。性欲旺盛な思春期時代に戻った感じがするよ。

 

 くそっ、妄想が俺の思考を支配して、次にどんなメッセージを送ればいいのか考えることすらできねぇ!! あわよくばフェラとかしてくれちゃったりとか、勝手に妄想が飛躍しやがる!! 止まってくれ俺の妄想!!

 

 

~※~

 

 

「先生からメッセージが来ない……。まさか突然自宅にお邪魔するって言ったから怒っちゃったのかな!? でも先生が気軽に来いって言ってたし……と、とりあえず謝らなきゃ!!」

 

『すいません!』

 

「神崎先生って怒るイメージが全然ないけど、そこに甘えちゃダメだよね。こっちが悪いならちゃんと謝らないと。送信!」

 

 

~※~

 

 

『吸いません!』

 

「す、吸う!? 吸うってフェラのことだとすると……俺の妄想が完全に読まれてるだと!? 超能力者かよアイツ!?」

 

 

 あんな童顔のくせに、人の変態妄想を感知できるとかどれだけ腹黒なんだって話だ。今日マンツーマンの授業をしたあのひと時だけで俺の思考を読み取る力を手に入れたのか。もうこれから花丸の横で下手なことはできねぇな……。

 

 しかし手コキはしてくれるのにフェラはしないって、もうそれ完全にドSの手法じゃねぇか。フェラをするにはこちらから屈辱の懇願をしなければやってはくれないだろう。あんなロリっ子に男のプライドを捨てて口淫を頼んだら最後、もう一生男としての尊厳を取り戻せないと思う。

 

 

「ただ携帯で会話をしているだけなのに、ここまで俺の身体を熱くさせるとはやるなアイツ……。しかし本当に裸エプロンを見せてくれたり、手コキをしてくれるのだろうか」

 

 

 もし花丸がヤリ手のビッチちゃんだったら、今までのメッセージも俺を焦らすだけの虚言に過ぎないのかもしれない。手コキはしてフェラはしないってところを見るに彼女はSっ気丸出しだから、男を弄ぶテクニックくらいは身につけているのだろう。女子生徒に焦らされる男性教師というシチュエーションから背徳感しか生まれないが、JKにシてもらえるのならプライドも何もかも投げ捨てて性欲に従順になってもいいかもしれない。

 

 

『まあなんにせよ今度ウチに来いよな。楽しみにしてるから!』

 

 

 本当に……本当にやってくれるんだよな? 楽しみだなぁ裸エプロンと手コキ。

 

 

~※~

 

 

「あっ、先生怒ってなかったずら!? よかったぁ~!!」

 

『わたしもたのしみです!』

 

「もしかすると先生と一緒に料理ができるかも……? 楽しみずら~♪」

 

 

~※~

 

 

『私も楽しみです!』

 

「ま、マジで? 男とヤるのがそんなに楽しみなのかよ花丸……。やっぱ女子高の女の子はみんなヤってんのかなぁ~」

 

 

 男からしてみれば女子高は秘密の花園的な神聖さを想像するが、実際の女子高の実態は普通の高校よりも殺伐としていて自由気ままだってことを聞く。下着が見えていてもお構いなし、猥談だって平気でする。そのせいで女子高の生徒の貞操観念が低いってことはもう世間一般にも知られていることだ。もちろん全ての女子高がそうでないことを付け加えておくが。

 

 つまり浦の星女学院もルビィみたいなウブっ子もいれば、曜や花丸みたいな痴女っ子もいるってことだ。しかしどちらにせよ俺は容姿が可愛ければ女の子を選んだりはしない。だから花丸がいくら清楚という仮面を被った淫乱だろうが、これからもしっかりと勉強を見てやるしスクールアイドルの指導をしてあげるつもりだ。もちろん明日彼女に会うのは怖いけどね……。

 

 

「なんかドキドキしてきた。早く次の休みにならねぇかなぁ」

 

 

 そんな淫猥な期待を抱きながら、俺はいつの間にか眠ってしまった。結局終始興奮は収まっていなかったが、自慰で種子を無駄に撒き散らすくらいなら来るべき当日に向けてしっかり溜めておいた方がいい。メッセージで男を誘惑してくる淫乱ちゃんには、もれなく熱いミルクを大量にぶっかけてやるからそう思え。いやぁ本当に楽しみだ!

 

 

 

 

 しかしその翌日、花丸が俺のためにパンを作って持ってきてくれた。彼女が休日の趣味として洋菓子作りにハマっていると聞かされた俺は、そこで全てを察して全身から力が抜けた――――という話があることに、この時の俺はまだ知る由もない。

 

 でも彼女が淫乱じゃなくて、ちょっとホッとしたかな……?




 とある芸人さんのネタを見て突発的に執筆したくなったので、μ'sを追い出してまで書いてしまいました(笑) 個人的には久々に零君の妄想癖を大爆発させることができて楽しかったです!

 ちなみに花丸のためにフォローしておきますと、彼女はしっかり清楚で純粋な子ですから安心してください。


 次回は再びμ's襲来編に戻ります。Aqoursからは善子、μ'sからは――――次回までお待ちください!(笑)



新たに☆10評価をくださった

Toka120615さん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神に愛された少女、神に見放された少女(前編)

 よっちゃん回。
 あまりの不運を目撃して涙を流さぬよう……


「それくらい教師だったら何とかしなさいよ。生徒の悩みを解決するのが教師の役目でしょ」

「横暴すぎるだろお前……」

 

 

 自称堕天使ガール:津島善子が俺の隣であーだこーだと不満を漏らす。

 誰もいない教室でPCを広げ教育実習のレポートをカタカタと書いていると、突然善子が教室に入ってきて唐突なお悩み相談会に突入した。前列の机から椅子を持ってきて、何故か教卓に座っている俺の隣を陣取っている。そもそもコイツって俺のことを嫌ってるんじゃないかと思っていたのだが、こうしてお悩み相談を持ちかけられる辺りそうでもないらしい。嬉しい反面、どこでフラグを立てたのかと考えることもある。

 

 そして本題である彼女の悩み事だが、どうやら自身の不幸体質にとうとう嫌気がさしたらしい。だからその体質を改善させろと無理難題を押し付けてきやがったのだ。

 

 

「今日も朝からトーストを落としてバターを塗った面が床に密着するわ、登校中に2度も鳥の糞に空爆されそうになるわ、体育の授業でルビィの落としたボールを踏んで転ぶわ、さっきも掃除が終わって帰ってくる時に花壇の水やりの人に誤って水を掛けられるわで散々だったのよ」

「お前よく生きてるよな……」

「このご利益グッズが効いた試しもないし、全くもう……」

 

 

 善子はカバンの中からお守りを取り出してゴミを見るような目線を向ける。

 そうやって無下に扱ってるから神様がお前を見放してんじゃないのか……。そもそも堕天使としてサバトを開いたり黒魔術の研究をしている時点でとっくに神から見放されているのかもしれないが。

 

 

「でもまあある意味それも才能かもな。誰かの不幸を全部自分が受け持っていると思えば、ちょっとは誇れないか?」

「いいえ。むしろ誰かが私のために不幸を被ってくれとずっと思ってるわよ」

「あまり生徒にこんなことを言いたくないけど、最悪だなお前……」

「毎日毎日ここまで運が悪いと考え方も下衆になっちゃうの。それにヨハネは堕天使! 堕天使たるもの、他者を切り捨て己の力を闊歩(かっぽ)する! そう、つまり堕天使とは唯我独尊な存在なのよ!」

 

 

 あぁ、なんとな~くコイツが不幸体質な理由が分かった気がする。これは神にも見捨てられますわ。もっと俺みたいに人間(可愛い女の子)を愛する気持ちを持たないとダメだぞ。

 

 

「それはそうと、どうして俺に相談してきたんだ? 花丸やルビィと一緒にいた方が相当ご利益ありそうだけど」

「それはぁ……た、たまたま教室の前を通りかかったら先生が1人でいたからよ! そ、そうただそれだけなんだから!!」

 

 

 善子は慌てた表情で必死に苦しい言い訳を放つ。しかしこちらとしてはテンプレのツンデレ乙としか言い様がない。もちろん女の子の慌てふためく姿は大好物なのでむしろずっとその表情をしていて欲しいが。

 

 

「ま、まぁこの前のお化け騒動で案外頼りになるって分かったから、こうして直々に相談を持ちかけてあげたのよ。わ、悪い!?」

「いや教育実習生でも教師は教師だから、生徒の悩みを聞くくらいは当然の義務だし俺は別にいいけどさ」

「だったら解決してよ! 私のこの不幸体質!!」

「とは言ってもその問題はキツイっす……」

 

 

 いくら体質と言っても痩せ型体質や肥満体質などの体型的な問題なら医学知識でどうにでもなるが、不幸体質なんて概念すらも明確でない問題をどう解決したらいいって言うんだよ。問題が抽象的なものなら解決策も『日頃の行いが悪い』といった精神論や根性論に持ち込むしかない。さてはてどうしたものやら……。

 

 

「あっ、そうだ」

「なになに!? 私から不幸を吸い出してくれるの!?」

「幸福度をチューブでちゅーちゅー吸えて共有できたら人間みんな幸せになれるかもな。そうじゃなくて、ご利益のある人と一緒にいたら何か変わるんじゃないかと思って。もちろん気の話になるけど」

「ご利益のある人? さっき言ってた花丸やルビィとか?」

「実は俺の彼女――いや知り合いに豪運の持ち主がいるんだよ。おみくじでは常に大吉だしビンゴ大会でも確実に上位入賞、それ以外でも己の運の良さを裏付けることばかり起こる神に愛された奴がな」

「なにそれ、もう人間じゃないわね」

「失礼だなお前……。ま、連絡すればこっちに来てくれるだろうから、1回会ってみたらどうだ? 事情も俺から説明しておくから」

 

 

 善子とは対称的に()()()()()()()()()()()()は何から何まで神から愛されている、まさに神に選ばれた人間と言っても過言ではない。温泉旅行に行きたいからという理由で1等が旅行券の商店街のふくびきを引くくらいだし、懸賞の抽選プレゼントで部屋の家具を揃えたという逸話もある。それなのにどうしてそんなに運がいいのかと聞いたら、『スピリチュアルやね』の一言で全てを片付けるため本人もよく分かっていないらしい。

 

 

「それで私が不幸から解放されるなら会ってみるわ」

「分かった、じゃあ連絡しておくよ。でもお前自称堕天使だろ? 神に選ばれるようなことをしていいのか?」

「うっ……ヨハネは堕天使の顔と人間の顔の両方を持ってるのよ。だから人間の姿であれば大丈夫……なはず」

「取ってつけたような設定だなオイ」

 

 

 それにさっきから一人称もコロコロ変わってるし、前も言ったけどイマイチ堕天使に成りきれてない感あるよな。まあそんな不器用なところが可愛いんだけども。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「と、言うことで。本日お前の不幸体質を改善してくれる彼女が――」

「東條希です。よろしゅうな善子ちゃん♪」

「…………えっ?」

 

 

 次の日、早速スピリチュアルガールが内浦にやってきた。

 俺が言っていた豪運の持ち主は希のことでした――――って、言わなくても分かってるよな。そう、善子が神に見放された少女なら、希は神に愛された少女である。ご利益満天の希に善子があやかり、運気をアップアップしていこうという算段だ。

 

 しかし善子は不幸体質云々の話以前に、希を見て目を丸くしている。まるで本物の女神を見たかのような驚きっぷりだが、希がそこまで存在感を放っているのだろうか。確かにいくら服を着込んでいても分かる巨乳の存在感は凄まじいけどさ。

 

 

「と、東條希って……あのμ'sの!?」

「なんだ、お前希のこと知ってたのか。他のスクールアイドルなんてさほど興味がないと思ってたよ」

「そりゃあルビィに耳に穴が空くほど熱論されてるんだから知ってるわよ! でも本物を見るのは初めてで戸惑っちゃうっていうか……」

「そこまで萎縮しなくてもええよ。友達だと思って気軽に絡んでもらえれば」

「そ、そんなことできる訳!!――――な、ないです……」

 

 

 中二病のせいで人間付き合いが希薄だったせいか、普段から年上にもタメ口で話す善子。だが希の圧倒的オーラの前ではいくら彼女であってもタジタジだな。これぞまさに女神に屈服する堕天使の構図。でもこのまま女神が堕天使を浄化してくれたら運気くらいすぐ上がりそうなものだ。希と一緒にいるとイイコトが起こりそうな気がするんだよ、いやマジで。

 

 

「すぐに仲良くするのは難しいから、不幸体質を治す過程で仲良くなっていこ♪」

「そもそも治せるんですか本当に……」

「そうやなぁ、そのためにはまず善子ちゃんがどれだけ運が悪いのか確かめないと」

「それじゃあ善子、ここから50m先のあの電柱まで走ってこっちに戻ってこい。それで全て明らかになるから」

「いや、流石の私でもたかが数秒の間にそう何回も不幸は舞い降りないわよ」

「いいか、それをフラグって言うんだ。ほら行ってこい」

「だから何も起きないのに全くもう……」

 

 

 善子は怪訝な顔をしながらも、しぶしぶ近くの電柱まで走り出した。女子高生の50m走のタイムは約9秒、日々スクールアイドルの練習をしている彼女ならもっと短時間で走れるはず。つまり往復約15秒間に一体何が起こるのか見ものだな。たった15秒と思うかもしれないが、善子にとっては一寸先は地獄なんだ。

 

 

「ほら見なさい、何も起きないじゃない」

 

 

 善子は余裕ぶってそう呟く。だが周りを警戒していない訳ではないようで、自分の真上を通りかかろうとする鳥の軌道から逃れるため、自身の身体を道脇に寄せた。するとさっきまで善子がいた場所に、鳥の糞が汚らしい液体音を立てて叩きつけられる。

 

 

「ふんっ、あまり不幸体質を舐めないことね。これくらい想定済みよ」

 

 

 だが善子は気付いていなかった。鳥は2羽いたことに。

 そうなれば不運丸出しの彼女には当然――――

 

 

「あ゛ぁあああああああああああああああああっ!?!? アイツ、私のお気に入りの帽子に……帽子にぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 案の定というべきか、鳥からの2発目の空爆に善子の黒い帽子のてっぺんが真っ白に染まった。彼女はその場であたふたと暴れるが、そんな無駄な行動をするからまた新たな不幸を呼び寄せるんだってことに多分気づいてないよなぁ。

 

 そして、次なる刺客は空ではなく地にいた。

 

 

「善子ちゃーーん! あまりバタバタすると水溜まりにはまっちゃうよーーっ!!」

「はっ!?」

 

 

 鳥の連続空爆で完全に余裕を失った彼女は身体をふらふらさせながら、眼前に迫っていた水溜まりの罠を希の助言により発見する。流石に見えている罠には引っかからないだろう。希はそう思ったし俺もそう思っていた。

 

 

「くっ、避けられない……!!」

 

 

 身体がよろめいているせいでもう水溜まりと一騎打ちするしかないと思った彼女は、その場で踏ん張るとそのまま高い跳躍力でジャンプをした。上手く避けられそうなのでさっきまでの絶望を具現化したような表情から一変、勝ち誇った表情で華麗な跳躍を披露した。この機動力もスクールアイドルこそなのだが、彼女がいついかなる時でも不運を呼び込む体質なことを忘れてはならず――――

 

 

「な゛ぁっ……!?」

 

 

 勝利に満ち溢れていた彼女の顔が再び絶望に染まる。水溜まりの先、ちょうど彼女が着地するだろうと思われる地点にビール缶が転がっていた。もちろん横向きで全く潰れていない完全な状態である。もう俺も希も、未来予知能力なんてないのにこの先の未来を見通してしまっていた。

 

 善子は着地と同時に右足でビール缶を踏むと、これも不幸の災いなのか身体が後ろへ倒れこむ。そうなればもちろん、さっきの水溜まりトラップが待ち構えてる訳で――――

 

 

「がっ、あぁ……!!」

 

 

 そして、ただの道端なのに大きな水しぶきの音が響き渡った。噴水のように綺麗に水が舞い上がり、微かに虹ができるくらいには……。

 

 

「どうだ? 善子の不幸体質は天性だろ?」

「話には聞いてたけど、これは想像以上やなぁ……。だって、まだ電柱にすら辿り着いてないし……」

「それだよ。どうしてこんな短時間であそこまで不幸になれるかねぇ~」

 

 

 希の言った通り、衝撃なのはまだ往復の"往"の区間だってことだ。しかもトラップを事前に見抜いていたのにも関わらず、鳥の空爆や水溜りに自ら突っ込んでいったのはもはや芸人だろ。もしかしたら不幸を呼び寄せているのではなく、自分から不幸になりに行っている説まで考えられる。神に遊ばれているのか、それとも罰を与えられているのか。どちらにせよ彼女が不憫過ぎて、一連の流れを見て泣きそうになってきたぞ俺。行く先々で罠がダブルで仕掛けられてるんだから、そりゃあ同情しちゃうよ。

 

 このまま往復走行させるとマジで善子の命が危ないからここでやめさせることにした。

 しかしこんな調子で今までよく生きてこられたな。ここまで不運なのに強く生きるその図太さを逆に俺たちが見習った方がいいのかもしれない。俺だったらもう外に出ず一生引きこもって女の子のヒモになる自信あるわ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 鳥の爆撃やら水撃トラップやらで全身がボロボロになった善子を見かねた俺たちは、一旦彼女を家へ返して着替えさせた。そして再び集合したのだが、彼女の顔は虚ろな目をしているのにも関わらずニヤけているという奇々怪々な表情になっていた。

 

 

「み、見た? これが私の実力よ!! アハハ、アハハハハハハ!!」

「遂に壊れたか……」

「こんなもの、笑ってなきゃやってられないわよ!! さっきも洗濯機に服を入れようとしたらまさかの故障だったし。どうしてこんな時にぃいいいいいいいいいいいい!!」

「不運が連鎖しすぎて逆にそれはそれでツイてるのかもね……」

 

 

 なにそれ全然自慢にならねぇじゃん。飲み会の席で『私の特技は不運を連鎖させることです』とか言われても愛想笑いしかできねぇよ……。特に善子の不幸エピソードを知ってる奴ほど同情の念が強くなってしまう。

 

 

「はぁ……今日はいつもよりやたら不幸なことが起こるような気がするのよね……」

「もしかしてアレか、希が来たせいでコイツに運を全て吸い取られてるんじゃないのか。善子に渡す運なんて一滴もないって感じでさ」

「そっちから呼んでおいてその言い草はヒドくない?」

「だったら解決策を考えてやってくれ。もう笑い話じゃ済まないレベルになってるから」

「分かってる。だからこれを持ってきたんや♪」

「聞こうと思ってたけど、なんだそのデカいカバンは……?」

「ひ・み・つ♪」

 

 

 泊まりに来た訳でもないのに、希はやたらサイズのあるカバンを肩に掛けていたのでずっと気になっていた。それにやけにやる気満々だし……コイツも策略家だから何考えてんのか全然分かんねぇんだよな。イタズラな笑みを浮かべているのでまずまともな解決方法でないことは確かだ。

 

 

「とりあえず善子ちゃん借りてくね! さ、こっちに!」

「えっ、そっちはトイレよ!?」

「いいからいいから! ちょっとお姉さんとイイコトしよ♪」

「い、嫌な予感が!? 私の不幸センサーがビンビンと――――って、力つよっ!!」

「さぁて1名様ごあんなぁ~い!」

「わ、分かったから引っ張らないでよ!!」

 

 

 何を企んでいるのかは知らないが、希は善子の腕を無理矢理引っ張って公園の女子トイレに引きずり込んだ。

 しかしトイレでやるイイコトって――――まさか連れション!? 女の子同士の連れションなんてあまり聞くものではないが、デリケートな部分も含め幸運な人と一緒に行動することで運気を上げようとしているのだろうか? ていうか、そもそも女子トイレって壁に耳を当てれば声とか音とか聞こえたりするのかな? もうさっきから疑問と妄想ばかりが膨らんできていてもたってもいられねぇよこんなの!!

 

 思い立ったが吉日、女子トイレの壁に耳を当てる。だがそこは構造上上手く作られているのだろう、変態対策に防音になっているようだ。

 だったら次に取る行動は1つだけ。周りに人がいないことを確認し、俺は女子トイレの入口に少し足を掛けた。踏んではならないボーダーラインを超えてしまったが、元々この俺に道徳なんてものは通用しない。

 

 2人に足音が聞こえないように、息を凝らして一歩ずつ花園へと侵入していく。そしてしばらくした後、トイレの中から善子の声が聞こえてきた。

 

 

『ひゃぁああああん♡』

 

 

「え゛っ、な、なんだぁ!?」

 

 

 善子の口から聞いたこともない淫らな嬌声が漏れ出した。若干声が曇っているので個室に入っているのだろうが、この声を聞いたら何も知らない人からすれば痴女が公衆トイレでオナっているようにしか聞こえないだろう。ちなみに俺は変な男が女子トイレに入らないよう入口で見張ってるだけで他意はないから、そこんとこよろしく。

 

 

『ちょっと! どこ触ってるのよ!!』

『う~ん、ここにはあまりご利益は詰まってない感じやね♪』

『ひゃっ! そ、それ遠まわしに小さいって馬鹿にしてるでしょ……って、そんな激しく!! あっ、んんっ!!』

『でも感度はそこそこ良好っと。もしかして、1人でしてたりするん?』

『し、してないわよそんな変態みたいなことなんてぇ……んっ、あぁ!』

『ん~? ウチは変態なことなんて一言も言ってないんやけどなぁ~どんな想像したんかなぁ~』

『こんの腹黒女……はぁ、あっ! わ、分かった、もう言わないからぁ!!』

 

 

 こ、コイツら2人で一体何やってんだ!? しかも状況的に2人が同じ個室に入っているみたいだし、会話からしてもう百合百合しい。公衆トイレに対しては汚いイメージを持ってしまいがちだが、女の子がやんやんするだけでここまで高級感煽るる雰囲気になるのか。変質者の俺ですら入るのを躊躇ってしまうくらいにはムードがピンク一色だ。

 

 

『善子ちゃんにはこれを着てもらうからね』

『な、なによこれ!? どうして私がそんな格好を!!』

『もし着ないって言うのなら……ワシワシするよ?』

『その指の動きやめなさいよ!! 変態オヤジか!!』

『女の子に対してその言い草は傷付くなぁ。お仕置きや♪』

『ひゃんっ! あ、謝る! 謝るからぁあああああああああああああああああああああ!!』

 

 

 ご利益が詰まってないとかなんだとか言って、結構善子の胸気に入ってるじゃん。まあ希は相手が貧乳だろうが巨乳だろうが、その子の反応が可愛ければ誰構わず揉みしだくほどの変態なんだけども。μ'sのみんなはもう慣れているが、こうして胸を弄られることに耐性のない善子は少し触られただけでもいい声で鳴く。しかも近くに俺がいるってこと忘れてるだろ……。

 

 それにしても女の子は相手の子の胸を揉み放題でいいよなぁ。おふざけでそんなことができるのは羨ましいし、咎められてもスキンシップと言っておけば大体言い逃れできる。この時だけは女の子に生まれたかったと切に思う瞬間だ。

 

 

 そして善子は観念したのか、希が持ってきたであろう服を黙って着始めた。服が肌に擦れる音が聞こえてくるので多分着替えているのだろう。

 しばらくした後、個室のドアの開く音がした。踏み込んではいけないボーダーラインを超えたままだと気付いた俺は、忍者のような軽やかな動きで何事もなかったかのように後ずさりする。焦りを隠しながら平静を装っていると、まずは希だけがトイレから出てきた。

 

 

「零君? お楽しみやった?」

「お楽しみはお前らの方だろ……」

「隠さんくてもええよ。どうせ零君のことやから、トイレの壁に耳を当てたり中に入ってこようとしてたんやろ?」

 

 

 ぜ、全部当たってやがる……相変わらず感の鋭い奴だ。まあ俺と何年も一緒にいるんだから、それくらいの思考は読めて当然か。

 そんなことよりも、トイレの入口でコソコソこちらに顔だけ覗かせている善子の姿が見える。顔を赤くしてトイレから出るのを躊躇っているようだ。

 

 

「ほら、そんなところに隠れてたら着替えた意味ないやん?」

「で、でもこの格好は……うぅ」

「スクールアイドルなんやから、こんなことで恥ずかしがってちゃいかんよ。さぁ早く!」

「だ、だから腕を引っ張らないで――――きゃっ!!」

「おっと!」

 

 

 希に腕を強く引かれた善子がトイレの入口から飛び出す。そして彼女はそのまま勢い余って俺の胸元へと飛び込んできた。俺は咄嗟に彼女の身体を抱え衝撃を和らげてやる。

 しかし、違和感は一瞬で訪れた。まず肌触りがいい。夏なので薄着なのは当然だが、それを加味してもやけに肌の暖かさを感じる。そして彼女の着ている衣装の色。上が真っ白で下が朱色の袴みたいな――――ん? こ、このコスプレって!!

 

 

「巫女さん!?」

「どうして堕天使の私が神の遣いなんかにぃ~……!!」

 

 

 神を離反した存在である堕天使から、神の従者である巫女に転職するとは……。希の奴、一体何をしようってんだ??

 

 

To Be Continued……

 




 読者の皆さんが善子に同情する力で次回のオチが決まるマルチエンド方式です(大嘘) 今までラブライブのキャラを性的に虐めたことはありましたが、ここまで不幸のどん底に貶めたのは初めてだったりします。後悔はしていない。

 次回は割と書けているので、多分早めの投稿になるかと。せっかくなので次回のセリフを一部抜粋。

「巫女さんになって善行をすれば、絶対に運気アップするよ!」

「ちょっと! 袖口に手を入れないで!!」

「ウチが幸運なのは、零君と一緒にいるからかも」

「100円、拾った……」

「お前が一生神に愛されなかったとしても、俺は一生お前を愛するから」




新たに☆10評価をくださった

ueyuuさん、イチゴの鍵人さん

ありがとうございます!
零君がDTであるかという質問がありましたが、それはご想像にお任せします(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神に愛された少女、神に見放された少女(後編)

 善子&希回の後半戦。
 やはり幼気な女の子を落とすには、弱ったところをつけ狙うのが一番……?


 

 堕天使から巫女へとジョブチェンジをした善子は、俺の腕の中で嘆いていた。そりゃそうだ、ゲームの属性で例えるなら堕天使は"闇"で巫女は"聖"、全くの真反対なんだから。今まで堕天使ヨハネとしてこの地に君臨していた(という設定)彼女にとっては耐え難い屈辱なのだろう。

 それに対し希は久々に幼気な女の子をいびることができて楽しいのか、ニコニコと不気味な笑顔を浮かべている。Aqoursのメンバーにも弄られ、こうしてスクールアイドルの先輩にも弄られるとは、もう同情するのも可哀想になってくるな……。

 

 

「袖口がひらひらして落ち着かないし、生地も薄くて真っ白だから透けちゃいそう……って、先生! あまりこっち見ないでよね!!」

「見ないでよねって言われても、抱きつきてきてるのはお前だろ。それなのに見るなってのは無理ねぇか?」

「あっ……うぅ~~~~っ!!」

 

 

 善子は顔だけでなく耳まで真っ赤に染め上げ俺から退く。俺は希に引っ張られて勢いが余ったお前の身体を支えてあげただけなのに、怒られるなんて理不尽じゃねぇかよ。

 

 そんなことよりも、善子の巫女服姿が意外に似合っていてビックリした。彼女の私服は堕天使を意識してか黒系統が多いので、こうして明るさを基調とした衣装を見るのはライブ以外では初めてだったりする。そもそも彼女は肌がかなり白い方なので、純白の巫女服が一際輝いて見える。薄着のせいか善子のそこそこの胸でもその形が程よく体現され、男としては非常に眼福だ。

 

 そういやさっき透けちゃいそうで恥ずかしがってたけど、あの痛々しい堕天使衣装は恥ずかしいと思わないのか……? イマイチコイツの感性が分からん。

 

 

「女の子の巫女さん姿を見ていると、こうして袖口に手を入れたくなっちゃうなぁ♪」

「ひゃぅ!! ちょ、ちょっと勝手にそんなところぉ~!!」

「やっぱ善子ちゃんいい声で鳴くやん♪ どう? ウチのお人形さんになってみない?」

「はぁ!? な、なる訳でしょ!? あっ、だから触るなぁ~!!」

 

 

 セリフだけ聞けばただの痴漢現場だろこれ……。

 最近では希もμ'sにすっかり手出しをしなくなったというか、もう手を出し尽くしているからこそセクハラは減っていた。だがこうしてラブドール代わりの女の子を見つけて、高校時代のセクハラ欲が蘇ってきたみたいだ。やっぱ大人になると女子高校生がいかに稀少かが分かる上に、欲望の捌け口とした最適だと再認識できる。まあ男の俺と女の希では意味が大きく変わってくるのだが。

 

 あれ? そういや今日の目的ってなんだっけ……?

 

 

「こ、こんなことで運気が上がる訳!?」

「もちろん! 神様も可愛い女の子のえっちな喘ぎ声を聞けば、きっと善子ちゃんにも運気を分けてくれるから♪」

「そんなものなのぉ……ひゃっ、手入れすぎよぉ~……」

 

 

 神様は変態オヤジか何かかよ!? でもゲームで神様と言えばおっさんの姿で描かれていることも多いし、それはそれで理にかなっているのかもしれない。神様にとっては風評被害も甚だしいが……。

 

 にしても善子の奴、希の魔の手に侵食され暴れてはいるがそこまで強く抵抗しないんだな。それどころか希の神様変態オヤジ説を間に受けて、同じく変態女神の触手のように絡みつく魔の手を淫声を上げながら受け入れている。これはあれだ、マッサージモノのAVで整体師のオヤジに胸や性器とかを触られ困惑するも、『治療ですから』という言葉を受けて泣く泣く信じざるを得ない、それと一緒だ。

 

 つうか希は女の子に巫女服を着させて襲いたかったから内浦に来たんじゃないだろうな? さっきからずと善子の身体を触っているような気がするからさ。

 

 

「はぁはぁ……巫女さんは神聖な職業じゃないの? どうしてこんなことを……」

「ここまでは前座。本番はこれからや!」

「ほ、本番!?」

「お前、今()()()()()()を想像しただろ?」

「ち、違うに決まってるでしょ!? 先生みたいなド畜生の変態セクハラ教師と一緒にしないでくれる!?」

「言うなぁお前……」

 

 

 "ド畜生"で"変態"で"セクハラ"。こんな最低な名札を3つも着けている男なんて中々いないぞ。本来なら傷付く場面なのだが、もう逆に開き直って清々しいわ。

 

 まあ俺のことはいいとして、善子も相当むっつりちゃんのようだ。明らかに動揺を隠しきれてないし、希に胸を揉まれている時も軽く感じてたっぽいからその手の感覚には敏感なのだろう。なんか俺の知らないところでどんどんAqoursのμ's化が進んでいるような気がするぞ……。

 

 

「零君がド畜生の変態セクハラヤリチン教師だってことは置いておいて」

「置いておくな! 1つ増えてんだけど!?」

「善子ちゃんには不幸体質改善のために、巫女さん姿で奉仕活動をしてもらうからね!」

「無視かよ……まあいいや」

「奉仕活動?」

「そう。巫女さんになって善行をすれば、絶対に運気アップするよ!」

 

 

 希が言うに、善子に足りないのは人を愛する気持ちらしい。妙な宗教団体の謳い文句みたいだが、堕天使のままでいるよりかは巫女さん姿でご奉仕した方がよっぽどご利益があるだろう。

 

 

「ご奉仕って、誰に……?」

「それはいつもお世話になってるAqoursのみんなに決まってるやん? それにほら、ここにも……」

「お、俺??」

「いやっ! 先生だけには絶対に感謝したくない!! 先生に媚を売るならテキトーなおじさんに売春した方がまだマシよ!!」

「それ人生の中でトップクラスに傷付く言葉だわ……」

 

 

 さっき抱きついてきたから好感度が高くなったのかなぁと思えば、ここでまさかの直下型暴落。コイツの中で俺がどういう評価なのか全然分からん!!

 

 

「でも堕天使のヨハネが下々の人間ごときに自らご奉仕をするなんて……」

「そう……ならまずはその厨二な心から浄化しないとダメっぽいねぇ♪」

「わ、分かったから指をわきわきさせるのやめてぇええええあ゛ぁあああああああああああああああああああああああ!!」

「うん、いいおっぱい!」

 

 

 いやぁ羨ましい! 自分は特に百合属性ではないが、女の子同士が胸を弄り合っている姿はいい絵だよなぁ。もうね、さっきからそうだけど端々に性欲を助長させる行為は謹んでもらいたい。だってほら、変態回じゃないと結局この溜まった性欲をぶっぱなせないじゃん?

 

 とにかく、堕天使から巫女に転生した善子のご奉仕活動が始まろうとしていた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 そして巫女善子は奉仕活動のため、とある大きな公園へとやって来た。

 まずそこでエンカウントしたのがAqoursのリーダーである千歌。俺たちは物陰から2人の様子を観察しつつ、善子がしっかり善行できるのか期待するところではあるが――――

 

 

「まさか巫女服の善子ちゃんが見られるとは、眼福ですなぁ~」

「あまりジロジロ見ないで! ていうか、アイスクリームを食べるのに付き合うだけでよかったの?」

「うんっ! 一度でいいからこの移動アイスクリーム屋のアイスを食べてみたかったんだ。美味しいって評判だけど、1人で食べるのは寂しくって」

「だから私を見つけて駆け寄ってきたのね」

「そうそう。いやでも本当に可愛いよ善子ちゃん! 見蕩れちゃってアイスクリーム溶けちゃうくらい!」

「だからジロジロ見過ぎ!!」

 

 

 やっぱ巫女善子の前では誰しもがエロオヤジになってしまうものなのか。特に彼女のような容姿が抜群な子が巫女だからこそ千歌のように精神がエロオヤジ化してしまうのだろう。

 

 

「わぁ~この巫女服手触りいいね本物みたい! 曜ちゃんが見たら絶対に羨ましがるよ!」

「別に私のじゃないんだけどね――――って、くっつきすぎぃ!!」

「そういえば善子ちゃんに抱きついたことなかったかも……」

「何よその目は……? や、やめなさい!!」

 

 

 千歌が獲物を見つけた獣のように少しずつ接近してくるので、善子は自然と身体が仰け反ってしまう。

 善子が何かワンアクションするたびにまた不幸が舞い降りると思うとこっちまでドキドキするのだが、今は巫女姿で善行の途中。しかも友達とアイスを食ってるだけだし、不幸になる要素など1つもなさそうだ。

 

 

「へっへっへ、お嬢ちゃんいい格好しますなぁ~」

「本当にオヤジみたいになってるわよ!? こ、こっち来るなぁぁああああああああああああ!!」

 

 

 その時だった。エロオヤジと化した千歌から逃げようとした善子だが、自らの脚が絡まってしまい身体がよろけ、顔から地面に叩きつけられそうになる。だがしかし、聞こえてきたのは"べちょ"という鈍い液体音のようなものだった。

 

 

「善子ちゃん!? 大丈夫……?」

 

 

 善子は脚が絡まった衝撃でアイスを地面にぶちまけてしまい、その現場へ向かって綺麗に顔が突っ込んでいったのだ。しばらくの間アイスに顔を密着させたまま動かなかったのだが、いざ顔を上げてみると案の定いちごアイスが顔面パックのようになっていた。

 

 

「もうっ! どうしてこうなるのよぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 次に善子が向かったのは果南の家でもあるダイビングショップだ。夏だから観光客が増えているらしく、最近人手が足りないと果南がぼやいていたのを思い出したらしい。果南も最初は巫女姿の善子に驚きはしたが、運気を上げるためだと説明されたら一瞬で納得した。もう善子の運の悪さはそれほどまでに認知されているのだ。

 

 そして今回も俺たちは遠目で彼女の様子を観察しているのだが――――

 

 

「善子、このバケツを店の入口まで運んでくれる?」

「はいはい」

「どうしてそんなにやる気なさそうなの……? そっちが手伝ってくれるって言ったのに」

「この格好でせっせと働かせるなんて、どうも見世物にされてる気がするのよね」

「誰に?」

「先生」

「あぁ~納得」

 

 

 俺が働く女の子ですら怪しい目で見ていることも既に認知されているみたいだ……。でも仕方ないだろ、巫女服を着た女の子が汗水垂す姿に目を惹かれない男はいない。

 

 

「でもこのバケツの中って海水しか入ってないけど、一体なんなの?」

「水質調査のためだよ。ダイビングショップを経営している以上、自分たちで海を清潔さを保たないといけないしね」

「へぇ~インストラクター以外にもそんな仕事があるのね」

「もしかしたらクラゲがいるかもしれないから、一応毎日水質チェックはしてるんだよ」

「く、クラゲ!?」

「そうそう。もしかしたらバケツの中にいるかもね」

「え゛……!?」

「そうだ。最近砂浜にヒトデがよく打ち上げられているから、踏んで滑らないように気を付けて」

「はぁ!?」

 

 

 無自覚フラグ乱立ウーマン松浦果南により、善子にも俺たちにも悪寒が走る。

 果南も善子の体質を分かっていてフラグを立てているのかそうでないのか……。アイツは『もし~だったら』とか『~に気を付けて』なんて言葉は余すことなく全て回収してしまう。それだけ不幸に愛された人間であり、そしてエンターテイナーでもあるのだ。

 

 まさしくその直後に運命が傾いた。善子は予定調和かのように砂浜に打ち上げられていたヒトデを踏むと、今度は後頭部から倒れ込んだ。そうなればもちろん持っていたバケツもひっくり返る訳で……。

 

 

「きゃあっ!!」

「善子!?」

 

 

 バケツがひっくり返り、中の海水が砂浜へとぶちまけられる。

 水も滴るいい巫女さんと言うべきか、善子はなんとか尻餅をついて後頭部挫傷は逃れられたが頭から海水を被ってしまい、どう見ても素人企画モノのビデオ撮影の現場にしか見えない。ここまで綺麗にフラグを回収してくれると、企画モノとしては最高の女優になれると思うぞ。

 

 

「大丈夫? だから注意してって言ったのに」

「言うのが遅いのよ!! まあ早くてもこうなってたんでしょうけど――――ひゃぅっ!!」

「ど、どうしたの?」

「む、胸元ににゅるにゅるした何かが……!!」

 

 

 彼女に降りかかる災厄はまだ終わっていなかった。透明のジェル状のようなものが巫女服の隙間に侵入していたのだ。さっきの騒動で巫女服が少し脱げかけている都合上、そのジェル状の物体は簡単に善子の胸に寄生してしまった。

 

 

「それって……クラゲ?」

「はぁ、あぁんっ! どこ入ってるのよコイツ!! んっ、あぁっ、は、早く取って!!」

 

 

 これは運命的だ! 今すっげぇいい現場に遭遇した気がする! 俺は無意識に携帯で善子がクラゲに(なぶ)られる光景を、AV監督の気分で動画撮影していた。

 

 既に胸の先端から谷間までクラゲに侵食され、抜き取ろうにも快感のある刺激にすっかり力が抜け落ちている善子は手も足も出なかった。砂浜にペタンと座り込んだまま、クラゲの触手で胸の先端に絡みつかれるその快楽は今まで味わったことのないものだろう。海水とクラゲの粘液をローションのようにたっぷりと練りこまれ、滑らかに胸を刺激され続けている。頬が真っ赤に染め上がり、口からも吐息と淫声がいやらしく漏れ出す。ここまでの快感でねっとりと攻められたら、もうクラゲ以外ではイけなくなる身体になっちまうぞ。

 

 

「あっ、んっ……取って! もう素手でもいいからぁ~!!」

「滑るから素手で取れるわけないでしょ! 手袋持ってくるからもう少し待ってて!」

「もうっ、またこんなことにぃ~……んっ、はぁああんっ!!」

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おい、魂抜けてるけど大丈夫か?」

「どこをどう解釈したら大丈夫そうに見える訳……?」

 

 

 結論、巫女さんに転職して善行をしても神には愛されなかった。

 結局その後も花丸やルビィに接触して奉仕活動に従事したのだが、どこへ行ってもどう注意しても最終的には全て善子が割を食う結果に終わってしまった。善子だけが世界から切り離されているような光景を見て、俺も希も最後の方なんて苦笑いすらできなかったからな……。

 

 

「こんなに恥ずかしい格好までしてみんなに媚まで売ったのに、全然運気上がってないじゃない!」

「これはもう善子ちゃんがただの人間ではないと考察するにほかならないかも」

「やっぱりヨハネは堕天使だったのよ。そう結論付けないとやってられないわもう……」

 

 

 善子の目はもう俺たちを捉えていない。ていうかこの世界を映し出しているのかすら怪しいくらい遠い目をしていた。今まで幾度となく自分は堕天使ヨハネだと名乗り、今回自分は人間離れした体質だということが分かったのにも関わらず、さっきからずっとこのどんよりムードである。

 

 

「あっ!!」

「どうした?」

「100円……見つけた。これで私の奉仕活動も報われたってことね」

「もう運に対する価値観が死んでるぞ!? そんなちっぽけな幸せでいいのかお前!?」

 

 

 道行く人が気付かずに踏んだせいか、その100円玉は土でボロボロになっていた。だが善子はその100円を空に掲げ、まるで荒廃した土地に咲く一輪の花を見つけたかの如く感動している。そんな姿を見ていると、ツッコミを入れたくなるが感傷に浸らせてやりたいと思っちまう。まあ本人が幸せに感じるならそれでもいいけどさぁ。

 

 

「それじゃあ善子ちゃん、最後の奉仕活動してみよっか」

「最後……? もういいわよ、どうせロクな目に遭わないんだし」

「大丈夫。絶対にご利益あるから♪」

「だったら最初にそれを教えなさいよ……」

「好きなものは最後に食べる、主役は後からやってくる、その理論と同じや♪」

「なによそれ……まあいいわ、この際だから最後まで付き合ってあげるわよ。で? 何をすればいいの?」

「零君にご奉仕た~いむ!」

「「は……?」」

 

 

 俺も善子もきょとんとした顔で希を見る。

 そして善子の表情が段々と曇り、やがてこちらに自慢のツリ目を更に鋭くさせて睨みつけてきた。

 

 

「さっきも言ったでしょ先生だけには奉仕したくないって! 何をされるのか分かったものじゃないわ!!」

「でも零君にご利益があるのは本当だと思うんよ。だってウチの運が良くなったのは、零君と知り合ってからやしね」

「えっ、そうなのか?」

「うん。小さい頃から自分はツイてるなぁとは思ってたけど、それを顕著に感じるようになったのは高校で零君と出会ってからやから」

「こんなド畜生の変態セクハラ教師が?」

「もうやめてくれそのあだ名……」

 

 

 せっかくいい話になりそうだったのに、不名誉なあだ名のせいで一気にテンションダダ落ちなんだけど。それに今後そのあだ名が浸透しそうで戦慄するんだが……。

 

 

「ほらっ! 零君にご奉仕しておいで!」

「うわぁっ!!」

「おっと!」

 

 

 希に背中を押された善子は、その勢いを抑えきれず俺の胸へと飛び込んできた。

 そして再びお互いに抱きつく形になるこの構図。巫女服がしっとりと濡れているのはさっき海水を浴びたからだろうが、頬や首元に付着している水滴は恐らく汗だろう。やはり口では強がりを言っていても、心の中では自身の不幸体質に相当焦っているに違いない。もしかしたら俺と密着していることでまた何かしら不運が舞い込むのではないかと緊張しているんだろう。頬もほんのりと染まってるし、そりゃ今までの仕打ちを考えたら警戒もするか。

 

 

「離れないんだな。さっきはすぐ俺から逃げたのに」

「変態の先生は女の子にこうされるだけでも嬉しいでしょ……? だから抱きつくことがご奉仕の一貫なのよ……」

「そうか。まあ嬉しいのは事実だけど。俺さ、お前に嫌われてるかと思ってたから」

「別に嫌いでもないし好きでもないから、変な勘違いしないで。それに嫌いだったらこんなことしないわよ」

 

 

 確かにそうだわ。でも嫌われていないって事実を知れただけでも俺にとっては大収穫だ。今の今でずっと好感度メーターが底辺を辿ってると思ってたから。

 

 

「お前が俺に相談を持ちかけてきた時、ちょっと嬉しかったんだ。俺を教師として頼ってきてくれたことがな」

「た、たまたまよ! たまたま先生が教室にいて、たまたま私がその教室に入って、たまたま会話の流れでそうなっただけだから」

「はいはい、たまたまだなたまたま」

「う、うるさい!!」

 

 

 俺が頭を撫でてやると、善子は俺に表情を悟られぬよう胸に顔を完全に埋めてしまう。そして腕にも力が入り、抱きつく力も強くなる。

 彼女は他人を放っておけない優しい性格だから、自分の不幸体質で誰かを巻き込むことを危惧して誰にも相談できなかったのかもしれない。そして今回やっとその思いをぶちまけられて気持ちが軽くなった、というのが抱きしめているとなんとなく分かる。もしかしたら俺だったら自分の不幸体質に巻き込ませてもいいと考えてるかもしれないが、その時はその時だ。一緒に巻き込まれてやる覚悟くらい相談された時からある。それで彼女の不運を少しでも和らげられればいくらでも。

 

 

「もしお前が一生神に愛されなかったとしても、俺は一生お前を愛するから。だから心配すんな」

「あ、ありがと……」

 

 

 俺からは善子の顔は見えない。だが身体がみるみる熱くなってきているのは分かる。そんな変なこと言ったかな……?

 

 そして俺たちの隣では、希が満足そうな笑顔でこちらを眺めていた。

 

 

「お前まさか、この展開狙ってた?」

「さぁ~?」

 

 

 希は笑顔を崩すことなくそう答えた。

 やっぱ敵わねぇなコイツには。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 翌日。またしても善子が教卓でレポートを書いている俺の横を陣取っていた。

 

 

「今日も朝からトーストを落としてジャムを塗った面が床に密着するわ、登校中に2度も子供が蹴ったサッカーボールがこっちに飛んでくるわ、国語も数学も英語もどの授業でも私が先生に当てられるわ、さっきも掃除が終わって帰ってくる時に屋上掃除をしていた班のバケツが上から降ってきてびしょ濡れになるわで散々だったのよ。もうこの体質改善してよ先生!」

「いや無理だわ……」

 

 

 愛するとは言ったが改善してやるとは言ってない!!

 




 たまにちょっぴりイケメンな彼を描写したくなる定期。それにしても毎回セリフが告白みたいになっているのでAqoursのみんなも勘違いしちゃいそう(笑)

 次回は秋葉さんとAqoursのターン!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

デレ度MAX、SAN値ゼロ!(前編)

 Aqours編に入ってから初めての秋葉さん回。
 でも彼女の出番が多いかと言われると……うん()


「はぁ? 浦の星に行くだとぉ?」

「そうそう♪」

 

 

 いつも通り2人で食卓を囲み飯をつついていると、唐突に秋葉が浦の星女学院侵攻作戦を計画していたことを知らされる。さっきまでの世間話の流れをぶった切ったあまりに突発的な告知だったので、俺は思わず箸で摘んでいた唐揚げを床に落としてしまった。しかし秋葉は自分の作った唐揚げを落とされても顔色1つ変えず、むしろなにか企んでますよ的な笑顔を浮かべている。もうこの時点で危険信号が点っているんだが……。

 

 

「いきなりどうしてそんなことを?」

「零君が大層ご執心なAqoursのみんなを生で見てみたいなぁと思ってね。彼女が12人もいる男が性懲りもなく手を出すような女の子たちなんだから、みんな可愛いんだろうなぁ~」

「それを言うなよ心が痛むだろ……。それにな、まだ手を出してない」

「まだ?」

「あっ……くそっ、ハメやがったなお前」

「自爆したくせに何言ってんだか」

 

 

 秋葉は憎たらしい表情で口角を上げ、俺を見下すように嘲笑う。

 自爆したってのは認めるが、失言をしたとは思っていない。大っぴらに言えないことは確かだけど、俺は欲しいものは物であろうが女の子であろうが必ず手に入れたい自己欲の塊だから。しかもそれなりにAqoursのみんなからの好感度も高まってきつつあるし、中にはいい感じに俺へ恋愛光線を向けている子もいる。言ってしまえばまだ手を出してないってのは語弊があって、もう手を出していると言った方がいいのかも。

 

 しかし今はコイツが浦の星を襲撃しようとしている件だ。秋葉に目を付けられたら最後、人間は灰となり物や建物は塵と化してしまうぞ……。

 

 

「なによその目は、もしかして私が好き放題暴れるんじゃないかって危惧してる訳?」

「当たり前だろ。俺たちは実験モルモットじゃないんだよ」

「…………!?」

「いや、えっ嘘みたいな顔されても困るんだが……」

 

 

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い! やっぱコイツ本気で俺たちを実験のサンプルにする気満々じゃねぇか!! いい大人のくせに可愛く首を傾げやがってこの野郎……。

 

 

「まぁまぁ心配しなさんな。ちょっとご挨拶に行くだけだから。()()()()()にね♪」

「何故2回言った何で強調した!?」

「もうっ! どうして零君はいつもお姉ちゃんを信用してくれないの? 家族なのに……家族なのにぃ~!! いいよ、お姉ちゃん泣いちゃうから!」

「いや嘘泣きすんな。そもそも信用は勝ち取るものだ。お前、一回でも俺たちの信用を勝ち取るための行動をしたことあるか?」

「それじゃあ明日、浦の星にお邪魔するね♪」

「誤魔化すんじぇねぇよ……」

 

 

 どんな目的かは知らないが、俺が止める間もなく秋葉の浦の星襲来が決定してしまった。

 そういや秋葉はライブ映像などでAqoursを知ってるけど、Aqoursのみんなは秋葉のことなんて全く知らないんだったっけ。唯一ことりの来訪時に曜がコイツと出会っているが、あの淫乱鳥が場を掻き乱していたせいで大した会話はしていないはずだ。だからもう全員が秋葉のことを初見なのか。まあ知りたいかどうかは別として……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして翌日、学院に着いて間もなく事態が急変した。

 俺さっきから――――――女の子たちに囲まれてるんですけど!?!?

 

 

「せんせぇ~大好きぃ~♪」

「先生の背中大きくて逞しいですぅ~♡」

「あぁ~先生いい匂い~♪」

「先生のおっきなココが欲しいよぉ~♡」

 

「な、なんなんだよお前ら!!」

 

 

 学院に着くやいなや、いきなりたくさんの女子生徒に押し倒され抱きつかれで一瞬でハーレム状態になった。女の子特有の甘い香りに包まれ脳みそが蕩けそうになるが、ここで倒れたらそれこそ彼女たちのお人形になってしまうので必死に堪える。

 

 つうかどうしてこんなことになってんだ!? 元々この学院の女の子たちは俺にかなり好意的だったのだが、ここまでベタベタと抱きついてくることはなかった。そもそも1人の男を数十人の女の子がお出迎えだなんて正気の沙汰じゃない。これは何かの陰謀か……そう、確実に()()()のな。

 

 そうと分かればコイツらを引き剥がしてこの騒動の真相を確かめに行かなければならないのだが、俺を囲う女の子たちが身体のいたるところに胸を押し付けてくるため力がヘナヘナと抜けていく。それに今日のこの子たち、頬がピンクに染まっていてちょっぴり大人っぽく見える。化粧は校則で禁止されているので自然体なのだろうが、むしろ自然体だからこそ感じる女子高生特有の甘い色気がある。そう思うと少しはこの大ハーレムを堪能してもいいかも……。

 

 

「せんせぇ~ちゅーしよちゅ~!!」

「あぁっ! ず~る~いっ!!」

「もちろんあたしからだよね、先生♪」

「私は先生のココにちゅ~しちゃおうかなぁ~♡」

 

 

 女の子同士に取られ合うシチュエーションっていいよな。オーソドックスだけど、多人数に受け入れてもらえるからこその王道なのだ。ちなみにさっきから1人だけ危険な発言をしている子がいるが、ここは敢えてスルーしよう。

 

 そういや1つ分かったのだが、この子たちの喋り方が非常にふんわりしている。酔っていると言えば一番分かりやすいか。もちろん酒の匂いは微塵もしないので、恐らくあの悪魔(あきは)に何か仕込まれたのだろう。でなきゃ華の女子校生たちがこんな発情期みたいなテンションで絡んでくるはずがない。どれくらいこの子たちが激しいのかと言うと、俺が手を出そうとしても出す前に向こうから触られに来るくらいには全員末期だ。

 

 

「先生。千歌が一番だって言ってくれたのに……」

「千歌!? お前いたのかよ!? しかも顔真っ赤だし」

「部屋で一緒に抱き合って愛し合って、そして1つのベッドで絡み合ったまま一夜を共にしたのに!!」

「おい待て。お前の家にお邪魔したのは事実だがお前の言ってることは事実無根だ!!」

 

 

 いつの間にか腕に絡みついていた千歌は、周りに無数の女の子がいるのにも関わらず存在しない事実を大声で漏らす。いや、たくさん女の子がいるからこその虚言なのか……。でもこれでみんなが俺のことを幻滅して離れてくれるかも? 正直腑に落ちないがこの際仕方がない。

 

 

「先生ったら高海さんともうそんな関係に!? だったら私とも一緒に寝てよね!!」

「先生今日私に勉強教えてくれるって言ったよね!? それじゃあ保健体育の授業を……♡」

「私は保健委員ですから、保健室のベッドの確保はお任せください♪ いつにしますか今すぐ確保しますか??」

「もうっ! 先生は千歌と愛し合ってるんだから取っちゃダメぇえええええええええええええ!!」

「うぐぐぐ……!!」

 

 

 千歌とその他女の子たちに顔まで埋め尽くされるくらい抱きしめられ、とうとう息苦しくなってくる。しかもちょうど俺の顔面に千歌の胸がダイレクトにヒットしているため一概にこの状況が悪い訳ではないのが困るところだ。千歌は他の女の子たちに俺を取られまいと必死に俺の顔を胸に抱きかかえ、女の子たちも負けじと身体のいたるところに絡みついてくる。中には下半身を狙ってくる痴女もいるみたいで、優しく手を触れられ下半身に血液が集まっていた。

 

 このようにみんなヤる気満々のハーレム地獄を堪能している訳だが、流石にこんなくだらないことでこの子たちの処女を散らす訳にはいかない。なんとかこの場だけでも脱出しないと……なにより秋葉の思い通りに事が進行しているのが気に食わん!!

 

 打開策を見つけるため死に物狂いで辺りを見回してみると、女の子集団の隙間から梨子がこちらを眺めているのが見えた。千歌に顔を抱きしめられているこの状況では満足に声は出せないので、腕を闇雲に振って彼女にSOSを求める。

 

 すると梨子は頬を染め、女の子たちを掻き分けこちらに近寄ってきた。どうやら俺のジェスチャーが上手く伝わったらしい。梨子は破廉恥行為絶対許さないマンだから、この状況にも厳しく一喝してくれることだろう。いやぁ助かった助かった!

 

 

「先生……」

「いいところにいて助かったよ。早く俺をここから――――」

「まさか直々にご指名いただけるなんて!! 私嬉しいですっ♪」

「え゛っ!? う、うぐぐっ!!」

「り、梨子ちゃん!? 千歌から先生取らないでよぉ~!!」

 

 

 どうして俺は梨子だけが冷静でいられると思っていたのだろうか。そうだよ、みんながほろ酔い状態なら梨子もそうに決まってんじゃねぇかアホか俺!! 今度は梨子の胸に顔を抱き寄せられ、彼女の若干慎ましやかな胸が鼻頭に当たりいい心地で―――――じゃなくって、この状況どうすんの!? いや気持ちいいのは確かだけどさぁ……。

 

 そして梨子の胸の心地良さや女の子たちのボディタッチが激しすぎて気付くのが遅れたのだが、段々とズボンが脱がされているような気がするんだが!? さっきからやけに痴女発言が多い子もいたし、一体誰なんだソイツは??

 

 俺は千歌や梨子、女の子たちを身体から丁寧に引き剥がす。上半身を上げれば俺の下半身に取り付いているビッチちゃんの正体が判明するはずだが――――――

 

 

「お、お前……」

「あっ、せんせ~♪ おはようございます!」

「おはようじゃねぇよ何やってんだ曜!! てかさっきから下半身弄ってたのお前か――って言ってる傍からズボンのチャック下ろしてんじゃねぇよ!!」

「だってことりさんが男は下半身さえ支配してしまえば心も物にしたも同然と言っていましたから!」

「ありとあらゆる世界の格言でアイツの話だけは絶対に信用すんな――だからチャック下ろさず話を聞けって!!」

 

 

 曜は口でズボンのチャックを下ろすという超絶興奮するシチュエーションを繰り広げる。

 だがこのままでは本当に性器を露出させられるのでなんとか彼女を手で押さえつけようと画策するが、引き剥がした女の子たちが再び俺に取り付いてきたので上半身がガッチリホールドされている状態になる。意図せず協力プレイしているこの子たちだが、このままだと学院内で性器を露出したくさんの女の子に見られている中で口淫をされるという羞恥を背負わされるはめになる。

 

 どうすんだよ……? このままだと女の子たちに視姦されながら無様に白濁液をぶちまける情けないM男みたいになっちまうぞ!?

 

 

 

 

「はいは~い! みんな静粛に~!」

 

 

 

 

「ま、鞠莉……?」

 

 

 救世主というのはこのことか、突然集団に割り込んできた鞠莉の一声で場が一気に沈静化した。学院内では帰国子女かつその天真爛漫な性格から圧倒的な存在感を放つ鞠莉。だからみんないくらほろ酔い状態であっても彼女に注目せざるを得ないのか。

 

 モーゼの十戒のごとく女の子たちが道を開け、鞠莉がゆっくりとこちらに近づいてくる。その表情からは何も読み取れないが、もしかしてコイツも他の女の子たちみたいに俺を玩具にして遊ぼうとしているのだろうか……ありえる、鞠莉なら。

 

 

「先生、very hardだったね♪」

「えっ、助けてくれんの……?」

「そりゃ理事長としてはキャバクラみたいなこの状況を放っておけないし」

「そうかそうだよな……助かる」

 

 

 学院の全生徒が惚れ薬状態になっているのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。流石にあのままでは身体が色んな意味で持たなかったので、ここで一呼吸置けるのは助かるよ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「先生はやっぱり、1年生のような初々しい女の子の方が好き?」

「ちょっ、鞠莉!?」

 

 

 一呼吸置くとは一体なんだったのか、鞠莉は椅子に縛り付けられている俺の膝に跨って正面から抱きついてくる。さっきの女の子たちとは比べ物にならない豊満な胸が俺の胸で自在に形を変え、まるで手で触っているかのように弾力のある感触が伝わってくる。制服の上からでもこの柔らかさ、もしかして……着けてない??

 

 結局助けてくれるとは口実で、生徒会室へ逃げ込んだ瞬間に鞠莉に羽交い締めにされ椅子に縛り付けられた次第である。聞くところによればさっきの女の子たちもみんなグルだったようで、こうして俺を拘束した後にみんなで美味しく頂こうという策略のようだ。つまりこのまま時間を浪費すればさっきの女の子たちが雪崩混んでくる訳で……もうそうなったらテクノブレイクは必死だ。

 

 

「この学院の生徒は子供っぽい子が多いから、私でちょっぴりドキドキする体験……してみない?」

「お、おい!!」

 

 

 鞠莉はリボンを外し、制服の上2つのボタンを取る。そうなればもちろん彼女のふくよかな胸の谷間が顕現する訳で、逃げようにも男の本能でその谷間に釘付けとなってしまう。正直その隙間に手を突っ込みたくて仕方がないのだが、それだとコイツの思う壺になってしまうのが癪だ。そしてそれ以前にこの事態の背後にいる秋葉の計略にまんまと引っ掛かる気がするので余計に癪だ。

 

 

「先生!! さっきから大勢の女性の囲まれ、鞠莉さんに抱きつかれデレデレと……」

「だ、ダイヤ……お前もいたのか。そう思うなら鞠莉を引き剥がしてくれよ」

「わ、私にも構ってくれないと、この窓から飛び降りますから!!」

「はいぃいいいいいいいいいいいいい!?!?」

 

 

 ダメだ、まともな奴は1人もいないと思った方がいい。今までの女の子たちは千歌や鞠莉を含めてみんな俺にデレッデレなのだが、何故かダイヤはメンヘラ。ただでさえ鞠莉だけでも手強いのに、そんな捻じ曲がったキャラで来られたらもう対処できねぇぞ!

 

 

「先生は私と鞠莉さん、どっちを取りますの!? もちろん私ですわよね!? なんたってこれまで幾度となくあなたに愛情を伝えてきたではありませんか!!」

「知らねぇよそんなこと! むしろAqoursの中ではお前が一番お堅いんだが!?」

「そうですか伝わっていかなったのですか……飛び降ります」

「お、おい待て待て!! 好きだから、お前のこと好きだから!!」

「先生? 私のことを好きだって言ってくれたのはウソだったのぉ~? もしここで私を選んでくれれば、私の身体を先生の好きなだけめちゃくちゃにしていいよ♪」

「マジ……? 鞠莉の身体を好きに……!?」

「先生が鞠莉さんに寝取られてしまいましたわ!! 飛び降ります……」

「あぁもう面倒だなクソッたれ!!」

 

 

 みんなのキャラがいつもと違うとここまで疲れるもんなのか……。鞠莉もダイヤも俺にデレてはいるみたいだが、片方は誘惑、もう片方は自暴自棄と1人1人対処の仕方が違いすぎて逐一反応するだけでも疲労が半端ない。しかも椅子に縛られっぱなしで動くこともできないし、もしかしたらさっきの女の子集団がこちらに攻めてくる可能性があることを踏まえると、もう俺のSAN値がやべぇ……。

 

 

「もう先生! いつも女の子には鼻の下を伸ばしてるのに、こうしていざとなったら臆するヘタレだったの!?」

「違う! 俺は女の子を攻める方が好きなんだ! 自らの手で女の子を俺の魅力に没頭させていくのが快感なんだよ!!」

「それなのに先生は私が飛び降りようとしても助けに来てくれさえ来ない……」

「縛られてるからな! そう思うなら先にお前が俺を助けろ!!」

 

 

 もう正気を失いそうなくらいさっきから大声で叫んでいるような気がする。ダイヤはこちらを見ながら目をウルウルとさせ必死に構ってちゃんを演じているが、鞠莉に股間を膝で軽く攻撃されているため身動きが取れないどころの騒ぎではない。校門で曜にずっと触られていたためずっと大きくなっていた性器に更に追撃を掛けられていることで、下半身にピリピリとした刺激が走り満足に声も出せなくなってきた。

 

 

「ほら先生苦しいでしょ? もう出しちゃお? びゅ~びゅ~ってね♡」

「くっ、あぁ!!」

 

 

 女の子に上から乗っかられた状態で出すなんてシャレにならねぇぞ! しかも生徒に拘束されてズボンの上から出して下半身をぐしょぐしょにした教師なんて事実、他の奴らに知られでもしたら恥ずかしすぎてもう生きていけない。こんな死屍累々な状態なのにメンヘラダイヤちゃんの動向も伺わなきゃいけないしで散々過ぎるだろ!!

 

 

 

 

「はいはい、鞠莉もダイヤもちょっと落ち着いてね」

「か、果南!?」

「お前……!?」

「は、離して! 今から私と先生のディープな時間がぁ……!!」

 

 

 カオスな空気の生徒会室へ入ってきたのは、Aqoursのまとめ役である果南だった。鞠莉の首根っこを掴み、やや乱暴に俺から引き剥がす。最初は果南もキャラ替わりしているのかと警戒していたが、様子を見る限りではそんなことはない……と思う。もしかしたら俺の救世主様になってくれるのか……? でもこれでさっき痛い目見たしなぁ。

 

 果南は俺の後ろへ回り込むと、俺に装着されていた拘束具を手早く外してくれる。これがインストラクターの手付きかと感心している間にも、もう俺の身体は自由になっていた。

 

 

「今度は果南さんに私の先生が寝取られてしまいましたわ……飛び降ります!!」

「そう言ってそんな気は一切ないんでしょ? さっきからずっと飛び降りる詐欺してるから」

「うっ……!!」

「もう先生! 私よりも果南を取るって言うの!? こんなに身体をめちゃくちゃにしてきたのに!?」

「それは鞠莉が自分で脱いだんでしょ」

「くっ……!!」

「ほら先生行きましょう。ここは危険です」

「あ、あぁ……って、そんなに強く手握らなくてもいいから」

 

 

 俺は果南に半ば強引に手を引っ張られ生徒会室から脱出した。絶えず襲いかかる荒波のような女の子たちの襲撃を回避し一抹の安息を覚える。それになによりこのズボンの盛り上がった部分をどうにかしないと……。

 

 だが、俺はそんな安心感のせいで気付いていなかった。

 

 

 どうしてさっき生徒会室に入ってきた果南が、ダイヤが何度も飛び降りようとしていたことを知っているのか――――

 

 どうして鞠莉が自分から脱いだってことを知っているのか――――

 

 どうして逃げるだけなのに、ここまで手を強く握るのか――――

 

 

 

 

To Be Continued……




 いつも描いているキャラが全く別の性格になると、あっ意外に可愛いと新たな一面に気付けるのが小説のいいところだったり。皆さんもこの小説を読んでそんな経験があると思います。

 次回はしっかり秋葉さん登場させますので!(笑)
 前後編と分けていないのですが、次回はこの騒動をとっとと終わらせて秋葉さんに出演してもらいたいと思っている次第です(予定)


それでは感想&☆10評価お待ちしています!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

デレ度MAX、SAN値ゼロ!(後編)

 デレデレ、メンヘラ、ヤンデレ、ツンデレ、クーデレetc……皆さんはどのキャラが好きでしょうか?

 ちなみに私はブラコンの妹が好きです()


 

 果南に手を引かれ、俺は廊下と階段の空きスペースへと連れ込まれる。

 ここへ来る途中での会話は一切なく、彼女は俺の前を早足で歩くばかりだった。本当なら果南も他のみんなみたいに頭がイっちゃってるかどうかを探るべきなのだろうが、千歌や鞠莉、その他大勢の女の子たちの暴走で疲れきっていた俺にそんなことを考える余裕はない。思っているのはただ果南がまともであってくれという願望だけだ。それにしても手を握る力が強すぎるのは何とかならないものか……。

 

 

「おい果南、ここまで来ればもう手を離してもいいんじゃないか? お前の爪が手に食い込みそうだしさ……」

「先生は……」

「ん……?」

 

 

 さっき生徒会室へ乗り込んできた時と比べてやけにトーンが低い声だ。元々コイツの声はそこまで高くはないのだが、それでも少しドスが効いているというか、やや怒りが篭っているような気がする。もしかして俺があまりにも女の子たちに甘かったから怒っちゃった? 教師としてはあんな状況でもビシッと叱ってやるべきだったんだろうか。

 

 

「先生は、どうして他の女の子と喋ってるんですか?」

「えっ、どうしてってアイツらが襲い掛かってきたんだぞ」

「そうですよね。先生を放っておくから他の女に襲われるんですよね……」

「お、おい果南??」

「刻み込んでおかないと……先生が私のものだってことを」

「あっ、うぐっ!!」

 

 

 ずっと俺に背を向けていた果南だが、突然こちらを振り向くとそのまま突進して俺を廊下に押し倒した。毎日のストレッチで鍛えられているからか、さっき大量の女の子に取り押さえられていた時よりも果南1人の拘束力の方が数倍強い。

 そしてここで初めて彼女の表情を見た。いつも澄んでいる目が歪んでいたのだが、俺と目が合うと捕食するかのように据わり出す。この焦点が合いつつも濁った目は――――はい、どう見てもヤンデレです本当にありがとうございました。

 頬は赤み掛かっており、何を興奮しているのかはぁはぁという卑しい吐息がはっきりと聞こえてくる。Aqoursの中でも学院の中でも大人の女性っぽさに近い彼女。だからこそその吐息はどこか色気を感じてしまい臆してならない。果南の様子がおかしいのは重々承知だが、男の性欲の高鳴りに抗うことはできなかった。

 

 ここで俺は果南の不可解な行動を今になって気づく。何故コイツは生徒会室にいなかったのに鞠莉が勝手に脱いでいたことやダイヤが何度も飛び降りる詐欺をしていたことを知っていたんだ……?

 

 

「先生が考えていること分かりますよ。教えてあげましょうか……」

「なんだよ……」

「私は先生のことなら何でも分かっちゃうんですよ。いくら遠く離れていても、愛さえあれば何でも分かっちゃうんです……」

「そ、そうか……だったら俺から離れてくれ。俺のことが分かるんだったら、俺の気持ちも分かってくれるよな?」

「いいですよ。でも他の女と話していたので、そのお仕置きを済ませてからです」

「お仕置きだと……」

「はい。先生の唇や頬、首筋から足のつま先まで全部私のマークを付けちゃいますから。安心してください、ファーストキスですよ」

「誰もそんなこと聞いてねぇよ! いやファーストキスじゃなかったら誰とやったんだと問いただしたいが――――ってええぇい!! そんなことはどうでもいいから離れろ!!」

 

 

 いくら果南が日々鍛えていようとも、成人男性の力に敵うはずがない。だから押し倒されたこの状況を無理矢理好転させるのは造作もないのだが、力強く押さえ込まれているため俺もかなりのパワーで押し返さなければならない。もちろんそうなれば果南の身体は廊下に叩きつけられてしまう訳で、いくら危険な状況でも女の子を傷付けることはしたくない。そんな俺の性格を彼女は分かっているのだろう、抵抗されることなど考えず容赦なく顔を、そして唇を俺の唇に近付けてくる。

 

 ぷりっとした、見ただけで肉厚と分かる美味そうな唇が迫る。最悪マウスtoマウスだけは回避できるよう首を捻って首筋を見せつけるが果南は見向きもしない。彼女の狙いはまず俺の唇のようだ。

 

 

「ねぇ先生。私と――――キスしよ?」

 

 

 果南の口から聞くと圧倒的な包容力のあるセリフである。

 だが裏にヤンデレ特有の野望が見え見えだから騙されないぞ俺は!!

 

 そうカッコつけても抵抗しようにも抵抗できないこの状況、さぁてどうするかね……。

 最悪首筋に跡を付けられるのは許容する覚悟で必死に頭を回転させていると、果南の背後にうっすらと人影が現れていることに気が付いた。

 

 

「必殺! シュバルツシルト!!」

「あうっ!!」

「えっ、何だ何だ!?」

 

 

 突然果南の頭に何かがぶつけられたと思ったら、彼女はそのまま目を回して俺の胸に倒れ込んできた。どうやら気絶しているようだが、一体誰が……?

 

 

「危ないところだったわね、先生」

「善子か……」

「マルたちもいるずら!」

「花丸とルビィも!?」

「ギリギリのところで間に合ってよかったです」

 

 

 俺を助け出してくれたのは善子、花丸、ルビィの1年生組だった。どうやら善子が右手にゴスロリの折りたたみ傘を持っていることから、それで果南を殴って気絶させたのだろう。先輩に対して容赦ねぇなコイツ……。まぁ俺だけではあの状況の打破は難しかったから感謝するべきなんだろうけどさ。

 

 でも助けてくれたからといって安心するのは早計だ。さっきみたいに果南の例があるから、何食わぬ顔で手を差し伸べてくれるコイツらにも警戒せざるを得ない。しかし果南とは違って暗い雰囲気もなく、表情もいつも通りで普段と全然変わっているところはない。もちろんそう油断させる彼女たちの手かもしれないから、決して気を緩めはしないけど。

 

 

「とにかく、助けてくれたことには礼を言うよ。ありがとな」

「べ、別に先生のためじゃないですから!」

「えっ……?」

「き、聞こえませんでした!? 先生のためじゃないからと言ったんです!」

「いや聞こえてたけど、どうしたんだ――――ルビィ?」

「勘違いしないで欲しいずら! 先生を助けたのはあくまでついでですから! フンッ!」

「花丸まで?!」

 

 

 分かりやすいツンデレを発揮するのはこのメンバーでは善子だと思っていたので、唐突に花丸とルビィが楯突いてきたのには驚いた。2人は可愛らしい目を釣り上げ、その様子は某西木野お嬢様を彷彿とさせる。なるほど、花丸もルビィもツンデレキャラな訳ね……。だが西木野のお嬢様と違うのは、いかに怒ってますよアピールをしても子供のような可愛さしかないってことだ。見ていて初々しいというか、ツンツンされているのに和んでしまう。

 

 

「ルビィたちは先生を助けたんじゃないです! 果南さんの純潔を守るために敢えて果南さんを黙らせたんです!」

「だから自分が助けられたとか思って欲しくないずら! 勘違いも甚だしいです!」

「そもそも変態の先生なんて助ける訳ないじゃないですか!!」

「押し倒されたくらいでデレデレして、本当に変態なんですから!!」

「なんだろう、変態って言われ慣れてるのに心にグッサリ来るこの感じは……」

 

 

 花丸とルビィは普段俺を貶すことがないため、2人からこうして真っ向から罵倒されると心がサンドバッグのように甚振られる。普通のツンデレちゃんだと声が尖っているからある程度覚悟はできるが、2人のような声がゆる~い子から罵倒されるのは変な快感が生まれそうだ。これだと俺がMだと思われちまうな……。

 

 だが言っておくぞ、ツンデレの対処法なんて5年前から心得てるんだよ!!

 

 

「そっかぁ……そうだよな、俺ってお前らに嫌われてるんだし仕方ないよな。はぁ~……」

「ちょ、ちょっとそんなため息付かないでください! ま、マルは先生のこと好きですから! あっ、好きっていうのはそういう意味じゃなくってあのぉ、そのぉ……」

「ルビィも少し言いすぎたと言いますか、先生のことは嫌っていないと言いますか、でもでも好きと言われるとそれは……う、うゅ……」

「はぁ~……やっぱり俺のことは嫌いなのかぁ~」

「「す、好きです!!」」

「え? 好き? 今好きって言ったよね??」

「「~~~~ッ!?!?」」

 

 

 花丸とルビィは顔を真っ赤にしてその場で硬直してしまった。今頃羞恥心に襲われ必死に戦っているのだろうが、ツンデレは羞恥心に勝てないことも5年前から知っていることだ。

 そしてこれがツンデレちゃんの対処法なり。罵倒に対抗するから向こうも付け上がる訳で、だったらわざと卑屈になってやればいい。そうすれば引け目を感じたツンデレちゃんが勝手にデレてくれるから。あとはボロを出したところを攻めればそれで攻略完了。そう、今の2人のようにな。

 

 

「ねぇ、そろそろ行くわよ。こんなところで油を売ってる場合じゃないでしょ?」

「あ、あぁそうだけど……」

「なによ?」

「お前は何ともないのか?」

「はぁ? あまり意味わかんないこと言わないで。そしてあまりこっちを見ないで、濡れちゃうから」

「は、はい……?」

 

 

 善子が無表情のまま痴女みたいなことを言い出すから思わず聞き返してしまった。

 

 

「言ったでしょ? あなたのそのカッコいい声が私の子宮を唸らせるんだからあまり喋らないで」

「えぇ……」

「そんな素っ頓狂な顔もカッコいいわね。見てるだけでも下着が蒸れちゃいそう」

 

 

 善子は喜んでいる――――というか悦んでいるようだが無表情を崩さず、そして声のトーンも一定であるためイマイチ様子が掴めない。それに声を聞くだけで濡れるとか、姿を見せているだけで蒸れちゃうとか、それって褒められているのだろうか……。

 

 いつもの善子ならテンション高めで俺に突っかかってきて、自分から痴女発言なんてすることもないのだが、これもみんなと同様に性格が捻じ曲がっているのだろう。この無表情かつ覇気のない口調、だけど俺のことはベタ褒めする、これはデレに偏ったクーデレの性質そのものだ。

 

 

「ほら、こんなところで時間を浪費している場合ではないわ。女の子たちが来る前に、早く2人きりになれる場所へ行かないと」

「えっ、どうして2人きり?」

「そんなことも分からないの? 先生はこの濡れに濡れた私の秘所にその逞しい欲望の塊を突っ込む様を、他の誰かに見られてもいいって訳? まあ先生が公開プレイ好きだった言うのなら私は従うしかないわ。恋人としては彼氏には健全でいて欲しいけど、彼女なら恋人の偏った趣味を受け入れることも大切よね」

「待ってくれ、いきなり話がぶっ飛びすぎだろ!? どうして俺たち恋人同士になってんの!?」

「どうしてって、この前あなた私を抱きしめてくれたじゃない」

「あれは成り行き上だし、仕方なくだな……」

 

 

 善子の不幸体質を治そうとしたけど結果が乏しくなかった時に、遠い目をしていた彼女を抱きしめた過去がある。まさかあの行為が告白だと思っているのかコイツは? 性格がクーデレちゃんになっていることは承知だが、それでも頭がお花畑過ぎやしませんかねぇ……。

 

 それに鞠莉と同様に善子はヤる気満々だ。無表情を貫きながらも誘惑するような目で上目遣いをされているため、どこか妖艶な雰囲気が伝わってくる。

 そしてその目力に感化されている隙を付き、善子は俺の腰に腕を回して堂々と抱きついてきた。胸を押し当て男の性欲を助長させるように密着し、無表情ながらも多少口角の上がった表情は元の小悪魔な性格が露見していた。普段の彼女からではありえない行動なので、驚きというより焦りの方が大きい。心臓も激しく鼓動して、俺は唾を飲み込んだ。

 

 

「先生が廊下の真ん中で公開プレイがしたいっていうのなら、私はそれでもいいけどね。むしろ見せつけちゃってもいいくらい」

「だ、だからってキスしようとすんな! お前の相手は後でしてやるからとにかく離せ!」

「恥ずかしがらなくてもいいわよ。でもあなたの騒ぐ姿は可愛いから、抵抗されるのもこれまた一興よね」

「ああ言えばこう言うなお前は!」

「ほら、黙って私を受け入れなさい。そしてここで永遠の愛を――――?」

「ん……? ど、どうした……?」

 

 

 饒舌な舌滑りで俺への愛を囁いていた善子だが、その途中で目を見開いて俺を見つめてきた。さっきまでは男を魅了するかのような魅惑の目をしていたのに、今はまるで元の善子に戻ったような……あっ、も、戻った?

 

 

「な゛っ……」

「な?」

「なに気安く抱きついてんのよこの変態ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

「い、ってぇええええぇえええ!!!!」

 

 

 顔を沸騰させた善子の強烈なビンタにより、俺は再び廊下に転がるハメとなった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「まさかここまで女の子たちを手玉に取っているとは、お姉ちゃん驚いたよ♪」

「分かってはいたけど、やっぱりお前の仕業だったんだな……」

 

 

 善子が元に戻ったのを機に、学院の女の子たちも次々と正気を取り戻した。Aqoursのメンバーも無事に元に戻り、今は元凶の秋葉と共に部室に集合している。

 どうやら俺に求愛していた記憶はあるようで、女の子たちが悶え苦しむ姿で一時学院が騒然とした。それはAqoursのみんなも同じであり、秋葉のハイテンションとは真逆でさっき自分がやらかした行動を思い出しては顔を真っ赤にして悶えている。コイツの発明品に耐性のあるμ'sならまだダメージは抑えられただろうが、初体験のAqoursにとっては今にも羞恥心で押し潰されそうになっていた。

 

 

「みんなが回復するのはまだ時間が掛かりそうだな。で? お前この学院の子たちに何をした?」

「それは単純明快。私が学校に仕掛けた芳香剤によって、女の子の心の中に1ミリでも誰かが好きという気持ちがあったら、その気持ちが増幅して愛が抑えきれなくなっちゃうの。そして膨らんだ愛はその子の性格を積極的に求愛するように変えてしまい、愛を伝えることしか脳がなくなるって感じかな♪」

「相変わらず誰の需要があってそんなモノを作るんだか」

「えっ、それは零君にでしょ? なんだかんだ言って楽しかったんじゃないのぉ~?」

「疲れたし正気も失いそうだったけど、まぁいい気分であったことは確かだよ。一応言っておくけど、お前を褒めてはないからな」

 

 

 形は強引すぎるほど強引だけど、大勢の女の子たちにちやほやされるのは悪くない。むしろ大好物な部類だ。流石にあれほどたくさんの女の子に迫られたことは今までなかったので、ここまで疲労困憊になるとは思ってなかったけど……。

 

 

「あ、あのぉ……」

「君は確か千歌ちゃんだよね? 何かな?」

「好きな人への愛を膨らませるってことは、私が先生を襲ったのってつまりそういうことなんですよね……?」

「う~ん歯切れが悪いなぁ~。どうせなら私の口から言ってあげるよ♪」

「あっ、そ、それは!!」

「零君を襲ったってことは、程度の違いはあれどみんな零君のことが好きだってことだよ!!」

「「「「「「「「「~~~~ッ!?!?」」」」」」」」」

 

 

 一瞬にして部室の温度が急上昇する。Aqours9人の顔から発せられる熱気が冷房の冷気を打ち消し、澱んでいた空気に更なる困惑したムードが漂う。

 

 

「私は先生のことは好きですよ! 好きですけどぉ……は、恥ずかしい!!」

「そういえば私、先生にご指名されたとか言っちゃった……もう変なお店の人みたいだよぉ……」

「ズボンを下ろしたのは私の意思じゃないです! 芳香剤とことりさんの言葉に洗脳されてただけだから……だけですから!」

 

 

 俺にデレデレな求愛をしてきた2年生組は、自らの度を超えた愛情の伝え方を思い出し再び羞恥心に苦しめられる。それに曜の意思じゃないって言葉は……余計な詮索はしない方が身のためか。

 

 

「マル、先生になんて失礼なことを!? 嫌いなんてことは絶対にないし、でも好きかと言われると……好き……うぅううう頭がクラクラしてきたずらぁあああ!!」

「せ、先生が好き……? ルビィが……? うぅ……うぅうううううううううううううう!!」

「こんなのはっきりと言ってやればいいのよ。先生のことは好きじゃない……まぁでも嫌いではない。一応好きの方に若干偏ってるくらい…だ、だからって変な勘違いしないでよね!」

 

 

 ツンデレとクーデレという王道デレ路線で俺に迫ってきた1年生組も見事元通りだ。やっぱこの奥手な感じが1年生組の可愛いところだよなぁ。

 

 

「私が先生のことを……ふ~んそんな感情あったんだ。自分でもちょっと意外かも」

「先生、こ、これは一時の気の迷いというものですわ! 人間誰しも道に迷うことがあるように、心も揺らいでしまうことがあるのです!! だ、だから勘ぐらないでください!!」

「あまり意識したことはなかったけど、先生に跨っていた時を思い出すと顔がホットに……こんなに顔が赤くなったのは初めてかも」

 

 

 痴女キャラ、メンヘラ、ヤンデレという面倒な性格三銃士となっていた3年生組。正直他の学年の子よりも俺への好感度が低いと思っていたのだが、芳香剤の力に当てられ襲いかかってきたってことはつまりそういうことなのだ。何だかちょっぴり嬉しかったり。

 

 

「秋葉さんって、こんなことばかりしてるんですか……?」

「こんなこととは失礼な! この芳香剤だって素直になれない奥手の女の子に重宝するかもしれないんだから!」

「かもしれないとか言ってるけど、ほぼ役に立たないからなコイツの作るものは」

「それでも世界に必要なんだよね~私は」

 

 

 秋葉の言うことはまさにその通りで、彼女の頭は世界の頭脳と言われるくらいなのだ。だが俺たちの前では自らが愉しむためだけの欲望の捌け口にしかその頭脳を使わないから、全くもって宝の持ち腐れ感が半端ではない。Aqoursのみんなもそのことを察したようで、もう呆れ返った顔で彼女を眺めていた。

 

 

「私としてはただ零君がご執心なみんなの全てを知りたかっただけだから、ちょこっっっとだけ強引な手を使っちゃった♪」

「これでちょこっとなんですね……」

「もしかして本気を出して欲しい? 私がその気になれば、みんな羞恥心で気が狂って人生やり直したくなるレベルにまで落ち込むこと確定だけど、それでもいい?」

「笑顔でそんなことを言えるなんて恐ろしすぎますわ……」

「こういう奴なんだよコイツは。人を虐めるのも貶めるのも何ら躊躇しないから」

 

 

 マッドサイエンティストという言葉がピッタリ当てはまるのだが、一応擁護しておくと表に出さないだけで人を見守ってやる優しさはある。俺にμ'sとの同棲生活を勧めシスターズが密かに抱いていた悩みを解決させようとしたり、ゲームの世界に拉致してシスターズと向き合わせようとしたりなど、要所要所でしっかり手を差し伸べてくれる。だからこそ今回のようにイタズラ紛いのテロ行為をしたとしても俺やμ'sは彼女を憎みに憎めないのだ。

 

 それにコイツはエロいことが苦手という最大の弱点でもあり可愛いところがあるのだが、それは秋葉に対抗する特大級の切り札なので使い時を考えている。つまり仕返しをしたければいつでもできるってことだから覚悟しておけよ。

 

 

「そういう訳だから、これからもちょくちょくAqoursの練習を覗きに来るね――――って、何この雰囲気!? みんなの憧れの先生のお姉さんなんだから、もう少し歓迎ムードでもよくない!?」

「みんなの顔を見てみろ、全員拒否してるから。それに今回の惨事を引き起こした張本人がよく言うよ」

「へぇ~そんな反応するんだぁ~。だったら今日の芳香剤をもっとパワーアップさせて帰ってきてやるんだから! 精々彼への想いを高めて待っておくことだね!! それじゃあ本日はこの辺で♪」

「お、おいっ!!」

 

 

 不穏なことを叫んでそそくさと部室から出ていきやがった……。

 

 

「先生のお姉さん、一度会いましたがあんな人だったとは知りませんでした……」

「曜は運が良かったよ。あの時おもちゃにされなかっただけでもな」

 

 

 今まで平和だった浦の星女学院に悪魔が住み着いたことで、日々の生活が需要のないスリリングに満ちることとなった。果たして次に彼女が暴れるのはいつになるのだろうか……?

 

 

 そしてこの後、みんなの中で暴れまわる羞恥心が収まるまで数時間掛かった。

 少し顔を合わせただけなのに、Aqoursに爪痕を残しすぎだろ……。

 




 いつもとは違ったキャラのAqoursはいかがだったでしょうか? 個人的にはヤンデレとクーデレが執筆していて楽しかったので、機会があれば1本ずつ話を書いてみたいなぁと思いました。
しかし今回のクーデレは異常なほどの痴女寄りでしたが(笑) 雪穂がツンデレ寄りのクーデレなので、善子のクーデレまた違った新鮮味があったかと。

 次回はまたμ's襲来編に戻ります。最近は前後編が多かったので、なるべく1話ずつでコンスタントに投稿したい願望があったりなかったり……。

 とりあえず次回は真姫の登場です!
 共演するAqoursのメンバーは、真姫と共通点のあるあの子! そしてかなりゆったりとしたお話になるかも。



Twitter
https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心で奏でる旋律

 μ's編に入ってからはずっとギャグ調の話が続いていたので、今回は少し落ち着きました。

 μ'sからは真姫が登場します。


「ゴメンなさい。資料運びを手伝ってもらって」

「いいっていいって。女の子1人に運ばせる訳にはいかないからな」

 

 

 梨子とこうして並んで歩いているなんて、出会った頃には想像できなかった光景だ。俺を見るだけで常に威嚇するような目線を送り、ちょっとでも不可解な行動をすれば即通報するような警戒レベルだったからなぁ梨子の奴。

 

 だが今ではこうして作業を気軽に手伝えるくらいの仲となり、俺の勘違いかもしれないが多少熱い視線も感じるようになった。ここまで関係が深まったのは梨子のレズモノ好きの暴露や俺の痴漢行為の黙秘など、必然的に一蓮托生となったことに起因する。当初はお互いにお互いの弱点を知って脅迫の材料に使う予定だったのだが、普通に仲良くなった今ではそんな啀み合いはもう起こっていない。虐げられていた時はこの子と上手くやっていけるか心配だったけど、やっぱ警戒されていても積極的に絡んでみるものだ。

 

 そんな俺は梨子の資料運びを手伝い終え、Aqoursの練習のため彼女と部室へ向かっていた。

 

 

「今日も外はあっちぃけど頑張るかぁ。まあ頑張るのはお前らだけど」

「先生だってスクールアイドル時代を思い出して踊って見せてくれてもいいんですよ」

「やだね。俺が踊るとその美技に世界中の女の子たちが惚れちまう。流石に1人で何億の女の子は相手にできないから勘弁だ」

「相変わらず凄い自信――――?」

「ん? どうした?」

 

 

 梨子は突然廊下の真ん中で立ち止まると、物思いに耽るようにゆっくりと目を閉じた。

 人と会話をしているのに寝ようとしてんじゃねぇと軽いツッコミを入れようとしたが、彼女の雰囲気的に真面目なんだと感じて思い留まる。隣に俺という魅力的な男がいるのにも関わらず、梨子の意識を奪う奴……そもそも人なのかすらも分からないがとにかく何なんだ?

 

 

「聞こえる……ピアノの音。しかもとても上手……」

「え? 聞こえるかそんなの? う~ん……」

 

 

 どれだけ耳を澄ませても、俺の耳にピアノの音は入ってこない。だが梨子はその音に釣られるように廊下を歩き始める。ピアノをやっていると耳も冴えるのだろうか。俺はそもそも音楽を奏でたことは愚か、あまり興味がないので耳は音楽音痴だと思う。

 

 

「これは音楽室のピアノですね。ちょっと行ってきます!」

「お、おい! 今から練習だぞ?」

「遅れると伝えておいてください。こんな綺麗なメロディをあのピアノで出せるなんて……確かめなきゃ、誰が弾いているのか」

「全く、どうしたんだよ急に……」

 

 

 梨子がこれほどまでに強引になるのは珍しく、廊下をバタバタと走り堂々と校則を無視するのも珍しかった。俺も梨子の受信した電波が気になるので、Aqoursのグループチャットに遅れると連絡を入れ彼女の後を追いかける。

 それにしても梨子に電波キャラは似合わないと思うぞ。まさか秋葉の置いた芳香剤の効果がまだ残ってるとか……? んな訳ねぇか流石に。そんな頻繁に女の子のキャラが変わってたら、俺もうみんなとどう接していいのか分からなくなるぞ。

 

 そんな中、音楽室へ近づけば近づくほど俺にもピアノの音が聞こえてきた。梨子は何をそんなに急ぐ必要があるのか、息を切らしながら走り音楽室の前に辿り着く。

 

 

「はぁはぁ……やっぱり綺麗、このメロディ」

「そんなの、同じピアノで演奏すれば一緒じゃないのか?」

「違いますよ! このメロディには優しさ、尊さ、何より誰か大切な人に向ける大事な想いが伝わってきます」

「そんなことまで分かるのかよ……」

「正直、この学院で一番上手くピアノが弾けるのは私だと自負していました。だけどこんな演奏を聴かされたら誰でも……」

「怒ってる?」

「いえ、むしろ逆ですよ。感動しています」

 

 

 梨子は息を整えながら音楽室の扉に手を掛ける。

 俺にはこのピアノの音がいつも聞こえてくる音と全く同じにしか聞こえなかったのだが、ピアニスト同士で何か惹かれ合うものがあるのだろう。しかし浦の星でも屈指の実力を持つ彼女の心をここまで震わせるのは一体誰なんだ……?

 

 そして梨子は音楽室の扉をゆっくりと開けた。

 扉を開けると、部屋に留まっていた空気が風となって俺たちに軽く吹き寄せる。そしてその風の中、靡くカーテンの前で優雅にピアノを弾く1人の女の子を目撃する。高身長でピアノを弾くスタイルは抜群。髪はそれほど長くないが、窓から流れ込むそよ風に綺麗な赤い髪が靡き輝いて見える。

 

 そう、彼女は俺の知りすぎるほど知っている――――

 

 

「真姫……」

「あら零。まさかこんなところで会うなんてね」

 

 

 真姫は特に驚くような様子もなく、優しい微笑みで俺を見つめる。

 

 

「お前何してんだこんなところで!?」

「あなたに会いに来たのよ。教育実習の邪魔になるといけないからあなたが帰ってくるまで待ってるつもりだったけど、穂乃果たちの話を聞いてたらどうしてもね」

「そっか。それで? アポなし訪問されるのはもう慣れたけど、みんなはこのこと知ってるのか?」

「大丈夫、さっき連絡しておいたから」

「さっきって……」

 

 

 多分真姫のことだから、誰かと一緒に付き添いで来るのは面倒だから嫌だったのだろう。特に凛は一緒に行きたいって駄々をこねるだろうし、もし凛とこっちへ来たら彼女の保護者としての役回りにさせられる可能性が高いしな。

 

 

「凄い……凄いですさっきの演奏! 私、感動しました!!」

「ありがとう。桜内梨子さん」

「えっ、私のこと知ってるんですか!?」

「えぇ。穂乃果……あぁμ'sの高坂穂乃果って知ってるでしょ? あの子から"Aqours"のことを聞いて、私もあなたたちのことを色々調べたのよ」

「まさか私の名前がこんな有名な方に……感激です!!」

 

 

 千歌が穂乃果に、ダイヤが絵里に会った時ほどのテンションの高さは感じないが、恐らく彼女の中では感動感激雨あられ状態に違いない。

 しかし梨子はスクールアイドルについては素人中の素人だと聞いている。しかも転校前は音ノ木坂学院出身のくせにμ'sを知らないときたもんだ。そんな彼女が真姫を知っていることには驚いたが、自分もスクールアイドルをやっていく以上そのトップグループくらいはマークしておいたのか。そういやある日、千歌に夜な夜なμ'sのライブ映像を永遠に視聴させられた苦い過去があるって梨子が言ってたから、その時に覚えたのか。

 

 

「零に会いに来たのも事実だけど、私は桜内さんとも会ってみたかったのよ。同じスクールアイドルのピアニストとしてね。まあ私はもうスクールアイドルじゃないんだけど」

「それでも西木野さんのスクールアイドル時代に作曲した曲は最近全部聴きました! μ'sの作曲も全部西木野さんが手掛けたんですよね?」

「そうよ。そもそも私以外の人が作曲できないから、必然的に私がやってただけだけどね」

「もうさっきから凄いとしか言えませんよ……あんなたくさんの曲を1人で」

「私も最近Aqoursの曲を聴かせてもらったけど、どの曲も心に響いてきたわ。とにかくスクールアイドルを楽しんでるって感じがして、こっちまで元気がもらえるくらいにはね」

「憧れの人にそこまで褒めてもらうなんて、感激で言葉が……」

「お前さっきから"凄い"と"感激"しか言ってねぇな」

「語彙力がなくなるくらいに感動してるんです!!」

 

 

 梨子がここまで何かに感動を覚えるのは、レズ本を読んでいる時以外に匹敵するものはないだろう。それ以前にレズは性欲を満たすための手段なのか、それとも実際にやってみたいかで感じる刺激も変わると思うのだが――――って、せっかく梨子の見せ場なのに穢すような真似はやめようやめよう。

 

 

「そうだ。こうして真姫が来てくれたんだし、同じスクールアイドルの作曲家として何か聞きたいことがあれば聞いてみたらいいんじゃねぇか?」

「えっ、いいんですか?」

「もちろん。零がと~っても優しく面倒を見ているスクールアイドルのメンバーなんだから、私も手伝えることがあったら手伝いたいしね」

「なんかさっき含みのある言い方だったような……」

「あっ、そ、その、それだったら……でもなぁ」

 

 

 梨子は俯きながらバツが悪そうに悩んでいる。元々遠慮しがちな彼女だが、さっきのテンションを見ているとバシバシ質問を飛ばしてくると思っていたけど見当違いだったか。まあいきなり何か質問をしろと言われても咄嗟に思いつかないのはあるあるだけどな。

 

 

「聞きたいことはあるんですけど、本当に聞いてもいいのかどうか……。スクールアイドルにはほとんど関係のないことですし」

「いいわよ別に。スクールアイドル以外のことだと助けになれる保証はないけどね」

「それでも聞いてみたいことがあるんです。先生と西木野さんに」

「俺にも?」

 

 

 梨子は決心が着いたのか顔を上げ、真剣ながらも少し心配そうな目で俺たちを見つめる。

 

 

 

 

「先生ってμ'sの皆さんと仲がいいみたいですけど、誰かとお付き合いされているんですか?」

 

 

 

「「え……」」

 

 

 思いもよらないドストレートな質問に俺と真姫は目を丸くしてしまう。そんな俺たちの反応を見て梨子は一瞬聞いてはいけないことを聞いてしまったのではないかと戸惑いの色を見せたが、もう後には引き返せないと悟って再び目力を強くして俺たちを見据える。

 

 ちなみに彼女の質問についてだが、もちろん答えはイエスだ。だが12人と付き合っているという事実を隠すために、周りには俺たちはそもそも付き合ってはいないという虚偽を振りまいている。俺とμ'sの関係を知っているのはごく一部の親しい人間だけで、それも親しいがゆえにしっかりと俺たちの想いを汲み取ってくれる人に限られる。当たり前だが、12股なんて最悪最低なことをしてるなんて中々言いふらせないから。

 

 

「どうしてそう思ったんだ……?」

「千歌ちゃんから聞きました、μ'sの高坂穂乃果さんが先生に会いに来たと。そして曜ちゃんからも聞きまして、南ことりさんが先生にラブラブだって。その他にも既に何人か会いに来ているみたいですし、これじゃあ先生がただの女たらしじゃないですか」

「おい、言い方」

「そうよ。この男は好きで女性を弄んでいるの」

「お前まで何言ってんだ!?」

「いいんじゃない。この際あなたの秘密を洗いざらいにしても」

「マジかよ……」

 

 

 真姫は俺を虐めるためにここへ来たのか……不敵に微笑みやがって楽しそうだなオイ。そして梨子は出会った頃を思い出す突き刺すような細い目線で俺を刺殺してくる。やっぱ何人もの女の子に手を出すって良く思われないよなぁ。だからこの話は秘密にしたまま黙っておきたかったんだよ!!

 

 

「薄々言動から想像してましたけど、まさか本当に大勢の女性に色目を使っていたとは……」

「それは違う。俺の魅力に惚れた女の子たちが向こうから寄ってきてるだけだ」

「よく言いますね。千歌ちゃんに欲情して痴漢したくせに」

「ちょっと待て!? それは言わない約束だろ契約はどうした!?」

「へぇ~こっちでも随分と楽しんでるみたいねぇ~」

「許せ真姫。男ってのはな、みんな性欲に塗れた低欲な生き物なんだ。だから美少女という高貴な存在に惹かれるんだよ察しろ」

「つまりただの犯罪者ってことね」

「それを言われるとぐうの音も出ないんだけど……」

 

 

 相変わらず真姫の言葉は刃物と同様で人の心を突き刺すことに全く容赦がない。自分で犯罪者だってことは認識してるけど、女の子の口、しかも恋人の口からダイレクトに投げつけられるとダメージも数倍大きくなってしまう。いくらメンタルが鋼であっても、傷付くことはなけれど響くことはあるんだから大切に扱ってくれ。

 

 

「先生って、μ'sの皆さんの前でもこんなのだったんですか?」

「こんなのって……」

「もう何年も一緒にいるけど苦労の連続よ。この男がこうして生きていられるのは、私たちが菩薩のような優しさを持ってるからだしね。私たちの心がちょっとでもブレようなら今頃地下深く冷たい牢屋の中よ」

「それはもう刑務所じゃなくて監獄だろ。てかそこまで俺の罪って重いの!?」

「自覚し過ぎてるからこそ重いのよ」

 

 

 だってさ、よくアニメやラノベにいる無自覚系主人公より女の子に敏感な方が全然良くね? 優柔不断で考えもあべこべで、話数が積み重なっても結局同じ展開を繰り返してばかりの鈍感主人公よりイケイケ系の方が清々しいじゃん!! まあハーレム主人公なんてどう動こうが罪作りな奴と思われるのは仕方ないけどさ……。

 

 

「話を聞くに、桜内さんは零に何かされたの? 先生の前だからって気にする必要はないわ」

「いやだから俺は何もしてないって……」

「友達が痴漢に遭った後、私にも同じことをさせろと部屋の隅まで追い詰められたことがありました」

「クズね。ただのクズ」

「もう悪口が100%純度の悪意しかないんだけど……。それに梨子、そのことは2人だけの秘密だったはずだろ!?」

「だって先生がどんなことでも相談していいって言ったんですよ♪」

「楽しそうだなお前……」

「いつも先生に弄られてばかりですから、たまには優位に立ちたいのです!」

 

 

 なになにこんなにSっ気強かったの梨子って!? いつもは澄ました顔をしてるくせに、ここぞとばかりに真姫に便乗して攻め込んできやがる。これは初対面の人に対してはめちゃくちゃ警戒するけど、仲良くなればなるほどお茶目な一面が見られるにこのようなタイプだ。

 

 

「でもそんなことを聞いてくるなんて、もしかして桜内さん――――零のことが好きなの?」

「はぁ!?」

「あ゛っ、そ、それはそのぉ、なんと言いますか……」

 

 

 急に話の矛先が自分に向いて肩をビクつかせた梨子は顔を耳まで真っ赤に燃え上がらせ、手を前で組んでモジモジとし始める。こんな少女漫画のような分かりやすい反応……マジかよ!?

 

 

「一応注意しておくけど、この男は女たらしの痴漢野郎で、傲慢で自意識過剰の変態よ?」

「もうね、罵倒は慣れたよ……」

「分かってます。分かってますけど、いいところもたくさんあるって知ってますから」

「例えば?」

「授業もスクールアイドルの練習も熱心に指導してくれますし、今もこうして私が先生の悪口を言ってもいざというときは親身になってくれます。それにお化け騒動があった時に、先生が私のしょ――――!!」

「しょ……?」

「い、いえ! 守ってくれましたから!!」

 

 

 梨子の奴、お化け騒動で俺の放ったあの一言を思い出したのだろう。それにしても今思い返せば相当クサかったかもしれないなぁ、みんなの処女は俺のモノ発言。よくよく考えれば生徒の前で大胆告白をしてしまった気がするが、本気でそう思ってんだから仕方ないだろ。処女を貫いてこそその子を自分のモノにできたという征服感もあるしね。あぁ、相当気持ち悪いこと言ってんな俺……。

 

 

「そ、それよりも私の質問ですよ! 先生はμ'sの誰かとお付き合いされているんですか?!」

「付き合ってない付き合ってない。なぁ真姫?」

「そうね。精々親友以上恋人未満ってところかしら」

 

 

 迷いもなくマジの恋人に恋人未満と口に出されると結構心に突き刺さるなこれ……。でもさっきの暴露大会の流れに乗らず、しっかりと秘密を守り通してくれたことには感謝すべきだろう。まあそもそも12股掛けてるって事実を伝えても信じてもらえないだろうけどさ。

 

 

「あっ、もうすぐ5時か。俺ちょっと山内先生に呼ばれてるから、一旦抜けるぞ」

「そうなの? それじゃあまた後で家にお邪魔するわ」

「あぁ。梨子も練習遅れんなよ」

「はい。それではまた」

 

 

 ここからは俺が抜け、音楽室には梨子と真姫が2人きりとなる。

 しばしの沈黙の後、梨子がゆっくりと口を開いた。

 

 

「西木野さんは、先生のことをどう思っているんですか?」

「私? そうね。さっきは散々言ったけど、何だかんだ言って私が世界で一番頼りにしている人よ。女たらしなのにその実中身はとても誠実で、自分の信念を決して曲げない。さっきもあなたが言ってた通り、普段は軽薄な態度だけどいざという時はしっかりと私たちを守ってくれる。たまにセクハラ紛いなこともされるけど、それが彼なりの愛情の伝え方なのよ。ああ見えて少し不器用なところもあるから、零って」

 

 

 俺がいなくなった途端に"デレ"が全開となるツンデレの鏡のような真姫。しかもデレを見せながらもところどころ皮肉を込めた言い方なのも彼女らしい。どうせならぎこちないデレでもいいから本人がいる前でデレて欲しいもんだ。

 

 

「2人きりだしもう一度聞くわ。好きなんでしょ、零のこと」

「ま、また!? えぇと…………は、はい……」

「だったら今までよりもっと自分をアピールすることね。彼は女性好きだけど、恋愛が絡むと話は別。過去に恋愛関係でいざこざがあって以来、女の子の恋愛感情に対して特に警戒してるから。だから零が女性好きだからって、軽い気持ちでは絶対に彼の心は揺れ動かない。女の子を守りたいという責任感が強いから、桜内さんもその責任を感じてもらえるような女性にならないとね――――って、言い過ぎたかしら。ゴメンなさい」

「いえ、むしろその言葉でようやく自分の心と向き合えたような気がします」

「でも既に守ってあげる宣言をしてもらっているみたいだし、あなたもAqoursのメンバーもそこらの女性よりも彼に愛されていると思うわ。それに零が痴漢やセクハラで手を出す女の子は、大体その女の子に少なからず好意を抱いてるってことだから。男子小学生が好きな女の子に手を出す理論と同じね」

「そう考えるとカッコいい一面もあれば可愛い一面もたくさんありますね、先生って♪」

「そうね。だから夢中になっているのかも、私たちμ'sは」

 

 

 恋人や教え子から可愛いと言われるのは釈然としないが、それも俺の魅力の1つだと肯定的に受け取っておくか。そんな俺の魅力に靡く女の子がいれば儲けものだし、現にここで1人の乙女が己の恋心を自覚し始めた。もちろん当の本人はこの場にいないので、梨子のそんな気持ちを明確に許容するのは先の話になるが……。

 

 それにしても真姫は俺のことをよく知っていらっしゃる。神崎零の自己紹介をするなら自分でするよりμ'sのみんなにやってもらった方が伝えられる情報量も多いかもしれない。ただ一部俺のプライベートなことを知りすぎている人もいるため、どんなことを喋るのか想像もしたくない奴らが何人かいるけど……。気を抜いたら盗撮や盗難、その他諸々に遭っているから慰めてくれ。

 

 

「そうだ、もう1つ相談いいですか?」

「えぇ、どうぞ」

「もう練習まであまり時間はないのですが、少しだけピアノのレッスンをお願いできますか? どうしてでしょう、今までよりも綺麗に演奏できる自信があります」

「音楽は心で弾くもの。その心の中にいる大切な人の存在が大きくなったからこそ生まれた自信なのかもね。それじゃあ聴かせてもらおうかしら」

「はいっ!」

 

 

 μ'sのみんなが内浦に来るたびに、Aqoursのみんなに何かしらの影響を残していく。それもスクールアイドルの在り方や根性というよりも、その子の恋愛感情を引き立たせるような何かを。そもそもAqoursをスクールアイドルとして会いに来た奴なんて未だに1人もいないけどね。それでも俺とAqoursの仲が深まっていくのはμ'sに感謝すべきだろう。そのあと彼女たちの気持ちとどう折り合いを付けるかは完全に俺に委ねられているが、1つ言っておくと俺は彼女たちの想いを絶対に無下にしない。いいじゃないか、また恋人が増えようとも!!

 

 とにかく、千歌に続いてまた1人新たな恋が芽生えたから、明日からはまた今までとは違った日常になりそうだ。

 




 そもそもAqours編はどれだけ続くか未定なので、恋愛沙汰はやれる時にやっておく理論です。
 今回は他のμ's襲来編に比べるとゆったりとしていましたが、真姫のツンツンしつつも大人な部分を見られたり梨子の恋も進展したりと、中身は濃密だったと思います。


 次回は連続でμ's襲来編で、今度は海未の出番!


 宜しければ感想&☆10評価よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海未と海の生み声

 今回は海未の登場回です!
 そして以前とあるネタが大好評だったので、今回もそれにあやかってみました!


 

「全く先生ってば、こっちも店番で忙しいのに。まあお客さんはいないんだけど……」

 

 

 松浦果南はレジの机に肘を付き、自身が所属するスクールアイドル部の顧問である神崎零に対して不平を漏らしていた。

 

 状況を簡潔に説明すると、松浦家が経営しているサーフィンショップに零が遊びに来ていたのだが、突然学院からの呼び出しを食らってこの場から一時離脱している。それだけなら店の邪魔にもならないので問題ないが、どうやら零はこの店で誰かと待ち合わせをしていたらしい。そこでどうしても離脱している時間と集合時間が被ってしまうため、零は果南に自分が離脱している時間だけその人の対応して欲しいと無茶ぶりをしてきたのだ。

 

 今日は客足も少なく店内にも人はいないのでフォローできなくはないが、誰とも分からぬ人と2人きりで同じ空間にいられるほど果南はコミュ力ができあがっていない。コミュ力MAXの千歌や鞠莉だったら余裕で対処できるだろうと考えつつも、果南はゆっくりとため息をついた。

 

 

「でも先生にはいつもお世話になってるから、このくらいの頼みだったら聞いてあげたいよねぇ」

 

 

 千歌たちの話を聞く限りでは相当おバカなことをしている自分の顧問だが、スクールアイドルの指導者としてはこれほど自分たちにとってプラスになる人はいない。果南自身もそれが分かっているからこそ零の頼みを断ることはできなかったのだ。

 加えて果南は零ともう一度2人きりでお話したいと思っていたので、そのチャンスが彼と共に逃げてしまったことにも少々落胆していた。着替えを覗かれた経緯があるのに2人きりになりたいと思う、その感情の奥にとある想いが募っていることには彼女自身もまだ気付いていない。だが店に来て早々駆け足で出て行ってしまった時に寂しさを覚えるくらいには、彼への見方が変わっているのだろう。

 

 

 とにかく今更何を言っても来客を饗さなければならないことは確定しているため、果南は腹をくくって店内の掃除で暇つぶしを開始した。同時に、店の扉がゆっくりと開かれる。

 

 

「あ、あのぉ……」

「は、はい! いらっしゃいませ!」

 

 

 普段の果南ならお客さん程度に怖気づくことはないのだが、先生が待ち合わせをするほど大切な来客が来たと思うと少し緊張してしまう。とりあえず持ち前の営業スマイルで挨拶をした後、箒を置いて店奥から店内へと出た。

 

 来店したのは綺麗な長い黒髪が特徴の、まさに大和撫子を具現化したような女性だ。もし大和撫子という文字のイメージキャラクターを募集するならば、もう彼女以外の適任がいないと言わんばかりの美麗さを誇っている。実際にその彼女は品行方正を感じられる顔立ちは男性受けも女性受けも良く、バレンタインでは同性である女性から毎年チョコを貰っているくらいだ。

 

 眉目秀麗も兼ね備える女性、元μ'sの園田海未が果南のダイビングショップに来店した。

 

 

「もしかして先生……神崎零さんと待ち合わせをしている方ですか?」

「は、はい! そうですけど、どうしてご存知で?」

「私、浦の星女学院の生徒なんですよ」

「浦の星……あっ、なるほど! 零の教育実習先の生徒さんだったのですね」

「はい、そうです」

 

 

 果南と海未はお互いに顔を合わせながら、相手の女性を失礼を悟られぬよう分析する。かたや零の恋人、かたや密かに彼への想いを募らせる少女だからこそだ。

 第一印象として、相変わらずあの男は綺麗な女性を侍らせていると思っていた。顔立ちも高校生や大学生にしては大人っぽく、この人がスクールアイドルをやっていれば人気が出ること間違いなしだとお互いにスクールアイドル目線で相手を高く評価する。体型も程よく引き締まっている身体で、日々の運動を欠かしていないのだとこれまたお互いに運動を続けているからこその目線で分析していた。

 

 しかし、ここで周知しておかなければならない事実がある。実は果南も海未も、相手のことを全く知らないのだ。

 果南はスクールアイドルには興味あるが他のスクールアイドルの知識は少々疎いため、千歌がよく話題にするμ'sや園田海未の名前は知っているものの、一目見ただけで目の前の女性が海未だとはまだ気付いていない。

 そしてそれは海未も同じである。穂乃果からAqoursというスクールアイドルがいることは聞いていたが、最近忙しかったためAqoursの情報を得る時間もなく、まだメンバーの顔や名前は知らない状況だったのだ。だから海未も目の前の相手が松浦果南であることは愚か、Aqoursのメンバーであることにも気付いていない。

 

 μ'sはもちろん、Aqoursもようやく名の知れたスクールアイドルになってきたのにも関わらず、お互いを全く理解してない滑稽な状況に陥っていた。

 

 

「えぇっと……」

「あっ、先生ならちょっと前までここにいたんですけど、いきなり学校から呼び出しがあったみたいで、少しだけ離席しているんです」

「なるほど。ならばここで待たせてもらってもいいですか?」

「はい。元々先生から来客が来たらここで待たせるように頼まれていましたから」

「そうですか。ではお言葉に甘えて」

「好きなところにお掛けください。飲み物をお持ちしますので」

「いえいえ! そこまで構ってもらわなくても!」

「店にお客さんもいませんし、これくらいのサービスはさせてください」

 

 

 この一連の会話で、またお互いが相手に抱く印象がアップデートされた。

 海未は果南が年下だと分かったのにも関わらず敬語を使い、自分と同じ目線で話を合わせてくれることで、果南はさっきまで抱いていた緊張が一瞬で解けた。零の毒牙に掛かった女性だから一体どんな変態さんなのかと警戒していた部分もあるのだが、そんな心配は杞憂だったようだ。

 そして海未も同じようなことを思っていた。果南が零の魔の手に襲われた生徒だからどんな淫乱ちゃんかと思い軽く臨戦態勢を取っていたが、ここまで快く気遣いができる子だと知ると気付かぬ間に心を許していた。

 

 

 果南は海未の座っているテーブルに松浦家特製シークワーサージュースを置くと、他にもお客さんが来るかもしれないため一応レジに戻る。

 海未は見慣れない飲み物を出され少し首を傾げるが、一口飲むと甘酸っぱくて爽やかな味に美味しさを覚えた。

 

 

「零はこちらに来て何か粗相をしていませんか?」

「まぁないと言えば嘘になりますけど、それ以上にお世話になっているのでそれでお咎めなしです」

「そうですか。あなたが許しているとは言え、零ったら全く。新しい土地に戸惑っているかと思えばいつも通りでしたか……」

「でも先生はこっちにはもう慣れたみたいでよく言ってますよ。特に()が綺麗で素晴らしいって」

「う、()()が綺麗!? そ、そそそそそんなことを!?」

「何で顔を赤くしてるんですか……」

 

 

 海未は突然顔を燃え上がらせると、さっきまでの大人の美麗さが嘘のように子供っぽく唸りだした。目もキョロキョロしていて瞳孔も定まっておらず、堂々としていた覇気も消え小動物のように可愛く縮こまる。果南の中で海未のイメージがいい意味で崩れ去った瞬間だった。

 

 

「人のいないところで零は何を言ってるのでしょうかもう……!!」

「人のいないどころか、学校でもよく言ってますよ。()が綺麗で爽やかだって」

「学校でも!? それは恥ずかしすぎますよ!!」

「えっ、別に普通のことじゃないですか?」

「普通なんですか!? 私が浦の星の生徒だったら恥ずかし過ぎて生きていけませんよ……」

「そんな、大袈裟ですって」

 

 

 海未は浦の星女学院の生徒が相手のことを面と向かって堂々と褒めちぎる、つまり礼儀作法を弁え過ぎている学院だと思い込んでいる。自分への好意を受け取ることに慣れていない恥ずかしがり屋の海未は、零が浦の星で自分を美化し過ぎていることに驚きと羞恥を隠せなかった。

 

 

「零は言うこと言うことがいちいち大胆なんですよ!! だからあまり気にしないでくださいね?」

「あぁ分かります。この前も、『世界は俺を中心に回っている。だから世界の大部分を占める()も俺のモノだ』って言ってましたから」

「いやいや!! そこまで世界に認知された存在ではないですから!! 確かにμ'sは海外メディアに取り上げられたこともありますが……」

「ん? 何か言いました?」

「い、いえ!! でも()()は俺のモノって、私のいないところで何を言ってるんですか零は。大胆を通り越してますよ全く……」

 

 

 果南は子供っぽい表情をする海未を微笑ましく見つめている。なぜここまで必死に零の発言を咎めているのかは知らないが、多分彼が軽率な発言をしていないか気にしているのだろうと思い込んでいた。海未が勝手な勘違いで悶え苦しんでいることには気付いてすらいない。

 

 それに対して海未はさっきから心臓がバクバクと鳴り響いている。零が自分たちμ'sのことを溺愛しているのは知っているが、まさか他所の土地で、しかも女子生徒たちに自分への愛を言いふらしているとは思っていなかったからだ。もちろん自分への愛を語ってくれるのは嫌な気分ではないが、顔も知らない人たちに乙女ちっくな園田海未を知られてしまうのは彼女にとって爆発するくらい恥ずかしいものであった。

 

 

「全然大胆でも何でもないですよ。私たちも全員そう思っていますし」

「えぇっ!? 全員が『()()は綺麗』なんて思ってるんですか!? あぁもう顔が熱くなって何が何やら……」

「綺麗じゃないですか。今もほら、心地のいい香りがしてきます」

「そ、そんな匂いますかね……?」

「先生も()の香りが好きらしくて、休みの日にゆっくりと堪能したいって言ってました」

「あの匂いフェチ……!! ま、まぁ零がどうしてもって言うのなら嗅がせてあげなくもないですが……」

 

 

 果南は窓から優しく入り込んでくる海の磯の香りを嗜み、海未は自分の手の甲を軽く鼻に当て自分の匂いを嗅いでいる。もしかしたら変な匂いがしないかと心配になる海未だが、果南の様子を察するにそれはないと心の中で勝手に納得する。そのせいでこのすれ違いトークの激しさが更に増すことも知らずに……。

 

 

「? とにかく先生がそこまで()好きだってことを知って驚きましたよ。これまで()にまつわる出来事でもあったんですかね」

「それはもう高校の時からずっと一緒ですから」

「そんな前からなんですか!?」

「もう5年もの付き合いですよ。彼自身も『()()に関するエピソードなら1日中喋れるよ。感動モノから可愛い一面まで洗いざらいにな』って言うくらいなんですから」

「可愛いって、まるで我が子みたいじゃないですか。そんなに長い付き合いだったんですね」

「そうですね。一時期同棲していたこともありますから」

「同棲!? あんな大海原と同棲って、先生は魚か何かですか!?」

「大海原……? そこまで広い家ではないですよ」

「家作ったんですか!? 海の中に……家?」

 

 

 果南は自分の顧問が海の中に家を建てて生活している光景を思い浮かべる。しかも同棲と言わせるくらいに海を愛していたとなると、自分が海好きなのも相まって親近感を覚える。これまであまり彼が海の男を感じられるような言動はなかったが、海未の話を聞いたことで果南の中で先生への好感度が本人の知らないところで上がっていた。

 更に前々から経験豊富な先生だと思っていたけれど、海を愛しているからといってまさか海底にまで家を作るとは流石に人生チャレンジャーだと無駄な感心と勘違いをする果南である。

 

 対して海未は4年前の同棲生活について思い出していた。μ's12人と零の合計13人の同棲だったため、ただでさえそこまで広くない家が押し入れのように狭く感じた思い出がある。驚きで頭が渦巻く果南とは異なり、海未は懐かしさに浸って心が温まっていた。

 

 

「しかし、あまり人前でそのことは言いふらさないで欲しいものです」

「そこまで秘密にすることでもないと思うんですけど……。先生この前『()は気持ちいい』とも言ってましたし」

「はぁ!? ()()は気持ちいい!? なんて話をしているんですかあなたたちは!?」

「か、顔真っ赤ですけど大丈夫ですか!?」

「大丈夫な訳ないでしょう!! 女子高校生相手になんて破廉恥な話を……零ぃいいいいいいいいい!!」

 

 

 海未は零が変態野郎だという事実は知りすぎるほど知っているが、まさか地方の女子高校生相手にそんな話をするとは思ってもいなかったので余計に憤った。しかも海未の名前を名指しで挙げるだけでなく、自分の身体で性的欲求を満たしていることを堂々と漏らしている事実に当てられ、全身から熱気が止まらないほどの羞恥を感じている。程よい温度の冷房で店が冷やされているのにも関わらず、海未は火山の火口にいるかのように汗だくになっていた。

 

 

「零が帰ってきたらお説教ですね。女性の前でそんな話をするなんてはしたないです!!」

「別に普通ですよ普通。それに内浦に来た人はみんなそう言いますよ?」

「来た人が全員ですか!? 破廉恥な人が来るような観光スポットなのでしょうかここは……」

「もしかして、苦手ですか……?」

「当たり前ですよそんな話!! 零やことりがそのような話ばかりするのですが、一向に慣れません……」

 

 

 零もことりも節操がないため、躊躇いなく猥談攻撃を仕掛けてくる彼らに海未はいつも頭を悩ませていた。5年間ずっと続いていることなので受け流すことには慣れているのだが、猥談を聞くとどう足掻いても卑猥な妄想が脳内を駆け巡り取り乱してしまう。しかし今の状況は一切猥談の"わ"の字も存在していないのだが、もちろん彼女が気付いているはずもなく……。

 

 果南は"海"の話が苦手という珍しい人がいたもんだと、はたまた勘違いで驚いていた。さっきからずっと興奮しているみたいで、もしかしたらこれまで無理をして自分の話に付き合ってくれたのではないかと相変わらず無駄な悟りを開く。海をこよなく愛する者としては、内浦に来た人にここの綺麗な海の魅力を知って欲しい。そう思っていた。

 

 

「これはお説教だけでは足りないようですね。久々にこの鉄拳を振るう時が来たのかもしれません……」

「落ち着いてください。先生は本当に好きみたいで、この前も『綺麗な()に思いっきりダイブしてみたい』と言っていましたから」

「だ、だだだダイブって!? そんなのはベッドの上で……い、いやいや、さっきのそういう意味じゃないですから!! そ、そして一応聞きたいのですが、彼は他にどんなことを……?」

「そうですねぇ、『()のうねるような肌触りは最高だ』とも」

「がはっ!?」

「だ、大丈夫ですか!? 血吐きそうな勢いでしたけど!?」

「人の身体の感想を他人に漏らすなんて、どんな神経してるんですか零は……」

「さっきからずっとぶつぶつ声が多いですけど、私の声聞こえてますかー? おーい」

 

 

 正直な話、本番をやっているかどうかは別として、零と海未は既に何度か身体を重ね合わせたことがある。それだけでも海未にとっては羞恥心が爆発するほど驚愕な出来事なのだが、それ以上に自分の身体の手触り感を女子高の生徒たちに暴露していた事実に打ちのめされざるを得ない。しかし自分は同学年の穂乃果やことりと比べればそこまでいい身体をしている訳ではないのに、そう褒めてもらえるのは嬉しいので素直に怒れなかったりもする。

 

 

「先生は()をとても気に入ってるみたいで、『味は少し塩辛いけど甘味があって美味しい』と賛美してました」

「味の話までしてたんですか!? い、一体どこの味のことを言っているのでしょうか……汗、唾液? それとも……」

「どこの味と言われても、『奥に行けば行くほど塩辛さが増す』としか言ってませんでしたけど……」

「お、奥ぅうううううううううううううう!? 言っておきますけど、まだ舐めさせたことはないですから!!!!」

「えっ、えっ!?」

「男性の舌が下半身に入ってくるなんて……想像したけでもう無理ですぅうううううううううううううう!!」

「とうとうオーバーヒートし始めた……お、落ち着いて! なんかよく分からないですけどこんな話をしてゴメンなさい!!」

 

 

 海未は男性の舌で女性の性器をしゃぶる、いわゆるクンニリングスを想像してしまい脳内が暴走状態に陥る。ただのキスですら緊張を強いられる彼女が、自分の知らない土地でクンニされていた話が広まっていたことを知ったら暴走してしまうのも仕方ないだろう。そしてもうこの注釈を付ける必要はないと思うが、実際のところそんな事実は一切広まっておらず、ただ海未の被害妄想である。

 

 果南は果南で何故海未がここまでフルスロットルなのか意味が分からなかった。自分は海底に行けば行くほど塩分濃度が濃いって話をしたかっただけなのに、相手の人はそんな話でも恥ずかしがる珍しい人だと思うしかない。

 

 

 するとここで店の扉のベルが鳴り、1人の男性が来店する。

 2人がその客に目を向けると、果南はやっと来たのかと安心した表情で、海未は顔を真っ赤にしてプルプルと身体を震わせていた。

 

 

「おう海未、待たせて悪かったな」

「零……」

「ど、どうした? 綺麗な顔が崩れてるぞ? ご主人様が帰還したんだ、笑顔で出迎えてくれないとな」

 

 

 急用から戻ってきた零は爽やかな微笑みで海未に肩に腕を回すが、彼女の戦慄に燃える身体の震えは止まっていない。むしろ海未にとっては人の痴態を尽く野ざらしにした挙句、何故そこまで涼しい顔ができるのか不思議で仕方なかった。そして何度目の注釈かは分からなくなったが、もちろん零にとっては過去最大級のとばっちりである。

 

 

「零ぃいいいいいいいいいいいいいいいい!! 全くあなたって人は!!」

「うぐぐぐっ!! く、首絞めんな俺が何をした!?」

「胸に手を当てて聞いてみればいいんじゃないですかね!!」

「お前の慎ましやかな胸にそこまで話題性が詰まっているとは思えんが!!」

「自分の胸ですよこの変態!!」

「だから知らないって!!」

 

「な、なにこれ……?」

 

 

 完全に理解不能な展開に、果南は目を丸めて零と海未のイチャイチャ(?)を見つめることしかできなかった。

 

 

「おい果南! お前海未に何をした!? うぐぐ……死ぬ!」

「何もしてないですよ! 普通にお喋りしてただけですから」

「海未がこうなるのはな、大抵エロい話をした時なんだ!!」

「そう自覚しているのならまずは謝ってください!!」

「だから知らねぇってぇええええええええええええええええ!!」

 

 

 そして松浦家のダイビングショップが殺人未遂現場となったのは、また別のお話。

 更にこの後、果南と海未がお互いに自己紹介を忘れていたので挨拶を交わしたのと当時にお互いの名前を知ると、今までの会話のすれ違いを悟った海未の顔が有り得ないくらい紅潮したのもまた別のお話。

 




 久々に完全オリジナルでこのネタを考えたのですが、いい感じに会話をすれ違わせるのは難しいです。ネタを考えている芸人さんって凄いと改めて分かりました(小並感)

 ちなみに今回でμ'sが6人出演したので、残り6人で折り返しになりました。


 次回は久々にエロいことします()





Twitter
https://twitter.com/CamelliaDahlia


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決意の侵入、千歌の秘密の花園

 予告通り久々にエロいことします。
 ちなみに私はこの状況を経験済みです()


 

 馬鹿は風邪を引かないとよく言ったものだが、最近のウイルスは馬鹿抗体菌をも退ける程の強靭さのようだ。地球温暖化で世界全体の平均気温が上がり、それに伴って新しいウイルスが出てきたり既存のウイルスも勢力を増しているのだとか何とか。まあ俺は医療系にはあまり詳しくないから細かいところは分かんねぇんだけどな。

 

 つまり何を言いたいのかと言うと、千歌が風邪を引いたってことだ。Aqoursの中でもトップクラスに頭がイっちゃってる彼女に病気の2文字は存在しないと思っていたが……。しかし栗色サイドポニーのアイツも重要なライブ直前でブッ倒れた経験があるので、『馬鹿≠風邪』の方程式は成り立たないのかもしれない。俺、このこと論文に出していいっすか?

 

 そんなことはさて置き、俺は千歌の実家でもある旅亭『十千万(とちまん)』へ来ていた。彼女のお母さんから連絡があったので急遽駆けつけたのだが、それほどまでに重い様態なのだろうか。だったら素人教師の俺なんかよりも医者を呼んだ方がいい気もするが……。

 

 

「わざわざお越しいただきありがとうございます。千歌がどうしても先生に会いたいと駄々をこねて聞かないんですよ」

「そんなに深刻な病気なんですか……?」

「いえいえただの熱ですよ! お医者さんも1日安静にしていればすぐに治るだろうって」

「なんだよ心配して損した。いや熱を出しているのは心配ですけどね」

「ふふっ、改めてありがとうございます!」

 

 

 千歌のお母さんは口に手を当てて微笑む。

 最初彼女を見た時は妹か何かかと思っていたので、千歌の母親だと紹介された時は目が飛び出してしまった。どう見ても背丈が中学生くらいで3姉妹を産んだ身体とは思えない。このような人を俗にロリBBAって言うんだよな。アニメやラノベの世界なら割と認知されてるキャラなのだが、実際にこうして目の前で見ると背丈が小さいくせに雰囲気だけは圧巻である。

 

 それにしても、ただの熱なのに俺に会いたいってどういうことかねぇ。確かに病気で寝込んでいる時は弱気になったりするもので、誰かの温もりを感じていたいことはよくある。まあ俺がいるだけで千歌が安静にしてくれるならそれはそれでいっか。

 

 

「千歌ったら、最近先生の話ばかりするんですよ。今まで男性付き合いなんて一切なかったあの子がねぇ~♪」

「いや何嬉しそうにしてるんですか……。俺は教師であの子は生徒ですよ?」

「それでは千歌が卒業したら貰ってくださります?」

「ちょっ!? それは気が早いですって!!」

 

 

 いい歳してどれだけませてんだよこのロリBBA! こんな簡単に娘の将来を預けちゃっていいのかよ!? でもよくよく考えてみれば、音ノ木坂の親鳥もこんな思考だった気がする。もう完全にことりを俺の嫁にさせようと画策してるくらいだしなぁ。スクールアイドルの親も訳分かんねぇ奴ばっかだ。まともな大人は俺だけだよ俺だけ。

 

 

「あっ、ここが千歌の部屋です。千歌! 先生が来てくれたわよ!」

『ほ、ホントに!? ゴホッゴホッ!!』

「いいから無理すんな。それじゃあここからは俺に任せてください」

「ありがとうございます。それでは濃密なお時間を~♪」

「何言ってんだこのロリBBA!」

 

 

 あまりに親と思えない発言をされたから思わず暴言吐いちゃったよ! しかもとうとうロリBBAって言っちゃったよ!! ただロリBBAって単語が言いたかっただけだが言っちゃったよ!! まあトンデモ発言をした向こうが悪いんだから後悔はしてないけどね。

 

 千歌母はそんな発言も軽く受け流し、そのまま俺の前からそそくさと消え去ってしまった。あの母親を見れば千歌がやんちゃなのも分かる気がするよ。

 

 

「おい千歌、入っていいか?」

『どうぞぉ……』

 

 

 元気も覇気も全くない千歌の声は初めて聞いたぞ。ただの熱と言っても相当ダウンしてるみたいだな。

 俺はドアを開け、人生2度目となる彼女の部屋に入った。

 

 部屋の中は相変わらず散らかってる――――と思ったら、意外にも綺麗に整頓されていた。彼女に掃除をする体力はないので恐らくお母さんがやってくれたのだろう。ふすまにはμ'sのポスターが飾ってあるが、映っている穂乃果たちの笑顔とは裏腹に千歌はベッドで弱々しそうな顔をしていた。

 

 

「せんせぇ~……来てくれたんだぁ」

「暇だったからな。それにお前がずっと駄々をこねてたってお母さんがわざわざ連絡してきたし、断ることなんてできねぇよ」

「えへへ、やっぱ先生優しいですね……」

「どこがだ……? そんなことより、熱は大丈夫なのか?」

「朝よりかはかなり楽にゴホッゴホッ!」

「まだまだ寝てなきゃダメそうだな」

 

 

 顔を赤くしてマスクを着けている千歌を見ると、彼女の様態の悪さが目に見えて分かる。普段は最高の笑顔を向けてくれる彼女がこうも弱っていると余計に心配になっちまうよ。

 

 

「そういや気になってたんだけど、どうして俺を呼んだんだ? 梨子や曜はお見舞いに来てないのか?」

「そもそも梨子ちゃんや曜ちゃんには連絡してません。もっと言えばAqoursのみんなにも……」

「えっ、どうして? 心配させたくないからか?」

「それもありますし、お見舞いに来て風邪が伝染っちゃったら迷惑じゃないですか……」

「おい、俺はいいのかよ」

「それは……ずっと寝てるだけじゃ寂しいですから」

 

 

 千歌は俺から顔を逸らすと、掛け布団を持って顔の半分を隠してしまった。さっきからずっと千歌の顔は赤くなってるが、今の頬の赤みは恐らく照れているのだと思う。自分で言って自分で恥ずかしがるとは何事だよ……。でもそれくらい風邪を引いた人は心が弱くなってしまうものなのか。

 

 

「それに、朝から寝すぎてもう眠くないんですよ」

「風邪で寝込んだ時はあるあるだよな。かといって動き回ることもできないし、ずっと寝てなきゃいけないからもどかしいのも分かるよ」

「そうですそうです。だから目を瞑って無理矢理にでも寝ようとすると、ふと先生の顔が頭に浮かび上がってきて、あぁ会いたいなぁって思ったんです……迷惑でしたか?」

「いやそんなことないよ。俺が来てお前が安心できるなら、どこからでも駆けつけてやる」

「!? ゴホッゴホッ!!」

「お、おいどうした!?」

「先生ってたまに狙ってるかのような天然を見せますよね……」

「狙ってるというか、それが俺の素直な気持ちだからなぁ」

「優しすぎますよ……本当に」

 

 

 μ'sのみんなにもAqoursのみんなにもよくそう言われるけど、俺って優しいのかな? ただ自分の思っていることをストレートに伝えているだけなんだけど。ほら、俺って唯我独尊じゃん? それに女の子のためならたとえ火の中水の中、どこにいたって駆けつけるのは普通のことだろ。

 

 

「気にするな。俺はただやりたいことを勝手にやってるだけだ」

「ばーか……」

「お、お前! 教師に対して馬鹿はないだろ馬鹿は!!」

「そんな先生も大好きなんですけどね……♪」

「こんな状況で何言ってんだよお前は……!?」

「えへへ……♪」

 

 

 千歌は風邪でうなされる中でも最高の笑顔を俺に向ける。

 やべぇやべぇ、どうして5つも下の女の子にドキドキさせられてるんだ俺!? いつもなら千歌を弄り倒すのが俺の役目なのに、今回ばかりは向こうにペースを握られてしまっている。まさかコイツ、本当は風邪を口実に俺を騙して心を掻き乱してやろうって腹じゃないだろうな……流石にそれはないか。

 

 しかし不覚にもドキッとしてしまったのは紛れもない事実だ。頬が火照ってる影響でいつもの元気いっぱいの千歌より少々大人っぽく見えるからかもしれないが、それでも彼女にここまで心が靡いたのは初めてだったりする。μ'sという恋人たちがいながらも、また別の女の子に揺れ動かされるとか本当に節操なしだと自分でも思うよ。

 

 とりあえずこのままでは千歌が風邪から復活したら弄られる道しかない。いい感じに話題を逸らさないと。

 

 

「そうだ、お前薬は飲んだのかよ? ここにいくつか置いてあるけど」

「あぁ、解熱剤と咳止め薬は飲みました。さっきお昼ご飯を食べたばかりですから……」

「そっか。それじゃあ後は寝て安静にしてろ」

「あっ、そうだ。座薬」

「入れてないのか?」

「はい……」

 

 

 千歌は上半身を起こすと、袋の中から座薬を1つ取り出した。

 それだけならまだいい。俺がこの部屋を出て行って、その間に千歌が座薬を入れる。そしてまた俺が部屋に戻って彼女を寝かしつける。そのシナリオが自分の中で出来上がってたし、誰もがそう思うだろう。

 

 だが、そのシナリオはスタートもせずに崩れ去る。

 千歌が俺に手を差し出す。その手のひらに座薬を置きながら――――

 

 

「えぇと、千歌さん……?」

「入れて、ください……」

「は……? 今なんて?」

「入れてください。座薬を私に」

「はぁ?!?!」

 

 

 オーケー、一旦落ち着こう。座薬ってのは肛門から挿入して使う薬のことだ。薬の成分が腸から直接吸収されるから、飲み薬に比べて確実に身体に入り利き目が良いことがメリットとして挙げられる。ポイントなのはそう、おしりの穴から入れるってことだ。

 

 おしり……千歌のおしりの穴。つまり俺が座薬を摘んで、彼女のおしりの穴にそれを挿入すると……って、できるかそんなことぉおおおおおおおおおおおお!!

 

 

「お前、自分で何を言ってるのか分かってんのか!?」

「私、1人で座薬を入れるのが苦手なんです。だから先生お願いします」

「いやいや、お母さんとかお姉さんとかいるだろ。ちょっと呼んでくるわ」

「ダメです先生に入れて欲しいんです!! 少々無理矢理でもいいので!!」

「誤解を生むからなその発言!? 誰かに聞かれてないよな……?」

 

 

 正直に言おう、別に座薬を入れる行為自体は全然できる。女の子のおしりを合法的に拝めるなんて願ったり叶ったりだ。

 だが1つだけ問題点がある。それは高海千歌というさっき俺の心をくすぐってきた少女のおしりを見て、俺が冷静でいられるかが問題なのだ。ただでさえ女の子のおしりを触るなんて舞い上がることなのに、それがちょっと自分の気になっている女の子だったら理性を保っていられるのか分からない。座薬を入れるなんてほんの数秒の話だが、その数秒間に己の理性を保ち続けれるのなら俺は今まで痴漢もセクハラもしてない。つまりそういうことだ。

 

 

「ちょっ、お前何してんだ?」

「だって座薬を入れるにはこうするしかないじゃないですか」

 

 

 もう彼女は完全にやる気(ヤる気ではない)満々で、ベッドの上にうつ伏せとなった。夏場がゆえに生地の薄いジャージを着ているためか、練習着よりもおしりの形がかなり際立って見える。恐らく俺がよからぬことを考えている補正もあるのだろうが、この状況は下手なAVなんかより遥かにエロいぞ……。

 

 それに千歌はそれ以上動くことはなかった。目だけを俺に配り、頬を染め、切なそうな瞳で見つめてきやがる。そんな顔をされると断れないし、ドキドキしちゃうからやめてくれよもう……。多分千歌は俺のそんな弱い部分を知って付け込んで来ているのだろう。だとしたら相当腹黒だが、単に風邪のせいで誰かに甘えたいのかもしれない。どちらにせよ、俺が座薬を千歌のおしりにブッ刺すのは確定のようだ。

 

 

 仕方なく腹をくくった俺は、千歌の下半身へと回り込む。彼女はうつ伏せのまま一切動かないので、ジャージまで俺に脱がさせようとしているらしい。俺が変態魔人だってことを知っての行動かよ……。

 

 

「いいのか? 脱がすぞ?」

「はい……」

 

 

 あっさりと許可が下りたので、俺はとうとう教え子の女の子のズボンに手をかける。これでまた1つ犯罪歴が増えてしまうと思うと気がかりだが、目の前で困っている女の子を見過ごす訳にはいかない。俺はそう自分に言い聞かせ、ゆっくりと千歌のズボンを下ろした。

 

 

「おぉ……」

 

 

 思わず声が出てしまったので、咄嗟に自分の手で自分の口を封じる。

 高校時代はμ'sに対してこのようなこともしていたのだが、最近はめっきりしなくなったので久々に脱衣プレイができて少々興奮してきた。目の前に白のショーツ。そしてそのショーツから少しおしりのお肉がはみ出していて非常に艶かしい。肉厚のおしりやぷりっとした太ももに今にも飛びつきそうになるが、ここは千歌の家、下手に騒ぎになってロリBBAやお姉さんたちに見つかるヘマをしてはいけない。

 

 それに、重要なのはここからなのだ。

 まだここは通過点。俺が目指すのは――――千歌のおしりの穴、それもその奥!!

 

 

 今度は千歌のショーツに手をかける。ショーツを摘んだ瞬間に、指が彼女のおしりの肉の柔らかさを感じる。スクールアイドルAqoursのリーダーの高海千歌のおしりを触るなんて、世界中の男が大金を注ぎ込むレベルの行為をまさか相手から勧めてくることに扇情的欲求を覚えた。

 

 ショーツを少しずつ下げていくと、やがておしりを2つの肉丘に分ける溝筋が見えてくる。こんなにまじまじと女の子のおしりの溝を眺めたのは人生で初めてかもしれない。千歌のおしりは傷や染みも一切なく、輝くほど肌白い。現在絶賛風邪でダウン中の千歌本人とは違い、健康そのものの張りのあるおしりだ。触ったら絶対に指が食い込んで気持ちいいことは見ただけでも分かる。

 襲い来る緊張と背徳感に心臓が不規則に鼓動している。そして俺はおしりの3分の2程度までショーツを下ろしたところで、一旦手を止めてしまった。

 

 千歌の奴、さっきから何も喋らないし動きもしないけど、もしかして寝てしまったのだろうか。でもその様子を確認するために顔へ近づくことはできない。だってもし彼女が起きていて目が合ってしまった場合、世界最大規模の気まずさが流れるからだ。ここで取る選択肢は1つ――――千歌に気付かれないくらいのやんわりとした力でおしりを揉み、即ショーツを下ろす作業に戻る、これだ!

 

 

 小柄ながらもむっちりとしたおしりに、俺はドキドキで指を蠢かせながら手を近づけていく。

 そして遂に、その桃源郷に手が触れる。女の子のおしりをここまで凝視したのは始めてだが、ここまで堂々と鷲掴みにしたのも始めてだ。両手の5本の指は千歌のおしり肉に抵抗もなく食い込み、指の力を抜くと軽く反発する。おしり肉は胸と比べれば柔軟性に欠け弾力性に富むと聞いていたが、まさにその通りだ。この勢いで2つの肉丘を形成する溝に指を突っ込もうと思ったけど、それでは俺が彼女をアナル攻めするために下着を脱がしていると勘違いされてしまう。あくまで俺の使命は座薬を入れることだから。

 

 だけどこの機会は今後2度訪れるかどうか分からない。μ'sの一部メンバーなら頼めばこんなシチュエーションくらいいくらでもやってくれるのだが、風邪で寝込んでいる女の子を襲うという嗜虐的快感はそう訪れるシチュエーションではない。作られたシチュよりも思いがけずこのような状況となり、こういった背徳感を味わいたいのだ。だからこそもう少しだけ触らせてくれ。

 

 俺はさっきよりも若干強い力を10本の指に込め、千歌のおしりの肉を鷲掴みにした。

 

 

「あっ……んっ……」

 

 

 千歌の声が漏れ出したのと同時に、俺はおしりから手を離してショーツに手をかける。

 ま、まさかコイツおしりを触られて感じてたのか……? それとも薬を飲んだばかりだって言ってたから、副作用に当てられうつ伏せのまま眠って寝言を言っているだけなのかも。とにかく短い時間だったけどおしりは堪能できたんだ、本来の使命に集中しよう。

 

 

 一旦深呼吸をして落ち着き、再びショーツを下ろす作業に戻る。既に3分の2程度は下ろしてあったので、残りはもう僅か。ものの数秒でおしりの全体像が顕になるだろう。

 

 だがその全体像を網羅する瞬間が問題だ。座薬を入れるためおしりの穴を拝むのは仕方ないとしても、ショーツをどこまで下ろすかによって彼女の大事な秘所が見えてしまうかそうでないかが決まる。もしおしり穴と秘所が同時に見えてしまった場合、俺自身がどのような行動に走ってしまうのか自分でも想像が付かない。自分が興奮するとさっき抑えていたことが抑えられなくなる人間なのは自覚しているので、あまり興味本位でショーツを下ろし過ぎないように注意しないと。

 

 そんなことを念頭に置きながら、俺は彼女のショーツをゆっくりとずり下げていく。そしてとうとう肉丘の全体像が明らかになろうとした時、そこで手を止めた。

 

 ここからだ……。ここで僅かでもこの手を動かせば、彼女の穴の1つが顕となる。その穴に座薬をブッ刺し、指で奥に詰め込みながら体内へと注入させるのが俺の目的。そうなればもちろん穴に俺の指が触れることになるだろう。耐えられるか俺……? そもそもその穴をまともに凝視できるのか? 見た時点で沸き上がる欲情を抑えきれなくなるのでは……? そんな余念が脳内を駆け巡る。相手は大切な教え子だ。下手に暴走するのは絶対に許されない。

 

 

 どうする……? どうする!? こんな卑しい心満開では確実に俺は獣と化して彼女を食ってしまうだろう。女の子のおしりに座薬を入れるなんて体験はこれまでしたことがないから、自分でもどれだけ欲求を抑えられるか分からない。

 なんとか落ち着こうとするも、目の前にはもう既に千歌の純白のおしりが9割9分顕現しているため、そのぷりぷりの肉厚さを見てるだけでも気持ちが高ぶってくる。今まであまりおしりの魅力を感じたことはなかったが、今日からおしりフェチになってしまいそうだ……。

 

 

 ずっとここで(くすぶ)っていても仕方がない。ここは一気にショーツをずらして速攻で穴に座薬をいれ、早急にショーツとズボンを元に戻そう。そうしなければ一生ここでおしりを眺めながら悩み続けることになるから。

 

 そう決心した俺の行動は早かった。左手でショーツを掴み、右手の親指と人差し指で座薬を摘む。もう挿入体制は完璧だ。

 

 千歌の穴に突き刺す用意をして左手に力を込め、とうとうそのショーツを完全にずり下げた。

 

 

 そして俺は――――

 

 

 俺は――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……ここまで過酷なミッションだとは思わなかったぞ……」

 

 

 結果だけ伝えよう。ミッションは無事に完遂した。

 途中で理性の糸が切れることもなく、ただ無心となって座薬を千歌のおしりに注入した。恐らく興奮したままの勢いでやっていたら、間違いなく今頃この部屋がレイプ現場となっていただろう。それでもさっきから息が絶え絶えで緊張もまだ解れないっていうのに……。

 

 そういや、案外すんなりと座薬を受け入れたな。おしりに力を入れると全然入らないから、その点では千歌が安静にしてくれていて助かったよ。おしりを触って喘ぎ声っぽいのを上げられた時はひやひやしたけど、それで恥ずかしくなって力まなかった辺り相当な根性を持っているなコイツ。一応座薬を入れ終わったことを伝えておくか。

 

 

「おい千歌。もう終わったぞ――――って」

「すぅ……」

「なんだよ寝てんのか。だったらもっと触っておけば良かったなぁ……なぁんて」

 

 

 あの手触りを思い出して少し後悔をしながらも、また脅迫の材料が増えるなんて事態にならなくて安心した。もうこれ以上教え子に虐げられる生活はゴメンだからな。

 

 

 

 

 そしてその翌日。千歌からこんなメッセージが――――

 

 

『先生のおかげで風邪も熱も綺麗さっぱり治りました! ありがとうございます! それとぉ……私のおしり、気持ちよかったですかね♪』

 

 

 ば、バレてる!?!?

 




 今までにないタイプのR指定回だったのでどこまで描写していいのか分からず、結局おしりの穴の直接描写はできませんでした。まあ妄想力豊かな皆さんなら描写がなくても、千歌のア○ルくらい余裕で想像できるはずですよね?

 次回はμ'sから、あの宇宙No.1アイドルの降臨です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あんたたち、ちゃんとキャラ付けしてんの?(前編)

 矢澤にこ先生、浦の星に襲来回。


 

 今日もいつも通りミーティングを行うため、俺とAqoursは部室に集合していた。各々パイプ椅子に座りながらお喋りをしたり本を読んだり携帯を弄ったりと、三者三様のことをしてまとまりがない。それもそのはず、まだミーティングは始まっていないのだ。

 

 

「せんせぇ~いつ始まるんですかぁ~?」

「悪い悪い、もうすぐだからさ」

「早くしないと練習時間が減っちゃいますよぉ~」

 

 

 千歌は机に伏せながら文句を垂れる。病み上がりだったからこそ練習を楽しみにしていた彼女にとって、この待ちぼうけの時間はウズウズしてしょうがないのだろう。まあ授業中も居眠りして体力が有り余っているから身体を動かしたいのは分かる。他のみんなも今日やる予定だった練習時間を潰されて暇そうにしているから、俺としても早くミーティングを終わらせて練習させてやりたいんだがなぁ……。

 

 すぐにミーティングを始めないのはとある人物を待っているからだ。とは言ってもその人物を待っているという事実は俺しか知らず、みんなはただ理由もなく無駄に待ちぼうけを食らっているとしか思っていない。でも仕方ないだろ、その人物から自分が来ることを内緒にしておくようにと念を押されてんだから。

 

 

「先生。このまま私たちを無意味に待たせるのなら、もうミーティングを開始してしまってもよろしいでしょうか?」

「いやだからもうちょっとだけな……」

「だったら理由を説明してくださりませんこと!?」

「言えねぇんだよ!! それに多分待てば待つほどお前らが喜ぶと思うぞ」

「喜ぶ……ルビィたちがですか?」

「そうだなぁ、千歌やダイヤは驚きで死ぬんじゃねぇか」

「どれだけ怖い人が来るんですか!?!?」

「違う違うそういう意味じゃない!」

 

 

 あぁもう早く()()()来てくれよ! このまま誤魔化し続けるとみんなの怒り(ほとんどダイヤだが)が俺に降り注ぐんだって!

 

 

「もう暇過ぎて眠たくなってきたよぉ~……」

「さっきの授業中もずっと寝てたじゃない。まだ眠いの?」

「一応まだ薬は飲んでるから、その副作用なのかもね」

「いや、千歌ちゃんの場合はお昼ご飯食べてからは毎日こうな気もするけど……」

「梨子ちゃんも曜ちゃんも失礼な! 私は全然元気だし、寝る子は育つ理論だよ!」

「寝たいのか練習したいのかどっちなの……?」

 

 

 千歌が風邪でブッ倒れていた件に関して、Aqoursのメンバーには今日伝えられた。梨子と曜に安静にしておいた方がいいと練習を休まされそうになった千歌だが、完治してから1日療養期間を設けていたので大丈夫だろうという俺の判断で今ここにいる。そもそも千歌のことだ、俺たちの練習をただ指を咥えて見ているはずがないだろう。

 

 

「驚きで死んじゃうって、一体誰なんだろうね」

「誰でもいいわよ。このまま練習時間が短くなるくらいなら、もう帰りたいんだけど」

「そんなこと言って、もしその人が来たら善子ちゃんも腰を抜かしちゃうかもしれないずら♪」

「そ、そんな肝が小さい人間に見える訳!?」

「あれぇ人間? 堕天使じゃなかったっけ?」

「こんのぉズラ丸ごときがぁあああああああああ!!」

「お、落ち着いて善子ちゃん!」

 

 

 1年生はいつも通りの漫才で暇を潰している。

 そしていつも思うけど、花丸って善子に対してだけかなり黒い部分あるよな。あの温厚な花丸でさえイジリキャラになってしまうほど、善子がイジられキャラのオーラ強いってことか……。

 

 

「ここまで人を待たせるなんて、非常識な人ですわ全く……」

「待たせた結果ダイヤが驚いて死んじゃうかもしれないって先生言ってたよね」

「安心して。ダイヤのお墓は小原家自慢のホテルの屋上で華やかに建ててあげるから♪」

「余計なお世話ですわ! それに私が驚いて死ぬ? そんな大袈裟な……」

「でもダイヤ、μ'sの絢瀬絵里さんが来た時は数分気絶したって聞いたけど」

「そりゃあの絢瀬絵里ですから!! スクールアイドルならあのμ'sの誰が来たって気絶するのが当たり前なんです!!」

「いや、それはないよ」

「なに鞠莉さんのくせに冷静にツッコんでるんですか!!」

 

 

 中々ヒドイ言い草だなオイ。まあ俺も鞠莉がノリも流れも無視してツッコミを入れる姿は見たことないが……。

 

 そんなこんなで各々の暇つぶしを鑑賞していると、携帯に今回の主役からメッセージが届いた。なになに――――もう5分前から部室の前にいるだと!? 何やってんだとっとと入ってこいよアイツ!! えぇっとなになに――――登場の仕方を考えてただって!? 全くアイツらしいというか何と言うか……。

 

 

 そして俺が部室の入口を注目する間もなくその扉が開け放たれる。

 勢いよくバンッと扉の開く音が響いたためか、千歌たちの身体がビクリと飛び上がった。誰が侵入してきたのかと警戒しながらも、9人の目線は部室の入口へ向く。

 その目線の先には、黒髪ロングで周りに自分だと悟られないようにするためか変装グッズで顔を隠していて――――って、えぇっ!? へ、変装したまま!?

 

 

「にっこにっこにー あなたのハートににっこにっこにー 笑顔届ける矢澤にこにこー にこにーって覚えてラブニコっ♡」

 

 

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

 

 流れる沈黙。

 そりゃそうだ。だってサングラスを掛けているちびっこい女の子に、突然意味不明な自己紹介を披露されたんだから……。

 

 

「……あら?」

「おい、にこ」

「なによ……」

「サングラス、そして髪型も普段通りにしないと誰か分かんねぇって」

「あっ、登場の仕方を考えていてすっかり忘れてた!!」

 

 

 宇宙No.1アイドル、矢澤にこ。今回ほど滑りに滑った自己紹介は今までなかっただろう……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「…………」

「…………」

「ち、ちちち千歌さんとお姉ちゃんが……し、しししししし死んでる!?」

「ルビィちゃんも驚きで死にそうになってるずら……」

 

 

 矢澤にこと言えばμ'sの中でも圧倒的存在感(マスコット的な意味で)を放つメンバーの1人である。そんな有名人がいきなり目の前に現れたら、μ'sのファンである千歌やダイヤは泡を吹いて倒れてしまうってことくらいは容易に想像できる。そして案の定、魂が口から抜けていくほどに驚いて気を失ってしまった。

 

 

「にこの可愛さに魅了されたようね。まあ、当然と言えば当然だけど」

「いつもは受け流すところだが、今回ばかりはマジでそうだから言い返せねぇ……」

 

 

 サングラスを外し、髪型をツインテールに戻したにこはスクールアイドル時代の彼女そのまんまだ。つまり身体の方はあまり成長してないってことになるが、それを言うと俺まで千歌たち同様に昇天させられるので伏せておく。まあロリキャラってのは一定の需要があるから廃れることもないし、それをウリにしていくのは全然いいんじゃないか? もちろん本人の前では言えないけど。

 

 そんな2つの気絶死体が転がっている雰囲気の中、曜が代表して疑問を投げかけた。

 

 

「で、でも驚きました。μ'sの矢澤にこさんがどうして浦の星に……?」

「いい質問ね、渡辺曜さん」

「うぇっ!? なぜ私の名前を!?」

「だって浦の星にお邪魔するんだから、その学校のスクールアイドルを熟知するのは当たり前でしょ」

 

 

 意識たけぇ流石世界のYAZAWAは違う。海未なんてAqoursの存在を知っていただけで、基本すらもノー知識だったからな。しかしにこがここへ来た目的を考えればAqoursのメンバーや活動履歴を熟知しておくのは当たり前なのだが、それは追々本人の口から語られるだろう。

 

 そしてどうでもいいが、Aqoursのみんなはμ'sの先輩たちに名前を知られていると毎回同じ反応をして驚いていることに気付いた。やっぱ憧れの人に名前を覚えられていると感動してしまうのもなのかねぇ。でも千歌やダイヤのように気絶するのはかなり行き過ぎた衝撃だと思うが。

 

 

「ほら千歌ちゃん、そろそろ起きて」

「ダイヤもいつまで気を失ってるの?」

「う~ん……梨子ちゃん?」

「果南さん……私一体……」

「あっ、千歌っちもダイヤも目が覚めた?」

「はい……なんかμ'sのアイドルのにこちゃんが、私の目の前にいる夢を――――!?!?」

「私もです。目の前であの『にこにこにー』を披露してくれた夢を――――!?!?」

「千歌ちゃん? ダイヤさん……?」

 

 

「え゛ぇええええええええええええええ!? みゅ、μ'sの矢澤にこちゃん!? どうして部室に!?」

「こ、これはまだ夢なのですわそうですわ!! だったら早く家に帰って寝ないと!!」

 

 

「もういいから早く戻ってこい!! これは現実だ!!」

 

 

 また千歌とダイヤが夢世界へ旅立ちそうになったので慌てて実世界に引き戻す。ここで再び夢世界にのめり込んでしまったら、起きた時にまた同じことを繰り返しそうだからな。『夢世界から目覚める』⇒『矢澤にこを目撃する』⇒『驚く』⇒『夢世界へ』の無限ループになりかねない。

 

 

「あぁ、ここまで尊敬されるなんて気持ちがいいわねぇ~♪ このためにアイドルをやってきたって感じ!」

「チヤホヤされんの好きだもんなぁお前。今めちゃくちゃ輝いてるけど……」

 

 

 μ'sの現役時代は『にこにこにー』をやっても穂乃果たちからは白い目どころかスルーの領域だったが、彼女たちが伝説ぶになっていけばいくほどその『にこにこにー』も付随して有名になっていった。にこがその自己紹介をするだけで歓声が上がるくらいには世間に認知されている。同時にコイツの驕りも頂点を極めている訳だが、それも実力で勝ち取ったものだから誰も文句は言わないし言わせない。

 

 

「それで? その有名人さんが何の用なのよ? 待たせるだけ待たせて、大した用事じゃなかったら承知しないわよ」

「えらく上から来るわね津島善子さん。ま、これ以上時間を取らせるのも悪いし、にこがここへ来た目的でも発表しようかしら」

 

 

 にこはホワイトボードの前を陣取ると、白板の上部に大きな丸っこい文字でこう書き綴った。

 

 

『にこにーの素人スクールアイドル大特訓』

 

 

「な、なんですかこれ……」

「にこは思ったのよ。あんたたちは確かにステージ上では輝いてる。まあそれは零が顧問をしているから当然と言えば当然だけどね。でも、この前PVも兼ねたAqoursのインタビュー動画を見て確信したわ」

 

 

 にこはカッと目を見開いて、Aqours9人を威圧するように見下す。千歌たちはその勢いに圧倒され、手を膝の上に置いて畏まった。

 

 

「あんたたち、ちゃんとキャラ付けしてんの?」

「きゃ、キャラ付け……?」

「そう。アイドルってのはね、キャラの濃さが命なのよ! しかもこのご時世、にこたちがμ'sをやっていた時とはスクールアイドルの母数が違うわ。その過酷な生存競争に負けないために己のキャラをアピールしていかないと、知らず知らずの間にアイドル界の闇に飲み込まれるわよ!!」

 

 

 ――――と、スクールアイドルのレジェンドである矢澤にこ氏が申しております。

 μ's時代だと彼女のこの発言は的を射ているが、穂乃果たちには笑ってスルーされていた。しかしμ'sがレジェンドスクールアイドルとなった今、彼女のこんな発言にも物凄い重みを感じる。やはり上からモノを言うには結果を残さないとな。

 

 そしてにこが浦の星へきた理由。それは千歌たちをスクールアイドルとして徹底的に指導することだった。ただの練習なら俺でもできるが、こういったアイドル根性論はやはり彼女の方が適任だ。昨日いきなりにこから電話でAqoursの強化指導に来ると言われて驚いたが、これはこれで千歌たちにはいい経験となるだろう。まあコイツに真っ当な指導ができるのかは別として……。

 

 

「キャラ付けって、いきなり言われても……」

「あなた桜内梨子さんね」

「は、はい……」

「地味ね」

「はいぃぃ!?」

「インタビュー動画を見る限り、緊張が顔や雰囲気にも出てる。ステージ上で楽しくダンスするのは当然よ。だからどのアイドルも笑顔で歌って踊ってるわ。つまりね、他の子たちと差をつけるにはこういったインタビューでこそ輝かなきゃいけないのよ!!」

「そ、そうですか……でもどうやって?」

「ちょっと携帯のカメラを回してあげるから、適当に自己紹介やってみなさい」

「えぇ……」

 

 

 にこがスマホのカメラを梨子へ向けると、俺を含めAqoursの目線も一気に梨子に集中した。まさか初っ端から自分に火の子が降りかかってくるとは思ってもいなかったのだろう、周りは見知った顔ばかりなのに人前でインタビューする時以上に緊張の表情を浮かべている。

 

 

「ほら、軽くでいいから自己紹介しなさい」

「はい……。Aqoursの桜内梨子です。趣味は絵画と手芸、料理です。特技はピアノで、Aqoursの曲の作曲を手がけています。好きな食べ物はゆで卵、嫌いな食べ物はピーマンです――――こんな感じでしょうか……?」

「う~ん、やっぱり地味ね」

「そんな!? 矢澤さんが自己紹介をしろっていうから……」

「小学生でもできる自己紹介をするなってことよ。見てなさい、μ'sを伝説に押し上げたにこの自己紹介を!!」

 

 

 にこは自慢のツインテールを解くと、明らかに作っていると分かる似合わないアダルティな微笑みを俺たちに向けた。

 

 

「にっこにっこにー♪ あなたのハートににこにこにー♪ 笑顔届ける矢澤にこにこー♪ にこにーって覚えてラブにこ♡ あぁっ! だめだめだめー! にこにーはみーんなのも、の♡」

 

 

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

 

 本日2度目の沈黙が訪れる。

 ある者はポカーンと口を開け、ある者は目を見開いて驚き、ある者は目を輝かせて尊敬の眼差しを送っていた。俺はこの光景を見て、にこがμ'sと初めて関わりを持った時の穂乃果たちの反応を思い出す。最も、その時は誰1人として尊敬の眼差しなど送っていなかったが。

 

 

「あぁ、生でにこちゃんのにこにーが見れるなんて!! もう感激!!」

「もう一度! もう一度お願いしますわ!!」

「えぇ~どうしよっかなぁ~? それじゃあ~梨子ちゃんがにこと同じように自己紹介をしてくれたらもう一度やってあげてもいいかもぉ~」

「え゛っ!? ま、また私!?」

 

 

 梨子は自分の番が終わったと思って油断していたのか、またしてもにこの矛先がこちらに向いてギョッとする。それと同時に、にこのにこにーの見たさに取り憑かれた千歌とダイヤの熱い目線も梨子に降り注いだ。

 

 

「梨子ちゃんやって!! ほらやって!!」

「梨子さん! ここでスクールアイドルの意地を見せる時ですわ!!」

「そ、そんなこと言われてもぉ~……」

「たまにはいいんじゃない? 梨子ちゃんのはっちゃけてる姿を動画に撮ったら、絶対にAqoursのPVも再生数伸びるよ♪」

「曜ちゃん自分が蚊帳の外だからって調子のいいことを……」

「ねぇねぇ梨子ちゃんやってよぉ~! にこちゃんの生にこにーなんて滅多に見られるものじゃないんだよ!?」

「えぇ~……」

 

 

 まあ渋るのも分からなくはない。今となっては伝説の挨拶になっているにこにーだが、まだμ's結成当時は凛に寒くないかと言われるくらい女の子へのウケも悪かった。つまりそれくらい可愛くも恥ずかしいことなのだ。

 

 だが困惑している梨子には悪いが、彼女の陽気に満ちた自己紹介を見てみたいって欲はある。曜の言う通りギャップ萌えは世間の話題性を生む。特に今人気上昇中のAqoursのPVにそんな衝撃映像が加われば、スクールアイドル界でAqoursの名は大きく膨らむことだろう。それにそんな計略以前に、単純に梨子のお茶目な姿を見たいって欲の方が強いんだけどね。

 

 

「ほらほら! 梨子のラブリーな姿をカメラに収めてあげるから♪」

「携帯構えないでくさだい鞠莉さん!!」

「元々あんたにはやらせる予定でここへ来たから、逃げ道なんてないわよ」

「うぅ……わ、分かりました!! やればいいんでしょうやれば!!」

「おおっ、ついに梨子さんの可愛い自己紹介が見られるずら!」

「正直私も見たいって思ってたんだ。頑張って!」

「花丸ちゃんに果南さんまでぇ……もう……」

 

 

 周りからの期待にとうとう諦めと決心が着いたのか、梨子は顔を赤くしたままその場で立ち上がった。そしてにこの自己紹介のように両手の指を親指、人差し指、小指を上げ、にこにーの体勢を作り始める。みんなの期待が籠った沈黙の中、梨子は大きく深呼吸をしてこれまた分かりやすい作り笑顔を浮かべ――――

 

 

「りっこりっこりー♪ あなたのハートにりこりこりー♪ 笑顔届ける桜内りこりこー♪ りこりーって覚えてラブりこ♡ あぁっ! だめだめだめー! りこりーはみーんなのも、の♡」

 

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

 

 部室に本日3度目の沈黙が支配する。

 梨子は作り笑顔のままずっと硬直して動かない。恐らく周りの冷たい反応を見るのが怖くてみんなの顔を直視できないのだろう。彼女に冷汗が流れているのは間違いない。

 

 だが、千歌たちが梨子に向ける目線は冷酷ではなかった。美しいものに目を奪われるような熱い視線は、まるで本物のアイドルを見かけた時のようだ。

 

 

「す、凄いよ梨子ちゃん!! とっても可愛かったよ!!」

「梨子さんの甘い声、ルビィも思わず見惚れちゃいました!!」

「やめて!! 褒められれば褒められるほど恥ずかしいから!!」

「グッドよ梨子! この携帯にしっかりとその魅力を収めたから♪」

「本当に撮ってたんですか!? け、消してください!!」

「これでPVの再生数もウハウハだね!」

「動画アップロードしたら絶交だからね曜ちゃん!!」

「我が眷属にしてはよくできた方じゃない。褒めてあげるわ」

「いつもはスルーするけど、今回ばかりは善子ちゃんの褒め方が一番安心するっていう……」

 

 

 正直な話、俺も梨子がどんな痴態を晒すのかドキドキしていたのだが、実際に"にこにー"ならぬ"りこりー"を見てみると普通に可愛くて釘付けになってしまった。未だかつてこれほどのギャップ萌えを感じたことはないってくらいだ。そういや鞠莉がこっそり動画を撮ってたらしいから、あとで俺の携帯にも送ってもらうか。梨子のあの作っていながらも爽やかに媚びる笑顔は、携帯のホーム画面にしてもいいレベルの癒され具合だぞ。

 

 

「ねぇ、なんかにこの時よりも盛り上がってない……? どうして模倣している方がウケいいのよ!?」

「生で見られたとは言え、お前の自己紹介はもうみんなネットの動画で見慣れてるだろうしな。結局さ、新鮮味がないんだよ」

「なによそれ!? プロが素人に負けるなんて有り得ないんですけど!? あぁもうっ!! ムカついたからAqoursを徹底的に教育して、全員をにこの色に染めてやるわ!!」

 

 

 μ's時代も結構な貧乏くじキャラのにこだったが、まさかAqoursの前でも同じ仕打ちを受けるとは……。まぁお似合いって言えばお似合いなんだけどね。

 

 そして憤ったにこ先生の指導は、ここから更に苛烈を極めることになる――――

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 μ's襲来編は基本μ'sメンバー1人につきAqoursメンバー1人でしたが、矢澤先生は新人アイドル潰しに定評があるので全員との絡みにしてみました。そのせいでまた登場人物が多くなって読みにくく……。

 次回はにこ先生の指導回後編。梨子以外のAqoursメンバーにも多大なる被害の予感が……。


新たに☆10評価をくださった

西木野 果南さん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あんたたち、ちゃんとキャラ付けしてんの?(後編)

 なんと今回でサンシャイン編が30話目なのです!


 

「あぁ、なんか大切なモノを失った気がする……」

「梨子ちゃん頑張った! 頑張ったよ!! これでAqoursの人気はうなぎのぼり間違いなし!!」

「絶対に動画アップロードさせないから!! さっき消してもらったから!!」

 

 

 『にこにー』ならぬ『りこりー』で恥を捨て去った梨子だが、その心は甚大なダメージを受けているみたいだ。千歌たちが可愛いと褒めまくっていたのが逆効果だったみたいで、さっき血眼になって鞠莉に動画を消すよう迫っていた。一応鞠莉はその場で動画を消してその証拠を梨子に見せたのだが、抜け目のない彼女のことだ、恐らく速攻で別のどこかにバックアップしているだろう。後でその動画を貰って、俺の家宝にする予定だからよろしく!

 

 

「にこより反響が良かったのは癪だけど、まあ及第点にしておいてあげるわ。それよりも次よ次!!」

「さっきので終わりじゃないのかよ……」

「自己紹介なんて前座の前座だから。そうねぇ、次はあなたよ! 黒澤ルビィさん!」

「えぇっ!? ル、ルビィはキャラなんてないようなものですし……」

「なかったら作る! これが鉄則よ!!」

「うぅ……」

 

 

 キャラがないとか言っているが、その守って抱きしめたくなる純粋な性格は立派にキャラが立っていると思うぞ。極度の人見知りの妹キャラってそこまでいるものでもないし、完璧超人のブラコン妹を持つ俺にとってはルビィのキャラが新鮮で仕方がない。

 だがにこはそんな彼女でさえキャラが薄いと仰っている。こっち来てからイキイキとしているにこを見ると、Aqoursのキャラ付け指導ってより単純に自分が楽しみたいだけなのでは……? これは触れちゃいけないことだったか。

 

 

「まずは普通に自己紹介をしてみなさい」

「ルビィのですか……?」

「他に誰がいるのよ。ほら早く」

「じ、自己紹介って言っても普通ですよ……?」

 

 

 にこの勢いに押されつつあるルビィは、千歌たちの注目を浴びビクビクしながらもその場で立ち上がった。

 

 

「く、黒澤ルビィです……。えぇと、浦の星女学院の1年生でスクールアイドルをやってます。よ、よろしくお願いします!!」

 

 

「あざといわね。その弱々しく人の母性に漬け込もうとしているのが見え見えだから」

「ふぇ!?」

「そんなにあざとく男性に媚を売っても、今時の人は騙されないわよ」

「い、いや、別に好きであざとくしている訳じゃ……ただ緊張してしまうんです!!」

「仕方ない。にこが売れるスクールアイドルのキャラというものを伝授してあげるから」

「は、話を聞いてない!?」

 

 

 レジェンドスクールアイドルのお言葉なので納得してしまいそうになるがよく考えて欲しい。高校時代に男女問わず媚を売って、痛いキャラ付けをしていた張本人が何を言っているのかと。お前よりあざとい女の子がいるんだったら教えて欲しいわ。

 

 

「今流行りのキャラはオラオラ系よ」

「オラオラ系……? オレオレ詐欺みたいな語感……」

「あざといキャラってのが昔に流行ったでしょ? 今度はその逆のイケイケしている性格、つまり遊んでいるJKのようなキャラがノリに乗ってるのよ」

「で、でもルビィはそんなに積極的には……」

「分かってる。だから台本も事前に書いてきたから。はい、これ」

 

 

 わざわざ台本を作ってくるなんて暇人かよ……。でもAqoursのメンバーの性格をPVだけで把握しているのは、やはりスクールアイドルをやっていた経験から成せる技だろう。

 

 ルビィは台本に書かれているセリフを見ると、『うゅ……』と言いながら尻込みする。どうせにこの遊び心が満載なんだろうが、正直梨子同様にオラオラ系になったルビィを見てみたいってのはある。一応以前秋葉の芳香剤の力でみんなのキャラがブレブレになっていたのを目撃したのだが、やはりこのような性格変換は女の子の恥じらいがあってこそなんだ。恥ずかしがりながら別のキャラを演じる女の子、ありだと思います。

 

 ルビィはセリフを読み込むたびに強ばった顔をしているが、みんなが注目している以上このまま引き下がる訳にはいかないと本人も分かっているようだ。台本を閉じ、にこから渡された変装用のサングラスを掛けると、すぅっと大きく息を吸い込む。

 

 

「チッ、ダイヤかよメンドくせぇ……ジロジロ見てんじゃねぇよ!! あ゛っ? 私の名前? 黒澤ルビィって言うんだ文句あるか? それにルビィなんて気安く呼ぶんじゃねぇぞ!!」

 

 

「あ゛ぁあ゛あ゛あ゛あああぁああああああああああああああああ!! ルビィぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

「うるせぇよ!!」

 

 

 突然ダイヤが謎の奇声を発して俺たちの鼓膜を突き破ろうとする。それもそのはず、ルビィが演じたのはオラオラ系というより完全にグレたギャル系の女子だ。しかもダイヤを狙い撃ちするセリフであるため彼女の心は(えぐ)れに(えぐ)れているだろう。そしてこの展開を確実に予想しており、セリフを考えた当の本人は(うずくま)りながら腹を抱えて笑っていた。

 

 

「くくくく……思った以上の反応で笑いが……!!」

「お前これが見たいがために浦の星に来たのかよ……」

 

 

 そういや人を出し抜くことに関してだけは頭の回る奴だったなコイツは。わざわざダイヤがシスコンだって情報を手に入れ、本業のアイドル活動をしながらもルビィに読ませるセリフを考えるなんて魂込めすぎだっつうの。久々ににこに会って忘れていたが、このようなことでストレスを発散する陰険な奴だった。

 

 

「はぁはぁ、笑いすぎて疲れそう……。でもなんやかんや言いたいのは分かるけど、インパクトは大きかったでしょ?」

「確かに。マル、ルビィちゃんに腰が引けたのは初めてだったずら」

「サングラスの効果もあったからね。まあヨハネのリトルデーモンなんだったらそれくらいの威厳があった方がいいわ」

「…………やっぱり、にこの時よりウケ良くない?」

 

 

 散々ルビィとダイヤの反応で笑った挙句、周りの声を聞いて不平を漏らすとは陰湿過ぎやしませんかねぇ……。

 ちなみに実際にルビィの演技は本人とは思えないほどドスの効いた声色だったが、やはり外見の可愛さ的にそこまでワルにはなりきれなかったようだ。セリフを言い終わってからずっと後悔したような顔でダイヤに懺悔している。

 

 

「あぁぁぁ……ルビィがこんな悪い子に!!」

「ゴメン! ゴメンねお姉ちゃん!!」

「気絶したり発狂したり忙しいねダイヤは……」

「そうねぇ。黒澤ダイヤさん、あなたはAqoursの芸人枠で決まりよ!!」

「はぁ!? どうしてそうなるのです!! 私のような品行方正で規律高い生徒会長は他にいませんわよ!?」

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

「皆さん!? 何故そこで黙るのです!?」

 

 

 ダイヤを除く千歌たち8人は揃ってこう思っているだろう。品行方正? 規律高い? いやそれはない――――と。千歌の話を聞く限りでは、スクールアイドル部の結成を幾度となく反対してきた、まさに初期の絵里のようなお堅い感じたったらしい。だが今の現状を見てみると、品行方正なのは間違いないがそれ以上にどことなくポンコツさが垣間見えて全然規律高いとは思えない。表情が豊かなのも逆に災いになっていて、妹のルビィですら同意できないほどなのだ。それに可哀想なことだが、俺もそう思っているからな。言うなればそう、海未みたいな顔芸枠と同類だよ。

 

 

「さて次は――」

「もう私の番は終わりですの!? 自己紹介をするとか台本を読むとかは!?」

「あなたよ、松浦果南さん」

「わ、私!?」

「無視ですか!?」

 

 

 ダイヤは芸人キャラと9割方馬鹿にされてるのに自分の番を望んでいるのか……。

 まあそれはもういいとして、にこが次のターゲットに選んだのは果南だ。果南は『来ちゃったかぁ……』と半ば諦めムードを漂わせているが、それも仕方ない。だって梨子もルビィも慣れないことを無理矢理させられて、今もずっと顔が火照っているから。

 

 

「にこがあなたにピッタリのキャラを考えてきてあげたわ。このキャラを演じれば、AqoursのPV再生数がスクールアイドルの中でナンバー1になる日も近いから」

「お前それ言っておけば何をやってもいいみたいな風潮ない?」

「どうでもいいわよそんなこと。さて、まずは恒例になった普通の自己紹介からしてもらいましょうか。あっ、ここでネタを入れなくてもいいわよ」

「いちいち言わなくても入れませんって……。でも改まって自己紹介をするのはちょっと緊張するかも」

 

 

 こう言っては悪いが、果南も梨子と同様にAqoursの中ではインパクトが薄いように感じる。もちろん彼女の魅力は俺も理解しているのだが、如何せん同学年のダイヤや鞠莉のキャラが強すぎるのがな……。

 

 

「Aqoursの松浦果南です。趣味は天体観測と水泳で、特技はダイビングと操船です。こんな感じですかね……?」

 

 

「普通ね。すっっっっっっっっっっっっごい普通」

「えぇ……。これ以上どうやって自己紹介を広げれば……」

「これだからスタイルのいい奴は文句ばっかり。絵里だってそう、もっと自身の天然さを前面に押し出せばいいのに秀才ぶっちゃって。どうしてスタイルのいい奴はこうも謙虚なのかしら」

「もうほとんどお前の妬みじゃねぇか……」

「はいそれじゃああなたはこれに着替えて」

「えっ? 台本を読むんじゃないんですか?」

「もちろんセリフは重要だけど、にこはあなたたちをしっかり調べてきているのよ。つまりあなたは媚びたセリフを喋らせるより、その憎たらしいスタイルを活かして外見を変えた方がいいって分かってるから」

 

 

 完全にコンプレックスの塊で、やっぱり自身のストレス発散のためにここへ来たとしか思えねぇ。まあ22歳でこんなちんちくりんな身体に対し、5歳下の果南のスタイルの良さを見たらそう思わざるを得ないのか。男が下半身のイチモツの長さ・太さ・持久力を気にするように、女の子も身体付きには敏感になるんだな。

 

 果南はにこに渡された紙袋を手に更衣室へと向かった。紙袋の中身を見た瞬間に一瞬顔が赤くなったのを見逃さなかったが、一体何を渡したんだにこの奴。素人スクールアイドルの指導とか言いながらも自身のストレス発散に来ているコイツのことだ、正直言ってまともな衣装は入っていないだろう。

 

 

「先生、μ'sもこんなことしてたんですか?」

「まあしてるって言えばしてたな。何故かそれぞれ部活に部員になりきってみたり、何故かお互いの髪型やキャラ、口調を交換してみたり、変なヘビメタのメイクと衣装をキメてみたり――――正直μ'sの黒歴史時代だよ」

「ちょっ、その話は紐解いちゃいけないって何度も言ってるでしょ!?」

「それじゃあ私たちは現在進行形で、その黒歴史と同じ道を歩んでいるんですね……」

「梨子の秘蔵映像はこの携帯に保存してあるから、また月日が経ったら見返しましょ♪」

「鞠莉さん!? その映像はさっき消したはずでは!?」

「思い出だよ。私たちの大切なMemoriesなんだから!」

「それらしいこと言っても無駄です!!」

 

 

 まあ黒歴史は後から掘り出して晒すことを目的としているから黒歴史なのであって、そのまま誰の目や耳にも触れず封印していたらそれはもう歴史ではない。

 ちなみにμ'sの黒歴史の映像は今でもしっかりと俺の手元に残ってる。もしAqoursが迷走した時にその映像を見せて、『君たちの憧れの先輩たちも、こうやって痛い路線を突き進んでいた時代があったんだ』と元気付ける要因にする予定だ。こうして後世のスクールアイドルたちは成長していくんだな、うんうん。

 

 

 そんなこんなで駄弁っていると、果南が更衣室の扉を少し開けてこちらを覗いていることに気が付いた。彼女はあまり恥じらいの姿を見せないので、こうしておどおどしているのは珍しかったりもする。

 

 

「ほら果南、そんなところで立ち止まってないで早く早く!」

「ま、鞠莉!! 開けちゃダメ!!」

 

 

 鞠莉が扉を引くと、扉にもたれ掛かっていた果南の身体がよろけ部室に倒れ込んでくる。何とか体勢を保って転倒を防いだ果南は、遂に自分の姿を晒してしまったと思いその場で目を上げる。そして、俺を含む千歌たちとバッチリ目が合った。だが千歌たちの目線は、今まで梨子やルビィに向けられていた目線とは全く違う。目ヂカラの籠った舐めまわすような視線は、多少の物事では動じない大人びたあの果南すらも震わせた。

 

 俺たちがそこまで果南に注目している理由。それは彼女が――――スクール水着姿だったからだ。しかもただのスク水ではない。明らかに彼女のスタイルとスク水の大きさが合っておらず、おっぱいがこれでもかと言うくらいむっちりと、ぴっちぴちに強調されている。そもそもスク水を着てるのかってくらい身体への張りが凄まじく、ここまでスク水が身体のラインを形成している姿は見たことがない。

 

 そしてそんな扇情的な姿をしている果南を、男の俺はもちろん女の千歌たちも何かの欲求が唆られるように凝視していた。

 

 

「あ、あまり見ないで……」

「果南ちゃん……触っていい? ちょっとだけ、先っちょだけでいいから!!」

「千歌!? 何言ってるの!? それになんか意味深だし!!」

「スク水の女の子なんて毎日見てるのに、ここまで卑しく着こなす人は初めて見たよ……。私も触らせて!!」

「曜ちゃんまで!? ちょっと待って目が……目が怖い!!」

 

 

 女の子にまで劣情を抱かせる果南の身体が凄いのか、それとも千歌と曜が少し淫乱思考なのが悪いのか……。まあそんなことを言ったら、みんな少なからず今の果南を劣情の籠った目で見てるっちゃ見てるけどな。

 

 それにしても相変わらずエロい身体してんなぁコイツ。スク水が身体にビタッと張り付いているため、もう何も着てないのとそこまで大差がない。こうして椅子に座ったまま冷静でいられる自分が不思議なくらいだ。この状況で周りに人がいなければどうなっていたことやら……。

 

 

「ちょっと失礼♪」

「きゃっ!! ちょっと鞠莉!?」

「oh!! やっぱり揉み心地さいこ~♪」

「あっ、や、やめて……んっ、あぁっ!!」

 

 

 おいおいおい、男がいる前で百合営業を始めんなよこっちは抑えるだけで必死だっつうのによぉ!! しかも巨乳ちゃんが巨乳ちゃんの胸を揉むって、それ俺が一番大好きな百合プレイだから!! あまり目の前でいちゃいちゃと胸を揺らしながら喘ぎ声を出さないでくれますかねぇ!?

 

 

「あぁ、やっぱムカつくわね巨乳は。何もしなくてもその脂肪の塊をぶら下げてるだけでステータスになるんだから。にこみたいに涙ぐましい努力をしてる幼気な女の子に謝って欲しいくらいだわ」

「謝って欲しいって、お前が果南にあんな衣装を着させたんだろ……」

「本当は『こんなエッチな衣装を着る果南ちゃんなんて見たくない!! だからいつもの果南ちゃんに戻って!!』みたいな展開を期待してたんだけどねぇ。それで巨乳が淘汰される光景を見て愉悦に浸るつもりだったのよ」

「俺も人のことは言えねぇけど、お前そろそろバチ当たるぞ……」

「まさかここまでAqoursに淫乱っ子が揃っていたとは。ホント、誰のせいかしらねぇ~?」

「だ、誰だよそんな奴……最低だよなぁ……」

 

 

 どうして女の子が淫乱だったらそれが全部俺のせいになるんだよ!! 俺はただ普通に教師生活を送っているだけで、勝手に堕ちようとしているのは女の子側だからな!!

 

 

「もう終わりにするぞ。練習の時間もなくなっちまうから」

「そうね。さっきからにこの思った通りの展開にならないし、これが都会と田舎の感覚のギャップか……」

「気付いてるか? お前ここに来てから終始悪口しか言ってねぇぞ」

「ストレス発散が目的だからそれでいいのよ」

「言っちゃったよもう!? ただ態度の悪い姑キャラだな……」

 

 

 今更だが、にこはスクールアイドルのレジェンドであることが評価され、大学を卒業してからはアイドル活動に従事している。それゆえにストレスも溜め込みやすいのだが、まさかスクールアイドルもタマゴのタマゴの子たちを弄ぶとは……。その子供っぽい性格は高校時代から何1つ変わっていない。

 しかし過程はどうであれ、Aqoursのみんなにとってレジェンドであるにこと出会えたのは何かしらの自信に繋がった……と思う。やり方は姑息だが、キャラ付けは確かにアイドルはもちろんスクールアイドルでも重要だから。スクールアイドルの数が数年前より膨大になっている今、自分たちのありのままを出すだけでは勝ち抜くのは厳しい世の中だしな。そういう意味ではにこのこの指導もちょっとは役に立つかもしれない。しれないだけだが。

 

 

「あっ、そうそう。渡辺曜さん、あなたにこれを渡しておくわ」

「えっ、これって台本ですか?」

「にこが考えたんじゃないんだけどね。みんなのための台本を考えていたら、突然ことりがこれをあなたにってにこに手渡してきたのよ。ことりが言うには、あなたにはこのキャラが適正みたい」

「へぇ、ことりさんが……」

 

 

 一瞬ことりがいないのにゾワッとした悪寒が背中に走ったのだが……まあ気のせいだよな??

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 にこの指導(笑)が終わり着替えを済ませ、練習場である屋上に向かっている最中だった。突然みんなの後ろを歩いている俺の腕が引かれる。振り向いてみると、そこにはそわそわとした様子で頬を赤らめている曜が立っていた。

 

 

「どうした? 行かないのか?」

「先生……あのぉ……」

「ん?」

 

 

「わ、渡辺曜です! スクールアイドルAqoursのメンバーとして活動する傍ら、先生のおトイレ担当をさせてもらっています!! いつも顧問としてお世話になっている先生を日々のストレスから解放するため、私の身体を欲望の捌け口としてもらえるよう頑張っています!! どうかこれからも――――あぁああああもうダメ!! 失礼します!!」

 

 

 

「な゛ぁ!?!?」

 

 

 そして曜は顔を真っ赤にしたまま俺の横を通り抜けて走り去ってしまった。

 大変なものを残していきやがったなぁあの淫乱鳥め……。淫乱キャラってのは流石に……いや、ありかも?

 




 やっぱり私は淫乱キャラが大好きです。それが妹キャラだったらなおさら好きです()


 さて前書きでも書いたのですが、今回で『新日常』のサンシャイン編が30話を突破しました。本来ならサンシャイン編は30話もかけずに終わらせる予定だったのですが、新章に入ってたくさんの読者に読んでもらえていることや、自分自身μ'sとAqoursの絡みを描くのが楽しすぎてまさかの長編となってしまいました(笑)

 よろしければ感想などで、これまでのサンシャイン編30話の中で印象に残っている回、好きな回があれば教えてください!


新たに☆10評価をくださった

海未ちゃん激推しさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

牛丼とん汁おしんこセット並盛りつゆだく490円

 先日牛丼を貪ってる時に唐突に思いついた回。
 前回の後書きで次回予告を忘れていましたが、今回は雪穂&亜里沙の襲来回です!


 だからさ、もう幾度となく言ってるだろ? こっちに来る時はちゃんとアポを取ってくれ。でないと『休日だから明日は1日中休みだぁ~!!』って昨晩無駄に浮かれることがなくなるからさ。よくサプライズって言われるけど、俺にとってはいきなり来られても困るだけだから。これから近い将来社会人として生きていくことになる訳だし、しっかり連絡を取り合うクセを付けようね? 分かった?

 

 なんて愚痴を心の中で零し、俺の横でニコニコしている亜里沙と、申し訳なさそうにしている雪穂に意識を戻す。そう、またしても元μ'sのメンバーがアポなしで内浦にやって来たのだ。ここまでまともにアポを取ってきた奴の方が少ねぇぞ……。

 

 

「あのさぁ、来るなら来るって一言くらい連絡入れられないの?」

「私は入れようとしたんですけど、亜里沙がダメだって……」

「突然訪れて零くんを驚かせたいと思っていたんです! 思っていたんですけど、全然ビックリしてくれなかったじゃないですかぁ……」

「そんな残念そうな顔されてもなぁ、もう穂乃果やら絵里やらで慣れちまったから」

「なんかウチの姉たちが……すいません」

「お前も苦労してんな雪穂……」

 

 

 先輩たちの尻拭いを最年少の雪穂がする。これでいいのか元μ's!?

 そんな訳で、俺は雪穂と亜里沙を連れ昼飯を食うために街に繰り出していた。え? 話が進むのが早いだって? もう俺だって彼女たちの襲来にいちいち驚いたりはしない。穂乃果や絵里など、まだμ'sの面々がこっちに来ると思ってなかった頃は大袈裟なリアクションをしていたが、さっきも言った通りもうサプライズには慣れた。だからまた同じ焼き増しのようなリアクションをしてもただの二番煎じになるだけだ。だったら話を進めた方が断然有意義だろう? まあ俺のビックリを期待していた亜里沙には申し訳ないけどね。

 

 

「驚かせられなかったのは残念でしたけど、久しぶりに零くんの顔を見られて元気出ちゃいました♪」

「あまり連絡できてないのは悪かったよ。こっちも色々忙しくてな」

「Aqoursのことでですか?」

「おっ、雪穂も知ってんのか?」

「お姉ちゃんたちから聞かされていましたし、それ以前にスクールアイドル好きの亜里沙が注目してますからね。それもお姉ちゃんたちから話を聞くずっと前から」

「じゃあ亜里沙はAqoursのファンってこと?」

「はいっ! これにAqoursの曲が全部入ってますから!」

 

 

 亜里沙は小型の音楽プレイヤーを俺に見せつける。その画面には確かにAqoursが今までライブで披露した曲が全て詰め込まれ、しかもジャケット付きという徹底っぷりだ。もちろんだがAqoursの曲はCD化もしていないので、亜里沙は自分でPVからCDジャケットもどきを作っているのだろう。いかにもスクールアイドルガチ勢のコイツがやりそうなことだな……。

 

 そしてこの事実をμ'sファンの千歌やダイヤに教えたら卒倒すること間違いなしだろう。憧れで伝説のスクールアイドルの1人である亜里沙に自分たちが注目されていることを知ったら……もう展開が容易に想像できる。

 

 

「それで? 亜里沙が好きなAqoursのメンバーは誰なんだ?」

「そうですねぇ、松浦果南さんが大人っぽくてカッコイイなぁと思ってます! それと小原鞠莉さんがお姉ちゃんと同じ金髪で外国の血が混じっているので、ちょっと近いものを感じるなぁっと」

「ホントに大人っぽくてカッコよさそな人が好きだよねぇ亜里沙って。今でも海未ちゃんのこと尊敬してるんでしょ?」

「当たり前だよ! それに雪穂だって黒澤ダイヤさんが誠実でいいお姉さんっぽいって言ってたでしょ?」

「だってしっかりとしてそうだもん。どこぞのズボラな姉とは違ってね……」

 

 

 聞いたか小悪魔の帝王矢澤にこ? この2人こそが強者のスクールアイドルであろうとも、素人スクールアイドルを一生懸命応援して尊敬までする人間の鏡だぞ。自分のストレスのために素人をダシにして笑うとか、陰湿なことをしている奴とは大違いだ。やっぱり雪穂と亜里沙ってμ'sの初期メンバー9人の誰よりもしっかりしてる説ないか? 最年少に実権を握られそうになってるけど大丈夫か元μ's!?

 

 

「もうμ'sの良心はお前らだけだよ――――ん?」

 

 

 歩きながら感傷に浸っていると、道端に外から店の中を眺める金髪の女の子がいることに気が付いた。着ている純白の服がいかにもな高級感を漂わせており、見た目だけで人の目を惹きつけるオーラを醸し出している。その女の子は、俺が顧問をしているAqoursのメンバーの1人――――

 

 

「鞠莉!?」

「あっ、チャオ~先生♪」

 

 

 怪しげに店を覗き込んでいたのは鞠莉だった。鞠莉は右手をあげて俺にいつもの挨拶をするとこちらに駆け寄ってくる。

 

 

「奇遇ね先生、こんなところで会うなんて。えぇと、後ろのラブリーな女の子たちは……?」

「も、もしかして鞠莉さん!? Aqoursの小原鞠莉さんですか!?」

「そうだけど……ということは、私のファン!?」

「はいっ! いつもライブのPV観てます!!」

「oh! まさかここまで有名になっていたなんて……!!」

 

 

 これはいつもの展開とは全くの逆だ。いつもだったらμ'sの誰かしらの登場にAqoursのメンツが驚き叫ぶのだが、今回ばかりは亜里沙がAqoursのファン、特に鞠莉を推しにしていたせいで意外や意外な方向に話が進んでいた。

 

 でも鞠莉の奴、完全に亜里沙を年下に見てるな……。まあ亜里沙は大学生とは思えないほど背が低いし、逆に鞠莉は高校生とは思えないほどのルックスとスタイルなので勘違いしても仕方はないが。そもそも鞠莉にスタイルで勝てる奴が世界に何人いるかだが。

 

 

「おい鞠莉。一応言っておくけど、コイツらはお前より年上だからな」

「えっ、そうなの!? つかぬことを伺いますが、お名前は……?」

「はい。私、絢瀬亜里沙と言います」

「高坂雪穂です」

「絢瀬亜里沙に高坂雪穂って、どっかで聞いたことがあるような……?」

「千歌やダイヤがご執心なスクールアイドルと言えば?」

「それはμ'sでしょ……ん? μ's…………? あっ……あぁああああああああああああああああああああああああああっ!?!?」

 

 

 鞠莉は全てを悟ったのか目を丸くして叫びだす。

 やっぱ最終的にはこの展開になるのね……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんなこんなでお互いの自己紹介が済み、店の前で迷惑にも軽い世間話をして現在に至る。

 鞠莉も過去にスクールアイドルをやっていたためかμ'sに関してはそれなりに知識はあったらしく、雪穂と亜里沙の名前を聞いてすぐに脳内記憶のアクセスに成功していた。スクールアイドルをやっていてμ'sメンバーの顔を知らないのは果南くらいだろう。

 

 ここで全く話は変わるが、どうして鞠莉は外から店を覗くような真似をしていたんだろうか。まるで今から銀行強盗をするために中の様子を伺っている犯罪者みたいだったぞ。まあ覗いていた店は銀行でも何でもなくて、どこにでもある牛丼チェーン店なんだけどな。

 

 

「先生先生! 私と一緒にこの店に入ってくれない?」

「牛丼屋に? どうして俺が?」

「前々から行ってみたいなぁと思ってたけど、1人だとどうしても踏ん切りが付かなくて……。ほら、牛丼屋って安くて手軽に食べられるって評判でしょ?」

「そりゃそうだけど、そのために外から覗きつつ誰かが来るのを待ってたのか……」

「牛丼屋は基本男性客が多いので、女性が入りづらいというのもありますね。私も数回しか行ったことないですし」

「そんなもんなのか。気にしなくてもいいのに」

 

 

 やはり牛丼屋は男飯ってイメージが強いらしく、女性に関しては特に入り難い飲食店の1つだと言える。もちろん女性客が全くいない訳ではないので気軽に入店すればいいのだが、イメージというのは中々払拭できないもの。牛丼屋以外にも飲食店なら他にも無数にあるし、頭の中に躊躇いが生まれると他の店でいいやとなって一歩が踏み出せないのは分からなくもない話だ。

 

 そんなことを考えながらふと隣を見てみると、亜里沙が目を輝かせて牛丼屋の看板を眺めていた。もしかしてコイツも……?

 

 

「なあ亜里沙、お前牛丼屋に来るのは初めてか?」

「はいっ! 人生で一度も来たことないので、いつか行ってみたいと思ってたんですよ!」

「来たことがないとは、随分庶民とは掛け離れたお嬢さんだ」

「亜里沙の家って真姫ちゃんの家ほどじゃないですけど、相当なお金持ちですよ」

「だろうな知ってる」

「老舗和菓子店のおんぼろ高坂家とは違うので、亜里沙とはもう何年も価値観の違いを痛感してますよ」

「自分でおんぼろ言うんかい……」

 

 

 雪穂はクールに、そしてナチュラルに誰かをディスるのはよくあることだが、自分の家系に文句を言うほどにまで言葉の鋭さに磨きがかかっていたとは。親父さんが聞いたら泣いちまうぞ……。

 

 

「よしっ! 亜里沙さんも食べる気満々みたいだから、今日の昼食は牛丼で決定ね♪」

「ほら行きましょう零くん! 雪穂も早く!」

「わ、分かったから引っ張らないで!!」

 

 

 たかが牛丼屋でここまでテンションの上がっている女の子は、世界のどこを探してもコイツらだけだろう。まさに庶民の食事を物珍しさで見るお嬢様の構図だ。

 

 そして俺は鞠莉に、雪穂は亜里沙に腕を引かれ牛丼屋に入店した。ここで5年前に亜里沙、絵里、真姫と回転寿司に行ったことを思い出すが、今回はあの時以上に騒がしくなりそう……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「シャイニー☆」

「い、いらっしゃいませ……」

 

 

 いきなり訳分かんねぇ挨拶するから店員さん驚いてるだろ……。

 てな訳で俺たちは牛丼屋に入った。店内には牛丼屋特有のファンキーな匂いが立ち込め、俺の腹の虫も活発になっている。鞠莉や亜里沙ほどではないが、俺も久々のジャンクフードに心が踊っていた。

 

 

「ご注文はこちらでお願いします!」

 

 

 おっ、いい笑顔の女性店員さんじゃねぇか。女の子の一番の魅力は笑顔と宣っている俺からしたら、もうこの場で彼女を恋人にしたいくらいだ。歳は高校生くらいなのでバイト戦士なんだろうが、きびきび働いて俺を楽にさせてくれる女の子なら大歓迎だぞ!

 

 そんな冗談はいいとして、この牛丼チェーン店は食券ではなくレジで注文をして、牛丼が出来上がったら取りに来るパターンの注文方法である。食券とは違って実際にレジ前に立つ訳だから、来客ピーク時は後ろの客を気にしてしまってあまり悩めないのがポイントだ。だからこの牛丼チェーン店に来る際は、あらかじめ食べたいモノを決めておくといいぞ。

 

 

「牛丼って、思ったより種類があるんですね。普通盛りとか大盛りだけかと思ってました」

「高菜とか明太とか、チーズなんて牛丼に合うの? なんかシャイ煮みたいな組み合わせね面白い♪」

「いやお前の公開闇鍋と一緒にすんな……。言っておくけどな、どれも美味いから」

 

 

 どの牛丼チェーン店にも言えることだが、牛丼屋だからと言ってただの牛丼だけを出すほど世間に遅れを取っていない。回転寿司のカルビ寿司などと同様に、メニューはバリエーション豊かに揃っている。

 例えば高菜と明太を合わせた牛丼だったり、大根おろしとポン酢を組み合わせたもの、チーズを乗せたちょっと風変わりものまで様々だ。もちろんどれもジャンクフードマニアの俺が味の保証するから問題ない。もちろん鞠莉のシャイ煮よりかはよっぽどな。

 

 

「皆さん悩んでいるのなら私からいいですか? 牛丼の並盛りをお願いします」

「それじゃあ俺は牛丼とん汁おしんこセット並盛りのつゆだくで」

「つ、つゆだく……? そんなのメニューにありましたっけ?」

「牛丼屋では基本どこでも言えば牛丼つゆを多めに入れてもらえるんだよ。そっちの方が味も濃くなるしな」

 

 

 つゆだくにすれば牛丼の飯本来の甘さは少し下がるが、その分ジューシーな味を堪能することができる。無難につゆ少なめにするか、欲張ってつゆだくにするかはその人次第だ――――って、段々ステマになってきてるような……。

 

 

「"つゆだく"以上の"つゆだくだく"というものもあるそうですね」

「だくだくってことはもっとつゆを入れるってことだよね? お茶漬けみたいになりそう……」

「お茶漬けみたい……? つゆをたくさん入れてゴテゴテで、味が最強に濃くなった牛丼……ゴクリ」

「やべ、鞠莉の変なスイッチが入り始めてるぞ!?」

 

 

 鞠莉はシャイ煮なんていう闇鍋を作り上げて、しかもそれを美味しいと思っちゃうほどの味覚バカだ。だから牛丼をつゆだくだく、いやそれ以上に牛丼のお椀をつゆで満たすくらい平気でやりそうなんだが!! 正直やるのは勝手だけど、一緒の席を囲んで食う俺たちの目にそれが映るのが怖い!! もうリアルお茶漬けレベルだからなそれ!?

 

 

「なら私はキムチ牛丼のつゆだくだくだくで!!」

「"だく"が一個多い!! せめて見た目的にも"つゆだくだく"までにしてくれ頼むから!! お茶漬けになってる牛丼なんて見たら食欲なくすから!!」

「えぇ~先生わがままボーイだね。仕方ない、じゃあそれで」

「なんとか地獄は回避したぞ、雪穂」

「地獄……?」

「そっか、お前は知らないもんな……」

 

 

 正直に言うと、キムチのつゆだくだくも相当に味がカオスなことになりそうな組み合わせだ。キムチはもちろん辛く、牛丼つゆは甘味がある方なので味覚が相反する。まあゲテモノ好きな鞠莉にしてみればこれほど最高な組み合わせはないんだろうが……。

 

 ちなみに参考までに、"つゆだく"みたいにメニューにはない牛丼の注文の仕方として以下がある。

 

・頭の大盛り(肉大盛り、ご飯少なめ)

・肉下(肉の上にご飯を盛る、つまり普通と盛り方が逆)

・つめしろ(ご飯の温度を下げる)

・とろだく(肉の脂身多め)

 

 マイナーだが知っておいて損はない……と思う。

 ちなみに亜里沙は初めての牛丼屋なので、無難に普通の牛丼並盛りを注文した。

 

 

 そして今思ったのだが、鞠莉ってキムチ苦手なんじゃなかったっけ? 苦手なものすらも食いたくなるほどに鞠莉は興奮しているのだろうか。むしろ苦手だからこそ牛丼と一緒に食べれば克服できると思っているのか。どちらにせよ牛丼のキムチは全然辛くないから彼女でも平気で食べられるだろう。それで苦手が克服できればなお良しだ。

 

 

「キムチ牛丼並盛り450円、牛丼並盛り350円になります!」

「450円……? 450円!? や、安くない!? それに普通のに至っては350円って……」

「私もビックリしました!! こんなにたくさんお肉を使ってるのに、それだけでお店やっていけるんですかね!?」

「やっていけるから経営してんだろうが。ていうか今までいくらだと思ってたんだ?」

「上質な肉といえば米沢牛だから、一杯3000円くらいかと」

「仙台牛だったら2000円くらいですかね」

「どれもブランド牛ばかりじゃねぇか高過ぎるわ!! 牛丼屋は手軽に食べられるのがウリなのに、そんな高かったら恐れ多すぎて誰も近づけねぇって!!」

「これがお金持ちと私たち庶民の格差ですよ……」

 

 

 雪穂は鞠莉と亜里沙の爆弾発言に唖然とする俺の肩に手を置いて、庶民代表として同志の契を結ぶ。

 この2人がここまでの世間知らずとは知らなかったから怖い……もう怖い。牛丼屋なんて庶民ホイホイの店なのに、一杯2000円や3000円もしたら庶民バイバイになっちまうだろ……。

 

 

 そして注文して間もなく、俺たちは牛丼を受け取り席に着いた。

 もうさっきから亜里沙と鞠莉のお嬢様特有の天然さ具合に、俺たちだけではなくて店員さんもタジタジになっている。ここまでギャーギャー騒ぐと他のお客さんにも迷惑が掛かるし……なんかすんません。

 

 

「これが……これが夢にまで見た牛丼!! もう一生お目にかかれないと思ってたから感激!!」

「そこまで感動してくれると、牛丼の肉として使われている牛もさぞ喜んでいるだろうよ……」

「見て見て先生! このギトギトでこってりとしたつゆだく!!」

「見せんでいい!! 目に入るだけで胸焼けしそうだから!!」

 

 

 今回って牛丼屋のステマなのに、鞠莉がゴテゴテの牛丼を注文するもんだから逆に見栄えが悪くなっちまってるじゃねぇか。テンションは上がっているが落ち着いて牛丼並盛りを頼んだ亜里沙を少しは見習って――――

 

 

「ねぇねぇ雪穂! 牛丼ってどうやって食べればいいのかな?? 割り箸で掴むべきお肉とご飯の比率とかあるの?? おつゆはどれだけ漬ければいいのかな??」

「そんなのないから自由に食べなって! それにあまり大きな声出さないでお店に迷惑でしょ!」

 

 

 見習うどころか、またしても雪穂は亜里沙の世間知らずっぷりに振り回されていた。どうやら亜里沙は出会った中学時代からこんな感じだったらしいから、雪穂は最低でも6年以上は苦労の絶えない道を歩んでいることになる。そう思うと急にいたたまれない気分になってきたので、今度雪穂と一緒に酒でも飲んで愚痴を聞いてやろう。あっ、まだコイツ未成年だったわ……。

 

 そういや今気付いたんだけど、いいトコ育ちの亜里沙と鞠莉にとっては牛丼屋で使われる肉なんてまさに庶民の食べ物だ。もしかしたら口に合わないなんてこともありえるかもしれない。しかもコイツらは頭に浮かんだ感想をすぐに口に出しやがるから、もちろん店の迷惑など気にしてもいないだろう。仕方ない、ここは隠れ牛丼マニアの俺が擁護の言葉を考えておくか。

 

 しかしそんな間もなく、鞠莉は肉(キムチ込み)とご飯を1:1の比率で口に運ぶ。そしてしばらく無言で咀嚼してからゴクンと飲み込む。いくら鞠莉が温厚だとは言え、下々の俺たちが食べているような肉を食わされたら――――

 

 

「歯ごたえも良く、女性の小さな口にも合う小さくも甘めな牛肉、つゆが染み込んでいるのにシャキシャキ感が残っている野菜に、甘い牛肉と相反しながらも絶妙な辛さで絡み合うキムチ、つゆにどっぷりと溶け込んだ、甘味を感じるご飯――――こんなに美味しい組み合わせがこの世にあっただなんて!! Wonderful!!」

 

 

 あっ、よかったしっかりとお嬢様のお口にも合ったみたいで。これで『あぁ? なんだこの残飯に廃棄するような肉は? こんなゴミ食わせんじゃねぇ!!』って言われたら、もう鞠莉の首根っこを掴んで早急に店を出るしか方法がなかったからな。そしてどうでもいいが、鞠莉って食レポ上手くね?

 

 

「鞠莉さん食べるの早すぎじゃないですか……」

「だって美味しいんだもん! これからAqoursの作戦会議は牛丼を食べながらやりましょ♪」

「そんなことをしたら男気溢れるスクールアイドルになっちまうぞ……」

「でもここって有名な牛丼チェーン店なんでしょ? だから今人気上昇中スクールアイドルである私たちとタイアップすることで、お互いにお互いを宣伝し合えていいと思うんだけどなぁ」

「言ってることが理にかなってるから上手く言い返せない……」

 

 

 最近はコンビニを始めとしてアニメなどとのコラボが流行っているから、その流れに便乗するのは悪くない手だと思う。牛丼屋は男性客が多いから、男性ファンの多いスクールアイドルは目を向けてくれ易いだろうし。まあでもそれでファンが殺到して、手軽に食べられるのがウリな牛丼屋に入りづらくなるのはやや懸念事項ではあるが……。

 

 するとここで、亜里沙がチラチラと壁を見ていることに気がつく。そこには現在タイアップ中の宣伝ポスターが貼られており、デフォルメされた可愛い動物たちのキーホルダーのリストが掲載されていた。亜里沙は牛丼を手に目を輝かせながらそのポスターを眺めている。

 

 

「おい雪穂、亜里沙って小さいキーホルダーとかおもちゃとか好きなんだっけ?」

「はい。道端でお気に入りのガチャガチャがあったら、躊躇いもなく何回か回すくらいには好きですね」

「そうか、見た目だけじゃなく趣味も可愛い……ん? なんか以前にもこんなことがあったような……?」

 

 

 俺の記憶の底から亜里沙たちと回転寿司に行った思い出が蘇る。確かあの時は寿司の皿5枚でキーホルダーのガチャガチャを引けると知った亜里沙が、そのキーホルダー欲しさに俺に無理矢理寿司を食わせて皿を稼がせようとした苦い事件があった。自分が食えないからと男の俺に食わせるその理不尽さは普段の優しい彼女とは思えないほど怖かったが、今回もそれと同じ匂いがプンプンしてきたぞ……。

 

 もしかしてと思い壁に貼られているポスターをよく見てみると、そこには牛丼一杯につきスタンプを1個進呈、3つ貯まるごとに1つキーホルダーが貰えるというシステムらしい。今4杯食ったからスタンプは4個でキーホルダーは1つ。キーホルダーは全部で6種類。つまり全種コンプリートするためには18杯も牛丼を食わなければならないのだ。

 

 そして俺の全身に、冷汗が滝のように流れる。

 恐る恐る亜里沙を見てみると、彼女はもう既に目を輝かせながら俺の顔を見つめていた。俺の脳裏に一抹どころではない不安が過る。本当なら亜里沙の輝く目は芸術の域に達するほど見惚れてしまうものなのだが、今のコイツは俺にとってただの悪魔だ。

 

 

「零くんお腹空いてるって言ってましたよね? ほらどんどん食べましょう!!」

「やっぱりか!! いや流石に一杯で腹満たされたから!!」

「零くんは牛丼一杯ごときで満足するような小さい人間じゃないはずです!! いつも言ってるじゃないですか、俺は世界中の美女美少女を恋人にしてハーレムを作るって!! そんな大きな夢を持っている人が牛丼一杯で満足するような人とは思えません!! 思いたくもありません!!」

「それとこれとは関係ねぇだろ!? ゆ、雪穂なんとかしてくれ!!」

「ごちそうさまでした」

「悠々と完食してんじゃねぇよ!! なに自分だけ牛丼楽しんじゃってるの!?」

 

 

 雪穂は俺と亜里沙の戦いの最中にのんびりと牛丼を完食していた。多分亜里沙の暴走に巻き込まれたくないのだろう、そそくさと席を立って牛丼のお椀とトレイを返却口に戻しに行く。俺たちって庶民派の同志じゃなかったのかよ裏切りか!!

 

 

「それじゃあ小原グループがこの牛丼チェーン店を買収すれば万事解決じゃない? プリティなキーホルダーたちも全部私たちのものだよ!」

「非現実だけどお前だと現実的な解決方法でもう笑えねぇよ!! これだから金持ちは……」

 

 

 決めた! もうこれからお嬢様とはジャンクフード店に絶対来ない!!

 




 ちなみに私は高菜+明太マヨの牛丼とチーズ牛丼が好きで、大体某牛丼屋に行った時はその2つしか食べません(笑)
 零君たちが行った某牛丼屋以外にも私は牛丼チェーン店に精通しているので、是非皆さんの好きな牛丼を熱く語ってください。そしてとりあえず皆さんの明日の昼飯は牛丼確定ですよね?


 そしてまだAqoursとコラボしていないμ'sは残り3人。
 次回はμ'sの中でも最も甘々な、あの仲良し2人組の出番です!


新たに☆10評価をくださった

イチゴ侍さん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スケベの中のスケベ王(前編)

 今回は花陽と凛が登場します!
 それ以上に零君が大変なことになっちゃったり……


 

「いやぁまいったまいった!! まさか零君が飲んじゃうとはねぇ~♪」

 

 

 俺の目の前で謝罪をする秋葉だが、顔も笑ってるし声も嬉しそうで全く気持ちが伝わってこない。どう考えても確信犯である。俺は女の子の笑顔が何よりも好きなのだが、コイツのこの笑顔だけはこの先一生好きになることはないだろう。むしろこの憎たらしい顔面を殴ってやりたくなる。

 

 そんな訳で、俺はまたしても秋葉に妙なおクスリを飲まされてしまった。まあ飲まされたっていうより、冷蔵庫の中に置いてあった明らかにお茶らしきモノを自分の飲んじまったんだけどな。そんなの誰でも勘違いするだろ……ていうか、俺は家の中であっても安息の地はない訳!?

 

 

「でもさぁ、今のあなたは可愛いよぉ零君♪ なんたって――――犬なんだから!」

 

 

 そう、秋葉の謎のクスリによって俺の姿は犬に変えられていた。しかもまだ幼いチワワ程度小型犬で、もちろん人間の言葉を話すことはできない。コイツに言いたいことはたくさんあるのだが、どう頑張ってもワンと高い声で鳴くことしかできないのがもどかしいところである。だから鳴けば鳴くほど秋葉に『可愛いねぇ』と皮肉を言われるだけなので、必然的に黙ることしかできないのだ。相変わらずコイツのすることはストレスしか溜まらねぇな……。

 

 

「私ね、小型犬を飼うのが夢だったんだよ! でも研究室は薬品臭いから飼えない。だから考えたの、零君を犬にしちゃえば問題ないってね♪」

 

 

 問題大アリどころか問題しかねぇよ!! どうして毎回毎回俺が犠牲になる訳!? もういっそのこと人工人間を作成してソイツを実験台にすればいいじゃん。世界の頭脳と言われた秋葉なら、人工人間くらい簡単に作れるだろ。

 

 

「ちょっと抱っこさせてね」

 

 

 秋葉に腰を掴まれると、気付いた時には既に彼女の腕の中にいた。赤ちゃんを優しく抱っこするように、よしよしと頭を撫でながら抱きかかえられているので非常に恥ずかしい。

 それにだ、秋葉の胸は他の女性に比べれば格段に豊満である。まるで男に揉まれるために大きくなったようなおっぱいは、こうして軽く抱っこされているだけでもその感触が全身に伝わってくる。小さい頃から研究しかしてないクセに無駄に育ちやがって……。

 

 弟の俺から見ても超絶美人な秋葉は世界を羽ばたく研究者だ。そうなればもちろん彼女のおっぱいは世界中の男の欲情を唆る訳で……。そして彼女は男に全く興味がなく、唯一興味がある男は俺のみ。俺はこの事実と現在抱っこされている事実の2つに謎の優越感を感じていた。本当はコイツに介抱されるなど屈辱を味わうはずなのに、やはり女性のシンボルの心地よさには抗えないみたいだ。

 

 

「どうどう零君? その姿じゃこんなことをされていても何も言い返せないでしょ? でしょ~♪」

 

 

 だからその悪魔のような笑顔がウザイったらなんのって!! 秋葉得意の煽り口調を聞くと優越感に浸っている場合ではないと思い知る。そうだよ、今までの恨みもあるし、少しここで仕返しでもしてみるか。世界の欲情を唆る胸に包まれているんだ、この機会を逃す手はない。それにコイツは意外にもエロいことが苦手で、もう5年前になるがベッドに押し倒した時は思いっきり押し返された記憶がある。しかも純情少女のように顔を紅潮させて。だからここは犬になって抱っこされているこのシチュエーションを存分に利用させてもらうぞ。

 

 

 俺は抱っこされている中で前足2本を突き出すと、秋葉の無駄に育った果実のような胸をこね回すように弄った。

 

 

「ひゃっ!! れ、零君なにしてんの!? んっ、ああっ、ちょ、調子に乗らないで!!」

 

 

 よしっ、効いてる効いてる! このまま俺が今まで味わった屈辱を全て性欲に変えてお前に感じさせてやるからな!

 

 俺の予想通り秋葉は顔を一瞬で真っ赤に染め、胸を弄られる慣れない刺激を必死に耐えていた。声を出さないように意識はしているようだが、胸が大きいと感じやすくもなるのかもう漏れ出す声が卑しいことこの上ない。それに俺が女の子の胸を弄るテクニックを甘く見てもらっては困る。日常的にμ'sメンバーの胸を触っているからこそ成せる技、とくと全身で感じてもらおう。そもそもコイツはその手に刺激に一切耐性がないため、わざわざ本気を出す必要もないがな。

 

 

「も、もうっ! れ、零君ダメだって……!! んんっ!!」

 

 

 この嬌声を聞くとやはり秋葉も女の子なんだなぁと実感する。大学生の頃もいい大人だったが、社会人になってより美麗さが増したというか色気に磨きがかかったと思う。そんな彼女を攻めるからこそ俺の仕返しも捗るってものだ。

 

 

「んっ、あっ、ん……こ、こんのぉ……いい加減しろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 秋葉は快楽に耐えながらも力を振り絞り、犬となった俺の首根っこを片手で乱暴に掴んだ。その後、俺が気付いた時には目の前に青空が広がっていた。さっきまで部屋にいたのだが、ここはどう見ても外――――そう、俺は秋葉に部屋から外に投げ飛ばされたのだ!!

 

 

「あ゛ぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 これはゲームじゃないの!! だから2階から外に放り出されたら全身打撲で死ぬんだよ!! そのところ分かってんのかあの女!!

 

 そんな俺の心の叫びは誰にも届くはずがなく、無慈悲にも綺麗な放物線を描いて自由落下する俺の身体。まさか犬のままこの生涯を終えるなんて思ってなかったなぁ……あぁ、どうせ死ぬならたくさんの女の子のおっぱいに挟まれてされて圧死したかった。男にとってそれほど極楽浄土な死に方はないだろう。こんなことなら秋葉のおっぱいをもっと堪能しておくべきだった!!

 

 もうすぐ身体が地面に叩きつけられる、その時だった。俺の身体は予定よりも早く()()に衝突する。生きているうえに痛みもほとんどないから硬い道路上でミンチになるのは防がれたのだろう。そんなことよりもこの柔らかさ、そして優しい温もりを感じる人肌。それに何より、さっき秋葉に抱っこされていた時と全く同じ感触を感じるのだがそれは―――――

 

 

「だ、大丈夫子犬さん??」

 

 

 この全身を包み込むような人肌の持ち主は顔を見なくても分かる。花陽だ、小泉花陽だ!!

 顔を上げてみるとまさにその通りで、突然犬が落ちてきてビックリしたのだろう驚いた顔で俺の顔を覗き込んでいた。

 

 そういや今日遊びに来るって言ってたな、犬になった騒ぎで顔を見るまで忘れてた。今が丁度その時間だし、まさに運命が俺に味方をしたとしか思えない。あと少しでも集合時間が遅かったら、今頃夏の日差しが照りつけて鉄板のようになっている道路に焼かれ、ジューシーなこんがり肉となっていただろう。

 

 

「かよちんナイスキャッチだにゃ!! でもどうして空から子犬さんが……?」

 

 

 この独特な猫語、そうか凛が隣にいるのか。

 声のする方に目を向けると、花陽の親友である星空凛も俺の顔を覗き込んでいた。そのあと俺が落ちてきた軌道上を目で辿っていき、やがて俺の家の二階の窓に行き着く。そこには顔を真っ赤に燃え上がらせ、今でも快楽と戦っているであろう秋葉が二階の窓から顔を覗かせていた。

 

 何故そんな表情でこちらを眺めているのかそう不思議に思っていた凛だが、俺の転落事件の真相を確かめるため道路から大声で秋葉に問いかける。

 

 

「あっ、秋葉さんだにゃ! あーきーはーさーーん! この子犬さん、秋葉さんの家から落ちてきたと思うんですけどーー!!」

「し、知らなわよ!! 多分その子は神様があなたたちへ向けた贈り物に違いないわ!! 零君は今急用で出掛けてしばらくいないから、その間しっかり面倒を見るのよそれじゃあね!!」

「ちょっと!? まだ話は終わって――――って、窓閉めちゃったにゃ……」

 

 

 羞恥心に襲われている自分を見られることで更なる羞恥心に見舞われるためか、秋葉は言いたいことだけ言い放つと家に引きこもってしまった。そもそも自分が撒いた種でそうなったんだから自業自得だろ……。

 

 

「それで……この子どうしよっか?」

「零くんが用事から戻ってくるまで、凛たちで面倒見てあげようよ!」

「そうだね。秋葉さんも事情があるみたいだし」

 

 

 やっぱ優しいなぁ花陽と凛は! μ'sの中で誰と同棲するかと言われたら、間違いなくこの2人と住むのが一番安全で最も無難な選択だと思う。他の奴らはクセがあると言ったら申し訳ないが、明らかに常時貞操の危機を感じざるを得ない奴らもいるからな。家に帰ってこの2人が笑顔で迎えてくれたら……あぁ、妄想だけでも癒される!

 

 だがそんな癒しよりも、どちらかといえば卑しい気持ちになっていた。

 落下を受け止めてくれた花陽には悪いのだが、さっきから胸元で抱っこされているためやっぱりおっぱいがこう……ね? 完全に花陽の胸を布団にして寝転がっている状態で、しかも腕に包まれる温もりが余計に身体中を火照らせてきやがる。全身に押し付けられているのがおっぱいだと思えば思うほど発情指数が高まってくるので、このまま抱っこされているだけでは満足できるはずがない。

 

 命の恩人に対して恩を仇で返すかのようだが、どうせ子犬になってるんだから俺だってバレないんだ。せっかくいいポジションにいる訳だし、このチャンスを活かす以外の方法はないだろう。このまま犬にされたことを恨むより、むしろ犬にされたことで巡ってきたチャンスを正々堂々と悠々自適に楽しむべきだとは思わないか? 俺はそう思う。だから触る。OK?

 

 あっという間に性欲に溺れた俺はまたしても小さな前足2本を構え、花陽の胸に押し付け弄り回した。

 

 

「うひゃぁっ!! ちょっと、な、なにぃ……!!」

 

 

 やっぱり触りなれているおっぱいだからこそ、犬になっても全く違和感なくこねくり回すことができる。むしろ小さい前足だからこそ花陽の豊満おっぱいを十分すぎるほどに堪能することができ、同時に柔らかくもずっしりとした胸の重量感を感じられていつもとは違う興奮を味わえる。それにちょっと触っただけなのにこの感じ方は、日頃の俺の調教の賜物だろう。

 

 俺は前足で花陽の下から上へすくい上げるように押し上げる。子犬になっているせいか力が全く入らないのでおっぱいの重量感に負けてすぐに足を下ろしてしまったのだが、その際にぷるんと大きく胸が揺れる様を見て俺に更なる興奮が滾る。夏だから生地の薄い服を着ていることもあって、服の上からでも十分におっぱいを楽しむことができた。

 

 

「ひゃっ!! んんっ……!!」

「どうしたのかよちん、さっきから変な声出して!?」

「こ、子犬さんが腕の中で暴れて……」

「もしかして抱っこされるのが苦手なのかな?」

「多分そうみたい……」

 

 

 おおっ、ここは天国か!? これだけ大層におっぱいを触ってセクハラをしても、花陽も凛も子犬がただ暴れているだけとしか思っていない。しかもご都合主義のように勘違いまでしてくれている。性欲旺盛な健全男子にとってこれほど夢のような状況がかつてあっただろうか。まあ俺だったら彼女たちを軽く誘惑するだけで胸などいくらでも揉めるのだが、そんな面倒な工程を一切省いていきなり羞恥プレイを仕掛けることができるのは子犬の強みでもある。もうこのまま犬のままでもいいような気がしてきたぞ……。

 

 

「苦手だったら名残惜しいけど下ろしちゃおっかな。ゴメンね、無理矢理抱っこしちゃって」

 

 

 いやいや待て待て!! 全然嫌がってないから!! むしろこのまま永遠に花陽の胸の中で生涯を過ごしてもいいくらいなんだけど!?

 

 なんて心の中で叫んでも、どうせ犬語しか喋れないので無駄である。かと言ってここでワンワン吠えたり再び胸の中で暴れでもしたら、また抱っこされるのが嫌だと的外れな勘違いをされてしまうだけだ。ここは素直に諦めて地面に下ろしてもらうしかない。あぁ、短かったな俺の天国旅行……。

 

 そして俺は本当に地面に下ろされ、地べたを這いつくばる子犬と化してしまった。どうせなら胸は触れないけどずっと花陽の抱っこされていたかったものだ。一応その状況だけでも胸をベッドにして寝ることくらいはできただろうし。

 

 

「零君が戻ってくるまでどうしよっか?」

「う~ん……あっ、そうだ! せっかく来たんだし、浦の星女学院に行ってみようよ! もしかしたら零くんに会えるかもしれないしね!」

「急に行って迷惑にならないかなぁ……。勝手に学院に入っていいのかどうかも分からないよ?」

「大丈夫大丈夫! 元μ'sの星空凛ですって言えば、凛たち有名人だし通してくれるにゃ~♪」

「なんだろう、職権乱用に近い気が……」

 

 

 さっきから2人が何か喋っているが、今の俺はおっぱいを触ったことによるムラムラとした欲情が未だに収まらず、自らの性欲ばかりを気にしていた。浦の星に教育実習に来てからというもの常習だったセクハラ行為も数えるくらいしかこなしておらず、そのせいで最近日常生活でも性欲が溜まりやすかったのだ。Aqoursのみんなが薄着の練習着で汗水垂らしている光景を見るだけでも身体が疼き、そろそろどこかで発散しなければヤバイ状況に陥っていた。

 

 それがさっき巡ってきた花陽のおっぱいチャンスにより解消されようとしていたのだが、大して堪能していない間に地面に下ろされ中途半端な発散で終わってしまった。人間より数倍性欲の強い動物に変幻してしまったせいもあるだろうが、とにかくどこかで興奮を感じたい! そして性欲をぶちまけたい!!

 

 

「ほら、子犬さん行くよ!」

 

 

 凛に呼ばれ、俺は正気に戻る。さっき小耳に"浦の星"という言葉を挟んだので恐らく学院へ向かうのだろう。正直に言って、俺はどこかへ行くよりもとっととイキたいのが本音だ。まあそれももちろん彼女たちに伝える術がないんだけどね……。とりあえず2人と一緒に歩きながら性欲の打開策を考えよう。最悪犬の状態で発散しなくても、元の人間に戻り次第この2人を襲えばいい。むしろそっちの方が楽だ。

 

 そう考えつつも人間に戻るのはいつになるのか、このクスリの効力がいつ切れるのかも分からない。

 更に暑い夏の日差しを全裸同然の身体で受け、しかも無駄に毛の長い犬に変化させられているためそこそこの暑さを感じる。全く、もうちょっと世界の中心である俺を気遣ってはくれませんかねぇ太陽さんや。

 

 

 そして何も考えず、太陽を睨みつけようとして顔を上げる――――

 

 

「――――!?!?」

 

 

 俺の目に衝撃的な光景が映し出された。

 何度も言っているが俺は子犬となって地面をよちよちと凛たちの隣歩いている訳である。こうして見ると意外と人間の女の子って背が高く、当然俺は彼女たちを見上げる形となるのだが……そこで見えるんだ、凛のスカートの中身が、これでもかと。

 

 俺は凛のすぐ隣を歩いているため、目を上げればそこには桃源郷が映し出されていた。決して短いスカートではないのだが、俺の背丈が小さすぎて余裕で覗くことが可能だ。そして当然スカートの中は生パンであり、そこから伸びる太ももとショーツからはみ出すおしりのお肉が歩くスピードに合わせて卑しくぷるぷると振動している。しかも夏の暑さのせいか、少し汗が付着していてまるで自ら欲情して濡らしているように見えるのがこれまた艶かしい。

 

 更に言ってしまえば、下からスカートを覗き込んでいると盗撮モノによくある"逆さ撮り"を想像してしまって余計に背徳感が湧き上がってくる。普段は盗撮動画でしか味わえないあの真下からのアングルを、今まさに自分の目で体験しているのだ。現在世間で流行っているVRなんかクソくらえと思うほどの臨場感に、俺の目は凛のスカートの中身をより力強く凝視する。同時に興奮によって滾っていた血液が、自分でも感じるほど暴走して身体を駆け巡っていた。

 

 身体が熱い……。ちなみに夏の"暑さ"ではなく、身体の芯から吹き出す燃えるような"熱さ"である。これは確実に今まで我慢していた性欲が深淵から目覚めようとしている。教育実習生だから例え女子高だろうが変態行為はしないと心の決め、今まで性欲を溜め込んでいた代償がここで全て払われようとしている。凛が歩くたびにスカートの中の太ももが揺れ、小さいショーツがずれたり元の位置に戻ったりを繰り返して奥が見えそうになったりならなかったりと、俺の欲求を爆発四散させるには十分な光景だ。

 

 もう舐めてもいい? 凛のスカートの中に飛びついて脚を舐めてもいいよね? だって高校時代から性欲旺盛だった俺だよ? そんな俺が女子高に来て女の子にあまり手を出していなかったんだから、それくらいのご褒美は貰ってもよくない?

 

 そう決心した俺は花陽との話に夢中になっている凛の隙を突いて、足並みを少し遅らせ彼女の一歩後ろに下がる。このまま太ももに飛びついて、汗に塗れて艶やかになっているあの太ももを舐めずり回すんだ。それに例え抵抗されたとしても、子犬の姿になっている現状では子供のイタズラ程度にしか思われない。つまり絶好のチャンス、絶好のシチュエーションなのだ。

 

 

 しかし、運命は俺の味方をしてくれない。凛のスカートの中に狙いを定め後ろ足を踏ん張ったその時、突如俺の身体が宙に浮いた。訳も分からず身体をジタバタさせながらパニクっていると、俺の耳元で花陽と同じ程度のふんわりとした声が聞こえてきた。

 

 

「子犬さん、怖い顔してどうしたの?」

 

 

 顔を上げると、そこには花丸の顔がドアップで映っていた。怖い顔って、俺どんな顔でスカートの中を凝視していたんだ……。

 

 そんなことよりも、今まさに花丸に抱っこされている事実の方がよっぽど重要だ。花陽以上の小柄な花丸だが、そのくせ胸の大きさは彼女とそれほど変わらない。そんな本日三度目となるおっぱいお布団に、もう俺の身体がその感触を覚え勝手に落ち着こうとしていた。おっぱいお布団が日常になるって、もうその生活のどこに不便があるのか。もう本当にこのままでもいい気がしてきたぞ……。

 

 

「ルビィちゃん見て見て! この子犬さん可愛いずら♪」

「ホントだ! でも飼い主はどこにいるんだろう……?」

 

 

 隣にルビィもいたのか。いつもは身長の関係で2人を見下ろしているが、今は俺の目に大きく映る彼女たちを見上げる形となっているので少々変な感覚がする。体格の違いで普段は女の子に全身を抱きしめられることがない(というかできない)せいもあるだろう。

 

 そういや、こんなことをしていると花陽と凛に置いてかれてしまう――――ん? 待てよ? 花陽と凛、花丸とルビィ。この組み合わせって――――

 

 

「子犬さーーん!! どこ行ったのーー?」

「もしかしなくても、迷子になっちゃったのかにゃ?」

 

 

 ほら、やっぱり2人が探しに来た。ということは、当然――――

 

 

「子犬さんってもしかしてこの子のことですか?」

「あっ、そうです! 見つけていただきありがとうございます!」

「いえ、マル……いや私が可愛いと思って勝手に捕まえちゃったので……って、あれ?」

「ど、どうかしましたか……?」

 

 

 花丸は花陽とその隣にいる凛の顔を交互に見つめながら何かを勘ぐっている。それはルビィも同じみたいで、こっそりと携帯を取り出してこそこそと調べ物をしていた。花陽と凛の興味も子犬となった俺ではなく、花丸とルビィの2人に注がれているようだ。多分だけど4人が4人キョトンとした顔をしているので、相手を見たことはあるけど一瞬誰だか思い出せない現象に陥っているんだと思う。

 

 そして俺は、今後の展開が容易に想像できた。

 

 

「あっ、あ、あ……!!」

「どうしたずらルビィちゃん!?」

「は、花丸ちゃん!! この人たち、この人たち……みゅ、みゅ、みゅ……μ'sの……!!」

「μ's……? あっ…………あぁあああああああああああああああああああっ!!」

「ぎゃっ!!」

 

 

 花丸は驚いたのと同時に顔に手を当てたため、抱っこされていた俺はそのまま地面に落下した。ビックリすることは予想してたけど、いきなり振り落とされるなんて聞いてねぇぞ……あぁ痛い痛い腰打った!!

 

 

「そう言えば、内浦にはスクールアイドルがいるって聞いてたような……」

「り、凛ちゃん! この子たち、私たちが昨日ライブの映像を見てた――――Aqoursのメンバーだよ!!」

「え…………? え゛えぇええええええええええええええええええええ!?!?」

 

 

 こうしてほんわか4人組は、地面に転がった俺を挟んで邂逅した。

 ていうか驚く前に助けてくれませんかねぇ……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 本来なら前編の時点でりんぱな組とるびまる組の絡みをもっと書きたかったのですが、序盤に秋葉さんの描写を入れてしまったせいで後編に続きます。久々に可愛い秋葉さんを書きたかったんです!!

 次回は性欲が収まらない零君がりんぱなるびまるの4人に……?



新たに☆10評価をくださった

ネモフィラさん、ユニオンジャックさん、こーひぃじゅーすさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スケベの中のスケベ王(後編)

 りんぱなるびまる回の後編。
 普段描けないシチュエーションを描けて非常に満足しています()



 μ'sの良心が花陽と凛であれば、Aqoursの良心は花丸とルビィだろう。そんな2組が思いかけず邂逅し、お互いがお互いの存在を認知し合って目を丸くしている。

 花丸が凛、ルビィが花陽を推しているのは知っているが、花陽と凛もこの2人のことを知っているみたいだ。そういやさっきPVを見たとか言ってたから、コイツらも内浦に来る以前にその土地のスクールアイドルについては調べが済んでいるらしい。そもそも花陽がにこと同様にスクールアイドルオタクだから、現在人気上昇中のAqoursを知っているのは必然なのかもしれないけど。

 

 

「ちょっ、えぇ、あぁ、うゅ……」

「ル、ルビィちゃん!? ダメだ、完全に壊れてるずら……」

「あ、あの! さ、ささささささい……さ、さい……さ……さい、ん……!!」

「「え……??」」

 

 

 何気ない日常を送っていた自分の前にいきなり憧れの存在が現れたためか、ルビィは言語能力を失っていた。見てみるとルビィは目をぐるぐると回しながら、痙攣しているかの如く震える手でカバンから色紙を取り出した。ダイヤと同じくらいスクールアイドルに入れ込んでいるルビィ、姉とは違って平静を保つことぐらいはできるとか思っていたがそんなことはないみたいだな……。彼女も彼女でもう気絶寸前にまで追い込まれている。

 花丸も同じく花陽と凛の登場に驚いてはいるものの、隣りにいるルビィがポンコツロボットのような口調で存在感をアピールしているので花丸の反応が霞んで見える。

 

 

「とりあえず落ち着いて……ね?」

「ルビィちゃん深呼吸しよ深呼吸! ほら吸って~吐いて~」

「すぅ~~はぁ~~」

「吸って~吸って~吸って~」

「すぅ~~すぅ~~すぅ~~……うっ! ゴホッゴホッ!! もう花丸ちゃん! そんなに吸えないよ!!」

「あっ、いつものルビィちゃんに戻ったずら♪」

 

 

 『ずら♪』って楽しそうにしてるけど、もっと真っ当な方法はなかったのかよ!? 花丸って妙に黒いところがあるというか天然というか、人の心に刺さることをストレートに言うこともあれば善子のことも弄って遊ぶこともあるしで中々に小悪魔要素がある。こうして親友を呼吸困難に陥らせて楽しんでるのを見るとちょっと怖い……。もちろん素は菩薩のように優しい子だってことは知ってるけどね。

 

 

「ルビィちゃんに花丸ちゃん……。やっぱり凛たちが昨日見てたPVに映ってた子だにゃ!」

「えっ、マル……いえ私たちのことを知ってるんですか?」

「知ってるも何も、かよちんはAqoursの大ファンなんだよ! ね?」

「うん! 一度生でライブを見てみたいと思ってたんだよ」

「わ、私たちのライブなんてそんな、μ'sの皆さんと比べたら……」

「そんな謙遜しなくてもいいにゃ! だってかよちん昨晩Aqoursのライブの映像を見ながら興奮して、凛全然寝かせてもらえなかったんだから」

「うっ! そ、それはゴメン……」

 

 

 いかにも花陽らしい夜の過ごし方だが、親友とスクールアイドルのライブを見て徹夜しかけるのは千歌も梨子に同じようなことをしていたことを思い出す。どこのスクールアイドルにも別のグループを愛する熱狂的なファンがいるものだが、そもそもスクールアイドルってのは他のグループに触発されて初めることが多いだろうからそれも必然だろう。

 

 そして自分たちのライブを憧れの人に見てもらえた反動か、花丸とルビィは目をキラキラと輝かせて感動している。自分を変えるために始めたスクールアイドルの成果を、まさか自分を変えるための目標としていた人に見てもらえたのだから感無量だろう。ルビィなんて今にも泣き出しそうになっているけど大丈夫かな……?

 

 

「そうだ! さっき言いかけたんですけど、サインをお願いしてもいいですか?」

「サイン!? なんてアイドルな響き!!」

「穂乃果ちゃんみたいになってるよ凛ちゃん……。それ以前に、私たちはもうアイドルじゃないけど」

「凛が部屋に一生飾っておけるようなカッコいいサインを書いてあげるにゃ!」

「聞いてないし……」

「ではお願いします!」

 

 

 今度こそルビィは冷静に色紙を取り出すと、2人に歩み寄って手渡す。

 そしてこの時、俺はあることに気が付いた。今この場にいるのは花陽と凛、花丸とルビィ、そして俺である。でもさっきからさぁ――――俺ハブられてねぇか!? 俺が最後にアクションを起こしたのって、花丸の腕から落ちて犬らしからぬ鈍い叫び声を上げたあの時だぞ!? それ以降この4人は可愛い可愛い子犬である俺の存在など頭の片隅にもなく、お互いに目の前の有名人にうつつを抜かしている。

 

 だが忘れ去られるだけなら全然良かった。いつ元に戻るのか分からないこの状況、女の子と一緒にいたら人間に戻った際に俺のあらぬ姿を晒してしまう。子犬となった俺は服も着ていない、つまり全裸だ。この意味は分かるよな?

 

 無視されていることで起こった弊害として、さっきまで自分も忘れていた性欲の高鳴りを再び呼び起こす事態が発生した。ルビィが花陽と凛に色紙を渡すために一歩動いたことで、俺の頭上にルビィの生足とスカートの中身がバッチリと映り込んでしまったんだ。

 白く細い脚の先に待ち受ける薄いピンク色のショーツは、周りが赤のスカートなのも相まってラブホのような卑猥な雰囲気に感じた。そしてまだ子供っぽいルビィだからこそ、この逆さ撮り目線は凛以上の背徳感を覚える。思いがけない4人の対面に俺もそっちへ意識が傾いて性欲もいい感じに抑え込めていたのだが、やはり俺の性欲はいつもただでは発散しないのもこれまた事実。再び暴走したらもう自分から押さえ込むことなんてできるはずもなく――――

 

 

「ピギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「わっ!? ビックリした!!」

 

 

 俺は朦朧とする意識の中、何の躊躇いもなくルビィの綺麗な脚にしゃぶりついていた。助走なしではスカートの中に飛び込むことはできないため、必然的に脚の脛辺りを舐めることになるのだがこの際もうどこでもいい。何かアクションを起こさないと漲る性欲に身も心も支配されてしまいそうになるからだ。外見的には子犬と女の子がじゃれあっているように見えるからまだ良心的だが、その実、成人男性が中学生にも見える女子高生の脚をしゃぶるといった低俗的行為にいつものことながら犯罪集しかしねぇ……。

 

 

「こ、子犬さんくすぐったいよぉ……!!」

 

 

 可愛い声で嘆くじゃないか子猫ちゃんよぉ!! 俺だってさ、子犬の姿で女の子を襲うなんて邪道なことはしたくないんだよ。これも全部性欲がイタズラをして俺の身体を乗っ取るかの如く操作しているのが悪いんだ。だから俺は悪くない、いいね?

 

 そんなことよりも、女の子の脚って舌触りもスベスベなんだと今気付いた。苦節20年以上、恋人は12人もいるのに脚はそこまで興味がなかったので、これまた新たな境地に辿り着けそうだ。以前千歌のおしりを堪能した時もそうだけど、この歳にもなってまだ女の子の身体に可能性を見い出せるのは心が躍る。もう何年もμ'sという美女美少女集団の身体を舐め回してきた俺だが、まだ女の子の身体には俺を興奮させるような部位が残っていると分かれば、それはもう女性の神秘に他ならないのではないだろうか。いつかこれを題材にドキュメンタリーを作ってみたいものだ。

 

 

「もしかして、構ってもらえないくて寂しかったのかな?」

「犬でも嫉妬って感じるの?」

「嫉妬かどうか分からないですが、この子犬さん、目が獰猛になってるずら……」

「やっぱり凛たちが面倒を見てあげないとダメみたいだね」

「と、とにかく早く助けてください……さ、さっきからずっと舐められて脚が冷たいので!!」

 

 

 ハッ! 今の数秒間だけ無我夢中でルビィの脚を舐めていた。調子に乗って立ちながらふくらはぎも味わったけど、舌が滑らかに動くほど肌が艶やかで流石現役JKだと思った。今まで脚フェチの人の気持ちなんて一切分からなかったけど、この感触を味わったら女性の脚を性癖とする人に同感できるな。特殊性癖の開拓はこのように行っていくのかもしれない。

 

 

「ほら子犬さん、ルビィちゃんにイタズラしちゃダメだよ」

「あっ、その子抱っこされるのが嫌いみたいなんだ」

「それだったら苦手を克服させてあげるずら! ほら、ぎゅ~♪」

 

 

 わぁああああああああああああああああああああ!! またしてもおっぱいが俺の全身に押し付けられてるぅうううううううううううう!! しかも今回は過去3回の優しいハグとは違って力強い抱っこだから、おっぱいの形がダイレクトに伝わってきて息苦しいくらいだ。脚もいいけど、俺はやっぱり女の子と言えばおっぱい派だな。今の俺にとって、女の子の胸を触っている時が生きがいみたいなものだから。

 

 

「あれ? あまり暴れなくなったね。もしかして花丸さんの抱っこの仕方が良かったのかな?」

「優しくされるよりもギューッてされた方がいいって、この子犬さんわがままっ子みたいだにゃ~♪ よ~しっ、それじゃあ次は凛の番ね!」

 

 

 花丸の胸に夢中になって黙っていたせいか、花陽たちはいい方向に勘違いをしてくれた。

 そして凛は花丸から俺(犬)を受け取ると、彼女に負けない力で俺(犬)をギュッと抱きしめる。

 

 

「こうして抱きしめてみると、本当に小さいね子犬さん。でももふもふで気持ちいいにゃ~♪」

 

 

 凛の慎ましやかな胸が俺の身体にぃいいいいいいいいいいいいいい!! 例えどれだけ貧乳であろうが、こうしてゼロ距離で抱きしめられるとおっぱいの感触は並以上に感じることができる。とは言っても特段凛の胸は小さい訳でもなく、俺の性欲が暴発するには十分すぎるくらいだ。世間では貧乳は馬鹿にされがちだが、おっぱいを愛することができない奴に女の子を愛することはできるのか? だから俺は愛するぞ。大きさなんてどうであれ、こうしておっぱいの中に埋もれることができるのならば!

 

 しかし、我慢の限界が来ている現状も忘れてはいけない。こうしておっぱい枕をたらい回しにしていると、理性を保つなんて行為が愚行に感じてならない。目の前にいつでも触れるおっぱいがあるのに、こうして抱きしめられているだけで満足していいのだろうか? いや、男ならそうではない。腕の中で騒げばまた抱っこされるのが嫌だと思われるかもしれないけど、そのリスク以上に俺はこの子たちの表情を性欲という魔人にレイプされている顔にしたい。決して獣姦モノが好きな訳ではないが、その一歩手前レベルくらいまでなら攻め込んでもいいだろう。

 

 俺は前足を凛の鎖骨辺りに置いて半立ちになると、顔を服の間にするりと潜り込ませた。

 

 

「ひゃぁっ!! 子犬さん!?」

 

 

 凛の叫び声など耳にも入らず、そのまま顔を服の中に埋めて凛の胸元へと近づけていく。すると小さな薄黄色の下着が見えてきたので、舌を伸ばして彼女の胸の上部を直に舐め回した。

 

 

「あわわわ、凛さんの服の中に子犬さんが……!!」

「あっ、そ、そこはくすぐったいにゃぁ……!!」

「こ、子犬さん落ち着いて! いきなりどうしちゃったの!?」

「さっきマルが抱きしめた時はおとなしかったのに……」

 

 

 男だったら気になるだろう。夏の暑い日差しが照りつける中、女の子は下着と肌の密着面が蒸れたりしないのだろうかと。俺も気になってはいたがその解答が今出た。

 凛が着けている下着は通気性が良く、材質も天然なモノで夏の蒸れ対策はバッチリだった。それだけデザインはシンプルになってしまっているが、まさか俺に見られるとは思っていなかっただろうから仕方がない。しかし汗ばんでいないと言われればそうではなく、俺が服の中に侵入したことで凛の身体は緊張と驚きで火照りに火照っていた。つまり下着も肌から分泌される汗で蒸れ始めており、汗が付着している胸を舐め回すこの行為だけでも性欲的に満足できる。

 

 

「ひゃっ、あぁ……子犬さんがどんどん服の中にぃ……!!」

 

 

 もう俺は人間でも犬でもなく、性欲に取り憑かれたただの獣となって凛を襲っていた。己の性欲に従ってただ従順に、そこに神崎零という人間の意思はない。目の前におっぱいがあるからしゃぶる、それだけだ。凛も周りのみんなも子犬がやっていることだからと、犬の正体が俺だと知っていた秋葉のように激しく抵抗することはできない。そこにつけ入って女の子を襲うとか卑怯だと思われるかもしれないが、そもそもセクハラや痴漢なんて行為の手口自体が卑怯という言葉を具現化したものなんだ。ここで卑怯と言われても俺の心には響きもしないしそもそも届きはしない。

 

 

「んっ! こ、子犬さんあまり動かないで! く、くすぐったいからぁあああああ!!」

「り、凛ちゃん危ないよ!! 倒れる!!」

「ふぇ……? あっ!!」

「凛さんこっちに来たらルビィに――――!!」

「ふにゃっ!!」

「あうっ!!」

 

 

 獣姦もどきプレイを被っている凛は身体をふらふらとさせ、隣にいたルビィを巻き込んでその場で横転してしまった。その倒れた衝撃で俺は凛の服の中から飛び出してしまうが、視界に映ったのは外の景色ではなくてまた肌色が広がる世界だった。

 でもこの光景はさっき見たことがあるような……? この子供っぽい可愛らしい薄いピンク色のショーツは――――そうだ、ここはルビィのスカートの中か!! しかも今のルビィは尻餅を付いている状態だから、今度こそ夢にまで見た桃源郷に近づくことができる。さっきは直立してたから立ってもふくらはぎまでしか届かなかったが、今度は前進するだけでスカートの奥地に辿り着くことが可能だ。スラッとした白い足、小さくもむっちりとした太もも、そう順番に目を滑らせた先に見えるゴールに思わず俺は唾を飲み込んだ。もたもたしているとルビィが立ち上がってしまう、行かなければ……天国に!!

 

 

「あ、あれ? 子犬さんどこへ行ったんだろう??」

「はぁ、はぁ……凛の中にはもういないよ……」

「んっ、あっ、ひゃぅっ!!」

「ルビィちゃん!?」

「す、スカートの中に何かがもぞもぞとと動いて……」

「ま、まさか!?」

 

 

 周りの声など聞く耳を持たない。俺は太ももに挟まれそうになりながらもルビィのスカートの中を進軍する。スカートが赤色なので、気分は真っ赤な洞窟を探検する冒険家のようだ。もちろん求めるモノは秘境、女性の神秘であり男性の憧れである。

 

 

「ひゃっ、ああっ!! そ、そんな奥まで……!!」

「なにやってるんだろう子犬さん!! ルビィちゃん早く立って!!」

「こ、腰が抜けて無理かもぉ……花陽さん、子犬さんを連れ戻してもらってもいいですか……?」

「わ、私が!? うん、分かったよ……」

 

「さっきからえっちなことばかりする子犬さんだにゃ……。まるで零くんみたい――――ん? 零くん……?」

 

 

 スカートの外で何やら騒いでいるが、今の俺には目の前に立ちはだかる薄ピンクのショーツと、その奥に潜む割れ目にしか興味がなかった。

 

 蒸れているせいでショーツがぴったりと肌に密着しているせいか、ルビィの大切なところの形が多少だが現れている様は非常に欲情を唆られる。

 俺はその形成箇所に犬の鼻を近づけた。布切れ1枚を隔てたその先に秘境があると思うと、もう心臓の鼓動の音が自ら聞こえてくるくらいには高ぶってくる。犬特有の嗅覚が女の子の匂いと汗の匂いの絶妙な絡み合いを感じさせ、その濃厚さは俺の脳を溶かしてしまいそうだ。まあもう既に性欲に取り憑かれ理性も人徳も人情も溶け落ちているこの身、これからどこが溶けようが知ったこっちゃない。

 

 俺はルビィの大切なところがあるであろうショーツの生地に舌を伸ばし、試しに一発、下から上にすくい上げるように舐めてみた。

 

 

「ひゃぁああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

 

 想像以上の刺激が走ったのか、ルビィの身体が見たこともないくらいに激しく震えた。人間ってあそこまで高速に振動することができたんだな……。その振動力があれば人間電マも夢じゃないぞ。

 

 そして気付いたのだが、さっき舐めたところがうっすらと濡れている。もちろん俺の唾液という説もあるが、もしかしたらルビィ……ちょっと感じてる? こんなロリっ子体型なのに身体の反応はしっかり大人だったとは、人間の頃の俺が日々彼女に気付かれぬようさり気なく調教を施した結果だな。とは言っても頭を撫でながらこっそりとボディタッチをしたりする程度だけど。

 

 もしこれが愛の液だとしたら、ルビィの身体は相当デキ上がっているに違いない。俺とAqoursメンバーが出会って結構経つから、もうそろそろみんなの艶っぽい反応を見てみたいと思っていた頃だ。もしかしたら今日、その願いが1人分だけ叶うかもしれないぞ。目の前に広がるショーツさえ脱がせられれば完璧なんだけどなぁ。

 

 

 しかしこの調子でどんどん攻め立てようと思っていたその矢先、俺の身体から細い煙が上がっていることに気が付いた。最初は数本だけだったのだが、次第に身体のあちこちから煙が上がり色も濃くなっていく。

 

 そうだ、よく考えてみれば犬になってるのって秋葉のクスリのせいだった! そしてアイツのクスリ系はいつ効力が切れるのか分からない、もはやブービートラップの一種のようなものだ。つまりこれは――――非常にマズイのでは!?!?

 

 

「わっ!? ルビィさんのスカートの中から煙が出てるよ!?」

「えっ、えっ!? ルビィの身体どうなっちゃってるの!?」

「かよちん! 花丸ちゃん! 早く子犬をスカートの中から出して!」

「そ、そんなに急かされても……」

「凛の勘だけど、何か嫌な予感がするにゃ……」

 

 

 あっつ! 身体が熱い!! 夏の暑さでも性欲に支配された熱さでもない、もっと物理的な熱さが身体中を駆け巡る。なんとなぁ~く今後の展開を予想できるため逃げたいのだが、さっき舌の先まで自由自在に動いていた身体がスイッチをOFFされたロボットのように完全停止している。今までも何度か同じ経験をしたことがあるけど、今回ばかりはこの状況からしてヤバイって!! 動けっ! 動け俺の身体ぁあああああああああああああああああ!!

 

 その瞬間、ルビィのスカートの中から火事になったかの如く大きな煙が上がった。

 さっきまで洞窟探検に例えていたはずのスカート内に一気に窮屈さを感じ、気付けば俺の顔は柔らかな太ももに挟まれていた。むわっとした熱気に気を失いそうになるも、意識はスカート外の会話に向いている。正直なんて言われるのか怖いから、誰の声も聞きたくないのだが……。

 

 

「…………せ、先生? 先生ずら??」

「やっぱり、えっちな子犬さんって時点でお察しだにゃ……」

「れ、零君、そ、そんな……じゃあさっき胸を触ってきたのも……!? そ、それに服が……」

「ピ――――」

 

 

 そしてまたしてもルビィの身体が電マのように震え出す。それに伴って俺の顔も電マを当てられているかのように大きく振動する。

 

 あっ、これもう詰んだ。もう長年同じような流れをたくさん経験してるんだ。人生が詰むことくらいはもう慣れたよ……。

 

 

「ピギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 ルビィに髪を掴まれ投げ捨てられて気絶したことで、そのあとの出来事は一切覚えていない。

 唯一覚えているのは、彼女の秘所から醸し出されていた大人な匂いだけだ。

 




 凛と花陽、そして花丸とルビィの4人を組み合わせると、どう足掻いてもまともな話にしかならなかったので、この際いっそのことエロくしてやろうと思ったのが今回の零君犬化の始まりだったりします。私としては逆さ撮り目線やスカート内部への侵入&進軍など、一度やりたかったことがいくつか描けて満足です(笑)


 今回でAqours編に登場したμ'sメンバーは11人となり、ついに残り1人となりました。
 もちろん次回は原作キャラでないのにも関わらず、期待の声が一番多かったあの妹様が降臨します!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

思い出させてあげるよ、妹の味を……

 いよいよμ's襲来編もラストの1人、我が軍の最強妹様の登場です!


 

「ふぁぁ……いい天気だなぁ~」

 

 

 夏でも冬でもそうだけど、普段は極端に暑かったり寒かったりするのに、ある1日だけ突然涼しくなったり暖かくなる日ってない? 今まで自分たちに試練を与えてきたお天道様が、試練を耐え抜いたご褒美として人類に1日だけ休息を作ってくれているのかもしれない。まさにツンデレそのものだ。そう考えれば最近暑い日差しをギラギラと鬱陶しく照り付けいることも、まあ少しは許してやってもいいのかもしれない。これがお天道様式のアメとムチなのかもしれないが……ま、まさか、調教されてる!?

 

 そんな訳で今日はそれほど暑くもなく涼しくもないが、これまでの熱帯気候に比べれば全然マシな気温である。適度に風も吹いて心地よく、こうして学院の中庭でゴロンと寝転がって日向ぼっこをするのには最適だ。別に不当にサボっているのではなく、この時間に俺の担当する授業がないだけだから勘違いするなよ。学生時代は堂々と不当にサボって中庭で寝ていたが、教師になった俺は一味も二味も違うぞ。誰にも反抗されない理由を用意してから、つまり正当な理由でサボっているのだ。

 

 しかし、昼飯を食った後に寝転がっていると眠気がこれでもかというくらいに襲ってくる。今の授業が終わるまであと30分以上もあるが、この心地よさの中で眠ったら確実に次の授業に間に合わなくなってしまう。流石にゆっくりとはできないが、襲い来る睡眠の魔の手に抗えるとも思えない。仕方ねぇ、ちょっとだけ……ちょっとだけだから!!

 

 屈強な心を持っている俺でも性欲と睡眠欲には弱いので、こうしてあっさりと眠気に屈服する。

 意識も段々と遠くなり、このまま気持ちよく夢世界へ旅立とうとしたその時だった。ぷりっとして柔らかく、それでいて少ししっとりとした暖かいモノに口を塞がれる。単刀直入に言おう、突然何者かに唇を奪われたのだ。

 

 

「んぐっ!!」

「んっ……はぁ……んっ、ちゅ……」

 

 

 いきなりの激しい口付けに、口から一気に息が漏れ出し呼吸が困難になった。そんなことはお構いなしに、目の前の女の子は唾液の音を卑しく立てながら小さくも肉厚な唇を押し付けてくる。一瞬の内にここまで濃密に絡みついてくるなんて相当の手練に違いない。唇と唇が溶接されているかのように密着し、接続面がじりじりと熱くなってくる。

 

 

「はぁ……ちゅ……んっ」

 

 

 俺を激しく求めてくる濃厚なキス。それほどまでに自分を俺に感じさせたいのか。

 しかしあまりのねっとりとした口付けに頭がぼぉ~っとしてきた。キスなんて行為はこれまで死ぬほどやってきたが、そんな百戦錬磨の俺の脳を溶かそうとしてくる奴がいるとはな……。もしこれが浦の星の生徒だったりしたら、スキャンダルどころか速攻で教師はクビ、ニュース報道やらSNSの拡散やらで社会的にも抹殺されてしまうだろう。そうなっちまう前にこの子を止めないと!!

 

 俺は女の子のキスの虜にされそうになるも、両手で彼女の肩を掴んで無理矢理唇を離す。

 するとお互いの唇の間に粘っこい唾液の糸が引き、その糸を目で辿っていくと遂に女の子の正体が明らかとなる。鮮やかな茶髪のロングヘアー、強い意思を感じさせる瞳に少し釣り上がった目。そして誰が見ても美少女だと言わせるほどの美貌を持つこの子は――――

 

 

「か、楓!?」

「おはようお兄ちゃん♪ 久々のモーニング妹はど~お?」

「モーニングって、今昼過ぎなんだけど……ていうか、どうしてここにいるんだよ?」

「そりゃお兄ちゃんに会いたいからに決まってるじゃん! 妹は兄の傍にいるのが普通なんだよ。ほら、"兄妹"って単語は兄と妹が隣り合わせにいるでしょ? つまりそういうこと」

「意味が分からんが、とにかくまたアポなしで来たってことは把握したよ……」

 

 

 神崎楓、19歳。俺の妹であり恋人でもあるから世間的にヤバイ関係でもある美少女。

 元μ'sのメンバーでもあり、その容姿端麗さからメンバー内ではファンレターを貰った数が一番多いことで知られている。しかしブラコンなのが災いして、兄である俺以外の男はゴミ以下どころか存在を認識すらされておらず、男ファンから貰ったファンレターは焼却処分するのが日課である。見た目とは裏腹に性格は姉の秋葉に似て悪魔っぽいのだ。

 ちなみにスタイルは抜群で、詳しい数値は知らないが推定Fカップ。外を歩いているだけで周りの男の性欲が掻き立てられるくらいの身体付き。その美貌も相まってか、男女問わず彼女に憧れている人は多いと聞く。彼女もそのことは理解しており、そのような人たちを徹底的に見下す傲慢さがウリでもある。しかし自分よりスタイル、というより胸が大きい女性に対しては敵意を剥き出しにするのが可愛いところだ。

 家事スキルはカンストしているかってくらいに高く、料理、掃除、洗濯etc……あらゆる面でパーフェクトで、何かと俺の身の回りの世話も焼いてくれる。本人曰く、『私はお兄ちゃんのために生きている』らしい。

 

 そんな最強の妹がいきなり襲来した挙句、唇まで奪ってくるなんて一体どういうつもりだコイツ……。

 

 

「お兄ちゃん私ね、ずぅ~~っと我慢してたんだよ!」

「なにを?」

「穂乃果先輩たちがどんどんお兄ちゃんに会いにいく中、私は迷惑かもと思って必死に我慢してたんだから! お兄ちゃんがいなくなった寂しい家の中で、ずっとお兄ちゃんをオカズにオナニーしながら毎日を過ごしていたんだからね! 寂しいよぉ寂しいよぉって」

「ツッコミどころが色々あるから1つずつ。まず必死に我慢してた割には毎日何百回も連絡してきてるよな!? しかも普通に元気いっぱいの声を聞いてるんだけど!? そしてお前1人では寂しいからって、俺の教育実習期間は穂乃果の家に居候させてもらってるだろ!! 誰でも分かる嘘をついて同情を誘おうとしてんじゃねぇ!!」

「ぶぅ~! 正論つまんない!!」

「嘘の方がよっぽどつまんねぇわ……」

 

 

 楓は仰向けの俺の身体に跨ったまま不服を漏らす。

 まあ何百件の連絡に関しては寂しい思いをさせているこちらも悪いのだが、お前のオナニー事情は俺の知ったこっちゃない。しかもさっきも言った通り、俺が教育実習をしている期間はコイツが家に1人でいて寂しくならないように高坂家に身を預けさせて貰っている。どう考えても穂乃果と雪穂がいる前でオナニーなんてできるはずもないが……。でもコイツのことだ、2人を巻き込んで卑しいことをしている可能性も否めない。どちらにせよ学院の中でする話ではないな。

 

 

「そういや毎日のご飯は大丈夫? お姉ちゃんの料理はどう?」

「秋葉の料理はお前仕込みだからな、全然問題ないよ。家事も心配せずとも2人で協力してやってるから」

「よかったぁお姉ちゃんがお兄ちゃんに粗相をしてなくて」

「まあ粗相されていると言えばされてるけど……この際どうでもいいか」

「でもお姉ちゃんはえっちなの苦手なんでしょ? だったら溜まった性欲はどこで発散してるの?? もしかして、内浦に来てから一度も射精してないとか!? 忙しそうだけどちゃんとオナニーできてる!? オナペットである私がいなくても大丈夫!?!?」

「で、できてるから大声でそんなこと言うな!! 色々誤解されるだろ!!」

「えっ、誤解って……私で性欲処理してるのは事実でしょ?」

「うっ……まあその話を大っぴらにするのだけはやめてくれ」

 

 

 正直に言えばついこの前、己の性欲をコントロールできずに子犬となって花陽や凛、花丸とルビィを襲ったという裁判いらずの即逮捕レベルの事件を起こした経歴がある。つまり性欲を定期的に発散できていないということだが、楓にその事実を話してしまうと今この場でR-18展開が始まってしまい兼ねないので敢えて黙っておく。

 

 

「ねぇお兄ちゃん。私もね、お兄ちゃんがいなくてずっと溜まってたの。やっぱり1人でやってもやり切れなくて、お兄ちゃんのことばかり思い出しちゃうんだ」

「いやそう言われても……」

「ねぇお兄ちゃん。この体勢……えっちだね」

「お前が勝手に俺の寝込みを襲ったからだろ……」

 

 

 仰向けになっている兄の腰の上に、妹が跨っているという背徳的構図。腰と下半身の密着面は楓のスカートによって隠されているので俺からも周りからも確認することはできないが、傍から見たらもう繋がっているようにしか見えないだろう。近親相姦上等な彼女にとっては問題なく、むしろ他人に見せつけたがっているくらいだ。この現場を目撃されれば俺の社会的抹殺は確定だが、むしろ楓はわざとそのように俺を社会から切り離し、大好きな兄を自分だけのモノにしようとすることくらい平気でやりそうで怖い。今のコイツが小悪魔っぽい笑顔をしているのがその証拠だ。

 

 そしてさっきから気になっていたのだが、楓が"お兄ちゃん"と言う率がやたら高くないか? そこまで連呼しなくてもいいのに、会話の中で不相応に"お兄ちゃん"と付けたがるこの感じ……まぁ、可愛い妹に"お兄ちゃん"と言われるのは嫌いではなく、むしろ好きな部類だ。しかも冒頭に"ねぇ"とか語尾に"だね"とか、ちょっと甘く媚びている感じがまた不覚にも心に響いてしまう。恐らくコイツは俺のそんな弱点を知って攻めてきているのだろう。相変わらず計算高い奴だ……。

 

 

「ねぇお兄ちゃん……しちゃおっか?」

「ふざけんな!! 外だぞ学院内だぞ!? 誰か来るかもしれないんだぞ!?」

「いいじゃん見せつければ。私はお兄ちゃんのモノだってこと、周りに証明したいもん♪」

「そんなこと言うなよ好きだからそういうの……」

「えへへ、知ってる♪ だから寝込みを襲ったんだよ、お兄ちゃんが言い逃れできないように……ね♪」

 

 

 やっぱ全て計算の内だってことかよ!! コイツの行動の基本理念が自分の利益になるかどうかだから、ただキスをして俺だけに気持ちいい思いをさせるはずがないのだ。

 しかし俺は楓のような節操なしではないので、一応だけど世間の目を考慮して行動している。だから学院の中で堂々と近親相姦を繰り広げるような常識知らずでもないし、コイツのように誰かに見られてもいいなんて公開プレイフェチでもない。人に見られて興奮するって、それどこぞの鳥さんだっつうの。

 

 

「でもさぁお兄ちゃんのココ、心なしか大きくなってる気がするんだけど」

「そりゃあ女の子が腰の上に乗っている状況で、しかもさっきからお前が激しく動くからあそこが刺激されてんだよ……」

「うわぁ~妹に欲情するとか変態さ~ん♪」

「な゛っ!? お前だって普段から実の兄に欲情しっぱなしだろうが!!」

「そうだよ。だからさ、お互いがお互いを求めてるのに遠慮するのは勿体無くない? 目の前にいつでもヤれるオナホ妹がいるんだから、お兄ちゃんはいつでもどこでも私を使ってすっきりしていいんだよ? もう付き合い始めてから5年も経ってるのに、そこのところ分かってないんだよなぁお兄ちゃんは」

 

 

 正直に言うと、俺は楓のような女の子の服従心というものが大好物だったりする。自らを『オナホ』やら『性奴隷』やら、淫語を絡めて誘惑してくる女の子って可愛いと思わない? 特にご主人様気質を持つ俺にとっては、そのように服従してくれる女の子にあっさり堕とされてしまったりするのだ。そう考えればもうどっちがご主人様なのか分からねぇな……。

 

 

「知ってると思うけど、俺はヤってもいいよと言われてがっつく安い男じゃない。女の子を手篭めにするのは俺の意思で、俺が決めた時だ。だから妹であるお前にヤるかヤらないかを決める権利はない。兄である俺に従え」

「もうっ、お兄ちゃんのご主人様口調も大好き♪ さっきから興奮が収まらないからそろそろ挿入れちゃうね!」

「ちゃんと俺の話聞いてましたかぁ!?!?」

「女子高生のガキに惑わされて、お兄ちゃんは性欲が鈍ってるんだよ。だから思い出させてあげるよ、妹の味を……♪」

 

 

 楓は俺のズボンのチャックを下ろすと、そこに手を突っ込んで俺のモノを握り締めようとしてくる。男の急所でもあり弱点でもあるそこを握られたら、もうその手から逃げ出すことはできないだろう。そうなれば学院内で兄妹濃密な近親相姦を披露するハメに……。まるでAVの企画モノのようだが、コイツの目はマジだ。油断してたら一瞬で搾り取られてしまうぞ!!

 

 しかし幸運か不運か、中庭近くの渡り廊下で袋のようなものが落ちた音がした。楓に淫語付き誘惑をされて沸き立った性欲など速攻で忘れ去り、嫌な予感に心から脳内まで支配される。

 今は授業中なので生徒が通ることはないと思うが、そう考えると残る可能性は学院の教師くらいなので余計に背筋が凍る。生徒に見つかってもまだ何とか誤魔化せるが、教師に見つかったら即学院追放、ついでに社会や世界からの追放も視野に入れなければならない。

 

 俺はロボットのようにガチガチになった首を渡り廊下に向け、音の正体を確かめる。

 するとそこには浦の星の制服を着た、赤紫色の髪の女の子が――――って、梨子じゃねぇか!?

 

 

「せ、先生何をやってるんですか……? ここ学校ですよ? それなのに女の人と腰を振り合って……え、えっちなことを……!!」

「誤解だから!! とりあえずエッチなこととか叫ぶのはやめてくれ!! 本当に通報されそうだから!!」

「誤解……? こんなに大きくしてるのにぃ~?」

「それはお前のせいだろ!!」

 

 

 やはり楓は誰かに見つかろうが近親相姦をやめる選択肢は一切ないようだ。コイツの対処だけでも一苦労なのに、今は離れたところで口を抑えて驚いている梨子の対応もしなきゃいけないし、あぁもうメンドくせぇなぁオイ!!

 

 

「先生がまさか野外プレイの趣味があっただなんて……」

「ないから! 俺は2人きりでねっとりとやる方が好きなんだ!!」

「その告白もどうかと思いますが……」

 

 

 結局どう答えても俺の逃げ道は完全に封鎖されているみたいだ。それに疑問に思う以前に梨子とは腹を割って話し合った仲だから、今更そんなドン引きしなくてもいいだろうよ……。自分自身がレズプレイに興味あるってことを棚に上げやがって、それも相当ドン引きものだっつうの。

 

 

「あ~あ、なんだかシラケちゃった。私たちの営みを見るのはいいけど、邪魔だけはしないで欲しかったなぁ~」

「じゃ、邪魔って、先生困ってるじゃないですか……」

「たかが先生と生徒の関係なのにここまでお兄ちゃんを擁護するとはね……。どれだけあの子に調教したのお兄ちゃん? 調教期間は? どんなプレイで服従させたの? あの子の妊娠何日目?」

「だ、だからそんなことを学校で言うなって!!」

「さ、ささされてませんよそんなこと!! 突然何を言ってるんですか!?!?」

「黒すぎるよ2人の反応が……。これは一度パコパコやっちゃってるね♪」

「「やってない!!!!」」

 

 

 ブッ飛んだ妄想力は俺譲りなのか、あらぬ疑いを吹っ掛けてこちらの立場を徐々に悪化させていくこの陰湿さがいかにも楓っぽい。梨子の顔を見てみろ、楓の言葉のせいで俺とやっている姿を想像してか顔面の紅潮が止まらないぞ。梨子もネジが外れたらうるさくなる性格だから、ただでさえ楓だけでも騒がしいのにこれ以上になったらもう手が付けられなくなってしまう。ここは2人のどちらかに早急に帰ってもらわなくては……って、そういや今授業中だけど、梨子はどうしてここに……?

 

 

「おい梨子、授業中なのにどうしてここにいる?」

「あぁ、さっき体育の授業だったんです。でも体育用具を後片付けるために早く終わって、更にその片付けも早めに終わったので……」

「そっか、最悪だよこの状況……」

 

 

 俺が懸念しているのは、この先にまた波乱が起きそうだってことだ。だってよく考えてみろ、体育はクラス単位でやるものだ。つまりここに梨子がいるってことは、同じクラスのアイツらも――――

 

 

「あぁああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

「来やがったか……」

 

 

 突然渡り廊下の入口から、オレンジ髪の女の子がアホ毛をぴこぴこと揺らしながらこちらに全速力で走ってくる。俺と楓がお互いに繋がりそうになっている状況などには目もくれず、彼女は楓の元へ一直線に辿り着くとその手を握り締める。

 

 

「μ'sの……μ'sの神崎楓さんですよね!!??」

「な、なにこの暑苦しい子……」

 

 

 オレンジ髪の女の子――千歌は楓の手を握ったまま、まるで絶景を眺めているかのように目を輝かせていた。まあ彼女からしたらμ'sのメンバーってのは絶景にも値する存在なのかもしれないが。感動するのはいいけど、仰向けの兄の上に跨っている妹の手を握っているファンという奇妙な図になってるから誰か早くどうにかしてくれ。

 

 

「はぁ、はぁ……千歌ちゃん早すぎるよぉ」

「よ、曜ちゃん、大丈夫?」

「梨子ちゃん、千歌ちゃんどこに行ったか知らない……?」

「千歌ちゃんなら、ほらあそこに……」

「やっぱりか。さっき更衣室で着替えをしてたら、千歌ちゃんが『アホ毛レーダーにμ'sの電波を感じる!!』とか意味分からないこと言って、早着替えのあと全速力で走り出したんだよ……。あの早着替えはギネスに載れるし、あの走力だったら国体も狙えるね……」

「あはは……」

 

 

 電波って、もう中二病丸出しじゃん……。これまで幾多のμ'sメンバーに会ったせいで、彼女たちから発せられる覇者のオーラを感じ取れるようになったのかもしれない。μ'sが来てからというもの、Aqoursのメンバーにロクな成長がないような気がする。

 

 

「楓さん……動画で見るよりもカッコいいし可愛いし綺麗です!!」

「当たり前でしょ。私を誰だと思ってるの」

「千歌ちゃん、この人は一体……?」

「えぇ梨子ちゃん知らないの!? あれだけ夜通しでμ'sのライブ動画見たのに!?」

「μ'sの神崎楓さんだよ。ほら、あのシスターズで有名な」

「あ……あっ!!」

「スクールアイドルのくせに、私の存在を知らないなんていい度胸じゃん♪」

「ご、ゴメンなさい!! 千歌ちゃんの言う通り、映像で見るよりも綺麗で気付かなかっただけです!!」

「まあそれだったら仕方ないか」

 

 

 我が妹がチョロすぎて心配になってくるレベルなんですがそれは……。彼女は自尊心とプライドが高すぎるゆえ、相手から素直に褒められると弱いという可愛い欠点がある。そのせいで絵里や海未をからかおうとしたけど返り討ちにあったりした過去もあった。いつも自信満々の女の子が恥ずかしがってる姿ってよくない? だから俺はそんな楓の表情を見るために、誘惑されるとなし崩し的にやっちゃうんだよなぁ。

 

 

「ていうか、あんたたち誰? お兄ちゃんのなに??」

「私たちAqoursというスクールアイドルをやっているんですけど、知りませんか?」

「Aqours……? あぁ、最近お兄ちゃんが手を出してるって噂になってるグループね」

「言い方が意味深すぎるんだよお前は!! ただの顧問だよ顧問!!」

「そっかぁ知らないか……。まだまだ私たちの頑張りも足りないってことですね」

「いや、コイツは自分の興味ないこと以外は記憶に入れないタチだから。コイツの常識を指標に考えない方がいいぞ」

「そうそう、私は常にお兄ちゃんのことしか考えてないからね♪」

「うぐっ! いきなり抱きつくなって!!」

 

 

 俺の腰に跨っていた楓は、そのまま倒れ込みながら抱きついてきた。大学生になって更に成長した双丘が俺の胸で潰され、その大きさが手に取るかのように分かる。しかも女の子特有の甘い匂いが鼻をくすぐり思考を乱し掻き立てられる。抵抗しようにも俺の何もかもを知り尽くしている楓は、逃げ出されないようにガッチリと俺を抱擁していた。

 

 

「お兄ちゃんがおっぱいを押し付けながら抱きつかれるのに弱いってことは、もう知りすぎるほど知ってるんだから♪ さぁ、さっきの続きしよっか! お気に入りの女の子たちの目の前で、お兄ちゃんが乱れに乱れる姿を見せてあげよ♪」

「考え方が毎回汚いんだよお前は……」

「お兄ちゃんから余計な牝豚たちが離れ、心が空虚になったお兄ちゃんを私が頂いていく。まさにWin-Winだね♪」

「Winなのはお前だけだからな!?」

 

 

 相変わらずのブラコンヤンデレ思考は何年経っても変わらず、こんな状況であってもここまで徹底的に同じキャラを突き通されると逆に安心してしまう。ブラコンもヤンデレも大好物なのでいくらでも曝け出してもらって構わないのだが、周りにギャラリーがいるのにおっぱじめようという精神だけは自重してもらいたい。ほら、千歌たち口を半開きにしてポカーンとしてるから。

 

 

「せ、先生1つ聞きたかったんですけど……楓さん、先生のこと"お兄ちゃん"って言ってません?」

「えっ、別に変なところあるか?」

「そういや苗字も同じ"神崎"ですよね……?」

「まさかお兄ちゃん、この子たちに私たちのこと何も言ってないんじゃないの?」

「あっ、そういえばそうかも!」

「苗字が同じで"お兄ちゃん"呼びってことは、もしかして――――兄妹なんですか!?」

「あぁ、そうだよ」

 

「「「え゛ぇえええええええええええええええええええええええええええええ!?!?」」」

 

 

 学院中に千歌たち3人の声が響き渡る。

 まあこんな近くにμ'sとの血縁者がいたんだから驚くのも無理はないだろう。しかし"神崎"という苗字はそこそこ珍しいと思うから、兄妹で同じ高校の出身ということもあっててっきりもう楓との関係なんてバレているのかと思ってたぞ……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 楓ちゃんが本編に出演するのは5ヶ月ぶりなので、是非おかえりと言ってあげてください!
 執筆の最中に思ったのですが、もしかしたらこの小説で一番可愛いのって彼女なのでは……? ラブライブ小説なのにオリキャラを推す時点でおかしいのですが、読者さんの中にも彼女のファンは多いみたいなので(笑)


 次回は一応今回の続きなのですが、話の内容はガラリと変わるので前後編ではありません。そして次回がμ's襲来編のラストとなります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

身体に刻み込んであげるよ、お兄ちゃんの魅力を……

 楓ちゃん回の後編となります!
 最強で最狂で最凶の妹様が遂に本領発揮……!?




※業務連絡等があるので、是非後書きまでご覧下さい!


「お兄ちゃん、私たちの関係ずっとみんなに黙ってたの……?」

「別に隠すつもりはなかったんだ。単純に忘れてただけだよ」

「そんな! 私のことを片時でも忘れていたなんて……え~んえ~ん!」

「子供みたいな嘘泣きすんな。秋葉みたいだぞ」

「それはイヤ」

「急に冷静になったな……」

 

 

 同族嫌悪なのかは知らないが、楓は秋葉を引き合いに出されるとこうして途端に冷めてしまう。もちろん心の底から嫌っている訳ではないと思うが、できれば顔どころか名前も聞きたくないのだろう。さっきまで暴走していたのが急に沈静化したので、これからコイツが暴れている時は秋葉の話題をして誤魔化そうかな。

 

 そして千歌たちは俺たちの顔を交互に見ながら唖然としている。憧れだと思っていたμ'sが自分たちとここまで近しい関係だったなんて想像もしてなかったのだろう。そこで梨子が納得したような顔で口を開く。

 

 

「楓さんのお兄さんが先生なら、先生のダンスの上手さも指導の的確さも納得です」

「お前……やけに上から目線だな」

「ご、ゴメンなさい別にそんなつもりでは!!」

「そうそう間違ってるよ。私がお兄ちゃんの妹だからこそ、私のダンスも歌も全部が完璧なんだよ」

「訂正するのそこかよ!?」

「梨子さんだっけ? お兄ちゃんに謝って」

「えっ、どうして……?」

「謝って」

「ゴメンなさい……なんで謝ってるんだろう??」

 

 

 ようやく俺の腰の上から退いた楓は、今度は千歌たちの前に仁王立ちをして立ちはだかる。元々彼女に備わっていた魅力と何故か分からないけどお怒りのオーラで、3人は身を縮こませて寄り添い合っていた。スクールアイドルの後輩に圧力指導とか、今時そんな後輩イジメは流行らないぞ……。

 

 

「高海千歌!!」

「は、はい!!」

「お兄ちゃん、つまりあなたの顧問の素晴らしいところを3つ言いなさい」

「そんないきなり!? えぇ~と、一緒にいて楽しいことと、熱心に優しく指導してくれること、最後は……カッコいいところですかね?」

「やっぱりその程度だったか……」

「えぇっ!? 頑張って答えたのに!?」

 

 

 その答えを聞いて俺は今とても恥ずかしい訳だが……。教え子からここまでストレートに好意を語られると背中がムズ痒くなってしまう。しかも咄嗟に質問されてすぐにその答えを口に出したってことは、嘘偽りなく普段からそう思ってくれているに違いない。楓はド直球で褒められると弱いと言ったが、これは神崎家特有の性質なのかも。

 

 

「あなたが言ったことはね、お兄ちゃんと1日一緒にいれば誰にでも出せる答えなの。いや1日どころか1分も一緒にいれば問題ないけどね」

「じゃ、じゃあどんな答えが正解なんですか……?」

「もう2週間もお兄ちゃんと一緒にいるのに、何か後ろめたいことがない訳ないでしょ。だってあのお兄ちゃんなんだよ!? 目の前に可愛い女の子がいたら、そのペラッペラの紙みたいな理性を頑張って保とうとするけど結局すぐ折れて手を出しちゃうお兄ちゃんなんだよ!? だったら絶対にエッチなことをされてるはずだよ!! もちろんあなたも! あなたも!! その時に感じた想いをぶちまければいいの!!」

「「!?」」

 

 

 楓は千歌だけではなく、梨子と曜に向かっても指を指す。

 3人は身体をビクつかた後に顔を真っ赤にするが、もしかして()()()()()()()()()()()()()()()()を思い出しているのだろうか。俺も彼女たちとの記憶を辿ってみれば、確かに後ろめたいことがあるというか、むしろ後ろめたいことしかない気がする。まだ千歌たちに出会ったばかりなのに楓の読みが鋭すぎるのか、それとも俺の行動パターンが完全に把握されているのか……。

 

 

「その反応、やっぱりお兄ちゃんと何かしてたんだぁ~ふ~ん……。私がお兄ちゃんの帰りを寂しく待っている間に、お兄ちゃんは教え子たちの身体を使って性欲処理してたんだぁ~」

「そこまではしてねぇよ!!」

「そこまで……?」

「あっ……」

「お兄ちゃんって案外墓穴を掘りやすいタイプだよね。まあ掘るのは私のココだけでいいけど♪」

「うっ、お前なぁ……」

 

 

 楓はスカートを指で摘んでピラピラと靡かせるが、絶妙にショーツが見えない絶対領域を心得ているせいか余裕の焦らしプレイで俺を惑わせる。言葉の端々の誘惑が迷惑極まりないんだけど、それが可愛すぎるから困りものなんだよなぁ……。そしてこうして簡単に墓穴を掘るように誘導される辺り、やはり俺の行動パターンは楓に読まれているのだろう。流石我が妹と褒めるべきかのか、俺たちのプライベートを侵食されそうになっているのを危惧するべきなんだろうか。

 

 

「3人の反応を見ていると完全に黒みたいだし、お説教の前に罪を告白してもらうよ♪ そうだなぁ、まずはあなたからだよ曜さん?」

「わ、私ですか!? 私は先生とそんなことなんて……」

「はいダウト。私はね、女の子の顔を見れば大体察しが付くの。お兄ちゃんとエッチ、またはエッチ紛いなことをした女の子は漏れなくお兄ちゃんの魅力に取り憑かれる。そして毎日その淫行を思い出して、乙女な顔になるってことも把握済みだから」

「い、淫行って、私そこまでそのぉ……えっちな子じゃないですから!! ね、千歌ちゃん梨子ちゃん!?」

「「…………」」

「どうして黙るの!?」

「いやぁそれは……梨子ちゃんが答えてくれるから」

「え゛っ、あ、あのぉ……最近ちょっと大人っぽくなったって意味だよ、うん!!」

 

 

 千歌も梨子も弁明をするが曜に目を合わせようとはしない。そりゃそうだ、否定しようにも否定できない事実が彼女にはあるんだから。主にことりと出会ってからの曜はどことなく思考回路がピンク色になっている気がしてならない。ことりからにこを通じて渡されたエロ同人のような台本を、恥ずかしがりながらも読み上げる姿勢はもう言い逃れられない事実として受け止めるしかないだろう。

 

 

「そういえばあなたかぁ、ことり先輩がやたら可愛がってるAqoursのメンバーっていうのは。先輩に目を付けられるくらいだから、お兄ちゃんとそれなりに身体の関係なんでしょ? 隠さなくってもいいから」

「曜ちゃん、もう先生とそこまで……!?」

「違うから! ちょっとプールで――――」

「「プール!?!?」」

「千歌ちゃんも梨子ちゃんも近いよぉ……」

「ほぅ、スク水プレイとは中々にマニアックだね。お兄ちゃんならやりそうなことだけど」

 

 

 そうだ、曜には一度プールの端にまで追い詰められたことがあった。しかも自分から身体を触らせて来る積極的っぷりで、あの時は曜がまだ純粋ちゃんだと思っていた時期だから普通に焦ってしまった記憶がある。

 だがことりの襲来を機に彼女は変わってしまった。まだ恥じらいというものはあるようだが、もう以前のような純粋さは一切感じられなくなってしまった。2年生組の中では一番まともだと思っていたのに、やはりしっかりしてそうな女性ほどストレスが溜まりやすく性欲も溜まりやすいのだろうか。まだ大きく一線は超えていないものの、将来が怖すぎる……。

 

 

「ち、違うんですよ!! あれはプールに浸かった瞬間に何故か身体が火照ってきちゃって……とにかく、私のせいじゃないんですって!!」

「でもすぐにプールから出ず、欲望のままお兄ちゃんを襲ったんでしょ?」

「あの時は頭がぼぉ~っとしていて、私自身もよく覚えていなかったといいますか……」

「なにその酔っ払いオヤジみたいな言い訳は!! せっかくお兄ちゃんに手を出してもらえそうなんだから、しっかり全身で受け止めないとダメじゃない!!」

「お前の言い分って毎回どこかズレてるよな……」

「仕方ないからあなたたちの身体に刻み込んであげるよ、お兄ちゃんの魅力を……たぁ~っぷりとね♪」

 

 

 そしていちいち意味深な言葉を含めないと会話ができないのかコイツは……。ただでさえ楓の威圧でビビってる千歌たちが、これから何をされるのか想像もできずに更に身体を震わせてるぞ。まあ楓にとってはここまでの遊び相手はいないだろうが。

 

 

「お兄ちゃんはね、水着は水着でもスクール水着が大好きなの。それも最近使用されているものじゃなくて、太ももが大きく露出している昔馴染みのスク水の方ね」

「はぁ!? お前いきなり何言っちゃってんの!?」

「だってお兄ちゃん、パソコンや携帯で調べたことあるでしょ? 私知ってるんだよ。お兄ちゃんが何をオカズにしているのかは逐一チェックしてるんだから」

「そ、そんなどうやって……」

「妹ですから……フフッ♪」

 

 

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い!! 全く答えにもなってないし、その黒い笑顔は一体何を暗示しているんだ!? どうやって俺のプライベートを観察してんだコイツ!? しかも正直に言うと、楓の言うことは全部当たっているから何も言い返せない。

 でも楓の奴、どうして俺のパソコンや携帯の履歴を知っている?? どちらもパスワードで厳重にロックしてあるから簡単には中を覗けないはずだ。なのにコイツは後ろから見ていたかのように隅から隅まで……!! 相変わらずブラコン気質もそうだけど、兄を監視しようとするヤンデレ気質も高いよな……。

 

 そして千歌と梨子からは冷たい目線でかつ無言で蔑まれ、曜はさっきよりも更に頬を赤くしている。これは俺の魅力を説明するってよりも、俺の性癖を暴露されてるだけじゃねぇか?? もしかしてコイツ、最初からこれが目的だったんじゃ……。

 

 

「せ、先生ってスク水好きなんだ……。今度水泳部の練習にも来てもらおうかな……。新しいスク水も買っちゃおうかな……。そしてあの時の続きも……」

「おい、曜?」

「は、はい!?」

「さっきからブツブツ言ってるけどどうした?」

「な、なななんでもないです!!」

 

 

 言ってしまうと俺は難聴キャラではないので、本当は曜のブツブツ声は聞こえていた。聞こえていたからこそスルーしようと思った訳だが……流石にあの時の続きを求められでもしたら、今度はこっちから襲ってしまう自信があるぞ。でもここは追求したら曜が本格的にショートしてしまいそうなので黙っておいてやるか。

 

 

「あとお兄ちゃんが大好きなシチュエーションは、電車やバスの中での痴漢モノだよ。μ's内会議によればその手のAVだけでは飽き足らず、実際に実行に移して被害にあったメンバーもいるとかいないとか……」

「なんだよその会議初耳なんだけど!? 俺の知らないところで勝手に人の性癖を暴露するのやめてもらっていいかな!?!?」

「痴漢……なるほど」

「おっ、何か心当たりでもあるの千歌さん? 電車の中でお兄ちゃんにおっぱいモミモミされたとか、バスの中でパンツ脱がされて指で大切なところを弄られたとか」

「そ、そんな大胆なことはされていませんけど……」

「大胆じゃないってことは、突然ちゅーされたりお兄ちゃんの逞しいココをズボッと突っ込まれたりとか?」

「それヒドくなってますよね!?」

 

 

 薄い本やAVなんかではそんな展開は日常茶飯事だが、実世界で実行しようとすれば確実にバレるだろ……。もしかしたらバレる方が痴漢をする者として初心者だと馬鹿にされるのかもしれないが、どちらにせよ犯罪歴を背負う意味ではさほど変わりはない。

 

 そんなことよりもあの痴漢騒動の話は、俺がAqoursの顧問をする代わりに黙っていてくれるはずだっただろ? だが穂乃果が来た時もそうだけど、千歌はいとも簡単に俺の所業を漏らしやがる。まあみんなと仲良くなった今となってはAqoursの顧問は頼まれずとも続ける予定だけどな。今更悪行が世に漏れたところで彼女たちとの関係を断つことはない。社会からは関係を断たれる危険性があるけど……。

 

 

「痴漢ねぇ~。まぁお兄ちゃんが加害者だったら驚くことじゃないけどね。むしろ痴漢されたことを光栄に思うことだよ! むしろ羨ましいっていうか……」

「そのおかげで先生に出会えてこうして顧問をしてもらってますし、今思い返せば痴漢されたのも悪くないかなぁと。むしろちょっとドキドキしたっていうか……」

「ち、千歌ちゃん……先生に痴漢されて嬉しかったの?」

「ふぇっ!? う、嬉しかったのは先生と出会えたことで、決して触られたことを言ってる訳じゃ――――」

「はいはい、お兄ちゃんに触られて発情しちゃったことを隠さなくてもいいから」

「してません!!」

 

 

 どう転んでも楓は千歌たちを貶めたいらしく、あらぬ事実を会話の端々にねじ込んできやがる。あのトラブルメーカーの千歌がひたすらツッコミ役に回るのなんて初めて見たぞ……。

 ちなみにあの時の千歌は完全に熟睡していて、俺が痴漢したという事実は梨子たちから聞いたのが初耳だったはずだ。だから見知らぬ男に身体を触られて発情するなんて――――するはずないよな? もしかして起きていたという驚愕の裏話があったりは……ないか。

 

 

「わ、私のことより梨子ちゃんはどうなの!? 先生と何かあったりしないの!?」

「梨子ちゃんは流石にねぇ……。千歌ちゃんと違ってガード硬そうだし」

「それどういうこと曜ちゃん!? そんなことを言ったらスク水で痴女った曜ちゃんだって!!」

「ち、痴女……!? 人を変態みたいに言わないでよ!! ねぇ梨子ちゃん!?」

「え゛っ!? あ、う、うんそうだね……」

「どうして目、逸らすの……?」

 

 

 千歌と曜の無茶ぶりに動揺する梨子だが、俺にはその気持ちがよぉ~~く分かるぞ!  なんたって俺と梨子の関係は、千歌への痴漢以上にトップシークレットだったりする。彼女がレズモノの薄い本を持っていた。その事実を対価として、実際に彼女の部屋で梨子に軽く抱きついて胸を弄ったこともある。つまり他の誰にも言えない関係で繋がっている訳だ。

 

 だが楓は梨子の様子を伺うと、にんまりとした表情でちらりと俺の方を見た。

 

 

「お兄ちゃん大好きだもんねぇ~。誰もいない閉鎖空間で女の子とエッチするの。絵里先輩や真姫先輩も体育倉庫に閉じ込められてエッチしてたって言うし、もしかしてお兄ちゃんと梨子さんも……フフッ♪」

 

 

 だから怖いって!! なんだよその勘の良さは!? どうして俺と梨子が2人きりの部屋でちょっと淫らなことをしていたって分かるんだよ!? 妹レーダーの性能が凄まじすぎて、商品化して応用すれば浮気調査も簡単にできるし儲けられると思うぞ。

 

 そしてμ's間のネットワークは一体どうなっているんだろうか。自ら体育倉庫に閉じ込められたって話、いくら友達とはいえ普通他人にする? どうやらμ's会議なるものが開かれているみたいなのだが、想像するに議題のほとんどが神崎零被害者の会と言わんばかりの内容な気がしてならないぞ。

 

 

「梨子ちゃん……まさかあの堅物の梨子ちゃんがそんな!?」

「でも先生に対しての態度は、出会った頃と比べればかなり柔らかくなったよね? そういえばその理由ってあるの?」

「そ、それはただしばらく一緒にいて心を許したからよ」

「えっ、梨子ちゃんあんなに痴漢の件で怒ってたのに?」

「あの時は私と先生を近づけさせないようにしてたのに?」

「千歌ちゃんまで質問攻めなの!? もう仲間がいない……」

「白状しちゃいなよ。お兄ちゃんの手でアンアン喘いでたって」

「そこまで激しくやってません!!」

「「「そこまで?」」」

 

 

 梨子はハッとして手で口を抑えるが、時すでに遅し。俺と同じくまたしても楓の誘導尋問に嵌められ身を滅ぼしてしまった梨子。しかも今度は千歌と曜も敵に回して自分の味方が一切いない、まさに八方塞がりだ。しかもアンアン喘いだというのはあながち間違いでもなく、男性に初めて胸を触られ初々しい吐息を漏らしていたのは確かである。

 

 

「梨子ちゃんって案外むっつりだったんだね。急に親近感湧いてきたよ!」

「そんなことでシンパシーを感じて欲しくないんだけど……。あれは先生が痴漢の続きをしたいって言うから」

「おいっ!! 言っていいことと悪いことがあるだろ!!」

「きゃぁ~お兄ちゃん大胆! まだ出会って数日の子の部屋に乗り込んで強姦しちゃうだなんて、まさに変態の中の変態、男の中の男、下衆の中の下衆だよ! そんなお兄ちゃんに憧れちゃう♪」

「それ褒めてる!? 少し蔑み混じってるよな!?」

「私はそんな性欲に飢えた獣のお兄ちゃんも大好きだから♪ むしろもっとがっついちゃっていいよ!」

 

 

 性欲魔人というところを尊敬されても俺は嬉しくもなんともないんだが……。確かに梨子の弱みを突いて痴漢紛いなことをしたけど、あれは本人の合意もあったから別に無理矢理強姦した訳ではない。あくまで一時の気の迷い程度だから。

 

 

「なぁ~んだ。お兄ちゃんの好きなシチュエーションやプレイ、全部この子たちで試してるじゃん。せっかく私がお兄ちゃんの性欲を発散させてあげようと思ったのに、その必要がないとかちょっとこの子たちに嫉妬……」

「ぶっちゃけてしまえば全部事実だったけど、お前の想像より遥かにやってることはソフトだからな」

「ソフトであれハードであれ、その場に私たちμ'sがいないと思ったら現地で女の子を調達してヤるって、それ相当なヤリチンだよお兄ちゃん」

「言い方に悪意はあるけど結果は間違ってないな……」

 

 

 勘違いされたくないから一応主張しておくけど、何もμ'sがいないから代わりにAqoursを餌にしていた訳ではない。俺はμ'sだけでなくAqoursのメンバーも大切に思っているし、だからこそちょっと……ね? だってみんな可愛いんだもん仕方ないじゃん!

 

 

「あなたたちはどうだった? お兄ちゃんの魅力をたっぷりとその身で味わった感想は……? これでまたありきたりなお兄ちゃんの褒め言葉を言ったら許さないからね!!」

「その身で味わったと言いますか、梨子ちゃんや曜ちゃんの話を聞く限りでは先生が思った以上の節操なしだとしか……」

「千歌ちゃんが痴漢されていたことは知っていたけど、まさか梨子ちゃんが抜けがけしてるとは……」

「そんな言い方やめてよ!! あの時はほんっっっっとうに色々あって少しパニックになってただけだから!!」

「それじゃあその色々の理由を教えてよ」

「う゛っ、そ、それはダメ……」

「「梨子ちゃんのむっつり!!」」

「2人声を揃えて言わなくてもいいから!!」

 

 

 結局、俺の魅力というよりもスク水と痴漢プレイ、閉鎖空間に2人きりというシチュエーションが好きだって性癖がバレただけなんだけど……。現代の世の中は女子高生に話しかけるだけでも通報される時代だから、自分の性癖を教え子に暴露する時点でセクハラじゃねぇか……? まあ楓が勝手にバラしただけだから俺は関係ない。風評被害はえげつないほど受けてるけど……。

 

 

「でもこの3人みんなに手を出してるんだから、どうせ他の子たちにもちょっかいを出したんでしょ?」

「いやそんなことはない……だろ」

「どうして一瞬間が空いたの……?」

 

 

 それは心当たりがありすぎて、お前の的確な攻撃に物怖じしてしまったからだよ!! コイツはまだ俺の好みのシチュエーションやプレイを知っているというのか。もうパソコンや携帯がハッキングされているとしか思えないんだけど……。機械イジリが得意な秋葉と提携を結んで、姉妹共々俺のプライベートを覗き見しているとか……どんなヤンデレ姉妹だっつうの!!

 

 

「お兄ちゃんは尿意を催す女の子を邪魔して我慢プレイさせるとか、盗撮モノのAVとか大好きだからこっそり扉の隙間から着替えを覗いたりとか、無知な子が何も知らず大人の玩具を使っているところを見て愉しむとかのシチュエーションが大好きだもんね♪」

 

 

 だからどうして内浦に来てからの俺の行動が全部コイツにバレてるんだ!? 思い当たる節ばかりでまるで俺の隣で全ての行動を脳裏に焼き付けていたかのようだ。やっぱりどこかで見てたとか!? 俺がいなくなって寂しいとか言ってたくせに、内浦や浦の星の至るところに監視カメラでも付いてたんじゃないだろうな?? 

 

 

「「「…………」」」

「なんだお前ら、その痛いものを見る目線は……」

「良かったねお兄ちゃん! みんなにお兄ちゃんのことを詳しく知ってもらえて♪」

「お前この状況を見ても同じこと言えんのか……」

 

 

 楓はニコニコしながら悪戯な笑顔を浮かべる。嵐を引き起こすたびに毎回とばっちりを受けるけど、そんな小悪魔な彼女が可愛くもあるのでつい許しちゃうんだよな。楓のことを散々ブラコンと罵っているが、やはり俺も相当なシスコンのようだ。

 




 ブラコンな妹キャラも好きですが、少々ヤンデレが混じっている妹キャラも大好きな私です。つまり楓ちゃんのような子が好きなのです(笑)


 今回をもってμ's襲来編は終了となります。元々Aqours編自体が穂乃果たちと千歌たちの絡みを描きたくて開始したものなので、無事μ's全員を出演させることができて非常に満足しています! 読者さんからしてみればAqoursのこのキャラとμ'sのこのキャラの絡みが見たいという意見があったかもしれませんが、また機会があれば自分が見たいと思ったキャラ同士の話を描いてみようと思っています。

 何はともあれ、μ'sが小説本編に登場するのはこれで最後になるかもしれません。穂乃果たちにはここまでお疲れ様の言葉を送ります! 小説を盛り上げてくれて本当に感謝!

 そしてもちろんAqoursとのお話は新章に突入します。ここからは零君との関係が大きく進展していくのでお見逃しなく!


 ここからの小説の投稿ペースですが、3月末から生活環境が大きく変わるため、以降はいつもの2~4日に1回ペースでは投稿できなくなります。1回1回の更新に間が空いてしまいますが、是非最後までお付き合いしてもらえれば幸いです。


 次回はSaint Snowの2人が登場! いきなり零を慕う聖良と理亜、3人の関係とは??


新たに☆10評価をくださった

blue breakさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Saint Snow 登場!!

 今回から新章ですが、その一発目のメインがAqoursではなくまさかのSaint Snow登場回です!


 

 教育実習生活も残り1週間となった。内浦に来た当初は3週間もここに拘束されるのかと若干面倒な気持ちもあったのだが、自然も豊かで住民も温厚、何よりAqoursとの出会いがそんな気持ちを早々に吹き飛ばしてくれた。今ではここを離れるのを名残惜しいというか、ちょっぴり寂しくなっちまう。そう思ってしまうほどこの2週間でたくさんの思い出を作れたということだ。

 

 てな感じでいかにもクライマックス間近な言い方だが、まだまだ俺の教育実習生活は終わらんよ。内浦に来てからというもの1日1日が濃密で、穂乃果たちと大学でダラダラしながら過ごしている時とは大違いで忙しい。だからこの1週間もまた長くなりそうだ。

 

 

「せんせぇ~ここの問題わかんないで~す!」

「千歌……まず机に身体を伏せてないで起きろ。分からなかったら人に聞く前にノートを見ろ」

「寝てたからノート取ってないです。はい論破」

「そんな馬鹿なことを言うのはこの口かぁあああああああああああああ!!」

「い、いひゃいいひゃいよせんしぇ~」

 

 

 俺は両手で千歌の両頬を抓ると、そのまま左右に広げ可愛い顔をブサイクになるよう歪ませてやる。自分から今日の数学の授業が分からなかったので教えろと申し出てきたくせに、いざ補習をしてみればこれである。やる気があるのかないのか、どちらにせよ俺は教師だからコイツに勉強を指導する義務がある。まあ高坂家の長女をやる気にさせ、本来なら叶わなかったレベルの高い大学に導いた経歴のある俺だ。千歌の1人や2人を勉学に奮い立たせるくらいは容易い。

 

 

「いい加減にしないと帰るぞ。そうなったら今日の宿題はどうなると思う? 分からないことだらけで徹夜するはめになるぞ」

「せ、先生は優しいから、1日締切を伸ばすくらいはやってくれますよね……? いやぁ先生カッコいいもんんなぁ~。しかもこんなやる気のない生徒のためにマンツーマンで指導してくれるなんて、まさに教師の鏡!! 惚れ惚れしちゃいますよぉ~♪」

「おだてても無駄だ。早くノート開け、また1から教えてやるから」

「さっすが先生! やっぱり先生とマンツーマンだと勉強が捗ります!」

「どうだか……」

「えへへ♪」

 

 

 どうしてこんなに嬉しそうなんだコイツは……。見たところそこまで勉強を嫌がっている訳ではなく、むしろ俺と一緒にいるこの状況を楽しんでいるような気がする。流石に自惚れ過ぎかもしれないが、さっきからやけに笑顔を見せる千歌を見ているとそう思わざるを得ない。

 

 そんなこんなで俺の補習授業は途中で千歌が嬉しそうに駄々をこねながらも進んでいき、もうすぐAqoursの練習時間が迫っていた。元々1日の授業が終わってから練習時間までは教育実習のレポートを書く時間にしようと思っているのだが、最近はやたら俺に授業の質問をしてくる生徒が多く、中々その時間を取らせてもらえない。しかもそんな生徒に限って嬉しそうと言うか、補習中も教科書やノートではなく俺に視線が向けられていることが多く、もはや補習の目的を見失っている。もちろん千歌も同じ部類の人間だ。

 

 

 本当に俺の授業内容を理解してくれているのか怪しみつつ補習を終えようとすると、教室の扉が開かれ、背丈の小さい先輩女性教師である山内先生が顔を覗かせた。

 

 

「あっ、神崎君ここにいたんですね!」

「山内先生? 何か用ですか?」

「さっき職員室に神崎君に会いたいって子たちが訪ねてきたの。実はもうそこまで来てるんだけど、通しちゃっていいかな?」

「いいですけど……誰なんだ?」

 

 

 またμ'sの誰かがアポなしで来たのかと思ったが、以前楓が襲来したことで12人全員が内浦に訪れたことになる。つまりμ'sの誰かではなく、かと言って俺に会いに来てるんだから俺に知り合いなのだろう。そう考えるとA-RISEかこころやここあだとは思うが、μ'sのように押しかけ女房するような奴らじゃないしその線はないだろう。だったらなおさら誰が来てんのか分かんねぇ……。ま、そこまで来てるみたいだしすぐに判明するか。

 

 

「神崎君こちらにいたので入っていいですよ! それでは私は職員室に戻りますので、用事が終わったらまた声をかけてください」

「はい、分かりました」

 

 

 そうして山内先生は扉の前から去った。

 一体誰が来るのかと俺も千歌も興味津々で廊下を眺めていたが、その刹那、謎の黒い影が目にもほとんど映らないスピードで補習教室へと入り込んで来た。背後に忍び寄る暗殺者のように、いやもはや人間が成せるスピードとは思えない。窓から差し込む夕日の暁のせいでシチュエーションまで不気味に感じてしまう。

 

 そして、唐突に俺の腰が人肌の暖かさに包み込まれる。恐る恐る目を下げてみると、そこには小柄な女の子が俺の腰に腕を回して思いっきり抱きついていた。赤み掛かった紫色の髪。それを短いツインテールとしている少女。顔を胸に埋められているため本人確認はできないが、この子にこうして抱きしめられる感覚に俺は覚えがあった。

 

 更に彼女だけではなくもう1人、いつの間にか教室の入口に立っていた女の子が丁寧にお辞儀をして入ってきた。綺麗なバイオレットの髪を左結びでサイドポニーとしている少女。背も高くついでに胸も大きく、一目見ただけでも眉目秀麗だと実感させられるその見た目。そしてなにより、この子の存在も俺には見覚えがある。

 

 

聖良(せいら)!? それじゃあいきなり抱きつてきたコイツは……理亞(りあ)!?」

「はい、お久しぶりです――――コーチ」

「会いたかった――――兄様」

「せ、Saint Snow!? それにコーチに兄様呼びって……どういうこと!?」

 

 

 ちょっと突然の出来事ばかりで何から処理していけばいいのか分かんねぇ!! 千歌も頭にたくさんの"?"マークを浮かべて動揺しているし、とにかく1つずつだ。1つずつ冷静に対応していこう。

 

 まず行儀良く教室に入ってきたのが鹿角聖良(かづのせいら)Saint Snow(セイントスノー)というスクールアイドルのメンバーの1人だ。とは言っても、Saint Snowはこの子を含めて絶賛俺に抱きついているこの子の2人だけなのだが……。

 そして俺を絞め殺す勢いでハグしているこの子が鹿角理亞(かづのりあ)。苗字を見てもらえればお察しの通り聖良の妹である。つまりこの2人は姉妹でスクールアイドルをやっている訳だ。最近ではμ'sに影響されてそこそこ大人数でのスクールアイドルグループが増えているから、ただ身内間だけで、しかもここまで少人数のスクールアイドルは珍しかったりもする。

 

 それにしても、理亞の抱きつくパワーが秒単位で増しているんだが!? 男に拘束プレイなんて誰も望んでないからね!?

 

 

「お、おい理亞、もう少し力緩めてくれ。苦しいからさ……」

「久しぶりの兄様。いい匂い」

「それはありがとう……って、そうじゃねぇよ!!」

「理亜はずっとコーチに会えるのを楽しみにしていましたから。この日が近づくたびに柄にもなくそわそわして」

「お前も大変だな聖良……」

 

 

 ちなみにこの2人は北海道の出身だったりする。だからそこまで会う機会には恵まれないので、()()()に邂逅したのは天の巡り合わせと言えよう。ていうかそもそもコイツら、一体何しに来たんだ……?

 

 

「どうして私たちがここにいるんだって顔してますね。実はアキバでのライブに呼ばれていて、今日はその前乗りなんです。そうしたら理亜がどうしても静岡にいるコーチに会いたいって聞かなくて」

「そういや教育実習のこと、お前らにも連絡してたっけ」

「もう一度あの時みたいに兄様に抱きしめて欲しかった。兄様、暖かい……」

「はは……遠路遥々ご苦労様」

 

 

 北海道のスクールアイドルなのに聖地であるアキバでのライブに呼ばれてるって、もう相当な知名度じゃないか? Saint SnowもAqoursと同じでまだこれといって目立った結果は残していないものの、世間の注目度ではAqoursよりも上に位置するくらいだから。いくら客寄せが厳しい地方で活動していようとも、この2人を見ればどのスクールアイドルにも可能性があるってことだな。

 

 そして話は変わるが、さっきから千歌の鋭い目線が俺の身体を貫きそうなくらいに突き刺さる。横目で彼女を見てみると、軽く頬を膨らませて明らかに嫉妬してますよオーラを漂わせていた。机に座ったまま上目で俺を睨み、それとは別に理亞の動向が気になるのか彼女にもチラチラと注意を向けている。女の子の嫉妬姿というのは大変可愛いのだが、あまり放っておくと怒りが爆発してしまう可能性もあるので過度な放置プレイは危険だ。これ、ヤンデレちゃんたちを攻略した俺からの助言な。

 

 

「先生とSaint Snowのお二人は知り合いだったんですか? そうやってハグし合う仲みたいですし……」

「ハグし合う仲って、理亞が一方的にしてくるだけだって」

「一方的? 最初は兄様からだった。そしてそれから私の身体は兄様専用になったの」

「はぁ!? せ、専用ってことはつまり……!!」

「その発言は意味深すぎるから!! 千歌も鵜呑みにすんな!!」

「大丈夫、他意はない」

「だったら他意があるようにしか聞こえない発言は謹んでくれ……」

 

 

 そろそろ理亞の雰囲気で気付くと思うが、彼女は表情変化が少なく声も淡々としている。それゆえに見た目ではほとんど感情を感じられないのだが、内心は俺にデレてデレてデレまくっている生粋なクーデレタイプである。同じタイプでツンデレ寄りの雪穂と比べれば感情の起伏が少なく、まさにお手本のようなクーデレなのだ。しかもデレの時ですら真顔なのが不気味だが可愛く、発言も先程のようにちょっと常識外れなことも多いがそれはそれでまた愛らしい。意味深な発言が故意なのか天然なのかは未だに図りきれてはいないが……。

 

 

「聖良さんと理亞さんは、先生とどういったご関係なんですか……? そしてどうしてそう安々と抱きついてるんですか……!? 兄様呼びってどういうことですか!?!?」

「段々声が大きくなってきてるぞ千歌! 熱くなりすぎだからちょっと落ち着け!」

「安々……? 私と兄様の関係が安いとでも……? あなた馬鹿!?」

「理亞も声が大きくなってるから……」

 

 

 理亜は普段はクールだが、こうして感情が高ぶると相手に噛み付くように声を荒げるのがたまにキズである。そこまで明確な悪意ではないだろうが暴言も躊躇がないし、ツリ目がちということもあり初見では俺も近寄りがたい印象を抱いていた。まあこうして懐いてくれさえすれば、少し手の掛かる小動物みたいで全然可愛いんだけどね。

 

 

「理亞だと話が進まないので、私が説明しますね」

「頼んだ」

「はい。私たちとコーチは春に出会いました。私たちがスクールアイドルを目指そうと思い、聖地であるアキバで観光を兼ねた練習をしていた時に」

「へぇ~それじゃあ結構最近なんですね。その時に先生に指導を?」

「そうです。あの時の私たちには指導員すらいなかったので、コーチにたまたま声を掛けられ、そこから数日間指導してくださってとても助かりました」

「なるほど。でも先生はどうしてSaint Snowのコーチになったんですか? 最初Aqoursの顧問ですら嫌そうな顔をしていた先生が……」

「何と言うかな、ビビッと来たんだよ。今時スクールアイドルなんてそこらにゴロゴロいるだろ? 公園の近くを通りかかればほぼ100%誰かの練習を目撃するし、特にアキバは聖地だけあって全国からスクールアイドルも集まりやすい。つまり俺が高校生時代よりもスクールアイドルが多すぎて、魅力というものをほとんど感じなくなってたんだ。そんな中、俺の目を惹きつけられたのが――」

「Saint Snowだったってことですね」

 

 

 言い方は悪いが、最近は量産型スクールアイドルが増えているのが現状だ。伝説のμ'sやA-RISEに感化されてスクールアイドルを始めたはいいものの、思ったより人気が出ないからすぐにやめてしまうスクールアイドルも後を絶たないと聞いたことがある。その事実を踏まえると、スクールアイドルの魅力というのは俺の高校時代よりも低下したと言える。もちろん今のスクールアイドルの全員がそうであると言っている訳ではなく、AqoursもSaint Snowも人を惹きつける魅力はバッチリだ。

 

 俺の中では輝きが低迷しつつあったスクールアイドル界隈だが、そんな中でたまたまSaint Snowが練習しているところを見かけた。彼女たちからはただの憧れだけでスクールアイドルをやっているんじゃない。スクールアイドル界の頂点を目指したいという闘志が練習からでもひしひしと感じられたんだ。俺も伊達にμ'sと一緒にいた訳じゃないから、スクールアイドルたちがどのような精神で練習をしているのかなんて見ただけで分かる。Saint Snowは量産型スクールアイドルじゃない。ただ伝説たちの光の輝きを、おこぼれのように受けようと思っている奴らじゃない。自らが自分たちの光で輝こうとしているのが一発で分かったんだ。

 

 そう悟った瞬間、俺は聖良と理亞に声を掛けていた。

 

 

「コーチにはとてもお世話になりました。まだ効率的な練習方法が確立されていない私たちに、文字通り手取り足取り教えてくれましたから」

「も、文字通り……?」

「あれもこれも全て練習に必要なことでしたから、他意はありません」

「兄様の指導は的確だった。あれもこれも……ね」

「なんか聖良さんも理亞さんも、先生の色に染まっているような……。先生、2人に何をやらかしたんですか……?」

「ナ、ナニモヤッテナイヨ……」

「棒読み!! 未だかつてないほどの棒読みですけど!?」

 

 

 まあやっていないと言えば嘘になるけど、やってると言われるとそれは嘘なんだよなぁ……。とにかくだ、その辺り諸々の事情はまた別の機会にでも話してやろう。ここではいくら補足しようにも補足できないくらい色々あったからなぁコイツらとは。

 

 

「それで? 理亞さんの兄様呼びはどういうことなんですか……? まさか本当の兄妹じゃないですよね!? もしそうだとしたら楓さんの時よりも驚いちゃいますよ!?」

「違う違う。だからコイツが勝手にじゃれてくるだけだって」

「勝手にではない。兄様にこうなるようちょうきょ……指導されてしまったから」

「してねぇから。神様なんて信じてないけど神に誓ってそう言えるわ」

「む~……羨ましい」

 

 

 嫉妬してるってことは、千歌にももしかして俺に抱きつきたい願望でもあるんだろうか。彼女は性格上穂乃果に似ているが、彼女のようにいきなり抱きついてきたりなどの突発的な行動がない分、まだどこかに恥じらいがあるのだろう。もちろん俺としては美少女にハグされるのは大好きだから、いつでもウェルカムだけどね。

 

 

「また話が停滞しているので私から説明しますね」

「あ、あぁ頼む」

「はい。最初は私も理亞もコーチのことを警戒していたんです。練習をしていたら男性に突然声を掛けられるなんて、ただのナンパとしか思えなかったですから。それに私たちは北海道の出身なので、東京のヤリ手のナンパ師には不慣れでもありました」

「その言い方だと、俺が普段から所構わず女の子を誘ってるみたいじゃねぇか……」

「「「事実」」」

「そんなところで一致団結すんなよ……」

 

 

 ナンパと言われると聞こえが悪く、しかも俺からではなく女の子側から話しかけてくることも多いため、何も俺が女ったらしという訳ではない。まあ大学では高校時代以上にハメを外しすぎて、色んな女の子を引っ掛けていると言われればそうなのだが……。

 

 

「続けますね。とまあそんな感じでコーチに不信感を抱いていたのですが、提案していただいた練習メニューで私たちは自分で自分の成長を目に見て感じることができました。その他にもまあ色々あったのですが、おかげで最初はコーチを無言で威嚇していた理亞も、今ではコーチを"兄様"と呼ぶくらいにまで懐くようになったんです。人にはあまり心を開かないこの子が珍しいんですよ」

「大筋は理解できました。でもその色々の部分が知りたいんですけど……」

「さっきも言いましたけど、私も理亞もコーチに文字通り手取り足取り教えてもらったんです」

「兄様、凄かった」

「それが気になるんですよそれが!! ていうか理亞さんはどうして頬を赤くしてるんですか!?」

 

 

 理亞は俺に抱きつきながらも、明らかにハグの気持ちよさを堪能している顔の赤さではなく何かよからぬことを妄想して、断定はできないが卑しいことを考えいるような頬の赤さだ。ツリ目で少々強面の理亜だが、こうして少し緩んだ表情をされるとやっぱり年相応の女の子なんだと思う。その幼気さに当てられ頭を撫でてやると、じゃれつくように俺の胸に顔を埋めてきた。クールとデレの比率が絶妙すぎるよこの子は。

 

 そしてここまで話をまとめてくれた聖良にも感謝だ。彼女は理亞のように抱きついて密着してくることはないが、これまでの会話を聞いていたら分かる通り俺への評価は非常に高い。理亞とは反対で落ち着いていて、取り乱すことはほとんどない。最初に会った時は一歩引かれた状態で冷静に俺を分析していたが、神崎零が自分にとって有益な人材だと悟った瞬間にもう心を開いてくれて、敵意がないことを示してくれた過去がある。だから俺が単純に賢いと思った女の子はこの子が初めてだったりする。あとはそうだな、おっぱいが大きい。これ重要な。

 

 明敏デレな姉と冷静デレの妹。これまたキャラの濃い女の子たちに出会ってしまったものだ。

 

 

「話は分かりました。でも先生は今私たちAqoursの顧問なんです!」

「それがどうしたの? 私は姉様と兄様と一緒にスクールアイドルの頂点を目指すって決めてるから」

「先生! 私たちは!?」

「待て待て! 別にAqoursを蔑ろにしようってつもりじゃない。もちろんSaint Snowもな。お前らってライバルであって敵同士ではないだろ? だから共に競い合って頂点を目指せばいいじゃないか。もちろん頂点の席は1つだけど、そこへの道を歩む手伝いくらいはどのスクールアイドルであろうとも俺がやってやるよ」

「ん~上手く丸め込まれたような気がするけど……」

「流石兄様、心が広い。どこぞのロリみかん顔のスクールアイドルとは違って……」

「誰がみかん顔なのかなぁ……。それにロリ成分で言えばそっちの方がよっぽどそうだと思うけど??」

 

 

 ヤバイ、千歌と理亜がお互いに火花を散らし始めた。やめて! 私のために争わないで!! と男が言っても気持ち悪いだけだが、状況的にはまさにそれである。ロリ論争の結論から言わせてもらえば、千歌も理亞もそこまで幼い顔つきなのは変わらないのでどんぐりの背比べだ。更に言えばコイツらに歳が近いルビィの方がよっぽどロリ成分満載なので、もうこの2人すら普通に見える。

 

 

「こら理亞、相手を挑発しちゃダメっていつも言ってるでしょ」

「でも姉様!!」

「理亞」

「うっ……ご、ゴメンなさい」

「よろしい」

 

 

 いくら恐れ知らずの獣であっても、自分の姉さんだけには頭が上がらないみたいだ。ドSっ子がこうしてビクビクしながら身を縮こませている姿って可愛くない? そのまま屈服させてやりたくなるというか、どんな手を使ってでも自分の色に染めたくなってくる。まさに理亞はその典型なのだ。そんな珍獣を手懐けられるのだから、もしかしたら聖良の方がよっぽどSっ気があるのかもしれない。

 

 

「千歌も落ち着け。どっちもロリっぽいんだから争いは不毛だ」

「その結果は不服ですが、ここは先生に免じます」

「お前も頑固だよな……」

 

 

 スクールアイドルに関わらずリーダーというものは頭の柔軟性が大切だが、同時に意思を貫き通すブレない頑固さも大事だと思っている。そういう意味ではおバカキャラの穂乃果や千歌はそのカリスマ性も相まって、リーダーの素質に適合していると考える。まあ実際にはリーダー素質なんかよりも、抜けている要素の方が前面に押し出されているのがこの2人でもあるが……。

 

 

「それでは今日はこれでお暇させてもらいます」

「えっ、早いな」

「明日のライブために東京へ向かわなければなりませんし、身体もゆっくりと休めておく必要があるので」

「そっか。残念ながら見に行けないけど頑張れよ」

「もちろん。兄様成分をたっぷり補充したから無敵」

「はは……それでやる気が出るんなら、どれだけでも抱きついてくれ」

「だったら一生抱きついてる」

「それじゃあライブできないだろ……」

「ほら理亞、そろそろ帰るよ」

 

 

 理亞は聖良に襟を掴まれ俺から引っペがされる。ずっと密着していたせいか暑さで顔も火照っていた理亞だが、無理矢理引き剥がされて不満そうな顔をしているあたりまだハグし足りなさそうだ。俺たちコアラじゃねぇんだからさぁ……。

 

 

「それではコーチ、今度は東京にいる時に会いに来ますね」

「さよなら兄様。身体、気持ちよかった」

「あぁ、またな!! 敢えて触れないから!!」

 

 

 そして聖良と理亞は教室から去っていった。最後の最後でも意味深な発言を残して……。

 それにしても本当に顔見せだけだったんだなアイツら。数ヶ月ぶりに顔を見たけど、スクールアイドルとして成長しただけ見た目も雰囲気も大人っぽくなっていた。これは将来いい女になれるぞ。意味深的なことではなく人間としてな。まあ俺が手塩にかけて育てた子たちだから、そう簡単に他の男にはやらないけどね。それにいつの間にか俺に靡いちゃってるから、そんな心配も野暮かもしれない。

 

 ここでふと視線を感じるのでそちらを振り向いてみると、千歌が寂しそうな顔でこちらを眺めていた。俺のせいではないが、さっきからずっとジェラシーを纏っていたせいでそろそろ我慢の限界なのだろう。そんな彼女が小さく口を開く。

 

 

「私もライブが成功したら、ギュって抱きしめてくれますか……?」

 

 

 弱々しい声だ。いつも元気いっぱいの千歌にこんな声を出させてしまうと、いつもながらに罪悪感を感じてしまう。この手口でおしりに座薬を入れる作業を手伝わされ俺の性欲を焚きつける罠を張られたのだが、今の彼女は本気で寂しさに襲われているみたいだ。

 

 それに、そんな質問なんてされる前に既に答えは出ている。

 

 

「もちろんだよ。お前の身体が潰れちまうくらいの強さで抱きしめてやる! 俺、女の子を抱きしめるの大好きだから」

「アハハ、先生らしいです! でも……楽しみにしてますね♪」

 

 

 こうしてAqoursとSaint Snowのライブが成功すれば、一気にたくさんの女の子をハグできる訳だ。もちろん下心なんてものはほとんどなく、それで彼女たちの士気が上がってくれるのならいくらでも女の子の胸を俺の胸で感じてやろう。…………まあ男だから仕方ないよ、許してくれ。

 

 それにしてもこれからAqoursとSaint Snowが対面するたびに、俺に抱きついてくる理亞に対して千歌たちのジェラシーが凄まじいことになりそう……。

 




 いつかは出演させたみたいと思っていたSaint Snowをようやく私の小説に出せて、また1つ欲求不満が改善されました!

 聖良も理亜もまだアニメではそれほど出番はなかったので小説でのキャラ付けも困難でしたが、自分なりにμ'sやAqoursのキャラと被らないように設定はしたつもりです。聖良は聡明で真っ当な性格でありつつも純度100%の零君マンセー派で、理亜は無表情キャラながらもデレ度だけはMAX、また他の人には容赦なく噛み付くSっぽさにしてみました。またアニメ2期で色々設定が後付けされていくとは思いますが、その時はその時でまたこちらも後付けを繰り返せばいいので(笑)

 零君とSaint Snowの出会い話はまたいずれ執筆しようと思います。もちろんここまで色濃く2人のキャラを設定したので、また出演の機会を設けるつもりです。


 次回以降はAqoursメンバーの個人回を多めに、恋愛方面や少しエッチな方向にも話を伸ばしていくつもりです。

 そんな訳で、次回は曜ちゃん回です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

欲望と禁断の雨宿り

 今回は久々の個人回で曜ちゃん回です。
 そしてR指定描写も久々なので、そのリハビリ回。


 

 雨というのは日本古来から伝わる風情の1つであり、俳句や短歌でも悲哀を示す表現としてよく詠まれてきた。俺たち現代人で親しみ深い百人一首が代表例であり、雨を悲愴の比喩表現にして詠んだ歌も多い。つまり雨は昔から人の心の曇りを具現化していた訳だ。現に今を生きる俺たちも、外出する時に外が雨だったらブルーな気持ちになるもんな。雨で嬉しいことなんて、傘を無視して斜めから打ち付ける雨水に服が濡れ、女の子の下着が透けている光景を見るくらいなものだ。

 

 こんな話をしているのだからお察しの通り、現在絶賛大雨が地面を叩いている。灰色の雨雲が上空を覆い殺伐とした世界を感じさせるが、そんなファンタジックな妄想で楽しんでいられたのは家を出る前だけだ。いざ外に出てみると、地面に叩きつけられて跳ね返った水がズボンの裾を濡らしてくるわ、あらぬ角度から侵入してきた雨水に腕を濡らされるわで散々である。これも俺が職員室に忘れ物をしなければ今日出かける必要はなかったんだけどなぁ……。

 

 そんな感じで誰もいない、雨音だけが聞こえる道をトボトボと歩く。秋葉がいれば車を借りられたんだけど、生憎彼女が仕事で使っているので寂しく徒歩勢だ。雨水は冷たいのに気温だけは夏の暑さを冠しているため非常に身体によろしくない。とっとと帰って飯を食って昼寝! それが残りの休日を有意義に過ごす最善手のプロセスだ。

 

 そう思い早足になりかけたその時だった。ふと道端から公園を覗いてみると、屋根の付いたベンチとテーブルのある休憩所に女の子が1人で座っていることに気が付いた。かなり色の抜けた茶髪で、言ってしまえば雨雲の灰色を少し薄くしたような髪。休日なのに制服を着ているのは何故なのか、それよりも遠目でも分かるくらいに頭が濡れているのが気になる。

 

 とにかくあのまま放っておいたら寒さで身体を壊してしまうかもしれないので、俺はあの子の様子を探るため公園に入り休憩所に近づいた。そして近くまで来て分かったのだが、この子は――――

 

 

「曜……?」

「えっ、あっ、せ、先生……」

 

 

 髪が濡れているせいでいつものくせっ毛が垂れていたので、彼女が曜だとは遠目では全然気付かなかった。よく見たら髪だけじゃなくて制服もそこそこ濡れてるし、こんな大雨の中で一体何をやってたんだコイツ……?

 

 

「どうして頭から濡れてんだよ。まさか水溜りをプールと勘違いして飛び込みでもしたのか?」

「千歌ちゃんじゃないんですから、そんなことしませんよ」

「ナチュラルに千歌を馬鹿にしているけど気付いてる……?」

「子供の頃に大きな水溜りによくダイブしてましたから」

「マジかよ。相当アグレッシブだなアイツ……」

 

 

 地方や田舎の子供は野蛮だと聞くが、千歌だと容易にその光景が想像できるので擁護しようにも擁護できない。それにテンションが高ければ高校生の今でもやらかしそうだからなアイツは。

 

 そんな想像をしながらも曜に目を戻すと、ふと気になったことがあった。あれだ、傘がない。これだけ大雨が降ってるのに傘をさしていないなんて、ゲームの縛りプレイ好きなのかと冗談を言ってしまうくらいには不自然だ。それにそこそこ濡れているのにも関わらずタオルやハンカチも持っていない。まあ傘もタオルも持っていればここまで濡れることはないので、濡れている理由を聞くだけ野暮なのかもしれないが。

 

 

「制服を着てるってことは、学院まで行ってたのか? それか行く途中だったとか?」

「行った後の帰り道ですよ。教室に忘れ物をしちゃいまして……」

「また平日に行った時にでも良かったんじゃないか? どうして休日なんかに」

「それがないと宿題ができないんですよ。しかも忘れ物に気付いたがの今日の朝で、慌てて着替えて外に出たので天気予報を全く見ていなかったせいでこんなことに……」

「なるほど。慌てていたから傘どころかタオルもハンカチも持ってないと」

「そういうことです……」

 

 

 曜は真面目そうに見えて案外抜けてるところもあるからなぁ。授業も真剣に受けているイメージだったが、最近は黒板ではなくてその前にいる俺に目線を集中させていることが多い。授業中に彼女にチラッと目を向けると顔を赤らめて目を逸らすし、真面目なんだかそうでないのかよく分かんねぇ。

 

 

「とりあえず頭だけでも拭いておけ、タオル貸してやるから」

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 浦の星の夏服は白。つまり濡れたりでもしたら中身がスケスケになってしまう訳で……つまりこのままだと目のやりどころに困るのだ。

 曜は俺の投げたタオルを受け取ると、少し匂いを嗅いでから頭を拭き始める。そして首周りや腕、やがて袖口に手を突っ込んで制服の下まで拭きだしたのだが、その姿がかなり艶っぽい。男が目の前にいるのにその行為は誘っているようにしか見えねぇぞ……。ちなみに俺は曜の隣に腰を掛けて、女の子が身体を拭く様をジッと見つめていた。いかがわしい気持ちで食い入るようにではなく、どこか色っぽい曜に見蕩れている感じだ。

 

 

「せ、先生? あまりジロジロ見られると恥ずかしいというか……うん、恥ずかしいです」

「俺は存在しないものと思ってもらっていい。だから続けてくれ」

「男の人に身体を拭くところを見られて気にせずにはいられませんって! そんなことで喜ぶなんて痴女くらいですよ」

「えっ、違うの?」

「通報しましょうか……?」

「お、おい! タオル貸してあげたのにそれはないだろ!」

「それとこれとは話が別です。でもまあ……ありがとうございます」

 

 

 帰宅途中に突然雨に降られてナーバスになっているのかと思ったが、通報するだなんだの冗談を言えるあたりそこそこ元気はあるみたいだ。タオルで顔を拭くフリをして、表情を悟られぬようにお礼を言う姿は非常に愛らしい。淫乱だの痴女だの様々な疑惑が流れている曜だが、やはり彼女も純情な女の子なのだ。これがことりや楓だったら透けた服を自ら隠そうなんてしないからな。

 

 だがしかし、その安心は彼女の身体の震えを見た瞬間に打ち崩される。よく見ないと分からなかったのだが、曜の身体は雨に濡れた寒さ故か小刻みに震えていた。恐らく元気に振舞っていたのも、わざわざタオルを貸してもらった身として俺に心配を掛けたくなかったからだろう。寒さを必死で抑えようとしているのが両手を拳にしてギュッと力を入れている様子から伺える。次第に頬も引きつってきたので我慢の限界が来ているのも分かる。いくら身体を拭いても肌に触れる服が乾かないとどうしようもないため、真冬のような極寒に見舞われるのは当然だ。それなのにずっと黙って我慢して、強情なのかそれとも心配を掛けまいとする優しさなのか……。

 

 

「…………寒いんだろ?」

「…………はい」

「やっぱりな。どうして黙ってんだ」

「これ以上心配をお掛けする訳にはいかないと思いまして……」

「予想通りで笑いが出てきそうだよ。お前は生徒で俺は教師なんだら、もっと頼れもっと甘えろ。全然迷惑でも何でもねぇから」

「それでは、お言葉に甘えさせてもらっていいですか?」

「へ……?」

 

 

 曜は返事も聞かず、俺の身体に密着するように擦り寄ってきた。さっきはあそこまで謙遜していたのにいきなり身体にもたれ掛かってきて驚いたが、こうして密着してみると彼女の身体が思った以上に冷たかったのが分かったので曜自身もかなり深刻だったのだろう。俺の服をギュッと掴んでまで俺の人肌を感じようとしている。俺はそれに応えるように腕を曜の身体に回してこちらに引き寄せてやると、想像よりも遥かに彼女が震えていることも分かった。

 

 

「やっぱり、この天気じゃ服は中々乾かないみたいだな」

「そうですね。いくら身体を拭いても寒いです……」

「まあ落ち着くまでずっとこのままでいいから」

「はい……ありがとうございます」

 

 

 曜は俺の右腕に顔を埋める形で更に強く抱きついてきた。心なしか彼女の顔が少し熱くなっている気がするが、やっぱり人肌というのは凍てつく寒さにも効果的らしい。それにさっきまで1人ぼっちで寒さに耐えてきたから、こうして誰かが隣で支えてくれている心の余裕と暖かさもあるのだろう。

 

 そしてここまで密着されると、曜の自己主張の激しい2つの胸に俺の腕が挟まれている訳で……。俺が曜を暖めてあげないといけないのに、逆に俺が興奮で暖まってしまいそうだ。ドキドキしながら彼女に目を向けてみると、依然まだ乾いていない白の制服が雨に濡れ、その奥にある水色の下着が思いっきり透けているのが俺の性欲を助長させる。彼女は身体の芯から寒さに襲われているのだろうが、俺は段々と欲情による熱が身体に湧き上がっていた。

 

 ここまで見えているのならもう脱いでしまっていいと思うのだが、せっかく俺を心の拠り所にしてくれている曜にそんな無粋な発言はできない。まあ言ったら言ったで別の意味で熱くなれるのかもしれないけど……。

 

 

「先生……」

「どうした? まだ寒いのか?」

「服が濡れて冷たいので……脱いでいいですか?」

「えっ……? 今なんて……?」

「服が肌に擦れる度に冷たいので、脱いでいいですか?」

 

 

 ま、まさか自分から進言してくるだと!? まだ付き合いも長くないので流石に俺の心を読む能力はないと思うが、これもことりと出会ってしまったが故の症状なのだろうか。それともあまりの寒さに頭が回らなくなっているのか。どちらにしてもまともな女の子が取る行動ではない。確かに服が濡れて肌に触れると冷たいのは衣類越しで密着している俺でも分かるが、もしかしたら本人からしてみたら結構深刻なのかもしれない。雨は降っているが気温は夏の蒸し暑さなので、脱いだ方が快適なのは多分間違いないのだが……。

 

 

「先生、脱がしてもらえませんか……?」

「は、はいぃ!?!?」

「さっきから寒さで手がかじかんで動かないんですよ」

「マジ……?」

 

 

 本当なのか嘘なのか。手がかじかんでと言っているが、さっきまで俺の服をギュッと握っていたことは忘れた方がいいのだろうか。そんなことよりも、美少女を俺の手で強制ストリップショーを開演できることの方が衝撃だ。俺の手もかじかんでいるかのごとく震え始める。まさか麗しいリアルJKの制服を、この歳にもなってまた脱がせられるとは思っていなかったらな……。

 

 再び曜の濡れ濡れの姿に目を向ける。あまり乾いていない制服が肌にベッタリとくっついている箇所もあり、主に胸元が顕著だ。だから彼女の鮮やかな水色の下着が既に脱いでるだろってくらいに目視できる。今のままでも十分にエロいのだが、曜の考えでは濡れ濡れの制服を脱いだ方が寒さから解放されるらしい。だったら彼女の意思を汲み取ってあげるのが教師としての努めなのではないだろうか? 相変わらず俺の理性なんてものはペラっペラだとつくづく思うよ……。

 

 そして俺は、自分でも知らぬ間に曜の制服のボタンに手をかけていた。確かに触れてみると制服は冷たく、早急に脱がなければ寒さで体調を崩しかねないくらいだ。俺は彼女の制服のボタンを上から1つ、また1つとゆっくり外す。ボタンを外し制服の裂け目が広がっていくたびに綺麗な肌色が見え始め、透け越しで眺めていた下着もようやくお出ましする。久々に見るリアルJKの下着姿、しかも文字通りの濡れ場という超絶なシチュエーションを加味すれば過去にない状況なので思わず息を呑む。

 

 無我夢中で曜の制服のボタンを外していると、いつの間にか全て外し終えていた。雨で制服がベッタリと湿っていたためか、下着も相当水気を帯びているようだ。しばらく半裸の曜に釘付けとなっていたが、彼女が再び口を開いたことで意識が現実に引き戻される。

 

 

「まだ……終わってないですよ」

「いいのか……? このままだと俺……」

「いいですよ。先生が見ている前で脱いだ方がそのぉ、身体も熱くなりますし。現に今も汗をかきそうなくらいなんですから……」

 

 

 俺はもうそれ以上の話は耳に入っておらず、既に彼女の下着に手を伸ばしていた。

 最初からこの展開を図っていたとは思えないが、曜は雨に見舞われた災難と俺と出会った僥倖を最大限に利用している。元から少し思考が淫乱寄りになっていたとはいえ、彼女の方から勇気を出して誘ってくれているんだからそれに応えるのが男ってものだろう。それにちょっと触るだけだ。恋人同士でもないのにがっついたりしないよ、多分だけど……。

 

 フロントホックを外すと、水色の下着が落ち行く花びらのように身体を伝ってひらりと落下する。

 そして遂に、渡辺曜の生双丘が初めて俺の目に顕現した。女子高生とは思えないほどの発育っぷりで、そのボリュームは同じJK時代の花陽かそれ以上に匹敵する。更に水泳をやっている影響か身体付きもよく腰のくびれも細いため、その豊満な胸がより際立って大きく見えた。そんな肌色に輝く乳房の先端は綺麗な桃色であり、寒さと緊張からか少し立っている。また制服は着たまま、つまり半裸という姿がより加虐心を唆られる。

 

 いてもたってもいられなくなった俺は、曜の肩を掴むとそのままゆっくりとベンチに押し倒した。曜も一切抵抗することはなく、俺の無茶な行動をあっさりと受け入れる。しかしその目は寒さに襲われていた時の虚ろな目とは全く逆、俺を一点に見つめる成されるがままのオンナの目となっていた。そんな艶っぽい彼女を見ていると、俺の中で更なる嗜虐欲求が高まってくる。周りからひたすら雨の音しか聞こえないのも、この2人きりだというムードの誇張に更に拍車をかけていた。

 

 そして俺の手は、曜の胸に吸い寄せられるように引き付けられる。両手の計10本の指を震わせ、胸の先端を包み込むようにして彼女の胸を鷲掴みにした。

 

 

「ふぁっ! んっ!」

「わ、悪い。触っていいなんて言ってないもんな……」

「い、いえ続けてください。いい感じに身体も暖まってきているので……」

 

 

 許しが出たのでこのまま乳搾りを続行する。スクールアイドルの女の子ってどうしてここまで胸が柔らかいのか、大きいのにこの張りと弾力を維持させるのは相当難しいはずだ。なのに俺の知り合う女の子たちはみんな大きさといい形の良さといい、更には感度といい男を悦ばせる要素を全て兼ね備えた最強のおっぱいを持ち合わせている。曜の胸も計10本の指が程よく食い込むくらい柔軟性に富み、手のひらで先端を刺激してやると卑しい吐息が絶え間なく漏れ出すなど感度も良好だ。

 

 

「あっ、んっ……はぁ」

 

 

 口から吐息が漏れ出しながら、曜は身体をビクビク震わせて俺からの刺激に耐える。震えるたびにその大きな胸も俺を挑発するように弾むのでなんとも艶かしい。

 

 Aqoursの子たちは全体的にエロい身体付きの子が多いが、曜なんてまさにその筆頭である。浦の星が女子高だからまだいいものの、共学だった場合は男子連中から毎晩のオナネタにされること間違いなしだろう。それでもこんな乱れた彼女を見られるのは俺だけ。そう思うとμ'sの女の子たちとこんなことをやっている時と同様に、スクールアイドルで活躍している子を自らの手で乱れさせている優越感が半端ではない。この子は俺のモノ、俺の手で気持ちよくなっているんだとサディスティックな欲求が高ぶる。

 

 そしてしばらくの間、『俺が曜の胸を弄る⇒曜が刺激に当てられ声を漏らす』のループを続けていた。その途中、彼女が独り言のような、息にも近いような小さな声で俺に話しかけてくる。

 

 

「嬉しいです、先生にこうしてもらえて……」

「本当にそう思ってんのか……? 考え方が痴女そのものだぞ」

「もうそれでもいいですよ別に。誰かに必要とされるのならば……」

「どういうことだ?」

「私がスクールアイドルを始めたきっかけは、千歌ちゃんの手助けをしたかったからです。でもそれだけだった。みんな具体的な目標があるのに、私だけは惰性でスクールアイドルを続けている感じがしちゃって……」

 

 

 そうだったのか。そういやAqoursの顧問をしているくせに、みんながどのような経緯でスクールアイドルを始めたのか千歌以外の子たちからは初めて聞いた。μ'sのほとんどのメンバーも加入する前はそれなりの葛藤を抱えていたが、Aqoursも同じような子たちがいるみたいだ。彼女たちともっと親密になるためにも、いずれまたそのような話をしてみるのもいいかもな。

 

 そしてこの話にはあまり関係のないことだが、俺が胸を露出させた半裸の曜を押し倒しているこの構図で、しかも真面目な話をしているというシュールさがヤバい。曜が呼吸をするたびにその大きな双丘が上下する様に目を取られ、微妙に意識を持っていかれるのがもどかしい。とにかくできるだけ話に集中しよう。本来あまり心中を吐露してくれない曜が心を打ち明けてくれているんだから。

 

 

「でも先生が来てから思ったんです。先生のために頑張ることを目標にしようって」

「どうして俺なんかのために……?」

「…………まだ言えません。でも先生に褒めてもらいたいから、歌って踊っている私を見て欲しいからじゃダメですか?」

 

 

 まだ真の本心を打ち明ける勇気はないようだ。だが曜からここまでの好意を伝えられるなんて初めてだから、俺はそれが嬉しかったりもする。さっきも言ったけど、曜はあまり自分から想いを漏らすタイプじゃないからな。

 

 それにしても、俺のためにスクールアイドルをするとはもう告白に近い告白にしか聞き取れない。狙っているのかそうでないのかは知らないが、案外積極的というかストレートに想いをぶちまけられたから少し驚いた。

 

 

「俺の存在がお前の糧になるのなら、いくらでも俺なんかを夢の偶像にしてもらってもいい。それに俺も曜の歌って踊っている姿は大好きだから、いつまででもは無理だけど可能な限りその輝きを見ていたいって思うよ。お前が俺を求めてくるのなら、なおさら俺もお前を求めるよ」

「ありがとうございます。今までこっそりと先生のために頑張ってきたので、こうして直接言うことができて心も楽になりました。服も脱いでますし、開放的になってるからですかね」

「そんなジョークを言える余裕があるなんて、まだまだ弄られ足りないようだな」

「もっと……触りたいですか? 私の身体……」

「いいのか?」

「フフッ、もうダメです。もう十分に暖まったので、目的は達成されました」

「生殺しかよオイ……」

 

 

 さっきまではかなりナーバスだった曜だが、微かな微笑みを見せてくれるくらいには元気になったようだ。しかし目の前で女の子が胸を丸出しにしているこの状況、少し触っただけで終わりなんて俺の性欲を1%も満たせていない。またこの前みたいに性欲を捌ききれずに、花丸とルビィ(あの時は子犬だったが)の時のように女の子を襲ってしまうかもしれないぞ。

 

 

「そんなに気持ちよくなりたいんですか、先生……」

「そりゃなりたいと言えばなりたいだろ。おっぱいを見せつけてくる女の子がいて、ここで引き下がる男の方が珍しいって」

「本当に自分の気持ちに従順ですよね先生って。でも、好きですよそういう男性。私を先導してくれる男性だと特に」

「好きなのはそういう男じゃなくて、まさに俺なんじゃないのか?」

「そうとも言いますね♪ それじゃあお話に付き合ってくれたのと、タオルを貸してくれたお礼として――――」

「お、おい曜!?」

 

 

 曜は突然身体を起こすと、半裸姿のままテーブルの下へと潜り込んだ。そして俺の脚の間に入り、手を俺のズボン、具体的には下半身のチャックに手をかけた。

 

 

「お前……」

「今のところはこれくらいしか先生へのお礼が思いつきません。それにさっき先生の手で気持ちよくしてもらいましたし、今度は私の番です」

「…………」

「するのは初めてなのでぎこちないかと思いますが、私の口なんかで気持ちよくなってもらえるのなら嬉しいです」

 

 

 そして曜は俺の返事を聞かず、手にかけていたチャックを降ろし始めた。

 

 

 それから……。

 

 

 それから――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 雨はさっきよりも強くなり、雨水が地面を叩く音だけが耳に聞こえてくる。雨雲も更に濃霧となっており、俺の心のざわつきと焦燥感、空虚な気持ちなどを具現化しているようだ。

 ちなみに曜は持っていた傘で帰っていった。俺が傘を渡して帰らせたと言った方が適切か。いくら身体が暖まったとはいえ、濡れた服をそのまま着続けると風邪を引きかねないからな。ちなみに彼女は俺とは対照的に、どこか満足したような表情だった。

 ズボンは元の位置に戻っているが少々乱れており、さっきまで俺の下半身で何が起こっていたのかがよく分かる。俺はベンチに腰が抜けたようにダラダラと座りながら、ぼぉ~っと休憩所の屋根を見つめていた。もちろん頭の中は先程行われていた()()()()()でいっぱいなのだが。

 

 

「あぁ、やっちまったなぁとうとうAqoursのメンバとも……」

 

 

 これこそまさに賢者モードと言わんばかりの放心状態だった。

 俺はただ曜からの奉仕に身を預けていただけなのだが、教師と生徒関係というとてつもない背徳感とリアルJKに奉仕させているという嗜虐心の両方が俺の性欲を高ぶらせ発散させてくれた。

 

 

「エロかったなぁ……アイツ」

 

 

 曜は俺を求めていたが、これでは俺がアイツを求めてしまいそうだ。

 また曜との関係が親密になったことを喜びつつも、次はいつやってくれるのだろうと少々期待もしている俺のなのであった。

 

 それにしても――――

 

 

「どうやって帰ろう……」

 

 

 土砂降りの雨、失われた傘、賢者の中の賢者モード。

 うん、もう少しだけ休むとするか……。

 




 久しぶりにR-17.9描写を執筆したのですが、Aqours編に入ってからはあまりこのような回がなかったためか情景描写に苦労するシーンがいくつかありました。これも本編が雨の中で、少し暗い雰囲気だったからそのせいですかね?? とりあえず曜以外のAqoursメンバーにももちろんこんな機会は訪れるのでご安心(?)を!

 次回は『新日常』の二周年記念として特別編を投稿します! その内容は次回までのお楽しみということで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】パンツ・パニック・パイレーツ

 本日(正確には翌日0時ですが)この小説が2歳の誕生日を迎えました!
 そして今回の特別編はやりたいことをブッ飛んでやってるだけなので、以下の今更な注意事項をよく読んでから頑張って展開を追いかけてください(笑)


※ものすごぉく今更ですが、キャラ崩壊注意
※特別編なのでいつもよりご都合展開MAX
※メタ発言もあり
※パンツ泥棒はしない


「ねぇ零くん。ことりはね、本当はこんなことしたくないんだよ? でも犯罪者だと確定している人をそのまま野放しにしておくのも心残りがあるというか、見て見ぬふりをするなんてできないんだよね。だから零くん、白状して? ことりの――――――パンツを盗んだって」

「いや、してねぇよ」

 

 

 俺はどこかも分からない取調室で、ことりからの尋問を受けていた。

 休日だから昼寝に勤しんでいた俺を手錠や縄などありとあらゆる拘束器具を使って無理矢理引っ捕え、現在こうして卓上ライトだけがぼんやりと灯る暗く狭い空間に押し込められているのだ。

 そして取り調べが開始されるなり無実の罪を着せられ、あたかも俺がことりのパンツを盗んだと強制的に自白させようとしている。もちろん何度も否定しているのだが、その度に苦しい難癖を付けて自ら引こうとはしない。これはもう警察の闇としてよく語られる、点数稼ぎの職質や圧迫取り調べに他ならないぞ……。

 

 

「もぉ~!! どうして零くんはそんな強情なの!? ことりのパンツを盗む犯人はこの世界でたった1人、零くんしか有り得ないんだよ!!」

「だから知らねぇって! そこまで言うのなら証拠はあんのか証拠は!!」

「零くんがことりたちに欲情する変態さんってだけでも十分な証拠だよ!」

「たかが人の性格ごとき事件の証拠にならないから!」

「本当に零くんじゃないの……?」

「今日は昼に起きて昼飯を食ってそのまま昼寝してただけだ。家に秋葉がいるから聞いてもらえれば確認くらいすぐに取れるから」

「むぅ……」

 

 

 唇を尖らせて不満そうな顔をすることり。コイツはどれだけ俺を犯人に仕立て上げたかったんだ……。もしかして『零くんが犯人だったんだ♪ どうしよっかなぁ警察に通報しちゃおうかなぁ~。もしされたくなかったら、今日からずっとことりを性欲便所に使ってね♪』みたいなことを要求してくるつもりだったんだろうか。ありえる……コイツならありえる!! でもその展開も若干……アリ? でもコイツの思惑通りに事が進むのは釈然としないから抵抗しておこう。

 

 

「せっかく零くんを犯人にして、これから一生手錠で手首を繋いで仕事もご飯もお風呂も就寝も性欲処理も一緒にしようと思ってたのに……」

 

 

 重い!! 思っていた以上に愛が重かった!! でも結局俺の想像と対して結果は変わっていないような気もするけど……。

 

 

「そんなことだと思ったよ。それじゃあ俺は帰るからな」

「待って! ことりのパンツの件はどうなったの!?」

「どうなってのって、それは俺をここへ連れ込むための口実だろ?」

「違うの! パンツを盗まれたのは本当なの!!」

「えっ、そうなのか……」

 

 

 てっきりパンツ盗まれた関係の話は俺のオナペットになるための計画の一部だと思っていたのだが、彼女の必死さを見る限りではそうじゃないらしい。だったら俺ではない真犯人がいるってことになるけど、この時代に下着泥棒なんてする奴いるのか? スクールアイドルの天使(外見では)と呼ばれたことりのパンツとあれば食いつく奴はいるだろうけど。俺も見せびらかされたらドキッとしてしまうし……。

 

 

「零くんお願い! 犯人逮捕に協力して!」

「まあ乗りかかった船だし、協力はしてやるよ」

「ありがとう♪ 零くんがいれば迅速に犯人を捕まえて、服を脱がせて世間へ痴態を晒し上げることなんて余裕だよね!」

「極刑が重すぎる! 主に精神的な意味で……」

 

 

 乗りかかった船というのもそうだけど、恋人のパンツが盗まれてるんだから黙って見過ごせないという気持ちもある。しかもパンツ泥棒なんて流行らない時代にこんなことをやらかす野郎だから、犯人は相当変態で危ない奴っぽいしな。だからことりだけに任せるのは危険だと思ったんだ。いくら面倒臭がりな俺でもせめてもの責任くらいはあるよ。

 

 

「で? どんなパンツなんだ?」

「えっ!? そ、そんないきなり男の子に自分のパンツについて話すなんて……恥ずかしいよぉ~」

「お前なぁ、今頃清純ぶってんじゃねぇよ。もうお前の性格なんて表から裏まで隅々まで知ってるんだからな」

「ことりの身体のことも隅から隅まで知ってるもんね零くん♪」

「そんなことどうでもいいから早く言えって」

「ヒドイ!? もう何度もエッチした関係なのに……。やっぱり周りに女の子がたくさんいるから、ことりなんてただ性欲をぶちまけるためのティッシュみたいな役割にしか思われてないんだね……」

「いや本気で愛してるから――――じゃなくて、話が停滞してるから怒ってんだよ俺は!!」

 

 

 確かに周りに女の子はたくさんいるよ。μ's然りAqours然り、A-RISE然りSaint Snow然り、その関係者然り――――でもだからといって俺が女の子をぞんざいに扱うはずがないだろう。普段はこちらから攻めるのがいいんだとか、性奴隷モノが好きだとか色々女の子を雑に扱うプレイが好きだと言っているが、それも女の子を信頼している愛ゆえだ。女の子側もこちらを愛してくれているからこそそんなプレイが成り立つ訳だしな。まあもちろん嫌がる子を無理矢理ってのもアリっちゃアリだが。

 

 

「そんなにことりのパンツが知りたいの? もう零くんってば本当に変態さん♪」

「いい加減にしないと帰るぞ」

「ゴメンゴメン♪ 色は薄いピンク色で、可愛いひらひらが付いてるんだ」

「全く……。それでどこで盗まれたんだ? まさか外に干してたとかじゃないだろうな?」

「ちゃんと家の中に干してたよ。だから犯人は家に侵入できる人、つまりことりの関係者だと思うんだよね」

「関係者ってことは、μ'sの誰かってことか……? そんな馬鹿な」

 

 

 セキュリティが進歩しているこの世の中で、わざわざ家に忍び込んで下着を盗むなんて暴挙に出る奴はそうそういないだろう。だったらことりの言う通り彼女の家に内通する関係者が怪しいが、ことりの知り合いは俺を除けば全員女の子だ。普通に考えれば百合属性を持たない限りは同性のパンツを盗もうなんて思わないはずだが……。これも色物揃いのμ'sだから、裏で何を考えてんのか分からないけどな。

 

 

「μ'sのみんなだけじゃないよ、Aqoursのみんなも疑わないと」

「えっ、どうして? お前そんなにアイツらと関わりあったっけ?」

「曜ちゃんと連絡先を交換した時に、今度はことりの家に遊びに来てくださいって住所を送っておいたんだ。そしてついでだから、曜ちゃんを通じて他のみんなにもね」

「オープンだなお前……」

「だってせっかく仲良くなったんだから、一度会ってそれっきりってなんか勿体無くない?」

 

 

 なんだろう、出会って即仲良くなり連絡先どころかその友達すらにも教えるその寛容さは。しかも自分が伝説のスクールアイドルなのに、何の躊躇もなく住処を晒す来るもの拒まずどころか自ら呼び込むその精神。そう考えると寛容というより無用心な気もするが、それは逆に友達になった人を信頼できる人かそうでないのかを確信するのが早い、つまり人を見抜く力に秀でていると言える。ことりってぽわぽわしてそうで案外計算高いところ(特にR-18関係)があるから、そのおかげなのかもしれない。

 

 

「Aqoursって言ってもなぁ、アイツらは静岡でお前の家は東京なんだから、わざわざパンツごときで遠征しに来ないだろ」

「でもAqoursってμ'sに憧れている子が多いんでしょ? だったら十分に容疑者だよ!」

「簡単に友達を疑いすぎじゃないか……?」

「零くん、女の子が処女か非処女かはどうやって見分ける? とりあえず一発突っ込んで確かめてみるでしょ? つまり最初から勢いが大切なんだよ! いくら零くんが処女厨だからって、もたもたしていると女の子が逃げちゃうよ。だからいきなり襲わないと! 食べちゃわないと! 犯人探しも行動原理は同じ! どう理解できた?」

「いや全然……」

 

 

 コイツは結局下着を取り戻したいのか、それとも他の子にちょっかいをかけたいだけなのかどっちなんだ……。それ以前にパンツを盗まれたこの状況を楽しんでいる、そんな感じがする。

 

 

「それじゃあ早速行こうよ」

「へ? どこへ?」

「決まってるじゃん! 静岡にだよ!」

「ということは千歌たちに会いに行くのか!? 準備なんて何もしてないんだけど!?」

「それは心配ないよ。だって特別編だもん」

「ちょっとさっき世界観が崩壊する発言しなかった!?」

「はいレッツゴー♪」

「お、おいっ!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はい着きました~♪」

「ホントに内浦にいる……。もうなんでもアリだな」

 

 

 さっきまで薄暗い牢獄のような取り調べ室にいたはずなのに、気が付けば浦の星女学院の目の前にワープしていた。いくら今回が特別編だからって自由すぎやしませんかねぇ……って、この発言も相当世界観が歪むので謹んでおこう。

 

 浦の星に来たと言っても、具体的に誰に会って何をするのかは全く考えていない。ことりはニコニコと笑顔のまま、不審者のように怪しく校門前で校舎を覗いている。恐らくAqoursの誰かに会えるのを楽しみにしているのだろうが、だったら普通に会いに来ればいいのに。わざわざパンツ泥棒という汚名を着させる口実なんてなくても、千歌たちだったらレジェンドスクールアイドルのことりとなら二つ返事で会ってくれるだろう。ていうか自分の憧れの人にいきなり下着ドロに疑われる彼女たちが不憫でならないんだけど……。

 

 

「あっ、あの子なんて怪しいんじゃないかなぁ?」

「あの子って……梨子じゃねぇか」

 

 

 ことりが最初に目を付けたのは、世間一般では受け入れがたい密かな趣味を持つ梨子だった。そう考えてみれば、初対面で梨子のことをほとんど知らないのに目を付けたことりの勘は冴えていると言える。やはり同じ曲がった趣向の持ち主同士だから雰囲気で感じ取れるのだろうか。曜と意気投合した時も、淫乱センサーが反応したって言ってたし。

 

 ことりは梨子から何かを感じ取るなり校舎に潜り込み、小走りで彼女に近づいた。

 

 

「桜内梨子ちゃん……だよね?」

「わっ、ビックリしたぁ……。は、はいそうですけど……どちら様で――――あっ、もしかしてμ'sの南ことりさん!?」

「そう、変質者対策班の南ことりです! あなたを逮捕します!」

「へっ、えっ!? どうして!?」

 

 

 そりゃ驚くわ。いきなり本物の警察に逮捕されると宣告されればもちろん驚くが、突然出会った美少女に逮捕状を突きつけられる方がよっぽどな。

 

 

「悪いな梨子、今のことりはちょっと頭がおかしいんだ。まあいつもおかしいけど」

「先生もいたんですか!? これどういうことです……?」

「茶番だ。こうでもしないとことりが満足しないから付き合ってあげてくれ」

「えぇ……」

 

 

 渋い顔をしながらことりを見つめる梨子。それに対してことりはぷりぷりと可愛く怒りながら梨子の眼前へと詰め寄る。

 それにしても可愛い女の子に迫られ頬を赤くして一歩退く梨子を見ると、やっぱりコイツって百合属性持ちなんだなぁと実感する。決して表には出さないが、普段のオナネタも女の子だったりするのだろうか。もしそうだとしたらしっかりと俺が男の魅力を身体に刻み込んであげないと……。

 

 

「まず逮捕の前に、ことりのパンツ返してね♪」

「はぁ!? そ、そんな持ってないですよ!?」

「嘘! あなたからは女の子好きの百合百合しいピンク色のオーラを感じるの! ことりと同じく世界の理から外れたあなたが、女の子の下着に興味ない訳ないでしょ??」

「ゆ、百合百合しいってそんな……そ、そんなこと……ないですよ……?」

「だったらどうして顔が赤いのかなぁ~? ん~??」

「そ、それはぁ……」

「ことりでえっちな妄想してるんじゃないの? この牝豚!!」

「はぅ!!」

 

 

 な、何やってんのコイツら!? いきなり目の前で百合プレイ始めないでくれるかな!? しかも妙にSM属性が混じってるのがやけにリアルだ。もう完全に目的を見失ってるだろことりの奴……。

 

 

「ねぇ早くことりのパンツ返してよ。ないんだったら今あなたの履いているパンツを貰っちゃおうかなぁ~」

「そ、それだけは……」

「そのパンツを使ってことりが夜な夜なあなたを妄想して自分磨きに勤しむとしても? そんなことりをオカズにして、あなたも自慰行為に没頭することができる。まさにWin-Winな関係じゃない?」

「それはまぁ、否定はしませんが……」

「だから――――――パンツ、頂戴?」

「おい、主旨が変わってきてるぞ。とりあえず梨子から離れろ」

「やんっ! 零くんそんなとこに無理矢理手を突っ込まないでぇ~!! や~んっ♪」

「襟を掴んでるだけだから、変な言い方すんな」

 

 

 ただでさえ収集できないカオスな状況なのに、意味深な発言で更に雰囲気を混沌にさせたらそれこそ神の手で規制されるぞ。まあもはやことりの存在こそが規制対象なのかもしれないが、まだ限りなく有害に近い無害なので首の皮一枚繋がっている状態で規制を逃れていると思う。ことりがこんな性格になってここまで物語を紡いでこられたこと自体がもはや奇跡なのかもしれない。

 

 

「梨子ちゃん、本当にことりのパンツ盗んでないの?」

「盗んでませんよ。今日はずっと学院にいたんですから……」

「むぅ~。普段から曜ちゃんたちの着替えをまじまじと見て、はぁはぁと興奮してる梨子ちゃんが犯人だと思ったんだけどなぁ~」

「し・て・な・い・で・す!! 女の子を可愛なぁと思うことはありますが、あくまでそういう趣味は二次元だけですから――――って、私ってば何を言ってるんだろ……」

「ことりと絡んだ人はほぼ間違いなく大ヤケドするからな……」

 

 

 ことりと2人きりで絡むのはあの暴走機関車である楓すらも躊躇うくらいで、彼女が終始歪なテンションなせいでその相手すらも妙なテンションにさせられてしまう。今回のように普段絶対に自分の裏の趣味について暴露しない梨子が、外で思いっきり裏の自分を曝け出している。曜と邂逅した時もそうだったけど、ことりと絡んだ人のキャラ崩壊が半端じゃないな……。まあここまで来たら今更なことかもしれないけど。

 

 

「梨子ちゃんじゃないとすると誰なんだろう。心当たりない?」

「ここで誰かの名前を挙げることが心苦しいんですけど……。犯人扱いしてるみたいで」

「誰でもいいんだよ! こう、レズの梨子ちゃんから見て一番レズっぽい子の名前を挙げてくれれば!」

「お前さっき誰でもいいって言ったよな!? もう本気で犯人探す気ないだろ!!」

「疑わしき人はみんな罰せよという、古きありがたい教えに従ってるだけだよ♪」

「結局なんの根拠もないローラー作戦かよ……。こんなことに巻き込まれるAqoursが可哀想だよ」

 

 

 もうね、帰りたくなってきたよ俺は。もはやことりは犯人探しではなく、単純にAqoursのメンバーと一緒に遊びたいだけなんじゃないかと思ってしまう。いや、思うじゃなくて絶対そうだわ。そのせいでさっきから梨子が頬を赤く染めたまま物思いに耽ってるし、このままでは曜を皮切りに梨子、そして千歌たちとAqoursメンバーのキャラ崩壊が秒読みとなってしまう。もう外に出ず、家でじっとしていてもらいたいな……。

 

 

「心当たりがあると言えば……」

「あっ、結局言うのか」

「千歌ちゃんとダイヤさんはμ'sの大ファンですから、一番犯人に近いかと……。あぁ、ゴメンなさい2人共!! この雰囲気に耐えられなかった私を許して!!」

 

 

 いやそれは満場一致でみんな許すよ。このまま沈黙していたら、またことりに何をされるのか分かったもんじゃねぇからなぁ。

 

 

「という訳で、2人がいると思われる生徒会室の前まで来ました!」

「あっ、えっ!? またいきなりワープしてる!?」

「特別編だからね♪」

「答えになってるよななってないような……あれ? 梨子は?」

「残念ながらこのワープは2人乗りなのです」

「あとで梨子にフォロー入れておいてやろう……」

 

 

 ご都合主義にどれだけツッコミを入れてもどうしようもないことはどうしようもないので、今はパンツ泥棒探し、もといことりのお遊びに付き合ってあげよう。

 

 こう言っては悪いのだが、もし仮に女の子の下着を盗むんだとしたら、一番犯行をやらかしそうなのは梨子だと思っていた。そもそもAqoursはμ'sに憧れている子は多いものの、μ'sのように淫乱思考を持っている子はかなり少ない。だからわざわざ静岡から東京まで来て、しかも憧れだと崇めることりの下着を盗むこと自体ほぼほぼ有り得ないと思っている。

 

 ここで真面目に議論しよう。だったら誰がパンツ泥棒なのか。まあμ'sやAqoursの誰かである線よりも、ことりや親鳥が誤って家のどこかに落としてしまった説を唱えるのが最も現実的だ。そう考えれば家の中をもっと探せと言いたくなるのだが、ことりはAqoursにご執心なので何を言っても聞く耳を持たない。しかし人間というのは裏で何をやっているのか分からないからな。表ではいい顔をしていても裏では犯罪に手を染めている輩も少なくはないだろうし。それに犯罪でなくても、梨子みたいに極秘の趣味をもってコソコソやってる奴なんてごまんといるからことりの関係者が犯人説を完全には否定できないけど……。

 

 

「噂によると千歌ちゃんは時期生徒会長候補として、ダイヤちゃんから生徒会業務のノウハウをこの生徒会室で学んでいるらしんだよ」

「どうしてそんな情報知ってんだよ……」

「特別編だから♪」

「もうそれで納得できる自分が毒されてきてるな……」

 

 

 東京から静岡へ一瞬でのワープ、千歌が生徒会長になろうとしているという今までどこでも語られてない設定、未だかつてないほどのキャラ崩壊、まさに特別編だからこそのトンデモ展開に追いつける人はいるのか……? 俺は辛うじてついて行けているが、展開が早すぎて今にも置いてかれそうになってるのが現状だ。

 

 

「それじゃあちょっと生徒会室へ行ってくるね!」

「また真っ向からアイツらを犯人扱いするつもりか?」

「違うよ~。今回はしっかりとした確証があるんだから!」

「どうだか……」

「下着泥棒は女の敵! だからこの名探偵ことりにお任せ下さい!」

「警察だったり探偵だったりどっちなんだよ……」

 

 

 これまでの発言や所業を思い返せば、コイツが探偵として活躍するには程遠い気がする。というか程遠いと確定してもいいくらいだ。勝手に犯人だと決め付けて人に突っかかっていく様は、探偵モノのアニメやドラマによく出演している無能刑事や探偵キャラそのものだった。しかしそんな愛嬌のあるキャラが冴えると途端にカッコよく見えるので、ことりは今からそれを再現しようとしているのかもしれない。まあどんな結果になるかはこれまでの展開を読めば大体分かりそうだが……。

 

 

「洗脳探偵ことり! 行ってまいります!」

「洗脳?」

「ことりは零くんと遊園地に遊びに行った夜に、怪しい男たちの取引現場を目撃しちゃったんだよ。その取引に夢中になっていたことりは、背後から近づいてくるもう1人の男に気付かなかった。そしてその男に殴られ気絶したことりは毒薬を飲まされ、目が覚めたら――――なんと淫乱な女の子になっちゃったの!! エッチになっても頭脳は同じ、というかむしろオトナ! その名は、名探偵ことり!! こんな感じでどう?」

「どうと言われても……そのエピソードどっかで聞いたことがあるぞ」

 

 

 それに洗脳と言っているが、お前が淫乱になったのはクスリのせいではなく自ら染まったんだろとツッコミを入れるのももはや面倒だ。その一端は俺のせいでもあるのだが、あたかも自分が被害者面しているのが地味に腹立つんだよな……。しかもコイツは曜をアッチ方面に堕とした張本人だから、今や洗脳する側になっているのも忘れてはいけない。

 

 

「お前が探偵なのはこの際どうでもいいとして、パンツを盗んだ犯人がバカ正直に自白するとは思えないんだけど」

「それを確かめる方法がちゃんとことりにはあるんだよ! まあそこで待ってて」

「えっ、俺は行っちゃダメなのか? ここまで強引に連れ回しておいてそれはないだろ」

「大丈夫、すぐに終わるから。それじゃあ行ってくるね」

「お、おいっ!」

 

 

 ことりは俺の意見も聞かずそそくさと生徒会室に入って行った。

 なんだろう、乗りかかった船に無理矢理積み込まれたのに途中で海へ投げ出されるこの感じは……。

 ことりの推理なんてハナから期待していないのだが、心配なのはアイツの無茶苦茶な推理で千歌とダイヤがどんな目に遭うのか分からないことだ。2人共μ'sの大ファンがゆえに、ことりを前にしたら怖気づいて中々思っていることをはっきり言えないだろうしな。

 

 そしてしばらく廊下で待っていると、廊下に漂う静寂を貫く出来事が起きた。

 

 

「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」」

 

 

「な、なんだぁ!?!?」

 

 

 廊下にまで響き渡る生徒会室からの悲鳴。

 ただのパンツ泥棒事件が、新たなる展開を迎える……のか??

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 1話に収めようと思ったのですが、もっとたくさんキャラを出演させてあげたかったので後編に続きます。とは言ってもμ'sもAqoursも全員出演させられないのが残念ですが。

 前書きでもお伝えした通り、『新日常』が二周年となりました!
 しかしこれからもやることは零君と女の子たちのダラダラとした日常を描いていくだけなので、またいつも通りまったりと読んでくだされば嬉しいです。


 次回は今回の続きです。パンツ泥棒は一体誰なのか……必見!





 超絶な余談ですが、どうやらスクフェスで新しいスクールアイドルが誕生するようで。もう何十股のレベルじゃ収まらなくなりそう……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】パンツ・パッション・パラダイム

 ことり探偵のパンツ探訪の後半戦。
 一応申し訳程度ですが推理パートがあります。本当にあるだけですが……。


 

 

 この大きな悲鳴を聞いたら浦の星の先生たちがすっ飛んでくるのではないだろうか。ってなくらい戦慄を感じるほどの悲鳴が生徒会室から漏れ出した。空も晴れやかで空気も穏やかな何気ない日常が、突如として非日常に変貌してしまった。なんかホラーゲームにありがちなキャッチコピーみたいだな……。そう考えると、目の前の生徒会室の扉が禍々しい雰囲気で開けるのを躊躇われるんだが……。

 

 しかしこのままでは悲鳴を聞きつけた誰かがこのカオスな現場を目撃して、俺にも冤罪というあらぬ飛び火が舞う可能性がある。正直このまま帰りたいのだが、千歌とダイヤも放ってはおけないし……仕方ねぇなぁ。どうしてこんな面倒なことになってるんだ俺??

 

 軽くため息をつきながら生徒会室の扉に手をかけ、中の様子を伺いながら扉を開ける。

 だがその扉が完全に開け放たれることはなかった。何故なら中の景色が映り込めば込むほど、ビクビクと震えながら倒れている女の子2人の構図が目に入ってきたからだ。しかもスカートが思いっきり捲れ上がっており、思春期の男子なら鼻の穴を大きくして凝視するであろう光景が広がっていた。言うならばそう、ヤり捨ての現場みたいな……。

 

 倒れているのは予想通り千歌とダイヤ。そしてその2人の間にはことりが唸るような表情で立ち往生している。明らかな犯罪現場に、いくら変態の俺であってもパンツだけに興味を唆られることはなかった。

 

 ここまで圧巻な状況を見てしまうと帰ろうにも帰れないので、渋々だけど中に入って状況把握に専念しよう。まあどうせ彼女からはロクな返事も帰ってこないだろうが……。

 

 

「おい。聞きたいことは色々あるが、まずスカートを元に戻してやれ。俺の集中力を掻き乱さないためにも、千歌とダイヤの名誉のためにも……」

「結局犯人じゃなかったし、いいよ♪」

 

 

 どうして俺が頭を下げる立場でことりが偉そうな立場なのか。まず話はそこからだと言いたいところだが、速攻で本題を切り出さないとまた話が脱線するので少しでも軌道から逸れた話題は避けておく。

 

 ことりの手によって丸出しにされていた千歌のちょっとお茶目な薄オレンジ色のパンツと、ダイヤの落ち着いた白パンツのどちらも再び彼女の手によって戻された。とは言っても捲れていたスカートを軽く掛けただけなので、ちょっとでも俺たちが歩いたらその風圧でまた捲れてしまいそうだ。それ以前に生太ももがこれでもかというくらいに露出していてエロいんだけど……。触りたいけど今はそれどころじゃないのがもどかしい!!

 

 

「で? 何が起きたんだ? むしろ何をやらかした」

「そんな人聞きの悪いことを! ことりはただ千歌ちゃんとダイヤちゃんがことりのパンツを盗んでないかなぁって、スカートを捲って確認しただけだよ!!」

「もう人のこと百合だのレズだの言えねぇだろ! お前の方がよっぽどだわ!!」

「違うよ!! これも探偵としてのお仕事なんだから! 盗んだパンツを隠す場所と言ったら、それはもう履くしかないでしょ?」

「少し合理的なのが腹立つけど、やってること完全に痴漢じゃねぇか……。あまり人のことは言えないけど」

 

 

 例えば、今からカギをこの学校内のどこかに隠すから探してみて、というミッションがあったとしよう。では隠す側の人間はどこに隠せば一番見つかりにくいのだろうか。それは肌身離さず自分が所持しておくこと。まさにことりはその理論に則って千歌たちを襲った訳だ。しかも結局ことりのパンツを履いていなかったんだから、千歌とダイヤにとってはとばっちりもいいとこである。同情し過ぎて今度コイツらがわがまま言ってきたら聞いてやろ。

 

 

「う、う~ん……」

「おっ、目覚めたか千歌」

「先生……? どうしてここに……?」

「それは話せば長くなるんだけどな……」

「あら? どうして私はこんな格好を……」

「ダイヤも起きたか。今はあまり目覚めない方が良かったかもな」

「先生? そういえばさっき南ことりさんの幻影が見えたような……?」

「それ私もです。流石に夢ですよねぇ――――!?!?」

「どうしました千歌さん――――!?!?」

 

 

 2人は意識が朦朧としながらも目を上げる。そしてそこには幻影だの夢だの妄想の中でしか存在していなかった人物が1人。そんな彼女、淫乱鳥を目撃した千歌とダイヤは目を見開いて眠たそうな顔を一気に覚醒させる。今自分たちがいる世界は現実なのか空想なのか、今まで幾多のμ's襲来である程度は耐性が付いたと言えども、目覚めたら憧れで大ファンの存在が目の前にいるとか気が動転してしまうのも分かる。もう何度この光景を見てきたが、ここまで壮絶で突発的なμ'sメンバーの登場は今までなかっただろう。

 

 

「おはよう2人共♪ そんなにスカート捲れちゃって……2人でお楽しみだったのかなぁ?」

「み、みみみ南ことりさん!? それにお楽しみって、ダイヤさんもしかして!?」

「そ、そんなことする訳ないでしょう!? 誇り高き生徒会長がそんな低欲に塗れることなどするはずないですわ!!」

「あれぇ? ことりはお楽しみとしか言ってないのに、どうして2人は顔を赤くしてるのかなぁ?」

「ち、違いますよ!! そんなこと想像してませんから!!」

「スクールアイドルは清純でなければなりません!! そんな私たちが淫らなことなんて……!!」

「もうっ、妄想が激しすぎるよ2人共♪ 別にエッチなことなんて、ことり一言も言ってないよぉ~」

「「うぅ……」」

 

 

 出会い頭事故とはまさにこのことだな……。出会ってまだ数十秒なのにここまで遊ばれるなんて、ことりの煽り能力が高いのかそれとも千歌とダイヤがイジりやすいのか。まあなんにせよAqoursの面子が意外とピンク色に染まっているというのが驚きでもあり怖くはある。千歌は座薬の件があったからその片鱗を微かに感じられたが、あの堅物のダイヤがねぇ……。やべぇな、ことりによるウイルス侵食が半端ないことになってる。これも特別編がゆえのキャラ崩壊なのかもしれないけど。

 

 ていうか、俺たち何しに来たんだっけ……??

 

 

「おいことり、目的見失ってるぞ」

「あっ、そうだパンツ! 千歌ちゃんとダイヤちゃんのスカート捲ったけど、ことりのパンツ履いてなかったんだよねぇ……。ゴメンね2人共、疑っちゃって」

「いえいえ――――って、捲った!?」

「うんっ♪ こっそり生徒会室に忍び込んだ後、背後から殴って気絶させてペラッとね!」

「だからこんなに制服が乱れて……。せ、先生は見てませんわよね!?」

「み、見てねぇよ!! ことりが勝手にやったんだ俺は関係ない……うん」

 

 

 嘘です。バッチリとスカートの奥のパンツを堪能して脳内HDに保存しましたですはい。そしてパンツから伸びる柔らかいむちむちの太ももをしゃぶりたいと思いましたですはい。だって2人がそんな状況になってるなんて、生徒会室に入ってみるまで知らなかったんだよ!!

 

 

「零くん、ことりたちは1つ重大な勘違いをしていたのかもしれないよ」

「聞くだけ無駄だと思うが言ってみ?」

「よく考えてみたら、ことりのパンツって可愛いモノが多いんだよ。地味なパンツばかり履いてる海未ちゃんのとは違ってね」

「怒られるぞお前……」

「それで思ったの。ことりのパンツを盗んだ犯人は、女の子っぽい下着を持ってない子じゃないかって」

「じゃあ犯人は海未だって言いたいのか?」

「まだ頭が硬いね零くん! 海未ちゃんは下着の地味さを極めてるから敢えて可愛いパンツを履こうと思ったりしないよ。まあ今から犯人を捕まえに行くから、その時のお楽しみということで♪」

 

 

 申し訳程度の推理パートだが、言っていることは幼馴染を小馬鹿にする言葉だけだ。そもそもどうして海未の下着事情をことりが知っているのかは疑問だが、他人の心を堂々と覗き見するスキルがあるくらいだからそれくらい当然かもしれない。

 

 

「それじゃあまた飛ぶよ零くん!」

「はいはい……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「それで誰なんだ? お前が目をつけているのって」

「多分この辺りを通るはずなんだけど……」

 

 

 俺たちは再び東京に戻ってきた。

 そしてことりは目星の犯人の所在が分かっているらしく、電柱の陰に隠れて辺りの十字路を睨みつけている。しかし傍から見てもバレバレな隠れ方なので、張り込みの探偵と言うよりも物陰に潜む不審者にしか思えない。まあ特段間違っていないはいないのだが……。

 

 

「あっ、来たよ!」

「ん? あれは……」

 

 

 張り込みをしていた十字路から顔を覗かせたのは、いかにも女の子らしい白いスカートを履いている凛だった。1人で陽気に鼻歌を歌い、そこそこシャレオツなバッグを持っているのでどこかにお出かけなのだろう。こうして見ると、やっぱμ'sのみんなが凛が一番女の子の中の女の子と言う理由も分かるな。もう20歳なのに滲み出る幼さが心にグッと来る。ご機嫌な様子で今にもスキップしそうだから、ひらひらと舞うスカートの裾がこれまた目を惹きつけられる。

 

 しかし、そんな彼女がことりのパンツを盗むなんてありえるのかよ……。

 

 

「確保ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「にゃっ!? こ、ことりちゃん!? どうしていきなり抱きついてくるの!?」

「抱きついてないよ!! 確保だよ逮捕だよ!!」

「ええっ!? 凛、なにかしちゃったの!?」

「とにかく耐えるんだ凛。時期にことりも飽きるから」

「零くんまで!? これドッキリかなにか!?」

 

 

 凛はことりに羽交い締めにされ、全くの無抵抗のまま組み伏せられる。今まで警察や探偵経験なんてないのにどこでその体術を学んできたのかは謎だが、かと言ってツッコミを入れれば"特別編"だからという理由を突きつけられるだけなのでもう余計なことは考えないようにした。

 

 そんなことよりも話は変わるが、羽交い締めにされている女の子って唆られない? 女の子の脇の下に腕を通すという行為自体、むしろその文面だけでもあらぬ妄想を掻き立てられる。そして少しでも抵抗をするために両腕をバタバタさせる様も微笑ましく、自分から女の子を羽交い締めにするのもいいが俺は正面からその様子を見ている方が好きだな。まさに今の凛がそんな感じである。

 

 

「凛ちゃん可愛い格好してるねぇ~♪ どこかにお買い物かなぁ~? 言うまで離してあげないぞぉ~!」

「そ、そうだにゃ! この前ことりちゃんに教えてもらったブティックに行こうと思って……」

「凛ちゃんがブティックなんて言葉を使うなんて!? あんなに子供っぽかった凛ちゃんが大人に成長して嬉しいような悲しいような……」

「ことりちゃんは凛のなに!? そもそも逮捕ってどういうこと!?」

「そのままの意味だよ。凛ちゃんさっき自白しちゃったよねぇ」

「もうさっきから訳が分からないにゃ……」

 

 

 凛は抵抗しても無駄だと思ったのか、ことりの拘束に為されるがままとなってしまった。こうしてあっさりと諦めるあたり、変に労力を消費して抵抗していたAqoursのメンバーよりも数倍精神が大人だと思う。それにことりとの付き合いもかれこれ5年になるので、そんな彼女の性格を組み取っての諦めだろう。

 

 

「そこまで凛を犯人扱いするんだったら、確固たる証拠はあるんだろうな?」

「もちろん!」

「すっげぇ自信だな……。言ってみろ」

「この前ね、凛ちゃんと2人で話してたんだ。その時にファッションの話題になったんだけど、凛ちゃんが最近コーディネートに興味を持ち始めたんだって。そしてことりが『可愛い服と可愛い下着は一蓮托生、見えないところでもキチンとこだわるのがファッションだよ!』って言ったら、凛ちゃんの感激しちゃったみたいで」

「だってことりちゃんのくせに、言ってることがすごくまともなんだもん。ファッションに関してはことりちゃんもまだ捨てたものじゃないなぁと思ったにゃ」

「……刺がある言葉だけど続けるね。それでことりは思ったんだよ! もしかしたら凛ちゃんは、ファッション師匠であることりのパンツを狙ってるんじゃないかって!」

「いやその理屈はおかしいよ!!」

「だって服に関しては高校の時から可愛いのを着てたけど、パンツは割と適当だったんじゃないの? 自分に合うパンツが分からないから、師匠のことりのを盗んだんだよね? ねっ?」

「2回聞かれても……」

 

 

 面倒だからってぼぉ~っと聞き流しているとまともな理屈に思えてしまうが、ちょっとでも頭を働かせればこれほどまでにめちゃくちゃな証拠の提示があっただろうかと錯乱する。ファッションマスターのことりだからこそ服と下着は1つでコーディネイトと言われて納得してしまう。人間誰しも先入観に捕らわれず、今回のように冷静に物事を考え自分で結論を出すのが大事ってことだ。でないとことりのような誘導尋問に簡単に引っかかって下着泥棒にされ、一生コイツの家に監禁されるぞ。まあことりに監禁されたいって人は一定数いるかもだが……。

 

 

「という訳で凛ちゃん、スカート捲るね」

「だ、ダメだにゃ!! それにどんな訳か全然分かんないし……」

「凛ちゃん! 嘘付きはドロボーの始まりなんだよ? あっ、もう泥棒だったね♪」

「凛、もうことりちゃんの友達やめようかな……」

「それはできないよ。だって逮捕された凛ちゃんは、ことりの家という名の牢獄で一生一緒に暮らすんだよ♪」

「ことりちゃんと一緒とか何をされるのか想像するだけでも怖いよ!! かよちんの数億倍は怖いよ!!」

「大丈夫。ちょぉ~っと着せ替え人形になってもらうだけだからぁ♪」

「その笑顔が何より恐ろしいにゃ……」

 

 

 5年前のことりが言うのならまだ可愛げがあったのに、今のことりが言うとどう転んでも卑猥な意味にしか聞こえない。元々女の子にも興味のある毛があったので、特に子供っぽくてかつ大人なファッションを好む凛は彼女にとって絶好着せ替え奴隷だ。俺を監禁して一生を過ごすと言ったり、凛を逮捕して人形にすると言ったり、結局コイツは俺やμ's、Aqoursを支配したいとでも思ってんじゃねぇだろうな……。ヤンデレ成分も複合している彼女だからこそありえない話ではない。

 

 

「ここまでの話を総括すると、凛ちゃんがパンツを見せてくれるって話になるけど」

「事実を捻じ曲げないで欲しいにゃ……。でもまあそれで無実が証明されるのなら……いいよ」

「いいの!? スカートを捲ってパンツを脱がしてもいいの!?」

「そこまで言ってないでしょ!? もう見せないよ!!」

「ゴメンゴメン! 写真に撮って凛ちゃんにどんな下着を着けさせたら可愛いかなぁって妄想するためにも見せて!!」

「ことりちゃんが喋るたびにどんどん見せたくなくなるんだけど!? 勇気を出して見せるって言った凛はどうしたらいいの!?」

 

 

 一度ことりが口を開けば、逐一ツッコミを入れなければやっていけない人生を歩まされているんだ俺たちは……。未だかつてないほどツッコミ役を任された凛は、汗だくになりながらことりの相手をしている。そもそも彼女はμ's内ではボケ担当なことが多い分、このような怒涛の謎攻撃に耐性がない。俺みたいに会うたびにこちらににじり寄ってくることりをあしらっているならまだしも、この2人はあまり2人きりでいる機会も少ないだけ凛の苦労が増し増しになっている。幼馴染である海未ですらもうお手上げ状態なのに……。海未は穂乃果の世話もあるから、ことりの世話まで手が回らない可能性もあるけど。

 

 

 そして凛を後ろから羽交い締めにしていたことりは、いつの間にか彼女の身体の前まで回り込んでいた。もちろんその目線は凛の白いスカートに向けられていて、その奥に蔓延るパンツを見られると今か今かと若干息を荒くして待機している。さっきからスカートを捲らせろなんだの言っていたのに、ここへ来てまさかの硬直。今度はどんなよからぬことを考えているのか……。

 

 

「自分で捲って、凛ちゃん」

「はぁ!? どうしてそこまでサービスしなきゃいけないの!?」

「お願い! 自分で捲ってくれたらことりからもサービスするから!! 着せ替え人形にさせてあげるから!!」

「上から目線がヒドイ!? ヤダよ!!」

「むぅ~凛ちゃんったら、いつそんなワガママな子になったの!! そんな子に育てた覚えはありません!!」

「そんな親に育てられた思い出もないよ!!」

「いいもんっ! だったら勝手に捲っちゃうからね!」

「ちょっ、そんないきなり――――!?」

 

 

 道の真ん中で堂々と痴女プレイしているその時だった。ギャルゲやエロゲ御用達、神からの風の贈り物――通称"神風"が下から上へ、まるでスカート捲りの通り魔のごとく吹き荒れる。しかし凛のスカートはことりが手で掴んでいたので、神風によって捲り上げられたのは必然的にことりのスカートだけ……だ?

 

 ふわっとひらひらのスカートが舞い上がり、ことりのパンツが顕になった。だけど俺はいつものように女の子のパンツに魅力を感じない。それ以上に気になることがあったからだ。もしかしたら目にゴミが入っていて見間違えたかもしれないので、一瞬だけ瞬きをしてもう一度ことりのパンツを確認したのだが……うん、俺の違和感は何も間違っちゃいない。

 

 

「おい……お前、今日どんなパンツ履いてんだ?」

「れ、零くん!? そんなぁ流石にセクハラだよぉ~♪」

「興奮してんじゃねぇ!! ほら、素直に言え!!」

「ただの薄いピンク色で、可愛いひらひらが付いてる――――あっ!!」

「どうしたのことりちゃん……?」

「ア、アハハ……」

「こ、ことりぃ……」

 

 

 さっきまで意気揚々と凛を痴女っていたことりだが、俺の質問に答えている途中から冷汗が半端ない。

 それもそのはず。ことりの盗まれたパンツは――――――コイツが今履いているんだから。

 

 

「ご、ごめ~ん凛ちゃん。ことり、探してたパンツを自分で履いちゃってたみたい……アハハ」

「えぇっ!? だったら凛がここまで辱めを受けたのは一体なんだったの!?」

「それに千歌たちもやられ損じゃねぇか!! しかも俺だって無駄にたらい回しにされるし……」

「ま、まぁそういう時もあるよ。逆に考えたら、誰も悪い人はいなくてよかったなぁ~なんて!」

「よくねぇよ!!」

「よくないにゃ!!」

「ひぃ~ん! ゴメンなさ~~~~い!!」

 

 

 とんだヘッポコ探偵もいたものだ……。

 こうしてパンツ泥棒騒動は、俺に疲労を与えことり自身にも申し訳なさを感じさせ、なにより凛とAqoursには過去最大級に比類する程の恥辱を与えて幕を閉じた。生産性もなければ誰も得をしない、そんな話が今まであっただろうか……。まあ色んな女の子のパンツ事情や素の反応が見られたことは、ちょっとだけ嬉しいけどね。

 

 

「今日のことを教訓に、これからはノーパンで暮らすね!」

「何も分かってねぇコイツ……」

 

 




 小説を執筆していて一番の楽しい瞬間は、ことりや楓がメインとなって場を荒らしている描写の時だったりします(笑)
そして地の文に関しては、エッチな描写よりも零君のツッコミを淡々と描いている方が筆が進みます。もう240話以上も執筆しているのに、未だにR-17.9の描写には慣れません(笑)

 二周年も無事に迎えられたので、次回からはまたいつものAqoursとの日常に戻ります。
 どうやら最近果南がセンターの曲が出たらしいので、次回は果南回で!


新たに☆10評価をくださった

第三艦隊さん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嫉妬の浴場、禁忌の欲情

 今回は果南回です!
 思えば、こうして果南の胸の内を語るお話は初めてかもしれません。


 

「悪いな、わざわざ来てもらって」

「気にしないでください。先生が病気になってしまったと聞いて、私も心配していましたから」

 

 

 果南はせっせとリビングを掃除しながら、同時に俺の様態も気遣ってくれている。

 一連の会話で察したかもしれないが、俺は生憎ながら軽く風邪を引いてしまった。いつもなら楓が寵愛を捧げるかの如く看病してくれるのだが、これも生憎ながら現在彼女は東京である。しかも肝心の同居人である秋葉は仕事で数日間ここを離れているので、1人寂しく風邪の寒気に耐えながら生きていかなければならない状況だったのだ。

 

 だからこそ突然果南が訪問してきた時には驚いた。夕食の材料を入れたスーパーの袋を手に持ち、服は制服のままだから授業が終わってそのままここへ直帰したのだろう。完全に押しかけ女房のようだが、正直身体が重くて適当に寝て過ごそうと思っていたので助かった。あまり食欲はないけど、風邪で弱っている時こそ食わないといけないしな。飯自体は高校1年生の時に1人暮らしをしていた影響で1人でも作れるけど、もう長年楓や最近では秋葉の手料理を嗜んできたせいで自炊が不可能な身体にされてしまった。アイツらの料理を1口でも食ったら、自炊した料理なんてゴミを食ってるようなものだからな……そういう意味でも果南が来てくれて助かった。

 

 

「他のみんなはどうしたんだ? 練習か?」

「そうです。千歌がこの前のお礼に今度は自分がお見舞いに行きたいって張り切っていたんですけど、梨子ちゃんや曜ちゃんに『千歌ちゃんが行くと看病にならないから、色んな意味で』と言われて泣く泣く練習に参加してましたけど……」

「あぁ、アイツ料理できないだろうから変なモノ食わされそうだしなぁ」

「それと同じ理由で鞠莉や善子ちゃんも却下。ダイヤも結構的を外れた看病をしそうですし、そもそもたくさんで押しかけるのは申し訳ないと思って、みんなが私に白羽の矢を立ててきたんです」

「唯一まともな看病ができそうなのはお前くらいだもんな」

「そうですか? 曜ちゃんにも付き添いを頼んだんですけど、やんわりと断られちゃいまして……。なんか微妙な顔してましたけど、もしかして曜ちゃんに何かしました……?」

「えっ!? あ、い、いや!!」

 

 

 ちょっと前に起こった曜との一連の出来事がフラッシュバックされるが、果南に悟られたくないので全力で否定する。もちろん何かしたと言えば本当にやっちゃったのだが、それは曜との暗黙の了解となっていた。あれ以来俺も彼女も雨の日の出来事を口に出すことはない。でも俺はベッドの上で毎晩のように思い出す、彼女の口の気持ちよさを――――

 

 

「先生? 顔を赤くしてどうしたんですか? まさか熱が上がってきたとか!?」

「いやそんなことはない!」

「どうして分かるんですか?」

「そ、それは自分の身体のことは自分がよく分かってるからさ……」

「一応ですけど、熱測っておきます?」

「大丈夫だから! なんならピンピンしてることを証明するために走り回ってやってもいい!」

「それで熱が上がったらただの迷惑なので、ちゃんと寝ててください」

「はい……」

 

 

 マジレスをされて少々萎縮してしまったが、曜との関係を追求されなくて助かった。口でされたことを言えない訳ではないが、女の子に面と向かって別の女の子に口でしてもらった話をする度胸は流石の俺でもない。物事の細かいことを気にしない果南だからこそ誤魔化せた感はあるな。

 

 ちなみに俺の容態についてはそこまで深刻ということでもなく、ただ風邪を引いて37度の熱が出ているくらいだ。しかもそれは今日の朝だけであり、夜になった今では1人で自由に動き回れるくらいには回復していた。だが秋葉が出張で家におらず俺が1人きりという情報をどこで聞きつけたのかは知らないが、心配性のAqoursがこうして果南を寄越してきた次第だ。

 

 まあ情報の漏洩についてはここでは考えないようにしよう。もはやμ'sとの繋がりができたAqoursは、俺の情報をいつでも余裕で仕入れられる状態にある。μ'sの一部メンバーなんて俺しか知らない秘密の個人情報を知ってる輩までいるから、その出処を調べるだけ無駄なことなのだ。どうせ調べて犯人を暴いたところで反省などしないだろうし。

 

 

「そういや、今日の練習はどうだった? 俺がいなくてもお前がいれば平気だろうけど」

「練習は滞りなく進みましたけど、千歌や曜ちゃんはかなり心配してましたよ。先生に連絡してもいいか、迷惑だからしない方がいいのか、休憩時間に悩んでいましたから」

「昨晩に比べれば全然大丈夫だし、連絡くらいならいつしてきても良かったんだけどなぁ。アイツら最近結構甘えてくるから、余計な心配かけちゃったかも」

「…………」

「どうした?」

「いえ、別に……」

 

 

 果南はそう言い残すと、晩飯を作るためだろうかキッチンへと向かってしまった。

 彼女の雰囲気にどこか哀愁が漂っていて、さっきまで意気揚々(とは言っても、果南だからそこまでテンションがアゲアゲではないが)と喋っていたのに突然どうしちゃったんだ……? また女心に関する縺れは勘弁して欲しいが、思春期の女の子と一緒にいる以上はしっかりと向き合わなければならないことだ。もちろんもう少し時間を置いてから、ゆっくりと話すことにしよう。生半可な気持ちで下手に刺激しないことこそが、μ'sとのいざこざで学んだ俺の教訓だ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ご馳走様! いやぁ風邪のせいで味を感じないかどうか心配だったけど、濃い味付けのおかげでたっぷり堪能できたよ。意外と料理上手いんだな果南って」

「含みがある言い方は気になりますけど、これでも毎日自炊しているんですよ? そこまで料理しないイメージあります?」

「店があるから忙しいのかなぁと思ってね」

「逆に店があるからこそ家族の代わりに私が夕食を作ってるんですよ。まあそこまで凝ったものはできないですが」

 

 

 果南の手料理は俺があまり食することのない和食だったのだが、飯も味噌汁も焼き魚も懐かしいお袋の味がしてとても満足した。風邪で鼻が詰まり味が分かりにくくなっている俺への配慮で、味を少し濃くしてくれた気遣いも心に響く。伊達にAqoursのお姉さんポジションを獲得している訳ではないようで、千歌たちを見守る経験を活かして俺への気回しも完璧だった。こういう子こそお嫁さんに欲しいところだよなぁ。やはり俺は胃袋を掴まれるのに弱く、安心して安定の美味さの料理を作れる女の子はそれだけでポイントが爆上がりである。

 

 ちなみに『男は女の美貌なんて3日で飽きる。だが胃袋だけは掴まれたら一生離れられない』という格言があったりする。出典は知らないがな……。

 

 

「果南、俺の嫁に来ないか?」

「ブッ!! な、何言ってるんですか急に!?」

 

 

 果南は飲んでいたお茶をグラス内に吹き出し、目を丸くしてこちらを見つめる。

 ようやくコイツにダメージを入れられたというか、心をドキッとさせることを言えた気がする。彼女はサバサバした性格だから心もあまり揺れ動かないようで、俺からの甘言も軽くスルーするなどμ'sにはなかった反応を示す。そんな屈強な心を持つ彼女をここまで驚嘆させ、なおかつ顔を赤らめさせることができたのはガッツポーズ案件だ。なんだよ、普通に乙女な顔もできるじゃん。

 

 

「そ、そんなことよりも、昨日はお風呂に入りましたか?」

「あぁ、昨晩はそこそこ熱もあったし、ずっと寝てたよ。狂ったように寝てたから身体も拭いてないな」

 

 

 まあそうやって何十時間睡眠をキメた結果、今日はこうしてピンピンしている訳だが。しかし風邪というのは病み上がりが肝心で、治ったからと言って下手に体温を刺激するとぶり返しの要因にもなる。だからこうして果南が来てくれたのだろうが、俺としては病み上がり云々の話よりも、柄にもなくそわそわしている彼女の方が気になっていた。

 

 そう思ったのも、彼女が飯を作る前に不機嫌(?)っぽくなっていたからだ。しかし嫁に来いと言った瞬間に慌てた表情になり、同時にうっすらと嬉しそうな微笑みを浮かべていたので機嫌は直してくれた……のかな? 正直な話、果南は今まであまり女の子っぽい仕草を見せてくれなかったので、たまたまだけどこうしてその一抹を垣間見れたのは嬉しかったりもする。こんなデリカシーのないことを本人の前で言ったら怒られるだろうな……。

 

 

「昨日お風呂に入っていないのなら、今日は入った方がいいんじゃないですか? 病気の時って普段より汗をかくと言いますから」

「そうだな。病み上がりと言っても風呂くらいは入ってもいいか」

「では入りましょうか」

「あぁ……って、へっ!?」

「…………」

 

 

 想像もしていなかった爆弾発言に、あまりに素っ頓狂な声が出てしまった。しかも発言した本人も頬をじんわりと赤く染めてモジモジしている。お互いに見つめ合ってしばらく無音状態が続いていたが、その後に果南が唾をゴクリと飲み込んで口を開く。

 

 

「ほら行きましょう! 病み上がりなのでまだ身体が硬くなっているかもしれませんし! そんな身体では思うように身体を洗えないでしょう?」

「どうした急に声を荒げて!? いつものお前らしくないぞ!?」

「行きましょう!」

「お、おいっ!!」

 

 

 滅多に平常心を崩さない彼女が、ここまで気性が激しくなっているは初めて見た。手首を強く掴まれ、そのまま引きずられるように風呂場に連行される。もちろん女の子と入浴を共にするのは嬉しいのだが、それ以上に今の彼女がどんな心境なのか気になって仕方がない。さっきから表情がコロコロと変わるのは見ていて面白いけど、どうしていきなり積極的になり始めたんだろうか……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 現在の状況。下半身にタオルを巻いて風呂の椅子に座っている俺と、身体にタオルを纏って俺の背中をスポンジで洗ってくれている果南。風呂場に入ってからお互いにほとんど会話はなく、唯一あったのは身体を洗うから座れと促された時だけだ。風呂場に響くのはスポンジと泡の音、そして微かに聞こえる彼女の息遣いだけだ。鏡が曇っているから後ろの状況はよく見えないが、うっすらと見える影から察するに膝立ちをして俺の背中を洗ってくれているのだろう。

 

 そもそも――――どうして俺と果南は一緒の風呂場に入ってるんだ!?!?

 さっきから後ろにタオル1枚の果南がいるという事実も相まって、こうして平常心を保ちながら座っているのが奇跡に近い。スポンジで洗ってくれてはいるものの、時々彼女の柔らかい肌が俺の肌に触れ、その度に彼女の身体のどの部位が触れたのか頭の中で考察が止まらない。だから果南に真意を聞こうにも、煩悩が邪魔をして聞くに聞けない状態なのだ。

 

 そんな感じでしばらく彼女のスポンジ捌きに身を委ねていると、後ろからそっと声が聞こえてきた。

 

 

「私、嬉しいんです。先生のお役に立てて……」

「え……?」

「振り返らないでください!! 何が起こるのか分からないので、一応その予防線です」

「何もしねぇって、多分……」

 

 

 果南のスタイル抜群の身体の一糸纏わぬ姿を見れば、この平常心なんて速攻で崩れ去る自信がある。そんなことで自信を付けてもらいたくないと思うだろうが、これも男の性だからしょうがねぇだろ。それにさっきから俺の腹部に腕を回して腹回りまで洗ってくるため、その心地の良い感触に耐え切れる理性があるかどうかも不安だ。だから振り向かなくて正解だったかもしれない。己の理性の弱さと糸が切れた時の豹変具合は自分が一番よく知っているからな。

 

 それよりも、彼女が何か意味深なことを言いかけたのでそっちに集中しよう。

 

 

「役に立つって、どういうことだ?」

「先生が教育実習に来てからというもの、Aqoursの活動の幅が一気に広がりました。練習メニューを考える時も作詞作曲の時も、私たちの活動を全般に渡り手伝ってもらって感謝をしているんです。でも……」

「でも?」

「私からは先生に何も返してないな、と思いまして」

「だから俺の看病を?」

「それもあるんですけど……あぁ、もうっ!! 言いたいことを上手く伝えられない!! やっぱダイヤや鞠莉の言う通り、面倒だな私って……」

「どうしたんだよ一体……」

 

 

 簡潔に言えば、俺に何か恩返しがしたくて自ら看病をしに家に来てくれた――――そう思っていたのだが、果南のこの反応を見る限りどこか違うだろうか……? Aqoursのみんなと仲良くなった際に3年生組の加入についていざこざがあったことは聞いている。その時はダイヤも鞠莉も、そして果南もかなり面倒な子になっていたみたいで……。普段の様子を見ているととてもそうには思えないのだが、やっぱりまだ交流の経験が浅いことが彼女たちの真意を汲み取れない一番の要因だよな。

 

 

「もうはっきりと言います!」

「お、おう……」

「私、千歌や曜ちゃん、Aqoursのみんなに嫉妬してたんです」

「嫉妬? お前が……?」

「やっぱりそういう反応されますよね……。私も千歌たちみたいに先生とそのぉ……じゃれあうと言ったらおかしいですけど、もっとお話したいなぁと思ってるんです。でもいざとなったら行動に移せなくて、逆に千歌たちはどんどん先生と仲良くなって、最近置いていかれてると感じちゃうくらいで……」

「そうだったのか。俺はそんな距離は一切感じないんだけど、お前からしてみれば俺が遠くの存在になっちまってたんだな……」

「はい。幽霊騒動の時、先生が私たちをよく見てくれているのは分かりました。だからむしろ私から離れちゃったんだと思います。ずっとみんなに遠慮していたのもそうですし、自分から先生に向かう勇気がなかったのもそうですね」

 

 

 果南は意外と嫉妬深い。彼女に少しばかりヤンデレな性格が備わっていたなんて知らなかったし思いもしなかった。そういや秋葉のクスリでキャラが変わった際、コイツかなり病んでたからその時から兆候はあったんだ。気付かなかったのは彼女自身が己の気持ちを隠してたのでそこに悔やむことはないが、やはり女の子の負の感情を心に留めるのはいつも重々しい。事前に気付いて俺から話しかけてやれば、少しは軽くなるのにといつも思ってしまう。

 

 

「一言で言えば寂しかった。そういうことだろ?」

「そう言われると恥ずかしいんですけど……まあ仰る通りです。私も先生と、たまには2人きりで――――」

「な゛っ……!?!?」

 

 

 いきなり背中にふくよかな何かが2つ、ぴったりと張り付けられた。しかもタオル越しではない、生の肌の感触と体温が直に伝わってくる。紛れもない女の子の象徴であるその双丘は、窓ガラスにペタリと張り付くように俺の背中に密着している。そして果南は俺の腹を洗うために伸ばしていた腕を今度は首元へ回し、そのまま身体ごと俺に抱きついてきた。そうなればもちろんおっぱいが背中によって形が変わる感触を、生々しく直に味わえる訳で……。

 

 果南の身体は胸だけではなく全身が柔らかかった。体育会系だから筋肉質で肌が硬いなんて言い訳も全く通用していない。俺の肩に触れる二の腕も、臀部(でんぶ)に当たる太ももも、どこもかしこが柔軟な肉厚だ。しかもここが風呂場という最高級なシチュエーションだという事実も己の欲情に拍車を掛けている。

 早くこの肉眼で彼女の身体を舐め回すように鑑賞したいのだが、果南の熱くも優しい抱擁に身動きが取れなかった。それだけ彼女の強い気持ちに俺の心が捕まっているんだと思う。そしてそれは、彼女の願っていたことでもある。

 

 

「何も特別なことなんてされなくても、こうして先生と一緒にいられるのが今凄く嬉しいです」

「ただ俺がこうしているだけでお前が満たされるのなら、それ以上のことは何もないよ。でも1つ聞いていいか?」

「はい、なんでしょう?」

「どうして嫉妬なんて気持ちを抱いたのか、答えは出ているのか?」

「多分……。でもまだ言えません。この気持ちが確信に変わるまでは……」

「そっか……」

 

 

 それ以上は追求しなかった。以前にも曜が同じ答えを言っていたことを思い出したからだ。でも彼女たちが抱いている気持ちは大体分かっている。これでも恋人が12人もいるものでね、女の子の気持ちは多少なりとも理解しているつもりだ。それでもまだまだ自分は鈍感な方だと思うけど。

 

 

「気付いたらこんな気持ちになっていました。特別な出来事も事件も何もなかったのに、毎日一緒にいるだけで楽しくて、いつの間にか……」

「そんなもんなんじゃねぇの、普通はさ」

 

 

 穂乃果たち9人とはかなりの大事件があったが故の実りだったが、そんな結ばれ方は稀の中の稀だろう。普通は何気ない日常からいつの間にか心が傾いていた、という展開の方が自然だ。そもそも恋愛感情を抱くのに特別な理由なんてものはいらないからな。

 

 

「先生の気を引くために抱きしめるような真似をしちゃって……迷惑でしたか?」

「いや全然。むしろ気持ちがいいというか、ちょっと興奮しちゃうっていうか……」

「フフッ、先生のその直球なところ、嫌いじゃないです」

「ドン引きされないだけ嬉しいよ」

 

 

 元々エッチなことは嫌いではないのか、それとも相手が俺だから許容できるのか……まあ、どっちでも俺の不利益に働くことはないからいいかな。でもまさか果南がここまで大胆に、しかも風呂場でお互いにほぼ全裸状態の時に仕掛けてくるとは思ってもいなかった。もしかしたら果南以外のメンバーも、こうした少し欲に塗れた積極性があるのかも。そんな思考になるよう促したのは間違いなく俺だろうけど……。

 

 するといきなり耳元に微かな息が掛かる。同時に俺の身体に密着していた果南の身体が更にくっつき、もはや自慢の胸が平坦になるくらいに潰れている。どうやら彼女から顔を俺の耳元に近づけてきたみたいだ。

 

 

「先生、昨晩はずっと寝ていたんですよね?」

「あ、あぁ。熱も高かったし、トイレに行く以外はずっと寝てたよ」

「だったらその……溜まってるんじゃないですか……?」

「え゛っ!? そ、それは……そう言われればそうだけど……」

「使ってみませんか、私を……」

 

 

 まず考える前から心臓の鼓動が死んでしまうかってくらいに激しくなった。

 確かに溜まっていると言えば溜まっている。風邪で1日寝込んでいたってのもあるが、なによりあの果南と風呂場で2人きり。しかも彼女はタオルも巻かず、現在俺の身体におっぱいをこれでもかと押し付けながら密着している。そんな彼女に耳元で『自分を使わないか』と囁かれたら、男だったら誰でも動揺するだろ普通。

 風呂場の暑さとは別の熱さで感じた汗が、お湯の水滴と共に滴り落ちる。こんな時はどうするべきなんだ……? 恋人12人持ちのくせに対応の仕方が分からないぞ……!!

 

 

「私で興奮してくれてるんですね、嬉しいです」

 

 

 果南の目線の先には、俺の下半身に巻かれたタオル。いや、そのタオルを盛り上げるアレを想像しながら見ているのだろう。焦燥に駆られる心とは裏腹に、身体だけは純粋に正直だった。

 

 

「先生って女の子の胸、好きですよね?」

「それは……」

「フフッ、知ってますよ。練習中とか、たまにそのような視線を感じますから」

「あっ……ゴメン」

「謝らなくてもいいですよ。他のみんなはどうか分かりませんが、私はむしろ嬉しいと言いますか……。それが私に目を向けてくれているという、一番の事実になりますから!」

 

 

 俺の家に来てからあまり笑うことのなかった果南だったが、振り向かなくても分かる。今の彼女はとびきりの笑顔だろう。声だけでその高揚さが伝わってきて、そして徐々に彼女の身体が俺の前へと――――

 

 

「先生は病み上がりなんですから、そこで動かずリラックスしていてくださいね。先生が好きな胸で……頑張ります」

 

 

 やがて果南は俺の前でしゃがみこみ、片手を自分の胸に、もう片手を俺の腰のタオルへと向ける。

 そこからというもの、俺はただ本能だけであらゆる快楽を堪能していた……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あぁ、またやっちまったなぁ……」

 

 

 何がとは言えないが、とにかくまたやってしまった。しかし後悔の念などは微塵もなく、こうして冷静なのは男特有の賢者モードに入っているからだ。ただ果南からの奉仕が気持ちよかっただけではなく、目の前で女の子が屈み込んでご奉仕してくれているという光景自体にも視覚的性欲を覚えた。

 

 言えるのは、見た目よりも彼女の胸が大きかったことだ。まさかあそこまで綺麗に挟み込まれるとは思ってもいなかったので、2つの果実に俺のモノが挟まれた瞬間に身体に電流のような刺激が走った。昨晩は風邪で寝込んで性欲処理できなかった、その理由だけではない欲望が今さっき果南にぶちまけられたのである。あの凄まじいボリュームの双丘が頭から離れず、こうして風呂場で1人ぼぉ~っと座っているしかない。

 

 ちなみに果南は先に上がった。このままだと俺のペラペラの理性によって取り返しのつかない事態になりかねないので、俺から彼女をこのソープ現場から離れるよう頼んだのだ。今思えば正当な判断だったかもしれない。目の前に大きな胸を揺らす果南がいたら、多分我慢できなかっただろうから。

 

 

「また……やってくれるかな」

 

 

 そんな淡く淫猥な期待を抱きつつも、こうして果南の意外な一面を見られたことは素直に嬉しいと思った。軽いヤンデレ風味の嫉妬姿、可愛かったなぁ……。そんな彼女を想像するとこちらからも攻めたくなってきた。

 

 そして、果南は今日家に泊まっていくのだと言う。

 そう、まだ夜は始まったばかりなのだ……。

 




 私としてはAqoursの中で果南のキャラが一番掴みにくかったのですが、アニメでのキャラを考えてみるに、恋愛をしたら簡単に嫉妬を抱きそうだなぁと思いました(笑) アニメでもずっと己の想いを心に溜め込んでいたタイプだったので、今回のように普段は冷静でありながらも実は自分の中では想いが爆発してた――みたいな子だと勝手に解釈しています。
それでも今回の終盤の展開のように大胆に攻めるところは攻めてきそうなタイプで、心を許した人には積極性が増しそうな子だと想像します。ちなみにヤンデレ風味なのは完全に私の好みです(笑)


 最近ちょっぴりエロい話やご都合主義ギャグ展開が続いたので、次回は久々に思いっきりAqoursハーレムする話を描きます!


新たに☆10評価をくださった

Rikkunさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いつの間にかAqoursハーレム(2年生編)

 唐突にほのぼのハーレムな話を執筆したくなったので。
 1話で9人全員出すはずが、いつものごとく文字数が膨れ上がったので今回は2年生組とのお話です。


 教育実習生の朝は早い。いくら教師見習いであっても職員会議には毎朝参加しなければならず、朝に弱い俺にとってはそこそこの拷問だ。ウトウトするとその度に山内先生に小さく声を掛けられ起こされるのだが、正直先生の声はのほほんとしていて逆に眠気を誘ってくるからやめて欲しい。でも善意で起こしてくれる先生に対してやめてくださいとは言えないため、毎朝渋々ながら誘惑してくる眠気と戦っているのだ。

 

 そんな感じで頭が覚醒していない状態で会議を終え、俺が副担任をしている千歌たちの2年生教室へ向かう。一応家を出る前に目覚まし替わりの缶コーヒーを一気飲みしたのだが、結局目立った効果は現れず、ただ無駄に腹に溜まっただけでむしろ逆効果になってしまった。体調管理が上手くできないのはやはり学生と社会人の差なのか。俺、もしかしたら社会不適合者かもしれねぇ……。

 

 

 早朝特有のネガティブ思考になりながら廊下を歩いていると、後ろからドタドタと校則をガン無視する足音が聞こえてきた。俺ともなれば足音だけでその正体が誰なのか分かる――――というのは嘘で、この展開もほぼ毎朝のように起こっているからもはや生活音に近い。そして、この後に俺の目を覚まさせるほどの衝撃が訪れることももちろん知っていた。

 

 

「せんせぇ~!! おっはようございまーーーーすっ!!」

「あぁ、おは――――うぐぁっ!!」

「えへへ、今日は首に抱きついてみました♪」

「し、死ぬから!! 遺言がおはようだなんて未練にも程がある!!」

 

 

 いつもは朝練終わりの千歌が腰に抱きついて挨拶をしてくるのだが、今朝だけは違っていた。俺の首に巻きつくまでは最悪いいのだが、幾分背丈の差があるので彼女は俺にぶら下がる形となる。そうなれば俺の首は段々と締め付けられる訳で……。しかも勢いよく俺に飛びついてきたせいか、背中に胸が思いっきり当たっている。相変わらず女の子のおっぱいに弱い俺はそこで眠気から完全覚醒したのだが、今度は別の意味で眠ってしまいそうだった。

 

 

「苦しいから早く離れろ!!」

「もうっ、照れなくてもいいんですよ♪」

「お前本気で言ってんのか……!? 今時暴力系ヒロインなんて流行らないから」

「暴力系? ヒロイン……?」

「いや何でもない……」

 

 

 きょとんとした反応を見せるあたり、本当に無邪気なんだなコイツ……。まあそれだけ純粋な愛情を示してくれているんだから、それはそれで受け止めてやるべきなんだろうけど。それよりもさっき背中に当てられていた胸の感触で、昨晩果南にご奉仕された記憶を思い出してしまった。もしかして頼んだら千歌も()()()()()()()をやってくれるのだろうか。どちらかといえばロリに近い彼女が俺のモノを……。

 

 

「先生? あまりそのぉ、見つめられると恥ずかしいと言いますか……」

「あっ、悪い。別にそんなつもりじゃなかったんだけど」

「それはそれでなんか癪ですね……」

「じゃあどうすりゃいいんだよ!?」

 

 

 千歌も千歌で果南同様に面倒な性格をしている。言ってしまえば自分に目を向けてくれないと不満だってことね……。しかしAqoursの誰よりも表情変化が豊かで、機嫌が悪いとすぐ顔に出るのでそこは女心に鈍感な俺でも安心だ。

 

 

「罰として、また私の部屋に来てくださいね! お泊まりセット持参で!!」

「なんの罰だよ!? それに教師をそう安々と自室に誘うなって。JKだろお前……」

「JK以前に、1人の女の子ですから♪」

 

 

 とびきりの笑顔を向けられ思わずドキッとしてしまうが、もう何度も同じ光景を拝んでいるのに慣れることはない。いつ見ても彼女の笑顔は明るくて可愛くて、穂乃果とは違って幼さを持ち合わせているのでその無邪気さがまた堪らない。そんな幼気な女の子なのに身体付きはかなり扇情的で、制服を押し上げる胸は正面から見ても大きく強調されている。

 地方育ちだからかは知らないが、千歌だけでなくこの学院の子たちってみんな発育がいいんだよな。これが小さい頃から開放感あふれる自然に慣れ親しんだが故の魅惑的ボディなのか……。

 

 

 廊下の真ん中で千歌とじゃれていると、後ろから梨子と曜が遅れて俺たちの元へやって来た。朝練の汗をシャワーで洗い流した直後なのだろう、靡く髪の艶っぽさが朝日に照らされ際立っている。

 

 

「おはようございます!」

「おはようございます、先生」

「おはよう曜、梨子。とりあえずコイツを引き剥がしてくれ」

「えぇ~もう離れなきゃいけないんですかぁ~……。シャワーも浴びて身体も程よく暖まったから、このまま先生枕で寝ようと思ってたのにぃ~」

「お前な、まだ1時間目の授業も始まってないんだぞ。寝るの早すぎだから……」

 

 

 いつの間にか俺の正面に回り込んでいた千歌は、俺の胸に顔を埋めるように抱きついてくる。そして軽くあくびをしながら、胸板に頭を預けそのままぐっすりと――――って、コイツまさか!?!?

 

 

「お前本当に寝るなよ!!」

「相変わらず、千歌ちゃんの寝るスピードは世界一だね……」

「でもここで睡眠を取っておけば、千歌ちゃん授業中に寝なくなるかも」

「いや、コイツのことだから俺の身体に張り付いたまま一生ぐっすりの可能性も……」

「せんせぇ~……あったかい~」

 

 

 とうとう寝言まで言い始めたぞコイツ……。ここまで迅速に、そして立ったまま寝られるなんて、もしもの時にサバイバルしなければならなくなった場合にその能力は重宝しそうだ。まあそんな無駄スキルを身につけるよりも、素直に学業の成績を上げて欲しいものだが。

 

 

「それなら私も先生を枕にして寝ちゃおっかなぁ~♪」

「よ、曜ちゃんまで何言ってるの!?」

「失礼しま~す!」

「お、おい……」

 

 

 間髪入れず、今度は曜に後ろから抱きつかれる。俺の背中に犬のように頬を擦り付け気持ちよさそうにしているため、彼女もこのまま眠ってしまいそうだった。いつもはここまで甘えてくる子ではないのだが、雨の日のあの一件以降はそこそこ積極性が増しているような気がする。しかしあの一件のことは本人が恥ずかしいのか、あの日以降一度も話題に出たことはない。だがあの時に心の鎖が外れたのか、今までに見せていた恥じるという行為よりも千歌のようにまず行動してくることが多くなった。だから今の曜はその事実が如実に現れている。

 

 

「本当だ。先生の身体って暖かくてすぐに眠れそう……」

「人を安眠グッズみたいに言うなよ。ほら、もうすぐ朝礼始まるぞ」

「もう少し。もうちょっとだけですから」

「何その『先っちょだけだから』みたいな言い訳……」

「先生、いつでも煩悩全開ですね」

「すぐにいかがわしい妄想に結びつけるお前も大概だけどな」

「…………思春期の女の子なんてみんなこうですよ」

「とりあえず全世界の思春期女子に謝ろうな……」

 

 

 あの雨の日がいかにもな雰囲気を醸し出していたとはいえ、煩悩でないなら自ら進んで口で奉仕するなんて強引な行動に出るはずがない。本人はまだ気付いていないようだが、自身の振る舞いは着実に模倣してはならないμ'sメンバーを模している。それでこのようにスキンシップが増えるのなら、俺としても願ったり叶ったりだけどね。女の子にハグされるのは悪くないどころか、場所さえ弁えてくれればどんどんやってくれと思う。今みたいに廊下のド真ん中じゃなければな……。

 

 

「もう2人共、先生困ってるじゃない」

「梨子ちゃんも先生枕に抱きついてみなよ。心地よくてすぐ千歌ちゃんのようになっちゃうから♪」

「あのなぁ、梨子まで誘ってどうすんだよ。そもそも来る訳ねぇだろ……」

「でも2人が先生を前後で挟み込んでいて、私の場所がないから……」

「あれ? 来んの?」

「それじゃあ私が少し動いて――――はい、ここ空いたよ!」

「先生枕……千歌ちゃん、気持ちよさそうだもんね……」

「おい梨子? お~い!」

 

 

 梨子は曜が空けてくれた俺の抱きつくためのスペース(左脇腹あたり)を一点に見つめながら、瞬きもせずに考え込む。どうやらこのまま自分も抱きついていいのだろうか、3人同時に抱きついてしまったら誰がこの場を取り仕切るのか、そもそも俺に迷惑ではないかなど、真面目な彼女はそう考えているのだろう。

 しかし俺としては梨子のことだから、曜の抱きついて来いという提案なんて真っ向から拒否すると思っていた。だけど彼女は拒否するどころか、むしろハグする気満々のようである。そこに多少の葛藤はあるのだが、どうやら俺に嫌悪感を示していることはなさそうだ。それはそれで嬉しいんだけど、ただでさえサンドイッチになってるこの状況に梨子まで来たら……どうすりゃいい??

 

 

「先生!!」

「な、なんだ……?」

「今からやる行為は特別な意味がある訳ではありません。ただ千歌ちゃんも曜ちゃんがあっさりと虜になってしまった先生の身体なので、私としてもその危険性を暴くために抱きつかなければいけないと言うか……とにかく失礼します!!」

「うおっ!!」

 

 

 梨子は取って付けたような言い訳を垂れるが、結局のところ俺に抱きつきたかっただけらしい。その証拠に俺の身体に擦り寄ってきた瞬間に中々の力でハグをしてきた。抱きつく前とは違って既に千歌と曜が抱きついているからとか、俺の迷惑になるとかそんな遠慮は一切感じない。あっという間に俺の身体に取り憑かれたように、互の身体が溶接されているかのごとく引っ付いてくる。さっきまでの葛藤は一体どこへ行ったのか……。

 

 そして、遂にAqoursの2年生組全員に四方八方から囲まれた。千歌は寝てるし、曜は笑顔で気持ちよさそうにしているし、梨子は完全に俺の身体に顔を埋めて表情が見えないので、恐らく無我夢中になっているのだろう。どいつもコイツも離れる気は一切なく、俺がこうして佇んでいれば放課後、いや1日中ずっとこのままの状態でいるのも厭わないだろう。

 

 それにしても、いつの間にやら千歌たちにここまで好かれているとはなぁ……。確かにこれまで好感度アップイベントは多々あったけど、複数の女の子たちに同時に囲まれるルート選択をした覚えはあまりない。女の子に対してはみんな平等に接するのが己の信念なので、自分でも気付かない内に全員攻略ルートの道を歩み始めていたのかもしれない。ギャルゲーなら苦難の道orバッドエンドルートなのだが、この華やかな光景を見てもらえればそんな危険など微塵も感じることがないと分かってもらえるだろう。

 

 前からはちょっと幼気な無邪気な少女に、後ろからは陽気なスタイル抜群少女に、横からは清楚な淑女にそれぞれ抱きつかれ、何物にも変え難い至福を覚える。単純に思えるかもしれないが、やはり俺はたくさんの女の子に囲まれる生活が大好きなのだ。歩けば女の子たちが振り向いて好意を向けてくれる、そんな日常に喜びを感じるのが堪らなく気持ちいい。そして女の子側からこうしてスキンシップに来てくれる高揚感、千歌たちスクールアイドルを独占している満足感、その他表現してもしきれない感情が爆発しそうになっている。口では戸惑っている風を装っていたが、本心ではバッチ来いだった訳だ。まあいきなり3人連続で抱きつかれて焦っていたのは確かだけど、それ以上に浮き足立っていた。

 

 やがてぐっすりと眠っている千歌が段々と俺の身体からずり落ちそうになったので身体を受け止めてやると、無意識なのにも関わらず今度は俺の腕に絡みついてきた。にへら顔でヨダレを垂らしながら、朝練疲れのせいなのかぐっすりと熟睡している。

 

 

「せんせぇ~」

「千歌ちゃん、先生のことがとっても大好きみたいですね♪」

「ただ寝てるだけだろ。どうしてそんなこと分かるんだ……?」

「いくら千歌ちゃんが社交的でコミュ力抜群だったとしても、異性に身体を預けて熟睡するなんて行動、普通すると思います?」

「そんなものなのか……」

 

 

 身近に穂乃果というコミュ力最大レベルで出会った男を勘違いさせるほどのスキンシップ達人がいるから、千歌の行為が特別なことだとは思わなかった。だが言われてみれば、教師云々以前に異性にここまでスキンシップを交わすことの方が異常だったりする。ということは千歌が俺に抱く好意は、自分が想像している以上に大きく膨れ上がっているのかもしれない。もうかなりの頻度で彼女からのアプローチを受けているが、それが更にパワーアップするってことか……。

 

 

「…………」

「梨子……? 抱きついてからずっと黙ってるけど、どうした?」

「へ? あっ、あれ? 私ってばどうして先生に……!?」

「俺の身体の心地よさに没頭してたのか?」

「き、気付きませんでした……。そうみたいですね……」

「梨子ちゃんもすっかり先生の虜だねぇ~♪」

「ち、違うのよこれは!! 催眠術の一貫か何かよ!!」

「人を歩く猥褻物みたいに言うんじゃねぇ……」

 

 

 身体に触れるだけで相手を催眠状態に陥らせるなんて、そんな体質だったら手っ取り早く世界中の美女美少女を俺のモノにしてるっつうの。それこそ例の淫乱鳥やブラコン妹に付けられた異名(汚名)を授かる時だ。しかし現役JKをここまで夢中にさせられるんだ、もしかしたら案外簡単に実現可能な夢なのかもしれない。

 

 そもそも催眠術といった脳内ピンク色の奴にしか到底出てこないであろう例えを放つあたり、梨子も曜と同じく段々ソッチ系に染まりつつあるようだ。元々レズの毛があったとはいえ、彼女曰く『女の子同士以外の薄い本もたまに読む』とのこと。つまり咄嗟に催眠術と言い訳したことを踏まえると、普段読んでいる本はかなりマニアックなプレイモノと見て間違いない。証拠はないので断定はできないが、彼女の部屋には俺の見つけた本以外の薄い本がまだ眠っていると睨んでいる。またいつか作曲に行くと偽って桜内家に突撃してやろうかな。もちろんアポなしで片付ける暇など与えずに……。

 

 

 俺としては何だかんだ言ってもう少しこのままでもいいのだが、遅れて教室に行けば同時に遅れてきた千歌たちと一緒にいた理由を他の子たちに説明しなければならない。この学院の女の子たちはみんな俺に夢中なため、ちょっとでも女絡みの下手な行動をするとしつこく尋問されてしまうはめになる。そうなると朝礼どころではないため、コイツらだけでも先に教室へ向かわせないと。

 

 

「ほら、もうすぐ朝礼だから早く教室に戻れ。いつでも……とは言わないけど、気が向いたらまた枕になってやるから」

「気が向いたらというのは、行けたら行くと同じくらいに信憑性のない言葉ですよ?」

「曜……人の言葉をホイホイ信じる奴の方が愚かなんだよ。まずは何でも疑え」

「意外と小さい人間だったんですね。まあ大きいところもありますけど……」

「大きいところって?」

「な、なんでもないから梨子ちゃん!! 変に追求しないでね??」

「えっ、う、うん……」

 

 

 曜はわなわなと震えながら梨子に弁解をするが、梨子自身は何故曜がここまでビビっているのか分からないみたいだ。ちなみに俺はなんとなく予想がつく。男に対して『大きいところ』で表現される身体の部分はただ1つ。しかも彼女は雨の日の一件で――――ここまで言えば察しは付くだろう。曜の反応を見るに故意に言ったというより無意識に口から漏れ出したと思われるので、それだけ脳内が桃色に侵食されているということだ。その現象を本人が気付いてないってのが一番危険なんだけども……。

 

 

 先程のほのぼのとした雰囲気とは対照的に微妙な空気になってしまったが、そのおかげで曜も梨子も気分が落ち着いたらしく、俺の身体から自然と腕が離れていた。いくら気温の低い朝だと言っても今は夏、抱きついて汗をかいたら何のために練習後にシャワーを浴びたか分からなくなる。それなのにも関わらず俺の身体を枕にして、しかも直立不動でぐっすり寝てる奴もいる訳だが。

 

 

「千歌ちゃ~ん。そろそろ起きなよ」

「う~ん……先生ってば、そんなところに手を突っ込んじゃダメですよぉ~」

「ち、千歌ちゃん!?」

「どんな夢見てんだコイツ……」

「千歌ちゃん起きて! 千歌ちゃんってば!!」

 

 

 千歌の寝言を聞いた瞬間、梨子も曜も顔を真っ赤にして彼女を叩き起こそうとする。千歌の見ている夢の内容は知らないが、梨子と曜が想像していることは大体予想がつく。全くどいつもコイツも、最近何気ない日常の端々に痴女っぽい片鱗が見え隠れするようになってるぞ……。これが思春期女子特有の仕草なのか、それともコイツらだからなのか検討は付かないが、これだから女子高のJKってのは貞操観念が低いとか言われるんだよ。特に浦の星の女の子たちは色んな意味で積極的で、将来汚い男に引っかからないか不安でもある。だったら他の男に目が移らないように自分が手を出しておくという選択肢もあるが、そんな暴挙に出られるのなら今頃俺はこの学院の支配者になってるよ。

 

 

「ふぇ? あ、あれ? もう朝……?」

「やっと起きたのか。朝と言えば朝だけど、もうすぐ朝礼だから」

「どうして先生が……? そういえばさっきヘビの入ってる箱に手を突っ込んでたような……」

「なるほど、お前が見てた夢はそれか。ん? と、言うことは……」

「…………」

「…………」

 

 

 今にも沸騰死しそうになっている梨子と曜。自分たちの勝手な勘違いで、何やら卑猥な妄想をしていたのが超ド級に恥ずかしかったのだろう。そんな2人を見ていると、相対的に千歌の子供っぽい純粋さがより際立って見える。2年生全員が脳内お花畑とか手が付けられないから、千歌くらいはいつまでもその無邪気さを保って欲しいものだ。もちろんちょっと大人に背が伸び始めた今の梨子も曜にも別の意味で期待してるけどね。

 

 

「うわぁ!? せ、先生?? どうして抱きついているんですか!?」

「抱きついてるのはお前の方だから。たった数分しか寝てねぇのにどこまで記憶飛んでんだよ……」

「抱きついてる……わっ! どうして私……あっ、でも先生暖かくて、枕にちょうどいいかも……」

「こらこらさっき起きたばかりだろ寝るな!! それにどうして抱きついてくるんだ!!」

「だって先生のこと好きなんですもん!!」

「そ、それは嬉しいけどさぁ……」

 

 

 千歌は眠気+やけくそ気味のせいか、ドストレートな告白をしたことにすら気付いていない。しかし裏を返せば、ナチュラルに告白できるほど俺のことが好きだってことだと解釈できるから嬉しいんだけどね。コイツが後でこのことを思い出したら悶え苦しむだろうなぁ。

 

 そしてまた眠気に誘われる千歌をよそに、梨子と曜がむっとした顔でこちらを眺めていることに気が付いた。

 

 

「わ、私も先生のこと……け、結構好きですよ?」

「私だって! 2人であんなことをした関係なんですから……」

 

 

 2人は俺から目を逸らながら言葉を濁して、告白紛いな告白を小さな声で呟く。千歌とは違ってイマイチ素直になれない梨子と曜ならではの告白だが、それはそれでウブな心が浮き彫りになっていて微笑ましい。さっきは桃色の妄想が全開だった2人だが、このようにお手本のような恋する乙女の姿を見せられると一概に淫乱色に染まっているとは言い難いのかも。そう考えるといつも可愛い子たちが更に愛おしく思えてきた。ぎこちないなりにも好意を示してくれた訳だし、こっちもそれなりにぎこちなく答えてやろう。

 

 

「俺も好きだよ。梨子のことも、曜のことも」

「「~~~~ッッ!?!?」」

 

 

 梨子と曜の顔色が真っ赤に燃え上がり、気が動転しているのか目の焦点も合っていない。俺も千歌と同様に何気なく自分の気持ちを吐露しただけなのに、相手に与えたダメージが案外大きくて自分自身でもビックリする。ジャブ程度でこの威力なんだったら、もしガチ告白をしたらこの2人気絶してしまうんじゃないか?

 

 

「あぁっ!? もう朝礼まで1分しかない!! 行こ梨子ちゃん!!」

「う、うんっ!! それじゃあ先生、また後でお会いしましょう!!」

「お、おいっ! 行くならコイツも連れてけ――――って、走るの早すぎだろアイツら……」

 

 

 梨子と曜は人間の速度を超越したスピードで教室へと戻っていった。未だに俺に抱きつきながらウトウトしている千歌を放置して……。

 

 しかし千歌とも梨子とも曜とも最初は最悪の出会いだったのに、よくここまでの関係を築き上げられたものだ。梨子なんて会うたびに悪態を付けられ虐げられてきたから、軽い告白だけであそこまで顔を赤くするなんてまるで別人のようだ。そう思えば、今こうして俺に抱きついている千歌は俺がバスの中で痴漢してしまった相手なんだよな。どうしてここまで懐かれたのやら。

 

 

「せんせぇ~。朝練で疲れたからお腹空いたぁ~」

「…………知るか」

「いたっ!! どうしてチョップするんですかぁ~!!」

「じゃあ俺は先に行くからな」

「え、待ってくださいよぉ!! えいっ!!」

「うおっ!? だから、どうしていちいち抱きつくんだよ!?!?」

「だから好きなんですよ、先生のこと♪」

 

 

 またしても俺の首に絡みついてきた千歌だが、みんなの初々しい姿を見られてほっこりしたので今だけは許してやるか。下手に注意をして彼女からのスキンシップが減ってしまったら元も子もないしな。まあそんなことでアプローチをやめる千歌ではないだろうが、女の子の好意に甘えるのもまた俺の風情でもある。たくさんの女の子に好意を向けられて、ハーレム感覚で順風満帆に生活するってよくない?

 

 

「ほら先生、早く歩かないと朝礼に遅れちゃいますよ!」

「う、ぐっ……」

 

 

 でも抱きつく力が強すぎて、首が締まっちゃうのだけはキツいっす!!

 




 ここでAqours編の1話と2話を読み返してみましょう。千歌たちのデレ度が半端ないほど変わってることにお気づきのはずです(笑)
μ's編の恋愛とは違ってAqours編はシリアスな回が少ないので、女の子の心が傾く描写がほとんどないのが現状です。その代わり新章に突入してからの曜や果南回のように、少々淫らな描写を含めながらちょっとでも彼女たちの内心を描けたらいいなぁと思っています。

 今回のサブタイに2年生編と記されている通り、近々1年生編と3年生編も執筆します。大人数のハーレムとなると、必然的に話数を分けなければならないのが面倒なところです(笑)


 次回はAqours屈指の純情ガールの花丸回です!



新たに☆10評価をくださった

山吹珊瑚さん、TENGA教徒さん、穂乃果ちゃん推しさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

純粋な文学彼女の育て方

 今回は花丸回です! サブタイは今期のアニメから。
 そして"純粋"の本当の意味を知ることになるかも……?


 小学校でも中学校でも高校でも、それに大学でも3年間ないし4年間で行ったことのない場所が1つくらいはあるはずだ。関係者以外立ち入り禁止の場所は論外として、生徒が踏み入ることのできる場所なのに行ったことのない場所は、思い出してもらえれば誰しもが浮かんでくると思う。別にわざわざ学校の全てを訪れなければならないというミッションを課せられている訳ではないので、行く必要がないから行かない、大体がこの理由だろう。

 

 そんな俺も浦の星に来てもう2週間以上経っているが、未だに訪れていない教室なんてたくさんある。むしろ入ったことのない場所の方が多いんじゃないかってくらいだ。そもそも2週間という短い期間もそうだし、教育実習と言えども正式な教師じゃないのであまり学院内をウロウロとできないのも理由の1つである。

 

 そして、俺の目の前に佇む扉。学校にある特別教室を挙げろと言われたら、まず真っ先に挙がるであろう教室の前に俺は来ていた。よほどド田舎の学校でない限り、そしてよほど本に興味がない限り誰もが1度は訪れるだろう教室に――――

 

 

「そういや来たことなかったな、ここ」

 

 

 図書室。本に興味がなくとも、暇な時にふらっと立ち寄る人は多いのではないだろうか。そういう意味でも教育実習に来てから2週間以上も図書室前を素通りするだけで、中へ入ろうとも思わなかった俺が異常なのかも。さっきも言ったけど、特別用事がなければ来ることもない場所だしな。

 

 扉を開けて中へ入ると、鼻に図書室特有の本の香りが舞い込んできた。この香りが好きだって人もいるけど、中にはこの本の匂いに酔う人もいるらしい。背の高い本棚に敷き詰められた本を見て酔う人もいるので、人によっては近寄りがたい教室なのかもしれない。かく言う俺は主に薄い本で本の匂い(ほとんどは印刷の匂いだが)に慣れているので、今更こんな匂いごときでは寄ったりしない。それに長年秋葉のクスリで変な匂いをたくさん嗅がされているため、日常生活に漂う匂いにもはや何も感じなくなっているまである。

 

 

 図書室にあまり人はいない。放課後だからほとんどの生徒は部活をしているか帰宅しているかのどちらかで、テスト前でもないので勉強している子もいない。

 そんな閑静な図書室の奥へ行くと、俺の良く知った女の子が椅子に座って本を読んでいるところに出くわした。鮮やかな茶髪に小柄な身体。見るだけで思わず抱きしめたくなるようなその少女は――――

 

 

「よっ、花丸」

「あっ、先生。こんにちは♪」

「あ、あぁ……」

 

 

 唐突に明るい笑顔で挨拶され、相変わらず女の子の笑顔に激弱な俺は思いがけない精神的ダメージを負う。千歌以上に幼気を感じる花丸の笑顔は、まるで幼稚園児に無垢な笑顔を向けられている感覚と同じだ。見てるだけでほっこりするし、いつもは女の子を見ると抱いてしまう邪な気持ちも一滴残らず浄化される。Aqoursのメンバーが徐々に淫猥属性を会得している中、彼女こそが良心の1人なんだ。

 

 それにしても、彼女に明るい笑顔が似合うのは当然だが、こうして本を持って座っている姿もまた違った風情がある。緑が多い爽やかな自然の中にいる雰囲気で、そんな彼女と一緒にいると心が安らぐ。普段は活発だったり毒舌だったりとアグレッシブなところもある花丸だが、図書室で本を持っているだけでここまでムードが変わるものなんだな。図書室特有の本の香りや本棚の木の匂いも相まっているからだろう。こんなまったりとできる空間があるんだったら、教育実習のレポートを毎回ここで書けばよかったよ……。

 

 

「先生が図書室に来るなんて珍しいですね」

「特に用事はないんだけどな。そういやここに来たことないなぁと思って、暇だったから立ち寄っただけだよ」

「なるほど……。それでどうですか、浦の星の図書館は? 東京の学校に比べれば小ぢんまりとしていると思いますが……」

「確かにそうだけど、俺はここみたいな古臭い図書室も好きだよ。特に昔ながらを感じさせるこの香りがね」

「古臭いって、それ褒め言葉ですか……?」

「あぁ、悪意1つもない渾身の褒め言葉だから」

「だったら"年季が入った"とか、"古刹(こさつ)のような"とか、もっと前進思考を持って欲しいずら」

「それは申し訳なかったけど、難しい言葉知ってんだなお前……」

 

 

 流石文学少女と言うべきか、俺のマイナス思考の言葉を一瞬でプラス思考で同じ意味の言葉に変えやがった。いつもはのほほんとしていているイメージのある彼女だが、この頭の回転の早さを見るに学業の成績がいいのは納得できる。以前に彼女の苦手な数学をマンツーマンで教えたことがあったが、その時も俺の教えた知識をみるみる吸収していたので目で見て分かる賢さが伺えた。まあことりや花陽もぽわぽわしてるけど普通に賢いし、やはり人は見た目だけでは判別できねぇな。

 

 

「そういや邪魔しちゃって悪い。本読んでたんだろ?」

「そうですけど、先生とお話するのも大好きなので構いません」

「そっか。じゃあ隣に座ってもいいか?」

「はい、どうぞ!」

 

 

 すると花丸は立ち上がって、俺の座る椅子を丁寧に引いてくれた。こういった何気ない気遣いをされるだけでもドキッとしちゃうんだよなぁ俺。また話題に挙げるが、ことりや花陽も俺が部室に来たら頼んでもないのにお茶を入れたり肩を揉んでくれたりするから、おっとり系と一緒にいると落ち着くと言われる所以がよく分かる。性格に難のある奴もいるが、それを差し引いても献身的になってくれるのは嬉しいことだ。

 

 俺は花丸が快く引いてくれた椅子に座る。その時、彼女が読んでいた本の表紙に目が行った。

 

 

「それって小説か? どこかで見たことがある気がするんだけどなぁ……」

「最近ニュースでも話題になってる小説です。知りませんか?」

「あぁっ! 思い出した思い出した! 花丸は小説が好きなのか?」

「小説は好きですが、それ以外もたくさん読みますよ。文学だったりミステリーだったり、エッセイだったり評論だったり」

 

 

 俺は本を読むこと自体は嫌いではないが、数百ページもある本を何日もかけて読むという行為が途中で飽きてしまう人間だ。だから小説にしても何にしても、挫折してしまうのなら読まないと自分で決めてしまっている。だから読書好きでよくいる『1年で300冊は読んでいます』みたいな自慢話を聞くと素直に感心してしまうのだ。好きなことだからそれだけ集中できるってことなのかねぇ……。まあ俺も女の子と戯れることは1年中飽きないから同じことだろう。

 

 

「先生は本を読まないんですか?」

「えっ……? ま、まぁ読むっちゃ読むんだけど、見てるだけと言うか……」

「読むのではなくて見てるということは、速読とかするタイプですか?」

「う、うん……」

 

 

 唯一読むのが薄い本とかエロい漫画だとは言えねぇよなぁ……特に純粋無垢な花丸には。結局薄い本も漫画みたいなものだから、読むというより見ると言った方が自然だ。しかもエロ漫画なんて絵を見て愉しむものに加え、同じ本を何度も見返せば展開が分かりきって文字すら読まなくなるからな……。もう本を読むという行為を侮辱するかってくらい脳死しながら漫画を見ているのが俺である。

 

 そして、ここで俺は1つ思った。花丸は()()()()()本を読むことはないのだろうか? エロ漫画や同人誌ではなく、R指定シーンが含まれる小説をだ。純粋無垢な彼女にそんな背徳的妄想をするのがそもそも犯罪なのだが、さっきも言った通り人は見た目だけでは判別できない。だから裏ではしっぽりとヤっているむっつりスケベ説も考えられるのだ。こんな幼い顔をして実はこっそり自分磨きをしていると思うと……うん、余計に真実を追求したくなってきた。やはり純白な少女を汚してみたいこのサディスティックな気持ちは、いつになっても抑えられないようだ。

 

 流石にストレートに聞くのは純粋な少女に対する俺の良心が痛むので、さりげなく遠まわしに聞いてみることにしよう。

 

 

「なぁ、花丸」

「はい、なんでしょう?」

「お前ってその……他のジャンルは読まないのか?」

「他のジャンル……もしかして、エッチなモノですか?」

「そうそう、それそれ――――って、え゛っ!?!?」

「…………?」

 

 

 初っ端の質問だから、遠まわしにカーブを加えた変化球のつもりだった。だがまさか花丸の方からドストレートの直球をぶつけてくるとは思わず、こちらから困らせるつもりが逆に困惑させられてしまった。そんな俺とは対象的に、花丸はいつもながらのキョトンとした顔でこちらを見つめてくる。俺の構想では変化球の後のストレートで、コイツを羞恥に乱れた表情にするつもりだったのに……。つまりだ、花丸って案外こういうことに耐性がある子ってことかよ!!

 

 

「ど、どうして分かった……?」

「それはまあ、先生が考えそうなことですから」

「えぇ……。俺ってそんなに分かりやすいのか……」

「マルじゃなくても、Aqoursのみんななら全員すぐに分かると思うずら」

 

 

 そりゃそうだ。だってAqoursの中で一番純粋な花丸が悟ったんだ、他の奴らに分からないはずはないだろう。下手をしたら浦の星の女子生徒全員がそう答えられるかも……。

 

 

「まあ俺のことはいいや。話を戻すけど、そういった小説は読まないのか?」

「官能小説はあまり……。でも小説を読んでると稀にそんなシーンになったりもしますから、目に入っちゃうことはあります」

「へぇ~……。それで、そのシーンは読み飛ばすのか?」

「いえ。そんなシーンを含めても小説ですから、じっくりと情景を思い浮かべなら読みますよ」

 

 

 な、なんだコイツは!? ただただ純粋を極めているだけでなく、既に淫行シーンに対する耐性と精神が出来上がっているだと!? それかエロいことには一切の無関心なのか……。どちらにせよ、今まで俺が抱いていた彼女のイメージがいい意味で崩されった瞬間だった。逆に花丸は澄ました顔のままその表情が崩れることはない。こんなにロリ顔の少女なのに精神は屈強とか信じられるか……?

 

 

「あのさ花丸、そういうシーンを見て恥ずかしいとは思わないのか?」

「思いますよ、当然」

「えっ、一応ドキドキはしてんのね……」

「そうでなければ先生が犬になってマルの胸に飛び込んできた時、あんなに驚いたりしないずら」

「まあ確かに……」

「それに『先生=デリカシーのなさ』というのはマルの知識に辞書として埋め込まれていますから、先生がちょっとえっちな発言をしてももういちいち驚きません。でも犬事件の時みたいにあまりに突然だとビックリしちゃいますが……」

「教育されすぎだろお前……」

「授業でもそれ以外でも、全部先生のせいずら」

 

 

 以前に秋葉のクスリのせいで俺は犬となり、動物特有の発情期が加速して花丸やルビィを襲ったことがあった。確かに言われてみれば、その時の花丸はそこそこ驚いていた気がする。でも一緒にいた花陽や凛、ルビィに比べればそこまで取り乱すこともなく、平常運転だったと言っても相違ない。犬となった俺を嬉しそうに抱きしめていただけで、そのあとの騒動も一番冷静だったのはコイツだ。

 

 俺の妄想の花丸像はエロいシーンを見たら顔を赤らめて、日本語かも分からない可愛い呻き声で悶える姿だった。Aqoursの中でもウブな子筆頭みたいな雰囲気だったのに、まさかAqours最強の精神をお持ちになっていたとはな……。

 

 

「官能シーンを読んでも恥ずかしいと思わないくらい慣れているってことか」

「それは語弊があるずら。別に官能シーンに慣れているのではなく、そこまで興奮しないというか、もちろん思うところはあるんですけど……悶々とはしないということです」

「性欲真っ盛りな思春期の子が、濡れ場を想像しても真顔でいられるって相当だぞ」

「一応保険として言っておきますけど、恥ずかしくないことはないです。そうでも言っておかないと先生よからぬことを考えそうなので」

「そんなことは……ないだろ?」

「どうしてマルに聞き返したずら……?」

 

 

 今まで純粋と言えばエロいことに対してウブな反応を見せる子のことを指していたが、もしかしたらそれはただのむっつりスケベだったのかもしれない。本当の純粋な女の子というのは花丸のような子を指すのではないだろうか。性に対して無頓着で、さっきみたいにねちねち攻められても動じない精神こそ純粋な女の子と言えるのだろう。これは純粋の定義を今一度考え直さないといけないぞ。

 

 そして花丸によからぬことを考えているんじゃないかと疑われてしまったが、まさにドンピシャである。純粋の認識が改まった今、ここまで真っ白なキャンパスを掲げている女の子を見たら尚更彼女を穢したくなってきたんだ。キョトンとしながらもジト目でこちらを見つめる彼女を、羞恥に塗れた緩い表情に変貌させたい。そんなどうしようもない俺の性格が滾ってしまうのだ。

しかもここは物静かな図書室。校内のどこで女の子を襲いたいかランキングだったら上位クラスに入る場所。更に窓とカーテンの隙間から差し込む夕日。そんなエロゲを模倣したシーンに俺のようなオタク男子がテンション上がらない訳ないだろ!!

 

 

「なあ花丸、この図書室にそんな小説はないのか?」

「ここは学校の図書室ですよ? そんなモノある訳――――あっ」

「どうした?」

「もうここの本は結構読んだんですけど、確か奥の本棚にそんな雰囲気の本があったような……」

「なるほど……。それじゃあさ、その本のところに案内してくれよ。俺ってあまり本を読まないんだけど、濡れ場があるんだったら読んでみたいからさ」

「ふ~ん……。こっちです」

 

 

 一瞬考え込んでいたみたいだが、意外とあっさり案内してくれるようだ。おっとりしてそうでかなり鋭い感性を持つ彼女だから、俺の考えなんて全て読まれているのかと思っていた。下手に目力を持つ人間に睨まれるよりも、彼女にジト目で蔑まれる方が心臓に悪い。

 

 花丸はもうこの図書室の本の配置を覚えているのだろう、本棚に貼られたジャンル表を見ずに教室の奥へと歩いていく。俺は彼女の後ろを追いかけていくが、教室の奥に行けば行くほど外から照り指す夕日の量が減少していることに気が付いた。歩けば歩くほどどんどん暗くなる図書室にほぼ2人きりの状態。いかにも卑しいムードが満点で、あとはそれに伴う俺の行動でエロゲシーンが再現できる状態となっている。そんな雰囲気の中、目の前を無防備に歩く花丸の姿はまさにカモ。薄暗くなった図書室にJKが1人ノコノコやって来て、短いスカートをひらひら靡かせながら男の前を歩く。これをカモと言わずなんと言う。まあ、芸もなく後ろから襲うような能のない真似は絶対にしないが。

 

 

「あったここだ。多分この本棚のどこかにあるずら」

「そうか……」

 

 

 今は濡れ場満載の本よりも、お前にしか興味ないけどな!! と花丸に言ったら、間違いなくシラけて何も言わずこの場から去るだろう。思いつきとはいえ、立てた計略は結果を出すまで実行し続けるのが俺の信念。ここで逃がす訳にはいかない。

 

 ちなみに花丸が教えてくれた本は、本棚の最上部にあった。しかし彼女は同学年の女子と比べても背が極端に低いため、背伸びは愚か軽いジャンプでも本棚の最上部に手が届きそうにない。だからだろうか、花丸はこちらを振り向きあとは自分で本を取れと促してくる。状況的には本棚と俺の間に花丸がいるのだが、もしかして俺たちのこの配置……使えるかも?

 

 

「かなり上の方にあるんだな……。男の俺でも結構手を伸ばさないといけないし」

「せ、先生? ちょっと……」

「ん? どうした?」

「い、いえなんでも……」

 

 

 俺が本棚の上部に手を伸ばせば、俺と本棚に挟まれている花丸は当然サンドイッチされる状態となる。もちろん偶然ではなく、これこそが俺の狙いだ。濡れ場シーンを見てもあまり動じない彼女だけど、それはあくまで小説内での濡れ場だけだ。本当に純粋なんだったら、こうしてカッコいい男に近付かれただけでも赤面するに違いない。俺はそんな彼女の、真の意味でのウブさを見てみたいのだ。いきなりセクハラ入るのは愚の骨頂、生粋の純粋な少女相手ならまずは付き合いたての恋人のような行動を取ってみるのが一番だろう。エロいことをするのなら、じっくりと彼女を育ててからヤるのもまた一興だ。もちろん卑しい行為は大好物の俺だが、こういった愉しみ方もあるのだよ。

 

 俺が本を取ろうと身体を本棚に近づけて行くたびに、必然的に花丸は正面から俺に密着する形となる。彼女の身体が小さいゆえに、そこまで体格のいい俺でなくともあっさりと包み込むことができた。そのせいで花丸の表情は見られないが、果たして俺の陽動作戦は上手くいっているのだろうか。それともただ鬱陶しいと思っているのだろうか……。もしそうだとしたら、今日の夜は枕を涙で濡らしに濡らそう。嫌われたくなかったらやるなって話だけど、俺は好奇心を抑えられない童心なんでね。

 

 

 結局どの本を取っていいのか分からなかったので、適当な本を持って本棚から離れた。一歩、二歩と後ろに下がると、俺の身体にすっぽりと隠れていた花丸の姿が徐々に現れる。花丸は少し俯き、前髪で顔が隠れていてイマイチ表情が読めない。天使以上の温厚さを持つ彼女が怒ったりはしないだろうが、ここまで無反応だとそれはそれで怖くはある。かといってこちらから話しかけると彼女の自然な反応を見られなくなる可能性があるし……。

 

 

「先生……」

「な、なんだ……?」

「お目当ての本、見つかりましたか?」

「えっ、あぁ、うん……」

 

 

 まさかのスルー!?!? せっかく放課後の夕焼け図書室というエロゲー御用達のシチュエーションを味方に付けたっていうのに、これでも何も感じないっていうのかよコイツは!? 濡れ場シーンどころか思春期JKがドキドキするような状況なのに、反応するどころかスルーなんてむしろこっちが困惑しちまうよ!!

 

 

「それならよかったです」

「あ、あぁ。ありがとな」

「はい。それではマル、自主連に行くので今日はここで」

「そっか……また明日」

 

 

 結局のところ、花丸からのアクションは全くなかった。恋愛方面にしろエロ方面にしろ、彼女はその手の方向には鈍感なのかもしれない。ていうかそう考えなければ、この空回りが虚しく思えてしまうから……。

 

 

 本当の意味で純粋な子は、もしかしたら俺が一番手を出しにくい天敵かもしれない――――と、そう考えていた時だった。図書室を去ろうと俺に背を向けて歩いていた花丸が、突然こちらに振り返って小走りで戻ってきたのだ。相変わらず俯いたままで、何を考えているのかすらも分からない。そんな困惑に困惑を重ねる俺など知らず、花丸は目の前で立ち止まると、小さく腕を広げて――――

 

 

「えっ……」

 

 

 まず感じたのは謎の安心感だ。

 気付けば、小さな身体に抱きしめられていた。決して力強くはない、だけど花丸の意思が強く感じられるほどの暖かい抱擁だ。彼女の体型的に腰に腕を回され胸に顔を預けられている、ただそれだけだが、まるで全身が包み込まれるような感覚なのも彼女の優しい性格のおかげなのだろうか。ふんわりと抱きしめられる包容力によって、さっきまで積み重ねられていた困惑は全て吹き飛んでしまった。まさか年下の女の子にここまで安心させられるとは……。でもどうして彼女はいきなりこんなことを……?

 

 

「そ、それではこれで!!」

「お、おいっ!!」

 

 

 そして俺の身体から離れた花丸は、今度こそ振り返らず図書室なのに走ってこの場を去っていった。ここへ来てからというもの彼女の取り乱した様子は見られなかったが、この瞬間初めてその様子を捉えることができた。走り去る時の彼女の横顔が、完全に真っ赤だったからだ。やっぱり乙女な表情もできるじゃんと安心したのと同時に、1つの仮説が頭を過ぎった。

 

 もしかすると、さっきまでずっと照れ隠しだった……とか?

 その事実を決定付ける証拠はないのであくまで想像だが、本当に純粋なのかなアイツ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 その頃、花丸は図書室から離れた廊下で1人、息を切らしながら佇んでいた。

 心臓が激しく鼓動し、全身も熱が帯びている。いくら小説で濡れ場シーンを見ても感じることのなかったとある感情が、今まさに身体に体現化されていた。花丸は廊下の柱に寄りかかりながら、さっき起こった先生との出来事を思い出す。

 

 

「先生気付いてたのかな……先生が、先生が本を取ろうとして身体を伸ばした時、マルの胸が……当たってたこと」

 

 

 実は零が本棚から本を取り出そうとした時、彼の想像以上に身体が彼女の身体に密着していたのだ。彼自身は花丸の純粋度を確かめるために必死だったので、まさか彼女の豊満な胸が擦り付けられているとは思ってもいなかっただろう。しかし当たっていたと言っても軽く触れていた程度だったのだが、()()な花丸にとっては息切れするほどに衝撃的なことだった。

 

 

「恥ずかしさを知らないって……。知らなかったら初対面で押し倒された時、あんなに気持ちよくならなかったずら……」

 

 

 花丸は思い出す、先生と出会ったあの時のことを。善子のマントで足を滑らせた零が、自分と善子、ルビィ3人をまとめて廊下に押し倒したあの時を。胸に顔を埋められ、危うく出会い頭で顔ズリされそうになったことを。

 

 そして、彼のその行動に不覚にも少し興奮してしまったことも。

 

 今まで小説の中でしか読んだことのないシチュエーションを実際に体験して、ここまで気持ちが高ぶるとは花丸自身も思っていなかったのだ。

 

 

「こんなにドキドキするって、もしかして……」

 

 

 花丸は体勢を立て直すと、微妙にふらつきながらも教室へと戻る。

 未だに仮説を立てて悩む零とは違って、心の中に確固たる想いを秘めながら――――

 




 零君も言っていましたが、今まで"純粋"という言葉はエッチなことに対してウブな反応を見せる女の子に向けて使っていました。しかしよく考えてみれば、それはただのむっつりスケベでは……と思ったのが、今回の花丸回を執筆しようと思ったきっかけでもあります。
そのせいで曜や果南のような際どい描写はありませんでしたが、個人回がいつもあんな描写ばかりだとワンパターンですし、花丸はエロに対してガチ無頓着だと思ったのでそれを証明してみました(笑)

 まあ私のさじ加減で、いくら純粋な子だろうがどうにもこうにもできる訳ですが(笑)


 次回はAqours全員集合のテコ入れ水着回です!



 暇だったので、『新日常』の劇場版嘘予告作りました()

詳細は活動報告にて
 https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=147529&uid=81126


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

恋と青春のビーチサイド(前編)

 テコ入れ回。
 水着回になると女の子の水着の描写だけで文字数を奪われるので、必然的に前後編になってしまいます()


 青い海、白い砂浜!! 青い空、輝く太陽!!  どこを見渡しても綺麗な自然が広がり、これほどまでに海開きな日はないだろう。日光で大海原がうねり輝き、砂浜もダイヤモンドのように煌びやかに輝いている。かと言って肌の艶を脅かすような強烈な日差しではなく、程よい暖かさで潮の香りも優しく満ちて居心地がいい。やはり海をウリにしている地域だけのことはあり、ビーチパラソルの下で寝そべってぼぉ~っとしているだけでも日々の疲れが取れそうだ。

 

 ただでさえ毎日教育実習の名の元で正社員教師からこき使われてるっていうのに、Aqoursの面々の面倒まで見てやってるんだからたまにはバカンス気分に浸ってもいいだろう。それにもうあと1週間で教育実習も終わるから、この綺麗な海を堪能せずに去るのはいささか勿体無い。ここへ来てまだ2週間程度の俺だが、もうこの街は第二の故郷と言っていいほどたくさんの思い出がある。そんな思い出を飾ってくれたこの海に、俺から直々に出向いてやったんだ感謝してくれ。俺に褒められるって、女の子なら卒倒するほどなんだぞ??

 

 しかし、ここまで内浦の海を持ち上げたのにも関わらず、俺の視界に海など映っていなかった。

 それもそのはず、目の前には自然の神秘を遥かに凌ぐ光景が広がっているのだから。その肌色を眩しく輝かせ、水も滴るいい女神たちがな。

 

 

「曜ちゃんいっくよーーっ!!」

「ヨーソロー!!」

「それっ!!」

「ちょっ!? 千歌ちゃんビーチボール高く上げすぎ!!」

 

 

 海に足首を突っ込みながら、千歌と曜はビーチバレーを楽しんでいた。そして俺はそんな2人が水着ではしゃいでいる姿を嗜んでいる。

 千歌の水着は上下共に黄色を基調としている、良くも悪くもシンプルな水着だ。下手に背伸びをして着飾らないのが彼女の無垢さを表現しているが、高校2年生にしては成長し過ぎているふくよかな胸が無邪気な彼女にミスマッチで微かに扇情的だ。

 曜は水色の水着で、水泳で育まれたくびれのある綺麗なスタイルをこれでもかというくらいに主張させている。彼女の水着と言えばスクール水着のイメージなのだが、逆にスク水姿を見慣れているからこそ普通の水着の可愛さと露出する肌の張りが際立っていた。

 

 2人とも活発なタイプなので、ただのビーチバレーであっても激しく動き回る。そうなればもちろん水着がズレそうになるくらいに胸が揺れ、下の水着も徐々におしりに食い込んでいく。どうだ? 海なんかよりもよっぽどこっちの光景の方が神秘的だろ?

 

 

「せんせぇ~!! そんなところで寝てないで一緒に遊ぼうよ~!! 梨子ちゃんも~!!」

「呼ばれてるぞ、梨子」

「今は作曲のイメージを想像しているところなので遊べません。というより、今日はAqoursの練習や歌詞作りのための海合宿なんですよね? 遊んでいていいんですか?」

「いいんじゃねぇの。いつも座って唸りながら考えてるんだったら、たまには思いっきり羽を伸ばしてみた方がいつもとは違うインスピレーションが浮かぶかもしれないし」

「いや、千歌ちゃんの場合は大抵歌詞が完成しないからとみんなに泣きついたりしてますけど……」

「…………ちょっとでもアイツを擁護しようとした俺が馬鹿みたいじゃねぇか」

「一度先生から千歌ちゃんをビシッと叱って欲しいです」

 

 

 俺の左隣に座っている梨子は、そう言いながら溜息をつく。歌詞がなければ作曲のしようがないので、作曲家にとっては作詞家の怠慢がストレスの一番の原因だろう。こうして思い返してみると、海未と真姫の組み合わせって無難であり最高の組み合わせだったんじゃないか?

 

 ちなみに梨子の水着は薄いピンク色。中々背伸びをしていると思ったが、彼女の容姿は年相応にも見えるし高校生よりも上にも見えるので、そこまで気になることではない。それよりも、ナチュラルに俺の隣に座っていることの方が驚きだ。以前だったら自分の肌すらも俺に見られるのを嫌っていたはずなのになぁ。それに寝転がっているせいか、顔の横に彼女の生太ももがある光景が本当に気にかかって仕方がないんだが!!

 

 

「そういや、他のみんなは何やってんだろう」

「善子ちゃんとルビィちゃんは……もぐもぐ……あそこにいるずら……むぐむぐ」

「喋るか食うかどっちかにしような、花丸……」

「ふぁ~い……もぐもぐ」

 

 

 俺の右隣に座っている花丸は、のっぽパン袋を開けて美味しそうに貪り食っていた。食べながら喋っているせいでパンくずがポロポロと溢れているが、そんな意地汚い様子を見ていると以前に図書館で見た清楚な彼女が嘘のように思えてくる。濡れ場シーンなんかでは動じないエロ耐性がある純粋なコイツが、まさか幼稚園のガキみたいな食い方してるとは目を逸らしたくなっちまうぞ……。そんな子供っぽい姿も可愛いと言えば可愛いんだけどね。

 

 ちなみに彼女の水着は肌に合うベージュ色なのだが、お菓子を食う目的でここに来ているのか薄手の青いパーカーを着ているので魅力半減だ。せっかく海に来てるんだからもっと開放的になってもいいだろうよ。まあ俺が花丸のわがままボディを水着込みで見たいだけなのだが……。

 

 

「違うわよルビィ!! もっとこう、色気を出すポーズ取れないの!?」

「そ、そんなのルビィには無理だよぉ……!!」

「あなたはヨハネのリトルデーモンなのよ!? このヨハネの大いなる力を授かってるんだから、不可能なんて何もないの!!」

「いつもその常套句でルビィを言いくるめようとしてるよね!?」

「さぁルビィ、もっと扇情的になりなさい!!! 幼気なあなたのエロスを地球人たちに見せつけ魅了して、ゆくゆくは全員ヨハネの眷属に洗脳するの!!」

「もう意味分からないよぉ……」

 

「なにやってんだアイツら……」

 

 

 善子はノートパソコンのキーボードを鳴らし、ルビィは善子の命令のアダルティックさにビクビクしている謎の光景が広がっていた。そして段々と善子の目が血走り、キーボードを高速で打ち鳴らしている。

 

 2人の水着は善子が紺色、ルビィが桃色基調の赤色だ。どちらも物凄くスタイルがいい訳ではないのだが、ここ数ヶ月間のスクールアイドル活動は伊達ではなく、普通のJKに比べれば程よく身体が引き締まっている。他のメンバーと比べれば小柄ながらも、男の目を惹きつける身体になったのも俺の指導の賜物だろう。

 

 

「おーい善子! スクールアイドルにあるまじき形相になってるぞ!」

「善子っていうなヨハネよ!! それに今小説書いてるから邪魔しないで!!」

「いつから作家になったんだお前……」

「リトルデーモンの黒澤ルビィは主であるヨハネから力を授かり、人間を魅了して自分と同じ眷属に洗脳するための作戦を企てるの。でも逆に人間に囚われてしまい、堕天使の謎を調べる調査団によって身体の隅々まで調べられちゃう! ルビィはたかが人間ごときの手に屈するはずがないと抵抗するんだけど、調査団の男たちはかなりのヤり手で、ルビィの身体は意思に反してどんどん気持ちよくなっていき――――」

「待って待って!! ルビィそんなヒドイことされちゃうの!?!? 登場人物のモデルになるだけだよね!? 実際にルビィの名前は使わないよね!?」

 

 

 もう同人誌御用達の王道エロ展開じゃねぇか……。しかもその展開が女子高校生でかつまだ1年の善子が妄想してるんだから世も末だ。まあ堕天使云々の中二病丸出しの小説よりかは、王道エロ展開のある小説の方が遥かに読んでもらいやすいが。偏見かもしれないけど、そのような小説を読む人って程度の違いはあれどみんな変態だから。

 

 

「全く皆さん遊んでばかり……。正直、大体は予想できていましたけど」

「まあまあダイヤ。最近かなり練習も煮詰めてたからたまにはいいんじゃない? 新曲作りという合宿の目的さえ見失わなければね」

「そう言いますけど果南さん、あなたもダイビングスーツを持って一体何をしようとしているんです?」

「海を目の前にしたら、ダイバーの血が騒いでならないからね。それじゃあちょっと泳いでくる!」

「あっ、果南さん!! 全くあの深海魚は……」

 

 

 何気なくボソッと聞こえたその呟きが一番怖いんだけど!? でもAqoursの真面目ちゃん代表である果南までもが遊びに走ったら、ダイヤの頭が痛くなるのも分からなくはない。だって最年長である3年生のもう1人の性格があんなのだからなぁ……。

 

 ダイヤの水着は純粋な黒髪とは対称的に、清純さを感じさせるくらいに真っ白だ。よく観察しなければ肌の白さと水着の白さが同化しているように思え、全裸に見えなくもないという錯覚を引き起こされる。スタイルは決して凹凸があるとは言えないが、その身体の細さは女性にとっては憧れの的だろう。

 

 もう既に海へ飛び込んでしまったが、果南の水着は海そのものを表しているかのような青色だった。彼女も曜と同じ普段はダイビングスーツ姿が基本なので、あまり肌の露出を見ることはない。だからこそ水着だけでは隠せない横乳やおしり肉など付いているところは肉厚に、逆に肉が不要な部分は引き締まっているスタイルの良さが如実に現れていた。

 

 

 それにしても、みんないい身体してるよなぁ。俺が目を付けた女の子たちのスタイルがいいのか、それとも俺が目を付けているからこそみんなのスタイルが良くなっているのか。前者なら俺の目に狂いがなく、後者なら俺のためにカラダ作りをしてくれる女の子たちご苦労さんだ。

 

 しかしどちらにせよ、女の子たちの身体をここまで合法的に見られるのも顧問という立ち位置のおかげだろう。卑しい胸の谷間、背中の滑らかなライン、蠱惑的な脇腹、お腹の柔らかな肉付き、艶のある太もも、ふくらはぎの質感――――どれもこれも水着という解放的な姿でないと見られないものばかりだ。しかも水着の防御壁があるのおかげか、みんなは誰も恥ずかしがって肌を見せまいとはしていない。それは俺に己の身体を見せつけているということ、つまりいくら女の子の肌を見ても後ろめたい気持ちは一切感じない訳だ。だって向こうから見せつけてくるんだから、見ちゃうのは仕方ないじゃん?

 

 

 腰を上げて座りながらそんな楽園を視姦していると、不意に後ろから怪しげな気配を感じた。

 振り向こうとしたその時、既に目の前に2つの肉丘――――もとい、おっぱいが広がっていた。俺の顔はそのおっぱいに包み込まれるように抱きしめられる。

 

 

「先生ってば、さっきからどこ見てるのぉ♪」

「うっ、がぁっ!! ま、鞠莉か!?」

「That's right! 女の子をおっぱいで判別できるなんて、先生ってばえっち~♪」

「違う!! Aqoursの中でこんなイタズラをするのはお前くらいだからだよ!!」

「Wow! そこまで私のことを分かってくれているなんて、ちょっと感激!」

「うぐっ!! んっ、ぐぐ……!!」

 

 

 鞠莉は自身の象徴の1つである自慢の巨乳を駆使して、俺の顔面をおっぱいで圧迫しやがる。ただおっぱいに顔を埋めるなら今まで幾度となく経験してきたのでそこまで取り乱すことではないが、問題なのは体勢だ。鞠莉は右腕を俺の頭に、左腕を背中に回し、暴れないように自分の脚で俺の脚をガッチリと固定している。そのせいでいくら女の子が相手だからと言っても、ここまでしっかりと締め付けられたら力を入れたところでまともに抵抗すらできない。しかも彼女の胸が柔らかすぎて、その感触が押し付けられる度に力が抜けるのでなおさらだ。

 

 

「ちょ、ちょっと鞠莉さん!? 先生困ってますけど……」

「大丈夫よ梨子。先生はこうしてあげればあげるほど、赤ちゃんみたいにもがいて喜ぶんだから♪」

「間違ってないけど、う、ぐっ……!!」

「ん~? 何言ってるのか分からないよ、先生♪」

「それはお前が勝手に……ぐぐっ! は、花丸助けてくれ!!」

「鞠莉さんも先生も大胆ずら……もぐもぐ」

「使えねぇ!!」

 

 

 隣で逆レイプ一歩手前の騒ぎが起こってるにも関わらず、花丸は持ち前の無頓着さを発揮してこちらに干渉しようとしない。鞠莉に襲われているせいでラブコメ御用達の現場と、美少女がほのぼのとお菓子を食べている現場の2つにくっきりと分かれている。同じビーチパラソルの下なのにここまで世界観が違うとか何事だよ……。

 

 

「つうか、どうしてこんなことをするんだ!?」

「どうしてって、先生があまりに無防備だったから襲っちゃった♪」

「理由が通り魔そのものじゃねぇか!?」

「だって先に『襲うよ』と宣告する通り魔はいないでしょ? つまりそういうことよ!」

「襲う宣言をしようがしまいが関係ないってこと分かってるよな!?」

 

 

 コイツが本当に無防備な俺を見て襲うと決めたのなら、将来は通り魔か痴漢魔になった方がAV業界の足しになるかもしれないぞ。どうやらAVは8割はヤラセらしいから、残る少数派に貢献できるかもな。

 

 そんな冗談はさておき、鞠莉の水着は紫を基調にしたマイクロではないけどマイクロに近いビキニだ。胸の露出も多いせいで、なおさら俺の顔は彼女の胸の弾力を浴びることとなる。流石Aqoursナンバー1のボリュームを誇る胸。他のメンバーの胸にも多少触れたことはあるものの、質感も触感も鞠莉のものが随一だ。

 

 

「鞠莉さん……。今回の合宿は新曲のアイデア出しのためなので、遊ぶ暇はないと伝えておきましたわよね……?」

「もう、ダイヤってば名前の通り頭が硬いんだから。頭も硬ければ心も頑固だし、乳首も硬いしで名前通りダイヤモンドみたい」

「今なんと仰いました……? 聞き捨てならないセリフが聞こえたような気がしたのですが……」

 

 

 ちょっとさっきの事実をもう一度言ってくれ! そしてその事実について詳しくねっとりと検証したいんだけど……無理ですかそうですか。どうして鞠莉がそんなことを知っているのかは分からないが、女の子同士って意外と胸を揉み合ったりしてるらしいから不自然ではないと言えば不自然ではない。特に鞠莉はイタズラでダイヤや果南の胸を触る時があるから、その2人の生態については俺よりもよく知っているだろう。羨ましい!!

 

 

「あれぇ~先生? ダイヤのどこを想像してるのかなぁ~?」

「な゛っ!?!? きょ、教師のくせに破廉恥ですわよ先生!!」

「どうしてそうなる!? とりあえず何でも俺に責任を押し付けておけばいい風潮やめろ!!」

「なんだ先生分かってるじゃない♪ 自分が女の子の怒りの捌け口だって」

「ドMかよ……。もうこの際自分が変態だってことは認めるけど、至ってノーマルだからな俺!!」

 

 

 勘違いされそうだから主張しておく。俺は今まで色々な趣味趣向をここで語ってきたが、それは一般男子なら誰もが抱く性癖であり、これまで曝け出してきた性癖の中で偏ったモノはほんの一握り、もしくは0のはずだ。だから俺は高らかに宣言をする。変態だが至極ノーマルな性癖の持ち主だと。

 

 

「なぁ鞠莉、そろそろ離してくれねぇか? その……さ、胸圧が半端なくてそろそろどっぷり浸かっちゃいそうだから」

「そうですわよ! 先生困っているではありませんか!!」

「仕方ない。嫉妬するダイヤは怖いからねぇ~」

「し、嫉妬ってどういうことですの!?」

「えっ、違うの? 自分の胸じゃ先生にこんなことはできないから、私に嫉妬してるのかと思ったよ」

「な゛っ……そ、そんなことありませんから!! 先生もこんな肉の塊に粘着してないで、早く離れてください!!」

「頑固汚れみたいに言ってやるなよ……。それに抜け出せるのならとっくに抜け出してるよ」

 

 

 未だに雁字搦(がんじがら)めの体勢で鞠莉にホールドされている俺だが、傍から見たらJKに組み伏せられる二十歳超えの男というなんとも情けない構図が広がっている。まあ俺の心もこのまま鞠莉のおっぱいを堪能したいというワガママな欲求が多少なりともあるので、100%の力で抵抗できないというのが本音だが。

 

 

「先生やっぱり……もぐもぐ……ちょっと嬉しそうな顔してるずら……もぐもぐ」

「余計なこと言わなくてもいいから!! 食うか喋るかどっちかにしような!?」

「あながち間違ってもないですよ。さっきから叫んでいる内容とは裏腹に、声は嬉しそうですもん」

「梨子……お前も敵だったのか??」

「敵というか、そもそも味方になった覚えがないんですが」

「協定を忘れたのか!? このレ――――」

 

 

 その瞬間、梨子からお仕置きを兼ねたビンタが頬に炸裂した。テレビでビンタ音のSEに使えるくらいの決まり手であり、まさにお手本のようなビンタで痛みよりもそっちに感動してしまうくらいだ。あまりにも綺麗な音だったから、鞠莉もダイヤも、横でお菓子を貪り食っていた花丸すらもポカーンとしていた。

 ちなみにビンタされた理由はお察しのこと。決して口外してはならない彼女の趣味を思わず叫びそうになったからだ。これは味方だと思われなくても仕方ねぇわ……。

 

 

「梨子さん、あなた……結構大胆ですのね」

「でも顔赤くなってるずら」

「よ、余計な詮索はしなくてもいいですから!! 私のことは忘れて先生で遊んでいてください!!」

「おい俺を売るな!!」

 

 

 ここで梨子の趣味バラシをしたらそれはそれで面白く、俺も鞠莉に弄ばれるスパイラルから抜け出せるかもしれない。だがそうしてしまうとここまで良好に築いてきた梨子との関係からも脱却してしまうかもしれないので、ここはグッと我慢だ。つうか、全然離してくれねぇなコイツ……。

 

 

「あ゛ぁああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

「こ、今度は何だよ!?」

 

 

 一難去ってまた一難なのか、さっきまで離れたところで曜とビーチバレーをしていた千歌の叫び声が聞こえて来る。声のする方に頭を向けると、千歌と曜がいつの間にか近くにまでやって来て、ビーチパラソルの下にいる俺たちを覗いていた。

 

 

「鞠莉ちゃんズルい!! 私も先生を抱っこしてあげたいのに!!」

「おい、子供のおもちゃじゃねぇんだぞ俺は……」

「でもそんな感じがするよね、曜ちゃん?」

「うん。さっきからバタバタ騒いで、駄々っ子の子供みたいで可愛かったですよ!」

「ビーチバレーをしていたんじゃないのか……」

「それ以上に先生に夢中ですから♪」

「そ、そうか……」

 

 

 唐突にそういうことを言うのはやめてくれ、マジでドキッとするからさぁ……。しかし心を乱しているのは俺だけで、千歌は特に何とも思ってないだろう。もう自然と口からそのような言葉が漏れ出すあたり、俺への好意が高いってことだから嬉しくはある。

 

 ここでまた俺たちから離れたところから、R-18小説のロケハンをしていて今回の合宿の目的を完全に見失っている2人の声が聞こえてくる。

 

 

「ほらルビィ、みんなみたいに先生に抱きつきなさい!! 男に抱かれているアンタのリアルな表情を見れば、絶対に筆も進むから!!」

「そんなの無理だよぉ!! 先生であっても男の人なんて……!!」

「安心しなさい。先生に抱きしめられると心も身体もポカポカして、家族でも友達でも感じられないどこか不思議な感情が湧き上がってくるから」

「詳しいね善子ちゃん。もしかして先生に――――」

「あっ……あ゛ぁああああああああああああああ今のなし!! 先生なんかに身体を許す訳ないでしょ!!」

「その表現、ちょっと危ないよ……」

 

 

 エロ小説なんて書こうとしているから、日常会話でもそんなフレーズが出てくるんだよ……。

 それにしても、善子の身体も俺に負けずとも劣らず暖かかった記憶がある。そういや彼女の不幸体質改善作戦以降、目立った不幸話を聞かないので少しは効き目があったのだろうか。もしそうだとしても俺のハグのおかげかは分からないが、照れ隠しをするってことは何かしらの影響を彼女に与えたと思う。

 

 

「こうなったらみんなも先生をお人形さんのように抱きしめてみたらどう? 胸を当ててあげるとすぐに喜ぶから♪」

「ふざけんな。そんな単純な男じゃねぇ」

「それはやってみてからのお楽しみ! 曜! それパ~ス!」

「おわっ!!」

「えっ、私!?」

 

 

 突然鞠莉に背中を押された俺は、曜に襲いかかる形で全身から倒れようとする。

 しかし、曜はこう見えても運動能力が抜群の女の子である。緊急回避のためか咄嗟に倒れてきた俺の腕を掴むと、その勢いを利用して後ろへ放り投げた。いくら女性であっても力の入れどころと体勢さえ合っていれば、成人男性など軽々投げ飛ばせることを今まさに体験する。空中で一瞬視界が砂浜一色に染められたと思ったら、次の瞬間には空の青一色になるなど目まぐるしく変わる景色に着地する前から軽くクラクラしていた。

 

 そして更に次の瞬間には、海の綺麗な透明水が視界に広がって――――――水しぶきの音が大きく響き渡った。

 

 

「うっぷ!!」

「えぇっ!? せ、先生……?」

「か、果南……か」

「どうしたんですか先生!! ちょっとみんなぁーーーーっ!! いきなり先生が空からダイブしてきたんだけどぉーーーっ!!」

 

 

 丁度海に潜っていた果南に助けられた俺だが、もう既に意識半分で気絶しかかっている。辛うじて果南たちの声だけは聞こえるが、こっちからは行動を起こすことも声を出すことすらもできそうにない。

 

 俺は果南の肩を借りて何とかビーチサイドに戻ってくると、みんなが集まっているビーチパラソルの下に寝かせられる。さっき鞠莉たちが言ってたけど、もう本当のお人形さんみたいになってるな俺……。気分も悪くないし海にダイブしたおかげで身体に痛みもないので、意識が半分飛んでいることだけが気がかりだ。

 

 

「なるほどね。また鞠莉が遊んじゃったと」

「ゴメンなさい!! 先生の反応が面白くて……」

「まあ今は先生の意識を取り戻すことが最優先だね。幸いにも呼吸はしっかりしてるから、軽く人工呼吸をするくらいでいいと思うけど」

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

「ん? どうしたのみんな?」

「か、果南さん……今なんと仰いました?」

「だから軽く人工呼吸を」

「誰が……?」

「誰がって――――あっ!」

 

 

 果南も全てを察したようで、Aqours一同が全員沈黙する。

 俺に人工呼吸をする。つまり――――――Mouth-to-Mouthってことだ。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 お化け騒動同様に究極の選択を迫られたAqours。
 次回、零君を巡って一波乱かも……??




新たに☆10評価を下さった

浪花さん、りはさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

恋と青春のビーチサイド(後編)

 まさにAqoursにとっては恋と青春の回であり、久々にちょっぴり真面目なお話。

 いつもはギャグやらエロやら描写ばかりですが、薮椿はちゃんとシリアスな回も執筆できるんだぞというところを見せつけます!


 水着姿のみんなが俺の顔を覗き込んでいた。そんな光景を見るためなら多額の金を出す奴もいるだろうが、俺の場合はタダで彼女たちに注目されることができる。そんな俺は幸せ者だなぁ――――

 

 

――――

 

 

――――

 

 

 と思えたらどれだけ楽だっただろう。体感的に命に別状がないことは分かるものの、さっきからどうも意識が遠くなったり元に戻ったりを繰り返している。こんな調子でなければこの状況に歓喜できたのだが、身体を動かせず声もあまり出せない軟弱体質では半目でぼぉ~っと彼女たちを見つめているのがやっとだ。5年前なら度重なる制裁や秋葉の発明品のとばっちりのおかげで望まない屈強な身体に仕上がっていたのに、今では女の子に投げられて海に落とされるだけでこうなっちまうとは。だからと言って制裁や発明品の被害を受けたいかと言われれば絶対にNOだが……。

 

 それにしても、コイツらさっきからどうして黙ってるんだ?? もしかして俺の死期を悟って黙祷を捧げているとかふざけたことしてるんじゃないだろうな……? 今の俺は意識を失っているように見えるが、君たちのことも見えてるし音も微かだけど聞こえてるからね!! そもそもライフセーバーの心得がある果南がいるんだから、俺の呼吸が余裕であることくらい分かるはずなのにこの静寂。更に妙な緊張感が流れるこの空気は、まるで嵐のまえの静けさのようだ。

 

 

 そしてその後もしばらく沈黙が続いていたが、張り詰めた空気を真っ先に破ったのは千歌だった。

 

 

「しょ、しょうがないなぁ~。ここはAqoursのリーダーとして、私が先生に人工呼吸を――――」

「待って千歌ちゃん。都合のいい時だけリーダー面は良くないなぁって思うんだけど」

「梨子ちゃん……? ちょっと顔が怖いんだけど!?」

「ん? 女の子に怖い顔とか言っちゃダメなやつだよねそれ……?」

「顔が笑ってるようで笑ってないし、何より圧力が……。どうしてそんなに顔を近付けてくるの!? 人工呼吸するべきはあっちだよ!!」

 

 

 いつもの梨子は千歌の氷山すらも溶かす熱気のようなテンションに振り回されているのが世の常だが、今日の彼女は一言で言うと……本当に怖い。どこで身に付けたのかも分からない純度100%の病み成分搭載で、黒い笑顔のまま千歌をニコニコと見つめている。普段の彼女はここまで感情を表に出すことはないから、誰にでもハッキリと分かる形で自分を見せつけるのは珍しかったりもする。

 

 

「まさか梨子、千歌っちに嫉妬してるの? Jealousy?」

「こうなった元凶の鞠莉さんは、大人しく一線を退いてくれませんか……? 私もできるだけ被害者を出したくはありませんので……」

「何をするつもりだったの!? いつも温厚な梨子が根っからの戦闘狂に……。まるでBerserkerね……」

「そもそも、どうして梨子さんはここまで怒っているずら?」

「花丸ちゃん。分からないのも相当だけど、今は黙っておいた方がいいよ。下手に口を出したら狙われるから」

「ルビィちゃん? どうしてマルの口を抑え――――むぐぐ……!!」

 

 

 梨子の狂人化にビビる鞠莉を他所に、持ち前の天然っぷりを発揮してルビィに軽く馬鹿にされながらツッコミを入れられてしまう花丸。いくら文学に長けているとは言っても、実世界でヤンデレ全開の女の子の心情を読み取ることは苦手、というか経験がないなのだろう。でなきゃ火に油を注ぐ、もといバーサーカーの血を滾らせるような真似は梨子の様子を見ていたら絶対にできないはずだ。天然は時に重火器をも超える火力を生み出すから、ここでルビィが静止していなければ次のターゲットは花丸だったかもしれない。ヤンデレvs天然なんて構図、マッチング名を見ただけで胃がキリキリと痛くなりそうだからやめてくれ……。

 

 

「でも梨子には悪いけど、ここは元凶である私こそが先生の人工呼吸をするべき役目だと思うの」

「そ、それだったら不意だったけど先生を投げ飛ばしちゃった私にも責任があるというか……そういうことです!!」

「曜ちゃん!? バーサーカー梨子ちゃんを見てもなお立ち向かうその勇気、流石飛び込み選手!!」

「花丸ちゃんとは違って、敵の強大さが分かっていながら戦いを挑むなんて……ルビィにはできないよ」

「マルとは違うってどういう――むぐぅ!!」

「はいはい花丸ちゃんはしばらく黙っててね」

 

 

 自らバーサーカーとの戦いを退いたルビィに対し、何故か俺との人工呼吸に執着する鞠莉と曜。確かに9人の中から戦犯を挙げろと言われればこの2人が妥当だが、わざわざ男の俺に人工呼吸をしてやるまでの義理はないはずだ。Aqours全員が俺と人工呼吸するのがイヤで仕方なく元凶がやるってのなら話は別だが、ここまでの流れを見る限りではそんな雰囲気は一切ない。むしろ一部のメンバーは進んで人工呼吸をしたがっているようだが……俺は男、君たちは女の子だぞ? いいのか本当に??

 

 

「そんなことで言い争っている暇があるなら、早く人工呼吸をしてあげて先生を助けてあげたらどうです?」

「じゃあダイヤは戦いに不参加ということで。なんの戦いとは言わないけど……」

「な゛っ!? 勝手に決めないでもらえますか!? わ、私だって……」

「じゃあダイヤがしてあげる? 先生との熱いBaiserを♪」

「は、はぁ!? 人工呼吸でしょう!? どうしてそ、そんな淫ら極まりない話になるのですか!? 果南さんも言ってあげてください!!」

「人工呼吸なら、ライフセーバーの資格がある私が一番適任だと思うんだけど」

「か、果南さん!? あなたまでこのような非道徳的行為を……!!」

「うそっ!? まさか果南すらも敵だっただなんて!?」

「敵というか、こういうのは適任者がやった方がいいんじゃないかって話。それにただの人工呼吸だよ、ただの……」

 

 

 正論過ぎて鞠莉とダイヤはぐぅの音も出ない状態に追い込まれつつある。それは千歌や曜にも同等のダメージを与えたようで、苦い顔をしながらも何とか反撃の手段を掴もうとしていた。

 

 それにしても、相変わらず果南は俺と触れ合うことになっても大した動揺を見せないのが流石の精神力と言ったところだ。だがそれも外見で判断しただけで、本心では物凄い羞恥心に襲われているのかもしれない。彼女のそんな性格は以前一緒に風呂に入った時に把握済みで、あの時から少しは前向きな性格になったと思う。その証拠に薄目だけど彼女の表情を見てみると、若干頬を赤く染めているのが分かる。かつての彼女ならそんな表情すらも見せなかったのに、微かであろうとも恥じる様子を見せ自ら人工呼吸をすると進言してきたのも心境の変化ゆえだろう。

 

 

 話がどんどん煮詰まる仲で、さっきまで小さくオドオドとしていた善子が口を挟む。

 

 

「そもそもの話、呼吸がしっかりしているんだったら人工呼吸する必要あるの? 私は早く小説執筆に戻りたいんだけど」

「必要があるかと言われたら、それは千歌のためにあるよ!!」

「はぁ? どうしてあなたのためなのよ? 万が一の事態を想定しているのなら、早くやってあげればいいじゃない」

「それはそうだけど……。って、善子ちゃんの顔赤くなってるよ?」

「し、仕方ないわねぇ~。みんながやってあげないのなら、私が先生に手っ取り早く人工呼吸してあげるわよ!」

「えっ!? なにナチュラルに抜け駆けしようとしてるの善子ちゃん!!」

「善子って言うな!!」

 

 

 ここへ来てまさか善子が参戦してくるとは思わなかったぞ……。しかしセリフを聞いてもらえれば分かる通り実に分かりやすいツンデレちゃんで、意識が遠のきそうになっている俺ですら彼女の気持ちが手に取るように分かる。ていうか意外と人工呼吸とかしちゃってもOKな子だったんだな。自分からはしたくないけどやってもらいたい欲のツンデレお嬢様とはまた違ったタイプのようだ。

 

 

「私が先生になんてそんな……。人工呼吸なんてしたら何をされ返すのか分かったものじゃないし……」

「そんなこと言っちゃって、最近先生の話題が日に日に増して多くなってきてるずら」

「う、うるさいわよズラ丸ごときが!! さっさと向こうでパン食べて寝てぶくぶく太ってなさい!!」

「どんなに食べても胸にしか栄養が行かないんだけど……」

「くっ……!! どうしてヨハネがこんな丸っこい人間ごときにぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

「今日の花丸ちゃん、無駄に一言多い気が……」

 

 

 どれだけ体裁を取り繕っても、日常に出る自分の素は変えられるものではない。その証拠に中二病を抜け出したいと思っている善子だが、口調からして痛々しいのはもはや当然のことようになっている。まあ最近は滅法減ってきたうえにスクールアイドルとしてリア充なJKのライフを謳歌しているが、今度は俺絡みで花丸にまで馬鹿にされる生活を送っているようだ。変にツンデレを見せるから弄られちゃうんだよ。

 

 ここで闇のオーラならぬ病みのオーラをグツグツと煮固めている人物が1人。俺への人工呼吸進言者が増えれば増えるほど、梨子のツリがちな目が鈍く光り、その鋭い目で人を刺し殺すことも厭わない。もう友達や仲間を見つめる目ではなくなっていた。

 

 

「さっきから聞いていれば耳障りね。特に鞠莉さん、どさくさに紛れて先生に顔を近付けるのはやめてください」

「よ、よく気付いたわね梨子……」

「そんなものすぐに分かりますよ。先生の周りをちょろちょろするネズミさんは……ね? 曜ちゃん?」

「う゛っ!?」

「私が鞠莉さんに気を取られている間に、こっそり先生に近付こうとしていたみたいだけど無駄だから。ハエと同じ、存在自体はちっぽけだけど、鬱陶しく飛び回ったら目障りだもの」

「もういつもの梨子ちゃんじゃないよ……。普段はこんなに悪口を言わないもん」

「え? 私は言われてるんだけど? 昨日なんて『千歌ちゃんって世界の誰よりも怠け者じゃない? 動物園でナマケモノの代わりに千歌ちゃんが展示されていても驚かないわよ誰も』とか悪態ついてきたんだから」

「それは千歌ちゃんが全然歌詞を考えないからでしょ。しかも梨子ちゃんだけじゃなくて、ここのみんながそう思ってるから」

「ガーーーーーーン!! それはないよ曜ちゃん!?」

 

 

 幼馴染と親友の扱いが段々悪化してきて、とうとう千歌を擁護する声が一切なくなってしまった。そもそも梨子ってそこまで毒舌キャラじゃないのだが、千歌の前では結構厳しくしてんのね。そりゃあ催促しているのに歌詞が上がらず、挙句の果てにみんなを巻き込んで合宿までする始末だから毒を吐きたくなる気持ちは分からなくもない。それでも幼馴染の曜まで千歌をぞんざいな扱いをするとは思っていなかったが。まあ幼馴染だからこそ千歌の怠け癖を一番良く知っているので、実は誰よりも苦労しているのかもしれない。

 

 つうか思ったんだけど、人工呼吸をするならするで早くやってもらえませんかねぇ。こんな争いが勃発している間に呼吸がしっかりと整ってきて、意識が遠のいたり戻ったりする現象もかなり抑え目になってきた。だから人工呼吸がいらないと言えばそうですとしか言い様がないが、せっかくなら誰が俺の人工呼吸をやってくれるのかを知りたくはある。つまり命が尽きそうだからやってもらいたいのではなく、もう待ちすぎて待ちくたびれたからやって欲しいだけだ。

 

 するとそんな俺の願いが届いたのか、果南が荒れに荒れているこの場を一旦仕切り直すように手を叩いた。

 

 

「いつまでも言い争っていても仕方ないし、ここは公平にじゃんけんにしない?」

「不本意ですがそれが無難なのかもしれませんね。最初から人命救助に興味がないダイヤさんと善子ちゃんは別として……」

「なんか含みのある言い方でムカつくわね……。元々あなたたち人命救助が目的じゃないでしょ」

「例え梨子さんでも、もう挑発に乗って取り乱すはしたない真似はしませんから。冷静に自分の右手に魂を込めましょう」

 

 

 人工呼吸がしたいのに人命救助が目的じゃないって、それもう欲望しか残ってねぇじゃん。しかも仮にも頭から海へドボンして一瞬でも三途の川を渡りかけた男が目の前にいるってのに、呑気に人工呼吸じゃんけんなんてやってられるなコイツら。実際にはもう呼吸も意識もしっかりしているのでどれだけ引き伸ばしてもらってもいいが、もう誰が誰を蹴落とすかに集中してみんな俺のこと忘れているのではないかと心配になってくる。

 

 

「あれ? もしかしかしなくても、マルたちハブられてる……?」

「みんなの圧に押されてルビィたち輪の外に出ちゃってるから、仕方ないんじゃないかな……」

「ルビィちゃんは先生への唇チャリティに参加しなくてよかったずら?」

「それ代わる代わるみんなが人工呼吸するってことだよね? ルビィの唇はそこまで安くないと言うと申し訳ないけど、流石に先生でもそんなに簡単にはあげられないよぉ……」

 

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

 

「あ、あれ? 皆さん黙っちゃってどうしたんですか!?」

 

 

 さっきまでいないものと扱われていた花丸とルビィに、他の7人の目線が一斉に集まる。2人はまた余計なことを言ってしまったのかと背筋が震えそうになっていたが、みんなから向けられたのは突き刺すような冷徹な目線ではなく、目を見開いて意外そうにしている目線だった。

 

 

「そうだよ! よく考えてみれば千歌たちみんなで先生を助けてあげればいいじゃん!! これなら曜ちゃんたちも争わなくて済むよね?」

「別に私は争ってるつもりはなかったんだけど、言われてみれば確かにそっちの方が大団円になれるかも。梨子ちゃんもそれでいいよね?」

「わ、私は先生に人工呼吸したいとかそういうのじゃないのよ。ただするからには適任を選んだ方がいいかなぁと思って」

「だったらライフセーバー持っている私がそうだったと思うんだけど……」

「免許とか公的な理由ではありません。ハートですよハート」

「どんな理由にせよ、みんなで先生を共有できるようになったんだから、啀み合う必要はNothingでしょ?」

 

 

 えっ、もしかして全員からやられちゃう感じ?? そんな9連発で人工呼吸とかされたら逆に窒息してしまいそうなんだが。それに人工呼吸をすることに関しては決定事項みたいだが、そもそも俺と唇と共にしてコイツらは平気なのか? 以前幽霊騒動があった時は誰か1人と俺がマジの性行為をしなければならない事態に陥ったが、それと比べれば人工呼吸くらいはただのMouth-to-Mouthだから許容はできるらしい。

 

 だがいざ人工呼吸をする流れになってみると、周りから煽られる勢いだけで唇同士を触れ合わせるのはどうかと若干疑問が湧き始めた。さっきは俺もウェルカムな気持ちだったが、冷静に考えてみればそうだよ。このままじゃ本当にやっちゃうんじゃね……?

 

 

「それじゃあ最初は梨子ちゃんね!」

「押さないでよ千歌ちゃん! そしてどうして私から!?」

「へ? だって怖い顔でみんなの邪魔してたから、人工呼吸に自信満々なのかなぁと思って」

「あ、いや、それはぁ……」

「どうしたの? もっと先生の顔に近付かないと!」

「あ゛っ……あ゛ぁ!!」

「あれ、梨子ちゃんもしかして……」

 

 

 近い近い近い!! 千歌が梨子の顔を無理矢理こちらに近付けるものだから、下手したら何かの間違いで唇と唇が触れ合ってしまうかってくらい顔が近い。しかも梨子も梨子で俺の唇を見ながら顔をトマトのように真っ赤に染め上げ、謎の低音ボイスで呻き声を上げる。先程のバーサーカーな雰囲気とは全くの逆、いざ人工呼吸をするとなるとまるで純粋な女の子のような反応を見せていた。

 

 

「ち、千歌ちゃん!! そんなに頭を抑えないで!! 先生が近いから!!」

「なぁ~んだ、梨子ちゃんとんだピエロだったんだね♪」

「だって誰かが先生に人工呼吸するところを見ていられないし、でも自分からは恥ずかしくてできないし……」

「だからあんなに様子がおかしかったんだね。雰囲気は怖かったけど、案外乙女ですなぁ梨子ちゃんは♪」

「変なテンションになっていたのは謝るから、とりあえず頭離して!!」

 

 

 ここへ来て千歌の意地悪癖の本領が発揮され始めた。立場は最初とは完全に真逆で、今にも俺の唇と衝突しそうになり慌てる梨子に対して、思いのほかウブな心を持っていた彼女を()()()()で追い詰める千歌。結局いつもの力関係に戻ってしまい、またこのことでこれから梨子が弄られると思うと……南無阿弥陀仏。

 

 それよりも、さっきから梨子の唇が近いことに俺もドキドキが止まらないのだがどうしたらいい?? 恐らくみんなは俺の意識が元に戻ってないと思って人工呼吸をしようとしているのだろうが、実のところはお分かりの通り、周りの状況を冷静に解説できるくらいには意識が戻っている。これバレたらどうなるんだろ……。

 

 

「梨子ちゃん、あまり騒ぐと先生の目が覚めちゃうよ」

「曜ちゃんは先生を起こしたいの!? それともただキスがしたいの!?」

「き、キス!? キスってそんな私は……」

「キス、接吻……そ、そんなもの破廉恥極まりないですわ!! これはただの人工呼吸でしょう!?」

「そ、そうよ人工呼吸。ヨハネがリトルデーモンに命を吹き込む行為と同じ、つまり黒魔術の一貫なのよ」

「人工呼吸は医療行為だから、唇と唇が触れ合うだけで変な気持ちになんてならないはず。いやなってはならないとライフセーバーの心得にもあったはず……」

「もうみんな下心丸出しずら」

「は、花丸ちゃん!!」

 

 

 みんなそこまでして俺とキス――じゃなかった、人工呼吸をしたいのか。彼女たちが本気なのかはさっきから見せる慌てっぷりで察することはできるが、やはり唇同士となれば人工呼吸で人命救助するのとは全くの別の問題だ。今までなし崩し的にこの展開に付き合ってはみたものの、果たして本当にこのままみんなの人工呼吸を受け入れてしまっていいのだろうか? 教師と生徒という関係性以前に、男と女の関係としてコイツらは俺のことをどう思っているんだろう。唇を許す時点で受け入れ態勢万全なのか、それとも周りの勢いに同調して半ば闇雲にこの人工呼吸イベントに参加しているのか……。もし後者に該当する子がいるならば、俺はここで早急に目を覚まさなければならない。流石に勢いだけの子と人工呼吸とはいえ唇を重ね合わせることなんてできないからな。

 

 そうだ、ここだ。俺はいつもここまで考えて、後は流れのままに行動してしまう。女の子の気持ちを深くまで汲み取らないせいで、穂乃果たち9人やシスターズとの恋愛沙汰で何度後悔したことか。だから今回は失敗しない。思春期の心は起伏が激しく全員に苦痛を感じさせないのは困難だけど、俺の言動1つで少しでも救ってやれるのなら己の気概を奮い立たせるしかない。そして既に曜や果南、花丸が先日から積極的に動き始めているため、もう立ち止まっている時間もない。

 

 俺はこれまでの人生の中で、自分自身のことについて分かったことがある。それは女の子の好意に対して受身だと、ほぼ確実に受け流してしまうことだ。自分はたくさんの女の子に好かれているという満足感に浸って、女の子側の気持ちを見通そうとはしない。だからこそこのタイミングでこうして相手の気持ちをあれこれと考えられるようになったのは、4、5年前と比べれば大きな進歩かもしれない。穂乃果たち9人の時は向けられる好意を流したうえで満足感に浸り、シスターズの時は逆に恋愛沙汰に敏感になりすぎて相手の心に踏み込めずにいた。しかし、今はそれが自覚できているんだ。だから動ける時に動くしかない。さっきも言ったけど、もう向こうから動き始めているんだから。

 

 

「私は先生とKissしちゃってもいいけどなぁ~」

「鞠莉さん!? だからといって勝手に先生に顔を近付けないでください!!」

「むぅ~それだったら私も!!」

「千歌ちゃんも早まったらダメだって!!」

「いや、私はいつも本気――――」

 

 

「そうだ、後悔することになるぞ」

 

 

「「「「「「「「「えっ!?!?」」」」」」」」」

 

 

 千歌たち9人は目の間の死人が突然喋ったかのような驚きっぷりで、一斉に俺の顔を見つめた。瞼を何度も開閉し、本当に俺が生き返ったのかと再三に渡り確認している。やっぱりコイツら、俺が気絶してるものとばかり思ってやがったな。

 

 

「せ、先生……もしかして、起きてたんですか?」

「悪いな。騙すつもりはなかったんだけど、お前らが面白いことをやり出すから意識飛んでたフリをして様子を見てたんだ」

「じゃ、じゃあ私たちの会話も全部?」

「あぁ。みんなが必死にキス――じゃなかった、人工呼吸をしたがる姿も、全部脳内メモリーに保存済みだから」

「あ゛ぁ……あぁああああああああ!!」

「梨子……?」

「わ、私は下心なんて一切ありませんわ!! だから勘違いをなさらぬよう!!」

「分かってるよダイヤ。分かってるから」

 

 

 梨子とダイヤは今までの言動が全て俺に見られていたと知り、いつにも増してブッ壊れ具合が半端ではない。声には現れていないが他のみんなも同じで、千歌も曜も果南も、善子も鞠莉も少なからず顔を赤くして気が気ではない様子である。唯一まともなのは、最初から戦争に参加していなかった花丸とルビィだけだ。

 

 

「分かってるけど、勢いだけで人工呼吸するのはやめておけ。お前らが後悔することになるから」

「で、でも私は本気で!! 先生がここにいられるのもあと一週間くらいだし」

「千歌、急ぐのと慌てるのは違う。あと短い付き合いだからこそ落ち着いて自分と向き合うんだ。まあそれは俺にも言えることだけどな」

「俺にも……?」

「そういうこった。もちろん千歌だけじゃなくてみんなもな」

「先生……」

「みんなの気持ち、とっても嬉しいから。だから、絶対に何らかの形で答えは出すよ」

 

 

 9人は何も言わずに俺を見つめ続ける。みんなが今どんなことを考えているのかは知らない。だがこうして多少なりとも俺からの気持ちを伝えたことで、『神崎零先生に、しっかりと自分の気持ちが伝わっているんだ』とみんなを安心させることができるのならそれでいい。どんなことであれ、苦い顔で悩んでいる女の子なんて見たくないもんな。これも女の子の笑顔好きな俺のワガママかもしれないけど、間違いではないと思う自信は恐らく過去の経験から来ているのだろう。まあ自信がなかったらあんなクサいセリフを言える訳がない。

 

 千歌たちが俺の言葉をどう捉えたかは結局最後まで分からなかったが、強ばっていた表情の子も固くなっていた表情の子も、みんなの顔に微笑みが戻ったので多分効果はあったと思う。あとは自身の行動にもかかってくるので、俺も現状で満足していてはいけない。これから向こうからもっと積極的に動いてくるのなら、こっちもどっしり構えつつも動き出すくらいの勢いを見せてやらないと。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 その深夜、合宿でAqoursが泊まっている『十千万(とちまん)』での出来事だった。

 あの後Aqoursのみんなと遊び回ったせいで疲労困憊していた俺は、布団の中でぐっすりと眠っていた。しかしそれも、何故か身体に掛かる体重に気付くまでは――――――

 

 

「身体が重い……。金縛りか何かか……?」

 

 

 だが感じるのは身の拘束だけではなく、四方八方からやたら人肌のような暖かさも伝わってくる。明らかに布団ではない何かが俺の身体の上に、左右に、下に……。

 

 俺は掛け布団を掴むと、その手を勢い良く振り上げる。すると俺の身体には、そこそこの数の女の子たちが取り付いていた。こう言ってしまうと虫みたいで申し訳ないが、冗談抜きで一瞬その類にしか見えなかったぞ。上に千歌、左には曜、右には鞠莉、腹部から脚辺りには果南や花丸、善子や梨子――――これどうなってんだ!?!?

 

 そして混乱に混乱を重ねる中、突然俺の部屋の扉が開け放たれ、ダイヤが怒り心頭で乗り込んできた。その後ろには、この状況を見て顔を赤くし口に手を添えているルビィもいる。

 

 

「皆さん一体何をやっているのですか!! ここは男性のお部屋ですわよ!!」

「う~ん……」

「そうだぞお前ら。急に布団に潜り込んでくるなんてどうした!? ていうか鍵は!?」

「う~ん……ここウチの旅館ですよぉ……」

「あっ、そうだった」

 

 

 眠気MAXのまま起きた千歌を皮切りに、他のメンバーも欠伸をしながら眠気に捕われつつも目覚める。まるで自分たちが最初からこの部屋にいたかのように、特に弁解しようともしない。

 

 

「鍵はいいとして、どうしてここにいるんだお前ら?」

「だって先生が言ったんじゃないですかぁ、千歌たちに落ち着いて考えろって。ね、曜ちゃん?」

「うん、だから私たち考えたんです。今日はみんなで先生と一緒に寝ようって」

「あ、あれ……?」

「わ、私は反対したんですよ。でもみんなが行くから仕方なく……」

「私だって堕天使として、人間の睡眠時の生態を詳しく観察するために……」

「私たちは最初からノリ気だったけどね! そうでしょ果南?」

「ま、まあ鞠莉に釣られたけど私の意志でもあるから、否定はできないかな……。ダイヤに言うと絶対に止められただろうし」

「だから私には内緒でこんなプランを決行したと……」

 

 

 あ、あれぇ?? みんな俺の言ったことをそういう風に解釈してたの!? いや別にこれがコイツらがしっかり考えたことならいいんだけどさぁ、まさか一斉に添い寝されるなんて流石の俺でもビックリするわ。一度にこんなにたくさんの女の子に絡まれるなんて、μ'sでも中々ないぞこんな光景。しかし彼女たちとまた違った好意の示し方をしてくれるのは嬉しいし楽しくもある。一応俺の言いたいことは、ちょっと曲解されている気もするが大筋は伝わっているようで何よりだ。Aqoursとの関係も大きく前進したし、みんなも不満を抱えているような様子もないので安心かな。

 

 

 あっ、でもそろそろダイヤの火山が噴火しそうだ……。

 

 

「とにかく皆さん部屋に戻りなさい!! 男性と女性が一つの部屋なんて、間違いが起こってからは遅いのです!!」

「えぇ~~!!」

「文句を言わない。結局今日は遊んでばかりで歌詞作りが全然進まなかったのですから、明日は早起きしてみっちりやりますよ。だから部屋に戻って早く寝なさい」

「あっ、あのぉ……」

「どうしましたルビィ?」

「花丸ちゃんが……」

「ん?」

 

 

「のっぽパン……全然足りないずらぁ……むにゃむにゃ」

 

 

 ただでさえ無頓着なのに、図太いなコイツ……。

 ていうかコイツこそどうやって俺の布団に潜り込んできたんだ……??

 




 やはりこのような真面目な回を執筆すると、女の子側の心理描写も同時に書きたくなっちゃいます。しかし同じ話を何度も見ていると読者さんが飽きると思うので、断腸の思いでいつも零君視点だけに……。
しかし女の子側の描写の名残としては、最後の添い寝のシーンは彼女たちの今の想いを体現的に描いたつもりです。そもそも深夜のシーンは当初なかったのですが、千歌たちの想いを描きたいと思いつきでどんどん執筆していたら過去に類を見ないくらいの文章ボリュームになっていました(笑) まあ読む側としては1話が長い方がいいと思うので、むしろもっと長くしろと言われるかもしれません(笑)



 次回は中二病が全開じゃない善子回です!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

そして堕天使は消滅する

 今回は善子回です!
 2人が出会った頃に比べて、もはや彼女のデレ度が半端ない(笑)


「遅い!! 何分待ったと思ってるの!?」

「いやまだ3分前だろ……。つうか何分待ったんだ?」

「っ!? そ、そんなことはどうでもいいのよ!!」

「お前が聞いてきたんだろ!? 理不尽すぎるよ全く……」

 

 

 これは俺とのデート(仮)が楽しみすぎて、集合時間の20分前にはここへ来ていたなコイツ。中二病のせいでリアルで友達が皆無だった影響か、お出かけの待ち合わせという行為自体にも楽しみを覚えているのだろう。でなければ待ち時間を聞かれただけでここまで取り乱さないはずだ。そもそもこんなところでいきなりツンデレを発揮するなんて、ただでさえ長い待ち時間で精神を使っていそうなのにこの先のデート(仮)を楽しめるのだろうか。素直になれない子は大変だよな、他人事だけど。

 

 先程からデート(仮)と言っているが、傍から見れば若い男女2人が街の中と完全にカップルであることには変わりない。もちろん俺も善子も互いにそのような色気付いた意識はないものの、2人で出かけるという事実はやはり相手を意識してしまうものだ。彼女はどう思っているかは分からないが、いつも以上に顔を赤くしてツンデレを発揮しているあたり、そこそこ意識はしてくれているのだろう。まあ今回はとある目的があるので、親交を深め合うというよりは目的の達成に重きを置いているんだけどな。

 

 そしてその目的なのだが、既に善子の外見から目的達成の足踏みを食らっていた。

 

 

「お前さぁ、今回の目的分かってるよな?」

「な、なによ早速……。もう私何かやっちゃった?」

「気付いてないのかよ、自分の格好……」

「格好? あっ……!!」

 

 

 善子は黒を基調とした若干ゴスロリ調の服を着用している。いつもは彼女の趣味もあるから今更その格好にツッコミを入れることはしないのだが、今回ばかりはあまりにも目的に反しているので突っ込まざるを得なかった。

 

 そう、今回のデート(仮)は善子の中二病脱却の足掛かりを作るのが当面の目的だ。以前に希のおかげで彼女の不幸体質はある程度改善されたものの、心の芯に根付いた中二病だけは学院であってもそれ以外であっても所構わず発揮されてしまう事態は変わらずだった。彼女が非リア充になったのは不幸体質ではなくて中二病が100%の原因であることから、残り2年半の高校生活を謳歌するためにもここで中二病体質を改善しておきたいと彼女からの連絡でデート(仮)の予定が立ったのだ。

 

 しかしスクールアイドルで一気にリア充路線を走り始めたうえに、スクールアイドル界で人気になれば中二病というステータスは逆に武器になる。俺はそう彼女に伝えたのだが、せめてそれはキャラとしてだけで扱い、普段の日常で自然と中二病を発動させてしまうのを抑えたいといのが彼女の頼みらしい。そこまで必死ならばということで渋々引き受けたのだが……蓋を開けてみたらいきなりこの格好だから前途多難だ。

 

 

「中二病を払拭したいんだろ? だったらゴスロリ調の服なんて着てくんなよ……」

「ゴスロリ調ではあってゴスロリではないわよ! それにただ単に黒色が好きなだけなんだから」

「だとしても暑い日に上も下も黒は明らかに不自然だろ。いい加減に認めたらどうだ? 何も意識せずゴスロリを着てきたって」

「うっ、まあそうだけど……」

「早速どうしたもんかねぇこりゃ」

 

 

 一応ここでツンを発揮せずに弁明したあたり、中二病を治そうとは思っているらしい。いくらゴスロリではなくゴスロリ調とは言っても、見た目だけでコスプレみたいな衣装だってことはバレバレなため、まずは外見から治していくのが妥当だろう。恋愛でもまず外壁から固めろという名言もあるくらいだし、先人のありがたいお言葉に(あやか)るのが必然手だ。

 

 

「普通の服は持ってないのか?」

「持ってるわよ、多分……」

「その反応で随分とまともな服を着てないことが分かったよ。唯一まともなのが練習着と制服だけなんてなぁ」

「仕方ないじゃない。趣味だったんだから」

「だったら普段も制服でいいんじゃね? 休日に制服を着るのは抵抗あるかもしれないけど、少なくともゴスロリみたいな服よりかは全然変な目で見られないだろ」

「休日に制服を着てお出かけをする女子高生がどこにいるって言うのよ!! 私はあくまで普通でいたいの普通で!!」

「普通ねぇ……」

 

 

 そもそもAqoursのグループメンバーなんて普通である奴の方が少ないのだが、そこのところコイツは分かっているのだろうか。まあAqours内でのネタキャラを脱却したい気持ちは察してやらないこともないが、今まで中二病やってた奴がいきなり普通になるのはそれはもう普通ではないだろう。明日から突然善子がお淑やかになった場合、中二病をやってた時以上に千歌たちに引かれると思うぞ。

 

 

「そうだなぁ、まずは口調から直すか。その闇に染まりし邪悪な心を浄化するところからだ」

「フッ、我が心域に踏み込むとは愚かな人間ね。ヨハネの心には闇の炎を纏いし暗黒のドラゴンが住み着いているというのに……。下手に踏み込んだら最後、命どころか精神一滴まで焼却されることになるわよ――――あっ!!」

「それだよそれ。簡単に釣られてんじゃねぇよ」

「今のはアンタから誘ってきたんでしょうが!!」

「だ~か~ら、普通の女の子はそんな受け売りみたいな誘いに乗らないの。理論はナンパと一緒だよ」

「その言い方だと、私が怪しいナンパに引っかかる世間知らずのJKみたいじゃない!!」

「中二病が世間語るな」

「辛辣!! だから中二病たちは社会と同調することを諦めるのよ」

 

 

 だったら中二病をやめろという言葉も辛辣なのだろうか。まあそう簡単にやめられるんだったら善子もここまで苦労はしてないか。自我が急速に成長する思春期に中二病にどっぷりと浸かった奴って、黒歴史を払拭しようとしてもできないと聞く。やめたくても心の中で闇の力とかカッコいいとか思っちゃう限り、中二病という名札は自分からは外せないだろう。

 

 でも外せないからといってそれで諦めるのは些か短絡的すぎる。要するに重要なのは意識改革だ。俺だって厨二っぽいセリフは好きだけど流石に中二病患者ではないから、少なくとも外見さえ整えれば周りから奇々怪々な目で見られることもないだろう。自分の外見さえ直せば口調も自然と改まるに違いない。ほら、クソ高い腕時計を付けたら雰囲気的にリッチな感覚を味わえるだろ? それと同じ、だから意識改革をするんだよ。

 

 

「じゃあまずは服から買いに行くか。イマドキ女子なのに、おしゃれな服を持ってないのは致命的すぎるだろ」

「そ、それってブティックに行くってことよね?」

「なんだ? 今更ヘタレてんのか?」

「そういうことじゃなくて、それって本当のデートみたい……」

「ん、なんだって? よく聞こえなかった」

「ッ~~!?!? ラノベによくいる難聴鈍感最低主人公じゃないアンタ!? ほらとっとと行くわよ!!」

「お、おい!? 行きたいのか渋ってんのかどっちなんだよ!?」

 

 

 善子に手首を強く掴まれ、半ば引っ張られる形で歩き始める。

 さっき色々と汚名をペタペタと貼り付けられてしまったが、少なくとも難聴ではない……と自分では思っている。難聴ってキャラのことだろ? つまり聞こえているのに聞こえてないフリをしてとぼけている奴のことだ。だってさっきの善子の言葉は本当に聞こえなかったんだから仕方ないじゃん!! ちなみに鈍感や最低かと言われたら……まあ当たってそうな気がするので否定はできない。

 

 ていうか俺のことはどうでもいい。女の子に手を引かれて歩いてるって、これもうどこからどう見てもデート(仮)の『仮』の部分はいらないのでは……? あっ、もしかして善子の奴、マジ物のデートっぽいから顔を真っ赤にしていつも以上に慌てているのか? そう考えてみれば、もうこの時点で普通の女の子じゃないのかこれ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「こ、これでいいの?」

「おぉっ! 想像以上に似合ってるよ」

「は、恥ずかしいからあまり見ないで!!」

 

 

 俺たちはそこそこ高級感が煽るるブティックに足を運び、そこで中二病ちゃんの服を選定している。そして今は善子に着せ替え人形のごとく試着室で色々と服を着てもらっている最中だ。

 

 俺はカッコ良さというビジュアルで全ての服を着こなしてきたから、元々ファッションセンスは皆無の人間だった。でもμ'sが恋人になって以降は女の子のファッションにも触れる機会が増えたため、こうして女子高生に服を選んでやることができるくらいの知識は出来上がっている。俺だってただ女の子たちからの好意に浸ってる生活をしてないんだよ。こうして女の子をドキドキさせる言動を徐々にマスターしているって訳だ。

 

 ちなみに今善子に着させているのは、さっきまでの黒ベースとは全くの逆で、夏の涼しさを感じさせる白いシフォンブラウスとベージュのスカートだ。彼女の髪色的にも雰囲気的にも黒が似合うと思いがちだが、こうして見ると普通の服だって全然似合っている。今まであまりにも善子=堕天使のイメージが根付き過ぎて、意識的に黒が似合うと刷り込むように信じ込んでしまっていた。

 

 

「うわぁ何この純白さ、まるで天使じゃない。堕天使なのに光属性って、もう訳が分からないわね」

「だからそれだよそれ。どうして普通の服を着てもそういう反応しちゃうかねぇ~」

「うっ……もう反射的に言っちゃうんだから仕方ないじゃない」

「まあ外見が変われば、そのうち内面も変わっていくだろ」

「う~ん。でもやっぱり白は私にとって明るすぎる気も……」

「そんなことないって。むしろお前はいつでも輝いてるよ。普段でもスクールアイドルの時もな」

「な゛っ……サラッとそういうことを言うのはやめなさい!! 心の準備が出来ていないんだから!!」

「いやいや。今からドキドキさせるよなことを言うぞって宣言されて、お前は嬉しいのか……」

「そ、それは魅力半減だけど……。とにかくただでさえ明るい服を着て恥ずかしいんだから、人の心を揺さぶって遊ぶのはやめなさい!!」

 

 

 いや遊んでるつもりは一切ないんだけどなぁ。実際に暗い感じの服だけでなく明るい感じの服も似合っているし、もうそこら辺にいる女子高生なんかよりも数百倍は可愛いと言い張れる自信がある。そんなことを言ったらまた怒られるので多用はしないが、怒ったり恥ずかしがったり、時より笑顔になったりとコロコロと変わる表情変化が面白いので見てみたくはある。そしてツンデレ特有のストレートに褒められると(ども)ってしまう性格は、どこぞのお嬢様と同じく健在だ。なんかもう普通のデートじゃねこれ?

 

 

「お気に召したようだから、買う服はそれにするか」

「えっ、でもこれ結構値段するんだけど……。そんなに手持ちあったっけ……?」

「何言ってんだ。買ってやるよそれくらい」

「はぁ!? こんなところで彼氏面しなくてもいいから!!」

「へぇ、彼氏もどきとは思ってくれているんだ」

「ッ!?!? だ、だからそんなことを言うのはやめなさいって!! もうっ、言ったからには全額支払いなさいよ!!」

「はいはい分かってますよ、お嬢様」

「くっ……いつか絶対に堕天使の元に裁きを下してやるんだから」

「そういうところな。そういうところ」

 

 

 まあそうすぐには身体に染み付いた性格が治る訳がない。しかし外見を変えたことで普通の女の子としての第一歩を歩み始めたのだから、そのうち意識も勝手に変わっていくだろう。そもそも本人自身が男と2人きりで服選びというシチュエーションに緊張しっぱなしで、それほど中二語録を発揮していないのが現状だが。やはり擬似でもいいから彼氏ができると女の子は変わるものなのかねぇ。だからと言って善子を他の男にあげるような馬鹿なことは絶対にしないがな。

 

 しかし、このまま彼女を普通の女の子にしてしまっていいのかと疑問を感じてもいた。中二病を更生させてやらないと意地悪をするつもりはないのだが、俺の中ではまだ若干だけど躊躇いというものが残っている。普通の女の子になることが善子の頼みだけど、本当にそれでいいのかと引っかかるところがあるんだ。

 

 

「もうその服全部買うから、着替えずにそのまま着ておけ。金払ったら店員さんにタグとか外してもらうから」

「アンタ、さっきからどうしてそんなにリッチ思考なの……」

「父さんも母さんも姉も金持ってるからさ」

「つまり人生ずっと幸福だったって訳ね。呪われればいのに……」

「ボソッと言っても聞こえてるからな」

 

 

 どうして女の子が言った重要そうなことは聞こえないのに、どうでもいい悪口だけは聞こえるのか……。あっ、もしかしてこれが俗に言う難聴キャラってやつ? いやでも俺はそんな女の子を苛立たせるような立ち振る舞いをしていないと思うんだけど、周りはどう思っているんだろ。気になる!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ねぇ、次はどこへ行くの?」

「昼飯でいいんじゃないか。いい感じに腹も減ってきたし」

「あまり高級な店はやめてよね。ただでさえ緊張してるのに、そんなところへ行ったら萎縮しちゃうから」

「安心しろ。俺の胃袋は生まれた時からファーストフードによって鍛えられたんだ。だから高級なモノを食っても、どうせ味なんてそこらのジャンクフードと見分けが付かないんだよ」

「それはそれで悲しいわね……」

「ほら、あそこの公園でよくねぇか? 屋台もたくさん並んでるからさ」

「そうね。先生の話を聞いていたら、贅沢なんて言いたくなくなったわよ……」

 

 

 ファッションに関しては高校時代に比べて大人になったせいか、多少の気遣いはできるようになった。だが食に関しては本当に無欲で、作るのも食べるのも大雑把。自炊する時は見た目よりも味重視で、そもそも休日の場合は作るのすら面倒で飯を食べないことがある。家にずっといて動かなかったら腹も減らないから仕方がない。つまり食に関しては大人になった今でもかなり無頓着なのだ。唯一貪欲になれる飯は楓の作る料理と、その手法を受け継いだ秋葉の料理だけだ。

 

 俺たちは適当な屋台で焼きそばと飲み物を買うと、近くのベンチに腰を掛けて並んで昼食を取る。屋台のあるそこそこ大きな公園だから人も多く、こんなところで昼食なんてデート(仮)にしてみればかなり不適合だろう。変態男子と中二病女子のデートなんてこんなものかもしれないが……。

 

 

「ん? 思ったより美味しいわね」

「屋台で食う飯ってやたら美味く感じるよな。周りが賑やかな雰囲気だから、それに煽られるってのもあるんだろうけど」

「確かに。屋台に焼きそばにしては味にコクのあるソースで、まるで堕天使の羽の色のように濃いわね」

「おい、食レポにまで侵食してるぞ……」

「あっ……!!」

 

 

 油断するとすぐこれだよ……。これがデート(仮)中の食事だったから良かったものの、マジのデートだった場合は雰囲気ぶち壊し確定だなこりゃ。そもそも屋台で昼食を取っている時点で雰囲気もクソもあったものじゃないし、更に言ってしまえば俺と善子が2人きりでいるのにムードなんてものが必要かと言われれば……微妙なところである。

 

 

「全く……全然治らないわねこの口調」

「もうこの際、治らないなら治らないで良くないか?」

「はぁ!? 私の輝かしい青春を見捨てる気なの!?」

「違う違う。もうそれがお前の個性なんだよ。だから無理に治す必要なんてないってこと」

「な、何よ急に手のひら返して……」

「お前に頼まれた時はその必死さから手伝ってやろうと思ったんだけど、よく考えてみたらこのままのお前でもいいかなぁって」

 

 

 確かにここへ来て意見を翻すなんて、手のひら返しもいいところだと思われても仕方がない。だけど善子がこのまま普通の女の子になってしまうのが、自分的にどうしても我慢ならなかったんだ。つまり単なる俺のワガママだけど、もう既に俺たちはお互いのワガママを言える関係になっているんだから、多少強引でも自分の気持ちを伝えるのは悪いことではないだろう。

 

 

「俺は好きだよ」

「ふぇっ!?!? そ、そんないきなり告白だなんて……」

「いやそうじゃなくて、お前の中二病のことだよ」

「えっ、そ、そう……。でもどうして?」

「俺が好きだからだよ、今のお前がな。ただそれだけ」

「そんな適当な理由で……」

「ありのままの自分ってのは重要だと思うぞ。お前は幾度となく普通の女の子になりたいって言ってるけど、俺からしたら今の善子が普通なんだよ。だからお前が普通の女の子を目指した瞬間に、俺やAqoursのみんなからしたらお前が普通でなくなっちまう」

「普通の、私……」

 

 

 さっきも言ったけど、言葉遣いも振る舞いも全てお淑やかになった善子はもう俺たちにとっての善子ではなくなってしまう。それだけ中二病というキャラが彼女のアイデンティティとして確立され、周りにもそれが周知されているのだ。

 

 そして、俺はそんな善子が好きなんだ。堕天使キャラに向かって輝いていると言ったら変かもしれないけど、それだけ彼女が元気よく、誇り高く自信満々に中二病キャラを演じる彼女のことがな。もしかしたらもはやキャラ付けとかではなく、それこそが善子という人間なのかもしれない。

 

 

「当たり前だけど、お前が世間一般で言う普通の女の子に戻りたいって言うのなら止めはしないよ。お前がそれを望んでいるのなら、俺も最大限に手伝ってやる」

「どっちに見える? 私が普通の女の子に戻りたいのか、それともこのままであり続けたいのか……」

「最初は一般的な女の子に戻りたいと思っていたみたいだけど、こうして2人きりでデートをしながら話してみると、やっぱり中二病を捨てるに捨てきれていないと思うぞ。それにだ、今日のお前はごく自然にありのままの自分を俺に見せてくれた。だったら今のお前こそが普通なんじゃないのかなぁって思うよ」

 

 

 世間で言われる普通の女の子を目指そうとしても、どこかぎこちない言動になるのが善子の癖みたいなものになっている。服だって自然と黒ゴスロリ調の服を選んでしまうし、口調だってどこか厨二臭いセリフが混じってしまう。そして毎回それで頭を悩ませるんだったら、それはもう更生しなくてもいいんじゃないかと思うんだ。そんな性格を引っ括めて俺は彼女のことが好きだし、千歌たちも俺と同じ気持ちだろう。

 

 

「俺やAqoursはもちろんだけど、最近クラスメイトとも打ち解けられているだろ? お前の教室に授業に行った時、そんな様子が見て取れたから」

「え、えぇ。もう自分を包み隠さずとも、花丸やルビィ以外の人とも話せるようになってきたわ」

「だったらなおさら無理をしなくてもいいんじゃないか? もう今のお前は周りに受け入れられているんだからさ」

「そう……。そうね」

 

 

 俺の言葉で心の(わだかま)りが溶けたのか、さっきまで強ばった顔をしていた善子の表情が緩くなる。やはり一般女子になるためにかなり無理をしていたらしく、あらゆる(しがらみ)から解放されてどこか安心した様子だ。恐らく中二病が抜けないことに関しては、彼女自身もこのままで行くのか更生したいのか気持ちがどっち付かずだったからだろう。そうだよな、中二病なんて中々捨てられない。だってカッコいいし憧れるじゃん、闇の力とか堕天使の翼とかさ。

 

 

「飯も食ったし、次はどこへ行く? それかもう目的を達成する意味がなくなったから、このまま解散にするか?」

「いえ、私の家に……来ませんか?」

「えっ、お前の!?」

「ありがとうってお礼もしたいし、今日は夜まで親がいないから……。それに騒がしいところじゃなくて、2人きりになりたいの……」

「マジ……?」

 

 

 善子は顔を赤くして、そっぽを向きながらも小さく頷く。今の彼女はもはや中二病キャラとか全く関係ない、至って普通の1人の乙女の顔になっている。痛いキャラを演じている彼女だが、容姿だけを見ればそこらの女子に負けないくらいの美少女だ。そんな美少女が羞恥心に耐えながら自宅に誘ってくるなんて、並の男なら一発KOだぞ……。俺は並の男ではないから辛うじて耐えてはいるものの、親がいないことを言い訳に男を自宅に誘い込む展開は決まって1つしかない。

 

 そう、身体と身体のドッキング――――!!!!

 

 

「い、一応言っておくけど、アンタが想像しているようなことはしないから!!」

「え゛っ!?」

「ちょっとそんな図星みたいな顔しないでよ!! こっちが恥ずかしくなるでしょうが!!」

 

 

 そういや以前に花丸にも言われたけど、やっぱり俺の思考って読まれやすいものなのか……? 気が動転している善子にすらあっさりと妄想を見抜かれてしまった。自分の妄想が相手にも伝わるって、これほど恥ずかしいことはねぇよな……。

 

 

「本っ当に変態なんだから。教師のくせに生徒に欲情するってどういう神経してんのよ」

「それは俺自身も疑問に思ってる……。でも嬉しいよ、今まで啀んでいたお前が自宅に誘ってくれるなんて」

「言ったでしょ、これはお礼だって。でも女の子の家だからって、あまり変な気を起こさないことね」

「はいはい分かってますよ、お嬢様」

「だからその言い方やめなさいってば!! もうっ、早く行くわよ!!」

 

 

 そしてまた手首を掴まれ、引っ張られる形で歩き出す。

 デート(仮)の最初の善子は普通の女の子を目指そうとするあまり、多少ぎこちない雰囲気はあったのだが、今ではすっかりいつものテンションに戻っている。結局堕天使を卒業することはできなかったが、もうそれでいい。だって今の彼女は、普通に恋する乙女なのだから。

 

 

 ちなみに、善子と間違いは起きなかったから安心(?)してくれ。

 流石にツンデレちゃんだから曜や果南のような事態にはならなかったものの、若干期待していた俺もいることは事実。でも今まで嫌悪されていたのにこうして2人きりで出かけられたのは、素直に嬉しいかな。

 




 結局サブタイの通りに堕天使は消滅しませんでしたと(笑)
 善子の家に行った後、曜や果南の時と同じ様な展開を考えていたのですが、彼女の心情を汲み取ればまだそこまでの勇気はないと思い今回は泣く泣く自宅へのお誘いだけに……。正直恋だけでなく徐々に性関連でも積極的になっていくAqoursを描きたいんですけどね(笑)


 最近はずっとハーレムだったり恋愛系が続いていたので、次回は久々にネタしかない回にしてみようと思います!








 ちなみに、このAqours編もあと15話程度で完結の兆しが……!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

罪という名の着せ替え大会(前編)

 またとあるコントを見て思いついたネタがあったので、千歌たちに被害者となってもらいました(笑)


 

「こんにちはーーっ!! って、誰もいない……」

 

 

 とある日の放課後、高海千歌はいつも通りスクールアイドルの練習を行うために部室へやって来た。しかし部室の鍵が開いていたのにも関わらず中には人っ子一人おらず、もぬけの殻も同然だ。一応椅子に1つだけカバンが置いてあるので、誰かが来て用事で抜け出しているのだといくらおバカさんの彼女でも察することはできた。

 

 

「むっ、どこかで馬鹿にされたような気がしたけど……まぁいっか」

 

 

 1人で不貞腐れながらカバンを椅子に置いて部室を見渡す千歌。すると部屋の端に見慣れない高級感溢れる椅子が置かれていることに気が付いた。背もたれは高く、両側にこれまた高そうな肘置きが付いている。どの角度から見ても社長室に置いてある謁見用の椅子のようで、座ることさえも渋ってしまうくらいに綺麗な造りをしていた。どう考えても散らかっている部室の雰囲気には合わず、むしろそのせいでただの椅子なのに存在感を大いに醸し出している。

 

 だが、千歌はそんな神々しい椅子に覚えがあった。

 

 

「これって、もしかして先生が注文してた椅子のことかな? この前、部室に俺に見合う椅子がないってワガママ言ってたから。そっか、今日先生が妙にテンション高かったのはこの椅子が届く日だったからなんだ」

 

 

 自分の副担任かつ顧問である神崎零はリッチ思考派だ。あと1週間程度の浦の星生活なのに、わざわざ値が張る椅子を取り寄せて部室に設置するあたりその片鱗が伺える。そして今日、いつもは冷静な零の機嫌が妙に良かったのだがその理由がようやく理解できた。千歌を含め浦の星の生徒たちは、彼のテンションが高いから彼女が出来たのではないかと噂をしていたくらいなのだ。その生徒の中には彼に女が出来たと早とちりをして、少々病む子もいたとかいなかったとか……。

 

 とにかく不安事項は全て解決できて、千歌の心に安堵が戻る。

 そして興味は再び椅子へ向けられた。見た目だけでも高級感を味わえるが、実際に座ったらどれだけ気持ちいいのだろうと想像するに余りある。その足は自然と椅子に向けられていた。

 

 

「クッションの部分とかとてもふっかふかだよねぇこれ。座ったら気持ちよくて絶対に寝ちゃいそうだよ……」

 

 

 ここで千歌の脳裏に湧いてはならない考えが湧き上がってくる。一瞬でもいい、座ってみたいという欲だ。たかが高校生の身分でこんな高級な椅子に座る機会がない上に、今日一日の授業を終えて精神的に疲れている彼女にとっては自分を誘惑する魔性の椅子にしか見えないのだ。

 

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけだから……いいよね?」

 

 

 性行為をするカップルのようなセリフを言いながら、千歌は緊張しつつも半歩ずつ高級椅子へと近付いて行く。深く腰を掛けて背もたれにゆったりと身体を預ければ夢心地になると、まだ座ってもいないのに想像していた。

 

 そしてあっさりと誘惑に負けてしまった千歌は、椅子の前に立つと何の躊躇いもなく腰を掛ける。

 

 

「おおおっ!! 座った瞬間におしりに感じるこのふかふか具合! 背もたれも柔らかくてゆりかごの中にいるみたい! 私の部屋のベッドよりも気持ちいいよこれ!」

 

 

 想像以上の座り心地に、千歌は思わず座りながら小さく身体を跳ねる。おしりが椅子に着地するたびに、柔らかさと弾力を兼ね備えたクッションが再び自分の身体を軽く跳ねさせる。千歌は子供の頃に遊んだトランポリンハウスを思い出し懐かしみながら、童心に帰ったかのように心が踊っていた。両脇に設置してある肘掛に両腕を置きながら、もうこれが先生が特注した高級な椅子だとは考えもせず、ただ子供の頃の無邪気な心で弾むクッションを堪能する。

 

 その心地良さに段々夢へと誘われていた千歌だが、思いもよらぬ悲劇がすぐそこまで迫っていた。

 突如、鈍い木製の音が自分の右の手元から聞こえてくる。さっきまで肘掛に腕を置いてリラックスしていたのだが、気付いた瞬間には右手が宙ぶらりんになっていた。

 

 もうあと少しで気持ちの良い夢の中へ旅立とうとしていた矢先の出来事である。重かった瞼も今ではすっかり覚醒し、むしろ冷汗が走るくらいには全身が危機感を感じていた。千歌は一抹の不安を覚えながらも、目線をさっきまで肘掛があったところまで恐る恐る下げる。

 

 

「あっ……あぁあああああああああああああああああっ!?!? ひ、肘掛が……取れてる!! もしかして……壊しちゃった!?」

 

 

 右の肘掛を持ったまま、千歌は誰もいない部室で1人オロオロと嘆く。見た目だけでも高級感が溢れる椅子で、しかも愛しの我が先生の椅子だ。そんな椅子の肘掛を壊したとあらば、いくら温厚な零でも堪忍袋の緒が切れてしまう可能性が高い。更に言ってしまえば今日一日のずっとテンション高かかったくらいだから、この椅子にどれだけ執着していたのかは本人に聞くまでもなく明らかだ。

 

 

「どうしよう!? い、いやこういう時こそ冷静になれって先生が言ってたよね……よしっ!」

 

 

 千歌は軽く深呼吸をして心を落ち着けると、冷静沈着に対処法を考える。素直に謝るという選択肢が出てこないあたりは日頃の行いからだろうか、必死にこの場を打開する方法ばかりに神経を集中していた。

 

 そこで、頭に電球を点しながら妙案を思いつく。

 

 

「そうだ、秋葉さん。確か秋葉さんって研究生で、世界に認められてるけど意味不明な発明ばかりしてるって先生が言ってたような……。世界を飛び回っているんだったら、この椅子くらいだったら直せるよねきっと! そうと決まれば早速電話を……」

 

 

 千歌が目を付けたのは零の姉である秋葉だ。まだそこまで彼女と交流がないので情報は断片的なのだが、零から聞いた話で研究者であり発明家であることは耳に挟んでいる。家具の修理に出すと高級椅子がゆえにお金が掛かるし、そもそも業者に出す悠長な時間はない。その点、秋葉なら零と一緒に住んでいる都合上仕事でこの街にいる可能性は高く、もしかしたら短時間で浦の星に駆けつけてくれるかもしれない。しかも今日は幸いにも職員会議があり、零は職員室に長時間拘束されている。一刻の猶予もない千歌にとっては、この選択肢以外の道は存在しなかった。

 

 千歌は浦の星芳香剤事件の時に貰った秋葉の携帯番号から、彼女に電話を掛ける。

 1コール、2コール、3コール――――もしかしたら仕事中かもという気遣いさえ焦りで忘れている千歌。4コール目まで来ても無反応だったので諦めかけたその時、耳元に女性の声が聞こえてきた。

 

 

『もしもし千歌ちゃん? どうしたのいきなり……?』

「あ、秋葉さ゛ぁ~ん!!」

『な゛っ……どうして泣きそうになってるのよ!?』

 

 

 零は秋葉のことを悪魔だの何だのと罵っていたが、今の千歌にとっては彼女の声はもう天使の産声にしか聞こえなかった。あまりにも主人公のように救世主が登場したので、千歌は悲劇のヒロインさながらに声が震えていたのだ。

 

 

「椅子が……肘掛が壊れちゃったんですけど直せませんか!? 今すぐに!!」

『椅子は簡単に直せるけど、流石に今すぐには無理だよ。仕事中だもん』

「ですよねぇ……」

『明日とかじゃダメなの?』

「ダメなんです!! 今すぐじゃないと怒りの雷が天罰として私に降り注ぐんです!!」

『いきなり中二病になってどうしたの……。分かった、仕事を早めに切り上げられそうになったら連絡してあげるから』

「本当ですか!? 絶対ですよ!?」

『はいはい。とりあえず切るね』

「はいっ! ありがとうございます!!」

 

 

 絶望の淵から朧気(おぼろけ)ながらも希望を持てた千歌は、携帯を机に置いてこれからの策を再び練る。秋葉が来てくれると言っても、零が来る前に到着しなかったら意味のない約束だ。だから秋葉到着までにこの壊れた肘掛を元に戻さないといけない。壊れてしまったので完全には元に戻らないが、それでも立て掛けておくことくらいはできるかもしれない。それで多少は目を誤魔化すことができれば……。このように、千歌の悪知恵がどんどん働いていく。

 

 

「えぇと、こうやって上手く立て掛けておけば……」

 

 

 千歌は肘掛を器用に立たせ、ゆっくりと手を離す。

 だが、不幸は重なって訪れるもの。突然背後の部室のドアが開け放たれる。開けた本人は至って普通にドアを開けたのに、神経を集中していた千歌にとってはドアの開閉音が爆音のように聞こえた。せっかく上手く立て掛けられそうだったのに、その音にビックリした衝撃でこのままだと肘掛が倒れてしまうと踏んだ千歌は、咄嗟にその肘掛を持ったまま椅子へ座る。

 

 

「千歌ちゃん……? 来てたんだ」

「梨子ちゃん……。う、うん、さっきね」

「どうしたの? 汗かいてるみたいだけど、そんなに暑い?」

「い、いやぁさっき軽く運動してたから……」

「珍しい。千歌ちゃんが自主連なんて」

「あ、あはは……。梨子ちゃんは何やってたの?」

「お手洗いに行っていただけだけど」

 

 

 千歌は忘れていた。部室に来るのは零と秋葉だけではなく、Aqoursのメンバーもいたことを。千歌はなるべく会話を引き伸ばして椅子から梨子の気を逸らしながら、立て掛けた肘掛のバランスを取りゆっくりと手を離す。何とか見た目的には普通の椅子に戻ったのだが、ちょっとでも右の肘掛に触れればたちまち取れてしまう危険な橋なことには変わりない。肘掛と梨子、千歌は2つのことを同時に気にしなければならなく、その緊張感から精神はどんどん磨り減っていく。

 

 

「あっ、それって先生が楽しみにしていた椅子だよね? すっごく高そう……」

「あ、あと一週間しかここにいないのに、こんな高い椅子を注文するなんて何考えているんだろうね先生って!」

「まあ椅子なら持ち帰ることができるから。そうだ、私にも少しだけ座らせてくれない?」

「ダメだよ!! 高校生にこんな高級椅子は似合わないよ!!」

「千歌ちゃんだって高校生じゃない!! なのにどうして座ってるの!?」

「そ、そうだね……。いま離れるから……離れるから……」

 

 

 千歌は椅子を刺激しないようにゆっくりとその場から離れ、なおかつ梨子が椅子に近付かないように彼女と椅子の間をガードするように立つ。こうして見ると普通の椅子に見えるのだが、またいつ肘掛が壊れてしまうか分からない。零が楽しみにしていただけあって罪を被りたくない千歌は、またしても必死に策を張り巡らす。だが突然の梨子襲来により思考も乱れてしまっているため、唯一思いついた解答が接着剤を買ってくることだった。

 

 

「そ、そうだ! 私もお手洗いに行ってこようかなぁ……」

「うん、行ってらっしゃい」

「私がいないからって、勝手に椅子に座っちゃダメだからね!!」

「はいはい分かったから……」

「近付くのもダメだからね!!」

「えぇ、それも……」

「見るのもダメだよ!!」

「見るくらいはいいでしょ!? そもそも部室狭いから、勝手に目に入っちゃうし……」

「とにかく、勝手なことしないでよね!! 絶対だよ!?」

 

 

 梨子が軽く頷いたのを確認して、千歌は部室から立ち去る。目的はもちろんお手洗いではなくて接着剤の購入だ。部室を出た直後に購買に向けて廊下をダッシュする。

 

 そして部室に1人残された梨子は、千歌が部室から出て行った直後からずっと零の椅子に注目していた。

 

 

「座るなと言われると座りたくなるよね……」

 

 

 見た目だけでも高級でふかふかそうなクッション、そして全身の疲れを癒してくれそうな弾力性のある背もたれ、更にゆったりと腕を預けられそうな肘掛と、最近作曲作業で肩が凝り気味の梨子にとっては魅力的な椅子にしか映らない。彼女も千歌と同じく椅子の誘惑に飲み込まれ、ゆっくりと歩を進めていた。千歌にも注意されている上に元々零の椅子だから勝手に座るのは躊躇われるものの、ちょっとだけならという冒険欲と、その気持ちよさを感じてみたいという恍惚感が梨子の身も心も突き動かす。

 

 椅子の前に辿り着いた梨子は息を飲んで決心を着く。そして若干の躊躇がありつつも、椅子に

腰を下ろした。

 

 

「思った以上に柔らかい……一体いくらしたんだろうこの椅子。もう自室の椅子なんかじゃ満足できないくらいに――――って、あっ!?!?」

 

 

 軽く腕を掛けただけなのに、あっさりと壊れてしまった右の肘掛。一瞬何が起こったのか理解できなかった梨子だが、自分の右手に無慈悲にも本体から外れた肘掛が握られているのを見て一気に顔が青ざめる。本当は千歌が壊したことなど知る由もない梨子は、自分が壊したものとばかり思い込んで全身が震えていた。

 

 

「こ、こんな簡単に壊れちゃうの!? 高級品はデリケートだって言うけど、ちょっと腕が触れただけなのに……」

 

 

 もう完全に自分が壊したと思い込んでいる梨子は、千歌以上に慌てふためいていた。それもそのはず、あのみかん少女に比べれば彼女は責任感が強く、想いの人である先生の私物を壊したとなればそれだけ大きい罪悪感が生まれてしまう。千歌とは違って対策を考えるような余裕もなく、ただその場で立ち尽くして呆然としていた。

 

 そんな梨子に追い討ちを掛けるかのように、部室のドアが開け放たれる。ビクッと全身を震え上がらせ恐る恐る振り返ってみると、そこには自分と同じくこの世の終わりを迎えるかのような顔をしている千歌がいた。

 

 

「あっ、そ、その肘掛……!!」

「こ、これはその……」

 

 

 お互いに自分が壊してしまったことが相手にバレたと誤解をし、言葉にならない言葉を発しながらわなわなと震える。千歌はあれだけ隠していたのにこうもあっさりとバレてしまった焦りから、梨子は気が動転している最中の出来事で、お互いにまず自分の中で状況整理をするので手一杯だ。

 

 

「それ……絶対に怒られるよね」

「怒られる……と思う」

 

 

 2人はもうバレてしまったものは仕方がないと少し意気消沈しながら、鬼のように怒り狂う零のことを思い浮かべる。最悪壊れたところを誰にも見られていなかったら初期不良で誤魔化せたかもしれないが、こうして相手にバレてしまってはもう打つ手はない。もちろん最初に壊したのは千歌で、梨子は完全に悩み損なのだが……未だそれに気付く由はない。

 

 

「私、怒られるの絶対にイヤだよぉ……」

「千歌ちゃん!?」

「な、なに……?」

「あなた、思った以上にいい人なのね!!」

「い、いや全然違うと思うけど……」

 

 

 梨子は曇った表情から一転、目の前に救いの天使が現れたかのごとく明るい表情になる。それもそのはず、自分が壊したのにも関わらず千歌も一緒になって零に怒られてくれると思っているのだから。しかし何度も言うがもちろん、元々梨子はとばっちりである。

 

 

「本当はこんなこと言うのは悪いんだけど、千歌ちゃんがそう言うなら2人でやったってことにして、責任半分ずつっていうのは……ダメ?」

「い、いいの!? 2人でやったってことにしていいの!? 梨子ちゃん、想像以上にいい人だった……」

「それはこっちのセリフだよ! 本当は申し訳ないんだけど……」

「それはこっちもだよ! ありがとう梨子ちゃん!」

 

 

 お互いに罪を共有して友情を確かめ合う奇妙な構図が出来上がってしまった。同じ穴の(むじな)として仲間ができたと思い込んでいる2人の心は、一気に絶望から希望へと変わる。

 

 

「それにしても、千歌ちゃんの言う通り椅子に近付かなかったらよかったよ。まさか肘掛が取れちゃうとは思わなかったから……」

「ん……? い、今なんて?」

「さっき椅子に座ったんだけど、その時に肘掛を……ね」

 

 

 再び会話の流れが変わった。いや変わったのは千歌の心の方か、梨子の話を聞いた瞬間に心に悪の芽が芽生え始めた。最初は聞き間違いかと思っていたが、彼女の言葉を脳内で何度もリピートして悪の芽に水と肥料を与え続ける。そしてその芽が育って開花した時には、既に千歌の顔は悪魔の色に染まっていた。

 

 

「いやぁ梨子ちゃん、肘掛壊しちゃったんだねぇ~♪」

「どうしてそんなに嬉しそうなの……?」

「そうかそうかぁ~♪」

「なんでそんなに楽しそうなのか意味が分からないんだけど……。あとで怒られるかもしれないんだよ?」

「えっ、壊したのは梨子ちゃんでしょ??」

「はぁ!? 責任半分ずつねってさっき言ったよね!? 千歌ちゃんも泣きそうになりながら同意したよね!?」

「へ? 知らないんだけど?? 梨子ちゃんが壊しちゃったんだよね??」

「あ、悪魔がいる……悪魔すぎるよ千歌ちゃん!!」

「先生に幾度となく悪魔だの小悪魔だの言われてるからね♪」

 

 

 梨子が自分で壊したと告白してしまったことで、千歌はそこに付け込んで全ての罪を彼女に擦り付けようと画策する。本来親友を売るなんて行為は心が痛むものだが、普段から零に小悪魔的性格を発揮していることによって、親友に対してもその悪女な性格を披露してしまっていた。あまりにも咄嗟に訪れた危機回避方法に、千歌は思わず口調が高くなってしまうほどに心が踊っている。

 

 しかし2人はこの騒ぎから、机に置いてある携帯が電話を受信していることに気付いていなかった。何コール待たせても出ないと思ったのか、掛け手がその携帯に留守電を入れる。

 

 

『もしもし千歌ちゃん? 秋葉だけど』

「あっ、秋葉さんからの留守電が入ってるよ。たった今」

「そうだ、また連絡してくるのすっかり忘れて――――――あ゛あぁっ!?」

『椅子の修理の件は、あと1時間くらい待ってもらえるかな?』

「え゛っ!? どうして私が椅子を壊したって知ってるの? それにどうして千歌ちゃんの携帯に――――あっ、もしかして……」

『肘掛くらいだったら数分で直ると思うから、とりあえずまたそっちに行く時に連絡するね。それじゃ!』

 

 

 留守電が切れてからの数秒間、2人は無言のまま立ち尽くす。しかし雰囲気はさっきとは真逆、梨子は黒い笑みを浮かべ、千歌は再び身体を震わせていた。

 

 

「どういうことかなぁ~千歌ちゃぁあああああああああああああああああん!!!!」

「そ、それはぁ……そうだよ! 梨子ちゃんが肘掛を壊すんじゃないかと思って、あらかじめ秋葉さんに電話しておいたんだよ!!」

「未来予知とでも言いたいの!? 素直に白状しなさい!!」

「ゴメンなさぁあああああああああああああああああああい!!!!」

 

 

 あっさりと悪魔キャラが崩壊した千歌。

 だが、本当の着せ替え合戦(罪)はまだこれからだ――――――

 

 

 

 

To Be Continued……

 

 




 とある芸人さんのコントをオマージュしていますが、後編はそこそこオリジナル展開になるつもりです。まあオチは知っている人は知っていると思いますが、そこも『新日常』風にアレンジを加えていきたいと思います!

 次回は千歌と梨子以外のメンバーも登場し、罪の着せ替え大会の餌食に……??


~今後の予告(あくまで理想)~

5月11~12日 『罪という名の着せ替え大会(後編)』
5月14~15日 『鞠莉個人回(タイトル未定)』
5月19~20日 『ルビィ個人回(タイトル未定)』
5月23~24日 『いつの間にかAqoursハーレム(1年生編)』



新たに☆10評価をくださった

白月姫さん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

罪という名の着せ替え大会(後編)

【今回の見所】
 千歌の悪知恵(悪あがき)がエスカレートして、どんどん沼にハマっていく様


 

「梨子ちゃん、1ついい考えがあるんだけど……」

「2人で責任を半分ずつはなしだからね」

「ぶぅ~!! 急に冷たくなったよね」

「あらぬ罪を私に全て擦り付けようとしてきたのはどこの誰だっけぇえええええ!?」

「痛い痛い痛い!! 謝るからチョークスリーパーだけはやめてぇえええええええええええ!!」

「少しは千歌ちゃんの罪が軽くなるように頭を捻ろうかと思ってあげたのに!」

「ほ、ホント!? 梨子ちゃん大天使様、ありがとぉおおおおおおいててててててててててて!! 痛いよ梨子ちゃん!!」

 

 

 どこでプロレス技を身に付けたのか、梨子は千歌の首を腕でホールドして締め上げる。それもそのはず、千歌が自分に罪を被せてきたせいで精神的にも身体的にも追い込まれていたのだから。

 だが梨子としても、このまま千歌がみすみす怒られている姿を見るのは耐えられない。そんなお人好しの彼女は、少しでも千歌の罪が軽くなるよう協力しようと思っていたのだが……。このままでは零が来るのも時間の問題で願いは叶いそうもない。

 

 とりあえず首を絞めていた腕を離してあげると、千歌は机に手を付きながら絶え絶えに荒い息を吐いた。

 

 

「それで? いい考えってなんなの?」

「はぁ、はぁ……この椅子なんだけど、元々肘掛がない椅子ってことにならないかなぁって」

「いやいや、片方だけ肘掛がないのはおかしいでしょ……」

「だよねぇ……」

 

 

 こじつけでもいいから何か策を口に出して言わないと、千歌は居ても立ってもいられない状況になっている。もうAqoursのメンバーにもバレてしまったのでここまで来たら素直に謝るしかないのだが、彼女はまだ悪あがきを続けるつもりだ。自分でもそのことは分かっているはずなのに、一度逃げ道に入り込んでしまうと中々後戻りができないのは人間の性である。

 

 すると、またしても千歌を脅かす出来事が襲来しようとしていた。部室の外から聞きなれたロリ声が聞こえてきたのだ。

 

 

『あのぉ、誰かいませんか? 部室のドア、鍵が掛かっているんですけど……』

「ル、ルビィちゃんだ!? どうしよう……」

「どうしようって言ったって、黙ってたら怪しまれるから開けるしかないんじゃない?」

「うぅ……もう仕方ないなぁルビィちゃんは!!」

「どうしてそんなに上から目線なの……」

 

 

 千歌はどの面を下げてか、文句を垂れながら渋々部室のドアの鍵を開けようとする。

 だがここでとある事実に気付いた。自分の右手に、椅子の肘掛が握られているのだ。このままでは片側だけ肘掛がない椅子をルビィに見られ、怪しまれることは想定の内。梨子にバレた時点でもかなりの失態なのに、このまま別のメンバーにまでバレてしまうのは己の罪を軽くする上で好ましいことではない。何としてでも椅子破壊事件を外部に知られてはならないが、自分たちが部室にいるとルビィに悟られている以上このまま鍵を開けないのは不自然極まりない。

 

 すると千歌は咄嗟に持っていた肘掛を梨子に放り投げる。その意図を汲み取れない梨子だったが、落とす訳にもいかないので両手で投げられた肘掛をキャッチした。

 

 

「ちょっと千歌ちゃん!? これどういうこと!?」

「ルビィちゃんが入ってくる前に、早くその肘掛直しておいて!!」

「直すって、私にそんな建築能力ないよ!?」

「ただ立て掛けておけばいいんだけど……。ダメだ、このままじゃルビィちゃんに怪しまれる!!」

 

 

 ガヤガヤと騒いでいるせいで、部室の外にいるルビィにも千歌と梨子の存在がバレている状態だろう。だからこそこのまま彼女を待たせると確実に怪しまれるのは目に見えていた。

 

 もう頭の中がパニックになっている千歌は急いで椅子へ近付くと、まだ健在な左の肘掛を力強く握る。そして木製の鈍い音と共に、その肘掛を思いっきり外した。それによってお高い肘掛が付いていた豪華な椅子が華奢となり、見るも耐えない貧相な姿に様変わりしてしまった。

 

 

「え゛っ……ち、千歌ちゃん!? なんでもう片方も壊しちゃったの!?」

「片方だけ肘掛がある椅子はおかしいって梨子ちゃんが言ったんでしょ!? ほら、こうすれば最初から肘掛がなかったかのように見えるし……」

「確かにこっちの方が無理はないけど、流石に高い椅子に肘掛がないっていうのは変かも」

「とにかくルビィちゃんを中に入れないと。梨子ちゃんもしっかり誤魔化してね! ね!?」

「えぇ……」

 

 

 もはや勢いだけで行動している千歌に対し、梨子は怪訝な表情で彼女の動向を伺う。千歌は外れた2つの肘掛を近くのダンボールに隠すと、遂に部室のドアの鍵を外してルビィを中へ招き入れた。

 

 ルビィは中の様子を伺うように部室に入ると、何故か汗だくの千歌と苦い顔をしている梨子の顔を交互に見つめる。

 

 

「えぇと、どうしてすぐに開けてくれなかったんですか……? それに何だか騒がしかった気もしますけど……」

「そ、それは梨子ちゃんが変顔で私を笑わせてくるから!!」

「はぁあああああ!?」

「梨子ちゃん!!」

「ぐっ……ま、まあそんな感じだから気にしないでいいよ」

 

 

 未だ頭に"?"マークを浮かべるルビィを他所に、千歌の言い訳に憤りしか感じず彼女を睨みつける梨子。部室は静まり返っているが、3人の心はそれぞれ困惑と焦燥、憤怒に分かれ雰囲気を混沌に染めている。

 

 そして梨子は怒りに満ちた鋭い目線で千歌とアイコンタクトを取った。

 

 

(千歌ちゃぁあああああああああああん!! どうしてあんな嘘付くの!? もっとマシな言い訳あったよね!?)

(ゴメンゴメン! 咄嗟に思いついたのが梨子ちゃんの変顔だったから♪)

(どうしてそんなものが頭に浮かんでくるのよ……)

(えっ、知らない? 梨子ちゃんって意外と変顔してるんだよ?)

(ウソだよ!! 嘘……だよね?)

(それは放送された録画を見てみれば分かることだよ)

(何の話!?)

 

 

 世界観がブレそうな話題はさて置き、本題は壊してしまった椅子の誤魔化し方だ。幸いにもルビィは部室の入口付近にいるため、机が邪魔をして椅子の存在には気付いていない。それを悟った千歌は彼女がそっぽを向いた瞬間を見計らい、2つの肘掛をダンボールから取り出し椅子に立て掛けた。この間、たった数秒。もう何度も同じ行為をしているからか無駄にバランス感覚が優れ、この一瞬の間でも椅子をまた見た目だけの豪華椅子に様変わりさせることに成功した。

 

 しかし、千歌の怪しい動きにルビィが遅れて反応する。

 

 

「千歌さん? 何をやっているんですか?」

「ふぇっ!? ちょ、ちょっと椅子のお手入れを……」

「あっ、それもしかして先生が注文していた椅子ですか?」

「え゛っ!? どうして知ってるの……?」

「さっき先生とすれ違った時に言ってました。そろそろ部室に俺に見合う王座のような椅子が届いてるだろうって」

「先生とすれ違ったって、まさか……!?」

 

 

 今日だけで何度目の衝撃だろうか、またしても千歌の表情が曇る。零とルビィがすれ違ったということは、既に職員会議は終わっているのだ。この後の彼の行動は教室に戻って教育実習のレポートを仕上げ、部室へ来るという流れである。つまりもう時間は残されていない。秋葉が来る時間は残り50分くらいであり、それでは確実に死のカウントダウンを過ぎてしまう。

 

 もはや自分の罪を何としてでも軽くすることだけしか考えられない千歌は、名案ならぬ迷案を思い付きまた梨子とアイコンタクトを取る。

 

 

(梨子ちゃん梨子ちゃん!)

(イヤよ)

(ええっ!? まだ何も言ってないんだけど!?)

(今の千歌ちゃん、ちょっと口角上がってる。どうせよからぬことを考えてるに決まってるもん)

(うぐっ……!! す、すこぉしルビィちゃんに協力してもらうだけだよ。ほら、先生ってルビィちゃんには極端に優しいでしょ?)

(なるほど、ルビィちゃんに罪を着せれば誰も怒られず円満に解決すると)

(その通り! 流石察しがいいね梨子ちゃん!)

(ありがと。でも本当にその作戦が上手くいくといいけどね)

(へ……?)

 

 

 梨子は千歌の悪巧みを一蹴するどころか、成功の見込みを完全にゼロだと思っているみたいだ。本人は()()()()不幸にならない()()()()完璧な計画だと思っていたのだが……。千歌は梨子の助言に首を傾げながらも、椅子に近付くルビィに制止させる形で話しかける。

 

 

「そ、そうだ私たち、これから先生に相談したいことがあるから部室を出なきゃ行けないんだった! 戻ってくるまでお留守番頼めるかな……?」

「いいですけど、先生が部室に来た時じゃダメなんですか?」

「ダメじゃないけどダメというか……。とにかく、この椅子に座ってリラックスしてもいいから!」

「先生の椅子なのに、勝手に座っちゃうのはどうかと……」

「グサッ!! 心が痛い……」

 

 

 これほど豪華でふかふかな椅子の誘惑に負けず、先輩に対して真っ向から正論を放つルビィ。そんな潔さと真面目さに、心が悪に染まっている千歌は正義の鉄槌を下されダメージを受ける。

 

 

「ほ、ほら! 座るだけだったら先生も分からないからいいんじゃない……?」

「う~ん、それはそうですけど、やっぱり勝手に人のモノに触っちゃうのは良くないと思います」

「ぐはっ!! 健気すぎるよルビィちゃん……」

「ち、千歌さん!? さっきから胸を抑えて大丈夫ですか!?」

「平気だよ……多分」

「千歌さんこそ具合が悪かったら、先生の椅子に座らせてもらってリラックスしたらどうですか? 激しく動いて壊さない程度だったら、先生も許してくれると思いますけど」

「うあ゛ぁああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

「千歌さん!? 千歌さぁーーーーーーんっ!!」

 

 

 見た目はこんなに小さい身体をした少女なのに心は大きく、そんな彼女の言葉攻めだけで千歌のマインドが粉々に砕かれてしまった。もちろんルビィにしてみれば、何故千歌がこれほどまでに苦しんでいるのかなど全く知る由もないのだが……。

 

 もう既に椅子を壊してしまったとは言えない千歌は、ルビィからの言葉攻めを何の防御もなく一身に受けるしかない状況だ。しかしマインドを砕かれた今、もう精神的にも限界が訪れている。床にペタリと座り込んで敗北ポーズを取るが、何が何だか分からないルビィは部室に入ってきた時よりも更に頭に"?"を浮かべていた。そして、その様子を見ていた梨子はこの状況を予想していたのでゆっくりと溜息をつく。

 

 

「ルビィちゃん、これからもずっといい子でいるんだよ……」

「おばあちゃんみたいな言い方をされても……」

「だから言ったでしょ、上手くいくといいけどねって」

「今その意味が分かったよ。こんないい子には着せ替えられない。何がとは言わないけど……」

 

 

 あまりにも純粋すぎる心を持ったルビィに、千歌の中に潜む悪魔も手を出せなかった。それどころか罪を着せ替えようと彼女の純白さに触れたことで、邪悪に満ちた千歌の心がダメージを受けながらも浄化されようとしていた。手と膝を付いて項垂れる千歌だが、まだ浄化されきっていない悪魔が最後の気力を振り絞って悪知恵を引っ張り出そうともしている。

 

 

「そうだ、ダイヤさんなら純粋でもないし騙されやすいしいいかも……」

「そんなこと言って、ダイヤさんに怒られるよ?」

「もう何回も怒られてるし、今更新鮮味なんてないから……」

「いやいや、怒られることに新鮮味を持ったらダメでしょ!? まず怒られないように努力しようよ!」

「そうだね、いかに罪を軽くできるのか努力しないと……」

「それは努力の方向が間違ってるからね!? もう千歌ちゃん完全に壊れちゃってるよ……」

 

 

 脳内に響く悪魔の囁きをそのまま口に出すだけの千歌は、吐き出す言葉が全てマイナス感情にしかならない。ルビィの純粋さで脳内と心の浄化が開始されてはいるものの、まだ千歌の中に残っている悪魔が激しく抵抗を繰り返すので千歌も千歌で自分の言動に混乱していた。

 

 

「そうだ、椅子が届いていたら先生に報告しに来いって言われていたこと忘れてました。すぐ戻ります!」

「な゛っ……!? ちょっと待ったぁああああああああああああああっ!!!!」

「ピギッ!? きゅ、急に大声出さないでください……」

「いやぁ今部室から出ない方がいいんじゃないかと思って……」

「どうしてですか?」

「ほ、ほら! 先生だって大人だけど男性でしょ? だから今は男の子の時間かもしれないし……」

「ひゃっ!? いくら先生でも学校でそんなことしないと思います!! 用事がないならもう行きますから!!」

「ちょっと待ってルビィちゃ――――行っちゃったぁ……」

「ていうかルビィちゃん、顔を赤くしてたってことは意味が分かってたんだ」

 

 

 千歌が何気なく放った下ネタに対して、ルビィが顔を紅く染めていたことに驚く梨子。それもそのはず、ルビィこそ穢れのない純粋っ子筆頭みたいな見た目なのに、こうも簡単に下ネタに乗せられるということはそっち系の知識はあるという事実を決定付ける。それは千歌にも分かっているはずだったのだが……。そんなことよりも、彼女は自分の死期がすぐそこまで近付いていることだけを懸念していた。

 

 

「どうしよう梨子ちゃん!? 先生来ちゃうよ!?」

「どうしようもこうしようも、もう謝るしかないんじゃない?」

「いや、まだ手はあるはずだよ! だっていつも先生言ってるじゃん、『何事も最後まで諦めるな! やりぬく力を身につけろ!』って」

「それ悪事のためは言ってないと思う……」

「とにかく肘掛をもう一度付け直さないと! 梨子ちゃんも手伝って!!」

「全くもう……」

 

 

 千歌には素直に謝らせた方がいいと思いつつも、お人好しの梨子は渋々彼女の悪事に加担してしまう。強く要求されると"No"とは言えない性格で、それについては零に『あまり人に流されすぎると、変な男にホテルにまで連れ込まれてしまうぞ』と言われたくらいなのだ。その時は真っ向から否定したものの、今自分の置かれている状況を客観的に見てみれば彼の言うことも納得できる。今後はもっと意思の強い人間になろうと思った梨子であった。

 

 そしてその直後、部室の外から微かに声が聞こえてきた。

 

 

『やっと届いたか俺の椅子! どんな感じだった?』

『もう見た目だけでも座り心地が良さそうでした!』

 

 

 その声を聞いた瞬間に千歌はビクリと震え上がり、すぐさま椅子に駆け寄って肘掛の取り付け作業に取り掛かる。外から聞こえてきたのは間違いなく零とルビィの声だ。つまり、タイムリミットはあと数秒。恩師(現存)から教わった『何事も諦めずやりぬく力』をフルに発揮する。

 

 

「よく考えてみたら、外れたってことはまた付け直せるってことだよ!」

「でも壊れちゃったものは仕方ないんじゃない……」

「努力が足りないんだよ梨子ちゃんは」

「そんなことに努力を使いたくないんだけど……」

「いいから、梨子ちゃんは肘掛を付け直して。私は背もたれを抑えておくから」

「いいけど、少し強く引っ張りすぎじゃない?」

「この背もたれがもっと後ろに下がれば肘掛が付け直せそうなの! 私が抑えてるから早く!!」

「そんなに引っ張っちゃダメだって!! また外れちゃうよ!?」

「でもこうしないともう時間が――――――――あっ!?!?」

 

 

 ふかふかそうで見た目だけでリラックスできたあの高級椅子の面影はもうない。肘掛だけでなく背もたれも鈍い音を立てて外れ、見るも無残なただの丸椅子のようになってしまった。千歌と梨子は何もなかったかのようにポカーンとしていたが、徐々に現状を理解していくと顔を真っ青に染める。元々罪のない梨子はすぐに回復したが、千歌は冷汗が止まらずむしろ顔が冷汗に包まれるほどであった。

 

 

『人気商品で中々手に入らない椅子だったから、対面するだけでも楽しみだよ』

 

 

「先生が来る……!! 梨子ちゃん、両手で2つの肘掛を立てたまま椅子に座って!!」

「ど、どうして!?」

「とりあえず言う通りにして!! これから宿題を見せてとも言わないし、歌詞も早く書き上げるから!!」

「それって千歌ちゃんの努力次第でどうにもなるよね……」

「いいから早く!!」

「分かったから! 耳元で叫ばないで!」

「よしっ、なら私はこうやって――――」

「ふえっ!? ち、千歌ちゃん……!?」

 

 

 椅子に座った梨子の背後から、千歌が上半身を包み込むように抱きしめてきた。思いもよらない親友の行動、そして自分に多少なりとも百合属性があることから心臓の鼓動が激しく止まらない。千歌に言われた通り肘掛は元の位置に戻して手で押さえ込んでいるが、梨子にとっては千歌のハグ攻撃に全神経を集中させている。対して千歌はこうでもしないと背もたれを上手く立て掛けることができなかったので、自分の身体と梨子の背中で背もたれを挟み込むしかないという咄嗟の判断から取った行動だった。

 

 それと同時に部室のドアが開き、零とルビィが中へ入って来る。

 さっきまで椅子の話で盛り上がっていた2人だが、部室に入った時には椅子のことなんて頭からすっ飛んでしまった。それもそうだ、椅子に座っている梨子の後ろから千歌が堂々と抱きついているんだから。元々スキンシップの多い千歌と言えども、女2人きりの空間という怪しい雰囲気も相まって、女同士でいちゃついているようにしか見えなかった。

 

 

「お前ら、何やってんだ……?」

「そ、そのぉ……体温占いですよ! 高海家の姉妹は人に触れるだけでその人の運勢が分かる超能力持ちなんです!!」

「へぇそうなんだぁ~って、なると思うか?」

「ですよねぇ……」

「それよりもどうしてその椅子に座ってんだ梨子? 俺の椅子だろそれ」

「それは……」

 

 

 遂にこの時がやって来てしまった。だが現在例の椅子に座っているのは梨子なので、零の疑問の矛先は彼女に向いていた。梨子はこれも千歌の巧妙な作戦かと思っていたが、横目で彼女の目を見てみると非常に申し訳なさそうにしているのでどうやらたまたまらしい。千歌から反省の色が伺えたので、梨子は両手で2つの肘掛を持って立ち上がる。

 

 

「り、梨子ちゃん!? そんなことをしたら!!」

「ゴメンなさい! 肘掛壊しちゃいました……」

「えぇ!? ルビィが見た時には普通の椅子だったのに」

「本当はあの時から壊れてたの。ルビィちゃんも騙してゴメンね」

 

 

 梨子は頭を下げて零とルビィに謝った。その姿を見た千歌に凄まじい罪悪感が降り注ぐ。いくら自分に加担していたとはいえ、梨子が罪を被る必要はないと本気で思ったからだ。逆に梨子は梨子で申し訳ないながらも流れで千歌の悪行を手伝ってしまったため、ケジメとして頭を下げていた。千歌が怒られるなら自分も怒られるべきと、重大な責任を背負っていたのだ。

 

 しかし、部室の空気が悪化することはなかった。零は鬼になるどころかむしろ優しく微笑み返す。

 

 

「梨子、頭を上げていいぞ。これはな、パーツの取り外しが可能な椅子なんだよ」

「へ? そうなんですか!?」

「あぁ。たまにあるだろ、肘掛が邪魔になるから外したくなることがさ。だから取り外しが可能な椅子を注文したんだよ。ただ材質の良さだけじゃなくて、自由自在に形が変化するから無駄に高いんだよなぁこの椅子」

「そ、そうだったんですかぁ……」

「ははっ、無駄な神経を使わせちゃったみたいだな」

 

 

 本当に無駄な神経を使わされ、梨子はガックリと腰を落とす。零も怒っておらず、椅子も壊れた訳ではないと分かってホッとした気持ちもあった。

 そしてそれは千歌も同じで、すっかり安心しきって取れてしまった背もたれを零に差し出した。

 

 

「よかったぁ~!! まさか肘掛も背もたれも取れちゃう椅子だったとは……」

「!? お、おい千歌……」

「はいっ! なんですか?」

「背もたれは取れないんだが……」

「え゛っ……!?」

 

 

 恐らくこれが本日最後の衝撃となるだろうが、零が目の前にいる以上千歌が感じる恐怖はこれまでと比べ物にならないくらいの迫力だった。梨子もルビィも完全に彼女の心中を察しており、やれやれと思いながらも他人のフリをする。

 

 

「高海千歌さん。教師と生徒として少しお話でもしようか? 生徒指導室でじっくりみっちりとな……」

「ゴ、ゴメンなさぁあああああああああああああああああああああああああああい!!!!」

 

 

 教訓 : 悪いことをしたら素直に謝ろう。下手に隠そうとしたり誰かに罪を着せようとすると、後から襲い来る恐怖が増大して後悔することになるから気を付けろ!!

 

 

 ちなみに、生徒指導室を言っても皆さんが想像しているような展開にはなっていないので勘違いしないように。

 

 




 他の話にも言えることですが、千歌と梨子の組み合わせは非常に漫才がしやすくて作家として助かります(笑) 他のカップリングだったら花丸や善子、μ'sならば穂乃果や楓など。ボケにもツッコミ役にもなれるキャラは特に重宝します(笑)


 次回は鞠莉の個人回です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シャイニー・スキャンダル

 『金髪+巨乳+アメリカンハーフ+高身長+スタイル抜群+美少女』
 この属性を全て兼ね備えている女の子はだーれだ??


「でっけぇなオイ……」

 

 

 俺の目の前にそびえ立つのは、見るからに神々しい高級ホテルだ。流石に小原家の所有物と言ったところか、周りの山や海など綺麗な自然を一蹴するかのようなインパクトを放つ白い建物は、夜なのにも関わらず明るく輝いている。元々この内浦は田舎っぽいと言ってしまうと申し訳ないが、正直都会とは違って夜になると闇に包まれたかのように暗くなる。その中でも一際どころか百際くらい輝くこのホテルの存在感は凄まじいものだ。まるでここだけ都会の一部を切り取った光景に見える。入口付近に噴水や南国植物なんて、とてもとは言わないけどこの街には若干ミスマッチだ。だがそれだけ小原家と俺たちの庶民の格の違いを見せつけられた。

 

 俺が今日ここへ来たのは、鞠莉からのお誘いを受けたからだ。突然電話で一度でいいから先生を自分のホテルに招待したいから来いと強制的に予定を入れられ、こうして出向いた訳だが……。もう入口にいるだけでも、最近リッチ感を出している俺が縮こまるように惨めになってしまった。これだけ豪華だと緊張しちゃうっつうの!

 

 するとホテルの入口から鞠莉が現れ、こちらに駆け寄ってくる。こうして見ると鞠莉って見た目だけでもお嬢様感が半端ないよなぁ。だからこそ一般庶民の俺がここにいること自体が場違いに思えてくるのだが……。

 

 

「あっ、先生! チャオー♪」

「鞠莉か、よく分かったな俺が来たって。今から電話するところだったのに」

「先生のことなんて何でも分かっちゃうんだから!」

「まあ俺って単純らしいからな」

「そういうことじゃないんだけどねぇ……」

 

 

 一瞬顔を曇らせた鞠莉だが、すぐにいつも通りの晴れた表情に戻り、俺の手を握ってホテルの内部へ誘う。

 

 

「じっくり楽しみましょう先生。2人きりのMidnightを……ね♪」

「おい待て! 俺に何をするつもりだ……?」

「私が先生に何かをするんじゃなくて、先生から私にするんでしょ? 普通はね♪」

「誘ってんのかそれ? 誘ってんだよな!?」

「フフッ、もしかして私から先生にするほうが良かった? 何がとは言わないけど」

「それは内容による」

「そうやって素直なところ、私は好きよ♪」

「お前なぁ……」

 

 

 だから、冗談でも真っ向から笑顔で好きと言われるとドキドキするからやめてもらいたい。Aqoursのみんなも段々俺の扱いが分かってきたのか、こちらに笑顔を向けて直球な言葉を放つことが多くなった。俺をからかっているのかもしれないが、恐らくは心の距離が近くなったおかげだと思う。ていうかそうでないとJKに弄ばれる残念イケメン教師の異名が付いてしまうからな……。

 

 それにしても、こんな会話を繰り広げてしまったせいで目の前のホテルがラブホテルにしか見えなくなってしまった。真夜中の闇の中で白い建物が淡いライトにより光り輝いているので、外から見ているだけでもムードが漂ってくる。しかも金髪ハーフの美少女に手を引かれているこの光景は、まさに都会で怪しい店に連れ込もうとする集客嬢に騙されているかのような感覚だ。しかも鞠莉がやる気ならぬヤる気に満ち溢れているのがこれまた怖い。今人気急上昇中のスクールアイドルの1人と夜のホテルだけでも世間的に危険なのに、もしあんなことやこんなことになっちゃったらスキャンダルどころの話じゃないぞ……。

 

 

「あれ? 先生もしかして緊張してる? いつもはヤリ手な雰囲気出してるのに?」

「それはお前ら浦女の奴らが勝手に作り上げた偶像だから。それに男なら、ホテルで男女が2人きりのシチュエーションに緊張しない訳ねぇだろ」

「そうなんだ、緊張してくれているんだ……」

「いくら年の差があったって、お前と俺では3歳しか違わねぇんだぞ。世間から見ればほぼ同い年みたいなものだろ」

「へぇ~そう思ってくれているんだ……」

 

 

 俺を誘惑するくらいテンションが高いと思ったら、たまに自分に言い聞かせるように呟くのは一体なんなんだ?? 綿密に計算された誘惑なのに俺が予想外の反応をして困っているのか、それとも勢いで誘惑したけど俺がそれほどまでに否定的でないことに驚いているのか。どちらにせよ俺があと1週間足らずでここを去るから、という理由でホテルに招き入れる訳ではないようだ。

 

 

「それじゃあ早速行きましょ! 私と先生の愛の巣へ!」

「言い方!!」

 

 

 小原家って金持ちだから、どこかに鞠莉を守るボディーガードがいる可能性がある。お嬢様が誰とも知らない男と2人きりでホテルだなんて、そいつらが聞いたら怒り狂って俺に襲い掛かってくるだろう。もう今にもガタイのいいスキンヘッドのグラサンの男たちが襲撃してきそうだ……。

 

 しかし、そんな心配もなくホテルに入ることができたのは一先ず安心。だがこう安々と男を誘い込めるあたり、最初から俺と鞠莉を2人きりにするような計画があるみたいで怖いものがあるけど……大丈夫かな?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「マジかよ……」

 

 

 人生は驚きの連続であるほど充実してると言えるが、ここまで短時間で驚きが連発すると流石に語彙力を失ってしまう。

 俺が通された部屋はホテルの最上階に1つだけ存在する、スイートルームの中でも最も1泊の値段が高い部屋だった。つまりスイートルームの中でも上の上、スイートルームの中のスイートルームだ。こうして同じ単語を羅列してしまうくらいには語彙力が欠如してしまっている。今までスイートルームという存在は知っていたが泊まるどころか入ったことすらなかったので、こうして上の上の部屋の入口に立っていること自体が俺にとっては驚きなのだ。

 

 部屋を見渡すと汚れやシミなど1つもなく、ここから一歩踏み出して俺の足垢を付けるのさえ躊躇われる。部屋に置いてある家具は素人目から見ても高級品ばかりで、一般庶民の俺の目にはむしろ毒だ。更に大きな窓からの夜景は素晴らしく、内浦の綺麗な海が夜の闇に染まって見えてこれまた1つの風情が感じられた。

 

 俺がその場で硬直していると、鞠莉はまるで自分の部屋かのようにズカズカと上がり込んでいく。これが庶民とお嬢様の格の違いだと、普段の学校生活では感じられない格差を感じた。スイートルームに我が物顔で乗り込むあたり、コイツはお嬢様なのだと今までで一番強く実感したかもしれない。いつもはあまり自分が金持ちなことを鼻に掛けないからな、鞠莉の奴。

 

 

「ちょっと隣の部屋で着替えてくるから、絶対に覗いちゃダメよ! こっちの部屋に戻ってきてからのお楽しみなんだから」

「それはフリか? フリなのか!?」

「どうしても覗きたいというのなら先生のご自由に。敢えて鍵は掛けないでおいてあげるから♪」

「お前の期待してることが何か全然分かんねぇ……」

「だから今日、教えてあげるんだよ……」

 

 

 またしてもボソッと小さな声で呟く鞠莉。どうして時折テンションが下がるのかはまだ把握できていないが、やはり俺をこんな高級スイートルームに閉じ込めたのは何か理由があるみたいだ。

 

 それから鞠莉は何も言わず隣の部屋に入って行った。物静かな態度なのがこの卑しいムードを助長させ、まさにホテルで風呂に入っている女の子をベッドの上で待っているかのような、そんな高揚感すら感じてしまうほどに……。とにかく自分自身が無駄に緊張していることは確かだった。

 

 外も部屋も静かなせいで、隣の部屋から服が肌に擦れる音が聞こえて来る。十中八九鞠莉の着替えの音だろうが、ホテルのスイートルームでかつ真夜中、しかも2人きり――――仕組まれたかのような状況だけど、俺は隣の部屋のドアを凝視しながら息を飲んでいた。やはり俺も男だ、これほどまでにムード満点だとどこか期待している節もあるのだろう。もはや完全にラブホと同じ状況であり、最近曜や果南に奉仕された影響で溜まりつつあった性欲が俺の興奮を煽ってくる。とりあえず部屋の中に入ってはみたが、どうしようもなくそわそわしてしまうのでベッドの近くでまた佇んでしまった。

 

 それにしても、鞠莉は一体何をするつもりなんだ? ただのお遊びで俺を誘った訳ではないというのはさっきも言ったが、だとしたらその目的が見えない。しかも部屋に来て早々着替え出すなんて、まるで今から本当にヤるみたいじゃねぇか……。以前の海合宿でも胸を押し付けてくるくらいには積極的だったし、鞠莉ならありえるのかも。

 

 色々脳内推理をしていたらいつの間にか時間が経っていたみたいで、遂に運命の時がやって来る。

 隣の部屋のドアが開き、そこから艶やかな肌をした女性が――――――って、肌!?!?

 

 

「お、おいっ!? どうしてそんな格好してるんだよ!?」

 

 

 鞠莉はその質問に答えることはなく、卑しく微笑みながら俺の元へと近付いてくる。

 彼女は純白のネグリジェを着ているのだが、布地面積が普通のネグリジェよりも明らかに小さい。それゆえに肌のあちこちが露出しており、二の腕から肩、ふくらはぎから太ももまで何もかもが顕になっていた。そして胸元までもが大きくはだけており、いくら生地の薄いネグリジェと言えども肌を守るような構造でないことがはっきりと分かる。これは絶対に()()()()()()()()()()用のモノだ。見ているだけでも恥ずかしくなってくるくらいだから、当の本人はもっと羞恥心を感じているのだろう。

 

 ――――と思いきや、頬をほんのりと染めているだけで卑しい笑顔は変わらずだったので、どうやらそんなことはないらしい。彼女の身体付きが完全にオトナなので、もうマジ物のソープ嬢みたいだな……。

 

 

「良かった、先生が反応してくれて」

「お前のそんな姿を見て、意識するなってのが無理だろ。もっと自分がいい身体してることを自覚しろよな……」

「自覚してるからこその行動だよ。どう? ドキドキしてくれた?」

「だ、だからするだろ普通……」

 

 

 鞠莉は胸を押し付けながら密着してくる。だからこの状況でドキドキしない奴の方がおかしいんだよインポだよ。しかも着ているネグリジェの生地が極端に薄いせいで、胸の大きさ、柔らかさ、弾力――――つまり女の子の胸の属性全てが事細かに効果を発揮している。伊達にアメリカンの血を引いてはおらず、更に彼女も彼女で自分の最大の武器が何かを熟知しているみたいで、抱きつくよりも胸を押し付けることを優先して密着してくる。こうやって自分の持つ武器の性能から相手の弱点を的確に突いてくる奴に弱いんだよな、俺って。

 

 そうして少し鞠莉から意識を外して油断していると、その一瞬の内に両手で身体を押されてしまった。ベッドの傍に立っていた俺は、そのまま仰向けでベッドの上に倒れ込んでしまう。本来ならスイートルームのベッドはふかふかで、俺の部屋のベッドとは比べ物にならないなどの感想が出てくると思うのだが、恍惚な表情をして大胆な行動に出た鞠莉に集中してそれどころではなかった。

 

 

「マジでやんのかよお前……」

「あれ? 先生って意外とウブなの? もっと遊んでいる人かと思ってたけど」

「俺は心に決めた女の子以外とは遊ばないの。個人的に楽しむことはあるけどさ……」

「じゃあ、私とは遊んでくれる?」

「その質問は卑怯だろ……それに近い!!」

 

 

 ベッドに倒れた俺に四つん這いで跨ってきた鞠莉は、唇が触れ合う3歩手前くらいの距離まで顔を近付けてくる。曜や果南のように今まで積極的になった奴なら何人もいたけど、ここまで大胆に攻めてきた奴は鞠莉が初めてだ。それにウブかどうかの質問だが、金髪巨乳ハーフ美少女にベッドに押し倒される展開をイケイケなテンションで望むことのできる男はそういないだろう。μ'sで女扱いには長けている俺だが、女の子からグイグイと攻められるのは未だに慣れていない。むしろこんなものだろ、普通の男の反応って。

 

 そんなことよりも、遊んでくれる質問の方がタチ悪い。これは安易に答えてはならない質問のような気がするぞ……。

 

 

「どうなの、先生? 私と……遊んでくれる?」

「…………」

「先生?」

「…………無理だ」

「えっ……!?」

「お前とは遊べない」

 

 

 率直な意見を述べた。自分の気持ちを誤魔化したり、相手に同情して虚偽を放った訳でもない。鞠莉は己の予想とは逆の言葉が帰ってきたためか、またしても顔を曇らせてしまう。やはり女の子のそのような表情を見るのは心が痛むが、嘘を言っても仕方がないので後悔も反省もしない。

 

 

「そっか。まぁそうだよね……」

「やっぱり俺を襲うためだけにホテルに連れ込んだんじゃないんだな」

「確かめたかったの、私で反応してくれるかどうかを……」

「だからドキドキしてるって」

「違う。それは女の子に押し倒されたからであって、それは私じゃなくてもいいはず。千歌っちでも梨子でも、曜でも花丸でも、ルビィでも善子でも、果南でもダイヤでも……。今の先生の反応を見てみれば全部分かるから、私じゃなくてもいんだって」

 

 

 鞠莉は前髪を垂らして自分の表情が悟られないように隠すが、彼女がどんな顔をしているのかは見なくても大体察することができた。声が震えていることと相まって、とてつもない悲壮感がこちらにまで伝わってくる。噂には聞いていたが、いつもはお調子者でかつお姉さんポジションの鞠莉も、こうして年相応の乙女らしくなることもあるんだな。

 

 

「先生のことが好きなのかはまだ自分でも分からない。でもね、この18年間で抱いたことのない気持ちを抱いていることは確かなの。それを、あと一週間で確認しておきたかった……」

「そっか、かなり無理矢理な方法だな」

「だけど先生はあまり反応してくれないというか、相手が私でなくてもいい反応ばかり……。だから私じゃなくてもいいんだって思っちゃって……。小原鞠莉としてじゃなくて、Aqoursの1人としてしか見られていないだなぁってね」

「2人きりでオトナなムードを作り上げれば、俺がその気になると思ってたのか? 胸を押し付ければ靡くと思ってたのか?」

「うっ……。やっぱり先生は女の子好きと言っても、ちゃんと良識は――――」

「まぁ、靡いちゃったんだけどな」

「ふぇ!?」

 

 

 さっきまで髪を垂らして声も震えていた鞠莉が、突然顔を上げて目を丸くする。未だベッドに押し倒されている体勢は変わっていないが、話の流れ的には倒されている俺が主導権を握っていた。

 

 

「確かに可愛い女の子ならちょっと迫られただけでドキッとするけどさ、今のこの高ぶりは間違いなくお前のせいだから。金髪で巨乳でアメリカンハーフで、スタイル抜群の高身長の美少女だなんて、そんな設定アニメやゲームでしか存在しないレベルなんだぞ? そんな女の子と実際にこうして夜のホテルってだけでも緊張するのに、ベッドに押し倒されたら動揺にするに決まってるだろ」

「私の……せいなの? それにそこまで動揺しているようには見えないけど……」

「慣れてるからなこういうことには。でも2人きりの時の緊張と高揚感はいつになっても思春期のままだよ。特に今はそれを必死に感じてる」

 

 

 当たり前のことだ。いくら経験が豊富だからと言ってもヤリチン野郎やAV男優じゃないんだ、まだ20歳を超えたばかり健全な一般男子なら女の子にウブな反応をして当然だろ。シチュエーションには慣れっこだけど、湧き上がってくる期待と性欲はいつ感じても心が荒ぶってくる。それくらいいつも初々しい気持ちでやってるんだよ、俺は。

 

 

「何の脈絡もなく、こうして襲いかかられても? 海合宿で私が後ろから抱きしめた時にも、興奮してくれたの?」

「不覚ながらな。いかにも鞠莉らしいスキンシップだなって思ったよ」

「私、らしい?」

「あぁ。お前って傍から見れば積極的に見えるけど、実のところは不器用だろ? だから勢いだけでこうして襲ってきたり、海合宿の時も俺の抵抗を許さず抱きついてきたんじゃないのか? 俺から手を出されたら自分が戸惑ってしまうから」

「それは……」

「もう1つ。今もこうして押し倒しているけど、俺たちの顔は近いけど少し離れている。ここまで積極的なのに顔を離すのは、不意の拍子に唇が触れ合うのを恥ずかしがってるからだろ? 積極的だったりそうでなかったり、そこが不器用なんだよお前は」

「う、うぅ……」

「図星みたいだな。お前にとっては意外かもしれないけど、俺はいつもしっかりお前のことも見てるから」

「先生……」

 

 

 鞠莉はお調子者で恥じらいもなく積極的!! みたいな性格に見えるが、それは体裁で取り繕っているだけで実際は物凄く不器用な子なんだ。これは果南やダイヤから聞いた話だが、再び3人一緒にスクールアイドルをやりたいがために千歌たちを利用したり、学院の理事長になって裏から手を回したりと回りくどい方法を取っていたみたいなのだ。それなのにいざとなったら雨の中を駆け回ってでも果南を探し回ったり、多少口が荒くなりつつも直球で想いを伝えたりしてくるわで、所々に彼女の不器用さが伺える。みんなから一歩引いて1人1人の様子を伺う大人な部分もあるけど、それと同時に子供っぽい部分もあるってことだ。

 

 

「だからお前にはお前の魅力があるってことだよ。悪く言えば不器用だけど、良く言えば周りの状況に合わせて前へ出たり後ろへ下がったりできる訳だからな。そんなことできる奴なんてほとんどいねぇよ。だからいちいち周りと自分を比べる必要なんてないんじゃないか」

「そう……。すごいね先生って」

「だろ? ウブな反応はするけど女の子には慣れてるからさ」

「そういうことじゃなくて、先生の言葉を聞くと安心して心が軽くなるから。親や友達でも感じたことのない暖かさで、多分この気持ちこそ私が求めていた気持ちなんだと思う……」

「その気持ちは自分でしか確認できないから、お前が確信したのならそうなんだろうな」

 

 

 親や友達でも感じたことのない暖かい気持ちなんて、残るはもう1つしかないじゃないか。もちろん異性を想う気持ちに他ならないが、鞠莉はそれ以上自分の気持ちを口に出すことはなかった。恐らくまだそのタイミングではないことを察しているのだろう。そしてこの場で自分の想いを吐露したところで、俺の心を完全に動かすことは叶わないことも。そうやって相手の気持ちを読んで、自分から一歩引けるのが彼女のいいところだ。不器用なのがこんなところで幸いするとは思ってもいなかっただろうが。

 

 

「よしっ、それじゃあここからは私のターンね♪ うりゃっ!!」

「うぉおおおっ!?」

 

 

 先程までの真剣な表情から一転、いつものイタズラな笑顔に戻って一気に顔を近付けてくる。顔だけじゃない、ベッドに仰向けで倒れている俺に四つん這いになっていた身体をうつ伏せに落として、向き合うように密着した。

 

 俺の胸板によって鞠莉の乳房が押し潰され、饅頭、マシュマロ、いやもっと柔らかい2つの双丘が自在に形を変える。やはり彼女は自分の最大の武器を分かっているようで、俺の胸板をマッサージするかのように自分の身体を上下に動かして乳房の感触を俺に与えてくる。これまでのように一歩引いた攻め手ではなく、躊躇もなければ葛藤もない、完全体となった小原鞠莉の攻撃だ。そのせいでこれまで冷静を装って耐えられていた俺も、下半身と共に興奮で気が(はや)っていた。

 

 そして、鞠莉は俺の身体から一度顔を上げる。

 

 

「先生からは攻めて来ないの? 私の準備はALL OKだよ♪」

「言っただろ、俺は心に決めた女の子としか遊ばないって。お前からはまだ受け取ってないからな、本当の気持ち」

「そうね。気持ちはほとんど確信に変わったけど、まだ伝えるタイミングじゃないから」

「グズグズしてたら、俺の方からそのタイミングを奪っちまうかもしれないぞ」

「むしろそっちの方がいいかも。カッコいい先生の姿、もっと見たいし……。今日もそう、ずっとドキドキしっぱなしで、お化け騒動の時以来かも……。それから先生を見るたびに私は……」

 

 

 鞠莉は間近にいる俺にも聞こえない声で呟くが、そのほっこりとした表情を見れば今度は悩みに惑わされていることはなさそうだ。それどころか段々ブツブツと早口になっているせいで、どこかヤンデレに似た黒さが見え隠れするが……流石に夜のホテルというロマンチックなムードでそんなことはないよな??

 

 

「っ!?!?」

「今度はどうした……?」

「先生のここ……大きくなってる」

「あぁ、それは仕方ないことだ。だって男だもん、金髪巨乳ハーフ美少女にこんなことをされたら誰でもそうなるって」

「そうやって欲望を包み隠さず暴露する直球なところも大好きよ。気に入った! 今度は先生のここで遊んであげる♪ 先生は私で遊ぶ理由はないけど、私は先生で遊ぶ理由がたっぷりとあるから!」

「勝手にしろ。でも怖気づいて途中で終わるのだけはなしだからな。男にとって寸止め以上に過酷な試練はないんだぞ」

「それを聞いたら余計に遊びたくなってくるけど、今晩は日頃のお礼を兼ねて丁寧にご奉仕してあげる」

 

 

 人気上昇中のスクールアイドルに夜のホテルで下の処理をしてもらうなんて、誰かに見つかったりでもしたらスキャンダル確定だろう。だが今の俺は性欲に煽られているということもあり、彼女の魅力的な提案に流されるしかなかった。薄暗いホテルの部屋、薄いネグリジェを着た少女、ベッドの上――――こんなアダルティなシチュエーションなのに、何のアクションもなく引くのは勿体無い。こっちからは手を出さないと誓うから、それくらいは許してくれ。

 

 そして俺はベッドに腰を掛けるように促される。脚の間に鞠莉が入り、俺はそこから興奮と欲情の絶頂にいた――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「まただ……またやっちまったなぁ」

 

 

 場所は変わって自宅のベッドの上。俺は寝転びながらホテルでの一件を思い出していた。

 鞠莉にはそのままホテルに泊まるように勧められたのだが、予想以上に俺の中の"男"が反応して危険だと感じたので、今日は家に帰らせてもらった。本当にあのまま襲ったりでもしたら、スキャンダルどころか彼女の人生まで壊してしまいかねないからな……。

 

 しかしまたAqoursの子に奉仕してもらったとか、スキャンダルとか考える以前の問題な気がしてきた。だって教師だよ顧問だよ?? 教え子の人生を心配するよりもまずはモラルというもをだな――――と言っても、やっちまったものは仕方がない。教師や顧問以前に俺だって男なんだよ。そもそも既に2人にやってもらってるし、もう今更だろう。

 

 そう勝手に自分を正当化して、布団を被った。

 

 

「今日の鞠莉、可愛かったなぁ。口も胸も気持ちよかったし――――あぁ、思い出すとまた興奮してくる。さっさと寝よ寝よ」

 

 

 なんか俺ってもう、彼女たちの魅力にどっぷりと浸かってないか……?

 だがそれでもいいと思う。彼女たちの本当の心を知ることができるのなら。

 




 これまでのAqoursの個人回とは雰囲気をガラリと変えて、大人なロマンチックムードにしてみたのですが、最終的には同じ展開に……。好きなんですよ! 女の子が自ら奉仕してくれる展開がね!!

 でも零君はこれで3人にご奉仕され、もう教師や生徒の関係なんて全く無意味に……


 次回はルビィの個人回です!



新たに☆10評価をくださった

紅魔慧さん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

哀のルビィ、愛はヘビー!?

 これまでのAqoursの個人回は割と雰囲気が暗めだったので、今回のルビィ回は比較的明るくしてみました。それだけシリアスな場面も少なくなってしまいましたが(笑)


 いきなりだが、学校の中で一番興奮する場所ってどこだと思う? エキサイティングの方ではなく、男の性欲をくすぐられるムラムラとする方の興奮だ。

 答えは人それぞれ出身の学校の構造によって変わるだろうが、手堅いのはまず屋上だろう。開放的なのに誰の目も届かないのが評価点だ。あとは花丸との一件で改めてイケると実感した図書室や、エロ同人御用達の体育倉庫、マニアックな人なら普通の教室という選択肢もあるだろう。まあ中には女の子とやれればどこでもいいという奴もいるみたいだが、それは質問の意図を破綻させるので論外にしておく。あくまで1つの場所を選ぶならだ。

 

 ちなみに俺は定番中の定番である校舎裏を選ぶ。どちらかといえば告白場所としてのイメージが強いのだが、俺にとってはμ'sとの過去からレイプ現場という印象の方が深い。むしろ校舎裏での告白なんてもはや時代遅れじゃないか? エロ同人もエロゲーもネットの普及によって手を出しやすくなった今世、校舎裏の時代は今や大人の社交場だよ。

 

 ――――と、そんな安易な低俗語は置いておいて、俺が今まさに校舎裏に向かっている話でもしよう。

 

 

 簡潔に言えば、ルビィに呼び出されたのだ。普段は向こうから話しかけてくることはあまりないので、携帯に連絡が入っていた時は何事かと思った。あの内気なルビィが放課後、人影のない校舎裏に呼び出すなんてただ事ではない。見た目は幼い彼女と誰もいない校舎裏に2人きりというシチュエーションが、まさしく俺の記憶するμ'sとの過去と合致する。そのせいで妙な期待と焦燥感が湧き上がってくるのだが――――最近、俺ってこんなことばっか言ってるよな……。

 

 とにかく、可愛い教え子の頼みなら無視する訳にはいかない。少し邪な気持ちはあるけど、純粋を具現化したようなルビィが相手では間違いは起こらないだろう。俺がμ'sの一部純粋なメンバーを襲っていた事実は目を瞑ってもらうしかないが、性に溺れていた高校生の俺と今の俺は違うんだ。まだ中学生にしか見えない女の子を襲う21歳って、そもそも字面がカッコ悪くて実行にすら移せねぇよ。

 

 そんな訳で、妙な緊張感を抱えながら俺は校舎裏へと向かった。

 あんなところに呼び出して、一体何をしようって言うんだか。鞠莉の時みたいに際どい格好で逆レイプされることは……ルビィの性格を考えてもまあ有り得ないかな。少し期待しちゃってる俺もいるのが悔しいところだけど……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「つまり、そういうことなんです!!」

「はぁ……?」

 

 

 自身の期待とは180度どころか別ベクトル、いや別次元の話に俺は呆気に取られて聞き返すしかなかった。さっきまでちょっとでも低俗なことを考えていた自分を殴りたいとか、そんな自責すらも考えないくらいにはルビィの話はブッ飛んでいた。期待して損した気持ちと、ここからどう切り替えしたらいいのか迷う気持ちの2つが俺の中で忙しなく駆け巡っている。

 

 

「話を整理したいから、もう一度言ってくれ」

「だから、ルビィは先生に怒られたいんです!!」

「…………ドM?」

「違います」

「そこは冷静になるのか……」

 

 

 ルビィって案外冷めてるというか、たまに毒舌になりながら現実的すぎるツッコミを入れるよな。いつもはオドオドしていて頼りなさそうなのに、唐突に世界の全てを達観しているかのような雰囲気になるのが面白くもあり怖くもある。まあツッコミキャラならこれくらいはビッグでいてもらわないと、ボケが多いAqoursの統制を取るのは不可能だろう。姉のダイヤですら既にボケキャラと化しているから尚更だ。

 

 話が横道に逸れたが、本題は何故かルビィは俺に怒られたがっている件である。さっきその辺の事情をまとめて聞いたのだが、あまりにもマシンガントーク過ぎて一部聞き取れなかったので情報整理も兼ねてもう一度話してもらおう。

 

 

「先生は千歌さんにはよく怒るじゃないですか?」

「そりゃあアイツの性格を見れば分かるだろ。宿題を忘れてくるわ、教室でも無自覚に抱きついてくるわ、レポートを書いている横で嬉しそうに邪魔してくるわ、挙げたらキリがねぇぞ」

「善子ちゃんや鞠莉さんにだって」

「アイツらに関しても、性格を考慮すれば大体察しはつくだろ?」

「梨子さんやお姉ちゃんにだって、大きな声でツッコミを入れたり喧嘩してますよね?」

「喧嘩は語弊があるけど、アイツらとは自然と憎まれ口を叩く仲だからもうそれが日常になっているんだよ」

「そこですよ!!」

「なんだよさっきから大声出して……」

 

 

 みんなと一緒にいる時は借りてきた猫のように物静かなのに、こうして2人きりで話し始めると割と饒舌になるのが最近のルビィである。しかもいきなり俺に怒られたいだなんて……あれ? なんか4年前にも同じような展開を経験したような気がするが、デジャヴ??

 

 

「単刀直入に言えば、先生ってルビィだけには優しすぎじゃないですか?」

「言われてもみれば……そうかも」

「ルビィの記憶が正しければ、過去に怒られたことは愚か憎まれ口を叩かれたこともありません!」

「いやいや、そもそもない方がいいだろそんなもの! それに怒らないのはルビィを叱りつける理由がないからであってだな」

「じゃあ怒られるようなことをすればいいんですね?」

「いいんですねって言われても……」

 

 

 なんだろう、今日のルビィはやけに強気だ。彼女は俺の出会った女の子の中でもトップクラスの内気で、教師として彼女の学校生活を見る限りでもそこまで目立つ様子はない。だが目の前のルビィはまるで別人かのように目が燃えていて、下手をしたらスクールアイドルに熱中している時よりも熱くなっている。明らかに努力の方向を間違っているけどな……。

 

 そして女の子がいきなり粋った行動を取る時は、決まって理由が2つある。1つは単純に馬鹿なだけ。もう1つは心境に大きく変化が起こった時だ。穂乃果や千歌じゃあるまいし、ルビィに関しては後者と捉えていいだろう。だとすれば、ここまで俺に熱を向ける理由が何かあるはずだ。そう考えたら急に彼女の愛が重く感じてきたぞ……。

 

 ここで意識を再びルビィに戻してみると、さっきまでの勢いは何処へやら、俯きながら顔を紅く染めてモジモジとしていた。燃えるような熱さは気づかぬ間に鎮火して、いつもの内気な彼女に戻っている。恥ずかしがりながらチラチラとこちらを見つめたり見つめなかったり。さっきからテンションの高低差が半端ねぇなぁオイ。

 

 

「どうした? いきなり黙られても困るんだけど……」

「ご、ゴメンなさい!! いざとなったら度胸がなくて……。先生に怒らせるようなことをするのは……」

「ほら見ろ、お前みたいな優しい奴がそんなことできっこねぇって」

「でもルビィは決めたんです!! 絶対に先生を怒らせて――――!?!?」

「そこで目を背けられても……」

 

 

 ルビィは俯いていた顔を上げて俺と目が合うと、すぐさま顔を沸騰させてそっぽを向いてしまう。ダイヤの話では彼女は男性が苦手らしいので、このような反応をしてしまうのは分からなくもない。だけど仮にも2週間以上一緒に活動してきた仲間なんだから、そろそろ慣れて欲しいものだ。

 

 それとも目を合わせられない羞恥心は、慣れていないのではなくて別の理由かもしれない。ルビィの抱いている想いがこれまでの曜や果南、花丸や善子、それに鞠莉と同じならば、俺と目を合わせただけで顔が熱くなる理由も頷ける。まさかルビィも……?

 

 

「今だけ……今だけ大胆になれれば……」

「おいルビィ?」

「脳内シュミレーションは完璧だったはず…………恥ずかしかったけど、先生が好きそうな言葉も覚えてきた…………」

「聞いてねぇし! それにやっぱり努力が斜め上じゃないか!? その言葉を聞くのが怖いんだけど!?」

「お姉ちゃんにもお母さんにもお父さんにも内緒で…………え、えっちなこともちょっとくらいは………」

「おーい!! 戻ってこーーい!!」

「最悪靡かなくても、執拗に男へ粘着すればいいってネットに書いてた…………特に小さい身体でマスコット的ポジションの女の子なら大丈夫って…………」

「段々話が重くなってきてるんですけど!? 歪んだ知識ばかり蓄えてんじゃねぇ!!」

 

 

 親友の花丸とは違って、その手の知識をネットから手に入れるタイプだったらしい。タイプと言っても今の時代だと花丸のタイプの方が珍しい訳だが、そこは話の論点ではないから置いておこう。

 

 もう周知の事実だが、ネットで仕入れる知識ほど危ないものはない。特にその手のアダルト知識が簡単に手に入るご時世なので、ルビィのような純粋っ子がこれほどまでに黒く染まるのも珍しくはない訳だ。彼女は元々そっち系の知識はあると思っていたが、まさか俺のために自ら欲という沼に浸かりに行ったとは。俺を想ってくれての行動だから嬉しいけど、あのルビィがネットでコソコソとその手の言葉を調べているところを想像すると……なんか唆らない? やっぱ最近のJKは色々進んでるわ。

 

 

「せ、先生!!」

「はいはい」

「わ、私まだそういうことには全然慣れてなくて初めてですけど、精一杯頑張りますので!! 先生に満足してもらえるなら、私はどうなっても……ど、どどどうなっても!!」

「何の話だ!? それに目を回すくらい恥ずかしいなら言うなよ!!」

「だ、だってぇ~……うゅ~……」

「おい大丈夫か? おーーいっ!!」

 

 

 勝手に暴走して勝手に気絶しそうになるなんて、結局何がしたかったんだコイツは? わざわざ校舎裏まで呼び出すくらいだから目的はあるのだろうが、やることやることが全て空回りで自分の首を絞めている。逐一仕草は可愛いから見ていて飽きないんだけど、これでは日が暮れるどころか暮れても話が一歩も前へ進みそうにない。

 

 そして、遂にルビィは本当に気絶して俺の胸に倒れ込んできた。頭から湯気を発し、目を回しながらコミカルに。全く、慣れないことするからだよ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 俺は校舎裏に何故か設置してあったベンチに腰を掛け、膝を枕にしてルビィを介抱していた。女の子の膝枕なら絵面的に需要はあるけど、男が女の子を膝枕する光景なんて誰が求めてるんだって話だ。本来なら保健室に連れて行くべきなのだろうが、ルビィの小さく気持ちよさそうな寝息を聞いているとどうしても起こすに起こせなかった。もちろんすぐにでもさっき暴れていた理由は聞きたいのだが、そこまで話を急ぐ必要もない。今はこの幼い寝顔を写真に収め、後からネタにして弄ってやるのが当面の目標だ。

 

 まあそんなことは嘘で、俺はこの間にもどうしてルビィが俺に怒られたがっていたのかを考えていた。彼女は普段取り乱すことは多くても自発的ではない。だからこうして自ら俺に迫り、しかも本来なら苦手であろう低俗な話題を振ってくるなんて普通では考えられないのだ。さっきも言ったけど、やっぱり心境が大きく変化したのかねぇ。他のみんなによる俺への動向を踏まえると、ルビィも本心ではみんなと同じ想いの可能性は高い。まあ生憎持ち前の内気さのせいで空回りしまくってるけど、力みすぎてしまうほど本気だってことだろう。

 

 

「ん……」

 

 

 可愛い吐息と共に、ルビィの目がゆっくりと開かれていく。膝の上に女の子を乗せて、しかもその子の目覚めの瞬間を見られるなんて彼女のお父さんになった気分だ。

 しかし、ほっこりとしているのは俺だけだった。寝起きのルビィは視界がぼやけて状況を把握しづらかったのだろう、俺の膝の上から徐々に頭を上げていく。だがその過程で視界がはっきりとしてきたのか突然俺と目がバッチリと合い、またしても彼女の顔が熱に包まれていくのが分かった。

 

 

「ひゃ、ひゃあぁあああああああああああああああああああああああああああっ!?!?」

「そんな叫び方すんな!! 痴漢魔か何かと勘違いされるだろうが!!」

「ど、どどどうして先生が……って、ルビィ、先生の膝の上に!? あわわわわわわわわ……!!」

「お前が勝手に騒いで気絶するだからだろ……。そしてもう気絶するなよ。また介抱して目覚めて気絶する無限ループに陥るから」

「いきなり膝枕は卑怯すぎますよぉ……」

「そんなこと言ったって、地面に寝かせてただ見てるだけの方が絵面的にマズイだろ」

 

 

 ルビィのような幼子を地面に寝かせ、俺は座りながらその様子を見ているそんな光景。傍から見たらヤり捨てた女の子をまじまじと観察する変態にしか見えねぇから。しかも外見だけは小柄な彼女だから、それこそロリコンのレッテルを貼られかねない。そもそも校舎裏で膝枕をしている時点で誰かに見つかりでもしたら、お盛んな子が多い浦女では速攻で噂になり学内SNSのトップニュースになるだろう。ただ介抱してるだけなのに、女の子たちから無駄な質問攻めに合うのだけは勘弁して欲しい。教師として生徒の体調を伺っているだけだと言っても、アイツら絶対に信じないだろうなぁ。

 

 ルビィの様態が先程よりもほんの少しだけ良くなったので、彼女の頭と肩を持って俺の隣に座らせてやる。一応本人のことを思っての行動だったのだが、ルビィはちょっと名残惜しそうな表情だった。

 

 

「本当ならルビィが先生に凄いことをして、その流れで怒られるはずだったのに……」

「凄いことってエロいこと?」

「え、えろってそんな……!! ル、ルビィなんかが先生の相手なんて……でも――――」

「もう分かった! 話を逸らせたのは悪かったからもう暴走すんな!」

 

 

 あれ? ルビィって意外と面倒臭い? 一見あどけないように見えて、想いの人に対する執着は中々に重い。他の女の子たちも俺に対して色々思うことはあったけれど、その気持ちをここまで真っ向からぶつけてきた奴はいない。正直Aqours9人の中ではルビィの心が一番開きにくいと思っていたから、まさかこんな結果になるとは驚きだった。もちろん判断はここまで積極的に暴走にしている理由を聞いてからだが。

 

 

「なぁ、どうしてそこまで俺に怒られたいんだ? いくらなんでも無茶しすぎだと思うけど」

「それは……単純にルビィのことを見て欲しかったから」

「え? いつも見てるぞ、変な意味じゃなくてさ」

「それってマスコットみたいなルビィを見て微笑ましいとか、可愛らしいとか思ってるだけなんじゃないですか?」

「マスコット……か」

 

 

 ここでようやくルビィの主張がハッキリと分かった気がする。そうか、彼女は俺に自分自身じゃなくてマスコットとしてのキャラを見られていると思っていたのか。でも言われてみれば完全に否定できる訳じゃなく、小柄で声色も幼気のある少女なので必然的に愛くるしいキャラに見えてしまう。そしてそう思っているのは俺だけではなく他のAqoursのメンバーもそうだろう。

 

 

「やっぱり、そうなんですね……」

「あぁ。ちょっと考えてみたけど、きっぱり否定することはできないよ」

「分かってました。皆さんの目もそうですし、本当の自分を見てくれるのは付き合いが古い花丸ちゃんとかお姉ちゃんくらいです。もちろんルビィ自身が内気なせいで、周りに自分を出せないというのが最大の理由なんですけど……」

「なるほどなぁ。申し訳ないけど、それは考えたこともなかった」

「ルビィもそこまで深刻に悩んでいる訳ではありませんから。でも、先生にはルビィの本当の気持ちを知って欲しくて……」

「それで俺を怒らせようとしたり、変態地味た行動を取ろうとしたのか。いつもとは違う自分を俺に見せつけるために」

 

 

 自分が羞恥心で怖気づく性格だから、みんなのように俺に胸を押し付けるなど激しく迫る行動はできないと踏んだのだろう。だから遠まわしに普段の自分とは違う姿を俺に見せつけ、そこでマスコットではない本当の自分を見つけて欲しかったんだと思う。俺であれば自分の様子がいつもと違うことはすぐに見抜けると、神崎零という人間の能力を考慮した行動だ。正直に言って回りくどい方法だが、それほどまでに俺に本当の自分を知って欲しかったという裏返しにもなる。まあ結局言われるまで確信に至るまで気付けなかった訳だが、だからこそ彼女の努力と本気に答えてやる義務がある。

 

 

「不安だったんです。先生ってルビィを全然怒らないし、いつも笑顔ばかり向けてくれる。だからこそ先生は本当にルビィと向き合ってくれているのかなって。みんなとは違って自分だけが表面上で可愛がられている、そんな気がしたんです……」

 

 

 またしても『そんなことはない』と否定はできなかった。否定するどころかむしろ、そんなことを考えてすらいなかったという方が正しい。これまで他のみんなの悩みをいくつか聞いてきたが、ここまで俺が認識できていない悩みを持ち出されるのは初めてだ。

 

 だがしかし、答えは一瞬で出た。もっと相手の気持ちを汲み取って考察しろと言われるかもしれないが、最初のインスピレーションこそが自分の本当の気持ちと言えなくもない。自分が認識していない問題だったからこそ、考え込むことなく最初に浮かんできた気持ちが重要だと考えたんだ。

 

 

「お前の言うことは全部合ってるよ。ここで悪あがきみたいな言い訳はしない」

「ですよね……」

「でも完全に肯定もしないよ。確かにマスコットっぽくて可愛いと思うことはあるけど、俺が怒らない理由とは直接関係ないから」

「え、そうなんですか?」

「あぁ。何事も一生懸命なお前を怒ることなんて、そもそもできっこないからな。スクールアイドルの練習でも他のことでも、自分の実力が足りないことを自覚してお前は頑張ってる。ちょっとドジったりしたら周りからは可愛いと言われちゃうけど、それでもお前はいつも本気なんだろ? 見ていれば分かるから、お前が人一倍努力してるってことくらいさ」

 

 

 こう言っては申し訳ないが、ルビィに特筆するような目立った才能はない。ダンスも歌も、運動も体力も、勉強も成績も、どれを取ってもAqoursには彼女より上の子たちがいる。他の奴らが特別すぎるという見方もあるが、それを加味してでも彼女には特別尖っている点はないのだ。

 

 だが、ないならないで諦めないのがルビィである。運動音痴だし体力もないが、それでもみんなとの練習には絶対について行く熱い気概があるし、スクールアイドルに注ぐ情熱も桁違いだ。どうやら休日も軽く自主トレをしているらしく、自分に才能がないならないなりの努力を誰よりも惜しんでいないのだ。勉強でも放課後、個人的に俺へ質問して知識の不足を補おうとする勤勉な面が見られる。

 

 ただの頑張り屋さんと言ってしまえばそれまでだが、世間にその頑張り屋さんが何人いるか。ほとんどの人がちょっとくらいは手を抜いていいと思っているはずだ。

 だけどルビィは違う。何事も手を抜かず、どんなことでも頑張る。当たり前のことが当たり前のことにできる人はそうそういない。もしかしたら、彼女の尖った部分はそこなのかもしれないな。

 

 

「頑張り屋さんとか人一倍努力してるとか、言うだけなら簡単だよ。でも実際にお前は実行に移してる。それだけでも凄いことなんだ」

「それが、先生がルビィに怒らない理由……?」

「そうそう。千歌に怒るのは宿題を当然のように忘れてくるからだし、梨子や善子に怒るのは憎まれ口を叩き合う仲で、そもそもその2人に関しては本気で怒ってないしな」

「そこまでルビィのこと、見ていたんですね……」

「それみんなにも言われてる……。俺はお前らの教師で顧問だぞ? それこそ当たり前だよ」

「だったらルビィの心配は杞憂だった訳ですね。なんだか一気に腰が抜けちゃった……」

 

 

 ルビィは張っていた気が緩んだのか、ベンチに浅く腰を掛けてゆったりとした格好で座る。

 俺の前ではいつも緊張しがちな彼女がここまでリラックスしているのは中々見られるものではない。さっきまでの暴走によほど体力を奪われたのだろう、膝枕で寝ていたのにも関わらずまだ疲れは取れてないようだ。まあ心の重荷が大きく軽減されたから、精神的疲労はほとんど吹き飛んだと思うがな。

 

 

「そこまで気にすることはないってこった。さっきお前が暴走する姿を見て、怒るどころかむしろ唖然とすることしかできなかったから」

「やっぱり慣れないことはしない方がいいですねぇ……」

「でもマスコットみたいで可愛かったよ」

「な゛ぁ!? だ、だからそのマスコットみたいというのはやめてくださいって言ったじゃないですか!! またそうやってからかって……!! って、ルビィが怒る立場になってる!? そ、そして可愛いってそんな安易に言われると……うぅ」

「相変わらず怒ったり恥ずかしがったり忙しい奴……」

 

 

 そうやって空回りしたりコロコロと表情変化が可愛かったりするからマスコットって言われるんだよ。もうそのキャラはルビィに紐付いて、未来永劫解けることはないだろう。それにマスコットでも別によくね? 当然のことを当然にように頑張るのは誰にでもできることじゃないが、マスコット扱いされるのも同じく誰にでもできることじゃない。むしろルビィにはいつまでも周りから愛される愛嬌を持ち続けて欲しいものだ。

 

 

「よしっ!!」

「うぉっ、どうしたいきなり意気込んで……」

「いつまでも内気だからマスコットと言われるんです。だから今日からルビィはもっと積極的になります!」

「はぁ。で、具体的には?」

「そ、それは先生にもっと自分をアピールするとか、先生にもっとアプローチするとか、先生に悦んでもらうことをするとか、先生にご奉仕するとか……うぅ、言ってて恥ずかしくなってきました……」

「言ったそばから自爆かよ……。それに後半から段々と言動が怪しくなってきたし、そもそもどうして相手が俺ばかりなんだ? 積極的になるなら何も俺だけを相手にしなくてもいいだろ?」

「あっ、そう言われてみればそうですね。自然と気持ちが先生に向いちゃってました」

 

 

 やっぱりさ、ルビィの愛って案外重くね?? 思い返せば怒られることだって、その相手は俺である必要はなかったはずだ。そしてさっきルビィが掲げていた行動の相手は全て俺であり、しかも本人は意識せず俺を対象にしているときた。好意を向けてくれるのは嬉しいが、万が一付き合った場合に彼女を少しでも放っておいたら病みそうで怖い。それはもう愛が重いどころか、逆にドロドロに溶けているかもしれないが……。

 

 

「決めました! もっと先生に振り向いてもらえるような女の子になります! 具体的にはそうですね――――――」

 

 

 そしてルビィの一人語りは、ここから30分くらい続いた。

 やっぱ重いよ、ルビィの愛!!

 




 個人回のあとにあるエッチをする描写はどうしたって? 話の雰囲気を明るくするため+ルビィの純粋さを考えると、そこまでの描写はできませんでした(笑) そもそも花丸や善子の個人回も無難に終わっていたので、何もご奉仕の描写が絶対にある訳ではないのでご了承を!

 次回は元々1年生のハーレム回の予定でしたが、3年生のハーレム話の方が先に思い浮かんできたので、次回は『いつの間にかAqoursハーレム(3年生編)』になります。



 ちなみに、この小説のAqours編もあと10話前後で完結となる予定です。(完結時期:6月下旬~7月上旬あたり)
最後の追い込みもあって最近は個人回で雰囲気が重めの展開も続きますが、それも最終章へ向けての下準備なので、今は笑うところは笑いながらも千歌たちの心情をしっかりと受け止めてあげてください。




新たに☆10評価をくださった

紫翠@クニマさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いつの間にかAqoursハーレム(3年生編)

 いつの間にかAqoursの3年生組にも熱い視線を向けられるようになっていた零君のお話。


 こうして考えてみると、俺の周りのスクールアイドルたちはやたら裕福な家庭が多い。μ'sならことりや海未、真姫や絵里、亜里沙の家がそうだし、Aqoursなら旅館を営んでいる千歌、ダイヤとルビィ、鞠莉とそれぞれのグループメンバーの約半数が優雅な暮らしをしている。かと言ってそれ以外のメンバーも決して生活を切り詰めている訳ではなく、唯一裕福とは程遠いのはアパート暮らしのにこくらいだ。だが彼女は今新人アイドルとして既にメディアにも進出しているし、あと数年も経てば家族総出で立派な家に住んでそうだけどな。

 

 そんなことを考えながら、俺は黒澤家の風呂を贅沢に堪能している。ああ言いたいことは分かる、男の入浴シーンを想像させるなってことだろ? だって仕方ねぇだろ、ダイヤがお堅過ぎて混浴というジョークすら一刀両断されてしまったんだから。俺だってな、できれば女の子の入浴シーンをみんなにお届けしたいよ。腐女子でもない限り、こんな絵面を映す必要性は1%もないってことも知ってるから。

 

 ちなみに女子風呂ではダイヤの他に果南と鞠莉が一緒に入浴しているはずだ。今頃鞠莉あたりが舞い上がって、ダイヤや果南の胸を揉み比べしている頃だろう。そうやって猥褻な想像してしまうと、これほどまでにだだっ広い風呂にポツンと1人きりなんて寂しいどころの話ではない。流石は格式高い黒澤家の風呂と言ったところか。女の子が3人入っても広そうだもんな――――と考えると、そこに男1人くらい余裕で入れそうだと妄想してしまう。いかんいかん、これ以上叶わない妄想を重ねると余計に惨めになるだけだ。

 

 ここまでの話でお察しの通り、俺は黒澤家に一泊させてもらうつもりだ。果南と鞠莉も一緒なのだが、女子のお泊まり会の中に男1人なのはそれなりに理由がある。

 それはAqoursのメンバーの中で、3年生組は他の学年の子と比較して俺との交流が少ないと3人から文句があったのだ。言われてみればそれは事実で、教育実習で授業に出向くクラスは大抵が2年生と1年生であり、3年生にはそれほど出向くことはない。それは学院側が3年生の受験を見越しているからであり、いくら俺が天才と言ってもたかが教育実習生に受験生は任せられないという判断があるからだ。したがって3年生組は千歌たちに比べれば俺との交流が少ないので、あと数日で俺が東京に帰る前にこうしてお泊まり会で交流を深めようという魂胆らしい。もちろん快く引き受けたのだが、まさか黒澤家に泊めてもらうなんて思ってなかったぞ。

 

 しかもどうやら親は両方出張でルビィは善子の家に行っているらしいから、必然的に俺と彼女たちの4人だけとなる。親がいない女の子の家に泊まるって、言葉の響きだけでも淫猥に聞こえるのが困る。その気がないと言われると完全に否定はできないが、合宿とは違ってこのお泊まり会に特別なミッションは課せられていないため、何をするのかは単純に疑問ではあった。

 

 そんなことを考えつつも風呂から上がり、これまた無駄に広い脱衣所を1人で占領しながらもダイヤに用意してもらった浴衣に着替える。千歌の家じゃないけどこの家もかなり古風で風呂も銭湯みたいなものだから、もはや旅館と言っても差支えはない。やっぱりスクールアイドルの女の子って優雅な生活をしている子が多いよなぁ俺とは違って。

 

 風呂に入っていただけなのに少々格差を感じながらも、脱衣所から出て自室に向かう。その途中、俺と同時に脱衣所から出てきた3年生組と遭遇した。

 

 

「あら先生、お風呂場でお楽しみだった?」

「いきなり何を言い出すんだ……鞠莉」

「いやぁ私たちがお風呂でイチャコラしてる姿を想像してたのかと思ってね♪ ね、ダイヤ?」

「話しかけるなと言ったはずですが……?」

「もうっ、ダイヤのいけず!」

「おい果南、どうしてダイヤ怒ってんだ? しかも顔を真っ赤にして」

「鞠莉がお風呂で暴れだしたから――――と言えば分かりますよね」

「あぁ、全て察した」

 

 

 やはり俺の予想通り、鞠莉は風呂場でハッスルしていたみたいだ。しかも襲っていたのはダイヤだけではないようで、果南の少し恥じらっている様子から彼女も暴漢(鞠莉)に襲撃されたのだろう。笑顔で全裸の女の子を襲うとか、そこら辺のエロオヤジでもそんな暴挙に出ねぇぞ……。

 

 それにしても、風呂上がりの女の子ってのはいつもより数倍大人の魅力を感じるよな。髪の湿り具合、身体の火照り、シャンプーの香り、艶やかな肌――――様々な要素が混じり合い、その子の色気を最大限に引き出す。しかも果南もダイヤも鞠莉も、風呂上がりゆえか髪を下ろしているから余計に大人の雰囲気を感じられる。元々高校生とは思えないアダルティな彼女たちなのに、そこに風呂上りというオプションが加わればこれほど男を唆らせる姿はない。そのせいで俺の目は彼女たちに釘付けだった。

 

 

「あれぇ~先生の目、イヤらしぃ~♪」

「うぐっ、仕方ないだろお前らのそんな格好を見たら……」

「ただお風呂に入って浴衣に着替えただけですけどね。私にとっては日常的なことなのに、これでは先生と一緒に暮らすことなんて到底できませんわ」

「なに? ダイヤもしかして、俺と同棲でもしたいの?」

「な゛ぁ!? か、仮の話ですわ仮の!! いつものように行き過ぎた妄想は謹んでください!!」

「ダイヤが思わせぶりなことを言うからじゃないの?」

「果南さんはどっちの味方なのですか!? まさか、この男に篭絡されているのでは……?!」

「そんなことは……ないよ」

「今の間は!?」

 

 

 俺と果南の威厳と信用のために言っておくが、俺は彼女を篭絡した覚えはないし彼女もそれくらいは理解しているだろう。返答に一瞬悩んだのは、俺の家の風呂場で起こった一件を思い出したからに違いない。その証拠として、果南が微かに横目で俺を見つめてきた。Aqoursの誰よりも誠実な態度である果南だが、もしかしたら意外とむっつりとした面もあるのかもしれない。まあその大きな胸を武器にして男の剛直を挟み込む行為を自ら買って出たので、むっつりどころの話では済まないかもしれないが。

 

 

「あまり熱くなっちゃダメだよダイヤ。せっかくお風呂に入ったのに、また汗かいちゃうよ?」

「元はと言えば鞠莉さん、あなたのせいでしょう……」

「まあまあこんなところで喧嘩をしていても仕方ないし、一先ず部屋に戻ろうよ。鞠莉も今日は女子だけじゃなくて先生もいるんだから、あまり大騒ぎしないこと」

「先生がいるから大騒ぎするんだけどねぇ……」

 

 

 先日に起きた、鞠莉にホテルへ連れ込まれた逆レイプ未遂事件を思い出した。確かにあの時から鞠莉のアプローチはより積極的になり、持ち前のグラマラスなボディを俺の身体に刻み付けるかのように密着してくるようになったので、俺としては普段から大騒ぎどころか大慌てなんだけどね。

 

 

「それじゃ先生、明日の支度が終わったら先生の部屋に行くから! だから1人でシている最中に私たちが入っちゃっても、文句は言わせないからね♪」

「しねぇよ!! 少なくとも自分の家以外ではな!!」

 

 

 顔を真っ赤にするダイヤと、頬をじんわりと紅く染める果南。もちろん鞠莉は余裕の表情で、低俗な話題に3年生組は三者三様の反応をする。その手の話にそこそこ耐性のある2年生組と、逆に耐性のない1年生組と比べれば、ここまで異なったレベルの女の子が集まっている集団はそうそうない。だから鞠莉が果南とダイヤで遊ぶ構図が出来上がっちゃうのか……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 俺は自室(と言ってもダイヤが提供してくれた空き部屋)に戻り、3人が来るのを待っていた。だが果南もダイヤも鞠莉も一向にこちらへ来る気配を見せない。確かに女の子は男よりも風呂上がり後だったり明日の用意だったりが忙しいのは分かるが、もう30分以上も待たされているのだ。女の子の支度に茶々を入れるのは野暮だけど、こちとらいい感じに風呂の火照りが冷めてきて、既に脳が睡眠体制に入っている。このまま横になったら寝てしまうのは確実だが、あっという間に眠気に負けた俺は少しだけならとそそくさと布団に入ってしまった。

 

 そして、案の定すぐに夢の中へ旅立つ。一応部屋の鍵は開けてあるので、アイツらが俺の状態に気付かないことはないだろう。そういった無駄な安心感のせいで、交流合宿の目的を余裕ですっぽかす俺であった。

 

 

――――――

 

 

――――――

 

 

 

 こうして更に時間が過ぎていった。

 結局俺が爆睡している間にアイツらは来なかったため、恐らくアイツらも同じく風呂上がり後に寝てしまっていると思われる。だからこのまま朝を迎えるだけ。せっかく交流のためのお泊まり会だったのに彼女たちと交流らしき交流はあまり出来なかったのは残念だが、まだ残されている時間はある。わざわざ心地の良い睡眠を妨げてまで取る交流もないだろう。

 

 

 俺は夢の中で、そう思っていた。

 

 

 だが、突如として俺の両手首が縛られたことで事態は動き出す。

 目を開けると、俺の目の前には何やら恍惚な表情をしたダイヤの顔が映りこんだ。少し目を逸らすと、同じような表情をしている鞠莉の姿まで。そして手首だけでなく足首までリボンのようなもので縛られているのが感覚的に分かった。

 

 多分というか絶対これは彼女たちの仕業なんだろうが、まず状況が全然把握できない。まさか彼女たちの言う交流って、男を縛り付けて弄ぶドSプレイのことじゃないだろうな……? ダイヤと鞠莉って見た目的にも性格的にもサディスティックなところがあるし、普通に有り得そうなのがまた怖い。

 そしてもう1つ違和感があったのだが、それはたった今解けた。この部屋は俺の部屋ではなく彼女たちの部屋だ。つまりコイツらは俺の手と足を縛ったあと、隣の自分たちの部屋へ俺を運び込んだということだ。俺は3人分の布団の上に転がされ、卑しくも不服そうな顔をしているダイヤと鞠莉に取り囲まれている。

 

 その2人から目を逸らすと、少し離れたところに果南が座っていることに気が付いた。彼女は他の2人に比べるといつも通りのようで、呆れた顔で俺たち見ている。俺は現状を把握すべく、果南に助力を求めた。

 

 

「果南!!」

「いやぁ、一応やめておけばとは言ったんですよ。一応ですけど……」

 

 

 果南は自分だけは蚊帳の外にいたいらしく、苦い顔をしながら俺からの視線も外してくる。彼女がそんな行動を取るということは、とりあえず緊急的な状況でないことは確かだ。だとすれば、俺はまたしても彼女たちの意味不明な馬鹿騒動に巻き込まれたってことになる。そう思うと一気に力が抜けてしまった。

 

 とにかく、実行犯と思われる2人に話を聞いてみよう。

 

 

「おいダイヤ」

「ぐすっ、先生ヒドイですわ……」

「は……?」

 

 

 突発的な事態に謎の涙、さっきから訳の分からない展開が怒涛に続いて開いた口がふさがらない。

 ダイヤは何故か泣きながら俺の浴衣の裾を摘む。いつもは品行方正で威厳のある彼女だが、涙1つでここまで幼さを感じられる少女になるとは……。そのギャップに心を乱されながらも、あの真面目なダイヤが俺を束縛した一端を担っているのが未だに信じられなかった。

 

 使い物にならないダイヤは後回しにし、今度は実行犯の主犯格と疑われる鞠莉に事情を聞いてみる。

 

 

「鞠莉、これ一体どういうことだ? 教師に向かってこの仕打ちはヒドくねぇか?」

「ヒドイ……? 私たちをこんなにメチャクチャにしておいて、よくそんなことは言えるね先生……ヒック」

「いやメチャクチャなことをしてるのはお前だろ。それに、どうして嘔吐(えず)いた?」

 

 

 まさかとは思うが、コイツら……。

 俺はダイヤと鞠莉の気分を高ぶらせているモノの正体を暴くため、縛られて転がされながらも部屋を見渡す。すると机の上に、明らかに海外産であるチョコレートが乱雑に広げられていた。

 

 

「果南!!」

「いやぁ鞠莉の親が海外から送ってきたみたいで、おやつ代わりにちょっと摘んだら2人共こんな感じに……」

「マジかよ……ベタッベタのベタ展開じゃねぇか」

 

 

 女の子がアルコール入りのチョコレートを食って酔っ払い、性格が狂ったようになる展開はもはや使い古されたベタ中のベタ展開だ。こんな埃が被った化石のようなネタを今更持ち出すなんて、最古の化石であるシーラカンスもビックリするだろ……。

 

 

「ねぇ、先生はどうしたいの? 私たちAqoursのみんなを……」

「どうしたいって言われても、質問の意味が分かんねぇ……」

 

 

 あれ? 意外とシリアスな話になるのか? 俺はてっきりここからR-18展開になって、規制対策にこの話をここで打ち切りにしなければならないと思っていたが思惑が外れたっぽい。鞠莉は酔いの影響で顔を赤くしていることに変わりはないが、逆に酔ったことで本音をぶつける気になったのだろう。この前のホテルでも伝えられなかった本心を。

 

 

「Aqoursにはたくさん女の子がいるでしょ? なのに先生は手を出さずに私たちを放ったらかし。そんなの欲求不満になっちゃうよ……」

「あ、あれ……? 真面目な話題じゃなかったっけ??」

「私たちは毎日毎日先生から身体に刻み込まれるような激しい指導を受けているのに、ムチばかりでアメは1つも与えてくれない……。先生は私たちを好きなだけ弄んでいるというのに……」

「意味深な発言はやめろ!! 俺がお前らの身体目的で顧問になったみたいじゃねぇか!!」

「ぐすっ、やっぱりヒドイですわ先生……。私たちで散々遊んでおいて、満足したらヤり捨てだなんて!!」

「泣きながら言うとそれっぽく聞こえるからやめろ!!」

 

 

 シリアスな話題かと思ったら全然違うじゃん! さっきまで神経を尖らせていたその疲労を返してくれ!!

 しかし真面目ではない話題でないにしろ、逆ベクトルで面倒な話題を持ち出してきやがった。いや、そもそも事実無根の冤罪を吹っ掛けられている時点で話題もクソもない。酔っ払いのコイツらが無実の罪を着させてくるのをツッコミで切り抜ける、ただのギャグでありネタだよこれ。シリアスな空気かと思ってちょっとでも身構えた俺がバカみてぇじゃん……。

 

 無駄に抵抗して体力を消耗するのは賢くないので、俺たちから離れて傍観者となっている果南に助けを求めてみよう。さっき自ら酔っぱらいの席に関わらないようにしていたため望み薄だが。

 

 

「果南!!」

「大丈夫ですよ。ダイヤも鞠莉も酔ったら早く寝ちゃうんで、それまでの辛抱です」

「なんで未成年の癖に酔った後のことなんて分かるんだよ……」

「鞠莉が持ってくるチョコレートは大抵海外産のアルコール入りなので、私たち数回被害を受けているんですよね。私はアルコールに強いので2人みたいにはなりませんが」

「学べよお前ら!! どうして同じ手に何度も引っ掛かってんだ!?」

「むしろ引っ掛かりすぎて、2人共今度は耐えてみせるって躍起になるんですよ。それで毎回この結果です」

「負けず嫌いだもんな、ダイヤも鞠莉も……」

 

 

 でもここまで同じ罠に嵌められているんだったら、それは負けず嫌いというより往生際が悪いだけではと思ってしまう。だから果南は最初から呆れた顔をして傍観者に徹していたのか。そりゃ今までと同じ罠に掛かって、何も学ばないおバカな酔っ払いの親友の姿を見せられたらそうなるわ、俺だってそうするから。

 

 すると俺の顔の反対側から指が伸び、その指で頬をそこそこ強い力で摘まれる。犯人はもちろん鞠莉で、彼女と目が合った瞬間に更に摘む力が強くなった。

 

 

「いはいいはいって!!」

「それで先生はどうするの? 欲望というムチを振り回して私たちを弄ぶのか、それとも私たちの人形になるというアメを与えてくれるのか……」

「どうして攻めと受けしかねぇんだよ!? もっとお互いに温和で行こうよ!!」

「今まで私たちの身体をヘトヘトにするまで酷使してきたというのに、自分だけ穏便に事を運ぼうって言ったってそうはいかないんだから……ヒック」

「ヘトヘトになったのはスクールアイドルの練習だからだろ!!」

「穢されましたわ……うっぐ、ヒック……」

「今日のお前、ノリいいよな……。泣いてるけど」

 

 

 理由は分からないが、鞠莉とダイヤは俺に謎の決断を迫っている。そもそもコイツらの都合のいいように過去を改ざんれているので、どちらの選択肢を選ぶも何もないのだが。

 

 

「私、聞いてるよ先生。ヒック……先生が取っ替え引っ変え私たちを呼び出して、そしてエッチなご奉仕をしてもらってること……」

「ちょっ、ちょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?!? どうして知ってんだよ!? いや、それはそういうことじゃなくてだな!!」

「今更誤魔化しても無駄」

「え、い、いやだからそれは……」

「うぅ、ヒック、わ、私だけご奉仕してない……。これは見捨てられたのですわ……」

「お前からそんな言葉が出てくるなんてな……」

 

 

 ダイヤが奉仕活動(あっち系)にご執心なのは驚いたが、まあどう考えても酔いの影響なので気にしないことにする。当面の謎は何故俺がAqoursの一部メンバーからご奉仕を受けていた事実を、コイツらが認知しているかということだ。その事実の張本人である子たちはみんな恥ずかしがっていたから、周りに自らの熱愛報道など漏らすはずがないと思っていた。だがバレている、どうして??

 

 

「果南!!」

「いい加減に大声で名前呼ぶのやめてもらえません……? 部屋の中ですし聞こえてますから」

「そんなことはどうでもいい! どうしてあのことがバレてるんだ!? まさかお前が……」

「違いますよ! 鞠莉が言ってました。先生は女の子から奉仕されることに慣れすぎているって」

「それは今までμ'sに――――いや何でもない」

「……? μ'sがどう関係あるかは知りませんけど、さっきの鞠莉の発言はただの当てずっぽうだと思いますよ。証拠なんて一切ないですし」

「だよな……だよな!?」

「別にそこまで焦らなくても……」

「焦るよ!! 相変わらずドライだなお前!!」

 

 

 興味のないことにはとことん興味を示さないのが果南の性格だが、一応お前も関わってることだからなと大声でツッコミを入れてやりたい。でもあまり声を出すと鞠莉やダイヤに聞かれてしまうため、彼女に伝えられないのがもどかしい。風呂場でソープ嬢の如く胸で俺の剛直を挟んだり舌で舐めたりしてたじゃねぇか。だから関心を持たないフリをしても無駄だからな。

 

 

「いいもん! 浴衣姿のまま先生に襲われたって、学内SNSに投稿するから……ヒック」

「うぅ、ヒック……ならば私は生徒会長権限で学内新聞を張り出します」

「どこぞの悪徳週刊誌じゃないんだし、嘘を書くな嘘を!! それにまだ泣いてんのお前?」

「それどころか全く脈略がなさすぎて……。酔っぱらいの言いそうなことだけど」

「そう思うなら助けてくれよ」

「世界で一番酔っぱらいの世話が嫌いですから。特に酔っ払ってる鞠莉とダイヤに横槍を入れたらどうなるか、もう先生なら分かってるはずですよね」

「こんな緊急事態に持ち前のサバサバな性格を発揮しないで! もっと親身になってくれ!」

 

 

 お風呂場でご奉仕したされたの仲なのに、ここで裏切るのはどうなの!? と叫びたいけど叫べないこのジレンマ。まあどう考えても彼女を攻めるより、過去の失態を学びもせずにアルコール入りのチョコを食い無様に酔っちゃったコイツらが悪いんだけどね。

 

 でも今はとにかく2人の奇行を止めないと、教育実習の終了を穏やかに迎えることができねぇぞ。

 

 

「おい鞠莉、ダイヤ!! ちょっと落ち着け――――って、あれ?」

「「すぅ……」」

「あ、あれ? コイツら寝やがった!?」

「みたいですねぇ……」

「人を巻き込むだけ巻き込んで、酔いが覚めそうになったら寝るっていい身分だなオイ。こっちはバカ騒ぎしたせいで目がバッチリ覚めたっていうのに……」

 

 

 まあこちらとしても酔っぱらい相手に長丁場覚悟の直訴をしなくて良かったと思うが、やりたい放題されてこっちが反撃できないのは釈然としない。せめて酔っ払いを上手く言いくるめて気持ちよく寝たかったものだ。さっきの酔いオヤジのようなウザ絡みはどこへやら、今はしっかりと可愛い顔をして眠っているダイヤと鞠莉。こんな気持ちよさそうな顔を見たら怒るに怒れねぇじゃねぇか……。

 

 そして俺は、さっきから気になっていることが1つあった。

 

 

「なぁ果南、本当にバラしてないよな?」

「そんなことする訳ないじゃないですか。教師と生徒の関係以前に、あの時のことを思い出すだけで恥ずかしいんですから」

「あれ? 結構ドキドキしてたのか、へぇ~」

「してました!! むしろ好きな人にあんなことをするなんて、ドキドキしない方がおかしいですよ……」

「えっ、なに? 好きって言った?」

「い、言ってません!! 早く部屋に戻って寝てください!!」

 

 

 おぉ、ここまで声を荒げる果南も久しぶりに見たな。精神も強くアルコールでも酔わない彼女の顔を赤くさせただけで謎の征服感が生まれてしまう。やっぱ俺はさっきの尋問みたいな受けよりも、こうして女の子を羞恥で満たす攻めの方が性格上向いてるよ。でもやりすぎると羞恥の火山が爆発してしまうから、ここは名残惜しいけど引き上げてあげよう。

 

 

 …………

 

 

 …………あっ、そうだった。

 

 

「なぁ果南、このリボンだけ解いてもらっていいか?」

「あっ、忘れてました」

 

 

 ヤバイ、μ'sのヤンデレに慣れすぎて縛られていることすらも忘れてた!!

 このままM属性が付いたらどうしよう……。

 




 酔っ払った女の子がいつもよりグイグイ攻めてくる性格、私は大好きです(笑) この小説を読んでいる人なら多分同調してくれるはず!

 実はサンシャイン編に突入して、今回で50話目を達成しました!
 それを記念して、次回は特別編です。零君が教育実習をしている間にμ'sは何をしているのか気になっている人が多いと思うので、次回の特別編では楓と高坂姉妹の生活に焦点を当てたお話となります。流石に1話でμ'sを全員出すの大変なので(笑)
一応楓が襲来した時の話を読み返して、彼女の心境と状況を掴んでおくと楽しめる……かもしれません(?)

 『あれ? サンシャインの50話記念なのにμ'sの話かよ!?』 ってツッコミはなしで!!



新たに☆10評価をくださった

のんkkさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】楓と高坂姉妹の日常

 サンシャイン編が投稿話数50話を達成したので記念回。とは言ってもメインはAqoursではなく、サブタイの通り楓と高坂姉妹ですが(笑)

 今回は特にテーマはなく、3人がただダラダラとお喋りするだけの回となっております。なのにいつもより文字数が多いのは内緒()


 

「おはよぉ~……」

「おはよう穂乃果」

「おはよぉ~お母さん」

「おはようございます。鈍臭寝坊助野郎の穂乃果先輩」

「おはよぉ楓ちゃ――――ん? 今なんて言ったの!?」

「おはようございます。鈍臭寝坊助ビッチ野郎の穂乃果先輩」

「絶対にさっきよりも増えてるよね!?」

 

 

 神崎零が内浦へ教育実習に行っている頃のある日、寝起きの穂乃果の目を覚まさせたのは後輩・楓の罵倒だった。いつもこの後輩に馬鹿にされているとはいえ、みすみすこのまま引き下がる穂乃果ではない。彼女に口では勝てないことくらいはここ4年以上のやり取りで分かってはいるが、だからと言ってツッコミをやめたら本当の負けだと思う穂乃果は必死に食らいつく。先輩のプライドと尊厳を守るために。

 

 

「それに穂乃果は女の子だから野郎はおかしいし、そもそもビッチと野郎って本来なら一緒に使われない単語だよね!?」

「不可能を可能にするのが穂乃果先輩でしょ? ほら、雨やめーーーーって」

「いやあれはたまたま偶然だから……」

「いいから早く準備してください。レジ番を1人でやってても暇なんですから」

「急に現実に引き戻すのやめようよ……。ずっと寝てたこっちが悪いんだけどさ」

 

 

 見れば楓は既にエプロン姿に着替えており、現在絶賛店番をしている最中のようだった。居候の身なのに自分のポジションを悠々と奪われていることに関して、もはや穂乃果に思うところはない。彼女のあらゆる能力の高さを考えれば妥当なので、もはや張り合う気も起きなかった。ただ繰り返される罵倒だけはツッコミを入れる、それが彼女の最後の、ちっぽけな、ミジンコのようなプライドだ。

 

 楓は兄の零と2人暮らしだが、生憎彼が教育実習で3週間だけ家を出てしまっている。そうなれば必然的に妹が1人となってしまうので、零は事前に楓を高坂家に居候させてもらえないかと相談をし、無事に了承を得て彼女はここに住んでいる。もちろんタダではなく、高坂家の仕事である和菓子屋を手伝うという条件付きだ。楓も1人で寂しくなるくらいならという理由で高坂家に居候していた。

 

 

「ほら穂乃果、早く顔を洗って支度してきなさい。あなたが寝ている間、楓ちゃんずっと店番をしてくれていたんだから」

「お母さん、本当に楓ちゃん贔屓凄いよね。この2週間の晩御飯も気合入りまくりだし」

「だって楓ちゃんが店番してくれるおかげで店も明るくなるし、ここ最近お客さんの評判も良くなったみたいで売上も上がったのよ。中には楓ちゃん目当てで店に来る人もいるみたいで、この前なんて和菓子が売り切れちゃいそうになったんだから。このままアルバイトとして働いて欲しいくらいだわ」

「そんな凄いことじゃないですよぉ~♪ 普通にやってるだけですから普通に♪」

「その謙虚な可愛さがお客さんを惹きつけるのよきっと!」

「いや、ただ猫被ってるだけ――――うひゃぁあああっ!!」

「どうしたの穂乃果? いきなり大声出して……?」

「な、何でもないよ……アハハ」

 

 

 母に誤魔化しを入れつつも、穂乃果は頬を染めながら楓を睨む。それもそのはず、楓の右手が穂乃果のおしりに当てられていたからだ。自分の発言を止めるとはいえここまで大胆な行動に出た後輩にも驚きだが、それ以前に今もずっと触り続けられているその屈辱に耐えざるを得ない。流石の穂乃果でも女の子におしりを触られて悦ぶ変態ではない。対して楓は何事もなかったかのような爽やかな笑顔で、そして痴漢魔の要領で巧みに触ってくるため穂乃果は声を上げないようにするだけで精一杯だった。

 

 やがて穂乃果の母がレジから去ると、ようやく楓は穂乃果のおしりから手を離した。その時おしりの谷間に軽く指を入れられ、卑しい声を上げてしまいそうになったのは内緒だ。

 

 

「もう楓ちゃん! いきなり何するの!?」

「余計なこと言わなくてもいいんですよ。それとも同性にお尻を触られて興奮しちゃった……とか?」

「してないよ!! 穂乃果、楓ちゃんみたいに変態さんじゃないもん」

「私が変態になるのはお兄ちゃんに対してだけですから。それも一途な愛なので、これほど純真な変態もいませんよ?」

「ビッチと野郎の時も言ったけど、純真と変態は相容れないから!」

「そうやって一見不可能そうなことを見たままで不可能と決め付けるから、穂乃果先輩はずっとおバカキャラなんですよ。もっと広い視野を持ちましょうね」

「バカなのは認めるけど、それを楓ちゃんから言われるとぐぅの音も出ないというか……」

 

 

 2人の歳は2つ離れているが、実際に穂乃果と楓の学力の差は歴然である。高校時代は1年から3年まで全国トップ成績の楓と、全国のビリ争いに駒を置く穂乃果の差。そして大学では同じ講義を受け単位を取ったとしても、トップクラスの成績である『秀』の評価をもらう楓と並程度の合格である『可』の穂乃果の差。成績以外でも頭の回転速度や効率の良さ、生活態度など明らかに穂乃果が楓に勝る点はなかった。

 

 穂乃果は溜息をしながら巾着を着ける。この生意気な後輩とは4年以上も一緒にいる上に、既に2週間のお泊まりによってもはや腐れ縁もいいところである。もちろんマシンガンのように悪口を放つ彼女に幻滅していたらここまでの仲にはなっていないので、穂乃果は何だかんだ言っても楓とこのやり取りを楽しみにしていた。

 そしてそれは楓も同じである。ここまで毒を吐こうが憎まれ口を叩こうが、適当にあしらわず自分と真っ向からお喋りしてくれる存在が嬉しくもあり楽しみでもあった。それに楓は穂乃果の欠点を言葉で惜しみなく突き刺すが、もちろん先輩のいいところもたくさん知っている。4年以上の腐れ縁なので、敢えて今更口に出して伝える方が恥ずかしいのだろう。

 

 

「プッ! 穂乃果先輩の巾着姿、噂には聞いてましたけど給食当番みたいですねぇ……くくっ、笑いが!!」

「あ~あ、言っちゃったね……。この世で一番言ってはいけないことを言っちゃったね。気付いてる? 楓ちゃんはパンドラの箱を開けちゃったんだよ? 穂乃果が世にも恐ろしい呪いを振りかけてあげるよ……」

「残念でした。私に振りかけていいのは、お兄ちゃんのおち○ぽミルクだけですから」

「ちょっと何言ってんの!? ここお店だからレジだから!! お客さん来るから!!」

「今は誰もいないからいいじゃないですか。あぁ~早くお兄ちゃんとエッチしたい」

「だから!! ここレジ!! 店の奥にお母さんもお父さんもいるから!!」

「うるさいですよ先輩。脳震盪を引き起こしたら先輩のせいですから」

「誰のせいだと思って……」

 

 

 寝起きなのに無駄な体力を使わされ、午前中のレジ当番だけでダウンする勢いの穂乃果。楓の淫猥発言は聞きなれているのだが、流石に店の中で放たれると売上に関わる。ここまで穂むらに多大な売上をもたらしてきた楓だが、ここへ来てまさかの裏切りかと懸念する穂乃果の神経は休まることがない。

 

 すると店の奥から、穂乃果と同じ巾着を被った妹の雪穂が店に顔を出した。

 

 

「お姉ちゃん、やっと起きたと思ったらレジで大声出して……仕事場にまで聞こえてたよ」

「雪穂これはね、穂むらを潰そうとする楓ちゃんの巧妙な策略なんだよ」

「あぁ確かに、楓ってそういうの得意そうだもんねぇ」

「大丈夫、雪穂もグルだから」

「えっ!?」

「そんな訳ないでしょ……。お姉ちゃん何でも簡単に信じ込みすぎ」

「だからからかいたくなるんだよねぇ穂乃果先輩は♪」

「年下2人に蔑まれてる!? 一応この中では最年長だよね穂乃果!?」

 

 

 最年長なら年上の威厳をもっと見せつけろよ、と楓と雪穂は心の中で同時にツッコミを入れた。そもそもμ'sには先輩禁止という仲良しごっこ同盟が規約されているので、今更穂乃果を年上と見ろという方が無理な話だ。雪穂にとっては姉であり、楓にとっては腐れ縁の親友みたいな感じなのである。

 ちなみに楓はその同盟を守らず、穂乃果たちに出会った当初からずっと彼女たちを先輩呼びしている。これは生意気な後輩から先輩呼びで弄ばれる恐怖を知って欲しいという、楓のただの悪ふざけだ。しかし穂乃果もみんなも彼女のその呼び方に慣れてしまっているため、今更咎めたりはしない。

 

 

「お姉ちゃんが起きてきたことだし、私は休憩しようかな」

「えっ? まだ午前中だよ?」

「寝坊しておいて、人に時間を迫れる立場なの? 私は元々休みだったのに、お姉ちゃんが寝坊するからこうして駆り出されたんだよ!?」

「それは面目ない。昨日夜遅くまで楓ちゃんとずっとゲームしてから―――――あれ? どうして楓ちゃんはちゃんと起きられてるの!?」

「私ほどのレベルになると、1徹くらいは余裕で起きていられますよ」

「す、凄い!!」

「まあ嘘ですけどね」

「あっ!! また騙したなぁああああああああああ!!」

 

 

 これほど簡単に騙されてくれると、楓も多大なる満足感で満たされ自然と黒い笑みが溢れる。そしてその2人のやり取りを見ていた雪穂は、相変わらずいいコンビだと苦笑した。普段からイキイキとして騒がしい2人だが、周りの空気を和やかにさせてくれることには変わりない。もしかしたらこの2人がいたから穂むらが繁盛しているのかもと、雪穂は巾着を脱ぐ片手間にそう考えていた。

 

 

「それじゃあ私も休憩にしよっと」

「えっ、楓ちゃんまで行っちゃうの!?」

「イっちゃうとか、あまりそんなこと言わない方がいいですよお店ですし。お客さんに聞かれたらどうするんですかぁ?」

「穂乃果の部屋から子供の頃作ったブーメラン持ってきていい? 楓ちゃんに向かって投げちゃっていいよね??」

「…………」

「今さっき穂乃果の発言からえっちな言葉がないか考えてたよね!? もう長い付き合いだから考えてることくらいすぐ分かっちゃうから!!」

「うわぁ、穂乃果先輩ごときに…………」

「ごときに……なに? どうして黙っちゃった――――あっ」

 

 

 突然会話をやめた楓を追求しようとした矢先、穂乃果は自分の後ろから怒りのオーラをプンプン感じた。恐る恐る振り返ってみると、そこには笑顔で(こめ)かみに怒りマークを浮かべている我が母親が仁王立ちで佇んでいた。穂乃果は事の概要を一瞬で把握すると、頬に一筋の冷汗が流れる。

 

 

「穂乃果……ただでさえ寝坊してるのに、厨房に聞こえるまで大声を出して遊んでるってどういうことかしら……?」

「い、いやこれは楓ちゃんが穂乃果をネチネチ突っついてくるからいけないのであって……」

「そんな訳ないでしょ、こんなにいい子なのに……ねぇ?」

「ですよねぇ!! 私は慣れないレジバイトを頑張っているというのに、穂乃果先輩が邪魔をしてくるばっかりに……」

「だから、仮面被るのやめよう――――うびゃぁああああああっ!!」

「穂乃果?」

「な、なんでもないよなんでも!! 寝坊した分、きっちりレジ番するから……アハハ」

 

 

 穂乃果は母が店の奥に去っていくのを見届けると、またしても涙目+鋭い目付きで楓を睨みつける。寝起きの時と同じく、楓は自分の言葉を遮るためにおしりを揉んでいた。しかも今回は5本の指を触手のように動かし、明らかに自分に淫靡な声を上げさせるつもりだと悟った。同性に痴漢され屈辱に塗れながらも、穂乃果は口を抑えて必死に耐え抜く。

 

 

「あ~あ、触っただけでおしりがこんなに広がっちゃうなんて、さぞお兄ちゃんに開発されたんだろうなぁ~」

「そ、そこはされてないよ!!」

「ん~? 今そこはって言いましたぁ? じゃあどこが開発されてるのかなぁ♪」

「あっ……また嵌めたなぁ!!」

「ハメるとかやめてくださいよぉ~。穂むらが卑しいお店に見えちゃいますよぉ?」

「万が一そうなったら、楓ちゃんに全責任を負ってもらうからね!!」

「えぇ~他の男と寝るなんて死んでも無理です」

「どうしてそういう発想にしかならないかなぁ!?」

 

 

 実はμ'sの中では穂乃果も楓と同じ部類なのだが、近親相姦願望持ちの彼女とのレベル差は明らかに歴然である。だからこうしてツッコミを入れるばかりで、自分からそのような発言をしようと思ってもできないのだ。ただ穂乃果はことりや楓のように計算高くはないため、元から狙って低俗発言をしている訳ではない。その点は楓と比べればまだマシな方だが、『どうしてそういう発想にしかならない』というのは完全にブーメランなことに彼女は気づく由もなかった。今まで零のパンツを盗んだりディルドをやり取りしていた少女とは到底思えない発言だ。

 

 

「店の中で何やってんだか……。プリンでも食べよ」

「プリン!? 雪穂、それどうしたの!?」

「お母さんが休憩中のおやつに食べなさいって渡してきたの」

「それじゃあ今からおやつタイムだね。私もちょうど休憩の時間だし」

「いやぁ和菓子の囲まれながらのプリンって最高に贅沢だねぇ~。穂乃果、自然とテンションも上がっちゃうよ♪」

「穂乃果先輩、極めて重要なことを見落としてますよ?」

「えっ? プリンを嗜むことが最優先なのに、それ以上に重要なことなんて――――」

「いやいや、お姉ちゃんは今からレジ番でしょ? 休憩じゃないじゃん」

「あっ……!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ねぇ~雪穂ぉ~楓ちゃ~ん……」

「うんっ、美味しい! やっぱり美味しいプリンはカラメルの甘さが違うね」

「お姉ちゃんじゃないけど、久々におやつに洋菓子を食べられて感動しちゃってるよ私」

「流石にそれは大袈裟でしょ……」

「楓が思っている以上に和菓子屋の娘は過酷な人生なんだよ。洋菓子や洋食が憧れすぎて、普通のファミレスでも喜んじゃうくらいだもん。だからこうしておやつでプリンを食べられるだけでも感動なの」

「想像以上に苦労してた……。まあそんな逸話がなくても、単純に美味しいと思うけどねこれ」

「ちょっと!! 何も穂乃果がレジをやっている前で食べなくてもいいじゃん!! 穂乃果への当て付けなのそうなんだよね!?」

 

 

 楓と雪穂はレジの傍、店の中の飲食スペースを陣取ってプリンを食べていた。実は今日は平日で客足もほとんどないため、大学の講義がない彼女たちがのんびりするのには最適な空間なのだ。満足にのんびり出来ていない者が1人いることはさて置き……。

 

 穂乃果はレジからスプーンで突っつかれプルンと揺れるプリンを見つめ、その艶と魅惑からもう喉から手が出そうなくらいにまで飢えていた。雪穂以上に和菓子屋という呪縛に捕われている期間が長い彼女は、まるで女性の艶やかな太ももを視姦するエロオヤジのような熱い視線をプリンに送っている。

 

 

「そんなアイドルオタクみたいな熱狂的な目線を向けたら、プリンが照れちゃいますよ」

「むしろもっと熟して美味しくなるから!! 零君が言ってたよ。女の子に出会ってすぐ襲うより、少し仲が進展して相手の心が熟し始めた頃が一番美味しいって」

「いやプリンは熟しちゃダメでしょ……。冷えてるから美味しいのに」

「まあ先輩がどれだけ物欲しそうな目をしても、レジ番という呪縛からは逃れられないので仕方ないですね。一歩でもレジから動いたら即座に通報しますので」

「今まで生きてきた中で、ここまでレジ番を憎く思ったことはないよ……」

 

 

 穂乃果はレジの机に肘を付き不貞腐れる。目の前で生意気な後輩と妹が自分に見せつけるかのようにゆっくりプリンを食べているので、楓に馬鹿にされている時よりもフラストレーションの溜まりが半端ではない。彼女はお菓子のことになれば多大な執着を見せ、ことりが自作のお菓子を学校に持ってきたら、その匂いだけでどんなお菓子を作ってきたのか分かる犬並の嗅覚を持ち合わせている。それほどまでに和菓子以外のお菓子やスイーツには敏感で、そして大好物なのである。したがって自分だけ好物にありつけず、目の前で我先にプリンを堪能している後輩と妹を見るのは穂乃果にとって生き地獄なのだ。

 

 

「あぁ~久々に穂乃果キレちゃおっかなぁ!! 普段は仏の穂乃果って言われてるけど怒ったら凄いんだから!! 世界中のお菓子やスイーツを全部食べ尽くしちゃうくらいにね!!」

「やることが可愛すぎですよ、先輩」

「でも実際に困るでしょ? 世界中からお菓子が消えて一生食べられなくなったら」

「そんなことをしたらまた太って、海未ちゃんに叱られるよ?」

「いきなり現実的なこと言わないでよ。ようやくプリンのためにレジ番頑張ろうと思ってたのに、一気に冷めちゃったじゃん……」

 

 

 お菓子の食べ過ぎで体重が増え、海未に食事管理をされる生活は大学生になった今でも続いていた。しかも既にスクールアイドルをやめているのにも関わらずである。一度やり始めたら最後までとことんやり抜く海未の性格上、穂乃果は定期的に体重計に乗せられているのだ。しかしその"最後"というのがいつになるのか全く先が見えないので、ことりに励まされつつも穂乃果は自分の人生の一端を諦めようとしていた。親友に捧げる人生と言えば聞こえはいいが……。

 

 

「こうして食事をしていると、お兄ちゃん毎食しっかり食べてるかなぁっていつも心配になるよ」

「秋葉さんが炊事をしてるんでしょ? それに楓、自分の料理スキルを秋葉さんに叩き込んだって言ってたじゃん。それでも心配なの?」

「だってあのお姉ちゃんだよ? 作る料理に何を入れてるのか分かったものじゃないよ」

「まぁ確かに……。でも零君からそんな連絡はないんでしょ?」

「それが子犬にされたとか何とか言ってた……」

「あぁ、いつものことで逆に安心できるよねそれ……」

 

 

 これまで零とμ'sを陥れた秋葉の所業を考えれば、同棲している時点で彼の命が危険と隣り合わせなのは火を見るよりも明らかだった。そもそも自分の弟ですら実験の被検体に利用するくらいのマッドサイエンティストと一緒に暮らしていて、この2週間大した事件が起こらなかったのは単純に凄い。ある意味で奇跡だが、普通の日常を奇跡と呼んでいる時点で彼の人生は常に前途多難なのがお分かりいただけるだろう。

 

 

「まああのAqoursとかいう連中と仲良くやってるみたいだし、ちょっとくらいお姉ちゃんの犠牲になってもいいんじゃない。幸福度的にはそれで釣り合いが取れるよ」

「連中って、零君と仲がいいだけでそこまで目の敵にしなくても……」

「雪穂は知らないんだよ、あの子たちがどれだけ雌になっているかがね。私は浦の星に行った時に全て察したよ。あの学校、お兄ちゃんに支配されてるって」

「そんな大袈裟な……」

「絶対にそう。もう女子生徒たちの目がね、お兄ちゃんにしか向いていなかったの。そしてその中で一際熱い視線を送っていたのはAqoursのメンバーだったんだよ。しかも既に少々エッチなことはしてるみたいな雰囲気だったし」

「えぇ、でも楓があっちに行ったのはつい最近でしょ? つまり零君とAqoursのみんなが出会って2週間しか経ってないのに、もうそんな変な関係になるかなぁ――――って、よく考えてみたらなりそう……」

「雪穂もお兄ちゃんの手際の良さは知ってるよね。正直な話、お兄ちゃんなら2週間とは言わず1日あれば女の子を篭絡できる能力があるよ。いや、1日どころか一目惚れさせられるかも……」

 

 

 昼ドラの姑と化している楓は、持ち前の観察力で兄の能力とその能力によって堕とされた浦の星について語る。特にAqoursの2年生組に関しては自分で探りを入れたので事実もまかり通っていた。

 

 そしてレジから2人の会話を耳に挟んでいた穂乃果が口を挟む。

 

 

「でもAqoursのみんな可愛いから、零君がお熱になるのも仕方ないよ。いつか東京に来てくれたら、千歌ちゃん以外ともお友達になりたいなぁ」

「そんな呑気でいいんですか先輩。もしお兄ちゃんがAqours全員を恋人にして帰ってきたとしたら、それこそ私たちが愛してもらう時間がなくなっちゃいますよ」

「ただでさえ12人もいるのに、それ以上なんて――――あぁ、零君ならありえるかも」

「でしょ? お兄ちゃんは謂わばハーレムの王ですよ。誰も悲しませず、女の子たち同士の関係も良好に築き保ち続けるスキル持ち。そんな絶対的な王が、自分に愛を向けるAqoursの子たちを放っておくと思います?」

「連れて帰ってくるのは別としても、恋人一歩手前くらいまでは進展しそうだね……」

 

 

 自分たちの彼氏は所構わず女の子にフラグを立て、しかもそのフラグをしっかり回収する責任感まで持ち合わせている。そのせいで少しでも彼と関係を持ってしまったら最後、ガッチリと心を掴まれ恋に落とされるのを覚悟した方がいいと穂乃果たちは結論付けていた。女心を決して無下に扱わず真摯に向き合うその態度は嬉しく思っているが、そのせいで高校でも大学でも恋人まではいかないが彼と親しくなった女の子はたくさんいる。そう考えるとAqoursの子たちが彼の毒牙に掛かって堕とされていないか、むしろ零より彼女たちの方が心配になってくるくらいだ。

 

 しかし、穂乃果たちは知らないが実際のところ千歌たちは見事に零に心を掴まれており、現在絶賛個々のメンバーが零にアプローチを仕掛けている最中である。μ'sを手に入れているのにも関わらずAqoursまで手に入れようとする貪欲さを見習うべきなのか、それともただのハーレム野郎と呆れるのかは人それぞれだろう。

 

 

「あっ、重要なことに気付いっちゃった……。もし仮にですよ? お兄ちゃんがAqoursの子たちを連れて帰ってきたら、それだけエッチの時間も減っちゃうってことです!! 雪穂も困るでしょ?」

「いや別に私はそんな――――」

「うん、一大事かも」

「お姉ちゃんまで!?」

「だってさ雪穂、考えてもみなよ。私たちは12人だからお兄ちゃんとのエッチが12日ごとのサイクルだとすると、ほぼ2週間に1回しか自分の番が回ってこないんだよ? そこにAqoursが入ってきたら、21日のサイクルで3週間に1回しかお兄ちゃんとエッチできなくなるじゃん!! そんなことになったら欲求不満で私たち死んじゃうよ!?」

「そもそも実際にそのサイクルでやってないから大丈夫でしょ……」

 

 

 ご奉仕担当のサイクルが12人の時点でツッコミどころは満載だが、それが21人ともなれば圧巻で息苦しいと彼女たちは感じていた。サイクルの周期を考えると、月の初めに彼と交わらない限りはほぼ月1でしか夜を共にできない計算となる。ただでさえ性欲の強い穂乃果と楓にとっては12人のサイクルですら耐え難いのに、21人もなったら性欲が爆発して零を逆レイプすることは目に見えていた。だが雪穂の言っていた通り、実際にはそんなサイクルすら存在していないので心配も杞憂に終わりそうではあるが……。

 

 

「そこまで冷静でいられるってことは、雪穂は今の状態でも満足してるってことだよね」

「ま、満足しているかと言われたら……それはしてるよ」

「そう言えばさぁ、零君と雪穂ってどんなエッチしてるの? 悪いようにはしないから、親友の私に教えてくれない?」

「都合のいい時だけ親友を強調しても無駄だから!! それにその悪魔みたいな笑顔、絶対に悪いようにしかしないじゃん!!」

「それじゃあお姉ちゃんだけに教えて? 普段はクールぶってるけどベッドの上では案外ノリノリだとか、1から10までリードされるのが好きだとか、奴隷のように振舞われるのが好きだとか……」

「どれも違うよ普通だよ普通!! …………あっ!!」

 

 

 この瞬間、雪穂は悟った。まさかおバカな姉に発言を誘導されるとは一生の不覚だと……。

 顔を真っ赤にして"普通"と告白した雪穂に対し、穂乃果と楓は口角を上げてニヤケている。いくらプレイの内容が普通であっても、自らの性技のスタイルを暴露してしまったことには変わりない。雪穂は自らの夜の性癖を明かしてしまったことで、自分の顔が蒸気を吹き出すくらい熱くなっていくのが分かった。自分では口が堅い方だと思っていたのだが、穂乃果と楓の連携プレーにより羞恥心が乱れに乱れていた。

 

 

「いやぁゴメンね雪穂♪ 私もそんなつもりじゃなかったんだけどさぁ~♪」

「だったらその嬉しそうな口調はなに!? 顔もさっきからずっと笑顔だし!!」

「雪穂もあっさり騙されやすい性格なんだね♪ あれ、それって穂乃果と同じじゃない?」

「お姉ちゃんと一緒の性格だなんて絶対にヤダ。人生やり直すレベルだよ」

「まぁまぁ、エッチのスタイルがバレたところで誰も咎めないって! むしろお姉ちゃんとして、妹が健全に育ってくれたことが嬉しいよ♪」

「だったらどうして笑いそうになってるの!?!?」

 

 

 楓はいつもどおりの煽りで、穂乃果はこれまでの報復を兼ねての攻撃に雪穂のツッコミ体制も万全となっていた。普段のクールっぷりはどこへやらだが、一度心を掻き乱されると羞恥を表情に出しながら自然と声を荒げてしまうのが雪穂の可愛いところでもある。もちろんそうなればいつもの冷静な判断ができなくなり、姉譲りの突発的な行動にも出ちゃう訳で――――

 

 

「いいもん、もうお姉ちゃんのプリン食べちゃうからね!!」

「あ゛ぁあああああああああああああっ!! 人の嫌がることをしちゃいけないって習わなかったの!? 雪穂には人間の心ってものがないの!?」

「どの口が言ってんの!? 胸に手を当てて考えてみなよ!!」

「胸に手を当てても雪穂より大きいおっぱいしかないよ!!」

「うっ、わ、私はまだこれからだから!!」

 

 

 仲睦まじい姉妹喧嘩が勃発したが、これがいつもの日常なので楓も今更止めることはしない。それどころかのほほんとしながら残ったプリンを食していた。

 

 

「うん、相変わらず平和だ」

「「どこが!?」」

「うん、やっぱり似てるよ2人共♪」

 

 

 3週間とはいえお兄ちゃんと離れて生活するのは苦行だと思っていたが、たまにはこんな生活も悪くないと自然に笑みが溢れる楓であった。

 




 μ'sの中でカップリングは数あれど、私は穂乃果と楓の掛け合いが一番執筆しやすかったりします。μ's編や超短編小説でもコンビを組むことがあっただけ、4年後の今でも仲の良さは健在でした!

 そして久々に雪穂の可愛い姿を描写できたのが、今回私が一番満足している場面です(笑)



 次回はダイヤお姉ちゃんの個人回です!




新たに☆10評価をくださった

カットさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ジェラシー・ダイヤモンド

 今回はダイヤさん回です!
 そして彼にもしっかりと見せ場があったり……


 こんなことが起こったのはつい最近なのだが、Aqoursの子たちからやたら連絡が来る。連絡と言っても業務連絡ではなく、普通に日常的な会話や雑談が大半を占めていた。ただでさえμ'sのみんなからも連絡が来るのに彼女たちからもメッセージが飛んでくると返信が大変なのだが、でもそれだけ俺のことを心から許している存在だということなので嬉しくはある。千歌や曜からのメッセージは今に始まったことではないが、あのルビィや果南までが雑談を仕掛けてくるのは正直驚いた。2人共積極的になるとは言っていたけど、まさかここまでとはねぇ……。

 

 だがルビィや果南が進展を見せる中、Aqoursで唯一1人だけそのような関係になっていない子がいる。そして俺は今まさしくその彼女と会う予定なのだが、時間帯は何故か夜。しかも浦の星女学院の校門前で待ち合わせという、一種の肝試しに強制参加させられている気分だ。数十分前にいきなり電話を掛けて来て校門前に来いだなんて、不良がパシリをパシらせるかのごとく強引で無茶な要求だった。

 

 夜の呼び出しと言えば鞠莉の件が記憶に新しいが、あのダイヤが鞠莉と同じ目的とは到底思えない。そもそも他のみんなと比べてフラグというフラグが立っているのかすらも疑問だ。Aqoursの中でも屈指のツンデレだってことは把握しているため、もしかしたらツンツンし過ぎて旗を隠しているのかもしれない。まあ夜の学校に呼び出す時点で、まともな用事でないことは確かだろう。

 

 そんなことを考えながら学院前に到着すると、既にダイヤが校門の石柱に背中を預けて待っていた。

 

 

「よぉ、もう来てたのか」

「ひっ……!!」

「自分から呼び出しておいて、そこまで驚くことはねぇだろ」

「よ、夜道で突然声を掛けられれば誰でも驚きますわ!!」

「一応言っておくけど、不審者じゃないからな。それにあまり大声を出さないでくれ。誰もいないとは思うが誰かいたら事案だからさ……」

 

 

 ダイヤはどこか焦っている様子で、俺と会話をしている最中もそわそわと周りを気にしている。よほど誰かに見つかりたくない秘密のお誘いごとなのか。そう考えると夜のホテルならぬ夜の学校も同様にアダルティなイメージが沸き立つので、これまで一部のAqoursメンバーに奉仕してもらった過去を踏まえるとそのような展開も……あったり? だがさっきも言ったが、あのダイヤが男を誘って自らそのような淫行に手を染めるとも思えない。だったらどうして焦ってんだコイツ……?

 

 

「なぁ、どうして俺は呼び出されたんだ? ここまで来て理由次第で帰ることはないから教えてくれよ」

「それは……。生徒会室の扉に鍵を掛けるのを忘れてしまっただけです……」

「はぁ!? そんなことで俺を呼び出したのかよ!?」

「そ、そんなことと簡単に片付けられるものではありません!! 生徒会室には学外には持ち出せない重要な書類もありますので、鍵を掛け忘れたとなれば生徒会長の名誉に関わります!!」

「つまり俺は、お前の威厳と名声を守るためにこんな深夜に呼び出されたって訳ね」

「言い方に悪意はありますが、概要はそんな感じですわ……」

 

 

 これまた迷惑な事情に巻き込まれたものだ。確かにその理由だったら、連絡してきた時点では言うことできないわな。俺の性格上、面倒事は避けるとダイヤも分かっているはずだから。

 

 

「でもお前って名誉とか気にしないタチだと思ってたけど、案外誇りにしてたのか。わざわざ夜の学院に忍び込もうってくらいなんだから」

「そ、それは……あのエリーチカのような由緒正しき生徒会長ですから!!」

「あぁ、アイツは真面目で威厳もあったいい生徒会長だったよ。生徒会長としてはな……」

「どういう意味です?」

「お前が知る必要もないことだ。ていうか絶対に知らない方がいい」

 

 

 俺が高校2年生の夏頃までは、絵里の威厳が最高潮に達していた。誰も寄せ付けないアイスエイジで、デレすら一切ないクーツン属性を具現化したような存在だ。一悶着あってμ'sに加入した後は態度が軟化したが、それでもグループ内で頼りになるお姉さんポジションを確立するくらいだった。

 だが、そのアイスエイジの氷は徐々に溶け始めることになる。秋くらいからその片鱗を見せ始め、グループに馴染んでいた影響でハメを外すようになったのか、本来の性格である抜けっぽさが前面に押し出されてきた。そこから次第に溶けていない部分の氷も割れ始め今では――――ここからもう語る必要はあるまい。そして絵里に憧れを抱くダイヤに、この黒歴史を伝えるのはあまりにも酷だろう。

 

 それに今は絵里のことよりも、ダイヤの用事をとっとと終わらせて帰ることに専念するか。

 

 

「とりあえず行こう。どうやって施錠された校門を通るかは考えないといけないけど」

「よじ登って超えていけばいいでしょう」

「意外とアグレッシブなんだなお前……。お前がいいならそれでいいけどさぁ」

「これでも決死の覚悟なのです! さぁ行きましょう!」

「決死って、命を賭けるほど生徒会長の名誉が欲しいのかよ……」

「そ、そうですけどなにか!?!?」

「そこまで怒らなくても……。わかったわかった、協力してやるから」

 

 

 どうしてそこまで取り乱しているのかは分からないが、ここで騒いでいても目的は達成できない。とにかく学院に忍び込むため、先に俺が校門を乗り越え、続いて俺に手を引かれながらダイヤも乗り越えた。堅物な真面目ちゃんだと思っていたが、夜の学校に潜入したり強行突破したりとやんちゃな面もあるとは。今晩だけでもダイヤの新しい一面をたくさん見られている気がするぞ。見られていい性格と聞かれれば微妙だけど……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 まんまと深夜の学院に侵入した俺たちは、下駄箱で上履きに履き替えて生徒会室へと向かう。ちなみに校舎内への潜入は、ダイヤが鍵の開いていた窓を見つけたのでそこから入らせてもらった。彼女曰く、この学院は地方がゆえ過去に不審者が入り込んだことはないらしく、そのせいでセキュリティが杜撰だと言う。だからといってここまで管理がガバガバなのは女子高としてどうなんだ……。

 

 そして、そのセキュリティホールを突いて堂々と侵入を工作するダイヤもダイヤだ。ただでさえ夜の学院に忍び込むだけでもアクティブなのに、ここの警備員の管理の甘さすらも考慮に入れているとは計算高いのかずる賢いのか。そういやAqoursの合宿など、イベント行事は彼女の提案だった。それを踏まえれば彼女が行動派の理由も分かる気がする。

 

 

「それにしても、夜の廊下ってのも風情があるよな。いつも見てる場所とはまた違う、パラレルワールドみたいだ」

「そ、そんなことを言わないでください! 私はいつもの学院だと思い込ませているのですから!!」

「思い込ませてって誰に? 自分に?」

「それ以外に誰がいますの……」

「はぁ~なるほどな。怖いのか、お前」

「ぐっ……!!」

 

 

 ダイヤは自然だったかもしれないが、校舎に入り込んだ時から俺の服の裾を摘みながら歩いていた。その何気ない仕草を見てもしかしてとは思っていたが、まさか本当にビビってたとは。地味に身体を震わせながら、俺に自分の心が読まれギョッとしている表情を見れば丸分かりだ。

 

 

「暗いところが怖いって、まさに絵里と一緒じゃねぇか」

「そんなところが同じでも素直に喜べないと言いますか……」

「でもお前、お化け騒動で深夜の裏山に登った時は普通だったじゃん。どうして今日に限ってビビってんだ? ホラー番組でも見たのか?」

「怖い話を聞いてトイレに行けなくなる子供ではないのですが……。それにあの時は周りに皆さんがいてくれたから耐えられたのであって、今回は本来1人だったので……」

「だから俺を無理矢理召喚したのか」

 

 

 生徒会室の扉の鍵を掛けるだけなら、わざわざ俺を連れ出す必要はない。むしろ自分の犯したミスを俺に知られてしまうことになるのでマイナスにしか働かなかったはずだ。だがそのリスクを被ってまで俺を呼び出したということは、やはりそれだけ生徒会長としての誇りを保ちたいのだろうか。そこまでして自分の名声に拘る子だとは思えないんだけどなぁ……。もしかしたらだけど、まだ別の理由があるのかもしれない。

 

 それにしてもダイヤの奴、やけにくっついてくるんだけど……気にしたら負け? どうせ言及してもいつものツンデレセリフを飛ばされるだけで、まともな返答が来るとは思えない。下手に騒いで足を止めてしまうよりも、女の子に密着されている状況を堪能するべきかも。

 

 まあ、気になるから聞いちゃうんですけどね!

 

 

「怖いのは分かるけど、そこまで引っ付かれると歩きづらいんだが……」

「し、仕方ないではありませんか!! 怖いのですから……」

「素直に理由を吐いてくれたことには感謝するけど、怖いんだったら明日の朝に来て鍵を閉めれば良かったんじゃねぇの? 先生もあまり来ていない朝の早い時間にさ」

「警備員さんや用務員さんは先生たちよりも早く来るので、それでもし生徒会室の鍵が開いていると知られたら終わりではないですか」

「確かにな。そもそも施錠を生徒に一任する学院の方針もどうかと思うけど」

 

 

 田舎の学校だと馬鹿にするつもりは毛頭ないのだが、こういった管理の緩さは地方独特だろう。創立以来目立った事件が起きていないなら、そりゃ気付かぬ間に杜撰にもなっていくわな。真面目な話をするなら、人件費を削減できる点で必ずしもマイナス面ばかりではないが、今はそんなことを長々と語っても仕方ないのでこの話題はここらで終わっておこう。

 

 しばらくの間、ダイヤに裾を摘まれながらもゆっくりと廊下を進んでいく。

 そして遂に、目的地である生徒会室の前へと辿り着いた。そこで俺はダイヤに鍵を掛けるよう促すが、彼女は俯いたまま動かない。ここで扉を施錠するだけで後は帰宅だけ、つまり彼女にとっても怖い場所から抜け出せるのだ。それなのに俺の服の裾を掴んだまま、鍵を取り出す様子もなくその場で佇んでいた。

 

 彼女の考えがよく分からないながらも、俺は何の気なしに生徒会室の扉の取っ手を持ってみる。すると、そこそこ力を入れたのにも関わらず扉はビクとも動かなかった。

 

 

「おいダイヤどういうことだ? どこからどう見ても鍵が掛かってるぞ?」

「…………」

「ダイヤ……?」

 

 

 今回のミッションは生徒会室の扉を施錠することだったはずだ。だけど既にミッションはコンプリートされており、もしかしたらいつもは怠慢な警備員が今日に限って本気を出したのかもしれない。そう思っていたが、ダイヤは申し訳なさそうな顔をしていて落ち着きがない。その様子から察するに、事前にこの展開に陥ることを知っていたかのようだ。

 

 しばしの沈黙。やがてダイヤは恐る恐る小さく口を開いた。

 

 

「申し訳ありません。騙すような真似をしてしまって……」

「やっぱり知ってたのか、元々扉の鍵が掛かっていること」

「はい……」

 

 

 そもそも生徒会室の扉に鍵を掛けたいから俺を呼び出すって、その時点でおかしいとは思っていた。それにダイヤは自分の名誉を掲げて威厳を振りまく性格ではないので、いくら責任感が強いと言っても夜の学校に忍び込んでまで払拭するようなミスではないはずだ。そう疑問に思って暗闇の廊下を歩いていたのだが、やはり予想通りだったか。

 

 

「でもどうしてこんなことを? わざわざ嘘を付いてまで呼び出さなくても、普通に電話なり何なりで言ってくれればいいだろ?」

「それは……し、失礼します!!」

「お前なにを――――ちょっ、うわっ!?」

 

 

 ダイヤは俺の身体を180度回転させ、間髪入れずに両肩を掴み扉に押し付ける。女の子がこのような突発的な行動に出る理由、そしてこの光景は今までに何度も見てきた。なるほど、彼女の本当の目的はこっちだったってことね。思い出してみれば、最初はこの暗い校舎を怖がっていたダイヤだが、廊下を黙々と歩いている時は至って普通だった。つまり怖がってたから声が震えていたのではなく、この展開を見据えて緊張していたってことだ。

 

 突然女の子に襲われる展開は幾度となく経験しているのだが、決して慣れることはない。毎回別の女の子という女垂らし展開ということもあるが、今回はAqoursの中でも一番誠実で堅実なダイヤが相手なのだ。だからそんな彼女に夜の学校でいきなり壁ドンされたら、誰でも取り乱しちゃうだろ普通は。

 

 月明かりも差し込まない暗闇の中で、お互いにじっと見つめ合う。近くにいるはずなのに暗すぎてダイヤの表情が微妙に伺いにくいが、多分この状況も自分の緊張を悟られにくくするように彼女が狙ったことだろう。つまりここまでの展開もシチュエーションも彼女の狙い通りだってことか。

 

 壁ドンされながら黙って見つめ合っていた俺たちだが、ここで止まっていた時が動き出す。ダイヤは肩に当てている手に力をいれ、俺の背中を扉伝いに滑らせそのまま廊下に座らせる。そして彼女自身もその場で身を屈ませて、また俺の肩に手を当て徐々にこちらへと接近してきた。ダイヤとここまで顔を近付けるのは初めてだが、これまでの一連の流れを見るに彼女は初めてだとは思えない手練だ。男付き合いなんて皆無だったダイヤが、ここまで見事なシチュエーションを作り上げるなんて想像もしていなかった。

 

 そしてお互いの顔が更に近付き、とうとう暗闇の中でもダイヤの表情が認識できる距離まで詰め寄られてしまった。

 そこで分かったのだが、先程の俺の予想は大きく外れていた。男を扱いの手練だと思っていたが、彼女の顔を見てみると目がうっすらと潤いを帯びており、頬を紅く染め、口元も緩んで何かを我慢しているような感じだ。俺の肩を掴む手も小刻みに震えていることが分かった。

 

 その直後、ダイヤは震える手で俺の肩をギュッと強く握る。

 

 

「や、やっぱり無理ですぅうううううううううううううううううううううううううっ!!」

「はぁ……?」

 

 

 叫び声も束の間、ダイヤは両手で自分の顔を覆って表情を隠してしまった。その反応を見る限りどうやら相当羞恥心にムチを打っていたらしいが、とうとう我慢の限界が来てしまったらしい。ご丁寧に俺の前で正座で座り込みながら、さっきまでの淫靡なムードを全てブチ壊す嘆き声を上げる。

 

 

「先生の顔が……顔があれほど近くに……!!」

「恥ずかしいならどうしてこんなことを仕組んだんだよ。お前にはハードルが高いって、自分でも分かってるはずだろ?」

「しかし、皆さんが先生と仲がいいのを見て、私も置いていかれないようにと思いまして……」

「気持ちは分かるけど、だからって無茶しなくても」

「焦ってしまいますよ。先日先生とお泊まりした時に、鞠莉さんと果南さんが先生とただならぬ関係だということは察しがつきましたから」

「え゛っ……!?」

 

 

 ただならぬ関係って、つまり俺が鞠莉や果南にご奉仕された事実をダイヤは知ってるってことか!? 確かに彼女の家に泊まった時にバレそうにはなったが、あの時のダイヤはアルコール入りのチョコを食って盛大に酔っ払っていたはずだ。しかし彼女の記憶にはしっかりこびり付いていたようで、だからこうした突発的な行動に出たのだろう。俺としては社外秘並の秘密が何故バレたのかが気がかりでならないのだが、恐らく酔っ払った鞠莉の影響だと思われる。余計な爪痕を残しやがってアイツぅううううううううう!!

 

 

「本当なのですか……? 鞠莉さんや果南さんとその、交わられたというのは……」

「そこまでバレてるんだったら隠す必要もないか」

「やはり……そうでしたか」

「交わったというのは語弊があるな。向こうから奉仕してくれただけだよ。こっちからは一切手を出してないし、大切な純潔を奪ったりもしていない」

「そう、ですか……てっきりもう男女の関係になられているのかと」

「肝心なところで手を出さない、それが俺のせめてもの責任だから。まあ相手の好意を受け入れて身を任せている時点で、言えたセリフじゃないかもしれないけど」

 

 

 真っ暗な廊下に座り込んで男女の営みの話をしているこの光景はシュールだが、ダイヤにとってはよほど重要なことのようで、俺と鞠莉、果南が交わっていないと知った時はどこかホッとした表情を浮かべていた。しかしダイヤは低俗な行為を嫌っているはずで、この2週間で幾度となく俺を叱りつけている。それほどまでに純真な彼女が生徒のご奉仕を受け入れる俺を叱らず、逆に安心するなんてどのような心境の変化があったのだろうか。

 

 

「なあダイヤ、どうしてこんなことを?」

「…………私の知らない間に先生と皆さんの関係が進んでしまっていることに、大きな危機感を抱いていたのです。酔った鞠莉さんが先生をホテルに連れ込んだ話を聞いて、そして果南さんも意味ありげに恥ずかしがっていたので……。鞠莉さんはともかく、果南さんがあそこまで女々しくなるのは先生絡みの時だけですから」

「焦り……ね。それにしても、かなり察しがいいんだなお前って」

「分かりますよそれくらい。最近ルビィが先生に懐くようになったことも知ってますから」

「マジかよ。周りには悟られないようにしてるつもりだったけど、バレる時はやっぱバレちゃうか」

「他の方がどうかは分かりませんが、少なくとも私はここ1週間で皆さんの雰囲気が大きく変わったことは目に見えて明らかだと思っています。だからこそ焦ってしまって、このような強行手段に出てしまったのですが……」

 

 

 その強硬手段から鞠莉や果南みたいなご奉仕活動に勤しもうと思ったが、緊張と羞恥に苛まれて行動に移せなかったのが真相か。本来なら男に触れることすら躊躇うダイヤが、この俺と2人きりのシチュエーションを作っただけでも相当勇気のある行動だと思うけどね。だが本人はそれで満足しておらず、Aqoursのみんなが自分よりも先に進んでいると信じ込んでならないらしい。全く早とちりと言うか、勘違いして先走っちゃうのはどこぞの生徒会長と全く同じだな。

 

 

「気になることは色々あるけど、1つだけ。俺のこと、許してくれたんだな」

「許す……とは?」

「だってお前、正直俺のこと嫌ってただろ? 特に俺が教育実習生として浦の星に着任した時、明らかに敵意を剥き出しにしてたじゃねぇか」

「あの時は先生がいきなり生徒たちに猥褻な行為をするからいけないのです!! それに目を見張る行動はあれど、それと同じくらいに私たちを大切に思ってくれている、その気持ちが伝わってきますから」

「ほぅ……」

「な、なんですかその珍しそうなモノを見る目は!?」

「いやまさしくその通りだよ。お前がここまでデレてくれるとは思ってなかったからさ」

「それはただ……心境の変化ですわ。お化け騒動のような特別な出来事もあったり、普段から一緒にいて楽しい存在として、私の中での先生の認識が大きくなりましたから。でも私は知っての通り面倒な性格なので、中々素直にはなれませんけど……」

 

 

 俺のことは気になる存在ではあった。だけど自分の不器用な性格が邪魔をして、思うように好意を伝えられなかったということか。しかもその間にAqoursのみんながみるみる俺に急接近をして、更に親友の鞠莉や果南が俺と微弱ながらの肉体関係を持っていることを知ったから焦りがより沸騰してしまったんだ。自分だけ想いを伝えられず、同じく不器用な善子や果南ですら俺との仲をどんどん進展させているんだから。そりゃあダイヤじゃなくても焦るよ。

 

 

「でも嬉しいよ、俺のことを好きでいてくれたなんて」

「す、好き!? そ、そんな直球な……!? 間違いではありませんが、まだそこまでの関係には至ってないと言いますか……あぁ、あぁぁぁ……!!」

「動揺しすぎだろ……。まあ女の子の可愛い姿を見られるのは悪くないけどな」

「か、かわっ……!! あなたはまたそうやって人を弄んで!!」

「弄んではねぇよ。からかってるだけさ」

「一緒です!! 全く、女心を心得ているんだかそうでないのだか……」

 

 

 そう言われてみれば、俺としてもどっちなのか未だに分かってない気がする。女の子の恋心に敏感になったのはAqoursとの関係で明らかだけど、恋心以外のことに関してはデリカシーに欠ける部分も多い。たくさんの女の子に囲まれた生活が長すぎて、女心とかいちいち考えなくなったのが一番の要因だろう。だからハーレム野郎だけど鈍感って言われ続けるんだろうなぁ……。

 

 そしてこの一連の会話で、緊張で張り詰めていたダイヤの雰囲気が少し緩んでいた。ツンデレは弄べば弄ぶほどいい表情をしてくれるし、乱れた心を治すのにはうってつけの方法だったりする。一応これ、長年女の子に囲まれてきた俺の経験談ね。

 

 

「お前は鞠莉や果南、Aqoursのみんなと比べて自分は出遅れているって言ったけど、そもそも先行して何の意味があるんだ?」

「意味……?」

「あぁ。血生臭い昼ドラ展開をご所望ならまだしも、お前たちの中での主役は俺だ。こんな寛容な男は世界中を探しても俺だけだぞ?」

「どういうことです?」

「神崎零って人間はな、女の子を1人に選ばねぇんだよ。誰かが悲しむなら全員を手に入れる。女の子を誰も泣かせない。つまり、出遅れてるからって焦る必要はないんだ。俺は全員と向き合って、そして答えを出すから安心しろ」

 

 

 最低だと言われてもいいさ。俺は俺のことを好きになってくれる女の子だけを愛せば、それでいいから。逆に言えば、俺を受け入れてくれる女の子はみんな受け入れてやるってことだ。もちろん軽い気持ちではなく、お互いの心の内を全て知り尽くした関係にまでならないといけないけどな。

 

 

「本当、何もかもが滅茶苦茶な人ですね。でもそんなあなたのこと、嫌いではありません」

「俺のことを嫌いではないって言う奴は、大抵俺のことが好きなんだけどね。ツンデレの性格くらいもう分かりきってるから」

「言っておきますけど、私はそのツンデレとやらではありません! Aqoursの常識人として、至極真っ当な意見を主張しているだけですわ!」

「…………ポンコツめ」

「今なんと仰いました!? 聞き捨てならない言葉が聞こえてきたのですが!?」

 

 

 自分の性格を素直に認めないところや、まだ自分を常識人だと信じ込んでいるところがまさしくあの生徒会長にそっくりだ。もう既視感しか感じず、だからこそ弄んだりからかいたくなっちゃうんだよ。

 

 でも、またこうしていつものダイヤが戻ってきてくれて嬉しかったりもする。どうやって俺を襲おうか画策して悶えていた時の彼女も可愛かったけど、弄ばれている時の顔を真っ赤にして反抗してくるその態度も可愛いよ。そう本人に言ったら、得意のツン属性を発揮して悶えてくれるだろうなぁと苦笑しながら思っていた。

 

 

「そういやダイヤ、俺にご奉仕してくれる手筈じゃなかったっけ?」

「な、なななななんのことでしょうか!?」

「お前から誘ってきたんだろ、夜の学校っていうホラームードの中で。あっ、分かった! お前廃墟でのプレイとか、ちょっと禍々しい場所でやるのが好きなんだろ?」

「変な性格を付け加えないでください!! 私は至って普通に、それも自分の部屋でとかホテルとかロマンチックな場所で――――って、何を言わせるのですか!! だからいつまで経っても変態の汚名を外せないのですよ!?」

「今のは完全に自爆だろ……」

 

 

 いつものように大声でツッコミを入れられるってことは、当初の緊張も解れたってことだろう。残念ながら奉仕される展開にはならなかったものの、こうしてお互いの距離が縮まっていけばいくほど、これから俺たちが身体的に交わる未来もある……かもしれない。

 

 

「お前が酔った時は浴衣が着崩れして、今にも脱ぎだしそうになってたのになぁ~」

「その時は通報します。先生にいつ襲われてもいいように、迅速に110番へ掛ける練習をしてますから」

「いつも俺に襲われる妄想をしてるって、それやっぱり――――」

「言わせませんよ!! それにあなたのことなんて想ってないですから! 自己防衛のためです!!」

「フッ、はいはい。もう帰るぞ」

「何故笑うのです!? ちょっ、ちょっと待ちなさい!!」

 




 今回の見所はツンデレながらも自分の想いを伝えるダイヤ――――もそうなのですが、意外と零君にも活躍の場があった回だと思っています。特にダイヤの悩み事を解決するために伝えたハーレム主人公のお手本のような発言は、この小説を象徴するセリフとしていつか彼に言わせてみたかったものです。そのセリフはただ数十話しか時が経過していない主人公に言わせても意味がないと思っており、300話以上の積み重ねでμ'sとも4年以上一緒にいる彼だからこそ意味の通るセリフになっていると思います。


 次回は秋葉さん、内浦で最後の大仕事編! ちなみに彼女の出番はAqours編ではこれで見納め……かも?



新たに☆10評価をくださった

そだいごみさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

セクハラされるのは俺の前に立つのが悪い

 今回はお姉ちゃん最後の大仕事!


 

 本格的に夏の暑さも極まり、浦の星女学院の生徒の99%は薄手の夏服となっていた。残る1%の生徒は紫外線から肌を守りたいお嬢様思考の子だけだ。

 女子高生の夏服と言えば見た目だけでも肌が露出され大変眼福である。薄い白シャツから透ける下着や艶なかな肌を滴る汗など、夏限定の光景が日常的に繰り広げられているのが魅力だ。中にはその楽園を眺めて思春期ながらの性を目覚めさせた男子生徒諸君もいることだろう。しかし女子生徒たちもそのような目で見られることは分かっているので、夏でも下着が透けないようもう1枚シャツを着るなどの対策をする子たちもいるだとかいないだとか。

 

 こうした男女の冷戦が勃発する中、浦の星の生徒たちはオープンすぎるほどにオープンだった。何を隠そう浦の星は女子高なので、そもそも下着が透けてしまってそれを男子に見られるという概念は生徒たちに一切ない。ちょっと背伸びをしてスカートを短くしたり、白シャツに思いっきり透ける色の濃い下着を着けてくるなどもちろん平気。やはり男の卑しい目がなければそれほどまでに女の子は身も心もオープンになるのだ。

 

 そしてそれは、この子たちも同様であった。

 

 

「ふぁ~~ようやく休み時間だぁ」

「もう千歌ちゃん、周りに女の子しかいないからって口も抑えずあくびなんかしちゃって。そしてシャツのボタンもしっかり留めないとはしたないよ」

「もう梨子ちゃん、お母さんみたなこと言わないでよ。それに周りには知ってる子たちしかいないし、女の子ばかりだし、気を張ってる方が疲れちゃうじゃん。私はのんびりほのぼのと過ごしたいの」

「まあ確かに千歌ちゃんの言うことにも一理あるかも。ちょっとくらいハメを外したって咎められることはないしね」

「曜ちゃんまで……。ていうか、意外と校則緩いのねこの学校」

「自慢じゃないけど田舎なもので……」

 

 

 女子高はお嬢様学校という考え自体が古臭く、実情を見ればいかに彼女たちの貞操観念が低迷しているかが分かるだろう。男から下衆な目で見られることがないので、夏の暑さを回避するためにもシャツのボタンを外して通気性を良くする格好はもはや自然となっている。都会育ちの梨子は身だしなみもバッチリだが、千歌と曜は生粋の田舎育ちなため制服もかなり着崩していた。服をだらしなく着るのは不良少女のイメージだが、浦の星の生徒は清楚な子も真面目そうな子もほとんどが制服をまともに着ていない。もうそれが当たり前となっていて、男に見られた恥ずかしい格好をしているという事実にすら気付かないのかもしれない。

 

 梨子はまたしても自分と千歌たちのギャップを感じながら、このまま自分も同じ道を歩む可能性があることに危機感を抱く。そして心の中で自分だけは絶対に真っ当でいようと誓ったのであった。

 

 そんな梨子を他所にいつの間にか千歌と曜が廊下に出ていたので、彼女も後ろから渋々ついていく。

 梨子は懸念していた。今までなら確かにこの学院に男の目はなく、それが彼女たちの日常になっていたのだが、今年の夏に限っては()()()がいる。しかも自分たちと歳がそこまで離れている訳でもない上に、無駄にカッコよくてイケメンなせいで意識せざるを得ないのだ。更に言えばあの人はちょっぴり、いやかなりの変態野郎だ。そんな彼にシャツの着崩した姿なんて見られたら――――どうなるか分かったものではない。

 

 だが一応彼も教育実習生とは言え教師の立場なので、こんな真昼間の学校で堂々とセクハラに勤しむことはない。梨子は多少の警戒心を抱きつつも、この状況なら安心だという思いの方が強かった。

 

 そんな思いも束の間、千歌と曜はいつの間にか自分たちの副担任かつ顧問である神崎零と談笑をしていた。そして案の定と言うべきか、話題のテーマは夏服のことである。

 

 

「お前ら、ちょっと制服着崩しすぎじゃないか?」

「そうですか? 夏はいつもこんな感じですけど」

「それにせっかくの薄着なのに、堅苦しく着てたらそれこそ暑くなっちゃいますよ!」

「まあそうだよな。だからこうしておっぱいも無駄に強調される訳だ」

「…………ふぇ!?」

「よ、曜ちゃん!? 先生!?」

「おぉ、やっぱ俺の想像よりも一回り大きかったんだな。曜のおっぱい」

「えっ……あぁ、んっ……」

 

 

 梨子は零の突発的な行動に目を疑った。さっき真昼間の学校で堂々とセクハラするはずがないから安心と自分で言い聞かせていたはずなのに、現実があっさりとその理想を打ち砕いていたからだ。千歌も目の前で起きている光景が現実なのか夢なのか分からないくらいパニックになっているが、一番頭が真っ白になっていたのはもちろん曜だった。

 

 零の右手が見事に曜の左胸を鷲掴みにしており、何の躊躇もなく指を動かしてその柔軟性を確かめる。あまりにも突然でそして容赦のない行動だったので、千歌も梨子も、被害者である曜も胸を触られている事実よりまず零の様子に驚いていた。

 

 

「んっ、ちょっ、ちょっと先生!! こんなところで……んっ、はぁぁ……」

「どうして? 公園で俺のを先端から根元まで丁寧にご奉仕してくれたじゃないか」

「曜ちゃん!? それどういうこと!?」

「か、勘違いしないでよ梨子ちゃん!? そ、そそそそんな事実は1ミリたりともないから!! そ、そしてせんせぇ……あまり触らないでぇ……んんっ!!」

 

 

 女の子の胸を触り慣れている零は、その技術を巧みに利用して曜に快感という刺激を与える。胸だけでここまで女の子に嬌声を上げさせられるのも、μ'sで鍛えたハンドパワーがあるからこそだ。その証拠に彼は決して強い力で胸を触っている訳ではないので、逃げ出そうと思えば容易に脱出することはできる。しかし曜がそれをしないのは、胸を弄る彼の手捌きに彼女自身がちょっぴり興奮しているからだった。

 

 それに曜の危機感は他にもある。

 雨の日の公園で曜が零に奉仕した事実は確かにあった。だがそれは2人だけの秘密であり、それは零も曜もお互いに黙ったまま秘密にしているのが暗黙の了解だったはずだ。だが今の零はその事実を公言するだけでなく、何食わぬ顔で澄ましながら暴露しようとしている。しかも親友2人の目の前でだ。曜はセクハラ魔に取り憑かれた零と事実が公になりそうな2つの重圧にもう何が何だか分からなくなっていた。

 

 

「先生!! とりあえず曜ちゃんからその手を離してください!!」

「おっと、強引だな梨子……。そこまでして自分のおっぱいを触って欲しいのか」

「はぁ!? そんな訳ないでしょう!?」

「見栄を張るなって。俺は大きかろうが小さかろうが、好きな女の子のおっぱいならどんな大きさでも受け止めてやるから」

「ここ廊下ですよ!? そんなことを自慢げに語らないでください!!」

「一体どうしちゃったの先生!? 私に痴漢していたあの頃の先生に戻ったみたい……」

 

 

 浦の星に着任当初の零は千歌に痴漢をしたり、ラッキースケベとはいえ1年生組の胸を触ったりスカートを探ったりパンツを脱がしたりと、中々にやりたい放題であった。だが時が経つにつれそのような淫行はなくなっていき、最近ではむしろAqoursの子から積極的になるくらいなので、最近彼が威勢良くセクハラ紛いなことをする事態は全くと言っていいほどない。だからこそ千歌たちは今の零の行動が予想外で驚くことしかできないのだ。

 

 

「痴漢か……。思い出したらもう一度だけでいいから千歌の太ももを触りたくなってきたよ。ていうか触らせてくれ」

「ちょっ!? ド直球すぎてドキドキすらしないんですけど!?」

「だったらお前がドキドキするようなシチュエーションにできれば、好きなだけ触らせてくれるのか?」

「それはぁ……。もしドキドキさせられたら……ですよ?」

「よしっ!!」

「"よし"じゃないです!! ここ学校ですよ分かってますか!?」

「なるほど、つまり学校じゃなかったらいいのか。行くぞ千歌! 2人きりの逃避行へ!!」

「2人きり……!! は、はいっ! どこまでもお供します!!」

「千歌ちゃんも流されちゃダメ!!」

 

 

 曜はさっき零に胸を弄られていた影響かその余韻に浸って使い物にならないため、梨子はアウェイの状態ながらも必死で2人を止めに掛かる。逆に千歌は何故か暴走状態の零に同調しているので、下手をしたら台風の目が1人から2人に増えかねないのが梨子の懸念点だ。

 

 それに先生がどうしてこうなってしまったのか、その理由を考えたいのだが、次から次へと女の子を堕とし込んでいく彼を止めることに必死で頭も全然回らなかった。

 

 

「梨子……お前も俺と遊びたいんだろ? 知ってるから」

「どうやったらそんな考えに落ち着くんです……?」

「俺が別の女の子に靡いているのが気に食わないんじゃないのか? でも安心しろ、俺は女の子全員を愛するから」

「それのどこに安心する要素が――――うひゃぁっ!?」

「相変わらずいい声で叫ぶよなぁお前」

「あっ、あぁ……と、突然こんな……んっ……」

 

 

 梨子は胸から伝わってくる電流のような快感に、まともに声を出すことすらできなかった。

 お察しの通り、零は左手で彼女の右の乳房を鷲掴みにしている。いつかは自分に火の粉が飛んでくるとは思っていたが、実際に彼の手捌きを受けてみるとそれは火の粉どころの威力ではなかった。下から上へ掬い上げるように胸を弄られ、彼の指に力が入るたびに不覚にも声が出そうになってしまう。梨子がいくら夏服を着崩していないと言っても結局は薄着、しかも想いの人である彼の大きな手を胸で受け止めているその現状だけでも心臓が激しく鼓動してならない。ただ胸を触られているだけなのに全身に走るこの刺激は、曜を軽く胸イキさせただけのことはあるとたった今悟った。

 

 このままやられっぱなしでは終われないと、梨子はそっと右手を上げる。そして手のひらを振りかざし、彼の頬へ向かって――――――

 

 

「………えっ?」

 

 

 またしても予想外のことが起こった。いつもの零なら自分の振りかぶった制裁を一身に受け止めてくれるはずだ。

 しかし今日の彼は違う。梨子の振りかざした腕の手首を掴み、したり顔で彼女を見下す。まるでここまでの展開を読んでいるようで、なおかつ待っていましたと言わんばかりの黒さが滲み出ていた。梨子は最後の抵抗すらも零に抑え付けられてしまい、ただ成すすべもなく彼の顔を見つめるしかなかった。

 

 

「読めてるよ、お前の思考も心も全部な。そんな穏やかじゃない梨子には……お仕置き」

「えっ――――ひっ、ひゃぅっ!!」

 

 

 手馴れた動作で零の手が梨子のスカートに侵入した。本人が罰ゲームと謳っているからか、触り方も大胆で力も込められている。手のひらで臀部(でんぶ)の温もりを帯びたショーツを、5本の指で臀部の肉をそれぞれ堪能し、そのまま彼女を廊下の壁へと追い込んだ。

 

 梨子は自分の性癖でもある壁ドンをされつつ、更に卑しい手付きでおしりを弄られ極度の興奮状態に陥っていた。さっき千歌も曜も零の言動に身を任せていたが、その気持ちがようやく分かったような気がした梨子は必死ながらも微かに望みつつ彼の奉仕を受け入れる。彼が臀部を揉むために手を動かすたびに、指の一部が自分の筋に入り込もうとするためその刺激が彼女の興奮を大きく助長させていた。自分でやる時とは違う、想いの人の指でやられているその快感もまた彼女が夢中になってしまう要因だ。

 

 

「んっ、あぁっん……」

「夢だったんだろこのシチュエーションが。壁と男に挟まれて逃げ出せなくなっているところに、こうして身体を触られる展開をさ」

「そ、そんな……あっ、ん……私が好きなのは女の子どう――――!?」

「梨子ちゃんも気持ちよさそう……」

「あ、危なかった……」

 

 

 零が誘導したのかはそうでないのかは分からないが、梨子は思わず自分の真の性癖を漏らしそうになってしまった。まさか自分にちょっとしたレズ属性があると千歌たちに知られたら、それこそ親友の関係を保っていられるか分からないだろう。梨子は自らの秘密が暴かれようとする事態に躍起となり、先生におしりを触られていることすらも一瞬忘れかけていた。

 

 そして彼女が零に意識を戻したのと同時に、彼は壁から離れおしりからも手を引いていた。梨子としては興奮が収まりきらずこれからだという時に限っての寸止めである。これも女性扱いに手馴れた零だからこそ成せる技だった。梨子は自分でも熱い吐息を漏らし、顔が羞恥で紅潮しているのが分かった。寸止めされたことに少々嫌気が差すも、このまま求めてしまえば彼の言いなりになってしまいプライドに傷がつくので、ここは必死に堪える。

 

 零が千歌たちの前に現れてここまで1分足らず。その短時間で梨子と曜を篭絡し、身体を触られていない千歌も頬を赤くして芽生えつつある性欲に惑わされていた。

 

 ちなみにここは学院の廊下である。つまり、他の生徒たちが通る可能性が大いにある訳で――――――

 

 

 廊下に教科書が落ちた音が響く。千歌たちが音のした方を振り向くと、そこにはその教科書の持ち主であろうルビィが手を震わせ、その後ろには花丸と善子が目を見開いていた。

 それもそのはず、先生と千歌たち2年生組の間にただならぬピンクのオーラが漂っていたからだ。これは近付かない方が身のためだと悟った1年生組3人は、急いでルビィの落とした教科書を回収してその場から去ろうとする。だが、既に目の前には自分たちの先生でもあり顧問でもある零が行く手を塞ぐように立っていた。3人は声も出せず、ただただ冷汗を流す。

 

 

「どうして1年生の夏服だけ、そんなに袖が短いんだろうな。ちょっとでも腕を上げたら健康的な腋が見えて、思わず触ってみたくなっちまう……」

「せ、先生……? 今日は全然雰囲気が違うずら……」

「そう、だね……。いつもより怖いって言うか……」

「これは……堕天使をも凌駕する闇!?」

「そんなことはどうでもいい!! ルビィ!!」

「ひゃいっ!? ピ、ピギャアアアッ!?」

「ルビィちゃん!?」

「ルビィ!?」

 

 

 零はまたしても澄ました顔で躊躇もなくルビィの腋の下に手を滑り込ませる。いきなりのセクハラに思わず身体を仰け反らせてしまったルビィだが、彼もその動きに合わせて手を動かすので逃げられそうにもない。浦の星は1年生から夏服が変わり袖が短くなったため、零は着任時からずっとそこに目をつけていたのだ。その執着もあってか、より一層女の子の腋に興味を持ってしまったのである。だからこそルビィの腋の中から一向に手を離す気はないのだが……。

 

 

「せ、せんせぇ……あまりもみもみしないでぇ……」

「いつかこうしてやりたいと思ってたんだ。1年生の教室に行くたびに女の子たちが短い袖からチラチラと綺麗な腋を見せつける、そんな光景を前に何もできない男の気持ちを考えたことはあるか?」

「し、知らないですよぉ……」

「腋が性癖だなんて、先生って思ってたより変態さんだったんだ……」

「ズラ丸、そこ感心するところじゃないから」

「どうした? お前たちも触らせてくれるのか?」

「ち、違うわよ!!」

「お前たちって、マルも!?」

 

 

 今度は自分たちに矛先が向いたと分かり、今まで見せたことのないスピードで零から遠ざかる善子と花丸。ただルビィだけは零の元へ置き去りにして……。

 

 

「ちょっと花丸ちゃん善子ちゃん!? ルビィを見捨てるの!?」

「い、いやぁ……先生のお相手頑張ってルビィちゃん!!」

「ルビィは犠牲になったのよ。変態セクハラ魔の犠牲にね……。これからお持ち帰りされて一生先生のお人形として暮らして――――あっ、いい小説描けそう!」

「2人共薄情すぎるよぉおおおおおおおお!!」

 

 

 涙目になって親友2人に訴え掛けるルビィだが、目の前にいる犯罪者を目の当たりにすれば2人が逃げ出したことも納得できるので、妙に腑に落ちないのがもどかしかった。肝心の先輩たちはそれぞれ物思いに耽っているので使い物にならないし、ルビィはこのまま最後までやってしまうのかと内心どこかで期待しつつも焦りが止まらない。零が自分の腋に手を入れて無造作に動かしてくるため、そのこそばゆさで笑いが漏れそうになるのを堪えるにも必死だった。

 

 しかし、救世主はすぐにやって来た。近くで騒ぎを聞きつけてこちらへ向かってくるダイヤの姿が見えたからだ。後ろに鞠莉と果南の姿もある。流石に3年生ならこの事態を上手く終息させてくれる、ルビィはそう考えていた。

 

 ダイヤは我が愛する妹が襲われている現場を見ると、そそくさと零に近寄ってルビィの腋に入れている手首を掴んでそこから引き抜いた。明らかに激おこムードのダイヤだが、いつものようにセクハラがバレて青い顔をしている彼はどこへやら、それどころかこの時を待ってましたかと言わんばかりのしたり顔でダイヤを見つめる。

 

 

「先生、学院内で行き過ぎた行動は慎むようにと再三に渡り注意をしました。それでも更生する気がないとは……。しかも今回はルビィを……ルビィをこれほどまでにメチャクチャに!!」

「いやダイヤ、ルビィちゃん大丈夫だから……。って言ったけど本当に平気?」

「ありがとうございます果南さん。何とか平常心は取り戻しました……」

「それにしても今日の先生、何だかとってもExcitingな性格になってない? 私はそっちの先生も好きだけどね♪」

「どうでもいいですわそんなことは。今度こそ生徒会室でみっちりと職質して差し上げます!」

 

 

 愛する妹の腋が犯され、いつにも増して怒りメーターが溜まっているダイヤは零を生徒会室へ連行しようとする。だが今回の彼は例の通り一味も二味も違う。いつもならこの辺りで制裁オチがあり話が終わってしまうのが普通なのだが、彼は逆にダイヤの手首を掴み彼女を引き止める。普段とは違う強引さに、ダイヤは目を丸くして彼の方を振り向いた。

 

 

「そうかそうか。お前はそこまでして昨日の続きがしたかったのか……。夜の学院で、何が起こったのか忘れたとは言わせないぞ」

「うっ……!! そ、そんな気は毛頭ありません!! それにどうしてそのことを公言――――!!??」

「なるほど。控えめだと思ってたけど女子高生の標準くらいはあるんだな、お前のおっぱい」

「~~~~ッ!?!?」

「お姉ちゃん!?」

「今日の先生、やけに大胆だねぇ……」

「もうっ、ダイヤの胸を触るのは私の役目なのに!!」

「ツッコミどころはそこではないでしょうお二方!? それに先生……くっ、あぁ……そこまで強く触られると……ひゃっ!」

 

 

 何食わぬ顔で、まるで女の子の胸を触ることが日常かのように自然とダイヤの胸を夏服の上からガッチリと掴む。そして昨晩の一件を掘り起こし、立場は逆転すれどあの時の続きを今まさに現実にしようとしていた。ただ真昼間の廊下で、Aqoursのみんなが見ている前という前代未聞の羞恥プレイになってしまっているが……。

 それにいつものダイヤなら零の甘言を聞き流せるのだが、今日の彼は雰囲気から行動まであらゆる面が本気だ。いつもなら教師と生徒の関係上、学院内でここまで暴走する人ではないとダイヤもみんなも分かっているのだが、その答えを探す前に彼の突拍子もない行動でそっちに気を取られてしまう。したがって彼がこうなった原因を探るよりも、まずこの場を切り抜けることしか考えることができなかった。

 

 

「あっ、ん……せ、先生……」

「いい声だ。昨日聞きたかったよその声は」

「ん? ダイヤ、昨日また先生とお泊まりしたの?」

「そ、それはぁ……。そんなことよりも、早く離してください!!」

「おっと! 力ずくは良くないぞ」

「あなたの行動こそ力ずくではありませんか……」

「それよりも先生。一体どうしちゃったんですか? いつもとは全然雰囲気が違いますけど……」

「果南、これが本当の俺なんだよ! セクハラされるのは俺の前に立つのが悪い!! イヤなら暑い夏場に逆らって、たくさん着込んで来い!!」

「控えめに言って最悪ですねそれ……」

 

 

 理不尽な理論を掲げ、あたかも正当なように見せつけるのが零の得意技だ。しかしここまで大胆な行動に出たら正当化できるものもできるはずがなく、果南も思わず本音を漏らしてしまった。ちなみにその超理論に関して、Aqoursは納得がいっていないがμ'sは納得しているという、彼の付き合いの長さが如実に現れた瞬間でもある。

 

 このままでは零の暴走を止めることすらままならず、もし止めに入っても女性が相手だったらむしろ彼は大喜びするだろう。ようやく落ち着いて対処法を考える余裕が出てきたAqoursの面々だったが、そんな簡単に解決策が思い浮かぶはずもなく、また彼の矛先が自分に向かないかを警戒したりドキドキしたりでまともに考えることすらも危うくなっていた。

 

 

 すると、この時を待ってましたと言わんばかりに廊下の陰から女性の姿が現れる。学院の生徒でも先生でもない。だが彼女たちはその姿に見覚えがある。9人はその女性を見て事の全てを察すると、口を揃えて名前を挙げた。

 

 

「「「「「「「「「秋葉さん!?!?」」」」」」」」」

 

「そうです! 神崎秋葉です♪」

 

 

 千歌たちはこの場が終息しそうである安堵と、原因と発端の当事者が彼女であることの呆れを同時に感じた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「まあ言いたいことはたくさんあるけど、まず事の経緯から教えてもらおうか」

 

 

 無事にいつもの自分に戻ることができた零は、廊下での騒ぎで他の生徒が集まってくることを懸念して、Aqoursのメンバーと共に秋葉を部室に連れ込んで尋問をすることにした。もちろん当の本人はずっと楽しそうな笑顔だが……。

 

 

「理由はたった1つ! 私が遊びたかったから!」

「まあいつもの理由か……。聞いて損したかも」

「そして遊び心満載の私は考えたんだよ。大人になった零君を、童心に戻してあげたらどうなるのかなぁってね。実際に零君が寝ている間にちょちょっとクスリを盛ったらあら不思議! 私の想像以上に零君の荒んだ心が解放されちゃいましたとさ♪」

「昔話風に終わらせようとしてんじゃねぇ!! 危うく社会的に抹殺されるところだったんだぞ!? どうしてこんなことしたんだよ……」

「遊びたいっていう純真な気持ちに、理由なんている??」

 

 

 零からしてみればもういつもの展開なので、今更ツッコミを入れる気すら起こらなかった。Aqoursの面々も芳香剤事件の煽りで彼女の性格は把握していたので、怒るどころか呆れるしかない。つまりこの場でテンションが高いのは秋葉だけであった。

 

 

「でもただ遊んでた訳じゃないよ。零君も私もあと数日でここを去っちゃうでしょ? だからこれも大切な思い出作りだよ♪」

「秋葉さん……」

「おっ、千歌ちゃんも同感してくれた? それにみんなも黙っちゃって……うんうん、分かってくれて嬉しいよ!」

 

 

 千歌だけでなく零や他のメンバーも素直に秋葉を見つめる。

 案外自分たちのことを考えてくれていたので、そこまで悪い人じゃないかも――――――――と、錯覚しそうになった自分たちを呪った。

 

 

「あのな、いい話で終わらせようたって無駄だから。なぁみんな?」

「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」

「えぇぇえええええええええっ!? 何その淡白な返事!? みんなが冷たいよぉおおおおおおおっ!!」

「当たり前だろ……」

 

 

 こうしてまた1つAqoursに爪痕を残した秋葉。

 そんな中、よくこんな姉と3週間一緒に暮らしてこられたなと自分で自分に疑問を持つ零であった。

 

 

 ちなみにこの一件以降、Aqoursメンバーは零を見るなり途端に恥じらうようになってしまった。それが彼にとってプラスなのかマイナスなのかは……今後の関係次第かもしれない。

 




 Aqours編に入って以降、零君の荒行をあまり見かけなくなったなぁと思ったのがこの話を執筆したきっかけです。『新日常』が始まった当初は女の子のお風呂を覗き見するだけでも鼻血を出していた上にかなりアグレッシブだったので、久々にあの頃の零君が帰ってきて私も懐かしかったです(笑)

 ちなみにAqours編での秋葉さんの出番は多分これで終わりかも。最終話でチョイ役で出るかもしれませんが、とりあえずお仕事はこれにて終幕ということで。


 次回はハーレム回(1年生編)です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いつの間にかAqoursハーレム(1年生編) 

 ハーレム回のラストは1年生組です!
 Aqours編に入って今までやりたかったことが遂に……!!


 

「どうしてお前らが衣装担当なんだ? いつもは曜の仕事だろ?」

「私だけだとアイデアに偏りが出るからって、曜さんがマルたちに仕事を依頼してきたずら」

 

 

 とある日の放課後、Aqoursの1年生組は練習を早めに切り上げて俺の家へやって来ていた。

 さっき花丸が言った通り衣装作成のためであるのだが、そのためにどうして俺の家に来ているのかはそれなりに理由がある。大雑把に言ってしまえば、ルビィはともかくとして花丸や善子に衣装のセンスがあまりないから衣装担当を命じられても困った! というのが大枠の理由だ。

 

 

「曜もどうしてこんな奴に衣装担当を任しちゃったかねぇ……」

「ちょっと! どうして私を見て言うのよ!?」

「お前この前、まともな私服も持ってないって言ってたじゃねぇか。それに堕天使のコスプレばかりしている奴に、ライブで着る衣装を任せたらどうなることやら。まあ奇抜なのはそれはそれで目立つと思うけどな」

「もしかしなくても馬鹿にしてるでしょ!? それにファッションセンスだったらズラ丸だって無いに等しいじゃない!」

「えぇっ!? 確かにオシャレなルビィちゃんに比べれば全然だけど、堕天使の翼を着けて長い着け爪までしてる人にファッションセンスをどうこう言われたくないよ!!」

「あれはあれでゴシックっていうファッションなのよ!! ねぇルビィ!?」

「えぇっと……まぁ、うん。堕天使はどうなのか分からないけど……」

「ほらみなさい!!」

「ルビィちゃんの同情に甘えてる時点で善子ちゃんはまだまだずら」

「私に対してだけは今日も一段と辛辣ねアンタ……」

 

 

 見てもらえれば分かる通り、こうして低レベルの争いが行われるくらいには衣装担当に向いていない奴らが集まっている。花丸と善子の口争いを苦い顔で傍観しているルビィ1人に任せた方が、到底マシな衣装が出来上がるだろう。でもそれだったらルビィの意向だけで衣装のアイデアが固まってしまい、結局アイデアに偏りが生まれてしまうので曜の依頼内容を達成できない。だから仕方なくこの2人も俺の家へ連れてきた訳だ。

 

 俺はコイツらに衣装を任せる恐ろしさを危惧しながらも、リビングに積まれているダンボールのガムテープを片っ端から剥がしていた。

 

 

「それで先生、ルビィたちはどうして先生の家に連れてこられたんですか?」

「お前らがちゃんと衣装作りできるか心配だから、参考になりそうなサンプルたちを渡そうと思ってな」

「サンプル?」

「知ってるだろ、μ'sの南ことり。アイツに今回の件を相談したら、もう使わなくなった衣装を送ってきたんだよ。この山積みになってるダンボールが全部そうらしい」

「ことりさんって、μ'sの衣装を一手に引き受けていた人ですよね!? ライブを見るたびに可愛く綺麗な衣装なぁと思っていたので、まさか生でその衣装が見られるなんて感激です!!」

「すげぇテンションだなお前……」

「当たり前です!! あのμ'sの衣装をこの目で見られるんですよこの手で触れられるんですよ!? 興奮せずにはいられません!!」

 

 

 いつにも増して声を荒げテンションMAXのルビィを見て、花丸と善子の口論も自然と終息していた。2人共恐らく自分のファッションセンスを自分で認めていたが、μ'sの衣装だけでここまで躍起になるルビィを見て、自分たちは余計なことをせず裏方作業に回ろうと決心したに違いない。ルビィのやる気に満ちあふれたオーラが全開すぎて、衣装作りで下手な真似をしたら殺されそうな雰囲気だからな今……。

 

 

「先生! ルビィ、μ'sの衣装を着てみたいんですが……いいですか?」

「まあ衣装は着るものだし、衣装作成のヒントになるなら全然いいぞ。どうせなら花丸と善子を入れて3人で着てみればいいんじゃね?」

「マ、マルも!? μ'sの衣装は全部可愛いから、マルに似合うかなぁ……」

「私は別にいいけど、アンタの着せ替え人形になるのだけはちょっと癪ね」

「どうしてお前はいつも俺を貶めようとするんだよ……。何もしないから安心しろ」

「どうだか。そう言いながらも、練習の時にいやらしい視線を感じることがあるのよね」

「それはぁ……男の子ですから」

「ちょっ、そこは嘘でも否定しなさいよ!? これから着替えるのが億劫になるでしょ!?」

 

 

 だって汗水垂らしながら運動をする女の子の姿を、変な目で見るなって方が無理あると思うぞ。しかも夏場だから練習着もみんな薄着だし、汗を拭う姿や疲れでヘトヘトになっているか弱そうな様子など、見ていて平常心を保っていられる男の方が珍しいだろう。俺は同性愛者ではないから、女の子の扇情的な姿を見て素直に興奮しちゃう性格なんだよスマンな。

 

 

「確かにお前らの衣装姿を見れば思うことがあるかもしれないけど、μ'sの衣装なんてもう腐るほど見てきてるんだ、今更下品にがっついたりしないから大丈夫だって。それにここまで来て衣装を見るだけで着ないなんて、ルビィが許さないだろ」

「善子ちゃんなら絶対に似合うから!! それも先生を悩殺できちゃうくらいに!!」

「はぁ!? そ、そんな先生にどう思われても私には関係ないし……」

「善子ちゃん、顔赤くなってるずら♪」

「うるさいわね!! あぁもう着ればいいんでしょ着れば!!」

「そんな強がっちゃって、善子ちゃんも先生に可愛いって言ってもらいたいくせに!」

「ぐっ……そんなアンタはどうなのよ」

「マルは最初から賛成ずら! μ'sが着ていた衣装なんて、今後着る機会があるかどうか分からないからドキドキしてるよ♪」

 

 

 そういや花丸も隠れれたμ'sファンだったっけ。彼女の話では、自分の境遇を凛と照らし合わせていた頃に千歌からスクールアイドルのお誘いが来て、そこからなんやかんやでAqoursに入ったと聞いた。その時に凛のウェディングドレスの衣装を見て憧れを抱いていたことから、花丸もルビィと同様にμ'sの衣装にかなり興味があることが伺える。最初はイマドキ女子のファッションに特段興味のない和風少女だと思っていたが、案外その辺に関してはしっかり女子高生なのかもしれない。

 

 こうして3人が全員μ'sの衣装を着る流れに同意したことで、ここから本格的に衣装作りの為の前哨戦が始まった。しかし衣装を着ると言ってもことりが送りつけてきた衣装は大量で、こうしてダンボールが山積みになるほどだ。しかもどの箱にどの衣装が入っているのかすらも書いていないので、とりあえず適当にダンボールに手を突っ込んで引き当てた衣装をみんなで着てみる、ちょっとしたコスプレパーティの流れになった。

 

 俺は鮮やかな衣装が詰められているダンボール箱に手を突っ込む。すると底の方から手触りの良い布地を感じたので、それを掴んで思いっきり引き抜いた。

 

 

「――――――ん?? こ、これは……!?」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 3人は俺の引き抜いたモノを見るなり、一瞬で場の空気が変わった。。さっきまで高揚していたルビィのテンションすらも無にしてしまうほど、俺の引き抜いた衣装……と言っていいのか分からないモノがこの場の雰囲気をブチ壊した。

 それもそのはず、俺の手に握られているモノは"ブルマ"という今の時代では失われた体操着だ。しかも旧タイプであり、履いてしまったら最後太ももが全部露出するどころかおしりの肉まではみ出してしまう事態は必死である。そのエロさたるや、そんな光景を見て盗撮する輩が増えた影響でブルマがこの世から永久追放されたくらいなのだ。

 

 でもどうしてこんなモノが衣装と一緒のダンボールに入ってるんだよ……。もしかして、ことりの趣味だったりするのか? 衣装を詰める時に手違いで紛れ込んでしまったのかもしれない。

 

 

「さぁ、次の衣装に行くわよ」

「えっ、着ないの?」

「バカじゃないの!? そ、そんなブルマなんて着れる訳ないでしょ!? それに衣装でもなんでもないじゃないのそれ!!」

 

 

 ごもっともな意見である。でも俺としては彼女たちをここで引かせる訳にはいかなかった。

 よく考えてみろ、ブルマを履くこと自体が既に失われし文化だ。しかもその文化が衰退したのは男たちが卑しい目線で見るからである。その事実を踏まえれば、現実でブルマ女子を見たら今まで味わったことのない快感が得られるのではないか、俺はそう思っているのだ。今までμ'sの色んなコスプレ姿を見てきたが、ブルマ姿を見た記憶は一切ない。ネット上に不正にアップされている運動会の盗撮写真でしかブルマを装着した女の子を見たことがないのだ。

 

 だから俺は生でブルマ女子を見てみたい。普通の体操服の短パンでは決して拝むことのできない露出された太もも、はみ出るおしり肉、そして何よりブルマを着ることによって恥じらうこの子たちの姿! 妄想だけでも俺の欲求は留まることを知らず、このままブルマを片付けてはい終わりでは悶々として満たされなくなるのは確定的に明らかだった。そうならないためにも、絶対にここで引く訳にはいかないんだ!!

 

 

「そこまで着たくないのなら善子は着なくていいよ、どうせこれ1枚しかないしな。ルビィ!!」

「ピギャっ!! は、はいっ!!」

「頼む!! 俺の欲求不満を解消するために、これを着てくれ!!」

「ル、ルビィがですか!? そ、そんな似合いませんよぉ……」

「似合うとか似合わないとか、そんなことはどうでもいいんだ! ルビィがブルマを着てくれている、ただその姿を見られるだけで俺の欲求は満たされるんだよ! どうだ?」

「うぅ……せ、先生がそこまで言うのなら……。でも少しだけですよ!? 着たらすぐに脱ぎますから……」

「もちろん! 俺はブルマ女子を生で見られればそれでいいんだから!!」

 

 

 これが女子高生にブルマを着てくれと強引に頼む、犯罪者に最も近い教師の図である。だがここは俺の家だから、多少のことでは助けを呼ぼうがそのヘルプは誰にも届かない。つまりルビィも花丸も善子も、俺の手のひらの上だってことだ! 可愛い教え子たちに無理矢理をするのは気が引けるが、このまま引いたせいで欲求不満が続く方が男にとっては辛い!! 夜に1人寂しく自分磨きをするくらいだったら、オカズが目の前にある今のうちに欲求を解放しておきたいんだ!! 

 

 

「先生までルビィちゃんの優しさに甘えて、大人気ないずら……」

「全くよ。やっぱり着せ替え人形にさせるのが目的だったんじゃない」

「まあコスプレはμ'sも通ってきた道だから、お前らもそれにあやかればきっと魅力上がるって!」

「アンタ、とりあえず私たちにμ'sの話題を出しておけば何でも言うことを聞くと思ってないでしょうね……」

「………………お前は知りすぎた、このまま生かしておく訳にはいかねぇな」

「定番のセリフはいいから、まともな衣装着させなさいよまともな!!」

「ノリ悪いなお前……」

 

 

 μ'sをAqoursの言いなりにするための餌に使っているかどうかの真実はひとまず保留にしよう。言ってしまえばμ'sの大ファンである千歌やダイヤ、ルビィには相当な効果があると思っているのだが、そんなことをみんなの前で言えるはずがない。でもμ'sという高級な餌があるのに、使わず放置なんて勿体無いじゃん? 穂乃果たちには悪いけど、乱用はせず使いどころはしっかりと考えているから。もちろんルビィのブルマ姿を目の前で拝むことには使わせてもらうけどね、絶好の使いどころだから。

 

 

「とりあえず、ルビィはこのブルマと体操服を持って着替えてこい。その間に花丸と善子が着る衣装をダンボールから引き抜くから」

「わ、分かりました!!」

「よし、それじゃあ次の衣装は――――」

「ねぇ、その衣装の選定方法やめない? ブルマが出てきた箱に、まともな衣装が入ってるとは思えないんだけど……。ズラ丸もそう思うわよね!?」

「確かに、マルも着るならなるべくμ'sの衣装の方が……」

「花丸……俺はな、お前がコスプレを着こなす可愛い姿を見たいんだよ。μ'sの衣装が凄いのは分かるけど、一番凄いのはその衣装を着こなすお前の方だ。どんな衣装でもコスプレでも関係ない、花丸の輝く姿が見たいんだよ俺は!!」

「えぇ……そ、そこまで言われたら、ちょっとやってみようかなぁ」

「ちょっ!? 花丸!?」

 

 

 チョロいと言ってしまうと言葉が悪いが、本心では少し思っていたりもする。だが花丸が俺の提案に乗ってくるかどうか、どちらかといえば乗ってこないと俺は半ばやけくそで提案していた。彼女はアダルト方面の知識はあってもリアルでは大して影響を受けないので、俺の熱論を混ぜた提案もサラッと流されると思っていたのだ。だが予想に反して花丸が乗ってきてくれたため、図書室でのあの一件以来彼女にも大きな心境の変化があったのだろう。それに頬を染めてそわそわとしていることから、俺の勢いに負けて渋々ではなく自分から決意したことに違いない。

 

 よしっ、花丸をこちらに引き込めばもう怖いものはないぞ!!

 

 

「そうか。なら善子と2人でこれを着ろ」

「「!?!?」」

 

 

 俺の右手に掴まれた衣装――と言うよりコスプレを見て、2人はブルマを見た時よりも一層顔が引きつった。

 俺の手に握られているのは、紺色を基調とした巷でスクール水着と言われているモノだ。しかもこれもブルマと同じく旧タイプであり、既にこの世の学校からは消滅しかけている産物である。ここでどうして過去の遺産がμ'sの衣装に紛れているのか疑問だったが、なんとなく理由が分かった気がした。さっき手違いで衣装にブルマが紛れたと言ったが、本当は手違いでも何でもなく、ことりが面白がって意図的に紛れ込ませたと推測する。でなければブルマとスク水が同時に紛れ込むなんて考えられない。あぁ、今もアイツのしてやったりの笑顔が頭に浮かんで憎たらしいよ……。

 

 旧スク水について軽く解説しよう。前知識として知ってもらいたいのは、今のスクール水着は下半身がスカートや短パンのような形状になっている。つまり女の子の健康的な脚や太ももが隠されてしまうのだ。だが旧スク水は下半身を覆う生地がほぼ股間部分にしかなく、女の子の艶やかな脚が太ももを含めてほぼ全て露出している。しかも生地的にも身体にピッタリと張り付くものが多く、身体の凹凸がこれでもかというくらいに浮き彫りになるのが特長だ。

 

 花丸と善子は年代的に着たことはないと思うが、見ただけでその察しがついたらしく、みるみる顔が真っ赤に染め上がっていく。だがここは否定される前に、何とかこちらの熱意を押し込まなければ!!

 

 

「お前らの言いたいことは分かる。だけど一度だけでいいんだ! ルビィと一緒でちょっとだけこのスク水を着た姿を見せてくれるだけで俺は満足するから!!」

「そ、そんな欲望のためだけにスク水なんて着る訳が――――」

「わ、分かりました! マルでよければ……」

「花丸!? いいの?」

「先生が見たいって言うなら、マルは悪い気はしないかなぁって。それに善子ちゃんも、先生に可愛いって褒めてもらいたいでしょ?」

「それはそうだけど……。うぅ、も、もうっ! 仕方ないわね着てあげるわよ!!」

「ホントに!? いやぁ楽しみだよ!」

「全く調子いいんだから……」

 

 

 花丸の援護射撃により善子の陥落に成功した。花丸もルビィもやる気なこの状況で、自分だけがやらないのは負い目を感じるからだろう。そして花丸も言っていたが、持ち前のツンデレを発揮するということは善子も俺にコスプレ姿を見て欲しい欲求が少しはあるらしい。3人共なんだかんだ言って心の奥底ではノリ気なんじゃねぇか、可愛い奴らめ!

 

 花丸と善子は旧スク水を持ち、着替えるためにリビングを去る。

 こうして部屋に俺1人だけが残されたのだが、2人が去って数十秒後に再びリビングのドアが開いた。そしてそこから現れた少女の姿に、俺は思わず口を小さく開けて唖然としてしまう。

 

 目の前に顕現したのは、俺の希望通り体操服とブルマに着替えたルビィだった。

 上半身は白の体操服に身を包み、服の前面にはご丁寧に『黒澤』(残念ながら平仮名ではない)と苗字まで記入してあった。体操服の生地の薄さゆえか、彼女の慎ましやかな胸であってもその膨らみがしっかりと確認できる。なによりブルマ特有の脚の露出具合が半端ではなく、紺色の布地と純白の太もも、相反する色を持つもの同士が織り成す絶対領域が煌びやかに光って見える。それこそがブルマの2大特徴の1つだ。

 もう1つはブルマ自体の布地面積が少ないため、体操服の裾に隠れて傍から見れば何も履いていないように見える最大の特徴がある。ルビィは恥ずかしがって自然と服の裾をギュッと掴んでいるが、その仕草をしてしまうと裾が下に伸びるので余計にブルマが隠れてしまう。全くの逆効果にもちろん俺は諭すこともなく、ただただ生のブルマ少女の姿を脳裏に焼き付けていた。

 

 

「あ、あまり見つめないでください……!!」

「俺に見せるために着てくれたんだろ? ほら、もっとこっちへ来てくれ」

「うぅ……ちょっとだけって言いましたよね? もう恥ずかしすぎて溶けちゃいそうなんですけど!!」

「だったら写真1枚だけ!! 1枚だけ撮ったら着替えていいから!!」

「その写真の使い道が容易に想像できるんですけど!? さ、流石にダメです!!」

「想像できるってお前、どんなこと想像したのかなぁ~?」

「うっ……!!」

 

 

 ただでさえブルマ姿のせいで顔が沸騰するほど赤くなっているのに、こうして余計なことまで突っ込まれてルビィはあたふたと喚き出してしまった。ブルマ姿でそんなことをしたら体操服の裾がひらひらと舞って、隠れていたブルマが見え隠れするからなおさら艶かしい。本人が必死なのは分かるが、その動作は確実に男を誘ってるぞ……。

 

 そしてルビィが慌てている最中、またしてもリビングのドアがゆっくりと開かれた。

 花丸と善子の着替えが終わったのだろうが、ドアを開けたのにも関わらず2人は中々顔を見せない。しかし着てしまった以上このまま引き下がれない決心か、花丸が勢いよくリビングへ飛び出した。

 

 

「よ、善子ちゃん押さないでよ!! あっ、先生……」

「おぉ……」

「そんなにジロジロ見られると恥ずかしい――――って善子ちゃん、そんなところに隠れてないでこっちに来るずら!!」

「ちょっ、引っ張らないでよ――――きゃあっ!!」

「おぉ……!!」

「な゛っ……そ、そんなに見るなぁ!!」

 

 

 旧スク水を装着した花丸と善子が俺の目の前に現れた。ブルマと同様に身体にピッタリとフィットし過ぎているせいで、彼女たちの身体の凹凸が手に取るように分かる。花丸の出るところは出過ぎて、引き締まるところはそこそこ引き締まっている抱きしめたい体格から、善子の歳相応なスタイリッシュな体型と、どちらも男の目を惹きつけるには十分なスタイルだ。

 そして股間から太ももに広がるスク水のV字ラインは本当に最低限しか下半身を隠しておらず、今にも引き裂いてその奥を拝んでみたくなる。秘所部分を少しでも横にずらせば秘境がお目にかかれると思うと、俺も彼女たちと同じくらい緊張してならない。

 

 

「お前ら、ちょっとそこでじっとしてろ……」

「先生!? 雰囲気がちょっと……いやかなり怖いずら!!」

「な、何をしようっていうのよ!? 少しだけ着てすぐに着替えるって約束だったでしょ!?」

「ほんの少しズラすだけだ。大丈夫、痛くしないから……」

「ズラすってどこをズラすの!? それに痛いとか痛くないとかの問題じゃないような……」

「そうやって慌てちゃうのは恥ずかしがるからいけないんだ。恥ずかしいと思わなかったらいいだろ」

「この状況で羞恥心のない人の方が変態でしょ!!」

「なんか先生この前おクスリを盛られた時みたいになってるけど、一応シラフだよね……?」

 

 

 ルビィの冷静なツッコミに、俺もようやく意識を取り戻す。さっきまでは俺の裏人格が身体を乗っ取っていただけだから! 決して本心でブルマやスク水の下半身をズラして、その奥の秘境を拝もうとしてないから!! ――――――――あぁ、惜しかったなぁ……。

 

 

「ほら花丸、ルビィ、着替えに戻るわよ。そもそも衣装作りのアイデアを探しに先生の家へ来たのに、目的を見失ってるじゃない」

「これからブルマやスク水で舞台に上がることがあるかもしれない。その予行演習だと思えば……ね?」

「"ね?"じゃないわよ。どこの枕営業よそれ」

「でも邪な気持ちを抜きにしても、その姿は普通に可愛いと思うけどなぁ。千歌たちに見せたら受け良さそうだし」

「み、みんなに見せるのはダメずら!!」

「そうですそうです!! 特にお姉ちゃんにこんな姿を見られたら……」

 

 

 あぁ、なんとなく想像できるよダイヤの姿が。多分だけど、こんな破廉恥な格好をして怒るというより愛しく思って抱きしめそう。しかしその一方で怒りはしっかり溜め込んでいて、そのベクトルは俺に向くと。長年こんな経験をして分かってるからなオチくらい。

 

 

「まあ残念だけど、時間も押してるし真面目に衣装選びするか」

「アンタが無理矢理着させなければこんなことにはならなかったけどね」

「でも最終的に着ると決めたのはお前らだろ?」

「それはそうだけど……」

「さっきも言ったけど、変な目も贔屓目もなしで今のお前らすっごく可愛いから。そりゃあ恥ずかしいのは分かるけど、どうせ俺にしかそんな姿を見せないんだし、だったらまたいつかコスプレして欲しいって思うよ。俺のためだけを思ってさ、なぁ~んて―――って」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 あ、あれ? また俺、変なこと言っちゃった!? 3人共顔を赤くして黙ったままだから、何かやらかしてしまった思い自分の言動を振り返るけど……さっきは普通にいいこと言ってない?? もしこれでまたみんなに怒られたら、その時は女心をまた1から勉強しなおそう……。

 

 

「先生今の……告白?」

「は……? 何言ってんだルビィ??」

「だってアンタ、さっき()()()()とか()()()()()()って……」

「つまりそれって……そういうこと? マルたちが先生の……」

「あ、あれぇ……?? まさかお前ら盛大な勘違いを!? あれはあながち勘違いでもないけど勘違いだから!! 他の男にはお前らのその姿を見せたくないってことで……あぁ、こういうことか」

「「「~~~~ッ!?!?」」」

「お、おいっ! 一斉に気絶しそうになるな戻ってこーーーーいっ!!」

 

 

 3人は同時にその場で倒れそうになった。何気ない発言でここまで昇天しそうになるか普通……。

 こうして見ると、1年生組はやっぱり初心な子が多いと実感する。まさか3人が同時に俺の言葉を勝手に告白と受け止めるなんて、相当な妄想癖をお持ちのようで……。だけどそんな純真な彼女たちだからこそ、絶対に他の男に渡したくない。俺自身がそう思っている時点で、その想いも既に告白みたいなものだけどな。もしかしたら、俺も人のことを言えた義理じゃないのかもしれない。

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 やべぇ、みんな顔を真っ赤にしたまま動かない……。

 とりあえず写真だけは撮っておくか。

 




 恥ずかしいコスプレはやはり女の子がノリノリで着るよりも、今回のように恥じらう姿で着てもらった方が見る方も色々沸き立つものがあると思います!(笑) だからこそ1年生組をチョイスしたのですが、それでも零君のためにブルマやスク水を着ちゃう彼女たちも、これまでの個人回を経て成長(?)したのかなぁと感じます!


 実は最終回まで残り4話であり、この章をあと2話で終えて最終章に突入する予定です。是非最後までお付き合い頂ければと!

 次回は梨子の個人回です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

梨子と耳かきと膝枕

 今回は梨子回です!
 夫婦の営み(健全な方)みたいな雰囲気でお届けします!


 

 

「それにしてもさぁ、お前が一番変わったよな」

「どうしたんですか藪から棒に?」

 

 

 俺は梨子の部屋で我が物顔で寝そべりながら、彼女の作ってくれたサンドイッチを頬張っていた。

 今日は梨子の作曲の手伝いをするために彼女の家へ訪れている。今晩は両親がいないので家に来ませんかとまさかのお誘いをしてもらい、晩飯だけでなくこうして夜食までご馳走になっているのだ。もはやそこらのカップルとなんら変わりのない日常を過ごしているが、俺としても梨子と2人きりになれるこの状況を不思議に思っていない訳ではなかった。

 

 

「2週間前は俺が家の前にいるだけでも通報しそうだったに、今やこうしてお前から誘ってくるくらいだもんなぁ」

「それはそうですよ。あの時はただの痴漢魔という認識しかなかったんですから」

「でもそんな認識だったのに、俺を家に上げたのは凄い度胸だと思うけどな」

「あの時はあの時、今は今です。2週間もあれば心境なんて180度変わりますって」

 

 

 あの頃は顔を合わせるだけでも威嚇され、なんとかこうして部屋に上げてもらった時も座ったまま動くなと無茶な命令を下されるくらいには嫌われていた。そう考えると梨子から家に誘われて、こうして談笑をしているだけでも世界線が変わったように見える。自業自得とはいえ、女の子から忌み嫌われる生活は少し辛かったから。

 

 

「お前の性格が丸くなったのは事実だけど、それでも手厳しいのは変わってないよな。この前だって俺が学校で暴走した時も、やたらツンツンしてたし」

「それは学校で生徒にセクハラする先生が悪いんじゃないですか……」

「裏を返せば、学校じゃなかったらいいってことか?」

「そうやってすぐに揚げ足を取る……。やめろとは言いませんけど、時と場所を選んでくださいってことです!!」

「へぇ……」

「な、なんですかその薄ら笑いは!?」

 

 

 やめろとは言いませんって、2週間前の梨子だったら絶対に口にしない言葉だぞ。それが今では時と場所を弁えればしてもいいニュアンスの発言をするなんて、わざわざ揚げ足と取らなくとも彼女の俺に対する印象が変わったことが分かる。2週間前だったら確実にその鋭い目で突き殺されていたところだ。それが今となっては顔を赤くして乙女らしく恥じらい、あの頃の強面の面影は一切なかった。

 

 

「こうして男をすんなりと自室に連れ込んで、警戒心は0な訳? 以前にここへ来た時は凍りつくほどお前も空気も冷たかったのに、今日は穏やかで暖かすぎるから」

「もちろん何をされるのか分からないので、先生と2人きりになるのは危険だと思っています」

「やっぱり……」

「でも、それ以上に先生と一緒にいる時間が何よりも大切と言いますか。楽しみだったと言いますか――――って、私何を言ってるんだろ!? も、もうっ、またそうやって私を誑かして!!」

「お前が勝手に自爆したんだろ!? 何でもかんでも俺のせいにしておけばいい理論やめろよな……」

「それは申し訳ないですけど、先生と一緒にいるといつも調子が狂っちゃうんですよ……」

 

 

 梨子は気付いていないようだが、その発言は目の前の男のことが好きだって告白してるようなものだぞ。これを言ってしまうと彼女の羞恥心に火をつけて家から追い出されそうなので、とりあえずは黙っておくが。

 

 

「それにしても、男女が深夜にこうやって1つ屋根の下で、しかも同じ部屋でくつろいでるなんて恋人同士みてぇだな」

「は、はぁ!? わ、わわわ私たち、教師と生徒ですよ分かってますか!?!?」

「そんなこと百も承知だよ。だから"みたいだ"って推定の表現で言ったんだよ」

「つ、つまり冗談ってことですか……。はぁ……」

「なに? もしかして、恋人同士って言われて嬉しかった?」

「な゛ぁ!? あっ、もう、はぁ!?!?」

「ゴメン、そこまで驚くとは思ってなかったよ……」

 

 

 いつも一緒にいる千歌に隠れがちだが、梨子も彼女に負けないくらい表情変化が激しい。こうして俺の言葉1つ1つに毎回違う反応を返してくれて、からかう――おっと、ただダラダラとお喋りしているだけでも飽きることはない。2週間前だったらこうした会話のキャッチボールは愚か、向こうから話しかけてくることすらなかったから。

 

 しかし梨子が戸惑ってしまうのも無理はない。年頃の男女が深夜、親のいない家で2人きりなんて過ちを犯してくれと言わんばかりのシチュエーションだからだ。もし千歌たちに俺が梨子の家に泊まっている事実を知られたら、確実にみんなに引き込まれ各家に引っ張りだこになってしまうだろう。そんな騒ぎを容易に想定できるから、梨子にとって俺と2人きりというシチュエーションは特別なのだろう。まあ実際に過ちを犯すかと言われれば、まだ彼女たちと行き過ぎた関係にはなれないので無理だけど、彼女たちから攻めてきてくれるんだったら多少はね?

 

 

「本題に戻るけど、確か次の曲って恋愛がテーマなんだっけ? だったらお前が今抱いている気持ちをそのまま作曲に込めればいいんじゃないか? 俺自身作曲の心得がないから、曖昧なことしか言えないけどさ」

「それはそうですけど……。できるならもっと、そのようなシチュエーションにならないと分からないというか……」

「つまりもっとイチャイチャしたいと、この俺と」

「だ、だからいつも直球すぎるんですよ先生は!!」

「女の子を手に入れるのに、奥手だったらどうしようもないだろ。それに俺は二兎追う者は二兎とも取る理論の貪欲な人間だ。だから常に受け手に回るなんて消極的な行動は絶対にしねぇよ。まあ過度な男女交友、言ってしまえばセックスにまでもつれ込むと話は別だけどな。その場合は女の子から攻めてきてもらうシチュエーションもありっちゃありだ」

「せ、セック!?――――や、やっぱり今日はそれが目的で!?」

「俺の話を聞いてたかお前……」

 

 

 不純異性交友を本気で拒絶している人ほど、本当は心のどこかで期待しているという俺の解析したデータがある。もちろんμ'sから収集したデータなので一般女子相手には当てはまらないかもしれないけど、そもそも女の子へのセクハラ経験のある俺を誘ってきた時点でお察しだ。つまり彼女が取り乱しているのは俺と2人きりの空間が苦なのではなく、むしろ緊張や期待で高ぶっているということだ。その照れ隠しために拒絶したり驚いているふりを無意識にしてしまっているのだろう。ここまでが俺がここ数年で調べ上げた、自分の周りにいる女の子の特徴だ。

 

 

「作曲作りの為だ、せっかくなら2人きりのこの場をもっと活かそうじゃないか」

「活かすって……ま、まさか本当にエッチを!?」

「お前も大概脳内がピンク色だよな……。よくそれで昔の俺をくどくどと説教できたもんだ」

「女の子同士に多少の興味がある点では確かに否定できませんが、先生の変態さには流石に負けますよ」

「マジで? それじゃあ千歌や曜にムラムラしたことはないのか?」

「あ・り・ま・せ・ん!! 2人は親友ですし、そもそも3次元の女の子を無粋な目で見るのは申し訳ないじゃないですか」

「へぇ、意外と2次元で生きる人間だったのかお前。部屋を見る限りそうは思えないけど、案外オタク女子に近いのかもな」

「オタク女子と言わればその部類かもしれませんね。私はその自覚全くないですけど」

 

 

 梨子は微量なレズ属性を持っているせいでオタク同人界隈に詳しく、更にピアニストでスクールアイドルでもあるリア充だ。内気な性格ながらもオタクともリア充とも話を合わせられるって、今思えば桜内梨子という女の子は物凄い優良物件ではないだろうか。彼女自身コミュ力のある方ではないが、今まで男性経験皆無なのが不思議なくらいだ。そもそも梨子が積極的ではない性格なので、世の中の男たちには彼女の魅力が伝わってなかっただけなのかもしれない。

 

 だったらやることは1つ。こんな魅力的な梨子を自分のモノにする。そのために俺が人生でやってみたいことリストの中から1つ、コイツに託すとしよう。

 

 

「話が二転三転しちゃったけど、2人きりのこの場をもっと活かそうじゃないかって話だ。そのためにはお前にやってもらいたいことがある」

「やってもらいたこと……? まさか、とうとうヤられちゃうの……!?」

「何を想像しているのか大体分かるけど、そんな興奮するほどのことでもねぇよ。ほら」

「えっ、あっ……っと、これは?」

 

 

 梨子は俺の投げた木製の細い棒、通称"耳かき"を両手で受け止める。

 どうしてこんなモノが自分に渡されたのか、梨子は頭に"?"マークを浮かべていた。

 

 

「それが俺の夢の1つだ。女の子に耳掃除をしてもらいたい、ただ純粋な欲求だよ」

「言いたいことは分かりましたけど、まさかこのために耳かきを持ってきたんですか……?」

「あぁ。作曲のインスピレーションを口実に、お前に耳掃除をしてもらいたかったんだ。もうチャンスは今晩しかないと思ってな」

「口実だったらそう安々と漏らさないでくださいよ……。まあいいですけど」

「えっ、いいのか!?」

「だって先生がやりたいって言うから……。それに、私も興味がないわけじゃないので」

 

 

 正直ダメ元で耳かきを持ってきたのだが、まさかこんなにあっさり承諾してくれるとは。いつかやろうやろうと思って思い出した頃には耳かきが手元になく、時間が経つとそのうち忘れてしまうため、μ'sの彼女たちにやってもらおうと思っても今まで実現できなかったのだ。

 

 男なら誰でも夢を見たことがあるだろう、好きな女の子に耳掃除をされる夫婦の営み(健全な方)を。特に興奮することも性欲が滾ることもないが、女の子の手によって耳掃除をされているという現状に満足感を得る、俺もとうとうその時がやってきたんだ! 女の子から耳掃除を誘ってきてくれる展開もいいけど、年下の女の子に『やれやれ仕方ないなぁ』みたいな感じで耳掃除されるのもシチュエーション的には全然OK!! 二十歳を超えてもまだこんなことでテンションが上がるって、俺の精神もまだまだ子供なんだと思うよ。

 

 

「そうは言っても作曲もありますし、やるなら早くやりましょう。はい、ここに頭を置いてください」

「………………は?」

「えっ、横になってもらわないと耳掃除できないんですけど……」

「違う違うそういうことじゃない! どうして俺の頭をクッションへ誘導しようとしてるんだ!? 男女で耳掃除って言ったら、女の子の膝枕って相場が決まってるから!!」

「ひ、膝枕って……そんな夫婦みたいなこと!!」

「梨子、俺がただお前に耳掃除を頼むと思うか? この俺が何の考えも何の欲望もなしに……」

「どうせそんなことだろうとは思っていましたけど……」

 

 

 どうせ女の子に耳掃除をされるなら、膝枕でその子の温もりを感じながらされたいというのが男の欲望でもあり性でもある。むしろ膝枕とセットでなければ耳掃除をされる意味ってほとんどないと思うのだが考えすぎ? ともかく、女の子に耳掃除処女を奪ってもらうのに最高のシチュエーションでないのは俺が許さないから。

 

 

「分かりました。先生のことですから強引にでも拝み倒してくるでしょうし、引き受けます」

「俺をおもちゃを買ってもらえない駄々っ子みたいに言うなよ……。でもありがとな」

 

 

 文句を垂れつつも何だかんだ俺のワガママを受け入れてくれるのがいかにも梨子らしい。この俺に身体を許すなんて並大抵の度胸ではできないが、やはりそれだけ心を許してくれているってことだろう。

 

 梨子は改めてその場で正座をして座りなおす。女の子に耳掃除される想像はこれまで何度もしてきたが、実際にされるとなると俺も緊張してきた。彼女は正座をしたままこちらを恥ずかし気な面持ちで見つめてくるので、恐らくもう準備OKの合図なのだろう。俺はゆっくりと梨子に近付くと、彼女の身体とは反対方向を向いて膝に頭を乗せた。

 

 普通の枕と比べたら、膝枕の寝心地がいいとはお世辞にも言えない。だが女の子の膝枕は寝心地がいいとか、そんな次元の問題ではないのだ。女の子の膝に頭を乗せて見守られるように寝ることで、その子の母性を感じる。そして膝の上を占領することで、その子を独り占めしているという快感を味わう。その2つの愉悦こそが膝枕の醍醐味なのだ。

 

 

「大丈夫か? その体勢が辛くなったらいつでも言っていいからな」

「平気です。先生こそ寝心地はどうですか?」

「お前を独占してるって感覚で震えそうだよ」

「ま、またそんな恥ずかしいことを……もうっ」

「恥ずかしがるなら今のうちにたくさん恥ずかしがっておけよ。耳掃除の途中に手元がブレたら、俺の鼓膜がプッツリ逝きかねないから。耳掃除の処女を破ってもいいけど、鼓膜をぶち抜くのだけはやめてくれ」

「どうしていつもいつも一言表現が余計なんですか……」

「諦めろ。これが俺なんだ」

「はぁ……。でも安心してください、先生の耳が聞こえなくなっちゃったら、誰が私のピアノの演奏を聴いてくれるんですか? この世で一番ピアノを聴かせたい人の耳ですから、どんなことがあってもお守りしますよ♪」

 

 

 梨子の奴、人には恥ずかしいセリフを吐くだの何だの言ってくるくせに、自分だって相当クサいセリフ放ってんじゃねぇか……。しかもちょっとドキッとしちゃったのが一生の不覚だ。2週間前だったら絶対にこんな関係になっておらず、ここまで心を開いてくれた彼女の発言だと思うとセリフの威力が格段に増す。

 

 それにしても、『この世で一番ピアノを聴かせたい人の耳』と来たか。もう完全に告白だよなこれ……。本人は気付いているのか、それとも自然と口に出してしまったのかは知らないけど、後者だったとしたら普段から相当俺のことを意識してくれているってことだ。

 

 

「それでは失礼します」

「あ、あぁ……」

 

 

 そして遂に、俺の穴に棒が挿入――もとい、()()()()()()()()()()が挿入された。やっている行為自体は自分で耳掃除をしている時と何ら変わらないはずなのに、女の子に耳掃除をされているという事実が満足感を滾らせる。しかも見た目的にも綺麗な人妻になりそうな梨子にされているとなれば、俺が夢見ていた夫婦のような営み(健全な方)も実現して叶いそうだ。まだ細い棒の先っちょを突っ込まれただけで耳掃除は始まっていないが、もう既に湧き上がってくる快感に身を委ねていた。

 

 そうしている間にも、耳掃除が本格的に開始された。元々耳掃除は体感的に気持ちよくなってしまうものだが、梨子にされているという相乗効果もあっていつも以上の快楽に襲われそうだ。しかも彼女の膝を枕に寝転がっているせいか、徐々に睡魔が……。

 

 

「耳掃除をしろと言われましたけど、先生の耳綺麗じゃないですか」

「こんなことになると分かっていれば、数週間前から掃除せずに耳垢大量に溜め込んでいたけどなぁ……」

「掃除する身からしてみれば、それはそれであまり見たくない光景ですよ……。まあ実際に誰かの耳掃除をするなんて初めてですし、もしかしたらこれでも溜まっている方なのかもしれませんけど」

「なるほど。つまり梨子は俺の初めてを奪い、同時に俺も梨子の初めてを奪ったってことか」

「だから余計な一言が多すぎるんですよ先生は!! 私の手元が狂って耳が聞こえない状態になってもしりませんよ全く……」

「だけど全力で守ってくれるんだろ、俺の耳」

「あまりふざけていると気が変わっちゃうかもしれませんけどね」

 

 

 怖いよ梨子さん……。そういや海で合宿した時も、千歌たちに引っ付かれている俺を見て病み成分を大いに発揮してたっけ。普段から俺の放つ発言も容赦がないように、下手なことをすれば耳をプッツリと逝かれてしまうかもしれない。確かに俺の耳は今梨子の手の内にあるから、その聴覚を生かすも殺すも彼女次第ってことだ。稀にヤンデレちゃんになることを考えると、梨子に弱みを握られるのだけはヤバイと思うよ……。

 

 しかし言葉とは裏腹に、梨子は丁寧に耳掃除をしてくれている。その手捌きは初めてとは思えず、的確に俺の気持ちよくなるところを耳かきで優しく刺激していた。その快感で俺が少し頭を動かしてしまっても彼女は動じることなく、むしろ俺の動きに合わせて膝を整えたり耳かきを動きを変える。そのおかげで俺は彼女からの耳奉仕を気兼ねなく体感することができた。

 

 こうして見ると、梨子の耳掃除の仕方や気遣いが熟達した人妻力に匹敵すると言っても過言ではない。俺もう、一生梨子の膝の上で生活してもいいかも……。

 

 

「こちら耳の掃除は終わりましたので、次は反対の耳ですね」

「こうでいい?」

「な゛っ!? ど、どうしてこっち向きに……!?」

 

 

 どうしてと言われても、反対の耳を見せろと言われたから()()()()()()()()()()だけなんだけど。でもこうして梨子の腹に顔を向けていると、さっきよりも彼女の身体に包まれているようで、最近俗に言われる"バブみ"を感じる。俺は決して女の子に甘える性格ではないのだが、今だけはこの状況を堪能させてくれ。

 

 

「脚を反対側に向ければわざわざこっちを向く必要なんてないのに……」

「わざわざ脚を反対に向ける方が面倒だろ。顔をお前の腹に向けるだけでいいのに」

「でもこの体勢だと、耳掃除をしている時に先生の顔が見えてしまって気が散ってしまうと言いますか……」

「俺は耳掃除をする梨子の真剣な顔が見られて嬉しいけどね」

「そ、そんなことしなくてもいいですから!! 目を瞑ってください目を!! でなきゃ耳掃除してあげません!!」

「はいはい……」

 

 

 そんなに顔を赤くして命令しなくても、鼓膜を人質に取られているお前に従うしかないってのに。まあ目を瞑っていようがいまいが、俺はこの状況さえ楽しめれば何でもいいけどね。むしろこうして梨子の腹に顔を向けていることで彼女の香りが漂ってきて、さっきよりも心地よい気持ちよさと眠気に誘われるから目を瞑ろうが関係なかった。

 

 そして再び耳かきが俺の耳の中へ進行する。数秒前は顔を真っ赤にして戸惑っていたのに、相変わらず耳掃除だけは丁寧で安定していた。迷走神経を耳かきで優しく刺激され、襲ってくる眠気の勢力が更に増す。頭も程よくぼぉっとしてきて、意識の半分は既に夢世界へと旅立っていた。

 

 そんな俺の状態を知ってか知らずか、梨子は耳掃除をしながら一人言のように小さな声で喋りだした。

 

 

「先生と出会った頃は、本当に近付くのも嫌でした。言動も軽々しかったので、私たちのことをセクハラの対象にしか見ていないと思ってましたから」

「…………」

「だから私の秘密が先生にバレた時は、人生が終わっちゃったなぁ思いましたよ。普段から先生に厳しい態度を取っていた私です、先生は報復も兼ねて千歌ちゃんたちにその秘密をバラすだろうと考えていたんです」

「…………」

「でも先生は私の秘密を守り抜いてくれた。あれだけ先生にヒドイ態度を取っていた私を守ってくれたんです。そして幽霊騒動の時も幽霊さんから私たちを本気で庇ってくれて、その時にようやく分かりました。先生は真剣に私たちと向き合おうとしている……と」

「…………」

「その事実を知ってからですかね。今まで先生と一緒にいる時間が辛かったのに、いつの間にか楽しくなっていました。一緒にお喋りするだけでも、ただ隣にいるだけでも……」

「…………」

「実は先生のことが頭から離れずモヤモヤしていた時期がありました。しかし西木野真姫さんに悩みを相談して、ようやく気持ちの整理がついたんです。私は……」

 

 

 

 

「先生のことが、好きだって……」

 

 

 

 

………………

 

 

………………

 

 

「あ、あれ? 先生??――――って、寝てる!?」

 

 

………………

 

 

「全然反応がなかったから、もしかしたらとは思ってたけど……なんだかなぁ。でも今思い返してみれば聞かれてなくてよかったかも。恥ずかしさで手元が狂って、先生の耳をダメにしちゃいそうだったから……」

 

 

………………

 

 

………………

 

 

「あっ、先生のここ……膨らんでる? もしかして、私の膝枕と耳掃除で興奮しちゃったのかな? フフッ、本当に変態さんですね」

 

 

………………

 

 

………………

 

 

「…………ゴメンなさい先生。私、先生のことを散々変態だの痴漢魔だの言いましたけど。私も……同じみたいです。先生のを見て、私……」

 

 

………………

 

 

………………

 

 

「先生……寝てますよね?」

 

 

………………

 

 

………………

 

 

「こんなことで先生に恩返しが出来るとは思えませんが、先生だったら一番喜びそうなことなので……。耳掃除もそうですがこんなことをするのも初めてなので、気持ちよくさせて挙げられるか分かりませんが、精一杯ご奉仕頑張りますね。私の今の気持ち、たっぷり受け取ってください」

 

 

………………

 

 

………………

 

 

「それでは、失礼します」

 

 

………………

 

 

………………

 

 

………………

 

 

………………

 

 

 

 

~※~

 

 

 

「んっ……う~ん……あ、あれ……」

「あっ、目が覚めましたか?」

「あぁ……悪い、寝ちゃってた」

「いえいえ。可愛かったですよ、先生の寝顔♪」

「男に可愛いって言うのはよせ……」

 

 

 どうやら梨子の膝枕と耳掃除が気持ちよすぎて、いつの間にか寝ちゃったみたいだ。こんなに気持ちがいいのなら、毎晩俺とベッドを共にして欲しいくらいだよ。毎晩女の子たちが代わる代わる膝枕をしてくれる展開も全然アリ。これでまた1つ俺に夢が出来てしまったぞ。

 

 

「もう深夜の1時か。作曲の手伝いに来たのに、このザマはねぇよなぁ……。」

「私は今からでも全然元気に作業できますよ」

「眠くないのか?」

「はい。先生のおかげでバッチリ目が覚めましたから……」

「ふ~ん、俺のおかげね……。それじゃあ今から作曲するか」

「はい!」

「よしっ。でもその前にトイレだけ借りてもいいか?」

「どうぞ。部屋を出て右手にありますので」

 

 

 敢えて何も語らないつもりだったけど、梨子の冷静さを見てたら気が変わった。

 俺は部屋の入口で立ち止まると、その場で彼女の方へと振り向いた。

 

 

「初めてにしては上手かったぞ。耳掃除も……あっちの方もな」

「へ……? あっ……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁああああああああああああああああああああああああ!?!?」

 

 

 たっぷりと受け取らせてもらったよ、お前の気持ち。

 そしてその気持ちには、いつか絶対に答えてやるから。

 




 個人回にしては珍しく女の子側の葛藤が描かれなかった分、今回は夫婦度増し増しでお送りしました! こんなやりとりをしているのにまだ付き合っていないとか、作者の自分でさえにわかには信じられません(笑)


 次回はAqoursの個人回ラスト! 最後の1人であるあの子で締めくくります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

みかん少女、痴漢魔に恋をする

 お待たせしました、今回は遂に最後の個人回となります!
 やはり最後なので、久々にどっぷりと……


 

「好きです、先生……」

「早いよ!! 展開が早すぎる!?」

 

 

 バスに乗るなり自然な流れで告白してきたから、一瞬空耳かと思ったぞ……。こんな真昼間から車内で告白だなんて、今からカーセックスをするカップルじゃないんだから変にいい雰囲気されても困る。

 

 俺と千歌はバスの後部座席を陣取りながら、開口一番カオスな会話を繰り広げていた。内浦は決して広い街ではないので、他の乗客に聞かれたら先生と生徒の恋愛報道が瞬く間に広がってしまう可能性がある。あと数日の任期で教育実習が終了するのだが、千歌のたった一言でまだ本職に就いていないのに経歴に泥を塗られるのは流石に勘弁だ。まあそうは言っても、バスの乗客は俺たちだけで他は誰もいないんだけどね。千歌もそれを踏まえてのド直球告白だったのかもしれない。乗客がいる中での告白なんて、公開処刑もいいところだからな……。

 

 ちなみにバスに乗っているのは、千歌がピクニックに行きましょうと誘ってきたからだ。どうやら海も緑も心地よく感じられる彼女イチオシのリラクゼーションスポットがあるらしく、俺が東京に帰ってしまう前に一度見て欲しいとのこと。あまり風景を堪能する方ではないのだが、千歌と2人きりになれるいい機会だと思い、むしろそちらを重視して彼女の提案を飲んだ次第だ。

 

 そうしたらいきなり『好きです』と無茶を言ってくるものだから、出発して早々調子を狂わされて一気にペースを持って行かれてしまった。やはり無邪気っ子は容赦ないから怖いよ……。

 

 

「そもそも、積極的になれって言ったのは先生ですよね? だから積極的になってみたんですけど、まだ押しが足りませんか?」

「あんなド直球な告白に更に押しを加えたら、俺の心が押し潰されちゃうからやめてくれ……」

「む~……先生言ってること矛盾してる」

「所構わずグイグイ来られても困るってことだ。それにお前はスキンシップが激しすぎて、抱きついてくるたびに周りの生徒たちからキラキラした目で見つめられるの知ってるか? 絶対に学内SNSでネタにされてるぞあれ。先生と生徒の禁断の熱愛きたぁああああああ!! とか言ってそう」

「いいじゃないですか別に。むしろどんどん見せつけちゃいましょう♪」

 

 

 こうやって周りに自分たちの関係が知られようともお構いなし、しかもそれを恥じることなく笑顔でいられるほどの精神を持っているのはAqoursの中でも千歌くらいだろう。果南や鞠莉も耐えられそうな気もするが、アイツらはああ見えて意外と羞恥心には弱いからな。迷わずに告白の言葉を口に出せる千歌が強すぎるだけかもしれないけど……。

 

 

「それに先生、女の子に抱きつかれるの大好きでしょ? 私が引っ付くたびに毎回反応が一緒だから、流石に分かっちゃいますよ♪」

「分かるも何も、可愛いくていい匂いがする女の子に密着されて嫌悪する男なんていないだろ普通」

「ですよね! だって先生に抱きついた時、先生の心臓が凄い早さでバクバク言ってるのが聞こえますから!」

「当たり前だろ。後ろからあれだけ胸を押し付けられたら、誰でも高ぶってくるって」

「こういう時は、えへへ、当ててるんですよ♪ って言えばいいんでしたっけ?」

「質問せずに自然に言ってくれたら少しはドキッとしたかもな……」

 

 

 千歌はAqoursの誰よりも俺に好意を伝えるのが早かった。まだ出会って間もない頃、部屋で2人きりになった時にいきなり好きだと告白してくるくらいだ。だから俺の恋愛に対する真意も早い段階で千歌に伝わっていたため、心と精神がvs神崎零用に育つのは誰よりも早かった訳だ。つまり俺へのハグ行為なんかで恥じることはもちろんなく、今も紛うことなき積極性を見せている。『見せつけちゃいましょう』とか『当ててるんですよ』とか言ったり、俺の好みを熟知しているような言い回しから、何気ない会話の端々で俺の心を掴もうとしていることが分かってもらえるだろう。

 

 

「それにしても、お前とバスに乗るのも出会った日以来だよな。まあお前は寝てたから、当時の状況は覚えてないだろうけど」

「あぁ、先生に身の毛もよだつほど身体中を舐めまわすように触られた痴漢のことですね!」

「その言い方だと俺が理性のない淫獣みたいじゃねぇか……」

「でもこの前、学校で私たちを襲った時はまさにそんな感じでしたよ?」

「あれは秋葉のせいだから。それに俺は芸のない力技なんかじゃなくて、女の子を的確に気持ちよくさせられるように攻めるテクニシャンタイプだぞ」

「…………」

「な、なんだよ急に黙って……」

「いやぁ私もかなり積極的になったなぁ~っと自画自賛する時があるんですけど、バスの中で堂々とセクハラ発言をする先生を見ると私もまだまだだなぁ~っと」

「あのさ、人を戒めの教訓みたいな目で見るのやめてくれる? 言ったこっちが恥ずかしくなっちゃうからさ……」

 

 

 もはや俺のセクハラ発言は、呼吸と同程度の自然なものとなっている。だから敢えてその発言に深く言及されても、反撃のツッコミなどいちいち用意していない。特に千歌みたいな無邪気っ子は、さっきみたいに斜め上の返答をしてくるため何故かこちらが惨めな思いをしてしまうことも多い。素直に顔を真っ赤にして恥じらっていればいいものの、俺と一緒にいた期間が長かったせいか無駄な耐性が付いてやがる。

 

 

「そういえば、あの時も後部座席でまさにこの位置じゃなかったですか? 私が先生に痴漢されたのって」

「確かに言われてみれば。しかもこの場所って……」

 

 

 俺と千歌が座っている席の位置は、痴漢現場となったバスの席の位置と全く一緒だった。そもそもこのバス自体が痴漢現場となったバスと全く同じ種類のバスであり、座席の配置などの内装が一緒だということにここで初めて気がついた。

 しかも、今日の千歌の服を改めて見て分かったことがある。夏だから薄着は薄着なのだが、半袖の丈といいスカートの短さといい、どこか制服姿の彼女を連想させた。この席配置を想像し制服姿の彼女を想像内の車内に当てはめてみると、まさにあの頃のシチュエーションがほとんど再現される形となる。これは偶然なのか、はたまた千歌が狙ってこのシチュエーションを作ったのか。もしかしたらピクニックというのはブラフであり、本番はこのバスなんじゃないかと悟ってしまうくらいだ。

 唯一当時の状況が再現できていないこととすれば、それは乗客が俺たち以外に誰もいないことだ。だが今回ばかりは逆に2人きりだけの車内なので、より甘いムードが漂っていた。

 

 ふと千歌に目を向けてみると、その視線に気付いた彼女が優しい笑顔でこちらに微笑み返してきた。この笑顔にどんな意味が込められているのか、幾多の女の子を手玉に取ってきた俺でも理解できない。元々俺に脅しという形で顧問を押し付けてきた計算高い彼女のことだ、もしかしたらこの状況再現も仕組まれたものなのかもしれない。俺の興味を引きたいならもちろんそんな手を混んだことをするよりかは持ち前の積極さで攻めてきた方が楽なはずなので、偶然に偶然が重なった結果の状況という可能性もある。どちらにせよ、当時の再現が行われていると分かった時点で俺たちの間の空気が変わったのは間違いなかった。

 

 

「…………私、先生といっぱい思い出を作りたいんです。この2週間の出来事は、今までの人生よりも遥かに濃密で楽しかった。だけど……まだ足りない」

「だから今からお前のオススメスポットに行くんだろ?」

「それもあります。ですけど……あのまま中途半端で終わらせちゃうのは、私も先生も心残りじゃないですか……?」

「中途半端って、もしかして……」

「はい……。やりませんか? あの時の続き……」

 

 

 千歌が俺の気を引くために自分の身体を差し出すことは以前にも何回かあったが、どれも話の流れを逸脱した無茶な提案ばかりだった。だが今回ばかりは彼女の気概が違う。この2週間で己の決意をしっかりと固め俺の隣にいる。更に自身の積極さを過信せず、闇雲に攻めるだけではない多少の謙虚さも持ち合わせていた。もうこの時点でも今の彼女が以前の彼女とは全く違うことが伺えるが、こんなものは序の口だろう。

 

 痴漢の続きをしようとしているにも関わらず、千歌の目には燃える意思が宿っている。今まで俺に断り続けられてきた悔しさや寂しさからか、今度こそは想いの人を逃がすまいとする力強い目線をしていた。

 

 彼女は本気なのだ。俺に振り向いてもらいたい焦りから、自分の身体を売るようなアプローチしてきた頃とは全くの別人。今は本心から俺とエッチなことをしたいと思っているのだろう。その証拠に、いつの間にか彼女と俺の身体が隙間なく密着していた。スカートからしなやかに伸びる太ももやふくらはぎが俺の脚に押し付けられる。だが彼女にとってはこの行為もまだまだ序の口に違いない。それに本番は俺から触ってきて欲しいはずだ。俺の身体にもたれ掛かるだけ掛かっておいて、それ以上の行動をしないということはつまりそういうことなのだろう。

 

 もはやいつものことだが、俺の中では教師と生徒の関係だからとか、大人と高校生だからとか、そのような葛藤は一切なかった。ただただ俺に本気でアプローチしてきてくれる女の子に惚れかかっており、また1人の痴漢のプロとしての意気込みがふつふつと湧き上がってきている。しかも今回は見ず知らずの女の子を襲うんじゃない、スクールアイドルとして輝く自分にとっても大切な子を襲うんだ。そうなるともはや痴漢ではなくただのイチャラブなのではと反論があるかもしれないが、だったらだったで純粋なエッチも痴漢も両方同時に体験してやろう。

 

 

「本当にいいのか……? あまり男を誘惑すると、後で痛い目を見るかもしれないぞ……」

「その点、先生だったら安心ですよね? 先生ってとっても優しいですから、私を傷付けることなんて絶対にしないはずです」

 

 

 コイツ、俺の性格をよく理解してやがる。確かにいくら女の子が臨戦態勢であろうとも、俺は自身の性格上彼女たちの嫌気に触れるような真似はできない。女の子が抵抗しているところを襲ったことがあるだろと言われるかもしれないが、その場合は女の子側が心の中では期待してることを俺が察しているので大丈夫だ。つまり何が言いたいのかと言うと、やっぱり千歌は計算高かったということだ。俺を痴漢の罪で顧問に抜擢したり、座薬を入れさせようとしておしりをチラつかせたりと、元々そういう奴だからな……。

 

 しかし女の子の準備もOK、シチュエーションも完璧、自分の興奮具合もバッチリと来たらやる気にならない方がおかしいだろう。俺自身責任感はあると言っても、こうやって本気で誘惑されたら我慢できなくなっちゃうから自分でも意思が弱いと思う。でもこの俺が今まで彼女たちに手を出さなかっただけでも褒めて欲しい。まあ座薬の件や秋葉の件についてだけは目を瞑ってもらうことになるが……。

 

 御託はさて置き、俺は意識を再び千歌に集中させる。もはや俺から近づくまでもないくらい彼女と密着しているので、あとはこちらが手を伸ばすだけで全てが始まる。いつもなら自分から2つの膨らみを俺の腕に押し付けてくる彼女だが、今回ばかりは完全に受けに回っていた。

 

 俺は堪らず腕を伸ばし、壁ドンならぬ座席ドン(?)で千歌の動きを封じる。バスの中で逃げ道などはなく、そもそもどこであろうが彼女は逃げるつもりは毛頭ないだろうが、こうして自分の腕に女の子を閉じ込めることで相手を好きにできると思う興奮が(はや)ってくる。突き出されて尚更大きく感じるその胸も、座席に押し付けられて歪んでいるだろうそのお尻も、全て俺のモノなんだ。

 

 もはや千歌に夢中になっている俺は、まず彼女の肩に触れる。すると、千歌はそれだけぴくりと反応を返した。いつもは無邪気で天真爛漫な彼女だが、今は借りてきた猫のようにおとなしくなっていた。だがそんな澄ました態度を取ったとしても、滾る欲求に満ち溢れた俺に手加減という文字はない。

 

 そして俺は、とうとう彼女の双峰に手を伸ばす。

 

 

「あっ……」

 

 

 もちろんだが、制止や抵抗などは一切ない。ただ自分の乳房に伸びる手を凝視していた。

 千歌の身体には何度か触れたことはあるが、自分から意思を持って触ろうと思ったのはこれが初めてだったりする。もう何度もこの胸を身体に押し付けられてきたが、自分で触ってみるとそのボリュームが読んで字のごとく手に取るように分かる。16歳のスクールアイドルの胸は指を押し返そうとする張りと、同時にそれを受け入れる柔らかさで満ちていた。

 

 

「んっ、ふぁ……あっ」

 

 

 千歌は熱い吐息を漏らし、艶やかな唇を卑しく濡らす。すると段々洋服の向こう側で、胸の先端がはっきりとした形で主張し始めた。俺は揺蕩う彼女の瞳を見つめながら、手のひらでその先端を転がし始める。

 

 

「ひゃっ……んっ」

「初めてだろ? こんな感覚」

「はい……。先生にしてもらっていると思うと……あっ」

 

 

 結局その先は何も言わなかったが、言ってしまうと更なる羞恥心でこれまでよりも一層感じやすくなってしまうので敢えて黙っていたのだろう。ただでさえ今の状況だけでも顔が蕩け始めているのに、これ以上の刺激が加わると吐息混じりの声だけでは済まなくなる。そう、乗客がいないとは言っても運転手がいるのだ。流石に吐息混じりの声は運転席まで届かないだろうが、そこに嬌声が加わると……もうお察しだろう。

 

 そもそもの話、乗客が誰もおらず、女の子側から誘惑してくるこの状況は痴漢していると言えるのだろうか。千歌はあの時の続きと言ったが、これはもはや自室に篭って2人で交わり合っている状況とあまり変わらない気がしてきた。しかし彼女との一番の思い出の場所がバスの車内なので、馳せる思いに浸りながら痴漢をすると背徳感を得るのは確かだ。そう考えると、スクールアイドルとして幾多の人間を魅了した千歌の声が、卑しい声としてこの閉鎖空間に響いているのは非常に嗜虐心を唆られる。

 

 堪らなくなった俺は、千歌の耳元に顔を寄せた。

 

 

「見せてくれ。まだ誰にも見せたことがない、お前の大切なところを……」

 

 

 僅かな間があったが、千歌は顔を真っ赤にして頷いた。

 彼女は服をゆっくりとたくし上げると、胸を包む下着に手をかけ、それをまた時間を掛けて降ろしていく。下着が胸から離れていくたびに、小柄な高校二年生にしては育ちすぎている双丘が顕になってきた。

 やがて、白い乳房の中に桜色の先端が現れ、とうとう千歌の双丘の全貌が明らかとなった。少女のそんな淫靡な姿に、俺は耐え切れなくなって手を伸ばす。

 

 

「舞台の衣装姿を見た時から思ってたけど、いい身体してるよお前。これなら男性ファンもたくさん付くだろうな」

「そんなこと……!! 先生だけ……先生だけのモノです――――ひゃっ!?」

 

 

 突然俺が胸を触ったものだから、千歌の口から車内に響くほどの嬌声が放たれた。でも仕方ないだろう、嗜虐心に満ちている時に女の子が自ら『私はあなたのモノ』宣言をしてきたんだから。俺は女の子のそういった忠誠心と奴隷精神が大好物なんだ。もちろん普段はそこまでサディストに女の子と接することはないが、女の子が自ら俺のモノになってくれるんだったら、こちらもそれ相応の態度でご主人様面をしてやろうと思っている。

 

 俺は微妙な位置までたくし上げられていた千歌の服を、少々強引に引き上げた。

 すると双乳が完全に解き放たれぷるんと揺れる。自然豊かな街で育った少女の健康的で艶やかな胸。自然の恵みを受けたかのような綺麗さ、誰にも触られたことのない純潔さ、それを今からこの手で穢すことができると思うと高揚感が収まらない。全国のファンたちが夢想することしかできないAqoursのリーダー、高海千歌の乳房がそこにはあった。

 

 薄い桜色に染まり、己の興奮を具現化する張り出した乳首。そして身体が揺れるたびにぷるぷると震える胸は、俺に弄られるのを誘いながら待っているかのようだ。いつも幼い子供のように元気いっぱいの千歌が羞恥に顔を染め、胸を曝け出している。手を出さずとも、この状況を見るだけで性欲が滾上がってきた。

 

 手に吸い付く少女のおっぱいは、身体の熱さを示すかのように暖かい。俺は手にやや力を入れて、両胸を寄せてみたり上下させてみたり、波立たせたりして16歳JKの胸で遊んでみた。

 

 

「はぁ……あっ、んっ……」

 

 

 千歌は手で口元を覆って漏れ出す声を少しでも抑えようとしているが、その姿がまた俺の野心をくすぐってくる。本来その口からは全国のファンを魅了する綺麗な歌声が流れてくるはずなのに、今は目の前の男を悦ばせるだけの淫声に成り下がっていた。現在人気急上昇中のAqoursにはもう既に何百人何千人、もしかしたら何万人ものファンがいるかもしれない。そんな大勢のファンのために歌う彼女は今、俺の前で乳房を晒して淫靡な声を上げる人形と化していた。

 

 

「せんせぇ……」

 

 

 思わず脳が溶けてしまいそうなくらいの甘い声。ただでさえ普段でも幼い声なのに、呂律まで回らなくなったらもはや何を言っているのか分からなくなりそうだ。だけど俺には察しが付く、彼女はまだ求めていると。既に口を抑えなければならないほど喘ぎ声を我慢できなくなっているみたいだが、そんなことはお構いなしにただ快楽を求めたいのだろう。

 

 だとしたら、それに応えてやるのが男ってものだ。

 俺は千歌の胸から手を離すと、すぐさまその先端を指で摘み弾いた。

 

 

「ひゃぁあああああっ!?!?」

 

 

 こんな下品な千歌の声、恐らく誰も聞いたことがないだろう。彼女もここまで強い刺激を浴びせられるとは思っていなかったのか、身体が弓型になって腰を震わせていた。口を抑えている手の指の間から、はぁはぁと卑しい吐息が漏れ出す。気を張っていたさっきとは違って今はぐったりしている様子から、もしかして千歌の奴……。

 

 

「イっちゃったか」

「そ、そんなことは……」

 

 

 何故か強がる千歌だが、顔を火照らせ蕩けた目をしながら反論しようとしても全く説得力がない。あまりの快感と羞恥心に身も心も奪われていることが丸分かりだ。

 いつも以上にサディスティックになっている俺は、悪戯に彼女の目と鼻の先に顔を近付けて問いかけた。

 

 

「イっちゃったか」

「………それは……………」

「言え」

「…………はい、先生の手で……イっちゃいました……」

 

 

 千歌は恍惚な表情をしながら答える。もはやスクールアイドルの仮面を捨て去った彼女は、身体に残る快楽の余韻に酔い痴れているようだ。こうして自分の手で女の子を堕とすと、とてつもない征服感で心が満たされ、これ以上ない愉悦を感じることができた。

 

 今までAqoursと過ごしてきた日々も当然大切な思い出だが、それと同等程度に今日のことは一生忘れることはないだろう。ここまで堂々とした痴漢は痴漢じゃないかもしれないが、公共交通機関での痴漢プレイはもうこれっきりだろうから最後に気持ちいい体験が出来てよかったよ。流石に大人になってまで車内で痴漢をしようとは思わないから、今日と千歌と出会ったあの日だけが特別だ。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 虚ろな目をして熱い吐息を漏らす千歌を見て、これ以上の追い討ちは彼女の身体の負担になると思ったのでやめておく。俺のせいで練習が出来なくなっても困るし、それ以前にここで腰を抜かして動けなくなったらピクニックという当初の目的が破綻してしまう。そう思っても淫猥な魅力を放つ彼女に欲情しそうになるのだが、ここで第二ラウンドをしたところで疲弊した彼女からは無理をした反応しか得られないだろう。それに快楽の余韻に浸る彼女を眺めているだけでも、こちらとしては大変眼福だ。

 

 俺たちの間に静寂が流れる。聞こえるのは千歌の小さな吐息とバスの走る音だけ。

 しばらくして、ようやく落ち着いたらしい千歌が俺の肩に頭を預けてくる。ちなみに、いつの間にかはだけていた下着も服も元に戻っていた。

 

 

「ありがとうございます。私のワガママに付き合っていただいて……」

「お前が本気でぶつかってきたんだ。それに全力で応えるのが男だろ」

「えへへ……好きです。そういった先生のカッコいいところも、教師として私たちに勉強を教えてくれるところも、ちょっぴり……いやかなり変態さんなところも、み~んな好きです。私バカなので、こんなありきたりな告白しかできませんけど……」

「十分だよ。俺の心で受け止められないくらい、お前の想いが伝わってきたから」

 

 

 確かに言葉はありきたりだが、それ以上に行動で自分の気持ちを示してくれたので、むしろ長々と言葉で語られるよりもよっぽど今の彼女の気持ちを知ることができた。()がっている姿で女の子の想いを汲み取るなんて相当変態的な手法だが、俺にとっては彼女たちの心を知ることができる有効的な方法なのだ。それに多分そんな俺の性格を千歌は分かっていたからこそ、こうして思い出の場所で自らの身体を差し出したんだと思う。

 

 

「お前の本気を見たら、むしろ付き合ってやらなきゃ男が廃るだろ。それに俺も久々に楽しませてもらったから、お礼を言うのはこっちもだよ」

「ノリノリでしたもんね、先生」

「好きだから仕方ないだろ。さっきのシチュエーションも、お前のことも」

「す、好きっ!? せ、先生が私のことを!?!?」

「今更そんなことで驚くのかよ……」

「だって私のことなんてAqoursのメンバーの1人にしか思われていないと思って……。それでも私は先生が好きなので、せめてお邪魔じゃないように先生の隣にいることができたらなぁ~っと」

 

 

 積極的に見えて、案外繊細なことも考えていたみたいだ。だがこの俺がモブキャラ扱いしている女の子に対して痴漢プレイなんてするはずがない。つまり、俺に変態プレイを仕掛けられている時点で認められた子なんだよ。本気でこの子の乱れた姿を見てみたいと思うということは、それだけお前が魅力的で俺の心を鷲掴みにしているということだ。

 

 

「私の気持ちは全部先生に伝えました。あとは先生からドキドキして身体が熱くなるような告白をもらうだけです」

「お前なぁ、そんなにハードル上げるなよ……」

「あはは……でも返事は今すぐじゃなくてもいいですよ」

「えっ、いいのか?」

「はい。先生は恋愛のことになるとすっごく悩んで考えて、納得のいく決断をした時じゃないと女の子に想いを伝えないって知ってますから」

「まあそうだけど、よく知ってたな俺の性格……。でも俺を待たせるとなると、もしかしたら返事は1日や2日待つだけでは済まないかもしれないぞ?」

「そこは先生、ファイトだよっ!――――です♪」

 

 

 どこかで聞いたセリフだと思ったら、なるほど俺の性格を千歌に入れ知恵してたのはアイツだったのか……。今日のコイツはやたら俺の性格や性欲を的確に突いてくると思っていたのだが、好きな人の情報は事前に隅から隅まで収集していたらしい。先輩に俺の情報を求めたってことは、それだけ俺という人間に入れ込んでいる証拠だ。そう思うと、彼女が俺にどれだけ一途な気持ちを持ってくれているのかが分かる。なんかもう嬉しすぎてこの場で告白しちゃいそう……。

 

 

 俺たちの席は隣同士、そして心も隣同士。そんな2人を乗せたバスは、俺の最後の思い出作りの地へと走っていく。

 教育実習の日数は残り僅か。もちろん悩んだり考える時間も残り少ない。

 だが、俺にはもう時間なんて必要なかった。

 

 

 俺の想いは、もう決まっているから――――――

 




 ちなみに私はバスの運転手さんに同情しています(笑) あんな大きな声で喘いでいたら、いくら運転席と後部座席が離れていようとも聞こえちゃいそうな気もしますが……。恐らく若い男女が青春をしていると思って、素直に聞き流していたことでしょう(笑)

 そしてこの話にてAqoursの個人回が全て終了した訳ですが、μ'sと比べてどうだったでしょうか? μ'sとは違ってヤンデレの修羅場を乗り切ったとか、そのような特別なことはありませんでした。しかし、そんな困難がなくても零君の女性捌きや恋するAqoursの可愛さや魅力が十分に伝わったと思います。元々この小説はキャラの可愛さを見せるのがウリなので、読者の皆さんに千歌たちが少しでも可愛いと思ってくださると本望です!


 次回はいよいよ最終回となります!
 零君とAqours、遂にお別れの時――――



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【最終話】恋になったAQUARIUM(前編)

 前回の次回予告で最終回と予告したのですが、あまりにも文量が多くなってしまったので前後編に分けました!
なので言ってしまえば、今回は次回への布石で前座回です。

 遂にAqours編の最終回。だけど描かれるのはいつもの日常……?


 とうとうこの日が来てしまった。

 

 そう、俺が教育実習を終えこの地を去る日だ。

 

 ここへ来る前はこんな田舎に3週間も拘束されるなんて嫌気が差していたのだが、自然豊かで住民たちも温厚で、想像していたよりも遥かに過ごしやすかった。都会の賑やかさも好きっちゃ好きだけど、こうした静かな田舎でほのぼのと暮らすのも将来アリな気がしてくる。それになにより、この地の女子校生たちは俺に興味がある子たちばかりだ。そんな子たちに囲まれるハーレム空間も悪くはない。ここへ来た当初は早く帰ってμ'sに求められる生活に戻りたいと思っていたが、今はその思いに加えてこの土地に残りたい気持ちも現れたので、それだけこの土地で思い出をたくさん作れたということだろう。

 

 それになにより名残惜しいのは、Aqoursのみんなとしばらくお別れになってしまうことだ。μ'sに負けずとも劣らない個性的な子ばかりで、これでも最初は上手く顧問として彼女たちを指導できるか心配だった。でも毎日を共にすることでいつの間にかその(わだかま)りもなくなり、今ではここを離れることを惜しく感じてしまう。アイツらも俺と一緒に東京へ来ればいいのにとワガママを抱いてしまうが、Aqoursはこの自然豊かな土地でこそ輝けるスクールアイドルだから無理は言えない。

 

 こうして思い返すと、3週間なんてあっという間だった。Aqoursのみんなとはほぼ全員最悪の出会いだったから、好感度がマイナスからのスタートなんて一時はどうなることかと思ったよ。だからこれから出会い頭で痴漢行為なんて絶対にしないようにしよう。それに初対面の女の子に手を出した事実を()()()()に知られると、みんなからどんな制裁(肉体関係的な意味で)が下されるのか想像もしたくない。

 

 

 うだうだ言っているが、結局のところナーバスになっている気持ちを紛らわせるのには至らなかった。やはり自分が幾多の修羅場や恋愛を乗り越えてきたと言っても、別れというものはあまり経験したことがない。生涯の別れではないのでそこまで深刻になる必要はないのだが、3週間という短い期間と言えど毎日を一緒に過ごしてきた彼女たちと別れるのは寂しいものがあった。そのせいかは知らないけど、今日は朝からぼぉ~っとしちゃってるんだよな。

 

 

「神崎君? 上の空みたいですけど大丈夫ですか? もしかして体調を崩している……とか? 教育実習最終日に風邪だなんて、締りが悪すぎますよ」

「山内先生……」

 

 

 職員室の隣の席から、俺の高校3年生の時の副担任であり、教育実習の指導役でもある山内奈々子先生が俺に声を掛けてきた。教育実習最終日に元気がないのはマズイため、さっき適当に取り繕っていた妄想から言い訳を引っ張ってくる。

 

 

「いや、女性の怒りは地獄よりも恐ろしいと再認識しまして……。同時に身体も激しく求められそうで……」

「また女の子たちに手を出したんですか? 相変わらず高校生の頃から懲りないですね神崎君は」

「それを職員室で言うのやめてくれません!? いや事実ですけど、最後の最後で俺がヤリチンみたいだという認識を他の人に植え付けなくてもいいでしょ!?」

「植え付けると言いますか、他の先生方はみんな知ってますよ。神崎君の性格だったら何もかも」

「へ……?」

 

 

 職員室中を見渡してみると、先生たちがウンウンと達観したように頷く。

 しかもその中には、この3週間俺と大して絡みがなかった先生まで含まれていた。やっぱり俺って見た目で分かりやすい性格をしているのだろうか? それか先生たちの見る目が鋭いからだろうか? どちらにせよ、俺の言動から人間性を察する社会人すげぇと思ったし、その人間性を身勝手に振舞う俺はまだまだ子供だなぁと思うよ。

 

 そもそも、俺がこの学院の生徒たちに手を出していた事実には誰も深く言及しないんだな。知っていたのに何も言ってこなかったということは、つまり微笑ましく見逃されていたということだろう。これも若気の至りかぁみたいな感じで……。なんだろう、俺の周りの大人たちって男女交友を認める楽観的な人が多くねぇか?? 秋葉といい母さんといい親鳥といい……まあそのおかげで今の立場がある訳だから、文句は言えないけど。

 

 

「あっ、もうすぐで教育実習最後の授業ですね。高海さんたちのクラスですから、最後にバシっと決めてくださいね!」

「なに? 俺に一発ギャグでも期待してるんですか??」

「生徒さんが欲しそうな顔をしていたら、場合によってはアリです♪」

「山内先生って、そんなSキャラでしたっけ……」

「私は好きですよ」

「えっ!?」

「想定外のことが起きた時の、神崎君の焦り様が♪」

「あぁそっちね……」

 

 

 ビビったぁ……一瞬山内先生が俺に告白してきたかと思っちまったじゃねぇか。まさか教育実習最終日になって、教師としての絆を深め過ぎた故の愛が抑えきれなくなった――――みたいな展開を想像してしまった。いくら女性好きとは言っても、流石に恩師を好きになるのはねぇ……。でも先生が本気だとしたら俺は応える義務がある訳で……。それに山内先生、おっとりとしていて普通に可愛いしな――――

 

 

 んっ!? ま、待て待て!! 俺が告白すべきなのは山内先生じゃねぇだろ!! 危うく先生の発言に騙されて今日の目的を見失いそうなるところだった。全く、先生ルートだなんて並のギャルゲーでも存在しねぇぞ……。

 

 そうだよ、俺が想いを伝えるべきなのはAqoursのみんな!! 教師恋愛なんかには決して興味ない!! 以上!!

 

 

「そ、それじゃあもうすぐ授業ですし、そろそろ行きましょう!」

「そうですね。教室の後ろから神崎君の授業を見るのもこれで最後かと思うと、ちょっぴり寂しいです」

「ッ……!?」

 

 

 な、なに!? ここから告白の流れに持ち込むようなセリフを吐かれて、どう返したらいいのか分からないんだけど!? ただでさえこれからAqoursのみんなに想いを伝えなきゃいけないっていうのに、変なところで緊張させないでくれよ先生!! 山内先生にフラグを立てた覚えなんてないし、もしここで先生ルートに入ったら激動の最終回として後世に語り継がれるぞこれ!!

 

 

「その慌てっぷり……。しんみりとした気持ちはちゃんと払拭できたみたいですね」

「あっ、そういえば……。もしかして先生、俺の考えてること最初から全部分かってたんですか?」

「さぁ、どうでしょう♪」

 

 

 高校時代も教育実習も、何かと俺を気にかけてくれた先生。普段はあまりふざけない先生がここまでお茶目に振舞っていたのは、思いつめていた俺の心を軽くするためだったのだろう。深夜の音ノ木坂に忍び込んで授業の練習をするくらいに小心者だった山内先生がここまで大人になった姿を見ると、自分の方が年下なのに子供の成長を見守る親のような感覚になる。

 

 それと同時に、親に優しく宥められた感覚にもなった。Aqoursと別れるのが寂しいとはいえ、さっきみたいにナーバスになってたら想いを伝えるどころの話ではない。Aqoursのみんなは俺との別れを絶対に悲しむだろうから、俺くらいは笑顔でいてやらねぇとな。

 

 

「山内先生、ありがとうございました」

「いえいえ。最後まで気を抜かずに、頑張ってくださいね!」

「はい!」

 

 

 思いがけずしんみりとしてしまったが、これまた思いがけない人に助けられた。先生は俺とAqoursが男女の関係に近しいものとなっていることは知らないはずなので、ここまで爽やかに背中を押されると申し訳ない気持ちは少しある。だが、それを踏まえてでも先生からの激励は確実に俺の心を前向きになるよう促した。

 浦の星に教育実習へ行くことが決まった当初は、俺の担当が地味に頼りないと思っていた山内先生だと聞いて若干心配していた。でも今になって思えば、先生が俺の担当で本当に良かったよ。おかげでアイツらを不安にさせることなく自分の想いを伝えられそうだから。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんなこんなで、教育実習最後の授業が無事に終了した。最後だから名残惜しい気持ちはもちろんあったのだが、山内先生の後押しのおかげでむしろこれまでよりも気合を入れて授業に望めたと思う。

 そして授業を受けていた2年生の生徒たちも、最後の俺の授業だからなのか全員がいつもより真剣に授業に臨んでいた。昼過ぎの授業なのに誰1人眠気でウトウトすることはなく、あの千歌でさえも真面目にノートを取っていたくらいだ。そんなみんなの姿を見て、最後の最後で初めて超エリート校の講師を努めた気分だったよ。こう言ってしまうと普段は浦の星の生徒が不真面目に捉えられてしまうかもしれないが、まあそこは言葉の綾ってことで。

 

 授業が終わったあと、いつものように空き教室で教育実習のレポートを作成していると、ポケットに入れていた携帯が震えだした。届いていたのは1件のメッセージ、差出人は千歌からだ。一旦レポートを書く手を止め、そのメッセージを開いて内容を見る。

 

 

『先生! レポートを書き終わったら速やかに部室へ来ること!!

 もし遅れたら私に2回も痴漢したこと、みんなにバラしちゃいますからね♪』

 

 

 おいおい、こんな強引な誘い方がこの世にあったのかよ……。教育実習という社会人の門を叩いた今なら余計に実感する千歌のいい加減な連絡の仕方。元から人にものを頼む態度がなってないと思っていたが、まあこうして挑発するほどに俺を求めているということだろう。むしろそうでないと若干だがイラつくこの感じを抑えられねぇ。それにだ、1回目の痴漢はまだしも2回目の痴漢はお前から誘ってきたんだろうが……。

 

 とはいえ、彼女たちに用があるのはむしろ俺の方だ。部室で待っているのが千歌1人なのか全員なのかは文脈から読み取れないが、普段はこんな催促の連絡を寄越さないので恐らく何か特別なことでもあるのだろう。最後だからこそ今まで横道に逸れがちだったミーティングを真剣にやりたいとか、練習をいつも以上に本気でやりたいとか、そんなところか。

 

 だったら彼女たちと一緒にいられる時間をレポートごときで潰す訳にはいかない。俺はPCを閉じてレポートを書く手段を完全に断つ。そして気付かぬ間に、身体が自然と部室の方へと歩き始めていた。

 部室に行くのもこれが最後だと思うと、いくら山内先生からファイトをもらったとは言えども寂しくなってしまう。廊下ですれ違う女の子たちに話しかけられるのも、窓の外から部活をしている女の子たちに手を振られるこの光景も最後。教師が異動や退職で学校を去る時に抱く気持ちが、たった今分かったかもしれない。

 

 

 そんな感傷に浸っている間に、いつの間にか部室の前にまで辿り着いていた。このドアを開けるのも部室へ入るのも最後、何もかもが最後で思わずドアノブに手をかけることすらも躊躇ってしまうくらいだ。

 でも、俺には想いを伝えなければならない子たちがいる。あくまで俺の身勝手な想いだから、彼女たちがどう反応するのかは考慮していない。場合によっては彼女たちの笑顔が揺らいでしまうかもしれない。だがいくら女の子の笑顔が好きな俺でも、相手のご機嫌を取るために自分の気持ちを偽ることはできない。そんなことをしたら何のための告白なのか、その意味が分からなくなっちまう。

 

 俺は再び決心をつけると、微妙に手をかけていたドアノブをしっかりと握ってドアを開け放った。

 すると、部室内の色とりどりの装飾に目を奪われる。そしてその直後、部屋中にクラッカーの鳴る音が響き渡った。

 

 

「「「「「「「「「先生! 教育実習お疲れ様でした!!」」」」」」」」」

 

 

 Aqours9人が一斉に声を揃え、呆気に取られる俺に全員が注目する。最後だから本気で練習をするものかとばかり思っていたので、盛大に歓迎された勢いで後ろに仰け反ってしまった。それにみんなから明るい微笑みを向けられると、女性慣れした俺でも流石に緊張してしまう。

 

 

「あっ、もしかして先生……照れてます?? ちょっと顔が赤いから照れてるんだぁ♪」

「もう千歌ちゃん、せっかくのお見送り会なのに主役を煽っちゃダメでしょ……」

「そうそう。俺のためにこんなサプライズをしてくれたのに、照れない方がおかしいだろ」

「うんうんそうですよね――――って、あれ? 先生照れてるんですか!? 私が抱きついてもあまり動じないあの先生が!?」

「俺はそんな完全無欠じゃないっつうの。それに女の子に抱きつかれたら誰だってドキドキするから」

 

 

 お疲れ様の後の開口一番に煽りの言葉が出てくる辺りが、まさに千歌らしい。他のメンバーもそれには苦笑いで、その様子を見ると恐らく当初の予定に千歌の出しゃばりは組み込まれていなかったのだろう。

 

 

「それにしても部室にこんな飾り付までして、よく学校が許してくれたな……」

「あぁ、そのことですか。許してくれたのは鞠莉さんですわ……」

「鞠莉が?」

「そうっ! なんたって私はこの学院の理事長ですから! この私にかかれば、部室で大声を出そうがパーティをしようが乱交をしようが大丈夫よ♪」

「えっ、このパーティって……マジでやんの?」

「都合のいい勘違いをしないでください!! 鞠莉さんも誤解を生む発言は慎むようにと予め言っておいたはずですが? 今日は先生にとって大切な日なんですから」

「ソーリーソーリー。ついテンションが上がっちゃって……ね♪」

「本当に反省しているんですか全く……」

 

 

 千歌と同様に鞠莉も平常運転でダイヤのSAN値が危ぶまれるが、逆に言えばいつも通りだからこそ安心できる。他のメンバーも特別なこの日だからなのか、俺が部室に入ってきた時は畏まった態度だったが、結局千歌や鞠莉がいつものノリにシフトしたせいでみんなの雰囲気も穏やかに戻った。まあ俺たちにとってはこのゆるゆるな雰囲気が一番似合ってるよ。

 

 ここで改めて部室を見渡し、部室が色晴れやかに飾り付けされていることを再認識する。ご丁寧に折り紙の輪飾りが施されており、普段の地味な部室が一転して華やかになっていた。そしてホワイトボードには俺と千歌たちの絵がデフォルメされて描かれている。いつもはダイヤのμ'sの誰かさんを模倣した無茶な練習計画が無慈悲に書かれているのだが、そういった意味でも部室の空気がいつもより浮き足立っている気がする。

 

 

「この絵、可愛くできてるじゃん。誰が描いたんだ?」

「あっ、ル、ルビィです……」

「へぇ、お前にこんな特技があったなんて知らなかったよ」

「そ、そんな特技というほどでは……!! それに絵なら曜さんの方が!!」

「いやぁ私は衣装とかコスプレの絵なら描けるけど、こんなに可愛いちびキャラの絵はルビィちゃんにしか描けないって! まあこの絵だけは別のインパクトがあるけど……」

「えっ? この絵って――――あぁ、そういうことか……」

 

 

 俺たち10人のちびキャライラストの中で、一際異彩を放っているのが黒い翼の生えた女の子の絵。ちびキャラと翼の絵のタッチが違うことから、多分あとから誰かが描き加えたんだと思うが、その犯人はこの絵を見れば一発で察せた。それにその犯人、既に俺の横で得意げに不敵な笑みを浮かべてるしな……。

 

 

「フッフッフ、この絵にインパクトを感じるなんて、眷属としては中々の闇の波動を持ってるわね。本来なら、人間風情にヨハネの気高き翼が見える訳ないもの」

「いや、水性ペンで描いてあるだけだろ。こうして指で拭えば消えちゃうし」

「ちょっとちょっと何勝手に消してるのよ!! それに最後なんだし、少しくらいは乗ってくれてもよかったんじゃない!?」

「お前の中二病に乗った時点で、俺の信頼から社会的地位まで全て失うからヤダ」

「真顔で否定するんじゃないわよ!!」

 

 

 俺はな、中二病関連でヒドく心を抉られたトラウマがあるんだよ。5年前、穂乃果や凛の中二病に釣られてしまい、粋っていたところを真姫に冷たい目で見られるという人生ベスト3クラスのトラウマがな……。善子と一緒にいると、毎回このトラウマが記憶の奥底から蘇ってくるので早く忌まわしきこの呪いを封印したいんだよ。あっ、このセリフが中二病なのか……中々抜けねぇな俺も。

 

 ここでふと、俺の鼻に甘い匂いが舞い込んできた。

 振り向くと、果南が白いクリーム(意味深ではない)とイチゴをふんだんに使ったホールケーキを抱えていた。

 

 

「それは……?」

「せっかくパーティを開くんですから、1つくらいは摘めるモノがあった方がいいかなぁと思いまして。流石に学内なので、そこまで大層なモノは準備できませんでしたが……」

「なるほど、それじゃあ俺のためにお前が作ってくれたのか?」

「そうですけど、発案したのは花丸ちゃんです。私はケーキ作りをサポートしただけですから」

「花丸が?」

「は、はいっ! 先生に一度、マルの手料理を食べてみたいとメールを頂いたので、それからコツコツ練習してました!」

 

 

 け、健気すぎる!! 前々から知っていたことだが、性的なことに純真なだけで全体的にピュアなのが花丸なのだ。恐らくメールというのは俺の勘違いが大爆発した時に送ったものだろうが、それを今となってわざわざ実行してくれるあたり相当殊勝な子だ。

 

 

「ケーキ作りは初めてなので、美味しくできたかは分からないですけど……」

「いや、こんなにいい匂いなのに美味しくない訳ないだろ。早速もらうぞ」

「ちょっ、ちょっと待ってください!! 一旦マルが毒味してからでもいいですか!? 塩と砂糖を間違えている可能性がありますし、そもそも味をもう一度確認しないと安心できないというか……」

「作ってる時も散々味見して確かめてたでしょ。思わず先生に食べてもらう分まで食べちゃいそうな勢いでね♪」

「か、果南さんっ!! 余計なことは言わないで欲しいずら!! 恥ずかしい……!!」

「ちょっとくらい食いしん坊でもいいじゃねぇか。そういうところも可愛いから」

「も、もう2人してぇ……」

 

 

 俺の追い出し会のはずなのに、花丸が顔を赤くしてどうすんだよ……まあ俺たちのせいなんだけどさ。でも心配せずとも、匂いフェチの俺がいい香りと評したモノに不味いモノなんて存在したことがない。幾多の女の子を匂いだけで嗅ぎ分けて判別してきた俺だからこそ下せる評価だな。

 

 そして俺を皮切りに千歌たちが一斉にケーキを食べ始めたが、花丸の心配は案の定杞憂に終わった。あのツンデレの善子も絶賛するくらいで、その様子を見て花丸の緊張もすっかり溶けてしまったみたいだ。

 

 

「おかわりーーーーっ!!」

「太るよ千歌ちゃん……」

「むっ、梨子ちゃん! 女の子に向かってそのセリフはどうかと思うなぁ!?」

「あはは、今日は先生のためのパーティなのに千歌ちゃんがバクバク食べちゃってどうするの……」

「曜ちゃんまで……。それにバクバクって、それじゃあ私が食い意地張ってるみたいじゃん!!」

「「いや張ってるから」」

「今度は2人してっ!?!?」

 

 

 パーティを開いてくれるのは特別なこと極まりないが、結局みんなと一緒にいると会話の流れが自然といつも通りになってしまう。誰かがバカを言って誰かがツッコミ、そして周りの人が笑い、そして次第に全員が笑顔になっていく。この一連のフローチャートは俺がAqoursの顧問になってからずっと繰り返されてきた処理で、どんなに練習がキツかろうが歌やダンスが上手くいかなかろうが、最終的にはみんなが手を取り合って笑顔になる。俺が浦の星へ来る前に一致団結して苦難を乗り越え、絆を深めてきたことが見ているだけでも分かり、俺はそんな日常が大好きなんだ。

 

 

「全く、相変わらず騒がしい方々ですわ……」

「いつもはお前も十分うるせぇけどな。千歌や鞠莉と同じくらいに」

「な゛ぁ!? 私はミーティングの時に話題をすぐ逸らそうとする人たちを咎めているだけですから!! それに今日は特別な日なので、ふざけずしっかりしてもらわないと」

「別にいいよ。むしろ俺にとっちゃいつものお前らを見せてくれる方がお土産になるから。もちろんこうしてパーティを開いてくれたことも嬉しいし、花丸と果南がケーキを作ってくれたことも嬉しいけどね」

「まあ先生がいいのならそれでいいのですが……」

 

 

 俺にとって何が一番のご褒美かって、いつも通りみんなと馬鹿騒ぎすることなんだよ。一緒に心の底から楽しく騒げるということは、お互いがお互いを気兼ねない存在だと認識しないといけない。だから俺はAqoursとの出会いが最悪だった分だけ、こうして一緒に日常へ溶け込めるだけでもご褒美なんだ。それに馬鹿騒ぎして自然と溢れる女の子の笑顔は、笑顔厨の俺を十分に満足させてくれる。特別なパーティを開いてくれるのはもちろん嬉しいけど、何気ない日常こそが俺の一番の宝だ。

 

 

「まさかあの花丸が誰にも内緒で花嫁修業をしていたなんて……ノーマークだったわ」

「は、花嫁修業って、そんな先生のお嫁さんなんてまだ早いずらぁ~♪」

「って言ってるけど、顔がとっても嬉しそうだよ花丸ちゃん」

「ふぇっ!? ル、ルビィちゃんも善子ちゃんも見ないでぇ~~!!」

「珍しいわね、ズラ丸がここまで恥ずかしがるなんて。ハッ、これはいつも馬鹿にされている日頃の恨みを晴らすチャンス!?」

「やめなよ善子ちゃん、どうせいつもの不幸で空回りして終わりなんだから」

「…………ルビィって、いつもはオドオドした感じなのに、私にツッコミを入れる時だけやけに辛辣じゃない……?」

「好感度が高いからこそだよ。多分ね」

 

 

 いつもは基本的にマスコットキャラとして場を和ませる花丸とルビィだが、善子と絡む時だけはやたら冷たいツッコミを入れるのがもはや日常となっている。まあ今日は花丸が羞恥に悶えているため、善子の掃除役は全てルビィに一任されている訳だが、そうなっても普段と何ら会話が変わることはなかった。善子には悪いけど、1年生組から雑な扱いを受ける彼女を見ると安心できるよ。これがいつもの日常だからさ。

 

 

「それにしても、よかったわね果南!」

「鞠莉……。よかったって、何が……?」

「隠さなくてもいいのに。サポートとはいえ、先生にケーキを褒められて嬉しかったでしょ?」

「ま、まぁそうだけど……。でも私がやったことと言えば、花丸ちゃんにケーキ作りの工程を指示したくらいだよ」

「それでもお前も一緒に作っていた事実には変わりないだろ? それに俺は嬉しいよ、お前が俺のために何かをしてくれるってだけでもさ」

「そう、ですか……」

「あぁ~果南、顔が赤くなってるぞ♪」

「う、うるさいっ!! あぁもう、先生と一緒にいると本当に調子狂いますね!!」

「お前なぁ……珍しく恥ずかしがってるかと思えば、いきなり俺のせいにすんな!」

 

 

 そもそも果南が取り乱すこと自体が希少なのだが、俺とお風呂を共にした一件以降はある程度心の整理ができて落ち着いたのか、こうして女性としての感情を押し出すことも多くなった。出会った当初は俺にあまり興味がない感じで、着替えを覗かれても嫌な顔1つしかなったあの頃と比べれば女々しくなったもんだ。それに俺に興味がなかった彼女が、門出を祝うためにケーキを作ってくれた事実だけでもこちらから積極的にコミュニケーションを取りに行った甲斐があったよ。μ'sとの経験で女心を掴むことには慣れているが、やはりこうして行動で好意を示してくれると俺も安心できる。

 

 そしてそれは、俺のためにこの場を盛り上げてくれるみんなだって同じだ。ここには俺との出会いが最悪の子たちも何人かいるのだが、そんな忌まわしい過去を顧みず、みんなが俺を明るく笑顔で送り出そうとしてくれるのが心に響く。たった3週間、されど3週間。この期間に俺たちが育んだ絆と愛が、それほどまでに大きかったってことだろう。

 

 

「あっ、そうだ! 私たちと写真撮りましょう先生!」

「どうしたいきなり……」

「だって先生って、いつも私たちを撮影する側だったじゃないですか、ブログの写真やPVを撮影する時も。気付きませんでした? 私たちと先生が一緒に写っている写真、実は1枚もないんですよ?」

「そうだっけか? まあ顧問の俺からしたらお前らが主役だから、それもそうだろうけど」

「だからこその写真1枚に思い出をたっぷりと込めましょう! さぁ、こっちです!」

 

 

 千歌に手を引かれ、俺たちのちびキャライラストが描かれているホワイトボードの前に全員が集まった。そしていつの間にか机にはお高そうなカメラがスタンバイ状態であり、あと数秒でシャッターが切られるようだ。

 俺は千歌によって最前列の真ん中へと促され、周りにみんなが集まる形となる。このままいけば自分もまるで青春時代に戻ったかのような思い出作りができる――――と思っていたのだが……。

 

 

「先生の隣、も~らった!!」

「わ、私だって先生の隣に!! なんならまた膝枕しますから!!」

「だったら私も理事長特権で先生にハグしながら写っちゃおうかなぁ♪」

「そ、それじゃあルビィは先生にギュッとされたいです……」

「私は後ろから先生を抱きしめちゃう! ヨーソロー!!」

「ア、アンタたち先生に引っ付きすぎよ!! 私だって……!!」

「だったらマルは……マルは……もう場所がない!?」

「みんな相変わらずいつも通りで安心するよ」

「感心してる場合ではないでしょう果南さん……。こんなに密集しなくても写真には収まりますのに」

 

「お、おいお前ら!!」

 

 

 もうね、もはや誰からツッコミを入れていいのやら分かんねぇ。ただでさえ部室の人口密度が女の子に支配されているのにも関わらず、前後左右からここまで密着されると女の子特有の甘い匂いがいつも以上に半端ではない。今日ぐらいはいつも容易に切れてしまう理性を抑えようと思っていたのに、これではいつも通り興奮していつも通り手を出してしまう羽目になる。

 しかもコイツら、もう何の羞恥もなくおっぱいを俺に押し付けてきやがるので男の恐ろしさを身をもって教えてやりたくもなる。まさか最後の授業が保健体育の実技だなんて、ある意味で思い出に残るかもしれないな。想いを伝える感動のシーンの前にR-18を挟むとか、エロゲー界隈でも稀に見ない展開だぞ。まあ流石にこの特別な日にそんなことはしないけど、一歩間違えば最初に鞠莉が言った通りの乱交展開もありえたかもしれない……。

 

 そして馬鹿騒ぎしていたせいか、カメラのシャッターが切られるまで俺たちは集団密着している本当の目的を忘れていた。そのシャッター音を聞いて、俺たちは一斉に無言でカメラを見つめる。どんな写真が出来上がっているのかは想像もつかないが、見る人が見たら『リア充爆発しろ』なり『教師と生徒の売春現場かな』なり色々勘違いされてしまいそうな写真には違いない。

 しかし俺たちから見ればいつもの日常の風景が如実に現れている写真なので、これはこれでアリかなぁと思ったんだけど、学院の部室に飾る写真だという理由で撮り直しになりましたとさ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「最後の最後でも結局いつもとやってること変わんねぇなオイ……」

「私は楽しいからいいですけどね♪」

 

 

 一通り騒ぎに騒ぎ倒して閑話休題。さっきの騒動で無駄に体力を使ったのか、みんな椅子に座って若干ぐったりとしていた。それと同時に陽気な雰囲気も落ち着き、悪く言えばテンションが下がり、良く言えばようやく本題に差し掛かることのできるムードだ。

 

 俺は賢者モードが漂う雰囲気の中、みんなの顔をざっと見渡して話を切り出す。

 

 

「なぁ、みんなで屋上に行かねぇか?」

 

 

 突然話題が別ベクトルに切り替わったためか、千歌たちは頭に"?"マークを浮かべる。

 だが俺の真剣な表情を汲み取ったのか、9人は何も言わずに頷いた。

 

 

 

 さて、これからが本番。今までは千歌たちに告白されるだけの俺だったが、今日はこちらからの反撃って訳だ。ただ気持ちを受け取るだけでここを去る選択肢もあったはあったが、それでは俺も彼女たちもスッキリしない。それに女の子からの好意をなあなあで済ませてしまうとどうなるのかは、μ'sとの関係で痛いほど思い知らされているから絶対に無下にできない。

 

 一度ここを去るだけ、また会える日が来るはず。

 だけど俺とAqoursの関係は、ここで一旦ケリを着けたい。彼女たちの本気の想いを無駄にしないためも。そして俺の中で、彼女たちの存在をより確固たるものにするためにも。

 

 

 遂に、この時が来た――――――

 

 

 

 

To Be Continued……

 

 




 最終回だからといって怒涛の展開や感動的なシーンになるのではなく、最後の最後までいつもの日常を貫き通すのが零君たちかなぁと勝手に解釈しています。その中でちょっと恋愛が含まれているくらいが、この『新日常』の小説としては似合ってると思います。

 そして、次回は本当に本当の最終回です!



新たに☆10評価をくださった

永遠の願渡@アルトさん、 星守銀河さん、銀翼のイカロスさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【最終話】恋になったAQUARIUM(後編)

 今回で遂にAqours編、本当の最終回です!
 Aqoursからの告白に、彼の想いは……?


 外は既に日が暮れかけていて、暁色の景色が海にまで広がっていた。

 明日は朝早く大学に行かないといけないから、今日の夜にはここを去る必要がある。つまり目の前の夕日が沈んでしまう頃には、俺はもうここにはいないということだ。今まで沈む夕日を見ても1日の終わり程度の認識しかなかったのに、今日に限ってはこれ以上に名残惜しいことはない。せめてもう1日だけここにいたいと、柄にもなく切に願ってしまうくらいには寂しさを感じていた。

 

 だが、どれだけ日を伸ばそうが別れの時はやってくる。そもそも未練がましくAqoursに縋り付いてしまえば、それだけこの想いを伝える時も伸びてしまう。そうなればもちろんAqoursのみんなをそれだけ待たせてしまうことになるので、名残惜しい気持ちはあれど1つの節目だと思い、凛とした態度でその時を迎えるのがベストだろう。

 

 

「先生、どうして私たちを屋上へ連れてきたんですか? もしかして今から練習……とか?」

「なんだ千歌、最後の最後まで鞭を打たれたいのか? 相当なマゾだなお前……」

「違いますよ! 時間もないのにここへ来ていいんですかって話です! そろそろ準備して東京へ戻らないといけないのでは?」

「そうなんだけどさ、最後にもう一度だけここに来たかったんだ。お前らとの思い出が詰まったこの場所に」

 

 

 千歌たちとは練習の時だけではなく、授業やプライベートでもほぼ毎日一緒だったが、彼女たちと一緒にいた時間が最も長い場所と言えば確実にここだ。Aqoursの汗水がたっぷりと染み込んだこの屋上――――と言うと卑猥に聞こえるが、それだけ俺にとっては思い出深い場所だってことだよ。ここでたくさん練習してたくさん笑ったり、時には厳しく指導したり、ちょっと泣かせてしまったり、結局最後に手を取り合って励まし合ったりと、たった3週間の顧問だったけどここでは語り尽くせないほど記憶が蘇る。

 

 

「言いたいことはたくさんあるけど、ご心配の通り時間がないから3つだけ」

 

 

 屋上の端に立った俺は、横に広がりながら佇んでいる千歌たちの方を振り向く。

 これがAqoursの顧問としての、最期の言葉だ。

 

 

「まずは1つ目。ありがとな、俺を顧問として信用してくれて」

「えっ、どうして先生がお礼を……?」

「教育実習で新しい土地に来る、女子高の教師になる、そう思ってワクワクしていた気持ちも確かにあった。だけど同時に、μ'sのみんなと離れてしまうのがどうしても苦しくてな、早く帰りたい気持ちもあったんだよ。でもお前たちと出会って顧問になって、険悪だった仲も段々良くなって、プライベートまで遊びに誘ってくれる関係になって、とても楽しかったんだ。今日で別れてしまうことに、ここまで寂しくなっちまうくらいにはな」

 

 

 出会った当初はまさかプライベートにまで付き合いが広がるとは想像もしておらず、顧問と教え子の淡白な関係が続くと思っていた。出会いが最悪だっただけに、彼女たちと仲良くなろうと色々画策はしていたものの、まさか9人全員から1人1人想いを伝えられるほど好意を持たれたのは夢にも見てなかったんだ。俺を慕ってくれる彼女たちはいつも魅力的で、一緒にいて飽きることはない。みんなの本心を受け止めた頃だったかな、俺の毎日が楽しくなったのは。

 

 

「逆に別れが寂しくなるってことは、それだけたくさんの思い出をお前たちと作れたってことだ。この3週間、みんなと一緒に過ごした毎日を鮮明に思い出せるよ。それくらい楽しかったんだ、馬鹿をやって騒いだり、ちょっとアレなことで興奮した日常1つ1つがな」

 

 

 千歌たちは黙ったままこちらを見つめる。物思いに耽っている様子から、それぞれ俺と過ごした日々を思い出しているのだろう。一緒にいた期間は短いが、だからと言って思い出が薄いと言われればそうではない。むしろ短い期間だからこそ1つ1つの思い出が濃密で、時には変態的なことをしたり真面目モードになったりもしたけど、それも今となっては俺たちの強い関係を築く糧となった。決して忘れることのない楽しかった時間を思いだし、千歌たちは自然と小さな笑みを浮かべていた。

 

 

「2つ目。これは1人1人に言いたいことがある」

 

 

 ここで思い出に耽っていた千歌たちも再び現実に舞い戻り、俺の真剣な眼差しに応えるように目に強い意思を宿す。その目力は、ライブで舞台の上に立つ前の意気込みよりも力強かった。その様子を見ると、彼女たちが俺からの言葉をいかに待ちわびていたのかが分かる。

 みんなとの関係が急接近したのはここ1、2週間の話なのに、随分と待たせてしまった気がする。でも、安易な気持ちで女の子に心に歩み寄っちゃいけないって自身の教訓があるんだ、そこは許してくれ。

 

 

「最初は千歌!」

「はいっ!」

「お前の積極性には正直ビビってる。だって自分を痴漢をした相手だぞ? いくら一目惚れの相手でもソイツに自分の気持ちをぶつけるって、並大抵の精神じゃできねぇから。だけど、それだけお前が本気だってことだよな。毎日心から溢れるくらい伝わってきたよ、お前からの想いも、愛情も」

「行動で先生への想いを示すことなら、誰にも負けませんよ! なんなら今すぐここで思いっきり抱きついてもいいくらいですから♪」

「正面から抱きつかれると、その勢いで屋上から落ちるからやめような……」

「先生と一緒に死ねるなら……」

「こ、怖いこと言うなって!!」

「冗談ですよ冗談♪」

 

 

 今まで幾度となく脅しで揺さぶってきたコイツに冗談とか言われても、全く冗談に聞こえないんだよなぁ……。見た目は無邪気そうだが、その実、人の弱みに踏み込んで揺さぶるのが上手い詐欺師の手口を持ち合わせている。俺も何度同じ手口で脅されたことか……。

 まあその悪徳手法も全部俺に近づくためという可愛い理由だったし、それに最後は何の細工もなく素直に自分の気持ちをぶつけてきた。そんな彼女の純粋な気持ちを受け取ったら、許さないなんて言えないだろ。

 

 

「次は梨子」

「は、はいっ!」

「練習の時も言ったけど、もう少し自分に自信を持て。お前は自分で自分を地味だの何だの言ってるけど、俺からしたら魅力の塊だ。歌を歌っている時もそう、ピアノを弾いている時もそう、普段の日常で冷静にツッコミを入れている時もそう、ちょっと馬鹿やってる時もそう。全部可愛いから、お前」

「そう言ってもらえると嬉しいですけど、いつもいつも可愛いと言って褒め殺されている気が……」

「褒め殺してんだよ。それに、顔を真っ赤にして言うセリフじゃねぇな」

「えっ、あっ!? せ、先生って本当に女たらしですよね……」

「それこそ俺の褒め言葉だ。だったら今から、お前の可愛いところ100個挙げてやろうか?」

「そ、それは恥ずかしいのでお断りします!!」

 

 

 現在進行形で可愛らしい姿を見せているとは、本人も思ってないだろうなぁ。見た目はクールっぽいが、内面は非常に乙女で恋愛に対する耐性もない。なのに百合モノが好きでアッチ系の知識はそこそこある。そうやって少し歪んだ性格をしているのが梨子の魅力であり、ただの清楚キャラでないのが一種のチャームポイントだ。それって褒めてるの……と言いたくなる気持ちは分かるが、どうせ彼女は俺のことが好きで、俺も彼女のことが好きなんだから、俺にだけ受ける魅力を振りまいてくれればそれでいい。

 

 

「次は曜だな」

「はい!」

「俺は知ってるよ。お前は活発そうに見えて、意外と自分の中で溜め込んじゃうタイプの子だって。周りを良く見せるために自分は敢えて身を引く。そうだろ?」

「お、仰る通りです……」

「ハハ、別に咎めてる訳じゃないよ。むしろその優しさをずっと忘れないようにって言いたかったんだ。それにお前はやる時はできる。だって、Aqoursの中で俺を最初に襲ったのは――――」

「あーーーーあーーーー!! その話は禁止です!! 先生とは今日で最後だけど禁止ですから!!」

 

 

 まだダメだったのかこの話題……。確かに口で奉仕されたことを公言するなんてまともな精神で出来ることではないが、この真面目ムードの中なら、口奉仕の話ですらいい話に漕ぎ着けられたかもしれないのに。

 ちなみにその話題に言及するのはスクールアイドルにフェラされた自慢ではなく、曜の魅力を語る上では外せない出来事だったからだ。普段は千歌と同じく行動派のように見える曜だが、彼女はいい意味でも悪い意味でも人と一線を引いてしまうことがある。それは下手に人に干渉して相手に不利益を与えたくないからという優しさからだが、そんな彼女が強引に積極的になったのがその口奉仕の出来事なんだ。あそこまで自分の想いを素直にぶつけてくる曜を見て、もしかして別人じゃないかと思うくらいには驚いてしまったから。

 

 

「次は花丸」

「は、はいっ……!!」

「いやぁ俺にはお前が眩しかった。スクールアイドルをやってるからってのもあるけど、その純粋さがあまりにも。だから、絶対に変な色に染まるんじゃないぞ? その純真な輝きを、俺はずっと見ていたいからさ」

「先生が変なことをしない限りは多分大丈夫ずら……」

「どうだろうな? むしろ俺に手を出されてもなおその輝きを守ることができたら、その時は……」

「その時は?」

「どうだろうな」

「むぅ……。でも先生にそう言われたのなら、他の誰にも染められないように頑張ってみます!」

 

 

 Aqoursの良心と言っても過言ではないのが花丸であり、俺と図書室で猥談っぽいのをした時に、あそこまで無反応でいられたことが驚きだった。流石にスク水のコスプレは耐えられなかったが、それでも純粋に恥ずかしがっていたあの反応は本人の穢れのなさを十分に表していた。誰のせいかは知らないが、徐々に変態化が進むAqoursの良心として、ずっと俺を安心させて欲しいもんだ。

 

 

「よし、次はルビィだな」

「ひゃ、ひゃいっ!!」

「そんな硬くならなくても大丈夫だって。出会った頃と比べるとかなり前向きになったのに、まだこんなところで緊張するんだな」

「だっていきなり自分の番が来たもので……。それに先生から何を言われるのかを想像している最中に……」

「あの時の積極性はどこへ行ったんだよ……。でもやっぱマスコットみたいで可愛いよお前。そうやって身体を縮こませてオロオロしている姿とかさ。それでいて練習を人一倍努力している姿も、その小さな身体で一生懸命歌って踊っている姿もな。お前は自分で思っている以上に輝いてるんだ、そのことを忘れるなよ」

「先生…………。はいっ、分かりました!!」

 

 

 ルビィは他人の目を気にしすぎる傾向があって、自分がマスコットキャラだと勝手に認定されていることに疑問を抱いていた。だけど彼女が休日も練習に励み、グループ内で自分が一番小柄であると自覚してみんなに合わせて激しく動き回ったりと、努力の結晶は人一倍大きい。そしてその事実は俺も他のメンバーも知っている。だからこそルビィには他人の目を気にせず、今の自分をもっともっと周りに見せつけて欲しい。身体は小さいけど、お前の輝きは無限大だ。

 

 

「次は善子か……」

「ちょっと、どうしてそんなにテンション下がってるのよ!?」

「勘違いだって! お前が俺の想いを素直に受け止めてくれるか心配なんだよ」

「…………言ってみなさい」

「相変わらずだなお前も……。でも楽しかったよ、お前とこうして口喧嘩する毎日もさ。教師と生徒の立場を忘れて、ありのままの俺を出すことができたんだ。もしかしたら、Aqoursの中で一番自分の素を出せたのはお前と一緒にいた時かもしれない。堅苦しい教育実習が充実したと思えた1つの理由が、お前がいてくれたからだ。ありがとう」

「だ、堕天使の気まぐれよ! このヨハネが下々の人間を助けることなんてこれっきりなんだから、盛大に感謝することね!」

「そうやって傲慢で強気なところも好きだよ、俺は」

「うっ……。アンタが素直だと調子狂うわよ本当に……」

 

 

 むしろこの状況で素直になれないとか、それこそマジのツンデレじゃねぇか……。しかし善子はこの状況でも堕天使キャラを貫くあたり、相当そのキャラに入れ込んでいるのだろう。それが彼女の魅力でもあるから、以前堕天使キャラを捨てようとした時に阻止して良かったと思っている。傲慢な中二病キャラだからこそ俺もありったけの素を出して接することができたので、これから俺たちの仲が進展したとしても、この関係だけは変わらないで欲しいな。

 

 

「次は果南だな」

「私、ですか……」

「あぁ。正直に言ってしまうと、俺から見たお前の最初の印象は、大人びてるけど素っ気ねぇ奴だなぁと思ってたよ。俺に対しても反応が薄いし、もしかして歓迎されてないのかもと心配になるくらいにな。だからわざわざお前の店に出向いたんだ、俺のことをどう思ってるのか知りたくて」

「それで着替えを覗く真似をしたと。なるほどなるほど……」

「あれは事故だ。それに今はどうだっていい。俺が言いたいのは、お前って意外と普通の女の子でビックリしたってことだよ。傍から見てみれば大人びてるけど内面は年相応で、好きな人に構ってもらえないからって嫉妬したりとか、その気持ちが抑えられず風呂場で誰かさんを襲ったりとかさ。そんなギャップのある女の子、俺は好きだよ」

「す、好きって……!! みんなに比べたら女の子っぽいところなんて全然……」

「可愛い子はそうやって謙遜するんだよなぁ~。お前もみんなに負けなくらい女の子なんだから、もっと自信を持て!」

「そ、そうですか……。先生の言葉だったら、信じてみてもいいかもです」

 

 

 善子やダイヤとはまた別の意味で素直じゃなかった果南だが、こうしたしおらしい対応を取るだけでもいかに俺に心を開いてくれているのかが分かるだろう。

 出会った頃は何をしても顔色1つ変えなかったので、もしかして男に興味のないマジ物のレズ女かと思い込んでいた時期もあった。だけど蓋を開けてみればそうではなく、ちゃんと男に恋をして周りの子に嫉妬までするような典型的な思春期乙女だったって訳だ。

 あとは謙遜し過ぎないほどの自信を持つことができれば、面倒見が良いお姉さんキャラに加えて恋する思春期乙女という、まるでアニメや漫画のキャラ特性を兼ね備えた最強女子になれるはずだ。

 

 

「次はダイヤ」

「はい、い、いつでもどうぞ!!」

「姉妹揃って身構えすぎだって……。まあお前の何事も警戒しすぎる性格は良くも悪くもあるけど、その誠実さだけはずっと忘れないで欲しいよ。お前って堅そうに見えて案外子供っぽく暴走するから、そこだけが心配だな」

「他の皆さんには心に響く言葉を伝えていたのに、私だけは馬鹿にしてます……?」

「ちげぇよ。むしろ真面目な時はどっしりと、遊ぶ時にはゆるりと構えるその二面性がお前の魅力なんだって。しっかりとオンオフの切り替えができるお前だからこそ、今のAqoursを引っ張って行けているんだと思う。リーダーは千歌だけど、時には厳しく時には優しいお前の指導があったからこそ、Aqoursはここまでやってこれたんじゃないかな」

「そ、そんなこと……考えたこともありませんでした」

 

 

 だろうな、ダイヤにとっては当たり前のことを当たり前にしてきただけだろうから。だけど本人にとっては何気ないことでも、他人から見れば感謝すべきことの可能性もある訳で、ダイヤが率先してAqoursの指導をしているのは千歌たちにとっても大助かりのはずだ。そして、そんな真面目ちゃんの中にもたまにポンコツ要素が混じるからこそ尚更可愛く見える。果南は違った表裏の二面性だが、それも彼女にしかない魅力の1つだろう。

 

 

「最後は鞠莉」

「もうっ、待ちくたびれたぞぉ!」

「俺の言いたかったのはまさにそれだ。この場でおちゃらけたノリでいられるのが凄いよ。お前はいつもみんなのムードメーカーで、同じくらいトラブルメーカーな時もあったけど、ただ騒ぎ立てているだけじゃないんだよな。しっかりとみんなを観察して、悩みがあれば親身になって聞く。曜が言ってたぞ、2人きりで相談に乗ってくれたことがあるって。その優しさで、俺が抜ける穴を埋めてくれると助かるよ。まあお前なら言われなくてもできると思うけど」

「O、Oh……平気を装うつもりだったけど、先生に素直に褒められると案外恥ずかしいねこれ……」

「俺だって伊達に顧問をやっていた訳じゃないからな。ご所望ならもっと言ってやるぞ」

「今言われたら恥ずかしさで爆発しちゃうかも……。それはまた再会した時に聞かせてもらおうかな」

 

 

 これは徹底的に褒め殺して、羞恥に侵食されつつあるその顔を更に染め上げてやりたい。ムードメーカーでありつつみんなのお姉さんポジションにいる彼女だが、ホテルでの一件を思い出せば分かる通り、想いの人をドキドキさせられるか悩むくらいには年相応の女の子だ。果南と同じく、大人っぽく見える子に限って内面はみんな子供っぽいんだよな。そういうところが可愛いんだけど。

 

 そして、これで9人それぞれに言いたいことは全て言い終わった。1人1人の顔を見るだけでその子との思い出が勝手に浮かび上がってくるくらいには、千歌たちの存在そのものが印象に残っている。誰1人としてキャラが潰れることがなく個性的で、それでいて9つの光が競い合うように、そして手を取り合って同調するように輝いている。もう俺がいなくても、彼女たちは自分たちの力で自らを輝かせることができるだろう。それに、俺がまだ引き出せていない彼女たちの魅力が絶対にあるはずだ。いつか自分たちでその魅力を開花させ、再び俺の前に現れる時を楽しみにしているよ。

 

 

 さて、本番の本番はここからだ。

 恐らく千歌たちが俺の口から一番聞きたかったであろう言葉。彼女たちの本気の想いを受け取った俺が、今度はこちらからお返しする番だ。千歌たちも場の空気を察したのか、さっきよりも一層畏まり息を呑む。

 

 

「3つ目。これが今の俺がお前たちに贈ることのできる、最後の言葉だ」

 

 

 そう、俺と千歌たちの()()関係の集大成。嘘もなければ偽りもなく、同情もなければ慈悲などもない、俺の本当の想いをみんなに伝える時が来たんだ。

 今、千歌たちはどんな気持ちなんだろうか。遂に想いの人からの返事が聞けるという期待か。もしくは告白を拒否されるかもしれないという緊張か。それか、あまりに空気が張り詰めていてただ目の前の俺を見つめることしかできないのかもしれない。なんにせよ、俺の気持ちは相手の気持ちに揺さぶられはしない。例えみんなが悲しそうな顔をしようとも、俺は自分の本心をそのまま伝える。それが告白された者の使命であり、そして俺の生き様でもある。

 確かに女の子の笑顔は好きで悲しい顔は見たくないのだが、だからと言って本心を偽ってしまっては彼女たちに申し訳ない。本心を隠し続けて嘘を付いた先に見られる笑顔なんて、それこそ作り物の笑顔だ。俺が見たいのは女の子の自然な笑顔であって、こちらが誘導して作らせた笑顔ではない。とりあえず好きだと言っておけば騙せるかもしれないが、それでは相手を満足させるだけで自分は満足できない。つまり、俺が求めているのは自分も女の子も心の底から笑顔でいられる関係。単純な考えかもしれないけど、5年前からずっと一貫させてきた己のスタンスを崩すつもりはない。

 

 だから、嘘もなければ偽りもなく、同情もなければ慈悲などもない。その本心を9人に伝えるんだ。

 

 

「ぶっちゃけ結論から言わせてもらう。お前たちと――――――まだこれ以上の関係にはなれない」

 

 

 その瞬間、千歌たちの顔色が曇った。

 そりゃそうだ、女の子好きの俺からそんな言葉が出てくるとは想像してなかっただろうから。この決心をした時からこの展開になるのは分かっていて、だからこそ事前に覚悟を決めていたんだ。

 

 でも、みんなは1つ聞き逃している。恐らく俺の言葉が否定的だったからそっちにインプレッションを感じてしまったのだろうが、その感情を覆す重要なキーワードが混じっていたんだぞ。みんなの様子を見る限り気付いた様子は一切ないので、俺から言ってやらないと彼女たちはどんどん絶望の淵に追い込まれていくだろう。早とちりしたコイツらが悪いんだけど、仕方ねぇから救ってやるか。

 

 

「言っておくけど、"まだ"だからな。今の俺とお前たちの関係では、ここまでが限度だってことだ」

 

 

 千歌たちはようやく言葉の意味が分かったのか、ハッとした表情で再び俺の話に耳を傾ける。そして、俺の告白が思ったより厳しいものだと分かったためか、本人たちはこれまでよりも一層気を引き締めているようだった。

 

 

「単刀直入に言えば、お前たちのことが好きだ。教師として教え子が可愛いとか、そんな上下関係なんかじゃない。単純にお前たちを女の子として見て、そして惹かれたんだ」

 

 

 教師と生徒との壁は確かに感じることはあった。また複数の女の子を同時に好きになったのかと思う時もあった。だけど、俺たちは社会が作り上げた制約なんかには縛られない、もっと高度な次元にいる。そもそもの話、μ'sと多種多様な関係になっている俺にとって、教師や生徒の関係やら複数の女の子やらで悩む必要なんて最初からなかったんだ。自分がどのような立場にいようとも、相手が何人であろうとも、好きになったのなら人生を共にすればいい。女の子全員を悲しませず、みんなが笑顔で歩んでいける方法。俺にはその方法を取り、そして実現する力がある。

 

 女たらしだと言われてもいい。最低だって思われてもいい。俺は彼女たちを幸せにできる一番の方法を選択しているだけだ。彼女たちを笑顔に出来るのなら、周りに何を言われたっていい。むしろ周りを納得させるくらい、彼女たちを幸せにするまでだ。

 

 

「1人1人のどこが好きになったのかは、さっき伝えた通りだ。本当はお前たちが告白してくるよりも先に伝えたかったんだけど、俺はやっぱり想いを受け取ってから返す方が性に合ってる。それだけお前たちを待たせちゃったけど、逆にそれだけ自分の素直な気持ちを隅々まで伝えることができたと思う」

 

 

 毎回毎回女の子から先に告白をされているので、自分でも情けないと思う気持ちはある。しかし、心の整理もつかないまま焦り半分で告白しても、それは俺の本当の想いじゃない。だから返事に時間が掛かってしまうのは先延ばしにしているからではなく、女の子のことを考えているからこそなのだ。

 

 

「こうして想いは伝えたけど、裏を返せばまだそれだけなんだ。今の俺とお前たちでは、これ以上の関係に発展することはできないと思う。教師と生徒だからではなく、俺がお前たちから感じる光がまだ足りないんだ。もちろん1人1人の魅力は素晴らしいよ。だけど、まだ届いてない」

 

 

 ここで千歌たちの顔を見ると、心配そうな表情をしているのは想像でも明らかであるため、彼女たちの方を向きつつもその表情を目に映らないようにする。千歌たちの悲しそうな顔を見ると、もしかしたら俺が耐えられなくなるかもしれないから。それでも、本心だけはしっかりと伝えるつもりだ。

 

 

「個々人の魅力は十分に分かってる。俺がお前たちを好きになった理由の1つもそれだから。でもあともう1つ、今度はAqoursとしてのみんなを見せて欲しい。今まで以上に舞台の上で輝いて、スクールアイドルにさほど興味のない俺を夢中にさせるようなAqoursを見せてもらいたいんだ。1人1人でも輝いて、そして9人としても輝ける。そんなお前たちを、俺は見たい」

 

 

 女の子の笑顔も大好きだが、それと同じくらい人と人の繋がりを大切にしているのが俺だ。

 5年前、元μ'sの9人が病みに病んだ時があった。結果その事態はハッピーエンドで終息したのだが、その鍵となったのがμ's同士の絆だ。絶望の連鎖が続いていた当時の状況においても、彼女たちはそれぞれメンバーのことを信じて病みに病んだメンバーを救おうとした。そんな強くて、そして相手を思いやる暖かい心があったからこそ、あの事態はハッピーエンドを迎えられたんだと思っている。

 

 

「何度も言うが、俺はお前たちのことが大好きだ。でも俺がお前たち1人1人ことを好きなだけで、みんながお互いのことをどう思っているかまでは分からない。自分たちの仲が悪いなんて絶対にありえないと思うか? だが現実は非情な時もある。俺が数年前に体験した事件だってそうだった。昨日までお互い笑顔で談笑してたんだぞ? 想像できるかよ、お互いを憎み合って傷付け合うなんてさ」

 

 

 人間関係は脆く、一度亀裂が入ったら最後、復旧するには相当な時間が掛かる。俺は彼女たちが好きだからこそそんなことにはなって欲しくない。俺が不甲斐ないせいで、またあの時と同様の事件が起こるのだけは避けなければならない。

 だから、彼女たちには今以上に強くなってもらいたいんだ。スクールアイドルで各々の魅力を磨き、そしてグループで一丸となって舞台に立つ。俺が見たいのは、今よりも更に大人になった千歌たちだ。

 

 

「とは言っても、衝突しないグループなんて存在しないよ。だからぶつかり合う時はとことんぶつかり合え。大丈夫、それは憎しみじゃない、成長だ。お互いがお互いを高め合う方法なんていくらでもあるからな。そしてより魅力的になったAqoursを、またいつか俺に見せてくれ。その時に迎えに行くから、絶対に」

 

 

 いつもは女の子側から告白されるまであまり動かなかった俺だが、今度は自分からみんなを迎えに行く。多分俺がそう決心したのは、そこまで遠くない未来を見通せていたからだろう。そう、彼女たちが今よりも一回りも二回りも成長して、『ラブライブ!』という大舞台に上がってくることを。

 

 そして、千歌たちは目を見開いた。もしかしたら彼女たちも同じ想像をしていたのかもしれない。顔立ちが誠実になったことから、9人はそれぞれ未来へ託す誓いと想いを秘め、1つの決心をしたようだ。

 

 

「俺からは以上。期待外れの告白だったかもしれないけど、俺なりに考え抜いた結果だ」

 

 

 だが、期待外れと考えていること自体が期待外れだった。

 見れば千歌たちは優しい笑みを向けており、俺の言葉にむしろ奮い立っているようだ。自分の魅力を上げること、グループとしてより輝くこと、そして俺とまた出会うこと、あらゆる思いが1つになって、彼女たちの高揚へと昇華している。ここまで俺の想いを受け取ることができたのなら、もはや俺が顧問をする必要はないだろう。つまり、俺の役目はもう終わったんだ。

 

 言い残すことも思い残すこともない。俺は彼女たちの間を通り抜け、屋上の出口に向かって歩を進める。

 お別れだ、みんな。

 

 

 

 

「先生!!」

 

「――――!?」

 

 

 その時、後ろから千歌の声が聞こえてきた。

 もうこのまま立ち去ろうと思っていたのだが、その声に釣られて立ち止まり、後ろを振り返る。するといつの間にか、左から2年生、1年生、3年生の順番で一列に並んでいた。

 

 

「私、おっちょこちょいでドジですけど、持ち前の元気で突っ走っちゃおうと思います! 先生に言われた通り、自分の心に素直になって!」

「私との秘密の共有はまだ続いていますから、これから未来永劫一生共有していただきます。なので今度会った時でも絶対に忘れたとは言わせません!!」

「私もみんなみたいに、もっと自分に自信を持ってみようと思います。そして次に出会った時には、今とは見違えるくらいの私を、先生に見せつけます!!」

 

「マルも自分の長所を磨いて、今よりも舞台で輝いて、そして先生を魅了するくらいのスクールアイドルになるずら!」

「ル、ルビィはもっと積極的になって、自分をアピールしていこうと思います! 花丸ちゃんと一緒で、先生を圧倒するくらいに!!」

「仕方ないから乗ってあげるわ、アンタの思惑にね。でもまた出会った時に、成長したヨハネの魅惑に取り憑かれないことね、フフッ」

 

「私は自分自身にもそこまで興味がなかったのですが、先生に見つけてもらった自分の魅力を伸ばして、そしてAqoursを強固な絆で結びつけるために、しっかりとみんなを見守っていこうと思います」

「先生から教わったこと、この心にしかと刻み込みました。今度会った時には、その欲に染まっている心を浄化するほどの清純なスクールアイドルとして、先生の前に現れますのでご覚悟を」

「私は1人の女の子として、そしてAqoursの1人として、先生の目が眩んでしまうほどシャイニーに輝くから、そのつもりでね♪」

 

 

 これだよ、これだから別れが寂しくなっちまう。

 いい子たちで、可愛い子たちで、騒がしい子たちで、手の焼ける子たちで、大好きな子たち。また会えると分かっていても、ここまで別れが惜しいのは生まれて初めてだ。もっと一緒にいたいけど、もう決めたこと。今度会う時は、彼女たちがより一層魅力的になった時だ。その時は鞠莉の言った通り、本当に目が眩んでしまうかもな。

 

 そこで、千歌たちは一列に並んだまま手を繋ぎあった。お互いに目を配らせて呼吸を合わせ、一斉にこちらを見た。そして、千歌の合図でお辞儀と同時に声を上げた。

 

 

 

 

「「「「「「「「「先生! 3週間、ありがとうございました!!」」」」」」」」」

 

 

 

 

 ありがとうなんて言われ慣れている言葉だけど、今日ばかりは言葉の重みが違う。ここまで心に響く感謝の気持ちは久しぶりだ。それだけ千歌たちの想いが込められている、ということだろう。将来、みんながどのように成長して俺の前に現れるのか、とても楽しみだ。

 

 だから今は、暫しのお別れ。

 

 俺は何も言わず彼女たちに笑みを向けると、屋上のドアに手を掛けた。

 そして俺は、もう一度彼女たちへと振り返る。

 

 

 俺の願いは2つ。

 

 

 これからもみんなが、ずっと変わらぬ笑顔でいられますように。

 

 

 そして、またお互いに笑顔で出会えますように。

 

 

 だから、その時まで――――――

 

 

 

 

「またな!」

 

 




 これにてAqours編は完結となります。全58話とμ's編よりも短い話数ではありましたが、応援してくださった読者の皆さん、本当にありがとうございました!

 思えばAqours編の最初は千歌たちの描写にそこそこ苦戦しており、μ's編の途中で特別編として彼女たちを登場させ描写の練習をしていたものの、結局Aqours編の最初の方では彼女たちに馴染めなかったです。
 ですが、やはり零君と仲良くなっていけばいくほど彼女たちは私の想像内でもイキイキと動き始め、いつの間にかμ'sと同じくらい魅力的なキャラとして確立しました。
 μ'sとAqoursでキャラの差を比べている人たちがいますが、私にしてみれば比べる必要もないくらい全員が可愛く、誰か1人でもないがしろにしたら『新日常』はここまでの完成度にはなっていなかったと思います。
 私はストーリーを主軸にするのではなく、徹底的にキャラを可愛く描くことに重きを置いていたのですが、読者の皆さんはどう感じたでしょうか? この小説を読んで、今まで見向きもしなかったキャラを少しでも可愛いなぁと思ってくださると嬉しいです。そもそもサンシャイン自体をそれほど好きじゃなかった人に、ちょっとでも興味を持ってもらえれば更に幸いです。


 小説の評価に関して、これまで高評価をくださった方には多大なる感謝を。
 ハーメルンでサンシャイン小説の数自体は増えてきましたが、この小説が評価から何まで首位を走り続けてこられたのも、皆さんが応援してくださったおかげだと思います。無印ラブライブのキャラもサンシャインのキャラも、この小説はどの小説よりも可愛く描けている自信があるので、またあのキャラの可愛い姿が見たいと思った際には、是非この小説を読み返してみてください。

 また、これまでAqours編に感想をくださった方にも感謝を。Aqours編でいただいた感想を累計すると600件近くはあるので、それだけ皆さんお声を掛けてもらったと思うと感無量です。もちろん読んでくださるだけでも嬉しいですが、評価や感想をいただけるのはもっと嬉しくてモチベに繋がっていたので、読者の皆さんとこの小説を作り上げていったと言っても過言ではないかもしれません。


 さて、気になっている人が多いと思われる続編に関してですが、まだ何かしらの形でラブライブの小説を続けていこうとは思っています。今の段階では予告することすらできないほど内容を考えていないので、次作、またはこの小説の続編の内容が決まり次第、活動報告で宣伝するつもりです。
もちろんいつ宣伝するのかは未定なので、予告編を知りたい方は私のハーメルンのアカウントをユーザー登録しておくといいかも……と、最後にそちらの宣伝もしておきます(笑)


 長くなりましたので、ここで幕引きとします。
 μ's編から続いて読んでくださった方も、Aqours編から読んでくださった方も、最終回だけ読んでくださった方も、皆さんありがとうございました!

 サンシャインの2期を楽しみにしつつ、また零君たちに会いに来てくださることも楽しみにしています!










 最後に1つ。



 ハーレムはいいぞ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スクールアイドルフェスティバル編
μ's Music Re:S.T.A.R.T


 大変お待たせしました!
 この話から新章である"スクールアイドルフェスティバル編"の開幕です!

 記念すべき第一話目はプロローグなのですが、やっぱりやってることはいつもと変わらないという……(笑)

 とにもかくにも、再びμ'sが主役になる新たなる日常、是非楽しんでいってください!


 

 今年は猛暑になる。

 毎年のように天気予報でそう報道されている気がするのは、俺の勘違いだろうか? もはや俺たちのような一般人にとって猛暑日(35度以上)とかどうかは関係なく、30度を超えた辺りから暑いものは暑い。外に出れば皮膚が焼けるような日光に晒され、拭いても拭いても流れ出す汗に全身が粘ついてしまう。そうやって生きているのが辛くなるような現実に直面するくらいなら、こうして冷房をガンガン効かせた部屋でダラダラとしているのが身体的にも精神的にも大変宜しい。

 

 と言うのも、俺の大学が夏休みに突入したからこそできるニート生活を満喫しているからだ。数週間前に浦の星女学院の教育実習から帰還し、そこから各種手続きや成果発表などをしている間にいつの間にか夏休みが訪れていた。その時は死ぬほど忙しかったのに、今となってはこうして平日の昼間からベッドで横になって冷房を直当たりする日々。もう一生この生活が続けばいいのにと、何故教育実習に行ったのかを問いただしたくなるくらいには社会不適合者となっていた。こんな姿、内浦にいるアイツらが見たら呆れかえるだろうなぁ……。

 

 こんなニート生活をしているからこそ、怒りの沸点が低くなることは自分でも自覚していた。

 ニート生活者が一番嫌う出来事はただ1つ、自分の日常生活が脅かされることだ。そして、俺は今まさにその危機に瀕していた。

 

 さっきから電マのような凄まじい勢いで俺の携帯が震えている。どうやら誰かが俺にメッセージを連続で送りつけているみたいだが、どう考えてもμ'sの誰かが俺を誘い出そうとしているに違いない。特にこの数週間は俺が教育実習から戻ってきた喜びからか、やたらμ'sの子たちに誘われることが多い。あんな美女美少女たちから引切り無しにデートのお誘いとか贅沢なことなのだが、今の俺はニートと同列の存在なんだ。わざわざ猛暑の中を歩きたくもないし、そもそも着替えるのすらも面倒なんだよ。だから諦めてくれ。

 

 …………とは女の子を無下に扱いすぎなので言えず、渋々携帯の画面を確認して連絡通知を覗き見る。メッセージを直接見てしまうと、既読通知が相手に伝わってしまうからな。もし急用じゃなかった場合、このままバックレる気満々だから。

 

 携帯の画面には、案の定メッセージ通知が羅列していた。

 それも、たった1人の連絡よって――――――

 

 

『穂乃果:家の前まできたよー!!』

 

『穂乃果:零くーん、寝てるのー?』

 

『穂乃果:零くんのことだから、どーせゴロゴロしてるだけでしょ? 早く家に入れてよーー!!』

 

 

 バレてる……。いや、もう5年もの付き合いになるんだから、俺の性格くらいはおバカな穂乃果でもお見通しか。分かっていたとしても、自分以外の人間からニート扱いされるのは無性に腹が立つ。この理不尽さこそがニートが最底辺と言われる所以だ。

 

 

『穂乃果:ポスト覗いたら、なんか手紙来てたよーー!!』

 

『穂乃果:大きい封筒だけど、何も書かれてないみたい。なんだろうねこれ??』

 

 

 オイ、なに人の家のポストを勝手に覗いてんだコイツは?! やることがないからって、堂々と人ん家のプライバシーを侵害するかね全く……。もうこのまま永遠に家の前で待たせてやろうかと思ってしまう。まあ、楓が買い物から帰ってくれば鉢合わせになるから、その選択は未遂になるんだけどさ。

 

 このまま穂乃果を放置して、また人の家を荒らされるのは勘弁願いたい。仕方ないので適当に着替えて、玄関先まで迎えに行くことにする。

 5年経っても笑顔で図々しいことをするのは高校時代と変わっておらず、その変化のなさを安心すべきなのか、それとも全然成長していないと危惧するべきなのか。ともかく、俺の今日は穂乃果の騒がしさで粉々に崩れ去ることが確定してしまった。また余計なことに巻き込まれなきゃいいんだけどなぁ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「さむっ!! 外が暑すぎるのは分かるけど、それにしても寒くないこの部屋!?」

「ニートの適正温度だ」

 

 

 俺の部屋に上がり込んだ穂乃果の第一声がそれだった。どうせ玄関先で灼熱地獄を味わっているだろうから冷房を更に強くしてやったのに、蓋を開けば寒いと言い出すなんてとんだワガママちゃんだ。それに俺からしてみればこの温度で部屋にいることが日常となっているため、身体が贅沢に順応してしまっている。順応と言うよりも、温度感覚が麻痺していると言った方が正しいのかもしれないが……。

 

 

「21度って、零君完全に環境汚染物質になっちゃってるよ!? ストップ温暖化!!」

「大衆の世論に同調しているようでは、いつまで経ってもモブキャラの一員だぞ。もっとビッグになれよ」

「それはただの変人って言うんだよ……」

「お前にだけは言われたくないけどな。それに、俺が世界なんだ。俺がこの世界そのものであり、真理であり、理でもあり――――」

「あーはいはい、零君すごいねー。ニート生活してるくせに、よく言えたもんだねー」

「…………」

 

 

 それを言われるとぐぅの音も出ない悔しさが込み上げる。他の誰に馬鹿にされてもいいが、穂乃果に馬鹿にされると人生をやり直したくなるレベルでダメージが半端ない。今でもちょくちょく穂むらのレジ番をサボってる話、高坂家に居候をしていた楓から聞いて知ってんだぞこっちは。そんな奴にニートを咎めて欲しくはねぇな全く。

 

 

「教育実習から帰ってきた零君は大人っぽくなってカッコ良かったのに、どうしてこうなっちゃったかなぁ~」

「人間は誰しも変わるもんなんだよ。高校時代と何も変わってないお前は別だけど」

「変わってるもん! 零君と同じ大学に入れるくらいは頭も良くなったし、おっぱいも大きくなったし!」

「それはまぁ……俺のおかげだろ、どっちもな」

 

 

 高校時代の穂乃果が今の大学に入るには圧倒的に学力が足りなかった。だが、この俺の英才教育のおかげで、あの頃とは比べ物にならない学力を手にしたのが今の彼女である。正直、おバカな穂乃果は穂乃果じゃないって言う人もいるかもしれないが安心して欲しい。こんなクソ暑い日に律儀に家の前で待ち、何の悪びもなく人の家のポストを漁るような奴だ。これをおバカと言わずに何と言う。良くも悪くも5年前と変わってないんだよ、コイツは。

 

 

「もうただでさえ汗ダラダラなのに、大声出したら余計に汗かいちゃうよ……」

「だったらシャワーでも浴びてこい。服は楓のモノを適当に借りればいいから」

「しゃ、シャワーって……!? さ、誘ってる??」

「ない」

 

 

 こんな真昼間からおっぱじめるなんてどこの盛った獣だよ。女の子とやるのは、夜中のムードが漂っているベッドの上と決めてるんだ。その場の思いつきでズッコンバッコンしてたら、女の子の数的に俺の身体が持たなくなるぞ。仮に1日1人でローテーションを回していったとしても、一回りするのに20日以上経過するほどには俺の周りに女の子が多い。それだけ期間が開けば女の子たちから不満が出るし、そもそも俺がグロッキーになる可能性が高い。エロ同人の主人公みたいに、白濁液をシャワーのように振りまくほどの精量は持ち合わせていないもんでね……。

 

 

「あーあ、零君変わっちゃったよねぇ~。教育実習で大人になったのかは知らないけど、以前の零君だったら女の子にもっと見境なかったのに。Aqoursの子たちでそんなに満足できちゃったの、その性欲?」

「アイツらをそんな目では見てない。まあ満足できたかと言われれば…………うん」

「な、なにその間!? もしかして、もう全員食べちゃったとか!?」

「それだけはない!! ていうか、教師が生徒を食った時点で社会的に抹殺されるから!!」

 

 

 とは言いつつも、バスやホテルや自室などでご奉仕された記憶はまだ新しい。勘違いしないで欲しいのは、俺からやれと命令したのではなく、彼女たちが自主的に俺の性欲を処理してくれたのだ。つまり、俺は一切手を出していない。一部バスの中では色魔沙汰があったが、あの出来事は俺のシマではノーカンだから。

 

 

「いいから、とっととシャワー浴びてこい。これ以上俺の部屋に汗を撒き散らすなよ」

「普段は女の子の汗をしゃぶってみたいとか思ってるくせにぃ~」

「うるせぇな。男なんだから、多少の奇行は仕方ねぇだろ」

「前言撤回するよ。穂乃果もそうだけど、やっぱ零君も変わってないねぇ~」

 

 

 なんだろう、Aqoursと一緒にいる時は教師という立場上からか、人生の先輩として品行方正に振舞うことが多かった。でもこうして穂乃果と話してみるとどうだ? まるで高校時代に戻ったかのようなノリの会話で、この懐かしくも日常的なやり取りこそ東京に帰ってきたんだと実感できる。自分自身、教育実習を終えて精神的に一回り成長したと思っていたのだが、どうもμ'sの連中と話す時は子供の頃のノリに戻っちまう。それだけ穂乃果たちと心の奥で通じ合っているということで、納得しておいてやろう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「それで? その封筒の中身って何だったの?」

 

 

 シャワーから上がった穂乃果は、ベッドに腰を掛ける俺の隣に堂々と腰を降ろした。

 そんなに近づかれるとシャンプーの香りと女の子の香りのミックスフレーバーが漂ってきて、いらぬ欲求が湧き上がりそうになる。しかもさっきまで適当なTシャツとホットパンツだった穂乃果だが、シャワー上がりの着替えでオシャレ好きの楓の服を借りているため、見た目的にも女子力が増している。つまり、彼女の存在そのものが男を萌え殺す殺戮兵器と化しているのだ。そんな姿を眼前に晒されたら、封筒のことなんてどうでもよくなっちまうよ……。

 

 だが、多少なりとも気になる点はある。

 まず差出人が書かれていない。それどころか俺の家の住所も記載されておらず、切手も貼られていない。つまり封筒の両面は"無"であり、下手な勧誘のチラシよりも怪しく見えた。大きさはそこそこで、中に何が入っているのかは知らないが、普通の郵便物に比べると少し重量感がある。

 

 

「宛先も宛名も書かれてなくて、切手も貼られていないってことは、誰かがわざわざ俺の家に出向いてポストに投函したってことだ」

「えっ、何のために??」

「さぁな。とりあえず開けてみるか」

 

 

 このまま外見を見て怪しんでいても話は進まない。

 俺は自分の机からハサミを取り出し、中に入っている書類のようなモノを切らないよう慎重に封筒の上部を切り取る。そして中身を取り出すために少し切り口を傾けると、カードのようなモノが雪崩のように飛び出してきた。

 

 

「や、やべっ!」

「あ~もう零君ったら……って、あれ?」

 

 

 穂乃果は雪崩落ちたカードを1枚拾い上げる。そのカードはラミネート加工が施してあり、明るい電気が照らす部屋の中でも一際輝いていた。彼女はそのカードに記されているらしい文字を目で追いながら口ずさむ。

 

 

「スクールアイドルフェスティバルの……招待状?」

 

 

 聞きなれない単語だった。名前から察するに、スクールアイドルに関連する祭りのようなものだろうか。もちろん封筒に入っていたのはカードだけではないので、真相を確かめるためにも同梱されていた複数の書類から概要が記されている資料を取り出して、声を出しながら読み込んでみる。

 

 

「スクールアイドルフェスティバル。通称"スクフェス"。その名の通り、スクールアイドルのためのスクールアイドルが織り成す過去最大級のお祭りです――――だってさ」

「へぇ~面白そう! 歌ったり踊ったりできるの?」

「書類に書かれている情報だと、『ラブライブ!』みたいに競い合ったり、逆に他のスクールアイドルたちとコラボする企画もあるみたいだぞ」

「すごいっ! それじゃあA-RISEやAqoursのみんなと一緒のステージに立てるかもってことだよね!?」

「まあソイツらにも同じ招待状が届いているんなら、その可能性はあるかもな」

 

 

 ここ数週間は教育実習後の活動で忙しかったから、スクールアイドル界隈の情報には疎かった。携帯で改めてスクフェスについて調べてみると、まだそこまで大々的には宣伝していないものの、計画としては候補に挙がっていたみたいだ。どうやら実力関係なく全国からスクールアイドルを集めて、一世一代の祭りを開きたいらしい。要約してしまえば、スクールアイドルのどんちゃん騒ぎって訳だ。

 

 そして、もう既にやる気に満ち溢れているスクールアイドルがここに1人。

 

 

「久しぶりにμ'sとしてステージに上がれる日が来るなんて……。う~~~っ、テンション上がってきたァあああああああああああああ!!」

「ちょっ、嬉しいのは分かるけど耳元で騒ぐな。それにμ'sはもう解散してるんだぞ? メンバーはどうやって集めんだよ?」

「あっ……。それはぁ……み、みんないい子だから、アハハ」

「いい子って、子供をあやすんじゃねぇんだぞ……」

「心配しなくても大丈夫! みんなμ'sとして、もう一度ステージに上がりたいと思ってるから! それほどまでにμ'sの絆は堅いんだよ!!」

 

 

 相変わらず勢いとやる気だけは一丁前だなコイツ。しかし今やμ'sのメンバーはほとんどが大学生であり、中には社会人の子もいる現状だ。更にμ'sは12人体勢であり、それだけの人数を集めようと思ったら骨が折れるどころの話ではない。全員今も連絡を取り合う仲なので会って話をするだけなら簡単だろうが、そこから先の道が俺には全く見通せなかった。確かにμ'sの絆が強固なのは分かるが、それとこれとは話が別のような気もする。まあ穂乃果のカリスマ性があれば、なんだかんだしてる間にメンバーが揃ってそうではあるけどな。

 

 

「さて、どうやってみんなを勧誘しようかなぁ~? この感覚、高校2年生の春を思い出しちゃうよ。みんなをどうやって言いくるめて、メンバーに加えるかを画策しているあの頃をね……フフッ」

「お前そんなこと考えてたのかよ……」

「冗談だよ冗談♪ あの時は廃校が間近に迫ってたせいで必死だったんだから」

 

 

 今思えば、半年という短い期間でスクールアイドルを結成して、しかも廃校を防ぐほどの知名度に上り詰めたμ'sの勢いは凄まじいものだった。穂乃果のスクールアイドルをやりたいという真剣な気持ちと、純粋な想いが招いた結果だろう。そんな彼女がまたμ'sを結成して、そしてステージに上がりたいと決心しているんだ。もしかしたらまたデカい花火を盛大に打ち上げてくれるかもしれない。

 

 

「そうだ! 零君からみんなに頼んでくれれば、絶対に12人揃うと思うんだよね。特にことりちゃんは二つ返事どころか、話題を切り出すだけでOK貰えそうだし!」

「人任せいいのかよお前……。μ'sの絆とやらはどうした?」

「今更確かめなくても、穂乃果たちは繋がっているんだよ! 変な意味じゃなくてね♪」

「最後のがなければいい話だったのに……」

 

 

 意外に思うかもしれないが、穂乃果はそこまで深い性知識を持っている訳ではない。ただ周りに影響されているだけの素人変態であり、本人自身も自分がμ'sの中では危ないグループに属しているとは思っていないだろう。だからこそ会話の端々に漏れ出す罪のない淫猥発言を、強く咎めることができないのだが。

 

 話を戻すが、穂乃果より俺が誘った方がみんなを誘いやすいという考えは確かに利口ではある。でも俺がμ's再結成の情熱を伝えるよりも、今まさにヒートアップして燃え滾っている穂乃果が伝えた方が100倍気持ちが伝わるだろう。ていうか、そうでなければ意味がない。

 

 

「それで? どうやってアイツらを引き入れるつもりだ?」

「う~ん……電話とかでもいいんだけど、やっぱここは穂乃果の情熱を真っ向から伝えたいんだよね。だからみんなに直接会ってみるよ!」

「そうか、頑張れよ」

「えっ? 零君も来るんだよ??」

「はぁ!? どうして俺がこんなクソ暑い中、お前がアイツらに媚びる姿を見なきゃいけねぇんだ」

「それ、穂乃果が悪いことしてるみたいじゃん……。そうじゃなくて、せっかくの2人きりなんだし……ね?」

 

 

 急に女の子らしい態度になりやがったな穂乃果の奴。まあ元から女子っぽいと言えば女子っぽいけど、頬を紅くしてしおらしい様子を見せると一気に清楚さが増す。千歌の時も言ったけど、普段子供のように無邪気な子が色気付くと、そのギャップのせいで萌え度が数割増になる。俺もまさかこのタイミングでデートに誘われるとは思ってなかったから、一瞬呆気に取られてしまった。

 

 そして何故か、お互いに見つめ合う。スクフェスの話題からどうしてこんな展開になったのか、その過程が全く掴めない。穂乃果の純粋で綺麗な瞳に捕らわれ、思わず吸い込まれそうになる。

 俺が教育実習から戻ってきた時、穂乃果は満面の笑顔で大喜びしていた。それだけ俺が帰ってきたのが嬉しくて、そして離れ離れになっていたことが寂しかったのだろう。だからこそ、いつもは強引に遊びに誘ってくる彼女がここまでしおらしくなっているのかもしれない。ただ出かけるだけなのに、こうしてムードが漂ってるって相当なことだから……。

 

 

 そして、気付いた時には穂乃果の両肩を掴んで、彼女をベッドに押し倒していた。穂乃果は驚いた様子で俺を見つめていたが、まもなく何かを悟った笑みを浮かべる。

 

 

「やっぱり、何も変わってないね」

「俺は今の俺が大好きなんだ。だから変えるつもりなんてねぇよ。一生女の子に囲まれた、贅沢な生活するためにもな」

「その欲望全開の言葉を聞くと、本当に零君が戻ってきたんだって実感できるよ♪」

 

 

 教育実習の間はこうして自分から女の子に手を出すなんて暴挙、できるはずもなかった。教師としての立場もあったし、そもそも出会って数週間の女の子を襲おうとは思わない。だからこそ、その時に溜まった鬱憤が今ここになって発散されようとしているのかもしれない。無意識の内に女の子を押して倒してしまうなんて、まともな精神を持っていたらまず起こすことのない行為だ。

 相手が穂乃果だから気兼ねなくという考えが俺の中で密かにあるのかもしれないが、それはそれでまともな精神ではない。もうここ数年で大人の階段を駆け上り過ぎて、女の子(しかもスクールアイドル)と交わることに何ら抵抗も珍しさも感じなくなっている。これには幾多の女性を股に掛けてきた光源氏もビックリだろう。

 

 そのような感覚麻痺に陥っているせいか、このままいつも通り穂乃果を攻めても味気ないと、贅沢な悩みを抱くまでになってしまった。風呂上がりで自慢のサイドポニーすらも解かれた穂乃果は、ベッドに髪を広げながら仰向けとなっている。そんな色気付いた彼女の魅惑を更に際立たせているのが、捲れ上がったシャツから覗かせる腹部。厳密に言えばヘソの辺りだった。

 

 既に女の子の裸体なんて目が枯れ果てるほど拝んでいるのだが、こうして肌が少し垣間見える方がどちらかと言えば色気が増す。服というベールに包まれているからこそ、チラッと見える白い肌に興奮できるのだ。パンツだってスカートを覗いて見るから至高なのであって、女の子自ら見せびらかすような真似をされたら興奮度は半減以下に落ち込んでしまう。それと同じ原理だ。

 

 穂乃果は頬をほんのりと紅く染めて、俺からの動きを待つ受身の体勢となっている。いい雰囲気になったし、今からしっぽりとされることを望んでいるのだろう。俺の意識が自分のヘソに向いていることなど考えもしていないはずだ。

 

 そんな油断している彼女のヘソに、俺は瞬時に顔を近付ける。

 そして、間髪入れずに舌でヘソの奥を弄り回した。

 

 

「ひゃっ、ああああんっ!!」

 

 

 穂乃果は未だかつて感じたことのない衝撃に腹部を震わせるが、俺が覆い被さっている以上逃げ出すことも舌による攻撃を避けることもできない。彼女の様子を見てみると、一体何をされたのか分からない困惑の表情で瞬きを繰り返していた。

 

 

「れ、零君、今何したの……?」

「ヘソ掃除」

「な゛……さっきシャワー浴びたから必要ないよ!!」

「どうかな? 風呂でも意識して洗わない部分だから、案外汚れてるかもよ」

「女の子のおへそを舐めておいて、汚いとか言うかなぁ普通……」

「俺が普通じゃないってことくらい分かってんだろ。それに、スクールアイドルフェスティバルに出場するんだから身体くらい綺麗にしておかないとな」

「だとしても舐める必要が――――あっ、んっ!!」

 

 

 ヘソを舌で犯され、逃げることもできない穂乃果は未知の快感(?)に身を任せるしかなかった。実際にヘソを舐められるプレイをされたことがないから、今のコイツにどのような衝撃が走っているのかは知らない。ただ今の俺は、明らかな変態プレイに何をやっているんだという疑問と、久々で楽しいという悦びが混じり合っていた。

 

 胸を弄ったり臀部を触ったり、肉壷を埋めたりする行為は俺も快楽を味わうことができるが、このヘソを舐めまわす変態行為はどの行為よりも女の子の可愛い反応を見るのにうってつけだ。普段とは違うプレイであり、自分でも他人からも弄られない場所を攻めるからこそ新鮮は反応。それこそが変態プレイの魅力だろう。

 

 

「しばらくアイドル活動もしてなかったから、今から大人の魅力を上げておくのも悪くない。もうお前も21歳なんだし、可愛さだけじゃなくて大人の魅力も振りまいていかないとな」

「もうっ! 本人の目の前で年齢をバラす普通!? 本当のことだけど、相変わらず女の子に対するデリカシーがなさすぎるよ零君は!!」

「だからこうして女としての魅力を上げる手伝いをしてやってるだろ」

「んっ、ああぁ……!! も、もうっ、喋りながら舐めないでよぉ……」

 

 

 穂乃果の顔が地味に蕩けているため、もしかしたら刺激の中の僅かな気持ちよさを感じているのかもしれない。潤った瞳で自分のヘソが犯されている様を見つめ、いざ刺激が走ると目を瞑って喘ぎ声を出す。もはや通常のプレイをしている時と反応に大差はないが、変態プレイだからこそ可愛く振舞ってくれるのがミソなんだ。こんな奇抜なプレイでも女の子を気持ちよくさせられるんだという、俺の無駄な自信に繋がるからな。

 

 ここまで敏感な反応をされると他の子たちにも試したくなる欲求が湧いて出るのだが、全員にヘソ舐めを仕掛けたら最後、変態プレイ趣向者と世にも不名誉な汚名を着せられるので今回ばかりにしておく。実際に女の子にヘソ舐めして回る男がいたら……いや、想像するだけでドン引きするからこの話題はやめよう。そして、そろそろ穂乃果の堪忍袋の緒も切れそうなので舐めるのもやめてやろう。

 

 やっぱりAqoursのみんなと違って反応が段違いなのには、長年仕込み続けてきたおかげか。μ'sにやってみたい変態プレイがあったら、俺にメールを寄越せば実行してやらなくもないぞ?

 

 

「全く、教育実習で余計に変態さんになっちゃってるよ零君。あっちの生徒さんたちが変態に染まってないか心配だよ……」

「お前だって押し倒されて、少しは期待してたんだろ?」

「そ、そんなことはどうでもいいの!! 今からみんなをμ'sに誘いに行く話だったでしょ!?」

「あぁ、そういえば……」

 

 

 完全にヘソに意識も話題も持って行かれて、肝心なことがすっかりと抜け落ちてしまった。届いた封筒も床に乱雑に落ちていることから、俺が穂乃果のヘソを舐めることに対して如何に魂を掛けていたのかが分かる。ロクでもないことでも、エロのためなら普段とは比類なき努力を発揮するのが男なんだよ。ほら、パソコンでエロ動画を探す時の行動力って凄まじいだろ? それと一緒だ。

 

 それはそれとして、いつの間にか俺も同行することになっているのは意義を申し立てていいのだろうか……? こんなクソ暑い日に外に出ることすら億劫なのだが、一度決めたら意思を曲げないのが穂乃果だ。それに、俺も気になるんだ。またμ'sが舞台の上で輝きを見せてくれるのか、その未来がな。

 

 それに、今後のμ'sの動向と共に、さっきふと疑問に思ったことも解決したかった。

 

 

「ほら、そうと決まれば着替えた着替えた!」

「分かったから、勝手に脱がすな!! 暇だったらそこの書類、全部コピーしておいてくれ」

「えっ、どうして?」

「重要な書類はコピーを取って、なくした時に備えるのが普通だろ。それに証拠としても残るしな」

「証拠?」

「それ、誰が送ってきたと思う? ご丁寧にわざわざ俺の家のポストに投函するくらいだ、何かあるんじゃないかと思ってさ」

 

 

 スクフェスの話題やヘソ舐めプレイで放置されていた疑問をここで広げてみる。

 スクフェスは大規模なお祭りだから、参加要請をするスクールアイドルたちには運営が公式に通達をするはずだ。だがμ'sはもう解散しており、参加不参加で悩む以前に再びグループを結成できるかも怪しい。

 それにだ、どうして封筒が俺の家に届いた? 届けるならμ'sのリーダーを努めていた穂乃果の家に送るのが一般的のはずだ。つまり、この封筒を投函した人物は神崎家の人間がμ'sの関係者だと知っていたことになる。まあ家には楓もいるから、運営に彼女のファンがいたらもしかしてって線はあるけど……。

 

 今のところはいくら考えても分からないので、穂乃果について行く過程で軽く探っていくとしよう。『ラブライブ!』を主催する企業が開く公式のイベントだから、心配はあまりしてないけど一応ね。

 

 

「それで? 最初は誰を誘うんだ?」

「一番チョロ……いや、スクールアイドルに思い入れが強い子を!!」

「さっき、心の闇が見えたような気がしたんだけど……」

「気のせいだよ気のせい♪ 強く誘えば断れないことりちゃんや花陽ちゃんから篭絡させようなんて、これっぽっちも思ってないから♪」

「その笑顔がこえぇよ……」

 

 

 しかし、確かに強く誘えば断れなさそうな子はチラホラと頭に浮かび上がる。逆にきっぱりと断って英断してくる子には、数で対抗するしか穂乃果に勝ち目はない。だから誘いやすい子から順番にってことなのか。ことりや花陽はいいとしても、無駄に頑固な真姫や雪穂はどう思うかねぇ……。

 

 

「でももうすぐで楓が帰ってくるだろうから、ことりたちよりも先に誘えばいいんじゃないか?」

「えぇ~……」

「あからさまに嫌そうな顔してんな……」

「だって楓ちゃんのことだから、素直に頷いてくれるはずがないって分かってるもん」

「あぁ、確かに」

「味方にすれば心強いけど、敵だったら穂乃果多分勝てないから……」

 

 

 2人の仲がいいのか悪いのか。雪穂の話では、楓が高坂家に居候していた時はそれはもう賑やかだったらしい。主に2人のやり取りが原因なのだが、お互いにボケとツッコミの役割を入れ替えながらの漫才っぷりで、息もピッタリだったと聞く。そんな親密な関係だからこそ、今更真面目な話題は振りにくいってのもあるのだろう。思えば、一番ウンと頷かなさそうなのは我が妹のような気がしてきたぞ……。

 

 

「よ~しっ!!μ'sの再結成に向けて、新しい日常の始まりだぁ!!」

「タイトルコールお疲れ」

「ん? 何のこと?」

「いや、何でもない……」

 

 

 メタい発言はさて置き、まさかμ'sが再結成しそうになる流れになるとは思っていなかった。そもそもμ'sという言葉自体が俺たちの中で風化されかけていた、まさにその時の出来事だ。みんなが今でもμ'sをどう思っているのか、また一時的だけでもいいから輝きたいと思っているのか、それは分からない。だが、穂乃果はやる気に満ち溢れている。5年前と同様に穂乃果がみんなをμ'sに誘う展開となり、少々懐かしさを覚えた。

 

 

 さて、また新たな伝説が生まれるのか、楽しみになってきたぞこれは!

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 まさかプロローグから主軸となる話の展開、謎の提示、ギャグ要素、ちょっぴりエロ要素を全てブチ込むとは私も思っていませんでした……。とにかく、いつもの日常であることには変わりないかと(笑)

 そんな訳で、この話からμ's編、Aqours編に続くスクフェス編として物語を展開していきます。メインにμ'sが復帰しますが、この小説のスクフェスが全国のスクールアイドルを集結させる触れ込みなので、他のスクールアイドルたちも登場させる予定です。公式では絶対に描けないキャラ達の絡みを描けたらいいなぁと思っています!


 次回以降はしばらく零君と穂乃果の仲間集めの旅となります。12人全員が集まらなかった場合この小説が打ち切りの恐怖に陥るので、穂乃果には頑張ってもらわないといけません(笑)


 それでは、新章もよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう淫乱バードとは呼ばせない

 ここからしばらくはメンバー集め回となります。
 まず1人目はサブタイから分かるようにあの子なのですが、遂に淫乱バードの汚名を払拭する時が……!?


 

「ことりちゃん、人生っていうのは何事も経験だと思うんだよ。挑戦意欲を失った人に、未来の道はない。そして道を失った者は社会から外れ、路頭に迷うホームレスみたいに空虚な人生を送るようになっちゃうの。ことりちゃんはそんな人生イヤでしょ? 自分で言うのもアレだけど、これまで穂乃果たちは相当勝ち組な人生を歩んできたんだよ!? だったら更なる勝ち組になるためにも、ここはまたμ'sに入るしかないよ!! ね? 空気をよく読めることりちゃんなら分かるでしょ?? よし、これでメンバー1人確保だね!」

 

「えぇっと……。とりあえず、顔近いよ穂乃果ちゃん……」

 

 

 スクールアイドルフェスティバル、通称"スクフェス"に参加するため、穂乃果のメンバー集めが始まった。

 既にμ'sは解散しているため、また1人ずつ加入させていかなければならない現状。彼女がまず目を付けたのはことりだ。本人曰く、幼馴染であるため誘いやすく、強い押しには抵抗できないかららしいのだが、動機の大半が不純であるのは黙っておいた方がいいのだろうか。

 

 しかし、初代μ's結成前も穂乃果が最初に誘ったのがことりであり、そして彼女が最初の加入者であった。だから穂乃果としても再加入の一番目はことりがいいと、思い出と共に純粋な気持ちを抱いているのかもしれない。

 

 まあいきなりことりの家に押しかけて、レズプレイを始めようかの如く部屋の隅に追い詰めている様子を見ると、そんな純粋さなど微塵も感じないのだが……。

 

 

「お前、よくそんな陳腐な交渉術でメンバー集めをしようって言えたもんだな」

「さっきのは序の口だよ! ここからことりちゃんが高い壷を買っちゃうような、巧みな交渉術を披露しちゃうから!」

「それ、ことりの前で言っちゃうんだ……」

 

 

 いくら勉学の成績が良くても、根本的なアホさは変わってないのが穂乃果の長所でもあり短所でもある。穂乃果の無茶にことりが圧倒される様子はいつものことだが、海未という制止役がいない今、コイツの勢いを止める奴は誰もいない。俺? 俺はメンバー集めには極力関わらないって決めてるから。μ'sの再結成は穂乃果がやってこそ意味があるのだ。

 

 

「ことりちゃん!」

「は、はいっ!」

「もしまたμ'sに入ってくれたら……ごにょごにょごにょ」

「えっ、嘘……!?」

 

 

 穂乃果は何やらことりに耳打ちをしている。さっきまで歪な交渉をしていたくせに、ことりの反応を見る限りでは今度こそまともな交渉をしているようだ。あの驚き具合は気になるが、これは穂乃果の読み通り、ことりをあっさりと引き入れることができそうだな。こうなってくると、ますます俺がついて行く必要がないと思うんだけど……。

 

 そんな感じで、テーブルに肘を着きながら彼女たちの誘い受けの様子をぼぉ~っと眺めていた。

 だがその時、ことりの眼が一瞬鋭く光ったのを見逃さなかった。飢えた獣のように、獲物を震え上がらせる目力を持った眼光。さっきまで穂乃果に押されっぱなしだったことりとは違う。唇をペロっと軽く舌舐りをし、妖艶な眼で俺を見つめる捕食者の顔。今まで幾度となく女の子に手を出してきた俺でも怯んでしまうくらいに、ことりの雰囲気は甘く色っぽく狂気的だった。

 

 そして、ことりは四つん這いで歩きながらこちらへ近付いてくる。高校時代よりも遥かに大人の色気が増した彼女が、そんな姿で歩み寄ってくる様だけでも息を呑んでしまう。豊満な胸の膨らみが、四つん這いになっていることで服の上からでも垂直に垂れているのが分かる。穂乃果に一体何を吹き込まれたのかは知らないが、いつものように淫乱魂を燃えに燃え上がらせているのがことりの様子から見て取れた。

 

 

 このままだと……逆レイプされる!!!!

 

 

「ねぇ零くん。本当なの……?」

「な、なにが……?」

「μ'sに入ったら、一日中零くんを好きにしていい権利を貰えるって、本当なの?」

「は、はぁ!?!?」

「何をしても抵抗しないって約束らしいよね? まあことりとしては零くんから手を出してもらう方が興奮するんだけど、お人形さんになった零くんをことりが好き勝手するのも、また一興だよね……♪」

 

 

 ちょっと間があった後の"♪"マークほど怖い語尾はない。四つん這いになったことりは俺の眼前にまで迫っており、クスクスと卑しい笑みを浮かべて俺の目をじっと見つめてくる。そのため、女性特有の艶っぽい不気味さをこれでもかというくらいに感じていた。

 

 しかし今はことりよりも、した覚えのない事実無根の約束を漏洩させているアイツに文句を言わなければ……。

 

 

「おい穂乃果、お前俺を売りやがったな!!」

「仕方ないじゃん、ことりちゃんが素直にウンって頷かなかったんだから。奥の手を使うしかなかったんだよ」

「奥の手を使うのが早すぎる!! どれだけ浅い位置にあるんだよ……」

「零君さぁ、アニメとかで敵キャラが主人公たちをナメて掛かるような、よくある展開くらい知ってるでしょ? それって大抵その敵キャラが油断して、主人公たちに負けちゃうんだよね。最初から大技を炸裂させていれば良かったのにって、疑問に思わない? それと一緒だよ。だから奥の手の出し惜しみはしないの!!」

「微妙に説得力あるから腹が立つ……」

 

 

 そもそも話、その奥の手自体が嘘と偽りで塗り固められている事実を指摘したい。確かにことりを誘い出すなら、俺を引き合いに出せば100%釣れる。三角形の角の数が3つという事実なんかよりも遥かに確定的な事項なのだ。まさか穂乃果の奴、メンバー全員を同じ方法で釣ろうって算段じゃねぇだろうな……? そう考えれば俺を無理矢理に連れ出した理由も納得できるから……。

 

 だが反撃の糸口がない訳ではない。妙に現実を突きつけるようであまり手としてはよろしくないのだが、現実的だからこそ直面しなきゃいけない課題がある。

 

 

「ことり。俺を好きにする以前に、お前にはやらなきゃいけないことがあるだろ?」

「まぁ、そうだけど……」

 

 

 ことりはファッションデザイナーとして海外で働くことが決まっており、現在そのために英会話を学んでいる最中なのだ。特に大学4年生は就活も終わり暇になる時間も多いため、ことりはその空き時間を英会話レッスンに費やすことが多い。またそれだけでなく、海外のファッション事情を常に追い続け、あっちの土地で即戦力として活躍できるように今から勉強を始めている。そんなことは向こうへ行った時に一から教えてくれるのだが、ファッションに熱を入れる彼女だからこそ、自分のファッションセンスは自分で開拓したいのだろう。

 

 だからこの事情を汲み取ると、ことりを安易にμ'sに誘うのは必ずしも正しい選択とは言えない。もちろん穂乃果も彼女の事情は知っているので、それでもμ'sに勧誘するのはそれだけ彼女と一緒にまた同じステージに立ちたいのだろう。そう考えれば、穂乃果が俺を売ってまでことりを仲間にしたい気持ちも多少は分からなくもない。どちらが正しいのか間違っているとかは存在しないため、全ては穂乃果とことりの判断に委ねられている。俺は彼女たちが間違った選択をしないように時たま口を挟むが、基本は見守るだけだ。今後の展開を加味して言っておくけど、()()()ね?

 

 

「夢のために努力を惜しまないのか、それともみんなと一時的な夢を掴みに行くのか。どっちか決めろ」

「………………フフッ♪」

「な、なんだよ急に笑って……」

「答えなんて、もう決まってるから」

「そうなのか。どっちなんだ?」

 

 

 ことりの表情は一寸の迷いもなさそうな笑顔で、むしろ『どうしてそんな分かりきったことを聞くの?』みたいな煽りすら含まれているようだった。

 

 

「どっちかだけじゃない、両方の夢を掴むんだよ! 零くんがことりたちみんなを彼女にしたのと同じで、夢は全て掴み取る!! それに何かを手に入れるために何かを捨てるなんて、零くんが一番許さないでしょ♪」

 

「お前……」

 

 

 なるほど、そういえばそうだったな。俺が貫き通してきた信念を、まさかことりから聞かされるなんて想像してもいなかった。自分で言うだけでは分からないけど、他人の口から聞くとなんて無謀な信念だと思ってしまう。

 でも、だからこそ掴み甲斐があるというものだ。別に貪欲でもいいじゃないか。何かを手に入れるために何かを捨てるなんて勿体無い。貪欲に全てを勝ち取って、我が物にして、むしろ向こうからこちらに依存させるくらいに執着する。それが俺の、そして俺に感化されたμ'sの流儀だ。こう聞くと相変わらず捻じ曲がってるよな、俺たちって。もう5年も12股を続けてるから今更だけど。

 

 

「それじゃあ、ことりちゃんμ'sに入ってくるの!? 穂乃果ともう一度ステージに上がってくれるの!?」

「もちろんだよ! 幼馴染の穂乃果ちゃんの頼みだもん、断れるはずがないよ♪」

「で、本音は?」

「零くんをことりのお人形さんにして一日中繋がっていたいとか、抵抗できないことに(かこつ)けて枯れ果てるまでイジってみたいとか、そんなこと思ってないから……♪」

「やっぱりそっちか!!」

 

 

 二者択一はどちらの選択肢も選べと言ったのは俺だが、その選択だけは取って欲しくなかったと切に思う。まあそっちの方がことりらしいっちゃことりらしいけど……。

 かつてそのおっとりぽわぽわな雰囲気や、聴く者の眠気を誘うあまあまボイスでμ's内の天使と言われてきたことりだが、今はその面影は一切ない。もはや堕天使どころか人間をも下回る低俗な生き物に成り下がっていた。しかしそんな性格を発揮するのは俺の前だけで、大学の友達や英会話担当の教師など、日常生活ではむしろ今まで通りのことりを()()()()()。もちろんファンの前であっても……。

 

 俺は思う、ことりをこのままの淫乱ちゃんでスクフェスの舞台に立たせていいのかと。

 スクフェスにはμ'sだけじゃない、全国からスクールアイドルが集まってくる。その中でもμ'sはA-RISEと並んでスクールアイドルの先駆者であり先輩なのだ。その見本となる先輩が、果たしてこんな性格だと世にバレたら……。高校生だったら変態でも多少可愛気もあるものの、ことりも俺たちと同じ21歳の大人だ。大人に色気が増したとは言え、あまり無秩序に淫乱さを振りまくと少々痛々しい。これからスクールアイドルとしての感を取り戻すために練習は必須だが、コイツにはもう1つやるべきことがありそうだ。

 

 

「穂乃果ちゃん! μ'sに入ったから、早期予約特典を貰ってもいいんだよね?」

「う~ん、そういう約束だったし……仕方がない!」

「オイ、だから人を勝手に売り物にすんな。それに、ことりがμ'sに入るにはそれなりの条件がある」

「条件……?」

 

 

 意気揚々と俺を逆レイプする気満々だったことりだが、俺の口からμ'sに入ること自体を咎められてキョトンする。逆レイプすることに関しては抵抗されると思っていたのだろうが、まさかμ'sに入るための線引きがあるとは思っていなかったのだろう。

 

 

「まずその性格を治すことだ。高校生の時よりも淫乱思考が強くなっている性犯罪予備軍のお前を、スクフェスという全国区に放つ訳にはいかねぇからな」

「えぇ~? だってことりがこんな性格になっちゃったのは、零くんが骨の髄までことりを調教したせいでしょ?」

「それはそうだけど、想像以上だったんだよ。お前の場合は特にな……」

「唇も胸も下のおクチも零くんにメチャクチャにされて、もう零くんの手以外では感じることができなくなっちゃって、そしていつの間にかことりは、零くんの言いなりになる性奴隷に……」

「言いなりってなんだ!? 毎回ノリノリじゃねぇか自分!!」

 

 

 俺がことりをこのままμ'sに加入させたくない理由が分かってもらえただろ? こうして勝手に妄想を膨らませて所構わず発情しそうになるこの性格を、スクフェスの現場で発揮させたくないのだ。いくら周りに対して清楚な自分を演じているとは言っても、既にいつ素が爆発して性の悪玉菌が世に放たれるか分からない。もはや危険なラインを踏んでしまっているので、早急なる治療が必要である。踏みそうではなくて踏んでいるところがミソだ。つまり、デッドラインからつま先が少しでも前へ出てしまえば、世間のことりのイメージがガラリと変わってしまうだろう。

 

 

「穂乃果は今のことりちゃんでもいいと思うけどなぁ~」

「お前は自分の隣で踊る奴が猥褻物でもいいのか?」

「ひっどーい零くん!! ことりをなんだと思ってるの!?」

「お前を言葉で具体的に表すと、放送禁止用語を連発しなきゃいけないから言えねぇよ。もはや存在自体がR-18なんだから、今のままじゃステージに上がることすらできねぇだろ」

「ヒドイッ!? 今ままで散々ことりの身体を弄んできたくせに、飽きたら蔑んで捨てるなんてヤリチンさん過ぎるよぉ……」

「ヤリマンには言われたくないんだけど……」

「零君の人でなし!!」

「なんで穂乃果まで怒ってんだよ!?」

 

 

 人でなしも何も、皆さんに事実をしっかりと偽りなく伝えるのが報道者の責務というものだ。他のμ'sのメンバーも大概キャラの濃いメンツが揃っているが、ここまでμ'sの加入を危惧しなきゃいけないのは後にも先にもことりだけだ。更生させようのない淫乱だからってずっと放置してたら、将来どんな男に食われるか分かったものじゃない。特に海外へ進出することりのことだ、向こうで余計な男に捕まらないためにも今の間にピンク色の脳を薄味にしてやらないと。これでも真面目に考えてるんだぞ俺は。

 

 

「ことりはこんなにも零くんのことを想っているのに、毎晩零くんに嬲られる夢ばかり見てるのに……」

「喜んでいいのかそれは……」

「いつか零くんにやって欲しいことノートをまとめてるのに……ほら」

「なにそのピンクのノート!? 外見だけでもムードが伝わってくるから怖いんだけど!?」

「どれどれ? 穂乃果に見せて!!」

「あっ、穂乃果ちゃん……」

 

 

 穂乃果はことりの手から明らかにヤバそうなピンク色のノートをひったくると、ベッドに乗り上げそのノートを何の躊躇いもなく開く。最初は普通のことが書いてあったのか、穂乃果も頷きながら読み進める。だが、次第に顔色が悪くなっていき、顔面がみるみる真っ赤に染まっていった。

 

 そこまで性知識のなく、かつ耐性のある穂乃果がここまで悶えるとは、一体何が書いてあるんだあのノート。隣ではことりがクスクスと怪しい笑みを浮かべてるし、下手なエロ同人よりも過激な内容が描かれていることは間違いなさそうだ。

 そう考えると、俺がここにいるのは相当マズイのではないだろうか……? 言ってしまえばここは南家の根城であり、敵の本拠地なのだ。ことりの部屋は可愛い人形やクッションで綺麗にコーディネートされているが、どこに武器(大人の玩具とかデスノートとか)が隠されているか分からない。しかもことりは臨戦態勢に入っており、その卑しい目線はずっと俺を見つめたまま逸らすことはない。彼女を更生させようと意気込んだのはいいものの、もうコイツのペースに飲み込まれそうだ……。

 

 

「あっ……あぁ……あ゛ぁぁ!!」

「穂乃果? ちょっと嘔吐いてるけど大丈夫かよ……」

「こ、こんなことを零君にされたら、穂乃果じゃ絶対に耐えられないよぉ……」

「おいことり、アレに何が書いてあるんだ!? 穂乃果の様子がただ事じゃねぇぞ!?」

「穂乃果ちゃんにはまだ早かったかぁ。人の欲望を無闇に覗き見るなってことだよね♪」

「こえぇよ!! 何が書いてあるのか気になるけど見たくねぇ……」

 

 

 どうして自分の裏の性癖を暴露してもなお笑顔でいられるのか理解に苦しむが、これが現在の南ことりなんだから仕方がない。もはや穂乃果は布団を被ってしまうほどに羞恥心を隠せないようで、それだけあのノートの凄まじさが伺える。ただでさえR-18に最も近い存在なのに、更にエスカレートしてR-18Gに持ち込むのだけはやめてくれよ。

 

 

「ことりは零くんと今のままの関係がいいけどなぁ~」

「まあお前とこんな関係になったのは俺のせいだけどさ、正直やりすぎたと今でも思ってるよ」

「本当にヤりすぎだよ零くんは。大学に入ってからというもの、高校生の時に抑えていた理性のリミッターが外れちゃったもんね!」

「おい、その話はここでするな!!」

「キャンパス内でも穂乃果ちゃんと海未ちゃんの目を盗んでエッチしたり、カラオケでもトイレに連れ込んで声を上げないように強要したり、ことりの部屋では調教しながら攻めてくれて……♪」

「えっ、なにその話!? 穂乃果知らないんだけど!?」

「だから言うなって言っただろ!!!!」

「それなのにことりを弄ぶだけ弄んで……。もう零くんじゃないとイケない身体に開発されちゃった……」

 

 

 ここへ来て明らかにしてはならない事実を大量に放出し、さっきまで顔を真っ赤にして布団に包まっていた穂乃果も、その衝撃的な真実に思わず布団から首を出してしまうほどだった。

 

 ちなみにさっきことりが話した内容は全て真実なので、俺に弁解の余地はない。あぁみんなの言いたいことは分かる。あれだけAqoursに対して真摯に振舞っていたのに、μ'sに対してはまさに獣じゃないかと。その通りだよ!! 俺だって男なんだから、恋人相手にエッチなことをしたいって思うのは当然だから!!

 

 

「零君!! ことりちゃんとそんなにヤってたなんて、穂乃果聞いてないんだけど!?」

「そりゃ言わねぇだろ普通! 誰が好き好んで変態プレイをしたって他人に漏らすんだよ!!」

「エッチなことはみんな平等って約束だったよね!? ことりちゃんだけ明らかに回数多くない!?」

「それはことりが事あるごとに誘惑してくるのであって、俺は悪くないというか……」

「じゃあ穂乃果も誘惑する! そしてキャンパス内でエッチしたり、トイレの中で無声プレイするんだから!!」

「お前、自分で何言ってるのか分かってる!?」

「モテモテだね零くん♪ ことり、嫉妬しちゃう……」

「こうなった元凶はお前だろ!!」

 

 

 ことりの更生を目的としていたのに、事実が明るみに出てしまってはみんなとヤる回数が増えてしまい逆効果だ。しかもそれによって第二第三の南ことりが出現し、μ's内の淫乱思考度が限界を振り切りそうなのは目に見えている。

 

 どこで道を見誤った……? やっぱりことりとこっそりヤってたのがいけなかったのだろうか……? いやでも、こんな可愛い子に誘惑されたらホイホイついて行かない方がおかしいだろ。しかも世間でもスクールアイドルやメイドとしてファンも多いことりが相手なんだぞ? そんな彼女を俺の手で好き勝手できると聞いたら、手を出さないのは男としてどうかと思うんだ。それにキャンパス内やトイレって、背徳感があってムード満載で素敵じゃん?

 

 まあその話はさて置き、この状況をどうしようか。特段ことりを贔屓していた訳でもないが、穂乃果の言い分も分からなくはない。12人平等宣言をしたのは俺だから、ここは責任を持って……持って……ヤるの? 穂乃果を満足させるために、今から? マジ……?

 

 

「さっすが零くん! 男の責任で腹を括ったみたいだね!」

「待てことり、どこへ行く気だ!?」

 

 

 ことりはウィンクをすると、突然自室のドアを開ける。

 そして、一階にいる母親に話しかけるように大声を出した。

 

 

「お母さーーーーんっ!! ちょっとギシギシうるさくなるけど、我慢してねーーーーっ!!」

『いいけど、お隣さんに聞こえるような声で喘いじゃダメよ?』

「大丈夫!! 声が漏れてもいいように、最近防音の壁紙に張り替えたからーーーーっ!!」

『分かったわ。なら零君と存分に楽しんでらっしゃい♪』

「ありがとーーーーっ!!」

 

 

 な゛っ、なに勝手なことやってんだこの淫乱鳥親子が!! 親鳥も親鳥であっさり許可出してんじゃねぇぞ!? しかも性行為をするために壁紙を張り替えたって、どれだけ俺と交わることに情熱を注いでるんだって話だ。あぁもう、ツッコミどころが多すぎて疲れる……。

 

 

「やっぱりこの家はダメだ。精神が犯されてる奴らしかいねぇ……」

「今から犯されるのは零くんの方だけどね♪」

「もうお前を更生させるのは諦めるよ。世間にその痴態がバレて、冷たい目で見られて来い」

「う~ん、そんなプレイも……あり、かなぁ♪」

「よし、もう本格的に諦めるわ」

 

 

 そうだったな、手遅れな奴に手を差し伸べても無駄だよな。ことりはもうこのキャラでこそ輝けて、そして本当の自分を発揮できるんだ。むしろ中途半端に更生させて本領を発揮できないことりを観せるよりも、敢えてこの色気と煩悩満載のキャラで売っていった方がいいのかもしれない。ほら、変態ビッチキャラって常に一定の人気があるじゃん? もう淫乱の片鱗を隠し通すのは無理なんだし、だったら隠す必要もなく前面的に売り出していけばいい。正直苦肉の策だが、時には俺の手でも解決できないことがあるんだよ。

 

 

「諦めるってことは、ことりがμ'sに入るのを認めてくれるってこと?」

「致し方ないな。まあ何だかんだ言っても、お前がいなかったらμ'sはμ'sじゃねぇから」

「ことりちゃんがいて、海未ちゃんがいて、みんながいて、そして零君がいて……それこそがμ'sだよ!!」

「うんっ、また一緒に頑張ろうね、穂乃果ちゃん! 零くんも!」

「よーーしっ、これで1人確保だ!!」

 

 

 なんやかんやあったけど、結局ことりはμ'sに加入しましたとさ。

 ちなみに言っておくけど、俺はことりを拒んでいた訳じゃない。それなりに彼女の未来と、そのピンク色に染まりきった性格を心配していたからこそなんだ。まあその後にことりから思いっきりしっぺ返しを貰った訳だが……。

 

 

「人員が確保できたんなら、ここに長居は無用だ。次に行くぞ」

「…………ちょっと零君、何か忘れてない?」

「な、何を……?」

「ことりちゃんと余分にエッチした回数だけ、穂乃果にもやってくれるって約束だったよね……? 依怙贔屓はよくないよ」

「お前さっき俺の家では抵抗しそうになってたくせに、どうして今はそんなやる気なんだよ……」

「えっ、さっき? 俺の家で? どういうこと!?」

「あっ、やべっ」

 

 

 口を滑らせたと悟った時にはもう遅し、ことりが俺の眼前にまで迫ってくる。俺にはもうここからの展開が容易に想像できるのだが、その打開策は一切思い浮かばない。このまま身を委ねてしまうのは負けた気がするので選択肢にはなかった。だったらどうする? 四方八方は穂乃果とことりに阻まれているので、退路は作れそうにもない。

 

 

「さっき穂乃果ちゃんにヤっただけ、ことりにもヤってくれるんだよね?」

「じゃあ穂乃果は今までことりちゃんと隠れてエッチした分だけ、零君にエッチしてもらうからね!」

「だったらことりは穂乃果ちゃんにエッチした分だけ、零くんにエッチしてもらうから!!」

「だったら穂乃果はことりちゃんにエッチした――――」

「無限ループじゃねぇか!! どれだけ俺の精巣を痛めつける気だよ!?」

「その時は精力増強剤をたくさん飲んで、スタミナ付けよ♪」

「そんな疲労困憊の状態でセックスして楽しめんのか……?」

 

 

 当人たちもやる気、親鳥も許容。つまり、周りには敵しかいない。

 流れに身を任せるのは1つの手ではあるんだけど、俺はもっとこう、ロマンチックさを求めているんだ。穂乃果に対するヘソ舐めは特殊だったにしても、俺は己の性欲が膨張しない限りは女の子に手を出すことはない。今のこの状況のように、ロマンの欠片もなく無理矢理誘ってくるようでは話にならん。俺は痴漢プレイのような背徳感を味わいたいんだよ。

 

 

 ―――――って言っても、コイツらは聞く耳を持たないんだよなぁ……。

 

 

「ほら零くん! ことりたちの間に服なんて無粋なモノは必要ないよね? ほら脱いで脱いで!」

「ちょっ!? そんなに引っ張るなって!!」

『ことりーー? お風呂、沸かしておいた方がいい?』

「ありがとうお母さん! あと5分くらいで入るからーーっ!!」

「何考えてんのあの親鳥!? しかも5分って、どれだけ俺が早漏設定なんだよ!?」

「まあまあこれからもメンバー集めに行くんだし、なるべく手っ取り早くパパッとね!」

「そんな事務的にされても困るんだけど!?」

 

 

 無事ことりがμ'sに再加入したが、その代償はあまりにも大きかった……(精巣的な意味で)

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 ことりが持っていた零君とやりたいことノートの中身は、晒すとR-18の世界にダイブしてしまうのでご想像にお任せします(笑)


 次は誰がヒドイ勧誘をされるのか、次回をご期待ということで!



Aqours編の最終回前後編で☆10評価をくださった

もか→☺暇さん、Dashootさん、銅英雄さん、Ψ(海未推し)さん

ありがとうございます!

☆10評価、感想お待ちしています!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

恥辱の大和撫子

 メンバー集め回、2人目。
 もう海未の心の被害総額は、一般サラリーマンの生涯年収を余裕で超えそうな勢いに……。


 

「海未ちゃん、何でもかんでも恥ずかしがるのは良くないと思うんだよ。恥ずかしくて死にそうになった時こそ勇気を持たなくちゃ! 勇気のない人が社会の荒波を突破しようなんて、無謀にも程があるね。勇気を持たずに部屋の隅っこでウジウジしてるだけの負け犬に、海未ちゃんはなりたくないでしょ? 恥ずかしさで悶え苦しんだとしても、勇気を持って大胆になればきっと目の前の道が見えるはずだから! つまり、勇気は未来を明るくする! そんな夢と希望の未来へ向けて、穂乃果たちと一緒に歩いていこ? よしっ、これでメンバー1人確保だね!」

 

「突然家に押し掛けてきて、意味不明な演説を聞かされても困るのですが……」

 

 

 穂乃果はことりを勧誘する時と同じで、有無を言わせず一方的なマシンガントークで海未を言葉責めにする。とはいえ海未の反応は、ことりと同様に呆れられているだけでカタをつけられてしまったが……。

 

 

 俺たちはことり宅を後にし、今度は海未の家に乗り込んでいた。

 目的はもちろんμ's再結成のためのメンバー集めなのだが、これまたハードルが高そうな奴を選んだなぁと思っている。だって初代μ'sに勧誘する時も一手間あった海未だぞ? そんなお堅い彼女が大人になった今、そう安々とメンバーになってくれる訳がない。だから海未と対峙するのは後回しのがいいんじゃないかという俺の意見もあったのだが、穂乃果は頑なに首を縦に振らなかった。やはり幼馴染を一番最初に誘いたいという個人的な願望があるからだろう。

 

 だったらそんな詐欺のような売り文句をやめて、普通に勧誘すればいいのに……。

 

 

「いきなり家に来て何の用かと思えば、また思いつきでそんなことを……」

「思いつきじゃないよ! さっきスクフェスの招待状見せたでしょ?」

「見せたでしょって言われましても、この歳でまたスクールアイドルをやるなんて恥ずかしいですよ……」

「だ~か~ら~!! 恥ずかしがってちゃ未来は広がらないんだって!!」

「私は既に自分の未来を見据えているので、心配せずとも大丈夫です」

「うっ……」

 

 

 あっという間に一刀両断され、早速打つ手がなくなった穂乃果。デカい砲弾を一発打ち上げただけで息切れするって、爆裂魔法を使う少女じゃないんだから……。

 

 ちなみに海未が未来を見据えていると言ったのは、穂乃果の甘言を受け流すための言い訳ではない。彼女は大学卒業後に弓道や剣道、華道など、すなわち和の武道を後世へ伝えるという園田家の未来を担っている。だから受講する講義が少なくなって暇になる大学4年生の今の時期に、武道の腕を磨きながらあれこれ準備をしているのだ。つまりことりと同じく既に将来を見据えているため、とことん今を楽しむ穂乃果と意見の相違が生まれるのも当たり前というか、仕方のないことなんだよ。

 

 だが、穂乃果は引かない。ことりを勧誘する時も言ったが、穂乃果自身も自分の幼馴染の目指している未来くらい知っている。それでもなお再び一緒にスクールアイドルをやりたいのは、それだけことりや海未とμ'sで過ごした日々が濃厚で楽しかったからだろう。あの頃の楽しかった日々を、今もう一度浸ってみたい。そんな欲望に塗れた願望と、純粋な思いが穂乃果をここまで強引にさせているんだ。

 

 まあ強引になった結果、早速打つ手がなくなってしまい彼女の敗北は決定的に見えるのだが……。

 

 

「フッ、フフフ……」

 

 

 穂乃果は突如として不敵な笑みを浮かべる。まるで最初からこの展開になることを予想していたかのように、ヤンデレ調の黒笑いで海未を見つめていた。

 

 

「な、なんですかその不気味な笑顔は……」

「穂乃果はね、初めから海未ちゃんが首を縦に振らないって知ってたよ。だから海未ちゃんが絶対に断ることができないような、画期的な作戦を考えてきたんだ」

「それを私の前で言ってしまうのはどうかと思いますが、私にはやるべきことがあるので今更スクールアイドルは……」

「大丈夫。この作戦を実行すれば、海未ちゃんごときすぐに堕ちちゃうから。μ'sに入るのぉおおおおおおおおおおお~って、喘ぎ声を上げちゃうくらいにね♪ エロ同人みたいに!!」

「こ、この私がそんな破廉恥な手に引っ掛かる訳ないでしょう!?」

 

 

 とは言いつつも、女騎士がオークに襲われるよくある展開を想像すると、μ'sの中でその女騎士役にピッタリなのは満場一致で海未だと思う。現に俺たちが秋葉の策略によってRPGの世界へ連れ込まれた時、実際にそのような展開となって海未の処女を散らされそうになったという苦くも興奮する展開があった。そもそもそんなファンタジー世界でなくとも、抵抗する女の子を無理矢理犯すみたいな展開ならば、海未は悲劇のヒロイン役として似合いそうなものだ。似合って嬉しいのかはさて置き……。

 

 ちなみに、海未のエロ耐性は高校時代から何も変わっていない。強いて挙げれば性行為への抵抗が少し弱まったくらいだが、穂乃果やことりが放つ桃色の会話で未だに顔を赤くするくらいだから、もうその純情さは一生治らないだろう。治すべきものなのかはさて置き……。

 

 

「穂乃果にとってはね、海未ちゃんを陥落させるなんて零君を即イキさせるよりも簡単な事なんだよ!」

「オイッ! サラッと人を早漏扱いすんのやめろ!」

「でも穂乃果も鬼じゃないよ。エロ同人みたいに即堕ちしたら面白くないもんね。だから今日は海未ちゃんと勝負しに来たんだよ!」

「勝負、ですか……?」

「うんっ! 穂乃果が勝ったら海未ちゃんがμ'sに入り、負けたら元の生活に戻りながら、舞台で輝いている穂乃果たちを指を咥えながら見ると。とっても単純明快で分かりやすい!」

「私に何のメリットもない勝負なんですがそれは……」

「海未ちゃん、戦いっていうのは利益不利益じゃないんだよ。お互いの持てる力を全て出し切って戦い、そのあとに絆が生まれる。つまり、これは友情を確かめ合うための大勝負だから!!」

「だったら私を勝利報酬として賭けるのやめてもらえません……?」

 

 

 友達、友情、絆etc……実に都合のいい言葉だ。この言葉さえ連打しておけばいい雰囲気そうな文章が出来上がり、如何にもそれらしいことを言っているように聞こえる。俺もまだそこまで仲良くなっていない女の子を誘い出すための常套句として利用させてもらっているくらいだから。

 

 

「そうだよね、幼馴染で大親友の海未ちゃんを賭けるなんておかしいよね。もう穂乃果と海未ちゃんとの間には、決して立ち切れぬことのない絆があるもんね。だからそれを確かめるために戦うんだよね」

「なんだか目的が変わってきているような……」

「もうっ!! 海未ちゃんは黙って穂乃果と戦って、そして無様に負けて、アヘ顔になりながらμ'sに入るのぉおおおおおおおおおおお~って堕ちていればいいの!! 海未ちゃんをμ'sに引き摺り込むためなら、絆と親友だとか、そんな綺麗事言ってられるかぁああああああああああああああああああ!!」

「遂に本性を現しましたね……」

「もう穂乃果怒ったからね!! このゲームで海未ちゃんを恥辱の底に突き落として、今後社会に出られないくらいの辱めを与えてあげるから!!」

「もうそっちが本当の目的ではないのですかあなた!?」

 

 

 この大胆さが大人のやり方ってもんだ。自分の気に入らないことがあったら、あらゆる手を駆使してでも相手を貶める。どれだけ理不尽だろうと関係ない。自分の都合の良い展開にするために他人すらも巻き込むこのクズさ、まさに大人のやり方だ。みんなはこんな大人になっちゃいけないぞ?

 

 そして穂乃果がどこからともなく取り出したのは、赤、青、黄、緑の丸いマスが描かれたマットと、その色に対応した出目を持つルーレットだった。どこにこんなモノを持っていたのかはさて置き、これはいわゆる"ツイスターゲーム"と言われる類だ。確かに女の子がやるには少々、いやかなり恥辱を感じるゲームだなこりゃ。

 

 

「こ、これは……」

「いくらゲームに詳しくない海未ちゃんでも、ツイスターゲームくらいは知ってるでしょ? このゲームで海未ちゃんとの長きに渡る因縁に終止符を打つよ!」

「どんな因縁があると言うのですか……」

「その昔、無理矢理宿題を強制されたり、学校にこっそり持ってきたパンを太るからという理由で取り上げたり、授業中に寝てたら叩き起してきたり。うぅ、今でも涙が出そうなくらい忌まわしい記憶だよ……」

「それは紛うことなきあなたのせいでしょう!?」

「その他にも、自分が考えた練習プランに誰も付き合ってくれないから、自主練習と偽って穂乃果を呼び出し、海未ちゃんの過酷な練習に付き合わされた過去もあるんだよ……」

「そ、それは……」

 

 

 身勝手な因縁ばかりかと思えば、しっかり海未に復讐する動機はあったのね……。休み時間を設定していない人体の限界を超えた練習をさせられたら、誰だって恨みを持ちたくなるわな。

 

 

「とにかく、このゲームが海未ちゃんの命運を分けるんだよ! いざ勝負!!」

「いや、私はやると言ってないのですが……」

「へぇ~そうやって逃げ出しちゃうんだぁ~。人生のド底辺でゴミ虫以下の穂乃果からも逃げ出しちゃうなんて、海未ちゃんはこれからずっと逃げ続ける未来を歩むんだねぇ……」

「その自虐、自分で言って苦しくありません……?」

「ことりちゃんは素直にOKしてくれたのになぁ~。穂乃果、海未ちゃんにはフられちゃったよぉ~」

「あ゛ぁああああああもうっ!! やればいいのでしょうやれば!! そこまで言うのならもうやりますよえぇ!!」

「チョロい」

「あなたという人は……。はぁ……もういいです」

 

 

 何を言っても穂乃果の口が止まらないことを知った海未は、溜息をつきながら状況に身を委ねることを選んだようだ。つまりそれは穂乃果の相手をするよりも、少しばかり羞恥心に惑わされながらもツイスターゲームをした方が精神的に楽だという諦めの現れだろう。まあ当の本人は海未を言いくるめられたと思い込み、憎らしいしたり顔をしているけどな……。

 

 

「ルーレットを回すのは零君ね! はいこれ」

 

 

 穂乃果からツイスターゲームのルーレットを手渡された。

 よくよく考えてみれば、案外この状況は俺にとって美味しいのではないだろうか。特に自分が苦労することなく女の子が際どい格好をする様を見られるし、そのゲームの参加者の1人が普段そんな様を見せない海未ときたもんだ。

 しかも、ツイスターゲームはルーレットを回す人がゲームの支配者になれる。ゲームが進めば進むほど参加者は無理な体勢を余儀なくされ、ルーレットを回す人に注意を向けるなんて到底できなくなってしまう。そうなれば後はこっちのもの。ルーレットを回すふりをして、女の子たちがより際どい格好になるマスの位置に手や足を誘導する。こんな神ゲーを持ち出すなんて、穂乃果もたまにはいい仕事をするじゃないか!

 

 

「よしお前ら!! 早速始めるぞ!!」

「おぉ、零君随分とやる気だね♪」

「なんか嫌な予感がするのですが……」

 

 

 いくら勘が鋭くても、ツイスターゲームをするこの流れにはもう逆らえまい。

 手始めは怪しまれることなく切り抜けたいため、ルーレットの出目を穂乃果たちに見せつけながら回していくことにする。もちろん回す力加減によって、ルーレットが止まる位置くらい余裕で操作できるがな。

 ちなみに軽く2人のポジションと色のマス配置を説明すると、穂乃果側から見て右から緑のマスが縦5つ並び、順番で黄、青、赤となっている。海未は穂乃果の反対側にいるので、彼女視点では色の配置は全くの逆だ。

 

 

「まず穂乃果は右手と右足を緑、左手と左足を赤な」

「えっ、いきなり4つも!?」

「このゲームの支配者は俺だから、俺のルールに従え。あっ、そうだ、穂乃果の体勢は常に仰け反った状態な。四つん這いは禁止だから」

「はぁ!?」

「いいからやれ」

「もう、いつも強引なんだから……」

「穂乃果がそれを言いますか……」

 

 

 文句を垂れながらも、穂乃果は指定通りのマスに両手足を着いて仰け反りの体勢を取る。そうなればもちろん胸の膨らみが天にそびえる形となり、思わず上から揉みしだきたくなるくらいにその存在感をアピールしていた。ただでさえ夏場の薄着で胸の膨らみが強調されているのにも関わらず、ゲームとはいえ自ら仰け反りの体勢となって自分のおっぱいのボリュームを見せつけるとは……。

 

 

「ちょっ、ちょっと零君! いきなりこの体勢はキツイんだから、どんどん次の指示出してよ!!」

「あぁ悪い悪い、次は海未だな。えぇと、右手と右足を赤、左手と左足を緑な」

「えっ、それでは穂乃果とほぼ同じ体勢になって……」

「仕方ねぇだろルーレットの指示なんだから。あと、お前は四つん這いの体勢だからな。これ、ゲームマスターの指示」

「い、いきなりそんな……」

 

 

 と言いつつも、海未は渋々指示通りのマスに両手足を置く。穂乃果とほぼ同じ体勢で、違うのは仰け反りか四つん這いかだけ。つまり、必然的に海未が穂乃果に覆い被さる形となる訳だ。非常に百合百合しい体勢となった2人は、お互いの顔を見つめ合って頬を赤くする。その手の性癖を持つ人が見たら卒倒するシチュエーションが、まさに俺の目の前で展開されていた。

 

 

「なんだお前ら、顔を赤くしてるってことはそっちの毛があったのか」

「ないですから!! それにこんな体勢で人と密着していたら、誰でも緊張くらいするでしょう!?」

「う、海未ちゃん! あまり暴れると穂乃果の腰が床に着いちゃうから!!」

「そんなことを言われましても……。私だって動かなければ、穂乃果の胸が私の胸に……」

「ちょっ!? 海未ちゃんエッチすぎ!!」

「じ、事実を言ったまでです!! 変な勘違いをしないでください!!」

 

 

 な~にやってんだコイツら……。まあルーレットを調節してこの体勢に誘導させたのは俺なんだけど、まさか思った以上にお互いがお互いのことを意識しているようでビックリした。やっぱりコイツら、そっちの毛があるんじゃねぇか……?

 

 それにこの状況になっても、ツイスターゲームのルールを律儀に守っている2人に少々感服した。手と足以外の身体の部位が床に着地した時点で負けとなるため、お互いにお互いを意識しながらも負けず嫌いの性格は勝利を譲らないようだ。穂乃果も海未も未練がましいところがあるから、例えこんな状況になろうとも心の奥底には勝利への渇望があるに違いない。

 

 

「いい格好じゃないか。この光景を写真に撮ってμ'sのグループチャットに貼ったら、十中八九勘違いされるだろうなぁ~」

「零!! それは世界最大級の犯罪ですよ!!」

「そんなことをしたら、穂乃果たちそのことでイジリ続けられる未来しか見えないから!!」

「だったらその体勢崩せばいいじゃん」

「「負けたくないから嫌!!」」

「やっぱり……」

 

 

 そういえば忘れてたけど、このツイスターゲームの結果によって海未がμ'sに加入するのかそうでないのか、その運命が決まる重大な勝負だったなそういや。もう目の前のレズレズしくも際どい光景に夢中となっていて、メンバー集めという目的すらも頭から抜け落ちていた。まあメンバー集めは穂乃果の役割だし、俺は女の子の痴態をこの眼に焼き付ける作業で忙しいから仕方ない。

 

 そうやって己の煩悩を膨らませていると、2人がスカートを履いていることに今更気が付いた。穂乃果は仰け反り、海未は四つん這い、それ以外は全く同じ体勢。しかも2人は負けず嫌いのプライドで、その無理な体勢を崩そうとはしない。ということは、2人のおしり側に回り込めば――――!!

 

 

「れ、零!? そっちへ行っては……!!」

「おいおい、無理に動くと体勢が崩れちまうぞ? 勝負に負けたくないんじゃないのか?」

「えっ、なになに? 穂乃果から零君の姿が見えなくなっちゃったんだけど……」

「気付かないのですか!? 私たちが腰を浮かせているこの体勢を見ても!?」

「腰を浮かせてって――――あっ!?」

「おぉ……!!」

 

 

 穂乃果の上へ突き上げる腰、そこから丸見えになっているスカートの中。淡い黄色のショーツは汗によってじんわりと滲んでおり、色や柄は子供っぽいのにどこか大人の色気を感じられた。見れば太ももにも少々汗が垂れており、如何にこの状況に興奮して身体が熱くなっているのかが分かる。

 

 海未の水平に突き出た腰、そこから丸見えになっているスカートの中。鮮やかな水色のショーツは際どい体勢による影響か、多少おしりに食い込んでいた。ショーツをキュッと締めている臀部を見ているだけでも、そのおしり肉の柔らかさが手の取るように分かる。

 

 

「お前らこんなに濡らしたり締めたりしてるけど、そこまでレズプレイが好きだったのか……。俺はそんな子に育てた覚えはないぞ?」

「育てられた覚えもありませんけどね! それに、ジロジロ見るのはやめてください!!」

「この体勢を耐えるだけでも辛いのに、零君に見られちゃってると思うと……」

「濡れちゃうってか? 穂乃果もことりのこと言えねぇくらいに痴女ってるよな。見られるだけでこんなにパンツ湿らせちゃって」

「ひゃぁあああああああっ!?!?」

「ほ、穂乃果!? どうしましたか!?」

「さ、さっき、風みたいなのがフゥ~って!!」

「いや乾かしてやろうと思ってさ、息を吹きかけてみたんだ」

「そんな子供みたいな好奇心でぇ……」

 

 

 穂乃果は腰をガクガクと震わせながらも、勝負には負けたくないようなので必死に今の体勢を保っている。そして俺は女の子が頑張って恥辱に耐えている姿を見るのが何よりも大好物だったりする。彼女が勝負に負けたくないというプライドを高めれば高めるほど、俺の欲望に塗れた願いが叶っていくのだ。恥ずかしがりながらも抵抗できず、顔を赤くしてこちらを眺める穂乃果ちゃんマジ穂乃果ちゃん。

 

 

「零、あなた最初から狙って私たちをこの体勢に――ひゃうっ!!」

「海未ちゃん!?」

「あ、暖かい棒のようなモノが私の……私の……あそこを……」

「暖かい棒って、ま、まさか零君……昼間からヤる気!? ことりちゃん相手にはあれだけ拒否してたのに!?」

「言っておくけど、お前の想像してるようなモノじゃないからな。海未の言い方が意味深だっただけだ」

「あぁ、海未ちゃんがエッチだっただけか……」

「そ、それでは一体何を押し付けてきたのですか!?」

「指だよ指。指とアソコを勘違いするなんて、俺のモノがどれだけ短小だと思ってんだよ……」

 

 

 そもそも暖かい棒のようなモノを押し付けられて、それを瞬時に剛直だと思う辺り、海未の思考回路も相当犯されている。しかも俺のモノだったら何回か見たことがあるくせに、そんな勘違いをされると今まで自慢だった長さや太さを疑いたくなってくるんだが……。

 

 

「それにしても、高校生の頃と変わらずいい筋してんなぁお前」

「はぁ!? そんなことで褒められても嬉しくありません!!」

「パンツ越しでも分かったぞ。筋に入り込んできた俺の指をキュッと締め、筋をなぞられるとビクビクって軽く震えていたのがな」

「そんな詳しく解説しなくてもいいですから!! 女性器についてそこまで熱く語れるなんて、とんだ変態ですよ全く!!」

「今更そんなことを言われても、ことりの淫乱と同じく更生しようがないから意味ねぇよ」

 

 

 もはや変態変態と罵られることに慣れてきてしまい、若干だけど気持ちよくなれるくらいには褒め言葉として捉えている。むしろそっちの方が清々しいし、自分でも自覚している事実だから弁解するつもりもない。まあ男はみんな変態だって言われてるから、逆に変態という汚名に誇りを持つべきだと思うんだ。

 

 

「ね、ねぇ……穂乃果、もうこの体勢無理なんだけど――――あっ!!」

「ほ、穂乃果!? 大丈夫ですか……?」

「えへへ、勝負に負けちゃった……♪」

 

 

 無理な体勢に耐え切れなくなった穂乃果は、そのまま床に落ち尻餅を着く。

 彼女の笑顔の裏に名残惜しそうな表情が見えるのは、恐らく俺だけじゃなくて海未もだろう。こんな馬鹿なゲームを仕掛けてきたのも、執拗に海未を勧誘していたのも、一緒にスクールアイドルを再び始めたいという純粋な願いからだ。やり方はちょっと大雑把だけど、真剣な気持ちだけは伝わってくる。特に今の穂乃果の顔を見れば、とても。

 

 

「全く、もしこんなゲームで身体を痛めてしまったら、スクールアイドルの活動はどうするんですか。私がいたとしても、リーダーのあなたがいないとグループの一体感は生み出せませんよ?」

「私がいたとしてもって……まさか、海未ちゃんμ'sに入ってくれるの!?」

「はい。最初は自分の夢のためだけに今の時間を使おうと思っていたのですが、今日改めてあなたたちと遊んで、またあの楽しい時間を味わってみるのもいいかと思いました。まあゲームの内容は内容でしたけど、何だかんだ言って楽しかったですから」

「パンツ覗かれたのがそんなに楽しかったのか、そうかそうかぁ~」

「近々あなたの眼球はどちらも潰しますので」

「急に辛辣になるなよ……。さっきまでいい雰囲気だったじゃねぇか」

「あなたの場合は優しくすると付け上がるので別です♪」

 

 

 相変わらず穂乃果に負けずと劣らない明るい笑顔で、サラッと毒を吐く海未ちゃんマジ海未ちゃん。まあ俺の眼球が犠牲となって海未がμ'sに入ってくれるのなら……いや、ダメだダメだ!! 女の子の淫らな姿が見られなくなるなんて、それイコール死だから!!

 

 

「よしっ! これでまたことりちゃんと海未ちゃんの3人からμ'sを始められるね!」

「そうですね。私がいないと穂乃果もことりも真面目に練習しないでしょうし、私が入ったからにはビシバシ練習しますよ!」

「えぇ~やっぱ海未ちゃんはいいや……」

「手のひら返しが早すぎでしょう……。相当手首が柔らかいようですね……」

「海未ちゃんはもっと頭を柔らかくした方がいいと思うよ。すぐ怒るところとか」

「その怒りの種を蒔いてる人が何を言いますか……」

 

 

 と、まあこうやって穂乃果と海未の漫才がまた見られるようになった。傍から見るとメンバー集めが随分楽に進んでいるように見えるが、これも穂乃果の作戦が上手くハマったからなのかもしれない。あと9人、どのようなセコい手で勧誘するのか見ものだな。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 メンバー集めなのに全く関係のないことをしているのではないかという疑問が多々浮かび上がってきますが、穂乃果は至って真面目なので暖かい目で見守ってあげてください(笑)


 次回も引き続きメンバー集め編です。次の犠牲に……勧誘されるのは果たして……?

 よろしければ、感想&高評価お待ちしています!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

食い過ぎシグナルRin rin rin!

 メンバー集め、3人目。
 もはや勧誘活動すらしなくなったのは内緒()


 園田邸を後にした俺と穂乃果は、次なるターゲットに会うためにソイツとの集合場所へ向かっていた。

 ことりも海未もそうだけど、休日とはいえ電話したらすぐに会ってくれるって、案外みんな暇してるのか……? 夢のために勉強やら何やら頑張っているのが嘘のようだ。まあ俺たちのためにわざわざ予定を空けてくれたと言った方が多分正しいだろう。メンバー集めと偽り、ほぼ遊んでいるだけの俺たちとは違うんだよみんな。

 

 

「それで? 次は誰のとこへ行くんだ?」

「もうすぐ着くよ!」

「もうすぐって、ここ商店街だぞ? 誰かこの近くに住んでたっけ?」

「待ち合わせしてるんだよ。ほら、あそこ!」

 

 

 穂乃果の指の先を追ってみると、その軌道上に一軒の古風なラーメン屋があった。外でも食べることができるらしく、店の周りにはいくつかテーブルと椅子が配置されている。

 

 なるほど、もうこの時点で穂乃果が次に会おうとしている子が誰なのか分かった気がする。そういやそろそろお昼時だし、ことりと海未の勧誘で無駄に体力を浪費したので都合良く腹も減ってきた。ここ数日は夏の暑さにビビってずっと家にいたせいか腹が減った記憶すらないので、ここまで食欲が沸くのは久しぶりだ。それに俺の予想が正しければ、これから穂乃果が会おうとする相手はことりや海未のように手が掛からなさそうだから、飯を食いながらゆっくりと落ち着けそうだな。

 

 目的地であるラーメン屋に辿り着いた俺たちは、外から店内を覗き込んで待ち合わせの相手を探してみる。しかし、店内には客がおらず閑散としていた。穂乃果によれば待ち合わせの相手から既に待ち合わせ場所に到着したと連絡が入っているらしいので、誰もいないというのは些か気になるところではあるが……。

 

 とりあえず店員から、誰か来なかったか目撃情報を聞き出すために店へ入ろう。

 そう思ったその時だった。外に配置されているテーブルの方を見つめている穂乃果が、口をあんぐりと開けたまま立ち止まっていることに気が付く。ただのラーメン屋に一体があったって言うんだ……。

 

 

「うっぷ……うぅ……」

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 確かに、これは口を開けて様子を見守ることしかできねぇわ……。

 何が起こっているのかと言うと、凛が顔を青ざめたまま仰向けで転がっている。しかもお腹を山のように膨らませ、近くのテーブルには大量のラーメンが投与されたデカいお椀が置いてありただならぬ存在感を放っていた。どこからどう見て食い過ぎで倒れやがったな、コイツ。

 

 

「ちょっと凛ちゃん大丈夫!? 女の子がしちゃいけないお腹になってるよ!?」

「うっ、ぐっ……」

「苦しくてもここで絶対に吐いちゃダメだからね!! 綺麗な滝の映像とか、天の川の映像とか全く準備してないから!! カモフラージュできないから!!」

「そもそもこの世界は文字だけ……いや何でもない」

 

 

 この事実を明かすことは世界の理に反するので、触れてはいけない真実だろう。

 そんなことよりも今は凛だ。穂乃果が待ち合わせをしていたのはやはり凛だったので俺の予想は当たっていたのだが、まさか食い過ぎでブッ倒れているとは……。しかも巨大お椀を覗き込んでみると、あまりにも麺と具の量が多すぎて一切手を付けていないように見える。あのラーメン好きの凛がここまで撃沈されるなんて、最初はどれだけの量が入っていたのだろうか?

 

 

「うぐ……ほ、穂乃果ちゃん……?」

「あっ、凛ちゃん!? 気が付いた?」

「ラーメンには……勝てなかったよ……」

「セリフがエロ同人みたいになってるよ!? このままだと触手のようにうねうねと卑しく動くラーメンの麺に犯されて、気絶しちゃったって思われちゃうよ!?」

「ラーメンのエロ同人とか想像したくねぇから言葉に出すのはやめろ!!」

 

 

 この世には偏屈思考を持った人間なんてごまんと存在する。だから調べてみればその手の同人も存在する……かもしれない。増してネットが発達してエロ界隈も同時に発達してきたこのご時世、陵辱や催眠などの特殊プレイすらも世間一般に浸透してきている。一昔前はそれらも特殊性癖の1つだったはずなのに、今では通常プレイとなんら変わらぬカテゴリに分類されることも多い。つまり、一般化されているということはそれだけ同人の作品数も多く、それらのカテゴリで薄い本を売り出しても多量の同人作品に埋もれやすい訳だ。そう考えれば、ラーメン同人のような新たな特殊性癖を売りにしていくのも悪くはないかもしれない。

 

 ――――と、現在の同人事情についてはさて置き、特大サイズを頼んで食い切れずノックアウトしたこのおバカさんをどう処理しようか? 給食をお代わりしたのに残すのと同じ罪だぞこれは……。

 

 

「あぁ……零くんもいたんだ……」

「いたよ。てかお前、今にも死にそうだな」

「ラーメンをお腹いっぱい食べて死ねるなんて、凛としては本望だよ……ガクッ」

「凛ちゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああん!!」

 

 

 いつまでこのコントを続ける気なんだ穂乃果の奴……。そもそもことりや海未を勧誘する時だって、本題に入るまでがやたらめったら長かった気がする。分かった、だから俺も途中からメンバー集めに来ていることを忘れてしまうんだ。

 

 

「で? どうしてブッ倒れてんだ?」

「想像していた量よりも100倍は多くて……」

「そもそも、どうしてこの店は誰も食い切れないようなラーメンをメニューに出してんだ?」

「あれだよあれ……」

「ん?」

 

 

 凛は穂乃果に介抱されながら、虚ろな目でラーメン屋の壁に掲示してあるポスターに俺たちの目を誘導する。

 そのポスターにはでかでかとこってり豚骨ラーメンの画像が描かれており、その下の文章にはこう記載されていた。

 

 

『この巨大ラーメンに挑戦する戦士(単騎のみ)求む!! 達成者には飯代チャラ&1年間この店のラーメン半額券プレゼント!! ただし、失敗した愚か者からは10万円頂きます』

 

 

「じゅ、10万!?」

 

 

 ポスターを見れば分かることなのだが、あまりの衝撃で口にも出してしまった。確かに成功した時にメリットは非常に大きく、1年間の3食はこのラーメン屋で飯を食ってもいいくらいだ。でもそれだけ大きな見返りがあるとなると、デメリットも相当大きいのが世の常。例えどれだけ巨大であっても、たかがラーメンごときに10万も払わせるとは店も相当な覚悟を持っているようだ。こんな巨額な金を請求して法に触れないのかと真面目なツッコミを入れつつも、無謀にもこんな企画に挑戦した凛に呆れるしかない。

 

 凛はラーメン好きとしてメンバー間でもファンの中でも有名だが、彼女は紛うことなき女性なのだ。しかも身体は華奢であり、元々そこまで食いしん坊ではない。そんな彼女が1人で巨大ラーメンに挑もうなんて、これを無謀と言わずに何という。ただラーメンが好きなだけでこの強敵に挑もうなんて、覚悟が足りなさすぎるにも程があるだろ……。むしろこの敗北を通じて、ラーメンが嫌いになるとかありそう。

 

 だが、もう挑んでしまったものはどれだけ騒いでも仕方ない。あとはブッ倒れた凛をどうするかだが、それ以前に根本的な問題を思い出してしまった。この企画に失敗したらどうなるのか、敗北した戦士の末路を……。

 

 

「おい凛、とりあえず10万払っとけ。でなきゃ無銭飲食になって、ここから立ち去ることもできねぇぞ」

「……ない」

「あまり聞きたくない語尾が聞こえたような気がするんだが、今なんて言った……?」

「お金、持ってない……」

「ええっ!? 凛ちゃん、失敗したらお金払えないのにこのラーメンに挑戦しちゃったの!?」

「うっ、ぐっ……吐きそう……」

「ちょっ、ちょっと真面目に答えてよ!?」

「そんなことだろうと思ったよ……」

 

 

 最初転がっている凛を見た時はただの食い過ぎで倒れたのかと思っていたが、さっきのポスターの内容を見てコイツが何故ここまで青ざめているのか、その真の理由がはっきりと分かった。凛の財布が軽すぎたんだ、以上。吐きそうになると言って誤魔化している時点で大体理由はお察しだろう。まあ本当に吐き出しそうだから強く文句を言えないのは確かだけど。

 

 

「ちなみに聞くけど、お前いくら持ってんだ?」

「せ、1000円……」

「小学生の小遣いかよ……」

「穂乃果よりも500円多い!? ま、負けた……!?」

「お前ら本当に大学生!?」

 

 

 凛はアルバイトをしていないので散財するのは仕方のないことだが、穂乃果は実家が和菓子屋であり、しかも本人がレジ番をしているので貰ってる小遣いはそこそこのはずである。なのにバイトをしていない凛より散財してるって、一体何に浪費してんだよ……。

 

 穂乃果の貧乏生活は他所でやってもらうとして、今をもって現状の全てが把握できた。

 巨大ラーメン企画に挑戦した凛だが、触手のような麺に犯され……ではなく、普通に食い切れずノックアウト。しかも財布の中にはたった1000円しかなく、腹がいっぱいなのも相まって精神的にも身体的にも死にかけになってしまったと。相変わらず高校時代と同じで、頭のネジが数本外れているのは今でも変わってないみたいだ。挑戦するのは勝手だけど、もう20歳で大人なんだから失敗した時のリスクくらい考えてくれ……。

 

 

「言っておくけど、俺もそんな大金は持ち合わせてないからな。だから代わりに払ってやることはできねぇよ」

「えぇっ!? それじゃあ凛ちゃんは無銭飲食で逮捕されちゃうの!? μ'sの再結成の夢はどうなるの!?」

「それは店主に相談して、何とかラーメン代をチャラにしてもらうしかないだろうな」

「分かった! 凛ちゃんのためにも、そしてμ'sの未来のためにも、穂乃果が話を付けてくる!!」

「お、おい穂乃果!!」

「しばらく凛ちゃんの介抱お願いね!!」

 

 

 穂乃果は俺に有無を言わさず店内に入って行った。相変わらず一度決めたことはとことん真っ直ぐ突き進む性格なのだが、お腹が膨らんでいる女の子を男が介抱する図になってしまうのは少々気が引けるというか、周りの目が痛い。生憎外にいるものだから、傍から見たら孕んでいる女の子と俺が一緒にいるみたいで……。

 

 とにかく、早く戻って来い!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「わぁ~チャイナ服なんて久しぶりに来たかも!」

「さっすがことりちゃん! どんな衣装を着ても可愛いね♪」

「ありがとぉ~♪ でも穂乃果ちゃんの方が可愛いよ! 海未ちゃんも!」

「うぅ、どうして私がこんなことを……」

 

 

 本当にどうしてこんな展開になったのか、俺も未だに情報の整理ができていない。とりあえず分かっているのは、俺の目の前にチャイナ服を着た穂乃果、ことり、海未の3人がいることだけだ。俺が凛の様子を見ている間に、一体何があったんだ……?

 

 

「穂乃果!? どうして私がこんな格好をしなければならないのですか!?」

「お店の人に聞いたらね、凛ちゃんが払えなかったお金を工面したかったらお客さんの呼び込みしてくれって頼まれちゃって。でも穂乃果1人だけだと寂しいから、さっきまで家で暇をしていた2人を呼んだんだよ」

「ことりはどうなのか知りませんが、少なくとも私はやることが……」

「海未ちゃん、それは仲間のピンチよりも大切なことなの?」

「あぁもういいです。抵抗する方が疲れます……」

 

 

 そうだな、穂乃果と会話しているよりも接客をしている方が精神的に楽な場合もある。特に今日の穂乃果は強引さが際立っており、下手に抵抗したらしただけこちらが無駄に疲弊するだけだ。

 

 ちなみに各々が着ているチャイナ服はそれぞれのイメージカラーとなっていて、穂乃果がオレンジ、ことりが白、海未が青だ。そこそこ大きな切れ目が入ったスリットから、3人の大人になった色気満載の生脚を拝めるのが何とも欲を唆られる。隣で青ざめながら満腹に苦しんでいる凛の存在を忘れてしまいそうなくらいだ。

 

 

「凛ちゃん妊婦さんみたいだね♪ あの小柄で無邪気な凛ちゃんのお腹がぷっくりと……ゴクリ」

「ことりちゃん……目が怖いよ……」

「そんなことないよ! ことりはただ零君が凛ちゃんを襲って孕ませる展開を妄想してるだけだから!!」

「口に出して言うんじゃねぇ!! 俺だって想像してたけど黙ってたのに……」

「零くんのえっち……」

「俺だけかよ!?」

 

 

 ここで俺だけが責められるあたり、ことりの淫乱度が極限突破していることはμ's内でも周知の事実なのだろう。認められていると言うより、もう諦められていると言った方が正しいのかもしれないが。

 

 まあ今はとにかく、凛の尻拭いをすることが先決だ。

 

 

「メイド喫茶でのバイト経験があることりはいいとしても、穂乃果と海未は接客できるのか?」

「零君、1つ忘れてない? 穂乃果は和菓子屋の娘で、バイトを辞めちゃったことりちゃんとは違って今でもレジ番を任されてるんだよ?」

「でもお前ん家に居候していた楓の話では、自分の方が働いてる時間が圧倒的に多いって聞いたけど……?」

「まあそういう次元の話もあるよね」

「この世界のことだよ……」

 

 

 そうツッコミを入れるものの、子供の頃から遊びとはいえ店の客引きをしてきた穂乃果がいるんだ、ぽっと出の客引きバイトなんかよりもよっぽど戦力になるだろう。ことりの実力はもちろん言わずもがななので、残るはこういうことが苦手そうな海未だけだ。もう既に顔が怖ばってガチガチになっており、緊張の色を隠せていない。

 

 

「おい海未、客引きする側がそんなに引きつってたら誰も寄って来ねぇだろ……」

「そう言われましても、こんな格好でビラ配りだなんて恥ずかしすぎますよ!!」

「大丈夫だよ海未ちゃん……。可愛くアピールすればお客さんなんて全員イチコロだって、この凛が保証するから……」

「食べ過ぎでお腹を山のようにして転がっている人に保証されも、全然自信にならないのですが……」

 

 

 さっきからちょくちょく会話に混じってくる凛だけど、コイツ寝てなくて大丈夫なのか……? ラーメンの代金を肩代わりしようとしている俺たちに恩義を感じているのか、それともただ単に会話に参加したいだけなのか。どちらにせよ、さっきから食べ過ぎで嘔吐くこともあるからあまり喋らないで欲しい。下手に喋って興奮して吐かれでもしたら、こちとら隠すものなんて何もねぇから。例え女の子の体液であろうとも、嘔吐物だけは勘弁な。

 

 

「それじゃあ一旦客引きする前に練習しておくか。まずは穂乃果から、俺を客に見立てて客引きしてみろ」

「穂乃果から? ちゃんとできるかなぁ……?」

「レジ番してる時の感覚でいいからさ」

「わかった! それじゃあ―――――

 

 

いらっしゃいいらっしゃい! 美味しいラーメンがいかがですか? お昼時にピッタリのラーメン&餃子セットがお勧めです! 更に、ちょっと欲張りさんには半チャーハン付きもご提供! どれもランチだけの特別価格となっていますので、どうかお立ち寄りください!!

 

 

こんな感じ?」

「おぉ、やるじゃん」

 

 

 さっきは穂乃果に客引きができるのか軽く疑っていたけど、やはり子供の頃からのレジ番経験は伊達じゃないようだ。特に捻ったところもない正統派の売り文句で客を引き、持ち前の明るさと笑顔で惹きつける。自分の武器を駆使して通りすがりの人の昼食を促す、彼女らしい客引きの仕方だ。

 

 

「次はことりな。まあお前は練習しなくてもいいと思うけど」

「海未ちゃんにも参考にして欲しいし、せっかくだからやるよ!」

「そうか、真似する人のハードルが高くならないようにな」

「うんっ! もしことりが客引きをするなら――――

 

 

お兄さん♪ お腹、空いてませんか? もしそこのお店でラーメンを食べてくれたら、お腹をいっぱいにしたついでに、あなたの枯れ果てた性欲もことりが満たしちゃいますよ♪

 

 

よし、完璧!」

「完璧じゃねぇよ!! それは怪しい店への客引きだろ!?」

 

 

 しかし相手がことりだったら、並大抵の男はホイホイ釣られてしまうに違いない。ただでさえバイト先のメイド喫茶を1人で繁盛させてたんだ、その道の怪しい店への勧誘ならそれ以上の人数は余裕で連れ込めると思う。ラーメン屋に来る人は男性が多いはずなので効果的な勧誘じゃないと言えば嘘になるが、そもそもラーメン屋への風評被害が半端ではないので全く参考にならない。ていうかしちゃダメだ。

 

 

「次は海未の番だぞ。2人の客引きを参考にしてもいいから、練習がてらやってみろ」

「ことりのは参考になるか分かりませんが……仕方ありません」

「μ'sとしてステージに上がるのは平気なのに、どうして客引きごときでそんなに緊張してんだよ……」

「こんな格好で見知らぬ人と面と向かうのは緊張しますから! と、とりあえずやってみます――――

 

 

あ、あの、その……美味しい出汁を用意しているので、是非ご来店ください。店主である女将さん自慢の甘味が聞いた出汁は、一風変わった味らしいです……よ?

 

 

こんな感じでいいのでしょうか……?」

「いや、お前は意識してないだろうけど……なんかエロい」

「はぁ!?」

 

 

 本人は至って真面目で、羞恥心に何とか耐えながら頑張っていたのは俺にも伝わってきたよ? でもな、エロく聞こえてしまうものはエロく聞こえちゃうんだ。確かにこの店の店主は女性で、どうやらラーメンの出汁に僅かな甘味を付けているのがウリらしい。だけど海未の勧誘の仕方だと、どうもラーメンのことではなくて女将さんの出汁という一種の淫語に聞こえなくもない。むしろことりの勧誘よりもエロく聞こえるのは気のせいだろうか……?

 

 

「3分の2が怪しい店の勧誘をしてるけど、このままだと勘違いした人ばかりが集まりそうだな……。このラーメン屋の将来が心配になってきた」

「全く、ことりちゃんも海未ちゃんも相変わらずだね」

「えへへ、それほどでもあるよ♪」

「どうして私がことりと同列なんですか!? 誠に遺憾です!!」

 

 

 その後はなんやかんや言いながらも、穂乃果たちは無事に客引きバイトを終えた。やはり元μ'sのメンバーが客引きをしている効果は大きく、女将さんの話によれば普段の数十倍は客がやって来たとか。その頑張りに免じてくれたのか、1時間程度で穂乃果たちをバイトから開放してくれた。まあ本当に10万円分働こうと思ったら、1日中どころか月単位でバイトしなければならないので本当に助かったよ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「最初は10万円分働くってなって必死だったけど、やってみると案外楽しかったね!」

「ことりは久々にチャイナ服を着られただけでも満足かなぁ~♪」

「ラーメンは美味しかったのですが、しばらく客引きのバイトは遠慮しようと思いました……」

 

 

 各々バイトの感想を語り、美味しいラーメンもご馳走になって意気揚々としていた。海未だけは自分の勧誘の仕方が怪しい店の勧誘にしか聞こえない事態に陥っていたので少々落ち込み気味だが、やはり見た目が可愛くて綺麗だから、自身のスペックで客も引き寄せられたのでマイナス点も相殺されていたと思う。結果的には穂乃果たち3人のおかげで店も繁盛したみたいだし、良かったんじゃないか?

 

 

「ラーメンも餃子もたらふく食べたし、午後からもメンバー集め頑張ろう!」

「穂乃果ちゃん、やる気満々だね!」

「それだけμ'sに賭ける思いが強いのでしょう。私たちが出る幕すらもないみたいですね」

 

 

 メンバー勧誘やバイトで動き回って空腹になっていたのか、穂乃果は昼食(タダ)に出されたラーメンと餃子をペロリと平らげていた。また海未に太るの何だのお叱りを受けそうになっていたのだが、メンバーの勧誘やバイトを頑張っている功績でお決まりのその流れはチャラとなった。店側としては代金の立て替えのために穂乃果たちを一時雇ったのに、あそこまで昼食を貪られると余計に出費になるのでは……と思ったが、せっかく10万円を帳消しにしてもらったんだから余計なことは言わないでおこう。

 

 

 それにしても、何かを忘れているような……? 美味いラーメンで満腹になったのはいいけど――――

 あっ、満腹で思い出した! 俺たちアイツのこと忘れてないか……?

 

 

「なぁ、凛はどこへ行ったんだ?」

「「「あっ……」」」

「みんな忘れてたのかよ……」

「アハハ、バイトをしたりラーメンを食べてたらすっかり忘れちゃってた」

「元々凛ちゃんのためにアルバイトをしてたのにね……」

「私も客引きに必死で忘れていました……。まだラーメン屋にいると思うので、連れ戻しに行きましょう」

 

 

 俺も途中まで凛の介抱をしていたのだが、穂乃果たちのチャイナ服姿に見蕩れていたり、客引きの指導をしている間にいつの間にか彼女の存在を忘れてしまっていた。妊婦のようなお腹になった凛だが、介抱してくれる俺たちがいなくなって平静でいられるのだろうか? もしどこかで吐いていたりでもしたら全力で他人のフリをするしかない。

 

 だが、そんな俺の予想は大きく外れることになる。いや、凛の取っていた行動が斜め上どころかベクトルが違いすぎて、連れ戻しに来た俺たちがまたしてもあんぐりと口を開けるはめとなった。

 

 俺たちがラーメン屋に引き返すと、凛はケロッとした顔でテーブルに着いていた。誰がどう見ても孕んでいるだろと思われた腹は完全に引っ込み、いつもの小柄な凛の身体に戻っている。一番疑問なのは本人が何故かやる気に満ち溢れた表情をしているのだが、腹痛が治ったことがそんなに嬉しかったのだろうか……?

 

 そう思った矢先、俺と穂乃果たちは凛の目の前のテーブルに置かれてるデカいお椀を見て、身も凍るような戦慄が走った。

 ま、まさかコイツ、無謀にもまたあの企画に挑戦する気か……!?!?

 

 

「あっ、零くんたちだ!」

「お、お前、その馬鹿デカいラーメンは……!?」

「あぁこれ? いやぁ、あの時は凛も自分の好きなラーメンが相手だから油断してたんだよね。だけど、戦いというものは敗北から学ぶものなんだよ! なんかさっきまで寝てたみたいだからちょうどよくお腹も空いてきたし、女将さんに聞いたら何故か企画の代金はチャラになったみたいだし、これは流れが凛に向いているってことだよね!」

「り、凛ちゃん! それはね、穂乃果たちが――――」

「コイツ、気絶してたから記憶が飛んでやがるのか……」

「分かってるよ穂乃果ちゃん、零くん。何事も当たって砕けろで諦めるなってことだよね? 心配しなくても大丈夫! そこで凛がこの巨大ラーメンを駆逐する勇姿を、しかと目に焼き付けといて! それじゃあ、いただきまーーすっ!!」

「凛ちゃんダメェエエええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 悲劇は繰り返される。救いのないおバカさんというのはその名の通り、どれだけ手を差し伸べてやってもおバカさんだから救いようがないのだ。あぁ無慈悲、あぁ無情……。

 

 

 ちなみにメンバー勧誘の件だが、穂乃果が頼んだら凛はあっさりとμ'sに入ってくれた。

 ことりを勧誘してる時から既に怪しいけど、もうこれ勧誘活動をする意味ないよな? ていうか、話の内容が勧誘全く関係なくなってるし!!

 

 

 

 

To Be Continued……




 メンバー集め回なのに、勧誘要素が最後の数行しかないのは仕様です()
 書きたいネタは多いものの、勧誘活動を主軸に話を進めると使えるネタが絞られてくるのが困りものです。なのでμ'sのみんなにはちゃっちゃっと再加入してもらわなければ!

 あと、凛の出番が少なかったのでまた花陽回あたりで出番が……あったらいいなぁ(笑)


 次回は楓ちゃんの勧誘回です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その妹、ブラコンにつき

 メンバー勧誘回、4人目。
 今回は穂乃果が、一番勧誘難易度が高いと噂(?)の妹と直接対決!


「ねぇ、お兄ちゃん。私が出かける理由、家を出る前にちゃんと言ったよね?」

「あぁ、言ってたような気がするな……」

「それなのに、お兄ちゃんは外でお昼ご飯を食べてきた訳? 私が昼食のおかずを買いに行ってると知りながら、他の女と楽しくデートをしながら優雅な昼食ですかいいご身分だね!!」

「だから、それは穂乃果が無理矢理俺を部屋から連れ出したのであって……」

「男が言い訳なんて見苦しいよお兄ちゃん。言い訳したいなら男やめちゃう? ちんこ切っちゃう? 私に生オナホ提供しちゃう?」

「そっちが本心だろお前……」

 

 

 とは言うものの、楓が出かけていた目的を知りながら外で飯を済ませてきたのは事実なので、強く言い返せないのが何とももどかしい。

 

 俺は凛の無謀な挑戦を見届けた後、楓からの電話により一時帰宅していた。

 楓が電話口で怒鳴りつけてくるまで何故コイツが怒っているのか見当も付かなかったが、そういや飯を買いに行ってることをすっかり忘れていた。そのせいで楓は大変ご立腹であり、俺と(ついでに)穂乃果は正座を強いられている現状だ。

 彼女は料理が趣味と言えるほど大好きであり、特に兄である俺に振舞う手料理は例え軽食であろうとも本気を出す。食す側の俺としては美味い飯を食えるのは嬉しいのだが、本気が故に彼女は料理に魂を賭けており、現状のように作った料理を食べてもらえないとこうして深い謝罪を要求してくるのだ。まあオナホ云々の話は完全にコイツの趣味だろうが……。

 

 

「さて、私のお兄ちゃんを勝手に連れ出したそこの女狐は、どう料理したら反省してくれますかねぇ~?」

「穂乃果を料理すること前提!? 死んじゃったら反省もできないじゃん!!」

「その名の通りきつねうどんにしてやろうかな……? それとも全身ごとぬか漬けにして窒息させても面白いかも♪」

「笑顔が怖いよ!! ゴメンゴメン、穂乃果が悪かったからぁ!!」

「謝って済むなら警察は要りません。ほら、まな板はあちらですよ」

「それ切ろうとしてるよね!? 包丁でグサッてするつもりだよね!? 反省してるから許してよぉ!!」

「全く、私の心があと数ミリ狭かったら燻製肉になってるところでしたよ、先輩」

「楓ちゃん趣味悪すぎるよ……」

 

 

 相変わらず穂乃果と楓は相性抜群(?)のようで、流れるような毒舌とツッコミに長年兄として妹と生きてきた俺ですら感心する。穂乃果ママの話によると、楓が居候していた時はずっとこの漫才を見せつけられたそうだ。しかもその仲の良さは、まるでこれまでずっと一緒に過ごしてきた家族のようだったらしい。今の穂乃果と楓のやり取りを見ていると、楓が一方的に穂乃果を虐げているように見えるが、それも2人の仲が親密だという証だろう。

 

 そもそもの話、楓がここまで他人に興味を示すことすら珍しいんだ。だって皆さんお分かりの通り、ウチの妹ちゃんは大変重度なブラコンを患っておりまして、一生治らない末期症状でもありまして……。

 だからそんな病人の楓が、俺以外の人間にここまで親密に接するのは驚くべき事態なのだ。口では穂乃果を馬鹿にしつつも、何だかんだ楽しく漫才できるのが楽しいんだと思う。穂乃果も穂乃果で楓と絡む時は自然とテンションが高くなってるし、彼女も大きな声でツッコミを入れながらも楽しんでいるのだろう。

 

 

「で? 穂乃果先輩はどうしてお兄ちゃんを外に連れ出したの? お兄ちゃんはですね、ここ最近のニート生活の影響で、日の光を浴びると皮膚が蒸発してしまうくらいに身体が弱くなったんです。なのに先輩はお兄ちゃんに外を歩かせるという過酷な試練を……うぅ、可哀想お兄ちゃん」

「いやさっき説明したじゃん! スクールアイドルフェスティバルに出場するために、もう一度μ'sのみんなを募ってるんだって!」

「そんなことの……そんなことのためにお兄ちゃんは廃人になっちゃったんですよ!? ほら見てください! 私のご主人様であるお兄ちゃんが、私の目の前で正座してるなんて普通有り得ないですから!! 夏の日差しの熱さで気が狂ったに決まってます!!」

「廃人にもなってねぇし気も狂ってねぇ。それに正座はお前が命令したんだろ……」

「お兄ちゃんが狂人になってしまわぬよう、私がお兄ちゃんを部屋から出なくてもいいように食事、掃除、洗濯、その他諸々をメイドのごとく引き受けていたっていうのに……」

「ここにいた!! 零君をニートしちゃった元凶がここにいたよ!!」

 

 

 そういや、俺が教育実習から帰ってきた頃からやたら楓に世話を焼かれていた気がする。まあいつも焼きに焼かれているのは事実だが、最近は特に楓が献身的になっていた。まさかその理由が俺を外に出させたくなかったからとか、勝手にニート育成ゲームが開始されていたことにまず驚きだ。しかも楓の卓越した家事スキルとご奉仕スキルがあれば、俺のような男をニートとして覚醒させるのは屁でもないだろう。多分そこらのヌルゲーよりも遥かにイージーゲームだったに違いない。

 

 

「どうしてそこまで俺を拘束したかったんだ……?」

「だってお兄ちゃん、教育実習で3週間もいなくなっちゃうんだもん。だから帰ってきたのが嬉しくなっちゃって! それに教育実習がいくら大学の方針とはいえ、お兄ちゃんがいなくなるのはやっぱり寂しいから、一生働かなくてもいいように私がたくさんお世話しちゃった♪」

「実の妹からニートになるよう調教を受けた気分はどう零君?」

「それを言うな!! 自分でも死ぬほど痛感してるから!!」

「愉悦だったよぉ、お兄ちゃんがどんどんダメ人間になっていく様。お兄ちゃんはもう私なしでは生きていけないんだって思うとゾクゾクしてきちゃう♪ お兄ちゃんはずっと私のモノだから、フフフ……」

 

 

 一時期だけだが俺が教育実習により家からいなくなったことで、楓のヤンデレ力は大幅に増幅したらしい。もうガキの頃からヤンデレの気質は抜群だった彼女だが、この歳になってもなおその病は拗らせ続けている。ブラコンにヤンデレって、もう救いようがねぇな……。

 

 そう他人事のように宣っているが、現にあっさりとニート調教されているので危機感を抱かなければならないのは分かっている。でもヒモのような生活も案外悪くないと思い始めているあたり、楓の調教が俺の心の奥深くまで進行しているのだろう。自覚していても何かとお世話をしてくれる妹の優しさから抜け出せないので、俺も相当シスコンなのかもな。

 

 

「零君がダッチワイフになったのはこの際どうでもいいの! 穂乃果は別の目的でここに来たんだから!」

「どうでもいいのかよ……。それにダッチワイフって女性に使う言葉だぞ……」

「あぁ、そういえば正座する前にそんなこと言ってましたねぇ。μ'sへの勧誘、でしたっけ?」

「そうそう。スクフェスに出場するために、楓ちゃんを誘いに来たんだよ」

「私が穂乃果先輩の言葉にそう安々乗ると思いますか?」

「まあ、知ってたよ……」

 

 

 出たよ、楓の悪ふざけが。楓自身も別にμ'sに参加すること自体は渋ることでもなく、むしろもう一度可愛い衣装を来てステージに上がりたいんじゃないかというのが俺の見解だ。ことりやにこと同様にオシャレ好きだし、最初は穂乃果たちへの対抗心からμ'sに参加していたものの、割と早い段階でスクールアイドルというものを楽しむようになっていた。さっきも言ったけど、楓は俺以外に興味を持つことがない子だったので、仲間と共にスクールアイドルに打ち込む様子が非常に珍しかったんだ。だからこそμ'sに再加入するのは本人としても(やぶさ)かではないと思う。

 

 だが、彼女は小悪魔を体現したような子でもある。だからいくらμ'sに加入したいと思っていても、穂乃果を弄ぶために敢えて拒否している可能性は否めない。現に彼女の表情を見てみると、口角が上がり妙に楽しそうだ。素直に頷いておけば話が丸く収まるものの、綺麗に風呂敷を畳むことがつまらなく感じる楓のことだ、ここから無駄な頑固さを見せるのはもう目に見えていた。

 

 

「言っておきますけど、元々μ'sに加入したのだってお兄ちゃんに振り向いてもらうためであって、何も先輩たちとキャッキャウフフなことをしたい訳じゃありませんでしたから」

「なんだろう、物凄く卑猥に聞こえるんだけど……。まるで穂乃果たちが同性愛者グループみたいじゃん……」

「でも一歩間違えたらレズルートに行きそうな組み合わせは何組かありますよね? 花陽先輩と凛先輩とか、絵里先輩と希先輩とか」

「やめてあげて!! これ以上ここにいない人でピンク色の妄想をするのはやめてあげてよぉ!!」

 

 

 俺だって同じことを思っていたが黙っていたのに、それを平然と公言できるなんてそこに痺れないし憧れない。ちなみに楓だって雪穂や亜里沙と仲のいい場面が多いから、同じ妄想をみんなにされているかもしれないぞ。まあこの俺がいる限り同性愛なんて認めるどころか、異性(俺only)にしか目を向けられないように仕向けるから。レズプレイは他の媒体でやってくれ。

 

 

「話を戻すけど、楓ちゃんμ'sに入ってくれないの?」

「よく考えてみてください。私はお兄ちゃんに好かれるためにμ'sのメンバーになったんです。でもお兄ちゃんとこうして結ばれた今、私がμ'sに入る意味なんてないじゃないですか」

「楓ちゃんにしては真っ当な意見を……。てっきり穂乃果をイジめたいから意地悪してるのかと」

「まあそれもありますけど、ちゃんと断る理由もあったんですよ。なので諦めてください」

「そんなぁ……」

 

 

 元々楓に意地悪される前提でいた穂乃果は、それなりに彼女と対決する準備をしていたみたいだ。だけど割と普通な理由を押し付けられたため、反撃するにできなくなっている。用意していた武器が全て使い物にならないと分かった穂乃果は、今回の勧誘活動初の暗い表情を浮かべていた。

 

 

「私はニートお兄ちゃんのお世話で忙しいので、他を当たってください」

「だったら、零君がニートじゃなくなればいいんだよね!? ほら零君、これから毎日外に出るよ!! ていうかもう家に帰らなくてもいいから!!」

「それはそれで問題だろ!! それにこんなクソ暑い時期に毎日外出したくねぇ!!」

「そうですよ! お兄ちゃんは毎日私とエッチするだけの存在になるんです!! 私が必要な時にすぐ性欲処理してくれて、お兄ちゃんが必要になったら私が性欲処理をしてあげる、まさにwin-winな関係なんです! 誰にも邪魔させませんよ!!」

「男なのにマジでダッチワイフ化しようとしてんじゃねぇか……」

 

 

 常に搾り取られる人生を送るって、それはそれでクソ暑い外に出るよりもキツい気がする。流石の俺でも何時間も耐久で出し続けるのは不可能なため、1日中性欲が溢れている楓の相手をしたら先にこちらが干からびてミイラになってしまうだろう。しかもこっちがミイラになっても、楓はお構いなくずっと俺の上で腰を振ってそう……。

 

 

「零君をどうやってニートから脱却させようかな……? 穂乃果の部屋のベッドにずっと縛り付けておけばいいのかな……?」

「それ結局やってること楓と変わらないからな!? それに、どうしてお前らはすぐ人を監禁したがるんだよ! あの頃のヤンデレ病が再発したのか??」

「好きな人を監禁して、自分の思うがままにエッチなことをしたいって思うのは恋する女の子として当然だから!」

「そして抵抗できずに女の子に組み伏せられて、望まない射精で悔しがりながら気持ちよくなる男の子の姿を見るのが快感だから!」

「お前ら、とりあえず全世界の恋する乙女に謝れ……」

 

 

 そんなシチュエーションで悦ぶ奴はよほどのM気質を持ってるか、背徳感の溢れる現場を見て興奮する性癖偏屈者だけだろう。しかし同人誌とかAVではよくある展開なので、もうこのご時世では偏屈でないのかもしれないが。

 

 性癖談義はさて置き、俺の周りの女の子はとことん危ない思考をしていると改めて実感した。ことりがやたら目立っているだけで、この2人も相当な痴女なのだ。それにあの海未ですら変態思考に陥ることが多くなったため、もうμ's内で安静できる場所は凛や雪穂、亜里沙の3人くらいだろう。あとのメンバーは何かしら危険な爆弾を抱えているから……。

 

 

「あっ、楓ちゃんの話に釣られちゃってた! 本当にμ'sに入ってくれないの……?」

「だから、私は元々お兄ちゃんに見てもらいたいがためにスクールアイドルになったのであって……。お兄ちゃんはどう? 私にもう一度ステージに上がって欲しい? 私の輝いてる姿を見たい?」

「それはお前が決めることだ。例え俺が動機でスクールアイドルを始めたとしても、穂乃果はお前の本心に問いかけてるんだからしっかり応えてやれ」

「それはそうだけど……」

「穂乃果はもう一度楓ちゃんと一緒にスクールアイドルをしたいんだよ! 12人揃わなきゃμ'sじゃない。 だからもし楓ちゃんがμ'sに入らないって言うのなら、穂乃果もきっぱり諦める。そして参加してくれるって言ってくれたことりちゃんたちにも頭を下げて、スクフェスの参加も諦めるから!」

「そんな、ズルいですよその言い方は……」

 

 

 確かに、他の仲間の意気込みを差し置いて目の前の1人だけに執着するのはかなり汚い手だろう。その手口に流石の楓も穂乃果に圧倒される形となり、いつもの力関係とはまるで一転した。いくら小悪魔な楓でも、断ち切れそうな絆を放っておくほど冷たくはない。だからこそ穂乃果の勧誘の仕方は大きなダメージになっているはずだ。

 

 逆に穂乃果は楓のその性格を1から10まで見抜いていたからこそ、このような勧誘をしているのだろう。少々汚い手ではあるが、裏を返せばそんな汚い手を使ってでも楓と一緒にスクールアイドルをしたいと思っているはずだ。卑怯だと言われる覚悟を持ちつつ、同時にμ'sの存続を天秤に掛ける覚悟も持つ。捻じ曲がった覚悟だが、その覚悟ですら持つのには相当な覚悟が必要なのだ。

 

 

「全く、何も考えていない天然おバカさんかと思えば、こういう時だけ真っ直ぐなのは本当にズルいです。呆れるのと同時に感服しちゃいますよ」

「えっ……? か、楓ちゃんが穂乃果を褒めてくれた……!?」

「勘違いしないでください!! 呆れるのを通り越して、一周回って納得しただけですから!!」

「わぁ~その言い方真姫ちゃんみたい♪ こういうの、ツンデレって言うんだよね?」

「こ、殺しますよ!! 今度は本気できつねうどんにしちゃいますから!!」

 

 

 いくら楓の性格が小悪魔であろうとも、殺害予告をするような暴言を吐くのは非常に珍しい。しかも余裕が一切なく取り乱す姿はそれ以上に貴重な姿だ。彼女は普段誰かをイジる側の人間だから、素直に褒められたりイジられる側に回るのは慣れていない。これも高校時代から変わっていない、楓の可愛い性格の1つだ。

 

 

「穂乃果先輩にここまで攻められるなんて、一生の不覚。人生やり直したい……」

「普段の楓ちゃんが穂乃果をどこまで見下しているのか、改めて分かったよ。今更だけどさ……」

「それで? お前はμ'sに入るのか入らないのか、今ここで決めろ。俺のことは度外視してな」

「私は……お兄ちゃんのことは度外視なんてできない。私の行動基準がお兄ちゃんなのは未来永劫だし、自分でも絶対に変えるつもりないから。だけど、それを踏まえても穂乃果先輩たちともう一度スクールアイドルをやってみたいかな。何だかんだ、あの1年は楽しかったしね。またあのひと時を味わえるのなら、参加しない手はないでしょ。それに元々、そのつもりだったし」

 

 

 やっぱり最初から参加する気ではいたみたいだ。表向きでは生粋のブラコンを発揮しながらも、裏ではしっかりと穂乃果たちとの友情を感じていたらしい。俺の思っていた通りだったが、こうして本人の口から直接語られると安心する。楓と穂乃果たちの間には、あの一年間で育まれた絆がまだ残っていたんだって。

 

 

「楓ちゃん、ありがとーーっ!!」

「うわっ!? せ、先輩!?」

「楓ちゃんあったかい……♪」

「私は暑いです!! ていうか気安くくっつかないでください!! 私の身体はお兄ちゃん専用なんですから!!」

「あぁ、しかも髪の毛からいい匂いする! くんくん……」

「へ、変態が伝染る!! 助けてお兄ちゃん!!」

「いや、もう手遅れだろ……」

「はぁ!? 可愛い妹がピンチなのに見捨てるの!?」

「いやいや、もう既に病気な時点でな……」

 

 

 ブラコンでツンデレで変態って、もうどこの名医でも完治させるのは不可能だろう。唯一可能性があるのは兄である俺だけど、自分としてはこのままの方が可愛いから放置安定である。穂乃果に抱きつかれて顔を赤くしているこの光景がもう珍しいので、今後楓をイジる材料として動画を撮っておきたいくらいだ。

 ていうか、さっき自分でレズルートに入りそうなメンバーを挙げてたけど、まさに自分こそが穂乃果とそのルートに入りそうなのは黙っておいた方がいいのだろうか……? この2人の仲と相性が良すぎるから、もしかしたら一番有り得そうかもしれない。俺は決して干渉しないから、まあ好きにやってくださいな……。

 

 

「楓ちゃん、ついでなんだけど零君を勝手に連れ出しちゃったことも許してね♪ ほら、穂乃果との絆に免じて」

「それとこれとは話が別です。私とお兄ちゃんの時間を奪った先輩は重罪ですから、とっととまな板という名のベッドに寝転がってください。気持ちいいのですぐに寝られますよ♪」

「それ永眠するよね!? やっぱり包丁でグサッてするつもりだよね!?」

「料理が趣味ですから♪」

「それどんな料理!? 人体実験の間違いじゃない!?」

 

 

 いやそれは秋葉とかいう悪魔だから……。

 とにもかくにも、穂乃果の必死の勧誘で楓もμ'sに加わった。やり方は汚いにしてもそれだけ穂乃果の覚悟は楓に伝わったようで、そして2人の絆と友情も確かめ合えたので結果オーライじゃないかな。それに難攻不落だと思われていた楓を攻略したことで、他のメンバーも誘いやすくなったはずだ。彼女がクセ者なのはμ's内で周知の事実なので、逆にその事実を武器にしていけば今後の攻略も容易いだろう。

 

 

 そして、ここで1つ朗報がある。

 

 

 なんと今回、真面目に勧誘活動してる!!

 

 

 俺たちの日常がこんなまともであっていいのかと何故か疑問を感じながら、勧誘活動は次のステージへと進む。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 真面目に勧誘活動をしている事実に、思わず感動してしまった私がいます()
 いつもは人を小馬鹿にすることの多い楓ですが、その裏には人一倍強い人情味で溢れているので、もしかしたらμ'sに一番固執しているのは穂乃果ではなくて彼女かもしれません。


 次回は絵里回!
 物語の本筋も少しだけ前進する予定です。



新たに☆10評価をくださった

柿Pさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ポンコツであってもチョロくはない!

 メンバー集め5人目。地味にストーリーも進みます。
 絵里の回って大体彼女が壊れる話が多いですが、それもご愛嬌ということで……(笑)



※後書きにて告知があるので、是非最後までご覧下さい!


 

「ここみたいだな。スクールアイドルの総本部ってのは」

「初めて来たけど、思ったよりも大きな会社なんだね」

「そりゃスクールアイドルと言えば、今は全国イベントで注目されるくらいなんだ。お前らがμ'sをやっていた時とはもはや規模が違うんだよ。だからそのスクールアイドルのイベントを開催する会社も、それなりの規模だってことだ」

 

 

 俺たちは楓の飯を強引に胃へ詰め込んだあと、メンバー集めのために再度外へと繰り出していた。そして辿り着いたのはスクールアイドルの総本山であり、ここで働いている元μ'sメンバーの1人に会いに来た次第だ。

 ちなみにこの会社は主に『ラブライブ!』等のイベントを開催している企業であり、謂わばスクールアイドルというものを世に知らしめた存在である。メディアを通じて全国を魅了したのはμ'sやA-RISEなのだが、『ラブライブ!』というビッグイベントの場を提供したこの企業こそ、影の功労者と言えるだろう。今では地域ごとに発足するまでとなったスクールアイドルにミニイベントをプロデュースするなど、今なお熱気が続くスクールアイドルブームを更に躍進させ続けている。ここ数年で爆発的に増えたスクールアイドルだが、例え発足したばかりの弱小アイドルであろうとも推していくそのスタイルを見ると、いかにこの会社のスクールアイドル熱が高いことが分かるだろう。

 その熱気が凄まじいのは、この会社へ就職する人にスクールアイドル出身が多いのが原因の1つだったりする。この会社がスクールアイドルを推し始めてから恐らく5、6年くらいだろうが、そうなればその時代にスクールアイドルをしていた少女たちは当然社会人になる年代だ。それ故に、自分に夢と思い出を与えてくれたこの会社を就職先に選ぶ人も多いらしい。自分がたくさんの希望を貰ったから、次は自分が後世のスクールアイドルたちに希望を与える番。そう考えると素敵じゃん?

 

 そんな訳で、穂乃果たち元μ'sのメンバーからもこの会社に勤めている人が2人いる。今日はその中の1人を再びμ'sに引き込もうという穂乃果の算段でここに来たのだ。言ってしまえば楓とは別の意味で勧誘のハードルが高い人であり、楓が性格的に厄介なのに対し、今回の勧誘対象は社会的に勧誘難易度が高いのだ。そりゃ会社勤めってことは社会人として働いている訳だから、もう一度μ'sに誘い込もうとするなんて暴挙に出る方が無茶だろう。もちろん誘ってみるだけならタダなので止めはしないが、穂乃果のことだから断られてもそう簡単には引かないと思う。これはまた長期戦になりそうだな……。

 

 事前にここへ来ることは勧誘対象に連絡してあるので、とりあえずビルの中へ入りエレベーターで指定された階へと向かう。

 ビル内はもちろんエレベーター内にもスクールアイドルやイベントを推すポスターが盛りだくさんに貼られているので、格式高い綺麗なオフィスにも関わらずオタク臭溢れる秋葉原を歩いている気分だ。ただ会社の雰囲気がとても明るく見えるから、環境的にも働きやすそうだと初めて訪れたながらに思った。

 

 そして、エレベーターが所定の階に到着する。

 扉が開くと、そこには俺たちの待ち合わせの相手が小さく手を振っていた。

 

 

「あっ、絵里ちゃんだ!」

「穂乃果も零も久しぶりね! 元気にしてた?」

 

 

 俺たちが待ち合わせをしていた相手は絵里だ。

 絵里は今年の春から社会人として、このスクールアイドルの総本山で働いている。冷徹な生徒会長時代はスクールアイドルを踏みにじるほど馬鹿にしていた彼女だが、何だかんだμ'sに加入してたくさんの思い出を作り、今は後輩たちの思い出作りの手伝いをしている。そう考えると感慨深いというか、絵里にピッタリな仕事だと思うよ。アイスエイジと言われていたあの頃の絵里に今の状況を伝えても、絶対に信用しないだろうなぁ。

 

 ちなみに久しぶりというのはまさにそうで、いくら連絡を取り合っていると言ってもこうして実際に会うのは月に1、2回あるかないかくらいだ。まだ大学生である俺たちとは違って彼女はもう社会人、時間が有り余りながらも持て余してる俺たちとは違って、この世に貢献する社会の歯車なのだ。何もせずにダラダラとニート生活をしている俺からしてみれば、社会で輝く彼女の眩さで視力を失ってしまいそうだ。

 

 

「突然だったけどゴメンね。どうしても絵里ちゃんと直接会って話がしたかったんだ」

「本当に突然だったけど、穂乃果がそんなことを言うなんて珍しいから今日は特別。それに幸い、今日は仕事も少ないしね」

「穂乃果の用事もそうだけど、俺もお前に聞きたいことがたくさんあるから。今日は洗いざらい全部話してもらうぞ」

「えっ、尋問されるの私……?」

 

 

 絵里は一瞬怪訝な顔をしながらも、俺たちを来客用スペースへと誘導する。会社に断りもなしでいきなり訪れてしまったのだが、そこのところは絵里が上手くやってくれたのだろうか。まあ最悪穂乃果が持っているμ'sのリーダーという肩書きを周囲に振りまけば、スクールアイドル熱の激しいこの会社なら許してくれそうなものだが。

 

 そしてこれは今回の話題に全く関係のないことなんだけど、俺の前を歩く絵里は社会人だから当然スーツを着用している。とは言っても夏場なので上がシャツだけのクールビズスタイルなのだが、それが逆に男の欲情を誘ってきやがる。具体的に言えば、その自己主張の激し過ぎる胸がシャツを押し上げてもなお形を保って浮き彫りとなっているので、健全な一般男子の俺は目が釘付けとなってしまう。しかもスーツのスカートが妙に絵里のおしりのラインにフィットしているせいか、彼女が歩を進める度に形の良いおしりがふりふりと俺を誘惑するように揺れる。スーツ姿の女性なんて東京ならよく見るし、そのせいで今更欲情するなんてことはないと思ったのだが、やはり自分の彼女のスーツ姿はストライクゾーンに刺さる。これも教育実習で社会に出た経験があるからこそ、スーツ姿の女性により魅力を感じるようになったのだろう。

 

 

 少し歩いて3人で席に着く。

 そして絵里の奢りで出されたジュースを飲みながら、穂乃果の勧誘が始まろうとしていた。

 

 

「絵里ちゃん! もう一度μ'sに入って!」

「えっ、どうしたの藪から棒に……?」

「この会社で働いている絵里ちゃんなら知ってるでしょ? スクフェスの話」

「あぁ~来月末に行われる、スクールアイドルのイベントのことね……って、まさか穂乃果!?」

「そうそのまさか! 穂乃果も参加するの!」

「参加するのって、招待状がないと参加希望すら出せないわよ?」

「あるぞ。俺の家に資料と一緒に届いてた」

「う、嘘……」

 

 

 絵里は穂乃果に勧誘されたことよりも、俺の家に招待状が届いたことに驚いてるみたいだ。

 でもそこまで驚くことか? 絵里がスクフェスの仕事に関わっているかは知らないけど、実績があるμ'sに招待状が届いても別におかしいことはない。まあ何故俺の家に届いたのかなど疑問はいくつか残っているので、今日は穂乃果の勧誘と平行してその疑問を解決していこうかな。

 

 

「零。その招待状、今持ってる?」

「あぁ。ほら」

 

 

 絵里は俺からスクフェスの招待状を受け取ると、それに描かれている文字やイラスト、裏面まで事細かにチェックする。

 そして一通り確認が済むと、俺に招待状を返してきた。ただ、彼女の雰囲気は再会を祝していた歓喜さはなく真剣そのものであった。

 

 

「私、この会社で一度スクフェスの招待状を見たことがあるの。その時はまだ見本だったけど、零が持ってるその招待状と文字もデザインも全く同じだったわ。それに正規の招待状には複製できないよう特殊な印字がされているんだけど、それもピッタリ一致。つまり、その招待状は本物ね」

「お前、この招待状が偽物だと思ってたのか?」

「そっか、あなたたちは知らなかったのね。実はこの招待状、現役でスクールアイドルをやっているグループにしか送られていないの」

「ま、マジで!?」

 

 

 絵里の口から語られた事実に、オフィス内ながらも驚きで大きな声を出してしまう。

 つまり、スクールアイドル界から引退してしまったμ'sにスクフェスの招待状が届くはずがないってことだ。そもそもの話、こんな大企業が宛名も何も書いてない封筒に大切な招待状を入れて発送するはずがない。ということは、やっぱり誰かが俺の家のポストに直接招待状入りの封筒を投函したってことになる。事実を知れば知るほど、謎が深まるばかりだなこりゃ……。

 

 

「招待状が入っていた封筒には何も書かれてなかったけど、流石にこの会社がそんなことしないよな?」

「当たり前でしょ。とにかく私が言いたいのは、得体の知れない招待状は全部回収したいってこと」

「えぇっ!? 回収されちゃったら、穂乃果たちスクフェスに出られないよ!?」

「ほ、穂乃果? さっきの話、聞いてた……?」

「うん、おバカな穂乃果でも分かりやすい話だったよ」

「だったらどうして参加しようとしてるの……? 誰が送ってきたかも分からないこの招待状で」

「う~ん、穂乃果はもう一度みんなと歌って踊れればそれでいいから!」

「相変わらず良くも悪くもマイペースな奴……」

 

 

 歌って踊る以前に、誰が送ってきたかも定かではない招待状で参加するのはスクフェスの規定として大丈夫なのか……? 公式な招待状でなければ参加できないのが普通だが、俺たちの手元にある招待状は絵里の鑑定により本物らしいので、会社に相談すれば参加できる可能性は高い。しかし絵里が危惧しているのはそこではなく、得体の知れない人物が送ってきた招待状で無闇にスクフェスに参加するなってことだろう。この招待状を送ってきた人物が、どうやって正規の招待状を手に入れたのかも分かってないしな。僅かでも怪しさが残っているのなら、下手に踏み込まない方がいいという絵里の大人な判断だ。

 

 

「むしろ、穂乃果は謎の招待状だからこそ受けて立った方がいいと思うんだよ! それにまたみんなでスクールアイドルができるチャンスなんだよ? この機会を逃す訳にはいかないよ!」

「穂乃果、あなたねぇ……。気持ちは分からなくもないけど」

「という訳で、絵里ちゃんもまたμ'sに入ってくれるって話だったよね?」

「どこでどう歪曲したらそんな話になるのよ!?」

「やっぱり絵里ちゃんがいないとμ'sが締まらないというか、今のままだと海未ちゃんの負担が大きくて……」

「それはあなたたちがしっかりすればいいだけの話でしょう……。ていうか、海未はOKしてくれたのね。意外というか何というか」

「うんっ! 穂乃果の強い情熱を海未ちゃんの心に響かせてね!」

 

 

 嘘付け。ツイスターゲームで海未の羞恥心を煽って、抵抗できなくしたのはどこのどいつだよ……。でも情熱を響かせたのは事実であり、勢いだけの言葉足らずの勧誘であっても、その熱い心はしっかりと海未に伝わっていた。褒められた勧誘の仕方ではないが、あながち間違ってもいないから何とも言えねぇな。

 

 

「だから絵里ちゃんお願い! 穂乃果たちともう一度μ'sを結成しよ?」

「待って待って! そもそも私、社会人だから参加できないわよ!?」

「その言葉を待ってました! 心配しなくても、招待状と一緒に届いたこの要項には年齢制限はありませんって丁寧に書いてあるから!」

「あ、あの穂乃果がちゃんと要項を読んでいるなんて……!! 生徒会の資料すらまともに読まなかった穂乃果が!?」

「驚くところそこなの!? そこは『私も参加資格あるんだ』って喜ぶところじゃないの!?」

 

 

 穂乃果がゲームの説明書を読まないタイプなのは周知の事実だが、勧誘をするとなったら話は別らしい。絵里が社会人なことを考慮して、参加者規定をじっくり読み込んでいたみたいだ。

 

 だが、穂乃果の用意周到さはこんなものではないらしい。彼女の笑顔が妙に黒くなっているから、恐らくここから褒められない方法で引き入れが始まるのだろう。あぁ、また勧誘という名の茶番に付き合わなきゃいけないのか……。

 

 

「穂乃果はね、知ってるんだよ。絵里ちゃんが裏でコソコソやってること……」

「な、何よそれ……脅す気?」

「べっつに~? でも亜里沙ちゃんから噂程度に聞いただけで、真実かどうかは分からないけどね」

「亜里沙からって、ま、まさか……!!」

「いやぁ、あの絵里ちゃんが1人でそんなことをしていたとはねぇ~」

「そんなことって、どんなことだ?」

「零君も知りたい? 実はね、絵里ちゃん家で1人きりの時に――――」

「ダメェエエえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

「耳元でデカい声出すなよ……」

 

 

 さっきまで招待状の件を冷静に分析していた絵里だが、穂乃果の攻撃により一瞬で態度がコミカルに変わる。正論でスクフェスへの参加を諭していた彼女はどこへやら、招待状の謎解きをしていた時の張り詰めた雰囲気が緩々になっていくのを感じる。そしてこの流れは、絵里の『賢さ』が徐々に失われておバカになっていくあの流れだ。どうして賢いキャラってのは、ギャグ方面になるとおバカキャラと同等の知能になっちゃう宿命なんだろうな……。

 

 

「亜里沙ちゃんから聞いた噂を聞くに、絵里ちゃんはスクールアイドルに未練があると思うんだけどなぁ~? どうなのかなぁ~?」

「ぐっ……」

「社会でキビキビと働く絵里ちゃんは、まさにキャリアウーマンの鏡だよ。でもね、まさかその社会のお手本がラブアロ――――――」

「ストップストップ!! 分かったわよ! μ'sに入ればいいんでしょ!?」

「やった♪」

「えぇっ!? チョロ過ぎんだろお前!」

「チョロくはないわ。身の保全ために必要だから……」

「はぁ……」

 

 

 なんかこれ以上にないヒドい勧誘を見た気がする……。海未の時はまだ穂乃果の情熱の欠片を感じることができたが、今回ばかりは単なる脅しだ。社会人をスクールアイドルに引き込むのは一筋縄じゃいかないことくらい予想は付いていたが、まさかこんなあっさりと勧誘に成功するとは。これも参加要項を読み込み、絵里への一番効果的な武器を用意していた穂乃果の賢さ(?)勝ちなのかもしれない。

 

 対して絵里は顔を赤くしながら涙目で身体を震わせているので、もはや招待状の謎を解析していた頃の賢さは失われていた。あの穂乃果に賢さ(狡賢さと言った方がいいか)で負けたら、俺だったら確実に人生やり直すために転生目的で命を絶つ自信がある。それくらい不名誉なことだから。

 

 

「今まで穂乃果の勧誘に抵抗していた奴は何人かいたけど、一発でノックアウトしたのはお前が初めてだぞ?」

「初めてだぞって言われても、あのことを公にされたら……」

「絵里がマジでビビってるんだけど、穂乃果お前何を知ってんだ?」

「絵里ちゃんの精神と引き換えに、ファンが爆発的に増える。そんな話題だよ♪」

「悪魔と取引でもしたかのような言い方だな……」

「いや、本当にしちゃったわよ。μ'sに入る代わりに、黒歴史を隠蔽する哀れな選択をね……」

 

 

 急に卑屈になり始めたぞコイツ。絵里は心の悲しみが深くなると徹底的に沈んでしまう面倒な性格をお持ちになっているので、下手に擁護せず放っておいた方が良さそうだ。μ'sの中では一番お姉さんキャラでしっかりしてそうなのに、ちょっと羞恥心を突っついてやるとこれだからなぁ……。だから『賢い可愛いエリーチカ』がネタにされるんだよ。まあシュンとしている姿が可愛いのは認めるけどね。

 

 

「良かったね絵里ちゃん! これは1人でコソコソ練習していたあの決め台詞を、大舞台で言えるチャンスだよ!」

「練習なんてしてないから! たまたまだからあれは!」

「そっかぁ~。本人がそう言うならそうなのかもねぇ~」

「馬鹿にしてるでしょあなた……」

 

 

 穂乃果はここまで4人の勧誘をそれほど時間を掛けずに成功させてきたので、浮き足立って調子に乗っているのが一目で分かる。現に絵里から賢さを失わせたうえで屈服させたから、その勢いは今後も止まることを知らないだろう。普段は人をここまでからかうことがない穂乃果だからこそ、その絶好調さが見た目だけで伺える。このままだと、μ'sの約半数が穂乃果に脅されて加入することになりそうだけど、それってメンバーの団結力的な意味で大丈夫なのかな……?

 

 

 まあ穂乃果たちだったらどうとでもなるだろと思っていると、遠くから絵里を呼ぶ声が聞こえてきた。どうやら同じ会社の先輩のようだ。

 

 

「絢瀬さーん! 少しいいかしらー?」

 

「はいっ、すぐ行きます! ゴメン、ちょっと抜けるわね」

 

 

 絵里は俺たちに小さく手を立てて謝ると、一旦休憩室から抜け出して仕事に戻った。

 今思ったんだけど、遠くにいた社員さんの声がここまで聞こえたってことは、絵里の叫び声はこのフロア全体に響き渡っていたんじゃないか……? 賢くない彼女が本性とまでは言わないけど、案外おバカなキャラなのかもって先輩たちに知られてしまった可能性はある。穂乃果の勧誘が絵里の社会的抹殺にならなければいいが……。どんな黒歴史を握ってんのかは知らないけどさ。

 

 

「そういえば、零君は知りたい? 絵里ちゃんの超キュートで可愛い一面を知りたい??」

「あぁ、できるなら知りたいよ。俺だけ会話に混ざれなかったんだから」

「いいよ。今ちょうど絵里ちゃんもいないし、零君だけ特別にね♪」

「口止めされてるのにいいのかよ……」

 

 

 特別と銘打ってる穂乃果だが、本心は誰かに言いたくて堪らなかったのだろう。もう高揚しているその態度と、ニヤけにニヤけているその表情で察せる。どのような闇ルートで絵里の情報を仕入れたのかは知らないが、その情報を隠蔽することを約束に彼女をμ'sに加入させたのに、ここで堂々とバラそうとするんだから人が悪い。こんなのがリーダーでμ'sを再結成して大丈夫なのか……?

 

 

「最近の話なんだけど、亜里沙ちゃんが見ちゃったんだって。絵里ちゃんの部屋のドアの隙間から、可愛く決めポーズをしている本人をね」

「決めポーズ?」

「うん。どうやら絵里ちゃんは家に1人しかいないと思い込んでたらしくて、それで気が抜けちゃったんだろうね。鏡の前で海未ちゃんの決め技、ラブアローシュートを振り付け込みで真似をしていたらしいよ」

「なるほど、だからアイツにとっては黒歴史なのか――――――!?」

「残念ながら動画はないらしいけど、想像するだけでも可愛いよね!」

「お、おい穂乃果……」

「だってあの絵里ちゃんだよ? キャリアウーマンのお手本のような絵里ちゃんが、まさか『あなたのハートを打ち抜くぞぉ~♪』とか言ってる光景を想像したらもう愛くるしくなっちゃって! それでいてちょっぴりおバカで面白いから、さっき絵里ちゃんと久々に顔を合わせた時、思わず笑っちゃいそうになったもん♪」

「お前、ちょっと喋りすぎたな……」

「えっ……?」

 

 

 穂乃果は背中にただならぬ覇気を感じたようで、首をロボットのように震わせながら後ろを振り向く。

 そこには、怒りの炎を身に纏った絵里が腕を組みながら仁王立ちしていた。その表情は般若そのものであり、もはや賢さの面影はどこにもない。ただ目の前の裏切り者を怒りの業火で焼き尽くすだけの鬼であり、穂乃果を見下す目線には慈悲や容赦の欠片も感じられなかった。

 

 そして穂乃果は鬼の形相を見て、身体の水分が全部抜け切ってしまうくらいの大汗をかいていた。強迫したり脅す側は脅される側の仕返しを常に考慮しておかないと、いつか痛い目をみるからな。今がまさにその時だ。

 

 

「穂乃果……あなた契約を交わして数分で裏切るとか、いい度胸してるわね……」

「ほ、本物の悪魔だ……。だ、だって零君が知りたいって」

「俺を売るな! お前が自分から言い出してきたんだろ!?」

「言っておくけど、あれは家に1人しかいないと思ったからやっちゃっただけで、普段からあんなことしてないから!! 誰だって経験あるでしょ!? 家に誰もいない時に、ちょっと楽しくなって変な行動を取っちゃう時が! ほら、大声で歌を歌ってみたり、大げさに動き回って側転してみたりすることが!! 海未の真似をしようと思ったのもほんの些細な出来心だったのよ!! 分かってくれるわよね!?」

「「いや」」

「うっ、ぐぅ……お、おウチ帰る!!」

「えぇっ!? 絵里ちゃんまだ仕事中でしょ!? ゴメンゴメン! 謝るから帰ってきてぇええええええ!!」

 

 

 社会人になってより大人っぽくなった絵里だけど、やっぱりそう簡単に内面は変わらないみたいだ。むしろ高校時代よりも行動がお茶目になっているような気がするのは、俺の勘違いだろうか? そのことを本人に伝えたら明らかに涙目で否定されるだけなので、この疑問は俺の中だけに留めておこう。

 

 ちなみに、家で1人きりの時に奇妙な行動を取ってしまうことはない訳ではない。何でか知らないけど、何故か楽しくなっちゃうんだよな。でも海未のラブアローを真似するのはちょっとな……。

 

 

 そしてまた何だかんだでメンバーの勧誘に成功したのだが、さっきも言った通りμ'sの団結力は大丈夫かこれ……? それもこれも穂乃果のリーダーシップに期待するしかないみたいだ。こんな詐欺紛いな勧誘ばかりしてる奴に、期待を煽るのもどうかと思うけど……。

 

 

 とにかく、メンバー集めはまだまだ続く。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 Aqours編以降、この小説で絵里が登場するたびに彼女の黒歴史が浮き彫りになっている気がしてならない……。別に彼女をイジメたい訳ではなく、ギャグ小説として美味しいネタなもので(笑)
まあイジメたい願望がない訳ではないので、あながち間違ってないかも……?



【告知】
 私と同じくハーメルンで『ラブライブ!』を執筆されている"たーぼ"さんの小説『ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~』との2回目のコラボが決定しました!
 前回は向こうの小説の一周年記念でコラボ依頼を貰ったのですが、今回はこちらから依頼を出して快く引き受けてくださいました。

詳しい投稿日程や内容はまた後日の発表しますので、こちらとあちらの最新話共々、コラボ小説もよろしくお願いします!




 次回は亜里沙を攻略(勧誘)回です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天然少女、初めての(大人の)お使い

 メンバー集め、6人目
 あの天然な亜里沙に、過酷な試練が……(?)


 

「さぁ~てやって参りました! 毎度お馴染み『初めてのお使い』シリーズ。今日お買い物に出かけるちびっこは亜里沙ちゃんです! 白いワンピースと麦わら帽子が、彼女の清楚さを表していて可愛いですねぇ~♪」

「なにこの茶番……」

 

 

 絵里を強引にμ'sへ引き込んだ後、穂乃果が次に勧誘の相手に選んだのは亜里沙だった。

 だが今回は真っ向勝負を挑むこれまでの勧誘形式とは異なり、何故か物陰からコソコソと亜里沙の様子を伺っている。本人曰く、毎回同じような勧誘ばかりでは展開がマンネリ化してしまうというどこぞの皆さんへの配慮らしい。

 しかし、よりにもよって勧誘が一番楽そうな亜里沙を相手に下手な趣向を凝らすのはどうなんだ? 彼女相手こそ真っ向に挑んだ方が難易度は劇的に低いと思うのだが……。

 まあ一度言いだしたら聞かない穂乃果に何を言っても無駄なので、俺は暖かい目で経過を見届けることにしよう。

 

 

 ここらで『初めてのお使い』を知らない人のために、少し解説しておいてやるか。

 元ネタはとあるテレビ番組であり、その内容はまさにタイトル通り。まだ垢抜けないちびっこが人生初めてのお買いものに出かけ、親に頼まれたモノを各地で購入する様子をこっそりとカメラで追ったものだ。ちびっこが故に今まで親と出かけていたルートであっても道に迷ったり、間違えて親に頼まれたモノと別のモノを買ってしまったりと、ツッコミどころと笑いに満ち溢れた企画である。それだけでなく、無事に買い物を終えた喜びや、帰宅した際に親の顔を見て泣き出しちゃう子もいるなど、多少のお涙頂戴イベントも兼ね備えた人気企画なのだ。

 

 そして今回、穂乃果はその企画を亜里沙をメインにして仕立て上げるらしい。とりあえずその時点でツッコミどころは満載なので、慌てず騒がす1つ1つ解決していこう。

 

 

「どうして買い物する役が亜里沙なんだ? アイツもう大学生だぞ?」

「面白そうだから!」

「えぇ……。じゃあここからどう勧誘に繋がるんだ? 突然この企画を打ち立てた意味が分からないんだけど」

「面白そうだから!」

「…………。どうして――」

「面白そうだから!」

「真面目にやれよ!!」

 

 

 そうだな、穂乃果に理由を求める俺がバカだった。コイツの勢いに任せた思い付きは今に始まったことではなく、そもそもμ'sだってコイツの思い付きで始まったことだ。つまり穂乃果のやることやることにいちいちツッコミを入れていたらこちらが持たない。しかしここまで5人の勧誘に成功した実績があるから、その勢いはあながち斜め上の方向とは言いづらいかもしれない。

 

 ちなみにμ'sの中で『初めてのお使い』のちびっこ役に任命するなら、穂乃果の選択通り亜里沙がピッタリだろう。クセ者揃いのμ'sの中では比較的まともな部類の彼女だが、持ち前の天然さだけはどうにも擁護できない。流れる情報は例えデマでも簡単に鵜呑みにし、特に俺の言葉は何でもホイホイと受け入れて従う。この天然さに絵里も頭を悩ませることがあり、『将来、ご利益のあると銘打った壷とか買わされないかしら……』と本気で心配されるほどだ。

 だがいくら天然とは言っても、所詮はちびっこメインの企画。大学生になった亜里沙に買い物へ行かせても、無難に終わって企画倒れもいいとこだと思うんだが……。

 

 

 ――――と、思ったのは本当に束の間だった。

 

 

「あれ? 亜里沙の奴、道に迷ってんのか? 秋葉原の街中なんて見飽きるほど来てるはずなのに」

「ふっふ~ん♪ それはね、亜里沙ちゃんの買い物が普通の買い物じゃないからだよ!」

「どうしてお前が得意気なんだよ……。で? その心は?」

「はいこれ、亜里沙ちゃんに送ったメッセージの内容。ここに今回の企画で買うべきモノが書いてあるから」

「どれどれ……」

 

 

 俺は穂乃果から携帯を受け取るまでは、てっきり亜里沙の弱点を突いて日本風情を感じられるモノを買いに行かせたのかと思っていた。彼女は絵里よりもロシアでの生活が長く、大学生になった今でも日本のことに少々疎いからだ。

 

 一体亜里沙にどんな買い物を頼んだのか、穂乃果の携帯を見て確かめる。

 

 

 亜里沙ちゃん今から暇? 実は穂乃果も暇だったんだけど、突然用事が入ったせいで買い物に行けなくなっちゃったんだ。

 だからお願い! 穂乃果の代わりに買い物に行ってくれないかな? 今すぐ必要なモノばかりだから、時間が空いてるなら頼みたいんだけど……どう?

 

 買って欲しいモノは2つ。普通に買い物をしても面白くないから、ヒントだけで穂乃果の欲しいモノを当ててね?

 

・長くて太くて、皮を剥いて食べるモノだよ!

・飲んだら身体がポカポカしてきちゃう、真っ白い飲み物だよ!

 

 買い物が終わったら、穂乃果の家の近くの公園で集合ね!

 それじゃあよろしく♪

 

 

「おい、本当に放送できるような買い物なんだろうな……? 買い物の内容を見るに、深夜番組にするしかねぇんじゃ……」

「えっ? バナナとミルクを買いに行くだけなのに――――って、あっ!」

「いや気付くのおせぇよ! この書き方だと明らかに意味深にしか聞こえねぇだろ……」

「それは零君がスケベでエッチで変態なだけだよ」

「そこまで言うか……」

 

 

 長くて太くて皮を剥いて食べるって、健全な男子ならばあっちの意味を思い浮かべてしまうのは当然だろ? そしてそれを食べている最中に吐き出された真っ白い飲み物(?)と言えば、まさにアレのことだ。穂乃果は至って真面目にこの文章を書いたのだろうが、本人が元々淫乱思考のせいで普段の言い回しまで完全に淫らに染まっている。1年後にこんな奴が社会に出るとなると心配でならねぇよ……。

 

 

「あっ、亜里沙ちゃんが動き出したよ! 穂乃果たちも追いかけなきゃ!」

「追いかけるのはいいけど、向こうの声が聞こえないから反応を楽しめないよなぁ……」

「大丈夫、ここに盗聴器があるから。亜里沙ちゃんに仕込むのも大変だったんだよ?」

「むしろどうやってどこに仕掛けたんだ……」

 

 

 いくらツッコミを入れてもこの流れは止まらないので、折角だしこの状況を楽しむことにするか。

 亜里沙は街に繰り出すと、携帯で穂乃果のメモを見ながらキョロキョロとしている。普通に考えればバナナとミルクが答えだと分かりそうな気もするが、どこで悩んでんだろ?

 

 ここで盗聴器から亜里沙の声が聞こえてきた。

 

 

「太くて長い食べ物で、皮を剥くと言えば……バナナ、だよね?」

 

 

 あれ? 案外あっさりと正解に辿り着いてるじゃん。やっぱり清純という言葉をそのまま体現した亜里沙なら、俺のように思考が卑猥になったりせずあっという間に答えを導き出して当然だな。これは深夜番組になりそうな危機とは別の意味で企画倒れになっちまいそうだ。だってこのままだと数分で買い物が終わり、何の苦難も感動もない、それこそただの買い物になってしまう。

 

 だが、亜里沙の様子を見ているとそう簡単にこの番組は終わらないようだ。答えに辿り着いてはいるものの、どこか悩んでいる様子なのは先程と変わらない。一体バナナ以外で何を想像してるんだろうか……。まさか俺と同じく男の剛直を――――って、彼女に限って流石にそれはないか。

 

 

「でもバナナって太いのかなぁ? えぇと、長いモノの皮こうやって剥いて、そのままパクッと」

 

 

 やべっ、亜里沙のバナナを食べるモノマネに、不覚にも勃っちまいそうになった。本人はバナナを想定してのモノマネだったんだろうが、傍から見たらフェラの練習にしか見えねぇぞ……。

 

 

「あっ、ことりちゃん!」

「亜里沙ちゃんだぁ♪ こんにちは!」

「こんにちはです! 奇遇ですね!」

 

 

 俺が卑猥な妄想をしている間に、亜里沙がことりとエンカウントしていた。今日アイツを見かけるのは3度目なんだけどというツッコミはさて置き、μ's内で最も淫乱な奴と最も天然な奴が出会ってしまったことに戦慄しか感じない。そういやことりと亜里沙が2人きりになる現場って見たことがないけど、いつもどんな会話してるんだろ……? ちょっと怖いけど、盗聴器の音量を上げてみるか。

 

 

「穂乃果ちゃんからお買い物を頼まれたんですけど、このヒントを見ても買うモノが分からなくて……」

「どれどれ――――――!? こ、これは……!!」

「えっ? そんなに珍しいモノなんですか?」

「うぅん、むしろことりたちが慣れ親しんでるモノだよ。いや、ことりたちが()()に慣らされたって言った方がいいのかな……? 零くんの()()に……ね♪」

 

 

 笑顔で頬を赤くして何言ってんだアイツは……。

 想像通りと言うべきか案の定と言うべきか、ことりは()()()()()の会話を展開する。だが亜里沙は包み隠された隠語の意味が全く理解できていないので、頭に"?"マークを浮かべるだけだ。ツッコミ役である俺や海未がいないから、会話のリズムがことりの独壇場になっているのは言うまでもない。ていうか、ツッコミ役がいなくてもアイツは隠語ならぬ淫語混じりの会話を続けるのだろうか……? 虚しくなんねぇのかな、目の前に天然しかいないのに。

 

 

「亜里沙ちゃんが買おうとしているのは、全部零くんに頼めば貰えると思うよ」

「零君にですか? それは話が早いですけど、どうやって頼めば……」

「そんなの簡単だよ! 零くんってすぐ発情する犬だから、おっぱい見せておけば後はなるようになるよ♪」

「お、おっぱいって……!!」

 

 

「あの野郎、シメてやる!!」

「れ、零君!! ここで飛び出したら企画倒れになっちゃうから抑えて!!」

「離せ穂乃果! おっぱい見せれば何とかなるだと? 俺は春夏秋冬性欲真っ盛りのウサギか何かか!?」

「落ち着いて!! どうどう!!」

「だから動物じゃねぇって!!」

 

 

 ことりは俺をおっぱいだけでテンションが上がって盛る低俗な野郎だと思ってんのか……。でも冷静に考えてみれば、残念ながらそうだから困る。俺は恋人こそたくさんいるが、性欲で言えばそこらの思春期男子と何ら変わらないのだ。だから大学生になって育ちに育った亜里沙のたわわな胸(ロリ巨乳とも言う)を見せつけられたら、いつどこ構わず発情してしまう自信がある。

 だが、それを他人の口から宣言されるのは非常に恥ずかしくもあり腹立たしくもある。特に淫乱っ子に性の弱点を握られていると知られたから、余計にストレスがマッハなんだが……。

 

 

「それで結局、長くて太くて、皮を剥いて食べるモノって一体何なんですか?」

「だからそれは零くんの……と思ったけど、よく思い出したら零くんのモノは皮なしで、形もグロデスクだから違うね。うっかりしてたよ♪」

 

 

「あぁ~確かに。穂乃果の口に入るかどうかも怪しいもん」

「本人がいる前で人のモノの大きさを公言するのやめてくんない!?」

 

 

 どうして亜里沙の買い物を観察する回なのに、俺の痴態が晒し上げられなければならんのだ。それにこの企画をこの先続けていくと、風評被害がもっとヒドイことになりそうな気がする……。

 

 

「あっ、分かったよ亜里沙ちゃん! 確かここに……」

「カバンの中に何かあるんですか?」

「あった! これだよ穂乃果ちゃんが求めてるモノ!」

「こ、これは……!!」

 

 

 ことりがカバンから取り出したのは、長さが30cm、直径5cmの棒のようなモノだった。棒と言っても手触りはゴツゴツしてそうであり、何故か先端がぷっくりと膨らんで――――って、あ、あれは!?!?

 

 

「おぉっ! あれはまさしく零君の――」

「もうこれ以上言わせねぇよ!? ていうかどうしてあんなモノをカバンに忍ばせてんだアイツ!?」

 

 

「こ、これは……なんですか?」

「女の子の欲望を満たしてくれるものだよ♪ しかもほら、オマケにこんな機能も」

「凄い! 皮のようなモノが伸び縮みするんですね!」

「うん! 皮を剥いてこの先端をおクチではむはむしていると、身体がとぉ~っても熱くなるんだ♪」

「食べ物じゃないのに、身体が熱くなるなんて不思議ですね」

 

 

「微妙に会話が噛み合ってない気がする……」

「確かに。零君が包茎だったかどうか微妙だしね」

「そこじゃねぇよ……」

「でも先端の亀さんはあんな形かも」

「もうその話やめよ!? なっ!?」

 

 

 亜里沙は己の天然さが極限を突破し過ぎて、ことりの会話のほとんどを理解できていないようだ。だがディルドには興味津々みたいで、ことりが皮を剥いたり手で摩ったりするたびに物珍しそうな目で見つめている。いくら亜里沙に淫乱攻撃が効かないと言っても、何事にも興味を示す彼女は余計な知識まで吸収してしまう。いずれ天然でかつ淫乱という、相反する2つの性格を兼ね備えた嘗てない女の子が誕生してしまいそうだ……。

 

 

「そうだ! これ亜里沙ちゃんにあげるよ♪」

「いいんですか? それではお金を――」

「お金なんていらないよ~。それに家に帰れば同じモノ何本もあるしね♪」

 

 

「どうして複数持ってる……」

「でも穂乃果も持ってるから、2本目を貰ってもなぁ~」

「そういやお前の手に渡るんだったな……って、お前も持ってんのかよ!!」

 

 

 ことりから俺のモノを模したディルドが亜里沙に受け渡される。

 正直清純な亜里沙を守るために飛び出したかったのだが、穂乃果に羽交い締めにされて未遂に終わった。天然な子が訳も分からず性具を手にしている光景はそれはそれで唆られるが、穂乃果の企画に強制参加させられたり、ことりからディルドを押し付けられたりと不憫に感じてしまう方が気持ち的に大きい。でもこの先亜里沙がどう動くのか、期待しちゃってる俺もいるんだよな……。

 

 

 そして亜里沙とことりは、お互いに満足そうな表情で別れた。

 亜里沙は目的のモノ(本当は違うけど)が手に入って嬉しいのは分かるが、どうしてことりが嬉しそうなんだ……?

 それに、性具の交換で嬉しそうな表情をするスクールアイドルがこの世にいていいのだろうか……?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あっ、秋葉さん!」

「亜里沙ちゃんじゃん! 久しぶりだね♪」

 

 

「秋葉さんが外にいるなんて珍しいね」

「研究室に籠る前兆だよ。ほら、あのパンパンに詰まった手提げ袋に数日分の食料が入ってんだよ」

「なるほどぉ~」

 

 

 次に亜里沙が出会ったのは、珍しく外を出歩いている秋葉だった。俺以上に外が嫌いな秋葉だが、前述通り数日分の食料を大量に買ってしばらく研究室に立て籠るつもりだろう。

 

 しかしそんな事情よりも、亜里沙が秋葉に出会ってしまったことが問題だ。ことりとはまた別の意味で危ない奴が相手だから、今度こそ亜里沙の天然が通用するか分からない。天然のスルースキルが勝つのか、それとも秋葉が亜里沙にオンナを教えてしまうのか……。

 

 

「今日は1人でお買い物?」

「はい。実はかくかくしかじかで」

「なるほど。つまり穂乃果ちゃんの遊びに知らず知らず付き合わされている訳ね」

「遊び……?」

「あっ、分かってないのならいいや……」

 

 

 本物のド天然が今ここに!!

 つうか本当に穂乃果に振り回されている事実を知らないんだなアイツ。俺の隣では穂乃果がクスクス笑ってるし、お前いつか絶対バチ当たるぞ……。

 

 

「それはそうとして、『飲んだら身体がポカポカしてきちゃう、真っ白い飲み物』は心当たりあるよ」

「そうなんですか!? どこで売っているのか教えてください!!」

「う~ん、表世界を生きる亜里沙ちゃんにはちょっと手に入りにくいかなぁ~」

「表世界……?」

 

 

 あぁ、もうこの時点で嫌な予感しかしない。言ってしまえば亜里沙と秋葉が出会ってしまった時点でその予感はプンプンしていたのだが、既に出会ってしまった以上優しく見守るしかないな。

 

 

「はいこれ! 飲んだら身体がポカポカしちゃう、真っ白い飲み物だよ♪」

「ありがとうございます! あれ、少しドロっとしてますね」

「そういうものなんだよ」

 

 

「おい、あれって……」

「あのビンに入ってる白い液体は穂乃果も見たことあるよ。飲んだらポカポカどころか身体が焼けるように熱くなって、そして何にでも欲情しちゃうっていう……」

 

 

 秋葉が嬉しそうに亜里沙に手渡したのは、明らかに媚薬と分かるビン詰めだった。確か5年前、ことりが講座を開いた際に穂乃果とにこが飲んでいたのがあの媚薬だった気がする。

 確かにあれを飲めば身体は温まるが、それは自身の性欲が最高潮にまで高められるという意味での温まるだ。決して体温を保温するために飲むべきモノではない。あれを飲んだら最後、人間としての理性を失いただの淫獣として覚醒してしまう。秋葉の媚薬はそれくらい強力なんだってことは、何度も飲まされている俺が保証してやる。

 

 

「本当はそれを作るのには相当なお金と時間が掛かるんだけど、今日は特別に亜里沙ちゃんにあげるよ」

「そんな貴重なモノ、貰っちゃっていいんですか?」

「平気平気。むしろμ'sのみんなにはどんどん布教したいくらいだもん!」

 

 

 実際にどれだけの金と時間を費やしているのかは知らないが、そんな高級なモノを遊びで俺たちに試すなよな……。それに布教したいってことは、まだ俺たちで遊び足りないってことじゃねぇか。自分はエロいことが苦手なくせに、人が発情しているところを見るのは好きなんだよなぁコイツ。

 

 

「でも、これは味が濃そうで普通に飲めなさそうですね」

「心配しなくても大丈夫。一滴飲むだけですぐ身体が熱くなって、効果テキメンだから♪」

「なるほど、それなら安心ですね!」

 

 

「いやむしろ危ねぇだろ……」

「あれを受け取る穂乃果はどうしたらいいのかな……」

「それはあんなヒントを送ったお前の自業自得だ」

 

 

 一滴飲んだから即発情してしまう媚薬って、もはや禁止薬物とそう変わらないんじゃないか……? 女の子にアレを大量に投与したらどうなるのかは見てみたいが、自分でも抑えられないくらい性欲が暴発し、そこらの汚い男に性欲処理を土下座して懇願する光景が容易に想像できる。そんな薬物が平然と世に出回る日常に溶け込んでいる俺たちって一体……。

 

 そして危険な薬物を受け取ったとも知らず、亜里沙の買い物はこれにて完了した。厳密には買い物というよりタダで貰ったモノばかりで企画倒れなのだが、まあ出会った人間の運が悪かったと思って大目に見ておこう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あっ、亜里沙ちゃん来たよ! 『初めてのお使い』のように、感動的に迎えてあげなきゃ!」

「さっきまでのどこに感動的要素があるんだよ……」

 

 

 俺たちは買い物を終えた亜里沙を迎えるため、一足先に穂乃果の家の近くの公園までやって来た。そして俺たちの到着と同時に亜里沙がこちらへ来る姿が見えたのだが、俺はどんな顔をして彼女を迎え入れていいのか分かんねぇ。見た目は清楚な白のワンピースと麦わら帽子、そしてベージュのカバンを持っている清純少女なのに、あのカバンの中にはディルドと媚薬が入ってるんだよな……。もし何かの手違いで誰かにカバンを覗かれたら、確実に清楚系ビッチだと勘違いされそうだ。

 

 

「穂乃果ちゃん! それに……零くん?」

「よぉ、奇遇だな。ずっと見てたけど……」

「……? ともかく、穂乃果ちゃんに頼まれていたモノ全部買ってきました! まあ貰ったモノばかりなんですけど」

「あ、ありがとね……アハハ」

 

 

 穂乃果の手には、亜里沙から渡されたディルドと媚薬が乗せられてた。普通にバナナとミルクを頼んだのに、大人の玩具を渡されるなんて思ってもいなかったに違いない。公園に来る前になるべくポーカーフェイスを保つように意気込んでいた穂乃果だが、亜里沙からディルドを媚薬を渡された瞬間にもう顔が引き攣っていたからな……。

 

 

「ま、まあこれは後で使わせてもらうとして……」

「使うのかよ!!」

「亜里沙ちゃんには買い物を手伝ってくれたお礼をしないとね! はいこれ!」

「えぇと、『スクールアイドルフェスティバル』の招待状……ですか?」

「穂乃果、お前まさか……」

「うんっ! 亜里沙ちゃんを、μ'sとしてご招待!!」

「やっぱりそれが目的か……」

 

 

 今回は勧誘要素がゼロだろうと勝手に思っていたのだが、まさかこんな風に話が繋がるなんて一周回って感心しちまったじゃねぇか。まあ勧誘要素がなかったら、それこそ本当の企画倒れだからこれで良かったんだろうな。あれ? 何だか穂乃果の勧誘方法に洗脳されてきてないか俺??

 

 

「でも、どうしてまたμ'sを結成するんですか?」

「それはかくかくしこしこで――」

「しかじかな」

「なるほど、お姉ちゃんも楓も参加要請していると……」

「そう! 再びみんなでステージに上がって、新しい思い出を作ろうよ!!」

「はいっ! 私も皆さんと一緒にもう一度歌って踊ってみたいです!!」

「ホントに!? ありがとう亜里沙ちゃん♪」

 

 

 大体予想はできていたが、やっぱり亜里沙の勧誘はものの数秒で終わったか。恐らく誰よりも簡単に誘うことができて、更にことりや楓のように余計な手間も掛からない、アクションゲームで言えばボーナスステージのようなものだ。だから亜里沙の勧誘の時でないと、こんな企画を立てて遊ぶことなんてできないだろう。

 

 そうやって軽く亜里沙のことをチョロく見ていたのは事実だが、スクールアイドルを一番楽しく無邪気にやっていたのはメンバーの中でも随一だ。そんな彼女だからこそ、一時的であってもμ's再結成の話は朗報に違いない。勧誘のされ方は姉妹間で歴然の差だけど……。

 

 

「よ~しっ! この調子で他のみんなもどんどん勧誘していこう――――って、あっ!!」

「どうした?」

「勢い余ってことりちゃんのコレを強く握ったら、中から白い液体が……!! リアリティすごっ!!」

「アイツなんてモノ仕込んでんだ……」

「まさか、このビンに入ってる白い液体って、その中に入れるんですか?」

「お前が天然で良かったとつくづく思うよ。これからもずっと今のままのお前でいてくれ」

「……??」

 

 

 あの中に媚薬を仕込んだら、おしゃぶりプレイをしている女の子が間違えて飲んじゃって、媚薬効果で更なる発情に煽られて…………こ、この話はやめよう色々消される前に!!

 

 

 とにかく、残りのメンバーはあと5人だ!

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 先日、生徒会役員共の映画を見に行った影響で、今回はいつもより下ネタが露骨になっているような気がする……。えっ、いつもと変わらない? またまたご冗談を(笑)


 次回の勧誘対象は……まだ考えてないので、次までのお楽しみに!


【告知】
 私と同じくハーメルンで『ラブライブ!』を執筆されている"たーぼ"さんの小説『ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~』との2回目のコラボが決定しました!
 投稿日は9月8日(金)を予定していますので、何卒よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ツンデレ女医の性ストレス事情

 メンバー集め、7人目。
 今回は真姫が穂乃果の強引な勧誘の餌食に……?


【問題】
2人でしゃぶることを『ダブルフ○ラ』
3人は『トリプルフ○ラ』
それでは4人の場合は?

答えは本編で!


 

「あぁ~つっかれたぁ~!! 今日だけで勧誘したの6人だよ6人! もう穂乃果休んでいいよね? ね?」

「確かにお前にしては頑張った方だよな。しかも暑い中で、よくあれだけの行動力を保てたもんだよ」

「でしょ? だから今日はもう休憩!」

「あなたたち、ここ私の部屋だってこと忘れてないでしょうね……」

「あっ、真姫ちゃん! お邪魔してまーーす!」

「言うの遅いわよ!!」

 

 

 てな訳で、亜里沙の勧誘を苦労もなく終わらせた俺たちは、現在真姫の部屋で贅沢に涼んでいた。やはりお嬢様の部屋のエアコンは庶民のモノと格が違い、ただ涼しいだけでなく流れ出すそよ風が心地良い。冷えるというよりも秋の程よい涼しさをその身に感じるので、外が真夏真っ盛りということすらも忘れてしまいそうだ。だから穂乃果が真姫のフカフカベッドでくつろいでいる(無断)のも許してやってくれ。

 

 もちろんここへダラけに来たのではなく、本来の目的である勧誘活動に来たのだ。まあ穂乃果曰く、『勧誘疲れたし、家に帰るとレジ番手伝わされるから真姫ちゃんの家でゴロゴロしよう。ベッドも広いし出てくるお菓子は高級品ばかりだし』という不純な理由が大半なのだが、()()()()()()()()()は勧誘活動のつもりだ。しかし当の本人は真姫のベッドに転がった途端、一気に脱力モードに入ってるが……。

 

 

「まず聞きたいんだけど、どうしてあなたたちがここにいるのかしら……? ビックリしたわよ、家に帰って部屋のドアを開けたらあなたたちが潜んでいたなんて」

「部屋の隅にいるゴキブリみたいに言うなよ……」

「あなたたちと変わらないと思うけど? 無駄にしぶとい生命力とかね」

「今日も毒舌が絶好調みたいで安心した」

 

 

 俺たちが勝手に部屋へ上がり込んでいることに腹が立っているのか、今日は最初から毒舌のキレが増し増しである。そりゃそうだ、夕方まで医療の勉強をしに出かけていて、疲れて帰ってきたら俺たちがいるんだから。勉強で頭を酷使したのに、ここからまた穂乃果を相手にツッコミを入れ続けることを考えたら毒も吐きたくなるだろう。同情するよ、勧誘は止めないけどさ。

 

 さっきも言った通り、真姫は医者を目指して本格的に勉強を進めている。彼女ももう大学3年生だから、将来に向けての勉強は夏休みであろうとも欠かさない。先日のテストでも高得点を連打していたらしいので、心配せずとも医療の道へ進むことは確定的だろう。唯一危惧しているのは、人のベッドでゴロゴロしている穂乃果が真姫のストレスを溜めちゃうことだけど……もう遅いか。

 

 

「何の用かは知らないけど、勝手に人に部屋に入り込んで全く……」

「あぁ、それなら真姫ちゃんママが『あの子、最近勉強ばかりで気が張ってると思うの。だから大親友のあなたたちが癒してあげて♪』って言って、真姫ちゃんの部屋に通してくれたんだよ」

「何やってるのママ……。それに零と穂乃果で癒されるって、冗談にしても笑えないから……」

 

 

 だ、ダメだ。真姫のテンションがみるみる下がっていく。いや、部屋のドアを開けて俺たちの姿を見た瞬間からテンションなんてものは地に着いてるか。そのテンションを取り戻すには…………あっ、俺たちが帰るしかないじゃん!!

 

 

「真姫ちゃんママのご依頼もあったし、穂乃果が真姫ちゃんをたっぷり癒してあげるよ♪」

「一応聞いてあげるけど、どうやって?」

「ほら、ベッドに入ってきて。暖めておいたから♪」

「こっちは真夏の中歩いて帰ってきて暑いのよ!」

「大丈夫、ちゃんと濡らしておいて冷たいから。あっ、濡らしてるって言ってもそっちの意味じゃないよ」

「そんな補足いらないわよ! ていうか、濡れてれるのはあなたの汗でしょ……」

 

 

 そもそも汗だくの状態の他人が自分のベッドに寝転がっている事態は気にしていないのだろうか……? いや、ツッコミどころだったけどそれで余計な労力を使いたくないから敢えて黙っていたのか……。

 ツッコミは普段俺の役目だけど、海未や真姫がいるとその重労働から解放されて非常に楽になる。それだけ俺が表立って話す機会が減って、主人公(笑)になっちまうんだけどさ。

 

 

「それで? あなたたちは一体何をしに来たのよ?」

「勧誘だよ勧誘!」

「勧誘……? 怪しい宗教ならお断りなんだけど」

「違うもん! 真姫ちゃんの心が晴れやかになって、清々しくなって、そして楽しくなるようなことだよ!」

「宗教に洗脳されて心が晴れやかになって、怪しい謳い文句で清々しくなった気になって、そして宗教特有の謎の一体感で楽しくなるのね。末期だわあなた」

「考えすぎだ。お前の考え方の方が末期だろ……」

 

 

 いつも捻くれている真姫だが、今日はそれ以上に捻くれガールとなっている。その様子を見るに、穂乃果の相手をすることに飽き飽きするほど疲れているのだろう。これは穂乃果の勧誘という名の脅迫が行われる前に、とっとと真姫に概要を説明してμ'sに再参加するかどうか返答を貰った方が良さそうだな。これまでの脅迫紛いな勧誘で忘れがちになっていたが、あくまで本人の意思が最優先だ。本人の意思が尊重された勧誘がなかったような気がするのは目を逸らしてもらうとして……。

 

 

「とりあえず真姫、これ見ろ。穂乃果が参加しようとしているイベントの概要だ」

「スクールアイドルフェスティバル……? スクールアイドル絡みみたいだけど、イベントの審査員にでも抜擢されたのかしら?」

「ううん、穂乃果たちが参加するんだよ! そのスクフェスに!」

「はぁ!?」

 

 

 概要の資料に軽く目を通しながら、真姫は穂乃果の発言に目を見開いて驚く。

 もう穂乃果の勧誘を何度も目にしてきたから忘れがちだけど、真姫の反応の方が普通だよなぁ……。今までことりや凛、亜里沙の適応力が変な方向に高かっただけで、彼女の反応の方がよっぽど自然だ。むしろその強引さで勧誘をここまで成功させてきたのが奇跡だよ。

 

 

「だから真姫ちゃん! またμ'sに加入してくれないかな?」

「お断りします」

「あっ、そのセリフ5年前と一緒だ! と、言うことは……フフッ♪」

「な、何よニヤニヤして……」

「一度や二度断っても、その後は何だかんだ言って穂乃果たちの情熱に負けてμ'sに入っちゃうんだよねぇ~♪ もうっ、真姫ちゃん可愛いんだから!」

「どうせまたチョロいだの何だの言うんでしょ!?」

「まるでオークに犯される女騎士みたいだよね! 一度や二度抵抗しても、結局オークの太いのを受け入れちゃう例の展開!」

「妄想の中でも他人を勝手に陵辱するのはやめなさい……」

 

 

 オークと女騎士云々の話は別として、真姫がチョロいかチョロくないかで言えば、明らかに前者だ。彼女は周りの誰しもが認めるツンデレ性なので、ちょっと持ち上げたりからかってやれば、すぐに顔を赤くして話に乗ってくる。それは高校時代から大人になった今でも変わらないので、もしかしたら彼女の勧誘もイージーモードになる可能性がゼロではないのか? 俺はてっきり真姫こそが今回の勧誘のラスボスになると思っていのだが……。まあゲームでも初見で強いと思っていたラスボスが、攻略法を知れば余裕だってことはよくある話だから。

 

 

「真姫ちゃん、μ'sに入ってくれないのぉ……?」

「突然そんな悲しそうな顔しないでよ。罪悪感半端ないから……」

「だってぇ……」

「こっちは医学の勉強で忙しいのよ。夏休みはそこそこ暇はあるけど、自主勉強の時間に費やしたいから」

「その時間を少しだけでいいから穂乃果たちに頂戴? なんなら出張ヘルス並にお金払うから!!」

「だから他人で卑猥な妄想をするのはやめなさい!! それにお金なんていくらでもあるからいらない!!」

「チッ、これだから成金のヘルス嬢は……」

「そろそろストレス爆発させていいかしら……」

 

 

 ダメダメ。勧誘が成立しなくなると話数が間延びして面倒なことになるからダメ。おっと、つい本音が出てしまった。

 それでなくとも、俺だって穂乃果に今日一日付き合わされてクタクタだから早急に帰りたいのだ。でも勧誘が成立しないと穂乃果が帰宅させてくれそうにない。しかもさっきからずっと真姫に『あなた、早くこの子何とかしなさいよ』と冷たい目線を送られているのも相まって、こっそり抜け出すこともできない。できれば穂乃果の勧誘を手伝ってやりたいけど、真姫が不憫な目に遭うのも避けてやりたいところであり、正直板挟み感がキツイ……。

 

 

「仕方ない。今日は真姫ちゃんの家でオールだね」

「どれだけ長期戦に持ち込もうとしてるのよ!!」

「真姫ちゃんの家ってどんな晩御飯が出るんだろ? きっと高級食材ばかり使ったフルコースだよね! じゅるり……」

「誰にも許可なく人の家に泊まるどころか、晩御飯まで一緒にしようとするその身勝手さはどこから来るのかしら……」

「そんなの高校の時からだろ? まだ慣れないのかお前」

「勉強で疲れてるから」

「なんかゴメンな……」

 

 

 どれだけ呆れても長期戦になりそうなのは確定なので、俺も腹を括ろう。とは言っても、穂乃果と真姫の漫才を傍観していたり、時には横からツッコミを入れたりなど安全な立ち位置をキープするだけだが。真姫は勉強で疲れていると言っていたが、こっちも午前中にことりと海未、午後に凛、楓、絵里、亜里沙の勧誘であちこち歩き回って疲れてんだよ。だから今回くらい俺も休ませてくれ。

 

 

「そういや医学の勉強って何するの? 性指導もしなきゃいけないから、やっぱりエッチな勉強もするの?」

「しないわよ!!」

「穂乃果、色々聞きたいことあるから質問していーい?」

「さっきの話聞いてた……?」

「2人で男の人のモノを舐めるのはダブルフ○ラで、3人で舐めるのはトリプルフ○ラでしょ? じゃあ4人の時は??」

「それだけの大人数だと、もう舐める場所がないでしょ」

「真面目に答えるのかよ……」

 

 

 ちなみにもっと詳しく答えてやると、4人以降のおしゃぶり行為に一般流通している名称はない。一部界隈で使用されている名称に"クアドラプルフ○ラ"というものが存在するのだが、まだ世間に浸透する段階まで有名じゃないので、あくまで存在しているということだけは認識して欲しい。それにしても、"クアドラプルフ○ラ"って名前がカッコよくてエロさが全く感じられないのは俺だけ?

 

 

「それじゃあ次の質問ね!」

「まだ続くの……?」

「よくお医者さんが女の人を身体測定して、その流れで犯しちゃう盗撮AVとかあるけど、あれってヤラセ??」

「それ私に聞いて答えが出ると思ったの……?」

「あっ、そっか! 真姫ちゃんは女の子だから分からないよね。AVに出てるお医者さんはほとんど男の人だし」

「いやそこじゃないわよ……」

 

 

 ちなみにもっと詳しく答えてやると、本物の盗撮モノに見えても最近は大体がヤラセだ。あらゆる技術が発達したこのご時世、巧妙な編集によってヤラセであろうともいとも簡単に本物の盗撮モノっぽく仕上げることができてしまう。だが本物っぽくても、臨場感が味わえないのが現状の盗撮モノだ。その理由の1つとして、カメラが高画質で盗撮に見えないのが要因として挙げられる。つまり、2000年代前半の粗い画質の盗撮映像の方がより本物っぽく見える訳だな。その頃は編集技術の発達もそこまでだったから、必然的に本物の盗撮モノが多いのが事実だし。

 

 正直まだまだ語り足りないのだが、これでは俺が盗撮モノマニアだって誤解を受けてしまうのでここで退却しておく。あくまでAV界の一般論であって、決して盗撮モノばかり見てる犯罪者予備軍じゃないからよろしく。それに最近毎話毎話穂乃果に押されっぱなしで俺が活躍できてないから、ここぞとばかりに性知識を披露したかった訳じゃないことも念頭にな!!

 

 

「それじゃあ次の質問ね!」

「はいはい……」

「もう諦めてるし……」

「真姫ちゃんは日頃のストレスをどうやって解消してるの?」

「そうね。とりあえず、あなたが帰ってくれることが一番のストレス解消かもね」

「め、目が光って怖いよ真姫ちゃん……」

 

 

 そりゃ勧誘活動に来たと思ったら、いきなり卑猥な質問ばかりされるんだから怒って当然だよな……。そうそう、俺たちは勧誘しに真姫の家に来たんだった。もう横道に逸れることが定番と化していて、俺自身も何ら不思議に思っていなかったので既にこの勧誘方法(?)に洗脳されているっぽい。

 

 

「違う違う! そういうストレス解消じゃなくて、日頃どうやって自分を慰めているのかって話だよ!」

「一気にダイレクトな表現になったなオイ……」

「そ、そんなこと言える訳ないでしょ!!」

「ほうほう、隠すってことはつまり夜な夜なヤっちゃってるってことだよね♪」

「うっ、ぐ……そ、そんなことを私に聞いてどうするのよ!」

「効率の良く絶頂できる方法を知りたくて、えへへ♪」

「可愛い子ぶってもこれ以上答えないから……」

 

 

 オナニーの方法をお互いに暴露し合って、どうすば効率よくイけるようになるのか議論することに何ら抵抗を感じないのだろうか……。いや、感じないから真姫にこんな話を持ちかけられたのか。どちらにせよ、ウチの彼女たちは大人になっても脳内ピンク色で安心したよ。そしてここで安心してしまうほど、俺は現状に毒されているらしい。

 

 ちなみにオナニーの回数は程々にな。そもそも尿などとは違って、身体の外に出す必要のないものを興奮で無理矢理出してるんだ。身体に悪いとは言わないけどいいとも言い難い。間違っても毎日はするなよ? いいな??

 

 

「それじゃあ次の質問ね!」

「まだ!?」

「そろそろμ'sに入ってくれる気になった? さっきの愉快なトークでストレスも落ち着いたと思うんだけど」

「さっきまでの会話のどこにストレス解消要素があったのよ! むしろ余計に溜まっちゃったじゃない!!」

「うぐぐ……真姫ちゃん首絞めないでぇ!!」

 

 

 さて、ここらで助け舟を出してやるか。穂乃果の勧誘活動には関与しないと言ったものの、このままでは勧誘できないどころか真姫のストレスが積もりに積もり、両者どちらも損をするだけだ。そうなるとこの時間が本当に無駄で終わるため、仕方なく手を差し伸べる次第である。まあ俺としても、平行線上の話をただ眺めているだけでもつまらないしな。

 

 

「真姫。こう見えても穂乃果は本気なんだ、こう見えても」

「どうして2回言ったの零君……」

「分かってるわよ穂乃果のことくらい。もう何年の付き合いだと思ってるの?」

「そんな、付き合ってるだなんて……。穂乃果たち女の子同士……だよ?」

「えぇい!! そういうところが面倒だから追い返したいのよ私は!!」

「ということでしばらくボケはなし」

「はぁ~い……」

 

 

 穂乃果の場合、天然でエロいボケをしているのか狙っているのか分からない時があるんだよな。どちらにせよ、勧誘補佐役であり制止役の俺がツッコミを入れなければならないんだけどさ。

 

 

「さっき零君も言った通り、穂乃果は本気なんだよ! もう一度みんなでステージに上がりたいの!」

「それは私も同じよ」

「えっ、そうなの?」

「えぇ。でも言ったでしょ、勉強が忙しいって。まあ夏休みは自主勉強も多いから、時間を作れなくはないけど……」

「じゃあやろうよ! スクフェスの開催の8月末まで、一ヶ月半だけでいいから!」

「でも、練習に出られない日があるかもしれないわよ? それでみんなに迷惑がかかっちゃうかもしれないし……」

「そこは各々の事情を最優先してもらう感じだから大丈夫! みんなにもそう伝えてあるから!」

 

 

 あれ? そうだったっけ? これまでの勧誘を思い返すと、相手の事情を考えないゴリ押ししか記憶にないのは気のせいだろうか……? ともかく、穂乃果の相手の都合に上手く適応して会話を生成するコミュ力は感服せざるを得ない。まあそうでもしないとメンバー全員集まらなさそうだしな。真姫よりも忙しい社会人だっている訳だし。

 

 

「私の都合で休みを取っていいのなら、仕方ないから参加してあげる」

「わぁ~い! ありがとう真姫ちゃん!!」

「ちょっ、くっつかないで!!」

「楓と同じ反応してるな。相変わらずツンデレキャラが極まってることで……」

 

 

 何だかんだ言いつつも、ちょっぴり嬉しそうな顔をしている真姫はやはり極度のツンデレ性のようだ。最初は勧誘活動のラスボスだと思っていたのだが、条件さえ満たせば案外楽に参加してくれたのを見るとやっぱりチョロい……もとい、やる気だったみたいだ。さっきまで頑なに参加を拒否していたのは、穂乃果の図々しさにマジのストレスを感じていたからに違いない。

 穂乃果も穂乃果で初めからまともに頼んでいればこんな苦労はしなかったはずだ。だけど本人が普通の勧誘では面白くないからと無駄な味付けを入れるせいで、余計に話が拗れるんだよなぁ……。

 

 

「それじゃあ次の質問ね!」

「えっ、まだ続いてたの!?」

「医学的に見て、零君のエッチの仕方は女の子の負担にならない??」

「お、お前なんてこと聞いてんだ!? ちょっと気になるけどさ!?」

「そ、それは……本人の名誉に関わることだから……」

「えっ!? ダメなの!?」

「性技は男の持ち味だから、否定されたら困るもんねぇ~」

「あれ? 勧誘回のはずなのに、どうして将来に不安を感じなきゃならないんだ……?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「いやぁ今回も勧誘が上手くいって良かった良かった!」

「俺が助け舟を出さなかったら、あのまま真姫に追い出されてたのに?」

「零君が手助けしてくれることも加味してだよ♪」

「調子のいい奴……」

 

 

 真姫の勧誘を終えたその帰り道、穂乃果は完全にやりきった表情を浮かべていた。まだメンバーに誘えていない人が4人いるのに気を抜き過ぎだっつうの。まあそれでもラスボス候補だった真姫をたった数十分で陥落させたんだから、そこは褒めてあげるべきだろう。ていうか穂乃果の勧誘が凄いのではなくて、μ'sのみんなが元からやる気だから誘いやすかったと言った方が多分合ってると思うけど……そこは彼女のテンションを保つために黙っておこう。

 

 

「いつの間にか外、涼しくなったねぇ~」

「そうだな。練習時間もこれくらいの時間帯から始めた方が、身体的に良くないか?」

「確かにそれはあるかも……って、あぁっ!?!?」

「どうした急に……?」

「真姫ちゃんの家で高級フルコースディナー食べるの忘れた!!」

「本気で晩飯食う予定だったのかよ! しかもフルコースをご所望とはがめついなオイ……」

 

 

 そんなこんなで、俺たちの勧誘活動はまだまだ続く。

 しかも、夜になった今からが本番……の予定?

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 本編を読まずに前書きのクイズに正解された方はお見事でした!
 ちなみに私はそれ以外の答えを知らないので、他に4人でしゃぶる名称を知っている方はご一報ください。謝礼として5人でしゃぶる名称を教えます()


 次回はにこの勧誘編です!



 【告知】
 私と同じくハーメルンで『ラブライブ!』を執筆されている"たーぼ"さんの小説『ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~』との2回目のコラボが決定しました!
 投稿日は9月8日(金)を予定していますので、何卒よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ツインテ+ロリ+貧乳+淫乱

 メンバー勧誘、8人目。
 今回は夜の公園で怪しい勧誘活動を……?


「なぁ、穂乃果」

「ん? なぁに?」

「帰っていいか?」

「ダメ! この機会を逃したら、次はいつ捕まるか分からないから!」

「そりゃそうだけど、何もこんなストーカーみたいなことしなくても……」

 

 

 真姫との戦いを終えた俺たちは、休む暇もなく次なる戦場へと足を踏み入れていた。

 既に日は落ち、夏と言えども夜の涼しさを感じられる時間帯になっている。そんな中で、俺たちは電柱の陰に隠れながら1つの建物に目を光らせていた。こう表現すれば探偵のようにも見えるが、やってることはストーカー紛いの行為だ。彼女もたくさんできて教師という輝かしい道が確定している勝ち組の俺が、どうしてこんなド底辺みたいなことしなきゃならないのかねぇ……。

 

 俺たちが張り込んでいるのは、外見だけではそこらのビルと何の変哲もないただの建物だ。だがそのビルは立派なアイドル養成所であり、毎年そこから何人ものアイドルの卵が卒業している。それくらい有名な事務所であり、選考で選ばれた女の子が通っていることから必然的に可愛い子が多い。その事務所を夜、しかも物陰からひっそりと見つめている俺たちが如何にストーカー染みているのか分かるだろう。まだ女性の穂乃果がいるだけマシだが、俺1人だけだったら即お縄は間違いなしだろうな……。

 

 

「それにしても遅いなぁ~。いつもだったらこの時間にはレッスンが終わってるはずなのに」

「もし長引いてたとしたら、こんな無駄な時間はねぇぞ……」

「もうっ、零君は待つことを知らないの? だから早漏なんだよ」

「デカイ声で叫ぶんじゃない! 可愛い子がいっぱいいる事務所の前だから!!」

 

 

 真剣に張り込みをしているのかと思えば、唐突に下ネタをブッ込んで来るから油断も隙もない。しかも本人はふざけているのではなく、至って真面目な意見をぶつけているだけなので尚更タチが悪い。ことりや楓みたいに狙って言ってるのならまだスルーできるのだが、穂乃果はいつどこで俺の痴態を漏らしているのか分かったものじゃない。

 

 

「あっ、出てきたよ! 突撃だ!!」

「お、おいっ!」

 

 

 さっきまで下ネタを放っていたと思ったら、今度は目的の人物が出てきたからそっちに意識をシフトし始めた穂乃果。相変わらず切り替えの早さだけはいい意味でも悪い意味でも高いよなコイツ。

 

 

「にこちゃーーんっ!!」

「えっ!? 穂乃果!?」

「確保ぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

「な、なに!?」

「まあちょっと付き合ってくれ。すぐ収まるだろうから」

「零もいるの!? 一体何が始まるって言うのよ!?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「これはどういう風の吹き回しなのかしら……? 特にこの子」

「いやぁ、にこちゃん今日もお疲れ様! お菓子とジュース買ってあるよ! あっ、それともマッサージした方がよかった? 何なりとご申し付けください♪」

「アンタがそこまで気前がいいと、なんか気持ち悪いわね……」

「ヒドイ!? 穂乃果はね、宇宙No.1アイドルを目指して汗水垂らすにこちゃんを応援したいだけなのに!!」

「どうだか……」

 

 

 ここへ来る前にコンビニに立ち寄ったのはこのためだったのか……。

 俺たちは事務所前から場所を移動し、現在近くの公園で穂乃果が怪しげな勧誘を始めようとしていた。もう既ににこに媚びていることから、今回は自分が下手に出ることで相手を陥落させようとしているらしい。だからと言ってお菓子とジュースを餌にするって、今時の小学生でも引っかからないと思うぞ……?

 

 ちなみに時間帯が遅いせいか、公園には俺たち以外誰もいない。そんな中で男1人と女2人とは至極湧き立つシチュエーションではあるのだが、生憎そこまで青姦に興味がある訳じゃないので変な期待をしないように。まあ期待されても本番のシーンはここで映せないんだけどさ。

 

 

「にこちゃんってさぁ、やっぱり可愛いよね!」

「はぁ? 当たり前のことを今更言わないでくれる?」

「ちっちゃくてお人形さんみたいだし、胸も慎ましやかで微笑ましいし、何より20歳を超えてもツインテールだなんて超貴重人種だよ♪」

「馬鹿にしてるでしょアンタ!! 背や胸はともかく、ツインテールはアイドル活動の時だけよ!!」

「背や胸は認めるんだな……」

「コンプレックスなのよ!! その話題に触れるな!!」

 

 

 穂乃果の挑発的な勧誘に、もうこの時点でμ'sに入ってもらえるかどうか怪しくなってきたぞ……。最初は媚びに媚びてにこの気持ちを引き立たせることが目的だと思っていたが、やっぱり穂乃果にまともな勧誘は無理のようだ。今まであんな強引な勧誘をやってきた奴が、いきなり下手に出るなんてできるはずがない。穂乃果は至って真面目なのかもしれないが、逆に天然で相手にストレスを溜めさせているのならそれはもう一種の才能だろう。

 

 先程にこの体型について触れていたが、それは何の嘘偽りもない事実である。穂乃果を含め、元μ'sのみんなの身長は高校時代よりもそこそこ伸びている。もちろん人によって程度の違いはあるものの、身長が伸びてない子はいない。

 だがにこは高校生の時と全く同じ身長をキープしているだけでなく、その幼児体型もキープしているせいで胸のボリュームもお察しだ。高校生でお子様体型なのはまだ笑い話で済ますことができたが、既に大学を卒業した人がこの体型では素直に笑えない。愛想笑いも本気の笑いもどっちも失礼なので、もはや反応に困ってしまう。

 

 そんなちんちくりんな彼女だが、容姿はそこらの女の子よりも抜群に整っている。だからアイドル候補生として抜擢されただけでなく、元μ'sメンバーという特権を活かして、現在候補生ながらもアイドル活動をしているとか。大人になった今だからこそ、そのロリっ子キャラをより存分に活かしやすくなっているのだろう。まあ本人がロリキャラを前面に押し出したいのかは別として……。

 

 

「そんな分かりきった失礼なことを言うためだけに、事務所の前に張り込んでいた訳?」

「違うよ! スクフェスの勧誘をしに来たの!!」

「スクフェス……? あぁ、来月末に開催されるスクールアイドルのイベントね」

「流石にこちゃん! 現役アイドルなだけあって話が早いね!」

「そりゃにこだって参加する予定だから」

「そうだよねぇ、にこちゃんだったら参加してくれると思ってたよ……って、えっ、予定?」

「ウチの事務所のアイドル候補生は、仮のスクールアイドルとして舞台に上がる練習がてら参加するのよ。にこはスクールアイドルの経験で慣れてるけど、他の子たちは舞台に上がるの始めてだからね」

「なん……だと!!」

 

 

 今までの勧誘と違う流れに、バレバレの媚びモードに入っていた穂乃果も思わずあんぐりと口を開けてしまう。これまでは『スクフェスって何?』と質問から切り込まれ、『スクールアイドルのイベントだから一緒に参加しよう』と勧誘するのが一般的な流れだった。でも今回は勧誘対象が既にスクフェスの参加を決定しているという困った事態に陥っている。だが流れが変わった時こそ、穂乃果持ち前の機転の良さを発揮するべきだろう。

 

 ちなみに俺はただ静観(せいかん)してるだけだから。決して青姦(せいかん)ではないぞ?

 

 

「それじゃあにこちゃん、μ'sに入ってくれないの!?」

「なるほど、そのセリフでどうして穂乃果がここに来たのか全部分かったわ。まさかまたμ'sを結成しようとしてたとはねぇ……」

「ちなみにあの海未ちゃんや絵里ちゃん、真姫ちゃんだって加入予定だよ」

「その3人が!? アンタどんな卑劣な手を使って勧誘したのよ……」

「失敬な!! 穂乃果の熱い情熱を真っ向から伝えただけだよ!!」

 

 

 海未たちを勧誘したと穂乃果の口から語られるたびに、毎回どんな非道な手を使ったのかを疑われるって全然信用されてねぇな……。実のところは情熱50%、脅迫や煽り50%くらいの配分なのであながち間違ってもいないけど。

 

 

「にこちゃんが参加してくれないと、μ'sのマスコット枠がいなくなっちゃうよ?」

「アンタやっぱり馬鹿にしてるでしょ……」

「してないしてない! にこちゃんの存在で自分より背が低い人や胸が小さい人がいなくなるから、メンバー全員が心身共に安心できるんだよ♪」

「ちょっと校舎裏に来いやァアアアああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 穂乃果のあの楽しそうな顔は天然なのか、それとも悪戯な笑顔なのか。どっちにしてもにこのコンプレックスが抉られることに間違いはない。

 

 残念なことに、にこの背や胸がμ's内で一番小さいのは紛れもない事実だ。4、5年前は一応亜里沙よりも背は高かったのだが、ロシアの血筋を引いている影響は甚大で1年後にはあっという間に抜かれてしまった。まあμ's内最年長と最年少が張り合う時点で、既に負けている気もするが……。もちろん胸の大きさは言わずもがななので、μ's内で低身長と低バストの二冠を達成してしまったことになる。しかもそのままそっくりの体型で今に至るのだから、そりゃコンプレックスにもなるよ。アイドルをやっているならちびっこ貧乳というステータスが活きるのでまだマシだろうが、やっていなかったらと思うと…………もう悲しすぎて何も言えねぇ。

 

 

「もうこうなったら、にこちゃんを褒めに褒めまくって無理矢理μ'sに加入させるしかないね」

「本人の前で言うんじゃないわよ……」

「それに無理矢理って言っちゃってるし。いつものことだけど……」

「まあまあ落ち着いて。実は事前にμ'sのみんなから、にこちゃんに関するアンケートを取ってみたんだよ。これでにこちゃんがみんなとの絆を思い出して、μ'sとしてもスクフェスに参加してくれる意思を固めてくれればいいかなぁってね! それにみんなから答えをもらうのも、結構時間が掛かったんだよ?」

「そ、そう。みんながにこのために時間を割いてくれたっていうのなら、一応聞いてあげなくもないけど? 時間を掛けるくらいにこのことが好きなみんなだもんねぇ~♪」

 

 

 さっきまで校舎裏でタイマンを張ろうとしていたのに、こうしてあっさりと調子付くチョロさは真姫に通ずるものがある。これだから俺の中で『ツンデレ=チョロ可愛い』の方程式が崩れないんだよ。まあツンツンしてばかりで無駄に勧誘が長引くのはこちらとしても面倒なので、極限までチョロい方が断然嬉しいけどね。

 

 それにしても穂乃果の奴、意外にもにこに対する武器を用意していたんだな。よくよく思い返してみると、海未に対してはツイスターゲーム、絵里に対しては黒歴史、真姫に対しては質問攻めと、勧誘の障害になりそうな子に対しては何かしらの対抗策を用意している。あれ? もしかして穂乃果って、勧誘上手い……!? 今日1日でも勧誘できた人数が相当なため、そう錯覚してしまいそうだ。

 

 

「まず1つ目のアンケートは『にこちゃんが似合いそうな、夏の風物詩と言えば?』だよ!」

「あれ? お前のことだからもっと卑猥な質問が飛んでくるのかと思った」

「真面目ににこちゃん勧誘してるんだから、そんなことするはずないでしょ!!」

「お前、前回と前々回思い出してみろよ……」

 

 

 前々回はことりと秋葉の登場でハードなボケを強いられていたけど、前回に至っては完全にコイツのせいで場の空気が乱れていた。馬鹿な奴ほど都合の悪い記憶を消したくなる方程式も、未だ健在のようだ。

 

 

「それでみんなは何て答えたのよ? まあにこの清楚さを感じられる海とか、浴衣が似合うから夏祭りとか……う~ん、どれを取ってもにこにピッタリね♪」

「残念ながらどれも違いま~す。実はね、満場一致で同じ答えなんだよ」

「そんなににこの印象って固定されてるものなの?」

「答えはね、ちびっこ大好き『ビニールプール』でしたぁ♪」

「アイツらァ゛ア゛ア゛ア゛あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 スマン、実は俺も同じ妄想をしていた。にこは不満を爆発させているが、納得できない訳じゃないので同情してやることはできない。

 でもにこがビニールプールで遊んでいる姿って、誰でも容易に想像できることだよなぁ。一応性格面ではお姉ちゃんキャラを確立している彼女だが、やはりその背丈では子供に見られる方が妥当だ。本人曰く、未だに中学生と間違われるらしいから。

 

 

「どうしてビニールプールなのよ。せめて普通のプールでも良かったでしょうが……」

「えぇ~でもにこちゃんの場合は、可愛い浮き輪でプカプカしてる姿や砂のお城を作ってる姿を想像しちゃうなぁ~」

「もっとあるでしょ!! オイルを塗られたりポロリしちゃうシーンが!!」

「は? ロリが色気求めちゃダメでしょ」

「真顔で言うな!!」

 

 

 しかし残念ながら、オイルを塗られたりポロリのシーンをにこに期待する時点で間違っていると満場一致で思っているだろう。一応彼女も彼女で大人のエロスがない訳ではないのだが、アイドルをやってると余計に子供っぽい可愛らしさが押し出されるので、もはやロリ系アイドルというキャラが確立されてしまっている。

 

 

「それじゃあ次のアンケートね! 次の質問は『にこちゃんに憧れていることは?』だよ」

「そうそう、そういう質問でいいのよ。まあ100個くらいあると思うから、一部ピックアップすることを許すわ」

「う~ん、それじゃあねぇ……あっ、これなんかいいかも。『肩凝りすることがなさそう』とか」

「は……?」

「他にも『下着を変える必要がなくて、お小遣いが浮きそう』とか」

「あ゛……?」

「最後に『自分の成長を期待し続けることができて、ある意味羨ましい。私の場合はもう大きくならないから』とか♪」

「それ全部胸のことでしょ!? やっぱり馬鹿にしてるでしょアイツらァ゛ア゛ア゛ア゛あああああああああああああああ!!」

「どれだけ貧乳に厳しんだよμ'sは……」

 

 

 どの回答も羨望を含んでいるのかと思えば、皮肉の色しか見えていないのでいたたまれない気持ちになる。そもそもμ'sってここまで貧乳に当たりが強いグループだったのか……? 男の俺には貧乳ちゃんの気持ちは分からないけど、もしかしたらメンバー間で胸囲の格差社会の煽りを受けて暴動が起こっているのかもしれない。女の子同士のグループって殺伐としやすいって聞くからなぁ……。

 

 

「もうにこちゃんってば、そんな大声で叫ぶほど嬉しんだね!」

「こちとら精神をすり減らされて疲れてんのよ!! ただでさえレッスンが終わったばかりなのに!!」

「疲れてるネタは真姫ちゃんの時にやったから二番煎じだよ?」

「知るか!!」

「じゃあ最後のアンケートに行ってみよう!」

「ねぇ零。念の為に聞くけど、これ勧誘なのよね……?」

「一応な。まあこれが穂乃果なりの勧誘だから、満足するまで付き合ってやってくれ」

「穂乃果が満足する前ににこが参っちゃうんだけど……」

 

 

 それでも何だかんだ穂乃果に付き合ってあげるのは、みんなの優しさがあってこそだろう。それか穂乃果の勢いに巻き込まれたら彼女の気が済むまで付き合わされるので、もう既に諦めているのか……。

 

 

「最後のアンケートは『仲良くなった今だからこそ、にこちゃんに聞いてみたいこと』だよ!」

「本当に今更な質問ね、それ」

「たくさん質問来てるよ! 『遊園地は未だに子供料金で入れるの?』とか、『貧乳だと乳首が感じやすいって聞いたんだけどホント?』とか、『実際のところ、生えてるの?』とか!」

「おい何だよ最後の質問!!」

「そろそろμ'sのメンバーとは1人1人タイマンを張らないといけないようね……」

「あっ、これ穂乃果が質問したかったことだ! 見るメモ帳間違えちゃった♪」

「アンタね゛ぇ゛え゛えぇぇぇええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 これ以上にこが蔑まれるのは涙が出ちゃうので敢えて言わなかったが、他のアンケートも全部穂乃果の自作自演だったんじゃないか? 今日1日ずっと一緒にいたけど、穂乃果が誰かにアンケートを送っているような素振りは一切なかった。まあずっと穂乃果を監視していた訳じゃないから確証はないけど、もしかしてもしかすると……?

 

 

「えぇい!! 遊園地はまだ子供料金で入れるどころか受付の人が勝手に勘違いするくらいだし、乳首は高校時代からずっと感じやすいし、実際のところ生えてないわよ!! これでどう!?」

「真面目に答えんのかよ!?」

「いや、急にそんなエッチな告白されても……」

「アンタがアンケで質問してきたんでしょうが!! いきなりシラけるんじゃないわよ!!」

 

 

 どうでもいい話だが、乳首が感じやすいとか実際のところ生えていない事実は既に俺も知っていたりする。まあもうお互いに大人なんでね、見たり触ったりくらいするから。本当にどうでもいい話だけど。

 

 

「でもね、にこちゃん。いちいちこんなアンケートを取らなくても、にこちゃんの魅力的なところはみんな知ってるから。もちろん穂乃果もね!」

「だったら今までのは遊びだったってことかしら……。知ってたけどムカつくわね……」

「まあまあ♪ これでもアイドル活動を頑張ってるにこちゃんを、穂乃果はずっと応援してるんだよ」

「確かにアンタからの応援メッセージの件数は誰よりも多いわね。やっぱり親友に応援されるのは嬉しいし、励みになってるわ」

「だから今度はにこちゃんが穂乃果たちを応援する番だよ! いや、応援だけじゃダメ。μ'sに加入する番だよ!」

「相変わらず言ってることめちゃくちゃねアンタ……。まぁこれまでの練習の成果を、アンタたちの度肝を抜く形で試してもいいかもね」

「えっ、それじゃあμ'sに入ってくれるの!?」

「そっちの練習に出るのは、養成所のレッスンがない時だけに限るって条件ならね」

「ありがとう!! 流石にこちゃんは胸が大きくない代わりに懐は大きいね♪」

「余計なお世話よ!!」

 

 

 最後の最後で本当に蛇足を……それがなかったらいい話で終わってたのに。

 そしてまたなんやかんややっている間に勧誘が終了した。そもそもスクールアイドルが大好きなにこのことだから、断りはしないと思っていた。ただアイドル活動との兼ね合いでスケジュールを合わせられるかどうかを懸念していただけで、μ'sとしてスクフェスに参加するのは概ね前向きだったようだ。ステージに立つ機会が増えるということは、それだけにこの欲求を満たすということだから見えていた結果ではあるがな。だが見通せていたとしても、こうして思い出のμ'sが再び出来上がっていくのは俺も嬉しいよ。

 

 

「この調子だと、本番では全員揃いそうだな」

「「ほ、本番!?」」

「そこに反応しなくていいから……」

「だ、ダメよ! にこは素人のスクールアイドルじゃなくて、もう普通のアイドルなんだから!! こんなところで本番は……」

「お前、急に思考がピンク色になったな……」

「やっぱりにこちゃんはこうでなくちゃ! ツインテロリ貧乳淫乱アイドル、まさにAV女優さんみたい♪」

「それ褒めてねぇだろ……」

 

 

 そんなツインテロリ貧乳淫乱アイドルがμ'sに加わり、グループ内のAV度が大幅にアップした!(?)

 ところで、グループメンバーが大人ばかりなのに()()()()アイドルを名乗ってる方がどこかAVっぽくない? そう疑問に思っていたが、ロリ要素が入ったことで若干緩和されたのかな……?

 

 

 夜も更けてきたけど、本日のメンバー勧誘はまだまだ続く――――って、原稿を読んでみたけどまだ今日終わらないの!?

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 ここまで世間の需要属性が盛り込まれているキャラは早々いないような気がしますが、実際にロリ体型の人って自分のことをどう思っているんでしょう……?
直接誰かに聞く勇気はないので、読者の方で質問する度胸のある人は是非聞いてみてください。そしてその回答を私に教えてください(笑) 小説の参考にします……多分。


 次回は雪穂の勧誘編! しかも舞台は浴場!


新たに☆10評価をくださった

MNKNSさん

ありがとうございます!



【告知】
 私と同じくハーメルンで『ラブライブ!』を執筆されている"たーぼ"さんの小説『ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~』との2回目のコラボが決定しました!
 投稿日は9月8日(金)を予定していますので、何卒よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クーツン少女と裸の付き合い

 メンバー勧誘、9人目。
 勧誘要素は犠牲になったのだ。雪穂のサービスシーンの犠牲に……()


 

 本日最後の勧誘を行うため、俺は高坂家へと赴いていた。怒涛の勧誘活動で流石の穂乃果も疲れたらしく、彼女にとっては一番接しやすいであろう妹の雪穂に狙いを絞って今日を締め括ろうとしている。1日中ずっと動き回っていたのに、家に帰ってもなお勧誘を続けるなんて物凄いバイタリティをお持ちなことで。でも最近ニート生活を極めて体力が低下していた俺にとってはいい運動になったよ。

 

 ちなみに俺は一旦自宅に帰って晩飯を取った後、高坂家にお邪魔している。そうでもしないとまた楓に帰ってこいと怒られて正座で説教された挙句、今度こそベッドに縛り付けられて一生外出できない身体にされてしまう。アイツの場合はネタじゃなく、マジでやりそうなのが怖いんだよな……。

 

 そんな訳で俺と穂乃果はそれぞれの自宅で晩飯を食った後、本日最後の勧誘をするために風呂場に集結していた。

 

 

 ――――――って、あれ? ふ、風呂!?

 

 

 

「な、なんで私、お姉ちゃんたちとお風呂入ってるんだろ……」

「こっちが聞きてぇよ……」

「いいじゃんいいじゃん! 裸の付き合いってものがあるくらいだしね!」

「それは男同士でするものであって、姉妹間や男女間でするものじゃないでしょ!」

「もう堅いなぁ雪穂は。堅くならなきゃいけないのは、むしろ零君の方なのにね♪」

「人の下半身を見て言うな」

 

 

 そうは言うものの、大きくなっていないと言えば嘘になる。だって女の子と狭い浴場の中で3人って、健全男子なら興奮しない方がおかしいだろ。流石に3人では湯船に入れないので今は穂乃果と雪穂が2人で入っているが、無理矢理あそこに突撃した場合の惨事を考えると…………想像するのはやめよう。マジでやりたくなってくるから。

 

 そもそも3人で風呂に入る事態に陥っているのは、毎度お馴染み穂乃果の強引な誘いによるものだ。既に脱衣所にいた雪穂に無理矢理便乗する形で入ることとなり、あまりの突拍子もない展開に俺以上に雪穂の方が混乱を極めているだろう。いきなり汗だくになった恋人と姉が突撃してきたのに加え、有無を言わせずに混浴するはめになったんだから。

 

 しかし穂乃果からすれば、この浴場こそが雪穂との対決の場らしい。身も心もオープンになる浴場だからこそ、お堅い雪穂を陥落させられると思っているのだろう。まあ俺としては、裸を見られて恥ずかしがっているせいで余計に心へ踏み込みにくくなっていると思うぞ?

 

 ちなみに2人は湯船に浸かっているから、当然バスタオルなど身体を纏うモノは付けていない。だから湯船を覗き込んだら最後、夢の桃源郷が広がっている訳だ。男としてその光景を皆様にお伝えしたいのだが、今回の目的はあくまで勧誘。あまりエロで尺を使うと間延びするから、ここぞという時にお披露目してやろう。

 

 

「いやぁいつの間にか雪穂も成長したねぇ~。胸、結構大きくなったんじゃない?」

「はぁ!? お姉ちゃんと言えどもセクハラ発言禁止!!」

「えぇ~いいじゃん別に姉妹なんだから! それとも、零君に自分のおっぱいを想像されるのが恥ずかしいのかなぁ♪」

「ち、ちちち違うもん!!」

「顔真っ赤だぞお前」

「こ、これはのぼせただけ!!」

「まだ入って数分しか経ってねぇだろ……」

 

 

 早速俺と穂乃果のペースに巻き込まれつつある雪穂は、既に顔が耳まで真っ赤になっていた。そういやにこほどではないが、彼女も胸にコンプレックスを持っていた気がする。高校時代に姉の穂乃果と同じ大きさまで成長しなかったのが地味に堪えたらしく、巷(μ's内)の噂では隠れて豊胸マッサージをやっているとかいないとか。まあ自分と同学年の楓が巨乳だし、亜里沙もどんどん成長しているから焦る気持ちは分からなくもない。男が下半身の長さと太さで競いたくなる気持ちと同じだろう、多分。

 

 

「そもそも裸を見られても平気なお姉ちゃんたちがおかしいんだよ。元々μ'sがおかしな人たちの集まりだってことは知ってたけどさぁ……」

「おかしい!? 誰が!?」

「お姉ちゃんでしょ? ことりちゃんでしょ? 海未ちゃんもたまに暴走するし……もうみんなだよ」

「それには同意だな。みんな癖がありすぎて目立つから、穂乃果たちが集まってるだけで周りから注目されるんだよ」

「いやいや、零君が一番おかしいから」

「おいおい、穂乃果たちと一緒にされんのか……」

「残念ながら穂乃果もそう思ってるし、他のみんなも満場一致で賛同すると思うよ」

「嘘、だろ……?」

 

 

 今まで5年も一緒にコイツらと毎日を過ごしてきたのだが、俺は穂乃果たちの癖の強い性格に圧倒されっぱなしだった記憶しかない。だが穂乃果たちは一番偏屈なのは俺だと言い張るどころか、この中で最も淫乱で変態なのも俺だと口を揃えて言う。果たして本当にそうなのか? これは一度どこかで検証を行う必要があるな。もし穂乃果やことりよりも淫乱だって結果が出たら、賢者になるため山に籠る予定なのでそのつもりで!

 

 

「でもμ'sが全員おかしな人たちなら、雪穂だっておかしな人だよ?」

「私だけはまともだよ。誰よりも常識人な自信があるし、お姉ちゃんたちみたいにいちいちエッチなことで暴走しないから」

「それだと穂乃果たちが変態みたいじゃん……」

「さっきからそう言ってるよね!? だからお姉ちゃんや零君と一緒にお風呂に入るのが怖いんだって! 何をされるのか分かったものじゃないから……」

「ほほう、雪穂は一体何をされることを想像してたのかなぁ~?」

「そ、それは……も、もうっ! この話は終わり!!」

 

 

 湯船のお湯をばしゃばしゃして、恥ずかしさを紛らわせている雪穂が可愛い件について。確かに彼女は自分でも自慢している通り常識人なのだが、こうやって平静を保つことには慣れていない。普段はクールでかつツンデレでもあり、その2つを組み合わせた所謂"クーツン"なのだが、こうやって裸になったり猥談になったりすると途端に羞恥心が爆発する。しかも淫乱っ子たくさんのμ's内で猥談が発生しないことはまずないから、雪穂のキャラがブレブレになるのはもはや日常的だった。

 

 まあ普段澄ました顔の子が、羞恥心に煽られて顔を赤くする様は見ていて楽しいけどね。特に妹属性という最強の萌え属性を携えている雪穂だからこそだ。

 

 

「それでどうして私がお姉ちゃんと零君と一緒にお風呂に入らなきゃいけないの? まだその理由を聞いてないんだけど……」

「穂乃果たち、これから家族になるんだよ? だからこれはその予行演習だよ」

「…………もう出るよ」

「あれぇいいのかなぁ~? 今湯船から出ると、タオルを巻いていない雪穂の生まれたままの姿が零君に♪」

「あ゛っ、そうだった……」

「…………っ!!」

「なに鼻の下伸ばしてるの零君!!」

「し、仕方ねぇだろ男なんだから!!」

 

 

 女の子と一緒に入浴というシチュエーションで、女の子の裸体を想像するなと言われる方が無理あるだろ! ただでさえさっきから雪穂が羞恥心に駆られ暴れているせいか、胸が見えそうで見えなかったりと俺の目がお預けを食らっているのだ。胸の谷間まで見えているのに、そこから見ようにも見えないなんて生殺しにも程がある。しかもちょっと覗き込めば一糸纏わぬ姿を拝めるため、なおさら欲求が掻き立てられる。ここで理性を無視してガッツかないあたり、俺も成長しただろ?

 

 そして今にも忘れそうになっていたが、一緒に風呂に入ってる理由って勧誘のためなんだよな? もうさっきから雪穂や穂乃果の裸体をどう目に焼き付けようか、その努力で精一杯で危うく忘れるところだった。

 

 

「もうエッチな子ばかりだなぁ、雪穂も零君も♪」

「お前に言われたくねぇよ……。ていうか、早く本題に入ってやれ。このままだと雪穂が本当にのぼせちゃうから」

「そうだよ勧誘だよ勧誘! 妹の身体の成長を微笑ましく見てたら忘れてたよ」

「その微笑ましくは、私の身体が貧相だからって言いたい訳……?」

「いやいや、雪穂の身体って白くてもちもちしているから、食べちゃいたいなぁって思って。あっ、今の食べちゃいたいっていうのは、決して雪穂の花びらを散らしたいって意味じゃないからね!!」

「言わなかったら誰も気にしなかったのに……」

 

 

 確かこの前も言った気がするが、μ's内がやたら百合百合しいのはもう目を瞑った方がいいのだろうか……? 穂乃果と雪穂が姉妹にしては仲がいいのは知っているが、官能的な関係ではないと信じたい。自分の彼女たちが姉妹でレズってる現場なんて、とてもじゃないが直視できねぇから……。

 

 

「勧誘って、もしかしてスクールアイドルなんちゃらって祭りに参加するため?」

「スクールアイドルフェスティバルだよ! 通称スクフェス……って、あれ? どうして知ってるの!?」

「お姉ちゃんが帰ってくる前に、亜里沙が嬉しそうに電話してきたんだよ。『私、もう一度μ'sに入ったよ!』ってね」

「まさかのネタバレ?!」

「なるほど。だからお前、穂乃果にいきなり勧誘されても驚かなかったのか」

「まあ私のところにも来るだろうと薄々思ってましたから。でもまさかお風呂に入りながら勧誘されるとは想像もしてなかったですけど……」

 

 

 そもそも穂乃果がみんなのところへ出向いて勧誘し歩いていると、情報がμ's内で伝達されていなかったのが奇跡に近い。俺たちの高校卒業を機にμ'sは解散したものの、携帯でたわい無い会話をするなどメンバー間の繋がりは決して切れることがなかった。それなのに今までスクフェスの情報が初耳だった人が大半だったあたり、常に暇な俺や穂乃果と違って忙しい奴らが多く、スクールアイドルに関する情報を得られていなかったのだろう。そう考えると、突然スクフェスの話題を出されてまた一緒にステージに上がろうなんて提案が更に無謀に聞こえてくる。だからなおさら穂乃果の強引な勧誘は、本人のカリスマ性と情熱があったからこそ成功したのだと実感できるな。

 

 

「でも知ってるなら話は早いよ! 雪穂、もう一度μ'sに入って!!」

「いいよ」

「そうだよねぇ~。簡単に頷かないのはみんなそうだったもん。だからここは奥の手を……って、えっ!? い、今なんて言ったの!?」

「だから、別にいいよって」

「どうしてそんなこと言うの!? あの雪穂だよ!? いつもみたいに冷たくあしらわれるだろうから、こうしてわざわざお風呂に連れ込んだのに……。冷たい雪穂の心を溶かすなら、暖かいお風呂が一番ってね」

「連れ込んだとか、エッチなビデオじゃないんだから……」

「へぇ…………」

「れ、零君!? 変な目でこっち見ないで!!」

「いやぁ、お前もそういうの見るんだなぁと思って」

「じょ、常識でしょ大人なら……」

 

 

 どうやら雪穂の常識は、世間の一般常識から大きく逸脱しているようだ。やはり天然だが淫乱思考を持つ穂乃果と同じ血を引いているだけのことはあるな。本人は至って常識人だと冒頭でも語っていたが、蓋を開けてみれば他のメンバーと同じ思考回路は桃色に染まりつつある。色物揃いのμ'sでもコイツだけは心の拠り所かと思っていたが、そろそろ認識を改める時が来たようだな……。

 

 まあ雪穂淫乱化現象はまたの機会に語るとして、驚くべきは勧誘を素直に受け入れたことだ。ことりや亜里沙の勧誘も大概イージーモードだったが、今回は余計な展開や言い争いもなくすんなりと進んだことから勧誘タイムアタックの記録大幅更新である。普段の雪穂の性格を一番良く知っている穂乃果だからこそこの展開には驚いているようで、上半身が丸見えになっていることにも気付かず目を丸くして雪穂を見つめていた。もちろん俺が穂乃果の身体に釘付けなのも気付いていないだろう。やっぱり胸、メチャクチャ成長したなコイツ……。

 

 

「本当に雪穂なの? 頭打った? ま、まさか誰かが擬態してるとか?!」

「ゲームのやり過ぎだよお姉ちゃん……。それに見えてるから早く隠しなよ」

「そうだ! 雪穂の胸を触れば、その感度で本物の雪穂かどうか分かるはず!」

「はぁ!? むしろ知ってる方がおかしいでしょ触ったことあるの!?」

「いいぞもっとやれ」

「止めてよ零君!!」

「俺はそっぽ向いておくからご自由にどうぞ」

「鏡の方を見るな!! 余裕でこっち見えるでしょ?!」

 

 

 エロ同人のごとく手の指を蠢かせている穂乃果と、鏡越しでもいいから徹底的に視姦しようとする俺。犯罪者一歩手前の連中に囲まれる雪穂だが、生憎彼女は湯船の中だ。追い詰められたら脱出の術はない。まさに『私に乱暴する気でしょ!? エロ同人みたいに!!』の展開そのものだ。テンプレ展開ながらも生でそのシーンを拝めるとは、生きていれば得はあるもんだ!

 

 相変わらず穂乃果はタオルなど一糸まとわぬ姿を晒し続けているが、本人に恥じらいがないせいか俺も理性が切れるほど興奮はしない。やっぱりただ全裸なだけでは色欲は唆られず、恥じらいがあってこその全裸シーンなのだと再認識したよ。そんな光景を見て思ったのだが、上半身は生まれたままの状態を晒せるのに、服を捲ってヘソを晒すのは恥ずかしいんだな。コイツの貞操観念がよく分からん。

 

 

「よく見てみれば、本物の雪穂のおっぱいはもう少し小さかったような……」

「失礼すぎるでしょ!! しかもさっき自分で『雪穂は成長した』って言ってたよね!?」

「そうだけど、この世は目に見えるものだけが真実とは限らないんだよ」

「カッコいいこと言っても騙されないからね」

「よしっ! 普通に勧誘が進んじゃうのもアレだし、雪穂のおっぱいを触って本物ならμ'sへの加入を認めてあげようかな。謂わば入団テストだね!」

「アレって何!? 意味分かんない!!」

 

 

 思わず真姫の決め台詞を奪ってしまうほど唐突な展開なのは間違いない。しかも穂乃果の奴、いつもは勧誘がすんなり行かずぐちぐち文句を言ってるくせに、いざ障害なく事が進むと途端に遊びに走りやがる。まあ遊びがなかったら、たかが勧誘だけで12話も使うような長編にはならなかっただろうな……。

 

 そして何度も言っているが、穂乃果は一度勢い付くと止まることはない。壁に手を付きながら湯船の端に雪穂を追い詰める穂乃果。姉妹同士で、しかも風呂場で壁ドンする光景は色気満載のはずなのにシュールさを感じる。もはや雪穂も上半身が見えそうになってることすら気付かないほど目の前の暴漢に集中しているくらいだ。μ'sで1、2を争うほどガードの堅い彼女がここまで肌を晒すなんて、彼氏の俺でも中々見られないぞ。

 

 

「いい子にしていれば痛くしないから……ね?」

「注射に泣く子供をあやしてるみたいじゃんそれ……」

「もう雪穂ったら、流石の穂乃果でも注射はできないよ! だって穂乃果には付いてないし……。そこまで注射してもらいたかったら、夜こっそり零君にお願いしてね♪」

「こっち見んな。この状況だと本気でそう捉えちゃうから」

「し、しませんからね!!」

「分かってるよ、うん……」

「なんでちょっと残念そうなんですか!?」

 

 

 そりゃあ……ねぇ? 雪穂が直々に懇願してくる展開なんてそうそうあるものじゃない。穂乃果の勢いに乗せられるのは癪だけど、雪穂と交わる展開になるのなら致し方ないだろう。俺だってまだ20代前半で思春期の延長線上を辿っている歳なんだ、多少性欲が旺盛で女の子に期待を抱いてもまだ許されるだろ?

 

 

「いくよ……? 大丈夫、先っちょだけだから」

「だから言い方!!」

「それじゃあ、このあと滅茶苦茶エッチしたってテロップを出しておくから」

「今まさに描写されようとしてるのに意味ないでしょ!!」

「もうっ、エロ同人だったら文句ばっか言ってると強引に襲われるんだよ! 雪穂もそうしてあげる♪」

「だ……ダメェエエえええええええええええええええええええええええええ!!」

「雪穂!?」

 

 

 雪穂は穂乃果に覆い被さられながらも、一瞬の隙を突いて湯船から脱出する。

 だがここは風呂場。足元は不安定なんてものではなく、さっきまで俺が身体を洗うために生成していた泡が床にまだ残っていた。

 そうなればもちろん、勢いよく湯船から飛び出した彼女がどうなるかはお察しのこと。床に足を着いた瞬間につるりと滑り、身体のバランスが大きく崩れ倒れそうになった。どっちに倒れそうになったかって? この展開でお約束の如く、こっちにだよ!!

 

 しかも、今の雪穂はさっきまで湯船に浸かっていたためか当然全裸である。上も下も、何も纏っていない生まれたままの姿。ハンドタオルも持っていないので隠れているところすらない。そんな雪穂が俺と正面衝突しようとしているのだが、俺は彼女の身体に釘付けになってしまい受身の体勢すら取れなかった。眼前に迫るおっぱいと下半身、一瞬の出来事なはずなのに、俺にとっては世界の動きが何故かスローモーションに見えた。

 

 そして、時は動き出す――――――

 

 

「きゃぁっ!!」

「う゛ぁぁっ!!」

 

 

 受身を忘れていた俺は、予想通り雪穂に押し倒される形で風呂場の床に叩きつけられる。幸いにも後頭部が風呂マットのスポンジ部分に当たったために衝撃は少なかったものの、真の衝撃は目の前の光景だった。

 

 倒れている俺の上で四つん這いになっている雪穂。胸は重力に沿って垂れており、湯や汗で湿っている髪が彼女の色気を助長させている。そこから目を降ろせば、綺麗な太ももがこれまたしっとりと濡れて艷やかになっていた。そこから股の方へ目を向けると、タオルに包まれてそそり立っている俺のモノと彼女の股の部分が…………うん、これ以上はここで語れまい。とにかく、普段そこまで色気というものを醸し出していない雪穂を、今まで以上に大人っぽく感じた瞬間だった。

 

 そして、意味もなく何故かお互いを見つめ合う俺たち。雪穂の心境は分からないが、ある意味で冷静な俺とは真逆だろう。何が起こっているのか状況が飲み込めず、ただ呆然と俺を見つめているに違いない。だが彼女の状況判断に遅れが生じれば生じるほど、俺が彼女を視姦する時間がどんどん延びていく。少し時間を掛けて身体をあと数ミリずらせば、雪穂の大切なところが丸見えになるくらいには猶予があった。

 

 無謀にも欲望に従ってその作戦を実行しようとした俺だが、この風呂場にはもう1人いたことをこの衝撃展開ですっかり忘れていた。

 

 

「きゃぁ~大胆だね2人共♪」

「はっ!? わ、私は一体なにを……!? れ、零君……?」

 

 

 雪穂は全ての状況を把握し、ようやく我に返った。だが呆然としていた方が彼女にとっては得だったのかもしれない。モロ全裸を晒しているこの状況に今度は顔を真っ赤にし、身体が小刻みに震えだした。

 

 

「よ、よぉ……。こうして見ると、成長したよな……お前の身体」

「うっ……あ、ありがと」

「え? 今なんて?」

「ば、馬鹿ァアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「なんで!?」

「これだから零君はいつまで経ってもデリカシーがないんだよねぇ~」

 

 

 顔を真っ赤にした雪穂の罵倒が風呂場全体に響き渡り、なんとも特異な勧誘は性行為一歩手前で終了した。勧誘としてはイージーモードで上手くいったものの、俺としては若干消化不良感なんだけど……。主に性欲的な意味で。

 

 ちなみにその声は高坂家内部にまで聞こえていたようで、風呂上がりの俺たちを高坂母が笑顔で出迎えてくれた。この家の女性はみんな貞操観念おかしいよ絶対に……。

 

 

 

 

To Be Continued……




 先月末くらいにTwitterにて『雪穂、亜里沙、楓の中から妹にするなら誰?』というアンケートを実施しました。100名程度の方がアンケートに参加してもらったみたいで、突発的なアンケにも関わらずたくさんの人に回答をいただきとても嬉しかったです!

 そしてその結果なのですが、割といい勝負で雪穂が最強の妹キャラを獲得しました! 
 雪穂を選んだ回答者の意見として
  ・ツンデレなところが可愛い
  ・しっかり者な妹が欲しい
 などがあり、『新日常』の中でも正統派の妹キャラが最強だったみたいです。

 今日のお話は久々にサービスシーンが満載だったのですが、実は先程のアンケートでの勝者にそのサービスをしてもらう予定でした。今回は雪穂が勝利したので彼女が犠牲となりましたが、亜里沙や楓でも描いてみたいのは事実なので、また勧誘編が終わった頃にでも執筆してみようと思います。皆さんも見てみたい……ですよね?


 次回は希の勧誘編です!
 早朝、まだ眠っている彼女の部屋に侵入する穂乃果と零だが……?


新たに☆10評価をくださった

ソース毛さん、真面目さん

ありがとうございます!


【告知】
 私と同じくハーメルンで『ラブライブ!』を執筆されている"たーぼ"さんの小説『ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~』との2回目のコラボが決定しました!
 投稿日は9月8日(金)を予定していますので、何卒よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スピリチュアルなお遊戯

 メンバー勧誘編、その10。
 今回は勧誘編の実質的なボスである、彼女がお相手!


 

「おはようございまーーーすっ!!」

「朝っぱらから元気だなお前」

「勧誘すべきはあと2人! ここが正念場だよ!!」

「ふぁああぁ……昨日散々付き合ってやったんだから、今日くらい1人で頑張れよ」

「ダメ! 零君がいなかったら、誰が穂乃果の無茶苦茶を止めてくれるの!?」

「自覚あったのか……」

 

 

 勧誘活動2日目の朝、俺と穂乃果はとあるマンションの入口前に集合していた。時刻は午前5時で早朝も早朝、最近ニート生活を極め昼起きがデフォルトになっている俺にとっては苦行でしかない。それは穂乃果も同じはずなのだが、早起きする覚悟があるほどスクフェスへの情熱は本物らしい。そのやる気を少しでも勉学に向けてくれたら、テスト前に泣きついてくることもないだろうに……。

 

 ちなみに、こんな朝早くに勧誘活動を行う理由は3つある。

 1つ、今回の勧誘対象が社会人であるため、日中は中々捕まらないこと。2つ、だったら休日まで待てばいいじゃんと思うかもしれないが、なるべく早くすくフェスに参加申請をするためにメンバーを集めたいこと。3つ、勧誘対象の性格が特異過ぎて、まともの状態では穂乃果の勝目がないこと。つまり寝起きで判断力が鈍っているところを攻めようという、相変わらず陰湿な作戦だ。

 これらの理由を考慮して、わざわざ早朝5時に集合させられたのである。さっき穂乃果が自分で公言していたが、俺を巻き込んでいる時点で穏便な勧誘は期待できないと見て間違いなさそうだ。

 

 俺たちは早速マンションのエレベーターに乗り、勧誘対象の部屋の階まで上り詰める。少し廊下を歩いて間もなく、表札に『東條』と書かれたドアの前に辿り着く。そう、今回の勧誘対象はμ'sの中で最も掴み所が難しい希だ。特に単純な穂乃果の場合はいつものような口勝負で彼女に勝てるはずもないため、こうして寝込みを襲う作戦を実行している。俺だって参謀のように計算高い希に言いくるめられることは多々あるから、不意打ち地味た作戦だとしても勧誘するには有効だと思う。卑怯と言われる覚悟があるかどうかだけど……。

 

 

「こうして見ると、なんだか寝起きドッキリみたいだね♪ せっかくだから希ちゃんの寝顔を突撃リポートしてみようよ!」

「そうやってすぐ横道に逸れるから、毎回の勧誘が苦労するんだぞ……?」

「でも見てみたくない? いつも余裕たっぷりの希ちゃんの可愛い寝顔♪」

「それはまあ……見たいかも」

「でしょ? 零君って雪穂の時もなんだかんだ混浴を楽しんでたし、穂乃果の勧誘に文句を言ってる割にはノってくれるよね!」

「うるせぇ……否定できないけど」

 

 

 雪穂の勧誘時だけでなく、海未のツイスターゲームや亜里沙のお使い企画も何だかんだ楽しんでいた俺がいる。そして今回もまさにそうで、普段隙という隙を見せない希の緩んだ姿を見られると思うと俄然乗り気になってしまう。俺が穂乃果のように子供っぽい悪ふざけが好きなのも、秋葉と同じ血を引いているからに違いない。でないと自分が子供っぽいと認めなくちゃならないから!!

 

 

「そういや、どうやって中に入るんだ?」

「フッフッフ……穂乃果がそんな単純なことを考慮してないと思った?」

「俺が単純みたいな言い方やめろ……」

「実はね、事前に秋葉さんからどんな扉の鍵でも開けられる、通称『最後の鍵』を貰ったんだよ! ほらこれ!」

「ど、どんな扉でも……だと!?」

「うんっ! これを使えば女子更衣室に忍び込んでカメラを仕掛けたりとか、女の子の部屋に侵入して下着を盗んだりとかできるよ! やったね零君♪」

「もっと有用な用途があるだろそれ……」

 

 

 鍵の名前は某有名RPGゲームから拝借しているようなので、敢えてそこは触れないようにしよう。

 それにしてもその鍵、持っているだけで警察に逮捕されそうな代物だな。言ってしまえばどんな金庫でも開けることができ、誰の家だろうが忍び込むことができる。それはまさに勝手に人の家に上がり込んでタンスや壷を物色するRPGの主人公のようだ。そう考えると、ゲームで他人の私物を物色する分には抵抗はないが、実際にゲームと同じことができるとなると渋っちゃうな。やっぱ他人のプライベートを犯すくらいの忍耐と精神がなければ、RPGの勇者にはなれないということだろう。

 

 

「あっ、開いたよ!」

「もう開けたのかよ! 何の躊躇いもなしかよ……」

「なるほど、零君はエロ本の袋とじをドキドキしながら開けるタイプかぁ♪」

「現状とシチュエーションが違うだろ! 袋とじはドキドキするけど!!」

 

 

 ネットでエロ動画や同人を容易に見られるこのご時世、今時の若者はエロ本をいうのを買ってみたことがあるのだろうか? コンビニのR-18コーナーでエロ本を手に取り、レジへ持っていくあの緊張は永遠に忘れることなく本人の記憶と心に刻み込まれていることだろう。そしてエロ本の袋とじは、完全に密閉してあることもあって切り離している時にとてつもない期待と性欲が押し寄せてくる。ネットでエロ本を探して満足している勢の皆さんは、一度その緊張感とドキドキを味わってみるといい。きっと自分の世界が広がるからさ。

 

 そんなことを考えている間に、既に穂乃果は希の部屋へと侵入していた。その光景を普通の日常として見ているあたり、俺たちの周りは常に非日常で溢れかえってたんだなぁとしみじみ思うよ。まあほとんど秋葉って悪魔のせいなんだけどさ……。

 

 

「わぁ~♪ 希ちゃんのお部屋、1人暮らしなのに綺麗だね!」

「確かに。社会人の1人暮らし部屋って汚いイメージあるから尚更だな」

「う~ん、ゴミ箱にオナティッシュも入ってない……清潔だ!!」

「プライバシーの侵害にも程があるだろ……。不法侵入の時点で人のこと言えねぇけど」

 

 

 もしもの話だけど、ゴミ箱の中にオナティッシュが入っていたらどう反応すれば良かったのだろうか? 希ってエロいイメージはあるけど本人は特段淫乱思考でもないから、自家発電をした事実が残っていればそれはそれで興奮できたのかもしれない。色気はあるけど普段澄ましている女の子が、部屋に1人でいる時にはしっぽりと――――という光景を想像すれば、それだけで1日のオカズは賄えるほどだ。

 

 そんな淫猥な妄想をしている最中、穂乃果はそそくさと希のベッドへ近づいて行く。

 俺も続いてベッドに歩み寄ると、希の可愛い寝顔が目に映った瞬間にドキッとして思わず立ち止まってしまった。

 

 

「希ちゃんの寝顔は久々に見たけど、大人になって余計に色っぽくなったよね」

「まあ寝相やパジャマ的にもそう見えるな。それにしても、エロい格好してんなコイツ……」

 

 

 それもそのはず、パジャマの胸元が大きくはだけ、ただでさえ深い谷間が異常なまでに深く見えた。夏なので夜が蒸し暑かったのか、寝ている間に無意識でパジャマを半脱ぎにしてしまったのだろう。あと少しでも動けば胸の半球が顕になるくらいは肌を晒していた。しかも朝日に照らされた胸は彼女の艷やかな肌をより際立たせており、直に触らなくても胸の手触り感が直感で伝わってくる。本人が熟睡してすぅすぅと可愛い寝息を立てているのと相まって、清々しい朝なのにただならぬ色気を感じてしまった。

 

 

「いいよいいよぉ~! 巫女さんの無防備な私生活姿なんて、滅多に撮れるものじゃないからね」

「もう巫女さんのバイトは辞めてるだろ」

「でも希ちゃんと言えば、イコール巫女さんみたいなところない?」

「まあコイツに一番似合うコスプレでアンケートを取ったら、巫女さんでほぼ確定だろうな」

「だからこそ希ちゃんの寝顔は珍しく感じちゃうんだよ。聖職者である巫女さんの哀れな寝姿なんて、中々見られるものじゃないからね。それにお金になりそうだし♪」

「さっきからちょいちょい欲望が見え隠れしてるぞ……」

 

 

 そりゃ希の半脱ぎ寝顔写真なら、その手のファンに売ればボロ儲け間違いなしだろうよ。そんな色っぽい写真でなくとも、神社でバイトしていた頃の巫女さんコスや普段着ているスーツの写真など、もはや日常生活の姿を写真集にして売り出すだけで財布が厚くなる。流石絵里と並ぶμ'sのグラビア担当、やはり女の子は身体の凹凸がくっきりしているだけでステータスだな。ここでにこが頭に浮かんでくるのは、もはや反射神経なので気にしない気にしない。

 

 

「それにしても希ちゃんの寝顔可愛いなぁ~♪ 穂乃果、我慢できなくなってきたよ」

「我慢できなくなったってお前、同性相手に欲情したのか……」

「違うよ! ちょっと希ちゃんの頬っぺ触ってみたいと思っただけで、やましいことなんてないから!」

「あまり大声出すと起きちゃうぞ」

「あっ……」

 

 

 眠れる希の顔に自分の顔を近づけている穂乃果だが、話すトーンはいつもとあまり変わっていないため不覚にも程があった。希の眠りは深い方ではないのだが、ここまで騒いでも起きないあたり仕事で疲れがたまっていたのだろう。だったら尚更こんな勧誘のために、彼女の朝を無駄に浪費させるのが心苦しくなってくるな……。

 

 ようやく自分の騒々しさに気付いたのか、穂乃果は息遣いも押し殺すほど静かになった。

 そして眠れる希に手を伸ばすと、寝息で軽く上下する彼女の頬に自分の指を優しく押し付ける。まさに"ぷにっ"という音が適切なくらいに指が頬に食い込み、見ているだけでも分かる柔らかい弾力で指が押し返された。

 

 

「おぉっ! 希ちゃんの身体ってどこを触っても柔らかいと思ってたけど、これは想像以上だよ!」

「う、んっ……」

「か、可愛い声!! いつもはお姉さんキャラだけど、こうして見ると子供みたい♪」

「しかもパジャマが半脱ぎなのもあって、妙にエロいのがまたなんとも……」

「子供でありながらも色気があるって、希ちゃんって本当にズルい! 穂乃果も希ちゃんや絵里ちゃんみたいにもっと大人の魅力を鍛えないと! 醸し出す魅力で零君の精巣を萎びさせるくらいに!」

「姿を見ただけで射精を促すって、それもうテロじゃん!」

 

 

 ただでさえ12人を相手にするのがやっとなのに、これ以上のプレイで搾り取られたらそれこそテクノブレイクしてしまう。複数人でのプレイができるように己の性欲や性技を鍛えてきたつもりだが、同時に彼女たちの性欲もパワーアップしていたのであまり意味のないトレーニングだった。そう考えると、AV男優の持続力は凄まじいと素直に感心するよ。

 

 そんな猥談はともかくとして、穂乃果は未だに希の頬を突っついて遊んでいる。希は自分の頬が弄られる度に小さな吐息を漏らすので、ただの寝顔なのに妙にアダルティックだ。それでいてどこか愛おしく、眠っている赤ちゃんのような反応を示すので微笑ましくもある。あまりやりすぎると起きてしまう危険を感じながらも、普段ではあまり見られない希の健気な様子に俺も目を奪われていた。

 

 

「胸の谷間もエッチだねぇ~♪ そうだ、ちょっとだけ触ってみようかな」

「おい本気か?」

「あれ? もしかして零君も触りたいの? でも言いだしっぺの穂乃果からだよ」

「そりゃ触りたいかと聞かれたら触りたいけどさぁ、そんなことをしたらいよいよ起きちまうぞ?」

「大丈夫。胸の谷間に指を入れてみるだけだから!」

「そんな『先っちょを入れてみるだけだから』みたいな言い回しをしなくても……」

「こういうの何て言うんだったっけ? おっぱいズリ……? まあいいや、実際に体験した方が早いよ!」

 

 

 コイツ、眠っていて抵抗できない女性になんと羨まけしからんことを!! 思い返してみれば、最近女の子にエロいことをする役目が穂乃果に回っているような気がする。女の子にセクハラをするのは俺の特権であって、女の子同士の絡みなんてたまにでいいんだよ。だが今回も穂乃果にその役目を奪われてしまったので、もしかしたら俺、教育実習以前よりも性欲が低下してる……? 恋愛に対しては積極的になったのだが、その代償としてエロに対しては積極性を失ってしまった……のか!? ハーレム主人公としてそれはどうなの!?

 

 

「ゴメンね希ちゃん。いつも胸を触られてばかりだったから、今日はそのお返しだよ♪」

 

 

 穂乃果は躊躇いもなく人差し指を希の胸の谷間に差し込もうとする。

 希には『ワシワシ』という女の子の胸を弄り倒す必殺技があるのだが、その被害者として名を連ねているのは穂乃果だ。その理由は穂乃果がいつも色々やらかすからなのだが、今日は不条理にもその仕返しを計画に入れていたらしい。もちろん俺は止める……なんて野暮なことはせず、指パイズリの現場を息を飲んで見守っていた。

 

 

 だが、そこで俺でも穂乃果でもない声が聞こえてくる。

 

 

「だったらウチは、そのお返しをしてあげないとね♪」

「ふぇ……?」

「穂乃果!?」

 

 

 一瞬の出来事だった。

 突然希が上半身を起こしたかと思えば、目にも止まらぬスピードで穂乃果を逃げ出す隙間もなくホールドしていた。プロレス選手もビックリの押さえ込み方は、かつてワシワシを効率良く発動させるために鍛え上げた賜物だろう。

 そして間髪入れず両手を穂乃果の胸に宛てがうと、片手の5本の指、計10本の指を巧みに駆使して彼女の胸を鷲掴みにした。

 

 

「ぎっ、ギャァああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「穂乃果ちゃんのくせに、よくもウチを嵌めようとしてくれたやん? そんな生意気な子にはたっぷりとお仕置き♪」

「ひゃっ! あっ、んっ……!!」

「久々やなぁ、こうして穂乃果ちゃんの胸をワシワシするのは。でも昔の記憶が身体に染み付いてるからかな? 穂乃果ちゃんの敏感な部分を攻めるこの手捌きは衰えてないよ♪」

「そ、そんな解説いらないからぁ……ひぅっ!」

 

 

 さっきまでの穂乃果のしたり顔はどこへやら、あっという間に攻守が逆転して彼女の表情は気持ちよさに塗れたオンナの顔に変貌していた。

 希の胸揉み技術は俺と同等くらいであり、むしろμ's結成前からその技を会得していた分、俺よりもμ'sメンバーの胸の感度を熟知しているかもしれない。その経験がまさに今発揮されており、まだ2、3揉みくらいなのにもう穂乃果が頬が赤く染まり出していた。ここ5年で鍛え上げられたそのセクハラ術、しかとこの目に焼き付けて勉強しておかなければ!!

 

 ――――と思ったのだが、そういや希の奴、どうして穂乃果の攻撃に反応できたんだ……?

 

 

「おい希。まさかお前、起きてたのか」

「うん。零君たちが部屋に入ってきた時からね」

「それなのに黙って寝たフリしてたのかよ……」

「最初は部屋に入ってきたのが誰か分からなかったから、ちょっと様子見をね。でも相手が2人だと分かって、しかも穂乃果ちゃんが良からぬことを企んでることを知ったから、逆にこっちから罠に嵌めようと思ったんよ♪」

「まあお前が考えそうなことだよ……」

「の、希ちゃぁ~ん……喋りながら胸触らないで……んっ、あぁっ!」

 

 

 希は笑顔でここまでの経緯を語りながら、同時に穂乃果の胸の先端を重点的に攻める。やはり計算高い彼女に仕返ししようなんて短絡的な考えは安々と見破られてしまったか。でも逆にそんな計略を張り巡らす知的な女性ほど、快楽に陥った時の羞恥で悶え苦しむんだよな。今の穂乃果も十分に官能的だけど、俺としては今この状況で余裕の希を攻めたらどうなるのか、それが気になって仕方がない。

 

 しかし、今回ここへ訪れた目的はそこじゃない。もう穂乃果は性奴隷の如く胸を弄られているため忘れていると思うし、俺もさっきまで抜け落ちていたが、あくまで勧誘をしに来たんだ。寝起きドッキリをしようと思ったら逆に仕返しをされて、寝起きドッキリドッキリになったことで勧誘活動が計画からフェードアウトしそうだったぞ……。

 

 

「も、もうっ! 穂乃果はこんなことをしに来たんじゃないの!!」

「勝手に人の部屋に忍び込んで、頬っぺを触って胸まで弄ろうとした人が言うセリフ?」

「その場のノリでムシャクシャしてやっただけだもん! 最初から計画してた訳じゃないから!!」

「そっちの方が余計にタチ悪いやん? お仕置き♪」

「ギャァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 因果応報って四字熟語の動画を作成するならば、まさに目の前で起きている光景を録画すれば無修正でもみんなに伝わるだろう。これまで無理を強いる勧誘をしてきた罰と言わんばかりに、叫び声を上げるほど胸を攻められ表情が蕩けている。

 ていうか、声が大きすぎて確実に隣の部屋に聞こえていると思うんだが……。レズプレイの叫び声で目を覚ますお隣さんが不憫で仕方がない。あとでお中元を送ってやろう。

 

 

「絵里ちから聞いてるよ? 穂乃果ちゃんがスクフェスに参加するために、元μ'sメンバーを集めてるって話」

「ま、またネタバレ!? まあ話が早くていいけどさぁ……」

「話は早いけど、まだウチが加入するとは言っとらんよ? 穂乃果ちゃんからあつ~い説得を聞かせてもらったら、()()()()()()加入するかもしれないけど」

「うっ、事前にそう振られると恥ずかしいんだけど……」

「あれぇ~? みんなには自分の気持ちを素直に伝えたのに、ウチには黙ったまんまなんやぁ~寂しいなぁ~」

「うぅ、何という棒読み……」

 

 

 穂乃果の勧誘と言えばこれまで幾多のメンバーを圧倒してきただが、希に対してだけはサラリとスルーされてしまう。それどころか逆にその勢いを利用され、巧みな言葉攻めで穂乃果を追い詰めるその手口は見事の一言だ。これには穂乃果もタジタジで、希に後ろから抱きつかれながらも抵抗の色すら見せない。これまで通用したテクニックが全く通用せず、寝顔をイジって遊ぶと言う反撃の糸も切られ、まさに絶体絶命の状況に追い込まれていた。

 

 そんな穂乃果を尻目に、希の様子はまさに"余裕"の二文字だ。さっきからずっと悪戯な笑顔を崩すことなく、しかも穂乃果の耳元で棒読みを発しているので尚更タチが悪い。もうコイツがラスボスでいいよ……。

 

 

「このままウチに胸を揉まれ続けて牛さんみたいな垂れおっぱいになるか、それともお熱い情熱が籠った説得をウチに伝えてくれるか……。選択は2つに1つしかないよ♪」

「もう分かったよ……。希ちゃん!!」

「ん~?」

「穂乃果たちは希ちゃんが必要なんです! 希ちゃんがいないと悶々としてみんな夜も眠れません! 湧き上がる興奮が収まらず、発散することもできないこのもどかしさ……。だから、穂乃果たちともう一度μ'sとして舞台に上がってください!! そしてまた穂乃果たちに興奮を感じさせてください!! …………これでどう?」

「それ……告白?」

「違うよ!! 何を思って女同士で告白し合わないといけないのさ!!」

「しかもちょっとエロかったし……」

「それは零君の思考回路の問題だよ」

 

 

 いやいや、みんなと一緒に()()()()()()興奮を味わいたいのは文脈から分かるけど、字面だけ見ているとベッドの上で悶々としている妄想しか浮かんでこない。しかも現に穂乃果と希が密着しているからなのか、さっきから発する言葉が全部レズレズしく聞こえるのは気のせいだろうか……? 他のメンバーの勧誘でも同じような現象が発生しているから、もしかしたら俺が教育実習に行っている間にコイツら、自分たち同士で溢れ出る性欲を補ってたんじゃねぇだろうな……? 俺が開発する前に女の子同士でデキ上がっているのはやめてくれ!

 

 

「穂乃果ちゃんのお熱い勧誘も聞けたことやし、ウチもμ'sに参加しようかな。絵里ちとは違って招待状の件もそこまで心配してないから、むしろ社会生活の余暇活動だと思って思いっきり楽しませてもらうよ♪」

「なんだろう、素直に喜べない自分がいるよ……。もしこれで参加してくれなかったら軽く反乱を起こしてたよね」

「その時はまたワシワシして止めてあげるから♪」

「希ちゃんに触られると、気持ちいいんだけど悪寒が走るんだよ……」

「だって普通に気持ちよくしちゃったら、お仕置きにならへんやん?」

「胸を揉むだけで女の子の感情を自在に操れるお前が凄いよ……」

「零君も体験させてあげようか? 男の子相手はもちろん下半身を……ね♪」

「猥談に持ち込めば俺が欲情すると思うなよ?」

 

 

 すまん、実は若干性欲が反応した! だって希に下半身を狙われちゃねぇ……?

 そんなことよりも、勧誘活動は波乱の渦中であったのにも関わらずあっさりと加入を承諾された。だけどいつもとは違い穂乃果が追い詰められる展開となっていたため、体感的には苦戦を強いられたように見える。まあ雪穂の勧誘時は簡単すぎてつまらないのも嫌と自ら公言していたので、これくらいの困難があった方がメンバーが揃った時の喜びは大きいだろう。

 

 そして希が加入したことで、μ'sのメンバーは11人となった。新生μ's(とは言っても5年前の話なので、新生という言葉も既に怪しいが)は総勢12人なので、残るは1人。さて、誰が残っているのかな――――

 

 

 ………………

 

 

 ………………

 

 

 ………………えっ? 花陽!?

 

 

 アイツがラスボス!?

 

 

 

 

 To Be Continued……

 




 やはり希は一筋縄ではいかず、もう彼女がラスボスに等しいので勧誘活動はこれで終わり!!

 ――――とはならず、次回が真のラスボス戦です!

 どうでもいいですけど、花陽がラスボスの玉座に待ち構えている展開って可愛くないですか?()





【告知】
 私と同じくハーメルンで『ラブライブ!』を執筆されている"たーぼ"さんの小説『ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~』との2回目のコラボが決定しました!
 投稿日は9月8日(金)を予定していますので、何卒よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

米飯少女とラスボスと盗撮END

 今回でμ'sメンバー勧誘編はラストとなります。
 そして、そのラスボスはまさかの……


 長かった勧誘活動も、遂に終わりの時を迎えようとしていた。日付にしてみればたったの1日半程度だが、その1日が紆余曲折だったためかアニメの1クール並のボリュームを感じる。とは言っても長すぎず短すぎず、むしろ()()穂乃果が勧誘したにしては、この短い期間で全員を集められたのは褒めるべきだろう。弄ったり弄られたりと波乱万丈な展開がありながらも、与えらた使命を着実に全うするのは昔から彼女のいいところだ。

 

 こんな風に今にも勧誘が終わりそうな雰囲気を醸し出しているが、お察しの通りまだ最後に1人だけ残っている。だがその相手こそ勧誘するなら真っ先に誘うべき相手であり、亜里沙のようなイージーモードどころかゲーム開始時から仲間になっているキャラのような扱いだ。それくらいその彼女はスクールアイドルにご執心であり、大人になった今でも新たなスクールアイドルの情報を常に追い求めている。あのにこでさえ本業が忙しいという理由でスクールアイドルのことはおざなりになっているのに、μ's解散から4年が経った今でも同じ趣味を続けていられるのはそれはそれで尊敬しちゃうよ。高校生の頃と変わらずスクールアイドルショップで興奮できるのは、俺たちの中では彼女だけだろうから。

 

 だがそんな楽勝ムードを知ってか知らずか、穂乃果は彼女を最後まで残していた。宿題でも簡単な科目を先に終わらせたり、食事でも好きなモノを最初に完食する性格の穂乃果が一体何を考えているのやら。

 

 しかも今から最後の勧誘だと言うのに、俺たちは何故か穂乃果の部屋にいる。いよいよラスボス間近なのにここで休憩とは何とも呑気なものだと思っていたのだが、穂乃果のしたり顔を見る限りどうやらまた良からぬ手を考えているらしい。前回希に手も足も出ずやられっぱなしだったから、余計にいきり立っているのだろう。強者の希にしてやられた腹いせに、仕返しのしやすいアイツをターゲットに憂さ晴らしとは手口がまるで雑兵だ。

 

 

「遂に……遂にこの時がやってきたね零君!!」

「まあアイツさえ勧誘すれば最後だしな」

「違うよ! 確かにそれも嬉しいけど、もはや勧誘なんて終わったようなものだからそんなことで喜んでるんじゃないんだよ!!」

「はぁ? じゃあどうしてテンション上がってんだ?」

「説明するより、これを見てもらった方が早そうだね」

「ん? モニター?」

 

 

 穂乃果のPCのモニターには、何やら見覚えのある部屋の状況が映し出されていた。とりあえず俺の部屋でないことを知って安心してしまったのは、彼女にヤンデレ成分が含まれていないと確認できたからだろう。まあ俺の部屋でなくとも、誰かの部屋をこうしてモニタリングしている時点で性格が捻じ曲がっているもクソもないのだが……。

 

 映し出されている部屋はよく言えばシンプル、悪く言えば質素なレイアウトだ。あまりきゃぴきゃぴとした女の子っぽい部屋ではないこと、そして最後に残った勧誘対象の人物を考慮すると、盗撮されている部屋の主が必然的に1人に絞られた。

 

 

「どこかで見たことのある部屋だと思ったら、これ花陽の部屋かよ……」

「おっ、流石零君! とっかえひっかえ女の子の部屋に入り浸っていることはあるね!」

「浮気者みたいに言うな! そんなことより、どうしたんだよこの動画!?」

「これには穂乃果のナカよりも深い訳があるんだよ」

「お前のナカが凄いのか、その訳の方が凄いのか……」

 

 

 モニターに映し出されている部屋は、これから勧誘のラスボスとして立ちはだかるであろう花陽の部屋だった。綺麗好きな彼女の性格を具現化しているような部屋で、潔癖症と言われてもおかしくないくらい家具や小物の配置がキチンと整っている。先程も言った通りそこまで女の子っぽい部屋には見えないが、ぬいぐるみが1つ2つ置いてあるのは彼女なりのコーディネートなんだろうか。部屋のレイアウトを見ただけでも謙虚な様子が伺えるので、尚更こうしてモニタリングしているのが心苦しくなってくるんだけど……。

 

 

「で? 犯罪をやらかした弁解は?」

「そうやってすぐ穂乃果を悪者にするんだから! 悪いのは花陽ちゃんの方なのに!」

「お前と花陽、2人の中でどっちが犯人と聞かれたら、事件の詳細を聞かずとも100%お前に疑いの目が向けられると思うけど」

「ひどっ!! 花陽ちゃんは零君との今後に関わる重要な情報を隠蔽してるのに?」

「は? なんだよそれ……」

 

 

 俺との今後に関わる重要なことって、まさか……浮気とかじゃないだろうな? いや、恋に一途な花陽のことだから他の男に靡くような性格はしていないはず。大学特有のあの手この手のサークルに騙されそうなおとなしい子ではあるのだが、それは事前に俺が変なサークルの勧誘に捕まらないように守ってやったから心配しなくてもいい。だが俺の知らないところで男を知り合って親密になっていたとしたら……?

 

 

「零君、顔青くなってるけど大丈夫? まあ花陽ちゃんのエッチの趣味が未だに分からないんじゃ、これから心配だよねぇ~」

「えっ、え!? 今なんて言った??」

「だから、花陽ちゃんのエッチの趣味が分からないんだよね未だにって」

「…………」

「えっ……顔怖いよ零君?」

「思わせぶりな言い方しやがってぇえええええええええええ!! 無駄に心配しちゃったじゃねぇかコノヤロォォオオオオオオオオ!!」

「わ˝ぁ˝あ˝あ˝あああああああああああああ!! 身体揺らさないでよぉおおおおおおおおお!!」

 

 

 花陽が浮気するなんて万に一つも考えられない事態だけど、やっぱりどこか心配していた俺がいた。だからこそ穂乃果の話を聞いて安心したと共に、言葉っ足らずの彼女に追い詰めたくなっちゃったのだ。みんなが俺に対する愛が深すぎるからヤンデレだと今まで散々言ってきたのだが、もしかしたらその逆も然りかもしれないな……。

 

 俺の焦りが収まり一息ついたのも束の間、よくよく考えてみれば穂乃果の言っていた深い訳というものも相当ぶっ飛んだ内容だと今更気付く。勝手に勘違いしていた浮気問題に意識を奪われていたのだが、つまり花陽の性事情ってことか……? そもそも純情を体現化した存在の彼女に性の欲望があるのかどうかすら怪しいが、案外むっつりなところもあるからなアイツ……。

 

 

「おっ、賢者モードになったね零君。ようやく本題に入れるよ」

「そうだな。どうしてお前が花陽の性事情を気にしているのか、まずそこからだ」

「実はこの前ね、花陽ちゃんの家に遊びに行ったんだよ。そして花陽ちゃんがお菓子と飲み物を取りに行っている間、穂乃果はふと疑問に思ったの。花陽ちゃんって、どんな趣味してるんだろうってね」

「その趣味はhobbyの方じゃなくて、habitの方だろ?」

「英語はよく分からないけど、言ってしまえば花陽ちゃんがエッチなモノを隠し持ってないか探りたかったんだよ!」

「なるほど、ツッコミどころしかないけど理解したよ。それでお前は部屋を漁りまくったと」

「そうそう。でもね、何にも出てこなかったんだよ! 花陽ちゃんって純情ぶってるけど、案外むっつりなところあるでしょ? なのに何も出てこないって詐欺じゃん!!」

「アイツがむっつりというのは俺たちの共通認識なのか……」

「だからこうして盗撮したんだよ! 穂乃果が見つけられなかっただけで、絶対に花陽ちゃんの性癖が隠されているに違いないから!!」

「いやその理屈はおかしい……」

 

 

 盗撮という言葉が日常的にポンポンと出てきている時点で、俺たちの日常はどこか狂ってると思い知らされてしまう。しかも盗撮することに悪気はゼロどころか、正々堂々としているあたり下手な犯罪者グループよりも質が悪い。出会った頃は純粋に夢を追いかける少女たちだったのに、どうしてこうなってしまったのか。あっ、俺のせいか……。

 

 

「見て見て! 花陽ちゃんが入ってきたよ!」

「これライブ映像なのか?」

「うぅん違うよ。花陽ちゃんの家に遊びに行った時に監視カメラを仕掛けて、翌日部屋に侵入して回収したんだ」

「サラッと盗撮だけじゃなくて不法侵入まで暴露したな……」

 

 

 不法侵入などもう当たり前の常識過ぎて、例えされたとしてももはや違和感のないことが日常となっている俺たち。そのことに対していちいち声を上げてツッコミを入れなくなったあたり、俺は彼女たちの奇行に毒されているのだろうか……?

 

 そしてモニターの映像は、穂乃果を玄関まで送り届けて花陽が1人になったタイミングから流れていた。

 

 

『久々に穂乃果ちゃんと2人きりで遊んで楽しかったけど、ちょっと疲れちゃったなぁ』

 

 

 モニター内の花陽が独り言を漏らしながら、小さな丸テーブルに置かれている残り物のお菓子やジュースが入っていたグラスを片付けている。

 まさかあの花陽が1人の時にしっぽりとしているとは思えないが、もしかしたらの可能性を考えるとどうしても目を離せなくなってしまう。どうやら俺も心のどこかで彼女の1人で乱れた姿を期待しているのかもしれない。

 

 

『あっ、これ穂乃果ちゃんが持ってきた巾着袋だよね? 持って帰るの忘れちゃったんだ……』

 

 

 花陽は床に転がっていた穂乃果の忘れ物を拾い上げ、中身を覗く。

 そこまで大きくもない巾着袋で、やけに長い形状をしているけど……ま、まさかな??

 

 

『なんだろうこの太くて長いの―――って、こ、これって……!? 穂乃果ちゃんとことりちゃんがよく嬉しそうに話してる――――』

 

 

 巾着から現れたのは、もはや秘所を隠す隙間すらないエロさ全開のTバックだった。しかもただのTバックではなく、前方に太くて長いシリコン形状の物体が装着されている。しかもその形はリアリティのあるグロデスクさで、まるで()()()()のモノの形状を模しているようだった。

 ダイレクトに言ってしまえば、ペニスバンドと呼ばれる大人の玩具の一種だ。主に男性器のない女性が身に着け、あたかも男性器が生えているように見せかける玩具である。それによって、女の子同士でも疑似的に男女のプレイを味わえる訳だ。しかも前方の突起部分は取り外し可能となっており、好きなモノを装着可能となっている。つまりペニバン1つさえあれば、男性器の大きさを様々に変えて楽しめるのが生身の男にはできない魅力だ――――って、どうして俺はこんなに熱く語ってんだ……?

 

 

 

『ど、どうしてこんなモノを穂乃果ちゃんが……!? どうしようこれ……』

 

 

 そりゃいきなりペニバンを見せられて動揺しない方がおかしいよな。穂乃果やことりを見ていると、この純粋な反応が逆に新鮮に思えてくるから困る。でも花陽の奴、目を背けるどころかガン見してるんだけど……。

 

 

『こ、この先っぽに着いてるのって、もしかして零君の……だ、ダメ!! 想像したら零君に失礼だよ!!』

 

 

「おい穂乃果、まさかあの先に着いてるのは……」

「うんっ! ことりちゃんが持ってたのと同じ、零君の形をしたアレだよ♪」

「お前なんてモノを花陽に渡してんだ!?」

「でもそれくらいしないと、花陽ちゃんの中に眠ってる性欲は引き出せないんだよ!! フッフッフ……さぁ穂乃果に見せてみて、花陽ちゃんが乱れる姿をね♪」

 

 

 もはや女の子を調教しているオッサンのようなセリフを吐く穂乃果は、顔を赤くしつつも良からぬ顔でモニターに釘付けとなっていた。故意にペニバンを放置してきたことは事実だろうが、そもそも何故コイツがあんなモノを持っていたのか甚だ疑問が残る。さっきモニターで花陽が穂乃果とことりがよく話題にしていたと言っていたが、コイツらまさかそんな趣味があったとか……? 事実を知るのが怖いから敢えて聞かないけども……。

 

 

『こ、これ零君のなんだよね……。おっきいなぁ、改めて見ると……』

 

 

 なんだか流れが危ない方向に変わってきた。さっきまで純情そうにペニバンを見つめていたのに、目の色が穂乃果たちと似た色に変貌を遂げそうになっている事態に俺が目を背けたい。だがペニバンを手にした花陽がこれからどのような行動に出るのか気になってもいたため、そのジレンマが自然と俺の目がモニタに引き付けていた。

 

 

『ちょっとだけなら……いいよね?』

 

 

「キタキタキタキタァアアアアアアアアアアアアアア!! 遂に花陽ちゃんの化けの皮が剥がれる時が!!」

「テンションたかっ!? 同性の性事情を知るのがそんなに嬉しいのか……」

「だってあの花陽ちゃんだよ? 薄々勘付いてはいたけど、やっぱり生でエロ陽ちゃんを見られるのはゾクゾクしちゃう♪」

「ひでぇあだ名だなオイ。本人がここにいたら発狂してるぞ……いや、この映像だけでも十分か」

 

 

 穂乃果は良からぬ心に完全に火を点けたようで、顔を突き出しながらモニターを凝視する。コイツの言動から察するに、花陽の変態シーンに興奮しているのではなく、清純な彼女が乱れそうになる瞬間を面白がって見ているだけだろう。同性の官能シーンを見て悦ぶ女の子もそれはそれでマズいが、人の乱れる姿を面白がって見ているオヤジ思考もそれはそれでやべぇよな……。

 

 

『今のうちに練習しておこうかな……? 零君に褒められるために……』

 

 

 モニターの花陽は何か決心をしたみたいで、ペニバンのディルド部分を自分の顔に向ける。その構図はさながら剛直を突き出している男の前に跪いて、今にもしゃぶろうとする女の子そのものだった。そして映像は俺の予想に導かれるように流れていき、とうとうディルドの先っぽが花陽の唇へと向けられる。映像には彼女1人だけなのに、何故かおしゃぶりモノのAVを鑑賞している感覚に陥っていた。

 

 花陽に邪な気持ちがどれだけあるのかは知らないが、大方は俺を喜ばせたいという純粋な心からこのような奇行に走っているのだろう。そう思うと嬉しくはあるのだが、やっていることは1人でペニバンのディルドを使ってフェラの練習という、μ'sの淫乱ちゃんたちもビックリの変態行為だってことは忘れちゃいけない。

 

 

「しゃぶっちゃう?? もうやっちゃう??」

「いらん実況を付けなくてもいいから」

「でもこれは紛うことなきお宝映像だよ! これをμ'sのCDの特典映像にしたら、さぞ売れるんだろうなぁ~」

「そのCDを買う奴はお宝映像目的であって曲目的ではない気がするんだが、それでもいいのか……」

「あっ、そろそろ始まるから静かにして!」

「お前の方が圧倒的にうるさいっつうの」

「来る……来る!!」

 

 

 穂乃果のこの興奮具合は、傍から見たら変態そのものだ。

 しかし、コイツの気持ちは分からなくもない。モニター内の花陽は今にも口の中に剛直もどきを挿入しようとしているのだ。アレのモチーフが自分のモノだと知っているからこそ、俺も妙に興奮しているのかもしれない。

 

 

 だがその時、誰かが高坂家の階段をドタドタと勢いよく駆け上がってくる音が聞こえた。映像に集中していた俺と穂乃果は身体をビクリと震わせたが、まさか勝手にこの部屋に入って来ないだろうと高を括っていた。しかし、そんな予想は簡単に裏切られ、この部屋のドアが乱暴に開け放たれる。俺たちはあまりの驚きにモニターの映像を消すことも忘れ、部屋に入ってきて息を切らしている人物に目を向けた。

 

 

「はぁ……はぁ……。ほ、穂乃果ちゃん!!」

「花陽ちゃん!? どうしてここに……?」

 

 

 穂乃果の部屋に突撃してきたのは、盗撮映像のヒロインとして出演していた花陽だった。内気な性格上よく取り乱すことのある彼女だが、今日は一段と興奮(変な意味じゃない)しているようだ。顔を赤くしながら息を切らし、ここまで全速力で走ってきたのか汗も凄まじく、清楚なイメージの彼女が一瞬でぶち壊されるほどである。まるで俺たちがさっきまで盗撮映像を視聴していたことを、あらかじめ知っていたかのような慌てっぷりだ。

 

 それもそのはず、彼女の手には小型カメラが―――――って、あれ? どうしてアイツがそれを持ってるんだ?

 

 

「おい花陽、お前が握ってるそれって……」

「そうだよカメラだよ!! どうして私の部屋にこんなモノがあるのか、穂乃果ちゃんに聞きに来たの!!」

「あっ、そういえば2つ仕掛けてたの忘れてた」

「おいおい……」

 

 

 つまり要約するとこうか。穂乃果が花陽の部屋に仕掛けたカメラは2つだっただが、本人がその数を忘れており、後日不法侵入した時に回収したカメラが1つだけだった。そして未回収のカメラは花陽の部屋に残り続けることとなり、幸か不幸か花陽がそれを見つけてしまったことにより現在に至る。ということだろう。花陽の慌て具合から察するに、見つけたのはついさっきだったに違いない。これまでの時系列を考慮すれば、さっき俺たちが見ていたおしゃぶり映像が終始完璧に収録されていたことくらいすぐに分かるだろうから。

 

 

「やっぱり穂乃果ちゃんだったんだね。これを仕掛けたの……」

「おぉっ、そういえばよく分かったね!」

「分かるよ簡単に! こんなモノ私や家族が仕掛ける訳ないし、穂乃果ちゃんが来る前に部屋の大掃除をしたからその時にカメラがないことも分かってた。それに穂乃果ちゃんと遊んだ日以降部屋へ誰かを招いたこともないから、必然的に穂乃果ちゃんが犯人なんだよ!!」

「すご~~い!! 花陽ちゃん名探偵!?」

「反省してる!? 自分が犯人だってバレたのに!?」

「あっ、そっか。フフフ、バレてしまってはしょうがない。ここはエッチなことで口封じだぁああああああああ!!」

「ふぇええええええええええええええええっ!?」

「ちょっと落ち着こうかお前ら」

 

 

 犯罪がバレたから強硬手段に出るって、それもう完全にかませのヤラレ役のセリフじゃねぇか……。

 とにかくこのままだと話が収束しそうにないので、両者の間に割って入ってあたふたしている現場を一旦クールダウンさせる。

 

 だが花陽はクールダウンどころか、部屋に入ってきた時よりもむしろヒートアップしていた。ただその目は俺たちを映しておらず、俺と穂乃果の後ろ、厳密に言えば先程食い入るように見ていたモニターが――――あっ、そういえば動画流しっぱなしだったような……? しかもモニターから目を離したのは花陽が一物を加える直前だったから、今流れてるシーンはまさに――――!!!!

 

 

「見ちゃダメェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

 

 

 俺たちがモニターの方を振り向こうとした瞬間、花陽が俺と穂乃果の間を割り込むように通り抜け、PCの電源をぶち消す。あまりの俊敏な行動だったので、俺たちが振り向いた時には既にモニターはブラックアウトしていた。

 

 

「はぁ……はぁ……。このパソコンは押収します!!」

「いいよ」

「いいのかよ」

「その代わり、花陽ちゃんもまたμ'sに入ってね♪」

「えぇっ!? どうして今の流れからμ'sの話になるの!? 空気読めなさすぎだよ穂乃果ちゃん!!」

「だってよく考えてみれば、穂乃果たちの目的は勧誘することだったから。あまりに盗撮映像の花陽ちゃんが可愛かったから忘れちゃってたよ♪」

「あんな姿可愛くなんかないよぉ……」

 

 

 そういや勧誘活動の途中だったってこと、俺も忘れてたよ。これも穂乃果がいきなり盗撮映像を見せてくるからであって、決して俺が花陽のおしゃぶりシーンに期待して勧誘を忘却していた訳じゃないから。でもまあ、肝心なシーンを見られなかったのはちょっと惜しかったかな……。

 

 

「いや花陽ちゃんは可愛いよ! だからμ'sに入って、たくさんの人に自分の魅力を振り撒いちゃおう?」

「にこちゃんじゃないんだからそんな……」

「入ってくれたらそのパソコンを持って行ってもいいからさ」

「μ's関係なくこれは押収するから!!」

「でもさっきの映像は消しちゃダメだよ! CDの特典にして大々的に売り出すんだから!」

「それを阻止するためにμ'sに入ります!!」

「よしっ、よく言ったぁ!!」

「完全に勢いだけじゃねぇか……」

 

 

 今まで勢いじゃない勧誘があったかと言われれば疑問だが、これほど勧誘要素を蔑ろにしている話は今回が最初にして最後だろう。スクフェスに関する説明もなし、どうしてμ'sに入って欲しいのか、何故スクフェスに参加するなどの理由もなしなので、もはや勧誘という言葉が破綻している。長きに渡った勧誘活動のラスボスだというのに、そのクライマックスがこんないい加減でいいのか……? まあ勧誘なんて通過点に過ぎないので、これから12人で頑張ってくれればそれでいいと無理矢理納得することはできるが……。やっぱ消化不良感が半端ねぇんだが!?

 

 

「やったぁ!! これで元μ'sのメンバーが全員揃ったね♪」

「むしろあんな勧誘を続けてよく揃ったよな。素直に感心するわ……」

「今なお続くμ'sの人気の煽りに加えて、花陽ちゃんの盗撮映像をプラスすれば……フフフ、お金がガッポガッポ稼げるよ♪ という訳で花陽ちゃん、パソコン持って帰るなら動画の編集よろしくね!」

「しないよ!? 何が楽しくて自分が盗撮された映像を本人が編集しなきゃいけないの!?」

「ごもっとも……」

 

 

 結局最後までグダグダな勧誘活動だったが、無事に元μ'sのメンバー12人が集結することになった。まあ一部メンバーは勧誘の際に黒歴史を刻まれてしまったけど、それはそれでネタとして美味しいので我慢してもらおう。

 

 さて、スクールアイドルフェスティバル開催まで残り一か月半。それまでにμ'sはこれまでのブランクを埋め、12人の息を合わせることができるのだろうか……?

 

 

「ペニバンを貸してくれたことりちゃんにも、今日の成果を伝えておかなきゃ!」

「どうして携帯にまで動画をコピーしてるの!? もう誰か助けてぇええええええええええええええええええええええ!!」

 

「これから大丈夫か本当に……」

 

 




 長きに渡る勧誘編はこれにて終了です!
 投稿期間では1か月半程度でしたが、本編中の期間は1日半と中々のハイペースでした。これも穂乃果の勧誘が凄かったのか、それともμ'sメンバーがチョロかったのか……(笑)

 そんな訳で次々回(コラボ回後)から新章に突入します!
 新章では以前のμ's編と同様にメンバー間での掛け合いを重視する他、近いうちにAqoursも参戦予定なので、これまで以上に1話1話が騒がしくなるかもしれません(笑)
もちろんスクールアイドルフェスティバル編ということなので、A-RISEやSaint Snowも登場予定です。まさにスクールアイドル戦国時代なので、今までの『新日常』とはまた別の雰囲気を味わえるかも……?


 次回は"たーぼ"さんの小説『ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~』とのコラボ回となります!
 内容は当日まで秘密なのですが、μ'sとAqoursが一堂に会するオールスター回とだけネタバレしておきます(笑)
 投稿日は9月8日(金)を予定していますので、何卒よろしくお願いします!


 勧誘編が終了したので、これまでの感想や評価があれば是非お送りください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別コラボ企画】ドキドキデート大作戦ハイパー!

 今回は、同じくハーメルンで"ラブライブ!"小説『ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~』を連載されている"たーぼ"さんとのコラボ小説となります。

 私の小説特有の多少の設定&キャラ崩壊はありますが、むしろそれを含めお祭り気分で堪能してもらえればと思います!


 午後3時、都内某所の某喫茶店。喫茶店内は優雅なティータイムを満喫するためのお客さんで、ほとんどの席が埋まっている。コーヒーや紅茶の香ばしい匂いが漂い、程よい空調温度と落ち着きのあるジャズ音楽によって、リラクゼーション効果が半端ではない。現に奥様たちや女子高校生グループ、カップルなどがお互いに世間話を弾ませ和みのある雰囲気を醸し出しており、これぞ昼下がりの喫茶店と言わんばかりの光景が広がっていた。

 

 しかし、その中で和みのある調和を乱している少年たちがいた。

 

 ”神崎零”と”岡崎拓哉”

 

 共に”ヒーロー”の称号を与えるに相応しい、いわゆる"主人公"なのだが、今日は完全なる根暗キャラに成り下がっている。店内に和やかなムードが漂う中、彼らの周りだけは異世界かと思うほどどんよりとした空気に包まれていた。

 それもそのはず、彼らはこの世で一番やらかしてはいけない犯罪に手を染めてしまっていたのだ。そして現在、お互いに自分の犯した罪を懺悔すると共に、この先に待ち受ける絶望をどう回避しようか思案中なのである。お互いにヒーローとして、主人公として、何としてでも話をハッピーエンドに収束させることを強いられているのだ。

 

 

「拓哉も大概バカだよなぁ。穂乃果たちの気持ちくらい考えてやれよ」

「ブーメラン突き刺さりすぎて、喉元掻き切られてるぞ神崎……。そもそも、俺たち同士で言い争ってる場合じゃないだろ」

「すまん。でも人間ってのは現実逃避したくなる生き物なんだよ」

「いや、分かるその気持ち。俺だってできるなら面倒事は回避したいからさ……」

「あぁ、これからどうしたらいいのか。タイムリミットは明日に迫ってるから、早急に手を打たないと……」

 

 

 ”ヒーロー”であり”主人公”でもある彼らだが、そんな肩書のオーラも感じられないほどナーバスとなっていた。傍から見たら陰キャ同然であり、普段の日常からたくさんの女の子に囲まれリア充生活を送っている彼らとは到底思えない。彼らがここまでブルーになっているその理由とは……?

 

 

「さて、どうしよう……」

「そうだな……」

「まさかAqoursのみんなと――――」

「まさかμ'sのみんなと――――」

 

 

 

 

「「デートの日程が被るなんて!!」」

 

 

 

 

《神崎零のデート相手》

・高海千歌(危険度:高)

・桜内梨子(危険度:高)

・渡辺曜(危険度:中)

・国木田花丸(危険度:低)

・黒澤ルビィ(危険度:低)

・津島善子(危険度:高)

・松浦果南(危険度:中)

・黒澤ダイヤ(危険度:高)

・小原鞠莉(危険度:高)

 

《岡崎拓哉のデート相手》

・高坂穂乃果(危険度:高)

・南ことり(危険度:中)

・園田海未(危険度:高)

・小泉花陽(危険度:低)

・星空凛(危険度:低)

・西木野真姫(危険度:中)

・絢瀬絵里(危険度:中)

・東條希(危険度:高)

・矢澤にこ(危険度:高)

 

 

 2人が小心者のように怖気づいていた理由。それは女の子たちとのデート日が全て同じ日に被ってしまったことだった。

 ただでさえ鈍感で朴念仁で、女の子たちをいつもヤキモキさせておきながら、いざデートをしてみようとなったらこの有様である。まさに外道、最悪、最低、ゴミ屑、地獄に叩き落されることを自ら望んでいる自殺願望者と言わざるを得ない。

 

 

「なぁ神崎。今さっき神の声で物凄くバカにされたような気がしたんだけど……」

「その声を聞いたら余計に惨めになるから無視しろ。それよりも、早くお互いにデートプランを考えないと」

「とは言っても、女の子とデートなんてしたことないぞ俺……」

「普段からμ'sと一緒にいるだけでデートと一緒だよそれ。まあ俺に関してはデートブッキングは2回目だから、この修羅場マスター神崎零に任せとけ」

「学べよバカなの!? あぁ、バカだったか……」

「バカと天才は紙一重だ。だから俺が画期的かつ神業でデートブッキングを切り抜ける方法を伝授してやるよ」

「ツッコミどころは色々あるけど現にこの状況だ。お前のデート戦術に賭けてみるしかなさそうだな」

「まあ成功するかどうかはどっこいどっこいだけど」

「ダメじゃねぇか!!」

 

 

 先程の会話でお察しの通り、零はこの手の事態に陥ったことが過去に1度だけある。その時も1日で9人を相手にデートするという清々しいまでのクズっぷりを発揮し、結局は全員にバレて手痛い粛清を貰った。それなのにも関わらず、またしてもデートブッキング事件を勃発させるその学びのなさ。これだからハーレム主人公とか謳ってる奴らは……。

 

 

「という訳で、早速当日のデートプランを組み立てていくぞ。お互いに9人も相手にしないといけないから、早朝から動き出さないとな」

「早朝だとしたら……7時くらい?」

「何言ってんだ!! 明日1日がデート日であろうとも、使える時間は深夜を除けば精々12時間くらいなんだぞ!? 当日は朝6時、いや5時に起床だ!!」

「はやっ!? 爺さん婆さんかよ!!」

「女の子のためなら早起きという苦難にも立ち向かえるからさ」

「カッコイイこと言ってるけど、やってることはただの9股なんだよな……」

「俺はみんなを笑顔にしたいだけなんだよ!!」

「実際に12股してる奴が言うと重みが違うな。絶対に見習いたくねぇけど……」

 

 

 堂々と多股を公言し、今回に至っても女の子に謝りもせずにデートプランを練ろうとしている零の気概に、拓哉は謎の納得をしてしまう。だが同時に、もし将来女の子たちから告白されまくっても、コイツと同じ未来を歩みたくはないと反面教師にもしていた。

 

 

「とりあえずμ'sのみんながデートでどこへ行きたがっていたのか、それを教えてくれ。俺が完璧なデートコースと時間を打ち立ててやるから」

「あ、あぁ。物凄く心配だけど……」

「でも経験がほどんどないお前は俺を頼らざるを得ない。違うか? それに女の子は魔性で悪魔なんだ。だから死に物狂いで死なないためのデートプランを考えるしかない!!」

「それが教師の言うセリフかよ……。つうかそもそも、Aqoursはお前の生徒なんだろ? 教師と生徒がデートなんてして大丈夫なのか……?」

「障害が多いほど恋愛は燃えるってね」

「どうしてお前が2度もデートブッキングに陥ったのか、なんとなく理由が分かった気がする……」

 

 

 もはや反省の色を示さない零に対し、拓哉は諦めムードだった。お得意の説教攻撃すらもする気が起きないほど、目の前の男の倫理観は破綻している。まあ神崎零の住む世界ではμ'sもAqoursもそれなりに倫理観も貞操観念も常識を逸脱しているので、拓哉は改めて世界観の違いを実感することとなった。

 

 そんな中、零は拓哉から片手間にμ'sとのデート場所を聞き、予定表に分単位のスケジュールを書き込んでいく。やはり修羅場経験者は予定の練り込みも早く、ものの数分で拓哉が実行すべき1日のデートプランが完成した。

 

 

「これでどうよ!」

 

 

5:00 起床

5:30 神社で希のバイトを手伝う

5:45 海未の早朝訓練に付き合う

6:00 花陽と凛と一緒に、ご当地ラーメン祭の列に並ぶ

6:30 ことりと一緒にケーキバイキングの列に並ぶ

7:00 穂乃果の店の手伝う

8:00 絵里と映画館

8:30 にこの買い物に付き合う

8:45 真姫と一緒に作曲作業

 

以降、適宜怪しまれぬようみんなの元へ戻るを繰り返すこと。さもなければ、"死"

 

~17:00 全員と解散して大勝利の余韻を味わう

 

 

「なんだろう、思ったよりもアバウトだな……。しかも案外余裕がありそうな気もするし」

「何言ってんだ! 途中でみんなの元へ戻る作業が大変なんだよ! 時間が経過すればするほどデートをする人数も増えてくる。そこをどう切り抜けるのかはお前の根性次第だ!」

「結局精神論かよ!? でもまあ前日になってデートを断るのも申し訳ないし、ちょっくら頑張ってみるか」

「努力をしても結果が伴うとは限らない。でも努力をしなければ結果は伴わないからな」

「それっぽく言ってもやってることを考えるとなぁ……。ちなみに、お前のプランはどうなってるんだよ?」

「知りたい? ほら」

 

 

5:00 起床

5:30 果南とダイビングショップの準備

6:00 千歌の旅館の手伝い

6:30 曜のスイミングコーチ

7:00 梨子と薄い本即売会に出る

7:30 善子とコスプレショップ

7:45 花丸とルビィとシャレオツカフェ

8:00 ダイヤの華道見学

8:30 鞠莉とジャンクフート巡り

 

以降、適宜怪しまれぬようみんなの元へ戻るを繰り返すこと

 

~17:00 全員と解散して、大勝利の余韻を味わいながら酒を飲む

 

 

「俺よりもハードスケジュールじゃねぇか。大丈夫か……?」

「言っただろ、俺は既に幾多の修羅場を乗り越えてきてるんだ。9人同時に相手にするなんて造作もない」

「安心していいのか、最低だと思うべきなのか……」

 

 

 9人どころか12人まとめて相手をしたことがあるそのキャリアを評価すべきなのか、デートブッキングを強行突破しようとしていることを咎めるべきなのかは皆さん次第である。1つ言えるのは、全員と解散したあとの彼の行動。酒を飲むって、もはや飲むことが目的となってデートは消化試合と取れなくもないのがまた彼らしいところだ。もはや修羅場を経験し過ぎているため、酒に逃げて現実逃避したい気持ちは分からなくもないが……。

 

 

「当日はこの予定通りに行動するんだ。デート当日の女の子は神経質な悪魔そのものだから、寝坊で遅刻なんてバカな真似は絶対にしないようにな」

「この計画自体がバカな気もするが、ここまで来て引き下がる訳にもいかないか…………よしっ、俺も男だ! こうなったら当たって砕けろでやってやろうじゃねぇか!!」

「生きて帰って来いよ」

「そっちこそ」

 

 

 ここで熱い握手を交わす主人公2人。さっきまで陰湿なまでにテンションが下がっていた2人だが、今や喫茶店内の雰囲気を席捲するかのような明るいやる気に満ち溢れている。上手くいけば9人同時デートという全世界の男が夢にまで見た体験ができるのだが、一歩間違えば地獄。まさに一触即発のデートに、2人はどこか不安を抱えながらも、それを気合で隠しながら再開を誓い合った。

 

 彼らの前に広がるのは、天国か、それとも地獄か……?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 

~デート当日 作戦決行日~

 

 

5:00 神崎零宅

 

 

「前回は寝坊したけど、今回はちゃんと起きられたぞ! もう勝ち確だなこりゃ」

 

 

 前回の反省をしっかりと活かした零は、携帯の目覚ましと家の目覚ましを総動員して何とか寝過ごさずに済んだ。まあこんなところで反省を活かすのなら、デートブッキングなんてしない方向に反省して欲しかったのだが、やはりハーレム主人公というのは騒動を起こさないと気が済まないのだろう。

 

 

「あら? こんな朝早くからどこへ行くの?」

「秋葉……で、デートだよデート!!」

「まさか教師と生徒の禁断デート? なんかお金になりそうな匂いが……」

「この際覗き見はいいから、邪魔だけはするなよ?」

「邪魔? そんなことをして私にメリットがあるとでも?」

「お前はメリットがなくても、ただ面白いからっていう理由で俺たちを弄ぶだろ……」

「アハハ! よく分かってるね♪」

「その笑顔が怖いんだよ……」

 

 

 せっかく予定通りの時刻に起きられたのに、いきなり足止めを食らっては元も子もない。

 零は秋葉と会話しながらも、徐々に身体を玄関の方へと向けていた。

 

 

「それじゃ! 今日の晩飯は豪勢に頼むな!!」

「あぁもうっ! でもまぁ、あの調子だったら今日の晩御飯は必要なさそうかな♪」

 

 

 零は会話中の僅かな隙を突いて、寝起きとは思えないほどの全速力で家を飛び出す。一緒に住んでいるだけでも命を脅かしてくる彼女に捕まってしまうと、昨日立てた計画が全て白紙にされてしまうので、もしかしたら彼にとってここが今日一番の難関だったのかもしれない。あとは持ち前の修羅場回避能力を駆使して女の子たちに怪しまれずデートを続けるだけだ。

 

 ちなみに、秋葉は既にとある未来を見通しているようだった。

 自分の弟のことは何でも分かっているのか、それとも――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

5:30 神社

 

 

「あっ、おはよう拓哉君」

「おはよう。相変わらず朝早くに御苦労なことで」

「早起きは三文の徳って言うやん? それに朝早く起きた方が、1日をたっぷりと満喫できるからいいと思うけど? 普段はお昼まで寝てる拓哉君?」

「ぐぅの音も出ない……」

 

 

 拓哉も無事に5時起床を成し遂げ、第一のデートスポットである神社に来ていた。

 いつもはこんな時間に起きてしまったら二度寝がデフォとなっている彼だが、このあとのハードプランを考えると自分の意志関係なく勝手に脳も身体も目が覚めてしまう。それに昨日零が作ってくれた自分の予定を見ると結構行けそうな感じがしたのだが、当日になってみるとその無謀さをはっきりと実感する。彼は見逃していたのだ、デートの場所と場所を移動する所要時間を。あの程度なら余裕だろうと高を括っていたのだが、早速この調子だと希のバイトの手伝いをする時間は5分程度しかない。もう下手な会話を続ける時間の余裕もなく、今回のデート地獄の一旦をこの時点で味わっていた。

 

 

「フフッ、拓哉君と2人きりなんて久しぶりやから、ちょっと嬉しいなぁ♪」

「うっ、ぐっ! そ、そうか……」

 

 

 拓哉の心に幾多の矢がグサグサと突き支える。とてつもない罪悪感だが、もしブッキングがバレたことによる仕打ちを考えるとこの心痛みくらいは耐えられた。穂乃果たちの般若姿など容易に想像できるだけでなく、妹からのバッシングも凄まじいだろうからここは保身のために何とか耐え抜くしかない。

 

 拓哉はしばらく境内の周りに散らばっている落ち葉の掃き掃除を手伝っていたが、急いでいる時に限って時間が経つのは早いもの、海未の早朝訓練に付き合う時間が迫っていた。

 

 

「マジで時間ねぇなオイ……。こんな調子だとデートどころか、俺の身体が持たなそう」

「拓哉君? さっきからそわそわしてるけど、具合悪いん?」

「こ、この展開は……!?」

 

 

 拓哉は昨日零との別れ際に、彼から秘伝の技を伝授されたことを思い出した。いわばこの修羅場デートを切り抜ける3種の神器。早速その中の1つを使うタイミングが来てしまったのだ。

 ちなみにその神器とは――――――

 

1.仮病を患ってトイレに行くフリをすべし! 

  優しいμ'sのみんなを騙すのは心苦しいが、真実を伝えることだけが正義ではないのだよ!

2.忘れ物を取りに行くフリをして抜け出すべし! 

  女の子は男からのプレゼントに弱い。だからプレゼントを忘れたフリをして、その場から抜け出すのだ!

3.風が俺を呼んでいると豪語するべし!

  この際、中二病の黒歴史を作ってしまうことはもう諦めろ。俺たちの勝利条件は、このデートを完遂させてみんなを笑顔にすることだ!

 

 もうガラクタ同然の神器だが、逐一その場に応じた言い訳を考えていてはこっちの身が持たなくなる。だから遅かれ早かれ神器を使用する羽目になるのだ。だったら最初からフル活用し、言い訳を考える脳の負担を少しでも減らしたい。もはやこのデート地獄に脳など不要。ひたすら身体にムチを打って、女の子たちと違和感なく会うことを考えろ。それが修羅場の先輩である零からのお達しだった。

 

 もはやここまで来て、拓哉もなりふり構ってはいられない。半ばヤケになりながらも神器を片手に、ダメ元で希に直訴してみる。

 

 

「希! 悪いけど腹痛いから、ちょっとトイレに行ってくるわ」

「本当に大丈夫? バイトに誘ったのもウチの我儘やし、無理せんでもいいからゆっくり休んで」

「あ、ありがとう……それじゃあ行ってくる!!」

「えっ? トイレはこっちに――――」

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ああああああああああ漏れる漏れる漏れる!! そうだ俺って外のトイレは使えない潔癖症だったんだ! だから一旦家に帰るからよろしく!!」

「ちょっと……行っちゃった。でも潔癖症の人は漏れるなんて言葉を口に出さんと思うけど……。そもそも拓哉君、ズボラなくせに潔癖症やったっけ……?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

5:30 ダイビングショップ

 

 

 

「なぁ果南」

「はい? どうしました?」

「お腹、空かないか?」

「いえ、さっき朝ごはん食べたばかりですから」

「そっか……」

 

 

 零はダイビングショップで果南と一緒に開店の手伝いをしながら、彼女の動向を伺っていた。

 理由はもちろんただ1つ、ここを抜け出す有効な言い訳を考えるためである。果南とのデートが一番最初ということは、ここを抜け出し戻ってくる回数が一番多くなる訳だ。だからこそ言い訳は毎回被らないように慎重に、かつ自然な感じで繰り出さなければならない。だが零が果南に素朴な質問をしても、彼女は淡々と返答するばかりで全く隙がない。しかも次のデートスポットである千歌の旅館へ行く時間も迫っているため、時間を浪費してじっくり考えることも許されない。中々好調な出だしだった拓哉に対して、零のスタートは秋葉に果南と最初からクライマックスを感じさせる厳しいスタートとなった。

 

 

「どうする……どうする?」

「さっきからブツブツとどうしたんですか? 独り言が多い人は病んでる証拠ですよ」

「まあ実際に病みそうなんだけどな、今日の予定を考えると……」

「今日は私と一緒に店番のはずでは?」

「そ、そうだよそうだよな!? 分かってるって、ハハハ……」

 

 

 淡々としているように見える果南だが、心の中では好きな先生と一緒にいられる喜びで満ち溢れていた。それが心だけでは受け止められなくなったのか、自然と笑みとなって表情に零れる。

 だが嬉しそうな果南の表情を見るたびに、零の神経はみるみる擦り減っていく。何とか愛想笑いで誤魔化しながらも、まだ朝の涼しい時間帯なのにも関わらずシャツが汗で濡れ始めていた。

 

 そしてふと、零は果南の後ろ姿を見て気付く。

 そういや彼女は先日ダイエットがしたいと言っていた。どうやらおしりの大きさを気にしているらしく、よくダイビングスーツを着用するからこそ局部のボリュームにも気を付けたいらしい。そこに彼は目を付けた。

 

 零は迷うことなく果南の背後に立つと、右手で彼女の臀部を鷲掴みにする。

 

 

「きゃあっ!? せ、先生……!?」

「そ、そういえばお前、ダイエットしたいって言ってたよな? 特におしりの……」

「言いましたけど、どうして触る必要があるんですか……?」

「いやぁ気にしてるのかなぁっと思って」

「大きさ以前に、男性に触られた方がよっぽど気にしますよ!!」

「だよなだよな!? だったら俺、以前使ってたダイエット器具があるから貸してやるよ。開店までまだ時間があるし、取りに行っていいか?」

「いいですけど……」

「果南ならそう言ってくれると思ってたよ!! ありがとぉおおおおおおおお!!」

「どうしてそんなに感動してるんですか……」

 

 

 セクハラで相手を油断させ突破口を掴み取る。まさに彼らしい手口だが、それも女の子側が彼に好意を持っていないとできない荒業である。しかも女の子側がそれを執拗に咎めることもないので、どれだけ調教……もとい、彼の色に染まっているのかが分かるだろう。これぞハーレム主人公の特権だと羨ましがるべきなのか、単純にクズ野郎と罵るべきなのか……。

 

 

「今日だけはクズ野郎でも何でもいい。死んでしまったらみんなを笑顔にすることができなくなっちまう」

「誰に喋っているんです?」

「あっ、モタモタしてたら開店時間に間に合わない! それじゃあちょっと家に戻ってダイエット器具取ってくるから! すぐ戻ってくるからぁああああああああああああ!!」

「は、はい……もう行っちゃった」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

5:45 園田家

 

 

「はぁ……はぁ……」

「おはようございます拓哉君……って、やけに疲れてません?」

「さ、最近運動不足だったから、ランニングしながら来たんだよ」

「でも着ているのは普通の私服ではないですか。ランニングするような恰好には見えませんけど……?」

「ギクッ! そ、そう言えばこれから何をするんだっけ!?」

「剣道の練習に付き合ってくださいって、事前に連絡したではありませんか……」

「そうだっけ―――――っ!?!?」

 

 

 そんな連絡があったのかと確認のため携帯を見たその瞬間、拓哉の顔色が一瞬で青くなる。

 ここまで全速力で走ってきた疲れを癒すために休んでいたら、いつの間にか時間が5時50分を回っていたのだ。

 

 

(花陽と凛の待ち合わせ場所まであと10分もねぇじゃん!! ここで時間を食ってたら、確実に間に合わない!!)

 

「拓哉君? お疲れなら少し休んでからにしますか?」

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ああああああああああああああああああああああ!! そういえばマイ剣道着忘れてきたぁあああああ!!」

「えっ、そもそも持っていないのでは……?」

「いやぁ黙ってたけど実は持ってたんだよ! いつかお前とこんな時が来ると思ってさ……」

「そ、そうですか……。なんか嬉しいですね♪」

 

(う˝ぉ˝お˝お˝おおおおおおおおおお!! この笑顔が物凄く心に突き刺さるぅうううううう!! でも許してくれ、死にたくないんだ……)

 

 

 海未の純粋な笑みに、心臓の体積が圧迫されるくらいに胸が締め付けられている拓哉。

 でもここで他のデートを放棄すれば、女の子たちの怒りの炎が瞬く間に彼を芯から燃やし尽くすだろう。それに友の零と生きて再開するという使命もあるため、こんな序盤でへこたれる訳にはいかない。だから彼が取る選択はもちろん――――――

 

 

「悪い! 剣道着取りに行ってくるから先に始めておいてくれ! 俺を待たなくてもいいからな、待たなくてもいいから!!」

「2回言わなくても分かりますよ……って、もう行っちゃいました。そんなに私と剣道をしたかったのでしょうか……フフッ♪」

 

 

 彼にとっては悲報なことに、女の子たちの期待はどんどん高まっていくばかりであった……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

6:00 十千万(とちまん) (千歌の旅館)

 

 

「いらっしゃい先生♪ お食事にしますか? お風呂にしますか? それとも……」

「みかんで」

「えっ!? いくら変態の先生でも、みかんを使うプレイだなんて……」

「何を考えてるのか知らねぇが、お前の思ってることじゃないのは確かだ。つうか顔赤くすんな」

 

 

 開口一番に猥談に持ち込まれそうになるが、ここで会話がそっち方面にシフトしてしまうと巻き込み事故を食らって逃げるに逃げられなくなる。だから零は最初からここを抜け出すための算段を用意していたのだ。

 

 

「とりあえずみかんを用意してくれ! 金ならいくらでも払うから!!」

「いきなりどうしたんですか……?」

「秋葉が食いたいってうるさいんだよ。しかもすぐに用意しなきゃ、内浦にいる女の子全員を淫乱にする洗脳装置を作動させるらしい。そうなれば遅かれ早かれ、この町はAV撮影用の聖地になっちまうぞ……」

「ちょっ、何てこと計画しているんですかあの人!? すぐに用意しますからちょっと待っててください!!」

 

(ふぅ……秋葉があんな性格で助かったよ。今日だけな……)

 

 

 秋葉に苦い思い出しかないAqoursメンバーに彼女の名前を出せば、大抵ビビッて怖気づいてしまう。そこを突けば何とかこの場を乗り切れると踏んだ零だったが、案の定成功したようだ。

 

 

(そういや、アイツは上手くやってんのかな……?)

 

 

 

 

~※~

 

 

 

6:00 花陽と凛とラーメン祭の列待ち

 

 

「拓哉君、随分とやつれてるけど大丈夫……?」

「ははぁ~ん、さては遅刻しそうになったから慌ててたんでしょ? 凛にはお見通しだにゃ!」

「ははは、そうなんだよ……」

 

(やっべぇ……ギリギリだ。しかもこれから希のところへ戻ってことりとケーキバイキングの列に並ばなきゃ……。あれ、無理じゃね?)

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

6:15 ダイビングショップ

 

 

「待たせたな果南! はいこれ!」

「わざわざありがとうございま――――っ!?!? こ、これ三角木馬じゃないですか!! ていうかよく持って来られましたね!?」

「いやぁ乗馬マシンだと思って間違えちゃったなーーー!!」

「どうして棒読みなんですか……」

「まだ開店まで時間あるから、今度はちゃんと間違えずに持ってくるよ! それじゃあ!」

「いや三角木馬を置いていかれても……。気持ちいい……のかな?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

6:30 曜と水泳場

 

 

「先生、汗ダラダラですけど大丈夫ですか? 私と一緒に泳ぎます?」

「ここで余計な体力を使う訳にはいかないんだ……。あっ、それとこれお弁当な」

「こ、これみかんじゃないですか!? しかもこんなにどっさりと!!」

「みかん風呂ってのは身体にいいらしいぞ?」

「いやいや、ここプールですから」

「お前はこのみかんを全部プールに浮かべる。俺はもっとみかんを調達してくる。いいな? な??」

「えぇ……」

「分かったな? 俺が戻ってきた時にもし全部浮かべてないとどうなるか……」

「どうなるって、ま、まさか……だ、ダメですよ先生プールなんかでそんな――――って、いないし!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

6:35 ことりとケーキバイキングの列並び

 

 

「遅刻だよ!! もしかして寝坊?」

「ま、まぁそんなところかな……ハハハ」

「それじゃあ朝勃ちの処理もできなかったんだね♪」

「そうなんだよ……って、え˝!?」

「フフッ♪ 男の子って5分あれば大丈夫って聞くけど、それって本当なの?」

「知るか!! ていうか作品の世界観間違ってるんですけど!?!?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 それからというもの、零と拓哉は順調(?)にデートプランを消化していった。それも女の子たちがみんな純粋……一部怪しい者もいたが、概ね優しい子たちばかりなので、走り回って疲れている彼らを労うばかりで文句を垂れることはない。その温厚さがズキズキと彼らの心にダメージを蓄積させるとも知らずに……。

 

 だが本当の地獄はここからであった。一度出会った子には怪しまれぬよう何度も会いに行かなければならないので、その体力的な意味でも地獄なのだが、彼らの前に立ち塞がる試練はその程度ではないのだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

7:00 梨子と同人誌即売会

 

 

「お前、どうしてマスクなんてしてんだよ……」

「Aqoursの桜内梨子だってバレたら、末代までの恥ですよ!!」

「末代を危険に犯してまでここに来るって、その度胸を見習いたいよ……」

「バレそうになったら先生がフォローしてくださいね!!」

「いやぁ、ここにいないことが多いから無理かなぁ……」

「……??」

 

 

 

※ここに来る以前にも、他の子たちの元へ何度か戻っています。

 

 

~※~

 

 

7:05 穂むら

 

 

「たくちゃん遅い!! もう開店しちゃってるよ!!」

「いや、ことりが変なこと言いだすから……」

「あぁ、たくちゃんが朝勃ちの処理を忘れたって話? 噂になってるよ♪」

「お前もかっ!? しかも何故広まってんだ!?」

 

 

※ここに来る以前にも、他の子たちの元へ何度か(略

 

 

~※~

 

 

7:30 善子とコスプレショップ

 

 

「あのさ先生。一通り店を見て回ったら、近くでやってる同人誌即売会に行きたいんだけど」

「な˝ぁ!? そ、そこだけはやめとけ!! 未成年には早すぎる!!」

「心配しなくても、全年齢対象ブースにしか行かないわよ」

(心配するよ!! 梨子がいるんだから!!)

 

 

※ここに来る以前にも、他の子たちの(略

 

 

~※~

 

 

8:00 絵里と映画館

 

 

「今日は怖いモノを克服するためにホラー映画を観に来たけど、直前になって緊張してきたわね……」

「そうだなぁ……あぁ」

「疲れてる? 私と2人きりだと気が張っちゃうとか……?」

「断じてそんなことはない!! むしろ楽しみすぎて昨日は寝られなかったくらいだから!!」

「そう? それならよかった! 観てる間に怖くなったら手が繋げないもの♪」

(手を繋がれたら脱出できないから、こっちが困るんですけど!!)

 

 

※ここに来る以前にも(略

 

 

~※~

 

 

7:45 花丸とルビィとシャレオツカフェ

 

 

「ここのモーニングセット美味しいずら♪」

「花丸ちゃん、口の周りにクリーム付いてるよ。ルビィが拭いてあげる♪」

「ありがとうルビィちゃん!」

(ここが癒しか……)

 

 

※ここに来る(略

 

 

~※~

 

 

8:00 ダイヤの華道見学

 

 

「生け花と言えば、花をオナホールに刺すAVあるよな」

「開口一番何を言っているのですか!? 疲れてます!?」

(イエス!!!!!!)

 

 

※ここに(略

 

 

~※~

 

 

8:30 にこと買い物

 

 

「これはにこには大き過ぎるし太過ぎるわね。もっと細いモノにしなくちゃ!」

「何を買っているのかはご想像にお任せしよう……」

 

 

※こ(略

 

 

~※~

 

 

8:30 鞠莉とジャンクフート巡り

 

 

「朝からハンバーガーっていうのはオシャレだけど、太らないようにダイエットもしないとね♪ もう一度牛丼屋にも行きたいし!」

(俺は死ぬほどダイエットしてるけどな。現在進行形で……)

 

 

※(略

 

 

~※~

 

 

9:00 真姫と作曲作業

 

 

「15分遅れとはいい度胸ね……」

「いや、風が俺を呼んでいたからさぁ」

「…………」

「悪かった。今のは俺が悪かったからドン引きしないで!! あの神器使えねぇ……」

 

 

(略

 

 

~※~

 

 

 

 

9:00 同人誌即売会会場

 

 

「とうとう来てしまった……」

「だから、全年齢対象ブースにしか行かないって言ってるでしょ。教師の名に泥を塗る真似はしないから」

「いやこの際教師の肩書なんてどうでもいいんだけどな……」

 

 

 零は善子の強引さに押し負け、梨子が売り子をしている同人誌の即売会に来ていた。

 善子は自らR-18ブースに近づかないことで零の心配を宥めようとしているが、彼としては全年齢対象ブースに行かれること自体が困るのだ。そのブースには変装をしているとは言え梨子がいるため、むしろこのままR-18コーナーに連れ込んだ方が安心できるまである。

 

 ちなみに善子も自分がAqoursの津島善子だと周りにバレないように堕天使コスで変装をしているので、傍から見ただけではパッと見で分からない。しかし周りにコスプレをしている人がそこまで多くない上に堕天使の装飾の自己主張が激しいため、一緒にて目立つのは零の一番の懸念事項だった。

 

 

(梨子はどこにいる……? とりあえず梨子のところへ戻った方がいいのか、善子を別のブースへ移動させた方がいいのか――――な゛っ!?!?)

 

 

 今後の展開を色々試行錯誤していた零だが、その思考は全て無に帰す。

 人混みの中、少し離れたところにいた梨子が零の存在に気付いたのだ。同時に零も彼女の存在に気付いたのだが、そこそこの時間待たされたせいでご立腹なのがこちらに向かってくる彼女の様子だけで分かった。

 

 善子は各ブースの様子を伺っているようで、こちらに向かってくる梨子の存在に気付いていない。もちろん彼女は梨子が変装しているとは知らないので、すれ違いそうになっても赤の他人としか思わないだろうが。それは梨子も同様で、善子のことは零の隣にたまたまいる痛いコスプレイヤーの他人としか思っていない。つまり、彼がこの場を切り抜ける方法は2人の勘違いを突くしかなかった。

 

 

「先生!!」

 

「ん? 誰か先生って呼ばなかった? 私たち以外にも教師と生徒でここに来てる変わり者がいるのね」

(俺のことなんだよなぁ……。つうか、どうすんだよこの状況!!)

「でもよかった。私以外にもコスプレしてる人いたのね。ほら、あのマスクをした不審者みたいな……」

(それ梨子だから!! 同じメンバーのことを不審者扱いしちゃったよ!? って、ツッコミを入れてる場合じゃねぇ……)

 

 

 梨子はあと数メートルのところまで近づいて来ている。いくら変装をしていると言っても、声でバレてしまう可能性は否めない。零は今日何度目か分からない冷汗をかきながら、残り数秒の思考時間で必死に頭を回転させる。

 そしてふと目を背けると、目線の先にこちらとR-18ブースを仕切る垂れ幕が見えた。もうあそこしかない、と零は投げやりながらも諦める形で善子の手を握った。

 

 

「なあ善子!! 俺と一緒にあそこに入ってくれ!!」

「は、はぁ!? アンタ未成年をあんなところにぶち込もうなんて正気!?」

「俺はお前と一緒にあそこに行きたいんだよ!! ああいうところはまだ未経験なんだろお前!?」

「人前で未経験とか言うな!! わ、分かったわよ行ってあげればいいんでしょ、もう……」

 

 

 恥ずかしがりながらもちょっぴり嬉しそうな表情をする善子だったが、別の意味で必死な零は案の定フラグをバキバキにへし折っていた。それどころか善子の背中を無理矢理押し、抵抗も許さないままR-18コーナーの垂れ幕の近くまで彼女を連れて行く。

 

 

「悪い。先に行ってくれ」

「ちょっ、私だけ!?」

「まずは1人で大人の世界を味わってこい!!」

 

 

 そして零は善子に有無を言わせず、背中を押して彼女をアダルトワールドへと誘った。

 同時に、後ろから不審者、もとい梨子が彼に声をかける。

 

 

「先生?」

「よ、よお梨子」

「遅いですよもう。それに、さっき誰かと話してませんでした?」

「いやぁ俺が梨子とのデートを放っておく訳ないだろ……?」

「そうですよね。他の女の子に色目を使っていたと思って、危うく手錠を掛けちゃうところでした♪」

(笑顔でヤンデレ発動するのマジやめて!! 心臓に悪いから!!)

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

13:00 ケーキバイキングから映画館に戻る途中

 

 

「うっぷ……流石にケーキバイキングとラーメンを短時間で食うのはキツイ。しかも映画館に戻れば、絵里の残したポップコーンが待ち構えてるし……」

 

 

 意外と食い物系のデートが多く、予定外の危機に立ち向かっている拓哉。胃袋と体力にムチを打ちながらも、絵里のいる映画館へと戻っていた。いっそのことホラー映画で絵里が気絶してくれれば少しは楽になると思ってしまうあたり、今の自分がいかに追い詰められているのかが実感できる。普段なら女の子を絶対に蔑ろにしないはずなのだが、今日という今日だけはひたすら身の保身に走っていた。

 

 

「神崎は大丈夫なんだろうか……? 教師なのに生徒とデートってだけでも重罪なのに、ナインブッキングなんてバレた日には死刑だぞアイツ……」

 

 

 胃袋さえはち切れなければまだ戦える拓哉に対し、零の方はそんな体力的な問題以前の犯罪が山積みとなっている。こんな状況でも他人の心配をするのは彼らしくはあるのだが、彼も彼で午前中はほとんど走りっぱなしだったため、零のことを考える余裕も次第になくなりつつあった。彼と再開する約束を果たすには、まず自分が生き残らなければならないから。

 

 そう意気込み、拓哉は映画館へと向けて全速力で走りだす。

 

 その時だった。

 

 

「えっ……う゛わぁ゛あ゛あ゛あああああああああ!?」

 

 

 突然首根っこを捕まれ、まるで柔道技のように綺麗なフォームで地面に叩きつけられた。

 男をここまで簡単にねじ伏せられるのは余程の剛腕に違いないが、不良にでも絡まれてしまったのだろうか。拓哉は相変わらずの不幸を感じながらも、自分を組み伏せた主の姿を確認するため、恐る恐る顔を上げる。

 

 

「え……?」

 

 

 拓哉の眼に映ったのは、どこからどう見ても可憐な美少女だった。

 ウェーブがかった明るい茶髪で長髪。少し吊り上がった目と整った顔立ち、そして大きな胸。一度見たら忘れられないその美貌に、拓哉は見覚えがあった。

 

 

「確か、神崎の妹の……楓?」

「男の人に名前を憶えられても嬉しくはないですが、まあ先輩だけは特別です」

「喜んでいいのかそれは……」

 

 

 自分を地面に叩き付けたのは、零の妹である楓だった。彼女のことは自分の妹と仲が良いため、性格も人となりも大体知っている。だから持ち前の身体能力で男を地に伏せられるのは容易だと思っていたのだが、何故自分がその犠牲になっているのか全く分からなかった。しかもただでさえ映画館に行く途中で時間がないのに、こんなところで立ち往生する訳にもいかない。拓哉は少しずつ身体を起こしながら、これから起こるだろう碌でもない惨劇を回避するために周りを眺めて逃げ道を模索する。だって男嫌いの楓がわざわざ自分と密着してでもこうして押し倒しているのだから、碌でもないことが起きないと思わない方がおかしいのだ。

 

 

「逃げようとしても無駄ですよ。もし逃げる素振りを見せたら、犯されるぅうううううううううううううううって叫びますから♪」

「押し倒しているのはお前の方だけどな……」

「世間は男と女、どっちを信用すると思います? 痴漢冤罪ってものがあるくらいですから、先輩もお分かりですよね?」

「それに関してはぐぅの音も出ねぇわ……」

「ですよね♪ だから、いい加減吐いてください……」

「えっ、何を?」

「とぼけんな……私は……私は……」

 

 

 悪戯な笑顔をしていた楓だが、その様子は180度変わり本物の悪魔となっていた。

 今にも起こりそうな()()()()()()()に、拓哉はただでさえ冷汗でベタベタなシャツを更に濡らしてしまう。

 

 

「私は今日お兄ちゃんとデートだったんだよぉ゛お゛お゛お゛お゛おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「えっ……えぇっ!?!?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

13:10 旅館前

 

 

 拓哉と楓が修羅場っている中、零は千歌の旅館へ向かうために例のごとく全速力で走っていた。既に全身の筋肉がはち切れそうなのだが、女の子の怒りの炎で全身を灰にされることを考えると全然我慢できる。それもこれも女の子の笑顔を守るため――――という、格言にして都合のいい言い訳でやる気を奮い立たせていた。

 

 そんな中、この曲がり角を曲がればあと少しで十千万へと辿り着く、そんな時だった。

 零はあまりにも無我夢中で走っていたためか、曲がり角から出てくる人の影に気付かなかった。

 

 

「きゃっ!」

「おっと! ゴメン……って、お前は!?」

「へ……せ、先輩?」

「さ、桜井……夏美か……」

 

 

 これまた楓にも負けず劣らずの美少女で、拓哉の昔からの後輩である桜井夏美と曲がり角でぶつかりそうになった。そもそも彼女は東京住まいのはずなのに、どうしてこんなところにいるのか疑問が浮かぶ。

 

 

「こんなところで何してんだお前?」

「先輩を待ってるんですよ。あぁ、先輩と言っても変態のあなたの方じゃありませんけど」

「待ってる……だと? でもアイツは今日―――」

「知ってるんですか!? 先輩と一緒に海へ行くために、あの旅館の前で待ち合わせしてたんですけど全然来ないんですよね」

「あぁ、そうなのか……」

 

 

 拓哉の話では、今日はμ'sメンバー9人とデートだったはずだ。だが目の前には拓哉を待ち続ける幼気な少女――――とは程遠い自画自賛の塊少女は、柄にもなく真面目に拓哉の到着を待っている。いつもは明るくお調子者でもある彼女だが、ここまで律儀な姿は零も初めて見た。

 

 だがそんな可憐な彼女を不憫に思い、素直に拓哉の予定を話すかと言われたら……それは否である。ここでバラしてしまったら拓哉のこれまでの頑張りが全て泡になるだけでなく、男と男の約束まで果たせなくなってしまう。更にここで彼女と話し込んで余計な時間を浪費してしまうと、自分の身まで危なくなる。可哀想だが、ここは心を邪心にしてスルーさせてもらうことにした。

 

 

「そ、それじゃあ忙しいから行くわ。全く、デートをすっぽかす奴なんてサイテーだよなぁ~」

 

 

 そう夏美の横を通り抜けようとするが、零は自分の人生が上手く行かないくらい薄々感じていた。

 彼女とすれ違った直後、突如手首を捕まれ強制的に引き止められる。零はゆっくりと振り向いてみると、そこには何故かしたり顔の夏美がこれまた何故か妖艶な瞳でこちらを見つめていた。

 

 

「な、なにか……?」

「あたし、分かるんですよ。隠し事をしている男性のことは……」

「ちょっと手首痛いんですけど!? 力強すぎ!!」

「だ~か~ら~! 素直に吐いちゃった方が身のためですよ、先輩☆」

「ちょっと何言ってるのか分かんないんだけど……」

 

 

 夏美の黒い笑顔に圧倒される零だが、さっきも言った通りここで押し負けてしまうと自分の身も拓哉の身も業火滅却されることは確定である。だから何としてでもシラを切り通す。彼の取るべき選択肢はそれしかないのだが、夏美という子が彼の考えを計算に入れていない訳がない。そして零はいつの間にか、逆ナンパされているかのように電柱に追い込まれていた。

 

 

「吐いてくれないと言うのなら、あたしにも考えがあります」

「逆レイプならノーセンキューだ。俺は攻める方がいい」

「そんな猥談ごときであたしの心を揺さぶれるとでも? それに中学時代、あたしが男子生徒たちを手玉に取ってたこと知ってますよね? 慌ててる先輩を見てると、サディストだった頃の気持ちが蘇ってくるんですよ♪」

「そりゃよかったな……」

「あれあれ、そんな態度でいいんですか? この携帯の画面、何が映ってるのか分かりますよね?」

「そ、それは……!?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

13:10 とある道端

 

 

 

 

「さっき独り言でぶつぶつとお兄ちゃんのこと話してましたよね!? さぁ吐いてください!!」

「そ、それは……そのだな……」

 

 

 拓哉も楓に組み伏せられ、見事に体位を決められているので逃げることもできない。そして拓哉も零と同様に相手の状況を話せずにいるため、もはや人を殺せそうな殺伐とした雰囲気になっている楓に文字通り手も足も出なかった。

 

 

「どうしても話さないというのなら、この人にお願いしましょうか。あなたにとって厄介なこの子に――――」

「ちょっ!? ソイツは……!!」

 

 

 楓が携帯の画面を拓哉の前に突き出す。

 その画面には電話番号と共に、とある人物の名前が映し出されていた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

13:10 地獄の入り口

 

 

(楓……!!)

 

 

(桜井……!?)

 

 

「「先輩! 話してくれる気に……なりましたよね♪」」

 

 

 お互いにいい意味でも悪い意味でも苦手とする相手に現状を告発されれば、その情報は瞬く間にμ'sとAqoursに広がる羽目になるだろう。そうなればどのような事態になるのかはもうお察しのこと。楓と夏美に絡まれてしまった以上、もうプラン通りのデートは確実に実行できない。この先にどんな悲劇が待ち構えていようとも、回避不能のハーレム修羅場ルートに突入することは明白だった。

 

 

(そういえば、神崎が言ってたな。もしもバレそうになったら、最悪全員を遊園地に誘えばいいって。でもまさか本当にそれを実行する時が来るとは……)

 

(もうやるしかない。例えこの命が燃え尽きようとも、アイツさえ上手くデートできていればいいんだから!!)

 

(そうだよ、俺が犠牲になっている間に神崎がデートを完遂してくれるはず。そして俺の燃えカスは、アイツが拾ってくれる!!)

 

(女の子のためなら命くらいいくらでも捧げてやろう。決まりだな)

 

 

「「こうなったら、みんなで遊園地デートだ!!!!」」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

17:00 遊園地

 

 

「拓哉!? お前どうしてここにいるんだよ!?」

「それはこっちのセリフだって!!」

 

 

 男同士の約束は残酷にも果たされず、地獄の地にて再会をしてしまった2人。まるで転校生の女の子と偶然にもその子のパンツを見てしまった男の子が教室で鉢合わせた時のようなテンプレの驚き具合で、お互いに指を差しあって更なる絶望を感じていた。本来なら自分の灰と骨を拾ってくれるべき相手が、自分と同じ処刑台に立たされていたんだから……。

 

 

「俺の完璧な作戦はどうした!? 予定通りに実行すれば絶対にバレなかったはずだ!!」

「お前の妹のせいだろ!? あの子の邪魔がなければ今頃美味い酒で祝杯を上げてたっつうの!!」

「それって、楓……? 楓――――――あ˝ぁああああっ!?」

「うぉっ!? 耳元で大声で出すな……。そんなことより、お前はどうしてここにいる……?」

「いや夏美がさぁ……」

「桜井……んっ、あれ? 何か忘れていたような――――――あっ!?」

 

 

 2人は思い出さなければよかったことを思い出してしまった。それぞれデートするべき相手が1人残っていたこと、そもそも彼女たちのデートをプランに組み込んでいなかったこと、そしてお互いのデート相手に出会ってしまったこと。いくらハーレム主人公とはいえここまで不運を連鎖できるのは、やはり彼らの体質なのだろうか。

 

 そして、その事実を口走ってしまったが最後、彼らを取り囲んでいる女の子たちの火力が限界を超えた。傍から見たら遊園地が火事になっているのではないかと勘違いしそうな炎を滾らせ、女の子たちによって形成されたファイヤーサークルは彼らを囲んで逃げ場を完全に塞いでいる。

 

 

「み、みんな落ち着けって……。そ、そうだよ!! 今回はコラボ回で一世一代のお祭りなんだ! だから俺たちは敢えてみんなの予定を合わせて、遊園地に集合させたんだよ!! むしろ幹事役を買って出た俺たちを敬え!!」

(神崎!! ここへ来てもその往生際の悪さ…………やっぱアンタ最低だよ!! 尊敬したくないけど尊敬してしまいそうなそのクズさ、もはや芸術だ!!)

 

 

 最後の最後まで自分たちの命を守ろうと、僅かな可能性に賭けて足掻くのは見習うべきだが、やっていることはドが付くほどのクズ行為である。そんな零を見た拓哉は、もはや苦笑いで彼を反面教師にしようとしていた。確実にないとは思うが、もし自分がハーレムエンドの主人公となった場合は絶対に彼のような女ったらしにはならないとこっそり誓う。しかし実のところ拓哉も零に負けず劣らずの女たらしなのだが、その事実に鈍感な彼が気付くはずもなく……。

 

 まあそれ以前に目の前の女の子たちをどうにかしないと、将来を想像するしない以前にここで人生が終了してしまう。

 いや、もうデートブッキングという事態に陥った時点で、この未来は決まっていたのかもしれない。

 

 

「先生……どうやら手錠で拘束するだけでは満足できないみたいですね。歩けないように切っちゃいますか……どことは言いませんけど♪」

「みんな目が据わってるから!! 俺は君たちをそんなヤンデレちゃんに育てた覚えはない!!」

「たくちゃん……今謝れば朝立ちの処理をしてて遅れたって事実、みんなに言わないであげるから……」

「もうみんないるよ!? 何ならAqoursの子たちまでいるよ!?」

 

「全く、お兄ちゃんの女垂らしは天然記念物に登録してもいいくらいだよね。まぁ、記念物だけど甚振っちゃうんだけどさ♪」

「先輩もそろそろ女の子たちを散々ヤキモキさせてきた報いを、ここで受けておくといいですよ? 小さな針で細かく突かれるのと、大きなハンマーで一振りだったら、絶対に前者の方がいいですもんね☆」

「まあそういうことだから、お兄ちゃん!」

「先輩!」

「「反省しましょ♪」」

 

「「ヒッ……!!」」

 

 

 女の子たちが迫る。20人同時に燃え上がる炎が自分たちの周りを――――――記憶に残っているのはここまでだった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

某日 どこかの研究室

 

 

「いやぁ~他人の不幸は蜜の味ってね♪」

 

 

 秋葉は徐に携帯を弄る。

 眺めているのは、一番最近の通話履歴2つ。

 

 

『神崎楓』 12:00

『桜井夏美』 12:05

 

 

「あぁ~あの遊園地、火事で閉演になっちゃったんだぁ♪ 南無阿弥陀仏……フフッ」

 

 

 そしてしばらくの間、研究室に意地悪な笑い声が響いていた――――――

 

 




 神崎秋葉 ← だいたいこいつのせい

 いかがでしょうか? 普段あちらの小説しか呼んでおらず、たまたまこちらにいらっしゃった方にとっては作風の違いに驚かれたかと思います(笑) しかし普段はもっとはっちゃけていると言ったら……どうなるんだろう??

 今回のコラボに至った経緯としては飲み会のノリではあったのですが、私自身が夏初旬から執筆モチベが少し低下していることもありました。その打開策として心機一転を兼ねてコラボを持ち掛けたのですが、たーぼさんは快く引き受けていただいて嬉しい限りでした! この場をお借りしてお礼を言わせていただきます。

 ちなみに、片方の作品しか読んでいない方は勘違いしないで欲しいのですが、どちらの主人公もこんなにクズじゃないですよ(笑) 前書きでも言った通り、今回はあくまでお祭りなので!



 次回はまたスクールアイドルフェスティバル編の続きに戻るわけですが、次以降は遂にAqoursもμ'sに合流します!



 このお話を読んでくださった方は、是非あちらの小説も覗きに行ってみてください!
 加えてこちらの感想だけでなく、あちらのコラボ小説にも感想を入れてくださると嬉しいです!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Aqours・オン・ステージ!

 前々回でμ's勧誘編が終了したので、今回からようやく本編に突入します!
 スクールアイドルフェスティバル編ということで、今後はμ's以外のスクールアイドルも続々と登場予定です!


 まずは2か月ぶりにこの子たちから!


 

 スクールアイドルフェスティバル、通称"スクフェス"。

 8月末に行われる、スクールアイドルのためによるスクールアイドルの祭典である。そこでは全国から人気関係なくスクールアイドルたちが集まり、入れ替わり立ち代わりでライブを行う。グループ単体のライブはもちろんスクールアイドル同士でのコラボライブも実施されるため、現在のスクールアイドル界隈では一番ホットな話題なのだ。

 ライブだけではなく、スクールアイドルたちによるゲームやアトラクションなどの企画も同時に開催されるため、俺のような一般人でも楽しめるような祭典となっている。これはライブ等の音楽関係に興味がない人にもスクフェスに来てもらえるように、運営側がバラエティ企画として催すらしい。俺と穂乃果が勧誘活動をしている間にそんな情報が公式から大々的に発表されたので、俺たち若い世代の間で知らない人はほとんどいないだろう。μ'sとA-RISEがスクールアイドル界隈を席捲して5年、スクールアイドルの普及はそれほどまでに広がっていた。

 

 話題のスクフェスに参加する方法は2つある。

 1つは運営側から送られてくる招待状にグループやメンバーの名前、人数など必要事項を記入して参加要請をすること。過去に一度でも運営側が主催していたイベントに参加していればグループの名前が公式に登録されているので、そのグループには漏れなく招待状が送られているはずだ。この時点でも相当な数のグループが該当するだろうから、スクフェス本番ではかなりの人数が参加すると見て間違いない。

 もう1つはこちらから運営側に参加したいと申請すること。過去に一度も運営側のイベントに参加してない場合や、最近結成したばかりのグループでもグループの名前と人数さえいれば誰でも参加可能だ。

 もうお察しかと思うが、スクールアイドルであれば経歴関係なく参加できるため、まさにスクールアイドル戦国時代に相応しいお祭りとなっている。ただでさえ1つ目の参加方法だけでも相当なグループが集まるのに、更に2つ目の参加方法まで加わったら……もう想像するに余りあるなこれ。

 

 そんな感じで、夏休み最後のビッグイベントとしてスクールアイドルたちの祭典が行われる訳だ。

 ちなみにμ'sは解散していたため本来なら招待状が送られてくるはずはない(しかも俺に家に)のだが、何故かμ'sとしてスクフェスへ招待されていることになっていた。運営会社に勤めている絵里の証言では、会社がμ'sに対して招待状を出した記録はないらしいので、ますます謎が深まるばかりだ。

 しかし穂乃果はそんなことを気にせず元μ'sメンバー11人を半ば無理矢理引っかき集め、再びμ'sとしてスクフェスへの参加を意気込んでいる。得体の知れない人から送られてきた招待状で参加するのはどうなのと疑問に思うかもしれないが、逆に参加することで尻尾を掴めるかもしれないという穂乃果の意見もあった。とにかく彼女たちは解散から4年のブランクがあるためカンを取り戻すことに集中してもらい、裏の仕事は俺が引き受けることになった。

 

 とは言っても、運営会社で働いている絵里や希から情報を貰わないと何も動けないので、実際に進展は何もないんだけどな……。

 

 

 そんなジメジメした話よりも、俺が気になっていることはもう1つあった。

 さっきも言ったが、過去のイベントに参加したことのあるグループにはスクフェスの招待状が送られている。つまり、俺の知っているAqours(アイツら)A-RISE(アイツら)Saint Snow(アイツら)もスクフェスに参加するのだろうか? 特にこちらから連絡をしている訳でも、向こうから連絡が来ている訳でもないため真偽は不明だ。だが俺の知っているスクールアイドルの中でもアイツらは特段スクールアイドルに情熱を注ぎこんでいるため、今頃参加申請をしている頃かもしれない。またみんなに会える時が来ると思うと、俺の中でのスクフェスへの期待が更に高まってきたぞ。

 

 

 そんな期待とは裏腹に、現在の俺は文字通りの裏方作業に徹していた。

 先日からμ'sの練習が本格的に開始されたが、4、5年前とは違って部活ではないので学校の備品を使うことができなくなった。つまり飲料水やらタオルやらラジカセやら、練習に必要な小物は全て自前で揃えなければならない。その費用はもちろん俺たちが出す訳で、そして女の子たちに出させるのはちょっとアレな風潮がある訳で、そうなると唯一の男である俺の懐が軽くなる訳で…………あぁヤダヤダ! 男女平等とか謳っておきながら、女性専用車両やレディースデイを設けるこの世の中がヤダ!! 何なら大学生ニートを買出しに放り出すだけでなく、費用をすべて俺持ちにするμ'sはもっとヤダ!!

 

 

「あっつ……」

 

 

 俺はタオルやら飲料水やらの日用品が入ったビニール袋を持ちながら、太陽が燦々(さんさん)と照りつける道をトボトボと歩いていた。確かに俺はμ'sの復活に賛成した身だが、高校時代のようにマネージャーとして手伝うとは言ってない。なのにアイツら(花陽や亜里沙など良心はいるが)は俺を勝手にマネージャーに抜擢し、こうして裏方作業を命じてきやがった。彼女たち曰く、夏休みに入って家に引き籠ってばかりだから運動しなさいとのこと。そもそも、こんなクソ暑い中で運動しなくても俺は運動不足にならない自信がある。何故かって? それは夜の運動を――ゲフンゲフン! とにかくとっとと荷物を持ち帰って、冷房の効いた部屋でゴロゴロと過ごしたいものだ。アイツらの練習はカメラ付きドローンでも飛ばして部屋でちゃんと見ておくからさ。

 

 やる気のなさが極限まで低下した昼下がり。あまりにも日差しがキツ過ぎて限界を感じてきた俺は、道端の自動販売機で飲み物を買うことに決めた。

 

 

「あれ? 小銭が500円しかねぇじゃん。そういやこれを買う時に細かい小銭をピッタリ払っちゃったんだっけ……」

 

 

 特に計算はしていないが、財布に入っている小銭を見たらピッタリ購入金額分払える時ってなんか嬉しくならない? 会計をしている時はまさにそんな感じだったのだが、結局コンビニ等で細かいのが足りなくなって札を崩すハメになることがほとんどなんだけどな。これぞ日常のちょっとした虚無感だ。

 

 まあ500円玉ごとき崩すのに抵抗はないため、何の躊躇いもなしに自販機の賽銭口に500円を投入しようとする。

 その時だった。

 

 

「わぁっ!!」

「うぉああああああああああっ!?!? って、あっ!? 500円が!!」

 

 

 突然後ろから誰かに驚かされたのだが、その事実よりも驚かされた衝撃で俺の指から500円玉が落ち、そのままコロコロ転がって自販機の下にボッシュートしてしまった。思いがけない&理不尽な金の失い方に、もはや驚くよりも怒りが込み上げてくる。俺は咄嗟に後ろを振り向き、ただでさえ軽い俺の財布を更に軽くしやがった張本人の正体を確認する。

 

 こんな悪戯を仕掛けるバカにはじっくりとお灸を据えてやる必要が――――――えっ!?

 

 

「お前……千歌!?」

「えへへ、来ちゃいました♪」

 

 

 俺の500円玉を奈落の底に葬ったのは、かつての俺の教え子である高海千歌だった。彼女の通う浦の星女学院へ俺が教育実習生として出向いた時に知り合ったスクールアイドルでもある。

 しかし彼女は静岡の内浦に住んでいるはずなのに、どうして東京にいるんだ……? いや、今はそんなことよりも……。

 

 

「お前、俺の500円返せ!!」

「あぁ、もしかして手が滑って落ちちゃったんですか? でも500円くらいいいじゃないですか、もういい大人なんですし!」

「500円あればな、牛丼で一食分を賄えるし、プライズ価格のAVや薄い本だって買えるんだよ!!」

「ちょっと見ない間に小さな男性になりましたねぇ先生。そんなことじゃモテないですよぉ?」

「いや、もう十分にモテてるから」

「誰に?」

「ん」

 

 

 俺は千歌に向かって指を差す。

 するとさっきまで余裕そうな素振りを見せていた彼女が、一瞬にして顔を赤く染めた。こんなことで簡単に取り乱すとは、やはり彼女もまだまだ高校生の子供だ。まあそんなウブな反応が単純にして至高なんだけども。もはやμ'sはこんな反応をしてくれる奴の方が希少になってしまったので、こうして羞恥心で顔を染めてくれるのが物珍しくて仕方がない。浦の星にいた頃は何気なく見ていた千歌のこの表情だけど、東京に帰ってきて改めて分かったよ。純粋なのはいいことだってな……。

 

 

「あっ、あぁ今日は暑いなぁ~。暑すぎて顔が熱くなっちゃいましたよぉ~……」

「バスの中でおっぱいを見せてくれたお前が、今更惚けるのか……」

「あ、あのことまだ覚えてたんですか!? 忘れてくださいよ!! 先生が帰った後も夜な夜な思い出して寝られない時があるんですから!!」

「へぇ、案外可愛いところあるじゃん」

「~~~~ッ!?!? せ、先生なんて嫌いですぅ!!」

 

 

 あぁ~この反応だよこの反応! 人にもよるけどμ'sの連中なんて純粋に褒めたら照れ隠しにパンチが飛んできたり、淫語混じりのセリフで返されたりと散々だからな。女の子が純粋な反応をしてくれる時こそ、俺が優位に立っていると実感できる。これがことりや楓だったりしてみろ。俺の独壇場どころか、壇上すら用意されないから。

 

 

「千歌ちゃーん! どこにいるの……って、あっ、いた!」

「曜ちゃぁ~ん……」

「千歌ちゃん!? どうしたの顔真っ赤だよ?」

「この人にイジメられたぁ~」

「えっ!? や、やっぱり都会の男性はケダモノで不審者ばかり――――ん? せ、先生!?」

「よぉ。久々に会って不審者とはご挨拶だな」

「いや、間違ってないから謝りませんけど」

「急に辛辣になるなよ……」

 

 

 もはやAqours内でも俺が不審者だって扱いになってんのか……? あれだけイケメンで劇的な告白をして別れたのにそれはないだろ……。

 でも思い返してみれば、教育実習生新任初日で痴漢をしたりラッキースケベに遭遇したりと、平和な日常を送っていた彼女たちにとっては激動の日だったに違いない。そう考えれば俺が滞在していた3週間は、田舎でほのぼのと平和ボケしている彼女たちにとっては刺激満載だっただろう。それは同時に、俺がその平穏を破壊する悪魔であり不審者だったことを裏付けていた。

 

 だが今は久々にコイツらと会ったとか、不審者だと罵られようがどうでもいい。俺のやるべきことはたった1つだ。

 

 

「という訳で、早く500円返せ」

「教育実習生とは言え、元先生が元生徒に対してカツアゲって虚しくなってきません?」

「俺はそんな感情論には流されない人間なんだ。いくら泣き落としを目論もうが、ぶりっ子で可愛い姿を見せつけてきたとしても、俺は借金取りのごとく地の果てまで追いかけるからな。人生は金、つまりそれを無下にした罪は重いんだよ」

「「大人げない……」」

「あのさ、もうちょっとギャグっぽくツッコミを入れてもらっていい?? そんな淡々としたツッコミをされると、クズを演じてる俺がマジモノのクズみたいじゃん!!」

「屋上で複数の女の子に向かって告白した人が言っても……」

 

 

 確かに、それを言われてしまうとぐぅの音も出ない。それ以前にμ'sのみんなと付き合っている以上、多股をしている最低クズ野郎の汚名は一生剥がれることはないだろう。まあそれは世間体から見ただけの肩書であって、俺が特段その汚名を嫌っている訳じゃない。むしろその汚名を誇りにするくらいの気概で女の子たちを守っていく。他人ばかりの周りからどう思われていようがどうでもいい。俺は自分の隣にいる女の子たちから愛されればそれでな。

 

 

「先生が屋上で言ってくれた告白の言葉、千歌はよく覚えてますよ! 『何度も言うが、俺はお前たちのことが大好きだ』……えへへ、今でも思い出すたびに胸がキュンキュンしちゃいます♪」

「バカ! こんな道端であの日の再現すんな!!」

「私もしっかり記憶に刻み込まれてますよ! 『魅力的になったAqoursを、またいつか俺に見せてくれ。その時に迎えに行くから、絶対に』……あの時の先生、とってもカッコよかったです!」

「だからやめろって! 熟年夫婦が一番恥ずかしい瞬間って知ってるか? 我が子にプロポーズのセリフを質問された時なんだよ! 今まさにそんな気持ちだわ!!」

「『1人1人でも輝いて、そして9人としても輝ける。そんなお前たちを、俺は見たい』……」

「現在進行形で嫌いになっちゃってるよお前らのこと!! ていうかよく一字一句正確に復唱できるなお前ら!!」

 

 

 やはり恋する乙女というのはいい意味でも悪い意味でも執着が激しいらしく、もうあの告白から1か月以上経っているのにも関わらず俺の告白のセリフを覚えきっている千歌と曜。正直そんなくだらないセリフを覚えるのに脳内メモリ割くくらいなら、英単語の1つや2つでも覚えた方がよっぽど身のためになる。まあこの場合、ゲームの用語はすぐに記憶にこびり付くのに、英単語や古語が頭に入らないのと同じ理論かもしれない。

 

 

「告白暴露大会なんてどうでもいいから、早く500円返せ。でなけりゃ身体で払うハメになるぞ?」

「うわぁ先生、流石にそのセクハラはドストレートすぎて引きますよ……」

「もう教育実習は終わったんだ。教師という柵から解放されたからには、もう容赦しねぇから」

「やっぱり東京って怖い!! お店に入ったら最後、財布が空になるまで買い物をさせられるんですよね……?」

「それはお前がまだ入れない大人の店の話だから心配すんな」

 

 

 そういえば田舎から上京してきた女の子が、怪しい店の客引きとは知らずホイホイ勧誘されて入店し、中にいた汚らしい男に犯される同人誌とかAVがあった気がする。今の千歌たちはまさにその上京してきた女の子であり、この2人はまだしも花丸やルビィなんかは性格的に相当危険だと思う。その2人は特に東京の雰囲気に飲まれやすいから、もしかしたらその内…………いや寝取られモノは背徳的だけど、身近な女の子で想像するのはそれこそ心が痛むのでやめておこう。

 

 

「500円玉って、自販機の下に入っちゃったんですよね?」

「あぁ、そうだけど」

「それなら私が千歌ちゃんの代わりに取ってあげますよ! 身体が柔らかい方が腕も奥まで届くと思いますし」

「さっすが曜ちゃん! 毎日先生のためにトレーニングしてるだけのことはあるよ!」

「えっ、俺のため?」

「ちょっ、ち、千歌ちゃん!!」

「トレーニングって、どんな……?」

「そりゃあ、先生も身体が柔らかい方がいいですよね♪」

「もうっ、500円拾ってあげないよ!? このまま先生に身体を差し出す!?」

 

 

 何の話をしているのかは知らないが、1つ言えることは千歌の脳内がそこそこピンク色に染まっていることだ。実際に運転手以外が乗っていない無人バスで、千歌と一戦交えたのは記憶にも新しい。その一戦を仕掛けてきたのが千歌本人だから、その頃からヤバイ匂いはプンプンしてたんだけどな。さっきまで純粋な反応を示してたのはまさかのフェイクか……?

 

 そして曜も俺が教育実習をしていた当時からヤバめな面影があり、千歌ほど大胆でないものの雨の日の公園での出来事は多分一生忘れない。Aqoursから口淫をされた回数は数あれど、何気に彼女がトップバッターなのだ。一度ことりと出会ってしまった反動なのかは知らないけど、恋愛と同時にそっちの方向にも妙な積極性を持ち始めている気がする。そもそも俺のためにどんなトレーニングをしているのか、その内容が知りたいんだけど……。

 

 

「あはは、ゴメンゴメン。あとでアイス奢ってあげるから♪」

「その奢る金を俺に渡せば万事解決なのでは……?」

「仕方ない、それで手を打ってあげましょう」

「わーい!」

「聞いてねぇし……」

「それじゃあ始めますか」

 

 

 曜は自販機の下に屈みこむと、試しに軽く腕を自販機と地面の隙間に突っ込んでみる。だがそれでは500円玉の位置にまで手が届かなかったのか、今度は上半身を地面に着ける体勢となって腕を更に奥へと伸ばす。

 

 野外で四つん這いになっている女の子を見るだけで相当ドキッとする絵面だが、俺の興奮を瞬く間に煽ってきたのは曜の胸だ。高校二年生にしては発育の良い彼女の胸は、上半身を地面に着けている影響でその形が思いっきり潰れているのが分かる。しかも夏場で薄着のせいか、潰れた胸の肉が身体と地面の間から少しはみ出しているのが何とも性欲に来る。もちろん着衣状態なので生肉ではないのだが、思いがけないラッキーハプニングにもはやこの光景だけで500円以上の価値はあるだろう。何ならファンが数万数十万払ってでも拝みたいこの光景を500円ぽっちで拝んでいるんだから、それなりに気分も高揚していた。

 

 しかも、上半身が地面に着いているということは、当然ながら下半身はこちらに突き出ている。そうなればもちろんスカートの中身が見えそうになる訳で、というか俺が目線を少し下げれば完全に中身を拝むことができる訳で。毎日トレーニングをしている成果であろう引き締まった綺麗な脚と太ももを見ていると、普通の健全男子なら我慢できない訳で。しかも曜が腕を伸ばすたびに身体が動き、おしりがフリフリと揺れるのでこちらを誘ってくる訳で。更に先程のおっぱいがはみ出ている事故とスカートの中身が見えそうな事故を合体させると、それは襲ってくださいと言わんばかりの光景な訳で!!

 

 

 そうだよ、さっきも言ったけど俺はもう教師じゃないんだ! だから教師だから生徒に手を出しちゃいけない云々でもう迷わなくてもいいんだよ!

 えっ? 教師と生徒以前の問題だって? 性欲を失った男に魅力はないんだよ。はい論破。

 

 

 俺は一歩後ろに下がり、曜の様子と同時に千歌の様子を伺う。彼女は曜の手を500円玉に誘導する役割を担っているので、誰も俺を監視している者はいない。つまり曜のこちらに突き上げられた下半身、もっと言えばスカートの中をのぞき放題ってことだ。大人になった今でもこうして思春期の頃と同じことで興奮できるなんて、もう俺の思春期は一生終わらないかもしれない。それでもいいじゃないか、いつまでも若さを保てるんだからさ。

 

 そして、あとは目線を下すだけ。

 現役女子高生の生パンなんて教育実習で女子高に行った時すら滅多に見られなかったので、今この瞬間がいかに俺の欲求を滾らせているか分かるだろう。せっかく女子高に行ったのに田舎だからか清楚な子が多く、パンチラすらまともに拝めなかったその悔しさをここで全部発散してやる!!

 

 

 そう意気込み、目線を下げた――――――はずだった。

 

 

「わっ!!!!」

「うわぁああああああああああっ!?」

「きゃあっ!?」

「先生!? 曜ちゃん!?」

 

 

 目の前が暗い。一体何が起きたんだ……?

 いきなり後ろから驚かされて、その勢いで身体が前に倒れてしまったようだ。あれ? さっき俺の前にはおしりをこちらに突き上げた曜がいたんだよな? と、言うことは……俺の目の前に広がるこの白い布地、そして僅かな汗の匂いと妙に大人の匂いがする、その正体は――――――!?!?

 

 

「ふぇ……えっ!?」

「こ、これって、曜のおし―――――」

「せ、先生のバカぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「ぶがぁ゛あ゛ああああっ!!」

 

 

 俺は状況を察した曜に蹴り上げられ、軽く宙を舞ってそのまま地面に叩きつけられる。もはやこれまで幾多のラッキースケベからの制裁を受けていたためか、これくらいの衝撃では身体に何の支障もない。この状況に慣れて支障がないことを誇るべきなのかは別として……。

 

 そして地面に転がる俺の顔を覗き込む、金髪のチャンネーが1人。

 

 

「フフッ、先生のスケベ体質は相変わらずね! まさか一直線で曜のおしりに突撃していくなんて♪」

「鞠莉、お前の仕業か……」

「あったり~♪ みんなもいるよ!」

「みんな……? あ˝っ……!!」

 

 

 鞠莉の目線の先には、俺を冷めた目、呆れた目、顔を赤くしながら見ている子たちが集まっていた。

 そう、Aqoursのメンバーである。それぞれ三者三様の反応を示しながらも、無言で訴えかけてくる圧力はみんな揃いに揃っていた。

 

 あぁ、そういえばこれが神崎零先生だったな……と。

 

 

 

 

 さぁて、再開していきなり波乱な訳だが――――――どうしよう!?

 

 

 

 

 To Be Continued……

 




 本編では久々にAqoursの出演でしたが、前回のコラボ回にも出演していただけあってそこまで懐かしい感じはしないかも……?

 スクフェス編は一応μ'sをメインに進行していきますが、Aqoursもそれなりに出演させられたらいいなぁと思っています。もちろんA-RISEやSaint Snow、そしてまだ見ぬスクールアイドルも登場予定なので、その子たちとμ'sの絡みも期待していただければと。

 あと2週間ちょっとでサンシャインの2期も始まるので、私の小説でAqoursのキャラを思い出しておくのもいいと思います! えっ、性格がピンク色だって? そんな馬鹿な……(笑)



新たに☆10評価をくださった

由夢&音姫love♪さん

ありがとうございます。!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

先生でもあり恋人でもありセフレでもある

 Aqours登場編、その2。
 零君のことを先生呼びしていた千歌たちの心境に、今回で変化が……?


「それで? 先生はどうして曜ちゃんに痴漢していたんですか……?」

「痴漢でもセクハラでもない、勝手に視界に入ってきただけだ」

「先生に邪な心があるのなら同じです!!」

 

 

 この世の中も理不尽になったもんだ。最近は何でもかんでも痴漢に仕立て上げようとする風潮があり、女の子に肩が触れても痴漢、カバンなど身体の部位以外のモノが当たっても痴漢、挙句の果てには香水など特に不快でない匂いでも女の子の鼻に付けば痴漢など、もう男は外を出歩くことすらできない。そんな理不尽な社会で生まれて育ってきたこの子たちからしてみれば、俺の行為も立派な痴漢行為なんだそうだ。確かにパンツを覗きそうになったのは認めるが、あれは曜が見せつけてきたからであり、あのまま我慢していたら絶対に性欲を抑えきれず深夜番組展開になっていただろう。いわば性欲の正当防衛だったんだよ、あれは。

 

 まあそんな言い訳をしても、目の前で腕を組んで仁王立ちをしている梨子には全く通用しないんだけどな。千歌たちも呆れた目でこっちを見てくるばかりだし……。

 

 

「先生って、実は痴漢趣味ありますよね? 千歌と初めて出会ったバスの中でもそうですし、学院内でも数えきれないくらい……」

「ありますよねって聞かれて素直にウンと答えたら、それこそ精神異常者だろ! 俺は至ってノーマルだから!!」

「幽霊の女の子までオトそうとしてたのに?」

「幽霊姦を趣味にしてたら、それこそ友達どころか家族まで離れてくレベルだわ! 俺ならそうする」

 

 

 浦の星女学院の幽霊騒動を片付けるため、Aqoursと一緒に裏山に上って幽霊の女の子を成仏させた出来事はまだ記憶に新しい。あの時はみんなに憑依しようとした幽霊の子を止めるのに必死だったけど、会話の流れでいつの間にか惚れられていた。流石に幽霊との性行為で勃つ特殊性癖は持ち合わせてないので深夜番組展開にはならなかったが、身体付きだけは超エロかったと今でも鮮明に思い出せる。もう幽霊に対してエロいと思ってしまうあたり、やっぱり俺ってノーマルじゃないのか……? それにそもそも痴漢趣味もねぇし!!

 

 

「自分が偏屈な奴だってのは認めるけど、低俗だとは思ってないぞ。なぁルビィ?」

「ピギィッ!? は、はい、先生はなんだかんだ優しいってこと、ルビィも知ってますから……」

「ほら見ろ」

「先生!? あなたって人は、こんな幼気なルビィを脅して無理矢理自分を正当化するなんて……!!」

「もし仮に俺が低俗な存在だとしても、引くくらいにドシスコンのお前にだけは言われたくねぇ」

「な゛ぁ……!? 姉として妹を守るのは当然のことですわ!! ですよねルビィ??」

「えっ……えぇ!?」

「ほら先生もダイヤも、ルビィちゃん困ってるから」

「果南さん!!」

「あ゛ぁっ!? ルビィが果南さんに寝取られましたわ!?」

 

 

 果南がルビィの頭を撫でてやると、戸惑いの色を見せていた彼女の表情が一瞬で笑顔になる。もう果南の方がよっぽどお姉さんやってる気がするぞ……。

 対してダイヤはルビィがNTRされたことに衝撃を受け、石膏像のように真っ白になり硬直している。もはやコイツのシスコンは重度の難病なので今更言及する気も起きないが、こんなバカっぽいことをしているから生徒会長はポンコツという風潮が広がるんだと思う。Aqoursを結成する前はどこぞの金髪を彷彿とさせる冷徹で格式高い生徒会長だったらしいのだが、少なくとも俺が浦の星に教育実習へ行った時にはもう既にこんな感じだった。生徒会長の肩書が就職に不利なほど汚名なのは、恐らく俺たちの界隈くらいだろう。

 

 

「ねぇ善子ちゃん、マルたち練習合宿に来たんじゃなかったっけ……? こんな道端で遊んでいていいのかな……?」

「とりあえず他人のフリをするのが安定ね。せっかくスクールアイドルとして名が馳せてきたのに、こんなところでイメージダウンなんて溜まったものじゃないわよ」

「それは未だにそこでクスクス笑ってる金髪悪女に言ってくれ……」

「先生ひっど~い!! 久しぶりに会ったから、ちょっとしたサプライズをしてあげたのに!」

「そのサプライズのせいでこんなややこしいことになってるのにか……?」

「でも少しは嬉しかったでしょ? 曜のおしりの感触はどうだった?」

「顔がおしりの肉に挟まれて嘗て味わったことのない感触が……って、あっ!」

「うぅ……」

「あ~あ、先生が曜を泣かしちゃったぁ~♪」

「お前なぁ……ってか泣いてねぇし」

 

 

 泣くどころかむしろさっきよりも更に顔を真っ赤にして、梨子の後ろに隠れている。いくら淫乱色に染まりつつあろうとも、心はまだまだ純粋が大半を占めているようだ。まあそうであってくれないと、脳内ラブホテルとなったμ'sとAqoursを同時に相手をする想像だけでも怖気が走る。田舎の少女は垢抜けない幼気な少女が多いと聞くが、これからもそうあり続けて欲しいものだ。

 しかし俺を驚かせて500円玉を自販機下に葬った千歌や、曜に強制的にセクハラすることを強いてきた鞠莉には、羞恥心が破裂するくらいの粛清を与えてやりたいが。まあそうしたらそうしたで梨子がうるさい訳で……。

 

 

「はぁ……もうこの際、金の件は水に流すからセクハラの件も無罪にしてくれ」

「どうする曜ちゃん……」

「う~ん……ま、また私と2人きりでお出かけしてくれるならいいですよ!!」

「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

「えっ、えぇ!? みんなどうしたのその冷たい目!?」

「お前、みんなが揃ってるこのタイミングで恐ろしいこと言っちゃったな……」

「も、もしかして空気読めてませんでした……?」

 

 

 もう自惚れでもなんでもないから言ってしまうが、Aqoursのみんなは俺に恋愛方面の好意を抱いてくれている。そんな中で1人だけ俺とデートをするとなれば、当然残りの8人は曜が抜け駆けしたと思うだろう。しかもセクハラを種にして俺を逃がさないようにと、最初から計画していたと思われても仕方がない。そのせいでさっきまで俺に向いていた冷徹な目線が一気に曜へと集まり、雰囲気がプチ修羅場に様変わりした。

 

 いつもは俺を中心とした修羅場になるので、こうして自分が蚊帳の外になると安心すると同時に寂しくもある。もちろんこのまま他人の修羅場を見てメシウマするほど陰険な性格じゃないので、曜のためにもここは助け船を出してやるか。

 

 

「そんなことよりお前ら、どうしてここにいるんだ? 花丸がさっき練習に来たって言ってたけど、まさか……スクフェス?」

「えっ、先生スクフェスを知ってるんですか?」

「知ってるのは知ってるけど、やっぱりお前らも招待されてたのか」

「はいっ! 大規模イベントなので、これを機にAqoursの名を売ろうかと思いまして」

 

 

 とりあえず俺の質問で千歌たちの意識がこちらに移ったことで、曜は突き刺すような嫉妬の目線から解放された。そのことでお礼を言うように、曜は俺にペコリとお辞儀をする。

 

 プチ修羅場は難なく回避できたので、次なる話題はAqoursのスクフェス参戦に移る。

 やはりというべきか、俺の予想通りAqoursはスクフェスへの参入を決定していた。いつやらか東京でイベントに参加した時は結果が最下位と散々だったらしいので、今回はそのリベンジも兼ねているのだろう。

 

 

「参加するのはいいけど、まだ1か月半もあるじゃねぇか。こんなところで観光に洒落込んでていいのか?」

「開催まで期間があるからこそ、東京の雰囲気に慣れながら練習しようと思いまして。夏休み合宿というやつです!」

「なるほど。だったら俺に連絡くらいくれればいいだろ」

「いきなり出向いて先生を驚かせちゃおうって、みんなが」

「何言ってるの? 真っ先にそう提案したのは千歌ちゃんでしょ……」

「あ~ん! 梨子ちゃんそれは言わない約束ぅ……」

「先生に会える嬉しさで夜眠れずに、今日の集合時間に遅刻しそうにもなってたずら」

「は、花丸ちゃんそれは会心の一撃……!!」

 

 

 千歌は胸に銃弾を打たれたかのようにふらふらと電柱に身体を寄り添わせる。夜眠れなかった事実も遅刻した事実もAqours内で共有されるだけならまだ耐えることはできただろうが、実際にこうして事実の発端となった要因が目の前にいると、流石の千歌でも目をキョロキョロさせて戸惑っていた。だがそれは少なからず他のメンバーも同じようで、ふと梨子たちと目を合わせてみると、みんな頬をじんわりと染めつつ視線を逸らす。照れ隠しで千歌に矛先を向けているようだが、もう何年も数多の女の子と付き合ってきた俺にはそんな画策なんて通用しねぇから。俺に会える期待と緊張を抱いていることくらいお見通しだっつうの。

 

 

「とりあえず合宿でこっちに来てるのは分かった。で? どれくらい滞在するんだ?」

「えぇ~っと、3週間くらいですかね」

「は……? いやいや長すぎない!? 泊まる場所とかどうすんだよ野宿か?」

「実はですね、ダメ元で秋葉さんに泊まれるところがないか連絡をしてみたら、なんと空き家を用意してくださったんです!」

「秋葉が? でもまぁ、アイツなら家の1つや2つくらい余裕で買えるか……」

 

 

 秋葉はああ見えても世界の頭脳と呼ばれるくらいの才女である。研究の成果により俺たちの想像が付かないほどの莫大な貯金があるはずなので、そこら辺の適当な一軒家くらいならコンビニでお茶とおにぎりを買う感覚で購入できてしまうだろう。しかもアイツ、金を持っていてもそれを俺たちを貶めるような研究費にしか使わない上に、それでも湯水のように持て余している。だからこそ千歌たちに頼まれて家を貸してやったんだろうが、もはや自分の家族とは思えないほどの豪遊っぷりだ。わざわざ女子高生のため、しかもたかが3週間のために家を買って貸してやるって相当だぞ……? その優しさの裏に何か企んでないといいけどな。

 

 

「でも交換条件とか持ち出されなかったのか? 怪しい薬の被検体になれとか、物騒な玩具を作ったから実験台になれとか……」

「いや、むしろ先生の側に女の子が増えるのなら大歓迎だって喜んでましたよ……?」

「やっぱ何か企んでるんじゃないかそれ……」

「流石に考えすぎですよ~!」

 

 

 千歌もみんなもいくら秋葉とは言え、わざわざ家を購入してまで自分たちを貶めることなんてしないと思っているみたいだが、アイツに常識なんて通用しない。さっきも言ったけど、アイツにとっては家を買うなんて俺たちで言えば1円玉をドブに捨てる感覚と同じなのだ。それくらい金銭感覚が死んでいるので、俺たちで遊ぶためにわざわざ家を購入するのは何らおかしいことではない。むしろ今コイツらが滞在している家こそがアイツの実験道具の可能性がある。アイツに内緒で千歌たちをこっそり家から退去させた方が安全じゃないか……? みんなは秋葉と内浦で数回顔を合わせただけだから、まだアイツの恐ろしさを知らないんだよ。

 

 だからこそ、秋葉が快く家を貸してくれたと思い込んでいる千歌たちを説得する訳にもいかない。まあ何か起こったら起こった時に対処すればいいか。ただでさえμ'sの練習で忙しくなるっていうのに、これ以上面倒事で神経を使いたくない。こう見えてもエロが絡むこと以外は省エネ主義なんだよ、俺は。

 

 

「そうだ! 久しぶりに先生も顧問として、千歌たちの練習に参加してくださいよ!」

「おいおい、俺はもうお前たちの先生じゃないんだぞ? だから先生呼びもやめてくれ」

「それじゃあ何て呼べばいいんですかね……?」

「そうだなぁ、名前とか?」

「名前……ですか。神崎れ、れ、れ……うぅ……」

「どうして今頃恥ずかしがってんだよ!!」

「今まで先生のことを名前で呼んだことありませんでしたから、変に緊張しちゃうんです!!」

「3週間も一緒にいたのにそんなバカな……。なぁ梨子?」

「れ、れ……あ、あれ? その先の言葉が出てこない……」

 

 

 短期間とは言え、その期間はほぼマンツーマン状態で一緒にいたので名前で呼ぶくらい今更だと思っていたのだが、どうやら千歌と梨子にはハードルが高いらしい。多分それは俺がただの先生じゃなくて、想い人であることの方が大きいんだと思う。それでもここまで恥ずかしそうにするなんて想像もしてなかったし、下の名前を呼ぼうとするだけで緊張するってどれだけ純情なんだよ……。

 

 

「千歌も梨子も大袈裟なんだよな。なぁ曜?」

「えっ!? あっ、そ、そうですね、れ、れ……ぃ先生!!」

「どうして俺の名前のところだけ声小さいんだよ!? 果南は余裕だよな!?」

「えぇ~と……た、確かにちょっと恥ずかしかも……」

「お前まで!? 鞠莉!!」

「ふぇっ!? せ、先生は先生だしねぇ~……」

「俺の目を見ろ!! ダイヤ!!」

「と、殿方を下の名前で呼ぶ時は正式に婚約してからと思いましてですねはい……」

「早口すぎて聞き取りづらかったんだけど、ハードルが高いことは察したよ……」

 

 

 曜やダイヤはともかくとして、果南や鞠莉だったら名前呼びくらい余裕だと思っていたのだが、誰もかれもが顔を赤くしながら戸惑っていた。無理をするくらいならこの際先生呼びのままでもいいのだが、ここまで名前を呼ばれないとなるとそれはそれで虚しくなってくる。たった『(れい)』の二文字なのに、一文字だけしか口ずさめないなんて相当だぞ……。

 

 

「花丸!!」

「えっ!? あっ、あぁ……れ、れ……れ……れんこん!!」

「俺の名前の方が文字数少ないのに、どうして言えねぇんだよ……。ルビィ!」

「ピギィ!? うゅ……れ、れ……冷凍みかん!!」

「だからそっちの方が文字数多いだろ!! 善子!!」

「無理!!」

「最初から諦めんな!!」

「そんなこと言われたって、いきなり名前で呼べっていう方が無茶よ! そもそも男の人のことを名前呼びしたことないし……」

「あぁなるほど。大体分かった」

 

 

 今まで先生呼びで通してきたから、今更名前呼びは恥ずかしい。俺はみんながずっとそう考えていると思っていたから勢いに任せて呼ばせてみようとしてみたのだが、どうやら彼女たちにとって羞恥心の根幹はそこじゃないらしい。善子の話から察するに、Aqoursのメンバー9人全員は同年代の男とあまり喋ってこなかったのだろう。よくよく考えてみれば、コイツらは中学高校と女子高であり、同年代の男と接点を作ることさえできなかったのだ。小学生での名前呼びはガキの至りなので論外として、思春期真っ只中の中高生で男と接点がなければ、こうして俺の名前を呼ぶという行為が如何にハードルが高いのか分かる。

 

 つまり千歌たちにとって、俺との出会いは身内以外で初めて男性と濃密な接点を持つこととなり、しかもその相手が想い人なんだからそりゃ慎重にもなるわ。更に今まで先生呼びで一貫してきたからこそ、『(れい)』の二文字を発するのに焦りと緊張でドキドキするのだろう。もうみんながみんな頬を染めてそわそわしているため、冒頭で説教されていたシーンとは雰囲気がまるで逆になっていた。

 

 

「もう俺を先生と思わずに友達だと思ってくれていいんだぞ? そっちの方がお前らも親しみやすいだろうし。それでも無理なら兄でも父でも、なんならセフレでもいい」

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

「あ、あれ……? みんなの緊張を解すための冗談だったんだけど……? り、梨子、顔が怖いぞ……」

「冗談とは言え、一瞬でも生徒をそんな風に見ていたなんて……変態」

「うぐっ!!」

 

 

 梨子を始めとして曜や善子、果南、鞠莉からはまたしても冷徹な目でこちらを突き刺してくる。だが千歌や花丸、ルビィ、ダイヤは言葉の意味が分かっていなかったのか首を傾げていた。セフレの意味が分かっている子たちと分かっていない子たちの分類を見て、誰がどの程度低俗に塗れているのかが一目で分かる。特にふるいを掛けるためにセフレ云々発言をした訳じゃないけど、梨子たちからは蔑まれるし、千歌たちは意味が分からずぼぉ~っとしているので、結局ユーモアを利かせたつもりが全員に対して空振りに終わってしまう散々な結果となった。言っておくけど、マジでセフレにしたいなんて思ってないからね?

 

 

「と、とにかくだ! 今は無理でも、これからちょっとずつ慣れていけばいいから」

「だったら、千歌たちの練習に参加してくれるんですよね? ほら、先生が一緒にいないと名前を呼ぶ機会自体がないですし」

「あぁそのことなんだけど、μ'sの練習の手伝いをする羽目になっちまって……」

「「「えっ!? μ's!?」」」

「うぉっ!?」

 

 

 μ'sの名前を出した瞬間、千歌とダイヤとルビィのスクールアイドル熱狂ファン3人が俺の眼前にまで顔を詰め寄らせてきた。ていうか俺の名前を呼ぶことはできないのに、キスするくらいの勢いで顔を近付けることはできるんだな。コイツらの恋愛観というか、羞恥心を感じる基準が全く分からん……。

 

 

「μ'sって、あのμ'sですよね!?」

「まさかμ'sもスクフェスに参加されるのですか!?」

「解散したはずのμ'sを生で見られるなんて……ルビィ感激です!!」

「解散したのにスクフェスに参加するのは色々訳ありでな……。ともかく、俺が顧問をやってた時のように、付きっ切りでお前らの練習を見てやれないってことだ」

「それでも千歌は、また先生に指導していただけるだけでも嬉しいです!」

「俺もだよ。なんなら、μ'sと一緒に練習してみるか?」

「「「「「「「「「ッッ!?!?」」」」」」」」」

「あ、あれ……?」

 

 

 みんなは揃って恐れ多いと言った感じで首を横に振る。てっきり憧れのμ'sと一緒に練習できるからと大喜びすると思っていたのだが、どうやら千歌たちにとっては一度出会ったことがあるとはいえ、μ'sはまだまだ雲の上の存在であり憧れの有名人らしい。しかしμ'sの素行と実態は淫乱ちゃんや天然ちゃんの集まりでもあるので、もし彼女たちの現状をAqoursに見せたら一体どうなることやら……。しかしこちらからわざわざ千歌たちの理想を崩しに行く必要はないし、いくらμ'sが偏屈な集団であれ、彼女たちの存在が千歌たちのやる気に繋がっているのならそれはそれで咎める必要もない。

 

 

 ん? そういやμ'sで忘れていることがあったような気が――――――

 

 ………………

 

 ………………

 

 ………………

 

 あっ! そういえば!! アイツらに買い物を頼まれて買出しに行ってる途中だった!!

 しかも突然Aqoursと再会した驚きと彼女たちと話に花を咲かせすぎたせいで、μ'sの練習開始時間に遅刻していることに気付く。これじゃあ穂乃果たちが『私たちというものがありながら、他の女の子にうつつを抜かしていたんだねぇ……へぇ~なるほどなるほど』と、ヤンデレ混じりの圧力を掛けさせられるに違いない。ただでさえAqours内部でも修羅場が発生して緊張の糸が張り詰めていたのに、ここにμ'sまで加わったらもう俺の胃は穴が空くどころか破裂してしまうだろう。そうなる前に早急にアイツらのところへ戻らないと!!

 

 

 

 

「も~う! 零君どこにいるのぉ~?」

 

 

 

 

「な゛ッ……!?」

 

 

 

 まだ姿は見えないが、紛うことなき穂乃果の声がはっきりと聞こえてくる。もしやと思い咄嗟に携帯を見てみると、穂乃果を含めμ'sの面々から何度か不在着信やメッセージが飛んできていた。どうやら俺の行方を捜しに、ご丁寧にわざわざ捜し回っているらしい。ちょっと買い物が遅れているだけかもしれないのに律儀な奴らだとツッコミを入れながらも、この状況を抜け出すために俺は放置してあったビニール袋を両手にここから立ち去る準備をする。

 

 

「それじゃあもう俺は行くから!!」

「えぇっ!? 今から千歌たち練習するんです! 少しだけでいいので見ていってくれませんか? 用事があるのなら仕方ないですけど……」

「――と言いながらしっかり腕組みするんじゃない!! 離れろ!!」

「先生は千歌と腕組みするの、イヤですか……?」

「うっ……い、イヤとかそういう問題じゃなくてだな……」

「じゃあお付き合いしてください♪」

「そのセリフは勘違いするから!! ていうかお前、最初からこれ狙ってだろ!?」

「どうでしょうねぇ~♪」

 

 

 こうして腕組みされて、胸を押し付けられていると改めて思う。千歌の大自然で育った胸は、相変わらず豊満だと。割と着痩せするタイプなのか、こうして密着してみるまで本当の胸のボリューム感が分からないのはそれはそれでドキッとする。もちろんこんな状況でなければ、元生徒に鼻の下を伸ばそうが付き合っていたところだ。

 

 

「千歌ちゃんばかりズルいです……」

「私だって、先生と……」

「えっ? 梨子、曜!?」

「だ、だったらマルも!!」

「ル、ルビィもいいですか……?」

「アンタたち、先生はヨハネの眷属なのよ!!」

「ちょっと!?」

 

 

 千歌の大胆行動に触発されたのか嫉妬したのか、2年生と1年生たちも加わって俺の身体の周りが大混戦になる。女の子から求められるのは世界で一番嬉しいことなんだけど、さっきも言った通り修羅場になりそうな状況だから純粋に反応できない。梨子やルビィのように控えめに擦り寄ってくる子もいれば、曜や花丸、善子のようにそこそこ大胆に密着してくる子もいる。女の子の身体の至る部分が押し付けられてるせいで力が抜け、もう逃げ出そうにも逃げ出せなくなっていた。

 

 

「鞠莉、ダイヤ、果南! ヘルプヘルプ!!」

「先生ったら、私たちにも参加して欲しいだなんて♪」

「言ってない言ってない!!」

「公道でそんな破廉恥なことを……う~ん……」

「注意するか悩むかどっちかにしてくれ! 注意して欲しいけど!!」

「やっぱり、私ももっと大胆になった方がいいのかな……?」

「あれ、止めてくれる人がいない。詰んだ……?」

 

 

 3年生は直接俺に触れることはしないものの、メシウマ感覚でニヤニヤしてる金髪ハーフや、参加したいけど注意もしたい葛藤で悩んでる黒髪生徒会長、そしてこんなところで自身の性格を改めようとする青髪ダイバーと、誰1人この状況に水を差す者はいなかった。パンツ覗きにはメンバー総出で冷たい目を浴びせてくるくせに、ごく普通のハーレム現場には疑問すら抱かないんだな……。Aqoursも相当俺に色に染まってきていると見える。

 

 ていうか、今はそんな感心をしてる暇ないんだけど!? 早く逃げ出さないと穂乃果が来て――――――

 

 

「あっ、零君いた――――――って、えぇっ!? 女の子たちに揉みくちゃにされてる!!」

 

「あっ……」

 

 

 μ'sとAqoursが交差する時、物語は始まる。

 俺の物語は今にも終わりそうだけど……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 修羅場がまた新たな修羅場を呼んでしまうのも、ハーレム主人公がハーレム主人公たる所以なのかもしれません()
 そして、もし千歌たちからセフレでもいいから付き合ってと言われたら、皆さんならどうしますかね……?


 次回はμ's&Aqoursが交じり合い、遂に小説タイトルを回収する時が……!?



新たに☆10評価をくださった

紅葉さん、厨二乙さん、電伝坊主さん

ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

高坂穂乃果 in Aqours

 遂に穂乃果とAqoursがご対面!
 公式でも正式にμ'sとAqoursのコラボが決まりましたので、この小説でも穂乃果たちと千歌たちの絡みをもっと濃くしていかなければ……


 どうして俺はこうも不幸に苛まれるのか。一度その理由を分析したことがある。

 俺は占いや神頼みというものを信じていないため神様に嫌われているのか、それとも生まれながらに不幸を引き付ける体質なのか。もしかしたらその両方かもしれない。こうして次から次へと災難が降り注ぐのはアニメの主人公っぽく感じるが、俺はもっと平和に毎日を過ごしたいのだ。でも12股、いやもう21股と言っていいほど女の子を引っ掛けている奴が言えたことではないのかも……。

 

 今まさに修羅場が巻き起こりそうな状況なのにこうして賢者モードの如く冷静なのは、もう俺の日常が平穏ではないという悟りが脳から身体、心の奥底にまで染みついているからだろう。かつてヤンデレちゃんたちの殺戮劇を命がけで食い止めた過去があるが、もはや必然と言わんばかりに引き起こる修羅場だけはどう足掻いても食い止めることはできない。そもそも女の子同士の修羅場を形成するこの体質にももう慣れっこだし、今更取り乱すこともない。せいぜい俺の胃に穴が空かないことを祈るだけだ。

 

 

 ――――という訳で、千歌たちに抱き着かれている俺の元へ、穂乃果がやって来たところから今回のお話は始まる。

 

 

 穂乃果は目を丸くしながら、何も言わず俺たちをじっと見つめていた。

 さっきまで驚いていたはずなのだが、何を考えているのか今は冷静に俺たちの様子を観察している。千歌たちも憧れの高坂穂乃果が目の前にいるというのに、こんな状況を誰かに見られた衝撃の方が大きいのか、目を見開きながら硬直して穂乃果を眺めるばかりだ。

 

 その刹那、穂乃果がむっとした表情のままこちらへつかつかと歩を進めてきた。子供のように頬を膨らませ、明らかに怒ってますよアピールをするその様子は怖さを全く感じることはなく、むしろ可愛い。非常に微笑ましくはあるのだが、今は状況が状況なのでどうしてもほっこりとした気分にはなれない。買い物の途中で他の女の子と抱き合っている(一方的に抱き着かれているだけだが)と知られた以上、もうタダで帰れるとは思わない方がいいだろう。

 

 俺は徐々にこちらへ歩み寄ってくる穂乃果を見つめながら、息を呑み覚悟を決めた。もう煮るなり焼くなり、ラブドールにするなり性奴隷にするなり好きにしてくれ。

 

 

 ――――と思ったその時、千歌たちのものではない、新しい温もりが身体に伝わってきた。

 

 

「ちょっ、えっ、お前何を……」

「穂乃果のことを放っておいて、女の子とイチャイチャするなんてズルい!! だから穂乃果も参加する!!」

「はぁ!? お前この状況を見てズルいとしか思わない訳!? ほら、嫉妬で心がモヤモヤするとかさ」

「どうして? みんなで仲良くすれば、それでいいじゃん」

 

 

 どうやら穂乃果は俺が思っていた以上に天使で聖女であり、そして偏屈でおバカちゃんだった。まさか俺が女の子に抱き着かれている光景に怒りや嫉妬を抱かず、むしろ自分も参加するなんて言い出すとは……。まあそのおかげで修羅場を回避できたから天使なんだけど、それ以上に1人の恋する乙女としてその懐の馬鹿デカさはいいのか……? 本人がいいのならそれでもいいけどさぁ。

 

 穂乃果のこの反応にはAqoursのみんなも驚きで、もう憧れの穂乃果が目の前にいること自体も忘れているみたいだ。

 そりゃあ超有名なスクールアイドルのリーダーが、男に抱き着いている女の子に便乗して自分もなんて行動をし出したら誰でも何事かと思うだろう。しかも千歌たちにとって穂乃果はスクールアイドルのお手本のような存在であるが、そんな彼女がいきなりハーレムを肯定するようなセリフを吐くんだからもう思考回路がショート寸前に違いない。なんか俺が思っていた修羅場とはまた別の面倒事が起きているような……。

 

 すると、俺の腕の中でプルプルと震えている女の子が1人。

 みかん少女こと高海千歌は、現在俺と穂乃果でサンドイッチされている状況にある。片や恋に焦れる人、片や夢の先輩。恋や夢にとことん憧れる彼女なら、この状況に陥ったら最後、どうなってしまうのかはもうお察しだろう。あんぐりと開けた口から魂が抜けていき、幸せの絶頂で気絶してしまっていた。

 

 

「千歌ちゃん!? 久しぶりに会ったのにいきなり気絶って、穂乃果何が何だか分かんないよ!?」

「いやお前のせいだろ……」

「先生と穂乃果さんに挟まれるなんて……。千歌、このまま圧死していいかも……♪」

「ちょっとダメだよそんなこと言っちゃ!! 帰って来てぇええええええええええええええええ!!」

「穂乃果さんに触れてもらえるだけでも幸せ……♪」

「μ's好きも、ここまでとなると末期だな……」

 

 

 熱狂的なアイドル好きを悪く言うつもりはないが、今の千歌だったら穂乃果の捨てたゴミでも嬉しそうに拾うだろう。それくらい彼女は穂乃果やμ'sにご執心であり、同じスクールアイドルオタクの花陽やにこにも引けを取らないくらい好きなグループに関して暴走しがちだ。ステージでは自身も立派なスクールアイドルなのに、こんな姿を見ているとどうもスクールアイドルではなくただの女子高校生にしか見えねぇんだよなぁ。だってμ'sの話をしている時のコイツの姿は、まるでカバンにジャラジャラと缶バッジを付けているような俗に言う"ライバー"そのものだからさ……。

 

 このまま千歌をサンドイッチしていると本当に死んでしまいそうなので、とりあえず彼女を近くにあったベンチに寝かせておく。気を失っているようだが、涎を垂らして幸せそうにアホ顔を晒しているので多分心配はいらないだろう。まあ好きな男と憧れの先輩から同時に抱き着かれてこの世に未練はないと思うから、安らかに昇天してもらっても構わんぞ?

 

 そして、これでようやく1つ面倒事が片付いた訳だが……あとはアイツらだな。

 

 

「穂乃果さん!!」

「う、うん穂乃果だよ……。確かダイヤちゃん……だよね?」

「わ、私の名前をご存じだなんて!? 驚きで心臓が破裂してしまいそうですわ!! いやもう思い残すことはありません!!」

「千歌ちゃんもそうだけど、みんなもっと命を大切にしようよ!?」

「落ち着いてダイヤ。高坂さん混乱してるから……」

「果南さん!! あなたスクールアイドルとしての自覚はあるのですか!? スクールアイドル界の巨匠を目の前に、興奮しない方がおかしいのです!! 私なんて、携帯の容量がいっぱいになって壊れてしまうくらい、穂乃果さんの写真を撮りつくしたいのですから!!」

「今後他のμ'sの皆さんに会うかもしれないのに、高坂さんの写真で埋め尽くしちゃってどうするの……」

「あっ……。ま、鞠莉さん! あなたの財力で是非私の携帯の容量を無限に!!」

「ダイヤ、目が怖い……ほら、もっとスマイルスマイル……あはは」

 

 

 果南はともかく鞠莉にまで引かれるとは、ダイヤの奴いつも以上にアホさに磨きが掛かってんな……。ていうか好きなアイドルの写真でPCや携帯の容量を圧迫するなんて、見ようによってはストーカーにしか思えねぇぞ。それもただ遠くから見ているだけの無害なストーカーではなく、我慢を超えて手を出そうとする有害な方。言うなれば呟きアプリで声優に気持ち悪いリプライを送り付ける奴とやってることが同じような気もするが、今のダイヤに関わりたくないので黙っておくことにしよう。

 

 

「穂乃果さん!!」

「えっ、また!? えぇと、ルビィちゃん……だったよね?」

「わぁ~本物だぁ~♪ ただ立っているだけなのにオーラが凄いです!!」

「そ、そう――――って、しゃがみ込んでどこ見てるの!?」

「流石スクールアイドルのレジェンド、脚も綺麗です!!」

「あ、あまり下から覗き込まないで!! 下着見えちゃうから!!」

「ルビィって、こんなにエッチな子だったっけ……?」

「こんなルビィちゃんは初めて見たずら。変人度が善子ちゃんと同じくらいに……」

「ズラ丸、今なんて言ったのかしら……?」

 

 

 善子が変人なのは自明なので今更言及するまでもないにして、ルビィのハチャメチャっぷりは姉のダイヤにも匹敵するほどだ。俺だってルビィがここまで興奮して饒舌になっている姿は初めて見たぞ。普段は何をするにしても臆病で震えがちな声をしているのに、今はただのセクハラオヤジだからな……。本人はスカートを覗いているつもりはないのだろうが、この状況を録画しておけば確実に弁解は不可能だろう。いつもは引っ込み思案だけど情熱を注ぐものにはとことん注ぎ込むその姿勢は、μ'sの花陽に通ずるものがある。彼女の隠れた一面を速攻で引き出せるのも、もしかしたら穂乃果の力(?)なのかもしれない。

 

 

「あはは……ダイヤさんもルビィちゃんも凄いね。もし千歌ちゃんが気絶してなかったら、今日1日ずっと騒ぎっぱなしだったと思うよ。梨子ちゃんも叱ってばかりになって過労死しちゃってたかも」

「千歌ちゃんのμ's好きは知ってたけど、まさかここまでとはね。小さい頃からその趣味に付き合わされてた曜ちゃんに同情しちゃう……」

「穂乃果もこんな元気なファンは初めて会ったよ。だって穂乃果のやることやること1つ1つに感動するんだもん」

「許してやれ。アイツ、μ'sのライブ映像をテレビが擦り減るほど釘付けになって見てんだから」

「それになんたって、千歌ちゃんは高坂さんの大ファンですから」

「そういえば私たちが中学生の時、千歌ちゃん自分の部屋の壁に穂乃果さんのポスターを貼りまくっちゃって、お母さんやお姉さんたちに怒られてたなぁ~」

「あまり知りたくなかったよその話。それにどうして穂乃果の周りのファンは危ない人ばかりなの……?」

 

 

 それはあれだ、類は友を呼ぶって格言通りだと思う。癖が強い(おかしい)奴の周りには同様に癖の強い奴らしか集まらない訳だ。まあそんなこと言ってしまうと、俺の周りも相当変な奴らしか集まっていないんだけど……。しかも家族からして頭のネジがぶっ飛んでいる奴らばかりで、ブラコン妹に悪魔の姉、精神年齢が子供並みの母親に囲まれて、もはや日常に安らかな平穏を感じたことすらない。唯一まともなのは父さんだけだから、早くアメリカから帰ってきて欲しいもんだ。

 

 

「穂乃果。そういやお前、俺を探しに来たんじゃなかったのか?」

「あっ、そうだよ! 零君携帯に連絡しても全然返信がなかったから、わざわざ探しに来てあげたんだよ!?」

「ガキじゃあるまいし、ちゃんと帰れるっつうの」

「千歌ちゃんたちと抱き合ってたのに? 練習時間に遅れてるのに!?」

「うっ……!! あ、あれはお互いに再会を祝福しあっていただけだ。ほら、旧友との再会みたいな感じでさ」

「零君と千歌ちゃんたち、たった一か月ぶりじゃん」

「ぐっ、穂乃果のくせに正論ばかり言いやがって……」

「それじゃあ穂乃果が普段からバカみたいじゃん!!」

「お前よく言えたなそんな反論!!」

 

 

 世界は俺たちの想像もつかないほどに広いと言うけれど、世界各国どこへ行こうがそのツッコミに同意する者は1人もないないだろう。ここまで『お前が言うな』という言葉が使い時になる状況もないが、Aqoursのメンツは穂乃果の素行を知らないため、俺に同意をしてくれる人が誰もいないのが寂しいところだ。穂乃果に憧れを持っているこの子たちの夢を壊さないようにすべきなのか、それとも今後スクフェスでμ'sと絡む時のことを考え、事実を話して穂乃果に親近感を沸かせた方がいいのか……。いや、俺の口から穂乃果たちが淫乱ちゃんだと話す方が恥ずかしいか。

 

 

「零君、ほら帰るよ。みんな待たせちゃってるから」

「俺がいなくたって、練習くらい自分たちでできるだろ?」

「零君に指導されている方が効率いいんだよ。穂乃果たちだけで練習してる時よりも、やる気と団結力が上がってる気がするし!」

「気がするだけだろそれ……」

「分かりますそれ!!」

「わっ!? ち、千歌ちゃんいつの間に復活したの!?」

 

 

 どうしていつもいつもコイツは人に顔を(ちか)付けたがるんだ? 千歌だけに……。いや、さっきのは『近い』と『千歌』を掛けていて…………やめるか、千歌がオヤジギャグ言うから可愛いんだよこれ。

 

 それはそれとして、千歌はさっき起きたとは思えないほど目を輝かせて再び俺と穂乃果の間に割り込んできた。俺の教育実習生時代に浦の星の先生たちから聞いた話だが、爆睡してるコイツを質問を当てるために起こしてやったら、10分間は夢うつつ状態で使いものにならないそうだ。だからいっそのこと、浦の星に穂乃果を置いておけば千歌の学業が捗るかもしれない。いや、逆に穂乃果に夢中になりすぎてそれはそれで授業に集中できなくなるか……。

 

 

「千歌も先生に勉強を教えてもらうと、何故かやる気になっちゃうんですよね。山内先生たちの授業は眠くなるのに、先生の授業だけはずっとドキドキしてるっていうか……」

「穂乃果にも分かるよその気持ち! ダンスの練習中でも、いつもより可愛く見せなきゃって思っちゃうんだよね!」

「ですよね!? どうしてなんでしょう、先生?」

「俺に聞くなよ」

 

 

 その理由は大体察しているのだが、穂乃果と千歌は鈍感過ぎて全く気付いてない。俺に見られているからこそ頑張ろうとしているんだよ、と教えてやるのは簡単だけど、それを言ってしまうと今後の練習で俺のことを過剰に意識してしまいそうなので敢えて黙っておく。まあ俺に見られてるから頑張ろうなんて思うのは、この2人だけだろうけど。

 

 

「穂乃果も千歌も似た者同士っていうか、大袈裟っていうか。梨子もそう思うよな?」

「ふぇっ!?」

「な、なにその反応……」

「いや、あのぉ……別に千歌ちゃんや高坂さんに共感できない訳ではないと言いますか……」

「お前もか!!」

「私もというより、恐らくみんなそうだと思いますけど……」

「えっ……?」

 

 

 他のみんなを見てみると、俺に真意を知られたのが恥ずかしいのか頬を染めながらそっぽを向いていた。熱心に練習をしていたのは夢のためではありつつも、俺に見られているから可愛く見せようという純粋な乙女心もあったらしい。もしかして穂乃果以外のμ'sメンバーもそうだったりするのかな……? だとすると、それだけ自分が求められているってことだからむしろこっちが照れくさい。あぁなるほど、だから千歌たちは俺を自分たちの練習に引き込もうとしてたのか。

 

 

「そうだ! だったらいっそのこと、μ'sとAqoursで合同練習すればいいんだよ!」

「えぇっ!? そんなの恐れ多いですって!!」

「あの穂乃果さんたちと練習!? 普段の自分を発揮できるか心配ですわ……」

「ルビィも嬉しさで腰が抜けて、練習に身が入らなさそうです……」

「みんな謙遜しすぎだって! 穂乃果たちそんな崇められるほど凄くないから」

「そうだな。穂乃果は宿題忘れに寝坊、食いすぎでダイエットなんて日常茶飯事だから」

「もう零君!! 余計なことは言わなくていいの!!」

「崇められるほど凄くないってのを証明してやっただけだ」

 

 

 さっきは千歌たちの夢を壊さないように意識していたのだが、前言撤回。千歌やダイヤ、ルビィがあまりにも創造的な夢を見すぎているため、ここは敢えてその幻想をぶち壊してやろうと思う。まあ大人の世界ってのは夢を語らず現実を思い知らされる世界だから、いくら温厚な俺であっても容赦はせんぞ?

 それに虚構の世界の穂乃果に夢を見るくらいなら、しっかりと現実の穂乃果に目を向けて欲しいという一応まともな理由はあったりする。こうでもしておかないと、これからμ'sと顔を合わせるたびにコイツらの暴走を見なくちゃいけないからな。流石にそれはうるさいし、話の尺も使うしでデメリットしかない。正直μ'sが大人になったと言っても、精神年齢はそこまで高校時代の頃と変わってない奴が多いからそこまで崇めるような存在ではないんだけどね。

 

 

「私は別にμ'sと一緒に練習しても構わないわよ。せっかく東京に来たんだし、いつもの練習方法とは趣向を変えた方がいいと思うけど」

「善子ちゃんがまともなこと言ってる……」

「アンタねぇ、いちいち私を虐げないと気が済まないの!? ていうか私の時だけドSになるのやめなさいよ!!」

「ゴメンゴメン♪ でもマルも善子ちゃんの意見には賛成ずら」

「私も賛成かな。千歌たちがまともに練習できるかは怪しいけど、やっぱりスクールアイドルの先駆者から教わることはたくさんあるだろうしね」

「私たちの周りにはスクールアイドルなんていなかったから、μ'sからTeachingしてもらるのなら乗らない手はないかも♪」

 

 

 千歌、ダイヤ、ルビィのスクールアイドル好き3人は、μ'sを美化し過ぎているためか一緒に練習することにビビっているが、他のメンバーはかなり積極的な様子だ。善子や果南の言う通り、μ'sのメンバーが変人ばかりだと言っても一応ラブライブの優勝実績のある奴らだ。一緒に練習することで何かは学ぶべきことがあるだろう。それに鞠莉も言っていたが、Aqoursは自分たちの周りにスクールアイドルがいない状況で結成されて育ってきたグループだ。つまりこうして他のスクールアイドルと触れ合うこと自体が珍しい。μ'sもA-RISEに触発されたことで成長してきたことから、今回の合同練習はAqoursにとって絶対に意味のある経験になるだろう。

 

 まあその合同練習を柵なく執り行うためには、まず千歌たちの興奮を抑えないとな……。

 

 

「梨子ちゃんも曜ちゃんも本当にいいの!? μ'sのライブを生で見てしまったら最後、千歌たち自分たちの未熟さを思い知らされて、そのまま暗黒面に堕ちちゃうかも!!」

「漫画の見すぎだから……。むしろその経験をバネにして、Aqoursをもっと成長させていけばいいんじゃない?」

「それにスクフェスではスクールアイドル同士の合同ライブが行われるから、当日いきなりμ'sとライブをしろって言われるかもしれないよ? そうなったら千歌ちゃん、μ'sの皆さんに動きを合わせられる自信ある?」

「μ'sの皆さんと合同ライブ!? 同じステージで同じ歌、同じダンスを……うぅ~テンション上がってきた!!」

「練習がダメでライブはいい理由が分からないんだけど……」

「千歌ちゃんの場合は、ぶっつけ本番の方が緊張しないのかもね」

 

 

 練習の時はμ'sのファンとして彼女たちを眺めることになり、ライブの時は一緒に歌って踊る仲間としてμ'sを見ている。恐らくだけどそういった千歌の認識の違いだろう。俺としてはAqoursのソロライブ時に、μ'sが観客となっている状況で千歌たちがまともに動けるのかが心配なのだが、その克服を含めての合同練習なのだ。

 

 だがそれ以前に、現在深刻な問題がAqoursではなくμ'sに重く伸し掛かっていた。

 ここ最近の練習で判明した事実なんだけど、多分今のμ'sはレジェンドの名を返上しなければならない事態に陥っている。それを解決するまでしばらく合同練習はお預けになってしまうのだ。

 

 

「大きく見積もっても一週間後だな、合同練習ができそうなのは」

「えっ、どうしてですか?」

「いやぁ実はね、穂乃果たち長年のブランクで――――――運動不足なの♪ あはは……」

「運動不足!? 穂乃果さんたちがですか!?」

「だってμ'sが解散してからまともに身体を動かしてこなかったし……。日頃から身体に気を使っている海未ちゃんやにこちゃんは別としても、穂乃果たちがねぇ……」

 

 

 そう、これがすぐに合同練習を執り行えない深刻な理由だ。もう合同練習どころか、μ'sとしての存続も危ぶまれるくらいの実態に海未やにこも呆れるしかなかった。先日の練習で判明した驚愕の事実に、まずはあの頃の運動神経を取り戻すためのストレッチやトレーニングから始めるという、ライブの練習をいつするんだと危機感を抱いてしまうくらいには今のμ'sのレベルは落ち込んでいる。もしμ'sとAqoursでスポーツ大会を開いたら、確実にAqoursの圧勝で大会の幕を降ろすことになるだろう。μ'sにとって、4年のブランクはそれくらいにキツかったのだ。

 

 

「そう、だから穂乃果たちはライブの練習よりもまず身体を柔らかくする練習から――――――って、あぁそうだ!? みんなを待たせちゃってるの忘れた!!」

「あぁ、そういえば」

「あ˝っ、穂乃果の携帯にもみんなから連絡が来てる……。絶対に怒られるぅうううううううううううううううう!! ということで、帰るよ零君!!」

「お、おいっ!? 手首握りしめんな痛ぇだろ!?」

「それじゃあみんな、穂乃果たちの運動神経が復活するまで待っててね! ほら零君、モタモタしてないで早く!!」

「うぉああああああああああああああああああああああっ!?」

 

 

 そんなこんなで千歌たちが唖然としている中、俺は穂乃果に連れ去られてμ'sの元へ戻ることとなった。運動不足を感じさせないような全速力で、俺の身体は宙に靡く形で穂乃果に引っ張られていた。

 こんなドタバタと騒いで時間を浪費して、本当に合同練習できるくらいに運動不足が解消できるのだろうか……? 残り一か月半でその課題を解決して、ライブの練習をして、合同練習をしてとなると――――――あれ、時間足りなくね?? Aqoursの登場でμ'sも盛り上がるだろうから、練習の時間があるのか余計心配になってきたぞ……。

 

 

 そして、ポツンと残されたAqoursは――――

 

 

「運動不足であれだけ早く走れるなんて、やっぱりμ'sは凄いよ!!」

「感激してどうするの……」

 

 

 とりあえず、AqoursもAqoursでμ'sの前で緊張しないよう精神を鍛えてもらわないと。

 μ'sもAqoursも課題が山積みだなこりゃ……。

 

 




 これからしばらくはμ'sとAqoursのキャラを混合させた展開が続く予定です!
 前書きでも言ったのですが、公式でも正式にμ'sとAqoursのコラボが決定したそうで。まさかの同じ学年で同じ時系列という設定には驚きましたが、一応時系列に則しているこの小説と設定が被らなくて良かったなぁと地味に安心しています(笑)

 サンシャインの2期ももう少しで放送開始されるので、どちらも期待して待っていましょう!

 次回は今回とは逆で、千歌がμ'sに殴り込み!?



新たに☆10評価をくださった

HANEKAWA-sanさん

ありがとうございました!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

千歌・ミーツ・μ's

前回は穂乃果 in Aqoursでしたが、今回は千歌 in μ'sです!
憧れの先輩たちを前に、千歌は自我を保っていられるのか……?


 穂乃果がAqoursと邂逅した翌日、俺は千歌を引き連れてμ'sの練習場である神社に向かっていた。

 こんなことになったのは、昨晩の彼女の電話が原因だ。どうやら今日はAqoursの練習が午後からであり、午前中は東京観光なり休憩なり個人の自由時間らしい。その自由時間に千歌がμ'sの練習を見学してみたいと申し出てきたので、翌日俺は急遽μ'sの練習を抜け出して千歌を迎えに行った――――てな感じである。

 

 千歌がこれまで出会ったμ'sのメンバーは穂乃果と楓、にこの3人。つまり他の9人とは初対面になる。

 だから期待を膨らませすぎて死にそうになっているんじゃないかと懸念していたのだが――――――

 

 

「あぁ~緊張する緊張する緊張する緊張する緊張する緊張する緊張する緊張する緊張する緊張する」

「連発で緊張するって言えるその肺活量がすげぇよ」

「もう先生! ちょっとくらい励ましてくれてもいいじゃないですかぁ!!」

「だったら行くのやめるか? μ'sのところ」

「い、行きます!! μ'sの練習を見せてもらういい機会なのに、ここで引き下がる訳にはいきません!!」

「どうしてそんなに情熱的なのに緊張してるんだか……」

 

 

 俺の予想とは裏腹に、千歌は興奮してテンションMAXどころか普段のルビィのようにビクビクしていた。ようやく憧れのμ's全員と対面できるのに、こんな調子では穂乃果たちの前に出られるのかどうかも怪しいぞ……。そういや穂乃果がμ'sとAqoursの合同練習の提案を持ち出した際にも、梨子たちが前向きに検討する中でコイツだけは恐れ多さでやけに否定的だったな。もはや千歌にとってμ'sはただの憧れではなく、手が届かないほどに神格化された存在なのだろう。でなけりゃたかが大学生のスクールアイドルに会うだけでこんなに緊張しないから。

 

 

「あっ、自己紹介考えてなかった!! 旅館の娘です……はインパクトがないし、みかんが好き……それはみかんが苦手な人に嫌われちゃうかもしれないよね。そうだ、Aqoursのリーダーやってます……とかどうでしょうか?」

「そんなのみんな知ってるから! 宴会中の自己紹介じゃあるまいし、普通でいいんだよ普通で」

「あっ、先生に告白して、先生から告白された経験があります!!……とか?」

「あれは告白じゃなくてただ想いを伝えただけだ!! それに一応そのことはまだ誰にも話してないんだから、絶対に言うなよ」

「えっ、そうなんですか? てっきりμ'sの皆さんには話してると思いました」

 

 

 言える訳ねぇよなぁそんなこと。だってμ'sのみんなと付き合っていることさえAqoursのみんなに話してないのに、Aqoursのみんなに告白紛いなことをしたってバラしたらそれはもう……うん、大変なことになるぞ。俺としては女の子に恋愛絡みで隠し事をしたくないのだが、こればっかりは許してくれ。今話したら1日の尋問では済まないどころか、Aqoursのみんなにも俺がμ'sと付き合っていることが明るみになってしまう。面倒事を増やさないためにも、その事実を伝える機会は俺に任せて欲しい。

 

 

「あそこだよ。μ'sがよく練習場所にしてる神社ってのは」

「わぁ~緊張してきたぁ……!! 心臓がバクバク言ってるのが聞こえるし、今までやってきたどのライブよりも緊張してるかも……」

「脚震えてるし……」

「あぁっ!? そういえばサイン色紙持ってくるの忘れてた!! どうしようどうしようこの服に書いてもらってもいいかな? あっ、でもでもそれだと洗濯した時に落ちちゃうじゃん!! あぁ~もうっ、どうしようぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

「どうするもこうするも、穂乃果たちにはお前が行くって伝えてあるんだから行くしかねぇだろ」

「わぁああああああああああああああ尚更私への期待が高まっていくぅうううううううううう!!」

「うるさ……」

 

 

 千歌は頭を抱えながら辺りをのたうち回っていた。憧れの先輩たちに会うっていうんだから気持ちは察せないこともないが、通行人たちが俺たちを精神異常者を見る目で見てくるので俺としては巻き込み事故もいいところだ。それにあまりにも遅刻をすると、また穂乃果たちから女の子を引っ掛けて遊んでいたと思われるから早く行きたいんだけど……。

 

 

「わ、分かりました!! いい加減に覚悟を決めます!!」

「どうした急に……」

「人生最後の戦いだと思えば奮い立ちました!」

「μ'sに会うだけでどれだけ魂賭けてんだよ……」

 

 

 海外のハリウッドスターじゃあるまいし、μ'sなんて東京に来ればコンビニに遭遇するくらい余裕でエンカウント可能な奴らだぞ……? 俺としては家族と同等なくらい近しい関係となっている彼女たちがここまで美化されると、それはそれで違和感を抱いてしまう。もうこの感覚については一生千歌と感性が合わないだろう。

 

 気合を入れはしたものの未だに脚が震えている千歌は、神社前の長い石段を一歩一歩踏み締めるように上っていく。μ'sの練習場としても使われていたこの地獄階段を自分の足で感じたいって気持ちがあるらしいが、本当は神社に到着するまでなるべく時間を稼いで緊張を解したいと思っているに違いない。その証拠に神社に近づくたびに千歌の汗の量が増え、1人ではドキドキに耐えきれないのか俺の身体に擦り寄ってくる。女の子からくっついてくるのは嫌いじゃないけど、このまま神社に着いたら穂乃果たちからどんな目で見られるのか想像すらしたくない。ただでさえ昨日Aqoursと遊んでたことがバレて微妙な空気になったっていうのに……。特にお説教などの罰はなかったが、やっぱり修羅場のような張り詰めた空気は俺が耐えられないから。

 

 

 階段ももう少しとなってきた。階段の頭から神社の様子が見え始めるのと同時に、穂乃果たちの姿も視界に映る。だが千歌は穂乃果たちが見えたことで余計にビビってしまい、さっきまで俺の横で服の裾を掴んでたのにいつの間にか後ろに回り込んでいた。俺の身体を盾にするように階段を上り、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。

 

 そして、遂に神社へと到達する。

 穂乃果たちは雰囲気で俺たちが来たのを察したのか、ストレッチ中にも関わらず全員が一斉にこちらを振り向く。俺の背中に隠れている千歌も同じ気配を察したらしく、まだ穂乃果たちをその目に捉えていないのに身体をビクッとさせていた。つうか千歌が震えているせいで、くっつかれている俺が武者震いしてるみたいになってんだけど……。穂乃果たちに何か後ろめたいことがあると勘違いされそうだろこれ。

 

 

「あっ、零君おそーーいっ!! 穂乃果たちもう練習始めちゃってるよ!」

「いや、まぁ……ここに来るまでの障害が険しすぎたんだよ。俺じゃなくてコイツがな」

「コイツ……? そういえば、Aqoursのリーダーさんを迎えに行ったのではないのですか? どこにも姿が見当たりませんが……?」

「もしかして零くん、早速その子に手を出してヤリ捨てちゃったとか……!? もうっ、ことりならいつでも相手になってあげるのに♪」

「自分からヤられにくる奴に言われても……。そんなことより、ちゃんといるよここに」

 

 

 俺の背中に隠れて丸まっている千歌を引きずり出そうとするが、服を掴んで必死に抵抗してくるためまだ緊張は解れていないようだ。それどころか穂乃果たちの声を聴いてより興奮してしまったみたいで、既に頭から湯気が立ち上っていた。

 

 

「まさか、そこにいるのかしら……?」

「絵里、大正解。さっきからずっと恥ずかしがって俺から離れてくれねぇんだよ」

「なるほどねぇ~にこの魅力にメッロメロになっちゃった訳ね♪」

「にこっちの場合、背丈が低くて高校生にも見えるから、逆に親近感沸いてくれるんと違う?」

「はぁ!? こちとらマジモノのアイドルなのよ!? ここにいる誰よりも大人のアイドルなの」

「大人なアイドルって、なんかエッチな響きに聞こえん?」

「それはアンタの脳内がエロいだけでしょうが……。それより、その子大丈夫なの?」

「高海さん。絢瀬絵里だけど……そもそも喋れるのかしら?」

「――――!?!?」

 

 

 もはや絵里に声を掛けられただけで悶絶する千歌。何故か涙目になりながら声を上げることもなく、ただ俺の服を爪痕が付きそうなくらいのパワーで握りしめあたふたしていた。絶景を見ると声が出ないほど感動するというが、千歌にとってはμ'sのメンバーがフルの12人揃っているこの光景こそが何よりの絶景なんだろう。涙を流してるのは感動しているのか、それとも声をかけてもらえた嬉しさなのかは知らないけど、1つ言えるのはこのままだとコイツがショック死しそう……。

 

 そんな中、俺と千歌の背後に忍び寄る影が1つ。

 

 

「えいっ!!」

「いぎゃぁ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 千歌は背中に冷水を垂れ流されたかのように、身体を震わせて飛び上がる。

 それもそのはず、凛が千歌を後ろから丸め込む形で抱きしめたからだ。あれだけ緊張していた千歌のこと、背後からいきなり襲い掛かられたら肩を指で突くだけでもビビッて失禁してしまうレベルだろう。いや、もうμ'sに会えた緊張と感動で濡れてるかもしれないけど……。

 

 

「そんなに大声で叫ばれると、凛がお化け屋敷のお化けみたいだにゃ……」

「あ˝っ……!! り、凛さんに抱き着かれてる……!!」

「そんなに嬉しそうにされると照れるよぉ~♪ そうだ、かよちんもおいでよ!」

「え、えぇ……だって高海さん、今にも昇天しちゃいそうなんだけど……」

「いくら私が医者志望だからって、目の前で幸福死した人なんて面倒見れないから。凛がしっかり介抱するのよ」

「真姫ちゃんが冷たい!? ご、ゴメン千歌ちゃん!!」

「いいえ……むしろ嬉しすぎて、このまま一生凛さんの腕の中で過ごしたいですぅ……♪」

「もう手遅れかもね……」

 

 

 さっきまで心臓が飛び出るくらい驚いていたのに、今はのほほんとした表情で凛の腕の中を堪能している千歌。相変わらず感情の起伏が激しい彼女だが、その性格ならばμ'sに打ち解けやすいと思っている。今後μ'sとAqoursの合同練習が行われるたびにこうして騒ぎ倒す訳にもいかないから、早いところこの状況に慣れてほしいものだ。

 

 

「Aqoursのリーダーだからどんな人かと思えば、なんだかお姉ちゃんみたい。ほら、性格とか髪の色とか似てるし」

「確かに! でも元気いっぱいの子は私も大好きだよ♪」

「か、感激!! μ'sの天使である亜里沙さんに好きだと言ってもらえるなんて!!」

「天使だなんて、そんなの大袈裟だよ~!」

「何言ってるんですか!? μ'sのシスターズを言えば、クール系の雪穂さん、天使系の亜里沙さん、ギャル系の楓さんで有名なんですよ!?」

「ちょっと待って! どうして私がギャル系なの!? どこからどう見ても清楚系妹キャラでしょ!!」

「清楚?」

「清楚……?」

「雪穂も亜里沙も、あとで神社裏ね……」

 

 

 そうか、だったら俺も神社裏に連行されるわ……。

 シスターズは正式にその名前で活動していないが、μ's内の妹キャラ3人として名を馳せた結果、ファンたちが名付け世間に浸透した異名だ。公式でその名を使用したことはないので、シスターズの名を知っているのは相当なμ'sファンという証でもある。可愛げもありながらクール系でもある雪穂と、おっとり天然天使系の亜里沙、そして世間からは高校生なのにアダルティ過ぎるからとギャル系を与えられた楓。そのキャラ付けでファンの間ではシスターズとして名が通っている。

 だが、楓のセリフからも分かる通り本人はギャル系であることを否定している。もちろん彼女は誰よりもファッションやメイクに気を使い、イマドキ女子の最先端を走る女の子なのでギャル呼ばわりされても仕方ないと言えば仕方がない。でも清楚系と言われたら、ことりが清純だと言い張るのと同レベルで否定してやる。近親相姦願望持ちの妹なんかに、清楚の"せ"の字も存在しないから。

 

 

「す、凄い……。改めて見ると、こうしてμ'sが全員集合している光景を生で……素敵すぎる!!」

「この状態で感激するのなら、生でライブを見たら本当に死んじまうんじゃねぇか……?」

「大丈夫です! もう感動で昇天過ぎて、死地を乗り越えましたから!!」

「穂乃果から話は聞いていましたが、こうしてファンから素直に褒められるのは嬉しいものですね」

「でしょ? それに千歌ちゃんは穂乃果たちのライブ映像を穴が空くほど見てるらしいから、もしかしたら穂乃果たちよりも上手く踊れるかもね!」

「そ、そんなことないですよ! 私なんて精々コッサクダンスあたりが関の山です!」

「それはそれで凄いと思いますが……」

 

 

 曲芸師じゃあるまいし、もっと自分の歌と踊りをアピールしたらいいのに。μ'sはμ'sでもちろん凄いが、AqoursもAqoursでμ'sには出せないフレッシュな色が出せていると思うぞ。その点については花陽や亜里沙など、千歌たちと出会う前からAqoursのファンだった彼女たちのお墨付きでもある。まあ自分自身が褒められている状況で、更にAqoursの曲まで褒められたら千歌がどうなってしまうのかは大体お察しだろう。

 

 

 そういや、いつの間にか千歌のテンションがいつも通りに戻ってるな。穂乃果たちが想像以上にフレンドリーで近しい存在と認識したのか、もはや俺を盾にμ'sと喋ることはなく、普通に前へ出て友達感覚で談笑し会っている。

 彼女が抱いていた当初のμ'sの印象は、星のように手の届かぬ存在。だがこうして直接会って話してみると、若干歳の差はあれどジェネレーションギャップすら感じないくらいの微々たる差で、まさに親友のように接することができた。だからこそ千歌の緊張も知らぬ間に溶けていったのだろう。まあ案外話しかけづらい高嶺の花みたいな女の子に限って、喋ってみるといい奴だったりするんだよな。海未とか絵里とか、お高くまとまっている子であってもちょっぴり抜けていて可愛いところもあるし。

 

 

 千歌が穂乃果たちと談笑して場が温まっているところで、絵里が俺の元へやって来た。

 

 

「それで零、彼女は私たちの練習に参加するのかしら?」

「いや、本人が見学でいいってよ。いきなりμ'sの中に飛び込んで練習するのは、ドキドキして集中できないんだってさ」

「そう、だったら仕方ないわね。そもそも今の練習は運動不足解消が目的だから、彼女からしてみたら見学でもつまらないかも……」

「そんなことないです!!」

「ひゃっ!?」

 

 

 いきなり背後から大声で否定され、絵里は数分前の千歌のように身体を震わせて驚く。特に彼女の怖いモノ嫌いは大人になっても治っていないため、こうしてドッキリ行為をされるとピュアに驚いてしまうのだ。

 対して千歌は緊張から解放されたのか、今度はテンション高々な勢いでμ'sを圧倒する側に回っている。現に今の彼女はどこに感動する要素があるのかは知らないが、両手で絵里の右手を握って目を輝かせていた。神社に来る前は借りてきた猫以上に丸まって泣きそうになってたのに……。まあ、こっちの方が千歌らしいけどね。

 

 

「私は皆さんの練習が見られるだけで満足なので、私の存在なんて気にせずいつも通りにやっちゃってください!」

「そ、そう……? 私を含め運動不足の子たちが多いからそこまで大っぴらな練習はできないけど、それでもいいなら是非見学してってね♪」

「はいっ、ありがとうございます!」

 

 

 そして俺と千歌は、神社の縁石に腰を掛けてμ'sの練習を見学することにした。

 ほんの数日前にスクフェスに向けμ'sの練習が開始されたのだが、さっき絵里が言っていた通り、やはり4年のブランクと運動不足が響いてまともに練習するどころではなかった。まともに身体を動かせるのは現役でアイドル候補生のにこや、朝の鍛錬を欠かさない海未、運動が趣味の凛くらいだ。だからしばらくの間は身体を慣らすためのストレッチを主として、時たまライブに向けての練習をするプランとなっている。どうもこうもスクフェスまでは残り一か月半と期間はそこまで長くないので、多少身体にムチを打っても本番の練習は今からでもしておかないといけないのだ。

 

 穂乃果たちの動きがぎこちないのはスクールアイドル素人の俺目線でも分かるけど、千歌の反応はどうだろうか……?

 

 

「わぁ~~♪」

「あぁ、やっぱり……」

 

 

 問題があるどころか、目に星マークを浮かべるほど千歌はμ'sの練習に没頭していた。しかも座っているのに身体が大きく前のめりとなっているため、そんなに近くで見たいのなら参加すればいいのにと思ってしまう。口を開きながら目を輝かせるその姿は、まさに少女がお姫様に憧れる表情そのものだった。

 

 

「やっぱり穂乃果さんを見ていると、私も元気貰えちゃうなぁ~♪ ことりさんの独特な歌声にも癒されるし、海未さんのカッコイイ姿に惚れ惚れしちゃいますよね!?」

「いや、男の俺に聞かれても……」

「花陽さんの笑顔も優しくて素敵! それに凛さんの動きの機敏さや、真姫さんの綺麗な歌も見習いたいですよね!?」

「だから、俺に聞かれても……」

「絵里さんのモデル体型から繰り出されるあの優雅な動き! 希さんのセクシーな身体で織りなすダンス! そして現役アイドルのにこちゃんの愛くるしさ! もう最高すぎるぅ~♪ ですよね?」

「取って付けたように質問すんな……」

「雪穂さんの運動不足とは思えないほど整ったあの動き、まさにクール系! そして天使の笑顔で抱きしめたくなる亜里沙さんに……あと楓さん!」

「ちょっと! どうして私だけ誉め言葉がないの!?」

「言葉を失うほど魅力が凄いってことですよ!!」

 

 

 たった数分間μ'sの練習を見ただけで12人個々人の特徴をここまで端的に伝えられるとは、やはりμ'sのライブDVDを焦げるまで視聴していただけのことはある。千歌は子供の様に足をバタバタとさせ、ただの練習風景なのにライブを見ているかのような興奮を感じているみたいだ。

しかしこの感動具合、やっぱ仲間に入りたいんじゃねぇのか……?

 

 

「ねぇねぇ千歌ちゃん!!」

「は、はいっ!」

 

 

 穂乃果が現在絶賛絶頂中(意味深ではない)の千歌に向かって声を掛ける。他のみんなをチラッと見て微笑みでアイコンタクトを取っているあたり、μ'sのみんなに何かしらの考えがあるみたいだ。

 千歌はまさか練習中に声が掛かると思っていなかったのか、感動で緩み切っていた表情が一瞬で素に戻った。そこから更なる衝撃に堕とされるとも知らずに……。

 

 

「来てくれたのに見学だけじゃ申し訳ないから、せっかくだし穂乃果たちと一緒に練習しようよ!」

「凛も元気いっぱいの千歌ちゃんと一緒に練習したいにゃ!」

「仕方ないから、現役アイドルのにこが直々に指導してあげるわよ」

「へっ……? え゛ぇ゛え゛え゛えぇぇえええええええええええええええええええええええええ!?!?」

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 μ'sとAqoursが出会ったらきっとこんな感じなんだろうなぁと、色々妄想しながら執筆するのが楽しすぎる最近です(笑)

 次回は千歌がμ'sの練習に殴り込み!



新たに☆10評価をくださった

裕喜さん

ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

未熟と成熟なDREAMER

 千歌がμ'sに突撃訪問編の後編となります。
 憧れの先輩たちに囲まれて練習することになり、千歌の緊張はもう張り裂けそうで……


 

「どうして……どうしてこんなことになってるのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?」

 

 

 神聖な神社の前で、頭を抱えてあたふたしている高海千歌という少女が1人。

 もはや気が狂いそうになるほど緊張が爆発しているようだが、よくよく思い返してみれば自分から練習の見学を申し出てきたんだよな……? まあ見学だけで今の状況のように一緒に練習をするなんて想像もしていなかっただろうから、脚が震えるほどに焦る気持ちは分からなくはない。見学をしている最中はいつものハイテンションだったのに、またここへ来る前の臆病な彼女に戻っちまったな……。

 

 そんな訳で見学予定だった千歌が急遽μ'sの練習に参加することになったのは、穂乃果を始めとしたμ'sみんなの提案だった。穂乃果に腕を引かれて有無を言う暇もなく連れ込まれ、しかもセンターのポジションに立たされるという高待遇っぷりだ。だがμ'sに憧れる千歌からしてみれば、いきなり練習に参加する羽目になった挙句、穂乃果たちとの初練習がセンターポジと来たものだからさあ大変。果たしてこの状況をどう切り抜けるのやら……。

 

 ちなみに俺は見てるだけだよ。だって水を差すのは惜しいくらい面白い状況じゃん今!

 

 

「とっても嬉しいのに何だろうこの気持ち……。シンデレラのお城に小汚い和室がポツンとあるような違和感が……」

「千歌ちゃんはセンターなんだから、お城のてっぺんのお星さまだよ♪」

「ちょっと穂乃果さん!? ただでさえ緊張してるんですから、余計なプレッシャーを掛けるのやめてください!!」

「えぇ~? 千歌ちゃん可愛いからセンターでもいいと思うんだけどなぁ~」

「か、可愛いってそんな! 皆さんに比べたらまだ子供ですよ!!」

「心配しなくても大丈夫ですよ、高海さん。穂乃果も精神年齢は子供ですから」

「海未ちゃん!? さっきの発言で穂乃果の先輩としての威厳がゼロになっちゃったよ!? 責任取れる!?」

「だったら、朝練に遅刻するなんて真似はこれっきりにしてください」

「うっ、痛いところを……」

 

 

 海未の言っていることはまさにその通りだから、周りにいる子たちも苦笑いで否定はできなかった。確かに穂乃果は勉強面の成績は上がってきたが、肝心な時に寝坊しそうになったり寝坊したり、講義の宿題をうっかり忘れていたりなど高校時代と大して変わっていない。だからこそ俺は尚更彼女が神格化のように扱われているのが気になっているのだ。現に今日の朝練も数分だけど遅刻してたし、自らみんなを誘ってμ'sを再結成したのにその言い出しっぺがこの調子では先が思いやられそう……。

 

 

「凛も千歌ちゃんの気持ち分かるよ。一度だけど、凛だってライブの本番前にいきなりウェディングドレスを着せられて、センターに放り込まれたことがあるんだから!」

「えっ、本番でいきなり!? そんなことになったら私、プレッシャーに負けちゃいそう……」

「それでも凛ちゃんはキチンとセンターの大役を担って、ライブは大成功だったんだよ。最初センターだったのは私だけど、絵里ちゃんたちから本番前まで絶対にバラしちゃダメだって言われてたからちょっと罪悪感はあったけどね……」

「花陽さんたちからのサプライズだったんですか!?」

「そうそう、試着室に入ったらいきなりウェディングドレスが置いてあるんだもん! あの時以上にかよちんに裏切られた気分になったことはなかったにゃ。まあ、今ではいい思い出だけどね!」

「その状況でもやり遂げられる凛さんが凄いですよ! 私なんてウェディングドレスを見ただけでも緊張しちゃいそう……」

 

 

 そんなことを言いながら、千歌は頬を染めつつ俺の様子をチラチラと伺っている。何を想像しているのかは知らないが、ただでさえ緊張の糸を張っているのにこれ以上張り詰めるとマジで糸が切れてしまうぞ……?

 

 ちなみに千歌が緊張しているのは突然センターポジションに抜擢されたというのもあるのだが、一番の要因は周りにμ'sメンバーが勢揃いしていることだろう。まあだからと言って穂乃果たちがこの場を離れる訳にもいかないし、これも千歌自身の精神増強訓練だと思って我慢してもらうしかなさそうだな。

 

 

「あれぇ~? 千歌ちゃん、零君の方ばかり見て何を想像しとるん♪」

「ひゃっ、の、希さん!? いえいえ大したことじゃないですよ!! せ、先生と一緒にバージンロードとか考えてませんから!!」

「心の声、全部出とるよ♪」

「えっ、あっ……な、何言っちゃってるの私ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

「もう希ったら……。反応が可愛いのは分かるけど、あまり弄らないの」

「ゴメンゴメン! でも絵里ちも言葉はちゃんと選んだ方がいいよ? ほら」

「え……?」

「絵里さんに可愛いって言われた絵里さんに可愛いって言われた絵里さんに可愛いって言われた絵里さんに可愛いって言われた」

「あっ、高海さんゴメンなさい!! そんなつもりじゃなかったのよ!!」

「ホントに、絵里ちも千歌ちゃんも面白いなぁ♪」

 

 

 希の奴、いくら自分が大吉ばかり引くラッキーガールだとしてもいつか絶対にバチ当たるぞ……。

 それにしても、千歌の口からバージンロードなんて言葉が出るなんて……。しかもその相手ってもしかしてもしかしなくても俺……だよね? お互いに告白じゃないけど告白紛いなことをした関係だけど、まさか彼女がここまでの未来設計を立てているとは思っていなかった。気が早いと呆れるべきなのか、それともまだ出会って一か月半なのにここまで好きでいてくれることを喜ぶべきなのか。ていうか、もし本当の告白をされた場合、俺とμ'sの関係ってどう話せばいいんだろうか……?

 

 

「ふぅ~」

「ひゃぁっ!? こ、ことりさん!? いきなり耳に息吹き掛けないでくださいよ!!」

「いやぁあまりにも千歌ちゃんが緊張してるみたいだから、解してあげようと思って♪」

「ビックリして余計にドキドキしちゃいますよ!!」

「ことり先輩は相変わらず官能的というか、流石お兄ちゃんと可愛い女の子なら誰でもいいと豪語するだけのことはありますね」

「もう楓ちゃん! それじゃあことりが変態さんに思われちゃうよ!!」

「ことりさんって清純なメイド系スクールアイドルとしても有名ですから、そんなことはないと思いますけど……」

「あなたはこの鳥さんの仮面を見て育ったんだね。嘆かわしい……」

「えっ、ど、どういうことぉ……?」

 

 

 千歌はことりと楓、どちらの言い分を信じたらいいのか分からず両者を交互に見て戸惑っている。彼女はμ'sの表の顔は知っていても裏の顔は全く知らないため、ことりがいきなり変態だと言われて信じる方が難しいだろう。だが現実はそう甘くなく、俺からしたらその選択は迷う必要もなく楓に軍配が上がる。そもそもことり自身が『変態さんに思われちゃうよ』と反論している時点でもう呆れるしかない。アイツが自分自身のことをどう思っているかは知らないが、これまでの所業を顧みてよくそんな反論が出てきたな……。いつもおちゃらけてる楓が珍しく正論を言っていることからもうお察しだ。

 

 

「千歌さん大丈夫……? さっきからずっと騒ぎっぱなしだけど……」

「あ、亜里沙さぁ゛ぁ~~ん!!」

「えぇっ!? どうして泣いてるの!?」

「いや、久しぶりに優しくされたなぁ~と思いまして……」

「μ'sの先輩たちはクセが強いから、私もいつも苦労させられてるよ」

「雪穂さんがですか? μ's内で最年少なのに大人だ!」

「でも雪穂も、なんだかんだ零くんに流されちゃうことよくあるもんね?」

「ね?って言われても……。しかもそれは相手が零君だからであって、普段の私だったら――」

「も、もしかして、雪穂さんも先生のこと……?」

「はぁ!? い、いやそれはそのぉ……ノーコメント!!」

 

 

 そりゃそうだ。だって後輩のスクールアイドルに、あなたの先生と付き合ってるなんて中々言えねぇよな。しかもそれを暴露し始めたら他のメンバーとも関係を持っていることを紹介しなければならないから、雪穂の咄嗟のスルースキルには感謝しなければならない。だが顔を真っ赤にしながら否定している時点で、カンのいい奴になら気付かれちまうくらいには分かりやすいけど……。しかし千歌は小さく首を傾げるだけでそれ以上の追及はしなかったため、とりあえずこの場は乗り切れたみたいだ。

 

 

「もういい加減練習を始めるわよ。にこは午後、アイドル養成所のレッスンが入ってるんだから」

「ご、ゴメンなさい!!」

「どうしてあなたがあやまるのよ? 悪いのはさっきから話を脱線させまくってる穂乃果たちでしょ」

「にこちゃんに同意。ホントに、いつもこうなのよね。時間通りに集まったとしても、話が盛り上がって練習開始が遅れるなんてザラよ」

「あはは……12人もいますもんねぇ……」

「まあ話が盛り上がる的な意味では、にこちゃんもその仲間に入ってるけどね」

「なによ? 真姫ちゃんだっていつもなし崩し的に会話に混じってるくせに」

「ま、まぁまぁ! それにしても、お二人は仲いいんですね」

「「よくないわよ!!」」

「ほ、ほらやっぱり……」

 

 

 喧嘩するほど何とやらという格言もある通り、真姫とにこの関係は高校時代から何一つ変わっていない。お互いに憎まれ口を叩き合う展開はいつものことなので穂乃果たちは全く気にしていないが、このやりとりを始めてみる千歌は若干戸惑っていた。本人たちは超ツンデレなので仲良しを否定しているけど、誰の目から見ても分かりやすいので千歌であっても2人の中の良さは見て取れたようだ。仮にもラブライブの本選で優勝する実力を持つ彼女たちだから、仲が悪いなんてことは絶対にないんだけどな。

 

 

「よ~し、それじゃあ練習始めよっか! 千歌ちゃんはμ'sの曲ってどれくらい分かる? ライブ映像の見様見真似でもいいから、とりあえず適当に合わせてみようよ!」

「μ'sの曲なら全部歌えますし、振り付けもかなり覚えてます!」

「す、凄い……。穂乃果なんてもう半分くらい忘れちゃってるかも……」

「えぇっ!? 自分の曲、ですよね……?」

「だって4年もブランクがあるんだよ? 全部覚えてる訳ないじゃん」

「穂乃果。本格的に練習が始まる前に、過去の自分たちの動画を見て復習しておくように言ったわよね……?」

「そ、そうだったっけ……? あはは、絵里ちゃん顔怖いよ……」

「お姉ちゃんって夏休みに入ってから朝寝お昼起きの毎日で、遊び惚けて復習なんかしてる暇なかったんですよ」

「雪穂ぉ~それは言っちゃダメだってぇ~……」

 

 

 あまりにも不規則な生活に周りから咎められている穂乃果だが、俺は彼女の気持ちに同情せざるを得なかった。というのも、俺も夏休みに突入してから穂乃果と同じようなライフサイクルを送っているため、堕落した生活の心地よさを共有できる存在だからだ。そして絵里たちが穂乃果に反省を求める中で、楓だけは俺の方を見て悪戯そうにニヤついている。俺から穂乃果に助け舟を出してやれないことを悟って笑っているのだろうが、俺としてもみんなに不規則な生活を送っているなんて知られたくないし、元々助けるつもりなんてないけどな。自分の生活は自分の手で守りたい。だから許せ穂乃果。

 

 

「と、とりあえず練習を始めるよ!!」

「話を捻じ曲げたにゃ……」

「あぁ~もう何も聞こえなぁ~い!! とにかく、準備はいい千歌ちゃん!?」

「は、はいっ! よろしくお願いします!!」

 

 

 話の流れが自分に不利過ぎるので、穂乃果は千歌の横のポジションを陣取って無理矢理練習を開始する。堕落した生活を送っているのは最悪自己責任なのでいいとしても、忘れてしまった歌やダンスの振り付けくらいは覚えて来いよと思わなくはない。μ's再結成の発起人がこんなことでは、勧誘の時にも散々言われていたけどマジで勢いだけだと思われても仕方ないぞ……。まあその勢いで何とかなっちゃうのが穂乃果だから、みんなも中々強く責められないんだけどね。

 

 そして千歌は特に憧れを抱いている穂乃果の隣で一緒に練習できるのが嬉しいのか、いつの間にか脚の震えも止まりまるでμ'sの一員かのように周りに溶け込んでいた。彼女のダンススキルはμ'sには劣っているものの、穂乃果たちも4年のブランクがあるためかそこまで目立ったぎこちなさは見受けられない。もちろん13人で動きを合わせようとしているのでメチャクチャ一体感があるとは言えないが、何より練習を楽しんでいる様子が見学しているこちらにもひしひしと伝わってきた。そのおかげか、お世辞にも整っているとは言えない歌やダンスも自然と息が合っているように見える。

 

 

「アンタ、にこたちにしっかり合わせられるなんてかなりセンスあるじゃない。誇っていいと思うわ」

「そうですか……? にこさんに褒められるなんて、感激です!!」

「私たちにブランクがあるとは言え、ここまで息がピッタリだと高海さんもμ'sのメンバーみたいですね」

「ふぇっ!? わ、私がμ'sのメンバーになるなんて恐れ多いと言いますか……」

「そんなに緊張しなくても、別にμ'sのメンバーになる訳じゃないでしょ?」

「あっ、そうでした……」

「千歌ちゃん本当に可愛いし面白いねぇ♪」

「こ、ことりさん!? だから耳元で囁かないでくださいって!!」

 

 

 穂乃果にセンターポジションへ連れ込まれた時は緊張と羞恥で情緒不安定になりかけていた千歌だが、今では海未の言う通りμ'sの一員のようなやり取りを交わしている。そんな彼女からは自然と笑顔が零れているため、もう緊張で死んでしまう心配はしなくてもいいだろう。未だにことりや希に弄られると純粋な反応で驚いてしまうことはあるが、それも楽しそうに応対しているため見ているこちらも自然と笑みを浮かべてしまう。千歌とμ'sの仲の良さをAqoursのメンバーが見たら、それこそ梨子たちがμ'sに嫉妬してしまうかもな。

 

 そして練習は滞りなく1時間ほど続き、これからμ's単独での練習をするため千歌は一時見学に回ることとなった。

 終始笑顔でμ'sと練習をしていた千歌は、タオルで汗を拭いながら縁石に腰を掛ける。練習から外れたのに彼女はまだ楽しそうで、多分俺の想像以上に充実していたのだろう。その証拠に、見学しながらも練習で流れている曲のリズムに合わせて身体もリズミカルに動いていた。

 

 そんな千歌の姿を見てちょっと悪戯をしたくなった俺は、クーラーボックスからスポーツドリンクを取り出して、彼女の隣へ座ると同時に頬にペットボトルを押し付ける。

 

 

「きゃっ! 冷た!!」

「アイツらにのめり込むのはいいけど、しっかりと水分補給もしろよ。興奮しすぎて熱中症とかシャレにならねぇし」

「ありがとうございます!」

 

 

 千歌はペットボトルの蓋を開け、身体へスポーツドリンクを一気に流し込む。

 なんだろう、千歌のくせに妙に色っぽいな……。汗に塗れた女の子が、首にタオルを掛けながらペットボトルの先端を口含んでいる構図って中々エロくない? さっきまで彼女の楽しそうな笑顔でほっこりしてたのに、今やアダルティな彼女に魅力を感じている……。幼気な顔つきをしているくせに、恐ろしい奴!

 

 

「μ'sの皆さんって、とっても仲いいですよね。4年のブランクなんて感じさせないほど12人の一体感がありましたし、皆さんに褒めてもらって申し訳ないんですけど、正直練習についていくだけで精一杯でしたよ」

「4年前、みんな同じ夢を持って一緒に掴み取ったんだ。それ以降はそれぞれの夢へ向けてμ'sは解散したけど、またアイツらは同じ夢を掴もうとしている。バラバラになっても尚またみんなで一緒に何かを成し遂げたいと思うのは、やっぱりアイツらの絆が強いからなんじゃないかな」

「夢に絆か……素敵ですね!」

 

 

 今の穂乃果たちはそれぞれの夢へ向かって勉強をしたり就職をしたり、中には夢を掴み取る直前まで漕ぎ着けている子もいる。そんな状況であってもまた同じ夢を追いかける理由はただ1つ、過去に結び付いたμ'sの絆の強さだ。自分の夢を叶えることももちろん大切だけど、みんなともう一度手を取り合って笑いあうのもこれまた一興。だから人生を寄り道してまでも、またこうして12人が集結したんだと思う。自分個人の夢を目指しながらも、みんなで1つの夢をも追い続けるその貪欲さは一体誰に似たのやら……。

 

 

「μ'sの皆さんを見ていると元気を貰えますが、スクフェスで同じ舞台に立つとなるとやっぱり敵わないなぁって思います。強すぎますよ、μ'sの絆は……」

「穂乃果たちの仲はたかが1、2年で作られたものじゃないからな。だけど、そこはお前の気にするところじゃない。俺が浦の星から去る時に言っただろ? Aqoursのグループとして絆を育めって。そうすれば今まで以上にスクールアイドルが楽しくなるはずだよ。楽しくなれば、それだけ自分たちが笑顔になれる。自分たちが笑顔になれれば、それだけ大勢の人も笑顔にできる。それは別のスクールアイドルと競い合うものなんかじゃない。お前らは自分たちが夢として思い描くスクールアイドルを目指せばいいんだよ」

「先生……」

 

 

 ラブライブの本選など、勝敗がはっきりとするイベントで勝利を目指すのも間違いではない。このスクールアイドルに勝ちたいから自分たちはそれ以上のスクールアイドルを目指すと意気込めば、それが自分たちの夢となる。そしてその夢を叶えるためには、自分たちがスクールアイドルを楽しまなければならない。だってスクールアイドル以前にアイドルって観客たちを楽しませるものだろ? だったら何より自分たちがみんなに笑顔を振り撒かないと、到底観客の感動を煽ることはできないだろう。

 

 

「私もなれますかね? みんなに笑顔を届けられる、スクールアイドルに……」

「なれるよ――と俺が保証するのはお門違いかな。それはお前らAqours次第だ」

「も~う! そこは素直になれるよって答えてくれれば、先生への株が上がったのに!」

「残念でした。俺は何事でも直球だから」

「知ってます。私は先生のそういった強気なところが好きですから」

 

 

 千歌はスポーツドリンクを飲む手を止めて、俺の顔をじっと見つめてくる。そんな千歌の視線に捕らわれるように、俺も彼女の顔をまじまじと見つめていた。夏の暑さや練習による熱さではない、彼女の顔の火照りが伝わってくる。微妙に汗を拭いきれていないため、少々濡れている頬がこれまた色っぽい。

 そして俺たちはどちらが近づいたのか、それともどちらも近づいたのか、次第に顔と顔の距離が縮まっていた。このままいけば、確実にマウスtoマウスは逃れられない。もはや勢いと現状に任せて何も考えられなくなっている俺は、ただこちらに接近してくる千歌の顔を見つめながら待っているしかなかった。

 

 あと数秒もいらない。この刹那さえ乗り越えれば、俺たちは1つになってしまう――――――

 

 

 その時、俺の顔にプラスチック製の容器がぶつけられた。

 

 

「いてっ!!」

「ふえっ!? せ、先生……?」

「これ、ペットボトルか……?」

 

 

 俺が咄嗟に声を出したことで俺も千歌も我に返る。

 そして近くを転がっているペットボトルを手に取ると、少し離れたところから女の子たちの声が聞こえてきた。

 

 

「お兄ちゃ~~ん? ちゃんと練習を見てくれないとダメでしょ??」

「ウチらを放っておいて、2人だけでイチャイチャとはお熱いことで!」

「すぐ女の子に鼻の下を伸ばすんだから……ホントに意味分かんない!」

「私たちが練習をしている側で、なんて破廉恥なことを……!!」

「にこの前でそんなことをするなんて、いい度胸してるじゃない」

 

「ち、違います!! これは流れと言いますか、練習で疲れてぼぉ~っとしていただけで何も疚しいことはないですから!!」

「お、おい千歌――――って、行っちゃったよ……」

 

 

 千歌は顔を真っ赤にしながら、再びμ'sの輪の中に飛び込んでいった。中には黒いオーラを放っている者や微笑ましい笑顔をしている者、呆れた顔でみんなの様子を見ている子など修羅場全開で、俺が入ったら確実に火に油を注ぎそうな集団だ。

 千歌は弄られたり問い詰められたりと散々な目に遭っているが、これまた彼女がμ'sと仲良くなる一歩となるだろう。まあ本人は焦りに焦って困り果ててるけど、弁解をするために輪の中に突撃していった所を見ると、少なくともμ'sに対しては緊張することがなくなったと見て間違いなさそうだ。

 

 

「先生も皆さんに説明してくださいよぉ!!」

「頑張れ」

「えぇえええええええええええええええっ!?!?」

「頑張れじゃなくて、零君にもみっちり訳を聞かないとね♪」

「あはは、やっぱり……?」

 

 

 やっぱ俺って、どこかで修羅場を作らないと生きていけないのかな……?

 

 




 千歌がμ'sの練習に参加してみたら――という展開を想像しながら執筆してみたのですが、前回の感想を読む限りでは大体皆さんの想像とも同じだったようで(笑)
 今回は登場人物の数が肥大化しないようAqours側からは千歌だけの出演だったので、今後以降は随時μ'sのキャラとAqoursのキャラを絡ませていきたいと思います!

 そして今回の投稿で恐らくUA(小説へのアクセス数)が100万件を突破するので、次回はその記念回として妹たちとのお話になる予定です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】兄×妹×妹×妹×妹×妹

 今回はこの小説のUA(アクセス数)が100万を突破したため、以前からやりたいと話していた妹回です。

 しかしシスターズだけだと普段のお話と対して雰囲気が変わらないので、今回は更に妹キャラを増やしてガチの妹パラダイスにしてみました(笑)


 

「おにーちゃん……おにーちゃん……」

 

 

 自分の名前を呼ぶ妹の声が聞こえ、俺は重い瞼に抗いながらゆっくりと目覚める。だが、ぼやけていた視界がはっきりとした時に映りこんだ時計の短針が「8」の文字を指し示していたのを見て、俺は再び瞼を降ろした。朝だということは分かっているが今日は休日、少しくらい遅く起きても文句を言われないし言わせない。ただでさえほぼ毎日μ'sの練習に付き合って疲れてるから、休日くらいはのんびりと寝かせて欲しいものだ。

 

 

「おにーちゃん……おにーちゃん……」

 

 

 しかし、妹さんは俺の眼覚めをご所望のようだ。こうなってしまうとコイツは俺が目覚めるまで一生耳元で「おにーちゃん」と囁き続けるのだが、逆にそれが心地よい子守歌になっていることに恐らく気付いていない。年下の女の子に寝かしつけてもらうなんて男としてのプライドが切り裂かれそうだが、そんなものは睡魔に比べれば安い代償だ。

 

 俺は寝る。どれだけ可愛い妹であろうとも、だからと言って兄が何でも言うことを聞くと思うなよ? 兄は妹の欲求を満たす都合のいい玩具じゃないんだ。たまには妹にもこうして世の中の厳しさを教えてあげないとな。

 

 

「おにーちゃんの、相変わらずおっきい……。脱がしていいかな……? いいよね!」

「!?!? ちょいちょいちょいちょい!!」

「あっ、起きた! おはよう、おにーちゃん!」

「おはよう、ここあ……って、ここあ!?」

 

 

 俺の目覚めを笑顔で迎えてくれたのは、矢澤にこの妹である矢澤ここあだった。

 てっきり楓だと思っていたので驚いたのだが、何よりビックリしたのはコイツの行動だ。さっき俺のズボンを脱がそうとしてたよな……? ここあの様子を見ても特に焦ったりしている訳ではなく、むしろ久しぶりに俺と会えたのが嬉しいのかずっと嬉しそうにしている。男のズボンを脱がそうとしていた奴がそんな満面な笑みを浮かべていると、ちょっと不気味なんだけど……。最近の女子学生は小遣い稼ぎに痴漢冤罪を仕立て上げるらしいし、ここあも俺と勝手に既成事実を作って慰謝料を請求しようとしてるのでは……? あのにこの妹だし、ありえるかも。

 

 

「久しぶりだね、おにーちゃん♪」

「久しぶりなのはそうだけど、お前さっき何をしようとしてた……?」

「ズボンを脱がそうとしてたこと? 男の人ってやっぱり朝は勃つんだなぁと思って。だから実際に見てみたくなったの!」

「そんな子供のような好奇心で言われても……」

「どうして? 別に減るものでもないし、おにーちゃんも見られたら喜ぶでしょ?」

「俺を露出魔みたいに言うんじゃねぇ!!」

 

 

 ネタで言っているのならまだしも、何の悪びれもなく露出魔認定してくるんだから尚更タチが悪い。覚えたての性知識を口に出したがるのは中学生の性なので、気にするだけ負けなのかもしれない。しかし今のここあは中学3年生、出会った頃は純粋の塊であるピュアな小学生だったのに誰に似てこうなったんだか……。

 

 

「つうか、俺のベッドに潜り込んで何をしてたんだ?」

「えっ? 女の子が男の人のベッドに潜り込む理由なんて1つしかないでしょ? 子供を作るために決まってるじゃん!」

「お前、子作りってのが具体的にどんなことをするのか知ってるのか……?」

「もちろん! だからおにーちゃんのズボンを脱がそうとしてたんだよ。おにーちゃんが見せてくれた"どーじんし"っていうのに、女の人が男の人のを咥えてるイラストがあったよね? それを真似してみようと思って♪」

「あっ、そう……」

 

 

 間違っているけど間違っていない子作りの解釈に、もはや苦笑いでしか反応できない。このまま間違った知識をここあに植え付けておくのか、それとも性教育として勘違いを正してやった方がいいのか……。多分だけど、ここあはまだ子作りがどれだけ官能的なのかを理解していない。そもそもコイツにエロい、発情、興奮と言った概念があるどうかも分からないため、俺のモノをしゃぶろうとしていたのも単純に子供故の好奇心からだろう。中学3年生にもなってこの手の知識に疎いのはそれはそれで躾たくなる衝動に駆られるが、そう言ったら言ったでこの世の中はすぐにロリコン判定を下してくるため、ここは敢えて今のここあを温かく見守ろう。

 

 ちなみにここあが言っていた、俺に同人誌を見せつけられたというのはまさしく事実である。事実とは言っても、4年前はまだ小学生だったコイツがそれこそ好奇心で俺の持つ同人誌を奪って勝手に読み漁ったんだけどな。それにその時はコイツの姉もいたため、俺はロリっ子2人にエロ本を見せたド畜生というレッテルを張られてこの4年間を生きている。

 

 そのせいかは知らないが、ここあが知識だけは無駄にある女子中学生に育ってしまった。普段はそこまで会う機会もないのだが、こうして顔を合わせると"おにーちゃん"と無邪気に慕ってくれているのにも関わらず行動だけは変態だから非常に反応が困る。言うなれば幼稚園児が珍しい昆虫を見つけて好奇心旺盛になって喜ぶ様と、俺のズボンを脱がそうとするここあの心情は恐らく一緒だろう。中身がピュアな子供のまま育った結果がこれだよ……。

 

 

 未だにベッドから降りようとしないここあをどうしようか検討していると、女の子の声と共に自室のドアが開いた。

 

 

「お兄様ー? 起きていらっしゃいますか?」

「こ、こころ!?」

 

 

 俺の部屋に入ってきたのは、何故かエプロンを装備しているここあの姉のこころだった。

 華のJKになったためか、4年前に中学一年生だった頃と比べると格段に大人っぽさが増している。軽くおめかししているからそう見えるだけかもしれないが、元々にこに大人の色気があるように妹の彼女も同様の魅力がある。だがその中にも矢澤姉妹特有の幼さはしっかりと残っており、背の低さや慎ましやかな胸はまさににこの体型そのものだ。だから大人っぽいけどロリっ子にも見えるという、奇妙な現象が起こっているのが今のこころなのである。

 

 それにしても、どうしてエプロンなんか付けてんだコイツ……? 俺の部屋にも何食わぬ顔で入ってきたし、まるで本当の妹みたいじゃねぇか。俺の驚いている顔を見てもこころはキョトンとしながら首を傾げるだけなので、もはや妹ではなく妻のポジションに堂々と君臨している。そのせいでここはパラレルワールドとかそういう類の世界なのかと勘違いしてしまいそうだ。

 

 

「あっ、起きていらっしゃったのですね! もうここあ、お兄様を起こしたらリビングへお連れするように言ったのに!」

「あはは、ゴメンゴメン。おにーちゃんのズボンが膨らんで苦しそうだったから、思わずベッドに潜り込んじゃった♪」

「ここあったら……」

「そうだそうだ、この変態を叱ってやってくれ」

「私も混ぜないってどういうこと!?」

「そっちかよ!?」

 

 

 こころは目を見開き眼力MAXで俺のズボン……ダイレクトに言ってしまえば股間部分をガン見する。その勢いに圧倒された俺は純粋っ子のように、思わず布団を下半身に羽織ってしまう。

 

 こころも4年前まではこんな性格ではなく、単純に性知識に興味を示す普通の女子中学生だった。だけどここあと同じ経緯で俺の同人誌を見てからというもの、今度はこれまで蓄えてきた性知識を俺を相手に披露しようと目論んでいるのだ。ことりや楓などの変態ちゃんたちに比べればまだ可愛いのだが、普通に考えて淫乱ちゃんが1人増えてその相手をしなければならないという時点で頭が痛くなる。しかもコイツはことりや楓とは違って純粋に俺と身体を触れ合わせることを願っているため、心を鬼にして無下にはできないのがこれまたもどかしい。あの時どうしてコイツらに薄い本なんか見せたんだ、過去の俺……。

 

 

「お兄様!! ベッドを共にしているということは、もしかしてもうここあと……!?」

「んな訳ねぇだろ!! それにお前もがっついてくるんじゃねぇ!!」

「ヒ、ヒドイ……!! 4年前、何も知らない幼気な私たちに肉棒をしゃぶらせてきたというのに……!!」

「うっ、ぐっ……」

 

 

 コイツ、俺が一番思い出したくないことを思い出させやがって……。

 確かに俺は同人誌をコイツらに見られた反動と、ロリっ子がエロ本を興味津々で眺めている光景に若干欲情して勢いに任せてあんな行動に出た。それは紛れもない事実であり、当時小学生と中学生であった性知識も何も知らない少女2人を利用したのは否定しようがない。ただ自分の性欲を解消するためだけにロリっ子を騙して自分のモノをしゃぶらせたあの事件は、俺の人生の中でも1、2を争うほどの黒歴史となっている。だからこそ忘れようとしていたのだが、コイツらは俺と会うたびにその話をネタに擦り寄ってきやがる。まだJKとJCだから可愛いものだが、大人の世界になったら絶対に口止め料を払わされていただろう。

 

 

「あの時に子作りしたのに、まだおにーちゃんの子供できないんだよねー」

「ここあ、何度も言ってるでしょ? それだけでは赤ちゃんはできないって」

「でもおクチに白い液を飲み込めばできるって……」

「それは上のおクチ。お兄様が言ってるのは下のおクチのことだから」

「下の、おクチ……?」

 

 

 まだ純粋(だと思う)なここあは淫語の知識がほぼ皆無なため、下のおクチと言われても首を傾げるだけでそれ以上のアクションはない。対してこころは目を輝かせながら俺と俺の下半身は交互に見つめ、無駄な期待感に満ち溢れている。そんな上目遣いで見つめられても、絶対にヤらせてなんかやらねぇぞ? それにコイツらに手を出したことがにこにバレでもしたら……そこそこシスコンなアイツのことだ、一体何時間、いや何日に渡る説教をされるか分かったものじゃない。そう考えると、あんなことがあったのにこの4年間バレてないのが奇跡だな……。

 

 そんなことを思っていると、こころも俺のベッドに乗り込んできた。俺から仕掛けて来ないから自分から仕掛けようって腹なんだろうが、生憎変態ちゃんで反応するような下半身は持ち合わせていないんでね。そもそも21歳の男が15歳の少女にちょっと淫語を言われただけで下半身が反応するなんて、それ以上の不名誉がこの世にあるだろうか? いや、ない。つまりそういうことだよ。

 

 

 だが、俺が相手にしなければならない妹はこの2人で終わりではなかった。

 

 

「な、何をしているんですか……?」

「えっ、雪穂!?」

 

 

 突然突き刺すような声が聞こえてきたので発生源に目を向けてみると、そこには俺を冷たい目で見る雪穂が佇んでいた。部屋の入口に立ったままその場から動こうとせず、むしろこっちへ来ることに抵抗を抱いているようだ。

 

 

「どうしてそんなに離れてんだよ……」

「だって、女子高校生と中学生をベッドに連れ込んでる男性の部屋なんて……」

「連れ込んでるんじゃない! コイツらが勝手に来ただけだ!!」

「そんなっ!? 私たちとは遊びだったのですね、お兄様……」

「服もこんなに脱がしたくせに……。おにーちゃんのばか」

「お前らどこでそんな言葉覚えてきてんだよ……。そしてここあは服を着ろ」

 

 

 こころは横座りで嘘泣きをし、ここあは自分の服を多少着崩しあたかもさっきまで事案が発生していたかのように目論む。もちろんそんなのは事実無根だし雪穂もそんなことは分かっていると思うが、成人男性がJKとJCをベッドを共にしている時点でシチュエーションの背景など関係なくポルノ案件だ。俺が真面目にベッドから降りろと命令すれば2人は従うので、それをしないということはつまり――――雪穂はそのように想像しているに違いない。

 

 

 すると雪穂と同じく俺に追い打ちを掛けるように、部屋の外からまた新たな女の子の声が聞こえてきた。

 

 

「雪穂ー! こころちゃんとここあちゃんがどこに行ったか知らない?」

「あ、亜里沙。ここにいるよ」

「ここって、零くんの部屋だよね……って、えぇっ!?」

「亜里沙も来てたのかよ……」

 

 

 亜里沙は俺の部屋に顔を覗かせると、俺をベッドを共にしているこころとここあの姿を見て目を見開いて驚いた。それもそのはず、亜里沙からしてみれば話の流れが分かっていない状態で嘘泣きしてるJKと服を着崩しているJCの姿が目に映ったんだ。ピュアを体現したような彼女からすれば、この状況を見て捉えることはただ1つ――――

 

 

「ご、ゴメンなさい!! お邪魔しました!!」

「亜里沙。言っておくけどお前の勘違いだからな」

「楓に教えてもらいました。男女の行為中に他の女性が横槍を入れてはいけないって……」

「だから、これはお前の勘違いで……」

「それに男性は見られていると興奮できないとも楓が言っていました。ほら、雪穂も部屋を出て!」

「いやいや、私は3人を呼びに来たんだって!」

「亜里沙お姉様もああ言ってますし、もうお兄様と私は公認みたいですよ♪」

「こういう時って、『おにーちゃんは何もしなくていいから私に任せて』って言うんだっけ……?」

「どこからツッコミを入れたらいいのか分かんねぇ……」

「そんなお兄様、突っ込むだなんて……♪」

 

 

 全員が口々に好き勝手喋るため、もう誰を相手にしてやったらいいのか分からなくなってきた……。いや、ここまで来たら全員無視でもいいんじゃないかと思えてさえくる。こんなのを1人1人相手にしていたら日が暮れるどころか、収拾がつかず今日一日ずっとコイツらの相手をさせられるハメになるからな。それにこの混乱に乗じて部屋を抜け出してもバレないんじゃないかこれ。

 

 

「全く、どうしてお兄ちゃんの周りにはすぐ女の子が集まっちゃうかなぁ~」

「へっ? か、楓……」

「えいっ♪」

「ちょっ!? お前いつの間に俺の後ろに!?」

「やだなぁお兄ちゃん♪ 私は常にお兄ちゃんの側にいるのに……フフッ」

 

 

 怖っ!? 楓の笑顔って計算され尽くした黒さを感じる時があるから、その実感が沸くたびに彼女からヤンデレ臭がする。今回も音もなく俺の背後に忍び寄り、胸を背中に押し付けながら耳元で囁いてくる。楓の恰好を見るとエプロンを装着しているので今まさに朝食を作っている最中だと察せるのだが、自らの仕事を放棄して何やってんだコイツは……? ていうか、これまでの一連の会話を聞いていたってことは、それなりに前からこの部屋にいたってことだよな? そう考えるとコイツの存在に全く気付かなかった俺たちが鈍感なのか、それともコイツの潜伏能力の高さが異常なのか……。どちらにせよ楓が来てしまった以上、話が今まで以上に拗れて面倒な事態になるのは確定だということだ。

 

 

「お兄ちゃんも気が早いねぇ~。まさかこんな幼気な女の子をベッドに連れ込んで、ズボンも膨らませてやる気満々とは……」

「お前も悪ふざけするんじゃねぇよ! ていうか、どうして雪穂たちがウチにいるんだ?」

「元々私と亜里沙は楓と遊ぶ予定があったので、集合場所である零君の家に向かっていたんです。でもその途中でこころちゃんとここあちゃんに会って――」

「私たちも便乗させてもらったという訳です!」

「そしたらおにーちゃんがまだ起きてないっていうから、私が起こしてあげたんだ! ここも起きちゃってたけどね♪」

「ちょっ、触ろうとすんな!!」

 

 

 無邪気な笑顔で下半身を弄ろうとしてくるここあの行為が本当に怖く、下手に二度寝をしたら俺が寝ている間に下半身同士が直結していた……なんて事態になりかねなかった。さっきも言ったがここあは幼稚園児の好奇心感覚で性に興味を抱いているので、性行為をすることも躊躇がないかもしれない。休日だからって昼まで寝ようとする心意気を捨てて正解だったよ……。

 

 

 それはそうと、こころとここあが家にいるのは雪穂と亜里沙にくっ付いてきたからだそうだ。改めて部屋を見渡してみると、この4年間で一度も邂逅したことのない組み合わせが揃っていることに気付く。シスターズ側もにこには妹がいるという情報しか知らず、逆に矢澤姉妹はμ'sにシスターズという妹グループが存在している程度の情報しか知らなかったため、こうしてお互いに会うのはこれが初めてだったりする。

 

 つまり、俺の周りは妹、妹、妹、妹、妹で構成され、まさにギャルゲーやエロゲーの世界観そのものの光景が目の前に広がっていた。こんな可愛い妹たちに囲まれている状況を妹キャラ好きの奴が体験したら、速攻で卒倒して萌え死んでしまうだろう。なんたってシスコンらしい俺(認めたくないが、周りがそう言ってくる)からしてみても、この光景は夢のようだ。特段妹萌えという訳じゃないけど、多方面からお兄ちゃん扱いされるのは悪い気分ではない。むしろお兄ちゃんお兄ちゃんと呼ばれるだけでも心が躍ってしまうため、やっぱり俺はシスコンの毛があるのかも……?

 

 

「あ、あのぉ……」

「ん? どうした亜里沙?」

「わ、私もそっちに行っていいですか!?」

「へっ……?」

「ちょっと亜里沙!? あっちってベッドのことだよね!?」

「みんながいいのなら私もいいかなぁ~と思いまして……ダメ、ですか……?」

 

 

 ぐっ……!! どんな経緯でどんな理由でベッドに上がりたいのかは知らないが、涙目上目遣いは卑怯だろ……。それがあればどんな屈強な男の心であっても溶かせるので、男と駆け引きをする時には必須とも言える女性の武器である。もちろんその相手は俺であっても例外じゃないため、俺自身もあっけなくその武器に屈服して何も言い返すことができなくなっていた。

 

 亜里沙は丸めた右手で口元を隠し少しでも恥ずかしさを紛らわそうとしているのだが、逆にその仕草でこっちの顔が赤くなっちゃうから! しかも妹キャラの彼女にこんな仕草をされたら、断ることなんてできねぇじゃん!!

 

 

「おにーちゃんのベッド広いから、亜里沙おねーちゃんもこっちおいでよー!」

「これ俺のベッドなんだけど……。どの権限を持ってお前が仕切ってんだよ……」

「そ、それでは失礼します! あっ、その代わり私にできることがあれば何でも申し付けください!!」

「な、何でも……だと!?」

「お兄ちゃん、今何でもに反応したね……?」

「流石はお兄様! 男らしいケダモノです!」

「褒めてねぇだろそれ!!」

「…………ホントに変態」

「雪穂さん、マジなトーンで暴言吐くのやめてくれません? 俺の心って案外豆腐メンタルだから……」

 

 

 サラッと流れるように毒を吐くのはいつも通りの雪穂なので、むしろ安心していい……のかもしれない。だが彼女の言いたいことは分からなくもなく、これで俺のベッドには4人の妹たちが集結していることになる。前にここあ、右にこころ、左に亜里沙、後ろに楓が配置され、まさに妹たちのミックスサンドだ。四方八方見渡しても妹、妹、妹、妹。これが妹ぱらだいすってやつか……。

 

 

「はぁ……とにかく一息ついたらリビングに来てください。もうすぐで朝食できますから」

「えっ、雪穂が作ってくれてんの?」

「愛するお兄ちゃんのために、妹たちみんなが愛情を込めて作ってるんだよ♪」

「はぁ!? 違うし!! 楓を待ってる間が暇だったから!!」

「でも雪穂、零くんの好みの味付けとか楓に何度も聞いてたよね?」

「そ、それはそのぉ……」

「お兄様。これはいわゆるツンデレって属性ですか?」

「雪穂おねーちゃんも素直じゃないね♪」

「ちょっ!? 年上をからかわないの!!」

 

 

 ツンデレキャラに弄られる能力が備わっているのはもはやデフォであり、JCとJKからも笑顔でかき乱される始末である。雪穂は年下にバカにされた羞恥に耐えられなくなったのか、両手で部屋のドアを持ったまま身体が自然と部屋の外に向いていた。

 

 

「ほら、あとは雪穂だけだよ? お兄ちゃんのベッドに乗ってないのは」

「乗る必要ないよね!? ていうか朝ごはん作ってる最中でしょ!?」

「え? 妹の朝ごはんはお兄ちゃんの精液一番搾りって相場は決まってるじゃん」

「そうだったの!? 私、普通にいつも通りの朝ごはん食べちゃってた……」

「亜里沙は楓の言うことをいちいち真に受けなくていいから! 楓も嘘ばっかり教えない!」

「楓お姉様の教え、とても勉強になります! しっかりと覚えておかなくちゃ!」

「メモも取らなくてもいい!!」

「それじゃあここあは朝ごはん頂いちゃおっかなぁ~♪」

「零君のズボンも脱がそうとしない!!」

 

 

 ヤバイ、雪穂がツッコミを連打しすぎて死にそうになってる……。でもこの微笑ましいやり取りを見ていると、コイツらが本当の姉妹なんじゃないかと錯覚してしまう。もしそうだったら、雪穂が一番上のお姉ちゃんなのは彼女の過労死しそうなツッコミを聞いてるだけでも明らかだ。俺はそんな雪穂に妹たちの対処を任せておけばいいため、お兄ちゃんとしても楽で仕方がない。楓と2人で静かに過ごすってのも悪くないが、こうして妹たちに囲まれて騒がしくも微笑ましい光景を眺めながら生活するのも悪くないかもな。

 

 

「零くん、お願いがあるんですけど……」

「どうした亜里沙?」

「今日だけでいいので、零くんのことを"お兄ちゃん"と呼んでいいですか……? 迷惑なら雪穂も付けますので!!」

「なにその流れ!? 私はオマケなの!?」

「ま、まぁ別にいいけど……」

「やった! えへへ……お兄ちゃん♪」

「……なんか照れるな」

「むぅ~私がお兄ちゃんって呼ぶ時よりも嬉しそう……」

「嬉しいんじゃなくて、いつもは名前で呼ばれるから新鮮なんだよ。お前からはいつもそう呼ばれてるから慣れてんだよこっちも」

 

 

 普段は何気なく"お兄ちゃん"と呼ばれている日常だが、こうして別の女の子からそう呼ばれると慣れないためドキッとしてしまう。しかもベッドの上で俺の身体に擦り寄り、上目遣い+微笑みのコンボで”お兄ちゃん”呼びとか妹萌えの人種でなくとも心を射抜かれるだろう。まさにみんなが本当の妹になったみたいで、いっそのことこれからこの家族で第二の人生を歩んでも不自然に感じないほどだ。

 

 

「ほら、雪穂お姉様も!」

「雪穂おねーちゃんもごあんな~い!」

「ちょっと2人共!? うわっ!!」

「おっと!」

 

 

 雪穂はこころとここあに腕を引っ張られ、俺のベッドにダイブする形で乗り込んでしまった。俺は勢いよく倒れてきた雪穂を抱きしめながら受け止めた訳だが、さっきまで妹たちに散々弄られて心が乱れている彼女にこんなことをしたらどうなるかはお察しのことで――――

 

 

「雪穂ったらお兄ちゃんの胸に飛び込んじゃって……やっぱり溜まってたんだね♪」

「ち、違うから!! これは不可抗力で私のせいじゃなくて……れ、零君もいつまで抱き着いているんですか!?」

「わざわざ受け止めてやったのにひでぇ言い草……。そうだな、お前もお兄ちゃんって呼んでくれたら離してやるよ」

「はぁ!? どうして私がそんなことを……」

「だったらずっと抱き着いたままだぞ?」

「うぅ……お、お兄ちゃん。お兄ちゃん!」

「…………」

「何か言ってくださいよ!!」

「いや、想像以上にグッと来たからさ……」

 

 

 ツンデレでもありクーデレでもある雪穂を中々自分の思い通りに従わせるのは難しいが、その柵を超えて"お兄ちゃん"呼びをさせてみるとその苦労の分だけ心をガッチリ掴まれる。しかも顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに"お兄ちゃん"と呼ぶその姿は、いつもの落ち着いた態度の彼女とはまた違ったギャップを感じられて非常に愛おしい。普段は大人っぽい雪穂だけど、こうして見るとやっぱり妹キャラが似合ってるよな。

 

 

「私もおにーちゃんをおにーちゃんって呼んでドキドキさせたい! おにーちゃん♪」

「いやお前もいつもそう呼んでるから……」

「お兄様。お兄様……。お兄様!!」

「そんなに連呼されるとありがたみがなくなるからな……?」

「お兄ちゃんが本当のお兄ちゃんなのは私だけなんだよねぇ~お兄ちゃん♪」

「どうして張り合ってんだよ……」

「お兄ちゃん! えへへ、零くんがお兄ちゃんだと安心しちゃいます♪」

「もうこうなったらいっそのこと……」

「全く、お兄ちゃんは妹相手にデレデレしすぎだから」

「妹だからだよ――――って、案外馴染むの早いな!?」

 

 

 こんな感じで、俺は妹たちに囲まれながら今日を過ごすことになった。もうこの時点で"お兄ちゃん"がゲシュタルト崩壊しそうになっているが、シスコン気味な俺からしてみればむしろ嬉しい現象だ。ベッドの上に5人もの妹を侍らせる生活を送れるなんて、もう本当に第二の人生を歩んでいいかも……。

 

 




 私は妹キャラが自分の兄のことを"お兄ちゃん"と呼んでいるだけでも心に来る人種なので、シスターズが登場する回は毎回特に気合が入っています。しかも今回は久々に矢澤姉妹の出演ということもあり、正直この1話だけでは物足りませんでした。
なのでまたこのような機会があったら今度はAqours側の妹キャラであるルビィや、Saint Snowの理亞だったりを登場させて、ガチで妹だらけの回にしてみようと思いました(笑)


 そしてこの話を投稿した1時間半後にはサンシャイン2期も放送開始となるため、今後Aqoursのキャラもμ'sに負けないくらい活躍させられたらいいなぁと思っています!


新たに☆10評価をくださった

ちいさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

食べ過ぎ!飲み過ぎ!太り過ぎ!!

 今回のメインは花丸と海未となります!
 今後はなるべくAqours編で絡んだことのない組み合わせで話を構成していく予定です。


 

 

「えぇっと、待ち合わせ場所はこの辺だったよな……?」

 

 

 夏休みのとある平日。俺は花丸から呼び出しを受け、某公園へとやって来た。

 公園とは言ってもそこまで大きくはなく、夏休みと言えどもそこまで人はいない。そもそも今の子供たちは長期休暇なので、こんな小さな公園よりも少し遠くてもたくさんの遊具や人が集まる大きな公園を優先して遊びに行くはずだ。だからなのかは知らないが、公園には本当に小さな子供とその親、散歩途中のお年寄りなど夏休みではなくとも見られる姿ばかりだった。

 

 そのことを踏まえると、花丸が何故こんな辺鄙な公園を集合場所に選んだのかが疑問である。昨日突然電話が掛かってきて今日の予定が組まれたのだが、その時の花丸はやけに焦っていたというか、とにかく緊急事態だということが声の震えからも伝わってきた。スクールアイドルのことで何か悩みがあるのかと疑い、元顧問として相談に乗ってやろうと思っていたのだが、こんな辛気臭い場所である必要はあったのかな……?

 

 

「あっ、先生こっちです!」

「よぉ……って、ここ公園の端も端だろ? 見つけるの苦労したぞ」

「ゴメンなさい……。でも、ここでないと相談できないことなんです!」

「はぁ……」

 

 

 いつも能天気でのほほんとしている花丸がここまで取り乱すとは珍しい。昨日の電話でも緊急事態だって言ってたけど、この様子を見るとあながち間違いじゃなさそうだな。しかも親友のルビィや善子に相談せずわざわざ俺に連絡を寄こしてきたってことは、それなりに切羽詰まっているということだ。もしかしたらAqoursの今後に関わる重要な悩みかもしれないので、なるべく早急に手を打たないと。

 

 俺はベンチに座っている花丸の横に腰を掛け、これから繰り出されるであろう重い話に身構えた。

 

 

「あの、実は……うぅ、やっぱり言いづらい」

「それを言うために俺を呼び出したんだろ? Aqoursのメンバーにも相談できないことだったら、尚更喋ってもらわないと」

「はい。い、いきます!!」

「逆にそんな勢いづかれても……。どうぞ」

 

 

 花丸は半身分こちらへ身体を近付けると、瞳を潤わせながら俺の眼を見つめる。

 どうやら覚悟はできたようだが、この状況になっても未だに戸惑いが見られるので本当に深刻な悩みらしい。ここからどんな面倒事……いやお悩みが展開されるのか、俺も自然と心が引き締まる。

 

 

「実は私……」

「あぁ……」

 

 

 

 

「体重増えちゃったんです!!!!」

 

 

 

 

「………………は?」

 

 

 呆気に取られるというのはまさにこのことと言わんばかりに、場の空気が一瞬で静まり返る。さっきまでピリピリと張り詰めた緊張感が漂っていたのにも関わらず、今では全ての時が停止したかのような静けさしか感じない。そのせいで臨戦態勢に入っていた俺の気合もあっという間に冷め切り、むしろ絶対零度の温度にまで冷え切ってしまった。自分で自分の表情は見えないが、恐らく今の俺の目は漫画やアニメのような点だけになっているだろう。それくらい花丸の悩みがどうでもよかったという訳だ。

 

 とにかく聞きたいことが色々ありすぎるから、とりあえず1つ1つ順番に解決しながらこの場を整えていこう。

 

 

「あのさ、まず1つ聞くけどそんなことで俺を呼び出したのか……?」

「女の子にとって、体重の増加は死活問題なんです!!」

「いやそれは分かるけど、お前が女の子を語るとはな……」

「むっ、それはどういう意味ずら!!」

「そのまんまだよ。それにしても、わざわざそんなことで俺を呼び出すなよ……」

 

 

 花丸が女の子らしくないと言えばそれはもちろんNOだが、彼女の可愛さは女の子特有というよりもルビィと同じくマスコット的な可愛さに近い。だから彼女の口からいきなり『女の子にとって』などの言葉を聞くと、少しだけど違和感を覚えてしまう。まあ体重増加の悩みは穂乃果や花陽から耳に穴が空くほど聞かされているため、その悩みを抱くことが女の子っぽいと言えば女の子っぽいのかもしれない。

 

 そして、相談の内容から何故Aqoursのみんなに相談せず俺だけを呼び出して悩みを明かしたのか、その理由が大体分かった気がする……。

 

 

「先生に相談を受けてもらったのも、体重が増えたなんて恥ずかしくてみんなに言えなかったから……」

「そんなことだろうと思ったよ。ていうか、ほぼ毎日練習してカロリーを消費してんのに、どこで太る要素があるんだか。消費カロリーを上回るほど食ってるのなら話は別だけど……って、どうした?」

「い、いや、心に突き刺さるなぁ~って♪」

「笑い話じゃねぇえええええええええええええええええええええええええええ!!」

「ゴメンなさぁあああああああああああああああああああああああああああい!!」

 

 

 やはり俺の予想は的中しており、体重増加の原因もまさかの食い過ぎという至って普通な理由であった。中には嬉しいことがあり精神的に高揚し、そのせいで太ってしまう幸せ太りというものもあるみたいだが、コイツの場合は単純に甘いモノの食べ過ぎだろう。全く、無駄に心配して損したよ……。

 

 

「で? お前は俺に何をして欲しいんだ? 自分が太ってるって言いに来ただけじゃないんだろ?」

「えっ、マルの相談に乗ってくれるんですか!? あんなに怒ってたのに……」

「乗り掛かった舟だし、ここで無視したら逆に俺の品位が下がるだろ。仕方なく聞いてやるって言ってんだ、さっさと話せ」

「ありがとうございます! それでは効率のいいダイエット方法について教えてください!」

「さっさと話せとは言ったが、やけに直球だな……」

 

 

 正直なところ、俺はダイエットというものをしたことがないのでそこまで的確にアドバイスはできない。単純に考えれば今の増加カロリーを減らすのが最善であり、会うたび会うたびにパンやお菓子をバクバク食っているコイツの日常を変えてやればそれで済む話だ。あれ? 結論が出ちゃったからこの話はもうここでおしまいじゃね……?

 

 

「マルは世間知らずなので、現代の女の子の画期的なダイエット方法を知らないんです! なので是非!」

「俺は女じゃないしお前も現代の女の子だろ……。だったら、俺よりもダイエット講師としてうってつけの奴がいるぞ」

「そんな人とお知り合いずら!?」

「あぁ。幾多の小太り女子をスリムにしてきた、ダイエットの神みたいな奴だから」

「是非紹介してください!! 最近体重が増えてダンスの動きが鈍くなってきたなぁ〜っと思ってたので、なるべく早急に体重を戻したいんです!!」

「心意気は良し。あとはへこたれない覚悟はしっかり持っておけよ」

「か、覚悟……?」

「そう、覚悟」

 

 

 その講師が教えるダイエット術は女の子たちが震え上がるほど的確で、同時に唸るほどスパルタだと評判なのだ。そのダイエット術を受けた者は二度と過酷な現実に突き落とされないよう、自ら率先して体重を維持する努力をすると言われている。まあ一部の女の子は恐怖体験が待ち構えていると知っていても過度な食を取るチャレンジャー気質の奴もいるが、その時は大抵講師の怒りに触れて再度地獄を体感するのがお決まりだ。

 

 そんなスパルタダイエット術を体験してもらうためには、それなりの覚悟を持ってもらわないと――――とは言っても、実践する前からビビらせる必要はないし、詳細は敢えて黙っておく。手っ取り早く体重を減らしたいのなら、それくらいの試練は乗り越えてもらわないとな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「先生……? ダイエットの講師の方が来るはずだったのでは……?」

「そうだよ。だからわざわざこうして呼び出してやったんじゃねぇか」

「だって……だって……講師の方が"園田海未"さんだったなんて!?!?」

「零、あなた私のことを紹介していなかったのですか……?」

「あぁ、そっちの方がサプライズ感あるだろ?」

「またそんなつまらないことを……」

 

 

 ダイエットの指導と言えば、μ's内の鬼スパルタ講師である海未が適任だ。という訳で、花丸の体重減量を図るために海未をこの場に召喚した。さっき俺が花丸に覚悟を持っておけと忠告した理由が分かっただろ? まあ花丸的にはダイエットなんかよりも、目の前にμ'sの園田海未がいる事実の方に驚いているみたいだが。

 

 

「ど、どうして海未さんがここに……?」

「コイツ、身体の管理に関しては口うるさいほどしっかりしてるんだよ。だからお前に合ったダイエット方法を教えてくれるかもしれないぞ」

「口がうるさくて悪かったですね……」

「まぁまぁ……。状況は電話で話した通りだから、とりあえず花丸を助けてやってくれよ」

「そのためにここへ来たのですからお助けはしますけど……国木田さん、でしたっけ? 見ず知らずの人に自分の身体を預けるのは気が気ではないと思いますが、よろしいですか……?」

「そ、そんな滅相もございません!! むしろ海未さんに指導してもらえるなんて光栄と言いますか……」

「そこまで畏まらなくてもいいですよ。深呼吸をして、リラックスリラックス」

「すぅ~~はぁ~~……あっ、本当にリラックスできたずら!」

「よろしい!」

 

 

 流石は海未というべきか、あっという間に花丸の焦燥を解消してしまった。高校時代も穂乃果やことりはもちろん、他のμ'sメンバーの悩みにも敏感でよく個人で相談を持ち掛けられていたくらいだから、伊達にμ'sのメンタルヘルス係を担当していない。よし、こうなったら今度千歌がμ'sと会って暴走してしまった際には海未に対応を任せるとしよう。μ'sと顔を合わせるたびに俺にへばり付いて離れなくなるから暑苦しいんだよなぁ……。

 

 しかし、これまでの優しさは海未の表の顔と言っても過言ではない。一応ダイエットを教えて欲しいと連絡を入れてこっちへ来てもらったのだが、不穏なことに何故かコイツはそこそこ大きなカバンを持ってきている。あの中に何が入っているのか想像するだけでも恐ろしいが、ここで彼女を咎めて花丸の不安を煽るような真似はしたくない。やっぱりここは花丸に耐えきってもらうしかなさそうだ。恨むなら俺じゃなくて、食べに食べ過ぎた過去の自分を恨むんだな……。

 

 

「とにかく、ダイエットをするにもまずは体重増加の原因を調査しなければなりません。どれだけ運動をしようが、原因の根本を改善しなければ効果はありませんから。国木田さん、自分で思い当たる点は何かありますか?」

「えっ、えぇ……と」

「食い過ぎだってよ」

「ひゃぁっ!? せ、先生!?」

「ここで口ぐもっててどうすんだよ。もし嘘なんて付いたら、それこそお前のためにならないだろ?」

「そ、そうですよね……。先生の言う通り、食べ過ぎが原因かと……」

「なるほど。これまたいつも通りの展開ですね」

「え、いつも通り……?」

「いえ、こちらの話です」

 

 

 俺と海未の脳裏に浮かぶのは、和菓子屋のおバカちゃんとご飯好きのおっとり娘の顔だ。これまで何度かアイツらのダイエット活動を見てきたが、体重増加の原因は決まって『食べ過ぎ』でそれ以外が原因を聞きたことがない。海未はその過去があるから花丸の言葉にデジャヴを感じているようで、右手を頭に当てて呆れている。実はμ'sとしてスクフェスへ向けた練習を開始する前にもダイエット関連でひと悶着あったのだが、それはまた別の機会に語るとしよう。

 

 

「原因の根本は分かりました。それでは間食をする頻度はどのくらいですか?」

「うっ……つ、常に何かを……」

「常にって、いつも何かを食べているってことですか?」

「は、はい。お部屋の中とか、練習の合間とか、電車やバスで移動中とか、暇があるとお腹が空いちゃって、ついついお菓子やパンを手に取ってしまうんです……」

「これは想像以上と言いますか、今まで見たことがない事例ですね……」

「流石の海未先生も今回ばかりはお手上げか?」

「いいえ。むしろそれを聞いて俄然やる気が上がりました! 何としてでも国木田さんの体重を元通りに減量、いやこれまでよりもスリムにして差し上げます!!」

「えぇっ、どうして海未さん燃えてるんですか!?」

「人のダイエットに魂賭けてんだよコイツは……」

 

 

 ダイエット方法の伝授を申し込まれると最初は呆れる海未なのだが、もう何度も同じことをやっているうちにいつの間にか自分の本業として認識したみたいだ。そして一度引き受けた仕事は何としてでも完璧にやり通すその性格が仇となり、こうして人のダイエットなのにも関わらず本人よりもやる気の炎を燃やしてしまう。海未がこうなったら最後手を付けられる者は誰もおらず、これから繰り広げられる地獄のダイエット活動を必死に耐え抜くしかない。花丸はそんな暴走した海未を知らないため今は訳も分からず焦っているだけだが、あと数分後にはどうなってることやら……。

 

 

「それでは質問を続けましょう。ついついつまみ食いをしてしまうとのことですが、具体的にはどんなモノを食べていますか?」

「そ、そんなことまで……!? えぇっと、これ……とかですかね?」

 

 

 花丸はカバンから『のっぽパン』と書かれたパンの袋を取り出すと、渋々ながら海未に差し出す。ていうか、ダイエットしたいと懇願してきた奴がカバンの中に堂々とパンを忍ばせてるって何事だよ……。

 

 海未は花丸からパンの袋を受け取ると、裏面に記載されているパンの原料やカロリー数をまじまじと見つめる。何も語らず無言なのがこれまた怖く、これから起こるであろう地獄のダイエットを予感させる静けさが立ち込めていた。

 

 

「…………」

「せ、先生。海未さんの顔がどんどん険しくなっていますけど、大丈夫ですよね……?」

「何をもって大丈夫と言っていいのかは俺も分からないけど、覚悟はしっかり持っておけ」

「また覚悟!? 食べ過ぎだって自白するだけでも恥ずかしいのに……」

「お前らが恥ずかしがる基準って、よく分かんねぇよな」

「女性は自身の食生活を赤裸々にされるのが何より恥ずかしいずら!!」

「へぇ……」

 

 

 食べ過ぎだって事実を公表するのは恥ずかしがるくせに、俺と図書館で密着してしまった時は特にそんな片鱗すら見せなかった気がするんだが俺の気のせいか? 好きな男に近づかれるよりも食生活を暴かれる方が緊張するって言うんだから、女の子の羞恥心の基準を俺は今でも測りかねている。ホント、女心って分かんねぇな……。

 

 

「1袋に入ってるのっぽパンの本数は6本。暇があれば食べていたとして、1日に1袋と計算すれば消費しなければならないカロリーは……いやでも、それはのっぽパンだけのカロリーであって、普段の3食を考慮に入れたらもっと……。それにジュースを飲んでいればまたそれだけカロリーが増えることに……」

「せ、先生! 海未さんの声色が低くなってきましたけど、本当に大丈夫ですか!?」

「どうする? 今の間に遺書でも書いとくか?」

「私はダイエットをしに来たんです!!」

 

 

 そう言われても、お経を唱えるようにカロリー計算をし始めた海未をもはや止めるすべはない。このまま尻尾を巻いて逃げ出してブクブク太り続ける生活に戻るか、それともこの重苦しい空気に耐えてガリガリにやせ細るか選択肢は2つに1つだ。

 

 ちなみに海未のダイエットが効果的な原因の1つとして、この重い雰囲気に身が震えて痩せてしまう現象が考えられる。穂乃果や花陽なんて海未がダイエット講師になると聞いただけで冷汗を流し、地獄を味わいたくないからと自ら必死で減量しようとするくらいだから。その恐怖体験も相まって、μ's内では絶対に体重を増やさないことが暗黙の了解となっている。まあ海未は海未でダイエットがてらに穂乃果たちを登山へ誘おうとしているから、彼女からしてみればダイエットというのはいい口実なのかもしれない。

 

 

 そんなことを考えている間にも海未はカロリー計算を終えたのか、パン袋を懐に収めて(無言の没収)険しい表情のまま花丸の顔を覗き込んだ。対して花丸はまるで凶悪犯罪者に睨まれたかの如く顔を青くし、激しく瞬きを繰り返しながらベンチの端に追い詰められていた。

 

 

「あ、あのぉ……」

「今から質問をしますから、正直に答えてください」

「えぇ……」

「こ・た・え・て・く・だ・さ・い・ね♪」

「は、はいぃ……!!」

 

 

 少しでも恐怖を緩和させようと笑顔になる海未だが、この状況で笑みを零しても黒い笑顔にしか見えないので逆効果だ。そのせいか花丸は涙目になりながら俺に助けを懇願してくるが、さっきも言った通り今の海未を止める算段など持ち合わせてないし、そもそも下手にコイツに触れて俺まで地獄のダイエットに巻き込まれた目も当てられない。可哀想だが、花丸にはこのまま修羅の道へと堕ちてもらおう。なぁに、過酷なだけスリムになれるんだから問題ないさ。

 

 

「まず第1問。パンを食べた後のあなたの行動は?」

「えぇっと、食べた後は気持ちよくなって寝ちゃうことが多いかな……」

「………なるほど。それでは第2問」

「さっきの間は!?」

「これまで体重が増えたと実感したことはありますか?」

「昨日が初めて……だと思います。胸が重くなったなぁ~っと感じることはよくありますけど……」

「……………なるほど。それでは最後の質問です」

「間が長くなった!?」

 

 

 あ~あ、花丸の奴、地雷踏んじまったなぁ……。海未に対して胸の話はNGだってことくらい、幼児が「あいうえお」を覚えるよりも先に学ぶことだぞ? 同級生の穂乃果やことりが二十歳を超えた今でも胸が大きくなりつつある現状に、1人だけほとんど膨らんでない胸を見たらそりゃ狂人にもなるわ……。

 

 

「国木田さん。あなた、胸のサイズはいくつですか……?」

「ふぇっ!? ど、どうしてそんなことを……?」

「い・く・つ・で・す・か♪」

「は、83……です」

「くっ……!!」

「なぁ、お前ダイエットを教えに来たんだよな? 趣旨変わってきてね??」

 

 

 海未はベンチに手を着きながら、己に降りかかった敗北の2文字を重々しく受け止めている。コイツもまさか6歳下の、しかも高校に上がりたての子に胸のサイズで負けるとは思っていなかったのだろう。しかし夏場の薄着を見れば2人の身体の凹凸は一目瞭然で、もはや胸のサイズを聞くまでもなく花丸に軍配が上がることは自明の理だ。だが海未はその事実を受け入れられず、もしかしたら自分が勝っている一縷の望みに賭けて質問をしたんだろうが……夢見ていた華やかな結果は無残にも散った。

 

 

「いや薄々分かってましたよ。ダイエットを頼んでくる子たちが、ことごとく私よりスタイルのいい子ばかり。穂乃果と花陽も然り、私よりもたくさん甘いモノを食べて不健康そうな生活を送っていることりや希に至っては足元にも及びません……。ですが流石に高校生とならいい勝負ができると意気込んでいたのですが、まさかこんな無様な結果になってしまうとは……笑ってください、ははは……」

「ここまで成長しないのも笑えるよな」

「フンッ!!」

「ぐあ゛ぁっ!?」

「せ、せんせぇええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 そこまで強い力ではないがおでこに拳骨を入れられ、油断していた俺は大きくのけ反ってしまう。一瞬意識が飛んですぐ復活したのだが、あまりに突然の出来事に何故殴られなきゃいけなかったのかしばらく考えることすらできなかった。

 

 

「おいっ!! さっき自分で笑ってくださいって言ったろ!?」

「零に笑われると腹が立ちますから」

「出たよ、俺を理不尽扱いしておけば何でも許される法則……」

 

 

 そもそも、ダイエットの話からどのような経緯でこんな話になったのかが分からない。それもこれもハーレム主人公を理不尽に扱っておけば、急な話の方向転換も許されるってか? いつか絶対その法則を打ち破って、正論で彼女たちを論破してやるからな……。

 

 だが胸囲にコンプレックスのある海未は俺を殴っただけで気が収まる訳がなく、さっきから不穏に置いてあった大きなカバンを担いで花丸の前に仁王立ちした。

 

 

「国木田さん!!」

「は、はいっ!!」

「これから私の考えたダイエットプランを実行してもらいます! このプランを達成した暁には、肉付きの身体もスレンダーとなり、更に無駄に脂肪が付いた胸もスリムになることでしょう」

「よ、よろしくお願いします!!」

「だから、ちょっと趣旨変わってきてるよな……?」

 

 

 

 巨乳を憎む復習者のような風貌で黒と紫のオーラを纏っている海未は、もはやμ'sの女神としての面影は一切ない。俺が呼び寄せておいて言うのもアレだけど、これはパンドラボックスの蓋を開けちまった気がするぞ……。

 

 

 とりあえず、次までに花丸に遺書を書かせておくか。

 

 

 

 

To Be Continued……

 

 




 こうして見ると海未がネタキャラにしか見えないのですが、もはや公式でも変顔で弄ってますし、この小説でもギャグキャラ路線で突っ張ります(もう今更かもしれませんが……)。


 次回は地獄のダイエット編!



新たに☆10評価をくださった

虎雄さん、べいびぃーーさん、紫外線放射装置さん

ありがとうございました!
☆10評価をくださると非常にモチベが上がるので、まだ評価してくださっていない方は是非よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

地獄のバストダウン・ダイエット

 今回は海未と花丸回の後編となります!


 

 園田海未と言えば、『容姿端麗』+『品行方正』で女性の憧れの的として有名な女の子だ。バレンタインでも同性からチョコを貰うくらいに人気があり、高校でも大学でも女性のカリスマと謳われるほどのポジションにいる。それにお高くまとまっているからと言って接しにくくはなく、誰とでも温和に打ち解けられるからこそそこまで慕われているのだ。女性を惚れさせるほどの規律正しい立ち振る舞いで、見る者の目をついつい引き寄せてしまうくらい彼女の気品は凄まじい。

 

 だが今はどうだ? 6歳も年下の女の子に胸の大きさで嫉妬し、ダイエット術と称して花丸のバストダウンを画策している。その姿はまさに無様で負け犬の悪足掻き。そこにはカリスマ性も規律の正しさも、増してや気品さなんて最底辺だ。やはり女の子の嫉妬というのは見苦しくて恐ろしいな……。

 

 

「ダイエットをする前に、国木田さんには日々の食生活を改善してもらいます。毎日の3食は適度に、間食なんてもってのほか、飲み物も脂肪の燃焼に良いモノをピックアップしました」

 

 

 海未はこの場で花丸の食生活プランをサッと書き上げると、見なくても分かる過酷な運命が書かれたノート、通称"デスノート"を彼女の前に突き出す。

 

 

「えぇっ!? ご飯これだけ!? しかもパンを一切食べられないなんて……」

「この世には断食で精神統一をする人だっていますから、頑張ればその程度耐えられますよ。むしろ衣食住の食を奪われなかっただけ感謝して欲しいものですね」

「お前、そんなドSキャラだったっけ……?」

「ダイエットは妥協せず、全力を注ぐというのが私のモットーですから」

「まあ手を抜いたらそれこそ相手のためにならねぇからな」

「先生納得しちゃダメ!! マルこのままだと空腹で死んじゃいますよ!?」

「大丈夫です。3日も経てば空気を吸ってるだけでお腹が満たされるようになりますから」

「これってダイエットであってイジメじゃないですよね!?」

 

 

 相変わらず趣旨がズレている気もするが、お寺の娘の花丸なら案外断食を耐え抜くことができるかもしれない。彼女にそこまでの忍耐と腹の虫を抑えられる力があるかは分からないけど、極端すぎるダイエットもそれはそれで困りものだ。

 

 そもそもダイエットは続けないと意味がないという観点から、下手に無理をし過ぎてやめてしまわないよう自分が苦と思わない程度にダイエットをするのが一番効率がいい。そんなことくらいもう4年もダイエット講師を務めている海未なら分かっているはずなのに、こうして断食を勧めるほど意地悪をするってことはよほど巨乳に恨みを抱いていたに違いない。同級生の穂乃果とことりがぐんぐん成長している中で、自分1人が微量な成長だとそりゃコンプレックスにもなる。特におっぱい好きのどこぞの彼氏がいる手前、貧乳だとそれだけで自分の魅力が1つ減ってしまうと思っているのだろう。俺はそんなことねぇんだけど、やっぱり女の子は胸を意識するものなんかねぇ……?

 

 

「こほん、まあとりあえず断食の話は置いておきましょう」

「よかったぁ~冗談だったんだ」

「もしダイエット期間中に黙って間食でもしたら、次の日の3食が1食減るので覚悟しておいてください♪」

「そ、それじゃあ間食を3回したら……」

「次の日は何も食べられない、ということになりますね」

「もうそれってダイエットじゃなくて、ただの罰ゲームなんじゃ……」

「だからこそ気概を持ってダイエットに臨んで欲しいのです」

 

 

 物は言いようというべきか、一見すると海未の言ってることは正しいように聞こえるが、少し考えてみると中々に理不尽なダイエットを押し付けている。巨乳に対して嫌がらせをしてやろうとまでは思っていないだろうが、元々彼女のダイエット方法は高校時代からこんな感じだ。だから年下の花丸に対して厳しすぎるという意見は分かるけど、これが普通なんだよ。逆にこれが普通と宣告することで花丸が更に震え上がるかもしれないので、彼女には敢えて海未のダイエットが特殊だと誤認識させておこう。

 

 

「さて、それでは行きましょうか」

「えっ、行くってどこに……?」

「決まっているではありませんか、山頂アタックです!」

「な、なんですかそれ……」

 

 

 海未はいつの間にかフォームチェンジをし、服装が登山用の衣装に様変わりしていた。

 薄々勘付いてはいたが、やっぱり持参していたデカいカバンはこのためだったのか……。最近一緒に飲んだ時に『μ'sのメンバーは誰も登山に付き合ってくれない』と、壊れたレコードのように繰り返し愚痴を呟いていたので大体こんな展開になることは予想できていた。さっきまではパンのカロリーを見てしかめっ面をしていたくせに、今は目を輝かせて楽しそうにしているためダイエットのことなど確実に忘れているだろう。久々に自分の趣味をさらけ出すことができて嬉しそうなのは分かるが、実際に付き合う予定の花丸は何が何だか分からなくてキョトンとしていた。

 

 

「とりあえず花丸、あとは頑張れよ。俺は帰るから」

「は、はい!! っていうか、何を頑張るのかまだ分からないんですけど……」

「帰る? 何故?」

「そんな『は? お前何言ってんの?』みたいな口調で言われても……。そもそも俺はダイエットなんてする必要ないし、夏場の山なんて絶対に地獄だから行きたくねぇよ」

「心配はいりません。富士山の頂上は年中極寒ですから」

「どこを登らせようとしてんだよ!? 近所のコンビニに行く感覚で言うんじゃねぇ!!」

 

 

 富士山って素人が登る山にしてはそこそこ過酷で、それこそ頂上まで辿り着くには入念な準備が必要と聞く。だから大抵の人は途中の休憩所である山小屋で引き返すことも多いらしい。しかしその人たちも当然ながら山登りの準備くらいはしている訳で、今から何の準備や知識もなしに富士山へ特攻するのは命を捨てに行くようなものだ。まあ命懸けで登山をすれば、その緊張からスリムになれるのかもしれないが……。

 

 

「零。あなた夏休みに入ってからというもの、食っては寝て食っては寝ての繰り返しだと楓から聞いています。だからこれを機にあなたも運動不足を解消したらどうですか? 仕事をし始めたら身体を動かす機会もますますなくなりますし」

「余計なお世話だよ。俺の身体は自分自身で管理するから」

「現時点で家事を楓に押し付けて甘えているあなたに、自分で自分の身体を管理すると言われても……」

 

 

 冷静に紛うことなき事実を突き付けられ、一切反論をすることができないダメ兄の図である。

 いや、楓に甘えているというよりも、俺が何か家事をする前にアイツがすべて率先して身の回りの世話をしてくれるのだ。しかも楓の家事スキルは半端ではなく、手際の良さ的にも俺がやるよりよっぽど効率がいい。だから甘えているんじゃなくて、作業効率面で家事をするのは誰が適任かをお互いに考えた結果なのだ。そして俺の担当は夜の……って、その話はいっか。

 

 

 海未はどうしても山登りをしたいらしく、こんなクソ暑い日に長袖長ズボンで汗一つかかず、むしろこれから登山ができる喜びで清々しい顔をしている。逆にそんな意気込みに燃えるコイツを見て、俺と花丸は木陰に座っているだけでも暑苦しさを感じていた。

 

 

「まさか本当に山登りをするずら……?」

「言っておきますけど、私の趣味に付き合わせている訳ではありません。最近登山に付き合ってくれる人がおらず、今回がいい口実になるとは一切思っていませんので!」

「いや、欲望しか見えてねぇぞお前……」

「あら、失礼。それでは山ではなくて海で――――」

「泳ぐんですか!? そっちの方が楽しくできるかも」

「なるほど。それでは軽く遠泳10キロから――――」

「あぁぁぁあああああゴメンなさい嘘です普通のダイエットがいいです」

 

 

 山だろうが海だろうが、どこへ行こうが過酷なダイエットを強いられるため、一番無難な策はこの場で軽くできつつも効果のあるダイエット方法を教えてもらうことだ。そもそも登山や遠泳なんて並みの女子高校生が挑戦していいような運動ではなく、Aqoursの中でも特に運動神経がダメダメな花丸にとっては文字通り地獄だろう。だからこそ年上の海未の暴挙に下手に付き合ったりせず、普通のダイエットがいいと言い切ったのはグッジョブだ。まあ身体に無理矢理ムチを打たせて登山させられることを思えば、反射的に反論したくなるかもな……。

 

 

「そうですか。泣く泣くですが、秘蔵である普通のダイエット方法をお教えしましょう」

「泣いたり秘蔵だったり、普通って一体……」

「とにかくまずは体力作りからです。軽めのストレッチでもカロリーは十分に燃焼できますから」

「それなのに登山させようとしてたのかお前……」

「あれは私の趣味です」

「分かってはいたけど、悪気もなく堂々と宣告するのか……」

「し、仕方なかったのです! 久々に登山に付き合ってくれる人がいるかもと思って、テンションが上がってしまったのですから!」

 

 

 こんなに下心を丸出しにする海未は中々見られないレアな様子である。見たいかどうかは別だけど、μ's内に同じ趣味を共有できる子がいないからこそAqoursのメンバーに一縷の望みを抱いていたのかもしれない。実際のところ曜だったり果南だったりと、運動好きで彼女の趣味に付き合える子がいない訳ではないのだが、完全に誘う相手を間違えたな。

 

 

「とりあえず、最初は軽く腕立て伏せから始めましょうか」

「う、腕立て……!? ストレッチの中でも特に苦手なやつずら……」

「体力がないのは分かりますが、これもダイエットのためだと思って我慢してください」

「それも理由の1つなんですけど、もっと別の理由が……と、とにかくやってみます!」

「…………?」

 

 

 花丸の体力がないのは重々承知しているので今更言及されてもって話なのだが、どうやら彼女はそれ以上に何か懸念点があるらしい。運動部にも所属していない女子高校生が腕立てをするだけでもキツイのは分かるけど、花丸はそれとは関係なく何故か俺の方をチラチラと見ながら挙動不審な動きをしている。頬も紅潮しているので、もしかしたらその懸念点というのは俺がいるからなのか……? さっきまで元気よく必死に海未へツッコミを入れていた花丸が、突然しおらしくなっていた。

 

 そして渋々と言った感じで、花丸が腕立てを始める。どうして腕立てごときでそこまで恥ずかしがっているのか意味不明だったのだが、彼女が上下運動を開始してすぐにその理由が目に見えてはっきりとした。

 

 もちろんだけど、腕立てというのは手を地に着いて腕の力だけで自分の身体を上下に動かす運動のことだ。つまり、腕の力を抜けば身体は地面に吸い寄せられるように落下する訳である。元々腕立ては身体が地に着かないようにするのが一般的なのだが、腕の力なんてない花丸はすぐに力尽きて身体が地面に着いてしまう。そう、その光景に俺の目が奪われてしまったんだ。

 

 花丸の腕の力が尽きて身体が地面に密着すると、当たり前のことなのだが彼女の大きな胸が地にベッタリと張り付く。しかも今は夏場だから服は薄着である。そんな恰好をして身体を地に押し付ければ、当然胸の形が手に取るように分かるくらいそのボリュームを感じられた。花丸自身も自分の胸が形が変わってしまうほど地に着いているのは察しているようで、恥ずかしさを堪え必死に腕に力を入れ身体を浮かすも、ものの数秒で力尽き再び胸を地面に張り付かせてしまう。女の子のおっぱいなど無限に触ってきた俺だが、そんな俺だからこそ見ただけで分かる。彼女の胸の大きさと柔らかさ、弾力と張りの良さ。地面に着くたびに胸の形状が"むにっ"と変化する光景に、俺は釘付けとなっていた。

 

 そう、腕立てをする前に花丸が俺を見てそわそわしていたのは自分の体力的に腕立てができないからではなく、胸が大きすぎてこうなってしまうことを事前に悟っていたからだ。男性である俺にこの姿を見られると思い、だからこそ腕立てを躊躇していたのだろう。

 

 花丸も俺にじっと見つめられていることに気付いているらしく、羞恥心がゆえにどんどん腕に力が入らなくなっているようだ。だがそうなればもちろん腕立てなんて成立しない訳で、やがて身体を持ち上げている時間よりも身体が地面に着いている時間の方が長くなってきた。

 

 

「はぁ……んっ」

 

 

 体力的にも疲れてきているのか、腕に力を入れる時に発せられる吐息にエロさが際立っている。顔を赤くしてそんな官能的な声を出されたら、上下運動をしていることも相まってマジモノの性行為をしているみたいだ。そんなことを想像すると俺の欲求も自然と高まってしまい、尚更腕立てをしている花丸に熱い目を向けてしまう。そしてそんな目線を向けられた花丸は羞恥心からどんどん脱力し――――――そう、つまり無限ループになってしまうのだ。

 

 

 しかし、俺と花丸の間でそんなお熱いやり取りが行われている最中、この場にいるもう1人の雰囲気がまたしても邪悪に染まっていることに気が付いた。

 瞳が完全に据わっており、ヤンデレを彷彿とさせる光を失った目は花丸の大きな胸を捉えている。

 

 

「なるほど、やはりダイエットというのは現実を突きつけられるものなのですね……」

「なに悟ってんだよお前……」

「いや、別にいいのです。胸なんてただの脂肪の塊ですから……あははっ」

 

 

 本来なら海未の地獄ダイエットで花丸が苦しむはずだったが、蓋を開けてみれば精神ダメージは恐らく海未の方が大きい。その証拠に蒼白の顔から漏れだす声に全く覇気がない。花丸の胸が目に毒なんだったら辞めさせればいいのにと思うかもしれないが、自分から腕立てをしろと言った手前中々辞めさせられないのだろう。かと言って苦い現実を突き付けられた今、目を背けたってもう遅い。だから海未は今にも白骨化しそうな表情を浮かべながら、ただただ目の前のおっぱいの柔軟さを見つめるしかなかった。まあ貧乳にはおっぱいの柔軟さの欠片もないからな……。

 

 

「穂乃果も花陽もみんなこうなるのに、私だけは……私だけは……」

「そんなことを羨ましがってどうすんだよ……」

「慰めは必要ありません。これからも私はまな板人間として生きていきますから。キャンプの時にもしまな板を忘れても、私がいるので心配は要りませんね……あははっ」

 

 

 海未はこれ以上にないってくらいやさぐれ、普段はあまり口にしない自虐ネタを漏らす。これほどまでに自暴自棄となった海未を始めてみたが、俺としても扱いが面倒なのでコイツはこのまま放置しておくことにしよう。下手に突っつけばそれに呼応するように自虐を放つので、できれば触れたくない。しかし未だに頑張って腕立てをしている花丸を止めるのも渋られるので、結局俺はどうしたらいいんだ……? 片や胸が地に擦れて刺激が伝わってくるのか顔を真っ赤にしているし、片や白骨化していて少しでも触れれば身体の芯から崩れてしまいそうになっている。

 

 このままだと公園にいる人から不審者集団だと疑われかねないので、既に奈落の底に沈んでいる海未は放っておいて、花丸だけ救出してこの場を去ろう。いくら俺たちが公園の端にいると言っても、真っ白になってる奴と顔を赤くして腕立てをしている奴が両立している時点で目立つから。

 

 

「おい、花丸」

「は、はい……?」

「なんかその……悪かったよ。アイツに頼んだ俺が間違いだった」

「い、いえ! 元はと言えば食べ過ぎたマルが悪いずら! だからこれからは海未さんに貰ったこのダイエットプランを参考に、少しずつ今の食生活を改善していこうかと」

「そうか。これまでの過程はあれだったけど、しっかりダイエットしてくれるのならそれでいいよ」

「はいっ! そ、それと先生に聞きたいことがあるんですけど……」

「なんだ?」

 

 

 聞きたいことがあるって言ってきたのにも関わらず、花丸は俺と目を合わせようとしない。後ろめたい気持ちというよりも、さっきからずっと頬が赤いためまだ俺に対してどこか緊張しているのだろうか?

 

 

「先生は、その……胸が小さい女の子の方が好きですか……?」

「えっ? えぇっ!?」

「へ、変な意味じゃないんです!! 先生がマルのダイエットに乗り気だったみたいなので、もしかしたらそうなのかなぁ~っと」

 

 

 無意識だろうが、花丸は自分の両腕を身体に回して胸を隠すような仕草を取る。そんなことをしたら余計に胸に意識が行っちまうだろうが……。

 さっきから花丸がそわそわしていた真の理由は、まさかの俺が貧乳派だと思っていたかららしい。確かにダイエットを勧めはしたが、それは彼女が強く懇願してきたからであって、別に俺自身ノリノリだった訳ではない。でも花丸は俺が乗り気だと思い込み、ダイエット=バストダウンだと勘違いしていた結果がこれだ。ということは、太ってきて身体が鈍ってきていると実感した理由は胸が大きくなってきたと感じたからなのか。これまた海未が発狂しそうな理由だな……。

 

 本題に戻るが、彼女の質問に対する答えなんて1つに決まっている。男だったらもちろん―――――

 

 

「そりゃあ大きいことに越したことはないだろ。触り心地だったら大きい方が断然いいし。でも前提として、俺は大きさなんて気にしないから安心しろ」

「そうなんですか?」

「あぁ。大きな胸を触ってるっていう単純な事実よりも、()()()()()()()()()()()()って事実の方がよっぽど興奮できるから」

「す、好きぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」

「ち、違う! 違わないけど違う!! 自分の信念を端的に伝えようと思っただけだ!!」

 

 

 ただでさえ赤くなっていた花丸の顔が、湯気が見えるほど一気に沸騰した。浦の星を離れる前は恋愛話も官能話も割と落ち着いた態度で対応していた花丸だが、屋上での一件で自分の想いをさらけ出した影響か、今は持ち前の純情さを爆発させている。俺も言葉選びが簡潔過ぎたとは思っていたが、まさかここまで取り乱すとは……。

 

 

「そっか、先生は胸が大きい女性が好きなんだ……♪」

「慌てたり笑ったり忙しい奴だな……」

「そうですよね。やはり胸が大きい方が男性は悦びますよね……」

「お前はまだ昇天してんのかよ! 早く戻って来い!!」

 

 

 海未の趣味が暴走したり欲望を後輩にぶつけたりと色々面倒事はあったが、とりあえず花丸が無事ダイエットをしてくれるみたいで良かったよ。しかも俺が女の子の胸好きだって告白を聞いた瞬間にやる気も向上したみたいなので、ちゃんとダイエットができているか監視しておかなくても大丈夫そうだ。

 

 そしてダイエット講師を務めていたはずの海未は……復活まで時間がかかりそうだから、ここに放置しておくか。

 




 とりあえず花丸の過労死だけは防げたので私は満足です(笑)
 そして悪戯な海未も割といいキャラをしていると執筆しながら思ったので、今後またこのようなギャグギャグした海未も描きたいなぁと。


 次回は絵里と果南がメインの回となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アダルティ・ホラーショー

 今回は絵里&果南の回です!
 一応その2人以外にも登場人物はいるのですが、それは皆さんの想像と推理にお任せします(笑)


 

 夏の風物詩を挙げろと言われたら数十個くらいは候補に出るだろうが、ほぼ真っ先に挙がりやすいのは海や山に並んで肝試しではないだろうか。わざわざ自ら恐怖体験をしに行く精神は理解できないが、人間というものはスリルを味わいたい生き物であるがゆえに、旅行や合宿の出先で灯りのない夜道を歩くのは定番中の定番となっている。特に学生時代の修学旅行で肝試しを体験した人は多いだろう。学生がする肝試しなんてまだ可愛いもので、もっと緊張感を味わいたい人は自ら墓地や心霊スポットに足を運んだりしている。そんな時に限って心霊現象や怪現象が起こったりするのだが、そんな場所へ行く人は異常事態を承知しているはずなので相当肝っ玉が強い。周りからは完璧超人と言われている俺だけど、本格的な肝試しに耐えられるだけの精神力は持ち合わせていないので、もっと強いメンタルを磨き上げたいものだ。

 

 しかしメンタルを磨き上げるよりも、まずはそのメンタルを生成することから始めなきゃいけない奴らがここに2人ほどいる。しかもさっきから俺の腕を強く握りしめてくるから痛いのなんのって……。

 

 

「れ、零!! どうして私がこんな所に来なくちゃならないのよ……!!」

「仕方ねぇだろ。仕事なんだから」

「せ、先生!? さっきそこの箱が勝手に動いたような……」

「まだ入り口なのにそんな訳ねぇだろ。つうか、もっと落ち着けよ」

「「無理!!!!」」

「あっそ……」

 

 

 絢瀬絵里と松浦果南。俺の両腕を圧死させるかのごとく強く握りしめ、まだお化け屋敷の入口にも関わらず身体をガクガクと震わせている。そう、俺たち3人はお化け屋敷にやって来たのだ。

 あらかじめ言っておくけど、何も彼女たちをビビらせるためにここへ来たのではない。近々秋葉が監修したお化け屋敷がオープンするらしく、その先駆けで下見として俺たちが抜擢された訳だ。ぶっつけ本番でオープンして全然怖くないと酷評を垂れ流されないよう、事前に俺たちを実験台としてこのお化け屋敷の仕掛けや驚かせ方などを研究したいらしい。本来なら俺もそこまで乗り気じゃなかったのだが、秋葉が絡んでいるとあって報酬はそんじゃそこらのバイトよりも断然高いため、金に釣られる人間の性にどうしても抗えなかった。あの秋葉が監修したって聞くからどれだけ奇抜な雰囲気なのか心配するところはあるが、一般向けなのでそこまで気にするほどでもないかもしれない。

 

 ちなみに、俺以外の人選が絵里と果南なのもちゃんとした理由がある。お化け屋敷の視察をする都合上、怖いモノに耐性のある奴らを固める訳にはいかない。どうせ視察するならその段階で怖がって叫んでもらった方が驚かせる側のやる気にも繋がるため、今回は特に怖いモノが苦手な女の子たちを集めてきた次第だ。μ'sの中でなら絵里がダントツのビビりだってことは知っていたけど、Aqoursの中では誰になるのかを全く知らなかったので鞠莉に連絡をしてみたら、まさか果南が来るとは予想外だった。コイツこそ鋼のメンタルの持ち主だろうと最初は思っていたのだが、既にここまでの反応を見てもらってもうお分かりのこと。果南も絵里と同類だってことだ。

 

 

「まさかお前がここまで怖がりだったなんて。なぁ果南」

「暗いところは誰でも怖いですよ普通!」

「まだ入り口だろ?」

「もう目の前の扉が怖いんです! 今にもあそこからお化けが飛び出してきそうで……」

「ちょっと松浦さん!? 怖いこと言わないで!!」

「絢瀬さんの震える声を聞いていると余計に怖いですって!!」

 

 

 いつにも増してテンション高いなコイツら……。いつもなら各グループの冷静なツッコミ役&まとめ役を務めるお姉さんキャラポジションなのだが、今の2人はあの穂乃果や千歌よりも数十倍騒がしい。ただでさえ腕が引きちぎられそうなくらいのパワーで抱き着かれているのに、無駄に耳元で騒ぎ立てるせいで鼓膜のライフももうヤバイ。しかもお化け屋敷の入口でこんな感じなんだから、一歩足を踏み入れた瞬間に2人より先に俺が参っちまいそうだ。

 

 

「うだうだ言ってないで、さっさと入るぞ。最悪気絶したら出口まで引っ張ってやるから」

「そ、そう……? だったら今から気絶するわ! 怖い思いをするくらいなら!」

「お前なんのためにここへ来たんだよ!? 一応これ仕事だからな!?」

「私はあなたに無理矢理連れてこられただけで、こんな仕事をするつもりは一ミリもないわよ!!」

「社会人が聞いて呆れるなオイ……」

 

 

 実際のところ本当の目的を伝えず絵里を誘った俺に100%の非がある訳だが、一ミリもないと否定されるとそれはそれで子供っぽいなぁと思ってしまう。社会人として与えられた仕事をキチンとこなせ――――とまではプライベートなので言わないが、果南もいる手前年上としての威厳を保って欲しくはあった。まあお化け屋敷に誘った時点で、コイツに威厳を求めるのは野暮だったのかもな。

 

 震える絵里と果南の背中を押しながら、俺たちはお化け屋敷に突入した。しばらくは入口の扉の隙間から外の光が差し込んでいたが、やがて扉が完全に封じられ、頼りになるのは己の目だけとなる。そうなったらもちろん、入口前でビビっていた2人はより一層身体の震えに磨きが掛かっていた。

 

 

「せ、先生? こういう危険なところは男性が先行するものですよ……?」

「押すな押すな! まだ目が慣れてねぇんだから危ないだろ!!」

「そうよ松浦さん! 零が倒れちゃったら、誰が私たちを引き摺って出口まで運んでくれるの!?」

「あっ、確かに!」

「お前ら自分が気絶する前提で話を進めるんじゃねぇよ! ちょっとは粘れ!!」

「だ、だってぇ……」

「だってもクソもない。ほら、とっとと行くぞ」

 

 

 絵里も果南も覚悟を決めていないが、俺と離れてしまうとそれこそこのお化け屋敷に閉じ込められてしまうので仕方なく歩を進めているようだ。もちろん俺の腕や肩を潰すかのように握りしめているのは相変わらずで、俺からしてみればお化けなんかよりもコイツらの方がよっぽど命の危険があって怖い。離れ離れになりたくないから爪を食い込ませるって、もはやヤンデレの行動だぞ……。

 

 このお化け屋敷は定番中の定番である病院をイメージして作られており、通路のあちこちにある虫の死骸や建物の破損跡など、まだお化けが出てきていないのにも関わらず雰囲気はバッチリだ。破かれたシーツや血液が付着している医療具が場のおどろおどろしさを遺憾なく増幅させており、流石の俺も自然と息を呑んで気を引き締めてしまう。

 

 当たり前だが、俺がこんな調子なんだから両脇にいるコイツらはもっと神経質になっている。挙動不審なのは入口にいた時から変わらずだけど、微かにドアの軋む音がするだけでも耳元で叫び声を上げるため、俺の耳が破壊されそうになっていた。さっきから恐怖で震えあがるたびに俺に身体を押し付けてくるため胸の形が手に取るほど伝わってくるのだが、その直後に放たれる甲高い奇声に身構えているため胸の気持ち良さを感じる暇もない。もしかしたら、この中で一番面喰ってるのは俺なんじゃないかな……?

 

 

「きゃっ! れ、零っ! さっきあそこの窓開かなかった!?」

「いや元から割れてて開かねぇから……」

「先生! この道さっきも通りませんでした!?」

「まだ始まったばかりなのに、同じ道を通る訳ねぇだろ!」

「零!」

「一旦黙ろうな? お前らの言うこと言うことにいちいち付き合ってられるか……」

「靴紐解けてるけど、大丈夫?」

「それはもっと早く言え!!」

 

 

 絵里や果南が騒ぎまくって散々足を踏まれたから、その反動で靴紐が解けてしまったのだろう。ていうか絵里の奴、そこまで冷静に指摘できるのなら常にその状態でいてくれよ……。

 

 その時、俺は靴紐を結ぶために身を屈めていたため、自分たちの後ろからやって来る何者かの気配に全く気付かなかった。

 

 

「きゃぅっ!!」

「な、なんだ!?」

 

 

 突然、絵里が恐怖に対する奇声とはまた違った声色の叫び声を上げた。奇声というよりかは嬌声に近く、幾度となく女の子のそのような声を聴いた俺が聞き間違えるはずがない。でもお化け屋敷でそんな声を上げるなんて、ビビりすぎてとうとう頭までイッちまったのか……?

 

 とりあえず彼女の様子を確認するために後ろを振り向くと、絵里は顔を真っ赤にしながら辺りをキョロキョロ見回していた。果南も絵里に一体何が起こったのか分からないようで、目を見開いたまま彼女を見つめている。

 

 

「おい絵里、怖いからってあまり変な声を出すな」

「ち、違うのよ!! さっき誰かが私のその……胸を……」

「はぁ?」

「絢瀬さん、変な声を出しちゃったからって嘘はちょっと……」

「嘘じゃないわよ!! 一瞬誰かが私の胸をガシッって!!」

 

 

 お化けすら登場していないのにも関わらずビクビクしていたせいか、どうやら混乱して痴漢に襲われる被害妄想まで創造してしまったらしい。あまり嘘つき呼ばわりをしたくないが、お化け屋敷で痴漢されたなんて言われて信用する方がおかしいだろう。もしかしたらスタッフの中に変態がいて、お化け屋敷に入ってきた女の子を仕掛け人として合法的にお触りしているのかもしれないが、そんなことはまあ考えづらい。多分あまりに驚きすぎて、自分で自分の胸に手や腕が触れてしまった。そんなところだろう。

 

 

「松浦さんは見えなかったの!? 私の胸を触ってきたお化けを!!」

「そんな変態なお化けっているんですか……?」

「音もなく背後に忍び寄ってきて、本物のお化けみたいだったわよ!」

「お前は本物のお化けを見たことがあるのか……」

 

 

 ただでさえ暗いところを避けようとするくせに、本物のお化けを主張されても全く説得力がない。そもそも科学的にお化けが存在し得るのかは議論が平行線を辿るので話題を避けるとして、問題は絵里の必死さだ。最初はお化け屋敷の恐怖から幻覚でも見たのかと思っていたのだが、ここまで胸を触られたと言い張るんだからもしかしたらもしかするかもしれない。

 

 思い出してみれば、このお化け屋敷は秋葉が監修していることをすっかり忘れていた。そう考えると俺たちが予想しないような奇想天外が起こっても何ら不思議ではない。こりゃ絵里の言い分が一気に真実味を帯びてきたぞ……。

 

 

「とにかく、ここで立ち止まっていても仕方がない。まずは出口へ向かおう」

「ぜ、絶対に私から離れないでよ!? もうさっきみたいな悪戯はゴメンなんだから!!」

「お化け屋敷のお化けに悪戯すんなって、それ仕事すんなってことか……?」

「せ、先生……」

「果南?」

「わ、私からも……離れちゃイヤですよ……」

「あ、あぁ……」

 

 

 果南はさっきみたいに無造作に俺の手や腕を握り潰さず、今度は優しく俺の手を握った。強張り引き攣っていた表情も一転し、頬を染めて自然と俺の近くに寄り添ってくる。俺が絵里ばかりに感けているから嫉妬したのか、それとも寂しくなったのか。どちらにせよそんなことを気にする奴ではないと思っていたので、案外可愛いところあるじゃん。怖いモノ嫌いだったって事実を含めると、今日だけでも果南の子供っぽい一面を見られて大収穫だ。

 

 ちなみに絵里のこの様子は……まあ見慣れてるから今更新鮮な感想を言うほどでもない。でもお化けに恐れおののく絵里を見るたびに、普段のお姉さんキャラとのギャップをひしひしと感じてしまう。周りが暗いだけでこんな振る舞いをするから、そんな彼女が可愛いと思い好感度を上げてやるべきなのか、それとも絵里お姉さんのこんな姿は見たくないと落胆すべきなのか……。

 

 

 それからしばらくは至って普通のお化け屋敷が続き、さっき多少精神を保った絵里と果南は再び恐怖のどん底に落とされる。扉の中からゾンビが出てきたり、俺たちの前を人魂が通ったり、周囲から怪しい呻き声が聞こえるなど、良くも悪くもシンプルなギミックが道中に仕掛けてあった。子供騙しと言ってしまえば子供騙しなのだが、絵里や果南に対してはもちろん効果は抜群。さっきまで優しく手を取ってくれた果南はどこへやら、俺の手を握り締める力が瞬く間に強くなり、絵里も絵里で俺の身体をお化けの盾にするためあちらこちらに振り回しやがる。やっぱり俺にとってはコイツらの方がよっぽど怖いよ……命の危険的な意味で。

 

 しかしそんなことよりも、俺はさっき絵里が痴漢に襲われたという事実を裏付ける証拠を掴むため、お化けの動向を逐一チェックしていたのだが、さっきも言った通り至って普通のお化け屋敷だった。仕掛け人のお化けたちも特に目立った行動をしている訳でもなく、ただ単純に絵里と果南を驚かせる仕事に従事している。こうなってくると、やっぱり絵里は自分が痴漢されたと思い込んだだけで、実際は驚かしに来たお化けの手や腕がたまたま絵里の胸に当たった、または驚いた反動で自分の手が当たった。そのように考えるのが最も自然だろう。

 

 

 そんな時だった。

 

 

「ひゃぅ!!」

「ちょっ!? だから耳元で変な声を出すな……って、果南も?」

「さ、さっき私の胸を誰かが……!!」

「お前もか……」

 

 

 今度は果南が絵里と同様の手口に遭ったらしく、胸元に手を当てて恥ずかしそうに俯いていた。絵里とは違ってまだ俺の手が及んでいない彼女のこと、誰かに自分の胸を触られるなんて未だに体験したことのない事象だろう。そのせいか妙にしおらしくなり、さっきまでお化けでギャーギャー騒いでいた彼女とは別人に見えた。

 

 

「一応聞くけど、零の仕業じゃないわよね……? 暗闇を利用してセクハラとか……してない?」

「逆に聞くけど、俺がそんな姑息な手を使う男だと思ってんのか? セクハラするなら堂々とするから」

「だから疑われるんですよ、先生……」

「お前らから見たらそうかもしれないけど、今回ばかりは違う。そもそもお前らに密着されてんのに、どうやって手を出すっつうんだよ……」

 

 

 確かにこの状況なら周りも暗いし、お化けにビビっている女の子の身体をどさくさに紛れて触るなんて荒業は誰にでもできる。そう考えると俺を疑うのは別におかしな話ではないが、俺だったらそんな汚い手を使わなくても真っ向から堂々と触りに行く。自慢することではないが、嬉しいことに自分はそれができるポジション(恋人関係的な意味で)にいるため、わざわざお化け屋敷というシチュエーションなんてものを作らなくてもいい。そこのところを考慮して欲しいよなぁコイツらには。

 

 

 それじゃあ痴漢をしたお化けは一体誰なんだって話になる。一瞬の隙を突いて女の子の背後に忍び寄り、こんな暗い場所なのにも関わらず的確に胸を揉みしだいて逃げるその能力は並の人間モノではない。まるで普段から女の子の胸を触り慣れているかのような、相当熟練された手練れの手口に見える。秋葉が監修してるお化け屋敷だからガチの犯罪者を雇ってる訳はないと思うが、それだったら一体何者なんだ……?

 

 

「先生……絶対に離れないでくださいよ……」

「何度も言わなくても分かってるって。もしものことがあったら守ってやるから」

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 果南がこうして身体を寄り添わせてくるなんて、俺が教育実習生として彼女と接していた時は決して見られなかった行動だ。ということは、俺がいない間にも心境に大きく変化があったに違いない。元々女の子として自分に自信を持てなかった彼女だが、ここまで積極的になられると俺の方がたじろいじゃうな……。

 

 

「わ、私は……その、守ってくれないの……?」

「心配すんな。5年前から、そういう約束だっただろ?」

「零……ありがとう」

 

 

 さっきは果南が嫉妬していたが今度は絵里が嫉妬していたみたいで、本人は気付いてないだろうが多少膨れっ面になっていた。そんな可愛い様を見せつけられるとノーとは言えないし、そもそも言うつもりもない。コイツにセクハラしてんのが誰なのかはまだ分からないけど、むしろ分からないからこそしっかり守ってやらないと。それにコイツらの身も心も全部俺のモノだから。人のモノに勝手に手出しする奴は誰であっても許さねぇぞ?

 

 

 しかし、またここで絵里と果南を震わせる現象が起こる。

 気分を改めてお化け屋敷を進もうとした時、どこからともなく謎のひそひそ声が聞こえてきたのだ。

 

 

『全く――――だから、先生はharlem boy――――』

『やっぱりそっち――――なんやね――――』

 

 

「ひぃっ!? な、何この声!?」

「さっき誰かの喋り声が聞こえませんでした!?」

「あ、あぁ……」

 

 

 確かにボソボソとした声で一部の言葉しか聴こえなかったが、逆に一部の言葉ははっきり聞き取ることができた。しかも口調がとても特徴的で、会話人数が2人だってことも容易に勘付ける。1人は発音の良い英語混じり、もう1人は明らかに標準語ではない関西方面の鈍り。あれ? この特徴ってどっかで……?

 

 そこで更に、果南の服を見て新たな事実に気が付く。

 

 

「おい、果南。肩のところに髪の毛が付いてるぞ?」

「そうですか? 申し訳ありませんが、取ってもらってもいいです?」

「いいけど、金髪ってことは絵里の髪の毛かこれ……?」

「ご、ゴメンなさい! お化けに怖がっている間に抜け落ちちゃったのね」

「いえいえ! ていうか、あまりの怖さに毛が抜けるって本当にあるんですね……」

 

 

 いや、違う。果南の服に付着していた金髪は、絵里の髪の長さと比べると若干だけど短い気がする。たかが一本の毛であり、しかも長さの違いも微妙だから断定はできないけど、絵里のモノと決めつけるのも早計だ。彼女よりも髪の長さが少し短く、そして金髪の女の子と言えば……。

 

 うん、そうだ。

 なんとなぁ~くだけど、絵里と果南にセクハラしていた奴らの正体が分かってきたぞ。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 前書きで絵里と果南以外のメンバーは誰か想像してみてくださいと言いましたが、推理は愚か想像なんてしなくても文章だけで気付けたんじゃないかなぁ~と思います(笑)

 そして今回はサンシャイン2期の2話で意外にも果南が怖いモノ嫌いだと分かったので、こうなったら同類の絵里を組ませてみるかしかないと思い突如としてこの話を思いつきました。本編でも零君が言っていましたが、普段はまとめ役でド真面目な彼女たちだからこそ、今回のような子供っぽい仕草は余計に可愛く見えますよね!


 次回は絵里&果南回の後編です!
 流石にやられっぱなしでは終われない……?



新たに☆10評価をくださった

迅雷1025さん

ありがとうございます!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

反撃のセクシュアル

 絵里&果南の回、後半戦。
 その2人だけでなく、前回こっそり出演していたあの子とあの子も本格的に登場します!


 

 それからしばらくは、また至って普通のお化け屋敷が続いていた。水が滴り落ちる音や後ろからゾンビが追いかけてくるなど、単純にして王道な仕掛けが盛りだくさんだ。ギミックの多さゆえにやたら出口までが長く感じるのだが、俺は滅多にお化け屋敷に入ることはないのでその感覚は掴みづらい。絵里や果南が仕掛けの1つ1つに対してご丁寧に驚いて足止めを喰らうので、もしかしたらそのせいで長く感じているのかもしれない。

 

 そして絵里と果南にセクハラをしたと思われる変態お化けがいるかもしれない件について、犯人の目星は大体付いていた。エセっぽい関西鈍りの声に、やたら発音のいい英語を会話の端々に組み込む喋り方をする奴なんて、μ'sとAqoursの中で考えれば2人しかいない。しかもその2人を犯人だと仮定するならば、絵里と果南の胸を手際よく揉みしだいていた事実にも納得できる。普段から悪戯で女の子の胸を触るなんてことをする奴らは、俺以外を覗けば()()()()()()くらいしかいねぇからな……。

 

 しかし、どうしてアイツらがお化け屋敷のお化け役なんてやってんだ……? まあ本人たちからすれば絵里と果南を弄れて楽しいだろうし、元々こんな悪戯が大好きな2人だから込み入った理由なんてないのかもしれない。ただ自分たちが楽しめるから悪戯をする、至極真っ当で何とも人騒がせな奴らだ。ギャーギャー騒ぐ反動で手や腕を握り潰されたり、耳元で大声を出され脳震盪を引き起こしそうになる俺のことも考えてくれ。

 

 

「ねぇ零。出口はまだかしら……?」

「お前らがいちいちビビッて足を止めるから長く感じるんだよ。もう何度か同じ仕掛けを見てるし、そろそろ慣れろ」

「慣れたら苦労しませんよ! それに怖いと思った瞬間に腰が抜けちゃうので仕方ないんです……」

「お前らの反応が良すぎて、お化け役の人たちはさぞテンションが上がってるだろうよ」

 

 

 お化け屋敷の仕掛け人たちからすれば、コイツら以上に自分たちのやる気を引き立たせる奴はいないだろう。お化け役の冥利に尽きるというか、逆にこんな簡単に怖がってもらっていいのかと心配になっちゃうくらいだ。まあ2人が暗いところに弱いせいで、花陽やルビィ以上の小心者になるのが原因なんだけど……。

 

 そこで1つ疑問に思ったのだが、果南って浦の星でお化け騒動があった時は割と平常心を保ってなかったか? あの時は俺とAqoursのみんなでお化けが出没すると噂の山に登ったのだが、お化けの存在を確かめるため当然時間帯は夜だった。だがその時の果南は今回のような純粋少女のような様子ではなく、いつもと同じくお姉さんキャラを保っていた。そのギャップがあるからこそ俺は今の果南に驚いている訳だが、あの時は周りにたくさんの人がいたからそこまで怖さを感じなかったのかもしれない。それにいざお化けが登場してみると、それはそれは可愛らしい自分と同年代の女の子だったため、そもそも恐怖心というものが沸き上がってこなかったのだろう。

 

 

「せ、先生? ずっと私の方を見ていますけど、顔に何か付いてますか……?」

「いや、お前も可愛いところあるよなぁって」

「えっ!? い、いきなりなんなんですか、もうっ……」

「零。すぐ女の子を落としに掛かるのはやめなさいって、いつも言ってるでしょ」

「そんなつもりはなかったんだけど……」

 

 

 自分を鈍感野郎だとは思っていないが、もう5年以上も女の子との付き合いがあるため、無意識に女性をそわそわさせる言い回しをしてしまうらしい。そのせいで一度絵里に注意されたのだが、咎められたところで治るのかなこれ……? それに絵里は知らないだろうが、果南は既に落ちているので今更言い回しを改善したところで何の意味もない。

 

 

『先生ってば――――果南に――――Guiltyデス!』

『――――ウチら―――――なんやね……』

 

 

「ちょっ!? れ、零! また例の声が!!」

「それにさっきよりも声色が低くなっているような……!!」

 

 

 またどこからともなく、()()()()のヒソヒソ声が聞こえてきた。犯人の目星が付いていると、これまで上手く聞き取れなかった声色も自然と聞き取れるようになり、もうさっきのヒソヒソ声が()()()()の声で脳内再生されるようになる。声がダダ洩れというほどでもないが、アイツらは自分たちの会話がこっちにまで流れてきていることに気付いてんのかな……? まあ絵里と果南はそのヒソヒソ声にビビりまくっているので、驚かせる側として大成功なのかもしれないが……。

 

 

「さっきからこの声は何なのかしら……? お化け屋敷の最初からずっと聞こえてる気がするわ……」

「そりゃそうだ。アイツらがストーカーしてんだから」

「す、ストーカー!?」

「気にすんな。それよりも、お前たちにやってもらいたいことがあるんだけど」

「私たちに、ですか?」

「あぁ。なぁに、ちょっと懲らしめてやるだけだよ」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 いくら俺たちの進みが遅いとは言っても、もうそろそろ出口に到着するはずだ。

 ここまで()()が仕掛けてきたのは2回。お化け屋敷の序盤と中盤でそれぞれ1回ずつなので、単純計算で終盤でも何か仕掛けてくるはずだ。おっと、相手が攻撃してくる前に自分の考えを語るのは負けフラグになりかねないので、ここは敢えて俺もお化けにビビるフリでもしておくか。

そういや絵里や果南の介抱ばかりしていたためか、俺自身このお化け屋敷を全然堪能していない。まあ元からお化け屋敷や心霊スポットでスリルを味わいたいとは思っていないので、どちらかと言えば2人の可愛い姿を見られてラッキーと感じた程度だ。これで果南を弄るネタもできたし、俺にとってはバイト代よりもこっちの方が収穫かな。

 

 廊下の角を曲がると、その先に朧気ながらも光が見えた。ほぼ真っ暗と言っても差支えないこの状況に長時間いたためか、薄っすらとした光でもとても眩しい。

 そしてその光を見た絵里と果南は自然と浮足立っており、俺を引っ張る形で歩を進めるスピードが早くなった。ようやくこの空間から解放される希望を持ったのだろう、さっきまで堅くなっていた表情はみるみる緩まり、パァーっと明るく輝いている。まるで何日も地下に監禁されていた奴隷が地上へ脱出する瞬間のように、彼女たちの期待と喜びを抱き着かれながらしみじみと感じていた。

 

 

 だが、そう簡単に()()()()が絵里と果南を脱出させる訳がない。

 またしても謎の影が、今度は2つ同時に現れ俺たちの背後に忍び寄る。まさに忍者のような早業とステルス性能で、一般のお客さんならば誰も彼女たちの存在に気付くことはできないだろう。

 

 そう、普通のお客さん――――ならばな。

 

 

 絵里と果南の背後を取った2つの影は、いつも通りの動きで両手を彼女たちの脇の下へ通そうとする。

 しかし、この動きもやはり()()()()()なのだ。

 

 絵里は右手を回して影の左手を掴むと、バレエをやっていた時のしなやかな動きを活かしてその影の主を無抵抗のまま壁へ追い詰める。

果南は両手でもう1つの影の右手を力強く握ると、身体を前を屈めて影の全身を勢いよく前へスイング――――いわば一本背負いを繰り出した。

 

 

「ふぇっ!? えぇえええええええええええっ!?」

「ouch!!」

 

 

 これまで幾多のヒントを出しているから、もう答えを言ってしまってもいいだろう。

 絵里に追い詰められた希、果南に一本背負いされた鞠莉はこんな展開になることなんて予想だにしなかったのか、どちらも素っ頓狂な声を上げて組み伏せられる。さっきまでは自分たちが攻める方だったが故に、まさか反撃を貰うとは想像もしていなかっただろう。

 

 

「希ぃ……なんか覚えのある怪しい気配だと思ったら、やっぱりあなただったのね……」

「え、絵里ち顔怖いよ……? お化け屋敷で働いたらええんと違う……?」

 

「いたた……もうっ、何するの果南!!」

「それはこっちのセリフでしょ!!」

 

 

 未だに状況を完全に掴めていない希と鞠莉だったが、激おこ状態の絵里と果南はそんな暇すらも与えない。ただでさえいつも自分たちが2人の悪戯の対象となっているのにも関わらず、今回は自分たちが苦手なお化け屋敷を利用してセクハラを仕掛けてきたのだ。お化けによる怖さとセクハラによる羞恥。1つの感情がもう1つの感情を助長させていたため、普段よりも無駄な刺激を感じてしまっていた。その原因がいつも自分に悪戯を仕掛けてくる奴と来たもんだから、そりゃ怒らない方がおかしいだろう。

 

 希も鞠莉も『どうしてバレたんだ』と言わんばかりにポカーンとしている。そりゃそうだ、だってお化け屋敷の中で絵里と果南がここまで機敏に動けるとは思っていなかっただろうから。そもそも自分たちの正体がバレるとは微塵も考えていなかったはずなので、こうして反撃されること自体が夢のように違いない。

 

 いつもの構図とは異なり、やる側とやられる側が逆転している今の様子。

 そんな状況を絵里と果南が逃すはずもなく、2人はしたり顔で組み伏せている因縁の相手に迫った。

 

 

「ひゃっ!? え、絵里ち!? そんなところ触ったら……あっ、ん……」

「私はこの時を待っていたのよ希。あなたに仕返しをすることの時を!!」

「あっ、か、果南……や、やめ……ひゃぁっ!! ああっ、んっ……!!」

「いい機会だからね。いつも私が感じてる刺激を、鞠莉にも教えてあげるよ」

「もうどっちがセクハラ魔か分かんねぇな……」

 

 

 絵里は希に、果南は鞠莉にいつもの仕返しと言わんばかりに激しく彼女たちの胸を鷲掴みにし刺激を与える。俺の眼から見ても絵里と果南の胸裁きはそこまで上手いものではなかったが、対する希と鞠莉が胸を触られ慣れていないためかやけに刺激を感じており、ぎこちない手付きでも彼女たちを大いに辱めることができた。暗闇の中でも希と鞠莉の顔が真っ赤に染まっているのを確認でき、突然襲われた羞恥心に全くの無抵抗のままされるがままとなっている。いつも自分たちが弄りの対象としている奴に、こうして逆にセクハラをされたら溜まったものじゃないだろう。もしかしたら恥ずかしさよりも、屈辱的な感情の方が大きいのかもしれない。

 

 

「あぁっ!! え、絵里ちの触り方めちゃくちゃや……はぁ、んっ!!」

「暗闇の中で襲ってきた卑怯者には相応しい罰だわ」

「あぁ、ん……も、もうっ、果南の乱暴さん……あっ、あぁ……」

「乱暴で結構。これまで鞠莉にやられてきた分を、全部ここでお返しするから」

 

 

 絵里も果南もいつもの落ち着いた雰囲気はどこへやら、完全にドSキャラと化して暗闇で女の子を襲う。女の子同士だからまだ百合の花を背景に感じるだけで済むものの、これが男だったらガチのセクハラ現場で即通報ものだ。しかしそうは言っても、絵里は楽しそうに希の胸を弄ってるし、果南もニヤケ顔で鞠莉の胸を執拗に攻め立てているためどちらにせよただのセクハラ魔に変わりはない。

 

 そして一番割を食ってるのは間違いなく俺だ。目の前の胸揉み大会に参加したくて非常にウズウズしているのだが、この状況で飛び込んでいったらそれこそただの変質者認定をされてしまう。かと言って女の子たちのキャッキャウフフ現場を指を咥えて見ているだけなんて、おっぱい好きの俺の心が今にも破裂しそうになる。だからこそ思わず足を一歩踏み出してしまうが、また希が口を開いたことで我に返って踏み止まった。

 

 

「ど、どうしてウチらが犯人だって分かったん……んっ、あ、ん……」

「零が教えてくれたのよ。たまに聞こえてくるヒソヒソ声が特徴的な喋り方で、私たちがよ~く知っている人の喋り方に似てるってね」

「で、でもそれだけで私たちが犯人だって分からないじゃない……って、胸を弄りながら真面目な話しないでよ!」

「これは罰だから我慢する。それと質問の答えだけど、絢瀬さんの服に鞠莉の髪の毛が付いてたよ。しかも絢瀬さんのより髪の長さが少し短かったから、先生ずっと怪しんでたしね」

「Really!?」

「まあこれだけ暗かったら自分の身は隠せても、証拠を残してるなんて気づかねぇわな」

 

 

 暗闇で自分の身がバレづらい+絵里と果南が怖がって犯人捜しどころではないと思い2人は余裕綽々だったのだろうが、俺の目を欺こうなんてそうはいかない。いつも一緒にいる女の子の気配くらい、姿が見えなくとも感じ取ることができる。まあそんな強気な発言をしているが、希と鞠莉がヒソヒソ声の会話を漏らしてくれなかったら多分セクハラ事件は迷宮入りとなっていただろう。これもアイツらの慢心のおかげだな。

 

 

「はぁ……はぁ……まさか絵里ちがこんなにサディストだったなんて、ちょっと目覚めちゃいそうやん……」

「そ、そんな趣味私にはないから! それに、こうなったのも全部あなたたちが悪いんでしょ?」

「それはそうですけど、絢瀬さんの胸の揉み心地の良さと言ったら……くぅ~また触りたくなってきちゃった!」

「えっ、私の胸を触ってきたのって小原さんだったの……?」

「そうそう。最初は鞠莉ちゃんが絵里ちの胸を触って、次はウチが果南ちゃんのおっぱいをガシッと♪」

「なんか鞠莉の手付き以上に凄く手馴れてるなぁと思ったら、東條さんだったんですね……」

 

 

 とりあえずセクハラ事件の犯人は分かったのだが、それ以前の問題がまだ解決していない。

 そう、何故コイツらがこんなことをしているのかだ。悪戯好きな2人のことだから特に理由がないと言われたらそれで納得しちゃうけど、わざわざお化け屋敷のスタッフとして紛れ込んでこんな手の込んだ悪戯をしたってことは、2人のバックに誰かがいてソイツの権力によって今回のセクハラ事件が発生したのだろう。まぁ、黒幕の正体なんて俺の口からわざわざ語る必要もないと思うがな。

 

 

「で? 秋葉になんて吹き込まれてここにいるんだ?」

「Oh! 先生よく分かったね!」

「秋葉が監修してるお化け屋敷だから、何かはあると思ってたんだ。そうしたらお前らがお化け役として出てきたもんだから、これを秋葉の仕業と言わずに何と言う」

「零くん大当たり! ウチと鞠莉ちゃんは秋葉さんに誘われて、今日1日お化け屋敷のスタッフとしてバイトしていたんやけど、絵里ちと果南ちゃん相手には好きなようにしてもいいってお達しが……」

「相変わらず好き勝手しますね、先生のお姉さん……」

「アイツに代わって謝っとくよ。すまん」

「先生がここまで律儀になるなんて……」

 

 

 俺は自分のやってることが全て正しいと信じる残念な人間だから他人に心から謝ることはまずないけど、秋葉の悪ふざけの尻拭いだけは全力で謝罪させてもらう。全く、デキがいいのか悪いのか分かんねぇ姉を持つと弟が苦労するよ。まあそれを含めて秋葉は俺たちのことを弄んでるんだと思うけど、そう考えると希や鞠莉の悪戯が急に可愛く思えてきたな。

 

 

「それで? 反省したの鞠莉?」

「ま、まぁ……ね。今までずっと触る方だったけど、触られる方も悪くないかなぁ……なんて」

「い、いやそれはちょっと……」

「ジョークよジョーク!! 本気で引かないでよ、か~な~ん~!!」

「えぇい暑苦しい!! 抱き着かないで!!」

 

「松浦さんも小原さんも、仲がいいわね」

「それじゃあウチらももっと親睦を深める?」

「そうやってナチュラルに胸を揉もうとするのはやめなさい」

「だから絵里ち、顔が怖いって……」

 

 

 おっぱいを触ることで友情を深め合えるなんて……。俺は今まで男に生まれて後悔したことはなかったが、今この瞬間だけ女の子になりたいとマジで思う。いくらたくさんの女の子の胸を好きなだけ触れられる環境にいると言っても、こうして気兼ねなく触って通報も罵倒も浴びせられないのはやはり女の子同士の特権だろう。性転換にさほど興味はないが、この瞬間だけは微笑ましく乳を弄り合いたいと切に願う。まあないモノねだりをしても意味ないんだけどさ。

 

 

「あれぇ~先生ってば、ヤラシぃ~顔してるよ? そんなに果南のおっぱいを触りたいのならどうぞ。えいっ!」

「うわっ!?」

「ちょっ、先生!? きゃぁ!!」

 

 

 俺は背中を鞠莉に押されると、目の前にいた果南を巻き込んでそのまま床に倒れこむ。ほぼ抱き着く形となったため彼女の身体の凹凸が手に取るように分かるが、その身体を堪能する前に更に第二陣が押し寄せてきた。

 

 

「よしっ、絵里ちもGO!」

「きゃっ! の、希ぃ~あなたもね!!」

「ひゃっ!?」

「お、おいっ!!」

 

 

 希に身体を押された絵里だったが、俺の元へと飛び込んでくる直前に希の腕を引っ張って彼女を道連れにする。その結果、絵里と希が2人同時に俺の身体へとしなだれ掛かってきた。自然と俺の両サイドに寄り添う形となり、頭が果南のおっぱいに埋まっているせいで両手頭に花状態だ。もはや全身から女の子の柔らかい感触が伝わってくるが、一か所に男女が入り乱れすぎて今誰の身体に触れているのかなんて一切分からなかった。

 

 とにかく1つ言えることは、頭と両腕が彼女たち3人のおっぱいに挟まれていて天国に昇りそうだってことだ。

 

 

「あっ……せ、先生あまり顔を動かさないでください!」

「仕方ないだろこんな状況なんだから!」

「喋らないでください。そ、そのぉ、胸がくすぐったいので」

「じゃあどうしろってんだ!?」

「はぁ、んっ! 零、そんなに暴れちゃダメ……擦れちゃう」

「もう、本当に零君ってば、大胆なんやから……こ、こんなところばかり触って……んっ!!」

 

「あらあら。先生たちがこんなにアダルティックに……」

 

 

 自らが呼んだ現状のくせに、鞠莉は口角を上げて憎たらしく微笑む。ホテルでの一件ではあんなに乙女だったから、もしかしたら今回も照れ隠しで果南を身代わりとして俺に突き付けたのかもしれない。さっきまで胸を揉まれまくって少なからず性的な興奮は感じているはずだから、俺に目を付けらて弄られる前に手を打った。そう思える。

 

 だが今回に至っては果南に反撃されたのと同様に、彼女の思惑は悉く外れる。

 鞠莉の背後に、俺たちの誰のでもない新たな影が忍び寄っていた。

 

 

「それじゃああなたも参加しないとね♪ それっ!」

「えっ、誰!? ひゃぁあんっ!!」

「うぉおっ!? って、何が起こった!?」

 

 

 突然鞠莉が俺の身体の上に倒れこみ、薄着が故に自己主張が激しすぎる胸が俺の顔面に直撃する。その柔らかな弾力は鞠莉が勢いよく倒れ込んできたのにも関わらず、痛みもなければ衝撃もほとんどない。まさしく巨乳の柔軟性の凄さを感じた瞬間だった。

 

 

「うっ、い、息が……」

「ひゃぁんっ! せ、先生激しすぎぃ……!!」

「お前が倒れてきたのが悪いんだろ!! つうか、どうしていきなりこんな……」

 

 

 鞠莉の胸に顔を埋めながらも彼女の背後に立っている謎の影の正体を探るため、なんとか胸から顔を脱出させ鞠莉を押し倒した犯人を見定める。

 長身に綺麗な黒髪。現在俺に抱き着いている4人は全員巨乳の部類だが、それすらも遥かに凌駕する爆乳。お化け屋敷内が暗くてそこまでの情報しか分からなかったが、そんな最高のスタイルを持っている女性は俺の中で1人だけなので、すぐに犯人を特定できた。

 

 

「何してんだ、秋葉……」

「零君いいねぇ~その構図。まさに私が求めていた光景にピッタリ! おかげでいいデータが取れたよ」

「は? データ……?」

「うん。それじゃあ私の用は済んだから、あとはごゆっくりぃ~♪」

 

 

 一体何をしに現れたのか、それを語ることなく秋葉はこの場を去っていった。お化け屋敷に希と鞠莉を送り込んだ挙句、絵里と果南には悪戯をしていいと許可を出し、最後には無理矢理俺をハーレム状態にして笑顔で去る。まさにやりたい放題とはこのことだ。それにデータとか何とか言ってたし、この先も何かありそうだと考えるとまた頭が痛くなっちまうよ……。

 

 あっ、そういえばこの状況……どうしよう?

 顔面と後頭部、右腕と左腕に暖かい膨らみの感触がががががが!!

 

 

「せ、先生! そんなに頭を動かされると、胸が潰れちゃいます……!!」

「先生の吐息が私の胸に……」

「れ、零君あまり腕を動かさんといて! こ、擦れてるから……」

「もうっ! 本当にエッチなんだから……」

 

 

 だったらお前らが先に離れてくれよとツッコミを入れたくなるが、もう少しだけこの状況を堪能したいから敢えてこのままで。

 あぁ、なんか久しぶりだなこの感覚。大人になって以来それなりに抑えていた性欲が、また戻っちまいそうだよ……。

 

 




 気付けば巨乳の子ばかり集まっていたので、ハーレム小説としては最後の展開を描かざるを得ませんでした(笑)
 ちなみに秋葉さんの不穏な伏線はいつか絶対に回収するので、こんなことあったなぁ程度に覚えていてくださるとストーリーがより面白く感じられるようになるかと。


 次回は梨子が神崎家に訪問します!
 楓はもちろん、もう1人意外な人物が……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ようこそ変人だらけのお宅へ!

 今回は梨子が神崎家へとお尋ねします!
 零君や楓などいつものメンバーはもちろんですが、意外なあの人物も……


 そして、今回と次回は全編梨子視点でお話が進みます。


 

「こ、ここよね……? 先生のお宅って……」

 

 

 どこからどう見ても普通の家なのに、何故か足が竦んで立ち往生してしまう。さっきから心臓の鼓動も激しくて音が聞こえてきちゃいそうだし、まるで私の身体じゃないみたい……。

 

 私、桜内梨子は本日、先生からのお誘いでご自宅にお招きしていただいた。

 過去に一度Aqoursの作曲家として実力を上げるために、西木野さんが浦の星に来てくださったことがあった。そして今回もスキルアップの一貫として、今度は神崎楓さんに作曲のノウハウを教わりに来たってわけ。正直に言ってしまうと申し訳ないけど、楓さんの印象は最初に会った時からイマドキギャルっぽい如何にも遊んでいそうな感じだったから、チマチマした作曲作業なんて苦手だと思っていた。

 でも聞くところによると神崎家の家事は全て彼女が受け持っている他、μ'sで唯一の作曲家である西木野さんの負担を減らすために作業のフォローにも入っているらしい。歌も上手いしダンスも綺麗だし、家事も作曲も出来て、しかもとびきりの美少女。あぁ、これが世間一般で言われるチートと呼ばれる人なのね……。

 

 そんな経緯で神崎家に来たんだけど、緊張が高ぶり過ぎて中々インターホンを押すことができない。

 だって男の人の家なんて初めて行くんだもん! 緊張しない方がおかしいでしょ!? しかもただの男性ではなく、私がその……す、好き……あぁあああああああああああもうっ!! そんなことを想像したら余計に緊張しちゃうじゃないのバカぁあああああああああああああああああ!!

 

 …………お、落ち着こう。

 このままでは作曲どころではなくなって、楓さんに迷惑を掛けてしまう。先生とはもう何度も2人きりになってるんだし、そもそも今回は妹の楓さんもいるから3人。2人きりの時よりも焦ったり緊張もしないはず。とにかく落ち着いていつも通りに……ね。それにあまり変な反応をしてしまうと、先生や楓さんに弄られ兼ねない。そんなことになったら今の私のメンタル的に絶対にボロを出すから、その事態だけは何としてでもに避けないと!

 

 

 意気込みを新たにインターホンを押そうとすると、家の中から叫び声に似た男性の怒声が聞こえてきた。

 

 

『おいっ!! そんな恰好で抱き着くんじゃねぇ!!』

『えぇ~久しぶりに零くんエナジーを補給したいんだもぉ~ん♪』

『暑苦しいんだよ! 季節を考えろ!!』

『私の季節は常にポカポカ春気分だよ!』

『アンタの頭がな!!』

 

 

 外にまで聞こえる声で叫んでいるのは紛れもなく先生の声だ。そして先生は今、女性としっぽりとお楽しみ中みたい。相変わらずと言えば相変わらずなんだけど、その人の声は聞き覚えがない。そういえば楓さんはかなりのブラコンだったから、もしかしたら彼女かも……? あまり声を聴いたことがないので断定はできないけど、一度お会いした時の記憶を蘇らせると……うん、どことなく声質は似ている気がする。

 

 でも、この状況はどうしたらいいんだろう……? 今インターホンを押しても修羅場になりそうだし、ほとぼりが冷めるまで待っていた方がいいよねこれ。ブラコンの妹って二次元界隈ではやたら嫉妬深くてヤンデレ気質が高いから、下手に触れない方が良さそう。

 

 ――――と思っていた矢先、突然家のドアが開き、そこから多少ウェーブの掛かっている茶髪ロングの女性が外に顔を覗かせた。

 あまりにいきなりだったので私は思わず2歩3歩と後ろに退いてしまったが、その人が見覚えのある顔だと知って踏み止まる。

 

 

「か、神崎楓さん!?」

「あっ、やっぱりあなただったんだね。家の前でコソコソしてる女の子が見えたから、誰かなぁって気になってたんだよ」

「ゴメンなさい! 別に怪しいことをしてた訳じゃないんです!」

「知ってる知ってる、作曲をしに来たんだよね!」

「そうなんですけど……先生は?」

「あぁお兄ちゃんね。今はちょっとお取込み中かなぁ……。まあ立ち話もアレだし、とりあえず家に上がってよ。そうすればお兄ちゃんに何が起こったのかも分かると思うしね」

「は、はい。お邪魔します」

 

 

 私は先生を襲っていたのはてっきり楓さんだと思っていたんだけど、さっきの微妙そうな反応を見る限り彼女の犯行ではなさそう。それに私たちが会話している最中もずっと家の中から先生の大声が聞こえてきていたので、家には先生と楓さん以外にもう1人いるってことかな。あれ? でも先生から聞いた話だと実家で妹と2人暮らしだったはずじゃあ……。

 

 ここで色々考えていても埒が明かないため、とりあえず楓さんの導き通りにご自宅へ上がらせてもらう。

 するといきなり、玄関先の廊下に私の想像を具現化した光景が広がっていた。

 

 

「もう零くんってば、抱き着かれてるだけで興奮し過ぎだって♪」

「してねぇよ! むしろアンタでしたらそれこそ大問題だろ!?」

 

 

 案の定、謎の女性が先生を後ろから抱きしめていた。

 鮮やかな茶髪でオレンジ色に近い髪色。楓さん以上のウェーブの掛かった髪は丁寧に手入れをされていて、そこまで髪の身嗜みに詳しくない私でもその綺麗さが良く分かる。外見もとびきりの美人で、まるで女優さんのような甲斐甲斐しいオーラを感じた。それに何と言っても目立つのは女性のシンボルの1つでもある胸。先生の背中に抱き着いているのにも関わらず、その胸の大きさが一際目立っていた。具体的に言えば先生の背中によって押し潰されている胸が、背中からはみ出るくらいには大きい。しかも纏っている服が寝巻用のネグリジェのためか、先生が動くたびに彼女の胸の形がぐにゃぐにゃと変化する。同じ女性として、あんな立派なモノを見せつけられたら一生自信なくしちゃうよ……。

 

 それにしても、先生はこんな綺麗で美しい人と知り合いなんだ……。しかも抱かれ抱き着かれるほどの仲だなんて、改めて先生の交友の広さと女性関係の汚さを同時に悟ってしまった。

 

 

「ほら、そろそろお兄ちゃんを放してあげなよ。さっき話してた桜内さんが来たよ、()()()()

「あら。意外と早かったじゃん」

「お、お、お……お母さん!?!?」

「そう。お兄ちゃんに抱き着いてるのはね、正真正銘私たちのお母さんだよ」

「えっ……え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?」

 

 

 先生はイケメン、楓さんは美少女、お姉さんは美人だから、お母様も美形だってことは今更驚いたりしない。

 だったら何故ここまでビックリしたのかと言うと、どうして母親が息子に抱き着いているのか――――ということ。だって親子だよ!? 小さな子供相手なら愛情表現で抱き着くなんてことはあるかもしれないけど、相手は成人男性なんだよ!? しかも今の状況を見る限りでは、お母様が先生を一方的に襲っているようにしか見えないので余計に違和感がある。いくら家の中だとは言え、どうしてこんなことを……?

 

 

「いやぁ桜内さんがそういう反応をするって予想してたよ。だってμ'sのみんなも最初は全く同じ反応をしてたから」

「あ、あの方は先生たちのお母様なんですよね!? 何故抱き合ったりしてるんですか!?」

「その言い方は語弊がある! 俺が一方的に抱き着かれてるだけだ!!」

「まああれがお母さんの性格というか、気に入った人には所構わず抱き着いちゃうんだ。その中でもお兄ちゃんだけは特別で、ベッドに潜り込んだり薄着で抱き着いたりなんて当たり前のことだよ。普段はずっと海外にいるから会いたいって気持ちは分かるけど、流石の私でもあのテンションにはついてけない……」

「えっ、海外……?」

「あれ、お兄ちゃん言ってなかったんだ。お母さんはあれでも世界で活躍する女優なんだよ」

「ふぇええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」

「さっきから驚いてばかりだけど大丈夫……?」

 

 

 さっきお母様を女優さんみたいと例えたけど、まさか本当に芸能人だっただなんて……。確かに言われてみれば、テレビやドラマで見たことある気がする。確かお名前は……あっ!!

 

 

「まさか、藤峰詩織さん!?」

「おっ、あったりぃ~♪ Aqoursの子にまで名前を覚えてもらえるなんて、私も有名になったもんだ!」

「私なんかと比較しないでくださいよ! でも藤峰って……」

「それはお母さんの芸名。本名は神崎詩織だよ」

「そゆこと♪」

 

 

 こうして改めて詩織さんを見てみると、確かにあの世界に羽ばたく名女優:藤峰詩織だ。さっきまでは実の息子に抱き着く変人としての認識しかなかったけど、正体が分かった今では私の眼が焼けるような眩いオーラを感じる。あの藤峰詩織が目の前にいて、しかも先生の母親だったという意外に私と近しい存在だっただけでも衝撃的。でも一番驚いたのは、実の息子を溺愛していることだけどね……。

 

 

「おい! 梨子が来てるんだからもうそろそろ離れろ!」

「そうだね。零くんエナジーもたっぷり補給できたし、お次は……」

「わ、私!? ふぇっ!?」

「んふふ……♪」

 

 

 さっきまで先生に抱き着いていた詩織さんが、いつの間にか私の眼前にまで迫っていた。遠目で見ていただけでも凄まじい女優オーラだったのに、こんなに近づかれると比喩ではなく本当に目が焼けそうになる。また改めて詩織さんの顔を見てみると、寝起きっぽいからなのかテレビに映っている時よりも少し子供っぽく見えた。普段がとても大人びてるから余計にそう思えちゃうのかも。それでも隠し切れない有名人のオーラは凄いけどね。

 

 そして詩織さんは私を品定めするように覗き込みながら、顔から身体、脚まで舐めるように観察してくる。超有名な女優さんに身体を見つめられると自分の貧相な身体がより質素に思えてしまう。この後で何を言われるのかあまり想像したくないけど、身体には自信がないので酷評を言われても仕方ないかな……?

 

 詩織さんは口角を上げて"ふむふむ"と小さく口ずさみながら私のつま先まで観察し終えると、再び顔を上げて私に笑顔を向ける。

 

 

「よしっ、合格! さっすが零くん、女の子に見る目があるね!」

「えっ、ど、どういうことですか……?」

「年相応の胸、身体の細さ、スレンダーな脚。それに何よりその綺麗な指! その指があれば間違いなく零くんを虜にできるよ、色んな意味で♪」

「い、色んなって……ま、まままさか……」

「おい母さん! あまり梨子に変なこと言うのはやめろって!」

「そのセリフを堂々とセクハラ発言するお兄ちゃんが言うのも間違ってるけどね……」

 

 

 詩織さんが想像しているのは間違いなく私と先生の……その……だ、ダメ!! これ以上の妄想はここではできないよ!!

 以前、先生が私の部屋に来てくださった時のことを思い出す。あの時は私が先生に耳かきをしたんだけど、当の本人は耳を弄られた気持ちよさでそのまま寝ちゃったんだよね。でもその時に先生の下半身が膨らんでいることに気が付いて、私の耳かきでちょっとでも興奮してくれてたんだってことに嬉しくなっちゃったせいか、私はこの手で先生のあそこをギュッと――――

 

 あーダメダメ! これ以上妄想したら今度は私まで興奮しちゃうよ!! 先生も楓さんも詩織さんもいる前でそんなことになるなんて……何としてもこの緊張を抑えないと!!

 

 そう決心した瞬間だった。

 私の全身が、優しい暖かさで包まれたのは。

 

 

「え……?」

「いやぁ、やっぱり年頃の女の子っていうのはもっふもふで暖かくて気持ちいねぇ~」

「お母さん。言葉のチョイスが完全にセクハラオヤジのそれだよ……」

「ええっ!? わ、私、詩織さんに抱き着かれて……えっ!?」

「さっき楓が言ってただろ? これが母さんの性格で趣味なんだって」

「華奢で可愛い女の子を包み込むように抱きしめる時の快感と言ったらもう……ね♪」

「抱きしめフェチとか、誰にも理解できねぇから……」

 

 

 む、胸に顔が埋まって気持ちいい――――って、これじゃあ私変態さんみたいじゃない!? 先生じゃあるまいし、しかも同性の胸で安心しそうになるなんてそんなことがあって堪るものですか!! でも詩織さんに抱きしめられていると落ち着くと言うか、温もりが優しくてさっきまで張っていた気がどんどん静まっていく。自然と緊張も解れたので、まるで自分のお母さんに抱擁をされている感じがする。これも決して詩織さんの大きな胸に顔が埋まっているからとか、そんな変態な理由ではないので悪しからず!

 

 そういえば先生も詩織さんに抱き着かれていたけど、その時の先生の様子も満更ではないように見えた。口では無理矢理抱きしめられて嫌々言っていたけど、本心では久しぶりにお母さんに会えて嬉しかったんじゃないかな? だって海外から久しぶりに帰ってきたらしいし、こんな素敵なお母様なんだから会えて嬉しくないことなんてないはずだよ。そう思うと、先生がちょっぴりかわいく見えてきたかも。

 

 

「はぁ、解放されたからやっと出掛けられるよ……」

「先生、どこかにお出かけですか?」

「あぁ、絵里と果南に会う予定があってな。どうしてお化け屋敷なのか分かんねぇけど……」

「そう、ですか……」

「それじゃあ楓、梨子に作曲のノウハウをしっかり教えるように。梨子、楓はこれでも作曲センス抜群だから、キチンと学べよ」

「は、はいっ!」

「はいはい~。いってらっしゃい、お兄ちゃん」

「ねぇ~私にはないの~?」

「う~ん……梨子に迷惑を掛けないようにな」

「もちっ!」

「どうだか……」

 

 

 先生は詩織さんに対して半ば諦めた様子をしながら出掛けて行った。

 私に迷惑を掛けないように心配してくれるってことは、私のことをそれだけ意識してくれているってことなのかな……? も、もしかして私、自意識過剰だったりする!? 

 でも今回先生の家に訪れた目的は作曲家としてのスキルを上げるためとは言え、先生とお喋りできることも楽しみだったのに出掛けちゃったのかぁ……。楽しみが消えたと思っちゃうと楓さんに失礼だけど、やっぱり寂しいかな。

 

 

 すると、詩織さんが今度は私を背後から抱きしめ、私の耳に息を吹きかけるように耳元で囁いてきた。

 

 

「寂しいんでしょ? 零くんが出掛けちゃって」

「は、はぁ!?」

「まあ桜内さんは見た感じから素直じゃなさそうだしねぇ」

「か、楓さんまで何を言ってるんですか!?」

「そのまんまだよ。ドアが閉まってお兄ちゃんの姿が見えなくなった時、あなたすっごく寂しそうな顔してたもん」

「そ、そんなことは……」

「いいよいいよ~そうやって素直になれずツンツンしてる子、私は大好きだから♪」

「お母さんはお兄ちゃんと可愛い女の子なら誰でも大好きでしょ」

「あはっ、バレた? でも零くんと零くんの周りにいる女の子は特別の中の特別だよ!」

 

 

 穢れのない太陽のような笑顔で私を見つめる詩織さん。ただでさえ心の中を完璧に読まれて恥ずかしいのに、そんな綺麗な笑顔を向けられたら余計に焦っちゃうんだけど……。

 それに私の想像以上に詩織さんは息子である先生に心酔している。妹の楓さんも極度のブラコンだし、お姉さんの秋葉さんも先生とただの姉弟関係ではなく、それ以上の深い関係を根付かせているような気がするんだよね。先生も先生で数多の女の子を引っ掛けてる変態だから、神崎の家系の人ってみんな変人さんなのかな……? もしかして私、そんな人たちが住んでいる家に上がり込んでるなんて危ないのでは!?

 

 

「心配しなくても大丈夫だよ。お母さんはこんなのだけど、とりあえず危険ではないから」

 

 

 ま、また読まれた!? 先生も私たちAqoursの心を見透かすのが得意だし、神崎家の人たちってみんな読心術でも使えるの!? それじゃあさっき私が先生で卑しい妄想をしそうになったのもバレてるとか?? そ、そんなのイヤぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

 

「桜内さん。言っておくけど、あなた考えてること全部顔に出てるから」

「ふぇっ?」

「そうそう! だから言ったじゃん、可愛いねぇってね♪」

「そ、そうなんですか……」

 

 

 よかったぁ、読心術じゃなかったんだ。まあ顔に出やすいと言われて安心するのもどうかと思うけど、とりあえず自分の妄想が下手に伝わってなくて助かったよ。

 

 

「そういえば、梨子ちゃんは何しに来たんだっけ?」

「はい。楓さんから作曲のノウハウを教えてもらおうかと……」

「ていうか、今日そのために桜内さんが家に来るって話したじゃん」

「そうだっけ? 零くんに夢中になってたら忘れちゃってたよ♪」

「久々にお母さんと会ったけど、何も変わってなくて安心したよ」

「楓ちゃんもね」

「そりゃどうも……」

 

 

 楓さんは重度のブラコンで、一度浦の星に来た時も兄である先生のことを人生を捧げる覚悟で慕っていた記憶がある。その時は私も千歌ちゃんも曜ちゃんも散々振り回されて大変だったけど、今のこの状況を見てみると楓さんがすっごく常識人に見えるんだよね。楓さんも色んな意味で凄い人だけど、それ以上に詩織さんのキャラが濃くて肩を並べられないのかもしれない。そうすると先生が更に常識人に思えるから、もう私感覚が麻痺しちゃいそう……。

 

 

「そんな訳で今から作曲作業をするから、お母さんは邪魔しないでね」

「あっ、ちょっと待った!!」

「なに……?」

「せっかくAqoursの子が来てくれたんだし、少しばかり聞きたいことがあるの」

「私に、ですか?」

「えぇ。本当はAqoursのみんな1人1人に聞いて回りたいんだけど、職業柄そこまで暇じゃなくてね。迷惑かもしれないけど付き合ってもらうよ」

 

 

 詩織さんはこれまではおっとりした雰囲気で、息子を心酔していること以外は至って素敵なお母様だった。

 だけど今は妖艶な瞳で私を捕食するかのように見つめ、その眼光に圧倒されて私の身体は硬直して動かなくなっていた。雰囲気もガラリと変わり、一瞬で空気が張り詰めるほど緊張感が漂っている。さっきまで騒がしかった家の中が急に静まり返ったため、私も思わず身を引き締めてしまう。楓さんも目を一際大きく開いているから同じ空気を感じているのだろう。

 

 そして詩織さんは私の前に対面する形で立ち、大人の魅惑満開の笑顔で私を見つめ直す。

 

 

「梨子ちゃん」

「は、はいっ!」

「嘘偽りなく答えてね」

「はい……」

 

 

「好きでしょ? 零君のこと」

 

 

 またしても心の中を見透かさた。しかも今回は底の底まで完璧に。

 そしてあまりにド直球な質問に、私はしばらくの間この場から動くことも口を開けることもできなかった。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 秋葉さんや詩織さんが登場すると、途端に楓が常識人に見えちゃう錯覚が起きますね(笑) その他にも穂乃果や凛がおバカやってる時などツッコミ役にもなりますし、意外と彼女は常識人なのです。ブラコンであることを除きさえすればですが……


 今回は最後の最後以外はかなりギャグよりのお話でしたが、次回の後編は小説としてのストーリーがそこそこ進みます。



新たに☆10評価をくださった

サモナーさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハーレム王の侍女たち

 梨子&楓回の後編なのですが、どちらかと言えば詩織さんの回と言った方がいいかもしれません(笑)

 前回の雰囲気とは打って変わって、今回はちょっぴりシリアス風味です。


 神崎先生のことが好き。先生としてではなく、1人の男性として。

 自分自身その気持ちに気付いていない訳ではなく、むしろ気付いているからこそ先生の家に行くだけでも緊張した。先生が浦の星にいた一か月前はこの気持ちも不確かなモノだったけど、今では自信を持って言える。先生のことが好きなんだと。

 

 でもやっぱり、こうして誰かに自分の心を見透かされるのは恥ずかしい。先生のことが好きなのはそうなんだけど、それを的確に指摘されるとさっきの自信も大きく揺らいでしまう。特に先生の家族である詩織さんや楓さんに本心を知られるのは最高潮に戸惑っちゃう。自分でも顔が熱くなっているのが分かり、スカートを握る手に汗が滲む。そうやって焦っている間にも詩織さんは私の回答を嬉しそうに待ってるし、一体どうしたらいいんだろう……。私の心を見透かしているのなら、私の本心にも気付いてるよね絶対。気付いているのにも関わらず私から喋らせようだなんて、相変わらず神崎家の人たちは意地悪だよ……。

 

 いくら粘ろうが詩織さんが引く気配も楓さんが助け舟を出す気配もないので、ここは心を強く持って答えるしかないのか。

 

 

 ……………………よしっ!

 

 

「はい。好きです……」

 

 

 い、言っちゃったぁああああああああああああああああああああああああ!!

 どれだけ自信を持ったとしても、いくら心を強く持ったとしても、自分の口から他人に告白を語るのって恥ずかしすぎる!! 自分の気持ちに正直になったから大丈夫だと思ってたけど、もう全身が焼けるように熱くて焼死しちゃいそう。こんなことになるなら適当にはぐらかしておけば良かったよ……。あっ、でも詩織さんに対して嘘は通用しないか。背水の陣ってまさにこういうことを言うのね……。

 

 

「そっかそっか! あなたも零くんの手籠めにされたのかぁ~」

「て、手籠めって、そんな乱暴にはされていません!! 先生はもっと優しくて……あっ」

「そっかそっかぁ~零くんは優しかったのかぁ~♪」

「ち、違います!! さっきのは言葉の綾で……楓さん! 何とかしてください!!」

「全くお兄ちゃんってば、すーぐ女の子に手を出して身も心も支配しちゃうんだから……フフッ、本当に困った人……♪」

「く、黒い……」

 

 

 片や巧みな言葉攻めで私の羞恥心を煽ってくるわ、片やブラコンとヤンデレを発動させて黒くなってるわで収集が付かないんだけど!? というか私って今日作曲をしにこの家に来たんだよね……? どうしてお母様と妹さんにここまで振り回されなきゃいけないの!?

 

 

「それで? 梨子ちゃん以外の子たちは零くんのことをどう思ってるのかな?」

「千歌ちゃんたちですか……? その……す、好き……だと思います。みんな1人の男性として先生のことが……」

「なるほどなるほど。これまた大変なモノを残していきましたなぁ零くんも」

「ま、それがお兄ちゃんだから仕方ないよね。逐一出会った女の子を惚れさせないと生きていけないもん」

「先生ってそんなに女性と遊んでいると言いますか、女癖が悪いんですか……?」

「女癖が悪いからあなたたち全員が惚れちゃってるんでしょ?」

「仰る通りで……」

 

 

 でもよく考えてみるとAqoursのみんなが先生に惚れちゃったのって、別に先生の女癖が悪いからとは一概に言えない気がする。多分先に先生に好意を寄せていたのは私たちの方だし、何人もの女の子を相手にしている以外は優しくて頼りがいのある人だと思うんだよね。まあそのたくさんの女の子を相手にしているから女癖が悪いのかもしれないけど……。

 

 

「ねぇ梨子ちゃん」

「は、はい!」

「浦の星で零くんと別れた後、そこから進展はあった? 告白されたんでしょ?」

「ふぇっ!? ど、どうしてそれを知ってるんですか?!」

「分かるよ。零くんのことならな~んでもね♪」

 

 

 こ、怖い……。兄絡みですぐヤンデレ化する楓さんも相当だけど、やたら息子を溺愛してもはやその愛を飛び越えそうになってる詩織さんはそれ以上かも。どうしてそんなに先生に入れ込んでいるのかは分からないけど、多分聞いてはいけない話題のような気がする。この世には検索してはいけない言葉というモノもあるらしいから、詩織さんが先生に抱く愛を訊ねるのもその類に違いない。

 

 話を元に戻すけど、先生から告白されたという事実は合っているようで間違っている。先生自身もこれは告白ではなくて未来の私たちへ向けた期待だと言い張ってた。だけど、あの場にいた私たち全員が先生の言葉に胸を打たれたのはそれまた事実。みんな顔を真っ赤にして先生からの言葉に返事をしていたし、実際に先生が屋上から去った直後に私たちは自分の気持ちが抑えきれず練習もままならなかったため、その場で流れ解散になったのは記憶に新しい。つまり先生にその気はなかったとしても、私たちはその時から意識しちゃってるんだよね。

 

 

「でもどうする気? みんながみんな零くんのことを好きになったら、誰が告白して誰が結ばれるのか決めないといけないよ?」

「そ、それは……。まだみんなそこまでの段階に辿り着いていないと思います。なので誰もそんなことを考えてすらいないかと……」

「だけどいずれは立ちはだかる問題だよね? さっきも言ったけど零くんは女の子からの人気も高いし、うかうかしていると誰かに取られちゃうよ?」

「それはそうですけど……。やっぱりまだそこまで考えられないと言いますか……」

「つまり、まだあなたたちの仲はそこまで進展していないって認識でOK?」

「まあそういうことになりますね……」

「やっぱり秋葉ちゃんの言う通りだったか……」

「えっ? 今なんて?」

「うぅん! 何でもないこっちの話♪」

 

 

 この家に来てから何度も詩織さんの笑顔を見てきたけど、先程以上に作られた笑顔はなかった。今までが自然で綺麗な笑顔だったからこそ分かる歪な造形の笑顔は、見た目は優しそうだけどどこかゾクッとした悪寒を感じる。怒っている、呆れている、軽蔑している。どの感情とも取れる謎の笑顔だった。

 

 そしてそっと楓さんに目を配らせてみると、彼女も詩織さんの変化に訝しげな表情を浮かべていた。私とは比べ物にならないくらい詩織さんとの付き合い年月が膨大な分、自分のお母さんの怪しい言動には特に敏感だと思う。でも特に詩織さんに対してそのことを言及しないところを見ると、楓さんも下手に突っ込んでいい話題ではないことを察しているのだろう。

 

 

「まあそんなに気にしなさんな! 零くんならあなたたちの欲求なんて全員分叶えてくれるから!」

「全員分……ですか?」

「うんっ! だよね、楓ちゃん?」

「お兄ちゃんならやりかねないね。ていうか、Aqoursのみんなまでこっちに引きずり込もうとしてるの……?」

「それは零くん次第かなぁ~? 最も、今の零くんにそんな芸当が出来るとは到底思えないけどね」

「今のお兄ちゃんかぁ~。でもお母さんの言っていることはなんとなく分かる気がするよ」

「……??」

 

 

 詩織さんも楓さんも何の話をしているんだろう……? さっきまでは先生の株を爆上げさせるようなことばかり言ってたのに、今はまるで蔑んでいるみたい……。流石にそこまではいかないにしても、詩織さんの様子がおかしくなってからというものまだ張り詰めた空気は戻っていない。もしかしたら私に先生のことが好きかを聞いてきたのって、何か重要な意味が込められていたのかな? 最初はからかわれただけかと思ってたけど、ひょっとしたら迂闊に好きだと答えてはいけなかったのかもしれない。

 

 2人の会話から置き去りにされ疑念しか思い浮かばないが、敢えてその話題に触れる勇気は私にはない。むしろ触れたら先生の知ってはいけない秘密を知ってしまいそうで、口を挟もうとも思えなかった。でもタブーに触れたいと思うのが人間の性でもあるので、私の心には謎の知的好奇心も存在している。そ、そりゃあ好きな人のことをもっともっと知りたいのは当然だしね、うん……。

 

 

「梨子ちゃんはさ、Aqoursのメンバーが零くんに恋をしてることをどう思ってる?」

「と、特に何も……」

「そうなんだ。でも女の子9人が一斉に1人の男を好きになるのって、普通ならあり得ない話だと思わない?」

「まあ普通は……ですね。だけど先生は普通じゃないから、私たちが全員好きになっちゃったのも仕方ないかと」

「なるほど、そこまでの調教は済んでいるっと」

「ちょ、調教ってなんですか!? そんなヒドイことなんてされてませんよ!!」

「一度に9人から恋をされることに関して、何も思わない時点で桜内さんはお兄ちゃんに染められているんだよ」

 

 

 確かに言われてみればそうかも……。これって俗に言うハーレムってやつだよね? 2人に指摘されるまではそんなこと全く考えてもいなかったけど、先生が置かれている状況はまさにアニメやラノベの世界で言うハーレム主人公だ。思い出してみればμ'sの皆さんとも仲がいいし、私が把握している人数だけでも20人以上の女性と交流があることになる。何百、何千年前の時代なら普通のことだったかもしれないけど、この時代においてそこまでの女性と関係を持つって、やっぱり先生って凄い人……? それとも数多の女性を誑かす変態だって罵るべき? そもそも、詩織さんたちの話の意図が全然分からなくなってきたんだけど……。

 

 

「あのぉ……そろそろ私に本当に聞きたいことはなんなのか教えてください」

「いいけど、聞いたら零くんと今の関係に戻れなくなるかもよ?」

「え……それってどういう意味ですか……?」

「そのまんまだよ。今の時点で言えるのはこれだけ。この先を知りたいのなら決心を持つことだね」

 

 

 元の関係には戻れなくなるって、もはや言っている意味が分からなかった。現在私たちに振舞っている姿は先生の仮の姿で、本当の姿は女性を騙す悪徳教師……とか? いや先生に限ってそんなことはないはず。だってまだ高校生の子供である私たちの恋心を真摯に受け止めてくれたし、ちょっぴり変態さんなところはあるけど決して乱暴はしない。そんな優しい先生に裏の顔があるだなんて……イマイチ信用できないかも。

 

 でも、肉親であり私たちより断然先生のことを知っている詩織さんがこう言うのだから、多分そうなのだろう。

 正直怖い、先生との関係が崩れてしまうことが。怖い思いをするのであれば、何も知らずこのままの関係でいた方が私にとってもAqoursにとっても幸せなのかもしれない。いや、もう何か裏があると知ってしまったこの時点でその願望は潰えたのかも……。

 

 分からない、どうしたらいいのか。今のまま良好な関係を保ちたいという気持ちもあれば、好きな相手のことは知っておきたいという好奇心もある。でも多分そんな安直な気持ちで決めちゃいけないことだと思うんだよね。はぁ……先生と出会ってから自分も成長したと感じていたけど、こんなことでウジウジと悩むなんてまだまだ弱いなぁ私。

 

 それにそこまで重大で大切な話ならば、話してもらう相手は詩織さんじゃない。

 私が話してもらいたい相手はやっぱり――――――

 

 

「詩織さんが話そうとしてくれた内容が、どれだけ深刻なことかは分かりません。でも、大切なお話だからこそ先生の口から聞きたいんです。先生から直接話してくれるまで、私は待ちます」

「そっか……。本当に女の子を見る目があるよ、零くんは」

 

 

 さっきまでの緊張感が一変、私がこの家に来た時のような和やかな雰囲気に戻った。詩織さんはどこか納得したような笑みを浮かべている。肩に力が入っていたのか、拍子抜けと言った感じで脱力している様子だった。

 

 

「えぇっと、ゴメンなさい。せっかくいい機会を設けてもらったのに、台無しにしちゃうような真似をして……」

「桜内さんが謝る必要はないよ。勝手に暴走したのはお母さんだし」

「あはは、面目ない♪」

「絶対に最初から狙って質問してたでしょ……。でもお母さんの術中にはハマったよね」

「どういうことですか?」

「桜内さん、あなたさっき悩んでたでしょ? お兄ちゃんの話を聞くか聞かないかで」

「はい……」

「悩むってことは、それだけお兄ちゃんのことが好きだってことだよ。だってどうでもいい人の恋事情なんてそれこそどうでもいいじゃん? だから今の関係が崩れるかもと言われて悩むってことは、それだけお兄ちゃんを想ってるってことなんだよ。まあ聞くか聞くまいか悩みすぎて、そこまで考えてなかったと思うけどね。逆に言えば自然とお兄ちゃんとの関係のことだけを考えていたんだから、やっぱりそれだけお兄ちゃんが好きなんだね」

「そ、そんな好き好きって連呼しないでくださいよぉ……!!」

「それそれ。あなたすぐ顔に出るから分かりやす過ぎ♪」

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! また顔も身体も熱くなってきちゃった!! ここまで自分の本心を読み取られると、恥ずかしさを通り越して逆に清々しくなっちゃいそう……。そういや最近千歌ちゃんたちに変顔すること多いねって言われたから、そろそろポーカーフェイスの練習をしないと!!

 

 そんな羞恥心とは別に、自分自身がそこまで先生のことを想っていると気付けたのは素直に喜ぶところだった。先生に恋心を抱いているという気持ちは自覚していたけど、結局それ止まり。先生との仲を進展させようと思わず、程よい今の関係に酔い痴れていたからこそ楓さんの言葉はいい清涼剤になった。詩織さんがどうしてあんな質問攻めをしてきたのか、その意図はまだ判明していない(というか私自身が断った)けど、いずれ先生が自ら話してくれるはず。だから私はその時まで待つ。大切な話ならば、なおさら本人の心がこもってないとね。

 

 それに先生がどんな人であれ、私の答えはきっと――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 今まで忘れていたけど、ここに来た理由は作曲をするためだったんだよね。

 という訳で楓さんとの作曲を終え、私が帰宅した後の家でこんな会話があったそうな。

 

 

「お兄ちゃんと私たちμ'sの関係、話そうとしたでしょ?」

「どうかな?」

「お姉ちゃんと一緒に何をしてるんだか……。でもお兄ちゃんは想像以上だよ、お母さんたちが思っているよりも遥かにね」

「知ってる。だから梨子ちゃんみたいな素敵な女の子が側にいるんじゃない」

「お兄ちゃんは絶対にAqoursのみんなをその手で掴むよ。今はまだ立ち止まってるけど、お兄ちゃんは私たちのご主人様なんだから」

「相変わらず楓ちゃんも壊れてるねぇ~。ま、やることはやったから後はあなたたちに任せますか」

 

 

 先生と私たちの恋の波は、私たちの知らないところでうねりを上げていた。

 

 

 




 このお話を読んでいて気付いた方もいるかと思いますが、今回は今までにない要素をいくつか盛り込んでいます。

 具体的には……

 ・零君がいないところで恋愛絡みの話が進行している
 ・ハーレムが若干咎められている
 ・詩織さんの問いかけの意図が不明なまま

 私が気付いていないだけで、もっと他にもあるかもしれません。
 これまでは零君に主眼を置いた恋愛が多く、ハーレムは作ること前提で話が進んでいました。更にその話で浮き彫りとなった課題はその話内で解決することが多かったのですが、今回は梨子が零君への恋心を想い改めただけで話が終わっています。
 このような展開にしたのは恋愛話の単調化を防ぐためです。流石に300話近くになって恋愛絡みの話が毎回零君と女の子たちだけの決心で進んでいくのは皆さんも飽きると思いますし、私も飽きるので(笑) なので前回の秋葉さんや今回の詩織さんのように、不穏な外的要因も入れてみようかなぁと思った次第です。

 μ's編やAqours編に比べたらストーリー色がかなり強くなるスクフェス編ですが、いつもとは違う雰囲気を味わってもらえればと思います!


 次回は夏祭り回です!
 それと次回以降に向けて、ラブライブの公式で発表されているPDP(PERFECT Dream Project)のキャラを一通り把握しておくと……更に面白くなるかも?













目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

迷子の迷子のスクールアイドル

 本日、私が小説を執筆し始めて3年が経ちました!
 まだ同じ小説を書き続けているとは始めた当初は思ってもいなかったのですが、今となっては思い出の作品なのでそう簡単に終わらせたくはないですね(笑)


 特に3周年記念はやらないのですが、今回は現在ラブライブ公式で活動中のPDPより新キャラも登場しますので何気に重要な回です。
 また新たなハーレムが形成される予感がプンプンと……


 

「なぁ、お前ちょっと食い過ぎじゃないか?」

「ふぇ……?」

 

 

 穂乃果は焼きそばを口に含みながら、キョトンとした表情でこちらを振り向く。もうその様子だけでも食い意地を張った意地汚い女にしか見えねぇぞ……。

 

 俺たちはスクフェスへの練習の安息として、街で開かれている夏祭りに来ていた。夏祭りと言えば主催が違うだけで年に何度か開かれるけど、今回開催している祭りが1年の夏祭りの中で最も規模が大きい。俺とμ'sは毎年この夏祭りに参加しているのだが、毎回歳を重ねるたびに規模が拡大しているのは気のせいだろうか?

 その気を感じさせるのが屋台の数で、今年は店舗数が過去最大級を謳っている。例えば同じ焼きそば店だけでも何十件もあることから、この祭りの規模がドでかいことは察してもらえるだろう。

 

 まあだからこうやって、簡単にみんなとはぐれちゃうんだけどな……。

 

 

「あのさ穂乃果。俺たち迷子になってるって自覚ある……?」

「ふぁからふぉうやってふぁいりょくをふぁくあえてふんだよ!!」

「食いながら喋るな!」

 

 

 右手に焼きそば、左手にタコ焼きを持ちながら、それらを器用に口に運ぶ穂乃果。迷子だっていうのに危機感がないのか、それとも迷子という自覚すらないのか……。

 

 さっきも言った通り、この祭りの会場はとんでもなく大きい。しかもそれだけ人が集まり周りが屋台だらけなので景色もあまり変わらない。そうなると必然的に大人数で来ている俺たちは人混みによりグループが分断されやすく、案の定俺と穂乃果はいつの間にかμ'sの集団から切り離されていた。携帯で連絡は取っているものの、人も多く屋台だけの景色の中だとお互いに認知しやすい集合場所を設定すること自体が難しい。だから少しでも人が少なく目印として分かりやすい場所を探すため俺と穂乃果は祭り会場を練り歩いている訳だが、コイツが屋台の飯に釣られて逐一足を止めるため一向にミッションを完遂できなかった。

 

 

「いやぁ焼きそばもタコ焼きもそうだけど、屋台で食べるモノって普段よりも一回り美味しく感じるよね?」

「食うの早いな……。ま、それは周りの雰囲気もあるからじゃね? 賑やかな場で食う飯は美味いって言うから」

「あっ、零君わたあめ食べようよわたあめ!!」

「聞けよ!」

 

 

 自分にビビッと来た屋台を見つけては人混みを掻き分けてでも突撃し、食べながら歩きまた次の店を見つける無限ループに陥っている。最近はスクフェスに向けて減量するために食事をかなり制限していたらしいから、その鬱憤を今ここで晴らしているのだろう。もしかしてコイツ、海未の監視の目を逃れるためにわざとグループから抜け出したんじゃねぇんだろうな……?

 

 そうは言っても浴衣姿の女の子が屋台の食べ物を美味しそうに頬張っている様子を見ると、本気で咎められないのがもどかしい。ハイビスカス柄の白い浴衣にいつもとは違って髪型をポニーテールにしている穂乃果は、普段の子供っぽい容姿とは打って変わって一回り大人に見える。だけど食べ物を頬張っている時の彼女からは少し幼さを感じさせるので、そのギャップが逆に愛おしい。結果、穂乃果の屋台珍道中を止めることが出来ずただ見守るだけになっちゃうんだ。相変わらず女の子に対して甘いよな俺って。

 

 

 自分の弱点を改めて実感したその時だった。

 突然口の中にふかふかした甘いモノが挿入される。そのふかふかは俺の舌に触れると瞬く間に溶け去り、濃厚な砂糖水を啜っている感触になる。

 目の前を見てみれば、穂乃果が笑顔で俺に口にわたあめを突っ込んでいた。

 

 

「なにをする……」

「えへへ、あまりにも美味しいから分けてあげようと思って」

「たかが10円の原価で作れるモノを300円もの大金で売っている綿菓子ごときで、俺を満足させられるとでも?」

「あぁ~出たよ原価厨。その300円の中にはお祭りの雰囲気代も含まれてるの。さっき零君も言ってたじゃん。賑やかな雰囲気の中の食事は美味しいって」

「でも綿菓子とかき氷だけは許せん」

「過去にどんなトラウマを植え付けられたの……」

 

 

 言っておくけど、俺は原価に引き摺られるほど低俗な人間じゃない。だけど綿菓子やかき氷の原価を知ってしまったら、それらを買う時に頭を過ってしまうものだ。この世には知っても自分の人生になんら影響のない情報なんて山ほどあるが、知ってしまった以上無駄に意識せざるを得ない情報も多いため、あまり興味本位で情報を得ようとするのはやめような。

 

 

「食うのはいいけど、屋台ばかり探してないでアイツらも探せよな。それか待ち合わせ場所の目印になりそうなところをさ」

「探してる探してる。でも屋台から流れてくる美味しそうな匂いには抗えないんだよ――――あっ、あそこの焼き鳥買って来るね!」

「まだ食うのかよ……」

 

 

 穂乃果は人混みの間をすり抜けながら駆け足で屋台に向かっていった。もう下手に歩き回るよりもどこかで飯を食いながら立ち止まり、μ'sの連中に俺たちを見つけてもらった方が合流しやすい気がする。気になる屋台を見つけては人混みを掻き分けて道をふらふらと横断していたら、それこそアイツらと同じ道を通ったとしてもすれ違いになりやすい。だったら焼き鳥屋の近くにいると連絡を入れて、アイツらに数ある焼き鳥屋を隈なく探させた方がよっぽど効率がいい。決して穂乃果に振り回されるのが疲れたとか、そんな理由じゃないから!

 

 そんな感じで俺も穂乃果の後を追って焼き鳥屋に辿り着くと、販売の列に並んでいる穂乃果から見える位置の柱に寄り掛かって休憩する。

 すると、横から誰かに声を掛けられた。

 

 

「先生……? やっぱり先生だ!」

「ん? なんだ千歌か」

「なんだとはご挨拶ですね! 1人ぼっちで寂しそうにしてるから声を掛けてあげたのに!」

「そりゃどうも……って、梨子と曜も一緒か」

「こんばんは。まさかこんなところで会えるなんて奇跡ですね!」

「そうだな。これだけ人が多いと、知り合いがいたとしても分からねぇから」

「…………」

「梨子……? どうした俺の顔をジッと見て」

「い、いえ何も! 私も奇跡だなぁっと……」

 

 

 なんだ? 梨子の奴、さっきから俺と目線を合わせようとしてこないばかりか、複雑そうな顔であまり楽しそうじゃない。千歌と曜は祭りの雰囲気に乗じているのか頬を染めるほどテンションが上がっているのにも関わらず、梨子だけはどこかぎこちない感じだ。もしかしてあれか、男に浴衣姿を見られるのが初めてだから緊張してるとか? そういや、千歌たちの浴衣姿を見るのってこれが初めてだったな。オレンジ、水色、ピンクと目がチカチカしそうな明るい色の浴衣たちが俺の目の前に広がっていた。

 

 

「先生、本当に1人で来たんですか?」

「んな訳ねぇだろ。ぼっちでこんなリア充感満載の祭りに行くって、肝っ玉強すぎるから。μ'sのみんなと来たんだよ」

「ということは、皆さんここにいるんですね!? どこですか!?」

「期待しているところ悪いが、残念ながら迷子だ。俺たちがな」

「は? 迷子……?」

 

 

 やめろやめろ。いい大人が女の子たちとはぐれてぼっちになってる可哀想とかいう目線を送ってくるのはやめてくれ。俺だってこの歳にもなって集団から逸れるとは思ってなかったんだよ。でもこれだけ人がいて道も広いと、人混みを避けて歩いているだけで離れ離れになっちゃうのは仕方のないことだ。従って、俺は悪くない。以上!

 

 と、そう心の中で言い訳を繰り返していると、千歌たちも何やら含みのある表情をしていた。

 ま、まさかコイツらも……?

 

 

「なるほど、お前らも迷子って訳か」

「迷子じゃないです! 迷子になっているのは果南ちゃんたちの方ですから!!」

「いやいや、千歌ちゃんが焼きそばだーータコ焼きだーーーって叫びながら屋台を駆けずり回ってたせいだよね……?」

「しかもスクフェスに向けて体重を維持しなきゃいけないのに、みんなの眼から逃れた瞬間それ以上に食べ回ってるし……」

「いいじゃん! お祭りなんだから少しくらい!」

 

 

 なんだろう、同じようなツッコミをされて同じようなセリフで返している奴を俺は知ってるぞ。やっぱり迷子になる人っていうのは一定の法則があって、いくらこうして人が多くても迷子にならない人はならないし、なる人は人数関係なく迷子になってしまう。穂乃果や千歌のように平気で単独行動をする奴に限ってグループから離れ離れになるし、そんな奴に限って自分が迷子になっているのではなく一緒にいた他の連中が迷子になっていると言い張る。そんな無駄な自信はどこから湧いて出ているのやら……。

 

 

「あっ、千歌ちゃんに曜ちゃん! 梨子ちゃんも!」

「ほ、穂乃果さんだ!? 先生だけじゃなく穂乃果さんとも出会えるなんて、運命って本当にあったんだね……」

「そんな大袈裟な。穂むらに来ればいつでも会えるのに」

「いいのか? いい歳して店番を妹に押し付けてゴロゴロしてる醜態を晒すハメになるぞ?」

「もう言っちゃってるじゃん!! ほ、ほらぁ千歌ちゃんたちがポカーンとしてるし!!」

 

 

 千歌たちにとっては穂乃果は雲の上の存在であり、そんじゃそこらの無関係な女優やアイドルなんかよりも自分たちの中ではよっぽど有名人だ。そんな彼女が日頃から店番をサボったりぐぅたらしている光景なんて想像できないのだろう。しかし逆に言ってしまえば、穂乃果が規則正しく生活をして、まるでお嬢様のような優雅なティータイムを嗜んでいるところを想像するとそれはそれで虫唾が走る。現にほら見てみろ、口の周りに焼き鳥のタレを付けながら焼き鳥を頬張っているこの姿。もう子供と変わんねぇだろ? まあ俺と千歌たちが抱いている穂乃果の価値観が違い過ぎるってだけなんだろうけど。

 

 

「そういえば、今日は3人だけしかいないの? みんなは?」

「それが……逸れちゃったんです。千歌ちゃんが暴走するせいで……」

「一応みんなと連絡は取っているんですけど、この人混みの多さで動きづらくって」

「なるほどなるほど。千歌ちゃんはおっちょこちょいさんだね!」

「いやぁ面目ない♪」

「喜んでどうするのよ……」

「ていうか、ブーメランぶっ刺さってるんだが……」

 

 

 自分のことを棚に上げ、他人を蔑むその言動。やっぱり高校時代から何も成長してねぇなコイツ……。まあかく言う俺も人のことは言えないので強く非難はできないけど。

 

 そしてここに集まっているのは、いい歳をして見事に迷子となったスクールアイドルたちだ。しかも迷子の元凶となっているのがどちらもグループのリーダーなので、この先スクフェスへ向けてやっていけるのか非常に心配になってくる。迷子同士が巡り合ったとしても何の解決にもならない上に、下手に集団が大きくなるとその中からまた迷子が出ないとも限らない。迷子の中で更に迷子になるって、もうそんな面倒事に付き合いきれないからさっさとみんなと合流しよう。

 

 ――――と、考え事が終わってアイツらに再び目を向けたのだが……。

 

 

「なぁ、とりあえず行こうぜ。このあたり人増えてきたし、移動しないとまた迷子に……って、あれ??」

 

 

 さっきまで穂乃果たちが立っていたところを見てみると、いつの間にか4人の姿が消えていた。その場所には既に家族連れが焼き鳥を仲睦まじく分け合っており、数十秒前まで焼き鳥を子供のようにむしゃむしゃ食っていたアイツの姿はもうない。人が多くなってきたから早急にここを去ろうと思っていたのに、まさかたった一瞬目を離しただけでも手遅れになるとは。これはアイツらに迷子スキルがあるのか、それとも俺が現在絶賛迷子スキルを発動させているとか……? もしかしてさっき穂乃果と迷子になったのは穂乃果のせいじゃなくて、俺の迷子スキルのせい!? ま、まさかねぇ……。

 

 まだアイツらが消えたと発覚してからそれほど時間は経ってないので辺りを見回して探してみると、案の定と言うべきか4人は見つからなかった。恐らく人が増えた影響で、4人と少し離れていた俺が人混みの列によってパーティから分断されたのだろう。ちょっと目を離した隙に仲間の姿が見えなくなるまで離れ離れにさせられるなんて、やっぱ大規模夏祭りと謳っているだけのことはあるな。

 

 そう関心している場合ではなく、これでみんなと合流することが更に困難となった。ただでさえ逸れると合流が難しいのに、迷子になっている奴らが更に迷子になったら探す手間が膨大になるどころの話じゃない。ここは祭り会場で合流しようとせず、どこか適当な入口で待ち合わせをした方が早そうだ。ていうか、最初からそうした方が良かったんじゃないか……?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「それにしても、入口が遠いんだよなぁここからだと」

 

 

 とりあえず穂乃果と海未に連絡して、この祭り会場で一番大きい入口で待ち合わせることにした。そこならば屋台ばかりで目印がない会場内よりかはよっぽど待ち合わせとしては最適なのだが、如何せん俺のいる場所とは全くの真逆で遠い。しかもこの人込みだ、真っすぐ歩けるはずもないので到着まで更に時間が掛かる。だったら別の入口にすればいいじゃんと反論があるかもしれないが、生憎海未たちがいる場所から一番近い入口がそこだったのだ。幸運なことに穂乃果を除く海未たち11人は未だ迷子者がおらずパーティを保っているので、下手にアイツらを動かさない方がいい。だったら単身の俺が動くべきだという結論になり、今に至る訳だ。

 ちなみに穂乃果と千歌たちAqoursもそこに集結するらしいので、それだけの大人数だったら入口に行けばすれ違いなくすぐに見つけられるだろう。

 

 それにしても、辺りを見回しても人、人、人で、気を付けていないといつの間にか進むべき道から逸れてしまいそうだ。ただ俺自身あまり人混みが得意ではないので、あまり神経質になっていると体力的にも精神的にも疲労が溜まる。特に道を横切る場合は人の波に逆らいながら歩かなくてはいけないので、これだけの人混みを避けるとなると人酔いする俺にとっては中々キツい。一応海未にはこの人混みだから入口に到着するのは遅れそうとは言ってあるので、どこか人の波が緩いところで休憩しよう。祭りでテンションが上がっている人が多いせいか、会場の熱気が半端ではないのも相まってもう疲れたから。

 

 息苦しい人の波から脱出し、また屋台と屋台の間を陣取って木にもたれ掛かる。あまりの人の多さに空気が淀んでいた道の真ん中とは違い、僅かながらの空洞スペースであっても空気が美味しく感じた。まあ屋台からカステラの少し焦げ臭くもいい匂いがしてくること以外は、こっちの方が全然快適だな。ていうか、またあの人混みを通らないといけないと思うと億劫になってくるよ。女の子12人とハーレム夏祭りデートだったはずなのに、こんなところで1人グロッキー状態になってるなんて一体何をしてんだろ俺……。

 

 

 そうやってぼぉ~っとしながら夜空を眺めている、その時だった。

 突然俺の身体が暖かい人肌のようなモノに包まれる。更に俺の胸の下辺りに、2つの柔らかい肉球らしきモノが押し付けられていた。

 こんな展開を何度も経験したことのある俺だから分かる。これは――――――女の子に抱きしめられている!!

 

 人が大勢いる中でいきなり抱き着いてくるとはいい度胸をしてるなコイツ。俺の知り合いの中でこんな大胆なことをする奴は……μ'sは全員会場の入り口にいるから違うとして、残るはAqoursのメンツかそれ以外。鞠莉かこころかここあか、大穴でA-RISEのツバサだったりするか。とにかく、人の目が痛くなる前に離れてもらわないと。女の子に抱きしめられるのは大好きなんだけど、流石に見世物にされたら鋼のメンタルを持つ俺でも恥ずかしいから。

 

 そう思って目線を落とした時、俺は目を疑った。

 俺に抱き着いている子は身体をベッタリと張り付けているため、身長差的に俺の目からはその子の頭しか映らない。しかしその頭だけでも俺の知り合いの女の子ではないとすぐに察せた。髪の色は赤み掛かった色をしており、真姫がはっきりとした赤だとしたらこの子の髪色は朱色寄りの鮮やかな赤だ。そしてその髪色を持つ女の子は俺の知り合い中では1人もいない。

 

 そうだとしたら、この子は一体誰なんだ……? どうして見知らぬ男に抱き着いてくる? も、もしかして援交目的の輩か何か!?

 あらゆる妄想が頭を駆け巡って、女の子に抱き着かれ慣れている俺が珍しく動揺してしまった。そしてもう周りの目を気にするとか、そんなことを考えている余裕すらもなかった。

 

 

「やっと、会えましたね……」

「えっ……?」

 

 

 聞こえなかった訳じゃない。むしろ聞こえすぎるくらいに聞こえてきたので聞き返してしまったのだ。

 彼女の口ぶりから察するに、彼女は俺のことを知っている……のか? それともあれか、よくあるオカルト話に巻き込まれているのか。彼女のセリフを聞くだけではホラー番組によくありがちな言葉に聞こえなくもないし。

 

 でもこの体温は間違いなく女の子の温もりだ。何度も言うが、これまで幾度となく女の子に抱き着かれている俺が言うんだから間違いない。今自分の身体に伝わってきている暖かさは現実の人肌だ。

 

 だったとしたら、尚更この子は誰なんだ……??

 向こうが知っているってことは俺も知っている子の確率もある訳で、それで俺だけ忘れていたとなるとこの子に申し訳ない。だけど記憶の倉庫を探っても知らないものは知らないんだよなぁ……。彼女は未だに俺の胸に顔を埋めたままなので、顔さえ見せてくれれば記憶が刺激されて思い出すかもしれない。

 

 するとそんな俺の願いが通じたのか、その女の子は俺から素早く一歩下がって俺と対面した。

 

 

「ご、ゴメンなさい! 急に抱き着いたりして、迷惑でしたよね……?」

「い、いや。女の子に抱き着かれるのは嬉しいと言うか、むしろもっとやってくれと言うか……って、今のなし!!」

「フフッ、いつまで経っても欲望に忠実になんですね」

「そ、そうなんだよ、アハハ……」

 

 

 ヤベぇヤベぇ、妄想をつい口に出しちゃう性格が見知らぬ女の子にまで発動してしまった。内浦で初対面の千歌に痴漢して以降、見知らぬ子に手を出すのは控えようという教訓を立てている。そもそも道徳的に考えてそんな教訓なんてなくとも行動を控えろと言われたら、それはそれでぐぅの音も出ない訳だが……。

 

 それよりも自分の欲望を抑えるのに必死でスルーしてしまっていたが、ようやく俺の身体から離れたため彼女の全貌が明らかとなった。

 髪色はさっきも言った通り鮮やかな赤。髪の長さは肩に掛かる程度の短髪気味で、右側の髪を丸めてまとめているため一種のデコレーションのようになっている。見た目的には千歌たちと同じ高校生であり、胸の大きさも千歌や曜と同じくらいだ。雰囲気は清楚でお花畑が似合いそうな美少女で、パッと見で目立った特徴はないものの、それをカバーできるほどの容姿と清純さを持ち合わせていた。その清純さは、テンションが高くも人の多さで淀んだお祭りの空気を一気に浄化してしまいそうなほどだ。今は夜なのにも関わらず、彼女を見ているとまるで青空を見ているようだった。周りに浴衣姿の人が多いのに、彼女は普通に白のブラウスに青色のスカートだから余計にそう思えてしまったのだろう。

 

 

 だからこそ一度会ったらこんな印象強い子を忘れるはずがないと思うのだが、俺の記憶には未だこの子が現れない。

 だったら、投げかける質問は1つ。

 

 

「お前、名前は……?」

「やっと会えたんですから、ここは第一印象をしっかりと伝えなきゃですね」

「えっ……あ、あぁ」

 

 

 彼女は俺から更に一歩引くと、両手を身体の前へ組み、俺の瞳を真っ直ぐ見つめた。

 

 

上原歩夢(うえはらあゆむ)です」

 

 

 この時、俺はまだ気付いていなかった。

 自分の人生が、三度目にして大きく動き出すことになると。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 いつも女の子とはセクハラを皮切りに出会っていた気がするので、今回は趣向を変えてミステリアスな雰囲気で初対面(?)させてみました。しかも最初からデレているのも今回が初めてかも?

 もし今回登場したキャラを知らないよって方がいましたら、ラブライブの公式で発表されていますので是非調べてみてください! それを機に他のキャラの容姿も覚えておくといいかも。


 次回は夏祭りの後編です。
 μ'sと待ち合わせをしているのに、見知らぬ女の子と夏祭りを回ることになった零君の運命は……?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハーレムは広がるよ、どこまでも

 夏祭り回の後編、PDPメンバーの上原歩夢ちゃんの回です!
 いきなり零君への好感度がMAXな彼女ですが、その裏にはいくつもの謎が……


 

 一体俺は何をしているんだ……?

 認めたくはないが迷子になってしまったので、祭り会場の入り口でμ'sの奴らと合流する予定だったはずだ。

 だけど俺は突然出会った美少女・上原歩夢(うえはらあゆむ)と共に夏祭りの会場を回っている。初対面のはずなのに彼女は既に俺に心を許しているようで、さっきからやたらと近い。歩いている時も屋台の列に並んでいる時も、もちろん飯を食っている時もだ。しかも何故だか知らないけど頻繁にこちらの顔を嬉しそうに見つめてくるため中々落ち着ける機会もない。見た目は清楚で初心そうな感じなのにここまで積極的とは、今まで出会ってきた女の子の中でも初めての部類だ。だからこそ女の子と2人きりだという絶好のシチュエーションなのにテンションが上がらないというか、初対面で積極的なのが少し不気味で警戒してしまっている。

 

 彼女の名は上原歩夢(うえはらあゆむ)。彼女は自分の名前だけ語ると、そのまま俺の手を取って祭り会場に流れる人混みの波へと俺を引き摺り込んだ。だから俺が得ている彼女の情報はその清純な容姿と名前だけ。そもそもその名前自体も本名なのか偽名なのか判別はできないが、俺の直感だと彼女は嘘をつくような子じゃない。まだ出会って数分だけど、見た目の清らかさと共に心まで透き通って見えるのが話をしていて分かるんだよ。この直感もこれまで幾多の女の子と恋愛をしてきた賜物だ。

 

 まあ、未だに謎が多いので完全に信じ切ってはいないがな。

 その証拠の1つとして、ほら。

 

 

「零さん、りんご飴買ってきました! 私これ好きなんですけど、最近はお祭りに行ってもあまり見かけなくなっちゃったので珍しいですよね。流石、大規模のお祭りは違います」

 

 

 この通り、俺のことを名前で呼ぶ。

 呼ぶだけならいい。初対面だけど名前呼びってのはそれもそれで肝が据わっているが、この子はそれ以上だ。

 

 だって俺は――――――まだ自己紹介をしていない。

 それなのにも関わらず、この子は俺の名を知っていた。実は以前にも同じようなことがあり、嘗て俺が短期間だけスクールアイドルをやっていたことを知っていた千歌がそうだ。もしかしたら今回も同様の手口で俺のことを知ったのだろうか……?

 だとしたらこの積極性やなつき具合はなんだ? 千歌が出会った当初から俺を知っていたことを告白する際、俺が初恋の相手だったからか天真爛漫な彼女ですら羞恥心を破裂させそうになっていた。でも上原歩夢は違う。そんな動揺なんて一切見せず、ただ純粋に俺の側にいたいから歩く時も屋台の列に並ぶ時も、そして飯を食う時も身体と身体が密着しそうなくらい接近してくる。ここまで押せ押せな雰囲気だと逆に俺が男として認識されていないような気がするが……どうなんだろう?

 

 今は流れのままにこの子と夏祭りを楽しんでいるけど、その流れのまま解散してしまったらそれこそ俺にモヤモヤが残る。自分の名前以外のことを一向に話さないのは気になるけど、ここは少しずつでも探りを入れていくか。ここまで秘密にしているってことはダイレクトに聞いても答えてくれなさそうだから、それとない質問から順々にな。

 

 

「なぁ上原」

「歩夢でいいですよ!」

「なぁ上原。今日は1人で来たのか?」

「むぅ……。友達と来ていたんですけど、私だけ逸れちゃいまして。まあ俗に言う迷子ってやつです!」

 

 

 お前もかよ……。

 そして迷子のくせに嬉しそうな表情をしているのは、もしかして俺に会えたからなのか? 名前で呼ばれないと分かってむくれたり、迷子になったことを嬉々として報告したり、穂乃果や千歌並みに表情変化が豊かな奴だ。

 しかも一緒に来ていた友達を探しもせず、こうして初対面の男と夏祭りを回るとは本当に何を考えてんのか分かんねぇ。この大胆でぶっ飛んだ思考も穂乃果や千歌に似ている。まさかコイツもどこかでスクールアイドルのリーダーをやっていたりは……流石にそんなミラクルはないか。

 

 

「そういや、お前は浴衣じゃないんだな。若い女の子はほとんど浴衣を着てるから、ちょっと浮いて見えるっつうか」

「あぁ~……本当は着たかったんですけど、練習をしていたら時間がなくて。でも零さんに会えると分かっているなら、無理矢理にでも浴衣を着て来たら良かったです」

「練習?」

「はい。最近そこそこ忙しくて」

 

 

 上原はそれ以上その話題について語ることはなかった。自分から自分の情報を漏らさないから変だと思ってたけど、やっぱり意図的に隠蔽していたのか。まあ俺が他人の事情に対してそこまで踏み込む権利も義理もない。それに無理にこの話題を押し付けて俺の印象を悪くするよりも、彼女の雰囲気的にも温和に質問できるこの空気を保った方がいいだろう。

 

 まあ俺の印象が悪くなると言ったが、さっきからずっと俺の身体に寄り添う形で歩いているのでもう好感度なんてMAX状態だ。見知らぬ女の子を初対面からここまで好感度を上げるなんて、やっぱ俺の才能?? これまで幾多の女の子を手籠めにしてきた過去は伊達じゃないってことだ。俺クラスにもなれば、そんじゃそらこのギャルゲーやエロゲーの主人公よりも先に女の子とエンディングを迎えちゃうから。でもあれ? そんな簡単に女の子が堕ちるゲームなんてクソゲーの特徴だった気が……。

 

 

「りんご飴の次は……あっ、あそこのフランクフルト買ってきますね!」

「もう食ったのか!? つうか、食い終わったら即次の屋台ってどこかで見たような気が……」

「お祭りって雰囲気的にお腹空いちゃいません? 私普段はそこまで食べないんですけど、こうした賑やかな雰囲気の中だと自然と食も進んじゃいます」

 

 

 どこかで聞いたような話だと思ったら、さっき穂乃果がほぼ同じようなことを言っていた気がする。千歌もそうだけど、やっぱりどこか似ているよなコイツ。まあ穂乃果と千歌とは違って清楚さがあるので、普段からガツガツ食ってる彼女たちと比べると食いしん坊になるって聞いたとしても微笑ましい。そもそもりんご飴を優しく舐めたりちゃんと口を拭いながら食ったりと食べ方にもしっかり気を使っているので、穂乃果や千歌のガサツな食い方と比べるのもおこがましいかもしれない。

 

 そして、しばらく一緒にいたが未だに彼女のことを思い出せない。元々出会ったことすらないのかもしれないが、彼女の言動がその事実を故意に包み隠しているので真偽は不明だ。もし出会っていた場合はこんな可愛くて清純な女の子をこの俺が忘れるはずがないと思うんだけど……。自分の正体を隠しながらもそんなことお構いなしに男と夏祭りを楽しむなんて、とんだミステリアスガールだ。

 

 

「零さん、フランクフルト買ってきました! どうぞ!」

「えっ、俺のもか? ちょっと待て、金出すから」

「そんなものいらないですよ! こうして零さんに会えたことが何よりのご褒美ですから♪」

「お、おう……」

 

 

 笑顔の眩しさはまさに穂乃果や千歌と負けず劣らずだ。彼女たちが誰かに元気を与える笑顔ならば、上原のは暖かい優しさを感じさせ相手を落ち着ける笑顔だ。もはやこの子の正体とか、得体の知れない女の子と2人きりで夏祭りを回っているという事実すらどうでもよくなってくる。この笑顔を見るためだけに一緒にいたい、そう思えるくらいには。

 

 俺は今まで様々な女の子の笑顔に魅せられて来たが、一瞬でここまで心を掴まれるのはこれが初めてだ。もちろん初めて見る笑顔だから新鮮に感じるのは当たり前なのだが、心の片隅で何故か妙な懐かしさも同時に感じていた。それにこの子が嬉しそうな表情をしていることに、俺はまた心のどこかで安心している。どうしてこんな感情を抱くのかは分からないが、1つ言えるのは彼女がただの他人の様には思えないってことだ。

 

 何度も言うが彼女とは初対面。初対面なはずなのに……。

 

 

 ――――――っ!?!?

 

 

「どうしたんですか? 急に目を丸くして……」

「い、いや……。どうぞ是非堪能して食ってくれ」

「言われなくとも……れろっ」

 

 

 おいおいおいおいおいおい!! どうしてフランクフルトを舐めてんだよコイツ!?

 さっきまで超マジメムードで推理小説並みの考察展開が繰り広げられていたはずなのに、上原がフランクフルトを舐め上げたりしゃぶったりしながら食ってる光景を見て展開が一気にAVへと急転換した。突然お色気シーンなんかに突入したら、お茶の間の雰囲気凍っちゃうよ!? そして子供は訳も分からず首を傾げ、お父さんとお母さんは恥ずかしそうにお互いの顔をチラチラ見て『そういや最近主人(妻)とヤッてないなぁ』とお互いに意識しちゃうよ!? そして子供が寝た後にベッドでハッスルしちゃう展開になるよ!? そんなのでいいのか今回の話!!

 

 上原は舌を巧みに操り、フランクフルトに付着しているケチャップを舐め取る。そして今度はフランクフルトの先端を綺麗な唇で包み込むように咥え、その肉棒をゆっくりと出し入れしながら頬張っている。卑しく響く唾液の音がよりリアル感を醸し出しており、さっきまで清楚さをウリにしていた彼女が一転、見るも艶やかな大人の女性へと変貌していた。咥えているのは本物の肉棒ではないものの、絵面だけを見ればその手の行為の現場と何ら変わりはない。そもそもどうしてこんな食い方してんだよコイツ……。野外なのにムラっと来ちゃうでしょうが!!

 

 

「フフッ、気になりますか?」

「え゛っ……!?」

「冗談ですよ♪」

「年上の男をからかったらどうなるのか分かってんのかお前……。俺だから良かったものの」

 

 

 上原の奴、もしかしなくても狙ってやってたのか……?

 さっきの他人の心を揺れ動かす笑顔は穂乃果や千歌を彷彿とさせたのに、気になるかと聞いてきた時の彼女の表情はことりと似た面影を感じた。妖艶で悪戯な表情は俺の心ごと誘ってくる。しかもからかったらどうなるかと脅しを掛けても彼女は逆に卑しく微笑むばかりで、一切の動揺も見せない。まるで彼女が俺とそんなことをする展開を望んでいるかのように……。

 

 

「お好きなんですよね? こういうこと」

「な゛っ……!? まあ好きか嫌いかで言ったら……好きだよ」

「あっ、さっきの告白みたいでちょっとドキッとしました! 舐め方勉強しておいてよかったぁ」

「俺もそうだけど、お前も相当変態だよな……」

「零さんに褒められると照れちゃいます!」

「褒めてねぇよ!!」

 

 

 な、なんなんだコイツは!? 初対面の男の前で堂々と培ってきたしゃぶり方を披露した挙句、変態と罵られて喜ぶその精神。自分の名前以外の素性は全く明かさないクセに、一般人なら他人に見せることさえ渋られる性格を躊躇なく曝け出すなんてマジモノの変態としか思えねぇぞ。もちろん淫乱な女の子は嫌いではなくむしろ大好物だけど、清楚さをウリにしている彼女だからこそそのギャップに驚いてしまう。しかも人がゴミのようにいる祭り会場で公言する肝の強さは俺にはなく、羨ましいとは微塵も思わないが純粋に目を見張る。

 

 ことりや楓、秋葉など、俺と近しい年齢の奴で頭がおかしい困ったちゃんは何人も見てきたけど、コイツはそれとはまた別次元の淫乱ちゃんだ。清楚系淫乱女子って、アニメのキャラとして出演したら即アニメ界隈のトレンドになりそうな性格だな……。

 

 

「あれ……?」

「ど、どうした?」

「色気を出して誘えば、零さんは理性を崩壊させてケダモノになって襲ってくるって話だったのに、まだ理性を保ってる……。もしかして、女性に興味ない人ですか? ちゃんと付いてます、これ?」

「ちょっ、フランクフルトを俺の下半身に当てるなセクハラだぞ!!」

 

 

 上原は食べかけのフランクフルトを俺の下半身に当てようとしてきた。しかもそのフランクフルトの先から垂れる彼女の唾液がまさに男のアレから発射される白い液体を想像させるため、俺が祭り会場の真ん中で絶頂した感じになっている。すげぇ迷惑なんですけど!?

 

 そしてどこから流れたデマなのかは知らないが、淫語攻めごときで俺がレイプ魔になるなど昔の話だ。今はμ'sやAqoursとの経験を経て、女性に対する免疫力が半端なく付いてきている。だからそんな安っぽい淫語を無造作に羅列したところで、俺の性的欲求はビクともしない。まぁこんな可愛い子に本気で淫語攻めされてしゃぶられでもしたら……それはそれでアリかもしれない。でもただ淫語をつらつらと並べたところで、俺が興奮すると思わないことだ。

 

 

「このまま勘違いされたまま解散するのは嫌だから、1つ言っておくことがある」

「はい?」

「俺はな、普通に女の子が好きなんだよ! 女の子と言っても普通の女の子じゃないぞ。俺に見合った俺が認めた可愛い女の子じゃないとダメなんだよ! 

顔、胸、尻、脚、雰囲気、それに何より愛。その全てをパーフェクトに兼ね備えた女の子こそ俺が好きになる。そして俺の周りにはその全てを極めた女の子たちが集結してるんだ。どうだ? これでもまだ俺を同性愛者のホモ野郎と罵るか?」

「い、いやそれは零さんのご自由なので私がとやかく言う必要はないんですけど……」

「けど?」

「そんな大声で自分の性癖を語っちゃって大丈夫ですか? ほら、ここお祭りの会場ですし……」

「あっ……」

 

 

 気付けば周りの人たちがこぞって俺たちのことを見つめていた。一応会場内は騒がしいので俺が何と言ったのかまでは伝わっていないと思うが、それでも大声を上げていたのは事実。そのせいで大人の男が女子高校生に対して怒鳴っていたように勘違いされているようで、周りの人の目線がどんどん冷たいモノに変わっていった。

 

 

「うぐっ……ほら行くぞ!」

「は、はいっ!」

 

 

 俺はこの場の空気に耐えきれなくなり、上原の手を握って未だ冷たい視線が飛び交う現場から立ち去った。

 だがその時、上原の顔が爆発しそうなくらい真っ赤になっていることに、逃げることに夢中で気付かなかった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ふぅ……」

「賢者さんですか?」

「違うわ!!」

 

 

 なんとか張り詰めた空気から脱出した俺たちは、お祭りの会場を抜け出して近くの川の桟橋に来た。

 祭りの会場の近くなので人が少ないことはないのだが、人でごった返していたあの場所より断然マシだ。人混みの熱気もないため涼しく、彼女と出会ってからあの場を去るまで色んなことがあって疲れたから休憩するには丁度いい場所だな。

 

 

「あのぉ……ゴメンなさい」

「えっ?」

「怒って……ますよね?」

 

 

 祭り会場にいた時は清楚系ビッチキャラを貫いていた上原だが、突然しおらしくなりやがった。出会ってからここへ来るまで彼女はずっと笑顔だったため、こうして申し訳なさそうな表情を見ていると逆にこっちが心配になる。胸の前で両手を弄り、頬を染めて俺から目を背ける。この初々しさが残る雰囲気は、俺と出会って自己紹介をするまでのコイツの雰囲気と全く一緒だ。

 

 上原歩夢。清楚な彼女と淫乱な彼女。どちらが彼女の顔なのだろうか……。

 

 まあどちらにせよ俺は――――――

 

 

「怒ってないよ。あんなことで怒るほど、俺の器は小さくねぇから」

「でも……」

「だからそんな顔をするな。女の子は笑顔が一番! それに、なんだかんだ言って楽しかったしな」

「零さん……」

 

 

 自責の念で少々涙目になっていた上原だったが、俺の言葉を聞いた途端に目を丸くした。まさかこんなにあっさりと許してもらえるとは思っていなかったのだろう、上原は未だ涙の残る瞳で俺を見つめている。夜の小川の橋の上で涙を見せる少女は、夜空の星に負けないくらい綺麗だった。

 

 

「優しいんですね。変わらない、あなたはずっと……」

「そう、なのか?」

「えぇ。そんなあなただからこそ、私はあなたに恋をしているんです」

「え……?」

 

 

 ここへ来て衝撃の告白に、今度は俺が目を丸くして彼女を見つめる。

 今さっきなんて言った? 恋をしてる? この子が俺に……? 今までたくさんの女の子から告白をされてきたが、ここまで自然でド直球な告白は初めてだ。しかもお互いに出会ったばかりだというのに、もう既に恋を抱いてるって……もう訳が分からない。もちろんこんな絶世の美少女から好意を寄せられるのは悪い気分ではないが、状況が状況なので告白を素直に受け取っていいのかも分からなかった。

 

 上原の瞳には既に涙はなく、まさに恋する乙女という感じで頬を赤くし再び俺に正面から抱き着いた。

 こうして男に抱き着くことや告白をすること、言ってしまえば淫語を隠語として連発することだって躊躇いがない。コイツは俺が出会ってきた女の子とは覚悟が違う。何事にも迷わない決心を抱いている。ただ俺に好意を示し伝えることだけに全力を注いでいるようだった。しかも上原はさっき『俺がずっと変わらない』と言っていた。もしかしたら、この献身的な愛はその言葉に関係しているのだろうか……? やっぱり会ったことがあるのかな、俺たち。

 

 そしてしばらく彼女の抱擁を味わったあと、上原は俺の身体から腕を放し一歩後ろに下がる。

 その表情はとても満足気で、俺の大好きな笑顔に戻っていた。

 

 

「今日は零さんに会えただけでも人生のご褒美なのに、まさか告白までできるなんて……嬉しさで死んじゃいそうです」

「自分で言うのもアレだけど、どれだけ俺に入れ込んでるんだよ……」

「入れ込みますよ。私、いや私たちは、あなたに尽くすためにこれまで――――あっ、そろそろ時間なので帰らないと」

「あ、あぁ……」

 

 

 めちゃくちゃ気になることを言ってたのに、ここで打ち切りってマジかよ……。せめてあと10秒あればその先を詳しく聞けたものの、恐らく彼女自身そこまで話すつもりはなかったのだろう。告白で気分が高まって、自分が喋り過ぎたことに気付いたって様子だった。元々自分の名前と俺に好意を抱いていることくらいしか情報を明かさなかった子だ。こんなタイミングよく帰宅するのも多分嘘に違いない。まあ、俺には止める権利がないからこのまま彼女を見送ることしかできないんだけど……。

 

 

「それでは零さん、またお会いしましょう!」

「会うと言っても、連絡先も何も交換してねぇけど?」

「大丈夫ですよ。その内、また絶対に私に会えますから。そう、絶対に……」

「そうか……」

「はい。それでは失礼します」

 

 

 上原は丁寧にお辞儀をし、曲がり角で俺が見えなくなる位置でもう一度お辞儀をしてその場を立ち去った。

 やっぱりアイツの笑顔は綺麗だな。穂乃果と千歌が太陽なら、上原は花だ。心を落ち着かせてくれる、綺麗な花。この先、俺はその笑顔を一生忘れることはないだろう。例え彼女が、どれだけの嘘つきだったとしても。

 

 そう嘘つき。出会った時は友達と逸れたから1人だと言っていたのに、別れる前は友達のことなんて全く気にせず帰っていった。つまり彼女は嘘つきなんだ。出会った当初はこの子は嘘は付かない子だと信じていたけど、やはり女の子ってのは魔性だよ。

 

 

「ホントに、いきなり抱き着いてくるわ淫乱魔人と化すわ、告白もしてくるわ嘘もつくわで訳分かんねぇなアイツ」

 

 

 そう思いながらも、また彼女と会える日を楽しみにしている俺であった。

 

 

 そして、この一部始終を見ていたμ'sの連中にこってりと絞られ、Aqoursのみんなに慰められる俺であった……。

 

 




 この小説で告白と言えば話の節目節目で行われる超重要イベントだったのですが、今回は出会っていきなり告白というこれまでとは違った展開にしてみました。初対面から好感度が最高だったりエロかったりと、まだPDPキャラに明確なキャラ付けがされていないのが逆に執筆者として想像を掻き立てさせてくれるのかなぁと思います。
これで公式とキャラが違ったら笑いものですが、そもそも淫乱キャラにしている時点で諦めていますし、そもそも穂乃果やことりだって全然キャラが違うのでもうどうにでもなれです(笑)

 PDPの他のキャラは定期的に登場させる予定なので、またしばらくはμ's&Aqoursとの日常をお楽しみください!


 次回はことりと善子がメインの、堕天使と堕天使回です()



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

淫魔と堕天使の邂逅

今回はことり&善子の回となります!
どちらの闇がより深いのかを明らかにしましょう……


 堕天使とは、主なる神の被造物でありながら、高慢や嫉妬がために神に反逆し、罰せられて天界を追放された天使、自由意志をもって堕落し、神から離反した天使である。

 自分は神をも凌ぐ力を持っているのではないかという驕りや、神が人間に天使以上の愛情を注いだ故の嫉妬、神はもともと天使を自分自身を尊重させるために創造したとされるが、彼らの中にその指針に反する自由な意志を持つものもいたという。

 

 そんな天界の外れ者が堕天使であり、現実世界の言葉を借りるならただの社会不適合者だ。

 ちなみに思春期時代をドブに捨てた社会不適合者のことを中二病と呼ぶが、ソイツらは自ら人間でいることをやめているので、神から天界を追放された堕天使とは少しニュアンスが違うのかもしれない。まあ堕天使が堕落した理由なんてキリスト教観点だけでも諸説あるから、こんなところで聖書の内容を語るだけ野暮なのかもしれない。

 

 では何故いきなりこんなことを語り始めたのかと言えば、原因は俺の隣を歩くコイツにあった。

 

 

「フフッ、久しぶりね下界のリトルデーモンたち。主たるヨハネの降臨に従い、モーゼの十戒のごとく道を開けなさい!」

「中二病患者ってさ、人前で堂々とそんなこと言えるんだから相当精神が完成されてるよな。そこのところだけは羨ましいよ」

「ちょっ!? 初っ端から気にしてることを突き付けるんじゃないわよ!!」

「気にしてたのか……」

 

 

 津島善子は嘗て堕天使を辞めようとしていたことがあったが、結局はその中二心を捨てられず現在に至る。そう考えれば一度は真っ当な人間になろうとしたコイツが、中二病セリフを吐くたびに人目を気にしないことはないのか。まあさっきのセリフもそうだけど、人目を感じているとは微塵にも感じないくらい言動に迷いがなかったけどな。

 

 俺と善子は秋葉原を練り歩きながら、主にコスプレ衣装を売っている店を回っている。目的はもちろん堕天使衣装の捜索なのだが、そもそもこの旅に俺が同行する理由があるのか甚だ疑問だ。彼女曰く、自分の趣味に付き合ってくれる子がAqours内にはいないという悲しい現実があるらしい。でも自分は東京に詳しくないから1人では回りたくない。だから俺を引っ張り出し、あわよくばお金を出させようという魂胆だろう。汚い、流石ヨハネ汚い。

 

 

「アンタ、今変なこと考えてなかった……?」

「そりゃいきなり寝ているところを起こされて、『新たな堕天使の降臨を見届けるわよ』って言われたら混乱もするだろ。素直に買い物に行きたいって言えば普通に行ってやるのに」

「そ、それだとデートに誘っているように見えるじゃない……」

「違うのか?」

「違うわよ!! アンタが主に仕えるリトルデーモンとしての役目を全うしてるだけ!!」

「はいはい、そういうことにしておくから」

「ちょっと!? 聞きなさいよもーーーーうっ!!」

 

 

 堕天使キャラはどこへやら、今の善子は完全に年頃の恋する乙女だ。中二病セリフを吐く際には羞恥心がほとんどないのに、男1人をデートに誘うのはハードルが物凄く高いらしい。恥辱に対するレベルが曖昧なのは俺の周りの女の子ならもはや当然のことだが、彼女はその中でもダントツである。ちょっと甘い言葉で誘ってやるとすぐに顔を赤くするけど、中二病セリフを吐く時は周りに見知らぬ他人がいたとしても気にしない。やっぱり女の子の心はいつまで経っても読める気がしないよ……。

 

 

「俺はお前とデートしたいと思ってるし、叩き起こされたとは言え今も楽しみにしてるけどな」

「そ、そう……。ふ~ん、楽しみにしてるんだ……フフッ」

 

 

 頬を染めて右手で髪を弄りながら俯く善子。

 普段は中二病セリフばかり漏らしてるから一見すると近寄りがたいと思われちゃうんだけど、こうして普通の女の子っぽい仕草を見るとその考えも改めさせられる。特にいつもとキャラが真逆になっちゃう女の子は、古い言葉だけどギャップ萌えが備わっていて実に男心をくすぐってくる。だからこうして羞恥心を突っついてやりたくなるんだ。ほら、好きな女の子をイジメたくなる小学生の男の子と同じ理論だよ。

 

 

「なにさっきからニヤニヤしてんのよ……。まさか私の恥ずかしがってる姿を見て、微笑ましいとか思ってるんじゃないでしょうね……?」

「おっ、察しのいい女の子は好きだぞ。俺の言ってることや思っていることをしっかり理解してくる子は、単純に話をしていて楽だしな」

「その上から目線の見透かしたような言い方は相変わらずね。ま、そんなアンタを私は……」

「私は?」

「~~~~っ!?!? さ、さっきのなし!! ほ、ほらとっとと行くわよ!!」

「へいへい……」

 

 

 墓穴を掘るとはまさにこのことと言わんばかりの自爆っぷりは、広辞苑の"墓穴"という言葉の類義語に"善子"と書かれていても何の違和感もない。下手に恥ずかしがるなら最初から言わなかったらいいのにと思うけど、もしかしたら自然に漏れちゃった言葉なのかもしれない。そう考えると、自然と漏れ出すくらい俺のことを想ってくれているってことだから嬉しくはあるんだけどな。

 

 そして俺は善子に手を引かれて、強引に近くのコスプレショップに入店した。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 店内は紫色の明かりで灯されており、いかにも闇の力により生成された空間のようになっていた。

 禍々しい水晶や漆黒のマント、結界を模した絨毯など黒魔術の入門には最適なグッズを始め、女子高校生の背丈よりも遥かに大きい堕天使の翼など、上級者向けのグッズやコスプレが数多く揃っている。もう店内を見ているだけでも外とは別次元のように感じるので、善子のように中二病オタクにとっては天国のようなスポットだろう。いや、堕天使に天国とか言っちゃいけないのか……。

 

 ともかく、案の定善子は目を輝かせて店内を回っている。いつにも増してキラキラ輝いているように見えるが、一応堕天使キャラを通しているんならその子供のようにはしゃぐ雰囲気を抑えて欲しいものだ。これだからいつまで経っても堕天使キャラになりきれないんだよなぁ……。

 

 

「これよこれ! これが欲しくてわざわざ東京にまで来たんだから!」

「なんだよその法衣……。ていうか、東京に来たのはスクフェスのためだろ?」

「それはそれ、これはこれよ。まあ私からしてみればこっちの方がメインだけど……」

「Aqoursの絆はそんなコスプレごときに負けるのか……」

 

 

 ともあれ今の彼女に何を語っても、目の前に陳列する欲望たちに魅せられて聞く耳を持たないだろう。善子は黒と紫を基調としたフード付きの法衣を手にすると、どう見てもアクセサリーには思えないほどの大きさを誇る堕天使の翼と共に買い物かごに入れる。男の俺からしてもカッコいいと思わなくはないのだが、このような衣装を躊躇いなく堂々と購入できるあたり中二病はそんじゃそこらの人間と度胸が違う。やはり華の思春期から外れた無法者は肝の据わりも常人ではないということだろう。

 

 そんな善子を呆れながら見つめていると、俺たち以外にも客がいることに気が付いた。正直に言ってしまうと赤の他人であろうがこんな店の中で誰かとエンカウントすること自体が非常に気まずいのだが、それは一般人である俺だけなのか……? 最近は中二病同士のオフ会とかも積極的に行われているみたいだし、同志というのはこのようなところで見つけるのかもしれない。俺からしてみれば、目の色を変えて黒魔術グッズや堕天使コスプレを探す人の妖気が半端なく怖い訳だが……。

 

 ちなみにもう1人の客はこれまた珍しい女の子。しかも見た目も善子とは違ってゴスロリ風味な服ではなく、完璧にイマドキ女子を表現している明るく可愛い服だ。髪型は特異で鳥のトサカのようになっており、出ているところは出ていて引き締まっているところは引き締まっている女子憧れのスタイル。そしてなにより近くにいるだけで甘いスイーツの香りが漂ってくる――――――あれ?

 

 この特徴の女の子って、俺の知る中で1人いたような……?

 いや、目の前いるコイツがまさしく――――!!

 

 

「こ、ことり!?」

「えっ? あっ、零くん?」

 

 

 南ことり。μ'sのファッション担当であり、世間では天使と呼ばれ崇められているオタク界のアイドル的存在だ。

 まず彼女がこんな黒々とした店にいることに驚いた。彼女は流行のファッションを常に追い求めており、大学卒業後は海外でファッションデザイナーを務めることになるほど洋服が大好きなのだ。そんなことりがやれ黒魔術だの、やれ堕天使だの社会の外れ者たちが好むような衣装を手に取っていることが信じられない。別に中二病の趣向をバカにする気はないが、彼女の趣味からは遠く離れていると思ったんだ。現に今ことりの着ている洋服も白とベージュを基調としたブラウスとミニスカートで、この店の漆黒に満ちた空気とはどう足掻いてもマッチしない。それにしてもどうしてコイツがここにいるんだ……?

 

 

「お前がこんなところにいるなんてな……」

「それはこっちのセリフだよ。零くんって意外とこういうのに興味あったんだね」

「大学生にもなって興味があったらマズいだろ……。俺はアイツの付き添いだよ」

「アイツ……? あっ、あの子は!」

 

 

 ことりは俺の肩越しに小物売り場を見ると、そこにいたいかにも堕天使っぽい洋服を着ている少女と目が合った。

 同時に善子もことりの視線に気付いたのか、しばらくことりを見つめた後に頬を染めて顔をプイっと逸らした。善子からしてみればことりとは今回が初対面なのだが、既に他のμ'sメンバーと出会っている以上初めてという気はしないのだろう。それはことりも同様だが、彼女は恥ずかしがる善子とは違って目を輝かせていた。

 

 

「もしかして、津島善子ちゃん……じゃなくてヨハネちゃん?」

「善子! あ、あれ??」

「わぁ~! PVで見た時から思ってたけど本当に黒いんだぁ~」

「そ、そんなジロジロ見ないで!! …………ください」

「えぇ~でもヨハネちゃんの堕天使コス可愛いじゃん!」

「えっ、ほ、ホント? 本当に可愛いと思ってる……?」

「もちろん! 逆にそんなことで嘘を付いてどうするの」

「まさか……認めてもらえるなんて!!」

 

 

 善子はグイグイ来る系の人種に対して苦手意識を持つ子なのだが、ことりに堕天使を認めてもらった瞬間に目を輝かせた。まあこれまでその中二病な性格を咎められるどころかスルーされてばかりだったので、自分の趣味を真っ向から向き合ってくれる人が珍しいのだろう。しかも堕天使キャラを肯定してくれるとなれば、それはもう犬のように尻尾を振って彼女に懐くのも納得できる。

 

 それにしても、まさかこんなところで善子の趣味を理解できる奴がいたとは。もちろん千歌たちが理解していない訳ではないが、さっきも言った通り彼女たちは善子に慣れ過ぎてもはや中二語録をスルーするのが定石となっているのだ。例を上げるなら千歌たちから『善子ちゃん』と呼ばれると『ヨハネ』と返すのが一連の流れとなっており、それがもう日常に定着している。だからこそ自分のことを素でヨハネと呼び慕ってくれることりが初対面ながらも貴重な存在なんだ。

 

 そして初対面なのにも関わらず善子の心を一気に鷲掴みにしたことり。元々メイド喫茶のバイトでお客さんの機嫌を取ることには長けているから、その能力のおかげだろう。よく言えばコミュ力MAX。悪く言えば魔性の女って感じか。

 

 

「そういやお前、どうしてこんなところにいるんだ? お前こそ黒魔術とか堕天使に興味あんのか?」

「実は10月のハロウィンパーティのために衣装を作りたかったんだけど、こっち方面の知識がないから勉強しに来たの」

「今まだ7月だぞ? いくら何でも早すぎねぇか?」

「それがね、今回作った衣装を海外のファッションデザイナーの方に見てもらえることになったの。だから製作期間を十分に設けて、自分の納得のいく衣装を作らないとね!」

 

 

 普段は持ち前のピンク脳で俺のペースを乱してくる困ったちゃんのことりだが、こうして純粋に夢を追いかけている姿は眩しく見える。しかももう既に手を伸ばして夢を掴む直前まで漕ぎ着けているのだから、ただ平凡に生きている俺なんかよりもよっぽど真っ当な人生を送っている。あぁダメだダメだ! 人の人生と自分の人生を比べると余計惨めになるからやめようやめよう! ことりは海外でファッションデザイナーになり、俺はハーレムのヒモになる。うん、お互いに素晴らしい人生だ!

 

 

「み、南さん!」

「ことりでいいよ。それに敬語も外していいから♪」

「ではことりさん! 私に似合うとっておきの堕天使衣装を見繕ってもらっていい!?」

「フフッ……」

「ど、どうして笑ってるのよ……」

「いやぁ何でもないよ何でも!」

「なんか笑顔が怖いんだけど……」

 

 

 ことりは善子が懇願してきた瞬間に雰囲気が変わった。さっきまで純粋に夢を追いかけていたキラキラとした姿を白とすれば、今の彼女は髪の毛の先から足のつま先まで黒。まるで最初からこの展開を願っていたのかのような風貌は、いかにも計算高い彼女の打算を感じる。

 

 

「よしっ、ことりがヨハネちゃんの洋服を選んであげるよ!」

「そ、そう……ありがとう」

「全然いいよ! むしろ着せ替え人形……じゃなくてモデルになってくれる人がいてこっちが助かったから♪」

「おい、今なんつった!?」

「もう零くん顔が怖いよ? ほらスマイルスマイル!」

「うっ……」

 

 

 ことりは笑いながら俺の頬に人差し指を押し付け、無理矢理表情を変えてきやがる。

 女の子の笑顔には3種類あり、1つ目は穢れのない明るく楽しそうな笑顔。2つ目は優しい微笑みの笑顔。そして最後は、今のことりのように怖さが滲み出ている黒い笑顔だ。こんな笑顔を見せる奴は大抵裏で碌でもない計画を立てているのは明らかであり、その計画の対象が誰であろうとも最終的には俺に災厄が降りかかるのはいつものことだ。

 

 だからこそ全力で計画を阻止しようと思ったのだが、善子がことりの言動を気にしながらもやる気になっているので多数決の観点ではこの時点でもう白旗だ。

 だったら俺の取りえる手はただ1つ――――――

 

 

「あっ、用事を思い出したから俺帰るわ」

「えっ? そんなこと一言も言ってなかったじゃない」

「風に呼ばれたんだ、気にしないでくれ」

「なにその冗談寒すぎるんだけど……」

「お前! せっかく中二語録使ってやったのにその言い草はないだろ!」

 

 

 自分は自信満々に堕天使キャラを演じておきながら、他人のクサいセリフには冷たい反応をするコイツをどう懲らしめてやろうか……。でも中二語録を使用してマジレスされた時の空気を初めて味わったから、Aqours内でこんな空気になってもアイデンティティを崩さなかった善子は純粋にメンタルが強いのかもしれない。現に超恥ずかしいから、俺。

 

 

「零くん? 逃げようたってそうはいかないよ♪」

「いや笑顔が怖いよ! 既に人を2、3人平気で殺してるような黒さだぞお前……」

「そんなこと言っちゃっていいのかなぁ? この前の夏祭りに零くんがことりたちにした所業、忘れた訳じゃないよね?」

「そ、それを言われると……」

 

 

 先日、とある夜に上原歩夢(うえはらあゆむ)と2人きりで夏祭りを回ったことは記憶に新しい。しかも抱き着かれた挙句に告白までされるという大波乱っぷりで、しかもその現場をμ'sやAqoursに目撃されたからさあ大変。あの時は久々に胃が破裂しそうなくらいの修羅場を体感したのだが、それだけで済むならまだ温い。結局長時間の弁明と平謝り、そしてみんなの言うことを1人1つずつ何でも聞くという奴隷のような待遇に堕ちることで一応許された。もはやハーレム内カースト最下位にまで落ちた俺は、夏祭りの件で揺さぶりを掛けられるだけで抵抗もできなくなってしまったんだ。それこそまさに奴隷。女の子の奴隷になるってどこのドMだよ……。

 

 そして、ことりは人差し指で俺の胸を服の上からくるくると掻きまわしながら擦り寄ってきた。

 

 

「零くんはぁ~ことりたちの言うことを何でも聞かなくちゃいけないんだよぉ~?」

「それはまあ俺のせいだから仕方ないけど、1人1個のお願いをここで使っちまうことになるぞ?」

「まぁそれでもいいかもね♪」

 

 

 ダメだ、もうことりは止まらない。ということは、これから行おうとしている計画には確実に俺が割を食うプランが仕込まれているはずだ。つまり善子を着せ替え人形にするプランは表向きの理由であり完全に囮。裏では着々と彼女の真の計画が進行しているのだろう。

 

 さっきコイツを夢を追いかける純粋な奴と褒め称えたが前言撤回。やはりコイツは打算的で身体の芯まで真っ黒な悪魔、いや淫魔だ。

 今この現場にて淫魔と堕天使が邂逅……とんだ迷惑な話だなオイ。

 

 

「善子はいいのか? コイツにホイホイ釣られても」

「さっきの話を聞く限り、ファッションデザイナーとしての腕は一流なんでしょ? だったら私は賛成。いつもは趣味で堕天使や悪魔っぽい衣装を選んでたけど、一度は本気でファッションを考えた服を着てみたかったのよ。もちろん堕天使要素込みでね」

「もちろんヨハネちゃんの要望にはお応えするよ! むしろ要望以上に可愛くしちゃうからね……フフッ♪」

「おいどんなことさせる気だ……」

 

 

 これじゃあどちらが堕天使で悪魔的なのか分かったものじゃねぇな……。こうして見ると善子の空回りしながら発揮する中二病が途端に可愛く思えてくる。本物の悪魔っていうのは目の前にいるこの淫魔のような奴のことを言うんだよ。よぉ~く覚えておけ。

 

 

「よ~し! それじゃあ今からことりの家に行きましょう!」

「えっ、ことりさんの家……?」

「うん! 実は既に何着かハロウィン用の衣装を作ってるんだよね。だからそれをヨハネちゃんに着てもらおうと思って」

「一応確認するけど、それは人前に出ても恥ずかしくないようなコスプレなんだろうな……?」

「う~ん? 人前に出て恥ずかしいコスプレってどんなの? ことり分かんなーーい!」

「コイツ……」

 

 

 ここまで白々しさをウザく表現できる奴は初めて見た。ことりは頬に人差し指を当てながら、本当に疑問に思っているかの如く首を傾げる。俺の中二語録を華麗に跳ね除けた善子もそうだけど、いつかコイツにもじっくりとお灸を据えてやる必要があるみたいだな……。

 

 ちなみに着せ替え人形にされるとは知らない善子は、ことりの言葉をすっかり真に受けて家に行く気満々だ。何やらウットリしているため、どうやらこれまで以上にカッコいいコスプレを着ている自分を妄想して酔っているのだろう。オタク界隈に詳しい彼女なら人前に出て恥ずかしいコスプレと聞いて恥ずかしがらない訳ないのだが、今の彼女の耳には一切入らない。もうどうなっても知らねぇからな。

 

 

「ほら、先生も行くわよ!」

「えぇ……俺も?」

「夏祭り」

「ぐっ……分かったよ行けばいいんだろ行けば」

「やった! 零くん大好き♪」

「なんとまあ安っぽい告白ですこと……」

 

 

 そんなこんなで俺もことりの家に連行されるはめになった。俺にとって南家でいい思い出がなく、親鳥も親鳥で頭がお花畑でクセが強く扱いが難しいので難敵しかいない。だから魔王城に乗り込むような気概を持たなければ、気軽に足を踏み入れてはいけないのが南家なのだ。

 

 さてはて、俺も善子も今度はどんな面倒事に巻き込まれるのやら……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 

 

 

 

 




完全に個人的な妄想ですが、ことりと善子ってウマが合うと思います。共通点なんてほとんどないのですが雰囲気的に……同じこと感じてる人いますかね??

次回はことり&善子回の後半。
ことりの本気はこれより始まる!?

新たに☆10評価をくださった

ほたるいるかさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

淫魔ノ淫靡ナ饗宴

 善子&ことりの回の後編です!
 いつものごとく南ことりワールドが炸裂!?


 

「な、なによこれぇええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」

 

 

 平日の昼下がり。とある住宅から女の子の怒声混じりの叫び声が響き渡る。

 広範囲に渡って窓ガラスを振動させるパワーを持つその声さえあれば、不審者対策用の防犯ブザーなんてなくとも防犯対策はバッチリだろう。もちろん窓ガラスの耐久にダメージを与えるほどの威力なので、その衝撃波は近所迷惑以外の何者でもない。

 だが声の発生源――善子にとっては、近所に気を遣うどころか自分の身を守るだけで精一杯だった。いくら他人を心配しようともまずは自分自身のことからとはよく言ったものだが、今はまさにその構図。目の前にいる淫魔と悪魔が融合したような災厄の存在に対抗しなければ、己の保身をしなければ身も心も調教されてしまうだろう。

 

 

「こ、こんな露出……だ、騙したわね!?」

「いやぁヨハネちゃんのお肌、白くてスッベスベで綺麗だねぇ~♪」

「ウットリするなこの変態!!」

「変態だって、零くん」

「いやお前のことだから……」

 

 

 俺たちはさっきまで黒魔術やら堕天使やらのコスプレや雑貨が集まる店にいたのだが、善子はことりがファッションデザイナーであることを見込んで自分に見合う衣装を選ぶよう懇願した。そして既にことりがその手の衣装を作ってあると聞いて彼女の家にお邪魔したのだが、案の定というべきか罠であり、善子はやけに露出度の高い堕天使コスを着せられてしまったのだ。あの店にいた時からことりは何かを企んでいるような憎たらしい笑顔をしていたけど、俺の予想通り本当にエロい衣装を着せて楽しむことが目的だったとは……。

 

 ちなみに善子の格好は誰しもの想像よりもエロく、肩やヘソ、太ももの露出なんて可愛いもの、前を隠す布がもはや防壁として機能していない。言ってしまえば善子がちょっとでも動けば胸を隠している布きれがひらひらと舞うため、隠すべきはずの胸が完全に見えそうになる。そうでなくとも常時下乳が見えるくらいには露出度が高く、もはやAVの企画モノでコスプレプレイを強要させられているのではないかと思ってしまう。

 更に彼女の露出は胸だけではない。臀部も丸出しと言っても過言ではないくらい曝け出されており、コスプレというよりかは水着のパンツ。しかも限りなくヒモに近いパンツで、動こうが立ち止まっていようが思春期女子の肉付きの良いおしりは隠し通せない。辛うじて股間は最低限の牙城が形成されているが、胸や臀部の防壁が軟弱なところを見ると股間の牙城もいつ崩れ去るか分かったものではなかった。

 

 ここまでの説明で察した通り、もう全裸と言って差支えないほどのコスプレを善子は着せられてしまったのだ。

 そしてこの事態の張本人は、着せ替え人形となった善子の痴態を見てただただテンションの上がっている変態だった。近い将来ファッションデザイナーとしての道を歩む奴が、こんなアダルティな衣装を作るだけでなく無理矢理誰かに着させてほくそ笑むなんて想像もしたくねぇな……。いや、想像するどころかもう現実になっちゃってるけどさ。

 

 

「あなたがとっておきの堕天使コスを着させてくれるって言うから家に来てあげたのに、蓋を開けてみれば何よこのエロさ極まりない衣装は!!」

「えぇ~? 誰も最初から健全な衣装とは言ってなかったんだけどなぁ~♪」

「だったらその笑顔やめなさい! どうせ最初から騙す気満々だったでしょ!!」

「騙してないよ! だって堕天使コスなことには変わりないもん!」

「こんなに露出が多くて大きい羽が付いてるコスなんて、ただの民族サンバ衣装じゃない!!」

「いいの?」

「な、なにが!?」

「そんなに暴れちゃうと、色々見えちゃうよ♪」

「な゛ぁ……!!」

 

 

 見えちゃうと言うか、もう隠すべきものがほとんど晒されている衣装を着ている時点で防衛は不可能な気もするが……。

 でも善子はあくまでも抗い、ことりに牙を剥きながらも俺の目線を気にしているようだ。顔を真っ赤にしながらチラチラと俺の顔を見つめてくるため今にも羞恥心に押し潰されそうになっている。

 まあ俺としても全裸同然の女の子が目の前にいるのにその姿を見るなと言われる方が無理のある訳で、むしろ目を逸らしたらその子に魅力がないと暗に主張することにも繋がるため決して妥協はしない。だったら視姦プレイでも何でもいい、女の子の痴態はこの目で捉えて脳に焼き付けてこそなんぼのものなのだ。

 

 

「ちょっとジロジロ見ないでよこの変態! ていうか、ここ変態しかいないじゃないの……」

「今更そんな分かり切ったことを俺に言われてもな。大衆に向かって私は人間ですって豪語するようなもんだぞ?」

「くっ、味方がいない……」

「味方してやりたいけど、この状況でどうしろっていうんだ。今すぐここで脱ごうにも全裸を晒すはめになるぞ?」

「ことりとしては、ヨハネちゃんの身体のサイズを測れるから全裸になってもらってもOKだけどね!」

「全然OKじゃないわよ!! それにまたエロい衣装作ろうとしてるでしょ!? しかも私のサイズに合わせて!!」

「だってぇ、他のみんなに着させても嫌がるだろうしぃ」

「私だって嫌がってるんだけど!?」

 

 

 善子だってことりのことを少なかれ憧れのスクールアイドルとして見ていたはずだ。だがそれは数十分前の話で、今では憧れ先輩とか夢の象徴とかそんなものは関係なく、ただ自分を恥辱の底に沈める淫魔としか思っていないだろう。その証拠としてことりに対しての口調がどんどん荒くなっており、千歌たちと接する時となんら変わらなくなっている。憧れの先輩たちを前にオドオドする千歌とは違って精神力が強いのは認めるが、ことりのこんな姿を見たら誰しもコイツに夢も憧れも抱かなくなるかもしれないな……。

 

 とりあえず俺としても善子を助けてやりたいのは山々だが、こんなエロいコスプレをした彼女は早々見られないので助け舟を出すのも惜しいと思ってしまう。そもそも善子は露出度が低い服を好む傾向にあり、制服はまだしも普段着も自分の肌を守るためなのか、はたまた堕天使ヨハネとして少しでも自分の白い肌を隠したいのかは知らないが、とにかくここまで肌を見せつけている彼女は貴重なんだ。せめて写真を1枚盗撮するタイミングがあればいいのだが、善子が俺に目を光らせている以上そんな隙は生まれそうにないのが残念なところ。

 

 しかし、ことりの味方をするってのも釈然としない。コイツと一緒に犯罪の片棒を担ぐのは俺のプライドとしても許せないし、淫乱を爆発させているコイツと俺の立場が同列に扱われるだけで反吐が出る。言っておくけど、俺とことりの『変態』は似て非なるものだから。ことりの変態は場を弁えない低俗なのに対し、俺はしっかりと時と場所を選ぶ高貴な変態なのだ。だから同列に扱われたりしたら最後、変態の名に傷をつけることになるんだよ。Do you understand?

 

 

「いやぁでも善子ちゃん本当に可愛いから! ほら零くんのここだってこんなに大きく――――――な、なってない!?」

「お前は何を期待してたんだ……」

「むしろなってたらド変態よ! 元教え子の裸を見てお、お、大きくするなんて……」

「恥ずかしがるなら言わなくていいから!」

 

 

 つうか2人共、人の下半身を見ながらお話をするのはやめてくれませんかねぇ……。俺は誰かに見られて興奮するようなマゾではないとこれまで何度も言ってきてるのが分からないのかなこの子たちは。女の子に射精管理されるとか、夢を抱いたとしても絶対に実現させたくない情けない姿だ。

 

 

「女の子の裸を見ても大きくならないとか、もしかして零くん……あっち側の人!?」

「またその話題かよ!? いい加減違うって覚えろ!!」

「また……?」

「この前の夏祭りで上原にも言われたんだよ。男性好きの人ですかってな」

「…………」

「…………」

「どうしたお前ら、急に黙って――――――あっ!」

 

 

 そういや"夏祭り"ってワードは現在俺たちの界隈において禁止ワードに設定されてたんだった! 地雷を踏まないように敢えてその話題は避けていたはずなのに、まさか自爆することになるとは……。

 

 ことりも善子もさっきまでの慌ただしさが嘘のように静まり返り、良くも悪くも明るかった雰囲気が一瞬にして凍り付いた。

 また修羅場からのお説教ルートはご所望じゃないんだけど、俺の周りの女の子って妙に嫉妬深くて依存性も高いから、こうなると事態を収束させるのがかなり手間になる。しかもただでさえ俺はみんなの言うことを何でも1つ聞かなければならないという奴隷と化しているのに、またここで余計なオプションを付け加えられたらもう俺の身体が誰のモノか分かったものじゃない。風俗店じゃないんだし、あまりオプションサービスを付けても俺からの待遇は良くならねぇからな??

 

 

「今日は善子ちゃんを調教するつもりだったけど、これは零くんを躾けた方が良さそうだね……」

「そ、そうね! 誰とも構わず鼻の下を伸ばす変態野郎には、バイになるくらいの調教が必要よね!」

「急に元気になったなお前! あっ、まさかことりの矛先が俺に向いたことを喜んでやがるな……?」

「ち、違うわよ! 目の前に女の子がいればすぐに発情しちゃう、その腐敗した心を鍛え直してもらいなさいってこと! 言うなればそう、善意よ善意!」

「そうだよねぇ~ことりたち以外では勃たなくなるように改変しちゃわないとねぇ~」

「改変ってなんだよ!? もはや俺のモノの形を変えるってことか!?」

 

 

 ここに来る前に危惧していたことが現実になろうとしていた。面倒事に巻き込まれるのは日常茶飯事だが、当初は全く関係もなかった俺がいつの間にか騒動の中心に引き摺り込まれているのもいつものことだ。善子も善子で俺がことりの標的になったと分かった途端、さっきまで俺に助けを懇願してきた様子とは裏腹に手のひらを返して敵に回っている。裸同然のコスプレを着せられているというこの状況から早く脱却したいのだろう、必死過ぎて裏切りも辞してないなコイツは……。

 

 

「まずは零くんをことりたち以外では発情できなくするのが先決だよね。逆に言えば、ことりたちで満足に発情させることができれば……」

「ちょっ、どうしてこっちを見てるのよ……い、イヤだからね!!」

「まだ何も言ってないんだけど、ヨハネちゃんは何を想像してたのかなぁ~?」

「ど、どうせ私を先生に(けしか)けようと……うぅぅぅ!!」

「だってそんなにエッチな格好をしてるんだし、ここで攻めなきゃ女が廃るよ!」

「こんな格好をさせたのはアンタでしょうが!!」

 

 

 もはやことりを"アンタ"呼ばわりをし、完全に彼女を敵と見なして口調が悪くなった善子。まあ自分を脱がして全裸同然のコスプレを無理矢理着せてきた奴に敬意を払う方が難しいだろう。女の子同士だからまだ可愛いものだが、これが男女だったらレイプ紛いの現場と思われても仕方ねぇからな。

 

 

「それにコスプレっていうのはただエロ可愛く作るものじゃないんだよ。激しく動いても衣装の形を崩さずに保つ耐久性も、ファッションデザイナーの観点として重要なんだよね。だからヨハネちゃんにそのコスプレを着させることで耐久テストを行っている、という名目なんだよ!」

「今さっきはっきりと"名目"って言ったわよね!? 一寸の狂いもなく"名目"って! それに胸もおしりも隠せてないこのコスプレに、どんな耐久性能を求めてるのよ!?」

「元気だねぇヨハネちゃん。そんなに抵抗されたらことり、もっとイジメたくなっちゃうよ♪」

「ちょっと先生! 本当にこんな変態がスクールアイドルの頂点にのし上がった訳!? こんなのに負けたスクールアイドルたちに同情するわよ……」

「いや、頂点に立った時はまだまともだったんだ。まだな……」

 

 

 μ'sが初めてラブライブで優勝したのは5年前。その時のことりはまだ俺に恋する純粋な思春期乙女であり、その姿こそ天使と呼ぶにふさわしい純度を誇っていた。

 だが高校3年生となった春、彼女の家にお邪魔した時にその純白の羽が一気に黒く染まることになる。ことりが席を立った際にたまたま見つけた日記を読んでしまったのが人生の分岐点。その内容は狂気と言えるほどの愛が語られており、しかも日記を読んでいたことをことりにバレてしまったため彼女もこれまで抑えていた欲求が爆発したのだろう。それ以降はもう自分の真の性格を隠す必要もなくなったのか、皆さんも知っての通りのことりになったという訳だ。

 

 

「零くんの調教で、ことりはこんな風になっちゃったの……。エッチなことを強いられて、この身体も何度弄ばれたことか……」

「捏造すんな。自分から堕ちておいて何言ってんだコイツ……」

「そして零くんの調教はμ's全員に広まって、ことりたちは徐々に零くんの剛直でしかイけない身体に改造されちゃったの……。こうしてμ'sは零くんの性奴隷になっちゃったとさ……ハッピーエンド♪」

「ちょっ!? 最後の最後で笑顔で何言っちゃってんのアンタ!?」

「えっ、同人界隈では普通のことだよ」

「全世界の純愛モノ好きに謝りなさい!! それに奴隷になったことを喜んでるってどうかしてるわよ!!」

「…………?」

「いや首を傾げられても……」

 

 

 後にも先にも、自分を俺の性奴隷だと認めている奴はお前だけだと言ってやりたい……。だがことりはそれが普通のことだと認識して考えを改めようとはしないため、何を言っても無駄だろう。

 もちろんだけど、ことりが言ったことは嘘っぱちなので信用しないように。確かにμ'sのみんなが変態色に染まった理由の一旦は俺が背負っているが、何も俺が全ての元凶ではない。きっかけを作ったのは俺と付き合いだしてからかもしれないけど、変態になるってことはその潜在能力が最初からあったという訳だ。現に凛や亜里沙は全然そっちの色に染まってないから、俺と一緒にいたために完全なる変態になったという仮説は間違っていると思う。てかそう思わないと、調教凌辱系の同人誌に出てくる汚いオッサンとやってること変わらないからな……。

 

 

「そんなこと言っちゃって、Aqoursのみんなも零くんとヤっちゃったんでしょ? だったら文句なんて言えないんじゃない?」

「そんな訳ないでしょうが!!」

「えっ……? えぇっ!?」

「どうしてお前が驚いてんだよ……。つうか、驚かれなきゃいけないことなのかこれ」

「だってあの零くんだよ? 目を付けた女の子に何もせず別れる訳ないよ……そんなの、ことりの知ってる零くんじゃない。隠してるだけでヤっちゃったんでしょ? 教育実習を終えて浦の星を去る前に、『俺からの最後の授業だ』とか言ってみんなの初めてをその肉棒で……」

「俺たちは教師と生徒だぞ!? んなことしたら社会的に抹殺されるから!」

「今更世間の目を気にしたりするんだ……。ただでさえことりたちみんなと付き合っ――――――」

「あーあー!! とにかくこの話題はこれで終わり!!」

 

 

 あぶねぇあぶねぇ……。ことりの奴、ナチュラルに俺がμ's全員と付き合っていることを暴露しそうになってなかったか……? 確かに世間の目に対抗する気概を持ってみんなに告白したのだが、自分からその事実を漏らす必要は一切ない。それなのにAqours全員に手を出すなんて何を考えているのかと思われるかもしれないけど、まあその辺りのいざこざに関しては現在どう手を打とうか考えてる最中だから。

 

 そして幸いにも、善子には悟られていないみたいで安心した。いつもは中二語録を解き放ち周りを寄せ付けない雰囲気を醸し出す彼女だが、意外と他人の些細な様子の変化に気付けるほど察しはいい。だからこそ下手に俺とμ'sの関係を漏らしたくはなかったので、とりあえずはバレなくて一安心だ。今のところAqoursのみんなにこの事実は知られていない……と思う。

 

 

「話を戻すと、ヨハネちゃんの着ている衣装の耐久性テストをするってお話だったんだけど……着心地はいかが?」

「戻ってほしくなかったんだけど……。それに、こんな露出の高いコスプレなんてもはや服を着てる感じなんてしないわよ」

「まあ全裸同然と言えば同然だしな」

「だ、だから変な妄想をするのはやめなさいって言ってるでしょ!?」

「目の前で肌色全開のコスプレを見せつけられて、賢者でいられる方が変態だろ!?」

「まぁまぁ2人共落ち着いて。要するに、こうしちゃえばお互いに分かり合えるってことだよ。えいっ♪」

「ひゃっ!?」

「な゛っ、うわぁっ!?」

 

 

 ことりは素早く善子の背後に回り込み、間髪入れず彼女の背中を勢いよく押した。

 そうなれば当然善子の身体は前のめりとなって倒れる訳で、その先には俺がいる訳で……。

 

 ベッドに座り込んでいた俺は善子を抱きしめる形で仰向けに倒れた。ことりのベッドが柔らかかったおかげで痛みを伴う衝撃はなかったものの、眼前にほぼ生まれたまま状態の善子と見つめ合っている状態なことに精神的な衝撃を受ける。全裸っぽいなぁと思いながら遠くから見つめていたさっきとは違い、善子に押し倒された状態になった今だからこそ分かるそのエロさ。四つん這いとなって俺に跨っているせいか、彼女のそこそこの大きさの胸でも重力に従って垂れているのが最も俺の性的欲求をくすぐられる。しかも通常時でも下乳が見えるほど露出が多いコスプレなんだから、下から見上げる形となったらもうその胸がどのように見えるのかはお察しのこと。胸を守る布なんてないようなものであり、彼女のおっぱいの全てが俺の目に焼き付けられていた。

 

 

「…………っ!!」

「な、なにジロジロ見てるのよ……」

「…………」

「ちょっ、黙ってないで、言いたいことがあるならはっきり言いなさいよね!」

「綺麗だ……」

「は、はぁ!? こ、この変態変態変態!!」

「いて、いてて! はっきり言えって言ったのはお前だろ!?」

 

 

 顔を真っ赤にした善子は俺の胸倉を掴みながら上下に揺らす。だがそんなことをされたとしても、俺の率直な感想は変わることはない。透き通るような白い肌と僅かな面積を誇る黒地の衣装が綺麗なコントラストを顕現させており、その演出が彼女の胸の艶と張りをより際立たせている。

 しかも下半身で大切なところを覆うものがほぼヒモになっているせいか、ここまでの一連の騒動で多少ズレかかっていた。見えるか見えないかの絶妙な紐パンのポジショニングに、最高で最悪の焦らしプレイを体感させられている。Aqoursには果南や花丸と言ったドエロな身体付きをした子が多い中、善子もその子たちに負けないくらい欲情を煽る身体付きをしていた。やっぱり田舎の女の子は都会っ子と比べてその成長っぷりが一回り違うと察した瞬間だ。

 

 更に言ってしまうと、善子は俺の胸倉を掴んで俺の身体を激しく揺らしているが、その動きのせいで自分の胸が激しく暴れていることに気付いていない。覆って隠す布地がほぼないので胸を支える布地もないのはもちろんのこと、もはや桃色の先端が丸見えになるくらいには胸が大きく揺れていた。

 

 したがって俺は彼女の胸も下半身も気になるため、もう目がいくつあっても足りない状況なのだ。

 

 

「なぁ、触っても……いいか?」

「え……ど、どこを?」

「全部」

「そ、そんなのダメに決まってるじゃない……」

「じゃあ胸だけ」

「そ、それもダメ……」

「だったら触るのは一瞬だけでいい」

「う、うぅ……」

 

 

 頼み込む立場なのに、何故かこっちが優勢になっている謎の構図。これも必死に頼み込めばいつか言うことを聞いてくれる彼女だからこそできる芸道だ。それに俺だって目の前で暴れるおっぱいを見せつけられ、平常心を保っていられるはずがない。もはや自分の欲望を満たすためだけに彼女へ投げつけるような懇願をしていた。

 

 

 しかし、そう願った展開にならないのが俺の人生の常である。

 部屋のドアが開く微量な音が聞こえたためそちらに目を向けてみると、そこにはドアの隙間からこちらを覗き見る頬を染めた理事長、言うなればことりの母親、更に言うなれば親鳥がいた。ほぼ全裸同然の女の子に押し倒されているこの状況を見たら誰しも……マ、マズい!!

 

 

「あ、あまりにも騒がしかったから注意しに来たんだけど……お昼からお盛んねぇ」

「そうなんだよお母さん! 零くんはことりのことを差し置いて、高校生の女の子を選んじゃったんだ……。やっぱり若さには勝てないんだね……」

「何言ってんだこのチキン親子!!」

「いいのよ別に。零くんが誰としていようがしっかり娘のことも愛してくれれば……ね?」

「ね? じゃねぇよこの親鳥! ほら善子も、いつまでも俺に跨ってないで早く離れろ……って、えっ?」

 

 

 さっきからやたら黙っていたから気になって声をかけてみたら、コイツ気絶してやがる……!! 恐らく親鳥の登場で今まで抑えてきた羞恥心が抑えきれなくなって爆発したのだろうが、その恰好で気絶されると無性に触りたくなってくるんだけど……。

 

 つうか、善子も善子で俺に負けないくらい不運な目に遭ってるよなぁ。自分を完璧な堕天使にコーディネートしてくれると期待してことりの家に来たのに、全裸同然のコスプレを着せられた挙句こうして親鳥にまでその姿を晒すはめになったんだから。しかもことりと親鳥は初対面だし、そりゃ気絶しても仕方ねぇわ……南無阿弥陀仏。

 

 

「ことり、子供は2人がいいなぁ~。上がお兄ちゃんで下が妹にしよっか!」

「生まれてくる子の性別操作できんのかお前……」

「それじゃあ私は目の前でおばあちゃんになる様子を見届ければいいのね。それも実の娘と娘の後輩の子に、生命が宿る瞬間を同時に見られるなんて……♪」

「もうお母さん、流石に公開プレイは恥ずかしいよぉ~」

「そんなこと言っちゃって、いつも隠す気ないくせに!」

「あっ、バレちゃってたんだぁ♪」

「もうヤダこの家族……」

 

 

 善子もドンマイ、俺もドンマイ。

 この機会を経て、Aqoursの面子を金輪際コイツらに関わらせないようにしようと心から誓った。

 




 いやぁやっぱりことりが出演すると雰囲気がガラリと変わるので、若干シリアスだった梨子編や夏祭り編と比べたら落差が半端ない……
まあこっちの雰囲気の方が皆さんにとってはお馴染みかもしれません(笑)


 次回はまだ未定です。ポケモンをやってたので考えてないのです()


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絢瀬亜里沙、妹ができる

 今回は亜里沙&ルビィ回です!
 いつかやってみたいと思っていたμ'sとAqoursの妹キャラのコラボ。メンバー的にも今回は健全に終わりそうな……?


 

「妹が欲しいんです!!」

「はぁ……」

 

 

 μ'sやAqoursの子たちから相談を受けるのは今まで何度もあったことだが、その中でも今回の相談が1、2を争うほど意味不明だった。

 何のアポも取らずに部屋に押しかけてきた亜里沙は、テーブルの前でちょこんと正座をしながらベッドに腰掛ける俺に上目遣いで懇願する。もうその体勢だけでも心にグッと来てしまうのだが、それはそれこれはこれ。いつもなら穏やかで澄み切った瞳をしている彼女の目が嘗てないほど意思に燃えている。ただでさえ普段μ'sやAqoursの練習を掛け持ちしてるから休日くらいは休ませて欲しいものだが、意外と強情な彼女は何を言ってもその正座を崩すことはないだろう。

 

 仕方ないから聞いてやるかと思った時、ふと頭を過るのは先日のことりと善子の件。あの時も自分は関係ない話題だと信じてことりの話に耳を傾けたが最後、何故か親鳥に俺とことり、善子が子作りをするという勘違いを引き起こされてしまった前科がある。そのせいも相まって人のお願いをホイホイと聞くのはマズいと脳内がアラートを鳴らしているのだが、まあ亜里沙のことだからそんなことは引き起こされないだろう。これフラグじゃないからな、絶対に!!

 

 そんな訳で、自分が妹のくせに妹を欲しがっている理由を聞いてあげようじゃないか。

 

 

「零くんは私を妹のように可愛がってくれますよね?」

「まあそうだな。妹のようにというか、もう本当の妹同然に接してるつもりだけど」

「そうなんですか!? ありがとうございます!」

「あぁ、どういたしまして」

「えへへ、嬉しいです」

「そりゃどうも」

「はいっ!」

「おう……」

「…………」

「…………」

 

 

 な、何この沈黙!? 亜里沙は喜びを頬に浮かべたまま満足気に浸っているけど、俺はどうしたらいいんだ……?

 

 

「はっ、ち、違います! 私のことじゃなくて妹が欲しいという件です!!」

「いやお前が勝手に自分の世界に耽ってたんだろ……」

「それはそうですけど……。と、とにかく本題です!」

 

 

 開始1分も経たずに己のウブさを見せつけ、磨き上げられたあどけなさをアピールする亜里沙。妹扱いされただけであそこまで幸福に浸れるなんて、おめでたい奴というかいつまでも変わらぬ純粋さで安心したというか……。

 

 

「零くんが私や雪穂たちを可愛がってくれるのを思い出して、妹というのはそこまで愛でがいがあるものなのかと疑問を抱きまして……」

「だからその疑問を解決するために妹が欲しいと?」

「そういうことです。それに、一度でいいからお姉ちゃんになるのが私の夢の1つだったんですよ」

「そりゃ単純にして叶わぬ夢を持ったもんだな」

「でもあの零くんなら! 零くんになら不可能はないと、これまでの人生の中でたっぷり学びましたから!」

「お前、俺に姉と妹を逆転できる力があったら、この世の百合界隈に革命が起きてるぞ……? 姉妹百合なんて偏った趣向のジャンルがメジャーになるくらいにはな」

「し、姉妹百合……?」

「いや、知らないのならいいや……」

 

 

 こうしたオタク界隈の用語が通用しないのが亜里沙だが、よくよく考えてみれば通用する方が異常なのであってコイツが正常なんだよなこれって。まあ逆に亜里沙に百合の知識があったら、元々シスコンな性格も相まってそっち系の道に歩んでいただろうからウブで良かったのかもしれない。百合属性の女の子を男の魅力に堕として篭絡(ろうらく)させる展開も好きっちゃ好きなのだが、いざ初エッチをする時に既に姉との百合エッチで貫通済みでしたぁなんて展開は流石に萎えるから、やっぱりウブで良かったのかもな。

 

 百合の話題はさて置き、亜里沙が妹を欲しがっていた理由は俺に愛でられたかららしい。ふと思い浮かんだ些細な疑問でも解決したがるのは彼女らしいけど、妹の良さをコイツにどう伝えたらいいのか……。雪穂や楓の場合は2人が大人びているからお姉さん役であってもピッタリなのだが、亜里沙の場合はもう妹としか見られない。

 よく考えてみろ。俺や絵里に懐く生粋のお兄ちゃんお姉ちゃんっ子であり、背もシスターズの中では一番低くお人形のような愛嬌がある。そんな彼女をお姉さんとして見られるかと聞かれたら、それはもう否と答えるしかない。だから亜里沙に妹がいる妄想の時点で俺の思考はギブアップなんだ。

 それに彼女は大学生なのだが、さっきも言った属性を加味すると到底大学生には見えない。いつも一緒にいる雪穂と楓が美形の部類だからこそ、彼女の幼さがより際立って見えるのだ。

 

 

「お願いです! 私にお姉ちゃんの気分を味わわせてください!」

「おいおい、それって俺がお前の弟になれってことか?」

「それはそれで……ちょっと興奮しちゃいますね」

 

 

 ヤバイ、亜里沙が変なプレイに目覚めようとしている……!? 年上の男を自分の弟に仕立て上げて興奮するって、そんなの特殊性癖以外の何物でもねぇぞ……。

 ただでさえ周りに変な性的趣味を持ってる奴が多いのに、良心の1人である亜里沙がそっち方面に引っ越してしまったら心の拠り所がなくなってしまう。だからここは何としてでも別の手を考えなければ。それに俺だって今まで妹扱いをしてきた亜里沙がいきなりお姉ちゃんになったら、もうどう接していいのか分かったものではない。俺の姉は手の掛かり過ぎるあの悪魔1匹で十分だから。

 

 でも俺以外の誰かを亜里沙の妹として抜擢する場合、雪穂と楓はやっぱり亜里沙の姉としてのポジションが似合うし、花陽や凛は同じグループの先輩だからどうしても彼女の妹として見られない。そもそもμ's内の年齢で考えると彼女は最年少グループに属するから、μ'sメンバーの誰を妹ポジションに当てても違和感だ。しかしコイツよりも年下となると……ん? あっ!

 

 

「いるじゃん、丁度いい子が」

「えっ? 妹になってくれそうな人がいるんですか?」

「なってくれるかどうかは分からないけど、妹属性を兼ね備えていてかつお前より年下という好条件の奴なら1人いるぞ」

「そんな……私の妹になるために生まれてきた子がいるなんて!」

「そいつの生き甲斐が妹属性だけみたいに言うなよ……」

 

 

 自分に妹ができそうだと希望を持ったせいなのか、亜里沙のテンションが妙な方向に高くなっている。姉の絵里もそうだけど、真面目そうに見えて斜め上の方向に思考がぶっ飛ぶことは絢瀬姉妹ではよくある話だ。まあコイツの場合はド天然過ぎるところもあるけど……。

 

 

「そういやアイツら今日は練習休みだって言ってたな。だったら電話をしたらこっちに来てくれるかも」

「本当ですか!? でしたら是非お願いします! もう誰かを愛でたくて愛でたくてウズウズしてるんです!!」

「愛でるのはいいけど、そんな勢いで迫って来られたら妹ビビっちゃうから」

「あっ、そうですよね。ここはお姉ちゃんらしく、毅然とした態度で接しないと」

「あまり堅苦しくても困るだろうから、いつも通りで頼むな」

 

 

 やっぱりどこか力の入れどころを間違っている亜里沙だが、こんな調子で本当に妹(となってくれる子)を呼び出していいのだろうか……? いくらコイツが天然だと言っても、天然だからこそ収拾しにくい事態に陥ることがある。頼むから俺がツッコミ役に回って過労死してしまう展開だけはやめてくれよ? どうも最近そんな役回りばかりなような気がするが……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ほ、本日はお招きいただきありがとうございましゅ! あっ、噛んじゃった!?」

「いらっしゃい。そんなに畏まらなくてもいいぞ?」

「い、いえ! ただでさえ手土産も何もないのに、来るのが遅れて申し訳ないです……」

「お気遣いありがとな。でも頼むから一旦落ち着いてくれ。今にもお前、沸騰して蒸発しそうだぞ?」

 

 

 ご丁寧にお辞儀をしながらも肝心なところでヘマをするのは、これぞ黒澤姉妹の一角だと改めて思い知らされてしまう。

 玄関先でそわそわしながら立っているのは、Aqoursメンバーの中で最も背が低く妹キャラ抜群の黒澤ルビィだ。彼女こそ亜里沙よりも背丈が小さくデフォルトで妹属性を兼ね備えているからこれほど亜里沙の妹に適任な子はいない。しかも小心者で守ってやりたくなる可愛さがあるので、妹を愛でたがっていた亜里沙にとってはピッタリの妹役だろう。

 

 ちなみにルビィは俺の家に来ることに相当緊張したのか、もう到着しているのにも関わらず目を回して気絶しそうになっている。インターホンを鳴らされてドアを開けた時から彼女の顔は発熱したかのように真っ赤となっており、俺の家への到着が遅れたのも極度の緊張が原因だったとすぐに察せた。恐らくここに来る前に彼女の心の中では壮大なドラマがあったのだろう。男性と全く触れ合いがなかったルビィのことだ、道中で男性の家に行ったらどう振舞ったらいいのかをずっと自問自答していたに違いない。まあ今の様子を見る限りでは、結局その答えは出なかったみたいだけど……。

 

 

「あっ! もしかしてAqoursの黒澤ルビィさん!?」

「ひゃぁっ!? ……って、μ'sの絢瀬亜里沙さん……ですよね?」

「もしかして、私の妹になってくれるのってルビィさんなんですか?」

「えっ、妹……?」

「えっ、そういう手はずだったと思うんですけど……」

 

 

 亜里沙とルビィはお互いがお互いの発言内容を理解できておらず、頭に"?"マークを浮かべながら首を傾げる。そりゃそうだ、だってルビィを呼び出す時に何の理由も説明してねぇもん。そもそも『亜里沙の妹になってやってくれ』なんて意味不明な理由を話したら、それこそ電話越しにいるルビィが困惑してしまうだろう。だからこうして呼ぶだけ呼び寄せて、あとは2人が出会った時に説明しようと思ったのだ。そのせいでルビィは理由もなしにいきなり男の家にお呼ばれされたため、ここへ来る道中に多大な緊張感との無駄な格闘を強いられてしまった訳だが……まあ許してくれ。これも手間の削減だ。

 

 だから突如として妹になれと宣告されたせいか、ルビィは直前まで抱いていた緊張すらも忘れてポカーンとするばかりだった。

 

 

「あのぉ……先生? これは一体どういうことでしょうか……?」

「言葉通りの意味だ。亜里沙がどうしても妹が欲しいって駄々を()ねるから、お前が妹になってやってくれってこと」

「つまり……ルビィは売られたってことですか!?」

「言葉悪いなオイ!? お前が適任だからこうして任命しただけだ!」

「なぁ~んだ、零くんが説明していなかっただけなんですね。てっきり私の妹になることを拒否されたのかと思っちゃいました」

「あれ? もう妹をすることになってる……!?」

 

 

 ルビィのことだから俺のお願いを拒否することはないと思うのだが、万が一を兼ねるという意味でも敢えて電話では理由を説明せずこうしてこの場に彼女を召喚した訳だ。そうなれば後はテンション爆上げ中の亜里沙が強引にルビィを誘導してくれるので、俺はただ見ているだけで事が済むという完璧な算段となる。特に押しに弱いルビィであれば、大好きな先輩であるμ'sメンバーのお願いを無碍にすることなどできるはずがないのでこの作戦は効果的なのだ。決して俺が楽をしたいわけじゃないぞ? いや本当に。

 

 でもこのままではルビィが神崎零不審になりかねないので、ちょっとくらいはフォローを入れておいてやるかな。その後は疑似姉妹2人きりでイチャイチャするなり百合プレイをするなりご自由にどうぞ。

 

 

「そういうことだ。ルビィ、ここは亜里沙の欲求を満たすのに協力してくれないか?」

「そ、それは別にいいんですけど……」

「けど?」

「亜里沙さんの妹になったとして、妹としてどう振舞えばいいのか分からなくて……」

「ルビィさんはいつも通りで大丈夫ですから! いつものように皆さんに抱きしめられたり頭を撫でられたりして、恥ずかしがっている様子を見せてくれればそれで!」

「いやそんな激しい寵愛は受けてませんから!?」

「激しい……のか?」

 

 

 ルビィの言う通りいくらマスコットキャラとは言えどもそこまでの寵愛を日々受けている訳ではない。だがその寵愛の仕方が激しいかと言われると……俺が思うにソフトな部類だと思う。ハグやナデナデ程度が激しい部類だったとしたら、男女のあれな行為は果たしてどのような部類に属するのだろうか……? そもそもルビィにそっち系の知識がどれだけあるのかは知らないが、少なくともド天然の亜里沙に比べたら穢れているとは思う。だってネットでその手の情報や知識は蓄えているって言ってたし、もしかしたらロリビッチ系かもしれないぞ。もし本当に彼女がロリビッチだった場合、ダイヤの精神的ダメージが半端ないだろうが……。

 

 しかし抱き着いたり頭を撫でる行為が激しいと言い張るあたり、まだまだ彼女の中で性行為というものが確立されていないのだろう。高校生のくせにその程度の知識でいいのかと思ってしまうが、何も会得しなければならない知識ではないので彼女には是非このままでいて欲しいものだ。中には性知識皆無の純粋無垢少女に性的行為をして相手の反応を楽しむ変態野郎もいるくらいだから、無知キャラというのも一種のステータスになるかもしれない。

 

 

「とりあえず立ち話もあれだし、家の中に入れよ」

「お、おおおお邪魔します!!」

「相変わらずそのあがり症は治ってねぇんだな」

「男性の家にお邪魔すること自体も初めてですし、いきなり妹になれと言われてもう何が何やら……」

「そりゃまあ……ドンマイ」

 

 

 よくよく考えてみれば、理由も説明もなしにいきなり異性の家に引き摺り込まれ、更にマイシスターを強要されてるんだからルビィでなくても困惑するわな。でも亜里沙の勢いに圧倒されたとは言えども、こうして素直にお願いを引き受けてくれたのは正直助かったよ。さっきも言ったが亜里沙は意外と強情なところがあるから、もしルビィを妹役に抜擢できなかった場合は今日一日を潰してでも他の手段を探すはめになっていただろう。

 

 ともかく、姉となった亜里沙と妹となったルビィの奇妙な姉妹生活の幕が上がった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「姉妹の第一歩として、まずはお互いの呼び方からですね!」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 

 これから本格的に本日限りの姉妹生活が始まる訳だが、今のこの2人はどうも他人行儀感が否めない。

 まず同い年には基本タメ口の亜里沙だけど、年下でスクールアイドルの後輩でもあるルビィに対して思いっきり敬語を使っている。彼女は特段気にしてもいないし元から礼儀正しいので俺も不可解に思わないのだが、割と意外な一面だったりするので正直驚いた。

 そして案の定と言うべきか、ルビィもまだ緊張の糸を張り詰めたままだ。彼女も千歌やダイヤと同様にμ'sの大ファンの1人。そのμ'sメンバーの1人が自分の目の前に、しかもしばらく自分の姉として君臨することになったんだから戸惑ってしまうのも分かる。まずはその緊張を解さないと妹として振舞うことは到底できそうにもねぇな……。

 

 それにしてもこの2人、色々と共通点があって既視感を抱くことがある。

 まず2人がどちらも妹キャラだってことが1つ。そして性格も似通っているところがあり、程度の違いはあれど純粋で天然であることには変わりない。更に作っていない自然なあざとさが共通の特徴でもあって、妹キャラに置き換えてみれば雪穂や楓が兄や姉の世話焼きタイプの妹である反面、彼女たち2人は守ってやりたいタイプの妹である。その点を踏まえると2人は似た者同士なので、もしかしたら姉妹として成り立たないのかも……。だって同じ性格の姉妹なんてあまり有り得た話ではないから、これも亜里沙がどれだけの姉力を発揮できるかに掛かってるな。

 

 

「私、もし妹ができた時のために妹の呼び方は既に決めていたんです!」

「おう、それは随分と無駄なことを議決してたんだな……。いやまあ今しがた役に立ってるけど」

 

 

 もしかしたら亜里沙の奴、自分に妹ができるためには親が何をしなければならないか知らないんじゃないか……? 妹が欲しい願望を自分の家族にどれだけ話していたのかは知らないが、もしその相談を絵里や親御さんが受けていた場合は絢瀬家の人たちに同情しちまうよ。彼女は至って純粋で真面目だから真っ向から咎めることもできず、とりあえず一時凌ぎのために適当なことを言ってなあなあに回避するしかない。だったら絢瀬家の人たちのためにも、ここで亜里沙の欲求を十分に満たしてやらないと絵里たちの精神が崩壊してしまうぞ……。

 

 

「妹がルビィさんだから、呼び方は――――ルビィたん!」

「ふぇっ!?」

「ぶっ!? お、おいっ、どうしてそんなにオタク調な呼び方なんだよ」

「えっ、でも参考資料にはこう呼ぶと喜んでもらえるって……」

「聞くだけ無駄だと思うけど、それどんな参考資料なんだ……?」

「楓から借りたモノなんですけど……あっ、これです」

「持ってきてんのかよ。なになに……」

 

 

 亜里沙はカバンから1冊の本を取り出すと、その表紙を俺たちに見せつける。

 どう見ても裸エプロンであるピンク髪の女の子が、表紙の全面に映っている時点で嫌な予感しかしないのだが……。

 

 

「『押しかけ妹妻~幼女の妹と禁断の2人暮らし~』……って、なんじゃこりゃ!?」

「あ、あわわわわわわわわわわわ……!!」

「正直に言ってしまうと中身を見るのは恥ずかしかったんですけど、楓がこのくらいの知識は蓄えておいた方がいいと……」

「やっぱりアイツと友達やめた方がいいんじゃないのか、マジで」

「でもこの本のおかげで妹の良さは伝わりました!」

 

 

 ド天然な性格が災いしているのか、やっぱり観点がどこかズレているぞコイツ。妹好きになって姉になりたいと思うだけなら結構だけど、明らかにR-18である本を読んでもなおその感想しか出てこないと言うのは天然過ぎるのにもほどがある。ほら、もっと兄妹の禁断の性行為を見て恥ずかしかったとか、こんなモノを渡してきた楓に憤怒するとか、そっちの反応の方が自然だろう。それなにも関わらず亜里沙はこの本を見て妹持ちの姉になりたいと思ったんだから、コイツの思考は俺たちとはねじれの位置に存在すると疑う余地がない。

 

 そして俺の想像通りの反応をしたのがルビィだ。顔を赤くし、泡を吹いて気絶しそうになっているためこの反応こそが天然というものだろう。だがルビィは本のタイトルだけで内容を察しているようなので、少なくともそっち系の知識は蓄えているらしい。こうなってくると、マジモノの純粋な天然キャラっていないような気がしてきたぞ……。

 

 

「という訳で、ルビィさんには今日一日私の妹さんになってもらいますね!」

「そ、その本の表紙を見せつけながら言わないでください! それじゃあルビィが裸のエプロンを着るみたいじゃないですか!!」

「…………? 妹って裸のエプロンで兄や姉にご奉仕するのが普通じゃないんですか? 楓にそう教えられましたけど」

「楓による洗脳が着々と進んでるな……」

「でもこの本に出てきた妹さんはルビィさんに似ているんですよね。髪色の系統もそうですし、何より高校生なのに幼い身体をしていてルビィさんにそっくりです♪」

「笑顔で期待されても、ルビィは本に描かれてることなんてできませんから!!」

「あっ、でもこの本の子は胸が大きいので、ルビィさんとはちょっと違いますね」

「余計なお世話です!!」

 

 

 当初亜里沙に妹が欲しいと相談された時は、妹を愛でたいとしか言っていなかったからあまあまな百合展開を望んでいるのかと思っていた。だが蓋を開けてみれば願望が180度異なっており、手に持っているエロ同人に描写されていることを自分でも実行したいと望んでいる。だが亜里沙にはどんな行為がエロいのかが分からず、それに対する羞恥心さえも鈍感なため本人は至って真面目なのがこちらの対応を困らせてくる。やはり純粋ってのも一種の罪だと思うんだよな俺……。

 

 今回は亜里沙とルビィが主役だから面倒なことにはならないと思っていたが、どうもそう上手く事が運ぶことはなさそうだ。変な性知識を携えてルビィを淫乱妹に仕立て上げようとするその計画は、ことりの画策する陰謀と全くドス黒さは変わらない。もちろん亜里沙は薄い本に影響されただけで純粋に妹が欲しいとしか思っていないので、彼女自身に邪な気持ちはないんだろうけど……。

 

 俺に休息をくれ、休息を!!

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 亜里沙とルビィがメインなので平和なお話になると思ったそこの人、亜里沙のド天然ぶりは常識すらも凌駕するのです(笑)

 先日のサンシャインのアニメでもルビィと理亞の妹コンビが活躍したので、かなりタイムリーな最新話だったと思います。いつかシスターズにルビィや理亞も含めたお話を執筆してみたいものです!


 次回は亜里沙&ルビィ回の後編。
 亜里沙の持っていたバイブル(『押しかけ妹妻~幼女の妹と禁断の2人暮らし~』)の実力が発揮される時!?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黒澤ルビィ、超天然の姉ができる

 亜里沙&ルビィ回の後半戦です!
 妹キャラが無理をして姉キャラになろうとするとこうなります()


 

 遂に念願の妹を手に入れた亜里沙は、心から溢れ出る喜びを抑えられないのかさっきから身体をクネクネと動かして嬉しそうにしている。

 しかしそれに対してルビィは、亜里沙が持っている性技のハウツー本『押しかけ妹妻~幼女の妹と禁断の2人暮らし~』にビビりまくって未だに警戒心を解こうとしていない。どう見ても歴然とした2人のテンションの落差は、姉妹関係に早くも暗雲を落としていた。

 

 そしてルビィが亜里沙に対して驚いているこの様子は、これまでのμ'sとAqoursメンバーの関係と全く同じだ。特にAqours全員と面識がある穂乃果や、曜と善子と絡みがあることり、2年組と交流した楓は千歌たちから驚かれたμ'sメンバー筆頭であり、千歌たちがμ'sを憧れの存在として見ているからこそどこか難ありの性格をしている穂乃果たちと実際に出会って度肝を抜かされている。そのせいで彼女たちから見たμ'sの評価がどんどん下がっている気もするが、逆に言えばこれまで夢のような存在だったμ'sと色んな意味で親しみやすくなったのでそれはそれでいいのかもしれない。

 しかし穂乃果は天真爛漫さが露呈しただけなのでまだいいとしても、ことりや楓と絡んだ子たちはまた絡みたいと思うのかは……多分思わないだろうなぁ。

 

 そんな感じで清楚系をウリにしていた亜里沙の実態を見て気が動転しているルビィは、手元に置かれている妹モノのエロ本の圧力に耐えながらも亜里沙と向き合っていた。嫌なことを素直に嫌とは言わず、とりあえず取り組んでみるそのチャレンジ精神は彼女の強みの1つでもある。まあそれが今回は凶と出てしまった訳だが……。

 

 

「それではルビィたん!」

「ちょぉぉぉっと待ってください!! まずその呼び方から改名しましょう!!」

「えぇ~可愛いのに、ルビィたん」

「呼ばれるだけで恥ずかしいんです!」

「そもそもその呼び方は姉妹らしくねぇだろうが。むしろオタクと幼女っていう危ない絵面にしか見えねぇぞ……」

「その本自体がそっち系ですから……」

「うぅ~お二人がそこまで言うのなら仕方ありません。呼び方は――――――」

「ほっ、やっと普通の呼び方に戻るんですね」

「ルビィちゃま!!」

「なんで!?!?」

 

 

 さっきよりもオタク感が増したというか、その呼び方はただの特殊性癖で片付けることができないくらい性癖が偏っている。ていうか"ちゃま"付けは妹の呼び方というよりも、幼い妹が兄を"お兄ちゃま"と舌足らずで呼ぶ言葉だと思うのだが……。亜里沙のことだからまたどこかで間違った知識を得て、それを正と思い込んでいるに違いない。全く今度は誰なんだよ、こんな純粋な子を穢す奴は??

 

 

「だって楓が参考資料として渡してきたこっちの本に書いてありましたから。『幼稚園児の妹の奴隷になった~身体に刻まれる主従の関係~』という本なんですけど……」

「まだそんな本を持ってたんですか!?」

「また犯人はアイツかよ……。それになんだそのタイトルは? どこからどう見ても幼稚園児にSMプレイされる本にしか見えないんだけど……」

「一応読んでみたんですけど、妹がお兄さんの背中にロウソクを垂らしていたんですよね。熱くないのかな?」

「いや熱いだろそれは……」

 

 

 むしろ疑問を抱くところはそこではなく、どうして自分がその本を渡されて読むはめになっているのかを疑ってほしかった。確かにロウソクを垂らされたら熱いだろうがそれ以前の問題だ。その問題にも気づかず、ただ純粋に妹にSMプレイを強要される兄の心配をしているなんてどれだけ性に対して鈍感なんだよ……。

 そしてさっきの"ちゃま"付け呼びは、恐らく本の中の妹が兄に対して主従関係をはっきりさせるためにそう呼ばせていたに違いない。ただでさえ兄妹のSMプレイってだけでも変態なのに、妹を主として認め"ちゃま"付け呼びをする兄とはとんだドMホイホイな本だ。

 

 更にもう1つ、別件で謎に思っていることがあった。

 亜里沙が持っている本は楓からの支給品らしいのだが、どうして2冊とも幼女モノなのだろうか……? それに1つは兄をドM調教する本と来たものだから、さっきから俺の身体の震えが止まらない。アイツはヤンデレ適正がピッタリの性格だから、もしかしたらいつかその本をハウツーとして兄である俺を自分好みに調教したがっているのかもしれない。純粋すぎるがゆえに簡単に穢れに染まる亜里沙も怖いけど、そのバックにいる元凶が俺としては一番怖いんだけど……。

 

 

「その呼び方も恥ずかしいので、普通に名前呼びでお願いします! それ以外だったらある程度は何でもしますから、呼び方だけはどうか!!」

「う~ん、それじゃあ普通に"ルビィちゃん"で」

「どうして苦肉の策みたいになってるんですか……」

「でも良くやったぞルビィ。あのままだと亜里沙がイケナイ道を歩みそうだったから」

「えっ、楓はこの本で妹としてのノウハウを学んだって言ってましたけど?」

「OK。まずはアイツと縁を切るところからスタートしようか」

 

 

 姉妹活動云々の前に、楓との関係を絶たないとこれから一生アイツに遊ばれる未来が見える。亜里沙と楓の付き合いはもう4年以上の腐れ縁なのだが、そのまま腐敗して自然と断ち切ってしまいたいほど彼女の立場が危うくなっている。もちろんお互いに親友として大切に想っていることは承知の上だが、むしろ親友だからこそ楓は亜里沙に対してこんなことができるのだろう。変な知識ばかりを覚え、その知識披露会の観客として参加する俺たちの立場も考えてくれ……。

 

 

「それで、私は亜里沙さんのことを何と呼べばいいのでしょうか……?」

「無難に"お姉ちゃん"で!」

「そこは普通なんですね……」

「だって年下の女の子から"お姉ちゃん"と呼ばれるが夢だったから♪」

「その夢に貢献できてルビィは満足ですはい……」

「疲れ切ってるなぁオイ……」

 

 

 まだお互いの呼び名を決めただけなのに、ルビィのテンションはダダ下がりである。さっきからツッコミばかりでただでさえ体力のないルビィに負担が掛かっているのだろう。しかも亜里沙はルビィへの呼び方に色々拘りを持っていたのにも関わらず、自分への呼び方は至って普通の"お姉ちゃん"呼び。そりゃ拍子抜けするわな。

 

 

「呼び方も決まったことだし、まずは姉妹のご挨拶からだね!」

「ようやくですか……。でもご挨拶って何をするんですか、亜里沙さん?」

「…………」

「え、えぇ~っと……亜里沙さん?」

「…………」

「お前ら姉妹なんだろ? つまりそういうことだ」

「あっ、お、お姉ちゃん!」

「はいっ! どうしたのルビィちゃん♪」

「めんどくせぇ奴……」

 

 

 亜里沙はお姉ちゃんと呼ばれた喜びからか、ルビィに満面の笑みを向けた。さっきまでは頬を膨らませ黙ったままそっぽを向いていたのに、お姉ちゃん呼びされた瞬間にこの変わりよう。いくら役作りとはいえここまで姉妹関係を徹底しているんだから、姉になりたいという夢は本気だったらしい。それゆえに姉キャラを演じている亜里沙の扱いが面倒になっている訳だが……。

 

 

「姉妹と言えばこれをやると決めていたことがあるので、まずはそれをやりましょう!」

「また嫌な予感がするのはルビィだけですか……?」

「えぇっと、ことりちゃんから貰ったアレはどこにあったかな?」

「ちょっと待て! 今誰から貰ったって言った??」

「ことりさんからですけど?」

「ことりから貰ったモノを素直に受け止められるその精神がすげぇよ……」

 

 

 亜里沙はことりから貰ったモノをカバンから取り出そうとしているが、正直に言って見るも生々しいモノが出てきそうで直視したくない。何が入っているのかは知らないが、エロ同人2冊に加えて淫魔から受け継いだ何かが入っているあのカバンはもはやドラえもんポケット(R-18版)だ。こんな純粋無垢な顔をしている女の子がそんなモノばかり持ち歩いているなんて、そりゃもう持たせた奴が罪に問われてもおかしくない。もはや亜里沙をμ'sに置いておくこと自体が間違っているような気がしてきたぞ。

 

 

「亜里沙、楓やことりを参考にするよりももっと適した奴が周りにいるだろ? ほら、リアルで姉の穂乃果とか絵里とかさ。そっちを参考にした方がリアリティもあっていいと思うんだけど、どうだ?」

「確かに、本で学ぶよりも実際にお姉ちゃんをしている方から学んだ方がいいかもですね」

「だろ? だったらまずは身近にいる絵里を参考にしてみろ」

「お姉ちゃんかぁ~! 私がお姉ちゃんのように振舞うって、なんだか新鮮だなぁ♪」

 

 

「助かりました、先生……」

「あぁ、あのままだとお前が過労死しそうだったからな……」

 

 

 あらゆることに流されやすい亜里沙だが、逆手に取ればこちらの思い通りに仕向けることができるのも事実。悪い方向に流れそうになったら無理矢理矯正してやることである程度は彼女の行き過ぎた行為を抑えることができる。もし亜里沙が融通の効かない天然キャラだった場合、俺は速攻で彼女を見限っていたところだ。そうでないと今のルビィ同様にツッコミにし過ぎて過労死目前まで漕ぎ着けていただろうから……。

 

 そんな感じで少しはまともになった亜里沙に安心していると、彼女はいきなりソファの上に寝っ転がった。さっきまでハイテンションでイキイキしていたのにも関わらず、ソファの上の亜里沙は全身の力を抜いてダラダラとしている。普段の彼女はやはりいいところの娘なので育ちが他の子と違うのか、ここまで無防備な姿を見せつけることはそうない。例え練習の合間の休みだろうが、慰安を兼ねた旅行だろうが彼女は()()()()()。なのでこうもテンションを下げてまで怠けているのが珍しいのだ。

 

 ――――待てよ? そういやさっき俺がリアルの姉を参考にしろって言ったばかりだよな……? 亜里沙は流されやすい性格だから、俺の言葉は何でも有言実行のスタンスを貫いている。そう考えると、もしかしてこの姿って俺の知っている誰かの真似なんじゃないか……?

 

 まあ考える必要なんてない。毎日をダラダラと過ごしている妹持ちはμ'sの中で1人しかいないからな。

 

 

「亜里沙さ……じゃなくてお姉ちゃん? どうしていきなりダラけてるの……?」

「どうせ穂乃果の真似だろ? 参考にしろとは言ったが、ダメなところは見習わなくてもいいんだぞ」

「え? これはお姉ちゃんの真似ですけど?」

「は……? お、お姉ちゃんって絵里のことだよな……?」

「そうですけど」

「…………」

「…………」

 

 

 いやいやいやいやいや! あの絵里がこんな醜態を晒すとは考えにくいんだけど!? 確かにアイツは気が抜けたりうっかりしたりするポンコツさがあるが、それはあくまで彼女の性格なのであって、家でこんな穂乃果のような痴態を見せびらかすとは到底思えない。規律の正しさは海未に軍配が上がるが、絵里も負けないくらい品行は整っている。

 

 だが妹の亜里沙の目からすれば、絵里は見るも無残な穂乃果現象に陥っているらしい。これにはルビィも絶句しており、動画等で見る絵里はμ'sのお姉さんポジなので余計にイメージの崩壊が強いのだろう。もちろん俺だってにわかには信じ難いのだが、世界で一番誰よりも近くでお姉ちゃんを見てきている亜里沙が言うのだから恐らく間違いない。

 

 

「驚かれてるみたいですけど、お休みの日に家にいるお姉ちゃんは割とこんな感じですよ。特に最近は仕事の疲れもあって、ソファでこうしてダラダラしていることが多いです」

「聞きたくなかった!! 物凄く聞きたくなかった!!」

「と、いう訳で――――ルビィちゃ~ん! ちょっと肩揉んでくれない?」

「は、はいっ! じゃなくて、う、うん……」

「それ姉妹でやることなのか……いや、やってるから頼んでるのか」

 

 

 疑似姉妹になってまずやりたいことは妹に肩揉みを頼むって、もう完全に姉としての権力を振りかざしてんじゃねぇか……。姉妹百合をしろとは言わないが、もっと姉妹で仲睦まじい様子を想像していたため思わず呆気に取られてしまった。

 

 ルビィは渋々ながらもソファの後ろの回り込み、上半身を起こした亜里沙の肩に両手を当てる。

 そして肩の付け根を軽く刺激するように、優しく肩を揉み始めた。

 

 

「こ、これは……!?」

「ふぇっ!? もしかして痛かったですか!?」

「違うの! 気持ち良さすぎて、身体の力が一気に抜けちゃったから」

「良かったぁ~。いつもお姉ちゃんにしてる感覚でやってたから、亜里沙さんには合わないのかなぁと思いまして……」

「…………」

「あっ、お姉ちゃんには合わないのかなぁと思って!」

「うぅん、全然平気だよ! むしろ気持ち良すぎるから一生やってもらいたいくらい!」

「そ、それはありがとう……。でも一生は無理……かな?」

 

 

 亜里沙の"亜里沙さん"と呼ばれた時のテンションの落差というか、もはや自分の名前が"亜里沙"ではないような無表情っぷりはまるで女優の演技並みだ。それにルビィはダイヤのことをお姉ちゃんと呼んでいるので、これでは"お姉ちゃん"呼びをした時にどちらを呼んでいるのか即座に判別することができなくなってしまう。その問題で一番被害を受けているのがルビィで、亜里沙から伝わってくる嬉々とした熱気と無視を貫く時の冷徹な空気に圧倒されっぱなしだ。

 

 

「そうだ。お姉ちゃんらしく、ここはルビィちゃんの宿題を見てあげるよ!」

「宿題ですか?」

「そうそう。夏休みだし、たくさん宿題が出てるでしょ? 中には難しい問題でヤキモキするすることだってあると思うんだよ。でも大丈夫! お姉ちゃんに任せなさい!」

「だってよ。いい機会だし、分からないところを教えてもらったらどうだ?」

「…………えぇっと」

「どうしたの? 遠慮しなくていいんだよ? なんならお姉ちゃんが宿題全部教えてあげるからね♪」

「いやそれはダメだろ……」

 

 

 亜里沙の勢いに乗じて宿題を終わらせるのも1つの手だが、一応教育実習生ながらも教師をやっていた身からするとそんな反則行為は見過ごせない。だがルビィはそのことで悩んでいるというよりも、別の何かを言い渋っているような気がする。この時点でもう申し訳なさそうな顔をして亜里沙と目を合わせようとしていないので、何か後ろめたいことでもあるのだろうか? まさかシスコンで過保護なダイヤがルビィの宿題を全部見てやったとか? いくら妹を溺愛しているからと言って、そんあ卑怯な手を使う奴には思えないが……。

 

 

「おいルビィ。さっきから黙ったままだけど、どうしたんだ?」

「あのぉ……非常に言い辛いんですけど……」

「あっ、分かった! もしかして『こんな簡単そうな問題が分からないなんて知られたら恥ずかしい』とか思ってるんじゃない? そんなの心配しなくても大丈夫だよ」

「ち、違うんです! そのぉ……夏休みの宿題はもう終わっちゃったんです!!」

「へ……?」

「果南さんからの提案で、東京へ来る前に宿題は全部終わらせておくことになったんです。Aqoursみんなで勉強会を開いて、宿題を何1つ残さず終わらせちゃいました」

「なるほど。8月末のスクフェスに向けて練習も忙しくなるし、事前に全部やっつけたって訳ね」

「そういうことです」

「な゛ぁ……!?」

「おい亜里沙大丈夫か? おーい」

 

 

 勉強を教えられないだけでこの世の終わりみたいな顔をしている亜里沙。それだけ聞くと教師魂の鏡のように見えるが、ぶっちゃけてしまえば大半の人がそれっぽっちのことで絶望するとは何事かと思うだろう。確かに妹に勉強を教えるのは兄や姉として定番作業なのだが、亜里沙はまるでそれが自分が姉であるという確固たる証明かのような勢いで絶望に屈している。もう彼女が天然だから可愛い可愛いで済まされるようなおバカ加減じゃなくなってきたぞ……。

 

 

「そうだ……。その宿題で書いたところを全部消しゴムで消せば……」

「な、なに恐ろしいことを考えているんですか!? それこそお姉ちゃんがすることじゃないですよ!!」

「お姉ちゃんとしてそんなことはしちゃいけない。でもお姉ちゃんとして勉強を教えたい。あれ……? お姉ちゃんって何だっけ……?」

「せ、先生! 亜里沙さんが病んでますけどどうしたらいいんですか!? 目から光が消えてますけど!?」

「ほっとけ。ド天然だからって、俺たちが何もかもフォローするのが間違ってるんだよ」

「先生も悟りを開いちゃってる!? どうしたらいいのこれぇ~!!」

 

 

 いやぁ……ね? 例え亜里沙がどれだけ可愛くて天然だからと言っても、こっちにもフォローできる限度ってものがあるんだ。だから天然ボケであろうが狙ったボケだろうが、何もかもツッコミを入れてもらえるとは思わないことだ。俺だって稀の休日なんだからゆっくり休みたいんだよ。

 

 

「お姉ちゃん……お姉ちゃん……お姉ちゃん……お姉ちゃん……お姉ちゃん……」

「亜里沙さんが壊れたレコードのように…………そうだ!」

「ル、ルビィちゃん!?」

 

 

 ルビィは何を思ったのか、絶望に屈服して体育座りをしていた亜里沙に正面から抱き着いた。これには亜里沙もビックリで、さっきまで精神異常者のごとく病んでいたのに抱き着かれた際には一気に素に戻っていた。

 

 

「宿題は全部終わっちゃったけど、ルビィ勉強は苦手だから事前に2学期で学ぶところの予習もしておきたいんだ。だからお姉ちゃん、勉強……教えてくれないかな?」

「ルビィちゃん……。いいの、私で……?」

「それがお姉ちゃん……でしょ?」

「ルビィちゃん!! こんな最高の妹のお姉ちゃんだなんて、私とっても嬉しいよ!!」

「ひゃぁっ!? く、苦しいよお姉ちゃん!」

 

 

 とは言いながらも、ルビィは亜里沙の喜ぶ様子を見てどこか嬉しそうだった。

 亜里沙も数秒前は目から光を失うくらい病んでいたのにも関わらず、今ではそんな絶望を感じさせないいつもの彼女の戻っている。本来なら妹を支える姉という構図が普通で今回はその逆となってしまったが、これもお互いにお互いを支え合う姉妹愛ということで納得しておこう。当初は亜里沙の天然っぷりが暴走してどうなることかと思ってたけど、最後の最後で本当の姉妹らしいことができて良かったじゃん。これで姉妹百合好きの特殊性癖者も歓喜することだろう。

 

 

「そうだ! 予習と言えばにこちゃんから参考書を借りてきたんだった。確かカバンの中に……」

「アイツが参考書? そんなのを持ってるなんて考えられないけど、大学の時に使ってたやつか?」

「1人でする時にとてもお世話になったと言ってました。あっ、これですこれです!」

「なになに? 『ツンデレ系アイドルは俺の性奴隷~調教編~』……って、またこんな本かよ!! つうか1人の時にお世話になっていたって、それベッド中での話だろ絶対に!?」

「ひゃっ、ふわぁ……」

「おい、タイトルだけでルビィが気絶しちまったぞ……」

「とにかく実践あるのみです!」

「そもそも姉とか妹とか関係ないだろこの本……」

 

 

 こうして亜里沙が抱く姉キャラというのは、妹に淫行をする痴女キャラだと定着してしまったのだった……。

 もうこれから亜里沙が暴走したとしても、絶対にフォローしてやらねぇからな!!

 




 亜里沙が順調に穢れているみたいで、私は心配しております!
 これも全てμ'sのせいで私のせいでは……()


 次回は曜&にこ回となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

欲望の防衛戦リターンズ!

 今回は曜&にこ回です!
 サブタイトルで懐かしさを感じる人は、確実にこの小説のファンですね(笑)

そんなわけで、今回は曜視点でのお話です。


「ふぃ~つっかれたぁ~!」

 

 

 千歌ちゃんを皮切りに、Aqoursのメンバーが各々練習の感想や疲れゆえの愚痴を漏らす。

 東京を拠点とするとある一軒家の玄関先。私たちは今日の練習を終えてクタクタになって帰ってきた。ただでさえスクフェスに向けてのスキルアップでいつもより練習の密度が濃いのに、そこへ夏特有の肌を突き刺すような暑さを加えられたら千歌ちゃんじゃなくてもダラけちゃうよ。かく言う運動が得意な私もここ最近は疲れを如実に感じてしまうから、これから今まで以上に体力作りを頑張らないと!

 

 ちなみに、この一軒家は秋葉さんがAqoursに提供してくれた家だったりする。3週間も東京で合宿をするとなると宿泊費だけでも膨大になってしまうので、秋葉さんに相談したところ快くこの家を貸してくれたんだ。しかも私たち9人それぞれの個室があるという豪華っぷりで、こんな大きな家を簡単に貸してくれるなんて秋葉さん一体何者なんだろう……? 先生も先生で超人だし、神崎家の人たちがそもそも人間なのか疑っちゃう……。

 

 このようにほぼ毎日練習をしてこうして帰宅するのが夏休みの日課となっている。いつもは練習疲れで家に到着した時はみんなテンションが落ち気味なんだけど、今日だけは少し違った。

 それは何故かと言うと――――――

 

 

「久々に身体を動かしたから、明日絶対に筋肉痛になるなこれ……」

「ニート生活極め込んでるからそうなるのよ。せめて外へ出なさい外へ」

「はいはい期待の新人アイドルさんは凄いですねぇ~所詮俺はニートですよぉ~」

「開き直るんじゃないわよ!」

 

 

 なんと、今日の練習には先生と矢澤にこさんが来てくださったのだ! 先生はたまに顔を覗かせに来るけど、まさかあのにこさんが来るとは思ってもいなかったから千歌ちゃんやダイヤさんは大興奮だった。でもその興奮のせいでいつも以上に張り切っていたせいか、私もみんなも疲れ切っちゃったんだけどね……。

 

 練習に付き合ってくれたお礼として、私たちは先生とにこさんに晩御飯を振舞うことになった。だからこうして2人を私たちの家にお招きしているんだ。それに先生もにこさんもダンス指導で激しく動き回って汗をたっぷり掻いただろうし、そのまま帰宅させるのは申し訳ないからね。

 

 そんな感じで先生とにこさんを交えた、Aqours主催のプチパーティが本日開催される。

 私も久々に先生やにこさんに会えて嬉しいから、今日はたっぷりとおもてなししちゃうぞ!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「せんせ~! 湯加減はどうですか~?」

『いい感じだぞ。ていうか、自動保温があるんだから湯加減は一定だろ』

「あはは、でもお風呂に入ってる人に言ってみたくなっちゃうんですよね」

 

 

 先生はお風呂場で、私は脱衣所で扉越しに会話をする。勘違いしないで欲しいんだけど、決して一緒に入る訳じゃないからね? そ、そりゃあ先生とご一緒できるのならそれはそれで悪い気分はしないし、先生がどうしてもって言うのなら……。あっ、これじゃあ私が変態さんみたいじゃん平常心平常心!

 

 だったら何故脱衣所にいるのかと言うと、それはみんなの練習着を洗濯するためだ。洗濯係は毎日交代制で今日は私の番という訳。

 その洗濯物なんだけど、毎日9人分の練習着やタオルを洗うため量が尋常じゃなく多い。だから洗濯機1つではどう頑張っても1回の洗濯で全ての洗濯物を洗うことができず、2、3回は回す必要がある。洗濯機がもう1台あればいいのになぁとみんな思っているんだけど、秋葉さんから家をタダで借りている身からすればそんな我儘を言えるはずがない。でも今日は先生とにこさんの洗濯物もあっていつもより量が多いから、そんな我儘も言いたくなる訳で……。

 

 そんなことを言っても誰かが当番を変わってくれる訳でも、洗濯機が1台増える訳でもないので仕方なく洗濯物を洗濯機に入れ込んでいく。洗濯係の仕事は洗濯機を操作するだけでなく、洗濯後に服を干したりアイロンを掛けたり、最後には畳んで持ち主の元へ帰すまでが一連の仕事だ。ただでさえ9人分は多いのに、今日に限っては先生とにこさんの洗濯物を含めて11人分。そう考えると都合の悪い日に洗濯当番になっちゃったなぁ……まぁ、先生が一晩中いてくれるだけでも良しとしますか!

 

 そう気合を入れてカゴの中の洗濯物を洗濯機にどんどん放り込んでいると、その中に見慣れない服が入っていた。明らかに女モノじゃないシャツとズボン、そして下着。そっか、先生の着替えも入ってたんだ……。いや分かってはいたけど、男性の使用済みシャツや下着をこうやって間近で見るのは初めてだったりする。だから思わず目を止めてしまったのだ。

 

 

 これが男の人の……先生の…………。

 

 

 ――――って、何考えてるの私!? 先生の脱ぎたてをまじまじと凝視するなんて!? これじゃあただの変態さんじゃん!!

 

 

 お、落ち着こう。このままだと先生やことりさんのことを変態だと罵るどころか、私まで仲間入りしてしまう。もし千歌ちゃんたちから変態変態と言葉攻めされるような状況になったら、もうAqoursにいられなくなっちゃうよ!

 

 しかし、気にしないと思えば思うほど気になってしまうのが人間なんだよね。だからいくら先生の脱ぎたてから目を逸らしても、私の身体が勝手にそちらに目を向けてしまう。しかもその脱ぎたてから漂ってくる先生の香りが私の鼻をくすぐってくる。本来なら男性の汗の匂いや下着の香りなんていいものじゃないんだけど、どうしてだろう別にそこまで悪くない。というかむしろ余計に気になっちゃうと言うか、自分の好きな人の脱ぎたてということもあり何故か胸の鼓動が収まらなかった。どうしてこんなにドキドキしているのかは分からないけど、お風呂場の扉を隔てた向こうに先生がいるのにその人の洗濯物に興味を持っているという背徳をひしひしと感じている。

 

 自分の中でイケナイ欲求が沸き上がってくる。そんなことは重々理解しているけど、私の本能的な何かが身体を勝手に制御していた。こんなことは変態行為だと脳で分かっていたとしても、手が強制的に下着へ延びてしまう。

 これだけ洗濯物があるんだから、下着の1つや2つ消えたとしても誰も気付かない。気付いたとしてもたくさんの洗濯物を干したり畳んだりしている最中になくしてしまったと言い訳も簡単だ。だから先生の下着を持ち去るという罪悪感にさえ耐えることができれば、目の前の宝物は私のモノになる。自分でも超絶変態な行為だと自覚はしているけど、そんな自覚よりも罪悪感よりも手に入れたいモノがそこにはある。先生が言っていた。手に入れたいモノは取捨選択せずに全て掴み取れ……と。もしかしたらその格言は、今の状況にピッタリなのでは……?

 

 そんな意味不明なことを考えてしまうくらい、私は先生の下着に魅了されていた。

 

 

 手がゆっくりと下着へ伸びる。下手な音を立てて先生に気付かれでもしたら本末転倒だから。

 そう、下着を掴んでポケット中へ入れるだけ。そのミッションさえ完遂すれば、あとは自分の部屋に持ち帰って――――

 

 

 もはや心臓の鼓動が自分で聞こえそうなくらい私はドキドキしていた。

 もう少し。あともう少しでAqoursの誰も知らない先生の秘密を、先生の生の香りを1人占めして味わうことができる。私はそんな優越感に浸りながら、下着を包むために5本の指を大きく開いた。

 

 

 い、いける!!

 

 

 

 

「まさか、先客がいたとはね」

 

 

 

 

「ひゃっ――――う、ぐっ!!」

 

 

 背後からいきなり声が聞こえたと思ったら、いつの間にか羽交い締めにされていた。更に口を抑えられているのでこのまま誘拐されるのかと思ってしまう。最初は不審者かと思って警戒していたけど、さっきの声って聞き覚えがあるような……?

 

 私は完璧に身体をロックされながらも、何とか目だけを動かして自分を羽交い締めにしている人の正体を暴く。

 私とあまり変わらない身長。そして細い腕に、華奢な身体。何より今はあまり流行らない黒髪ツインテールの髪型をしているのは、私が知っている中でも数少ないあの人――――

 

 

「んっ、んーーっ!!」

「あまり騒ぐと零に気付かれちゃうでしょ。大きな声を出さず、にこの邪魔をしないって約束するなら手を放してあげてもいいわよ」

 

 

 矢澤にこさん。μ'sメンバーの1人で、現在はアイドルの卵としても活動中のスクールアイドル全員の憧れの星。

 そうやってみんなが憧れる人がどうして私を拘束しているんだろう……? 私と背丈も変わらず、どちらかと言うと私の方が筋肉も付いてガタイがいいのにどうしてこんなにも上手く人を拘束できるのかも分からない。まるで手馴れているようだけど、まさか先生と一悶着あったりしたのかな……? いや、先生でイケナイ妄想をするのはやめよう……。

 

 そもそもにこさんが何故脱衣所に入ってきたのか、邪魔をするとはどういうことなのか、もう何もかもが謎過ぎる。

 でも考えることに時間を浪費してしまうと先生が風呂場から出てきちゃうので、ここは怪しくてもにこさんに同調しておくしかない。なんか私、ことりさんの時みたいに変なことに巻き込まれそうになってない?? 大丈夫!?

 

 

「んっーー!!」

「分かった分かった。放してあげるから大人しくしなさい」

「ぷはっ! い、いきなり何をするんですか!?」

「だーかーら!! 静かにしなさいって言ってるでしょ!?」

「いや、にこさんも相当騒がしい気が……」

「あっ……ったく、これだからイマドキのJKは……」

「関係ないですよねそれ……」

 

 

 にこさんはやれやれと言った感じで呆れながら、私を冷めた目線で見つめてくる。むしろにこさんの方が小柄なので高校生らしく、本人の前では決して言えないが正直中学生と紹介されても相手は信じちゃいそうなくらいだ。遊園地や映画館に行ったら中学生料金で入れそうだからお得だなぁ……なぁ~んて、口が裂けても絶対に言えないけどね。

 

 

「…………」

「えぇ~と、目が怖いんですけど……」

「アンタ、今さっきにこが中学生っぽいって思ってたでしょ?」

「え゛っ!? ど、どうしてそれを……って、言っちゃった!?」

「やっぱり! もう何度も同じような想像をしている人に出会ってきたから雰囲気で察せるのよ。特ににこのことを微笑ましく見つめている人は、十中八九にこを子供だと思ってたんだから。現に今回もそうだし」

「い、いやぁ別にバカにしてはないんですよ? むしろそれだけ若々しいってことで!」

「それは今のにこが若くないって言いたい訳!? 大人になった今のにこが!!」

「あ……」

 

 

 あれ、一歩踏み出すたびに地雷を踏んでいるような気がする!? フォローをするたびに相手の心をどんどん抉り取っていくコミュ障の人みたいになっちゃってるよ私……。

 でもにこさんを見ていたら綺麗というより可愛いって感じで、小柄でツインテールだからどうしても自分より年下に見えちゃうんだよね。言ってしまえばほら、ルビィちゃんみたいな。髪の色は全然違うけど身体付きは似ているから、尚更眺めていて微笑ましくなっちゃうんだよ。

 

 ――――そういえば、にこさんが話を逸らすから重要なことを忘れていた。

 

 

「話題を戻しますけど、どうしてにこさんは脱衣所に? 出し忘れた洗濯物があるとか?」

「惚けるんじゃないわよ。さっき持っていこうとしていたでしょ?」

「う゛ぇ!? な、何のことでしょうか……」

 

 

 み、みみみみみ見られてた!? 私が欲望に支配されて先生の下着を盗……お持ち帰りしようとしていたところを見られてたの!?

 は、恥ずかしぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!

 

 でもこのまま認めてしまったら、『私は変態です』と名札を張られてしまうに違いない。そうなったらAqoursどころか街も歩けなくなり、先生からも突き放されてしまうかも……そ、そんなの絶対ヤダ!! 私は変態じゃない私は変態じゃない私は変態じゃない私は変態じゃない私は変態じゃない私は変態じゃない!!

 

 

「動揺し過ぎでしょ……。もうその反応が全てを物語ってるわ」

「そ、そそそそそんなことする訳ないじゃないですかぁ~!! だって大切な恩師なんですよ!? しかも男性の下着を取ろうなんて、そんなのただのへんた――むぐっ!!」

「だから、静かにしないと零に気付かれちゃうでしょ! それにね、この目で一部始終を見たんだから弁解の余地なんて最初からないのよ」

「んっ、んーーっ!!」

 

 

 それじゃあにこさんは、私が先生の下着に目を奪われて持っていこうとしていた一連のシーンを全部見ていたってこと!? 途中で声を掛けてくれたらよかったのに、わざわざ1から10まで黙って覗き見るなんてそれこそ変態さんだよ!! まあそのおかげで正気に戻れたから良かったと言えば良かったんだけどね。うん、でも惜しかったなぁ……。

 

 

 ――――って、だから何を考えてるの私!? 我に返ったはずなのに、今でも目が勝手に先生の下着に行っちゃうんだけど!? 目の前ににこさんがいるのにも関わらず、私の興味は自然とそちらに引き付けられてしまう。男性の下着なんて見るだけでも恥ずかしいはずなのに、私の脳が強制的に魅力的な珍味に変換しようとしてくる。このままだと本当に変態のレッテルを張られちゃうから、早くこの場を切り抜ける方法を考えないと! 最悪先生の下着は別の機会でも……って、だから別の機会ってなに!? 興味がないはずのに、私の中の悪魔が勝手にぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!

 

 

「下着を盗もうとしてた人に情けを掛けるつもりはないけど、アンタさっきから顔真っ赤よ? 大丈夫?」

「ら、らいじょうぶれす……」

「全然呂律回ってないし、下着を見てただけでどれだけ興奮してんのよ……。ただの変態ね」

「それだけは聞き捨てなりません!!」

「いきなり素に戻るんじゃないわよ……」

「私はただ先生の着替えだけは別で洗おうと思ってただけですよ……。ほ、ほら、年頃の女の子はよくお父さんの洗濯物と自分の洗濯物を一緒に洗いたくないって言うじゃないですか!」

「誰がお父さんよ先生でしょうが。それにそんなことを想うのは思春期になりたての中学生くらいよ」

 

 

 さ、流石に苦し過ぎたかな……? でも先生って面倒見もいいし甘えやすいから、演劇とかでお父さん役をやったら絶対に似合うと思うんだよね。

 そしてもし先生が私のお父さんだったら、自分とお父さんの洗濯物を一緒に洗わないでなんて絶対に言う訳ない。むしろ一緒に洗って欲しいというか……って、こんなことを言ってるから変態扱いされるのかも!? 私は正常私は正常私は正常私は正常私は正常私は正常私は正常私は正常私は正常私は正常!!

 

 

「とにかく、にこは自分の用さえ済めばそれでいいから。アンタも精々欲望は抑えることね」

「へ……?」

 

 

 にこさんは淡々とした口振りで私を諭すと、何食わぬ顔で洗濯カゴに入っていた先生の下着を掴んでポケットに入れた。

 あまりにも自然な流れに思わず感心しちゃったけど、よくよく考えてみるとこれって……。

 

 そしてにこさんは私の存在など最初からなかったかのように、更には自分が何の罪も犯していない無関係な人間のように振舞いながら脱衣所から出ていこうとしていた。そこで私はようやく事の重大さに気付き、にこさんの肩を鷲掴みにして脱衣所に引き戻す。

 

 

「ちょっとちょっとちょっとちょっとちょっと!! 平然とし過ぎですよね!?」

「なによもう。μ'sではよくあることだから」

「よくあるんですか!? あのμ'sの皆さんが!?」

「あのね、アイドルに幻想を抱くなと良く言われてるでしょ? 表向きでいい顔をしている人ほど、裏では汚いことをやってるものなんだから」

「それを白昼堂々と言い張れるのが凄いですよ……。しかも自分のことなのに……」

「手に入れたいモノは取捨選択せずに全て掴み取れ。アンタも零の生徒だったんだから、その言葉くらいは知ってるでしょ」

「うっ……」

 

 

 知ってる、えぇ知っていますとも!! さっきにこさんが来る前に、私もその格言を信じて先生の下着に手を伸ばそうとしてたから!!

 でもそんなことはまた口が裂けても言えない。ただでさえ変態認定されそうになってるのに、ここで口を滑らせてしまったらそれこそ取り返しの付かないことになってしまう。ここは何としてでも誤魔化さないといけないんだけど……いけないんだけど……。

 

 私が最も恐れているのが、このまま話の流れで先生の下着が持ち去られてしまうことだ。先生の下着なんか1ミリの興味もないんだけど、私が最初に見つけたのににこさんに横取りされるのは釈然としない。別に先生の脱ぎたてに興味はないけど、私が自分の中の欲望と戦っている間に割り込んでお宝を盗むなんて漁夫の利もいいところ。まあ全然興味なんてないんだけどね、先生のパンツなんて!!

 

 

「それじゃ、にこは行くから」

「あ、あの……」

「なによ? 早く行かないと零がお風呂から上がっちゃうでしょうが」

「そのぉ……わ、渡しません」

「え?」

「その下着は私のモノですから!!」

「いや零のモノだけどね……」

 

 

 先生の下着に興味なんてミジンコほどもないのに、どうしてこんなこと言っちゃったんだろ私ぃいいいいいいいいいいいいい!! 心の中では否定しているのに、私の意志が勝手に先生の下着に執着してしまう。もう私の発言の1つ1つが自分の口から発せられた言葉じゃないみたい……。

 

 そ、そうだよ! これも変態のにこさんから先生の洗濯物を守るため。私は洗濯係の責務として、全員の洗濯物を守る権利があるんだよ!! だから私の意志とは無関係で、ただ洗濯物の紛失を防止するためににこさんと戦うんだ。でもそういえばさっき洗濯物の1つや2つ消えても分からないって誰かが言っていたような……き、気のせいだよねきっと! そんなことよりにこさんの戦いに集中しなければ。

 

 

 そして、私とにこさん。正常vs変態のタイトルマッチが、今ここに幕を上げた!

 負けない……変態さんには絶対に!!

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 今回のお話のネタを思いついたきっかけは、読者さんの感想の中で話題が出てきて懐かしさを覚えたからです。
『新日常』だけでも290話もありますから、いつどんなネタのお話を投稿したのかすらも忘れてしまっています(笑) なので感想で1年以上まえのお話を話題として取り上げてもらうと懐かしさを感じると共に、そのお話を覚えていてくださったんだと嬉しくもありますね!
 皆さんは『新日常』全292話の中で、どのお話がお気に入りでしょうか?



 次回は曜vsにこ回の後編となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

変態とは高貴の名

 曜&にこ回の後編です!
 そして今回は前編の内容を零君視点で物語を展開していきます。もちろん+αの展開もあるので、曜とにこのバトルを最後まで見届けてもらえればと思います!


『せんせ~! 湯加減はどうですか~?』

「いい感じだぞ。ていうか、自動保温があるんだから湯加減は一定だろ』

『あはは、でもお風呂に入ってる人に言ってみたくなっちゃうんですよね』

 

 

 曜が脱衣所から声を掛けてきた。もしかしたら一緒に入るのかなと期待していたのだが、彼女にそこまでの積極性はまだないみたいだ。

 俺は湯船に浸かりながら、今日一日で溜めに溜め込んだ疲れを一気に洗い流す。今日はずっとAqoursの練習を指導していたのだが、今回の練習には指導役補佐としてにこも参加していた。どのスクールアイドルよりもアイドルに賭ける魂が熱い彼女の指導は、Aqoursのみんなだけでなく俺にも火の粉を巻き散らしやがった。しかし現在絶賛夏休みニート生活をしている俺にその指導は耐えられるはずもなく、こうして風呂でリラックスして昇天してしまいそうなくらいクタクタになっている。

 

 それにしても、この湯船の大きさは何とかならないのか? 明らかに1人で入るには大きく、成人男性の俺ですらスペースを持て余しているためJKのアイツらにとってはかなり居心地に違和感があると思う。そもそもこの一軒家自体、千歌たち9人が共同生活できるほど部屋の広さもあり数も多い。こんな豪華な家を用意したのは秋葉らしいのだが、千歌たちの話によれば相談したら即この家を貸してやると提案されたそうだ。その豪遊さは秋葉の性格でもあるので今更驚きもしないが、流石に家を用意するのは相当金も掛かるし何より時間が掛かる。それなのに相談されて即この家を渡したということは、もしかしてあらかじめ用意していた……とか?

 

 そう考えてしまうと、だったら何のためにとまた色々頭を悩ませなければならない。でも今はアイツのことを考えるよりも疲れを取ることが先決だ。実家の風呂よりも格段に大きいためまったりと落ち着くことはできないのだが、女の子たちが毎日この風呂に代わる代わる入っていると思うとちょっぴりリラックスできなくもない。女の子の体格であれば2,3人同時に入ることも可能なので、そこでどんなことが行われているのか想像するだけでも一晩を明かせそうだ。まあウチの子たちはそこまで百合百合しい展開には発展して……ないよね?

 

 教え子で変な妄想をしてしまうのはそこはかとない背徳感があるのだが、さっきも言ったけど今は疲れを取ることに集中しよう。風呂の中で変に興奮してしまったらそれこそ疲れが溜まるし、それ以前に筋肉痛になりそうなくらい動き回ったので興奮する体力もない。それに最初はキングサイズのバスタブに緊張して居心地が悪かったのだが、こうしてしばらく湯に浸かっていると逆にこのだだっ広い風呂を1人占めしている優越感が沸いてくる。そう思うとゆったりとリラックスできるので、風呂の暖かな湯加減も相まってこのまま夢の世界へ旅立ってしまいそうだ。

 

 

 ――――と、ウトウトしていた俺の目を覚まさせたのは脱衣所からの物音だった。

 脱衣所の扉が開いた音はしなかったので、恐らく曜がまだ中で作業をしているのだろう。さっき洗濯機のボタンの音が聞こえたから、多分俺たちの洗濯物を洗ってるのかな? そういやAqoursの共同生活にはいくつか決まり事があって、その中の1つに千歌たちが毎日交代制で担当する洗濯当番なるものがあると聞いたことがある。なるほど、つまり今日の洗濯担当が曜って訳ね。てっきり俺の入浴シーンを覗き見る変態行為をしようとしていたのかと思ったぞ。でもあの曜に限ってそんなことはしないよな、うん。

 

 

 そう信じていたのだが、今度はさっきとは打って変わって脱衣所から一切の物音がしなくなった。洗濯機を回す音はもちろん、そもそも脱衣所には誰もいないかのように静まり返っている。一応風呂場の扉越しに脱衣所のいる人の影は薄っすらと見えるので、その場に曜がいると思うんだけど……何してんだアイツ?

 

 まあそれ以上特段気になることもなく、再び湯に浸かりながらリラックスする。

 だがその時、扉越しに見えていた曜の影がいきなり激しく動き始めた。

 

 

『ひゃっ――――う、ぐっ!!』

 

 

 な、なんださっきの声!? まるで突然背後から不審者に口を抑えられたような籠った声だが、これは助けに行った方がいいのだろうか……? だがこの格好では全裸で飛び出すことになるため、それはそれで俺も不審者扱いされてしまうだろう。でもそれではもし曜が危機に立たされていた場合に取り返しのつかないことになるため、ここは俺も公然猥褻罪に問われること覚悟で飛び出した方がいいかもしれない。

 

 

『んっ、んーーっ!!』

 

 

 これって、本格的にマズい展開……?

 しかしよくよく考えてみれば、脱衣所で女の子を抑え込むというのも変な話だ。この家には曜以外にも千歌たちがいる訳だし、どこから忍び込んだにしろ誰にも見つからず脱衣所まで来るのは難しい。そもそもここで曜を抑え込んだところで、こんな広い家を女の子1人抱えたまま誰にも見つからず脱出するなんて到底無理だ。

 

 そう考えていたのも束の間、脱衣所から曜以外の声が聞こえてきたので俺は静かに耳を傾ける。

 

 

『んっーー!!』

『分かった分かった。放してあげるから大人しくしなさい』

『ぷはっ! い、いきなり何をするんですか!?』

『だーかーら!! 静かにしなさいって言ってるでしょ!?』

『いや、にこさんも相当騒がしい気が……』

『あっ……ったく、これだからイマドキのJKは……』

『関係ないですよねそれ……』

 

 

 あ、あれ? 扉越しだから声が籠って聴こえるのだが、この声は明らかににこの声だ。もう5年以上一緒にいるんだから、少々声が変わっていたとしても彼女の声を聴き間違えるはずがない。

 ということは、さっき曜を抑え込んでいたのはにこってことか。だとしたらどうしてそんなことやってんだアイツ……? それに俺が風呂に入る前に全員洗濯物を出したはずなので脱衣所に用はないはずだ。それにさっきから2人で会話をしているみたいだし、どうやら曜が不審者に襲われているという俺の心配は杞憂に終わったらしい。

 

 

『…………』

『えぇ~と、目が怖いんですけど……』

『アンタ、今さっきにこが中学生っぽいって思ってたでしょ?』

『え゛っ!? ど、どうしてそれを……って、言っちゃった!?』

『やっぱり! もう何度も同じような想像をしている人に出会ってきたから雰囲気で察せるのよ。特ににこのことを微笑ましく見つめている人は、十中八九にこを子供だと思ってたんだから。現に今回もそうだし』

『い、いやぁ別にバカにしてはないんですよ? むしろそれだけ若々しいってことで!』

『それは今のにこが若くないって言いたい訳!? 大人になった今のにこが!!』

『あ……』

 

 

 コイツら俺が風呂場にいるって知っていて会話してんのかな……? しかも声ダダ漏れで会話が筒抜けだし……。

 ちなみに言っておくと、にこは最低でも中学1年生に間違われたことがあるから。更に言ってしまえばことりに幼稚園児の制服のコスプレを着せられて、彼女の趣味爆発写真集に載せられた黒歴史まで存在するから。そりゃ後輩のスクールアイドルに子供扱いされたら怒っても仕方ないわな。

 

 

『話題を戻しますけど、どうしてにこさんは脱衣所に? 出し忘れた洗濯物があるとか?』

『惚けるんじゃないわよ。さっき持っていこうとしていたでしょ?』

『う゛ぇ!? な、何のことでしょうか……』

 

 

 も、持っていく? 何を??

 確信を突かれたかのように、曜の声が怯えに怯えていた。まだ話の全容が見えていないため何が起こっているのかは分からないが、会話の流れ的に俺のトラブル感知センサーがビンビン反応している。また俺の関係ないところで俺の話題で盛り上がり、知らず知らずの間に巻き込まれて俺に災厄が降りかかるパターンの奴だこれ。風呂の中でもリラックスできないのか俺の日常は……。

 

 

『動揺し過ぎでしょ……。もうその反応が全てを物語ってるわ』

『そ、そそそそそんなことする訳ないじゃないですかぁ~!! だって大切な恩師なんですよ!? しかも男性の下着を取ろうなんて、そんなのただのへんた――むぐっ!!』

『だから、静かにしないと零に気付かれちゃうでしょ! それにね、この目で一部始終を見たんだから弁解の余地なんて最初からないのよ』

『んっ、んーーっ!!』

 

 

 おい。曜の奴、さっきなんつった?? 男性の下着を取ろうとしたとか聞きたくないことを言っていた気がするんだが、俺の空耳だと信じたい。でもにこが俺に気付かれるかもと言った時点で信じるも信じないも、曜は男の下着を狙っていたことになる。そしてこの家の中で男は唯一俺だけ。つまり、曜が目を付けていたのは確実に俺の下着ということだ。

 

 前言撤回。事実が公になった今でも信じたくないのだが、まさか曜の性格がここまで捻じ曲がっていたとは……。確かにいきなりしゃぶってきたりプール内で抱き着いてきたりとこれまでも積極的な行動が多かった彼女だけど、遂に来るところまで来てしまったようだ。そういや内浦にいる時にことりの講座を受けていたから、その影響で心に穢れが滲み出たのかもしれない。表では如何に清楚でも、裏で何をやっているか分からないという典型的な例だなこりゃ。

 

 そして意外にも俺は曜の性格が変貌した件について、そこまで驚いてはいなかった。そのような性格はμ'sの連中で見飽きるほど見てきたので、今更危機感を抱きながら驚くことでもない。それに遅かれ早かれ、彼女はこちらの道を歩みそうだと薄々ながら感じていたりもした。

 でもとうとうAqoursでも変態ちゃんが現れちゃった事実に、今後汚染が広がっていく怖さとツッコミが大変になる気苦労は絶えないけど……。

 

 

『下着を盗もうとしてた人に情けを掛けるつもりはないけど、アンタさっきから顔真っ赤よ? 大丈夫?』

『ら、らいじょうぶれす……』

『全然呂律回ってないし、下着を見てただけでどれだけ興奮してんのよ……。ただの変態ね』

『それだけは聞き捨てなりません!!』

『いきなり素に戻るんじゃないわよ……』

『私はただ先生の着替えだけは別で洗おうと思ってただけですよ……。ほ、ほら、年頃の女の子はよくお父さんの洗濯物と自分の洗濯物を一緒に洗いたくないって言うじゃないですか!』

『誰がお父さんよ先生でしょうが。それにそんなことを想うのは思春期になりたての中学生くらいよ』

 

 

 この構図、にこが曜よりも常識人になっている状況に違和感MAXだ。

 にこと言えば亜里沙に調教モノの同人誌を渡した悪女であることは記憶に新しい。高校時代でも妹のこころとここあにR-18本を見られてしまう失態を犯したり、俺の剛直を模したディルドのオークションに参加したりと、ことりに隠れがちだけどμ'sの変態ちゃん筆頭の子なのだ。ことりや楓と違うのは、普段の日常では体裁を取り繕って至って真面目を貫いていること。でも1人になった時や俺と2人きりになった時は潜んでいた性格が表に顕現し、見るも無残な痴女アイドルと化す。しかも今のように平然と何食わぬ顔で変態を貫くため、その堂々たるやこっちが圧倒されるほどなのだ。

 

 しかしどんなに平然を装うが変態は変態なので、そこは擁護できないが……。

 それだからこそ、にこが曜を諭している展開が不自然極まりないのだ。自分の方が圧倒的に変態度が高いくせに、後輩に対して強気に出るとは情けねぇなぁオイ。もうツッコミを入れる気も起きないくらい呆れちゃうよこれ。

 

 

『とにかく、にこは自分の用さえ済めばそれでいいから。アンタも精々欲望は抑えることね』

『へ……? って、ちょっとちょっとちょっとちょっとちょっと!! 平然とし過ぎですよね!?』

『なによもう。μ'sではよくあることだから』

『よくあるんですか!? あのμ'sの皆さんが!?』

『あのね、アイドルに幻想を抱くなと良く言われてるでしょ? 表向きでいい顔をしている人ほど、裏では汚いことをやってるものなんだから』

『それを白昼堂々と言い張れるのが凄いですよ……。しかも自分のことなのに……』

『手に入れたいモノは取捨選択せずに全て掴み取れ。アンタも零の生徒だったんだから、その言葉くらいは知ってるでしょ』

『うっ……』

 

 

 μ'sではよくあることって何だよ!? 確かに服や下着が紛失することは過去に何度かあったんだけど、それは楓が古くなった俺の衣類を処分してくれいるのかと思っていた。だけど実際は闇ルートで取引されており、それがμ'sの手元に渡っていると……? うわぁ凄く知りたくなかったそんな裏社会!? これからは自分の洗濯物は自分で洗濯するようにするか……。

 

 それにしても曜の奴、なに核心を突かれたみたいな反応してるんだ。どこからどう聞いてもツッコミどころが満載なのに、そこで口籠ってしまうあたり『私は変態です』とアピールしてるようなもんだぞ?? 別に俺の下着を持ち去ろうとしていた彼女の味方をする訳じゃないけど、このままにこに言い包められて平和(偽り)に解決する展開だけは俺の気分的に許せない。

 そしてにこもにこで自分に表裏があるとしっかり自覚してるんだな。元々高校時代から営業スマイルが得意だっただけに、2つの顔を使い分けるのは彼女の得意分野だ。だからと言って真面目アイドルモードと痴女モードでは、ギャップがあり過ぎてこっちが困惑しちゃうくらいだけど……。

 

 

 さて、俺は今の今まで風呂場でアイツらの会話を延々と聞き続けていた訳だが、そろそろ何かアクションを起こしてみようと思う。さっきも言ったけど、このまま俺の下着を円満に持ち去られるのは避けたいんだ。しかもさっきから自分勝手な主張を垂れ流すコイツらにお灸を据えてやらないと気が済まないため、制裁の意味を込めて何かしらのアクションを実行したい。さぁて、よくも人の下着を玩具にして遊んでくれたなこの女狐共……。

 

 

『それじゃ、にこは行くから』

『あ、あの……』

『なによ? 早く行かないと零がお風呂から上がっちゃうでしょうが』

『そのぉ……わ、渡しません』

『え?』

『その下着は私のモノですから!!』

『いや零のモノだけどね……』

 

 

 悲報。渡辺曜、遂に開き直り変態を大っぴらに宣言する。もしAqoursに日常生活の密着取材のオファーが来たとしても、ファンにコイツのプライベートは見せられねぇな……。

 

 曜が性癖を暴露したので、遂に変態vs変態のタイトルマッチが開催された。片やもう4年以上も変態の汚名を背負ったアイドル。片や今さっき変態候補生から変態に昇格したばかりのビギナー変態。実力の差も経験の差も圧倒的なのだが、ビギナー変態特有のウブさはプロフェッショナル変態に思わぬダメージを与えられる可能性がある。例えばビギナー変態がプロフェッショナル変態の忘れてしまっていた純粋な心を思い出させ、思い出に浸っている間に追撃するとかな。

 

 ――――って、どうでもいいわそんなこと!! いい加減に俺の下着で遊ぶのはやめようなお二人さん……?

 

 

 俺は2人の身勝手な行動に水を差すため、風呂場の扉の手を掛けた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 これまでの人生の中で、人間から目玉が飛び出るというグロデスクな光景を見たことがない。

 だがたった今、未体験だった経験がキャリアありに昇華した。にこと曜の2人は風呂場から出てきた俺を見て、まるで未確認生物を発見したかのように驚く。その際に俺の下着を盗もうとした罪悪感なり、何故このタイミングで俺が登場したのかという違和感なり、下着で争っているところを聞かれていたかもしれないという恐怖なり、様々な感情を抱えていたと思う。そのせいで心臓がはち切れるくらいにビックリしたのだろう、比喩表現ではない『目が飛び出る』を生まれて初めて目撃した。2人は一言も声を発さず、その場で硬直したままただただ俺を見つめている。

 

 ちなみにちゃんと下半身にタオルを巻いているからね? これでも公然猥褻罪に問われるかの瀬戸際で怪しいところだが、隠すところは隠しているので少なくとも即通報の流れにはならない……はず。とりあえずさっきからこの世の終わりみたいな顔をしている曜と、頬を紅潮させながらも俺の下半身ばかり凝視する痴女丸出しのにこに声を掛けてみる。

 

 

「おい、どうして2人揃ってここにいるんだ?」

 

 

 まずは何も知らない体で質問をしてみる。

 にこはともかく、曜はいい子だから無様に隠し事なんてしないはずだ。ここでしっかりと謝って自分の罪を償うと言うのなら、俺はにこへの説教だけでこの場は免じてやる。これでもし自分は何もしていないと貫き通したら、その時は練習着の胸元にでかでかと『変態』と書くからな?? 曜の程よく育った胸の膨らみの部分にそんな文字を書かれたら、もはや道行く男の注目の的になるだろう。おっぱい的な意味でも変態的な意味でも……。

 

 

「…………」

「曜?」

 

 

 どうやら後ろめたい気持ちはあるようで、この調子だと素直に自白してくれそうだ。やっぱりAqoursのみんなは純真でいい子たちばかりだから、人が風呂を入っている時を見計らって下着を盗む低俗行為なんてする訳がない。それに彼女は俺が3週間かけて育て上げた大切な教え子なんだ。俺が育てた子が変態になるなんてあるはずもなく、むしろ俺に似た誠実さを兼ね備えて最強に見えるから。

 

 よしっ、それじゃあにこに雷を落とす準備でもしておこうか――――

 

 

「………あっ、そうだ! 洗濯の途中だったんだ忘れてましたぁ♪」

「…………は?」

「いやぁ~今日は先生やにこさんの洗濯物もあるので、1回の洗濯では洗い切れなかったんですよねぇ~」

「…………まだどの洗濯物も洗濯していないように見えるが?」

「やだなぁ~先生。お風呂場から聞いていた訳じゃあるまいし」

「聞いてたっつうの! 1から10まで全部な!!」

「ふぇ……? えぇえええええええええええええええええええええええええっ!?!?」

「あんな大声で叫び倒していたくせに、聞こえてないと思う方が無理あるだろ……」

 

 

 なるほど、お前はそんなことを言っちゃうのか……。

 これで曜の罪は公となり、その大罪を償う必要が出てきた訳だ。素直に吐いていれば許してやったものの、自分が変態という事実を隠し通して純真を振舞うのは正直死刑よりも罪が重い。にこのようにその性格を前面に押し出せとは言わないが、『変態』の名はそこまで軽いモノじゃないからな? 変態を自覚しているのならその変態に誇りを持って振舞って欲しいものだ。もちろんやり過ぎは良くないけどね。

 

 そして、未だに無関係を装っているもう1人の方はどうしてやろうかな……?

 

 

「あっ……あ゛ぁ……」

「あ~あ、彼女ショートしちゃったじゃない。ちゃんと責任を持って彼女を解放してあげるのよ。それじゃあにこは行くから」

「おい……」

「なに? そんな恰好で襲ってくるとかいい度胸じゃない。流石のにこでも、後輩がいる手前でセックスなんてできないわよ?」

「冷静だなお前、人の下着を持ち去ろうとしておきながら……」

「その証拠はどこにあるのよ?」

「だから聞いてたんだよ!! この耳であることないこと全てな!!」

「あら、ガールズトークに聞き耳を立てるとは紳士が聞いて呆れるわね」

「よし。その態度は自分がどうなってもいいってことだな? 滅茶苦茶にされても文句はねぇってことだよな? ん?」

「ちょっ!? その恰好で迫ってくるのは……!! やっ、らめ!」

 

 

 このあと無茶苦茶セッ――――教した。下着を盗む行為を全く罪と思っていないのもプロフェッショナル変態ゆえなのだろうが、変態を乗り越えて逆に常識人の地位に返り咲いた俺にとってはただの盗難事件だからな? 強気な態度の変態ちゃんには容赦しないから、身も心もたっぷりと反省させなければ……。

 

 そしてにこが無駄に喘ぎ声を上げるので、我に返った曜がまた気絶しそうなくらいにオーバーヒートをしてしまうのはまた別のお話。

 更にその騒ぎを聞きつけたAqoursメンバーが脱衣所に集結して、半裸の俺を見てまたショートしそうになったのも別のお話。

 




 今回は割と話の構成が割と変則的で、1つのお話を2人の視点で描く形式でした。私の小説は基本零君の一人称なので、女の子側がどう思っているのかを知りたかった人は多いのではないでしょうか? まあ私もその1人なんですけどね(笑)
特に恋愛関連のお話では零君と女の子側どちらの心情も描きたいと思っているのですが、流石に同じ話でそこまで話数を積み重ねられないのが辛いところです。

 今回の話の構成はいかがだったでしょうか? 好評ならばまたいつかこの形式で執筆してみようと思います。


 次回は久々にストーリー進行。μ'sメンバーにAqoursメンバー、そしてPDPのメンバーも登場予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

PERFECT Dream Project

 今回は久々にストーリー進行回です!
 これまでとは違って、物語が大きく動きます。


 

 スクールアイドルフェスティバル。通称スクフェスは、8月末に開催されるスクールアイドルによるスクールアイドルのための祭典だ。全国各地からプロからアマチュアまで幅広い実力と個性を持ったスクールアイドルたちが集まり、ライブを披露したりコラボを組んだり、バラエティのような企画にも挑戦するまさにスクールアイドル好きホイホイのお祭りなのである。しかもそのお祭りには伝説と謳われたμ'sやA-RISEも参戦予定なので、昨今のスクールアイドル界隈の熱気は止まるところを知らない。各種メディアにもスクフェスの話題は日常的に取り上げられており、若者にとってはこの夏休みの中で一番ホットな話題になっているだろう。

 

 スクフェスの目的はスクールアイドルの魅力をよりたくさんの人に知ってもらうことと、スクールアイドル同士の交流がメインとなっているが更にもう1つ目的がある、それはお互いがお互いのライブを生で鑑賞することにより刺激を与え合うことで、スクールアイドルとしてのレベルアップを図るというものだ。だからコラボやバラエティの参加でスクールアイドル同士の交流はもちろんのこと、"ラブライブ!"のように個々のライブに至っては順位付けがなされる。つまり"競い合う"というのもスクフェスの1つのテーマとなっており、悪い言い方かもしれないが単なる"慣れ合い"で終わらないのがミソとなっているのだ。

 

 一言で"競う"と言っても競い方は様々であり、お客さんがライブを鑑賞して魅力的だったスクールアイドルに投票するのが一般的だが、7月末である今の時点でも既に戦いは始まっていた。もちろん当日のライブによる投票結果が勝負の全てなのだが、これまたスクフェスを盛り上げる一貫として事前投票なるものが行われていたのだ。

 事前投票とはスクフェスの公式Webサイトで、参加するスクールアイドルの中から自分の注目しているグループを1つ選んで投票するというシンプルなもの。数多のスクールアイドルの中から投票数の多い上位のグループが公式Webサイトとテレビ番組で発表されるので、そこに自らのグループ名を載せることも1つの競い合いとなっている。まあこのような投票制は人気物が上位を占めやすいので、今回はレジェンドスクールアイドルであるμ'sとA-RISEのどちらが1位になるのかが最大の見所だろう。

 

 そして本日、その投票の結果が開示される。μ'sメンバーは俺の家に集結して、お菓子と飲み物を片手にとあるテレビ番組を視聴していた。

 『スクフェス特集』と名を打ったこの番組は、過去の"ラブライブ!"の映像を流してスクールアイドルを知らない人でもその手の知識を深めさせようとしていたり、スクフェスの最新情報を発表したりとまさにスクールアイドル好きによるスクールアイドルのための番組だ。その番組内のコーナーの1つとして事前投票結果の開示がある。だから俺たちはこうしてテレビに釘付けになっているのだが、恐らくμ's以外のスクールアイドル全員がそのコーナーを今か今かと待っていることだろう。

 

 ちなみにμ'sの中では意外や意外、穂乃果が一番そわそわしていた。

 

 

「こうしてドキドキしながら結果を待つ感覚って、なんだか久しぶりで緊張しちゃうよ」

「公式のイベントに参加するのは4年ぶりですから、仕方ないですね。スクールアイドルになりたての頃を思い出します」

「でもまだ本戦じゃなくて事前投票なんだぞ? ここで緊張していたら、ステージに上がった時はどうなるんだよ……」

「ステージにいる時はなんだかんだで楽しいから、緊張なんて吹き飛んじゃうんだけどねぇ。でも結果発表だけは久々で居ても立っても居られないというか……」

「穂乃果ちゃん、チーズケーキ作ってきたからこれで落ち着こ? はい、あ~ん」

「ホントに!? ありがとうことりちゃん! あ~ん――――ん~生きてるって感じがする♪」

 

 

 餌付けされただけで緊張が解れるなんて、穂乃果の緊張って安いな……。

 しかし、このように無邪気で気ままにいた方が穂乃果の性に合っていると言えば合っている。やはりμ'sのリーダーとしてみんなを引っ張っていた経験上、緊張など我関せず天真爛漫に振舞っている方が彼女らしい。まあいつまで立っても子供らしいってのは安心するべきなのか、早く大人になれと危惧するべきなのか……。

 

 そんな穂乃果の様子を見て、ちゃっかり俺の隣を陣取っている楓が呆れたように口を開く。

 

 

「そんなに緊張しなくても、私たちならトップに決まってるでしょ。なんせスクールアイド界のレジェンドなんて言われてるんだから」

「それを慢心って言うんだよ、楓。私たちは突発参加なんだし、PVなんてここ数年一度も投稿していない。だから注目度的には低く見積もった方がいいと思うけど?」

「相変わらず雪穂はドライというか、現実主義だよね。もっと自分が有名人で実力者だってことを自慢してもいいのに」

「お前は自慢し過ぎなんだよ。まあその傲慢さが神崎家の血筋だから仕方ねぇけどさ」

「それに私たちだけじゃなくてA-RISEの皆さんもレジェンドって呼ばれてるし、スクフェスにも出場するからそう簡単には1位になれないと思うよ?」

「亜里沙は謙虚だなぁ。もっと強者感を丸出しにして、雑魚を見下すくらいの気概を持った方が絶対にモチベ上がるよ」

 

 

 モチベの上げ方としては最低な方法なのだが、それで本人のやる気が上がるのなら越したことはない。ただ他のスクールアイドルに迷惑を掛けないという条件付きではあるけどな。今のところ楓が後輩のAqoursに対する態度は……まあちょっと見下しがちだけど、概ねいい先輩として振舞っていると思うよ。なまじμ's内でも突出した歌唱力と運動能力があるのが楓だから、傲慢さを引く神崎家の血筋も相まって他者を煽ってしまうのは致し方ないことだ。もちろん擁護するつもりはないけどね。

 

 そして穂乃果ほどではないものの、もう1人やたら緊張している子がいた。

 花陽は番組を見ている時から落ち着きがなく、投票結果の開示を楽しみだけど知りたくはないって感じで挙動不審だ。

 

 

「かよちん? どうしたのお腹空いた?」

「私が食いしん坊みたいに言わないでよ!? 投票結果が気になり過ぎてドキドキしてるだけだから!!」

「でもかよちんの緊張を解す方法って、ご飯を食べることでしょ?」

「勝手に捏造しないで!? そりゃご飯を食べてる時は心がぽわぽわして気持ちよくなるけど……」

「穂乃果といい花陽といい、食べ物でおとなしくなるなんてまるで犬ね」

「ヒドイよ真姫ちゃん!? 穂乃果ちゃんと一緒にするなんて!?」

「それは聞き捨てならないよ花陽ちゃん!? ツッコミどころはそこじゃなくて犬の方でしょ!?」

「なにやってんだコイツら……。まあ緊張が解れたみたいだし、これで良かったのか?」

「凛が話題を振ったおかげだにゃ!」

「なぜお前が威張る……」

 

 

 どちらかと言うと、凛よりも真姫の鋭い一言の方がよっぽど穂乃果と花陽の緊張を解き放ったと思うぞ? しかしその2人に飯を食わせておけば緊張やストレスの発散になるというのは間違いではなく、4年前に穂乃果と花陽のダイエットを決行した時に彼女たちは俺たちに内緒でご飯屋でつまみ食いをしていた。海未の考えたダイエットプランにより食事制限を課せられたので相当な鬱憤が溜まっていたのだろうが、それ以降2人には飯を食わせておけばとりあえず気を宥めることができると俺たちに印象付ける結果となったのだ。もはや怪しいおじさんからお菓子を貰ってホイホイついていく子供と変わらんな。

 

 こうやって大騒ぎする中でも、一番落ち着いているのは年上組だ。年長者の貫禄は凄まじく、絵里も希もにこも特に動じることなく番組を視聴している。

 

 

「全く、こんなことでギャーギャー騒げるなんて本当に子供ね。アイドルたるもの、大人っぽく清楚に堂々と振舞うべきよ」

「そんなこと言っちゃって。事前投票の結果発表、この中ではにこっちが一番楽しみにしてるってウチ知ってるから! さっきから携帯でこそこそ情報を嗅ぎ回ってることとかね♪」

「ちょっ!? 携帯を覗き見するなんて人のやることじゃないわよ!!」

「そうだよなぁ~下着を盗むなんて人のやることじゃねぇよなぁ~」

「うぐっ!」

「にこ……いい歳して子供の悪戯みたいなことはやめなさいって言ってるでしょ。穂乃果たちじゃなくて高海さんたちも後輩になったんだから、少しは大人になりなさい」

「絵里ってにこだけには厳しいわよね……。ふんっ、にこは無邪気系アイドルを目指してるから子供っぽくていいのよ!」

「さっき大人っぽく振舞うとか言ってなかったかしら……?」

 

 

 先日の下着泥棒の件なんて棚に上げ、アイドルとしての清楚さを自画自賛で褒め称える矢澤にことかいう女。よくもまぁそんなデカい口が叩けたものだとブーメランを投げたくなるが、ブーメラン発言はμ'sではよくあることなので今更言及するのもおこがましいくらいだ。しかし彼女がアイドルに注ぐ情熱は本物なので、心意気だけは認めてやるけどね。

 

 

 そんな感じでいつも通り騒がしく時間を潰していると、遂に番組内で事前投票の結果発表コーナーが始まった。さっきまで騒々しかったリビングはまるで無人かのように静まり返り、なんだかんだ全員が投票結果を心待ちにしていたことがこの雰囲気から伺える。どうせμ'sが1位だろうと初めから自信満々の者、結果発表が楽しみでワクワクしている者、じっくりと腰を据えて落ち着いている者、緊張でそわそわしている者と三者三様の反応を見せていた。

 

 事前投票の上位グループが何位まで発表されるのかは予告も何もなかったので、番組内で初めて発表される形となる。番組内では結果を表示するための特大パネルが用意され、そこには3つの枠があるため恐らく上位3グループが発表されるのだろう。思ったより枠が少ないことには驚きだが、枠が少なければ少ないほど競争は燃え上がるもの。今テレビの前にいる全国のスクールアイドルの心がざわついているに違いない。現に穂乃果たちも意外な枠の少なさに思わず息を呑んでいた。

 

 そしてどうやらこのコーナーの司会は、"ラブライブ!"の会場でよくスクールアイドルたちにインタビューをしているアナウンサーの女性のようだ。そのアナウンサーが元気よく結果発表の段取りを取り仕切る。

 

 

『これから事前投票にて上位3グループに選ばれた、現在注目されているスクールアイドルを発表します! 3位から順番に発表してドキドキを味わうのもいいですが、今回は1位から3位まで一気に発表しちゃいますよ! それでは早速――――』

 

 

 まさかの1位から3位の同時発表に、ピンと張った緊張の糸がはち切れそうなくらい更に張り詰まる。番組側的にはこの一瞬に盛り上がりを賭けているのだろう。この発表方法にはさっきまで余裕な素振りを見せていたにこや楓の堂々とした心にも多少の揺らぎを発生させた。

 

 そして遂に、事前投票上位3グループが発表される。

 

 

『事前投票で上位3グループに選ばれた、今一番ホットなスクールアイドルはこのグループだぁああああああああああああああああ!!』

 

 

 その直後だった。誰も声を発さなかったが、リビングが驚愕の色に染められる。

 穂乃果や花陽のようにいかに緊張していようが、雪穂や亜里沙たちのようにいかに謙虚に振舞っていようが、自分たちが実力のあるスクールアイドルだってことは各々が少なからず自覚している。謙遜はするけどもレジェンドと呼ばれているがゆえの優越感はμ's12人全員が抱いており、この投票結果で1位と2位を争うのは自分たちかA-RISEのどちらかだと心のどこかでは高を括っていたはずだ。

 

 だからこそ、この結果は衝撃的で全員の言葉を失わせた。

 

 

 3位 A-RISE

 

 2位 μ's

 

 1位 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

 

 まず俺たちが真っ先に思ったことは、1位のスクールアイドルの得体が全く知れないということだ。スクールアイドルに詳しいにこや花陽なら知っているかもしれないが、少なくとも俺はこんな名前のスクールアイドルは聞いたことがない。しかも同好会って名前はそもそもスクールアイドルの名前として成立していないので、多分正式なグループ名ではないのだろう。正式名を持たない=まだ駆け出しのスクールアイドルであることは穂乃果たちを含め全国のスクールアイドルが感じていることだ。こう言っては1位の同好会には申し訳ないのだが、どうしてこんな初心者のスクールアイドルがレジェンドであるμ'sやA-RISEを差し置いてトップに返り咲いているのかが甚だ疑問しか浮かばない。

 

 穂乃果たちも同じことを思っているようで、結果が発表されてからここまで誰も何も発言をしていない。ただ自分たちが想像していた現実とは180度異なっていたので、まだ目の前の事実を受け入れられないのだろう。たかが事前投票であってもμ'sにとっては久々の公式イベントだから、予想外の結果に動揺しても仕方ない。

 

 俺たちが困惑している間にも、番組内のコーナーはどんどん進行していた。

 

 

『ここで素敵なサプライズ! 本日、1位となった虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の皆さんにお越しいただいております! それでは虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の皆さん、こちらのステージへどうぞ!!』

 

 

 舞台裏から現れたのは、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバーと思われる女の子9人。μ'sの初期メンバーも9人だしAqoursも9人だからかなりの因果だと思っていた矢先、俺は同好会メンバーの中の1人を見て更に言葉を失った。元々結果発表開示から一切の言葉を発していないが、思わず口をあんぐりと開けてしまうくらいには衝撃的だった。

 

 9人の真ん中に立っている女の子って、まさか――――!?!?

 

 

『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のリーダー、上原歩夢(うえはらあゆむ)です! 皆さん、この度は私たちのグループにたくさんのご投票ありがとうございました!』

 

 

 上原歩夢(うえはらあゆむ)。彼女とは一度、夏祭りを一緒に回った過去がある。初対面なのに突然正面から抱き着かれただけでなく、恋をしていると告白までされて衝撃を受けた。そうやって純粋な面を見せていたかと思えば、いきなり淫乱さを助長するような行動を見せつけてきたりとキャラが掴みにくい奴だ。しかも自分の情報を意図的に隠していたので、非常に謎の多い少女だと俺の中で存在付けていた。俺が彼女について知っている情報と言えば、名前と掴みづらい性格をしていること、そして俺に恋をしているということだけだ。

 

 でも本日、また1つ彼女のプロフィールが更新された。アイツ、スクールアイドルだったんだな……。しかも事前投票で1位に選ばれるほどのグループのリーダーだったとは、もう驚かずにはいられないだろこりゃ。

 

 気になったことは彼女の登場だけではない。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は正式名称がないことから分かる通り、まだ発足して間もないグループだってことは予測できる。つまりスクールアイドルがアイドルの卵ならば、彼女たちはまだスクールアイドルの中でも卵のような存在なのだ。そんな駆け出しの彼女たちはステージ上に上がることすらほとんど経験がないor全く経験がないはずなのに、全員が全員緊張を表情に出すことなく毅然とした態度でインタビューに臨んでいた。スクールアイドルに込める魂と気概がベテランのスクールアイドルであるμ'sよりも圧倒的に上回っていると、テレビ画面を通して伝わってくる。その強靭な精神を持っているってことは、彼女たちの心を支える強い原動力があるに違いない。

 

 そしてまたも色々と考えている間に、インタビューが進んでいたようだ。

 俺は再び彼女たちへのインタビューに意識を向ける。

 

 

『まさか駆け出しも駆け出しのスクールアイドルが事前投票で1位になるなんて、これぞまさにダークホースです! 1位になるために特別やっていたこととかあるんですかね?』

『はい。私たちはとある方のためにスクールアイドル同好会を発足させたのです。その方に振り向いてもらい、そして私たちの想いを受け取ってもらえるように。私たちは9人全員が同じ気持ちでここまで頑張ってきました。とある方へ私たちの愛を伝えるため、その目標を糧として日々自分自身というものを磨き上げているのです! まだ駆け出しのスクールアイドルではありますが、心と気持ちの強さだけは誰にも負けません! でも私たちがもっともっと輝くためには、皆さんの応援が必要です。それなので皆さん、是非今後とも応援をよろしくお願いします!』

 

 

 そこで満面の笑顔を見せる上原だったが、一瞬だけその表情に妖艶さが見え隠れしていた。

 そして、俺はその艶やかな笑顔に胸を打たれる。だがその笑顔に見惚れたとか、そういうことじゃない。むしろ背筋がゾクッとする、あまり心地のよくない感覚だ。

 

 悟った。

 

 さっきの上原の笑顔は全国のファンに向けられたものじゃない―――――――

 

 

 

 

 俺だけに向けられたものだと。

 

 

 

 

 さっきの言葉も画面越しの俺の心に囁かれたものだ。

 それを裏付ける証拠などは何もない。だけどそう信じさせる意志の強さを彼女、いや()()()()から感じた。

 

 

 番組内ではそんなことも知らず、インタビューが続行されている。

 

 

『おぉ~お世話になった人への一途な思いってやつですかね? いやぁ青春青春! それでもう1つ、駆け出しの上原さんたちに質問なのですが、目標にしているスクールアイドルはいますか?』

『はい。というよりかは、スクフェスの本戦で一緒にトップ争いをしたいスクールアイドルはいます』

『おっ、好戦的なのはスクフェスの趣旨にも合っていて、運営としては非常にうれしいですよ! さて、そのグループとは?』

 

 

 

 

『μ'sとAqoursです!』

 

 

 

 

 またしてもμ'sに激震が走った。さっきから衝撃ばかりで卒倒してしまいそうだが、それ以上にどうして自分たちが標的になっているのか穂乃果たちは疑問しか浮かばない。

 それに一番驚いているのはμ'sではなく恐らく―――――

 

 

 

 

 結局その後のインタビューで交戦希望相手にμ'sとAqoursを選んだ理由は深く語られず、上原も半ばアナウンサーの質問を聞き流す形で喋っていた。

 だが俺の目からしてみれば、またアイツが何かを隠しているのは明らかであった。

 

 ちなみにこの番組が終わってからスクールアイドル界隈の現状を調査して分かったことなんだけど、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は事前投票で1位になるのも納得のできる実力を持っていた。まだPVは1本しか投稿されていないが、そのPVはレジェンドであるμ'sの目を引き付け言葉を失わせるくらいに美しかったのだ。上原の言う通りメンバー全員が確固たる強い意志を持ち、()()()()への愛を伝えようとしている。その意志の強さが彼女たちの魅力を際立たせ、視聴者を魅了しているのだろう。

 

 

 だが、その()()()()というのは恐らく――――――

 

 

 

 

 何かが、大きく動き始めた気がする……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ど、どうしてAqoursの名前が……?」

 

 

 千歌は頭に浮かんだことをそのまま口にする。

 

 

 上原の発言に、最も驚いたのはコイツらAqoursメンバーだろう。

 千歌たちも9人揃って俺たちと同じ番組を見ており、事前投票の結果を心待ちにしていた。だがμ'sとA-RISEの二大巨頭がいるため自分たちがランクインするとは最初から思っておらず、μ'sの雄姿を見るために彼女たちはこのコーナーを見ていた。

 

 だからもちろん虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会が1位になったことに驚きはしたが、最も焦燥感に駆られたのは上原の口からAqoursの名が出たことだろう。どうして3位以内にランクインしていない自分たちの名前が出てきたのか、同好会が何者なのか以前にそっちの方が謎だ。μ'sは有名なので一緒の舞台で彼女たちと競い合いたいと思うのは別に変な思惑ではないが、Aqoursは誰かからそう思われるレベルにまだ達していないのだ。それは千歌たちも重々承知しており、自分たちが誰かから目標にされたり競い合いたいと思われないことは分かっている。だからこそAqoursの名が挙がったことに驚きを隠せないのだ。

 

 

 千歌たちもμ's同様に謎だらけの渦に巻き込まれ、リビングが無声無音で静まり返っていた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 とある大学の研究室。

 スクフェス特集の番組を見ていた()()は、徐に立ち上がりリモコンでテレビを消灯した。

 

 

「あの子たちの生き様をもっと見ていたかったけど、今から研究の打ち合わせなんだよねぇ……。でも伝えたいって言っていたことは全部喋れたみたいだし、もう大丈夫かな?」

 

 

 ()()は白衣を纏う。胸元には『神崎』と書かれた名札が付いていた。

 その際に机から1枚の書類が舞い上がり、ひらひらと床へと落下する。

 

 

 その書類の題目には、こう書かれていた。

 

 

 

 

 『PERFECT Dream Project』

 

 




 この小説では基本的にストーリー性は薄く、どの回から読んでも比較的話が分かりやすいように物語を描いていました。
 ですがスクフェス編ではかなりストーリー色が濃くなり、ここまでたくさんの謎を残すのは初めてだったりします。これまでが王道かつ単調なストーリーだったので、今回のような謎が謎を呼ぶ展開もありかなぁと勝手に思っています(笑)

 読者さんもこれを機会にストーリー考察をされるのも一興かも……?


 次回はPDPメンバーであり、恐らくラブライブキャラの中で最も腹黒なあの子が登場!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

強く!優しく!腹黒く!?

今回はPDPメンバーの1人、中須かすみの登場です!
 腹黒系スクールアイドルとして、お得意の悪戯で零君を引っ掻き回せるのか……?


 

 μ'sを揺るがせた事前投票の結果発表から一晩が経った。思わぬ大番狂わせに結果発表直後は現実を直視できなかったμ'sだが、一晩も経てば現実を受け入れられたようで、今日から新たな意気込みを胸に練習をしている。彼女たちの立ち直りの速さは目を見張るものがあり、自分たちより圧倒的に実力が下のスクールアイドルに投票で負けたとあっても逆にその事実を糧としてやる気に変えていた。王座を奪われたのならまた奪い返せばいいという決心の元、12人が同じ気持ちで結束して再びμ'sとしての絆が深まる結果となったのだ。

 

 しかし実力の差があるとは言っても、虹ヶ咲スクールアイドル同好会のPVを観ている限りでは客を惹きつける魅力はあちらに軍配が上がる。どれだけ自分たちの技能を磨こうとも、それが客の心に響かなければ何の意味もない。そういった()()()()()()()()()()()ならば、現状ではμ'sより上原たち虹ヶ咲メンバーの方が上なのかもしれない。まあライバルが強ければ強いほど闘志を燃やすのがμ'sなので、彼女たちもこのままでは終わらないだろう。

 

 そんな訳でμ'sはμ'sで頑張ってもらうとして、俺は俺で確認したいことがあるためとある場所へと向かっていた。とある場所と言っても隠す必要もないので言ってしまうが、俺が向かっているのは秋葉の研究室だ。

 夏祭りやテレビで上原の言葉を聞いていると、どうも俺のこと知っているような素振りを醸し出している。でも俺は彼女たちのことを知らないため、もしかしたら幼少期の頃に出会って俺が忘れているだけかもしれないと思い、そのことを秋葉に確認を取りたいのだ。だからアイツに上原のことを聞きに行きたいと思っているのだが、逆に知っていたら知っていたで包み隠さず話してくれるのだろうか……? まあこのまま謎で終わらせるのはむず痒いため、聞くだけタダなら聞いておいて損はない。もちろん秋葉も知らなかったらそれこそ謎が謎を呼ぶ不可解な展開になる訳だが……その時はその時だな。

 

 

 アイツのことを擁護するつもりはないが、あれでも世界を羽ばたく研究者なので毎日そこそこ忙しい。俺たちを妙な発明品の実験台にしているくせに何を言ってんだと思われるかもしれないが、まだ学生の俺たちと比べたら世界への貢献度は雲泥の差だ。

 だからこそアポなしで訪れるのは迷惑かと思い事前に連絡を入れようとしているのだが、アイツの携帯に全然繋がらない。研究に没頭して携帯に気が付かないのは日常茶飯事なので今更咎めはしないが、このままアイツの研究室へ行って門前払いされるとそれほど無駄な時間はない。だからさっきから何度か連絡してるんだけど全く出る気配がないんだよなぁこれが。もう腹を括って時間浪費覚悟で行ってみるか。

 

 そうやって携帯に注力を注いでいたばかりに、目の前から近づいてくる人影に全然気が付かなかった。

 

 

「あれだけたくさんの女の子を侍らせてるのに、1人寂しくお出かけとか悲しいですねぇ~」

 

 

「え……?」

 

 

 

 携帯から顔を上げてみると、女の子が電柱にもたれ掛かってこちらを悪戯な笑顔を向けていた。

 蒸栗色、いわば緑みがかった淡い黄色の髪をした小柄な少女だ。髪の長さは肩に掛かる程度の短髪で、服装はパステルイエローのブラウスに青緑のスカート。胸は大きいとは言い難いが、小柄ながらに引き締まった体型をしているためパッと見だけどスタイルはそこそこ良さそうだ。

 それになによりこの憎たらしい笑顔は、にこや楓を彷彿とさせる小悪魔的な何かを感じる。身近に同じような笑顔をする奴がいるからこそ分かるこの雰囲気。正直に言ってあまり関わり合いになりたくないのだが、この子は確実に俺を逃がしはしないだろう。また面倒なことに巻き込まれんのかオレ……。

 

 それにしてもこの子、どこかで見たことあるような……?

 

 

「どうしたんですかぁ? まさか、かすみんに一目惚れしちゃったのかなぁ?」

「か、かすみん……?」

「『中須(なかす)かすみ』だから『かすみん』なんですよ。ま、覚えてなくても仕方ないか」

「名前は分かったけど、一体何の話をしてるんだ……?」

「やっぱり歩夢先輩の言ってた通りなんですね……」

「歩夢って、もしかして上原歩夢のことか?」

「さぁ? どうでしょう?」

 

 

 い、いきなり訳が分からなさ過ぎるんだけど!?

 突然目の前に現れたってのもそうだけど、初対面なのに俺のことを知っているというのが上原との出会いに似ている。しかも彼女の言葉から上原と知り合いらしいし、『覚えてなくても仕方ない』と俺の知らない過去を熟知しているようだ。この謎が謎を呼ぶモヤモヤ感はまさに上原と出会った時と同じで、コイツも意図的に自分の情報を隠し白を切っている。俺のことは隅々まで知っているような言動だが、自分のことは悟られぬよう一歩引いたところから俺に接触しているそのずる賢さ。また謎の女の子に振り回されるのか俺は……。

 

 ここで、昨日のとある記憶がフラッシュバックした。

 どこかで見たことのある顔だと思ったらコイツ、昨日テレビに出てたじゃん!! 

 しかも事前投票で1位を獲得した虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバーとして、インタビューを受けていた上原の左隣にいた子だ。これは偶然なのか……? いや、恐らく中須かすみは俺を待ち受けていたっぽいから確信犯だろう。またしても虹ヶ咲のメンバーの襲来に、本来なら喜ぶべき可愛い女の子との出会いであっても思わず身構えてしまう。この出会いが偶然でないことは、もはやコイツの悪戯な表情から丸分かりだ。

 

 

「あれあれぇ~どうして黙ってるんですかぁ~? はっ、まさかかすみんの魅力に見惚れてメロメロになっちゃったぁ~とか??」

「はいはい可愛い可愛い」

「むっ、なんだか扱いに手馴れてるみたいで腹が立ちますね……」

「手馴れてるんじゃない。面倒だから聞き流してるだけだ」

「相変わらず女の子の相手はお手の物ですか、さすが零さんですね!」

「あ、あぁそうだろ……?」

 

 

 さっきの言葉で確信した。やっぱりコイツも俺のことを知っているのだと。上原を含めて二度目なのであの時ほど驚きはしないが、今度は逆にどうして虹ヶ咲のメンバーが俺のことを知っているのかが気になる。千歌と同じくスクールアイドルの時代の俺を見たことがあるという考察もできるが、何だろう、コイツらはもっと奥の奥まで知っていそうな気がする。知っていてもなお踏み込もうとはせず、こちらの様子を窺うように慎重に会話をしているのは話しているだけでも察せる。

 

 

「そういえば昨日のかすみたちの晴れ舞台、見てくれました? 見てくれましたよね??」

「見てたけど、お前らってまだスクールアイドルになりたてなんだろ? なのに事前投票で1位になるなんてすげぇよな」

「ふっふ~ん♪ そりゃあ大好きな人に振り向いてもらうためですから。愛の力は何物にも負けないんですよ!」

「そ、そうか……。上原も同じこと言ってたよな? その大好きな人って一体誰なんだ……?」

「…………クソ鈍感野郎」

「えっ!?」

「いやぁそんなこと言える訳ないじゃないですかぁ! 乙女の恋心に踏み込むものじゃないですよぉ?」

 

 

 今一瞬だけど、俺を睨みつけながら暴言を吐かなかったか……? すぐに笑顔に戻ったけど、さっきのはサブリミナルではない。なるほど、いい顔をしているのは表だけで裏では腹黒いのがコイツの素なんだな……。なんとなくコイツの性格と扱い方が分かってきた気がする。

 

 それにしても、確証を得るために敢えて大好きな人が誰なのかを聞いたのだが、これはもう答えを聞くまでもなく恋の相手が誰なのかは明らかだ。虹ヶ咲のメンバーが大好きな人のためにスクールアイドルをやっているのは昨日の番組で上原が言っていたことだが、その中のメンバーとこうして対面すると実感する言葉の重み。まだ出会ってから数分しか経っていないのにも関わらず、中須が想い人にどれだけ惚れ込んでいるのかが勢いだけでも伝わってきた。そりゃそうだ、だって初対面なのにも関わらずいきなり恋愛話から切り込んでくるくらいなんだから。しかも彼女も好きな人のことを敢えて回りくどく、遠回しに表現しているため恐らく俺が気付くのを待っているのだろうが、もう既に気付いてるんだよなぁ……。

 

 

「振り向いてもらえるといいな、その人に」

「はいっ! そのためにもまずは他のスクールアイドルをどう仕留め――――いや勝つかが重要ですね♪」

「可愛く言い直さなくても、本性バレバレだからな……」

「えぇ~なんのことですかぁ? かすみん、天然さんだからよく分からな~い」

「天然な奴は自分が天然だってことすら気付いてねぇから」

 

 

 あくまでもぶりっ子キャラを貫き通す精神は、アイドルとしていい心がけと言えよう。にこや楓以上にキャラ作りが本格的なので、ある意味では事前投票で1位になった器ゆえのキャラだと納得させられてしまう。しかしメディアの前ではそのキャラでもいいのだが、普段の会話にまでそのキャラを持ち出されたらコミュニケーションが取りづらいことこの上ない。どうして俺が出会う女の子はこうもキャラが濃くて変人なんだろうか……。

 

 

「それはそれとして、他のスクールアイドルを押しのけてトップになりたいっていう願望はありますけどね」

「まあスクールアイドルの楽しみ方は人それぞれだからな。スクールアイドル界の頂点に立つのも1つの楽しみ方だろ」

「それこそがかすみたちの愛の強さを伝える、一番分かりやすい方法ですからね」

「そ、そっか……。でも事前投票で1位になるくらいだから、それくらいの実力はあるんだよなお前らって」

「もち! かすみたちは実力主義ですから、他のスクールアイドルを今後立ち上がれなくなるくらいに再起不能にしちゃいますよ♪」

「お前は何と戦っているんだ……」

「まずはとりあえず怪文書を送り付けて精神攻撃を――――って、わわっ、これは内緒でしたっ!」

 

 

 いやいいキャラをしてるよコイツは。ただやろうとしていることがあまりにも小物過ぎて、事前投票で1位を取ったグループのメンバーとは到底考えられないのが可愛いところだ。まさかとは思うが、虹ヶ咲がスクールアイドル界隈に台頭してきた裏でそんなことをやっていたんじゃないだろうな……? さすがにそんなことでビビッて精神が病んでしまうほど、イマドキのスクールアイドルの心は軟じゃないと思うけど。

 

 そういや昨日の番組内で、上原はこう言っていた。スクフェスの舞台で戦いたいのはμ'sとAqoursだと。

 μ'sの名が出てくるのはまだ分かる。レジェンドスクールアイドルとして名を馳せているから、彼女たちと同じ舞台に立ちたいと思うのはむしろスクールアイドルの性だろう。

 だがAqoursの名が挙がったことは昨日の中でもトップクラスに疑問だった。もちろんだがAqoursはμ'sに比べれば圧倒的に世間の認知度は低く、実力や人気は着実に上がっているもののテレビ番組内で宣戦布告されるほど有名ではない。それこそ事前投票で1位となった上原たちの方が今話題のスクールアイドルとして有名なのに、わざわざ自分たちよりも無名に近いAqoursの名を挙げるのが不自然でならないのだ。

 

 しかし、その不自然はある一言を投げればすぐに解消される。

 それは――――俺とただならぬ関係を持っているスクールアイドルだから。

 

 こう言ってしまえばどうしてAqoursが宣戦布告をされたのか、その意味を大方推察できる。

 どうしてコイツらが俺とAqoursの関係を知っているのかは分からないけど、μ'sとAqoursの2組を名指ししてきたのはこれも偶然じゃないと思う。予想していなかった訳じゃないのだが、こうして確信に迫ると一気に話が重々しく感じるな。全く、虹ヶ咲の奴らは何を考えているのやら……。ていうか、残りの7人もみんな同じ野望を抱いているのだろうか……? 一体何があったら9人全員が同じ男性を好きになって、そして同じグループを組むことになるんだって話だ。まあそれを言っちゃμ'sやAqoursだって同じだけど、アイツらと俺の仲が急接近したのはグループ結成後だから中須たちとは少し違う。コイツらは恋する人のためにグループを組んだと、昨日の番組で上原が言っていたから。

 

 

「またまた堅い顔しちゃって! いつも通りエッチなことばかり考えていればいいんですよ♪」

「ぶっ!! そんなことしてねぇよ!! むしろ周りの子たちがどんどん淫乱になってるから、火傷しそうなくらい手を焼いてるっつうの……」

「なるほどなるほど、調教がご趣味でしたか」

「いちいち誤解を生むような表現やめろ。アイツらが勝手に染まってるだけだ」

「いやぁかすみも零さんに染められちゃう……。こんな道端で襲い掛かられて、道行く人に性奴隷だってことを世間に証明させられちゃうんだ……うぅ、可哀想なかすみ」

「嘘を吐くな。そして嘘泣きもすんな」

「まぁかすみからしてみれば、調教されるよりもする方が好きですけどね。ウフフフ……って、あっ! か、かすみ、純粋だからよく分からなぁ~い」

「全部言い切ってからあざとくなっても意味ねぇだろうが……」

 

 

 調教趣味然り、さっきの怪文書を送り付ける行動然り、中々アグレッシブな腹黒ちゃんのようだ。自分が楽しいから相手を弄ろうとするのはまさに秋葉のような性格で、そう思うとコイツが一気に胡散臭く見えてきたな……。まあ最初から口角を上げた顔で近づいてきたあたり、ある程度の警戒心は未だに抱いたままだけど。

 

 そして、中須も上原と同じく度し難い淫乱属性が付与されているらしい。いくら恋する相手が変態だと言えども、自ら淫乱属性を身に着けて初対面を迎えるなんてそっちの方がよっぽど変態だろう。μ'sを見ているせいかさっきの会話も日常会話に聞こえるレベルだが、よくよく考えてみると女の子の口から『性奴隷』なんて言葉が発せられている時点で異常だ。それが日常となっているあたり、俺の中で尋常の定義が揺れに揺れてしまっている。

 

 

「そうだ! 突然ですけど、一緒にデートしましょう!」

「ホントに突然だな……。つうか用事あるんだけど」

「こんな可愛い女の子を差し置いて私情を挟むとか、それでもハーレム王ですか!!」

「だれがハーレム王だ!? 俺は俺の生きたいように生きる、ただそれだけだ。それに俺のことも考えず、私情を挟みまくってるお前に言われたくねぇよ」

「まあ抵抗しても無駄ですけどね。零さんは既にかすみの術中にいるのですよ」

「はぁ?」

「実はこのUSBメモリの中に、零さんのあ~んな写真やこ~んな写真が――――」

 

 

 中須かすみはポケットから黒いUSBを取り出すと、自慢気な表情で俺に見せつける。

 俺の写真と言われてまともな姿が写り込んでいるとは到底思えないので、俺は反射的に手を伸ばしてUSBを中須の手の上から握り潰した。危険物は速攻で破棄しておかないと、またどのルートで流出するか分かったものじゃないからな。

 

 

「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああ!! 何をするんですか!?」

「他人に流通する俺の写真と言えば、99%が隠し撮りだって知ってるからさ」

「そりゃそうですけど――――あっ、そ、そんなことある訳ないじゃないですかぁ……あはは」

「もう裏の性格が全部表に出てきてるよなお前って……」

「えぇそうですよ! 恥ずかしい写真で零さんを従えて、あわよくば屈服させて背中に座ってやろうと思ってましたよ!!」

「開き直んな! そんな告白を聞いて喜ぶほどドMじゃねぇから!!」

 

 

 これまで中須が考えていたことは腹黒いと言えば腹黒いが、どこか子供のような可愛い悪戯な一面もあった。だがさっきの言葉を聞いて確信したよ。コイツも上原と同じくどこか偏った性癖を持ってるってことがな。人間は誰しもがスケベだと言われるが、俺の周りは特にスケベ心を極めた奴が多すぎる。まあ類は友を呼ぶってやつなのかも……。

 

 

「でも、デートに行きたいのは本当ですよ」

「どうしたいきなり畏まって……」

「歩夢先輩が言ってたでしょ? かすみたちがスクールアイドルとして頑張っているのは、ずっと心に溜め込んでいた愛を伝えたいからだって。今のかすみたちはそれ以外の生き方を知りませんから」

「そんな大袈裟な」

「そう思います? だったら見せてあげてもいいですよ、かすみの本気を」

「え……?」

 

 

 口角を上げた生意気な笑顔は先程と変わらないが、彼女から伝わってくる雰囲気だけは至極真面目なモノだった。中須は俺と身体を密着する一歩手前まで歩み寄ってくると、上目遣いで俺の目をまじまじと眺める。初対面(?)の男性を相手にここまで接近して戸惑うこともなく、逆に堂々として嬉しそうにしていることからコイツも上原同様に俺と何かしら縁のある女の子であり、そしてさっき言っていたことは本気なのだと実感させられた。腹黒キャラが露呈して可愛気な一面もあったのだが、根底にある想いは根強くブレていない。

 

 

 彼女の静かな勢いに怯んでいると、その隙を狙っていたのか、小さな身体を目一杯使って正面から抱き着かれた。

 背丈の差があるため中須はジャンプしながら俺に抱き着き、その慎ましやかな胸と俺の胸が溶接されたかのように密着する。

 

 

「お、お前……!!」

「ようやく、夢が1つ叶いました……」

 

 

 さっきまでは勢いに任せた腹黒っぷりで俺を引っ掻き回していたくせに、今の彼女は落ち着いた雰囲気で感傷に浸っていた。口調もあざとさ全開から一気に穏やかとなり、まるで清純系の妹のような優しさを感じる。長年別の場所で暮らしていた兄との久々の再会で、思わず泣きそうになっている妹の構図そっくりだ。上原も抱き着いてきた時に『やっと、会えましたね……』と言っていたことから、やはり中須も同じく俺と出会うことに並々ならぬ願望を抱いていたに違いない。さっきまで故意にあざとさを振り撒いていた奴が急にしおらしくなったので、どれだけこの出会いに強い想いを抱いていたのかが分かる。

 

 もしかしたらさっきまでのウザキャラは完全に見せかけで、本来の中須かすみはこっちなのかもしれない。キャラ設定を色濃く作り込む奴ほど実は寂しがり屋だったり、一途な想いを抱く優しい子だったりするんだよな。そう考えると、さっきのUSBメモリの中身って本当は隠し撮りなんかじゃなくごく普通の写真だったのでは……? 楓やことりたちの過去から反射的に手が伸びちゃったけど、なんか悪いことしちゃったかもな……。

 

 すると俺に抱き着きながら胸に顔を埋めている中須から、小さく声が聞こえてきた。

 

 

「ふっふっふ……男性にはとりあえず胸を押し付けておけば好感度アップ。そして優しさを見せつけ同情を誘ったところに、失われた写真以上の痴態を映した写真を撮らせてもらう……フフフ、我ながらいい算段♪」

「…………」

「あはっ、かすみの抱き着き攻撃も効いてる効いてる」

「…………」

 

 

 返せ。お前を許そうとした俺の想いと時間を返せ。

 コイツの腹黒さはちょっとやそっとのことでは崩れ去らないようだ。つまり、こっちから仕掛けても問題はないってことだよな……? 俺を少しでもコケにした奴は一切の容赦をしないから。

 

 

「胸の感触が薄いな……」

「な゛ぁ!? それはかすみの胸が絶壁どころか凹んでると言いたいんですか!? ていうか、いきなり人の胸を蔑むなんてセクハラですよセクハラ!!」

「平気で性奴隷なんて口走る奴に言われたくないね。悔しかったら上原くらいになってみろ。アイツの胸は普通に女の子だったぞ」

「くぅぅぅぅううううううううううううううううバカにしてぇえええええええええええええええええええ!! 見ていてくださいよ! スクフェスまでにはこの世の全スクールアイドルよりもビッグでボインになって見せますから!!」

「はいはい頑張れ頑張れ」

「ちゃんと聞けぇええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 咄嗟に言葉遣いが汚くなるあたり、やはりコイツの素はこっちみたいだな。腹黒キャラの計略なんてものは大抵事が上手く転がらないことが多く、こうして本性が露呈して逆に恥をかくのがオチだ。今回もその展開に則って、中須のコンプレックスと思われるところを攻めたら見事に的中。さっきまで弄り弄られの立場が逆転し一気に俺が優位に立った。

 

 でもまぁ、感触がないと言ったのは中須の本性を暴くための虚言であって、実際に彼女の胸は柔らかくて普通に気持ちよかったけどね。

 

 

 しかしコンプレックスを突かれたのがあまりにも癪だったのか、その後は無理矢理デートをさせられるはめとなった。しかもそこそこ遅い時間まで引っ張られたために、秋葉のところへ行くことすらも叶わなくなってしまった。そういえば出会った時も俺の進路を塞ぐように立ちはだかってきたから、デートを含めもしかして秋葉のところへ行くのを阻止していた……なんてことはないよな? 

 

 謎ばかりが残ってモヤモヤするけど、中須かすみが来たってことは他のメンバーも襲来する可能性はあるだろう。今回分かった事実もいくつかあるし、いつかお前らのことを徹底的に調べ上げて痴態を晒してやるからな、そう思え。

 

 でも今はとりあえず――――――

 

 

「このカレーパンを本番前のμ'sの靴に仕込んでおけば……ふっふっふ」

「だから、考えてること口から漏れてるぞ……」

 

 

 コイツを何とかしないとなぁ……。

 

 

 




 今回登場した中須かすみは、PDPキャラの中では私イチオシのキャラだったりします。やっぱりこの小説のことり、にこ、楓のような小悪魔系が好きなんですよね(笑)
皆さんはPDPキャラの中で誰がイチオシなのでしょうか? まだプロフィールくらいしか公開されていませんが、Youtubeなどではボイス付きでの自己紹介もあるので、まだ彼女たちのキャラを掴みかねている方は一度視聴してみては?


 次回はダイヤと真姫のツリ目(?)コンビのお話です!
 そして次回が年内最後の小説更新となります。



新たに☆10評価をくださった

ぴんころさん

ありがとうございました!
まだ評価をくださってない人は、是非☆10評価をお願いします!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

愛するあの人は溜まってる

 今回は真姫&ダイヤ回です!
 そしてあの大人気(?)のすれ違いシリーズでもあるのですが、今回はいつにも増して女の子たちの扱いがヒドイような……?


 

 当たり前なのだが、スクールアイドルは"スクール"と名を冠していることから、学生が結成したアイドルグループのことである。一言で"学生"と言っても小学生から大学生まで広い範囲に渡るが、実はスクールアイドルに年齢制限はない。だから結成しようと思えば小学生ばかりのロリキャラグループや、今のμ'sのような大学生ばかりのアダルティなグループなど、それぞれの立場を存分に活かすことができる。元々スクールアイドルは高校生を対象としたグループのことを指していたらしいのだが、流行に乗った小中学生や高校を卒業したあと大学でも続けたいと思う人が増加し、現在のような小学生から大学生に対象を広げたと言われている。

 ちなみにスクールアイドルとは、あくまで学生が部活やサークルでアイドルをやっていたことが世間で有名になったことからメディアによって付けられた名であり、公式本社は便宜上その名を使ってスクールアイドルの宣伝を始めたという過去がある。世間一般で使われている呼び名を公式も便乗して使う話はよくあるので、ここで特に言及したりはしない。注目すべきは学生だけで結成されたというところだ。

 

 μ'sの中では穂乃果たちと絵里たちが直面した課題なのだが、学生という立場上どうしても受験の壁が立ちはだかる。特に中学三年生や高校三年生の受験は己の未来を決める重要な岐路となるので、いくらスクールアイドルに情熱を注ごうとも無視できない。特に現在のスクールアイドルは中高生の数が圧倒的に多いため、この問題にぶち当たる子たちは多いだろう。

 

 その問題はAqoursにも言えることだ。特に現在絶賛受験生の果南、ダイヤ、鞠莉は受験勉強と並行してスクールアイドル活動を続けなければならない。今はスクフェスへ向けての練習のために夏休みを利用して東京に来ているのだが、もちろん受験勉強も兼ねてのことだ。だから2年組や1年組とは違い、練習を終えて本日の予定は終了という訳にはいかない。むしろ練習を終えて家に帰った後が本番なのだ。スクールアイドル活動と受験勉強の両立は決して簡単なものではないが、3年組は夢を叶えたいという強い意志を持って毎日しっかりとどちらの予定もこなしているらしい。

 

 

 ――――と、そうやって擁護したのはいいのだが、本当のところ若干だけど勉強が疎かになっているとダイヤからひっそりと連絡があった。果南と鞠莉の詳しい状況は特に連絡がないため分からないのだが、ダイヤは受験勉強に少し危機感を覚えているらしい。Aqoursの中では誰よりも要領よく作業をこなすイメージがあったためそんな連絡を寄こしてきた時には驚いたのだが、逆にスクールアイドルに熱を入れ過ぎてしまう彼女の性格上の問題もある。そのためうっかり受験勉強を疎かにしてしまっても何ら不思議ではなかった。

 

 そんな経緯があり、今日は俺がダイヤの勉強を見てやることになった次第だ。ついでに作曲作業に来ていた真姫もこの勉強会に巻き込み、これほどまでにない万全な講師2人を携えての勉強会となっている。まあ最初は真姫の姿を生で見たダイヤが感動のあまり気絶しそうになっていたのだが、μ'sメンバーと出会った時はいつものことなので今更気にしない。この調子ではスクフェスでいざμ'sメンバー全員と対面した時にどうなることやら……。

 

 そして勉強会の開始から1時間。リビングでの涼みながらの勉強は順調に進んでいた。

 

 

「あなた、私が教えるまでもなく勉強できるじゃない。必死に頼み込んできたからどれだけ切羽詰まってるのかと思ったけど、これなら心配なさそうね」

「でもこれはまだ基礎の段階ですから。応用になると自信がありませんわ……」

「この調子なら大丈夫だから安心しなさい。凛や穂乃果に教えてたから大体分かるのよ、誰が勉強ができて誰ができないとかね」

「穂乃果さんって、確か真姫さんよりも年上でしたわよね……?」

「μ'sにも色々あるってことよ」

 

 

 年下に勉強を教わるのはμ'sの闇の1つであり、高校時代はそれが日常的になっていたから恐ろしいもんだ。しかしその原因の一端を担ってたのが楓と真姫という化け物染みた賢さを持つ子たちであり、むしろそのイレギュラーの存在で穂乃果や凛どころか、海未や絵里レベルの秀才までもが彼女たちを頼るくらいだった。まあ年下に勉強を教わるのは情けないと思うプライドさえ捨ててしまえば、楓や真姫から勉強を習った方が自分で学ぶよりもよっぽど効率がいい。勉強なんていかに効率よく知識を学ぶかが肝だから、年下とか関係なくノウハウを持っている奴から教わるのが成績アップの近道なのだ。

 

 

 それにしても、最近は騒がしいことばかりでそれに巻き込まれがちだったから、こうして女の子たちとゆったりとした時間を過ごすのは久々だったりする。真姫とダイヤの組み合わせなんていかにも平和そうなコンビであり、こちらから下手に突かなければ俺の精神を擦り減らすような展開にはならないだろう。直近で起こったことと言えば、やれ妹が欲しいだの、やれ下着を盗んだことを認めないだの、やれ腹黒少女と強引にデートさせられるだの、もはや非日常が日常になっている毎日だったのだ。だから今日くらいはほのぼのと平和に過ごして、溜まった疲れを癒したいものだ。

 

 

「はぁ……最近()()()()()からなぁ……」

「「!?!?」」

「ん……?」

 

 

 さっきまで和気あいあいと勉強会をしていた真姫とダイヤだが、2人共いきなりこちらを見つめてきた。顔を赤くしているだけでなく、目を丸くして若干引いているような感じなのでまた俺が何か不適切な発言をしてしまったのかな……? いや、思い返しても()()()()()()()()としか発言していない。だったらどうしてコイツらは勉強の手を止めてまでそわそわしてんだ……?

 

 

「あ、あなたねぇ! いきなりなんてこと言い出すのよ!!」

「先生のせいで集中が途切れて、勉強に手が回らなくなってしまいましたわ!!」

「え? そ、それは悪かったよ……」

 

 

 あれ? どうして俺が謝る展開になってるんですかねぇ……? 疲れが溜まってると愚痴を漏らすのもいけない現場なのかここは?? ほのぼのとした勉強会だと思っていたのだが、まさか弱音を吐くことは許されないブラック企業だったとはな……。そうは言ってもダイヤもさっき応用問題なると不安だと弱気になっていたので、俺だけ攻められるのはおかしくないか? そっか、これがいつもの理不尽展開ってやつなのね。

 

 いや、理不尽展開だと悟って諦めるだけでは成長できないぞ俺。理不尽を押し付けられるからこそ抗わないと、これからの人生が女の子たちに弄ばれてしまう。だからこそ今ここでどちらの立場が上なのか、それをはっきりと分からせてやらないと。神崎零は女の子に甘いとよく言われるが、理不尽を捻じ込まれてもなお寛容に受け止める精神は生憎持ち合わせていない。つまり、今こそ逆襲の時なんだ! ここで言い包められては男が廃るぞ!!

 

 

「でもさ、最近は色々あって溜まってんだよ」

「な゛ぁ……!? い、色々って、あなたどれだけ盛ってるのよ!?」

「いや俺は穏便な生活を送りたいんだけど、みんなが激しいというか、騒がしいというか……」

「は、ははははは激しいですって!? まさかルビィも餌食に……!?」

「ルビィ? あぁ、そういや亜里沙に弄ばれてたなぁ」

「ま、まさかの女の子同士で!?」

「まあ亜里沙がどうしてもっていうからさ」

「あぁ、私のルビィが……!! それに亜里沙さん、あどけない顔をしてまさかそんな趣味が……」

「何想像してんだよお前……」

 

 

 確かにあの時は疑似とはいえ亜里沙に妹ができた訳だが、まさかあそこまでテンションが爆上げするとは思ってもいなかった。だからまた妹に興味を持ち始めて俺に妹が欲しいと懇願されると面倒なんだよなぁ。これもことりたちが亜里沙に変な姉妹像を植え付けてしまったせいだ。全く、妹増産が趣味って変人にもほどがあるぞ……。

 

 

 …………やべ、ぼぉ~っとしてたら眠くなってきた。

 μ'sやAqoursの面子に会った時って大抵騒がしくなって疲労が溜まるから、こんな平和なひと時は久しぶりだ。真姫とダイヤの組み合わせなら何も起きないと俺の身体も安心しているのだろう、女の子2人が同じ部屋にいるこの状況であっても眠気が襲ってくる。もうダイヤに勉強を教えるのは真姫に任せて、俺は日頃の溜まった疲れでも癒そうかな。眠気のせいで理不尽展開に付き合うのも飽きてきたし。

 

 

「悪い、ちょっと溜まってるからベッド行くわ」

「せ、先生!?」

「なんだよその反応……」

「女の子が家に来てるのに、普通そんなことする!? しかもわざわざ私たちに宣言するなんて、考えられないわ……」

「お前らさっきから顔真っ赤だぞ? そこまで暑いのかこの部屋?」

「あなたのせいよ!!」

「先生のせいですわ!!」

「えぇ……」

 

 

 見れば2人共首筋に少し汗をかいているため、かなり興奮しているってのは見て取れる。一体何が原因でそこまでヒートアップしているのかは知らないが、この部屋の冷房はちゃんと効いているため彼女たちが熱くなっている理由がなおさら分からない。自室のベッドに向かうだけでここまで怒られるなんて、もしかして一緒にいて欲しい……とか? そこまで寂しがりな奴らじゃないと思うんだけど、ここまで女の子に求められたら部屋を抜け出すのも気が引ける。仕方ねぇから一緒にいてやるか。

 

 それにしても、コイツらの顔をよく見てみると赤くなっている理由は単に身体が熱いからだけじゃないみたいだ。真姫もダイヤもさっきから身体をもじもじとさせてやたら恥ずかしそうにしているから、トイレを我慢しているようにも見える。でもトイレはすぐそこなんだから我慢する必要なんてないし、そもそも我慢しているだけでここまで顔が赤くなるとは思えない。女の子特有の生理かとも思ったが、それを聞いてしまうとまたデリカシーがないだの何だの言われるので下手に触れないようにしよう。無自覚な発言で理不尽展開になるのならば、最初から避けた方がいい。

 

 そうだよ、余計なことを考える前にとっとと寝よう。よくよく考えればベッドに行くまでもなくリビングのソファで寝られるしな。

 

 

「それじゃあここで寝るから」

「こ、ここで!?」

「以前から思っていましたけど、やっぱり先生って破廉恥の極みですわ……」

「なんでやねん!! 何に怒ってんのかは知らないけど、溜まってんだから許してくれよ」

「私たちが見てる前で溜まってるモノを発散させるなんて、分かってはいたけどとんだ変態ね!」

「別にいいだろ。だってお前とも何度か一緒に寝てるし、傍にいても関係ねぇよ」

「ま、真姫さん……あ、あなた先生の溜まってるモノを……!!」

「ちょっ、変な誤解しないで!! 零!! あなたって人は……!!」

「いや俺たちだったら普通のことだろ」

「普通!? 真姫さんが先生の溜まってるモノを発散させるのが……普通!?」

 

 

 ダイヤは驚きすぎて、俺たちから2、3歩後退りした。真姫も口をあんぐりを開けながら俺を睨みつけている。そこまで威嚇しなくても、真姫とは5年以上も一緒にいる関係なんだから同じ部屋で寝るくらいは別におかしい話ではないと思うけど……。特に俺と真姫は共にインドア派なためか2人きりでもどちらかの自宅にいることが多く、その時は大抵俺が日頃の疲れを癒すために昼寝をしてしまう。そんな過去もあり、彼女と一緒にいる空間で仮眠を取るのは特段珍しいことでもないのだ。

 

 そして真姫は軽度のファザコンなためか、お父さんを労わるためにツボ押しマッサージの特技を身に着けている。だから俺は自宅デートのたびにそのマッサージで疲れを癒してもらっていたんだ。だから真姫と2人きりで会う理由として、単純にデートをしたいという願望以外にも日頃の溜まった疲れを発散させる目的も持ち合わせていたりする。まあ大学に入ってからは真姫が医者になるための勉強を本格的に開始したため、そのマッサージをしてもらうどころか2人きりになる機会も減っちまったんだけどな。

 

 そうだ、この際だからマッサージをしてもらおうか。この溜まりに溜まった疲れを発散させる効率の良い方法は、真姫のマッサージ以外の他にない。

 

 

「真姫。溜まってるからいつものやつをやってくれよ」

「は、はぁああああああああああああああああ!?!?」

「なんで叫ぶんだよ……」

「後輩がいる手前でそんなことできる訳が……。2人きりだったらやるとも言ってないけど!!」

「何故このタイミングでツン属性発揮してんだ……?」

「やっぱり真姫さんが先生の溜まっているモノの処理を……!! これがレジェンドスクールアイドルの風格……。μ'sから感じる大人の魅力はこのせいだったのですね……」

「違うから!! いや完全に違う訳じゃないけど……やっぱり違うから!!」

 

 

 なんだかダイヤの勘違いに真姫がツッコミを入れているような感じだが、肝心のその内容が見えないのは俺の察しが悪いからなのか?

 ダイヤは指を口に当て恥じらうように俺たちから目を背けているのに対し、真姫は耳まで真っ赤にしてダイヤに弁解をしている。この2人の組み合わせだったら平穏な日々を送れると思っていたのに、結局いつものように騒がしくなっちゃうのね……。

 

 

「い、いきなりやれって言われても……その……」

「もしかしてお前、やり方忘れちまったのか? 下半身の方をさ、グッと力を込めて触ってくれればいいんだよ」

「そんなに強くしてないわよ!! 多分……」

「そんなプレイでいつも欲求不満を解消していたとは…。先生ってドMなんですのね……」

「おい。あまり聞こえなかったけど、一応マゾじゃねぇってツッコんでおいてやる」

「確かにあなたのモノは大きいから生半可な力じゃ扱いきれないけど、それを後輩の前でやるなんて……」

「いつもやってたくせに何言ってんだ今更」

「いつも!? 先生と真姫さんは誰かに公開しながらヤってたのですか!?」

「そんな訳ないでしょ!! 誰にも見せたことなんてないわよ!!」

 

 

 疲れを癒してもらおうと思っていたのだが、真姫の様子を見ている限りではそれどころではなさそうだ。何をそんなにムキになっているのかは知らないが、誰かに見られながらマッサージをするのが恥ずかしいのかな? 別に気を使ったりせずとも真姫のマッサージの腕はかなりのもので、むしろそのテクニックをダイヤに学んでもらって千歌たちに施してやればいいと思う。だけど真姫には誰にも見られたくないという職人のようなプライドがあるためか、頑なに俺の近くへも寄ってこようとしない。そこまで拒絶されると恋人として悲しくなってくるんだけど…。

 

 そしてマッサージをしてもらう気でいたからこそ、拒絶されていると分かってまた疲れが襲い掛かってきた。今日の真姫は顔をトマトにして声を荒げているだけなので、もう彼女には触れずそっとしておいた方が身のためだろう。

 でもマッサージをされたいという欲はあるため、こうなったらダメ元でいいからダイヤに頼んでみるか。完全なイメージの話になるが、彼女だったらAqoursの中でも手は器用な方なのでそれなりのマッサージはできるんじゃないかな? これが千歌や善子だったら頼む気さえ起きないだろうけど。

 

 

「なあダイヤ。せっかくだし、今日はお前がやってくれよ」

「な゛、あ゛……!? わ、私が先生の溜まってるモノをその……出せと?」

「まあそういうことになるな」

「ひゃっ!? 私が先生のアレをアレしてアレするとでも!?」

「お前、頭から湯気出てるけど大丈夫か?」

「ちょっと待ちなさい! 私がやってくれないからって、すぐ他の子に手を出すのはどうかと思うんだけど!?」

「そりゃお前がやってくれないからだろうが」

「そ、それは……。とにかく、黒澤さんにやってもらうのはダメだから!」

「そもそもさ、手を出すって言い方が悪すぎるだろ……。性欲が溜まってんのならまだしも――――って、あれ?」

 

 

 これまで真姫とダイヤが言っていたことと、俺の言っていたことが若干噛み合わないと思っていたのだが、さっきの会話で全て繋がった気がするぞ。

 そっか、そういうことだったのか。

 

 

「あのな、お前ら絶対に勘違いしてるよ。俺が溜まってるって言ったのは()()のことであって、決して()()のことじゃねぇからな?」

「「へ……?」」

「ほらやっぱり。最初から俺の性欲が溜まってると思い込んでたから、会話の中でずっと顔を赤くして悶えてたんだな。とんだ淫乱っ子だよお前らは」

「ちょ、ちょっと待って! それじゃああなたは私たちにセクハラしてたんじゃなくて……」

「突拍子もなくそんなことする訳ねぇだろ」

「先生が寝ようって言っていたのは、私たちを巻き込んで破廉恥なことをしようとしていたのではなく……?」

「本当に、マジで寝ようとしてたんだよ」

 

 

 その瞬間、2人の顔が勘違いしている時よりも真っ赤に燃え上がった。ただ勘違いしていただけならまだしも、自分たちが勝手にエロい方に意識を向けていたことに並々ならぬ羞恥心を感じているのだろう。この事実が発覚する前は俺のことを変態だの破廉恥だの罵っていたくせに、本当に変態で破廉恥なのは自分たちだと分かった瞬間にこのしおらしさ。まあ今回を機にどちらが淫乱なのかはっきりしたな。

 

 

「で? 俺に何か言うことは?」

「わ、悪かったわよ……」

「あらぬ疑いをかけて、申し訳ありませんでしたわ……」

「違うだろ? 私たちは愛する人が溜まっていると聞いて発情していた変態です、って言ってみ?」

「「言えるかぁああああああああああああああああああああ!!」」

「でも事実だしなぁ……」

「「ぐっ……」」

 

 

 真姫とダイヤは何とか反抗しようとするも、突き付けられる事実には手も足も出ない。コイツらがどれだけ上手く弁明しようが、真贋(しんがん)が明らかとなった事実の前には無意味ということだ。

 

 それにしても、さっきまで理不尽に怒られていただけにここでマウントを取れるのは物凄く気持ちがいい。しかもその相手が真姫とダイヤというのがまた優越感を助長させ、やはりツリ目で言いたいことを突き刺すように発言する彼女たちに対して優位を取れているからこそ感じる気持ちよさがある。こうして逆襲をすることに快感を覚えてしまうから、余計にサディスティックな性格になっちまうんだろうなぁ俺って。

 

 

「ま、変態なら変態ちゃんらしく、溜まってるモノを発散してもらおうかな。いやぁこちらから言い出すよりも先に人の性欲を発散しようとしてくれたみたいで、俺は嬉しなぁ~」

「「…………」」

「ん? どうした?」

「「ちょ……」」

「ちょ?」

「「調子に乗るなぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」

 

 

 俺の家に窓にヒビが入るほどの怒号が響き渡った。いくら女の子相手にマウントポジションを取ったとしても、扱いを間違えると火山が噴火するからほどほどにな。しかしいくら怒りを込めた怒号であっても、羞恥心に悶えている今の状況ではむしろ可愛らしく思える。

 

 でも今回さぁ、俺って何一つ悪くないよね……?

 

 ともかくμ'sもAqoursも着々と変態化が進んでいるようで安心……なのか?

 真姫とダイヤに一泡吹かせられたのは快感だけど、俺が捌き切れなくなるほどの変態ちゃんになるのはやめてくれよ。

 




 もはや定番となったすれ違いシリーズですが、いつにもまして女の子たちの変態心が爆発していました(笑)
しかしエロいことで恥ずかしがる女の子は描くのも見るのも大好きなので、今後もすれ違いシリーズを執筆する時は下ネタ要素をふんだんに取り入れていきたいと思います!


 そして今回を持ちまして、今年の投稿分は終了となります。
 今年の投稿話数は80話と年々減少傾向にありますが、エタるつもりは毛頭ないので2018年もよろしくお願いします!


 次回はご要望の多かったあの回を、Aqoursバージョンにリメイクします!
 どの回かは……適当に予想してみてください()



新たに☆10評価をくださった

本好きたけちーさん、美園 奏さん

ありがとうございます! 来年の励みにさせてもらいます!
1日で前作を含めた小説を全て読み切ってくださったそうで、もうお疲れ様でしたとしか言いようがありません(笑)

まだ評価をくださってない人は、是非☆10評価をお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

続:私はあなたを想って、夜な夜な1人でヤっちゃうの

 新年あけましておめでとうございます! 

 今回は『このお話が読んでみたい!』とご要望の多かった、3年前のあの回の続編です!
 


 夏休みのとある暇な1日。俺は久々に家のプチ掃除をしている。

 とりあえず今後使えそうだけど今使わないものを押し入れに詰めまくっていたのを思い出し、今しがた押し入れの中を確認したのだが……案の定というべきか、押し入れのキャパシティは限界を迎えていた。俺の考えでは使うか使わないか迷っている物って、大抵使わず押し入れや引き出しの肥やしになることが多いと思っている。だが楓はそう考えてはおらず、もし捨ててしまって後で必要となった場合にもう一度買いなおすのが勿体ないという、俺との家庭的な性格の差が出ている。まあこの家の権力は家事を一手に引き受けている楓が握っているので、俺には物を捨てる捨てないの決定権すらないのだが……。

 

 兄なのに妹に覇権を取られているという悲しい事実はさて置き、押し入れを物色していて1つ気になったものが出てきた。

 それは妙なアンテナが付いたメガネなのだが、俺はこいつに見覚えがある。

 

 こいつとの出会いは4年前、眠りから目覚めた俺の顔にいつの間にか装着されていた。謎のアンテナが付いていることからこのメガネが普通じゃないことはお察しの通り、こいつを装着していると女の子の頭の上に謎の数字が浮かび上がって見える。その数字の意味は何かって? その子が毎週俺をオカズにしてオナニーしてる回数だよ言わせんな。4年前の当時はμ'sのオナニー回数をこれでもかと見せつけられ驚愕の渦に巻き込まれたもんだ。まあ自分があれだけオカズにされてると知って素直に喜べるかと言ったら、やはり嬉しい反面どこか微妙な気持ちにもなってしまう。

 

 ちなみにあの時はこのメガネのバッテリー性能が良くなかったらしく、充電切れとなった際に爆発する仕様だった。実際にあの時の話の締めも爆発オチで、よくよく思い出せば五体満足で生存していることが奇跡なくらいだ。このメガネの作成者はもちろん秋葉なのだが、あの頃の発明品はこぞって爆発するモノが多かった気がする。どれもこれも俺を弄ぶために開発された悪戯な玩具なので、異常が起きて爆発したのではなく機械的に爆発するよう仕組まれていたのが余計にタチが悪い。しかしこれに限ってはあの爆発時に自爆機能が破損したらしく、秋葉の発明品の中では珍しく無害なモノとして家に保管されていたのだ。これ以外のモノは危険すぎて、家に置いてあるだけで警察の家宅捜索案件になるからな……。

 

 そんな経緯で押し入れに封印されたモノを4年ぶりに掘り起こしたのが現状だ。自爆機能は失われたが主要機能は未だ生きているため、充電すれば起動することができるだろう。

 そうなればもちろん、ちょっと遊んでみた気持ちが沸いて出る。自爆機能がなければこのメガネに危険はないため、咎める障害が消えた今は己の欲望が俺の脳を支配していた。女の子の自分磨きの回数を覗き見するのは気が引けるが、驚愕に打ちひしがれると分かっていても見てみたい好奇心がある。この気持ちは激辛だと分かっていてもスパイスの効いた料理を食べたがる辛いモノ好きと同じで、ショックを受けてもいいから味わってみたい欲求への刺激。その背徳を楽しむために、俺は何の躊躇いもなくメガネをポケットに入れた。

 

 都合のいいことに先日、千歌からスクフェスへ向けての作戦会議をやりたいと頼まれている。つまり、合法的にアイツらの根城に足を踏み込むことができる訳だ。元教え子たちのプライベートを覗き見する背徳感はもはや止まることを知らず、俺の邪悪に染まった心は待ちきれぬ楽しみにゾクゾクと震え上がっていた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あっ、先生! いらっしゃいです!」

「あぁ、お邪魔するよ」

 

 

 玄関先で笑顔で出迎えてくれたのは、Aqoursのリーダーである千歌だった。あどけない笑顔で出迎えてくれた彼女だが、こんな幼気な女の子の性事情を覗き見するこの背徳感は堪らない。以前の俺なら教え子の痴態を晒すなんて絶対に避けるべきと考えていただろうけど、ここ最近はμ'sやAqoursに振り回されっぱなしで鬱憤が溜まってるから許してくれ。たまには俺だって女の子を手玉に取りたいんだよ。その先に自慰の回数という過酷な事実が突き付けられようとな。

 

 

「あれ? 先生ってメガネかけてましたっけ?」

「これか? イメチェンだよイメチェン。いつもより賢く見えるだろ?」

「はいっ、似合ってますよ! とてもカッコいいです! 私もメガネをかけてお揃いにしてみようかな……」

 

 

 千歌は頬を紅潮させ、俯きながら妄想に浸っているようだ。こんな純粋な子が嘗てバスの中で服を脱いで俺に迫ってきたとは到底思えない。だがあの時の千歌の行動を考えれば、今は純粋さを気取っているが心の奥底では隠し切れぬ淫乱さが潜んでいるはずだ。今日の俺は攻めの神崎零だから、例え教え子だろうが性事情を白日の下に晒すことに躊躇いはない。

 

 メガネの側面に付いている小さなボタンを押すと例の機能が作動する。

 よし、始めよう。

 

 

 メガネのボタンを押すと、レンズに訳の分からない文字列が羅列する。

 やがて流れる文字列が全て消えレンズの中央に『complete』の文字が表示されると、千歌の頭の上にデジタルの数字が浮かび上がった。まだ数値は見ていないのだが、ここまで来て妙に緊張してきたぞ……。

 

 しかし意気込み半ばに引き下がるのは男が廃るので、ここは当初の覚悟を胸に千歌の頭の上を見よう。

 

 挙動不審な俺を不思議そうに見つめる千歌の頭の上には――――――

 

 

 

 

高海千歌:『1』

 

 

 

 

「…………あぁ、そう」

 

 

 

 なんというか、ありきたりな無難な数字だったので特に驚きはなかった。さっきも言ったけど千歌は純真に見えて純真ではないので、週一でオナっていてもなんら不思議ではない。しかもμ'sの自慰回数を目撃しているせいか、1回という回数はどうもインパクトにかける。もちろんあの千歌が俺をオカズにして自分磨きをしているという事実は相当欲求を掻き立てられるのだが……こう思うってことはμ'sの強さ(意味深)が凄まじいってことだな。

 

 

「先生……? そ、そんなに見つめられると恥ずかしいと言いますか……」

「千歌」

「は、はい!」

「お前はどこまで行っても普通怪獣ちかちーなんだな」

「むっ、それってバカにしてるんですか!? ていうか、話の流れが分からないんですけど……」

「お前があまりにも普通だったから安心したってことだよ」

「は、はぁ……」

 

 

 俺は千歌の頭をポンポンと軽く叩き、メガネを外してAqoursの住宅にお邪魔した。

 正直な話、もっとえげつない回数を予想していたので拍子抜けと言えば拍子抜けだ。だけど常識的に考えればオナニー回数が週一というのは最も健康な回数であり、μ'sを基準として考える方がおかしいことに今気づいた。だから千歌が性事情に関しても普通怪獣を貫いてくれて安心したんだ。それにいきなり腰が抜けるような数字が来られても困るので、無難な数字が来てくれたおかげで精神も乱れることがなかったから良かったのかもしれないな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おっ、曜に梨子じゃないか。お邪魔するよ」

「先生! おはヨーソローです!」

「いらっしゃいませ、先生」

 

 

 リビングでは曜と梨子がエプロンを装着して昼飯の準備をしていた。今日は久々に練習がないためか、彼女たちの雰囲気がかなりゆったりしている気がする。虹ヶ咲の宣戦布告の一件で最近は練習に少し負荷がかかっていたので、彼女たちにとってこの休日はいい休息となるだろう。

 

 

「悪いな。突然お邪魔したのに飯まで用意してもらって」

「いえいえ。むしろ先生と一緒に食卓を囲めるなんて、ずっと夢でしたから!」

「り、梨子ちゃん……? それってもしかして……」

「あっ……い、いやそれはそういうことではなくて!! でもそうでないこともなくて……」

「あははっ、梨子ちゃん顔赤くなりすぎだよ!」

「も、もう……私ってばなんてことを口走って……」

 

 

 こうして彼女たちの様子を眺めていると恋する思春期女子って感じがするのだが、その実、中身は千歌と同じかそれ以上の変態さんだ。梨子はそもそも同人誌を買い漁るくらいのオタク趣味を持ってるし、曜に至っては下着泥棒の件があるため完全に黒である。そもそもコイツらがAqoursの変態2大巨塔である可能性は高いので、もしかしたら今回の回数測定がクライマックスになるかもしれない。

 

 そんな謎の期待を抱きつつ、俺はこっそりメガネを装着して彼女たちをレンズに映す。

 例のごとく測定処理が終わると、梨子と曜の頭の上にデジタルの数字が浮かび上がった。

 

 

 

 

桜内梨子『4』

渡辺曜『5』

 

 

 

 

「多いなオイ!!」

「えっ? せ、先生? いきなり叫んでどうしたんですか……?」

「い、いやなんでもないなんでも……あはは」

 

 

 想像以上の数字に思わずメガネを外す。

 なんだろう、千歌が1回だったから彼女たちは週に2、3回だろうと勝手な想像をしていたせいか、思ったよりも頻繁に自分磨きをしているようで驚きが口から漏れてしまった。4回以上にもなると週の半分以上は夜な夜な自慰行為をしていることになるので、そう考えると形容しがたい変態ちゃんということになる。別に週の半分オナニーに耽っていようがいまいが俺には関係ないし、むしろ俺をそこまで想ってくれてのことだから嬉しくはあるんだけど、今の高校生は性的にも盛っている事実を現実に突き付けられる。まあ田舎に住んでいる子たちだから、刺激のある生活を送ろうと思ったら自慰行為くらいしか勤しむことないのは分かるけどさぁ……。流石、Aqoursの誇る二大巨塔だわコイツら。

 

 

「そういや、他の奴らはどうした? 出かけてるのか?」

「いえ。3年生は受験勉強、1年生は衣装作りをしています」

「そっか。だったら飯ができるまでまだ時間かかるだろうし、みんなに顔を出してくるよ」

「わかりました」

 

 

 たかがリビングから出ていくだけなのに笑顔で見送ってくれる梨子と曜だが、その中身は週4、5回も自分磨きをするオナニー魔人である。そう考えるとAqoursの品位が一気に落ちると言うか、何かあるたびにコイツらの自慰回数が頭に浮かんできそうだ。まさかここまで多いとは思わなかったから、今になって他の子たちの回数を覗き見するのが段々怖くなってきたぞ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「よぉ、勉強捗ってるか?」

「Oh! 先生が来るなんてSurpriseね!」

「おはようございます。今日来るって言ってましたっけ……?」

「お、おはようございますわ……」

 

 

 飯ができるまで3年生が受験勉強をしている部屋にお邪魔したのだが、反応を見る限りどうやらこの3人には俺が来る情報は伝わっていなかったようだ。

 鞠莉と果南は俺の襲来に驚きつつも明るく出迎えてくれたのに対し、ダイヤだけは分が悪い表情をして寛容的ではない。恐らく先日の『溜まってる』騒動が原因と思われ、今でも自分が変態染みてきた事実を受け入れられてないのだろう。言っておくけど、あの騒動は俺のせいじゃなくて真姫とダイヤが勝手に騒ぎ出したものだからな? 変態染みてきたのも自業自得だからな??

 

 

「今日来るとは言ってなかったけど、暇だったから遊びに来ただけだ」

「暇だったら勉強教えてよ先生! どこかの誰かさんだけに教えるなんてズルいし~」

「そうだね。どこかの誰かさんが抜け駆けして、1人で先生に会いに行くなんてズルいよね~」

「あ、あの件は謝ったではありませんか! 千歌さんたちも許してくれましたし……」

「「覚えてない」」

「あ、あなたたち……!!」

 

 

 あの勉強会って他のみんなに内緒で開いてたのか。

 しかし話の流れを読む限り、鞠莉や果南に問い詰められただけでなく千歌たちにも怒られたってことか……? 想像以上に殺伐としてるんだなAqoursの内部って……。

 

 

 そんなことよりも、俺がここへ来た目的を果たそうか。

 鞠莉たちが言い争っている間に素早くメガネを装着し、コイツらの素性を赤裸々にするボタンを押す。さっきの梨子と曜の数値にビビッてしまってコイツらの数値を覗くのが怖くはあるのだが、ここまで来て諦める選択肢はない。それにファンのみんなは彼女たちの夜のプライベートを知りたがっているはずなので、ジャーナリストの俺が情報を世間に届けなければ!!

 

 

 

 

松浦果南『0』

小原鞠莉『1』

黒澤ダイヤ『0』

 

 

 

 

「つまんね!!」

「えっ!? 先生……?」

「い、いやお前らって健全グループなんだなぁと思って」

「はぁ……」

 

 

 いかんいかん、思わず感情を口に出してしまった。

 梨子と曜の回数を知った時も驚いたけど、今回はあまりにも健全すぎて逆に驚いた。ツッコミどころもない至って健全な子たちで嬉しくはあるものの、なんかこう、面白味が全くないので企画としては失敗な気がする。この子たちの教師としてなら安心するけど、ネタとしてなら完全にアウトだ。1人くらい突出していても文句は言わなかったのに、3人全員がここまで健康的な回数だともうこれ以上言うことがねぇ……。

 

 

「どうしたんですの先生、そんな暗い顔をして……。まさかこの問題の答えが間違っていたとか!?」

「いやいいんだよ。お前らはずっとこのままでいてくれればな」

「間違えた問題をそのまま放置なんてできる訳ないですわ!!」

「もう先生! ダイヤだけじゃなくて私にもTeachingしてよ!」

「できれば私もお願いしたいなぁ~って……」

 

 

 あっ、また勘違いが始まってるぞこれ。でもお前らの自慰回数があまりにも健全すぎて面白くないとは口が裂けても言えない。

 そしてここにいても話題が進展することもないので、俺はここでお暇させてもらおうか。結局、3年組で収穫できたネタが一切なかったような……? 一応ネタがなかったことがネタってことで納得しておこう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おっ、衣装作りやってるな」

「あ、先生! 来ていたんですね!」

「誰かと思ったらアンタか」

「先生が来てくれるなんて、衣装作りが捗りそうずら!」

 

 

 最後に衣装作りをしている1年組の部屋にやって来た。他のみんなもそうだけど、突然の訪問なのに暖かく歓迎してくれるのでこれほど嬉しいことはない。裏でみんなの自慰回収を覗き見するという画策をしているのが申し訳ないくらいだ。まあ申し訳ないと思ってもやめないけどね!

 

 

「これって、スクフェスで着る衣装を作ってるのか?」

「はいっ、今回はルビィちゃんが考案したんですよ」

「ラフ画だけ見てもこれだけ可愛いんだから、お前らが来たらもっと可愛いだろうな」

「えへへ、そういってもらえると早く先生にお披露目したいです!」

「お披露目するのはいいけど、アンタが変な目で私たちを見てこないか不安だけどね」

「しねぇよ、多分……」

 

 

 普通に考えてさ、女の子が腋や太ももを丸出しにした格好を見て何も感じない男の方が少ないだろ。スクールアイドルの衣装って可愛く魅せるために露出度が高いモノも多いから、必然的にその露出に目を向けてしまうのが男の性だ。だから変な目で見るなと言われる方が難しく、むしろスクールアイドルとしてはそうやって男性ファンの注目を稼ぐことがスクフェスの人気投票で勝ち抜く要因の1つである。特に花丸やルビィの場合、普段は純粋無垢な子が少し露出のある服を着ているってギャップがそそられる訳で、もはやスクールアイドルとして露出は欠かせない要素だろう。

 

 そんな子たちの性事情を今から覗き見するってんだから、これまた背徳を感じざるを得ない。正直に言ってしまうとAqoursの1年組って2年組や3年組と比べればよっぽど純真な奴が多いから、これまた先程の3年組と同じく何もネタ要素なしで終わるかもしれない。Aqours内でも性欲が強そうな梨子と曜の回数を初っ端に明らかにしてしまったせいか、もうこの段階で消化試合の流れになっているのが何ともね……。

 

 まあ平和に終わればそれはそれでAqoursが健全なスクールアイドルと結論が出るため、無難な結果でも悔やむことはない。確かにネタとしては大失敗だが、μ'sという変態的にもネタ要素満載の奴らがいるのでAqoursは普通でいて欲しいと切に願うよ。

 

 そして衣装作りに集中し始めた1年組の隙を突き、俺は三度メガネをかける。

 そして側面のボタンを押し、Aqoursで最も安心安全と謳われる1年組の性事情をここへ晒した。

 

 

 

 

津島善子『2』

国木田花丸『0』

 

 

 

 

 そうだよな、そんな感じだよな。善子が週2でやってるってのも驚きだが、今の高校生だったら平均でそれくらいはやるだろうと思っているので特段語ることもない。花丸に至っては完全に予想通りで、やはりAqoursに対して自慰回数で弄るのはネタ的にも無理だなこりゃ。

 

 こうなったらルビィも同じようなものだろうし、最後の最後まで俺の精神を揺るがすことは起きなかった―――――

 

 

 

 

黒澤ルビィ『6』

 

 

 

 

「ぶっ!!」

「ひゃっ!? ア、アンタねぇ汚いモノ飛ばすんじゃないわよ!!」

「先生? 顔青くなってるずら……」

「せ、先生に見つめられてる……」

 

 

 もしかしたら俺の目が腐っていたのかもしれない。そう思って何度もルビィの頭の上の数字を見直すのだが、いくら見直しても数字が変わることはない。

 いやいやいやいやいや、6回って! Aqoursの中でも純真を具現化したようなこの子が、まさか自慰回数トップだなんて想像できねぇよ。ここへ来てとんでもない爆弾を落としてきやがって、さっきはオチなしでつまらないとか言って悪かったな。お前がナンバー1だよ、ルビィ。

 

 だがルビィの6回という回数は納得できない訳ではない。表向きでは純粋無垢な少女だが、裏ではその手の知識に興味があり夜な夜な自分にインプットしているらしい。その証拠に薄い本のタイトルを聞いただけでどんなシチュエーションの本なのか容易に想像できたり、俺やμ'sからの何気ない変態発言にすぐ顔を赤くしたりする。その様子を鑑みるに、彼女が夜にこそこそやっていることは明白である。まあ表で純潔を気取っている奴ほど裏で何をやってるのか分からないってのは、もはや女の子の一種の特性だから仕方がない。それにしてもまだ高校一年生のルビィがここまで盛っていることに驚いたんだけど……。

 

 何が面白いって、週6ってことは1日だけしっかり休んでいる日があるということ。ここまで来たら毎日やってくれていた方がネタ的にも面白かったのに……。ていうか、週に6回もやって盛ってるのに1日の休日を挟むって我慢できるのかな? ルビィなりの健康を考えたサイクルが週6休日1のペースなんだったら文句は言わないけどさぁ。

 

 でも、俺としてはちょっと変態心を持ってる隠れビッチのような女の子は結構好きだけどね。

 

 

「ふぇ……? 先生? そんな微笑ましい顔をしてどうしたんですか? ま、まさかこの衣装が気にくわなかったり!?」

「いや好きだよ。衣装もお前も」

「えっ……ふぇええええええええええええええええっ!? す、好き!?」

「ちょっ、どうしてこんなところで告白してるのよ!!」

「マ、マルのことはどう思ってますか……?」

「ズラ丸も便乗するな!」

 

 

 最後の最後で衝撃的な事実を突きつけられながらも、μ'sの回数を見て耐性が付いているせいか平静を保つことができた。

 でも忘れてはいけない、Aqoursもまた段々とμ's化(変態化)していることに。思春期だから性に敏感だと言われたらそれまでだが、この回数は俺を想ってヤってる回数なのだ。1人の男を週に何度もオカズにするって、サラッと言ってるけど相当なことだからな……。

 

 

 性事情を暴いたのはいいものの、今後彼女たちを見る目が変わっちまうなこれは。Aqoursのみんなはそれほど多くはヤっていないと思っていたため、これはメガネを使って少しばかり後悔。

 

 やっぱり女の子の性事情は安直に覗くものじゃないと、静かに悟った瞬間だった。

 

 




 感想等でちょくちょく『μ'sの自慰回数を覗き見する回のAqours編を読んでみたいです』とご要望をいただいていたので、今回は重い腰を上げてようやく形にすることが出来ました。
 かなり前からたくさんの方からいただいていたご要望なのですが、この小説でのAqoursのキャラが色濃くなるまでずっと溜め込んでいた次第です。Aqoursのキャラは最近はまたμ'sと絡むことが多く、それによって皆さんの中でそれぞれのキャラも確立されたかなぁと思います。あまりキャラが色濃くない間にこの話を執筆してしまうと、自慰回数が『0』or『1』になりかねないですから(笑)


 そして遅くなりましたが、あけましておめでとうございます!
 今年も零君たち共々よろしくお願いいたします!


次回は千歌&雪穂のメイン回です!


新たに☆10評価をくださった

ムラサメxxさん

ありがとうございます!
まだ評価をくださってない人は、是非☆10評価をお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夢と決意の撮影会

今回は雪穂&千歌回です!
こんなに話の雰囲気が甘くなったのは、かなり久々な気がします。


 

 μ'sがスクールアイドルに復帰したと言っても、彼女たちは彼女たちのやるべきことがある。例えばにこの場合は本業のアイドルのレッスンがあるし、真姫の場合は医学の勉強、絵里や希に至っては立派な社会人だ。それは雪穂も同じであり、彼女は大学生でありながら新人のファッションモデルでもある。つまりこの夏休みはスクールアイドルとファッションモデルの両方をこなしているって訳だ。

 

 雪穂がファッションモデルとしてスカウトされたのは、大学入学直後の春。μ'sという伝説級のスクールアイドルのメンバーだったためか、彼女の魅力に目を付けた有名ファッション会社が雪穂をスカウトしにやって来た。当初は亜里沙と楓を含めたシスターズへのオファーだったのだが、楓が兄の専属お世話係になりたいと本気で夢見ているため、雪穂と亜里沙の2人がそのオファーを受けた次第だ。

 仕事を始めた当時の2人は、言われたからとりあえずやってみるといったお試し感覚で仕事をしていた。だが段々と自分がモデルに従事することの魅力を感じ取れたようで、今では誇りを持ってファッションモデルの仕事に勤しんでいる。

 

 そして今日、俺と千歌はそのファッション会社の撮影現場にお邪魔していた。新作の服を雪穂に着てもらい、他のモデルさんたちと一緒に公園やカフェで撮影をするようだ。ちなみに亜里沙は別日に撮影のため、今日はお休みである。

 

 

「私のわがままで突然お邪魔しちゃって、申し訳ないです」

「いいよいいよ。練習の気分転換にもなるだろうしね」

「ありがとうございます! スクフェスよりも前に雪穂さんの晴れ姿を見られるなんて、超感激ですから!」

「あはは、こちらこそありがとね。それに零君も、来てくれてありがとう」

「おう。なんだかんだ一度来てみたいと思ってたしな」

 

 

 実は雪穂の撮影現場にお邪魔するのはこれが初めてだったりする。前々から行きたいとは思っていたのだが、中々予定が合わず(ニート生活のため)先延ばしになっていたところに千歌のお願いが舞い込んできた。千歌に雪穂の仕事の話をしたところ、彼女が撮影現場に行ってみたいと懇願してきたので丁度良く俺も便乗した訳だ。

 

 ファッションモデルの撮影ってテレビではよく見るけど、こうして実際に見学してみるとスタッフさんの多さを実感する。雪穂曰く今日はそこまで長時間の撮影ではないと聞いていたので、なおさらたくさんのスタッフさんがいることに驚いてしまった。撮影セットを準備する人、雪穂に着てもらう服のコーディネートをする人、カメラをスタンバイする人、指示を出す人等々、あまりにも多くの人が忙しなくしているため、こうして座っているのが申し訳なくなってくるな……。

 

 

「ねぇ先生。私たちも何かお手伝いした方がいいんでしょうか……?」

「やっぱりそう思ってたか。でも素人の俺たちだと逆に邪魔になるだろうし、おとなしく待機しよう」

「はい。それにしても、なんだかドキドキしてきました」

「別にお前が撮影される訳じゃないんだぞ……」

 

 

 ここへ来る前に千歌にどうして雪穂の撮影を見たかったのか、その理由を聞いてみたところ、どうやら先日の虹ヶ咲メンバーの宣戦布告が原因らしい。何故自分たちが標的になっているのかは分からないが、全国放送で名を挙げられてまで宣戦布告された以上、虹ヶ咲のスクールアイドル同好会には絶対に負けられない強い意志を抱いたようだ。だが今の自分たちでは今の実力以上の力を発揮できるとは到底思えないため、何かしら力になるヒントを得るために雪穂の撮影会に行ってみたい――――というのが千歌のお願いだった。

 

 虹ヶ咲の奴らのライブは俺ですら感銘を受けた。そしてあのにこや楓すらも黙らせるほどの魅力と印象を与えるほどなので、Aqoursはμ's以上の感動とプレッシャーを受けたに違いない。だからこそ千歌はこうして見学ながらも色んな体験をすることで、少しでもAqoursの魅力を上げるヒントを探しているのだ。俺もできる限り協力してあげたいけど、己の魅力を全国の人たちの魅せるのは何者でもない千歌たち自身。まずは自分たちでAqoursの輝きを上げる方法を模索してもらい、その方法が確立次第俺も手伝ってやる。そもそも俺なんていなくたって、コイツらなら自分たちの道くらい自分たちで切り開けると思うけどね。

 

 

 そんなこんなでこれまでの経緯を思い出していると、撮影現場がより慌ただしくなっていることに気が付いた。

 いやさっきも十分忙しそうにしていたんだけど、今はスタッフさんたちの焦りがこちらにも伝わってくる。何か緊急事態でも起こったのだろうか……?

 

 するとメガネをかけた女性スタッフさんが、スタンバイ中の雪穂の元へ駆け寄った。

 

 

「ゴメン雪穂ちゃん! 一緒に撮影をしてくれる子たちが夏風邪で急に欠席になっちゃったんだ……」

「えっ、そうなんですか? それじゃあ今日の撮影は中止……とか?」

「そこをどうするかなのよねぇ。欠席した子たちの風邪がいつ治るかも分からないから次の撮影の日程も組めないし、かといってこちらもスケジュールに余裕がある訳じゃない」

「私以外の人の撮影もありますから、そこは仕方ないですね……」

「せめていい感じの代役を立てられればいいんだけど――――――あっ!」

 

 

 ぼぉ~っとしながら座っていた俺たちに、女性スタッフさんの目が止まる。

 そしてそのスタッフさんは雪穂の手を引きながら俺たちの元へとやって来た。なんだろう、また余計なことに巻き込まれる気がするぞ……。

 

 

「あなたたち……」

「な、なんですか……?」

「2人とも雑誌に写真を載せられるくらい容姿は申し分なし。それにスタイルもいいし、これならいけるかな」

 

 

 スタッフさんは俺と千歌を品定めするように見回しながら、何やら納得をしたようだ。今日はただ雪穂の撮影を眺めているだけで事が済むと思っていたのだが、またしても不穏な予感がプンプンする。いやね、もう何回も言ってるじゃん、たまには休みたいんだって。どうして俺の周りの人たちってのは俺を事態の中心に巻き込もうとするかねぇ……。

 

 

「あなたたちにお願いがあるの! 雪穂ちゃんと一緒に撮影をする予定だったモデルさん2人が、突然風邪で休んじゃって……」

「つまり、俺たちが代役になれってことですよね?」

「そう! 話が早くて助かるわ!」

「いや、まだ受けると決まった訳じゃ――――」

「やります!!」

「は、はぁ!?」

「私、一度でいいからモデルさんのお仕事を体験したかったんです! 今日はAqoursの成長のためにここに来たっていうのもありますが、実はモデルさんの仕事を体験できたり……とか、ちょっと下心もあったんですよ♪」

「マジかよ……」

 

 

 自分を普通怪獣だと思っている千歌のことだから、モデルの代役を頼まれても謙遜して断るだろうと考えていたのだが……現実は非情だった。こうなると現場の慌ただしさ的にも、俺が断る流れを作り出すこともできねぇじゃん。だったら千歌だけを代役にさせて俺は休めばいいと思ったけど、撮影用の衣装を見る限りではどうやら男物の服も結構な数ある模様。つまり雪穂と千歌だけでは今回の撮影は成り立たないって訳だ。

 

 それじゃあどうするか。答えなんて俺が決めるまでもなく1つしかない。

 それに千歌も雪穂もスタッフさんも、全員俺を期待を込めた眼差しで見つめてくるため逃げ場すらもなかった。

 

 

「はぁ……はいはい、分かりましたよ。やりますから」

「先生と一緒に撮影だなんて、やったぁっ!」

「ゴメンなさい零君。突然こんなことになっちゃって」

「いいよ別に。それに困ってるみんなを見て堂々と座っている方が気まずいだろ。まあ少し躊躇したけど……」

「でもありがとうね。それに、報酬はたんまりと出すから期待してていいよ♪」

「よしっ、やるぞお前ら!」

「「現金な人……」」

 

 

 千歌と雪穂にツッコミを入れられてしまったものの、俺の決意はお金により固まった。だってこれはお仕事でありバイトではない。つまり今回の代役で貰える報酬は、バイトで稼ぐようなお小遣い程度ではないということだ。そんなの俄然やる気になるに決まってるだろ。やっぱりさ、世の中は金なんだよ金。

 

 …………こんな主人公でいいのか?

 

 

 まあいいや。とにかく、急遽俺と千歌が応援に入り、雪穂と3人での撮影会が幕を開けた。

 また不測の事態に巻き込まれたと言っても、今回はちゃんとした仕事なので俺の精神に疲労が溜まるような事態は起きないだろう……多分。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 フラグ回収乙とはよく言ったものだが、まさか撮影一発目からこんな事態になるとは思ってもいなかった。

 撮影用の服に着替えた俺たちは早速3人で撮影に臨んだ。だがそのシチュエーションというのが、男女で仲睦まじく手を繋ぐ、というものだった。正直大したことないじゃないかと思うかもしれないけど、そのシチュエーションでの撮影は俺と千歌の2人が映るのだ。俺としては特段抵抗はないんだけど、千歌は俺の恋人役になると聞いた瞬間から顔を赤くし身体を震わせていた。

 

 

「せ、先生の恋人……私が?」

「高海さん、リラックスリラックス!」

 

 

 雪穂が頑張って千歌を宥めようとするも、千歌は俺と目を合わせるたびに頬を染めてそっぽを向いてしまう。さっきまでは夢見ていたモデルを体験できるとテンションを上げていたにも関わらず、今ではバイブレーションのようにその場で震えるだけだ。見ている分には可愛いんだけど、これじゃあ撮影がいつまで経っても進まねぇぞ……。

 

 ちなみにこの状況で一番テンションが高いのは、さっき俺たちを(無理矢理)代役にさせた女性スタッフさんだった。

 

 

「いいねいいねその表情! 撮影用の服が霞んじゃうくらい可愛いよ♪」

「ふぇっ!?」

「ちょっと! そんなこと言ったら高海さんが余計に恥ずかしがっちゃいますよ!」

「いやぁゴメンゴメン♪」

 

 

 この人の弄り方、どことなく楓や秋葉に似ている気がする……。そう思うと突然腹パンしたくなってきたのだが、ここは撮影現場で仕事の場、俺も大人の対応でこの雰囲気を鎮めるとしよう。

 

 

「おい千歌」

「は、はい……ひゃっ!!」

「そんなに驚かなくてもいいだろ。たかが手を繋いだくらいで……」

「手が……先生の手が……!!」

 

 

 千歌は羞恥に赤面しながら俺に握られた自分の手を見つめ、今にも気絶しそうなくらいに困惑している。己の恋心をはっきりと自覚しているせいか、内浦にいる時の彼女とは全くの別人だ。俺が教育実習で内浦にいた頃は所構わず俺の隣を陣取る奴だったのに、ここまでキャラが変わるとは……。恋愛は人を変えると言うが、コイツこそまさにその典型だな。

 

 そして女性スタッフさんはこの時を待ってましたかと言わんばかりに、カメラさんに素早く撮影指示を出す。普段はモデルさんたちの営業スマイルを見慣れているせいか、千歌の純粋な反応が物珍しいのだろう。さっきからメガネを光らせ興奮しっぱなしだ。もうね、あの人は無視しよう……うん。

 

 そう思いながら撮影に集中しようとすると、俺の隣から千歌が消えていることに気が付いた。どこに行ったのかと辺りを見渡しても、いるのは雪穂とスタッフさんたちだけ。まさかアイツ恥ずかしくなって逃げたのか……と思っていた矢先、俺の背中から妙な温もりを感じる。軽く首を捻ってみると、そこには赤面した表情を隠すように背中に顔を埋めた千歌がいた。な、何やってんだコイツ……?

 

 

「高海さん? 零君の後ろに隠れてたらカメラに映らないよ?」

「だ、だって先生と手を繋ぎながらのツーショットなんて……嬉しいけど恥ずかしくて」

「いや、これ撮影だからね……」

「今の私、絶対に顔真っ赤ですから!! こんな表情撮らないでください!!」

「撮影なのに撮らないでくださいってよく言えたよな……」

 

 

 結局その後も千歌は平静を取り戻すことができなかったので、一旦彼女には休憩してもらうことになった。あの様子じゃ撮影は続行不可能なんだけど、スタッフさん的にはいい絵が撮れたらしくて大満足らしい。こちらとしてはただ手を繋いでいただけなので、これだけで報酬が貰えるのなら安いモノだ。最初は若い男女のモデルが揃ってるからそこそこ過激な恋人プレイをさせられるのかとひやひやしていたが、この程度なら余裕で切り抜けられそうだな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 と、思っていた時期が俺にもありました。

 今度は俺と雪穂の2人の撮影になったのだが、この状況は流石の俺でも緊張を感じざるを得ない。

 

 俺と雪穂はカフェテラスでデートをしている――――という、撮影上の設定だ。丸いテーブルを挟み2人で向かい合っている。ここまでならまだ普通なのだが、そのテーブルの上に置かれているモノが俺たちの緊張を大いに煽っていた。

 テーブルの中央に置かれているのは、オレンジジュースが注がれた大きめのグラス。そのグラスからはストローが伸びており、ハートマークを形成した後グラス口の上あたりで2手に分岐していた。そう、お察しの通りカップル用のジュースがテーブルに置かれていたのだ。

 

 お前ら恋人同士なんだからこれくらい普通じゃん、とツッコミを入れられるのは重々承知である。しかし雪穂とはデートをしたことがあっても、このように周囲にラブラブのリア充オーラを見せつけることはなかったため余計に意識してしまうんだ。μ'sの面々が非常に個性的であることから、女の子によってデートの中身も千差万別。穂乃果やことりのように口から砂糖を吐くほど甘いデートをすることもあれば、海未や雪穂のように堅実で落ち着いたデートをすることもある。

 つまり、雪穂とカップルらしいことをするのは珍しいってことだ。しかもこれは撮影用のシチュエーションであり、当然ながら周りに千歌とスタッフさんたちもいる。そんな状況でこのジュースを2人で飲めと言われたんだ、そりゃ緊張もするだろ。

 

 普段は恋愛絡みで取り乱すことはほとんどない俺だが、今回に限っては周りから見られていることも相まって中々行動に移せないでいた。それは雪穂も同じようで、さっきまで先輩らしく千歌に撮影の指導をしていたとは思えないほどの内気っぷりだ。これまで雪穂と外出する時はデートと言うよりかは友達同士のお買い物の感覚の方が強かったため、いきなりこんなシチュエーションを用意されたら微妙な空気になってしまうのは必然なのかもしれない。

 

 雪穂は頬を紅潮させながら、身体を寄り添わせて落ち着きがなかった。このままではまた千歌の時のように撮影が進まず、スタッフさんたちの目に延々と晒されるのは正直俺も恥ずかしくて我慢できない。ここはある程度踏ん切りをつけるしかないか……。

 

 

「なぁ雪穂」

「ひゃ、ひゃいっ!」

「千歌と同じ反応してんじゃねぇかお前……。まあいいや、そのジュースだけど、俺と一緒に飲むのが恥ずかしいならお前だけが飲め。俺はストローに口をつけるフリだけしておくからさ」

「べ、別に嫌とかそんなのじゃないんです。むしろ、零君と一緒に飲みたいと言いますか……」

「えっ、いいのか?」

 

 

 こくり、と雪穂は小さく頷く。彼女は恋人相手であっても男女の仲を見せつけるような真似はしない。だからこそ俺は一歩引いて雪穂にジュースを譲ろうと思っていたのだが、意外にも乗り気にようだ。まあ現在は厳密には2人きりではなく、仕事上やらなければならない雰囲気なので逆にその流れを利用したのかもしれない。雪穂は普段クールに振舞い過ぎて素直になれない性格なので、作られたシチュエーションであっても珍しい一面を見られたのはかなりの収穫かもな。

 

 それにしても、さっきから俺に向けられる目線が物凄く熱いんだけど……。具体的には女性スタッフさんの興奮した目線、そして千歌からの期待の籠った熱い目線だ。ヤバい、今更だけど俺の心臓も高鳴ってきやがった。ドラマを見ていると『あんな演技なんて俺でもできる』と高を括る時があるが、公開プレイでもあり羞恥プレイでもあるこの状況にいつも晒されている俳優や女優の人たちは凄い、と実感した瞬間だった。

 

 すると、俺よりも先に雪穂が動き始めた。雪穂側に伸びたストローの先端に口を付け、上目遣いで俺の参戦を待っている。

 つうかなんだよこの姿。唇の先っちょでストローを軽く挟み込み、頬を染めて上目でこちらを誘ってるなんて可愛すぎか全く。日頃から女の子の魅力でドキドキすることは数あれど、ここまで胸を貫かれたのは久しぶりかもしれない。雪穂も雪穂で羞恥心が膨らんでいるようで、ストローを咥えこちらを見つめながら顔がどんどん赤くなっていく。このまま何もアクションを起こさず待機していたら彼女が一体どんな反応をするのか、そんな嗜虐的な気持ちも沸いて出る。しかし俺としてもこの心臓の高鳴りを維持したまま何もしないというのは精神的に無理があるため、己の唇をストローに向け進行させた。

 

 

 そして。

 

 遂に。

 

 透明なストローがオレンジ色に満たされる。

 ジュースはオレンジ色のハートマークを描きながら、俺と雪穂の口に注がれた。

 

 

「私、アニメやドラマで何度もこんなシーンを見てきましたけど、こんなに胸がドキドキするのは初めてです……」

「奇遇ね、私もよ。撮影スタッフに配属されて長いけど、ここまで濃密で甘い絵を取れたのは初めてだから」

 

 

 ちょっ、聞こえてるから!! 

 恥ずかしさのあまり身体が熱くなりすぎて、冷たいジュースが口に入った瞬間にぬるま湯に浄化されそうなくらいだ。女の子に羞恥プレイを仕掛けるのは得意だけど、公に晒されるのは慣れてないから勘弁してくれ。しかも雪穂がジュースを飲みながら俺の目を真っすぐ見つめてくるので余計に戸惑ってしまう。コイツ恥ずかしいんじゃなかったのかよ、どうしてこっちをガン見してるんだ……!?

 

 

「私も先生と一緒にあんなことができたら……。そのためにはAqoursとして、私としての魅力も上げないと……」

 

 

 何やら千歌は堅く決心をしたようで、俺たちを眺める目付きが真剣そのものに変わる。

 だが俺からしてみれば、そこまでまじまじと観察するように見られると焦っちゃうんだよなぁ……。雪穂と一緒に恋人らしいことができたのは嬉しいんだけど、せめてたくさんの人から注目されているこの状況だけは早く終わってくれ! このシチュエーション以外だったらどんな撮影でも付き合ってやるから!!

 

 その時、女性スタッフさんのメガネがまた怪しく光る。

 

 

「よしっ、千歌ちゃん。次はあの中に混じってみようか!」

「えっ……えぇえええぇっ!?」

「次の撮影が最大の山場。零君と雪穂ちゃん、そして千歌ちゃんでのスリーショットだよ」

 

 

 とんでもない提案をしでかしたスタッフさんに対し、千歌は開いた口が塞がらなかった。

 そして雪穂と一緒にジュースを飲むことに専念していた俺はまだその言葉が耳に入っていなかったため、驚愕の提案を知らされるのはもう少し先のことだった。

 

 

 

 

To Be Continued……

 

 




ここまで雰囲気が甘々だと、この小説は本当に『新日常』なのか怪しくなってきますね(笑) 安心してください、後編はもっと甘くなる予定ですよ!( )

ちなみに、雪穂がモデルをやっている設定は取って付けたのではなく……覚えている方はいますかね?

次回は雪穂&千歌回の後編です!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私の心は輝いてる

 雪穂&千歌回の後編です!
 ここまでガッツリとした恋愛話は久しぶりなので、なんだか新鮮ですね。


 

 今回の撮影って、元々こんなシチュエーションで撮る予定だったのだろうか?

 そう疑問が浮かんでも仕方がないくらい、今のシチュエーションが不自然だった。

 

 撮影場所はカフェから移動してとある公園。1つのベンチに俺と雪穂、千歌の3人が座っている構図である。

 だが俺たちの座っているポジションがおかしいというか、明らかにスタッフさんの遊び心で誘導されてしまった気がする。その並び順は俺がベンチの真ん中に座り、その右に千歌、左に雪穂が座っているというもの。いやね、女の子3人なら仲の良い友達同士で片を付けられるのだが、男1人を挟んで女の子2人っていうこのポジショニングは確実に悪い意図で仕組まれたものとしか思えない。今回の撮影のテーマはデートと聞いていたのだが、これでは女の子2人を侍らせているただの最低野郎じゃねぇか。まあ実際には恋人がたくさんいるため否定はできないけど、せめて撮影の中くらいではまともな恋愛を育ませてくれよ……。

 

 と言っても、このシチュエーションを仕組んだ女性スタッフさんはメガネを光らせ興奮している。休憩中に他のスタッフさんに聞いたのだが、撮影指示を出している女性スタッフさんは一度興奮すると頑なに意見を曲げない性格らしい。だからこの状況に文句を言ったところで、俺たちが折れない限り撮影は終わらないって訳だ。

 

 その女性スタッフさんの様子を見て、俺の右に座っている千歌が疑問を漏らす。

 

 

「あのぉ……雪穂さんの撮影って、いつもこんな感じなんですか?」

「あの人が現場監督を務める時は、いつも軌道を逸した写真ばかり取られるよ。でもここまで露骨なのは初めてかも」

 

 

 雪穂は暴走するスタッフさんを見ても澄ました顔をしていたため、恐らく慣れているのだろうと思っていたが本当だった。まあ職場の雰囲気は働き場所を決める上での重要な要素であり、この撮影現場は1人の暴走を覗けばほのぼのとしているためそこは割り切るしかなさそうだ。

 

 そういや女性モデルって男性モデルと一緒に写真を撮ることはあるのだろうか? 人によって異性と撮影をするのがOKだったりNGだったりを決められるとか、その辺のモデル界隈事情が分かっていないため気になるところだ。雪穂のモデルとしてのキャリアは1年程度になるけど、その間に他の男性モデルとデートのようなシチュエーションで撮影したりするのかなやっぱり。あぁ、気になり出したら撮影に集中できなくなってきたぞ……。

 

 

「零君……? 私じゃなくてカメラを見ないと」

「あっ、いやさ、お前って男性モデルの人と撮影したりすんの?」

「えっ? 私の所属している会社って女性ファッション誌専門だよ? 男性のモデルさん自体がいないから」

「あっ、そっか」

「珍しいですね、先生がそんなポカミスするなんて」

「零君、もしかして……」

 

 

 雪穂が俺以外とこんなことをしていないと安心した反面、雪穂と千歌にあっさり自分の心を見破られたので焦った。女心は今でも分からないくせに、俺の考えはすぐ女の子たちにバレちゃうんだよなぁ……。男の嫉妬ほど見苦しいモノはないと言われるが、俺って感情が顔に出やすいから見苦しい以前にバレバレなのかもしれない。

 

 

「安心してください。私の隣にいる男性は、零君しかあり得ませんから♪」

「お前……」

 

 

 な、なにこの可愛い生き物!? 女の子を惚れさせることはあっても、こうして女の子に胸を射抜かれるなんてあまりなかったからいつぶりだろう……?

 雪穂は自分の指を俺の指に絡めながら手を繋ぐと、穂乃果顔負けの明るい笑顔を向ける。普段の彼女が向ける優しい笑みとは雰囲気が全く違うため、思わぬギャップに不覚にも惚れてしまった。これはもうあれだ、雪穂さえいればいいってやつだな。

 

 

「照れている零君って久しぶりに見た気がします。案外こういうのに弱いんですね」

「うるせぇな。そんな笑顔を向けられたら、誰でも心掴まれるから。つうかお前、意外とノリノリじゃね?」

「だってこんな機会でもないと、ここまで積極的になれませんから」

「スタッフさんたちに見られてるのに? 会話は聞かれてないだろうけどさ……」

「どうしてですかね? 見せつけたい……とか?」

「俺に聞くなよ……」

「私はいいですよ、こうしているところを誰かに見られても」

 

 

 コイツ、澄ました顔で恥ずかしいことを言いやがって。しかも他の人に恋人プレイを見せつけたいとか、度し難い性格にも程があるっつうの。むしろいつもここまで積極的になれない性格上、用意されたシチュエーションならばグイグイ攻められるということだろうか。普段クールな奴のデレは破壊力が大きすぎて、俺の鋼メンタルもすぐに溶けちまうぞ……。

 

 すると、背中に目線が小さく突き刺さっていることに気が付く。そういやさっきから雪穂と対面していたので、俺の右隣に千歌が座っていることをすっかり忘れてしまっていた。もしかしたら2人だけのムードを作っていることに嫉妬しているのかと思い、恐る恐る千歌の方を振り向いてみると――――――意外なことに、怒っている以前に微笑ましい表情でこちらを眺めていた。

 

 

「なんだよその顔……」

「いやぁ先生と雪穂さん、とっても仲がいいなぁって。見ているこっちも嬉しくなっちゃいます!」

「ゴメンなさい。せっかく高海さんも参加してくれてるのに……」

「いえいえ。むしろご馳走様って感じです! 私もいつか先生と……」

 

 

 千歌は膝の上で拳を作り、ギュッと握りしめて何かの決心を固めたようだ。1発目の撮影現場では俺と手を繋ぐことさえ緊張して戸惑っていたのにも関わらず、今の千歌は俺に寄り添いながらも落ち着いている。どうやら決心を着けたことで心の乱れもなくなったらしく、もはや俺と彼女の身体に隙間などなかった。しかも自然に腕を絡ませており、100人が100人見てカップルと言い張れるほど俺たちは1つになっている。もちろんそれは雪穂も同じなので、カップルと言うよりもさっきも述べた女の子2人を侍らせているただの最低野郎って言葉の方がピッタリかも……。

 

 そしてご生憎様、俺が雪穂と千歌を侍らせている様子は無慈悲にもカメラに収められる。女性スタッフのテンションはハイで、さっき小声で『来月の雑誌はハーレム路線で行きましょう』と漏らしていたのを俺は聞き逃さなかったからな? そもそもハーレム路線なんてファッション誌のテーマとして不適切だし、一応周りのスタッフさんが止めてくれたので間違いを犯すことはないだろう。つうかスクールアイドルで活躍している雪穂と千歌を侍らせている写真が世に出回ったら……今度こそ彼女たちのファンに殺されるかもしれない。μ's全員と恋人同士という事実は未だに隠してるけど、彼女たちがここまで有名になるともう絶対に明かせないよなその事実……。

 

 

「雪穂さん、この写真って雑誌に掲載されるんでしょうか……?」

「どうして?」

「いや、Aqoursのみんなに見られたら1日中の尋問だけでは終わらないと思いまして……」

「掲載されないから大丈夫だと思うよ多分……。それに私もこの写真を亜里沙と楓に見られたら、世にも恐ろしいことになりそうだよ」

 

 

 恋は己を変えるという格言は以前にも話したが、それはその子の周りにも影響を与えるようだ。確かに思い当たる節はあり、1人で俺と勉強会をしたダイヤを鞠莉と果南が尋問したり、病気なほどブラコンな楓がここまで女の子と密着している俺の写真を見たら、それこそ親友でもその女の子を殺しかねない。恋する女の子は怖いな、他人事だけど。

 

 ちょっぴり陰湿なムードの中、テンション爆上げなスタッフさんが1人。

 まあいつもの女性スタッフさんなんだけど、興奮が収まるどころか現在進行形で高まっていた。そして俺たちの近くに歩み寄ると、メガネを光らせ息を切らせながら次の撮影の指示を出した――――のだが。

 

 

「あなたたち!! 次はホテルに行くわよ!!」

「「「は……?」」」

「撮影監督をやってるとね、一度でいいからAVのような現場を撮りたくなるのよ! 夢を見続けて早数年、零君と千歌ちゃんが来てくれたことが運命としか思えないわ!」

「俺らをAV役者に仕立て上げて運命とか言うな!!」

「はぁ、はぁ……本当は愛の欠片もない凌辱モノが良かったんだけど、この際は純愛モノで我慢してあげるから」

「どうして俺たちが妥協される側になってんだ……。つうか俺らを妄想して興奮すんな」

 

 

 俺たちをベンチごと倒す勢いで迫ってきたスタッフさんだったが、他のスタッフさんたちに呆れ顔で抑えつけられながら連行されたので九死に一生を得た。雪穂も千歌もその手の話題には慣れていないため、頬を赤面させてベンチにもたれ掛かっている。ただでさえハーレム要素を含んでいる写真なんて雑誌に掲載できないのに、AVなんか撮り出したらもはや何のための撮影なのか分からねぇな。そもそも今日撮った写真って、雑誌に使えるモノの方が少ない気がするんだけど気のせいかな……?

 

 結局その後は撮影指示するスタッフさんが変わったため、これまでの進行が嘘のようにスムーズだった。無駄な時間を取られはしたけど、雪穂と千歌の魅力を眼前で感じることができたのは良かったのかもしれない。しかも女の子とあそこまで接近するのは久々だったので、なんだか昔を思い出したよ。昔は欲求が盛っていたせいで彼女たちに手を出したりしていたが、今ではそんなこともめっきりなくなったもんなぁ……。なんでだろう?

 

 紆余曲折を経たが、とりあえず撮影は無事終了した。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「それにしても、すっげぇスタッフさんもいたもんだな。まさかAV撮影なんて言い出すなんて」

「今日は零君と高海さんがいたから興奮しちゃっただけで、いつもは優しくて頼れるスタッフさんなんだよ……」

「でも場の雰囲気が温まったおかげで、私は緊張せずに済みましたけどね!」

「それもそうだな。それに迷惑をかけたお詫びに、報酬をアップしてくれるらしいし不満はねぇよ」

 

 

 俺たちは今日の撮影会の感想を語りながら帰りの夜道を歩いていた。本来なら夕方に終わるはずだったのだが、お察しの通り女性スタッフさんの暴走により無駄に長引いてしまった結果がこれだ。しかし、そのお詫びとして助っ人の報酬が3割増しになったので特に文句はない。むしろそこまで増額してくれるならあの人にもっと暴走して欲しいと思うほどだが、あのまま放置したら本気でホテルに連れ込まれそうだったのでいい潮時だった。

 

 ちなみに千歌自身も言っているが、撮影当初は俺との急接近に戸惑っていた彼女も、撮影の最後の方ではモデルの雪穂と肩を並べるくらい役になり切っていた。千歌もまさに天職を見つけたと言わんばかりに張り切っていたので、少なくとも無駄な時間を過ごしていたってことはなさそうだ。元々はAqoursの魅力向上のヒントを得るために撮影現場にお邪魔したのだが、彼女の満足気な表情からしっかりと得るものも得たみたいだな。

 

 

「でも雑誌で見る雪穂さんよりも、生で見るモデル姿の雪穂さんの方が断然綺麗でした! いいなぁ私もスカウトされたい~」

「これもスクールアイドルで有名なったおかげかな?」

「どうやったら雪穂さんみたいに綺麗になれるのかなぁ……? 私もみんなも魅力的になれば、Aqoursの魅力ももっともっと上がるのに」

「私たちが魅力的になれたのも有名になれたのも……まぁ、後ろにいる人のおかげだよ」

「えっ、お、俺!?」

 

 

 俺は2人の後ろを歩きながら会話を漠然と聞いていたため、突然話の矛先が自分に向けられて思わず(ども)ってしまう。

 しかし、μ'sが有名になるにあたって俺は何かしたっけか? 俺はただ12人に告白をするという世間から大バッシングを受けるような犯罪行為をした挙句、あの時は高校生だった彼女たちの食べ頃の身体に手を出していた記憶しかない。そのおかげで大人の魅力が鍛え上げられたという説もあるが、むしろそれ以外にない気がするぞ……?

 

 

「私ね、色々あってμ'sを辞めようと思ってた時期があったの。でも零君が私を繋ぎ止めてくれたことで私はμ'sにいられて、自分に自信が持てた。だからね、あの時零君が引き止めてくれなかったら今の私はいないんだよ」

「先生がそんなことを……」

「だいぶ昔の話をしやがって。よく覚えてんなお前」

「当たり前ですよ。だってその時こそ、私が零君を本気で好きになった瞬間ですから」

「ふぇっ!? そ、そうなんですね!!」

「お前、今日はやたら喋るじゃねぇか……」

「スタッフさんじゃないですけど、今日は私もテンション上がってますからね」

 

 

 笑顔、笑顔、また笑顔。今日の雪穂はとてもよく笑う。

 やっぱり穂乃果と同じ血を引いてるためか、いくら普段がクールであろうとここぞという時の笑顔は凄まじく明るい。もう雪穂とは数え切れないくらい一緒にいるが、1日の間でここまでデレたのは初めてだったりする。後輩がいるから親密度を見せつけたい、といった悪ふざけを考える奴ではないので、単にデレ期にでも突入したのだろうか。このままだと俺の心が乱れに乱れて、初恋を経験した思春期男子になっちまいそうだ。いつもは受け身のくせに、いざとなったらここぞとばかりに純情を掻き乱してくるのが雪穂のズルいところだ。まあそこが彼女の何よりも可愛いんだけどね。

 

 

「やっぱり、μ'sの皆さんもそうだったんだ……」

「どういうこと?」

「私、1つ気付いたんです。Aqoursの魅力を上げる方法を」

「言ってみな。できる限りは協力してやるよ」

「あっ、言いましたね? 言っちゃいましたね?? 言質取りましたから!」

「なんだよ、またお得意の脅しか?」

「違いますよ♪」

 

 

 俺がAqoursの顧問になったのも、元はと言えばコイツが痴漢行為をバラされたくなかったら顧問になれと脅してきたからだ。俺が100%悪い事実はさて置き、そんなことをしてきた奴からいきなり言質を取ったと言われたら、そりゃ身構えもするだろ……。

 

 しかし千歌は脅迫する素振りを見せない。彼女は小走りで俺と雪穂の前に出ると、俺たちの方へと振り返った。

 

 

「Aqoursの魅力を上げるためには、まず自分の魅力を上げなければなりません。では、具体的にどうするのか? それは――――――」

 

 

 ここまで勢いよく口を動かしてきた千歌だが、ここで一瞬流れが止まる。他人には公言しにくいことなのか、はたまた恥ずかしいことなのか。どちらにせよ、自分の魅力を上げる方法は大いなる決心が必要らしい。

 

 だが、撮影中に既に決心を固めていたらしい彼女は、思っていたよりもすぐに口を開いた。

 

 

 

 

「それは、先生をもっともっと好きになることです!!」

 

 

 

 

 1つ思ったことがある。

 俺の周りの女の子って、こんなに積極的だったっけ!?

 

 いや雪穂が意外なだけで千歌がグイグイ系なのは分かるけど、彼女が東京に来てからというものここまでド直球に想いを伝えてくることなんてなかった。俺が浦の星にいた頃よりもかなりおとなしくなったなぁと思っていたのだが、これも今回の撮影で心境が変化したのか? あまりにもストレートに告白されたから、文字通り心臓が飛び出そうになったぞ……。

 

 

「雪穂さんはいつでも魅力的ですけど、より魅力的になる瞬間が今回の撮影を通して分かったんです。それは、先生と一緒に撮影をしている時でした」

「そう、なのかな……?」

「はいっ! 実際に私も先生と一緒にカメラに映って分かりました。確かに最初は緊張しましたけど、好きな人と一緒にいるのって心がポカポカするんですよね。そして自然に笑顔も零れて、いつの間にか緊張も解れていました。好きな人と一緒にいる時が、私が一番本当の私でいられる瞬間なんです。心の中の想いを全部先生にぶつけている時こそ、私は輝いてるぞって思えます」

 

 

 なるほど、撮影中に何かを悟ったような顔をしていたのは己の輝き方を知ったからか。俺が浦の星を去る前に言った『もっと輝いて見せろ』って言葉を覚えてくれたようで、なんだか嬉しくなってくるな。心の中の想いを全部先生にぶつけている時こそ輝いてる、というのはまさにその通りで、現に今の千歌の笑顔は撮影の時を含めても最高に幸せそうだ。夜なのにその笑顔は輝いて見え、千歌の嘘偽りない気持ち、想い、愛が全て伝わってきた。単純に笑顔が綺麗だからという理由で輝いているのではない。高海千歌という人物の全てが、今の彼女の様子から感じ取れるのが魅力的なんだ。

 

 千歌は見つけ出せたみたいだな、自分の魅力の上げ方を。

 だけど他のメンバーが真似して同じような輝きを放てるかと言われたら、それは分からない。μ's1人1人の輝きが異なるように、Aqoursも1人1人の輝き方は違う。他のみんなが自分の輝き方を見つけ出せた時こそAqoursの魅力も上がるだろう。それこそ俺がAqoursに一番期待していることだ。

 

 

 それにしても、これってもうガチ告白なんじゃね……?

 俺の中で返事をした方がいいのか頭を過るが、ここで早まってはいけない。俺が彼女、いや彼女たちを迎えに行くのは、Aqoursの輝きが最高潮になった時と決めているからな。

 

 

「でもさ、お前の輝き方って俺に依存してねぇか? 別にそれが悪いって訳じゃないんだけど」

「私はむしろ依存したいくらいですけどね♪」

「ぶっ!? ヤンデレは勘弁してくれ!」

「そっちの方がいいのなら、私は先生のご要望に従います。先生がお望みになるのなら……ね?」

「いや、いきなりヤンデレの雰囲気を作らなくてもいいから……」

「あははっ! あっ、私はこっちなのでこれで失礼します。先生、雪穂さん、今日はお疲れさまでした!」

「あぁ、お疲れ」

「お疲れ様!」

 

 

 言いたいことだけ言って颯爽と帰っていきやがった……。

 急展開過ぎてまだ頭の整理ができていないけど、とりあえずこれから千歌がより積極的になるってことは分かったよ。そしてそれを見た他のみんなが負けじと接近してくることも。千歌の想いを聞くことができて嬉しい反面、Aqoursの動きが活発化しそうで更に疲れそうだ。まあ、女の子にアピールされまくって疲れるのなら本望だけどね。

 

 すると、俺の隣で雪穂がクスクス笑っていることに気が付いた。

 今日はやけに積極的になったり、途端に嘲笑ってきたりとやたら俺を惑わせてきやがるなコイツ。まあ普段はド天然の亜里沙とド変態の楓と一緒にいるため、遊び心を持ち合わせていたとしても俺くらいしか発揮できる奴がいないのだろう。一番身近な姉の穂乃果は、もはや姉としての尊厳を失ってるくらいのおバカさんだしな、仕方ない。

 

 

「そんなに俺の反応が面白かったか? あんなにド直球な告白をされたのは久しぶりだから、しょうがねぇだろ」

「まあそれもありますけど、これから頑張ってくださいね。行くところ行くところで女の子を引っ掛けて、出会った子を全員惚れさせて侍らせる変態さん」

「おいっ! もはや皮肉でも何でもなくて、ただの悪口だろそれ!!」

「フフッ、零君これから大変だぁ~」

「お前、他人事かよ……」

「他人事です♪」

 

 

 雪穂は珍しく悪戯な笑顔を浮かべて俺の隣を歩く。冗談ながら悪態を突こうとも、俺を応援してくれる気持ちは伝わってきたので許してやるか。

 

 確かに想いが強くなった女の子を相手にするのは大変だろうけど、女の子1人の好意を受け入れられない奴がμ's全員を相手にできる訳ないだろ?

 

 

 

 

 それに俺からも1つ言っておこう。俺の抱いているAqoursのみんなが『好き』という想いは、Aqoursが俺を『好き』と思う気持ちよりも強いってことをな。

 これでも一途なんだよ、俺はね。

 




 時系列的にスクフェス編はサンシャイン2期よりも前のお話なので、ここまで千歌が成長しちゃうとこの小説では本気で閉校を阻止しちゃいそうです(笑) なるべくアニメの設定は踏襲したいのですが、明らかに千歌が大人になり過ぎている気が……

 そして今回は千歌がメインだったのですが、雪穂も千歌の成長に貢献する大役を果たしてくれました。それにしてもガチで妹にしたいです彼女を()


 次回は遂に300話目なので、300話到達記念回を投稿します!
 内容は当日までのお楽しみ! とりあえず普通の日常ではないことだけ……って、いつもか(笑)



新たに☆10評価をくださった

カルピスxさん、猫鮪さん、ヨッシィスーパーさん

ありがとうございます!

これにて☆10評価数がなんと250件を突破し、また1つ目標を達成することが出来ました!
もちろん次は大台の300件を目指すので、皆様是非評価の方をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】俺の脳内選択肢がラブコメに全力を注いでいる(前編)

 この投稿で遂に300話となりました!
 なので今回は300話記念回をお送りするのですが、どこぞのアニメとは全く関連性はありませんとだけ()


 

 自分の人生が日常的だとは今まで一度も思ったことがない。同時に何人もの女の子と恋愛をしたり、ヤンデレになった女の子たちに襲われたり、RPGの世界に拉致られ冒険させられたり、教育実習生なのに生徒と恋愛をしたり――――列挙したらきりがないのだ。それくらい俺の人生は波乱万丈に満ち溢れていて、楽しくもありデンジャラスな毎日を送っている。

 

 その中でも今起きている出来事は、これまでの如何なる経験よりもヤバいと身体の芯から悟っていた。朝起きたら非日常の世界だったってことは数あれど、ここまで目の前の世界が改変されているのは初めてだ。いや、改変されているってのは少し語弊があるか。恐らく世界が変わっているのではなく、俺自身が変わっているのだろう。そう、例の秋葉(あいつ)のせいでな……。

 

 具体的には、視界がギャルゲーの画面っぽくなっていることだ。画面の端にスキップやセーブ、ロードやらのボタンがあり、ご丁寧に左上に現在の日付と曜日、天気まで映し出されている。最近流行りのVR機器が俺の目元に取り付けられているのかと思ったが、そんな機械はもちろんメガネなどの装備品もない。つまり肉眼で直接見える光景が既にギャルゲ風の画面なので、映し出されているというよりかは自身の目がゲーム画面となっている言った方が意味合いは正しいか。しかしどちらにせよ、秋葉による悪戯でまた身体を弄られたと見て間違いないだろう。相変わらず何でもできるなアイツ……いや、褒めちゃいないけどね。

 

 ちなみに俺の意識でカーソルを移動できるのだが、スキップやセーブ、ロードのボタンは悉く反応しない。多分まだ開発中の試作であり、それらの機能は未実装なんだろう。最初は目に見えている世界は仮想現実かと思ったのだが、頬を抓って痛みを感じたり俺の布団から暖かさが伝わってくることから、ここは現実なのだと思い知らされる。こんな状況でもこうして冷静に現状を分析できるあたり、俺も相当調教されてるな……。

 

 どうにかしようにも現状打破の方法なんて全く思いつかないので、とりあえず朝飯を食ってから今後のことをゆっくり考えよう。

 そう思ってベッドから出ようとした時、俺の部屋のドアが開いて妹の楓が顔を覗かせた。

 

 

「あっ、お兄ちゃんおはよう!」

「あ、あぁ、おはよう……」

 

 

 楓の声はちゃんと俺の耳に届いているのだが、視界がギャルゲ風なためかご丁寧にメッセージウィンドウに楓の言葉が表示されている。正直な話、俺の視界をギャルゲ化するより耳が悪い人や老人の身体を改造した方がよっぽど世間のためになると思うぞ? このメッセージウィンドウのおかげで耳が遠くても声が聞き取れるようになるしな。まあ秋葉のことだから、俺以外を改造の対象にすることはないと思うけど。

 

 

「お兄ちゃんどうしたの? なんか元気なくない?」

「いや、別になんでもねぇよ……」

「まさか、朝勃ちしちゃってベッドから抜け出せないとか?? もう水臭いなぁ、言ってくれれば私が処理してあげるのに♪」

「馬鹿野郎。朝からやったらどれだけ体力を持ってかれるか――――」

 

 

 このやり取りは日々のことなので軽く流すつもりだったのだが、今回ばかりはそうもいかなかった。

 俺の視界にはまさにギャルゲーのような選択肢が3つ表示されており、カーソルを移動できることからどうやら選択しなければ次の会話に進めないみたいだ。ちなみの選択肢を選ぶまでは身体は一切動かせず、そもそも楓の動きも止まっていることから世界の時間が停止しているのだろう。妙にリアリティ溢れるというか、こんなことまでできる秋葉って本当に人間なのか……。

 

 俺の視界に表示されている選択肢は、次の3つだ。

 

 

1.「マジで!? お願いするよ!」

2.「寝起きで敏感だから、優しく頼むな?」

3.「妹が兄の性欲処理をするのは当たり前だろ! 分かってんのならとっとと股開けオラ!!」

 

 

 改めてみるとヒドイ選択肢しかねぇなオイ。

 無難な選択肢が一切なく、どれを選んでも近親相姦ルートが確定となってしまう。楓の性格から俺の頼みを断るとは考えにくいので、このままではゲーム開始直後から妹との濃厚Hシーンが流れる羽目になるぞ……。何の脈略もなくいきなり近親相姦の場面を見せつけられるって、斬新なゲームにも程がある。口を開けば即Hなんて売れないエロゲーの鉄板だぞ分かってんのか。

 

 しかし、どれか1つを選ばないと世界は静止したままだ。サラッと言っているが、何もしなければ世界が止まったままって何気に恐ろしい世界に足を踏み入れてるよな俺……。

 途中で変なバグが起きないことを祈りつつ、偏屈な選択肢の中でも温和そうな2番を選ぶことにした。1番はこっちからガッツいているようで癪だし、3番は論外だ。

 

 

 ――――――と思って2番を選択しようとしたのだが、何故だ……2番の選択肢が反応しない。

 2番目の選択肢にカーソルを合わせて決定しようとしても、目の前の静止した世界はうんともすんとも言わない。仕方ないので1番の選択肢を選んでみても反応は全く同じだった。

 

 

 と、言うことは……3番目を選ばないといけないの!?

 つうかこれ最初から選択権ねぇじゃん!! そうだよな、秋葉の作ったゲームなんだから普通であるはずがないよな……。納得してしまう自分が情けねぇ。

 

 それにしても、3番の選択肢なんてどこの妹調教モノだって話だ。シチュエーション的には引き籠りだったりいじめられっ子である兄が、容姿も良く成績優秀な妹にゴミ扱いされることに怒りを覚え、ベッドに縛ってレイプしたり催眠術を使って凌辱する――――みたいなシチュがよくありがちである。俺が選ばされる選択肢の内容は、まさにその兄キャラが妹キャラを犯す時に使用するセリフそのものだ。しかも俺は楓にいじめられている訳でもゴミ扱いされている訳でもなく、むしろ神扱いされているのでこのセリフを選択するのに物凄く抵抗がある。まあゴミ扱いされていたとしても、このセリフを発言するのは相当勇気がいると思うが……。

 

 うだうだ考えいても、これしか選択できないんだったら仕方ない。弁解なんてあとで何とでもできるし、早くこのゲームを終わらせるためにも先へ進もう。

 俺は深呼吸をして気を落ち着け、覚悟の下で3番目の選択肢を押す。

 

 すると、静止していた世界が動き出すと共に俺の口が自分の意思関係なく強制的に開いた。

 

 

「妹が兄の性欲処理をするのは当たり前だろ! 分かってんのならとっとと股開けオラ!!」

「お、お兄ちゃん……」

「ち、違うんだ! 天がこう言えって囁いてきてだな……」

「妹を肉便器にしたいだなんて、相変わらず変態さんだね♪ でも私はお兄ちゃんの言うことなら何でも聞くよ? どういう体勢でお股を開いたらいい?」

「服脱がなくてもいいから!! とりあえず朝飯にしよう! なっ!?」

「えっ、お兄ちゃんの朝ごはんは私でしょ?」

「俺は腹を満たしたいの!!」

「そ、そんな、私のおっぱいはまだ出ないよ!」

「何を飲ませる気だ……」

 

 

 弁解なんていくらでもできると思い込んでいたのだが、楓の食いつきが想像以上に激しいことからそう簡単にはいかない。もはや兄に対するセクハラなんじゃないかってくらい痴女発言を連発し、楓は自分自身を俺に食べてもらう気が満々らしい。最近はその手の行為についてかなりご無沙汰だったので期待する気持ちは分からなくもないが、いつ選択肢が現れるか分からない都合上、こんなところで性交なんてできるはずがない。だってもしヤってる最中に選択肢が表示されたら、今度はどんな選択肢を強制的に選ばされるか分かったものじゃねぇからな。

 

 

「いいから、普通に朝飯を作ってくれ。今日は出掛けるから」

「えぇ~家にいてくれないのぉ?」

「ちょっと用事がな……」

 

 

 不満そうな顔をする楓だが許してくれ。このままお前と一緒にいたら、今日一日で近親相姦を何度行えばいいのか分かったものじゃない。そしてその事実はμ's全員に言いふらされしまい、他の子たちからのバッシングと身体を求められる展開に……。もしそんな事態に陥ったら、テクノブレイクどころか身体までブレイクしてしまいそうだから。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「これ、SAN値が保てるかどうか心配だな……」

 

 

 なんとか朝の修羅場を乗り越え、朝飯を音速で済ませ外へ出た。

 問題の脳内選択肢は朝飯の時も現れ、楓が作ってくれた甘いフレンチトーストの感想を言っている時に次の選択肢が出てきて相当焦った。

 

 

1.お前の下の蜜の方が甘いんだろうなぁ

 

 

 えっ、1つしかないじゃないかって? そうだよ1つしかなかったんだよ。

 選択肢を選ばないと世界の時間が動かない都合上、俺は罠だと分かっていてもそこに踏み込まざるを得なかった。そのせいでまた楓が興奮し、満足に食事が取れなかったのがさっきまでの出来事である。

 

 このままこんな選択肢が続き、いちいち弁解をしないといけないこの状況はマズい。何がマズいって女の子に出会った時点で身構えてしまうので、そこで精神力を浪費するのが何よりも辛い。だから俺は考えた。今日は漫画喫茶など、個室に籠れる場所でずっと1人でいようと。このギャルゲ現象が1日で解消されるのかは怪しいが、秋葉の発明品の効力が2日に渡ったことはないので多分大丈夫だろう。大丈夫……だよね?

 

 とにかく、誰かにエンカウントしないよう早急に漫画喫茶へ転がり込むとするか。

 

 

「あら、零ではありませんか」

「海未……マジかよ」

 

 

 希望が打ち砕かれる瞬間ってのはまさにこのことか……。

 不運にも道端でばったり海未と遭遇してしまった。決してフラグを立てた訳じゃないのだが、どうして俺の日常は自分の思い通りに進行しないかねぇ……。なんか泣けてきたよ。

 

 

「人の顔を見るなり、マジかよとか泣き顔になるとか失礼すぎません……?」

「いやね、俺の人生ってイバラしかねぇなぁと思ってさ」

「それ12人と付き合っている人が言うセリフじゃありませんよね……。自らが選んだ道じゃないですか」

 

 

 それはそれ、これはこれだ。俺が言いたいのは脳内選択肢のことなのだが、あらかじめ言葉がブロックされているのか誰かに選択肢のことをバラそうとしてもできない仕様となっている。バラそうと思ったその瞬間に口だけでなく身体も動かなくなるので、ボディランゲージも不可能という徹底っぷり。あらかじめこんな設定を仕込むとか、相変わらず努力の方向を間違えすぎだろアイツ……。

 

 とにかくこのまま海未と対峙しているとまた理不尽な選択肢が出現しかねないので、とっととこの場を立ち去らないと。これは女の子を無下に扱っているのではない、俺の意図しないセクハラ発言で女の子を恥辱の底に鎮めるのを回避するためだから!!

 

 そして海未の隣を通り抜けて立ち去ろうとした――――その時だった。

 

 

1.暇なら一緒に散歩しないか? いい散歩コースを知ってるからさ。

2.どこへ行く予定なんだ? 俺も付き添っていいかな?

3.俺、用事あるから。それじゃあな。

 

 

 あ、あれ? 案外普通の選択肢で拍子抜けだ。もしかしたら楓があんな性格だから選択肢が汚染されていただけで、海未のような普通の子が相手だったら選択肢もまともになるのかも。最初が最初だけにインパクトが大きかったのだが、思ったより普通のギャルゲーっぽくて安心したよ。俺はてっきり淫乱属性を兼ね備えた選択肢ばかり選ばされると思ってたから、これならわざわざ3番の選択肢を選んで危機回避する必要はないかな。

 

 1番でも2番でも選択するならどっちでもいいんだけど、ここは相手の予定に合わせて動く紳士的な姿を見せつけてやろう。

 

 

「どこへ行く予定なんだ? 俺も付き添っていいかな?」

「いいですよ。今日はことりと出掛ける予定だったので」

「え゛っ……!?」

 

 

 や、やべっ、失敗した!? このままではことりとエンカウントする羽目になっちまう!! 

 楓を目の前にあんな選択肢が出たってことは、ことりと対面した時はどんなセクハラ選択肢がでるか分かったもんじゃない。しかも海未まで一緒にいるとなれば、セクハラ発言をした瞬間にことりの暴走と海未の鉄拳制裁までの流れが容易に想像できる。やっぱり安直に選んだのが間違いだったか……!!

 

 一度選んだ選択肢を元に戻すことはもちろんできないので、ここは己の話術で巧みにお出かけの同行を断らないと。自分から付き添うと言っておきながら断るなんて変な話だが、セクハラ選択肢を回避して海未を守るためだ仕方がない。

 

 

「そ、そうだ! 海未と2人きりで行きたいところがあったんだ、時間も取らせないしどうかな?」

「わ、私と2人きりですか……? ことりとの約束までまだ時間もありますし、遠くないところであればご一緒します」

 

 

 よしいい調子だ。海未は純情だから、2人きりのデートを持ち掛ければ必ず釣れると思っていた。彼女の純粋な心を弄ぶようで心苦しいのだが、現在進行形で秋葉の実験台にされている可哀想な俺を助けると思って許してくれ。

 

 会話をこっちのペースに引き込むことができたので、あとは適当な場所を2人でぶらついて、程よく時間が経過したところで俺はとんずらすればいい。我ながら完璧な計画すぎて思わず笑みが零れちまうよ。海未と2人きりならセクハラ選択肢が出ることもないだろうし、いっそのことVR版のギャルゲーとして楽しむ余裕すらあるかもしれない。もう秋葉の発明品に怯える日々は終わった。これからは殺人兵器並みの発明品も、スリルを感じられる楽しい発明品に変えてやるよ。

 

 そんな余裕ぶっていたその時だった。

 俺の視界に再び選択肢が出てくる。出てきたのだが――――――

 

 

Q.海未とどこへ行く?

 

1.ホテル

2.公園の公衆トイレ

3.裏路地の奥の奥

 

 

 

 ちょっ、ちょっと待ってくれ!! どうして言葉の響きからして如何わしい場所しか選択肢にねぇんだよ!? しかも裏路地の奥じゃなくて奥の奥って、麻薬の取引現場か何か!? どこもかしこも朝から行くデートスポットじゃねぇだろこれ!! そうは言うものの、夜だったらいいのはホテルくらいだけどさ……。

 

 相変わらず世界が静止したまま時が進まないので、この中から1つ選ぶ必要があるのだが、どれを選んでも鉄拳制裁ENDでバッドエンドルート直行な気がするんだけど。強いてあげるなら公園の公衆トイレかな? 他の2つは散歩コースには適さないが、公衆トイレなら公園を散歩する流れに持っていくことができる。正直そんな上手く事が運ぶとは思えないが、ここは腹を括るしかない。

 

 

「公園の公衆トイレ……とか」

「は、はぁ!? あ、ああああなたは一体何を言っているのですか?!」

「ち、違う!! あまりにもトイレに行きたくてつい口に出してしまったんだ!!」

「そ、それならそうと早く言ってくださいよ……。また淫らなことをするのかと……」

 

 

 あ、あぶねぇ……!! 咄嗟にさっきの言い訳を思いつかなかったら、怒り狂った海未によって地獄に叩き落されていただろう。

 つうか選択肢が出るたびに毎回こんな弁解を考えないといけないなんて、危惧していたことだけど正気を失ってしまいそうだ……。しかも不幸なことにまだ朝、これから1日この選択肢と付き合っていくと考えると精神病むぞこれ。しかも淫乱な子には淫乱な選択肢、普通の子には普通の選択肢が出るといった俺の予想も大きく外れていたため、これは本格的に1人になった方が良さそうだ。

 

 

「わ、悪い海未! 今物凄くトイレに行きたいから、デートはまた今度な!」

「えっ、トイレなら待ちますよ」

「女の子を待たせるなんてできる訳ないだろ?? それじゃ、この埋め合わせは絶対にするから! じゃあな!」

「は、はい。相変わらず、慌ただしい人ですね……」

 

 

 俺は半ば逃げる形で海未と別れた。

 このゲームを楽しむと言ったが前言撤回。選択肢の尻拭いをしたりデートしようと言ったのに速攻で破棄したり、こんな苦しく過酷なゲームがかつてあっただろうか? いや、ない。

 

 でも、ことりと対面するという最大の危機を回避できたのは良かったかな……?

 そうやってちょっとでもプラス思考を持たないと、この先やっていけないぞこのゲーム……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 とりあえず街中にダイブし、適当な漫画喫茶を探しながら練り歩く。歩を進めるたびに女性とすれ違うことに恐怖を覚えそうになるが、今のところは俺にとってモブキャラ同然の人とのイベントは発生しないみたいだ。もしそこら辺の女性に対してさっきのセクハラ選択肢が表示された場合、逮捕エンドという鉄拳制裁よりも遥かに恐ろしい結末が待ち構えている。そのもしもの事態を避けるためにも、今日は誰の目にも触れないところでぼっちを極めなければ!

 

 そんな時だった。人混みを避けることに集中してしまい、大きい紙袋を両手に持った女の子にぶつかってしまう。

 

 

「あっ、ゴ、ゴメンなさい!」

「いやこっちこそ……あ゛ぁっ!?」

「せ、先生!? って、どうしてこの世の終わりみたいな顔してるんですか……」

 

 

 俺とぶつかったのは、キャップに短パンとやけにボーイッシュな格好をしている曜だった。曜は俺の表情を見て不満気な様子を浮かべるが、俺の身に降りかかっている状況を考えればこの出会いがこの世の終わりだとしてもおかしくないから。

 それにしても、どうして今日に限って知り合いの女の子に連続で出会っちまうんだか……。この奇跡を出会いのない男の子諸君に分けてあげたいよ。

 

 とにかく、当たり障りのない会話でエロい選択肢が出るのを阻止してみるか。無駄な気はするけどせめてもの足掻きってことで。

 

 

「お前、その荷物どうしたんだ?」

「これですか? 可愛いコスプレ衣装がたくさんあったから、つい買っちゃったんです! いやぁ大人買いを経験すると癖になっちゃいますねぇ~」

「お前ってバイトで金貯めてもすぐ散財しそうな性格だよな……あっ」

 

 

 せめてもの足掻きはここで踏みにじられる。

 俺の世間話は無慈悲にも脳内選択肢によって封じられてしまった。

 

 

1.俺が本当の大人にしてやろうか? さぁ、そこのホテルへ行こう。

2.パンツを盗もうとしていた奴が大人ねぇ……。

 

 

 相変わらずまともな選択肢がねぇなこれ、慣れたけどさ。

 正直どっちもどっちなのだが、人通りが多いこの道で女子高生をホテルに連れ込もうとしたら、何十何百の人に見られるか分かったもんじゃない。そしてその事実がμ'sやAqoursに伝わった暁には目も当てられない事態になるので、この選択肢は確実に地雷だ。地雷と決めつける以前に字面で既にヤバいんだけどね……。

 

 だったら選ぶべきは2番なのだが、これもこれで過去の古傷を舐めるようでそこまで快くはない。しかし選択肢が2つしかない都合上、消去法でこちらを選ばないといけないのがもどかしい。エロゲーでもこんなダイレクトな選択肢はないから、秋葉の奴もしかしてエロゲーやったことねぇな? ああ見えて純粋だから、アイツ。

 

 超妥協になるが、渋々2番の選択肢にカーソルを合わせて決定する。

 

 

「パンツを盗もうとしていた奴が大人ねぇ……」

「ぱ、ぱぱパン……!! 何言ってるんですかこんなところで!!」

「俺だって言いたくねぇよ!! 世界のシステムによって操られてんだ!!」

「なにそれ中二病ですか……? 善子ちゃんの病気が感染しちゃったとか」

「いや、俺はもう卒業してるから」

「じゃあ女の子のパンツを見たいとか……ま、まさか私のを見せろと!?」

「んな訳ねぇだろ! 本当にお前って淫乱になったよな……って、えっ!?」

 

 

 会話の途中だが、ここで突如また世界が静止した。

 だが今回は選択肢ではない。たった1行の文章が俺の視界にでかでかと表示されている。

 

 

 その文章とは――――――

 

 

 

 

『ミッション:

       6時間以内に女の子のパンツを覗け!!

 

           報酬:パンツを見た女の子の好感度+100』

 

 

 

 

 はぁ……?

 

 

 はぁあああああああああああああああああああああああああああああ!?!?

 

 

 

 

To Be Continued……

 

 




 改めまして、『新日常』の話数が300話を突破しました! ここまで続けてこられたのも読者の皆様のおかげです、本当にありがとうございます!

 200話が丁度μ's編の最終回だったので、思い返せば結構前のお話だなぁと感傷に浸っちゃいます。200話からはAqours編の始動と完結、そしてスクフェス編をスタートして40話以上と、直近100話の内容も過去の200話と引けを取らないくらい濃かったと思います。
正直な話、300話も執筆しているとどんな話を描いてきたのか忘れることがあり、読者の方に「こんなお話がありましたよね?」と言われても「それどんな話だったっけ……?」と忘却の彼方なことが多々あったりします(笑) 逆に言えば読者の方にこの小説のお話を強く印象付けられているので、私としては大満足ですね!

 300話という膨大な話数になりましたが、物語的にはスクフェス編はまだ中盤くらいです。Aqoursとの恋愛模様だったり、虹ヶ咲メンバーの謎、秋葉の動向など様々な要素はまだまだこれからです。これ400話達成までに完結するのかと若干危惧しながらも楽しく執筆していきますので、皆様も飽きずに最後までご一緒してくださると嬉しいです!


 次回は引き続き脳内選択肢回の後編です。
 本日中に誰かのパンツを見なきゃいけない羽目になった零君の運命は……? そして見事ハッピーエンドに辿り着けるのか?? 乞うご期待です!()



()()()☆10評価をくださった

mokkeさん、殺戮天使の僕さん

ありがとうございます!
まだ評価をつけてくださっていない方は、この300話記念を機に是非とも評価を残していってください!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】俺の脳内選択肢がラブコメに全力を注いでいる(後編)

 300話記念回の後編です!
 ギャグアニメの設定はこの小説にも取り入れやすいので、また何かの記念回の際には他のアニメのパロディもやってみたいですね!


 

『ミッション:

       6時間以内に女の子のパンツを覗け!!

 

           報酬:パンツを見た女の子の好感度+100』

 

 

 

 

 さて、このギャルゲーは速攻で電源を落として今すぐにでも売りに行こう。

 

 そんなことができたらどれだけ嬉しかったことか。俺自身にギャルゲーの機能が仕込まれているので嫌でもこの現実から抜け出せない。どうしたらこの症状が治るのか、そもそも治る方法があるのかなど、過酷な現実と向き合いながらも考えていたのだがもうそれどころではなくなってきたぞ……。

 

 見ての通り、謎のミッションが予告なく開始されている。6時間以内に女の子のパンツを覗くという、今時のギャルゲーでも安直すぎて批判を受けそうなミッションだなこれ。ギャルゲーでもエロゲーでもいつまでに女の子と仲良くなれと命令を下されることはあるが、こんな短時間で犯罪を犯せと言ってくるのは恐らく秋葉の趣味だろう。

 

 正直な話、こんなミッションなんて達成する必要はない。期限までに女の子とイベント起こさないとフラグが立たないとか、そのような制約はあるかもしれない。だがパンツを覗いて好感度が上がるかと言われたら、もちろんそれは否だ。それに好感度+100の基準も不明であり、最大値がどれくらいかも分からないのにリスクの大きすぎるミッションをこなす方が間違っていると思う。俺はあまりその手のゲームに触れたことはないのだが、明らかに地雷だと分かってるミッションに飛び込む気はさらさらないぞ。

 

 ――――――と、さっきまではそう思っていた。実はこのメッセージの後に、こんな不吉なメッセージが表示されたのだ。

 

 

『このミッションを達成しない場合、ゲームオーバーになります。ゲームオーバーになるとこれまでの人生がリセットされ、お母さんのお腹の中からやり直しになるので気を付けて☆』

 

 

 いや、『☆』じゃないんだが……。

 このメッセージを見た瞬間に俺の顔は真っ蒼になっていたことだろう。秋葉は時空を操る人間だとは思ってないが、俺の世界を一晩でギャルゲー化したのでもしかしたらもしかするかもしれないという懸念があった。万が一のことを考えてしまうと、パンツを覗くことの1つや2つは過去に経験済みなので、ミッション達成に体力を割いた方が遥かに精神的もいい。冗談だとは思うけどね、悪魔であるアイツが何をしでかすのか、付き合いの長い俺でも分からないからな……。

 

 てな訳で、俺は曜と別れた後にそんなことを考えながらまた住宅地の方へと戻っていた。

 さっきまでは女の子に出会わないようぼっちを極める予定だったのだが、今回の目的は全くの真逆。女の子に出会ってパンツを覗く、これだけだ。ちなみにパンツを()()ではなく《覗く》ってところが肝で、単に女の子に土下座をして見せてもらうだけでは恥をかくだけでミッション達成にはならないだろう。つまり、どうにかして自分でラッキースケベを自作自演してパンツを覗く、この作戦以外に俺の助かる道はないってことだ。なんか上手いこと秋葉に乗せられている気がするぞ……。

 

 その作戦を考慮すると、パンツを覗きやすいのはよくスカートをよく履いていることりやにこ、亜里沙、Aqoursだったら梨子やルビィになる。コイツらに運よく出会えればいいものの、他の子と出会ってしまうとまた選択肢の恐怖に怯えながらゲームを進めることになる。ギャルゲーよろしく自分の携帯が何故か使えないので、出会いに関してはもう運を天に任せるしかなかった。ギャルゲーだったらどこに誰がいるのか、マップを見れば分かるのになぁ。

 

 すると、いきなり運命の巡り合わせがやって来たのか、後ろから肩を軽く叩かれた。

 この辺りで俺を知っている人と言えば、もうμ'sやAqoursしかいない。俺は期待を込めて後ろを振り向く。

 

 

「やっほ! こんなところで奇遇やね、零君」

「希か……」

「ちょっ、テンション低くない!?」

 

 

 そうだよ。よりにもよって希に出会ってしまったことに、俺は軽く絶望してんだよ。まあ無数にいる知り合いの女の子から、希望の子とたまたま出会うことの方が難しいんだけどさ。だからといって俺の知る女の子の中でも一番隙を見せなさそうな彼女が相手となると、今回はミッションの消化を諦めた方が良さそうだ。

 

 ちなみに希は珍しくスカートを履いているが、さっきも言った通り彼女は隙を見せなければこちらの不審な挙動にも敏感なため、故意にラッキースケベを起こしてパンツを見るという行為が成功するとは思えない。ミッションも達成できなければ脳内選択肢にも惑わされるはめになるので、こりゃ地獄だぞ。希と2人きりの状況でそんなことを思ってしまう日が来るとはな……。

 

 

「零君、目付きがイヤらしいよ……? ウチのスカートばかり見て、どうせどんなパンツ履いてるんだろとか思ってるんじゃない?」

「おいおい、それは過小評価だぞ。お前らがどんなパンツを履いているのかなんて、実際に見なくてもそれぞれの好みから判別できるから」

「気色悪っ!!」

「ネタだよネタ! そんなド直球に引かれるとは思ってなかったからさ……」

 

 

 いつもの俺ならパンツの種類やら色やら柄やら、あらゆる想像をしていただろう。だが今は状況が状況であり、パンツ自体はどうでもよく単にパンツを拝めればそれでいい。邪な気持ちや卑猥なことは一切考えていない、至って純粋な気持ちなのだ。

 

 ここはいっそのこと、希に話を聞いてもらうのが一番手っ取り早いかもしれない。彼女なら肝っ玉も精神力も強いので、パンツを覗く使命に課せられていると言っても幾分かは真面目に聞いてもらえるだろう。俺が女の子に連絡を取れない以上、希に協力してもらうのがミッション達成の近道だ。もしこのままミッションが達成できず6時間が経過すると、どうやら精子だった頃から人生やり直しになるらしいからな……。

 

 

「希。俺はとある事情で、あと6時間以内に女の子のパンツを覗かなければならないんだ」

「そんなことを真顔で言えるなんて、さすが零君は半端ないなぁ。女の子って、具体的には?」

「μ'sだったらことりやにこ、亜里沙。Aqoursだったら梨子とルビィかな」

「パンツを覗きやすそうな女の子を考察してる時点で、かなりドン引きなんやけど……」

「安心してくれ。卑しい気持ちは一切ないんだ」

「ほうほう。それじゃあ好きな女の子に悪戯したくなる、例のアレ? 零君がそこまで女の子に分かりやすい愛情を見せるなんて……」

「いや、パンツを覗きたいことと恋愛感情は全く関係ない」

「曇りのない顔でゲスいこと言うね」

 

 

 そりゃそうだ。だって俺は生きるか死ぬかの境目にいるんだから。これまで女の子のパンツは至高の一品だと思っていたのだが、今の俺にとってはただの布であり言ってしまえばそこらの雑巾と変わらない。だから早く見せろとは言わないが、事態は一刻を争っているのもまた事実。

 あぁ、こんなバカなことで躍起になってると高校時代を思い出すよ。最近はめっきり減ったからなぁこんなこと。

 

 

 しかし俺の読み通り、希は取り乱さず俺の話を聞いてくれた。取り乱したと言うよりかは若干引き気味だったのだが、この際人生がやり直しにならないんだったら何でもいい。そのためには多少の恥も覚悟の上だ。

 

 ――――その矢先、いつも通りの選択肢が俺の視界に映し出された。

 

 

Q.誰のパンツを覗く?

 

1.ことり

2.にこ

3.亜里沙

4.梨子

5.ルビィ

6.希

 

 

 いやいや、最後の選択肢おかしいからね? これがもし本当のゲームなら6番の選択肢を選んで今後の展開を眺めたいところなのだが、自分の未来が左右されるこの状況で遊びを入れたくはない。そう考えると、これからギャルゲーの主人公に酷な選択肢を選ばせるのはやめよう。バッドエンドルートを選ばされる主人公の気持ちがようやく分かったから。

 

 で、この中で誰を選ぶかだが――――――まあ一番無難そうな梨子にしようと思っている。ことりとにこはラッキースケベどころか選択肢の内容が淫猥になること確定なので論外。亜里沙とルビィはまだ穢したくないので候補外とすると、残りは梨子しかいない。別に彼女を穢したいとゲスな考えを抱いている訳じゃないが、この中では最も無難な会話ができるのは彼女だけだからだ。

 

 でも勘違いしないで欲しい。さっきも言ったがパンツを覗いて剥ぎ取ったりとか匂いを嗅ぐとか、そういった変態な気持ちは一切ないんだ。俺はただ自分の未来を守るために、純粋な思いで動いている。こう言うとやけにカッコよく聞こえるな……。

 

 

「手数をかけて申し訳ないが、梨子に連絡をしてくれ。俺のところへ来いってな」

「えっ、それくらい自分ですればええやん?」

「電話できないんだ。神によって封じられてるから……」

「なにそれ中二病?」

「違うわ!! 電話番号教えるからさっさとかけろ!!」

 

 

 曜との会話でもそうだったけど、また中二病扱いされちゃったよ……。だって仕方ないだろ、このゲームに関する設定は喋れないようにプログラムされているっぽいからさ。だからこそ早急にこのゲームをクリアしないと。そもそもそのクリア方法ってのが未確立なんだけどさ……。

 

 とりあえず希に梨子の電話番号を教え、彼女を俺の元へ召喚する手筈を整えてくれた。これで梨子が用事で来られないという最悪の事態は回避できたので、危なげながらも第一関門は突破できた。どうして女の子を呼び出すだけでここまで神経を使わなきゃいけないのやら……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「せ、先生!」

「おぉ、梨子。急に呼び出して悪いな――――って、やけに顔赤くないか?」

「そりゃそうですよ! い、いきなりデートとか……」

 

 

 えっ、デートとか一言も言ってないはずなんだけどなぁ。もしかして希の奴、ただ呼び出すだけでいいって言ったのに余計なことを付け加えやがったな。

 でもそのおかげか、梨子がおめかしをしてきてくれたので服装は短いスカートのワンピースだった。口が裂けてもスカートを履いて来いと変態丸出しの台詞は言えなかったので、これは希がグッジョブといったところか。

 

 そしてここで、もう何度目か分からない選択肢が俺の目の前に現れる。

 

 

Q.梨子の服装を褒めろ!

 

1.肩と腋が丸出しのエロい服だな。袖口から手を入れてみたいよ。

2.薄着すぎて、いつでも脱がしてくださいと言ってるようなもんだぞ?

3.あまりにも薄着だから全裸かと思ったわ。

 

 

 どれも褒めてねぇだろ!! 最近やっと梨子が俺に対する好感度を上げてきているってのに、これだとどの選択肢を選んでも好感度が地を突っ切っちまうじゃねぇか……。

 でもよく考えてみれば、ラッキースケベの対象に選んでいる時点で好感度を気にする方が野暮ってもんだ。それに俺が母さんの腹の中に転生してしまったら、それこそ梨子の好感度どころの話ではない。最悪好感度は取り戻せる。だって梨子が抱いていた俺の好感度なんて、出会った当初はマイナスからのスタートだったんだから。それをたった数か月でデートをする仲になったんだから、多少の無茶は彼女も許してくれるはず。ていうか許せ。

 

 よし、それなら選ぶ選択肢は3番にしよう。どれを選んでもジョークで誤魔化せるのだが、最も弁解しやすいのがこれだから。

 

 

「あまりにも薄着だから全裸かと思ったわ」

「ぜっ!? ぜ、ぜぜぜ……そ、そんな風に見えます……?」

「いや、見えないけど」

「はぁ!? どっちなんですか!? ま、まさか、私をからかって……」

「ジョークだよジョーク! いかにも俺が言いそうなジョークなんだから、そこまで気にするなって」

「女の子の服を全裸みたいとか、褒め方が変態すぎますよ……」

 

 

 それはこのゲームを開発した秋葉に文句を言ってくれ。俺はただ選択肢の導きによって無理矢理言わされているだけで、決して薄着の彼女を全裸だとは――――――と、ここで思考が途切れる。

 

 梨子の服は肌色寄りベージュのワンピース&スカートなのだが、その色がやけに彼女の肌の色と酷似しているため全裸に見えなくもない。こうして隣にいると服を着ているとはっきり分かるのだが、彼女とすれ違ったり遠くから見た人によっては全裸に見える可能性はある。さっきはジョークと否定したが、あながち間違ってないのかもな……。

 

 

「まあ先生がそんな性格だってことは承知の上なので許します。それで? 今日はどんな御用でしょうか?」

「あぁ、別にこれといった用事はないんだ。お前に会いたかったから、それじゃ不満か?」

「ふぇっ!? そ、そうなんですか私と2人で……へぇ……」

 

 

 梨子は俯きながら右手で髪をくるくると回して弄っている。いつもならそんな幼気な様子を見て微笑ましく思うのだが、今日の俺は女の子のパンツを覗き見るだけの存在。女の子に対して愛情を持っていては、とてもじゃないがラッキースケベを自ら引き起こすことなんてできない。あまり梨子の気持ちを考えているとデートを楽しみにしてくれているところ申し訳ないと心が痛くなってくるので、ここからは人間の心を捨てよう。変質者、セクハラ魔、性犯罪者――――もうどんな汚名を着せられようが、心を失った俺には何を言っても無駄だから。

 

 そして俺は梨子とデート(もどき)をすることになった。パンツを覗くならこちらから覗きに行くよりも自然に覗ける状況を作るのが望ましい。それを考慮するとパンツ覗きの定番中の定番、階段がベストスポットだ。この街で急な階段があるところはただ1つ、μ'sが練習でもよく使用してた神社前の長い階段である。特に行く当てはないと言ったのだが、俺は最初からそこへ行くと決めていた。

 

 そうこうしている間に階段の入口にやって来る。もう後戻りはできないので、ここからは何も考えず脳死状態で作戦を実行するしかない。エロいことなど考えず、ただパンツを覗くことだけに集中しよう。

 

 

「すまん。靴紐が解けたから先に行っててくれ」

「えっ、別に急いでないので待ちますけど……」

「いやぁ俺って靴紐結ぶの下手くそでさ、時間が掛かっちゃうんだよ」

「そうなんですか? それじゃあ私が結んであげますよ」

「ほぇ?」

 

 

 ちょっ、意外な展開で早速俺のプランが崩れちゃったんだけど!? 

 俺はしゃがんで靴紐を持ちながら頭の中で必死に代替プランを練るが、既に梨子は俺の前まで接近していた。

 

 そして、彼女も俺と向かい合うように腰を降ろす。

 野外で元教え子に靴紐を結んでもらうという非常に恥ずかしいこの構図。ここからどうやってパンツを覗くためのラッキースケベ展開に持ち込もうかと考えていたのだが、神の恵みかそれとも必然だったのか、この一瞬で転機が訪れた。

 

 梨子の服装は何度も言うようにワンピース&スカートなのだが、夏場なせいもあってそのスカートの丈はかなり短い。そんな恰好をした子が腰を降ろし、しかも片膝を着いた状態であるため、スカートがどうなっているのかはもうお察しのこと。スカートの絶対領域の"絶対"を乗り越えたその先、純白の布切れ――――パンツが丸見えとなっているのだ。これまではラッキースケベを演出しようとしていたのだが、まさか本当のラッキースケベが訪れるとは、やっぱり俺ってギャルゲーの主人公か??

 

 

「先生? どうしましたか?」

「あっ、い、いや……」

 

 

 ワンピースの梨子に靴紐を結ばれながら、スカートの中が丸見えで上目遣いで心配されるこのシチュエーション、ヤバくないか? これこそギャルゲーの立ち絵に相応しく、本物のゲームだったらホーム画面のギャラリーからいつでもこの構図のイラストが拝めることだろう。

 

 そして俺は重要なことに気が付く。パンツを覗き見ることができたってことはもしかして……。

 

 

『ミッション:

       6時間以内に女の子のパンツを覗け!!

 

       達成!!

 

           報酬:パンツを見た女の子の好感度+100』

 

 

 やっぱり! 最初はどうしたものかと戸惑っていたのだが、俺の主人公属性のおかげでラッキースケベにも恵まれて助かったよ。とにかく今後はパンツのことを考えないで済むと思うと、幾分かは気が楽になるな。いやぁ良かった良かった!

 

 

「せ、先生!? こっちに倒れて……!!」

「えっ……!?」

 

 

 ミッション達成で安心していたのも束の間、全身の力が完全に抜けきっていた俺はいつの間にか身体が前に倒れようとしていた。当然目の前には靴紐を結んでくれている梨子がいるため――――――

 

 

「うわっ!?」

「きゃぁっ!」

 

 

 気付いた頃には自分の身体を制御することは叶わず、そのまま梨子を押し倒す形で倒れてしまった。

 そして、俺の両手には何やら柔らかい感触が伝わってくる。右手は梨子の胸を、左手はスカートの中、つまり秘所を覆っているパンツをそれぞれ握りしめていた。これぞラッキースケベと言わんばかりのシチュエーションで、彼女の胸や秘所を弄っている感覚はもちろんあるのだが、それ以上にここまで綺麗な流れでこのシチュになったことに何故か感心していた。

 

 

「ひゃぅ……せ、先生ぇどこを触ってるんですかぁ……」

「わ、悪い!」

 

 

 やべぇ、また梨子の好感度がガタ落ちになってしまう。出会った当初の彼女は俺のセクハラ行為を厳しく取り締まっていたため、今回はその頃の鬼神さが戻り正義の鉄槌を喰らわされることだろう。まあいいよ、殴られても。ミッションを達成した俺に怖いモノなんてない。それにさっきも言ったが、好感度はまた取り戻せばいいしな。

 

 ―――――――と、思っていたのだが……。

 

 

「先生、最初からこれが目的だったんですか……?」

「違う。たまたまだ」

 

 

 予想に反して梨子がしおらしい態度だったので、俺も思わず素の対応をしてしまった。意外にも好感度が地の底という訳でもなく、どちらかというと変わってない気がする。思い出してみると、ミッション達成の報酬は『パンツを見た女の子の好感度+100』だった。まさか、本当にその報酬が適用されたとでもいうのか? いくら俺の世界がギャルゲーだとしても、梨子たちからしてみれば現実の世界に変わりはない。だから女の子の好感度の操作をするなんてできるはずが――――

 

 ここで、このゲームを決する選択肢が現れる。

 

 

Q.梨子に愛の告白をしろ!

 

1.好きだ!

2.付き合ってくれ!

3.結婚しよう!

 

 

 どうしてここへ来て選択肢の内容がどれもまともなんだよ!? これまでみたいに遊び心があったらまだ弁解の余地やジョークで誤魔化せたものの、これじゃあ直球過ぎて相手に勘違いさせることすらもできねぇじゃん! ミッション達成で好感度が溜まったからって、いくらなんでも告白イベントが早すぎる。しかも梨子の胸と秘所を弄っているこんな状況で告白なんて、本当に成功するのかよ……。

 

 しかし俺は選択肢を選ぶことを強いられているので、この3つ以外の言葉を発することはできない。仕方がないので、中でも一番無難そうな1番を選ぼう。避けようのないイベントだしこの際だ、梨子の反応を見て無理矢理にでもこのゲームを楽しんでやる!

 

 

「好きだ!」

「へ? す、すすすす好き!? わ、私のことがですか!?」

「ま、まぁそういうことになるかな……」

「それって恋人として付き合ったあと、結婚しようってことですよね!? 赤ちゃん……先生の赤ちゃんを私が……!!」

「え~と、梨子さん。やけに話が飛躍してませんかねぇ?」

 

 

 未だに俺の手は梨子の胸と秘所に当てられているのだが、彼女はその事実すらも忘れて真っ赤になった顔を両手で覆っている。しかも押し倒されたままである状況なのにも関わらず、セクハラされている羞恥よりも告白された喜びを感じているようだ。まあその喜びも、勝手に妄想が飛躍して勝手に興奮しているだけなのだが……そこは本人が幸せそうなので黙っておこう。梨子はテンションが妙な方向に上がってしまうことがたまにあるが、その時の彼女には何を言っても無駄だからな。

 

 すると突然、梨子は俺を押しのけてふらふらと立ち上がった。正気に戻ったのかと思ったがそんな様子はなく、むしろ興奮が絶頂を迎えて居ても立っても居られないといった感じだ。

 

 

「す、すみません! 身体が熱いので、今日はもう帰ります!」

「そ、そうか。それは仕方ないな……」

「そうですね! 仕方ないですよね……うふふ」

「うわぁ、すっげぇ嬉しそう……」

「それではまた!」

「あ、あぁ……」

 

 

 梨子はテンションの高さを周りに振り撒きながら、陽気にこの場を去っていった。本人が幸せそうならそれでいいと言ったが、これ後からどうやって誤解を解こうかな……? あそこまでテンションが上がるほど好感度が高かったことに驚きだが、それ以前に告白に対する返事がもらえていないのでこのゲームはまだまだ続きそうだ。俺は何のためにセクハラしながら告白したんだよ……。

 

 そして、俺の視界にやけに豪華なメッセージウィンドウが表示された。

 

 

『ゲームクリアおめでとう!

 体験版はここまで。続きは【人生版ときめきメモリー(R-18)】をプレイしてね♪』

 

 

 クリアなのかよ!?

 しかもエロゲーに続くギャルゲーとはまた斬新な……いや、感心したら秋葉に負ける気がするのでダメだ。

 

 

 ん、待てよ? もしかして、今度はR-18版をプレイさせられるとか……ないよな?

 

 




 実は私はそこまでギャルゲーに触れたことがないので、ギャルゲーのお約束要素を回収しきれたかは微妙なところですね(笑) それでもいつもとは違った雰囲気のお話を味わってもらえたかと思います。


 次回からは再び本編に戻りまして、虹ヶ咲のメンバーである桜坂(おうさか)しずくが登場します!



新たに☆10評価をくださった

IOSgotyuumonnさん、シルベさん、 新撰組一番隊隊長沖田総司さん

ありがとうございました!
まだ評価をつけてくださっていない方は、この300話記念を機に是非とも評価を残していってください! こちらのやる気も出ます!(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

清楚な君はヤンデレちゃん

 今回はPDPの虹ヶ咲メンバーの1人である、桜坂しずくが登場します!
 公式のプロフィールやイラストでは物凄く清楚な雰囲気を醸し出す彼女ですが、この小説では……?


 

 

「ったく、俺はパシリじゃねぇって何度言ったら分かるんだか……」

 

 

 8月に突入し、スクフェスの開催まで残り1ヵ月を切った。徐々に迫るタイムリミットにμ'sもAqoursも練習を本格化させ、いよいよ追い込みの時期に入っているようだ。俺は日替わりでどちらの練習も見に行っているのだが、彼女たちの気合の入れようは1週間前とは比べ物にならない。それもこれも虹ヶ咲スクールアイドルに宣戦布告された影響で、このままの自分たちでは絶対に彼女たちには勝てないと悟ったからだろう。μ'sもAqoursも前々からイベントで1位になりたいといった願望はあったが、ここまで勝利を目標に掲げて切磋琢磨している様子は珍しい。どちらのグループも楽しさ第一みたいなところがあったから、虹ヶ咲から新たな刺激を加えられてより一層彼女たちの魅力は増すことだろう。

 

 そうやってリアルタイムで成長している彼女たちだが、俺はというと相変わらず買出しの命令を受けてショッピングモールに足を運んでいた。確かに夏休み中は暇だけど、μ'sからもAqoursからもパシリにされるのは恋人や元恩師への態度としてどうなんだ……? どちらのグループにもマネージャーがいないため仕方ないと言えば仕方ないのだが、もはやアイツらも俺をパシリに使うことに慣れてきている節がある。そして俺も命令を抵抗なしに受け入れてしまっているので、この夏休みの間にパシるパシられるの関係が構築されてしまったのだ。そろそろ威厳を取り戻さないと、いつの間にか奴隷になってそうで恐ろしいな……。

 

 とは言っても、最近は特に目的にもなくダラダラと毎日を過ごしているだけなので、こんなのでは威厳もへったくれもない。別に女の子たちからナメられてはいないだろうが、よくニートと等しい生活を送ってる男を好きになったなと今になって思うよ。ここまで自分を卑下するなんて、俺もらしくなくなったなぁオイ。

 

 

 そんな感じでやさぐれながら歩いていると精神的にも肉体的にも疲労がやって来たので、休憩がてらにショッピングモールのベンチで休むことにした。店の端の方なので全然人がおらず、両手に持っていた荷物をベンチに置いても邪魔にはならない。高校時代の俺ならこの程度でへばることはなかったのに、これも年かねぇ……。いや、単純に不規則な生活を送りすぎているせいか。でも大学生の夏休みなんてそんなもんだろ。

 

 

 疲れで若干の眠気に誘われながら休憩していると、俺の座っているベンチに誰かが近づいてきた。まあたまたま通りかかっただけで素通りするだろう――――――と思っていたのだが、その人影は一向に俺の前を通り過ぎる気配がない。どうせ赤の他人だと思って遠くを眺めてぼぉ~っとしていたけど、あまりにも人影が気になったので意識を目の前に戻す。

 

 すると、俺の眼前に高校生くらいの女の子が立っていることに気が付く。しかも俺を心配するように顔を覗き込んでいた。

 その子の容姿を一言で言い表すと、”清純”という言葉が相応しい。膝上までの水色のワンピースにサンダル、茶髪の長い髪を赤いリボンで後ろに結んでいるその様は、まさに清潔感漂う夏の女の子って感じがする。このクソ暑い夏場であっても彼女を見ているだけで涼しくなれそうだ。胸は控えめな方だが、彼女の魅力はそこではない。こうして対面しているだけで身に伝わってくる爽やかな涼しさ。それが彼女の魅力だと出会った一瞬で悟った。

 

 

「あのぉ……隣に座ってもいいですか?」

「あぁ、いいけど」

 

 

 見知らぬ女の子なのにも関わらず、俺は自分の隣を譲ってしまった。この子もこの子で荷物が置いてあるのにも関わらず、しかも他にも空いているベンチがあるのにわざわざ俺の隣に座ろうとするその勇気。この子にコミュ力があるとかそんな次元ではなく、自分が華の女子高生だと分かっていながら大人の男の隣に座る度胸は素晴らしい。もう驚いたのを通り越して感服しちまったよ。

 

 仕方ないので俺は荷物を足元にどかす。そしてその女の子は俺の隣に腰を降ろしたのだが――――なんだろう、やけに近い。見た目はいかにも男性が苦手っぽい風貌をしているのに、躊躇なく名も知らぬ男の隣に座るとは……。ま、まさか金か!? 清純さを装って男から金を貢がせようって魂胆じゃねぇだろうな……? 最近では清楚系ビッチといった風変わりなキャラが流行ってるし、純粋を気取って男に接近してくる女の子がいても不思議ではない。

 

 でもこの子、どこかで見たことあるんだよな。どこだったっけ……?

 

 

 するとその子は俺との距離を0まで詰め、突然腕を絡めてきた。しかも当ててるのよと言わんばかりに胸を俺の腕に押し付け、頭を肩に預けてくる。更にブルーハワイを連想させるような爽やかないい香りが俺の鼻孔に立ち込め、抱き着かれているのにも関わらず清々しい涼しさを感じた。

 

 おいおいおい、これじゃあどこからどう見てもただのカップルじゃねぇか。それも人目を気にせずイチャイチャする大変目障りなカップルの典型であり、周りにあまり人はいないものの、見知らぬ女の子からここまで密着されると流石の俺でも……って、こんなこと過去に2回くらいあったよな?

 

 そうか、だったらコイツも……?

 

 

「思い出した。お前、確か虹ヶ咲スクールアイドル同好会の……」

「はい、桜坂(おうさか)しずくです。まさか零さんに思い出してもらえるなんて、私感激です!」

 

 

 まただ。またこっちから名乗ってないのに相手が俺の名前を知っていた。これでもう3度目なので驚きはしないのだが、逆にコイツらが何者なのかがどんどん謎に包まれていく。そろそろ謎解きタイムと行きたいのだが、上原歩夢や中須かすみがそうだったように、俺から聞いても絶対に真実を話してくれないのでもはや探るだけ無駄だろう。まあその件については事の全容を知ってそうな奴がいるので、そのうちソイツに聞きに行こう。

 

 俺の警戒心が最高潮に近づくにつれ、桜坂の密着度は比例的に上がっていく。上原も中須も出会って数秒でここまでくっ付いてきたりはしなかったので、彼女がよほど俺に執着していることが分かる。

 

 それはそれでいいとして、やっぱり女の子の身体って柔らけぇなぁ……。桜坂の身体をパッと見しただけではかなり華奢で肉付きもほどほどといった感じなのだが、こうして寄り添われると『あぁ、コイツも女の子なんだな』と実感する。身体は暖かいが彼女の雰囲気は爽やかなため、こんなクソ熱い夏場で密着されても蒸し暑さは感じない。更に言ってしまえば欲情や興奮といったものも一切沸いてこないのは、この子ががさっぱりとした清楚な雰囲気だからだろうか。もはや腕を絡ませているだけでも心地よく、気を抜いたら一気にこの子のペースに引き摺り込まれそうだ。

 

 

「私、この時をずっと待ってました。ずっと、ずっと……」

「お前らみんな同じこと言うよな。知らねぇ男なのに、やけに一途なことで」

「歩夢さんやかすみちゃんが言っていた通りですね……。それでも私は嬉しいです! またこうして巡り合えることができて!」

「また? おい、俺とお前らって一度顔を合わせたことがあるのか?」

 

 

 だが、その質問に返答はなかった。桜坂はただ嬉しそうに微笑むだけなので、やはり肝心なことは意図的に隠しているようだ。幼気な少女に実力行使で口を割らせるのも大人気ないので、ここは敢えてコイツに祝福を与えてやるか。こうして座っているだけで女の子1人を笑顔にできるんだから、これほど楽な幸せの与え方はない。

 

 それにしても、桜坂の腕の力がどんどん強くなっているような……って、明らかに強くなってるぞこれ!? まるで捕らえた獲物を逃がすまいとする獣のように、力強く自分の腕を俺の腕に絡ませてくる。所詮女の子の力なのでそこまでと言ってしまえばそこまでなのだが、ただ寄り添っているだけなのにここまで本気になる必要がどこにあるんだ……?

 

 

「あのさ、再会を喜んでるところ悪いけど力入れ過ぎじゃない?」

「離したくないんです。できれば一生、死んでもずっと……」

 

 

 なにそれ重すぎるんですけど。出会って数分の女の子に生涯一緒にいることをナチュラルに義務付けられ、しかも墓場まで同じとは都合のいい将来設計だなオイ。この子が虹ヶ咲のメンバーだと分かった時点で援交目的ではないと分かったのだが、それでもこの押しは重すぎる。見た目の清楚さや爽やかさとは裏腹に、心の内に秘める愛は俺が担げるか怪しいほどにヘビーらしい。これまで色んな女の子の様々な気持ちを汲み取ってきた俺だ、この見解に間違いはない。

 

 

「私、小学生の時から中学卒業までは演劇部でした。観に来てくれた人を楽しませて、感動させて、そしてたくさんの笑顔を見るのが大好きなんです。でももう1つ、演劇部に入っていたのは理由がありました」

 

 

 おいおい、勝手に一人語り始めちゃったよこの子……。でもこの人にこの話をしたいと意気込んで、実際にその人に会ったら話が先走っちゃうのは変な話ではない。テンションが高ぶってしまった結果、いつの間にか相手の様子を伺わずに会話を進めてしまった経験は誰にでもあるはずだ。今の彼女がまさにそんな感じ。俺と出会えたことに相当な喜びを感じていたからこそ、実際に俺と出会った時に話したかったストーリーをどんどん漏らしてしまっているのだろう。

 

 ま、話の中に虹ヶ咲メンバーの謎を解くヒントがあるかもしれないし、聞くだけ聞いてやるか。

 ちなみに笑顔が大好きという点では俺も同じなので、少なからず彼女の話には興味があった。

 

 

「その理由は―――――零さんに自分を魅力的に魅せるためです」

「俺に?」

「はい。私はどちらかと言えば内気な性格なので、これではいざ零さんの前に立った時に自分の気持ちを伝えることすらできないと思ったんです。なので演劇部に入って度胸と己を磨き、零さんの前に立った時、そしてゆくゆくは隣で一緒に歩いていく際に恥ずかしくないよう日々特訓を重ねてきました」

 

 

 重い……重すぎる!! 彼女が一途で俺のことが好きだって気持ちは真っ向から伝わってくるんだけど、なにもそこまですることあるのか、と思ってしまう。さっき小学生の頃から演劇をやっていたと言っていたから、その頃からずっと俺の背中を追いかけて努力してきたってことか。それってもう人生のすべてを俺に捧げているのと一緒だぞ……? そう考えると彼女のことを全く思い出せないことが非常に申し訳なくなってくるのだが、覚えていないものは仕方がない。虹ヶ咲奴らが俺との過去を明かしてくれれば話は早いのに、何故黙ったままなんだよ……。俺のことが好きなくせに不思議な奴らだ。

 

 

「こうして再び巡り合えたことは奇跡です。だから一生この腕を離したくありません。零さんが他の女の子に現を抜かそうと、エッチなことをしようと私は構いません。ちゃんと私のことも構ってくだされば、それでも……」

 

 

 これはあれだ、俗にいう『執着型ヤンデレ』ってやつだな。抱いた感情が愛であれ憎悪であれ、とにかく対象者に執着するタイプのヤンデレだ。一般的なヤンデレである独占型と違うのは、他の女の子が対象の男に群がっても特に気にしないところ。だが対象の男を手に入れたい欲は凄まじく、この場合、つまり俺が彼女から離れようするのは何が何でも絶対に許さないだろう。

 さっきから俺の腕を力強く絡めおり、他の女の子には目もくれないが自分にもしっかりと愛情を注いで欲しい。そんな彼女はまさしく『執着型ヤンデレ』の典型だ。

 

 しかし、俺の知らないところでヤンデレを育っていたとか、自分で言うのもアレだけど罪作りな奴だな俺って。ヤンデレなんて症状を引き起こすくらいだから、俺への愛が彼女の心にどれだけ深く根付いているのか想像するに余りある。だがいくら愛が深いと言っても、俺に伝わらなければ何の意味もない。俺との過去や因縁を全く語らないのが不気味であり、そのせいで俺から見た彼女のイメージは余計に病みの部分が強調されているんだと思う。多分彼女がさっき言ったセリフをμ'sメンバーが言ったとしても、特に歪曲した意味を考えることはなく素直な告白だと受け止めていたはずだから。

 

 どうして俺を好きになったのかは聞いてもどうせ答えてくれないため、だったら別の角度から質問してみよう。可愛い女の子に抱き着かれるのは悪い気はしないというか、むしろ大歓迎なのだが、このまま得体の知れないヤンデレちゃんと一緒にいるのは精神衛生上キツイものがあるからな。

 

 

「なぁ、1つ聞いてもいいか?」

「…………私が答えられる範囲ならお答えします」

「お前さ、俺のどこが好きなんだ? 俺はお前との出会いがあったことすらも忘れているらしいし、そうなると顔を合わせたのはほんの一瞬なんじゃないのか? そんな俺をどうして……?」

 

 

 女の子から好意を向けられるのは純粋に嬉しい。嬉しいからこそ俺はその気持ちに応えたくなる。だが彼女たち虹ヶ咲メンバーは素直に好意を伝えてくるものの、その中身は一切明かそうとしない。つまり俺からどう応えていいのか分からず、こうして戸惑ってしまうのだ。だったらせめて俺のどこを好きになったのかだけでも知ることが出来れば、好きになった経緯は後回しでもいい。彼女たちの中では俺との出会いは奇跡であり運命的でもあるらしいから、できる限り想いを受け止めてあげたいんだ。

 

 

「救ってくれたからですよ、私を。いや、私だけじゃなく私たちを……と言った方が正しいでしょうか」

「おいそれどういうことだ?」

「だから大好きなんです。私もみんなも、あなたのことが……」

 

 

 やはり必要以上に口は割らないか……。焦らなければ上手く聞き出せそうだったのに惜しいことをしたかも。

 桜坂しずくは目を瞑って俺の肩に頭を預けるだけで、核心部分には一切触れなかった。徹底しているっつうか、全てを明かせば俺が振り向いてくれるかもしれないのにおかしなことをする奴らだと思う。

 

 

「だから再び巡り合えたこの奇跡、絶対に手放しません。なにも零さんの負担になるようなことは致しません。私の存在なんて頭の片隅にでも置いておいてもらえれば、それでいいですから。少しでも私のことを想っていてくださるのならそれで……。でもこうして再会した以上、絶対に私のことを忘れないでくださいね……? もし忘れちゃったら私……」

 

 

 桜坂はそれ以上語ることはなかったが、むしろ聞きたいのはその先だろ!? もし忘れちゃったら何をやらかすのか、それとも俺が襲われたりするのか。どちらにせよこの愛の重さを考えるに、どうして俺のことが好きになったのかがますます気になってきた。

 

 

「お前らが何を企んでいるのかは知らないけどさ、その気持ちが本気だってことは伝わってくるよ。むしろそれくらいしかお前らのことが分からないから、どう応えてやればいいのかも曖昧なんだけどな……」

「秘密ばかりの私たちなのに、そこまで私たちのことを考えてくださっているなんて……。優しいんですね、昔も今も」

「昔か。どうだっただろうな」

「少なくとも、女の子の気持ちは分かるようになったみたいですね」

「なんだよ急に、バカにしてんのか……」

「いえいえ! むしろより大好きになっちゃいました!」

 

 

 桜坂は笑顔で告白すると、徐にベンチから立ち上がる。

 そして俺と対面するように立つと、彼女の顔がどんどん近付いてきて――――――

 

 

 頬に触れる暖かな感触。

 

 

 一瞬なにが起こったのか気付かず。状況を察した頃には桜坂が再び俺の前に立っていた。

 

 

「今はここまで。でもいつかきっと……」

 

 

 見た目の清楚さとは裏腹に大胆な行動に出る奴だ。頬や唇に関わらず、女の子に接吻されたのは何年ぶりだろうか。それくらい久々だったので状況の理解に刹那の時を要してしまった。

 

 桜坂は頬を染め、ベンチの前に置いていた自分の荷物を手に取る。

 

 

「みんなを待たせてしまっては悪いので、今日はこの辺で。買出し当番も楽じゃないですよね、お互いに」

「あぁそうだな……って、どうして俺がパシリにされてるって知ってんだ?」

「その荷物の量を見れば誰でも分かりますよ。それに、零さんのことなら私は何でも……」

「な、なんだよそれ……」

「フフッ、何でもありません。それではまたいつか!」

 

 

 桜坂は小さく手を振りながら、細い腕で荷物を持ち立ち去った。重そうだったので手伝ってやろうかと思ったが、みんなのところへ帰る以上、俺に干渉はさせないだろうと踏んで敢えてそのまま見送った。

 

 

 これまで何度も恋愛を経験してきたが、ここまでダイレクトに好意を伝えられ、そしてその真意を隠している子たちはこれが初めてだ。どうして俺を好きになったのか、俺のどこを好きになったのか。具体的なことが何も分からないまま押し寄せてくる女の子たちの想い。ミステリアスな女性は魅惑的と謳われるが、あまりにも秘密にされていることが多すぎる。

 

 

 どう応えてやればいい?

 ここまでの想いを伝えてくれる彼女たちを覚えていない、最低な俺は……。

 

 




 ヤンデレ小説を言えばよく女の子が狂気を振り撒いているだけの小説が多いですが、ヤンデレにも色々種類があり、今回のようにやたら執着してくる子もヤンデレの一種です。他にもたくさんの種類があるので、気になった方は「ヤンデレ 種類」で検索してみては?

 それにしても、虹ヶ咲のキャラクターは公式でまだ完全にキャラが固まっていないので、私が好き勝手に性格を肉付けできるのが楽しかったりします。これで実際に公式アプリが配信された際にキャラが全然違ったら……ま、いっか()


 次回はまだ未定。最近はリアルが忙しいので執筆中に次回を考えている余裕がない……。
 とりあえずAqours全員はμ'sと絡めたのですが、前者が9人に対し後者が12人なのでμ's側に余りが出ちゃっているんですよね(笑) 具体的には穂乃果と花陽、凛なのですが、次回はこの3人の誰かにスポットを当ててみようと思います。



よろしければ☆10評価をつけていってください!
私も執筆のやる気が出ます!()


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

探偵事務所・ShinyRin結成!?

 今回は凛と鞠莉という誰も想像していないだろう珍しい組み合わせですが、μ's&Aqoursの組み合わせの中でもベスト3に入るくらい騒がしいコンビだと思います(笑)


 

 俺が知らないだけなのか、それとも忘れてしまったのか。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は、どうやら俺のことを知っている女の子たちだけで構成されたグループらしい。その事実が昨日出会った桜坂(おうさか)しずくから語られた。直接的にその事実を露呈させた訳じゃないが、彼女や上原歩夢、中須かすみの口振りからもその事実を確定付けるのは容易だったし、間違いもないと思っている。

 

 彼女たちは俺のことを慕ってくれているだけでなく、俺に対して並々ならぬ恋愛感情を抱いていた。これまで出会ってきた上原や中須、桜坂からの愛情は凄まじく、彼女たちの話が本当ならば他の6人も同様に俺のことを思慕しているのだろう。普通ならば女の子に好意を向けられるのは大歓迎なのだが、そう素直に喜べない理由が俺自身にあった。

 

 その理由はたった1つ。俺自身が彼女たちのことを一切覚えていないことだ。

 彼女たちの想いは本気なのだが、俺が彼女たちを覚えていないせいでイマイチその想いを受け取れずにいる。もちろんそれは上原たちが自分たちの素性などの秘密を明かさないのが原因ってのもあるけど、もし俺がみんなのことを忘れているだけだとしたら一概に彼女たちのせいだと言い切れない。それは彼女たちの思い出を忘れてしまっている俺のせいだし、もしそれで彼女たちに悲しませているであれば何としてでも思い出してやりたい。

 上原たちの様子を見れば俺が自分たちのことを忘れていても不満気な表情は何一つせず、むしろ笑顔で俺との再会を喜んでいるのでなおさら心が痛くなる。できることならそんな彼女たちに甘えず、俺からも何かアクションをしたいのだが……どう足掻いても思い出せないものは思い出せなかった。家にあったアルバムを総動員しても家族やμ's、Aqoursとの写真ばかりでこれといった収穫はなかったから、自力で思い出すのはもはや詰みの状態に近い。

 

 ちなみに唯一知ってそうな奴がいるのだが、秋葉(アイツ)は俺が探りを入れようとしていたのを察したのかそうでないのか、ここ数日は出張で海外にいるため直接会うことができなくなってしまった。いつ帰ってくるのかは未定らしいのだが、その時は知っていることを洗いざらい吐かせてやろうと思っている。そもそも秋葉が俺の過去を知っているのかどうかすら半信半疑だったけど、狙ったかのように海外に雲隠れしたってことはつまりそういうことなんだろう。全く、今度は一体何を考えているのやら……。

 

 

 そんな感じで多少ナーバスになりながら、俺は公園のベンチでホームレスのごとく寝っ転がっていた。相変わらず今日もダラダラと過ごしているのだが、桜坂との出会いを機に虹ヶ咲の奴らとの接し方を改めないといけないと本気で思い始めているため、そろそろ俺からも何かしらのアクションを起こさないとな。

 

 

「あっ、零くん丁度いいところに!」

「あ?」

 

 

 いきなり元気な声が聞こえてきたかと思えば、寝転がっている俺の視界に凛の顔がドアップで映り込んできた。更に有無を言わせずに俺の手を握り、力づくで身体を起こそうとしてきやがる。自分で言うのもアレだがさっきまで超シリアスモードだったのに、ものの一瞬で彼女のペースに巻き込まれてしまった。

 

 

「おいっ! 急にどうしたんだ?」

「いいから早くこっちに来て! 見失っちゃうから!」

「はぁ……?」

 

 

 凛は俺の手を無理矢理引っ張り公園から外へ連れ出す。

 そして少し先の電柱の陰に身を潜めている金髪の少女、鞠莉の元へと連れて来られた。

 

 

「鞠莉ちゃん、善子ちゃんの様子はどう?」

「相変わらず周りを気にしながらどこかへ向かってるみたい――――って、先生? シャイニー☆」

「なんだこの組み合わせは……」

 

 

 凛と鞠莉という珍しい組み合わせだが、あからさまに騒がしいこの2人に巻き込まれたとなれば俺の平穏は一気に崩れ去るだろう。ここから何かしらの面倒事に引きずり込まれるのは明白であり、その事実は俺たちの先にいる善子を尾行している時点で揺るがない。ただでさえこっちは得体の知れない女の子たちから好意を向けられ困惑しているってのに、あまり変なことに巻き込まないで欲しいんだが……まあ凛に捕まってしまった以上、もはやその願いは叶わないだろう。

 

 

「何をしてるんだって聞くだけ野暮だな。どうして善子を尾行してんだ?」

「だって凛たちは探偵だから、怪しい人を監視するのは仕事だよ」

「は? 探偵?」

「そうだよ先生。凛さんと私は同じ探偵として、探偵事務所を結成したの」

「へぇ、あっそ……」

「その名もShinyRin! 明るくて素敵な名前でしょ?」

「そうだな」

「もうっ! 零くん適当すぎるよ!」

 

 

 そりゃねぇ……。面倒事に巻き込まれるのは分かっていたけど、想像以上に厄介なことが起きそうでため息も出ないくらいだ。ツッコミどころも多くわざわざ口に出すのも面倒だが、とりあえずどうして探偵ごっこなんてやっているのか。まあこの2人のことだから、ただ面白そうという理由で衝動的にやっているに違いない。2人の思考が読めるからこそツッコミを入れる気も起きず、そんなことに体力を割くくらいならコイツらに適当に付き合って頃合いを見て立ち去ろう。こんなことをやっている場合じゃないくらい忙しいんでね、俺は。

 

 

「100歩譲ってお前らが探偵なのはいいけど、どうして善子なんて尾行してんだ? どこからどう見てもただのストーカーだぞお前ら」

「違うよ先生! ほら見てよ、善子のあの様子」

「なんだよもう……」

 

 

 鞠莉に促されて電柱に隠れながら善子の様子を覗いてみる。確かに言われてみればいつもの彼女らしい堂々とした雰囲気はなく、周りを伺いながらスマホ片手に歩いていた。もちろん歩きスマホはよろしくないことだが、イマドキの若者ならスマホを持って歩いていても普通というか、特段変な様子でもない。でも普段の彼女はアレだが良識はかなりある方なので、歩きスマホなんて疎まれる行為をするなんて考えにくいのは確かだ。

 

 

「歩きながらのスマホは注意すべきだろうけど、わざわざ尾行まですることか? もしかして探偵になったけど事件が全く起きないから、たまたま歩きスマホをしている善子に目を付けた……って流れじゃねぇだろうな?」

「まあそれもあるけど、凛たちはもっと大きな事件を担当しているんだよ!」

「大きな事件?」

「実はね、最近善子の様子がおかしかったの。だから私と凛さんはその理由を探るため、こうして善子を尾行してるって訳」

 

 

 様子がおかしいと言われれば今の彼女を見ると分からなくもないが、善子の様子がおかしいのって日常茶飯事じゃね? ほら、日常的にやれ黒魔術だの、やれ堕天使降臨など、痛々しいセリフを連発しては周りにスルーされるほどの変人ちゃんだ。良識はあると言ったもののそれが発揮される場面は限られており、善子と言えば常識人という人よりも中二病や堕天使を思い浮かべる人の方が多いだろう。つまり、アイツの様子がおかしいことなんて今に始まったことじゃないってことだ。

 

 

「それで? 善子のおかしいところって? いつも一緒にいるお前がそう言うんだから、ただ中二病を拗らせ過ぎたとかじゃないんだろ」

「それがね、最近の善子、練習が終わるとどこかへ出かけちゃうの。私たちにはコンビニに行くとかコスプレショップに行くとか言って、毎回言い訳は違うんだけどね」

「でもそれだけで怪しいと疑うのはどうなんだ?」

「私も最初はそう思ったんだけど、凛さんから聞いた話で疑いは大きくなったわ」

「凛の話? お前、善子と会ったことあるのか?」

「うん、さっき街中でばったり会ってね。なんだか忙しそうにしてたから挨拶だけだったんだけど……」

「つまり、最近練習が終わってから急いでどこかへ行く用事があるってことか」

「そういうこと。さすが先生、話が早いね!」

 

 

 鞠莉が善子を尾行しているってことは、彼女が何をしているのかAqours側は知らないのだろう。ということはプライベートで極秘にどこかへ行ってるとか? 善子の性格を考えるに中二心をくすぐられるコスプレショップだったり、単純にオタク趣味の店なんだろうけど、それだったらわざわざ鞠莉たちに隠す必要もない気がする。それにその店に行くなら急ぐ必要もないので、凛と出会って挨拶で終わらせるくらいに急いでいたのはそれなりの理由があるのかもしれない。

 

 まぁ、だからと言って俺たちがコソコソ尾行する理由にはもちろんならないがな……。

 

 

「アイツのプライベートが気になるのは分かるけどさ、あまり穏やかじゃねぇだろ尾行なんてさ」

「零くんは知りたくないの!? 善子ちゃんの乙女チックなところ!」

「は……?」

「忘れちゃったの? 凛たちは探偵なんだよ。だからシャーロックホームズも顔負けの推理で、既に善子ちゃんの行き先は分かっているんだにゃ!」

「…………へぇ」

「あっ、信じてないねその顔!」

「もう先生ったらバカにして! 私たちのWonderfulな推理に腰を抜かしても知らないからね!」

 

 

 鞠莉の頭がいいことは知っているが、あの凛と同調している時点で何となくお察しだ。そもそも邪な心がなければ善子に直接事情を聞けばいいものの、それをせず探偵ごっこをして楽しんでいる奴らの推理なんて信用しろってのが間違ってるだろ。尾行する理由は分からなくもないが、ただ単に探偵となった自分たちに酔っているようにしか見えねぇから……。

 

 しかし凛も鞠莉も尾行そっちのけで俺に輝かしい目線を向けてくるため、よほど自分たちの推理を披露したくてたまらないのだろう。聞くだけ無駄だと思うけど、聞かなかったら聞かなかったでウザ絡みされそうだし、ここは素直に受け止めてやるか。善子を見失わないために多少は受け流しつつな。

 

 

「そんなに熱い目線を向けるな。一応聞いてやるから」

「ホントに!? いやぁ凛たちの推理が凄すぎて、推理小説になっちゃうかもねぇ~♪」

「…………帰るぞ?」

「ゴメンゴメン! 実はね、善子ちゃん――――デートかもしれないんだよ」

「はい……?」

 

 

 デート? 誰が? 善子が男と?

 んな訳ねぇだろ。だって善子は俺のことが――――

 

 

「あれぇ~? 先生もしかして、嫉妬してるぅ? Jealousy感じちゃってる??」

「あまり見くびるなよ。常に勝ち組の人生を送っている俺が、そんなことくらいで嫉妬するはずないだろ」

「Doubt! どうせ独占欲の強い先生のことだから、『善子は俺のことが好きなはずだ』って思ってるでしょ♪」

「ぐっ……」

「零くん顔真っ赤で可愛いにゃ!」

「うるせぇええええええええええええええええええええええ!!」

「わっ、零くん声大きいって! 善子ちゃんに聞こえたらどうするの!」

 

 

 クソッ、身体が芯から熱い! まさかコイツらにからかわれることになるとは……。しかも善子がデートっていうのも真実が発覚していないのに衝動的に熱くなってしまったので、俺の精神もまだまだ未熟だってことかよ。でも仲のいい女の子が他の男に靡いてると思うと、それが真実か否かに関わらず多少は取り乱しちゃう気持ちは分かってもらいたい。別に寝取られ趣味はないのだが、身近な女の子が他の男とこっそり会っている(かもしれない)と聞いて黙っていられるほど、俺はまだ人間が出来上がっていないんでね。

 

 とにかく一旦深呼吸をして落ち着いたので、そろそろ本題へ戻ろうか。

 ちなみに俺たちの存在は善子に気付かれていないようだ。夕方で帰宅ラッシュのせいか人通りも多くなってきたので、多少声が出てしまっても問題はなさそうだけど。

 

 

「どうして善子がデートに行くって思ったんだ? あまり下手なこと言うとこの場で襲うぞ」

「やっぱり嫉妬してるじゃん零くん……。まあいいや、凛がそう疑ったのは、善子ちゃんが買ったものだよ」

「買ったもの?」

「実は凛が善子ちゃんと会ったのは100円均一のお店なんだ。そこで善子ちゃんはヘアブラシを買ってたんだよ。それはつまり、デートに行く前に自分の髪型を整えるため! ほら、髪は女の命って言うでしょ?」

「わざわざヘアブラシを買わなくても、髪くらい家で整えていけばいいだろ?」

「それは多分鞠莉ちゃんたちにバレるのがイヤだったんじゃないかな。今のAqoursって一軒家で一緒に住んでいるから、こんな夕方に髪を整えていたら疑われちゃうもん」

「ヘアブラシくらい家からでも持っていけるし、お前の言い分はわざわざ100均でブラシを買った理由になってねぇぞ」

「むむむ、零くんって凛たちがあぁ言えばこう言うよね」

「あからさまに不機嫌になるな……」

 

 

 ただ的外れな推理を添削してやっただけなのに、どうして俺が悪いみたいな空気になってんだ……。さっきも言ったがヘアブラシなんて女の子なら大抵持ってるだろうから改めて買う必要なんてないし、急いでいるのならなおさら100均に立ち寄るタイムロスがある。つまり急遽新しいヘアブラシが必要になったんじゃないかな?

 

 

「凛さんの推理もだけど、私の推理も聞かせてあげようか?」

「お前も善子がデートに行くと思ってんのか……」

「だって善子、最近シャンプーにかなり拘りを持ってるみたいなんだもん。難しそうな顔をして携帯を見つめてたから、こっそり後ろから覗いてみたの」

「ストーカーといい覗きといい、探偵より犯罪者だなお前……」

「話の腰を折らない! 女の子がシャンプーを気にするのは髪質が気になる時と、好きな男性が出来た時だけなんだから。そして善子が見ていたのはいつも使っているのとは別のシャンプーだった。つまり、東京で運命の人と出会って途端に自分を変えたくなったってことだよ!」

「そんな馬鹿な……」

 

 

 女の子がどのタイミングでシャンプーを変えるのかは知らないが、鞠莉の言うことに妙な説得力があり思わずたじろいでしまう。俺からしてみれば善子が髪に並々以上の拘りを持っているとは思えないけど、恋は人を変えると言われるし、彼女も女の子だから自分の魅力を上げることを意識してもおかしくはない。そう考えると、もしかしてデート説って意外に濃厚なのか……? でも彼女が好きなのは俺のはずだし、東京で突然出会ったぽっと出の奴なんかに気難しいアイツが靡くなんてことは……。

 

 

「100均でヘアブラシを買ったのも、自前のモノが壊れちゃって急いで買う必要があったからだと凛は踏んでるんだよ」

「まぁなくはないと思うけど……でもなぁ……」

「ねぇ鞠莉ちゃん、零くんの目から段々光がなくなってるよ」

「これが噂に聞く、男性の醜いヤンデレってやつね!」

 

 

 ひでぇ言われようだなオイ……。でも先日は桜坂のことを散々ヤンデレ呼ばわりをしたのに、まさに自分もそれになりかけているからもしかして伝染したか?? 気になる男が他の雌に取られそうになる女の子の気持ちが、今初めて分かったような気がする。心がちょっとずつ闇に染まっていく感じってこういう感覚なんだな……。最初は大したことのない推理だろうと思い軽く受け流す気でいたが、凛と鞠莉の主張が想像以上に現実味を帯びていたので焦ってしまう。

 

 本当にデートなのか善子の奴。マジで……?

 

 

「あっ、善子ちゃんがスーパーに入ったよ! また何か買うのかも」

「気になるからって飛び出しちゃダメだよ先生。こっそり覗き見るだけだからね」

「覗き見るのも相当ダメだと思うけど……」

 

 

 善子がスーパーに入るのを見計らって、俺たちも時間差で入店する。明らかに怪しい挙動なので監視カメラに引っかかって事務所に連行されないか心配だが、幸いにも店内にはそこそこ人がいるので目立つことはなかった。

 

 善子はとあるコーナーへ向かうと、そこで少し迷いながらも1つの商品を手に取る。

 

 だが、その時に事件は起こった。

 少し離れたところからその様子を見ていた俺たちは、たまたま目に入ってきたその商品のラベルを見て驚愕を露にする。

 

 

「あ、あれって、赤ちゃん用のミルクじゃない!?」

「What's!? 見間違え?? でもはっきりとこの目で……」

 

 

 凛の言う通り、善子が手に取ってカゴに入れたのは間違いなく赤ちゃん用のミルクだった。これからデートなのかまだ確証はなかったけど、これでようやくはっきりしたな。彼女はデートに向かうのではない。どこの誰がデートなのに赤ちゃん用のミルクを携えるっていうんだよ。彼氏と赤ちゃんプレイをするってのなら話は別だけど、そんな特殊プレイをする女の子だったらこちらから縁を切っちゃうぞ。

 

 他の男に靡いていた訳じゃなくて安心したのだが、また1つ新たな謎が浮かび上がってきた。

 どうしてアイツ、赤ちゃん用のミルクなんて買ってんだろう……? 普通の牛乳よりもそっちの方が好きで、これまで極秘で赤ちゃん用ミルクを嗜んでいた……とか? 全くもって訳わかんねぇ!!

 

 

「まさか善子ちゃんって――――赤ちゃんがいるの!?」

「そんなはずはないと思うけど……。ま、まさか!?」

「えっ、でもまさか?!」

「どうしてこっちを見る!? んな訳ねぇだろ!!」

 

 

 凛と鞠莉は目を丸くして俺を凝視するが、身も蓋もない冤罪を吹っ掛けられたこっちの気持ち分かってんのかコイツら!? まだ16歳の女子高校生であり元自分の生徒を孕ませたとなれば、俺はもう社会どころかこの世にいられなくなるだろう。確かにそのような願望がないと言えばウソになるが、行く先々で出会った女の子を産ませる凶暴な種馬と思われてるのが釈然としねぇ……。そんな犯罪者に見えるか、俺??

 

 

「いや、零くんのことだから既に手を出したのかなぁ~っと」

「私たちの寝ている間にこっそり種付け完了とか、先生だったらありがちだし」

「お前ら、俺のことどう思ってんだよ……」

「「変態」」

 

 

 なんかもう善子のことは二の次でいいから、今日は一晩かけてコイツらとじっくり()()()()をしたくなってきたぞ。それに探偵ごっこと言いつつも探偵の肩書を背負っているならば、安直に俺との赤ちゃんがいるなんて推理はやめてもらいたい。しかもこのままだと俺が犯人に仕立て上げられそうだし、こんな意味不明な冤罪で人生を棒に振るとか堪ったもんじゃねぇぞ。つうか俺が意外と紳士だってことくらい、特に付き合いの長い凛なら分かっているはずなのに……またからかってんのか俺のことを。

 

 あぁ、案の定また面倒事に巻き込まれてしまった。当初の予定通り、頃合いを見てそろそろ帰る時間かなこれは……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 執筆していて思ったのですが、凛と鞠莉ってテンション的にも案外ウマが合うと思っています。逆にこれまで執筆していて雰囲気が全然違うコンビだなぁと思うこともあり、やはりウマが合うコンビというのは筆も進みやすいです。

 皆さんはμ's&Aqoursのコンビでウマが合いそうな組み合わせは、誰と誰を想像しますかね?


 次回は凛&鞠莉編の後編ですが、善子が出しゃばる頻度の方が多くなるかも……()


よろしければ小説に☆10評価をつけていってください!
そろそろラブライブ小説の総合1位になれそうな予感()


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

身体は子供、頭脳も子供、その名は――――

 凛&鞠莉、ついでに善子回の後編です!
 ついに女の子を孕ませてしまった零君の末路は……??


 

「おい、何故俺の手首を掴む……」

「所構わず女の子を産ませちゃう零くんは、これから署に連行するからね」

「署に連行するのは探偵じゃなくて警察の仕事だろ……。しかも問題はそこじゃないし」

 

 

 凛と鞠莉の斜め上の推理のせいで、突如2人の捜査対象が善子から俺に向いた。2人は『いつかコイツはやってしまうと思っていました』と言わんばかりの顔で、尾行そっちのけで俺を問い詰めようとしている。

 

 

「まさか先生と善子の間に、既に赤ちゃんがいたとはねぇ……」

「でもそう考えると、これまでの善子ちゃんの行動も全部納得できるよね。善子ちゃんがシャンプーを気にしたり髪に気を使ったりしていたのは、子持ちになったことで大人の女性にならないといけなかったから。赤ちゃん用のミルクを買ったのはまさにその裏付けだよ!」

「善子が私たちに何も言わなかったのは、先生に無理矢理襲われて望んでいない赤ちゃんが産まれたことを知られたくなかったから」

「だけど産まれた赤ちゃんに罪はない。だから善子ちゃんは仕方なくその子をこっそり育てることにしたんだね」

「そして先生は何も知らないふりをして、自分の罪を誤魔化そうとしている……まさにGuilty」

「凄い! やっぱり凛たち探偵の才能あるかも! だってここまで事実が1本に結び付くなんて、ナイス推理だよ鞠莉ちゃん!」

「凛さんのおかげだよ! さぁ先生、観念してね♪」

「茶番はもう終わったか……?」

 

 

 清々しいほどの冤罪に鼻で笑ってしまいそうになる。だが現状の証拠だけでは俺と善子の間に赤ちゃんが生まれたと推理できなくもないので、一概にコイツらの推理を否定できないのも事実だ。もちろん善子が子供持ちだと裏付ける証拠も全く確証がないため、凛と鞠莉の推理は早計にも程があるのだが、何故か自信満々なのはなんでだよ……。2人共自分の考えには絶対的な自信を持っているようで、どうやら意地でも俺を犯人に仕立て上げたいようだ。

 

 つうか、凛は自分の彼氏が女子高校生を無責任に産ませる男でいいのかよ……?

 

 

「おい、善子はいいのか? もう会計に行っちまったぞ」

「そういって凛たちの気を逸らそうとしても無駄だよ。もう調べはついてるんだから!」

「調べって、どうせ思ったことを衝動的に喋ってるだけだろ……」

「先生、私たちとは遊びだったのね!!」

「急にシリアス展開へ持っていこうとすんな!」

「だって、昼ドラ的なシチュエーションに憧れてたんだもん」

「探偵やってんじゃねぇのかよ……」

 

 

 これではっきりしたな。凛と鞠莉は善子を心配する以前に、自分たちの好奇心と欲求を満たすために探偵をやっていたのだと。そう結論付けた瞬間に帰りたくなってきたんだが、もういいかな? これ以上コイツらと一緒にいると犯人にされるわ尾行の片棒を担がされるわで、俺にメリットが一切ない。そもそも凛や鞠莉が善子を不審がっていたのも本当かどうか怪しく、探偵をやりたいがために俺への説明を盛っていたとも考えられる。こんな胡散臭くもない推理をするくらいだから、その可能性は大いに有り得そうだ。

 

 だったらどうするか。

 うん、帰ろう。

 

 

「さて、凛は零くんをμ's署へ連行するにゃ」

「それだけはやめろ。女の子を孕ませたなんてデマ、信じる奴がたくさんいるから。特に楓から何をされるか分かったもんじゃねぇ……」

「それじゃあAqours署へ連行ね!」

「善子が産まされたなんてデマを千歌たちに伝えてみろ。一瞬でグループ解散の危機だぞ」

「もうっ、零くんが取れる選択肢は2つに1つだよ!」

「このまま帰るという選択肢を寄こせ!」

 

 

 いくらデマであっても、神崎零と津島善子の間に子供ができたと聞いて驚かない女の子は俺の周りにいない。そうなれば事態を終息させる作業が発生してしまい、それまた面倒なので危ない芽はここで摘んでおくのが正解だ。つまりここでコイツらの推理を受け流し、何もなかったかのように帰宅するのが一番いい。下手に2人の会話に乗ってしまうと探偵ごっこに付き合わされるからな。

 

 

「も~う! 零くんってばノリわる~い!」

「ノリで女子高生を産ませた犯罪者にされるこっちの気持ち考えたことあんの?? ま、俺のことはどうでもいいけど、これ以上善子に関わるのはよせ。アイツにもプライベートがあるだろうし、それを詮索する権利は誰にもない」

「先生は気にならないの? どうして善子の様子がおかしかったのかとか、さっき赤ちゃん用のミルクを買ったのかとか」

「さぁな。別に悪いことをしてるようには見えないから、コソコソ覗き見る必要もないだろ。ほら、善子も店を出るみたいだし俺たちも帰るぞ」

「「は~い……」」

 

 

 善子がスーパーを出たタイミングを見計らい、俺たちも外へ出る。

 凛も鞠莉も善子のことが多少心配な気持ちは分かるのだが、ストーカー紛いの行為で彼女の周りをウロチョロする方が迷惑だろう。買ったものから推察するに誰かとデートする訳でも危険なことをしようとしている訳でもないので、わざわざ尾行しなくても問題ないという判断だ。凛も鞠莉も理解してくれたようで、探偵ごっこができなくなってつまらなさそうにしつつも、しっかり俺の言いつけを守ってそれぞれ帰路に着いた。

 

 ただの自己満足でも他人に迷惑をかけるな。ためになる教訓を掲げた上で、今回のお話はこれにて幕を降ろすことにしよう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 なぁ~んて、簡単に降ろさねぇよ。

 騒がしくも賑やかなアイツらが帰ったことで、俺の尾行がバレることはほぼ0となった訳だ。実はこれまで気付かれていないと言っても、凛と鞠莉が騒ぎ立てるたびに善子は後ろを振り返ったり周りを気にしていたので、内心はかなりヒヤヒヤしていた。でもこれからは俺1人での追跡なので、そんな心配は無用だろう。アイツらがいたらいつ善子に俺の存在が気付かれるか分かったもんじゃねぇからな。

 

 こうして尾行を続けているは探偵ごっこでも何でもなく、ただ単に善子の動向が気になるからだ。もしかしたらプライベートかもしれないが、もしかしたら何か悩みがあって1人ぼっちで解決しようとしているのかもしれない。凛と鞠莉の話が本当であれば、今の彼女が背負っている状況はただ事ではない可能性が高い。そう考えると尾行を途中でやめるにやめられなくなっちまったんだ。まあ結局は過保護なだけなのだが、やっぱり心配なんだよ。

 

 俺は人込みに紛れながら善子の追跡する。時たま彼女が周りをキョロキョロとするので、その時は物陰に隠れてやり過ごす。まるでストーカー技術が身に付いているようだと思うかもしれないが、いくら俺でもコソコソ女の子を付け回したことなんて今回だけだからな? それに陰キャじゃないんだから、女の子と接触したかったらわざわざ尾行なんてせず直接声をかけるから、俺ならね。

 

 

 凛と鞠莉がいなくなったことで追跡はスムーズに進み、周りに人があまりいなくなった閑静な住宅地に入っても俺の存在はまだ気付かれていない。

 

 ――――――と思っていたのだが、突然何者かに服の裾を掴まれていることに気が付く。

 ま、まさか!? 女の子をストーカーしてる変質者だと疑われちゃった!? や、やべぇ……!!

 

 

 …………って、あれ?

 

 

「凛? 鞠莉……?」

「……………」

「……………」

 

 

 恐る恐る振り返ってみると、俺を制止していたのは帰ったはずの凛と鞠莉だった。2人共ジト目で俺を見つめ不満気な表情を浮かべている。

 どうしてコイツらがここにいるんだよ……。

 

 

「お前ら帰ったんじゃないのか……?」

「零くんの考えなんて凛にはお見通しだよ! それっぽいこと言って凛たちを追い払って、でも善子ちゃんのことが心配だから自分だけ尾行を続けようたってそうはいかないもんね!」

「それに先生なら、怪しい行動をしている女の子を見過ごすはずがないと思ってね。全く、優しいけど不器用な人」

「じゃあ何か、お前らは善子の尾行をしている俺を尾行してたってことか?」

「Exactly! 私たちの尾行を見抜けないなんて、先生もまだまだだね!」

「ったくお前らなぁ……」

「これでも凛たちだって善子ちゃんのことを心配してるんだからね。そりゃ探偵ごっこが楽しくないかと言われたら嘘だけど、それはあくまでついでだから」

「善子が私たちに内緒でどこかへ行こうとしてるんだから、下手に直接口を割らせるよりもこうして尾行した方が真相を確かめやすいしね。それくらいは考えてるんだよ、私たちだって」

 

 

 なるほど、遊びかと思っていたが本心ではしっかり善子のことを心配していたのか。もちろん探偵ごっこをやりたかったってのもあるんだろうけど、それは善子に気を使わせないための名目上であり、彼女を心配する気持ちは俺と同じだったらしい。なんだか急に頼もしく見えてきたよコイツらが。

 

 

「分かった。でも騒がしくするなよ?」

「もち! 凛たち3人は探偵なんだから!」

「そうと決まれば、早く善子のお悩みを解決しにLet's Go!」

「俺も入ってんのね。ていうか騒がしくするなって言っただろ!?」

 

 

 また騒がしくなっちまったが、これはこれで悪くない気がしてきた。これって最初は主人公たちにツンツンしていたライバル系のキャラが、戦いを共にしていく間に主人公たちを認め、やがて主人公をヤンデレのごとく執着して心配をするパターンに似てるな。俺ってそんなチョロいキャラだったっけ? どうも大人になってから平和を求めすぎて周りに流される傾向にある……かも?

 

 

「あっ、見て! 善子ちゃんが路地裏に入っていったよ! 凛たちも追いかけなきゃ……くしゅん!」

「どうした風邪か? スクフェス前に体調は整えとけよ」

「体調は万全なはずなんだけど、さっきから鼻がムズムズして……くちゅ!」

「凛さんのくしゃみ可愛い♪」

「もうっ、そんなのはどうでもいいの! 早く善子ちゃんを追いかけないと……くしゅっ!」

 

 

 風邪じゃないとしたら、どうしていきなりくしゃみなんて……? 細かな粉塵が舞っているのかもと考えたが、俺や鞠莉が何ともないことからその線は薄い。それに小さいくしゃみが間髪入れず連発して起こるこの現象は……あっ、もしかして! シャンプーにヘアブラシに赤ちゃん用のミルク、人影のない路地裏への用事、誰にも言えない秘密――――――そうか、善子が何をしようとしているのかようやく分かったぞ。

 

 

「まさかあの路地裏に、零くんと善子ちゃんの赤ちゃんが!?」

「無責任に種付けをされ産まされ出産をしちゃったけど、赤ちゃんには何の罪もないものね。でもこんなところで子育てだなんて……」

「まだその推理続いてたのかよ! 俺たち探偵仲間じゃないのか!?」

「しっ、静かに!」

「はぐらかしてんじゃねぇぞ……。それにアイツが何をやってるのかもう分かったから、もうバレても問題ねぇよ」

「へ……?」

 

 

 善子は建物の陰に置いてある段ボールに近づくと、先程スーパーで買ってきた赤ちゃん用のミルクを小さな容器に入れる。

 そして、その容器を段ボールの中にそっと置いた。

 

 

「あ、あの中に先生の赤ちゃんが!?」

「だから違うって言ってんだろ!? ほらよく見てみろ」

 

 

「にゃぁ~」

 

 

「あっ、猫の鳴き声だにゃ! って、猫!?」

「だ、誰!?」

「「あっ……」」

 

 

 この一瞬で色々なことが起こり過ぎて、凛と鞠莉、そしてようやく俺たちの存在に気付いた善子は数秒間目を丸くしてお互いを見つめ合う。特に善子の場合は先輩スクールアイドルの凛、同じAqoursメンバーの鞠莉、更に元恩師である俺と、各方面から精鋭が勢揃いしているため状況の把握に時間を要しているのだろう。もはや段ボールの中の猫すらもほったらかしで、ついにバレたと言わんばかりの強張った顔をしていた。

 

 

「くしゅん! なんだ、善子ちゃんは零くんとの赤ちゃんを育てていたんじゃないんだね」

「先生との赤ちゃん? 何を意味分かんないこと言ってるのよ……。それにどうしてアンタたちがここに!?」

「善子のことが心配で勝手についてきちゃったのよ。SorrySorry!」

「あぁ、やっぱり気付かれてたのね……」

「俺は寝てるところを無理矢理連れて来られただけだがな……」

 

 

 しかし凛たちが俺を探偵ごっこに引き込んでくれたおかげで善子の様子がおかしいことにも気付けたし、最初は厄介事に巻き込まれて陰鬱だったが結果的には感謝だよ。どうも最近は女の子の微妙な変化に気付けず鈍感な自分を晒してしまうことがあるから、どうにかして意識改善をしていかないと……。

 

 

「零くんはどうして善子ちゃんが猫のお世話をしに行くって分かったの?」

「わざわざシャンプーやヘアブラシを新調したってことは、自分以外の誰かの髪質に合わせるためだ。その時点では善子が会おうとしているのは人間か動物か分からなかったけど、赤ちゃん用のミルクを買った時点でピンと来たよ。もしかしたら動物の赤ちゃんなんじゃないかってな。そしてその動物の種類が分かったのは、凛が小刻みなくしゃみをしたから。動物アレルギーの人はそんなくしゃみの仕方をしちゃうことがあるんだよ。つまり、猫アレルギーの凛がくしゃみを連打してたから善子の会おうとしている相手が子猫って分かったんだ」

「なるほど、さすが先生! それにしても、凛さんって猫アレルギーだったのね」

「大人になってかなり治ってきたと思ったんだけど、まだ少し出ちゃうね……くしゅんっ!」

 

 

 しかし、凛が猫アレルギーだってことを久しぶりに思い出した。善子が小動物に会いに行こうとしていることを予想していなかったら、恐らく直接対面するまで子猫だってことは断定できなかっただろう。つうか今更ながら凛の猫アレルギー設定を回収するんだな。設定って言っちゃったけど。

 

 

「心配をかけたのは謝るけど、今はこの子たちよ。今日はちゃんとミルクを飲んでくれるといいんだけど」

「Oh! 子猫たちが3匹も!」

「ソイツら捨て猫か?」

「2日前に私がここを通りかかった時から段ボールの中にいたから、多分そうね」

「えっ、それじゃあ今日を合わせれば3日もここにいるの?」

「だからお腹が空いてると思って昨日から色々買ってきてるんだけど、この子たち全然口をつけないのよね。さっき買った赤ちゃん用のミルクも飲んでくれないし……」

 

 

 段ボールの中にいる子猫は3匹。だがソイツらは誰も善子の入れたミルクを口にせず、3匹身体を寄せ合っている。

 子猫たちの身体をよく見てみるとところどころにフケや汚れが溜まっており、こう言っちゃアレだがかなり汚い。しかしそんな様子から、捨てられて3日経っていることは疑う余地もなく明らかだ。しかも元気がないことから食べ物も飲み物もロクに受け取っていないことも分かり、ほぼ衰弱に近いほど体力が低下しているようだった。

 

 

「もうっ! お腹が空いてるのなら素直に受け取りなさいよね!」

「どうしよう、凛たちのことを怖がってミルクを飲みたくないのかな……?」

「このミルク、買ってきたばかりだから冷たいんじゃないのか?」

「そ、そうだけど……」

「子猫に冷たすぎるものを与えると逆に腹を壊しちゃうぞ。人肌でそれなりに温めてからあげてみろ」

「え、えぇ……」

 

 

 善子はミルクを自分の腋に挟んで1分ほど温めると、小さい皿にミルクを垂らし3匹の子猫の前に差し出す。

 すると、さっきまで段ボールの端で石像のように動かなかった子猫たちがピクリと反応した。そして徐に立ち上がると、3匹揃ってミルクの入った皿に近付く。最初は少し躊躇していたものの、真ん中の猫が舌を伸ばしてミルクを1口飲んだのを見ると、残りの2人も真似をしてミルクを飲み始めた。

 

 

「飲んだ……。やっと飲んでくれた!」

「3匹揃ってミルクを飲む姿、可愛いにゃ~♪」

「先生って猫に詳しいんだ?」

「昔だけど、母さんが捨て猫を拾って飼っていた時期があってな。その時に世話の方法を覚えたんだ。もうかなり前だなぁ、いつだっけ……?」

 

 

 猫を飼ってたのは辛うじて覚えてるんだけど、俺が何歳の頃に飼っていたのかまでは思い出せない。幼稚園の頃だったか小学生の頃だったか。

 お世話の仕方を覚えたと言っても、実質母さんと楓が可愛がっていたから俺はそこまで猫と絡んでいない……気がする。さっきから記憶がすげぇ曖昧だな……。

 

 

「あとは身体を綺麗にしてあげたいんだけど……」

「猫って基本シャンプーが苦手だから、あまり泡立てると怖がっちゃうぞ。それにここじゃ身体を洗うこともできないから、どこかへ連れていければいいんだけどなぁ」

「私たちのところは無理よ。ただでさえ家を借りてるのに、みんなもいるし」

「知ってる。最近はスクフェスの練習で忙しいから、個人的な相談でみんなの時間を使いたくなかったんだろ? だから自分だけで解決しようとした。お前って変に律儀なところあるよな」

「そこまで見抜かれると恥ずかしいわね……」

「もう善子ってば水臭いよ!」

「ご、ゴメン……」

「だからね、これからは1人で抱え込まずに私たちに相談すること! OK?」

「お、おっけーだから、そんな顔近付けるなぁああああああああ!!」

「Wow! 善子の頬っぺた柔らか~い♪」

 

 

 結構いいコンビじゃねぇかこの2人。頬を擦り合わせて百合百合な雰囲気になっているのはスクールアイドルではよくあることなのでさて置き、これでまたAqoursの絆もより強固になるだろう。こうして仲間同士が仲良くなる瞬間はいつ見てもほのぼのして大好きだから、探偵ごっこに飽きて途中で帰らなくて良かったよ。

 

 

「これで事件も解決だね! 凛の探偵スキルも大きくレベルアップしたにゃ!」

「だったら探偵さん。この捨て猫たちをどうすのか考えてくれよ」

「えっ、それは零くんが連れて帰るんでしょ?」

「はぁ!? どの流れでそうなった!?」

「先生が連れて行ってくれるの?? まあそれなら私も会いに行きやすいし、無難な落としどころかもね」

「でも楓さんにお世話されてる先生が、猫のお世話なんてできるのぉ~?」

「それこそ余計なお世話だっつうの! つうか、誰も連れて帰るって言ってねぇ――――――って」

 

 

 反論を黙らせるほどの3つの悲しい眼差しは、背負う必要のない罪悪感を俺に担がせる。そもそも1vs3の時点で多数決で負けており、借家で共同生活をし、あと1週間で東京を去るAqoursはもちろん、猫アレルギーである凛も飼うことはできない。つまりこの場で子猫たちを飼うことができるのは俺だけって訳だ。コイツらはそれが分かっているのにも関わらず、わざと悲しそうな眼を俺に向けて同情を誘おうとしているのだろう。どんな状況でも涙目になって悲壮感を漂わせておけばいいと思いやがって……。汚い、やっぱり女の子って手口が汚い。

 

 

「分かったよ! 連れて帰ればいんだろ連れて帰れば!!」

「やった! 良かったわね、ルシフェル、イシュタム、アザゼル!」

「「「は……?」」」

「何よその反応。この子たちの名前なんだけど」

「お前らしいけど、子猫に付ける名前としては禍々し過ぎるだろ……」

 

 

 さっきまで段ボールの端に包まっていた子猫たちだが、善子があまりのも仰々しい名前を付けたせいで急にこの子たちが悪魔の子に見えてきた。心なしか、変な名前で呼ばれた子猫たちも善子を威嚇しているような――――って、毛が逆立ってないか!? さっきまで衰弱してたように見えたけど、普通に元気じゃん!

 

 

「まさか、善子からモノを受け取らなかったのって……」

「善子ちゃんが変な名前を付けるから怒ってたんじゃ……」

「そ、そんな訳ないわよ! ねぇみんな!?」

「「「フシャーーーーッッッ!!」」」

「うっ、めちゃくちゃ怒ってる!?」

「なんだこのオチ……」

 

 

 善子と鞠莉の仲が深まったのはいいけど、善子と子猫たちが仲直りするのは当分先になりそうだな……。

 ていうか、せっかくいい雰囲気で終われそうだったのにこんなオチになるとは、これぞ不幸体質の善子って感じで逆に安心したよ。ここ数日面倒を見ていた子猫に飼い犬に手を嚙まれる改め、飼い猫に手を噛まれる形になって不憫でならないけど……。

 

 

「ちなみにアンタならどんな名前付けるのよ!?」

「そうだなぁ。3匹のオスの子猫だろ……? それに捨て猫だから力強く育って欲しいという意味も込めて――――ノブナガ、ヒデヨシ、イエヤスなんてどうだ?」

「おおっ、とっても強そうな名前だにゃ!」

「そんな安直な名前なんて……」

「「「にゃ~♪」」」

「よ、喜んでる!? どうしてよ!?」

「あはは、どんまい善子! 今日はみんなで善子の好きなモノ作ってあげるから♪」

「そんな慰めいらない!! それにどうしてそんなに笑顔なのよ!?」

「いつもの善子が戻ってきて嬉しいんだもん!」

「なんか納得いかないぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 最後の最後まで哀れなり、善子。

 そんな不幸に打ちひしがれる善子をよそに、3匹の武将猫が新たな家族になりましたとさ。 

 




 善子がいるとオチが盤石になるので、執筆する側としては大助かりです(笑) もちろんオチに使われるたびに彼女に不幸が降り注ぎますが、この小説ではこれが仕事なので勘弁してもらわないと……

 ちなみに今回登場した猫が再登場するのかは未定です。猫を使った話のネタを思いついていないので、何か考えてくださった方はご一報ください。


 次回は新章に入って初、秋葉さんとのコンタクト回です。
 これまで浮上していた謎の全て……とまではいきませんが、この辺である程度は発散させておきたいと思います。


新たに☆10評価をくださった

Uchuu2001さん、なかがわさん、島知真さん

ありがとうございました!
まだ評価を入れてくださっていない方は、よろしければ小説に☆10評価をつけていってください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

君はもう主人公じゃない

 今回はvs秋葉さん回。
 秋葉さんが登場する時は大体おふざけが過ぎるかシリアスのどちらかなのですが、今回は純度100%で後者の方です()


 

 遂にこの時がやってきた。これまで話を聞こうにも邪魔が入ったり海外出張で逃げられたりしていたが、とうとう奴の尻尾を掴むことができたんだ。コイツが事の次第にどこまで関わっているのかは知らないが、今のところコイツに聞かなければ話は一向に進展しない。だからこそ少しでも知っていることがあればこの機に洗いざらい、叩いても埃が出なくなるまで聞き出してやる。

 

 口を割らせたいことは2つ。

 1つは虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のこと。アイツらが何故俺にあそこまで執着するのか、何故出会ったことのない俺を愛せるのか、上原歩夢と初対面してからずっと疑問に思っていたことだ。

 もう1つは俺の過去について。中須かすみや桜坂しずくの話を聞く限り、どうやら俺と彼女たちは顔を合わせたことがあるらしい。でも俺は全く覚えておらず、彼女たちもそれを知っていたうえで俺に接触している感じだった。俺はそこまで思い出を振り返るような性格ではないので幼稚園や小学生の頃の出来事は大半忘れてしまっているが、もしかしたら断片的に覚えていることがあるかもしれない。だから秋葉の話で己の記憶に刺激を与えたいと思ったんだ。

 

 以上2つが俺の聞きたいことであり、その2つの謎が明るみに出れば自ずと虹ヶ咲の子たちの正体も分かるだろう。

 

 

 だが――――――

 

 

「零君、この書類はそっちの棚ね。こっちの書類はシュレッダーに入れて大丈夫だから」

「あのさ、どうして俺が研究室の掃除をしなきゃいけないんだ……?」

「だって誰も掃除しに来てくれないんだもん! 今までは絵里ちゃんたちが手伝ってくれたけど、卒業しちゃってから来なくなったし。この裏切者ぉ……!!」

「独力でするって選択肢はねぇのかお前……。だからと言って来客に掃除を頼む気概もすげぇけどさ」

「零君と私は家族じゃん? 姉弟じゃん? それにこの世は助け合いだから!」

「バリバリの個人主義のお前に助け合いとか言われても……。絶対に裏切るだろ」

「ひっどーいっ! 私は零くんのことをこんなに愛してるのに……」

「姉弟としてな」

「相変わらず冷たいなぁもうっ」

 

 

 コイツの戯言にいちいち付き合っていたらどんな厄介事に巻き込まれるか分かったもんじゃないから、最初から話に付き合う必要は全くない。それに今から真面目な話をしようとしているのに、ここで秋葉のペースに乗せられてしまってはダメだ。常にこちらからマウントを取る形で、追い詰めるように話を進めていかないと。むしろそれくらいしなければコイツは口を割らないだろう。

 

 まあ掃除に付き合わされている時点で、既にマウントを取られちまっているのかもしれないが……。頭も容姿もスタイルも完璧で、最近料理まで上手くなってほぼ死角がないほど完璧超人なはずなのに、唯一掃除だけは壊滅的にできないからな。

 

 

「お前、俺がここへ来た理由分かってんだろ? どうしてそんなに余裕なんだよ」

「あなたが何を企んでいようとも、真っ向から打ち勝つ自信があるからね♪」

「なんだよそれ……」

「フフッ、そのまんまだよ」

 

 

 一応アポを取って来たことは来たのだが、どんな用事かは一切伝えていない。だが秋葉はどうやら俺がここに来た理由を察しているようだ。それなら話は早く、コイツが何かを隠しているのは悪戯な表情からも明白だった。隠していることを隠さないその余裕っぷりから、俺に何を問い詰められても切り返す自信があるのだろう。そう考えると一気に腹が立ってきたので、今日という今日はとことん搾り取って洗いざらい知っていることを吐かせてやる。泣いて謝ったって許さねぇから。

 

 

「単刀直入に言うけど、虹ヶ咲学園の奴ら、お前は知ってるんだよな?」

「ホントにダイレクトだね。知らないって言ったら?」

「こっちは遊びに来てるんじゃない。素直に答えろ」

「知らな~い」

「おいっ!!」

 

 

 あまりにも秋葉のおふざけが過ぎるせいか、俺は反射的に秋葉を机に追い詰めてしまう。彼女の身体が机に当たって大きく音を立て、端に置いてあった書類が床に散らばるが、当の本人は全く気にしていない。それどころか口角を上げていることから、俺の気が乱れる様子を見て楽しんでいるのだろう。さっき遊びに来たんじゃないと言ったばかりなのに、どこまでふざけるんだコイツ……。

 

 

「久しぶりに見たかも、ここまで攻撃的な零君を」

「俺の話はどうでもいい。虹ヶ咲のことについて、知ってることを話せって言ってんだ」

「その前に1つ。どうしてそこまで虹ヶ咲のことを知りたいの?」

「質問をしているのはこっちだ」

「だったら私も何も喋らない。口も開かない」

 

 

 感情的になって相手を問い詰めようとしても、冷静な相手には通用しないどころか逆に利用される典型的な展開になってしまった。会話の勢いはこちらに分があるのだが、俺の知らない秘密を握っているのは秋葉の方だ。だからいくら俺から強く攻めようとも、その秘密を盾にされたら引かざるを得ない。俺ももう少し冷静になってみるか……。

 

 俺は秋葉を机に追い詰めるのをやめ、近くの柱にもたれ掛かった。

 

 

「虹ヶ咲の奴らは俺のことが好きみたい、いや好きなんだ。それも友達とか先輩とか、そんな近からずも遠からずの関係じゃない。今にも告白をしてきそうなくらいに俺を1人の男性として見ている。会ったことがあるのはまだ3人だけど、上原たちの話を聞く限りでは他のみんなもそうだと思ってるよ」

「お~それはモテモテなことで」

「でも俺はアイツらのことを知らない。どうやら会ったことがあるみたいだけど、全く覚えていないんだよ。アイツらにどんな思惑があるのかなんてのは二の次でいい。あれだけ本気で愛を伝えてくれるから、俺だって応えてやりたいんだ。でも身に覚えのない女の子からいきなり好きだと言われても、俺はどう反応していいのか分からない。だからお前に聞きたかったんだよ。俺と上原たちって過去に一度でも会ったことがあるのかってな。アイツらとの思い出さえ蘇れば、その気持ちにも応えられる。そう思ってるんだ」

「自分を好きになってくれた女の子を覚えてないなんて、零君も罪な男だなぁ」

「茶化すんじゃねぇ。知ってることがあるならとっとと言え」

 

 

 秋葉は俺の話を聞いても顔色を一切変えず、憎たらしい笑顔を浮かべている。まるでこのような話の流れになることを最初から予想していたかのように……。

 ポーカーフェイスも駆け引きも上手い彼女が相手だから、正直虹ヶ咲のことを本当に知っているのか知らないのかは彼女の言動からはまだ判断できない。でも俺はコイツが100%この件に絡んでいると確証を立てている。特に根拠はないが、長年姉弟として付き合ってきたから彼女の雰囲気だけで察することができるんだよ。自分が黒幕のくせに、わざわざ知らないふりをして俺に喋らせているってことがな。

 

 秋葉はさっきまで掃除を人任せにしていたくせに、今は俺の話を聞きながら床に落ちた書類を整理していた。俺に問い詰められて焦ったから気を紛らわせるために――――なんてことは絶対になく、恐らく余裕綽々過ぎて俺の話を聞いてるだけでは暇だったのだろう。なんつうか、ここまで俺に対して冷たい秋葉は久々な気がする。μ'sと同棲生活をしている期間に研究室へ呼び出された時以来かもしれない。

 

 

「お前と虹ヶ咲の関係について、知ってるなら話してくれ。でないと俺はずっとアイツらのことを無意味に待たせてしまう」

「そもそもの話だよ? 仮に私が話したところで、あなたはあの子たちを幸せにできるの?」

「な、なんだよそれ……」

「μ'sやAqoursのみんなと違って、虹ヶ咲の子たちとは思い出がない。仮に思い出せたとしても、それはすっかり忘れていた朧気な記憶の一部。そんなミジンコみたいな思い出ごときで、女の子を幸せにできるとでも?」

「それは話を聞いてみないと分からない。もしかしたらお前の言う通り難しいかもしれないけど、まずはお前からアイツらのことを話してくれないとどうにもならないだろ」

 

 

 何も知らないんだったら、今から彼女たちについて少しでも知るしかない。俺が思い出を忘れていようとも、上原たちはお構いなしに好意を示してくる。そんな一方的な愛は受け取れないし、それ以上に彼女たちに申し訳ない。だからこそまずは上原たちの秘密をここで明かしてくれなければ、俺は前に進むことすらできないんだ。

 

 すると、こちらに背を向け床の書類を拾っていた秋葉は、俺に聞こえるくらいのあからさまで大きな溜息を吐く。

 そしてこちらを振り返ると、突き刺すような目線を向け口を開いた。

 

 

「つまらなくなったね、本当に……」

 

 

 相手からここまで『失望』という言葉を強く感じたのは、これが初めてだった。張り詰めた空気が更に凍り付き、俺はこの場の雰囲気に当てられて身体が動かないどころか声を発することもできない。これまで秋葉からは何度か生き方について咎められたことはあったけど、ここまでゴミを見るような目を向けられたことはない。厳しくはあるがその中に優しさもあった今までとは違い、今回は本気で俺を見限る覚悟で失望しているかのようだ。

 

 

「大人になって変わっちゃったよ、零君は。私の期待にすら応えられないほどマイナスの方向にね」

「どういうことだ……」

「高校生の頃のあなたは違った。獣のように女の子を求め、己の欲求を満たすためなら女の子が多少抵抗しても構わず手を出す。でもその嫌がる女の子すらも自分の魅力に憑りつかせ、自分へ従順な女の子に仕立て上げていく。その貪欲さこそ私の求める零君だったの」

「そんなこと、俺がするとでも……」

「してたよ、十分に。その結果が今のμ'sでしょ?」

「…………」

 

 

 言われるまでそんなことを考えたことすらなかったが、言われてみればそんな気がしなくもない。確かに高校時代の俺は今より己の欲求に従順で、抑えるところは抑えていたが解放するところは狂ったように欲求を解放していた。しかしそんなものは思春期の高校生が故の若気の至りだと思っていたのだが……。

 

 

「でも今のあなたは違う。ただ平和で平穏な生活を求めているだけ。Aqoursの子たちからの好意に応えているフリをして、たくさんの女の子から告白された優越感に浸ってるだけの愚かな子。アニメ用語で言うと『ヤレヤレ系の主人公』なのよ、あなたは。多くの女の子からの好意に甘えて、その愉悦を感じながら自分からは全く行動しない。どうしてこうなっちゃったかなぁ……」

「そんなことは……」

「気付いてるんでしょ? そういえば最近の俺はそんな感じだったって。厄介事に巻き込まれたくない、でも自分を慕ってくれる女の子とは一緒にいたい。こっちからは愛を伝えないけど、むこうからは愛を伝えて欲しい。女の子たちが自分のことを好きでいてくれて、そして自分が何もせずとも周りの女の子が集まってくれる平穏な生活。それこそあなたが今望んでること。違う? 貪欲にμ'sと絡んでいたあの頃とは大違いだよ」

 

 

 大剣で突き刺されたかのような痛烈な痛みが心に走る。自分でも気付いていない訳ではなかった。最近は面倒に巻き込まれたくないから変に首を突っ込まないよう努力(結局無駄に終わったことの方が多いが)してたし、相手の好意に気付いても無難な対応で終わることもしばしばあった。μ'sやAqoursとは今の関係のままで満足しているのだろうか……? Aqoursとの関係を進展させようと何か行動した記憶もないので、もしかしたら俺自身も知らず知らずのうちに現状維持を望んでいるのかもしれない。

 

 だがそれでも、あの頃からAqoursの関係は進んでいないとは言い切れないし、μ'sとの関係だって良好のままだ。虹ヶ咲のメンバーに対しては彼女たちを知ろうと努力しているつもりなので、秋葉から咎められる義理などないと思っている。そうだ、どうしてコイツにそんなことを言われなくちゃならないんだよ。恋愛沙汰なんて他人が割り込むものじゃないっていうのに……。

 

 

「その反抗的な目、もしかして自分はまだ主人公だって思っちゃってる? そう考えてるのなら片腹痛いね」

「何を言われようがどうだっていい。お前には関係のないことだろ」

「関係ないよ。でも関係ないから口出ししないような人に見える、私?」

「そういう奴だもんなお前は」

「そうだよ。だから自分勝手に口出しする。興味のない弟のことだから、何を言ってもいいしね」

 

 

 見えない。コイツが何を企んでいるのか全く見えなかった。別に俺自身がどれだけ蔑まされてもいいし、人を弄ぶほどに世の中を見下しているコイツなら誰かを卑下しようがそれはいつものことだから気にもしない。

 だが、俺の話と虹ヶ咲の話がどう繋がっているのかが分からない。最初の質問は虹ヶ咲の子たちについて知っているか尋ねたのに、いつの間にか俺の話にシフトしていたからやはり何かしらの接点が俺と虹ヶ咲の間にあるのだろう。俺が牙も爪も失った平和主義者になったことと、虹ヶ咲の子たちが俺の前に現れ始めたのは偶然じゃなかったのかもしれない。

 

 

「俺の話と虹ヶ咲の話は、どう接点があるって言うんだ? さっきからずっと俺の話をしてるけど、そろそろ最初の質問に答えてくれてもいいんじゃないか」

「その話をするなら、まず私自身の話を聞いてもらわないとね」

「…………勝手にしろ」

「まあ許可がなくとも勝手にするけどね」

 

 

 いくら話の流れを軌道修正しても、こうして秋葉のペースに傾いてしまうのは解せない。でもさっきも言ったが全ての真実を握っているのは間違いなくコイツであり、ここは否が応でも秋葉にマウントを取らせなければ会話が進まないのが現状だ。恐らくコイツも自分が絶対的優位に立っていて、それが揺るがないと分かっているからこそこんな余裕を見せているのだろう。

 

 

「ほら、私って全知全能じゃない?」

「あたかも世界の定義みたいなノリで言われても……。それがどうかしたのか……?」

「昔から私にできないことは何もなかった。その気になれば世界を歪めることだってできる。そう、世界は私のおもちゃ箱なの」

「あっそ……」

「この世界は私とおもちゃだけで構成されている。自分の実験や発明を試すモルモットたちが蔓延る世界。全生命体の頂点に立つのは気持ちよかったよ」

 

 

 そう、コイツは元からこんな性格なのだ。世界情勢を一転させるような脳を持っているのにも関わらず、実験相手は基本俺やその周り。その全知全能を世界のために活かそうとはしない。そうやって私利私欲、自分勝手のためだけに動いているのが秋葉という人間だ。

 

 

「でもね、支配者ってなってみると案外つまらないものだった。どんな世界でも人間でも自分の思うがままに動かせるってことは、すなわち結果が全部見通せてしまってつまらないってこと。私に結婚を迫ってくる男も、研究仲間になって欲しいと頭を下げてくる奴らも、それ以外でも私に言い寄ってくる愚図共も結局はモルモット。私がちょっと人生の軌道を変えてやるだけで、滑り台のように決められたレールに従って転落人生を送っていく。見ていて愉快だったけど、毎回そうなると分かっているからこそ段々つまらなくなってきたの」

「こうして直接話を聞くと現実味が……。いや知ってたけどさ」

「でしょ? でもそんな世界に飽き飽きしていた私を楽しませてくれる唯一の存在がいた」

「それが俺ってことか」

「そう。さすが、察しだけはいいね」

 

 

 秋葉が全知全能なのは比喩でもなんでもなくマジのことだ。だからこそ世界各国から研究の応援だったり、わざわざアポを取ってまで求婚を申し出てくる人もいる。もちろんそう簡単に首を縦に振らないのが彼女。研究内容が例え不治の病の人を助けるためであったとしても、求婚してきた相手がどれだけの世界的地位を持っていたとしても、結局は彼女の気まぐれで全てが決まる。つまり、秋葉は世界を意のままに動かしていると言っても差し支えはないんだ。

 

 

「零君だけだよ、私のおもちゃ箱から勝手に飛び出したやんちゃ者はね。まさかμ'sの全員と付き合って、しかも恋人にしちゃうなんて思ってもいなかった。その時に感じたの、この世で私を楽しませてくれるのはあなただって。あなたは常に私の予想を逸した行動を取る。その時、私は興奮してならないの。いつこの子は私のおもちゃ箱から飛び出すのか、それを観察しているだけでも楽しかった」

「まさか、お前の実験や発明の主な対象が俺なのは……」

「そう、あなたがどんな行動をするか期待しているから。そんじゃそこらのモルモットに私の崇高な実験を施したところで、結果は見え見えだもん」

「悪魔だな、お前」

「そんなこと既に分かってるくせに」

 

 

 これまで俺の反応が面白いからコイツの実験相手に選ばれていたものとばかり思っていたが、まさかそんな背景があったとは。まあ反応が面白いから選ばれている時点で、秋葉にとっては稀な存在なのだ。そもそも秋葉が自分で言っていた通り、コイツの気を引こうと思ったら生半可ハードルでは見向きもしてくれないからな。まあ見向きされたいかどうかは別として……。

 

 

「ここでさっきの零君の話に繋がるんだよ。唯一の実験対象であったあなたもつまらなくなっちゃったから、また私は楽しくもないこの世界の支配者に戻っちゃったの」

「それと虹ヶ咲の話、どう関係があるってんだ?」

「だから私が零君を更生させてあげようと思ってね、ちょっと仕向けちゃった」

「なるほど。アイツらを俺に(けしか)けたのは、やっぱりお前だったのか……」

「あなたの平穏な日常を崩すには絶好の子たちだから」

 

 

 これまで渦巻いていた謎が少しずつ明るみに出てきた。大方予想はしていたのだが、上原たちは秋葉の差し金で俺の元へやって来たらしい。

 しかしそう考えるとアイツらのあの好意は演技なのか……? いや、幾多の女の子と恋愛をしてきた俺なら分かる。アイツらが俺に向けていた好意は間違いなく本物の"愛"だ。嘘偽りもない、己の本心を真っ向からぶつけてきている。それに虹ヶ咲の子たちが秋葉と繋がっているのは分かったとしても、アイツらの正体が明らかになった訳じゃない。アイツらは一体何者なんだ……?

 

 

「なぁ、俺と上原たちって一度でも出会ったことあるのか? その素振り、俺の過去について何か知ってるんだろ!?」

「残念、今日はここまで。得体の知れない女の子たちを前に精々足掻きなさい。そして私を楽しませるの。μ'sやAqoursの時のようにはいかない、今回は見ず知らずの女の子から献身的な愛を注がれる。そんな状況であなたがどんな行動にでるのか、私に期待させてちょうだい。つまらないあなたが人生を逆転するチャンスは、もう今しかないんだから」

「勝手に人の人生を弄びやがって。しかもアイツらが本当に俺のことが好きなら、お前はそれを利用してるってことだ」

「そうだよ? それが私だから。それに今のあなたが女の子の心を語る資格はない」

「どういうことだ……?」

 

 

 勝手に人の人生を転落させる奴に他人の人生を語る資格はないと言いたいが、それよりも根本的な部分を突き刺されたみたいに何故か心が痛くなる。どうしてこんな気持ちになるのかは分からないが、自分で気付いていないだけで思い当たる節があるってことか……?

 

 

「あなた、最近女の子の気持ちに鈍感になってない? 好意を受け取るだけ受け取って返答しないのもそうだけど、そもそも女の子の気持ちに気付いていないこととかあるんじゃないかなぁ~?」

「そんなことはない!!」

「そうかな? 例えば、一緒にファッションモデルの撮影をした時。あんなに千歌ちゃん頑張ってたのになぁ、どうして何もせず終わっちゃうかなぁ~」

「ど、どうしてそれを……!?」

「例えば、善子ちゃんが悩みを抱えていたことにどうして気付けなかったのかなぁ~」

「な゛っ……!? どうして知ってんだよそんなこと!?」

「知ってるよ、全部ね。だっていくら私の興味が薄れたと言っても、まだ私はあなたに期待してるから♪」

 

 

 俺はここで、思わず研究室を飛び出してしまった。自分の心なのに俺よりも秋葉の方が詳しく、全てを見抜かれていたこと。なにより最近の俺の行動が女の子の気持ちを蔑ろにしていると裏付けされてしまったこと。その事実を突きつけられた瞬間に居ても立っても居られなくなってしまったんだ。もちろん行く当てなどどこにもないが、アイツと一緒の空間にいることで更に惨めにさせられると直感しているので同じ場にはいたくなかった。

 

 他にも聞きたいことは山ほどあるのだが、もうそれどころではない。この精神の乱れではまともにアイツと話し合うことすらできないし、そもそも平静を保っていられるか怪しくなってくる。結局虹ヶ咲の子たちの正体や俺の過去のことは聞き出せなかったが、今はもうこの場から立ち去ることを優先しよう。これ以上ここにいると、アイツにどんなことをされるのか分かったもんじゃないから……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 その後、研究室内。

 

 

「全く、この程度で逃げ出すなんてやっぱりつまらなくなっちゃったね」

 

 

 床に落ちた最後の書類を拾い上げながら、秋葉は不敵にほほ笑んだ。

 

 

「でもね、あなたはもう一度私に興味を引かせられる子だと思ってるんだよ」

 

 

 その書類の表紙を見ながら、研究者は己の欲望を語る。

 

 

「だからずっと見ていてあげるよ。ずっと、あなたをね……」

 

 

 『PERFECT Dream Project』と書かれた書類。

 研究者の計画は、次のフェーズへと進もうとしていた――――

 

 




 今回はスクフェス編に入って最初の謎解き回でしたが、どちらかといえば零君や秋葉さんの事情が多くあまり虹ヶ咲メンバーについては触れませんでした。一応まだ6人との出会いが残っているので、彼女たちの秘密を明かすのは一通り全員と出会ったあとにしようと思っています。

 それにしても、この小説で一番のヤンデレは秋葉さんなのかもしれないってくらいヤバさが滲み出ていた気がします。まあデレの要素がどこにあるのかって話ですが(笑)



 次回はこの小説では初登場となる、千歌のお姉さんである美渡姉ちゃんと志満姉ちゃんが登場します!
 秋葉さんからの精神攻撃を受けダメージを負っている零君とどう絡むのか……?



よろしければ小説に☆10評価をつけていってください!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

高海さん家の姉と姉

 今回はこの小説では初となる千歌のお姉さんたち――美渡姉さんと志満姉さんの登場です!


 

 秋葉の身勝手で自己中な計画を聞かされて一晩が経った。

 あれから俺は逃げるように家へ帰宅し、楓の作ってくれた晩飯もロクに喉を通らずそのまま寝てしまった。いつもとは違う俺の様子に楓は心配そうな表情を浮かべていたが、敢えて何も聞かずそっとしておいてくれたのは彼女なりの優しさだろう。そのおかげで昨日よりかはかなり気分が落ち着いたから、頭の中で錯乱していた情報も整理することができた。

 そして俺はいつもの公園のベンチに寝転びながら、自分が今後どのように動いていくのか考えている。正直に言ってしまうと秋葉の計画の身勝手さなんかよりも、虹ヶ咲の子たちとこれからどう接していくのかが重要だ。ここでアイツの計画をどうこう考えていても、どうせ上原たちはまた俺の元へとやってくる。その時に俺はみんなの想いにどう応えてやればいいのか。気分が落ち着いたのはいいが、未だにそれだけは打開案は浮かんでいない。

 

 そもそも、俺が女の子の気持ちを疎かにしているのが何よりの問題だ。秋葉に指摘された通り、最近の俺は女の子に分かりやすい好意を示されても受け止めるばかりで応えてはいなかった。更に女の子が抱えている悩みにも気付かず、他の子たちに教えてもらわなければ確実にスルーしてしまっていただろう。こうして日々鈍感になっていくのを自覚していなかった訳じゃない。でもたくさんの女の子から好意を向けられる日常に満足していたのもそれまた事実。それでいて平穏な生活を求めていたんだから、そりゃ平和ボケしても仕方がないだろう。もちろん仕方がないで片付けるつもりはない。どうにかして意識改善をしていかないと、次また虹ヶ咲の子たちが現れた時に彼女たちの想いを受け取れずに申し訳が立たなくなる。それにAqoursの子たちに対しても、好意を受け取ったまま放置しておくわけにはいかない。

 

 でもなぁ、これでも一応積極的にはなっているつもりなんだ。確かに高校生の頃ほどの肉食系ではないけど、大人になったからこそ堅実な恋愛をしようと思っている。まあその結果が女の子の心を汲み取れないようじゃ全く意味ないんだけどな。

 

 さて、どうするかねぇ……。

 

 

 ベンチで寝転がり青空を眺めながら頭を悩ませていると、俺の視界が急に暗くなった。

 俺と空を遮ったのは女の子の顔――――高海千歌が俺の顔を覗き込んでいた。あれ? この前もこんなことがあったような……。

 

 

「先生? こんなところで昼寝ですか? 引き籠りなのに外で昼寝って珍しいですね」

「出会い頭で毒を吐くなよ……。お前こそ何の用だ?」

「あっ、そうだ。実はですね、私の姉たちがそこに――――」

 

 

「千歌ーーっ! どこ行ったのーーっ?」

 

 

「こっちだよ美渡姉、志満姉ーーっ!!」

 

 

 公園の入り口あたりから女性の声が聞こえ、千歌はその声に返答しながら自分の居場所を示すために大きく手を振っている。

 そして千歌が叫んだ名前から察するに、さっきまで一緒にいた人物は彼女のお姉さんのようだ。そういや千歌には会社員のお姉さんと、『十千万(とちまん)』の女将であるお姉さんがいると聞いたことがある。教育実習で内浦にいた時は千歌の母親としかエンカウントしていなかったので、お姉さんたちと直接会ったことはない。3週間と言えどもAqoursの顧問をしていたから一応挨拶をしておくべきだったかな……?

 

 

「ほら! ここにホームレスみたいに寝転がってるのが、私たちの顧問の神崎零先生だよ!」

「おいっ!? 人間は初対面が重要なんだから、変な紹介すんじゃねぇ!!」

「昼間っから公園のベンチでゴロゴロしてる教師なんていませんよ普通」

「今は先生でもないし、大学は夏休みだからいいの!」

 

 

 しかし千歌たちから未だに『先生』と呼ばれている時点で、浦の星で別れてから今の今まで彼女たちとの関係は進展していないってことだろう。東京で再会した時に俺のことを名前呼びするよう促そうとしたのだが、全員が恥ずかしがって結局現状維持になってしまっている。虹ヶ咲の件はもちろん検討事項だが、Aqoursとの関係も進展させなければ彼女たちを無駄に待たせてしまうことになる。これまでと違って目下の問題だけを解決してハッピーエンドとはいかないのが今回だ。

 

 そんなことを考えながら初対面のお姉さんたちに奇異な目で見られないよう、腰を起こして普通の体勢でベンチに座った。

 

 

「なるほど、これがAqoursの顧問で千歌の副担任だったっていう先生ねぇ……」

「な、なにか……?」

「いやすっごいイケメンだなぁと思って。千歌には勿体無いね!」

「な゛ぁ!? 美渡姉それどういう意味!?」

「アハハ! でもいいお婿さん見つけたじゃん」

「「婿!?」」

「あれ、違った?」

「ち、ちち違うよ!! ま、まぁそんな関係に慣れたらもちろん嬉しいというか、そんな関係になるために奮闘中というか……」

「声が小さすぎて聞こえないぞ千歌ぁ~」

「な、なんでもない!!」

 

 

 なるほど、千歌の活発でたまにちょっと人を小馬鹿にした態度を取るの性格はそちらの姉さんと一緒だな。この調子だと俺との関係を家でもたっぷりからかわれていそうだ。小憎らしい態度は秋葉を彷彿とさせるので俺としての印象がいい訳ではないが、普通に美人さんで年も俺と同じくらいだろうから全然タイプではある。まあ胸は少々慎ましやかだけど、胸で女性の好き嫌いを判断しないのが真の男ってもんだ。

 

 

「いつも千歌がお世話になっております。高海家の長女、高海志満と申します」

「こ、これはご丁寧に……。千歌……さんの副担任と顧問をしていた神崎零です」

「千歌ちゃんからいつも話は聞いています。優しくて面白くて、カッコよくてイケメンで、頭が良くて変態な先生だと」

「ちょっ!? 褒め殺しかと思ったら急に落とすのやめてもらえます!? 千歌、お前なんて紹介してんだ……」

「いやぁ先生を紹介する時に思ってることを並べてたら、思わずポロっと」

「あのな、人間っつうのは信用を重ねるのは大変だが崩れる時は一瞬なんだ。今まさにそんな感じなんだけど……」

「そんなことありませんよ。千歌ちゃんだけではなく、Aqoursのみんなのことも1人1人大切に思っているとか。それを聞いた時、千歌ちゃんたちは素晴らしい先生に巡り合えたんだと思いましたから」

「へ、へぇ……」

「あっ、神崎先生照れちゃってる?? 千歌も照れ屋だけど先生もかなりだね!」

「うるせぇ」

「うわっ、雑! 志満姉と扱いが全然違う!?」

「雑とは聞こえが悪いな。フレンドリーと言ってくれ」

 

 

 失礼な奴には辛辣に、丁寧な女性には紳士的に、これが俺のモットーだ。だけど個人的には前者の方が話しやすいので必ずしも後者の女性が好きだって訳じゃない。現に志満さんが礼儀正しく自己紹介してきたので軽く戸惑ってしまったから、第一印象から好印象を与えることには失敗してしまった。まあ俺の印象は既に千歌から刷り込みをされていたっぽいので、結局そこまで気にすることでもなかったが。それに志満さん本人も俺への印象をかなり好意的に持っているみたいだし、やっぱり胸の大きい女性は心も広いな。

 

 つうか本当にでけぇ……サイズいくつだろ? 

 あっ、なるほど。千歌の身体付きがアダルティなところは志満さん似なのか、納得。

 

 

「あらあら、そんな目で見られると恥ずかしいですよ……」

「え゛っ!?」

「アハハ! 先生って意外と見境ないんだね! 千歌だけじゃなくて志満姉まで狙うなんて」

「狙ってねぇよ!!」

「せんせぇ……!!」

「痛い痛い痛い!! 千歌さん腕握り潰さないで!?」

「フフフッ、本当に面白い先生なんですね♪」

「ま、まぁ変な目で見てた俺のせいではありますけど……」

 

 

 あれ? 志満さんってさっきまで恥ずかしがってなかったっけ? 今は口を抑えて笑うだけで、羞恥心の面影すらも感じない。まさか最初からこの展開を予想してわざと恥ずかしがってたんじゃねぇだろうな……?? なんか本当に警戒する相手は分かりやすくからかってくる美渡さんよりも、何事も達観してそうな志満さんのような気がしてきたぞ……。

 

 だが今はそんなことよりも、怖い顔をしてこちらを睨み付けている千歌を宥めないと。恋する乙女が怒りで我を忘れた際にどうなるのか、地球上で誰よりも俺が一番よく知ってるから。

 

 

「もう先生ったら、すぐ女の人にデレデレするんだから! しかもその相手が私のお姉ちゃんだなんて……」

「いやデレデレはしていない。男の性が働いただけだ」

「千歌が神崎先生のことをスケベ野郎って罵ってた理由が今分かったよ。こりゃ女子高の教師をやらせたら危ないスケベ野郎だね」

「既に教育実習で女子高に行ってるんだがそれは……」

「でも素直なのはいいことですよ。自分の想いを直接相手に伝えられるその心意気に惚れて、千歌ちゃんも好きになっちゃったんだと思いますし」

「す、すすすす好きって!? それはそうだけど、他の人の口から言われると恥ずかしいから!!」

「千歌は先生のことになるとすぐ動揺するよね。まあ私としては弄るネタができて嬉しいけど」

 

 

 自分の思っていることを相手に直接……か。そう言われてしまうと昨日秋葉に指摘されたことを思い出してしまう。高校時代に一度積極的でないせいで女の子の心に踏み込めない事態に陥ったことがあったが、今回の問題はそれとは違う。踏み込んでいるのに踏み込んだだけで満足してしまっているんだ。自分が女の子に対して積極的になれば相手は可愛い反応を見せてくれる。俺はその様子を見て、この子は俺に恋をしているんだとある種の快感を得ているのかもしれない。

 

 それでいいのかな、本当に……? そもそも自分がそう思っていると自覚をしていないのでもしかしたら勘違いかもしれないけど、もし勘違いじゃなかったら……。恋人をたくさん作っている時点でこんなことを言うのは今更かもしれないが、やっぱり最低な男だな俺って。まあ今となってはそれすら誇りにしてるから治すつもりは全くねぇけど、現状のままでは何も解決しないのは確かだ。

 

 

「先生? さっきから難しい顔をしてどうしたんですか? ま、まさか、さっき腕を強く握っちゃったところが痛む……とか? もしそうならゴメンなさい!!」

「大丈夫、こっちの事情だから。それよりお前、Aqoursの練習はいいのか?」

「あっ、もうこんな時間! それじゃ美渡姉、志満姉! 先生も!」

「はい、頑張ってね」

「先生のことばかり考えて、練習中に集中力切らすなよ~」

「余計なお世話だよ!! そうだ先生、明日はAqoursの練習に来てくださいね!」

「はいはい分かってるって」

 

 

 立ち去り際に俺へ釘を刺しながら、千歌はAqoursの練習へと向かった。どうやら俺が練習を見に来るとAqours全体の士気が上がるそうで、練習の密度も当社比1.5倍上がるという計算をダイヤがしていた。そんなことを言われたら行ってやりたくもなるのだが、μ'sの練習もあるし実はそれ以外も……ま、この話はいずれするとしよう。

 

 

「千歌ちゃん、本当に先生のことが好きなのね。イキイキしているのはいつものことだけど、さっきもずっと先生の側にベッタリで離れなかったですし」

「マジ……? そういや急に涼しくなったというか、暑くなくなったというか……」

「千歌にず~っとくっつかれてたからね、仕方ないよ」

「そ、そっか……」

 

 

 さっきまで千歌に密着されていたことに関して全く気にしていなかったので、もはや俺があんな状況には慣れていると言ってもいいだろう。しかしそれは好意を示してくれる女の子に対して失礼というか、無下に扱っていると思われても仕方がない。秋葉に指摘されたことはまさに今の俺の態度のことだと痛感した。

 

 

「先生も大変だねぇ。千歌にここまで言い寄られるなんて」

「いや、大変どころかむしろ嬉しいよ。逆に俺の方がアイツに何かしてやれているのかなって思うくらいだから」

「どうしてそうお思いで?」

「千歌が俺のことを好きでいてくれることは分かっています。アイツは俺の気を引こうと積極的にアタックをして猛アピールしてくれているのに、対して俺はアイツに何もしてあげられてないような気がして……」

 

 

 それは千歌だけに限った話ではない。Aqoursの子たちは程度は違えど、少なからず俺に好意を示してくれる。だが俺はそれを受け取っているだけで何もしていない。女の子たちが俺に恋をして、照れたり恥ずかしがっている姿、俺の気を引こうと頑張っている姿を見ているだけで満足している。自分ではそんな自覚はあまりないのだが、そう思われてもおかしくはないだろう。

 

 すると、ベンチに座っていた俺の隣に志満さんが腰をかける。

 そして、自身のおっとりさを更に助長させるかのような優しい笑みを俺に向けた。

 

 

「そんなこと、ないと思いますよ」

「えっ……?」

「千歌ちゃん、私たちにいつも話してくれるんですよ。先生からどんなことを教わったとか、先生とこんなことをやったとか、それはそれは嬉しそうに。私たちが東京へ来たのも、千歌ちゃんの心をここまで動かした恩師の方に一度お会いしてみたいと思ったからなんです」

「そうだったのか……って、わざわざ俺に会いに!?」

「そう。千歌が世話になってるし、お礼も兼ねてお話したかったんだ。千歌って活発そうで意外とすぐ挫けそうになる性格でしょ? でもその時はいつも先生のことを思い出して立ち上がってる。あの子はただ先生のことが好きなんじゃなくて、心の底からの支えにしているんだよ」

 

 

 教育実習が終了し俺が内浦を離れてから東京で再会するまでの間にも、Aqoursに立ちはだかった壁は何枚もあったと千歌から聞いた。でもそれを乗り越えた方法が俺の存在だなんて誰が想像しただろうか。ただ痴漢の罪を償うためになし崩し的にAqoursの顧問になった経緯から、至極真面目に指導してやれていたとは言い難い。でも千歌はそんな俺のことを慕い、そして心の支えにしてくれていたんだ。

 

 

「それに千歌ちゃん、ほぼ毎日私たちに電話をかけてくるんですよ。しかも話の内容はAqoursのことと、それ以上に先生の話題ばかり」

「この前だって一緒にファッションモデルのバイトをしたんだって? その話をしていた時の千歌のテンションが物凄くて、話を聞いてるだけでごちそうさまって感じ。本当に幸せそうだったよ」

「先生がいるからこそ千歌ちゃんはここまで頑張れている。お気になさらずとも、先生は千歌ちゃんにたくさんのものを与えてあげていると思いますよ」

「そうそう。だから何もしてあげられてないってのは思い込みだって」

 

 

 そうか、自分では何もしていないと思ったけど、俺の存在がそこまでアイツの日常を満たしていたのか。俺と実際に一度も会ったことのないお姉さんたちが神崎零という人物をここまで理解しているのがその証拠で、千歌の俺を想う気持ちが果てしなく強いのだろう。強いからこそ千歌を通してお姉さんたちに俺の魅力が伝わっている。それも彼女が俺に対する想いを大きく持っているからこそだ。

 

 なるほど、惑いに満ちていた心がちょっとばかり落ち着いてきたよ。自分では何もしていないように見えても、知らず知らずのうちに誰かの支えになっていた。無自覚に誰かを支えていたなんて綺麗事、本当にあるんだな。

 

 

「あっ、先生の表情が柔らかくなった。そっちの方がイケメンだし、雰囲気もいいじゃん!」

「イケメンなのは当たり前だ。頭もよければ誰にでも優しい菩薩のような心を持っている。完璧だろ、俺?」

「うわぁ急に調子に乗り始めた……。さっきまで険しい顔してたくせに」

「でも今の先生の方が、千歌ちゃんから聞いていた自信家でお調子者の先生っぽくてなんだか安心しました」

「それ褒めてないですよね!?」

「でも、賑やかな男性は私も好きですよ」

「う゛ぇ!? す、好き……俺のことが?」

「よし、千歌に連絡しよう。先生が浮気してるっと」

「おいメール打つのやめろ!!」

「うふふふ……♪」

 

 

 なんだよさっきまで悩みを真摯に受け止めてくれた大人の女性って感じがしたのに、妙なお茶目さを感じるからやっぱり秋葉を彷彿とさせるぞこの人……。まあアイツに比べれば全然可愛いモノだが、ただでさえまだ乱れた精神が整ってないのに弄られるとウブな反応しかできない。母さんといい秋葉といい志満さんといい、俺の周りにいる年上の女性ってこんな性格の人ばかりだな……。

 

 でも、こうやってバカやってると心も落ち着くな。そうだよ、何も秋葉に指摘されたことの全てが正とは限らないんだ。研究室では思わず取り乱してしまったが、焦らず冷静に今後の自分の行動を考えていけばいい。そういった意味では俺を見つめさせてくれたこの2人は感謝だな。

 

 つうか初めて出会った女性たちに人生を振り返えさせられるとは、さすが千歌のお姉さんだけのことはある。あんなカリスマ性を持った千歌のお姉さんだもん、そりゃすげぇ訳だ。

 

 

「急に悩みを聞いてもらって、それに助言も与えてくださってありがとうございます」

「いえいえ。元から気に病む必要がなかったことですから」

「ねぇねぇ、私は? 私にはお礼ないの??」

「お前、何かしたっけ?」

「ひどっ!? そんな態度を取るなら、志満姉に浮気してたことを千歌にバラすから」

「冗談冗談、ありがとな」

「かるっ!? ま、いっか」

 

 

 今回は千歌だけの事情を聞いたのだが、他のメンバーは俺のことをどう思っているのだろうか……?

 疑問に思うことはあるが、己を見つめなおした今の俺ならAqoursの子の気持ちも素直に受け取れる気がする。そして虹ヶ咲の子たちが襲来したとしても、これまでとは違って神経を尖らせて警戒することもないだろう。Aqoursに対しても虹ヶ咲の子たちに対しても心機一転、もう少し自分を押し出してみるか。

 

 

「先生」

「はい……?」

「千歌ちゃんのこと、これからもよろしくお願いします」

「もちろん。俺のことをもっと好きにして見せますよ」

 

 

 そして俺も、千歌やみんなことをもっと……もっと。

 

 




 当初の予定以上に美渡姉さんと志満姉さんの出番が多く、もしかしたらアニメ1期と2期を合わせたセリフよりもたくさん喋ってるかも()

 今回で零君の悩みが全て解決したわけではありませんが、恋する相手の身内から諭されて彼もまた一歩成長したことでしょう。今回の話の中で、彼の心が少しずつ軽くなっていくのを感じてもらえればと思います。


 次回は虹ヶ咲のメンバーである、優木せつ菜が登場します!



新たに☆10評価をくださった

ふくまる@のんたぬきさん、じんたなさん、戦場を翔ける天使さん

ありがとうございます!
まだ評価をつけてくださっていない方は、よろしければ小説に☆10評価をつけていってください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大好きの野望

 今回は虹ヶ咲メンバーの1人である、優木せつ菜が登場します!
 虹ヶ咲の中では私イチオシのキャラなので、いつも以上に気合が入ってる回です()


 

 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会。彗星のごとく現れたそのスクールアイドルは、活動を開始して間もなく大注目を浴びている。スクフェスに向けた事前注目度投票ではあのμ'sやA-RISEを押しのけて堂々の1位となり、その影響か今ホットなスクールアイドルとして他のメディアにもちょくちょく進出していた。ほぼ同時期に活動を開始した(と思われる)Aqoursとは躍進の差が雲泥の差だ。もちろん千歌たちを見下しているのではなく、Aqoursに幾多の壁が立ちはだかっている間に虹ヶ咲の奴らはテレビや雑誌の出演まで果たしているとなると、いかに彼女たちの実力が凄まじいのか分かってもらえるだろう。正直に言ってしまうと、その実力はμ'sやA-RISEとそう大差がないと思っている。それくらいアイツらが純粋に"強い"のだ。

 

 その実、虹ヶ咲のメンバーについて知っていることは公式サイトのプロフィールくらいだ。公式のホームページにて、スクフェスに参加するスクールアイドルの1人ひとりのプロフィールを閲覧することができる。もちろん俺は上原たちのことを今まで以上に知りたいと思いプロフィールを覗いてみたのだが、案の定と言うべきか、程よく無難なことしか書かれていなかった。まあ公式ホームページに掲載する自己紹介に昔出会った男のこととか書かれてたら、それはそれで浮きまくっちゃうけど……。

 

 結局秋葉と虹ヶ咲が裏で繋がっているのは分かったが、肝心な部分であるアイツらの正体が未だに謎だ。だから公式ページのプロフィールから何かヒントを得て自分の朧気な記憶と結び付けられたらラッキーと思っていたんだけど、流石にそこまで上手くはいかなかった。あの秋葉のことだから、自分の計画に対する障害はあらかじめ撤去していると思った方が自然だ。アイツならスクフェスの公式なんて余裕で掌握できるだろうし、そうなればホームページのプロフィールを弄るなんて容易いことだろうから。

 

 しかし、こうなってしまうと虹ヶ咲の奴ら情報を得るためには直接メンバーに会うしかない。しかも俺からアイツらへの連絡先を全く知らないため、向こうからの襲来を待つしかない現状である。まあ幸いにもまだ会ったことのない子が6人もいるため、上原たち同様に会いに来てくれるのならあと6回は接触の機会があるってことだ。その機会を利用して、些細な情報でも聞き出せるのなら聞き出しておきたい。これまでのように警戒心を張り巡らせるのではなく、冷静にゆったりとした態度で臨めば自ずと情報は舞い込んでくるだろう。これまでが神経を尖らせ過ぎてしまい、その圧が相手にも伝わって向こうも喋りづらくなっていたかもしれないからな。

 

 そんな感じで虹ヶ咲の子たちがいつ襲来してもいいように臨戦態勢を整えていると、道端のとある一角に男たちがむさ苦しく集まっているのが見えた。まあここは秋葉原なのでオタクたちが群がっているのは変な話ではないが、やけにざわざわと騒がしいというか、オタクたちの雑音に紛れて薄っすらと女の子の声が聞こえる。営業のアイドルだったらオタクたちに媚びるために元気のいい声を出すと思うので、もしかしたら意図せず巻き込まれているのかもしれない。

 

 俺は集団の背後から背伸びをして、男たちに囲まれている女の子の様子を確認する。

 すると、黒髪ロングの美少女の姿が見えた。

 

 

「あ、あのぉ……ゴメンなさい! 皆さんの応援は非常に嬉しいのですが、今日はプライベートなのでサインとかはちょっと……」

 

 

 なるほど、やっぱり困ってたか。その女の子は集団から顔を背けているので表情までは詳しく伺えなかったが、言動的にかなり迷惑を被っていることは事実。しゃーない、ここは紳士としてカッコよくお嬢様を救い出してやるとするか。正義の味方って柄じゃないが、笑顔の消えた女の子を放っておくほど薄情者でもないんでね。

 

 俺は集団を掻き分け無理矢理女の子の元へ辿り着くと、その子の手を強引に強く握った。

 

 

「ふぇっ!?」

「あー悪い悪い! トイレ行ってたから集合時間に遅れちまった」

「あっ……あっ……」

「え……?」

 

 

 そりゃいきなり手を掴まれたら誰でもビビるよな普通……。俺に手を握られた女の子は、頬を染めたまま瞬きを繰り返し俺を見つめる。もちろん戸惑っちまうのは分かるけど、ここは上手いこと会話を繋げて切り抜けて欲しいものだ。まあ俺がコイツらオタク集団の仲間だと思われたらそれまでだけど、一応身なりは整ってるし、こんな街中で女の子を困らせてる奴らと一緒だと思われたくはない。仕方ねぇな。こっちから話を振りながら、この場からとっととずらかるとすっか。

 

 

「これからデートなんだから、こんなところで油を売ってる場合じゃないだろ? 俺たちの時間がなくなっちまう」

「そ、そうですね! さぁ行きましょう!」

「あぁ」

 

 

 意外にもあっさり俺の話に乗ってくれた女の子は、俺の手を逆に強く握り返してくれた。その行動は俺と一緒にここから逃げ出したいというサインだと察したので、俺はその子を半ば引っ張る形で集団を掻き分けこの場を後にした。逃げる時にオタク集団の目線がかなり痛かったのだが、どうせアイツらともこの子とも今回限りの関係だろうし、特に気にすることもない。

 

 しかしまた集団に見つかると厄介なので、ある程度走って距離を引き離したところで喫茶店に雲隠れすることにした。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「先程はありがとうございました! 本当なら自分で何とかするべきだとは思いますが、次から次へファンの人が集まってきちゃって対応しきれませんでした……」

「いいよ別に、気にするな」

 

 

 喫茶店内の2人席で向かい合うように座った途端、女の子が深々と頭を下げてお礼を言ってきた。俺としては当然のことをしたまでなのでお礼を言われるほどでもないんだけど、その旨を伝えるとお互いに謙遜し合って無駄に時間を浪費してしまうので、ここは素直に受け取っておく。

 

 そんなことよりも、俺は女の子自身のことが気になっていた。

 綺麗なロングの黒髪にぱっちりとした眼。華奢な身体ながらも出るところはしっかりと出た発育良好な体型。しかも何もせず座っているだけでも何故か魅力が伝わってくるこの独特のオーラ。こんな雰囲気を醸し出せるってことは、やはりこの子はアイドルでもやっているのだろう。さっきオタク集団に囲まれていたのがその証拠だ。

 

 

「あのさ、もしかしてお前ってスクールアイドルでもやってる?」

「ッッッ!?!?」

「どうしてそんなに驚くんだよ……。まさか図星?」

「私のこと、覚えていてくださったんですね!!」

「えっ? な、何の話!?」

「零さんに覚えてもらっているなんて感動です! もう幸せで死んじゃいそう……!」

 

 

 零さん、だと? どうして俺の名前を知ってるんだ……って流れは過去に3回も経験したから今更驚かない。見知らぬ女の子に名前を知られていて、かつ俺のことを"さん"付けで呼ぶのは虹ヶ咲の子だと相場が決まっている。つまり、この子も虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバーって訳だ。

 

 なんだろう、フラグを立てたつもりはないにこうしてお目当ての女の子と偶然出会ってしまうとは……。やっぱり主人公だな俺って。

 とりあえず、真実だけは伝えておくか。せっかくテンションが舞い上がっているところ申し訳ないが、こっちも嘘はつきたくないんでね。

 

 

「悪い、お前とは多分初対面だよ。スクールアイドルをやってるかもって言ったのは、お前の雰囲気で察しただけだ」

「そ、そうだったんですね……。すみません、勝手に盛り上がっちゃって」

「こっちも迂闊な聞き方をして悪かったよ。でも嘘をついてお前を騙しても仕方ないと思ってさ」

「相変わらずお優しい……。では改めて!」

「ん?」

「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会に所属しております、優木(ゆうき)せつ菜です! 得意なことはスクールアイドルに関することなら、歌でもダンスでも何でも! 自身のアピールポイントは、スクールアイドルに込める愛です!」

 

 

 まるで面接を受けに来たかのような元気な自己紹介に、思わず圧倒されてしまう。元気の良さもそうだけど、何より笑顔が綺麗で明るくて可愛い。女の子の笑顔大好き人間の俺からしてみれば、彼女の笑顔は心臓を撃ち抜かれるくらいにドストライクだ。やはりスクールアイドルをやっているだけのことはあるが、本人もアピールポイントとして挙げていたように、これもスクールアイドルが好きだからこそ磨き上げた自己紹介の方法なのだろう。自己紹介の時間はたった10秒くらいだったが、その僅かな間だけでも『優木せつ菜』という人間がかなり把握できた。俺が面接官だったら即採用だよ、こんな魅力的な子。

 

 

「まさか偶然にも零さんにお会いできるなんて……。しかもさっき手まで繋いでもらっちゃったし、更にこれからデート!! あぁ、夢みたい……♪」

「で、デート!? そんな約束してたっけ??」

「さっき私を連れ出す前に言ってくださいましたよね? これからデートなんだから油を売っている場合じゃない――――って」

「それはお前を助けるための言い訳だよ! そうでもしなきゃ群がってた奴らからお前を助け出せなかったからさ。まああのオタクたちの目線は痛かったけど……」

「そうだったんですね。てっきりこれからデートしてくださるのかと思いましたよ♪」

 

 

 いい笑顔だけど、さっきも俺が自分のことを知っていると思い込んで勝手に舞い上がってたし、意外と先走りやすい性格なのかな……? 普段はしっかり者でみんなのまとめ役として活躍していそうだけど、テンションが上がった時には先走って余計な妄想をしちゃうお茶目な一面もある。なんだ、ただ可愛いだけか絶対に欲しいよこの子!

 

 こうやって虹ヶ咲のメンバーと出会いふざけたことを考えられるようになるなんて、歩夢やかすみ、しずくと会った時にはあり得なかったことだ。これもさっき千歌のお姉さんたちから助言を貰って、心が軽くなったおかげかねぇ。今思えば他の3人とこうして対面していた時の俺って、いかに相手の腹を探って秘密を知るかってことばかり考えていたような気がする。そんなギスギスした態度では、そりゃアイツらも警戒して何も喋らなくなるわ。相手に腹を割って話してもらいたいのなら、まずはこっちが心を開かないとな。

 

 

「そういや聞きたいんだけど、歩夢たちは元気か?」

「はいっ! それはもう零さんに会えたことが嬉しくて堪らないようで、連日その話ばかりなんですよ。最初は大袈裟だと思っていたのですが、こうして実際に零さんとお話して分かりました。これは幸せを抑えきれずに誰かにお話したくなると!」

「そこまで!? まだ俺とお前、出会って十数分だけど!?」

「もう零さんに出会えたことが嬉しいのです! ずっと待っていましたから。そう、ずっと……」

 

 

 さっきまで明るい表情を見せていたせつ菜だが、この瞬間だけは思い出に浸るような寂しくも嬉しそうな表情を浮かべている。歩夢たちとの会話や秋葉の言動を考えるに、やはり虹ヶ咲の子たちと俺が過去に出会っているのはもう確定事項としてしまっていいだろう。問題は俺が全く覚えておらず彼女たちを忘れていることなのだが、どうにかしてその時の思い出を話してくれないものかねぇ……。これまで出会った3人はその話題について完全に受け流していたから、結局彼女たちと俺の関係は未だに明らかとなっていない。

 

 でも、今の流れなら聞ける気がする。何となくだけど、心に余裕ができたからこそ温和に会話できると思うんだ。

 

 

「なぁ、もう1つ聞きたいことがあるんだ」

「はい……?」

「どうしてお前は、俺のことをそんなに慕っているんだ? 俺が忘れているから申し訳ないんだけど、もしかして俺とお前たちで何か思い出があったりとかするのかな?」

「ありますよ。もう塗り替わることがないであろう、私たちの人生の中で一番の、大切な思い出が。零さんが私たちに授けてくださったものを、今回のスクフェスで発揮すると決めましたから」

 

 

 そして、せつ菜は暖かく頬む。その笑みにどのような意味が込められているのかは察せないが、その反応から俺と彼女たちの間で何かあったのは確実。しかも俺が彼女たちに何かを与え、それから好かれるようになったらしい。彼女たちはそのことを大切な思い出として、今でも俺を慕うほど心の拠り所にしているのだろう。

 

 得られた情報は僅かだけど、収穫内容としてはかなり充実していたと思う。せつ菜の言葉で、これまであやふやだったことが事実としていくつか確定したんだから。

 

 

「私、零さんから教えられたことを教訓として、それを世界中の皆さんにも伝えるためにスクールアイドルになったんです」

「俺から教えられたこと……? それって一体」

「笑顔です!」

「え、笑顔?」

「はいっ! 笑顔、そして"大好き"という気持ち。笑顔で自分の想いを伝えることこそが、零さんから学んだことなのです」

 

 

 その言葉は今の俺にとっては耳が痛いんだが……。今こそ自分のなすべきことに気付いた俺だが、さっき千歌のお姉さんたちに会わなければ自分の想いを素直に伝えることなんて忘れていたから。

 

 それにしても、過去の俺はそんなクサいセリフを虹ヶ咲の子たちに吐いていたのか……。覚えていないからこそ自分がキザな格言を放ったことに対して恥ずかしくなってくる。しかし笑顔で"大好き"の気持ちを伝えることは俺が兼ねてから大切にしてきた想いであり、特にμ'sとの例の一件ではその想いの重要性を痛感させられた。

 

 

「まさかその信念を持ってる奴らが俺やμ'sの他にもいたとはな……」

「零さんのその信念を最初に伝授されたのは、μ'sさんじゃなくて私たちなんですよ。そして私は、零さんの信念を己の人生としているんです。”大好き”を世界中に溢れさせたい。スクールアイドルの世界はアイドルをやってる人も、応援してる人も、みんなスクールアイドルが大好きで、私もそんな世界が大好きなんです。だから零さんから授かった信念を存分に発揮できます。誰もが大好きを言えちゃう世界を、みんな笑顔になれる世界を、私はもっともっと広げていきたいんですっ! 果てしない夢ですけど、この野望は絶対に叶えてみせます!」

 

 

 もうね、この子を直視できないくらい眩しいよ。どうして虹ヶ咲がスクフェスの事前人気投票で1位になったのか、その一端が分かった気がする。歩夢たちもそうだけど、この子も自分の発言に一切物怖じしない。伝えたいことは自分の気持ちを包み隠さず相手に伝える。更に自分の想いを決して曲げることのないその一途さは、その子自身の魅力をより際立たせていた。歩夢は清純さ、かすみは小悪魔さ、しずくは清楚さ、そしてせつ菜は明るく元気の良さ。初対面なのにも関わらずここまで人間性を感じられるのは、彼女たちが臆することなく自分を曝け出しているからだろう。

 

 そして、自分たちを余すことなく前面に押し出しているその性格は、グループ全体にも現れている。これでようやくぽっと出の彼女たちが人気投票で1位になったのか分かったよ。魅力が溢れすぎてファンだけでなく、スクールアイドルにさほど興味のない人の心まで掴んじゃうんだもん。

 

 

「俺自身が覚えていないから申し訳ないけど、その信念を糧にしてくれているのならそれほど嬉しいことはないよ」

「零さんが謝る必要はありません。私、いや私たちは、こうして零さんと再び出会えたことが何よりの幸せなのですから」

「いつ俺がお前たちにそんな教訓を教えたっけかな……」

「もう随分と前になりますね。でも、零さんとの思い出はこれから一生忘れることはありません。私たちはあなたのおかげで、そしてあなたのために生きていると言っても過言ではありませんから」

 

 

 歩夢たちとの会話でも感じないことはなかったが、先程のせつ菜の発言を聞いて想像以上に依存されているな俺って……。虹ヶ咲の子たちが俺に並々ならぬ愛を抱いていることは承知の上。だけど普通の愛情を遥かに超えているため、なおさら過去の俺の行動が気になるところ。さっきやんわり探ってみたけど案の定スルーされたので、そう安々と明かしてはくれないようだ。それが自分たちの意志なのか秋葉の指示なのかは知らないが、まあ今回はたくさん収穫もあったことだし探りはこの辺でやめておくとするか。

 

 むしろそんな会話で空気を乱すよりも、今はせつ菜の暖かい微笑みを崩したくはない。ずっと見ていられるよ、女の子の明るい笑顔ってやつは。

 

 

「俺もせつ菜たちとの過去を思い出して、いつか本気で好きになれるようになりたいよ。そんな笑顔を見せられたら誰でも惚れちまうって」

「れ、れれれ零さんが私たちのことを!? それに名前呼びなんて聞いていたことと違うし!? あぁ急に熱くなってきた……」

「歩夢たちに対してはずっと苗字呼びだったんだけど、せっかくこうしてお互いに歩み寄ろうとしてるんだ、他人行儀は良くないと思ってさ」

「歩夢さんたちに言ったら悶絶しそう……」

 

 

 あれだけ俺にただならぬ愛情を抱いている彼女たちならば、名前呼びだけでも相当興奮しそう……。つまり、今後虹ヶ咲の子たちと会う時には毎回この反応を見せつけられるってことか。まあ基本凛としている彼女たちの恥ずかしがる姿を見られるのは、ギャップによる可愛さを感じられて俺としても大歓迎だけどね。

 

 

「零さん!!」

「なんだ急に大声出して。ここ喫茶店なんだけど……」

「す、すみません! あ、あのぉ……私のこと、もう一度名前で呼んでくれませんか……?」

 

 

 さっきまで本物のアイドルかのような明るい雰囲気だったのに、突然しおらしくなりやがった。

 何を企んでいるのかは知らないが、美少女からのご要望とあらばここはカッコよく決めてみるか。

 

 

「せつ菜、好きだよ」

「ふにゃっ!?」

「えっ!? ちょっ、こんなところで悶絶するなよ!? おいっ、おーーーいっ!!」

「えへへ……幸せですぅ……」

 

 

 ちょっと付属物を付けて名前を呼んでやったら、顔を真っ赤に沸騰させてそのままショートしてしまった。しかも静かな喫茶店内で騒いでいたせいか、お客さんや店員さんの目が俺たちの一点に集中し……。しかも女の子を気絶させたとなれば、周りの人たちがどう思うのかはもうお察しのこと。

 

 あれ、これって……ヤバい展開!?

 

 

「せつ菜! 帰るぞ!」

「えへへ……」

「あぁもうっ! 店員さん、ここにお金置いておくんで! おつりは要りません!!」

 

 

 俺は無駄に5000円札を机に置き、周りの人たちと目を合わせないようせつ菜をおんぶしてこの場を後にした。

 なんだろう、積極的になり過ぎるのも困りものだな……。積極的になり過ぎてもダメ、引っ込み思案でもダメ。やっぱり女の子と付き合うのって難しい……?

 




 せつ菜の自己紹介を見た時に最初に思ったことは「なんて零君とウマの合う子なんだ」でした。笑顔がめちゃめちゃ可愛く、もし零君がまともに彼女と出会っていたら彼から彼女のことを好きになっていたでしょう(笑)
また、彼女は保健体育が苦手らしいので、μ'sと絡ませるのならことりや楓が適任かと勝手に思っています。まあ彼女が弄られる未来しか見えないですが……()


 次回は零君が花陽&ダイヤを巻き込んで大パニックに……?



新たに☆10評価をくださった

ACHAさん

ありがとうございます! いただいた評価コメントにより、やる気がめちゃめちゃ上がりました(笑)
まだ評価をつけてくださっていない方は、よろしければ小説に☆10評価をつけていってください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黄金砲発射準備OK!?

 今回は花陽&ダイヤ回です!
 最近のお話はストーリー色が強かったので、こんなふざけたお話は久々な気が……


 

「お前もかなり積極的になったよな。高校生のお前だったらこんなところへ俺を誘わないだろうし」

「こ、これでも恥ずかしいんだから! あまりそのことにはツッコまないで!!」

 

 

 俺は花陽と並んでデパート内を歩きながら、今日彼女に誘われた事実を種に弄ってやる。

 ただ買い物に誘われるのならば過去に数え切れないほどあるのだが、今回は合宿用の水着を買いに行きたいから一緒に選んでくれとまさかのお誘い。花陽は自ら進んでそんなことをする性格ではないので、先日連絡を貰った時には誰かに携帯を乗っ取られているんじゃないかと思ってしまった。それくらい花陽にとって男と水着選びなんて行動は大胆なのだ。

 

 しかし大胆とは言っても、さっき水着を選んでいる時の彼女は常に羞恥心の渦に苛まれていた。そんなに恥ずかしがるのなら最初から俺を誘わず凛と来れば良かったのにと思うくらいには、終始顔を真っ赤にして水着を選定していたんだ。しかも試着する時も俺が覗いてくるかもと疑念を抱いていたせいか、試着室から全然出てこない事件も起こる始末。いくら俺であっても周りにたくさん人がいる状況で女性の更衣室なんて覗くかよ……。

 

 

「でも、久しぶりに零君と2人きりで買い物に来られて楽しかったよ。最近はスクフェスの練習で忙しかったから……」

「Aqoursの練習も見てやらないといけないから、こうしてまとまった時間ってあまりないんだよな。そういう意味でも、久々にお前と余暇を過ごせてリフレッシュできたよ」

「そうだね。Aqoursのみんなとも一緒に練習してみたいなぁ」

「そのための合同合宿だろ? まあ水着を選んでる時点でみんな遊ぶ気満々だけどさ」

「あ、あはは……」

 

 

 そう、花陽がいきなり水着選びに誘ってきたのはちゃんと訳があってのことだ。

 なんと近々、μ'sとAqoursの合同合宿が開催予定なのである。お互いのグループがスクフェスへ向けてより意識と技術を向上させるため、海の近くの旅館で2泊3日みっちりと練習する予定だ。まあしっかり練習しようと張り切っているのは海未やダイヤくらいで、他の子たちはどちらかと言えばみんなで遊ぶことを第一の楽しみにしているのだが……まあ、それだけの人数が集まったら仕方ないのかもしれない。現に花陽もAqours全員と正式にご対面するワクワクから、水着選びにもやたら気合を入れていた。これはあれだ、羽目を外し過ぎて海未とダイヤが大激怒する未来しか見えねぇな……。

 

 ちなみにスクフェスのメインプロジェクトの1つとして、スクールアイドル同士のコラボレーションがある。事前にお互いにコラボするスクールアイドルを申請することで、大舞台で一緒にライブをすることができる訳だ。そして今回はμ'sとAqoursが結託し、スクフェスの舞台に立つことが決定した。もちろんスクールアイドル個人として優勝を目指す目的もあるのだが、こうしてお互い協力してライブを作り上げる楽しみもスクフェスの狙いの1つ。だからこそ今度の合宿はそのコラボライブの打ち合わせや練習も兼ねているのだ。

 

 

「他のスクールアイドルとコラボできるなんて、スクフェスを開いてくれた公式さんには感謝しかないです!」

「だな。まあμ'sは最初招待されてなかったけど」

「そういえば。もう参加することが普通になってすっかり忘れてた……」

 

 

 俺もAqoursや虹ヶ咲の子たちとの接し方や秋葉の動向を伺うのに神経を集中してしまい、俺の家にスクフェスの招待状が届いた謎については頭から抜け落ちてしまっていた。確かに言われてみればそんな問題もあったなぁと思い出すが、正直なところその謎は今のところ解明の余地がない。確かにウチにはμ'sのメンバーである楓がいるのだが、今回スクフェスに向けてμ'sが再結成するまではもちろんグループは解散していた訳で、そもそも招待状が届く意味が分からない。仮に届けるにしても、普通はリーダーをやっていた穂乃果の家に送るはずだ。

 

 つまりだな、何も分かんねぇ。なんとなく思い当たる節がない訳ではないのだが、確定的な証拠もないので今のところは保留にしておこう。

 

 

「そういや、このあとはどうするんだ? いい時間だし昼飯にでもするか?」

「そうだね。私の用事はもう終わったし、お昼ご飯のあとは零君に付き合うよ」

「付き合うって言われても、なんか欲しいモノあったかなぁ……」

 

 

 日常生活ではあれが欲しいこれが欲しいと色々思いつくのに、こうしていざ買い物に来て思い出そうとすると全然思い出せないことってよくあるよな。もしかして俺がアルツハイマーなだけ?? この歳で痴呆症とかシャレにならないからやめてくれよ……。

 

 だが今は俺の心配よりも、隣にいる花陽の様子が少しおかしいことの方が気がかりだった。

 デパートの1階にあるレストラン街に行くため、12階にいた俺たちはエレベーターで下ろうとしたのだが……さっきから花陽が妙にそわそわしている。水着選びの時も大概あたふたしていたが、今はその時以上に口数が少なくなっていた。身体が震えてるとまでは行かないが、やたらモジモジしているのでそんなに俺と買い物に来られたことが嬉しかったのだろうか?

 

 

「あ、あの零君――」

「おっ、エレベーター来たぞ」

「えっ、あっ、うん……」

「お昼時のエレベーターは混むから、さっさと1階に降りて――――えっ!?」

 

 

「あら? 先生と……小泉花陽さん!?」

 

 

「ダイヤ!?」

 

 

 エレベーターの扉が開くと、そこには既にダイヤが乗っていた。買出しにでも来たのだろうか、そこそこ大きめの紙袋を両手に持っている。

 とりあえずエレベーターを待たせる訳にはいかないので、俺と花陽はそそくさと乗り込んだ。

 

 

「奇遇だな。買出しか?」

「えぇ。今度の合同合宿に向けて、日用品を大量に」

「あぁなるほど。元々東京に合宿に来たようなもんなのに、そこからまた海へ合宿に行くんだから用意も何もしてないわな。でもお前1人なのか?」

「千歌さんたちに買い物へ行かせたら、余計なモノまで買ってくるに決まっていますから」

「納得……」

 

 

 千歌や善子に下手に金を渡したら、合宿用具が遊び道具になったり中二病グッズになったりと、どんなモノを買ってくるのか容易に想像できる。だからμ'sも穂乃果や凛に買出しに行かせるのではなく、海未と絵里がしっかりと合宿用具の管理をしている。まだ高校生のAqoursはちょっぴりやんちゃでもいいとしても、穂乃果や凛はもう20歳超えの大人なのに買出しすら任せてもらえないなんて……。まあ合宿費用がお菓子やカップラーメンに変貌する恐怖を体感するくらいなら、最初からしっかりした奴が管理した方が無難と言えば無難だが。

 

 

「先生方は何をされているのですか? 同じく合宿の買出し……のようには見えませんけど」

「いや、俺はただ花陽の水着選びに付き合ってただけだよ」

「水着……? 今度の合宿は練習が目的では?」

「やっぱり言われた……」

 

 

 ただでさえ鋭いダイヤの目がより一層ツリ上がり、何故か俺が睨まれる。

 いやね、俺だって合宿の目的がμ'sとAqoursの合同練習だってことくらい分かってるよ? でも穂乃果や千歌を始めとしたほとんどのメンバーは遊ぶ気満々なのだ。実際にこうして水着選びに誘ってきたのは花陽だけだが、最近はどんな水着を着て欲しいかをわざわざ電話で聞いてくる奴もいる始末。つまりネジを緩めるどころか、そもそも羽を伸ばす目的の奴が多い。そしてそんな奴らに合宿の目的を話したところで「分かってる分かってる」と受け流されるのが関の山だ。だったら俺も最初から遊ぶ前提で心構えをしておいた方が遥かに楽なんだよ。

 

 

「まあ最近はお前らも練習漬けで疲れてるだろ? だからたまにはバカンス気分でリラックスしてもいいんじゃねぇか? μ'sもAqoursもお互いにコラボすることができて士気が上がっていることは事実だし、練習もちゃんとするだろ多分。なぁ花陽?」

「ふぇっ!? は、はいそうですね!」

「なにさっきからぼぉ~っとしてんだ? 俺たちの話聞いてたか?」

「聞いてました聞いてました! 合宿の話ですよね?!」

「そうだけどさぁ……」

 

 

 本当に聞いてたのかコイツ……? ダイヤと喋ている時も横目で花陽の様子を確認していたのだが、やっぱり何か挙動がおかしい。頬をじんわりと染めて落ち着きのない様子。水着選びの時はやたら恥ずかしがり、俺が水着を選んでやった時にはテンションを上げ、今は謎の焦燥感に駆られ顔を赤くしている。まるで福笑いかのような百面相だが、下手をしたら情緒不安定な奴にしか見えねぇぞ……。

 

 すると、エレベーターの動きがかなり遅くなっていることに気が付いた。もう1階に着いたのかと思えばそうではなく、階層を表すランプはまだ6階のところに点灯している。元々俺たちと同じく1階に行く予定だったダイヤも不思議に思ったらしく、当てもなく周りをキョロキョロしていた。

 

 そしてエレベーターの速度は徐々に低下し、やがてその動きが――――――ピタリと止まった。

 

 

「まさかとは思ったが、本当に止まっちまうとは……」

「え、えぇ。このエレベーター、乗った時からちょっと動きが怪しかったので、予想していなかった訳ではありませんでしたが……」

「と、止まっちゃったの!? ほ、ほほほ本当に!?」

「落ち着け。非常用ボタンで管理室と通話できるようになってるから」

「むしろ零君たちはどうしてそんなに冷静なんですか!? わ、私なんて……!! うぅ……」

「逆にそこまで慌てることかよ……」

 

 

 もちろんエレベーターが止まるなんて日常茶飯事ではないが、山の中で遭難したり誰にも見つけてもらえない空間に閉じ込められた訳じゃない。エレベーターが来なかったらデパートの人が気付くだろうし、非常用ボタンで外と連絡が取り合える。そもそもエレベーターが止まった時点で管理室の警報がなっているはずだ。だから精々数十分あれば脱出可能だろう。幸いにも俺たち3人以外は誰も乗っていないため人が密集する暑さでダウンすることもないし、この状況で無駄に騒ぎ立てて体力を消耗する方が賢くない。

 

 だが花陽は様子はその賢くない方向に進んでいた。まるでエレベーター内に閉じ込められたことがこの世の終わりかのような、そんな慌てっぷりだ。さっきも言ったが脱出可能か不可能か分からない生死の境目を彷徨っている訳じゃない。だからそこまで慌てなくてもいいのに……。まさか閉所恐怖症とか?? そんな属性は花陽に備わっていないはずだけど……。

 

 とりあえず非常用ボタンで外部と連絡を取り、救助の人がこちらに向かってくれる算段を取り付けた。やはりエレベーターが止まった時点で警報は鳴っていたようで、もうどのエレベーターが止まってどのように俺たちを救助するのかも決まっているのだろう。迅速な対応お疲れさんです!

 

 

「30分もすれば救助できるってよ。とんだ災難だけど、俺たちからできることもないからじっとしてるしかないな」

「さ、30分!?!?」

「それでも短い方じゃねぇの? 正直2時間くらいここに幽閉される覚悟だったから安心したよ」

「30分なんて全然安心できないよ……というか無理……」

「花陽さん!? 顔が赤くなっていますけど大丈夫ですの!? それに……どうして涙目に??」

「まさか怖いのか? どうせこのままエレベーターが落ちたらとか考えてるんだろ」

「そ、そんなことは……ない、けど……」

 

 

 花陽は何をそんなに恥ずかしがっているのか、俺どころかダイヤとも顔を合わせようとしない。それに顔の赤さや慌て具合はエレベーターを乗る前に比べれば格段に激しくなっており、先程からの言動から察するに早急にこのエレベーターから脱出したいのだろう。そんな女の子の弱々しい姿を見ると敢えて脱出を阻止したいという悪戯心が生まれてくるが、どうやら花陽は相当深刻な事態の様子だから邪魔するのは(はばか)れる。GOHANYAのタイムセールでご飯の大盛りが無料とか、そんな理由で慌ててるんじゃないだろうな……? それとも単にどこか具合が悪いとか……?

 

 

「おい花陽、気分が悪くなってんのなら素直に言えよ」

「ひゃあああっ!?」

「な、なんだよ!? 肩を触っただけなのにそんなに驚くことねぇだろ……」

「ご、ゴメン……。でも今はあまり触らないで欲しいかなぁ~なんて……アハハ」

 

 

 やべぇ、花陽に引きつった顔で触らないでとか言われるとマジで心に来るんだけど……。いつも温厚な彼女がここまで身体を触れられることを拒むなんて、と思ったが、よくよく考えてみたら身体を自由に触らせる女の子の方がおかしいよな。ただの痴女だよそんなの。

 

 今の花陽は少し内股で、いつものコイツはそんな立ち方をしない。少し身を屈めないといけないってことは、もしかして腹でも痛いのか……?

 よしっ、ならば腹痛も吹き飛ぶ自己流のマッサージを腹に施してやろう。

 

 

「先生。花陽さん、どこか具合が悪いのでは……?」

「分かってる。だから一時的だけど治療をしてやろうと思ってな」

「治療?」

「花陽、ちょっと我慢しろよ」

「ふぇ……?」

 

 

 俺はこちらに背を向けて内股になっている花陽の前に回り込み、彼女の腹を手のひらで撫で回す。こうして腹を温めることで一時凌ぎ程度でもいいから痛みが収まってくれるといいんだけど――――

 

 

「ひゃうぅ!?」

「ちょっと先生!? いったい何をしたのですか!?」

「いや腹が痛いのならマッサージをしてやろうと……」

「だ、大丈夫! お腹が痛いとかそういうのじゃないから……。で、出そう……」

「えっ、なんだって?」

「な、何でもないの何でも!!」

 

 

 難聴主人公のテンプレの台詞を吐いてしまったが、花陽の声が小さすぎるので聞こえないものは聞こえない。

 俺が腹を撫で回してしまったせいで余計に症状(っぽいもの)が悪化したようだが、彼女が強がっていないのなら腹痛ではないようだ。そもそも腹が痛いんだったら俺たちに自分の症状を隠す必要はなく、何かしらの対応策を施して貰えると信じてSOSを出した方がいい。まあ優しい彼女のことだからエレベーターの停止という事態が発生している最中で、自分の体調が悪いと言い出して俺たちを心配させたくないのだろう。

 

 

「おい花陽。下手に遠慮なんてする必要ないんだぞ? むしろお前に何が起こっているのか分からない方が心配しちまうから」

「そのぉ……言いたいのは山々なんだけど、あ、あっ……!!」

「急に喘ぐなよ痴女か!?」

「ち、違うよ!!」

「花陽さん、無理をせずとも体調が良くないのであれば座ってもよろしいのですよ?」

「いや、この体勢を崩しちゃうと出ちゃうと言うか……あっ、な、なんでもない!!」

 

 

 なるほど、なんとなく花陽の身に何が起こっているのかが分かった気がする。エレベーターに閉じ込めれて気が狂うように焦り、内股となってその体勢を崩せない。そんな状態の女の子が『出す』ものと言えば――――

 

 

「辛いことは仲間と共有して解決すべきです! 厚かましいかもしれませんが、私はAqoursとμ'sは仲間だと思っています。だから花陽さん、悩みがあるのなら打ち明けてください! 先輩に対して口に聞き方がなってないと思われても構いませんわ! 微力ながらも花陽さんの力になりたいんです!!」

「だ、ダイヤちゃん……」

 

 

 すっげぇいいことを言ってるダイヤだが、花陽が今置かれている状況を考えると的外れ感が半端ではない。花陽もダイヤがここまで心配してくれることを嬉しくは思っているだろうが、彼女に襲い掛かっている脅威に対しては何の解決にもならない。なんかもう、ダイヤが優しいことは分かったけどこの状況だけは滑稽に見えるな……。

 

 

「後輩に相談事とか恥ずかしいかもしれませんが、私はそんなこと気にしません! さあ花陽さん! あなたの胸の内、私が受け止めてますわ!!」

「ちょっ、ダイヤちゃんこっちに迫って来ないで!? 本当に出ちゃう……」

「出しちゃってください!! 悩みは全部吐き出すべきです!!」

「そ、そういうことじゃなくて!! ひゃっ、うぅ……い、言うから! 言うから肩揺らさないで!!」

「そ、そうですか……」

 

 

 これもダイヤなりに花陽を心配しての行動だから、咎めるに咎めることができない。でも発想が斜め上に走って暴走してしまうのは如何にもダイヤらしいけどね。まあ今回はそのせいで花陽のダムが決壊しそうになってる訳だが……。

 

 

「じ、実はお手洗いに……」

「へ? 今なんと?」

「お、お手洗いに行きたいの!! 今すぐに!!」

「へ……え゛ぇっ!?!?」

「やっぱりか……」

 

 

 エレベーターに乗る前から落ち着きがなかったのはトイレに行きたかったから。しかもその直後に乗ったエレベーターが止まっちまったんだからそりゃ焦るわ。しかも救助までの残り約25分はここに幽閉される羽目になる。ただでさえエレベーターに乗る前から漏れそうな状態だったのに、そこから30分も待たされるとなるともはや絶望だ。

 

 ここから、花陽と膀胱の長い長い戦いが始まろうとしていた――――――

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 こんなふざけた回なのにも関わらず、前後編に分かれるとはこりゃいかに……()
 最後に花陽が告白するまで、彼女の身に何が起こっているのか分かった人はいらっしゃいますかね?


 次回は後編。
 焦燥の花陽に激動のダイヤ、真面目系クズの零君()



新たに☆10評価をくださった

7shotすぅさん

ありがとうございます!
まだ評価をつけてくださっていない方は、よろしければ小説に☆10評価をつけていってください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黄金砲発射5秒前!?

 花陽&ダイヤ回の後編です!
 閉鎖空間での尿意の恐怖を体験したことのある人は多いはず……


 

 尿意を催すのは人間なら誰でも毎日といっていいほど体験する事象だが、厄介なのはどこで襲い掛かってくるのかが分からないところである。事前に用を足しておくことである程度の危機回避はできるものの、尿意というのは気まぐれであり、いくらこちらが万全な状態であっても突然やって来る鬱陶しさ。それが電車内などの閉鎖空間だとなおさら絶望。しかも足掻いたところで収まる事象ではなく、刻一刻と決壊する膀胱を必死に抑えつけて耐えなければならない。その時の自分がいかに不格好であろうが、どれだけ周りから奇異な目で見られようが、その場で膀胱という名のダムが決壊するよりかは全然マシだ。

 

 そして今、そんな状況に苛まれているのが皆さんご存知、小泉花陽だった。

 俺、花陽、ダイヤの乗ったエレベーターは突如停止し、管理室と連絡を取ったところ救助まで30分は要する模様。つまり現在進行形で尿意に襲われている花陽は、約30分の間この閉鎖空間で己の膀胱と戦わないといけない。なんともまあ恐ろしくも面白くなってきたことで。こんなことを言ってしまうと非常に不謹慎なのだが、尿意の猛攻に耐えている女の子を見るのはそこそこ好きだったりする。

 

 さてはて、花陽は耐えきるのことができるのか……? こんなことでワクワクすると、自分の変態度が極限を振り切ってると実感するよ。

 

 

 花陽はもう隠す必要がなくなって吹っ切れたのか、さっきよりも更に内股となっていた。尿意に耐える唸り声も徐々に大きくなってきており、このままでは救助が来るまでに膀胱のダムが決壊してしまうだろう。ダイヤは苦しみに耐える花陽の身体を支えてやりたいと彼女に手を伸ばそうとしているが、今にも黄金砲が発射されそうな彼女の様子を見て泣く泣く渋っている。下手に触れたらいつ膀胱が起爆するか分かったものじゃない。ただ見守ることしかできない自分に、ダイヤはもどかしそうにしていた。

 

 

「は、花陽さん……」

「大丈夫。大丈夫だから……うぅ」

 

 

 いや、そんな弱々しい声を聞かされるとなおさら心配するって。こんな状況で元気な声を出せって方が無茶なのは分かるが、もはや何をしようがこのまま傍観しているだけでも彼女のダムは崩れ去りそうだ。

 

 

「もうこれはあれだ。出すしかないってやつだな」

「はぁ!? 教師たるものが何を言っているのですか!?」

「いやツッコミどころそこ!? 教師じゃなくても人間としてダメな発言だったと思うが……」

「ツッコミどころがどうであれ、この状況で変なジョークはやめてくださります?」

「別のことに集中すると尿意って忘れるもんだぞ? ほら、トイレに行きたいと思っていたのに作業に没頭していたら行くのを忘れることってない?」

「そうかもしれませんが、それはいつでも行ける状況だからこそ成り立っている理論であって、今回のケースは行きたいけど行けない状況だから困っているのではありませんか」

 

 

 真っ当な正論にぐぅの音もでない。そもそも正論とかそうでないかとかは関係なく、単純に花陽の集中力を少しでも別のことに割かせて尿意を意識の彼方へ消し飛ばそうと思っていたのだが、そもそも彼女に襲い掛かっている尿意の強さはそんなヤワじゃなかった。タイムリミットは寸前にまで迫っており、ちょっとでも意識を飛ばしたら黄金水が垂れ流される危険な状況なのだ。だからもう気を抜くことなんてできない。できることは……そう、耐えるだけ。

 

 まあいっそのこと出した方が楽になるとは思うが、それは俺が当事者じゃないから言えることなんだろう。

 いつ花陽が黄金を放つのか? 彼女の緊張感とは別の緊張感が俺にはあった。あまりにも不謹慎すぎるが、だって男の子なんだもん仕方がない。女の子の恥ずかしい姿を見たいのはSの極みだ。もちろんできるだけの対策は考えてやるけどね。

 

 そう思ってポケットの中に手を突っ込もうとした時、その中に既に別のモノが入っていることを思い出した。

 俺の服の右ポケットにはスポーツドリンクが入っていた空のペットボトルが1つ。なんだ、これで解決じゃねぇか。

 

 

「こんないいところにペットボトルがあるなんてな。ほら」

「ほらってなに!? 零君もしかして……」

「後ろ向いておいてやるから、それに出せ」

「やっぱり!? そんなことできないよ!!」

「まあ女の子には厳しいか……」

「そもそも男女関わらず、ペットボトルに出すなんて恥ずかしい行為だと思いますわ……」

 

 

 どれだけ恥ずかしい行為であろうとも、このまま垂れ流すことになったら救助に来た人やエレベーターを待っている人にまで漏らしたことがバレてしまう。だったらプライドを捨て去ってでもボトラーになった方がまだマシだろうよ。下手に我慢をして限界を超え、床に黄金の水溜まりを形成してしまったら最後、俺たちもどんな顔をしたいいのか分からないからさ……。

 

 

「どうすんだ? 漏らして世間体に恥を晒すのか、それともペットボトルに放出して楽になってしまうのか」

「どうして零君の前で出すこと前提なの!? 耐えるから!!」

「その威勢がいつまで続くかねぇ……」

「先生、どうしてそんなに楽しそうなんですか……」

「逆に聞くけど、尿意に悶える花陽を黙って見守るだけの方がシュールな光景じゃね?」

「それは……」

 

 

 花陽はさっきから自然と『あぁ……』やら『うぅ……』やら、小さな呻き語をずっと漏らしている。内股で顔を赤くして呻いている女の子を何も言わずに見守るって、もはやそっちの方が変態な気がするんだ。だったら少しでも花陽の緊張感を和らげるために何かしら喋りかけておいた方がいいのかもしれない、そう思った。あとは単純に花陽の反応が面白いからちょっと弄って遊んでいる、それだけだ。

 

 その時、尿意に思考も身体も支配されている花陽の隣で、ダイヤが忙しなく携帯を弄っていることに気が付く。

 

 

「ありました! 尿意を抑える方法が!」

「ほ、本当!? ていうかそんな方法があるんだ……」

「えぇ。情報化社会のこのご時世、どんな症状でもその場でできる応急措置くらい調べればすぐに出てきますわ」

「は、早く……!!」

「そうですね……まずはその体勢! 背をピンと伸ばしてください!」

「えぇっ!? 動いたら漏れちゃうんだけど!?」

「尿意対策の1つとして、前屈みになるのは避けた方が良いと。前屈みの体勢はお腹が膀胱を圧迫するそうで……」

「そ、そんなぁ……」

 

 

 花陽は内股前屈みという、男がしていたら興奮していると即バレの体勢をしている。エレベーターに乗り込んだ時からそのような格好だったので、如何にその体勢を崩したらヤバいのかはもはや一目瞭然だった。だけどその体勢こそが尿意を加速させているのだとしたら自ら墓穴を掘っていたことになる。ダム決壊のリスクを背負いながらも尿意を和らげる可能性に賭けるか、それともリスクを背負うくらいならそのまま耐え抜くか……さぁ、面白くなってきたぞ。

 

 …………なんだろう、今日の俺って物凄く陰険な気がする。いつものことかもしれないけどさぁ。

 

 

「どうします? 自分で身体を動かせないのなら手伝いますが……」

「ありがとう。でも大丈夫、自分で動かせるから――――ひぅっ!!」

「花陽さん!?」

「だ、ダメだぁ……」

 

 

 ちょっと身体を動かしただけで起爆しそうになる膀胱に、もはや花陽は屈服していた。まるでエロ小説のような言い回しだが、この現状を見ているとそんな表現が正しいのだと実感できる。

 ただでさえ彼女はいつも弱々しいのに、ここまで貧弱になってしまうとあまりにも見ていられないので思わず抱きしめたくなってくる。だがそんなことをすればお漏らしどころか俺の脚にまでぶっ掛けられてしまうので、全年齢対象で健全なこの作品としては何としても避けなければならない事態である。そもそもお漏らしプレイなんて偏屈趣味は俺も持ち合わせていないよ。まあ興味がない訳じゃないのだが……それは聞かなかったことにしてくれ。

 

 

「身体が動かせないとなると、できる対策は限られてきますね」

「触れたら爆発する爆弾みたいになってるよなお前」

「仕方ないよ!! 出ちゃうものは出ちゃうんだから!!」

「だからいっそのこと出せばいいのに。ペットボトルもあるんだしさぁ」

「絶対にイヤ!!」

 

 

 おいおい、俺はお前をそんなワガママな子に育てた覚えはないぞ? 一刻も早く身体の中でたぷたぷと溜まっている尿を放出したい。でも人前では恥ずかしいから我慢をする。だったらペットボトルを貸してやるから、俺たちがそっぽを向いて耳を塞いでいる間にやればいい。でもそれもイヤだ。うん、これは困ったちゃんだ。今なおこの状況で己のプライドを保ちつつ羞恥心を抑えたいという気概は十分なのだが、やっぱそこは男と女の子の違いってやつか。まあ男であろうが人前で尿を放出することに躊躇いがないと言えばウソになるが……。

 

 するとその時、ダイヤがまたしても携帯で何か良さげな尿意の対策案を見つけたようだった。

 

 

「これです! これならば身体を動かす必要もありませんから、花陽さんも耐えられると思いますわ!」

「どれどれ……?」

 

 

 俺はダイヤの携帯の画面を覗き見る。

 そこには女性の顔のイラストが描かれており、顎の部分に赤い目印が矢印と共に記されていた。尿意を抑える方法なのにどうして顔面のイラストなんて……? そんなことを考えつつも、声を出しながらイラストの下の文章を読んでいく。ちなみにその対策方法のタイトルは『尿量を減らすツボ』だそうだ。

 

 

「“尿量を減らすツボ”とは、“あごの膨らみの中央”である。このツボを刺激すると、膀胱の筋肉の伸縮性を高めて尿を多く溜めることができるという――――だってさ。人間っつうのはつくづく変なツボばかり持ってるよな」

「あごの膨らみの中央って――――このあたりかな?」

「そうそう。そこを指で押さえる感じで……って」

「零君……?」

 

 

 ツボはいくらでも押してもらって構わないのだが、花陽が指であごを下から上へ押しているせいか、必然的に俺を上目遣いで見上げる形となっている。本人は全くそんな気もないし尿意に耐えているのでそれどころではないと思うのだが、俺から見たらあざとく誘っているようにしか見えない。普段おとなしい彼女がここまで攻めてくることはそれほどないため、本人が無自覚にせよ無駄に意識をしてしまう。しかもだよ、さっきから尿意に悶えているせいか頬を赤くしているので余計にムードが漂ってくる始末。何も知らない人がこの状況を見たら、野外でキスをおっぱじめる空気読めないカップルだと思われるだろう。現にほら、花陽の顔がどんどん赤くなって――――って、あれ?

 

 

「れ、零君……。そんなに見つめられると恥ずかしいと言うか……」

「えっ、そんなつもりはなかったんだけど!! あごを自分でクイッと上げるお前の姿が可愛かっただけで……」

「か、かわっ!? わ、私もそんなつもりであごを上げてたんじゃないよ!?」

「分かってる! 分かってるけどさぁ、意識しちゃうだろ……」

「そ、そうなんだ……えへへ」

 

 

 おいおい、いきなりそんな暖かい笑顔は反則だろ……? ここで笑顔を向けられるなんて思ってなかったから、心構えができていなかった俺は柄にもなく激しく動揺していた。もう既に何人もの女の子と付き合って恋人にまで漕ぎ着けているのに、未だにひょんな笑顔であっさり心を奪われるウブさが残っていたとはな……。いやでも仕方ないじゃん、可愛んだもん!

 

 

「あのぉ……私のこと、忘れてません? いや確実に忘れていましたよね……?」

「ダイヤ……」

「な゛ぁ!? なんなんですかその『お前いたのか』みたいな反応!? エレベーターで男女の営みなどはしたない……」

「男女の営みって、ただ見つめ合ってただけだろ!?」

「そうだよ!! そんなエッチなことなんて!!」

「誰もそんな如何わしいことをしているなんて言ってませんが……」

「え゛っ!?」

「なに墓穴掘ってんだお前……」

 

 

 男女の営み=エッチなことを想像する辺り、さすが隠れむっつりスケベの花陽ちゃんと言ったところか。まあ普通は猥褻行為を想像してしまうのが当たり前なので、これはダイヤの言い方が意地悪だと思ったのだが……ここでツッコミを入れると俺にまで飛び火しそうだからやめておこう。

 

 ちなみにダイヤの存在を忘れていたか覚えていたかについてだが、さっきまで一緒にいたのに何故か忘れてたよね! ほら、エレベーターみたいな閉鎖空間で女の子といいムードになるって風情を感じるじゃん? その雰囲気に感化されて俺の意識が花陽にしか向いていなかったんだ。決してダイヤを無碍に扱っていた訳ではないのであしからず。

 

 

「花陽さん! そんなことよりももう大丈夫なんですか!?」

「大丈夫って何が……あっ、あぁっ!?」

「さっきまで散々苦しんでいたのに忘れていたのですか……」

「零君が可愛いって言ってくれたから思わず舞い上がって……んっ、お、思い出したらまた……!!」

「あ~あ、ダイヤが茶々を入れなかったら、救助が来るまで耐えられたかもしれないのに」

「私のせいですの!?」

 

 

 やはり尿意とは全く別のことに対して集中力を使えば、膀胱に迫る危機など忘れてしまうと証明されたな。今はまた内股の体勢に戻っちゃったけど、さっきまではダイヤに弁解をするためなのか普通に立って喋っていた。"病は気から"と良く言ったものだが、"尿意は忘れることから"なのかもしれない。漏らしてしまう恐怖に駆られいつまでも尿意を気にしていたら、ずっとその地獄から抜け出すことはできない。でも何か1つのきっかけで尿意を意識から消し無我の境地に達することができれば、さっきの花陽のように平常でいられるだろう。

 

 まあそれでまた思い出してしまった場合は、思い出す前の地獄よりも更に辛い闇の底を彷徨う訳だが……。そう、今のコイツのようにね。

 

 

「ど、どうしよう……もうダメ……」

「諦めないでください! このまま出してしまったら、先生の前で恥を晒すことになりますよ」

「もう花陽とは5年以上も一緒にいるんだから、コイツの恥なんて知り過ぎるほど知ってるよ」

「それはそれで変態が極まっていると言いますか……」

「そこで引くなよ!」

「分かりました! 花陽さんにこれ以上恥をかかせないためにも――――先生の目を潰します!!」

「何言っちゃってんのお前!? つうか手に持ってるそのムチはなんだよ!?」

 

 

 ダイヤは買い物袋から、明らかにSMプレイを意識して作られたであろう本格的なムチを取り出した。どうしてそんなモノを買っていたのかは謎だが、あのムチを振って俺の目をミミズ腫れにすることで疑似的に失明させようと考えているのだろう。いくら先輩の恥を隠したいとは言え、かつての恩師の目を潰すなんて俺はそんなデンジャラスな子に育てた覚えはないぞ?? ダイヤも花陽の切羽詰まった様態を見て相当焦っているのか、まるでRPGの混乱状態のように目を回している。このままでは本当に顔面を叩かれてモンスターの風貌にされかねない。でもエレベーターだから逃げ場もないし、どうすんだこの状況……!?

 

 

「このままではいずれ花陽さんは漏らして恥をかきます。だったら先生もミミズ腫れという恥を、私は恩師を襲ったという罪悪感を一生抱き続けます。喧嘩両成敗です」

「ひっでぇ理論を暴露しやがって。それにその言葉はちょっとニュアンス違うからな……」

「花陽さんは仲間です。その仲間が恥という枷を背負うのであれば、私たちも同等の重みを背負うべきです!!」

「落ち着け!! ムチをピンと張るな!!」

 

 

 このままでは救助に来た人がエレベーターの扉を開けた時、漏らしている女の子とムチを持って懺悔してる女の子、更に目元がミミズ腫れになってる男を見てドン引きしてしまうだろう。一体エレベーターの中でどんな戦争が繰り広げられていたのか、想像したくてもできないに違いない。そんな事態を避けるためにも、そして俺の目を守るためにも、なんとしても花陽には気持く漏らしてもらって恥をかかせないようにしないと。

 

 

「や、やめてダイヤちゃん!」

「花陽さん……しかし」

「………するから」

「へ?」

「ペットボトルの中でするから!!」

「え……え゛!?」

 

 

 遂に花陽は我慢の限界が訪れて、ボトラーに成り下がる覚悟ができたらしい。恥なんて捨てて最初からペットボトルに出していれば楽になれたのに、ここまでよく持ち堪えたもんだ。だが人間は追い詰められれば追い詰められるほど楽な方に走りたがるもの。どれだけ羞恥を浴びようが、花陽はその楽な方を選んだって訳だ。

 

 

「れ、零君。1つ相談があるんだけど……」

「あぁ、ちゃんと後ろを向いておくし、耳も塞いでやるから安心しろ」

「違うの! そのぉ……ペットボトルを持っていて欲しいなぁ~って……」

「はぁ!? 俺でいいのかよ!?」

「そ、そうですわ! その役目なら私が!!」

「男性とか女性とか関係なくて、出すところを見られるのは結局恥ずかしいもん……。それだったら零君の方がいいかなぁと……」

「先生……。いくら女性好きだからと言って、洗脳は犯罪ですわ!!」

「してねぇよ!!」

 

 

 まさか尿放出のサポートに俺が抜擢されるとは思ってもいなかった。彼女の言う通り確かにエレベーターで用を足すなんて恥辱は男女関係ないが、それでも黄金水を放出する姿を見られるのが同性ではなく俺がいいってのも物凄い度胸だ。これはこの5年間恋人で居続けたからこその信頼ゆえなのだろうか。排尿の手伝いを彼氏に頼むっつうのも大概変態行為だと思うけどな。

 

 だが花陽が勇気を出して俺に頼んできたんだ、もちろん断る訳にはいかない。

 

 

「悪いなダイヤ。ちょっとあっち向いてくれ」

「花陽さんのご指名とあらば仕方ありません。耳も塞いでおきますから」

「ありがとな。さぁ花陽、出しやすいように少し持ち上げるぞ。よっと!」

「ひゃあっ!? も、もう急に身体を動かさないで出ちゃうと思ったよ!!」

「ペットボトルの準備もできたから、あとはパンツを脱ぐだけだぞ?」

「うぅ、急に恥ずかしくなってきた……」

「もう今更だろそんなの、さあ早く!」

「そんなに急かさないでよ! ぬ、脱ぐけど前は見ちゃダメだよ!?」

「無心でいるから大丈夫だって。安心して排泄物を世に巻き散らすがいい」

「その言い方汚すぎるよぉ……」

 

 

 なんだろうな、この体勢。俺は花陽の胸と腹の間部分を右腕で抱えてやり、ペットボトルを持った左手を彼女の股の下に配置する。アダルト界隈では放尿プレイといった奇抜な趣向が存在するのだが、まさか自分たちがそのシチュエーションを体験するとは夢にも見ていなかった。未だかつてない状況に俺自身も興奮しつつ、同時に何をやっているのかと冷静になる自分もいた。

 

 花陽も俺に抱きかかえられながら股を開いているせいで、傍から見たらAVの撮影をやっていると思われても仕方のない格好だ。まだパンツは脱いでいないため大切なところが丸出しという状況ではないのだが、これからエレベーターの中で彼女が半裸で、しかもペットボトルに放尿すると考えると――――いかん、変な性癖に目覚めてしまいそうだ。

 

 

「れ、零君! あまり変なところ触らないで!」

「変なところって具体的にどこだよ? 言ってくれないとお前の身体を抑えることすらできねぇだろ」

「そ、それは……察して!」

「無茶言うな。それに早くしないと救助の人が―――――」

 

 

 

 

 その時だった。

 エレベーターの扉が開き、外には作業着を来た救助の人と思わしき人たちと、何が起こっているのかと騒ぎを聞きつけた野次馬たちが集まっていた。だが沢山の人がいるのにも関わらず、辺りはシーンと静まり返っている。エレベーターの扉が開く前の騒がしさがどれだけのものかは知らないが、扉が開いてその中に目を瞑り耳を塞いでいる女の子。そして、女の子を抱きかかえながら股の下にペットボトルを忍ばせる変態。更にパンツを脱ごうとしている痴女。こんな光景を見て呆然としない奴はいないだろう。

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 俺も花陽もダイヤも、開いた口が塞がらなかった。

 俺たちは何事もなかったかのようにエレベーターから脱出すると、動けず未だ尿意を引き摺っている花陽を引っ張りながら黙ってトイレへ向かった。

 

 

 うん、今日のことは忘れることにしよう。救助に30分はかかると言っていたくせに15分程度で来た救助部隊を呪いつつ、そして羞恥心という重い十字架を背負いながら俺たちはデパート内の人混みへと溶け込んでいった。

 

 




 ほぼ年単位だけど定期的にですが、今回のような尿意を耐える話は過去にいくつかあったので弁解させてください。別に私は特段尿にまつわるプレイが好きな訳じゃありませんよ……? まあ嫌いでもないというか、どちらかと言えば好きな部類なのですが……(笑)


 次回はSaint Snowがこの小説に再登場します!



新たに☆10評価をくださった

ネオスさん、ぴょこさん

ありがとうございます!
まだ評価をつけてくださっていない方は、よろしければ小説に☆10評価をつけていってください!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

聖なる冬の雪溶け時(前編)

今回は久しぶりにSaint Snow回です!
サンシャイン2期でキャラが確立されて、好きになった人も多いのでは……?


 μ'sとAqoursの合同合宿が目前となった某日、俺と穂乃果は駅でとある人たちと待ち合わせをしていた。

 昨晩、その中の1人からいきなり東京に来るから出迎えてくれと連絡を受けたので、こうしてわざわざ駅に来てやったのだが……どうして穂乃果がいるんだ? 一緒にいるからお前が連れてきたんだろと思われるかもしれないが違う。改札前の柱に寄り掛かっていたら、あたかもずっと一緒にいたかのようにしれっと俺の隣に立っていたのだ。カッコいい言い方をすれば忍者のごとく、悪い言い方をすればストーカーのごとく忍び寄っている。しかもやたらいい笑顔だし……何がそんなに楽しいんだか。

 

 

「あのさ、どうしてお前がここにいる訳……?」

「新作の漫画を買おうと思って駅の本屋に来たら、偶然にも零君を見かけたもんだからつい」

「だからってどうしてお前まで一緒に待ち合わせしてんだ?」

「だって穂乃果も会ってみたいもん! Aqoursのライバルさんなんでしょ?」

「そうだけど、お前一度も会ったことねぇじゃん」

「だからだよ! 会ったことないからご挨拶をと思ってね」

 

 

 なるほど、これがコミュ力MAXがゆえに性ってやつか。普通の人間ならばこれまで一度も会ったことない上に大した接点すらもない人に対して会ってみようとは思わない。同じスクールアイドルという共通点はあるものの、話したことは愚か見たこともない人と会ってみようという気概が彼女のコミュ力の高さを物語っている。辛うじて接点を作るとすれば、それは俺が一時期コーチをしていたスクールアイドルであること。つまり"俺"という薄い接点だけだ。相手の顔も知らないのに俺の知り合いのスクールアイドルだから会うとは、なんともまぁ行動派なことで。

 

 

「それにその子たちもスクフェスに出るんでしょ? だったら遅かれ早かれ顔を合わせることになるんだから、いつ挨拶しても一緒だよ」

「どうだろうな。今日は穂乃果が来るとアイツらには言ってないから、いきなりお前が現れてビックリするかもよ」

「それはそれでサプライズで面白そう! あぁ~早く来ないかなぁ~♪」

 

 

 俺が肩入れをしているスクールアイドルと対面できる喜びからか、穂乃果は高校時代と変わらぬ子供のようなテンションでアイツらの到着を待つ。知らぬ相手に対してここまでワクワクできるのは、Aqoursと同じく自分にスクールアイドルの後輩ができたと思ったからなのだろうか。それとも俺が肩入れしている女の子だから会いたいと思ったのか。どちらにせよ、コイツの相手が初対面であっても物怖じしない態度は俺も見習うべきだな。この歳になると、新たな人間関係を作るのですら段々面倒になってくるからさ。

 

 …………うわぁ、今の俺って超オッサンくせぇ。大人になるって怖いな。

 

 

 すると、お目当ての女の子2組が改札付近に姿を現した。

 1人は髪型を左寄りのサイドポニーにしており、胸も大きくスタイルの良い長身の子。もう1人は髪型を短いツインテールにした、華奢なロリっ子。長身の子は温和で性格も柔らかそうに見え、ロリっ子の方は目付きが鋭くクールに見える。だが彼女たちは底知れぬ大人の雰囲気が漂っており、それはステージの上に立つ2人のオーラを見たことがあれば一目瞭然だろう。

 

 

 その子たちが改札を抜けたところで向こうも俺の存在に気付いたようで、人がたくさんいるのにも関わらず駆け足で俺の元へと近付いてくる。

 

 ――――って、ちっこい方の速度がみるみる上昇してこのままだと……!!

 

 

「兄様!!」

「ぶふぇぁ!?」

「れ、零君!?」

 

 

 ツインテールのちっこい方に腹ダイブを決められ、危うく後ろに倒れそうになるが柱が背もたれになったおかげで何とか踏み止まる。小さい女の子と言えどもミサイルのような勢いで抱き着かれたらそれなりの衝撃で、俺はその子を抱きかかえたままその場でへたり込んでしまった。

 

 

「大丈夫ですかコーチ!? もう理亞!!」

「ご、ゴメンなさい……!! 久しぶりに兄様の顔を見られたので、思わず舞い上がっちゃって……」

「人前でこんなことをするのはこれっきりにして欲しいけど、まあ元気なのが一目で分かって嬉しいよ」

「さすが兄様、心が広い……尊敬します!」

 

 

 待ち合わせの相手は鹿角聖羅と鹿角理亞の姉妹だ。彼女たちはSaint Snowという名でスクールアイドルを結成しており、Aqoursと同期であり良きライバルでもある。ちなみに俺に突撃してきたのが妹の理亞で、いつの日からか俺のことを敬愛、いやもはや心酔レベルで懐いている。彼女たちは北海道に住んでいるので中々俺と会えないのも相まって、たまにだが実際にこうして会うと理亞はいつもこんな感じなのだ。そして姉の聖良に怒られて反省するまでがテンプレなのだが、毎回同じことで反省している時点でそれはもう反省とは言わない気が……

 

 とりあえず座り込んでしまった俺に今でも抱き着いている理亞を抱き上げ、俺も立ち上がり体勢を立て直す。こうなる覚悟ができていなかった訳ではないが、会うたび会うたびにハグの威力が増しているのでいつか腹に穴を空けられそう……。

 

 

「お久しぶりです、コーチ。コーチもお元気そうで何よりで」

「元気じゃなかったことがないからな。それくらい人生が充実してるよ」

「私もコーチと知り合って指導をいただいてから練習も捗ってますし、スクールアイドルとしての実力も目に見えて付いてきたので毎日がとても楽しいです。ありがとうございます」

「聞き飽きたな、俺への感謝の言葉なんて」

「さすがコーチ。でもコーチなら当然ですね」

 

 

 この姉妹、何かと付けて『さすが兄様』やら『さすがコーチ』やらとやたら俺を上げてくる。どこぞの作品の妹じゃないんだから、あまり尊敬ばかり口に出されると逆に敬愛の品位が損なわれるってもんだ。まあ人間ならば単純に崇め奉ってくれることに関して悪く思う奴はいないので、素直に嬉しいけどね。自分が敬われると、人によって程度によりけりだけどゾクゾクするじゃん? 今まさにそんな感じ。

 

 するとその時、さっきまで黙っていた穂乃果がひょこっと顔を割り込ませてきた。

 

 

「仲がいいんだね! 零君とこの子たち!」

「はぁ? 当たり前です。兄様と私たちは運命の糸で結ばれた存在なんですから。それにしても我が物顔で兄様の隣を陣取るあなたは何者なんですか? 恋人同士じゃあるまいし……」

「こら理亞! 失礼でしょ!!」

((失礼も何も恋人同士だけど……))

 

 

 穂乃果は微妙そうな顔をしているから、恐らく俺と考えていることは同じだろう。理亞こそ我が物顔で俺に抱き着きながら穂乃果を睨んでいるのだが、スクールアイドルの大先輩にそんな顔をしていいのか……? μ'sを知らないことはあり得ないだろうが、まさかこうして対面するとは思ってもいなかっただろうから目の前にいるのが穂乃果だと気付いていないのかもしれない。

 

 それは聖良も同じであり、妹の失言をカバーするために穂乃果にペコペコ頭を下げている。つまり妹のフォローをするのに必死になって、目の前の穂乃果を"高坂穂乃果"だと認知できていない。こりゃ穂乃果の正体を明かした時の2人の反応が楽しみになってきたぞ。

 

 

「そういえばSaint Snowさんはどうして東京に来たの? 聞いてた話だと、確か北海道のスクールアイドルなんだよね?」

「A-RISEに会いに来たんだってよ」

「えっ、どうして?」

「スクフェスにコラボ企画ってあるだろ? ほら、お前らμ'sとAqoursがコラボをする企画だよ」

「ということは、Saint SnowとA-RISEがコラボするの!?」

「そういうことです。今日はコラボ前の打ち合わせと合同練習のために、こうして東京にやって来たんですよ」

 

 

 聖良と理亞が東京に来た理由はさっきの会話の通りだ。俺もつい先日この話を聞かされた時は驚いたのだが、Aqoursがμ'sに憧れていたようにSaint SnowはA-RISEに憧れてスクールアイドルを始めたので、これもまた運命なのかもしれない。

 

 それにしても、A-RISEの連中もよくSaint Snowとのコラボを引き受けたよな。A-RISEもμ'sと並んでトップクラスに有名なスクールアイドルであり、しかもμ'sと違って今でもメディア展開などでどんどん認知度を上げている。だからA-RISEとコラボしたいと思っているスクールアイドルはごまんといるはずなのに、どうしてSaint Snowとのコラボ契約を締結したのか……。まあ言ってしまえばA-RISEは有名過ぎるせいで恐れ多く、コラボの依頼なんて出せないのかもしれない。そんな中でこの2人は臆せずA-RISEとコンタクトを取って見事コラボの枠を勝ち取ったので、その度胸と心意気だけでも素晴らしい。

 

 その辺りの事情については、またツバサたちと会った時に聞いてみるか。

 

 

「兄様。さっきから気になっていたんだけど、この栗頭の女は誰……?」

()()じゃなくて()()()()()だからね!? 意味合いが全然違うから!!」

「そんな懐の狭いことを言っている時点で、兄様の女ではないことは明白」

「こら理亞! 失礼でしょ!!」

((明白も何も恋人同士だけど……))

 

 

 理亞の奴、自分で墓穴を掘りまくってることに気付いてないのか? いや気付いてないから穂乃果を蔑んでいるのか……。

 しかし蔑んでいるというのも少々誤解があり、彼女は何というかそう、コミュ障気味だから言葉足らずなのだ。だから頭に浮かんだ単語を素直に吐き出してしまうため、結果的に罵倒に聞こえてしまう。まあツンデレちゃんによくある傾向だから彼女のことを嫌わないでくれ。むしろそんなポンコツさが可愛いんだけどね。

 

 

「すみません。理亞も悪気がある訳じゃないんです」

「分かってる分かってる! こっちにもツンデレで素直じゃないお嬢様がいるしね、棘のある言葉で突き刺されるのは慣れてるから。でもスクールアイドルに誘う時には苦労したなぁ」

「スクールアイドル……? もしかして、スクールアイドルなんですか?」

「そうだよ」

「兄様、またスクールアイドルの女の子に手を出して……」

「またって何だよまたって!? それにコイツはな、俺が手を出した女の子第一号だから"また"ではねぇの」

「手を出したことは否定しないのですね……」

 

 

 むしろ知り合いのスクールアイドルの女の子たちの中で、手を出したことのない子の方が少ないと思う。まだ出会ったばかりの虹ヶ咲の子たちは論外として、μ'sとAqoursは手を出したり出されたり、A-RISEとはラッキースケベ展開になったこともあるから身体に触れた経験のある子たちばかりだ。身体を重ねた子も何人かいるけどね……って、これは失言だったか。

 

 

「手を出してるとか出してないかはさて置き、私、1つ気になることがあるんです。あなたの顔、どこかで見たような気が……」

「独自で調べた兄様の愛人リストには、こんな人いなかったはず」

「なにそのリスト怖い!!」

「兄様に集るハエを殺虫するため、ここへ来る前に家で危険な因子をリストアップしておいたから。兄様も使っていいよ」

「自分の愛人をリストアップして持ってるって、それ相当やべぇ奴じゃねぇか……」

「…………っ!?!?」

「ど、どうしたの姉様?」

 

 

 聖良が口を抑えて驚いているから、もしかして俺にたくさんの愛人がいると思ってやがるのか――――と疑ったがそうではない。聖良は俺ではなく穂乃果を見て何やら驚愕している様子。あっ、まさかとは思うが……?

 

 

「も、もももももしかして……高坂穂乃果さん!?」

「え゛っ!? 高坂穂乃果って、あのμ'sの!? 姉様、さすがにこんなところにそんな有名人は……」

「でもこのμ'sの動画に映っている高坂さんと、目の前にいる人は瓜二つ……」

「えへへ、高校時代の自分と瓜二つって言われちゃうと、穂乃果もまだ若いと実感できて嬉しいね♪」

「ババアかお前は……」

「穂乃果……今、自分のこと穂乃果って呼びました!?」

「うんっ! だって穂乃果こそが正真正銘、μ'sの高坂穂乃果だもん!」

「そんな……まさか!!」

 

 

 いくら聖良と理亞がA-RISEに憧れているとは言え、伝説となったμ'sの存在を知らないはずがない。しかもそのリーダーでもある穂乃果はμ'sの誰よりも全国に認知されており、そんな有名人がしれっと隣にいるんだからそりゃ驚くわな。

 

 普段の聖良は落ち着いていて何事も達観しているかのような堂々とした性格なのに、さっきからやたらテンションが高いのはやはり穂乃果の存在を認知したからなのだろう。理亞もさっきまで穂乃果のことを睨みつけていたにも関わらず、今では完全に恐れ多い存在となっている彼女に圧倒されていた。俺からしてみれば穂乃果なんて接しやすくてとてもじゃないが恐れを抱くなんてことはないのに、やっぱり同じスクールアイドルだと上位の存在というのは怖く見えるものなのかねぇ……。

 

 

「す、すいませんでした!! 理亞が何度も無礼なことを!!」

「い、痛い痛い!! 姉様、無理矢理頭掴まないで!!」

「ほら理亞も謝りなさい!!」

「ご、ゴメンなさい……女狐」

「り~~あ~~!!」

「うぐ……。でも姉様の圧力なんかには負けたりしない!」

 

 

 そりゃもう完全に敗北して、あとで好き勝手にされるエロ同人のテンプレ台詞だぞ……。だが理亞のようなポンコツっ子こそがそんな即堕ち2コマ展開が似合うってもんだ。現に笑顔の穂乃果に怖気づいているみたいだし、これが漫画だったら2コマも消費せずに白旗を上げていることだろう。ここまでかませ犬として役に立つ女の子はそうそういねぇぞ……。

 

 

「そんなに畏まらなくてもいいよ。さっきも言ったけど、穂乃果は気にしてないから!」

「そ、そうですか……?」

「うんうん! むしろ今日は聖良ちゃんと理亞ちゃんと出会えたこと自体が嬉しいんだから。こんなことよりもっとあなたたちのお話を聞きたいな」

「ま、眩しい……!! これがレジェンドスクールアイドル、高坂穂乃果さんの輝き……!!」

「…………悔しいけど負けた」

 

 

 なんだなんだ!? 嘗てないほどに穂乃果が強く見える!! 確かに太陽のような明るさに魅力はバッチリなのだが、ここまで聖人の領域に達した彼女を見るのはこれが初めてだ。自分を恐れていた2人の恐怖をあっという間に浄化し、自分への尊敬へと変える。もはやコミュ力MAXとかそんな次元ではない。今のコイツは――――正真正銘の聖人だ!

 

 

「あはは、そんなに大した人間じゃないよ穂乃果は。そんなことより、聞きたいことがあるんだけど」

「な、なんでしょうか……?」

「聖良ちゃんも理亞ちゃんも、零君とかなり仲がいいよね? いつから知り合ってどうやって仲良くなったのかなぁっと思って」

「あぁそういや、お前には話したことなかったっけ」

「ないない! だから今日零君が会う相手がSaint Snowだなんてビックリしたんだから!」

「コーチ、私たちのこと誰にも話してないんですか……?」

「う~ん。一緒に住んでいる妹にしか話してなかったかも……」

「零君って穂乃果たちの知らないところですぐ女の子と仲良くなって、いつの間にか一緒に遊んでることあるからねぇ……。一体どこで何をしているのかなぁ……?」

「うっ、まぁ色々だよ色々……」

 

 

 いくら恋人同士であっても己のプライベートまで全て相手に捧げる訳じゃないじゃん? 俺だってまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁ色々あるんだよ。もちろんコイツらも大切だから!! ほらそこ、クズとは言わないでちゃんと一途だからさ……。

 

 

「兄様、不潔……」

「なんでやねん!! 俺ほどハートフルで純情な男はいねぇぞ!?」

「へぇ、穂乃果たちに黙って女の子を作ってる人がねぇ……」

「私たちと出会った頃も手を出そうとしていましたよねぇ……」

「おい、お前ら急に息を合わせやがって!」

「穂乃果たち、仲良くなれそうだね♪」

「はいっ! 私もここへ来て親近感が湧いてきました」

「同感。不潔兄様を浄化させ隊が組めそう」

「いいよいいよ。俺が犠牲になってお前らが仲良くなれるのならそれでな……」

 

 

 なんでこんなにも涙が止まらねぇんだよ……!? 事実を突きつけるってことはな、時として心を泣かせることにもなるんだぞ? そう、今の俺のようにな……。

 でも俺という共通の蔑み相手ができたことで、先輩と後輩、そして女の子同士の友情が深められるのならそれに越したことはない。女の子同士の仲睦まじい姿を見られるのであれば、俺の心の1つや2つくらい差し出してやるってもんだ!

 

 

「それでまた1つ気になったことができたんだけど、聖良ちゃん『私たちと出会った頃も手を出そうとしていました』って言ってたよね? それはどういうことかな? かなぁ?」

「どうして俺を追い詰める……!!」

「話しますよ。えぇ、洗いざらいすべて」

「えっ、話しちゃうの!? お前らにとっても恥ずかしい出来事だったはずだろ……?」

「コーチに戒めとしてもらうため、ここで暴露しておいた方がいいと思いまして」

「兄様は一度身の程を弁えるべき。この女ったらしの変態」

「もうただの悪口だよなそれ!?」

「でも零君にピッタリの汚名だよ!」

「今日のお前、容赦ねぇな!?」

 

 

 そんなこんなで、唐突に俺とSaint Snowが出会った経緯が語られることになった。

 まあ紆余曲折あり過ぎたけど、黒歴史も多いからほどほどに頼むな……?

 

 

 

 

To Be Continued……

 




前書きでも言ったのですが、私の中でSaint Snowの2人はサンシャイン2期で一気に好感度が上がったキャラでした。1期のあの子たちを見ているとどうにもとっつきにくい印象だったのですが、2期によってキャラが前面に押し出され、この小説でも零君といい感じに絡ませてみたい女の子たちとなりました(笑)
そのせいか、2人共かなり零君に心酔気味ですが……

次回はSaint Snowと零君の出会いを卑しくも運命的(?)に描きます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

聖なる冬の雪解け時(後編)

 今回は零君とSaint Snowが出会った時の思い出を描きます。
 彼が女の子と出会う時はいつもこんな感じな気がする……


 Saint Snowの2人と出会ったのは、俺が浦の星女学院へ教育実習に行く2ヵ月ほど前のことだった。

 μ'sが練習でよく使っていた神社の階段の前で、練習着姿でストレッチしている2人を見かけたんだ。レジェンドスクールアイドルであるμ'sの練習場所として有名になったせいか、聖地巡礼も兼ねてこの神社や階段で軽く練習をするスクールアイドルは多い。でもそれはμ's解散後から1、2年の間の話であり、既に4年が経過した今ではわざわざこの場に来て練習する子たちはあまり見かけなくなっていた。

 だからなのかもしれない、彼女たちに目を付けたのは。久々にここで誰かが練習をしている光景を見た珍しさと、かつてμ'sのみんなの練習に付き合っていた思い出がフラッシュバックしたせいで思わず彼女たちの練習模様を眺めていた。

 

 しかし言ってしまうと、ダンスも歌もそこまで上手いとは言い難かった。基礎はできているので完全初心者って訳でもなさそうだが、あくまで自分たちがやりたいダンスや歌にようやく身体が合わさってきた段階。自分たちのやりたいことはもちろん重要だけど、スクールアイドルはあくまでお客さんに見てもらうもの。客を魅了する力がなければいくらスクールアイドルとしてダンスや歌を極めても意味がない。つまり、彼女たちはまだその段階に至っていない状態なのだ。

 

 

「いい運動神経だけど、やっと自分たちの理想に一歩踏み出したって感じだな」

「……? それって、私たちのことですか?」

「あぁ。勝手に覗き見て悪いけど、ちょっとだけ観察させてもらったよ」

「そ、そうですか……」

 

 

 Saint Snowの姉の方、聖良が怪訝な顔で俺を見つめる。

 そりゃそうだ。だって男が突然声をかけてきたらナンパと勘違いされても仕方ないからな。しかも自分たちの練習にまでいちゃもんを付けてくるんだから、聖良と理亞にとっては俺の存在が不審者極まりなかっただろう。自分でもこんな登場の仕方では第一印象が最悪だと速攻で悟ったくらいだから。

 

 すると案の定と言うべきか、妹の理亞が俺と聖良の前に立ちはだかった。そして自慢の攻撃的なツリ目で俺のことを無言で威嚇する。生意気なガキだと思ったが、なんせ背丈が低いためどれだけ気性を荒くしようが微笑ましさしかなかった。だから敢えて引かずこちらから挑発して攻めてみることにしたんだ。

 

 

「そんな怖い顔をしてどうした……?」

「姉様をナンパしようなんて、汚い男め……」

 

 

 このファーストコンタクトで全てを察した。コイツは物凄くシスコンなのだと。今こそ俺を心酔している理亞だが、この頃の彼女なら聖良に手を出した途端ヤンデレのごとく俺を刺しに来たことだろう。それくらい姉に男を近付けまいとする気迫が感じられた。

 

 

「こら理亞。いきなり攻撃的な態度を取っちゃダメって、いつも言ってるでしょ」

「でも姉様! コイツ、姉様のことスケベな目で見てた!」

「な゛っ!? 何言ってんだお前!?」

「確かに練習中に変な目線を感じるなぁとは思ったけど、そんなに悪い人じゃなさそうだし……」

「感じてたのかよ……」

 

 

 俺が女の子たちの練習を見ているとほぼ毎回そうやって言われるんだけど、俺ってそこまで不審者っぽいか? 高校時代は性欲が盛んなこともあってか練習着を来て汗水を垂らす穂乃果たちに少し欲情はしたものの、この歳になって女子学生の練習着で興奮するなんて救いようがねぇ変態だろ。でもまぁ実際にそう言われたらどうにも反論できないんだけどさ……。

 

 

「違うんだよ。俺はお前らのスキルアップのためにアドバイスをしてやろうと思っただけだ。邪な気持ちなんて一切ない」

「そもそも邪な気持ちがない人はそんなこと言いませんけどね」

「揚げ足を取るな! せっかくお前らをスクフェスの舞台に立たせてやろうと思ったのに、そんな態度だと帰っちゃうぞ?」

「はい、どうぞ」

「帰れ……」

「泣いていい?」

 

 

 ここまで女の子に拒否されるのは久々で、ここ数年間μ'sに求められ続けた生活を送っていたせいか割と本気で泣き出しそうな瞬間だった。やっぱりいきなりイキって上から目線で話しかけたのがマズかったのか、そう思いながらももう第一印象は払拭できないので、俺は何が何でもコイツらに俺の知っているスクールアイドルのノウハウと叩き込んでやろうと思った。一言で言ってしまえばそう、調教したいってことだよ。

 

 

「とにかくだ。2人きりでしかもコーチも付けずに練習しても、大して上手くなれねぇぞ」

「確かに私たちにはダンスも歌も指導してくれる方はいらっしゃいません。スキルも伸び悩んでいたので、そろそろ誰かに指導をお願いするつもりではいましたが……」

「姉様!? まさかこんな野郎にコーチを!?」

「おい」

「でも私たちだけではスクフェスの舞台に立てるかも怪しく、そもそもコーチになってくれそうな人にも心当たりがない。だったら東京にいる間くらいはこの人に私たちを託してもいいんじゃない? 騙されたと思ってね」

「騙されたと思わないと信用してくれないのか。ひでぇな……」

「普通に考えて、女子高校生にいきなり話しかけてくる男性を信じろなんて無理がありません?」

「確かにそうだけどさぁ……」

 

 

 コーチもいないし心当たりがないから俺を頼ろうという賢明な判断。だけど簡単には俺を信用しない冷静な相手分析。そんな聡明な思考回路を持っている時点で聖良が冷静沈着で物分かりの良い子だと察した。対して理亞の方はシスコンで口が悪くてポンコツ気味だけど、妹してなら可愛い子。俺がSaint Snowの2人に抱いた印象はそんな感じだった。

 

 

「1日だけでもいい。お前らのスクールアイドル人生の1日を、俺に預けてみろ。目に見えて成長した姿を感じさせてやるから」

「相当な自信ですね……。もしかしてどこかのグループのコーチをしていたとか?」

「それは内緒」

「なんだか腑に落ちませんが、今のところは一応信用します。スキルが伸び悩んで困っているのは私たちですし。理亞もそれでいい?」

「姉様がそうするなら……でも」

「でも?」

「姉様に手を出したら殺す……」

 

 

 こうやって姉に言い寄ってくる男を全部排除してきたと思うと、聖良も男性たちも気の毒に思えてくるよ……。しかし楓も俺と同棲して同じ高校に通うようになってからは理亞と同じ調子だったので、この手の殺戮系妹キャラを相手にするのは世界のどんなキャラの女の子よりも慣れている。この手の女の子は軽くいなしておけば勝手にポンコツになって自滅するので、特に目立った行動をする必要はない。間違って挑発に乗ってしまうと逆に自分も同じ低レベルの人間だと思われてしまうので注意しような。

 

 こんな感じで若干警戒されながらも、2人も指導役なしで切羽詰まった状況なこともあってか俺が数日間Saint Snowのコーチになってあげることにした。

 俺自身コーチなんかしても自分に何の得もないことくらいは分かっていたんだけど、やっぱり頑張っている女の子を黙って見過ごせないのが自分の悪いところでもありいいところでもある。それに近々浦の星で教育実習をすることになっていたので、ここらで女子高生を指導することに慣れておきたかったしな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 北海道のSaint Snowが気分転換と聖地巡礼も兼ねて東京に滞在している数日間、俺は毎日彼女たちの練習の指導をすることになった。これでもμ'sの練習を2年間も見てたまにアドバイスを送っていたおかげか、スクールアイドルのコーチという観点ではキャリアは十分だと思っている。それに自画自賛になってしまうが、俺自身もスクールアイドルをやってたくさんの女性ファンを惹きつけた経験があるので実力も申し分ない。μ's以外で練習を見てやるのはSaint Snowが初めてだったのだが、かなり的確な指導ができていたと思う。

 

 まあ、指導1日目でこんなこともあったりしたのだが――――

 

 

「きゃっ!? どこ触っているんですか!?」

「いや腕の上げ方を教えるのが目的であって、セクハラをしようとは思ってないから! それにちょっと腕を掴んだだけだろ!?」

「でもさっき脇腹に触れたじゃないですか!!」

「腕を触ろうとした時にちょっと触れちまっただけで、他意はない!!」

「この変態、姉様に手を出したらどうなるか分かってるはず。姉様の弱点が脇腹だと知ったうえでそんなことを……」

「知らねぇからな!?」

「ひゃっ!? わ、私の身体に触ったまま暴れないでください!」

「わ、悪い!!」

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す………」

「殺人のお経流すのやめてくれない!?」

 

 

 聖良の弱点が脇腹だと分かったり、理亞の怒りが加速すると殺人に躊躇がなくなることなど、彼女たちの実力よりも性感帯や性格がよく分かった1日となった。

 もちろん俺の被害者……と言うと語弊があるけど、理亞に対しても逸話があって――――

 

 

「私の身体に触ったら肉片にするから……」

「犯行予告どうも。でもお前は姉よりも運動神経いいし、俺が直接ポーズを決めさせなくても大丈夫だから安心しろ」

「当たり前。いちいち触ってくるなんて下心見え見えだから」

「でも私はビシッとポーズを決めるのは苦手ですから、その辺をもう少し指導していただけると助かります」

「それは暗に、触ってもいいよってことか?」

「そ、そんな下品な頼み方はしていません!! 必要とあらばいいですよってことですから!!」

「姉様、その必要はありません! 姉様に触るくらいなら私の身体に触って! 身代わりになる!!」

「お前さっき自分に触るなとか言わなかったっけ!?」

「姉様のためなら、変態に触られようが構わない……。さぁ早く、私の身体で満足して!!」

「おいここ外だぞ!? そんなこと叫ぶんじゃねぇ!!」

 

 

 姉のためなら自分の純潔すら差し出そうとするその覚悟は買ってやるが、この状況を誰かに見られたら100%俺に疑いの目がかかるのでやめてもらいたい。幸いにも周りに人がいなかったので誤解されることはなかったものの、今後この2人の指導をしていく中でハプニングが起きないはずがなく、そのたびに逐一周りから犯罪者扱いされる可能性があると思うと少しビビッてしまっていた。

 

 しかしそうやって騒がしいハプニングがありながらも、彼女たちの実力は指導中の数日で飛躍的に上昇した。俺の指導の良さももちろんあるだろうが、彼女たちが秘めていたポテンシャルは相当なもので、それを引き出してやるだけで最初見た時とは比べ物にならないくらいダンスも歌も上達したんだ。ただ単に運動神経が良かったとか、それだけの話ではない。2人からはスクールアイドルに対する強い情熱や想いが伝わってきた。何より廃校が決定した自分たちの学校を、消える前にできるだけたくさんの人に知ってもらいたいという悲しくも良い夢を抱いている彼女たちを見て、穂乃果たちとの親近感を覚えてしまったのが自分の指導のより良さに拍車をかけたんだと思う。

 

 指導当初はさっきのようなおふざけがあったものの、日を重ねていく内に俺たちの心の距離もどんどん縮まっていった。俺は彼女たちに夢を叶えて欲しいから真剣に、彼女たちも意外と的確な指導をしてくれる俺を段々と信用してくれたんだ。聖良も理亞も俺への警戒心はどんどん薄れていき、特にあれだけツンツンして噛みついてきた理亞にちょっとしたデレも現れ始めていた。

 

 

「凄い……こんな難しいステップできる訳ないと思ってたのに、たった数日でできるようになるなんて……」

「まるで自分の身体じゃないみたい……。こんなことできたんだ、私」

「やっぱりお前らは自分のポテンシャルを引き出せてなかっただけみたいだな。俺と出会った頃の自分たちとは別人みたいだろ?」

「はい。正直に言ってしまうと、そこまで期待はしていなかったので驚きです」

「悔しいけど、アンタのことを認めざるを得ない……」

「はは、ありがとな。夢に向かって頑張るお前たちを見てると、俺もできる限りのことをしてやろうと思ったんだよ」

「でもどうしてそんなに私たちに肩入れを? ここまで良い指導ができるならプロを教えた方がお金も稼げて有意義ですよね? 無名のスクールアイドルである私たちを指導するメリットなんて……」

「高校生の女の子が夢を追いかける姿を見ていると、損得勘定なんて抜きで手伝ってやりたくなるんだ。5年前がそうだったように……」

「なんだか申し訳ありません。そこまで私たちのことを考えてくださっていたのに、出会った時にヒドイことばかり言ってしまって……」

「いいよいいよ。あの声のかけ方は明らかに不審者だったからさ」

 

 

 聖良も理亞も、己の実力が目に見えて上昇していることに心底驚いていた。同時に俺の指導が的確で、しかも自分たちの夢を認めてくれ応援してくれることもあってか、ようやく俺のことをコーチとして認めてくれた瞬間である。世間の目というのもは意外と冷たく、統廃合が決まっている学校をアピールして何になると馬鹿にする人の方が多いだろう。そんな中でも自分たちの夢を支えてくれた存在に夢の後押しまでしてもらったんだから、そりゃ心も許しちゃうってもんだ。

 

 すると、これまで自分からこちらに近寄ってすら来なかった理亞が、なんと彼女から俺の腕を掴んできた。あまりにも突拍子もない行動だったので、俺は目を丸くして彼女を見つめてしまう。

 

 

「あと2日しかないけど、私たちの指導を続けて欲しい。アンタの……いや、兄様の力が私たちには必要だから!」

「兄様……ね。あぁ、分かったよ。夢を叶えるためにも一緒に頑張ろう」

 

 

 俺の腕に抱き着いてきた理亞が愛しすぎて、思わず頭を撫でまわしてしまう。すると理亞の身体がピクッと跳ねたのだが、すぐに慣れたようで頭を撫でられる心地よさに浸っていた。

 

 

「あの理亞が家族以外にここまで懐くなんて……。でもコーチが相手なら納得かも……」

「兄様……好き」

「そ、そうか。ありがとな、はは……」

 

 

 こんなにデレるのこの子!? 姉の聖良に対してはデレデレのデレだからこんな姿を見たことない訳ではないのだが、いざ自分にそのデレが向けられると彼女の愛の重さが良く理解できる。まあ指導当初のツンツン具合に比べれば、こっちの理亞の方が格段に練習を進めやすいけど……。

 

 

「よしっ! 残り時間は少ないけど、せっかくだし一曲くらいは歌もダンスも完璧に仕上げてみるか!」

「「はいっ!」」

 

 

 残り2日間の練習はこれまでと比べて密度が段違いで、俺が教えたことに対する2人の吸収力も半端ではなかった。やはり3人の心が同調し気持ちも通じ合えるようになったおかげだろう。そのため練習が効率よく進み、見事この短い期間で一曲をものにすることができたんだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「なるほど、いいお話だね! お互いがお互いを尊重し合って成長する。穂乃果、そういうおはなし大好きだよ♪」

「コーチがいなかったら今の私たちはいないと言っても過言ではないので、本当に感謝しています」

「ありがとう兄様。これからも暇があったら、私たちを指導して欲しい」

 

 

 友情や努力の要素が大好きな穂乃果にとってはドストライクな話だったようで、まるで自分の実体験かのように喜んでいる。聖良も理亞も出会った頃とは見違えるようなデレっぷりだが、ここは下手にツッコミを入れず感謝を素直に受け取っておくことにしよう。

 

 

「それにしても、零君のお人好しには呆れを通り越して尊敬しちゃうよ。悪いことじゃないからいいんだけどね」

「もしかして、私たち以外にも同じようなことをしているんですか?」

「聖良ちゃんたちみたいにしっかり手助けすることもあれば、大学で女の子を引っ掛けて朝まで遊んでいることとかあるみたいだよ?」

「兄様……?」

「ど、どうして睨む!? あれ、流れ変わってる……!?」

 

 

 さっきまで俺を崇め奉る流れだったのに、急に悪行を垂れ流されて空気が変わりやがった。ここは穏便に話を終結させてもよかったはずなのに、どうして逐一オチを用意しなきゃ気が済まないんだよ俺の人生!? 最近はお漏らしをしそうになってる女の子にちょっと興奮したりとか、ペットボトルの中に放尿させようとか考えていたせいか俺のイメージがガタ落ちだったので、今回の回想シーンでなんとかイケメン度を取り戻したと思ったのだが……また振り出しに戻るの??

 

 

「兄様の女って何人くらいいるの? 遊びの女も含めて」

「う~ん、穂乃果が把握してるだけで30人以上かな?」

「…………えぇ」

「兄様……」

「ちょっ、露骨に引くな!! ツッコミがないってのは時に残酷なんだぞ!?」

 

 

 実は穂乃果が把握してない人もそこそこいるんだけど、今その話題は関係ねぇ!!

 神崎零ってやっぱりイケメン! 女の子の夢を応援して後押しまでできるなんて素敵! みたいな展開を期待していたのに、どうして俺の背後にいる女漁りが始まっている訳……?

 

 

「でも私は先生がどんな人かなんてどうでもいいんです。私たちに向けてくれた想いは、絶対に本物だと分かっていますから」

「聖良……」

「兄様にたくさんの女がいることは分かったけど、たまにでいいから私たちにも目を向けて欲しい。また一緒に練習したいから」

「理亞……。そうだな、また一緒に」

「やっぱりいいね、こういうの! よ~し、穂乃果たちも負けないように頑張らなきゃ」

 

 

 夢を追いかける女の子たち。そしてその夢へ近づくことができて笑顔になる女の子たち。俺はその姿を見るために女の子たちへスクールアイドルの指導を続けている。だからこれからももっと魅せてくれ、お前たちの輝いているその姿を。女の子の楽しそうな笑顔を拝むことこそが俺の生き甲斐なんだから。

 




 残念なイケメンというのは零君のような男のことを言うのかもしれません……(笑)
 しかし女の子に対する気持ちは純粋で、そのおかげで多少変態な行為をしても女の子に許されるのかもしれません。今回のように最初はツンツンしていた理亞も、3分クッキングのようにあっさり落ちてしまうくらいですから。もちろんそれなりに触れ合う機会と期間があったので、流石に出会ってすぐに『大好き抱いて!!』となるようなご都合主義なお話ではない……と自分では思っています。まあハーレム自体がご都合主義と言われたら何も言い返せませんが(笑)


この小説にまだ評価をつけてくださっていない方は、よろしければ小説に☆10評価をつけていってください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

性格でわかるパンツ診断

 今回は久しぶりにAqours全員集合編!
 しかしこんなふざけたお話を描くのも久々な気がします()


 

 女子高ってのはお嬢様ばかりが集まる清楚なイメージがあるが、実際には貞操観念を投げ捨てた子たちで溢れかえっているそうだ。特に中高生ともなればお盛んな思春期に周りの人たちが同性ばかりなので、羽目を外してしまうのも分からなくはない。スカートを極限まで短くしたり、脚を大きく開いてパンツが丸見えなのは当たり前、このご時世ではSNSが発達していることもあってその手の画像は大量に流出している。そんな時代背景もあってか、本気で本物のお嬢様学校を見つけ出す方が難しいだろう。その考えでいけば、浦の星女学院は田舎の学校で生徒同士も昔からの知り合いが多かったためか、その手の浮ついた話は全然聞かなかった。まあ思春期の生徒ってのは何をやらかすか分からないもの。教師に隠れて何かをやらかしていても何ら不思議ではないけどな。

 

 そんなことを考えてた、とある日の夕方。μ'sとAqoursの合同合宿が目前に迫り、Aqoursが東京で単独練習をするのは今日で最後であった。だから今日はフルタイムでAqoursの練習に付き添い、さっき練習を終えて彼女たちの宿舎に帰ってきたばかりなのだが――――

 

 

「どうして廊下にこんなモノが落ちてるんだ……?」

 

 

 廊下のど真ん中に、白いショーツが拾ってくださいと言わんばかりに堂々と落ちていた。しかもさっき練習をしていた時に誰かが履いていたものらしく、触ってもいないのに汗で濡れ濡れになっているのが一目で分かるほどパンツがぐっしょりしている。まるで事後の下着のような濡れ具合だが、男としてコイツはスルーした方がいいのだろうか……? 性欲真っ盛りの高校時代の俺なら喜んで拾っていただろうが、大人になって冷静さを磨き上げた今は違う。これを拾ったら最後、またしてもセクハラ魔のレッテルを張られてこの先一生その十字架を背負わされることになるだろう。まあもう背負っているだろと言われたら背負ってる気がしなくもないが……。

 

 しかし赤の他人のパンツを拾うのはマズいけど、千歌たちと俺の仲だしそこまで深刻なケースには至らないだろう……とは思う。このまま見て見ぬふりをして放置するのもあれだし、仕方ねぇから洗濯カゴまで持って行ってやるか。

 

 そう思って濡れ濡れのパンツを指で摘まみ上げたその時、リビングの扉が開いてそこからダイヤが現れた。ダイヤは屈みこんでいる俺を不思議そうに見つめていたのだが、俺が持っている布切れを見て瞬く間に顔を赤くする。そしてこめかみに青筋を浮かべると、こちらへつかつかと迫り寄ってきた。

 

 

「先生……グループ会議をしましょう」

 

 

 そのぉ、なんだ? 運命っていのは悉く俺に味方しねぇよな……。

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんな訳で、俺とAqours全員はリビングに集合した。

 たかがパンツを拾ったごときで全員集合とは大袈裟だと思ったけど、よく考えてみればコイツらはμ'sと違って自分たちの下着を異性に見られることに慣れていない。まあμ'sが下着を晒すことに慣れていると言っても、慣れているのはごく一部の子たちだけだけどさ……。

 

 

「議題は先生が私たちの下着を盗もうとしていた件ですが……」

「ちょっと待て。俺は落ちていたパンツを拾って洗濯機に入れてやろうと思っただけだ!」

「疑わしいですわ。この前エレベーターの中で、花陽さんの尿意を助長させてペットボトルの中に出させようとしていた人が何を言っても……」

「おいそれは誤解が混じってるぞ! 俺は至って真面目に花陽を助けようとしただけだって!」

 

 

 とは言うものの、こういう時って大抵男の主張が冷たい目で見られるもの。そのせいか千歌たちから呆れ、冷酷、驚き、三者三様の目線が俺に突き刺さる。それぞれがどんな反応をしているのか大方予想はつくのだが、表情を確認するのが怖くてみんなの方を振り返れなかった。

 

 

「つうかそもそも廊下にパンツを落としてる奴の方が悪いだろ。この家は女の子ばかりだからいいけど、男がいたら拾ってくださいと言ってるようなもんだぞ。なぁ、花丸?」

「ふえっ!? ど、どうしてマル……?」

「どうしてって、あれお前のだろ?」

「えぇえええええええええええええっ!?」

「ま、まさか本当にズラ丸の……?」

「うゅ……先生、エスパー……?」

 

 

 善子とルビィ以外にも、千歌たち全員が俺の発言に目を丸くして驚いている。当の本人である花丸は顔を赤くして俯き、俺の拾ってきたパンツを両手で握りしめている。

 あれ? 誰のパンツかなんて見れば分かるものじゃないのか……? 俺が異端なだけ??

 

 

「先生、どうしてこれがマルのだって分かったずら……?」

「女の子のパンツには性格が出るんだよ。その逆も然りで、性格からどんなパンツを履いているのかも分かる。お前の場合は穏やかで表裏のない純粋な性格だから、地味だけど清楚さを感じられる純白のパンツって訳」

「え、えぇ……」

「どうしてそんなに引き気味なんだよ――――って、お前らも俺からそんなに離れてたっけ!? 千歌とかさっきまで俺の隣にいただろ!?」

「そ、それはぁ……まぁ、うん、あはは……」

「そこまで分かりやすく引かれると傷ついちゃうぞ……」

「ホントに気持ち悪いわね、アンタって」

「おい善子、この世には事実でも言っていいことと悪いことがあるんだぞ。せっかく千歌が言葉を濁してくれたのに……」

 

 

 これまでの人生の中で女の子の下着なんて目が腐るほど見たことがある。だからこそその女の子の特徴や雰囲気に合ったパンツを見繕えるようになったんだ。それだけではなくその子が履いている下着の色、柄、形状等の傾向なども熟知しており、女の子たちが俺の周りにたくさんいることも相まって必然的に性格からパンツ診断ができるスキルが身に着いた。だからこの変態的スキルは俺が好きで習得した訳ではなく、ごくごく自然に会得されたものなのだ。つまり、邪な心や卑しい気持ちは微塵もないってことだよ。

 

 しかし、どうせ弁解しても信じてもらえねぇだろうから今更言い訳もしねぇけどな……。

 そうだ、このまま変態魔人だと見下されたままだと癪だし、この際だからこのスキルを存分に発揮して辱めてやるか。

 

 

「善子、お前がどんなパンツを履いてるかくらいすぐに読めるぞ」

「はぁ? 別に聞いてないんだけど」

「お前のパンツの色は黒だ。それも無駄に装飾が凝った少々派手なやつ。学校では制服を着なきゃいけないせいで堕天使のコスプレができないから、制服縛りに引か掛からない下着で個性を出すしかないと思ってんだよな? ま、制服姿で派手な動きをし過ぎて、たまにチラチラとパンツ見えてるけど」

「は、はぁあああああああああああ!? パンツ云々の話は全部合ってるからいいとしても、最後のは何よ!? ただのセクハラじゃない!!」

「あ、合ってるんだ……」

 

 

 ほらな? 女の子の性格とパンツの様式は一致してるんだよ。でも善子のパンツを見通すくらい、俺でなくとも彼女のキャラを知っていれば誰でも予想がつく範囲だと思うけどね。

 ちなみに言っておくと、パンツがチラチラ見えていた下りは本当だから。一応弁解しておくけど、何も彼女のスカートを覗こうと思って覗いた訳じゃないからな? 善子が痛い決めポーズをする時に、スカートの裾がヒラヒラと舞うのが悪いんだよ。そりゃ男だったら誰でも目がそっちに行っちゃうって。

 

 

「次はルビィだな」

「えっ、これ全員分やるんですか……?」

「嬉しいことも苦しいことも、そして恥ずかしいこともメンバー全員で共有するのがグループってもんだ」

「それらしいことを言っておけば騙されるルビィじゃないです!!」

「先生、あまりルビィに手を出さないでくださります……?」

「う゛っ……おほん、余計な火種が生まれる前に言っちまうと、ルビィのパンツは可愛いクマさんパンツだ。どうだ?」

「ルビィちゃん……」

「ち、違うの花丸ちゃん!! ただルビィはそれが可愛いと思って履いているだけで……」

「やっぱり図星か。でも案ずることはねぇぞ。パンツなんて誰に見せるものでもないんだから、自分の趣味丸出しのモノを履いておけばいいんだよ。それに似合ってたぞ、ルビィの可愛い動物さんのパンツ」

「そ、そうですか? えへへ……」

「さっき聞き捨てならない言葉があったような気がしましたわ……」

 

 

 どうして似合ってたかどうか分かるかって? そんなもの己の欲求を極限まで高めさえすればいくらでも妄想できるんだよ。その子の履いているパンツさえ分かれば生の姿を拝まなくても自分の妄想である程度補完はできるので、自分磨きのネタにするくらいならその妄想だけでも十分だろう。一応言っておくけど、俺はルビィをそんな下品な行為の対象に見たことは一度もないから。だっていくら妄想であっても彼女はロリ過ぎるから、少々罪悪感を抱いちゃうんだよ……。

 

 

「果南はそうだな……」

「私は別に普通ですよ」

「果南のパンツは青とか水色とか、落ち着いた感じの透き通った色に違いない。いつも何食わぬ顔をしているお前だけど、大人っぽいお前からしてみれば白のパンツは地味過ぎる。かと言って派手な柄や過激な色のは自分に合ってないと思ってるから、ほどほどに落ち着きながらも少し背伸びをしている青系統のパンツと見ているんだ」

「うっ……」

「Wonderful!! さすが先生、果南が持っている下着は大人っぽさが微妙にかけた中途半端な下着ばかり……。でも背伸びすることに少々恥ずかしさを覚えている、乙女なところが可愛いのよね!」

「それ馬鹿にしてる……? それにどうして鞠莉が私の下着を知ってるの……?」

「そりゃもちろん着替えの時にね。いつもどんな下着をつけているのか、保護者としてしっかり確認しておかないと♪」

「誰が保護者だって誰が!?」

「落ち着けって。身体は大人、精神は乙女な果南ちゃん」

「初めて先生に殺意を抱きました……」

 

 

 果南は拳を震わせながら握りしめる。どうしてパンツの色や柄を言い当てるだけでここまでキレられなきゃならんのだ?? 保護者でないにしろ俺はAqoursの顧問なので、みんなの体調から性事情、果てには下着事情までちゃんとチェックしておく義務がある。それに下着を言い当てるほどその女の子の性格を分かっているとなると、女の子側にとって『私のことをそんな細部まで知ってくれているんだ! 素敵!!』ってならない? ならないかなぁ……。

 

 

「鞠莉は誰にも見られない下着であっても気合入ってそうだよな。パンツは黒や赤といった自己主張の激しい色で、しかもお高いレース生地。金髪ハーフの帰国子女、更に誰にでもスキンシップを取るほどオープンな大人の女性って感じのお前にはピッタリだよ」

「Amazing!! 私のパンツって海外の特注品ばかりだから、絶対に見破られないと思ってたのに……」

「どこ産のパンツだろうが俺には関係ないね。もはや女の子の下着なんて透視感覚で見通せるから」

「それって生きてるだけで犯罪者ということでは……?」

「果南……それじゃあお前らの顧問は性犯罪者ってことになるな」

「開き直らないでくださいよ……」

 

 

 開き直るも何も、弁解したところで反抗してくるのはそっちだろうが。だったら下手な抵抗をせずに開き直った方が精神的にも楽だ。それにこのスキルだって全く役に立たない訳じゃない。女の子が普段とは全く違う系統のパンツを履いてきた場合、その子の心境に大きく変化があったのだと瞬時に察することができる。大勢の女の子と触れ合う機会が多いこの人生、彼女たちの気持ちを速攻で汲み取ることが重要なんだ。

 

 

「ダイヤは白、以上」

「そ、それだけですの!?」

「だってお前、下着に興味を持つタイプじゃねぇし。それにお前の真っ直ぐで誠実な性格からして白しかないと思ったんだよ。ちょっと大人っぽいパンツを履いてみようと思ったことはないが、スキンシップが激しい鞠莉にもし見られたらどうしようとか考えてどうせ躊躇してるんだろ? 花丸とは違って単純な恥ずかしさから派手なパンツには手を付けられていない。どうだ?」

「あまり暴力沙汰は好きではないのですが、無性に先生を嬲りたくなってきましたわ……えぇ、合っているがゆえに……」

「奇遇だねダイヤ、私もだよ……」

「果南さん……。そろそろ本格的に粛清して生まれ変わらせないと、Aqoursのメンタルがもたない気がしてきましたわ……」

 

 

 おいおい、パンツを見破られたくらいでメンタル崩壊って軟な精神だな。こっちだって別に想像したくてみんなのパンツを想像しているんじゃないんだぞ? 女の子と出会ってその子の顔を見ただけで『あぁ、今日はこんなパンツ履いてるんだろうなぁ』って、勝手にズボンやスカートの中の光景が浮かび上がってくるだけだ。そしてその沸き上がってくる想像が現実とリンクするくらいリアリティになっているのが俺の今のスキル。それによく言うじゃん、想像の中だけなら犯罪じゃないって。つまり俺は無罪だから、うん。

 

 

「梨子は縞パンだろ?」

「ど、どうしてですか!? すぐに断言するなんて早計ですよ!!」

「その慌て具合、間違いねぇな。お前は表裏があり過ぎる人間だから、そういった女の子は縞パンが相場って決まってんだ。ほらお前ってツンデレな面もあるし、2色見事なコントラストを描く縞パンがピッタリなんだよ」

「褒めらているのか馬鹿にされているのか分からないんですが……。それに表裏があり過ぎるってどういうことです?」

「そりゃ表では引っ込み思案な清純乙女だけど、裏では薄い本好きでオタクを極めて――――」

「あーーーーあーーーーあーーー!! 分かりました分かりました! 私の履いてるパンツは縞パンです認めますから!!」

「梨子ちゃんが今履いてるパンツって縞パンなんだ。なんだか可愛いね♪」

「千歌ちゃんそれはその……くっ、合ってるから何も言い返せない」

 

 

 縞パンを履いている子ってのは2面性を兼ね備えているから、表ではツンツンしていても裏ではデレていることが多い。つまりツンデレの女の子が大好きなんだったらスカートを覗いて縞パンの子を探し出せば、こちらから声をかけてツンデレキャラかどうかを確かめる手間が省けるってことだ。逆に言ってしまえば気になっている清楚な女の子が縞パンを履いていたら、裏でどんな腹黒いことを考えているのか分からないから注意しような?

 

 

「曜のパンツはボーイレッグ型だろうな。ほら、男のトランクスみたいなパンツ。運動派のお前からしたら、動きやすくて機動性に優れた下着をつけるのは必然だろ? だがお前はコスプレ好きの一面もあるから、ボーイレッグのような派手さが控えめなパンツは見た目的に好きじゃないはず。だからボーイレッグでありつつも色は派手めな黄色やピンクが多い。どうだ?」

「もうド的中すぎて、聞いてる途中から頷くしかなかったですよ……」

「曜は体操着も練習着もぱっつんぱっつんなことが多いから、尻のラインから履いてるパンツの種類が一目瞭然なんだよ。だからこの中ではお前のパンツを想像するのが一番楽だ」

「それ喜んでいいんですか……? それに私のこと、普段からそんな目で見てたんですね……」

「お前、俺の前でよくそんな蔑みができるな? 脱衣所で俺のパンツを盗もうと――――」

「あーーーーあーーーーあーーー!! 分かりました分かりました! 私の履いてるパンツはボーイレッグです認めますから!!」

「曜ちゃん、梨子ちゃんと同じ反応で同じセリフ……。先生に弱み握られているのかな……」

「「う゛っ……」」

「そうなんだ……」

 

 

 女の子の弱みを握るってのは凄まじい愉悦に浸れるが、弱みを握られているのは彼女たちだけではない。浦の星での教育実習開始日に、俺がバスの中で千歌に手を出した痴漢シーンをこの3人は知っている。その事実を警察に突き出せば痴漢冤罪が蔓延り女性有利なこの社会のことだ、俺の人生は一発でノックアウトさせられるだろう。もちろん彼女たちにそんな気はないのだが、やろうと思えばいつでもできるので今でもまだ油断ならない。まあ梨子に対してはBL・GL好きのオタク趣味、曜に対しては俺の下着を盗もうとした前科持ちって事実を振りかざしておけば、この2人は黙らせることはできるけど……。

 

 

「千歌は活発な性格から、明るい色のパンツを履いていると見た。黄色やオレンジとか、安直に自分に合った色のパンツを履いてるだろ?」

「むっ、安直じゃないもん似合ってるからだもん!」

「下着のことは詳しくないから、自分から背伸びをしたパンツを履こうとは思っていない。でも子供っぽいパンツだけどいいのかなぁと最近思い始めているんじゃないのか? 好きな男ができて、いざ見られてもいいような勝負パンツが欲しい! 恥ずかしいけど好きな人に見てもらうためならどんなパンツでも履いちゃう!」

「せ、先生!? どうして私の心をそこまで!?」

「千歌のパンツが俺に語り掛けてくるんだよ。パンツに宿るお前の想いがこちらに伝わってきて、俺の妄想として抽象化されるんだ」

「私、初めて先生を気持ち悪いと思ったかもしれません……」

「お前が理由を聞いてきたんだから、その反応はねぇだろ!?」

 

 

 千歌を含め、今回はAqoursのみんなから侮蔑と軽蔑の目線しか送られていない気がする……。自分で蒔いた種と言えばそうかもしれないが、そもそも花丸が廊下にパンツを落とさなければこんな事態には陥っていない。つまり俺は花丸の罠に嵌められたってことだ。純粋な彼女を犯罪者扱いするのは気が引けるが、俺にばかり非難の声が上がるのは間違っていると証明するためだ許してくれ

 

 

「そういえば1つ聞きかかったんですけど、先生はどんなパンツを履いているんですか?」

「は……? 男の履いてるパンツが知りたいなんて変態ちゃんか?」

「そのセリフ、先生が言います……?」

 

 

 女の子のパンツの話なら華やかで絵になるが、男のパンツの話をしても誰も得しねぇだろ……。

 千歌は俺のことをさっきまでゴミを見るような目で睨んでいたのにも関わらず、今は興味津々な雰囲気で俺の元へと近寄ってくる。しかもその反応はAqoursのみんなも同じであり、彼女たち全員の目線が俺に集中した。

 

 

「私たちにだけ恥をかかせて、自分は被害ゼロってズルくありません……?」

「自分だけ履いているパンツを教えないってのもおかしいですよね……?」

「そうね、アンタも私たちと同じ恥辱を味わうべきだわ」

「マルも、興味ない訳じゃないっていうか……」

「ル、ルビィも!!」

「いつもいつも私たちばかり辱めを受けますから、たまには先生も同じ境遇に立ってみたらどうです……?」

「それにさっき言ってたよね? 恥ずかしいこともグループ全員で共有しないとって!」

「そういう訳ですから先生、諦めてください」

 

 

「えっ……え゛ぇっ!? ちょっ、お前ら!? こ、こっちに来るなぁ゛ぁ゛あああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 今日、俺は女の子たちに純潔を散らされた。こんなにも純粋無垢な心を抱いているのにそれをぐちゃぐちゃに穢され、己が黒く染まっていく様をただただ見ていることしかできなかった。でも俺は負けない。純潔を散らされたのなら、今度はこちらから相手の純潔を散らしてやればいい。今に見ておけ、その身体が男に支配されるのも時間の問題だからな……。

 

 まあ何が言いたいのかと言えば、たくさんの女の子たちに群がられ服を脱がされるのは普通に恥ずかしかった、ということだ……。

 




 前回はSaint Snowに対してイケメンな姿を見せた零君でしたが、今回はどうしてこうなった……。まあこんなダメ人間の一面があるからこそ、いざ真面目になった時にその姿が輝くんでしょうが(笑)

 ちなみにAqoursがどんなパンツを履いているかの私の妄想は、本編で零君が言っていた通りとなります。皆さんのイメージとは合致したでしょうか? それとも『いやいや、この子は絶対にこんなパンツを履いてる!!』と自己主張したい変態さんがいれば、感想欄にてどうぞ!(笑)


 次回は虹ヶ咲メンバーである、近江彼方(このえかなた)の登場です!



 よろしければ小説に☆10評価をつけていってください!
 小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

眠り姫、襲来

今回は虹ヶ咲メンバーの近江彼方が登場!


 俺はこれまでの人生でたくさんの女の子と出会ってきたが、その出会いの場所やシチュエーションは様々だ。μ'sとは同じ学校、Aqoursとは教育実習先、A-RISEとはライブイベント、Saint Snowとは東京でたまたま、矢澤ちび姉妹とは彼女たちが迷子の時に、高海家のお姉さんたちとは千歌の紹介などなど、それ以外の子たちとの出会いも挙げていけばキリがない。

 その中でも極めて突然で神出鬼没なのが虹ヶ咲の子たちなのだが、彼女たちの襲来は4回も経験しているのでもう慣れた。そもそも定期的にタイミング良く、しかもご丁寧に1人ずつ出会っているというのが何か画策を感じなくもない。まさか順番を決めて俺に会いに来てるとか……? 更に言ってしまえば彼女たちは俺のいる場所を知っているかのような素振りを見せ、オタクに絡まれていたところを助けたせつ菜はともかく、歩夢とかすみ、しずくに至っては俺とエンカウントしても特に驚いた様子は見せなかった。つまり、アイツらは俺の私生活や動向を監視している……!? 盗聴器とか発信機とか付けられてないよな……?

 

 どうしていきなりこんな疑問を抱いたかと言うと、目の前で可愛く寝息を立てて眠っている女の子が原因だ。しかも俺の家、俺の部屋、俺のベッドの中でだ。

 百歩譲って俺の家に女の子がいることはまあ許そう。そして千歩譲って俺の部屋に勝手に入ったこともギリギリ許せる範囲だ。でもベッドって何だよ!? 朝起きてやけに蒸し暑いと思い布団を捲ったら、そこにはマイ枕を持ち込んだ巨乳の女の子が甘い寝息を立てて眠ってるんだぞ? 許可なくベッドに潜りん混んで許す許さない以前に、何が起こってこんな状況になっているのか俺の聡明な頭でも追い付いていない。しかもこの子が穂乃果や千歌など知っている女の子ならまだしも、自分の知らない女の子だからさあ大変。

 

 あっ……もしかして俺、酒に酔った勢いで見知らぬ女の子を強引にベッドへ誘っちゃった!? これ事後とかじゃねぇよな!? うん、全く覚えていない……。確かに昨晩は酒を飲んだ気がしたんだけど、その時は楓もいたし見知らぬ女の子を連れ混んじゃうなんてことはない……と思う。それに俺と家で2人きりでいる時が至高の楓のことだから、俺が勝手に女を連れ込むなんてことはそもそも許可しないだろう。

 

 だったら誰だよこの子!?

 

 

 つうか、この子の寝相が無防備すぎるんだけど……。

 洋服の下に下着を着けていないのがバレバレなくらい服が開けており、自慢の大きな胸の谷間が手を突っ込めそうなくらい剥き出しになっている。スカートも折り目が付いちゃうくらいに捲れ上り、正直に言って下着の一部が見えてしまっている。白か…………あっ、いやそんなことを言ってる場合じゃねぇか。とりあえず起こして事情を聞く、まずはそれからだ。

 

 

「おい、起きろ」

「んっ……はふぅ……」

「そんなエロい声出すなよ……。いいから起きろ!」

「すぅ……うんぅ……」

 

 

 俺が身体を揺らすたびに、ベッドを占拠している女の子は卑しい声を漏らす。しかも漏らすだけで全く起きる気配なし。穂乃果や凛などμ'sでも大概寝坊助の奴はいるのだが、この子はその2人を簡単に超えるほどの眠り姫だ。そもそも人のベッドで、しかも異性が隣にいる状況でここまでぐっすり眠れているその図太い神経に感服する。ていうか、もしかして俺って男と認識されてないとか……? まさか秋葉の変な薬でまた女の子に――――ってのは流石にないか。その証拠としてちゃんと付いてるから、下半身に。

 

 しかし、このまま起きてくれないと俺としても困るんだがなぁ……。具体的に言えば、楓にバレたらどれだけ怒られるか分かったものではない。また知らない女の子を連れ込んで、しかも一緒のベッドで寝ていたとなれば完全に勘違いされるだろう。今は買い物に出かけていてアイツは家にいないので、つまり帰ってくるまでが勝負ってことだ。

 

 

「ほら起きろ。こちとら聞きたいことが山ほどあるんだよ」

「ふわぁ~……」

「ようやく起きたか……って、こっちくんな!?」

「すぅ……ふにゅ……」

 

 

 上半身を上げたので起きたのかと思ったらそんなことはなく、眠ったまま俺の身体へ倒れ込んできた。それもただ倒れてきただけではなく抱き着くように、更に俺の身体を腕でしっかりとホールドをして逃げる隙さえ与えない。狙ってやってるのかそうでないのかは知らないが、寝相が悪いってどころじゃねぇだろこの寝方。しかも凄くいい匂いがするし、胸が大きいこともあってかホールドされているとその2つの果実が俺の身体にこれでもかと言うくらいに押し付けられる。

 

 コイツ……俺の性癖と趣味を心得てやがるな!!

 

 

「お前起きてるんだろ? いい加減目を覚ませ」

「んぅ~……」

「ちょっ!? こっちに顔近付けんな!? 唇当たっちゃうから!!」

「惜しい……」

「やっぱり起きてんじゃねぇか……」

 

 

 やはり俺に抱き着いてきたのは寝相が悪かったからではなく、コイツが狙ってやったことらしい。しかも唐突にキスまでぶちかまそうとしてくるくらいだから、見た目のおっとりさとは裏腹に案外ビッチなのかコイツ……? 

 

 しかし起きているとは言っても未だに眠気は取れていないのか、虚ろな目をしながら手の甲で目を擦っている。その仕草だけを見れば子供っぽくて非情に愛らしいのだが、身体はとてもじゃないが子供とは言い難いほどにアダルティだ。先程から自己主張が激しい胸の豊満さはもちろんのこと、思わず舐めたくなるくらいに肉付きの良い太ももに、もはやスカートの仲を隠すこともしなくなり丸見えな絶対領域と、自分の身体のほとんどを晒している。初めて会話をしてたった数秒でここまで女の子の身体を知ることができるとは、そこらの風俗やキャバクラでも起こりえねぇぞ……。

 

 ちなみに身体のアダルティさを除けば雰囲気は非常にほのぼのしており、胸や太もも同様に性格も柔らかそうだ。全体的にウェーブのかかった明るい茶髪をしているが、あれは寝癖でそうなっているのか元からそんな髪型なのかは分からない。とにかく1つ言えるのは、勝手に男に家に忍び込んで一緒のベッドで寝る奴がまともな思考をしていないってことだ。

 

 

「色々聞きたいことはあるけど、まず1つ。お前誰だ?」

「あれぇ~知らないのぉ……? テレビであんな劇的に紹介されたのに……」

「テレビ……?」

「それに歩夢ちゃんたちに会ったのにも関わらず、私のこと思い出せないんだ~」

「歩夢……? も、もしかしてお前、虹ヶ咲スクールアイドル同好会のメンバー!?」

「そう、近江彼方(このえかなた)ちゃんだよ~」

「マジかよ……」

 

 

 そういや場所やシチュエーションも関係なく、突然襲来してくるのが虹ヶ咲の子たちの特徴だったな。それにさっき俺に抱き着いてきた訳が、この子が虹ヶ咲の子だからという理由で納得できる。それでも自分の部屋で出会ってしまったことには驚きしかないけど……。

 

 

「お前が何者かは分かった。だけどどうして俺の家にいるんだ? しかも勝手に部屋に入るわ、人のベッドに潜り込むわで下手をしなくても犯罪だぞお前……」

「知り合いの仲だから大丈夫だも~ん……」

「知り合いって、顔を合わせたのはこれが初めてだろ?」

「…………なるほど、歩夢ちゃんたちが言っていたことは本当だったんだ」

「あぁ、もしかしてお前も俺と会ったことがあるとか? アイツらもそうらしいんだけど、俺とどこで会ったんだ? こう言っちゃ悪いけど覚えてないんだよな」

「ふわぁ~……頭を使ったら眠くなってきちゃた」

「どこに頭を捻る要素があった!? しかもさっき起きたばかりなのにもう眠いのかよ……」

「できることなら一生お昼寝して過ごしたいくらいには寝るのが好きなんだ……ぐぅ……」

「寝るな寝るな!! 俺の質問に全部答えてもらうまで寝かさねぇぞ!」

「寝かさないって、どんなエッチなことをする気なの……?」

「なるほど、お前はそっち側の人間か――――って、だから寝るな!!」

 

 

 見た目から眠そうだったのは寝起きだからではなく、それが彼女の性格らしい。つまり普段も今のような眠そうな表情をしているんだろうが、そんなやる気のなさそうな態度でスクールアイドルをやっていけるのだろうか……? まあスクフェスの事前投票で1位になったグループに属しているんだから、アイ活する時はそれなりに本気を出してやっているのかもしれない。もうコイツを見ているだけでこっちまで眠くなってしまいそうだ。彼女と一緒に昼寝をしたらそれはそれで心地良いんだろうけど、俺にはこの子をここから追い出すという使命がある。しかし彼女自身が俺のベッドで二度寝する気満々なので、そう簡単に事は運びそうにない。

 

 そしてそんなことを考えている間にも、近江彼方はまた俺の身体に寄り掛かって熟睡しようとしている。どうせこれも狙ってやっているのだろうが、ここまで自分を求められると真っ向から否定するのはちょっと躊躇いが出てしまう。でも楓にこんな様子を見られたら後でどんなお仕置きが待っているか想像したくもないので、まずは場所を変えるところから始めよう。

 

 

「最悪寝るのはいいけど、場所は変えてくれ。俺も付き添うからさ」

「いや……零さんの部屋がいい。零さんのシーツ、布団、そして本人に囲まれて寝るって最高……ふわぁ……」

「当然のように名前を知ってるのか……。それにお前も歩夢たちと一緒で大概ぶっ飛んでるな。男のベッドで寝たいだなんて」

「好きな人のベッドで一緒に寝たいと思うのは当然……」

 

 

 これまで出会ってきた虹ヶ咲の子たちもそうだったけど、言動がやたら積極的なのが驚くべきところでもあり好印象でもある。でも例のごとく俺とどこで出会ったかの質問には答える気が全くないのか、それとも秋葉から口止めされているのかは知らないが、とにかく今回もはぐらかされてしまった。そこさえ教えてくれればお前たちのことをもっと知ることができて好きになるかもしれないのに、勿体ないことする奴らだ。それでもそのことさえ除けば俺に一途な愛を示してくれる可愛い子たちなので、できる限りその想いには応えてやりたいところ。まあその秘密にしていることこそが肝心なんだけどさ……。

 

 

「ここでスッと答えてくれるのならそれでもいいけど、お前どうやってここへ来た訳?」

「昨日は夜まで練習をしていたから凄く眠くて、いつも以上にぐっすりと安眠したかったの。そう考えた時に零さんのことを思い出して、気が付いたらこの部屋に忍び込んでた。零さんと一緒に寝たら絶対に気持ちいだろうなぁと思って……」

「眠たいから忍び込んだってそんなに軽く言うなよ!? 俺の家のセキュリティどうなってんの!?」

「虹ヶ咲の情報網を舐めてもらっては困るよ~……」

「お前らいつも唐突に俺の前に現れるけど、やっぱり発信機とか盗聴器とか、家の鍵まで不正に複製してねぇだろうな?!」

「ふわぁ~……ん……」

「だから寝るなって!!」

 

 

 怖い!! これまで彼女たちの得体の知れなさに不気味だと思ったことはあったけど、今回でまたその要素が1つ増えてしまった。最初は冗談で発信機とか盗聴器とか言ってたけど、彼方が否定しないってことは本当に俺の行動を監視されているのかもしれない……。確かに彼女たちは俺のことを人生を捧げるほど求めているみたいだし、監視するなんてことは躊躇いなくやってのけそうだ。やっぱり可愛い子ってのは魔性だなホント……。いや実際にどうなのかは分からないけどね。

 

 

「一万歩譲って勝手に忍び込んで無許可でベッドを使ったことは許してやる。でもお前がここにいること、他のみんなは知ってるのか? 話を聞いてる限りでは夜中に不法侵入したみたいだけど」

「許してもくれるし心配もしてくれるんだ……。やっぱり優しいねぇ~」

「いいから答えろ。誰にも外出許可を得ていない女子高生を自宅に連れ込んだとなれば、周りからバッシングを受けるのは俺だからな」

「安心して、ちゃんとみんなにはメッセージで伝えてあるから。『零さんのベッドで抱きしめられながら寝てるよ~』ってね」

「おいそれ完全に誤解を生む言い方だろ!? それに抱きしめてたのはお前だからな!?」

「あっ、そっか。寝ぼけてたから間違えちゃった~……」

 

 

 その文章だとまるで俺が彼方を抱いて夜の情事に励んだ後、お互いに裸のまま一緒に寝たと思われても不思議じゃない。自分のミスや行動で変態と罵られるなら別にいいけど、誰かの失敗から俺に被害が降り注ぐ展開だけはやめてもらいたい。ただでさえ先日披露したパンツ見通しスキルでAqoursから若干引かれてたのに、ここで虹ヶ咲の子たちまでに引かれてしまったら豆腐メンタルの俺は腐っちゃうよ?? 

 

 まあ夜の情事に励んだとか裸で寝たとかそんなことは関係なく、彼方と一緒にベッドインした時点で虹ヶ咲の子たちにとっては嫉妬の嵐なのかもしれないが……。

 

 

「間違えたじゃねぇよったく。俺がお前を抱いてるみたいな文章を見たら、歩夢たち怒るだろ……」

「怒る? むしろ応援してくれたり羨ましがってたけど」

「はぁ? 応援? 羨ましがる……?」

「うん。歩夢ちゃんたちが『零さんと一晩を一緒にできるなんて私たちの夢だよ凄い! この機会に零さんをたっぷりと味わうといいですよ!』ってね」

「味わうってなんだよ!? 逆レイプでもする気か!?」

「他にも『零さんと一緒に寝られるなんて羨ましい~!! 今度私も零さんのベッドに潜り込んでみよっかな?』とかね」

「なに? 不法侵入の技術は虹ヶ咲の子たち全員が会得してる訳!? 本格的に俺の家のセキュリティが心配になってきた……」

 

 

 しかもだよ、俺の家に侵入することに一切の罪悪感を抱いていないってのもこれまた怖い。その文章を誰が送ってきたのかは分からないが、とにかく俺の部屋だけでも厳重に鍵をかけておかないと、いつの間にか女の子を連れ込んで一夜を明かした風のシチュエーションを作られてしまう。どうせそんな疑いの目を向けられるくらいなら本当に夜の情事に勤しんだ上でそんな状況になりたいものだがな……。もはや痴漢冤罪並みに理不尽な罪を被せられそうだ。

 

 

「まあ俺が何を言ったってお前らはやめる気ないんだろ?」

「それはこれからも一夜を共にしていいと許可をくれたってこと……?」

「来るなら来るとお前らから俺に許可を取ってくれたらな。然るべき方法で家に来てくれたら歓迎するからさ、これからは無断でベッドに潜り込むのはやめてくれ」

「分かった。それじゃあみんなにもそう伝えておくね。『零さんと一緒に寝たいのなら、許可を得てからベッドに上がること』っと」

「その、俺がたくさんの女の子を侍らせてるから予約しなきゃダメみたいなニュアンスやめてくんない……?」

 

 

 その言い方だと俺が店で人気No.1ホステスみたいになるから、女の子とたくさん遊んでイキっているようにしか見えない。そうではなく、行くなら行くって言ってくれれば一緒に遊んでもやれるし飯を食ったりもできるってことだ。あっ、それがホストっぽいのか……。でも俺の行動を監視したり読んだりしなくても、会いたいなら会いたいと伝えてくれるだけでいつでも会ってやるのに。まあコイツらにもコイツらなりの考えがあり、秋葉も絡んでるっぽいから裏で何かしらの画策があるのだろう。

 

 それにしても、さっきからずっとコイツのペースに引っ張られっぱなしだ。女の子を手玉に取るのは得意だけど、虹ヶ咲の子たちは初対面のくせに押しが強すぎて圧倒されてしまう。俺が彼女たちのことを忘れているっぽいが向こうは俺のことを知っているので、情報量の差で話の流れを掴まれてしまうんだと思う。早いところ彼女たちのことを思い出さないと、他の子たちと会った時もこんな感じでマウントを取られ続けるのか……。さてどうしたものかねぇ。

 

 

 すると、一階の玄関から聞き覚えしかない声が聞こえてきた。

 

 

『ただいまーー! お兄ちゃーーん、もう起きてるーーー?』

 

 

 ヤ、ヤバい! 楓が帰ってきちまった!!

 ベッドに見知らぬ女の子を連れ込んでいる(実際には彼方が勝手に侵入したのだが)この光景を見られたら、どんな刑罰を受けることやら……。楓は俺の周りにたくさんの女の子がいること自体は容認しているが、この家だけは唯一2人きりになれる場として聖域のような扱いをしているので、その聖域で女の子を侍らせているこんなところを見られたら……うん、マズい。

 

 

「おい彼方! 1分だけでいいからどこかに隠れて――――って、えっ!?」

「すぅ……んぅ……」

「だから寝るなって言ってんだろ!? それにまた俺に抱き着きやがって。どうせ起きてんだろ? おい?」

「すぅ…………」

「えっ、マジ!? ホントに寝てんの!? 後からならいくらでも抱き着いていいから、このタイミングだけは離れて欲しいんだけど!!」

「ん…………ふぁ…………」

「だから色っぽい声で寝息立てるのやめな?」

 

 

 

 

「お兄ちゃん?」

 

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

 振り向きたくはなかったが、あまりのドスの効いた『お兄ちゃん』の声色に首が操られたかのように動く。

 そして俺の部屋の入口に立つ楓の眼は、もう何人も殺してきたかのごとく光がなく真っ黒だった。

 

 

 これは―――――屠られる!!

 

 

「私が忙しく買い物に出かけている間、お兄ちゃんはお楽しみだったみたいだね。こっちはスーパーのセールで鬼のような主婦たちと死闘を繰り広げてたのに、お兄ちゃんは女の子を抱いて遊んでいた訳ですかそうですか……」

「いやコイツが勝手に潜り込んできただけで、何もしてないから……」

「じゃあどうしてその子の服はそんなに開けてるの……?」

「えっ……? あっ!?」

 

 

 俺に抱き着いて寝ている彼方を見てみると、さっきよりも一層服が乱れており、パンツどころか胸までほぼ丸見えだった。つうか上の下着つけてないのかよコイツ……!!

 

 

「まあいっか、拷問すれば。私も久々にお兄ちゃんで遊びたいなぁと思ってた頃だし。覚悟してね、お兄ちゃん♪」

 

 

 見据えられただろうこの展開を回避できなかった俺が悪いのかこれ……?

 とにかく、これからは自分の部屋のセキュリティを高めようと心に決めた瞬間だった。

 

 

「あっ……んっ……」

「ちょっとお兄ちゃん!? 私が目の前にいるのに何してんの!?」

「ち、違う!! 彼方の寝息がナチュラルにエロいだけだから!!」

 

 

 

 




前回のせつ菜に引き続き、彼方も私のお気に入りの子の1人です! 眠くてダルそうにしている女の子キャラが意外と好きだったりします。もちろんまだ登場していない子も魅力的に描いていきますよ!

それにしても、楓ちゃんを久々に描いたような気がした……(笑)


新たに☆10評価をくださった

白桜 黒椿さん、烈火舞さん

ありがとうございます!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リーダーズ・ミーティング

今回はμ's、Aqours、虹ヶ咲から3人のリーダーが集結!
でも内容は真面目だったりおふざけしてたり……


 

 遂に明日、μ'sとAqoursの合同合宿が始まる。どちらのグループも相手グループと一緒に練習できることを心待ちにしており、最近の練習は連日暑い日が続くのにも関わらず合宿のモチベのためか、みんなのやる気が段違いだった。μ'sはスクールアイドルとして今度こそ最後のライブであり、Aqoursは廃校阻止をかけた全国生中継のライブ。お互いに深刻ながら様々な思いを秘めつつも、まず第一に自分たちがライブを楽しむというスタンスは日頃のやる気を見ても誰も忘れていないようだ。

 

 そんな楽しい楽しい合同合宿が目前に控えているのだが、何故か俺は女性モノの水着コーナーにいた。

 男にとって何が苦痛かって、女の子と一緒に水着を買いに行くのはいいんだけど、試着室の前で1人ぼっちで待たされることが何よりも気まずいんだよ。別に女性モノの水着を見ているからって変なことは考えておらず、試着室の前で待っている=女の子の試着待ちってことくらいは周りの人も察することができる。しかしその状況であっても女性モノの水着が色華やかに並んでいる真ん中で、こうして待ちぼうけをくらうのはやはり気まずい。まあ下着コーナーじゃないだけマシだと思って我慢するか……。

 

 ちなみにデート相手はご存知Aqoursのリーダーである高海千歌だ。どうして合宿前日になって水着を買いに来ているのかと言うと――――また追々説明しよう。

 

 

『せんせーーい! カーテン開けてみてください!』

「どうして俺が……。それにここで先生呼びはやめてくれ。生徒と一緒に水着を買いに来てるヤバい奴だと思われるからさ」

『え~? じゃあなんて呼べばいんですか?』

「普通に名前でいいだろ」

『む、無理です!! そんなの恥ずかしすぎますって!!』

 

 

 コイツ、バスの中で上半身を脱いで俺に迫ってきたくせに、名前呼びすることの方が恥ずかしいのか……。コイツの羞恥を感じる基準が分からん。胸を見せるのはその時だけだけど、名前で呼び始めたらこの先もずっとその名前で呼び続けなければならない、つまり一瞬と永遠の差か? いや大したことねぇだろそんな差なんて。思春期の乙女心ってのは本当によく分からん。

 

 

『いいからこのカーテン開けてください!』

「はいはい……」

 

 

 女性更衣室のカーテンを男が開けるなんて光景を誰かに見られたりでもしたら、それこそ店員さんがやって来て事務室に連行されかねない。だから開けることに躊躇していたのだが、頑固ちゃんの千歌のことだから俺から動かないと更衣室に永久就職するだろう。

 

 仕方ないと割り切り、カーテンに手をかけたその時だった。後ろから突然肩を掴まれ、身体が反射的に大きくビクつく。危惧していたことが現実になったのかと思い一瞬で大量の冷汗が溢れ出す。店員か警備員か誰かは知らないが、こんなに早く俺の行動を止めることができたってことは、もしかしてずっと監視していた……とか? 店に入る前から『あっ、コイツいかにもやりそうだな』と俺に目を付けていたのかもしれない。

 

 身体を震わせながらも、恐る恐る首を回して俺の肩を掴む者の正体を確かめてみると――――――

 

 

 …………ん? あれ?

 

 

「ほ、穂乃果!?」

「たまたま零君を見つけたから声を掛けようと思ったんだけど、まさか堂々と覗きなんて……」

 

 

 振り向いてみると、穂乃果がジト目で俺を見つめていた。さっきの台詞から察するに、コイツ勘違いしてやがるな……。まあ事情も知らない人から見たら、俺が女性更衣室のカーテンを無言で開けている怪しい奴にしか見えなかっただろうが。

 

 

「いやいやしてねぇよ! これから開けるところだったんだ!!」

「やっぱり覗こうとしてたんだ……」

「いや、中にいるコイツが開けろって言ってくるからさぁ……」

「自分から更衣室を覗かせようとする人なんて、ことりちゃん以外にはいないよ!」

「お前の中でのことりの扱いって……」

 

 

 穂乃果も大概淫猥な思考の持ち主だったりするのだが、そんな奴から見てもことりは別格のような扱いを受けている。もちろん言うまでもなくアイツは別格というか、生きていること自体が性犯罪なのでどこかに島流ししてやった方がいいんじゃないかな……? いや、島流しをしても次の朝には笑顔で俺の隣にいそうで怖い……。

 

 

『穂乃果さん? 穂乃果さんが一緒にいるんですか!?』

「この声って、もしかして千歌ちゃん!?」

『はいそうです! お久しぶりですね!』

「うん久しぶり! 会ったのがAqoursのみんなが東京に来てすぐくらいだから、2週間以上は経ってるのかぁ」

『そうなりますね。いやぁ時が流れるのは早い!』

「もう千歌ちゃんったらおばさん臭いよ!」

『あははっ! まあウチには二十歳越えの姉が2人もいますから、口癖が移っちゃったみたいです。あっ、今のは2人に内緒ですよ?』

「え~どうしよっかなぁ~?」

『ええっ!? 穂乃果さんの意地悪……』

 

 

 いやね、とっても仲がいいのは2人の会話とテンションから熱烈に伝わってくるんだけど、未だに更衣室のカーテンが閉まったままなのが気になってならない。そのせいで穂乃果と千歌はカーテン越しに会話をしており、もちろんだがお互いにまだ姿を確認し合っていない。それでも2人はまるで隣同士で仲睦まじく喋っているかのようなノリで会話している。でもこの2人は非常にウマが合うため、相手の声色だけで楽しく会話ができるのだろう。つうか、いつの間に仲良くなったんだ穂乃果と千歌って。

 

 

「とりあえず、カーテンを開けて対面で会話してくれ。他にもお客さんから変な目で見られちまう」

「あっ、そっか」

『それは盲点でした……』

「馬鹿なのかな?」

 

 

 性格も雰囲気も似たり寄ったりの2人だが、同時に欠点も似た者同士なのが余計な点だ。しかしそういった長所だけでなく短所までもが同じだからこそ、穂乃果も千歌も感覚的に相手とウマを合わせられるのかもしれない。

 

 しばらく待っていると、ようやく更衣室のカーテンが開く。

 だが千歌の格好は水着ではなく、私服姿に戻っていた。

 

 

「お待たせしました!」

「あれ? 水着はどうした?」

「穂乃果さんもいますし、どうせ披露するなら当日までのお楽しみにしておこうかと」

「だったらどうして俺を水着選びに誘ったんだよ……。しかも合宿前日に」

「えっ、それじゃあ穂乃果の電話に出なかった理由って……」

「電話?」

「1時間くらい前に零君に電話したんだよ。一緒に水着を買いに行きたいってね。でも出てくれなかったらこうして1人で来たんだけど、まさか更衣室覗きの現場に出くわすとは……」

「せ、先生!? 私の着替えを覗こうとしてたんですか!?」

「してねぇから!! 穂乃果も適当なこと言うな!!」

 

 

 そう、俺は千歌に誘われてこの水着コーナーに来たんだ。最近では花陽と水着コーナー(どちらかと言えばエレベーターでの監禁が印象強いが)に来たのだが、実はアイツ以外にも他の子に誘われて何度かこの店には足を運んでいた。でも合宿前日に急いで水着を選んで欲しいと言ってくるあたり、千歌の用意の遅さが伺える。それは穂乃果も同じであり、合宿前日なのにも関わらず水着を新調しようとしているあたり、大人になっても合宿を学生の遠足気分で考えているのだろう。実際にこの2人は合宿の目的を既に見失っており、一緒に遊ぶことに重きを置いているから仕方ないと言えば仕方ないが。いや、仕方ないで片付けちゃダメだろそこは。しかもこんなのでもμ'sとAqoursのリーダーだからな。馬鹿と才能は紙一重ってか。

 

 よくこんなリーダーでグループの一体が保てると逆に感心していると、少し離れたところで水着を選んでいる女の子に目が行く。

 髪色は鮮やかな赤。髪の長さは肩に掛かる程度の短髪気味で、右側の髪を丸めてまとめているため一種のデコレーションのようになっている。見た目的には千歌たちと同じ高校生であり、胸の大きさも千歌や曜と同じくらいだ。雰囲気は清楚でお花畑が似合いそうな美少女で、パッと見で目立った特徴はないものの、それをカバーできるほどの容姿と清純さを持ち合わせていた。

 

 

 ――――って、あれ? 前にも同じ内容で紹介したことがあるような気が……?

 

 

 あっ、こ、コイツ……!!

 

 

「歩夢……?」

「えっ……? あ、零さん!?」

 

 

 上原歩夢。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバーであり、リーダーでもある。彼女とはこれで2度目の再会で、以前はお祭りの会場で(恐らく)偶然出会った。その時はいきなり抱き着いてきたり、別れ際には頬にキスしてきたりなど大胆な行動を取っていたことは記憶に新しい。これまで虹ヶ咲の子たちと数人で会ってきたが、その中でも一番彼女が積極的だったと思う。見た目の清楚さとは裏腹に、己の魅力を自覚して存分に俺へぶつけている。そういう子こそ案外腹黒かったりするんだよな……。

 

 

「えっ、誰その子?」

「先生って本当に女性のお知り合いが多いですよね」

「お前らも見たことあるはずだぞ。ほら、スクフェスの事前投票の番組でテレビに出ていただろ?」

「あっ、もしかしてあの時センターにいた子? 虹ヶ咲スクールアイドルの代表としてインタビューを受けてた人だよね?」

「確かに言われてみれば。まさかこんなところで会えるなんて……」

「上原歩夢です。よろしくお願いします!」

 

 

 歩夢は穂乃果や千歌に負けないくらい明るい笑顔で挨拶をし、先輩たちに深々とお辞儀をする。2人と同じグループリーダーなのにここまで律儀だと、やはり事前投票王者としての貫禄を感じられる。穂乃果も千歌も目上の人に対してそれなりに敬意を払える性格ではあるのだが、普段のダラダラとした素行を見ているとどうしてもね。

 

 そして今ここに、俺と密接に関係のあるスクールアイドルのリーダー3人が集結した。集まろうと示し合わせていた訳ではなくたまたま偶然、思いがけずリーダー3人が一堂に会したのだ。まるで吸い寄せられるように集まったので、この邂逅は偶然ではなく彼女たちによる必然なのかもしれない。この3人が同じ場所に集まったところで一体どんな会話が繰り広げられるのか、俺には想像もつかなかった。

 

 

「歩夢ちゃんかぁ、可愛い名前だね! それじゃあ――――」

「知ってますよ、高坂穂乃果さんですよね。あのμ'sのリーダーさんときて、知らない人なんていませんから」

「そ、そう? えへへ、有名人は辛いねぇ~」

「全然辛そうには見えないが……」

「それとそちらの方はAqoursの高海千歌さんですよね?」

「私のことをご存じなんですか!? Aqoursなんて知名度がないに等しいのに……」

「そんなことありませんよ。少なくとも虹ヶ咲の中では有名ですから」

「事前投票1位の人たちに覚えてもらっているなんて……。でもそういえばあの時、Aqoursの名前が出ていたような……?」

 

 

 事前投票の番組に生出演していた歩夢が放った衝撃的な言葉。『スクフェスでμ'sとAqoursと戦いたい』と、1位のくせに挑発とも取れる宣戦布告をしたんだ。その言葉にμ'sもAqoursも衝撃を受けたようで、まさか全国放送のテレビで、しかも名指しで自分たちが戦いの相手に選ばれるとは思ってもいなかったのだろう。しかもその番組の後で視聴した虹ヶ咲のライブを見た彼女たちは、自分たちより明らかに上である実力を思い知らされ更に言葉を失っていた。

 

 まだ出会ってもいないのに因縁がある中で、遂にこうして虹ヶ咲のリーダーと対面することになった穂乃果と千歌。空気が悪いとまでは行かないが、少々張り詰めており緊張感が漂っていた。

 

 

「私、穂乃果さんと千歌さんに会いたかったんですよ」

「え、どうして?」

「私の目標であり、そしてスクフェスでライバルとなる方々ですから。それに……」

「それに?」

 

 

 しかし歩夢は穂乃果の問いかけに答えず、何故か俺の元へと歩み寄ってくる。

 そして目の前までやって来ると、間髪入れずに全身を使って俺を抱きしめてきた。高校生にしては発達し過ぎている胸が潰れるほどに押し付けられたと言えば、彼女がどれだけ俺に密着してきたのかが分かるだろう。

 

 ……って、冷静に解説してる場合じゃねぇ!! コイツ一体なにしてくれちゃってんの!? ここデパートの水着売り場だし、しかも穂乃果と千歌が見てるんだぞ?!

 

 

「ちょっ、お前……!!」

「やっぱりこの感触、温もり、香り、すべてが私を包み込んでくれます。気持ちいい……」

「れ、零君!? いつの間にこの子とこんな関係に!?」

「デパートの中でこんなことをするくらいですから、も、もしかしてお付き合いをしている……とか!?」

「違うんだ!」

「零さんヒドい! お祭りの時にあんなことやこんなことをしておきながら……」

「零君……? これはμ'sのみんなを呼んで謝罪会見かな? かな?」

「夜のお祭り会場で、女子高生に手を出した教師……うん、浦の星のSNSに拡散しなきゃ!」

「おいやめろ」

 

 

 やはり見た目の清楚さとは真逆で、自身の欲望を大っぴらにすることになんの躊躇いもないのが歩夢だ。しかも恐らく穂乃果と千歌が俺に好意を抱いていると知ったうえでのこんな行動をしているのだろう。実際に歩夢の表情を見てみると、悪戯そうな笑顔でウィンクをしてきやがったから確信犯に違いない。ただでさえμ'sとAqoursに宣戦布告をしているのに、どうして俺に抱き着いて煽るような真似をしてんだコイツ……。清楚さがありお茶目さがあるのは可愛いと言えば可愛いけど、このままだと穂乃果と千歌を通してμ'sとAqours全員から尋問され兼ねない。

 

 虹ヶ咲の子たちが襲来すると、いつもこうやって彼女たちのペースに巻き込まれちまう問題を早く解決したいもんだ。

 それ以前にこの状況を打破したい! だって穂乃果と千歌から滲み出る嫉妬のオーラが俺を蝕むから!!

 

 

「零君と歩夢ちゃんってどういう関係なの……?」

「えぇっと、関係と言われてもどこから説明していいのやら……」

「将来を誓い合った仲です♪」

「え……え゛ぇえええええええええええっ!? 先生、Aqoursというものがありながら……」

「なにそのヤンデレオーラ!? お前らももちろん大事だけど、コイツも放っておけないから許してくれ!」

「零さん……!! そのお優しさで私の胸が熱く高鳴っちゃいます」

「零君ってば本当にす~ぐ女の子を惚れさせて将来を誓うんだから……」

「いやそれは語弊があるぞ!? 結婚詐欺師じゃあるまいし、そうポンポン未来を約束するかっての!」

 

 

 夜のお祭り会場で初めて出会い、その日中に抱き合ったりキスをされたりして将来を誓い合うって、即堕ち2コマ系の同人誌でも中々見られない。つうかそんなシチュエーションの時って、大抵チャラい男や汚いオッサンが女の子を襲って快楽堕ちさせるパターンがほとんどな気がする。対して俺たちは普通にお祭りデートを楽しみ、川に架かる橋の上、星空の下でロマンチックなキスをしたのでそんなアブノーマルなシチュエーションではない。そもそもそれらの行動は全部歩夢から俺に向けられたもので、俺自身は彼女に一切手を出してない。まあ誘惑をされて卑しい感情を抱かなかったと言えば嘘になるけど……。

 

 

「ゴメンなさい。また零さんと会うことができて、思わず舞い上がっちゃいまして……」

「舞い上がってもいいけど、ありもしないことをさも事実かのように話すのはやめような」

「それもゴメンなさい。穂乃果さんと千歌さんが零さんととても仲良しに見えたので、ちょっと悪戯したくなっちゃいました♪」

「おうおう、遊び心が旺盛なことで……」

「なんだ冗談かぁ~ビックリしたよぉ……」

「私もです。置いていかれないよう私も将来を誓うところでした……」

「そんなに軽いもんだっけ告白って……?」

 

 

 誰かが告白したから流れで自分も告白するって、そんなハーレムモノのギャグアニメじゃないんだから……。

 でもおかげで張り詰めていた空気が一気に和らいだので、空気の入れ替えという点では歩夢がグッジョブなのかもしれない。この中では一番後輩のくせにして、俺たちをここまで自分のペースに巻き込めるのはある意味恐ろしいけどな。

 

 

「スクフェスではもちろん負けませんけど、零さんを好きって気持ちも負けませんから。そのために生きていると言ってもいいくらい……」

「わ、私だって先生にAqoursの魅力を思い知ってもらうために頑張るもん!」

「凄い、2人共本気だ……。こりゃ穂乃果たちも負けていられないね!」

「私たちが勝ちますよ、絶対に。今までこの時のために自分を磨きに磨いてきたんですから……」

 

 

 歩夢の宣戦布告にめげず、逆に布告し返した千歌と穂乃果。なんかいいよな、こういったライバル関係って。仲のいい先輩と後輩でありながらも、お互いに見下すことなく認め合う。これはもしかしなくても、3グループ共スクフェスの決勝に上がることができるかも。μ'sとAqoursに至っては明日からの合宿も控えてるし、更にお互いのモチベと実力を伸ばせそうだ。まあこの2人は水着を新調していることから、海で遊ぶ気満々なんだろうけど……。

 

 そういや、どうして歩夢は水着コーナーにいるんだ……? 虹ヶ咲の子たちも海に合宿でも行くのかな?

 

 

「あっ、もう少しで練習の時間なので、私はこの辺で。楽しみにしていてくださいね♪」

「えっ、あっ、あぁ……」

 

 

 歩夢は選んだ水着を見せびらかせながらニッコリ笑うと、そのまま会計へと向かった。

 楽しみにするって何を?? まさかとは思うがアイツらも……いや、流石にそれは偶然すぎるか。

 

 

「あ~ドキドキしたぁ~。初めて生で見たけど、歩夢さん凄く綺麗だったなぁ……」

「そうだね。清楚だし笑顔も可愛いし、スタイルもいいし優しいし、非の打ち所がないね。それでいてスクフェスに込める情熱も凄いから、5年前の自分を見てるみたいだったよ」

「ま、愛は重いけどな。色々と……」

 

 

 穂乃果と千歌は歩夢のインパクトに感銘を受けていた。

 彼女が抱いているのは、ただ1人の男性に捧げる愛のみ。むしろその愛だけであれだけ全国を魅了するライブができるんだから、彼女、そして同じメンバーが抱いている愛は相当濃密なのだろう。どうして己の人生を全てたった1人の男に注ぐことができるのかはまだ分からないが、想いの強さは間違いなく本物だ。そして現時点では、その強さはμ'sやAqoursを圧倒的に凌駕している。PVだけでμ'sとAqoursメンバー全員を圧倒し黙らせることができたのがその証拠だ。

 

 だが、そんなことで屈する穂乃果と千歌ではない。むしろ今日、歩夢に出会ったことで2人の志も大きく変化したことだろう。ライブを楽しむことはもちろん重要だけど、誰かに負けたくないという対抗心は向上心にも繋がる。こりゃ今まで以上に楽しみになってきたぞ、スクフェスの本選がな。

 

 

「そうだ、そういえば水着を選びに来たんだった! 零君、穂乃果の水着も選んでよ!」

「先生! やっぱり私も先生に選んでもらいたいです!」

「お前ら遊ぶ気満々かよ……。合同練習が目的だろ?」

「「それはそれ、これはこれ!」」

「俺のワクワクを返してくれない!?」

 

 




歩夢の圧倒的な強キャラ感( )
4コマでも性格が黒かったりハジけていた時期もありましたので、そこまで原作ブレイクはしてないかと。

次回は『新日常』3周年記念として、ちょっとしたifストーリーを描いてみようと思っています!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】何事も全て思い通りになった世界

 本日、『新日常』の連載3周年となりました!
 例のごとく記念回なのですが、今回は特別編なのでご都合主義連発+ありえないほどのハーレム上等のifストーリーとなります。この小説の1つの結末として、こんな感じのエンディングもありじゃないかなぁと(笑)

 時系列的にはさっきも言った通りエンディングなので、本編が終わった後のエピローグ的な感じとなっています。


 成功ばかりの人生なんてものはない。時には誰かに邪魔をされ、自分の選択で自分自身の未来が縛られることもある。しかしそこで立ち止まっている者に道はなく、逆境に立たされた時こそ前を進もうとする者に道は開かれる。もちろん、道が開かれたところで幸福が待っているとは限らない。不幸の後にまた不幸が訪れようとも、それを乗り越えていける者こそが未来を掴むことができるのだ。

 

 今回は全ての障害、柵、逆境を制覇し、己の道を自ら作り突き進んできた者の未来のお話である。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 全てが終わった。

 終わったと言っても、取り返しのつかないことになり絶望に苛まれるとか、そっち方面での"終わった"ではない。スクフェスが終わり、虹ヶ咲の奴らとの問題も全てが解決して見事大団円になったので"無事に全て終わった"という意味だ。心に引っかかっていた謎も過去の確執も、その全てが解き放たれた。もう何も思い悩むことはなく、誰もが夢を見たハッピーエンドが訪れたんだ。μ'sもAqoursも虹ヶ咲の子たちも、みんなが笑顔でいられる日常になったと言えば現状が分かってもらえるだろう。

 

 しかし当事者でない俺たち以外の人たちから見れば、本当にこんな展開で物語が終結して良かったのかと疑問が上がると思う。それくらい俺たちが現在歩んでいる人生は人道を外れているんだ。

 

 人道を外れていることの1つ目として、俺たちは一緒に生活をしている。俺たちというのは、俺、μ'sの12人、Aqoursの9人、虹ヶ咲の9人、A-RISEの3人、Saint Snowの2人、にこの妹のこころとここあ、そして秋葉。もはや小さな会社を経営できそうなくらいの人数である。40人近くの人数が1つ屋根の下で一緒に生活をしており、男1人に対して女の子38人という紛れもないハーレム状態。ハーレムという言葉はあまり良く思われないのでこれまではあまり公言してこなかったが、今だったら言える。俺はハーレムのご主人様であり、みんなの旦那様となったのだ。

 40人近くが生活する家ともなれば、まともな一軒家ではもちろん人数が入りきらない。だから俺や秋葉の潤沢な貯蓄、そして俺の傘下であるスクールアイドルたちがライブやメディアで稼いだお金によって大豪邸を築き上げた。一般人では豪華すぎて目が眩んでしまうほどの豪邸で、無駄に広く大きいこの家は並のホテル以上の敷地を誇っている。そこで俺のお嫁さんたちが和気藹々と楽しく生活しているのだ。

 

 人道を外れていることの2つ目として、さっきもチラッと言ったが全員を恋人にしてしまった。俺はみんなのことが大切で大好きで、彼女たちも俺のことを心の底から愛してくれている。だったら誰と付き合おうかと悩むのではなく、みんなと付き合って全員が一緒に手を取り合って未来を歩んでいく方が幸せだ。現にμ'sもAqoursも虹ヶ咲も、その他の子たちも全員仲が良く、誰かを除け者にするくらいならみんなが笑顔でいられる未来を選んだ。

 まあこの件に関しては、俺たちの関係を知っている人ならば誰でも予想がついたと思う。μ's12人全員と付き合っている時点で、もはや40人近くを恋人にしてしまっても驚かれないだろう。むしろここまで外道な行為を突き詰められると逆に清々しい。もはや俺たちの敷地は日本ではなく、新たな別の国だと言われても違和感がない。俺たちは自分たちの独自のルールで行動し、生活をすると決めた。それがいかに世間から非難されようとも俺たちには関係のない話だ。

 

 しかし実のところ、俺たちの関係を非難する者は今のところ誰もいない。清々しいほどに自分たちの理想を突き詰めているせいで、まるで洗脳しているかの如く周りが納得しているのだ。もしかしたら納得ではなく『仕方ない』と割り切っているのかもしれないが、突っかかってくる奴がいないだけ面倒なことがないのはそれはそれで楽ではある。

 

 そう、この世界は既に何事も全てが俺の思い通りになっているのだ。

 

 てな感じで豪邸のリビングで1人、ソファに座りながらこれまでの経緯を思い出していた。冷静になってみると、我ながらとんでもない選択をしてしまったと自分で自分が恐ろしくなる。だがもちろん後悔なんてしていない。今まで何度も自分の行動で後悔があったからこそ、今回の選択はこれまでの人生の中で悩みに悩んだ末の選択だ。だからこそ後悔なんてないし、むしろ有り余るほどの幸福感が今の俺を満たしている。こうやって広すぎるリビングの大きなソファにふんぞり返っていられるのも、何の柵もなく心から現状に満足している証拠だ。

 

 すると、どこからともなくやってきた楓が引きつった顔で俺を見つめていた。

 

 

「お兄ちゃん? 何もないのになんで笑ってるの……?」

「そんな頭がおかしい奴を見ているみたいに引くなよ……。自分の立場を再認識して浮かれてるだけだから」

「つまり自己泥酔ってことか。ま、あれだけの人数を恋人にしちゃうなんて流石の私も思ってなかったけどさ」

「その中にはお前も含まれてんだけどな」

「そうなんだよねぇ。まさか実の兄に孕ませられるとは、幸福なのか不幸なのか……」

「何が不幸だよ。お前が望んだことだろそれ……」

「まぁね♪」

 

 

 "実の兄に孕ませられた"という超絶なるパワーワードが放たれたが、読んで字のごとくその通りなので弁解するつもりはない。それにぶっちゃけて言ってしまうとお腹に生命が宿っているのは楓だけではなく、ここで暮らす女の子たちは全員同じ状態になっている。つまり女の子みんなのお腹に俺との愛の結晶が芽生えている訳だ。なんともまぁエロ同人やエロゲーの世界観だが、実際に現実でそうなってしまっている以上やはり現状を弁解するつもりはない。むしろ俺が望んでこんな関係になったんだから、ちゃんと責任は果たしてみせるさ。

 

 

「私も幸せの絶頂なのは間違いないんだけど、その中でも1つだけ不満があるの」

「不満?」

「うん。女の子の数が多すぎて、お兄ちゃんとエッチをする回数が少ないなぁってね」

「ぶっ!? な、何言ってんだお前!?」

「だって本当のことだもん。ただでさえμ's12人の頃も少なかったのに、今では30人以上がお兄ちゃんと結婚してる。そのせいで深刻なお兄ちゃん成分不足だよ」

 

 

 単純計算なら1日1人の女の子を相手にするとしても、全員分、つまり1週するのに1ヵ月以上費やすことになる。俺としては毎日欲求を満たすことができるのだが、女の子の方からしたら堪ったものではないだろう。特に楓のように性欲が強くほぼ毎日でも身体を重ねたいと思っている子からしてみれば、1ヵ月以上のスパンが空くのは死刑宣告に等しい。まあ逆に俺は体力的な意味で死刑宣告な訳だが、この問題はどうしよっかねぇ……。

 

 

「それはもう人数が多いのはどうしようもないから割り切ってもらうしか……」

「割り切れないよ!! 1ヵ月以上も待たされることになったら私、性欲に身体の隅々まで押し潰されて圧死しちゃうかもしれないから!!」

「そう言われても、俺の身体は1つしかないし……」

「だったらお兄ちゃんが1日で10人とヤるような気概を見せればいいんだよ。それだったら3、4日で1週できるし、みんなの不満もある程度は解消できるかもね。まあ私は毎日じゃないと満足できないけど」

「AV男優じゃないんだから、毎日10人とか冗談じゃねぇぞ。そんなローテーションでできるかっつうの」

 

 

 実は大学に入ってからこのローテーション問題はあったのだが、その時はμ'sの12人だけだったのでそこまで浮き彫りになっていなかった。でも今回は30人以上いるので訳が違う。今は全員のお腹が大きくなっているのでその問題を気にする必要はないが、第一子が誕生した後にヤりたい盛りの女の子たちが一挙に押し寄せてくる未来は容易に想像できる。その時にどう対処すればいいのか、今から考えておかないと性欲の権化となった女の子たちに肉便器にされちまうかも……。

 

 

「こんなことになったのはお兄ちゃんが選択した結果でしょ? ちゃんと責任は取ってもらわないとね」

「だから責任をもってみんなを愛してるだろ? そのぷっくり膨らんだお腹が何よりの証拠だ」

「えへへ、このお腹を見るたびに私の夢が叶ったって実感できてとても幸せな気分になるんだよ。でもだからかな、幸せでいると更にまたその上の幸せを求めちゃうんだよね」

「なるほど。だからエッチを毎日にしろって無理難題を押し付けてくるんだな、俺の体力も考慮せずに……」

「お兄ちゃんはやればできる子だからね。それに何事も諦めたらそこで試合終了だよ」

「諦めなかった末がテクノブレイクとか笑い話にもならねぇぞ……」

 

 

 現状に大満足しているけど、更にその上を行く幸福を味わいたいとは何とも我儘な考えだ。だが人間という生き物は同じ温度のお湯に浸かり続けることができないもの。いくら現状に満足をしていてもいつかは新しい別の刺激が欲しくなってくる。今はみんなが第一子をお腹に宿しているから安泰だけど、やはり子供が誕生した後に俺たちの新たな人生が始まるのだろう。その結果が女の子たちの性欲を受け止めきれずにテクノブレイクする、みたいなことにはならないで欲しいけど。

 

 

「お兄様! こちらにいらしたのですね!」

「こころ……?」

「おにーちゃん探したよぉ~! 広すぎる家も困り者だね」

「うぐっ、こ、ここあ……」

「こらっ、ここあ! いきなり抱き着いたらお兄様が困っちゃうでしょ!」

「だって朝からずっと宿題をしてたから、おにーちゃんが恋しくなっちゃって……」

「俺は別にいいよ。学生は元気が一番」

「親戚のおじさんみたいだね、お兄ちゃん……」

 

 

 朝から学校の宿題漬けになっていたこころとここあだったが、どうやら無事に全部片づけることができたみたいだ。こころは大学生に、ここあは高校生になったのでかつてのロリっ子の面影はない。ちなみにこころは母親と同じく美人に、ここあはにこと同じく可愛さに磨きが掛かっており、大学や高校でも人目を惹く魅力の持ち主となっているらしい。そんな子たちが俺の手元にいると思うとまた満足感に浸れそうだ。

 

 

「お兄ちゃんを見て飛びつきたくなる気持ちは分かるけど、あなたもお腹に赤ちゃんがいるんだから、下手に走り回って身体を刺激しちゃダメだよ? お兄ちゃんとの愛の結晶なんだからね」

「そ、そうだった……。うん、分かったよ楓おねーちゃん!」

「よろしい!」

「そうなんですよね。私たちもお兄様との子供をお腹に宿している。早く大学のお友達に自慢したいです」

「私も私も! 高校で"子供ができたよ"って自慢したい!」

「だってさお兄ちゃん。これは大変なことになりそうだねぇ♪」

「そ、そうだな……」

 

 

 実の妹を孕ませるのも倫理的にかなりマズいが、未成年の大学生と華の女子高生を孕ませている事実が俺のクズっぷりを如実に表しているな……。さっきの会話でお察しの通り、こころとここあのお腹にも新たな生命が胎動している。もはや俺と触れ合った女の子はみんな孕まされると思ってもらって間違いはないが、未成年にまで手を出しているという明らかな犯罪行為には未だに俺も危機感を抱くことがある。でもお互いに愛してしまったんだから仕方がないし、それにもう子作りをしてしまった以上目を背けることはできない。もちろん目を背ける気なんて更々なく、こころとここあの2人とは愛をしっかり確かめ合って告白をした。だからそこに後悔なんて微塵もないのだ。

 

 しかしまぁ、実の妹に思春期真っ盛りのJK、未成年の大学生と肉体関係を持った。その字面だけを見たら自分のことながらヤバいことをしてると思うよ。

 

 

「どうせみんなお兄ちゃんの赤ちゃんを産むんだったら、私が最初に欲しかったなぁ~。これだけ人数がいると、最初に生まれた子供って特別感があるでしょ?」

「そこまで拘ることかとは思うけど、特別感が出るって気持ちは分からなくもないな」

「だよね? このままだと最初に子供を授かるのが穂乃果先輩になってしまう……。何とか逆転の秘策を考えないと」

「お前が秘策とか言うと怖いんだよ。間違っても他の奴らの子供には手を出すなよ?」

「分かってるって!」

 

 

 さっき楓が言った通り、30人以上の妻の中で最初に子供が誕生するのは穂乃果となる。もう具体的に生まれるだろうと思われる時期が決定しており、秒読みに入っていると言っても過言ではない。つまりもう第二の人生は目と鼻の先まで迫っているということだ。となると、さっきのローテーション問題を本格的に解決しなければならないのでは……? 穂乃果に続いてことりやにこも近い時期に子供が生まれるらしいから、2人目が欲しいと迫られる前に何とかしねぇと。

 

 

「そういえば穂乃果さんのお子さんは男の子で、私を含めた皆さんのお子さんは女の子なんですよね?」

「あっ、それここあも昨日知ったんだけど、凄い確率だよねぇ~」

「お兄ちゃんはアブノーマルな性癖だからね。自分の娘にまで手を出そうと夢を見て、それが叶ったのかもしれないよ」

「ふざけんな! この際いくら変態と罵られてもいいけど、そこまでの外道じゃねぇ!」

「妹とか未成年とエッチした時点で最底辺の外道だよ」

「ほらおにーちゃん見て! ここあのお腹、こんなにもうこんなに膨らんじゃった♪」

「笑顔で見せつけるのやめて。罪悪感しか襲ってこないから……」

 

 

 ここあは無邪気な笑顔でふっくらと膨らんだ腹を俺に見せつけてくる。女子高校生は非常に多感な時期なので、お腹がこんなにも膨らんでいたら普通の女の子なら嫌悪するだろう。でも好きな人との愛の結晶なら平気なのか、ここあはそのお腹を隠すどころか周りに自慢しまくっているらしい。しかし彼女の友達はそれを聞いて羨ましがっているらしいから、今の高校生が何を考えているのかホントによく分からん。

 

 そして穂乃果の子供だけが男の子で、他のみんなの子供が女の子な件について、これから生まれてくる男の子の人生が波乱万丈だと今からでも悟れる。だって穂乃果の子供が誰の子供よりも先に生まれてくるってことは、つまり一番上のお兄ちゃんになる訳だ。つまりその子は妹を30人以上持つという、妹モノのゲームでもあり得ないシチュエーションでこれからの人生を歩むことになる。これはたくさんの妹に嫌気が差さないように、幼い頃からシスコンになるように育てておかないと。

 

 

「そうだ! 友達におにーちゃんの話をしたら、みんなが是非会ってみたいって言ってたから紹介してもいい?」

「それ、私の大学の友達にも言われました。お兄様に興味津々な子ばかりで、一度でいいからお会いしてみたいと」

「マジ……? ただでさえ30人以上と付き合ってるのに、これ以上増えたら身体がもたねぇぞ……」

「会う=付き合うと思っている時点で、お兄ちゃんも相当倫理観が壊れてるよね。ただ会ってみたいって言ってるだけなのに」

「あっ、そっか。これまで出会った女の子のほとんどがこの家にいるから、てっきり勘違いしてた」

 

 

 こうやって勘違いすると今の生活がどれだけ常識外れなのかが実感できる。こころとここあが友達を紹介したいと言った時に、俺はその友達と付き合ってこの家で暮らすところまで想像してしまったから、楓の言う通り俺には倫理というものが存在しないのだろう。まあそんなものが存在しているのなら何十股もしないし、1つ屋根の下で住まわせて女の子を侍らせることなんてしないからな。つまり高校2年生の時にμ's全員に告白した時点で倫理もクソもなかったってことだ。もう開き直ってるけどね。

 

 すると、隣に座っていた楓が俺の肩に頭を預けてきた。実妹という柵のせいで恋人になるまで様々な障害があったからこそ、幸せの絶頂にいる今にとことん浸っているのだろう。憧れだった俺の嫁になっただけでなく、愛の結晶まで宿すことができて心底嬉しいに違いない。普段は小悪魔的で強気な一面が多い彼女だけど、こういうところが可愛かったりするんだよな。

 

 

「ねぇ、お兄ちゃん。今、お兄ちゃんは幸せ?」

「どうした藪から棒に」

「ほら、お兄ちゃんってそういうことを口に出さない性格じゃん? みんながお兄ちゃんとの子供を身籠ってること、どう思ってるのか聞きたくて」

「愚問だな。どう思ってるも何も、俺が自ら望んだことだから後悔なんてしてねぇよ。それに俺は自分を好きになってくれた女の子をみんな笑顔にするって心に決めてるんだ。だからみんなが俺の子供を身籠って幸せそうにしていると、俺も嬉しくなってくるんだよ。だからお前たちが幸せなら、俺も幸せってことだ」

「そうだったね。お兄ちゃんはそういう人だった」

「私も幸せですよ。これからお兄様やお姉様、ここあや皆さんとずっと一緒にいられると思うと、楽しみで仕方ありません」

「おにーちゃんが幸せなら私も幸せになるし、私が幸せならおにーちゃんが幸せになる。幸せがどんどんおっきくなちゃうね!」

 

 

 ここまで付き合っている人数が多くても、俺は1人1人に対して愛を注ぐなど、やるべきことは十分に行えていると思っている。これまで何度も失敗してきたからこそ、周りにいる女の子たちが何人であろうが目を背けたりはしない。みんなの笑顔を守り、みんなを幸せにする。現実離れをした理想だけど、誰1人として涙が流れないって素晴らしいことじゃないか? それこそが俺の求めた理想であり、そして楓たちが俺の子を身籠ったことでその理想はもう現実に近くなっている。

 

 もう少しだ。俺との愛の結晶がこの世に顕現した時にこそ、女の子たちの幸福が絶頂になる。その時に彼女たちの笑顔を見ることができれば、俺の理想は完全なる現実へと変化するだろう。

 

 

 何もかもが自分の思い通りになった完璧なハッピーエンドは、もう目の前だ。

 

 




 改めて、『新日常』が連載3周年となりました!
 ここまで来られたのも皆さんの応援があってこそです! やっぱり1人で黙々と続けるのには限度がありますから、評価コメントや感想で皆さんの声を見ていると俄然やる気に繋がります! 1周年や2周年でも同じことを言ったような気がしますが、それだけ皆さんからの声が励みになっているということです。まだ最終回は先になりそうですが、この小説が終わるまで是非お付き合いいただければと思います。

 今回の話は、零君たちの物語の結末の1つにしか過ぎません。言ってしまえば今回の話の結末こそが究極系でありますが、本来は一応この小説にもストーリーというものがあるので、それによって結末にも制約が課せられたりします。まあハーレム小説を謳っている以上、大体どんな結末になるのかは想像できる方が多いと思いますが(笑)
実際に本編ではどんな結末になるのか、期待しつつお待ちください!

 それでは4年目もいつもと変わらず連載していくので、是非応援のほどよろしくお願いします!


 次回からはしばらく、μ'sとAqoursの合同合宿編に入ります。物語の主軸は虹ヶ咲だけではなく、Aqoursとの恋愛模様もあるってことは忘れていませんからね(笑)


まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


















読み返して改めて思ったけど、実の妹と高校生を孕ませてるって普通に犯罪じゃない……??


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

合同合宿はハーレム・ハネムーン!?

 今回からはμ'sとAqoursが全員集合する合同合宿編がスタートします!
 これまでとは違って1話にたくさんの女の子が登場するのでかなり賑やかになるかも……?


 

 遂に、μ'sとAqoursのみんなが待ちに待った合同合宿の初日を迎えた。ここ最近の練習ではどちらのグループも嘗てないほどのやる気を見せており、如何に今回の合宿を楽しみにしているかが伺えた。中には嬉しそうに水着を選んでいた奴もいるから遊ぶ気満々なのはもうお察しだが、今回の目的はもちろん練習。μ'sとAqoursはスクフェスでコラボライブをすることになっているから、その調整も兼ねた合同合宿なのだ。まあこれだけの大人数が集まると、自然とテンションが上がって浮かれちまうのは分からなくもないけどな。

 

 そんなことより俺が一番驚いているのは、秋葉までこの合宿に参加していることだ。アイツが参加するなんて微塵の噂すらも聞いてなかったし、それにμ'sもAqoursも誰もそのことを知らなかったのがまた不気味なところ。聞けば誰も秋葉には合宿のことを話していないらしいし、全くどこから聞いて湧いて出たのやら……。だが秋葉が来て助かったことが早速あり、元々新幹線で合宿先へ行く予定だったので交通費だけでそこそこ費用が掛かっていた。しかしアイツが俺たち全員を乗せられる大型車を用意して運転をしてくれることになったので、新幹線の費用分が丸々浮いたのだ。あんな姉でもたまには役に立つな、たまにはね。

 

 ちなみに秋葉と俺が最後に会ったのはアイツの研究室。つまりアイツに見事に言い包められ、感情的になった俺が思わず研究室を飛び出したっきりの再会って訳だ。そのため秋葉と顔を合わせるのは少々気が引けるのだが、今日の俺はあの時の俺ではない。アポなしでいきなり現れて何を企んでいるのかは知らないが、今度はお前のペースに巻き込まれない自信しかないぞ。

 

 そんな感じで悪魔の姉の登場に一同が驚きながらも、楽しい楽しい合同合宿の幕が上がった。

 現在は秋葉の運転する車に揺られながら、目的地に向かっている最中である。しかしそれも当初の出発時間よりも1時間以上遅れてのスタートとなった。実は車に乗り込む前に誰が誰の隣に座るか(主に俺の隣に誰が座るか)で大盛り上がりとなり、しかも誰もオレの隣を譲ろうとしない、つまり話が永遠に平行線で席順は全く決まらなかったのだ。結局抽選アプリで席順を決め、予定よりも大きく遅刻しての出発するという、なんともまあ波乱な幕開けで合宿が始まった。席順ごときでいちいち騒いでたら、この合宿中どれだけまともに練習をする時間が取れるか分かったもんじゃねぇな……。

 

 

「あら? もうお疲れ?」

「ただでさえμ'sの12人をまとめ上げるのも骨が折れるのに、Aqoursの連中も合わさったら骨が折れるどころか粉々になるぞ」

 

 

 抽選で俺の隣の席になった絵里が、まだ合宿場所に着いていないのも関わらず俺に労いの言葉をかけてくる。そう、何がともあれ早速労いの言葉を言われなければならないほどに席順騒動を収めるのが大変だったんだ。μ'sの12人だけでも騒がしいのに、Aqoursの9人もプラスされたらもはや飛行機の離陸音並みの騒音が周囲に放たれる。その中に果敢にも飛び込んで行き、場を落ち着かせた俺の雄姿を見せてやりたかったよ。まあ俺の隣に誰が座るかで小一時間争っていたから、火種は俺にあると言えば間違いではないのだが……どうしようもなくね??

 

 

「それにしても、Aqoursのみんなまであなたに興味津々で正直驚いてるわ。まだ出会って2ヵ月くらいなのに、もうここまで手を回しているなんてね」

「すまねぇな、俺が魅力的すぎて。俺の周りに女の子が多くても嫉妬すんなよ」

「いつにも増して自己顕示欲が高いわね……。そんな姿を見ているとたまにだけど、あなたのことを好きなった理由を見失いそうになるわ……」

「それじゃあ更に俺のことが好きになるように、身体と心に叩き込んでやるだけだよ」

「真顔でそんなことを言うなんて本当に疲れてるのね……。言ってることは強気なのに、声に全然覇気がないから。旅館に着くまでまだまだ時間もあるし、少し寝ておく?」

「心配どうも。でも車の中が騒がしくて寝られる気がしねぇ……」

「確かに。私たちが一番静かかも……」

 

 

 とっておきのキザセリフも絵里に難なくスルーされ、俺の言葉にキレがなかったことが如実になる。でも言葉に覇気が籠らないくらいにはそこそこ疲れてるってことだ。絵里の勧め通りに仮眠を取りたいのは山々だが、車内はライブ会場を彷彿とさせるほど騒がしい。グループ同士で初対面のメンバーもいるため、同じスクールアイドルや俺という共通点がある以上は話に花が咲かない訳がない。そのために四方八方あらゆる席から話し声が聞こえ、大型車と言っても20人以上が乗り込んでいる車内では人口密度も高いため割と騒音になる。そのためおちおち休むことすらもできないのだ。まあみんなが楽しそうならそれはそれでいいんだけどさ、開幕時点でこの疲労感だと初日でグロッキーになってしまうのでは……?

 

 

「そういや、俺の家に送られてきたスクフェスの招待状について、何か分かったか?」

「あぁ、そのことね。残念ながら手掛かりはゼロ。そもそも私の会社からあなたの家に招待状の送信記録が残ってないから、不正な招待状の可能性があるわ」

「でもμ'sへの招待状ってちゃんとスクフェス公式の印が押してあったし、他の招待状と見比べても偽物だと断定する方が難しかったんだろ?」

「そうなのよね。本当に一体誰が送ったのかしら……」

 

 

 何気にしれっとスクフェスへ参加をしているμ'sだが、本来なら招待されていないのだ。μ'sは4年前に解散しており、こうして再びグループを結成したのもスクフェスの招待状が届いたからだ。しかもスクールアイドル関連会社で働いている絵里の調べでは、その招待状はスクフェス公式から送られたものではないらしい。だったら誰が何の目的で、更にはμ'sのメンバーでもない俺の家に送られてきたのかが永遠の謎だ。秋葉や虹ヶ咲の謎もまだ残されてるけど、そっちの謎の方が明るみに出ているだけまだマシ。招待状の方はこれまで事の全貌どころか、何一つ事実が見えてこないからある意味で不気味だ。虹ヶ咲と何か関連があるのか、それとも全く別の問題が闇に潜んでいるのか……。

 

 ただでさえ秋葉の行動や虹ヶ咲の子たちとの過去が掴めないのに、これ以上問題を増やさないで欲しいよ。何の柵もなく女の子たちと日常を過ごせるのはいつになるのやら……。

 

 

「雲を掴むようなことをさせて悪いけど、もうちょっとだけ調べてくれないか? 別に緊急じゃないから、仕事の手が空いた時でいいよ」

「そうね、私も気になるし。それに希も調べてくれているから、スクフェスまでには成果を出してみせるわ」

「おっ、成果主義なんて流石エリートは違うな。聞いてるぞ、『絵里ちは超有能だから他の部署への支援依頼がたくさん来てる』って」

「それ言いふらしてるの希でしょ? 全く、いつまで経っても人の噂話とか好きなんだから……」

「いいんじゃねぇの、悪い噂じゃないんだし。それに自分の彼女が活躍してるって聞いて俺は嬉しいよ」

「もうっ、いつも急に褒めるんだから……」

 

 

 絵里は顔を少し赤くして、プイッとそっぽを向いた。クールそうに見えて割と恥ずかしがり屋なのが絵里の可愛いところだ。時にはSっ気を見せて他人をからかうこともあれば、こうして純粋に褒められたり弄られまくったりして恥ずかしがったりもする。本当にいいキャラしてるよなコイツ。そんな彼女を自分のモノにしたんだから、そりゃ俺も浮ついちまうよ。

 

 

「あっ、零君と絵里ちが車内でイチャついてる~!!」

「な゛っ、希!?」

 

 

 希は突然後ろの席からこちらに頭を乗り出して、わざとらしく大声であらぬことを広めやがった。さっきまで騒音のようにうるさかった車内は一変、俺たちより前にいる子たちも後ろにいる子たちも、みんな黙ったままこちらに目線を向けた。特に空気が張り詰めているとかそんな様子ではないが、みんなはただ単に俺と絵里が何をしているのか気になっているだけだろう。だがそんなに一斉に見つめられたら硬直するしかねぇっつうの。絵里は平静を保っているように見えるが、希の悪ふざけにオドオドしているのが表情で丸わかりだ。希とは長い付き合いで彼女の悪行には慣れているはずなのに、流石にAqoursもいるこの状況だといつもの平常心が保てないらしい。希は希で口角を上げてニヤついてやがるし、どうしてくれんだよこの静寂……。

 

 

「Oh! 先生ってば、車内でやるなら2人きりの時にenjoyして欲しいわ!」

「おい鞠莉、やるってなんだやるって……?」

「もう~分かってるくせに♪」

「違うよ鞠莉ちゃん! 零くんはそんなことしないよ!」

「ことりさん……?」

 

 

 おおっ、珍しくことりが卑猥な話にツッコミを入れている。こんなことを言うとことりに申し訳ないけど、あまりの珍百景に彼女が本当に"南ことり"なのかを疑っちまうな……。

 

 ことりは隣に座っている鞠莉を諭しながら、澄み切った顔で口を開く。

 

 

「零くんはね、あまり背徳的なプレイは好きじゃないんだよ。2人きりでやるなら車内よりも自室。しかも自分のベッド上がベストポジションなんだ」

「へ、へぇ……先生って意外とNormalだったのね」

「うるせぇな。意外とじゃなくて最初からノーマルだっつうの」

 

 

 だがこれには誰からの賛同や同調が得られず、常に俺の味方で神崎零マンセーの楓や亜里沙ですら微妙な顔をしていた。

 そして俺と絵里の席から通路を挟んで隣の席に座っている千歌、その前後に座っている梨子と曜が不審そうな目線を俺に突き刺してくる。そうだ、そういや教育実習の初日に、バス内で千歌に痴漢紛いなことをしてしまった事実をこいつらは知ってるんだった。いつかその事実を盾に俺を奴隷の如く言いなりにしてくると思っていたのだが、今がまさにその時なのかもしれない。千歌も梨子も曜も『は? 何言ってんのコイツ』と言わんばかりの軽蔑に近い空気を醸し出していた。

 

 俺は思わず彼女たちの方を向き、ヤンキー並みの眼を飛ばしてしまう。教え子になんて目線をするんだと思うかもしれないが疲れてるんだ、許してくれ。

 

 

「…………なんだよ?」

「べっつにぃ~。先生がノーマルだって言うから、ふ~んって思っただけです」

「先生ほどの偏屈趣向の持ち主が、自らの口で普通と言い張るなんて……」

「教育実習生とは思えない行動ばかりだったからねぇ……」

「お前らが言うなよ……」

 

 

 バスの中で脱いだり、薄い本趣味をバラされたくないから身体を触らせてきたり、スク水姿で迫ってきたりと、コイツらも人のことを言えないほど変態行動を起こしている。だからこの3人にだけには俺の悪行をネタに脅されたくはないってのが本音だ。もう喧嘩両成敗ってことでお互いに手を打っていいんじゃないかな。

 

 

「あぁもう解散解散! 全員自分の席に戻れ!!」

「そんな誤魔化さんでも……」

「誰のせいだと思ってんだ。俺はもう寝るからな!」

 

 

 このまま下手に注目を浴び続け変な目で見られるのは精神的に疲れるため、余計なことを考えるくらいなら寝た方がマシだ。さっきは車内が騒がしかったためとてもじゃないが寝られる状況じゃなかったが、幸か不幸か場の空気が一旦リセットされたから幾分かリラックスできる。普段の日常とは違って周りの女の子の数が半端ではなく、それこそ全員に構っていたら先にこっちが参ってしまう。現に車に乗り込む前と乗った後のどちらでも俺を中心として騒ぎが起きているため、合宿の幕引きまでに元気でいられる自信がないんだけど……。

 

 

 それからは車内の空気も落ち着き、もちろんあちこちから喋り声は聞こえるものの耳障りな音量ではなくなっていた。そして心身共にようやく休むことができたので、疲れが溜まっていたのも相まって割とすぐに眠気が襲ってくる。絵里に一言断ってから寝ようと思っていたのだが、眠気はあっという間に俺を支配してそんなことすら考えられなくなる。

 

 そして睡魔に抵抗できなくなった俺は、座っている体勢のまま上半身が絵里の方へと倒れだした。電車内でたまにある、横に座っている人が眠ってしまい、その頭が自分の身体に倒れてくる構図。今がまさにそんな状況だ。

 

 

「ちょっ、ちょっと零……」

「…………」

「もう寝ちゃったの? 私は別にこの体勢でもいいんだけど、こんなところを誰かに見られたらまた注目されるわよ……? って、言っても寝ちゃってるか」

「ん……」

「カッコいい人って、寝顔だけは可愛かったりするのよね。そのギャップのせいか、ずっと顔を見ていても飽きないっていうか――――って、えっ!?」

 

 

 俺の頭が絵里の肩からずり落ち、そのまま彼女の太ももにダイブする形で倒れ込む。しかしあまりの弾力と柔らかさからか、ずり落ちた衝撃で俺が目覚めることはなかった。さっきまで座りながら寝ていたのに今は身体が横になっているという意識はあったものの、絵里の膝枕が快適すぎてこちらから体勢を整え直そうとは思わなかったんだ。そもそも眠気に思考回路を占領されている俺は、そんなことを考える余裕すらない。ただただこの柔軟な枕で快適な睡眠を取ろうとしているだけだ。

 

 

「も、もうっ! いきなり倒れてきたらビックリするじゃない……」

「んっ……」

「全く……。でも、たまにはこういうのもいいかもね」

 

 

 眠気に襲われながらも、頭に温もりが伝わってきた。恐らく絵里が俺の頭をまるで赤ちゃんを寝かしつけるかの如く撫でているのだろう。重い瞼を僅かに開けてみると、目の前に母性しか感じられない絵里の微笑みが映る。その表情を見た俺は無意識に安心してしまい、そのまま瞼を閉じた。

 

 よくよく考えてみれば希とにこ、そして絵里は年上だったと久々に思い出す。5年前から敬称なしのタメ口で喋っているせいで、彼女たちが自分よりもお姉さんという事実をすっかり忘れてしまっていた。だからだろうか、こうして年上の女性に甘やかされると安心してしまうのは。こう言ってしまうと柄じゃないだろと文句を放たれるかもしれないが、絵里に頭を撫でられると甘えたくなってしまう。こうして心地よく寝られるのは膝枕が気持ちいからってのもあるけど、彼女の包容力こそが一番の要因だろう。

 

 

「こうして見ると弟ができたみたい。零が私の弟かぁ……いいかも♪」

「何がいいって?」

「そりゃ零が私の弟になって甘えてくれることが――――え゛っ? り、凛……!?」

「絵里ちゃん、零くんと随分と楽しそうなことをしてるにゃ……」

「ち、ちがっ! これは……!!」

 

 

 いつの間にか俺たちの席にやって来ていた凛に、また懲りずにイチャついていた光景を見られてしまった絵里。イチャついていると言うよりも俺が一方的に眠気に負けて倒れてしまっただけだが、恥ずかしい現場を見られてしまった以上は絵里にとってどちらにせよ同じ。凛の言葉に反応した女の子たちの目線が、またしても俺たちに集まった。さっきまで世間話に花を咲かせていた奴らも場が静まり返るほど俺たちに集中しているため、どれだけ俺に対して敏感なんだよって話だ。それだけ隣の席になりたかったとか……?

 

 

「絵里ちゃんズルい! 凛も零くんに膝枕してあげたいのに!」

「そんなことを言われても……。零が勝手に倒れてきただけで、私の意志じゃないのよ……」

「でも絵里さん、さっきから顔がニヤケっぱなしだったずら」

「ルビィも見てました。絵里さんとっても幸せそうで……」

「そ、そんなことないわ!? いきなり膝に頭が落ちてきたから驚いていただけで……って、どうして見てるのよ!?」

「零が不届きなことをしないよう、見張っているだけですから」

「海未……? 怒ってる?」

「いえ、怒ってませんけど」

「海未ちゃんも零君に膝枕してあげたいんだよねぇ~♪」

「穂乃果! 余計なことは言わなくていいです!!」

 

 

 また車内がうるさくなりやがったなオイ。あちこちから絵里を弄り倒すような声が聞こえてくるが、あの花丸やルビィが先輩に突っかかるとはなぁ……。それだけ嫉妬しているのか、それとも場の賑やかな雰囲気に便乗しているだけなのか。どちらにせよ俺としては安眠を邪魔しないで欲しいもんだ。

 

 

「ダイヤはさっきから羨ましそうな顔で絢瀬さんを見てたけどね」

「果南さん!? あらぬ事実は誤解を招くだけですわ!?」

「だったら真姫ちゃんや善子ちゃんも、ずっと小声で『零の隣が良かった』とか『先生はヨハネの眷属なのに』とか呟いてたよ」

「花陽!? それ本当!?」

「ヨハネの心を読み取れる人間がこの世にいたなんて……」

「あっ、やっぱりそうだったんだ。もしかしたらって思ってたんだけど、2人共零君のこと大好きなんだね♪」

「花陽ぉ~~!! あなたカマかけたのね!!」

「人間ごときがヨハネをからかおうなんて1憶年早いのよ!!」

「あはは、ゴメンゴメン」

 

 

 μ'sとAqours切ってのツンデレたちは、いつも通りそのツンデレ具合が絶好調のようで。しかも世界中で屈指の温厚と言われている果南と花陽にからかわれるとは、真姫とダイヤ、善子がどれだけ分かりやすく俺に気を取られていたのかが分かる。たかが隣の席になれなかっただけでそこまで気に病むことかと思わなくはないが、彼女たちの気持ちはそんなに軽いものではないのだろう。ここまで求められると嬉しくなってくる反面、やはりこの合宿中に求められすぎてグロッキーになってしまう可能性があるのが怖い。そういった意味ではバスの中の席で絵里と隣同士になったのは、ある意味で安全で安心だったのかもしれない。

 

 

「にこも零の隣の席になりたかったけど、あの騒ぎの中に飛び込むのは些か勇気がいるわね……」

「じっとしておいた方がいいと思いますよ。零君、なんだか寝苦しそうですし」

「雪穂は行かないの?」

「私は別にいいですよ。それに合宿は3日もあるんですから、零君と隣の席になるならないことくらいで躍起になる必要はないですね」

「ホントにドライというかクールというか、アンタっていつも達観してるわよね」

「皆さんが子供なだけですよ」

「容赦なさすぎ!」

 

 

 いくらにこでもμ'sとAqoursが同時に騒ぎ出しているこの状況を見ると自ら身を引きたくなるようだ。

 そして雪穂はいつもと変わらず、どっしりと構えて騒ぎに乗じたりはしない。その冷静沈着さを崩さない毅然とした態度こそ高坂雪穂であり、恐らくこの合宿で数少ない常識人として活躍してくれることだろう。むしろ常識人を増やして俺を楽にさせてくれないと、もう1人でバカンスに出かけちゃうからな?

 

 

「私も零くんに膝枕してあげたいなぁ~。楓はいいよね、いつでもそのチャンスがあって」

「亜里沙だったらお兄ちゃんに甘えればやらせてもらえると思うよ? ほら、お兄ちゃんって亜里沙だけには砂糖吐き出すくらい甘いし」

「それじゃあ今晩、零くんに部屋に行ってやらせてもらおう!」

「それはμ'sの先輩やAqoursの子たちがまた暴れ出しちゃうかも……。ていうか、これ合宿なんだよね? もうみんな、お兄ちゃんとのハネムーンにしか見えないんだけど……」

 

 

 もはやスクフェスでの合同ライブのことなんて微塵も覚えていないだろうμ'sとAqoursのメンバーたち。こんな調子で大暴れしている連中がまともな練習できるのか……? そもそも俺はこの21人の女の子+秋葉をまとめ上げられる自信がないのだが……。悪いことは言わないからみんなもっと落ち着いてくれ。

 

 すると、運転席から秋葉がこちらを振り返ってにんまりとしていた。

 

 

「いやぁ、相変わらずモッテモテでお熱いことで!」

「うるせぇ……」

 

 

 疲労と眠気で何も考えたくなかった俺はありきたりな暴言を吐き、今度こそ本当に夢の世界へと旅立った。

 

 

 本当に無事にこの合宿を切り抜けられるのだろうか……?

 合宿の幕は、まだ上がったばかりだ。

 




 全員集合が目的のはずだったのに、いつの間にか絵里メインの回になっていたような気がしなくもない……() 
もちろん全員を均等に出すのは難しいので、全員集合がメインの合宿編であってもスポットを当てるキャラは絞っていきたいと思います。ていうか、そうでもしないと登場キャラが多すぎて執筆する私が大変になるので(笑)

 ちなみに今回はμ's12人+Aqours9人+秋葉さんの出番をどこかで1回以上作ってみました。1回も喋っていない子はいない……ですよね??

 そんな感じで次回以降からしばらくは合同合宿編となります。そこまで話数を肥大化させるつもりはないのですが、せっかくの全員集合がメインなのでこれまでできなかったネタをガンガン放出していきますよ!


新たに☆10評価をくださった

櫻屋さん

ありがとうございます!

まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

愛する人は同性愛者!?

合同合宿編、2話目
今回は前回以上にとてつもなく賑やかで騒がしい回だったり……


 μ'sとAqoursの合同合宿は、やはりと言うべきか波乱の幕開けとなった。たかが数時間の移動なのに俺の隣に誰が座るかで1時間以上も揉めたり、車内でも絵里が俺を膝枕したくらいで大騒ぎしたりとやたらみんなのテンションが高い。それだけ合宿を楽しみにしているのならそれはそれでいいのだが、スタートダッシュの速度を見誤って合宿の後半で失速しないかだけが心配だ。中には練習よりもみんなと一緒に遊ぶことに重きを置いている奴もいるから、そこのところはμ'sとAqoursで結託して練習時間を取ってもらいたい。逆にそこで2グループの統率が取れなければ、コラボライブでお互いの息を合わせることは到底できないだろうから。つまりあれだ、いつまでも俺を頼っていてはダメってことだよ。まぁ席順や膝枕ごときで逐一騒いでいる様子を見ると、お互いが結束する時はまだまだ遠そうだけどな……。

 

 そんな感じで波乱でもあり不安な幕開けとなった合宿だが、長かった車の旅も終わり遂に俺たちの泊まる旅館へと辿り着いた。朝っぱらから騒ぎ倒すアイツらを静めるために躍起になっていたせいか早速疲労が溜まっていたのだが、車の中で寝たのも相まって今ではかなり楽になっている。それに部屋割りは1人だけ男ってことで俺だけ豪華に1人部屋。ここへ来る前はこれだけ大人数の合宿なのに1人は寂しいだろうなぁと思っていたのだが、朝からあの騒ぎを体験した今なら分かる。1人きりでリラックスできる空間があって本当に良かったと。別にアイツらと一緒の部屋がイヤな訳じゃないけど、やっぱプライベートの時間は欲しいじゃんってことだ。

 

 

「景色も綺麗だし、奮発して高い宿を取った甲斐があったな。アイツらには頑張ってもらうとして、俺はバカンス気分で海を満喫すっか」

「だね! 早速着替えて遊びに行こうよ!」

「おい、目的が合同練習だってことを忘れんなよ――――って、ん? どうしてお前がいるんだよ千歌!?」

「えへへ、お邪魔してま~す!」

 

 

 あれ? 確か部屋の鍵をかけておいたはずなんだけど、どうして千歌がここにいるんだ……? 虹ヶ咲の近江彼方といい、俺の周りの女の子って全員ピッキング技術を身に着けてんのか?? ヤンデレちゃんじゃないんだし、そんな犯罪技術をこんな幼気な女の子たちが会得するはずが……ないよね? 真実を知るのが怖いので、ここは敢えてスルーしておこう。

 

 

「こんなところで油を売ってていいのか? 荷物の整理しないと部屋のメンバーに怒られるぞ」

「私の部屋のメンバーは善子ちゃんと凛さん、亜里沙さんなので大丈夫です!」

「子供っぽいメンツばかり集まってんな……」

「むっ、もう高校2年生で身も心も成長している乙女なんですから、子供じゃありません!」

「嘘つけ。お前が唯一大人なのは、その出るところは出てる胸だけだろ」

「も、もうっ! 何を言い出すんですか急に!!」

 

 

 千歌は腕で胸を抑え、顔を染めながら騒ぐ。先に身も心もとか言い出したのはそっちの方なんだけどなぁ……。でもこういうのってセクハラとして大抵男が罪を被せられる傾向にあるから、もう余計に会話を続けない方が無難だろう。それに自分から脱いで俺に生乳を見せつけてきた過去があるのに、今更恥ずかしがるってどういうことだよ……。やっぱり思春期女子の考えてることが世界で一番分かんねぇわ。

 

 

「そういえば、先生も練習に参加されるんですか? 先生のダンスってカッコよくてとても参考になるので、この合宿中でも披露して欲しいなぁ~って」

「残念ながらパス。ケツが痛いからな」

「お、おしり……? お怪我がでもされたんですか?」

「あぁ、おかま掘られちゃってさ」

「お、おおお……おか……!!」

「2日前なのにまだ治ってねぇんだよ。下手に刺激すると痛いのなんのって――――ん? 千歌?」

 

 

 千歌は瞳孔を不規則に揺らし、身体も小刻みに震えている。それでもなお俺を見つめたまま目を逸らさないが、顔が妙に青くなってもいた。もしかして怖がってる……? でもさっきの話の中に1つも怖い要素なんて存在してないと思うんだけど、どうして?

 

 すると千歌は勢いよく立ち上がり、前髪で表情を隠したまま俺に背を向ける。

 そして、何の言葉も発さず俺の部屋から出て行ってしまった。

 

 そんなにビビるような話だったか……? いつものナチュラルにデリカシーのないことを言う癖が発動したのかと思ったのだが、思い返してみても特にそんな発言をした記憶はない。俺に言いにくいってことはトイレか生理? どちらにせよ、部屋の扉くらいは閉めて帰って欲しいものだ。

 

 

「急に現れたと思ったら何も言わずに帰りやがって、何しに来たんだよアイツ……」

 

 

 とにかくこれから早速練習が始まるので、着替えてビーチに集合しなければならない。スクールアイドルじゃない俺は着替える必要なんてないのだが、せっかく海に来たんだったらバカンス気分を味わいたいものだ。汗水を垂らすのは女の子たちの役目だから、俺はそんな濡れ濡れの女の子たちをビーチパラソルの下で寝転がって拝むとしよう。いやぁ~我ながらいいご身分だよホントに。朝っぱらからみんなの爆上げテンションを抑え込んで疲れてるから、それくらいのご褒美があってもいいだろ?

 

 そんなこんなで適当に水着に着替えようとした瞬間、廊下を忙しなく走る足音が聞こえた。

 やがてその足音は俺の部屋の前で止まると、間髪入れずに部屋のドアが叩きつけられたかのように勢いよく開く。何事かと思い入口を見てみると、そこには息を切らして膝に手を着くことりがいた。

 

 ことりはさっきの千歌以上に表情が慌ただしく、手を震わせながらこちらに近づいてきた。

 

 

「な、なんだよ……」

「零くん……そ、そんな……そんなことないよね!?」

「は……? だからなんだよ」

「千歌ちゃんから聞いたよ!! いつの間に男の子好きになっちゃったの!?」

「はぁ?」

 

 

 俺が男の子好きだと? そんなことがあるはずないだろ。女の子の笑顔、仕草、身体、その他諸々、俺は女性の全てが大好きなのだ。それに俺がたくさんの女の子に手を出してるってコイツも分かってんのに、どこをどう見たらそんな勘違いができるんだよ……。

 

 ちなみにさっきから部屋の外で千歌がチラチラとこちらの様子を伺っているのだが、そのオドオドした様子を見ていると、どうやらこの部屋に入りたくても入れないらしい。勝手に俺を同性愛者だと思い込んで勝手にショックを受けやがって、しかもよりにもよってことりまで引っ張り出してくるなんて面倒なことをしてくれたもんだ。

 

 

「こ、こうなったら……零くんを再び女の子好きに更生させてみせます!!」

「いや、だからな……って、おい!? いきなり服を脱ぐな!!」

「零くんに女の子を教え込むためには、女の子の身体を触らせてあげるのが一番だから! ほら、いくらでも好きなように触って!!」

「マ、マジ!? い、いやだから違うって……」

 

 

 あの南ことりに身体を好きにしてもいいと言われて渋ったら、自分は同性愛者だから女に興味はありませんと言ってるようなものだ。だけどコイツの場合、安易に身体を触ってしまうと彼女の思う壺のような気がする。だって今は俺を更生させようと奮闘してくれている心優しい子にしか見えないが、その実、中身は淫乱バードと呼ばれている痴女だ。もしかして千歌の騒ぎに乗じたのも、合法的に身体を触らせるためとか普通に考えられる。それくらいコイツは策士であり腹黒いのだ。

 

 

「千歌ちゃん? 先生の部屋の前で何をしてるの……?」

「梨子ちゃん! せ、先生が……先生が……」

「もうっ、一体なんなのよ……え゛っ!? な゛っ、なにしてるんですか昼間から男女でそんな……!!」

「梨子!? これは事情があってだな――――って、どうしてお前はまだ脱ごうとしてんだよ!?」

「だって脱がないと触れないでしょ? もしかして着衣プレイが良かった?」

「どっちでもいいわ!!」

 

 

 誤解が誤解を生み、連鎖することで解消できないほどの重みとなって俺に伸し掛かってくる。千歌とことりは何故か俺を同性愛者と罵り、梨子は昼間から旅館で男女の情事に励んでいると思われている。朝から疲労が溜まっていたからようやく1人部屋で休めると思ったのに、部屋に入って数分でこの騒ぎだよ。やっぱりコイツらと一緒にいると心が休まる瞬間が全然ねぇな……。

 

 

「ねぇ千歌ちゃん、先生と南さんどうしちゃったの……?」

「どうもこうもないよ。いきなり先生が男性好きなんて言い出すんだもん、ビックリしちゃった」

「だ、男性好き!? それって本当なの……?」

「だって先生言ってたもん。オカマに掘られてお尻が痛いって」

「な゛ぁ……!? そ、それって紛うことなきBL!? ちょっといいかも……」

「えっ、今なんて?」

「うぅん! 何でもないのよ何でも! あはは……」

 

 

 何やら千歌と梨子が部屋の入り口でこそこそ喋ってるが、ことりの脱衣行為を止めるのに必死で会話が耳に入って来なかった。とりあえずあらぬ誤解が梨子にまで感染しているのは確かで、これまで以上に面倒な展開になるのも確実だ。しかも梨子の奴、またスケベな妄想してるな……。アイツが百合モノやBLモノの同人が好きだって知ってるからこそ、アイツの現を抜かしている緩んだ表情を見ると察してしまう。こんなのがAqoursの作曲担当だって信じられるか……?

 

 

「零くん! 観念してことりの身体を隅々まで触りなさい!!」

「発言が痴女すぎんだろ!? つうか何を観念すりゃいいのか分かんねぇって!!」

「そ、そこまで拒否するなんて……!? やっぱり零くんは同性好きだったんだ……!!」

「この世の終わりみたいな顔すんなよ……」

 

 

 ことりはシャツとスカートをちょい脱ぎ、つまり半裸のままショックを受け棒立ちする。勝手に人の部屋に押しかけ勝手に服を脱ぎ、勝手にショックを受けるとはもう意味分からん。そもそも何故俺が同性愛に目覚めたって噂になってんだ……? 千歌が俺の部屋を出て行った後にその噂が芽生えたから、原因は千歌にあるんだろうけど……。

 

 するとその時、あまりに騒がしくしていたためか海未が俺の部屋に顔を覗かせた。

 部屋の外には固唾を飲んで強張った顔をしてる千歌に、妙な妄想をしているだろう梨子、そして中には半裸で硬直していることり。そんな様子をド真面目な海未が見たら当然――――

 

 

「隣の部屋がやたら騒がしいと思ったら、昼間から何をしているのですかあなたは!!」

「だ~か~ら! どうしていつも俺が悪いみたいな展開になるんだよ! 勝手に乗り込んで来て勝手に脱いでんのはコイツだから!!」

「まぁことりならやり兼ねませんが……」

 

 

 あの海未ですら納得してしまうほど、如何にことりがいつも奇行に走っているのかが分かってもらえるだろう。何か騒ぎがあるといつも俺のせいにされるのは納得いかないが、ことりが絡んでいるとみんな彼女が発端だと察してくれる。俺への矛先が別方向に向いてくれるのは嬉しいが、周りの子たちが抱くことりの認識が日々酷くなっているのは気のせいじゃないだろう。しかも幼馴染の穂乃果と海未にさえ淫乱バードであると認識されてるくらいだからな、もう完治不能の病気だよ。

 

 

「ほら、ことり。このあと練習があるのですから、部屋に戻って着替えてください」

「海未ちゃん……」

「なんです?」

「零くんが男の子好きになっちゃったんだよ!? このままだとことりたち捨てられちゃうのに、よく練習なんてできるよね!?」

「れ、零が男の子好き!? なるほど、変態を拗らせ過ぎてとうとう……」

「なぁその『いつかはやると思ってました』みたいな顔。犯罪者の知人インタビューじゃねぇんだから……」

「先生が男性に攻められて、調教された……? そんな同人誌みたいな展開が本当に!?」

「梨子、お前いつにも増して妄想が激しすぎるぞ……」

 

 

 梨子と言えばAqoursの数少ない清涼剤であり、彼女が常識人から失脚したらAqoursのキチガイ度が跳ね上がってしまう。だが今の彼女を見てみると、Aqoursのキチガイ度を底上げしているのは間違いなくコイツだ。俺の周りの女の子に本当の常識人はおらず、みんな何かしら突出した性格を持っているのは間違いない。だが突出しているからと言ってキチガイな訳ではなく、その性格を制御できてさえいれば常識人の枠には留まり続けることができるんだ。つまりいつもの梨子はその枠内に留まっているが、今のアイツは自身の妄想癖に脳を支配された哀れな変態少女なのである。

 

 なんかこうして見ると、海未の次に千歌がまともな奴ってのが物凄く違和感じゃないか? Aqours内で騒ぎを起こす発端No.1の千歌がここまで霞んで見えるなんて、今回の合宿は何かが違うぞ。もしかしたらいつもとは違うみんなの一面を見られるかもしれない。まあ梨子のこんな一面を見て嬉しいかと言われたら微妙だけどさ……。

 

 

「海未ちゃんは驚かないの? 零くんが同性愛者になっちゃったんだよ!?」

「零が偏屈趣味なのは昔からですから特には。それよりも早く練習を――――」

「海未ちゃん!!」

「何ですかさっきから騒々しい!」

「こうなったら海未ちゃんも裸になって、零くんに女の子を教えてあげるしかないよ! やっぱり日本の女性と言ったら和! つまり和風女子の筆頭である海未ちゃんが肌を晒せば完璧だね♪」

「何が完璧ですか何が!! っていうか、服から手を放しなさい!!」

「これも零くんに女の子の魅力を知ってもらうため……。そうだ、千歌ちゃんと梨子ちゃんも脱いで!?」

「「はぁ!?!?」」

「和風少女もいいけど、女子高生のピチピチお肌も零くんに効果的だと思うから!」

「こ、これが話題になってる先輩からの無茶ぶりってやつかな……? 大人の社会は怖いよ……」

 

 

 ことりの暴走に巻き込まれた千歌と梨子は、淫乱鳥の恐怖におびえ自分の身体に腕回して服を死守する。その間にもことりは海未の服に手をかけ、何故か慣れた手付きで少しずつだが脱がし始めていた。そのせいで海未まで半裸状態になり、しかも暴れているせいか2人共さっきから下着がちらちらと見えている。これは止めた方がいいのか、それとも役得だと思ってこの光景を堪能した方がいいのか。

 

 

「ひ、ひとまず落ち着きましょう!! この騒動のきっかけはやはりことりですか?」

「ことりはただいつもの零くんを取り戻したかっただけで……」

「そもそも最初に騒いでたのは千歌ちゃんじゃなかったっけ?」

「そりゃ驚いちゃうよ! だって先生がオカマの人とあんなことを……」

「ちょっと待て。まずどうして俺がゲイみたいに言われてんだ……?」

 

 

 ホモネタは好きじゃないので発言自体を控えていたのだが、もしかして俺の言葉の端々にそう感じさせてしまうような発言があったのだろうか……? いや、そりゃねぇだろ。だって俺の心はいつも女の子と共にあるんだから。女の子を愛で、女の子を弄り、女の子を(性的に)食べ、女の子を愛する。ほら、これだけ女の子を大切にしている俺が男好きだなんてある訳がない。

 

 それにどうして千歌はオカマなんて根も葉もないことを――――ん? もしかして……!!

 

 

「おい千歌」

「はい?」

「お前まさか、オカマ掘るって言葉を聞いて俺をホモ野郎と思ったんじゃないか?」

「えっ……まさかの自覚アリ!? これは重傷ですよ!!」

「違うわ! おかま掘るってのは車で後ろから追突されたってことだよ!!」

「えぇっ!? だったらおしりが痛いと言っていたのは……」

「追突された衝撃でケツを痛めたんだよ察しろ」

 

 

 これでようやく、俺が同性愛者だという事実無根の謎が解けた。さっきも言った通り、『おかま掘る』とは車で追突されることである。でも確かに言葉の意味を知らなければ俺がおかまにケツを掘られたと思われても仕方がないかも。更に言ってしまえば『おかま掘る』って言葉は関西圏での方言みたいなものであり、関東圏方面の人間であるμ'sやAqoursのメンバーが知らなくても不思議ではない。関西に住んでいたことがある希がいれば、こんなに騒ぎになることなく場を終息させられただろうにな……。

 

 ちなみに俺も最近テレビでその言葉を知ったので早速使ってみたのだが、やっぱり意味が通じない言葉をそう安々と使うもんじゃねぇわ。危うく恋人や恋人候補たちの前でホモ認定されるところだった……。

 

 

「つまり、千歌ちゃんの勘違いだったってことね。全く人騒がせな……」

「し、仕方ないじゃん意味が分からなかったんだから!!」

「それもそうですね。高海さんだけを攻める訳にはいきません。零、いつも言っていますが、言動には気を付けてください」

「今回の件で身に染みて実感したよ。男にとっては一番イヤな勘違いのされ方だからな……」

 

 

 BLなどの同性愛を否定するつもりはもちろんないが、俺は至ってノーマルなので改めて誤解なさらぬよう。高校時代なんて四六時中、女の子の制服の奥を妄想し、この子はどんな下着を着けているのかなど色々妄想に耽っていたくらいだ。つまり俺の脳内妄想にはAVかの如く女の子たちの卑しい描写が流れている。まあそれはそれで同性愛関係なくヤバい奴なのかもしれないけど、それはそれこれはこれ。俺が女の子好きだと再認識してくれればそれでいい。

 

 

「でも良かったぁ~! 零くんがおしりを掘られて悦ぶ豚さんじゃなくって!」

「ひでぇ言い方だなそれも……。まあそういうことだから、もう脱がなくてもいいぞ」

「えぇっ!? だったらこの火照った身体はどうしてくれるの!?」

「知るか! 騒いでいたせいで暑くなってるだけだろ!!」

「ほら、海未ちゃんだって火照った身体に耐えきれなくなって脱いでるし!」

「あなたが脱がせたのでしょう!? どうして私が自分から脱いだことになっているのですか!?」

「いやぁ、あまりにも脱がしやすかったから、もしかして自分でもちょっと脱いだのかなぁと思って♪」

「あなたじゃあるまいし、そんな破廉恥なことはしません!!」

 

 

 誤解を解いたことで騒ぎが収まるかと思ったら、ここでまさかの延長戦。自分で脱いで勝手に身体が火照り、更には幼馴染を巻き込んでこの笑顔である。もうね、疲れたのを通り越して逆に清々しくなってきたわ。ことりの荒行には慣れっこだが、いくら慣れてもこのテンションには絶対に絡まれたくはない。千歌と梨子も何となく察しているようで、自分たちに矛先が向けられないよう存在を消していた。

 

 

「μ'sの皆さんって、キャラ濃いですよね。さすがレジェンドスクールアイドルです」

「Aqoursで集まった時も大抵騒がしいけど、これは前途多難な合宿になりそうですね……」

「分かってもらえて何よりだよ……」

 

 

 朝から続く俺の苦労を理解してもらえる子がいて、とりあえずは安心かな。

 でもお気づきだろうか? これ、まだ練習すら始まってないからまだ合宿のスタートラインなんだよ。途中で精神疲労でぶっ倒れず、生きて帰れるのか俺は……。

 

 




久々にことりと海未の絡みを書きましたが、ボケとツッコミの観点で言えばえげつないほどに完璧なコンビですね(笑) 今回はそこに千歌と梨子という新しいエッセンスも加わったのですが、皆さんはこのテンションについて行けたでしょうか? ちなみに私は執筆品がらも置いてけぼりをくらいました(笑) やっぱりこのキャラのことりが大好きなんです、私!

 次回はようやく合同練習に入る予定。
 前回と今回がμ'sメンバーがメインだったので、次はAqoursメンバーの誰かを主体にしようと思います。

まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

水着を失った人魚姫

合同合宿編、3話目
今回はAqoursの果南がメイン!


 

「海だぁああああああああああああああああああ!!」

 

 

 穂乃果や千歌たちは目の前に広がる雄大なマリンブルーに興奮し、駆け足で海へ向かう。穂乃果たちに便乗して一緒に遊ぼうとする者、そのテンションについて行けず呆れる者、砂浜にビーチパラソルを立てゆっくりしようとする者など、μ'sとAqoursのメンバーは多種多様な反応を見せていた。俺たち以外にもたくさんの観光客がおり、穂乃果たちの盛り上がりはビーチの賑やかな雰囲気に拍車をかけている。だからこの場においては、海に来ているのにも関わらずテンションが上がってない奴の方が珍しいだろう。

 

 それもそのはず、元々の予定として、旅館に着いて荷物を整えたら真っ先に練習をするはずだったのだ。でも穂乃果や千歌を始めとした俗に言うおバカさんグループが、海で遊びたい欲求を発散してからでないと練習に集中できないとか抜かしやがった。それを聞いた海未やダイヤはいつもの如く頭を抱えていたのだが、良くも悪くもいつも通りなので怒るどころか見慣れた展開に呆れるしかなかったようだ。現に車の中でも海で何をして遊ぶかで話題が持ちきりで、練習の話はこれっぽちも出ていなかったのは記憶に新しい。そして結局おバカさんたちの勢いに抗えず、みんなで一服がてら遊ぶことにしたのだ。俺の言った通り、どうせまともになんて練習しなかっただろ? 分かり切ってんだよ、コイツらの行動パターンなんてな。

 

 まあ俺は練習にすら参加しないただの付き添いなので、やることとしてはパラソルの下で寝転がってアイツらの様子を眺めるだけの簡単なお仕事だ。穂乃果たちが練習をしようが遊ぼうが俺の役目は変わらないのだが、羽目を外して気が緩んでる女の子のあられもない姿を拝める可能性があるってのは遊んでいる最中だけ。しかもμ'sの恋人でありAqoursの顧問でもある俺は、彼女たちを監視する義務がある。つまり、合法的にみんなを視姦できるってことだ。レジェンドスクールアイドルのμ'sと現在話題沸騰中のAqoursのあんな姿やこんな姿を、この瞳にまとめて映すことができる男は世界でただ1人、俺だけの特権である。そう考えるとずっと遊んでいていいよ、お前ら。

 

 そんな訳でみんなには俺の目に卑しく映ってもらうとして、俺はゆっくり休ませてもらうか。なんせ朝からずっとアイツらの騒ぎに巻き込まれていたので、そろそろ休息の時間が欲しいんだ。ただでさえ車の中での一件や『おかま掘る』騒動に巻き込まれたせいで体力を削られたため、今回こそはバカンス気分でリラックスすると決めた。もしかしたらこの合同合宿を合宿ではなく旅行だと一番思っているのは俺なのかもしれないな……。

 

 

 パラソルの下で寝転びながらそんなことを考えていると、スタイルの良い赤髪ツリ目の女の子が隣に腰を下ろしてきた。

 

 

「顔が疲れてるわよ。朝からどれだけ騒ぎ倒してたんだか……」

「真姫……。疲れたのはお前らのせいだろ」

「私を一緒にしないで。それにさっき、あなたの声も私たちの部屋まで聞こえてたから人のこと言えないんじゃない? 相当うるさかったわよ、あなたも」

「だからあれは千歌が勝手に勘違いした挙句にことりが暴走して、海未がツッコミに精を入れ過ぎるからいけないのであってだな……」

「どちらにせよ、私たちにとってうるさいのは変わりないけどね。それにμ'sやAqoursの品位が下がるかもしれないから、あまり目立つことはしないで欲しいわ」

「相変わらず容赦ねぇなお前……」

 

 

 いつも通り言葉を刃物にして突き刺してくる真姫だが、厳しく諭してくるのもμ'sとAqoursの今後を考えてのことなので反論はできない。でも旅館での一件は自分も騒がしさに加担していたとしても、車の中での一件は全面的に被害者だからな俺。まぁ、もう過ぎたことだし過去を振り返るのはやめよう。誰が一番騒がしかったとか、そんなことを追及したところで俺の体力が回復する訳じゃない。だったらリラックスしながら笑顔で海を満喫している女の子たちを視姦していた方がよっぽど有意義だ。

 

 

 真姫が本を読み始め場が静かになったところで、俺はビーチに女の子の姿が1人見えないことに気が付く。

 浅瀬で水を掛け合ったりして遊んでいる者、砂浜でビーチバレーをしたりお城を作っている者など、さっきまで全員の姿を捉えていたのだが、真姫との会話を終えて確認すると1人だけ姿が見えなくなっていた。

 

 辺りを見回してみると、割とあっさり姿の消えた女の子を発見することができた。青い髪の長いポニーテールが特徴の女の子――――果南が腕を組みながら、岩場の方へと歩いていく。やがてその奥に入ってしまったため、パラソルの下からでは彼女の姿を確認することが不可能になってしまった。

 

 アイツ、1人でどこへ行こうとしてんだ……? さっき海で泳いでいる姿は目撃したのだが、真姫と会話をしている最中に何かあったのだろうか?

 も、もしかして、アニメや漫画でよくありがちな鬱陶しいナンパに誘われたとか!? それともエロ同人にありがちな、浜辺の岩場に連れ込まれてそのまま強姦される展開とか……!? 

 

 

 …………うん、ちょっと考えたけどそれはねぇわ。だって相手はあの気の強い松浦果南だ。ナンパをするような適当な男に図太いアイツが靡くはずがない。

 そうだとしたら、一体あんなところに何の用事があるってんだ?

 

 仕方ない、ちょっくら確かめてやろう。

 

 

「真姫、ちょっと果南の様子を見てくるから」

「松浦さん……? 何かあったの?」

「それを今から確かめに行くんだよ」

「そう。行ってらっしゃい」

 

 

 真姫は本から目を離さず、適当に手だけを振る。見様によれば"あっちいけしっし"の動作に見えなくもないので若干イラっと来るが、まあコミュ障の真姫だから仕方ないと割り切ってやるか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そこは大きな岩で囲まれた、入江のような空洞だった。とは言っても日が全く当たらない涼しい場所ではなく、むしろ方角的に昼間だと太陽光が直射する暖かい場所だ。地面は砂場ではなく足首が海水に浸かる程度に溜まっており、波はそこそこ緩やか。ちなみにみんながいる浜辺からは綺麗に死角となっていて、向こうからこちらの姿を確認することはまずできない。つまり、エロ同人でチャラ男が幼気な女性を誘い込む場所としては絶好のスポットって訳だ。

 

 もちろん果南に限ってそんなことはなく、岩場に顔を覗かせるとすぐに彼女が1人でいるところを確認できた。何やら挙動不審な様子だが、こんな辺鄙なところで何をしてんだアイツ……?

 

 

「おい果南」

「ひゃっ!? せ、先生!? どうしてこんなところに……」

「それはこっちのセリフだ。コソコソと人気のないとこに入りやがって、心配するだろ」

「ご、ゴメンなさい……」

 

 

 いつもはどんな状況であろうが凛然とした態度を見せる果南だが、今の彼女は引っ込み思案の花陽やルビィのような弱々しさを見せている。背が高くてスタイルも良く、Aqoursのお姉さんポジションとして君臨している彼女が、こんなに挙動不審なのは極めて珍しい。しかも俺の登場に相当驚いているみたいで、本人は気付いてないだろうが徐々に後退りして俺との距離を稼いでいた。俺に対して警戒心を抱くことは何回かあっただろうが、男女としての仲が進展してきたこの状況でも尚ここまで引かれるとは、また何かやっちゃったかなぁ……?

 

 しかし、その不安は果南の身体を見てすぐに払拭された。

 なんとコイツ――――――水着の上を着けてない!! さっきからずっと腕を組んだままだと思っていたのだが、腕を組むにしては胸部の位置に腕があると怪しんでいた。そこで彼女の身体をよく観察してみたところ、背中に水着の紐がないことに気付いたのだ。そこから導き出される答えは小学生でも分かるだろう。そう、果南は野外で上半身が真っ裸だったのだ!!

 

 

「お前、いくら合宿でテンションが上がってるからって脱衣プレイは男の目に悪いぞ」

「な、何のことですか……?」

「惚けんな。水着はどうした? 海に来て開放的な気持ちになるのは分かるけど、まさかお前もことりたちと同類だったとはな……」

「違います!! そんな痴女みたいなことする訳ないじゃないですか!!」

「でも現にしてるじゃん」

「これは訳ありであって、先生の言う猥褻行為ではありませんから……」

 

 

 果南は俺に上半身裸なことがバレてしまったためか、顔を真っ赤にしながらこちらに背を向ける。だが背中を見せびらかされると水着紐がないことが丸分かりなため、下手に隠すよりよっぽど扇情的だ。しかもそんな綺麗な背中を見せつけられると、イヤでも彼女の上半身裸姿の妄想が浮かび上がってしまう。日々のトレーニングで程よく引き締まったスタイルも相まって、胸を腕で隠しているその姿はアダルト系雑誌の表紙を飾っても違和感がないくらいだ。果南が胸を隠せば隠そうとするほど彼女自身が艶やかに見えるので、墓穴を掘るとはまさにこのことだろう。

 

 

「なんつうかまぁ……エロいな」

「直球すぎません……? はぁ~どうしてよりにもよって先生に見つかっちゃうかなぁ……」

「何があったんだ? プレイの一貫じゃなかったら、他に理由があるんだろ?」

 

 

 潔い性格も果南の良い点であり、俺に見つかっても下手に騒いだりせず早急に諦めをつけている。騒いだところで現状は変わらないし、どうやら上の水着を着けていないのは訳アリらしいので、今はその問題の解決に着手したいのだろう。性格も思考も大人だけど、やっぱり胸を腕で押さえながら顔を赤くしている様子を見るとこちらは彼女から目を離せない。果南は冷静になろうとしているのに、こっちは性欲に囚われた哀れな猿。全く、どっちが大人なんだか……。

 

 

「さっき、普通に海で泳いでたんですよ。千歌たちが楽しそうにビーチバレーをしている様子を見ながらゆったりと」

「知ってる。その時はパラソルの下で見てたから」

「わざわざ観察してたんですか……ま、それはいっか。それで泳いでいたら、突然強い波が押し寄せてきたんです。海には慣れてるんでその程度の波なら平気だろうと思っていたら……」

「巻き込まれて上の水着が流されちまったのか。そして波の動き的に、この岩場に流れ着いた可能性があると」

「はい……」

「いくらなんでも紐が緩すぎだろ……。女の子の水着事情なんて知らないけどさ」

 

 

 まるでラブコメアニメのような展開だが、現に目の前でその事象が起こると割と対応に困ってしまう。スケベ主人公なら神が与えてくれたシチュエーションに反応してここで女の子に飛び掛かるんだろうが、一応だけど紳士で通っている俺はそんな低俗なことなんてしない。まあ果南の珍しくも扇情的な格好に興味をそそられてはいるが……。

 

 とにかく、水着を見つけ出さないことにはこの岩場から出られない。千歌たちに見つかるのならまだしも、さっきも言った通り他のお客さんたちも大勢いるのだ。その中にはもちろん男性客もいるから、こんな姿の果南を男たちの目に晒す訳にいかない。ここは大っぴらに動かず、さっさと彼女の水着を見つけ出した方が良さそうだな。

 

 

「分かった、俺も一緒に探してやるよ。お前のそんな姿、誰にも見せたくないしな」

「せ、先生……」

「なんだよ、その鳩が豆鉄砲を食ったような顔は……」

「いや、意外とお優しんだなぁと思いまして。もっとこう、色々なことをされるものとばかり……」

「なるほど、お前はそういうプレイがお望みってことか。野外で上半身裸になるような奴は性癖も特殊だな」

「ち・が・い・ま・す! 久々に見直してあげたのに、先生はやっぱり先生ですね」

「なんだよそれ……」

 

 

 褒められているのか馬鹿にされているのか、いや流石に褒められてはないか。しかしこれでも溢れる欲求を相当抑え込んでおり、性欲が湯水のようだった高校時代の俺だったら今頃果南は海水に浸りながら押し倒されていただろう。これでも女の子の身体はμ'sで見慣れてるから、上半身が裸なくらいでいちいち欲求が暴走したりはしないってことだよ。

 

 暴走はしてないけど興味は持ってるだろって?

 そんなのは男としてなら当たり前だ。だって目の前に恥じらいながら胸を隠してる裸の少女がいるんだぞ? それで女の子の身体に興味津々にならない方がおかしいじゃん。興味という好奇心を抱くのに、大人だろうが先生だろうが関係ない。闇雲に女の子を襲ったりとか無様な真似はしないけど、やってもいいと言われたらすぐに動き出せる体勢にあるのは間違いなかった。

 

 

 水着を探してやるよとは言ったが、辺りを見回しても彼女の青い水着はどこにもない。あんな薄い布切れ1枚なので、もしかしたら俺たちが見落としているだけなのかもしれないが……とにかく、波の動き的にもっと沖の方を調べた方が良さそうだな。幸いにも波はあるが激しくはないので、そこまで時間も経ってない今なら果てしなく遠くに流されてしまったってことはないだろう。

 

 

「おい果南。もう少し沖の方を調べてくるから、お前はここで待ってろ」

「私も行きます」

「へ? そんな格好で?」

「こんな格好だからですよ。裸の状態で1人でいる方が緊張しますし、それに……」

「それに?」

「先生が他の人の目から、私を守ってくれるんですよね? 誰にも見せたくないって言ってたじゃないですか」

 

 

 果南はちょっと恥ずかしそうにして俺を諭した。端的に言えば自分の側にいて欲しいと告白染みたセリフなので、発言に少々羞恥心を感じているのだろう。自分の水着が流された恥ずかしい状況だからこそ、頼れる人が近くにいるのは心強いんだと思う。彼女は感受性が豊かな方ではないが、現状を乗り切るために勇気を振り絞って俺を頼ってくれるんだったら応えてやるしかないよな。

 

 

「分かった。一緒に探すのはいいけど、俺の側から離れんじゃねぇぞ。沖に出ればみんながいるところからでもこっちの姿を確認できるから、俺の身体で自分の身体が隠れるようなポジションを維持しろ。そうすりゃ何も着てないってバレることはねぇから」

「はい、ありがとうございます」

 

 

 果南の表情はさっきまで緊張と羞恥で少々張り詰めていたが、俺の言葉を聞いた途端に落ち着きを取り戻した。

 そして心にも多少なりと余裕が出てきたのか、躊躇いもなく俺に近づいてくる。この場所で出会った時は会話しながら俺と距離を置こうとしていたのに、心境の変化が故のこの変わり様。

 

 しかしもちろんだが、果南の姿はさっきまでと同様に胸を腕で隠した上半身裸のままだ。しかもこうして近づいて見ると、彼女が上に何も纏っていないことがより鮮明になる。更に果南の胸のサイズはその細い腕で完全に収まりきるような大きさではなく、隣にいる彼女の胸元に目線を落とせば胸の谷間の深さがよく分かる。しかもちょっとでも腕を動かせばその動きに合わせて胸のカタチも自由自在に変形するので、触ってもいないのに彼女の胸の柔らかさが実感できた。カッコいいセリフで守ってやるとか言ったけど、こんな光景を見せつけられたら今にもコイツを押し倒してしまいそうだ……。

 

 

 果南を連れ、岩場で囲まれたところから少し沖に出た。沖に出れば出るほどもちろん地面が深くなっていき、やがて海水が腰が浸かる位置まで移動した。千歌たちの楽しそうな声が聞こえることから、さっきの場所と比べれば確実に見つかりやすい位置に移動している。誰かに協力を仰ぐ選択肢もなくはないのだが、あまりこの状況を見られたくないってのも本音だ。だってさ、今日だけでもどれだけの騒ぎに巻き込まれたと思う? バスの席で騒ぎ、膝枕で騒ぎ、人を同性愛者だと思い込んで騒ぎ――――そう、もうこれ以上騒ぎには巻き込まれたくないんだ。そして海でテンションが爆上げしているアイツらに上半身裸の果南と一緒にいる状況を見られでもしたら、弁解を奴らの耳に入れる前にまた騒ぎが広がってしまうだろう。もうね、そうなったら俺は精神疲労でこの合宿中は旅館でずっと寝てるから。そうならないためにも、極秘にできることなら極秘裏に事を進めた方が安全だ。俺のSAN値的な意味でもな……。

 

 

「しかし腰まで水に浸かってると、お前とうとう何も着けてないように見えるな。上も下も」

「な、なに言ってるんですか!? 余計なことは考えず、早く水着を探してください」

「でも水で下半身が見えないせいで全裸に見えちゃうんだよ」

「そう見えるならちゃんと私を守ってくださいよ……」

「分かってる分かってる。だからあまり騒ぐな」

 

 

 あまり騒ぐと誰かに見つかってしまう可能性があることくらいはもちろん認識している。でも俺が一番危惧しているのは、果南が身体を動かすたびに艶めかしい肢体が日光に照らされてより魅惑的に見えることだ。ほぼ密着状態でそんな姿を見せられたら俺がどんな愚行に走ってしまうのか、もはや自分でも想像できない。こんな状況であっても自分の欲求をここまで抑えれるようになったことに、己の成長をしみじみと感じるよ。

 

 

 するとその時だった。さっきまでゆったりとしていた波が、僅かに勢いづいていることに気付く。この現象はさっき果南が話していた、水着を失う直前に押し寄せていた波の強さに似ている。しかし、もしかしたらと察した時には時すでに遅し。俺たちの身体を飲み込むほどの巨大な波がこちらに押し寄せてきていた。完全に油断をしていた俺たちは回避行動を取ることもできず、その場で腕を使って無駄な防御をすることしかできなかった。その際に果南は胸から腕を離したため、外界に曝け出された双丘がぷるんと揺れる光景を目にしたのだが、その刹那に波に巻き込まれたため本当に一瞬の出来事だった。

 

 

「うわぁあああああっ!?」

「きゃあっ!?」

 

 

 そこまで大きい波ではなかったものの、成人男性の身体を飲み込むくらいだから威力はそこそこのもの。なんとか悪戯な波の攻撃をしのぎ切り、全身がびしょびしょに濡れながらも果南が隣で無事であることを確認する。コイツにとっては1日で2回も波に襲われたんだから不幸中の不幸だろう。普段はダイビングを嗜む人魚姫だからてっきり海に愛されているものとばかり思っていたのだが、ここの海はどうやらスタイルの良い女の子が大好きらしい。大海原にも性欲はあったってことか、うんうん。

 

 適当な冗談で適当に感心していると、またしても果南の様子がおかしいことに気が付く。俺の言葉で平静を取り戻したはずなのに、今度は一体何があったってんだよ……。

 

 

「水浸しになったのに顔赤くなってるぞ? どうした?」

「い、いや、な、流されちゃって……」

「流されたって、水着は第一波でもう流されてるだろ」

「違いますよ。そ、その……もう1つ……」

「おいまさか――――下の水着も!?」

 

 

 果南は顔を真っ赤にしながら小さく頷く。

 ということは、今の果南の格好って……つまりそういうこと!?

 

 

 水着を失った人魚姫。だが彼女の受難はまだまだこれからだということを、俺たちはまだ知らない――――――

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 何気に女の子をほぼ全裸状態で出演させるのはこれまでにあまりなく、久々に女の子の肌色の肢体を鮮明に描いた気がします。その久々の被害者が果南であり、しかも話のネタもエロ方面ではなくてギャグ方面なのは彼女に申し訳ないなぁ~と思ったり思わなかったり(笑)
でもAqoursで一番水着が似合うのは彼女で、その水着を脱がせたいと思っちゃうのは男の性なので許してください!

 次回は果南と、ついでに零君の受難編!
 もう零君を休ませてあげたいのですが、これがハーレム主人公のお仕事なので仕方ないですね(笑) ちなみに他のμ'sやAqoursのメンバーもちゃんと登場しますよ!

まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

生まれたばかりの人魚姫

合同合宿編、4話目
これまでの中でも果南が最強に可愛い回だと自負します!()


※ちょっとした告知があるので、ぜひ後書きまでお読みください!


 神様なんてオカルト的な要素は一切信じていないけど、この瞬間だけはスケベな神様が自然を操っているとしか思えないほどだった。海に波を立たせて女の子を飲み込み、水着だけを綺麗に引き剥がす巧みな手口。まるで痴漢常習犯のような手付きの良さは、もう神様が海を操っているとしか思えない。悪戯で変態な神様に意地悪をされ、果南は上下どちらの水着も引っぺがされ丸裸の状態になっていた。

 

 右腕で胸を、左手で股を覆って隠しているが、さっきも言ったけど隠せば隠すほど隠れている部分の妄想が捗って余計扇情的に見える。幸いにも腰から下は海に浸かっているので簡単に見られることはないのが彼女にとって救いか。でも透明な海水が日光に照らされ透き通っているため、頑張れば俺の目からでも彼女の下半身を直視できる。果南もそれが分かっているからこそ、必死で自分の下半身を隠しているのだ。海が綺麗なことにここまで恨みを抱くのはこの地球上でたった1人、果南だけだろう。

 

 

「これでもう言い逃れできないほど痴女になっちまったな……」

「ど、どうしてこんなことに……」

「変態な海もいたもんだ。とにかくここから離れたいんだけど、動けるか?」

「動けないことはないですけど、あまり大きく動くと見えちゃいそうなので、ゆっくり歩かせてください……」

 

 

 波の動き的に水着が流されたのであれば、さっき俺たちがいた岩場の陰あたりが怪しいだろう。そう思って果南を誘導しようとしたのだが、案の定と言うべきか全裸状態でまともに歩くことすらも難しそうだ。かといってその場で立ち尽くしていても状況は変わらないどころか、千歌たちが探しにやって来たら更に面倒なことになる。そうなる前に水着を見つけ出して、何食わぬ顔でアイツらのところへ戻らないとな。

 

 

「身体を隠さなきゃいけないのは分かるけど、そんな体勢だったら歩きにくいだろ?」

「先生がこっちを見ないと誓ってくれるのならちゃんと歩けますけどね」

「保証するとは言い難い、俺も男だからな」

「そこは保証してくださいよ! どうしてここで裏切るような真似をするんですか!?」

「分かった分かった。だったらせめて上だけを隠して下は隠すな。海水に浸かって見えにくいから、隠す必要もないだろ」

「さっきの岩場って海水が足首までしかないんですよ? それなのに隠すなって言いますか……?」

「バレたか」

「どうしてここで意地悪するんですか!? ええっ!?」

 

 

 いかん、果南が本気でキレそうだ……。別に意地悪をしているつもりはないのだが、やはり男の性として隙があれば彼女の生まれたままの姿を見てみたいとは思っている。もちろん彼女の不安を煽るような真似はしたくないから、弄るのも節度を守ってだけどな。

 

 とにかく、果南を真っ裸のまま遮るものもない空間に立たせてはおけないので、俺の身体で自分の身体を隠しながらちょっとずつ岩場に歩を進める。さっきまでいた沖は腰まで海水に浸かっていたが、岩場に近づくたびに水かさが徐々に下がっていく。そうなれば段々と果南の脹脛(ふくらはぎ)、そして太ももと露になっていき、遂に下半身を手で隠している様子までもが外界に曝け出された。

 

 あの手を払いのければ、彼女の大切なところが丸見えになる。そう思うと切羽詰まった状況にも関わらず、俺の悪戯心がくすぐられてしまう。果南は右腕で胸を、左手で下半身を必死に隠しているが、その邪魔をしたら一体どんな反応をするのか気になってならない。そんな所業に出れば彼女からの信頼はガタ落ちだろうが、俺の中では妙な好奇心が湧きたっていた。

 

 

「先生、また良からぬことを考えてますよね……?」

「ぶっ!! な、なんのことだ!?」

「はぁ……。先生がエッチなことを考えている時って、雰囲気で分かっちゃうんですよね」

「えっ、俺ってそんなに分かりやすいの? しかも雰囲気って……」

「はい。私だけじゃなくて、千歌たちもそうだと言ってましたから」

「お前ら、人がいないところでどんな会話してんだよ……」

「話を逸らさないでくれます? 事故ならまだしも、故意にこちらを見ないでと言ってるんです」

 

 

 果南はジト目になりながら俺を強く諭す。この状況で一番深刻な被害に遭っているのは彼女なのに、何故か俺よりも彼女の方が強気である。元々気の強い彼女だからこそ全裸の羞恥心を紛らわすだけのフェイクとは思えず、これではどちらが心身共に追い詰められてんのか分かったもんじゃねぇな……。

 

 急に転換した立場に戸惑いながらも、果南を岩場へ誘導させることができた。一応これでビーチ側から俺たちの姿を捉えることはできず、誰かに果南の全裸を見られる心配もない。まぁ、こんな辺鄙なところに来る奴がいなければの話だが、海に来てテンションが上がっている奴らがわざわざこんな辛気臭い場所に来る訳がないだろう。俺はみんなが海で楽しんでいる間に、果南の身体をたっぷりと――――じゃなくて、彼女の水着を見つけ出さないと。

 

 そして幸いにも、水着の下だけはすぐに発見できた。十数メートル先の岩の上に、果南の青い水着が打ち上げられているのがここから確認できる。遠目では本当にあれが果南の水着なのか、それともただのゴミなのかは判別しにくいが、さっき彼女が着けていた水着は鮮やかなマリンブルーだったので遠くからでも彼女のものだと確証が持てた。果南の全裸姿を拝めなくなるのは残念だけど、彼女の置かれている状況を考えたら水着を取ってきてやるのが何よりも先決。最悪上の水着は見つからなくとも、下の水着さえあれば女の子として本当に大事なところだけは隠せるだろう。

 

 俺は果南は岩の陰に待機させ、打ち上げられた水着の元へと歩を進める。

 

 

 その時だった。

 

 

 

「あれ? 果南ちゃんどこ行ったんだろ……?」

「さっき零がこの辺りにいるって言ってたけど、姿が見えないわね」

 

 

 な、なにっ!? こんな辺鄙なところに誰も来ないだろうって言ったばかりなのに、まさかのフラグ回収!? まだ果南は生まれたままの状態だから、今誰かに見つかってはマズい……!!

 

 聞こえたのは曜と真姫の声。会話の内容から、どうやら果南を探しにここへやって来たようだ。いきなり行方不明になって心配するのは分かるけど、どうせなら遊ぶことに熱中して俺たちのことはスルーして欲しかった。今は岩陰に隠れているため曜と真姫が俺たちに気付くことはないだろうけど、逆に言えばここからちょっとでも動けば彼女たちに見つかってしまう。波の音が静かなせいで下手に大きな声を出せば存在がバレてしまうので、声を殺して彼女たちが去るのを待つしかない。ここに俺たちはいないと思って早急に立ち去ってもらえると助かるのだが……。

 

 

「せ、先生……」

「しっ、声を出すな」

「で、でも、この体勢は……」

「体勢……? あっ……!」

 

 

 咄嗟に真姫たちに見つからないよう隠れたためか、俺は果南は岩陰に座らせ、自分が彼女に覆いかぶさるような体勢となっていた。しかもお互いに見つめ合える絶好のポジション。更に果南は上下に何も着用していない、いわゆる全裸姿。辛うじて腕と手で胸と下半身は隠しているものの、傍から見れば女の子の服を引っぺがして襲い掛かっている性犯罪者にしか見えない。離れてやろうと思ったのだが、なるべくお互いに身を寄せて縮こまっていないと真姫と曜から俺たちの姿が確認できてしまうかもしれない。声の大きさ的にそこそこ近くにいることは確かなので、無理な体勢であろうともこのポジションを崩す訳にはいかなかった。

 

 当の本人は今日一番の顔の赤さを見せている。果南の中で羞恥心が爆発しそうなのは、火が出そうな表情を見ればすぐに分かった。きゅっと唇を噛みながら伏目になり、もう全身から恥じらいの色が漏れている。普段の果南はサバサバとした性格でありつつ、どんな時でも非常に落ち着いているが、今の彼女からはそんな大人っぽい態度は一切感じられない。むしろ女子高校生として年相応の反応を見せ、頬に朱を注いでいた。

 

 

「おかしいわね。零がこっちの方に歩いて行くのを見たんだけど……」

「う~ん、果南ちゃんもいなくなっちゃうし先生もいなくなっちゃうとは……。も、もしかしてこれって!?」

「何か思い当たることでもあるの?」

「い、いやぁなんでもないですなんでも!!」

「どうして顔が赤くなってるのよ……」

 

 

 曜の奴、絶対に俺たちがこっそりしっぽりとしていると勝手に勘違いしたな……。出会った頃のAqoursはまだ純粋な少女だったのに、どうしてこうなったのやら。でも曜だけは最初から割とこんな感じだった気がする。出会って間もない頃に、スク水姿で堂々と密着してきたことがあったからさ。思春期真っ盛りの女子高生が、男性教師にそんな真似は普通はしねぇって。

 

 そんなことよりも、真姫と曜は素直にこの場を立ち去るつもりはないらしい。2人は俺たちがこの辺りにいると信じてならないようで、もし本格的にここを探されたら見つかるのは必死だ。全裸の女の子に覆い被さっているこんな光景、発見されでもしたらμ'sとAqoursの両方からどんな仕打ちを受けるのか想像したくもない。

 

 果南には悪いけど、ちょっと荒療治に出るか。

 

 

「きゃっ……んんっ!!」

「悪い。でもここは耐えてくれ」

 

 

 俺は声を上げそうになった果南の口を手で塞ぐ。そりゃいきなり密着されたら誰でもビビるわな……。でもこれは果南の身体を触りたいとか堪能したいとか、そんな邪な考えは少ししかない。ちょっとでも密着して身体を縮こませないと真姫と曜に見つかる恐れがあるからだ。だから対面で彼女に覆い被さっていた俺の身体を降ろして、身体同士の隙間がない完全密着状態を作り上げた。

 

 もちろんこの体勢だと、果南の胸の全てが俺の身体に伝わってくる。男の水着姿なので当然上半身は裸、そして果南は全裸。俺が覆い被さった反動で彼女は腕の防壁を思わず解いてしまったので、俺の胸板が彼女の年相応以上の胸を押し潰しているのだ。果南は人生で初めて男に生の胸の感触を味わせたのだろう、さっきよりも恥辱で全身が真っ赤になっていた。

 

 

 そして一言、感想いいかな?

 

 

 果南の胸、すげぇ柔らかい……。

 女の子の胸なんてこれまで幾度となく触ってきたけど、やっぱりこの感触はいつ味わっても飽きることがない。やはり"おっぱい"というものは母性を感じるものであり、性的興奮を感じながらも安心感も同時に伝わってくる。さっさとこんな切羽詰まった状況からおさらばしたいのは山々だが、あともう少しだけこの密着状態を満喫したい欲もあった。

 

 

「ひゃっ……!」

「おい、声を出すなって」

「そんなことを言われても仕方ないじゃないですか……!!」

 

 

 そりゃそうだ。だって俺の胸板で自分の胸が押し潰されているんだから、ちょっとでもこちらが動けばその刺激はダイレクトに胸に伝わる。女の子が胸を弄られてどれだけの刺激を感じるのかは知らないが、乳首を手のひらで転がされているような感覚だろうから身体に電流が走ったように感じるのは間違いないだろう。俺の呼吸が荒くなればなるほど胸板が動くので、そのたびに果南は乳首から伝わってくる刺激に耐えなければならない。もはや彼女にとっては一種の拷問プレイに近かった。

 

 このまま声を出し続けられてしまうと、探しに来た真姫と曜に見つかってしまう。探すとなれば今よりももっと俺たちの方へ近づいてくるはずなので、今までバレなかったような小さな声であっても気付かれる可能性は高い。もはや呼吸音ですら消したいところだったが、俺自身も果南と胸と胸で密着し合っているこの状況に少なからず興奮してしまって息が荒い。果南のことを心配するよりも先に、自分の精神状態を静めた方がいいのかもしれないな……。

 

 

 すると、また真姫と曜の会話が耳に入ってきた。

 

 

「全く、勝手にいなくなるなんて子供じゃないんだから……」

「あはは……。でも先生と果南ちゃんに限ってそんなことはないと思いますけど。何か理由があるんですよ」

「理由って?」

「そ、それはぁ……誰もいないところで2人きりになって……ううっ」

「また顔、赤くなってるし……」

 

 

 曜の奴、相当重症じゃねぇかオイ。千歌と梨子もそうだったけど、Aqoursの2年生組は妄想豊かな奴が多い。まあ妄想なんだから何を想像してもらっても害はないんだけど、Aqours2年組の場合は妄想が顔に出てるからなぁ……。

 

 そしてその妄想はまさにニアピンで、故意にこんな状況になった訳ではないものの、誰もいないところで2人きりで密着し合っているから当たらずとも遠からずである。しかも2人の声の大きさ的にこちらに近付いてきていることは明白だから、いよいよその妄想が現実になろうとしていた。

 

 このままだと2人共見つかってしまう。

 そうならないためにも、ここで俺が取る行動は――――――

 

 

「果南」

「はい……?」

「今から俺がどんな行動を取っても絶対に声を出すな。死ぬ気で我慢しろ」

「へ……? それってどういう……」

「いいから。安心しろ、お前の羞恥心をこれ以上煽ったりはしない。言っただろ、守ってやるからって」

「そう、ですか……。分かりました」

 

 

 果南も覚悟を決めたようで、さっきまで火照っていた顔も落ち着きを取り戻す。ここで気概を奮い立たせてくれなかったらどうしようかと思ったが、そこは松浦果南の性で意志を強く持ってくれると信じていた。

 

 この作戦が失敗すれば人生が終わ…………りはしないが、μ'sとAqoursに何をされるのか分からない恐怖に怯えることになる。

 だったらここは1つ、賭けに出てみるものいいだろう。

 

 

 俺は無謀にも、岩陰から自分の頭だけを外に突き出す。

 すると狙い通り、その数メートル先に真姫と曜が辺りをキョロキョロしながら歩いていた。俺が2人に気付くのと同時に、2人も俺に気付いたようだ。

 ちなみに果南は『この人、一体何をやってるの!?』と言わんばかりの驚愕の表情をしている。さっきまで必死に隠れていた奴が、まさか自分から存在を明かすとは想像もしていなかったのだろう。まあこれも作戦だから、俺に任せておけって。

 

 

「あっ、先生! やっぱりここにいた!」

「あのね、私たちがどれだけ探したと思ってるの? そもそもこんなところで何をやってるのよ?」

「ちょっとストップストップ! これ以上は近づかないでくれ!!」

「はぁ?」

「いやね、さっき沖の方に入ったら強い波が押し寄せてきちゃって、その弾みで水着が流されたんだよ」

「み、水着が!? それじゃあ、今は何も着けていないってことですか!?」

「まあそうなるな。だから不用意に俺に近付けば、男の全裸姿を拝む羽目になるぞ?」

「だ、だれがあなたのそんな姿なんて……!! それに、波で水着が流されるなんてどれだけ間抜けなのよ……」

「は、はは……。変態な神様もいたもんだな」

 

 

 よしっ、真姫も曜も恥ずかしがってこっちには近づいて来ない。そして俺は顔だけを岩陰から出しているおかげで、本当に俺が全裸なのかそうでないのかは向こうから判別は不可能。更に俺に意識を集中させているせいで、岩陰に果南が隠れているなんて思いもしないだろう。言ってしまえば真姫と曜がもう少し移動すれば果南の姿を捉えることができるのだが、彼女の存在がギリギリバレない絶好の位置に2人がいるため好都合だった。そこだけはどうしても賭けだったけど、やはり俺は奇跡に恵まれているみたいだ。

 

 

「ねぇ先生、果南ちゃんはどこにいるんですか? てっきり一緒にいると思ったんですけど……」

「果南ならいなかったぞ。アイツのことだからもう戻ってるんじゃないか?」

「そっかぁ……。それにしても、先生はこのあとどうするんですか?」

「そのことなんだけど、パラソルの下から俺のカバンを持ってきて欲しいんだ。そこに替えの水着も入ってるからさ」

「分かったわ。すぐに持ってきてあげるから、あなたはそこから動かないように。裸でウロウロされたらこっちが恥ずかしいんだから」

「んな恥ずかしいことする訳ねぇだろ……。それじゃあ頼んだ」

「了解であります!」

 

 

 曜はピシッと敬礼し、真姫と共にこの場を立ち去る。

 そして俺と果南は緊張の糸が解けたためか、一瞬で全身の力が抜けた。

 

 

「ふぅ、なんとかなったな……」

「本当ですね。見つからなくて良かった……」

「下の水着はあそこに岩に打ち上げられてるし、俺のカバンにはパーカーが入ってるからそれを使えば何とかなるだろ」

「結局上の水着は見つからずですか……。まあ着られるものがあるだけマシですね」

 

 

 だが、その時またしても事件が起こる。

 俺はさっきまで果南に覆い被さりながら顔だけを岩陰から突き出していたせいで、かなり無理な体勢と取っていた。その体勢で緊張の糸が切れ力が抜けると、自分の身体が思うように制御できなくなるくらいによろけてしまう。そのせいか、俺の上半身はふらふらしていた。その刹那、自分の顔が果南の方へ――――言い換えれば、彼女の胸の方へと倒れ込んだ。

 

 

「うぶっ!!」

「ひゃぁっ!!」

 

 

 何度も言うようだが果南は全裸なため、当然胸も丸出し。その生乳に顔が勢いよくダイブしたのだ。しかも2つの果実の谷間にすっぽりと。成人男性の顔を綺麗に埋めることができるとはいい谷間をしていると感心しながらも、同時に驚きで何が起こったのか理解するので精一杯だった。

 

 

「せ、先生……!!」

「う、ぐっ……!!」

 

 

 柔らかいなんてものじゃなかった。久々に女の子の胸に顔を埋めたけど、やはりこの柔軟さは言葉で伝えきれない感覚がある。どんな心地良い枕でも、このおっぱい枕に勝てる柔軟さはないだろう。元々狭い空間で果南は身体を縮こませていたためか、胸の谷間に厚みができており、もはや顔ズリに近い状態となっていた。えげつないほどの気持ち良さに、ここが野外だということも忘れ彼女の胸に没頭していた。

 

 そして、俺の頭が優しく包まれる。

 少し目線を上げて確認すると、なんと果南が俺の頭を腕で包み込んでくれていたのだ。てっきりすぐ引き剥がされるものとばかり思っていたので、彼女の行動には驚きしかなかった。

 

 

「か、果南?」

「お礼です。最初は意地悪もされましたが、いざという時は私を守ってくれた。自分が馬鹿にされるのも承知で、自分の水着が流されたと嘘までついて。本当に、ありがとうございます」

「別にいいよ。守ってやるって約束を果たしたまでだ」

「先生……。好きになった男性が先生で、本当に良かったです」

 

 

 果南はより一層強く俺の頭を包み込む。そうなればもちろん俺は彼女の胸の谷間の感触を更に味わえる訳だが、今は性的興奮よりも彼女の心からの感謝に胸を暖かくしていた。果南のハグは凄まじいほど心が落ち着くと千歌から聞いたことはあったが、まさかこんなところで体験できるなんてな。そして千歌の言う通り、これでもかというくらいの母性が伝わってきた。こりゃAqoursのお姉さんでありオカンと言われる訳だ。

 

 

 しばらくして、俺は果南の胸から顔を上げる。果南は胸を隠すことはなくそのまま曝け出しているので、胸の先端から何まで全てが丸見えだ。胸だけではなく下も隠していないが、女の子座りで自然と綺麗に隠れているので大切なところだけはちゃんと守られている。

 

 そんな生まれたままの人魚姫にちょっぴり欲情を抱きながらも、俺は果南の頭を優しく撫でた。

 すると果南の顔は先程までの羞恥の赤ではない、じんわりとした桃色に近い赤に染まった。

 

 

「お前も頑張ったな。強引な作戦だったけど、協力してくれありがとう」

「そ、そんなお礼を言われるほどでは! むしろ先生だからこそ、信用して協力しようと思ったんです」

「そっか。信用してくれてたんだな」

「エッチなことを考えてる時に、すぐ顔に出ちゃうのが玉に瑕ですけどね」

「おい、今それを言うか……」

 

 

 俺がそう言うと、果南は真夏の太陽に負けない明るい笑顔を見せる。それでいてどことなく、俺をじっと見つめて物思いに耽っているようだった。

 

 またしてもトラブルに巻き込まれたけど、果南のハグ(胸元ダイブ)を体験し、そして心の距離をもっと近付けられたから結果オーライかな。こうやって女の子と触れ合えるのならば、騒ぎに飲み込まれるのも別に悪くはないと思った。これは一気に今回の合宿が楽しみになってきたぞ。

 




 久しぶりにそこそこ際どい回でしたが、どちらかと言えば果南の可愛さを十分に伝えられたかと思います。果南の魅力を魅せるのがメインで、むしろ全裸の方がオマケという珍しいパターンになったかも(笑)


 次回は旅行回には付き物の温泉回です!
 いくら疲れを取るための温泉であろうとも、零君の気苦労は収まることを知りません(笑)



【企画告知】
皆様ご存知の通り、4月にこの小説は3周年を迎えました!
ここまで来られたのも応援してくださる読者様のおかげです!

――ということで、感謝祭企画として、リクエスト小説を復活させたいと思います!
今回はよりたくさんのリクエストを取り入れるために、1話で3,4個のネタを取り入れる予定です。
前回のリクエスト小説ではかなり制限が厳しいリクエストを募集していましたが、今回は短編ということでネタの縛りもかなり緩くしました。
条件を満たせば誰でも応募可能なので、こんなネタが見てみたいというのがあれば、遠慮せずにどんどんリクエストをお願いします!

募集要項は私のユーザーページ(「薮椿」と書いてあるところ)から「活動報告」で飛ぶことができます。
または以下のURLからよろしくお願いします。

【募集箱】
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=181617&uid=81126




新たに☆10評価をくださった

ゆーるA-さん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

女の子たちの温泉(バス)ジャック!

合同合宿編、5話目
温泉回なので、またしても女の子のネイキッドが見られます()
まあ女の子のこんな姿を見られるのが合宿編の魅力なので許してください!


 

 合宿初日の朝から色んなことがあったが、何とか1日を乗り越えることができた。当初は騒ぎの中心にとして巻き込まれるが故の精神疲労でグロッキーも覚悟していたけど、果南の一件以降は特に目立った出来事もなく、至って無難に時が過ぎ去った。明日以降も平和な日常であれと願うばかりだよホントに。

 

 ちなみに海で遊んだ後はしっかりと練習をした。穂乃果や千歌あたりが『今日は疲れたから明日にしよう』と腑抜けたことを言い出すかと思えば、彼女たちもそれなりに練習する気はあったらしい。やはりμ'sとAqoursでコラボできることがよほど嬉しいのだろう、彼女たち以外のみんなもいつも以上のやる気を見せていた。しかし海未とダイヤの厳しい指導もいつも以上だったから、1日目なのに割とハードな練習であったのは言うまでもない。穂乃果や千歌のようなおバカさんが増えるのも問題だが、熱血漢が増えるのもそれはそれで問題だと身に染みて実感した。まあスクフェスまで約1ヵ月なので、時間の余裕がないのもそれまた事実。そこそこ突き詰めて練習をしていかないと、本番までにμ'sとAqoursのコンビネーションを完成させるのは到底できないだろう。

 

 そうやってハードな練習をこなした彼女たちは、現在旅館の温泉を満喫中のはずだ。秋葉が裏で手を回したらしく、俺たちはなんと温泉貸切のサービスを受けていた。ここの温泉は様々な種類があり、重曹泉に酸性泉、含アルミニウム泉など如何にも身体に良さそうな字面の温泉が軒を連ねる。しかも海の近くの旅館だから露天風呂の景色も絶景で、夜の海を眺めながら入る温泉はそれだけでロマンティックだ。そんな温泉を俺たちが貸切にできるなんて秋葉の奴、どんな悪事を働いたのやら……。

 

 ちなみに女の子たちは20人以上もいるので貸切はいいにしても、男は俺1人だ。つまり自分以外の人がいないので、それはそれでちょっぴり寂しい。いっそのこと俺もみんなと同じ温泉に入りたかったよ。

 

 

 叶わぬ夢を抱いても仕方がないので、俺も温泉に入るとするか。俺以外の人がいないってことは、逆に考えれば下手な騒ぎに巻き込まれることがないってことだ。部屋に戻ればどうせ誰かが押しかけてくるので、1人でいられる時間はこの温泉の時くらいしかない。もちろんみんなと一緒にいたくない訳ではないが、人は誰だって休息が必要なんだよ。

 

 俺は脱衣所で適当に服を脱ぎ、ハンドタオルを持って温泉の入口へと向かう。悪いな、男のこんな姿を見せてしまって。今回は男が1人で温泉に浸かりながらリラックスする誰得回の予定だから、みんなもう帰っていいぞ。

 

 とまあそんな冗談はさて置き、俺は温泉の戸を開ける。

 すると、目の間に広がっていたのは湯煙漂う温泉たち――――ではなく、肌色肌色肌色肌色。しかもその肌色たちは水に濡れているせいか艶やかで、男の欲情を煽るように光っている。

 

 温泉内はまるで時間が止まったかのように静かだった。静かだったと言うより、静かになったと言った方がいいだろう。誰もいない男風呂に何故か肌色が広がっており、その肌色たちは俺に目線を集中させる。

 

 

 そして目の前の状況を把握するのは、向こうの方が早かった。

 

 

「ひゃあっ!? せ、先生!?」

「どうして先生がここにいるずら!?」

 

 

 まずは湯船に浸かっていたルビィと花丸の仲良しコンビが、俺の姿を見て驚く。そして女の子が故の反射神経なのか、咄嗟に湯船に首まで浸けて自らの身体を隠した。

 

 

「れ、零君!? 大胆だね……」

「ま、また裸を見られた……!!」

 

 

 次は身体を洗っていた穂乃果と雪穂の姉妹コンビが口を開く。でもルビィと花丸と違う点は、俺の姿を見て驚きはするものの咄嗟に身体を隠そうとはしないところだ。身体を洗っている最中で泡を落とし切ってないから、湯船に逃げることもできない。しかし泡が落ちてようが落ちてまいがそんなことは関係なく、彼女たちの反応を見る限りでは半ば呆れた様子だった。穂乃果も雪穂も俺と何度か一緒に風呂に入っているせいで、幾分かこの状況にも適応できているのだろう。むしろ男女が分かれている温泉で、異性同士が鉢合わせるって状況に対応できてるのがすげぇよ……。

 

 

「何を騒いでるのかと思ったら、零が来ただけじゃない。なによ、そんなににこたちと一緒に入りたかったの?」

「零くんも一緒に入浴するんですか? 楽しみです♪」

 

 

 他の温泉からやって来たのはにこと亜里沙だった。

 この2人、穂乃果と亜里沙以上にこの状況に適合してやがる。俺を見ても驚くどころか、にこは何食わぬ顔でいつも通りに、亜里沙は俺と一緒に温泉を満喫できることを喜んでいる。対して雪穂と花丸、そしてルビィは『何を言ってんだこの2人』と言いたげな顔で目を丸くしていた。そりゃそうだ、いくら付き合いが長いからとは言え、女湯に堂々と入ってきた男を歓迎している時点でにこと亜里沙の思考回路は常人じゃない。元々どこか常軌を逸した性格の2人なので特段おかしなことではないが、まさか顔色1つ変えず俺を迎え入れようとするとは……。

 

 

 とりあえず温泉内にいるのはこの6人だけのようだ。どうやら全員で一斉に温泉には来なかったらしい。正直なところ海未やダイヤに見つかった際には一晩の説教では終わらないと覚悟をしていたので、ここにいたのが温厚な子ばかりなので助かったよ。

 

 

「ほら、なに突っ立ってんのよ。温泉に入る前はまず身体を洗うのがマナーでしょ?」

「おい。その前にどうしてお前らが男湯にいるんだ……?」

「はぁ? アンタが女湯に入ってきたんでしょうがこの変態。不法侵入者」

「その変態を追い返しもせず、身体洗いを勧めるお前も相当な変人だぞ……」

 

 

 にこは無防備にも俺に近付いてきて、こちらを見上げながら罵声を浴びせてくる。

 コイツの格好、辛うじてタオルで下半身は隠れているものの、何故か上は全く隠していない。なので自慢のちっぱいを曝け出して微かに揺らしているが、ここまで堂々とおっぱいを見せつけられてもあまり興奮しない。というかできない。ほら、パンツだって自ら向こうから見せてくるよりも、スカートが捲れた時に見えるパンチラの方がよっぽど唆られるだろ? つまりそういうことだよ。それにやっぱ貧乳だとねぇ……うん。

 

 ここには海未やダイヤのように無駄に騒ぎ立てる奴もいないので、どうせならこの状況を堪能してみるか。うるさい連中がいない中で一緒に混浴って、そう簡単に作れるシチュエーションじゃないからな。

 

 そんな感じで歓迎されているのかそうでないのか分からない状況で、彼女たちとの奇妙な混浴が幕を開けた。にこと亜里沙、穂乃果は割とウェルカムムードだが、ルビィと花丸、雪穂は今も怪訝な表情でこちらを見つめるばかりだ。一部アウェイな状況だが、このまま引き下がったら女の子の圧力に負けた感じがするので、敢えてここに滞在させてもらおう。それに、女の子との混浴に心が躍らない男なんている訳ないだろ!

 

 

「ほらほら零君、ここに座って! 穂乃果が洗ってあげるよ!」

「ちょっと穂乃果!? にこが誘ったんだから、その役目はにこのでしょ!?」

「にこちゃん割り込まないでよ! それに小さいおっぱいだと泡だって十分に泡立たないよ!」

「この世で一番言ってはならないことを言ったわね……。それにおっぱいで泡立てるなんて、どれだけ淫乱なのよアンタ」

「まぁまぁ、小さいおっぱいだって需要はあるよ。ロリコンの人たちにね♪」

「誰がロリだって誰が!? こちとらもう23歳の大人なんですけど!?」

 

 

 穂乃果とにこはまるで子供のように騒がしくはしゃぎ、もはや俺の身体を洗うことなんて忘れているようだった。さっきまではソープ嬢みたいなことをしようとしていたくせに、おっぱいの大きさごときで客をほったらかしにするとは一流ソープ嬢失格だぞ。できるソープ嬢ならば、例えどれだけ不清潔な客に対しても笑顔で身体洗いをするのがプロってもんだ。コイツらはまだその心意気が足りてないようだな、うんうん。

 

 すると、背中に泡立てられたタオルが当てられたことに気付く。

 振り向いてみると、亜里沙が小さな手を動かしながらせっせと俺の背中を洗っていた。

 

 

「こうして零くんのお背中を流すのは初めてでしたよね?」

「そういえばそうかもな」

「えへへ、気持ちいですか?」

「あぁ、程よい力で丁度いいよ。その調子でもっとやってくれ」

「はいっ!」

 

 

 この光景だけ見ているとソープ現場の一部始終を映しているみたいで、絵面的にマズい気がする……。もう20歳になった亜里沙だが、見た目はまだロリっ子同然なのでこうして背中を洗ってもらうことに犯罪を感じざるを得ない。まぁあの大天使の亜里沙に背中を流してもらうのは男の夢の中の夢なので、自分がそのポジションに甘んじているのは誰よりも優越感に浸れるけどね。

 

 力のない彼女は一生懸命俺の背中をタオルで洗ってくれているが、その力のなさが逆に心地いい。元気良く力を入れて雑に洗われるよりかは全然マシで、これからもずっと俺の風呂場に置いておきたいくらいだ。

 

 

「ほら、雪穂も一緒に身体洗おうよ!」

「洗わない! それに私はもう洗ったからいいの」

 

 

 俺の隣で自分の身体を黙々と洗い続けていた雪穂だが、腕で自分の身体を隠すとこちらに背中を向けてしまった。いくら一緒に風呂に入ったことがあろうとも、まだ男の身体をじっくり見るのは恥ずかしいようだ。そもそも俺が近くにいるのに身体を洗い続けていた神経の図太さがあるにもかかわらず、男の身体くらいで恥じらいを感じるとはコイツも感性がおかしいよな……。さっさと逃げることもできるのに、それをしないってことは少なからず俺と一緒に温泉にいられることが嬉しいってことか?

 

 すると、雪穂の背後に忍び寄る影が――――

 

 

「えいっ!」

「えっ!? うひゃぁっ!?」

「おっと!」

「雪穂!? 零くん!?」

 

 

 突然、俺の胸に雪穂が倒れ込んできた。思わず抱きしめてしまうが、彼女の身体は倒れた拍子にタオルが取れ全裸状態だ。もちろん俺も上半身は裸だから、雪穂と肌と肌で直接触れ合っていることになる。あ、あれ? 昼間にもこんなことがあったような……。今日は女の子と裸の触れ合いデーか!?

 

 そして雪穂の背後には、穂乃果が悪い笑顔で仁王立ちしていた。

 

 

「お、お姉ちゃん!?」

「いやぁせっかくの合宿なんだから、身も心も開放的にならなきゃ!」

「お姉ちゃんはハメを外しすぎなの!」

「ハメるとか……」

「う、うるさいよ!!」

 

 

 何の話をしてんだこの姉妹……。こりゃいつも家でどんな会話が繰り広げられているのか容易に想像できるな。

 そんなことよりも、俺は雪穂と触れ合っているこの状況に心底ドキドキしている。好きな女の子の身体に触れるなんてことにはもう慣れっこなのだが、俺の身体は亜里沙に洗われている最中だったから当然泡まみれ。つまり、俺と雪穂は泡を交えて身体同士で触れ合っているのだ。もうソープなりヘルスなり好きに罵ってくれて構わない。ただ1つ言えるのは、普通に肌で触れ合っている時よりも女の子の肌がより艶やかに見えるってことだ。さすが泡の効力は女の子の魅力を色んな意味で上げてくれる。ここまで"エロい"という単語が適切に使える場面も早々ねぇぞ。

 

 

「零、ちょっと息が荒くなってきてるわよ? もしかして雪穂で興奮したのぉ?」

「にこ! お前余計なこと言うな!!」

「零君!?」

「おいあまり暴れんな! 泡で滑って転んじまうぞ!?」

「ひゃっ、ど、どこ触ってるんですか変態!」

「いや雪穂、零君に対してそれは誉め言葉だから」

「どういう意味だそれ……いや合ってるけどさ」

「いいなぁ雪穂。私も零くんに抱きしめてもらいたいです」

「この状況でよくそんなこと言えるよね……。裸同士なんだよ」

「ん? 私は別にいいけど」

「いいのか!?」

「零、気持ち悪いほどテンション上がってるわよ……」

 

 

 息継ぎをする暇もなく、次から次へとツッコミどころしかない会話が繰り広げられる。ボケとツッコミが入り乱れる怒涛の会話に参加していると、やはり長年一緒にいるからこそ息がピッタリなんだと実感するよ。しかも温泉で女の子に囲まれながら裸で抱き合う抱き合わないの話をしているので、そんな話が日常で堂々と繰り広げられるのもやっぱりμ'sとだけだろう。

 

 女の子に囲まれていると言ったが、これも嘗てないほど稀な状況である。前からは雪穂、後ろには亜里沙、左右にはにこと穂乃果がいるだけでなく、全員が全裸or半裸状態である。倒れ込んできた衝撃でタオルが外れてしまった雪穂は紛れもなく生まれたままの姿。他の3人はタオルを装着しているが、あまり羞恥心を感じない3人なのでもはやタオルは外れかけている。雪穂と亜里沙に至っては身体に泡が付いてるし、その手の店でも大金を積まなければ見られないシチュエーションが目の前に広がっていた。さっきはあまり意識しないと言ったが、ここへ来てこの状況の卑しさに期待し始めている。

 

 

「それじゃあシャワーで流しますね」

「亜里沙!? せめて私が離れてからにしてくれない……?」

「ダメだよ雪穂。せっかく零くんに抱きしめてもらってるんだから、お礼も兼ねて前も洗ってあげなきゃ」

「いやこうなったのはお姉ちゃんのせいだからね!? それに前って……」

「なんだ、洗ってくれるのか?」

「洗いませんよ。自分の身体くらい自分で洗ってください」

「仕方ないわねぇ~だったらにこが洗ってあげるわよ」

「ナチュラルにタオル剥ぎ取ろうとすんな! 花丸とルビィも見てるんだぞ!」

「あっ、そういえば……。穂乃果もすっかり忘れてた」

 

 

 湯船の方を振り向くと、花丸とルビィの姿は確かにあった。だが花丸は目を見開いてこちらを凝視しており、ルビィはのぼせているのかこの光景の刺激が強いのか、顔を真っ赤にしてこちらを観察していた。突然男が入ってきたのに逃げずに俺たちの様子を観察しているあたり、どうやらこの雰囲気に耐えられない訳ではないようだ。でも穂乃果たちに比べれば羞恥心は劇的に感じているようで、2人は湯船から顔の半分だけを出してこちらを見つめている可愛らしい体勢となっていた。そこまでするなら見なきゃいいのにと思ってしまうが、人間というものは目の前でヤバいことが起きていると状況把握をするために、自分の意志とは関係なく目がそちらに向いてしまうもの。今の2人もそんな感じなのだろう。

 

 俺は亜里沙に身体を流してもらうと、花丸とルビィが浸かっている湯船にお邪魔させてもらった。

 

 

「せ、先生? どうしてルビィたちと一緒に……?」

「ここまで来て1人で入浴なんてつまらないだろ。それに裸の付き合いも重要だよ」

「それってつまり、先生の下心を認めろってことずら……?」

「そりゃ下心はあるだろ。お前たちと混浴なんて早々できるもんじゃない。まあ勝手に入ってきたのは悪かったよ」

「男湯と女湯を間違えるなんて、下心云々の問題だと思いますけど……」

「それだけお前らのことが好きすぎて、少しの間でも一緒にいたいと無意識に思ったからだよきっと」

「言っておきますけど、マルたちは騙されませんから」

 

 

 そりゃ騙すのならもっとマシな嘘を付くさ。でも嘘を付くのがおこがましくなるほど俺の行動は潔白が証明できず、知らず知らずのうちに女湯に入ってしまった自分が怖くなる。この時間帯が俺たちの貸切だったからまだ良かったものの、普通の時間帯に今回のようなことをしようものならもう何かの病気を疑ってしまうほどだ。しかし女湯にいたのがμ'sとAqoursの中でも比較的温厚な子たちばかりで助かったよ。

 

 それにしても花丸もルビィも、女子高校生らしい発達途中のいい身体をしている。

 花丸は肉付きが良く、どこを触っても柔らかそうなのは身体を見ただけで明らかである。しかも小柄ながらに発達した胸は腕で隠そうとしても隠し切れず、果南の時と同じく谷間が丸見えとなっていた。

 ルビィは中学生と間違えるほど華奢な身体付きだが、むしろ多少ちんちくりんの方が高校1年生の女子って感じがする。身体のあちこちがこれからに期待できるので、その成長過程をこれからずっと見られると思うと独占欲が湧いてくるな。

 

 

「あっ、零君が花丸ちゃんとルビィちゃんの身体を見て興奮してる!」

「おい穂乃果!! 根も葉もないこと言うな!!」

「だって零君がイヤらしいこと考えてる時って、雰囲気で分かっちゃうもん」

「へ……?」

 

 

 それ、果南にも同じことを言われた。昔は自分の妄想がつい口に出ちゃうことはあったけど、それはまだ女の子に慣れ親しんでいなかった時のことだ。今は女の子たちに囲まれて悠々自適な生活をしているから、そんなことはしないだろうと高を括っていたのだが……どうやらそうではないらしい。しかも口に出さずとも雰囲気で分かっちゃうって、それは俺のせいじゃなくみんなが持つ俺の様子を伺うスキルが上がってるだけじゃね?? どいつもこいつも、俺のこと好きすぎかよ。

 

 このままここに滞在したらこのことで弄られ続けられるので、そろそろお暇させてもらおう。あまり温泉は堪能できなかったが、みんなと混浴できたってことが何よりの収穫だったと思う。それに早く立ち去らないと後から他の奴らもどんどん入ってくるだろうから、あまり長居はしたくない。こうして女湯にいることがいとも簡単に許されているみたいだけど、それはこのメンバーだから混浴できるようなもの。海未やらダイヤやら真姫やら、バレたら背中を蹴ってでも追い出されるだろう。

 

 

「さて、そろそろ出るか」

「えぇっ!? 穂乃果まだ零君の身体を洗ってあげてないよ!?」

「お前とならいつでもできるだろ……」

「い、いつでもできるんですか!?」

「あ、いやぁ決して変な意味じゃないぞ! とにかく、俺はもう上がるから!」

 

 

 危ない危ない。もう少しで俺と穂乃果たちがそんな関係だとバレるところだった。別に必死に隠す必要はないのだが、なるだけAqoursには俺とμ'sの関係は黙っておこうと思っている。μ'sの存在でアイツらに自分の恋を諦めさせたくはないしな。

 

 

「それじゃ、あとは女の子同士で楽しんでくれ」

「あっ、もう零君逃げちゃダメ!!」

 

 

 無視だ無視。さっきも言ったが、μ'sのみんなと一緒の風呂に入るくらいは東京に帰ってからいつでもできる。対して花丸とルビィと混浴できるシチュエーションはあまりないが、俺だって他の奴らに見つかる危険を犯してまで混浴しようとは思わない。さすがにそこまで性欲に憑りつかれてはねぇから。

 

 そう、今はここから撤退するのが先決。黒歴史に新たなページを刻まぬよう、ここは穂乃果たちの誘惑に負けず早急にここから――――――

 

 

 と思ったその瞬間、目の前の温泉の戸が開いた。

 綺麗で長い黒髪に、その黒とは対照的な白い肌。黒と白のコントラストは思わず目を惹きつけられてしまう。

 

 だが今の俺にとっては、目を惹きつけられるどころか顔を引きつらされてしまった……。

 

 

「せ、先生!?」

 

 

 黒澤ダイヤ。俺がこの状況で警戒していた子の1人と、奇跡的に対面してしまった。

 

 

「ど、どうして女湯にあなたがいるのですか!? また性懲りもなく如何わしいことばかり考えていたのでしょうが、遂に尻尾を掴みましたわ!! しかも……しかも……ルビィと混浴をしていただなんて、万死に値しますわ分かっているのですか!? そこに正座なさい!!」

「いや分かってない前提かよ!? しかも俺、お前の先生で立場が上なんだけど……お前こそ分かってる??」

「犯罪者に人権はありませんので問題ありません」

「はいそうですね、ごもっとも……」

 

 

 なんだろう、やっぱり俺って奇跡を呼び起こす主人公体質持ちなのかな……? いやいや、こんな奇跡なんていらないけどね!?

 こうしてダイヤの説教は貸切時間いっぱいまで続き、そのあと温泉に入ってきた他のみんなにもバレたことで、女湯侵入事件は全員に知られちゃいましたとさ。めでたしめでた……くねぇよ全然!!

 




本当は前後編に分けて穂乃果たちにもっと際どいことをさせようと思ったのですが、大人になって冷静になった私によって自主規制されました(笑) 決してBANにビビっていたからとかではなく、もっと濃厚に際どいことをする話が今後に控えているので、その話の魅力を上げるためにもここではお預けです。

 それにしても、亜里沙がイイ子すぎてヤバい。今回の話で亜里沙を描写していて彼女に改めて尊さを感じたので、また個人回を描いてみようと思います!


 次回はリクエスト回を執筆する予定です。
 リクエストネタの中から3or4つ選び、短編として執筆しようと思います。好評であればリクエスト小説を何度かやってみようと考えているので、これを機にたくさんのリクエストをお待ちしております!


【リクエスト募集箱】
私の活動報告にて募集しております。
既に10件近くのリクエストが来ており、私もこれから執筆するのが楽しみです!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=181617&uid=81126


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『身』+『寸』+『米』+『青』=?

合同合宿編、6話目
今回は読者さん方のネタを採用したリクエスト小説となります!
これまでのリクエスト小説は1ネタで1話でしたが、今回は3ネタで1話構成のサザエさん方式となっています。
また、話は全て合同合宿1日目内で起きた出来事になっているので、これまでのお話と地味に繋がりがあったりなかったり……


ちなみにサブタイトルは、ネタが組み合わされば1つの芸術的作品が完成するという意味が籠っています()


 

《お嬢様たちの戦い in ゲームコーナー》

 

 

 

 

 旅館の中に古き良きゲームコーナーがあるのは定番だが、この旅館はゲームコーナーというよりゲームセンターと言っていいほどゲームの種類と数が凄まじかった。旅館に設置されているゲーム筆頭のアーケードを始めとして、メダルゲームやお菓子タワーのゲーム、ダンスゲームなどが軒を連ねている。

 

 俺はそのゲーム中の1つ、UFOキャッチャーに四苦八苦している子たちを眺めていた。慣れないUFOキャッチャーに苦労しているのは髪金ハーフお嬢様の鞠莉と、赤髪ツンデレお嬢様の真姫。ケース内のとあるクマの人形に一目惚れしたため、人生で初めてのUFOキャッチャーに挑戦している。

 

 しかし――――――

 

 

「Oh! また取れなかった!! アーム弱すぎるんじゃないのこれ!?」

「それにさっきの失敗で人形が横を向いちゃったし、ちょっと取りにくくなっちゃったわね……」

「でもそっちの方がExciteできるし、俄然燃えてきたわ!」

 

 

 あぁ、これはゲームセンター中毒者にありがちな、ゲームセンター側の罠に引っかかってるパターンだ。

 このようなゲームは店側が内部操作をすることができ、例えばUFOキャッチャーならアームの強度を弱くしたり、ボタンを押すタイミングとアームが動くタイミングをズラすなんてこともできる。それは他のゲームも然りで、じゃんけんゲームならこちらの押したボタンでゲーム側の出す手を決めたり、ルーレットやスロットなんかに至ってはほぼすべての設定が店側の思う壺だろう。それくらいゲームセンターというのは非情な遊び場なのだ。

 

 そして鞠莉と真姫は、ズブズブとその沼にハマりつつある。

 まぁコイツらはお嬢様でゲームセンターの裏事情どころかゲームで遊んだことすらなさそうなので、本人たちが楽しんでいるのならそれはそれでいいのかもしれない。

 

 

 2人はまたUFOキャッチャーに100円を入れてゲームを開始したが、案の定というべきか、また人形の捕獲に失敗した。

 

 

「What!? さっき私がボタンを押したタイミングと、アームのタイミングがちょっと違ってたような気がするんだけど!?」

「さすがにそれはないでしょ。そんなことをしてたら詐欺よ詐欺」

「そうね。もし詐欺なんてしてたら、小原家の総力を上げてこの旅館を検挙してあげるわ」

「UFOキャッチャーは子供たちも喜んで遊ぶでしょうから、そんな子供の夢を壊すような真似をしたら西木野家も黙ってはいないわね」

 

 

 こわっ!? コイツらの場合は権力と圧力で本当にこの旅館を潰せそうだから、全くの嘘じゃないのが本当に怖い。しかも小原家と西木野家が総力を上げたら、世界のほとんどの不正ゲームなんて悉く潰せそうだ。更に今の2人はUFOキャッチャーに翻弄されてかなり苛立ってるから、冗談抜きに世界のゲームの常識が塗り替えられてしまう恐れもある。今思ったけど、俺ってこんな凄いことができる女の子たちから恋をされてるんだよな……。なんか急に身体が震えてきたぞ……。

 

 このまま2人にUFOキャッチャーをやらせても永遠に金を失い続けるだけなので、仕方ねぇから出しゃばってやるか。それにこの世のゲームを潰されたら堪ったものじゃねぇし。

 

 

「どいてろ。取ってやるから」

「零? どうしたのよ突然」

「先生、UFOキャッチャー得意なの?」

「いいから見てろ」

 

 

 俺は100円を投入口に入れると、UFOキャッチャーを起動させる。

 確かにゲームセンターのゲームは確変されていることが多いが、その中でもUFOキャッチャーはテクニックさえあれば意外とあっさり景品がもらえるゲームだ。つまり慣れれば定価で数千円する人形をたった数百円で手に入れることも可能。そして今回は2人が幾度なく人形をアームで掴んで落としてくれたためか、人形のポジションが穴に近い位置に移動している。さらにさっきの挑戦で人形の体勢も抜群良い。更にさらに、ボタンの押すタイミングとアームのタイミングがどれだけズレているのかは、これまでの観察で全て把握していた。

 

 そう、今の俺は負ける気がしない!!

 

 

「ほら、取れたぞ」

「す、凄い……。私たちがあれだけやっても取れなかったのに、たった1回でこんなにあっさりと……」

「Good Job 先生! いつにも増して輝いてるわ!」

「お、おい鞠莉……ったく」

 

 

 興奮してアメリカンの血が騒いだのか、鞠莉は衝動的に俺に抱き着いてきた。この嬉しそうな笑顔を見られた上に確変されたゲームを制したから、俺も物凄く優越感を満足感を味わっている。いやぁ女の子を助けて感謝されるっていいわ、やっぱりね。

 

 すると、俺から人形を受け取った真姫が怪訝そうな顔で貰った人形を眺めていた。

 

 

「真姫? どうした……?」

「よく考えればこれ、1万円も出せば余裕で買えたのよね……」

「ま、まぁそうだけど……」

「確かに言われてみれば! こうなったら不正なUFOキャッチャーの腹いせに、この中の景品を全部お金で買っちゃおうよ! そっちの方がゲームするより早いしね♪」

「いい考えね。なんならゲームセンターごと買い取って、子供たちの夢を取り戻すのもありかも」

「Nice Idea! 子供たちの夢と希望をもう一度叶えてあげましょう!」

「まずお前たちが夢のないことを語ってることに気付こうな……」

 

 

 そんなことを言うから果南にこう言われんだよ。

 

 

 これだから金持ちはってな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

《痴女な人妻とヤンデレな娘》

 

 

 

 

「うわぁっ!?」

「ひゃっ!?」

 

 

 完全に油断してた。穂乃果たちの混浴を終えて部屋に戻ろうとした最中、旅館の廊下の角で女性とぶつかってしまった。しかもラッキースケベマンの特性がここで発動してしまい、なんとその女性を押し倒してしまう事態に。さっきは女湯に侵入(故意ではないが)して、今回は女性を押し倒す(故意ではないが)。まさに犯罪者ここに極まれりって感じだな……。いやそんなこと言ってる場合じゃねぇか、まずは謝らないと。

 

 ――――――あ、あれ? 俺が押し倒しちゃったこの人って……!?

 

 

「り、理事長!?」

「零君!?」

「アンタこんなところで何やってんだ!? それ以前にどうしてここにいる!?」

「聞けばことりが零君と旅館に泊まるって言うじゃない。だからそろそろ子作りをする時期かなぁと思って、ひっそりと応援に……」

「余計なお世話って言葉がここまでピッタリ当てはまる状況、中々ねぇぞオイ」

 

 

 その、なんだ? もう心配しただけ損した気分だよ。最初は押し倒してしまったことを土下座覚悟で謝ろうと思ったが、相変わらずの痴女っぷりを発揮してきたためこちらも容赦はしない。ていうか、この人も会うたび会うたびに変態度が上がってる気がするんだけど気のせいか? まあことりの母親だからって理由なら余裕で納得できるんだけどさ。

 

 すると、後ろから誰かの気配を感じた。足音が聞こえないことから、恐らく立ち止まって俺たちの様子を伺っているのだろう。

 マ、マズい! こんな痴女人妻の相手なんかをしていたせいで、従業員の人にバレちゃったか?? 痴女を相手にしていて俺が通報されるなんてまっぴらゴメンだが、状況だけを見れば俺が理事長を押し倒しているようにしか見えない。つまり傍から見れば俺に非がある訳だ。

 

 とにもかくにも、まずは離れないとな。

 

 そう思った瞬間、ドスを効かせた曇った声が俺にのしかかかった。

 何事かと思い後ろを振り向いてみると、そこには目から光を消してこちらを突き刺すように見下すことりがいた。ことりは黙ったまま動かず、その場で俺と理事長を瞬きもせずに見つめている。その目にどんな感情が宿っているのか、長年の付き合いの俺でも分からないほど目の色が濁っていた。

 

 

「零くん、お母さん。こんなところで何をしてるのかなぁ……? まさか2人がそんな関係だっただなんて、ことり知らなかったなぁ……。どうして言ってくれなかったのかなぁ……。別に零くんが誰と肉体関係を持とうがことりには関係ないけど、恋人なんだから教えてくれても良かったのになぁ……。お母さんも旅館で堂々と人の恋人を奪って浮気だなんて、凄い覚悟だなぁ……」

「こ、ことり? 声のトーンが一定で怖いんだけど……。それに感情ってものが全部消えてるぞ」

「そうよことり! お母さんは別に零君と浮気だなんて……」

「だったらどうしてそんなに顔が赤いのかなぁ……。どうして今も満更じゃない反応をしてるのかなぁ……」

「ふえっ!? そ、そ~お……?」

「そんな反応をするから満更じゃないって思われるんだろうが……」

 

 

 確かに理事長はμ'sのお母さんたちの中でもトップクラスに若々しく見え、高校入学時に出会ってから7年も経ってるのに容姿が全然変わっていない。それゆえに心も若く、俺のような年頃な男に靡くのは分からなくもないが……一応言っておくけど、この人は人妻だからね? しかもことりの言った通り、俺に押し倒されてもイヤな顔1つどころか抵抗までしないから、もしかしたら俺に気があるのかと勘違いしてしまう。でも1つ申し上げておきますと、俺は人妻を相手にする気なんて更々ねぇからな!!

 

 

「ていうか、いつまで零くんはお母さんを押し倒しているのかなぁ……。お母さんもいつまで零くんに押し倒されて悦んでるのかなぁ……。やっぱり2人はそんな関係なのかなぁ……」

「あっ……。わ、悪い、今離れるから!」

「私としては、このままでも全然構わないけどね♪」

「はぁ!? 何言ってんだアンタ!?」

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

「おいっ! ことりが目を真っ黒にしながらこっち見てんぞ!? どう落とし前付けてくれんのこれ!?」

「そんなことりも可愛いでしょ?」

「黙ってなクソアマ……」

 

 

 高校時代に結構お世話になった理事長だけど、そんなのはもう関係ない。憎たらしい笑顔でこの状況を弄んでいるこの女に敬意を払うのもバカバカしい。前々から理事長に対して敬語は外していたのだが、もうこの人もことりと同じくぞんざいに扱ってやろうか……うん、そうしよう。

 

 ちなみにことりは俺たちを突き殺すかのような目線で俺たちを見つめ、目の色は完全なる黒に染まっていた。5年前、μ'sのみんなを傷付ける気満々だった病み期全盛期のことりが帰って来たみたいだ。雰囲気的に本気で俺たちのことを甚振りそうで、恋人や母親相手でも容赦のない光を失った目をしている。どうすんだよこれ!!

 

 

「零君ったら、相変わらずモテモテね♪」

「お母さん、やっぱり零くんを狙ってるのかなぁ……」

「もう手羽先にして食っちゃうぞ親鳥……」

「ひ、人妻を食べるってそんな……」

「零くんって節操がないのかなぁ……」

「もうイヤこの親子!!」

 

 

 ちなみにこのあと親鳥を威圧して、力尽くで東京へ帰らせておいたから安心してくれ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

《梨子、決死の同人布教》

 

 

 

 これだけ大人数にもなると、車から荷物を運び出すだけでもかなりの手間だ。しかも女性がμ's12人+Aqours9人+秋葉で22人いるのにも関わらず、男は俺だけ。つまり男手が足りな過ぎて、荷物運びの負担は更に重くなる。しかも海に到着した嬉しさからか、自分のバッグも持たずにはしゃぐ奴らがちらほらと。ちょっとくらい手伝えやこら……。

 

 そんな荷物運びの主担当となっていたため、俺は誰が誰のバッグかを聞かずに適当に手に取ったバッグを女の子たちに手渡していた。ただでさえ荷物の荷下ろしに労力を割いているので、持ち主の元へ行き届けるくらいはそっちでやって欲しいものだ。

 

 そして、俺が乱雑に配ったとあるカバンが海未の手に渡った。

 

 

「このカバンは私のモノですね。とりあえずこれからすぐに練習ですし、練習のメニューでも確認しておきますか」

 

 

 海未のことだから直筆で練習メニューをまとめているのだろう、カバンから1冊の青いノートを取り出して中身を確認する。

 だがその時、海未は目を見開いた。ノートを持つ手が小刻みに震え、見てはいけないものを見てしまったような引きつった表情をしている。

 

 自分のノートのくせに、一体何が書いてあるってんだよ。作詞作業中にノリでポエムを書いたけど、今読み返してみたら突然恥ずかしくなったとか?

 

 

「な、なんですかこれは……!! こんな破廉恥な……!!」

「破廉恥? まさかエロ本でも持ってきたのか?」

「違いますよ!! ど、どうしてこんなものが……」

 

 

 海未の持っているノートを見てみると、そこ書かれていたのは練習メニューでも作詞の文章でも何でもない。女の子が女の子に壁ドンされているシチュエーションのラフ画に、そこから進展して半裸になっている2人の女の子の線画。更に男同士で壁ドンしているラフ画もあれば、まだ書きかけだが男同士でキスをしそうなシチュエーションの線画もあった。キスですら破廉恥と言い張る海未のことだから、同性同士のこんな絵を見せられたらそりゃ気も動転するわ。

 

 つうか、俺たちの中でこんな偏屈趣味を持ってるのはただ1人だけ――――――

 

 

 その瞬間、海未の手からノートが引っ手繰られる。その犯人――――梨子は顔を真っ赤にしながら息を切らせていた。

 やはり察しの通りコイツだったか……。

 

 

「はぁ……はぁ……。み、見ました!?」

「見たよ。見開き2ページだけだったけど、そのノートがどんなノートなのかはっきりするくらいにはな」

「園田さんもですか!?」

「え、えぇまぁ……。趣味は人それぞれなので、私がとやかく言う権利はありませんが……」

「私の目を見てくださいよ!! あぁもうっ! 先生以外の人、しかも先輩にバレちゃうなんて……」

 

 

 いつものおとなしい彼女はどこへやら、自分の趣味がバレた衝撃でパニックになっている。

 そもそもの話、どうしてそんなノートを合宿に持ってきてるんだ……? まあ2泊3日だから趣味となるモノを携帯しておきたい気持ちは分からなくはない。現に楓は修学旅行などで俺から離れる時は、決まって俺の写真を撮りまくって持参する性格がある。もしかしたら梨子もその類の性格が発揮されたのだろうか……?

 

 

「海未さんのカバンはこっちです! それは私のカバンですから!」

「あぁ、同じカバンだったのですね。どうりでおかしいと……」

「うぅ……。カバンは取り返せても、ノート内容がバレてしまったのは取り消せない……。こ、こうなったら!!」

「さ、桜内さん!? いったい何を……!!」

「海未さんにこのジャンルを布教して、裏の道に引き摺り込むしかありません!!」

「はぁ!?!?」

 

 

 出たよ、梨子の暴走。普段はおとなしい梨子だけど、自分の裏の趣味が露呈した時は決まってこう暴走する。オタク界隈の用語で言うならキャラ崩壊ってやつか。表ではピアノを弾けて作曲もできる清純な乙女なのに、裏では善子とならんでオタク全開だからなぁコイツ。そしてそんな梨子の裏の顔を知った海未は、彼女の勢いに圧倒され後退りしていた。

 

 

「女の子同士の壁ドン……桃色の雰囲気にテンション上がりません??」

「上がりません!! そもそも同性同士なんて非常識ですよ……」

「非常識だからこそ背徳感があっていいんじゃないですか!!」

「零みたいなことを言わないでください!」

「確かに先生と同類にされるのは恥ですよね、ゴメンなさい……」

「オイお前ら、俺泣いちゃうよ?」

 

 

 百歩譲って海未に自分の趣味を布教するのはいい。でも全く関係のないネタで俺を巻き込むのはやめてくれないかな……? まあもし俺みたいな性格の奴が他にいたとしたら、絶対にソイツみたいになりたくないと自分でも思うけどさ。

 

 

「そうだ、このノートを貸してあげますから是非読んでみてください! 合宿から帰ったらおススメの同人誌もお貸ししますので!」

「ど、同人とは……? 何であれ、同性同士の愛に興味はないですから!」

「でもμ'sって、その手の界隈だったら女性同士のカップリングが作られているんですよ。高坂さんと園田さんとか、南さんと園田さんとか」

「確かに穂乃果とことりは大切な友人ですが、断じてそんな関係ではありません!!」

「それをその手の界隈の人に言ってはいけませんよ。夢を壊しちゃうことになるので」

「どうして私が怒られているんですか……。それにその手の界隈って一体なんですか、零?」

「俺に聞くな。つうか俺を巻き込むんじゃねぇ……」

 

 

 海未にはオタク界隈のことを知ってもらいたくはないと言うか、コイツだったら知ったところで自分から拒絶するだろう。その点だと梨子とは相容れないのかもしれない。

 

 雰囲気や性格的にもこの2人はウマが会うとこの時までは思っていたのだが、これから先、海未と梨子が顔を合わせた時に気まずくなるやつだよなこれ。だけどとりあえず、今の梨子には関わらないようにしよう。下手に首を突っ込めば、梨子からどんな無茶振りが飛んでくるのか分からない。暴走した梨子はそれほどまでに危険な存在なのだ。

 

 

「先生! 先生も一緒に園田さんを説得してください! 同じ穴の(むじな)として!!」

「ほら来たよ無茶振り……。ていうか、勝手にお前と同類にすんな!!」

「零……。あなたもまさか……」

「海未……? お前も勘違いすんなよ!?」

 

 

 梨子から逃げようと思ったが、時すでに遅しらしい。

 

 μ'sとAqoursの結束を固めるための合宿なのに、こんなスタートで果たして大丈夫なんだろうか……。

 




久々のリクエスト小説であり、初めて1話で3ネタを扱う方式でしたが如何だったでしょうか? 1ネタが短いこともあり、4コマ漫画的な感じで読めたのではないかと思います。そしてこちらの方式の方がキャラをたくさん登場させやすいので、初めての方式でしたが私はかなり気に入っています。

今回のリクエスト小説が好評であれば、この先も定期的にこのような方式でリクエストにお応えしていきたいと思っているので、引き続き皆さんからのネタを募集しています!


今回は以下の方のネタを採用させていただきました。

赤青の龍さん、Ψ(海未推し)さん、紅葉さん


今後もリクエスト小説を続けていきたいと思うので、「こんな話が読みたい!」というご要望があれば是非活動報告にてコメントをお願いします!

【募集箱】
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=181617&uid=81126


また、小説への評価も募集中です!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心と体

合同合宿編、7話目
今回は文章量がいつもよりボリューミーな曜ちゃん回です!


 

 なんだろう、今日は女の子たちと一緒にいる時間が多かったためか、女の子たちの身体に触れることも多かった気がする。

 最初はバスの中で絵里に膝枕をしてもらい、旅館に着いた直後は半裸のことりに抱き着かれ、海で遊んでいる時には水着を流された果南を庇うために抱き合ったり、夜は温泉で亜里沙たちに身体を洗われたりと、まだ合宿1日目なのに至れり尽くせりだ。夏休み期間中は毎日μ'sかAqoursのどちらかの練習を見てやってるから女の子たちと一緒にいる時間は多いのだが、やはり練習が中心となれば触れ合う時間はそう多くはない。だからこそ今日のように女の子たちとあそこまで接近できるとなると、まるで純情な童貞男子のように挙動不審になってしまう。やっぱ男なら、自分の恋人たちやJKの身体に反応してしまうのは仕方ねぇよ。

 

 しかしこうも女の子たちと触れ合っていると、やはり男なら我慢の限界というものがある。成熟した女の子の身体とJKの発達途中の身体を同時に味わったんだぞ? そりゃ欲ってものが湧いてきても仕方ねぇだろ。だが教師の道を目指す者として、そして他の宿泊客がいる旅館でそんな情事なぞできるはずがない。高校時代であれば高ぶった性欲を抑えきれずに何かしらアクションを起こしていただろうが、今の俺は立派な大人、そんな下品なことはもうできない。だからといってこの欲求を抑えつけておくのも身体に毒だけど、特に苦しむことなく抑えつけられているだけマシなのかもしれない。心配しなくても、発情したから所構わず女の子を襲うような真似はしないから。

 

 

 気分転換を兼ね、俺は飲み物を買いに自販機スペースに来ていた。旅館の自動販売機の飲み物は微妙に高いのでボタンを押すのが躊躇われるのだが、僅か2、30円高いだけで旅館の外に出るのもそれまた面倒。全く、いい商売してるよな宿泊施設ってさ。

 

 そんな中、自販機スペースの隣のスペースから女の子たちの一喜一憂する騒がしい声が聞こえてきた。

 いるんだよな、こうやって他の宿泊客がいるのにも関わらず騒ぎ散らす奴ら。旅行でテンションが上がるのは分かるけど、せめて他の人に迷惑を掛けないで欲しいものだ。それに同伴者であろうとも身内に1人でもうるさい奴がいると自分まで同レベルの人間だと周りに認識されてしまうので、今時の若者はもっと自制心を持つべきだな。これ、20歳を過ぎたオッサンの戯言だから。

 

 そしてふと隣のスペースに足を運んでみると、女の子たちが騒ぎ立てている理由が明確になった。

 

 

「この一球に、ヨハネの闇の力を全て注ぎ込むわ! これぞパラサイト・ダーク!! はぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」

「いいから早くサーブするにゃ……」

「よしっ、注入完了! これで決める!!」

「かよちん! 審判として遅延行為を見逃していいの!?」

「そ、そんなこと言われても……」

 

 

 なるほど、隣は卓球場だったのか。そりゃ騒ぎ立てるのは分かるけど、聞いている限り痛々しい卓球をしているようなのであまり関わり合いになりたくない。それに周りからアイツらの保護者とも思われたくないので、今日はとっとと部屋に戻って休むとするか。俺がこの合宿に来たのはガキのお守りじゃないから、仕事くらいは選ばせてくれ。

 

 部屋に戻ろうと思いその場で振り返った時、目の前に女の子の顔がアップで映し出された。

 

 

「わっ!!」

「うおっ!!?」

「あははっ! 先生驚きすぎですよ♪」

「よ、曜……」

 

 

 曜は憎たらしい笑顔でビビっている俺を嘲笑う。驚きすぎだって言うけど、後ろから突然大きな声を上げられたら誰だってビビるだろ……。

 曜の格好は浴衣姿で少々顔が火照っていることから、今しがた温泉から出てきたばかりなのだろう。なんつうか、風呂上りの浴衣少女って色っぽいよな。普段の曜は大人の色気よりも年相応の可愛さの方が目立っているが、今の彼女は温泉の効能なのか肌もより艶やかでいつもとは違う魅力を感じられた。

 

 

「ていうかお前、こんなところで何してんだ? 部屋はこっちじゃねぇだろ」

「善子ちゃんと凛さんが卓球をしてるって聞いて、私も参加しようかと」

「なるほど。それじゃあ俺は部屋に――――」

「そうだ、先生も一緒に卓球しましょう! ぜひ私の相手になってください!」

「いや、俺は部屋に――――」

「おーい凛さん! 善子ちゃん!」

 

「ヨハネ!!」

 

 

 話を聞けよと言う前に卓球場に引き摺り込まれたため、もはや抵抗しようにもできなくなってしまった。見た目は普通の女子高校生に見える曜だが、その実、日々の水泳やトレーニングで身体が鍛えられてるから力はそこそこ強い。いきなり腕を掴まれて呆気に取られている男をちょっと引っ張るくらいは造作もないだろう。そのせいで卓球をしていた凛と善子、そして得点係をやらされていたであろう花陽にあっさりと俺の存在がバレてしまった。

 

 せっかく今晩は部屋でゆっくりできると思ったのに、悪戯な神様は俺の1日をまだ終わらせてはくれないようだ。

 

 

「私も卓球やりにきたよ!」

「そう。だったらヨハネが栄光の勝利を掴み取る瞬間を、そこでおとなしく眺めていることね」

「それはいいや。向こうの台で先生とやるから」

「ちょっ!? 眷属が裏切る気!?」

「いやそれは梨子ちゃんとルビィちゃんの立場でしょ。私は違うもん」

「もうっ、早くサーブしてよ善子ちゃん! あと1点で凛の勝ちなんだから!」

「ヨハネ!!」

「あれだけ見栄張ってるのに負けてるのかよアイツ……。お前も厄介な奴に絡まれたもんだな、花陽」

「あはは……。でもAqoursのみんなと一緒に遊ぶことができて、私は楽しいよ」

 

 

 相変わらず俺が乱入したことで会話があり得ないくらいの盛り上がりを見せているが、これもまた変な騒動に巻き込まれる予兆なんですかねぇ……。まあ今回は曜の卓球に付き合うだけだし、善子の中二病ネタに巻き込まれないよう離れた卓球台を使用すれば問題ないだろう。つうか善子の奴、人前では堕天使キャラが出ないように更生したいとか言ってたくせに、μ'sの前では堂々と曝け出すのな。それだけ目の前の凛と花陽に対して心を開いていると思えば、それはそれでいいかもしれないけどね。

 

 とりあえず、俺を巻き込まなかったらそれでいいから。

 

 

「零くん! あとから凛の相手もしてね!」

「フフフ、眷属なら主人の相手をするのも当然でしょ?」

「だ、だったら私も……いいですか?」

「マジ……?」

 

 

 いやぁ女の子の人気者になるって辛いね――――って、言ってる場合じゃねぇなこれ。どうやら女の子たちは俺を部屋に返すつもりはないらしい。その言葉だけを聞くと何だか卑猥な響きに聞こえるが、やることはただの卓球。しかもさっき温泉に入って汗を流したばかりなのに、今から曜を含めて4人連続で卓球の相手をするハメになる。いくら夜遅くまで女の子の相手をしなければならない絶好のシチュエーションだと言っても、残業代として時間外手当を貰わないと割に合わねぇぞそんなの。μ'sとAqoursのメンバーからこうも求められているのに回避したいと思うだなんて、俺の心も贅沢になったもんだ。

 

 だが彼女たちの気持ちを無碍に扱いたくもないので、ここは仕方ないか……。

 

 

「分かった分かった。曜との卓球で体力が余っていればな」

「それ、私がどんな卓球をすると思ってるんですか……? 某サッカーやテニスのアニメみたいに、異次元の力を使うとか思ってません……?」

「いやお前さ、普通に容赦ねぇだろ。特にスポーツ関係に至ってはさ」

「運動家として、スポーツマンシップに誓うのは当たり前のことじゃないですか!」

 

 

 これだから運動部所属は……。こちとら特に用事がない日は引き籠るような生活をしてんだから、いきなりスポコン要素を持ち出されても困っちまう。しかも大学生なんて言ってしまえば準ニートみたいな自堕落な生活を送ってる訳だし、高校の決まった時間に起きて授業を受け、決まった時間に帰るなんて規則正しい生活をしてる奴と比べたら体力面も不安定だ。

 

 でも曜はやたらと嬉しそうなので、その笑顔に免じて許してやるか。笑顔を向けておけば俺が言うことを聞いてくれると思ったら大間違い……でもないかあながち。もはや笑顔が麻薬となって、俺を衝動的に突き動かしているとしか思えねぇなこれ。

 

 曜は意気揚々(ダジャレではない)とラケットを選ぶと、浴衣の袖を捲ってポジションにつく。俺も適当なラケットをカゴから取り出し、卓球台を挟んで臨戦態勢に入ってる曜の目の前に立った。

 

 

「よ~し! 早速いきますよ先生!」

「はいはい……」

「よ~~~~そろーーーーーーっ!!」

「な゛っ……!?」

 

 

 卓球って、ここまで超難易度のスポーツだったっけ……? 曜の打ったサーブボールが、えげつないほどのパワーとスピードで盤面をバウンドして通り過ぎて行ったんだが……?? それになんか球が跳ね返った盤面から煙が出てるんだけど、大丈夫かよこれ?? 俺はもっと、キャッキャウフフしながら温泉後の準備運動的な感じで卓球をするのかと思っていた。言うなればそう、砂浜で男女がのほほんと追いかけっこをするような穏やかな雰囲気。そんな風に片手間にできるくらいの卓球を想像していたのだが、コイツはガチだ。ガチで俺を打ち負かそうとしてきやがる……。

 

 曜はしてやったりの表情で、俺をにんまりと見つめてくる。コイツまさか、最初から俺を潰す気で卓球を挑んできたんじゃねぇだろうな? よくいるんだよな、弱い奴を虐めて優越感に浸ろうとする奴が。可愛いからって狡賢いのが許されると思うなよ……。まぁ許しちゃうんですけどね、可愛いから。曜からしてみれば普通の卓球かもしれないが、俺からしてみたら某サッカーやテニスのアニメのような超次元領域なので、とりあえず手加減はしてもらわないと身体的にも精神的にもボコボコにされてしまうだろう。

 

 

「あのさ、いきなり全力すぎやしませんかねぇ……」

「だ~か~ら! これが私のスポーツマンシップなんですよ。手加減をしたら相手に申し訳ないじゃないですか」

「一理あるけど、今はもっと力を抑えてくれねぇか? お前の打った球の力が強すぎて、打ち返したら手首がもげそうだからさ」

「そ、そんな馬鹿力じゃないですよ! ていうか、女の子にそんなことを言うなんて相変わらずですね」

「男女平等主義なんでね俺は」

「女性贔屓しかしていない先生が何を言ってるんですか……」

 

 

 それは俺の周りに女性しかいないだけで、男に対して態度が変わるなんてことはないから。それにμ'sやAqoursのみんなは他の誰よりも大切な存在だから、接し方が違うのは必然というかそれが普通だ。それに俺からコイツらへ向ける態度よりも、コイツらから俺への態度の方が一線を画していると思うんだけど気のせいか?

 

 とりあえず、このままフルパワーの曜と卓球を続けると打ってきた球で身体を貫通されかねないので、一回り手加減してもらうことにした。当の本人は渋々な様子だが、しばらくラリーを続けるうちに再び楽しそうな表情に戻っていった。でもようやく準備運動並みの卓球ができて、命の心配をせずに済んだのは良かったよ。つうかこんな優しいショットが打てるなら最初からやって欲しかったもんだ。

 

 そして、そんなこんなでゆったりとした卓球を続けていたのだが――――

 

 

「えいっ!」

 

 

 曜がラケットを振るたびに、浴衣が身体の動きに合わせて靡くため――――

 

 

「とうっ!」

 

 

 浴衣の奥の肌がチラチラと見え隠れしていた。

 しかも温泉上がりで元々浴衣を緩く着ていたためか、アイツが動くたびに徐々に着崩れている。

 

 

「そいっ!」

 

 

 更に曜は下着を着けていないらしく、球を打ち返して身体が揺れるたびにおっぱいも元気良く揺れる。だが着崩れているが中々開けない浴衣、また卓球台で下半身が微妙に見えないのが非常にもどかしい。もうちょっと大きく動けばおっぱいが浴衣から零れ、卓球台がなければ太ももを完全に拝めるものの、さっきから絶妙に隠されて見ることができない。

 

 そんな絶対領域に翻弄されていればもちろん、卓球に集中できるはずもなく……。

 

 

「先生、集中してますか!? さっきから私のワンサイドゲームになってますけど? 手加減してって言ったのは先生じゃないですか全く」

 

 

 こうして怒られる訳である。

 あのな、温泉上がりの艶のある胸元を見せつけられて卓球に集中できる訳ねぇだろ。しかも柔らかそうなおっぱいを大胆に揺らしやがって、誘ってんのかコイツは。大人だから理性を保つと冒頭に言ったのだが、早速その牙城が破壊されて目の前のほぼ半裸少女に手を出してしまいそうだ。しかも今日はたくさんの女の子の裸体を見たり触れたりしているから、少し欲求が溜まってんだよ。だから目の前で浴衣をチラチラさせられると、もはや卓球どころじゃなくなってしまう。そんな状況で力なんて入らねぇって……。

 

 

「先生ってもしかして、卓球苦手なんですか?」

「いや嗜む程度にはできるんだけど、そのなんだ……? 煩悩が……」

「あっ、もしかしてさっき女湯に侵入した時のことを思い出してるんですか? 相変わらずエッチというか、よくそれで教師になろうだなんて思いましたよね……」

「ほっとけ……」

 

 

 教育実習を終えた今でも実感するよ。俺ってつくづく教師なんて柄じゃないってことがな。しかも女の子が好きだからという自分勝手な理由だけで女子高の教師を希望しているのがこれまた不純。特に今のご時世では教師が女子生徒に手を出したり、校長など上位の役職の人たちまでもがそのような不祥事を起こす時代だ。つまりこんな変態が教師になって女子高に務めようだなんて、曜からしてみれば意味不明で監獄に入りたかがる無謀な挑戦者だと思っているだろう。

 

 でも俺は好きなことに対しては命を懸ける。ほら、μ'sやAqoursに献身的な愛を注いでるのと一緒だよ。まあこれだけの女の子に囲まれておきながら、まだ女の子たちにちやほやされたいのかと言われるかもしれないが、それはそれ、これはこれだ。

 

 

「とにかく、これからは本気を出してくださいよ! せっかく先生と2人きりで卓球してるのに、本気でぶつかり合わなくてどうするんだって話ですから」

「お前そんなにスポコンだったっけ……? 分かった分かった、できる限りは頑張るよ」

 

 

 とは言うものの、曜の浴衣の着崩れがどうしても気になるので本気が出せないのは事実。今も首元が開け、綺麗な鎖骨がくっきり丸見えとなっているため既に集中できていない。しかも薄っすらと汗をかいていることで色っぽく見えるのがこれまた厄介。

 

 露出で男を油断させるとは、あどけない顔をして卑怯な奴め……!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 結局、曜の無自覚な肌の露出に翻弄されて惨敗してしまった。女性に対する免疫力は学生時代より上がっているとは言えども、やはり女子高生の身体を生で見られるとなると目を離すことはできない。男の性だからな、これも。

 

 ちなみに俺が集中していないことで再び曜が怒り、無駄に卓球を2試合3試合と続けてしまったためか善子たちとの卓球に付き合う時間はなかった。とりあえずまた明日の夜に付き合ってやると約束してしまったのだが、この噂を聞きつけた他の子までもが誘ってこないか心配だ。まあそれだけ求められるのは幸福だと思って、甘んじて受け入れるよ。

 

 そして現在、俺と曜は卓球を終え部屋に戻っている最中である。

 

 

「もうっ、先生ってば最後の最後まで手を抜いてましたよね」

「それは色々な事情があってだな。またいつか本気でしてやるから」

「さっきからずっとその言い訳ですけど、どんな事情があるんですか……?」

「女の子には女の子の秘密があるように、男には男の秘密があるんだよ」

「まーたはぐらかそうとしてますね……」

 

 

 俺の隣を歩く曜は、目を細めながら俺を見つめてくる。

 お前の身体がエロ過ぎて集中できなかったとか言える訳ねぇだろ。しかもそれに言ったら言ったら浴衣を着替えてしまい、あの至福の時間を存分に味わえなかっただろう。

 

 その時だった。曜の雰囲気が少ししおらしくなったのは。

 

 

「…………良かったのに」

「へ?」

「別にもっと私の身体に夢中になってくれても、良かったんですよ……?」

「な゛ぁっ……!?」

 

 

 な、何言ってんだコイツ!? しかもそんな言葉が出てくるってことは、コイツ最初から俺が卓球に集中できなかった理由を知っていたのか?? それに自分の身体に夢中になっていいってことは、好きにしていいってこと……!? ダメだ、突然の告白に混乱してきた。

 

 すると戸惑っている俺に追い打ちをかけるように、曜が俺の身体にしなだれかかってきた。そして自分の腕を俺の腕に絡ませ、そのまま自分の胸にギュッと押し付ける。さっきまで浴衣の中で揺れる様しか見られなかったあの胸を、まさかコイツから密着させてくれるなんて……!!

 

 

「急にゴメンなさい。でも先生と一緒に遊べたことが嬉しくて、それに周りに人もいないのでつい……」

「そっか。でもどうして……?」

「先生とゆっくりお話ししたかった。ただそれだけのことですよ。東京に来たけどずっと練習続きで、先生と一緒にいられる時間はあってもお喋りする時間はそれほど多くはありませんでしたから。まぁ、練習のために東京に来てるんで仕方ないと言えば仕方ないんですけどね。それでもやっぱり、先生と一緒にいる時間が欲しいなぁと思いまして。ほら、いつもは千歌ちゃんたちに先生を譲っているので、今日くらいは……。あはは、ワガママですよね私……」

 

 

 なるほど、如何にも彼女らしい想いだ。曜は千歌と同じく明るく活発で物怖じしない性格のように見えるけど、その実、自分の中で悩みや鬱憤を溜め込みやすい性格なのだ。どうしても自分から一歩引いてしまう性格で、誰から背中を押されないと中々自分から強く踏み込むことができない。その証拠として、Aqoursの他のメンバーは練習後に時間がない時でも積極的に俺と触れ合っていたものの、曜とはあまり2人きりで喋ったことがない。水泳だったり服を見繕ったりと1人の趣味に対しては全力を注げるものの、恋愛、増して千歌たちがいる状況だとやはり一歩引いてしまう。それがコイツの他人を思いやれるいいところでもあり悪いところでもあるのだ。

 

 

 でも――――

 

 

「ワガママでもいいんじゃね?」

「え……?」

 

 

 俯いていた曜は、目を見開いて再び顔を上げた。

 

 

「好きな人と一緒にいたいって気持ちは誰にでもあるだろ。千歌たちのように積極的な奴らもいれば、梨子たちのように謙虚な奴らもいる。でも積極的だからとか謙虚だからとかで、相手に対する想いの強弱なんて決まるものじゃねぇと思うんだ。そもそも好きな人への想いなんて、誰かと比べるものでもないしな。要するに、自分の信念を第一に行動しろってことだよ」

 

 

 愛の強さを他人と測ったらどうなるのか。それは5年前にμ'sの9人が身をもって体験させてくれた、あの事件から結果は明らかだ。だから愛の強さなんて考えるだけ無駄だと、俺はその事件以降に身に染みて実感したんだ。

 

 

「お前はお前なりに、自分のやり方で想いの人を振り向かせてやればいいんじゃねぇの? それがどんなワガママな方法であろうとも、自分と相手が良ければそれでいいじゃん。ま、お前の振り向かせる対象である俺が、こんなことを言うにも変な話だけどな」

 

 

 そう言って曜に微笑みかけると、彼女からも自然と笑みが零れた。さっきから何やらクサいセリフを吐いているが、愛情を向けられる対象の俺自身からこんな話をするなんて滑稽すぎるだろ。まるで自分がこんな風に愛情を向けてもらいたいと曜を誘導しているように見えるので、ちょっとばかり恥ずかしいなこれ。

 

 でも、それで曜がよりやる気になってくれるのなら俺も願ったり叶ったりだ。だって曜がやる気を出せば出すほど俺へのアタックが強くなるってことだろ? そりゃ誰だって後押しするだろ。

 

 

「私自身のやり方で……」

「それが卓球で身体を晒すことだったなんて、中々できる発想じゃねぇけどな」

「でも、ずっと私の身体を見ていましたよね? 触りたいとか、思っていたんじゃないですか……?」

「そりゃ触りたいだろ。あんな綺麗で柔らかそうな肌を見せつけられたら、男だったら誰でもめちゃくちゃにしたいって」

「いいですよ。私はいつでも……」

「えっ……?」

 

 

 この流れ、曜と2人きりになった直後の話に戻ってね? やっと混乱した頭が落ち着いたのに、曜の大胆告白でまた取り乱してしまいそうだ。だが彼女とは雨の中の公園で2人きりの時に()()()()()()()をした関係なので、俺との交流の方法に自分の身体を差し出す考えに至るのは分からなくもない。だけどそれを加味しても、浴衣姿で俺を誘えばどうなるのかは明白なのに肝が据わり過ぎてるだろコイツ……!!

 

 雨の中で俺に()()()()()()()をした時はもっと俺に対して積極的になると決心していたらしいのだが、今は浴衣姿で躊躇なく身体を差し出す積極さを見せているので十分に合格点だ。そもそも、この積極さは成長したって扱いにしていいのか……?

 

 

「私、先生のことが好きです。表面上の私だけを見ず、私の心を奥底から気持ちを汲み取って後押ししてくれる。そんな優しく誠実な先生が大好きです。だから先生が望むことならどんなことだってしてあげられます。自分で言うのもアレですけど、私、いい身体をしていると思うんです。もしその身体で先生を満足させてあげられるのなら、先生が望むだけ好きにしてもらっても構いません。それが、私のできる愛情の伝え方ですから」

「性格も面倒だと思えば、思考までピンク色とは恐れ入ったよ」

「自分の好きに行動しろって、さっき先生が言っていたじゃないですか」

 

 

 どえらいことを口走っているくせに笑顔を向けられるってことは、それだけコイツが本気だってことか。

 そしてここまで女の子の許可ありで誘われると、大人だからとか教師だからとか、そんな柵を考慮すること自体がバカバカしくなってくる。相手が身体を求めているんだったら、その方法がどれだけ外道であろうとも応えてやるのが筋ってもんだ。世間体とか周りがどう思おうが関係ない。これは俺たち2人だけの問題なんだから。

 

 

「ひゃぁっ!?」

 

 

 俺は唐突に曜の腕を掴むと、廊下から少し離れた死角となるスペースに彼女を連れ込んだ。階段の下で廊下の照明も届かない薄暗い場所。多少の音や声が漏れてもバレることはないだろう。

 

 

「今日は女の子たちの裸を見たり触れたりしたけど、下手な行動はしないようずっと我慢してたんだ。でもお前をここに連れてきた」

「先生が仰る意味は分かってます。だから……」

 

 

 そして曜は、浴衣を開け始めた。

 

 

 女子高校生と身体で繋がろうなんて、どれだけ大きな不祥事になるのかは理解している。でも曜との愛情を一番効率良く、強く感じられるのはこの方法だ。もうこれ以上彼女が寂しがらないように、人生で最も多感で瑞々しい一生に一度の思春期に、俺の所有物(モノ)だってことを刻み込んでやる。

 

 それが俺が曜に向ける、一途な愛情ってやつだから。

 

 




 曜との恋愛話は基本的に歪んだ方向に話がシフトしていくことが多いですが、零君も曜も大人の情事にはどっぷり浸かってしまう子たちなので、彼らにとってはこの関係が一番良いのではないでしょうか。

 この前の果南もそうだったのですが、もうAqoursの子たちは零君にゾッコンですね(笑) まあ思考回路がピンクに染まっているのは確実に私の裁量のせいですが……

 こんな感じで、合同合宿編の中でAqours個々人の回は全員分執筆しようと思います。


只今、リクエスト小説のネタを募集中です!
ご要望があれば、是非活動報告にてコメントをお願いします!

【募集箱】
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=181617&uid=81126


また、小説への評価も募集中です!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神崎姉兄妹(きょうだい)の近親愛

合同合宿編、8話目
今回はサブタイトルでお察しの通り、秋葉さんと楓ちゃんが零君に対する"愛"を告白(!?)


 現在、曜との()()が済み、自室に戻っている最中である。幸か不幸か今日だけでもたくさんの女の子に絡まれたので、嬉しさはあれど体力的に疲労を感じている。特にさっきは久々にいい運動をしたから、準ニートの俺にとっては運動不足の解消にもなっただろう。しかし女の子との()()()()で日々の運動不足を解消できたとしたら、贅沢だけどそれはそれで別の意味で疲れるんだろうなぁと思う。これくらいでへばってたら、μ'sとAqoursの全員を相手にすることは到底できねぇな。だから慣れないととは思うけど、こういうのってやっぱり経験と回数を重ねないといけないから難しいところだ。

 

 そんな感じで新たな目標(汚らしい目標だが)を掲げたところで、今日はもう寝るとするか。明日も早くから練習だし、それにさっき曜との一件で色々とスッキリしたのでこの調子ならば気持ちよく熟睡できると思うんだ。これでまた下手に女の子たちに絡まれたら、夜は長いと言っても時間が足りないからな。今から寝れば睡眠時間は8時間。うん、実に健康的だ。身体もスッキリしたし睡眠もしっかり取れる。もしかして、女の子と色々やった後の方が健康的な生活を送れているんじゃね……? 

 

 以前に楓が『お兄ちゃんがμ'sとAqoursのみんなと毎日1人ずつエッチするとしたら、ローテーション的に1ヵ月に1回しかお兄ちゃんとエッチできないじゃん!!』と文句を垂れていたことを思い出す。あの時の俺は『そもそも毎日毎日そんなことできるかよ。テクノブレイクしちまうだろ』と言い返していたのだが、今の俺の健康状態を考えると割とそんな生活もアリのような気がしてきた。身体の老廃物を吐き出す行為だもんな、そりゃ気持ちよくなるに決まってる。

 

 

 今後の生活を卑しく妄想しながらも、遂に自室の前に辿り着く。

 ようやく激動だった1日が終わるんだよな。最近は夏休みだからダラダラとした生活が続き、1日を無駄に過ごしてきたせいか今日は相当内容が濃く感じた。その時その時は大変だったけど、思い返してみればいい思い出なのかもしれない。ま、思い出作りなんてそんなものか。

 

 柄にもなく感傷に浸りながら、自室のドアの鍵を外して開ける。

 さっきも言ったけど、今日はもう寝よう。明日も早いし、久々に()()()()()をしたから腰も痛いし――――――

 

 

「やっほ! お邪魔してるよん!」

 

 

 鍵……かかってたよな?

 俺の部屋に、世界の癌と呼ばれる姉が窓際の椅子に座ってふんぞり返っていた。ふんぞり返っているせいで世界遺産級である超ド級の胸が浴衣を大きく押し上げいるのが確認できるが、それに反応したら負けのような気がするのでスルーしよう。それよりもワイングラスを持ち、我が物顔で俺の部屋を占拠している方が問題だ。コイツも自分1人だけの部屋が与えられているはずなのに、どうしてここにいるんだよ……。

 

 

「お兄ちゃん早くなんとかしてよ。さっきからずっとお姉ちゃんのお酒に付き合わされてるんだから」

 

 

 そして秋葉の対面には、浴衣姿の楓が椅子に座っている。こう見えても楓はまだ未成年なので飲んではいないのだが、逆に飲んでいない冷静なテンションのまま秋葉に付き合わされていたと思うと同情してしまう。飲めれば酔ったテンションで話も弾むので、楓にとっては苦痛の時間この上なかっただろう。そもそも、コイツまでどうしてここにいるんだって話だけど……。

 

 

「聞きたいことは1つ。どうして俺の部屋にいるんだよ」

「どうしてって、零君と一緒に飲みたいからに決まってるじゃない♪」

「私はただお兄ちゃんとお喋りしたかっただけ。そう思ってこの部屋に来たら、まさかお姉ちゃんが出てくるとは……。逃げようと思ったらこの部屋に引き摺り込まれるわ、お兄ちゃんがいると思ったらいないわ、おばさんのお酒に付き合う羽目になるわで散々だよ」

「おばさんとかひどぉーーいっ! まだ26歳ですぅーーっ!! それに私、これから歳を取らないから。私の開発した若さを保つサプリメントを服用すれば、どれだけの年月が経過しようが20代の肌を永遠に保ち続けられるもん」

「サラッと言うけど革命的過ぎるだろそれ……」

 

 

 秋葉は子供のように壮大な夢を口に出すことが多いが、それをいとも容易く実現できるのが俺たちとの格の違いだ。20代の肌を永遠保ち続ける薬なんて、世間に公表したら世界が激震するどころの騒ぎではない。もはや金も一生、いや転生後の人生すらも遊んで暮らせるほどに手に入るだろう。今はこうして人の部屋を占拠してワインを飲むなんてイカれたことをしているが、やっぱり天才っつうのはイカれてないとなれねぇもんなんだと実感する。

 

 ていうかそんなことよりも、まだ俺の1日は終わらないのか……。今日はもう寝ると決めていたのに、部屋に戻ったらこの有様である。ちょっぴり酔っている姉と、強制的に酒に付き合わされてイラついている妹。どうして自室なのにこんなにも空気が悪いんですかねぇ。

 

 

「ほら零君も座って座って! 夜はこれからだよ!」

「疲れたからもう寝たいんだけど」

「そうやってす~ぐお姉ちゃんを除け者にしようとして……」

「しようとしてんじゃなくて、もう除け者なんだよお前は」

「そうだよ。お姉ちゃんがいなければ、今頃お兄ちゃんとしっぽりやってた頃なのになぁ~」

「お前もお前で欲望丸出しだなオイ……」

「今更なに言ってるの? 神崎兄妹は欲望に塗れた人種でしょ?」

「それは否定できねぇわ……」

 

 

 確かに神崎兄妹は欲望と、それに付随する近親愛で構成されている気がする。各々が欲望に対して忠実となった結果、俺はたくさんの恋人を作り、楓はブラコンを拗らせ過ぎて兄である俺と結ばれ、秋葉は私利私欲のために世界を玩具にしている。自分で言うのもアレだけど、まさに欲望という言葉を具現化したような兄妹なんだ。そのクセ、妙に兄妹同士での仲がいい。俺と楓の関係が度を越しているのは知っていると思うが、秋葉もまた別の意味で俺たちに執着している。むしろコイツが興味のあるものと言えば、それは俺たちしかいないのだが……。

 

 

「まぁまぁ、久しぶりに兄妹3人集まった訳だし、朝まで語り明かそうよ!」

「酔ったお前と一緒に話すことなんてねぇよ」

「そうそう。ただでさえ海未先輩の指導が厳しくて疲れてるのに、お姉ちゃんにまで付き合ってたらあと2日ももたないよ」

「またまたぁ~♪ 2人共ツンデレさんだねぇ~」

「今の発言のどこにデレ要素があるってんだよ……」

 

 

 酔ってる、完全に酔ってやがる。普段の秋葉は研究に没頭するタイプなのでそもそも飲まないタイプなのだが、だからこそこうしてガッツリ飲み始めるとすぐに酔ってしまう欠点がある。本人曰く飲んでこんな調子になるのは俺と楓の前だけ、つまり本当に信頼している人の前でしかハメは外さないらしい。まあいつものお調子者な性格が更に酷くなっただけなので、俺たち的には迷惑以外の何物でもないけどな。

 

 

「私のお酒に付き合えるのはあなたたちしかいないよ。他の男は私に取り入ろうなんて下心が見え見えだし、お偉いさんも私を調子付かせてペコペコしまくりだし、もう相手にならないっつうの」

「お前は顔と頭だけは抜群にいいから仕方ねぇか……」

「そのことに関しては、私もお姉ちゃんに同感かな。大学でも如何にもパリピっぽい男たちが色目を持って話しかけてくるんだよ。しかも男には興味ないって言ったら百合好きなのとか聞いてくるし、あぁ~もう思い出しただけでも気持ち悪い!! 下品な男たちの声で耳が犯されたから、早くお兄ちゃんの声で癒されないとって思うんだよね」

「俺はセラピストか何かかよ……」

「本当にこの世界は零君以外に興味のある男がいなくて困るよ。ま、私は零君さえいてくれれば全然OKだけどね♪」

「世界中の男がお兄ちゃんだけだったら、毎日毎日ゴミの話に付き合わなくて済むのになぁ」

 

 

 サラッと俺を持ち上げる2人だが、話の内容的には近親愛の度を振り切るくらいに越している。楓は言わずもがなだが、秋葉も相当なブラコンだ。

 2人は性格に難ありだが、容姿だけは神の最高傑作と言ってもいいほどの見た目をしている。だからイケメン、資産家、世界で活躍する人たちなど、普通の女の子が手を伸ばしても到底届かない男たちが、秋葉と楓に対しては自ら言い寄ってくるんだ。1000年に1人の天才と呼ばれる美人と、ダンスや歌など神掛かった演技ができる美少女を世界が放っておくはずがない。

 

 だが、2人は世界に見向きもしない。その目には常に俺が映っているようで、さっきの会話からお察しの通り他の男なんてゴミのように扱っている。世界中の男たちに注目されるほど恵まれた環境がありながらも自分の弟と兄に執着し続けるということは、コイツらが俺に対して抱いている近親愛は生半可なモノではないってことだ。楓は確実に"恋"や"愛"の部類だが、秋葉は……どうなんだろう? お互いに恋人同士にはなれない(ならないと言った方がいいか)と認識してから4年、秋葉が俺に対する愛情がどんなモノかは未だに測りかねる。ただ単に玩具にしたいのか、それとも恋愛的に興味が唆られる男が俺しかいないのか……? どちらにせよ、弟と兄をそういう対象として見ている時点でコイツらは変人なんだよ。

 

 かく言う俺も、人のことは全然言える立場じゃないのだが……。

 

 

「お姉ちゃんはお兄ちゃんの恋人じゃないでしょ。だったら引っ込んでてよ」

「楓ちゃんは零君といつも2人きりで家にいるじゃない。たまには譲ってくれたっていいでしょうに」

「それはお姉ちゃんが研究室に籠ってるからじゃん。悔しかったら家に帰って来れば? まあ私としては、お兄ちゃんとの聖域を犯して欲しくないから帰って来なくていいけど」

「だって1人きりの研究室じゃないと、あなたたちが迷惑するでしょ。薬品の匂いとか家中に充満しちゃうかもだし……」

「お、お前にそんな配慮があったのか……」

「お姉ちゃんに人の心があったなんて……」

「ひどっ!?」

 

 

 よく凶悪犯罪者のことを悪魔の生まれ変わりだの悪魔の子だの呼ばれたりするが、秋葉は正真正銘の悪魔である。そんなコイツが俺たちを気遣って、わざわざ研究室に籠っていたとは……。にわかに信じ難いが、俺と楓にだけ興味を持っている彼女なら有り得なくもない。興味を持っているが故に変な発明品の実験台に俺たちを抜擢してる訳だけど、その時点で人の心なんてないと思っていた。強制的に尿意を催させたり、風呂場のスポンジに変身させたり、女の子に性転換させたりと、使い方を間違えるとどうなるのか分かったものじゃない発明品を俺で試すのもそれまた"愛"なのだろうか。そんな歪んだ"愛"はいらねぇけど、実姉から普通の近親愛を向けられたいって言うのも変な話だよな。

 

 そもそも、兄妹で近親愛を語るって時点で俺たち神崎兄妹は色々と終わっているのかもしれない。

 さっきだってほら、何故か俺の取り合いをしてたし。弟を欲しがる姉に、兄を欲しがる妹。なんかもうラノベのタイトルみたいだなこれ……。

 

 

「私だって人を心配する心はあるよ。零君が小さい時、誰が零君の面倒を見てあげたと思ってるんだか」

「母さんから聞いた話だと、お前って小さい頃から父さんの研究室に遊びに行って色々やらかしてたらしいじゃねぇか。それなのに俺の面倒を見ていた記憶がどこにあるんだよ……」

「私だって小さい頃はお兄ちゃんと遊んだ記憶しかなくて、お姉ちゃんのお世話になった思い出なんて全然ないんだけど」

「むしろ変な発明品の実験台になった記憶ばかりで、お世話どころか忌むんでたぞ」

「同感。でもお兄ちゃんだけが私に付きっ切りだったおかげで、こうしてお兄ちゃんのことを好きになれたから良かったんだけどね」

「私ってそんなにお姉ちゃんとして威厳ない!? ちょっとでもいいから感謝の言葉が思い浮かんだりしないの!?」

「「しない」」

「お姉ちゃん泣いちゃうよ??」

 

 

 自分が忌み嫌われると知っていながら俺たちを実験台にしていたんじゃねぇのかよ……。どうせ好きな子に悪戯をしたがる小学生レベルの好奇心で俺たちを実験台にしていると思うので、もはや忌み嫌うどころか呆れるしかないけどね。しかし幸か不幸か、秋葉とのこんな関係はもう慣れている。だって生まれてから20年以上ずっと同じ関係を保ち続けているんだから、慣れないとやってけねぇよ。

 

 

「お姉ちゃんは邪魔者って分かったでしょ? ならサッサと帰った帰った! 私はお兄ちゃんと2人きりで寝るんだから」

「なにナチュラルに一緒の布団で寝ようとしてんだ……」

「私が相当変人だってことは理解してるけどさ、楓ちゃんだって相当おかしいと思うよ? 実の弟と妹が肉体関係を持ってるとか、悪魔と言われた私でも流石にビビッて誰にも言えないもん」

「私は生まれた時からの夢が叶ったからみんなに言いふらしたいんだけど、お兄ちゃんがダメだって言うし……」

「当たり前だろ。バレたらその時はその時に考えるけど、自らバラすとか自殺行為も甚だしいっつうの」

「恐ろしい弟と妹だよホントに。高校生の時から兄妹で1つ屋根の下。しかも恋人同士になったかと思えば、身体を重ね合わせることに躊躇いがない。もう近親愛がさも当然のような日常になってるよね」

「そうなんだよ。私、世界中で誰よりも幸せな自信があるよ♪」

「昔からずっと零君にベッタリだったもんねぇ……」

 

 

 楓と2人でいる時間が長すぎてあまり考えていなかったけど、第三者の口から俺たちの関係を語られると"背徳"をひしひしと感じるな……。辞書の『近親愛』や『近親相姦』の単語の説明欄が『神崎兄妹のこと』で事足りるくらいには、俺と楓の関係は発展している。でもさ、家事能力が抜群で飯が超絶に美味く、俺に一途で身体はワガママボディと言われるほどエロい、そんな妹を好きにならない理由なんてないだろ?? 2人の会話を達観して聞いていたけど、そんなことを思ってしまうあたり俺も近親愛が強いんだと実感する。秋葉に対しての愛は……まぁ、こんな奴だけど信頼はしてるよ、一応ね。

 

 

「お兄ちゃんとの子供もそろそろかなぁ~なんて! 今の家の雰囲気もいいけど、これからの未来設計もちゃんと考えておいてね。ア・ナ・タ♪」

「その言い方やめろ。それに家族なら、最近新しい家族ができただろ」

「は……? まさか私に内緒で他の女を連れ込んでるとか……? 殺すんだけど?」

「自然と殺人予告すんな! 猫のことだよ猫!」

「あぁそっちね!」

「3匹の猫を引き取ったんだっけ? そういや一度も見たことないから、この合宿が終わったら家に帰ってみようかな」

「楓がノリノリでお世話をしてるから、拾ってきた俺よりも楓に懐いちゃってるけどな」

「だって将来お兄ちゃんとの子供ができた時、こうやって育てていくんだなぁと考えてたら楽しくなっちゃって♪」

 

 

 そんなことを考えながら猫の世話をしてたのか……。確かにあの猫たちはまだ子供で身体も小さいから、触れ合っていると母性本能が刺激される気持ちは分からなくもない。それに猫3匹の仲がとてもいいから、仲良く遊んでいるところを見ると兄弟の子供がいるみたいでなおさら親の気持ちが分かるんだ。

 

 そういや、猫って以前にも家で飼っていた記憶があるんだよな。善子から捨て猫を引き取った時、そんな記憶が薄っすらフラッシュバックされた。俺が小学生の頃なら秋葉も楓も一緒の家にいたし、何か知ってるかも……?

 

 

「なぁ。俺が小学生の頃、家で猫とか飼ってたりしたか? 覚えてないってことは勘違いかもしれないけど……」

 

 

 すると、楓が俺の目をじっと見つめてきた。さっきまで頬を緩ませて俺との将来を嬉しそうに妄想していたのに、今は無表情でどこか真剣な面持ちだ。

 そんなに変なこと言ったかな……?

 

 

「…………飼ってないよ」

 

 

 そう言いながら、楓は俺から目線を外す。

 どうやら俺の勘違いだったらしい……多分。でもさっきの和やかな会話と違って、どうも雰囲気が重い。秋葉もワインを飲むだけで何も喋らないし、楓はそっぽを向いて俺の話の興味がない()()をしているようだ。

 

 何か裏があることは察せるがこんな空気になった以上、追及したところで俺の疑問が解決することはないだろう。

 だったらやることは1つ――――――

 

 

 

 

 もう寝る!!

 

 

 

 

「もうこんな時間だ、お開きにしよう。飲みたいなら自分の部屋で飲め」

「ちょうど1ボトル全部飲み終わったところだから、私ももう寝ようかな。酔っていい感じに眠気も来たしね、ふわぁ~~」

「おいっ!? ここで寝ようとすんな!!」

「なら私もお兄ちゃんと一緒に寝る!! お姉ちゃんはいらないけど」

「だったら兄妹で仲良く3人で寝る? 零君を真ん中にして川の字になってさ」

「う~ん、お姉ちゃんがいるのは癪だけど、妥協点っちゃ妥協点か」

「だから、俺の意見を無視して話を進めんな!」

 

 

 姉妹で仲がいいのか悪いのか、利害が一致した時は秋葉と楓の結託力が凄まじいことになる。2人共俺を中心に会話をしているのに、その俺を置いてけぼりにするくらいだ。しかも秋葉の奴、もう俺の布団に入って熟睡する気満々だし……。何が悲しくて大人3人の兄妹が川の字で寝ないといけないんだか。

 

 こんなやり取りを見ていると、俺たち3人って倫理観以前に思考回路からぶっ壊れてるよな。だって、たまには3人一緒に寝てもいいかと少し思い始めてきた俺がいるんだから。

 

 

「…………お兄ちゃん」

「ん?」

「これからは、ずっと一緒だからね♪」

「あ、あぁ……。ん?」

 

 

 真剣な面持ちで俺を呼んだかと思えば、急に笑顔になる楓。

 もう姉も妹もミステリアス過ぎて、何を考えてるのか分かんねぇわ。

 

 これからは……ねぇ?

 

 

「ほら! お兄ちゃんは私たちの真ん中で寝るの!」

「おっ、これは2人で零君を抱き枕にしていいってことかな?」

「両端からおっぱいを擦り付けられて、お兄ちゃん寝られなくなっちゃうかもね」

「そんなことせずに普通に寝てくれ……」

 

 

 恐らくだけど、俺たちは世界一仲のいい兄妹だと思う。

 まあその仲の良さが近親愛に発展するほど歪んだ関係なんだけど、これはこれで悪くないのかもな。

 




 神崎3人兄弟の談義回はいつかやりたいと思っていたのですが、やったらやったで内容が相当危なくなってしまいました(笑) でも3人の仲の良さを見せつけられたと思うので、私的には非常に満足している回です。

 秋葉も楓もご存じの通りこの小説のオリキャラなのですが、3年以上も2人を描き続けていると穂乃果たち原作キャラ以上に執着が湧いてきます(笑) そもそも穂乃果たちが魅力的なキャラばかりなので、オリキャラを出す場合は彼女たちに負けないくらいのキャラにしないといけないんですよね。(これはラブライブ以外の二次創作でも当てはまる話ですが)
なので私は今回のように零君を含め、兄妹3人全員がお互いに近親愛を持っているというぶっ飛んだ性格を設定してしまいました。元々ブラコンの姉と妹キャラが好きだったと言うのが一番の理由ですが(笑)

 しかしそんな中で、読者の皆様に秋葉と楓が普通に受け入れられて貰えているのが驚きでなりません! 楓がいないとμ'sではないと言ってくださる方もいらっしゃいますし、秋葉さん好きというコアなファンの方も大勢いらっしゃいます。ラブライブ小説なのでメインはμ'sやAqoursとなってしまいますが、今回の話のように彼女たち2人にもスポットを当ててこれからも『新日常』のストーリーを作成していこうと思います。




 次回はようやく合宿2日目となり、2日目は花丸回からスタートします!
 花丸の悩みを解決する鍵は絵里と希。彼女たち3人の共通点と言えば……?



只今、リクエスト小説のネタを募集中です!
ご要望があれば、是非活動報告にてコメントをお願いします!

【募集箱】
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=181617&uid=81126


また、小説への評価も募集中です!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

巨乳すぎて困ります!

 合同合宿編、9話目
 合宿も2日目に入りましたが、周りの女の子が多いとこんなことも相変わらずで……


 μ'sとAqoursの合同合宿、2日目。

 今日も練習日和の快晴で、女の子たちの汗水垂らす姿を見られる絶好の日だ。ちなみに今日は昨日とは違って遊びの時間は一切ない。そのため穂乃果たち一部の奴らからは批判の声が上がったものの、そもそも合宿の目的が練習なので彼女たちの意見はあっさり却下された。しかもAqoursのみんなはこの合宿が終わったら内浦へ帰ってしまうため、μ'sと練習できるまとまった時間は今回くらいしかない。多少ハードスケジュールになろうとも、スクフェスにコラボ枠として参戦するからには気張って欲しいもんだ。ま、ただ練習の様子を眺めている俺が言えた義理でもないけどさ。

 

 そんな感じで2日目が始まった訳だが、現時刻は誰もまだ起きていないであろう朝6時前である。朝の旅館をウロウロしているけど、宿泊客どころか従業員の人もほとんどいない。朝の薄明るい静けさって、なんか好きなんだよな俺。特に普段賑やかなところが無音だと新鮮さがあるって言うか、雰囲気のギャップで異世界にいるような感覚になるのが好きだ。いつも女の子たちの騒ぎに巻き込まれる体質だから、余計に物静かな場所で落ち着いてしまうのかもしれない。

 

 ちなみに基本楓に起こされないと起きない俺がどうしてこんな朝早くに起きているのかについてだが、それは暑苦しくて寝苦しかったの一言に尽きる。なんせ身体の両方を秋葉と楓に占拠されていたんだ、そりゃ暑苦しいに決まってるだろ。しかも海沿いの涼しい場所の旅館とは言えども季節は夏。朝は蒸し暑く、軽く冷房をかけて寝ていたとしても2人に寄り添われていたらほぼ効果はない。つまり、あまりの寝苦しさに目が覚めちまったって訳だ。しかも俺に蒸し暑さを提供してきた張本人たちは酒の飲み過ぎと練習疲れで、今もぐっすりと就寝中である。ただでさえ1日目は波乱で事あるごとに騒ぎに巻き込まれていたのに、満足に寝かせてすらももらえないとかどこの拷問ですかねぇ……。

 

 

 部屋にいても仕方ないので旅館内を散策していると、中庭に見知った小柄の女の子がベンチに座っていることに気が付く。

 俺は中庭に出ると、何やら惚けている女の子の隣に腰を下ろした。

 

 

「随分と早起きだな」

「ずらっ!? な、なんだ先生かぁ~……」

 

 

 俺が中庭に来たことにも気付かないって、相当考え事してたんだな……。

 中庭でぼぉ~っとしていたのは花丸だ。浴衣姿のままちょこんと座っている姿は小動物のようで愛らしいが、こんなところで一体何をしてたんだコイツ?

 

 

「練習の開始時間的に、まだ1時間以上も寝られるだろ? こんな早起きでいいのか?」

「マルはいつもこのくらいの時間に起きているので、目が覚めちゃったんですよ。ほら、マルの家ってお寺だから、その辺の生活習慣は徹底されているんです」

「あぁそういえばそうだったっけ。誰かから時間管理されるのって、気楽な時もあるけど大変なこともあるよな。ぐっすり寝たいのに、決まった時間に起こされる鬱陶しさと来たら……」

「それはもう慣れですね。1回体内時計を作ってしまうと、こうして外泊の時でも決まった時間に目が覚めちゃいます」

「そりゃ健康的で良いことで。休みの日なんて楓に起こされないと昼まで寝ちゃうよ」

「妹さんに起こされるとか、先生もまだまだ子供ずら」

「い、言い返せない……」

 

 

 花丸に早起きの生活習慣があるとしたら、俺は楓に起こされる生活習慣が身に着いてしまっている。今日みたいに寝苦しくて目が覚めるとか特殊な状況なら話は別だが、基本的には誰かに起こしてもらうまで死んだようにぐっすりと眠ってしまうのが俺の体質だ。しかし俺が起こされ体質になったのは、楓が俺を朝起こしてあげたいという彼女の母性的ワガママも入っているので、一概に俺が怠けている訳じゃないぞ? それに用事がある日は携帯の目覚ましで起きるようにはしているし、花丸が言うほど子供じゃないと思う……多分。

 

 つうか、教え子に子供って言われるのって結構恥なんじゃないか……? まあ花丸は意外とSっ気があったりするので、心にもない軽い罵倒を受けるのはもう慣れてるけどね。いや、罵倒に慣れるってのもそれはそれで問題かも……。

 

 

「で? どうして中庭にいるんだ? なんかぼぉ~っとしてたけど」

「ま、まぁちょっと色々と……」

「俺たち2人しかいないんだし、悩み事があるなら遠慮せずに話せよ。一応ほら、2か月前はお前の教師だったしな」

「先生だからこそ言いにくいことなんですけど……」

 

 

 俺に言いにくいってことは、まさか恋愛絡みのことか? 確かに想い人に自分の恋愛相談をするのは気が引けるか。

 でも、花丸の様子を見ているとどうやら恋愛絡みではないらしい。さっきから自分の浴衣を気にしていると言うか、特に胸元に手を当ててそわそわしている。浴衣って身体のラインはそれほど出ないけど、胸の大きさがモロに分かるからコンプレックスな人は浴衣を着ない人もいるらしい。

 

 ん? 胸……?

 

 

「お前、自分のおっぱい気にしてんの?」

「お、おっぱ……!?!?」

「図星か。お前のおっぱいはコンプレックスになるどころか、女の子たちから羨ましがられるくらいデカいだろ」

「それが気になってるんです!!」

「はぁ? 大きいことが?」

 

 

 花丸は小さく頷く。

 でも驚いた。まさか胸が大きいことに悩んでる女の子がいるなんて。胸で悩む女の子って大抵貧乳で、大きくしたいと夢を見る子たちばかりだからだ。例えば凄い爆乳の子があまりにも胸が邪魔だから小さくしたいと言うのであれば分からなくはない。花丸の胸は確かに年相応以上であり、小柄な身体と不釣り合いだけど、特段気になるほどめちゃくちゃ爆乳って訳でもない。まあ悩みの種はその人の考え次第なので、そこに他人がとやかく言う権利はないけどね。

 

 しかし、聞く人が聞けば怒り狂いそうな悩みだよな。特に胸の大きさを気にしているにこや海未からすれば、花丸の悩みがとても贅沢に思えてならないだろう。特ににこは胸に超絶なるコンプレックスを抱いているから、大きい胸を小さくしたいと漏らしたら最後、怒りと嫉妬で気が狂っちまうかもしれない。このことは絶対ににこに内緒にしよう……。

 

 

「別にそこまで深刻ではないんです! ただ、同じ部屋のみんなの浴衣姿を見ていると、マルだけ大きいのが目立つから気になっただけで……」

「ちなみに、お前と同じ部屋の人は?」

「にこさんと海未さん、そしてルビィちゃんです」

「見事に貧乳メンバーが集まってんな……」

 

 

 さっき俺が言ったメンバーがちゃっかり部屋のメンツに入っているあたり、何かの因果というか運命の悪戯を感じる。その4人が浴衣を着て並べば、そりゃ花丸だけ胸の膨らみが目立っちゃうのは仕方がない。これは俺が黙っていなくても、にこや海未だったら花丸の胸の膨らみを見て勝手にショックを受けてそうだな……。

 

 そういや花丸って、海未による地獄のようなダイエットを受けたことがあったっけ。あの時の海未は自分との胸の差に軽く絶望していた記憶がある。あの時の彼女の暴走を見るに、花丸と海未が同じ部屋なのはマズいのでは……?? 花丸の巨乳を見て改めて絶望を悟り発狂。そして今日の練習は頭に血が上ったせいでより過酷になる未来が……。

 

 

「海未とのダイエットの時も言ったけど、そこまで気にすることか? むしろ誇っていいんだぞ」

「マル、身体は小さいのに胸がとても大きくて、クラスの中でも一番大きいんです。あっ、別にそれでイジメられているとか、そんなことはないので安心してください!」

「なるほど、コンプレックスではないにしろ気になってはいると」

「はい……」

 

 

 これは俺が解決できるような悩みじゃない気がする。もちろん秋葉に頼めば胸を大きくしたり小さくしたりする程度なら余裕だろうが、できれば頼りたくないというのが俺のプライドだ。アイツのことだから、何を仕込んでいるのか分かったもんじゃねぇからな。

 

 女の子が胸のことで悩んでいるのなら、同じ境遇を持っていそうな女の子に悩みを聞いてもらうのが一番だろう。ロリ巨乳キャラはμ'sとAqoursを含めても花丸しかいないが、高校時代から男子生徒の欲情を煽っていた奴らならいる。コイツが練習中に胸のことを気にして集中できなくなっても困るし、アイツらが起きてきたら何か助言を貰うとするか。

 

 

「あれ? 零君に花丸ちゃんやない?」

「だいぶ早起きね2人共」

「希!? 絵里!? お前ら狙って登場するとかニチアサのヒーローか何か……?」

「「はぁ?」」

 

 

 俺が花丸を差し向けようとしていた2人が、ここでまさかのご登場だ。

 絵里と希。μ'sとAqoursの中でも胸の大きさはトップ2を誇り、それも高校時代から子供らしからぬ胸のデカさで思春期男子の興奮を促していた張本人たちである。しかも生徒会役員で生徒の目の前に立つことの多かった2人だから、音ノ木坂の男子生徒はその姿を見て何度も自分磨きのネタにしたことだろう。絢瀬絵里と東條希との3Pは誰しもが憧れたシチュエーションだ。

 

 そんな下品な話はともかくとして、本筋の話を進めるとすっか。

 

 

「お前らこそ早いじゃねぇか。どうしたんだ?」

「希と朝風呂に行こうって昨日から約束してたのよ。夜空を見ながらの入浴もいいけど、朝日を眺めながらの温泉もまた乙なものでしょ?」

「それにこの旅館は色んな種類の温泉があるから、せっかくだし全部堪能しようと思ってね。仕事の疲れも癒したいし♪」

「お前ら、発言がおばさん臭くなってるぞ……」

「「え゛っ……!?」」

 

 

 コイツらももう22歳と23歳だ。20代のどこから若くてどこから三十路扱いされるのかは人それぞれだが、やはり本人たちもそれを気にしていたらしい。見た目は10代後半と思われてもおかしくないほどに若々しいけど、発言がババクサいとそれだけで精神年齢の老化を感じる。元々大人っぽいと言われてきた2人だからこそおばさんと言われることにショックを受けるのだろう。でも、まさか顔面蒼白になるくらいに驚くとは思ってなかったけど……。

 

 

「先生、本当にデリカシーって言葉を知らないんですね……」

「ネタのつもりだったんだけど、まさか使い物にならくなるほどとは……」

「おばさん……」

「ババクサい……」

「口から魂抜けそうですけど!? お二人とも大丈夫ずら!?」

「おばさんって呼ばれてそうなるってことは、思い当たる節があるのか」

「「うぐっ……!!」」

「先生!!」

「ゴメンゴメン! あまりに反応が面白くてさ」

 

 

 絵里や希に対して完全にマウントを取れるなんて早々訪れる機会じゃない。しかも『おばさん』の一発で2人同時にKOなんて、これからコイツらを弄って遊ぶ時のパワーワードにしてやろう。ちなみにだけど、俺はコイツらのことをおばさんなんて思ったことはないからな? むしろコイツらが老けて婆さんになる姿が想像できないほど、2人の見た目は若々しい。見た目はね?

 

 話が脱線してしまったが、この2人に花丸の胸のことについて相談するつもりだった。絵里も希も小柄ではないものの、巨乳ならではのコンプレックスを抱いていた時期もあったから相談相手としてはうってつけだ。

 

 その前に、未だに放心状態の2人を正気に戻すところから始めないといけないけど……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「胸が大きいことに違和感……? 珍しい悩みやね」

「そうね。胸を大きくしたいと思ってる女の子は多いけど」

 

 

 やっぱり同じ反応か……。

 現実に返ってきた2人も俺と同様の考えのようで、花丸の悩みに疑問を抱いていた。ということは、コイツらは自分の胸が邪魔だとは思ったことはないのか? 俺的には、あんなデカいモノをぶら下げていると日常生活に支障をきたすんじゃないかと地味に懸念している。俺はブラジャーなんて着けたことはないけど、やっぱ下着を装着することで幾分かは胸の重みが緩和されるのかな? 楓は着けない方が圧迫感がなくて楽だと言ってたけど、それも人によるのかもしれない。

 

 ていうか、どうして俺はクソ真面目に胸と下着の考察をしてるんだ……? まるで変態さんみたいじゃねぇか。

 

 ちなみに絵里と希を正気に戻した方法は簡単。2人のおっぱいを手のひら一杯に鷲掴みにしただけだ。一発指に力を入れてやっただけで放心状態の魂が現実に戻ってきたので、天に召されなったことに感謝をして欲しいもんだよ。もちろん現実に引き戻されたのと同時に、ただならぬ羞恥心に苛まれた訳だが……。久々に見たな、コイツらのウブっぽい顔。やはりお姉さんキャラを気取ってる女の子を恥辱の底に沈めてやる快感は、何度見ても飽きねぇな。とんだクズ発言だけど、恋人なんだから許してくれ。

 

 そんなこんなで正常状態に戻った2人に事のあらましを説明し、現在に至る。

 

 

「鬱陶しいと思ったことはないけど、たまに肩凝りが酷くなる時があるのよね。胸のせいだけじゃなくて仕事のせいでもあるって分かっているんだけど、胸が小さかったらこの肩凝りも少しは和らぐのになぁと考えることはあるわ」

「それマルもです! マルは本を読むのが好きなんですけど、座って本を読んでいると肩凝りが起こることが多くて……。座り方や姿勢が悪いのかと思って色々試しているんですけど、それでも治らないんですよね……」

「2人の言ってること分かるわぁ~。ちょっと重みを感じるのはもちろんやけど、それでも形を崩したくないから下着選びをしっかりして、機能性が優れたモノを買わないといけないところがね。胸が大きいと、下着選びを間違うだけで身体の負担が大きくなるから」

「贅沢な悩み語ってんなお前ら……」

 

 

 コイツらの会話を聞く人が聞いたら発狂して、世界から巨乳を根絶する旅に出てもおかしくない。3人の悩みは悉く貧乳ちゃんには当てはまらないものばかりなので、この場ににこたち貧乳組がいなくて本当に良かったと思う。昨日と同じくまた朝から騒動に巻き込まれたくないからな。

 

 

「絵里さんと希さんは、そんな悩みを持っていながら胸を小さくしたいと思ったことはないんですか?」

「そうねぇ、高校生の頃はちょっと気になってたかな。ほら、男子の視線を感じちゃうから」

「セクハラ被害に遭ったことはないけどね。誰かさんと知り合うまでは」

「おい、どうしてこっちを見る……?」

「マル、絶対に忘れないずら。子犬になった先生がマルの胸を弄り倒してきたこと……」

「あら、生徒相手に随分とお楽しみだったみたいじゃない、神崎先生?」

「そういや、ウチらもスポンジに変身した零君に全身を洗われたことがあったなぁ。胸を重点的にこねくり回された記憶が今でも思い出せるよ」

「それはお前が俺を勝手に使っただけだろうが」

「先生って、知り合った女の子全員の胸を触らないと死んじゃう病気なんですか……? おっぱい魔人って言うんでしたっけ?」

「犬になったのもスポンジになったのも、全部秋葉のせいだから! 子犬だったから力も入らなかったし、スポンジに至っては動けすらしかなったからな!? つまり不可抗力なんだよ!」

 

 

 とは言うものの、取り乱しつつもその状況に甘んじて女の子たちのおっぱいを堪能していたのは事実だ。どうせ足掻いても元には戻れないので、そこに無駄な体力を使うくらいなら女の子たちの身体をちょっとでも長く堪能した方がいい。もちろんできるなら自分の生身の手でおっぱいを堪能したいから、状態変化モノのエロ同人のような異質な展開はやめてもらいたいけどね。

 

 生身の手……か。

 そういや、花丸の胸ってこの手で触ったことがあまりない気がする。それはAqoursのほとんどのメンバーにも言えることだが、目の前にロリ巨乳がいるのに手を出さずしておくべきか。しかも俺たちはただの教師生徒の関係ではなく、これまた教師生徒間の恋愛という近親愛と同等の背徳恋愛を築き上げようとしている。そんな中で、俺に好意を抱いている花丸ならちょっとくらい不祥事を働いても許してくれそうな気がする……多分。彼女の好意を利用していると言われたら聞こえは悪いが、欲を出しても許されるのが今の俺の立場だ。ヤバい、そんなことを考えていたら良からぬ欲求が湧きたって来やがった……!!

 

 

 いや落ち着け。ここでいつも暴走しがちになるから、みんなからやれ見境がないだの、やれ変質者だの罵倒されるんだ。もう立派な大人なんだし、これくらいの欲求は抑えなければならん。ただでさえ果南と裸で抱き合った時や曜との一件では我慢できなかったので、今回こそは絶対に抑えてみせる。いつもオークに敗北する女騎士のように、俺も性欲にいつも負けている節があるから今こそ成長しないと。

 

 

「悩みを漏らしただけで力になれずゴメンなさい」

「いえいえ! 同じ悩みを共有できて、気持ちも少し軽くなったずら!」

「ウチらも色々対策を考えてみるから、花丸ちゃんも頑張って」

「はいっ、ありがとうございます!」

 

 

 悩みの解決にはならなかったが、花丸の不安は払拭できたようだ。どうせなら絵里と希の朝風呂に付き合って、巨乳ちゃん同士でもっと交流を深めれば自分の胸が大きいことなんて気にならないんじゃないかな。

 

 よしっ、こうなったら俺も自分なりの方法で花丸の悩みを解決してやるか。正当な方法だとは言い難いけど、迷いの女の子を慰める方法はこれが一番いい。

 

 

「ちなみに俺は、お前のおっぱい好きだよ」

「ふえぇええっ!?!?」

 

 

 思わずポロっと本音が漏れてしまった。

 花丸は自分の胸を抑えながら、俺と若干距離を置く。女の子が身体で悩んでいる時は、敢えて悩みの部分を褒めてあげることでいい効果が得られると思ったんだが……しくじったか? いや、以前のダイエットの時も同じ方法で花丸にやる気を出させたんだ。もっと押しを強くしないと!

 

 

「お前にとってはコンプレックスかもしれないけどさ、男にとっては揉み心地がいいとそれだけで興奮するんだよ」

「そ、そんな慰められ方をしても……。本当に心配してくれてます?」

「してるよ。だっていずれは俺のモノになるおっぱいなんだから、気にせずにはいられないだろ」

「お、俺の!? マルが、先生の……。そ、それってこ、ここここ告白!?」

「流石に告白するならもっとロマンチックにするって。何が悲しくておっぱいについて言及しながら告白しなきゃならねぇんだよ」

 

 

 お前のおっぱいは俺のモノって、今更ながらに独占欲丸出しなことを口走っちゃったと思ってしまう。でもいずれ恋人同士になるんだったら、今からそのおっぱいを予約しておいてもなんら間違いではない。どうせ俺以外の人には見せない胸だったら、俺のためだけの、俺の理想のおっぱいに育ってもらった方がおっぱいも嬉しいだろう。さっきから触りたくてウズウズしてるのに必死に我慢してんだ、俺の理想になってくれるご褒美くらいはあっていいじゃん?

 

 

 すると、花丸は頬を染めながら自分の胸元を弄り始めた。いきなりオナニーでもし始めるのかと驚いたが、俺の様子を伺っているのを見るにそうではないらしい。なんか妙にそわそわしてるし、急にどうしたんだ……?

 

 

「あ、あの!!」

「ん?」

「マ、マルが先生のモノだって言うのなら、逃げないようにちゃんと掴み取っておかないといけないですよね……?」

「え……?」

「こんなにエッチなことを考えちゃうようになったのは、先生のせいずら……」

 

 

 花丸の顔は火山が噴火したかのような煙が出そうなくらい真っ赤だった。

 性的なことに関してはほぼ無縁だった彼女の口から、まさかそんな言葉が出てくるなんて……。これもある意味で大人に成長したと喜ぶべきなのか、それとも純粋な彼女が穢れたと落胆すべきなのか……?

 

 

「先生が喜んでくれるのなら、このままでもいいかも……」

「だから前もそう言っただろ? まあ俺自身がおっぱい好きなのは確かだけど、その巨乳の持ち主が花丸だってことが何より重要なんだよ。大きい胸だから触りたくなるんじゃない。お前のおっぱいだから触りたくなるんだ」

「それ、褒められてるのかなぁ……」

「褒めてる褒めてる。なんなら、ちょっと確かめてみてもいいんだぞ?」

「ずらっ!?」

 

 

 俺は花丸の両肩を掴むと、彼女の身体を背もたれにベッタリ張り付くくらいに追い込んだ。花丸はいきなり手を出されるとは思ってなかったためか、瞳孔が定まらず息も絶え絶えとなっている。かくいう俺も、もう本能的に身体が動いているのでこの行動に特に理由はなかった。ただただ花丸ともっとお近づきになりたいという、穢れた期待と想いだけだ。

 

 

 すると、少し落ち着きを取り戻したのか、花丸は小さく口を開いた。

 

 

「た、確かめるんだったら、マルの胸のこと、ちゃんと知っておかないといけないですよね……?」

「あぁ。だからどうされたいんだ?」

「うぅ……。だ、だから……マルの胸を実際に確認……う、うぅううううううううううううううううううううう!!」

「は、花丸?」

「あ゛ぁあああああああああああああああああああ!! もう耐えられないずらぁああああああああああああああああああああああああ!!」

「お、おいっ!?」

 

 

 花丸はあまりの羞恥心に耐えきれなくなったのか、俺の拘束を振りほどき小走りで旅館の中に戻ってしまった。

 さすがに純粋ちゃんには刺激が強かったのかも。でも彼女が自ら自分のおっぱいを晒そうとしたなんて、出会った頃と比べたら成長したよなアイツ。それに俺を意識しっぱなしだったので、μ'sのようにどっぷり堕ちるのも時間の問題かもしれない……。

 




 花丸の個人回をどうするかと考えた時に、真っ先に思い浮かんだのがおっぱいネタでした(笑) なので果南や曜の個人回と比べると、淫猥な密度が増し増しになっちゃう事態に……。
でも最後の方ではエロいことにドギマギする可愛い花丸を描けたので、恋愛方面の話としても完成できたかなぁと思います。(本当にできたのか……?)



只今、リクエスト小説のネタを募集中です!
ご要望があれば、是非活動報告にてコメントをお願いします!

【募集箱】
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=181617&uid=81126


また、小説への評価も募集中です!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Call my name(前編)

合同合宿編、10話目
今回は穂乃果、ことり、海未の王道メンバーとの昔話回です。
ちなみに105話「名前を呼んだあの日」の内容を踏襲しているので、その話の内容を忘れてしまった方は先にそちらを読んでおくとより楽しめるかと思います!


 花丸との一件が無事(?)に終了し、ようやく朝食の時間となった。朝6時前から起きていたのにも関わらず、朝食の時間は朝7時。その間があまりにも暇すぎて、俺も絵里と希と同様に朝風呂に入ってしまった。2人には『朝風呂なんてババクサい』と言ったのにも関わらず、結局俺も朝風呂で心身ともにスッキリする始末。温泉で日々の疲れを取ろうとしている辺り、俺もかなりオッサンになったもんだ。大学生になると体育の講義がないせいで、運動部に入っている奴ら以外は悉く運動なんてしなくなる。そのため思春期時代に比べると体力の低下が著しく、俺のように休みの日は基本家に引き籠る体質の人間は、いざ旅行などで遠出をすると途端にへばってしまう。これは俺を含め、μ'sメンバーの高齢化が心配になり始めてきたぞ……。

 

 とは言うものの、食欲だけは無駄に旺盛なのがまだ若さを保っていられる証か。朝食は旅館のバイキングなのだが、バイキングと聞くと知らず知らずのうちにテンションが上がってしまい、つい料理を取り過ぎちゃうんだよな。普段バイキングなんてお値段が張るところには行かないからなおさらだ。取り過ぎたが故に食いきれないけど、残してしまうと追加料金が発生するので無理をしてでも腹に詰め込む。まさにバイキングあるあるだ。

 

 バイキングって物珍しさで楽しくなるのももちろんあるが、俺たちみたいに大勢で来ることが多いからなおさら盛り上がるんだよな。誰かの取ってきた料理を見て、『えっ、そんな料理あったの!?』とか『こんな料理が追加されてたのか。自分が取りに行った時にはなかったのに』とか、他の料理店ではできない会話で盛り上がれるのがバイキングのいいところだったりする。現にみんなのテンションは朝も早いのに高めで、これからすぐに練習なのも忘れてバクバク食っている。まあ旅館代金に飯代も含まれている訳だし、食べなきゃ損って気持ちは分からなくもないけどな。

 

 花陽は相変わらずご飯を大盛りにしたり、凛はラーメン(なぜ朝食にあるのかは知らんが)しか食べていなかったりといつもの光景も健在で、むしろ高級旅館に来たからこそ自分の好きなモノをたらふく食いたいのだろう。まあそれでまた体重が増加して、海未の地獄ダイエット計画が再び始動しなけりゃいいが……。

 

 

 そんな感じで、俺たちは4人掛けのテーブルのいくつかを占拠してバイキングを堪能している。

 ちなみに俺は穂乃果と千歌、そして楓の4人で飯を食っていた。特に穂乃果と千歌がそこそこ大食らいなためか、2人の前の皿には料理が山盛りに積まれている。珍しい料理が多いから食いたくなる気持ちは分かるけど、子供のような好奇心であれもこれもと取ってきたのが周りからバレバレなのは勘弁して欲しいもんだ。

 

 

「零君も楓ちゃんも全然食べてないけどいいの? せっかくこんな高い旅館に来たんだから、料理を全制覇するまで食べないと勿体ないよ!」

「いや、自分の食べたいだけ食うのがバイキングってもんだ。何でもかんでも腹に詰め込めばいいってもんじゃない。むしろ高級旅館の飯だからこそゆっくり味わいたいんだよ」

「先生って普段は当たって砕けろのイケイケ精神なのに、たまに謙虚になりますよね。似合わないですよそれ」

「余計なお世話だっつうの。それに、気になった料理を片っ端から皿に山積みする品のないお前らより断然マシだ」

「右に同じ。飢えた獣みたいだよ2人共」

「仕方ないですよ。どの料理も美味しくて箸が止まらないんですから」

「そうそう、穂乃果たちは穂乃果たちなりに食事を楽しんでるんだから邪魔しないでよ」

「お前が先に突っかかって来たんだろうが……」

 

 

 食事の楽しみ方は人それぞれ。どんな食べ方をしようがマナー違反をしていない限りは他人が口出しするものでもない。でも朝食が終わったらそのまま練習に入るので、その時に胃もたれして早々にギブアップをしなければいいが……。そんなことで練習から退場して、海未やダイヤの怒りが爆発しても知らねぇからな。

 

 

「そういえばさ、1つ気になってることがあるんだけど……」

「えっ、なんですか?」

 

 

 穂乃果と千歌はさっきまでフルスロットルで動いていた箸の動きを止める。

 

 

「千歌ちゃんたちって、どうして今でも零君のことを"先生"って呼んでるの?」

「えっ……?」

 

 

 穂乃果にとっては素朴な質問だったに違いない。だけど千歌たちからしてみれば、俺の呼び方についてはかなり深刻な問題なのだ。千歌は俺を先生呼びしている理由を言いづらいのか、ただ単に恥ずかしいのか、穂乃果からゆっくり目を逸らす。

 

 

「い、いやぁ~浦の星で会ってからずっとその呼び方なので、もう先生呼びで慣れちゃってるんですよ!」

「ふ~ん。それじゃあ名前で呼ぼうと思ったことはないの?」

「ないことはないんですけど、やっぱり先生呼びの方がしっくり来ちゃって、中々その先へ踏み出せないと言いますか……」

「だったら先生呼びに零君の名前も付けちゃえばいいんだよ。ほら、"零先生"ってね!」

 

 

 千歌は穂乃果の提案を聞いて、『それができるなら苦労しませんよぉ……!!』と言いたげな顔をしている。

 確かにそうだ。千歌たちAqoursが東京に来た時、みんなで俺を名前で呼んでみようって話の流れになった。だけど結局みんな恥ずかしがってしまい、誰1人として俺を名前で呼べる奴はいなかったんだ。同い年や年の近い先輩ならまだ抵抗は少ないだろうが、これでも元は教師と生徒の関係だったので、先生呼びから名前呼びにシフトするのは物凄く勇気のいる行動だと思う。しかも恋焦がれている相手に対してだからなおさらだろう。

 

 そしてその会話は他のテーブルにも聞こえていたのか、千歌以外のAqoursメンバーも気が気ではない様子だった。千歌や鞠莉のような誰でもフレンドリーな子ですら俺を名前で呼べないんだから、ダイヤやルビィに至っては男を名前で呼ぶなんて告白をするのと同等の覚悟が必要なんじゃないか……? かくいう俺もAqoursみんなから先生呼びされることに慣れてしまっているから、このままでもいいかと思っちゃうんだよね。もちろん相手の呼び方を変えるということは相手との関係を前進させることにも繋がるので、千歌たち側からすれば変えたいんだろうけど。どうも恥ずかしさが先行して行動に乗り出せないようだ。

 

 

「そ、そういえば! 穂乃果さんたちはいつから先生を名前で呼ぶようになったんですか!? そ、その話を聞いてみたいなぁ~なんて」

「その話をするの懐かしぃ~! お互いに名前で呼ぶようになったのは、穂乃果とことりちゃん、海未ちゃんとの3人でファーストライブをした時かな。その帰り道に、4人で音ノ木坂を廃校から救おうって決心したんだよね。初めてお互いのことを名前で呼んだのはその時だよ」

「なるほど……。緊張しませんでした? 男性の方を名前で呼ぶのって」

「穂乃果とことりちゃんはそうでもなかったかなぁ。でも海未ちゃんと零君がどうしてもねぇ……」

「えっ、先生が!? 意外です……」

「そりゃあの時は知り合って1ヵ月も経ってなかったし、女の子への耐性も弱かったからな」

「先生に女の子耐性がないとか、もうそこら辺にいるモブキャラ男性と何ら変わりないじゃないですか!!」

「それ俺以外の男の人をディスってないか……?」

 

 

 確かに穂乃果たちと出会い立ての頃は俺もそこらの思春期男子と同じく、ただただ一目惚れの女の子たちと会話ができただけで喜ぶような純情男子だった。元々小学生の頃から女の子に不純な目を向けるエロガキだったが、親密な仲になれたのは穂乃果たちが初めてだったんだ。これまでも女の子たちと仲良くなることはあれど、親友クラスにランクアップしたことは一度もない。まぁ小学生時代からあちこちに手を出していたが故に、女の子1人1人との関係が薄かったが故なんだけどさ。

 

 そんな訳で、俺が穂乃果たちを名前呼びするのはそこそこ苦労したって話だ。言ってしまうと穂乃果やことりに対してはすぐ対応できたんだけど、海未に対してだけは何故か躊躇してしまった。ご存知の通り、彼女が内気な性格であるため異性である俺に対して中々名前で呼ぶことができなかったんだ。そうなった場合に俺だけが海未を名前で呼ぶのはどうかと思い、少しの間だけ名前呼びの関係でギクシャクしていた時期もあった。

 

 

「零君と海未ちゃんが仲良くなるまで、聞くも涙、語るも涙の展開があったんだよ」

「そうなんですか!? ぜひ聞かせて欲しいです!」

「よろしいよろしい。零君と海未ちゃんの黒歴史かもしれないけど、誰かに語り継いでこその黒歴史……だったよね?」

「それ、俺が言ったセリフじゃねぇか……。まあそんな昔話、今更暴露されてもいいけどさ」

「いやぁ、先生の恥ずかしい話は聞いていて楽しいですから!」

「千歌。お前、さりげなく自分へ向けられた矛先を俺に突き付けてきたな……」

「えっ!? あ、あはは、何のことやら……」

 

 

 最初は自分に振られた話題だったのに、いつの間にか俺たちの黒(?)歴史を暴露される展開になったことにちゃっかり便乗しやがる千歌。そこまでして俺の名前を呼びたくないのかと思ってしまうが、千歌たちからしてみれば俺の想像以上に高いハードルなのだろう。しかし先生呼びのまま定着すればするほど呼び方の切り替えタイミングを失うので、どこかでアクションを起こさないと永遠に名前で呼ぶことはできないかもしれない。もちろんそれは千歌たちの気持ち次第なので、俺から何かを仕掛けてやることはできないけどね。

 

 

「それでは語ってあげよう。零君と穂乃果たちが本格的に名前呼びとなった経緯をね」

「お前さっきから達観した態度ですげぇ腹立つから、俺が話てやるよ」

「はい。お願いします……いいのかな?」

「ちょっ!? 零君!? 千歌ちゃん!?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 それはファーストライブ終了後、その帰り道で俺たちがお互いを名前呼びした翌日のことだった。

 失敗に終わったファーストライブだったが、俺と穂乃果たちの結束が初めて生まれたってこともあり、今日から新たなスタートラインに立ってやる気を奮い立たせていた。

 

 そんな日の朝。俺が登校して教室に入ったところから物語は始まる。

 

 

「あっ、零君おはよう!」

「あぁ、おはよう高坂」

「…………はぁ?」

「な、なんだよ。その腹立つ顔……」

「高坂じゃなくて穂乃果だよ。ほ・の・か!」

「そういや昨日そんなこと言ってたっけな……」

 

 

 ファーストライブの時やその帰り道は興奮や余韻があったためか勢いで穂乃果たちのことを名前呼びできたのだが、一晩経って冷静になってみると、改まって女の子を名前呼びすることに恥ずかしさを覚えてしまう。しかも相手はクラスでも学校でも話題のトップクラスの美少女たち。そんな奴らと親しくするだけでもちょっと緊張するのに、面と向かって名前なんて呼べるかっつうの。本当にこの時の俺は純粋だったよなぁ。

 

 すると、今度は俺の背後から更なる刺客が送り込まれてきた。

 

 

「零くんおはよう! 相変わらずいつもギリギリの登校だね」

「南か、おはよう」

「むっ……」

「な、なに……?」

「こ・と・り!」

「自分の名前を一字ずつはっきりと言う挨拶、流行ってんの……?」

「もうっ、はぐらかさない!」

 

 

 ことりのおっとりボイスで怒鳴られても全然怒られている感じはしない。むしろ両手をグーにして頬を膨らませている様が見ていて微笑ましくある。こんな可愛い彼女を見られるならずっと苗字呼びのままで弄ってやろうかなとも思ったが、穂乃果とことりの両方から迫られているのでどうやら名前呼びをしない限り解放してくれなさそうだ。

 

 そう、この時の俺は女の子の名前を安々と言えないほどには純真だった。小学生の頃から女の子に手を出していたと言えばそうなのだが、ここまで親密になったのはコイツらが初めてだったからだ。しかもコイツらのスクールアイドル活動を手伝った理由はただ可愛い子にお近づきになりたかったからではなく、単純に廃校を救うという目的が同じだったから。これまでは女の子が好きだからって理由であれこれ手を出していたので、純粋な理由で女の子と親しくなれたことに少し緊張していたのかもしれない。

 

 

「穂乃果たちを名前で呼ぶまでここを通さないからね。あと1分足らずでチャイムが鳴っちゃうけど、席にいないと遅刻になっちゃうよぉ?」

「それはお前も一緒だろうが……」

「あっ、そっか!」

「それに零くんが教室の入口に立ってると、ことりも教室に入れないから仲良く遅刻になっちゃうよ……」

「しまった! 零君に穂乃果の名前を呼ばせるいい作戦だと思ったのに!」

「穂乃果って、意外とバカ?」

「バカじゃないよ! 知的過ぎて普通の人では考えつかないことを――――って、名前!!」

「あっ……」

 

 

 やはり話の流れで勢いに乗ってしまえば自然と口に出せると分かった。名前を呼べと迫られると緊張するけど、さっきの穂乃果みたいにおバカな一面を晒してくれるなどしてフレンドリーな雰囲気になればこちらも気が楽だ。穂乃果もことりは冗談交じりの会話ができそうな相手なので、これで俺も1つ壁を乗り越えることができたかな。

 

 それにしても女の子の名前を呼ぶことが壁って、今の俺からしてみれば紙のように薄っぺらい壁だなオイ。今なんて如何にたくさんの女の子をどう相手するかなんて贅沢な悩みを抱えているが、当時の俺は10人以上恋人を作る暴挙なんて想像すらしてなかった。いやぁ女の子慣れって怖いな。

 

 

「次はことりの番だよ! ほらほら!」

「そんなにウェルカムなムードだと、逆に言いにくいんだけど……」

「零くん。零くん! 零く~ん♪」

「分かった分かった! 呼べばいんだろ呼べば。ったく……こ、ことり」

「なぁ~に?」

「いや、呼んだだけ……」

「あはは、なんだか恋人同士みたいだね♪」

 

 

 当時の俺は、ことりのその言葉にドキドキしてならなかった。南ことりと言えば学校で噂になるくらいの超絶美少女だ。もちろん俺は1年の頃からコイツの存在を知っていたが、クラスが違ったため喋ろうと思っても接触する機会はなかった。でもこの時はその願いが叶っただけでなく、疑似恋人のような会話ができて柄にもなく戸惑っていたことは今でも覚えている。

 

 しかし、ことりも冗談で恋人同士なんて言ったんだと思うが、まさか本当に恋人の関係になっちまうとはまたしても想像してなかったよ。この時は穂乃果たちに近付けたってだけでも嬉しかったので、そもそも付き合いたいとか思ってもいなかった。彼女たちに本気で恋をし始めるのは、俺たちの日常が非日常になったあの事件からだからな。

 

 そして、ことりの悪戯混じりの言動は今でも変わらない。おっとりぽわぽわで何を考えてんのか分からない時は多々あるけど、親しくなって話してみると意外と蟲惑魔的な一面を見せてくれるんだよね。まあ当時はただの悪戯天使だったが、今ではそんな可愛いモノじゃない。性欲に憑りつかれた、ただの淫魔だ。もう当時のコイツと今のアイツが別人みたいだもん。

 

 

 とまぁこんな感じで、穂乃果とことりに至ってはこれ以降の日常会話でも名前で呼ぶことができるようになった。

 

 しかし、そんな簡単に物事が進むはずもない。

 俺はチャイムの鳴るギリギリに席に着く。そして当時、俺の隣の席は海未だった。お隣さんでありこれから一緒にスクールアイドルの活動をしていく仲間なので、とりあえず挨拶だけはしておこうと思ったのだが――――――

 

 

「あ、あの!」

 

 

 先に海未の方から話しかけてきた。だけどそわそわしていて、どこか落ち着かない様子だ。

 

 

「おはようございます。れ、れ……」

「れ?」

「れ、れ、れ……レモンティーが美味しい季節ですよね、春は」

「別にいつでも美味しいだろ……」

「そ、そうですね……れ、れ、れ……連立方程式は得意ですか!?」

「馬鹿にすんな! こちとら全教科学年トップだぞ!」

「で、ですよね……」

 

 

 海未は頬を染めて、俺と目を合わそうともしない。恐らくだけど、名前を言いたいけど恥ずかしくて言えない先程の俺と同じ現象に陥っているのだろうとすぐに察せた。それにしても誤魔化し方が不自然過ぎて、周りから『コイツら、朝礼前に意味不明な会話してんな』って目線で見られてるけど……。

 

 

「と、とりあえず早く座ってはどうですか!? 笹原先生は厳しい方ですから、そのまま立ってたら席にいても遅刻扱いになってしまいますよ……?」

「だな。2年になってもまたあの鬼教官が担任とか、ツイてないよ……」

「そ、それと!」

「なに?」

「お、おはようございます……神崎君」

「あ、あぁ、おはよう……園田」

 

 

 苗字で呼ばれたから、俺も思わず苗字で返してしまった。さっき穂乃果とことりに名前で呼べと念押しされたばかりなのに……。

 でもあの2人は雰囲気もフレンドリーだったからこっちも緊張が解れた訳だけど、海未に対しては名前で呼ぶことの躊躇いを拭いきれなかった。もちろんイヤだとかそんな理由ではなく、単純に彼女との距離を測りかねていたからだ。普通の日常会話程度なら海未とも自然にできるものの、名前呼びを意識すると途端に気まずくなる。この頃は俺も純真だったし、なにより海未が今より数倍も奥手な性格だったのが災いして穂乃果やことりの時のように事は容易に進まなかった。

 

 そして、そんな俺と海未の会話を見て、何やら怪しい決心を固めている者が2人いた。

 

 

「ことりちゃん、これは穂乃果たちの出番かもね」

「うん。ちょっと面白くなってきたかも♪」

「よしっ、零君と海未ちゃんの仲良し大作戦決行だぁ!!」

 

 

 アイツらやっぱりバカだから、こっちまで声が聞こえてるんだよなぁ……。

 余計なことに巻き込まれたくないという気持ちは、今も昔も変わらずだった。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 話のメインは穂乃果たち幼馴染メンバーですが、今回と次回の後編で最も話の影響を受けるのはAqoursメンバーだったりします。せっかくμ'sとAqoursが同時出演しているので、Aqoursは先輩たち豊富な体験からたくさん学んで欲しいものです。ていうか、μ'sとAqoursをかけ合わせるのならそれこそが魅力の1つだと思いますけどね(笑)

 それよりも、零君とことりのキャラが違い過ぎて違和感ありまくり……。変態くんと淫乱ちゃんが普通ってのもおかしな話ですが(笑)


 次回は過去編の後編です。幼馴染回のはずなのに、海未回になりそうな予感がプンプンと……



まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Call my name(後編)

 合同合宿編、11話目
 零君と穂乃果たち幼馴染組とが、本格的に名前呼びになった経緯が分かります。しかし幼馴染組というより、もはや海未回と言った方がいいかも……?


 

「先生が恥じらいを持つなんて、どんなことがあったらこんなのになっちゃったんですか??」

「千歌お前、時々俺に敬意を払うふりをしてさり気なく罵倒する時あるよな……」

 

 

 まるで未確認生命体を見つけちゃったかのような顔で、千歌は俺を凝視する。しかも俺の話を聞いていた他のAqoursメンバーからの目線も痛く、どうしても昔と今の俺を同一人物には見られないようだ。でも安心しろ、あの頃の俺も今の俺も神崎零そのものだから。まあそんな純真な心を持っていたのは穂乃果たちと出会った当初くらいで、すぐに下劣な目を向ける変態魔人に変貌するんだけどさ。そんなもんだろ、男の欲望なんて。

 

 

「それでそれで!? 先生と海未さんはどのように仲良くなったんですか?」

「それは穂乃果の手解きがあってこそだよ。せっかくだから、穂乃果の武勇伝を――」

「はいはい、それじゃあ続きを話すよ」

「ちょっ!? だから穂乃果に喋らせてよぉおおおおお!!」

「絶対に話を盛ろうとするからヤダね」

 

 

 そもそもの話、穂乃果がやったことなんて武勇伝なんて伝説染みたことじゃない。むしろハラハラさせられたというか、穂乃果がやらかしてくれたおかげでお互いに緊張しまくりだった。コイツのせいで、あの頃は海未のことを色んな意味で意識してしまったと思っている。まあそのおかげで海未と親しくなれた上にお互いに名前呼びする仲になったので、一概に怒ることができないのがじれったいだどな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「なに? 数学の教科書を忘れた?」

「はい……。いつも家を出る前に忘れ物がないかチェックするのですが……」

「ホントに、珍しいよなお前に限って」

 

 

 園田海未が緊張面だってことは、彼女と同じクラスの人間ならば誰でも知っていることだ。それくらい有名だからこそ彼女が忘れ物なんて凡ミスをしたことが珍しい。それに休み時間もあと1、2分で終了するため、隣のクラスから借りる暇もなかった。

 

 

「俺のを使うか? 教科書なんてなくても数学なら余裕だし」

「そ、そんな悪いですよ! それにもし練習問題を解くことになったら、問題が分からないじゃないですか……」

「じゃあどうするんだよ? 隣の教室に行く時間もねぇだろ」

「つ、机を……」

「えっ?」

「机をくっつける、というのはどうでしょう……?」

「マジ?」

 

 

 教科書を忘れたから隣の奴と席を合体させるなんて小学生以来だ。しかも相手は女の子、更に大和撫子の美少女と来た。海未は教科書を忘れたことを恥じているのだろうが、俺はむしろ海未と机を連結させて授業を受けることにドキドキしてしまっていた。別に隣に海未がいたところでいつもは緊張も何もしないのだが、教室で机を合体させるなんていつもの状況ではない。つまり、特別な状況で隣同士になるからこそ緊張するんだ。相変わらずこの頃はハートが弱いな俺……。

 

 

「ダ、ダメでしょうか……」

「い、いや、お前がいいならそれでいいけどさ……」

「ありがとうございます……れ、れ……冷蔵庫の中に入っている梅干し、お礼として持っていきますね」

「ながっ!?」

 

 

 『れ』の文字が出てくるなら、次に『い』の文字を言うだけで万事解決なのに……。しかも長々と『れ』から始める言い訳を考えやがって、どうせならその労力を『い』の一文字を言う精神力に回せよとは思う。まあそれができないから苦労してるんだろうけど。それに俺だって未だに"海未"と名前で呼べていないからどっちもどっちだ。

 

 とりあえず忘れたものは仕方ないので、海未の提案により俺たちは机を連結させた。クラスメイトから『神崎君と園田さんって仲がいいね』と思われるのも恥ずかしいし、先生に事情を説明しなきゃならない海未はもっと羞恥心を感じてしまうだろう。それでもなおこんなことをする海未の意図が、当時の俺は全く分からなかった。

 

 

「海未ちゃんも零君も、机をくっつけて仲いいね!」

「茶化すな。そもそもお前、教科書なんていらねぇだろ。どうせ授業中寝てるんだし、海未に貸してやれ」

「ダメ! 先生に当てられた時に困るもん!」

「どうせ当てられても分からねぇだろ。宝の持ち腐れだ」

「ひどっ!? 昨日の今日で零君とっても意地悪になってない!? ことりちゃんと海未ちゃんには優しいのに」

「普段の行いの差だな」

「なんか納得いかない……。もういいもん! 寝ちゃお!!」

「自暴自棄になるな……ん??」

 

 

 穂乃果は数学の教科書で顔を隠して、身体を机に伏せ睡眠体勢に入る。

 だがその時、海未の教科書の行方がようやく分かった。穂乃果が自分を隠すために防壁としている教科書に、達筆な字でこう書いてあった。

 

 

『園田海未』

 

 

「おい、犯人はお前か」

「えっ、犯人……?」

「惚けんな。ここに書いてあるだろ、園田の名前が……」

「教科書に名前を書くなんて小学生みたいなこと――――――あ゛っ!? ほ、ホントだぁ!?」

 

 

 穂乃果はまさか教科書の裏に自分の名前を書いている奴が、高校生にいるとは思っていなかったらしい。確かにいちいち名前なんて書かないけど、海未の几帳面な性格を考えたらおかしいことではない。

 

 

「穂乃果……。あなたって人は、自分が教科書を忘れたからといって人のモノを盗むなんて……」

「ち、違うんだよ海未ちゃん! これは零君と海未ちゃんを仲良くする大作戦なんだから!」

「はぁ?」

「ほら、教科書がなかったら隣の人に見せてもらうしかないでしょ?」

「なるほど、それで俺たちを強制的に接近させようとしたと」

「そうそう。それに穂乃果はうっかり教科書を忘れてきちゃったから、零君と海未ちゃんは仲良くなれるし、穂乃果は教科書を入手できたしで一石二鳥じゃない?」

「…………」

「…………」

「あ、あはは……2人共、顔怖いよ? ほら、スマイルスマイル! えっ、えぇ~っと……ご、ゴメンなさぁああああああああああああああああああああい!!」

 

 

 コイツの本音がどっちなのかは分かりかねるが、策士策に溺れるとはまさにこのことだろう。まあコイツ場合、策士と呼べるほど賢い策を立てていたかと言われると頷くことは難しいだろうけど。

 

 しかしこれで海未の教科書も取り戻せたし、机をくっつける必要もなくなったな。授業中のような静かな雰囲気の中で肩が触れ合うほどの距離に海未がいると思うと、この頃の俺はとてもじゃないが授業に集中できなかっただろう。教科書を見せるだけでお互いが名前で呼び合えるきっかけを作れるのか微妙なところだが、そもそも話すきっかけがないと名前呼びも何もないので、もしかしたら絶好の機会を逃しちゃった……?

 

 

「…………その教科書は穂乃果が使ってください」

「へ?」

「えっ、いいの!?」

「教科書がないと練習問題も解けないですし、先生に当てられたら困るでしょう。私はれ、れ……神崎君に見せてもらいますから」

「でもそれだったら穂乃果が隣の奴に見せてもらって、園田は自分の教科書を使う方が普通だろ」

「ほ、ほらっ! もう先生が来ちゃいましたから、席に着いてください!」

 

 

 意外というか、自分の教科書をあっさり貸しやがった。てっきり海未にとって俺と机をくっつける行為は苦肉の策だと思っていたのだが、あながち避けられている訳ではないみたいだ。ここまで名前で呼ばれないと、近付きたくもない相手に無理をしているのかとヒヤヒヤしてたから安心したよ。とにかく海未は俺に歩み寄りたいんだと、今の彼女の行動で分かった。

 

 教科書を盗んだ犯人は分かったものの、彼女の意向で俺と海未が仲良く(?)1つの教科書を使うことになった。授業中は海未が肩が触れ合うほど近い距離にいるためか、女の子特有のいい匂いや時たま手が触れちゃったりしたせいで案の定授業には集中できなかったことを今でも覚えている。それは海未も同じだったようで、いつもは凛とした態度で授業に望み、先生に当てられても迷わず答えを返す彼女は優等生そのものだったが、その授業だけは口籠ってあたふたと慌てふためいていた。

 

 なんかこの頃が一番まともにラブコメしていたんじゃないか……? 今ほら、エロいことばかりだし……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「どうして俺たちが衣装を作らなきゃいけないんだ? ことりの仕事だろこれ」

「仕方ないではありませんか。急な用事が入って作業ができないみたいですし……」

「いや、絶対に測ってたぞアイツ。顔を見れば分かる」

 

 

 この頃のことりは天使の側面も持ちながらも、さっきのように小悪魔的な面も持ち合わせていた。今回も俺と海未を2人きりにさせるのが目的で、用事なんて嘘っぱちだとアイツの口角が上がった表情を見ればすぐ分かる。今はただの歩く性玩具なので、この頃はまだ(性格的に)可愛かったよ。

 

 そんな理由でことりの策略により、慣れもしない2人が次のライブの衣装作りをする羽目になった。

 被服室に2人で寂しく残りながら、ことりの作った衣装作り設計書を見て作業を進めていく。部屋にはミシンの音が小刻みに流れるだけで、俺たちの間に会話はない。慣れないミシンに集中しているってのものあるが、数学の授業中にお互いをずっと意識していたこともあってか妙に気まずい。世間話くらいならいつも普通にできていたのに、いざ名前呼びで仲良くなろうとすると途端に緊張してしまう。しかも穂乃果とことりが俺たちを2人きりにする舞台を作り出そうと躍起になっているから、なおさらお互いがお互いを意識してしまう。もっと自然な感じなら落ち着けるのに、2人が下手に土台作りをしてくるから余計に戸惑っちまうんだよな……。

 

 まあ本人たちは善意でやってくれている(穂乃果はどうか分からないが)ので、やめてくれと言えないのももどかしいところだ。

 

 

「あ、あの!」

 

 

 最初に静寂を破ったのは海未だった。やはり彼女もまだ俺との2人きりには慣れていない様子なのだが、わざわざ緊張の糸を切ってまで話しかけてきたってことは、2人きりだからこそ伝えたいことがあるのだろう。これまでは2人きりと言っても穂乃果やことりが近くにいたり、教室の中だったりで完全個室に2人だけって状況はなかったからな。

 

 

「ご、ゴメンなさい!」

「えっ、どうして謝るんだ……?」

「いや、今日1日、私に話しかけにくくなかったですか……? 神崎君のことを名前で呼ぼうと思えば思うほど緊張してしまって、それで取り乱しちゃいました。そのせいで授業中に先生に当てられた時にもフォローをしていただいて、あなたには申し訳ないことをしたと思っています……」

「そんなこと考えてたのか。確かに今日のお前は挙動不審だったけどさ、別に気にしてないから」

「ですが迷惑をかけたことには変わりありません」

 

 

 ここで当時の俺は理解した。海未は海未なりに俺へ歩み寄ろうとしてくれていたことを。そして、俺自身は手をこまねいて待っていただけってことに。

 当時の俺は、てっきり海未が緊張しまくって立ち往生している者とばかり思っていた。だけど海未は自身の焦燥を振り切ってでも、俺の心に近づこうとしてくれていたんだ。対して俺は彼女から歩み寄ってくれるのを待つばかりで、よくよく思い返してみれば自分からアクションを起こしたことはなかったと気付く。そんなことでは、お互いを名前呼びするほどの仲になれないにも仕方がないよな。

 

 今の俺も女心には疎いと思うが、この時の俺は女心に疎いどころか無視していたレベルだったと思う。

 だが海未の様子を見て、当時の俺もようやく彼女の行動理由を察することができた。海未は俺ともっと仲良くなりたい、そう考えていると。そして机とミシンを挟んでお互いに向き合いながら、俺は決心した。

 

 

「なぁ、隣に行ってもいいか?」

「ふぇっ!? ど、どうしてですか!?」

「ほら、俺の分はもう終わったからさ。教えてやるよ」

「は、早いですね……。ミシンを使うのは初めてだと言ってませんでした?」

「俺は天才だから、初めてのことでもすぐに慣れちゃうんだよ。今ならことりよりもいい衣装を作れるんじゃないか」

「フフッ、傲慢すぎませんかそれ」

「悪いな、昔からだ」

 

 

 ファーストライブの帰り道以来だ、海未の笑った顔を見たのは。何故だか知らないが、いつの日からか女の子の笑顔を見ると心が落ち着く。だからなのか、女の子の笑顔だけは何が何でも守りたくなってくる。どうして自分がこんな行動原理を持っているのかは知らないが、これは論理的なことではなく直感なのかも……?

 

 とにかく、雰囲気がいつも通りに戻ったのでお互いに幾分か気が楽になった。

 俺は海未の隣へ移動する。授業中はお互いを意識し過ぎて逆に心の距離が遠かったけど、緊張の糸が解れた今ならそんな戸惑いはない。やっぱり、親友同士の距離なんて良くも悪くも些細な意識の違いで変わるもんだ。

 海未の堅かった表情も次第に柔らかくなり、もう穂乃果やことりと会話するのと同じくらい自然に話せるようになっていた。

 

 

「そうそう、その調子。不器用な奴かと思ってたけど、案外いい手捌きしてるじゃん」

「それ、褒めてるんですか?」

「褒めてる褒めてる」

「神崎君って、意外とお調子者だったんですね。言葉の端々に人を見下してると言いますか」

「元からこうなんだ、許してくれ」

「許すも何も、既にそんなあなたに色々助けてもらっていますから、今になって咎めたりはしませんよ」

 

 

 自然と会話ができるようになった流れのせいか、思わず自分の傲慢な性格が露呈する。だけど海未は気を悪くするどころか、むしろ俺の本性を知ることができて嬉しそうだった。よく考えてみれば、海未は常に自分を出していたが、俺はずっと体裁を取り繕っていたことを実感する。俺が海未に歩み寄ろうとしていなかったのがその証拠だ。この頃の俺は女の子に対してだけはコミュ障だったと、今になってはっきり分かったよ。まあ今も今で女の子をぞんざいに扱う時があるけど、それは淫乱ちゃんたちの暴走に相手をしきれないだけだから。

 

 

「ここ、ミシンで縫うのは難しいですね。ここだけは手でやりましょうか……」

「いや、コツさえ掴めば行けるって。ちょっと失礼」

「ひゃぁっ!?」

「な、なんだよ!? 手を触っただけだろ?」

「それがビックリしたんですよ!!」

 

 

 確かにそりゃそうだ。例え手だろうが、いきなり異性に触られたらセクハラを疑っちまうよな。さり気ない流れで海未の手を触っちゃったけど、言われて気付くことの重大さ。仲良くなっていきなり身体に触れるとか、出会ってすぐにヤっちまうエロゲー・オブ・ザ・イヤーにノミネートされたエロゲのようだ。俺って、この頃から女の子に対するデリカシーがなさすぎだよな。まるで成長してない。

 

 すると、海未は俺の突然の行動に戸惑っていたためか、ミシンが現在進行形で動いていることをすっかり失念していたようだ。そのため、ミシンの針が自分の手に近づいてしまっていることに気付いていなかった。

 

 このまま彼女に声を掛けても、ミシン針のスピード的に彼女が反応するまで間に合わない。

 仕方ない……方法はこれしか!!

 

 

「えっ、きゃぁっ!?」

 

 

 俺は咄嗟に海未に抱き着いて床に押し倒してしまう。椅子が倒れる音と海未の驚く声が部屋に響いたが、そこからしばらくは無音だった。海未が現状を把握するのに時間がかかっていたんだとは思うが、俺自身も彼女を助けるとはいえ大胆なことをしてしまったと今更ながらに思ってしまう。とりあえず奇声を上げられて誰かを呼ばれる前に、ちゃんと弁明しておくことにした。

 

 

「こ、これはお前の手がミシンに巻き込まれそうになったから、思わずこうして……」

「つ、つまり、私を助けてくれた……」

「大丈夫か海未? 手、ケガしてないよな?」

「え、ええ……。あ、ありがとうございます、零」

「あっ、名前……」

「えっ……お、思わず! 馴れ馴れしかったですか!?」

「いや嬉しいよ! やっと海未から名前を呼んでもらえて!」

「海未……? フフッ、それは私もですよ」

「あぁ、いつの間に俺も……」

「優しいところを見せてくれたかと思えば、意外と鈍感で可愛い面もあるんですね」

「せっかくいい気分に浸ってるんだから茶化すなよ……」

 

 

 お互いに押し倒し押し倒されながらも、名前呼びができた喜びから体勢のことなんて全く気にしていなかった。それほどまでに俺の中では海未と仲良くなれた事実に幸せを感じ、また海未も余計な気兼ねがなくなって安心しているようだった。

 

 かくいう経緯で、ほんの些細な事件があったものの、俺が彼女の想いに気付いたおかげでお互いに歩み寄ることができたんだ。異性に恋をすることに特別な事情なんて必要なく、日常的に一緒にいるだけで自然と好きになっているもの――――そんな格言を編み出した俺だが、それは友情にも当てはまるのかもな。下手に意識をしなくても、心の持ちようさえあればあとは自然と心が繋がるもんだ。

 

 

 

 そして、これだけで話が終われば大団円だったのだが……。

 

 

 突然、被服室のドアが開く。

 

 

「零くん、海未ちゃん。ごめ~ん、用事が延期になっちゃったから様子を見に来た……よ?」

 

 

「「あっ……」」

 

 

 ことりは俺たちの体勢を目を丸くして凝視する。

 それもそのはず、ちょっと前までお互いに名前ですら呼べなかった奴らが、放課後の学校でほぼ抱き合っている状態で床に転がっているからだ。

 

 ことりは身体を震わせると、その場で一回転する。

 

 

「あの、そのぉ……。あとは2人でごゆっくりぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

「ことり!?」

「待ってくれ! これには深い事情が……って、行っちゃったよ」

 

 

 この後、ことりが穂乃果に事のあらましをチクったためか誤解が広がりそうになった。しかし海未と2人ですぐ事情を説明したから、学校中の噂になることだけは食い止めることができた。仲良くなってすぐ押し倒して恋人同士になるなんて、そんなあらぬ噂を立てられたら学校での居場所がなくなるところだったぞ……。

 

 すっきりとした展開で幕を降ろさせてくれない不幸な体質は、昔も今も一緒だな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「なるほど、結局いつもの先生だったって訳ですか」

「改めて弁明しておくけど、下心なんて一切ないからな」

「分かってますって!」

 

 

 千歌の笑顔って、純粋に無邪気で可愛い時もあるんだけど、時たま憎たらしい時もあるんだよな。笑顔を向けておけば俺を騙せると思ってんのかコイツ……。

 なんかこれから先このネタで弄られそうなので、これは言わなきゃよかったってやつか?

 

 

「それにしても、先生と海未さんってそんな苦労があったんですね。今の仲の良さを考えると、ちょっと意外でした」

「まあ今は気兼ねがなさ過ぎるどころか、即興で漫才ができるくらいには愛も情も深いよ。名前で呼ぶのは、そりゃ最初は緊張するかもしれないけど、慣れちゃえばなんであんなことで悩んでたんだろって思うくらい些細なことだから。それに、呼び方1つ変えるだけでお互いの距離がグッと近くなったから、あの時にお互い踏ん切りをつけてよかったと思ってるんだ」

「お互いの距離が縮まる……。私も先生を名前で呼ぶことができれば、今よりもずっと……」

 

 

 千歌はしばらく俯き、自分なりの答えを導きだそうとしているようだ。

 名前呼びに関する話はそれで終わってしまったが、千歌以外のAqoursメンバーも物思いに耽っているようで、何かしら心境の変化があったみたいだった。

 

 

 

 

 ちなみに、顔を赤くして悶絶している子がここに1人――――――

 

 

「お、思い出しただけで恥ずかしい……。あの時が零に初めて押し倒された日でしたから、なおさら……」

「はは、ドンマイ……」

 

 

 心をより強固にしたAqoursとは対照的に、海未の心はいつの間にかボロボロになっていた。

 そりゃ男に押し倒された事実をこんな大っぴらに語られるとねぇ……って、俺のせいか。失礼失礼!

 




 零君まで初々しいので、普通のラブコメを描くのがここまで新鮮だとは思いもしませんでした(笑) 今の零君がまともな恋愛ができるかと言われたら、それは確実に"否"ですから。まあR-15やR-17.9方面に傾いちゃうのは、この小説の魅力だと思っているので直す気は全くありませんがね()


 次回は鞠莉回を予定しています。


 また6月上旬に2回目のリクエスト小説を投稿しようと思っているので、以下の投稿フォームから是非リクエストをご応募ください!
 活動報告からも飛ぶことができます。

【募集箱】
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=181617&uid=81126




新たに☆10評価をくださった

身勝手のラブライバーさん

ありがとうございます!

まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ナマイキなあの子を調教せよ!

 合同合宿編、12話目
 今回は鞠莉回です! 意外とこれまでやってこなかった海での鉄板ネタで鞠莉と勝負!?


 

 合同合宿2日目の予定は、午前中がグループ別の練習で午後から2グループの合同練習となる。いくらμ'sとAqoursの合同がメインだと言っても、スクフェスまで残り1ヵ月を切っているため個別練習も欠かすことはできない。それにいつもとは違う環境での練習なので、グループ別練習も捗るだろうという俺の意向から今日の予定が組まれた次第だ。これで個別練習も疎かにすることなく、かつ合同練習も効率的に行える。海や山という自然に囲まれた環境だからこそ、いつも街中で日光の灼熱地獄に耐えながら練習してるアイツらにとってもいい気分転換になるだろう。

 

 うん、我ながら女の子の体調面もしっかり考えられたいい計画だ。

 

 

 …………まぁ俺の計画は完璧なんだけど、その計画を実行するのは女の子たちだ。だからその子たちが俺の思い通りに動いてくれれば、これ以上にない効率的な練習ができる――――――はずだった。

 

 

「先生見てみて! これ、先生と一緒に買った水着ですよ!」

「あ、あぁ、すっげぇ可愛いよ」

「えへへ、昨日はあまり一緒に遊べませんでしたから、今日こそは絶対にですよ?」

「千歌ちゃん。今日は午前も午後も練習でしょ」

「あっ、梨子ちゃんの水着かわいい~! 梨子ちゃんはやっぱりピンクが似合うね!」

「そ、そう? せ、先生はどう思いますか……?」

「う~ん、なんかちょっとエロいな」

「な゛っ!? それは先生の脳内がピンク色なだけでしょう!?」

 

 

 オレンジの水着の千歌とピンクの水着の梨子。自分たちの好きな色で固めた水着は無難と言えば無難だが、無難というのはレベルが一定水準に達しているから外れがない。つまり、彼女たちは自分の魅力をしっかり俺に見せつけられている訳だ。女の子たちから水着の感想を聞かれるこの展開って、自分が女の子から好意を持たれてるって分かるから何かいいよね。

 

 ――――と、まぁそんな話はさて置き、どうしてコイツら水着なんだよ……? さっき梨子が言ってた通り、今日は午前も午後もみっちり練習のはずだ。元々の計画では昨日から練習漬けのはずだったのだが、案の定みんなのノリが遊びにシフトしたせいで練習にそれほど時間を割けなかった。だからこそ今日は日中フルで練習のはずだったのにこの有様だ。しかも、そのことを分かっている梨子ですら気合の入った水着を着ている。もちろん俺としてはAqoursの水着姿を拝めるのは嬉しいんだけど、本当にこの調子でスクフェスを制覇するつもりなのか……?

 

 

「お前ら、言ってることと格好が合ってない気がするんだが……」

「全く、夏らしく水着で練習してみようなんて発想、どこから出てくるのでしょう……」

「ダイヤ……? えっ、水着姿で練習すんの!?」

「興奮しないでください。どうせ海で練習するなら、自分たちも開放的になって練習してみようなんていう、千歌さんのぶっ飛んだ発想ですわ」

「ま、Aqoursで妙なことをやりそうなのって千歌か善子しかいねぇからな」

「それで納得されるとなんか不本意!?」

 

 

 μ'sのようなギャグ集団に比べたら、Aqoursの子たちは本当にいい子(性格的が無難的な意味で)が多い。μ'sの過半数がギャグキャラならばAqoursはさっき言った千歌と善子くらいなので、さすが田舎で育った純粋少女たちって感じだ。

 

 それにしても水着で練習ねぇ……。確かにこの合宿はいつもとは違う環境、違う雰囲気での練習に重点を置いているのだが、何も自分たちまで変わる必要があるのかと思ってしまう。まあ梨子以外は内浦で小さい頃から海に慣れ親しんできたと思うので、開放的な気分になってもおかしくはないのだが。

 

 しかし、俺としては目の保養になるから別にいっか。みんなが水着で練習することに抵抗がなければそれでな。

 

 

「せ~んせ♪」

「うあっ!? ま、鞠莉!?」

「どうどう私の水着? 今日のために海外から新調してきたオーダーメイドなんだけど??」

「いや背中に抱き着かれたら見えねぇだろ!?」

 

 

 俺の背後から抱き着いてきた鞠莉は、自分の胸が俺の背中で押し潰されることなんてお構いなしに密着してくる。やはりアメリカンの血を引く彼女の胸は超級で、本当に水着を着ているのかってくらい生々しい弾力が伝わってきた。挨拶の投げキッスやスキンシップのハグをすることに一切の抵抗を見せない鞠莉だが、今日は一段と行動が過激だ。二人羽織のような体勢になっていると言えばどれだけ俺たちが一体となっているか分かるだろう。

 

 

「ま、鞠莉さん!! スクールアイドルなのですから、そのような行為は慎みなさいといつも言ってるでしょう!?」

「もうダイヤ、相変わらず堅いよ? せっかく自然に囲まれて練習できるんだから、身も心ももっとOpenにしていかなきゃ!」

「それ以前にまず節度と言うものを守ってですね……」

「はいはい合宿に来てまでお説教は勘弁! それにほら、果南が呼んでるよ。練習用具を運んで欲しいって」

「全く……。あなたもすぐに来るのですよ……?」

「安心して。先生で遊んだら行くから」

「く・る・の・で・す・よ?」

「もうっ、ダイヤったら顔こわ~い! ほら、Smile!」

「はぁ……」

 

 

 ダイヤはこれ以上鞠莉に何を言っても無駄だと悟ったためか、千歌と梨子を連れて準備作業をしている果南の手伝いに行った。その途中で千歌と梨子が羨ましそうに鞠莉を見ていたが、もしかしてアイツらもこんなことをしたかったのかな……? いや俺は全然大歓迎なんだけどね。背中で女の子たちの乳比べって、まさに女の子を統べる王みたいで優越感があるじゃん?

 

 それにしても、予想はしていたが鞠莉は俺の身体から離れない。遠くでみんなが練習の準備をしているのに、1人だけ男に現を抜かしているとかビッチと称されても仕方がないぞ……。

 

 

「お前とダイヤって、たまに親友同士なのかなって思う時があるよ。よく幻滅されないよなお前」

「これでも幼い頃からの付き合いだし、私がやんちゃしてダイヤがツッコミを入れるのは日常会話みたいなものだからネ~」

「ダイヤも大変だな、お前みたいなのに遊ばれて」

「それどういう意味?」

「そのまんまだよ。ほらお前って、人を手玉に取って遊ぶのが好きそうじゃん。害悪だよ害悪」

「ふ~ん、そんなこと言うんだぁ……」

 

 

 その瞬間、鞠莉の雰囲気に妖艶さが増した。横目で彼女の表情を見るだけでも分かる。普段は垂れがちな目が少し釣り上がっており、唇に人差し指を当てて舌でペロリと舐める。まるで狙った獲物をどう料理するのかじっくり観察してそうな仕草だ。

 コイツがこの状態になったらマズい。同系列の希と比べても、スキンシップ能力ではコイツの方が格段に上だ。つまり自分の艶めかしい肢体が核兵器並みの威力を誇っていることを熟知しているため、それを駆使して俺をありとあらゆる手で貶めようとしてくる。現に教育実習生として浦の星にいた時も、他の生徒がいる廊下で過激なスキンシップをされ危うくセクハラの罪で俺が訴えられそうだった。まあ浦の星の生徒はみんな女の子で、しかも俺に興味津々だった子が多いためかそれほど問題にならなかったのはせめてもの救いだが……。

 

 つうか、Aqoursのみんなって悉く積極的な性格になったよな。恋愛は人を変えると言われるけど、彼女たちは己の信念そのものがここ2、3ヵ月でガラリと変わっている。特に梨子や曜は初見では考えられないくらい欲望に満ち溢れた子だったので、素の自分を見せてくれて嬉しいと思う反面、意外と変態ちゃんで驚いたのは記憶に新しい。

 

 

 その時だった。鞠莉が俺の首元に腕を回してきた思ったら、そのまま彼女の膝に抑えつけられる。

 そして息つく暇もなく、自分の胸を俺の顔面に押し付けてきた。

 

 

「ぐっ、あッ!! で、でけぇ……ッ!!」

「さっき別の女の子のこと考えてたでしょ? 私がいるのにヒドくな~い? オシオキとして私しか見られないようにしてあげるから♪」

「胸を乗せられたらお前のことも見えねぇって! くっ、で、でも楽園かここは……!!」

「相変わらず先生はおっぱいに弱いんだから♪ どうやったら先生を私に夢中にさせられるか考えてたんけど、とんだEasy Gameね!」

 

 

 胸を顔に押し付けられているというよりも、顔を胸の置物にされていると言った方が状況的には正しい。膝枕をされているだけでなく、おっぱいでアイマスクまでされているまさに楽園。こんなことをされるのであれば、少しくらい鞠莉のSっ気のある行動に身を任せても良いと思ってしまう。俺の性分的にこちらから攻めるのが至高であまり女の子側から攻められるのは好きじゃないけど、こんなプレイを楽しめるのであれば女の子の玩具になるも……あり? あれ、もしかして調教されている? この俺が??

 

 

「せっかくだから、今日は徹底的に遊んであげる♪ ダイヤにも言ったでしょ? 先生で遊んだたら行くからって」

「これがお嬢様の戯れってやつか……」

「フフッ、でもこんなことをするのは先生だけだから」

「当たり前だ。こんなエロい身体、他の奴に渡す訳がない」

「Oh! 嬉しいことを言ってくれるね先生! ほらほら、お礼にもっとイジメてアゲル♪」

「うっ、あ゛ッ……!!」

 

 

 ついに俺の顔面は鞠莉の胸により覆いつくされた。男の顔を包み込むくらいに大きな胸と言えば、彼女の胸がどれだけ規格外のボリュームなのかが分かるだろう。

 完全にお嬢様の玩具として弄ばれているが、やはり男は女の子のおっぱいに敵わない。こうして押し付けられているだけでも胸の心地良さを味わうことに集中してしまい、他のことなんて一切考えられなくなる。まるで理性を失った獣ようで、しかもお嬢様に手懐けられている哀れな動物だ。お嬢の膝の上で弄ばれているこの姿は、まさにペットそのものだろう。

 

 

「さぁ~て、晴れてオモチャになった先生には、私にサンオイルを塗る権利をあげるわ!」

「お前、最初からそれが目的だったんじゃ……」

「ほらほら、ペットはご主人様の言うことに従うものでしょ?」

「オモチャだったりペットだったり、先生に対して敬意はないのかよ……」

「女の子におっぱいを押し付けられて、発情した猿みたいに喜んでる男に敬意なんて払える普通?」

「そこで冷静になるなよ……。まぁ確かにそうだけどさ」

 

 

 傍から見てみれば大の大人がJKに遊ばれている、羨ましくも情けない展開にしか見えない。そう考えると大人の威厳がないっつうか、男としての尊厳すらも感じられない気がする。でも仕方ないじゃん、巨乳に押し潰されるなんて俺の夢なんだから。それに女の子の胸を自由に触れるとしたら、男だったら誰でも夢中になっちまうだろ? 大人の威厳とか男の尊厳とか、JKの胸を堪能できるのならばそんなものはいくらでもかなぐり捨ててやる。

 

 

「はい、これサンオイル」

「えっ、マジでやんの? 練習の準備しなくていいのか?」

「そんなことよりも先生で遊んでた方がよっぽど有意義だもん♪」

「あっ、そ……。ったく、果南とダイヤに何を言われても知らねぇからな」

 

 

 このナマイキお嬢様は完全に俺を召使いか何かと勘違いしているようだ。あぁ、召使いというよりオモチャだったか。俺のことを気に入ってもらえるのは嬉しいけど、ずっとコイツに弄ばれっぱなしなのも釈然としない。

 

 俺をずっと自分の脚と胸で抱きかかえていた鞠莉は、今度はこちらに背を向けて自分の背中に手を回す。そして水着の紐を解いたかと思えば、水着が垂れて生乳が露になる前にその場でうつ伏せとなった。自慢の豊満な胸がマットに張り付き、横乳が彼女の身体から"むにゅ"っとはみ出る。その光景だけでも十分な取れ高だが、艶やかな背中のラインも相当扇情的で、サンオイルを塗る前から白く輝いていた。

 そしてやけに布地面積の少ない水着のためか、臀部の自己主張もかなり激しい。おしりの谷間に水着が軽く食い込んでおり、見ているだけでも尻肉の質感が手に取るように分かる。そんじゃそこらのグラビアアイドルよりもよっぽど引き締まったいい尻をしていた。

 

 

 総評、エロい。

 あまりにも語彙力がなさ過ぎだが、この一言で表せるくらい鞠莉の身体は性を促してくるのだ。

 

 

「先生ってば、もしかして私の身体で興奮しちゃった?? 襲いたくなった?? でもダメ。もうすぐで練習なんだから、先生の相手をしてる暇はないの♪ ほら、分かったら早くサンオイルを塗った塗った!」

 

 

 鞠莉は明らかに俺を挑発している。ガキの挑発に乗るほど大人の威厳を捨てた訳じゃないが、そんなガキの肢体を見て興奮しちゃってるのは彼女の言う通りだ。そこは男の性だから仕方もないし、否定する気もない。

 

 だけど、やっぱりこのまま鞠莉の言いなりになるのは癪だ。さっきも言ったが俺は弄ばれるよりも弄ぶ方のが好きな性格である。特に女の子、しかも年下、更には自分の生徒だった子にいいようにされたままで終わるのは流石にプライドが許さない。多少は女の子に身を委ねるもアリだが、コイツは度を超え過ぎた。男を獣に昇華させることが如何に恐ろしいことか、身をもって体感させてやらないとな……。

 

 ラッキーなことに、今の鞠莉は完全なる無防備状態だ。俺が性欲に捕らわれていると思い、しかもその性欲は自分がコントロールできていると思っているのだろう。俺のことをオモチャなりペットなり扱いを雑にしているのがその証拠だ。

 

 俺は鞠莉から手渡された明らかに高級品と分かるサンオイルの蓋を開け、その中のオイルをベッタリと両手に浸ける。恐らく数千万はするであろう貴重なオイルなんだろうが、値段の話なんて今はどうでもいい。むしろこの手に付着した札束オイルを使って、生意気なお嬢様をしっかり躾けてやらないと。

 

 

「ひゃっ!? せ、先生!?」

「ん? どうした?」

「オイル漬けすぎ! 塗り方も知らないの?」

「知らないよ。ゴメンな」

「って、そんなベトベトな手で触られると……ふひゃっ!?」

 

 

 ふひゃって、意外と可愛い声上げるんだなコイツ。もっと大人の嬌声を期待していたのだが、こんな声を出せるのならもっともっと遊びたくなってくるぞ。

 まずは手始めに背中から攻めてみた。背中なんてよっぽどのフェチでもない限りそこまで感じないと思ったのだが、やはり高級オイルのぬめぬめ感は市販品より明らかに群を抜いている。ねっとりとした感触が背中を這うように伝うので、いくらオイル慣れ(?)しているコイツでも効き目は相当だ。そして背中にはベトベトのオイルが広がっており、もはやぶっ掛けられたみたいになっているので見ているだけでもエロい。

 

 もちろんそれだけでは俺の調教は終わらない。次は巨乳が故に身体からはみ出ている、その乳肉にもたっぷりとオイルを塗ってやろう。

 今度は両手10本の指先に大量のオイルを浸け、指を触手のように蠢かせて彼女の横乳に攻め入った。手はオイル塗れなのだが、やはり彼女のおっぱいは規格外で、例えオイル塗れの手でもその柔軟さと弾力は直に伝わってきた。

 

 

「きゃっ!? 先生そこは違うっ!!」

「違わないぞ。お前らのおっぱいは俺の宝だ。その宝が日に焼けたりでもしたら大変だからさ」

「そ、そんなこと言ってぇ……ただ触りたいだけでしょ、って、ひゃんっ!」

 

 

 鞠莉は顔を真っ赤にしながらこちらを向き、嘗てないほどのツリ目で俺を睨みつける。でも目尻に少し涙が溜まっていることから、俺の嗜虐的欲求がどんどん煮え滾っていた。どうして自分の手で女の子が羞恥に屈服している様を見ると、もっともっとイジメたくなってくるんだろうな? 可愛い顔を見たいから? 恥ずかしい姿を見たいから? いい声で鳴かせたいから? まあ全部かな!

 

 なんにせよ、鞠莉を俺のモノだって証をこの手で刻み込んでいる今が何よりも愉しい。この艶めかしい背中も、胸も太もももおしりも、全部俺のモノだと思うと快感が半端ない。もはや教師が生徒に向ける目線ではないが、そんなのはもう今更だろ。今はひたすら鞠莉を貪りたい。

 

 間髪入れず、次のターゲットはぷっくりとして食べ頃な臀部だ。谷間に食い込んだ水着のおかげで、白く輝く肉丘が目の前に顕現している。もう好きなだけ弄ってくれと自己主張しているかのようだ。その期待にお応えして、俺はオイルを大量に塗った両手で彼女のおしりを鷲掴みにした。

 

 

「ひゃぁっ!? そ、そんなところまでぇ……ホントにエッチなんだから!」

「でも、お前も期待してたんだろ?」

「えっ……?」

「俺の性格を考えたら、こんな展開になることなんて賢いお前なら察せたはずだ。つまり、お前は自分から望んでこのシチュエーションを作った。違うか?」

「そ、それは……」

「まあどちらにせよ、俺はお前の身体をとことんイジメるけどな。手加減も容赦もしない。お前が悦ぶようになるまで徹底的に弄り倒してやる」

「先生が見てくれてる。私のこと……」

「あぁ、見てるよ。まんまとお前の策略に乗っちゃった気がするけど、俺はそれでもいい」

 

 

 鞠莉はオープンな性格に見えて、案外繊細な一面もある。今回のようにただ生意気な姿を見ているだけではそう思えないかもしれないが、以前にそのことで悩みを漏らしたこともあった。彼女は俺によくスキンシップをするが、逆に言えばそうしなければ自分をアピールできないと思い込んでいたのだ。もちろん千歌だってスキンシップはしてくるし、他の子も少しずつだが俺に接近してくることが多くなってきた。そこで鞠莉は、自分の存在感が薄れていると思い危機感を抱いていたんだ。だから彼女は俺をホテルに連れ込み、自分の魅力を不器用ながらにも伝えようとした。それで紆余曲折あり、鞠莉は自分の自信を取り戻した――――って過去がある。

 

 つまり――――――鞠莉は俺にエッチなことをされるのが好きなのだ。そうなることで自分が俺に求められていると実感できるから。

 えっ、そういうことじゃないろって? いいんだよ、女の子が望んでいるならな。それに鞠莉は自分の身体が武器だってことを熟知しているからこそ、その武器で俺にアピールをしたいのだ。だったらそのアピールに応えてやるのが男ってもんだろ?

 

 

「やっぱりお前の身体すげぇよ。俺のモノにしたい、独占したい」

「フフッ、先生ったら欲望丸出しね」

「お前も嬉しいくせによく言うよ」

「そうかもね。それに……」

「それに?」

「…………なんでもな~い!」

「な、なんだよそれ!?」

「いいからいいから♪ ほら、早くオイル塗っちゃって! Hurry up!」

「ったく……」

 

 

 頬が緩んでいる表情を見る限り、どうやら俺の予想は間違っていなかったようだ。人によっては俺たちの関係を身体の関係じゃないかと思うかもしれないが、それで何が悪い。お互いの愛を認め合った結果、その愛を最も効率良く示し合える方法が身体だっただけだ。だから他人にとやかく言われようが、それで愛を確かめ合えるのならそれでいい。そう、これが俺と鞠莉の関係なのだ。

 

 

「私はもう、先生のモノになってるから……」

「ん? なんか言ったか?」

「別になんでもないよ! それよりもまだ全然塗れてないから、ほら、胸とかおしりとか、前とか……」

 

 

 結局その後、鞠莉のご要望通り身体にたっぷりとオイルを塗ってやった。まあそのせいでシャワーを浴びないと練習どころじゃない身体になってしまったので、この行為はAqours全員にバレちゃったんだけどな……。その時に誰とは言わないが、こっそり『私もやって欲しい』と懇願してきたのは内緒だ。

 




 久々にいい感じのR-15回を描けて楽しかったのですが、μ's編の頃はもっと際どいところまで攻めていたので、あの頃は無謀なチャレンジャーだったなぁとしみじみ思います(笑)
今はどちらかと言えば、純度100のエッチよりもギャグ方面の話にちょいエロを加える方が好きだったりします。安直ですが、女の子に下ネタを言わせるのも好きだったり……

 こんな小説がハーメルンのラブライブ小説トップクラスでいいのかと思いますね(笑)


 次回は久々に楓ちゃんが暴れます。そして無残にもAqoursメンバーが巻き込まれちゃうので、今のうちに合唱しておきましょう()


また6月上旬に2回目のリクエスト小説を投稿しようと思っているので、以下の投稿フォームから是非リクエストをご応募ください!
 活動報告からも飛ぶことができます。

【募集箱】
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=181617&uid=81126


新たに☆10評価をくださった

羽乃 秦御さん、柘榴.Dさん

ありがとうございます!

まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お兄ちゃん狂のお兄ちゃん教

合同合宿編、13話目
今回はサブタイトルでお察しの通り、久々にイキイキとした楓ちゃんが見られます! その被害者となるAqoursのみんなには非常に申し訳ないことをしたと……


 

 何事も実力を上げるためには実践してみるってのが最適解なのだが、それは事前知識がある前提での話だ。何の知識もなしに実践をしても、迷ったり悩んでいる時間は無駄な浪費となり得策ではない。だからこそ事前学習というのは重要で、ある程度知識が固まってきて初めて実戦あるのみという言葉が適用できる訳だ。事前に何も教えず、とりあえずやってみろって上司がいたら『あっ、コイツ教え方下手くそだな』と思っていいぞ。

 

 いきなりこんな話をし始めた理由は、これから行われる勉強会の目的でもあるからだ。その勉強会はスクールアイドルのタマゴであるAqoursに、とあるμ'sメンバーがスクールアイドルたるものを指導する内容となっている。いくらスクールアイドルがアマチュアだと言っても、今や世間を騒がせるほどの巨大なコンテンツとなっているので見られて恥ずかしい真似はできない。だからこそレジェンドスクールアイドルであるμ'sの先輩が、Aqoursのみんなにスクールアイドルとしての風格を身に着けさせようとしているのだ。

 

 まあそれらしいことを言ってるが、この勉強会を計画したのは楓ただ1人。しかも元々合宿の予定には組み込まれておらず、彼女の一存と圧力により無理矢理この予定が押し込まれていたのだ。今回の合宿のしおりを作ったのはAqoursのみんななのだが、口の上手いアイツのことだから千歌たちを言葉巧みに誘導して今回の計画を立てたのだろう。正直なところまともな勉強会になるとは思えないが、あれでも1年間は真面目にスクールアイドルをやっていた端くれ、ちょっとくらいはAqoursの力になるかもしれないと考えると咎めることはできなかった。それに今日1日はずっと練習の予定だったのだが、実際に午前中ぶっ通しで練習してそれはキツイと分かったので、息抜きがてらに勉強会があって千歌たちも助かってるんじゃないかな。

 

 そんな訳で旅館のバルコニーを貸し切って、Aqours9人に向けての勉強会が開始された。どんな権利を行使して高級旅館の施設を私物化したのかは知らないが、教卓に勉強机って用意周到過ぎるだろ……。しかも海の見えるバルコニーでの授業だから、昔ながらの青空教室に見えなくもない。つうか、この机とか黒板はどっから持ってきた……?

 

 謎が絶えないが、逐一ツッコミを入れるのも面倒なので俺はバルコニーの端っこで彼女たちを見守ることにした。

 

 

「さて、時間もないから早速授業を始めるよ。目的は事前に伝えた通り、スクールアイドルとは何たるかを把握し、己の魅力を磨き上げること。スクールアイドルがゴミのように蔓延ってるこのご時世、ただ歌って踊るだけなんてオモチャの人形でもできちゃうからね。そうならないためにも、私があなたたちにスクールアイドルのイロハを教えてあげるから心して聞くように。返事!」

「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」

「よしっ、みんなやる気はあるみたいだね。でも油断しないように。Aqoursはまだスクールアイドルのタマゴ、つまりタマゴの黄身となって綺麗な卵焼きになるか、殻となってそこらの残飯スクールアイドルのように見向きもされない廃棄になるかはみんな次第だよ」

 

「言葉汚ねぇなオイ……」

 

 

 講師役とは思えないほどのワードチョイスに、初っ端から心配になってくる。基本的に自分と俺に対しては持ち上げて、それ以外の人に対しては蔑みしか言わないような奴なので平常運転ではあるのだが。

 ちなみに俺は毎日一緒にいるのでアイツの言葉遣いの汚さは慣れている(俺の言葉遣いが移ったのかも?)が、まだそこまで楓と会話をしていない千歌たちにとっては戸惑いしかないだろう。現に心配そうな顔をしている奴らが数名いるし、知ってはいたが人の前に立つような器ではないなアイツは。

 

 

「まずはスクールアイドルとは何たるか、自分の意見でいいから答えてね。はい、黒澤ルビィさん!」

「ピギィ!? ル、ルビィですか……? え、えぇっと…………仲間たちと一緒に輝き、感動を分かち合うこと――――ですか?」

「まるでマニュアルのような回答だね。でも、そんな模範回答は私の勉強会で求められてないから」

「き、厳しい……」

「みんなにはスクールアイドルとは何かを根底から知ってもらう必要があるみたい。仕方ないから、基礎の基礎からじっくり学んでいくよ。まずはこれを覚えること」

 

 

 楓はどこから持ってきたのか分からない黒板に、何やら重要そうなことを書く。授業の入りは勉強会っぽかったので、もしかしたら意外と真面目なことを教えてあげるのかも? まあ合宿の時間も限られてるし、余計なことに時間を割けないことくらいは楓も分かってるか。

 

 黒板にはこう書かれていた。

 

 

『女の子としての魅力を最大限に引き出す』

 

 

 うん、まぁ分からなくもない。スクールアイドルはもはや全国的な人気を誇るコンテンツなのだが、アマチュアであってもアイドルなので男性ファンが比較的多い。華の女子高生たちが結成したグループが多いから、男性ファンが女性ファンよりも数を占めているのはもはや必然だろう。だからこそ女の子の魅力を世間に見せつければ見せつけるほど、自分のグループがどんどん有名になっていくという算段は理にかなってはいる。だがそんなことくらいAqoursも承知のはずなので、わざわざ勉強会まで開いて言う必要は……。

 

 

「分かってる分かってる。こんな当たり前のことを今更なんて思ってるんでしょ? でもね、みんなが醸し出してる魅力はまだまだなんだよ。だからこれからあなたたちの隠れた魅力を私が引き出してあげるって訳。そこで高海千歌さん!」

「は、はいっ!!」

「朝、お兄ちゃんが全然起きてくれないとします。身体を揺らしたり声をかけているのに全然です。さて、あなたはどうしますか?」

「えっ、せ、先生の話ですか!? スクールアイドルの話だったんじゃ……」

「いいから答える」

「えっと、もっと大きな声を出したり、もっと強い力で身体を揺らしてみる……とか?」

「はぁあああぁあああああああ!?!?」

「ひゃっ!? ま、間違ってました!?」

 

 

 楓は()()()()人を見下す目と口調で千歌の回答を一刀両断する。確かに千歌の答えは無難と言えば無難な答えだが、楓がさっき言っていた通りこの勉強会に模範回答は求められていないらしい。そう言ったのにも関わらず普通の回答だったので楓は怒ったのだろうが、そもそもいきなり目的から逸れた質問をされて咄嗟に秀逸な回答が思いつくはずもない。どうして俺の話題になったのかも意味不明だし、何考えてんだアイツ……。

 

 

「もっとあるでしょ? お兄ちゃんと一緒の布団に潜り込むとか、キスして起こしてあげるとか、カッコ可愛い寝顔を盗撮して後で脅しの材料に使うとかね」

「そ、そそそそそそんなことは……しない……ですよ? い、いやちょっとだけ……あっ」

「あるのかよ……。しかも脅しの材料を調達されてたとか初耳なんだけど」

「うんうん、相手はお兄ちゃんだもんね。欲望を解放したくなる気持ちは分かるよ。でもね、さっきのは全部最適解じゃないんだ」

「えっ、そうなんですか?」

「今から黒板に書いてあげるから、各自メモを取るように。ここテストに出るから」

 

 

 楓は意気揚々と先程の質問の最適解を黒板に書いていくが、途中で内容を察した俺はあんぐりと開いた口が塞がらなくなってしまった。

 楓がニッコリとした笑顔で示した回答が――――――

 

 

『朝フ〇ラ』

 

 

「こ、こここれが最適解なんですか!?」

「当たり前でしょ。男の人のアソコって、朝が一番辛いんだよね?」

「こっちを見るな、俺に聞くな……」

 

 

 全く予想していなかったと言えば嘘になるが、スクールアイドルとしての所以を語り始めたところから今回は真面目な回になると心のどっかで油断していた。だがその希望は儚く散り、良くも悪くも平常運転であった。しかし楓のこのノリに慣れていないAqoursからすると、『朝フ〇ラ』の4文字を見ただけで気が動転する気持ちも分かる。そのせいで千歌たち9人のざわつきが半端ではなかった。

 

 ちなみに、黒板には伏字なんて生温いモノは一切ないから。しっかりはっきりとその4文字が書かれている。

 

 

「お兄ちゃんはね、寝ている時にしゃぶられると身をよがらせて悦ぶんだよ。まだ夢の中なのに身体がビクビクって震えて、気持ち良さそうにしてるお兄ちゃんが可愛いのなんのって!」

「そ、それがスクールアイドルの勉強とどう関係がありますの!? そ、そんな先生と楓さんの情事なんて晒されても……」

「ふむ、いい質問だね黒澤ダイヤさん。さっきも言ったけど、スクールアイドルは女の子の魅力を見せつければ見せつけるほど輝けるの。そこでだよ、あなたたちは一番誰に自分の魅力を見せつけたい? 言わずもがなお兄ちゃん、あなたたちの先生だよね」

「そ、それは……」

「自分の魅力をお兄ちゃんに見せつけるためには、まずはお兄ちゃんのことを知らなければならない。だったら毎日お兄ちゃんのお世話をしている私が、あなたたちにお兄ちゃんとは何たるかを教えてあげる! この勉強会が終わる頃には、みんな神崎零マニアになってるかもね」

 

 

 なるほど、コイツの目的はそれか。最初からスクールアイドルを題材にする気は一切なく、自分の大好きなお兄ちゃんの話をしたいがためにこの勉強会をセッティングしたっぽい。おかしいと思ったんだよ、コイツが自ら他人のために行動するなんて。結局この勉強会も自己満足のためであり、ようやく本題を切り出せた解放感からか本人は既に有頂天だ。

 

 千歌たちは戸惑うばかりだが、誰1人としてこの場を去る者はいない。先輩だから気を使っているのか、それともそこまで俺のことを知りたいのか……? 確かに楓ならみんなの知らない俺の一面を教えてくれるかもしれないが、まさかコイツら本当にこのまま続ける気なの……??

 

 

「みんな顔を赤くして可愛いね! そりゃ愛しのお兄ちゃんの貴重なプライベート情報だもん、聞きたい気持ちは分かるよ。Aqoursのみんなからこんなに好かれちゃって、嬉しいでしょお兄ちゃん?」

「だから、今回は俺に話を振るな……」

「Aqoursの中でお兄ちゃんを神格化してあげるから待っててね!」

「誰も頼んでねぇよ……」

「そんなこと言わずに! ほら、次のシチュエーションに行くよ!」

 

 

 もはや勉強会というより、みんなで俺とあんなことやこんなことをするシチュエーションを想像して、自分がどう行動するかを暴露するゲームになっている。如何にも修学旅行の夜に女子が部屋でやってそうなゲームだ。でもこんな真昼間から、しかも本人がいる前でやることではねぇよな……。

 

 

「おしゃぶりのあまりの気持ちよさに耐え切れず、だらしなく白いのをびゅっびゅしちゃったお兄ちゃん。さて、このあとどうする? はい、国木田花丸さん」

「ふえっ、ここでマル!? んっと……朝ごはんができてるから降りてきて、とか?」

「残念! それはもうちょっと後の話だよ。それ以前にすることがあるんだから。ね? 桜内梨子さん?」

「は、はぁ!? どうして私に振るんですか!?」

「どうしてって、答え分かってるでしょ? ねぇ~?」

「そ、それはぁ……」

「お兄ちゃんのアレ、見たことあるよね? 顔がそう語ってるよぉ?」

「う、ぐっ……!!」

 

 

 あの顔は分かってる顔だな。だが梨子は自分の裏の趣味をAqoursの誰にも言っておらず、R-18の同人誌であろうとも余裕で手を出すその豪傑っぷりは俺しか知らない。

 ん? そう考えると楓はどうして梨子に目を付けたんだ? まあ淫乱ちゃんは相手のピンク思考を読めるらしいし、心が不潔な者同士でどこか惹かれ合っているのかもしれない。現に梨子の微妙そうな表情は、如何にも知っているが恥ずかしいから黙っている顔にしか見えない。そんな梨子とは裏腹に、楓はすっごく嬉しそうだ。人を見下したり煽ったりして遊ぶのが何よりの至高だからなアイツにとっては。

 

 

「はい、それじゃ渡辺曜さん。代わりに答えてあげて」

「え、えっ!? 私!? し、知らないですよそんなこと……」

「あれぇ~いいのかなぁ~? 昨日お兄ちゃんと隠れて何をしていたのか、バラされてもいいのかなぁ~?」

「な゛っ!?」

「か、楓お前!!」

「んふふ~♪ 気付かないと思った? お兄ちゃんが部屋に戻ってきた時に、あんなにオスの匂いをプンプンさせてたのにねぇ~」

 

 

 まさかとは思ったが、やっぱり気付かれてたのか!? 楓も秋葉も何も言わないから安心してたのに……。もしかして秋葉の奴も俺が何をしていたのか察していたりするのかな? でも俺のシていた相手が曜だってよく分かったなコイツ。楓は俺に付着した女の匂いから本人を特定し、あの手この手で貶めるくらいのブラコンだからそれくらいのスキルはあるか。それで納得していいのかは別の話だけど……。

 

 そして当の本人の曜は身を縮ませて、必死に楓からの言葉攻めに耐えている。しかも千歌たちも騒然としており、俺と曜に何があったのか気になってならないようだ。

 

 

「ほらほら、言いふらされたくなかったら答えを言っちゃいなよ」

「うぅ……お、おそう……じ」

「ん? 聞こえないぞ渡辺曜!!」

「お、お掃除です!!」

「ふむ、まぁちょっと言葉足らずだけどそれでもいっか。頑張ったね♪」

「褒められても嬉しくないんですけど……」

 

 

 頑張った、曜は本当に頑張った。小悪魔のねちっこい攻撃をなんとか凌ぎ切り、羞恥心にも負けず答えを公にしたのは称賛に値する。彼女の顔は爆発しそうなくらいに赤くなっているが、唯一安心なのはお掃除の意味を知らない子たちが多いことだ。誰が分かっていて誰が分かっていないのかはみんなの顔色を見れば察することができる。梨子や善子、鞠莉などは頬を染めてそっぽを向いていあるあたり、どうやら俺との情事を想像しちゃっているのだろう。対して千歌やルビィあたりはポカーンとしているが、彼女たちはずっと純真なままでいて欲しいよ。

 

 

「さあ続きだよ。お掃除が完了したら、次は待ちに待った朝ごはんの時間。さて、あなたはどうする? 松浦果南さん」

「えぇ……。対面に座って一緒に頂きますをして、他愛もない世間話で夫婦仲睦まじく盛り上がるとか……?」

「…………」

「…………」

「あ、あれ? みんなどうしたの??」

「いや、意外と乙女チックなこと考えてるんだなぁと思って。しかも夫婦って、私そんな設定なんてしてないのに捏造しちゃって」

「あっ……」

「好きなんだね、お兄ちゃんのこと♪」

「ち、違う!! いや違わなくはないけど、違います!!」

 

 

 さっきまで淫猥ムードが漂っていたが、果南の一途なシミュレーションに場が一気に和んだ。楓もまさかここまで純情な回答が来るとは思っておらず、少々戸惑っている。

 

 果南は先程の曜と同じく発言してから事の重大さに気付いたのか、机に上半身を伏せて誰からも顔を見られないようにした。ちょっとやそっとのことでは取り乱さない彼女だが、やはり恋をすると人間は変わるもの。想いの人のことに関してだけはどうしても鉄壁な心も揺らいでしまうようだ。

 

 

「まあさっきのはさっきので素晴らしい模範回答だけど、この勉強会は無難じゃ意味ないんだよ。さあ気を取り直して、はい黒澤ダイヤさん! 神崎零と一緒に朝ごはん、あなたの取る行動は??」

「ま、またその……は、破廉恥な答えを求めているのでしょう……?」

「私はね、お兄ちゃんと一緒に暮らすうえでの最適解を伝授しているだけだよ」

「またそんな嘘を……。えぇっと、隣の席に座って、寄り添いながら食べさせてあげる……とかですか?」

「残念でした。言い換えればブッブーですわ! ってやつだね」

「私の真似をしないでください!!」

「普通の答えじゃないってことが分かってるはずなのに、わざと無難な答えで外しにいった罰だよ」

「でもダイヤからしてみれば、寄り添って食べさせてあげる行為がエッチな部類なのかもしれないね。可愛い♪」

「なら鞠莉さんはどんな行動を取りますの?」

 

 

 確かにダイヤにしては頑張って捻り出した答えなんだろうが、変態を極めた俺たちからしてみれば彼女の回答はまだまだ純度100%だ。もちろん純情乙女が好きな男性に寄り添ってご飯を食べさせてあげるなんて行為は破廉恥極まりないと思うけどね。

 

 そしてダイヤから直々に回答を指名された鞠莉だが、その表情は余裕そのもの。むしろ自分の答えが絶対に合っている自信しかないようで、もしダイヤから指名されなくても自分から答えていただろう。この勉強会がまともではなく自分たちが辱めを受けると分かっていてもなおこの余裕。たくましいっつうか淫乱思考を拗らせてるっつうか……。

 

 

「それじゃ小原鞠莉さん。答えをどうぞ!」

「ズバリ、机の下でご奉仕タイム♪」

「おっ、正解正解!! 渡辺さんもそうだったけど、Aqoursにも最適解を導き出せる人がいて私は嬉しいよ!」

「やりぃ~! どう先生、見直した??」

「だから俺に振るな。それにどこに見直す要素があったんだ……」

 

 

 ご主人様がテーブルで飯を食っている時に、机の下でメイドさんや奴隷がご奉仕しているシチュエーションは同人界隈やR-18小説ではよくある展開だ。俺もそれなりにそんな光景を夢見ているところはあるのだが、楓がこれを最適解にしてるってことは俺の思考がアイツに筒抜けなのでは……? ま、そんなの今更か。やられたことはないけどね。

 

 鞠莉が放った最適解に、またしても意味を理解している奴としていない奴の温度差が半端なかった。そもそもご奉仕の意味からして、淫乱思考の鞠莉たちと純情思考のルビィたちとでは捉え方が違っている。ことりの講座もそうだけど、このような勉強会は淫乱っ子向けというよりむしろ純情っ子向けではあるから、性教育って観点では方針としては理にかなってはいるんだけどな。講師がただやりたい放題やって自己満足するだけなので、生徒にちゃんと知識が定着できているかは分からないけどさ。

 

 つうか、シミュレーションとはいえ短時間に何回しゃぶられてんの俺……。

 

 

「次が最後のシチュエーションだね。朝のご奉仕はいよいよ大詰め! お兄ちゃんから白い朝ごはんをたっぷり頂いたら、お礼としてやってあげることがあります。さてそれは何でしょう? はい、津島善子さん。最後だからバシッと決めてね♪」

「お礼、お礼……うっ、変なことしか浮かばない」

「それでいいんだよそれで! さぁ、最適解は!?」

 

 

 頭を抱える善子だが、彼女もそっち系の知識はかなり豊富な方だから余計に迷ってしまうのだろう。現在、アイツの妄想には俺との色々なシチュエーションが想像されているに違いない。妄想するだけならタダだけど、それを口に出すとなるとかなりの勇気がいる。だが楓は待ってくれない。楓は善子の席の近くで圧力を掛けるようにニッコリと微笑みかけているから、善子の神経も大きく擦り減らされる。だから言い渋れば渋るほどより言い辛い状況となり、余計に場の空気が悪化するのだ。堕天使が小悪魔にどんどん追い詰められ、善子は頭を抱えたまま悶えていた。

 

 ここで遂に楓の圧力に耐え切れなくなったのか、どうやら覚悟を決めたらしい。

 伏せていた顔を上げると、若干言い渋りながらも意を決して口を開いた。

 

 

「セ、セ、セ……セック――――――!!」

 

 

 本人の名誉のために最後の文字は伏せるが、プライドも全てを投げ捨ててまで彼女はその言葉を最後まで言い切った。

 楓を含め、バルコニーいる俺たち全員が目を大きく見開いて唖然としている。これほどまでにド直球な言葉が出てくるなんて、誰も想像していなかったからだ。こんな暴挙に出たのも、楓によって神経を削られ我慢の限界が来ていたからだろう。しかし、小悪魔に負けずよく言ったと褒めてあげたい。静まった空気に臆して口に出せないのがもどかしいが。

 

 そして、最初に口を開いたのは楓だった。

 

 

「あ、あなた、意外とエッチだったんだね……」

「は、はぁあああああああああああああああああ!? どうせこれが最適解なんでしょ!?」

「いやぁ、私は着替えを持ってきたり歯磨きを手伝ってあげるくらいのことを想像してたんだけど……」

「なんで最後だけ普通の答えなのよ!? 私をハメたわね!? ハメたのよね!?!?」

「ハメたなんて、野外でそんな卑猥な言葉使っちゃダメだよ♪」

「お前が言うなぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 善子の怒号が旅館中に響き渡り、その声はお昼休憩中のμ'sにも聞こえていたらしい。

 つうか善子の奴、相変わらずツイてないというか不幸な奴だな。いや、これは楓の策略が見事だと言うべきか、それとも意地が悪いと言うべきか……。

 

 

 ちなみにだけどこの勉強会で何を学んだかって、俺が妹にやらせたいことが赤裸々になっただけのような気がするんだが!?

 一番の被害者って俺じゃね??

 




 今回は講座回の位置付けでいいのかな……?
 こうして見ると、Aqoursってその手の知識がある子とない子で差があり過ぎな気がしますね。まあその設定も私が考えたので、公式アニメや漫画を見るたびに違和感が半端なくなっちゃうのですが(笑)
 よく小説の感想で「アニメのμ'sに違和感を覚えてきましたwww」と笑いながら文句を言ってくださる方がいるのですが、そろそろAqoursもそんな感じになってきそう……()





まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私がご主人様、あなたは下等な眷属

合同合宿編、14話目
今回は善子回です!
善子をピックアップする時は大抵中二病キャラや不運要素を前面に押してきたので、今回はちょっと趣向を変えてます。


 

 合同合宿2日目も夕方を迎えた。今日は昨日と比べれば練習の濃度も濃く、μ'sとAqoursどちらのグループにとっても大きなスキルアップとなっただろう。もちろんそれだけ練習量は多かったので、特に大人になって体力が落ち気味のμ'sメンバーにとっては嘗てないほど過酷な試練だったに違ない。実際に昨日の練習の時点でいっぱいっぱいだった子もいるから、リハビリという観点でもこの合宿を計画して正解だっただろう。それにAqoursとしても憧れのμ'sと一緒に練習できて全体の士気が上がっているので、お互いにいい刺激になったと思うよ。それ故に、何もせずただ練習をぼぉっと見ているのが申し訳なくなってくるけどな。

 

 ちなみにこの合宿は練習だけが目的ではなく、μ'sとAqoursの交流も兼ねている。なんせμ'sは12人、Aqoursは9人とスクールアイドル界隈でも大所帯のグループだ。そうそう合計21人が一堂に会する機会なんてない。だからこそスクフェスでのコラボに先駆け、この合宿で全員が全員と面識を作っておこうという算段だったのだ。

 

 そんな感じでお互いに仲良くなって、合宿の夜が更に賑やかになった。しかもこの合宿は2泊3日だから、今晩が最後の夜。そのせいでみんなのテンションは自然と高くなり、1日中練習してたのに疲労なんてなんのそのと言わんばかりの騒がしさだ。

 

 しかしみんなが有頂天となっている中で、相変わらず不幸な目に遭っている奴がここに1人――――――

 

 

「善子。お前ってさ、何をするにしてもオチを付けないと気が済まねぇの?」

「こっちが聞きたいわよ!! 好きで運に見放されてる訳じゃない――――って、いっつぅ~!!」

「ほら騒がない。包帯巻いてあげるから」

「悪いな真姫。手当てを任せちまって」

「いいわよ別に。むしろ私の本業じゃない」

「そりゃそうだ。いい体験ができてよかったな」

「実験台か私は!?」

 

 

 素足を晒している善子の脚に、真姫は慣れた手つきで包帯を巻いていく。やはり医者のタマゴと言っても医療関係者、軽い捻挫と切り傷の手当てくらいはお手の物だ。

 そう、善子はこんな大切な時期にケガをしてしまったのだ。今日の練習が終わる直前に気を緩めてしまったためか、ダンスで一回転をする時にバランスを崩してしまった。その際に足を捻ってしまい、更にそのまま身体ごと倒れてしまったためか小さな切り傷も負った始末。何というか、ただの捻挫だけで済んでいないところがコイツの運の悪さを体現している。まあ運の悪さというより、本人の不注意だろとツッコまれたらそうなんだけどさ……。

 

 ちなみに、幸いなことにケガの程度はそこまで大したことはない。捻挫も切り傷も軽く、ライブに出場できないという最後の一線をどれだけ運が悪くとも死守したことには拍手を送るべきだろう。コイツの運の悪さがあれば、突然スクフェスに出られないくらい大きなケガをしてしまってもおかしくないからな。

 

 

「これでよし。この程度なら明日には治るだろうから、今日はじっとしてなさい」

「せっかく旅館に来てるのに、温泉に入れないなんて最悪……。ちょっとだけなら……ダメ?」

「ダメに決まってるでしょ? 明日の練習に参加できなくなったらどうするの?」

「そ、そうよねぇ……」

「不幸体質は相変わらずだなお前。何も旅行中にケガしなくてもいいだろ」

「これはもう神様から嫌われているとしか思えないわね。堕天使としてはオイシイ設定なのかもしれないけど」

 

 

 ここまで不運だと己に降りかかる災厄にビビッて家から一歩も出られなくなりそうだから、そのようなプラス思考な設定を自分に言い聞かせなければ生きていけないだろう。そう考えると、自分がいかに不幸体質だろうと一生懸命スクールアイドル活動に従事しているコイツが逞しく見えるよ。そもそもこの歳で中二病をやってる時点で、コイツの精神は屈強どころの話じゃないけどね。いくらバカにされても自分のキャラを突き詰められるその精神は、まさに鋼鉄だ。

 

 

「冗談が言えるくらいに元気なら問題なさそうね。それじゃ、私はもう行くから。海未に明日の練習メニューの確認をしてくれって頼まれてるのよ」

「それは御苦労なことで」

「あのね、本来ならあなたの仕事でしょ? あなた今回の合宿の計画を立てただけで、いざ当日になったら何もしてないじゃない」

「俺は女の子たちのメンタルケアで忙しいんだよ。ほら、主にAqoursの子たちをさ」

「海未にもそうやって言い訳して作業を押し付けたらしいじゃない。全く、面倒事を避けたがる癖、なんとかした方がいいわよ」

「やだね。面倒事は面倒な事だから面倒事なんだ。そんなの逃げたいに決まってるだろ」

「ま、そんなこと言っていざという時は身体が先に動いちゃうようなバカなんだけどね。ただのツンデレじゃない」

「天然のツンデレにツンデレって言われた……」

「そういうことだから、もう戻るわね。それと津島さん、さっきも言ったけど暴れたり騒いだりしちゃダメよ。零に何かされて耐え切れなくなる前に私を呼ぶこと」

「え、えぇ……」

「どうして俺がやらかす前提なんだよ……」

 

 

 真姫は一方的に言いたいことを言って部屋から去った。善子を手当てしてくれたことは助かったけど、お前の余計な一言で妙な空気になっちまったじゃねぇか……。かと言って善子を部屋に1人にしておくと寂しがるだろうし、仕方ないからここにいてやるけどね。他のみんなが温泉から戻ってきたら、コイツの相手はアイツらに任せよう。

 

 それにしても善子の奴、やたら静かになったな。いつも自分に不幸が降りかかると、その不運を吹き飛ばすために決まって謎テンションで盛り上がろうとする。そうでもしないと気が紛れないと以前に言っていたが、今日は先輩に諭されたから大人しくしてるっぽい?

 

 

「アンタ、西木野さんと仲いいのね」

「えっ、まぁな。つうかもう5年も一緒につるんでるんだ、仲がいいっつうより腐れ縁だよ」

「ふ~ん……」

「なに?」

「西木野さん、アンタのことよく知ってるなぁって」

「そりゃ5年もつるんでたら、相手のいいところも悪いところも全部分かるだろ普通」

 

 

 自然とそう言い訳しているが、間違っても真姫と付き合ってるとは言えねぇよなぁ。それも真姫1人と付き合っているのなら話は別だが、μ'sの他の子も一緒とはとてもじゃないが口に出せない。しかも加えてAqoursの子たちにまで手を出し、更には虹ヶ咲の子たちかれも言い寄られてるなんて……。もし俺が女の子の立場だったら、30股近くを平気でする節操のない男なんて刺し殺してるかもな。自分で言うのもアレだけどさ。

 

 

「それにしても良かったじゃねぇか、安静にしてれば今晩には治るみたいで」

「そうね。ケガをして不運云々よりも、みんなに迷惑をかけないだけマシだわ」

「お前って案外仲間思いだよな。自分の不幸を嘆くばかりか、周りの配慮をするなんて」

「案外って何よ喧嘩売ってる……? それに自分の不幸さなんてもう慣れっこだから、今更気にしないわよ。そんなことよりみんなと一緒にライブができないことの方が問題だから」

「へぇ~」

「な、なによそのイラつく顔……」

「いやぁツンツンしてるように見えて、意外と優しいんだなぁと思って。お前といい真姫といい、ホント絵にかいたような可愛いツンデレで見ていて飽きないよ」

「それ褒めてるの……?」

 

 

 ツンデレって昔から世に蔓延ってるキャラだけど、アンチや罵倒行為、いわゆる『叩き』の概念が浸透しつつある現代においても今なお支持され続ける性格だ。最近のオタク界隈ではSNSで気軽に発言できる世になったせいか、気に入らないことがあればすぐに叩き、さもそれが世論のように自分の意見を誇示する奴がいる。そんな殺伐とした中でツンデレは特に批判されることもなく、一定の人気を保持し続けてるから凄いもんだ。そんな社会に適合した性格を持つ女の子が目の前にいるってんだから、そりゃ崇め奉りたくもなるって。

 

 あ、煽ってないぞ……? いやホントに。

 

 

「はぁ……今晩はずっとこの部屋にいないといけないのよね。ケガをしたことよりも、せっかくの合宿なのに否が応でもここにいなきゃいけないって方が不幸だわ……」

「お前これまでの人生の中で、幸運だったことってないの?」

「ん? この世に生を授かったこととか?」

「そんな宗教的なことは聞いてねぇよ……。もっと身近にあるだろ? ほら、Aqoursのみんなに出会えたこととかさ」

「まあそれもそうだけど……」

「そうだけど?」

「…………」

 

 

 善子は口元をむずむずさせて何か言いたげな様子だが、中々言葉を発しない。しかも頬を紅潮させ、恥辱に塗れたような反応を見せている。

 俺、また変なこといったか? まだ何もしてないのにそんな卑しい反応をされると、本格的に歩く性犯罪者の汚名を着せられそうで怖いんだけど……。いや別に何かする気もないからね??

 

 

「アンタ……」

「えっ?」

「アンタに会えたことかな。私の人生の中で、一番幸運だったことは」

「俺に? 嬉しいこと言ってくれるじゃん」

「か、勘違いしないで! 別にアンタがいなくても楽しいことは一杯あるだろうけど、アンタと会ったことでその楽しみがちょっぴり増えたくらいなんだから!! ホントにちょこっとね!」

「はいはい、ちょっとね」

「またそんなに腹立つ顔して……。眷属の癖に生意気よ!」

 

 

 お前の眷属になったつもりは一切ないのだが、それを言ってしまうと他のみんなもそうか。

 それにしても、唐突のデレタイムに不覚にもドキッとしてしまった。本人も大胆なことを口走ってしまったと後悔しているのか、俺から顔を逸らして自分の表情を悟られないようにしている。まあ今の彼女の反応を見れば、表情を見られなくともどんな顔をしているのか容易に想像できるけどね。現に顔だけでなく耳まで真っ赤になってるから、今頃彼女の中で渦巻く後悔の念が半端ないのだろう。あるんだよな、発言をした後から羞恥心が襲ってくるパターン。

 でもそんな大胆発言ができるくらいには気の許せる存在だってことだから、そう考えると嬉しくはある。勉強会での果南もそうだったけど、最近のAqoursはこうして相手への好意を直接口に出すことも多くなってきたのでいい傾向だ。でもそれだけ俺の心が揺さぶられる訳だから、俺も早くこの状況に慣れないとな。

 

 

「そうだ! アンタのお願いを聞いてあげたんだから、私のお願いも聞きなさい!」

「はぁ? どうしてそうなる? つうかお願いなんてした覚えねぇぞ!?」

「これまでの人生の中で一番幸運だったことはって質問に答えてあげたじゃない」

「世間話すら対価を求められるのか、お前との会話は……。いい身分だなオイ」

「そうよ。ヨハネは崇高なる堕天使であり、アンタはその眷属なんだから。しかも下の下の下等な眷属ね」

「いきなり堕天使キャラになりやがって……。それにどれだけ俺の地位低いんだよ。低すぎて地面に埋まっちゃうぞ?」

「うるさい! いいから私の言うことを効きなさい。ほら」

「は……?」

 

 

 いきなり自分の立場を持ち上げたと思ったら、椅子に座ったまま足の先を俺に向けてきた。俺は座布団に座っているため、傍から見たら今にも蹴り上げられそうな光景である。

 つうか、年上を見下しながらつま先を向けるっていい度胸してんなコイツ。教育なんて生温いものよりもハードな調教をしてやらないといけないのかな??

 

 

「一応聞くけど、何をさせようとしてんだ……?」

「舐めなさい」

「は?」

「足の指を舐めなさいと言ってるの。この際、ご主人様と眷属の身分の違いを分からせておかないとね」

「ぶっ!! そんなことできるか!?」

「汚っ!? 唾飛ばすな!!」

「お前が変なこと言いだすからだろ!」

 

 

 これまでたくさんの女の子と付き合ってきたが、足を舐めさせようとしてきたのはコイツが初めてだ。もはや度胸の塊と言っても過言ではなく、社会的立場が上の人間にここまで傲慢に振舞える気概は褒めてやるべきだろう。別に歳の差でマウントを取る気はないが、ここまで物怖じしないのは一周回って容認したくなってくる。善子の奴、俺を本気で自分の眷属にしたいんだろうな……。いやなるつもりなんて一切ねぇけど。

 

 つうか善子が椅子に座りながら、座布団に座っている俺に向けてつま先を向けるこの構図。まさに主従関係そのものじゃねぇか……。そう考えたら早急にこの部屋から立ち去りたくなってきた。どうして俺がコイツごときの下手に出なきゃいけないんだっつうの。

 

 今の善子には全力で反発するが、足の綺麗さだけは認めてやらなくもない。堕天使キャラに見合わない白い肌をしており、学校とスクールアイドル活動以外では部屋に引き籠っていることが肌の色を見ただけで分かる。もはや色素が含まれていないってくらい他の子と比べても色が白いが、だからと言って舐めたいかと言われたらそうではない。M属性のある男だったら、こんなしゃぶりがいのある足を差し出されたら飛びついちゃうんだろうけどね。

 

 

「ほら、誰かが来る前に舐めなさい。でないと他の人に見られながら足を舐めるっていう辱めを受けることになるわよ」

「もうこの時点で相当恥ずかしいっつうの。それに舐めるにしても、ケガしてる方の足じゃん」

「だからよ。アンタが私のケガしてるところを舐めて浄化すればいいの。まさに眷属のお仕事ね」

「ケガしたところはさっき真姫が薬を塗っただろ!? 俺の身体壊す気か!?」

「同じ堕天使仲間なんだから、人間をやめればいいじゃない。いつまで軟弱な人間でいるのかしら、フフフッ」

「お前なぁ……」

 

 

 ここまで煽ってくるのも、恐らく自分がケガ人だからって理由もあるのだろう。ケガをしているから俺が下手に手出しをできないと考えているに違いない。

 甘いな、本当に甘い。手厳しさで有名な海未がことりに向ける態度並みに甘い。むしろ自分の置かれている状況を利用してマウントを取ろうなんて考えこそ愚の骨頂。マジで人の上に立てる奴は、常日頃から周りに慕われているもんだ。シチュエーションを盾にイキってる奴の精神がどれだけ脆いか、今ここで証明してやるとするか。

 

 

「へ……?」

 

 

 善子は素っ頓狂な声を出したが、そりゃそうだ。だっていきなり顔を近付けられたんだから。

 俺は椅子に座る善子に軽く覆い被さるように、身体的にマウントポジションを取った。善子は目を開きながら何度も瞬きをして、目の前で起こっていることをただただ呆然と見つめている。ケガ人の自分がまさか襲われそうになるとは思ってもいなかっただろうしな。

 

 

「どうだ? さっきまで見下していた奴に見下される気持ちは?」

「べ、別になんとも。私はケガ人なんだから、さっさとどきなさいよ」

「やだね。むしろ足をケガして逃げられないお前を好きにできると思うと、これほどいい機会はないだろ?」

「ったく、ただの変態ね」

「自分の足を舐めさせようとしたお前も別の意味で変態だけどな……」

「あ、あんなことを言えるのも先生だけなんだから……」

「むしろ先生だからこそ控えるべき発言だと思うけど……。まぁ、いっか、これからは俺のターンだし」

「な、何をする気!?」

 

 

 俺に覆い被さられ足にケガをしている善子は、今からよろしくないことが起きると察知していても逃げ出すことはできない。さっきまで眷属として罵っていた奴のまさかの反逆に驚きを隠せないようで、上半身は自由に動かせるはずなのに抵抗すらしてこない。ちゃんと眷属の躾をしておかないから、こうやって下剋上が起きちまうんだよ。まあ最初から眷属になった覚えはないけどさ。

 

 

「別に何もしないよ」

「えっ!?」

「なんだ? 期待してたのか?」

「そ、そんな訳ないでしょ!! ここまで密着してるから何かされるのかと思っただけで……」

「その割には顔真っ赤だな。ドキドキしてるだろ? 俺に組み伏せられたことに。ご主人様に支配されそうになったことにさ」

「お、面白い想像ね。生憎だけど、眷属にちょっと反発されたからって戸惑う訳が……」

「ま、これ以上何を言われても何もしねぇけど。こんなお遊びでお前が余計にケガをして、明日の練習に響いたら最悪だしな」

「そう……」

 

 

 流石におふざけで善子のケガを広げてしまったら、何よりμ'sとAqoursに迷惑をかけてしまう。もちろんそれ以上に彼女に申し訳ないので、今回は調子に乗った堕天使様を少し躾けてやるだけで勘弁してやろう。このまま彼女を襲うことは容易だが、俺としてもケガで満足に動けない子に手を出す卑怯な真似はしたくないからね。

 

 そして俺は善子の身体の上から離れる。その時、ちょっと名残惜しそうにしてる彼女の表情を見逃さなかったが、ここは敢えて心にモヤモヤを残してやろう。焦らしプレイってのも主従プレイの一貫だ。

 

 

「それじゃ、俺ももう行くわ。そろそろ千歌たちが温泉から戻ってくる頃だろうから、あとはアイツらに遊んでもらえ」

「はぁ!? みんなこそ私の眷属なんだから、私が遊んであげるの! アンタはまぁ、上級眷属くらいになら昇格させてあげるわよ……。あ、ありがたく思いなさい!」

「はいはい、ご主人様」

「だからその腹立つ顔やめなさいって! もう行くんでしょ!? さっさと出てけ出てけ!!」

 

 

 全く、最後の最後まで素直になれない奴だ。でもそれこそツンデレちゃんの性だから、別に嫌な気分にはならないけどね。むしろ久々にお手本のようなツンデレを見られて、なんだかほっこりしたよ。これはしっかりケガを治してもらい、また明日から元気な姿を見せて欲しいもんだ。なんかこの気持ち、まさしく先生と生徒の関係みたいだな……。まぁ、先生は生徒に覆い被さったりはしないけど。

 

 

 

 

 ところで、俺が部屋から去った後――――――

 

 

 

 

「っ……!! ちょっ、何よドキドキ! まさか私、誰かに支配される方が好き……とか!? わ、私はドMじゃなぁぁぁああああああああああああああああい!! はぁはぁ……でもまぁ悪くはなかった……かも。それになんだかんだ私のケガのことも気遣ってくれてたし。あぁもうっ、暑くて汗かいてきちゃったじゃない! 温泉にも入れないし、腹いせに今度アイツに連れて行ってもらお……」

 

 

 

 

 その後、ボソッと"2人きりで"と呟いた。

 

 




 高飛車だったり調子に乗ってる女の子を屈服させる展開が好きなので、ツンデレタイプの女の子に対しては零君がイキる展開が多かったりします(笑) まぁこれもツンデレちゃんたちがチョロいのが悪い!

 それにしても善子は中二病、不幸、ツンデレの3属性を一気に描写できるので楽しくて仕方ありません(笑) Aqoursの中では一番描きやすいかも?

 次回は梨子回の予定です。
 実はAqoursでは唯一、零君とμ'sとの関係を知っている子なのです。


まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
もう少しでお気に入り数が2000件、ラブライブ小説の総合評価ランキングも1位になりそうなので、是非応援の方をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハーレム離反!?

 合同合宿編、15話目
 いつの間にかAqoursのシリアス担当になっていた梨子回。遂に本音と本音がぶつかり合います。


「あぁ~いい湯だった。帰る前にもう一度入りたいから、朝風呂にでも行くかな」

 

 

 善子にご主人様としての品格を教えてやった後、俺は1人貸切の温泉を堪能して旅館内をふらついていた。夏と言えども19時を回ると夜も更けており、外へ出てみると心地よい潮風により夏とは思えないくらいの涼しさを感じる。想像以上に涼しくて湯冷めしてしまいそうだけど、その寒暖差が癖になっちゃうのが人間ってものだ。ほら、冬に部屋をちょっと暑いくらいに暖かくしてアイスを食べたくなるあの現象だよ。身体には悪いだろうが、一時の快楽に身を捧げたくなるのは人間の性だから仕方がないだろう。

 

 そんな不健康な情事に身を任せていると、旅館の中庭の先に竹の柵で仕切られた細い道のようなものがあることに気付いた。辛うじて2人並んで歩けるような細い通路で、成人男性より少し高い植木と竹の柵で囲まれた和風旅館にありがちな並木道だ。花丸の相談を受けた場所も中庭だったのだが、ダンジョンの隠し通路みたいに道が見えづらかったので全く気が付かなかった。現にこの道、電飾が一切施されていないので、満月の夜と言えども背の高い植木が月光を遮断してしまいかなり暗い。下手をしたら女の子が汚い男に襲われるシチュエーションとして使われていそうだ。

 

 そして少し歩くと、薄っすらと女性の人影が見えた。こんな辛気臭いところに、しかもこんな暗闇の中に佇んでいるなんて相当な陰キャに違いない。まあそんなことを言ったら自分もだけど、俺は興味本位で入ってるだけだからね。女の子がこの道に迷い込んでいるから助け出して惚れさせようとか、そんなことは一切思ってないから。また誰かのハートを射止めてしまうと、μ'sのみんなからの目線が怖いからさ……。

 

 そんなことよりも、目の前の女性の人影だ。その人影は道の途中に設置されている竹で作られた椅子に座っているようなのだが、全然動かないのでもしかして霊なのではないかと勘違いしそうだ。まあ幽霊だったとしても、女の子なら惚れさせちゃえば俺の勝ちだ。現に一度、淫乱な幽霊ちゃんに付き纏われたことがあっただけでなく性交渉まで求められたことがあった。

 

 その人影の形は長い髪に華奢な身体付き、ペンとノートを持って夜空を見上げてぼぉ~っとしている。どこかで見たことがある造形だと思い少し近づいてみると、予想通り俺の見知った子であった。

 

 

「梨子?」

「ひゃぁっ!? せ、先生!?」

 

 

 えらく高い声で叫びやがったなコイツ。他の誰かに聞かれてたら通報されそうなくらいの本気のビビり声だった。でもこんな暗闇の中で男に声をかけられたら、そりゃ誰でもビビるか。そもそも全く動かずに長い髪の女の子が闇の中に佇んでいる方が狂気さを感じる。梨子の方こそ自分のせいでここが心霊スポット扱いになりそうだって自覚して欲しいよ。

 

 

「お前、こんな暗いところで何してんだ?」

「作曲のインスピレーションを浮かばせるために旅館の周りを散歩していたら、たまたまこの道を見つけちゃって。気が付いたらここに……」

「音楽のことを考えてたら我を忘れてたってか。芸術を身に宿す偉人みたいに奇抜なことしてんな……」

「あはは……もしかして、私のこと探してました? 何か用事でも?」

「いや、ここに来たのはたまたまだよ。偶然立ち寄った先に幽霊もどきがいたって訳だ」

「私、そんな風に見えてました……?」

「あぁ、見つけてしまった瞬間に呪い殺されると思ったくらいには」

 

 

 嘘です。女の子がこの道に迷い込んでいるから助け出して惚れさせようとか、もう幽霊でもいいから心を奪ってやろうとか考えたりしてました。幽霊姦なんて新ジャンルを開拓……とまではいかないけど、温泉によって火照った身体によって少しテンションが上がっていたのは内緒だ。

 

 俺は梨子の横に腰をかけると、ふと彼女の持っていたノートが目に映る。そこには何も書かれていない、夜の闇でも隠し切れない真っ白のページが広がっていた。

 

 

「あれ? 何も書いてねぇじゃん」

「はい、ちょっと別の考え事をしていて……」

「悩み事でもあんのか?」

「えぇ、まぁ……先生のことなんですけどね」

「お、俺……?」

 

 

 女の子たちの悩み事で自分が標的にされると、気付かぬ間にまた何かやらかしてしまったのではないかと心配になってくる。そもそもこの合宿中にやらかしたのは梨子の方であり、カバンを間違えて持って行った海未に自分の妄想を綴ったノートを見られ恥辱の底に堕ちた。しかもノートの内容が腐女子とレズ御用達のイラストだったため尚更ダメージが大きい。そんな彼女を見ていると、物静かに佇んでいるコイツが別人に見えるよ。

 

 まさか海未に自分の裏の趣味がバレたショックで、抑えきれないオタク精神を更生したいとか言うんじゃねぇだろうな……。

 

 

「周りに人もいないし、こんな状況だから単刀直入に言いますけど」

「へいへい」

「みゅ、μ'sの皆さんと付き合ってるって本当なんですか!?」

「う゛っ、あ゛ぁ!? ゴホッゴホッ!!」

「だ、大丈夫ですか!?」

「はぁ、はぁ……な゛っ……はぁ……」

 

 

 梨子の思いがけない質問に、まるで喘息発作を起こしたかのように咳き込んでしまう。それだけではなく意識がぶっ飛んだかのような感覚に陥り、心臓もあり得ないほど爆速で鼓動しているため、この歳になって寿命を迎えたかってくらい気が動転していた。さっき夜の潮風に当たっていい感じに身体が冷めてきたのに、彼女の衝撃発言で再び身体に熱が宿ってしまう。平静を保てなくなった影響で冷汗が半端なかった。

 

 どうしてコイツが俺とμ'sの最大の秘密を知っているのか? どこで俺たちの関係を知ったのか? 梨子自身はどう思っているのか? 聞きたいことは山ほどあるが、まずは落ち着くことが重要だ。挙動不審ではまともな受け答えができず、かえって梨子を不審がらせてしまうかもしれないからな。

 

 それにしても、いつかはこの時が来るとは思ってたけど、なにも合宿中に来なくてもいいだろ……。それに俺の未来図では自分からAqoursのみんなにμ'sとの関係を語る予定だったから、彼女から切り込まれたことで余計に戸惑ってしまった。もうこの時点でも梨子は俺を不安そうな目で見ているので、1%の疑問もなく納得させないと本人の気が済まないだろう。分かった、覚悟を決めるよ。

 

 

「話すのが憚られるのであれば、無理に話してもらわなくてもいいですよ。なんか、とても訳アリみたいですし……」

「いや、ここでハイ終わりなんて言ったら気になってしょうがないだろ? どこまで知ってるのかすらも知らないけど、聞きたいことがあるなら全部話すよ」

「いいんですか? 一気に体調が悪くなった気がしますけど……」

「気にすんな。今はもう刑事に真実を暴かれて、崖の端で動機を語る犯人みたいな清々しい心境だから」

「それ、語り終えた後に崖から落ちて自殺する展開ですよね……」

 

 

 不思議なもので、あれだけ精神的に追い詰められていたのに吹っ切れると心が一気に軽くなった。これまでずっと心に溜め込んでいた蟠りが解放されたので、そりゃそうもなるか。いつの間にか冷汗も身体の火照りも収まっていたので、ようやく梨子とまともに会話できそうだ。いつもは女の子たちの奇抜な行動に驚かされることはあっても精神ダメージを負うことはないから、さっきは一撃必殺技を喰らったかのように戦闘不能になるところだったよ。

 

 

「さて、聞きたいことはたくさんあるだろうけどまずは俺から質問させてくれ。どうしてお前が俺とμ'sの関係を知っている?」

「それは……先生のお母様が話してくださったんです。はっきりと聞いた訳じゃないんですが、話を聞く限りではそうじゃないかって思えちゃって……。私の勝手な想像かもしれませんが」

「秋葉だと思ったら母さんだったのか。あっ、もしかしてお前が俺の家に来た時に」

「そうです。先生のお母様がいたってだけでも驚いたのに、それ以上に先生のことを聞かされて何が何だか理解するのに苦労しましたよ……」

 

 

 そりゃそうだ。母さんは世界的に羽ばたく女優であり、そんな有名人がいきなり目の前に、しかもその人の口から自分の恩師の浮気性を語られて理解しろって方が難しい。梨子が思い悩むのも無理はないってことだ。

 

 

「恐らくだけど、母さんが言ったこともお前の想像も全部合ってるよ。俺はμ'sのみんなを恋人にした」

「やっぱりそうなんですね。でもどうしてそんなことを?」

「みんなが笑っていられる世界を作るためには、こうするしかなかったんだよ。俺に恋をしてくれる女の子たちを、誰1人として悲しい思いをさせたくないんだ」

「だからってそんな非道徳的な……」

「失望したか?」

「まぁ、改めて聞かされると……。でもどちらかと言えば非現実的過ぎて驚いている、って気持ちが大きいですけど」

「分かってるよそんなこと。俺自身も我ながらヤバいことをやってると思ってるし、実際にお前にバレて気が狂いそうにもなったしな」

 

 

 Aqoursのみんなには秘密にして隠していたからこそ、バレた時の衝撃が大きかった。色んな覚悟や決心をして12股なんて環境を作ってきたけど、心のどこかではやはり最低なことをしていると自覚があったんだ。そりゃ後ろめたいことがなかったら、あんなに咳き込んだり息絶え絶えになることなんてないからな。むしろ俺にもまだまとも精神が残っていたんだと喜ぶべきだろう。ていうか、そう思わないと冷静ではいられない。

 

 そういや、俺とμ'sの関係にここまで疑問を抱いている人は梨子が最初かもしれない。俺たちの関係を知っている秋葉や母さんは歓迎ムードだったし、理事長やヒフミトリオも特段追及しては来なかった。つまりこれまでが如何に恵まれた環境だったかを今思い知らされ、12股を否定する存在に初めて出会ったのだ。自分たちが今までぬるま湯にどっぷり浸かっていたことを実感する。

 

 実際に梨子の表情は訝し気だ。言ってしまえば犯罪者が隣に座っているんだから、むしろ突き放さず話し合いに持ち込もうとしている時点で彼女も相当な覚悟を持っている。千歌や曜のような感覚派ではなく頭脳派だからこそ、自分の腑に落ちるまで俺と向き合う気だろう。

 

 

「どんな理由があれ、先生のやっていることは許されることではないと思います」

「あぁ、そうだな。誰が見ても最低最悪なことをやってるよ」

「それが分かってるならどうして……」

「例え周りから非難されようが、守りたかった子たちがいるんだよ。みんないっぱい悩んだ、数え切れないくらい迷った、たくさん泣いた。そんなみんなと俺が辿り着いた結果が今なんだ。だからどんなに非人道的であろうとも、俺たちは誰1人として今の関係に後悔なんてしてないよ」

「愛さえあれば関係ないよね、って考えですか?」

「関係ないってのはちょっと語弊があるな。気にしてなきゃ、さっきの俺みたいに取り乱さないだろ」

「こんな最低なことをしているんですから、いい気味ですよ全く」

「お前、案外攻めてくるな……」

 

 

 梨子の様子を見る限り完全に納得をしたとは言い切れないが、とりあえず確固たる意志を持っていたことは認めてくれたみたいだ。もし何の考えもなしに『ノリで12股してましたぁ~』なんて言ったら、今頃梨子は俺に失望してこの場から立ち去っていただろう。そして淀んだ心のままスクフェスに挑めるはずもなく、Aqoursは梨子1人の離反で出場を辞退していたに違いない。そうならないためにも、俺は最初から本音を全て吐き出すと決めていたんだ。

 

 もちろんだが、梨子を言い包めて俺の意見を正当化させようなんて思っちゃいない。自分が如何に非道徳で非人道なことをやっているのかを認め、相手に知ってもらい、その上で自分の意志を話す。結局のところ納得してくれるかどうかは相手次第なのだが、かといってこちらの意志を偽る理由にはならない。それにその相手が梨子だからこそ、全てを知ってもらいたかったんだ。もしかしたら、いや確実に俺は彼女をその最悪最低に巻き込むんだから。

 

 

「腑には落ちましたが、理解はできません」

「12股してる男の考えなんて、理解しろって方が難しいよな」

「理解をするには、先生とμ'sの皆さんと過ごした日々を1から10まで知った人じゃないとできないでしょうね。だから今の私には、先生がどんな思いでこんな行動に出たのか測りかねます」

「別に誰かに理解されたいとか思ってねぇよ。そもそも相手を説得できるほど込み入った理由がある訳でもない。ただμ'sのみんなを全員幸せにしてやりたかった、ただそれだけなんだから」

 

 

 結果的に取った選択肢が非現実的であっただけで、そこに至る過程は俺の一途な想いからだった。そしてその気持ちを誰かに押し付けて、無理矢理にでも納得してもらおうなんて思っちゃいない。ただ1つだけ、勘違いをして欲しくないだけだ。俺たちは何も考えず、流れのままにこんな関係になったのではないってこと。それだけ分かってもらえれば、あとはどう思われようが相手の勝手だ。

 

 その時、梨子はこれまで以上に真剣な面持ちで俺の目を見つめてきた。また俺に質問を投げかけてくるのだろうが、その質問こそ彼女の中での核心だと察した。恐らく、ここの返答次第でバラバラだったパズルのピースを隙間なく埋めることができるか、それとも更にぐちゃぐちゃにして修正不能の状態になるか。それは俺の受け答え次第だ。

 

 

「一番聞きたかったことがあるんですけど」

「なんだ?」

「μ'sの皆さんは今、幸せですか?」

 

 

 やはり核心だった。

 だけど、愚問でもあった。

 

 

「幸せだよ、みんな」

 

 

 当たり前だ。もはや全世界の全人類が一般教養レベルで知っていてもおかしくはないってくらい当たり前のことだった。

 紛うことなき事実だが、梨子にとってはそこが一番の懸念点だったのだろう。現に今も疑わしそうな顔をしている。さっき自分の意見は別に納得してもらわなくてもいいと言ったが、これだけは納得させておきたい。μ'sを幸せにするってのは俺の最大命題であるから、そこだけは疑いを持って欲しくないんだ。

 

 

「合宿中にμ'sを見て何も感じなかったか?」

「楽しそう、でしたね。自分の周りはみんな先生の恋人なのに、違和感を覚えたりはしないのでしょうか……」

「まあ5年もこんな関係を続けてるから、違和感どころかそれが日常なんだよ。つうか周りにいる女の子たちがみんな同じ人の恋人なんて、いちいち考えてねぇと思うんだよアイツら」

「そんなものなんですかね?」

「そんなもんだよ。現状を当たり前のように受け止めているってことは、何の不満もないってことだ。俺たちはみんな常に一緒だから、誰かが不満を持てばそれだけで日常が崩壊する。特に緩急にない日常だけど、逆にそんな平穏が幸せを表してるんだよ」

 

 

 μ'sのみんなと付き合っていることで、何か特別なことが起きているのかと聞かれたらそうではない。付き合う前と後で心の距離は近くなったが、それで毎日が特段変化した訳でもない。でも普段の日常が変わらないからこそ、俺たちの間に何の柵もないってことが分かるんだ。大きな事件が起きて、その解決の末に結ばれるとか、そんなドラマやアニメのような展開はいらない。ただ毎日をのんびりと一緒に過ごせる。それだけで俺たちは幸せなんだよ。

 

 

「これからも皆さんを、幸せにできますか?」

「できるよ、絶対に」

「その根拠は?」

「俺だからだよ」

「は……?」

 

 

 さっきまで真剣な口調だった梨子の口から、1オクターブ高い声が漏れ出す。そうだよな、多分彼女がこれまで生きてきた中でも最も意味の分からない返答をされたんだから、そんな反応をするのも無理はない。

 

 

「先生だから、皆さんを幸せにできる……ってことですか?」

「そうだよ」

「いや、そうだよって言われても……」

「絶対にできる。μ'sも、Aqoursも、()()()()も」

「……? とにかく、先生の言い分は不明瞭です」

「俺だからって理由じゃ満足できないかなぁ……」

 

 

 何の実績もなく『俺だから大丈夫』なんて言っても信じちゃもらえないだろうが、俺はこれまでμ'sを幸せにし続けてきた実績がある。それを踏まえて信じてもらいたかったのだが、やっぱり梨子は手強い。彼女だけではなくAqoursはみんな繊細ゆえに悩みや迷いがあったりすると深く考え込む子が多いから、過去の実績があったってAqoursの子たちを上手く懐柔できるかは分からないのかもな。

 

 でも、やるしかない。

 好意を向けられたら受け止める。それが例え複数の女の子からであっても。それが神崎零の恋愛ってもんだろ?

 

 

 すると、梨子は趣にその場で立ち上がった。

 さっきまで不審な目で俺を見ていたのに、いつの間にか微笑みに代わっていた。この一瞬で、彼女の中で心境の変化があったのだろう。

 

 

「どうした……?」

「納得も理解も、増してや満足なんてもっての外ですが、先生ならば大丈夫って安心感が生まれてくるのはどうしてでしょうね?」

「……なるほど。それは、お前が俺のことを自分の思ってる以上に信頼してくれているからじゃないのか?」

「そうかもしれません。話をする前は先生に対して少しですが失望していた部分もありました。でも、先生は先生なりにμ'sの皆さんのことや私たちに向き合ってくれていたんですね」

「俺が所構わず女の子に手を出す変態とでも思ってんのか……」

「え゛っ!?」

「いやなにその『今更何言ってんのコイツ』みたいな顔!?」

「今更何言ってるんですか……」

「おい、ちょっと引いただろお前!!」

 

 

 まあこうやって気持ち悪がられるところも含めていつもの日常ってことか? いや俺は全然納得できないけどね……。

 でも、何とか梨子に話を聞いてもらえてよかったよ。こんな機会でもないと話すタイミングなんてないし、現に彼女は俺に不信感を抱いてたからそんな気持ちを持ったまま合宿を終えたくもなかったしな。もちろん梨子が俺とμ'sの関係に納得したとは思っていない。だけど俺は貪欲だから、いつか梨子も俺の手で――――――

 

 

「とりあえず、悩み事を全部吐き出せてスッキリしました」

「そりゃ良かったな。俺は冷汗をかいたから、もう一度温泉に入りなおさないといけないけど……」

「ご一緒しましょうか?」

「えっ、ホント!?」

「なに子供みたいに喜んでるんですか、冗談ですよ♪」

「おい……」

 

 

 この瞬間、俺は決心した。

 やはり梨子はこの手で堕とさなければならないと……。

 

 見てろよ。12股の最低男の実力、そう遠くない未来に見せつけてやるからな。

 




 零君の選択をここまで咎めた女の子は梨子が初めてだったりします。自分が好きになった人に恋人が12人もいたら、そりゃ疑心暗鬼にもなりますよね(笑) 今回は何とか梨子の追及を逃れられましたが、千歌たちに秘密を明かす時も一筋縄ではいかないようです。

 次回は妙に参戦フラグが立っていましたが、虹ヶ咲回です。
 なんとメンバー全員が大集結します!


新たに☆10評価をくださった

ぴょこさん

ありがとうございます!

まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

レインボー・ぱらだいす

 合同合宿編、16話目
 今回は遂に虹ヶ咲のメンバーが全員終結します。とは言ってもまだ未登場の子が4人もいるので、その子たちの紹介だけになった気がしなくもないですが……


 

 南ことりです。

 1つ、ご報告があります。

 

 実は、遂に――――――携帯電話へのハッキング装置を手に入れたのです!!

 これを使えば携帯のカメラも遠隔操作で動かすことができるので、零くんを24時間ずっと監視することができるようになったんだよ! しかも零くんが携帯で何を見たのか調べたのか撮ったのか、その全てが筒抜けになる。つまり、ことりは零くんと一心同体になるってことだよね? 身体は何回か一緒になったことがあるけど、心や精神まで一緒になれるなんて興奮しちゃうよ♪

 

 

「フフフ……」

 

 

「ねぇ海未ちゃん、ことりちゃんが怪しい顔をしながらパソコンを弄ってるんだけど……」

「さっき秋葉さんからプレゼントを貰ったと喜んでいましたから、多分それをパソコンで起動しているのでしょう。あの様子のことりに触れない方が良さそうですね……」

「でも、あんなに嬉しそうなことりちゃん久しぶりに見たよ。その理由は聞きたくはないけど……」

「巻き込まれないうちにこの場を立ち去りましょうか……」

「そ、そうだね……」

 

 

「穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ちょっとこっち来て! みんなも!!」

 

「「はい……」」

 

 

 穂乃果ちゃんも海未ちゃんも、苦い顔をしてるけど何かあったのかな? でも今から零くんの携帯をハッキングしてプライベートを探ろう会を発足させるから、みんな笑顔になれるよね! えっ、やってることが非道過ぎるだろって? ことりたちと零くんの愛に処女膜1つ分の障害も必要ないんだよ!

 

 そして私は穂乃果ちゃんと海未ちゃんだけではなく、大広間に集まっていた他のμ'sメンバーとAqoursメンバーを全員集めた。これでみんな、零くんのことをもっとも~っと良く知ることができるね。うん、いいことをするって気持ちいい♪

 

 よし、早速盗聴から入ってみよっかな?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 ゾクッと、背中に悪寒が走った。

 数十分前に心霊スポットのような場所にずっといたためか、霊に憑りつかれたんじゃないかと心配になってくる。でもこの悪寒はこの世のものでない存在以上の恐怖を感じた。言うなればこう、病み成分にどっぷり浸かった女の子にこっそり監視されているとか、そんな感じだ。まあウチの子たちに限ってそんなことはしないだろうけどね。ホントか……?

 

 そんな怪しい感覚に神経を尖らせながら旅館の廊下を歩いていると、金髪の女の子とすれ違った。いくら可愛い女の子とすれ違ったからと言って、いつも邪なことを考えている訳じゃない。だけどその子はどこかで見覚えがあるような、そんな感じだ。だから俺は自然とその子のことを目で追い、すれ違って少し歩いた後にわざわざ振り返ってその子の姿を見ようとした。

 

 だが――――

 

 

「な゛っ……」

 

「フフッ」

 

 

 俺が振り返るよりも先に、金髪っ子の方がこちらを振り向いていた。そのため振り向いた俺とバッチリ目が合ってしまう。

 しかもその子は何の躊躇いもなくこちらに近づいてくる。むしろ最初から俺に話しかけるつもりだったかのような、一切の迷いがない行動。明らかに年上の男にジロジロ見られたら気持ち悪がるのが普通なのに、この子は全く動じてない。

 

 ま、まさか、最近は男が女性を見るだけでも痴漢行為と見なされるから、コイツはそれを狙ってんのか?? まだ高校生っぽいのにいっちょ前に化粧をしているところを見ると如何にもギャルっぽい。まさに痴漢冤罪で小遣い稼ぎをしてそうな風貌だ。この子が『この人、痴漢です』と叫んだら、例えそれが嘘だとしても世間は俺を疑うだろう。ホントに、男が生活しにくい社会になったよな……。

 

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫だって! 愛さんからは別に何もしないから」

「は……?」

 

 

 目の前のギャルっ子は右手を軽く振りながら、意外にも気さくに話しかけてきた。口角を上げた生意気な笑顔で近づいてきたので、てっきり冤罪を吹っ掛けられると思ったぞ。特に見た目がギャルっぽいから、痴漢冤罪で脅されてこの子の財布になるんじゃないかと無駄に警戒してしまった。

 

 だけど本人はそんなつもりは一切ないらしい。

 だったらどうして俺に話しかけてきた? それにこの子、やっぱりどこかで見たような気が……。そして以前にも何回かこんな疑問を抱いたことがあるが、その時は決まって()()()()()()()()()()()()()()()と出会った時だった。

 

 そう考えると、この子もやっぱり―――――

 

 

「お前、もしかして虹ヶ咲のスクールアイドルか?」

「ピンポンピンポーン! 流石にもう慣れたって感じだね、私たちとの再会は」

「再会? お前に会ったのはこれが初めてだろ」

「ふ~ん。やっぱり聞いてた通り、何も知らないんだ」

「またそれか……」

 

 

 だから知らないって言ってんだから、そろそろ教えてくれてもいいだろ? とかお願いしてもコイツらは絶対に答えてくれないのが困りものだ。恐らくグループ一丸となって秘密を守っているのだろうが、話すつもりがないならそれらしいことを言って俺を揺さぶるのはやめて欲しいよ。秘密にするならする、漏らすなら漏らすで統一してくんねぇかなぁ。

 

 そして、目の前の金髪ギャルの女の子はやはり虹ヶ咲のスクールアイドルだった。代表でインタビューを受けていた歩夢以外の子の顔はあまり覚えていなかったのだが、こうして近くで見るとやっぱオーラがあるな。ギャル系の女の子とあまり交流を持ったことはないが、ちょっと背伸びをした大人の女性のような雰囲気は嫌いじゃないぞ。

 

 

「私は宮下愛(みやしたあい)。よろしくね、神崎零さん」

「当然のごとく俺の名前は知ってる訳ね……。もう驚かねぇよ?」

「こっちも歩夢たちから零さんのことは聞いてるから、むしろ冷めた反応をしてくれると話が早いよ。また一から説明するのは面倒だしね」

「話が早い? どういうことだ?」

「ちょっとこっち来て!」

「お、おいっ!」

「心配しなくても、痴漢冤罪なんて非効率的で時間の掛かることしないって。お金が欲しいなら上目遣いで媚びれば、大抵の男は奢ってくれるから♪」

「お前、いいキャラしてんな……」

 

 

 悔しいことに、コイツの容姿があればそこら辺のオッサンに軽く付き合うだけで金くらいいくらでも手に入るだろう。奢ってもらった後は適当なところでオッサンを撒き、そのままとんずらする。完璧にして非道な作戦だよ全く。

 

 宮下愛。

 さっきからさんざん言っているが、見た目はこの上なくギャル系だ。髪は肩に掛かるか掛からないかほどに短く、絵里よりも明るい金髪。目は大きくぱっちりしており、琥珀色の瞳が一際輝いている。そしてスタイルは抜群であり、身体は細いくせに胸やおしりは大きく、男にとってはまさに核兵器並みの肢体を誇る。ギャル系でスタイルも良く、更に雰囲気も派手なので近くにいると眩しくて目がチカチカしそうだ。

 

 そんな美少女ギャルちゃんは俺の手首を掴み旅館内を先導する。正直こんな光景をμ'sやAqoursに見られたら呆れられたり問い詰められそうだが、幸いにも周りに女の子の人影はなかった。

 つうか、どうして虹ヶ咲のメンバーがこんなところにいるんだよ……。まさか俺たちが合宿に来ていることを知って便乗してきたとか? アイツらはどうも俺の行動を読めるらしいので、密かに後を追ってきてもおかしくはない。行動が読めなかったら、歩夢たちが定期的にいいタイミングで俺の目の前に登場しないからな。

 

 そして引っ張られながら歩いているうちに、いつの間にか"松の間"の廊下を歩いていることに気が付いた。高級旅館にありがちな松竹梅で区分けされた場所なのだが、当然ながら"松の間"が一番宿泊費が高くて内装も豪華だ。だけど"松の間"に泊まっている客は俺たち以外の誰もいなかったはずなのに、何故コイツは俺をここに……? ギャルっ子に誘われると援交に巻き込まれたとしか思えないので、どうせヤるなら綺麗な部屋でヤりたいってことなのか? いや、ラブホじゃねぇんだし流石に違うか……。

 

 しばらくして、宮下愛は足を止める。目の前には俺たちの部屋と同じくらいの立派な扉。高級感溢れる木製の扉だが、一回り大きいのはこの部屋が大部屋だからだろう。おいおい、まさかヤリサーの乱交パーティに参加しろなんて言うんじゃねぇだろうな?? 人を見た目で判断するのは非情に申し訳ないと分かってはいるけど、やっぱり宮下の見た目からするとそう思えちゃうんだよ許してくれ。

 

 

「だから警戒しなくてもいいって! むしろエッチなことより凄い光景が待ってるから楽しみにしててよ」

「え、エッチって、初対面の男によくそんなこと言えるな……まさかビッチ?」

「いやいや、愛さんは意外と純情乙女だよ? それに零さんだってあたしのことを初対面だって思ってるなら、ビッチって言葉は酷くない?」

「俺は世間一般の意見を述べただけだ」

「零さんは世間に意見に飲み込まれるような小さな男だったんだね、ぐすん……」

「嘘泣きはいいから、とっとと部屋に入れろ」

「あれ? 意外と乗り気?」

「こんなところを他の子たちに見られたくないんだ。つうか、どうせ俺が誰と来てるかってくらい知ってるだろ……」

「そうだね。じゃ、入ろっか!」

 

 

 宮下が大部屋の戸を開く。

 すると、女の子特有の甘い匂いが優しく漂ってきた。

 

 

「みんな、宣言通り連れてきたよ!」

「え……えぇ゛っ!?」

 

 

 目の前に広がっていたのは、宮下の言う通り想像を絶する光景だった。

 松の間の部屋は広いのが基本だが、その広い部屋が狭く見えるほどの女の子、女の子、女の子。しかもその中には見知った顔や見知らぬ顔の子が入り混じっており、特に見知った顔のラインナップを察した瞬間にこの子たちがどのような集まりなのかすぐに分かった。以前テレビでやっていたスクフェス特集を見た時に、事前投票ランキングのコーナーで暫定1位のグループとして出演していたあの子たちだ。

 

 

「歩夢も、かすみもみんないるってことは、全員虹ヶ咲のスクールアイドルなのか……?」

「そうですよ! みんなでスクフェスに向けての強化合宿に来ているんです!」

 

 

 歩夢が笑顔で答える。

 ただでさえ宮下愛に出会ったことですら驚いたのに、まさか虹ヶ咲のスクールアイドルが全員集合している現場に連れられるとはこれっぽっちも予想していなかった。なるほど、だからさっき部屋に入る時にやたらいい香りがしたのか。そりゃこれだけの美少女が集まってりゃ、脳が溶けそうなくらい甘い匂いだって素で放出できるだろう。なんか驚きと相まって状況理解が全然追い付いてないぞ……。

 

 

「とりあえず座ってください零さん! ほら、かすみんの隣に!」

「ズルいですよかすみさん! 私だって張り切って隣を開けておいたんですから!」

「なるほど。普段は真面目なせつ菜がやたら私たちを寄せ付けないと思ったら、自分の隣の席を開けておきたかったからか……」

 

 

 かすみもせつ菜も元気そうで、なんか安心したよ。

 そしてその子たちを冷静に分析しているのは、宮下愛以上にプロポーションが抜群の女の子だ。子供っぽさが残る他の子たちに比べると断然大人の色気を醸し出しており、もはや華奢なアイドル体型というよりかは見せつけるためのモデル体型と言った方がいいだろう。黒のタンクトップの上に首・鎖骨・肩のデコルテラインを惜しげもなく見せつけている。エロい、この子を表すにはその一言で十分だ。

 

 

「そういや自己紹介がまだだったね。私は朝香果林(あさかかりん)、改めてよろしく!」

「神崎零だ……って、改めて?」

「あっ、つい。やっぱり本物を目の前にしちゃうと緊張するな……」

「いつも凛然としている果林さんがここまで女々しく……。さすがは零さんですね」

「しずく。俺、何もしてないんだけど……」

「何言ってるんですか! むしろ色々されすぎて感謝してるくらいですよ!」

「俺がお前らに……?」

 

 

 虹ヶ咲の子たちと出会うたびに整理している情報だが、またここでまとめてみよう。

 まずコイツらは明らかに俺のことを前から知っている。それは出会う前から名前を知っていたり、以前に出会ったことのあるような様子や口振りを見れば分かることだ。だが俺自身、コイツらの記憶はない。歩夢たちが嘘を言っているようには見えないし、ただ単に俺が忘れているだけ? う~ん……。

 そして、どうやらコイツらは俺に多大なる敬意を払っているということだ。聞けば過去に俺が彼女たちに何か感謝されることをしたっぽいのだが、例のごとく全く覚えていない。そもそもここまで慕われるほど女の子に手を貸したっていうなら、そんなオイシイ記憶を忘れるはずがない。こんな可愛い子たちに言い寄られる楽園のような状況を、自分がみすみす忘却してしまうなんてことはあり得ないんだ。

 

 これまでの情報からこの子たちの正体を推測すると――――――誰だコイツら?? ってことになるな。

 

 

 色々推理して頭が落ち着いたのか、ようやく部屋の空気に慣れてきた。

 その時、俺の浴衣の裾が軽く引っ張られる感触がしたので後ろを振り向く。

 すると、そばかすが特徴的な三つ編みの女の子が目を輝かせて俺を見つめていた。見た目的に外国の子だろうか、ライトグリーンの瞳がそれをよく体現している。おっとりそうな雰囲気だが、特に目を引くのが胸、双丘、おっぱい。見ただけでバストサイズが測定できる俺の無駄な能力からすると、この子の胸は希を軽々超えるほど大きい。雰囲気はおとなしそうなのに、胸だけは自己主張が激しいとかもう訳分かんねぇな……。

 

 

「神崎零さん、夢かと思ってたけど実在してたんだ……」

「実在って、ツチノコじゃねぇんだから……」

「あっ、自己紹介が遅れました! エマ・ヴェルデです!」

「やっぱり外国の子だったのか」

「はいっ! スイスから留学に来ました!」

 

 

 なんだろう、この子の笑顔は『安らぎ』って言葉がピッタリくる。どれだけ心が荒んでいようとも、この子の微笑み1つで淀みがすっきり掃除されそうだ。この笑顔こそまさしくスクールアイドルって感じだな。

 

 そして海外からの留学生っていうと、この子は俺と過去に会ったことがないのか? 歩夢たちが俺と出会ったと言っているのが一体いつのことなのかが分からないので、もう俺の推測でしかないけど……。まあそのことは追々考えるか。今はどうして俺がここに呼ばれたのか、それだけが真っ先に知りたい。ただ単に俺が好きなコイツらだからこそ、特に理由もなくこの部屋に拉致監禁したと考えられなくもないが……。全然交流がないのにここまで好意を持たれていると、それはそれで怖いんだよな。

 

 

「あ、あの……」

「ん? えっ、何その顔……?」

 

 

 またしても浴衣の裾が引っ張られたので振り向いてみると、そこには絵に書いたような立体感のない笑顔の少女がいた。比喩でも何でもなく、本当にスケッチブックに顔が書かれている。そのせいで彼女の素顔が全く見えないのだが、顔を見られたくないほど緊張してるのだろうか……? 声色的には落ち着いてるようだが、逆に言えば感情が籠ってない。表情が見えないのも相まって不思議な少女だ。

 

 ちなみに髪はそこそこ濃いピンク色で、身体はにこやルビィ以上に華奢だ。出るところは全く出ていないのが逆に男のロリコン性を湧き立たせる。

 

 

「天王寺璃奈です。久しぶりに顔を見られて嬉しい」

「そ、そっか。つうかそんなボードで顔を隠してたら前見えねぇだろ」

「見えてますよちゃんと。このボードには巧妙なトリックが仕組まれているのです」

「ん~?」

 

 

 単純に考えればボードに描かれている顔の目に小さな穴が空いている、と思うのが自然だ。だから俺はボードに顔を近付けて、穴の存在を確かめてみる。

 だが、意外や意外そんな穴なんて存在しなかった。もしかしたらマジックミラーのようになっていて、彼女側だけこちらを見られるように仕組んであるとか? どちらにせよ、ボードをずっと手で持ってる体勢は疲れそうだな……。

 

 そもそも顔を隠したままライブなんてできんのか? と思ったが、虹ヶ咲のライブ映像を見た時に、ボードに描かれている顔をお面として被っている子がいたことを思い出した。アイドルと言えば年齢や体重を誤魔化すのが一般的だと思ったが、時代は顔を隠すまでに至ったか。まあ最近はバーチャルキャラでのライブ配信が流行ってるし、あながち珍しくないのかもな。

 

 

「わっ、わっ、近い……」

「悪い。別に変な意味はなかったんだけど」

「違いますよ。璃奈ちゃんは照れてるんです、愛しの零さんにあんなに顔を接近されちゃって」

「あ、歩夢さん。それは言わない約束……」

「照れてる? 顔隠してんのに分からねぇだろ」

「分かりますよ。璃奈ちゃんのボード、その名も『璃奈ちゃんボード』を見れば」

「ネーミングそのまんまじゃん……って、あっ、いつの間にか顔変わってる!?」

 

 

 どのタイミングでボードを入れ替えたのか分からないが、ボードに描かれている表情が"照れ"になっていた。見た目は子供の落書きに近い感じなのだが、赤面具合など細かなところまで描かれているところを見ると割とボードの表情に魂を込めているらしい。1枚1枚手書きで表情を描いているのだとしたら、自分の顔を隠すのにどれだけ本気になってんだよって話だ。でもそういった不思議ちゃん系って結構話題になるから、虹ヶ咲的にも彼女の存在自体がPRになっていいのかもしれない。

 

 

 これまで会った子たちを含め、俺は遂に虹ヶ咲の子たち9人全員と邂逅した。どの子もμ'sやAqoursに負けず劣らず魅力的な子ばかりで、高校時代の野心があれば速攻で手を出していたところだろう。しかもただ魅力があるだけでなく、彼女たちからは何やら意志の強いオーラのようなものを感じる。寸分の狂いもなく目標に向かって突き進む力強さが自己紹介の時点から滲み出ていた。実際に俺と出会って間もないのに、やたらと会話が盛り上がるのがその証拠。まるで俺と話せる時を長年ずっと待ち続け、今この瞬間に願いが叶ったかのような……。だからこそ緊張はするものの年上の男である俺を一切警戒していない。Aqoursと出会った時はほとんどの子が警戒心MAXだったけど、虹ヶ咲の子たちは最初からウェルカムムードだった。

 

 やっぱりコイツらは俺と何かしら関係があって、どんな理由かは知らないが俺を追い求めていたとしか思えない。

 

 

 全員の自己紹介が済み場が賑やかになってきたところで、せつ菜が手を叩いて一呼吸入れた。

 

 

「さて、今日は零さんの他にもスペシャルゲストをお招きしています」

「は? 一体何を始めようってんだ」

「この方です!」

 

 

 せつ菜は俺の問いかけを無視して、みんなの注目を部屋の窓に向ける。

 すると、上の階から突如として長身の女性が飛び降りてきた。そして俺たちの部屋のベランダに綺麗に着地すると、艶やかな黒髪を靡かせながらこちらを振り向く――――――って、コイツ……!!

 

 

「秋葉じゃねぇか!!」

「こんばんは零くん。このメンツの中で顔を合わせるのは初めてだね」

「お前、やっぱりコイツらと一枚噛んでたんだな……」

「まあまあ言いたいことはたくさんあるだろうけど、とりあえず落ち着いて。今晩は歴史の授業をしてあげるから。そう、零君の歴史のね」

「はぁ?」

 

 

 この時はまだ知らなかった。

 俺の過去、そして俺の裏で何が起こっていたのかを……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 虹ヶ咲メンバーの全員集合がメインだったのですが、私的には最初のことりの行動が脳内にチラついてなりません。やはり彼女は狂人であったか……

 ここで虹ヶ咲の子たちが全員揃ったので、皆さん今一度彼女たちの容姿を公式サイトで確認してもらえればと思います。やっぱり小説内で容姿を完璧に説明するのは無理があるので、キャラの確認だけは皆さんに丸投げさせてください(笑) みんなμ'sやAqoursに負けず劣らず可愛いですよ!

 次回はがっつり謎解き回です。合宿編も終わりに近づいてきたので、シリアスが多くなってしまうのは許してください()


新たに☆10評価をくださった

Doraguniruさん

ありがとうございます!

まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!




リクエスト小説の件ですが、もう少しリクエストが溜まったら第二回を実施しようと思っています。
リクエストは私のマイページから飛んでもらうか、以下からご応募ください!

【募集箱】
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=181617&uid=81126







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

甦る、失われたあの日

 合同合宿編、17話目
 遂に今回、零君と虹ヶ咲メンバーの関係が明らかとなります。実はスクフェス編が開始されてから1年、話数にして70話以上なのですが、これまで盛大なフラグ回収が嘗てあっただろうか……?


※虹ヶ咲スクールアイドルの設定はこの小説独自の設定であり、もちろん公式とは異なるのでご注意ください。


 

 旅館の大部屋に、俺、秋葉、そして虹ヶ咲スクールアイドルのメンバーたちと、一見接点のない人間同士が一堂に会していた。

 しかし思えば、このメンバーで集まる状況を一番望んでいたのは俺かもしれない。最近ずっと裏でコソコソしていた秋葉と、俺の記憶にない過去を秘密として抱えている虹ヶ咲の子たち。何とか事情を探ろうと思ったけど、秋葉も虹ヶ咲の子たちもガードが固く秘密を暴くまでには至らなかった。だからこそこのメンバーで集まれたことは、俺にとっても大きなチャンスだと思ったんだ。ま、これは偶然じゃなくて秋葉がセッティングしたと見て間違いないから、俺から探りを入れなくても向こうから秘密を明かしてくれるだろうけど。

 

 

「どうしてお前がここにいるとか御託はいいから、とっとと本題に入れ」

「あれ? 意外と冷静だね。この状況にもっと驚くと思ってたよ」

「お前らが裏で繋がっていることも大体察してたし、それに歩夢たちにこの宿泊先を勧めたのもお前だろ? 俺たちの合宿先と虹ヶ咲の合宿先が被るのならまだしも、お前が登場した時点でこの合宿自体が仕組まれたものだってすぐ想像できるよ。俺たちにこの旅館を勧めてきたのもお前だしな」

「おっ、正解正解! 話がよく分かる子は大好きだよぉ~」

「はいはい。いいから本題に入れ」

 

 

 何故かこの歳にもなって頭を撫でられたが、年下の子たちが見てる中で恥ずかしくなったのですぐに振り払う。さっきも言ったけど余計な御託は必要ない。俺を利用して何を企んでいるのか、知りたいのはそれだけだ。

 

 

「本題に入るにあたって、1つ質問するね」

「なんだよ」

「零君って、どうして女の子を大切にするの?」

「はぁ?」

 

 

 質問の意味が分からなかった。というより、その答えくらい秋葉は既に知っているからだ。

 女の子と言っても、世界中の誰構わず大切するなんて無謀なことは考えていない。あくまで自分の手が届く範囲の子に限定される。それはμ'sだったりAqoursだったり、今だったら虹ヶ咲の子たちだってそうだ。つまり、自分が腕を広げて届く範囲の女の子はみんな大切にするってこと。それが俺の行動理念でもある。

 

 だがそんなことは秋葉も分かっていると思うので、質問の趣旨は別のところにあるのだろう。

 女の子を大切にする理由ではなく、女の子を大切にするようになった理由と考えればどうだ? それは元μ'sメンバー9人との間で起こった()()()()()から、自分の周りにいる女の子を誰1人として悲しませたくないという想いからだ。シスターズとの一件やAqoursとの出会ってからも心の成長はあったが、今の行動理念が芽生えたのはμ'sのあの一件が原点なのは間違いない。

 

 

「零君が何を考えているのか当ててみようか? μ'sとの出会いが今の自分を作った。そうじゃない?」

「当てるも何も、お前だったら何年も前から俺のことくらい知ってるだろ……」

「知ってるけど、零君の行動理念の経緯が合ってるとは言ってないよ?」

「は? どういうことだよ」

「本当にμ'sと出会ったから女の子を大切にするようになったの? 穂乃果ちゃんたちが病む以前から、あなたはみんなのことを大切にしてたでしょ? 誰1人として蔑ろにせず、あの子たち全員に恋心を実らせるくらいにはね」

 

 

 秋葉の言っていることは分からなくはない。確かに程度の違いはあれど、穂乃果たちと出会った頃からみんなをかけがえのない存在だと認めていた。彼女たちが病み期に入ったあの一件に関わらず、それ以前からみんなの笑顔を守りたいと願っていたことは確かだ。

 

 そう考えると、俺はどうしてそこまで女の子を大切にしたんだろうか……という最初の質問に戻る。

 可愛いから? スクールアイドルの活動を手伝ってるから? 仲間だから? 自分のお気に入りだから? どれも当てはまっているような気がするけど、どうもしっくり来る答えではない。ということは、俺はμ'sと出会う以前から複数の女の子たちと濃密な関係にあったってことか?

 

 でも、小学生の時も中学生の時も、女の子とそこまで関係が発展したことはない。一緒に喋ったり遊んだりしたことはあるけど、あくまで親友に毛が生えた程度の域に止まっていた。もしかして俺が忘れているだけなのかも……?

 

 あれ? 忘れていると言えば、歩夢たちも俺にとっては忘れている存在だった。彼女たちは俺のことを知っているようだが、俺は彼女たちのことを覚えていないのが現状だ。

 つまり、俺が女の子を大切にしたいと思っているこの気持ちと、歩夢たちとの出会った過去を覚えてないことは話が繋がってる……のか?

 もしそう推測するならば、そこから導き出される答えはやっぱり――――――

 

 

「俺と虹ヶ咲のみんなは、過去に会ったことがあるってことか。しかも俺の行動理念を変えるような、大きな出会い……」

「そうそう。ちょっと助言はあったけど、ほぼ1人でその考えまで到達できたんだから大したもんだよ」

「本番はこれからだろ。俺の過去に一体何があったんだ? どうして俺は何も覚えていない?」

「落ち着いて。これから先はここにいるみんなに話してもらうから」

 

 

 歩夢たちの様子を見てみると、ようやくこの時が来たと言わんばかりの勢いを感じる雰囲気だった。今にも自分たちの過去を話したそうにしており、彼女たちにとっては今まで秘密にしてきたことを暴露しようとしているんだから、そりゃ高揚感は半端ないだろう。秘密をしていたのにも関わらず所々で『久しぶり』とか『再会』とかうっかり漏らしていたから、本人たちもこの時を待っていたに違いない。

 

 

「零さんとの出会いを話すためには、まず私たちの境遇から話さないといけません。なので簡潔に説明します。その間に思い出してくださるかもしれませんし……」

 

 

 まずは歩夢が先陣を切って口を開いた。境遇のワードが出た瞬間に場の空気が重くなったので、どうやら彼女たちにもそれ相応の過去があるらしい。俺の過去は彼女たちの苦い(暫定)過去と何かしら関連がありそうだ。今まで自分の過去なんて振り返ったことがあまりないというか、振り返るような過去がないと思ってたから、どんな話が飛び出してくるのか思わず身構えちゃうよ。

 

 

「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、つまり、私たちはみんな施設育ちなんです。幼い頃にそれぞれ込み入った事情がありまして、物心付いた頃からずっと施設で生活していました」

「そんなことがあったのか……。それじゃあ、みんなは小さい頃からずっと友達だったってこと?」

「そういうことです」

 

 

 想像以上に重たい話でビビったが、それだけ追い込まれていた境遇だってことは彼女の暗い雰囲気から身に染みて感じた。どんな事情で施設暮らしをしていたのかは知らないけど、物心がついた時からってのがなおさら悲壮感を感じる。言ってしまえばこれまでの人生で、親の温もりを一度も味わってこなかったってことだもんな……。

 

 次にしずくが喋り始める。

 

 

「物心ついた時から施設暮らしというのは一見辛そうに見えますが、家族がいない生活が普通でしたから特段辛い訳ではないんですよ。でも、歳を重ねていくうちに自分の境遇を徐々に実感していくんです。同じ施設仲間の歩夢さんたちはいますけど、それでも拭え切れない寂しさはずっと残り続けました」

「なるほど。家族がいない然り、甘えられる人がいないこと然り、色々苦い思いが積み重なっていたのか」

「はい。でも、止まっていた私たちの時間が動き出したんです。そう、零さんと秋葉さんとの出会いによって……」

 

 

 ここで俺たちの登場かと思ったが、俺だけじゃなくて秋葉もなのか? 言われてみれば虹ヶ咲の子たちは秋葉に対しても信頼を寄せているみたいなので、コイツとの接点も俺と同じ時期にできたのだろう。

 

 次は果林が語り役となった。

 

 

「秋葉さんは仕事で施設に来ていたのよね。そして零さんはその付き添いで、というより私たちに合わせるために連れて来られたと言った方が正しいかな。そうでしたよね、秋葉さん?」

「そう、施設の職員さんから頼まれたのよ。施設の子たちにイマイチ元気がないから、何かいい方法はないかってね」

「それで俺が連れて来られたってことか?」

「そうですよ。決して歳は近くないけど、零さんの社交性と明るさがあれば私たちを笑顔にできる。そう秋葉さんから聞きました」

「それって俺がいつの頃の話だ?」

「私たちがまだ小学校に行ってない頃ですから、零さんは小学校高学年くらいですね」

 

 

 小学校の高学年にもなれば、歳を食っても印象に残っていることは鮮明に記憶していることが多い。特に施設の女の子たちと出会うなんてイベントを綺麗さっぱり忘れていることの方が異常だろう。つまり、事件はこの後に起こるってことか。

 

 次はかすみが語り手となる。

 

 

「秋葉さんの狙い通りと言いますか、かすみたちは零さんに惹かれていきました。ただ普通に、一緒に遊んでくれただけですが、零さんとの時間はとても楽しくて、かすみたちは自然と笑顔が溢れるようになったんです。零さんは毎日施設に立ち寄ってくれて、学校でどんなことがあったとか、施設暮らしの私たちにとっては刺激的なお話もたくさんしてくれました」

「そっか、ずっと施設にいたから外の世界のことをあまり知らなかったんだな」

「ですです。だからかすみたちは、毎日毎日零さんが来てくれることを何よりの楽しみにしていたんです。その時のかすみたちはまだ幼かったのですが、零さんと遊んでいる時がこれまでの人生の中で一番楽しかった自信があります。どんよりとしていたかすみたちの未来を明るく照らしてくれた、まさに救世主なんですよ」

 

 

 俺、意外とすげぇことしてたんだな……。小学生の頃からたくさんの女の子と交流があったこともそうだけど、かすみたちからここまで尊敬されるようなことをしていたとは。でもその頃はまだ小学生だったし、女の子の心を救ってあげるとか、そこまでの算段はなかったと思う。ただ笑顔を失った子たちを笑顔にしてあげたいという、純粋な想いだけだったんじゃないかな?

 

 次の語り部は彼方だ。

 

 

「でも、楽しい時間はそう長くは続かなかった。施設のキッチンがガス漏れによって出火。施設はあっという間に火の海になったんだ」

「そ、そんな……。だけど、みんなはここにいる。助かったってことか?」

「そう、零さんが助けてくれたおかげでね」

「俺が?」

「うん。襲い掛かってくる火、崩壊する施設、泣き叫ぶ声。その全てが私たちを震え上がらせた。恐怖で動けなくなっていたところを助けてくれたのが、零さん」

 

 

 まるでドラマのようなストーリーを聞かされているようだが、彼方たちの様子を見れば当時の情景が容易に想像できる。元々話し方に緩急のない彼方だが、今日は今まで以上に口振りも重い。生まれて物心がつく頃から親はおらず、しかも唯一の心のよりどころである施設が崩壊する様を見たら、そりゃトラウマにもなるだろう。彼女たちにとって当時の状況が如何に悲痛かが、さっきの話だけで伝わってきた。

 

 そして語りは愛に引き継がれる。

 

 

「零さんが丁度学校帰りで施設に寄ってくれなかったら、私たちみんな焼け死んでたよ。それくらい火が広がっていて絶望的な状況だった。秋葉さんも、零くんが火の海になってる施設に飛び込むのを全力で止めてくれたんだって」

「秋葉? お前が?」

「そりゃね、お姉ちゃんだもん。弟が命を投げ出そうとしている姿を見て見ぬふりなんてできないよ。ま、零君は私の制止を振り切ってみんなを助けに行っちゃったけどね。それで本当に助けちゃうんだから大したものだけど、あの時以上にあなたを心配したことはないよ」

「私の前に現れた時は既にボロボロだったし、小学生なのに無茶しちゃってと今になって思うよ」

 

 

 小学生の俺がそんな無鉄砲なことをねぇ。にわかに信じられないが、あの秋葉がここまでシリアスになっていることから十中八九真実と見て間違いないかな? 当の本人である俺は全く覚えていないのが謎だが……。

 

 次はせつ菜が会話を引き受ける。

 

 

「もう死を待つしかない私たちにとって、零さんはまさに救世主だったのです。崩れかけている施設を駆け回り、ボロボロになってまで私たちを助け出してくれました。私もみんなも、火の海の中で零さんの顔を見た時、心が一気に希望で満たされたんですよ? 施設暮らしで茫漠な日々を送っていた私たちにとって、零さんだけが心の支えでしたから。覚えていないと思いますが、私たちを見つけた時、零さんはどんな顔をしたと思います?」

「……?」

「"笑顔"ですよ。こんな状況でとは思いましたが、その明るい笑顔で私たちは恐怖から解放された。私が"笑顔"に拘る理由も、その過去があったからなんですよ」

 

 

 なるほど、だから俺はみんなの救世主ってことなのか。もうすぐ死ぬかもしれない状況で助け舟とか、それマジモノのヒーローじゃん。俺自身そこまで善人ではないのだが、やはり悲しみに堕ちている女の子は放っておけない性格なのだろう。これまで施設で歩夢たちと一緒に遊んできて楽しい思い出があったからこそ、みんなを助けるため小学生なのにも関わらず死地に飛び込んでいったのかもしれない。

 

 そしてエマに会話が移る……前に、俺はこれまでの話から湧いて出た疑問をぶつけた。

 

 

「俺とお前たちの馴れ初めや過去は分かった。でもどうしてその時の記憶が俺にないんだ? そんな衝撃的な出来事、いくら歳を取っても忘れるもんじゃないだろ?」

「それは、零さんが私たちを助け出した後に気絶しちゃったんですよ。火事である施設の中を駆け回って私たちみんなを連れ出したんですから、小学生の体力でもつはずがありません……」

「つまり、気絶した時に記憶が飛んじまったってことか……」

「そうです、私たちと出会った頃の記憶が丸々と。秋葉さんの腕の中で倒れる零さんを見た時、思わず泣いちゃいました……」

「秋葉の腕の中で? 今では考えられないくらい優しいな」

「だから心配したって言ってるでしょ。それにあんな悲痛な叫びを上げて倒れられたら、いくら私でも抱きしめたくなっちゃうって」

「叫び声?」

「うん。気絶する寸前に『もう女の子たちの悲しい顔、泣き叫ぶ声、どれも見たくないし聞きたくない!! 守る。俺が絶対にみんなを守ってやるから! お前たちが笑顔になれるその時まで、ずっと……』ってね。小学生に思わず心を響かされちゃったよ」

「そっか、そんなことが……。あっ、それが俺の行動理念の種ってことか」

 

 

 俺が女の子に固執するようになった理由は、この過去があったからだろう。恐らく記憶が消えたとしても行動理念の種は既に俺の中で芽生えており、それだけはずっと成長し続けていたんだ。だから無意識の間にμ'sやAqoursなど、周りにいる女の子を大切にするようになった。μ'sが病んだ一件ではその芽を成長させただけで、根本は虹ヶ咲との一件からだったんだ。

 

 しかしまだ分からないことがあったので、まだ喋っていない璃奈に質問をする。

 

 

「でもさ、気絶から目覚めた時にどうしてそのことを話さなかったんだ? 記憶が失われてるんだったら、お前たちはなおさら自分たちのことを思い出させたいはずだろ?」

「できなかった。零さんが気絶する瞬間の叫びが悲痛すぎて、誰も真実を話す気に慣れなかったんです。私たちと一緒に喋ったり遊んだり、楽しかった思い出だけを思い出させることができれば良かったけど、誘発して火事のことも同時に思い出してしまうかもしれない。そう考えると、みんな話せなかった。結局零さんにはちょっとした事故で気を失ったとしか、その時は伝えてない」

 

 

 確かに小学生の頃に一度だけ階段から落ちて頭を打った、という記憶がある。それは小学校高学年の時だったと覚えているから、恐らくそれが火事の現場で歩夢たちを助け出した時に負った傷なのだろう。なるほど、階段から落ちたってのも俺に苦い過去を思い出させないようにするための嘘だったってことね。

 

 ここまでの話で、俺の失われていたある日を思い出した。虹ヶ咲の子たちと出会った頃の記憶が丸々飛んでいるんだったら、そりゃみんなのことを覚えていないのも無理はない。せめて出会いさえ覚えていれば、今この時期になって再会したとしても彼女たちの正体を知る切り口はいくらでもあったのにな……。

 

 

「そうだよ、どうしてこの時期になって秘密を明かしたんだ? ずっと秘密のままにしておくつもりだったんだろ?」

「そのつもりだったんだけど、この子たちの心にはずっとあなたが居続けたの。別の施設に移り、学校にも行き始め、普通の子供たちと何ら変わりない生活を送っているのにも関わらずこの子たちの心は完全に晴れなかった。会いたいのに会えないの、大好きなあなたに。会ってしまったら思い出してしまう可能性があるから、そう、あの日の記憶をね。だけどこの子たちは成長してもあなたのことをずっと一途に想い続けていた。だから私はこう提案したんだよ、零君の心がもっと強くなってあの日の記憶を思い出しても大丈夫なくらいタフになったら、もう一度会わせてあげるって。もちろんすぐに正体は明かさないことを条件にね。歩夢ちゃんたちの存在に徐々に慣れさせていき、然るべきタイミングで秘密を明かす。さっきの話の情報量、凄かったでしょ? みんなと出会った当初にそんな膨大な情報を流されて、下手にあなたの記憶が暴発したら大変だから」

 

 

 秋葉を含め、みんな俺のことをそこまで気遣ってくれていたんだな。でも正直このタイミングで話してくれて本当に助かったよ。確かに一番最初に出会った歩夢からさっきの話を聞かされたら、まず話の半分も理解できなかっただろうから。言ってしまうと今も情報の整理だけでいっぱいいっぱいなのだが、自分の裏で何が起こっていたのかは大方把握することはできた。もちろん、彼女たちがやたら俺のことを敬っていたこともだ。知らない子から有り得ないくらい好かれていると思っていたが、さっきの話を聞いたらそりゃ惚れちまっても仕方ないよな。自分で言うのもアレだけどさ……。

 

 

「スクールアイドルになったのは、やっぱり俺の気を引くためか?」

「そうですね。普通の女の子がいきなり目の前に現れても警戒するだけなので、私たちは9人でスクールアイドルを結成しました。それにスクールアイドルになるのなら零さんに一番の輝きを見せてあげたいということで、日々努力してきたんです」

「スクールアイドルになったっつっても、歩夢が現れた時は警戒心MAXだったけどな」

「あはは、やっぱりあまり変わりませんでしたか……」

 

 

 歩夢と出会った時、いきなり抱きしめられたりキスをされたりと、普通の女の子からしてみれば常軌を逸した行動をされ警戒せざるを得なかった。悪い女に騙されそうになったとちょっと思ってしまったことは内緒だ。

 

 そして俺に自分たちの存在をアピールする。ただそれだけを目標として、これまでスクールアイドル活動を行ってきた歩夢たち。俺だけのためにスクールアイドルをやってるって、どれだけ重い愛なんだと最初は僅かだが狂気を感じた。だが彼女たちの過去を知った今、ここまで忠実なる愛を示されることに何ら違和感がなくなっている。それどころか以前よりも受け止めたいという感情が強くなった。言わば、彼女たちの出会いがあったからこそμ'sとAqoursに献身的な愛を注ぐことができるんだから。

 

 

「スクールアイドルになったのは、過去の同情で零さんを惹きつけたくなかったからです。私たちは自分の力で零さんに振り向いてもらう。9人でそう決めてスクールアイドルになった経緯があります。スクールアイドルで零さんへ"大好き"を伝えたいんです!」

 

 

 歩夢を始めとして、みんなの想いが一気に押し寄せてくる。

 コイツらは本気だ。自分たちの信じるたった1つの想いを胸にスクールアイドルをしている。ここで場の空気が一体になるのを感じた。

 

 

「私たちは負けません。μ'sさんにもAqoursさんにも。零さんへの愛の強さで、絶対にスクフェスを制してみせます! スクフェスで優勝したその時こそ、あなたに……」

 

 

 言葉はそこで切れてしまったが、意志の強さは圧倒されるくらいに伝わってきた。それは歩夢だけからではなく、他のみんなからも同じ気迫を感じる。虹ヶ咲の9人は同じ場所、同じ境遇、同じ過去、同じ恩人を共有する仲間だから、まだスクールアイドル駆け出しと言っても絆や結束は他のグループ以上に堅い。もしかしたらμ'sやAqoursを凌駕しているかもしれないくらいに……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 歩夢たちの決意表明を聞いたところで、話は終わった。

 今日聞いた話をまだ完璧に整理はできていないけど、想像以上にとんでもない展開になってきたもんだ。Aqoursの想いにも応えてやらないといけないが、虹ヶ咲の想いも蔑ろにできない。早めに気持ちを切り替えないと、そのうち溜まりに溜まった想いでパンクしそうだな……。

 

 そんなことを考えながら廊下を歩く。

 時間を確認したくてふとポケットから携帯を取り出してみると、スマホの画面が通話中になっていることに今気が付いた。

 

 

「どうして通話中に……? まさか誰かにハッキングされてるとか……ないよな?」

 

 

 俺は通話を切り、携帯を浴衣のポケットに入れる。

 もしさっきからずっと通話中だったとしたら、秋葉や歩夢たちとの会話が全部携帯越しに漏洩していることになる。

 

 

「ま、さすがにそれはないか」

 

 

 とりあえず、μ'sやAqoursにはまだ黙っておこう。

 スクフェスに向けてみんな頑張ってるんだ、余計な感情を植え付けて邪魔をする必要なんてないもんな。

 

 

 

 

 ちなみに現実は非情と思い知らされるのは、そう遠くない未来の話である。

 

 




 本当にラブコメ小説かってくらい重い過去話になりましたが、普通の恋愛はμ'sやAqoursで散々やり尽くした感があるので、虹ヶ咲に対してはテイストを変えてみました。実はスクフェス編の当初からずっと考えていたネタであり、1年後にしてようやくお蔵出しできたことに満足感しかありません(笑) そのおかげで伏線を初期から張ることができたので、μ's編やAqours編とは違った楽しみがあると思います!

 ちなみに前書きでも言いましたが、虹ヶ咲の設定に関しては完全にオリジナルです。こんな重い過去を背負ってスクールアイドルになった、というのが公式設定のラブライブも見てみたいですけどね(笑)

 今回である程度の秘密は暴露したのですが、まだ全部ではありません。衝撃のラスト(?)を見逃すな!


 スクフェス編がもうすぐで1周年、そして小説のお気に入り数が2000件を達成したので、次回は番外編として特別編を投稿しようと思います。


新たに☆10評価をくださった

四郎とさん

ありがとうございます!

まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】淫乱幽霊再降臨!

 今回はスクフェス編の1周年記念としまして特別編です!
 まさか1年半前のあの話に登場したキャラをまた登場させることになるとは……。でもいいキャラしてるんで何気に大好きなんですよね(笑)


※今回の話の時系列は、合宿編より前の話となります。


 幽霊は科学的に証明されていないというのが通説だが、霊感の概念は立証されているらしく、本当に幽霊を目撃できる人もいるらしい。"存在する"ということの証明は可能であり、簡単なもので言えば写真さえあれば一応証拠にはなる(最近は加工が容易、かつ巧妙にできるので決定的ではない)。だが"存在しない"を証明するのは極めて難しく、絶対に存在しない、確率はゼロなどの確固たるエビデンスを提示しないと"存在しない"の証明にはならない。そのため証明はほぼ不可能だったりする。

 

 そう考えると、"存在する"ものの証明は"存在しない"ものの証明より非常に楽だ。最悪、この目で実際に見れば証拠にはなる。目で見たものの情報をまとめ、他の事例と照らし合わせ、合致するものがあれば調査の活路が開く。単純に考えて、目に見える形のものの方が証明は楽だと直感的に分かってもらえると思う。

 

 さて、いきなりどうしてこんな話をしているのかと言うと――――――いるんだよ。

 目の前に幽霊が、しかも気持ちよさそうにぷかぷか浮いている。しかも俺にはこの幽霊に見覚えがあった。

 

 下半身が一反木綿のようになっていること以外は、見た目は普通の女の子だ。その名は本城愛莉(ほんじょうあいり)。俺が教育実習生の頃、浦の星で心霊現象が多発している情報を受け、Aqoursと一緒に裏山を調査している時に出会った子である。幽霊になって人間の前に現れた理由は、生前にカッコいい男と性行為ができなかったからという何とも欲深い理由だった。その欲が暴走して成仏できず、当時はAqoursに次から次へと憑依して、彼女たちの身体で俺と性行為をしようとしていたのだ。しかし俺がAqoursに抱いている想いを伝えたら心中を察してくれたようで、気持ちがすっきりしたのかその場で成仏した。

 

 だが、コイツはこの場にいる。

 俺の部屋の中に、ニッコリと微笑みながら存在していた。

 

 

「成仏したんじゃなかったのか……」

「あの時はそうだったんですけど、欲求不満で天国から戻ってきました! えへっ♪」

「ノリが軽るすぎんだろ……」

 

 

 天国がどんなところかは知らないが、そんなどうでもいい理由で天界から現世に戻って来られるとは案外ルールが緩いのかもしれない。それも含めて天国は楽園って言われる所以か? だがいくらなんでも無法主義が過ぎるような気もするが……。

 

 

「天国って遊べるところが少ないんですよ。私は生前でできなかった不純なお遊びがしたかったのに、それはもう普通の娯楽ばかりで……。子供のお遊戯場じゃないんですし、もっとこう性欲を滾らせる施設が欲しいんですよ!!」

「こんなことを言うのは不謹慎かもしれないけど、死んでるくせに煩悩湧き立ちすぎだろ……。天国や天使のイメージが崩れるっつうの」

「天使なんていい人を装ってるだけで、裏で何を考えてるのか分からない腹黒ばかりですよ。ほら、南ことりさんだってそうでしょ?」

「確かにアイツは世間から天使と呼ばれてるが、実際には――――って、どうしてお前がことりのこと知ってんの!?」

「天国は下界のあらゆることが分かっちゃうんですよ! 人のドロドロしたドス黒い本心とか」

「なんか、天国にいるだけで気分が重くなりそうだな……」

 

 

 人の心を覗き見れるのはいいが、愛莉の言う通り人間なんて裏で何をしているのか分からないもの。もし天国で地球上の人間全員の心を覗き見ることができたとしたら、覗き見ている方が気分を害されてしまいそうだ。それくらい欲深いからな、俺たち人間は。

 

 まあ今は天界の事情よりも、楽しそうにぷかぷか浮いているコイツをどうしてやるかが問題だ。最初に出会った時もそうだったけど、恐らく自分の欲求が満足しない限り成仏しないだろう。それに早いところ天国に戻ってもらわなければ、俺の私生活は全てコイツに晒されることになる。そうなればもちろんプライベートなんてクソくらえなので、早急に愛莉に満足して帰ってもらうしかない。

 

 つうか、目の前に幽霊が現れたっていうのに冷静だよな俺。2回目だとしてもこの落ち着き具合は、普段から厄介事に巻き込まれているからこそ成長した精神ゆえなのだろう。そんな成長をしたところで自慢にもならねぇけどな……。

 

 

「どうせ自分が満足するまで帰らないんだろ? だったら早く望みを言え。手っ取り早く成仏させてやるから」

「おっ、やっぱり察しがいいですね! それこそ私が見込んだ、生前にセックスしたかった相手です!」

「そんな見込みされても嬉しくねぇよ!! いいから、早くお前のやりたいことを言え」

「さっきから早く早くって、早漏は嫌われますよ?」

「次から次へと……」

 

 

 相変わらずと言うべきか、愛莉は淫語を恥もせずド直球に放ってくる。いくら他人から変態と罵られる俺でも、笑顔で淫語を口にするなんてとてもじゃないけどできない。ことりでももう少しだけオブラートに包むため、下手をしたら俺が出会った中で一番公然猥褻人間かもしれない。まあ出会った頃から人間ではないけどさ……。

 

 

「私の望みはですね――――――お風呂に入りたいです! あなたと一緒に!」

「は……? 風呂?」

「何言ってんだお前みたいな顔しないでくださいよぉ~。幽霊はご存知の通り霊体ですから、身体が汚れるとかそんな心配は必要ないんです。だからお風呂に入らなくてもいいのですが、やっぱりお風呂の気持ちよさを思い出しちゃうとどうしても入りたくなっちゃうんですよね!」

「風呂だったら俺の家じゃなくて、自分の家の風呂に入ればいいだろ? 霊体なら誰にもバレないし、どうせなら高級ホテルの風呂とかにすればいいんじゃね?」

「いいや、私はセックス相手とお風呂に入るのが夢だったんです! 寝室でしっぽりしてから、穢れた身体をお風呂でしっかり洗い流す。う~ん、想像だけでもドキドキします!」

 

 

 なんつうか、コイツの感情の豊かさを見ていると、会話をしているのが幽霊だとは到底思えない。しかも霊体だと言っても、見た目が僅かに半透明になっているだけで普通に接している分には特に気にならない。下半身が一反木綿状態になっていることを除けば、外見は普通の女の子なのだ。

 

 だからこそ、コイツの望みが如何に欲望に塗れていようとも、その願いはできるだけ叶えてやりたいと思う。性格は難ありの彼女だけど、幽霊になったのは別に本意ではない。不慮の事故で亡くなってしまい普段の生活の暖かさが分からなくなったと言うのであれば、ここで望みを受け入れてやるのが筋だろう。まあこれも、楓が雪穂と亜里沙と外出して家にいないからこそできる判断だけどな。アイツが家にいたとしたら、俺と他の女が自宅の風呂で混浴するなんて絶対に認めないだろうから。ブラコンのアイツのことだから、そんなことが起こりでもしたら相手を殺してでも阻止するかもしれない。

 

 

「分かったよ。一緒に入ればいいんだろ?」

「えっ、本当にいいんですか? ダメ元だったんですけど、やっぱり男に対しては押してみるものですね♪」

「人が同情してやってんのにお前って奴は……」

「冗談ですよ冗談! 零さんと混浴なんて、夢のまた夢でしたから叶うとは思ってなくて」

「ま、幽霊のお前からしたら本当に夢だろうからな」

「だから一緒に入りましょ? マットも持ってきてるんで!」

「…………おい、ただの混浴だろ?」

「それは後のお楽しみです♪」

 

 

 ただ一緒に風呂に入るだけかと思っていたが、俺の想定していた目的と愛莉の目的が違う気がするぞ……。

 そんな感じで幽霊の女の子と混浴するという、奇妙な日常が幕を開けた。冒頭の幽霊が存在するか否かの問題に対して愛莉の入浴シーンを盗撮して提出すれば、これほど幽霊の証明になることはないだろう。まあ上半身は普通の女の子なので、信じてもらえるかどうかは別だけど。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 真昼間にお互いに裸となり、マットが敷かれている風呂場で混浴。もう字面だけでも相当危険な香りだが、実際にその状況になってみると想像以上に緊張してしまう。

 その理由として、愛莉の身体付きがエロい、それに尽きていた。最初に出会った時もそうだったのだが、彼女が来ている服は幽霊らしく真っ白な薄着の袴に三角巾、ただそれだけである。つまり身体のラインがモロに現れ、元々胸や尻の大きい愛莉のわがままな肢体をより一層浮き彫りにしているのだ。そんな彼女が服を脱いでバスタオルを纏っている姿を見ると、もう相手が幽霊とか関係なく興奮してくる。こんな身体を持っていてかつ美少女なのに、生前に性行為の1つもしていなかったのか……。まあ、純潔に越したことはないけどね。

 

 ちなみに現在の状況だが、俺は愛莉に導かれるままに椅子に座らされ、彼女に背中を洗ってもらっている。近くにマットも敷いてあるため、もう完全にソープ現場にしか見えない。自宅でこんなことをしてるなんて楓にバレたらどんな仕打ちを受けるか分かったもんじゃねぇな……。

 

 

「痒いところはありませんか?」

「美容室じゃねぇんだから……。それに痒いってより力が弱いから、もうちょっと強くしてもいいぞ」

「なんだ、渋ってたように見えましたけど意外とノリノリですね!」

「経緯はなんであれ、女の子に背中を流してもらうのは役得だろ? それにお前はこうでもしないと成仏しないだろうし、だったらいっそのこと俺も楽しんだ方がいいに決まってる」

「その往生際の良さも好きですよ!」

「人外に好かれてもな」

「ひどーい! 確かに私は死んでいるので体温はないですけど、こうして触れることはできるんですからね!」

 

 

 幽霊はあらゆるものをすり抜ける描写をアニメや漫画でよく見かけるけど、一体どういう仕組みなんだろうな? あらゆるものをすり抜けられるとしたら、今の愛莉みたいに俺の背中を洗うなんて行為はできないと思うんだけど。しかし、こうして幽霊と一緒に混浴していること自体が異常なので、細かいことはいいんだよ感覚でスルーしておく方がいいのかもしれない。

 

 

「さて、いい感じに身体も綺麗になりましたし、マットに寝転がってください?」

「えっ、マジでやんの??」

「ここへ来て今更何を言ってるんですか! やる、いや、ヤるんですよ! これが私の夢、思春期女子の夢なんですから!!」

「今すぐ全世界の思春期女子に謝れ!!」

「この世は弱肉強食なんですよ! 平和そうに見えますけど、その実、知識や技術が蔓延し過ぎて積極的にそれを活用しない者は次々と廃れていく過酷な時代なんです。だから私は積極的になります。零さんとセックスするために!!」

「それらしいことを言っても無駄だし、それに諦めたんじゃなかったのかその野望!?」

 

 

 もはや女の子が『セックス』と連呼しても不思議に思わないこの世の中が心配になってくるよ。今は昔と違ってインターネットでその手の知識はいくらでも得られるから、学校で性教育なんてしなくても子供たちは勝手に性知識を会得する。まあそれを拗らせた末路が目の前の淫乱幽霊ちゃんな訳だが、まさか本当に本番をしようと考えていたとは……。一緒に混浴するだけで満足するって言ってなかったっけ?

 

 

 その時だった、家の廊下から女の子の声が聞こえてきた。

 

 

『おにーちゃーん! いないのー?』

 

 

「な゛ぁ!? か、楓?」

「およ? 妹さん、帰ってきちゃいましたね……って、今日はお出かけして夜まで帰ってこないはずでは?」

「そのはずだったんだけど、どうして……」

 

 

 廊下から聞こえてきたのは楓の声だった。さっき愛莉が言った通り、楓はシスターズの面子と一緒に外出をしているはずだったのに……何故ここにいる? アイツの外出を見超して愛莉の要望を飲んだっていうのに、これでは俺が他の女の子と混浴していることがバレてしまう。家での楓は俺と2人きりでいることに至高の喜びを感じているので、例えμ'sであっても自宅の風呂を安易に貸したりしない。

 

 そんな楓にこんな状況を見られたら…………死!!

 

 

『あっ、お兄ちゃんお風呂に入ってるの?』

 

 

 俺の匂いを嗅ぎつける能力が犬以上の楓は、一瞬にして俺の居場所を見抜きやがった。奴は既に脱衣所にいるため、今から風呂場を抜け出すことは困難。仕方ないからここから応戦するしかない。適当な会話で時間を引き延ばしさえすれば、幽霊の彼女は壁をすり抜けて脱出できるだろう。

 

 

「おい、時間を稼ぐから早く家の外へ出ろ。霊体ならすり抜けられるだろ?」

「じ、実はすり抜けるためにはあの喪服が必要なんです……」

「そっか、今はバスタオル1枚だったな……。分かった、だったら湯船に浸かってろ。風呂場の扉は少し透けてるから、人影が2つあったら楓にバレちまう」

「わ、分かりました!」

 

 

 最初から俺の計画は破綻したが、楓を風呂場に入れなければいいだけの話だ。つまり後は、楓を脱衣所から追い出すことができれば俺の勝ち。なぁに、断然俺が有利の試合じゃないか。八百長を疑われてもおかしくないくらいにな。

 

 それからすぐに俺は風呂場のドア越しに楓に話しかけた。

 

 

「どうして帰ってきたんだ? 今日は雪穂たちと買い物に行くはずだったんじゃないのか?」

『それがね、雪穂も亜里沙も突然ファッション雑誌の仕事が入っちゃったんだよ。だから午前中で解散したの』

「なるほど、それは災難だったな。今日は早起きだったみたいだし、自分の部屋で仮眠を取ったらどうだ?」

『…………うん、そうさせてもらおうかな』

 

 

 勝った。楓が自室に籠っている間に愛莉をここから連れ出せば、俺が女の子を風呂場に連れ込んでいたという事実は揉み消せる。家の中であればエンカウントするにしても楓のみ。つまり、彼女さえ欺けば俺の完全勝利って訳だ。

 

 だが、風呂場のドアから楓の人影が消えない。アイツはまだその場にいるみたいだけど、一体なにしてんだ?

 

 

『ねぇ、どうしてこんな時間にお風呂入ってるの? まだお昼だよ……?』

「えっ、ま、まぁ気分だよ気分」

『お兄ちゃん、な~んか様子おかしいよね? 普段昼寝をしない私に対して、仮眠を勧めるなんて普通はしないもん。それはお兄ちゃんが一番よく知っているはずなのに、どうしてかなぁ?』

「だから気分だよ気分……」

『そう……。だったら、どうして女性モノの下着がここにあるの? これ、私のじゃないよね……? ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ??』

「え゛っ……?」

 

 

 じょ、女性モノの下着って、まさか……?

 誰のモノかはすぐに想像できたが、確認のため小声で愛莉に囁く。

 

 

「お前、幽霊のくせにいっちょ前に下着なんて着けてたのかよ!」

「幽霊だって女の子なんです! 可愛い下着も付けたくなりますよ!」

「気持ちは分からなくもないけど……」

「ほら、幽霊って基本あの質素な白い服を着ないといけないので、ファッションとして着飾れる部分が下着しかないんですよ」

「ま、今更グダグダ言っても仕方ねぇか……」

 

 

 ここで愛莉を追及しても、楓に下着が見つかってしまった事実はもう拭えない。さっきから俺にとって不利な状況ばかり続くが、そんな最悪を回避してこそ主人公ってもんだろ? もはや楓は持ち前のヤンデレ成分が身体中を駆け巡り、人も笑って殺せるような悪魔の子になってるに違いない。いいだろう、そんな大ボスを倒してこの場を切り抜けた時の達成感を大いに感じてやる。

 

 

 だが――――――

 

 

『ほら、早く開けてよ。いるんでしょ、女狐が……』

「い、いや……」

『どうして鍵が掛かってるのかなぁ……? たかがお風呂に入るだけなのに、おかしいよねぇ……』

 

 

 楓の口調が荒くなった。しかも風呂場のドアを壊す勢いで蹴っている。その衝撃音が風呂場に鳴り響き、俺の緊張も最高潮に達していた。

 もはや病み度がMAXになった楓を止めることができないと悟り、俺は敷かれていたマットをできるだけ小さく折って風呂場の端に隠す。そうすれば俺の身体が邪魔でマットはバレないはずだ。まあそんなことをしたとしても、湯船にいる愛莉を見たら楓は発狂するどころの騒ぎでは済まないと思うが、その怒りを少しでも鎮めるための苦肉の策だった。

 

 楓はドアを蹴る力をどんどん強めていき、蹴り上げ音の他にドアが軋む音まで聞こえてくる。つまり、ドアの耐久も限界だと言うことだ。

 

 そして――――――

 

 

『お兄ちゃんを誑かすクソ女は誰だぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 遂に風呂場のドアが蹴破られた。

 終わった。ドアを蹴破るくらいの狂ってるんだ、愛莉と一緒に混浴してる状況なんて見たら逆に発狂して気絶するかもしれない。もう、そうなることに賭けるしかなかった。

 

 だが、楓の表情は怒りからしかめっ面に変わっていく。

 

 

「…………あれ? お兄ちゃん1人?」

「はぁ?」

 

 

 何言ってんだコイツ? どう見ても湯船に女の子がいるだろ。現に今も愛莉がのんびりと湯船に浸かっているのだが……って、こんな状況なのにすげぇ余裕かましてんな。目の前で起こっていることなど無視して、ドラマの入浴シーンのように手でお湯を自分の肩に流す。そんなリラックスしている場合ではないのに、愛莉は全く動じない。楓も不思議そうな顔で風呂場を見回すだけだ。

 

 楓が突然帰宅してきたパニックで忘れていたが、そういや愛莉は普通の女の子じゃないんだった。そう考えたらこの奇妙な状況にも納得がいく。

 

 

「窓から逃げたの?」

「風呂場の窓は人が抜け出せるような大きさじゃないだろ」

「確かに、じゃあそこに置いてある下着は?」

「この前、練習終わりに穂乃果たちが遊びに来ただろ? その時にシャワーを浴びて、そのまま忘れていったんだよ」

「そういやそんなこともあったね……。ゴメン、ドア壊しちゃった」

「いいよ別に。勘違いされるようなことをした俺のせいだしな」

「お兄ちゃん、相変わらず優しいね……愛してるよ♪ あっ、そうだお昼ごはんまだだよね? せっかく帰ってきたんだし、私が作ってあげるね!」

「あぁ、ありがとう。頼んだ」

 

 

 楓は()()()()()()()()()を見て状況を理解したのか、さっきの怒りとは裏腹の笑顔でこの場を去っていた。

 危なかった……。最近穂乃果たちが遊びに来ていなかったらさっきの言い訳もできなかったので、最後の最後にツキが回って来たって感じだな。危機一髪とはまさにこのことだ。

 

 そんなことよりもだ、今でも風呂を満喫しているこの淫乱幽霊に問い詰めなければならないことがある。

 

 

「あのさ、俺以外に自分の姿が見えないんだったら先にそう言ってくれよ。無駄に焦っちまっただろ……」

「あははっ! むしろあなたが戸惑う姿を見るためにずっと黙ってたんですから! 面白かったですよ、慌てふためく零さん」

「ふざけんな。こちとら狂気を纏う妹に命を刈り取られそうだったんだぞ……」

「この人には自分の姿を見せることができたり、この人には見せないでおこうとかできるんで、便利ですよこの身体」

 

 

 なんか愛莉を見ていると、幽霊姿も別に悪いことではないと思い込み始めてしまう。天国も猥褻な施設以外の娯楽なら何でも揃ってるみたいだし、意外といいところなんじゃね? 自分の姿を任意で見せる見せないを切り替えられるらしいので、家族には見せて、風呂を覗き見するときは他人に見られないようにするなんて芸当も可能だ。あれ? もしかして肉体よりも霊体の方が快適??

 

 

「とりあえず、穏便に事が済んで良かったよ」

「そうですね。久々に零さんにも会えて面白い姿も見られましたし、満足しました!」

「ということは、成仏してくれるってことか?」

「マットプレイができなかったのは残念ですけど、また天国から降りて来ればいいだけの話ですしね!」

「また来るのかよ……」

 

 

 そんな簡単に天国と現世を行き来できるのなら、本格的に天国に居住を構えた方が良くないか? 天国ってもっとこう女神様とか天使とか格式高い印象があるけど、ここまで放任主義なのはビックリしたよ。

 

 

「それでは、また今度!」

「本当にまた来るつもりなのか……って、おいおいおいおい!!」

「なんですか?」

「なんですかじゃねぇよ! どうして……どうしてバスタオル姿で壁をすり抜けられるんだ!? 白の喪服姿じゃないとダメだって言ってただろ?」

 

 

 愛莉は何事もなかったかのように壁から上半身だけをこちらに向ける。一反木綿のような下半身は風呂の壁の中、つまり、衣服や姿に関係なく霊体は壁をすり抜けられることの証明だった。

 

 ―――――と、言うことは……?

 

 

「あぁ、あれも嘘です。零さんの焦りに焦る可愛い姿を見るためにね♪」

「お、お前って奴は……」

「あっ、もう時間だから帰らないと。天国でお昼ご飯の時間になっちゃいますんで、私はこのへんで! それではアデュー♪」

「おいこら待てやぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 幽霊少女、本城愛莉。

 ただの淫乱女子かと思っていたが、秋葉に近い腹黒さを知ってしまった。またあの幽霊、いや悪魔が俺の元へ襲来するとなると、今から気が滅入りそうだ……。

 




 秋葉さんもそうですが、小説内のキャラに人外がいるとネタの範囲が大きく広がるので幽霊ちゃんには感謝しかないです(笑)
最後にまた来るとは言っていましたが、次はいつになることやら……


 少し早いですが、今回はスクフェス編の1周年記念回でした。スクフェス編の記念回なのにμ'sもAqoursも虹ヶ咲も出ていないのは、まあ仕様ってやつです(笑)
スクフェス編は前回の話で虹ヶ咲の秘密が明かされたことで物語が大きく進展しましたが、まだまだ続く予定です。虹ヶ咲のこともそうですが、Aqoursとの恋愛模様もしっかり描いていきますよ! もちろんみんなの先輩であるμ'sにも活躍の場が……?



まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ルビー色の誘い

 合同合宿編、18話目
 劇中での合同合宿も最終日に突入します。それゆえに物語も大きく進展するので、しばらくシリアスっぽい話が多くなるかも……?


 

 μ'sとAqoursの合同合宿、3日目。遂に合宿は最終日となり、合同練習もいよいよ大詰めを迎えていた。実際に2グループ合同で練習を始めたのがこの合宿からなのだが、お互いに相性が良かったためか歌もダンスも息はピッタリだった。そのためこの3日の練習だけでもお互いの実力は大きく上がり、このままスクフェスに出ても他の上位グループと比べて遜色ないだろう。

 

 特にμ'sは3年程度のブランクがあったのだが、眠っていた高校時代の能力を見事に取り戻した。Aqoursも憧れのμ'sと一緒に練習できて士気が上がったためか、いつも以上のやる気を見せていた。初対面の子たちが多くて最初はみんなが気兼ねしないか心配だったけど、海に来て開放的な気分になったってこともあるのだろう、みんなしっかり打ち解けられて良かったよ。いくら一緒に練習しようとも、気まずい仲だと本来の実力は発揮されないだろうからな。

 

 そんな感じで既にお互いの息は合っているのだが、だからと言って練習をサボる訳にはいかない。今日は最終日だってことで遊びの時間を長く設けてあるのだが、それだけ練習の内容は濃密となる。だがμ'sもAqoursもやる気は満々で、みんなラストスパートに向けて気分は上々だった。

 

 しかし一方で、みんな俺と顔を合わせると様子がおかしくなる現象が発生していた。朝の挨拶も元気がなかったり、ばつの悪い顔をしたりとテンションが低い。メンバー同士で喋っている時は普通に練習への意気込みが見られるので、どうやら悩み事があるってことではなさそうだ。なんか、20人以上の女の子から微妙な反応をされると結構心に来るな……。女の子の様子がおかしいといつも何かやっちまったのかと過去を振り返ってしまうのだが、今回に限っては何もやらかしてない自信がある。だとしたら一体何が起こったんだ……?

 

 どうやってみんなの精神面をケアしようか悩みつつ、俺は旅館内を歩いていた。もうすぐ練習が始まるので行かなければならないのだが、正直、俺は顔を出さない方がみんな集中できるんじゃないかと思ってしまう。みんなの様子がおかしい理由が分かるまで、下手に動かない方がいいのかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、とある一室の扉が開いていることに気が付く。ここは俺たちの部屋の1つなのだが、どうして扉が開いてるんだ? まさかμ'sとAqoursが来ていると嗅ぎつけた変態野郎が部屋を漁っているとか? 高級旅館なので部屋のセキュリティも厳重で、そう簡単に侵入できるはずはないが一応確かめておくか。

 

 俺は半開きの扉を開けて部屋に侵入する。襖の奥が寝室となっているのだが、嫌な予感が的中したのか何やらゴソゴソ音が聞こえる。みんなは既に練習のため外に集まっているはずなので、ここにいるとは考えににくい。だったらやっぱり不審者? そう考えた俺は、奥の部屋にいる誰かに気付かれないように音を立てずに襖を少し開けた。

 

 そして案の定、部屋に人がいた。

 だがその光景に思わず俺は声を上げてしまう。

 

 

「な゛っ……!?」

「ピギィ!? せ、先生!?」

 

 

 部屋にいたのはルビィだった。しかも着替え中で下着姿の……。

 ルビィの下着は上下とも可愛らしい、年相応なピンク色の下着だ。相変わらず身体は華奢で出るところも出ていない中学生並みの身体だが、ピンク色というのは大人の色気を表す色なこともあってか妙に艶っぽい。しかも肌の艶も相まってその色気が余計に醸し出されている。夏場で練習しているのにも関わらず、肌の色が白く輝いているのは何故だろうか? それはルビィだけでなくみんなもそうなのだが、女の子の肌を守りたがる性格は思わず感心しちゃうよ。まあ今はそんなことよりも、目の前で硬直しているルビィに対してどう声をかけるかだが……。

 

 

「あ、あのさ、みんなもう外に集まってるんだけど……」

「し、知ってます! でも……」

「でも?」

「き、今日の分の下着を持ってくるのを忘れちゃって……」

「下着って、今着てるじゃねぇか」

「これ、お姉ちゃんのなんです……」

「えっ!? お前、人の下着を着ける趣味あったの?」

「そんな偏屈な趣味はありません!!」

 

 

 なんだ、てっきり姉の下着を勝手に着けて、意外とブラジャーが小さいことを陰でほくそ笑んでいたのかと思ったぞ。実際にルビィとダイヤの胸の大きさはそこまで差がある訳でもないので、大きさで姉に離されていないことを確認して安心感を持ちたかったのかもしれない。どちらにせよ他人の下着を勝手に装着する奴は、度し難い変態だってことだ。

 

 

「間違えて練習用の下着を1日分しか持ってきてなくて、今日の分がないことにさっき気付いたんです」

「でもどうしてダイヤの下着を?」

「お姉ちゃんは用意周到な性格なので、持っていくものはほとんど予備を携帯するんです。そう思ってお姉ちゃんのカバンの中を探してみたら……」

「案の定あったって訳ね」

「そうです。練習に遅れているのも、皆さんが部屋から去った後でないとお姉ちゃんのカバンを触れないので……。下着を忘れただなんて、お姉ちゃんに言うのも恥ずかしいですし……」

 

 

 ルビィって引っ込み思案に見えるが、意外と行動力があったりする。今回のように他人のカバンを漁るというプチ犯罪行為を見れば分かる通り、気が動転している時こそその性格の真価が発揮されるのだ。また自分の好きなもの、例えば有名なスクールアイドルを目の前にした時なんかは普段のおとなしい彼女とは思えないくらいに騒ぎ立つ。真っ先にサインを貰いに行ったり握手をせがんだりと、人付き合いが苦手な子だとは到底考えられないのだ。

 

 

「あ、あのぉ……」

「なんだ?」

「心配して探しに来てくださったのに、こんなことを言うのは大変申し訳ないんですけど……ジロジロ見られると恥ずかしいです」

「えっ、あっ、そ、そうだな。なんかもう自然と眺めてたよ、綺麗だからさ」

「き、綺麗!? ルビィが綺麗?? え、えへへ、綺麗なんて言葉はお姉ちゃんだけのものだと思ってたので、ちょっと嬉しいですね」

 

 

 見るなと突き放してきたかと思えば、俺の言葉でにんまりとするルビィ。確かにルビィは『綺麗』という言葉よりも『可愛い』印象の方が断然強く、『大人の魅力』を魅せるダイヤを彼女は誰よりも尊敬していた。だからこそ自分の姉と同じ魅力を持っていると気付かされ、あまりの嬉しさに笑みが零れてしまったのだろう。ホント、単純だけどそこがコイツの可愛いところでもあるんだよな。

 

 それにしても、女の子の下着姿を見てもここまで冷静でいられるとは、やはりμ'sのみんなで見慣れたおかげかもしれない。異性の先生と生徒が、しかも生徒の女の子は下着姿で同じ部屋にいるこの光景がどれだけ異質なのか、ルビィに言われるまで気付きもしなかった。それだけ俺の日常が女の子で溢れかえっているってことだろう。嬉しいことだけど、ただでさえ女性へのデリカシーがなくなっているのにこれからは皆無になっちまいそうだな……。

 

 

 そんな中だった。部屋の外の廊下から大きな声が聞こえてきた。

 

 

「ルビィ! どこで何をやってますの? 皆さんもう集まってますわよ~」

 

 

 廊下からダイヤの声が室内にまで響き渡る。声がどんどん大きくなっているので、恐らくルビィがいるこの部屋に一直線に向かってきているのだろう。このままでは部屋の隅にいる下着姿の妹と、その前に仁王立ちしている教師の構図が明るみに出る。そうなってしまえばあのお堅くシスコンのダイヤのこと、俺をロリコン犯罪者認定して世間に晒し者にすることだろう。

 

 海未やダイヤのような容赦のない子たちに対しては、いくら親しくなろうとも今のようなヤバい状況になると警戒しまう自分がいる。特にこんな状況を見られたら最後、どのような仕打ちを受けるか分かったものじゃない。だとしたらどうするか?

 

 

「ひゃっ?! せ、先生!?」

 

 

 自分でもどうしてこんな行動を取ったのか分からない。でも気付いた頃には、俺とルビィは2人一緒に押し入れの中にいた。そして間もなく、ダイヤがさっきまで俺たちのいた部屋に入ってくる。間一髪で難を逃れたのだが、ルビィはもちろん俺自身も何故この状況に陥っているのか、冷静になって初めて悟った。逆にお互いに黙って唖然としていることで、ダイヤに俺たちの存在がバレないと思えばそれで良かったのかもしれない。

 

 

「あら? ここにはいないようですわね……」

 

 

 あまりの緊張感に心臓の鼓動が止まらなかった。下手に音を立てたら見つかってしまう恐怖もあるが、それ以上に押し入れの中でルビィの口を塞いで押し倒してるこの状況に無性な興奮を感じている。下着姿の女の子の口を封じながらマウントを取っているこの光景、誰がどう見ても紛うことなきレイプ現場にしか見えない。もちろん俺自身はルビィを襲おうなんて考えちゃいないのだが、偶然にも作り出されたこのシチュエーションに謎の高揚感を抱いていた。

 

 

「全く、あの子ったら一体どこへいったのでしょう……。服をこんなにも散らかしたままで……」

 

 

 早く部屋から出て行ってくれ!

 心の中でずっとそう叫んでいる。だがダイヤは去るどころか、ルビィが置きっぱなしにした服の片づけをしているようだった。面倒見が良いと褒めるべきなのか、それともシスコン過ぎるだろとツッコミを入れるべきなのか。どちらにせよ練習が始まりそうなんだから早くそっちへ行けと願うばかりだ。

 

 そして、いつの間にか俺の手が緩んでいたのか、ルビィは自ら口の拘束を解く。

 

 

「ぷはっ! 先生どうして――むぐぅ!」

「悪いと思ってるけど、今だけは黙っててくれ!」

 

 

 大声を出しそうになった女の子の口を無理矢理塞ぎ、その場で組み伏せる姿はまさにレイプ魔そのものだ。でも一旦押し入れに逃げ込んでしまった以上、観念して外に出たら最後、それこそ本当にレイプ魔として通報されるに違いない。だから窮地に追いやられた今だからこそ、自分の行動が如何に非道でも一貫性を持たせなければならないのだ。ていうか俺も自分の行動に戸惑ってるから、そうしないととてもじゃないが落ち着いていられない。

 

 しかも、俺とルビィに更なる試練が襲い掛かってくる。

 今の季節は夏、冷房も何もついていない部屋。そんな部屋の押し入れともなれば、中は灼熱地獄だ。しかも俺たちは密着し合っているため、お互いの体温による熱さも伝わってくる。まだ押し入れに閉じこもって数十秒しか経っていないのに、俺たちの全身はすでにびしょ濡れだった。お互いの吐息も相まって、汚いレイプ現場からアダルティな雰囲気に様変わりした。

 

 俺がルビィを押し倒しているこの状況、こちらの汗が彼女の顔に滴り落ちる。そして彼女の汗は頬を伝い、顔を挟み込むように床に着いている俺の手に垂れていた。

 そして、女の子特有の甘い香りが俺の思考を乱してくる。最初この押し入れに入った時は古い木の匂いが充満しており、当たり前だがそこまでいい匂いではなかった。だがこうしてルビィと密着していると、そんな煩わしい木の匂いなど微塵も感じない。Aqoursの中でもトップクラスに幼児体型なルビィだが、俺の思考が乱されていることも相まって彼女の艶やかな姿に没頭していた。

 

 いつもとは違う雰囲気のルビィに目を奪われていると、彼女から先に話を切り出してきた。

 

 

「先生は、ルビィのこと、そのぉ……好きですか?」

「えっ、どうしてそんなことを聞くんだ?」

「答えてください。それだけで、ルビィの心は落ち着きますから……」

 

 

 男に屈服させられているこの状況において、全く関係のない話題を持ち出すってことは、それだけその質問に重大な意味が込められているのだろう。ただの素朴な質問ではない。ルビィの人生を変える、大きな何かが含まれている。こうやって沈黙しながら色々考察している間にも、俺たちの包む熱気は激しくなり、もう彼女の顔には大量の汗が滲んていた。もちろんこの熱気だからってのもあるだろうが、一番の要因は極度の緊張から身体が熱くなっていることだろう。小心者のルビィのことだ、こんなに狭く、暗く、暑い状況で大きな男に組み伏せられ、しかも自分の人生を賭けた質問を放ち心が強張っているこの状況は彼女の寿命を減らしているに違いない。

 

 しかし、そんな過酷なシチュエーションであっても、俺の答えは揺るがない。例えどれだけ思考が乱されていようとも、自分の根底にある想いだけは決してブレることはないのだ。

 

 

「好きだよ。愛してると言ってもいい」

「そう、ですか……良かったです」

 

 

 俺の答えを聞いて、ルビィは安堵していた。

 疑問に思ったのは、どうして今更そんな質問を投げかけてきたのかってことだ。お互いの気持ちなんて前から知っているはずなのに、なぜ今一度ここで確認をしたのかが分からない。しかも自分が襲われそうになっているこんな状況で……。

 

 

「安心しました。先生がちゃんとルビィのことも見てくれていて……」

「そんなの当たり前だろ。どうしてそんなに不安になってんるんだ……?」

「い、いや……。それより、もっとルビィの好きなところをたくさん言ってください!」

「へっ、なんだよそれ……」

「なんでもいいです。本当になんでもいいので!」

 

 

 ここまで気迫のあるルビィを見るのは初めてだった。いつもの彼女ならスクールアイドルの話題くらいでしか前のめりな性格にならないのに、今は食らいつくように俺からの言葉を求めている。まさに肉食系の獣のようで、さっきまでおとなしく俺に押し倒されていた彼女とは別人みたいだ。もう自分が押し入れの中で監禁されているとか、下着姿のままであることなんて忘れているだろう。つまり、羞恥心を忘却してしまうほどに俺からの言葉を心待ちにしているってことだ。相変わらず、女の子の気持ちを汲み取るって難しいよ。

 

 でもルビィが誉め言葉をご所望ならば、それに応えてやろう。

 

 

「お前は自分の身体のありとあらゆるところが小さいことにコンプレックスを抱いてるみたいだけど、俺は好きだよ。お前の可愛い仕草を見るたびに愛らしくなって、思わず抱きしめたくなる。それに、スクールアイドルにかける情熱がAqoursの中で人一倍強いことも知ってるよ。運動神経もなくて練習はいつも失敗と苦労の連続なのも良く知ってる。だけどお前は頑張り屋さんだから、1人でこっそり練習してるもんな。気弱だけど、Aqoursのメンバーとして一生懸命な姿を見て、俺の心も動かされたよ。お前を絶対に最高のスクールアイドルにしてやるってな。既にお前はたくさん輝いてるけど、これからもっともっと輝ける。だから……って、どうした? 顔真っ赤だぞ?」

「そ、そんなに褒められると恥ずかしすぎると言いますか、はい……」

「お前が言えって言ったんだろ。自爆すんなよ……」

「そうなんですけど、安心しましたし、何より嬉しかったので……」

 

 

 どうしてここまで褒められたかったのかは謎だが、ルビィが満足したのならそれでいっか。なんか普通のプロポーズっぽくなっちゃったけど、早かれ遅かれいつかは言うことにはなってたんだ。それをルビィが前借したと思って納得しておこう。まあこんな薄暗いロマンの欠片もないところのプロポーズは、逆に印象に残っていいのかもしれないけど。

 

 俺の褒め殺しに対して嬉しそうに笑うルビィを見ていると、さっき彼女が抱いていた不安の原因がマジで分からなくなってくる。ちゃんと自分を見てくれていたと言っていたので、もしかして俺に見限られたと思ったのか? 俺は自分のことを好きになってくれる女の子を絶対に蔑ろにしない。でもこうして不安にさせてしまうってことは、俺の気持ちが全部彼女に伝わっていないのかもしれない。いくらたくさん恋人がいたとしても慣れないな、恋愛ってやつは。

 

 そう思いながら、少し気を緩めてしまったのが事件の始まりだった。

 閉鎖空間での熱さに体力が低下していたのもあってか、気の緩みだけでなく腕の力まで弱くなってしまった。その結果、ルビィにマウントを取っていた俺の身体が一気に下降する。そうなればもちろんのこと、彼女の身体と俺の身体がほぼ密着状態となった。ヤバいと思って寸止めしたので完全密着は逃れたが、もうお互いの顔と顔が握り拳1つ分くらいまでの距離に接近し、思わずマウスtoマウスが発生しそうだ。

 ちなみにどれだけ俺たちの身体が密着しているのかと言うと、ルビィの慎ましやかな胸が俺の胸元に当たっているくらい。つまり、身体はほぼ密着状態という訳だ。どれだけ小さな胸でもおっぱいはやはりおっぱいであり、その柔らかな感触は大きくても小さくても変わらない。ルビィもしっかり女の子として成長してるんだなと、変態の目線ながらに実感した。

 

 これまでで一番逼迫した状態になりながらも、お互いは沈黙を貫くばかり。まずは今なにが起こっているのかの状況判断で時間がかかり、かつ、相手にどんな言葉をかければいいのか考えるだけで精一杯だった。もういっそのこと黙ったままルビィの身体を堪能しちゃおうとか、雑念が入ってしまうくらいにはこのパニックさに動揺している。

 

 そして、またしても先陣を切ったのはルビィだった。

 

 

「あ、あの!」

「えっ、な、なんだ……?」

「ご存知かもしれませんけど、ルビィ、男の人が苦手なんです。どうしても怖いという印象が拭いきれなくて……。でも先生だけは違います。こうして押し倒されていても嫌な気持ちは全然しないといいますか、むしろもっと先生のことを知りたくなっちゃって。だから教えてください。ルビィに先生のことを。男の人のことを、もっと……」

 

 

 堕ちている。完全に堕ちている。

 もちろん空気に流されていつもよりも積極的になっているのは分かるのだが、それでもなおルビィの言葉を聞いた俺の嗜虐心は大きく唆られた。男にそんな弱みを見せたら最後どうなるのか、恐らくコイツは想像していないだろう。ここから5秒もあれば、彼女を大人の階段へ昇らせることができる。そんな一触即発な状況なのにも関わらず、ルビィは俺から目を離さない。むしろ俺を望んでいる。据え膳食わぬは男の恥とはよく言ったものだが、自分の中の欲望に従うべきか、それとも倫理観を守り抜くべきなのか――――――

 

 

 その時だった。

 押し入れの中に冷たい空気と眩しい光が入り込んできた。それもそのはず、押し入れの戸が完全に開き切っていたのだ。

 そして、押し入れの外には未だに部屋にいた黒髪少女が1人。

 

 黒澤ダイヤ。

 俺が現在絶賛押し倒し中の黒澤ルビィの姉であり、極度のシスコン。しかも風紀を乱すような猥褻行為は徹底的に取り締まるほどの堅物人間。そんな子が目の前で繰り広げられている光景を見たら、どんな反応をするのかもうお察しだった。

 

 

「あ、あ、あなたたち、一体何をやってますの゛ぉ゛お゛お゛お゛ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?」

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 今回のような個人回を執筆すると、途端にその子にハマってしまうという単純な私がいます。そのせいで今回はルビィ推しとなってしまい、ちょっとエッチなことをさせたいなぁという零君並みの嗜虐心が湧いて出てしまいました(笑) 
読者の皆さんも、私の小説の個人回を見てそんな経験はありますかね??

 次回はルビィとダイヤの黒澤姉妹回となります!


まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ダイヤモンドの焦燥

 合同合宿編、19話目
 前回のルビィ回からダイヤも加わり、今回はダイヤ&ルビィの黒澤姉妹回です。登場人物は彼女たちだけですが、Aqoursのみんなを登場させた方が話的には合ってると思いちょっと後悔気味(笑)


 

 自分の妹が閉鎖空間で男に押し倒されている現場を目撃したら、一体どんな反応をするのか。そんなトリビアの種が今まさに解決した。

 ダイヤは目の前の状況に唖然としていて、開いた口が塞がらないようだ。俺たちの情事を見た瞬間に大声は上げたのだが、それも衝動的に出た怒声でありその時はまだ眼前に起きている惨事に理解が追い付いていなかったのだろう。

 ちなみにそれは俺たちも同じことだ。押し入れの戸が開けられ、部屋の明かりと生暖かい空気が入り込んできた瞬間に我に返った。あと少し、数秒遅かったら俺はルビィの下着を脱がしていたに違いない。そう、ルビィは下着姿でもある。しかも姉の下着を着けていることは、その所持者であるダイヤなら一目瞭然。そんな光景を見たダイヤはこう思うだろう。

 

 俺がルビィに自分の下着を着けさせ、押し入れに監禁して逃げ場を失ったところを襲おうとしていたと。

 もちろん冤罪なのだが、目の前で繰り広げられている実情に物の真贋は通用しない。いくら言い訳を連ねても、その目で捉えた事実の方が圧倒的に信憑性があるのと同じだ。

 

 お互いに顔を見つめ合うこと数秒。夏とは思えないほどの冷たい空気を破ったのは、先程まで硬直していたダイヤだった。

 

 

「とりあえずルビィ、先に服を着なさい。話はそれからですわ」

「う、うん……」

 

 

 怒りに任せて怒鳴り散らすかと思っていたが、ある程度の余裕はあるみたいだ。

 でも俺には分かる。ダイヤの沸点近くで今にも"怒"の感情が暴発しそうになっていることを。指一本触れるだけで胎動していた憤怒が解放され、俺に怒涛の罵声を浴びせることも。ルビィも一触即発のこの空気を察しているようで、恐る恐る自分の練習着に着替えた。

 

 

「言いたいことはたくさんありますが、まずはどうしてさっきのような状況になっているのかを聞きますわ。練習の時間も迫っているので、簡潔に答えてください」

「あれ、意外と冷静なんだな」

「怒りに任せて叫ぶなど、そんなはしたない真似はしません。むしろ被害者が愛しのルビィだからこそ、冷静に状況を分析して然るべき罰を与えたいのです」

「目、こえぇよ……」

 

 

 冷静にとは言っているが、俺を睨む目付きの鋭さはまさに刺し殺してくるようだ。最愛の妹を穢されたと思っているせいか、俺に対する圧力はいつも以上に重い。こんな雰囲気のダイヤを見ると、本当に現在絶賛恋愛中の関係とは思えないな……。しかも自分の元生徒の圧力に押し負けそうになっているから、教師の面目どころか年上としての威厳も失っている。もうプライドなんて捨ててもいいから、彼女の鬱憤を暴発させないようにだけ意識を集中しよう。

 

 

「この部屋のドアが開いてたから、不審者がいるんじゃないかと思って入ったんだよ。そうしたらルビィが着替え中だったんだ。間もなくしてお前の声が聞こえたから、下着姿のルビィと一緒にいるところを見られたらヤバいと思って、気付いたら押し入れの中に……」

「なるほど。今の発言に、嘘や偽りは1つもありませんね?」

 

 

 その質問は俺ではなくルビィに投げらた。自分に振られるとは思っていなかったルビィだが、さっきの話は紛うことなき事実なので彼女は首を小さく縦に振る。それを見たダイヤは、そう、と呟いて再び俺と対面した。こんな張り詰めた空気で口裏合わせの言い訳ができるはずないと思っているのか、一応俺たちの言い分は聞き入れてくれたみたいだ。

 

 そういや、ダイヤはルビィの下着を見て何も思わなかったのだろうか? 自分の下着なのに……。

 

 

「ルビィが私の下着を着けている件は、まあいいでしょう」

「なんだ、知ってたのか……」

「大方、ルビィが下着の替えを忘れ、私の下着を拝借したってところでしょう?」

「さすが、妹のことならなんでも分かるんだな」

「当たり前ですわ! 愛するルビィのことですから、申し訳なく思いながらも私のカバンを漁っていた姿が思い浮かびます。でもそんな罪悪感を抱くということは、ルビィの中に優しさがあるということ。だから私は許すのです」

「じゃあ俺のことは?」

「徹底的に尋問しますわ」

「なんでやねん!!」

 

 

 この扱い差、やっぱりシスコンを極めてやがるなコイツ……。まあ俺も人のことは言えないが、ダイヤの場合はルビィを溺愛しすぎだ。確かに妹が兄の下着を盗んだとなればド変態だが、妹が姉の下着を使ったとしても普通の貸し借りにしか見えない。姉妹なら割と日常的なことなのかもしれないな。それでもダイヤがルビィに捧げる愛は異常だけど……。

 

 

「尋問するとは言いましたが練習の時間も迫っていることですし、今日のところはお咎めなしにしておいてあげますわ」

「えっ、マジで?」

「勘違いしないでください。μ'sの皆さんに迷惑をかけるのが申し訳ないだけで、先生には聞きたいことが山ほどあるのですから」

「だから、ルビィのことは不慮の事故だって言っただろ。それに疚しい気持ちは一切ない」

「それよりも、もっと聞きたいことが私にはあるのです……」

 

 

 さっきまでの"鬼"を彷彿させるような顔をしていたのに、唐突にしおらしくなりやがった。極度のシスコンの癖に自分の妹が押し倒されてる現場を見て、その犯人を見逃すなんて愚策を取る訳がない。つまり、ダイヤは現状よりも気になってることがあるってことか。そういやルビィも俺に押し倒されていたのにも関わらず、何故か俺に告白文を強要させてきた。ただ単に黒澤姉妹が不思議ちゃんなだけなのか、それとも何か別の事情が……?

 

 幸いなことに冷たく張り付いていた空気はある程度緩和されたので、別の話題に切り込む余裕はある。腑に落ちなくてモヤモヤするくらいなら、今ここで彼女たちの気持ちを明らかにしてやろう。

 

 

「なぁ、どうしたんだいきなり黙り込んで? いつも俺に容赦ないのは知ってるけど、こんな時こそ思っていることを吐き出していいんだぞ?」

「…………」

 

 

 ダイヤは俺と目を合わそうとせず、沈黙を貫いていた。そしてそれはルビィも同じで、押し入れの中で俺に告白をせがんでいた肉食系の彼女の面影はない。先程の張り詰めていた空気が一転、不快で淀んだ雰囲気に様変わりしていた。

 

 そういや、今朝のみんなの様子もこんな感じだった気がする。俺に対してどこか避けているような、会話することを渋っている、そんな感覚。類まれないほどに疎外感を抱いたのだが、今のダイヤとルビィの様子を見ているとまさに今朝の出来事を思い出す。まさかコイツら、その時と同じことで悩んでるのか? 昨日までの女の子たちは向こうから積極的に話しかけてきて対応できないくらいだったのに、今日になった途端この反応だ。昨日と今日の境に、μ'sとAqoursに何があったのだろうか……?

 

 昨日と今日の境と言えば、俺は虹ヶ咲のスクールアイドルたちと会っていた。特別なイベントと言えばそれしかないが、もしかして誰かに会っているところを見られてた? 俺がみんなに内緒で別の女の子と会っていると知ったから、こうして不信感を抱いているのかも……。

 でも、μ'sは俺が別の女の子と遊び歩いていることくらい知っている。大学の女友達とたまにだが遊びに行ったりもするし、μ'sのみんなはそれを容認してくれている。だけど穂乃果たちもAqoursと同じく、今朝から微妙な表情をしていた。俺が別の子といることなんて慣れているはずなのに……。

 

 ん? そういや虹ヶ咲の子たちと別れて1人になった時、携帯が通話状態になってたよな。

 ま、まさか、あの通話先にμ'sやAqoursがいたとしたら?? もしずっと通話状態だったら、秋葉と虹ヶ咲の子たちの話は全てみんなに筒抜けだったってことだ。その時に語られたのは俺と歩夢たちの過去。しかも意外なことに強い繋がりがあり、みんなよりずっと昔から強固な絆で結ばれていた。まあ当の本人である俺が忘れてしまっていた訳だが、それを聞いた穂乃果や千歌たちが何も思わないはずがない。

 

 もしかしたら、そのことでみんな今朝から様子が……?

 

 

「聞いちゃったんだな、昨晩の話を」

 

 

 少し間があったが、ダイヤとルビィは同時に小さく頷いた。

 やっぱり、昨晩の会話は全部みんなに聞こえてたんだ。どんなカラクリで俺の携帯を遠隔操作したのかは知らないが、恐らく秋葉の仕業だろう。μ'sとAqoursにまで俺の過去話を聞かせたかった理由は分からないが、アイツはまだ何かを隠してる気がする。毎度のことながら、一筋縄ではいかない奴だからな。

 

 こちらから話を始めてしまったものの、この先どのような話題を振ればいいのか考えていなかった。事実確認を済ませたい一心だったので仕方のないことだが、図星であった以上ここで話を切り上げるのは彼女たち的にも不満だろう。弁解しようにも真実を直接耳にしているから、適当なことを言ってこの場を凌ぐなんてことはできない。

 

 どうする? どうすればダイヤとルビィの心を解放できる……!?

 

 

 すると、この空気を破ったのは意外にもルビィだった。

 

 

「先生は、ずっとルビィたちの先生でいてくれるんですよね? ずっとAqoursの顧問でいてくれますよね!?」

「どうしたんだ急に……。そんなの当たり前だろ。教育実習生の俺はいなくなったけど、お前らAqoursの顧問であることは変わらないよ」

「そ、そうですよね……」

「何を決まりきったことを今更――――ってルビィ、お前涙出てるぞ!?」

「ゴメンなさい! やっぱり先生はルビィたちのことを捨てないんだなって思うと、嬉しくなっちゃって」

「はぁ?」

 

 

 見捨てた? 誰が? 俺が??

 ルビィの質問の意味が分からなかった。だが質問をしてきた時の彼女の悲しくも寂しい表情は、これでもかと言うくらい脳裏に焼き付く。彼女たちが抱いている負の感情は、俺の想像以上に膨らんでいるのかもしれない。せっかく安心しているのに話を蒸し返して悪いような気もするが、ここはしっかりとお互いに意思疎通しておこう。今を逃すとしばらく心がすれ違ってしまう、そう思ったから。

 

 

「聞いてたんだな、俺と歩夢たちの会話」

「はい……そうです」

「みんな聞いてたのか?」

「はい……」

 

 

 やはりそうだったか。ということは、朝からみんなが俺を妙に避けてたのは全員ルビィやダイヤと同じ理由だったってことか。その理由はこれから聞かないと分からないけど、少なくとも俺が何かをやらかしたからみんなの反応が微妙だった訳じゃないと分かって安心したよ。

 

 俺とルビィの会話を黙って聞いていたダイヤだが、遂に彼女も自分の気持ちが抑えられなくなったのか俺と真っ向から向き合ってきた。

 

 

「私たちが特別じゃない。皆さん、まずそう思いましたわ。μ'sの皆さんはどう思っているのかは分かりませんが、Aqoursは私を含め少し疎外感を覚えてしまったのです。先生が体験した運命。虹ヶ咲の方々と出会い、壮絶な事件を乗り越えて結ばれた絆。どれを取っても私たちは敵わない、そう思ってしまったのです」

 

 

 確かに、あの話を聞く限りではダイヤたちがそう思っても仕方がない。そう結論付けてしまうくらいには俺と歩夢たちとの過去は壮絶で悲痛だった。絶望の淵から助け出してくれたのはいいものの、そのお礼を言う間もなく恩人である俺の記憶は消えてしまった。しかもその頃の辛い記憶を思い出さないように、俺が目覚めた後も歩夢たちは俺との関係を絶たなくてはならなかったのだ。出会ってしまったら、あの頃の辛い思い出がフラッシュバックしてしまうかもしれないから。そのために、アイツらは俺と初対面を装うしかなかった。本当はお礼を言いたい、自分の想いを伝えたいはずなのに……。

 

 その過去を鑑みるに、歩夢たちが真実を話し、再びあの頃の俺と再会できたことは何よりの幸福だったに違いない。みんなも言っていた、ずっとこの時を待っていたんだと。この時のために自分たちの魅力を磨きに磨き上げ、俺の隣に相応しい女になることが歩夢たちの目標であった。

 そんな過去と夢を聞かされれば、そりゃAqoursのみんなは衝撃を受けるに決まっている。ダイヤが『私たちには敵わない』と言った理由も、何となくだが察した。Aqoursとの出会いはさほど特別なではなく、教育実習生が教育実習先の生徒に出会った。ただそれだけだ。セクハラ紛いなことはあったけど、言ってしまえばそれだけなんだ。虹ヶ咲の子たちと比べれば、自分たちが先生と育んできた思い出が霞んで見えるのは分からなくもない。俺とAqoursは出会ってまだ数か月だが、一緒にいた時間はいつも濃密で、もう心で繋がっていると言っても過言ではない。それは俺も彼女たちも感じていただろうが、虹ヶ咲の過去を聞いてしまったらそれさえも薄く見えるのだ。それはもう事実だから仕方ないと割り切るしかないし、俺もその事実があること自体は認めてしまっている。

 

 だが、認めているからと言って屈する必要はない。

 だから、俺は――――――

 

 

「関係ないんじゃないか? 想いや絆の強さを誰かと比較するなんて、そんなの無意味だと思うけど」

「えっ……?」

「誰かを好きって気持ちを天秤にかけること自体が間違ってるんだよ。逆に聞くけど、ダイヤもルビィも自分以外の誰かが俺を好きだったとして、お前たちは自分の気持ちを抑え切れるのか? 黙ったまま見過ごせるか? 自分の想いより向こうの想いの方が強いからと言って、それですぱっと諦めて満足できるのか?」

「そ、そんなことはありません!!」

「ルビィもです! あ、諦めたくないです!!」

「ようやく本音が出たな、それでいいんだよそれで」

「「あっ……」」

 

 

 薄々感じてはいたが、2人共与えられた情報を鵜呑みにし、衝撃的な事実に心を揺さぶられていただけで本質をしっかり考えていなかった。誰かを好きという気持ちに優劣なんて存在しないことなんて、ちょっと考えれば分かるはずだ。それなのにその思考に辿り着かなかったってことは、秋葉や歩夢たちの話が相当ショッキングに感じられたからに違いない。もしかして、千歌たちも同じ理由で悩んでいるのかも。確かにあの話を聞いたら最後、自分たちと俺との繋がりよりも、虹ヶ咲と俺の繋がりの方が強く思っちゃっても仕方ねぇよな。虹ヶ咲の子たちに自分の好きな人が取られるという不安を味わっても仕方のないことだ。

 

 

「それに何度も言うけど、俺はお前たちのずっと隣にいるから。もちろんμ'sも虹ヶ咲も、誰1人として隣を離れるつもりはない。むしろ俺からみんなを引き寄せてやる。女たらしとか、侍らせてるとか、何を言われても構わない。それでみんなが幸せになるのなら、1人1人の笑顔が見られるなら、俺はそっちの道を選ぶよ。だから疎外感なんてもう捨てちまえ。これからは寂しさを感じさせないくらいに愛してやるから。そう、ウザいと思われるほどにな」

 

 

 もう何年も非道を歩み続けているんだ、今更たくさんの女の子を愛したって罪悪感など微塵もない。むしろこの道をずっと突き進んできたからこそ、俺の手から誰も離さない。そのためには、今Aqoursの抱く不安を早いところ解消してやらないと。これまでは下手な不安を煽らないようにμ'sとの関係や虹ヶ咲との確執も黙っていたけど、いよいよみんなに全てを打ち明ける時が来たってことだ。

 

 新たな決心を胸にしたところで、ダイヤとルビィが何故か口に手を当ててくすくす笑っていた。さっきまで涙を流していたり暗い表情だったくせに、いきなりどうしたんだコイツら……。

 

 

「おい、なに笑ってんだ……?」

「い、いえ、浮気性を真面目な顔で語っている姿が逆に清々しすぎて、思わず笑いが……フフッ」

「ルビィも、安心したら急に……ふふっ」

「酷すぎるだろ……。こっちは真剣にお前らと向き合ってだな……」

「分かっています。最低なところが先生の性でもありますから、むしろ言い切ってくれたことで私も安心しました」

「ルビィももっと先生のことが好きになりました。ここまで優しく、大事にされているなんて幸せです!」

 

 

 梨子の時と同じだ。俺が真面目な話をすると、みんなこうして笑顔になる。もちろん女の子の笑顔を見られるのは嬉しいんだけど、こっちは神経を尖らせているが故かちょっと拍子抜けしてしまう。ま、終わり良ければ総て良しってか? いや、むしろ本番はこれからなのかも……。

 

 

「先生って、真面目な顔は似合わないって言われません?」

「ん? どういう意味だ??」

「いえ別に特別な意味は。でも自信満々で余裕ぶっているいつもの雰囲気の方が、私は好きですわ」

「ルビィもです! 頼れる大人って感じがして、つい甘えたくなっちゃいます」

「なんか、上手いこと丸め込まれた気がする……」

 

 

 一見すると不真面目そうに見えるが、その実、裏では色んな事態を想定して行動している――――と自分で自分を評価しているのだが、やっぱ似合わないのかそんなキャラ? でもアニメでよくいるチャラ男みたいに、その場のノリだけで女の子と付き合おうなんて思っちゃいない。だからと言って真面目なオーラを出すと女の子たちに笑われるし、一体どうしたらいいんだよ……。

 

 まあどんな形であれ、それでみんなが笑顔になれるのなら別にいっか。心にかかったモヤを俺の真面目な雰囲気で晴らすことができるのなら、それはそれで素晴らしいことじゃね? もちろんみんなを納得させる言動を伴ってのことだけどね。

 

 さて、押し入れの灼熱地獄に苛まれて汗だくになったし、温泉にでも入って癒されるとするか。早朝の時間帯も過ぎ去ったので、今なら朝風呂のラッシュを避けることができるだろう。

 あ、あれ? 時間と言えば――――――

 

 

「そういやお前ら、練習はいいのか?」

「「あっ……」」

「やっぱり忘れてたな……」

 

 

 たまにどこか抜けているところがあるこの性格こそ、黒澤姉妹の可愛い部分の1つだ。ダイヤは普段の誠実さと比べてそのギャップ、ルビィは見た目と性格通りの欠点なので、見ていて微笑ましいことこの上ない。そんな子たちを見捨てるとか、絶対にするはずがないだろ。例え虹ヶ咲との過去が壮絶だったとしても、アイツらとの絆が強かったとしても、Aqoursとの関係が薄くなるなんてことはあり得ない。

 

 よし分かった。今後、それを証明してやろう。

 疎外感を感じさせるどころか、むしろ俺に依存したくなるくらい好きにしてみせるから。

 




 この小説ってシリアスが発生しても、発生してから解決するまでが短いなぁと常々感じます。そこまで引き延ばしても仕方がないってのもありますが、私が暗いシーンを長く描くことに抵抗があるので許してください(笑) でも女の子の笑顔を見るために零君が問題をスピード解決してくれると思えば、読者の皆さんも安心できるかも……?

 次回は久々にμ's回です。
 μ'sとAqoursの合同合宿編のはずなのに、μ'sのメンバーはかなりご無沙汰な気が……。まあ話の主体がAqoursと虹ヶ咲にシフトしているので、μ'sにはレジェンドとしての風格を見せつけ――――られるといいなぁ()



まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

実家のような安心感

 合同合宿編、20話目
 今回は久々にμ'sが主役です。前回に引き続きシリアスっぽい話が続きますが、μ'sが達観しているおかげで重い雰囲気はかなり抑えられています。さすがレジェンド、風格が違います()


「ったく、やっぱり盗聴してやがったのか……」

「ゴメンね零君。穂乃果たちも止めようと思ったんだけど、暴走したことりちゃんに巻き込まれたくない一心で……」

「いいよ別に。俺の携帯を盗聴しようと画策していることりの様子なんて、想像するだけで気が重くなる」

 

 

 目の前には、俺の携帯の画面が綺麗に映し出されているパソコンがある。しかもワンクリックで携帯のありとあらゆる機能を操作可能であり、携帯を通じて流れる音声もテレビ録画のようにはっきりと聞こえる。確かにこれだけ誰かの携帯を好き勝手できるのなら、ちょっと魔が差して盗聴したい気持ちになるのも分からなくはないが……。

 

 ダイヤとルビィの一件で俺と歩夢たちの過去をみんなに聞かれていたことを知った俺は、お互いの認識合わせも兼ねてまずはμ'sと話をすることにした。その際にどうやって俺たちの話を盗聴していたのかを聞き出し、目の前のパソコンに辿り着いた次第だ。結果的に盗聴してしまったものの、みんなは秋葉の策略にハマって俺の過去を聞かされていただけなので、特に咎めることもない。とりあえずこのパソコンは没収しておいて、後で有効的に使わせてもらおう。

 

 1つ言っておくが、盗聴目的ではないからな? このパソコンには昨晩の会話が全て録音してあるらしく、事実確認をしたい時に聞き返すことができるためだ。そもそも盗聴なんてしなくても、俺はみんなのことを信用しているから大丈夫だ。だから興味本位で、面白そうだからって理由でそんな……そんな……うん、まあ然るべきの時のために俺が厳重に保管しておいてやろう!

 

 

「あ~ん、それがあればいつでも零くんを感じられたのにぃ~。ことりの人生、終わっちゃった……」

「これを渡すと俺の人生が終わるんだけど……。お前に一日中監視されるとか堪ったもんじゃねぇよ」

「ことりは零くんに監視されっぱなしでもいいけどね。お部屋もお風呂も、それにトイレも♪」

「全く気にならないと言えば嘘になる自分が情けない……」

 

 

 いくらことりが歩く猥褻物であろうとも、見た目だけは超絶美少女だ。秋葉原を歩いているだけでメイド喫茶にスカウトされ、しかも短期間でカリスマメイドにまで昇り詰める魅力を持つ彼女の私生活を覗き見ることができるなんて、俺以外の男だったら数百、数千、数億出しても叶わないだろう。それが俺の場合はタダで、しかも向こうが自ら承諾をくれるなんて普通に考えればあり得ない事態だ。でも今のことりの性格を知っているのなら、そんな話にホイホイ乗っかる方が間違っているとすぐ分かる。どうせ自分の裸を見せる対価に俺の身体も見せろとか言ってくるだろうから、彼女の策略には最初から付き合わない方が無難だ。

 

 つうか、今はそんなことよりも歩夢たちの話をしたい。もう5年以上も俺と一緒にいたμ'sなら、俺から言及しなくても自分たちで折り合いをつけることは可能だろう。だからこそ今の俺の気持ちを穂乃果たちに話しておきたいんだ。これからどうするのかを含めて、決意表明をしておかないと無駄に心配させちまうからな。

 

 

「聞いてたんだろ? 昨晩の会話の内容全部……」

「……うん。最初は盗聴するのはどうかなぁ~って思ったんだけど、零くんが他の子と話してる声が聞こえたからつい聞き入っちゃって……。でもそれはみんなもそうだったよ。千歌ちゃんたちも含めてみんないたのに、ずっと黙ったまま聞いてたんだ」

「別にお前が俺の携帯を盗聴してたとか、穂乃果たちがお前を止めなかったことを今更咎めるつもりはないよ。それよりも、あの話を聞いてどう思ったかが知りたいんだ。何も覚えてなかった俺が言うのもアレだけど、変な誤解をされたままでいて欲しくないしな」

 

 

 Aqoursだけでなくμ'sにまで昨晩の会話がバレていたのだが、ここまで来るとむしろ清々しくなってくる。逆に1から10まで全部聞いていたおかげで、こうして顔を合わせた時にもう一度同じ話をしなくてもいいので手間が省ける。いきなり核心に迫ることができるので話も早いため、結果的に聞かれていて良かったのかもしれない。もし俺からみんなに話を切り出す必要があった場合、また色々と葛藤してしまいズルズルと先延ばしにしていただろうから。ま、だからと言って盗聴の件を全て許したのかと言われたらそうじゃないけどね。今はそこは重要視してないってだけだ。

 

 歩夢たちとの過去はμ's全員が聞いていたようだが、それに関してどう思ったかの質問にはみんな口籠って中々答えない。自分たちと付き合う前から別の女の子たちと親密な関係だったから怒っている――――って訳ではなさそうだが、Aqoursのように不安気な様子でも疎外感を抱いている様子でもなさそうだった。負の感情が宿っているようでもないので、単純にこれまで体験したことのない展開に戸惑っているだけなのかも……。

 

 すると、壁にもたれかかって腕を組んでいたにこが呆れた感じで喋り始めた。

 

 

「にこたちは別にアンタが誰とどんな関係であろうが、警戒もしてないし不安でもないわ。ただ、零の心を最初に掴んだのはにこたちじゃなくて虹ヶ咲の子たちだとと知って、ちょっぴり寂しくなっただけ。それよりもAqoursの子たちの方は目に見えて落ち込んでたから、アンタよりもそっちの方が心配だったわよ」

「だろうな。俺もお前らのことだから、そこまで心配はしてないと思ってたよ」

「でしょうね。アンタがあんな話ごときでヘコまない性格ってことは、にこたちが一番よく分かってるし。もちろん、アンタの過去を聞いてる時は驚きの連続だったけどね」

「あんな話ごときって、これでも死地を潜り抜けて来たんだが……」

「でも凛たち知ってるよ! 零くんは守るべきもののためなら無茶をするって。それって凛たちが一番心配してることなんだけど、一番好きなところでもあるんだよね」

「命をかけることを当たり前となったら、人間として大切なモノを失ってる気がするよな……」

「だけど、そのおかげで凛たちも救われたんだよ。ほら、高校生の時に……」

「あぁ、そういやそんなこともあったっけか」

 

 

 以前、秋葉はこう言っていた。零君はどうして女の子たちをそこまで大切にしているのか……と。最初は質問の真意を捉えられてなかったけど、昨晩の話を聞いた今ならアイツの言いたかったことが分かる。答えは単純、俺が虹ヶ咲の子たちを命懸けで助けた過去があったからだ。その時の記憶はばっさりなくなっていたけど、自分の行動理念として知らず知らずのうちにしっかりと心に刻み込まれていた。歩夢たちとの過去によって固められた意志があったからこそ、μ'sをここまで愛することができたのかもしれない。穂乃果たちが病んだ事件の時も、その意志が俺の中で芽生えていたから彼女たちを助け出してやろうと躍起になれたのだろう。もしその意志が存在していなかったら、穂乃果たちを救うことを途中で諦めていたかもしれない。

 

 

「それで、どうするのですか? Aqoursのこと、それに虹ヶ咲の子たちのことも。これまでの関係を保ったまま、という訳にはいかないでしょう?」

「当たり前だ。むしろ虹ヶ咲の連中は、俺に何か行動を起こしてもらいたくてあの話を暴露したみたいだしな。ま、それも秋葉の策略か何かなんだろうけどさ」

「まだ何か隠している、そう思っていると?」

「多分な。お前らにまで聞かせるようにあの状況をセッティングしたとしたら、何かしら裏はありそうなんだよ。まあ確証はないんだけど……」

 

 

 秋葉と歩夢たちが結託して俺に辛い過去を思い出させないように努力していたことは、本人たちから直接伝えられた。もちろんアイツらの気持ちはありがたいけど、μ'sやAqoursにまであの話を聞かせるよう合宿計画の段階から画策していたってことは、それなりに向こうにも考えがあるらしい。ただ単に俺に歩夢たちとの過去を思い出して欲しいから、という理由だったらわざわざ穂乃果たちに聞かせる必要もないしな。

 

 海未の言う通り、秋葉はまだ俺に明かしていない真実があると思っている。証拠はないが、姉弟ゆえの感ってやつだ。今まで様々な悪行を働いてきた秋葉をそう簡単に信じようなんてはなから思っちゃいない。でも俺が歩夢たちを助け出そうとして炎の海となっている建物に入ろうとした時や、無事に全員を助け出して帰還した時は誰よりも先に身体を支えてくれるなど、一応だけど優しさは持ち合わせているみたいだ。そう考えると頭ごなしに疑うのもどうかと思っちゃうんだよな……。

 

 まあ今は確証のないことをうだうだ議論するより、これからのことをじっくり考えるか。

 とは言っても、俺の中では既に決心は付いている。

 

 

「自分の過去がどうであれ、やることはもう決まってるよ。みんなを手にする。誰1人として逃したりはしない。それが俺のやり方だから」

「やっぱりそうなるのね。最低発言すぎて引っぱたいてやりたくなるくらいよ」

「真姫が言うと本当に叩かれそうだな……。でも、ここでどちらかを選んでどちらかを捨てるとか言ったらもっと酷い目に遭わせただろ?」

「そうね。あなたの性格を考えればあり得ないことだけど、もし取捨選択の道を選んだとしたら絶縁してたかも」

「相変わらず容赦ねぇなお前……。流石の俺だって色々考えてさっきの結論を出したんだよ。こちとら苦労してんのに……なぁ花陽?」

「ふぇっ、私!? え、えっと、私たちはみんな零君のそんな性格に惹かれたというか、そのおかげで私たちはずっと一緒にいられるので、零君の信念は誇っていいと思うよ!」

「いやぁそうやって言ってくれると嬉しよ。やる気出た!」

「あなた、最初から花陽に優しい言葉をかけてもらうのが目的だった訳……」

 

 

 そりゃ真姫も優しい時は優しいけどさ、ツンデレの性なのか優しい言葉にもどこかに棘がある。それに対して花陽はいつも俺に甘々なので、基本的には俺を持ち上げる発言しかしない。まあスクールアイドル関連で熱くなった時は、周りが引くくらいに頭のネジがぶっ飛んだ発言をするけど、それは言わない約束で。

 

 もちろんコイツらにどんな言葉をかけられようが、俺の決意が揺らぐことはない。それは穂乃果たちも重々承知しているようで、やはり付き合いの長さで俺の考えが手に取るように分かるのだろう。みんなを自分のモノにするといういつも通りの最低発言でも、みんなは素直に受け入れてくれたようだ。複数の女の子を手に入れる流れで話が穏便に進む辺り、俺たちの関係の異常さが浮き彫りになってるよな……。

 

 そして、次は絵里が俺に質問を投げかける。

 

 

「それで? 具体的にこの先はどうしていくかとか、その辺りは決まっているのかしら? 意思決定の速さは目を見張るものがあるけど、その先で躓くのがあなただもの。また1人で悩んだり迷ったりしないように、今からどうするのかしっかり考えておいた方がいいんじゃない?」

「忠告ありがとう。確かに俺の想定通りにシナリオが進んだことはないし、だからこそ対策を練りたいんだけど、今回ばかりはお先真っ暗でどうしようもない。お前たちと付き合うだけでも障害が多かったのに、Aqoursと虹ヶ咲の子たちを合わせたらもうどこからどう手を付けていいのか分からねぇよ。もちろん流れに身を任せるとまでは言わない。だけど1人1人と向き合った時にどうすればいいのか、その時に考えることにするよ。恋愛の計画なんて上手くいかないことなんてザラだし、下手に作戦を立ててドジった場合ってアドリブ効かないからさ」

「あなたがそれで行くって言うのなら止めないけど、何かあったらすぐに相談するのよ? さっきも言ったけど、壁にぶつかった時は1人で考え込まないこと」

「…………そうだな」

 

 

 お前は俺の親かよってツッコミを入れたくなるほど、絵里は俺の考えや行動を熟知している。それ故に的確なアドバイスや忠告をしてくれるのはありがたいんだけど、俺にも俺なりの信念ってものがある。もちろん何かあればみんなを頼りたいし、むしろ俺が彼女たちにそう言い続けてきたんだけど、今回に至っては―――――

 

 

「嘘やね」

「え……?」

「零君はま~た自分1人で突っ走ろうとしている。もう雰囲気から、ウチらには内緒にしておこうって魂胆が見え見えなんよ」

「……ま、お前に嘘ついてもすぐにバレるよな。そうだよ、今回ばかりは1人で解決したいことなんだ。もちろん本当に追い詰められたらお前らを頼るかもしれない。でも今回だけは、アイツらの気持ちには俺の純粋な想いで向き合ってやりたいんだ。自分が女の子の気持ちに疎いのも知ってるし、だからこそお前らが助言したいのも分かる。だからこそ、今回は見守っていてくれねぇか? アドバイスが余計と言ってしまうと言葉は悪いけど、誰の意見も混じっていない純粋な気持ちをアイツらに伝えてやりたいんだ」

「そう……。いつも以上に頑固やね」

「そう簡単にブレないのが俺の長所でもあるからな」

 

 

 希はそれ以上、特に言及はしなかった。他のみんなも同じで、俺の無茶な決意を汲み取ってくれたのだろう。やっぱり付き合いが長いと理解が早くて助かるよ。それを言い訳に自分1人で突っ走ろうとは思っちゃいないが、俺を信じているからこそ背中を後押しして送り出してくれるんだと思ってる。だから俺も安心して1人でアクションを起こせるんだ。盗聴の経緯はあったけど、μ'sに全てを打ち明ける機会ができて本当に良かったよ。もはや実家のような安心感があるな、コイツらには。

 

 そしてここで、もう1つだけ解決しておかなければならないことがあった。

 さっきから一言も喋らず、むすっとした表情のまま会話を聞いていた楓のご機嫌を取らないといけない。秋葉が一筋縄ではいかないのは周知の事実だけど、楓も楓で面倒な性格をしている。まあそれも俺のことを大切にしているからこそ、無下にはできないってことだ。

 

 

「なぁ楓、そろそろその鋭い眼力やめてくれない? なんつうか、突き刺されてる感じがするからさ……」

「べっつに~。私は何とも思ってないしぃ~」

「ちょっと棒読みじゃねぇか!? 言いたいことがあるならはっきり言えよ」

「楓は知ってたんだよね。零くんが虹ヶ咲の人たちとの記憶がなくなっちゃったこと」

「ぶっ!? あ、亜里沙!? それは言わないでって昨日言ったでしょ!?」

「だって、さっきからずっと言いたそうな感じでウズウズしてたよね? だったら暴露しちゃった方が楽になるかなぁって」

「余計なお世話なんだけど……。でもそういうことだから、お兄ちゃん」

 

 

 知ってたって、楓も意図的に俺が辛い過去を思い出さないように隠してたってことか。俺が小学校高学年の時、楓は小学校低学年だったはずだ。確かに彼女はその時から既にブラコンだったけど、それは幼い頃の至りみたいな感じで、今のような近親相姦上等の恋愛感情なんて持ち合わせていなかったと思うんだが……違うのかな?

 

 

「お姉ちゃんから事故の話を聞いて、私もお兄ちゃんを苦い記憶から守ろうとしたんだよね。だから虹ヶ咲の子たちとの思い出となるものは全て破棄した。当時を思い出さないように、どんな些細なモノでも徹底的に」

「だから家にアイツらの痕跡が何も残ってなかったのか。写真の1枚もないから、歩夢たちが嘘を付いていると思い込みそうだったよ」

「そう、だからお兄ちゃんが猫を拾ってきた時はビックリしたよ」

「猫? あぁ、善子から託されたあの捨て猫たちか」

「うん。実はあの子たちが住んでいた施設でも猫を飼っていたから、お兄ちゃんが猫を連れて帰ってきた時、もしかしてあの時のことを思い出したのかもってヒヤヒヤしたよ。それに最近のお姉ちゃんは何故かお兄ちゃんに過去を話す気満々だったし、もう隠しきれないなぁと思っていた矢先に……」

「盗聴を通して話を聞いちまったって訳ね」

 

 

 そういや合宿初日の夜、楓と秋葉と3人で喋っていた時に俺が『家で猫を飼ったことあるか?』と質問をしたら、楓はばつが悪そうな顔をしていたことを思い出す。なるほど、実際に家で飼ったことはないが施設で飼っていたことを俺が思い出すと思って口籠ってたのね。

 そもそも楓は俺の昔話をすることはほとんどなく、したとしても如何に自分と俺がラブラブだったかを自慢げに語るだけだった。どうして俺の過去の話を避けているのかと少し不思議に思っていことはあったが、それもコイツの優しさだったって訳か。さっきの話を聞くに楓は秋葉が秘密を漏らそうとしていることに最後まで反対してたみたいだけど、その辺の対立はどうなったんだろ。

 

 

「最初は過去話を聞いて本当かどうか疑わしかったんですけど、楓の話を聞いたら現実味を帯びてきて……。本当に驚きましたよ、今までそんな過去がある素振りなんて一度も見せたことがなかったのに」

「別に雪穂たちに話すことじゃないでしょ」

「ずっと秘密にしてたんだもんね。誰にも気付かれずに10年以上も守り通してきたんだから、凄いと思うよ」

「ま、もうバレちゃったから苦労が水の泡だけどね」

 

 

 楓や秋葉、虹ヶ咲の子たちの善意で苦い過去は封印されていた。再びあの時の悲しみを感じないように、みんなが結託して俺を守ってくれていたんだ。

 でも、俺は――――――

 

 

「こんなことを言っちまうとお前らの善意を否定しちゃうかもしれないけど、俺はこれで良かったんだと思う。あのままだと歩夢たちが俺に一生自分たちの想いを告げられないままだったし、俺にとってはそっちの事実の方がよっぽど苦しいよ。秘密を明かしたことでアイツらの心も吹っ切れたみたいで、俺だって本当の自分を知ることができて嬉しいんだ。Aqoursや虹ヶ咲の子たちの接し方はお前たちとは違う。だから気持ちを新たにできたことはチャンスだと確信してるよ。秘密を明かしたことで、もうお互いに何の柵もなくなったんだからな」

 

 

 とある秘密を知ってしまったことで葛藤するよりも、何も知らないまま人間関係が続いていく方がよっぽど怖いと思っている。確かにこの世は知らない方がいいこともあるけど、今回の秘密は知ったことで新たな道が開けたのでそれでよかったのだろう。むしろ自分の過去を知らなかったら、歩夢たちの本当の気持ちを伝えることなんてできなかっただろうから。それにAqoursに対しても、これまでの関係の延長線上でしか接することができなかった気がする。ここで心機一転できたことで、千歌たちにも本気の想いを伝える覚悟ができたんだ。

 

 

 すると、穂乃果が一歩前で出て笑顔で俺と向き合った。

 

 

「穂乃果たち、零君のこと応援するから。ファイトだよ!」

「それ、久しぶりに聞くな」

「元気出たでしょ?」

「あぁ、何事も成功する未来しか見えねぇよ。ありがとな」

 

 

 何度でも言う。やっぱりμ'sは実家のような安心感がある。コイツらと一緒にいると、どんなことでも失敗しない謎の自信が生まれてくるんだよな。でもそんな勇気を貰えるお陰で、俺も安心して先に進むことができる。昔も今も、そして未来も、俺はずっと穂乃果たちの支えられていくのだろう。女の子たちとここまで親密になれるなんて、今の行動理念を植え付けてくれた昔の俺にも感謝しなくちゃな。

 

 

 もうどんな罵声を浴びせられても構わない。

 見せてやるよ、俺がたくさんの女の子を侍らせる未来を。みんなが笑顔になれる、そんな結末をな。

 




 最近はAqoursや虹ヶ咲ばかりが出演していたのでμ'sは久々の登場になった訳ですが、こうして見るとμ'sの成長具合が半端なく感じられます。本編でも零君が語っていましたが、やはり付き合いの長さが故に彼のことを理解しているので、零君が気持ちの整理をするのにはうってつけの相手です。
 正直に言ってしまうと、このスクフェス編はAqoursや虹ヶ咲がメインとなりμ'sの出番は回を重ねるごとに少なくなるなぁと危惧していました。でもこうしてシリアスシーンで登場すると、他のスクールアイドルとは違った活躍を見せてくれるのでとても新鮮です(笑) 
Aqoursと虹ヶ咲にメインを譲ったことで、逆にこれまでの成長がひしひしと感じられて地味に感動しちゃいますね(笑) まさにレジェンドに相応しい活躍なのではないでしょうか? 個人的には穂乃果の「ファイト」を久しぶりに描くことができて満足しています(笑)

 そういえば、先日この小説がハーメルンの原作『ラブライブ!』小説において「総合評価」ジャンルで1位となりました! まさにハーレムが最強だったという証明になったので、ハーレム好きの私としては嬉しい限りです!

 ちなみにこの小説の戦績としては――

 ・総合評価1位
 ・通算UA数(閲覧数)1位
 ・平均評価1位
 ・お気に入り数7位
 ・評価の投票者数1位
 ・感想数1位

 となっています。
 これだけでもかなりのランキングを抑えてますが、やはり全部1位にしたいという欲望が……()
 サンシャインの映画も決まってまたラブライブのコンテンツも盛り上がると思うので、公式と同じくこの小説も是非応援してくださればと思います! 


 次回はAqours編です。
 アニメ展開などそっちのけで、彼女たちの未来が決まります(笑)



新たに☆10評価をくださった

はにわまんさん

ありがとうございます!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Aqoursの意義

 合同合宿編、21話目
 今回はAqours編です。合宿回ではAqoursは最後の見せ場となるので、彼女たちの成長っぷりを最後まで見届けてやってください!


 

 μ'sに全てを打ち明けて間もなく、俺はAqoursの練習に顔を出していた。相変わらずパラソルの下で寝転び、くつろぎながら彼女たちの練習を眺めている。大した指導もせずに女の子をまじまじと見つめるのももはやいつものことだが、今日は何故か彼女たちの練習態度に口出ししたい衝動に駆られていた。μ'sとの話し合いの中で千歌たちをより大切な存在だと再認識したためか、それとも昨晩の話の件を一刻も早く彼女たちに伝えたいとか、色々と理由は思い浮かぶ。

 

 だが、アイツらの動きを見ているとそれは違うとすぐに分かった。

 一言で言ってしまえば、ダンスにキレがない。お互いの意識がバラバラなのが目に見えて明らかであり、まるで一致団結できていないのだ。各々が自分のパフォーマンスを最大限に引き出すためだけに力を注ぎこんでおり、そのせいで周りと連携が取れていない。辛うじてダイヤとルビィだけは周りと合わせようと必死になっているが、千歌たちが各自1人で独走してしまっているため息が合っているとはお世辞でも言えなかった。昨日までは楽しそうに練習していたのに、今日はやたらと焦りが見える。

 

 遂に見るに見かねたのか、ダイヤがみんなの前に出る。

 

 

「いったん休憩にしましょう。このまま続けても無駄ですわ」

 

 

 ごもっともな意見だった。千歌たちのダンスはそこら辺の幼稚園児がやるようなお遊戯会のようなもので、決して大観衆の前で見せられるようなものじゃない。何年も幾多のスクールアイドルを目に焼き付けてきた俺が言うんだ、間違いないだろう。かなり言葉は悪いが、音楽で例えればアイツらの動きは不協和音だ。

 

 だが、千歌たちはそのことに気付いていない。だからダイヤが練習を止めた途端、ルビィを除くAqoursメンバーが目を丸くした。

 

 

「どうして!? まだ練習を始めて30分も経ってないのに、休憩なんてしてたら時間の方が無駄ですよ!」

「千歌さん、焦る気持ちは分かりますが少し落ち着いて……」

「グズグズなんてしてられない! このままだと……このままだと絶対に虹ヶ咲学園のみんなに勝てないじゃん!!」

「そ、そう言われましても……」

 

 

 千歌はいつも以上に熱くなっていた。自分の熱中することはとことんやり込むタイプであり、スクールアイドルに至っては特に志が高い。だからこそ暴走する彼女を見て、ダイヤは思わず後退りしてしまっていた。恐らく千歌がどうして焦っているのか、その理由を分かっているのだろう。だが千歌の言っていることも理解できてしまう自分がいるので、下手に彼女の意志を無下にできない葛藤が湧き出ているのはダイヤの様子を見れば察せる。それはルビィも同じようで、何かを言いたげな様子だが、自身の引っ込み思案な性格も相まって切り出すことができないようだ。

 

 反面、それ以外のメンバーからは千歌と同様の焦燥を感じられた。

 そして、梨子、曜、善子、花丸、果南、鞠莉の6人も各々口を開く。

 

 

「多少無茶をしても練習を続けるべきです! スクフェスまでもう1ヵ月もないんですから!」

「もっと実力を上げないと、私たち負けちゃうよ……」

「た、たまにはヨハネの本気を見せてあげないとね……」

「マル、もっと頑張るから。練習を続けさせてください!」

「μ'sの皆さんに練習を見てもらえるのは今日まで何だし、休んでいる暇はないんじゃない?」

「みんなの言う通り、時間はいくらあっても足りないんだから。もっと効率的に使わないと!」

 

「み、皆さん……」

 

 

 梨子たちもスクフェスに向けての意気込みは十分――――とは言い難かった。チームワークの欠片もなかったさっきの練習風景を見ていたら、彼女たちの熱意など全く伝わってこない。行き場のない焦燥感に千歌たちは落ち着きのない様子だが、みんなの焦りを間近で見ているダイヤとルビィの表情も段々雲行きが怪しくなってきた。

 

 さて、そろそろ出番かな?

 達観した主人公のようなセリフを吐くが、実際には俺の過去話によって引き起こされている事象だと思うので、騒動の中心人物としてみんなを落ち着かせる義務が俺にはある。虹ヶ咲との一件について千歌たちに言いたいことはたくさんあるが、まずは現状をなんとかしないとな。

 

 

「お前ら、その辺にしておけ。ダイヤが困ってるだろ?」

「せ、先生!? いたんですか……?」

「いたわ!! つうか、結構前からお前らの練習を見てたのに気付かなかったのかよ……」

「練習に必死になっていたせいで……ゴメンなさい」

「いや別に謝らなくてもいいけどさ。それよりも、あまりダイヤに迷惑をかけるな」

「先生も練習をするなって言いたいんですか!? 練習をするための合宿なんですよ!?」

「そもそも練習になってないから口を出してんだよ」

 

 

 千歌は頭に?マークを浮かべている。その様子を見る限り、俺とダイヤが練習を止めた理由なんて分かっていないのだろう。

 彼女は珍しく俺に噛みついてきており、飼い主に慣れない犬のように威嚇する。いつもは聞き分けがいい子なのでここまで吠えられたことに驚きだけど、だからと言ってこちらも怯む訳にはいかない。浦の星の教育実習生としての俺はもう卒業してしまったが、今でもAqoursの顧問なのは変わりない。だからこそ彼女たちを多少厳しく諭してやるのも顧問の役目だと思うんだ。

 

 

「もっと肩の力を抜け。焦りに縛られてたら、本当の自分を発揮できないぞ?」

「自分の魅力をもっと上げるためにたくさん練習するんですよ!!」

「我武者羅に練習したって、時間を無駄に浪費するだけだぞ」

「じゃあどうしろって言うんですか! 今よりもっともっと練習してスクールアイドルとしての実力を上げて、スクフェスで優勝する。そうしないと……」

「どうしてそこまで自分磨きに拘ってるんだ?」

「そうしないと虹ヶ咲の皆さんに勝てないじゃないですか!」

 

 

 千歌の叫びに、他のみんなも同意を込めてか沈黙する。ダイヤとルビィは場の重い空気に押し潰され、自分の言いたいことを口に出すこともままならないようだ。そもそも2人も練習を積み重ねないと虹ヶ咲に勝てないことは分かっていると思う。その事実を受け入れているからこそ、頭ごなしに千歌たちを否定できないのだろう。

 

 このままではAqoursの結束は崩壊の一途を辿るため、なんとかコイツらの道を正してやらないと。

 

 

「そこまで歩夢たちを目の敵にする理由はなんだ?」

「別に目の敵になんてしてません。ただ今の私たちでは、先生を惹きつける魅力が足りないだけです。歩夢さんたちと比べて……」

「お前ら、やっぱり……」

 

 

 どうやら千歌たちの中で渦巻いている感情は、さっきダイヤとルビィが抱いていた感情と同じだ。同年代の歩夢たちにスクールアイドルとしての実力も、俺に対する想いも負けていると思い込んでいる。だから無茶をしてでも練習をして、自分たちのスキルを向上させようとしたんだ。そうすれば自ずと自分の輝きも増すと思って……。

 

 これはダイヤとルビィにも言ったことだが、それは勘違いだ。誰が誰を好きだろうとも、自分の想いを殺す理由にはならない。だからこそ千歌たちはここまで必死に練習しているのだろうが、それも方向性が間違っている。虹ヶ咲という目先の相手に捕らわれ、自分自身を磨くためだけに躍起になっているせいで自分たちの真の目標が見えていない。その様子から崖っぷちまで追い詰められているのは明らかだった。

 

 だから、俺の知っていることを全て話そう。これまでAqoursのみんなには色々と隠し事をしてきたけど、何もかも、洗いざらい全て。

 千歌たちをここまで追い詰めた要因は俺にもあると思っている。それも余計な心配を掛けさせたくないからという優しさだと考えていたが、みんなは自分の想いを素直に俺にぶつけてくれるのに、自分だけ秘密をたくさん抱え込んでたら卑怯だしな。これでようやく、本当の意味で彼女たちと向き合えるのかもしれない。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんな訳で、俺の秘密や気持ちを隅から隅まで千歌たちに話した。さっきダイヤとルビィに教えた『自分の気持ちを押し殺す必要はない』ってことも、梨子だけが知っていた『俺がμ's全員を女にしている』ことも。あらゆる情報が一気に雪崩れ込んできたためみんな戸惑いの表情を浮かべているが、徐々に脳内整理ができると次第に焦りも消えたようだ。

 

 しかし梨子もそうだったけど、千歌たちの様子を見る限り、俺の説明に対して完全に腑に落ちた訳でもないようだった。特に自分の好きな男が別の女性と、しかも複数人と付き合っていることを知らされたら戸惑わない訳がない。しかも虹ヶ咲との過去話を聞かされた直後だから、感情的にならざるを得ないのも分かる。でも俺はこのタイミングで知って欲しかった。みんなの焦りや迷いを解消するには、俺の秘密を全て明かさないといけないと思ったからだ。

 

 緊張の糸が解れない雰囲気の中で、まず最初に俺と向き合ったのは曜だった。

 

 

「い、一応確認なんですけど、私……いや、私たちとは遊びじゃないんですよね……?」

「当たり前だ。それだけは断じて違う。俺の想いも、お前たちと一緒で本気なんだよ」

「そっか。それだけ分かれば十分です」

「ちょっ、ちょっ!? それで納得したの!?」

「善子ちゃんは先生に聞きたいことあるの?」

「あ、あるっていうか、頭の中がモヤモヤしっぱなしで整理できていないというか……」

「言いたいことがあるなら素直に言え。別に整理できていなくてもいい。今この場で全てを解決するために何もかも明かしたんだから」

 

 

 千歌たちの迷いを完全に消すためには、この場で彼女たちの疑念を全て解決しないといけない。そうでなければスクフェスまでにAqoursの練習はままならず、それどころか自分たちの願いを叶えることすらできなくなるだろう。俺に現を抜かして、自分たちの夢を忘れそうになっている彼女たちを早いとこ取り戻さないと。

 

 善子はずっと俯いて考え事をしているようだったが、覚悟を決めたようで俺の目を力強く見つめてきた。

 

 

「アンタの言う通り、確かに私たちは虹ヶ咲の人たちに負けたと思い込んでたわ。いや、今でもちょっと思ってる。あの人たちがアンタに向けている愛は、本物よ」

「そうだな。それも熱烈なファンとか、憧れの人とか、そんな生温い類じゃない。アイツらは本当に俺のことを心から愛してくれている。自分で言うのもおかしな話だけど、それくらい歩夢たちの想いは強いんだ。アイツらにとってスクフェスなんてものは、俺に自分たちをアピールする場としか見てないだろうな。スクフェスでμ'sやAqoursに勝つことで、愛の強さを証明しようとしてる」

「なんだ、分かってたんじゃない。だったらどうして練習を止めたりしたの? 私たちみんな、負ける訳にはいかないと思ってるのに……」

 

 

 そりゃスクフェスはラブライブ本選と同じく明確に順位が付けられるため、誰しもが1位になりたいと願っているだろう。スクフェスに参加する以上、より高見を目指すなんて当たり前のことだ。誰にだって負けたくない気持ちがあるってことくらい分かっている。

 

 だが、千歌たちは力の入れどころを間違っているんだ。スクフェスで歩夢たちに勝つ。それがAqoursなのか……?

 

 

「お前らって、どうしてAqoursを結成したんだ? そうだな……梨子、お前はどうしてAqoursに入った?」

「わ、私ですか!? そうですね……千歌ちゃんが浦の星を救いたいって気持ちに感化されて、お手伝いをしたくなったのが理由です」

「花丸は?」

「マ、マルはルビィちゃんと一緒に憧れのスクールアイドルができるならって。それにマルも浦の星が好きだから、統廃合を阻止するために入学希望者を増やしたくて……だからマルも千歌ちゃんたちに協力しようと思ったんです」

「それだよ。Aqoursには浦の星の統廃合を撤回させるって目的があるんだろ? そしてそれは、お前たちの夢でもある。そうだろ果南、違うか?」

「確かに、私たちがどうして9人でスクールアイドルを始めたのか、見失っていた気がしますね……」

「もっと輝きたいと自分を磨くお前たちの気持ちも分かるけど、夢を忘れるなってことだ。歩夢たちが俺を想う強さより、自分たちの想いの方が強いと証明したいからスクフェスを勝ち抜く、なんて考えても、お前らの本来の力は発揮できないからな」

 

 

 Aqoursと虹ヶ咲では、スクールアイドルを続けている理由がまるで違う。Aqoursはさっき言った通り、もっと自分を輝かせたいと願うと同時に、浦の星を統廃合から防止する目的も含まれている。自分たちの故郷と学校を守るために、9人が一致団結して同じ夢を追いかけているんだ。

 対して虹ヶ咲がスクールアイドルを続けている理由はただ1つ。俺に自分たちをアピールするためだ。恋をする相手に本気の自分たちを見て欲しいから。辛い過去による同情なんて抜きにして、自分たちの実力で俺を振り向かせたいから。つまり、アイツらはたった1人のために自分たちを磨き続けている。同じスクールアイドルであったも、Aqoursとは目的の根底が違うのだ。

 

 それなのに、Aqoursは自分たちの土台を捨てて虹ヶ咲の土台に殴り込もうとしていた。そう考えると、如何に千歌たちが無意味な練習をしていたのかが分かるだろう。

 

 

「とは言っても、あの人に勝ちたい、追いつきたい、そう思うのは人間なら普通のことだ。でも自分たちの本当の目的を忘れるな。お前たちは俺だけじゃなくて、全国にAqoursをアピールしたんだろ? だからもっと輝きたいと思ってるんだろ? なぁ鞠莉?」

「そう、ね……。さっきまでの私たちは、自分自身のことしか見えてなかった。仲間のことすらも置き去りにして、自分だけが成長しようと必死だったから……」

「それが分かってもらえるだけ良かったよ。あのまま道を踏み外していたら、とてもじゃないけどスクフェスに出場させられなかったらさ」

 

 

 みんなの表情から曇りが消えたところを見ると、どうやら見失っていた自分を取り戻したようだった。あとは俺とμ'sの関係をどう感じているかだが、場の和やかになりつつある雰囲気から察するに拒絶されるってことはないだろう。ま、拒絶されたところで俺には手の打ちようがないんだけど……。

 

 

「でも、お前たちの気持ちは嬉しいよ。夢を忘れてしまうほど、俺への愛を形にして示そうとしてくれたんだろ? 努力の方向性は我武者羅だったけど、その気概にはグッと来た。なんつうか、ありがとな」

 

 

 大したことを言っているつもりはなかった。ただ純粋に自分が思っていたことをみんなに伝えた、それだけだ。

 だが千歌たちは妙にそわそわしていた。顔を赤くし、まるで愛の告白でもされたかのような様子だ。こうしてみると、やっぱり根は純粋な子が多いよなAqoursって。別にμ'sや虹ヶ咲が特別ぶっ飛んでると言いたい訳でもないけどさ。統廃合を阻止しようなんて大層なことをやってる子たちだけど、恋愛に関しては年相応なんだと思い微笑ましくなっちまうよ。

 

 その中でも千歌が、少し不安げな表情で俺に話しかけてくる。

 

 

「程度の違いはあれど、先生がμ'sや虹ヶ咲の方々と関係を持っているのは分かりました。それでも尚、私たちのことをずっと見ていてくれますか……?」

「愚問だな。さっきも言ったけど、お前らを好きな気持ちにμ'sや虹ヶ咲は関係ないよ。だからお前たちはお前たちなりに自分をもっと輝かせてみろ。夢や目的を忘れず、好きな人のためにも頑張る。欲張りだけど、それでいいと思うんだ。好きなこと、やりたいことに全力でぶつかってみろ。そうすれば自ずと輝けるようになるからさ」

「自分たちのやりたいこと、叶えたい夢のこと……。統廃合の阻止も、自分たちがもっと輝きたいという思いも、どちらも諦める気はありません。自分たちがやりたいことを貫く。それで全国の人たちに、もちろん先生にも、Aqoursの魅力をたくさん伝えたいと思います!」

「うん、分かればよろしい!」

「ひゃっ!? ちょっ、ちょっと髪の毛くしゃくしゃしないでくださいぉ~」

 

 

 髪は女の命だとよく言ったものだが、その命をこの手で弄ぶ感じが堪らなく好きなんだよ。髪を弄ってやると女の子は決まって抵抗の色を見せるから、そんな可愛い反応を見たいがためにイジメてるってのもある。

 ―――というのは半分冗談で、純粋にみんなが俺の全てを受け入れてくれたことに安心していた。まだ高校生ながら複数の女性と付き合う非常識な大人の言い分を理解してくれるなんて、正直なところ期待は大きくなかったんだ。でも千歌たちは俺を拒絶しなかった。それだけでもう嬉しいのなんのって。これでもコイツらがどんな反応をするのか緊張していたんだぞ? 嬉しさと共に安心して心が軽くなったから千歌の頭を激しく撫で回してやった、こんなところだ。

 

 

 そしていつの間にか、あの重苦しかった空気は沈静化していた。一足先に俺に諭されていたダイヤとルビィも千歌たちの復活に胸を撫で下ろし、本来のAqoursを取り戻せたことに安堵しているようだ。

 

 

「ダイヤぁ~? ちょっと聞きたいことがあるんだけどぉ~?」

「な、なんですか鞠莉さん……? そんな怖い顔して……」

「もしかしてダイヤは、さっき先生が言っていたこと全部知ってたの?」

「えっ……と、全部ではないですわ。でも自分たちの想いを天秤にかける必要がないと、さっき旅館の部屋で……って、果南さん? どうして私の肩に手を……? それにやたら力が強い気が……」

「へぇ、私たちが練習の準備をしている間に、ダイヤは先生と一緒に部屋にいたんだ……へぇ……」

「別に疚しい意味はありません! ただ私はルビィを……!!」

「お、お姉ちゃん! それは言わない約束だって!!」

「あっ……」

 

 

 なんだろう、急に流れがコミカルになってきたな……。いつもの風景が帰ってきて安心はできるんだけど、一部メンバーのオーラが黒に染まりつつある。ほら、ルビィの後ろの花丸と善子も……。

 

 

「ルビィちゃん、先生と2人きりで何をしてたずら……?」

「花丸ちゃんの声が低い!? 聖歌隊がそんな声出したら喉痛めちゃうよ……?」

「いいから答えるずら……」

「ピギィ!?」

「たかがリトルデーモンの癖に、主を無視して眷属同士でじゃれ合うなんていい度胸してるじゃない!」

「じゃれ合うっていうか、先生に抱きしめられて……あっ!?」

「「抱きしめられるぅ~??」」

「あっ、いや、その……だ、誰か助けてぇ……」

「それお前のセリフじゃねぇだろ……」

 

 

 花陽の十八番を奪ってしまうほどルビィも同学年の2人に追い詰められていた。でもルビィが抱きしめるって表現してくれて助かったよ。正しくは俺が彼女を押し倒した、だからな。今日は自分のあらゆる秘密を暴露してきたが、その事実だけは包み隠しておこう。

 

 ちなみに2年生勢も、梨子が千歌と曜に執拗に迫られていた。

 

 

「梨子ちゃんは、先生とμ'sの関係を知ってたんだよね? いつから??」

「が、合宿の前から何となく察して……」

「どこで知ったの?」

「先生の家に行った時に……」

「曜ちゃん、これはギルティってやつなのかな?」

「そうだね。私たちに内緒で先生の家に行って、しかもイチャイチャしてたなんて許せないよ」

「あらぬ事実が付け加えられてる!? イチャイチャなんてしないわよ!? 」

「先生と2人きりの秘密を共有してたなんてズルい!! 先生、私にだけ何か教えてくださいよ!」

「ねぇよそんなの!!」

 

 

 千歌の無茶振りにツッコミを入れていると、突然後ろから服の袖を引かれたので振り向いてみる。

 そこにはいつの間に回り込んできたのか、曜がもじもじしながら立っていた。

 

 

「な、なに……?」

「私たちだけの秘密、ありますもんね……♪」

「は……?」

 

 

 最初は何のことか分からなかったが、曜のやたら股をもじもじさせている動作を見て全てを察してしまった。

 そういや、そんなこともあったっけか……。

 

 

「あっ、曜ちゃんが抜け駆けしてる!!」

「えっ、し、してないよ別に。してないよ……♪」

「だったらどうしてそんなに嬉しそうな顔してるの!?」

「そ、そんなことないよ!? う、うん……えへへ」

「してるじゃーーーーん!!」

 

 

 数分前までは押し潰されるかってくらい重い雰囲気だったのに、一気に騒がしくなったな……。

 でもこれがAqoursだ。くだらないところでバカ騒ぎして、盛り上がるところではみんなで盛り上がり、真面目な時にはみんなで真剣になって取り組む。ようやくグループとしてのメリハリもついてきたみたいだし、スクフェスまでに彼女たちはもっともっと自らの輝きを増すことだろう。

 

 

「梨子ちゃんも曜ちゃんも先生との秘密があってズルい! 私も先生の家に忍び込めば……」

「おい怖いこと言うな!!」

 

 

 賑やかなのはいいけど、俺に飛び火することだけはやめてくれるともっと嬉しいんだけどな……。

 




 あまり表立って公表したことはありませんでしたが、この小説の時系列はサンシャイン1期と2期の間の出来事として描いています。そもそもこの小説でアニメの話題を出すことはほどんどないので時系列は飾りみたいなものなのですが、千歌たちの精神面の成長に関してはアニメ2期とかなり相違しそうです。今回もそうですが、この小説で千歌たちがやたら成長してしまい、アニメ2期と照らし合わせた時に精神面が逆に弱くなっていると思っちゃうかもしれません。もしこの小説のAqoursがそのままアニメ2期に突入したら、本当に統廃合を阻止できてしまいそうですね(笑) 元々アニメ設定を捻じ曲げている小説なので、こんなことを言うのも今更なのかも……?

 この小説で千歌たちが初登場してから何気に130話以上も経過していたりします。そりゃここまで逞しく成長しますわと、作者ながらに思ってしまいました(笑) もう我が子を見ているかのようですね()


 次回は千歌回であり、長かった合同合宿編(時系列的には3日ですが)のラストとなります。


新たに☆10評価をくださった

きょんたんさん

ありがとうございます!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夕焼けの欲望

 今回でμ'sとAqoursの合同合宿編はラストとなります!
 ですが華々しいラストでこんなことをしても良かったのだろうか……?


 

 μ'sとAqoursの合同合宿は無事に全ての予定が終了し、あとは帰宅するだけとなった。本来はスクフェスで行われるコラボライブに向けての練習がメインだったのだが、いつの間にか俺の秘密暴露大会になっていたのは言うまでもない。でもそのおかげで歩夢たちと本気で向き合えるようになったし、Aqoursにもこれまでかくしたことを全て話すことができて心が軽くなった。誰に対しても秘密が明かされた今こそ、本当の意味での始まりなのかもしれない。

 

 Aqoursに全てを話した後、練習はいつも通り続行し、μ'sとの最後の合同練習も終えた。千歌たちの様子を見ていると心持ちがいつも以上に明るくなっており、逆境を乗り越えたことで精神的にも成長していた。それを見たμ'sも安心した面持ちで、俺とAqoursの関係は保たれたのだと察したようだ。そのおかげか合同練習は未だかつてないほどに一体感が見られ、もう一緒にグループを組んじゃえと言いたくなるくらいにはμ'sとAqoursの息はピッタリだった。気持ち1つ変わるだけでここまで彼女たちの実力を引き出せるのなら、もっと早くから秘密を明かしておけば良かったと思うよ。まあ今回は虹ヶ咲の登場でなし崩し的に過去や秘密がバレた形になるから、もし歩夢たちが現れなかったらスクフェス終了後まで引っ張っていたと思う。どちらが良かったなんて今更比較するつもりはなく、もう明かしてしまったんだからその現実を受け入れて彼女たちに対する責任を持つ。それが今、俺のすべきことだろう。

 

 俺もAqoursも新たな覚悟ができて気合の入るところだが、ほとんどの子が車の中で眠っていた。秋葉の運転する車が揺りかごのようにゆらゆら揺れるだけでなく、この3日間の練習の疲れがここに来て襲ってきたのだろう。合宿初日の騒がしさとは打って変わって、車内は静寂に包まれていた。

 

 

「ん……」

「どうした千歌、眠いのか?」

「はい……。さすがにあれだけ練習したら疲れちゃって……」

「あれからすげぇ頑張ってたもんなお前。やる気を出すのはいいけど張り切り過ぎだ」

「だってぇ……先生のことをたくさん知れたことが嬉しくて、だから頑張ろうって……」

「俺のことを知って頑張ろうと思ったって、むちゃくちゃな理由だな」

「理屈なんていいんですぅ……ん……」

 

 

 俺の隣に座っている千歌は、今にも寝そうなくらいにうとうとしていた。俺との会話もちゃんと受け答えしているように感じるが、彼女の様子を見れば思いつくがままに言葉を発しているだけってことが分かる。Aqoursの中でも千歌は特に気合を入れており、日中は自分の体力を全て練習につぎ込みフルスロットルで臨んでいた。そのせいで車に乗り込む前から既に眠そうだったのだが、そろそろ限界みたいだ。むしろここまでよく耐えたと褒め称えてあげたい。俺の隣に座ることになった喜びでずっと起きていると宣言していた千歌なのだけど、やはり睡魔には勝てなかったようだ。

 

 そして、電車内で良くある事象が発生する。

 隣に座っている千歌の頭が、座席の頭部分から俺の肩にずり落ちてきたのだ。そうなれば必然的に俺の肩を枕にして眠る千歌の構図が完成し、傍から見ればまるで恋人同士に見える。電車内でこの行為をされたらこちらは何も悪くないのに痴漢扱いされそうで緊張するが、今回はまた別の意味で緊張していた。現役JKにしなだれ掛かられるだけでなく、耳元で心地よさそうな寝息を浴びせられてドキッとしない方がおかしいだろう。しかも相手は未来の恋人候補であり、相思相愛と言っても過言ではない存在。いくらμ'sで女の子慣れしようとも、()()恋人ではない女の子と恋人みたいなシチュエーションになるのはいつになっても気持ちが高ぶってくる。

 

 つうかこの光景、どこかで見覚えがあると思ったら合宿初日の車内で俺が絵里にしていたのと全く同じじゃん。女の子を枕にして寝るのも気持ちよかったけど、女の子に枕にされるのも悪くない。むしろ求められているというか、俺に心を許しているという証明にもなって高揚感がある。異性を枕にして眠るなんて、援交を除けば相手を本気で信用してないとできない行為だしな。

 

 気付けば、千歌の頭は俺の肩から更にずり落ちそうになっていた。さっきまではある程度の意識はあったようだが、今ではもう9割9分以上は睡魔に自分を乗っ取られているようだ。これでは話しかけても現実に戻ってきそうにないので、諦めて彼女の行く末を見守るしかない。行く末と言っても、結局俺の身体を枕にして寝る展開になるのは変わらないが……。

 

 間もなく、千歌の頭がゆっくり俺の膝の上に落ちてきた。予想通り膝枕のシチュエーションが完成した訳だが、膝枕をする側もされる側とは違った気持ちよさがある。女の子の柔らかい頬を脚で感じ取る偏った性癖が芽生えてしまいそうだ。

 しかし車の窓から夕日が差し込み、女の子に膝枕をしているこの構図、なんともロマンチックじゃないか。いつもなら女の子に密着されるとあらゆる煩悩が脳内を支配し、いくら自分にとって大切な子であっても手出したい欲に駆られてしまう。だがこんなドラマチックな情景を前に、汚い欲望を淫らに晒すことができようか? いや、できない。

 

 俺と千歌は一番後ろの席なので、誰が寝ていて誰が起きているのかは分からない。でもこの静まり返っている雰囲気から察するに、μ'sもAqoursもほとんどの子が居眠りをしているだろう。正直に言ってしまうとみんなが夢の中にいてくれた方がありがたく、千歌に膝枕をしているこんな光景を見られたら、下手すると21人全員に同じことをしなければならないからだ。女の子に膝枕をしてもらうのは数あれど、俺が膝枕をしてやるなんて今後もあるかないか分からないからな。

 

 

「せんせぇ……」

 

 

 夢の中でも俺が登場しているのか。もはやコイツにとってみれば現実も夢もそう変わらない生活を送っているのかもしれない。現に千歌は寝ながら笑顔になっており、夢の中で俺に何をされているのか大体分かる。意外と乙女チックなコイツのことだから、恐らく恋人になった後の妄想、つまりデートや新婚生活の夢でも見ているのだろう。寝たまま俺のズボンをきゅっと握りしめ、時折口から漏れだす高い寝息からも彼女の幸福感が伝わってくる。邪な意識をしないように気を張っていたのだが、こりゃ帰宅するまで平静を保てるか自信がなくなってきたぞ……。

 

 そんな中、千歌は頬を更に俺の太ももに密着させてくる。つうかコイツの顔がやたら俺の股に近く、何も知らない人が見たらしゃぶらせているようにしか見えない。非常に危険な香りのする状況なのだが、俺の想像はより現実に近くなろうとしていた。

 

 

「んぅ……すぅ……」

「おい、おいおい。触れてるんだけど……」

 

 

 寝ぼけているのか、千歌の手が唐突に俺の股、言ってしまえば股間部分に振れた。まだダイレクトには触られていないものの、女の子の手に少しでも触れられているってだけで一気に緊張感が高まる。さっきまで夕焼けに照らされた車内で大人のロマンチックさを堪能していたのだが、別の意味で大人の雰囲気に様変わりしそうだ。無意識に俺を求めているのだろう、さっきからズボンを掴まれているため、もしかしたらその手が俺の……いやいや、余計なことは考えない方がいいかも。ただ寝ているだけの奴に欲情しそうになってどうすんだ俺。いくら変態と罵られようとも、睡眠姦なんて特殊性癖はほんの少ししか持ち合わせてないから! 少しだけな、すこぉ~しだけ。

 

 しかし千歌の進撃は止まることを知らず、気付けば顔を俺の腹に摺り寄せようとしていた。そうなれば必然的に股の上に彼女の顔が来る訳で、もはや故意にやっているのではないかと疑ってしまうくらいだ。顔を局部に近付けられただけで興奮しそうになっている俺も俺だが、ここまで敏感になっているのもこんな状況だからだろう。静まり返った車内、周りには熟睡している女の子たち。閉鎖空間でこんな状況に陥れば、普段よりも意識してしまうに決まってる。

 

 

「せんせ……好き……」

 

 

 一体なにが好きなんですかねぇ……。純粋の俺のことが好きなのか、それともお前が顔を擦り付けている男の局部が好きなのか。千歌に限ってことりや楓のようなことを言い出さないとは思うが、実はコイツの夢の中も俺と同じく煩悩で溢れかえっているのでは?? 本来なら女の子から『好き』と言われたらあっさりドキッとしてしまうのに、こんな状況だから変に勘繰ってしまう。でも自分自身、千歌の顔を引き剥がさないあたりちょっと期待しちゃってるのかも……? 何をとは言わないけどさ。

 

 下手に声を出してしまうと周りに気付かれてしまうかもしれないので、何があっても耐え抜かなければならない。ただでさえ膝枕をしてるってだけでも他の子から嫉妬されそうなのに、しゃぶらせ紛いなことをしていると知られたら何を要求されるか分かったものじゃない。嬉しい悲鳴だけど、周りに女の子が多いとケアしなければならない問題も多いのだ。

 

 

「ん、ふぅ……」

「息吹き掛けるのやめてくれ。いやマジで……」

「はぁ……んっ……」

「エロい声で息漏らすなって」

 

 

 どんな夢を見ているのか、それとも元々これがコイツの睡眠スタイルなのかはしらないが、さっきからやたらと局部に息が降りかかってくる。しかもくすぐるような優しい吐息なので、何度も吹き掛けられると股がムズムズしてしまうのは言うまでもない。しかも1度や2度ではなく、呼吸と同じように一定の規則で微動を咥えてきやがるのがこれまたキツイ。もはや股間に仕込むバイブと何ら変わりねぇよこれ……。

 

 さて、この状況に冗談抜きで耐えられなくなってきた。無理矢理にでも千歌を起こすか、それとも車内で気持ちよく果てるかの2択を強いられている。もちろん後者なんて選ぼうものなら女の子たちの晒し物になってしまうのだが、もう少しだけこの快楽を味わっておきたい欲もある。女の子の顔が局部に押し付けられ、しかも息を吹き掛けられて刺激されるという新たな焦らしプレイ。どうせならもう触ってくれよと叫びたくなるのだが、それを言ってしまったら眠って意識がない女の子に屈服するのと同義だから絶対言いたくない。こんなに焦らすの上手かったっけコイツ?

 

 すると、またしても千歌に動きがあった。

 さっきまで間隔的に吐き出されていた寝息が止んだのだ。これは俗に言われる無呼吸症候群かと思って少し心配したのだが、そんな俺の気遣いなど杞憂であった。千歌の奴、徐に手を俺の局部に接近させてくる。しかも迷いなんてなく一直線に。

 

 俺は自らの身体がセクハラされるのを防ぐため、忍び寄る魔の手を自分の手でガッチリと掴んだ。

 

 

「ひゃっ!?」

「…………起きてんじゃねぇかお前」

「えっ、い、いや今起きたんですよ今!!」

「それにしては目が冴えてるし、声もはきはきしてるよなぁ? なんでかなぁ……?」

「そ、それは……ゴ、ゴメンなさぁあああああああああああああああい!!」

「静かにしろ! 周りにバレるだろ!」

「あっ……」

 

 

 いくら千歌の悪行を白日の下に晒したと言っても、膝枕をしているのには変わりない。事情が事情だから後で尋問はするが、何よりも周りに今の状況がバレない方のが先決だ。そうでないとみんなに膝枕を強請られるはめとなり、俺の脚が鋼鉄のように固くなっちまいそうだからさ。

 

 

「まさか、全てお前の作戦通りだったとはな……」

「作戦って、別に悪いことしようと思ってた訳じゃないですよ……?」

「車内という密室で、男の股間に顔を密着させ、しかも息を吹きかけて焦らした挙句、最終的には触ろうとした痴女行為が悪くないとでも?」

「そ、それは一時の気の迷いと言いますか、ほ、ほら、練習で疲れて頭がぼぉ~っとしてたんですよ!」

「お前の頭が逝っちゃってるのはいつものことだけどな」

「ひどっ!?」

 

 

 スクールアイドルのリーダーってクセ者が多いというか、脳内お花畑の奴が多い印象がある。千歌はもちろん穂乃果もそうだし、何なら虹ヶ咲の歩夢も淫乱色が強いから2人とは別の意味で頭がおかしい子だ。その点、ライバルであるスクールアイドルのA-RISEとSaint Snowのリーダーは知的で美人で、誰が見てもカリスマ性が高い。まあツバサの方はかなりやんちゃ属性が入ってるけど、聖良みたいな真面目な子こそリーダーに向いてると思うよ。

 

 それにしても、本当に疲れて判断力が鈍ってたからこんなことをしでかしたのか? 以前に誰もいないバスの中で服を脱いで誘惑してきたような奴だから、にわかに信じ難いのだが……。

 

 

「まあお前が意図的にやったにせよぼぉ~っとしてたにせよ、男のあれを握ろうとする思考回路が形成されてる時点で痴女なんだよ」

「ち、違います! そんなことりさんや楓さんみたいな扱いされたら心外ですよ!」

「何気に先輩たちにヒドイこと言うのな。合ってるから別にいいんだけどさ」

 

 

 とうとう後輩にまでヤバい奴認定されるとは、落ちるところまで落ちたな淫乱組。正直最初から底辺だったかもしれないが、自分のキャラがあっという間に後輩に認知されるのも才能としてみれば長所なのかもしれない。こうして俺が褒め称えないと、他にアイツらを褒めようだなんて思う奴はいないからな。せめてもの慈悲だ。

 

 

「疲れてぼぉ~っとしているのは本当です。本当ですけど、興味がなかった……と言えば嘘になります」

「やっぱり……」

「勘違いしないでください! 膝枕をしてもらおうと思って先生の膝に倒れ込んだのはわざとですが、その先のことは衝動的に……」

「つまり本能に逆らえず、いつの間にか俺のアレに息を吹きかけたり触ろうとしていたと」

「ほ、ほら! 男性ってそこを弄られると気持ちいいって言うじゃないですか? だったら私も日頃のお礼として、先生を気持ちよくさせたくって……」

「その想いは嬉しいけど、何もこんなところでやらなくても……」

「じゃあ、車の中じゃなくて外だったらいいんですか?」

「車内も野外もどっちもやべぇから……」

 

 

 そもそもの話、俺を気持ちよくさせる手段として手コキを選んでいる時点でおかしいとは思わないのかコイツ……? 普通なら肩揉みをするとかマッサージをしてあげるとか、健全な子ならそっちの発想に至るはずだ。これもμ'sと絡んだゆえにあっち方面の思考回路が形成されてしまったのか、それとも俺のせいだったりする??

 

 

「こんなことをやってますが私、先生にとっても感謝してるんですよ。だからこそ何かしら先生に恩返ししたいと言いますか、こういった日常的に先生に喜んでもらえることがあればいいなと思いまして」

「毎日毎日あそこを手で触られてたら、逆に管理されてるみたいで情けないんだが……」

「μ'sの皆さんに管理されてるんですか?」

「されてねぇよ!!」

 

 

 12人もの女の子に管理されるようになったら、それこそトイレすら誰かに付き添ってもらわないとできなくなるだろう。そういったドM思考は生憎持ち合わせていないので、そんなエピソードが語られるかもという期待はさっさと捨てていただきたい。ちなみにドM御用達である"貞操体"というエロ漫画殿堂入りの道具があるのだが、そんなものは俺たちのストーリーでは一切活躍しないのであしからず。フラグじゃないからね……?

 

 千歌の行動には難があれど、俺のために尽くしたいという気持ちだけは十分に伝わってきた。しかも恥ずかしい行為を躊躇わず実行するってことは、それだけ俺のことを信頼して、心に決めた人だってことだ。そうでなきゃこんな密室空間で、男を気持ちよくさせようなんて思わないもんな。それかコイツが身体目的のビッチかどちらかだろうが、俺は前者だと信じたい。

 

 

「先生はお嫌いですか? こういうの……」

「い、いや……どちらかと言われると……好きだよ」

「えっち」

「う゛っ! お前に言われたくねぇ……」

 

 

 女の子に『えっち』の一言だけを端的に言われるシチュエーションって相当ドキッと来るという噂だったが、まさかこのタイミングで訪れるとは……。確かにちょっと女の子から攻められている感じがして、罵られているけど悪い気はしない。あれ、これってM属性があるってことか? いやいや、これでも俺はノーマルなはず。でもさっきの一言はかなりグッと来た。いくら自分の中で確固たる性癖を持とうとも、こうして女の子と対峙するとその子の魅力にズブズブと引き摺り込まれてしまうから、やっぱり女の子は魔性で卑怯だ。

 

 

「好きなのは確かだけど、車の中でするのはやめてくれ。みんなもいることだし」

「あはは、そうですね……。見られちゃったら私じゃなくて、先生が怒られそうですから」

「ホントだよ。みんな澄ました顔をして嫉妬深いから、見られないうちに早く――――」

 

 

「もう見てたりして」

 

 

「は!?!?」

 

 

 今まで全く気が付かなかったが、前の席から穂乃果が身を乗り出していた。いや穂乃果だけじゃない、周りの席の女の子たちの視線が俺と千歌に集結している。目を輝かせている者、頬を赤くしている者、呆れている者――――三者三様の反応をしている女の子たち。どうしてこんな大っぴらにバレたんだ!?

 

 

「零君楽しそうだねぇ。穂乃果も膝枕してもらいたいなぁ……」

「ことりは膝枕だけじゃ満足できないけどね♪」

「全く、あなたはどこでもいつも通りですね……。この期に及んで止めはしませんが、こそこそするならもっと声のトーンを落としてください」

「ち、違うんだ。これには事情が……千歌も何か言ってやってくれ」

「う~ん、ごちそうさまでした?」

「ちょっ、何言ってんのお前!?」

 

 

 千歌の一言に車内の空気が一変する。

 これもう……詰んだ??

 

 

「千歌ちゃん、先生のをアレを、そのぉ……飲んだってこと!?」

「飲んだって何を? それに梨子ちゃんすっごく顔赤いよ?」

「ふぇっ!? そ、それは……」

「墓穴掘ってんじゃねぇよ……」

 

 

 その後、車内はより騒がしくなった。さっきまでみんな寝てたのに、起きて数秒でこの賑やかっぷりは彼女たちの仲の良さを表している……のかもしれない。

 最後の最後でも一波乱あったが、とりあえず合宿の目的であるグループ間交流は無事に達成できたみたいで良かったよ。それに俺自身もAqoursや虹ヶ咲と再度向き合うことができたし、みんなにとって意味のある合宿になったんじゃないかな。前も言ったが、ここからが本当の始まりなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 そして、運転席では――――

 

 

「そうだよ零君。私からしてみても、ようやく始まったって感じかな」

 

 

 

 茜色した細長い雲が色づいた西空の中、俺たちはそれぞれの場所へ帰っていく。

 スクフェスまで残り1ヵ月もない。みんなこの合宿で得た新たなる想いと覚悟、そして欲望を胸に、夢へと突き進んでいくことだろう。

 




 前書きでも言った通り、今回で合同練習編は終わりです。
 本来の目的としてはAqoursとの関係を進展させること、虹ヶ咲の秘密を明かすことの2つだったのですが、無事に達成できたということで、これからの展開にご期待ください! 特にここまでストーリー色を強くしたのはこの小説では初めてのことなので、どこかで設定の矛盾・質問などありましたら遠慮なくコメントください。
 ちなみに目的が目的なので、μ'sとAqoursの合同合宿と謳っていてもお互いに絡むことは合宿序盤以外はあまりありませんでした。特に合宿後半はAqoursと虹ヶ咲にスポットを当てるあまり、μ'sが一緒に合宿に参加してるのかと怪しくなるくらい出番がなかったのは少し反省ですね。まあ彼女たちの物語はほぼ完結してるので、後輩を見守る先輩ポジションでいるくらいが丁度いいのかもしれません。

 そして今回の合宿編の終了を機に、Aqoursとはしばらくお別れとなります。今後はしばらくμ'sとの日常編が続くことに加え、虹ヶ咲のメンバーでまだ個人回をやっていない子たちにスポットを当てていきたいと思います。まああくまで予定なので、どこかで登場するかもしれませんが(笑)



新たに☆10評価をくださった

うるるさん

ありがとうございます!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帰ってきた日常

 今回からはしばらく日常編が続きます。
 合宿編がかなりのシリアスムードだったので、今回のようなほのぼのとした雰囲気は久しぶりかも。


 俺の朝は早い。海外製の高級ソファに腰を掛け、イギリスの英字新聞を周りに見せつけるように開けて読む。妹特製のサンドイッチとバリスタ顔負けのコーヒーを嗜みながら、冷房が程よく効いた部屋で優雅にくつろぐ。俺の日常はまさに幸福の絶頂。これほどまでに高貴で豊かな生活を送っている奴は、この俺を置いて他にはいないだろう。ソファの後ろには命令すれば何でも言うことを聞く妹メイドもいるし、もはやこの家は皇帝の宮殿と言っても差支えない。ゆくゆくはμ'sやAqoursも加え酒池肉林を堪能し、嗜虐の限りを尽くすのが俺の――――

 

 

「つめたっ!? 楓!?」

「なにさっきから意味分からないこと言ってるの……」

「サラッと心を読むなって」

「いや全部口に出してたからね??」

 

 

 楓は右手に持つ凍らせたペットボトルをくるくる回しながら、ソファに座っている俺をジト目で見下す。なるほど、そのペットボトルを俺の首に押し付けて優雅なひと時を邪魔したって訳か。妹メイドの分際で、ご主人様の快楽を邪魔するとは万死、いや奴隷に堕とされても知らないぞ?

 

 

「言いたいことはたくさんあるけど、まず今は朝の11時だよ? なぁ~にが『俺の朝は早い』んだって話。もうお昼じゃん」

「いやそれは雰囲気を出すための設定であって……」

「それに英字新聞を開いてって、ただタブレットで英語の記事読んでるだけじゃん。あたかも紙の新聞を想像させるような誤解を生む発言をして……全く」

「だ、だからさ、それは――――」

「まあサンドイッチとコーヒーは私のお手製だけど、別にメイドになったつもりはないからね? 確かに私はお兄ちゃんのことは大好きで、できるだけ願いを聞いてあげたいよ? でも命令すれば何でも従うアンドロイドじゃないんだから、もう少し人権を持たせて欲しかったなぁ」

「あ、あの……楓さん?」

「最後に酒池肉林を楽しみたいってなに? お兄ちゃんがご主人様体質なのは私が一番よく知ってるけど、間違っても外でそんなことは言わないでね。一緒にいる私が恥ずかしくなってくるから」

「いつもはブラコン全開で卑猥な発言ばかりしてるくせに……」

「ん? 何か言った?」

「さ、さぁ……」

 

 

 珍しく俺に反抗してくる楓だが、家の中の彼女は意外とドライなのだ。外では俺とのラブラブっぷりを見せつけるためにブラコン発言を連発するが、家の中で俺と2人きりだとダメ亭主を躾ける主婦としての色が強くなる。まあ所構わずブラコンな妹よりも、こうして要所要所で正妻力を見せつけてくれる妹の方が断然可愛いけどね。それに根の部分はいつまでもお兄ちゃん大好きっ子なので、俺に尽くしてくれることには変わりない。いやぁやっぱりそんな妹を彼女にしてホントに良かったよ!

 

 

「バカなことやってないで、早く着替えて」

「どうして着替える必要がある? 今日はオフだぞ?」

「待たせてるから、そこで」

「ん……?」

 

 

 楓が廊下を指さすと、そこには凛と希が俺を手招きしながら待っていた。

 どうしてアイツらがここにいる……? 2人も楓と同じく、俺の優雅な朝を邪魔する気か? まあもう11時なんだけどさ……。

 

 

「なんでお前らがここにいるんだよ?」

「いやね、凛ちゃんと一緒にラーメンを食べに行く約束をしてたんよ。それでたまたま零君の家の近くを通りかかったから、ついでに誘ってあげようかなぁと思ってね」

「謎の上から目線は何故……?」

「いいから早く着替えて出掛けるにゃ! 今から行くところは人気のラーメン店だから、お昼になるとすぐに混んじゃうんだよ」

「メンドくせぇけど、どうせ拒否権はないんだろ?」

「「もちろん!」」

「だから、どうして上から目線なんだよ……」

 

 

 楓といい凛と希といい、今日はやたら女の子にマウントを取られる日だな……。さっき女の子たちとの酒池肉林を堪能する夢を掲げていたのだが、今の様子を見る限り支配するどころか逆に尻に敷かれそう……うん、なんか惨めになるから考えるのはやめよう。

 

 

「まあ仕方ねぇから付き添ってやるか」

「はい、行ってらっしゃい」

「は……? いやいやいやいや、お前は行かないのかよ!?」

「『は?』はこっちだよ。こんなクソ暑い日に出かける方がバカでしょ? お兄ちゃん朝から変なことばかり言ってるけど、遂に頭沸いちゃった??」

「今日俺の扱い酷くね!?」

 

 

 なんだろう。もしかして俺は別の世界線、つまりパラレルワールドって奴にワープしちまったのか? そこは女尊男卑の世界であり、例えハーレムを築こうとも男は女の子たちの尻に敷かれる人生を送る世界。それってもう男がストレス解消の道具というか、ただのサンドバッグな気がする。女性たちに搾り取られ続ける性奴隷希望のM男だったら喜ぶのかもしれないが……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あっつ……。こんな日に外に出る奴の気が知れねぇわ……」

「でもたまには汗をかかんと、身体が体温調整を忘れて体調を崩しやすくなるんよ。合宿から帰ってきて一度も外に出てないって楓ちゃんが言ってたし、ええ機会なんやない?」

「余計なお世話だっつうの。それに熱中症の方がよっぽど怖いから、冷房をガンガン効かせた部屋にいた方が体調的にもいいだろ。昨今では技術の進歩で冷房代も安くて済むし、いい時代になったもんだよ」

「なるほど、こうしてニートが建設されていくんやね……」

「大学生の夏休みなんてそんなもんだろ」

 

 

 真夏の街中を練り歩きながら、家の中こそ至高理論をこれでもかと言うくらいに主張する俺。人も多いこんな街中を夏の昼間に歩かされていたら、そりゃ反抗の1つや2つしたくなるに決まってんだろ。連日35度超えの猛暑が続いているので、合宿先との温度差はかなり違う。向こうは海が近くにあったし、何より自然に囲まれた避暑地だったために快適で毎日が過ごしやすかった。それが東京に帰ってきてみればどうだ? もう暑さで溶けちゃうよ? それくらい今年の夏の暑さは厳しいのだ。

 

 しかしそんな中でも希は汗1つかいてないし、凛に至ってはラーメンが楽しみすぎて夏の暑さを感じることすらも忘れているようだ。女の子って夏でも常に爽やかそうだけど、暑さを感じにくいのかな?

 

 

「零くんも希ちゃんも早く早く! お店が満席になっちゃうよ!」

「走れと言うのか、この炎天下の中……」

「これで間に合わなかったら、零くんは激辛ラーメン特盛ね」

「こんなクソ暑いなかで激辛食わせるとか鬼かよ……」

「元々零くんが全然起きてこないから悪いんだよ! 1時間も待ったんだから」

「そこまで待ったんなら、家で飯だけ食って帰ればよかったのに……」

「最初はそうするつもりやったんやけど、楓ちゃんから零君が準ニート状態だから無理矢理でも連れ出せって言われちゃってね。自分の恋人がヒモで引き籠りのニート穀潰しオタクなんてμ'sの風評被害にも繋がるやん?」

「なにその罵倒のフルコースは……」

 

 

 やっぱり今日はみんなからの風当たりが強い気がする。まあ楓や希が言っている準ニートというのはあながち間違ってないから、そんな社会の底辺を見下すのは当たり前と言えば当たり前か。それを加味してもみんなサラッと毒を吐くもんなぁ……あれ? このまま尻に敷かれる?? 確かに最近はμ'sの誰とも恋人らしいことをしてない気がする。外が暑いからずっと家に引き籠っている俺のせいなんだけどさ……。

 

 

「あれ? 凛ちゃんに希ちゃん? そして……零くん!!」

「あっ、ことりちゃんだ!」

「どうして俺を呼ぶ時だけテンション高いんだ……?」

 

 

 俺たちは道沿いにある雑貨屋から出てきたことりとたまたま鉢合わせた。ことりの奴、凛と希の顔を見た時は思いがけない出会いにきょとんとした面持ちだったのに、俺の顔を見るなり急に笑顔になり始めるんだから不気味なもんだ。ことりの笑顔にちょっとゾクッとするあたり、俺も相当コイツに毒されてきたと思う。俺以外の男だったらその笑顔を見るなり即ノックアウトしそうなものだが、コイツのことだ、笑顔の裏で何を考えてるのか分かったもんじゃねぇから。

 

 

「零くんが外にいるなんて珍しいね。どういう風の吹きまわし?」

「楓に家から追い出され、コイツらに無理矢理引っ張り出されたんだ」

「ふ~ん。確かに、自分の恋人がヒモで引き籠りのニート穀潰しオタクなのは嫌だもんね」

「お前もかよ!? もしかしてさっきの会話盗聴してた!?」

「ん~? なんのこと~?」

 

 

 さっきから太陽より明るい笑顔を崩さないことり。でも魔性の笑顔は彼女の言葉に胡散臭さを漂わせる。ゆったりとした言葉遣いなのが逆に疑わしさを増幅させており、さすがμ'sの中でも屈指の不思議ちゃんと言うべきだろうか。コイツの発言次第では、穂乃果や凛がまともに見えること多々あるからな……・

 

 

「そうだ! ことりちゃんも一緒にラーメン食べに行かない?」

「ラーメンかぁ……うん、いいねそれ! 暑い日だからこそ熱いものが食べたくなるんだよね」

「さっすがことりちゃん、分かってるぅ~」

「でもことりちゃんって、ラーメン食べてるイメージあんまないなぁ。そもそも食べたことあるん?」

「さすがにあるよ~! ね?」

「いや、ねって俺に言われても……」

「ね?」

「…………そ、そうだな」

 

 

 勢いに抗えず咄嗟に肯定しちゃったけど、俺だってことりがラーメンを食ってるところを見たことがない。ありもしない記憶を強制的に植え付けようとしてくるなんて、そんじゃそこらのヤンデレでもしないだろう。洗脳型のヤンデレなんて新ジャンルを今まさに開拓しようとしていることりだった。

 

 

「ことりちゃんって上品なモノばかり食べてるイメージで、ウチら一般庶民が口にするモノなんて食べなさそうなイメージやもんね」

「つまり、ことりちゃんはゲテモノ嫌いってことかにゃ?」

「えぇ~ゲテモノも大好きだよぉ? ねぇ~零くん?」

「なぜ俺の下半身を見る……」

 

 

 それはゲテモノではなく、女の子を牝に変貌させるモンスターだ――――て、こんなことを言ったら俺もことりレベルになるからやめよう。そもそもこれから飯を食いに行くって言うのに、どうしてこんな汚い話をしてるんだ……? 希はことりの言ったことの意味が分かっているのかクスクス笑ってるし、天然な凛は首を傾げているため、もはやこの流れを止める奴は誰もいない。ストッパーとなる海未や真姫がいないと危険だよ、μ'sってグループは。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 無事にラーメンを食すことができた俺は、ことりと一緒に街中をぶらついていた。凛と希は別の用事があるらしく、ラーメン屋の前で別れて今に至る。

 それにしても、コイツと2人きりなんて珍しい気もするな。そもそもμ'sと一緒にいると必然的に複数人でいることが多いので、こうして誰かと2人きりで街を歩くなんてことは久しぶりだ。デートのつもりはさらさらないけど、隣にいる淫獣はこれでも俺の恋人。一応これもデートになるってことか。こっちは淫獣を散歩させてる気分だけどね。

 

 

「2人きりだね……」

「そうだけど、またよからぬことを考えてんじゃねぇだろうな?」

「よからぬことって、例えば??」

「今まさにお前が考えてるようなことだ」

「だったら大丈夫だね! 今晩零くんと一緒にどこのホテルに泊まろうかなぁって考えてただけだから!」

「お前の大丈夫の基準が分かんねぇよ……」

 

 

 一般人が考えるホテルとコイツが考えるホテルではまるで意味合いが違ってくる。ことりの脳内に浮かんでいるホテルは間違いなくあっち方面のものであり、それをよからぬことではないと言い放つその度量が凄まじい。こうしてちょっと会話するだけでも彼女の淫乱性が垣間見えると言うか、いつどんな危険な発言をするか分からない底知れぬ存在だと察することができるだろう。

 

 こんな真昼間から道の真ん中でホテルの話をするなんて、人は変わるもんだな。出会った頃も掴みづらい奴だとは思ってたけど、当たり前だが今ほどではない。少しばかり長い思春期が続いているだけなのか、もう根底からこのキャラに変貌してしまったのか。真実は誰も知る由がない。

 

 

「そういやお前、1人で何をしてたんだ? さっき雑貨屋から出てきたよな?」

「使えるものがないか探してたんだよ」

「使える? 何を?」

「…………知りたい?」

「いや、急に知りたくなくなった」

「えぇ!? 零くんから聞いてきたのに!」

 

 

 そりゃね、さっきの変な間から察するに、碌でもないことを考えているのはお見通しだ。そんな時は下手に付き合わずにスルーする。これが脳内お花畑ちゃんと付き合う際に最も重要なことだ。不思議ちゃんのペースに飲まれたら、どれだけ精神力を磨いたとしても耐えられるはずがない。いい加減この淫獣とも長い付き合いなんでね、変態の扱いについては達観してるよ。

 

 

「あら、零に、ことり?」

「真姫ちゃん!? わぁ~こんなところで会うなんて奇遇だね!」

「え、えぇ。もしかして、デート?」

「いや、ちが――」

「そうなんだよ! 今日は朝起きた時からずっと一緒なの!」

「おい……」

 

 

 なんで堂々と嘘つくのこの子は。それに起きた時からって何だよ? 明らかに昨晩ヤってた発言してんじゃねぇか……。

 別に誰とデートしようが俺の勝手だし、誰かの許可がいる訳でもないけど、こうしてμ'sの誰かと2人きりでいる時に別のメンバーに会うと僅かばかり気まずさがある。もはやそんなことを気にする関係ではないとお互いに認知しているんだけど、どこか気さくになれない気持ち分かるだろ? つまり、今の状況がまさにそういうことだよ。

 

 

「真姫。一応言っておくけど、ことりが言ってることは事実無根だからな」

「知ってるわよそんなこと。夏の日にあなたが家を出たがる訳がないし、どうせ楓に背中を蹴られて外出させられたんでしょ? その途中でことりと出会った。違う?」

「さすが西木野先生。賢い子は話しやすくて好きだよ」

「零がヒモで引き籠りのニート穀潰しオタクって知ってれば、誰にでもできる推理よ」

「………なぁお前ら、もしかして示し合わせてる??」

「はぁ? 事実を言ったまでに過ぎないわ」

「いつにも増してきっついなぁお前……」

 

 

 今日は俺に対する当たりが強いμ's一行だが、真姫だけは平常運転だ。そもそも日常会話でも言葉選びに棘があるので、この程度の罵倒はもう慣れっこだったりする。つうか、女の子からの罵倒が当たり前だと思っているこの日常を満喫してる自分が怖いよ……。

 

 それにしても、みんなどうしてこんなクソ暑い日に外にいるんだ? ここ1ヵ月くらいずっと炎天下の中で練習を続けてきたから、この程度の暑さなど苦に感じていないのかもしれない。俺の場合は家に引き籠っていたからこそ、いざ外に出た時に余計に暑く感じられるのかも。

 

 

「真姫ちゃんも一緒に遊ぶ? 時間があればだけど」

「好意は嬉しいけど、今日は図書館で勉強する日なの。だから2人で楽しんできなさい」

「夏休みも勉強漬けなんて、医学の道って厳しいんだな。つうか自分の家で勉強すりゃよくね? あんな無駄にデカい家なんだから、1人になれるスペースくらいいくらでもあるだろ」

「確かにそうだけど、やっぱり自分の家は家なのよ。だから気分転換をするには外に出るしかないって訳」

「ことりも真姫ちゃんの真面目さを見習いたいというか、その集中力が欲しいよ」

「私だって特段集中力が高い訳じゃないわよ? やりたいことだから好きでやってるんだし、それはことりも同じでしょ?」

「ことりの場合は勉強というより、英会話のレッスンって言った方がいいかな。とにかく経験を積むことを意識してるんだ」

 

 

 …………なんだろう、コイツらの意識高い系の会話は。自分たちの未来に向けて切磋琢磨しているんだからもちろんバカにはしないけど、俺だけ会話に取り残されている感がヤバい。俺も教師の道を歩み始めたと言えばそうなのだが、ことりや真姫と比べたら大して頑張ってもいないし苦労もしていない。ステージ上の彼女たちはもちろん輝いているけど、こうした日常会話でも眩しく感じることがあるからたまに直視できないことがあるよ。

 

 

「零くん? どうしたのさっきからぼぉ~っとして」

「しゃきっとしなさいよ。あなたが夏バテになったらAqoursや虹ヶ咲のみんなが心配するんじゃない?」

「大丈夫。生まれつき健康だけはいいからさ」

「そうやって油断してる人が熱中症で倒れるんだから。気を付けなさいよ」

「その時は真姫に看病してもらうよ。俺、一度でいいから美人の女医に甲斐甲斐しく看病してもらうのが夢なんだよ」

「くっだらない」

「おいおい、人の夢を一刀両断するな」

「なんか私が医者になる夢があなたの下劣な夢のサポートをしてるみたいで、なんか癪になってきたわ……」

「2人の夢を同時に叶えることができるんだ、そんな効率的なことはないだろ」

 

 

 女の子をたくさんモノにすればそれだけ色んなシチュエーションを試せるので、今の俺の立場を考えるに少しくらい夢を見させてもらってもいいだろう。恋人が美人の女医で、しかも強く懇願すればそこそこ言うことを聞いてくれるツンデレちゃんなんて、真姫以外にいないんじゃねぇか?

 

 

「だったらことりもメイド姿で零くんにご奉仕するもん! 朝から晩まで、晩から朝までずっと!」

「お前いつ寝るんだ……」

「零くんに寝ろって命令されるまでだよ。なんたってご主人様の付き人メイドさんだから、ことりの行動はご主人様によって決めてもらうの」

「愛されてるわね、あなた」

「いや重すぎるわ……」

 

 

 今はこうして降り注がれる重い愛にビビっているが、ひとたびその状況に慣れればそれが日常化するんだろうなぁと渋々思う。だってμ'sのみんなが純粋だった頃と現状を比べると、むしろ純粋だった頃の方に違和感を覚えるくらいだから。そう思うと日常に慣れるって怖いな。俺のこれからの日常はAqoursも虹ヶ咲も入ってくるだろうから、もしかしたら想像以上に奇想天外な日常が待ち受けているのかもしれないぞ……。

 

 

「あれ、みんな揃ってどうしたの?」

「穂乃果ちゃん!?」

「穂乃果……」

「あれ、零君もいるなんて珍しい! ヒモで引き籠りのニート穀潰しオタクは卒業したんだね」

「本当に、罵倒に慣れるってのも怖いよな……」

 

 

 そうだった、俺には"今"やるべきことがあるんだった。未来のことはもちろんだが、今はとりあえず汚名を払拭するところから始めよう。せめてμ's以外にその汚名が拡散しないように阻止しなければ。

 

 なんか俺の日常って、人から見れば完全に非日常な気がする……。

 




 シリアスな雰囲気も執筆している分にはいいのですが、やはりどこか刺々しくなっちゃうので、今回のようなふざけた雰囲気の方が執筆していても格段に楽しいです! 皆さん的にはどっちの雰囲気の方が好きなのでしょうか?


 これからしばらくの間、投稿間隔に間が空くかもしれません。日常生活が忙しくなってきたのでリアル優先ということで、何卒宜しくお願い致します。



新たに☆10評価をくださった

猫船さん

ありがとうございます!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

栄えてない!生えてない!?

 久しぶりに滅茶苦茶ふざけてみた。
 まさに『この小説と言えば?』という質問に答えるかのような回となっています()


 

 自分で言うのもアレだが、俺は普通の人と比べたら人徳が高いと思っている。それを裏付ける証拠として、μ'sからは個人で相談を受けることもあるし、Aqoursからは顧問として慕われている。これだけの女の子から頼りにされてるんだ、ちょっとくらいは誇ってもいいだろう。それにここ数年で女の子たちの悩みを悉く解決してきた実績もあるから、反論しようにも誰も反論できない状況だ。人前でイキるなら、それ相応の結果を出してからイキらないと冷たい目でバカにされるだけだからな。

 

 そんな訳で、今日も今日とて人生相談の予約が入っている。外の暑さで家に引き籠りがちな俺だが、今日だけは重い腰を上げて相談相手との待ち合わせ場所に来ていた。その場所とは全国チェーンとして展開されている喫茶店だけど、周りに人も多いので相談事を話す雰囲気としては微妙なところだ。どうしてこんな場所を選んだのかは理解に苦しむが、本人の性格を鑑みるに何も考えてないと思う。それくらい天然ちゃんだから、今から会おうとしている相手は。

 

 

「あっ、零くん! こっちですこっち!」

 

 

 店に入ると、遠くの席に座っていた亜里沙が立ち上がって手を振っていた。店の中なのに大声で人の名前を呼びやがって、みんな注目してるし恥ずかしいだろ……。こうして少しばかり空気が読めないところも、彼女の天然な性格に拍車をかけている。普段はとってもいい子なんだけど、ことりや楓とはまた違った意味でネジが外れてるからなコイツも。

 

 そう、今回俺に相談を持ち掛けてきたのは亜里沙だ。彼女自身ふわっとした性格なので一見すると悩みとは無縁そうだが、外見はそう見えるだけで意外と自分の中で溜め込みやすい性格だったりする。相談を受ける立場からすると、悩みや迷いを表に出す人よりも出さずにケロッとしてる人の方が厄介だ。自分の中でストレスを抱え込んで、中々話を聞き出せないことも多いからな。

 

 つまり、亜里沙は後者なのだ。頑張り屋さんな性格が災いして、悩みがあっても何とか自分1人で解決しようとしてしまう。そのせいで表には負の感情を出さず、誰にでも気さくに振舞っている……ように見える。だからこそ、亜里沙が俺をこうして呼び出してくれたのはチャンスだと思ってるんだ。どんな悩みで迷っているのかは知らないが、自分の中で溜め込みやすい彼女が感情を吐き出す決意をしてくれた。それすなわち、自分の力だけでは解決できないと悟った問題だということ。こりゃ相当重い悩みを聞かされそうだな……うん、覚悟しないと。

 

 

「早速ですが、今日は相談事があって零くんにお越しいただいたんです」

「電話ではその手はずだったけど、一体どうしたんだ?」

「実は、お姉ちゃんにも言えないことなんですけど……」

 

 

 あの亜里沙が絵里にも相談できないことなのか……。亜里沙は自覚してないようだがかなりのシスコンであり、姉の絵里への愛情を包み隠さず露わにしている。同時に尊敬もしており、彼女にとって絵里は気兼ねなく悩みを相談できる人の1人なんだ。

 だが、亜里沙は絵里には相談できないことだと言った。誰よりも姉を頼りにしている彼女が、一番身近にいる良き相談相手に相談できないことって一体なんなんだ……? もしかして俺の想像よりも遥かに重大な悩みなのかもしれない。街中の喫茶店なので周りは騒がしいが、俺たちの間には張り詰めた空気が漂っている。俺は息を飲み、もうすぐ彼女から語られるであろう特大砲弾の悩みに対して身構えていた。

 

 そして、亜里沙が口を開く。

 覚悟を決めよう。複数の女の子を恋人にした以上、彼女たちみんなの笑顔を守り抜くのは俺の義務だから。

 

 

 さぁ、こい。どんな悩みでも受け止めて、早急に解決してやる!

 

 

「実は……」

 

 

「あ、あぁ……」

 

 

「は、生えてこないんです……」

 

 

「ん……?」

 

 

 …………………

 

 …………………

 

 …………………

 

 …………………は??

 

 

「もしかして、聞こえませんでしたか? 実は……」

「もういいから! 聞こえた上で驚いてるから!!」

 

 

 とりあえず状況を整理しよう。俺はまた自分の心に負担がかかるような重い悩みが降ってくるとばかり思っていた。だが亜里沙の悩みは至極単純と言うべきか、想像しようにも想像しがたい悩みだった。どうでもいいと言ってしまうとどうでもいいのだが、一応詳しく事情は聞いておこう。『女の子』と『生えてこない』という2つのキーワードから察するに、俺の脳内にはもう『あれ』しか思い浮かばないんだけど、亜里沙のことだからもっと純粋な悩みかもしれないしな。それに俺の妄想が邪すぎるって可能性もある。その望みにかけて確かめてみよう。

 

 

「確認なんだけどさ、生えてこないってのは……なにがどこに?」

「そ、そんなことを言わせるんですか!? 零くんはやっぱりえっちです……」

「ぐっ……」

 

 

 頬を赤らめながらもじもじすんな!! 傍から見たら俺がコイツに卑猥なことを言わせようとしてるみたいじゃねぇか!! 話を振ってきたのはそっちだろ!? あぁん??

 

 そして亜里沙が恥ずかしがっているってことは、やはりあっち方面の話題って訳ね。つまり俺の想像に何も間違いはなく、コイツの悩みは大体分かった。とにかく今の亜里沙の感情を抑えないと、女の子に羞恥プレイを仕掛ける変態ドS野郎のレッテルを張られかねないので、早くこの状況を脱しなけれ――――

 

 

「……し、下の毛が、生えてこないんです!!」

「あっ、ちょっ……!?!?」

 

 

 お、遅かったぁ゛あ゛ぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!

 亜里沙がそのセリフを吐くこと事態は読めていた。だからこそ早々に場所を移動しようかと考えていたんだけど、力及ばず彼女に下劣な発言をさせてしまった。そのせいで周りからはやたら冷たい目で見られ、特に女性からの目線が痛い。亜里沙は見た目的にまだ高校生くらいの背丈なので、成人男性が女子高校生に羞恥発言を強要していると思われても仕方がない。涼しい店の中なのに、俺の全身に滝のような汗が流れていた。

 

 ちなみに亜里沙は天然と言えども流石に下の毛の話をするのは恥ずかしいのか、俯きながら目を瞑っている。そのせいで周りがどんな空気になっているのか気付いていない。自分の発言で恋人の人生が崩壊しかかっていることなど想像もしてないだろう。そもそもコイツは意を決して俺にこんなことを相談してくれたんだ、その気持ちを無下にする訳にはいかない。だから少しくらい俺に反感の目が来ても大目に見てやるか――――

 

 

 と、思っていたが、周りがざわついてきたのでそろそろ居心地が悪くなってきた。仕方ない、ここは――――

 

 

「店員さん、ご馳走様でした! ほら亜里沙、行くぞ!」

「えっ、もう帰っちゃうんですか? えぇっと、お金お金……」

「俺の驕りにしといてやるから早く行くぞ! それに帰るんじゃなくて場所を移すだけだ。準備はいいな?」

「は、はい……って、ひゃっ、ひゃあっ!?」

 

 

 俺はテーブルに2000円札を置くと、おつりも受け取らず亜里沙の抱きかかえて喫茶店を飛び出した。この行動だけでもかなりの奇行だが、あの店にいた人とは二度と会わないだろうし、今は修羅場を脱することを優先したかったんだ。唯一痛い点を挙げるとすれば、大切に取っておいた貴重な2000円札をこんなところで消費してしまったこと。一刻も早くこの場を立ち去りたいがために、財布から適当に札を取り出したのが仇となったな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ほらよ。オレンジジュースで良かったっけ?」

「はい、ありがとうございます。お金の方は……」

「いいよ別に。勝手に場所を変えたのは俺だしな」

 

 

 俺たちは喫茶店を抜け出し、近くのデパートに避難した。喫茶店と違ってここなら常に騒がしいし、人の往来も多い。つまり俺たちの会話にわざわざ耳を傾ける奴なんていないってことだ。人が多いことで逆に話し声をカモフラージュでき、少々の猥談程度なら声を荒げなければ誰にも気付かれないだろう。

 

 さて、ここまでは前座だ。亜里沙の悩みは俺の想像の斜め上を行くものだったが、彼女が本気で悩んでるって言うのなら俺もマジになってやろう。正直なところ、シリアスな悩みよりも厄介な気がしなくもないが……。

 

 

「相談事に戻るんだけど、下の毛ってその……あの下の毛?」

「そ、そうです……」

「お前、今いくつだっけ?」

「19歳です……」

 

 

 亜里沙は見た目は幼いが、これでももうすぐ成人する立派な大人だ。だからこそ下の毛が生えてない発言は衝撃的だった。

 しかし、いちいちそんなことで悩むものなのかねぇ……。あまり心地よくはない話だけど、毛って邪魔じゃね? だからと言って誰に見せる訳でもなのでわざわざ剃らないけど、なければないに越したことはないと思っている。それに海外だったら剃るのが当たり前みたいな国も多いしな。だからなのか、ムダ毛を剃らないから日本人は不潔だと言っている外国人もいるくらいだ。

 

 

「こんなことをヒヤリングするのも不快かもしれないけど、どうしてそんなことで悩んでんだ?」

「だって生えてないのって、子供みたいじゃないですか……。ほら、私ももうすぐ二十歳ですし……」

「女の子の身体の成長過程は知らないけど、ただの個人差じゃないのか?」

「じゃあ聞いたことあります? 19歳にもなって下の毛が生えてない人の話……」

「まぁ、ない……かな」

 

 

 そもそも、この歳にもなって下の毛の話をする方が珍しいだろう。逆に考えれば珍しいと思い込んでいるからこそ、大人になったらみんな生えてるものだと常識的に認知しているのかもしれない。そう考えると、もし自分が亜里沙の立場に立ったとしたら彼女と同じことを思っちゃうかもな。確かに成人間近になってつるっつるなのは自分の身体が成長していないと違和感を覚えちゃいそうだ。

 

 そうか、亜里沙はつるっつるなのか。いかん、いつにも増して変な妄想が頭に雪崩れ込んでくる。彼女の全裸絵図、特に下半身当たりが強調されて脳内に……あ゛ぁあああああああああダメだダメだ! 亜里沙は真剣に悩みを打ち明けてくれているんだ、俺だけ邪な気持ちになる訳にはいかん! いかないんだけど、想像しちゃうよねやっぱり……。

 

 

「私の下、一度だけ見たことありますよね……?」

「な゛っ!? あ、あるけど、その話をここで持ち出すか……」

「だってあの時から1ミリも生えてないんですよ!! おかしいと思いませんか!?」

「いいから落ち着け。流石に大声で生えてない発言はヤバいって……」

 

 

 あまり多くは語らないが、数年前の話だ。俺と亜里沙が交わった時に確かに見たことはある。当時は全く生えておらず、つるっつるのすっべすべだった。しかしそれは数年前の話であり今もそうだとは一切思ってなかったのだが、どうやらそうではないらしい。なるほど、あの時の感触が今もそっくりそのまま残ってんのね。ふ~ん……。

 

 

「で? お前はどうしたい訳?」

「大人の身体になりたいです」

「背以外は十分に大人だと思うがな」

「おっぱいだけじゃダメなんです!! 下も立派にならないと!!」

「だから、そんなことを大声で叫ぶな!」

 

 

 亜里沙のことだから狙って発言していないとは思うが、天然だからこそ恥ずかしいセリフも躊躇いなく飛び出してしまう。喫茶店の中では恥ずかしそうにしてたのに、自分の気分が高まると羞恥心も忘れ躍起になってしまうのが彼女のクセだ。興味があるモノにはとことん打ち込んだりするのはいい性格なのだが、それが災いする日が来るとはな……。

 

 亜里沙はμ'sの中でも特に小柄だから身体もちんちくりんのように思えるが、意外と割と着やせするタイプだ。つまり、脱いだら身体の凹凸が凄まじい。絵里と同じくロシアの血を引いてるためかかなりのグラマーであり、おっぱいもかなり大きい。中学生の頃は絵に描いたような幼児体型だったのに、高校生で成長期を迎えたからか肢体が一気にエロくなった。しかも成長するたびに下着を買い替えないといけないって話を何故か俺にするもんだから、何度コイツの全裸姿を想像したことやら……。まあ生で見たことあるんだけどな、彼氏だもん。

 

 しかし、成長期が訪れたのにも関わらず下は未だに無毛ってことか。もはや彼女の身体も世間の需要を分かっているようで、亜里沙をロリ巨乳キャラとして仕立て上げようと世界の理として定められているのかもしれない。

 

 

「それでここからが本題なんですけど、どうしたらいいでしょうか……?」

「どうしたらって言われてもなぁ……。ダメもとで育毛剤をつけてみるとか?」

「どれを試してもダメでした。ロシアのおばあちゃんが送ってくれたモノも試したんですけどね……」

「そこまで育毛剤に魂をかけなくても……。それだけ試して全く生えなかったってのも凄いけど」

「見てみますか?」

「はい……?」

 

 

 突拍子もない発言に思わず聞き返してしまうが、彼女の言葉は一字一句はっきりと聞こえた。むしろ聞こえたからこそ素っ頓狂な声が出てしまったんだ。

 コイツの思考回路は知り合いの女の子の中でもトップクラスに読めないと思っていたけど、やはり亜里沙はいつどんな時にトンデモ発言をするか分かったものではない。喫茶店の中で下の毛の話をしていた時は恥ずかしがってたのに、俺の下半身を見せることに羞恥心は感じないのかよ……。もうエロに対する線引きが分かんねぇ。

 

 見たことあるとは言ってもお互いにヤリチンでもヤリマンでもないので、そこまで相手の無修正姿を知っている訳でもない。だからこそ亜里沙の衝撃発言に驚きつつも、ちょっとばかり気になっている自分がいるのも事実。19歳にして本当につるつるすべすべなのか、恋人特権で確認したい気持ちがふつふつと増幅していた。

 

 

「とりあえず今の悲惨な状況だけでも零くんに知ってもらって、それから対策を考えた方がいいかと」

「意外とガチな計画立ててるんだな……。良からぬ妄想をしていた自分が恥ずかしいっつうか、惨めっつうか」

「確かに零くんは変態さんですけど、いざという時は煩悩なんて捨て去って、私たちのことを真摯に考えてくれるって知ってますから!」

「そ、そうだな……」

 

 

 こ、心が痛い!! こんなにも俺のことを美化してくれているのに、実際は邪な気持ちで亜里沙のスカートとパンツを剥ぎ取ろうとしていた。無毛なことを確認するというよりも、己の欲望と性欲を満たすためだけに……。いやね、女の子から自ら下を確認してくれって言われたら誰でも変態になるだろ? パイパンの原因を探るため、女の子の下半身を冷静に分析できる賢者男がいたら会ってみたいよ。

 

 しかし亜里沙は至って真面目なため、俺も必然的に真っ当にならざるを得ない。でも純粋な美少女から下の毛の話をされるたびにドキッとしちゃうから、真面目に話を受け止めろって言う方が難しいだろう。しかし適当にあしらっているとまた彼女があらぬ発言をしかねないので、そろそろ本気モードになるかな。本気と言っても真面目な方であり、決して性欲を暴走させるって意味じゃないからな??

 

 

「男に体毛が生える理由は、成長して男性ホルモンが多く分泌されるからって聞いたことがある。だからお前も女性ホルモンを大量に生み出せば、もしかしたらもしかするかもしれないぞ?」

「それって、どう分泌すればいいんですか?」

「まあ、エロいこと考えるとか、自分でエッチなことやってみるとかじゃないか? 医学的根拠があるかは分からないけどさ」

「なるほど……。だったら零くん、お願いします!」

「はぁ?? いやいやいやいや、どこからどう転んでその発想になった!?」

「だって、自分1人でやるのってオナニーって言うんでしたっけ……? 1人でやるのって、そのぉ……怖くて」

「マジかよ……」

 

 

 亜里沙の口から『オナニー』なんて単語が飛び出したことに僅かな興奮を覚えてしまったが、最も衝撃的だったのは堂々と俺にやって欲しい発言をしたことだ。普通の女の子なら1人でするよりも、男に組み伏せられた方が怖いと思うに決まってる。それなのにコイツは俺を選んだ。そもそも1人でやったことがないからなのかもしれないが、それにしても俺のことをどこまで信用してるんだ……? 男は獣だと散々教えてやったのにも関わらず、躊躇わずそんな発言をしちゃうあたり羞恥心を感じる度合いが他の人とはズレているのかもしれない。だからいつまで経っても天然の烙印が消えないんだよ、お前は。

 

 もう今日だけでも亜里沙のトンデモ発言に度肝を抜かされっぱなしだ。よく今まで変な男に絡まれなかったなと素直に感心する。まあ俺が守っていたってのもあるだろうが、変な男以外でも宗教勧誘や高価な壺を買わされるなど、怪しい誘いに乗ってこなかったのは天性の危機回避能力でもあるのだろう。絢瀬亜里沙、付き合って5年だが未だに底知れねぇ……。

 

 

「とりあえずヤるのは最終手段だから後回しにするとして、まずは焦りを解消するところから始めようか。慌てっぱなしじゃいい案も思い浮かばないだろうし」

「安心できればベストですけど、そんな方法あるんですか……?」

「探せばいいんだよ。お前と同じつるっつるの奴をな」

「もしかして、μ'sの皆さんの中にもいるんですか!?」

「知らねぇよ。見たことはあるけど、もう何年も前のことで忘れちまった。だから今からみんなに確認をしてみて、誰か1人でも同じ境遇の奴がいればお前も安心できるだろ?」

「確かに仲間がいれば落ち着けるかもです」

 

 

 とは言うものの、パイパン仲間ってのは汚名ような気もする……。まぁ、ここは亜里沙が安心を得るためにも黙っておいた方がいいだろう。もしかしたら他の無毛の子も同じ悩みを抱えているかもしれないし、同胞がいると知って迷いが吹っ切れるのならそれはそれでありだと思っている。そもそも俺の意見だが、個人的には生えていようが生えていまいがどっちでもいい。もしかしたらそう言ってやった方が安心させられるのかもしれないな。

 

 

「分かりました! それではお願いします!」

「へ……? 何を?」

「えっ、同じ境遇の人を探してくれるんですよね?」

「いやいや、それはお前がやるんだろ?」

「こういうのは言い出しっぺがやる法則だって、穂乃果ちゃんや凛ちゃんの無茶振りに対して零くんがいつも言ってるじゃないですか?」

「確かにそうだけど、いや認めちゃダメか……」

「それに、流石の私でも友達や先輩方に『生えてますか?』とは聞けませんよ。恥ずかしいですし……」

「それは俺も一緒だよ!!」

「お願いします!! 一生のお願いです!!」

「マ、マジ……?」

 

 

 いくら相手が恋人たちであろうとも、パイパンかそうでないかを聞くのは屈強な精神を持つ俺でもキツい! でも亜里沙は俺の手を握って上目遣いで懇願してくるので、そんな表情をされたら逆らおうにも逆らえない。やっぱりさ、女の子ってズルいよ。ちょっと可愛くお願いしたら何でもまかり通ると思ってんだから。実際にそれで堕とされる俺も俺だけどさ……。

 

 

 いや、これ本当にやるの……? 人生が終わる可能性があるから、今から遺書でも書いておいた方がいい??

 俺は冷や汗をかきながら、震える手に握られた携帯をずっと見つめていた。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 投稿が遅れると言ったな、あれは嘘だ()
 というのも嘘で、今回のお話のネタがあまりにもおふざけが過ぎていたため執筆が楽しくなり、必然的に書き上げるのが早かっただけです。次回からはまたペースが遅くなるかも?

 それにしても、やはりシリアスよりも下ネタ気味な話を描いてる方が私の性格に合ってます。心なしか零君も亜里沙もイキイキしてるようにも見えるのは、執筆中に私の心が躍っていたからでしょう(笑)


 次回は後半戦。
 果たして零君は己のプライドを保てるのか……



まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

つるつるですべすべ

 なぜこの話を読みに来た!? 今回はあまりにもネタが下品すぎて、早くブラウザバックしないと人生の時間が無駄になるぞ!!


 ということで、今回は亜里沙の無茶振り回の続きです()


 

 俺はこれまでの人生の中で、数多の相談事を解決してきた実績がある。特におっぱいを大きくしたいとか、逆に小さくしたいとか、女の子の身体の悩みについても多少強引な方法だが解決してきた。だから今更どんな悩みが打ち明けられようとも、俺に解決できない悩みなどないと勝手に自負していた。たくさんの女の子に囲まれてもう5年以上が経過してるんだ、女心に疎いとは言っても彼女たちの性格やコンプレックスを知っていれば、そこから解決案くらい導き出せる。そう思っていた。

 

 だが、今回ばかりは難易度が爆発的に高い。下の毛の話ってだけでも相当異質な悩みなのだが、亜里沙を安心させるためにμ'sの他のメンバーにパイパンかどうかを聞かなければならないのが一番キツい。確かにそう提案したのは俺だけど、だからと言って男が女の子に対して『下の毛って生えてる?』なんてこと聞けると思うか? 女心が分からなくてデリカシーがない奴と今でも彼女たちに言われるけど、流石に聞いていいことと悪いことの区別くらいはつく。聞いたら最後、白い目で見られるのは明白で、いくら己の度量があったとしてもその重圧に耐え切れるはずがない。合宿の時に悩んでいたことよりもよっぽど手強いぞこれ……。

 

 

「なぁ亜里沙、やっぱり俺がやらないとダメ?」

「μ's内の掟その1! 言い出しっぺがやる法則ですよ!」

「そりゃそうだけどさ、普通に考えて男が女の子に対して生えてるか生えてないかを聞けると思うか……?」

「零くんにできないことなんてありませんから! 私が保証します!」

 

 

 ここまで信頼されているのは嬉しいけど、それとこれとでは話が別だ。何を以って俺を信頼してくれているのか、そもそも自分がパイパン調査をしたくないから俺をよいしょして面倒事を押し付けようとしているのか。亜里沙の無邪気な笑顔を見ているとその可能性は低く思えるが、これでももうすぐ20歳の大人なんだ、それくらいの悪知恵が働いてもおかしくないだろう。

 

 しかし亜里沙は自分から動く気は全くないようで、うずうずする様子を俺に見せつけて遠回しに早く他の子に連絡しろと急かしているようだ。俺も自分から提案してしまった手前、ここで何もせず引き返すことはできない。それに他に彼女の悩みを解消できる手段もないので、今は穂乃果たちに頼る以外に方法はない。もはや俺に逃げ場などなかった。

 

 仕方ない、そろそろ覚悟を決めるか。亜里沙に引く気は一切ないようなので、俺から動かなければこの相談事をクローズすることはできない。さっきからスマホを握りしめてはいるんだけど、極度の緊張で手もスマホも汗まみれだ。女の子と電話するだけでここまで緊張したのは初めてかもしれない。

 

 

「分かった、やってやるよ」

「ありがとうございます! それじゃあ誰に聞きましょうか?」

「そうだなぁ……」

 

 

 まずはμ'sメンバーの中で生えてそうな子と生えてなさそうな子を見立てで分けてみよう。

 

 

《生えてそう》

穂乃果、海未、花陽、真姫、絵里、希

 

《生えてなさそう(生えてたとしても薄そう)》

ことり、凛、にこ、雪穂、楓

 

 

 うん、自分でまとめておいてこんなこと言うのもおかしいけど、何やってんだ俺……? いくら自分の恋人たちであったとしても、下の毛が生えてるかそうでないかを妄想して分類化するってやってることだけを見れば相当変態だ。一応は亜里沙の悩みを解決するためって名目はあるけど、それを度外視してでも俺の行動は一言で言ってしまうと"気持ち悪い"。今この瞬間、世界で一番底辺な妄想をしていることだろう。

 

 でもそんなことを考えてしまっては余計に電話しにくくなってしまう。ここはいくら罵倒されてもいいから、電話をかける相手を冷静に分析するべきだ。片っ端から電話をかけるなんて暴挙はしたくないし、それにμ's内で自分たちの陰毛事情を調べようとしてる変態がいるなんて噂を流されたくもないしな。

 

 

「電話をかける相手は凛かにこ、それか雪穂が候補かな」

「どうしてですか?」

「μ'sの中でも身体が小柄な奴らだからな。理論的じゃないけど、やっぱり身体が小さい子は毛が生えてないって勝手に想像しちゃうんだよ」

「なるほど……」

 

 

 聞くからに下衆な推理だけど、さっきも言った通り電話の相手を絞るためだから仕方がない。それにこの推理は割と的中していると思っていて、候補の3人以外だったらことりや楓も生えてなさそうだと考えている。でもその2人は生えていないというより剃っている印象の方が強く、そもそも2人は身体が大人で性欲も強いため、そのせいで毛が生えてくることに悩みを抱えていると思う。つまり亜里沙とは逆ってことだ。だからその2人は候補から外し、凛、にこ、雪穂の3人に狙いを定めた。

 

 その中で、最初に電話をかけるのは雪穂するつもりである。現状を話したとして、雪穂は他の2人と比べてもある程度は冷静に会話してくれると思ったからだ。ほぼ俺の願望でしかないけど、さっさと質問してさっさと答えてもらい、数十秒くらいの通話で事を済ませるのが理想だ。

 

 躊躇していてもいつかは電話しないといけない。俺は意を決して雪穂に電話をかける。

 3回のコールの後、通話口から本人の声が聞こえてきた。

 

 

『もしもし、雪穂です』

「もしもし、今いいか?」

『はい。なんでしょうか……?』

 

 

 俺から雪穂に電話をするなんてことは稀なため、向こうも少し戸惑っているようだ。だが今からもっともっと戸惑うことになるだろう。もちろん俺は通話口から雪穂の声が聞こえた瞬間に心臓の鼓動が激しくなってるけどね。言ってしまうのか、遂に……。

 

 

「なぁ雪穂、落ち着いて聞いて欲しいんだけど……」

『は、はい……』

「お前ってさ、生えてる?」

『………………はぁ?』

 

 

 質問から応答までそこそこの間があったが、その間に質問の意味を理解しての切り返しなのか、それとも全く意味が理解できず聞き返してきたのか、電話だから相手の表情を見ることができないため分からない。でも雪穂の声色は電話に出た時より明らかに低くなっており、若干だがドスの効いた声になっていた。その時点で俺に何かしらの圧を掛けようとしていると察せるので、もしかしたら彼女は全てを悟ったのかもしれない。

 

 どちらにせよ、話を長引かせると俺の羞恥心とプライドがボロボロになるので、とっとと答えを聞いて電話を切りたいところだ。

 

 

「生えてるか生えてないか、最悪イエスかノーかでいいから答えてくれ」

『今までも相当頭がおかしい人だと思っていましたが、とうとう壊れました……?』

「何も聞くな。答えだけ聞ければそれで満足だから」

『満足ぅ? 説明もなしにそんなことを質問されて、それで答えると思います? いくら恋人同士だからって、踏み入ってはならない領域もあると思いますけど』

「ぐぅの音も出ない……」

 

 

 冷静に対処されるとそれはそれで困るっつうか、雪穂を選んだのが裏目に出てる気がする。まあ最初からまともに答えてくれるとは思っていなかったが、まさかここまで質問の理由を問い詰められるとは……。でもよくよく考えれば、意味不明な質問に対してその理由を求めるのは普通だ。さっさと亜里沙のお悩み相談を終わらせたい一心で、そんな普通のことすらも考慮不足だった。さて、ここからどうすっかなぁ。

 

 

「頼む雪穂、答えてくれたらお前の言うことを何だって聞く。だから生えてるか、生えてないか。それだけ教えてくれ」

『は、はぁ? 本当に何でもですか……?』

「男に二言はない」

『そうですか……』

 

 

 相手のご機嫌を取るために、己のプライドを全て投げ捨てた。だが意外にも雪穂の心は揺れているようで、さっきからずっと黙ったままだ。如何に冷静であろうとも、目先にチャンスが転がっていると途端に飛びつきたくなる性格は姉の穂乃果と同じだな。

 

 そしてしばらくの沈黙の後、通話口から雪穂の声が微かに聞こえる。

 

 

『は、生えてますよ……』

「えっ、なんだって?」

『どうしてそこで聞き直すんですか!! は、生えてますよって言ったんですよ……』

「マジ……?」

『どうしてそこまで驚かれてるんだろ……』

 

 

 雪穂が生えてる? あの雪穂が?? 華奢で小柄な身体のあの雪穂が!?

 亜里沙から生えていると聞いた時と同様に、彼女の全裸イメージが勝手に想像されてしまう。主に下半身あたりがズームで……。

 

 

『零くん? 黙ってないで何か反応してくださいよ! 恥ずかしいじゃないですか!』

「あっ、わ、悪い。とりあえず、変な質問に答えてくれてありがとな。言いなりになる件はまた追って連絡するから」

『忘れないでくださいね!? 絶対ですよ?』

「分かってる分かってる。それじゃあな」

『はい、それでは』

 

 

 ふぅ、なんとか1人終わったぞ。そう、まだ1人目なのだ。雪穂が生えていなければ俺の気苦労はここで解消されていたのに、これではまた誰かに同じ質問をしなければならない。下の毛が生えているかどうかの話を切り出すのに物凄い勇気がいるので、雪穂の時点でこの話題が終わらなかったことに軽く絶望している。そもそもどうして俺がこんなことをしなけりゃならんのだ……。

 

 

「その様子だと、雪穂は私の仲間じゃなかったみたいですね……」

「仲間って言い方もおかしいと思うが、アテはまだあるから心配すんな」

「ですよね! それじゃあ零くん、ババァーーンッと次に行っちゃいましょう! 仲間を集めるのって、なんだかワクワクします♪」

「そうか、それは良かった……」

 

 

 『いいよな、お前は見てるだけだから』とツッコミを入れてやろうと思ったが、亜里沙の嬉しそうな表情を見ると水を差すことはできなかった。しかしコイツ、俺がどんな思いで女の子に下の毛事情を聞いているのか分かってねぇな? こちとら通話口から相手の声が聞こえてくるたびにどんな反応をされるのかビビりまくっているってのに……。

 

 この精神状態をいつまでも保ってはいられないので、早速だが本命に行かせてもらおう。

 

 

「次はどなたに電話するんですか? 雪穂がダメだったとなると、μ'sには私と同じ悩みがある人なんていないのかも……」

「心配すんな。次の狙いは永遠のロリキャラだから」

「えっ、それって……にこちゃん?」

「その通り。見たのはもうかなり前になるけど、身体も子供かと思えば下も子供だった記憶があるんだ。だからもしかしたら今もそうかもしれないな」

「あのにこちゃんを仲間にできるなんて、やっと自軍を強化できますね!」

「お前は何と戦ってるんだ……」

 

 

 パイパン軍と陰毛軍の争いとか、企画モノのAVですら存在しないジャンルを考えるとはやるなコイツ……。

 それにしても今回の話、未だかつてないほど下品じゃないか? これまではまだ可愛気のあるエロ要素だったり、アダルティ成分を含んだ色気のある展開になることが多かった。でも今回は可愛気もなければ興奮もできない、ただただ下の毛の話題で盛り上がっている汚い話である。まあ亜里沙は本気で生えてないことに悩みを抱いているため、本人が真面目ってところがこれまた阿保らしさに拍車をかけている。もうどんな結末になってもいいから、この話題をとっとと終わらせよう。なんだろう、そうしないと俺の品位だけでなくμ'sの品位も下がっちまいそうだから。

 

 また同じことを聞くのは恥ずかしいけど、一度引き受けてしまった以上ここで引くわけにはいかない。それに一歩前へ踏み出さない限りこの問題は解決しないんだ。プライドなんて投げ捨てて勇気を出さないとな。なんか少年漫画の主人公みたいなセリフだけど、やろうとしていることは女の子に下の毛が生えているかどうかを聞くデリカシーの欠片もないことだから、そこのところはあしからず。

 

 迷っていても仕方がないので、早速にこに電話をかける。ここで1つ思い出したのだが、にこの予定を全く確認していなかった。最近はスクールアイドル活動の傍らでアイドル事務所に通い詰め、そちらでもレッスンを行っているため、もしかしたら電話に出れないってこともあり得るぞ。もしそうなったら俺は本命を失うこととなり、またμ'sの中から無毛の子を想像して選定しなければならない苦行を強いられる。

 

 それだけはやめてくれ! もうこれ以上俺を精神的に追い詰めないで!!

 

 

 と思ったが、俺の悲痛な叫びが届いたのか、奇跡的ににこが電話に出た。

 

 

『もしもし、零? どうしたの急に電話なんて。ヒモで引き籠りのニート穀潰しオタクのアンタのことだから、陽キャのにこボイスを聞きたくなったとか?』

「切るぞ……」

『お構いなく。そもそもアンタの方からかけてきたのに切ったら意味ないでしょ』

「お前ごときに正論を言われると腹が立つな……」

『いいから、早く要件をいいなさい。今レッスンの休憩中で、時間がないのよ』

「そうだったのか、悪いな突然」

『別にいいって。レッスン中にアンタの声が聞けるだけでも元気出るしね』

 

 

 元気が出てるところ申し訳ないが、今からその気概を打ち崩させてもらおう。いやね、俺だってこんな話題を振りたくないよ? でも亜里沙が困った顔で懇願してくるからさ、そんな幼気な表情を見て洗脳されちゃうのは男としてしょうがないんだよ。

 

 

「あのさ、変なことを聞くけど誤解すんなよ?」

『アンタが変なことを言い出すなんていつものことじゃない。慣れてるわよ』

「そっか。だったら聞くけど、お前って……生えてる?」

『………………はぁ?』

 

 

 その反応、雪穂と全く一緒じゃねぇか。

 だよな、普通はそういう反応するよな。ダメだ、この間が辛くて胸と胃が同時に痛くなってくる。今この瞬間だけ、にこが質問にイエスかノーだけで答えてくれるアンドロイドになってくれればいいのにと切に願ってしまう。確かにこれまでの人生の中で自分が変態だと思わなかったことはなかったが、今だけは人間の最底辺にいると大いに自覚できる。女の子に陰毛の話を持ち掛けるなんて、どこをどう間違ったらこんな人生になっちゃうんだろうな。

 

 

『アンタ、いくら相手が恋人だからってよくそんなデリケートな話題を振れるわね……』

「やめろ! こっちだって薄い精神を削って死屍累々の中頑張ってんだ、もう下手に抵抗せず下の毛が生えてるかどうかだけ答えろ!」

『ヤケになってんじゃないわよ! 彼氏がそんな話題でがっついてきたら、普通は絶交よ絶交。にこの寛大さに感謝することね』

「いいから早く答えろ。どうせ生えてないんだろ? つるつるで棒を突っ込みやすくなってんだろ?? なぁ!?」

『アウト!! どこにいるのかは知らないけど、周りの人に聞かれたら確実にアウトでしょその発言!!』

「プライドは捨てた、羞恥心も捨てた。一刻も早くこの話題を終えて、精神を擦り減らされるこの状況を脱したいんだ。だから答えろ」

『この会話を録音して警察に持ち込んだら、確実に逮捕されるわねアンタ……』

 

 

 

 胸と胃がキリキリと締め付けられるように痛む。そして擦り減っていく精神は、俺の思考すらも麻痺させる。横では亜里沙が何故かワクワクしながら会話を盗み聞きしようとしており、自分と同じパイパン仲間ができる高揚感でいっぱいのようだ。最初はコイツの悩みを解決してやろうという思いでこの下品な話に乗っていたが、もう耐えられない。ここは力業であろうとも押し通り、無理矢理にでもこの汚い話題を終わらせたい。もう俺はそのことしか考えていなかった。

 

 

『大変そうね、理由は知らないけど……』

「いいから早く! 言うのが恥ずかしかったら下半身の写真でもいいから!!」

『そっちの方が余計に恥ずかしいわよ!! えぇいもうっ! 生えてないわよ!! これで十分!?』

「えっ、今なんつった?」

『こんなことを二度も言わせるな!! もう切るわよ』

「ま、待て! だったらその証拠を亜里沙に伝えてやってくれ。最悪女の子同士なら写真を送っても問題ないだろ?」

『問題ありまくりなんだけど……』

 

 

 俺の予想は見事に的中し、やはりにこは身体も成長も幼児だと改めて認識した。でもにこと亜里沙では歳が4つも違い、それでいてなおアイツは生えてないのか……まあそのことで悩む悩まないは個人次第か。

 

 とりあえず亜里沙を安心させてやればミッションはコンプリートなので、あとは何とかしてにこに自分のつるつる具合を写した写真を送らせなければ。もはやこれまで俺が築き上げてきた地位も名誉も全て薙ぎ払い、この話題から逃げることに全力を注いでいた。

 

 

『亜里沙か……なるほど、なんとなく事情は察したわ。分かった、あの子にだけ送ってあげる。アンタもそれで亜里沙の無茶振りから解放されるでしょ?』

「あぁ、助かるよ。ありがとな」

『自分の下半身の写真を送ってお礼を言われるなんて、どうしてこんなのを彼氏にしちゃったんだろ……』

「それを言うな。またどこかで埋め合わせするから。あっ、埋め合わせって言っても変な意味じゃないからな」

『いちいち補足しなくてもいいから!! はぁ……もう切るわよ』

「あぁ、写真だけ頼んだ」

『はいはい、じゃあね』

 

 

 終わった……。ようやくこの苦痛から解放される時が来たんだ! これまで女の子たちにセクハラ地味た発言をしたことは何度もあったが、ここまで正気を失わされたのは今回が初めてだ。男として最底辺の行動に、しっかり対応してくれた雪穂とにこにはもう感謝しかない。まあアイツらの中で俺の株がどうなったかは想像したくないけど……。

 

 

「あっ、にこちゃんから写真が来ました! えぇっと……ほ、ホントに生えてないんだ」

「満足したか? 仲間を見つけることができて」

「はいっ! ありがとうございます!」

「そりゃ良かった。本当に良かったよ……」

「だってほら、本当に肌色だらけで写真でもすべすべ感が伝わってきますよ」

「な゛っ……!?」

 

 

 あろうことか、亜里沙はスマホの画面を俺に見せつけてきた。そこに写っているのは、当然にこから送られてきた写真。

 つまり、彼女の――――――

 

 

「あっ、仲間がいたことが嬉しすぎて思わず!」

「ま、まぁ……ご馳走様」

 

 

 最後の最後でいいモノが見られたと思って満足すべきなのか?

 いや、満足しないと今回の頑張りがただの骨折り損になる。ここは自分の彼女の成長過程を見られたと思い、無理矢理にでも満足感を味わうしかないな。

 

 

 

 

 それにしても、本当につるつるですべすべなんだなぁアイツ。

 

 




 ここまで汚い話題をネタにしたのは初めてかもしれませんが、よくよく考えてみると過去にお漏らしネタとか普通にやってるんで今更かもしれません(笑) むしろこんなネタを描いてる小説をラブライブ小説と言っていいのか、定義から怪しくなってきました……

 まぁいいんじゃないですか? キャラが可愛ければなんでも()



 次回は虹ヶ咲の天王寺璃奈のメイン回となります。



新たに☆10評価をくださった

トマトマさん、蛙先輩さん

ありがとうございます!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あの子の素顔を暴け!

 今回は虹ヶ咲の天王寺璃奈が主役です!
 μ'sにもAqoursにもない独特な見た目と雰囲気に、私のイチオシキャラだったりします。


 

 最近のアイドルや声優、その他メディアに進出する女性の中には、自分の顔を公開せずやCGで作成したキャラクターを動かして、そのキャラを代役に見立て芸能活動をしている人たちがいる。本人が表に出ずアバターを使用する試みがかなり流行しており、その活動はネット上だけに止まらず、テレビ番組に出演したり特集を組まれたりするくらいには世間に認知され始めている。昨今では就職活動の面接などもCGキャラを使用し、わざわざ会社に出向かなくても家で面接ができるようにするなど、IT企業界隈では近未来な取り組みも進んでいるようだ。

 

 なぜバーチャルの世界でそのような活動が広まっているかと言うと、やはり顔出ししなくてもいいってのが大きい理由の1つだろう。アイドルは良くも悪くも顔が第一印象で、言ってしまえば顔が可愛いか、美人か、整っているかで評価が分かれやすい。人間を顔で見るなと言いたくなる人もいるだろうが、アイドルは自分を魅せてなんぼの職業であるため顔でその人を判断されてもおかしくないのだ。

 その点を踏まえると、CGキャラを使用すればその問題は一気にクリアできる。万人受けするキャラを作るのはもちろん無理だが、美少女キャラにしておけば3次元アイドルよりも批判が圧倒的に少ないのは確かである。それにアバターでの活動が主であることから、中の人がプライベートを縛られることはあまりない。リアルでの活動だとSNSで下手な発言をして炎上し、自分の評価が下がってしまうことはザラだ。だがアバターを使用していればそんな心配もなく、そのアバターのSNSアカウントさえしっかりしていれば、中の人は自分の私生活を縛られないのである。万人受けの良さと活動する本人の自由度が高い、それがバーチャルキャラを使用する大きな理由だろう。

 

 そんな訳で、最近はネット上で活動するバーチャルな女の子が爆発的に増え、こうしてビルの特大モニターにも出演するくらいには社会現象となっている。まあここが秋葉原ってこともあるだろうが、ネットで流行ったことがすぐにリアルに影響を及ぼすところを見ると、この世はつくづくインターネット界隈に浸食されてると思うよ。

 

 俺はモニターに映るバーチャルキャラの動画を見ながら、相変わらず人の多い道を闊歩していた。今日はμ'sがスクフェスに出場する際に着る衣装サンプルを引き取りに来たのだが、いつ来てもここは活気に満ち溢れてるよな。特にスクフェスが近いこともあってか、至る所に宣伝ポスターや動画が流れ、先程のバーチャルキャラも実はスクフェスの告知をしていたのだ。もはやネット上でアイ活をする時代、そう遠くない未来にバーチャルキャラにスクールアイドルのシェアを奪われそうで恐ろしいよ。そうならないためにも、スクールアイドルたちに現実アイドルの良さをアピールしてもらわないと。

 

 そんな中、たくさんのポスターや動画に現を抜かしていたせいか、目の前に女の子が飛び出してきたことに気付かなかった。状況を察知した時には既に俺の進路に女の子がいて、回避行動が間に合わずにぶつかってしまう。とは言っても倒れ込むようなことはなかったのだが、女の子は小柄なせいか、俺にぶつかった瞬間にこちらに背を向ける形で身体が少し吹き飛ばされた。

 

 

「ゴメンなさい。よそ見をしていたもので」

「いえいえこちらこそ……って、えっ!?」

「ちょ、ちょっと?」

 

 

 俺のぶつかった女の子は謝る過程でこちらを振り向きかけたが、何を思ったのかまたすぐに背中を向ける。そのせいで顔を確認できなかったのだが、亜里沙やルビィ以上にちんちくりんな身体、アホ毛が目立つピンク髪、そしてクソ暑い夏にも関わらず身体より一回り大きいパーカーを着ているその恰好に、俺は見覚えがあった。

 

 

「お前、虹ヶ咲の天王寺璃奈か?」

「うっ、ば、バレた……」

「お前の恰好って特徴的だから、会えば一目で覚えられるしな」

「それって、私の身体が中学生並みのロリ体型って言いたいの?」

「いやそんな皮肉じゃなくて、単純にその服装が特異だって言ってんだよ。夏に長袖のパーカーを着て、しかも袖口から手を出してない。こんなクソ暑い中でそんな格好をしてる奴なんてお前くらいだよ」

「これはファッション。スクールアイドルたるもの、気温の変化くらいでオシャレを崩すなんてあり得ない」

「そりゃ見上げた精神ですこと……」

 

 

 璃奈は俺に背を向けながら己の持論を展開する。いくらオシャレに気を遣うと言っても熱中症になったら意味ないだろと思ってしまうが、見る限りでは汗もかいていないようだし、夏にその格好をすることに慣れているのだろう。

 

 それにしても、璃奈はいつになったら俺の方を向いてくれるんだ? さっきからずっと俺に背を向けたまま喋っているので会話がしにくいったらありゃしない。まあこっちから正面に回り込んでやれば済む話か。

 

 

「ま、待って。璃奈ちゃんボードを出すまでそこから動かないで」

「あぁいつものアレね。つうか今日はプライベートなんだろ? だったらいらなくね?」

「いる。あれがないと人と上手く喋れないから」

「対人恐怖症かよ……。俺と喋るのも無理なのか?」

「むしろ零さんと対面で喋るのが一番無理」

「えぇ……そこまで怖いか俺?」

「違う。好きな人だから緊張するの」

「そ、そっか」

 

 

 いつもの如くあらぬ被害妄想をしてしまったが、突然の告白紛いなセリフに思わず動揺してしまう。思いがけず璃奈と出会ったからすっかり頭から抜け落ちていたが、そういや虹ヶ咲の子たちと俺は過去に思い出があるんだよな。俺自身が覚えてないので非常に申し訳ないが、彼女たちとは幼い頃に少しの期間だが一緒に遊んだ仲らしい。そこから紆余曲折あって彼女たちは俺に恋心を抱くようになり、ほんの数週間前に再会した。

 

 俺にそんな過去があったことにはもちろん驚いたが、また別のことでもビックリしたことがある。それは彼女たちの積極性だ。幼い頃に俺を好きになり、その気持ちを今になって伝えることができたからか、彼女たちの押しはμ'sやAqoursと比べると断然強い。"愛"を伝えることに恥ずかしさを感じておらず、むしろ俺の気を引こうと積極的になっているのだ。だからさっき璃奈は平然と俺のことを『好きな人』と言っており、これまで数多の女の子から好意を持たれてきた俺ですらその気概に臆してしまう。彼女たちからの想いを受け取るのは、μ'sやAqoursとは別の意味で大変かもな。

 

 

 しかしここで、俺の脳内にちょっとした悪知恵が浮かんだ。もはや子供の悪戯レベルだが、いきなり璃奈の前に回り込んで顔を拝んでやろうと画策している。だってさ、そこまで隠されると見たくなるのが人間の性ってやつじゃん? しかも顔ってのは人間を一番良く表す部分であり、喜怒哀楽はもちろん、体調の変化や気分の度合いなども全部顔に表れる。彼女と恋愛関係になるかもしれないこの先、相手の顔を知らないってのは非情にやりづらい。だからこそどうにかして璃奈の顔を拝んでみたいのだ。それに無理矢理にでも顔を見たら、コイツがどんな反応をするのか楽しみでもあるしな。名目はあるが、結局自分の嗜虐心に火が付いているだけかも……。

 

 とにもかくにも、まずは交渉してみるか。悪戯をするのはその後、交渉が決裂して向こうが安心しきってる時がいいだろう。

 

 

「なぁ、誰にも言わないから顔見せてくれよ。自分の顔に自信がないとか、そういうことじゃないんだろ?」

「そうだけど、見せるのはイヤ。それに璃奈ちゃんボードの顔が私の表情を代弁してくれるから、会話はできるはず」

「喋ることはできるけど、本当の表情が見えなきゃ会話とは言えないぞ」

「その点は大丈夫。ボードの表情を瞬時に変更すれば、会話中にもリアルタイムで相手に表情を伝えられるから。私はもうその領域に達してる」

「凄いのか凄くないのか分かんねぇな……」

「ほら見て、ボードの表情がどんどん移り変わっていくでしょ? この華麗な手捌きは誰も真似できない」

「どれだけ人と対面したくないんだよお前!?」

 

 

 確かに璃奈のボード捌きは凄い。複数のボードを瞬時に入れ替えることで、彼女の言った通り会話中でもリアルタイムに表情の変化が見て取れる。ボードを入れ変える手捌きは肉眼ではとてもじゃないが追いつけず、気付けばボードに描かれている表情が変わっている。まさしく洗練された無駄のない無駄な動きだが、その動きをマスターしてるってことは、それだけ人とは対面で話したくないってことだ。ただ単に恥ずかしいだけなのか、それとも何か別の事情があるのか……。どちらにせよ異性に愛を伝えることよりも対面する方が恥ずかしいって、やっぱり虹ヶ咲も変わり者ばかりだ。

 

 そして予想通り交渉はあっさり決裂したので、ここらでちょっと悪戯をしてやるか。まさかコイツも顔面のボードを力づくで外されるとは思ってないだろう。別に彼女に何の恨みもないが、これがドSの嗜みなんだよ。

 

 そんな邪な考えを持ちながら、俺は璃奈の方に一歩踏み出す。

 だが、同時に彼女は一歩後退りした。まるで俺の動きを読まれていたかのようで、見ればボードの顔が"怒"の表情に変わっていた。

 

 

「な、なんで怒ってんの……?」

「このアホ毛レーダーが不穏な気を察知した。目の前の酷男が邪悪な心を私に向けている、そんな気配をね」

「な、何言ってんだ。俺がそんなことをする訳ねぇだろ」

「ストップ、それ以上動かないで。ザ・ワールド」

「それで時が止まったら苦労しねえって」

 

 

 そんなネタを持ち出してくるってことは、よほど自分の顔を俺に見られたくないらしいな。でもそこまで隠されるとますます見たくなってくる。経験のある人は多いと思うけど、スカートの中のパンツを見たいのと同じ理論だ。パンツもただ曝け出されているのを見ても特に何も感じない。スカートという防壁に守られているパンツを覗き見てこそ興奮を煽られるってもんだ。防壁に阻まれた先の楽園が輝いて見えるのは、その楽園を拝む過程で努力と苦労があるからだろう。今がまさにそんな感じで、璃奈が抵抗し俺が苦労するほど素顔を見たくなってくるのだ。

 

 子供ながらの好奇心を抑えることができず、俺は通り魔のごとく璃奈に手を出した。

 だが、彼女はひらりと身をかわす。俺の動きを読んでいるのか、一寸の狂いもない軽やかな身のこなしだった。見事と言うべき無駄のない無駄な動きに、俺たちは思わず見つめ合ってしまう。とは言ってもボード越しで本当の表情は見えないが、そこに描かれている顔は口角を上げた憎たらしい表情をしていた。

 

 

「むかつくなその顔……」

「どやっ! ってことですよ。さっきも言った通り、不穏な気配は察知できる。特に私の顔を見たいがためにこのボードを外そうとしてきた人は何人もいた。その人たちを軽くあしらって、悔しそうな顔を見るのが人生の楽しみ」

「えげつねぇことしてんのなお前。そんなことに労力を使うなら、まず素顔を晒せるようになれよ」

「まだ私が動く時ではない」

「スクールアイドルやっててそのセリフはねぇだろ……」

 

 

 冒頭でも言ったが、アイドルなんて顔こそが評価を分ける。内面や性格はもちろん重要だけど、顔が良ければそれだけでメディア映えもいい。そう考えると顔を隠したままスクールアイドルをするって相当なチャレンジャーだと思う。しかもそれで虹ヶ咲はスクフェスの事前投票で1位を掴み取ってるんだから、もうこちらからは何も言い返すことができない。その実績があるってことは璃奈ちゃんボードなるもののウケもいいってことだ。このご時世、何が流行るのか想像もつかねぇわ。

 

 

「それにしても、人前に顔を晒すのが恥ずかしいのによくスクールアイドルをやろうと思ったよな」

「合宿の時に言ったけど、スクールアイドルを極めることこそ零さんに自分の愛を伝える方法だったから。だから歩夢さんたちとスクールアイドルを始めた。自分たちの想いを示すため、零さんに振り向いてもらうため、零さんの特別な人になるために」

 

 

 相変わらず虹ヶ咲の子たちから感じる愛情は重い。だがそれだけ彼女たちの覚悟が本気だと伝わってくる。こうしたさり気ない日常会話でも躊躇なく俺への想いを語れるあたり、μ'sやAqours以上にメンタルは強いと思う。辛い過去を乗り越えて俺と再会できたことで迷いも吹っ切れたのか、押しの強さと気迫はこれまで出会ってきたどの女の子たちよりも凄まじい。その勢いがあるからこそ、まだ事前投票とはいえスクールアイドル界隈でトップを勝ち取ることができたのだろう。

 

 そういやコイツらの過去で思い出したけど、顔を晒せない理由って、もしかしたら本当に人前で見せられないんじゃないか? 幼い頃に住んでいた施設が火事になった経緯があるから、その時に火傷を負った……とか。もしそうだとしたら、かなり無神経なことをしてしまった気がする。

 

 

「零さんが今考えてることを当ててあげようか? 私の顔が大変なことになってるんじゃないか、そう思ってるでしょ」

「よ、よく分かったな……」

「さっきまでは悪戯っ子の顔をしていたのに、今はしかめっ面をしてたから。でも安心して。火事で火傷をしたとか、事故でケガをしたとか、そんなのじゃない。ただ本当に素顔を出すのが恥ずかしいだけ。自分の性格なのか体質なのかは知らないけど、全然表情が作れなくて困ってる」

「だから顔を隠してるのか。スクールアイドルなのに表情がないってのは致命的だもんな」

「それそれ。だからこのボードで表情変化を表すしかない」

「そこまで苦労してるのにも関わらず、スクールアイドルを続けてるお前が凄いよ」

 

 

 むしろ俺に自分を魅せたいからこそ、そんな苦労さえも背負い込む覚悟があるのだろう。もはや虹ヶ咲の子たちは人生の主眼に『神崎零』を置いており、それ以外の生き方を全て捨てている。見上げた覚悟だと他人事のように言ってしまうが、果たして俺は未だかつてないほどの真っ向からの愛を受け止めることができるのか……? いや、悩んでいても彼女たちは止まらない。俺もスクフェスまでになんとか彼女たち9人の想いを受け取るだけの器を広げておかないとな。

 

 

「でもさ、ケガしてないんだったらそれこそ俺には顔を見せられるんじゃね? 恥ずかしいのは分かるけど、俺はこれまで女の子たちの悩みを悉く解決してきた経験があるんだ。もしかしたらお前の無表情も治せるかもしれないぞ」

「無理、絶対に無理。私が顔を晒したら、あまりの可愛さに心を打たれて死んじゃうから。この世から男性がいなくなっちゃうくらいに」

「本当にそうだったとしたらそれこそ見てみたいっつうの」

「ダメ。男性が私の目を見るとチャームの力が働いて、性欲に支配された獣になっちゃう。一度獣になったらその興奮を収まるまで、周りの目を気にせず淫行を繰り返すようになる」

「意外とそっち系の話題もいけるのか……」

「これくらい、今の若者なら普通」

「そりゃたくましいことで」

 

 

 そういやAqoursのも意外と性知識が豊富だった記憶がある。今の時代はネットでどんなことでも調べられるから、見た目は清純そうな子でも中身は淫乱だってことは普通に有り得そうだ。南ことりとか、渡辺曜とか、もはや思い当たる節がありすぎてここに列挙するだけでも相当な数になるなこれ。

 

 そして、とうとう璃奈は自分の顔を晒すことはなかった。ボードの表情がコロコロ変わるため彼女の感情は読み取れるのだが、いつかは本当の彼女とこうしてバカな日常会話をしてみたいものだ。もしお互いの想いが通じ合った時は素顔を拝めるのだろうか? 流石に墓に入るまでには見せてくれないと、人生で悔いが残りそうだ。

 

 

「零さん、無理矢理このボードを引っぺがそうとは思わないんだね」

「最初はそうしようと思ってたけど、そこまで抵抗されたら仕方ねぇよ。一応これでも女の子に優しくがモットーなんでね」

「肉食系のクセに女の子に優しいとか片腹痛い」

「うるせぇな……」

「でも、力ずくで顔を見ようとしないのは優しさだと思う。男性の力があれば私のような小柄で可愛い子なんて、簡単に組み伏せられるでしょ」

「どうして自分アゲたのかは知らないけど、そんな強姦みたいな真似しねぇって」

「それが優しさなんだよ、零さんの」

「この程度で優しいうちに入るのか?」

「私が保証してるんだから間違いなし」

 

 

 全くもって根拠のない保証だが、彼女が満足しているのならそれでいっか。素顔を見たいのは山々だけど、逆に璃奈ちゃんボードを使用してスクフェス本戦をどこまで勝ち進めるのか見物したくもある。今の彼女たちの実力でμ'sとAqours、その他の強豪を相手にどこまで戦えるのか見せてもらおうじゃないか。

 

 

「ま、いつかは見せてあげる。私の本当の顔」

「それ、行けたら行く並みに信用できない発言だぞ」

「だったら約束。零さんが私の唇を奪う時に見せてあげる。ボードを付けたままだとできないしね」

「そ、そっか……」

 

 

 更なる衝撃発言を放った璃奈は、それ以上は何も言わず秋葉原の雑踏の中に消えた。俺はというと彼女の発言に対して呆気に取られ、その場で立ち尽くすだけだ。

 虹ヶ咲の子たちは自分の想いを伝えることに躊躇いがないと知っていたけど、まさかここまでとは。もう将来を誓い合う気満々ですやん……。

 

 

 今日はまた、彼女たちの新しい"強さ"を思い知った気がする。

 そして彼女たちがこれまで見せた気迫はまだまだ序の口だと知るのは、まだ先の話である。

 




 最初に璃奈を見た時は見た目が異質すぎてちょっとなぁ……と思いましたが、公式の漫画やインタビュー記事等で彼女の性格や話し方を見ると、一瞬でお気に入りになりました(笑) 意外と思われるかもしれませんが、無感情な女の子キャラが好きだったりします。その無感情な表情をどう崩してやろうかと、ドSな心が芽生えちゃうくらいには(笑)


新たに☆10をくださった

雪兎 蓮さん、普通怪獣カサクさん

ありがとうございます!

まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嫌な顔されなくてもおパンツ見せてもらいたい

 サブタイトルは例のアニメから。
 もちろん映像はないので各自で妄想を膨らませてください()


 

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あああああああああああああああああああああああああ!? ど、どうして!! どうして勝てないのです!!」

「どうしてって言われても、お前が弱いからとしか言いようがないけど」

 

 

 格式高い園田家に、海未の叫び声と呻き声が響き渡る。幸いなことに海未以外の人が誰もいないのが安心で、もし家の人がいた場合、男を連れ込んだ彼女が昼間っから卑猥なことをしていると疑われてならないだろう。もちろん俺も真昼間からしっぽりする訳がなく、海未の勝負運の弱さを克服するため彼女を鍛えている。

 

 海未はがっくりと項垂れ、部屋の床にはトランプのカードが散らばっていた。そう、勝負は勝負でもゲームでの勝負なのだ。彼女は剣道や弓道と言った古き良き風習伝統のようなものは飲み込みが早いのだが、トランプを始めとした娯楽関連のゲームは肌に合わないのか、何度やっても飲み込みが浅い。何でも要領良くこなし、スクールアイドルを拒否していたあの頃とは違い今では流行りモノにも敏感になっている彼女だが、やはりゲームは弱い。

 

 

「実力が上がらなければ、また穂乃果やことりにバカにされてしまいます……」

「そんなことする奴らじゃねぇと思うけど?」

「私がトランプで再戦を挑むたびに皆さん引きつった顔をするんですけど、それって私が弱いからってことですよね?」

「いや、まぁ……」

 

 

 弱いからって言うよりも、お前がトランプをやっている時の勢いが怖すぎて引いてんだよ。とは絶望に打ちひしがれている彼女にはとてもじゃないが言えない。その勢いに負けて一緒にトランプをしちゃうけど、あまりの弱さに途中からゲームにすらならなくなり、最後は敗北に震える海未を眺めるだけになるのがいつもの流れだ。

 

 

「ゲームの弱さより、そもそもポーカーフェイスを何とかしないとな。お前とババ抜きなんてしようものなら、どの手札がババかなんて顔を見ればすぐ分かるから」

「それは分かっていますけど、勝負に負けたくないという思いが表情に出てしまうんですよ……」

「だったらお面でも被ってろ。表情さえ隠せばそれなりにゲームにはなるだろ」

「自分だけ相手の素顔を見られて相手からは見られないなんて、それはスポーツマンシップに反します!」

「メンドくせぇなもう……」

 

 

 虹ヶ咲の天王寺璃奈のようにボードを顔に装着すれば、少なくとも海未の対戦相手がクソゲーを感じることはなさそうだ。まあコイツの場合はポーカーフェイスもそうだけど、身体を震わせたり躍動させたりと、ゲームをする際は全身で感情を表すから気休めでしかないが。

 

 しかし、その提案も彼女の格式の高さが故にすぐ却下される。余計なプライドさえ捨てればすぐにでもババ抜きマスターにしてやれるが、己の行儀の良さがそれを阻む。勝負には勝ちたい、でもコーチである俺の教えを全て受け入れる訳じゃない。とんだ我儘ガールだ。

 

 仕方ない、ここは多少無茶をしてでも海未を従わせるか。そもそもババ抜きを強くなりたいというコイツの頼みを聞き入れてやった挙句、こうしてわざわざ家にまで来てやったんだからそれくらいの強行手段は許されるだろう。こちとら暇じゃないんでね、ちょっとくらい遊びを入れないとやってられねぇよ。

 

 

「なぁ、せっかくだから罰ゲームありにしないか? そっちの方がお前もやる気出るだろうし」

「明らかな格下相手に罰ゲームを提案するなんて、大人気ないと思いません?」

「このままダラダラやっても意味ないだろ。それにお前自身、心のどこかで負けてもいいって温い気持ちがあるんじゃないか? 確かにババ抜きはお遊びだが、絶対に負けたくないという気持ちがあれば自分のポテンシャルをもっと引き出せるかもしれないぞ」

「言われてみれば、そうかもしれません……」

「現役でスクールアイドルをやってた頃は、どのグループにも負けたくないって気概があったと思うんだ。それと同じ覚悟を持てばいいんだよ」

 

 

 スクールアイドルとしてライブを楽しむことももちろん重要だけど、大会の場はもちろん勝負の場でもある。だから誰かに負けたくないとか、このグループに勝ちたいという対抗心を持つことは不思議ではなく、むしろ普通だ。その気概の強さが大会では命運を分ける。つまり、その強い思いをババ抜きに注げば海未が勝てる可能性もあるってことだ。

 

 

「なるほど、分かりました。あなたの案に乗りましょう。次の勝負で負けたら刀で切腹する覚悟です」

「急に話が重くなったな……。まあそれくらいの精神があれば勝負も本気になれるか」

「それで、罰ゲームの内容は一体なんですか?」

「提案したのはいいけど具体的には考えてなかったな……。うん、パンツを見せてくれるとか?」

「は、はい????」

 

 

 さっきまで絶望に襲われ項垂れていた海未だが、俺の言葉に顔を上げ目を丸くする。だけど俺の口から罰ゲームなんて単語が飛び出したんだ、まともな罰を提案されると思ってもらっちゃ困る。そんなことくらい長い付き合いだから理解した上で承諾したものと思っていたが、ただゲームに対して本気になりたいだけでそこまでの思考は回らなかったようだ。

 

 そしていつの間にか、海未は目を細め明らかに不審者を蔑むような顔で俺を睨んでいた。そこまで闘争心を露わにできるのなら、ババ抜きの時にそのオーラを発揮すればいいのに。そうすりゃ相手もビビッて自分が勝つチャンスも増えるだろ。

 

 

「あなたはまたそんなことを……」

「お前がスカートを履いてるなんて珍しいし、この際だからちょうどいいじゃん」

「なにがちょうどいいですか!! そんな罰ゲームやりませんよ!!」

「さっきやるって言ったのお前だろ? それに負けるのが怖いのか?」

「そんな使い古された挑発には乗りませんから」

「だったら特訓はこれで終わりな。お前はこれから一生負け犬として、みんなにバカにされる人生を送ることになるけど」

「ぐっ、卑怯な……」

「何とでも言え。休日にこんなことに付き合ってやってんだ、それだけでもありがたいと思ってくれ」

 

 

 ゲームは強くなりたい、でも罰ゲームはしたくないと、2つの気持ちの狭間で揺れ動く海未。己のプライドを守るのか、それとも羞恥心に負けてこのまま逃げるのか、品行方正な彼女にとっては究極の2択だろう。でも俺は考える時間を与えたりはしない。こんなのは迷わずバシッと決断するのが勝負師ってものだろ?

 

 

「あと10秒で決めろ。そうでなきゃ帰る」

「うっ……。わ、分かりました、やります」

「言ったな?」

「私も武士の心得を持つ者ですから、罰を恐れて敵に背を向けるなんてことはしたくありません。それに」

「それに?」

「もしあなたが負けた時は、あなたもその…………下着を見せなければいけませんからね」

「は……?」

「な、なんですかそんなこと聞いていないと言わんばかりの顔は!? お互いの同じ条件じゃないとルールとして成り立たないでしょう!?」

 

 

 確かにそうだ。今思えば、自分が負けることなんて微塵も考えたことがない。だって相手はあの海未だぞ? 例え初見のゲームで対決しようが、娯楽関係のゲーム全般が苦手なコイツに負ける気がしない。流石に弓道や剣道など彼女にマウントを取られる対決ならまだしも、それ以外の対決で負けるなんてありえねぇよ。これ、フラグじゃないからな?

 

 

「それにしてもお前、俺のパンツに興味があったんだな……」

「どうして引いてるんですか! あなたが最初に言い出したことですからね!?」

「いやぁ、お前も脳内がピンク色に染まりつつあるなぁと思って」

「そ、染まってません! いいから早く始めますよ!!」

 

 

 海未は強引に会話を断ち切り、床にばら撒かれていたトランプを回収し始める。

 もしかしてババ抜きを強くなりたいというよりも、俺のパンツを見ることが目的だったり……は、流石にしないか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ま、負けました……」

 

 

 即落ち2コマというオタク界隈の用語があるが、未だかつて現実でその言葉がピッタリ当てはまる状況に遭遇したことはなかった。

 だが、たった今それが現実となっている。罰ゲームを恐れず息巻いていた少女は、あっという間に俺にジョーカー以外のカードを引かれそのまま敗北。時間にして5分も経たず試合が終了した。海未はまたしても敗北に打ちのめされ無様に這いつくばっている。もはやここまでストレートに勝ててしまうと張り合いもないというか、驚きすぎて相手に同情すらできねぇよ。

 

 だが、俺が勝負に勝ち、海未が負けた。その事実は何が起こっていようが変わらない。

 だから俺が取る行動は1つ――――

 

 

「それじゃあパンツ披露会な」

「ど、どうしてそんな冷静なんですか……。恋人のパンツを力尽くで見ようとしているのに」

「力尽くって、ゲームだから手加減せずに相手を潰すのは当たり前だろ。それに罰ゲームに関してはお互いに了承したことだ。文句は言わせねぇよ」

「しかし……」

「あるぇ~? 格式高い園田家の1人娘である海未ちゃんが、ルールを破って逃げ出そうとしているぞぉ~? お互いに納得したルールで勝負したのに、それを守らないってやっぱり海未ちゃんは負け犬だったんだなぁ~」

「くっ、悔しいけど言い返せません……」

 

 

 さっきのババ抜きは運命を決める戦い、つまり運命戦だった。勝っても負けても楽しかったと思える戦いではなかったということだ。つまり、勝者が絶対であり、敗者は屈服するしかない。汚い言葉を使えば、主人と奴隷の関係になったってことだよ。

 

 

「そうだ、せっかくだから自分でスカートを捲ってもらおうかな? そっちの方が罰ゲーム感出るし」

「そ、そんな追加ルールは聞いてませんよ!? ルールはルールで守りますが、独自ルールはNGです!」

「そんなことを言える立場じゃねぇだろ。いいから早く立って、スカートを捲って」

「本当に、あなたって人は……」

 

 

 俺も久々に女の子で遊ぶことができてテンションが上がってるんだよ。多少強引なのも早く海未の痴態を見たいが故の焦りに他ならない。淡々としているように見えるが、これでも内心は興奮で沸き立ってるんだ。思春期時代から大人になっても治らねぇな、俺の悪趣味。

 

 海未はこれ以上抵抗しても俺には通用しないと観念したのか、よろよろとその場で立ち上がる。まだスカートを捲ってすらいないのに既に頬を赤くしているが、相変わらずこの手のネタには耐性がないようだ。彼氏も変態だし幼馴染にもド変態がいるんだから、そろそろ慣れてもいいんじゃないかと思ってしまう。さっきも言ったが海未にもピンク色の思考の芽が着々と育ちつつある訳で。でもそれでコイツが将来ことりみたいになったらなったで面倒だけどさ。

 

 つうかこの現場、女の子にスカートを捲らせている援助交際の現場にしか見えなくね? 高い金を払ってんだからオジサンの言うことを聞いてもらうってシチュエーションは援交ネタにはよくありがちだ。そう考えると、俺ってオッサン?? まあ女の子の穢れた姿が大好きな面だけを見ればオッサンと変わらねぇか。

 

 

「罰ゲーム受け入れた時と同じように、スカートを捲るのも勢いでやったらどうだ?」

「自分から進んで下着を見せるんですよ!? そんな度胸がある訳ないじゃないですか……」

「だったら少しずつ捲ろう。まずはパンツが見えるか見えないか、ギリギリの位置まで捲ってくれ」

「は? また注文を追加するんですか!?」

「お前が一気にたくし上げられないって言うから、その対応策だ」

「怪しい……」

 

 

 やっぱりさ、パンツが見えるか見えないかのせめぎ合いを堪能するのも1つの嗜みだと思うんだ。生パンをそのまま見せられるよりも、スカートの裾からチラッと見えるパンツの方が興奮を煽られるのはこれまで何度も言ってきた通り。一気にたくし上げられるよりも、徐々に徐々に女の子の生脚を拝みながらパンツの登場を待つのが何よりも至高なんだよ。

 

 それにしても、海未の怪訝な表情がこれまでにないってくらい最高潮に達している。言わば焦燥や怒りに頑張って耐えている、そんな顔だ。俺と目が合うたびに目を吊り上げて嫌そうな顔をしてくるが、そんな子を思い通りにできるこの状況に俺は満足している。抵抗したくてもできず、男の言いなりになるしかないシチュエーションが大好きなんだ。あまりみんなには言えないけど、こんなことが合法的にできるんだからたくさんの女の子と付き合って良かったよ。自分で言っちゃうのもアレだが、もはや下衆の極みだな俺……。

 

 

「分かりました、やればいいのでしょう」

「罰ゲームだからな。勝者には従ってもらうぞ」

「私はただババ抜きを強くなりたかっただけなのに、どうしてこんなことを……」

 

 

 海未は全てを諦めたのか、とうとうスカートに手を掛ける。

 そしてゆっくりと、俺に自分の脚をじっくり舐め回すように見て欲しいと言わんばかりにたくし上げる。そこまで長いスカートではないので、間もなくパンツが見えそうな領域に到達しそうだ。

 

 にしても、いつ見ても女の子って綺麗な脚をしてるよなぁ。今日だって別に自分の脚を見せつける展開になるとは想像もしてなかったはずなのに、脚の手入れは完璧で、むしゃぶりつきたくなるくらいの質感と煌びやかさがある。もはやその衝動に駆られるだけでも十分なご褒美だが、俺が見たいのはもっとその先。これまで幾度となく女の子のパンツは見てきてるし、見ようと思えば好きなだけ見られる立場だけど、やっぱりこうして女の子にスカートを捲らせてまじまじ鑑賞できるシチュエーションが一番血が滾るよ。

 

 

「いい脚してるよなお前。触っていい?」

「ダメです! あなたがルールを追加したのなら、私はおさわり禁止のルールを追加させてもらいます!」

「いいだろ別に、もう何度も俺に弄られた身体なんだしさ。俺の手垢がベットリ付いてるよ」

「その言い方、素直に気持ち悪いのでやめてもらえません?」

 

 

 海未の表情が更に険しくなり、もはや汚らわしいモノを見るような目で俺を見下す。まあスカートを捲りながらそんな目をされても、俺の興奮を更に煽るだけだから逆効果だけどね。女の子が羞恥心に耐え、苦しみ、怒り、それが表情となって表れるのを見物するのが俺の趣味だから。

 

 

「ま、これ以上引き延ばしても本来の目的を見失いそうだし、そろそろ終わらせてやるか」

「本当ですよ。私の特訓が最大の目的であって、私の下着を見たいがために家に来たのではないのでしょう……?」

「俺は常日頃から女の子の痴態を見たいとは思ってるよ。それにたまには下着の確認をしてあげないと、自分の恋人たちが変な下着趣味を患わせてると大変だろ?」

「余計なお世話です。ほら、次は何をすればいいのですか?」

「おっ、意外と乗り気?」

「早くこの地獄から解放されたいだけです!!」

「分かってる分かってる。それじゃあ最後だし、一気にスカートを捲ってくれよ。パンツが丸見えになるまでな」

「指示をしろと言ったのは私ですが、女性にそこまで堂々とそんなことを言えるあなたが凄いですよ。今更ですけど……」

 

 

 本当に今更なことを言ってやがるなコイツ。でもそのデリカシーのなさがなかったら、俺は今コイツら全員と付き合えていなかった気がする。女心を理解していなかったからこそ恋愛沙汰でも下手に迷うことがなかったので、一概にデリカシーのなさを否定するのはお門違いってもんだ。まあ付き合って5年にもなってまだ女心を心得ていないのは自分でもどうかと思うが……。

 

 海未は少し迷っていたが、意を決してスカートの裾を強く握りしめる。

 そして、顔を真っ赤にしながら遂にスカートを全てたくし上げた。俺は思わず彼女の下半身ににじり寄る。

 

 

「おぉっ!」

「ち、近いです!! 張り倒しますよ!?」

「お触りは禁止ってルールだったけど、近づいちゃいけないってルールはない」

「それはそうですけど、女の子の下着なんて見慣れているのにここまで近付かなくても……」

「いや、今日のお前のパンツ、いつもと違うなぁと思って」

「へ?」

 

 

 海未は元々そこまで着飾る性格ではなく、ことりやにことは違って洋服もイマドキ女子って感じでもなくいつも無難なモノを着ている。それは下着も然りであり、少なくとも男を誘うような派手で際どさを与える下着を着けているのを見たことがない。そこまで頻繁に女の子の下着をチェックしている訳でもないが、目の前に映し出されている光景を見るとその前提が打ち崩される。

 

 一言で言ってしまうと、海未のパンツは白レース生地だった。しかも花柄の飾りが付いているためそこそこ派手な部類であり、生地面積が小さい際どさはないものの、彼女が好んで履くような下着ではないことは確かだ。いつもは普通の布ベースの下着なのに、今日はやけに大人っぽい下着を選んでいる。夏だから涼しいレース生地の下着を選んだのか? どちらにせよあまり変わらないような気もするが、女の子の下着事情は知らないので断定はできない。

 

 そういや、どうして海未はスカートを履いてるんだ? 暑い外で履くことはあるだろうが、自分の家の中で履く必要なんてあるか? 動きやすいラフな格好でいいと思うんだけど……。

 

 もしかしてだけど、まさか……?

 

 

「これは予想だが、お前、今日のために下着を選んだだろ? もしかして俺に見られるんじゃないかと思って」

「な゛っ!? ななななな、何を言い出すんですか急に!!」

「動揺し過ぎだっつうの。お前が家の中でスカートを履いてるところなんて見たことないし、俺が来るからちょっとオシャレをしようと思ってスカートを履いたんじゃないのか? そしてスカートだと下着が見えちゃう恐れがあるから、もし見られてもいいように見せても恥ずかしくない下着を見繕ったとか? 結構自信あるんだけど、この推理」

「あ゛っ、あ、あぁ……」

「なんだ図星か―――――うぐぅっ!?」

 

 

 突然、俺の後頭部に海未の足がのしかかってきた。俺は床にキスする羽目となり、海未は俺の頭を足で押し潰す。

 あまりの衝撃に一瞬息ができなかったが、なんとか首を曲げて床との口付けを脱する。

 

 

「はぁ、はぁ……す、少し黙ってください」

「やっぱり図星じゃん……って、痛い痛いゴメンゴメン!!」

 

 

 俺の顔は海未の股の真下に位置しているので、少し顔を挙げれば彼女の綺麗な脚の先にレースパンツが光るという、世界遺産に登録してもいいくらいの光景が広がっている。そして俺の推理が的中したことによって動揺しているのか、脚が少し汗ばんでいるのがこれまた艶めかしい。ババ抜きでも勝ち、更に海未がこっそり隠していた秘密まで暴いてしまったか。本当に負けを知りたいよ。

 

 まぁ女の子に素足で頭をグリグリされながら、床に押し付けられているこのシチュエーション自体は完全に負け組だけど……。

 

 

「つ、次に行きますよ!」

「えっ、次!? 今度は上でも見せてくれんの!?」

「違います! ババ抜きの練習を再開するって意味です! 今度はあなたに私と同じ気持ちを味わってもらいますから、覚悟してください。アナタの恥ずかしがる姿を、しかとこの目に焼き付けてあげます」

「それ、趣旨違ってきてねぇか……?」

 

 

 ババ抜きのスキルを上げたいという目標はどこへやら、海未の目的がいつの間にか俺のパンツ披露会に代わっていた。

 つうか俺の恥ずかしい姿を見たいって、やっぱり変態じゃんコイツ!

 




 元ネタのアニメは最終回を迎えてしまったのですが、恐らくまだニコニコで最新話が見られると思うので、今回のネタに興味が出たって方は是非そちらでご覧ください(笑) 1話5分程度なので視聴に時間が取られないのもいいところです(?)


 次回は久々にヤンデレをネタにした話になる予定です!



新たに☆10評価をくださった

ネインさん

ありがとうございます!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

診断結果「ヤンデレ予備軍」

 今回はヤンデレ回……というよりは、ヤンデレを題材としたネタ回と言った方がいいかもしれません。
 これまでラブライブキャラに対して数えきれないほどのキャラ崩壊をさせてきましたが、今回もその歴史に新たな1ページが……?


 

「おぉ~! ここがラブライブ本社? おっきな会社だにゃ~」

「そうだね。私も実際に来るのは初めてだけど、ここまで立派なビルとは思ってなかったら驚いたよ」

「自分の彼女がこんな大企業で働いてるんだ、俺も鼻が高いよ」

「零くんオジサンくさーい」

「ほっとけ……」

 

 

 俺は凛と花陽を引き連れて、ラブライブ本社に来ていた。俺は一度来たことはあるが2人は初めてなので、ネットの画像で見るよりも一回りも二回りもデカいビルに興奮している。そりゃそうだ、だってここはラブライブやスクフェスなどスクールアイドルのイベントを取り仕切っている、言わばスクールアイドル界の総本山だからな。元スクールアイドルの2人が興味を示さないはずもなく、想像以上に立派な建物に釘付けとなっていた。

 

 

「零、花陽、凛!」

「あっ、絵里ちゃん! こっちだよこっち!」

「大声出さなくてもこっちに気付いてるから……」

「集合時間より随分早いじゃない。もしかして、待ちきれずに走ってきちゃったとか?」

「凛は走ろうって言ったんだけど、零くんもかよちんも全然乗り気じゃなくて……」

「だって夏だよ? 日陰を探しながら歩きたくなっちゃうよ」

「スクールアイドルのくせに活発さが足りないよ2人共」

「そもそも俺はスクールアイドルじゃねぇからな」

 

 

 もし仮にスクールアイドルだったとしても、夏の炎天下の中で全力疾走しようなんて思う方が異常だろ。まあこの歳になっても子供ながらに走り回ることが好きな凛に何を言っても無駄だろうが。

 

 そんなことよりも、今日は絵里の紹介でラブライブ本社を案内してもらう手筈となっている。そう聞くと本社に勤めている人をコネにしているようだが、凛と花陽は元μ'sなのでこの会社自体が見学を許してくれたという経緯もある。やはり今のスクールアイドル界隈を育てたのはコイツらμ'sとライバルのA-RISEなので、会社としても感謝してもしきれないのだろう。凛と花陽が本社を見学したがっていると俺から絵里に相談したところ、どうやら上層部は二つ返事で承諾してくれたらしい。そう考えると、μ'sがもたらした社会現象って想像以上に凄まじいんだな。

 

 

「それじゃあ早速行きましょうか。普段は関係者以外立ち入り禁止のところも特別に入室許可をいただいてるから、特に花陽は興奮しちゃうかもね」

「私が……? 私が興奮するってことは、つまりそういうこと??」

「花陽がどこまでテンションが上がるか、今から楽しみだわ」

「もしかしてスクールアイドルの秘蔵映像とか、私の知らない業界極秘の情報とか……? よしっ、零君も凛ちゃんも、早く行こう!!」

「こんなに燃えてるかよちん、久々に見たかも」

「変わらねぇなコイツも……」

 

 

 花陽は高校時代からずっと全てのスクールアイドルのファンであり、μ'sとなって頂点を極めた今でも他のスクールアイドルに興味津々だ。特に共に合宿をしたAqoursや現在人気No.1の虹ヶ咲には注目をしており、どうやらグッズまで集めているという凛からの噂がある。スクールアイドル界隈では自分の方がよっぽど尊敬される存在なのに、下位のスクールアイドルに対してそこまでの熱を注げるのは彼女だからだろう。まあ自分の力を誇示せず謙虚に振舞う様はまさに花陽らしいけどね。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はいこれ、入館証とセキュリティカードよ」

 

 

 俺たちは社内の待合室で待機し、絵里から会社の入館証とセキュリティカードを受け取った。どうやらこれがないとありとあらゆる部屋に入れないらしいのだが、今時の会社なら普通のことだ。入館証には来客用と書かれており、セキュリティカードと共に紐付きのカード入れに入っている。紐の色は社員用と来客用で分かれており、社員用は青で来客用は赤となっていた。ラブライブ本社のような大きい会社となると誰が社員なのかそうでないかなんてパッと見では見分けがつかないから、この紐の色で認識できるようにしているのだ。

 

 

「花陽もほら、首から下げて」

「う、うん……」

「さっきからスマホで何を見てるの――――って、それ、スクールアイドルたちの集合写真? しかも最近結成したグループばかり。よく知ってるわね」

「えへへ、この手の情報はいつも欠かさないから」

「流石ね。本社の社員がこんなことを言うのもおかしいけど、最近はスクールアイドルの数がとても多くなってきて、私も全てのグループを把握してる訳じゃないのよ」

「もしかして花陽、全部知ってるのか?」

「うん。さすがに公式で動画を上げていないグループまでは分からないけど、一度でも公式サイトにPVを投稿しているグループは全部チェックしてるんだ。どんなグループなのかとか、どんなメンバーがいてだとか、その子たちの自己紹介も含めてね」

「マジかよ。これがガチ勢ってやつか……」

 

 

 花陽がスクールアイドル好きってのは知っていたが、まさかここまでとは思いもしなかった。スクールアイドルが爆発的に増えている今、その全てを把握するなんてよほど好きじゃないと到底成しえないことだろう。まさに全スクールアイドルのファンと言っても差し支えないかもな。

 

 

「かよちんはスクールアイドルのPVを見て、お気に入りの部分があったら切り抜き画像でスマホに保存してるもんね」

「そ、そうだけど、面と向かってそう言われると恥ずかしいな……」

「そうだ、せっかくだから零くんと絵里ちゃんにお気に入りを見せてあげれば?」

「えぇ~だから恥ずかしいって! でもラブライブの本社に来たんだし、ちょっとくらいはいいかなぁ~なんて」

 

 

 口振りでは恥ずかしさを際立たせているが、表情は誇張抜きで太陽のような笑顔だ。めちゃくちゃ俺たちに見せたがってるじゃねぇか……。

 花陽はニコニコしながらスマホの画面を俺たちに見えるようテーブルに置く。スクールアイドルたちの画像や動画が綺麗に仕分けされているのだろう、画面にはいくつかのフォルダが映し出されていた。画像などの電子媒体然り、玩具やカードゲーム然り、収集癖のある人って整理整頓が上手い印象がある。ズボラな俺はどこに何を置いたかとかすぐに忘れちまうからなぁ。

 

 その時、いくつかあるフォルダの中から1つに目が止まった。「aaa」とだけ名前の書かれたそのフォルダは、スクールアイドルのグループ名が書かれている他のフォルダと比べて異彩を放っている。綺麗に仕分けをしているフォルダの中に乱雑な文字あったらそりゃそうだ。でもこれだけどうして適当な名前を付けてんだ……?

 

 すると、すかさず凛が花陽のスマホの画面をタッチして、そのフォルダを開いた。

 

 

「これ、なに?」

「あ゛っ!? り、凛ちゃんそれは!!」

 

 

 凛も俺と同じことを思ったようだが、彼女特有の野生の感は衝動を抑えきれなかったようだ。花陽の制止を振り切って凛は謎のフォルダの中身を開いてしまう。

 

 この時の俺は、いや俺だけじゃなく凛も絵里も中身は気になりつつも、スクールアイドルの画像や動画が入っているものとばかり思っていた。そう、つまり油断していたのだ。

 しかし、そのフォルダの中の画像を見た瞬間、俺たちは凍り付く。

 なぜなら、保存されていた画像には全て――――――俺が写っていたから。

 

 

「こ、これって、俺?」

「凄い、零くんばっかり!」

「花陽、あなた……」

「ち、ちちち違うの!! これはその、仕分けに困った画像を入れておくための場所で……」

 

 

 言い訳が苦しすぎる! どう仕分けを迷ったら俺だけの画像だけがこんなに集結するんですかねぇ……。

 しかもこの画像の中には俺たちの集合写真はもちろんだが、どう撮ったのか分からないアングルの写真まで存在する。俺が飯を食っている最中の写真や、ただ道を歩いてるだけの写真など、明らかに狙って隠し撮りでもしない限りは取れない代物だ。もはやこの画像たちを眺めているだけで俺の全身を舐め回せるくらいには、全方向アングルからの写真が列挙されていた。

 

 写真の多さで言えば楓も俺の写真を国宝のようにコレクションしているが、この画像たちはそれに匹敵するくらいの枚数だぞ……。

 

 

「は、花陽は本当に零のことが好きなのね! あ、あはは……」

「絵里ちゃん! その慰めは逆に傷付くから!!」

「かよちんは零くんの写真をいっぱい集めて、何をしようとしてるの?」

「だからと言って冷静に質問されるのも恥ずかしいよ!!」

「お前もμ'sの淫乱組と同類だったか……」

「ドン引きするのもやめてぇえええええええええええええええ!!」

 

 

 ことりや楓が俺の写真をたくさんコレクションしているのは知っていたが、まさかコイツまで写真の収集癖があったとは。淫乱組とは違って風呂やトイレの盗撮映像はないみたいだが、それはアイツらが特殊なだけで、花陽のやっていることも相当悪趣味だ。好きな人の写真なんだから集めても何らおかしくないと思うかもしれないが、そうだとしたらせめて隠し撮りはやめてもらいたいもんだよ。

 

 

「それにしても凄い量ね。いつどうやって撮ったのか想像つかないのもあるわ」

「そ、それはみんなと一緒に歩いてる時に後ろからこっそりとか、大学のキャンパスで零君をたまたま見かけた時とか……」

「かよちん……」

「凛ちゃん!? 凛ちゃんからそんな目で見られたら、もう私に味方いなくなっちゃうよ!?」

「いいよいいよ! だってただ恋人の写真を集めてるだけだもんね。うん、集めてるだけ……」

「自分で言ってて納得してないよね!?」

「いくら親友でも相手の趣味が受け入れられないことだってあるだろ。でもそれで友情が破壊される訳じゃない。だから挫けんな」

「いい話に持っていこうとしてるけど、気休めでしかないよ……」

 

 

 気が動転しているのか、普段のおとなしい彼女とは思えないくらい饒舌だ。しかしどんなに弁明しようとも、目の前に曝け出された事実には到底かなわない。いつでも花陽の味方であり大親友である凛でさえも、今回の花陽の奇行は流石に受け入れ難いようだ。この写真たちが普通に撮影したものならばこうはならなかっただろうに、ところどころに隠し撮りを疑われる写真が混じっているのが花陽の胡散臭さを加速させている。やっぱり、いくら表が清純な奴でも裏で何をやってんのか分からねぇな。

 

 

「これって、俗に言う"ヤンデレ"ってキャラだよね? まさかかよちんがヤンデレさんだったなんて……」

「違うよ! 私が病んでるとか、そんなの絶対にあり得ないから! 健全、うん、健全なはず」

「ヤンデレを拗らせてる人ほど自分の異常さに気付かないって、この前にこと飲んだ時にそんなことを言ってた気がするわ。つまり花陽は……」

「絵里ちゃんまで!? これまで私が病んでる姿、見たことある?」

「「「今でしょ」」」

「う゛っ……」

 

 

 何とか俺たちに対してマウントを取ろうとする花陽だったが、質問の洗練さが足りなかったのかあっという間に図星を突かれる。ここまで弄られる花陽も珍しいけど、彼氏としては自分の恋人の奇行を放っておくわけにもいかない。ここまで俺の写真を収集しているのは欲求不満なのか、それとも好奇心で集めているだけなのか。どちらにせよ花陽に対する警戒心が一気に高まったのは事実だ。

 

 μ'sには学年ごとに1人不思議ちゃんがいて、ことり、花陽、希、亜里沙がその部類に入る。だが花陽はその中でも飛びぬけて常識人なので、花陽、凛、真姫の世代は危険もなく無難な子たちばかりが揃っていると思っていた。

 だが今回でその根底は大きく崩れてしまう。まさか人の写真を無断で隠し撮りして収集するような奴が無難世代の中にいたとは……。まあその色物揃いの集団こそがμ'sの特徴でもあるのだが、だからと言って擁護するつもりもない。ヤンデレは可愛いけど苦い思い出もあるし、女の子のあらゆる属性の中でも扱いが大変なんだよ。

 

 

「大丈夫。凛はどんなかよちんであっても親友であり続けるからね」

「まだ病んでるって認めてないよ!?」

「確かに写真を集めてるだけでヤンデレ判定をするのは、流石にヤンデレに対するハードルが低すぎる気もするな。どこからどう撮った写真がある時点で不気味さはあるけど、その要素だけでヤンデレと決めつけるのは一概じゃない」

「ことりとかにことか、楓ならともかく、花陽だからまだ救いはあるかもね」

 

 

 サラッとそう呟く絵里だが、それは逆に言えばことり、にこ、楓の3人は救いようのない変態ってことじゃないか? まあ事実だから弁明なんてしないけど、絵里のちょっと天然さが混じった容赦ない発言にはいつもビビらされるよ。

 

 つうか、絵里の目線から見てもアイツらは救いようがないと判断してるのか。そういや俺も昔はことりやにこを更生させようとしたことがあったけど、アイツらの勢いが半端なさ過ぎて結局諦めたんだよな。そういう意味ではアイツらの方がよっぽど猟奇的なほどにヤンデレの素質があるので、花陽はまだ可愛いものかもしれない。

 

 

「分かった。花陽が病んでるかどうか確かめるためにも、ちょっくら診断してみるか」

「診断?」

「あぁ。とは言っても質問に正直に答えてくれればそれでいい。質問は俺が用意して、それを絵里から出題させるから」

「えっ、どうして私が?」

「コイツの病んでる原因である俺が質問をしたら、花陽が正直に受け答えできないかもしれないだろ?」

「別にあなたが原因じゃないと思うけど。本人の精神がちょっと不安定なだけで」

「う゛っ!!」

「かよちん!? 絵里ちゃんの会心の一撃で、かよちんのライフが0だにゃ……」

「言うようになったなお前も。いや、恐ろしくなったと言うべきか」

「そ、そんな花陽を虐めるつもりはなかったのよ!? ただ社会人になって、自分の意見は包み隠さずはっきりという根性が身に着いちゃっただけで……」

 

 

 ここまで己の考えを真っ向から放つその性格は、アイスエイジと呼ばれていたμ's加入前の絵里のようだ。むしろあの頃よりも言葉の鋭さが磨かれており、やはり社会の荒波を経験しているだけのことはある。しかも彼女はラブライブ本社の企画部なので、自分の意見を貫き通すスキルはかなり洗練されているだろう。こりゃ絵里の質問をさせたら、全ての質問を終えるまでに花陽がノックアウトしちゃうかも……。

 

 

「かよちんがことりちゃんたちと同じ部類になっちゃうのか、それとも……?」

「凛ちゃん、なんか楽しんでない?」

「そんな! 親友の一大事なんだから焦ってるに決まってるにゃ!」

「顔!! 顔とっても笑ってるから!!」

「安心しろ。お前がヤンデレを拗らせようが、俺たちは受け入れるよ。なんたって他の奴らで慣れちゃってるからな」

「治してやるって言ってくれないあたり、もう諦めてるよねそれ……」

 

 

 触らぬ神に祟りなしって諺があるように、ヤンデレちゃんに対しても下手に刺激をしない方がいいんだよ。かつてこれまで何度もヤンデレの相手をしてきて、何度も殺されかけた俺ならそれくらいの心構えはできている。言ってしまえば、()()()と一緒に暮らしているから病みやすい女の子の扱い方なんて世界トップクラス、いやトップと言い切っていいと思うぞ?

 

 さて、これから花陽の内情を赤裸々にして暴いてやるか。

 凛は親友の奇行に対し、もの珍しさで楽しんでいるけど、実は俺もそうだったりする。でもこれで本当にヤンデレだと診断結果が出た場合、一体どんな反応をしてやればいいのだろうか……? 自分から提案しておいてアレだけど、ちょっと怖くもなってきたぞ。

 

 

 こんなおっとりしていて清純な子がねぇ……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 最近はラブライブに限らずヤンデレを扱った小説が増えていますが、なんかヤンデレ判定のハードルが低い印象があります。完全に私の主観ですが、猟奇的な要素が足りないと思っています。今回の話もそれをネタにしてますね(笑)

 ヤンデレ小説は日常的なモノも然りですが、私の『非日常』のようなドロドロした展開も好きなので、また誰かラブライブでそのような小説を執筆してくれることを勝手に願っています()

 次回は花陽のヤンデレ診断です。花陽以外にも何人か診断を受けるのですが、果たしてその結果は……??


新たに☆10評価をくださった

ニャン生さん

ありがとうございます!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

μ'sのヤンデレ診断

 前回からの続きで、μ'sメンバーの精神状態を露呈させる回です()


 

 ヤンデレというキャラは最近ではかなり有名となり、オタク界隈で知らない人はいないんじゃないかってくらいメジャーなキャラになりつつある。キャラがキャラだけに受け入れがたい人も多いようだが、逆に言えば偏っているキャラだからこそ熱く支持する人もいる。ツンデレやクール系などと比べると異様なキャラであることは間違いないのだが、果たして自分の身近にそのような人がいた場合はどうすればいいのだろうか? そもそもその人がヤンデレだと判断する基準とは? 今回はヤンデレ診断ということで、身近な人がどれだけ病んでいるかの測り方を教えようと思う。

 

 やり方は至ってシンプルに、俺の作成した質問を女の子に投げかけるだけでいい。その女の子が質問に対して素直に答えてくれさえすれば、その子がヤンデレを拗らせているかそうでないかが分かる。ちなみにヤンデレの子って自分が病んでいることを自覚してない子が多いから、質問をして嘘の答えが返ってくることは少ないだろう。自分がヤンデレじゃないという謎の自信、その特性を突いた診断方法なのだ。

 

 俺は絵里に自作のヤンデレ問診票を渡し、その様子を静観することにした。質問する役に絵里を抜擢したのは、ヤンデレの原因となっている人間が直接質問するよりも代役にさせた方が花陽も緊張しないと思ったからだ。

 

 

「じゃあ花陽、診断を始めるわよ」

「うん。やっても無駄だと思うけど……」

「とりあえず第1問。えぇと、『あなたの好きな人の写真の所持枚数は?』ですって」

「そんな大した枚数持ってないよ。記憶してるだけで200枚くらいだから」

「かよちん……」

「えっ、なに!? 変なこと言った!?」

 

 

 第1問目から早速不穏な空気が漂っているのだが、これこのまま続けて大丈夫か? 花陽の素性を暴けば暴くほど俺たちの空気が凍り付く可能性が濃厚になってきたので、今更になって診断をやめた方がいいんじゃないかと思えてくる。でも始めてしまった以上ここで引き返す訳にもいかず、俺たちは思ったより深い闇に飛び込んでしまったとコイツの回答を聞いた瞬間に思った。

 

 それにしても200枚って、想像以上でありながらもメチャくちゃ衝撃を受けたかと聞かれればそうではない。ことりや楓なんてもはや数えるのすら億劫なくらい俺の写真を持ってるだろうから、写真の枚数を記憶しているだけでもまだ安全な部類だ。まあ花陽にしては持ち過ぎだろうと思ったからこそ不穏な空気を感じたんだけどね。

 

 

「気を取り直して第2問目ね。『その写真を見る、眺める頻度はどれくらいか?』」

「う~ん、最近は暇があるときは写真の整理がてらに眺めてるかなぁ。でもついつい零くんに夢中になっちゃって、気付いたらご飯も食べずにずっと眺めていたこともあったよ、あはは……」

「お腹が空いたらすぐ白米に飛びつくかよちんが!? あ、ありえないにゃ……」

「飢えた獣みたいに言わないで! でも事実なんだから仕方ないよ」

「何が驚きって、あなたが自分の行動を普通じゃないと思っていないことだわ……」

「いや、まだこの時点で結論を出すのは早いはずだ。多分……」

 

 

 まだ2問目だからヤンデレ判定を出すのは早計過ぎると思うが、それも花陽には健全でいて欲しいからという俺の願望の方が強いのかもしれない。でも現実は非情であり、花陽が口を開くたびに診断の判定がどんどんヤンデレの方向に傾いていく。もはや見えている沼に成すすべもなくズブズブ沈んでいるような感覚で、足掻こうにも脱出できない状況だ。

 

 

「続けて第3問目。『その写真の用途は?』……って、結構踏み込んだ質問ねこれ」

「用途と言われると、ぼぉ~っとしてる時に眺めてほのぼのしたりとか、緊張してる時とかに見てやる気を貰ったりとか、それと……」

「それと?」

「あっ、えっと、うん! 何でもないの何でも!!」

 

 

 花陽は頬を真っ赤にしながら、顔の前で両手を振る。

 彼女の回答は写真の用途としては別に変な使い方ではないのだが、さっき言いかけたことこそが真の使い道だと察した。それを俺たちに言えず恥ずかしがっている様子を見ると、恐らく俺の写真を使用する時間は夜。ここまで言えば写真をどのように使用しているかは分かってもらえるだろう。まさかコイツがそんなことをしているとは信じたくなかったが、コイツが意外とムッツリスケベだと知っていれば事実を突きつけられて度肝を抜かされるほどではない。

 

 

「案外普通の使い方をしてるんだね。ヤンデレって、好きな人の写真をたくさんプリントして部屋に飾ったり、他の女の子と写っている写真をあたかも自分と写っているかのように加工したりとか、そんなことばかりしてるのかと思ったよ」

「ないない! そんな狂気染みたことなんてする訳ないよ!!」

「良かったぁ~。話を聞く限りではヤンデレちゃんって怖い印象があったから、かよちんがそうでなくて助かったよ」

「私が病んでるなんてそんなことあるはずないから安心して。スマホで撮った写真をプリントして、1枚1枚アルバムに入れてるだけだから」

「「「えっ?」」」

「えっ……?」

 

 

 自分なりの健全な行動を俺たちに示したかったのだろうが、墓穴を掘ったとはまさにこのことだ。俺たちが自分の意見に同意しなかったことで花陽も思わず目を見開いて驚くが、より衝撃を受けているのはこちらの方である。安心させておいて実はこっそり爆弾を仕掛け、いきなり爆発させるとか中々にサプライズ性のある奴だ。まあ今回ばかりは鳴りを潜め続けて欲しかったものだが……。

 

 写真をコレクションするくらいなら俺もまだ受け入れることができた。でもスマホで撮った写真をわざわざプリントアウトして、現実の写真として昇華させていることに驚きを隠せない。そのアルバムは本当に思い出を振り返るためだけに使用されているのか、もうそこだけが気になって仕方がなかった。写真にするくらいなら有り得る範囲内だろうが、μ'sの一部メンバーの場合は明らかに一般人と用途が違うだろうからさ。

 

 でも絵里と凛も含め、気になるからと言ってそこに踏み込んではいけないと脳内で警報がなっていることだろう。おっとり清楚な花陽のイメージを絶対に崩したくないからという俺たちの思いが、これ以上の追及を阻害していた。

 

 

「つ、次に行きましょうか。と言っても、次が最後の質問ね。えぇっと、シチュエーション問題?」

「そうだ。最後はお題のシチュエーションの中で、自分がどう行動するのかを答えてもらう」

「なるほどね。準備はいい花陽?」

「うんっ、いつでも!」

「お題、『あなたは街中で想いの人を見かけました。でもその人はあなたの知らない女性と楽しそうに歩いています。しかもその2人の距離は近く、いい雰囲気です。さて、あなたはどうしますか?』だって」

「そんなの、何もしないに決まってるよ。せっかく2人で楽しそうにデートしてるのに、わざわざこっちから空気を壊しに行く必要もないしね」

「あら、意外とまともな回答ね。身の毛もよだつ準備はできてたのに」

「私にどんな期待をしてるの……? 別に2人の間に割り込まなくても、あとで零君に『あの女の人は誰なの?』とか『なんでデートしてるの?』とか『また別の女性と付き合ってるんだ』とか、たくさん聞けばいいだけだと思うけど……」

「良かったな絵里。少しはお前の期待通りになったぞ」

「まぁ……ね。別に嬉しくないけど……」

 

 

 花陽は頭に"?"マークを浮かべているが、やっぱり自分の発言の異常さには気付いていないようだ。しかし、花陽の言い分を聞く限りでは可愛い嫉妬のようなものなので、病み成分はそこそこ薄い。写真の枚数や使い方で若干怪しかったけど、最後の質問で見事に自分の株を取り戻したな。

 

 でもヤンデレは兆候が見え始めた時が一番怖いって、それ一番言われてるから。この子はヤンデレだなと思えば身構えることができるし対応法も分かっているので安心できるものの、花陽のように急に行動が異常になり始めるとどう対処したらいいのか分からなくなってくる。今回の彼女の奇行は明るみに出る前に発覚したので良かったものの、こちらが気付かずにヤンデレを拗らせられるといつやらかの悲劇のようになってしまうので今でも警戒してしまう。まあ、コイツらの精神も成長しているし、5年前の惨劇なんて再び起こるはずないけどね。

 

 

「これで質問が全部終了したけど、結果はどうなの?」

「お前の回答を総合すると、ちょっと危険なラインに足を踏み入れている『ヤンデレ予備軍』と言ったところか」

「予備軍? う~ん、完全にヤンデレ判定されなくてホッとしてるけど、ちょっと複雑かも……」

「どうせならことりちゃんたちに仲間入りしちゃえば良かったのにね!」

「それだけは絶対にヤダ!!」

「えぇ~? 闇が深いかよちん、ちょっと見てみたかったのに~」

「そんな好奇心だけで親友を闇落ちさせなくても……」

 

 

 これまでの花陽の回答から考えるに、部屋を盗撮さえできれば彼女の闇、いや病みと言うべきか、それをたっぷりと実感することができそうだ。ここまで話が進んで敢えて写真の用途について問い詰めるつもりはないが、恐らくマシな使われ方なんてしてないだろう。しかし、自分の写真を淫らな用途で使われているのって誇るべきなんだろうか……?

 

 

「でもなぁ、このままだとオチもなにもないまま終わっちまうぞ? お前はそれでいいのか?」

「いいよ別に!! ていうか、今日の目的ってラブライブ本社の見学だよね?? どうして私を貶める展開になってるの!?」

「そりゃお前の苦しむ姿を見るのが至高の愉悦だからな」

「相変わらず趣味が悪いよ……。もうこの話は終わりにして見学に行きたい……」

「落ち着け。最後に本物を見せてやるから。それを見てお前も真のヤンデレを勉強しろ」

「真の、ヤンデレ……?」

 

 

 花陽もかなり己の闇、および病みを見せつけてくれたが、彼女が患っている病気など他の奴らに比べたらまだまだ可愛いもんだ。この世にはもっと業が深く、底なしの病みを患っている奴らがいる。しかもそいつらは自分たちが異常だと分かっていながらも症状を治そうとせず、むしろ何故か誇りを持ち俺への粘着をやめようとしない。普通なら害悪認定するところだが、悲しいことにどいつもコイツも自分の恋人たちなんだからやるせないんだよ。

 

 

「実は絵里が花陽に質問してる時に、他の奴らにも携帯で同じ質問を送ってみたんだよ。その回答が出揃ったから、みんなで見てドン引きしてやろうと思ってさ」

「ドン引きすることは確定なのね……」

「俺もまだ送られてきた回答は見てないけど、見なくてもヤバいってのはビンビン感じるよ。質問を送ったのは末期患者ばかりだからある程度は予想つくけどな」

 

 

 何故か俺の携帯から放たれる邪気。その威圧だけで俺の質問に対しみんながどんな顔で、どんな気持ちで答えたのかが伝わってくる。病んでる女の子に対して下手に手を出してはならないと分かってはいるのだが、今回は敢えてその禁断を解き放ってみた。μ'sの現状が如何ほどのものなのか、ここではっきりさせておくためにも禁忌に触れるしかなかったんだよ。

 

 自分のスマホをテーブルに置き、みんなが画面を覗き込む。

 

 

 

『Q. あなたの好きな人の写真の所持枚数は?』

 

《南ことり》

A. スマホの容量がいっぱいになって、部屋中に貼り切れなくなるくらい。

 

《矢澤にこ》

A. 数え切れないくらいの愛。

 

《神崎楓》

A. いつも隣にいるから大量に持つ必要なし。精々5,000枚くらい。

 

 

 

 

『Q. その写真を見る、眺める頻度はどれくらいか?』

 

《南ことり》

A. 時間が空いてる時はずっと。寝ている時はいつもあなたの顔が夢に出てくるから、実質1日中。

 

《矢澤にこ》

A. レッスンの前に見て元気を貰う。レッスンの後に見て自分へのご褒美にする。レッスンがない時に見て暇潰し。実質ずっと。

 

《神崎楓》

A. いつも隣にいるから写真なんて見る必要なし。でも一度だけお兄ちゃんをもっと身近に感じられるように、伊達メガネを買ってそのレンズにお兄ちゃんの写真を貼り付けたこともあった。でも案の定、お兄ちゃんが近すぎて逆に何も見えなかった。ドジっ子アピールしてやった。

 

 

 

 

『Q. その写真の用途は?』

 

《南ことり》

A. 女子力向上

 

《矢澤にこ》

A. 一人情事

 

《神崎楓》

A. 自分磨き

 

 

 

 

『Q. あなたは街中で想いの人を見かけました。でもその人はあなたの知らない女性と楽しそうに歩いています。しかもその2人の距離は近く、いい雰囲気です。さて、あなたはどうしますか?』

 

 

《南ことり》

A. その子の所在や身元などを徹底的に調べ上げ、どうにか社会的に追い詰められないか検討する。最適方法を検討後、即実行。

 

《矢澤にこ》

A. 自分の方が遥かに魅力的だとアピールして、その女を公開処刑する。その女はにこの魅力に屈服し、二度と立ち上がることはできなくなるまでがテンプレ。

 

《神崎楓》

A. 殺す

 

 

 

 こんな回答になると分かっていれば、ある程度は衝撃を和らげることができる。しかし知っていたとしてもこうして字面を見ていると気味が悪く、本当にずっと隣にいることを約束した女の子かと疑ってしまう。別に日常会話をしている時はここまで狂気染みた様子はないのだが、起爆剤に触れてしまったらここまで己の気持ちを爆発させちゃうのがコイツらの癖だ。表では平静を装って、裏では度し難い欲望を抱いている。もはや裏の顔なんて、絶対に公に見せることはできないだろう。

 

 

「なんていうか、目に毒だにゃ……」

「でもこれがお前らが所属するスクールアイドル、μ'sの現状なんだ。μ'sはいつ暴走して警察のお世話になるか分からない連中を抱えているから、いわば爆弾を背負ってるのと一緒だな」

「でも私は少し安心したかな。私よりももっと凄い人たちがいて、自分なんかじゃ到底敵わないから……」

「敵わなくていいのよ別に。それにしても、あの子たちはいつになってもあなたへの愛は変わらないのね」

「それって喜んでいいのか?」

「捉え方にもよるけど、ここまで献身的な愛を注いでくれる子がこんなにいるんだもの。喜んでいいんじゃない?」

「他人事のようにお前……」

 

 

 ヤンデレは見方を変えれば、自分だけに忠誠を誓ってくれている一途な子と考えられなくもない。何よりもまず自分のことを第一に行動してくれるので、上手く付き合うことができればヤンデレほど将来が安泰な女の子はいないだろう。こちらが浮気など下手な行動をしない限り、決して向こうから離れていくことはない。手懐けるのはもちろん大変だが、裏切られない安心感を得られると思えば敢えてその子と付き合うのもありかもしれない。

 

 しかし、その選択は茨の道だ。

 だってさっきの3人の回答を見てみろ。どう扱っていけばいいのかと迷っちまう奴らばかりだ。特に3つ目の質問なんて3人共言っていることはバラバラに見えるが、意味合いは全て同じだ。しかも最後のシチュエーション問題の回答では、みんなそれぞれ度合いは違えど、何かしらの形で対象の女性を社会的に抹殺しようと画策している。我が妹に関しては物理的に排除しようとしているし……。

 

 

 結論。ヤンデレは扱いが難しい。でも上手く付き合うことができれば、どの性格の女の子よりも将来が約束できる。

 こんなところか。

 

 

「凛、座ってただけなのに疲れちゃったよ。会社内を見学する体力ないかも……」

「えぇ……凛ちゃん最初はノリノリだったよね?」

「久々にかよちんが暴走してる姿を見られて面白かったし、それで笑い疲れたってのもあるけどね」

「ヒドイよ凛ちゃん!!」

「まあまあ。別に見学に時間制限はないから、ゆっくり休んでから行きましょ」

「だったら最後に清涼剤を振り撒いて終わりにしよう。このままだと後味も悪いから」

「他の子にも質問を送ったの?」

「あぁ。でも身構えなくてもいいぞ」

 

 

 

 

『Q. あなたの好きな人の写真の所持枚数は?』

 

《高坂雪穂》

A. 合宿の集合写真とか、2人でお出かけした時の写真を合わせて10枚くらい。

 

《絢瀬亜里沙》

A. デートの時に撮った写真が15枚ほどありました!

 

 

 

 

『Q. その写真を見る、眺める頻度はどれくらいか?』

 

《高坂雪穂》

A. 頻度と言えるほど見返したりはしないです。なんか、零くんの写真をじっと見てると顔が熱くなってくるから……!!

 

《絢瀬亜里沙》

A. テスト前にやる気を貰ったり、ライブの前に緊張を解したい時など、私にとって大切な時にお世話になってます。

 

 

 

 

『Q. その写真の用途は?』

 

《高坂雪穂》

A. 大切な人との思い出を残しておくため。むしろ、思い出作り以外の用途ってあるんですか?

 

《絢瀬亜里沙》

A. 大好きな人との楽しかった日々を、ずっと忘れないようにしておくためです。

 

 

 

 

『Q. あなたは街中で想いの人を見かけました。でもその人はあなたの知らない女性と楽しそうに歩いています。しかもその2人の距離は近く、いい雰囲気です。さて、あなたはどうしますか?』

 

 

《高坂雪穂》

A. 特に何もしません。零君はそういう人なので、今更気になりません。

 

《絢瀬亜里沙》

A. 零くんは女性に優しい方です。だから零くんと女性が楽しそうな雰囲気を作っていると、私もほっこりして楽しくなってきちゃいます!

 

 

 

 

「凄い……。ことりちゃんたちが霞んで見えるくらいに輝いて見えるよ」

「うん。まさに恋人の鏡と言ってもいいほどの答えだよね……」

「2人共さすがね。心なしか癒された気がするわ」

 

 

 さっきの3人とは格の違いを見せつけた雪穂と亜里沙は、質問に答えただけなのに俺たちの心に安らぎを与えてくれた。

 そういうところだぞさっきの3人? 見てるか?? ヤンデレもいいところはいっぱいあるけど、やはり純真な子と敵対するとその眩さで霞んで見えちまうと証明されたな。もちろん、その子はその子なりのキャラがあるので、俺的にはどんなキャラであろうが真っ向から受け止めてあげるけどね。

 




 ヤンデレと言われると私は『非日常』小説のようなキャラを想像してしまうので、この小説のような日常モノには中々キャラが適合しないのが残念です。なので今回も軽い感じのヤンデレを扱いましたが、いつかはまたドシリアスなヤンデレも描いてみたいなぁ~なんて思ったりしています。



 次回は虹ヶ咲のガチギャル系アイドルである宮下愛が、零君を狙う!?




ありがとうございます!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ビッチ系ギャルのスクールアイドル

 今回は虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会から宮下愛が登場します!
 μ'sやAqoursにはない初めてのキャラだったので、公式の設定以上に性格を爆発させてみました()


 

 別に自慢ではないが、女の子とデートをした回数なら世界でもトップクラスだと思っている。それも1人の女の子とではなく、総勢で20人以上とデートをしているからマンネリなど一切ない。デートをするたびに相手が違えばいつも歩いている街並みも違った景色に見え、だから例え行き先が他の子と被ったとしても飽きることはない。それくらい女の子と付き合うことには慣れているのだ。だからこそ逆に真新しさはないと言うか、日常的になっていて刺激はあまり感じなくなっている。でも俺は日常に変化を求める方ではなく、ゆっくりまったり日々を過ごしたい派だからそれでいいんだけどね。

 

 それだけたくさんの女の子とデートをすれば、女の子の数だけ行き先も変わる。デパートでショッピング、レストランで食事、スイーツ巡りなど定番なものから、動物園や水族館、遊園地など施設を巡るもの、公園や緑地でのんびりするだけなど、列挙していたらキリがない。もう学生の行動範囲内で行けるところは全て訪れたと言ってもいいくらい、俺は女の子たちと各地を巡っている。夏休みは家に引き籠りがちだからニートだの穀潰しだのバカにされているが、これでも女の子からの誘いはちゃんと引き受けて外出しているんだぞ? まあ自分の意志で複数人の恋人を作ったから、これくらいは当然だけどね。

 

 しかし、デートであらゆるところに行ったと言っても、学生のデート先で思い付く限り1つだけ行ってなかった場所があった。はっきり言ってしまえばそこは健全な場所ではなく、普通にデートをするならばまず訪れることのない場所だ。もし行くとするならば、いい雰囲気になったカップルが興奮を抑えきれずに後先構わず向かうくらいだろう。だからまともな思考をしていれば、デート中にそんな不純で不潔な場所に足を踏み入れることはない。

 

 だが、来てしまった。

 最初は軽い気持ちだった。街中で可愛いギャルに執拗に誘われたから、仕方なく彼女と行動を共にすることにしたんだ。するといつの間にか、俺はこの部屋に放り込まれていた。その子は最初からここへ俺を引き摺り込む予定だったのだろう、ホテルの料金は既に支払い済みで、何の手続きもなくスピーディに誘導されてしまったんだ。これが最近の援交の手口かと思わず感心しちまったぞ。

 

 そんな訳で、俺は今ホテルにいる。静まり返っている部屋の中で、聞こえるのは浴室から漏れだすシャワー音のみ。漫画やドラマでは、ホテルで交わる前の男女がお互いにお互いのシャワー音を聞いて緊張する描写があるが、まさか自分がその体験をするとは思わなかった。女の子とやるのはこれが初めてではないのだが、シチュエーションがシチュエーションなだけに期待と緊張でいっぱいだ。なるほど、オッサンはこうしてズルズルと援助交際にハマってしまい、女子校生たちの都合のいい財布にされるんだな……。

 

 

「な~に柄にもなく緊張してんの? たくさん彼女がいるくせに、実はウブだったり??」

「愛、お前……!!」

「フフッ、ウブっ子には愛さんの風呂上りは刺激が強すぎたかぁ~♪」

 

 

 宮下愛。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバーであり、同時に俺の失われた過去を知る者の1人だ。

 コイツのことについては紹介したいことが山ほどあるのだが、まずはその見た目を何とかして欲しい。シャワー上がりなのは分かるが、なにもバスタオル1枚で目の前に現れることはないだろう。薄暗いホテルの一室で、火照った身体をタオル1枚で纏っている姿を男に晒す意味を知ってんのかコイツ……。これだけの条件が揃っていたら襲われても文句言えねぇぞ??

 

 俺がそう思ってしまうのも仕方がなく、バスタオル1枚のせいで彼女の身体のライン、凹凸が全て浮き彫りとなっている。ウエストが細い割に胸が出過ぎているので、俺の見立てではGカップくらいはあるんじゃないかな。バスト的には曜や果南とそこまで変わらないと思うが、身体の細さのせいで彼女たちよりも一回り胸が大きく見える。その錯覚もあって、バスタオル1枚の姿がより扇情的に見えるって訳だ。

 

 

「あっ、もしかして私に見惚れてる? 相変わらず女の子のカラダ、好きだよねぇ~」

「見惚れるっつうか、目の前にタオル1枚の女の子がいて何も思わない訳ねぇだろうが」

「でも目を逸らしたり早く着替えろと言わないあたり、やっぱり期待してるんじゃいの?」

「ビッチに期待するものなんてなにもねぇよ」

「ビッチじゃないですぅ~ギャル系スクールアイドルですぅ~」

 

 

 もちろん『ギャル=ビッチ』という方程式は必ずしも成り立たないのだが、コイツの場合は話が別だ。街中でいきなり声をかけてきたと思ったら、秒もしない間に俺をホテルに連れ込みやがった。そして部屋に入ったら外が暑かったからという理由ですぐにシャワーを浴び始め、バスタオル1枚で男の前に現れる。この行動の経緯を聞いて、コイツをビッチと思わない奴がいるだろうか。いや、いない。

 

 ちなみにギャル系スクールアイドルとはまさにその通りであり、派手な容姿とSっ気のある性格もイマドキ女子って感じだ。今はシャワー上がりなので化粧も落ちてるが、街中で出会った時は軽めの化粧を施しており、本当に高校生かと疑いたくなるくらいには自分を飾っていた。

 この手の子がスクールアイドルをしているなんて珍しく、今まで俺が出会ったスクールアイドルの中でもギャル系キャラの女の子はいなかった。そもそもギャルっ子がスクールアイドルをやるとは思えないので、宮下愛こそが特別なのだろう。まあコイツがスクールアイドルになったのは俺の影響が強い上に悲惨な過去があったからこそだから、彼女は特別の中でも更に特別だ。

 

 そんなことを考えていると、俺の隣に愛が座り込んできた。ベッドに腰をかけているせいか、今からまさに本番と言わんばかりの雰囲気だ。肩が触れ合うくらいの距離まで接近されたため、女の子特有の甘い香りとシャンプーの良い匂いが融合して俺を唆る。これまでのコイツの言動から察するに、どうやら彼女は最初からやる気のようだ。

 

 

「言っとくけど、期待しても何もしねぇからな」

「えっ、ここまで来て!? 据え膳食わぬは男の恥って言葉知らないの??」

「ここまで来てって、お前が有無を言わせず連れ込んだんだろ……」

「それでも女の子がここまで準備万端なんだから、何もしないってのはヒドいんじゃない?」

「だったらお前から来い。いい感じの奉仕ができたら相手をしてやるよ」

「ふ~ん、意外と倫理観あるんだ」

「俺は人間だ。所構わず理由もなくヤりまくる獣じゃない」

 

 

 どうやら愛は俺のことを卑しく誘えばヤれる軽薄野郎と思っていたようだが、これでも人並み以上に倫理観を弁えているつもりだ。その証拠として、高校卒業までμ'sのみんなと最後の一線は超えなかった。青春時代に活発となる性欲を抑え、至って健全な自分を貫き通したんだ。だからこの鍛え抜かれた精神があれば、女の子からの桃色光線など全く通用しない。特にコイツのように露骨なアピールなんて俺にダメージすら与えられないぞ。

 

 

「でもこのカラダ、触ってみたくない? 成熟途中の高校生のカラダは今が食べ時なんだよ?」

 

 

 確かに愛の身体はエロい。恐らく少しでもコイツの身体を触ってしまうと、いくら俺でも病みつきになりコイツを貪り食ってしまうだろう。しかも相手はビッチ系ギャルだから、性に関して達観してますよ的な余裕を自分の手で快楽色に染めたいとも思ってしまう。正直に言って、倫理観を鍛えたと言っても一度手を出してしまうと性欲に飢えた獣になるのは目に見えて明らかだった。流石に俺も男だから、目の前にエッチな女の子がいたらそりゃ襲ってみたいし穢してやりたいと思うよ。

 

 でも、自分がそうならない理由はコイツ自身にあった。街中でいきなり声を掛けられホテルに連れ込むなんて、何か裏の事情があるのかと勘ぐってしまう。むしろそっちの方が気になってしまい、コイツがエロいから交わりたいとか、そんなことを考える以前の問題となっていた。

 

 

「目的はなんだ? 金か?」

「援助交際じゃないんだし、お金なんて必要ないって! 私はただデートがしたかっただけだから。だってほら、歩夢たちだけデートしてズルいし!」

「アイツらも突然現れただけで、俺は別にデートなんて思っちゃいないけどな」

「でもみんなは本気だったみたいだよ。ていうか、それ目的で零さんに会いに行ってる訳だし」

「えっ、やっぱりみんな計算して俺に会いに来てたのか? どう見ても偶然出会ったようにしか思えなかったけど……」

「あはっ、今頃気付いたんだ? 私たちで一気に押しかけると零さん混乱するだろうし、それに私たちも零さんと一緒にいる時間が欲しいから、日と時間を決めて会いに行ってたんだよ」

 

 

 ということは、夏祭り会場で出会った歩夢やショッピングモール内で出会ったしずくも俺に会う目的だったってことか。アイツらの言動からすると偶然としか思えなかったが、全てはコイツらの計算のうちだったんだな……。なんか急に寒気がしてきたぞ。

 

 

「待て。でもせつ菜や璃奈は本当にばったり出会ったって感じだったけど?」

「演出ですよ演出。2人も狙って会いに行ってたの。まあせつ菜の場合は、ファンに囲まれちゃったのが予想外だったみたいだけどね」

「なるほど。でもどうして俺の外出予定なんて知ってるんだ?」

「それは……ヒ・ミ・ツ」

 

 

 愛は人差し指を自分の唇の前で立て、悪戯な笑顔で俺を惑わす。まさか、どこかに盗聴器や発信機を取り付けられてるとかじゃねぇだろうな?? 虹ヶ咲のバックには秋葉がいるので、もはや俺の私生活を隅々まで虹ヶ咲の子たちに知られていてもおかしくない。もうそこまで来ると、監視されてるから怖いと言うよりかは逆に開放的になっちまいそうだ。

 

 

「そんな訳で、愛さんもみんなと同じく零さんとデートしたいってこと。そして私が選んだデートスポットがここ。男女でコミュニケーションを取るなら、ここ以外にいいところはないでしょ」

「お前にとってコミュニケーションはセックスかよ」

「そっちの方が手っ取り早くない? 身体の付き合いって言葉もあるくらいだし、お互いを良く知るためにはカラダからってね!」

「人の倫理観を語るより、まず自分の倫理観を育てたらどうだ? これまで他の男と何をやってたのかは知らないけどさ」

「へ? 何もしてないよ?」

「は?」

「男にカラダを触らせたことはもちろん、付き合ったことなんてないから」

 

 

 俺はてっきりこれだけのビッチなんだから、他の男と遊び回っているものとばかり思っていた。でなきゃここまでノリノリで俺を誘ってくるとは考えられなかったからだ。こりゃとんだファッションビッチもいたもんだな。なるほど、真の男を知らないからこそホテルで2人きりでも余裕でいられるって訳ね。年上の肉食系男子を援交感覚で誘ったらどうなるのか、今ここで見せつけたくなってきたぞ。

 

 

「どう? やる気になった?」

「そうやって煽られると冷めるんだよな……。それにやる気になったと言うより、お前に他の男の手垢が付いてなくて安心したよ。やっぱエッチするなら純潔が守られてる子の方がいいからさ」

「うわっ、このご時世に処女厨とか気持ちワル!! あれだけ恋人がいるのに、未だに処女厨なところも引くわぁ~」

「余計なお世話だ。好物を食い散らかすのが俺の趣味だから仕方ねぇだろ」

「サイテーな告白だね。でも私は襲わないんだ、処女なのに」

「このご時世に処女アピールとか。売れ残りアピールと同義だぞ?」

「まだ高校生だから、店頭に並びたてのピチピチのお魚と一緒で食べ時なんですけど?」

「だったらおとなしく店頭に並んどけ。自分から食べて食べてってアピールする魚なんて、気持ち悪くて逆に寄り付かないだろ」

 

 

 ギャルやビッチな子に対してどのような印象を抱くかは人それぞれで、下品で穢らわしいと思う人もいれば、性的に先導してくれる女の子を欲する人もいるだろう。俺は後者の人間であり、同じビッチ思考を持つことりやにこに対しては、むしろ向こうからこちらに言い寄ってきて欲しいと思っているくらいだ。普段はアイツらのことを罵っているが、ビッチ系のキャラ自体は俺の好物だったりする。だから愛に関しても、貞操観念がない少女だからという理由で突っ撥ねている訳じゃない。ただ単に俺をホテルに誘った理由が分からないから、下手に手出しをしたくないだけだ。本当にコミュニケーションを取ることが目的だったとしたら、まあ一緒に寝てやらなくもないが、まだ愛の真意は分からない。

 

 すると、愛は俺の肩に寄り掛かってきた。さっきまでは肩が触れるかどうか分からない距離で座っていたが、ホテルでこんな座り方をしているなんてもはや恋人同然だ。援交少女のような積極さとテンションが消え、一瞬で物静かな態度になった。

 もしかして、さっき気持ち悪くて寄り付かないって言葉が想像以上に効いちゃったとか? でも俺は事実を言ったまでだし、今更弁解しようとは思わない。しかしそれで愛を傷付けちゃったりでもしたら、それは反省しないといけないな。

 

 

「私は本気。このカラダも絶対に零さん以外に触らせないって、あの出来事以来ずっと決めてたから。零さんが記憶喪失になってもいつかまた戻ってくると信じて、戻ってきたらこの身を全てあなたに捧げるって誓ってたの」

「そこまで考えてたのか、10年以上の間」

「好きだからだよ、あなたのことが」

「たったそれだけの理由で?」

「その理由こそが私、いや私たちの生きる渇望だったから。私たちを救ってくれた零さんに恩返しをして、そして自分たちの気持ちを伝える。それこそが私たちの生きる道。それ以外の道はないの」

「もしかして、俺がお前たちの人生を縛っていたのか?」

「いいや、そんなことないよ。私たちがやりたいからやってるだけ。恋は盲目なんてよく言われるけど、今の私たちがまさにそんな感じだね。でも、嫌じゃない。私たちはね、零さんに全てを捧げられることに何よりの喜びを感じているんだから」

 

 

 相変わらずの重い愛。だがそれだけコイツらの想いは真っ直ぐで、己の気持ちがブレることもない。μ'sやAqoursのように恋愛絡みで悩むこともなく、ただひたすらに俺に自分の気持ちをどう伝えるかだけを意識して生きている。最初に歩夢と出会ってからというもの、これまで何人かの虹ヶ咲のメンバーに出会ってきたがみんな同じ意志を抱いていた。だから俺や他人から何を言われてもその意志が揺らぐことはなく、それぞれが思い思いの方法で俺に"好き"を伝える。

 

 そして、愛の場合はその方法が"カラダ"なのだろうか……? 愛情表現は人それぞれだが、彼女もようやく俺に出会えて躍起になっているのかもしれない。そりゃ待ち焦がれた人に10年越しに出会えたんだ、もう離さないようにその場で交わりたい気持ちは分からなくもない。つまり、彼女は援助交際感覚で俺に近づいてきた訳じゃないってことだ。まあそんなことは最初から分かっていたことだけど、彼女の最初のノリを見ると疑っちゃうのは無理もないだろう。

 

 

「ゴメン。いきなりこんなところに誘って、迷惑だったよね?」

「どうしたいきなりしおらしくなって。言葉は悪いが、さっきまではヤリマンと言われても文句言えねぇくらいのテンションだったのに」

「あはっ、そっちの方が零さんも同情して襲ってくれるかなぁってね!」

「お前なぁ……。少しでも心配した俺がバカだったよ」

「ゴメンゴメン! でもちゃんと私のことを心配してくれるなんて、とっても嬉しいよ。そこまで私のことを気遣ってくれているなんて思ってなかったらさ」

「心配するさ。記憶を失う前の俺がお前たちを大切に思っていたのなら、俺もお前たちを守ってやりたいんだよ。だから安易に穢すようなことはしたくない。ま、誘われて少し期待しちゃったのは事実だけどな」

「そこも正直に話すんだ」

「お前が自分の気持ちを包み隠さず伝えてくれてるのに、俺だけ隠すのは不平等だから」

「プッ、なにそれ」

「お、お前! 人がカッコよくキメてる時に笑うなよ!」

 

 

 俺のこの言葉を機に、愛は大笑い。割と真面目なことを言ったつもりだったが、ちょっとクサかったかな?

 でも、彼女の笑顔を見られたのならそれでもいいと思ってる。自己犠牲のつもりはないけど、俺のらしくない言葉で女の子が笑ってくれるならいくらでも恥くらいかいてやる。

 

 そして、いくら愛がビッチ思考を持っていたとしても、俺はその気持ちに応えてやりたいと思う。彼女が"カラダ"の関係を望んでいるのなら、その思いの伝え方に便乗する。昔の俺がどれだけ歩夢たちのことを愛していたのかは記憶がないので測れないが、ここまで俺に思慕を抱いてるんだから、昔の自分も相当彼女たちに入れ込んでいたに違いない。だったら彼女たちだけでなく、昔の俺の気持ちにも応えてやらないとな。

 

 

「よしっ、それじゃ一緒に寝よっか?」

「おい、せっかくいい雰囲気で終われそうだったのに余計なことを……」

「でもさ、過去の事情とか抜きにしてもヤりたくない? お互いに愛し合う者同士なら必然の欲求だと思うけどなぁ~」

「やっぱりさ、お前の倫理観おかしくね……? 歩夢たちが正常に見えるよ」

「はぁ? それはないない! だって歩夢なんてこの前――――」

「あーーーーっ!! それ以上は喋るな。俺の中でアイツらの印象が崩れちまうから……」

「なるほど、妄想の中では清純なままのあの子たちでいて欲しいってことね」

「もうそのセリフだけで大体お察しなんだけど……」

 

 

 抱いている愛は重いがフレッシュなのが虹ヶ咲の魅力の1つだ。だからこそ俺はアイツらの印象が変わらないように愛の言葉を遮ったのだが、具体的な話を聞かなくても歩夢たちが裏の顔を持っていると察してしまった。ただでさえ最近はAqoursの爽やかな印象が崩れつつあるのに、ここでまた別のスクールアイドルのイメージが崩壊してしまうのか……。どうして俺と絡むスクールアイドルは思考回路がめちゃくちゃになっちゃうんだろうな?

 

 

「歩夢たちのことを秘密にしておく代償として、今日は愛さんと一緒に寝ること!」

「おい、まだ昼だぞ!? どれだけここに居座るつもりだ?? つうか早く服着ろよ!」

「どうせこれから脱がすんだし、着る必要ないでしょ? ほら行くよ!」

「ちょっ、おいっ!?」

 

 

 愛に押し倒され、この後めちゃくちゃセック――――――は、流石に踏みとどまった。

 だが彼女の発する魅力と色気は、俺の理性を崩壊させるのには十分だ。もし付き合い始めたら肉欲だらけの恋人同士になりそうだな……。

 

 




 愛を含め、ことりやにこなどビッチ系キャラは作中でかなりヒドイ扱いを受けていますが、零君と同様に私はビッチ系キャラは好きな部類です。特に妹+ビッチ系が好きなので、それを実現するために生まれたキャラが楓だったりします(笑)


 今回の流れという訳でもないのですが、次回は楓ちゃんメイン回です!





まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ママになった妹と赤ちゃんになった兄

 ブラコン回、もとい楓回です!
 今回は楓が主人公なので全編通して彼女視点なのですが、彼女が主人公になると毎回「お兄ちゃん」の単語がゲシュタルト崩壊しそうに……()

 お暇があれば、「お兄ちゃん」の単語がいくつ出てくるか数えてみてください!


 

 私の1日はお兄ちゃんを起こしに行くことから始まる。朝ごはんの仕込みをしているインターバルを利用して、お兄ちゃんの部屋へ行く。カーテンを開けてあげたり布団を捲ってあげたり、服を取ってあげたりと、お世話をしている間に朝ごはんの仕込みが完了するってわけ。そして、お兄ちゃんがリビングに来た時にはテーブルに私の作った朝食が並べられている。こうすることでお兄ちゃんが何1つ不自由なく1日を迎えられる、我ながら素晴らしい作業工程だよ。

 

 だけど、今日はいつものルーチンワークでは作業を終えることはできないみたい。

 何故かって? どうしてだかしらないけど、ベッドにお兄ちゃんがいない。いや、いるんだろうけど掛け布団がもっこりしていて中で蹲ってるみたいだ。お兄ちゃんの寝相を無限に見たことがある私なら分かる、お兄ちゃんがここまで体勢を崩すはおかしいと。

 

 ま、まさか、体調が優れないとか?? もしそうだったら早く看病してあげないと!

 

 そう思った私は、急いでベッドに近づいて勢いよく布団を捲る。

 

 

「えっ……? お、お兄ちゃん??」

 

 

 そこに、お兄ちゃんはいなかった。

 その代わり小さな男の子――――と言うよりも、もはや赤ちゃんと言っていいほどの玉のような子供がベッドで眠っている。幼い頃のお兄ちゃんの写真を擦り減るほど見返している私なら分かる、この子はお兄ちゃんだと。

 

 そして、お兄ちゃんが突然幼児化する理由も何となくだけど察した。まあ原因はお姉ちゃん以外に考えられないよね。なんか数年前も子供にさせられて雪穂と亜里沙に迷惑を掛けたらしいけど、もうお兄ちゃんに同情しちゃうよ。赤ちゃんになったり女の子になったり、挙句の果てに無機物のスポンジになったりと散々だね。

 

 

「ふぇ……? マ、ママ……?」

「な゛っ!?」

 

 

 ちょっと待って、あまりの可愛さにノックアウトしかけたんだけど!? 赤ちゃんとは言えお兄ちゃんに『ママ』なんて言われると、私の母性本能が一気に脳内と身体中を支配する。全身がゾクゾクし、もうお兄ちゃんを愛でたい気持ちでいっぱいだ。ご主人様体質であるお兄ちゃんに仕えるのもいいけど、だからこそこうして幼くなったお兄ちゃんを思いっきり可愛がってあげたくなるのかもしれない。

 

 私は居ても立っても居られなくなり、食いつくように赤ちゃんとなったお兄ちゃんを抱っこしてしまった。

 

 

「おはよ~お兄ちゃん! 1人で起きられていい子でちゅね~♪」

「マ、ママぁ~苦しぃ~!」

「ゴ、ゴメンね! お兄ちゃんがあまりにも可愛かったからつい!」

 

 

 当たり前だけど、私とお兄ちゃんは体格が違うからこうしてお兄ちゃんの全身をぎゅっとすることなんて普通はできない。

 だけど今、その夢が叶った。一度でいいからお兄ちゃんを私の全身を使って包み込んでみたかったんだけど、まさかこんな形で夢を叶えることができるなんてね。いつもはお姉ちゃんの実験に苦言を漏らしてるけど、今回だけは感謝してあげてもいいかな。

 

 大体予想はしていたが、お兄ちゃんは暖かい。赤ちゃんは誰でもそうだと思うけど、大好きなお兄ちゃんを抱きしめているという高揚感も相まっているんだと思う。もうこうしてだっこしているだけでも1日を潰せそうだよ。

 

 そういえば、見た目は赤ちゃんなのに会話はまともにできるんだね。ちゃんと意思疎通できるのは、育児をしたことがない私にとっては助かる。それにちょっと舌足らずなところも可愛いし、もうね、さっきから興奮しまくって鼻血が出ちゃいそう……。

 

 

「ママ、お腹すいた……」

「あっ、それなら朝食の準備が……って、赤ちゃんは食べられないか」

 

 

 私に抱っこされているお兄ちゃんは、未だ眠そうな声で空腹をアピールする。さっきも言った通り朝食の準備なら万端なんだけど、ガッツリと洋食だから赤ちゃんには食べさせられない。となると、やっぱり離乳食とかになるのかな? いかに家事万能の私でも子育ての経験はないので、お兄ちゃんくらいの大きさの赤ちゃんに何を食べさせていいのか分からない。そもそも離乳食どころかミルクじゃないとダメかもしれないし……。お母さんに電話して聞いてみよっかな?

 

 すると、お兄ちゃんは小さな手で私の胸をぺちぺちと叩き始めた。

 赤ちゃんの力なので刺激は微々たるものだけど、お兄ちゃんが私の胸を弄っているというシチュエーションに並々ならぬ欲求が込み上げてくる。

 

 

「おっぱい」

「お、おっぱい!? でも流石に出ないしなぁ……」

「お腹すいた……うっ、うぅ……」

「よしよし泣かないで! えぇっと、どうすればいいんだろ? お兄ちゃんへの愛でおっぱいを絞り出……せたら苦労しないよねぇ」

 

 

 お兄ちゃんは空腹で今にも泣きだしそうだ。お兄ちゃんの願いはできるだけ叶えてあげるのが妹の務めだけど、どう頑張ってもおっぱいだけは出ない。こうなるなら事前にお兄ちゃんとエッチをして母乳が出る身体になることもできたけど、そんなことを考えても後の祭りだ。家には猫がいるので猫用のご飯はあるものの、流石に赤ちゃん用のご飯は置いてない。買いに行こうにも泣き出しそうなお兄ちゃんを1人きりにする訳にもいかないし、どうすればいいんだろう……。

 

 その時だった。インターホンの音が家に響き渡る。こんな大変な時に誰だと思いながらスマホで玄関モニターを見てみると、どうやら宅配便のようだ。でも私は何も頼んでないし、お兄ちゃんもそこまでネットショッピングをする方ではないので、得体の知れない荷物が届いたってことになる。

 

 とりあえず居留守するのも悪いので、お兄ちゃんを抱きかかえたまま宅配便だけ受け取ろう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「こ、これは……」

 

 

 得体の知れない宅配便を受け取った後、私はお兄ちゃんと一緒にリビングへ移動した。そしてテーブルの上には小さな段ボール箱が置いてある訳だけど、差出人を見た時点でこの箱を早急に捨てたくなってきたよ。

 それもそのはず、差出人はお姉ちゃんだったから。しかも箱の側面にメッセージカードを堂々と貼り付けているお茶目っぷり。20代半ばのおばさんが、いつまでも第二次成長期の女児気分とは逆に恐れ入るよ。いや、もうぶっちゃけ言っちゃうとキツイよ? まあ本人の前で言ったら何をされるか分からないから絶対に言えないけどね。

 

 ちなみに、メッセージカードにはこう書かれていた。

 

 

『楓ちゃん用 零君に食べさせるものがない緊急時に使ってね♪』

 

 

 お兄ちゃんを赤ちゃんにしたのはお姉ちゃんだと立証された瞬間だった。いや分かってはいたんだけど、これで全ての原因がお姉ちゃんだと明らかになる。

 本当に、いつまで経ってもお姉ちゃんの玩具遊び癖は治らないんだから……。

 

 箱の中を見てみると、そこには錠剤の入ったビンと説明書が同封されていた。もはやこの光景だけ見ると麻薬の売買現場にしか見えないけど、お姉ちゃんの作る薬なんてほぼ麻薬みたいなものだから、あながち間違いでもない。それに姉ちゃんの薬は裏社会でも流通しており、それで荒稼ぎしているらしいのでもはやそこらの麻薬よりも危険な代物かもね。

 

 目の前に危険物に現を抜かしていると、お兄ちゃんが涙目でこちらを見ていることに気が付く。またしてもその愛くるしさに撃沈しそうだったけど、お兄ちゃんに満足感を与えるためにもここで気絶する訳にはいかない。

 空腹で限界のお兄ちゃんは今にも大声で泣き出しそうだ。背水の陣となった私はもうお姉ちゃんの宅配物に頼るしかなく、覚悟を決めて説明書を読んでみた。

 

 

『母乳促進薬。1回1錠の服用。女性がこれを飲むと身体にあんなことやこんなことが起きて、なんと母乳が出るようになります。しかも女性の年齢は問わず、女子小学生に飲ませても母乳を出させることができます。しかも即効性があり、服用したその瞬間から母乳が出せます。ただし、身体がとても敏感になるので注意が必要です』

 

 

 すっごくアバウトな説明だけど、大体言いたいことは分かった。なるほど、私たちがこの状況になることを想定してこれを送り付けたってことね。

 

 ツッコミどころは色々あるが、まず身体にあんなことやこんなことが起きてって、一体何が起こるんだろう……? 医療のことはサッパリなので母乳が出るメカニズムを説明されても理解できないと思うけど、だからと言って説明をアバウトにしていい理由にはならない。そのせいでものすごぉ~く不安なんですけど……。

 それに女子小学生でも有効ってどういうこと……? 最近は児童ポルノがとても問題になっているのに、その流れに逆らってこんな薬を作るとは度胸の塊としか言いようがない。お姉ちゃんのせいでアダルトビデオに新たなジャンルが追加されそう。見たくないよ私、アダルトビデオのタグに『女子小学生』『母乳』のタグが横並びしているところなんて。

 

 そんな感じで服用するのがとても躊躇われるけど、お兄ちゃんを満足させるためには私が犠牲になるしかない。お兄ちゃんのためなら私はどうなろうが知ったこっちゃないので、覚悟自体は元からできている。唯一引っかかっているのが、お姉ちゃんの手のひらの上で踊らされていること。それさけなければ怪しい薬でも何でも飲めたのに……。

 

 躊躇っていても仕方がないので、私はビンの蓋を開けて手のひらに錠剤を1錠取る。

 その後、迷いで躊躇う前に勢いで錠剤を服用した。

 

 

「うっ……! あ、熱いっ!!」

「だ、大丈夫……?」

「心配しないで。お兄ちゃんために私、頑張るからね……」

 

 

 説明書の記述通り、こりゃ本当に即効性があるよ。錠剤を口に含んだ瞬間から私の全身が燃え上がるように熱くなり、特に胸に刺激が走る。刺激と言っても痛覚ではなく、まるでお兄ちゃんに胸を弄られている時のような気持ちいい快楽だ。傍から見たら発情しているようにしか見えなく、しかもお兄ちゃんに心配されながら自分がどんどん快楽に溺れていく様は客観的に見ても滑稽だった。

 

 胸が生きているかの如く激しく鼓動する。何が起こっているのかさっぱりだけど、少し重みを感じるのでどうやら母乳が増産されているようだ。まだ二十歳にもなってないのに自分が熟した女性の身体に変貌していくのが手に取るように分かる。止まぬ吐息、身体に帯びる熱、胸の疼き、迸る快楽、もう媚薬を撃ち込まれたのと変わらないよこれ……。

 

 

「はぁ……はぁ……」

「ママ……」

「お兄ちゃん……もうすぐ、もうすぐでお乳が出るからね、はぁ、はぁ……」

「ママを見てると、落ち着かなくなるの。どうしちゃったんだろう……」

「そ、それって……」

 

 

 お兄ちゃんの顔をよく見てみると、いつの間にか頬を赤くしていた。しかもさっきまでは赤ちゃんらしい穢れのない綺麗な瞳をしていたのに、今は飢えた獣のような、言うなればそう、すぐにでも目の前の獲物に飛び掛かるような雄の眼光をしている。その目付きは女性を屈服させ、この人に従わないといけないと忠誠を誓ってしまうほどだ。見た目は赤ちゃん同然なのに、眼だけは完全に元のお兄ちゃんに戻っていた。落ち着かないと言っているのも、恐らく私の発情した姿を見て雄の本能が抑えきれなくなっているからだと思う。いくら思考回路や身体を幼児化させても、お兄ちゃんの潜在能力までは変化しなかったようだ。

 

 そして、その本能はすぐさま発揮される。

 お兄ちゃんは私のエプロンの肩紐を掴むと、どこからともなく力を発揮し、なんと勢いよく引きちぎった。

 更に驚く間もなく、今度は私のキャミソールの両方の肩紐を力強く握りしめる。そして、その肩紐を私の肩を経由し、腕に沿うような形で両方同時にズラした。そうなればもちろんキャミソールは脱げ、私の上半身が露わとなる。面倒という理由で下着を着けていなかったせいで、キャミソールが脱げた瞬間に私の胸が大っぴらとなった。キャミソールが脱げたのと同時に、ぷるん、とお兄ちゃんの眼前でおっぱいが曝け出されたのだ。

 

 私は目の前の状況に唖然とするも、流石はお兄ちゃんと感心する自分もいた。

 

 

「おっぱいの匂いがする」

「お兄ちゃんに見られちゃった……。見られるだけでゾクゾクするこの感覚、なんだか久しぶりかも」

「おっぱい、ちょうだい?」

「もちろんいいよ。これはお兄ちゃんだけのものだから、好きなだけ――――ひゃっ!? お、お兄ちゃん早いよぉ……んっ!」

 

 

 私の告白は、お兄ちゃんが胸に吸い付いてきたことで遮られる。そして私の声はあっという間に嬌声に変わった。

 お兄ちゃんに胸を吸われているというこの事実だけでも興奮するのに、赤ちゃんとなったお兄ちゃんを抱っこしながらというのが私の欲情を更に引き立てる。同時に赤ちゃんを愛しく思う気持ちまで掻き立てられるので、今の私は性欲と母性を両方感じていた。

 

 薬を飲んで身体が敏感になっている影響で、お兄ちゃんに胸を軽く吸い付かれるだけでも刺激を感じてしまう。お兄ちゃんをネタにして一人情事に耽った経験は多々あるけど、実際にお兄ちゃんに身体を弄られるとあまりの気持ち良さに思わず声が漏れ出す。いくら性的な刺激に慣れているつもりでも、やっぱりお兄ちゃんにやってもらうのが一番いい。

 

 これでも一応今はママ役なのに、もはや赤ちゃんに主導権を握られるから無様だなぁ私……♪

 

 

「ん、はぁ……」

「んっ、いいよお兄ちゃん、もっと強く吸って……!!」

「ん、んんっ……!!」

 

 

 お兄ちゃんが強く吸えば吸うほど卑しい唾液音が部屋中に響く。そして、ミルクが私の胸からお兄ちゃんの口の注ぎ込まれているのが感覚的に分かる。お兄ちゃんは小さな喉でコクコクと音を立てながら、私の身体から流れ出した母乳を摂取している。自分の中で分泌された体液をお兄ちゃんが飲んでるなんて、これ以上の興奮を感じたことがない。もうお兄ちゃんに身も心も支配されている私だけど、今だけは私がお兄ちゃんを支配している感覚だ。でも強く吸われるたびに胸に刺激が走って喘いじゃうから、結局お兄ちゃんにはひれ伏しちゃうんだけどね。

 

 

「はぁ、ん……」

「そんなに焦らなくても、たくさんおっぱい出るから大丈夫だよ? んっ、だ、だから急がなくてもいいって……あっ、そこはっ!」

 

 

 お兄ちゃんはもう私の胸に夢中となっていて、両手で胸を鷲掴みにして乳首を吸い始めた。そんなに慌てなくても私のおっぱいは逃げないのに、必死になっているお兄ちゃんを見たら微笑ましくなっちゃうね。吸われれば吸われるほど身体に電流が走ったような感覚に苛まれるけど、お兄ちゃんが満足してくれればそれでいいかな。赤ちゃんにイかされそうになるなんて、おねショタの同人でも中々ない展開だよ。

 

 

「ママ、顔赤いけど大丈夫?」

「大丈夫だから、お兄ちゃんはお腹いっぱいになるまでいくらでもおっぱいを吸っていいんだよ? もしかして、もう母乳出なくなっちゃった?」

「うぅん、ママが苦しそうだからやめたの」

「お兄ちゃん……お兄ちゃん!!」

「うぐっ!?」

 

 

 お兄ちゃんはやっぱりお兄ちゃんだった。赤ちゃんになってもなお私のことを心配してくれるなんて、やっぱり優しい性格はどんな姿になっても変わらないんだね。そう思ったら嬉しくなっちゃって、思わずお兄ちゃんをおっぱいで挟み込むように抱きしめちゃった。そのせいでお兄ちゃんはおっぱいで圧死しそうだけど、三度の飯よりおっぱいが好きなお兄ちゃんのことだから本望なんじゃないかな。さっきまでこのおっぱいで母乳を摂取してお腹を満たし、お腹いっぱいになったらおっぱいに包まれて眠る。女の私からしても、すっごくいい身分だと思うよ。

 

 そして、いつの間にか身体の発情具合もかなり収まっていた。即効性がある母乳促進薬だけど、効果が切れるのもかなり早いみたい。それともお兄ちゃんが私の母乳を全部吸い尽くしてくれたおかげで、身体の疼きが消えたのかもしれない。この薬、本当に赤ちゃんプレイ用くらいにしか役に立たないね……。

 

 

 そうだ、お兄ちゃんが元の姿に戻る前にやっておきたいことがあったんだ。

 お姉ちゃんの作った薬は即効性はあるけど効果が切れるのは早いのが常なので、お兄ちゃんの姿も間もなく元に戻るはず。だからその前に私にはやるべきことがあった。お兄ちゃんが私の赤ちゃんになってくれるなんてこの先ないと思うから、今この立場を悪用……いや活用したいんだよ。いくら変態なお兄ちゃんでも流石に赤ちゃんプレイをしたいとまでは思わないだろうからね。

 

 私はそっとスマホを取り出すと、お兄ちゃんを抱っこする片手間で録音アプリを起動する。

 これで準備はできた。あとは――――――

 

 

「お兄ちゃん、私はだぁれ?」

「ん? ママ……でしょ?」

「そうだね! じゃあママのこと好き?」

「うんっ、ママのことだぁ~い好き!」

「うっ!?」

「ママ?」

「ゴメンね。あまりの衝撃に思わず昇天しそうになったよ……」

 

 

 ダメだ、このままだとお兄ちゃんが元に戻ったとしてもしばらくの間は赤ちゃん扱いしちゃいそう。だって赤ちゃんのお兄ちゃんが可愛いだもん、仕方ないじゃん!

 

 もちろんいつものお兄ちゃんが一番いいのは間違いないけど、今日1日くらいはこのままでいてくれないかな? お兄ちゃんが赤ちゃんだからこそ私が何もかもお世話をしてあげなきゃならない。そこまでお兄ちゃんに尽くすことができるなんて、私の人生を思う存分お兄ちゃんに捧げることができて大満足だよ。私はこのためにお兄ちゃんの妹として生まれてきたんだと実感する。お兄ちゃんに尽くすことこそ私の生きる意味だから、全身全霊をかけてお兄ちゃんに奉仕しているこの瞬間が堪らなく幸せだ。

 

 

「ふわぁ~。眠くなってきちゃった……」

「お腹いっぱいになったからかな? それとも薬の効果が解ける影響? まあどっちでもいいか。とりあえずお兄ちゃん、ママのおっぱいどうだった?」

「ママのおっぱい? とっても美味しかったよ!」

「ありがと~お兄ちゃん! 私も気持ちよくなれたから、今度は私がいっぱい気持ちよくしてあげるね!」

「気持ちよく……?」

「うん。お兄ちゃんも私で気持ちよくなりたいでしょ?」

「ママで気持ちよくなりたい!!」

「よく言えました~♪」

 

 

 よしっ、言質を獲得できた! この録音をお兄ちゃんに聞かせれば、無駄に律儀なお兄ちゃんのことだから私とエッチせざるを得ないはず。この状況ももちろん楽しむけど、この後も()()楽しめるように策を弄す。やっぱりお兄ちゃんの妹、私って天才?? 私で気持ちよくなりたいなんて、相変わらずお兄ちゃんはシスコンなんだから!

 

 録音を確認しながらお兄ちゃんの頭を撫でていたら、いつの間にかお兄ちゃんは夢の中だった。眠ってる姿も可愛いから、今の間にたくさん写真を撮っておこう。そして、いずれお兄ちゃんを脅す……じゃなかった、何かお願いする時の武器として使わせてもらうよ。って、言い直したのにあまりニュアンス変わってないや。

 

 

 

 

 さて、結局今日はお兄ちゃんに屈服させられちゃったけど、元に戻った後はどうなるか楽しみにしておいてね。写真に録音音声、準備は万端だよ……フフッ♪

 




 自分で作ったオリキャラですが、我ながら可愛い妹キャラができたなぁと自負しています。穂乃果たちももちろん魅力的ですが、楓もまるで原作にいるキャラのように周りに馴染んでいるので、もう彼女抜きではこの小説は語れないかもしれませんね(笑)
読者さんの中でも「シスターズがいてこそのμ's」と言ってくださる方も多いので、『新日常』という小説が皆さんの中で強く印象に残って嬉しく思います!



 次回、零君が遂に逮捕!?




新たに☆10評価をくださった

暁メンバー推しさん、 星空 蓮さん

ありがとうございます!

まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

懲役100年の判決! 執行猶予なし!

 やっと零君が逮捕されます()
 そして、今回はメタ発言が多く盛り込まれた回となっていますので、いつもとは雰囲気がちょっと違うかも。その辺りを注意してご覧ください。


 

「おい雪穂、これはどういうつもりだ……」

「ゴメンなさい。勢いに乗ったお姉ちゃんは私でも止められないから……」

「こらこら、罪人が勝手に喋っちゃダメだよ!」

「誰が罪人だ誰が!!」

 

 

 今日は久々に穂乃果の部屋にお邪魔している訳だが、来るなり早速厄介事に巻き込まれてしまった。用件も言わずいきなり家に来いと命令した挙句、いざ来てみたら唐突に罪人扱いだ。警察でももっと段階を踏んで犯人を追い詰めるのに、これじゃただの言いがかりじゃねぇかコイツ。

 

 穂乃果の格好は、何故か刑事モノのドラマでよく主役の刑事が着用しているコートを着ている。しかも徹底的に刑事役になりきっているようで、コートのポケットに手を突っ込んだり、俺の発言を逐一メモをするなど、役作りは万全だった。それでいて、穂乃果のくせにやけにふんぞり返っているのが腹立つ。確かにそれっぽい服装なので刑事としての風格は出ているものの、元々彼女は幼顔なのでイマイチ雰囲気は欠けている。それはコートが少しぶかぶかなところを見ても明らかであり、恐らく男性モノを着用しているせいでサイズが一回り大きいのだろう。

 

 ったく、これから一体何が始まるってんだ……。

 

 

「お姉ちゃん、昨日からずっと刑事モノのドラマを見ていて、それで影響されたんだと思います。わざわざことりちゃんに連絡して、刑事のコスプレ衣装を借りたみたいですし」

「どうしてことりが刑事のコスプレを持っているかは謎だが、穂乃果の思い付きにも困ったもんだなお互い」

「ですねぇ。お姉ちゃん来年から社会人なのに、こんなのでいいのかなぁ……」

「こんなのってなに!? これでも穂むらの跡取りとして穂乃果は……って、いけないいけない、今は刑事さんだった。オホン、それでは今から裁判を始めます」

 

 

 もう早速キャラがブレブレじゃねぇか……。しかも裁判って、刑事が行うもんじゃねぇだろ分かってんのかコイツ? まあここでいくら反論したところで穂乃果が茶番を止めるとは思えないので、仕方ないけど適当に付き合うしかないか。

 

 

「で? 今日は何の目的で俺を引っ張り出したんだ?」

「穂乃果たちが何気なく生きている周りで、見逃されてきた犯罪はいくつあると思う?」

「前書きはいいから早く始めろ」

「そお? 言っちゃうと、今回は零君の罪を赤裸々にする回だよ!」

「は? 俺の罪? 俺ほど身も心もハートフルな人間はいねぇぞ」

「「いや、それはない」」

「雪穂まで……」

 

 

 さっきまで味方だった雪穂だが、いつの間にか座っている場所が穂乃果の隣に移動していた。確かにハートフルは言い過ぎたかもしれないけど、逆に言えばそこまで罪の意識を感じたことがない。ちょっと魔が差して女の子に悪戯することはあれど、それはお付き合いしている仲だからこそのスキンシップだ。一応Aqoursにも手を出していないと言われるとそうではないが、あれも向こうからのお誘いが大半だから多少はね? 相手から誘惑してきたのに自分が逮捕されたら堪ったもんじゃねぇだろ。その相手が警察とグルかと疑っちまうわ。

 

 そんな訳で雪穂に離れられ多少アウェイになりながらも、俺の無罪の罪を暴く茶番が始まろうとしていた。思い返してみても、俺が逮捕されるような重大な犯罪を犯したことなんて―――――うん、ないな。ないと思わなければ穂乃果の茶番に踊らされてるみたいで癪だから、無理をしてでもないと信じ込まないと。

 

 

「この前ね、穂乃果は見てしまったんだよ」

「何を?」

「『ラブライブ!』の二次小説である『ラブライブ!~μ's&Aqoursとの新たなる日常~』をね」

「早い。メタ要素ぶっこむの早いって」

「その小説では穂乃果の知らない零君の一面も見られて、気付いたら徹夜して読んじゃったよ」

「メタ発言に加えてステマとか、もう救えねぇな……」

「でもね、読んでいて気づいちゃったんだ。零君が穂乃果たちに隠れて数々の犯罪を重ねていることに!!」

「だから何もしてねぇって。それにもしそんな重罪を犯していたら、小説のR指定ラインに抵触するから執筆できねぇだろうが」

「それに関しては助手の雪穂が調査してくれたよ」

「助手じゃないけどね……。調べたところによると、この小説にとってR指定ラインは飾りであって、そもそも何度かBANされているから既にR指定ラインなんて意味を成してないらしいです」

「それはそれで問題な気が……」

 

 

 メタ発言とステマに加えて自虐ネタとか、もはや何でもありだな今回。でもそこまでするってことは、そうでもしなきゃいけないくらい俺の罪は重いってことだろうか? 最初は穂乃果の茶番だから適当に流して帰ろうと思ってたけど、なんだか少し怖くなってきた。このあと重罪とされる自分の行動が晒されると思うと、恥ずかしさを感じる反面、ちょっと緊張してしまう。自分が大丈夫だと思ってたけど相手からしてみたら実は被害を被っていたなんて、それよくある空気が読めない奴の最低パターンじゃん……。

 

 

「よし、早速1つ目の犯罪を挙げてみるよ」

 

 

 

 

【202話:矢澤のJCとJSに痴女られる話(後編)】

----------------------------------------------------------------------------------

 

 

 しかし、先端を刺激してやったら彼女がどんな反応をするのか気になってはいる。小学生でも性的興奮を感じたりするのだろうか?俺が考え続けてきた疑問であり、その問は未来永劫解決しないものだと思っていた。だがここでまさかのチャンスが訪れている。元々2人を部屋に連れ込んだのは、勉強の手伝いをさせて満足してもらうためであり、決して邪な気持ちがあるわけではない。まぁ、ないとも言い切れないけど……。とにかく、据え膳食わぬは男の恥。目の前におっぱいがあるなら、それを美味しく頂くのが男ってもんだろ。

 

 

 プライド?地位?名誉?そんなものは、さっき捨てた。

 

 

 俺はここあの胸の先端を、唇の肉厚を使って軽く挟み込んでみた。

 

 

「んっ……す、すごぉぃ、さっき身体がビリビリって……」

 

 

----------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

「穂乃果!? お、お前これっ!?!?」

「なにこれ……? ここあちゃん、この時まだ小学生だよね……?」

「違う! 文章をここだけピックアップしたのが悪いんだ! ちゃんと前後の文脈を考えれば、俺の行動も納得してもらえるって!」

「女子小学生の乳首を吸った挙句、気持ちよくして喘ぎ声を上げさせたことに対して納得してもらえるってこと……?」

「い、いや、まぁ……って、雪穂? 流石に俺から離れ過ぎじゃない??」

「守備範囲が広いことは薄々感じてましたけど、まさか本当に小学生を襲っていたとは……」

「襲ってねぇよ向こうから来たんだ!!」

 

 

 穂乃果と雪穂の目線が俺を突き殺してくる。もう本格的に雪穂があっち側に寝取られたので、俺の味方をしてくれる人は誰もいなくなってしまった。だから穂乃果の挙げた文章に対して俺1人で対抗できるはずもなく、もはや成すすべなく彼女たちの罵倒に耐えるしかなくなっていた。この話が終わるまでにメンタル保てるかな……。

 

 それにしても、いきなりドギツいネタを放り込んできやがったな。確かにあの時の出来事は脳裏に浮かんではいたけど、こころとここあの性を目覚めさせたのはヤバいと思って俺も黒歴史として記憶の底に封印していた。だから2人から誰かに喋らなければ他の子たちのバレないと思っていたのだが、ここへ来てとうとう明るみに出てしまった。まぁ……うん、こうして罪として突き付けられるととんでもねぇことやってんな俺。

 

 

「零君がドSなのはもう周知の事実だから、穂乃果もそこを咎めるつもりはないよ。でも流石に小学生の胸を吸いながらしこしこするなんて……」

「おい、あらぬ要素を付け加えるな。あくまで吸っただけだ」

「冷静に言われると穂乃果も困るって言うか……。とにかく、これは紛うことなき犯罪だよ」

「私も、弁解の余地はないと思う」

「雪穂、お前ちょっと楽しんでない?」

「まあ、ね」

 

 

 口角を上げながら俺を追い込む雪穂は、なんだかいつも以上にイキイキしている。やっぱりコイツは穂乃果の妹、自分が楽しいと思うことに関しては大なり小なり熱中するのだろう。それが俺を弄んで愉悦を感じることなのが趣味悪いけど……。

 

 

「次行くよ! 零君の悪行はまだまだこんなものじゃないから」

「さっきのが序の口なのか……」

 

 

 

 

【202話:矢澤のJCとJSに痴女られる話(後編)】

----------------------------------------------------------------------------------

 

 

「あっ、お兄様のここ……」

「おにーちゃんの、膨らんでるね……」

 

 

 自覚してはいたが、とうとう2人にも気付かれてしまったか……。でも男の生理現象だから仕方のないことだ。いくら幼気な少女たちが相手だと言っても、これだけ淫猥な姿を見せられたら抑えるものも抑えられない。できることなら胸を弄る行為だけでお勉強を終了しようかと思っていたのだが、気付かれたのなら補習授業といきますかね。もう既に裸の少女に手を出しているんだ、あと少しくらいお勉強させてあげたって刑罰は変わらない。

 

 

「こころもここあも、ベッドから降りて俺の脚の間に入ってくれないか?」

「えっ、何をするんですか?」

「あの本にもあっただろ。女性が男性のアレをしゃぶるシーンがな」

「おにーちゃん、私たちにしゃぶってもらいたいの?」

「あぁ、こうなったのはお前たちのせいなんだ。だから2人が責任を取ってくれないと……」

「お兄様……分かりました!お兄様のためならどんなことでも!」

「さっきたくさん気持ちよくしてくれたから、次は私たちがおにーちゃんを気持ちよくしてあげるね♪」

 

 

 もうどうにでもなれ。

 俺はここで無心になった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

「小学生と中学生に自分のモノを舐めさせる快感はどうだった? 気持ちよかった? 支配欲は満たされた??」

「質問攻めで煽るのはやめろ! ちゃんと答えてやるから!」

 

 

 またしてもこころとここあとの出来事であり、しかもよりによって俺が人生の中で一番思い出したくない所業を暴露されてしまった。起こったことは事実なので否定はできないが、これを穂乃果と雪穂に知られてしまったことが何より恥ずかしい。2人のことなので誰かにネタを広げることはしないと思うが、それ以前にコイツらが俺に対抗する武器を得たことがマズいんだよ。俺、もうコイツらに逆らえねぇじゃん……。

 

 そして穂乃果は俺を攻める気満々なので、ここは質問に対して素直に答えるしかない。でも答えたところでまた俺の弱みをコイツに握られてしまうので、どう転んでもこちらに勝ち目なかった。

 

 

「……よかったよ」

「ん? せっかく自白してくれてるのに、聞こえなかったら意味ないよ!」

「お前が無理矢理吐かせてんだろうが……。はぁ、気持ちよかったって言ってんだよ」

「ロリコン」

「雑に罵倒するのやめろ! その単語が一番心に来るから!」

「欲求不満なら穂乃果たちがいるのに、零君的には『小学生は最高だぜ』なんだね」

「愛があればいいとは思ってるけど、少なくとも俺は法に触れるような恋愛はしないから」

 

 

 なんか、この発言自体も相当ヤバい気がするんだが……。もしこころやここあが俺にLIKEではなくLOVEの想いを持っているならば、別に恋人前提のお付き合いをしてもいいと思っている。まあ付き合う云々の以前に、今回問題となっている中学生と小学生に自分のを舐めさせた件については弁解のしようもない。ロリっ子に奉仕してもらって気持ちよくなった、ただそれだけだ。

 

 

「にこちゃんが言ってたよ。ある日を境にこころちゃんとここあちゃんに色気が出始めたというか、エロくなったって。小中学生に色気が出始めるなんて不思議だよねぇ~」

「もしかしてお前、俺がアイツらに舐めさせる以上のことをしたとでも言いたいのか?」

「べっつに~。穂乃果そこまで言ってないも~ん」

「最後の一線を超えてないからまだ大丈夫なはずだ、まだな」

「罪を認めているのはいいことですけど、今度はその罪をいかに軽くすることに専念してます?」

「誰が見ても弁明しようのない事実に抗っても仕方ないしな……」

 

 

 ただし、1つだけ勘違いして欲しくないことがある。それは俺がロリコンではないってことだ。確かにこころもここあも俺の大切な子たちだけど、決してそれは小さい女の子が好きだからとか、そんな不純に塗れた理由ではない。俺に好意を持ってくれている女の子に対しては、年齢なんて関係なくみんな大事なんだ。それにぶっちゃけてしまうと、そりゃ男なんだから女の子に舐められたら気持ちよくなるに決まってるじゃん? しかもアイツらが小中学生と言えどもキッズアイドルに負けず劣らずの美少女なんだ。そんな子たちに2人同時にしゃぶられたら我慢できねぇって。

 

 

「もうこれだけでも、零君はこれからの人生すべてを刑務所で過ごすことになりそうだよ」

「そんなに重罪なのかよ……。俺の考えと世間の考えがズレてるのは分かるけどさぁ」

「穂乃果もう零君の犯罪歴を晒すのが怖くなってきたけど、この小説の戒めとして紹介するよ」

 

 

 

 

【230話:決意の侵入、千歌の秘密の花園】

----------------------------------------------------------------------------------

 

 

どうする……? どうする!? こんな卑しい心満開では確実に俺は獣と化して彼女を食ってしまうだろう。女の子のおしりに座薬を入れるなんて体験はこれまでしたことがないから、自分でもどれだけ欲求を抑えられるか分からない。

 

 なんとか落ち着こうとするも、目の前にはもう既に千歌の純白のおしりが9割9分顕現しているため、そのぷりぷりの肉厚さを見てるだけでも気持ちが高ぶってくる。今まであまりおしりの魅力を感じたことはなかったが、今日からおしりフェチになってしまいそうだ……。

 

 

 ずっとここで燻くすぶっていても仕方がない。ここは一気にショーツをずらして速攻で穴に座薬をいれ、早急にショーツとズボンを元に戻そう。そうしなければ一生ここでおしりを眺めながら悩み続けることになるから。

 

 

 そう決心した俺の行動は早かった。左手でショーツを掴み、右手の親指と人差し指で座薬を摘む。もう挿入体制は完璧だ。

 

 

 千歌の穴に突き刺す用意をして左手に力を込め、とうとうそのショーツを完全にずり下げた。

 

 

 そして俺は――――

 

 

 俺は――――

 

 

----------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

「これは別に許されてよくないか? だってお前らも知ってるだろ、俺とAqoursの関係を」

「穂乃果も教師と生徒の恋愛に今更文句を言ったりしないよ。でもね、教え子のおしりの穴をまじまじと見つめているこのシチュエーションこそ、小説のR指定ラインに触れてるんだよ!」

「ケツの穴くらい、この小説ならお前らも何度も晒してるから問題ねぇだろ」

「私は晒してないですよ!? 多分……」

「雪穂はともかく、穂乃果のおしりなんて見飽きてるくらいだから」

「なんだか穂乃果が露出狂みたいに言われて不満だけど、それはそれ、これはこれだよ。生徒のおしりの穴を舌舐めずりしながら見てるなんて、穂乃果のおしりを見るのと訳が違うからね!」

「だからあらぬ事実を勝手に付け加えんな! あの時は至って真面目に千歌を看病してたんだよ!」

 

 

 穂乃果の奴、しれっと虚構の事実を付加して俺の罪を重くしようとしてないか? まるで自分の点数を上げようとして言いがかりに近い職質を仕掛けてくる警察と、やってることが大して変わってない気がする。もし仮に俺が逮捕されたらこの小説から主人公がいなくなり、そのせいで小説が終わっちまったら自分の出番もなくなるんだぞ分かってんのかコイツ。

 

 

「それでどうだったの? 千歌ちゃんのおしりの感触」

「柔らかかったよ……って、これ言う必要あるか!?」

「零君も相当この状況を楽しんでるよね。私のことを言えないくらい」

「穂乃果の言いがかりに対抗してるだけだ。理不尽を押し付けられて喜ぶほどMじゃねぇから」

「自分の教え子のおしりに欲情し、その穴に座薬をずぷっと差し込んで、奥底に吸収されていく様子を見てニヤニヤする変態さんってことだよね」

「ニヤニヤは絶対にしてない。まあ意外と締りがいいとは思ったけど……あっ」

「「…………」」

 

 

 女の子のアナルの締りがいいとか、勢いに任せてとんでもないことを口走ってしまった。あまりの率直な意見に穂乃果も雪穂もジト目で俺を睨むばかりで、無言なのがそれまた怖い。今更訂正しても遅いのでこれ以上は抗わないが、この張り詰めた空気に耐え切れるほど俺の精神は屈強ではない。早く話題を変えないと。

 

 

「次だ! 次へ行け!」

「まさか自分から言うなんて、とても焦ってるんだね……。分かったけど、次は最後だから心しておいてね」

 

 

 

 

【230話:心と体】

----------------------------------------------------------------------------------

 

 

「ひゃぁっ!?」

 

 

 俺は唐突に曜の腕を掴むと、廊下から少し離れた死角となるスペースに彼女を連れ込んだ。階段の下で廊下の照明も届かない薄暗い場所。多少の音や声が漏れてもバレることはないだろう。

 

 

「今日は女の子たちの裸を見たり触れたりしたけど、下手な行動はしないようずっと我慢してたんだ。でもお前をここに連れてきた」

「先生が仰る意味は分かってます。だから……」

 

 

 そして曜は、浴衣を開け始めた。

 

 

 女子高校生と身体で繋がろうなんて、どれだけ大きな不祥事になるのかは理解している。でも曜との愛情を一番効率良く、強く感じられるのはこの方法だ。もうこれ以上彼女が寂しがらないように、人生で最も多感で瑞々しい一生に一度の思春期に、俺の所有物モノだってことを刻み込んでやる。

 

 

 それが俺が曜に向ける、一途な愛情ってやつだから。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

「はい逮捕」

「これはもう執行猶予もなしだね」

「お前らで勝手に決めつけんな。それにこれはお互いにちょっと興奮しただけだ」

「それが問題なんだよ! 文章では包み隠してあるけど、これやってるよね絶対!?」

「さぁ? ご想像にお任せする」

「零君もやり投げになってきたね……」

 

 

 この件に関しては、俺から言うことなど一切ない。この後どうなったのかは皆さんの想像にお任せしており、ぶっちゃけやったかやってないかについても独自の妄想で補って欲しい。だって、これこそR指定ラインに抵触するから安易にこの時の状況を口走れないんだ。

 

 

「曜ちゃんから血は出た? 中の具合はどうだった? 気持ちよかった?」

「…………」

「零君、断固黙秘だね。お姉ちゃんどうするの?」

「仕方ないから、零君の今までの所業をまとめて判決を下すよ」

 

 

 だから実際に判決を下すのは刑事じゃねぇってば。そのあたりイマイチ役になり切れていないが、ここまで刑事要素があったかと言われたらほぼ皆無だったので、彼女にとってはもはや自分のやりたいようにやってるだけだろう。何でもありだからと言って、いくら罪人であろうとも理不尽を押し付けるのは良くないと思うが……。むしろ罪人だからこそ適切な処罰を下して欲しいもんだ。

 

 

「判決は――――懲役100年! 以上!」

「ちょっ、牢の中で死んじゃうんですけど!?」

「ということで、今日から牢屋ね♪」

「おい、その手錠はなんだ??」

「おとなしくしてくれたら痛くしないから。牢屋、もとい穂乃果の部屋で一生飼ってあげるよ♪」

「お前どんな刑事ドラマ見てたんだよ!? これも何かに影響されたのか!?」

「そういやお姉ちゃん、ことりちゃんからコスプレを借りる時に変なゲームも借りてた気がする。あっ、これこれ」

 

 

 雪穂は床に落ちていたゲームの箱を拾い上げると、俺にそのパッケージを見せつけた。

 

 

『束縛警察24時~恋するあの人を追い詰めるまで~』

 

 

「こ、これは……」

「さぁ零君! 穂乃果も手伝ってあげるから、今日からちゃんと罪滅ぼししようね!」

「ふざけんぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 




 読者さんからしてみたらどうでもいい話題かもしれませんが、今回は過去の話から一部文章を引用したおかげで、とても執筆が楽でした(笑) 過去の文章で文字数がどんどん埋まって、零君たちの反応もその文章に対して行えばいいので執筆が進むこと進むこと!

 零君の犯罪は今回挙げたもの以外にもたくさんあると思うので、皆さんもこれは犯罪だと思う回があれば教えてください!


 次回、零君がお世話になった先生たちと会うの巻。




まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

恩師との酒宴

 今回はかなり特殊な回で、これまで零君がお世話になった先生たちが登場します。
 最近の話は騒がしい回が多かったので、今回は落ち着いた日常系……だと思います()


 

 8月某日の夜。俺は東京の某所にある飲み屋が立ち並ぶエリアを練り歩いていた。それほど広くない一本道の両脇に数々の飲み屋が軒を連ねており、お盆シーズンなこともあってかどこもかしこも賑わいを見せている。大人の社交場なので雰囲気は決して良いモノではないが、逆に全体的に浮ついているこの空気が日頃の疲れを癒してくれるのかもしれない。俺は特別日常に疲れているって訳じゃないけど、どことなく世間の堅苦しさとは外れたこのムードは結構好きだったりする。だからと言って酔っ払った勢いで女の子を襲うとか、そんな暴挙に出るつもりはないのであしからず。

 

 何故俺がここへ来ているのかと言うと、珍しい人からのお誘いがあったからだ。学生時代の頃や教師のタマゴになってからは色々お世話になってるけど、プライベートで付き合いがあるかと言われたら否である。だからこそ飲みの誘いが来たことに対して驚いたし、同時にプライベートで話す機会が来てワクワクした。今から会う人たちは学生の頃や仕事の関係でしか会ったことがないから、普段がどんな感じなのか気になってはいたんだ。その中の1人とは様々な確執があったりするのだが、今日は酒の勢いでその人のプライベートも赤裸々にしてやるか。

 

 そう意気込むと同時に目的の飲み屋に辿り着く。

 暖簾を潜り、戸を開けると、店員さんが元気よく出迎えてくれた。そして店の奥の席に待ち合わせしている人たちを見つけたので、その席へと近付く。既にテーブルにはビールジョッキが2本置いてあるところを見ると、俺が来る前から飲み始めていたようだ。

 

 

「いい大人のくせに、俺が来るのを待てなかったんですか……」

「あっ、神崎君。こんばんは」

「やっと来たか。遅いから既に飲み始めているぞ」

「ここら辺にはあまり来たことないから、迷っちゃってすみませんねぇ……」

 

 

 俺を暖かく出迎えてくれたのが山内 奈々子(やまうち ななこ)先生。俺が高校生の頃は音ノ木坂の教師であり、俺や穂乃果たちのクラスの副担任でもあった。今は浦の星女学院で千歌たちの担任をしており、俺の教育実習の指導役だった。つまり俺は人生で二度もお世話になっており、感謝しようにもしきれない存在だったりする。出会った時は新任教師であり、生徒と上手くやっていけるのか不安でビビりまくってたけど、まさかこんな頼りがいのある先生に成長するとはなぁ。もちろん俺の方が年下だけど、先生の成長は子供の成長を見てるみたいだよ。

 

 ちなみにのんびりとした性格と、生徒らと同年代にしか見えない童顔と小柄な体格は昔から変わってない。でも俺たち生徒からすれば、そっちの方がフレンドリーに接することができるから気楽だったりするけどね。

 

 

 そして、開口一番に辛辣な言葉で俺を出迎えたのが笹原 京子(ささはら きょうこ)先生だ。先生とは俺が高校1年~3年までの3年間、ずっとクラスの担任だった謎の腐れ縁がある。男勝りな性格であり、学院の秩序を乱す者は鉄拳制裁するほどの鬼教師。特に常日頃から騒がしい俺や穂乃果たちには非常に手を焼いていた。その性格上、俺を含め生徒たちからは恐怖の対象として見られているが、それが先生の愛であることは俺たちも分かっていて、品行方正な部分はみんなに尊敬されている。

 

 そんな先生なのだが、その容姿だけは抜群に良い。生徒である俺の目線から見ても先生は美人で、綺麗な長い黒髪にスタイル抜群。高校生の思春期男子からしてみれば、先生の外見は日々のオカズにしかならないと言ってもいいくらいだ。その反面、性格はさっき言った通り鬼教師なので、生徒にガチ恋されることはない。まあ生徒に恋される方が迷惑だと思わないのは俺だけかもしれないが、笹原先生の場合は相手を選んでる場合じゃない年齢だしなぁ……。

 

 

「お前、失礼なことを考えてないか……?」

「そ、そんなことないですよ! むしろ先生たちと一緒に飲める機会が来るなんて嬉しいなぁって」

「当たり前ですけど、私が音ノ木坂にいた頃は神崎君も高校生でしたからね。まさかこうして一緒に席を囲む日が来るなんて、私たちも年を取ったなぁと思いますよ」

「私に追い打ちを掛けるとは、言うようになったな奈々子。浦の星で神崎の毒にでも当てられたか?」

「ふぇっ!? そんなつもりはないですって!!」

 

 

 笹原先生が冗談混じりの言動をすることすらも珍しい。だからこそ学生時代からの付き合いで、笹原先生の友人である山内先生も驚いてしまったのだろう。咄嗟の言い訳でも可愛い反応するじゃねぇか先生。

 

 流石に女性の年齢を明かす訳にはいかないが、笹原先生もいい歳だ。そのせいか、結婚していないことにツッコミを入れられると普段以上の鉄拳制裁が待ち受けている。それが魔人と言われる先生の弱点でもあるのだが、その弱点を突くと病院送りにされるため誰もそこを攻め入ろうとはしない。今は幸いにも少し酔っているためか拳は飛んでこないものの、だからと言って下手に探りを入れると腹を抉り取られる可能性があるためここらで弄るのはやめておこう。一応、これでも自分の恩師だしな。

 

 

 とりあえず立ち話もアレなので、俺は山内先生の隣に座った。なぜ笹原先生の隣に行かなかったって? そりゃいつ拳が飛んでくるか分からない戦場に、わざわざ身を置く必要はないからだよ。しかも少し酔いが回っている先生の隣にいたら、いつ理不尽な鉄拳が下されるか分かったものじゃないし。俺の不幸検知センサーが、笹原先生の近くにいてはならないと電波を送ってくれたからかもしれない。

 

 

「それで奈々子、神崎の教育実習はどうだった? どうせ女子生徒に迷惑を掛けてばかりだったと思うが」

「どうして決めつけるんですか……。まあ俺と3年間一緒にいたから、性格は熟知しているとは思いますけど」

「そんな、迷惑だなんて。むしろ要領も良くて明るい人が来たって、先生や生徒たちの間では評判でしたよ?」

「評判? 私がコイツの担任だった頃を思い出すと考えられんな」

「残念でした先生。俺は浦の星の生徒みんなを惚れさせたと言っても過言じゃないですから、ま、女子高の生徒なんで男が物珍しかったってこともあるでしょうが、これも俺の実力です」

「相変わらず、高校時代から女への執着は見苦しいな」

「執着じゃねぇ! 愛だ!!」

「それが見苦しいと言ってるんだ」

「あ、あはは……」

 

 

 こうやって俺の主張をここまで軽くいなすことができるのは、全世界を探しても笹原先生くらいだろう。俺と3年間一緒にいたから対処法が分かっているってのもあるだろうが、実は笹原先生、あの秋葉にも手を焼いていた経験があるのだ。秋葉が音ノ木坂に通っていた頃、アイツのクラスの副担任だったのが先生だ。そのせいで神崎家の姉弟には特に厳しいようで、全くいい迷惑だよ。

 

 会話が賑わってきたところで、俺にもビールが届く。山内先生はいいにしても笹原先生と飲むなんて最初はビビってたけど、やはりこうして飲みの席を囲むと自然に緊張も解れてきた。よしっ、当初の予定通り、この勢いで先生の内部事情を赤裸々にしてやるか。

 

 

「神崎君の飲み物も来たことですし、乾杯しましょうか。それでは乾杯!」

「「乾杯」」

 

 

 なんだろう、この瞬間こそ大人になったって気がする。自分の成長を見つめなおすとどうしても年齢を気にしてしまいナーバスになるけど、こうしてお世話になった人と対等に接することができる瞬間に立ち会うと純粋に嬉しくなってくる。同級生の穂乃果たち、後輩ような千歌たちや歩夢たちとは違い、ここにいる2人はみんな人生の先輩だ。だからなのか、俺もいつも以上に畏まってしまう。以前に何故か俺の犯罪歴が暴露されて今は執行猶予中なので、酔った勢いで先生たちに変なことを言わないようにしないと。まあ畏まっていれば自ずとスキャンダル発言も抑えられるだろう、多分……。

 

 そういや、ビールなんて久々に飲んだな。この前の合宿では未成年の千歌たちもいた手前、大々的な宴会などは開かれなかった。普段から飲むタイプでもないので、酒を摂取するタイミングは飲み会くらいしかないんだ。そのせいか酒をガッツリ飲んだりして酔うことはできず、周りの酔っ払いの世話をするのが飲み会の常となっている。本当に、酔えないってこういうところが辛いんだよな。

 

 

「そういえば高坂さんたち、またスクールアイドルを始めたそうですね。今月末のスクールアイドルフェスティバルに参加するとかどうとか」

「はい。とは言っても、スクフェスに出るためだけの限定復活なんですけど」

「また高坂さんたちの輝いてる姿が見られるなんて、私楽しみです! 笹原先生はどうですか?」

「人生なんて好きなことをやってこそだから、アイツらがやりたいならいいんじゃないか」

「興味なさそうですね笹原先生……」

「そんなことないですよ。確かに笹原先生はぶっきらぼうで言葉にも棘がありますが、μ'sの皆さんにはとても感謝しているんですよ。ね?」

「それを他人に喋るなといつも言ってるだろ……」

「いいじゃないですか。神崎君しかいないんだし♪」

 

 

 いつもの山内先生はおっとりしていて口数もそれほど多くないのだが、今日はやたらテンションが高く饒舌だ。さっきから先生の様子を伺ってるけど、ずっと笑顔なのが少し不気味だし、それに頬がかなり赤いことから既に酔いが回っているのだろう。俺は遅刻してきたから2人がいつから飲み始めているかは知らないが、集合時間的にはまだ15分くらいのはず。つまり山内先生は酒2、3杯で酔っちまったって訳だ。弱すぎるというか、そんな少量で性格が変わるほど酔うなんて酒癖悪すぎじゃねぇか?

 

 それにしても、笹原先生がμ'sに感謝をねぇ? スクールアイドルなんて娯楽染みたことはあまり好きそうには見えないんだが、まさかそこまで興味を示してくれていたとは。高校時代の頃は俺たちのスクールアイドル活動にそこまで干渉せず、逆に咎めることもなかったので、先生がμ'sにどんな印象を抱いているのかは分からなかった。

 そして卒業から4年が経った今明かされる衝撃の事実。堅物なのは見た目や雰囲気だけでなく内面もだったってことか。

 

 

「笹原先生は音ノ木坂のOGなんですよ。だから、音ノ木坂を廃校から救ってくれたμ'sには感謝してるんですよね? でも性格がお察しの通りアレなもので、中々みんなに思いを伝えることはできな――――って、にゃ、にゃにふるんですかぁ~!!」

「余計なことを喋るなと言ったはずだ」

 

 

 笹原先生は右手で山内先生の頬を潰し、ひょっとこ顔にさせる。今まで親友にしか喋ってなかった恥ずかしい事実を教え子に暴露されてんだから、そりゃ笹原先生の気持ちに同情するわ。それよりも、サラッと毒を吐きながらニコニコしている山内先生の方が断然怖くなってきたぞ。勢いで隣に座っちゃったけど厄介絡みしてこねぇだろうな??

 

 

「ぷはっ、と、とりあえず、笹原先生は素直になれないだけで、本当はμ'sのことが大好きなんですよ!」

「つまりツンデレってことか」

「もう4年前の話だからどうでもいいことだ。それにμ's云々よりもお前たちの世話をする方が大変過ぎて、そっちの思い出の方が強く残ってるくらいだ」

「先生とは3年間ずっと一緒だったけど、先生にビビりながらの学生生活はスリリングしかなかったよ」

「それはお前が学校の風紀を乱すことばかりするからだろうが。もう少しまともな生活はできなかったのか」

「いや騒いでたのは穂乃果たちであって、俺はほぼ巻き込まれてただけですから」

「騒動の中心はいつもお前だっただろ? お前がしっかりしていれば高坂たちももっと落ち着いたはずだ」

「なんか理不尽……」

 

 

 騒動の中心ってのは認めざるを得ない事実だけど、それは根本原因ではない。しかし俺も穂乃果たちに便乗して騒がしくしていた一因でもあるから、一概に否定もできないのが何とももどかしいところだ。特にクラスのみんなは俺や穂乃果たちが何か問題を起こし、それで笹原先生に怒られるまでがテンプレパターンとして記憶しているくらいだからな。もうみんなは俺たちが何をしても『またか』とだけ思って見て見ぬふりをすることも多かった。それくらい俺たちの所業はクラス、いや音ノ木坂全体でも日常となっていたのだ。

 

 そして、その捻じ曲がった日常を軌道に戻そうとしていたのが笹原先生。まあ今となっては先生に制裁されるのもいい思い出だ。同じ教師となった立場上、この先もう先生に殴られることはないだろうから。かと言って思い出に一発殴られたいとか、そんなドM思考じゃねぇからな?

 

 

「笹原先生はこれでも神崎君のことをとても気にかけてくれているんですよ? それは今でも変わらずです」

「えっ、今でも? ここ数年間会ったことなかったのに」

「会ってなかったからこそ心配だったんじゃないですか? ね、笹原先生♪」

「奈々子、いい加減にしないと今度は腹を潰して、永久にトイレで吐き続ける人生を歩むことになるぞ……」

「またまたそうやって脅して、素直じゃないんですから♪」

「お前……」

「山内先生、怖いもの知らず過ぎるだろ……」

 

 

 むしろ先輩後輩同士であり親友でもある間柄だからこそ、ここまで笹原先生をからかえるのかもしれない。酔った勢いってのもあるだろうが、俺たちからしてみれば鬼教官である笹原先生を弄るなんて暴挙はもはや神業に近い。それを容易く、しかも怒りの表情が見えているのにも関わらずからかい続けるなんて、もう無謀としか言いようがなかった。山内先生、マジパネェっすわ。

 

 

「神崎君が私のいる浦の星へ教育実習に来るってことを笹原先生に伝えたら、『アイツはこんな性格だからこう指導してやれ』とか、『こういう時に問題を犯しがちだからこう注意しろ』とか、私に詳しく教えてくれたんですよ。笹原先生はまさに神崎君対処マニュアルです!」

「俺は機械の不調とかバグとか、そんな扱いなんですか……」

「違います違います。むしろ自分の子供のように、大切だからこそですよ」

「余計な詮索はするな。ただ問題児が社会でやらかさぬよう、元担任として義務を果たしてるに過ぎない」

「またまたぁ~♪ 神崎君の恋愛事情については黙認してるくせに――――――――ふにゃっ! ま、またぁ~」

「お喋りはそこまでだ」

 

 

 再び笹原先生は右手で山内先生の頬を潰し、ひょっとこ顔にさせる。

 そんなことよりもさっき衝撃的な言葉が飛び出したような気がしたんだが、まさか世間に包み隠しているあの事実を知られちゃってる……!?

 

 

「そんな驚かなくても神崎君が色んな女性と関係を持っていることくらい、あなたを指導している身からすれば分かりますよ」

「マジで……? そんな気付かれることしてたっけな……」

「神崎君に話しかける女の子の様子を見ていれば自ずと察せます。神崎君の周りの女の子はいつも楽しそうで、それでいて青春のオーラって言うんですかね、女の子の恋を感じ取れるんですよ」

「すげぇな先生たち……。でも、笹原先生はそれが分かっていて黙ってたってことですか?」

「言っただろ、人生は楽しんだもの勝ちだと。神聖な学校内での不純交友は認めないが、それ以外なら好きにしてくれたって構わない。それでお前たちが幸せならばな」

「い、意外と懐広いんですね。先生のことちょっと好きになりましたよ」

「な゛ぁっ……!?」

「山内先生? どうしたんですか急に立ち上がって……」

 

 

 笹原先生とのこれまでのコミュニケーションは何だったんだと言わんばかりに、今日の先生は態度が柔らかい。それでいて懐も広く、こんなことなら高校時代に先生の真の性格を知りたかったもんだ。だって高校時代に知っておけば、先生に少し甘えられたかもしれないだろ? そうすれば下手に制裁をもらうこともなかったかも……いや、それはねぇか。むしろ甘えたら甘えたで余計に拳が飛んでくるかもしれないから、あの時はあの時のままでよかったんだろうな。

 

 そして、目下の謎は山内先生だ。さっきから酔いまくって顔が赤いのはご存知通りだが、今はそれ以上に燃え上がっているかのように真っ赤である。しかも吐息をはぁはぁと漏らして、いつものおっとりぽわぽわな雰囲気とは似ても似つかないほどにアダルティだ。背丈も生徒と変わらないほど低く、見ようによってはロリキャラに見える先生が顔を真っ赤にして興奮してるなんて、一部ロリコン界隈の連中が見たら性欲を滾らせそうだ。

 

 

「神崎君が笹原先生のことを好き……!? こ、これってもしかして、教師と生徒の禁断の関係なのでは!? どうしよう、私は笹原先生の親友で、神崎君の指導役。板挟みとなった私は一体どうすればいいのぉ~♪」

「な、何言ってんのこの人!? つうか悩んでる割に楽しそうだなオイ」

「また奈々子の悪い癖が……」

「悪い癖?」

「奈々子は教師や生徒の恋愛とか、世間では認められないような偏った恋愛模様が好きなんだ。一夫多妻制の漫画を勧めてきたり、病みに病んだ女の子を題材とした小説を自分で執筆したりと、お前とはまた別次元での変態だよコイツは」

「ウ、ウソだろ……。だってあの山内先生だぞ? 浦の星では生徒全員から慕われていて、子供っぽくて可愛くて、純粋の塊みたいな先生がそんな……」

「お前も知ってるだろ。表の性格がいい奴ほど裏で何を考えているか分からないってな」

 

 

 それは俺が女の子たちに対して常日頃から思っていることそのものだ。しかし、山内先生はこれまで出会ってきた女性の中で1、2を争うくらいにはキャラ崩壊のギャップが凄い。もちろん酔っ払ってるせいもあるだろうが、それを加味してもこの壊れっぷりは一周回って感心しちゃいそうだ。ここまで自分の偏屈趣味を曝け出せる人はそういないからな。

 

 

「神崎君は笹原先生のどこが好きなったんですか!? やっぱり真面目な性格? それとも綺麗な身体!? 高校生の時にお世話になってから、先生のことが忘れられなかったとか?? 告白はするんですか!!?」

「落ち着いてください! 好きってそういう意味じゃなくて、尊敬の度合いが上がったとか、そっち方面での意味ですから!」

「なんだ、つまんないです」

「冷めるの早いな……」

 

 

 自分の望んだ展開にならなかったことで、一気に熱が冷めた山内先生。落ち着かせることが目的だったのでこれで良かったんだけど、手のひら返しで興味を向けられなくなるとそれはそれでちょっとムカつくよな。まあ教師と生徒の恋愛なんて馬鹿なことはあり得ねぇって。と思ったが、普通にやってんだよなぁ俺。下手に話を拗らせて山内先生が暴走すると面倒なので、これ以上は何も言わないけどね。

 

 

「今日は色々あったけど、先生たちの別の一面が見られて楽しかったです」

「何を言ってるんですか! ここからが本番だって言うのに!」

「本番?」

「はい。神崎君も知らない笹原先生のあ~んなことやこ~んなこと、今日は徹底的に先生を解剖します!」

「奈々子、お前……」

「ちょっ、山内先生そろそろ抑えて。これ以上はマズいって!」

「あとは先生がどうして結婚できないのかとか、この際だから恋愛マスターの神崎君に相談してみるコーナーもアリですねぇ~」

「よし、今日からお前の家はトイレだ。腹の中を全て抉り出して、一生嘔吐が止まらない身体にしてやるからそう思え」

「ふぇっ、どこに連れて行くんですか?? ちょっ、首根っこ掴まないでくださいよぉ!! た、助けて神崎く~ん!!」

「自業自得だ……」

 

 

 これまでは色んな人に『自業自得』という言葉を投げつけらてきたが、まさか俺の口から誰かにその言葉を突きつける時が来るとはな。

 でもこれが大人の飲み会ってものだ。酒が回っていい気分になるのは分かるけど、相手を煽り過ぎたら山内先生のようになるから反面教師にするように。

 

 

 

 つうかあの2人、よく今まで親友でいられたよな……。

 

 




 まさか私もここまで先生たちのキャラを掘り下げるとは思っていませんでしたが、こうしてキャラを濃くすると魅力的に見えちゃいますね! また先生たちで1つお話を作ってみたくなりました!

 ちなみにスクフェス編はこれまでの登場キャラを全キャラ登場させる予定でもあったので、サブキャラであろうとも今回のように活躍の機会を設けたいと思います。Saint Snowと先生たち、詩織さんの話は消化したので、あとは矢澤の姉妹とA-RISEくらいかな?


 次回は虹ヶ咲メンバーである、エマ・ヴェルデちゃん登場です!



まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エマの日本文化堪能珍道中

 今回は虹ヶ咲のメンバーであるエマ・ヴェルデちゃんの登場です!
 しかもがっつりほのぼの日常回で、彼女の魅力が十分に堪能できるかと!()


 

「わぁ~! こんなに大きい風船なんて初めて見ました!」

「風船じゃなくて提灯(ちょうちん)な……って、ここへ来る前に日本文化の予習とかしてないのか?」

「写真で何度か見たくらいですね。それに予習してしまうと、こうして実際に日本文化に触れた時のウキウキが減っちゃうので、敢えてしなかったんですよ」

 

 

 そう言ってエマは雷門の提灯を前にしてはしゃぎにはしゃぎまくっている。あまりに騒ぎ立てすぎて、周りから不思議そうな目で見られてるの分かってんのかコイツ。まあ日本文化を学びたいからと案内役を頼まれた時点で、こうなることは大体予想してたけどな。

 

 今日は虹ヶ咲のメンバーの1人であるエマ・ヴェルデを引き連れて、東京の浅草に来ている。日本文化が知りたいからと突然電話を掛けてきたと思ったら、暇な日が今日しかないから一緒に行きましょうと半ば強制的に予定が組まれてしまった。押しの強さは虹ヶ咲の中でも随一で、電話口でも浅草で日本文化に触れられると知った瞬間にテンション爆上げ+早口のコンボで俺が喋る隙すらもなかったんだ。そしていざ現地へ来てみればこのはしゃぎよう。今日は疲れるな、絶対。

 

 

「零さん零さん! 早く行きましょうよ~!」

「そんなに急がなくても、今日は1日オフなんだろ? 時間はたっぷりあるじゃねぇか」

「せっかくのデートなんですし、1秒たりとも無駄にしたくないんです!」

「デート……?」

「はいっ♪」

 

 

 歩夢たちもそうだけど、男女2人で外出するだけでデートって気が早くないか? コイツらからしてみれば十年以上も待ちに待った人との初のお出かけなので、テンションが上がってしまうのは分からなくもない。もう俺と恋人同士になることを見据えているのか、コイツらは本当に自分の気持ちを隠さないよな。年頃の女子が男子を気軽にデートに誘うって、普通の人からすれば凄い度胸だと思うぞ。

 

 そんなことを考えてる間に、エマは雷門をくぐって寺の参道へと足を踏み入れる。1人にしたらあちこちで騒いで迷惑をかけるかもしれないので、しゃーないからとことん付き合ってやるか。デートであろうがなかろうが、可愛い女の子と一緒に観光できるなら文句はない。

 

 遅れたが、エマの紹介でもしておこう。

 エマ・ヴェルデ。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバーの3年生。名前から分かる通り外国の子であり、どうやらスイスから留学に来ているらしい。おっとりマイペースではあるが、自分の好きなこと、特に日本文化に触れることに関しては途端に血気盛んになる。スイスの自然の中で育ったためか雰囲気はとても暖かく、背がすらっと高い三つ編み少女ってだけでも癒しを感じられる。

 そして何より目立つのが、希すらも凌駕する豊満な胸だ。俺の見立てではバストサイズは92cm。高校生にしてそのサイズはまさにアニメキャラのようで、今は夏場で薄着なためかその胸の大きさが良く目立つ。実はさっきからエマがはしゃぐたびに胸が程よく揺れているので、コイツのお守りをするにも悪くないかなぁと邪な気持ちを抱きながら思ってしまう。お守りのお駄賃としてこれだけいいものを見せてもらっていると思えば、今日のデート(?)も楽しめそうだ。まあ胸ばっか見てたら観光がそっちのけになっちゃいそうだけど……。

 

 

 雷門をくぐると、寺の参道を挟む形で道脇に屋台がズラっと並んでいた。

 食い物の店ばかりでなく、団扇や風鈴、提灯といった日本文化を象徴する小物を扱ってる店も多い。祭りでもこういった古典風な店は減りつつあるから、ここを歩いてるだけで日本が一世代前に戻ったように感じられる。だからこそ日本文化を堪能するには絶好の場所であり、俺はエマをここへ連れて行こうと思ったんだ。

 

 そういや、最近はこうしてゆったりと遊ぶことがめっきりなくなった気がするな。直近の事件と言えば、赤ちゃんにされて楓に介抱されるわ、穂乃果に俺の犯罪歴を白日の下に晒されるわ、酔っ払いの相手をする羽目になるわで、正直気が休まる時が一切なかった。だから今回こそは女の子と観光デートと洒落込みたいんだ。まあ相手がちょっとマイペース過ぎる気はするけど、最近の仕打ちに比べればエマの相手をしている方がよっぽど楽だろう。

 

 

 …………ん? あれ、いつの間にかアイツいなくなってやがる!? 今日はゆっくり観光しようと思ってた矢先にこれかよ幸先悪いなオイ。夏休みで人も多いから、こりゃ探すのはひと手間掛かりそうだ――――――

 

 

 

「わぁ~! このちっちゃなパンケーキはなんですか??」

 

「いたよ……」

 

 

 幸いにも、エマの声が大きいお陰ですぐに見つけることができた。目立つからあまり騒ぐなと注意したばかりなのだが、まさか早速その騒がしさに助けられるとは皮肉なもんだ。ま、何も知らない土地で迷子にならなかっただけマシか。

 

 

「そりゃ人形焼きだ。ほら、動物の形してるだろ?」

「ホントだ珍しい形ですね! ハチミツやバターとか付けて食べるんですか?」

「いやこのままだよ。食うか?」

「いいんですか!? あっ、でもお金……」

「気にすんな、買ってやるから」

「それではお言葉に甘えさせてもらいます!」

 

 

 なんつうか、人に譲られてそれに即同意をする行為は日本人との違いを感じられる。日本人って無駄に謙虚だから互いに譲り合う傾向があるのに対し、エマは笑顔で俺の提案に同意をした。もちろん彼女に悪気がある訳ではなく、むしろ奢る側からしても笑顔で感謝されるのは嬉しいことだ。

 

 人形焼きを一袋買ってやると、エマは早速1個取り出して半分だけかじる。すると、目を見開いて俺の方を向き、無言のまま咀嚼し始めた。

 あまりにも挙動が大袈裟なのでもしかして不味かったのかと思ったが、ごくんと喉を通した瞬間に顔をずいっと俺の眼前に近付けてきた。

 

 

「美味しいですよこれ! 中に入ってるのはチョコレート……ではないですよね?」

「それは餡子だ。豆を砂糖で煮て作る、日本古来の和菓子だよ」

「こ、これがかの有名な餡子さん!? 今まで本やネットでしか見たことがなかったけど、ようやく巡り合えましたね!」

「芸能人に会ったと言わんばかりだな……」

 

 

 餡子という食べ物が登場して何年経っているかは分からないが、恐らくここまで眩しい目で見られた餡子は後にも先にもこの人形焼きの餡子だけだろう。何事も出会いは一期一会と言われるが、今のエマにはその言葉がピッタリだ。人生が楽しそうでちょっと羨ましいよ。

 

 

「故郷の妹たちにも送ってあげるとして……あっ、あれは何ですか?」

「あぁ、あれは煎餅だよ。もしかして、煎餅も知らない?」

「名前だけは知ってますが、食べたことはありません。クッキーみたいに砂糖やバターで作るのでしょうか? でも鉄板で焼いてますよね?」

「材料は米なんだ。だからクッキーみたいな甘さはないけど、米が原料だから渋い日本茶とは相性バッチリだな」

「お米ですか!? あの柔らかいスライムみたいなお米から、あんなにパリッとした食べ物ができるなんて不思議ですねぇ~」

「お前の想像する米ってお粥かよ……」

 

 

 パンケーキだのクッキーだの、挙句の果てにスライムだの、反応が逐一異国の人って感じがして呆れつつも面白い。相変わらず騒々しくて周りから注目を浴びがちだけど、彼女の楽しそうな顔を見られるだけでも俺は満足だ。

 

 ちなみにエマがさっき妹たちと言っていたが、聞くところによるとコイツは8人兄弟の長女らしい。しかも兄弟揃って日本文化に興味があるようで、留学前に妹たちに日本のお土産を大量に強請られたと言っていた。最近は日本の家電を大量買いして帰国する外国人が増えているが、コイツの場合は法被(はっぴ)を着ながら提灯や団扇をぶら下げて帰国しそうだ。楽しそうなエマを引きつった顔で見送る歩夢たちの姿が容易に想像できるよ。

 

 そして、エマは煎餅を1袋購入して人形焼きと交互に食べ始めた。さっきから休むことなくバクバク食ってるけど、体重管理の方は大丈夫なんだろうか……?

 

 

「あと2週間でスクフェスなのに、そんなに食っていいのか?」

「大丈夫ですよ。何故だか知らないですけど、体重が増えない体質らしいんですよね。それよりも食べれば食べるほど胸が大きくなるので、体重よりもそっちが気になってます」

「お前、特定の女の子たちを全員敵に回したな……」

「ほぇ?」

 

 

 エマは人形焼きを口に加えたまま頭に"?"マークを浮かべる。今もどこかで胸が慎ましやかな子たちが必死に努力している中、コイツは好きなモノを好きなだけ食って胸を大きくしている。この事実を貧乳ちゃんたちが知ったら、もはや反逆する気もなく完全に屈服してしまうだろう。

 

 

「あぁあああああああああああああっ!!」

「今度はなんだよ……」

「あれはもしかしてサムライと言うものじゃないですか!? ドレスと剣が飾られてますよ!!」

「ドレスじゃなくて袴。剣じゃなくて刀な」

 

 

 エマは侍のコスプレ衣装が並んでいる店を見つけると、そちらへ全速力で駆け出していく。

 もうノリが遊園地で次から次へと乗り物に乗りたがる子供だな。

 

 

「袴って思ったより薄着なんですねぇ~。防御力が低いような気がしますが、これで戦えるんですか?」

「流石に戦場へ行く時は武装すると思うぞ。それに常に重装備なんてしてたら動きづらいだろうが」

「確かに、袴ってとても動きやすそうですもんね……って、これ試着できるんですか!?」

「ホントだ。ま、まさかお前……」

「零さん!」

「はい?」

「一緒に着ましょう!!」

「…………はい?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はわぁ~これがジャパニーズサムライ!」

「どうして俺まで……」

 

 

 エマに侍のコスプレ店に連れ込まれ、何故か俺まで着付けをされてしまった。夏場なので薄着の袴は涼しくていいのだが、周りの観光客たちに注目されているので堂々と立ち振る舞えないのが事実。もちろん彼女は袴姿でも元気に動き回っており、外国人+侍の組み合わせが珍しいのか観光客たちの被写体モデルとなっていた。

 

 どうでもいいが、袴って思った以上に身体のラインが出るんだな。何が言いたいのかと言うと、エマの凹凸の激しい部分が如実に浮き彫りになっているということだ。彼女が激しく動くたびに、胸なんて下着を着けてないかってくらいに揺れやがる。浴衣や着物って下着の形が現れるから、それらを着る時は下着は着けないって噂だけど、まさか袴もそうなのか? 気になって胸にしか目が行かねぇよ……。

 

 

「ここで会ったが100年目。いざ尋常に勝負!」

「ちょっ、いきなり刀構えんな危ねぇだろうが!?」

「えへへ、1回やってみたかったんですよ。武士の戦いというものを」

「血気盛んなのもここまで来ると重症だな……」

「さぁ構えてください! 零さんと私、長年の因縁に決着を着けましょう!」

「長年って、再会したの最近だろ!?」

 

 

 エマは何故か俺と一戦交える気なようで、既に両手で刀を握り構えの体勢を取っていた。コイツが一度こうして臨戦態勢に入ってしまったらとことん熱中する性格だってのは、まだ初デート数十分の付き合いだけど身に染みて理解している。まさにそっちが殺る気でなければこちらから行くぞの雰囲気であり、今にも俺に飛び掛かりたくてウズウズしているようだ。

 

 でもなぁ、女の子を相手に刃物を向けるなんて、世界一のジェントルマンと言われた俺ができるはずもない。でもエマはもちろん、周りからの期待の目も凄まじい。全く見世物じゃねぇってのに、今から1vs1の決闘が始まるぞとちょっとした人気になっていた。仕方ない、適当に付き合ってサッサと立ち去るとすっか。

 

 

「おっ、やっとやる気になったみたいですね。いきますよ――――それっ!!」

「うおっ!! って、お前本気で切りかかってくんな!!」

「私、侍が出てくる本で読んだことがあるんです。武士の最大の武器は誇り、それ以外は切り捨てろと。なので相手が愛しの零さんであろうとも、戦いの場で信じられるのは自分自身だけ。それ以外は敵です!!」

「それっぽいこと言いやがって――――あぶなっ!?」

 

 

 立ち回りの戦略もあったものじゃないが、エマは刀をブンブン振り回して俺に切りかかってくる。刀はもちろん模造品で、人に当てても大丈夫なプラスチック製だけど、彼女のように勢いを付けられると流石に軽い衝撃では済まない気がする。下手に何度も切られるよりも、刹那の見切りってことで一瞬でやられた方が早そうだな。

 

 

「う~~それっ!」

「ぐっ、や、やられた……。お前の勝ちだ」

「は?」

「え?」

 

 

 エマは『何してんの?』と言わんばかりの顔で倒れる俺の顔を見つめてくる。俺もてっきり彼女がこの流れに乗ってくるものとばかり思っていたので、演技も忘れて彼女の反応を待ってしまった。

 

 

「こ、こんな攻撃で倒れるほど零さんは軟じゃないはずです!!」

「はぁ?」

「こちらの攻撃を軽やかに避け、相手が女性であろうとも容赦なく叩き伏せる、いつもの鬼畜な零さんを見せてください!!」

「おい今すぐ口を閉じろ!! 周りにたくさん人いるだろ分かってんのか!?」

「私、知ってます。零さんは抵抗する女性を見ると更に興奮してしまい、女性を無理矢理組み伏せて服を脱がせるのが好きだと。なのに女性である私を相手にこんな簡単に倒されてしまうなんて、そんなのおかしいですよ!」

「おかしいのはお前の頭だっつうの!」

 

 

 いかん、周りの目がどんどん痛くなってきた。先日は穂乃果に俺の犯罪歴を赤裸々にされたのだが、今回はギャラリーがいるだけこっちの方がよっぽど極刑に近い。まさか浅草の観光で自分の性癖を晒されることになるなんて思ってもいなかったから、突然に恥辱に俺も冷静さを失っていた。

 

 ちなみに言っておくけど、抵抗する女の子に対して色々やるのは……まあ好きと聞かれたら好きと答えるだろう。これ以上はまた犯罪歴に黒歴史が刻まれることになるから言わないけどね。

 

 

「つうか、俺は敵なんじゃなかったっけ? 同情をかけるのは武士としてどうなんだ?」

「そこで敵である零さんが私を容赦なくぶった切るってシナリオですよ。『油断したな』ってね! ほら早く!」

「ったく――――――油断したな」

「う、くっ……や、やられた……ガク」

「なにこの茶番……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「いやぁ~日本の演劇を体験することができて楽しかったです♪」

「それは良かったな……」

 

 

 茶番が終わって再び着替えた俺たちは、また参道内を練り歩いていた。エマは侍のコスプレと演劇に満足したみたいで、今なおその興奮は冷めていないようだ。

 対して俺はコイツの口から勝手に性癖を暴露され、周りの人たちから冷たい目で見られるという残酷な仕打ちを受けた。しかも写メを取られたりもしたから、下手にSNSにさっきの出来事をアップされると穂乃果たちの目に止まる可能性がある。何気ない発言行動1つ1つが即全世界に公開されるって、ホントに怖い世の中になったもんだよ。

 

 

「日本の文化って、他の国にはない独特なモノが多くて楽しいですね! これが俗に言う"和風"というモノなんですかね?」

「ま、今の日本人が和風を意識するタイミングも少なくなってるけどな。日本に来て分かったと思うけど、想像以上に洋式に包まれてるだろ?」

「はい。東京の街並みやお店、何もかもが他の国と変わらず、聞いていた日本の風景とは全然違いました。もっとこう、このような屋台が多く立ち並ぶ場所を想像してましたから」

「何百年前の日本だよそれ……」

「でも、周りが洋風の雰囲気ばかりだからこそ和風の雰囲気が輝いていると思えば、それはそれで良くないですか?」

「物は言いようだな。確かに日本独自の文化になったからこそ、お前のような外国人観光客がたくさん来るんだろうけど」

 

 

 そうは言っても日本の文化は廃れつつあるのが現状である。今の若者は日本古来の習わしを古臭いと捉える人が多く、実際にそれらの技術を学んで食っていけるかと言われたらそうではない。だったら都会に出て、安定職に就いた方が人生は楽しいと考える人が多いのだろう。こう語る俺も日本文化にはさほど興味はないので、日本文化を成長させていくのは俺たち若者ではなく、外国人観光客の注目による盛り上がりが一番の要因になるかもしれない。

 

 

「あっ、もうこんな時間ですし、お昼ご飯にしませんか? 私、焼きそばやたこ焼きなるものを食べてみたいです!」

「お昼って、お前さっき人形焼きと煎餅をバクバク食ってただろ?」

「美味しいモノは別腹ですよ」

「お前からしてみれば何でも美味いモノなんじゃねぇの……」

「細かいことは気にしない気にしない! ほら、行きましょう!」

「お、おい!?」

 

 

 エマは俺に腕を絡めただけでなく、身体ごとこちらにもたれ掛かってきた。さっきまでは俺をほったらかしにして次から次へと店をはしごしていたのに、いきなりデート感覚で密着するとか何考えてんだコイツ?? 子供っぽいノリばかりで世話が焼ける子だとばかり思ってたから、突然こんな乙女チックな行動をされて少し焦ってしまった。

 

 

「どうしたんだよいきなり。はしゃぎすぎて疲れたのか?」

「まだまだですよ! それにこうして零さんと一緒にデートできることが嬉しくって、気付いたら抱き着いちゃってました♪」

「ホントにマイペースだよなお前って。でもまぁ、こうしたいなら好きにしろ。俺は逃げも隠れもしない、とことん付き合ってやるよ」

「さっきまでは私のことを呆れた顔で見ていたのに、意外とノリ気なんですね」

「気付いてたのか……。どうであれ、俺がお前、いやお前たちと一緒にいてやることこそが、お前たちにとって一番の喜びなんだろ。それでお前たちが笑顔になれるってのなら、俺はもう隣を離れないよ。絶対に」

「零さん……」

 

 

 俺が隣にいてやれなかったから、虹ヶ咲の子たちには10年以上も寂しい思いをさせてしまった。自分が記憶喪失だったからとか、それを言い訳にするつもりは一切ない。過去を振り返って何があったのかを悔やむとか愚の骨頂、大切なのは今をどうするかだ。だから今後は彼女たちを悲しませないように、笑顔が消えないように俺が隣にいてやる。自分がなすべきことはそれだけだ。

 

 

「零さん、大好きです!」

「おいっ、それ以上は周りの目が……!!」

「隣にいてやるって言ったのは零さんですよ? だったらもっとくっつかないと♪」

「隣っつうか、もう一体化しちゃってるだろ!? それに、む、胸が……」

「あっ、そういえばおっぱいが大好きなんですよね? 恥ずかしいですけど、触ってみますか……?」

「え、いいの!? じゃ、じゃなくてこんなところでそんな大声を出したら……!!」

 

 

 思わず素の自分が出てしまったが、再び突き刺さる周りからの冷たい視線を浴びて我に返る。

 本来なら我が物顔で女の子を侍らせて道行く道を闊歩したいところだが、先程の寸劇の件もあってイキるにイキれないのが現状だ。だってさ、さっきエマが爆弾発言を投下した場所にいて、更に今回もまた俺たちの近くにいる人もいるから、流石に2度の被爆を経験した人の気持ちを汲み取ると萎縮せざるを得ない。

 

 さっきまで子供のような無邪気さを見せていたエマがいきなりしおらしくなったので、弄ってやりたいとは思う。だけど状況が状況だけにここに屯するのはマズい。かくなる上は―――――

 

 

「おいエマ、あそこに飴細工の体験コーナーがあるぞ! それにあそこには巫女さんの衣装が着られる場所もあるから、全部回ろう! なっ??」

「おおっ、いきなりやる気ですね零さん! はいっ、こうなったら今日1日かけて全部のお店を回りましょう!」

 

 

 疲れるのは覚悟の上だけど、常に移動しなきゃまたエマがどんな爆弾を投下するか分からない。その点、日本文化を体験している間なら少しは気も逸れるだろう。まぁ俺も、可愛い女の子とお出かけしているというシチュエーションを存分に楽しむか。せっかくのデートなんだし、楽しまないと損だもんな。

 




 今回は事件もないほのぼのとした日常を描きましたが、逆に言ってしまえば事件が多発するからこそこうした日常回が輝くのかもしれませんね(笑) これまでの虹ヶ咲のメンバーの中でも1、2を争うくらいにキャラの魅力を引き出せたと思っています。


 次回はとあるゲームでμ'sが大暴れ……?




まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スクールアイドル界の麻雀王

今回はμ's全員集まってのゲーム回、導入編です。


 

「スクフェス当日の予定はこんなところでしょうか。絵里から他に言っておくことはありますか?」

「私からは特に何も。あとはスクフェス当日まで体調を崩さないように、健康管理はしっかりしておきましょうってことかしら」

「それでは、本日の会議はこれにて終了ですね」

 

 

 今日はスクールアイドルフェスティバル当日のスケジュールを確認するという議題で、μ's全員が俺の家に集まりグループ会議を開いていた。海未が作ったスケジュール表をみんなで確認し、当日の動きに遅れがないようにするのが目的だ。スクフェスは3日間に渡って開催され、μ'sは単独ライブとAqoursとの合同ライブ、スクールアイドルが様々なアトラクションに挑むバラエティ番組や、屋台の食べ歩きの生中継にも参加するから、そこそこ密なスケジュールが組まれている。だからこそみんなで予定を共有しておかないと、12人と大所帯なμ'sは統率が取れないからな。

 

 スクフェスに参加しない俺はこの会議に参加する必要はないのだが、自然な流れで会議の会場が家に決まったため半ば強制的に参加させられていた。μ'sやAqoursのマネージャーみたいなことをやってはいるけど、練習のメニュー作成や今回のような公式への連絡応答は全部彼女たちに任せている。俺は練習をただ見ているだけというか、適当に口出しをしてみんなの汗水垂らす姿を視姦しているだけだ。それで何故か彼女たちはスキルがアップするんだから不思議なもんだよ。

 

 

「やっと終わったぁ~。凛、会議とか堅苦しいのはやっぱ疲れるよ」

「あはは……。凛ちゃんは子供の頃からずっとこういうのは苦手だもんね」

「そんなこと言って、当日にどこへ行ったらいいか分からず迷子になっても知らないわよ」

「ふ~んだ! かよちんは真姫ちゃんとは違って凛を見捨てたりしないもーん!」

「どういう意味よそれ」

「そもそも私に頼ること前提なんだ……」

 

 

 自分で予定を覚えるよう努力しろよと言いたくはなるが、12人もいるんだから集団行動は必須。となれば海未や絵里に先導されて引っ張られていた方が、下手に迷子にならずに済むかもしれない。だからと言って仲間内で自分の予定を他人に把握させる、社長と秘書みたいな関係性は築くべきではないと思うが。

 

 ちなみにμ'sのスケジュールはそこそこ密であり、生中継現場の移動やライブ、ライブの着替えの時間などは事務局より厳密に定められている。だから自由時間と言える時間はそこまで多くなく、仮に休憩時間でスクフェス会場を回ろうとしても有名人が故にお客さんたちに注目され、満足に遊べる時間はそう多くないだろう。なんつうか、ビッグになったなぁコイツらも。

 

 

「でも意外と早く会議が終わっちゃったね。せっかくみんな集まってるんだし、何か遊ぶ? 穂乃果は遊びたい!」

「家の中だぞ? こんな大勢でできる遊びなんて限られてるだろ」

「だったら穂乃果ちゃん。ことりと一緒にお菓子作りする?」

「え~? 穂乃果は作るより食べる側がいい」

「だ、だよねぇ……」

「ったく、暇人はいいわね。にこはこれからレッスンだって言うのに」

「お疲れ様でぇ~す」

「穂乃果、アンタいつかバチあたるわよ……」

 

 

 穂乃果は俺んちのソファを我が物顔で占領して、脚をバタつかせながら暇人アピールをする。最近は健康管理のためか練習の頻度も少なくなり、そのためか穂乃果や凛がほぼ毎日俺に暇潰しを要求してきて困ってるんだ。俺は毎日昼まで寝るっていう大切な仕事があるのに、朝早くから電話を鳴らされたら堪ったもんじゃねぇよな。

 

 

「でも最近は練習もなくて、こうして久々にみんな集まったんやから、何かをしたいってのはウチも賛成かな」

「亜里沙も! まだお昼ですし、遊ぶ時間はたっぷりあるのでいいんじゃないでしょうか!」

「とは言っても人様の家で、しかもこんな大勢で騒ぐのは迷惑なんじゃ……。ね、楓?」

「そうだね。私とお兄ちゃんの愛の巣に他の女を上げるだけでも殺したくなるのに、更にそこでお兄ちゃんと交わるだなんて……」

「いやいや、誰もそんなこと言ってないからね」

 

 

 遊びたいと思っている奴とそうでない奴が半々くらいだが、楓は適当な冗談を言っているだけなのでそうでない奴の勘定には含まれない。となると、押しに弱い雪穂だけではこの状況を打開することはできないので、どうやら穂乃果たちを満足させなければならない流れになりそうだ。

 

 

「どうせ遊ぶなら、凛はいつもとは違う変わった遊びがしたいにゃ」

「変わった遊びねぇ……。そういや」

「ん? 零くんなんかいい案あるの?」

「まぁ、な」

 

 

 実は、この家には神崎の家系の人間しか知らない究極の遊びがある。いつかやろうと思っていたが中々機会が来ず、そのせいで何十年も封印されていた。

 しかし、みんなが揃って暇をしている今こそその封印を解く時ではないだろうか。それにこのメンバーの中でその遊びを一番楽しめるのは俺だと思ってる。よし、決めた。俺の言葉の意味がどういうことかは、この後すぐに明らかにしてやる。

 

 

「楓、封印されてる例のモノを持ってこい」

「えっ、もしかしてアレのこと!? まあこれだけ大人数だったら遊べなくはないけど……」

「いいからいいから」

「お兄ちゃん、珍しくこういうことに乗り気だね……」

 

 

 俺たちのやり取りの意味が分からないのか、穂乃果たちはお互いに顔を見合わせて首を傾げる。

 今に見てろ。もうすぐで興奮と刺激がいっぱいの大人の遊びを体験させてやるからな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「こ、これは……なに?」

「凛ちゃん、麻雀だよこれ」

「どうして零の家に麻雀卓があるのですか……」

「これが神崎家に代々伝わる大人の遊びだ」

 

 

 リビングのテーブルが片付けられ、その代わりに麻雀卓が置かれた。麻雀なんて女の子はあまり嗜まないものだから、みんな物珍しそうな目で見ている。

 そう、これこそが穂乃果たちの飢えを癒してくれる活力剤となるのだ。

 

 

「麻雀って、私たちには馴染みはないけど特別感もないような気がするわ」

「甘いな絵里。これは麻雀だけど普通の麻雀じゃない」

「普通じゃない……?」

「あっ、ホントだ! お姉ちゃん、この麻雀ちょっと違うよ?」

「えっ、どういうこと?」

「ほら、こんな牌見たことないもん」

 

 

 亜里沙は牌山から1つ牌を摘まむと、それを俺たちに見せる。

 その牌には『メイド服』と書かれており、もちろんそんな牌は普通の麻雀には存在しない。そう、普通の麻雀にはだ。これは先祖代々神崎家に伝わる究極の麻雀だから、普通のよりも何倍もスリリングとなっている。牌に書かれている内容でこの麻雀がどんなゲームなのか察せる人は、相当な変態だから誇っていいぞ。

 

 亜里沙の持っている牌が気になったのか、穂乃果も牌山からいくつか牌を取り出す。

 

 

「こっちは『ウサ耳』、こっちは……『揉む』? それに私、麻雀のルール知らなんだけど」

「亜里沙とお姉ちゃんの持ってる牌を見て、なんとなくこの麻雀のルールが分かった気がする。普通じゃないって言ってたし……」

「なんだ、結局雪穂も変態だったってことか」

「違います。牌に書かれている内容と、零君が考えそうなことを総合したら自ずと答えが出てきただけです」

 

 

 雪穂だけではなく、真姫やにこたちも薄々この麻雀の意味が理解できたらしい。これから自分たちが挑むゲームがどれだけ過酷で、どれだけの辱めを受けるのか、察しのいい子は既に想像できているようだ。そうだよ、このゲームこそ女の子たちと集まってやるべき遊びなんだ。

 

 

「う~ん、穂乃果にもできるかなこれ」

「普通の麻雀のルールは複雑だけど、この麻雀のルールは至ってシンプルだ。同じ内容が書かれた牌を3つで1組、合計4組を先に揃えた奴の勝ち。そして、負けた奴らは勝った奴が揃えた牌に書かれている内容を実際に実行しなければならない」

「じゃあ、この『メイド服』っていうのはもしかして」

「そう、負けた奴はメイド服を着る。ウサ耳はもちろんウサギの耳を着ける。」

「こ、この『揉む』はまさか……」

「そうだ、実際に負けた奴を揉むことができる。身体のあらゆる部分、もちろん好きなところをな」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、μ'sに戦慄が走る。各々がどんなことを考えているのかは、その表情を見ればよく分かった。きょとんとしている奴もいれば、引きつった顔の奴もいる。中には目を怪しく輝かせている者までいる始末。さっきまでどんなゲームが出てくるのかワクワクしていた雰囲気は一変、それぞれの思いが激しく交錯する淀みの深い空気となった。

 

 その中で、気配を隠してそそくさと部屋を出ていこうとした輩がいた。

 残念ながら、このゲームの存在を知ったからには体験しなければ外へ出ることはできない。戦いもせず戦線離脱をするなんて、戦士としてあるまじき行為だ。ゲームに勝って勝利の余韻を味わうか、負けて地に這いつくばるか、そのどちらかを味わってからでないとこの場から返す訳にはいかないんだ。これが神崎家に代々伝わる麻雀の掟だからな。

 

 

「真姫、諦めろ。その扉は開かないぞ」

「えっ、ど、どうして? 堅い……」

「帰りたいならこのゲームをプレイするしかない。幸いなことに勝ち負けは関係ないから、気楽にやればいいさ」

「気楽にできそうにもないから帰ろうとしてるんでしょ!! それに私はこんなことをしてる場合じゃないの。ただでさえ勉強で忙しいのに、ゲームなんてやってる時間ないわよ」

「真姫に同意です。私も弓道の鍛錬があるので、これにて失礼します」

「わ、私もモデルの取材が入ってるからこれで……」

 

 

 真姫に引き続き、海未と雪穂もこの場から立ち去ろうとしていた。海未は大学生になっても弓道は欠かさず続けているし、雪穂は亜里沙と共にファッションの読者モデルとして活躍している。だから彼女たちの言い分はごもっともだが、さっきも言った通り、どんな難癖を付けようがこの場から立ち去るにはゲームをするしかない。海未も雪穂も、リビングの開かない扉に冷汗を流していた。

 

 その様子を見ていた楓は、口角が上がった憎らしい笑顔で3人を見つめる。

 

 

「雪穂も先輩たちも、往生際が悪いですよ。神崎家に代々伝わる麻雀は、一度卓上を展開したら最後、建物が謎の力で閉鎖されるんです」

「ど、どんな原理ですかそれ……」

「さぁ? お母さんやお姉ちゃんが手を加えたとでも言えば納得できますか?」

「それで頷いてしまう自分が怖いわ……」

 

 

 μ'sもなんだかんだ言って秋葉との付き合いは長く、特にアイツと同じ大学に通うようになってからは会う機会も多くなっている。だからこそアイツの性格は熟知しており、もはやなにか都合の悪いことが起こったら『秋葉のせい』と文句を言えば、例え嘘であろうともみんな納得するだろう。それくらいμ'sもアイツに訓練されてるんだ。

 

 そして母さんも秋葉に負けず劣らずぶっ飛んだ性格を持っていて、μ'sは身をもってそのことを体感している。可愛い女の子がいれば抱きつき、可愛い仕草をするたびに逐一抱きつき、何なら挨拶でも抱きつく。もはや抱擁の習慣のある欧米の人が見ても驚きそうだ。

 

 そんな2人が神埼家に代々伝わる麻雀に手を加えたとなれば、家を謎の力で閉鎖空間にする仕組みを作ることなど造作もない。一般人の俺や楓からしてみればどんな原理なのかはさっぱりだが、触らぬ神に祟りなし。余計な詮索なんてする必要もないだろう。

 

 

「いいじゃんいいじゃんやってみたい! 面白そうだよこのゲーム!」

「ほ、穂乃果!? 正気ですかあなた。このゲームで負けたら何をされるか……」

「海未ちゃん。要するに勝てばいいんだよ!」

「そんな簡単に言われてましても……」

「ことりも楽しみだよ♪ ゲームはゲームなんだし、楽しめばいいと思うけど」

「ことりまで……」

「いいんやない? 海未ちゃん最近スクフェスのことでμ'sを取りまとめてくれたし、たまには羽を伸ばしたらどう?」

「羽を伸ばせるんですかこれで……」

 

 

 みんなの後押しを受け、海未は少しずつ諦めムードを漂わせている。周りが乗り気な中で自分が反対意見を出すのもバツが悪いと分かっているのか、もう抵抗する気もないようだった。

 

 

「雪穂も一緒にやろうよ! ね?」

「亜里沙……。でもなぁ……」

「ここで色んなコスプレをすることに慣れておけば、今後どんなファッションを着ても緊張しなくなるかも。そう考えればモチベ上がってこない?」

「いやいや、このゲームでの罰ゲームとファッション誌の衣装を一緒にされても……。でも、やるしかない流れだよねこれ。仕方ないか」

 

 

 何事も現実主義な雪穂は、もはやμ'sの勢いには1人で逆らえないと知っているためか諦めも早い。いや、物分りがいいと褒めてやるべきなのか。特に亜里沙からのお願いには弱いので、今後も雪穂を丸め込む時には亜里沙を利用させてもらおう。

 

 

「あとは真姫ちゃんだけね」

「私だけ? にこちゃんもレッスンがあるから帰るとか言ってなかったっけ?」

「μ'sの方で用事があるって言えば分かってくれるコーチだから、別に1回や2回その言い訳でズル休みしてもバレないわよ」

「人の好意に付け込むなんて、相変わらずやってることが高校時代を変わらないわね」

「頭がいいと言ってくれる? そんなことで話題を逸らそうとせずに、このゲームに参加するかどうか、早く決めなさい」

「するわけないでしょ。見てるだけで十分だから」

「負けるのが怖くて逃げるのもいいけど、そんな半端な覚悟で本当にお医者さんになれるのかなぁ〜? にこ心配だなぁ〜」

「はぁ? 半端な覚悟ってなによ!? そこまで言うのならやってやるわよ!」

「真姫ちゃんって、ホントに単純……」

 

 

 ちょっろ。もはや煽る側に張り合いがなさすぎるくらいにチョロいよコイツ。

 にこの悪知恵も高校時代から変わらずだが、真姫のチョロさも全く変わっていなくてむしろ安心するくらいだ。むしろ昔よりも煽り耐性が雑魚になっている気がするのは俺だけか? 真姫は医者になるため勉強漬けの日も多く、そのせいか人と会話しないため高校時代よりもコミュ障になっている可能性はある。ま、ゲームに参加してくれるのならそれでいいけどね。

 

 そういや、この中でもう1人、こんなゲームに不平を漏らしそうな奴がいる。だがソイツはここまで文句1つも言わず、むしろみんなが不満者を説得する様子を楽しそうに見守っていた。

 

 

「おい、絵里。珍しいよなお前がこんなゲームに乗り気だなんて。お前なら文句の1つや2つぶっ放して来るかと思ってた」

「前ならそうだったかもしれないけど、今は別にいいかなぁって。ほら、こうしてみんなで集まって遊ぶのって中々ないじゃない? 最近は合宿くらいだったしね」

「まあお前らは社会に出てるし、俺たち4年生は将来のために動き出し、なんなら雪穂や亜里沙は読者モデルになってるくらいだからな。そりゃお互いの時間が中々合わないのは仕方ねぇよ」

「うん。だからこそ、こうやって騒がしく遊ぶのも悪くないと思ってるのよ」

「へぇ、大人になったなお前も」

「一応言っておくけど、私の方が年上だから」

 

 

 μ'sはお互いに付き合いも長く、もはや誰が年上だとか年下だとか、そんなことはいちいち気にしなくなってきた。唯一後輩感があるのは、慣れているからと敬語で喋ることもある雪穂と亜里沙だけだ。

 

 そういや、言われてみれば絵里の言った通り、μ'sとして集まる時間は時が経つに連れ減ってきている。各々がそれぞれの道を歩み始める時期になってきたから必然と言えば必然だが、改めてその現状を察すると寂しいものがあるな。

 

 

「でも、俺がみんなを繋いでみせるよ。確かにそれぞれの夢はバラバラだけど、俺がみんなの帰る場所になってやる。そうすればみんなずっと一緒にいられるだろ? それに、お前らは全員俺のモノなんだ。一生離せねぇよ」

「相変わらず独占欲が強いわね。だけどあなたがいるから、みんな自分のやりたいことができるのかも」

「そういうこった。納得してくれたところで最初の対局、1人目はお前な」

「えっ、この流れで!? せっかくいい話だったのに……」

 

 

 さっきの発言自体に何ら嘘偽りもなく、俺のやるべきことはμ'sみんなの隣りにいる。ただそれだけ。

 でもそれよりも今はゲームの采配の方が重要だ。だって、揉めるんだぞ? コスプレさせられるんだぞ? 他にももっと色んな命令が書かれた牌があり、それを何の罪も問われず実行できるんだぞ? 女の子に対して合法的に命令して、かつ、敗者としての屈辱を体感させてやりたいと思うのは男の性だ。えっ、違う? みんなを大切に思っているのも自分の感情だが、みんなの恥辱に塗れた姿を見たいってのも俺なんだよ。

 

 なんにせよ、この麻雀をやらないことには家から出られないんだ。郷に入っては郷に従えということわざの通り、神崎家に来たからには俺たちのルールに従ってもらうぞ。

 

 

 さて、抵抗していた子たちもみんな折れたところで、ようやく役者が揃ったな。

 果たして麻雀王になってμ'sのマウントを取れる奴は誰なのか? 敗北が重なって服が1枚もなくなる奴は誰なのか? そもそも無事にこの家から出られるのか? それはこの麻雀のみぞ知る。

 

 

「さぁ、ゲームスタートだ!」

 

 

 

To Be Continued……

 




ガッツリとゲームの内容を描く予定でしたが、久々にμ's全員が揃ったためか、みんなで喋ってるだけで前編が終わってしまいました( )
でもこうして零くんを含め13人が勢揃いしていると、普通に喋ってるだけでも賑やかになる不思議です。もう麻雀なんてやらなくてもネタに困らないレベルには……


次回はゲーム回の後編です!


まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

究極の麻雀(やみのゲーム)

 前回に引き続き麻雀回ですが、麻雀用語は愚か麻雀描写すらほとんどなく、ただのコスプレ鑑賞会になっている気がしてならない……


 

「一局目はこのメンバーか」

 

 

 遂に、神崎家に代々伝わる究極の麻雀が始まろうとしていた。中にはあまり乗り気じゃない奴もいるみたいだが、倉庫に封印されていた麻雀を解き放った時点でこの家は謎の瘴気に包まれ、ゲームをプレイしないと脱出できないようになっている。そのため否が応でも参加せざるを得なくなっており、もはやμ'sは崖っぷちに立たされている訳だ。まあ俺がこの麻雀を持ち出さなければこんなことにはならなかったんだけど、たまには刺激のある生活もいいんじゃねぇか?

 

 そんな感じで、早速一局目が始まった。最初は俺と絵里、やる気満々の凛と全くやる気のない海未が卓を囲んでいる。

 麻雀は初見の人からするとルールが複雑そうで取っつきにくいゲームなのだが、この麻雀なら安心。1巡ごとに1回、牌山から牌を1つ取ってきて手持ちの牌から1つ捨てる。それを繰り返し、同じ牌3つを1組として、合計4組揃えるだけだ。それ以外のややこしいルールはなく、どちらかと言えばゲーム性よりも罰ゲームの豊富さに重きを置いているのでそちらを楽しむべきだろう。

 

 

「これが麻雀……。凛、一度でいいからやってみたかったんだよね!」

「私もよ。でもいざこうして卓に着いてみると、少し緊張するわね」

「はぁ……。どうして私がこんな恐ろしいゲームに……」

 

 

 三者三様の反応を見せる3人だが、どうであれその表情が恥辱の色に染まる時も近い。ゲームだから楽しんだもの勝ちってのはもちろんだが、敗者は敗者らしい罰が待っている以上、本気でゲームに臨まないと想像以上の大恥をかいて地に這いつくばることになるぞ。

 

 そして、記念すべき第一局目が始まった。周りのみんなが固唾を飲んで見守る中、ゲームは着々と進行する。

 

 

「『揉む』……? 凛は別に揉みたくないし、これはい~らない!」

 

「中々揃わないわね……」

 

「皆さんの捨てた牌から見て、揃えやすいのは……。い、いやこうでしょうか……」

 

 

 凛はルールを理解しているのかどうかも怪しいし、絵里は自分の揃えたい牌が来ていないみたいだし、海未は戦術を考察し過ぎて逆にドツボにハマっている。もはや俺が本当の実力を出すまでもなく、この対局は貰ったも同然かな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ど、どうしてこんな格好を……!?」

「言っただろ? 敗者は勝者の上がった時の牌に書かれていることを実行するって。つまり、敗者は勝者の言いなり人形って訳だ」

「で、でもこの浴衣は露出が多すぎです!!」

「知らんな。家にそれしかなかったんだから仕方ねぇだろ」

 

 

 海未が着ているのは普通の浴衣と思いきや、よく見てみると肩は丸出しだし丈は短くてスカートのようになっているなど、明らかに男の目を引くために作られた扇情的な浴衣だ。胸元も大きく開けており、もはや衣類としての機能を果たしてない気がする。そんな背徳感満載の浴衣を海未が着れば、当然このように文句を垂れるのは着させる前から明らかであった。

 

 ちなみに絵里はどう見てもサイズが小さすぎる旧スク水、凛は猫耳と猫レオタードという本格的に猫化の道を歩み始めるコスプレをしている。海未も相当動揺しているが、この2人も想像以上の際どいコスプレに頬を紅潮させながら悶えていた。

 

 

「こ、これって服を脱いで着なきゃいけなかったの……?」

「レオタードなんだから、服の上から着るもんじゃねぇだろ。それに猫は服なんて着ないから、そもそもその格好もおかしいんだよ。猫になり切るなら全部脱げ」

「別に凛は猫じゃないにゃ!!」

「その語尾で猫じゃないって言われてもなぁ……って、絵里? そんな端っこで何やってんだ? せっかくスク水なんて過去の遺産を纏ってんだから、もっと大っぴらに見せびらかさなきゃ」

「できないわよそんなこと!」

「その割には腕で胸を押し上げて、自分の胸のデカさを自慢してるようにしか見えないが?」

「そ、それは……」

 

 

 絵里は部屋の片隅に蹲っているが、胸を両腕で挟むように抑えつけるという貧乳を殺すアピールをしている。恥ずかしがっている割には大胆なポーズだが、明らかに大きさがあっておらずピッチピチなスク水を見て大方の理由は察せた。

 

 

「なるほど、胸が水着からはみ出そうになってるのか」

「い、言わないで!! 最悪着るのはいいけど、ちゃんとサイズが合っているモノを渡して欲しかったわ……」

「そのスク水は胸の大きい女の子を締め付ける目的で作られてるから、それ以外のサイズはない。残念だったな」

「そ、そんな……あっ、危ないっ!」

 

 

 惜しい! もう少しで水着からおっぱいが零れ出そうだったのに、寸でのところで抑えつけやがった。まあ今日はこのゲームが終わるまでずっとその格好でいてもらう予定だから、いずれ生おっぱいのポロリシーンが見られることだろう。その前にピッチピチの水着がはじけ飛ばないかが心配だけど。水着の正確なサイズは測ってないが、恐らく小学生くらいが着るものだから、いくらスタイリッシュな絵里が着ようともサイズは確実に合わないだろう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「二局目のメンツはお前らか」

「よしっ、頑張るよ!」

「にこの豪運で、アンタたちの服をひっぺがしてやるわ」

「うぅ、緊張する……」

 

 

 次は穂乃果、にこ、花陽の3人と卓を囲むことになった。えっ、どうしてまた俺がいるかって? そりゃみんなのあられもない姿を拝むために決まってんだろ。それにただ拝むだけでは自分の気が済まない。μ'sの服を脱がせていいのは俺だけ。つまり、この麻雀で自らの手で勝利を掴んでコイツらの痴態を白日の下に晒したいのだ。だから俺は全ての対局に参加して、みんなを敗北のどん底に陥れる。それが俺の流儀だ。

 

 そして、第二局目が始まった。

 言ってしまえばコイツらも大したことはない。そもそも麻雀をやったことのないズブ素人だし、穂乃果やにこに至ってはバカだから戦略の"せ"の字も組み立てられないだろう。花陽は緊張して勝手に自滅するだろうから、結果はもう見えていた。

 

 つまり、こういうことだ。

 

 

「穂乃果はメイド服だったけど、意外と普通のコスプレなんだね」

「私はナース服だけど、これスカート短くない!? は、恥ずかしい……!!」

「似合ってるぞ2人共。どちらも客相手にご奉仕する職業だから、俺のお世話をしっかり頼むな」

「ナースはそういうのじゃないと思うけど!?」

 

 

 俺に負けてあっという間に服を脱がされた穂乃果と花陽は、それぞれメイド服とナース服に着替えた。言ってもコスプレとしてはかなり王道な部類なので、特別に驚くほどでもない。でもやっぱりメイドは太もものガーターベルトに興味を唆られるし、ナース服も畏まった衣装が逆に扇情的な雰囲気を醸し出すので何度見ても飽きることはない。穂乃果の絶対領域や、花陽の肉付きの良い脚が露になってるんだ。これだけでもこの麻雀をプレイした価値はあるだろう。

 

 そして、もう1人――――――

 

 

「ねぇ、どうしてにこだけ音ノ木坂の制服なのよ!!」

「なんだ、久々に母校の制服を着られて懐かしいだろ?」

「どこがよ!? それよりもどうしてにこだけ普通の格好なの!?」

「は? まさかお前、自分からエロい格好したいのか? 痴女丸出しも落ちるところまで落ちたな」

「別に自分から進んでって訳じゃないけど、こうも他の子たちと違うコスプレだと違和感があるというか……」

「じゃあ全部脱げ。そうすれば他の奴らより存在感は高くなるぞ」

「それコスプレじゃないでしょ!!」

 

 

 いちいち文句が多い奴だ。別にこの麻雀は脱衣麻雀のような低俗なゲームではないので、普通のコスプレも用意されている。これまでが特別際どい衣装だっただけであり、中には健全な命令が書かれた牌もあるってことだ。じゃあどうして今までみんなにエロいコスプレを着させることができたかって? そりゃ麻雀なんだから、自分の狙った牌で上がるなんて戦略を組み立てれば簡単だ。それに俺ともなれば、誰に何を着させるかまで狙い撃ちして牌を集めることができる。これがみんなと俺の決定的な実力差ってやつだな。

 

 しかし、早く上がりたかったってのもあるから、にこの衣装は何でもいいと切り捨てて適当な牌で上がったんだけどね。まあコイツはお願いすれば何でも着てくれそうではあるから、ここで無理をして狙い撃ちをしなくてもいいという判断だ。

 それに普通の牌もあるってことをみんなに知らしめておけば、雪穂や真姫の気も少しは紛れるだろう。ま、その安心したところに大胆露出なコスプレを突きつけることでより絶望に苛ませることができるんだけどな。自分で言うのもアレだけど、性格悪いよなぁ俺って。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「もう3局目か。最初から分かってはいたけど、案外あっけないもんだな」

「だったらもうやめたいんだけど。穂乃果たちの犠牲でも満足できないの?」

「正直に言ってしまうと、俺は全員の服を引き剥がすことが至極の目的だ。でもそれ以前に、ゲームをプレイしなければこの家から出られないことを忘れるな。誰か1人がプレイしたところで、結局は家から出られるのはソイツだけだ。だから結局は自分でプレイしないといけないんだよ」

「はぁ……やっぱり付き合わなかったら良かった」

「まあまあ、せっかくみんなで遊べる機会なんやから、楽しまんと損じゃない?」

「いいこと言った希。真姫も雪穂も、もっと肩の力を抜けよ」

「「無理」」

 

 

 3局目のメンバーは希と真姫、雪穂になったのだが、どうもやる気のない連中が多くてゲームの盛り上がりに欠ける。ゲームはみんなで楽しくやるもの。その空気を壊す奴はこの俺が徹底的に粛清してあげないと。とは言うものの、どれだけやる気に満ち溢れていようがそうでなかろうが、俺と一緒の卓を囲んだからにはコスプレで町内一周する気概くらいは見せて欲しいもんだ。そう、つまり敗北する覚悟ってやつをね。

 

 しかし、これまでの奴らと違ってこの3人は要注意な点がある。それは3人みんなが賢いってことだ。ゲームには不慣れだろうが、これまでの対局を見ていたコイツらなら麻雀のセオリーくらい既に掴んでいると言っても過言ではない。これまでの相手は緊張に縛られている子がいたり、そもそもアホの子だったりとこちらに有利な条件しかなかったが、今回だけは少し俺も本気を出す必要があるかもしれない。なぁに、天才肌ちゃんが相手だったらその立ち回りすらも考慮に入れて動けばいいだけの話だ。警戒するにしても、し過ぎる必要はないってことだよ。

 

 そう、だからこういう風に――――――

 

 

「キャビンアテンダントなんて、またマニアックやね。それに、胸がもうはじけ飛びそう……」

「天使のコスプレって、テレビでしか見たことなかったけど本当に売ってるんだ……。でもこれだけ露出が多いと、天使の純粋さなんて微塵も感じない……」

 

 

 2人のコスプレはこれまでと比べてかなり趣向が偏ってるが、王道から外れているからこそ興奮できるものがある。もちろんこの麻雀の罰ゲームだからまともな衣装ではなく、希が着ているキャビンアテンダントの服は絵里のスク水と同様で、成人前後の女性が着たとしてもかなり小さい。だから希の胸の大きさ的に衣装が形を保てるわけがなく、いつ胸元のボタンが吹っ飛んでもおかしくないくらいだ。

 

 雪穂が着ている天使衣装は、紅白歌合戦での演出に使われるかのような派手な衣装であり、ご丁寧に本物の羽毛を使用した羽も着いている。だが天使らしい衣装はそこだけであり、やはり他の衣装と同様に露出は多い。肩、腋、胸元、へそ、ふともも、ふくらはぎ等々、もはや服を着てるのかすらも怪しまれる。それに雪穂は肌が白く、天使衣装もかなりの純白なため、白と白がマッチし過ぎて本当に何も着ていないようにも見える。本来そこまで卑猥な衣装ではないのだが、目の前に全裸の天使がいると思うと途端に艶やかに見えてくるな。

 

 

「ちょ、ちょっと、どうして私がこんな格好なのよ!?」

「似合ってるぞ真姫。上半身がセーラー服で、下半身がブルマなんていい格好じゃないか」

「どこがよ!? 着させるならせめて統一感を持たせなさい!!」

「そう言われても、俺が揃えた牌はセーラー服とブルマだったから仕方ねぇだろ。ま、ちゃんと写真に撮っていつでも見返せるようにしておくから安心しとけ」

「誰がそんな黒歴史を見返すのよ!! って、こっちに携帯向けないで!!」

 

 

 上はセーラー服で下はブルマとか、全くもって中途半端な格好をしやがって。でもさっきも言ったが、王道から外れているからこその興奮も存在する。真姫の衣装がまさにそうで、まさに男の汚い欲求を全て具現化してくれたのが今の彼女だ。

 ちなみに、セーラー服も例に漏れずサイズがかなり小さく、白い裾が真姫のへそを隠しきれていない。セーラー服+ブルマの組み合わせだけでも相当エロいが、へそ出しともなれば卑猥度は一気に上がる。天使雪穂もへそ出しだが、やっぱセーラー服からチラ見せするへその方が100倍背徳感があるよ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 そんなこんなで最後の4局目となったのだが、ここで想定外の事態が起きた。

 本来なら最後も俺の圧勝でμ'sのメンバー全員の服をひん剥いてやる予定だったのだが、ことり、楓、亜里沙の力はこちらの想像を遥かに超えていた。

 

 例えば、亜里沙の場合だと――――――

 

 

「零くんの捨てた牌をもらいです! はい、ローン!!」

「えっ、もう!? まだ3巡目だぞ!?」

「えへへ、上手いこと揃っちゃいました♪ えぇっと、零くんの捨てた牌に『揉む』って書いてありますから、私が零くんを……!!」

「お、おい亜里沙さん? 目がマジなんですけど……」

「行きますよ~零さん。えへへ……♪」

「ちょっ、待て――――うわ゛ぁ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 俺の対面に座っている亜里沙は、麻雀卓を飛び越えて飛びついてきた。そこからはありとあらゆるところを揉まれた……というよりかは、くすぐられたって感覚に近い。無意識だとは思うが男の局部にまでくすぐりが進行していたので、不覚ながらも刺激を感じてしまったのは内緒だ。まさか亜里沙に好き勝手される日が来るとは世も末だな。

 

 しかし、俺の予想を絶するほど亜里沙の実力は高い。もちろん運の高さもあるだろうが、彼女の直感は実力者を唸らせるほどの威力を誇っている。現にこの俺が全く歯が立たないため、もはやゲームではなくて一方的な殺戮に近い。そのせいでことりや楓もとばっちりを受け、例のごとくサイズが合っていない体操服や、ローター付きショーツと言った嘗てないほど危険な下着を装着させられていた。

 

 だが、俺に降りかかっている悲劇は亜里沙だけによるものではない。

 なんと、ことりと楓も想像を絶する実力を発揮しているのだ。2人は俺ほどではないがそこそこの天才肌なので、μ'sの中でもコイツらが自分の敵であることはある程度認識していた。しかし蓋を開けてみると自分の予想以上の実力を発揮され、逆に俺がいつもの力を引き出せずにいた。

 

 

「ロン! また零くんの負けだね♪ 今度はどんな服を着てもらおっかなぁ~」

 

「私も上がり! さ、お兄ちゃんお着替えの時間だよ♪」

 

 

 こんな具合で、俺が勝つこともあれどコイツらも同じくらいの勝率を見せ、お互いに服を引き剥がしては着替えさせのサイクルを続けていた。

 そうなればもちろん、さっきの真姫のような奇抜な格好になっていくのは目に見えている。1人1人が色んなコスプレを混ぜ合って着てるから、まるでキメラだな……。

 

 

「おいお前ら、どうして俺ばかり狙い撃ちすんだよ!? さっきから俺ばかり負けてないか??」

「えーそれは気のせいだよ。零くんここまでずっと対局続きだったから、集中力が途切れてるだけじゃないかなぁ~?」

「ことり先輩。お兄ちゃんはプライドが高いですから、私たちに負けて嫉妬してるんですよ。まぁ負けたら罰ゲームで変な衣装を着させられたりするんで、負けを認めたくない気持ちは分かりますけどね」

「お前ら、俺が敗者だからって言いたいことばかり言いやがって……」

「お兄ちゃんは女の子のカラダを揉みしだくの好きだけど、女の子から攻められるのは苦手だもんね♪ そりゃ負けを認めないで必死にもなるよ」

「別に認めてない訳じゃねぇよ! それに認めてなかったらこんな格好してねぇだろうが!」

 

 

 俺の格好は全身タイツにメイドカチューシャという、誰が見ても全く嬉しくない姿をしている。女の子たちがその格好をするなら注目だが、男が被害を受けてコスプレをしたところで取れ高なんて一切ないと思うぞ?

 

 でも、ことりと楓はそうでもないみたいだ。俺が敗北するたびに怪しい笑顔を見せ、俺の着ているコスプレがキメラ化すればするほど目が輝いている。恋人と兄が屈服する姿を見てそんなに嬉しいのかとアイツらのサディスティックな性格に疑問を抱くが、それは俺も同じなので言い返せないのが癪だ。

 

 それにしても、まさかこの3人がここまで麻雀に強いとは思ってもなかったぞ。これでは俺のμ'sを全員脱がせて恥ずかしい姿にさせる計画が台無しになってしまう上に、この麻雀をやろうと言い出したのに最終的にはボコボコにされる屈辱まで味わってしまう。こんなことでいいのか? やられっぱなしなんて俺の性に合わない。でもどうやって勝つ? 豪運と謎の実力を持つ3人を相手に……?

 

 

 その時、俺はまだ気付かなかった。

 周りに渦巻いている、深淵よりも闇の深い陰謀が暗躍していることに――――――

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 今回は珍しく前中後の3部構成です。1人1人のコスプレ描写すらも満足に描けてないのに、無駄に引き延ばしてしまって申し訳ないです。でも久々に零君とμ'sみんなでワイワイする話を執筆できて楽しくはありますけどね(笑)


 次回、零君が自分が負け続ける理由とその陰謀を暴き、悪を打ち砕く!(?)





まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

陰謀のイカサマ麻雀

 麻雀回の後編です。
 相変わらず麻雀の描写は蚊帳の外ですが()


 

 自分が負ける理由なんて微塵もなかった。ことりも楓も亜里沙も、確かに少なからずの天才肌は持ち合わせている。

 だが、それを加味しても俺が敗北する理由は全くない。俺の実力を凌駕するほどの運を発揮しているとも考えられるが、ここまで連敗が続くと本当に運だけなのかと疑わしくもなってくる。ただ単にコイツらの実力が俺を上回っているのか、それとも何か別の要因があるのか。どちらにせよ、敗北は許さない俺のプライドがズタズタにされっぱなしだ。何か逆転の対抗策を考えないと。

 

 まあそう言っても、既に全身タイツ+メイドカチューシャを装着済みの俺は負け組なのかもしれないが……。

 

 

「零くん! ほら次の対局に行くよ!」

「もうお兄ちゃんってば、私たちに負けて悔しいのは分かるけど、そうやって唸ってると余計にカッコ悪いよぉ?」

「ことりだってちゃんと罰を受けながらゲームしてるんだし、零くんだけ参加しないなんてあり得ないよ。あっ……んっ」

「そういやことり先輩、小さいローター付きのショーツ履いてるんでしたっけ? お兄ちゃんも負けたくらいでいちいち落ち込まずに、ことり先輩みたいに耐えて頑張らないと」

 

 

 コイツら、いつもはここまで煽ったりしてこないのに、俺がゲームの敗者だと知った瞬間にこれだよ。やっぱり人間の本性なんて醜くて性悪なんだよな。まあ俺も人の子とは言えないので、ここで言い返せないのがもどかしいけど。

 

 ことりは大人の玩具付きのショーツを装着しているため、常時顔を真っ赤に、多少のイキ顔を見せている。そのため俺は麻雀に集中しづらく、ことりが甘い吐息や声を漏らすたびに集中力が削ぎ落されてしまう。しかし、それでもことりは声を荒げたりはしないので、恐らく日々の自分磨きで大人の玩具の扱いには慣れっこなのだろう。自分の恋人の偏った性事情なんてあまり知りたくないけどね。

 

 それにしても、ことりも楓もやけに余裕だな。亜里沙は無邪気にゲームを楽しんでるようにしか見えないが、この2人はどこか裏があるような、黒い陰謀のようなものを感じる。確かにコイツらはゲームに負けてコスプレを着ることになっても、特に動揺することなく着替えている。それがどんなに際どい衣装であろうがお構いなく、だからこそ負けを恐れていないのかもしれない。

 

 

 だけど、本当にそれだけなのか……?

 

 

 何かしら裏を感じて疑いはするものの、結局その正体を掴めず次の対局が始まった。またしても流れは実力と豪運を備え持つ亜里沙に向いているが、今度は冷静になって周りの状況をよく観察してみた。相変わらず亜里沙はノリノリで麻雀を楽しんでおり、その純粋さを見る限り特に怪しい要素はない。全ての人間には表裏があると思っているが、彼女だけは唯一そんなものはないと思ってる。というかそう思いたい。

 

 そんなことよりも、怪しいのはやっぱり他の2人だ。これまでの対局中にも度々お互いに目線を合わせていたので、ずっと気になっていた。女の子同士で目配りするのは別に変なことではないが、その目付きが鋭いというか、眼光が怪しく光っている。また俺に屈辱的な格好をさせることができて嬉しいのか、それとも他の理由があるのか……?

 

 

「お兄ちゃぁ~ん。顔怖いよ? ゲームなんだし、もっと楽しまなきゃ!」

「ゲームでムキになってる零くんも可愛いけどね」

「お前ら、さっきから煽りに煽りまくりやがって……。今度俺が勝ったら、一生忘れられないくらい恥ずかしい格好させてやるからな」

「零くんに一生モノのキズを刻み込まれるなら、ことりは大歓迎だよ♪」

「お前は俺に何をされても嬉しいのか……」

 

 

 もしそうだったとしたら、これって罰ゲームでも何でもなくないか? 楓も同じくえっちぃコスプレに対して物怖じすらしておらず、今だ無傷の亜里沙もその天然な性格が故にコスプレすることには何ら抵抗がないだろう。むしろ、着てくれとお願いすれば二つ返事で着てくれそうだ。つまり、このゲームで罰ゲームを受けるのって実質俺だけってこと?? なにこのハンデ!?

 

 

「私も可愛い衣装を着てみたいですけど、ゲームに負けるのも悔しいし、悩ましいところです」

「贅沢な悩みだな。こちとら勝つか負けるかの境目にいるってのに」

「安心して零くん、もうすぐその悩みも解消されるよ。だって、これから零くんは敗北の2文字しか味わうことがないんだから」

「あん? どういう意味だ?」

「そのまんまだよ、お兄ちゃん♪」

 

 

 やっぱり、コイツら怪しすぎる。俺に対してここまでマウントを取る勇気があることはもちろん、いくら実力があるとは言えどもどこまで行っても運が絡むのが麻雀なので、ここまでの余裕を持てるのは何か裏があるとしか思えない。

 しかし、未だにその謎は解き明かされず、気付いた頃には――――――

 

 

「また負けた……」

「次はこれを着てね!」

「スカートっておい、男に着させて何が楽しいんだ……?」

「楽しいよ、私たちはね!」

「零くんの女の子姿、一度でいいから見てみたいです!」

「亜里沙まで……」

 

 

 眩しいほど純真な目で俺を見つめる亜里沙だが、今の自分にとってはその輝きに満ちた期待も煽りにしか見えない。そんな亜里沙に便乗してことりと楓はにんまりとしながら俺にスカートを手渡そうとしており、もはやこちらの逃げ場は一切なかった。

 

 今の格好も相当な黒歴史だが、これ以上の積み重ねはコイツらの武器となり、今回の件をネタにして脅しや強請を掛けられるに違いない。そうならないためにも、早急にこの状況を打破する必要がある。裏で行われている悪事を暴き、正義の鉄槌を振り下ろさなければ俺に明日はない。女の子の痴態を見たいがためにこの麻雀を始めた俺が正義なのかはさて置き、今現在において明確な悪はこの2人だから文句はないだろ。

 

 

「と、とりあえず、いったん休憩にしよう。ここまでぶっ続けの対局だったし、俺も汗ダラダラで顔を洗いたいしさ」

「も~う! じゃあ休憩が終わったら絶対に着てもらうからね!」

 

 

 このままでは対抗策を考えようにもコイツらのペースに飲まれるので、ここで一息入れることにした。だが俺の女装姿を見ることだけに魂を掛けている2人はそう長く待ってくれないと思うので、この休憩時間内に何としても裏に潜む陰謀を暴く手立てを見つけなければ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ぷはっ! それでは後半戦も頑張りますか!」

 

 

 亜里沙は水しぶきを上げながら顔を洗い、次の対局に向けての意気込みを叫ぶ。

 そして、洗面所で一服している彼女の背後に忍び寄る1つの影――――まあ俺なんだけど、やる気を奮い立たせている中で悪いがちょっと強引な手段を取らせてもらおう。

 

 

「あっ、零くんも顔を洗いますか? すっきりしますよ――――むぐっ!?」

「悪いな、大声を出されちゃ困るんだ」

 

 

 俺は自分の身体と洗面台で亜里沙を挟み込むと、右手で彼女の口を覆うように塞いだ。もはややっていることがタチの悪いナンパと何ら変わらないが、残されたちっぽけなプライドを死守するためには変質者にでも何でもなってやる。

 

 亜里沙は良くも悪くもいい子なので、俺に組み伏せられた時点で声も荒げなければ抵抗もしてこない。恐らく、何らかの理由があって俺がこんな行動をしていると分かっているのだろう。ただただ目を丸くして驚くだけであり、普段の天然っぷりから見てもそうだが、やはりμ'sの中で一番言うことを聞かせやすいのは彼女だ。人の弱みに付け込むなんて愚の骨頂だが、男には禁断を犯してでも守らなければならない立場ってものがある。それにアイツらを仕留めるにはもう手段を選んでいられないしな。

 

 亜里沙が落ち着いたのを確認し、口元から手を離してやる。案の定叫んだりすることはなく、小刻みに息を吐いて呼吸を整えると、不思議そうな表情で俺の顔を上目遣いで覗き込む。

 

 

「ど、どうしたんですかいきなり……?」

「協力して欲しいことがある」

「協力、ですか?」

「あぁ。ことりと楓、アイツらの暴走を止める手伝いだ」

「暴走……してるんですか?」

 

 

 2人の様子がおかしいことに気付いてないなんて、ホント純粋に麻雀を楽しんでたんだな。しかし、何も知らない方が楽しくゲームができたかもしれない。コイツはプライドの欠片も持ち合わせていないどころか、そもそもプライドがあるかどうかすらも怪しいが、そっちの方が何事にも縛られることなく人生が楽しそうではある。でも人の生き方はそれぞれなので、プライド云々の言及はここではやめておこう。

 

 

「協力してくれたら、お前の言うこと何でも1つ聞いてやる。だから今はおとなしく俺に従ってくれ」

「えっ、それ本当ですか!? 一緒にお食事したり、プールに行ったり、動物園に行ってもいいってことですよね!?」

「あ、あぁ……」

 

 

 それくらいなら誘ってくれれば条件なく一緒に行ってやるのに、相変わらず可愛い奴だ。でもこの状況においては俺にとって何の不利益もないから、心苦しくはあるがその条件で亜里沙に協力してもらおう。

 

 

「具体的には、何をすればいいんですか?」

「そのことだけど、まずは――――――」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あっ、ことりちゃんのその牌で上がりです!」

「えぇっ、もうっ!? またことりの負けぇ~?」

 

 

「楓のその牌もらい! はい、これでロン!」

「ま、また私の捨てた牌で……。亜里沙ってば容赦なさすぎ……」

 

 

 亜里沙の実力は本物だった。本人は至って自由奔放に麻雀をしているだけなのだが、持ち前の才能を活かしてことりと楓を完膚なきまでにボコボコにしている。一応休憩前までの対局でも亜里沙の勝率は高かったのだが、休憩後の対局は彼女の独壇場だった。しかも2人の捨て牌を拾って勝つという、あからさまな狙い撃ちで2人を仕留めている。しかし、狙い撃ちだと分かっていても実力と豪運を同時に持ち合わせる亜里沙に対しては、対抗策を練ろうにも練る前に上がられてしまうので文字通りお手上げ状態だった。

 

 

「こ、これ……結構恥ずかしくなってきちゃったかも……」

「でも、これはこれで興奮する……かな♪」

 

 

 楓はビリビリに破かれた体操服やスク水、ニーソなど、これまたマニアックな装備を装着させられていた。ダメージジーンズのような最初から生地が破かれているコスプレなのだが、傷付きの体操服やニーソなんて背徳感が満載なことこの上ない。楓もこれには苦笑いで、ようやく罰ゲームが本当の罰ゲームとして実施されていた。さっきまでは普通のコスプレで喜んじゃってたからな。

 

 ことりに関してはあまり語りたくはないのだが、猫の尻尾が生えているとだけ言っておこう。どこにその尻尾が刺さっているのかは、まあ想像にお任せするということで。顔を赤くして発情しそうになっている様子を見れば、どこに刺さっているのかは想像するに余りあるだろう。

 

 ようやく罰ゲームらしい罰ゲームが施行され、2人も多少ながら動揺の色が見え始めた。更に亜里沙の猛攻に成すすべがなくなっていることから、ゲームの最中も焦っている様子が見ているだけで分かる。さっきまで余裕綽々だったのに亜里沙の独壇場になってからは一気に曇りを見せているので、やはり何か裏があるとみて間違いないだろう。

 

 

「次だ。次を最後の対局にしよう」

 

 

 そう言った瞬間、ことりと楓の身体がピクリと動いた。何をするにも最後だから、どんな裏の事情を抱えていたとしてもこのタイミングで動き出さなければならない。だから、コイツらのヒミツを暴くなら今がチャンスってことだ。

 

 4人で卓上に散らばった牌を集めて、自分たちの前に1つずつ牌山を作る。

 そしてゲームが始まった訳だが、今のところ2人の様子に特に変化はない。最後だから集中しているのか、負けが重なっていることもありいつも以上に真剣な面持ちだった。亜里沙も2人と同じく真面目モードで、さっきまでのお遊びモードとは違う別の彼女が垣間見える。みんな最後の大一番は勝利を掴むために必死のようだ。

 

 だが、場が緊迫すればするほど空気は重くなってくる。さっきまでは良くも悪くも雰囲気は上々であり、俺が連敗する不幸はあったけど全体のムードとしては和やかだった。でも今は勝利に飢え多少ピリついていることもあり、重い空気になんだか堅苦しくなってくる。

 

 そう思って少し身体を伸ばそうと考え、とりあえず脚だけでも大きく伸ばしてみた。

 すると、誰かの身体の一部に脚が触れてしまう。そこまで大きくない卓なので下手に脚を伸ばせばそうなるのは必然だけど、触れたモノが不可解だった。そう、触れたのは誰かの手。そしてその犯人は、反応を見れば一目瞭然だった。

 

 

「あっ……」

「俺の脚に当たったのって、ことりの手か? それに何か落としたみたいだぞ――――って、えっ? これは……!!」

「あ、あはは、手が滑っちゃったみたい」

 

 

 ことりの手から落ちたであろう床に転がっているモノは、どこからどうみてもこの麻雀の牌だった。さっき手が滑ったとか言い訳を抜かしていたが、俺の脚が当たって手から牌が零れ落ちた時点で自然に落ちたモノとは到底考えにくい。それにことりの表情を見るに冷汗が半端なく、あからさまな動揺を浮かべていることからもはや事態を追及する必要もないだろう。

 

 

「ようやく尻尾を出したな」

「し、尻尾なら、さっきから着けてるよ……?」

「余計なネタはいい。これはどういうことか説明してもらおうか? あぁん??」

「こ、これは楓ちゃんに脅されて……」

「ちょ~~っと待ったぁあああああ!! お兄ちゃんの恥ずかしい姿を見たいから協力しようって言い出したの、確かことり先輩からですよね!?」

「楓ちゃん、それを言ったら……」

「あっ、しまっ……」

「なるほどな。ふ~ん、なるほど」

 

 

 なるほどなるほど、俺の屈辱的な姿を見たいがために結託して俺を潰そうとしていた訳か。何か裏があるとずっと睨んでいたけど、やっぱりコソコソ小細工をしてやがったんだな。

 

 

「己の欲求を満たすんだったら正々堂々と来い。イカサマなんて外道だぞ」

「亜里沙の豪運に紛れて上手く行くかなぁと思ってたけど、やっぱ悪いことはバレちゃうもんだね。いやぁ困った困った!」

「ハイテンションではぐらかそうとするんじゃねぇよ。卓の下で牌の受け渡しなんかしやがって、まあ気付かなかった俺も俺だけどさ」

「でもそうしないとゲームで零くんに勝てないから、これはことりたちの欲求不満を改善するために仕方のないことなんだよ!」

「逆ギレすんな!! つうか、お前らいつも発情してるんだから欲求不満になんてならねぇだろ!?」

「ことり先輩と一緒にされるとか心外だよお兄ちゃん!」

「ヒドイ楓ちゃん! 結託して零くんを陥れようとした仲なのに、仲間の友情を捨てるの!?」

「そんな腐った友情なんか捨てちまえ……」

 

 

 コイツら、イカサマを反省するどころか逆ギレして自分を正当化しようとしてやがる。そして挙句の果てには一時でも手を結んだ相棒すらも蹴落とす始末。全く、仲が良いんだか悪いんだか。どちらせよ無駄な足掻きで醜くて仕方がない。自分の欲求を満たすのは人間の本能だから抗えないけど、イカサマなんてズルいことをしちゃダメだぞ?

 

 とは言いつつも、振り返ってみれば俺も色々あったような? ほら、穂乃果が晒してきやがった俺の犯罪履歴を思い出すと……。うん、今は自分のことを棚に上げてもいいから忘れよう。自分に甘く、他人に厳しくって最高だな?

 

 

「でも最後の最後でバレちゃうなんて、ツイてないなぁ~」

「最後からこそ焦ってたんじゃないのか。それに亜里沙をお前たちに仕向けたおかげで、ちょっとは羞恥心を感じる格好になったみたいだし。それで動揺してたってのもあるだろ」

「えっ、じゃあ亜里沙が執拗に私たちの牌を拾って上がってたのって、お兄ちゃんの差し金!?」

「負け続ければお前らの余裕がなくなると思ってさ。そしたら案の定、こうやってボロを出してくれた訳」

「最初は一方的に攻撃するのってどうかと思ってたんだけど、悪を成敗するために心を鬼にしたんだよ。楓、反省した?」

「眩しい! 亜里沙が眩しくて直視できない……!!」

 

 

 いついかなる時も純真を忘れず、黒に染まった心の穢れを浄化してくれる亜里沙。そのおかげでことりと楓の邪な心も少しは洗い流されただろう。まあそれだけでコイツらの淫乱思考が治るとは思えないが、今日のところはイカサマがバレたショックが大きくてダメージも相当なので許してやるか。もちろんタダではないけどね。

 

 

「さて、明日は久々の練習だけど、お前らはその格好で参加してもらうから。イカサマの罰はしっかり受けてもらわないと」

「この格好!? 今にもオークに犯されそうなビリビリの服なのに!?」

「体操服なんて胸元が破れすぎて、下着見えちゃってるしな。でも別にいいんじゃね? この暑い中で練習するんだから、薄着に越したことはないだろ」

「薄着どころか見えちゃってるんだけど!?」

「そうだよ! ことりなんて、前も後ろも入っちゃってるのに……んっ、ふぁ♪」

「いや、俺はローターもアナルプラグもスイッチを入れろとは一言も言ってないんだが……」

「ふぇ? もうスイッチを入れるのが当たり前だと思ってたよ」

「それならそのまま練習に参加してくれ……」

 

 

 ずっとスイッチが入ってたってことは、休憩中もイカサマをしている間も、更にイカサマがバレて言い訳している間もコイツはずっと下半身の前後を大人の玩具で弄られていた訳か。それで割と平静を保っていられるあたり、相当開発されてんなコイツの穴……。

 

 

 そんな訳で、μ'sを混乱に陥れた麻雀バトルもこれにて閉幕となった。

 今回の教訓はただ1つ。己の欲求を飲んでも飲まれるな、それに尽きる。自分の欲求を満たすためであっても、イカサマをせずに正々堂々と立ち振る舞うこと。正規の手段で勝利をもぎ取ってこそ、敗者が地に這いつくばる姿を見るのは至高のメシウマとなる。言い換えれば女の子を堕としたいのなら、強姦やレイプではなくしっかりと恋人になってから堕とせってことだ。

 

 

「これが刺さったまま練習……。しかも零くんに観られながら……ちょっといいかも!」

 

 

 ことりみたいに負けることに快楽を感じることがないよう、コイツを反面教師にして生きような……。

 




 なんか最近亜里沙の株がどんどん上がっている気がしません?? 私が好きなキャラなので小説でも贔屓しちゃってるのが原因かもしれませんが、この小説では数少ない純粋な心を持ったキャラなので、他の子と比べて相対的に輝いて見えるのかもしれません。

 逆に言えばこうした純真キャラがいることで、ことりや楓のようなキャラも輝くのかもしれませんね(笑)



 次回はこころとここあが零君を襲撃する(!?)



新たに☆10評価をくださった

ささきちさん

ありがとうございます!

まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

こころとここあの自由研究

 とんでもない回が出来上がってしまった……


 

 いきなり汚らしい話題で申し訳ないが、『朝立ち』の経験がある人はいるだろうか。特に性的興奮を感じていないのに、朝起きると何故か男根が立っている現象のことだ。そもそも寝起きは寝惚けているせいで立っていることに気付かない人も多いだろうが、男の生理現象としてはよく見られる兆候だ。

 

 『勃起』は自律神経系によってコントロールされており、リラックス状態の時に機能する副交感神経によって起きるらしい。逆に切羽詰まっている時は交感神経が働くために、勃起は起きないそうだ。そして朝は人間が最もリラックスできる状態であるから、朝立ちをしてしまうという訳だ。

 

 ちなみに睡眠には周期的に交互に起こるレム睡眠とノンレム睡眠があり、夢を見やすいといわれるレム睡眠のときに特定の神経が刺激され、寝ている間に勃起してしまう。そしてレム睡眠は一晩に約90分サイクルで約4回訪れることに加えて、人が目覚めるのは浅い眠りのレム睡眠のときが多いため、これが朝まで維持されると朝立ちになるとのことだ。

 

 言葉だけを聞くと汚い話に聞こえるが、そのメカニズムは先程の通り詳細に研究されていたりする。しかも勃起不全(ED)の鑑別診断に応用されており、勃起不全が心因性のものであるかどうかを朝立ちや就寝中の勃起を用いてチェックできるのだ。だから特定の病気を診断する手段としても『朝立ち』は使われているため、汚らしい生理現象の括りで嫌悪するのはちょっと早計過ぎるかな。まぁ、だからと言ってこの話を誰と構わず披露するのは避けた方がいいと思うが……。

 

 

 どうして冒頭でいきなりこんな話題を出したのかって?

 それは今から数分前に遡る。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 気持ちがいい。そんな感覚で目を覚ましたのは久しぶりだ。まだ目を開けてはおらず、寝起きなため頭がぼぉ~っとしているが、それでも身体に走る快楽が自分を目覚めさせたということは分かった。人は太陽の光を浴びながら起きると気持ちの良い朝を迎えられると言われるが、そんなものよりもこの快楽による起床の方が格段に目覚めは良い。しかもなんだか血液が下半身の方に集まっている感覚がしたので、これは朝立ちしていると察することもできた。

 

 しかし、朝立ちをしているだけでこんな快楽を感じるものだろうか? それにさっきから継続的に何かが俺の下半身を刺激している、そんな感覚に苛まれていた。まだ目を開けていないので実際は何が起こっているのかは分からないが、寝起きの頭が段々目覚めてくると、自分の下半身が明らかに人的刺激を加えられていることに気が付く。しかも感覚的に下が脱がされているのは明白であり、更には唾液の音が聞こえてくる。

 

 もはや俺の布団の中で何が行われているかは言わずもがな。

 今にも自分の布団を引き剥がして寝込みを襲う犯人を特定したいところだが、身体に襲い来る快楽に身を任せたくなっているのも事実。

 

 

 だから、俺が取った手は――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おにーちゃんおはよう! いや、この時間だったら()()()()かな?」

「おはようございます、お兄様。お目覚めはいかがですか?」

「ここあ、こころ……」

 

 

 とりあえずズボンを履き、横になっている俺にのしかかる女の子たちの正体を確認する。

 矢澤こころと矢澤ここあ。にこの妹であり、下手をしたらアイツよりもよっぽど痴女な2人だ。ある出来事を境に事あるごとに俺を痴女り、もはやコイツらにとって俺との日常は日常生活ではなく()()()()となっている。それくらいコイツらは男という生き物、いや俺に興味津々なのだ。

 

 この状況を見て何からツッコミを入れていいのか分からない。だから1つ1つ謎を紐解いていこう。まあ謎を解いたところでコイツらのことだ、またロクでもないことに巻き込まれるのは目に見えていた。

 

 

「聞きたいことはたくさんあるけど、まず1つ。どうして俺の寝込みを襲った?」

「おにーちゃんのち〇こが見たかったからだよ!」

「ぶっ!? 直球過ぎるだろ!? もっとオブラートに包め!!」

「おにーちゃんのおち〇ちんが見たかったから!」

「変わってねぇから! "お"を付ければ丁寧語になると思ったら大間違いだぞ!?」

 

 

 そもそも下品な言葉に丁寧語があるかどうかすらも怪しいが、どうであれ女の子が発していい言葉ではない。まあ一部の界隈では女の子の淫語を喋らせることで興奮を覚える変態もいるみたいだけど、俺はそんな偏った性癖は持ち合わせていない。だから女子中学生のここあからそんな言葉が出てきた時は、柄にもなく噴き出してしまった。

 

 

「ここあ、ちゃんと説明しないと伝わらないでしょ。ゴメンなさいお兄様、私から説明しますから」

「そんな改まって説明するほど重要なことなのかこれ……。まあいいや、続けて」

「はい。私たちは、男性の『朝立ち』なるものを見てみたかったのです」

「お前もここあに負けず劣らず直球だな……。で、どうして?」

「学校の保健体育の授業で、男子たちがその話をしていたんです。聞けばここあの学校でも男子の間でその話題が蔓延しているとかどうとか。だから気になっちゃったんですよ」

「いやいや気になっちゃったんですよじゃなくて、どうして興味持っちゃったかなぁ!?」

「そりゃおにーちゃんのせいだよ。男子たちの話を盗み聞きしてから、私もこころもおにーちゃんの朝立ちってどんなのだろうって、ずぅ~~っと頭の中がいっぱいなんだから!」

「な゛っ、えぇっ!?」

「お兄様の逞しいあそこが妄想となって脳内にこびり付き、私もここあも授業中は愚か、食事中やお風呂の中、寝る時までその妄想で頭がいっぱいだったんです」

「ソーセージとかバナナとか、棒状のモノを見るとおにーちゃんのアレを思い出しちゃうくらいにね!」

「そ、そう……」

 

 

 ことりや楓の会話も相当逝っちゃってるが、それ以上にコイツらの会話は危険だ。羞恥心など一切ない怒涛の猥談に、流石の俺でも相槌しか打つことができない。そんな会話をしているのが高校1年生と中学3年生の女子というのが驚愕に拍車をかけており、もはや何をどうやって反応したらいいのか分からなくなっていた。

 

 そもそも、その男子たちが学校で余計な話をしなければこんなことにはなってなかったのに、全く面倒なことをしてくれたもんだ。まあ思春期真っ盛りの男子は猥談をしたくなるもの。数年前に思春期を経験した俺なら身に染みて理解できる。とは言いつつも今でも猥談をしない訳じゃないが、コイツらのレベルには到底追いつけない(というか追いつきたくない)ので俺の猥談など可愛いものだろう。

 

 

「なんとなく事情は分かった。朝立ちがどういうのか気になったから、わざわざ俺のベッドに忍び込んで痴女ってた訳か」

「その通りです。それに、朝ごはんも頂けましたし!」

「お、お前……!!」

「フフッ♪」

 

 

 こころは口元に付着していた白の液体を人差し指で拭うと、俺に見せつけるようにペロリと舐める。その仕草が俺の好みにドストライクすぎて思わず興奮してしまうが、ここで熱くなったらコイツの思う壺なので必死に耐える。その白いのが何なのかは敢えて言わないが、つまりそういうことだろう。

 そして同時に、この2人にまたヤられてしまった事実に衝撃を受けた。2人はもう高校生と中学生なのでロリっ子ではないものの、JKとJCに朝抜きされる背徳感はゾクゾクしつつも後ろめたいモノがある。相変わらず節操ねぇよな俺って……。

 

 

「美味しかったよ! おにーちゃんのせい――」

「おっと、その言葉は言わせねぇよ!!」

「じゃあ、お〇んぽミル――」

「だから言わせねぇって! もうほとんど言っちゃってるけどさ」

「む~! じゃあ単刀直入に"種子"でいいや」

「それはそれでどうかと思うが……」

 

 

 ここあは勉強が苦手で、特に英単語を覚えるのが大の苦手らしい。でもこうした淫語の知識だけは豊富に蓄えているようで、さっきのように『精液』という言葉をありとあらゆる言葉に変換することに関してはプロ並みだ。そんな単語を覚える暇があったら英単語の1つや2つ覚えろよ……。

 

 

「そもそも、男の朝立ちが見たいなら身近に虎太郎がいるだろ? どうして俺なんだよ」

「えっ、弟の朝勃ちを見るなんてあり得ませんよ。そんな変態じゃあるまいし」

「姉弟でえっちなことをするなんて、変態のおにーちゃんや楓さんと一緒にしないで欲しいよね」

「お前らよくそんな口が叩けるよな……」

 

 

 今までの発言を全て棚に上げ、自分たちよりも俺たち兄妹の方が変態だと言い張るその度胸。あまりにも堂々としているから、思わずこっちがおかしいのかなと少し勘ぐってしまった。もはや清々しすぎて言い返す気にもならねぇよ。

 

 

「話を戻しますけど、朝立ちって不思議ですよね? 卑猥な夢でも見てるんですか?」

「確かに要因としては考えられるけど、結局はただの生理現象だ。だからそんなものを見ても面白くないと思うけどな」

「面白いよ! だっておにーちゃんのこれ、私たちが触るたびにピクピクしてて可愛かったし♪ いきなり白いのがぴゅっぴゅした時は流石に驚いたけどね」

「だから、その言い方はやめろって言ってるだろ……。つうかお前ら、ずっと俺のを見てた訳?」

「うんっ! 夏休みの自由研究のために、こころと観察してたんだ」

「ぶっ!? な、何してくれちゃってんの!?」

「本当はしぼんでいる時から大きくなる過程を観察しようと思ってたんですけど、私たちが来た時はすでにビンビンだったんですよね。残念です」

「小学生のアサガオ研究みたいに言わないでくれ……」

 

 

 何がやりづらいかって、コイツらはことりたちのように狙ってこのような会話をしている訳ではないってことだ。至って真面目に、子供の純粋さと好奇心を発揮している。だからなのか、こちらからツッコミを入れたとしても、コイツらはどうして自分たちが咎められているのか分からずきょとんとしている時がある。そのせいでことりや楓なんかよりもよっぽどやりにくいんだ。

 

 なんにせよ2人の興味を朝立ちから逸らさないと、永久に俺の下半身が狙われる羽目になる。さっき穴が空くほど俺のを観察してたって言うのに、未だに俺の身体に跨ったまま離れようとしないってことはまだ満足してないってことだろう。美少女JKとJCに下半身をまじまじと観察されるなんて、羞恥プレイにもほどがあるぞ……。

 

 

「なぁ、そろそろこの話やめねぇか? 俺が寝ている間に色々やったんなら、それでいいだろ」

「う~ん、それじゃあ最後にもう一回大きくして!」

「はぁ!? んなことできる訳ねぇだろ!!」

「えぇ~? でないと観察日記の絵が描けないよ。せっかくスケッチブック持ってきたのに~」

「だから、アサガオの成長記録じゃないんだからやめろってば」

「でも、男性器は別名"男根"とも言います。字面だけを見れば植物に見えませんか? つまりそういうことですよ」

「どういうことかさっぱりなんだが。とにかくスケッチはダメだ」

「もうおにーちゃんてば、さっきからダメダメ言い過ぎ! あまり子供を縛り付けると成長の妨げになるんだよ??」

「変な知識が成長しないよう頑張って食い止めてやってんだから、ちっとは感謝して欲しいもんだけどな……」

 

 

 さっきまで痴女全開だったくせに、時たま正論紛いな発言をしてくるためタチが悪い。もはやツッコミを入れるだけでも疲れてくるが、抵抗しなければ本当に男根をスケッチして学校に持ち込みそうなのが怖い。もしそうなったら幼気な少女にグロデスクな絵を描かせた鬼畜な男として、学校から俺に指導が入るかもしれない。痴女られて困っているのは俺なのに、世間からの飛び火はこちらに降りかかってくるとか何たる理不尽。全く、JKとJCってその立場だけでも後ろ盾があるからズルいよな。最近は話しかけるだけでも痴漢扱いにされるってのに、はた迷惑な話だ。

 

 

「仕方ない。こころ、あの手を使うしかないよ」

「あの手……。お兄様を困らせてしまうのであまり使いたくなかったのですが、この際仕方ありません」

「今でも十分困ってるんですけど??」

「この動画を見てください」

「なんなんだよ一体――――――ん? そ、それはっ!? 貸せ!!」

「おっと!」

 

 

 こころのスマホを奪おうとしたが、彼女はこうなることを事前に予期していたのか軽やかな動きで俺の手を避ける。

 どうして俺がコイツのスマホを奪いたかったのか。それはお察しの通り、動画の内容が原因である。

 

 

「ど、どうしてあの時の光景が動画に……?」

「だって、あの時は私とここあが性に目覚めた日ですから♪ 零さんに無理矢理しゃぶらせられて、性的快楽を刻み込まれた運命の日。その記念として、こっそりと動画を撮っておいたんです。アルバムのように思い出として残そうと思っていたんですけど、まさかこんな風に使う時が来るとは……」

「そ、そんな……マジかよ」

「おにーちゃんは何も知らない私たちを、性教育と騙してしゃぶらせたんだよね? おにーちゃんは私たちにえっちなことをしたのに、私たちからはやっちゃいけないの? 不公平だよねぇ??」

「それはその、若気の至りってやつだ。それにお前らも大きくなって事の重大さが分かってんだろ? だったら尚更こんなことはやめた方がいいぞ……?」

「あの時の私は中学1年生で、ここあは小学生でした。何も知らない小さい子にしゃぶらせる方が、事の重大さは大きいと思いますけど」

「何も言えねぇ……」

 

 

 あの時の俺は紛うことなき性欲魔人で、まだ中学生と小学生だったコイツらで性欲処理をすることしか考えていなかった。それにまだ幼い2人のことだから、後々にスキャンダルになる可能性もないだろうと考えていたんだ。

 でも蓋を開けてみると、こうして動画を撮られて脅しの材料に使われている。ロリっ子を騙してダブルフェラをさせている動画をバラまかれたくなかったら、下半身を晒して大きくしろと言いたいのだろう。やっぱりコイツらはにこの妹、姉の狡賢さをしっかり受け継いでいるらしい。

 

 

「そういえば、ち〇こってしゃぶれば大きくなるんだよね? だったら私たちがまたしゃぶってあげるよ!」

「それはいい考えかも。私たちは大きく成長した男根をスケッチできるし、お兄様は気持ちよくなれる。これぞwin-winですね!」

「確かに一時の快楽は味わえるけど、前みたいにまた動画を撮るってのなら素直に頷けねぇぞ……」

「見せてくださるのなら今回は撮りません。加えてしゃぶらせてくれるなら、この動画も削除しましょう」

「マジ?」

「マジです」

 

 

 さっきから頭ごなしにコイツらの言うこと言うことを否定してきたが、冷静に考えるとこれ以上にオイシイ展開はないのではなかろうか? 本来なら女の子に奉仕させようと思ったら、何万もの大金を積んで怪しい大人の店に出入りしたり、逮捕覚悟で女子高生の援助交際を引き受けるしかない。でも今は女の子が自ら進んで奉仕を依頼してくることに加え、この子たちの容姿は思春期男子の性欲が滾るほどの美少女だ。こんな夢のような立場は、幾多の女の子を手籠めにしてきた俺にしか到達できない状況である。

 

 据え膳食わぬは男の恥という言葉通り、ここは快楽に身を任せても良いのでは……? 前はコイツらが幼過ぎて犯罪臭がプンプンしていたが、今は高校生と中学生なんだ。性教育の自由研究と銘打てば許されるだろう。

 

 もちろん高校生と中学生でもアウトなので完全に俺の感覚がマヒしてるけど、ここで引いたら負けな気がする。JKとJCに脅されて屈服するのも、男のプライド的になんか癪だしな。

 

 

「分かった。そこまで言うのなら好きにしろ」

「やった! じゃあ早速」

「がっつくな。その代わりとして、スケッチも撮影もなしだ。前みたいに3人だけの秘密にするってのなら考えてやらなくもない」

「だって。どうするこころ?」

「まあ私たちの最優先はお兄様のおち〇ちんをご奉仕して、勃起する様子をこの目で確かめることです。その目的が達成できるのなら、お兄様の意見で手を打ちましょう」

「もうこの際だからどうだっていいけどさ、卑猥な言葉を使うことに抵抗はねぇのかよ……」

「それはおち〇ちんを下劣な目で見ているからいけないのです。お兄様のあそこは立派で逞しくて、もはや芸術の域に達していました。私としては、美術館にお兄様のその模型が飾られていても不自然ではないと考えています」

「男根崇拝者かよ救えねぇな……」

 

 

 こころはビッチ系女子とはまた違う、偏った独特の淫乱性を秘めている。このままだと将来は本当に男根研究家になりかねないぞ……。

 とにもかくにも、コイツらがどうしても俺の下半身を見たいというのなら、たまには我儘を聞いてやってもいいだろう。ほら俺って教師だからさ、学生を教育する義務ってもんがあるんだよ。だからこれも教育の一貫であり、決してJKとJCに奉仕させる背徳感を味わいたい訳じゃない。昨今は中学生は愚か小学生ですらネットで性知識を得る時代なので、コイツらが時代遅れにならないようここで教育しておくんだ。

 

 ――――って、それっぽいけどメチャクチャな言い訳で場を納得させようとする手法は、もはやコイツらと一緒だな……。いや、むしろ俺からコイツらに性格が伝染したと言った方がいいのか? 矢澤家の人たちスマン、将来有望な少女たちを心の底から穢しちまった。

 

 

「許しも出たことだし、それでは失礼しま~す!」

「おいここあ、急に触んな敏感なんだから!」

「あっ、そうだったそうだった。おにーちゃんが寝てる時にも強く握ってみたけど、私の手の中でビクビクしてて可愛かったなぁ♪」

「子供の玩具じゃないんだから、もう少し丁寧に扱ってくれ」

「そうだよここあ。お兄様が勃起不全になったら、私たちはこれから誰のモノを見て生きていけばいいのか分からなくなるでしょ?」

「確かに!」

「お前ら男の生殖器にどれだけ人生捧げてんだよ……」

 

 

 ここまで男の下半身に興味津々だと、クラスメイトの男子の下半身も気になったりしているのだろうか? もしそうだとしたら本格的にビッチ系なので、個人的には俺のだけで満足して欲しいもんだ。まあコイツらが他の男に興味を持って欲しくないっていう、俺の願望もちょっとは入ってるけどね。ま、これまでの会話を思い出すとそんな心配も杞憂だってことくらいすぐに分かるけど。

 

 

「それではお兄様、改めて失礼します。2人で心を込めてご奉仕しますので、お兄様は身体の力を抜いてリラックスしてください」

「あ、はい」

「それじゃおにーちゃん、いただきまーす!!」

 

 

 また黒歴史のページを1つ更新してしまったか。でも人生の汚点になってしまおうが、俺は快楽の虜になる道を選ぶ。だってもう俺の人生は汚点と犯罪歴ばかりなんだ、今更女子高生と女子中学生にしゃぶらせたところで刑罰は変わらない。だったら倫理観など捨てて、突っ切るところまで突っ切ってやる。

 

 

 こころとここあが布団に潜り込む、その時だった。

 突然、何の前触れもなく俺の部屋のドアが開く。こころとここあの暴走を止めたり、自分の欲求と戦っている内に忘れていた。俺には同棲している妹がいることを。

 

 

「お兄ちゃ~ん、起きた? もうすぐお昼なんだし、いつまでも寝てたら……って、へ?」

「あっ、楓さんだ。やっほーっ!」

「楓さん、お邪魔してます。合鍵はお姉様から奪っ――――借りました」

「お前さっき奪ったって言った?? それに合鍵って何だよ、にこが持ってるなんて知らねぇぞ俺!?」

「お兄ちゃん……」

「い、いやこれは……」

 

 

 ヤバい。楓は俺との2人きりの空間を何より大切にしているので、この家にはあまり女の子を上げさせたくないと思っているのだ。しかも幼気な女子にパンツを脱がされそうになっているこの構図を見たら、楓がヤンデレのごとく俺を攻め立てるだろう。そうなるとご機嫌取りが非常に面倒なので、何とかこの場を沈静化しないと……!!

 

 

「お兄ちゃんの…………お兄ちゃんのソレは私だけのモノだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「そっちかよ!?!?」

 

 

 その後、楓の暴走を止めるのに数時間を要した。

 そのいざこざのせいで結局こころとここあの奉仕もお流れになっちゃったし、結果的に黒歴史が刻み込まれただけ損じゃね……?

 




 話の内容は危険度増し増しでしたが、個人的にはこの小説トップクラスの神回だと自負しています(笑)
相変わらずアニメとは似ても似つかないキャラになっていますが、私からしてみるとこの2人をサブキャラにしておくのは勿体ないくらい好きです!()



 次回はA-RISE回となります!




まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

A-RISEの恋人大作戦!?

 今回はサブタイ通りA-RISE回です。
 A-RISEの登場が久々過ぎて、この小説ではどんなキャラだったのか忘れちゃったのは内緒()


 UTX学院。都内には星の数ほどの高校があるが、毎年の志望数はこの学院がぶっちぎりだ。

 もはや学校と言っていいのか分からないくらい大規模で最先端の高校であり、出入りはICカード認証方式でゲートを介していたり、海外留学のプランも充実している。 また、芸能プロダクションとのコネも厚く、この学院から排出されたアイドルや芸能人も少なくはない。このように海外進出や芸能界デビューといった将来設計が充実しているからこそ、勉学以外の目的で入学する人も多いのだ。

 

 今や世界的にも有名なUTX学院だが、学院の名を世界に知らしめた最大の要因はA-RISEの存在だろう。スクールアイドルのパイオニア的な存在のA-RISEは、日本だけでなく世界にスクールアイドルたるものを認知させた張本人である。その圧倒的なカリスマ性とパフォーマンス力、メンバーの美貌とプロポーションは全国、全世界に衝撃を与えた。

 アイドルといえば学生時代から養成所に通い、勉学は二の次であることが多かった。だがA-RISEはその根底を覆し、勉学とアイドル活動を両立させるスクールアイドルというものを確固たるものにしたのだ。普通のアイドルに比べるとスクールアイドルは芸能界に踏み込まない以上活動の敷居が低く、女の子なら誰でも手軽に始められるのが魅力だ。その煽りを受けて結成されたのがμ'sであり、A-RISEがいなければ今の穂乃果たちはなかったと言ってもいいだろう。

 

 

 そんな物凄い奴らを輩出した学院に、俺は来ている。

 相変わらずそこらの大学のキャンパスを嘲笑うかのような雄大な内装に、観光地に来たのかと錯覚してしまう。今は夏休みなので生徒もおらず、そのせいでこの広大な校舎(というかオフィスに近い)が余計に広々と感じる。もはやここまで美麗だと、一般人の俺からしてみりゃ目に毒だな……。

 

 ちなみに俺がここへ来た目的は、とある人物に呼ばれたからなのだが――――

 

 

「お~い零く~ん! こっちこっち~!」

「ツバサ……?」

 

 

 2階のテラス席から、A-RISEのツバサが1階のエントランスにいた俺に手を振る。

 そう、俺がここに来た目的はA-RISEに会うためである。昨日の晩に英玲奈から連絡を貰い、相談に乗って欲しいからUTXに来てくれないかとお願いされたのだ。そもそもA-RISEから連絡が来ることすら珍しいのに、堅物な英玲奈から直々にお願い事をされるなんて微塵も想像していなかった。つまり、珍しいからこそ切羽詰まっている状況なのかもしれない。

 

 俺は2階のテラス席へ上がり、A-RISEの3人共に丸テーブルを囲む形で椅子に座った。

 

 

「突然呼び出して済まない。足を運んでくれたことに感謝するよ」

「別にいいって、暇だったし。でもどうしてツバサとあんじゅまでいるんだ?」

「ちょっと、ナチュラルに除け者にしないでくれる?」

「英玲奈ちゃんの悩みは私たちの悩みでもあるんだよ。それにツバサちゃんや英玲奈ちゃんだけで零くんに会わせると、何かと心配だしね」

「「どういう意味?」」

「フフッ♪」

 

 

 あぁ、なんとなくあんじゅが言っている意味は分かる。ツバサはA-RISEのリーダーでカリスマ性は非常に高いものの、どこか抜けてるところがあるっつうか、大人っぽい英玲奈やあんじゅと比べると子供っぽい言動も多い。英玲奈はさっきも言った通りそこそこ堅物人間なので、会話相手からしてみれば彼女の感情が伺えず、コミュニケーションに苦労するってのは分からなくもない。恐らくあんじゅの煽り文句はそういう意味だろう。

 

 

「話の前に聞きたいことがあるんだけど、どうして集合場所がここなんだ? お高くまとまってる建物って、入るの緊張するんだよなぁ」

「そこらの喫茶店なんかに比べたらとても快適だと思うけど? それに今は夏休みで人も全然いないし、相談事をするにはピッタリの場所だからね」

「ふ~ん。でもお前らは卒業生で俺は部外者だ。学園関係者じゃないのに勝手に入っていいのか?」

「私たちはここでスクフェスの練習をしているんだ。UTXの意向でな」

「スクフェスに参加することを条件に、UTXの練習所を貸してくれたのよ。ここは一般の練習施設よりも、設備が格段にいいからね」

「はぇ~卒業生に対してのアフターサービスまで充実してるなんて驚いたよ。暑い屋外で練習してるμ'sやAqoursが羨ましがるだろうなぁ」

 

 

 聞く話によれば、UTXの施設はアイドル養成所としても使われているらしい。しかも将来有望で期待されている女の子ばかりが集められるため、その点でもここの施設が他とは比べ物にならないことが分かる。最高の人材に最高の設備、UTXによる最高の教育者に指導されたら、そりゃA-RISEのようなトップカリスマのアイドルが定期的に輩出されるのも頷ける。

 

 そう考えると、μ'sやAqoursがいかに過酷な環境で練習してるのかを実感できるよ。まあUTXが異端過ぎるだけかもしれないけど……。

 

 

「話の腰を折って悪かったな。そろそろ本題に入ろう。相談事があるって言ってたっけ?」

「そうだ。今に始まったことじゃないんだが、最近は特に困っている」

「どういうことだ?」

「これを見てくれ」

 

 

 英玲奈はテーブルの上に大量の紙切れや封筒を並べた。最初はゴミでもぶちまけたのかと思ったが、並べられた紙切れや封筒はどれもこれも装飾が凝っていて、まるでクリスマス等のパーティで使用される派手なモノだった。

 

 つうか、これってよく見なくても――――――

 

 

「お前らへのファンレターか?」

「あぁ、これ全部な」

「相変わらずすげぇなお前ら。それでこれがどうした? 自分たちの人気を自慢でもしたいのか?」

「そんな訳ないでしょ! これで困ってるのよ私たち!」

「はぁ?」

 

 

 これだけたくさんのファンレターを貰っておきながら微妙な顔をしてるなんて、いいご身分だなコイツらも。

 まぁそんな冗談はさて置き、ファンの多さに困らせられるのはトップアイドルには付き物の悩みだ。どんなことで悩んでいるのかは詳しく知らないが、これだけ大量のファンレターを貰うコイツらの魅力を改めて実感させられた。μ'sもA-RISEと同等程度には有名だが、こうファンレターをたくさん貰うことはない。これも芸能活動でメディアデビューしているA-RISE特有の人気であり、同時に悩みでもあるのだろう。

 

 

「最近ね、ちょっと過激なファンが多くなってきたのよ。特に目立つのはストーカー紛いの行為かな」

「マジ? まあ世間を賑わすアイドルになった以上ある程度は仕方ないけど、そこまでヒドイのか……」

「私やあんじゅはまだマシな方だけどね。英玲奈には熱狂的なファンも多いから」

「英玲奈ちゃんはクールで、女の子なのに男前っていうのが一部の女性ファンから熱烈に支持されているのよ」

「おい待て。さっきストーカーって言ってたけど、それ男じゃねぇのか?」

「9割9分女性だ。女性に好かれていると聞かされても、どう反応していいのか分からないが……」

 

 

 確かに、A-RISEのメンバーはどいつもコイツも熱狂的なファンができるほどのキャラを誇っている。

 ツバサはリーダーとしてのカリスマ性を前面に発揮しつつも、小柄で幼い顔つきは大人の魅力と同時に愛くるしさも感じられる。そのため、男性ファンからも女性ファンからも多大な指示を集めている。

 あんじゅはその柔らかい物腰と甘々とした雰囲気、そして出るところは出て引き締まっているところは引っ込んでいる抜群のスタイルにより、男性ファンが圧倒的に多い。やはりエロいカラダってだけでもアイドルとしてはステータスだと、彼女の人気を見れば分かるな。

 英玲奈は女性が羨むほどのプロポーションを持ち合わせ、その気品と振る舞いはプロのモデルと何ら遜色ない。更に女の子ながらにイケメン成分もふんだんで、男装をした暁には女性ファンが卒倒するほどらしい。胸が小さいことを気にしているらしいが、まあここでは黙っておこう。

 

 

 このように、ツバサの可愛さ、あんじゅの艶やかさ、英玲奈のクールさが見事にブレンドされているのがA-RISEである。個々の魅力が半端なく際立っていながらも共通点がない訳ではなく、3人のアダルティックで妖艶な雰囲気は全国を惹きつけた。それを踏まえると、熱狂的で過激なファンが現れてしまうのは仕方のないことだろう。

 

 

「あぁ、なんとなくお前らの悩みが分かったよ。ヤバいファンがいるからなんとかしてくれ、って感じか?」

「単刀直入に言えばその通りだ。ファンを悪く言うつもりはないが、最近は帰宅している間もずっと後を追いかけてくる人がいてな、非常に迷惑している」

「英玲奈には女性ファンが多いのが、せめてもの救いだけどね。男性だと何されるか分かったものじゃないし……」

「でも英玲奈ちゃんの女性ファンは過激な人が多いから、警戒するに越したことはないわ。実際問題、朝早くからファンに付きまとわれたせいで練習に遅れることだってあるくらいだし」

「マジか。練習に支障あるじゃんそれ」

「そうなんだ。だから……」

「だから、なんだよ?」

「い、いやそれが……」

 

 

 さっきまで沈んだ顔をしていたのに、今の英玲奈は頬をじんわりと紅くしている。それに何故か俺と目を合わせようせず、クール系のコイツらしからぬ乙女な表情を見せている。相談を持ち掛けてきたのはそっちなのに、お願いする直前で口籠ってどうすんだよ……。

 

 対してツバサとあんじゅは、何やら悪そうな顔をしてニヤついている。どう見ても相談事をお願いする立場とは思えない表情だが、もしかして何か企んでんのか……? でも過激なファンの話をしている時のコイツらは本当に困ってるみたいだったし、もう訳分かんねぇわ。

 

 

「おい、俺にさせたいことがあるんだろ? ならサッサと言ってくれ」

「や、やってもらいたいことは――――――私たちの、恋人になってくれ」

 

 

 

「…………は」

 

 

 

 

「ほら、やっぱり! そんな反応をされるから言うのがイヤだったんだ!」

「いやぁ英玲奈は頑張った! 頑張ったよ!」

「いつもクールでちょっとはそっとでは表情も崩さない英玲奈ちゃんが、まさかここまでとは……ウフフ♪」

「絶対にいつか仕返ししてやる……」

 

 

 えっ、なに? 恋人?? 誰が? 誰の?? 俺が……A-RISEの!?

 ツバサたちだけで話が進行し、お悩み解決のキーマンである本人が置いてけぼりになっている事実。確かに英玲奈の砕けた表情は珍しいので一見の価値はあるが、それ以上に何故この流れになっているのかが気がかりでならなかった。

 

 

「そっちだけで話を進めないで、ちゃんと説明してくれ。恋人ってどういうことだ?」

「すまない。この2人の悪ふざけだ」

「悪ふざけじゃないよ。これも立派な作戦なんだから」

「まさかとは思うが、お前らの恋人役になることで、ファンの奴らを近付けさせないようにするっていう古典的な策じゃねぇだろうな……」

「あっ、よく分かったね!」

「マジだったのか……」

 

 

 シチュエーションの違いは多少あれど、これはアニメや漫画でよくあるパターンだ。女の子がチャラい男や金持ち坊ちゃんに言い寄られて困ってるから、主人公の男に恋人役をお願いする典型的なシチュエーション。そのパターンって最後には嘘がバレちゃうことが多いけど、2人の距離はグッと縮まるんだよな。

 

 もしかして、この依頼を引き受ければA-RISEの恋人になれる……かも? 3人をそういう対象で見たことは今までなかったが、恋人になるってのは仮に役であっても緊張する。だってあのA-RISEだぞ? 世界的にも一番有名なスクールアイドルと言ってもいいのに、そんな子たちと疑似的に付き合えるとか、普通の男ならいくら大金を積んでも叶わない夢だ。それを今回はタダで、しかも向こうが懇願しているため立場は俺の方が優位。こんなシチュエーションがあっていいのか本当に……?

 

 ん? 待てよ。そういや英玲奈の奴、さっきなんつってた? 

 俺の耳には『私たちの』って聞こえた気がするんだが、もしかして……!!

 

 

「なぁ、一応聞くけど、恋人って誰の恋人役になればいいんだ……?」

「えっ、私たち3人共のだけど……」

「はぁ!? 3股の恋人なんて最低な役できるか!! あっ、うん……できるかっての」

「なんで最後ちょっと弱くなったの……」

 

 

 最初はA-RISE3人の彼氏役と聞いて驚いたが、よくよく考えたらリアルでもμ's12人の恋人をやってるので、コイツらを問い詰めるに問い詰められなくなってしまった。俺がたくさんの女の子と付き合っていることはこの3人には言ってないので、そのせいで3股の彼氏役なんて無謀すぎると素直に言えないのがもどかしい。秘密を明かしていればネタとしてツッコミを入れられるのだが、今の状況だと多少の後ろめたさがなぁ……。

 

 

「でも、どうして3人の恋人役なんだ? 一番困ってるのは英玲奈なんだろ?」

「だって英玲奈だけ零君と付き合えるなんてズルいじゃん……じゃ、じゃなくて、少なからず私とあんじゅも被害を受けてるからだよ!」

「もう、ツバサちゃんったらヤキモチ焼いちゃって、可愛い♪」

「ちょっ、あんじゅ!」

「そもそも私は彼を恋人役にするって作戦自体、あまり乗り気ではないのだがな……」

「なるほど。ツバサの暴走で無理矢理この作戦を決行させられた訳か」

「べ、別に暴走なんて……!! せっかくの機会なんだし、久しぶりに零君と……って、私の話はいいの!!」

 

 

 メディアを通してツバサを見ると、もはやプロのアイドルと何ら変わりない風格で、同じ学年なのにどこか遠い存在に感じたこともあった。でもこうして子供っぽい言動を見ると、やっぱり年相応、いや小学生並みの駄々っ子で微笑ましくなってくるよ。コイツが純情乙女なのは前から知ってるが、自分の欲求を満たすために英玲奈の悩みすら利用するとは恐れ入った。もちろん英玲奈の悩みを解決してやりたい意識も強いと思うけど、己の欲望を果たすために男に恋人役を頼むなんて凄い度量だ。

 

 

「英玲奈はいいのか? ツバサの案に乗っちまって?」

「他にいい案が思い浮かばないから仕方ないな。私たちのマネージャーや事務所の人もこの問題には手を焼いていて、公的組織としてファンを無下にすることができないんだ。その点、君なら個人的な事情ってことで依頼できるし、ボディガードとしても安心できる」

「なるほど。でもその事務所やマネージャーさんは俺を容認してくれてんのか?」

「そこは心配しなくても大丈夫よ。なんたって、事あるごとにツバサちゃんが零君の自慢話ばかりしてるから、あなたの知らないところで信頼が築き上げられてるの」

「あんじゅ!? だからそれは言わないって約束だったでしょ!?」

「別に約束を守らなきゃいけないって確約はしてないし、それに守ったところで私に得はないもの。フフッ♪」

「あ、悪魔だ……」

 

 

 A-RISEって意外とフレンドリーっつうか、ここまで煽り煽られの仲のいいグループだったんだな。仲が悪いとは言わないが、A-RISEのメンバーはUTXの選抜試験によって選出された人員で構成されているため、友達関係というよりかはビジネスパートナーの関係性の方が強いと思っていた。でも今の彼女たちの会話を聞いている限りでは、お互いの悩みを真剣に解決しようと奮闘するくらいの絆で結ばれていることが分かる。まあ今回はツバサの欲望が混じっていたりもするが、結果的にそれも英玲奈のお悩み解決策となっているため、彼女もツバサの提案を安易に蹴れなかったのだろう。

 

 それにしてもさっきのあんじゅの話、俺のいないところで引き合いに出されてたって本当かよ……。俺はコイツらの事務所のことも知らなければ、マネージャーさんすらも面識がない。しかも世界にすら名を馳せているコイツらと、ただの一般人である俺が親しくしてるのって、下手をしたらスキャンダルになるんじゃないのか??

 事務所やマネージャーさんが出会ったことすらない俺を信頼してるってことは、コイツらが俺のことを相当よいしょしてくれているに違いない。少なくとも変態だのなんだのあらぬ噂は吹き込んでないみたいだから安心したよ。ツバサの奴、最近は全然会ってなかったのに俺のことをそこまで頻繁に話題に出していたなんて、もしかして俺のこと……?

 

 

「と、とにかく、零君は今日から私たちの恋人役ね! 特に英玲奈に対しては積極的に触れ合うこと。そうしないと厄介払いできないから。ま、まぁ手が空いたら私でも……」

「恋人役って言ったって、お前らちゃんと彼女らしく振舞えるのか? 俺は女の子慣れしてるから余裕だけどさ」

「まあそこは……アイドルだから!」

「イマイチ信用できないけど、別にいっか。英玲奈もあんじゅも、ちゃんと俺の彼女役になり切れるか? 下手な演技で嘘がバレる、なんて寒い事態はゴメンだぞ」

「何を言ってるのかしら。あなただからこそ役にのめり込めるんじゃない」

「えっ、そ、そっか……」

「そうだな、私もその……君だったら……いいかもしれない」

 

 

 ツバサとあんじゅは最初から乗り気っぽかったが、意外と英玲奈もやる気ではあったんだな。最初は難色を示していたから、相手が俺だったら恋人役になってもいいと言ったことに驚きだ。つまり、ツバサの作戦にボロがあるから抵抗していたのではなく、ただ単に恥ずかしかったから臆していただけなのだろう。こうして対面で話しているだけでも3人の意外な一面が明らかになって、正直面白いよ。

 

 ツバサは想像以上に子供っぽい一面が、英玲奈は乙女チックな一面が、あんじゅは小悪魔的要素があり、この面をもっと強く押し出せば魅力のギャップで更にファンが増えそうだ。まあコイツらからしてみれば、今は過激なファンに困っているのであまり目立ちたくはないだろうがな。

 

 

「それじゃあ早速、デートといきますか」

「は? デート? 今から??」

「もちろん、善は急げって言うでしょ」

「善なのかこれは……」

「細かいことは気にしないの! さあ行くよ!」

 

 

 こうして、A-RISE3人の恋人役という最低で最高な役回りを任されてしまった。超絶美人のこの3人と肩を並べて歩けるだけでも相当なご褒美だが、過激なファンの矛先が俺に向きそうなのがちょっと怖いくらいかな。ま、その時は3人の女の子を侍らせている様子を見せつけて、間に割り込むなんて気持ちすら沸かせないくらいに嫉妬させてやるか。

 

 

 

 

 

To Be Continued……




 A-RISEってアニメや映画でもそこそこ登場したのに、それ以外のメディア展開がないのが残念です。1作だけでもスピンオフがあってもいいのにと思ってしまいますが、英玲奈の声優さんが引退しているので、もうそれすらも難しいのかな?
 その代わり、この小説ではA-RISEの魅力をたっぷり伝えられたらなぁと思います。


 次回は疑似デート作戦ですが、A-RISEの3人は零君のことが気になるようで……


まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

偽りの恋人

 今回はA-RISE回の後編です。
 成り行きでA-RISEの恋人役になった零君ですが、世界から注目されるアイドルとのデートは一筋縄ではいかず……


 

「どうしてこんなことになってんだ……?」

「零君なにしてるの? 早く行くよ」

「お、押すなって!」

 

 

 A-RISEの恋人役になったはいいが、3人同時にデートする必要はあるのだろうか……? ただでさえ個々人がとても目立つのに、3人並んで歩いていたら注目の的になるのは避けられない。更に男と一緒に歩いてるとなれば、ファンの間で物凄い勢いで情報が拡散されることだろう。

 

 男が近くにいれば確かにストーカーは減るだろうが、それとは別に今度はスキャンダル云々の問題が出てくる気がする。この作戦、本当にA-RISEのためになってんのか……? ま、本人たちが良ければそれでいいのかな。それにあのA-RISEとデートだなんて、この世の誰であろうとも叶えることができない夢を実現してるんだ。せっかくだから、その立場を存分に活かして楽しむとしよう。

 

 そうは言ったものの、早速周りの目が気になってる訳だが……。

 

 

「お前ら全く変装してないけど、少しは顔を隠そうとは思わなかったのか?」

「いや、変装したらこのデートの意味ないでしょ。私たちに男がいるって見せつけるためのデートなのに」

「そうだな。これでこの件が話題になってくれれば、ストーカー行為も慎んでくれるかもしれない」

「作戦に乗っておいてから言うのも今更だけど、そう上手く行くかねぇ……」

「上手く行くかどうか以前に、ツバサちゃんと英玲奈ちゃんは別の期待をしてるみたいだけどね」

「ちょっ、あんじゅ!?」

「わ、私はそんなこと……」

 

 

 あんじゅの言ってる意味は分からないが、どうやら事務所もこの件については容認しているみたいだし、スキャンダル的な問題も心配いらないのかな? あとは人目を掻い潜ってどうデートを決行するかだが、流石にここまで周りに注目されていると動きづらいったらありゃしない。でもデートの目的は俺たちの仲の良さをファンに見せつけることなので、人通りが少ないところに行ったら意味がない。

 

 おいおい、じゃあどうすりゃいんだ?? デートは男が先導するものだが、流石にここまで人の目を気にしながら街を歩いたことがないため判断に迷ってしまう。逆にツバサたちは周りの目をものともしていないので、流石トップアイドルといった感じだ。ただでさえ世界的にも有名なA-RISEと歩くだけでも緊張するのに、加えて無駄に注目を浴びてるせいでやりにく過ぎるよ全く。

 

 

「零君どうしたの? さっきから挙動不審じゃない?」

「君がそうなるなんて珍しな。いつもは堂々と構えているのに」

「プロアイドルのお前らと一緒にすんな。これだけの視線を浴びておいて、気にならない方がおかしいだろ」

「確かに言われてみれば。私たちはもう何年もこの状態だから、気にならないというかもう気にすらしなくなってるわね。でも零くんがオドオドしているところを見るのって初めてだから、ちょっと新鮮かも♪」

「A-RISEと肩を並べるって相当すげぇことなんだぞ? そりゃ緊張もするだろ」

「ふ~ん。私たちのこと、意識してくれてるんだ」

「まぁ……な」

「えへへ、ありがと」

「どうしてお礼を言われてんだ……?」

 

 

 別に意識してるって言ってもツバサが思っているような意味じゃないんだが、まあ喜んでくれてんのなら水を差す必要もないか。見れば英玲奈もあんじゅもさっきより一回り上機嫌な様子で、ツバサはともかくこの2人が高揚感を表立って見せるのはかなり珍しい。それだけ俺とのデートを楽しんでくれるならそれでいいけど、コイツらもしっかり年頃の女の子なんだと少し安心したよ。海外のニュースにも取り上げられるくらい凄い奴らだから、最近は手の届かない存在になったと1人で思い込んでたからな。

 

 

「ほらほら、零くんは私たちの恋人役なんだから、もっと近くに来ないとダメじゃない。そっちから来ないならぁ~」

「あ、あんじゅ!? 近いって!」

「え~恋人同士なんだし、これくらいは当然でしょ?」

「そ、そうだけどさ……。あぁもう分かったよ! ほらこっち来い!」

「ひゃっ!?」

「えっ、なに今の反応」

「べ、別に……」

 

 

 周りの目なんて気にせずグイグイ来たかと思えば、肩を抱き寄せた瞬間に少し俺から離れてしまうあんじゅ。しかもさっきまで余裕ありげな表情だったのに、今は髪の毛を指でくるくる回して顔を伏せている。頬も少し赤くなってるし、緊張するくらいならやめときゃいいのに……。彼女はいつも達観しているように見えるが、意外と純情な一面もあるんだな。可愛いじゃん。

 

 そんな純粋な反応を見せるあんじゅとは対照的に、ツバサからは鈍感と言われた俺でも分かるジェラシーを感じる。正直に言って周りの目線よりも、彼女からの目線の方が格段に痛い。女の子の嫉妬が如何に恐ろしいのかは、実際に痛感したことある俺ならよく分かる。これ、3人同時デートなんて本当に成り立つのか……?

 

 

「ねぇ、あんじゅだけズルくない?」

「ズルいと言われても、どうすればいいんだよ……」

「そりゃまあ恋人なんだし、手を繋いで歩くくらいはしてくれてもいいんじゃない……?」

「3人いるのにそれは無理あるだろ」

「なら私はいい。恋人とは言えども役は役だ。君にそこまでの負担をかけたくはないからな」

「そもそも俺は許可してないんだが……」

「もうっ、女の子に恥をかかせる気?」

「トップアイドルのくせに、人目を気にせず男とデートする奴らなんて想定外だったんだよ……」

 

 

 コイツら、青春時代からスクールアイドルに魂を捧げてきてるから、てっきり男慣れなんてしていないと思ってた。でも実際は3人共かなりの手練れであり、俺はさっきからコイツらの手玉にされてる感が否めない。これもトップアイドルの余裕ってやつなのか、それとも俺に心を許してくれているからこその言動なのか。時折恋する乙女のような反応を見せながらも、ここまでグイグイ系なのはμ'sやAqoursではあり得ない行動だ。

 

 

「ほら、グズグズしない!」

「ちょっ、手!」

「いいでしょ恋人なんだから」

 

 

 ツバサは何の躊躇いもなく俺の手を握りしめる。しかもこれは俗に言われる恋人繋ぎだ。μ'sのみんなとこのような繋ぎ方をするのは慣れたものだが、それ以外の女の子から、しかも久々に会った子からここまで積極的に攻められると流石の俺も動揺してしまう。周りの注目を浴びている雰囲気に飲まれてるってのもあるが、女の子に素直に緊張するのは何年ぶりだろうか。むしろ今は女の子と一緒にいることが日常となってしまい、純粋に心が高鳴るのは久しぶりかもしれない。

 

 とは言ったが、手を握った瞬間、ツバサも相当緊張していることが分かった。

 彼女の手のひらはしっとりと濡れており、夏の暑さだけでかいた汗の量とは到底思えない。久々に会った男にも物怖じしないグイグイ系女子かと思ったけど、やはり意外と純情女子のようだ。

 

 

「だったら私も、えいっ!」

「えっ、お前も!?」

「英玲奈ちゃんが譲ってくれたってことは、そういうことだって分かってるでしょ? 男だったら男らしく、ツバサちゃんを受け入れてあげなきゃ」

「まあこの際だからいいけどさ、そもそもお前はこんなお遊びで男と手を繋いで大丈夫なのか? ツバサと英玲奈をからかうためだけに、わざわざ無理する必要ないんだぞ」

「あら、心外ね。お遊びで殿方と手を繋ぐ方がよっぽどゴメンなんだけど」

「周りから見られてるこの状況だと、本気は本気でちょっと困るけどな」

「…………ホント、ツバサちゃんが苦労するのも分かるわね」

 

 

 いや、俺も察してはいるんだ。これまで鈍感野郎とかデリカシーがないとか散々な罵倒を受けてきたが、長年たくさんの女の子と付き合ってきてある程度の女心は汲み取れるようになってきた。だからツバサたちが抱いている想いは大体分かる。

 まぁ、分かっているだけでこちらからは何も行動してないんだけどな。今の関係に慣れちまったって言うか、この距離感に安心し過ぎて自分から動こうとは思わないんだ。女心に気付いてるのに踏み込まないとかクズ扱いされるかもしれないけど、むしろ心地よい関係でいることのどこが悪いんだって話じゃないか? μ'sの時はこの距離感を無責任に保ちすぎて関係が拗れてしまったが、今となってはそんな心配はいらない。それに女の子の気持ちを無下する訳じゃなく、自分の気持ちに嘘を付かないだけだ。この距離感に安心してるのに、それを無理に詰めようとする方が厚かましいだろうしな。距離を詰めるならこんな騒がしい状況ではなく、もっとゆっくりと仲を深めたいもんだ。

 

 現状に戻ろう。

 俺は右手をツバサ、左手をあんじゅに握られ、文字通り両手に花状態となった。周りからは黄色い声や驚きの声が聞こえてくるが、いちいち気にしたら負けだと思うのでスルーしよう。

 そして、もはや自分だけの世界に入ってるツバサとあんじゅだが、俺も2人を見習った方がいいのか……? この己の妄想に没頭する能力と、プロのアイドルとして周りの状況に流されない芯の強さは別問題な気もするが……。

 

 

「なぁ、いったんここから離れねぇか? これだけの目に入ったら、目的も達成できただろうし」

「そうだな。想像以上に人が集まり始めてるから、騒ぎになる前に場所を移動しようか」

「私としては、もう少しみんなに見せつけてもいいと思うけどね」

「もう欲望ダダ洩れだなお前……。あんじゅはどうする?」

「ふぇっ? ゴ、ゴメンなさい、聞いてなくて……」

「まさか、手を繋ぐだけ繋いでトリップしてたとか?」

「そ、それはぁ……。と、とにかく移動しましょ!」

 

 

 誤魔化しやがったなコイツ。ツバサや英玲奈のことを散々弄っておきながら、いざ自分が男と触れ合ってみたらこのザマかよ。まあそんなギャップが可愛いところではあるのだが、こりゃ後から逆にツバサたちからたっぷり煽られそうだな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 俺たちはさっきの場所とは打って変わって、人通りが少ない脇道へと避難した。いくら鋼のメンタルを持つ俺であっても、世間の見世物にされることには慣れていない。対して周りの注目にも動じない堂々としたツバサたちを見て、改めてコイツらの凄さを実感したよ。

 

 

「狭い裏道の方が息苦しくないって相当だな……」

「あはは、零君もう疲れちゃった? UTXを出てから1時間も経ってないよ?」

「デートってもっと気楽なもんじゃねぇのか……? あんなに注目されてたら、ドラマの撮影でデートしてるみたいじゃん」

「私たち3人が素顔を出して歩けばいつもあんな感じだよ。まあ、変装してもバレる時はバレるんだけどね」

「そんなんだと気軽に遊びに行けないだろ。プライベートが縛られてちゃ、プロのアイドルと言っても勝ち組コースとは程遠いな」

「そんなこと、A-RISEになった時点で覚悟していたさ。私たちは好きで今の立場にいるんだ」

「注目されるのが快感に感じられればいいと思うけど、もはや熱い視線には慣れ過ぎてんじゃないか?」

「そんなことないよ。あんじゅみたいに、観客の視線を浴びてゾクゾクするような変態じゃあるまいし」

「変態だなんて失礼な! ただテンションが上がって、ステージ会場にいる誰よりも高みにいる自分に酔ってるだけよ!」

「それを変態っつうんだよ」

 

 

 あんじゅって割と自己顕示欲が強いんだな……。でもアイドルは弱肉強食の職業だから、どんな手段であれ向上心を持てるならそれでいいと思っている。控えめに振舞って自分の魅力をひた隠しにするよりも、多少強引に振舞って自分の素を見せていかないと、この業界では生きていけないだろう。作り物のキャラなんていつかはボロが出るしな、にこみたいにさ。

 

 

「さて、こっからどうっすかな。もう人目につくところはゴメンだぞ」

「済まないな、ヘトヘトになるまで付き合わせてしまって」

「いや、これでお前らが妙なファンにビビらなくなって済むなら、俺の体力なんていくらでも差し出すよ。本物のアイドルと外を歩くってのを完全にナメてたのは否めないけど」

「優しいね。やっぱり零君に頼んで正解だったよ」

「お前らみたいな有名アイドルだったら、もっとまともなボディガードを雇えただろうに。グラサン黒服の屈強な男とまでは行かなくても、ファンがお前らに手出ししたくないと思えるくらいの警護は付けられたんじゃないのか?」

「それはそれでファンを見捨ててるから、そこまではやらなくていいと思うわ……。それに零くんじゃなければダメだったのよ。これでもプロのアイドルなんだから、肩を並べるならそれ相応の人じゃないとね」

 

 

 つまり、コイツら的には俺は隣にいても違和感がない存在なのか。素直に喜んでいいのか分からないけど、世界デビューしている女の子と同じ立場だと思えば悪くない。しかし、俺が世界に出たら各所の美少女が全員惚れちまうぞ? この3人とデートしているだけでも人目に晒され疲れるくらいだから、カラダの方は全然もたなそうだけど……。

 

 

 世間話で小休憩をしている、その時だった。

 メインストリートから裏道に差し掛かる分岐路の辺りに、多くの人が集まっていることに気が付く。さっき表通りを歩いていた時も相当な人だかりだったが、今もかなりの人が集まり出している。裏道に入ると道幅が狭くなっているためか、さっきよりも人が密集しているように見えた。恐らくそれは見た目だけではなく、この場所にA-RISEがいるという情報が拡散された結果、このようにファンが集結し始めたのだろう。

 

 裏道に隠れてもなお簡単に見つかっちまうから、アイドルファンのセンサーって凄まじいほどの検知性能だよな……。って、そんな冗談を言ってる場合じゃねぇか。

 

 

「やばっ! 見つかっちゃったよ……」

「ここなら人通りも少ないからゆっくりできると思ったけど、誰か1人に見つかるとすぐ情報が伝達されるから意味ないのかもな」

「それにアイドルが裏路地で男性と一緒にいるなんて情報を見たら、ファンの人は飛んででも確認しに着ちゃうわね……」

 

 

 むしろ男性と並んで歩いているよりも、グループメンバー全員が裏路地でコソコソしている方がよっぽどスキャンダルになる気がする。例え世間話をしていただけであっても、結局は世間にどう見られるかで評価が変わっちまうのはアイドルの辛いところだよな。それを知っているからこそ、俺は社会的な有名人にはなりたくないんだ。自己顕示欲は誰よりも強いけど、プライベートが窮屈になるのだけはゴメンだからな。

 

 そうこうしている間にも、人だかりは大きくなっていく。この騒ぎを聞きつけてわざわざ持ち込んだのか、A-RISEのグッズを手にしているファンもいるくらいだ。中にはドルオタと言われる、彼女たちが俗に言う過激なファンっぽい人たちもちらほらいる。ツバサたちの引きつっている表情を見ると、あの中に見覚えのある熱狂的なファンもいるようだ。ストーカー紛いな行為をしている奴かは知らないが、このままだとツバサたちがもみくちゃにされかねない。

 

 強引だけど、状況が状況だし仕方ないか――――――

 

 

「おい、走れるか? 逃げるぞ」

「えっ、そんな急に!?」

「グズグズするな。行くぞ!」

「「「あっ……」」」

 

 

 俺は右手でツバサとあんじゅの手を2人同時に、左手で英玲奈の手を掴み、駆け足でこの場を立ち去った。幸いにも執拗に追ってくるファンはいなかったが、裏道に逃げ込んでもすぐ見つかることは証明されたので、人とすれ違うことのないよう適当な喫茶店に入って難を凌ぐことにした。

 

 

 その時、俺は気付いていなかった。

 3人の頬が空の夕焼けをも焦がすほど熱くなっていたことに。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「想像以上にファンの熱気がヤバかったな。英玲奈ファンの女の人とか、目が血走ってたぞ」

「ファンが多いのは嬉しいことなんだけどね。あれだけ迫られたら話は別っていうか……」

 

 

 ツバサはジュースをストローで啜りながら、自分たちの置かれている境遇にため息をつく。

 本来ならたくさんのファンに囲まれるなんて嬉しい悲鳴のはずだが、あれだけの人数に追いかけられたらうんざりする気持ちも分かる。それでも疲れた様子を見せないのはアイドルとしてのポーカーフェイスなのか、それとも慣れ過ぎてしまっているのか。どちらにせよ精神疲労は半端なさそうだ。

 

 

「まああれだけ多くの人に目撃されたんだから、とりあえず目的達成ってことでいいんじゃねぇか?」

「あぁ、本当に助かった。特にさっきは君が咄嗟に私たちを連れ出してくれなければ、あの人混みに飲まれていただろうからな」

「今までは変装がバレちゃったら、仕方なく写真を撮ったりとかファンサービスをしていたのよね。そのせいで私たち、プライベートで外出するのが少し億劫になっていたりもしたの」

「でも、今日は零君と一緒でとても楽しかったよ。最初はあまり乗り気じゃなかったみたいなのに、ちゃんと私たちをエスコートしてくれて嬉しかった!」

「俺の乗り気云々よりも、お前らの心配をしてたんだよ。男と一緒に歩いて大丈夫かってな」

「私たちのことを……?」

 

 

 一時のお悩み解決のためだけに俺を誘いデートをするなんて、そんな暴挙に出てコイツらの未来がどうなるか心配だったんだ。アイドル業界はいつの時代もスキャンダルに厳しく、むしろそのスキャンダルをスクープとして金を稼ぐ会社もあるくらいだからな。俺はコイツらがそんなつまらないことに巻き込まれる可能性を危惧していただけだ。もちろん、本人たちがいいのならこちらから拒否する必要はないと思ってたけどね。

 

 

「不思議な男だよ、君は」

「いきなりどうした?」

「ずっと思っていたんだ。君にはμ'sがいるのにも関わらず、どうして私たちのためにそこまで自分を犠牲にできるんだと。正直に言ってしまうと、今回の依頼も断れるかもしれないと考えていたんだ。しかし、君は快く承諾してくれた。赤他人であり、μ'sのライバルでもある私たちにここまで塩を送れるのが不思議でならない。そのことがずっと気になっていてね」

 

 

 ツバサとあんじゅも頷いているので、彼女たちも英玲奈と同じことを思っているのだろう。

 3人は俺の返答を聞くのが怖いのか、少し顔を伏せている。

 

 

 英玲奈の言うことは最もだ。だけど―――――

 

 

 

 

「男が女の子を助けることに、理由なんているのか?」

 

 

 

 

 3人はその言葉を聞いた瞬間、目を丸くして顔を上げる。

 

 

 

 

「そもそもさ、俺がμ'sに肩入れしてるとか、お前らがμ'sの敵だろうがライバルだろうが、赤他人だろうが、そんなの関係ねぇだろ。目の前で困ってる女の子がいたら、手を貸すなんて普通だと思うけど。それがお前らみたいな可愛い女の子たちだったら尚更な」

 

 

 キザなセリフを吐いておいて今更だが、俺は誰であろうが手を差し伸べる善人ではない。面倒事は全力でスルーするし、全くの赤の他人がどうなろうが俺には知ったこっちゃない。だけどそれが女の子、しかも俺の目を惹く美女美少女だったら話は別ってだけだ。つまりμ'sやAqours、A-RISEを含め、そいつらが例外なだけなんだよ。

 

 ツバサたちは何も喋らない。夕日よりも朱に染まった頬が目立ち、とてもじゃないがアイドルとして人前に出られない女の子すぎる表情だった。

 

 

「さっきのが理由の全てだ。とは言っても、女の子を助けるのに理由はないってのが理由だから、説得力には欠けるかもしれないけどさ。ま、くだらないことで悩んでないで、スクフェスで俺に最高のパフォーマンスを見せられるよう努力だけしておけ――――って、やべ、楓から早く帰って来いって連絡来てる……。悪い、今日はここまでで! お金は置いておくから、また困ってることがあったら呼んでくれ」

 

 

 いい感じの雰囲気だったのに、アイツがご立腹のせいで現実に引き戻されてしまった。そのせいで最後は駆け足になっちまったが、俺の言いたいことは伝わっただろう……多分。理由がないってのが理由ってのも相当適当な言い分だけど、()()()()()()()()()なら損得勘定なんてないのは事実だ。つまり、俺にとっては毎日風呂に入ったり歯磨きをしたりするくらい当たり前のことなんだよ。

 

 

 それにしてもツバサたち、別れ際にも全然喋らなかったけど生きてるよな??

 

 

 

 

 そして、俺がいなくなった喫茶店ではこんな会話があったそうな。

 

 

 

 

 

「ダメ、心臓がバクバク鳴って止まらない……。まさか、零君が私たちのことをそこまで考えてくれてたなんて」

「ねぇツバサちゃん、私も……狙っていい?」

「な゛ぁっ!? べ、別に私はど、どうでもいいし!」

「そうか、なら私もチャンスはあるのか……」

「「えっ!?」」

「い、いや忘れてくれ!! でも、この気持ちが―――――」

 

 

 

 

 茜色の光が差し込む喫茶店内で、少女たちは自分の熱い気持ちを抑えられなかった。

 

 




 なんか久しぶりに零君が主人公っぽいセリフを言った気がする……
 最近は女の子たちに振り回されてばかりでしたから、たまにはカッコいいところを見せつけないと(笑)



 次回は虹ヶ咲メンバーの個人回ラスト、果林回となります。




まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

渇いた心を満たすのは

 今回は虹ヶ咲の果林回です。
 彼女の意外と真面目でピュアな部分を押し出しながらも、虹ヶ咲の覚悟を再確認する総括的な回となっています。


 

 いくらクソ暑い夏であっても、深夜帯だけは涼しい場合も多い。家の中だと蒸し暑くて寝苦しく感じることもあるが、外に出てみれば季節の感覚を忘れてしまいそうなくらい肌寒い日があったりする。もちろん日中よりも気温が格段に低いってのが理由だろうが、それとは別に真っ暗な雰囲気が不気味だったりとか、物音ない静寂に包まれているからなど、背筋に悪寒が走るからって理由も多少はあるだろう。だからこそ肝試しは夏の風物詩なのかもしれない。冬の夜に肝試しをやったとしても、あまりの寒さに周りの怖さを感じてる暇なんてないだろうからな。

 

 俺は夏の夜空の下、とある目的地へ足を運んでいた。夏の季節はいつも家に引きこもりがちだから健康のために散歩をしている訳でも、認知症で深夜徘徊をしている訳でもない。どうしても俺と直接会って声が聞きたいと、これまたとある女の子からお願いがあったからだ。どうして0時を回りそうな深夜帯で、しかも屋外でなのかは分からないが、俺としてもクソ暑い日中に出かけるよりもこの時間帯の方が良かったりする。それに今は夏休み、2人でゆっくり話をしようにも、屋外だったらどこも人はいっぱいだからこの時間があらゆる面で最適だろう。

 

 その肝心な目的地だが、これまで俺たちの歴史を幾多も目にしてきた例の公園だ。

 雪穂に告白をしたり、花丸のダイエットを手伝ったり、千歌のお姉さんたちに励まされたりと、湧き出るように思い出が蘇ってくる。俺たちの人生を一番よく見守っているのは、もしかしたらこの公園かもしれない。

 

 

 公園の敷地内に入ってみると、当たり前だが人の気配は全くなかった。夜の公園だから野外プレイ目的の男女がいるかもと危惧していたのだが、喘ぎ声のようなものも聞こえないのでとりあえず安心かな。まあどこかの木陰で声が漏れないよう我慢するプレイを嗜んでる可能性もあるが、それならそれでこちらもソイツらのことを認識できないので大丈夫だ。もし下手クソなプレイで存在を認識させられてしまうと、気まずいってレベルの話じゃないからな……。

 

 

 敷地内を進むと、全く人の気配がない公園に唯一、暗闇の中に輝く星のような存在が目に映った。とは言っても携帯の画面が光って見えているだけなのだが、街灯の灯りに比べたら格段に輝きが強い。そのおかげで、目的の子にすぐ出会うことができた。

 

 

「こんな深夜帯に会いたいだなんて、お前も物好きだよな」

「あっ、零さん。お久しぶりです」

「あぁ。それにしても、どうしてこの時間にこの場所なんだ? 今夜は涼しいし、外出するならいい時間帯だけどさ」

「それもありますけど、単純に誰にも話を聞かれたくないってのが一番の理由です。だったら電話でもいいんじゃないかって思うかもしれませんけど、零さんの声を直接聞きたかったもので。それに真っ暗闇の公園で、男女2人なんてムードが出ません?」

「卑しい意味のムードにしか聞こえねぇんだけど……」

 

 

 もし誰かが俺たちのことを見かけたら、確実に野外プレイに興じる不純カップルと思われるだろう。こんな時間に公園を通る奴はいないだろうが、ジョギングをする人は夏の涼しいこの時間帯に走る人も多いと聞くので油断はできない。ま、気にしない方が吉かな。

 

 紹介が遅れたが、コイツは朝香果林。虹ヶ咲スクールアイドル同好会のメンバーで、3年生の年長さん。

 高校生離れをしたルックスとプロポーションは、まさにモデルそのもの。実際にプロのモデルを目指しているようで、雪穂や亜里沙と同じく今は読者モデルとして一定の名を挙げているらしい。虹ヶ咲の中でもセクシー系を自ら謳っているだけに、黒のタンクトップの上に首・鎖骨・肩を惜しげもなく見せる長袖オフショルダープルオーバーの重ね着トップス及び、ボトムスは2分丈ショートパンツといった、思春期男子なら目のやり場に困る服装をしている。

 ステージ衣装も極めて大胆なものが多く、もはやスクールアイドルと名乗っていいのかと疑ってしまうほどプロアイドル顔負けの色気を醸し出していた。

 

 ベンチの真ん中を陣取っていた果林は少し横へ移動し、自分が座っていたところを手で叩いて俺の着席を促す。そして、俺はその指示に流されるままベンチに座った。

 昨日のA-RISEもプロアイドルにしては大胆な行動ばかりだったが、コイツも読者モデルのくせして深夜に男と密会とか大胆なこと考えるよな。それを咎めず付き合う俺も俺だけど……。

 

 

「まず聞くけど、何の目的で俺を呼び出したんだ?」

「端的に言えばそうですね、渇いた心を癒しに来た……とか」

「端的過ぎて、逆に意味分かんねぇよ……」

「あはは、ですよね。実は私もそこまで話すことを決めていないというか、自分の気持ちを抑えることができなくなったせいで、とりあえず零さんに聞いてもらいたいなぁと思ったんです」

「なるほど。だったら、言いたいことを好きに言え」

 

 

 真夜中の公園、しかも2人きりというシチュエーションってことは、もしかして告白か何かか?? 他のメンバーを差し置いて、自分だけ抜け駆けしようなんていい根性してやがる。虹ヶ咲のメンバーって孤児院での縁もあってか、団結力は他のスクールアイドルよりも強いと思っていたんだが、これだとスクフェス間近なのに絆が崩壊しかねないぞ。どう返事をすればいいんだ俺……!!

 

 

「まず1つ、謝らないといけないことがあります」

「へ……? 謝罪?」

「はい。どうしたんですか? 呆気に取られたような顔をして……」

「いや、ちょっと自惚れてた……」

「はぁ」

 

 

 なんだろう、さっきの俺すげぇ恥ずかしいこと考えてたよな……。しかし自分で言っちゃうのもアレだけど、虹ヶ咲の子たちは俺にただならぬ愛を抱いている。だからこそ果林が自分の気持ちを抑えきれなくなったと聞いて、真っ先に告白へ思考が結びついてしまったんだ。でも蓋を開けてみればまさかの謝罪会見で、自惚れるだけ自惚れて大恥をかいちまったけどさ。ま、果林に気付かれてないだけマシか。

 

 それはそれとして、いきなり謝りたいことなんてどうしたんだろ? 特に何か不利益を被られた記憶はないが……?

 

 

「ここ1ヶ月半くらい、歩夢たちが個々人で零さんのところへ押しかけて来ましたよね?」

「あぁ。みんなが1人1人、俺との時間を過ごしたいって願望があったんだろ? アポも取らず急に現れた奴がほとんどだったけど……」

「その件に関しては本当に申し訳なかったです。ちゃんと連絡してから会いに行くようにと言ったのに、零さんに会いたいがために考えるより先に行動しちゃう子が多くて……」

「つうか、まともに連絡してきてくれたのはお前とエマだけだったような気がする。どうせ暇だったから気にしちゃいないんだけどさ」

「そう言ってくれると助かります。1人1人で会いに行こうって提案した身としては、ずっと気になっていたもので」

「お前が言い出しっぺだったのか。確かにお前やせつ菜以外は、みんな自分勝手に動きそうな奴らばっかだもんな。そりゃそうか」

「見た目だけはしっかりしてそうな子が多いんですけどねぇ。しずくとかは零さんのことになると目の色が変わるし、歩夢も言わずもがなで……」

 

 

 しずくは会った時から少し病み気味だったし、歩夢なんていきなりキスしてくるくらいには奇行に走る奴だから、なんか果林たちの苦労が分かる気がする。μ's然り、Aqours然り、スクールアイドルってまともな奴が全然いねぇのな。俺も基本的にはμ'sとAqoursを取りまとめる立場だから、コイツの気持ちは凄く理解できるよ。

 

 

「歩夢たちの積極さ加減には困ったと思います。でも、許してあげてください。あの子たち、十数年も前から零さんに会いたがっていたので」

「その願いがようやく叶ったってことだろ知ってる。合宿の時、お前らの想いは痛いほど伝わってきたから。ま、どんな経緯があれ女の子に言い寄られること自体に悪い気はしないかな」

「優しいですね、昔と変わらず」

「そうなのか? その時の記憶がないせいで、昔の俺がどんな気持ちでお前らと接していたのか分からないのが残念だよ」

 

 

 虹ヶ咲のみんなは俺のことを愛してくれているのに、俺は肝心の過去を覚えていないのが歯がゆい。忘れちまったものはどうしようもないって分かってるんだけど、そのせいでまだ俺の中にちょっぴり不安が残っているのは事実だ。コイツらが好きになっているのは昔の俺なんじゃないかと、心の中でそのことがずっと引っかかっている。果林たちはそんなこと気にしていないって分かってんだけどな……。

 

 ダメだダメだ。ただでさえ真夜中で真っ暗なのに、心まで暗くなったらこの暗闇に飲まれてしまいそうだ。このモヤモヤ感を紛らわすために話題を変えるか。

 

 

「お前って、俺のことどう思ってんの? いやどうして気になったかって、お前はみんなの心配ばかりして、自分の気持ちを押し殺してるんじゃないかと思ってさ」

「押し殺してるなんて、そんなとんでもない。むしろ、今ようやく色々吐き出せそうで胸が高鳴ってるくらいですから」

「そうなのか。すげぇ落ち着いてるようにしか見えないけど」

「モデルをやってるんで、ポーカーフェイスはお手の物です。それに私だって歩夢たちと一緒で、零さんのためにスクールアイドルになった1人ですよ? 自分の想いの人を目の前にして、心が高鳴らない訳がないじゃないですか」

「おぉう、相変わらず愛が重いことで……」

「でも好きですよね、たくさんの女の子たちに言い寄られる展開」

「よくご存じで……」

「零さんの好みをリサーチするのは、虹ヶ咲の中では普通のことですから」

「なにそれこわっ!?」

 

 

 ヤンデレとまでは言わないが、果林の今の発言から虹ヶ咲からの愛が相当ヘビーだと改めて実感した。好きな人の好きなモノを調べて気を惹く戦法は王道っちゃ王道だけど、度を超えると一気に不気味さが増す。本人たちは至って真面目で純粋に俺のことを慕ってくれているのだろうが、どこをどうリサーチしたら俺の性癖を知ることができんだよ……。あっ、もしかしなくてもコイツらのバックにいる秋葉のせいか。

 

 そういやコイツら、まるで俺の日々の予定を把握しているかのように目の前に現れてたよな。果林やエマはちゃんとアポを取ってくれたけど、歩夢やかすみたちは俺の予定をこっそり仕入れ、俺が行く場所に待ち伏せするという謎の行動力を見せていた。もしかしたらヤンデレよりも異常な行動をしてるまであるぞ……。

 

 それにしても、あの果林もやっぱり年頃の女の子っぽい反応するんだな。A-RISEもそうだったけど、プロのアイドルになったり読者モデルをやっていたりと、既に社会活動している子たちはみんな大人びて見える。だからこうして恋愛に夢中で青春している姿を見ると、ちょっと親近感が湧くんだ。メディア進出しているからと言って遠い存在ではなく、普通の女の子なんだなって。

 

 

「合宿の時に歩夢も言ってましたけど、私たち、スクフェスで優勝します。それが零さんに自分たちの気持ちを伝える、一番の方法ですから」

「最初はその発言に驚いたけど、お前たちが十数年抱き続けてきた想いを知ったら納得できるよ。俺としては頑張ってくれとしか言いようがないけどさ」

「その言葉で十分です。μ's、A-RISE、Aqours、その他にもたくさんのライバルがいますが、負けるつもりなんて毛頭ありません。スクフェスの舞台で、私たちの全てをあなたに見せつけます」

 

 

 愛の伝え方は人それぞれ。そして、これがコイツらなりの告白なんだ。

 自分たちの魅力を最大限に魅せられる場がスクフェスで、その中でも最高峰のシチュエーションが優勝のステージなのだろう。彼女たちが自分たちの全力を振り絞って俺にアピールしようとしてくれているんだ、だからこちらも水を差したりはしない。優勝の席に座らなくてもお前らのことを大切に想っている、なんて野暮なことも言わない。俺はただ見守るだけだ。自分の答えを出すにも、彼女たちの魅力を天から地まで知った後じゃないとできないからな。

 

 ちなみにμ'sは楽しめればいいというスタンスで、Aqoursは勝敗なんて関係なしに統廃合阻止という目的のためにスクフェスに臨もうとしている。虹ヶ咲とはスクフェスに参加する理由がまるで違うが、自分たちの想いを誰かに伝えたいのはみんな一緒だ。

 

 

「スクフェス公式の事前投票だと、μ'sやA-RISEを差し置いてお前らが1位だったじゃねぇか。もしかしたら本当に優勝できるかもな」

「えっ……」

「なんだ、鳩が豆鉄砲を食らったような顔して」

「意外というかなんというか、μ'sやA-RISEの応援はしないんですね。どちらもあなたと交流のあるスクールアイドルなのに」

「そんなこと言ったらお前らもだろ。それに俺はどのスクールアイドルがどのグループより劣ってるとか、優劣を付けながら見たことはねぇよ。テレビで人気投票をやってたからその話題を出すことはあるけど、その結果ごときで俺の見方が変わったりしないから」

「なるほど。零さんのことだからもっとこう、『俺の手垢が付いた女の子が負ける訳ないだろ』とか、『俺の女たちには全員大人の魅力ってやつを施してやったから、絶対に勝つ』とか言いそうで♪」

「そんな風に見られてたのか俺!? つうか、後者のは完全にあっち系の発言じゃねぇか……」

 

 

 十数年ぶりに会ったからか知らないが、俺のことをかなり誤解してるみたいだな……。確かに女の子の独占欲は()()()()強い方だけど、仮にもμ'sやA-RISEのライバルとなるコイツにそんな発言はしない。いや、普段でもそんな女の子を手玉に取ってるようなイキリ発言はしてない……と思う。なんか過去を振り返ると思うあたる節が出てきそうなので、考えるのはやめておこう。

 

 

「ていうか、このことを言うためにわざわざ深夜に呼び出したのか。別にいいんだけど、そこまで深刻になることかなぁと思ってさ」

「そうですね、心の渇きを潤したかったっていう、私のワガママです。歩夢たちから何度も同じ覚悟を聞いて、もう聞き飽きちゃったかもしれませんけど」

「いいや。ここまで自分の気持ちを丁寧に打ち明けてくれたのは、虹ヶ咲の中でもお前だけだよ。初手謝罪の時点で畏まってるなぁとは思ったけど、見た目に反して意外とピュアだったんだな」

「それ、バカにしてます……?」

「してないしてない。お前の見た目って何でもお見通しって感じのお姉さんタイプだから、その性格とのギャップに驚いただけだ。以前に会ったエマなんて見た目通りの性格で、ブレなんて1ミリもなかったからな」

「あはは、エマほど表裏のない子はいないですもんね。でもあれだけ明るくなったのも、零さんが私たちに生きる希望をくれたからなんですよ」

 

 

 そういや、エマは孤児院からスイスの家庭に引き取られたんだっけ。元々スイスの生まれで日本に来て実の親を失い、そこからまたスイスに戻るなんて子供ながらに壮絶な人生を送ってきた彼女。でもそんな人生であっても笑顔でいられたのは、まさに俺が最大の要因だったらしい。こうなると記憶がないのが余計に悔やまれるな。

 

 

「よし、言いたいことは大体言えたから、今日は満足かな。謝罪もしたし、決意表明もしたし、これで私の中でのスクフェスの準備は完了です」

「そりゃよかった。ま、また何かあったらいつでも言ってこい。話し相手くらいにはなってやるから」

「ありがとうございます。あなたをずっと好きでいて、本当によかった」

「おいおい、まだ告白は早いんじゃねぇか?」

「じゃあどこでやります? スクフェスの舞台とか? あっ、優勝の場でみんな一斉告白ってのも趣がありますね♪」

「そりゃ俺が公開処刑されるからやめてくれ……」

 

 

 確かに好きな人への告白は、一生に一度のシチュエーションでやりたい気持ちは分からなくもない。でもスクフェスの決勝の舞台なんて観客も多いだろうし、テレビ中継もされるから、全国への公開処刑になることは間違いない。でもそこで上手く返事ができたらさぞかしカッコいいんだろうなぁと、少しやる気が生まれている自分もいる。本番ではコイツらがどのようなパフォーマンスを見せるのかは分からないため、今から期待と緊張でいっぱいだ。

 

 

 言いたいことを言って満足した果林は、その場でゆっくりと立ち上がる。

 こうして立ち姿を見ていると彼女のボディラインが鮮明に映るため、本当にモデルさんなんだと改めて思い知る。同じ読者モデルの雪穂と亜里沙は、どちらかと言えば幼い体型だから、相対的に果林のスタイルが高校生離れしてるように感じるな。ま、実際にプロのモデル顔負けのワガママボディなんだけどさ。

 

 

「そんなに触りたいのなら、少しだけ触らせてあげますよ?」

「な゛っ!? そ、そんなこと思ってねぇよ!!」

「フフッ、冗談ですよ冗談♪ さて、時間も遅いですしもう帰りましょう」

「遅いってレベルじゃねぇが。もう日付変わってるし……」

「そうですね。こんな時間に女の子を連れ回すなんて、ヒドイ大人です」

「お前なぁ……」

「だから、はい」

「えっ……」

 

 

 突然差し出された右手に、俺は彼女の手と顔を交互に見つめる。

 このアピールは、つまりそういうことだよな……?

 

 

「こんな遅い時間に女の子を1人で歩かせたら危ないですから、ちゃんと守ってくださいね」

「なるほど……ったく、仕方ねぇな」

 

 

 男女2人が手を繋いで夜道を歩くって、これ完全に恋人同士のやることじゃね……。まぁ、今の関係も似たようなもんか。

 

 

「…………本当に、ゴメンなさい」

「へ? 今なんて?」

「いえ、さぁ早く行きましょ!」

 

 

 果林の表情が一瞬暗くなったような気がしたけど、俺の気のせい……か? この瞬間だけ、夜の闇がより一層濃くなった感じが……。

 

 ともかくこれで、虹ヶ咲のみんなとの邂逅は全員分終了した。μ'sやAqoursに負けず劣らず個性的な子ばかりで、意志が強く、そして積極的な子ばかりだった。コイツらはスクフェスに自分たちの人生をかけていると言っても過言ではないので、当日はどんなライブを見せてくれるのか楽しみだ。絶対に優勝するという刺々しくも挑戦的な意志を持つ虹ヶ咲と、楽しむことを目的としてパフォーマンスを見せるμ'sやAqoursは決して相いれない。だからこそ、グループ同士の対決に期待が高まる。

 

 

 俺に見せてくれ、お前たちの輝きを。

 

 

 もっともっと、俺の心を滾らせろ。

 

 

 

 

 さあ、スクフェス本番は、もう目の前だ。

 

 




 果林を見るとどうしてもカラダ付きや大人の雰囲気ってところに目が行きがちですが、今回のようにみんなのまとめ役だったり、意外と純粋だったりと、まとも(?)な一面もあったりします。今回の話では後者を前面に押し出し、虹ヶ咲の個人回のラストを飾ってもらいました。


 そんな訳で、次回からはスクフェス当日のお話となります。メインのμ's、Aqours、虹ヶ咲はもちろん、A-RISEやSaint Snowも含め、スクールアイドル全員集合するので圧巻かも……?(収拾できるかは私の力量次第ですが 笑)

 スクフェス編も最終章となるので、完結も見え始めてきたころですね。



新たに☆10評価をくださった

小バッタさん

ありがとうございます!

まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スクールアイドルフェスティバル前夜祭

 今回からスクフェス編の最終章に突入します! アニメだったらOPが変わるってやつですね()
 この小説としても最後の章となるので自ずとストーリー色がより濃くなると思いますが、最終回までお付き合いいただけると幸いです。


 今回のお話はスクフェス当日――ではなく、前夜祭からスタートです。


 今日は遂にスクールアイドルフェスティバル当日――――の前夜である。スクフェスはラブライブ本選よりも大規模な一世一代のイベントなので、本部は気合を入れて豪華な前夜祭を開いているのだ。高級ホテルのホールを貸し切って、一般人の人生では中々味わえないだろう豪勢な料理がテーブルいっぱいに並べられている。そこから好きなモノを取れるビュッフェ&立食形式になっており、人数の多さも相まってか人の往来がかなり激しい。ま、ここに集まってるのはスクールアイドルの若者ばかりだから、物珍しい料理に目移りするのも分かるけどね。

 

 ちなみにスクールアイドルではない俺が何故この前夜祭に参加しているのかと言うと、まぁコネってやつだな。スクフェス本部は秋葉により一部資金援助を受けており、更に世界的アイドルのA-RISEからも支援を受けている。つまり、秋葉やA-RISEに手を回してもらったおかげで何食わぬ顔でここに忍び込めたって訳だ。スクフェス本部も秋葉やA-RISEの頼みとあらば、首を横に振る訳にはいかねぇだろうからな。

 

 

 それにしても、当たり前だが会場のどこを見渡しても女の子ばかりだ。数年前はスクールアイドルと言えば高校生の部活程度の扱いだったのだが、今では中学生から大学生まで、幅広い年齢層の女の子が活動している。そのせいか、小学生にしか見えないようなロリっ子中学生の姿や、逆にプロのモデル顔負けのスタイルを持つ大学生など、もはや眼福を通り越して目に毒まである。しかもそんな中で男は俺1人。いやぁこうして見ると、まさに俺が女の子たちの主のような気分で心が躍ってくるよ。

 

 

「零、目が犯罪者ですよ」

「うおっ!? なんだ海未か、急に話しかけてくんなよな……」

「なんだとはご挨拶ですね。あなたがこの会場からつまみ出される前に、わざわざ警告してあげたというのに」

「そりゃどうも。でも生憎だけど、こんないい匂いのする空間から死んでも出たくないね」

「警備員さんにその発言を聞かせるだけで、一発アウトだと思いますけど……」

 

 

 いくらこの会場内に男が1人だとしても、これだけの人数がいたら多少怪しい行動をしても気付かれることはない。それに俺は会場の隅っこでソファにどっかり座って飯を食っているので、わざわざこんな隅っこに目を向ける奴なんていないだろ。

 むしろ過去に一度スクールアイドルをやっていた影響なのか、当時のことを知っている女の子たちが声をかけに俺のところへやって来るんだ。女の子たちの『あの時の歌とダンスに惚れてスクールアイドルになりました』とか、『実際に会ってみると更にイケメン』とか、浴びせられる賛美の声で飯が美味い。そしてその子たちに頑張ってと声をかけるだけで、女の子たちは顔を赤くして笑顔で立食パーティに戻っていく。もうこの会場って、俺のためにセッティングされたものと見て遜色ないんじゃないかな?

 

 

「はぁ……本来は不正に参加しているのですから、目立つ行動は慎んでください」

「こんな夢のような空間なんて滅多にないんだぞ? だからこそ己の欲望を丸出しにしなきゃ、なんのための前夜祭か分かったもんじゃねぇ」

「スクフェス参加者のための前夜祭ですが……」

「御託はいいから、早く料理を持ってきてくれ。こんな隅っこにいたら、料理のテーブルまで遠すぎるからさ」

「どうしてそんなメイドさんみたいなことを……。そもそも、あなたが今食べていた料理は誰が持ってきたんですか?」

「あぁ、それなら――――」

 

 

 

「コーチ。お料理お持ちしました」

「兄様、さっきのもう全部食べてる……って、この人は?」

 

 

「えっ、Saint Snowの鹿角聖良さんと理亞さん?」

 

 

「あなたは……μ'sの園田海未さん?」

 

 

 そういや、コイツらは初対面だったか。そもそもSaint Snowってμ'sでは穂乃果としか関りがないのを思い出したが、もう知り合いのスクールアイドルが多すぎてどことどこが繋がってんのか分からねぇわ。

 

 聖良と理亞の手には、俺の好物ばかりが乗せられた皿が置かれている。しかも肉、魚、野菜がバランスよく盛り付けられていた。メインの肉料理ばかりではなくちゃんと俺の身体を気遣えるとか、コイツらの食生活の良さが一目で伺えるな。

 

 

「どうして2人が零に料理を? まさか、2人を命令して持って来させているとか……?」

「そんな怖い顔すんなって。美味い飯がマズくなっちまう」

「海未さん、コーチを攻めないでください。これは私たちが自発的にしていることなので」

「そ、そうだったのですか……。でも、どうしてそのようなことを?」

「兄様に喜んでもらえるなら何だってやる。それに、兄様の好みに合わせて料理を盛り付けるのが楽しいから」

「なるほど、ことりがよく言っている『調教されている』というのは、まさにこのことですね……」

 

 

 調教されていると日頃から口にしてるアイツも相当だが、今は敢えて言及しないでおこう。

 聖良と理亞の言う通り、俺からはコイツらに料理を持ってこいとか依頼をしていない。2人が善意で行っていることなので、こちらから断る理由もないと思いこうして堂々と振舞っているのだ。だから俺がJK姉妹を使役して、ご主人様気分で料理を運ばせているなんてとんでもない。一流の主人ってのはな、わざわざ命令しなくてもメイドさんが動いてくれるものなんだよ。あっ、結局ご主人様気分かこれ……。

 

 

「ま、これから料理は海未に持って来させるから、お前らは前夜祭を楽しめ。それにA-RISEの舞台挨拶を見るために、ステージ近くを陣取るって言ってただろ? これだけの人数だし、今から席を確保しておいた方がいいんじゃないか?」

「そうでした! ならお言葉に甘えさせていただきますね」

「兄様、明日の私たちのライブ、絶対に目の前まで見に来て。私たちが優勝するって確信を持たせてあげるから」

「お、言ったな? なら俺の目にお前らの魅力を焼き付けてみろ。下手なライブだったら帰っちまうからな」

「「はいっ!」」

 

 

 スクフェスの練習のコーチはしてやれなかったけど、2人の自信を見る限りでは相当スキルアップしたに違いない。あのA-RISEと一緒に練習したと聞いているので、スキルアップするのは必然っちゃ必然か。それにあまり彼女たちのことを構ってあげられなかったからこそ、2人がどんなパフォーマンスを披露してくれるのか楽しみではある。()()()()()()()()の魅力的な姿を見るのはいつになっても飽きねぇな。

 

 

「ほら、こうやって女の子たちのやる気を奮い立たせてやってんだから、俺がここにいる意味はあるだろ?」

「全く、調子がいいですね……。それでは私も穂乃果たちのところへ戻りますので、くれぐれもナンパだけはしないでくださいね?」

「いや、むしろ逆ナンされる立場だからぁ~辛いなぁ~」

「さようなら」

「あ、はい」

 

 

 背筋が凍り付くような目で俺を睨み付けた海未は、それ以上なにも言わずに会場の立食ゾーンに戻った。確かにさっきから女の子に言い寄られてばかりで心が躍ってるけど、ノリがウザくなってきたと自分でも分かるのでそろそろ抑えようか。どうせたくさんの女の子を侍らせるなら、傲慢な態度で堂々としろと言いたくなる気持ちも分かるけどね。

 

 

「あっ、零君こんなところにいた!」

「穂乃果……?」

 

 

 落ち着く暇もなく、今度は穂乃果が俺のテーブルへとやって来た。穂乃果が持ってる皿には、ステーキやチキンと言った肉類から、パスタやソーセージと言った付け合わせまで盛りに盛られている。その中に野菜が一切ないのが彼女の食生活の悪さを顕現していた。鹿角姉妹とは全くの逆だなコイツ……。

 

 

「もう零君! こんなところにいないで、みんなで一緒にお喋りしようよ!」

「あんな人混みの中で飯なんて食ってられっか。つうか、他の奴らはみんなあの中か?」

「うん。実は他のスクールアイドルの人たちにたくさん話しかけられちゃって、中々抜け出せないんだ。あはは……」

「お前らもそこそこ有名人だもんな。そりゃそうか」

 

 

 最近はA-RISEや虹ヶ咲のメンバーとの接触が多くて忘れてたけど、μ'sもスクールアイドルの中ではトップクラスに有名だ。A-RISE一強と謳われていた時代に、彼女たちを打ち負かしてラブライブで優勝したんだから、もはやスクールアイドル界の偉人と言っても過言ではない。確かに穂乃果を見てみると少し表情がやつれているので、俺がここでふんぞり返って飯を頬張っている間にも他のスクールアイドルの応対をしていたのだろう。

 

 ちなみにスクフェスには、PVと曲さえ自作できればどんなスクールアイドルでも参加できる。スクールアイドルが爆発的に増えている昨今、無名と言っていいほどのスクールアイドルも多い。だからこの前夜祭でも、名の知れたスクールアイドルであるμ'sやA-RISEが注目されるのは必然かもしれない。

 

 

「そういえばさっき聖良ちゃんと理亞ちゃんを見たんだけど、もしかして零君のところに来てたの?」

「あぁ。ちょっと一緒に飯を食った後、A-RISEの舞台挨拶を見るためにステージ近くに移動したはずだ」

「やっぱり! 知り合いのスクールアイドル大集合で、なんだか楽しいね! まだ前夜祭なのにワクワクしてきたよ♪」

「全国のスクールアイドルが予選から一堂に会するなんて、滅多にねぇからな。スクフェスは各地の予選を勝ち抜かないと本選会場には行けないし」

「もう今からここで、みんなでライブしたいよね!」

「ここにいる奴ら全員で騒いだら、人力で地震を起こせそう……」

「みんなと言えば、Aqoursのみんなは来てるのかな? まだ姿を見てないような――――――」

 

 

「おーい! せんせ~い! 穂乃果さ~ん!」

 

 

「あっ、噂をすれば千歌ちゃんだ!」

 

 

 類は友を呼ぶっつうか、噂をすれば何とやらっつうか。まあスクフェスの参加者が全員集まっているため、この会場のどこかにはいたんだろうけどね。

 会場の人混みから、千歌がこちらに手を振りながら走ってくる。その後ろには走る千歌を止めようとしているが止められず、困った顔をしている梨子もいた。

 

 

「お二人とも、お久しぶりです!」

「千歌ちゃん久しぶり! 梨子ちゃんも!」

「お、お久しぶりです。もう、千歌ちゃんったら急に走り出すんだから……」

 

 

 穂乃果と千歌はお互いに両手を繋ぎ合って再会を祝っている。久しぶりとは言っても、合宿が3週間ほど前だからそれほど期間が空いていた訳ではない。そもそも6月には俺が浦の星に教育実習へ行き、7月にはAqoursがしばらく東京で練習を、8月はμ'sとの合同合宿だったので、月1ペースでは会っている計算になる。まあそんな短期間で会っていたからこそ、3週間の間が長期間に思えたのかもしれない。

 

 相変わらずいつでも元気ハツラツな千歌だが、対照的に梨子は少し疲れている様子。大方、前夜祭でテンションが上がっている千歌にあちらこちら連れ回されてヘトヘトってところだろう。

 

 

「梨子、お前なんか疲れてる? 千歌に振り回されでもしたか」

「あ、当たりです……。千歌ちゃんがこの会場のどこかに先生やμ'sの皆さんがいるかもと、人混みを掻き分けて探してたんですよ。しかも目に付いた料理をあちこちで摘まみながら……。周りの迷惑にならないように見張ってるのが大変で大変で」

「えへへ、ゴメンゴメン。こんな豪華な料理は滅多に食べられないから、美味しそうなのを見つけたら思わず手が伸びちゃって!」

「ダメだよ千歌ちゃん。スクールアイドルたるもの、はしたない行動は慎まなきゃ」

「その肉山盛りの皿を見てから言えよ……」

 

 

 後輩スクールアイドルである千歌に先輩風を吹かせ、ドヤ顔で先人の教えを伝授したつもりだろうが、穂乃果の持っている皿の惨状を見るとその教えの品位が一気に下がる。女の子だから肉をガッツリ食うなとか差別する気はないが、コイツにだけは言われたくない気持ちはみんな一緒だろう。まあ千歌は穂乃果と似たり寄ったりな性格なので、そんな穂乃果の言葉でもホイホイ信じてしまいそうだ。現に穂乃果と共鳴したのか、目を輝かせて彼女を眺める始末。こりゃ梨子も苦労するわな……。

 

 

「それにしても凄いお肉の量ですね。高坂さん、そんなに食べきれるんですか……?」

「もちろん! 家が和菓子店だからなんだけど、朝昼晩いつも和食しか出ないから嫌気が差してるんだよね。だからこそ、ここでたっぷりといいお肉を味わっておかないと!」

「その気持ち分かります! ウチも旅館なので、基本は和食ばかりなんですよねぇ……。だからこそビュッフェ形式のお食事会にずっと憧れていたんです!」

「ホントに!? いやぁこの気持ちを共有できる人がいて嬉しいよ! μ'sの誰からも共感を貰えなくて、自分がおかしいのかと思ってたから」

「私もそうですよ? 苦労を分かってくれないことに苦労しますもんね」

 

 

「いや、俺らの方が苦労してるよ。色々と……」

「ですね。もう慣れた感はありますけど……」

 

 

 2人の性格が似ていることは周知の事実だが、まさか抱いている悩みまでもが共通してたとは。もうお互いがお互いの生き写しなんじゃねぇのか……?

 そして、暴走役がいれば静止役がいるのが常。千歌の被害者は間違いなく梨子や曜だろうが、穂乃果の被害者は俺なんかよりも圧倒的に海未の方が適役だ。一度でいいから暴走役被害者の会として、飲み会をしてみてぇわこれ。普段言えないような愚痴がマシンガンのように発射され、誰にも見せられないくらいブラックな飲み会になることは確実だろうけどね。

 

 

「あっ、零君! やっほ!」

「ツバサ? 英玲奈もあんじゅも」

「こんばんは零くん。テーブルの方に全然いなかったからどこにいるのかと思ったら、まさかこんなところでふんぞり返っていたとはね」

「やっぱり君も前夜祭に招待されていたのか。ツバサが君を招きたいと、上へ掛け合っていたという話は本当だったんだな」

「あぁ、そういう手筈だったのか。その辺は詳しく聞いてねぇや」

 

 

 Saint Snow、μ's、Aqoursと来て、今度はA-RISEとエンカウントした。

 俺がスクールアイドル限定の前夜祭に招待されたのは、秋葉とA-RISEの計らいとは聞いていた。だけど彼女たちがどのような手段で俺を上層部へプレゼンしたのかは聞いてないので、気になってはいたんだ。でも英玲奈とあんじゅの様子を見る限り、ツバサが色々根回しをしてくれたみたいだな。俺とA-RISEのデートを容認してくれたりと、コイツらのプロデューサーは中々に俺への信頼が厚いようだ。いや、むしろアイドルたちのガードが緩いことを危惧するべきなのか……?

 

 

「ツバサさん!? 英玲奈さんもあんじゅさんも?」

「久しぶりね穂乃果。こうして会うのは何年ぶりかな」

「お久しぶりです! ラブライブでμ'sが優勝した日以来だから、5年くらいですかね」

「えっ、もうそんなに経つんだ!? とは言っても、穂乃果は全然変わってないね」

「逆にツバサさんはお綺麗になって! いつもテレビ番組と雑誌を欠かさず見てます!」

「そうなの? ありがとね♪」

 

 

 そうか、μ'sとA-RISEが本格的に再会するのは数年来のことだったのか。A-RISEってテレビや雑誌に引っ張りだこだから、ここ数年は俺たちの目に止まることが非常に多かった。だからこそ俺も先日会った時は、そこまで久々な感じはしなかったのかもな。

 

 そして、A-RISEとの出会いに対して穂乃果以上に興奮している奴がここに1人。

 千歌は目を最大限に見開き、唖然とした表情で口もあんぐりと開け、まるでUFOや宇宙人を目撃してしまったかと言わんばかりにA-RISEを凝視していた。

 

 

「り、梨子ちゃん! あ、A-RISEだよA-RISE! 本当に実在してたんだ……。映像じゃないよねこれ??」

「それはそれで何かと失礼な気が……。というより、今までバーチャルのキャラか何かと思ってたの……?」

「あなたたちは、確かAqoursの高海千歌さんと桜内梨子さんね」

「ふえっ!? 私たちのこと知ってるんですか!?」

「凄い、こんな有名な人たちに名前を覚えてもらえているなんて」

「あ゛っ、あっ……!! し、死んじゃいそう……!!」

「ちょっと千歌ちゃん!?」

 

 

 スクールアイドルに憧れてスクールアイドルになった千歌からしてみれば、そのパイオニアであるA-RISEに出会って卒倒してしまうのも仕方がない。しかも一番の憧れである穂乃果までいるんだから、2大スクールアイドル偉人の揃い組で千歌の興奮は頂点に達しているようだ。あまりの衝撃的な光景に女の子が発したとは思えない野太い呻き声を上げ、もう失神寸前にまで陥っていた。梨子に支えられていなければ、そのまま後頭部が床に激突していただろう。

 

 対して梨子はそこまで平静を失ってはいないようだ。まあコイツは元音ノ木坂学生にも関わらずμ'sを知らなかったので、スクールアイドルってものにそこまで興味はないのだろう。自分の趣味や仕事に没頭することはあっても、その手の有名人や実力者に興味はない人は少なからずいる。例えば野球は好きだけど、プロリーグには興味がないとか。だから彼女はその類なのだろう。

 

 

「そういやお前ら、もうすぐ舞台挨拶があるんじゃないのか? こんなところで油を売って、何してんだ」

「今は自由時間。こんなに豪勢な前夜祭なんだから、そりゃ私たちだって楽しみたいじゃない?」

「そうは言っても、もうすぐメイクの時間だからゆっくりはしていられないけどな」

「えっ、ツバサさんたちが舞台挨拶をするんですか!?」

「穂乃果、お前知らなかったのかよ……」

「えへへ、美味しい料理が食べられることしか頭になくて」

「別に楽しみ方は人それぞれだし、いいんじゃないかしら。明日からの本番のために、自分の好きなことをして心を滾らせておくのは重要よ」

「流石あんじゅさん! 話がわかる!」

「俺が異端みたいな言い方やめろよな……」

 

 

 別に穂乃果が大喰らいであることについて否定はしないが、スクールアイドルの品位というものを考えるとどうしても大食いは下品と囚われかねないだろう。もちろんそんなことを気にしていたら自分の好きなことなんてできやしないので、スクールアイドルとは言えアマチュアなんだから、世間の目はそれほど気にしなくてもいいかもしれない。

 

 それにしても、スクールアイドルの交流会も兼ねている前夜祭なのに、A-RISEは今日も忙しそうだ。ツバサがさっきからチラチラと時計を確認しているところを見ると、これから舞台衣装に着替えたりメイクをしたりで、他のスクールアイドルと話す余裕もないことが分かる。一緒にデートした時もプロのアイドルとしての格を見せつけられたけど、今もコイツらがどれだけ多忙な日々を送っているのか実感できるよ。

 

 

「それじゃ、私たちはそろそろ行くね」

「えっ、もうですか!?」

「舞台挨拶もあるし、そのあとスクフェスに向けての直前インタビューとか、雑誌の仕事も入ってるんだよねぇ……」

「ふえぇ……そんなに忙しい生活、穂乃果だったら絶対に耐えられないよぉ……」

「あはは、慣れだよ慣れ。そういうことだから、明日からはお互いに頑張ろうね。千歌さんと梨子さんも」

「へっ!? あっ、はい! ツバサさんに激励してもらえるなんて、恐縮です!!」

「そんなに畏まってないで、せっかくA-RISEに会ってんだからもっと喋ればいいのに。さっきからずっと黙ったままだったじゃねぇか」

「だ、だってぇ……」

「驚いた。まさか千歌ちゃんがここまで萎縮するなんて……。初めて見たかも」

 

 

 梨子の言う通り、コミュ力MAXの千歌がここまで口籠るのは珍しい。普段一緒にいる梨子ですらそう思ってんだから、千歌の緊張度はメーターを振り切っているのだろう。μ'sと並び憧れの存在であるA-RISEを目の前に、もう顔が真っ赤だった。まあ出会った直後は気絶しそうになっていたから、紛いなりもツバサと応対できているだけマシなのかもしれない。アイドル然り芸能人然り、テレビで見るよりも実際に生で見た方が綺麗だって感じる人は多いらしいから、千歌も今それと同じ気持ちなのかもな。

 

 

「千歌、お前の憧れたちがこうして揃ってんだ。Aqoursとしての、スクフェスの目標を言ってやれ」

「そ、そんな無茶振りを……!! え、えぇっと、学校のため、そして私たちのため、絶対にスクフェスで優勝します! もちろん楽しむことも重要ですけど、参加するからには誰にも負けません!」

「「「「おぉ~!」」」」

「穂乃果……さん? A-RISEの皆さんも、私、変なこと言っちゃいました!?」

「いや、むしろ正々堂々としていて好印象だったぞ。私たちにそこまで真っ向から勝負を挑んでくるスクールアイドルは、もういないからな」

「だからこそ、その心意気に感心しちゃったのよ。素晴らしいわ、千歌さん」

「うぇええっ!? な、なんかゴメンなさい……」

「謝る必要なんてないよ。だってあなた、Aqoursの目標を宣言する時だけは凄く真剣だったもの。本気の気持ちを包み隠さず他人に宣言できるのって、簡単そうに見えて意外とできないことだからね。それに、オドオドしていたあなたが急に真剣になったものだから、ちょっと驚いたってのもあるかな」

「あ、あはは、そうですか……? それじゃあ、素直にお気持ちを受け取っておきます」

 

 

 千歌は自分の失態が肯定的に見られたことに疑問を抱きながらも、先輩たちからの好意をとりあえずの形で受け取る。未だに少し震えているところを見ると、素直と言いながらも半分程度は納得していないのだろう。

 穂乃果もツバサたちもそうだけど、意外と千歌や梨子と変わらず普通の女の子なので、そこまで畏まる必要はないんだけどな。一緒にデートした身からすると余計にそう思える。まあ千歌からしてみれば4人は憧れの人たちなので、粗相をすることに敏感になってしまう気持ちは分からなくもないが。

 

 千歌に多少の後悔を残しつつ、A-RISEは舞台挨拶の準備のためこの場を去った。

 さっき普通の女の子とは言ったが風格はあり、未だに穂乃果が尊敬しているグループであると考えると、彼女たちのカリスマ性は凄まじい。同じ年なのに穂乃果はツバサのことを敬称で呼んでいる光景を見れば、A-RISEの格の違いが伺えるだろう。

 

 

「千歌ちゃん。そろそろみんなのところに戻ろ――――って、あれ? 千歌ちゃん??」

「あぁ、アイツならここだ」

「え……?」

 

 

 千歌は頭を抱えたまま俺の座っているソファの端っこに蹲り、何やらお経のようなものを唱えていた。

 

 

「失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった……」

 

 

「ちょっ、千歌ちゃん!? そ、そこまで気にしなくても……」

「意外と繊細なんだね、千歌ちゃんって」

「ま、お前に比べたら楽観的ではない方かな。むしろお前が無鉄砲すぎるというか、何も考えてないだけなんだろうけど」

「もしかして、バカにされてる??」

 

 

 スクフェス前日にして、千歌に軽いトラウマが刻み込まれたようだ。

 そうは言ってもコイツもコイツで切り替えは早い方なので、少し放っておいて美味い飯でも食わせときゃすぐにテンションは戻るだろ。

 

 

 

「あぁ~ん!! さっきの会話やりなおした~~い!!」

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 μ's、A-RISE、Aqours、Saint Snowが1話内で同時に登場したのはこれが初めてですね。さすがに全員を同時に喋らせると誰が誰だか分からなくなるので、加入離脱させる形で出演させてみました。こうやって見ると、スクフェス編ってかなり豪華ですよね(笑)

 次回は前夜祭編の後半で、まだ登場してない虹ヶ咲や秋葉さんは次で登場します。
 同時に、ストーリーも徐々に進行予定です。


 まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
 小説執筆のやる気と糧になります!




 ここからは別件となりますが、2年以上前に開催されていた『ラブライブ!』の企画小説を久々にやることになりました!

【概要】
 参加者各々が好き好きにラブライブ小説を執筆し、それらを私が毎日1話ずつ投稿するというものです。作家ごとに世界観や登場させるキャラも違うと思うので、毎日新鮮な気分でラブライブワールドを楽しめると思います!

【参加について】
 ラブライブ小説を執筆している人はもちろん、これまで書いたことがない人で『実はこういうネタを持っていたけど、書く機会がなくて……』みたいな人でも大歓迎です!
 小説の提出期限等の詳細は私のTwitterの固定ツイートをご覧ください。
 また、参加表明はTwitterでもハーメルンのメッセージでも、私に伝わる者であればどんな方法でもOKです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

動き出す運命

 スクフェスの前夜祭、後編です。
 物語は、裏でひっそりと動き出す――――


 

 

「千歌ちゃん、大丈夫かな……」

「アイツのことだ、飯食っとけば治るだろ」

「雑っ!?」

 

 

 穂乃果とA-RISEに失礼なことを言ってしまったと後悔全開の千歌は、梨子に連れられて再びビュッフェ会場へと戻った。ショックのあまり口から魂が抜けているその姿を見ると、明日からのスクフェスで上手くライブができるのか少し心配ではある。でもアイツは凹みやすいが立ち直りも早いので、飯でも食わせて気を紛らわせてやれば割とすぐ元に戻るだろう。

 

 

「そういえば、秋葉さんは来てないの? 零君をこの会場に入れてくれたのは秋葉さんでしょ?」

「さぁな。でも来てないと思うぞ? アイツはパーティみたいな騒がしい場所が苦手だから」

「そうなんだ。聞きたいことがあったのになぁ~」

「聞きたいこと?」

「うん。穂乃果たちって、差出人が分からない人からの招待状でスクフェスに参加してるでしょ? 秋葉さんなら調べられるかなぁと思って」

「もしそれで差出人が分かったらどうすんだ?」

「お礼がしたいんだよ! スクフェスに参加させてくれてありがとうってね!」

「えらくポジティブだなお前……」

 

 

 そうだ、長らく忘れてたけど、スクフェスの招待状問題が残ってたな。1ヵ月半前、俺の家にμ's宛てのスクフェス招待状が届いた。一体誰が送ってきたのか、解散したμ'sへ招待状を送った理由や、どうしてμ's宛てなのに俺の家に届けたのか、何もかもが謎のままだ。最初は得体の知れない招待状に警戒心を抱いていたが、穂乃果の意向によりμ'sは再結成され、世間から再び注目を浴びる結果となった。歩夢たちとの衝撃的な過去、Aqoursとの色恋沙汰等、絶え間ない非日常に浸かっていたせいか、いつのまにかその謎を解決することすらも忘れちゃってたな。

 

 ちなみにその件については、ラブライブ本社で働いている絵里と希が調査をしてくれていたはずだ。だけどその結果は乏しく、何1つ差出人の尻尾を掴むことはできなかった。一企業を欺けるほどの技術を持つ奴を考えれば自ずと答えは出そうだが、一切証拠がないため確信ではない。謎だらけで気味が悪いのは確かだが、俺としてはμ'sが再びステージ上で見られるのが楽しみでならない。だから、一概に招待状を送り付けてきた奴を否定することもないんだ。

 

 

「ま、スクフェスに出てれば何らかの形で姿は現わすだろ。わざわざ解散したμ's宛てに招待状を作るくらいだし、相当なファンだろうからな」

「だといいんだけどなぁ。そのためには、スクフェスを勝ち抜かないとね! いい結果を出さないと、その人が帰っちゃうかもしれないし」

「そうだな。でないと俺の方が先に帰っちまうぞ」

「え、流石に白状過ぎない!? 恋人たちの雄姿を見届けようとは思わないの!?」

「ちょっ、お前こんなところで()()()()とか言うなって!」

 

 

「随分と仲がよろしいんですね、お二人とも」

 

 

「こ、これはちがっ――――って、歩夢!?」

「私もいますよ!」

「あっ、かすかすちゃんだ!」

「あ゛ぁん? かすみですけど!?」

 

 

 そういやそのあだ名で呼ばれるのは嫌いだったなコイツ……。かすかす、カスカス、うん、馬鹿にされてるようにしか聞こえねぇわこれ。

 俺たちの話に割り込んできたのは、虹ヶ咲の歩夢とかすみだった。穂乃果や千歌とは違い、肉山盛りの皿を持っていないだけで彼女たちのしたたかさを感じられるが、歩夢は片手に、かすみは両手にスイーツ特盛の皿を持っているのでプラマイゼロである。つうかケーキにチョコフォンデュにプリン、クレープにあまおう苺にパフェって、もう見てるだけでも胸焼けしそうだ。これだけの甘いモノを平気で平らげようとするんだから、女の子って男にはない胃袋を持ってるよな……。

 

 そんなことより、さっきの会話を聞かれてないよな?? 秋葉から俺とμ'sの関係は聞いているだろうが、極力自分から複数の女の子と付き合っていることを暴露したくない。そもそも暴露することに何のメリットもないしな。

 

 

「歩夢ちゃんたちも来てたんだね! 会場も広いし人も多いから、全然気付かなかったよ」

「実はさっき来たばかりなんですよ。練習に熱を入れてたら遅れちゃって」

「えっ、スクフェスは明日からだよ? 休まなくても大丈夫なの!?」

「かすみたちは抜かりないですからね。これでμ'sもA-RISEも、みんなけちょんけちょんです!」

「す、凄い自信だね……」

「フッフッフ、なんたってかすみたちは事前投票1位ですから! 世間の皆さんもかすみたちの実力を分かってるってことですよ! あーはっはっはっ!!」

 

 

 かすみは腰に手を当てて、ない胸を張って高らかに笑う。先輩スクールアイドルへの失礼な態度で弁解しようのない嫌味だが、さっきの千歌とは違って悪びれる様子は一切ない。むしろ相手を蔑む目的で、上から目線で威張り散らしているのだろう。態度は明らかに傲慢だけど、言い返すにも言い返せないのでもどかしくはある。虹ヶ咲がスクフェスの事前人気投票で1位なのは事実だし、PVでも自分たちの実力を遺憾なく発揮、μ'sを黙らせるほどの魅力を見せた。だからこそコイツの嫌味には相当な説得力があるのだ。

 

 とは言うものの、小柄なかすみが威張っても、ただの小悪党にしか見えない。嫌味を振りかざされているはずなのに、その姿がどこか可愛く見えちゃうのはもはやご愛敬だろう。現に穂乃果ものほほんとした表情をしており、頬を緩めた暖かい笑顔を彼女に向けていた。

 そもそもの話、穂乃果は図太いから安っぽい挑発ごときではビクともしないだろうがな。

 

 

「な、なんですかその顔は!? ほらもっと悔しがってもいいんですよぉ~?」

「かすかすちゃんは可愛いねぇ~♪」

「こ、こら頭を撫でるな!! って、かすかすって呼ぶなぁ゛あ゛あああああああああああああああああああ!!」

「相変わらずよえぇな……」

「でもこれが微笑ましいんですよね。だからこそ許しちゃうって言いますか。まあ先輩への態度はちょっと、いやかなり失礼ですけど……あはは」

 

 

 かすみの頭を撫でる穂乃果に、穂乃果をぽかぽか殴るかすみ。さっきまでは意気揚々とマウントを取っていたくせに、一瞬のうちに攻守逆転で手玉に取られている。いつもマウントを取られまくっている穂乃果にすら負けるとは、知り合いの女の子の中で1、2を争うほどのチョロさ具合だ。こりゃ真姫や善子といい勝負だな……。

 

 それにしても、海未然り、梨子然り、どこのスクールアイドルも苦労人はいるもんだ。歩夢も歩夢でいきなりキスをしてきたり、浴衣を捲ってアピールしてきたりと大胆な行動をするが、それですら常識人の部類なんだから俺の周りの女の子がいかにぶっ飛んでいるか分かる。その中でも虹ヶ咲の子たちは恋する乙女の印象が強いから、割と真面目な集団かもしれない。でももし付き合い始めたら、過去による(たが)が外れて性格が急変しそうな奴もいそうだけど……。ほら、ことりみたいな奴だよ。

 

 

「ほらかすみちゃん、そろそろ行くよ」

「えっ、もうそんな時間なんですか? うぅ、もっと零さんと一緒にいたかったのに……」

「何かあるのか?」

「はい。スクフェスの特集番組内で明日への意気込みというインタビューコーナーがあるんですけど、私たち、それに参加するんです」

「なにそれ!? 穂乃果たち呼ばれてないんだけど!!」

「あーはっはっはっ!! これがμ'sとかすみたちの実力差ってやつですよ!!」

「こらっ」

「ふにゅっ!? あ、歩夢さんチョップは禁止ぃ~!」

 

 

 かすみは涙目になり、頭を抱えながら蹲る。見てるだけでも結構なパワーで手刀が振り下ろされてたから、意外と容赦ねぇんだな歩夢って。多少だろうが頭に刺激が加わると脳細胞が破壊されるから、あの力で衝撃を加えられるとバカに……いや、かすみは最初からバカだったか。

 

 そして、かすみは歩夢に引っ張られる形でこの場を去った。あれだけ威張っておいて、最後の最後ではここにいる誰よりも扱いが底辺なことに嘲笑うことしかできない。しかし、あれでも一途に俺のことを想い続けてくれた乙女なんだよな。むしろ十数年ぶりに俺に会えたからこそ、ようやく本当の自分を曝け出すことができたのかもしれない。そう考えると、もう少し側にいてやればよかったかな? いや、この同情を誘うことがアイツの作戦だったのか。ま、これからはいくらでも一緒にいられるんだし問題ないだろ。

 

 

「さて、俺も行くかな」

「えっ、帰っちゃうの?」

「いや、トイレだよトイレ。まさかそこにまでついて来るとか言い出さねぇだろうな?」

「う~ん、零君がよければ?」

「スクフェスの前夜祭会場で、男女2人が一緒にトイレとかスキャンダル以外の何物でもないからやめろ」

「高校時代の零君なら絶対に誘ってたのに」

「そりゃあの頃は思春期真っ盛りだったんだから仕方ねぇだろ」

「今も脳内思春期のくせに♪ あっ、もうすぐA-RISEの舞台挨拶があるから、穂乃果もみんなのところに戻るね」

 

 

 こうした余計な冗談が間髪入れずに繰り出されるあたり、俺と穂乃果が他のスクールアイドルよりもどれだけ付き合いが深いかを実感できる。合同合宿の時もそうだったけど、他の女の子たちと一緒にいる時間が増えるたびに、μ'sと一緒にいる時の安心感がより浮き彫りになっていく。やっぱり女の子と付き合う上で、相手のことをよく知っておくのは重要だよな。会話のペースもテンポもμ'sだと段違いだから、話しやすいのなんのって。

 

 気付けば、会場の前方付近に多くの人が集まっていた。もうすぐA-RISEの舞台挨拶だから、それを見たさにスクールアイドルたちが集まっているのだろう。舞台挨拶とは言ってもスクフェスの参加者代表の選手宣誓みたいなものだから、彼女たちが今から特別何かをするって訳じゃない。でもA-RISEがステージに上がっている姿そのものを生で見られることが貴重だから、ああやって人がごった返しているんだと思う。プロのアイドルの生中継だもんな、そりゃそうなるわ。

 

 だけど、みんなの注目がステージに集まっているのはこちらとしても好都合だ。俺も行きたいところがあったんだけど、下手に動くと目的地に着くまでにたくさんの女の子に話しかけられそうだったからさ。

 

 

 前夜祭の会場となっているホールを出ると、階段を上って2階へ上がる。行き先はトイレ……ではなく、1階のホール全体が見渡せる、いわゆるVIPルームと呼ばれる部屋だ。もちろん俺は裏口入場なので、そんな大層な部屋には招待されていない。そもそも高級ホテルの大会場を見渡せるくらいの席ともなれば、俺たちの想像を遥かに超える金を貢がないと入れないだろう。

 

 俺はホテルの他の部屋とは違う、ロイヤルなドアの手前まで辿り着いた。見るからに傷付けることすら憚られる高級さだが、そんなことは関係ない。

 足を大きく振りかぶり、使い古された汚いスニーカーの裏でドアを蹴破った。

 

 

「おい、いるんだろ?」

「も~うっ! 乱暴だなぁ全くぅ~」

 

 

 スイートルームでは、秋葉がいつもの白衣姿で優雅にワインを嗜んでいた。多少酔っているのか俺が乱入してきたことにすら驚かず、何故か腹立つ表情でニヤけている。コイツが姉でなければ、顔面を一発殴っていたところだ。

 

 

「さっきから俺たちのことをジロジロ見やがって。覗き魔にでも転職したか?」

「失礼な! 大好きな零君を観察してたんだよ♪」

「意味一緒だろそれ……。むしろストーカーっぽいからヒドくなってるし」

「たくさんの女の子に囲まれてる零君を、スイートルームで優雅に見下す私。う~ん、快感♪」

「それが目的だったか……」

 

 

 やはりコイツは自分が心地よくなることしか考えていない。なるほど、俺を前夜祭に招待した理由はこれか。

 スイートルームの四方の壁の1つはガラス張りになっており、2階席から丁度1階のホール全体を見渡せる。しかもマジックミラーになっているようで、1階からこの部屋の様子を伺うことはできない。見れば秋葉の持っているリモコンで会場の音声を自由に操作して聞くことも遮断することもできるみたいで、思っていた以上にVIPな席だった。高級ホテルのホールだからオーケストラやコンサートにも使われるだろうし、本来はそのためのVIP席なんだろう。弟のハーレム姿を見て悦ぶために使うとか、そんな贅沢で勿体ない使い方をしたのはコイツだけだろうな……。

 

 

 秋葉の豪遊っぷりに呆れていると、突然部屋が急に暗くなった。部屋というよりもホール全体の証明が落ちたから、この部屋に明かりが入って来なくなったと言った方がいいか。

 ホールを見てみると、ステージだけに照明が当てられている。今はホールの音声がこの部屋に入って来ない設定になっているようだが、ステージの前にスクールアイドルたちが集まっているところを見れば、今からA-RISEの舞台挨拶が始まるとすぐに分かった。2階席だからステージも全体を見渡せるし、女の子たちの頭もたくさん拝める。なんか、秋葉が快感に浸っていた気持ちが少し分かる気がするよ。これだけの女の子を見下せるなんて、俺もちょっと興奮するもん。

 

 

 秋葉はテーブルにワイングラスを置いて立ち上がると、鏡越しに会場を見下す。

 さっきまで酔っ払って陽気な雰囲気だったのに、突然我が子を見守るような微笑ましい表情に変わる。コイツには母性なんてモノを感じるどころか、普段の立ち振る舞いは悪戯好きな子供そのものだから、そんな表情をするのは珍しい。

 

 

「あの子たち、いい顔してるよね」

「あの子たちって、歩夢たちのことか? それともμ's、Aqours?」

「みんなだよみんな。優勝を目指す理由は違えど、みんな同じ夢を持っている。あなたに自分たちの魅力を伝えるっていう、一途な夢をね」

「これだけたくさんの女の子たちから好かれるなんて、数年前は思ってなかったけどな。μ's以外の女の子となんて考えたことなかったから」

「ホントに、いつからこんなにモテるようになっちゃったんだろうね」

「昔の俺のおかげかな。歩夢たちを命懸けで助けた理念が、記憶を失っても俺の身体に染みついてたせいだよ。女の子に悲しみを感じて欲しくないっていう、至極単純な理念だけどさ」

「フフッ……」

「なんだよ?」

「いや、べっつにぃ~」

 

 

 恥ずかしい発言をしていることは自覚してるけど、誰かにバカにされる言われはない。でも秋葉の笑みはどこか含みがあるというか、相変わらず考えていることが読めない。また何かくだらないことを企んでいるのか、それとも本当に感傷に浸っているのか。これでも身内に対する愛は人一倍持っている方だから、含み笑いをしているからと言って一概に怪しいとは思えないんだよな。

 

 

「さて、突然ですがここで問題です。私が好きな笑顔は零君の笑顔ですが、実はもう1つあります。それは誰の笑顔でしょうか?」

「ホントに突然だな……。つうか、俺の笑顔が好きなんだ」

「可愛い弟の笑顔だからね、そりゃ好きだよ。他にももう1つあるけどね」

「お前さっき言ってたじゃねぇか。歩夢たちのじゃないのか?」

「ブッブー! まああの子たちのも好きっちゃ好きだけど、1番は――――」

「1番は?」

「自分自身の笑顔でしたーーっ♪」

「分かるかそんなもん」

 

 

 秋葉は無邪気な笑顔で問題の解答を明かす。分かるかと文句は言ったものの、コイツの性格を考えれば自分のことが一番好きだなんて分かり切ってるから、よく考えれば正解できていたかもしれない。まあ正解したところで何が嬉しいんだって話だが……。

 

 そもそも、コイツがどのような意図で問題を出題してきたのか、全くもって意味不明だ。人の笑顔を語るなんて甚だ似合わないくせに、ここへ来て虹ヶ咲の成長に感動したか? どうやら俺が記憶をなくしたあの日から、コイツと虹ヶ咲は長く深い関係にあるようなので、我が子のように見守りたくなる気持ちは分からなくもない。歩夢たちは俺と再会して、ようやく本来の笑顔を取り戻せたんだもんな。だから秋葉にとっても嬉しいことなのかもしれない。

 

 

「くだらない茶番どうでもいい。俺が聞きたかったのは、こんなところで覗き魔をしてるのはどうしてかってことだ」

「みんなの眩しい笑顔を一度に眺めたいから……は理由になってない? それ以上でもそれ以下でもないよ。みんなの笑顔を見てると、私まで笑顔になれちゃうからね」

「お前、そんなに他人に興味あったか? いつものお前なら、誰がどうなろうがお構いなしのはずだ。なのに今は笑顔笑顔って、らしくねぇな」

「スクフェスはμ'sにとってもAqoursにとっても、そして虹ヶ咲のみんなにとっても特別だからね。特別だからこそ、みんなはいつも以上の輝きを見せてくれる。一度にこれだけの笑顔が見られるんだもん、私だってテンション上がっちゃうよ」

「こんなこと言うのも失礼かもだけど、似合わねぇな」

「失礼と分かりながら敢えて踏み込んでくるその横暴さ、嫌いじゃないよ♪」

 

 

 今まで散々人を発明品の実験台にしてきたくせに、ここへ来て善人気取りとかマジかコイツ。既にお前への評価は最底辺なのに、改めて好感度アップを図ろうとするその計略、ちょっと腹立つよな。

 まあでも虹ヶ咲の子たちを小さい頃から面倒を見ていたのは事実なので、我が子の成長に感動する気持ちも少しはあるのかもしれない。仮に自分の子供がμ'sやAqoursたちと同じ舞台に立てると知ったら、そりゃ感傷に浸ってもおかしくないわな。つまり、悪魔の研究者の異名を持つコイツにも、まだ人間の心があったってことか。コイツが何かに感動するとか、誰かに期待を抱くとか、そんな様子を生まれてこの方一切見たことないから驚いたけどね。

 

 

「私はね、この時をずっと楽しみにしてたんだよ」

「スクフェスをか? お前がお祭りを楽しみにしてるなんて、世界の方が狂ってんのかなこれ……」

「確かに騒がしいのは好きじゃないけど、今回は特別。楽しみすぎて、最近は8時間しか眠れないんだから」

「十分じゃねぇか……」

 

 

 それに騒がしいのが好きじゃないって、毎回の騒ぎの元凶が自分だってことを自覚してんのかなコイツ。しかしそんな諸悪の根源でも、子供のようにはしゃいでしまうほど楽しみなイベントがあるってこった。わざわざこんなスイートルームを借りて前夜祭を満喫するくらいだから、本人が如何にスクフェスにお熱なのかが分かる。スクールアイドルの晴れ舞台に何かやらかすのかと警戒していたが、取り越し苦労で杞憂に終わりそうだ。

 

 

「じゃ、俺行くわ」

「あれ? もう?」

「ツバサたちの舞台挨拶をちゃんと見ておかないと、後で感想を求められた時に詰むからさ」

「相変わらず女の子に大人気だね。嫉妬するくらい」

「それは俺が人気者だからか? それとも女の子としてか?」

「ははっ、どっちだろうねぇ~」

「ったく……それじゃあな」

「またね――――――――――次に会う時は、終わった時かな」

 

 

 部屋を出る間際に聞こえた言葉。終わった時って、スクフェスの会場には一切顔を出さないつもりなのか? それか今回のようにまたVIP待遇の席で優雅にスクフェスのステージを観覧するとか? だとしたら会う機会はないだろうけど、どういう意味だったんださっきの……。

 

 

 

 A-RISEの舞台挨拶で会場が大きく活気付き、スクフェスに参加する全てのスクールアイドルが明日の意気込みを新たなモノにしていた。全力で楽しむ者、優勝をもぎ取ろうとする者、様々な気持ちが交錯してスクフェスを盛り上げている。俺も秋葉ほど表には出さなかったけど、女の子たちの晴れ舞台に心が躍り、子供ながらにテンションが上がってしまいそうな気分だ。

 

 遂に明日から3日間、スクールアイドルのためのスクールアイドルによる祭典が行われる。スクールアイドルとして参加する訳でもないのに、この盛り上がり様を見てると血が滾ってくるな。

 

 

 

 

 そんな中、スイートルームに残った彼女は、1人になった部屋で笑みを浮かべていた。

 

 

「そうだよ零君、ようやく始まるんだよ。この十数年、私がこの時をどれだけ楽しみにしていたか。フフッ……アハハ、だめだめ、今から笑いが止まらないよ♪ 例えどんなことがあっても、笑顔を忘れちゃダメだよ? 零君、みんな……フフ♪」

 




 μ'sやAqoursもそうですが、各グループごとに描くのが特に楽しいキャラが必ず1人は存在します。虹ヶ咲の場合は今回も登場した中須かすみで、嫌味ったらしいキャラでありながらも、小悪党かつマスコットっぽくて可愛いところが執筆していて楽しいですね!

 読者の皆さんは、この小説のこのキャラが好き――とかありますか??


 次回はスクフェスの1日目。スクールアイドルたちにとっては、決勝ステージの枠を争う予選となります。



新たに☆10評価をくださった

Ryouma5151さん

ありがとうございます!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!



 ここからは別件となりますが、2年以上前に開催されていた『ラブライブ!』の企画小説を久々にやることになりました!

【概要】
 参加者各々が好き好きにラブライブ小説を執筆し、それらを私が毎日1話ずつ投稿するというものです。作家ごとに世界観や登場させるキャラも違うと思うので、毎日新鮮な気分でラブライブワールドを楽しめると思います!

【参加について】
 ラブライブ小説を執筆している人はもちろん、これまで書いたことがない人で『実はこういうネタを持っていたけど、書く機会がなくて……』みたいな人でも大歓迎です!
 小説の提出期限等の詳細は私のTwitterの固定ツイートをご覧ください。
 また、参加表明はTwitterでもハーメルンのメッセージでも、私に伝わる者であればどんな方法でもOKです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

曲芸は始まる

 ようやくスクフェスの1日目に突入!
 しかし、平穏ではないところが彼のいつもの日常で……



 そして何気にですが、スクフェス編が100話達成です()
 


 とうとうスクールアイドルフェスティバルの当日になった。

 全国のスクールアイドルが集結するこのイベントでは、定期的に行われる『ラブライブ!』よりもずっと大規模だ。どのあたりが大規模かと言うと、主に以下の要素が挙げられる。

 

 

・全国のスクールアイドルが一堂に会する

・屋台やグッズショップ、アスレチック等のアトラクションが出店、設備されている

・予選、合同ライブ、決勝が3日渡って行われる

・スクールアイドルたちがバラエティ番組の生放送に出演する

 

 

 これだけでもスクフェスが如何に壮大なイベントなのか分かってもらえるだろう。どの要素も未だかつて実施されてこなかったことであり、そのため世間からの期待度も高い。μ'sなんてグループを結成した頃はちっぽけな存在だったのに、いつの間にかこんな大規模イベントの目玉と呼ばれるようになっちゃって。まだ1日目の午前中で何も始まってないけど、なんか感慨深くなっちまうよ。

 

 そんな訳で、1日目である今日は予選が行われる。全国のスクールアイドルが集結してるってことは、その数だけ予選のライブが行われるということ。それだけの数がいれば、丸々1日かけての長丁場となるのは必至だ。

 でも、それだけに俺たち来場客の注目は熱い。予選に敗退したスクールアイドルは帰っちゃうかもしれないので、3日間あるスクフェスの中でも一番多くのスクールアイドルが集まるのは今日だからだ。好きなグループの応援のために来る人ももちろんいるだろうが、ただお祭り騒ぎを楽しみたい人にとってはむしろ今日がピークかもしれないな。

 

 それを具現化するように、実際のスクフェス会場は想像以上の来場客で賑わっていた。出入りが自由ってのもあり、時間問わず気軽に参加できるのも来場者数増加の要因だろう。そして1つ救いなのが、夏祭り会場なんかよりもここの方がよっぽど歩きやすいってことだ。多数の来場者を見越してか、屋台ゾーンの道幅はかなりゆとりが設けられている。だから来場者の多さは感じられるものの、会場が窮屈だとは思わない。これなら人混みが苦手な俺のような人間でも、スクフェスをたんまり楽しめそうだ。

 

 

 ちなみにだが、今日の俺は1人である。ぼっちでイベント会場に来るなんて正気の沙汰じゃないが、いつも一緒にいる子たちがみんな予選の支度で忙しいため、()()()()(ココ重要)ぼっちにならざるを得ないって訳だ。よく考えてみれば、俺ってスクールアイドル以外にあまり友達がいない。大学で知り合った女の子はたくさんいるけど、所詮学校だけの付き合いだったりセフレだったり諸々なので、わざわざスクフェスにまで付き合ってくれる子は皆無だ。

 

 周りからハーレム野郎って耳が痛くなるほど言われてるけど、この状況を見たらソイツらも押し黙るだろう。

 …………うん、寂しくねぇよ? いやホントに!!

 

 

「1人で食う人形焼きはうめぇな。あぁ、本当に美味い。ちょっと食べにくい柄してるけど……」

 

 

 俺が今食っているのは『スクールアイドル人形焼き』なるもので、その名の通りスクールアイドルがモチーフとなった画期的な人形焼きだ。事前投票で選ばれたトップ10のスクールアイドルたち1人1人が人形焼きになっており、その中にはμ'sやA-RISEはもちろん、投票1位の虹ヶ咲のメンバーまでいる。AqoursとSaint Snowは残念ながらトップ10圏外なので採用されていないが、知っているメンツがこれだけいたら十分だろう。むしろ知ってるメンツが多いからこそ、食べるのが少し躊躇われるんだけどさ……。

 

 これを食べてるところを知り合いに見られたら、『女の子を食べてる変態がいる』と周りに誤解されかねない発言をする奴が絶対に出てくる。それを考慮すると、1人で会場を回れるのは僥倖だったかもしれない。だって屋台を見つけるまで、みんなが人形焼きのモデルになっているなんて知らなかったからな。衝動的に買っちゃったけど、親しい女の子の人形焼きを食うって相当勇気のいる行動だと思うぞ?

 

 

 さて、次はどこへ行くかな。会場で一番人気なのは、やはりと言うべきかスクールアイドルのグッズが売っているショップである。有象無象のスクールアイドルが存在する昨今、オタク向けショップでは必ずと言っていいほどスクールアイドルの特設コーナーが存在する。だから目新しくはないと言えばないのだが、この会場のショップは他のとは訳が違う。

 それもそのはず、解散したμ'sと、世界で活躍するA-RISEのグッズが再販されているからだ。基本的には解散したグループや、本格的に芸能界デビューしたグループのグッズは、商標の観点から販売されることはない。そのせいか、最近はμ'sやA-RISEのグッズがオークションや中古店でプレミア化しており、生半可な金額で手を出せる代物ではなかった。

 しかし、それらのグッズがこの会場で再販されるとなったらどうなると思う? お察しの通り、大人気で行列沙汰になるのは必然だ。基本人混みが嫌いな俺からしてみれば、自ら死地に行くバカな真似はしない。

 

 それにだ。俺の周りには本人たちがいるんだから、そんなグッズを買う必要もないんだよ。わざわざ高い金を出してピンバッジや人形を集めなくても、本人たちが自らこちらに出向いてくれるからな。このことは絶対に公言しないが、この会場にいる誰よりもスクールアイドルたちと親密な関係ってことに優越感を抱いちまうよ。

 

 

 人形焼きを食って腹はそこそこ満たされた。グッズショップにも興味はない。となると、ホントにどこ行けばいいんだ……? 明日はスクールアイドル同士のコラボライブや、バラエティ番組の参加でアイドルたちの微笑ましい姿が見られるんだけど、今日は予選しか行われないのでそれが始まるまで暇だ。他の来場客にとっては何もかもが新鮮で、予選なんて行われなくても1日中楽しめるだろう。だけど俺にとってはスクールアイドルは身近な存在で、ドルオタとは違いグッズの収集癖もないので特に屋台やショップに立ち寄る必要がない。

 

 あれ? 俺のスクフェス巡り、もう終わり?? これからどうしようか……うん、帰るか?

 

 

「あっ、女の子を食べてる変態がいる!!」

「あ゛ぁん? しばくぞクソアマ……えっ、ここあ?」

「えへへ、こんにちはおにーちゃん!」

「あら、お兄様ではありませんか!」

「こころまで。お前たちも来てたのか」

 

 

 さっき俺が想像していたことと全く同じセリフで声をかけられたから、思わず相手を威嚇してしまった。よく考えてみれば、その相手が全く知らない人だったら大恥どころの話じゃねぇよな……。ま、そんなことを言いそうなのは俺の知り合いくらいだけどさ。

 

 それにしても、まさか2人とこんなところで会うなんて思ってなかった。恐らくにこの応援に来たのだろうが、この広い会場内で出会えたのは奇跡に等しい。まさか虹ヶ咲の連中みたいに俺を付け狙っていた訳じゃあるまいし……。

 

 

「今日はお姉様の応援のために来ました」

「だろうな。つうか、虎太郎はいないのか?」

「あぁ、虎太郎はお留守番です。それに元々騒がしい場所は苦手な性格なので」

「そりゃアパートの一室で、お前らが毎日毎日騒がしくするから苦手になったんだろうよ」

「えっ、そんなにうるさいかな私たち?」

「胸に手を当てて考えてみろ」

「出た! おにーちゃんのセクハラ発言!」

「してねぇよ!! むしろ、その発言のせいでセクハラ発言に昇華されるからやめろ!!」

 

 

 相変わらず、コイツらの言葉は全てが起爆剤だ。しかも触れてもドカン、触れなくても向こうから着火してくる理不尽仕様。どちらに転んでもコイツらの発言で俺が火傷をする羽目になる。これも散々言ってるけど、やっぱり女子中学生と高校生って肩書だけで無敵だよな。その肩書は最強の武器であり盾でもあり、武器として男を社会的に抹殺することも、被害者ヅラしてその場を凌ぐ盾としても使える。コイツらは良くも悪くも純粋だからそんなことは考えてないだろうが、天然でそんな行動をしてるからこそ怖いんだよ……。

 

 ちなみに虎太郎だけど、アイツもアイツでかなりの苦労人だ。あのにことこころ、ここあの弟とあれば、当然ソイツらの騒がしさに悩まされる気持ちも分かる。そのせいかこの前一度会った時、早く姉ちゃんたち全員貰ってくれと無茶を言ってくる始末。本人曰く、自分が物静かでしんみりとしたところが好きになったのは、そんな姉たちが理由だそうだ。もうね、心中をお察しするとしか言い返せなかったよ。

 

 

「それにしても、おにーちゃんに会えてラッキーだったよ。2人で会場を回るよりも、3人で回ったほうが楽しいもんね!」

「別に変らねぇと思うけどな。それに俺は行きたいところないし」

「なら、私たちに付き合ってくれるだけでいいので……ダメでしょうか?」

「まぁ暇だったからいいけどさ」

「やりぃ!! そうだ、財布を落とさないようにカバンにしまっておかないと」

「えっ、そんな奥にしまったら取り出しにくいだろ。会場を回るのに、何も買わないのか?」

「大丈夫。財布ならここにあるから♪」

 

 

 そして、ここあは笑顔で俺の腰を叩く。

 コ、コイツ……!!

 

 

「帰るわ」

「ゴメンゴメンうそうそ! 自分の分はちゃんと自分で払うからぁ~!」

「当たり前のことを大声で言われても……。ったく、男に貢がせる女にだけはなるなよ」

「そこは心配ありません。私もここあも、お兄様の女にしかなりませんから!」

「そりゃ嬉しいけど、それもあまり大声で言わないでくれ。周りの目が痛くなる……」

 

 

 女子高生が微笑ましい表情で、口から"女になる"なんて単語が飛び出したら誤解されるに決まってる。周りに人がいる状況でそんなことを口走る女の子はまずいない(コイツらを覗いて)から、他人からしてみれば俺がコイツらを調教したと思われても仕方がないだろう。

 確かに暇だとは言ったけど、この2人と一緒に人が多い場所を歩くのは自殺行為じゃないか……?

 

 

 なんて危機感を覚えつつも、2人に引っ張られる形で会場巡りが始まった。

 さっきは財布を目的にされたので帰ろうと思っていたが、世間的に考えて、JCJKと一緒に行動していて財布を閉じているのは大人としての品が下がる気がする。だから、俺が取った行動は――――――

 

 

「ありがとうおにーちゃん! おにーちゃんのおかげで、欲しかったA-RISEのグッズ全部買えちゃった!」

「でもいいんですか? A-RISEグッズコンプリートセットを私たちに1つずつなんて……。値段を見ましたけど、いくら大学生だからってポンと出せる金額じゃないような気がします……」

「ガキがそんなこと気にすんな。それに、将来への投資だと思えば気も楽になる」

「将来? もしかして、私たちの……?」

「どうだろうな」

「えぇっ!? そこはカッコよく決めてくださるところですよね!?」

 

 

 キザっぽいセリフを吐こうと思ったが、意識すればするほど恥ずかしくなったからやめた。やっぱりカッコよく決める時は勢いで行動しないと、今のように考え混んでしまって躊躇しちゃうよ。でもこの2人は俺の伴侶になる気満々なので、ここまで女の子に好意を持たれていることに少しくらいイキってもいいだろう。まあイキった挙句に恥ずかしがっていては、風格もあったもんじゃねぇけど。

 

 どうであれ、2人が嬉しそうな顔を見られただけでも投資した甲斐があったってもんだ。子供におもちゃを買ってやる大人の気持ちって、まさに今の俺と一緒なんだろうな。

 

 

「そういや、今日はおにーちゃん1人なんだね。いつもは女の子を両腕で抱いてるのに」

「サラッと根も葉もないことを言うな。みんな予選の準備で忙しいんだよ。流石に控室に入る訳にもいかねぇしさ」

「お兄様、意外と常識あったんですね……」

「なんなのお前ら!? 俺のことどう見てんだ??」

「変態のおにーちゃん」

「変態のお兄様です」

「蔑んでるんだよなそれ? 褒められてる気は一切しないが……」

 

 

 恐らくだけど、コイツら的には『変態』というのはマイナスイメージの言葉ではないのだろう。むしろ俺を最も端的に表す言葉として、神崎零を象徴する語句として認識している可能性が高い。果たしてそれで喜んでいいのかどうか、俺の存在を特別なモノとして捉えていることは確かなんだけど……。うん、でもやっぱり納得できねぇわ。でも笑顔で『変態』とか言っちゃうあたり、一切悪気はないんだよなコイツら。そう考えると、ツッコミを入れるのもお門違いの気もするし、あぁ~もどかしい!

 

 

 こころとここあとのコミュニケーションは相変わらず独特だと再認識した時、ポケットのスマホが震えていることに気が付く。

 画面には『松浦果南』と表示され、既に数回コールされていた。それでもなおコールし続けているってことは、急ぎの用事でもあるのだろうか?

 

 

「悪い、周りが騒がしくて気付かなかった。どうかしたか?」

『あっ、先生。実は、千歌と鞠莉がいなくなっちゃったんです』

「はぁ? 迷子ってことか? でもお前ら控室にいるんじゃなかったっけ?」

『そうなんですけど、思った以上に入りが早くて……。ほら、私たちって大きなライブに参加したことがほとんどないじゃないですか? だから入りに遅れないよう時間に余裕を持って来たら』

「早く支度が終わって暇になったと。それでその空いた時間で千歌と鞠莉がスクフェス会場に遊びに行ったけど、戻ってこない。どうせそんなところだろ」

『流石です先生……』

「アイツらの行動なんて単純だから、すぐ読めるよ。それで俺に探して欲しいって魂胆だろ?」

『何もかも当たりです。実はもうすぐライブ直前の打ち合わせがあって、私たち、ここから離れられないんです。打ち合わせ後に隙間時間ができたら、私たちも探そうとは思っているんですけど……』

「分かった分かった。できるだけこっちで頑張ってみるよ」

『ありがとうございます。それでは、またあとで』

 

 

 そこで果南との電話が切れる。

 なんか、どこへ行っても何かしら騒ぎを起こすよなAqoursって。それはμ'sにも言えることだけど、何もスクフェスの本番直前に問題を起こさなくてもいいだろ……。それに案の定と言うべきか、フラフラと歩きまわってみんなに迷惑をかけているのがAqoursの問題児トップ2ときた。こりゃ元顧問として、しっかり躾けてやる(意味深ではない)必要があるみたいだな。

 

 果南がわざわざ俺に電話をかけてきたってことは、千歌と鞠莉には連絡したけど応答がなかったということだろう。つまり、アイツらは携帯を見ていない。俺が果南からのコールに気付かなかったのもそうだが、ライブ会場ってのは騒がしいのがデフォなので、携帯の音をONにしていてもコールが聞こえない。加えて千歌と鞠莉は楽しいことに夢中になると周りが見えなくなる性格だから、もう携帯で連絡を取り合うのは不可能といってもいいだろう。

 

 そうなると、こんなだだっ広い会場で特定の人物を見つけることなんてできるのか……?

 

 

「お兄様。誰かをお探しですか?」

「あぁ。Aqoursの千歌と鞠莉が会場に遊びに行ったっきり、控室に戻らないんだとさ」

「大変! 私たちも探しましょうか?」

「でもこころ、もうすぐお母さんが来るから合流しないと」

「あっ、そっか」

「ん? お前らの母さんが来るのか?」

「うん。用事を済ませたから、もうすぐこっちに着くってさっき連絡があったんだよ」

「じゃあお前らはそっちに行け。2人を探すのは俺に任せろ」

「すみませんお兄様。もしお二人を見かけたらご連絡しますので」

「あぁ、頼む」

「それじゃね、おにーちゃん!」

 

 

 人探しにコイツらを連れ回すのは2人に迷惑だろうし、これでよかったのかもしれない。

 とにかく、早いところあのおバカちゃんたちを見つけねぇとな。とは言ってもこの会場を1人で探すのは骨が折れるし、増援を呼んだほうがいいか? でも気軽に連絡を取れる知り合いが全員スクールアイドルで、しかも悉くスクフェスの予選に参加しているため応援を頼むことはできない。くそっ、こんなことならスクールアイドル以外の友達も作っておくべきだった。自分の周りがみんなスクールアイドルで満足していたのだが、まさかそのせいで詰みの状況が発生するとは……。

 

 その時、またしてもスマホにバイブレーションが鳴る。

 もしかしてあの2人が打ち合わせの定刻通り帰ってきたのかと期待したのだが、画面に映し出されているのは『絢瀬絵里』の文字。

 

 なんだろう、ものすごぉ~~~~~~くイヤな予感するのは俺だけ?? もう腐るほどμ'sと一緒にいるから、俺の予感は的中しやすい。正直なところ無視したい気持ちが山々なのだが、向こうは切羽詰まってるだろうから仕方なく電話に出る。

 

 

「もしもし……?」

『もしもし零? 突然で申し訳ないんだけど、こっちでちょっと困ったことが起きちゃってね』

「やっぱり?」

『えっ、どういうこと?』

「いいから、簡潔に用件だけ言え」

『え、えぇ。実は、穂乃果と凛が会場に遊びに行ったっきり戻ってこないよ』

「ははっ、やっぱり俺ってすげぇわ」

『どうしてそこで自画自賛が入るの……?』

 

 

 もうね、余計なフラグは立てないようにしよう。とは言っても、知らないところで勝手にフラグを乱立してこちらに回収させようとする筋書きだから、俺の人生って何者かに操られてんのか……?

 

 

 そんな感じで、スクフェス初日は早速の波乱で幕を開けた。

 




 最終章のメインはAqoursと虹ヶ咲なのは確定ですが、それ以外のキャラの活躍シーンも丁寧に描いていきたいと思っています。
 そして今回はこころとここあが登場しましたが、スクールアイドル以外のサブキャラもどこかで登場する予定です。言ってもサブキャラって指で数えるくらいしかいないような……?


 前書きでも報告したのですが、今回の投稿でスクフェス編が100話達成となりました!
 100話を描き切るのにリアル時間は1年4ヵ月経っていますが、なんとスクフェス編の時系列的にはまだ1ヶ月半しか経ってません(笑) 相変わらず零君の毎日が波乱すぎる……


 次回はμ'sとAqoursの問題児たちを大捜索!
 しかし、そこでまた新たる問題が彼に降りかかる……



新たに☆10評価をくださった

東仙ミカゲさん

ありがとうございます!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!



ここからは『ラブライブ!』の企画小説の宣伝です。

【概要】
 参加者各々が好き好きにラブライブ小説を執筆し、それらを私が毎日1話ずつ投稿するというものです。作家ごとに世界観や登場させるキャラも違うので、毎日新鮮な気分でラブライブワールドを楽しめます!

【参加者について】
 企画に参加する作家さんは、私のTwitterにて確認できます。総勢30人を超えているので、かつてないほどの盛り上がりに期待しましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魂の交感

 迷子になった穂乃果や千歌たちを探す零君は、その途中で意外な2人と遭遇し……


 どうしてお騒がせちゃんたちは、スクフェス当日という特別な日にまで騒ぎを起こすのだろうか? いや、特別な日でもいつも通りだからこそお騒がせちゃんなのか。もちろんそれで納得しろと言われても頷けねぇけどさ。

 

 現状を整理すると、μ'sからは穂乃果と凛が、Aqoursからは千歌と鞠莉がそれぞれ迷子になっている。予選の準備が前倒しで終わったせいで時間が空き、その間に会場を遊び回っているようだ。厄介なのが、当の本人たちは自分たちが迷子という自覚はなく、携帯の連絡に気付いてない時点で遊びに夢中となっているのは間違いない。

 更にソイツらをまともに探せる要員は、現時点では俺だけだ。残されたμ'sとAqoursのメンバーは予選直前の打ち合わせがあり、控室から離れられない。さっきまで一緒にいたこころとここあは母親と合流して会場を回るため、迷子ちゃんたちを偶然見かけた時だけ連絡するよう約束した。そもそも、部外者を巻き込んでこちらの事情に付き合わせたくないしな。

 

 加えて、この状況を更に深刻している要素が1つある。それはタイムリミットで、当然ながらμ'sもAqoursも予選の時間がスケジュールにより決まっている。多くのスクールアイドルが参加する関係上、遅刻するなんて迷惑はかけられない。つまり、彼女たちが無事にステージに立てるかどうかは俺の探索力にかかっているということだ。

 Aqoursのライブまでがあと1時間。μ'sが1時間半。余裕か余裕じゃないのか微妙だが、グズグズしている時間は一切ないことだけは分かる。迅速に行動しないともし探し出せたとしても、予選に間に合わない可能性が高い。

 

 全く、今日から3日はみんなのライブを眺めていればいいと思ってた矢先にこれだよ。俺にもたまには休息をくれ休息を。

 

 

「さて、こっからどうすっかなぁ……」

 

 

 こんなだだっ広い会場を闇雲に探していても、無駄に時間を浪費するだけだ。最も効率的なのは、アイツらが行きそうな場所を狙い撃ちすることか。幸いにも、千歌と鞠莉が行きそうなところは大体分かる。ライブ前に腹をいっぱいにするほどバカではないと思うので、屋台エリアにいる可能性はほぼないだろう。そして、アイツらがスクールアイドル好きなのを考慮すれば行き先は1つ。そう、μ'sとA-RISEのグッズが再販されているスクフェスショップだ。そこしかない。

 

 

 と、思ったのだが――――――

 

 

「いねぇし……。ここじゃねぇのかよ……」

 

 

 販売列を先頭からざっと流し見してみたのだが、千歌と鞠莉の姿はなかった。簡単な推理だけど自信はあったので絶対にここだと思っていたのが、どうやら当てが外れたようだ。

 それによく考えてみれば、千歌も鞠莉もかなり前からμ'sやA-RISEのファンなので、今回再販されるグッズは既に持っている可能性が高い。スクフェス会場限定のグッズもあるのだが、スクフェスに参加をするスクールアイドルには買う時間がないだろうと公式が配慮し、参加者限定で後にネットでのグッズ購入が可能なのだ。それを考慮すると、スクフェスの参加者がわざわざ物販の列に並ぶ必要はない。

 

 こんなこと、ちょっと考えれば分かったのに、夏休み特有のゆったりとした日常のせいで脳の回転が鈍ってんな。

 そうなると、アイツらの行きそうなところをまた考え直さなければならない。しかも今度は思い当たる節がない状態での推理タイムだ。そもそも当てずっぽうになるんだったら推理じゃなくね……? うん、こういう状態を何て言うのかしってるぞ。

 

 

 詰み……だな。

 

 

「あれ? 神崎君?」

「えっ、山内先生? それに笹原先生まで!? どうしてこんなところにいるんですか……?」

「自分の教え子たちの雄姿を見届けるのも、担任の役目ですから」

「私は奈々子に誘われただけだ。こういった騒がしい場所は苦手なんだがな……」

 

 

 まさかのまさか、先生たちがいるなんて思いもしなかった。山内先生は現行で千歌たちの担任をしているので、ここへ来る理由は分からなくもない。でも笹原先生がわざわざこんなところへ足を延ばすなんて、本当にあのお堅い鬼教師かこの人……? 公序良俗に厳しい性格なので、スクールアイドルなんてチャラいものには興味がないと思っていた。でも2人と一緒に飲んだ時はμ'sに感謝していると言った話をしていたため、こっそりと応援にでも来たのだろうか。いつもながらにツンデレというか、何というか。こんなことを口に出したら絶対に殴られるな……。

 

 

「そういえば、神崎君はお一人ですか?」

「俺、親しい人が全員スクールアイドルなんで……。みんな予選のために控室にいるんですよ」

「そ、それは残念ですね……。それで、今は1人で会場巡りですか?」

「ま、まぁそんなところです……」

「ん? 何か起こっているのか?」

「へ? ど、どうして?」

「さっきから誰かを探すように、周りの人混みを眺めているだろ。時が経ったとはいえ、私は3年間お前の担任だったんだ。お前の怪しい行動なんてすぐに読める」

「怪しいって……」

 

 

 驚いた。まさか出会って十数秒でこちらの状況の大枠を掴むとは、やはり問題児(俺)を3年間シメ続けてきただけのことはある。俺の行動は先生に読まれ過ぎて、3年生の頃なんて何か行動を起こす前に制裁されそうになってたからな。災いの芽を潰すとはまさにそのことで、中には何も企んでないのに理不尽に説教されることもあった。うん、思い返すだけでも懐かしいよ。

 

 しかし、バレてるなら隠す必要もないか。最初は俺たちの問題に部外者を巻き込みたくないと思っていたが、俺が知りえる中でこれほど頼りになる人たちはいない。さっきも言ったが探索する側の人員不足が深刻なので、ここはある程度協力してもらうよう依頼してみるか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「という訳なんで、ソイツらを見かけたら俺に連絡くれませんか?」

「高海さんも小原さんも、相変わらずと言いますか何と言いますか……」

「高坂も星空も、大学生になって全く成長していないな……」

「ごもっともで……」

 

 

 もはや文句を言うどころか、呆れてモノも言えない気持ちは痛いほどよく分かる。成長しないことを嘆くべきなのか、それともいつまでも変わらぬお茶目な性格に安心感を覚えるべきなのか。まあどちらにしたって俺たちに迷惑が降りかかるのは言うまでもない。それに何が一番怖いかって、面倒事を押し付けられるこの状況に慣れてしまっていることだ。問題児を躾ける先生の気持ちって、まさに今のような感じなんだろうな。俺を説教していた笹原先生の気持ちがようやく分かった気がするよ。

 

 

「なんだ、その悟ったような顔は?」

「いやぁ先生たちって苦労してんだなぁと思って。同じ人間が何度も騒ぎを起こすと、怒るどころか呆れて何も言えなくなっちゃいますよ。それなのに笹原先生は、一度も手を抜かず俺を制裁してましたよね?」

「何事も、やるなら本気でやるのが私のモットーだ。それに、手を脱たらお前が更に調子に乗ることくらい容易に想像できる。しかし、結局お前は3年もの間ずっと騒動の目であり続けたがな。過去にこれほどまでに手を焼いたのは、皮肉なことにお前の姉くらいだ」

「ま、可愛い子ほど手を焼くってことで」

「可愛くもなければ手が焼けて溶け落ちていたぞ馬鹿者が」

 

 

 何年経っても、笹原先生の言葉のキレは変わらない。いや、むしろ生徒教師の関係ではなく教師同士になったことで、先生の言葉は数年前よりも容赦がなくなっている。笹原先生と同等の立場に立てるなんて想像もしてなかったけど、この人には一生勝てねぇんだろうな……。現に今も口で言い包められっぱなしだし。

 

 

「まぁまぁ……。とにかく、高海さんたちを見つけたら、神崎君に連絡しますので。もし自分1人でどうしようもなくなったら、私たちに相談してくださいね」

「ありがとうございます。先生はいつまで経っても俺の先生なんですね」

「当たり前です! それに神崎君を一番心配しているのは、何を隠そう笹原先生なんですから」

「なるほど。まあ笹原先生ってツンデレですもんね」

「お前たち、私の拳が飛ぶ前に逃げた方がいいぞ」

「「いたっ!?!?」」

 

 

 警告してから拳が俺たちの頭上にぶち当たるまで一瞬しかなかったんだが!? 失神しそうなくらいの痛みとあまりの理不尽に言葉すら出ねぇ……。これはあれだ、自室でオナニーをしている時に母親がノックをせずに入ってくる理不尽さと一緒だ。警告から行動までに猶予がなさ過ぎんだよ。

 

 

「もうっ、笹原先生は容赦なさ過ぎです! これでも同じ教師なのに……」

「だったら教師らしい振る舞いをしろ。人を煽ったりするな。それにお前の背が低すぎて、ちょうど殴りやすい位置に頭があるのもなんとかしろ」

「最後の理不尽は公判で勝てますよね!? これはツッコミを入れていいですよね??」

「仲いいなアンタら……」

「ったく……。とりあえず、私たちも会場を回りながらアイツらを探してみる。この人混みだ、お前だけでは骨が折れるだろ」

「ありがとうございます。でも第一は先生たちがスクフェスを楽しむことですから、アイツらのことは頭の片隅程度でいいですよ。それじゃ!」

 

 

 先生たちがスクフェス会場に来ていることは意外だったけど、これで待ちに待った捜索人員が増加した。先生たちにこんなことを頼むのはおこがましいけど、快く引き受けてくれるあたり、やっぱり頼りがいがあるよ。こりゃ同じ教師の立場になろうとも、この2人にはずっと頭が上がりそうにねぇな……。

 

 

 

 

「神崎君、誰かのために走り回るのは昔から変わりませんね」

「自分の女のためなら何でもできる、ということだろう。いかにもアイツらしい」

「もう、たまには素直に褒めてあげればいいじゃないですか? ホントにツンデレさんですね♪」

「また脳を割られたいか……?」

「じょ、冗談ですって!! あ、あはは……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 先生たちと別れた俺は、穂乃果たちの捜索を再開する。とは言っても、手掛かりなしの状態で闇雲に探すという時間の浪費は避けたい。Aqoursのライブまでは残り40分を切っているので、ここはイチかバチかになってもアイツらがいそうな場所をピンポイントで狙い撃ちするのが最善だろう。幸いにもμ'sのライブまでは1時間半ほどあるので、先に千歌と鞠莉に的を絞って探すことができる。せめてみんなが一緒にいればいいのだが、行動が奇想天外な奴らばかりだからどこをフラついてんのか想像もできない。さっきから無駄に駆け回って疲れてきたし、運動不足の人間にここまで走らせるとか拷問かよ……。

 

 アイツらの居場所としてパッと思いつくのが、屋台が軒を連ねるエリアだ。千歌、穂乃果、凛は食を取ることに並々ならぬ楽しみを抱いているし、鞠莉はお嬢様が故に祭りの屋台飯が物珍しくて目移りしている可能性がある。最初は迫る予選のために満腹にはしないだろうと思い、アイツらが屋台巡りをしていることは考慮外としていた。

 でも、よく考えてみればアイツらのことだからそんな前提は通用しないだろう。腹が満たされてライブで動ききにくくなるなんて、そもそもお構いなしと考えているかもしれない。それ以前に、満腹で動きづらくなるなんて考えてすらいない可能性が非常に高い。まあ伊達に問題児じゃねぇってことだな。

 

 そんな適当な推理……というより、もはや願望を抱きつつ屋台エリアに来たのだが――――――

 

 

「いたよ……」

 

 

 スクールアイドルとして、予選直前にこのエリアで買い食いしてるって意地汚いなコイツら……。もっと自分たちがスクールアイドルだという自覚と品位を大切にして欲しいもんだ。しかもご丁寧に4人全員が集まっているので、お互いに屋台巡りをしていたら偶然出会って、そこで意気投合し今に至るのだろう。全く、面倒ばかりかけさせやがって。

 

 それにしてもアイツら、やたら屋台の隅にいるけど何してんだ? 人と屋台の多さで危うく見過ごしそうになったのだが、穂乃果たちは何故か屋台と屋台の陰になる場所に集まっている。Aqoursはともかく、μ'sは有名人だから周りにバレないように配慮してるのか……? そもそもそんなことを考えるなら、人の目に触れるところで堂々と買い食いしてるのが間違いなんだけど……。それにこんなところでコソコソするくらいだったら、とっとと自分たちの控室に戻ればいいのに。

 

 とにかく時間もないし、早く戻るように伝えるか。

 

 

「おい、そんなところで何やってんだ」

「Wow!? せ、先生じゃない!?」

「あのな、もうすぐで予選なのにフラフラ歩き回ってんじゃねぇよ。特にAqoursの出番まで1時間で、セッティングの時間を考えたらあと30分ぐらいしかねぇだろ。果南から千歌に何度もコールが入ってるはずなんだけど、気付いてなかったのか?」

「えっ、あっ、ホントだ!? い、いやぁスクフェスのパンフレットを見てたら、屋台の料理がとても美味しそうだったからつい夢中になっちゃって……」

「気持ちは分からなくはないが、予選が終わってからでもいいだろ別に……」

「そ、そうだね。あはは……」

「……?」

 

 

 一見するとただの日常会話だが、俺には物凄い違和感があった。千歌の奴、俺に対してタメ口だったか? いや、絶対に違う。普段は天真爛漫で猪突猛進なお騒がせちゃんだが、意外にも年上に対する敬意だけはしっかり払える人間だ。これも旅館の娘として躾けられたのだろうが、だからこそ俺に対してまるで同い年かのような喋り方に違和感があるのだ。

 

 様子がおかしいと言えば、凛と鞠莉もさっきから黙ったままなのが気になる。食べ歩きをしていたくせにここまでテンションが低いなんて、元気が取り柄のコイツらからしたらおかしい。俺が来るまでに一体何があったんだ……?

 

 

「さ、さぁそろそろ戻りましょう!」

「戻りましょうだぁ? 穂乃果、さっき誰に向かって言ったんだ?」

「へっ? な、なんのことです……あっ、なんのこと?」

「今更言い直してもおせぇよ。このメンツの中でお前が敬語を使う奴はいない。千歌といいお前といい、さっきから話し方がおかしいぞ? まるで2人が入れ替わったかのような……い、入れ替わった?」

 

 

 すると、俺たちの会話に凛が焦りながら口を挟む。

 

 

「流石にもう隠し切れないよ2人共! だからもう言っちゃうね」

「う、うん……」

「はい……」

「あのね零くん。零くんがさっき言った通り、穂乃果ちゃんと千歌ちゃんが入れ替わっちゃんだにゃ!」

 

 

「は、はい……?」

 

 

 もうね、何が起こっているのか把握する前にクラクラして倒れそうだよ。だって迷子になったと思ったら今度は入れ替わりって、次から次へと問題が起こり過ぎだもん。終わらない騒動、降りかかる厄介事。神様は常に俺に試練を与え続けないと死ぬ病気か何かのかな……?

 

 

「凛たちが屋台巡りをしていたらね、偶然千歌ちゃんたちと出会ったんだ。聞いたら千歌ちゃんと鞠莉ちゃんも同じ目的だったから、そこで意気投合したんだよ」

「それで私たちは一緒に食べ歩きをすることになったんだけど、その途中で人の波に押されちゃって……。千歌と穂乃果さんがゴッツン!! ってなっちゃったのよ」

「なるほど、それで身体はそのままで中身だけが入れ分かっちゃったと」

「はい、その通りです……」

「まさかこんなことになっちゃうなんてねぇ……」

 

 

 なんか、穂乃果が敬語で千歌がタメ口だと違和感があるな。性格から何まで似た者同士の2人だけど、俺に対する口調が差別化の1つだったので、現状は非情に紛らわしい。

 

 さて、ここからどうすっかなぁ……。

 そして今日の俺、ずっと頭を悩ませてる気がする。スクフェスの1日目の午前中で、身体の糖分を使い切ったらどうしよう……?

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 最終章はこの小説では珍しく長編モノなので、肝となる場面になるまではちょっぴり盛り上がりにかけるのが悩ましいところです。
 それにしても、零君の苦労が半端ない気が……。もはやいつものことですが、彼も海未や梨子と同様にお疲れキャラになってますね(笑)


 どうでもいいですが、『Let's Go! ピカチュウ』『Let's Go! イーブイ』をやっているせいで投稿が遅れって言う話……()



まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!



ここからは『ラブライブ!』の企画小説の宣伝です。

【概要】
 参加者各々が好き好きにラブライブ小説を執筆し、それらを私が毎日1話ずつ投稿するというものです。作家ごとに世界観や登場させるキャラも違うので、毎日新鮮な気分でラブライブワールドを楽しめます!

【参加者について】
 企画に参加する作家さんは、私のTwitterにて確認できます。総勢30人を超えているので、かつてないほどの盛り上がりに期待しましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二重の苦渋

 中身が入れ替わってしまった穂乃果と千歌。スクフェスの予選が迫る中、μ'sとAqoursは無事に出場できるのか……!?


 現状を整理しよう。

 果南から、千歌と鞠莉が控室を抜け出し遊びに行ったまま帰ってこないと電話があった。その直後に絵里から、穂乃果と凛が同じようにいなくなったと電話がきた。μ'sもAqoursも予選の時間が迫っており、予選直前のミーティングや舞台セッティングの時間を考慮すると、Aqoursの予選まで残り1時間、μ'sの予選まで残り1時間半を切っている。しかもそれは電話を受けてすぐの話なので、実際のタイムリミットは残り40分ほどだ。

 

 しかも、問題はそれだけではない。

 なんとか迷子ちゃんたちを見つけ出したはいいものの、食べ歩きをしている最中に人の波に飲まれた穂乃果と千歌の頭が激突し、なんと2人の中身が入れ替わってしまったのだ。どんな原理でそんなことになったのかは知らないが、もう少しでAqoursの予選が始まるので、のんびりと解決策を考えている暇はない。

 

 

 ――――と、いう訳で。

 

 

「ちょっと零君!? これどういうこと!?」

「これってもしかして、もしかしなくても……」

 

 

 屋台から拝借してきた1本の太いゴムを、穂乃果と千歌の腰に巻いた。そして凛が千歌(中身は穂乃果)を、鞠莉が穂乃果(中身は千歌)を、お互いの身体を引き離すように引っ張る。そうなればもちろんゴムははち切れんばかりに伸び、凛と鞠莉が手を離せば2人の身体がどうなるかは一目瞭然だった。

 

 

「もう穂乃果ちゃん、暴れちゃダメだよ。凛、勢い余って手を放しちゃいそうだにゃ」

「ちょ、ちょっと待って凛ちゃん! まだ心の準備が……」

「鞠莉ちゃん、少し引っ張り過ぎじゃない……?」

「えぇ~? まだまだ足りないくらいよ。それに勢いをつけてぶつかった方が、元に戻れる可能性は高いはず!」

「絶対自分が楽しんでるだけだよね!? ホントに千歌たちのこと心配してる!?」

 

 

 古典的な方法だが、時間がないため思いついた順番に試していくしかない。2人が激突して中身が入れ替わったのなら、もう一度同じ現象を起こせば元に戻る可能性が高い。数学で例えるなら微分と積分の関係みたいなもんだ。

 

 

「穂乃果たち、このあと予選が控えてるんだよ!? もしこれでケガとかしちゃったら……」

「そもそも、元に戻らねぇことには予選に出場できねぇだろ。増してお前らはμ'sとAqoursのセンターなんだから、他の奴に代役を頼むどころか抜けることすらも許されない。だから、多少荒っぽくても仕方ねぇっつうことだ」

「それで元に戻らなかったらどうする気?」

「安心しろ、骨は拾ってやる」

「無責任!?」

 

 

 俺だってこんな方法は取りたくないよ? でもさっき言った通り、各グループのリーダーでありセンターであるコイツらが予選に出られない時点で、予選通過はできないと考えた方がいい。ただでさえA-RISEや虹ヶ咲、その他のたくさんのスクールアイドルがいるってのに、ライブの主役がいなかったらそりゃ勝ち目ねぇだろ。だから少し荒っぽくても、2人を元に戻せる方法があるなら片っ端から試すのが先決だ。

 

 とは言っても、穂乃果も千歌もビビっちまって最初の策ですら実行に移せないのが現状だ。これ以外に策もないので、ぶっちゃけた話この方法で問題を解決できるなら解決しておきたい。穂乃果の言う通り確かに身体の心配はあるが、ゴムパッチンでお互いの身体をぶつけ合うことくらい、コイツらにとっては造作もないだろう。ほら、コイツらって秋葉の発明品やらで鍛えられて意外とタフだからさ。

 

 

「こ、こんなことをしなくても、問題を解決する方法があります!」

「は?」

 

 

 穂乃果になっている千歌が、汗を垂らしながら俺に進言する。ゴムパッチンまでの時間を稼ぐための虚言なのか、それとも本当に解決案があるのか。俺たちには時間が残されていない上に、ゴムパッチン以外の方法は未だ思いついていない。とりあえず聞いてみる価値はあるか。

 

 

「千歌、μ'sのダンスの振り付けなら全部覚えてますから! 穂乃果さんの代役で出ることは可能ですよ!」

「そう来たか……。でも歌は?」

「もちろんマスターしています! でも皆さんが不安であれば、録音したものをライブ中にマイクから流してもらえれば。ダンスは完璧なので、穂乃果さんの歌に合わせて動けばバレないかと……」

「「「…………」」」

「ふえっ!? 穂乃果さん? 凛さんも鞠莉ちゃんも、どうして黙ってるの!?」

「い、いやぁ、千歌ちゃんって意外と策士だなぁと思って……」

「堂々と不正な手を使うところ、零くんにそっくりだにゃ……」

「千歌っちが段々と先生の色に染まっているってことね!」

「そ、そんなつもりで言ったんじゃないってば!!」

 

 

 みんな千歌の発言に対して意見をしてるのに、さりげなく俺をディスってね?? まあ間違ってないから反論できないんだけどさ……。

 それにしてもみんなの言う通り、千歌の提示した策が想像以上に狡猾すぎて俺もビビった。アイツの考えることだから大した策ではないと、高を括っていた矢先にこれだよ……。

 

 

「千歌の作戦は悪くないが、リスクが高すぎる。バレなかったらって言うけど、もしバレたら今後お前らのスクールアイドル人生がどうなるか分かったもんじゃねぇぞ。それにマスターしてるとは言っても、必ずどこかで綻びが出る。もしこのまま元に戻らないのなら、μ'sもAqoursも辞退した方がマシだな」

「じ、辞退って! いくら先生の意見でも、それは納得できません!!」

「その通りだ」

「へ……?」

「だから辞退しなくて済むような方法を考えてるんだろ。それに俺はお前らの一番のファンなんだ。だからお前らを辞退させる訳ねぇだろ」

「先生……」

「さっすが零君、いざという時だけは頼りになるね!」

「それ、普段は役立たずだって言いたいのか……?」

 

 

 そのセリフを千歌の顔をした穂乃果に言われたことが腹立たしいが、ここでその問題に追及するのは時間の無駄だ。

 そんなことよりも、μ'sもAqoursもこんなところで辞退させる真似は絶対にさせねぇよ。μ'sがこれまで以上に最高の思い出を作ることも、Aqoursが学校を盛り上げて統廃合を防ごうとしていることも、どちらも邪魔させねぇ。それぞれの夢に向かう彼女たちをここまで先導してきたんだ、こんなところで終わらせて堪るかよ。

 それにこの世の誰よりも、コイツらの明るい笑顔を見たいのは自分だからな。

 

 

 そう、だから俺の取る手段は―――――――

 

 

「言ったよね、ゴムパッチンはやめようって!? さっきのカッコいいセリフが台無しだよ零君!!」

「さっきの言葉は千歌たちを安心させるための嘘ですか!? そうなんですよね!?」

「凛、鞠莉、2人をもっと引っ張ってくれ。」

「質問に答えないとか鬼!! それでも本当に教師!?」

「ゴムが切れそうなんだけど!? これで手を離されたら……」

 

 

 いくら喚こうが、どれだけ抵抗しようが、もうこの方法しか残されていないんだから仕方がない。せめてどんな原理で2人が入れ替わったのかが分かれば対応策の考えようもあるのだが、頭をぶつけたという物理的な理由だけではどうもなぁ……。

 

 そうだよ、そもそもどうしてこんなことになってんだ?

 そりゃ2人はおっちょこちょいだから、食べ歩きの最中にテンションが上がって思わず頭をぶつけてしまった可能性はある。でも、それにしても偶然過ぎる気がする。これだけ人がいるのに、予選に参加するμ'sとAqoursのリーダーがピンポイントで入れ替わるなんて、そんなミラクルが起こるものなのか? もしかしてこれはμ'sとAqoursを予選から外そうっていう誰かの策略で、裏で大きな力が働いているんじゃ……。

 

 

 ――――――って、流石に考えすぎか。

 

 

 穂乃果と千歌が同時にはしゃぎだしたらそれこそ騒音レベルなので、紆余曲折あってこんな事態になるのも不思議ではない。余計なことを考えて時間を潰すより、とっととコイツらを元に戻すとするか。

 

 

「下手に恐怖を長引かせるよりも、いっそのこと楽になったらどうだ?」

「その言葉のせいで余計に怖くなっちゃうから!! ていうか、穂乃果たちいつからこんな芸人さんみたいなこと……」

「今更だろそれ。出会った頃からお前は芸人だったよ」

「ひどっ!?」

「ったく、御託はもういいだろ。凛、鞠莉、もう手を離せ」

「わかった!」

「OK! 思いっきり行くわ!」

「そんなに力まないでいいよ鞠莉ちゃん!! って、まだ心の準備がぁ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああ!!」

「えっ、う゛ぁあ゛ぁ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああ!!」

 

 

 女の子が上げてはならない野太い声が、屋台エリアに響き渡った。

 つうか、もうすぐで予選なのにこの声のせいで喉潰れねぇだろうな? ゴムパッチンを仕掛けた張本人が言うのもアレだけどさ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あぁ、惜しい人を亡くしてしまったにゃ……」

「そうね。私たちができることは、こうして石を積み重ねてお墓を建てることくらい……」

「「生きてるよ!!」」

 

 

 古典的な作戦だったが、なんとか2人の魂を元の身体に戻すことができた。2人の身体が衝突した衝撃で――――みたいなR-18G展開にはならず、俺の見込み通り持ち前のタフさでピンピンしている。つうか全然ダメージがなさそうだから、コイツらのワガママなんて無視してサッサとこの方法を試しておけば良かったよ。

 

 そうだ、穂乃果たちが見つかったことをこころとここあ、そして先生たちにも連絡しておかないとな。結局自分で見つけちゃったから、みんなに時間を取らせただけになったのは本当に申し訳ないと思ってる。俺たち以外の部外者にも迷惑をかけて、これで予選に間に合わなかったら『相変わらずおっちょこちょいだなぁアハハ』じゃ済まされねぇぞ。

 

 

 よし、これで連絡完了っと。

 そうだ、時間! 今の時間は!?

 

 

「えっ、あと20分!? おいお前ら早く控室に――――」

 

 

 その時、スマホにコールがかかってきた。その相手は果南。

 ちょうどいいタイミングだ、千歌たちを見つけたからそっちに向かわせると伝えよう。

 

 

「もしもし果南か? 千歌たち見つけたから、今からそっちに――――」

『それが、言いにくいんですけど……』

「え、どうした?」

『予選、出られないかもしれません……』

「はぁ? どういうことだ? 今から急いで戻ればまだ間に合うだろ!?」

『さっき予選の直前の打ち合わせがあったんですけど、この時点で準備ができていないのは問題だって……』

「マジかよ……」

 

 

 案外厳しいんだなと思いつつも、普通に考えたらライブ開始20分前になってもメンバーが集まっていないのは問題か。小規模なイベントならまだしも、スクフェスは世界からも注目される大規模イベントだ。今やスクールアイドルのファンは世界中におり、国の経済としても貢献しているコンテンツであるため、メンバーが集まらないというグループ個人の都合でイベント進行を妨げられては堪ったものじゃないだろう。俺が公式の立場でも、恐らく同じ判断を下したと思う。

 

 μ'sはまだ40分ほど余裕はあるが、Aqoursはライブ開始までの時間が絶望的だ。今から戻ってやっと準備出来るくらいだが、ギリギリの時点で公式側からしたら遅いのだろう。そりゃそうだ。個々のグループのライブだけで、一体どれだけのスタッフが動いているのか想像するに余りある。しかもAqoursの後にもたくさんの予選が控えているので、遅刻でなくとも余裕を持った準備ができていないのは言語道断。グループ個人の遅刻だけで、迷惑をかけてしまう人は果てしなく多いだろう。

 

 

「果南。とりあえずスタッフに交渉しておけ、千歌も鞠莉も絶対に合流するから予選には参加できるってな」

『は、はい……』

 

 

 とりあえず、果南たちは果南たちにできるだけのことをやってもらおう。どれだけ足掻いたって時間は待ってくれないため、残り時間でできることをするしかない。μ'sは予選までまだ余裕はあるので、絵里たちへの連絡は後回しだ。とにかく、今は千歌と鞠莉を控室に送り届けないと。

 

 

「千歌、鞠莉、走れるよな? ていうか、走ってもらわないと困る――――って、え……?」

 

 

 電話を切って振り向いてみると、千歌が俯いて涙を流していた。鞠莉も涙は見せていないものの、普段の明るさが嘘のように顔色が真っ暗だ。穂乃果と凛も、2人の様子を見て困惑していた。

 

 

「ゴ、ゴメンなさい! 千歌が勝手な行動を取ったばかりに、みんなに迷惑を……う、うぅ……」

「千歌っちのせいじゃないわ! 私が食べ歩きに誘ったからこんな……」

「うぅん、リーダーなのにしっかりしてなかった千歌のミスだよ……」

 

 

「いい加減にしろ」

 

 

「「え……?」」

 

 

 事態が急転してから、2人が初めて顔を上げる。千歌は涙で瞳が覆われており、鞠莉も顔を上げて初めて目尻に涙を溜めていることが分かった。

 ったく、余計なことで時間を使いやがって……。

 

 

「泣く暇があったら走れ。ここで立ち止まってたら絶対に予選には出られない。でも走ればもしかしたら、もしかするかもしれないだろ? それに今からライブなのに、そんな顔じゃお前らの魅力を世界に伝えられねぇだろうが。ギリギリまで踏ん張って、そして笑顔でステージに立とう。な?」

 

 

 両手で千歌と鞠莉の頭を撫でてやると、2人の表情がみるみるうちに笑顔に変わる。

 やっぱり、女の子は笑顔が素晴らしい。確かに今回の事態を招いたのはこの2人だが、この切羽詰まった状況で原因を追究しても何の解決にもならない。幸いにもここから控室はそこそこ近いので、走れば10分程度は準備時間があるだろう。ここまで来たら1分1秒と無駄にできない。だからこそ、こんなところで蹲っていたら夢も希望も捨て去ることになるのだ。

 

 

「先生……。千歌、先生が先生で良かったです」

「もうっ、こんなにドキドキさせられちゃったら、逆にステージに立てなさそう……。でも、悪くないわね♪」

「そりゃどうも。じゃあ行くぞ」

 

 

 そして少女たちは、夢に向かって走り出す。人生なんて理不尽なことは付き物だが、それを真正面から立ち向かえる奴だけ未来を掴み取る権利がある。ただ立ち尽くす者に、希望はない。

 懐かしいなこの言葉も。μ'sの誰かにも言ってやった記憶があるのだが、誰だったかな? 

 

 すると、隣から妙に怪しい2つの目線を浴びせられていることに気付く。

 

 

「なんだよお前ら。ニヤニヤすんな」

「いやぁ久々に零君のくっさいセリフを聞けたなぁと思って!」

「凛たちもこうやって言い包められてきたんだって、傍から聞いてて分かったよ」

「それ褒められてんのか!? それに、お前らもμ'sに迷惑をかけているって自覚忘れんなよ」

「それは本当に申し訳ないよ……。あ~あ、控室に屋台のタダ券なんて置いてあるからこんなことになっちゃったんだよ」

「えっ、なんだよそれ……」

「それです! 千歌たちもそのタダ券を見つけちゃったから……」

「は……? じゃあお前らが自発的に行こうって言ったんじゃなくて、発端はその券なのか?」

「はい、そうですけど」

 

 

 さっき引っかかっていたけど無視していたことが、また気になり出した。

 2人が偶然ぶつかったのも怪しいと言えば怪しいし、怪しくないと言えばそうじゃないけど、タダ券のことに関しては明らかにおかしい。だってこれから予選に参加するスクールアイドルの控室に、屋台のタダ券なんて置くか普通? だって買いに行こうにも準備や打ち合わせで控室から出られず、出ようと思うのは穂乃果や千歌たちのような食いしん坊だけだ。まともな思考をしていたら、タダ券なんかに釣られて大切な予選を棒に振るような真似はしない。

 予選に参加するスクールアイドルたちへの参加賞と言われたら、まあ分からなくはないけど……。それでも大規模なスクールアイドルの祭典に、屋台のタダ券は参加賞としてあまりにも質素すぎる。スクールアイドルは女の子しかいない訳だし、もし参加賞があるならもっといいモノを用意するはずだ。

 

 

 考えすぎだと言われたらそうかとしか言えないが、さっきから違和感が半端ねぇぞ……。

 

 

 その時、またスマホにコールが入る。

 画面を見てみると、相手は絵里だった。

 

 

『もしもし零? どういうこと?』

「は? 何が?」

『えっ、あなたじゃないの? μ'sとAqoursのライブ順が後回しになったこと。上手いこと手回ししてくれたのかなぁ~と思って』

「はぁ!? 知らねぇぞそんなの!? それいつ聞いたんだ?」

『ホントに、ついさっきよ』

 

 

 果南たちが対応してくれたのか? それにしても運営の動きが早すぎないか……?

 

 

 どうなってんだよ、今日はおかしなことばかり起きてるぞ……?

 やっぱり、スクフェスの裏で何かが――――――?

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 一難去ってまた一難、次回もまた零君に試練が……
 とある人物から語られるのは、『嘘』




 別件になりますが、前々から予告していたラブライブの企画小説『ラブライブ!~合同企画短編集~』が25日(日)より投稿されています!
 何気に主催の私がトップバッターを切っているので、私の担当分は既に投稿されていたり……。最近本編の方がシリアスなので、もっとゆったりとした日常モノが読みたい方は、是非企画小説の1話目を覗いてみてください!

 そして、もちろん本日も別の作家さんの小説が投稿されているので、私の小説を含め是非ご覧ください!

 もしよろしければ、企画小説の方にもご感想をいただけると嬉しいです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悪魔の研究者

 今回から次回にかけ、遂にスクフェス編のクライマックスに足を踏み入れます。
 やっぱりあの人、いいキャラしてます()


 

「あなたたちはこんな大切な日に何をやっていたのですか!? 危うく予選に出場できなくなるところだったんですよ!?」

「そ、それに関してはゴメンなさい!!」

「わ、私もちょっとハメを外しすぎちゃって……sorry」

 

 

 案の定、千歌と鞠莉はダイヤにこっぴどく叱られている。2人は普段の天真爛漫な素行からは考えられないくらい姿勢正しく正座をしているため、大切な日に勝手な行動をしたことを重く受け止めているのだろう。聞いた話では控室に置かれていた屋台のタダ券に釣られたようだが、誰が何の目的で置いたにせよ、行動したのは自分たちだ。それが分かっているからこそ、こうして真面目に反省しているに違いない。

 

 ちなみに穂乃果と凛はμ'sの控室へ戻った。今頃海未や絵里にこっぴどく怒られている現場が容易に想像できる。そしてことりや希あたりがそろそろ許してあげてもいいんじゃないかと、怒る2人を抑えている様子ももはや様式美だ。まあμ'sはライブに何度も出場している手練れなので、向こうは向こうで俺がいなくてもカタが付くだろう。Aqoursはラブライブ予選以来の大規模ライブの参加なので、ちょっとはメンタルケアしてやろうという判断で俺は今ココにいる。

 

 そしてやはりと言うべきか、花丸やルビィはこの状況に困惑している。大事なライブの前なのに、余計なことでストレスを溜めてどうすんだって話だよな。

 

 

「まぁまぁダイヤ、こうやって無事に戻ってきたんだからもういいじゃん。それよりも、予選の予定が後回しになったことだし、最後にライブの段取りだけでも確認しておこうよ」

「相変わらず、果南さんは甘すぎますわ……」

 

 

 さすが、Aqoursのお母さんと言われるだけのことはある。そのおかげで千歌も鞠莉も好き勝手出来るのだろうが、やんちゃできる柔らかい雰囲気があるこそグループ全体の温和が保たれているとも言える。もし最年長組が全員ダイヤみたいな堅物ばかりだったら……うん、もうスクールアイドルじゃなくて風紀委員の集まりか何かだろう。想像するだけでも息苦しそう……。

 

 果南の意見には他のみんなも概ね同意のようで、呆れながらも無事に予選に出られることに安堵しているようだ。もしAqoursの予選の時間が後回しにならなかったら、恐らくリーダー&センターが不在となるので失格となっていただろう。

 そう、後回し。Aqoursのライブの順番が後ろに調整された件についてだが、それはμ'sも同じで、絵里の話では先程急遽決まったらしい。俺はてっきりAqoursの誰かがスタッフに交渉してくれたものとばかり思っていたのだが、みんなに聞いたところどうやらそうではないらしい。逆にみんなは俺が根回しをしてくれていたと考えていたらしく、お互いの考えがループする状況だった。

 

 

「なぁ善子」

「ヨハネ!」

「本当に誰もスタッフに頼んでないのか? Aqoursの予選の順番を変えてくれって」

「だから何度もそう言ってるでしょ? 私たちは控室で待ってただけだったんだから」

「梨子も、心当たりは?」

「ないですね。私たちの慌てる姿を見て、スタッフの誰かが何とかしてくれたのかも……?」

「だとしてもお前らに断りなく、勝手に順番を変えたりはしないだろ。ったく、誰がこんなことを……」

 

 

 正直な話、気味が悪い。誰が何の目的で、どのような方法でこんなことをしたのか、考えても考えてもさっぱりだ。それに俺の力でどうにもならなかった問題を、得体の知れない奴が解決したことにちょっぴり腹が立っている。正体不明に導かれる人生なんて、俺はまっぴらゴメンだね。

 

 そういや、μ'sがスクフェスに参加する時もこんな感じだったよな? 誰からともなくスクフェスの招待状が送られてきて、結局その送り主が分からないままμ'sは再び活動を開始した。μ'sの復活は世間的にも評判良かったし、本人たちも再度グループを結成できて嬉しそうだったため、これまで問題は表面化しなかったんだよな。だからこそ、ここへ来てまた正体不明の何かに振り回されるのが気味悪いと言っているのだ。

 

 髪をかきながら唸っていると、いつの間にか隣にいた曜が話しかけてくる。

 

 

「でも良かったです、失格にならず予選に出られて」

「そりゃお前らにとっては大助かりだっただろうけどさ、気を利かせてくれた奴は俺でもなければお前らでもなく、μ'sでもないんだ。気にならないか?」

「言われたらそうですけど、今は予選に集中したいので、私たちとしては大助かりですよ! 特に花丸ちゃんとルビィちゃんはずっと緊張しっぱなしだから、予選までのインターバルが長くなって助かってるかも……?」

「ふえっ!? 呼んだずら??」

「ぴぎゃ!? は、花丸ちゃん! 急に大きな声出さないでよぉ!!」

「ゴ、ゴメンずら……。でもいきなり名前を呼ばれたから驚いちゃって……」

「名前を呼ぶだけこうなっちまうなんて、相当アガッてんな……」

 

 

 どんな形にせよ、Aqoursにとって予選開始時間の引き延ばしは朗報だろう。得体の知れない誰かに助けられたとは思いたくないけど、千歌と鞠莉によってAqoursに降りかかった問題を上手く払拭してくれた。その事実はいくら疑っても変わらない。なんか俺たち、誰とも分からない存在に人生が誘導されている気がするぞ……。

 

 

「ねぇダイヤ。千歌も鞠莉も反省してるみたいだし、もう許してあげたら? むしろ騒ぎを起こしてくれたおかげで、こんな特別な日でも千歌と鞠莉は余裕なんだって安心したくらいだよ」

「そ、そうだよ! 千歌は緊張してるみんなを安心させようとして――――」

「そうそう! せっかくの大舞台なんだし、みんなsmileでいなきゃね♪」

「調子に乗らない」

「「はい……」」

「そうですわね。ここで原因を追及しても、ライブの成功には繋がりませんし」

 

 

 聖母・果南の言葉により、ダイヤを始めとして他のみんなの雰囲気も少し柔らかくなる。Aqoursが引き起こした事態はスクフェスのイベントに影響を与えるほど大きかったが、今更それを悔やんでも仕方がない。だったら予選順が後になったことを活かして、自身の緊張を解したり、みんなで気合を入れ合った方がよっぽど有意義だろう。

 

 

「よ~しっ! それじゃあ円陣を組もう円陣! これでやる気充填、自信MAXだよ!」

「急に元気になったね千歌ちゃん……」

「控室を抜け出しちゃったことは反省してるけど、今はライブの直前なんだから、いつまでもクヨクヨしていられないよ!」

「そうだね。それが千歌ちゃんらしい♪」

 

 

 落ち込む時はとことんどん底まで沈むけど、そこから這い上がるのが早いのもAqoursの魅力だ。かつてラブライブの予選で最下位を取ったこともあるため、逆境からの逆転は彼女たちの得意分野だろう。まあそう何度も何度も底に落とされるのはスクールアイドルの実力としてどうかと思うけど、立ち直れる力があるとないとではメンタル面で雲泥の差がある。

 それに、Aqoursはまだ結成して半年くらいしか経っていないグループだ。だからそんな初心者グループが、スクフェス失格の危機を乗り越えたってだけでも拍手モノだろう。

 

 そうだよな。みんな頑張ってるんだから、 俺は俺でやるべきことをやっておかないとな。

 

 

「意気込んでいるところ悪い。ちょっと出かけてくるわ」

「えっ、先生。最前列でライブを見てくれるはずじゃ……」

「そうなんだけど、なんつうか……ゴミ掃除だ」

 

 

 下手に誤魔化しを入れるが、当然ながらみんなの頭には"?"マークが浮かんでいる。

 スクフェスという輝かしい舞台でライブをしているみんなの姿を、録画ではなく生で見たいと思っているのは本当だ。そして、みんなも俺がライブを見に来てくれることを楽しみにしていた。実はコイツらの顧問になってからというもの、Aqoursの生ライブを見たことがない。内浦での小規模イベント程度なら観覧したことはるのだが、公式イベントで見たことは一切なかった。だからこそ、俺はコイツらが大舞台でライブする姿を楽しみにしていたし、みんなも公式の大舞台で輝く様を俺に見てもらいたいと思っていたのだ。

 

 しかし、お互いにその気持ちがあるからこそ、俺にはやっておかなければならないことがある。そのために、みんなの約束を破っちまう形になるのは心が痛いけど……。

 

 だが、その痛みはすぐに抜ける。みんなの寂しい顔を見るのは心苦しいと思っていたのだが、何故かみんなは微笑んでいた。『仕方ないなぁ先生は』と言わんばかりの表情で、俺がライブに来られなくて暗い表情をしている子は1人もいない。

 

 

「えへへ、先生はやっぱり優しいです」

「……どこがだ? 目の前で堂々と約束を破る男だぞ?」

「でも、それって千歌たちのライブを成功させるためですよね? まだ出会って数ヶ月ですけど、先生と一緒にいた時間はとても濃厚だったので、先生のことなんて何でもお見通しです! 具体的に何をしようとしてるのかまでは分からないですけど、どこかで千歌たちのライブを見てくださるって信じてますから!」

「お前……」

 

 

 いつもは何も考えず思い付きと発想だけで行動してるような奴に、まさかここまで見抜かれているとは。いや、それは千歌だけじゃなくてみんなも同じだ。俺がただの用事で約束を破るのではなく、自分たちのことを考えた上での行動だと察しているらしい。それはみんなの『やれやれ』と言いたげな顔を見ればすぐに分かった。

 

 

「私たちは私たちのやるべきことをやります。私たちのライブが成功するよう、他所からでも祈ってくれると嬉しいです」

「用事先でも私たちの輝きが伝わるように、全力を尽くします。だから、先生もヨーソロー! です!」

「見てなさい。用事が済んだアンタがすっ飛んできたくなるくらい、最強のライブを披露してあげるから」

「マルも、これまで先生から教わったことを活かして頑張ります!」

「ルビィは、あの、上手く言えないですけど……が、頑張ります。だから、先生も頑張ってください……」

「多くは言いません。私たちのライブの成功、頼みましたから」

「例えは慣れていたとしても、私たちの心は一緒ですわ。だから、先生は先生のやるべきことをなされば良いのです」

「先生には助けてもらいっぱなしね。その恩返しはライブで披露してあげるから、用事が終わったら絶対に観に来てね!」

 

 

「お前ら……。あぁ、サンキューな。そして、何があっても観に行くから」

 

 

 まさか、Aqoursに元気付けられる日が来るとは思ってもいなかった。まだまだ子供だと高を括っていたけど、教師は生徒から学ぶことがあると昔からの格言の通りだ。これから自分がやろうとしていることはAqours、そしてμ'sや虹ヶ咲のライブ成功にも繋がるから、迷わず自信を持っていいんだよな。むしろ、千歌たちが後押しをしてくれたからこそ自信を持てたのかもしれない。全く、これだから女の子と仲良くなるのが大好きなんだよ。可愛い子に激励してもらえるなんて、単純だけどテンション上がるじゃん?

 

 

 さて、みんなが表舞台で活躍している間に、俺は裏方作業を片付けますか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 ここからだと、スクフェスの会場全体が見渡せる。だが会場は広大なので、人が豆粒のようにしか見えない。一応スクフェスの大舞台も一望できるものの、人の頭が豆粒同然の景色ではライブを楽しめるとは言い難いだろう。たくさんの人を見下すのが好きな人にとっては、どこの絶景よりも興奮できる場所だと思うけどな。

 

 そんな訳で、俺はスクフェス会場の近くにある高層ホテルの一室に来ていた。部屋に入っただけで分かるロイヤル感が溢れる部屋で、どうやらこのホテルでは一番高いスイートルームのようだ。

 もちろん俺がそんな部屋に泊まるはずがないので、宿泊しているのは別の人。まあ隠さなくても、前夜祭の時と状況が全く同じだから誰なのか察しは付くか。

 

 

「それにしても零君、よく私がここにいるって分かったね。昨日の前夜祭とは違って、少し離れたホテルなのに」

「高いホテルだから分かったんだよ。会場の近くで一番高いホテルかつ、高層のホテルはここしかないからな。後はフロントにお前の名前と俺が弟だってことを伝えたら、素直に教えてくれたよ」

「どうして高層のホテルだと思ったの?」

「バカほど高いところに上りたがる。それだけだ」

「ひっどーーいっ! これでも世界を手玉に取れるほどの頭脳を持ってるんだゾ?」

「その口調と語尾で賢いと思われたいのかお前……」

 

 

 もう20代半ばなのに、未だに子供っぽい仕草、口調、語尾、テンションetc……何もかもが抜け切れていない。身体だけは無駄に官能的に成長してるのに、まさに見た目は大人、頭脳は子供だなコイツ……。ま、世界を手玉にできるってのは間違いじゃないから、そこは否定しようもできないけどな。

 

 そう、俺が会いに来たのは秋葉だ。昨晩も同じ状況だったのだが、今回ばかりは事の重さが違う。これでも姉弟として長年一緒だから、コイツが子供っぽい口調になった時は何かを誤魔化していることくらい知っている。そして、今回コイツが何をしでかしたのかも大体検討は付く。だから今日はそれを追求しに来たのだ。

 

 

「余計な御託はいいから、本題だけ言うぞ? どうしてμ'sとAqoursの控室に屋台のタダ券を置いた?」

「ん~? どういうこと?」

「とぼけんな。穂乃果と千歌の中身が入れ替わったのはお前の仕業だろ」

「ん~詳しく説明してくれないと分かんないなぁ~。だって私、高いところに上りたがるバカだから♪」

 

 

 この世には俺を含め、性悪な奴がたくさんいるだろう。でもその中でも、秋葉が一番ウザいのは明示的だと主張できるくらいに自信がある。自分以外の人間は玩具だと思ってる奴だ。世界中の人間の性格を全て知らなくても、コイツこそが悪を具現化した姿だと納得してもらえるだろう。

 

 秋葉が何も知らないフリをしているのは明らかだが、ここは自分自身の情報整理のためにも説明してやるか。これで事の重大さがコイツにも伝わるだろう。伝わったところでコイツの辞書に『反省』という文字がないので、意味のない行動かもしれないけどな。

 

 

「控室に屋台のタダ券を置いておけば、穂乃果や千歌の性格上、ほぼ確実に釣れる。予選の時間と控室で準備する時間の間を長く設けておけば、暇を持て余したアイツらが、その券を握りしめて屋台に出向くことも予想が付く。あとはお前が適当な発明品や何なりを使って、屋台エリアで出会ったアイツらの中身を入れ替えるだけだ。そしてお前が予選の順番を入れ替えるよう裏で工作すれば、今の状況が完成する」

「それは私ならできるって仮定の話だけど?」

「μ'sとAqoursの予選の順番が後回しになったんだ。どこに回されたのか、お前なら知ってるよな?」

「さぁ?」

「虹ヶ咲の予選の順番に近くなったんだよ。それでもAqoursは少し離れてるけど、μ'sは虹ヶ咲の直前だ。まるで虹ヶ咲のお膳立てをするかのような順番になったんだ。これが偶然だと思えない。だからこの計画が実行できる奴と、虹ヶ咲の関係者で検索をかけたらお前しかヒットしないんだよ」

「ふ~ん……」

 

 

 これが本当の事件だったら、証拠不十分で不起訴になるくらいの推理だ。でも今回はそんな確信的な証拠は要らず、過去の経験からコイツがやったと推測するだけで十分だ。秋葉も先程までのとぼけた表情から、口角を上げた憎らしい表情に変わっている。恐らく、脳内では俺を弄んで楽しんでいるのだろう。どこまで行っても性悪女だなコイツ……。

 

 

「こんなことをしたのも、歩夢たちの実力を世界に見せつけたいためか? そんなことをして、お前にどんなメリットがある?」

「メリット? そんなの簡単だよ、私が楽しいから」

「な゛ッ……!! お前のせいでAqoursは予選を失格になりそうだったんだぞ!?」

「それが? 人が危機に陥って焦る姿、その危機を脱するために努力する姿、その危機を脱して喜ぶ姿、そんな一連の流れを見るのが好きなんだよねぇ♪」

「ふざけんな! 千歌たちがスクフェスのために、どれだけ努力したか分かってんのか!?」

「知らないよそんなの。そもそもAqoursってまだ初心者グループなんでしょ? 実力がないんだから、努力してもスクフェスに勝ち残れないでしょ」

「ライブは勝ち負けなんかじゃねぇ!!」

 

 

 頭に血が上っている俺は、自分でも気づかない間に秋葉の胸倉を掴んでいた。例え秋葉や楓のような身内であろうとも、女性には手を出さないのが俺の信条だ。いや、()()()というべきか。今この瞬間に、その信条はあっさりと崩れ去った。

 

 俺自身をどれだけ罵ってもらっても構わない。変態だの鈍感だの、何を言われても受け止める。だってそれはその人が俺に対して抱いている素直な感情なんだから、否定するつもりはない。

 でも、アイツらのことを悪く言うのは許せない。Aqoursのことを何も知らない奴が、アイツらがどんな想いを心に抱いているか知らない奴が、自分が罵倒したいだけの欲求で物を言うなんてどうかしてる。合同合宿の時に語られたAqoursの決意は、今でも記憶に新しい。

 

 だけど、それをコイツに言っても無駄だろう。これまでの言動から考えるに、コイツは自分だけが楽しむことしか考えてない。もう何年もそんな感じで、これまでは呆れる程度で済んでいたのだが、千歌たちの重いを踏みにじられた今回だけは無視できなかった。

 

 

「気付いてる? すべてはスクフェスの招待状から始まったこと」

「μ'sに届いた差出人不明の招待状のことか? やっぱりアレもお前が……」

「そう。虹ヶ咲のみんなが輝くためには、μ'sにお膳立てしてもらった方が一番いいからね。レジェンドのスクールアイドルに勝ったとなれば、あの子たちの輝きは頂点を突破する」

「μ'sを参加させた理由はそれか。じゃあ穂乃果たちまで利用したってのかよ……」

「別にいいじゃない。あの子たちはμ'sの再結成を喜んでるみたいだし」

「それは結果だ。お前がやったことの正当性の証明にはならない」

 

 

 終わり良ければ総て良しって言葉がある。穂乃果たちはμ'sを結成出来て、世間もμ'sのライブをまた見ることができて、何も不利益なんてないように見える。でも、本当にそうか? コイツの行動でAqoursの想いが踏みにじられそうになったのに、それで納得できる訳がない。スクフェスの招待状をμ'sに送り付けたのも、穂乃果と千歌の中身を入れ替えて、わざと2グループの予選時間を虹ヶ咲へ近付けたのも、全部歩夢たちをよりよく輝かせる布石。いや、自分が愉悦を感じるためだけの遊びだ。

 

 

「苦しいよぉ、零くぅん……」

「あっ……」

「自然に首を絞める力を強めるだなんて、どれだけ怒ってるの??」

「それはお前が……!!」

「アハハ!! 楽しくなってきたね?? 私はこの時をずっと、何年も待ってたんだよ! すべての謎を解き明かして、()()零君が怒り狂った先にどんな行動に出るのか! ゾクゾクする。やっぱり私の欲求を満たせるのはキミだけだよ♪」

 

 

 

 俺はこの瞬間に悟った。

 遂に、本物の悪魔が降臨したと――――――

 

 

 そして、俺はまだ気付かなかった。

 これまで語られたことは、まだ序の口だったってことを――――――

 

 

 

To Be Continued……

 




 黒幕はなんと秋葉さんでした! これには皆さんもビックリだろうなぁ~(棒)

 そんな訳で、次回からスクフェス編としても、この小説としてもクライマックスへと向かいます。
 秋葉さんの口から語られるのは、これまでの『嘘』。そう、全部『嘘』……






 別件になりますが、前々から予告していたラブライブの企画小説『ラブライブ!~合同企画短編集~』が25日(日)より投稿されています!
 何気に主催の私がトップバッターを切っているので、私の担当分は既に投稿されていたり……。最近本編の方がシリアスなので、もっとゆったりとした日常モノが読みたい方は、是非企画小説の1話目を覗いてみてください!

 そして、もちろん本日も別の作家さんの小説が投稿されているので、私の小説を含め是非ご覧ください!

 もしよろしければ、企画小説の方にもご感想をいただけると嬉しいです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全部、嘘

 今回は、スクフェス編の各話で立っていたフラグが全部回収されます。
 これが神崎零、最後の試練!


 

 

 別に、秋葉のことを信用していた訳じゃない。

 どちらかといえばむしろ、できれば関わりたくないと思うくらいには信用していなかった。

 

 俺たちを陥れるためだけに謎の発明品を作り、世界の頭脳と呼ばれた脳を無駄に働かせる。それで得られる結果は、世界の貧困を救うことでも、不治の病を治すことでも、増して人の生活を豊かにするものでもない。ただ自分が楽しむため、その天才的頭脳を奮う。そのためなら、周りがどうなろうがおかまいなし。実の弟を何度も実験台に使用している時点で、秋葉の性格は理解してもらえるだろう。

 

 そう、コイツは元から善人でも何でもないのだ。紛うことなき悪人よりで、そんな奴を信用や信頼するなんてあり得ない。もちろん俺を含め、昔はμ's、今は虹ヶ咲を気にかけていた時期もあった。だが、それも全て自分自身のためだ。自分がやりたいからそうしているのであって、そこに誰かを助けてやろうという感情は一切ないだろう。あくまで自分の欲望に忠実に、他人の迷惑や境遇、増してや気持ちなんて考慮していない。良く言えば芯があり、悪く言えば自己中心的だ。

 

 俺が秋葉に対する感情として、家族として信頼を寄せている部分は確かにあった。だけど、さっきも言った通り人間としてコイツを信用しているかと言われたらそれは否だ。今まで何度かコイツの言葉に助けられた気もするけど、それは本当に気のせいだ。コイツはコイツで自分の好きにやっただけであり、俺を助けるなんてことは絶対にしない。結果だけを見れば助けられて得かもしれないが、損得勘定を抜きにすればコイツほどの悪人はいないだろう。

 

 

「μ'sやAqoursを利用していたのは事実だし、もう今更言及しねぇよ。でも、歩夢たちもそうなのか? 歩夢たちの面倒を見ていたのも、自分のためなのかよ……」

「そうだよ」

 

 

 あまりに端的な答えに、少し絶句してしまう。

 いくら信頼していないと言っても、これでも家族だ。多少なりとも歩み寄りたいという気持ちはあった。

 だけど、俺の質問に対する答えは何の迷いもなかった。その言葉を聞いた瞬間、もはやお互いの考えは永遠に平行線のままだと悟る。コイツを更生させようたって無駄だ。だって俺とコイツでは生き方が違う。『やめろ』と言ってやめるような人間ではないことくらい、生まれた時から一緒にいる俺なら分かる。

 

 だったら、せめてこんなことをした真意だけでも知りたい。

 いつもは自分の発明品をぶっ放して終わりだが、今回はかなり手の込んだことをしている。分かり合えないなら分かり合えないなりにその理由だけでも聞いて、今後一切関わり合いにならないようにするのが身のためだ。

 

 

「歩夢たちは、みんなお前に感謝しているんだぞ? 身寄りのない孤児の自分たちを育て励まし、俺という生きる希望を与えてくれた存在だって。それすらも、お前の擦り込みだったのか……?」

「そうだよ」

「結局、何もかも利用してたってのか……」

 

 

 秋葉はずっと不敵な笑みを浮かべたままだ。当たり前だが、コイツは人を騙すことに何の罪悪感も抱いていない。

 だが俺は、表立って怒ることはできない。秋葉が歩夢たちの希望になっていたことは事実なので、頭ごなしにコイツを否定することができないんだ。こうして悪行を繰り返しつつも隙を作らないあたり、やはりコイツの頭脳は卓越している。否定しようにも、どこかに矛盾する要素がありこちらの意見を突き刺すことができない。ったく、やりにくいったらありゃしねぇ……。

 

 

「前も言ったよね? 私にとっては世界はおもちゃ箱なんだって。そして、そのおもちゃ箱から唯一飛び出したのが零君。世界の情勢や最先端技術、流行りの病や各地の紛争、どれも簡単に解決できるけど、私はそんなものには興味ない。だってつまんないもん。問題を解決できるってことは、未来が簡単に見通せるってこと。私は子供の頃からずっとそうだった。天才過ぎて、周りの人がこれからどんな風に生きていくのか、ニュースで報じられてる問題がどの方向へ向かっていくのか、未来予測と言っていいほどに予想できた。でも、あなただけは違った。だから、私が興味あるのは零君だけなんだよ」

「そりゃどうも……」

「私はね、あなたの行動にいつもゾクゾクさせられてるんだ。特にμ's全員と恋人になった挙句、妹ちゃんたちも巻き込んだ時には流石の私もビックリしたよ。重婚なんて考えてる人、この世に本当にいるんだってね。元々あなたには注目しっぱなしだったけど、あの時は身震いしたよね。世界の常識から外れて、我が道をたくさんの女の子を連れて歩こうとしてるその姿に! あなたはどれだけ私を楽しませてくれるのって、1人で興奮しっぱなしだったんだから!!」

「か、顔ちけぇよ……」

 

 

 秋葉は目を血走らせ、両手で俺の肩を鷲掴みにして語る。以前にそんな感じの話を聞いたが、俺がそこまでコイツの血を滾らせてたとはな……。もちろんコイツを悦ばせようと思ってμ'sと付き合い始めた訳じゃないが、結果的にコイツが俺たちを発明品の実験台にしてたのは、それが原因だったのかもしれない。コイツの興味は世界の誰よりも、どんなことよりも俺たちだったんだから。

 

 ちなみに秋葉が抱いている満たされぬ感情は、昔から理解していた。子供のころから何でもできたコイツは、その頭脳を駆使して世界中を震撼させるほどの研究や発明を繰り返していた。だが、そんなことでは自分の欲求は満たせなかったんだ。コイツが求めていたのは、自分でも予想ができないくらいの"刺激"。自分の予想から外れた奇想天外が起こることを、子供の頃からずっと心待ちにしていた。

 

 そう、そしてその欲求を満たすことができる人物が俺。

 だけど、どうして俺なんだ……? μ'sと付き合い始めたのは5年前だし、それ以前にコイツは何かで満たされていたような気がするけど……。

 

 

「どうして俺なんだ、って顔してるね? だったら話してあげるよ。その覚悟があるのならね」

「今更尻込みする必要ないだろ。ここへ来た時点で、覚悟はできてる」

「よろしい! 話はあなたが小学生の頃まで遡るよ。具体的にはそうだなぁ、虹ヶ咲のみんなと出会った頃くらいかな」

「残念だが、俺にはその時の記憶はない。孤児施設の火事の一件以来……つうか、お前もよく知ってるだろ」

「そうだね。今思い出しても悲痛な事件だったよねぇ……」

 

 

 どこまでが本気でそう思っているのか、俺には計りかねない。

 コイツ、マジで悲痛なんて思ってんのか……? もはや何もかもが胡散臭く感じてくるのは、やはり秋葉だからだろう。コイツが胡散臭くなかった日は、俺が生まれたから一度もなかったからな。

 

 

「零君は昔から女の子好きでね、幼稚園や小学校からハーレム体質だったんだよ」

「ちょっ、それ初耳なんだけど!? ガキの頃から女垂らしって救えねぇな……」

「救えないって、自分ことでしょそれ……。まぁそれはいいとして、だからこそ歩夢ちゃんたちともすぐ打ち解けたんだよ。私が仕事で施設の設備点検をしている間、私に連れられて孤児施設に来たあなたは、一瞬であの子たちの心を掴んだ。小さい頃に親を失って、心にぽっかり穴が空いた子たちを手玉に取るのは、零君にとったら造作もないもんね」

「その言い方だと、俺が女の子の弱みに付け込んでるみたいじゃねぇか……。今はお前がどれだけの悪人かを証明する話だろ?」

「ひどいっ!? 私をイジめたら、これ以上真実を話してあげないぞぉ?」

「余計なネタはいいから、要点をまとめて話せ」

 

 

 こうして会話をしていると、いつもの日常のように思えるんだけどなぁ……。だけど残念ながら、今は真っ向から対立しているんだなこれが。

 つうか、敢えてネタを仕込んで俺にツッコミを入れさせることで、場の空気を強制的に和ませようとしてないか? 相変わらず考えることが姑息なんだよコイツは。

 

 

「女の子を次々と救っていくあなたを見て、当時は何をやっても満たされなかった私はようやく気付いたんだ。零君こそが、私の欲求を満たしてくれる存在になれるかもって。だって、どんな先生やカウンセラーでもあの子たちの心を開けなかったんだよ? それをあなたはいとも容易くやってのけた。あの子たちにとっては、あなたは救世主だったでしょうね。その件については、あの子たちから直接あなたに話したでしょ?」

「あぁ。でもアイツらにその感情が芽生えたのは、火事の事件があった後だ」

「そうだね。だけどあなたが毎日一緒に遊んでくれたから、あの子たちは生きていこうと希望が持てたんだよ。それは火事以前から見られた兆候。救われたにしては理由が単純だけど、子供なんだから、理由はそれだけでも十分だね」

 

 

 恐らく当時の俺は、歩夢たちを救ったという自覚はなかっただろう。ただ、一緒に遊びたかったから。笑顔が消えた子たちに再び笑顔を取り戻したいという、至極単純な理由だったと思う。それは当時の記憶のない俺でも何となく察せた。

 

 

「あの子たちがあなたに対する感情が高ぶってくるのと同時に、私の感情も高ぶってきた。もっと、もっと奇抜な行動を見せて欲しい。あなたならそれができる。でも、あの孤児院で絶望のどん底に落ちてる子はもういない。だってあなたがみんな救っちゃったから。だったらどうしようかと考えた。ねぇ、どうしたと思う……?」

 

 

 秋葉の表情が、再び黒に染まっていた。さっきまではいつものようにおふざけ半分で会話をしていたのに、いつの間にか悪魔が再臨したようだ。自らの欲求を満たすために行ったこと。虹ヶ咲のみんなから聞いた、俺と仲良くなった直後に起こった出来事。

 

 

 察した。

 俺の全身に、冷汗が走る。

 

 

 

 

「燃やしたんだよ。孤児院を、私がね♪」

 

 

 

 

 一瞬、俺の目の前が真っ白になった。

 予想通りだったが、やはり心のどこかでは嘘であって欲しかったのだろう。だが、朧気な希望などすぐに打ち砕かれる。

 

 そして再び、俺の頭に血が上った。

 

 

「自分を満たすためだけにそんなことしたのか!? 歩夢たちを危険に晒して!!」

「何度も言わせないで。私は私がしたいように生きるの」

「たった、たったそれだけのために……」

「施設の点検をしてた私なら、仕掛けも簡単にできたしね。あとはあなたの行動を見守るだけ。そして、私の予想通りあなたは炎上する孤児院に飛び込んだ。あの子たちを助けるためにね」

「っ…………!!」

「愉しかったよ、あなたが次々とあの子たちを助ける姿を見るのは! 子供ながら無謀にも危険に立ち向かい、誰1人として見捨てないその信念。自らを省みず、捨て身で女の子たちを救う。私はゾクゾクしたよ。零君は本当に私の予想通り、いや予想以上の行動をしてくれる。だって、9人全員を救うなんて思ってもなかったからね♪」

 

 

 もはや、言葉にならなかった。

 情報整理で頭がいっぱいになりつつも、自分の中でどんな感情が渦巻いているのかすらも分からない。だから、思い浮かんだことをそのまま口に出すことしかできなかった。

 

 

「じゃ、じゃあ、全部嘘だったのか……? 不慮の事故で孤児院が火事になったてのも、お前が心配そうに俺を病院に運んだってのも……」

「嘘……か。残念ながら、それだけじゃないよ」

「え……?」

「一度あのゾクゾクを味わったら、今度はもっともっと欲求を満たしたくなる。ま、それが人間の性だね。だから、私があなたを育てたの。記憶をなくしていることをいいことに、歩夢ちゃんたちのことは敢えて話さなかった。歩夢ちゃんたちや楓ちゃんには、記憶が戻ったら辛いことも思い出すだろうから黙っててと伝えてね」

「それも嘘だったってことか……。全ては自分だけが愉しむために……」

「ピンポーン! ようやく話が分かるようになってきたね」

 

 

 最初から今まで、コイツは嘘だらけだったってことか。短絡的な納得の仕方だが、あまりの衝撃に深く考え込むことができないためしょうがない。

 騙されていた絶望感よりも、どうしてここまで残酷になれるのかが不思議だった。秋葉の性格が如何に狂っていたとしても、まさかここまでやるとは思っていなかったからだ。だがコイツにとっては人の想いを踏みにじることなんて、赤ちゃんが玩具を乱暴に扱って壊してしまうようなもの。つまり、俺たちを使って無邪気に遊んでいるだけだ。自分以外の人間はおもちゃであり、世界はおもちゃ箱。秋葉が過去に取った行動は、まさにそれを体現化していた

 

 更に1つ気になっていることがある。

 さっき俺を育てたと言っていたが、それは一体……。

 

 

「あなたこそ、私にとって最高のおもちゃなんだよ。だから記憶を失った時にチャンスだと思ったよね。あなたは私好みに書き換えるチャンスだったから」

 

 

 秋葉は俺の心を読んでいるのか、こちらから何も言っていないにも関わらず語り始める。こうして俺の行動や心理が簡単に見抜かれるってことは、やはり俺はコイツの言う通り最高のおもちゃと化しているのかもしれない。だからこそ、たまに奇想天外な行動をするとゾクゾクするのだろう。もはや、俺の人生がコイツの管理下に置かれている気がしてならなかった。

 

 

「お前は、俺が悩んだ時にいつも目の前にいた。μ'sと付き合う時も、妹たちと付き合う前も……」

「そう。私があなたに助言を与えれば、それだけあなたの成長に繋がる。私の()()()な零君を、自分の手で作り上げている感じが堪らなく快感だったよ♪」

「じゃあ、俺って一体なんなんだ……? 俺は本気で穂乃果たちを、千歌たちを好きになったのに、その想いはお前によって作られたものだってのか!?」

「どうかな? 私は零君のお姉ちゃんとしての責務を果たしただけだよ」

「歩夢たちに辛い経験をさせて、それを正当化するのはやめろ!!」

「そんなのもう過去の話でしょ? 今が幸せならそれでいいじゃん。零君も、たくさんの女の子に囲まれて幸せでしょ? 長年かけて準備してあげたんだから、むしろお礼くらい言って欲しいよ」

「俺たちはお前のおもちゃじゃない!!」

 

 

 そう否定しつつも、コイツの話を聞く限りでは俺たちはただの操り人形だ。コイツの欲求を満たすためだけに騙され行動し、そして今あらゆる秘密を暴露され、衝撃で混乱している俺の姿を見てほくそ笑んでいる。

 別に秋葉に何かを期待していた訳でもない。だが助けられたことがあるのは事実であり、そこに感謝の念が少しではあるがあった。

 

 でも、それすらも踏みにじられた。

 

 記憶を失う前と後では、俺の性格が変わっていないことは楓によって証明済みだ。だけど、コイツの言動で俺が動かされていたとしたら、俺が穂乃果たちに抱いている気持ちって作り物なのか……? 千歌たちを好きになったのは嘘? 歩夢たちを想う心は偽り? 女の子の笑顔を守りたいって気持ちも、全部コイツによる擦り込みなのか……。考えても考えても、答えは出ない。

 

 

「そもそもさ、私に何を期待していたの? 秘密を明かしたら絶望するとは思ったけど、想像以上だったから気になっちゃって。ま、いい方向で期待外れなのも零君の魅力だけどね」

「別に期待なんてしていないし、信用もしてない。ただ、俺もお前のことを想像以上だと思っただけだ。悪い意味でな……」

「そうだよね。結果的にあなたも女の子たちも、現状幸せな日々を送っている。でも、その結果だけでは満足できないのが零君だよね」

「歩夢たちの心の傷は、絶対に癒えないぞ。唯一の身寄りであった施設を火事にされたんだから……」

「それを含め、これからあなたがどう動くのか見ものだよ」

 

 

 あれだけのことをしたのに、コイツはまだ満足していないらしい。神崎零という人間が偽りかもしれないという事実を背負わせたうえで、更にここから俺が取る行動を見て愉しもうとしている。

 だが、それに抗うことはできない。遅かれ早かれ、みんなと顔合わせるだろう。その時に俺がこんな調子では、みんなは絶対に心配するに決まってる。その時、秋葉から語れた真実を打ち明けたら、みんなはどんな反応をするんだろうか……。μ'sもAqoursも虹ヶ咲も、もう間もなく予選が始まる。明日はスクールアイドル同士の合同ライブにテレビ番組の撮影。もし予選を通過すれば、最終日に決勝が控えている。連日彼女たちの魅力を最大限に発揮する最高の舞台が整っているのに、余計な心配なんてかけさせられるかよ。

 

 

「あ~あ、Aqoursの予選ライブ始まっちゃったよ? 観に行かなくても良かったの?」

「こんな顔で観に行ったら、雰囲気ぶち壊しだろ……」

「確かに。そんな死んだ目をしてたら、あの子たちも不安になっちゃうよねぇ……」

「誰のせいだと思ってんだ……」

「私はいい顔だと思うけどね♪」

 

 

 ダメだ。コイツと一緒の空間にいるだけで、俺の顔も心も何もかもが淀んでいく。怒りや悲愴といった感情すらも感じず、ただ茫漠としたままコイツのされるがままになっていた。

 

 全部、嘘。

 これまでの人生の中で大きな決断をしたことは何度もある。だが、その決断すらも秋葉に擦り込まれた感情から来たもので、俺自身の考えじゃなかったってことか……? 穂乃果たちに告白したのも、千歌たちを好きになった想いも、どちらも記憶を失う前の俺の心を秋葉の手によって模倣されていただけ……? じゃあ、本当の俺の気持ちって、一体何なんだ……。

 

 

 俺って、誰なんだよ……。

 

 

 

 

 そこからのことは、あまりよく覚えていない。

 気持ちの整理が付かないまま、部屋を出て行ったことだけは覚えている。その際に秋葉から『期待してるよ』と小さな声で囁きかけられた気がするが、弄ばれていると思って無視をした。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 本編でも零君が言っていますが、神崎秋葉というキャラは元々善人ではなく、むしろヘイトが溜まりやすいキャラです。むしろこれまでが微笑ましい程度だったので、今回のこの性格こそが真の彼女と思っていただければと思います。
 それにしてもやってることは超絶エグいですが……()


 零君もこの小説の中で色々壁にぶち当たってきましたが、今回が最後にして最大の壁です。しかも今回の相手は過去の自分自身。
 これから彼が女の子たちとどう向き合っていくのかを中心に、この小説をご覧になっていただければと思います。



 別件になりますが、前々から予告していたラブライブの企画小説『ラブライブ!~合同企画短編集~』が25日(日)より投稿されています!
 何気に主催の私がトップバッターを切っているので、私の担当分は既に投稿されていたり……。最近本編の方がシリアスなので、もっとゆったりとした日常モノが読みたい方は、是非企画小説の1話目を覗いてみてください!

 そして、もちろん本日も別の作家さんの小説が投稿されているので、私の小説を含め是非ご覧ください!

 もしよろしければ、企画小説の方にもご感想をいただけると嬉しいです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

闇を裂く希望

 暗闇に堕ちた零を救うのは、これまで自分が手を差し伸べてきた女神たちだった。


 気付けばいつの間にか、スクフェスの会場内を歩いていた。

 秋葉の部屋から飛び出してどれだけの時間が経ったのか、そもそもアイツの部屋にいた頃から時間の感覚なんてなかった。ただ心に衝撃を加えられ、これでもかと言うくらいに抉られ、満身創痍でボロボロになってからは記憶が曖昧だ。1つ覚えているのは、アイツが語った『嘘』。それを思い出すとまた俺に多大なる重圧がかかり、忘れようと心を無にすることもできない。もはや今の俺は秋葉の術中にハマっていて、自分がアイツの手のひらで踊らされていることも分かっている。でも、それに対抗することはできない。言わば、哀れな操り人形と化していた。

 

 ただこうして歩いていても、何か解決方法が見つかる訳じゃない。だが、何かをしていないと重圧に押し潰され、それこそ俺が俺でなくなってしまいそうで怖い。いや、今の俺も十分俺でなくなっているのかもしれない。穂乃果たちや千歌たちを想う気持ちも、歩夢たちを気にかける心も、結局はアイツによって誘導されていた。恋愛や女心に疎い俺が、これでも自分なりに色々結論を出してきたと思ったのに、まさか他人の引いたレールの上を歩かされていただけだったとは……。

 

 それでも、秋葉は俺に期待していたらしい。自分の引いたレールをいつ俺が脱線するのかを。これまでに何度もアイツと1対1で、俺の生き方について真っ向から話し合ったことがあった。そのたびにアイツは的確な意見をくれたけど、それすらもアイツの誘導操作だったんだ。レールを脱線させたいのに、俺が止まっていたり後退したら困るからだろう。最初からいい奴とははなっから思っていなかったが、いざこうして真実を突きつけられると相当来るものがあるな……。

 

 

 これからどうすればいいのか、全く分からない。とりあえず、みんなからの連絡を目に入れたくないから携帯だけは見ないようにしている。Aqoursのライブを観に行かなかった罪悪感もあるし、何よりみんなの名前を見るだけでもかなりのプレッシャーがかかる。アイツらのことを好きになったこの気持ちが、本当は他の奴に作られたものだと知った今、まともにアイツらを直視できない。直視どころか、脳内にアイツらの姿が思い浮かぶだけで苦しくなる。それならスクフェスの会場を途方もなく歩き回って、自分の頭を整理した方がいい。ここまで追い詰められている以上、落ち着けるのか怪しいけどさ……。

 

 

 身に降りかかる重圧を何とか取り払おうと、形だけでもいいから俯いていた顔を上げ、空を見上げる。すると俺の目に、会場に設置してある時計塔が目に入った。

 正直、やってしまったと後悔した。自分の心の整理をするのが最優先だから、今の時間なんて些細な情報すらも頭に入れたくなかったからだ。そして、その後悔は想像以上のものとなる。

 

 

「も、もうお昼過ぎてんじゃねぇか……って、μ'sと虹ヶ咲の予選も終わってる……!!」

 

 

 Aqoursの予選も観に行けなかっただけでなく、μ'sと虹ヶ咲の予選まで逃すなんて……。どのグループとも絶対に観に行くって約束してたのに、Aqoursだけでなく他のみんなとの約束も破っちまったな……。つうか、これで尚更みんなと顔を合わせづらくなっちまったじゃねぇか。まぁ自分のせいと言えば自分のせいなので、下手に言い訳せずに話した方がいいのかな? アイツらのことだ、たくさんの観客がいたとしても俺が来ていないことくらい分かってたと思うし。

 

 

 さて、どうすっかなぁこれから。

 

 

「あれ、先生?」

「ホントだ。こんなところにいたんですね」

「善子、梨子!?」

 

 

 屋台が軒を連ねるエリアで、偶然にも善子と梨子に出会う。

 心の整理がつかないまま誰かに会うのは避けようと思っていたが、どうやら運命というのは残酷らしい。どう考えても俺がライブに来なかった理由を問いただされるに決まってる。意気揚々とコイツらに問題の元凶を掃除してくるとか言って出て行ったのに、こんなに沈んでいる様子を見たら何があったんだと勘ぐっちまうよな。だから、適当な言い訳ではこの場を逃れることはできないだろう。

 

 無駄かもしれないけど、とりあえず平静を装ってみるか。

 

 

「よぉ、予選が終わったから食べ歩きか?」

「はい。今日の予定は全部終わったので、みんな好き好きに会場を回ろうってことになりまして。μ'sもA-RISEもSaint Snowの皆さんも、そして虹ヶ咲のみんなのライブも凄い盛り上がりでしたよ」

「そ、そうか……。A-RISEもSaint Snowも終わってたか……」

「ん? アンタ、なんか暗くない? 結局誰のライブにも来てなかったみたいだし、一体何をやってたのよ」

 

 

 そうだよな、そう来るよな。でも、そう安直に理由を話せる訳がない。俺がお前たちに抱いていた感情は、もしかしたら嘘だったかもしれないなんて口が裂けても言えねぇよ。しかもコイツらは、今回のスクフェスを機に俺に自分たちの魅力を最大限に見せつけようとしている。それが彼女たちなりのアピールでもあり、自惚れかもしれないが俺への告白だと思ってる。

 

 そんな気概を持っている奴らに、一途な想いをぶち壊すような真実を伝えられるか? いや、できない。

 それに明日以降もスクフェスは続くから、コイツらに余計な心配はかけたくないしな。

 

 だけど、ずっと黙ったままでいる訳にもいかない。以前にμ'sのみんなと、悩みがあるなら1人で抱え込むのはやめにしようと誓いを立てた。俺自身、誰かの心に土足で踏み入るのは好きだが、自分の気持ちはひた隠しにする傾向にある。その性格のせいで、穂乃果たちには迷惑を掛けたこともあった。

 だから、何かしら話した方がいいのかもしれない。降りかかるプレッシャーを押しのけてから全てを話したい気持ちは山々だが、現状、そのプレッシャーを払いのける方法なんて見つかってない。これからも見つかるかどうか分からないし、だったら誰かに相談して少しでも楽になった方がいいのかも。もちろん悩みを話せばその人に自分と同じプレッシャーを感じさせる訳だから、相手の負担も大きくなることは覚悟しておかないといけないけどな。

 

 

「なぁ。自分が自分でなかったとしたら、お前らはどう思う?」

「はぁ? 何よそれ?」

「いや、深い意味はないんだけどさ。もしお前が中二病じゃなく、至極真っ当な女子高生として生活している姿を想像してみて、どうかなぁって」

「そ、それは……なんていうか、想像できない。引き籠りだった頃は夢見てたけどね」

「そうだね。善子ちゃんは中二病で不幸キャラっていうのが染みついてるから、普通の善子ちゃんを見たら別人かと思っちゃいそう」

「そりゃそうよ。今の私こそが私なんだから、もしものことなんて考える必要はないわ。ていうかヨハネ!」

 

 

 なんつうか、教え子ながらにたくましいなコイツ。確かに善子は中二病を脱却しようとしていた時期もあったが、今やそれを自らのキャラとして確立している。そういや、そうさせたきっかけは俺だったな。下手に着飾らなくても、いつも通りのお前でいいと言ってやった気がする。着飾らない自分を受け止めてくれる人たちがいるんだから、無理にキャラを作る必要はないんだって、そう彼女に伝えた。

 

 

「先生、本当にどうしたんですか? いつもとは雰囲気が違うといいますか、ちょっとどんよりしてません?」

「そう見えるか?」

「はい。私たちのライブに来なかったことと、何か関係あるんですか?」

「アンタね。私たちには悩み事があるならすぐに相談しろとか言ってくるくせに、自分の気持ちだけは隠すその性格、直した方がいいわよ」

「はは、よくご存じで……」

「知ってますよ、先生の性格くらい。ね、善子ちゃん?」

「だからヨハネ!」

 

 

 最初は俺といがみ合っていた梨子だが、今では俺の性格を熟知するくらい親密な関係になっている。梨子には善子たちとは違って、特別教えを教示したことはない。だけど、特別な出来事がなかったからといってお互いに距離があるとは一切思っていない。何気ない日常の中で一緒に過ごしていけば、自然と相手との距離は縮まるのだ。

 

 それは、心の距離も一緒。

 いつの間にか、お互いがお互いに惹かれ合っていることなんて普通の話だ。今の俺の心と、梨子の心の距離はどれだけ縮まったんだろうな。

 

 

 今の俺……。

 これも、秋葉の誘導によって工作されたものだったりするのか……?

 

 さっきまではそのことに関して疑問すら湧かなかったが、今は違う。梨子と善子と話したことで、気持ちを整理できるきっかけを掴めたかもしれない。

 

 

「悪い、言い訳は後で話す。だから、少し1人にさせてくれないか? 何かを見つけられそうなんだ」

「…………分かりました。でも、無理はしないでくださいね」

「どんな事情を抱えてるのかは知らないけど、次会った時にそんな暗い顔をしてたら許さないから。きっちり笑顔で戻ってくること、いいわね?」

「相変わらずお前は手厳しいな。でも、ありがとう。元気出たよ」

 

 

 誰かに心中を打ち明けるって重要なことだ。しかも、最初に打ち明けたのがこの2人なのは運が良かったかもしれない。梨子はもちろん、善子はあんな性格だけど、仲間の様子や状況判断が瞬時にできる子だ。だから、いつの間にか俺も安心して語り過ぎてしまった。この問題はこれまでぶち当たってきた壁の中でも、自分自身で解決しなければいけない問題No.1だ。それなのに喋り過ぎてしまったってことは、この2人の言葉に安らぎを感じたからかもしれない。

 

 

 やっぱり、お前ら最高だよ。

 また1つ、俺の中で彼女たちの想いが募った。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ここは……」

 

 

 考え事をしながら歩いていたら、またしても周りの景色が変わっていた。さっきまでいた屋台エリアとは打って変わって、来場客がみんなカメラやスマホで何かを撮影している。

 ここはスクールアイドルの歴史を時代ごとに振り返っているブースだ。スクールアイドルの起源とも言われるA-RISEの初ライブステージ映像や、μ'sがUTXの屋上で『ユメノトビラ』を披露している映像、その他、時代を一世風靡したスクールアイドルたちの映像や写真も一般に公開されている。人気のスクールアイドルの自己紹介映像など、世間に流通している中ではプレミアが付いているモノも多く、熱狂的なファンでない限りは手が出しにくい代物なのだ。

 でもこうして無料で一般公開されたことで、これまで観られなかった貴重な動画を一般人が見られるようになった。これでまた来場客がスクールアイドルに対しての好感度が上がれば、運営側としてこの企画は大成功だろう。

 

 

 それにしても、どのスクールアイドルも輝きが半端ねぇな。画面越しなのに、彼女たちの魅力が全身に伝わってくる。だからこそ、今日の予選はステージの眼前で見たいと思ってたんだよ。画面越しでも心を揺らされるくらいなんだから、生で彼女たちのライブを見たらマジで感動しちゃうかもな。

 

 

「せ、先生……?」

「ルビィ? それに花丸もダイヤも、ここに来てたのか」

「先生こそ、どうしてここへ? 連絡しても音信不通でしたし……」

「それに先生、マルたちのライブは見てくれましたか……?」

「あぁ、その……色々悪い」

 

 

 梨子と善子に話した以上、ここで嘘を付いても意味がないので素直に謝る。そもそもコイツらも、俺がライブを観に来ていないことくらいはステージの上から見て知っているだろう。なのにその質問をするってことは、もしかしたらどこかで見てくれているんじゃないかという希望を持ってのことだと思う。でも残念ながら、みんながライブをしている最中の俺は秋葉に潰されていたんだよな……。

 

 

「先生……? 何か悩み事でもあるんですか?」

「そう見えるか?」

「は、はい……。あっ、で、でも、ルビィの思い過しかもしれないのでスルーしていただければ……はい」

 

 

 驚いた。この中で真っ先に俺に踏み込んできたのが、まさかルビィとは。花丸とダイヤも心配そうな表情をしているから、恐らくルビィと同じことを考えてはいたのだろう。でも、先陣を切って俺に話しかけてきたのはルビィだ。いつも一歩引いて中々自分の意見を言い出せないコイツがねぇ……。これも成長の証なのかな。

 

 そういや、自分がAqoursのマスコット扱いされてることに腹を立てて、俺に文句を言ってきたことがあったっけ。まあそれも俺に怒ってもらいたいがためであって、そこまで深刻な悩みではない。でも、周りから自分のことを可愛いと思われているだけの存在というのが納得できなかったらしい。だから俺を怒らせてみようという発想に至ったのだが、そもそもそんな積極的な行動を彼女が起こすこと自体が驚きだ。さっき真っ先に俺に悩みがあることを見抜き、それを問いかけてきたことといい、内気で小心者の彼女が相手と対面で話すことを望んでいる。よく考えてみたら、すっげぇ成長だよな。

 

 

「先生がそこまで暗い顔をするなんて、珍しいずら」

「柄じゃねぇのは分かってるんだけど、こればっかはな」

「何があったのか、それを話す話さないは先生の自由ですが、相談できる相手は目の前にいるってことを忘れないでください」

「はは、教師が生徒に相談事なんて情けねぇ」

「教師と生徒の関係だからとか、そんなものはどうでもいいですわ。もし先生の目の前で悩んでいる姿を見かけたとして、かつ、その人との上下関係がはっきりしているとしましょう。先生は、上下関係を感じる人だからといって手を差し伸べるのをやめる人ですか?」

「そ、それはない……」

「つまり、私が言いたいのはそういうことです」

 

 

 ダイヤも梨子と同じく、俺と出会った頃は敵意を剥き出しだった。だからこそ、こうやって俺を諭してくるなんて、当時の関係じゃ考えられなかったことだ。元々口調が鋭いので強い諭し方にはなっているが、むしろそっちの方が今の俺の心に響く。こうして、誰であっても堂々と自分の考えを投げられるあたり、流石ダイヤだって思うよ。

 

 しかし、一応これでも奥手な部分はある。特に恋愛面は非常にその性格が強く、俺に上手く想いを伝えられずに悩んでいたことがあった。果南や鞠莉と比べると、彼女は一歩引いてしまう節がある。だから俺に本心を伝えられず、その結果自分だけ俺との仲が進展してないと悩み事を吐露されたんだ。

 そうだ。コイツは悩み事をしっかり相手に伝えて、そして解決した。だからこそ自信を持って、さっきみたいに俺を諭すことができたのだろう。

 

 

「マルは、大切な人が苦しむところを見たくありません。できるなら助けになりたいと思ってますけど、先生のことだから、これは絶対に自分が解決しなきゃいけないことだと考えているんですよね?」

「すげぇな、当たりだよ」

「伊達に読書家を名乗っていませんから、話の内容から人の心情を読み取るのは得意です。でも、無理だけはして欲しくありません。先生のことは信用していますが、少し心配で……」

「お前、国語のテストでよくある作者の気持ちを考える系の問題、いつも満点だっただろ」

「えへへ、それほどでも……って、今はマルのことはどうでもいいずら!」

 

 

 花丸の人の気持ちを察する能力は、Aqoursの誰よりも長けているだろう。でもその能力があったとしても、不用意に人の心に踏み込まないのは俺との大きな違いだ。悩み事の早期解決のために相手の心を踏みつけるリスクを犯す俺と、お悩み解決まで少し時間がかかってもいいから、丁寧に相手のことを考える花丸。その性格は彼女のゆったりとした雰囲気そのもので、主体性に重きを置く俺と客観性を重視している花丸では、やはり性格が異なっている。

 

 そうだ。秋葉の言葉を真正面から全部受け止めるのではなく、一度冷静になって情報を整理し、アイツの言い分が本当に受け入れるに値するモノなのかを考えた方がいいかもしれない。アイツから放たれた衝撃の真実を、俺の器で受け止めることができなかった。だから迷ってたんだ。アイツの言葉を全て処理することができず、俺の思考がオーバーフローして思考が停止しちゃってたんだから。

 

 なるほど、そういうことか。

 相手の意見を真っ向から受け入れたと言って、それを信じる必要はないんだ。こっちはこっちのペースで受け入れたモノを処理すればいい。当たり前のことだけど、あらゆる重圧に苛まれると意外と忘れちゃうんだよな。

 

 

「みんな、ありがとな。ちょっと楽になったよ」

「何度でも言いますが、絶対に無理はなさらぬようお願いします」

「落ち着いた時に、何があったのかまた聞かせてもらえると嬉しいずら」

「ルビィの先生は強いんです。だから、プレッシャーなんかに負けないでください!」

 

 

 

 またしても教え子からの激励を受け、この場を去る。

 心の闇が徐々に取り払われるのと同時に、彼女たちへの想いも少しずつ花が咲き始めていた。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 これまで自分が助けてきた人たちに、今度は自分が助けられる。そんな展開が実は好きだったりします。
 かつて零君がAqoursに諭してきたことを、今回はAqoursのみんなが同じ内容で零君を諭す。気になった方は、Aqours編の各個人回を読み返していただければと思います。



 次回はAqoursの残りのメンバーが、かつての恩師を救います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帰ってきた主人公(ヒーロー)

 零君が自分を取り戻す回、その2。
 この小説にAqoursが登場してから何気に160話以上経過しているので、そりゃ思い出も多くなります。


 

 少しだけど、心が軽くなったような気がする。

 秋葉によって四方八方を防がれ、成すすべもなく絶望していた頃とは違う。ぼんやりとだが、自分の歩むべき道を見定めることができている。これから歩夢たちとどうコンタクトを取ればいいのか、何を話せばいいのか、それはまだ分からない。だがホテルを出てすぐのように、誰にも会いたくないという気持ちはなくなった。こうして冷静に自分を見つめなおせたのも、Aqoursのみんなのおかげかな。

 

 しかし、ライブを観に行けなかったことは素直に謝らなければならない。みんなは自分たちのため、観客のためというよりも、何より俺に魅せるためにスクフェスに参加している。特にAqoursと虹ヶ咲はその傾向が顕著で、俺が観に行かなかったことで彼女たちのライブの意味が薄れてしまうほどだ。そんなことは前から分かっていたはずなのに、行けなかったのは俺のせいだ。ライブ前の控室で、千歌たちは笑顔で俺を送り出してくれた。その優しさは嬉しかったし、何より俺が離れていても彼女たちは自分自身の力を最大限に発揮できると確信できたんだ。

 だからこそ、ライブの一部分も観られなかったことが悔しかった。これは秋葉のせいでも何でもなく、単純に俺が無策のままアイツの土俵に立ってしまった怠慢だろう。秋葉と対面するのはみんなのライブが終わってからでも良かったのに、面倒事は早く終わらせてライブを楽しみたいと急いでしまった俺のミス。しかも、アイツに完膚なきまでに叩きのめされ、今こうして心が淀みに淀んでいる。なんか、思い返せば返すほど情けなくなってくるよな……。

 

 

 そんなことを考えながら会場内を練り歩いていると、どんな縁なのか、ライブステージのエリアに来ていることに気が付く。結局誰のライブも観に行けなかったので、俺がここに来るのは初めてだ。既に全スクールアイドルの予選ライブは終了しているためか、来場客と思われる人たちは誰もいない。周りにいるのは忙しなく働いているスタッフくらいだ。ここでみんながどんなライブをしていたのか想像するのもアリだが、こんなとこで突っ立ってたら完全に邪魔だよな……。

 

 ここなら人も少ないから考え事をするにはいいと思ったけど、流石に別の場所にするか。

 

 

「あれ~? 先生じゃない?」

「鞠莉? 果南も? どうしてステージに?」

「それはこっちのセリフですよ。今までどこにいたんですか?」

「ま、まぁ会場内をウロウロと……」

 

 

 誰にも会いたくないという気持ちはなくなったと言ったが、今すぐ誰かに会いたいとは言ってねぇだろ!? さっきから次から次へとAqoursのメンツに遭遇するが、運命っつうのはそこまで残酷なのかよ……。いや、これも俺と女の子たちがお互いに惹かれ合っているからなのかも……?

 それに、彼女たちのおかげで俺は自分を見つめ直せたんだ。もしかしたら、ここで2人に出会ったのも奇跡かのかも。

 

 

「お前らこそ、予選が終わったのに何故ここに?」

「鞠莉が控室に忘れ物をしちゃって、取りに戻る最中なんですよ。予選が終わったと思ったらすぐ遊びに出かけちゃって、挙句に忘れ物なんてホントにおっちょこちょいなんだから……」

「ア、アハハ……。でも、予選が終わってみんなテンションが上がってたのは確かでしょ? あの堅物なダイヤだって、早くスクールアイドルの歴史館に行きたいってウズウズしてたんだから」

「鞠莉、予選に遅刻しそうになったこと、反省してる……?」

「し、してるしてるから! そんなに怖い顔しないで、ほらスマイルスマイル!」

「全く……」

 

 

 こりゃこの先も鞠莉のトラブルメーカー癖は治らねぇだろうな……。グループの中にそういう奴が1人くらいいた方が、グループの雰囲気が活気づいていいのかもしれないけどさ。とは言っても、Aqoursの中で騒がしくない奴の方が少ないので、グループの仲が冷え切る心配はいらないか。まぁスクフェス当日に控室脱走なんてやらかす奴らだから、スクフェス開催中はある程度の面倒を見ておいた方がいいな絶対。

 

 

「そんなことよりも先生、私たちがライブをやってる時どこに行ってたの? せっかく私たちのexcitingなライブを届けようと思ったのに」

「まぁ色々あってな。詳しくはまた後で話すよ」

「ということは、先生の用事はまだ済んでいないってことですか? それに、なんだか雰囲気変わってません?」

「あっ、それ私も思った! 先生から伝わってくるオーラにイマイチ覇気がないっていうか、こう、いつもみたいに自信満々の俺様オーラがないわよ?」

「それ褒められてんのか……?」

「いやいや、先生を心配してるんだよ。私たちと別れた後、一体何があったのかなぁって。ライブが終わった後も音信不通だったしね」

 

 

 そりゃ見送った奴が自分たちの元へ戻って来ず、しかも連絡すら取れない状況になったら心配するに決まってるよな。現に俺の携帯にはみんなから数えきれないくらいの連絡が来ており、心配してくれているのは分かっているが、いちいち内容を確認するのが面倒になるくらいだった。

 

 

「なんつうかまぁ、自分を見失ってるというか、路頭に迷ってるって感じかな。自分が何者なのか、昔の俺とは何が違うのか、そんなことばかり考えてるよ」

「笑顔で送り出した先生が悟りを開いてるなんて、一体何がどうなって……」

「そうだね。いつもの先生らしくないと言いますか、むしろ繊細な先生を見るのは新鮮で驚いてます」

「自分でもそう思うよ。そもそも、自分のことなんてあまり考えたことないからな」

「先生はいつも誰かのために動いてますもんね。今日だってそう。私たちが予選に出られなくなるかもって時に、先生が千歌と鞠莉を探してくれたり、スタッフさんにお願いしてみろと指示してくれたり、本当に助けられてばかりです」

「そうか? 当たり前のことをしてるだけだが……」

「当たり前のことを当然のようにできるのって、意外と難しいんですよ? 先生が来てくれたことでAqoursの練習も作詞作曲も捗り、みんな格段にレベルアップしました。先生は大したことをしていないと思われるかもしれませんが、私たちはとても感謝しているんです。それは、他の誰でもない今のあなたから与えられたものです。先生は教師として、当たり前のことをしてるだけと思ってるかもしれませんが」

 

 

 そっか、そうだよな。Aqoursのみんなからしてみれば、昔の俺とか今の俺とか、そんなものは一切関係ない。彼女たちとの思い出は、全部"神崎零"という先生との思い出に他ならない。昔や今なんて、そんな概念すらないだろう。彼女の中で"神崎零"は、ただ1人なんだから。

 

 そういや、以前果南と一緒にお風呂に入った時、彼女は今まで中々言い出せなかった心中を吐露していた。それは、先生にお世話になっているのに何も恩返しできていないとのこと。義理深い彼女のことだから、俺に与えられっぱなしでは納得できなかったのだろう。

 でも、今日でその悩みは解決だ。未だに自分の道を模索している俺の手を引っ張ってくれたんだからな。それに、既に俺はコイツらからたくさんのモノを与えてもらっている。教師としての経験や、一緒にいた楽しい思い出、そして、眩しいほどの笑顔。俺は女の子の笑顔が見られるだけで満足なんだから。

 

 

 すると突然、後ろから誰かに抱き着かれた。

 女の子特有の甘い香りに、高校生にしては有り得ないボリュームの胸。さっきまで沈んでいた俺の心が、覚醒するように高鳴り出した。

 

 

「ま、鞠莉!? お前なにしてんだ!?」

「ちょっ、鞠莉! 周りに人がいるんだからやめなって……」

「これで元気出たでしょ、先生♪」

「元気でたっつうか……」

「あぁ~なるほど。別の場所が元気になっちゃったとかぁ~? 男の子だもんねぇ~♪」

「ま、鞠莉!? 外で変なこと言わないの!」

 

 

 果南と鞠莉を見ていると、まるで親子だな……。しかもこの状況だと、俺って完全に玩具だし……まぁ、女の子に抱き着かれるってシチュエーションだけなら全然嬉しいけどね。周りにスクフェスのスタッフがいる状況じゃなかったらだけどさ。

 

 しかし、鞠莉のおかげでいい意味で気持ちが高揚してきた気がする。果南が引っ張ってくれていた手を、鞠莉が引き上げてくれたって感じだ。

 思い返せば、鞠莉にこうやってスキンシップされるのは久々かも。嘗ての鞠莉は、俺が振り向いてくれないからと無理矢理ホテルに誘い出し、薄いネグリジェのまま俺に肉体関係を迫ったことがあった。確かに見た目はとてつもなくエロかったけど、やっぱり心が曇っている女の子に対しては興奮しない。対して今のように不意であろうとも、女の子に暖かく包まれると、背中に胸を押し付けられるだけでも異様に興奮してしまう。鞠莉のスキンシップは男を色んな意味で元気にするが、逆に言えば、この方法なら俺を元気付けられると分かった上での行動だろう。梨子たちが言葉で諭してくれたのに対し、鞠莉は行動で俺の心を掴む。なんとも彼女らしいな。

 

 

「鞠莉、ありがとな」

「えっ、先生が褒めた!? 抱き着いたらいつも、顔を真っ赤にして振りほどこうとしてたのに!?」

「学校の中で生徒が先生に抱き着くって、シチュエーションがマズいだろ……。でも今日だけは許してやるよ。元気出たし」

「良かったです。先生、私たちと喋っていても全然笑顔にならないんで心配してましたから」

「そうか? なら、早くその笑顔を取り戻せるように頑張るよ」

「今度は絶対に戻ってきてね。約束よ?」

「あぁ。もう―――――大丈夫だ」

 

 

 

 この時点で、心にかかったモヤの9割は晴れたと言ってもいいだろう。失っていた自信、希望、勇気、なにより自分を取り戻せた気がする。いや、そもそも自分を失ってなんていなかったと言った方がいいか。どちらにせよ、Aqoursのみんなには感謝しないとな。偉い人が教師は生徒と共に学ぶべきことがあると謳っていたが、まさにその通りだ。

 

 さて、それじゃあ最後にアイツらにも会っておくとしますか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あっ、お~いせんせ~!」

「お待たせしました! 先生から呼び出しなんて、珍しいですね」

「千歌、曜。悪いな、急に連絡して」

 

 

 これまで出会ったAqoursの面々は偶然遭遇したのだが、千歌と曜は俺から呼び出した。他の奴らに自分の無事を伝えたのに、コイツらにだけ言わない訳にはいかないもんな。

 

 ここはスクフェス会場内の休憩エリアで、飲食も可能なためかそこそこ人がいる。さっきまでの俺だったら少しでも人がいるところで話をするのは避けようとしていたが、今はむしろ少々騒がしい場所の方が居心地がいい。周りが静かすぎると沈んでいた心が余計に沈没しそうになるので、気分が戻った今、わざわざ辛気臭い場所で話をする必要はない。それにもう、みんなに俺の暗い表情を見せたくないしな。

 

 

「もう先生ってば、私ずっと心配してたんですから! みんなで連絡したけど全然返信ないし、かと思えば呼び出されて、もう訳分かんないですよ!」

「わりぃわりぃ、ちょっと込み入った事情があっただけだから。別にお前らの連絡を無視していた訳じゃ……ないぞ?」

「どうして疑問形なんですか……?」

「込み入ったと言っている割には先生、なんだか清々しい顔してますよね?」

「あぁ、色々吹っ切れたからな。お前たちの仲間のおかげでさ」

「えっ、みんなと会ってたんですか?」

「会ってたというよりかは、たまたま会ったんだけどな」

「「むぅ……」」

「………へ?」

 

 

 千歌も曜も、何故かムスッとした顔をする。どうしてこんな嫉妬深い表情になっているのか、女心に疎い俺でも流石に理解できた。まぁね、相談相手として一番最後になってしまったことは俺も悪いと思ってるよ。でも、秋葉にこてんぱんにされた直後の俺は誰にも会いたくない気持ちでいっぱいだったし、千歌と曜以外の子たちとは偶然出会ってしまったんだから仕方がない。

 

 ま、そうは言っても理不尽に嫉妬しちゃうのが人間ってものだ。相手の言うことがいくら正論であっても、腹が立ってしまうことってあるだろ? 今の2人はその原理と同じだろう。もし俺が悩みの渦に飲まれていたのだとしたら、自分たちが助けたかった。そんなところか。

 

 

「まあまあ、そう怒るなって。お前たちを呼んだのも、意味があってのことだから」

「意味……?」

「あぁ。こんなことを言ったら自意識過剰だって思われるけど、お前ら、俺が連絡したらすぐ来てくれただろ? 俺を心配して、予選が終わって遊びたいのにも関わらず。呼べば来てくれるって分かってはいたが、本当に来てくれた時は嬉しかったよ」

「そんなの当たり前じゃないですか! 私も千歌ちゃんも、超特急で飛んできましたよ!」

「当たり前……か」

 

 

 さっき俺が果南にも言ったことだが、その当たり前のことを堂々と実行できるのって、案外凄いことなのだ。しかもそれが自分のことより相手のことを優先するのであれば尚更。曜からしてみれば当たり前のことだが、俺としては彼女が飛んで来てくれたことに嬉しさしか感じない。それほどまでに俺のことを想ってくれていると思うと、今にも心が舞い踊りそうだ。

 

 俺が教育実習生として浦の星にいた頃、雨の公園で曜と2人きりになったことがった。そこで彼女は、自分がスクールアイドルを始めたのは千歌の影響だと語った。幼馴染の力になりたいという願望は強かったが、逆に千歌の理想に引かれ過ぎて、自分は何故スクールアイドルをしているのか、何を目標として練習をしているんだと悩んでいたんだ。

 そこで見つけた目標が、俺。俺に自分を見てもらうために、スクールアイドルを続ける。そこには彼女の本気の愛が込められており、そして、肉体的にその愛を示してくれた。その愛があるからこそ、こうして俺のために自分のやりたいことを投げ捨ててまで駆けつけてくれたのだろう。

 

 

「なんにせよ、先生が元気そうで良かったです。絶対に戻ってきてくれると信じてましたけど、やっぱりこうして巡り合えて、私……あれ?」

「ち、千歌ちゃん!? 涙出てるよ!?」

「ど、どうしてだろう……。先生が無事に戻ってきてくれたのが嬉しかったからかな……?」

「そんなくらいで泣くなって。大袈裟だな」

「千歌ちゃん、みんなの中でも特に先生のことを心配していましたから。穂乃果さんと中身が入れ替わるなんて変なことが起きて、その直後に先生がいなくなったんですから、そりゃ心配しますよ。もしかして、先生の身に何かあったんじゃないかって」

「確かに、言われてみればそうか。心配かけてゴメンな。もう絶対に離れねぇし、離さねぇよ」

「先生……」

 

 

 千歌のこの涙は紛れもない嬉し涙だが、なんにせよ彼女に心配をかけたのは事実だ。

 千歌はAqoursの中では誰よりも分かりやすく俺にアプローチしてくる。学校の中で抱き着いて来るのはもちろん、部屋やバスの中で2人きりになってお互いに脱がし合ったこともあった。もはやそんなことをするくらい心の距離は近くなっており、お互いに何をされても許しちゃうような関係になっている。Aqoursに彼女ほどストレートに自分の気持ちを伝えてくれる人はおらず、その伝え方も身体を使って大胆なことをしつつ、しっかりと自分の言葉を俺の心に届けるほどに一途だ。

 

 他のみんなとは違って彼女の愛は、恋愛に関する悩み事や、自分自身について迷っている等、それらの柵を乗り越えた先に芽生えた愛……なんてことはなく、ただ単純に相手を愛している。

 でも、れでいいんじゃないか? 俺だって、何か特別なことがあったからみんなのことを好きになった訳じゃない。好きになるきっかけなんて、一緒にいるってだけで十分だ。まあ今回のように、自分の殻を破ってくれた相手に惹かれるようなアニメや漫画みたいな展開も、王道にして自然だとは思うがな。

 

 

 そうか、ようやく分かった。俺がみんなを好きって気持ちは何なのか。さっきまでどうして悩んでいたのか。

 それを思い出させてくれたのも、Aqoursのおかげだ。

 

 何度でも言う。最高だな、恋する女の子って。

 

 

「あっ、先生が笑顔になった!」

「ホントだ。やっぱり、先生は笑っている方が似合ってますよ」

「そうかもな。でも俺以上に、救わなきゃいけない奴らがいる」

「…………はい、分かっています。私たち以上に、先生がライブに来なくて悲しんでいる人たちがいること……」

「今度は絶対に戻ってくる。だから、また見送ってくれ。全てが解決したら、笑顔で再会しよう」

「「はいっ!」」

 

 

 千歌と曜の笑顔を見て、俺の心の曇りは完全に晴れた。2人を含め、Aqoursのみんなは約束を破った男に対してここまで寛容であり、そしてまた俺を送り出してくれる。そんなことができるのも、今度は俺が絶対に戻ってくると信じているからだろう。そこまで絶大な信頼を寄せられるのは、やっぱりお互いにお互いのことを隅から隅まで知っているから。もはや俺たちの心の距離は、密着しそうなくらいにまで迫っていた。

 

 

 そして、己の気持ちを改めて理解したからこそ、自分の想いを伝えなきゃいけない奴らがいる。

 もしかしたら、今もどこかで悲しみに沈んでいるのかもしれない。もう二度と彼女たちを絶望させないよう、俺は行く。ようやく巡り合えた、()()()()()と共に。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 前書きでも言いましたが、Aqoursが登場してから160話以上が経過しているのことに最近気が付きました(笑)
過去のAqoursの個人回が思い出せる方なら分かったと思いますが、前回と今回はこれまでの千歌たちの個人回を踏襲しています。なので私も過去の話を読み返してみたのですが、2016年に投稿されたものもあり、時の流れをしみじみ感じちゃった次第です(笑) しかしそれほどまでに、Aqoursがこの小説に溶け込んでいる証拠かなぁと思います。


 次回は虹ヶ咲回です。
 ちなみに今年の投稿分は、次回と合わせてあと2回です。今年までにシリアス部分を終わらせるつもりですが……どうだろ?()


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嘘から出た笑顔

 今回は虹ヶ咲編です!
 新たな真実が発覚するも、やっぱり調子を取り戻した零君は無敵です(笑)


 これまでの人生の中で、自分を見つめ直した瞬間は何度もあった。自分は何でもできる、どんな問題が立ちはだかっても立ち止まらない、そう思っていた。

 だが、現実はそこまで甘くない。自分だけではどうにも解決できない問題があり、その時は決まって女の子たちとの向き合い方に苦戦していた。周りから完璧超人と見られている俺だが、自分自身でもそう思っている。だからこそ、自分1人で解決できない問題が発生すると常人以上に悩みの渦に苛まれてしまうのだ。5年前、俺のそんな性格が災いして、ことりに喝を入れられたこともあったっけ。あの温和なことりにビンタされるなんて、昔の俺って相当1人よがりだったんだな……。

 

 それ以降に立ちはだかった壁は、μ'sや秋葉からの助言を得て無事に乗り越えてきた。未熟だった頃とは違い、みんなと手を取り合って前を進んできたんだ。それは俺の問題もそうだし、アイツらの問題でもそうだ。一緒に人生を歩んでいくと決めた()()()()以降、俺たちは運命共同体となった。喜びも悲しみも、幸福も苦難も、全てを分かち合う仲であり、今となってはお互いの表情を見ただけで相手が何を考えているのか分かる、それほどまでに俺たちは一体となっている。だからもうどんな問題が起ころうとも、以前のようにウジウジ悩んだりしないと思っていたのだが……今回はまぁ仕方ないか。まさか俺自身を否定されるとは思ってもなかったからな。

 

 しかし、アイツの描いたシナリオはもうここで終わりだ。正直、アイツがどこまで俺の行動を先読みしているかは分からない。さっき秋葉と対面した時、俺は他人の敷いたレールに乗せられていることに憤って、完全に我を忘れてしまっていた。

 でも、今となってはそんなことは気にしていない。アイツの口車にまんまと乗せられていたが、Aqoursのみんなのおかげでようやく自分を取り戻すことができた。更に自分を見つめ直したことで、俺がやるべきことがちゃんと見出せたものも大きい。今までずっとぼんやりとしていたとある想いがようやく形となり、相手に伝える準備ができたんだ。

 

 そんな覚悟を胸に秘め俺が足を運んだのは、スクフェスに参加するアイドルたちが宿泊しているホテルだ。スクフェスは全国のスクールアイドルが参加している都合上、遠方からも多くのグループが都内に来ている。そのことを考慮してか、スクフェス本社は遠方から参加するスクールアイドルのためにホテルを用意するという、なんとも太っ腹な姿勢を見せていた。遠方からの参加者以外にも、事前人気投票で上位になったグループにはホテルの部屋を用意するなど優遇している。そういった待遇の良さは単純に参加者のモチベに繋がるため、スクフェスに多くのスクールアイドルが参加している要因は公式からの良待遇って面もあるのだろう。

 

 そんな訳でこのホテルにはたくさんのスクールアイドルが宿泊しているのだが、今は予選も終わり普通にスクフェスを楽しんでいる子たちが多いからか中は物静かだ。周りにいる人と言えば受付の人くらいで、スクールアイドルらしき人物は一切いない。このホテルはスクフェス参加者の貸切なので、基本的に一般人は入れないため静かすぎるのは仕方ないか。

 

 ――――え? どうして俺は入れたのかって? そりゃスクールアイドル界隈では『神崎零』という名が通っているので、μ'sやAqoursに挨拶しに来たとか適当に言っておけば顔パスで通してくれた。もちろんμ'sもAqoursも今頃スクフェスのお祭りを楽しんでいる頃なので、ここには誰もいないだろうがな。

 

 そんな嘘を付いてまでこのホテルに忍び込んだ理由は、今回のスクフェスで注目度No.1のグループに会うためだ。ソイツらは他のスクールアイドルを圧倒する実力と魅力がありながらも、それをファンや観客に奮うのではなく、たった1人の男のために自分たちを魅せる。そのためだけに自分たちの人生を捧げており、生きる糧となっているんだ。

 

 

「アイツらの部屋は……25階!? やっぱ人気スクールアイドルは格が違うってか……」

 

 

 学生たちが泊まるホテルにしては高級過ぎると思っていたが、まさか最上階に部屋が用意されているとは……。スクフェス本社もやることが豪快っつうか、まあそれだけこのスクフェスに魂を賭けているってことだろう。だからこそ、イベントを盛り上げてくれる人気No.1のスクールアイドルに対して、最高の待遇を与えるのは必然なのかもしれない。

 

 それにしても、またホテルの最上階か。いや、秋葉も別のホテルだけど最上階の部屋にいたし、その部屋の出来事を思い出すと軽くトラウマになってんだよな。だいぶ吹っ切れたものの、こうしてエレベータに乗りながら階層を示すランプがどんどん最上階へ点滅していく様を見ると、何故か緊張してしまう。一度刻み込まれた心の傷は、そう簡単に癒えないってことか。

 

 

 最上階に到着し、数少ない部屋の中でも最もお高いスイートルームの前に辿り着く。ここまでの状況が秋葉の時と全く同じだが、今日はアイツに乗せられるのではなく、むしろこっちからアイツの敷いたレールを破壊しに来た。この部屋の宿泊者たちには既に連絡済みなので、今頃中でそわそわしている頃だろう。向こうも俺に色々言いたいこともあるだろうし、無駄に待たせて焦らしプレイをするのはやめようか。

 

 

 すると突然、何もしてないのに部屋のドアが開いた。声も発してなければノックもしていないので、ビックリして思わず一歩後退りをしてしまう。

 

 

「あっ、零さん。やっぱりいた!」

「あ、歩夢!? どうして俺がいるって分かった……?」

「いやぁ何と言いますか……本能?」

「なにそれ怖い……」

 

 

 察しが良くて部屋の前に誰かがいると悟ったとか、耳が良くて誰かの足音が聞こえたとか、そういう類ではないってのが一番怖いよホント。虹ヶ咲の子たちが俺を察知する能力に秀でていることは、偶然を装って俺の前に現れた出来事を思い出せば驚くことでもない。しかし、どうにも監視されているようでイマイチ納得できないと言うか、許容はできないよな。

 

 

「悪いな、こんなところに押しかけちまって」

「いえいえ。私たちも、零さんとお話したいと思っていましたから」

「あぁやっぱり?」

「とりあえず、中へどうぞ。2人で立ち話をしてたら、みんなから嫉妬されちゃいますから」

「そんなことで嫉妬すんのかよお前ら……」

 

 

 歩夢たちが俺に並々ならぬ気持ちを抱いていることは知ってるが、仲間に嫉妬するほどの病み成分まで含んでいるとは思わなかったぞ。歩夢やしずくは出会った時からちょっと危ない思考を持ってるとは思っていたけどさ……。シリアスなヤンデレ展開はμ'sの時に見飽きたので、もうやめてくれよ?

 

 冗談はさて置き、歩夢に導かれるまま部屋に入る。部屋には虹ヶ咲のメンバーたちが一堂に会しており、恐らく俺と話をできる機会があると歩夢から聞いて待っていたのだろう。笑顔で歓迎ムード――――と言った和やかな雰囲気ではなく、どちらかと言えばしんみりとした暗いムードが漂っていた。まあ俺がコイツらにした仕打ちを考えれば、みんなが不満に思うのも仕方がないか。

 

 

「お前らから言いたいことがたくさんあるのは分かる。でも、先に俺から謝らせてくれ。ライブ、観に行けなくてゴメン」

 

 

 下手な言い訳なんてしない。μ'sとAqoursを含め、ライブを観に行かなかったのは俺の落ち度だからだ。秋葉のせいで観に行けなかったとか、例え極悪非道なアイツと会っていたとしても、コイツらからしたら関係のないこと。絶対に観に行くと約束していたのにも関わらず、サボってしまったのは完全に俺のせいだ。

 

 Aqoursのみんなにも謝ったし、なんならここへ来る途中にμ'sのみんなにも謝っておいた。俺のためにたくさんの女の子たちが自分を魅せようと必死だったのに、俺はその想いを無碍にしてしまった。特に虹ヶ咲の子たちは今回のライブこそが俺に見せる初の生ライブであり、そして、今まで自分たちが秘めてきた想いを俺に伝える場でもあったんだ。

 そうと知っていたのにも関わらず、俺はその想いに答えられなかった。コイツらがどんなパフォーマンスをしたのか、予選のライブ映像はまだ公開されていないので分からない。例え公開されたとしても、映像で見るのと生で観るのでは気持ちの伝わり方が全然違うだろう。つまり、彼女たちからの告白を蹴ってしまったのと等しい。幾多の女の子から告白されている身からすれば分かる。好きな人に想いを伝えるのって、相当な覚悟がいることを。歩夢たちはその覚悟を持ってスクフェスに臨んだはずだ。だからこそ、彼女たちのライブを観られなかったことが申し訳なさ過ぎて悔やんでいるんだ。

 

 

「あ、あの! そのことについてなんですけど、謝らなければならないのは私たちの方です!」

「えっ、どういうことだ……?」

「零さん、秋葉さんに会いに行ってましたよね?」

「そ、それは……」

「隠さなくても大丈夫です。秋葉さんが何をしたのか、私たち全部知ってますから」

「全部!? 全部って、本当に全部か? お前らは思い出したくないだろうけど、孤児院が火事になったあの事件のことも??」

「はい。秋葉さんが零さんに話したこと、全部です」

 

 

 秋葉が語った、孤児院火事事件の真相。それは、アイツ自身が施設を放火した。それも俺が火の海になった施設から彼女たちを全員助け出す、なんて映画みたいな演出が見たかったからという自分勝手な理由で。俺自身も自分の愉悦のために多少なりとも理不尽な行動を取る時はあるが、秋葉の行動は流石に擁護することはできない。だからこそ、例え姉や妹などの肉親であっても女性に手を出さない俺が、思わずアイツの胸倉を掴むまでに頭に血が上ってしまった。

 

 でも、歩夢たちがそのことを知っていた……? どうしてコイツらがそのことを? となると、その情報を知りながらもずっと黙っていたってことか?? だとしたら、自分たちの住む場所を壊した張本人である秋葉と、どうして一緒に行動している? ダメだ、色んな疑問が次々に浮かんで頭が痛くなっちまう。ここでネタ晴らしをしてくれるってことは話す気になったってことだろうから、1つずつ順番に聞いていくか。

 

 その時、せつ菜が申し訳なさそうに頭を下げてきた。

 

 

「ゴメンなさい! 今まで零さんを騙すようなことをして!!」

「い、いいから頭を上げろ。別に気にしちゃいねぇからさ」

「そう、ですか? 秋葉さんから、零さんが絶望した顔で部屋を出て行ったと聞いてますけど……」

「それは本当のことだ。アイツから事の真相を聞いて、自分を失いかけていたことは事実。でも、今はもう大丈夫だ。何もかも吹っ切れたし、本当の自分を見つけることができたから」

「短い時間でそんなこと……。やっぱり、零さんは凄いですね。私たちは立ち直るまで相当な期間を費やしたのに……」

 

 

 それもこれも、みんなAqoursのおかげかな。俺1人だけでは、襲い掛かってくる重圧に間違いなく屈服してただろうから。

 それにしても、せつ菜たちも真実を知って絶望していた時があったんだな。そりゃ自分たちの住んでいるところを燃やされて、しかも放火の張本人から真実を告げられたら動揺もするよ。むしろ、今こうして秋葉と結託してつるんでいること自体、かなりの度胸だと思う。一体どんな利害の一致があって一緒に行動しているのか気になるな。

 

 すると、いつの間に俺の元へにじり寄っていたかすみが、柄にもない苦い表情で語る。

 

 

「この件に関しては、流石のかすみんも度が過ぎるイタズラだと思ったんですけどね。零さんの気を惹くためには、こうするしかなかったんですよ」

「それが秋葉と一緒に行動していた理由か?」

「はい。秋葉さんから放火の真意を聞いた時は確かに衝撃でしたけど、零さんにその時の記憶がないというのはチャンスだと思ったのも事実なんです。元々孤児院でまともな教育を受けてなかったかすみたちは、こういう手段でしか零さんに好きを伝えられなかったんですよ。ぶっちゃけ、不器用なんですよねかすみたち」

「つまり、お前らは自分たちの思惑でアイツの策略に乗ったと。目を覚ました俺に放火事件の真相を伝えるとパンクする、なんて名目で、ずっと黙っていた訳ね」

「そういうことです」

 

 

 なるほどねぇ。秋葉の言っていた全部嘘って言葉は、本当に1から10まで紛れもなく嘘だったんだな。もはや合宿で語られた事実との整合性は、俺が火の海に飛び込んで取り残されたコイツらを助けたことくらいしかない。その後のことは嘘ばかりだから、よくもまぁ10年以上も騙し続けられたと褒めてやりたいくらいだ。

 

 

「彼方ちゃんも、こんなやり方は汚いと思ったんだけどねぇ……。秋葉さんがどんな人であれ、零さんの記憶がなくなってしまったのはどうにもならなかったから……」

「ま、そうだろうな。そこで秋葉を恨んだところで、昔の状況に戻る訳じゃない。だったらアイツのレールに乗っかってでも、自分たちの想いを具現化しようとしたのか」

「うん。彼方ちゃんたちの想いを1つにして、誰にも内緒で本気のアイドル活動をしてたんだ~」

「なんかもう、アイツに逆らおうとする度胸がすげぇよ」

 

 

 そんな度胸が生まれたのも、俺に対する猛烈な愛が彼方たちにあったからだろう。自分に向けられる愛のことを自分で解説するのはムズ痒いけど、それが事実なんだから仕方ない。秋葉と付き合いが長い楓だってアイツにビビってるのに、ソイツを利用しようなんて無謀な考えが思いつくだけでもレベルが高い。これも放火の現場から無事に生還し、放火の真相を知ったとしても正気を保っていられた精神力の強さ故なのかもしれない。

 

 

「結局ね、愛さんたちも零さんを騙していたってこと。それは時が来たら本気で謝ろうと思ってたんだ」

「別に、どうだっていいよそんなこと。むしろ、お前らが秋葉に一泡吹かせられるなら応援しちゃうね。俺以外にアイツに対抗できる奴らがいるってこと自体が嬉しいからさ」

「あはは! どれだけあの人のことを憎んでるの?」

「憎んではないけど、あの笑顔は憎たらしいよな。だから見てみたいんだよ、あのドヤ顔が赤面して崩れ去る様を」

 

 

 俺は一度たりともアイツを憎んだことや恨んだことはない。それどころか、俺が壁にぶち当たるたびに何かと手助けをしてくれるアイツに感謝してるくらいだ。しかし今回の一件で、手助けすることこそがアイツの作戦であり、神崎零という人間を自分の想い通りに作成することが目的だと言っていた。

 だが、今となってはどうしてあんなに打ちひしがれていたと思うくらいにくだらないことだ。その件に関しては、アイツの前で俺の想像を絶する告白をしてやるかな。

 

 だから、誰に騙されていようが今の俺は何でも許せる。でも虹ヶ咲の子たちは未だに申し訳ないという気持ちがあるようで、特にしずくは俯いたまま暗い表情が消えていない。

 

 

「しずく、そんなに落ち込むな。俺はこんなにも可愛い子たちから好意を持たれているってだけで満足だから」

「か、かわっ……!! ず、ズルいですよいきなりそんなこと……。ずっと嘘を付いてきた私に、そんな言葉をかけられる権利なんて……」

「権利もクソもあるかよ。俺がそう思ったから、相手にその想いを伝える。普通のことじゃねぇか」

「そう、ですかね……? 零さんが許してくださると、なんだかホッとします」

「許すも何も、最初から気にしちゃいねぇけどな」

 

 

 自分たちの最大限を愛する人に魅せるため、敢えて秋葉と結託して俺を騙した。それって、すっごく嬉しいことじゃないか? だって大切な人を騙してまで自分たちの魅力を上げようだなんて、執念と言わんばかりの愛がないとできない行動だろ? それだけ俺のことを考えてくれているんだから、嫌悪する必要なんて一切ない。むしろ自分の全てを捧げようとしてくれる奴らに、心を打たれない方がおかしい。いい子たちだよ、コイツらはさ。

 

 

「おっ、璃奈のボードも笑顔に戻ってるじゃねぇか。俺が部屋に入った時は落ち込んでたのに」

「騙されていた張本人が許すと言ってるんだから、私も納得するしかない。もし嫌われたらどうしようって気持ちを、これまでずっと抱いてたから」

「秋葉を利用しようとしていたお前らでも、そんな後ろめたい心はあったんだな」

「自分たちの道が正しいと思い込んで、なるべく考えないようにはしてた。でも、やっぱり引っかかるものはずっとあった」

「俺が気にしようが気にしまいが、お前らの取った手が正当じゃないってことは事実だしな。ま、今となっちゃどうでもいいことだけど」

 

 

 後ろめたいって気持ちがあったってことは、少なからず自分たちの行動が世間一般で許されることではないと思っていたのだろう。そしてその気持ちを抱き続けていることに、コイツらは悩んでいたらしい。

 でも俺からしてみれば、その気持ちを引き摺ってもらえてよかったと思ってる。だって、人を騙しているのに後ろめたいと思わない方が異常じゃね? それだけコイツらには優しさがあったってことだよ。どこぞの悪魔とは違ってな。

 

 

「エマ……? お前なんだか嬉しそうだな。いいことあった?」

「私からこんなことを言うのはおかしいかもしれませんけど、またこうして零さんと楽しくお喋りできる日が来たので、嬉しくなっちゃって!」

「それは璃奈が言っていた後ろめたい気持ちがあったからか? さっきも言ったけど、もう気にすんな」

「ありがとうございます! そして、ゴメンなさい」

「ちゃんと謝れるのは偉いな。でも俺もライブを観に行かなくて約束を破っちまったから、これでおあいこだ」

 

 

 もはや過去に何があったかなんて、俺たちにとって気にするところじゃない。過去を振り返ったって今は何も変わらない。大切なのは、今を楽しく過ごすことだ。そう考えると、過去に捕らわれて暗くなるなんて馬鹿らしくないか? エマの言う通り、またこうして楽しく会話できるだけでも俺は満足だ。一時の嘘でぽっかりと空いた俺たちの関係も、今こうしてしっかり埋めることができたんだからな。

 

 だからこそ、俺がこれまで抱いていた虹ヶ咲への想いも伝えなければならない。自分の気持ち、そして、コイツらとの未来についても――――

 

 

「そういや果林、お前が別れ際に言ってたあの言葉の意味がようやく分かったよ」

「別れ際と言うと、公園でお話した時のことですか? って、聞こえてたんですかあれ!? 空耳っぽい反応をしていたような……」

「あぁ、聞き間違えかと思って聞き直しただけで、ちゃんと聞こえてたよ。『本当に、ゴメンなさい』って、このことだったんだな」

「はい……。秋葉さんと協力関係にある以上、あの場で真実をバラすことはできませんでした。でも、あまりの後ろめたさについついその言葉が出ちゃいまして……」

「意外とピュアなんだなお前って。ま、大したことじゃなくて良かったよ」

「これを大したことじゃないって、懐が大きすぎますよ全く……フフ」

 

 

 そりゃ懐が大きくないと、大勢の女の子を受け入れることなんてできねぇだろ。例え理不尽を押し付けられたとしても、だったらそれを含めて自分色に染め上げてやる。それこそ、12人の恋人を持つ男の度量ってやつだ。

 

 自分で言うのもアレだけど、完全に本調子に戻ってきたな。歩夢たちの表情にも笑顔が戻り、これで俺を含めメンタルケアは完了って感じか。あとは俺の気持ちをみんなに伝えるだけ。俺の覚悟、感情、想い、その全てを余すことなく暴露するつもりだ。

 

 そう、()()()()()()()()にな――――

 

 

「おい、いい加減に立ち聞きしてないで入って来い。最初からバレバレだっつうの」

 

 

 部屋のドアに向かってそう言い放つと、外にいた人物は観念したのか、部屋の中へと入ってきた。

 

 

「あはは、流石は零君♪ 愛するお姉ちゃんのことなら何でも分かるってことか」

「冗談は顔だけにしておけ……」

 

 

 

「「「「「「「「「秋葉さん!?!?」」」」」」」」」

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 どんなアニメや漫画にしろ、思い悩んでいる女の子が問題を乗り越えて笑顔になる瞬間が一番好きな描写です。これまで零君と歩夢たちの間には少々シリアスなムードが漂ったりしていましたが、今回でその問題もなくなり、本当の意味で仲間になれたと思います。

 そして次回、零君が秘めた気持ちを開放する時。
 それは、悪魔と言われたあの人にも…………

 とりあえず、次回でスクフェス編で発覚した全ての問題が解決します。
 物語も本格的にラストスパートです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お前は俺が飼ってやる

 零君が胸に秘めている想いが虹ヶ咲のメンバーと、そして、あの人に伝えられる。
 今こそ平穏な日常を取り戻す時!


「で? どうして盗み聞きなんてしてたんだ? お前のホテルはここの向かい側だろ」

「だって気になるじゃん。零君がどれだけ成長して帰ってきたのかね」

 

 

 俺が歩夢たちと会うことをどこから嗅ぎつけたのかは知らないが、相変わらずの神出鬼没で突然の登場にも驚かなくなってた。秋葉は俺の気配に敏感と言うか、自分の興味を唆られるが俺しかいないため、俺の行動を監視することくらいは余裕でするだろう。それはそれでヤベぇ奴だが、コソコソしているコイツを気配だけで感じ取れる俺も同類なのかもしれない。まあ俺は秋葉に興味があると言うか、向こうが粘着するように絡んで来るから相手をしなければならないって意味合いが強いけどね。

 

 とにかく、秋葉の元へはこちらから進撃しようと思っていたので、わざわざそっちから出向いてくれて手間が省けた。ちょうど虹ヶ咲の面々もいるし、過去の因縁に決着を着ける場にいるメンツとしては最適だ。

 もうね、こんな辛気臭い話はとっとと片付けて、また女の子たちに囲まれる穏やかな日常に戻りたいよ。それにμ'sやAqoursも含め、スクールアイドルたちには万全の状態で明日を迎えて欲しいからな。明日にはグループ間での合同ライブやテレビ撮影、明後日には決勝戦が控えてるから、俺の背負っている余計な枷でアイツらを縛りたくはない。そのためには、未だ秋葉の呪縛に苛まれている歩夢たちを解放し、そして俺自身もコイツと決着を着ける。それこそみんなが笑顔でいられるハッピーエンドだ。

 

 

「成長したとか言ってるけど、別に俺は何も変わっちゃいねぇよ。それこそお前の誘導で、自分を失ったかのように見えただけだ」

「ふ~ん。へぇ~~~~」

 

 

 秋葉にとって、どこまでが自分の想定した範囲内なのか。今の余裕そうな反応を見る限り、敢えて俺を絶望のどん底に叩き込み、そこから這い上がってくること自体も想定済みなのだろう。

 

 コイツは、自分の想定を超える出来事はこの世で起きることはないと思っている。だって、自分が世界中のあらゆる万物よりも想定外の存在なのだから。

 その中でも1つ、自分の認知できる全ての事象から逸脱している奴がいる。それが、俺。だからこそ秋葉は俺にしか興味を持たず、そして俺が自分の予想外の行動をしてくれることに無性の興奮を抱く。その興奮を滾らせるためには、誰かが心の拠り所にしている施設ですら平気で燃やす。それが数時間前に俺に語ったコイツの生き様だった。

 

 

「お前に言いたいことは色々あるけど、それは後回しだ。ますはさっき言いそびれた、歩夢たちへの謝罪からだな」

「あっ、そういえば、私が零さんの話を遮って先に謝っちゃったような……。ゴメンなさい!」

「いいっていいって。それでお前たちの問題も解決したんだから」

「零君が誰かに自分の贖罪を語るなんて珍しいねぇ~」

「お前は自分の贖罪の数を数えた方がいいと思うぞ……」

 

 

 そうは言っても、今更コイツの罪を数えたところで数えきれるとは到底思えないがな……。まあそんなコイツと縁を切らず、生まれた時から今までずっと付き合い続けてる俺も相当心が広いと思う。自分で言っちゃってるけど、秋葉の性格を考えたら一緒にいたいなんて思わねぇだろ? 元からコイツは恋人を作らないタチだが、恋人になる人が不憫すぎるからそれで良かったのかもしれない。

 

 

「秋葉のことは置いといて、俺がお前たちに抱いている気持ちを素直に話すよ。そういや、一度も自分の想いを伝えてなかったと思ってさ」

「もしかして、ライブに来られなかったこと以外に謝りたいことってそれだったんですか!? わざわざそんなことのために……」

「女の子が好意を向けていることを知りながら、それを受け入れて何も返さないって最悪じゃねぇか? それにそんな状況をグダグダ続けていると、どんな事態に陥るのか身に染みて理解してるから……」

「豪快な方だと思っていましたが、意外と繊細なんですね。あっ、悪い意味じゃなくて、ちゃんと私たちのことを考えてくれて嬉しいなぁって!」

「分かってるから大丈夫だよ。いい機会だし、ここで今まで思っていたこと、今の気持ち、全部ぶつけてやるよ」

 

 

 俺が女の子との恋愛で慎重になり過ぎてしまうのは、もはや本能に近い。μ's9人との例の一件以来、女の子の心と向き合うことに関しては誰よりも真面目になった。そのせいで逆に相手に近づくことすら臆してしまい、シスターズとの一件ではμ'sや秋葉から喝を入れられたっけ。今となっちゃいい思い出だなそれも。

 

 だから今回は失敗しない。秋葉の術中にハマった時点でもう失敗してるような気がするが、俺と歩夢たちの間にコイツが入る余地なんてないからな。秋葉がどんな行動で俺や歩夢たちの心を掻き乱そうと、それで俺たちが相手を想う気持ちが変わることなんてない。

 

 

「さっき自分を見つめ直して、分かったことがあるんだ。俺、お前たちの本心をしっかり受け入れてなかったなって」

「そ、そんなことありませんよ! 零さんは突然現れた私たちに、嫌な顔せず向き合ってくれました。正直、私たちって記憶のなくした零さんから見れば得体の知れない集団だったと思います。それなのにも関わらず、零さんは私たちを拒絶しなかった。それで受け入れてないって、どういうことですか……?」

「ぶっちゃけて言うぞ? 俺はお前たちのことを()()()()()()()だと思ってたんだ。馬鹿にしてるとかそういうのじゃなくて、お前たちの境遇を考えると、その言葉こそが端的にみんなを表せる。そう考えていた」

「あながち間違ってはいないと思いますけど……」

「別に相手のことをどう思おうが人の勝手だよ。問題なのはその後。俺はお前たちのことを可哀想だと思っていたからこそ、今度は涙を流させないと決意していた。そう、俺はお前たちの心と向き合っていたんじゃなくて、お前らの不幸な境遇に感化されていたんだ。感化っつっても、悪い意味でな」

 

 

 俺が見ていたのは歩夢たち本人ではなく、悲痛な過去を背負っているからこれ以上悲しませないようにしてやろうという、相手を見下す自分の気持ちだった。つまり、俺はコイツらに向き合ってすらいなかったんだ。もちろん悲惨な過去、苦い記憶、どれも綺麗さっぱり忘れて笑顔にさせてやろうという気持ちが間違っているとは言わない。だけど、それは恋愛が成就した後の結果として成しえるものだ。その気持ちは、女の子の心を汲み取っていない。

 

 

「さっき自分を見つめ直した時、そのことに気付いたんだ。俺が俺としてどう生きてきたかを振り返った時に、ずっとお前たちのことで引っかかっていた。千歌たちに励ましてもらって、心に掛かったモヤは9割晴れたと思っていたが、どうしても残りの1割が解消できなくてな。そして、Aqoursの全員と話して悩みを振り返り切れた時、お前たちの顔が頭に浮かんだ。その時ようやく分かったよ。未だに心配事があるのは、お前たちと真剣に向き合えていないからだって」

「そんなことが……。でも、それって私たちのせいでもあるんですよね? 私たちが自分たちの素性を隠していたり、秘密にしていることが多くて零さんを悩ませてましたから……」

「それを踏まえても、もう少しお前たちとの距離を縮めるべきだったのかもな。お前たちが何者かって警戒し過ぎるあまり、受け身になっていたのは事実だし。そして合宿で事情を知った後は、さっき言った通りお前らとの過去が常に頭にチラついて、まともにお前たちと向き合うことができなかった」

 

 

 俺がイマイチ彼女たちの心に踏み込めていなかったのは、それが原因だと思っている。μ'sやAqoursにはない幼少期からの辛い過去、心酔するほどの愛、積極的な言動、その全てに俺は戸惑っていたのかもしれない。

 

 

「だから、今度こそお前たちとしっかり向き合いたい。昔のこととか嘘を付かれていたこととか、余計な事情は関係ない。大切なのは今の気持ちだ。歩夢、かすみ、しずく、せつ菜、彼方、エマ、果林、愛、璃奈。まだ俺は本気でお前たちのことを見つめられていない。だからこそ、このスクフェスを機に見つけていきたいんだ。まだお前たちの気持ちに応えることはできないけど、俺の中で答えが定まったら、絶対に返事をするから。それまで待っていて欲しい」

 

 

 自分の過ちに気付いたからと言って、すぐ相手の気持ちに応えられるとは限らない。しかも今回は虹ヶ咲のライブを見逃した分、コイツらが俺に届けようとしていた想いも見逃したってことになる。それなのに早まってここで告白しようだなんて真似、コイツらからしても嬉しくないだろう。

 現に歩夢たちは俺の言葉を受け入れてくれたようで、小さな笑みを零していた。これで明日以降のライブは、今日の予選以上の実力を発揮してくるだろう。やっぱり、女の子が輝く姿を見られるっつうのは楽しみだな。

 

 

 とりあえず、これで俺が歩夢たちに対して思っていたこと、そして今の気持ちは全部伝えた。

 もちろん、これで終わりではない。この場には、歩夢たち以外にも俺の過去に関わっている奴がもう1人いる。いや、むしろ張本人と言った方がいいか。俺たちの会話を聞いてどこか満足気な表情を浮かべているが、これでコイツの欲求も満たせたってことか? それとも、俺たちがこのような関係になることも想定済みなのかも……。

 

 

「さっすが零君。相変わらず立ち直り早いね! これだけ早いんだったら、もっと絶望に堕としてあげて良かったかも……」

「笑顔で恐ろしいことを言うんじゃねぇよ……。つうか、結局お前の欲望の終着点ってどこなんだよ? この結果で満足いったか?」

「ま、長い年月をかけて仕込みをしてきた割には普通の終わり方だったけど、満足はできたかな。それに、また欲求不満になったら別の玩具を探すだけだしね」

「その玩具って、いわゆる俺のことだろ? もう余計なことはすんな」

「それは私の勝手だから。玩具に指図される言われはないよ」

「そうだな。その答えこそお前らしいよ……」

 

 

 自分の非道な行いを全く反省していないあたり、神崎秋葉という人間の軸がブレてなくて安心するよ。ここで過去の行いを反省したとしたら、それはそれで拍子抜けだからな。もうここまで長い付き合いだと、秋葉には常に悪魔的のままでいて欲しいって思うくらいだ。歩夢たちの心の拠り所を奪ったことを許すつもりはないけど、十年以上も前のことを蒸し返すつもりもない。それに蒸し返したところで、俺や歩夢たちの今の心境に変化があるとは思えないしな。さっきも言ったけど、もはやコイツの行動云々で俺と虹ヶ咲の関係が揺れることはないんだから。

 

 

「もうこれで終わり? それじゃあ解散かな」

「いや、まだ終わってねぇよ」

「へ? どういうこと?」

「俺がここへ来た一番の目的は、歩夢たちに自分の気持ちを伝えることだ。でも、それ以外にもう1つある。それが――――お前」

「わ、私?」

 

 

 秋葉は珍しく、目を丸くして驚く。コイツのこんな表情を見たのは何年ぶりだっけな。世界のあらゆる出来事はコイツの予想通りであり、自分の予想の範疇を超えた出来事は起こらない。それくらい人間を超越しているコイツだが、流石にここで自分に話を振られるとは思ってなかったのだろう。まあ俺と歩夢たちの雰囲気の良さが最高潮に達しているのに、突然自分に話題の矛先が向いたら誰でも驚くよそりゃ。

 

 

「別に今更お前を咎めたりはしないけどさ、やったことはやったことだし、それを許すことはできない。終わり良ければ総て良しなのは事実だけど、今回は歩夢たちの心の傷もあるから、それで片付けられはしないだろ」

「ふ~ん。じゃあなに? 私がみんなに謝ればそれで解決? それであなたも満足するの?」

「俺が満足するからとかしないとか、謝ることで誰かの心が晴れるとか、もはやそんなの問題じゃない。重要なのは、今後誰かを精神的に追い詰めるような真似をさせないことだ。まあ社会人的に言えば、再発防止策を立てるってところかな。今後こんな障害が起こらないように、俺が事前に防いでやるよ」

「人を障害だなんてヒドイなぁ~。それに、零君が私を止めることなんてできるのぉ?」

「むしろ、お前を止められるのは俺だけだろ。つうか、お前もそれを期待してたんじゃないのか?」

「き、期待って……」

 

 

 いつもしてやったりの余裕な表情しかしない秋葉だが、徐々にその牙城も崩れていく。コイツは自分の予想外が起きることをいつも心待ちにしているが、本気で予見の範疇を超えるとこうして取り乱す。俺の部屋で一度だけ、そんな姿を見たことある俺なら分かる。予想外が発生すること、それはつまり、秋葉の篭絡することと同じなのだ。それこそコイツを攻略する唯一の方法。まぁこの悪魔を攻略したい奴なんていないと思うから、この攻略法を解説しても何の意味もないが……。

 

 とにかく、秋葉がいつもの平常心を失ってきていることは確かだ。表情も少し焦りが見えているため、このまま攻め続ければ勝てる。

 そうだ、俺がこの先みんなと平和に過ごすためにやっておくべきこと。それは――――――

 

 

「お前が本当に望んでいたもの、それは自分自身を満たす欲求なんかじゃない」

「は、はぁ!? 私はいつも自分の欲望に忠実となって――――」

「だが、それを満たせたことはあるか? 満たせたことがないから、何年も俺たちにちょっかいを出してるんじゃないのか?」

「そ、それはぁ……」

「ガキだな、お前」

「あ、あのねぇ……ガキにガキって言われたくないよ!!」

「そうやって挑発に乗ってムキになるあたりガキなんだよ」

「ぐっ、玩具のくせに……」

 

 

 こうして見ると、イタズラ好きで予想外の事態に弱く、心が脆くなると挑発に乗ってくる、まさに子供だ。世界を震撼させるほどの頭脳を発揮することもあれば、俺たちにちょっかいをかけることもあり、こうして子供っぽい反応を見せる時もある。それら全てが秋葉であり、俺の姉だ。なんか、肉親ながらに可愛く見えてきたぞ。楓以外でこんな感情を抱くのは初めてだ。

 

 

「す、凄い……。あの秋葉さんがここまで顔を赤くするなんて……」

「意外と純情なんですね……。雰囲気が掴みづらいお姉さんキャラだと思っていましたが、ちょっと親近感が沸きました」

 

 

 歩夢とせつ菜もそうだが、他のみんなも秋葉の戸惑いに満ちた言動に驚きを隠せないようだ。みんなも俺ほどではないが秋葉とは長い付き合い方だと思うけど、これだけ取り乱しているコイツを見るのは初めてだろう。彼女の裏の顔を知ったせいか、歩夢たちはどこか微笑ましい表情をしていた。

 

 そんな状況に、たった1人だけ不服そうな顔をしている奴がいるが……まぁ、これも自分の犯した罪の償いだと思って我慢してもらうしかないな。

 

 

「えっ、ちょ、ちょっと零君!?」

 

 

 俺は秋葉を部屋の壁に追い詰める。いわゆる壁ドン(死語かもしれないが)ってやつだけど、まさか自分の姉相手にこんなことをするとは俺も想像していなかった。でも秋葉を言い包めるためには、恥ずかしいが多少の荒行は必要だ。秋葉はこれまでにないってくらい顔を真っ赤にしているが、俺だって内心なんつうことをやってるんだと自分で自分にツッコミを入れてるくらいだ。肉親に壁ドンするとか、正気の沙汰じゃねぇよな……。

 

 

「れ、零君……近いって」

「ずっと考えてたんだ。これから平和な日常を送っていくために、どうしたらいいかってな。別にお前の存在を排除しようとしてる訳じゃない。でも、野放しにしておくのは俺にとって都合が悪いからな。ほら、放火の前例もあるし、お前をどうにかできないかなぁって思ってさ」

「なにそれ。まるで私があなたの玩具みたいじゃない……」

「みたいじゃない。玩具なんだよ、俺の」

「は……?」

 

 

 

 

「飼ってやるよ。お前は俺が飼ってやる」

 

 

 

 

「ふぇ……?」

 

 

 

 素っ頓狂な声を上げている様子を見ると、恐らくまだ俺の言っていることが理解できないのだろう。

 そりゃそうだ。今まで自分が世界を玩具にしてきたのに、今度は自分がその立場になろうとしているんだから。俺の言った言葉は冗談でも何でもない。意味もそれ以上でもそれ以下でもない。コイツも巻き込んで、俺の世界を作る。

 

 

「お前なら俺の性格をよく知ってるだろ? 俺はいつもみんなの中心で、みんなもそれを認めてくれる。俺自身もそんなポジションに満足しているし、何より自分の世界が女の子たちによって強固になっていく状態が堪らなく至高なんだ。そう、世界の中心はお前じゃない、俺だ。所詮お前は、世界の中心に立つ者を眺める傍観者でしかないってことだよ」

「そ、そんな……」

「お前も薄々気付いてるんじゃないのか? 自分が生粋のドMだったってこと」

「あっ、あぁ……」

 

 

 俺にメンタルをボロボロにされて、もはや発する声が言葉にすらなっていない。顔も未だかつてないほどに燃え上がっており、大学院生のくせに思春期女子の初恋のような純情さを見せている。元から恋愛に関しては奥手なコイツだが、攻め続けるとこうもポンコツになるとは思ってなかったぞ……。もしかしてこれ、やりすぎちゃった?? しかし、これまで俺たちに仕掛けてきた仕打ちを考えると、この程度の威力の攻撃では到底割に合わない。ま、これ以上の威力でメンタルを破壊したら、もう居ても立っても居られなくなるだろうがな。

 

 ちなみに、俺たちの周りでは虹ヶ咲の面々が何やら騒いでいる。姉弟の壁ドン現場を見て興奮しているのか、それともご主人様による強制奴隷宣告を聞いて背徳感を覚えているのかは分からない。だが、やたら黄色い声が聞こえてくるのでアイツらの性癖を疑っちまいそうだ。何にせよ、歩夢たちが謎に興奮していることは間違いない。

 

 うん、アイツらに触れたら負けのような気がするので、一旦放っておこうか……。

 

 

「世界は俺のモノだから、俺が管理する。またお前が余計なことをしようとしたら、俺が止めてやる。そう、俺がお前の管理をするってことだ」

「……ッ!?」

「お前のおかげで気付いたよ、俺がどんな人間だったかってな。記憶を失った俺を、お前は自分好みに作り替えたと言っていた。だけど、俺にとったらそんなことはどうでもいい。μ'sやAqoursを好きになった気持ちも、歩夢たちを想う気持ちも、誰のモノでもない、全部俺のモノなんだ。その気持ちは俺が出した決断で、そこに他の誰かが介入する余地はない。それでもその気持ちはお前が作った心だと言い張るのなら、ここで俺が作り替えてやるよ。お前との関係共々、もう誰も俺の人生を邪魔させなくしてやる。この俺が、ご主人様だ」

「あっ……そ、そっか……」

 

 

 秋葉の身体から力が抜け、肩も腕も空気が抜けたかのように下がる。俺の言葉がコイツの心に響きすぎて、心臓が破裂寸前なのは彼女の表情を見ているだけで分かる。しかし、どうやら自分の中で折り合いをつけたようで、何かを悟ったような顔をしていた。

 

 

「零君の言う通り、私は探していたのかもしれないね、自分の飼い主様を……。今まで自分の力を誇示して誰かの人生をめちゃくちゃにしてきたのも、それを食い止めて私を支配してくれる人を見つけるため……だったのかな」

「とんだドMだなお前。ま、これに懲りたら、俺たちを変な発明品の実験台にするのはやめるんだな」

「いや、これからもっともっと零君たちと遊ぶよ!」

「はぁ!? お前それじゃ何も変わってねぇだろうが!?」

「今までとはニュアンスが違うよ? これまでは零君たち"で"遊ぶだったけど、これからは零君たち"と"遊ぶ、に変わったから♪」

「それ、お前が加わっただけで俺たちに飛び火するのは変わってないような気が……」

 

 

 いくら秋葉を陥落させようとも、根の性格は全然変わっていないようだ。でもそっちの方が安心するっつうか、これで至極真っ当な研究者になったらそれはそれで寂しいもんな。今回で攻めれば秋葉を自分の想い通りに従えさせられると分かったので、これまでのように好き勝手にされることはないだろう。俺の世界で好き勝手やってもらっちゃ困るってことだよ。

 

 

「零さん! 私たちのこと、忘れてません??」

「えっ、そ、そんな忘れてないよ。いやホントに……」

「零君ってば、私に壁ドンしっぱなしだったからねぇ~どうだろうねぇ~」

「おい、余計なこと言うな!!」

 

 

 部屋中に笑い声が響く。

 それぞれ過去の因縁に縛り縛られの関係だった俺たちが、こうしてお互いに笑顔を向けられる時が来るとは……。想像していなかった訳じゃないけど、実際にその現実が訪れるとやっぱり嬉しいよ。これで、虹ヶ咲のみんなも気兼ねすることなく明日以降のスクフェスに挑むことができるだろう。秋葉も手中に収めたし、これで俺たちの日常は安泰だな。

 

 

 

 

 とりあえず、過去から積み上げられていた問題は全て解決した。

 これこそ俺の選択。合っているとか間違っているとか、それは俺が決めることだ。もう誰にも介入させたりはしない。μ'sもAqoursも、虹ヶ咲も、みんな俺の世界の住民だ。だからこそ、もう離さない。世界の管理者になったからには、みんなの笑顔を守ってみせるよ。絶対に。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 とりあえず、今回でスクフェス編で初回から散りばめていた伏線や問題等は全て解決しました。スクフェス編の当初に今回の章はストーリー性を濃くすると言っていましたが、これまでにない話の展開は如何だったでしょうか? 虹ヶ咲だけでなく秋葉さんとの関係も大きく変化し、個人的には当初から書きたかったことを全て書くことができて満足しています!


 ずっとシリアスパートが続いた最終章でしたが、次回からはいつもの日常に戻ります。
 本編内ではまだスクフェスの1日目なので、2日目と3日目はいつもの緩い雰囲気で物語を進める予定です。

 問題は全て解決しましたが、Aqoursとの関係はこれからがクライマックス!
 未だに千歌たちが零君に対してできていないことがありますが、分かる方はいるかな……?



 今回の投稿分で年内の投稿は終了です。来年もよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

掴み取った日常

 あけましておめでとうございます!
 今年もいつもと変わらず小説を投稿していきますので、お付き合いいただけると幸いです。

 とは言いつつも、もう最終回が間近なので今年1年中は続かないかもしれませんが……(笑)


 スクールアイドルフェスティバル、2日目。

 今日も昨日に引き続き快晴の空模様で、絶好のライブ日和だ。とは言っても晴れているからと浮かれ気分になる訳じゃなく、夏特有の蒸し暑さを感じるため世間一般では億劫な天気と言うべきか。しかもスクフェス会場は人も多く、ライブの熱気も凄まじいため、他の場所と比べたら気温は段違いだろう。まあそういった暑苦しさがあった方が、如何にもライブ会場って雰囲気があって楽しめるのかもしれないけどね。寒暖差に弱い俺からしたら勘弁して欲しいもんだがな……。

 

 そうは言いつつも、俺の心は穏やかに晴れ気分だ。

 それもそのはず、昨日で俺や虹ヶ咲のみんなが抱えていた問題が全て解決したんだから。俺たちは今まで何かと辛い過去を引き摺ってきたが、その問題の解決によって何も気兼ねする必要はなくなった。そのおかげで歩夢たちは後腐れなくスクフェスに挑むことができ、μ'sとAqoursにも余計な心配をかけずに済む。それに俺もようやくみんなの晴れ舞台を拝むことができるため、これほど心が躍る時はない。過去からの因縁は全て消滅し、ようやく本当の日常を掴み取ったって感じだな。

 

 スクールアイドル関連以外では、秋葉を手中に収めたことが平穏を保てる何よりの要因だ。これまで散々アイツに玩具扱いされてきたが、今となってはアイツは俺の玩具だ。意外とマゾだった秋葉をこの手で篭絡し、見事に従えさせることができたのは大きい。まあ本人は過去の悪行を全く反省していない上に、これからも訳の分からない研究や発明は続けると言っていたから油断はできないけどな。それでも秋葉を俺の傘下に入れることができたのは大きく、これでスリリングな日常からは解放されるだろう。秋葉を手に入れただけで今後の未来が安泰になるとか、今までアイツに相当毒されてきたんだなぁ俺って……。

 

 ま、何はともあれ柵を乗り越えることができてホッとしてるよ。そのせいかは知らないけど、朝から肩の力が抜けきっている。今日はμ'sとAqours、A-RISEとSaint Snowの合同ライブがあったり、スクールアイドルたちがバラエティや会場のブース紹介のテレビ番組に出演するなど、1日中目が離せない。それなのにこんなにのほほんとした状態で、1日を乗り切れるのだろうか……? 昨日みたいに幾多の問題が積み重なって、精神的に潰れるなんてことがないから心配しなくてもいいと思うけどさ。

 

 そういや、昨日は虹ヶ咲や秋葉との一件で忙しかったから影が薄くなっていた予選の結果についてだが、なんと――――――見事に全員が予選を突破した。

事前投票で人気があり実力もあるμ'sやA-RISE、虹ヶ咲はもちろん、大きな公式大会では成績を出したことがなかったAqoursとSaint Snowも無事に予選を通過した。こうして聞くと予選通過のハードルが低く思えるが、スクフェスは百以上のグループが出場していることを踏まえると、決勝にコマを進められるのは実力派だけだと分かってもらえるだろう。ま、これくらいはやってもはねぇと俺もライブを観る価値ないわな。誰かに想いを伝えるライブなら、決勝ステージという晴れやかで輝かしい舞台でないと。

 

 

 そんな訳で、みんな無事に予選通過できたことに安心しつつ、今はみんなのテレビ撮影の現場を傍観している。

 テレビ撮影とは言っても生中継なので、あまり全国に恥を晒す真似はやめて欲しいのだが――――――

 

 

「えっ、さっきの問題は穂乃果さんが答える役だったんじゃないんですか!?」

「そんな話聞いてないよ!? 穂乃果はてっきり千歌ちゃんが答えてくれるものかと……」

「まぁまぁ落ち着いてください2人共。分かる人が答える方式でいいと思いますけど……」

「じゃあ歩夢ちゃんがボタンを押す係ね!」

「あっ、それいい!」

「そ、それって答える人が押せば良くないですか!? 早押し問題なのに、お二人が分かるか分からないかを見極めてから私がボタンを押すって非効率すぎません……?」

「「た、確かに……」」

「か、考えてなかったんですね……」

 

 

 なにやってんだアイツら……。生中継だからバカを晒すなと事前に釘を刺しておいたはずなのに、おバカさんはいくら集まってもおバカさんだったか。各グループから1人ずつ選抜し、3人がトリオを組んでスクールアイドル関連の問題に答える、いわゆる早押しクイズなのだが、まさか役割分担で揉めるとか誰も想像してねぇっつうの。ああして見ると、歩夢が超常識キャラに見えるな……。他の2人が規格外におバカなだけかもしれないが。

 

 

「なに笑ってるのよ」

「真姫……。笑ってた?」

「えぇ。なんか安心しきってると言うか、穏やかそうって言うか。いつものあなただったら、『全国に恥を晒してんじゃねぇぞ馬鹿共が』って見下してそうなのに」

「俺ってそんなに毒舌か……? まぁなんつうか、いつもの日常が戻ってきたって感じがして嬉しいんだよ。多分な」

 

 

 観客席で俺と一緒に早押しクイズを観戦している真姫が、俺の様子を窺ってきた。

 真姫の言う通り、いつもの俺だったら恥晒しを徹底的に叩き潰す言葉を呟いていただろう。だが、今は心に安らぎが響いているため毒を吐く気分になれない。いつも通りの日常を送ることができて安心しており、むしろ穂乃果と千歌にはもっとおバカな姿を見せて欲しいと思うくらいだ。世間に恥を晒すなとか言っておきながら、心の中では微笑ましく思うなんてツンデレかな?

 

 ちなみに、今回起きた出来事については全てμ'sとAqoursのみんなに話した。秋葉が嘘ばかり付いていたこと、虹ヶ咲のみんなも嘘を付いていたこと――――思い返すと、アイツらが合同合宿で俺たちに語った過去話って半分以上は嘘だったんだな。そのせいか、真実を知ったみんなは合宿の時以上に唖然としていた。でもそのおかげで、俺が予選のライブに来なかった理由も、予選が終わったあと音信不通になっていた理由も汲み取ってもらうことができたのは助かったかな。それに穂乃果たちは俺が秋葉たちを許しているのならそれでいい理論らしく、過去の出来事については必要以上に追及しなかった。ま、俺たちで問題は解決してるんだし、自分たちからまた相手の傷口を広げる真似はしないか。

 

 

「やりきったって感じの顔ね。私たちはまだまだこれからだって言うのに」

「分かってる。だから何の気兼ねもなく、全力でお前らの応援ができることに安心してるんだよ。それとも、歩夢たちとギクシャクしっぱなしの方が闘争心を掻き立てられたか?」

「別にあの子たちが何者であろうと、私たちは私たちのライブをするだけ。なんの影響もないわ。それに、ギクシャクしっぱなしで困るのはあなたでしょ。μ'sとAqours、そして虹ヶ咲のみんなが同じ場所で笑顔でいられる日常。それこそ、あなたの掴み取りたかった日常なんじゃないの?」

「そうだな。だったら、俺も全力で今を楽しまないと」

 

 

 俺が望んだ日常は、今まさに目の前で広がる光景そのものだ。穂乃果と千歌、歩夢が生中継で暴れながらも楽しそうにしている様子を見ていると、俺も精神を削って過去の因縁を断ち切った甲斐があったというものだ。そりゃ女の子たちは仲良くいて欲しいもんな。特に俺がきっかけで女の子たちがいがみ合う展開は、μ'sとの例の一件でもう懲り懲りだ。あんな悲痛な惨劇を避けるためにも、今回掴み取った日常は絶対に離さねぇからな。

 

 

 クイズ会場に目を向けてみると、μ'sサイドの回答者3人が亜里沙、ルビィ、かすみの3人に変わっていた。どうやら穂乃果と千歌では戦力にならなかったらしく、歩夢のサポートも虚しくリーダーの海未によって回答者をチェンジさせられたようだ。

 

 

「かすみはこれでもドルオタですから、こんなクイズくらい余裕ですよ。むしろかすみだけでもいいくらいですけどねぇ~」

「私だって負けません。μ'sが9人でなかった時から、ずっとファンだったんですから!」

「μ'sのファンって言うか、亜里沙さんメンバーじゃないですか……。そんなことよりも、仲良くしましょうよぉ……」

 

 

 早速チームワークがガタガタだけど、大丈夫かアイツら? しかもルビィがツッコミ役だと役不足だし、海未に撤退命令を出されるのも近いかもな……。

 つうか、かすみってドルオタだったっけ? 趣味がイタズラだから、自分のライバルと成り得るスクールアイドルを調べて良からぬことを考えていたのかもしれない。そう考えると亜里沙もルビィもスクールアイドルに詳しい部類だから、人選的には間違ってないのか。まあチームワークがボロボロの時点でまともに回答できるとは思えないが……。

 

 

「回答者が変わったところで第4問!」

「はいっ!」

「「えっ……??」」

「あっ、勢い余ってボタンを押しちゃいました!?」

 

 

「なぁ~にやってんだアイツら……」

 

 

 俺たちの予想を裏切らず、見事に亜里沙が持ち前の天然っぷりを発揮する。これにはさっきイキリ散らしていたかすみもビックリで、出題者のスタッフも目を見開いて驚いている。まあ亜里沙の天然で周りの空気が静まり返るのは、今に始まったことじゃないけどね。

 

 

「なぁ、今からでも遅くないからお前が回答席に行った方が良くないか?」

「こんな空気の中で行ける訳ないでしょ……」

「そもそも、どうして回答者にまともな奴がいねぇんだよ……。歩夢以外は介護が必要だろ?」

「別の場所の生放送に出演してるんだから仕方ないでしょ。私の出番はまだ先だけど、このクイズコーナーだけには絶対に出たくないわ」

「なんか、このまま続けるとグループの風評被害になる気がするんだけど……。ま、おバカを晒した方が世間は親近感を得られるし、これでいいのかもな」

 

 

 でもこうやってバカやってる方が、いかにも俺たちの日常っぽいけどね。これで穂乃果たちが普通にクイズを答えていたら、それはそれで拍子抜けと言うか、もっとネタを仕込めとヤジを飛ばしたくるくらいだ。こういった緩い雰囲気を見ていると、いつもの日常に戻ってきたんだと感じられて安心するよ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「次に紹介する屋台は、私がμ's加入時から通い詰めている『GOHAN屋』さんです。このお店の目玉は何と言ってもお茶碗大盛りの白米なのですが、今回はスクフェスで出店するにあたり、お客様に手軽に食べてもらえるよう特製のおにぎりを販売しています」

 

 

 クイズイベントは真姫に任せて会場を離れ、次は屋台エリアにやって来た。そこではスクールアイドルたちが出店してる屋台を1件1件紹介するという、出店側にとってはありがたい企画の最中だった。会場は広く屋台も多いため紹介するのは骨が折れるが、それ以上にスクールアイドルの数が多いので、大勢のアイドルを利用するという点ではピッタリの企画だろう。

 

 俺が来た時はちょうど花陽が例の飯屋を紹介していたのだが、意外にも冷静な言動で正直驚いた。いつもの花陽ならテレビ撮影をするってだけでもビビりそうなのに、今はまるでベテランリポーターと言わんばかりの饒舌具合だ。これもμ'sとして大勢の前でライブを披露してきた経験なのか、それとも自分が好きな店を紹介することができてテンションが上がっているのか、どちらにせよカメラの前で緊張しなくなった花陽って、なんかコレじゃない感あるよな……。ま、アイツも成長したってことか。

 

 

「なるほど、これがスクフェス出張店限定商品の焼きおにぎりですか~。店舗の方では白米が主なので、ただ焼いてあるとは言ってもこのようなアクセントは珍しいですね。常連の私はなおさら期待しちゃいます。せつ菜ちゃんはどうですか?」

「はい。この香ばしいおこげの香りで、思わず食欲が掻き立てられました。私は普段おにぎりをあまり食べないのですが、これを機にハマっちゃいそうです!」

 

 

 花陽と一緒に屋台をリポートをしているせつ菜だが、コイツはコイツで喋りなれているなぁと思う。せつ菜は元々しっかり者で人前に出ることに慣れている節があるから、屋台のリポートくらいは余裕でこなすだろう。見た目も雰囲気も穏やか系の2人がリポーターだったら、この生放送は安泰かもな。さっきのクイズイベントのように、チーム内で暴れ合って番組を破壊するなんてことはないだろう。

 

 これなら、俺も安心して観ていられ――――――

 

 

「それでは早速試食してみましょう。試食するのはこの方、今人気急上昇中のスクールアイドルであるAqoursから、津島善子ちゃんです!」

 

 

「はぁ? 善子!?」

 

 

「この漆黒に染まりし魔獣の卵を我に食せと? 堕天使への貢物としては陳腐だが、眷属の頼みとあらば我の闇の糧としてやろうぞ」

「え、えぇ~と、どこから訂正した方がいいのか……。まず、卵じゃなくておにぎりだからね? 形は丸いけど……」

 

 

 どうしてこんな奴を食レポに抜擢したのか、フェルマーの最終定理以上の疑問だぞ……。花丸とかダイヤとか、もっと語彙力のある奴を選べばよかったのに、もはや人選ミスどころの騒ぎじゃない。しかも善子の奴、店の商品をちょっとバカにしてなかったか? これほどまでに食レポに向いてない奴を探す方が大変そうだよな……。

 

 

「ど、どうしよう……。えぇ~っと、えぇ~と……」

「とりあえず、3人で食べてみませんか? 味が味噌、おかか、チーズとちょうど3種類あることですし」

「そ、そうですね!」

「フッフッフ、魔獣の卵を食べること、すなわち、地を這う愚民から我の眷属へ昇華する覚悟ができたということだな?」

「それでは、味噌、おかか、チーズの焼きおにぎりを1つずつください」

 

 

「スルーかよ……」

 

 

 すげぇ、せつ菜の仕切りによって軌道が完璧に戻った。やっぱりスクールアイドルになる以前からアイドルの卵として人前に立っていたこと、虹ヶ咲の中でもまとめ役になっていることもあり、人を率いる力は俺の知る女の子の中でもトップクラスだろう。善子の戯言も見事にスルーできる能力は、生放送というものが分かっているから成せる業だ。花陽のように下手に失言を拾ってしまうのは、カットできない生放送だと致命的だ。

 

 その花陽はせつ菜のサポートによって、何とか危機的状況を脱せた。最初はリポーターとして板についてると思っていたが、善子のせいで不測の事態が起きてしまい混乱した。まあ元々アイツのアドリブ力は皆無に等しいので、いつも通りの花陽が見られて安心したよ。クイズイベントを見ていた時もそうだけど、何か事あることに安心してるよな俺。それほどいつもの日常を掴み取ったことが嬉しいんだ、察してくれ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ここよ!! ユメノトビラでにこが一番可愛く映っているシーン! 家でこの映像を何回見返したことか」

「やっぱりμ'sの皆さんは素敵ですわ! にこさんのような可愛さは私にはないので、自分の長所を活かして何とか精進していかないと……」

「あんたたちならいい線いくんじゃない? にこには敵わないだろうけど、せめてにこたちと同じ土俵に上がれるくらいには頑張りなさい」

「はいっ! にこさんに激励してもらえるなんて光栄ですわ!」

 

 

 テンションたけぇなコイツら……。もうこの撮影現場はスルーしてもいいと思うくらいに、現場の空気はにことダイヤによって席捲されていた。生放送としてあんなリポートの仕方でいいのかは、これまでクイズイベントやグルメレポートを見ているとツッコミを入れる気にもならない。真面目にやってる奴の方が少ないってどういうことだよホント……。まあ本人たちは本気でやってるんだろうけどな。

 

 ちなみに今俺がいるところは、1人で会場を徘徊していた時にも来たスクールアイドルの歴史館だ。各スクールアイドルの昔のライブ映像だけでなく、今では絶版になっている映像も見られるため、スクールアイドル好きにとっては最高のブースとなっている。

 

 そのブースを紹介しているのがにことダイヤなのだが、にこは相変わらず自分の自慢を後輩に振り撒いている。そういやアイツが浦の星に来た時も、Aqoursのみんなに先輩風を吹かせて指導してたっけ。まあその指導が役に立ったかと言われればそうではないが……。

 そして、ダイヤはにこが語る栄光を真に受けている。ダイヤがにこを讃えるため、それを聞いたアイツがまた調子に乗り出す負のスパイラルが形成されている。こんなのを生放送で垂れ流していいのかと思っちゃうが、μ'sの魅力を紹介するという観点では間違っていないのでギリギリ放送を許されているのかもしれない。まあどんな内容であれ、μ'sとAqoursのメンバーがコラボしてるってだけでもファンからしてみれば嬉しいことか。

 

 そんな2人のテンションに乗れず、ここで萎縮してる奴が1人――――

 

 

「しずく。お前こんなところにいていいのか? 一応このブースのリポーター役だろ?」

「お二人の勢いについて行ける気がせず、だったらお二人に場を盛り上げてもらった方がいいかと思いまして……」

「なるほど、戦略的撤退ってやつね。でも確かに、俺でもアイツらの会話に混ざりたいとは思わないな……」

「にこさんもダイヤさんもスクールアイドルに詳しくて、あのテンションでなくとも話について行けなかったと思います。こんなことならしっかり勉強してくるべきでした……」

「いや落ち込むことないぞ。アイツらのスクールアイドル熱が異常なだけだからさ。絶版となったライブ映像を熱く語れる奴らの方が特殊なんだから」

「そうですか……? そう言ってもらえると気持ちが軽くなります」

 

 

 少々困ったような笑顔を見せるしずく。だが真面目な彼女のことだから、与えられた仕事を全うできないことを気にしているのは間違いない。今回ばかりは相方となる2人が強すぎたってことで無理矢理納得するしかないな。ガチのオタク同士が集まるとどうなるのか、見事に生放送で披露してくれている。あれに混ざりたいかそうでないかと言われたら、俺は願い下げかな……?

 

 

「μ'sのラストライブはテレビに穴が空くほど見ましたわ! もう1人1人の振り付けも、次にどんなアングルで皆さんを映すのかすらも熟知しています!」

「にこのファンとしては上出来ね。それじゃあ、にこが一番可愛く映っているシーンは何分何秒?」

「25分25秒!」

「正解! 想像以上ににこの魅力を知ってくれているみたいで嬉しいわ♪」

 

 

「あのぉ零さん、お二人がちょっと怖いんですけど……」

「奇遇じゃん、俺も同じことを思ってた。お前、こっちに避難してきて正解だったかもな……」

 

 

 世間一般ではガチのオタクを紹介するのってかなり敬遠されるけど、スクフェスの公式がこのような放送をしてくれると、世の中のドルオタたちも活動しやすくなるかもしれない。スクールアイドルの歴史館なんてスクールアイドルが好きな人じゃないと足を運ばないだろうから、にことダイヤがドルオタトークを極めれば極めるほどより集客率が上がる。そういった意味では、このブースにあの2人を配置した人選は間違ってないのかもな。

 

 しかしその陰で、場の空気に耐えられず萎縮してる奴もいることを忘れてはならない……。

 

 

「こうなったら私もスクールアイドルのことをもっともっと勉強して、にこさんとダイヤさんのように――――」

「張り合わなくていいからな!? お前はいつも通り清楚なスクールアイドルでいてくれ……」

 

 

 これ以上俺の周りから清楚系が消えるのは勘弁だから、ここは何としてでもしずくを抑えないと。

 せっかく秋葉を自分のモノにできて平穏を取り戻せたのに、今度は変態なスクールアイドルばかり増えるなんてことが起きたらもう手が付けられないからさ……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 最終章に入ってからはずっとシリアスな雰囲気が続いていたので、いつもの日常が戻ってきて零君と同じく私も安心しました! なんかシリアスな話の後はいつもこのようなことを後書きで言ってる気がしますが……(笑)

 そういえば明日からサンシャインの映画が放映開始となりますね。私は観に行くかまだ未定ですが、これでまた皆さんのラブライブ熱が上がって、ハーメルンの小説も盛り上がってくれればと願うばかりです。そうなればこの小説も再注目されるかもという下心も……()


 次回は今回の続きで、μ'sたちが生放送を頑張っているシーンをお届け。
 今回頑張っていたのは一部の子だけのような気がしますが……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

笑顔で満ち溢れた世界

 その後のスクフェス編、後半戦。
 やはりこの小説は、前回と今回のようなゆったりとした雰囲気が似合っていると思います。


 

「さぁ~て、大盛り上がりのミスコンもいよいよ大詰め! 最終審査に残ったのは、この人たちだぁ~!!」

 

 

 テンションMAXなスタッフがステージを指差すと、大きな幕が上がると共に何人かのスクールアイドルが姿を見せた。

 そのスクールアイドルたちは見ているだけでも気品を感じられ、『美』という言葉を具現化する存在だ。観客も男女問わず歓声が凄まじく、それを見れば今ステージにいる女の子たちが如何に美麗なのか分かってもらえるだろう。

 

 ライブのステージで開かれているのは、スクフェスに参加しているスクールアイドル限定のミスコンだ。公式側が各スクールアイドルから、メンバー内でこの人こそという子を1人選抜してもらうよう要請。その選ばれた子たちでミスコンをするという、簡単に言えばスクールアイドルで一番美しい女性を決めるコンテストだ。優勝賞品はなんと、優勝した人が所属するグループメンバー全員に海外旅行券が配られる。だからどのグループも考察を重ね、出場する1人を選抜しているはずだ。

 

 そんなミスコンもいつの間にか最終審査。俺が他のブースを回っている間に予選選考が開催されていたのだが、やはりと言うべきか俺の知り合いのスクールアイドルは全員勝ち残っていた。

 つうか、ステージに立っている女の子たちを見ていると、アイツら本当に学生かと疑っちまうよな。だって見た目も綺麗で身体付きも大人な奴らばかりだから、何も知らない人が見たらプロのモデルかと勘違いしちゃいそうだ。でもスクールアイドルって人前に出て自分を魅せるのが仕事なので、ある程度の容姿が整っているのは当然だけどな。だからこそ、テレビで放送されているような大学のミスコンにも引けを取らない。クイズ会場にもたくさんの人がいたけど、ここだけ別格な理由が納得できるよ……。

 

 

「左から順番に紹介していきましょう! エントリーNo.1、μ'sから西木野真姫さん! エントリーNo.2、A-RISEから統堂英玲奈さんです!」

 

 

 レジェンドスクールアイドルと呼ばれるμ'sとA-RISEからの選出となれば、それだけ周りの期待も上がる。でも真姫、英玲奈ならファンも納得の選出で、紹介された瞬間の会場の盛り上がりが半端ではない。後続に紹介される人からすれば相当なプレッシャーだろう。

 

 ちなみにμ'sからの選出は絵里じゃないのか? と思われるかもしれない。だが、アイツはもう社会人なのだ。スクフェスにはμ's復活ということでライブに特別参加しているだけで、こういったライブ以外のイベントには参加できない。だからアイツは何をしているのかと言うと――――

 

 

「こうして立ち姿を見ているだけでも美しいですね。私も一人の女性として、皆さんの魅力の磨き方を参考にしたいです」

「またまたぁ~! 絵里さんもお綺麗なのに!」

「そんな、私なんてまだまだですって」

 

 

 絵里がまだまだの女性だとしたら、この世の女性のほとんどが魅力なしってことになりそうな気が……。金髪クォーターで誰が見ても美人と分かる容姿、それにスタイル抜群ともなれば、見た目でコイツに勝てる女性は相当限られる。過剰な謙遜は逆に怒りを産むが、今の絵里のポジションがまさしくそうだ。アイツも地味に抜けているところがあるから、コメンテーターとして下手な発言をしなきゃいいけど……。

 

 

「それではどんどん紹介していきましょう! エントリーNo.3、Aqoursより小原鞠莉さん! エントリーNo.4、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会より、朝香果林さん! そして最後は、エントリーNo.5、Saint Snowより鹿角聖良さんです!」

 

 

 魅力たっぷりのアイドル登場に、またしても観客先の熱気が上がる。まあミスコンを観覧する人たちってスクールアイドルのファンが多そうだし、盛り上がるのは分かるけど想像以上だなこれは。しかし観客が沸き上がるのも頷けるくらい、最終選考に残ったメンツに納得できる。鞠莉も果林も聖良も、先に紹介された真姫や英玲奈に引けを取らないくらい大人に魅力たっぷりだ。特に果林はモデルの卵と言えども業界から目を付けられるほどの魅力なので、最終選考の舞台に立つのも当然と言えよう。

 

 

 ってか、さっきから隣でやたら騒いでいる女の子がいるんだが……。もはや周りの観客もテンションが上がりまくりなので、その熱気に水を差したら空気が読めない判定を下されるのは俺の方だ。でもミスコンなのに、女の子でも盛り上がれるんだな。こういうのはてっきり男のための祭典かと思っていたけど――――っ!?

 

 

「理亞!?」

「さすがお姉様、素敵です!! でもその立ち角度だと、お姉様の魅力の伝わり方が3%ダウンしてしまいます。なので斜め30度になるように立ち方を調整して、観客に他の参加者とは違う立ち振る舞いを魅せれば……!! あっ、私に気付いて手を振ってくれた! う、嬉しすぎてクラクラしてきた……」

 

 

 ひ、一人で何言ってんのコイツ!? 隣に知り合いらしき人もいないので、どうやら1人で姉である聖良の魅力に酔っているようだ。まあコイツは重度のシスコンだから、ミスコンという晴れ舞台に姉が立っていることに感動しても仕方がない。それに周りの観客たちも盛り上がって、理亞が1人で騒いでいても不自然じゃないので痛い子扱いされることはないだろう。

 しかしそれらを加味したとしても、近づきたくないのは事実。昨日予選のライブを観に行けなかったことを謝ろうと思ったけど、これは後からの方が良さそうだ。下手をしたら数時間延々と聖良の魅力語りに付き合わされそうだから……。

 

 

 うん、理亞に気付かれる前にここを離れた方が良さそうだな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「スクールアイドル対抗アスレチックバトルも、いよいよ大詰め! 最後まで残った3グループの中で、一番最初にゴールへ辿り着くのは一体どのグループか?? ワクワクしますね、μ'sの希さん!」

「はい。運動神経抜群の皆さんのことですから、きっと物凄いパフォーマンスを披露しながら障害物を切り抜けていくと思います♪」

「おぉ、ナチュラルにハードルを上げてきますねぇ……。でもそれこそこの企画の醍醐味ですから、思いっきり期待しちゃいましょう!」

 

 

 絵里と同じく社会人なのでイベントには出られない希は、とあるイベントの解説役となっている。実況役のスタッフさんまで巻き込んで選手へのハードルを上げるとか、相変わらずやることなすことがドSだよなアイツ……。ま、選手に選抜された奴らを見る限り、そんなプレッシャーは物ともしない奴らばかりだけどな。

 

 このイベントはスクールアイドルのアスレチックバトルという名で、言ってしまえば様々な障害物を持ち前の身体能力を活かして乗り越えゴールを目指す企画だ。だからこのイベントの選手として抜擢されたメンバーは軒並み運動神経が高い子が多く、μ'sからは凛と楓、Aqoursからは曜と果南、虹ヶ咲からは愛とエマが参戦している。

 

 先程のミスコンでは女性の容姿で魅せていたのに対し、アスレチックでは動きで観客を魅了させる。SNSでこの企画の呟きを遡ってみると、既に予選バトルの時点でアクロバティックな動きが連発されていたらしく、スクールアイドルたちの意外な一面として驚きの声が多く上がっていた。そりゃ俺とは違って他の人はライブでしかアイツらを見られないから、誰がどれくらいの運動神経を持ってるなんて分からねぇよな。

 

 

「ここまで注目されるとテンション上がっちゃうにゃ! 最後も一緒に頑張ろうね、楓ちゃん!」

「はぁ~どうしてか弱い私がこんなことを……。ただ疲れるだけじゃないですか」

「とか言いながら、予選の試合ではノリノリだったくせに! 目立つの好きだもんね」

「はぁ!? 意味分かんないんですけど!?」

 

「果南ちゃん準備はいい? 絶対に優勝しよ!」

「曜ちゃんやる気だねぇ~。水泳部として、勝負事は負けられないの?」

「それもそうだけど、ここでμ'sと虹ヶ咲のみんなに勝ったら、明日の決勝ライブも注目されるかなぁって」

「い、意外と打算的だね……」

 

「おぉ~最後だから障害物も多いねぇ~。でも、それでこそ魅せ甲斐があるってもんだよ」

「愛ちゃんは前向きだね……。私はちょっと不安かも」

「大丈夫大丈夫! 私もいるんだし、一緒に頑張れば……ね?」

「あっ……ありがとう愛ちゃん♪」

 

 

 俺からはみんながどんな会話をしているのか聞き取れないが、各々やる気は十分のようだ。唯一楓だけ怪訝な表情をしてるけど、アイツもアイツで俺と似て面倒事は嫌いなタイプだから、そもそもイベントに参加すること自体乗り気でないのだろう。でもSNSで上がっている動画を見る限り、アイツも曲芸と言わんばかりの動きで障害物を軽々突破している。知らず知らずのうちに自分自身を輝かせ、周りに知らしめようとする性格も俺そっくりだな。

 

 

「皆さんの準備も整ったところで、いよいよスタートの時です! 行きますよ~! 位置について、よ~い――――ドン!」

 

 

 スタッフさんの掛け声と共に、みんなが一斉に駆け出す。

 アスレチックバトルと大層な名前に見合う障害物が各所に設置されており、平均台や杭渡りといったメジャーなモノはもちろん、ハードルをバク転で乗り越える、ジャンプ台を駆使して8段跳び箱を飛び越えるなど、スクールアイドルたちの身体能力をより良く魅せるためだけの障害物もあるようだ。もはや小規模なサーカスと言って構わねぇかもな。

 

 

「おぉ、すっげぇなアイツら。つうか、人間技じゃねぇだろ……」

 

 

 みんなの障害物を乗り越える動きがもはやプロ並みで、観客の声援や歓声もよりヒートアップする。

 凛が華麗なバク転の連打でハードルを3つ飛び越えたかと思えば、曜が圧倒的なジャンプ力で跳び箱を軽々乗り越え、愛が綺麗なバランスで身体がブレることなく杭から杭へ飛んでいく。その他も楓が華麗なロンダートで高所にあるポールを飛び越し、果南も日頃鍛えている力と体力で雲梯(うんてい)を素早く抜け、エマが側転をしながら平均台を突破と、もはや劇団舞台の公演のようだ。こりゃ生放送映えするいい企画だよ。本当にスクールアイドルかと疑問が浮かぶくらいには常人離れした技だけどさ……。

 

 そういや、ようやくまともなイベントを見られた気がする。今まで見てきたイベントは誰かしら何かをやらかしていた(ミスコンの場合は観客の理亞だが)ので、ここまで安心して、そして興奮しながら見られるイベントが来てくれてホッとしている。クイズイベントや歴史館リポートは特にヒドかったから、普通にイベントを観戦できるだけでも安心するよ。参加者本人たちはアスレチックバトルに夢中で、ボケる余裕なんてないんだろうけどね。まあ穂乃果たちやにこたちも本気でやってるだろうから文句は言えねぇけど……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 最後にやって来たのはスクールアイドルグッズ等が売っているショップであり、お土産物の販売も兼ねている。スクールアイドルの全てが詰まっている土産物なので、オタク界隈の人たちだけでなく一般客の出入りも多い。会場限定のグッズはもちろん、既に絶版となっている過去のグッズも多く取り揃えており、一般客からドルオタの興味まで幅広くカバーしている。

 

 そのような理由から、特に宣伝せずとも自然と人は集まる。だけど、ここで可愛い女の子たちの宣伝があれば集客率が飛躍的に伸びるのは目に見えていること。公式もそれが分かっているためか、このブースも歴史館や屋台と同じくリポーターを用意していた。

 

 

「これってことりさんがデザインしたシュシュずら……ですよね!?」

「うん! 自分でデザインしたアクセサリーが販売されるのは初めてだから、なんかドキドキしちゃう♪」

「でも凄い売れ行きずら! あっ、凄い売れ行きですね! マルも後で購入させてもらいます」

「見て見て~彼方ちゃんも着けてみたよ~。似合ってる~?」

「わぁ~彼方ちゃんすっごく可愛い! 可愛い子に着けてもらえて、シュシュが輝いて見えるよ!」

「えへへ、彼方ちゃんですから~」

「自分のアクセサリーが注目されるって、こんなに嬉しいんだね。皆さんありがとうございます♪」

 

 

 そういやことりの奴、自分のデザインしたシュシュが販売されるから買ってくれと何度も催促してきたな。でも男が着けるモノじゃないし、どうやって使えばいいんだよ……。それを直接ことりに言ったら、『もうっ、使い方なんて色々あるでしょ? これをことりだと思って、あんなことやこんなことを……』と、そこから変態特有の早口になったので無視しておいた。相も変わらずいつもそんな調子だから、生放送中に思わずヤベぇ言葉が飛び出さないことを祈るばかりだ。

 

 花丸は緊張を見せながらも、必死にリポーターとしての役目を務めている。所々アイツ特有の語尾が飛び出し、それに気付いて言い直しているあたり緊張は抜けきっていないらしい。でも自分のことをマルと言っていることに気付いてないから、まだまだ標準語には慣れてないみたいだ。まあ善子の中二病と同じく田舎特有の口調が花丸の魅力なので、カメラの前だからと言って改まらなくてもいいと思うけどな。

 

 そして、彼方が真面目にリポーターに徹しているのが驚きだ。いつも眠そうにしているに、今日はカメラが回っているからかいつになく目がぱっちりしている。それでも緩い喋り方はいつも通りだから、雰囲気で眠気を誘われるのは変わらないけど……。

 

 

「凄い……。昔μ'sが着ていた衣装まであるんですね。雪穂さんは着たことありますか?」

「これは『僕らは今のなかで』の衣装で、その時はまだμ'sに入ってなかったから着たことないよ。梨子ちゃんは音ノ木坂にいたんだよね? こういう衣装、アイドル研究部で見たことないの?」

「あぁ……当時の私はピアノ一筋だったので、そもそも音ノ木坂にスクールアイドルがいたことすら知らなかったんですよね。でもまさか転校して、自分がスクールアイドルになるとは……」

「私もだよ。可愛い衣装を着られるのはちょっと嬉しいけどね」

「雪穂さんはモデルさんですもんね。私も曜ちゃんの作ってくれた衣装をもっと綺麗に着こなしたいなぁ」

「大丈夫だよ可愛いから! そうだ、せっかくだからこの衣装着てみる? いい宣伝にもなるしね」

「えぇっ、こんな大勢の前で勘弁してくださいよ!?」

 

 

 先輩風を吹かせている雪穂って、なんか珍しいな。μ'sでも数少ないしっかり者で真面目キャラは板についてるけど、やはり一番年下ってのもあってか後輩感は否めない。先輩のように見えるのも、同じ真面目系である梨子だから話が合うためかもな。これが千歌や善子だったら、楓を相手にして成長したツッコミスキルしか光らず、先輩キャラの彼女なんて見られないだろうから。

 

 つうか、衣装まで売ってるのかよここ。確かにスクールアイドルの衣装なんて中々手に入る物じゃないけど、お土産として買うには少々ハードルが高い。とは言っても記念物と言えば記念物なので、割と買っていく人がいるんだなこれが。特にμ'sやA-RISEの衣装ともなれば、非公式のコスプレ販売店でも高値が付きがちだ。だからこそ公式で販売されている衣装により一層の価値を見出す人がいるのだろう。

 

 そういや、ここでもボケらしいボケは見られなかったな。前半に巡ったイベントやリポート現場が色濃過ぎて、むしろネタはないのかとツッコミを入れてしまいそうだった。そうだよ、何事も普通が一番。騒ぎを起こさず、無難に終わってくれるのが最良。まあネタがあろうがなかろうが、いつもの日常を感じられて俺は嬉しいけどね。ようやく、自分の世界に戻って来たって実感が湧いてきたよ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ふぅ、みんな楽しそうで何よりだな」

「ですね」

「うぉっ!? り、璃奈!? お前こんなところで何してんだ……って、そういやお前、どこかのイベントに出てたっけ?」

「出てないです。私は正体不明系スクールアイドルなので、人前には出ないのです」

「今流行りのバーチャルキャラみたいだな……」

 

 

 会場を巡り巡って疲れたから休憩しようと思ったら、いつの間にやら璃奈が隣に座っていた。相変わらずお手製のボードで素顔を隠し、自身の感情をボードに描かれる顔で表現している。ちなみに今は何故かドヤ顔であるため、自分が不思議ちゃん系スクールアイドルだということを自慢しているのだろうか……。確かに俺が出会ってきた女の子の中でも、コイツ以上に謎な奴はいないな。

 

 

「過去の一件が解決して気が楽になっただろうし、お前らもスクールアイドルとして本格的に活動してもいいんじゃないのか? ほら、お前らって俺の目に付かないように隠れて活動してただろ?」

「私は陰の人間だから、イベント事は陽の人間であるみんなに任せればいい。陰の人間はこうして、暗い日陰でジュースを飲みながら佇んでいるのが丁度いい」

「要するに、イベント事が面倒なだけだろ……」

「そうとも言う。でも勘違いしないで欲しい。スクールアイドルに特に詳しい訳ではなく、ミスコンに出られるほどの容姿もなく、運動神経もなく、リポーターとしてのコミュ力もない。だからイベントには出られなかっただけで、サボっている訳ではないと」

「典型的なオタク体質だよなお前……」

 

 

 卑屈だがプライドは高い。うん、コイツは紛れもないオタクちゃんだ。コミュ力はないと言ってるが、アニメやゲーム、電子工作の話になると途端に饒舌になるんだろうなぁ……。一度でいいから普段とは違ったそういう一面も見てみたいけどね。

 

 

「それに、私は基礎体力がないから明日の決勝戦に向けて体力を蓄えないといけない。みんなみたいに今日イベントに出て、明日決勝の舞台に上がるなんて私には無理」

「そうか、もう明日だもんな。楽しみだよ、お前たちのライブ。俺からしてみれば、お前らの生ライブを観るのは初めてだからさ」

「μ'sやAqoursよりも楽しみ?」

「その質問は迂闊に答えちゃいけないと思うが……ま、みんな同じくらいに楽しみだよ」

「無難過ぎて面白くない」

「俺は平等主義者なんでね。それに、俺はお前らが競ってお互いを高め合う姿を見たいだけだ。だからどのグループも等しく応援するよ」

「頑張る。だって私たちは、この時のために生きてきたんだから」

 

 

 過去の一件で、璃奈たちの生き甲斐は『神崎零』になった。辛い過去を払拭できた彼女たちだが、ずっと抱き続けている生き甲斐だけは変わらないのだろう。だからこそ虹ヶ咲は強い。自分たちの生きる意味がそれしかなく、その生き甲斐に向かって常に一直線なんだから。

 

 

「その前に、まずは今日のコラボライブだな。μ'sとAqours、A-RISEとSaint Snow、その他も異色のコラボグループが多いから、それを見て明日への期待を高めないと」

「残念ながら私たちにコラボ相手はいない」

「お前らは良くも悪くも今回ぽっと出のグループだから、そりゃ仕方ねぇだろ」

「ま、馴れ合いは必要ない。零さんがいてくれれば」

「お、おいっ、急に抱き着くなって……!!」

 

 

 これまでスキンシップなんて取ってこなかったくせに、いきなりどうしたんだ……?? 確かにこうして俺と何気ない会話をすること自体、虹ヶ咲のみんなからしたら幼い頃からの夢だっただろう。しかし誰が見ているか分からない会場内で、しかもスクールアイドルに抱き着かれている現場を目撃されたら――――――

 

 

「あ゛ぁーーーーーーっ!? 璃奈ちゃん何してるの!?」

「あ、歩夢!? どうしてここへ!?」

「おー最初に到着したのは歩夢さんだね。零さんはここにいると、みんなに連絡したのが原因かなぁ」

「それ以外に考えられないだろ……って、お前図ったな!? 誰かが来るタイミングを狙ってわざと抱き着いただろ?」

「この状況で最適な言葉、知ってる?」

「なんだよ……」

「てへぺろ」

 

 

 コ、コイツ……!? ちょっと可愛いと思っちまったじゃねぇか……!!

 

 

 その後、歩夢に続いて虹ヶ咲のみんなが続々休憩所に到着し、その度に俺が女の子に抱き着かれている様子を見られてしまった。みんなが抱き着いているのなら私にも抱き着かせろ理論で、こんなクソ暑い夏の中、ずっと抱き枕にされちゃったのは言うまでもない。女の子に揉みくちゃにされるのは大歓迎だけど、場所を弁えてないせいで周りの目が……。

 

 でも、これが歩夢たちの夢でもあったから、強く反抗できないのも事実。それにこうやって女の子に囲まれていると、いかにも俺だけの世界っぽくていいじゃん? そうだよ、これが俺の取り戻したかった日常なんだ。だから、今日くらいは大目に見てやってもいいかな。

 

 まぁ、テレビ中継に映らないことを祈るばかりだが……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 グループ内の子たちが仲良さそうな光景だけでも満腹になれますが、別々のグループの子たちが楽し気に会話している様子を見るとお腹を壊すくらい満腹になります(笑)
元々スクフェス編はμ'sとAqoursメンバーの絡みを主軸としているところもあり、そこに虹ヶ咲も加わることで零君の日常がどれだけ充実しているかを描いてみました。作者ながらに思うのですが、本当に彼の世界は羨ましいです(笑)


 次回からは、この小説の大詰めとなるAqoursメイン回です。
 未だに零君のことを名前で呼べない彼女たちですが、その心境も大きく変わる時が……


 ちなみに小説の今後についてですが、あと4、5話程度で完結予定です。
 Aqoursとのこれからやスクフェスの決勝戦など、まだまだ見所はたくさんあるので、ぜひ最後までお付き合いください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

教師と生徒たち

 スクフェス編もいよいよ大詰め。
 Aqoursとの関係も、遂に最終段階を迎えます。


 

 スクールアイドルフェスティバル3日目。

 本日はスクフェスの最終日であり、全国が注目する大会の決勝が行われる。1日目で予選が行われ、100を超えるスクールアイドルの中から勝ち上がってきたグループが決勝の舞台で競い合う。μ'sやA-RISEなど、今回のために再結成したレジェンドと呼ばれるスクールアイドルも多く出場しているため、スクフェスの盛り上がりはスクールアイドル業界だけでなく一般のメディアにも注目されるほどだ。だから今のアイドル界隈が、スクールアイドルの戦国時代と呼ばれている理由も分かる気がするな。

 

 決勝には俺の知り合いのスクールアイドルも多く出場し、μ'sやA-RISEはもちろん、Aqours、Saint Snow、虹ヶ咲も無事にコマを進めた。それ以外にも俺の知ってるグループがちょいちょいいるので、下手をしたら身内だけの決勝戦になりかねないかも……。とにかく、ここまで来たからにはどのグループも全力で優勝を掴み取るよう頑張って欲しいもんだ。普段は仲良しこよしだけど、競い合う時は手を抜かずお互いに全力を出し合う。それこそが本当の友情であり、仲間ってもんだろう。お互いを高め合い、誰にも負けない輝きを見せる。俺はアイツらのそんなライブを観たいんだ。

 

 ちなみに決勝で行われるライブは2回あり、1回目は予選を勝ち抜いたグループ全員が、2回目は1回目のライブでポイントを多く獲得した上位3グループで優勝を争う。予選を突破したグループ数は10グループ程度、そこから2回目のライブに進めるのは3グループなので、1回目の時点で大きく(ふる)いにかけられる。まあ早い話、2回のライブで他のグループを蹴落とせば優勝ってことだ。

 

 そして肝心のポイント制についてだが、これは審査員と会場の観客の投票によって決まる。会場では投票用紙を兼ね備えたスクフェスのパンフレットが配布されており、会場にいる人はその用紙で『これだ』と思ったスクールアイドルに投票する。審査員はステージが見やすい専用の席で参加グループ一通りのライブを観た後、特大モニターに投票結果を映し出しながら投票する。つまり審査員の投票結果は生公開される訳だが、観客より1票の比重が大きく設定されており、審査員の票を掴むことこそ優勝への道なのは間違いない。もちろん観客は審査員の比にならないくらい数が多いので、ぶっちゃけどちらもないがしろにはできない。

 

 そんな決勝戦への期待が高まる中で、俺はというと――――

 

 

「ねぇねぇおにーちゃん! 決勝まだ始まらないのかな? もう興奮しっぱなしで待ちきれないよ!」

「ここあ、あまりお兄様を困らせてはダメだからね。それにライブ開始まであと1時間以上もあるんだから、今そんなに体力を使ったら疲れちゃうよ?」

「そうだけどさぁ……って、こころもサイリウムいっぱい買い込んで、もうやる気満々じゃん。人のこと言えないよ~」

「こ、これは用意がいいと言って欲しいんだけど!? それにサイリウムはライブの必需品であるからして、買い込むのが当たり前。だから決して楽しみにしてたとか、そういうのでは……」

「お前ら楽しんでんなぁ……」

「お、お兄様までそんなこと!!」

 

 

 こころもここあも決勝ライブの期待はMAXで、ライブまでまだ時間があるのにも関わらずステージ前に並んでいる。ここあから暇ならお喋りに付き合ってと連絡を受け俺もここへ来たのだが、コイツらのヒートアップに付き合っていたらライブ前に疲れ果てちゃいそうだな……。まあ決勝ライブは全国から注目されるほどだし、そんなライブを最前列で観たい気持ちも分かる。現に、俺たち以外にもちらほらステージ前に集まっている人がいる。相変わらずドルオタの行動力って凄まじいよな。

 

 

「興奮したら喉渇いちゃった。おにーちゃん、コーラ買ってきてー」

「ナチュラルに年上をパシらせんな。それに、炭酸なんて飲んだらライブ中にトイレに行きたくなるぞ?」

「大丈夫! その時はペットボトルの中に出すから!」

「ぶっ!? お、お前どこで覚えてきたそんなこと!?」

「えっ、お姉ちゃんの持ってた薄い本だけど」

「アイツまだそんな持ってんのか。いくら養成所通いとは言えマジモノのアイドルだろ……」

「お姉様の持っている本は、学校の教科書よりも参考になります。本の中で男性が女性にペットボトルの中で用を足すように強要しているシーンがありまして、男性という生物についてまた1つ学べました。男性はボトラー女子が好きと」

「それ偏見に偏見を重ね過ぎだから!! 偏り過ぎて元に戻っちゃうくらい偏ってるぞ!?」

 

 

 にこの奴、相変わらず趣味が偏屈というか、人を選ぶようなジャンルの本ばかり買いやがって。そのせいでコイツらの性格がどんどん捻じ曲がっちまう。コイツらは良くも悪くも天然で、にこのことをガチで尊敬している。だからアイツが買ってきた本の内容は、姉から教えとして疑わず受け入れてしまうのだろう。そのせいで今のように割を食うのは俺だとも知らずに……。

 

 今日まではスクフェスのことで忙しいが、暇ができたらコイツらにしっかり教育を施さないといけないのかもしれないな……。

 

 

「あぁ、騒いでたら喉渇いてきた……」

「だったらちょうどいいじゃん! 飲み物買ってきてよ、おにーちゃん!」

「もうここあったら、お兄様を困らせるものではありません」

「ブーメラン発言とはまさにこのことか……」

「えっ、どういうことですか?」

「まぁいいや。買いに行ってやるから、ここで待ってろよ」

「わ~い♪ ありがとーおにーちゃん!」

「すみません、お手数をお掛けします」

 

 

 もちろんだけど、コイツらに悪気がある訳じゃない。ただただ純粋で天然で、そして無邪気な子供なのだ。だからこそ、強気に攻められないのがもどかしい。まあもう既にコイツらに対しても容赦のないツッコミを入れてる気もするけど……。

 

 とりあえず場の空気から脱出するため、飲み物を買いに行くことを口実に逃走した。ヤバい発言をしている女の子よりも、同伴している男の方が冷たい目で見られる現象はいつまで経っても慣れねぇなこれ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あれ? 先生?」

「なんでアンタがここに?」

「花丸、善子? そりゃこっちのセリフだって。準備はいいのか?」

 

 

 飲み物を調達しに屋台エリアに来てみたら、何故かこの2人に遭遇した。今の時間はてっきりライブの準備で忙しいかと思ってたから、こんなところで油を売ってるなんて何してんだコイツら?

 

 

「実は千歌ちゃんが『この屋台のプリンがとっても美味しかったから、本番前に食べたい』って言い出して……」

「だから私たちが買いに来たって訳。幸い準備はもう終わって後は着替えるだけだし、ちょうど美味しいモノでも食べて景気付けようと思ってたところだしね」

「いや事情は分かったけどさ、どうしてお前らがパシられてんだよ?」

「1日目の出来事を思い出してみなさいよ。また帰って来なくなるわよ」

「あぁ、確かに……」

 

 

 秋葉の策略だったとは言え、屋台のタダ券に釣られて予選を忘れちゃうような奴だからなぁアイツ。流石に決勝を忘れることはないと思うが、万が一のことを考えこの2人がプリン購入に派遣されるのも無理ないか。こう見えて意外としっかりしてるからなコイツら。

 

 それにしても、今日はこれまでにも増して人が多い。全国からも注目される決勝の舞台だからこそ、生でライブを観たいという人が大勢いるからだろう。それに最初はスクフェスに興味がなくても、連日テレビでライブの模様やイベントの様子が中継されていたから、それで興味を持った人もいるかもしれない。世間の注目でアイツらのライブがより華やかになるのは嬉しいが、人混み嫌いの俺からしてみたら割と苦痛だな今の状況……。

 

 

「おっとっと。危ない、人の波に揉まれてプリンを落とすところだったわ……」

「貸せ、持ってやるから」

「別に重くないし、気にしなくていいわよ」

「いいや善子ちゃん、素直に先生に渡した方がいいずら。善子ちゃんの不幸体質のせいで、落としたプリンの中身が1つ残らず弾け飛んで全滅――――なぁ~んてことが容易に想像できるから」

「あのね、フラグを立てるならもっとさり気なく立てなさい。そんな見え透いたフラグを回収する人なんて――――って、あっ!」

「ちょっ、あぶねっ!」

「善子ちゃん!? 先生!?」

「「あっ……」」

 

 

 人の波に巻き込まれそうになった善子を助けようと思い、思わず自分の身体に引き寄せてしまう。そのせいで俺が善子を包み込む形となり、傍から見たら道の真ん中でイチャつく迷惑極まりないカップルと思われても仕方がない状況となった。早く離れなきゃと思う反面、お互いにじっと見つめ合っているせいか中々彼女から目を逸らすことができない。

 

 しかし、善子の顔が今まで見たことないってくらい赤面している。こりゃ今にも突き飛ばされて、『こんなところで何してんのよ、このバカ!!』って罵倒が飛んでくるに違いない。地面に後頭部を打たないように受け身の体勢だけは取っておくか。

 

 

「~~~~ッ!?!?」

「あ、あれ? 善子……?」

「善子ちゃん?」

 

 

 てっきり速攻で引き剥がされるものとばかり思っていたが、意外と耐えてんな。いや、引き剥がしたいけど唐突なドッキリイベントに力が出ないのかもしれない。その証拠に善子の腕はプルプルと震え、この場をどうにかしようと身体を動かしたいけど思うように動かないのが伝わってくる。それに俺が割と強い力で抱きしめているってのもあるのだろう、善子の身動きは封じられたと言ってもいい。残る手段はお得意の罵倒連打だが、それもできないあたり相当この状況に動揺してんだな。

 

 

「あ、あのさ、そろそろどいて欲しいんだけど……」

「えっ、どうしよっかな?」

「は、はぁ!? アンタこんなところで抱き合ったままとか正気!?」

「そうだな……あっ、名前」

「名前?」

「俺の名前はアンタじゃない。正式名称で呼んでくれたら離れてやるよ」

「なによ、それ……」

 

 

 思い出したのだが、以前Aqoursのみんなが俺を名前で呼ぼうとしていた時があった。スクフェスの練習が始まる前だったのでもう随分と前の話だが、その時は結局誰も名前呼びできずに終わった。まあこれでも教師と生徒の関係だし、教師から生徒を名前呼びするのはともかく、生徒側から名前で呼ぶなんてかなり勇気のいる行動だ。恥ずかしかったら『名前』+『先生』で呼べばいいとも言ってやったのだが、どうであれ名前で呼ぶこと自体が気恥ずかしいようだった。

 

 そして今さっきそのことを思い出したので、意地悪がてらにちょっと難題を押し付けてみたのだが、やはりまだ早かったか。以前に名前呼びを試そうとしてから俺たちの関係も色々変化したし、もしかしたら今なら行けるかなぁと思ったんだよ。

 

 

「れ、れ……」

「おっ、マジか」

 

 

 俺の名前は2文字。最初の一文字が出てきたのであれば、最後の一文字を言うだけで試練は達成される。こういうのは勢いで言ったら後はなし崩し的に慣れていくので、最初の1回目で踏ん張れるかが重要だ。つうか、この前もこんな感じだった気がするけど……。

 

 しかし、いくら待っても次の文字が発せられることはなく、善子の顔の赤さと身体の震えはMAXに到達していた。

 

 

「も、ももももももう無理!! 先に帰ってるから!!」

「おい善子!? 行っちゃったよ……」

 

 

 いつものように中二病語録で自分の照れ隠しを誤魔化す余裕もなく、善子は人混みを綺麗に掻い潜り控室へと戻った。

 いやぁ可愛い姿を見られたのは嬉しいんだけど、少し意地悪が過ぎたか? でもコイツらの中で俺への心境がどう変化したのか気になってたし、それを確かめるためには名前で呼ばせることが手っ取り早いと思ったんだよ。

 

 

「今のは100%先生の方が悪いです。ちゃんと控室まで謝りに行った方がいいずら」

「マジ……? まあ俺に非があることは認めるけどさ……」

「ライブ直前なのに、先生のせいで善子ちゃんが緊張しっぱなしだったら責任とれるんですか?」

「分かった分かった行くよ。ていうかさ、やっぱり名前呼びって難しいのか?」

「えっ、ま、まぁ簡単ではないと……思います」

「花丸?」

「ほ、ほら早く戻りましょう! みんな待ってるずら!」

 

 

 花丸もこの慌てよう。やっぱり年下の女の子が年上の男を、しかも元教師を名前呼びってハードル高いのかねぇ。ま、名前の呼び方ごときでお互いを想う気持ちが変わる訳じゃないし、俺は別にどうだっていいんだけどね。ちょっと以前のことを思い出したから、気になっただけだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「よぉ、もう準備できてるか?」

「先生!? どうしてここに??」

「千歌。悪いな、ちょっくら野暮用でさ」

 

 

 突然俺が控室に入ってきたせいか、みんな驚きの色を隠せないようだ。そりゃここは関係者以外立ち入り禁止なので、そもそも俺はここに入れないはずだもんな。じゃあどうして入れたかって? まあ秋葉に色々手を回してもらって……うん、端的に言えば不法侵入ってやつだな。

 

 

「それにしても、入るタイミング間違えちゃった?」

「そうですよ! 最悪のタイミングですって!」

 

 

 千歌たちは今から着替えを始めようとしていたらしく、下着姿とまでは言わないものの、みんな半脱ぎ状態だった。服と肌の隙間からチラッと見える下着が扇情的で、これぞラッキースケベと言わんばかりの状況だ。やっぱり下着は普段隠されているものだから、モロ出しされるよりこうやってチラ見え程度が一番興奮するよな――――って、何言っちゃってんだ俺……。

 

 突然の俺の侵入に対してようやく状況を掴めたのか、みんな必死になって肌を隠す。今更そんなことをしても、お前らの半裸姿は既に俺の脳内にしっかり保存されているから意味ないんだけどな――――って、今日の俺どこかおかしいよな? いつもの日常を取り戻したのはいいが、思考能力だけは思春期時代に戻り過ぎているような気がするぞ……。まあこうやって桃色思考になれるのも、これがいつも通りの日常だと俺自身が理解しているからかもしれないな。気分が沈んでいる時にこんな気持ちにはならねぇし。

 

 

「先生何しに来たの? もしかして、私たちを激励してくれるとか? 意外とgentlemanなのね」

「それもあるんだけど……善子はどこ行った?」

「善子ちゃんなら、プリンを買って帰ってきてからずっとそこにいますけど……。先生、善子ちゃんに何かしました?」

「目怖いって梨子……」

 

 

 善子はカーテンの裏に顔だけ出して隠れており、居場所がバレた今でもそこから動こうとしない。いつもなら俺に何かされたら容赦なく詰め寄ってきて、罵倒の嵐を浴びせに掛かってくるはずだ。なのに今はただ恥ずかしがってカーテンに隠れてるとか、俺の名前を呼ぶのってそんなに無理難題なのか……?

 

 

「ルビィ、こんなにしおらしい善子ちゃん初めて見たかも。先生と善子ちゃんに一体何が?」

「みんな俺がやった前提なのかよ……。まあ間違っちゃいねぇけどさ」

「アンタ、あんなことしてよくノコノコここへ来られたわね……」

「あんなこと? 先生、まさか公衆の面前で風紀を乱すことをされたのですか?」

「ダイヤも目怖いって! それに変なことは何もやっていない……はず」

「だったら私の目を見て話してください」

「ぐっ……」

「あれもこれも自業自得ずら……」

 

 

 いやね、セクハラをしたとかならそれなりに反省するけど、俺は普通に善子を人の波から救ってやっただけだ。しかも同時にプリンも守れるし一石二鳥なのだが、名前呼びでアイツの心を揺さぶって快感を覚えそうになっていた事実もある。だから自信を持ってダイヤの質問に『はい』と答えられないのが実情だ。

 

 

「善子ちゃん一体何があったの? あと1時間でライブだから、そんな調子だと全力が出せないと思うんだ。だから先生に何かをされて悩んでるのなら、みんなで解決した方がいいよ!」

「千歌……。ま、まぁアレよ。先生に抱かれた……」

「「「「「「え゛っ!?」」」」」」

「ちょっ、お前何言ってんの!?」

 

 

 この場にいる善子と花丸以外のメンバーが、女の子らしからぬ野太い声を上げる。

 そりゃそうだ。だって女の子が顔を赤くしながら『男に抱かれた』なんて言ったら、それがどういう意味なのかは考える必要もなく明白。そして、彼女たちの矛先はもちろん俺に来る。俺が弁解する余地もなく、千歌たちは俺に迫ってきた。

 

 

「せ、せせせせ先生!? どういうことですか!?」

「よ、善子ちゃんと先生がそんな……!!」

「こんな時に本性を現すとは、やっぱり男性という生き物は……!!」

「先生ったら、意外とヤり手だったのね♪」

「ピ、ピギ……ッ!!」

「誤解だ誤解! お前らが思っているようなことはしてねぇから!! 果南と曜は分かってくれるよな??」

「えぇ~っと、先生ならやり兼ねないと思っている自分もいます……」

「そんなに溜まっているのなら私……い、いえ、何でもありません!!」

 

 

 ダメだこの2人、役に立たねぇ。果南はともなく、曜の発言がかなり危険な気がしたが……うん、聞かなかったことにしておくか。千歌とダイヤは俺を尋問し、梨子と鞠莉は1人で盛り上がっており、ルビィは相変わらずこの手の話題には弱く壊れている。そんな騒動の中で俺が弁解しようとしても、逆に火に油を注いでしまうだけだろう。

 

 こうなったのも善子が誤解を生む発言をしたせいだが、彼女自身も動揺しているので『失言だった』という自覚はあるのだろう。でもそれを訂正しないあたり、アイツも千歌たちの勢いに怖気付いているに違いない。火種だけ撒いて、俺に炎上の後始末をさせるとかやってることが鬼畜すぎんだよ……。

 

 そうだ、俺には証人がいるじゃないか。あの状況を見ていたコイツなら、この炎上事件を鎮火させてくれるはずだ。

 

 

「花丸! お前だけが頼りだ!」

「ライブも近いし、そろそろ着替えるずら」

「オイッ!!」

 

 

 希望は儚く散り、信じてもらえない真実を語ることでしかこの場を終息させるのは不可能となった。

 千歌たちの気持ちは分からなくもないけど、決勝ライブの前にこんなことをしていていいのかよお前ら。事の張本人が言うのもアレだけどさ……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 本来は今回でAqoursとの関係を99%完成させようと思っていたのですが、余計なサービスシーンを描きまくったせいで次回へ持ち越し。こころとここあとの会話がサービスかは話が別ですが、その2人が登場すると筆が有り得ないくらい早く進むのはどうしてだろうか……


 次回はAqours、最後の決意!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最後の決意

 Aqoursが最後にやらなければならないことが明確に。
 確かに先生呼びのままで恋愛に発展したら……それはそれでアリな気がしますが(笑)


 千歌たちの着替え途中の部屋に突撃したことや、善子の『抱かれた』発言による騒動など、ライブ前に発生した波乱はとりあえず収まった。騒動の原因である誤解の連鎖を解くのにはそこそこ時間がかかったが、みんなが納得してくれたのでOKとしよう。変な誤解を持ったままライブに挑んで欲しくないしな。

 

 

「ったく、お前が妙なことを口走らなかったら苦労せずに済んだのに……」

「だからさっき謝ったでしょ。それに抱き寄せてきたのは事実だし」

「あぁ~もうこの話題は終わりな。またどこかで話が拗れて振り出しに戻っちまう」

 

 

 ただ誤解を解くならまだしも、俺の話を聞かずに理由を問い詰めてくる奴もいたり、顔を真っ赤にして気絶しそうになる奴もいたり、ピンク色の妄想に耽っている奴もいたりと、全員に平常心を取り戻させるだけでも大変なのだ。それもこれもライブ直前でみんなの気持ちが高ぶっているせいだとは思うが、どうして他人の失言の尻拭いを俺がしなきゃならないんだよ……。まあ善子も流石に悪いと思って誤解を解く手伝いをしてくれたし、これ以上そのことについては言及しないけどさ。

 

 既に決勝ライブ開始まで30分を切っている。もちろんすぐにライブが始まる訳ではなく、オープニングや出場グループの紹介等で十数分費やすため、実際にスクールアイドルたちがステージに上がるのはもう少し後となる。そうは言ってもAqoursは決勝ライブの1番手なので、余計な話題で騒いでいる場合ではない。全国から注目されるスクフェスという大舞台に立つんだ、これまでのイベントの時とは伸し掛かる緊張も段違いだろう。

 

 ちなみにみんなは既に着替えを終えており、後はライブに向けて精神統一をしたり緊張を解くなど、各々心の整理をするだけだ。昨日μ'sとの合同ライブを実施したことでAqoursの士気も大きく上がり、彼女たちが決勝に向ける闘志は更に熱く燃え上がった。ただでさえ大型大会に出場するのは初めてなのに、その初めてで決勝まで昇り詰めたんだ、そりゃみんなのやる気も上がるだろう。それに、彼女たちが抱く想いはライブへの闘志だけではない―――――――

 

 

「用も済んだし、俺はここで退散するよ。お前らの邪魔ばかりしてちゃ悪いしな」

「待ってください!」

「あん? どうした千歌?」

「あ、あの……もう少しだけ、ここにいてもらってもいいですか?」

「へ? あぁ、いいけど」

 

 

 控室から出ようとした時、千歌に呼び止められる。まださっきのことで問い詰めたいことがあるのかと警戒していたのだが、彼女の微かに寂しそうな表情を見る限り、どうやらそうではないらしい。あれこれ考える前に千歌のお願いを受け入れちゃったけど、どうして俺を引き止めたんだ……? Aqoursのライブは手で数えるくらいしか生で観たことないが、ライブ直前まで控室で一緒にいることは今回が初めてだ。さっきも言った通り、初の大型ライブで決勝という状況にビビってんのか? それとももう1つ別の感情が……? どちらにせよ、みんなの心が落ち着いていないのであれば傍にいてやろう。

 

 

 ……と、まぁそんな感じで10分ほど経過したのだが、Aqoursの控室は静まり返っていた。大型ライブに慣れているμ'sや、自分たちの力を信じて緊張なんて物ともしない虹ヶ咲の控室は何となく騒がしい様子が想像できるが、まさか千歌たちがここまで萎縮するとは思わなかったよ。緊張しつつもスクフェスの決勝に上がれた喜びは隠しきれないだろうと思っていたので、ここまで静かだと逆に心配になってくる。それ故に何となく声もかけづらいし、俺がいる意味ってあるのかこれ……。なおさら千歌が俺を引き止めた理由も分からねぇし、どうすっかなこの状況。元顧問として、何か元気付けてやった方がいいのだろうか。

 

 とは言っても、こういう時ってどんな言葉をかけてやったらいいのか分からん! 素直に思ったことを口に出せばいいと思うのだが、一度こうして考え込んでしまうとどうも言葉が出てこない。食い物で言えば天然か養殖の違いって言うの? 僅かでも余計なモノが混じれば、それは自然ではなくなる。あぁ、教師って難しいよ。こういう時にサラッと生徒を応援できる笹原先生や山内先生って、やっぱ凄いんだな。今までよりも一層尊敬しちゃいそう。

 

 

 そんな中、最初にこの静寂を破ったのは千歌だった。

 

 

「あ、あの、先生に聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「ん? なんだよ?」

 

 

 ライブ直前のこの状況で俺に質問って、今しなきゃいけないことなのか……? だからと言って突っ()ねる理由はないので、ソファにふんぞり返りながら耳を傾けることにする。

 

 

「先生って、どうして私たちの顧問になったんですか?」

「はぁ? お前が脅してきたんだろうが。バスのことを知られたくなかったら、Aqoursの顧問をやれって」

「そ、その後のことです! 正直、無視して辞めることもできたはずです。でも先生は、教育実習で忙しい中もずっと私たちの面倒を見てくれました。そして、私たちが東京に来た時も練習を見守ってくれた。どうしてですか?」

「俺がやりたかったから……なんて言ったら根も葉もねぇか。でもそれが全てなんだよな。俺は興味のないことはとことんやらないし、あることは物凄く集中するタイプだから。お前らが俺の目に敵ったってところだろ」

「やりたいからって、たったそれだけの理由ですか……?」

「人が動く理由なんて、蓋を開けてみりゃそんなもんだろ。つうか、いきなりどうしてそんなことを聞く? いや別にいいんだけどさ、この状況で聞くような内容なのかなぁって思ってさ」

「そ、それはぁ……」

 

 

 状況に見合わない質問をしたらこう聞かれるのは分かっていたはずなのに、千歌は焦って口籠っている。どうやら俺の答えに納得できていないようで、疑問の解決にはならなかったみたいだ。そう言われても、俺がAqoursの顧問になった理由に深い意味なんてない。バスの中で千歌と一悶着あり、彼女に半ば脅される形で顧問になった経緯はあれど、教育実習終了まで顧問を続けていたのは俺の意思だ。

 

 俺の質問に対し千歌が返答に迷っているみたいなので、納得してくれるか分からないけど自論を語っておくか。疑問解決もしないまま、なあなあの雰囲気でライブ本番を迎えたくないしな。

 

 

「お前らからしてみれば、先生は慈善家だって思うかもしれない。でも、それは違う。誰にでも手を差し伸べるとか、そんな正義のヒーローみたいなことはしねぇよ。面倒だもん。俺が助けるのは、個人的に良いと思った女の子だけだ。これでも省エネ主義者なんでね、周りにいる人間全員に構っている体力はねぇってことだよ」

「ちょっと言い方は悪いかもしれませんが、私たちが目的だったってことですか? バスで千歌ちゃんを襲った時みたいに……」

「梨子、襲ったってのは語弊があるだろ……。ま、目的と言われたらそれもそうかもな。ぶっちゃけちゃうと、浦の星が統廃合の危機に陥ろうが、俺にはどうでもいい話だ。学校が残ろうがなくなろうが、今後の俺の人生になんら影響はないからな」

 

 

 この発言を聞いてみんなはどう思うだろう? 驚いたか、失望されたか、まさか顧問として信頼していた人が、自分たちの学校をそう思っているなんて想像もしてなかっただろう。しかし、実際にそう考えているんだから仕方がない。ここで嘘を言うのはもちろん簡単だけど、それはコイツらが望んでいる言葉ではないだろう。

 

 

「浦の星がどうなろうが知ったこっちゃない。でも、学校を守りたいと必死になっているお前たちを、俺は守りたいと思った。目標に向かってひたむきになっているお前らを見て、俺は決めた。脅されて成り行きで顧問をするのではなく、本気でお前らの顧問になりたいってな。だってほら、俺って輝いてる女の子が好きだからさ」

「意外と私利私欲に塗れた理由だったんですね。先生のことだからもっとこう、教師としての経験値を積むためとか、生徒に優しくして、生徒を通じて教育実習の成績を上げるためとか、そんな感じの理由かと思ってました。ほら、私の我儘を聞いて、水泳の練習も見に来てくれましたし」

「まあ打算がなかった訳じゃねぇよ。でも男なんだから、多かれ少なかれ女の子に下心を持つのは当然だろ? 特に曜みたいな女子水泳部に誘われたら、そりゃホイホイ釣られちまうって。最低な話かもしれないけどさ、男という性別である時点で仕方がないんだよ」

 

 

 そういや数年前、海未にそのことを指摘された記憶がある。2人で海へ出掛けた時、俺がアイツを抱きしめた時に言われたのが『私たちと付き合っているのは身体目的なのか?』だ。その時の答えもさっき俺が言ったことと同じような内容であり、結局は純度100%の心を持ち合わせている奴なんて中々いないってことだよ。どちらにせよ、相手を好きって気持ちは変わらない。むしろ自分の本心を隠して上辺だけの好きを伝えるよりも全然いいと思うけどな。

 

 

「それが、私たちの顧問でなくなっても指導を続けてくださる理由ですか? さっき千歌が言ってましたよね? 私たちが東京に来てからも、ずっと練習を見守ってくれたって」

「なんだ、果南は俺の指導なんていらないってか?」

「い、いやそういうことではなくて!!」

「悪い悪い、ちょっと意地悪した。まぁあれだ、顧問だとか顧問じゃないとか、役職名なんてどうでもいいんだよ。お前たちの輝いてる姿を間近で見たいから、笑顔でいて欲しいから、俺はお前たちの隣にいるんだ。それじゃあダメか?」

「いえ。というより、嬉しいです……」

 

 

 果南だけじゃなく、みんなも頬を染めてそわそわしている。もはや俺のセリフは告白と言わんばかりだが、コイツらと一緒にいる理由なんてそれ以上でもそれ以下でもない。一緒にいる理由なんて、一緒にいたいからで十分だろ。

 

 

「一緒にいたいってのは山々だけど、このままだとどうしても元教師と生徒って関係が付きまとう。お互いに気にしなくても、心のどこかでは意識してしまう。だから何か、何かあと一歩踏み込む必要があるんだ。教師と生徒の関係をぶち壊す、何かがな」

「それって、さっきアンタが言ってた『名前呼び』を実行しろってこと?」

「まあそれが一番の進展になるだろうけど、キツいんだろ? お前が顔を真っ赤にして逃げ出すくらいだからな」

「わ、忘れなさい!! 別に呼べない訳じゃなのよ。こう、喉に引っかかって上手くアンタの名前を言えないだけだから……」

「それを呼べないっつうんだよ……」

 

 

 名前呼びをすることが、今の教師生徒の関係を覆す最大の一手になることは間違いない。千歌たちが俺のことを『先生』と呼んでいる以上、お互いに上下関係を感じずにはいられないだろう。その関係を断ち切るとまでは行かなくても、少なくともお互いが対等な立場にならなければ仲は進展しない。問題なのは、コイツらが名前呼びという難題を突破できるかどうかなんだけどな……。

 

 

「先生を名前で呼ぶことは難しいですけど、それでもルビィは頑張りたいです。今の関係のままでも、先生と一緒にいるのは楽しいです。でも、ルビィはもっと楽しくなりたい。これまで以上にもっと、もっと!」

「そうだな、俺もだよ。あとから修復するにしても、今ある関係を崩しちゃうのはもちろん怖い。だけど、それをしないといつまで経っても前へ進めないんだ。だから挑戦する価値はあるんじゃないか。ルビィもそうだけど、みんなも同じ気持ちだろうからさ……って、花丸? 目を輝かせて、どうした?」

「なんだか、ルビィちゃんの決意を聞いたらマルもやらなきゃって思いました。正直、善子ちゃんが逃げ出したところを見て、マルも同じことをされたあぁなっちゃうだろうなぁと考えてましたから」

「なるほど、善子がトリガーとなっていい教訓になったってことか」

「なんか、黒歴史を出汁に使われて気分良くないんだけど……」

 

 

 黒歴史は掘り返されるから黒歴史なのであって、一種の思い出でもある。掘り返されずネタにもされなかったら、それはもう記憶から消えていくだけだからな。だったらいっそのことネタにしてもらった方が、今後の思い出話にもなるからいいと思うけどね。

 

 ルビィといい花丸といい、普段は引っ込み思案の2人が真っ先に決意を表明した。最近は想像以上の積極性を見せる2人だったが、ここまで来るとAqoursの誰よりも度胸があるかもしれない。出会った頃はみんなの後ろの方でおどおどしているような奴らだったのに、これも俺の教育の賜物……か? 教育というよりも、気兼ねなく喋れる仲になったと言った方がいいのかも。

 

 

「名前を呼ぶのか呼ばないのか、それはお前らに委ねるよ。別にみんなで呼び方を統一する必要もない。誰かが名前呼びだからって、自分もそうしなきゃいけないとか、そんな縛りは一切ないからな。そこは好きにしてくれ。他の誰がどう呼ぶかを模索するくらいなら、この決勝ライブで9人一丸となることに集中しろ。俺のこともそうだけど、学校のこともあるんだしさ」

「確かに、私たちには学校の統廃合を防ぐため、ここでAqoursをアピールする必要がありますわ。それこそ、スクフェスに参加した最大の目的です」

「さすがダイヤ、よく分かってんじゃん。俺のために頑張ってくれるのはもちろん嬉しいよ。でも、俺に現を抜かして本来の目的を忘れてもらいたくはない。俺が見たいのは、目的達成のためにひたむきに頑張るお前らなんだ。合宿の時も言ったけど、自分たちのやるべきことを見失わないで欲しい」

「そうね、まずは目の前のライブに全力を注ぎましょう。浦の星に輝きを取り戻す、そのためのAqoursなんだから。私たちがもっともっと輝けば、学校も活気付くし、先生にもたくさんアピールできるしね♪」

「おっ、いいこと言うじゃん鞠莉。ま、そう簡単に行ったら話は楽だけどな。決勝にはμ'sもいれば虹ヶ咲もいる。その他にもラブライブの比じゃないくらいの強豪ばかりだ。ソイツらに負けず輝けるか?」

 

 

 なんて質問をしてみたが、コイツらにとっては愚問だったな。既にみんなの目は決意に満ち溢れており、例え先輩たちや自分たちより人気の高い同期を相手にしようとも、コイツらはビクともしない。むしろ相手が強ければ強いほど自分たちも輝ける、そういった熱い意志を見せていた。これは想像以上に千歌たちの魅力が観られるかもしれない。なんか俺、どんどんコイツらにハマっているような気がするぞ。いいことなんだけどね。

 

 

「μ'sとの合同ライブでより一層やる気も出たし、今日はライブもキラキラも、誰にも負ける気がしませんよ!」

「なんだ千歌、急に元気になったな……」

「もやもやってしてたことは全部解決したので、俄然テンションが上がってきました!」

「でも千歌ちゃん、キラキラって……フフッ、子供みたい」

「え~なんで笑うの梨子ちゃん!? 可愛くない?? ねぇ曜ちゃん!?」

「可愛いとは思うけど、そう思ってる千歌ちゃんの方が可愛いかな」

「えぇ~なにそれっ!?」

 

 

 千歌の幼さに満ちた発言をきっかけに、控室に暖かい雰囲気が戻る。笑顔と興奮を届けるライブなのに、本人たちが本気になれなかったら元も子もねぇしな。

 うん、女の子はやっぱりこうでなくちゃ。俺好きなんだよ、こうやって女の子たちに笑顔になる瞬間ってのが堪らなくな。みんなのこの笑顔を見られただけでも、コイツらの顧問をして良かったと思えるくらいだ。

 

 

「あっ、もうちょっとで始まる! 先生、それではAqours、行ってきます!」

「あぁ、限界を振り切るくらい楽しんでこい」

「「「「「「「「「はいっ!!」」」」」」」」」

 

 

 遂に始まるスクフェスの決勝。全てのスクールアイドルがそれぞれの想いを抱き、輝きを放ち、ステージに立つ。

 彼女たちが出す最後の答え、この目で見届けてやる。そして、俺のやるべきことも、もう最後だ――――――

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 千歌たちが零君のことを名前で呼ぶところを想像してみたのですが、もう2年以上も先生呼びで描写しているので、何かと違和感が多いです。でもその違和感をぶち壊してこそ、彼らの関係は進展するのでしょう。それに先生呼びのままで恋愛をしたら、それこそかなり背徳的になっちゃいますしね(笑)





まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦Triangle

 スクフェス編もいよいよ大詰め。μ'sもAqoursも虹ヶ咲も、それぞれの想いを胸にスクフェスの決勝戦に臨みます。

 もちろん、零君も自分の想いを伝える覚悟を決める時――――


 

 やっぱり、女の子が輝いている姿を見るのはいい。スクフェスに参加している目的は各グループごとで違うだろうが、どんな目的にせよ優勝を目指していることに変わりはない。そういった意味では、どのグループも共通の目標を持っていると言ってもいい。だからこそ、1枠しかない優勝を巡って各々(しのぎ)を削っているのだ。

 そしてスクールアイドル同士はライバルであり、お互いがお互いを高め合っている。1つのライブによって高まった熱気が次のライブへと引き継がれ、更に大きな熱気となってまた次のライブへ移る。大会の形式上はグループ同士の対決なのだが、会場の盛り上がりが連鎖していく様を見るとみんなで1つのライブを形成しているようだ。観客も自分たちの推しのグループのライブを観に来ているはずなのに、どのグループも等しく盛り上がっているので会場により一体感が生まれている。みんなで叶える物語とはよく言ったもんだな。

 

 決勝ライブは2段階に分かれており、1段階目は決勝に進出したグループ全員が、2段階目はその中から審査員と観客投票による上位3グループが2回目のライブを行う。2回のライブを勝ち抜かなければ優勝できないためハードルは物凄く高いが、それだけの難関を突破したからこそ優勝に価値がある。俺の知り合いのスクールアイドルたちも、ここで優勝を掴み取ることで各々の目的を達成できるくらいだ。どのグループを応援するとは断定できないけど、頂点を目指して自分たちの輝きを誰よりも強く魅せて欲しいものだよ。

 

 ちなみに、現時点では決勝の1段階目が終了している。トリはA-RISEが華麗に飾り、これまでのグループが盛り上げてきた熱気を見事に爆発させた。そのせいで投票結果開示前の休憩時間にも関わらず、会場の雰囲気は未だ冷めていない。むしろこれからの本当の決勝戦に向け、更なる興奮を胎動させているようだ。

 

 

「はぁ~さっきから叫びっぱなしで疲れちゃったよ。初めて大きなライブ会場に来たけど、テレビで観るよりもすっごく興奮するね!」

「これだけのライブを間近で観られるなんて、私も柄にもなく騒いじゃいました。お兄様にはしたない姿を見せちゃいましたね……」

「別にいいんじゃないか。だってライブ会場は叫んだり騒いだりするもんだろ? 観客の雰囲気も半端ないし、テンションが上がらない方がおかしいって」

 

 

 俺の隣でライブを観ていたここあとこころも大興奮で、2人のテンションに釣られて興奮を煽られたくらいだ。2人は大型ライブを生で観るのは初めてらしく、それ故にこれまで味わったことのない感情に胸が滾ったのだろう。いつもはやんちゃなここあを諭す穏やかキャラのこころが、ここまで歓楽している様子を見れば彼女たちが如何にライブを楽しんでいたか分かってもらえると思う。応援や歓声に体力を使い過ぎて、最終ライブまでそのテンションを維持していられるか心配になってくるな。

 

 

「やっぱりμ'sは凄かったね~! あんなにキラキラしてるおねーちゃんを生で観られるなんて、もう最高の1日だよ!」

「煌びやかな舞台こそお姉様が立つステージ……いや、むしろお姉様がステージを輝かせていたまでありますね!」

「お前ら本当にシスコンだな……。穂乃果たちも応援してやってくれ」

「もちろん! さすがお姉様のバックダンサーです!」

「まだそれ信じてるのか……」

 

 

 良くも悪くも純粋なこころとここあは、かつてにこの吐いた嘘を今でも信じているようだ。まあシスコンのコイツらからしたら、大好きなお姉ちゃんが誰よりも一番輝いて見えるのは分かる。この2人とμ'sの話をする時は大体にこの話題になって他のメンバーに触れないことが多いから、もしかしたら今のμ'sが12人いるってことすらも知らないかもな……。

 

 会場の興奮が収まらないまま、遂に運命の時がやって来た。司会のスタッフが現れ、ステージの特大モニターに『最終ライブ進出グループ発表』の文字が映し出される。観客の熱気はヒートアップしたままだが、誰もがこの時を待ちわびていたのか一瞬で静まり返った。決勝ライブに参加したスクールアイドルたちもステージに続々集まり、観客共々投票の結果を固唾を飲んで見守る。

 

 

「投票の集計が終わりましたので、最終ライブに進出するグループを発表します! 進出する3グループの名前を同時に映し出しますので、皆さん一瞬たりとも目を離さないようお願いしますね!」

 

 

 こういった投票形式で結果を決める系の場合、大抵は出場者や観客の期待を煽るために下位から順番に発表される場合が多い。だがスクフェスは上位グループを大々的に紹介する傾向にある。事前投票で虹ヶ咲を大きく取り上げていたのがその証拠だ。

 つまり、今回の結果発表も一瞬。自分たちが何位かを待ち続ける緊張など一切なく、モニターの映像が切り替わった瞬間に最終ライブの進出グループが決定する。それはそれでまた別の期待と緊張があり、今の会場内は結果開示後の一喜一憂の騒ぎに向け、嵐の前の静けさのごとく静寂が支配していた。

 

 

「それでは発表します! 最終ライブの舞台に上がったのは、この3グループだぁあああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 司会者が掛け声を上げた直後、モニターに3グループの名前が映し出される。出場者も観客もあまりの緊張感の中にいたためか、モニターの文字を見た瞬間に場が硬直した。

 そして俺は、その静寂がどれだけ続いたのか分からなかった。一瞬だったのか数秒だったのか、そんなことがどうでもよくなるくらいの現実が目の前で起きていたからだ。

 

 

 最終ライブに進出した3グループ、それは――――――

 

 

μ's、

 

 

虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、

 

 

そして――――Aqours

 

 

「マジかよ……」

 

 

 気付けば、会場内は歓喜に満ち溢れていた。会場の騒ぎをかき消すくらいの大きな拍手と共に、観客席からの多大なる声援。まだラストライブが残っているのも関わらず、もう優勝グループが決定したかのような盛り上がりだ。隣にいるこころとここあも目を輝かせてμ's……と言うよりにこに歓声を浴びせている。

 俺は周りのように騒いだりはしていないものの、自分と最も深い関りを持つ3グループが全員ラストに進出したことに驚きと興奮を覚えていた。前々からこの組み合わせでラストライブを飾れたら奇跡だと思っていたのだが、やっぱり女の子たちの底力ってすげぇよ。俺の想像を実現し、本当に奇跡のステージを作り上げちゃうんだから。

 

 そしてなにより、最後まで勝ち残れたことに驚いているのはAqoursだろう。俺は最前列にいるため彼女たちの様子をよく見ることができるのだが、観客の大熱気と同様アイツらももう優勝したってくらいの反応を見せている。目を見開いて驚いている奴もいれば、目の前の現実を笑顔で喜んでいる奴もいて、千歌なんて今にも泣きだしそうになっていた。まだこれからなのは事実だが、ほぼ無名のAqoursがここまでのし上がれたことに感無量なのだろう。いつやらか"ラブライブ!"の予選に出た時に最下位だった経験があるから、この結果になおさら喜びを感じるのかもしれない。

 

 μ'sの反応はAqoursに比べると驚きの度合いは明らかに小さいが、やっぱり自分たちのライブで上位をもぎ取ることができた興奮は4年経った今でも忘れられないらしい。まあ解散から随分と時間も経ってるし、どちらかと言えば久しぶりにライブの楽しさを思い出せて嬉しいって感情が強いんだと思う。なんつうか、アイツらの反応がライブ慣れしたプロのアイドルにしか見えねぇんだけど……。いつも一緒にいるから気にしないけど、他のスクールアイドルと比べれば大物で実力者だもんな。アイツらも成長してるってことだ。

 

 そういった意味では、虹ヶ咲の面々のメンタルはかなり強い。Aqoursと同じく公式の大舞台に立つのは初めてのはずなのに、名誉ある最終ライブの進出が決まっても手放しで喜んだりしない。むしろこの結果が分かっていましたと言わんばかりの自信っぷりで、コイツらもコイツらで事前投票圧倒的1位の貫禄を堂々と見せつけている。自分たちの実力を信じ切っているが故の余裕の反応なのだろうが、チラッとどこか嬉しそうな表情を見せるあたり、やはり駆け出しスクールアイドルっぽいな。それでもμ'sとAqoursに比べれば断然余裕綽々なので、最終ライブもこれまでと変わらず、いやこれまで以上のパフォーマンスを見せてくれるだろう。

 

 以上の3グループは見事に最後のライブを披露することになったが、当然それ以外のグループはここで敗退となる。でもどのグループも悔しがっているというよりかは、ここまで全力でやり切ったようで、残念な気持ちはあるだろうが悔いはなさそうな様子だった。A-RISEもSaint Snowもそうだが、実力的にはμ'sたちに劣ってはいない。結果発表は最終ライブに出場するグループ名しか載っていないので投票の内訳は分からないが、恐らく投票数は拮抗していたに違いない。ここで決勝戦の全てのライブを観てきた俺なら、それくらいは分かる。

 

 

 そんな訳で、決勝戦の最終ライブは今から時間を置いて始まる。つまり最終ライブが始まるまでに少し時間がある訳だが……どうするかなぁ。

 

 

「おにーちゃんどうしたの? さっきからそわそわしてるよ?」

「もしかしてお手洗いですか? それなら会場を出て右の突き当りに――――」

「いや、違うんだ。俺の知り合いのグループがみんな最後まで勝ち残ったんだ、ちょっと声を掛けてやりてぇなと思ってさ」

「なるほど、でもここは余計なことをせず、最後まで見守ってやった方がいいんじゃないかとか思ってます?」

「えっ、お前エスパーか!?」

「お兄様は分かりやすいので、顔を見ただけで大体察しはつきますよ」

「行ってくればいいじゃんおにーちゃん! もしおねーちゃんが緊張してたら、とびっきりの笑顔にしてきてね!」

「お前ら……。あぁ、じゃあ行ってくるよ」

 

 

 矢澤姉妹からの後押しを受け、俺は決勝の最終ライブを控えたみんなの様子を見に行くことにした。

 いつもの俺ならライブを控えたアイツらをただ静観するだけで、わざわざ控室にまで会いに行ったりはしなかった。でも今日はいつも以上にテンションが上がり過ぎているので、最終ライブまでのインターバルに居ても立っても居られないのだ。ここまで来て俺の激励なんて必要ないとは思うが、この興奮を抑えるためにはアイツらに会うしかない。それに、最後のライブに挑む意気込みを聞いてみたくもあるしな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ここまで来たはいいけど、アイツらの控室がどこか書いてねぇのかよ。ま、関係者専用の場所だから当たり前か」

 

 

 またしても秋葉に偽造してもらったICカードを使い、関係者専用のフロアへ侵入した。侵入したまではいいけど、どうやら決勝が始まる前と後では控室が違うらしく、決勝戦が始まる前に訪れたAqoursの控室には電気が消え鍵も掛かっていた。そのため現在絶賛控室の行方を捜しているのだが、本来ここは関係者専用のエリアということもあり、どこに何の部屋があるか一切の表示がない。そのせいでさっきから怪し気にウロウロするしかないのだが、決勝戦も大詰めということでスタッフも忙しいらしく、誰かとすれ違っても声を掛けられることはない。逆にスタッフならスクールアイドルたちの控室の場所を知っているはずため、こちらから控室の場所を聞くこともできない。つまり控室はどこかなんて聞いたら、スタッフじゃないことがバレちゃうんだよな……。

 

 マズいな。このままだと最終ライブが始まっちまう。もういっそのこと、誰かに電話してどこにいるのか聞いてみるか? でもみんな着替えや精神統一やらで忙しいと思うので、俺の連絡に気付いてくれるかどうか……。

 

 

「あれ? 先生?」

「えっ、千歌!?」

「どうしてここにいるんですか? もしかして、会いに来てくださった……とか?」

「あぁ、そのまさかだよ」

「わ、わざわざ……うっ、す、すみません涙が……」

「お、おい、大丈夫かよ……」

 

 

 千歌と遭遇したのも束の間、突然泣き出されてしまったため俺は思わず辺りを見回す。

 最終ライブに出場するアイドルが通路の真ん中で、しかも男と対面している状態で泣いている光景を、何の事情も知らない人が見たらどう思うのか容易に想像できるだろう。まあ俺もどうして千歌がいきなり涙を流したのかは知らねぇんだけどさ……。

 

 

「私、嬉しかったんです。これまで公式大会ではいい結果を出せなかったのに、今ここで自分たちの努力が実った感じがして……」

「それはそれでおめでとうだけど、最後のライブが残ってんだろ。滾る感情を表に出すのはそれが終わってからにしろ」

「そう、ですよね……。あはは、私、もう終わった気でいました。それに涙を流したのはそれだけじゃなくて、先生に会えたからっていうのもあります」

「俺に?」

「はい。先生が浦の星で私たちと別れる時に言ってくださりましたよね? 『俺を夢中にさせるようなAqoursが見てみたい』って。ようやく、その答えを先生に届けられそうなんです。そして偶然ここで先生と出会ったことで、ライブで吐き出す想いを思わず涙として漏らしちゃったと言いますか……上手く言えないですけど、そんな感じです!」

「うん、言いたいことは分かるよ。だったら俺がここへ来たのは余計なことだったかな」

「いえいえ! むしろ最後のライブの前に先生とお話できて、俄然力が漲ってきますよ!」

 

 

 こうして少し話をしただけで千歌のやる気が上がるなら、常に一緒にいたらテンションが振り切っちまうかもな。しかし、こうして緊迫した雰囲気の中で突然出会えたからこそ、今の千歌の感情があるのかもしれない。どちらにせよ、自分の存在が女の子たちの力になれるのならそれ以上のことはないよ。

 

 

「よぉ~しっ! 先生に会えたおかげで優勝も見えてきましたよ!」

「自信たっぷりなのはいいけど、μ'sと虹ヶ咲はお前ら以上の大物なんだ。足元掬われるなよ」

 

 

「そうですよ。まだ終わっていませんから」

 

 

「あ、歩夢!?」

「上原、歩夢さん……」

 

 

 今度は虹ヶ咲の歩夢と遭遇した。たまたま通りかかったのだろうか、それとも俺の気配を察知したのだろうか。虹ヶ咲の子たちって妙に俺の行動を読んでくるから、過去の蟠りが解消されたと言ってもその点だけは不気味なんだよな……。

 

 しかし、こうして決勝で戦う相手とバッタリ対面するのはお互い気まずいんじゃないか? 元々仲が良いかと聞かれたら、そもそも交流があまりないので仲が良好だとは言い難い。別にお互いに嫌悪している訳ではなく、ただ単にスクフェスの参加グループとしてライバル意識の方が強いだけだろう。

 

 

「こんなところで零さんと出会えるなんて、運命感じちゃいますね♪」

「運命っつうか、そもそもお前たちに会いに来たんだから、遅かれ早かれ顔は合わせてただろうよ」

「相変わらず肝心な時にノリが悪いですよね零さんって。そういうところも大好きですけど♪」

「悪かったな調和を乱す存在で……って、千歌? どうした?」

「い、いえ。歩夢さんがド直球に告白したので、ちょっと驚いちゃって……。私にはそんな度胸はないですし……」

「そんなに凄いことですか? 好きだから好きって素直に言ってるだけですけど」

 

 

 それが凄いことだとは、いくら説明しても虹ヶ咲のみんなには理解できないだろう。辛い過去を乗り越えて育った信念は、周りの目や羞恥心なんて顧みない。俺にグイグイ迫ってくるその積極性はμ'sやAqoursの子たちにはなく、対女の子とのコミュニケーションで普通に圧倒された(猥談系を除く)のは歩夢たちが初めてかもしれない。

 

 とは言いつつも、Aqoursのみんなだって出会った頃と比べたら相当積極的になったと思うけどな。さっきAqoursの控室では花丸やルビィもかなり積極的な発言をしていたし、当の本人である千歌もバスの中で俺を篭絡させようとしてくるくらいだ。まあ別のグループの人がいる前で『好き』って言っちゃう歩夢は、やはり千歌たち以上に度胸のある奴ってことかな。

 

 

「そうやって好きを好きって伝えられるのが羨ましいぃいいいいいいいいいいいいいいい!!」

「私はむしろもう少し感情表現を抑えられるといいなぁと思ってます。会うたび会うたびに好きを伝えていたら、零さんにとってもありがたみがなくなるでしょうから。言うなればそう、もっとお淑やかになるってことですかね?」

「はっ、だったら私はお淑やかな女性!?」

「「いや、それはない」」

「先生ヒドい!? それに歩夢さんまで!?」

 

 

 もし仮に千歌がお淑やかだったら、この世のほとんどの女性にその属性が付いてしまうだろう。そもそもAqoursにお淑やかな子っているのか……? ダイヤはどちらかと言えば品行方正寄りだし、梨子は表の性格ではかなりお淑やかだけど、裏の性格を知ると……うん、って感じだ。

 

 つうか、意外と仲良く打ち解けられているみたいで安心したよ。一度ショッピングモールの水着コーナーで顔を合わせ、その直後に歩夢たちの過去が語られて以降はお互い対面してないはずだ。歩夢たちの壮絶な過去を知り、千歌たちが俺たちに遠慮してしまうかもと若干危惧していたのだが、おふざけを含めた今のやり取りを見ている限りではそんな心配は杞憂だったようだ。

 

 

「あっ、零君!? それに千歌ちゃんと歩夢ちゃんも! なになに、みんなで何してるの?」

「穂乃果? お前もか……」

「穂乃果さん、お久しぶりです!」

「歩夢ちゃん久しぶり! 千歌ちゃんも!」

「は、はい、お久しぶりです。さっきまで皆さんのライブを観ていたので、あまり久々って感覚はないですけど……」

「あはは、確かに」

 

 

 穂乃果も登場し、またしても各グループのリーダーが一堂に集結した。しかも今回はスクフェスの最終ライブに出場する3グループということで、前回集まった時よりも各々の貫禄は大きい。もちろんお互いに決勝で戦う敵ではあるのだが、それ以上にライバル良きライバル関係だ。

 

 

「そういえば、千歌ちゃんたちも歩夢ちゃんたちもラストライブ進出おめでとう! スクフェスの最後の最後で、みんなと一緒にライブができるなんてワクワクするよ♪」

「ワクワクするか……穂乃果さんらしいですね」

「えっ、だって楽しくない? 友達と一緒にライブができるなんて!」

「友達……ですか? 私たちが?」

「当たり前だよ! 一緒に水着を買いに行ったし、一緒の合宿場で練習したし、それにこうして同じステージでライブをしてるんだからね」

 

 

 千歌も歩夢も穂乃果の言葉に驚いているようだが、すぐに笑みが零れる。そりゃそうだ、今から決勝を戦うライバルなのに、自分たちを巻き込んでスクフェスを楽しもうとしているんだから。スクフェスに参加している目的は各グループで違えど、ライブを楽しむという観点ではみんな共通だ。でもやっぱり決勝の最後まで勝ち上がってしまうと、自分の感情が膨れ上がって当たり前のことすらも忘れてしまうもの。最後の最後で穂乃果がスクールアイドルの楽しさを思い出させてくれて、2人も肩の力が抜けたようだ。

 

 

「しかしライブを楽しみながらも、μ'sさんやAqoursさんには負けませんから。ここで優勝すれば、私たちは晴れて零さんと……」

「穂乃果たちも負けないよ……って、晴れて何が起こるの!? もしかして、告白??」

「そ、それなら私たちも負けません! Aqoursだってこの日のため、先生に私たちの輝きを伝えるため、ずっとずっと練習を……!!」

「あはは、千歌ちゃん告白みたいだよそれ」

「あっ、えぇっ!?」

「さっきとは違って、意外と積極的なところもあるんですね。いい意味で見直しました♪」

「ふぇええええっ!? い、今の発言はなしで! で、でも嘘は言ってないと言うか……」

 

 

「どんどん墓穴を掘ってんな……ま、いっか、みんな楽しそうだし」

 

 

 決勝の舞台の最中に修学旅行並みのガールズトークを展開しているが、もはや緊張感の欠片もねぇな……。とは言え、下手に不安を見せていないあたり俺も安心できるので、これはこれでいいのかもしれない。まあ本人がいる前で告白云々の話をされると恥ずかしいんだけどさ……。

 

 ともかく、これからμ's、Aqours、虹ヶ咲の3グループで決勝のラストライブが行われる。各グループそれぞれの輝きでどんなライブを魅せてくれるのか、既に沸き上がってる興奮が更に爆発しそうだよ。

 そして、俺自身も決心しなければならない。ただみんなから伝えられる想いに甘んじるのではなく、自分の想いを伝える覚悟を――――――

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 次回、零君とAqoursの想いが直接交わる時――――!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

奇跡輝く

 スクフェスの決勝戦。
 神崎零は各グループとの思い出に浸りつつ、最後の決意を固める。


 

 出会いは最悪だった。

 バスの中で堪らず痴漢紛いなことをしたら、その子が俺の教育実習先の生徒だったこと。その様子をその子の友達に見られていたこと。痴漢したことをバラされたくなかったら、自分たちの顧問になれと脅されたこと。廊下で転んだ時に、女の子のスカートに頭を突っ込んだり、胸を触っちゃったこと。そのせいで堅物な生徒会長に説教され、着任早々要注意人物として狙われたこと。他にもあっただろうが、もはややらかしたことが多すぎて全てを覚えていない。教育実習生どころか人間的な地位からも解雇されるような悪行を働いた、という認識の方が大きいのだ。

 

 そのせいで、アイツらと打ち解けるのはそこそこ時間がかかった。μ'sとは成り行きながらも一緒にいたことで自然と仲良くなったのだが、やっぱり度重なる痴漢行為は彼女たちの警戒心を強めたようで、その当時は教師としても顧問としても信用してもらえなかった。まあ女子高で唯一の男だし、しかもその男が女の子のカラダを弄んだとなれば警戒するのは当然だ。全てはラッキースケベと言われる不慮の事故――――と言い訳できりゃ良かったんだけどなぁ……。

 

 そんな経緯もあって、アイツらが俺に抱いた第一印象は最悪だっただろう。しかし、その中でも俺を最初から知っていた奴もいて、過去に短期間だけスクールアイドルをやっていた俺を見て、密かな憧れと恋心を抱いていたようだ。着任早々解雇モノの所業を犯してしまったが、ソイツらが仲良くしてくれたおかげで俺はAqoursや浦の星から追放されることなく過ごすことができた。スクールアイドルを経験した過去がなければ、今頃アイツらとここまでの仲になっていなかったと言っても過言ではない。

 

 

「遂にここまで来たな……」

 

 

 アイツらの公式の大会の戦績は、決勝に進出するどころか予選ですら下位を取りまくるような結果だった。μ'sが9人でやっていた時代からも割と良い結果を叩き出していたのに対し、アイツらの結果はどうも奮わない。それは決してアイツらの実力が低いからではなく、ただ単にμ'sの時代とは違ってスクールアイドルの数に雲泥の差があるだけだ。単純にライバルが多ければそれだけ勝ち抜くのが難しくなる。スクールアイドル戦国時代とはよく言ったもんだ。

 

 しかし、遂にここまで来た。一度は支持者"0"で苦汁を舐めさせられたものの、"0"から"1"をモットーにここまで這い上がり、そしてスクフェスの決勝戦という嘗てないほどの大舞台に立つことができた。しかも肩を並べるのは憧れのμ'sと同年代で超人気の虹ヶ咲。舞台にせよ相手にせよ、これほど豪華なシチュエーションはないだろう。でもそんなシチュエーションだからこそ、アイツらの輝きもより際立つってもんだ。

 

 

「おにーちゃん? どうしたのぼぉ~っとして?」

「あっ、いや、ちょっと考え事をな」

「でも流石はお兄様です。お姉様たちのライブを観てここまで冷静でいられるなんて。私たちもですけど、お客さんの興奮が全然収まってませんし」

「どうかな? この中で一番テンションが上がってるのは俺だと自負できるよ」

「えっ、おにーちゃんテンション高いの?? 全然そうは見えないけど」

「みんなが感じてる興奮と、俺が感じてる興奮は少し違うのかもな」

「「……??」」

 

 

 こころもここあが首を傾げるが、まあコイツらであっても俺の気持ちを察知することはできないだろう。μ'sや虹ヶ咲、Aqoursのみんなとは濃厚な思い出がある。アイツらがスクフェスの舞台に立つ理由も、優勝を目指している目的も全部知っている。だからこそ、ただライブを観ている誰よりも彼女たちに抱く感情が違うのだ。これまでの楽しいことも悲しいことも、全部アイツらと共有してきた。言うなれば、俺はアイツらと一体になっていると言ってもいい。そのせいでステージにいるアイツらから心の躍動が伝わってきて、俺も一緒に興奮しちまうんだよな。

 

 

「あっ、もう始まるよ! 最初は……おねーちゃんたちからだ!」

 

 

 スクフェス決勝戦のラストライブ。最初はμ'sの出番だ。

 μ'sは4年前のラストライブを最期に解散していたが、穂乃果の一存によりスクフェス限りでの復活を果たした。メンバー各々の夢のため解散以降はμ'sとしての活動は一切なかったが、やはり12人で集まっていた時の思い出は忘れられないのだろう、最初は再びのメンバー収集に難色を示していた奴も、今はこうして笑顔でライブを披露している。

 

 アイツらがスクフェスに出場している目的は、ただ単に思い出作りだ。もう一度みんなで集まって同じステージに立つ。それだけのこと。Aqoursのように自分たちの想いや学校の存続を背負っている訳でも、虹ヶ咲のように過去の因縁に決着を着けようとしている訳でもない。だが、目的が他よりも薄いからと言って輝いていない訳じゃない。むしろ今まで重荷を背負ってきた経験があるからこそ、こうして何も背負わずとも輝ける。ただみんなと楽しく一緒に、それがアイツらにとっての一番なんだ。だから、アイツらがスクフェスに馳せる想いは他のグループに負けていない。

 

 

「虹ヶ咲スクールアイドル同好会さん……でしたっけ? ライブは今回のスクフェスで初めて観ましたけど、お姉様たちと同じくらい興奮しちゃいました!」

 

 

 次は虹ヶ咲の出番。

 アイツらとの思い出はここ直近で色々ありすぎてパンクするくらいだ。実際には10年以上前から出会っており、そこでの悲痛な経験、俺の記憶喪失も相まって、その10年間は思い出はぽっかり空いたままだがな。しかし、一昨日の秋葉との一件以降、過去の真実が全て明らかとなり、俺たちはようやく思い出を遡ることができた。

 

 アイツらは俺に助けられた過去から、俺のことを心酔している。それはやがて愛となり、こうして9人でスクールアイドルを結成するまでに至った。その後、歩夢たちはその愛を力にして密かに練習を重ね、表舞台に出て即座に人気を得るほどの地位に上り詰めた。その実力と魅力は一般人から見ても圧倒的であるが、その力の源は全て俺への愛。みんなの想いを一心に背負い学校の存続を担っていたμ'sやAqoursと違い、完全にただ1人のためだけにスクールアイドルを結成した。それ故に愛する人へ向けて魅せる輝きは美しく、結果的にそれが世間の評判にも繋がっている。だからこそ、他のどのグループとは違った魅力があるのだ。

 

 

「最後はお兄様が激推しのAqoursの皆さんですよ」

「Aqoursのライブを観てる時のおにーちゃん、なんだか嬉しそうだもんね!」

「そんなにか……? いや、そうかもな」

 

 

 個人的にはライブで興奮しても表情には出ていないと思っていたのだが、どうも感情が抑えきれていなかったようだ。まあアイツらの魅力に圧倒されていたんだから仕方ないわな。

 

 最終ライブの最後、予選から続く全てのライブのトリを飾るのはAqoursだ。

 Aqoursはμ'sや虹ヶ咲とは違い、学校の存続を背負っているという重圧がある。ここで浦の星をアピールすることで来年の入学者を増やし、統廃合を防ぐのが一番の目的だ。全国から注目されるスクフェスで優勝できたとなれば、そりゃ学校の名前もAqoursと共に知れ渡ることになるだろう。μ'sも虹ヶ咲も自分たちのためにスクフェスに出場しているの対し、Aqoursは浦の星の期待も背負っているのだ。

 

 だが、だからと言って千歌たちに棘々しい闘争心はない。スクフェスに優勝して学園を救わなければ――――という使命感に駆られている訳でもなく、彼女たちは彼女たちなりにスクフェスを楽しんでいる。自分たちが輝きたいという純粋な気持ちでスクフェスに挑み、そして決勝の舞台にコマを進めた。ただ使命感に捕らわれ躍起になっていては、本来の自分たちの力を発揮できないと分かっているのだ。だから、まずは自分たちが全力でライブを楽しむ。そしてその楽しさを観てくれている人に伝える。それこそ学校を救う一番の方法なんだ。合宿の時に立てたそれらの決意が、決勝の舞台で今まさに発揮されている。

 

 それとは別で、Aqoursと学校の名を知らしめるついでに、自分たちの輝きを見て欲しい人がアイツらにはいる。最悪の出会いから、最高の思い出へ。その間に生まれた感情を、この舞台で全て曝け出している。俺には分かる。彼女たちのライブを観ていると、相手に自分たちの輝きを見てもらいたいという意志の強さを感じる。そして俺は、そんな彼女たちの魅力に飲み込まれていた。

 

 まだ、出会った頃は未熟だった。『ラブライブ!』の予選で最下位を記録する奴らで、練習の指導をしている時も我が子を見守るような感じだった。だからこそ、μ'sや虹ヶ咲に負けないくらいの光を放っていることに感動しているのかもしれない。

 

 最初は最悪な出会いだったが、毎日を一緒に過ごしていく間に楽しいこともたくさんあった。その過程でみんなとの心の距離はどんどん接近していき、俺が浦の星を去る頃には隣り合わせになっていた。更にアイツらがスクフェスの練習のため東京に来てからも、楽しい思い出をたくさん作れた。

 そしてなにより、俺が自分自身を見失いそうになった時、アイツらがいてくれたからこそ本当の自分を見つけることができたんだ。その時に気付いた、俺は伝えたい。俺とアイツらの心は、もう既に――――――

 

 

「ほらおにーちゃん、やっぱり笑ってる!」

「えっ、そ、そうか?」

「まさかお兄様、お姉様たちを捨ててAqoursの方々に!?」

「んな訳ねぇだろ。俺は誰も切り捨てたりしねぇことくらい、お前らなら分かってるだろ」

「そうだったね。おにーちゃんは女の子を弄んで自分のモノにするのが好きだもん!」

「その言い方やめろ。ニュアンスが違うだけで合ってはいるけどさ……」

 

 

 こころとここあのようなガキに煽られるほど、俺のアイツらを見る目って変なのか……? だがアイツらとの思い出に浸っていると、勝手に自分の中で楽しかった記憶が蘇り、自然と笑顔が零れてしまう。確かに傍から見られると不気味な奴と思われるかもしれないが、思い出を振り返りながら笑顔になれるって、凄く幸せなことじゃないか? アイツらとの出会いが出会いだっただけに、楽しい思い出をたくさん作れたことが嬉しいんだよ。

 

 しかし、これまでの思い出だけで満足できる訳がない。今も、これからも、アイツらとはこれまで以上の思い出を作りたい。そのためには、俺たちの関係を最後まで前進させる必要がある。まぁ、その決意は決勝ライブを観た時から既に固まっていたんだけどな。決勝のラストライブを観て、その決意がより強くなった。何度でも言うけど、女の子ってすげぇよやっぱ。俺の心をここまで滾らせるなんて。もう変態なまでに女の子好きだと罵られようがどうでもいい、俺は俺に恋をしてくれる女の子が好きなんだよ。

 

 

 そうやって自分の想いと再び向き合っている間に、Aqoursのライブも終わった。これでスクフェスで開かれるライブは全て終了し、後は結果発表を残すだけとなった。順位付けの方法はこれまでと同じく審査員と観客の投票で決まる。どのグループのライブもこれまでのライブを上回るほどの熱狂を生み出したため、観客の票はまた大きく割れることになるだろう。

 

 

「おにーちゃんはどのグループに投票するの? やっぱりμ's?」

「さぁて、どうかな?」

「さっきAqoursの方々のライブを観て楽しそうでしたし、Aqoursさんですかね?」

「どれだけ詮索したって言わねぇよ。もう決まってはいるけどな」

「えーーっ? 誰に投票するの? 教えて教えて! 私の投票するグループも教えるからさぁ~」

「どうせにこがいるμ'sだろお前は。何を言われても内緒だから」

「お兄様が私たちに無理矢理しゃぶらせてきたことを公表すると言っても?」

「ぐっ……。そ、それでもダメだ」

「なるほど。お兄様が皆さんを想う気持ちはそれだけ堅いってことですね。うん、合格です」

「なんで試されてんの俺……」

 

 

 コイツら、俺たちの事情を何も知らないくせに……。そうは言っても、俺の様子を見ていればアイツらのことをどう想っているかくらいは察せるか。この2人ともいつかそんな関係になる時が来るのかもな。

 

 さっきも言った通り、どのグループに票を入れるかはもう決まっている。μ'sもAqoursも虹ヶ咲も、俺にとって大切な子たちだから、誰に投票するかなんて選べない――――なんて甘ったれた考えはない。アイツら自身がお互いにお互いを尊重しつつ競い合ってるんだし、どのグループにも票を入れないなんてことをしたらアイツらの気持ちを無視してしまうからな。

 

 

 そして遂に、運命の結果発表が行われる。投票時間や休憩時間を考慮するとライブ終了後からかなりの時間が経っているのに、会場の熱気は未だ収まっていない。むしろこれから開示される結果に向け、観客の興奮もまた上がってきたようだ。決勝ライブが始まってから相当な時間が経っているのにまだここまで騒げるとは、やはりドルオタの体力って半端ねぇよ。こころとここあもずっと興奮しっぱなしで、さっきから延々とライブの感想を2人で語り合ってるしな。なんか羨ましいよ、その持久力。俺もこれから訪れる運命の瞬間のために気を引き締めないと。

 

 決勝のラストライブまで勝ち抜いたスクールアイドルたちと、司会のスタッフがステージに上がる。

 いよいよだ。いよいよスクールアイドルの頂点が決まる。各々の想いが交錯し、お互いに高め合い競い合ってきた結果が間もなく明かされる。アイツらも観客も、そして生放送で会場の様子を見ている人も、みんなが緊張の一瞬だ。

 

 

「3日に渡ったスクールアイドルフェスティバルですが、遂に最後の結果発表となりました。栄えある優勝に輝いたのは――――――!!」

 

 

 前振りはほとんどなく、司会の一言で巨大モニターに映っていた画面が切り替わる。

 そこに映し出されたのはもちろん優勝のグループ名。最終ライブを突破したグループ発表の時と同じく、会場は一瞬だけ静寂に包まれる。

 

 

 世界に自分たちの魅力と輝きを一番伝えられたグループ。それは――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 結果発表後、会場の雰囲気は大熱狂と言わんばかりの興奮で満ちており、スクフェス全てのイベントが終了した後でも盛り上がりは色あせていない。それに昨今は実際の会場で盛り上がった後にSNSで感想会をやる流れが定番なので、今頃はネットの世界でスクールアイドルたちの栄光が全世界に伝えられていることだろう。

 

 そんな中、俺は誰もいない一室のソファに腰を掛け、アイツらが戻ってくるのを待っている。

 ライブが終わったみんなに声を掛けてやりたいのは山々なのだが、あんな大勢に対して一度に自分の気持ちを伝えられる訳がない。だから他の2グループにはあらかじめ後で合流するとだけ連絡を入れ、俺はそれ以外、言ってしまえば優勝したグループの控室に来たのだ。

 

 アイツらが今頃どんな顔をして、どんな気持ちでここへ戻ってくるのか、全く想像できない。笑顔でいるのか泣いているのか、それとも意外と冷静でいるのか、想像するだけでも微笑ましくなってくる。もちろんどんな感情を抱いていようが、俺はアイツらを祝福し、そしてやるべきことをやるだけだ。

 

 

 そうだ、俺はこの時をずっと待っていたんだ。

 

 

 間もなく、控室の扉が開く。

 そこには最終ライブを終えた女の子たちが、自分と共に輝いたステージ衣装を纏って集まっていた。

 

 

 その子たちは、部屋にいた俺の姿を見て言葉を失っているようだ。

 

 

 今こそ―――――

 

 

 

 

「優勝おめでとう」

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 果たして優勝したのはどのグループなのか……って、話の流れから分かりそうなものですが予想してみてください(笑)


 スクフェス編は次回で完結。その後、後日談を数話投稿してこの小説自体も完結予定です。
 次回が遂にクライマックスなので、零君たちの物語もこれで一区切りとなります。なんか安心したような寂しいような……





新たに☆10評価をくださった

南ことりの自称弟さん、sin0408さん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

恋空Jumping Heart

 遂にスクフェス編が完結!
 スクフェスで優勝したグループとは? そして、零と()()()()()との関係は……?


「優勝おめでとう」

 

 

 自分たちの控室に俺がいるとは思わなかったのか、みんなは目を丸くしてその場で立ち尽くしている。

 彼女たちが今どんな気持ちなんだろうか。優勝できて嬉しいのか、感動で泣き出しそうなのか、未だに信じられないのか、表情を見ただけでは分からない。ただ最終ライブに全力を注いだってことは、彼女たちの汗や荒い息で感じることができた。夏で気温が高いからという理由ではなく、彼女たちがスクフェスに魂を賭けていたことは観客席からでも伝わってきたことだ。そんな彼女たちに真っ向から対面したとなれば、その気迫は嫌でもこちらに伝染する。

 

 本当に、良くやったよ。

 

 

「さっきから黙ってどうしたんだ? まだ現実を受け入れられないのか?」

「あ、あの、その……な、涙が……うぅ」

「お前、最近俺と会うとよく泣くよな。なんか俺がお前を泣かせてるみたいじゃねぇか」

「だって、だって……せんせぇ……」

「ま、今回は泣きたくなってもしょうがねぇよな――――()()

 

 

 決勝ライブ開始前に、最終ライブ開始前、そして最終ライブ終了後と、俺が記憶しているだけでも今日は計3回くらい泣いてる気がする。涙脆いのは感受性豊かでいいとは思うし、結果的にそれが千歌の力となっていた訳だから、咎める必要は全くないけどね。

 

 そう、見事スクフェスで優勝を掴み取ったのはAqoursだ。もちろんあり得なくはないと思っていたが、レジェンドスクールアイドルと呼ばれるμ'sや、スクフェスの事前投票で1位だった虹ヶ咲を退けたのが事実となった今、ただただ驚くばかりだ。しかしこれも彼女たちの実力であり、他の2グループよりも自分たちの想いがより多くの人に伝わった証拠だ。

 

 俺と千歌の会話に触発されてようやく落ち着いたのか、みんなの肩の力が緩くなった。各々溜め込んでいた感情が、言葉となって一気に吐き出される。

 

 

「千歌ちゃん、優勝の文字を見てからずっと泣きそうだったもんね。そう言ってる私も我慢できそうにないけど……。まさか先生が観ている前で優勝できるなんて……」

「千歌ちゃんと梨子ちゃん、ここに帰ってくるときも2人で手を繋いでたの気付いてる? 泣きそうになってたけどとっても嬉しそうで、私はどちらかと言えば笑顔になれたかな」

「梨子も曜も、思っていることは千歌と同じか。でもいいんじゃないか、今日くらい感情を思いっきり見せつけてもさ」

 

 

 いつもは冷静に千歌の制止役として活躍している梨子も今回だけは感動を抑えきれず、柄にもなく感情的に喜んでいる。それは曜も同じで、やんちゃながらも頭ごなしには喜ばない彼女も、今は漏れだす歓喜に笑みが止まないようだ。これまで苦渋を舐めさせられていた自分たちの努力がようやく実ったんだ、そりゃ気持ちを抑えることなんてできねぇよな。

 

 

「ルビィ、とっても感動しました! これだけ多くの人に注目されて、ようやくルビィも一人前のスクールアイドルになれたんだって思うと嬉しいです……!!」

「マルも、自分がここまで輝けるなんて想像もしていなかったです。目立つのはあまり得意じゃなかったけど、今ではまた皆さんの前でステージに立ちたいと思います!」

「わ、私は別に余裕だったけどね! むしろようやくヨハネの魅力を全国に伝えることができて、下界を支配できたって感じ?」

「んなこと言って、口角上がってんぞ? こんな状況なんだから、嬉しいなら嬉しいって素直に言えばいいのに」

「だ、堕天使は高貴な存在なの! たかが優勝くらいで舞い上がるなんて……」

 

 

 スクールアイドルの頂点に立ったことに感動しつつもキャラを崩さないとは、ある意味で恐れ入ったよ。まあ舞い上がっているからこそキャラ付けで誤魔化しているのかもしれないな。

 花丸とルビィは出会った頃の性格を踏まえると、客前のステージに上がりたいと自分から言い出すこと自体が大躍進だ。最近は俺に対して積極的な行動が多く見受けられたが、その勇気はスクールアイドルによって培われたものらしい。またはその逆で、俺との関係性が進展したことによって、スクールアイドルとしてのスキルもアップしたのか。どちらにせよ、引っ込み思案だった彼女たちが人前でここまで輝けるなんて、眩しすぎて俺の目が焼けそうだよ。

 

 

「私たち、ずっと夢だったんですよね。ダイヤと鞠莉と、こうしてステージに立ってライブをすることが。今は千歌たちも一緒で、共に夢を叶えることができたことが嬉しいんです」

「そういや、最初はお前ら3人でスクールアイドルをやってたんだっけ。一度断念した夢を掴み取れて良かったじゃねぇか」

「それだけじゃなくて、先生にもやっと私たちの想いを伝えられらことが感激だよ! 私たちの気持ち、先生のHeartに届いた?」

「あぁ、十分すぎて零れ落ちそうなくらいにな」

「Aqoursとしての目的は終わっていませんが、スクフェスでの目標は全て達成できました。夢も想いも、どちらも形になりましたし。これも、先生のおかげですわ」

 

 

 Aqoursの目的は学校の統廃合阻止なので、本番はこれからだろう。いくら優勝したとは言え、その余韻に浮かれてばかりではないってことを理解してるみたいで良かったよ。ま、グループ内でその意識が根付いてるなら、もしかしたらこの先もまた奇跡を起こせるかもな。

 

 もちろん、今この現状を喜ぶなとは言わない。果南たちにとっては念願の大舞台であり、一度は挫折したスクールアイドルで優勝まで漕ぎ着けられたことは千歌たち抱く喜びよりも大きいだろう。しかも今回は3人ではなく9人で、学校の存続を背負ったり、想いの人が観ているという特殊な状況ながらも、こうして優勝できたのは自分たちの気持ちが強くなったからかもしれない。学校を救いたい、千歌たちと一緒に輝きたい、そしてとある人に想いを伝えたい、そんな気持ちがな。

 

 それに、想いを伝えたいのは俺も同じだ。決勝ライブの結果がどうであれ俺の気持ちが揺らぐことはないが、スクフェスの看板を持ち帰ってくるなんてシチュエーションは他にはないくらい最高だ。ま、どうせ気持ちを伝えるなら、相手の凹んでないと時の方がいいしな。優勝して和気あいあいとしている今こそ絶好のチャンスだろう。

 

 

「俺さ、人生であそこまで興奮したことってなかったんだ。μ'sや虹ヶ咲のライブを観て心が躍らなかった訳じゃないけど、お前たちの輝きは別格だった。最初は浦の星で別れてからどれだけ成長したかなぁと親のような気分でいたけど、いつの間にか1人のファンとして盛り上がってたよ。自分で言うのもアレだけど、俺って冷めてるから何かに感動すること自体があまりないんだよな。でも俺の心はお前たちに動かされた。だから今回の優勝は、お前らが思っている以上に誇っていいと思うぞ」

 

 

 俺の人生を変えるほどの感動を味わった経験は何度かある。μ'sの旧メンバー9人との血生臭い争いを解決した時や、μ'sの解散ライブ、アイツらやシスターズと結ばれた時が俺の中のトップ3だ。そして今回、その感動劇に新たなページが追加された。高校を卒業してからもμ'sと一緒にいたから、もうアイツら以外とは思い出を作れないだろうと思っていたからこその感動もある。久々に心を揺れ動かされ、沸き立つ感情を抑えきれなくなりそうだった。やっぱりいいよな、女の子たちが笑顔で輝いてる姿ってのはさ。

 

 そして、感動したのはライブだけではない。千歌たちの気持ちがライブそのものとなり、こちらに伝わってきたことが何よりも嬉しかった。

 

 

「お前たち1人1人の魅力も、Aqours9人としての輝きも、しっかり堪能させてもらったよ。浦の星で別れる時に、屋上で俺が言ったことをこんな短期間で実践してくれるなんて思ってなかったから、ちょっと、いやかなり驚いてるけどな。でもそれだけ、お前たちは俺に自分の気持ちを伝えたかったってことだろ? そう考えたら俺も嬉しくなっちまって、いつの間にか、お前たちにのめり込んでた」

 

 

 千歌たちは黙って俺の話を聞いている。スクフェスを制し躍動感がいっぱいのはずなのに、こうして何も言わず耳を傾けているあたり、コイツらにとっても大切な話の前置きだってことは理解しているのだろう。俺の本心を最後に聞いたのは浦の星で別れる前だから、もうかなり前のことだ。そりゃ心待ちにもするわな。

 

 

「練習の指導をしたりライブを観たり、一緒に何気ない日常を過ごしたりと、お前たちの魅力を感じたことは何度もあった。だけど、決定的に俺の気持ちが変わったのは一昨日のことだよ。ほら、虹ヶ咲と秋葉の一件で絶望のどん底にいた俺を、お前たちが引っ張り上げてくれただろ? 自分たちの先生なのにあそこまで親身になってくれるお前たちの気持ち、それが嬉しかった。そしてその時に気付いたんだ。俺は――――――お前たちのことが本気で好きになったんだって」

 

 

 千歌たちは俺の言葉を聞いた瞬間に身体がピクリと動いた。

 俺が千歌たちに教師生徒の関係ではなく、男女の関係になりたいと匂わせていたことくらいはコイツらも分かっていただろう。だが、匂わせていただけでこうして言葉として口に出すのは初めてだ。だからこそ、俺からの告白に身体で反応してしまったのかもしれない。コイツらにとっては待ちに待った、念願の告白だろうから。

 

 俺自身、教育実習をしていた頃から彼女たちのことが気になっていた。でもそれを伝えるのは彼女たちが個々人として、そしてグループとしてもっと魅力的になってからだと決めていたんだ。そして、Aqoursは俺の希望を全て叶えてくれた。スクフェスの看板を持ち帰り、これ以上にない最高のシチュエーションが出来上がったのだ。

 

 

「正直、お前らがここまでやるとは思ってなかったよ。期待していなかった訳じゃなくて、俺の期待以上って意味でな。俺の見たかったお前たちの輝きは想像以上に眩しくなって、俺の心を惹きつけた。そして、俺を優しく支えてくれるその想いに、俺自身の生き方も感化された。お前らがいなかったら、今の俺はいなかったと思う。そうだ、言ってなかったからここで伝えておくよ。ありがとう」

 

 

 俺が秋葉の罠や悲痛な過去を乗り越えられたのは、間違いなくコイツらのおかげだ。俺を再起させてくれたこと、そしてなにより、俺の心をここまで理解してくれる女の子たちがいることに感動した。μ'sでも同じことができたかもしれないが、それではただ救われただけで話が終わっていただろう。今回は俺が面倒を見てきたAqoursに逆に助けられ、共に成長したという感動がある。自分はコイツらを導く立場の存在だと思っていたが、いつの間にか俺の隣にまで追いついていたんだな。そう考えると感慨深いものがあるよ。

 

 ここまでずっと黙っていた千歌たちだが、その表情に変化が見え始めた。頬をじんわりと赤くする者もいれば、自然と笑みが零れるもの、目尻に涙を溜めている者など、もう少しでも突っつけば感情が声となり行動となり飛び出してくるだろう。

 

 

「俺は、そんなお前たちともっと一緒にいたい。μ'sとあんな関係なのに、まだ女の子を求めるのかと罵られても構わない。俺は、お前たちが欲しいんだ! 1人残らず、9人全員が欲しい!」

 

 

 正直なところ、告白のセリフなんて前もって考えていなかった。だからなのか、こんな大切なシーンなのに欲望塗れのセリフしか出てこない。女の子好きという最悪な性格が災いしてか、かなり上から目線の告白となってしまった。ただ、これが俺の本心なのは変わらない。

 

 それに、やってしまったとは思わなかった。

 それは、コイツらの表情を見ていれば分かることだ。

 

 

「おい、千歌。涙で顔が大変なことになってるぞ……?」

「ぐすっ、だって、や、やっと、先生の気持ちが聞けて嬉しかったので……。私も大好きです、れ、れ……零さん!」

「!? お、お前……」

 

 

 これまで縺れ合っていた(たが)が、ようやく外れた。過激なスキンシップ……までとは行かないけど、身体を触れ合うくらいには沼にハマった仲なのに、唯一名前で呼べないことだけが俺に対するAqoursの課題だった。たった2文字の名前を呼ぼうとするだけでも多大な緊張に苛まれ、言葉を発することができなくなる。それが今までの彼女たちだった。

 

 だが、その課題すらも乗り越えた。

 ただ名前を呼ばれただけなのに、ここまで心に響くとは……。でもこれで、ようやく対等な関係になれた訳だ。これまでも教師生徒の垣根を超えるくらい親密な仲だったけど、呼び方1つでお互いが急接近した気がするよ。

 

 そして、千歌の言葉をトリガーにみんなも緊張が吹っ切れたようだった。

 

 

「私たちが欲しいって、如何にも零さんらしいですね。μ'sさんもいるのに、私たちとまで付き合っちゃっていいんですか?」

「それが俺だからな。お前の答えはどうなんだ、梨子?」

「もちろん、聞かれるまでもなくOKですよ♪」

 

「ようやくこの時が来たんですね……。零さんに応援されると水泳もアイドル活動も頑張ろうと思えるので、私が輝いてる姿、もっとも~っと魅せちゃいますよ!」

「俺も曜の明るさにはいつも元気をもらってるからな、期待してるよ」

 

「夢じゃない……? 本で読んだようなフィクションでもなく、零さんと本当に本当ずら……?」

「本当だよ。俺たち、やっと1つになれたんだ」

 

「ルビィも、まだ現実を受け入れられません……。引っ込み思案だったルビィを零さんが変えてくれて、ここまで輝かせてくれて、しかも1つになるなんて……」

「最初はステージに立つだけでも気絶しそうだったもんな。でも、よくここまで頑張った」

 

「別に私はアンタのことなんてどうでもいいけど、アンタがそこまで私のことが好きならこれからも一緒にいてやらなくもないわ。あと、その……ありがと……零」

「あぁ、どういたしまして。最後にお前の素直な気持ちが聞けて嬉しいよ」

 

「まさかAqoursのみんなで零さんとずっと隣にいられるなんて、嬉しすぎて逆に冷静になっちゃいますね……。夢も想いも、両方叶えることができて良かったです」

「両方を叶えるなんて、お前らもいい意味で欲張りだな。まぁ何かのために何かを犠牲にするなんて、そんな寂しいことしたくねぇよ」

 

「果南さんと鞠莉さんと、こうして夢を叶えることができたのはあなたのおかげです。そ、それに、私も皆さんに負けないくらい零さんのこと……す、好きですから……」

「ありがとう。こうして気持ちを伝え合えて、本当に良かったな」

 

「みんなで零とお付き合いするなんて、とっても面白いわね♪ これからの人生がexcitingになる予感……!!」

「あはは、お前らしいな。でもそれでみんなが幸せなら、それでいいじゃねぇか」

 

 

 みんなも自然と俺のことを名前で呼べるようになっており、これでようやくみんなとも対等な関係になることができた。今までお互い近くにいるのにも関わらず、教師と生徒の間柄ってだけで途方もなく遠い関係に見えたからな。今回でその柵を全て取り払うことができて安心したよ。これで教師だから生徒の女の子を……なんて気にする必要もなくなった訳だ。言い方は悪いけど、お付き合いしてる仲なんだから何をしたって周りから文句は言われないってことだろ?

 

 遂に俺たちの想いは1つとなり、結ばれることができた。千歌たち個人に向けての想いは、浦の星の屋上で語った時と変わらず。Aqoursとしての想いは、俺の期待以上の輝きを見せてくれたおかげで、見事に心を動かされた。いつかはこの関係になると分かっていたけど、いざ告白しようとするとどこか不安にもなるし、緊張もする。だからこそ、みんなが笑顔で俺の気持ちを受け止めてくれて安心したよ。

 

 

「優勝もしたし、零さんとも1つになれたし、これ以上に幸せなことはないよね! さっきからテンション上がりっぱなしだから、今からまたライブをしたいくらいだよ!」

「千歌さん、安心するのは早すぎますわ。私たちAqoursの目的は、浦の星の統廃合を阻止すること。入学希望者が集まるかどうかはこれからなんですから」

「むぅ~ダイヤさん頭堅い! 今日くらい喜んでもいいじゃないですかぁ~!」

「油断大敵という言葉があります。浮かれるのもいいですが、やるべきことはしっかりやるべきですわ」

 

 

「相変わらず千歌は千歌で、ダイヤはダイヤだね」

「でも、これがいつもの日常って感じがしていいんじゃねぇか? そしてこれからはもっと楽しくなる。いつまでも浮かれ気分でいるのもダメだし、かと言って今の喜びに浸るなとも言わないけど、お前たちが自分たちの魅力を磨き、今よりももっと輝けば自ずと結果は付いてくるから」

「零さんにそう言ってもらえると、なんだかできるって気がしてくるずら!」

 

 

 Aqoursとしてスクフェスに出場した目的は、この瞬間に全て達成された。スクフェスでAqoursと浦の星をアピールして入学希望者を募ること、もう1つは俺に自分たちの成長と輝きを伝えること。どちらも見事成し遂げたコイツらなんだ、もしかしたら本当に学校を救えるかもしれないな。

 

 そして、俺たちの日常も大きく変化することになる。ただの教師生徒の関係から、まさかの恋人同士の関係に。μ'sのみんなにもまともに説明しないままAqoursとの関係を持っちまったし、こりゃ明日から今まで以上に騒がしくなるかも……。でもまぁ、そんな賑やかな日常を楽しみにしている俺もいるけどね。

 

 

 

 

 自分たちのやるべきことを全てやり遂げ、幸福と笑顔に満ち溢れている千歌たち。目標のためにひたむきに努力する女の子の姿はいつ見ても良い。女の子が笑顔で輝けば輝くほど、俺自身も幸せで満ちる。そんな俺をこんな気持ちにさせているんだ、すげぇよコイツらは。教師生徒の関係のせいで上手く伝えられない想い、学校の存続を背負う、憧れのスクールアイドルがライバル、自分たちと同級生であるスクールアイドルが想いの人と痛烈な過去を持つ等々、コイツらにとっても乗り越えるべき課題は多かっただろう。

 

 だが、コイツらはやり切った。どんな問題やライバルが出てきても屈せず、しかも俺を絶望から救うという大手柄を上げ、自分たちの想いを貫いた。Aqours9人としての力、たっぷり実感させてもらったよ。これからももっと俺の心を興奮させてくれ。

 

 

「先生! 打ち上げしましょう打ち上げ!」

「先生……?」

「あっ、一緒に打ち上げをしましょう――――零さん♪」

 

 

 いい笑顔だ。

 どれだけの時が経とうが、この笑顔には一生惚れ続けるんだろうな。

 




 1年半にも渡ったスクフェス編ですが、これにて完結です!
 言ってしまえばいつも通りのハーレムエンドな訳ですが、私は女の子全員がハッピーエンドになる話しか描けないので仕方のないことです(笑) でもこの小説の読者さんもそのエンディングが目当てで読んでくださっていると思うので、今回も皆さんの期待に思いっきり応えられたと思います!

 とは言え、スクフェス編は完結しましたが、まだ最終回ではありません。
 今後は後日談を数話投稿する予定で、それを最終回にしようと思っています。(後日談は2~4話ほど投稿予定。何話になるかは未定)

 スクフェス編だけでなく『新日常』の物語としては完結しましたが、残り僅かな零君たちの活躍を是非最後までご堪能ください!




新たに☆10評価をくださった

チアトさん、弐式水戦さん

ありがとうございます!
まだ評価を付けてないよって方も、よろしければ今回を機に評価を付けてくださると嬉しいです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

"あれから"と"これから"

 今回はスクフェス編の後日談を、ほのぼのとした会話で描きます。
 今思えば、スクフェス編はシリアスや恋愛といった緊張感のあるシーンが多くあり、今回のようなゆったりとした雰囲気はもはや懐かしいです(笑)


 

 スクールアイドルフェスティバルの終幕から1週間ほどが経過した。

 スクフェスの盛り上がりによって沸き立っていた熱気も収まり、スクールアイドルたちは再び各々の日常に戻っていた。周りにスクールアイドルしかいない俺からしてみれば、みんなの雰囲気が一週間前と今では雲泥の差であることが伝わってくる。ライブの余韻に浸ってほのぼのとしている奴もいれば、当時の熱気に触発され自分の夢に向かって今まで以上に努力している奴もいる。何にせよ、誰にとってもスクフェスは通過点でしかなく、各々の目的や夢を叶えるための礎でしかない。そう考えると、何もかもやりきって満足している俺が一番ダラダラしているのかもしれないな。

 

 そう、俺は相も変わらず燃え尽き症候群に陥っている。μ'sやシスターズに告白した後もこんな感じだったから、何か1つ大きな課題を乗り越えた後は自然とそうなってしまうらしい。俺だってみんなとの関係が一歩前進したんだから、いつもとは違う日常を過ごしたいと思ってるよ? でもさ、女の子に告白するのってすげぇ勇気がいるじゃん? もう何年も大勢の女の子と一緒にいるが、畏まった態度で気持ちを伝えるのはいつになっても緊張する。だから告白が成功した後は削りに削った神経から疲労が溜まり、その後の数日間はぼぉ~っとしちゃうんだ。それに、今回は秋葉と虹ヶ咲の一件もあったしな。あんなシリアスな状況で戦ってたんだ、そりゃ精神も擦り切れるって。

 

 

「零君ってば、歩くの遅い! 緊急なんだから早くしてよ!」

「急に呼び出しておいて命令までするのか、穂乃果……」

 

 

 俺は穂乃果からの電話により突然呼び出され、何故か『穂むら』のために買出しを手伝うことになっていた。どうやら和菓子に使用する材料がなくなりそうだと言うことで、急遽穂乃果が買出しに駆り出されたらしい。しかし1人では到底持ち帰れる量ではなかったので、明らかに暇そうな俺を召喚したって感じだ。

 

 そもそも俺が暇だと勝手に決めつけていることが腹立つ。まぁ実際に燃え尽き症候群のせいで何もする気が起きず、今日も家でニート生活を嗜んでいたんだけどな。むしろ最近は何の用事もなく家にいることが多かったため、外に出る理由を作れたことに関してだけは感謝かもしれない。本人の前では『予想通り、やっぱり暇だったんだね』とか言われそうだから絶対に言わねぇけど……。

 

 そんな訳で、適当に買出しを済ませた俺たちは、現在『穂むら』に帰宅している最中である。

 

 

「零君どうしたの? 最近ずっとテンション低いよね」

「そりゃ立て続けに色んなことがあり過ぎたからな。それが無事に終わって良かったと言うか、安心したっつうか……」

「それって秋葉さんと歩夢ちゃんたちのこと? まさかスクフェスの最中に零君たちがギスギスしてるなんて、穂乃果知らなかったよ」

「なんだ、まだ怒ってんのか? 黙ってたのは悪かったって散々謝っただろ」

「別に最初から怒ってなかったって! どうせ零君のことだから『これは俺と秋葉たちの問題だ』とか言って、穂乃果たちを蚊帳の外にしそうだし」

「何があってもお前たちと一緒に人生を歩むって決めてたけど、あの問題だけは俺が自分の力で解決したかったんだよ」

「でも千歌ちゃんたちには助けてもらったんだよね。ふ~ん、へぇ~」

「やっぱり怒ってるだろお前!?」

「べっつにー」

 

 

 μ'sのみんなはスクフェスの裏で俺たちが何をしていたのか全く知らなかった。俺が何も言ってなかったからなのだが、それをスクフェス後に打ち明けたら当然のことながら大バッシングを受けてしまった。そりゃそうだ、俺たちは運命共同体として人生を共に歩むと誓った仲だ。それなのに俺から何も相談がなく、しかもAqoursには助力を求めたとあれば彼女たちが嫉妬するのは目に見えていた。

 

 だが今回の問題だけは俺が自分の力で解決しなければならないと分かってはくれたみたいで、腑に落ちてはいないが納得はしてくれた。Aqoursとの合同合宿の際に俺と虹ヶ咲の悲痛な過去を知ったが故の納得なのだろう。穂乃果たちには悪いことをしたけど、俺も自分が取った行動に後悔はしていない。結局Aqoursに頼ったと言っても、俺が絶望している最中でたまたま出会っただけだし、それがμ'sだったら穂乃果たちに頼っていただろう。だからμ'sを突き放していた訳じゃなく、たまたまこのような結果になったってだけだ。

 

 まあ腑に落ちていないせいか、最近μ'sのみんなに会うとこうして嫉妬紛いの言動をされるのはもう仕方ないか……。

 

 

「でもビックリしたよ、秋葉さんがあんなことをするなんて。変な人だけど、μ'sの顧問も引き受けてくれたり、雪穂たちのことを気遣って同棲生活を提案してくれたりもしたから、いいお姉さんだなぁと思ってたのに」

「それもアイツにとっては、俺を自分好みの色に染め上げるための作戦だったんだろうな。確かにアイツがしでかしたことは極悪非道だけど、それは自分の欲望を果たすためだけであって、俺たちを気遣う気持ちは別にあったと思うんだ。でなきゃ俺はともかく、お前らに執着したりはしないから」

 

 

 アイツは自分の欲望のために10年以上もの歳月をかけて仕込みをした。しかしそれだけの長い期間、己の欲望のためだけに生きるってのはかなり無理がある。秋葉にとっては戯れだったかもしれないけど、俺たちに色々手を貸していたのは自分の欲望だけじゃない、純粋に俺たちを思っての何かがあったはずだ。結局アイツを篭絡させてからはそれらの話を一切していないため、事の真意は分からない。いつかほとぼりが完全に冷めた時、腹を割って話せるといいな。

 

 

「ヒドい目に遭ったのに、意外と秋葉さんを許してるんだね。穂乃果はもう終わったことだから気にしてないけど、零君や歩夢ちゃんたちからしたら恨んでも仕方ないと思ったから……」

「今のアイツを見ていると、もう何もかも許したくなるっつうか、恨む気にもなれないんだよ。信じられるか? アイツが丸くなるなんて」

「あっ、それ楓ちゃんから聞いたよ。秋葉さん、大学院の研究室から零君の家に戻ってきたんだよね。しかもいつも楓ちゃんがやってる家事の手伝いまでしているとか。そんな家庭的な秋葉さん、穂乃果からしたら驚きしかないよ」

「だろ? 俺だってそうだよ。やっぱり『お前は俺が飼ってやる』発言のせいか……?」

「ん? 何か言った?」

「い、いや何も!」

 

 

 あっぶねぇ……もう少しで弟が姉に対して奴隷になれと命令したことがバレるところだった。肉親にそんな発言をするとか、もはや変態の次元を超えている。あの時は秋葉を言い包められたことに愉悦を感じたせいでそんなセリフを吐いてしまったが、今思えば調教モノの同人誌かってくらい最悪の発言だった気がする。今でも自分はかなりの鬼畜野郎だと思うけど、だからこそこれ以上みんなに変態のレッテルを張られたくないから黙っているんだ。

 

 それにしても、秋葉が家に戻ってくると連絡してきた時は驚いたよ。アイツにとっては研究室が家のようなもので、俺の家に帰ってくるのは決まって悪戯をする時か長期休暇の時だった。これも俺との一件による心境の変化なのかねぇ。最近俺に笑顔を向けることが多くなったと言うか、やたらと世話を焼かれるんだが、もしかしてアイツ……? いや、流石にそれはねぇか……多分。

 

 しかし何にせよ、秋葉の性格が丸くなったのは好都合だ。これからは波乱に満ち溢れない日常を送れると思うと、俺の未来も明るいな……多分。とは言いつつもアイツのことだから油断ならねぇと思うのは、これまでの人生で無駄に鍛えられてしまった本能のせいかもしれない。

 

 

「そう言えば歩夢ちゃんたち、打ち上げに来れなくて残念だったね。せっかく決勝を戦った仲なんだし、もっとお喋りしたかったなぁ」

「来れなかったと言うより、自ら来なかったと言った方が正しいけどな。アイツらはμ'sやAqoursよりもこのスクフェスで優勝することに熱を燃やしてたから、悔しいって気持ちもあったんだろうよ。本当の親もいなくて、生まれ育った施設も失ったから、アイツらにとってはスクールアイドルしかなかったんだ。その全てをかけたライブで負けたとあれば、お前らと違ってショックもあるさ」

 

 

 歩夢たちにとっては、俺に自分たちをアピールすることが人生の全てだった。親も施設も失ったアイツらにとって、心の拠り所は俺しかいなかったんだ。今はみんな養子として引き取られ幸せな家族生活を送っているが、命の危機から救ってくれた俺に対しては一生の恩と愛を抱いている。だからこそ、アイツらはμ'sやAqoursよりもスクールアイドルに情熱をかけスクフェスに挑んだ。大舞台で自分たちの魅力を俺に見せつけるためだけの、真っ直ぐにしてブレない愛をライブによって示した。

 

 結局優勝はAqoursに譲る形となってしまったが、アイツらの想いはAqoursと同じくらい俺の心を揺さぶった。辛い過去を乗り越えて再び輝こうとするその姿に感動を覚えたくらいだ。今はまだその想いに対して俺から応えは出せないけど、アイツらがもっと魅力的になった際にはきっと――――――

 

 最後に虹ヶ咲メンバーに会ったのは決勝ライブ後の一度だけであり、それ以降は会っていない。そこで彼女たちは『零さんに見合う人になって帰ってくる』とだけ宣言して、あまり会話もできず解散した。悔しがっている様子は隠しきれていなかったし、別れのセリフとしては淡々としていたが、それはそれでアイツららしいので俺は引き止めはしなかった。愛する人のために自分たちの魅力を最大限に高め、また大舞台でライブとして披露する。まさにアイツらっぽい方法じゃないか。今後の成長が楽しみ過ぎる別れ方をしたので、アイツらには期待してばかりだよ。

 

 

「歩夢ちゃんたちとのライブも楽しかったし、またμ'sとして一緒にステージに立ちたいよ! また戻ってきてくれるかな?」

「戻ってくるよ、アイツらなら絶対に。それに、戻ってきてもらわないとおちおち話もできねぇから。せっかく再会したのに、結局ま日常会話すらもまともにできなかったしな」

「戻ってきた時には、零君の周りにまた女の子が増えてそうだね。賑やかになって楽しそう♪」

 

 

 俺の周りに女の子が増えることを喜んでるなんて、俺もそうだけどコイツも相当常軌を逸してるよな。だってさ、俺と穂乃果って忘れがちだけど付き合ってるんだぞ? それなのにも関わらず、俺に親しいどころか恋人関係になる女の子が増えても動じない。まあ最初からμ'sの旧メンバー9人と同時に付き合い始めたこと自体が奇想天外だし、穂乃果たちも既に慣れているのだろう。社会的にやべぇことをしているのに、それを平然と受け入れてる俺たちって相当変人なのでは……? ま、そんなことは今更か。

 

 

「あっ、そうだ! Aqoursのみんなとは最近どうなの? それが一番聞きたかったんだよ。あれから一週間経つけど、もうデートとかしちゃったり??」

「あぁ、それは……」

「えっ、まだなの!? 肉食系の零君のことだから、もうとっくに手を出してるものとばかり……」

「あのな、人を所構わず女の子を襲うチャラ男みたいに言うな。俺はシチュエーション派だって何度も言ってるだろ……」

「それは冗談として、本当に何もしてないの?」

「まぁな。ほら、もう高校の夏休み終わったし、内浦に帰っちゃったんだよアイツら」

「あぁ、なんとな~く察したよ……」

 

 

 スクフェスの開催は8月末、つまり高校生にとっては夏休みの最後の3日間だった訳だ。だから決勝ライブが終わり打ち上げをした後は、名残惜しかったがアイツらと別れることになってしまった。もちろん学業が優先なので無理に引き止めたりはしなかったものの、あんな壮大な告白をして次の日には離れ離れってのはあまりにも寂しすぎる。

 

 

「だったら、零君が向こうの学校に遊びに行ってあげればいいんじゃない? 山内先生もいるし、生徒さんたちも零君のこと興味津々なんでしょ? 絶対に歓迎されるって!」

「興味津々どころか、学内SNSでは常に俺の話題で持ち切りなくらい思春期全開の奴らだぞ。急に行ったら大騒ぎになるに決まってる。それに千歌たちとはほぼ毎日連絡を取り合ってるっつうか、練習のアドバイスなんかもしてるから、交流が途絶えてる訳じゃないよ。まあ実際に顔を合わせてないから、寂しいのは変わらねぇけどさ」

 

 

 俺の時間が空いている時は、タブレットを通じたテレビ会議で千歌たちとミーティングをしている。だがそれで顔を合わせているとは到底言いづらく、ミーティングなのにアイツらが東京に来る日程相談で話が脱線することもしばしば。一応アイツらとはお互いに告白し合ってOKを貰った仲であるが、恋人らしいことをしているかと言われたら一度もしていない。これでアイツらの欲求不満が爆発して、かつてのμ'sみたいに頭がおかしくなったりしなきゃいいが……。恋する女の子ってマジで怖いからな、一触即発だよ。

 

 しかし穂乃果の言う通り、こちらから向こうに出向くのはありだ。浦の星の女子生徒のほとんどにフラグを立ててしまった関係上、学校に入った途端に揉みくちゃにされるのは仕方ないと割り切るべきか。浦の星は女子高で田舎だから、若い男が教師としてやって来ること自体が珍しかったらしく、ありがたいことに多くの女子生徒から目を付けられてしまった。これでAqoursといい関係になっているとバレたら、もはや学内SNSは大炎上だろう。そう考えるとやっぱり行くの怖くなってきたぞ……。

 

 

「俺からも聞きたいことがあるんだけど、結局μ'sはこれからどうするんだ? これを機に別のライブに出てみるとか考えてんのか?」

「うぅん、μ'sはまた解散。みんなはみんなの夢があるし、スクフェスが終わったらそれに向かって突き進んで行こうって最初から決めてたからね」

「そっか」

「あれ、もしかして零君……寂しい? 久しぶりに穂乃果たちのライブを観て感動して、また観たくなっちゃった??」

「そりゃまた観てみたいとは思うけどさ、お前らが夢を叶える姿をそれはそれで見てみたいんだ。だからお前らの好きにすればいい。それにμ'sのライブが観たくなったら、俺のためだけにライブを開いてもらうから覚悟しとけよ」

「いやぁ相変わらず零君は女扱いが荒いよねぇ~」

「その言葉、絶対に誰の前でも言うなよ……」

 

 

 俺が女の子に対する扱いが雑なのは、それだけ周りの子たちを信用しているからだ。ツンデレは愛情の裏返しみたいな、そんな感じ。ことりたちのような淫乱ちゃんをぞんざいに扱うのも、ご主人様気取りで傲慢に振舞うのも、可愛い女の子たちに囲まれていることに愉悦を感じるのも、全部みんなが好きだからこその言動だ。だから周りに女の子がたくさんいるからと言って、誰かを切り捨てるような荒い扱い方は決してしてねぇからな? むしろこちらから全員を抱きしめて回ってやるっつうの。

 

 

「そんな訳で、穂乃果もこうして『穂むら』を継ぐために修行を再開したんだよ。スクフェスの練習で休んでいた分、今まで以上に頑張らないと!」

「珍しいな、お前がそこまでやる気になるなんて。いつもは和食をボイコットしてるのに」

「確かに和食や和菓子は飽きたけど、作るのは小さい頃から好きだったからね。これが穂乃果のやりたかったことなんだよ。それに雪穂の夢もあるし、穂乃果が実家を継いでお父さんたちを安心させてあげないと!」

「自分のやりたいことをしながら、読者モデルとして活躍する雪穂も激励して、親孝行もしっかりする。お前らしい利他主義的な夢だな」

 

 

 一言で自分の夢と言っても、他人の幸せを勘定に入れてしまうあたり穂乃果っぽい夢である。だがそれでも夢へと続く道をしっかりと見定めているんだから凄いもんだ。こうして他人を幸せに導けるのも、周囲の人たちを自然と巻き込むカリスマ性を持つ者が故の能力だろう。

 

 

「そういえば、零君に夢ってあるの? 穂乃果たちの夢の話はよくするけど、零君の夢の話って全然聞いたことがないなぁと思って」

「夢か……。確かにお前たちの夢を叶えることばかり考えて、自分が何か目標を持って生きてるって実感はないな」

「やっぱり……。だったらさ、今考えようよ! 穂乃果たちを見守ってくれるのも嬉しいけど、穂乃果たちだって零君の夢の手助けをしてあげたいもん!」

「考えるっつったってなぁ……う~ん」

 

 

 穂乃果の無茶振りに既視感があると思ったらあれだ。小学生の頃に先生が『皆さんの10年後の姿を思い描いてみましょう』と言われ、分かりもしない未来を想像させられる状況に似ている。まあ今は俺もそれなりにいい歳だし、この時点で自分の思い描く未来を想像できていない方がマズいのかもしれない。

 

 とは言っても、俺がやりたいことは……うん、やっぱり女の子たちと平和に過ごすこと以外に何もない。みんなが笑顔で俺の隣にいてくれればそれでいい。

 あっ、そうか。それを自分の夢にすればいいのか。相変わらず女の子好き全開で欲望塗れな夢だけど、それが俺のやりたいことなんだ。

 

 

「俺の夢は、みんなが笑顔でいてくれることだ。俺もお前たちも、みんなが幸せと思えるような関係を築くこと。たくさんの女の子たちを手に入れる選択肢を取ってしまった以上、みんなから笑顔を消さないように務めるのは俺の義務でもあり責任でもあり、それに夢でもある。μ'sもAqoursも、虹ヶ咲のみんなも、なんならA-RISEやSaint Snow、こころやここあ、秋葉だって俺の欲望に巻き込んだっていい。もう誰1人として悲しい顔はさせねぇよ。全員残らず俺が手を握ってやる。もちろん今すぐに全員ってのは難しいと思うけど、だからこそそれが俺の夢なんだ」

 

 

 欲望だらけとか、野望に満ち溢れているとか、そんな罵倒は全部褒め言葉だ。今回は秋葉や歩夢たちによって過去に苛まれたが、これからはもう誰にも俺の人生を邪魔させない。自分がいて、周りにたくさんの女の子たちがいる。これが俺の世界なんだ。その世界を守るためにも、そして成長させるためにも、己の夢は絶対に果たしてみせる。

 

 

「思った以上に壮大な夢だね……。でも零君が自分の夢を持ってくれて嬉しいよ。穂乃果も全力で応援するね!」

「ありがとう。まぁお前らは俺の夢を支えると言うより、夢そのものなんだけどな」

「あはは、確かに。それにしても、零君の周りの女の子っていつの間にか多くなったよね。もう女垂らしって言われても言い返せないんじゃない?」

「別に言い返すつもりもないし、むしろ高らかに自慢してやるよ。俺はこんなに可愛い子たちを彼女にしてる、お前らにはそんな力量や出会いもねぇだろってな」

「うわぁ~性格悪い……。だけど、そうやって自信家で胸を張ってる方が零君らしいよ」

 

 

 穂乃果は呆れた面持ちで言うものの、いつもの俺を見られてどこか安心しているようだった。

 そりゃね、女の子たちをみんな笑顔にしたいと思う反面、たくさんの女の子に囲まれている人生を謳歌する自分に酔っているところはあるよ。だって仕方ないじゃん、男なんだし。それに周りにいる子たちのほとんどがスクールアイドルなんだから、有象無象の野郎共に自慢したくもなるって。

 

 

 そんな訳で、これからは夢を叶えるために努力しつつも、自分が今置かれている女の子塗れの状況も最大限に愉しみたいと思う。

 

 変態だとか犯罪者だとかイキリだとか、何を言われたっていい。そんなことを言う奴らを見返すくらい、俺はみんなとの幸せを見せつけてやるからそう思っとけ。

 




 そんな訳で、今回はスクフェス後の零君たちの生活を会話形式ですが公開しました。
 前書きでも言いましたが、ほのぼのとした雰囲気や無気力な零君など、最近では見られなかった光景で執筆している私ですら戸惑っていたのは内緒(笑) しかし、そんな雰囲気だからこそまた1つのお話が終わったんだと実感できますね。嬉しいような寂しいような……



 次回、遂にこの時が―――最終回の前編です。



新たに☆10評価をくださった

かささかさん、本好きたけちーさん、ネインさん

ありがとうございます!
もうすぐ最終回! まだ評価を付けてないよって方も、よろしければ今回を機に評価を付けてくださると嬉しいです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【最終話】ハーレム・ハッピー・エンド(前編)

最終回3本立て、今回は1本目です!
最終回と言っても、いざ執筆してみると内容がいつも通りで変わらず……()


「千歌。お前何してんだ……」

「えへへ、来ちゃいました♪」

 

 

 朝起きたら高海千歌に添い寝されていたという、善良な男子なら誰しもが羨む状況になっていた。しかもただ添い寝されていただけではなく、薄いシャツ1枚で俺を抱き枕にして、発達過程の思春期ボディをこれでもかと言うくらいに押し付けている。高校時代の俺なら思春期が故の性欲が爆発して、相手の有無を言わせず襲っていただろう。それくらい今の千歌の格好は扇情的だった。

 

 だが、俺はもう立派な大人。千歌たちとの教師生徒の壁はある程度取り払うことができたとはいえ、彼女たちの顧問を続けていることに変わりはない。だから顧問が教え子を襲ったり、増してや欲情したりなんて――――――

 

 

 するに決まってんだろ!!

 

 

 なんだよこのカラダ!? 幼さが残る顔をしてるくせに身体だけは肉付きが良く、抱きしめたいと思うほどに見てるだけでも柔らかそうなのが分かる。やはり田舎育ちで活発な女の子は身体もワガママに育つのか。それでいてシミ1つない綺麗な白い肌、反則級だろコイツ……。

 

 

「零さんが望むなら……私はいつでも準備OKですから!!」

「自分の身体を利用して男を誘うとは、お前もやるようになったな。でも俺の前でそんな格好をすることが何を意味するか、そこんところは分かってんだろうな? 純潔を保ったまま帰れるとは思うなよ……」

「わ、私は零さんが良ければ何でも――――」

 

 

 千歌がもじもじしながら自らを差し出そうとしたその時だった。

 俺の部屋のすぐ外でドアが軋む音、そして、顔を沸騰してるかってくらい真っ赤にした女の子が佇んでいることに気が付く。

 

 

「曜!? お前もそんなところで何してんだ!?」

「い、いやぁ零さんと千歌ちゃんがいい雰囲気だったので、ちょっと興奮していたと言いますか何と言いますか……」

「ってことは覗いてたのかよお前……。覗きで興奮するって相当陰険だな」

「ひゃっ!?」

「な゛っ!? 急に喘ぐな!」

「さっきもそうだったんですけど、零さんのSな発言にドキッと来たので……」

「曜ちゃん、変態さんみたいだね♪」

「お前が言うなよ……」

 

 

 薄いシャツ1枚で男のベッドに忍び込む奴が、誰かを『変態』と罵る権利は全くない。それとも同族を見つけられて嬉しいのか。どちらにせよ俺は思考回路が尋常ではない女の子たちに囲まれピンチだということだ。これだけ淫猥さを露呈されると、逆にこちらから襲ってやろうとは思わないんだなこれが。もはやμ'sでこの手の対応には慣れているため疲れはしないのだが、そのせいでツッコミスキルも板についてしまった。俺から攻め立てれば千歌も曜もすぐ手籠めにできるのにそれをしないなんて、俺自身も大人になったと実感するよ。

 

 脳内お花畑ちゃんに対しては、あしらいながら接してやるのがこちらの心身共に楽だったりする。ただ一部の女の子は俺のサディストな態度に妙な欲情を抱き、己の欲求を更に爆発させるから注意が必要だ。そう、今の曜みたいにな。段々と例の淫乱鳥と同じ思考回路になっているあたり、将来が怖すぎてならない。まあ俺も旅館で曜に手を出しちゃったから、人のことは言えねぇけどさ。

 

 

 その時、俺の部屋にまたしても女の子の影が現れる。

 

 

「もう2人共、零さんを起こしてきてって言ったのに何してるの?」

「梨子!? お前まで来てたのか??」

「おはようございます、零さん。お目覚めはいかがでしょうか?」

「お前なぁ、この状況を見て快適に起きられたと思うか……?」

「で、ですよね……」

 

 

 身体の凹凸がくっきり浮かび上がるくらい薄着の子と、俺たちの様子を部屋の外から覗きながら興奮している子。たった2人だけだが、普通の女子高校生ならまずそんな頭のイカかれた行動はしない。梨子もそんな状況を見て事情を察したようで、親友たちの痴態に顔を引きつらせていた。

 

 ちなみに梨子は私服にエプロン装備(裸ではない)という家庭的な格好であり、近くにいる同級生2人と比べたら健全も健全である。それに彼女から少しいい香りがするので、もしかしたら朝飯を作ってくれているのだろうか。壁ドンのシチュエーションが好きだったり、百合モノに興味があったりとコイツもコイツで偏屈趣味を持っているのだが、やっぱり家庭的な女の子は素直に惚れちゃうね。今も梨子が入って来なかったらどんな修羅場になっていたか、そんな想像はしたくもない。

 

 

「零さん、今日の朝食は私が作ったので、是非ご試食をお願いします! 下で待ってますね♪」

「試食じゃなくても別に普通に食うけど……ま、楽しみしてるよ」

「ありがとうございます! ではお着替えが済みましたら、リビングへご足労をお願いします」

 

 

 梨子は寝起きの眠気すらも吹き飛ばす眩しい笑顔を振り撒き、俺の部屋から去っていった。

 あぁ~やはり女の子が料理を作ってくれるシチュエーションはいい。王道だけど、自分へ尽くす愛を感じられるのが堪らねぇんだよ。多股を正当化するつもりはないけど、これこそ複数の女の子と付き合っている利点と言うか、色んな女の子の様々な面を見られるのはそれだけで充実感が得られる。そうだよ、俺はこの感覚を味わうために生きてるんだよ。

 

 そうやって俺が幸福に浸っていると、ベッドと部屋の入口から目線が2つ向けられた。

 言わずもがな千歌と曜だが、2人からはどこか納得がいっていなさそうな不満足さを感じる。

 

 

「な、なに……?」

「いや、梨子ちゃんには甘いんだなぁ~っと思って」

「明らかに私たちに対する態度とは違いましたし……。まぁ私は少しぞんざいに扱われてもいいんですけど……」

「「え?」」

「え……?」

 

 

 曜の発言に俺と千歌は耳を疑ったが、本人は訂正するどころかヤバい発言をしていることに気付いていない模様。

 なんだろう、Aqoursの子たちと付き合っていくのはμ'sと同じかそれ以上に大変な気がしてきたぞ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 どこかに出かける用事もないので適当に着替えた俺は、梨子の朝食を嗜むためリビングへ向かう――――最中だった。

 階段を降りようとしたらそこに善子が立ちはだかっており、自慢のツリ目で俺を睨みつける。なんで怒ってるのかは知らないけど、俺また何かしちゃった?? μ'sと付き合い始めて5年目だが、未だに女の子に対するデリカシーは皆無なので、もしかしたら堕天使様の勘に触ることをしてしまったのかもしれない。いやでもさ、さっきの騒ぎは千歌と曜のせいだから。俺悪くないよな??

 

 

「お前も来てたんだな」

「なによ、来ちゃダメなの?」

「いや別にそこまで言ってないけどさ、ってか怒ってる?」

「怒ってないわよ。それより、ちょっとこっちに来なさい」

「えっ、ちょっ、引っ張るなって!」

 

 

 善子は俺の返答も聞かず、手首を握って俺を力任せに引っ張る。

 そしてそのまま2階の廊下を逆走し、彼女が行きついた先は――――――

 

 

「こ、ここトイレじゃねぇか!? ちょっと、オイ!?」

「いいから黙って入る! 私だって恥ずかしいんだから! 全く、変態の相手は疲れるわ……」

「はぁ?」

 

 

 怒ったり呆れたり、挙句の果てには何故か俺と一緒にトイレに入るという謎の奇行。ツンデレのコイツが自ら俺を個室に監禁するなんて、千歌と曜と同じく遂に脳内にお花が咲き始めたか?

 いや、そんな冗談を言ってる場合じゃないか。冷静に考えて、なんなんだよこの状況。トイレに善子と2人きりとか、この家には千歌たちや楓もいるってのにここでおっぱじめる気かよ?? 逆レイプはそこまで好きなシチュエーションではないのだが、コイツが勇気を出すってのなら……まぁそれはそれで受け入れてやってもいいかな、うん。

 

 

「聞いたわよ。アンタ好きなんだってね」

「何が?」

「――――――女の子に排泄処理してもらうの」

「ぶっ!? お、お前なに言っちゃってんの!? そんな偏屈な趣味はねぇっつうの!!」

「でも聞いた話によると、アンタはご主人様体質を振りかざして、毎朝別の女の子を使役してトイレを手伝わせてるらしいじゃない」

「根も葉もない事実を公然で語るな! 誰だそんなデマ流した奴!」

「南ことりさんと矢澤にこさんよ。『私たちの彼氏は1人でトイレができないから、善子ちゃんが手伝ってあげてね♪』って頼まれたんだから」

「アイツら、あとで覚えてろよ……」

 

 

 今頃善子に襲われている俺を想像して、アイツらはほくそ笑んでいるのだろうか。考えれば考えるほど憎悪の念が沸き上がってくる。人に介護プレイ好きな変態という在りもしないキャラを植え付けやがって……。

 

 しかし、そんなプレイが嫌いかと問われたら、実は完全に否定できない。確かに俺は攻める側の立場の方が好きなのだが、別に女の子に卑しく主導権を握られるのもそれはそれで悪くないと思っている。性欲を持て余している男子諸君なら分かってもらえるだろう、女の子に介抱される悦びを。ニート生活をしている自分を甘やかしてくれるその快楽を。そう考えると、女の子に甲斐甲斐しく世話をされるのも悪くない。

 

 でも正直、家事を楓や秋葉に全て任せて形だけの主としてこの家に君臨しているあたり、日常生活からして女の子に世話させられてるんだけどな……。

 

 

「で、するの? しないの? こ、恋人同士になったんだし、ちょっとは手伝ってあげてもいいわよ!」

「なんだ、してくれる前提で俺をトイレに連れ込んだんじゃないのか? まさかここに来て怖気づいちゃったとか?」

「な゛っ!? わ、分かったわよ、やればいいんでしょやれば! ほら、とっととズボンを脱ぎなさい!」

「おい引っ張るな! そんなムキになるなって、悪かったから!」

 

 

 少し煽ってやろうと思ったが、いつもの善子とは違って今日はやけに積極的だ。いやこんなことで積極的になられても反応に困るのだが、いつもは挑発してもここまでグイグイ来ることはないので驚いてしまった。いくらことりやにこに吹き込まれたとは言え、自分から男をトイレに連れ込んだりズボンを脱がそうとするなんて、コイツもコイツでμ'sの一部メンバーと同じくお花畑への道を歩み始めている。千歌も曜もそうだけど、Aqoursの今後が心配になるな……。

 

 

 するとその時、トイレのドアが勢いよく開け放たれる。

 その衝撃に俺も善子も身体をビクつかせるが、そんなものとは比べ物にならない威圧が漂ってきたことで、俺たちは自然と畏まってしまった。

 

 

「あなたたち、廊下まで声が漏れていますけど、一体何をしていらしたのでしょうか……」

「ダイヤ!? お前まで来てたのか……」

「千歌さんや善子さんだけだと、零さんと何をしでかすか分かったものではありませんでしたから。案の定、早朝から不純異性交遊をされているので見張りに来て正解でしたわ」

「してねぇよ! 俺は痴漢に襲われてるだけだ!」

「誰が痴漢よ!? アンタが1人で用も足せないって聞いたから、私もこうして勇気を出しているんじゃない!」

「なるほど、普段零さんが女性を侍らせて何をしているのか、大体理解できました」

「なんかお前ら、あらぬ知識を植え付けられ過ぎじゃね……?」

 

 

 誰と出会ったせいで脳内が桃色になってるのかは知らないが、やはりコイツらとμ'sを合わせるべきではなかったのか……? 確かに内浦にμ'sが来た時からコイツらの性格が良いようにも悪いようにも変わった気がする。俺に対して積極的になってくれたのは嬉しいが、今のように無駄な知識を覚えたせいで余計な誤解すらも信じるようになったのはマイナスだ。

 

 だが、これが俺の日常だったりもするんだよな。騒がしいと言えば騒がしいが、ほのぼのとしていると言えばほのぼのとしている。そこにμ'sだけでなくAqoursも溶け込んでくれたので、それはそれで喜ぶべきことなのかもしれない。俺の世界にようこそって意味でな。

 

 しかし、μ'sの淫獣たちが振り撒いた誤解のウィルスだけは除去しておかないと……。

 

 

「いくら私たちの仲が進展したとは言え、生徒会長として不純異性交遊は認めません。ただでさえ1人の男性に対し複数の女性という社会的にあり得ない状況なのですから、それ以外の不純行為は何があっても避けてもらいませんと」

「分かってるけどさ、お前も相当度胸あるよな」

「えっ? どういうことですか?」

「だってさ、いくら騒いでいたとは言えここはトイレだぞ? よく勢いよく開けられたよな。既に俺が脱がされているかもしれないのに……」

「そ、それは……!!」

「へぇ、ダイヤも意外と期待してたんじゃないのぉ? コイツのあらぬ姿を合法的に見られると思ってね」

「そ、そんなことは……!!」

 

 

 俺と善子のダブルパンチに、さっきまでとは攻守逆転。ダイヤは耳まで顔を真っ赤にしてわなわなと震え出す。

 正直、言われっぱなしだと癪だから悪あがき的な感じで攻めてみたのだが、まさかここまで効果があるとは……。それに善子の攻めに対しても激しく動揺しているので、もしかしてコイツも意外と脳内桃色……??

 

 

「と、とにかく! もうすぐ朝食なので早くリビングへ来てください!」

「あっ、誤魔化したわね」

「いいですか!? 朝食が冷める前に着替えて来ること、それでは!!」

 

 

 結局顔の沸騰は収まらないまま、負け惜しみに等しい言葉を残しつつトイレのドアを勢いよく閉めた。

 なんだろう、今すっごく清々しい。澄ました顔をしている女の子ほど、裏ではどんなドス黒い欲求が渦巻いているのか分からないもの。その裏の顔を白日の下へ晒した時に見せる顔ったらもうね。あまり考えたくはないけど、ダイヤもいずれ……?

 

 

「そういやさ、どうしてお前は俺のトイレを手伝おうと思ったんだ? もしかしてお前も千歌やダイヤと同じ……?」

「ふ、ふざけんじゃないわよ!! あ、ああああんな変態共と一緒にしないでくれる!?」

「動揺し過ぎで丸分かりだから……。でも普段ツンツンしているお前がこんなことをするとは、人っていい意味でも悪い意味でも変わるもんだな」

「別に卑しい気持ちばかりって訳じゃないわよ。せっかくアンタから告白してもらって、私も返事をしたのに、ここ最近はずっと会えなくて……その、寂しかったと言うか……」

 

 

 善子は頬を染めながら俯き、ツンデレの"デレ"を思いっきり協調させながらもじもじする。

 なるほど、要するに構ってもらいたかっただけか。連絡はほぼ毎日取り合っていたものの、こうして顔を合わせるのはスクフェスの打ち上げ以来だから、そりゃ寂しくもなるわな。実のところ、俺も久々にAqoursの面子に会えて嬉しいんだよ。まあ添い寝だったり覗きだったり、はたまたトイレで逆レイプなど、再会を喜んでいる暇は全然ないんだけどさ……。

 

 でも同じ気持ちをコイツの口から聞けて、ようやくAqoursに再会したという現実を受け入れられた気がする。素直に想いを伝えられないからこうしてトイレで2人きりになろうと画策するあたり、相変わらず善子は善子らしい。

 

 

「可愛いな」

「は、はぁ!? か、かか可愛くなんてないわよ!?」

「いいや、可愛いね」

「も、もう付き合ってられないわ!! トイレを手伝ってあげようと思ったけどやめた! 精々1人で垂れ流すことね! 無様に水溜まりを作った姿を、笑いながら撮影してやるんだから!!」

 

 

 そう怒鳴り散らし、善子もダイヤと同じくトイレのドアを勢いよく閉めて出て行った。

 そうやって人の挑発に対してチョロいところもまた微笑ましいんだよな。もちろん可愛いってのは本音だけど。

 

 

 そして、俺からもアイツに怒鳴りたいことが1つ。

 

 

「だから、トイレは1人でできるっつうの!!」

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 読み返してみればみるほど最終回には見えないのですが、こうしてAqoursとバカ騒ぎするのは久々で、しかもここまで親密にお互いの距離が近いのはやはりスクフェスの一件があったからこそだと思います。そして千歌たちが零君に対して積極的が過ぎるのも、成長の証……かも?
 スクフェス編では恋愛やシリアスな描写をたくさん描いてきましたが、やっぱり今回のようなエロギャグが一番好きですね(笑)


 次回は最終回の2本目。Aqoursはもちろんですが、μ'sの面々も登場しますよ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【最終話】ハーレム・ハッピー・エンド(中編)

 どこへ行ってもどこを見ても女の子、女の子、女の子、女の子――――
 零君の世界が完全無欠になりつつありますね(笑)


※先日ハーメルンにアンケート機能が実装されたので、後書きのあとに設置してみました。

 記念すべき第1回は『シスターズの中で妹に欲しいのは?』

 是非ご投票をお願いします!


「おはようございます! 零さん!」

「あ、あぁ、おはよう……」

 

 

 朝飯の前に顔を洗おうと洗面所に立ち寄ったら、何故か両手にタオルを持ったルビィがいた。嬉しそうな笑顔で挨拶をしてきたので、俺がここに来るのをずっと待っていたのだろうか……?

 

 ルビィまで来ているとなると、Aqoursのメンバーが俺の家に集結していると考えて間違いないだろう。いや来てくれること自体は嬉しいんだけど、アイツらの振る舞いは寝起きにしては刺激が強すぎる。そのせいか起床してから数十分経ってる今でも朝飯にありつけない始末。もし仮にたくさんの女の子たちと一緒に暮らし始めたら、毎日こんな感じの朝になるのか……? 毎日が波乱どころの話じゃねぇな……。

 

 

「顔を洗って身も心もスッキリしましょう! 零さんが来る前に水の温度を適温にしておきましたから、すぐ洗っちゃっても大丈夫ですよ!」

「気が利くのはありがたいけど、テンションたけぇなお前……」

「そうですか? ルビィはいつものルビィですよ?」

 

 

 いやいつものお前はもっとオドオドしてるだろってツッコミはしちゃいけないのか? もちろん元気なのはいいことなのだが、ルビィのオーラが嘗てないほどの威圧感なので少し怖気づいてしまう。確かにここ最近で積極的な性格になってはいたけど、ずっと笑顔で洗顔を勧めてくるため怪しい勧誘かと勘違いしてしまいそうだ。洗顔クリームとかの押し売りのために俺の家に来たんじゃないよな?

 

 まあルビィのことだから、さっきの千歌たちみたいに大騒ぎにはならないだろう。

 そう思って洗面台の水を流し、ここまでのツッコミ地獄のせいで脂汗が乗った顔を綺麗にする。どうして寝起きも間もないのにここまで汗をかいてるんですかねぇ……。

 

 

「零さん、タオルをどうぞ!」

「あぁ、ありがとな。つうか、どうしてそんなに気前いいわけ? 申し訳ないけど顔くらい1人でも洗えるっつうかさ」

「えっ、でもμ'sの皆さんから聞きましたよ? 零さんはメイドモノが好きだから、日常生活を甲斐甲斐しくお世話をしてくれる女の子に萌えるって」

「な゛っ、また人の性癖を勝手に暴露しやがって! 誰だよそんな告げ口した奴!?」

「楓さんと秋葉さんが言ってました。零さんのお部屋をお掃除するついでにパソコンの中身を見たら、メイドモノの動画や画像がたくさんあったって」

「アイツら……!! ていうか、どうして俺のパソコンのパスワードを知ってんだ……」

 

 

 そう疑問に思ったものの、秋葉ならばどんなセキュリティのかかったパソコンでも突破は容易だろう。μ'sとAqoursの合同合宿の時はスマホに盗聴器を仕込まれてたし、アイツが家に戻ってきたことで俺のプライベートが崩壊してないかこれ……? 唯一誰にもバレないのは俺の脳内ハードディスクしかないが、最悪その思考すらも何故の発明品で読み取られそうなので、もはや俺に逃げ場などなかった。

 

 

「メイドさんが好きだと聞いたので成り切ってみたのですが、迷惑でしたか……?」

「いや、性癖が性癖なだけにドストライクだよ。ま、ロリっ子メイドも悪くないんじゃないか」

「そ、そうですか? だったらこの先も――――」

 

 

「それじゃあ金髪ハーフメイドはど~お?」

 

 

「うぉっ!? ま、鞠莉!?」

 

 

 鞠莉は俺の背後から首元に腕を回す形で抱き着いてきた。そのせいでコイツのあらゆる柔らかい部分が俺の背中に当たっている訳だが、いくらなんでも生身の感触が強すぎる。コイツまさか、服を着てねぇのか!?

 

 

「お前どこから湧いて出た!?」

「失礼ね! 私もルビィと一緒で零のメイドさんになってあげてるんじゃない! これをジャパニーズご奉仕って言うんだっけ?」

「主の背後から抱き着くメイドがどこにいるんだよ!? ってか服を着ろ!!」

「えっ、着てるけど?」

「は……?」

 

 

 横目で見てみると確かに何か着ている。だが明らかに普通の服ではなく、白と黒のフリルにガーターベルト、そして頭には光輝くカチューシャ。なるほど、ルビィとは違ってちゃんと格好からメイドに成り切ってるって訳ね。それでも鞠莉の胸や太ももの感触が凄まじく伝わってくるので、そのメイド服の生地はかなり薄いらしい。露出も多いし、もはや完全にAV玩具じゃねぇか……。

 

 

「うぅ、ルビィももっと胸があれば零さんにご奉仕ができたのに……」

「いやいや、こんな奴に対抗しなくてもいいから。お前は純粋なメイドさんを目指してくれればそれでいいんだよ。ていうかそれが普通だ」

「こんな奴とか言っちゃって、本当はエッチなメイドさんが大好きなくせにぃ~♪ 持ってるメイドの動画は全部R-18だって話だけど、そこのところどうなのかなぁ~」

「ぐっ……!!」

「やっぱり男の子っておっぱい魔人なのね。もう、エッチなんだから♪」

 

 

 鞠莉は俺を背後から抱きしめながら、またしても俺しか知り得ない事実を耳元で囁いて来る。鞠莉が知っているってことは、楓と秋葉は俺のパソコンに保存されている動画を逐一チェックしているのだろうか? そう考えるだけでも怖気が走るし、それをドSの権化である鞠莉に知られてしまったのも最悪だ。だからこそこうしてメイド姿(超薄着)で煽って来るのだろうが……。Aqoursの脳内にはお花畑が広がりつつあるけど、その中でも最も花が活発に咲き誇り、手入れが大変なのは間違いなく鞠莉だろうな……。

 

 その分、ルビィのお花畑は見ているだけでもほのぼのとして安心するよ。コイツのお花畑だけは身を挺してでもμ'sのような淫乱色に染められないようにしないと。

 

 だが、そんなルビィは自分の胸を抑えてわなわな震えていた。

 

 

「確かにルビィに胸はありません。お姉ちゃんも控えめですし、ルビィに未来がないことも分かっています」

「いやそこまで卑屈にならなくても……」

「でも、でも……!!」

「お、おい!? 何いきなり脱いで――――!!」

「小さいのも需要はあるって、にこさんから教えてもらいましたから!!」

「ちょっ、感情的になって脱ぐな! 後で思い出して死ぬほど後悔するぞ!?」

「あ~あ、ちゃんと大きいのも小さいのも愛してあげないからこうなるんだよ?」

「お前のせいだろ……」

 

 

 顔を洗いに洗面所に来ただけなのに、どうしてこんな騒ぎになってんだよ……。

 ちなみに暴走したルビィはほぼ下着姿になりかけていたのだが、とりあえず真っ裸を曝け出す事態は阻止することができた。阻止している最中も鞠莉が持ち前の巨乳でルビィを煽るものだから、彼女を落ち着かせるのに相当の時間を要したのは内緒だ。

 

 金髪巨乳ハーフがメイド姿で抱き着いてくれるシチュエーションも、ロリっ子メイドが自ら脱いでくれるシチュエーションも、こんな騒がしいムードじゃなければ大歓迎なんだけどな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おはよう零くん♪ 今日も気持ちのいい朝だね」

「おはよう零。起きるのが遅いわよ、今何時だと思ってるの?」

「お前ら、よくのうのうと人の家でくつろげるな……」

 

 

 ようやくリビングに到着したのだが、そこにいた面々を見て不安と呆れに苛まれる。

 人の家のソファに座り、優雅かつ呑気に朝食を嗜んでいることりとにこ。千歌たちがあんな行動に出たのはアイツらの思考回路がピンクに染まりつつあるってのもあるだろうが、今朝の件に関してはコイツらが原因だと言っても過言ではない。あることないことばかりアイツらに吹き込みやがって、そのせいで自分の家なのにも関わらず、ベッドからリビングに到着するまで何十分かかったか分かったものじゃない。ここまで女難に苛まれるのも、たくさんの女の子を自分のモノにした宿命ってことで無理矢理納得するしかないか……?

 

 いや俺が苦労してるのに、コイツらが済ました顔で飯を食ってる様が許せないから、そう簡単に割り切れねぇって!!

 

 

「おい楓、秋葉、どうしてコイツらの飯まで用意した? 余計な害虫は追い返せって言ったろ」

「私たちが用意したんじゃなくて、Aqoursのみんなが用意してくれたんだよ。お兄ちゃんにサプライズしたいから、今日来ることは内緒だったんだ」

「それでAqoursが来るって事前に知っていたμ'sのみんなも来たんだよね。でもそのおかげで、朝はとってもお楽しみみたいだったじゃない♪ 零君の愉しそうな声がここまで響いてたよ」

「あまりにも発生したイベントが多すぎるだろ……。2階から1階のリビングに来るまでに何十分かかってるか分かってんのか? どんな広い豪邸だって話だよ全く……」

 

 

 しかし冗談抜きで、みんなと一緒に暮らそうと思ったら豪邸クラスの家が必要になるだろう。ただでさえ今のこの家にいる人数だけでも多いのに、ここにまだ来ていないμ'sやAqoursのメンバーが入ってきたらそれこそ家がパンクする。実際にμ'sのみんなと俺の家で同棲生活をした時はあまりにも人口密度が高すぎて、この家のどこへ行っても誰かしらがいる状態だったからな。

 

 

「害虫だなんてヒドいなぁ~零くんは。ことりはAqoursのみんなを教育してるだけなんだから。零くんのお傍にいる以上、零くん好みの女の子にならないといけないからね♪」

「いや手を加えて人工物にしなくてもいいから。天然のままでいいんだよ別に」

「先輩が後輩を指導するのは当然でしょ? それにあの子たち、積極的になったとは言ってもにこからしてみればまだまだなのよねぇ~。だから今までよりももっと積極的になるように、アンタが悦ぶことを教えてあげたのよ」

「それが余計だって言ってんだよ。それにデマを吹き込むのは指導でも何でもねぇだろ……」

「嘘は女のアクセサリーなのよ」

「それらしいこと言っても俺の心には響かねぇからな……」

 

 

 最初から分かっていたことだが、やはりコイツらに"反省"の二文字はないみたいだ。まあμ'sを代表する脳内ピンクちゃんたちだから、何かをしでかしたから反省をするって考えすらないのだろう。Aqoursにあることないことを吹き込んで、自分たちはのうのうと飯を食ってるその強固なメンタルに思わず感心しちゃうくらいだ。

 

 

「いやぁ~それにしても、家に帰ってきて良かったよ! 零君と一緒にいると毎日が飽きないもん。研究室に籠って陰キャしてた頃と比べると、毎日の楽しさが段違い!」

「一応言っておくけど、お前も騒動の種の1種だってことを忘れるなよ」

「これでも自分の欲求をかなり抑えてる方だよ? その欲求が解放されたら……ねぇ?」

「こえぇよ!! お前が来たことで、楓がめちゃめちゃ可愛く見えるな……」

「か、かわっ!? もうお兄ちゃんったら、朝から告白だなんて気が早いよぉ~♪ 分かった、先にベッドへ行ってて。カラダ、洗ってくるから……♪」

「前言撤回してもいいか……?」

 

 

 別に卑猥な意味で可愛いと言った訳ではなく、秋葉の悪魔的性格を鑑みるに、楓のやらかすことなんてまだまだ可愛いと言いたかったんだ。それを歪曲して近親相姦と捉えるあたり、楓の思考のヤバさは秋葉に劣ってないんだけどな……。楓とは一緒にいる時間が長すぎて感覚がマヒしてたよ。

 

 秋葉については以前から言及している通り、家に戻ってきてから性格が丸くなった。そう、これで丸くなったんだよ。まあ自分の研究室すらまともに掃除できないズボラ女が妹と一緒に家事をしているってことだけでも進歩だろう。この前までは秋葉が家に帰ってくる=何かをやらかすと相場が決まってたからな。だからこれでも随分丸くなってくれた方だ。

 

 

「そういや、果南と花丸はどうした? アイツらの姿だけ見てないけど」

「あぁ、あの2人なら今――――」

 

 

「ただいま帰りましたー!」

 

 

「あっ、帰ってきた」

 

 

 玄関から声がしたので見に行ってみると、練習着姿の果南と花丸がタオルで汗を拭きながら靴を脱いでいた。

 そういや果南は毎朝ランニングを欠かさないって言ってたな。しかも千歌が言うにはそのランニングは日課にしてはかなり過酷で、それをAqoursの中でも随一の運動音痴ちゃんが付き合ってることに驚きだ。現に花丸の顔が今にも死にそうになってるけど、たかがランニングごときにどんな地獄を味わってんだよ……。

 

 

「零さん、おはようございます!」

「おはよう。朝っぱらから御苦労なことで」

「どこへ行こうとも、朝になると身体を動かしたくなっちゃうんですよ」

「それはそれは健康的で何より。どうして花丸が巻き込まれてんのか知らないけど……」

「いや、これはマルから果南さんにお願いしたんです。これからの目標を達成するためには、もっとたくさん練習をしないといけない。なので、まずは体力を付けなければと思いまして」

「なるほど、それで自ら地獄に飛び込んだ訳か……」

「地獄って……」

 

 

 そりゃ大量の汗と激しい吐息を見れば、ランニングがどれだけキツかったのかなんて想像するに余りある。しかしこれだけ疲れているのにまだ動けること自体が花丸にとって大きな成長だろう。俺が浦の星で顧問をやっていた時は、最初のストレッチの時点でノイローゼになってたからな……。

 

 それにしても、女の子の疲れた姿ってどうしてこうも嗜虐的欲求を唆られるのだろうか。首筋に滴る汗、艶めかしい吐息、火照った頬、汗で張り付いた服がボディラインを強調――――まるで性的行為の途中かのような風貌に、思わず息を飲まざるを得ない。正直に言ってしまうと、俺がμ'sやAqoursの練習を見学する目的の5割はこの光景を見るためと言ってもいい。さっきまで散々女の子たちのことを脳内ピンクだのお花畑だのと罵ってきたけど、まあ見事にブーメランが突き刺さってるよな……。でも仕方ないだろ、気になるんだから!

 

 

「零さん、どうしたんですかぼぉ~っとして?」

「あ、あぁスマン。来てもらったのに起きるのが遅くて悪いなと思ってさ、あはは……」

「まだ9時ですし、普通だと思いますけど……。それよりもこちらこそアポを取らず突然来ちゃってゴメンなさい。千歌がどうしても零さんを驚かせたいって言うものですから」

「ま、アイツらしいな。でもどんな形であれ、またお前らと会えて嬉しいよ。むしろこっちからお礼を言いたいくらいだ」

「千歌もそうですけど、花丸ちゃんもずっと楽しみにしてたんですよ。ランニングをしている時も、ずっと零さんの話題ばかりでしたから」

「か、果南さん! それは言わない約束ずら!! それに果南さんだって、例え練習着でさえ零さんに見せる服はちゃんと選ばないとって、今日の電車に遅刻しそうになったくせに!」

「えっ、あっ、そ、そんなことあったっけ~?」

「マルたちが迎えに行かなかったら確実に遅刻してたずら」

「へぇ、果南もちょっと抜けてるトコあるんだな。可愛いじゃん」

「か、可愛いって……!! も、もういきなりそんなこと言わないでくださいよ……」

 

 

 "可愛い"って短い単語なのに、それだけで女の子を悶えさせることができるんだから最強の武器かもしれない。普段はデレを表に出さない善子や果南すらもこの通り、顔を紅くして動揺させることができる。特に果南はお姉さんキャラの色合いが強いので、こうして手玉に取れると沸き上がる愉悦が半端ない。もちろんそんなドSな用途でなくとも"可愛い"はコイツらを端的に表せるから、出し惜しみする理由なんてないだろう。

 

 それにしても、遅刻しそうになるくらい俺に会うのを楽しみにしてくれていたのか。よく考えれば、俺の日常生活って右を見ても左を見ても女の子だらけだもんな。もうそれが日常になっていて忘れてたけど、こうしてわざわざ遠方からたくさんの女の子たちが来てくれる状況もかなり異質だ。今日は今朝からやたら騒がしかったけど、たくさんの女の子に囲まれているこの状況を楽しんでいる自分もいる。なんだんだ言って、俺の脳内お花畑も花が満開なのかもな。

 

 

「とにかく、早くシャワー浴びてこい。その恰好だと目のやり場に困る。ずっと見ていてもいいって言うならそうさせてもらうけど」

「「えっ、あっ……」」

 

 

 果南と花丸は全てを察したようで、自分たちが汗も滴るイイ女になっていることに気付いたようだ。9月になったとは言ってもまだ気温は夏を引き摺っているため、朝でもそこそこ蒸し暑い。そんな中で地獄のランニングをすればどれだけ汗をかくのかはもうお察しのこと、2人の薄い練習着はピッタリと身体に張り付き、Aqoursの中でもトップクラスに張った双丘がほぼ生身と同じ形となって浮き彫りになっていた。

 

 それに2人の練習着が白地のせいで、目を凝らさなくとも下着の色も模様もくっきりと見える。

 うん、いい絵だ。

 

 

「も、もう早く言ってくださいよ!!」

「しゃ、シャワーを浴びてくるので、ここで失礼します!!」

 

 

 2人は胸を腕で隠しながら物凄い勢いで風呂場へ向かったが、あれだけの体力が残ってるってことは地獄のランニングの成果が出ているようだな。何より何より。

 つうか顔を真っ赤にして胸を抑えつけながら逃げたら、それこそ性的な目で見られるって分かってねぇのかな? まぁ今日のところは大目に見てあげるけどね。()()()()()()()

 

 

 でも、もう少しだけあの光景を堪能すれば良かったと、俺は今更ながら後悔していた……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 2階の自室で起床してから、1階のリビングに到着するまでにたくさんの女の子と出会う系主人公、神崎零。もはやハーレムを極めすぎて、自分の手に負えなくなってそうな……()



 次回、μ'sとAqours勢揃いのグランドフィナーレ!
 零君の究極のハーレムが遂に――――!!



 新たに☆10評価をくださった

 アストレアさん

 ありがとうございます!
 もうすぐ最後なので、まだ評価を付けてくださっていない方は是非☆10評価をお願いします!



 第1回のアンケートが実施中なので、皆さん是非ご投票をお願いします!
 できれば毎話投稿時にアンケートを実施し、その結果の発表を次回投稿時の後書きで発表するつもりです。

 よろしければ小説の感想のついでに、『このキャラに票を入れました』という旨を描いてくださると嬉しいです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【最終話】ハーレム・ハッピー・エンド(後編)

 別に最初からこの状況を作りたいと思った訳じゃない。女の子の笑顔を守りたいという信念を持ち、ごく普通に毎日を過ごしていたらこうなっただけだ。だからと言って彼女たちの想いを無下にするつもりはなく、むしろもっと自分に依存させてやる勢いで愛でてやろうと思っている。

 

 そりゃね、そこらの大学生や高校生よりも断然魅力的な美女美少女集団に囲まれる毎日なんて、想像しただけでも興奮するだろ? 俺の人生が今まさにそんな状況なんだ、そりゃ大満足すぎて笑うしかないって。自分から何かアクションを起こさなくても、女の子たちから自主的に自分に寄り添ってくれる。そして女の子たちは()()()()に己の魅力を見せつけてくれて、()()()に愛を向けてくれる。それこそ男が夢見る最高のシチューションであり、誰しもが一度は妄想したことのある世界だろう。そんな世界を、俺は手にしたんだ。

 

 もはや誰にも到達できない境地。全国どころか世界から注目されるスクールアイドルたちを手中に収め、こうしてお互いに求めあいながら毎日を過ごしている。たくさんの女の子に好意を向けられるこの立場は、言ってしまえば至高の一言。今朝は寝起きだったこともあり千歌たちの刺激的な行動に圧倒されはしたが、女の子たちに寄り添われるあの状況はただならぬ充実感を味わえる。良く言えば満足感、悪く言えば支配欲、どちらにせよ俺の欲求は大いに満たされるのだ。

 

 そういった欲望に塗れた気持ちを抱いていることは確かだが、一応まともな感情も持ち合わせていると付け加えておく。だってμ'sともAqoursとも共に大きな壁を乗り越えて紡いだ心なんだ、そりゃ純粋に彼女たちを想う気持ちだってもちろんあるよ。女心に気付かないフリをしていたり、逆にお互いの距離が近すぎて相手の想いに気付かなかったりと、たくさんの失敗を経てここにいる。何も最初から女の子の扱いに長けていた訳じゃなく、むしろ下手すぎて何度も躓いた。それでもみんなとこんな関係になれたのは、ドス黒い欲望に塗れた心を捨てて純粋な気持ちで彼女たちと接していたからかもしれない。ただ単に女の子たちを侍らせようなんて思っていたら、この状況は間違いなく訪れなかっただろう。

 

 

 俺は庭の縁側に座りながらそんなことを考えていた。μ'sとAqoursが一堂に会しているせいかリビングの人口密度がやたら高いため、急遽ここへ避難してきた次第だ。μ'sと同棲生活をしていた時もキャパシティがオーバーして家が潰れそうだったのに、今回はその倍近くの人数がいるから、どれだけこの家がごった返しているのか想像できるだろう。現に今は絶賛朝食タイムなのだが、全員座れないからみんな立って飯を食っている。朝から立食パーティなんて海外の富豪かよって話だよな……。

 

 

「あれ、零くんは朝ごはん食べないの?」

「凛……。お前、朝からカップ麺か……?」

「だって前までスクフェスがあったから、体重管理云々で海未ちゃんに禁止令を出されてたんだもん。でももう終わったし、最近は毎日食べまくりだにゃ!」

「太ったら太ったで女の子的に問題ねぇか?」

「大丈夫、凛は太らない体質だから」

「それ、絶対に穂乃果や花陽の前で言うなよ……」

 

 

 体質の面で太らないのもそうだが、コイツの場合はスポーツ系の部活やサークルを掛け持ちして活発に動いている都合上、体脂肪の燃費も良いのだろう。そのせいで身体は大学生になってもちんちくりんのままなのだが、まぁ凛の場合は華奢な身体の方が似合ってるな。

 

 

「あっ、零君ここにいたんだ」

「花陽か――――って、お前もなんだそのご飯の量は? 山盛りってレベルじゃねぇぞ……」

「だって前までスクフェスがあったから、体重管理云々で海未ちゃんに禁止令を出されてたんだもん。でももう終わったし、最近は毎日食べまくりだよ!」

「かよちん、それさっき凛が言ったよ」

「ふぇっ!?」

「でもお前の場合は腹に肉が付きやすいから、海未の監視がなくても抑えねぇと。でなきゃまたアイツのダイエットを受けることになるぞ」

「う゛っ、ト、トラウマが……」

「いやぁ今日もラーメンが美味い!」

「凛ちゃん!? それ当てつけだよね絶対!?」

 

 

 この光景もここ数年で何度目にしたことやら。でもスクフェスへの準備期間中は海未の厳しい管理下のもと、食事も体力と栄養を考えたものに強制されていた。だからこそ、この2人の会話を聞いていつもの日常に戻ってきたんだと改めて実感できるよ。偏った食生活なんて、心に余裕がある時にしかできねぇもんな。

 

 スクフェスでは色々あり過ぎて、スクフェスが終わった今でも何度もその実感に浸ってしまう。もしかしたら自分が思っている以上に、俺はコイツらとの日常を大切にしているのかもしれないな。

 

 

「あなたたち、こんなところで騒いでたら近所迷惑でしょ。まだ朝よ?」

「真姫。絵里も希も、お前らいつの間に来てたんだ?」

「ついさっきよ。外までみんなの声が聞こえてたから、何事かと思っちゃったわ」

「ご近所さんから冷たい目で見られそうやったから、零君の家に入るの躊躇うくらいやったんやから」

「それなら心配すんな。近所の人たちはみんな『あぁ、また零くんが女の子と宜しくしているのね』って、むしろ微笑ましく思ってるから。現に近所の人からそう言われたし……」

「なんか表現が穏やかじゃないけど、周りの人が温厚で良かったわね……」

 

 

 ホントだよ全く。隣の家のおばさんなんて、顔を合わせるたびに『いつも違う女の子を家に連れ込んでるけど、新しい彼女できた?』とか『女の子の声がこっちまで響いてたんだけど、何をしていたの?』とか煽るように聞いてくる。そのせいで近所からは俺が女の子をとっかえひっかえしているヤリチン野郎だと思われているらしく、だったら朝や夜が騒がしいのは色んな意味で無理はない、と形容し難い理解のされ方をしている。最初は誤解を解こうと近所に説明しに回っていたのだが、向こうが微笑ましい顔であしらってくるのでもう諦めた。完全に遊ばれてるよな俺……。

 

 そうやって呆れながらも、やっぱり女の子たちに囲まれているこの立場に満足してしまっている自分もいる。ま、他人に自分の立場を理解してもらおうなんて端から思ってねぇけどな。むしろ俺たちの関係をバラして面倒な事になるくらいなら、このまま秘密にしておいた方がアイツらのためになる。そうは言ってもこれだけ密接な仲を外でも隠さず見せつけているので、意外と周りにバレてたりするんだよな。ことりの母である理事長を始めとして、先生たちも薄々勘付いているだろうし、こころとここあも俺がみんなと肉体関係を持っていると、少しベクトルは違うが俺たちの関係を知っている。そう考えると、隠そうとする努力が無駄な気がするぞ……。

 

 

「零くん零くん! これ凄いですよ、このケーキ!」

「亜里沙か。どうした突然……」

「鞠莉ちゃんが家に余ってた海外のケーキを持ってきてくれたんですけど、これが美味しいのなんのって!」

「もう亜里沙ったら、零君困ってるよ? 美味しいのは分かるけど、後輩たちもいるんだしもう少し落ち着いて……」

「雪穂、お前も大変だな……」

「えぇ、まぁ……。でも亜里沙と楓の対応はもう慣れてるんで今更です」

 

 

 何にでも興味を持つ行動力の塊である亜里沙と、隙あらば会話にさり気なく下ネタをぶち込み、人を見下すように煽る小悪魔の楓。そんな珍獣を飼いならしているのが今の雪穂だ。亜里沙と楓と3人でμ'sに入った当初は彼女たちとのテンション差に置いてかれるばかりで戸惑っていたが、今はしっかり順応している。まあ4年も2人の面倒を見ていれば、珍獣使いのジョブをマスターするのも必然か。

 

 

「零くんもこのケーキ食べてみてください! はい、あ~ん♪」

「えっ、お、お前それは……」

「はい、あ~ん♪」

「わ、分かったから――――――う、美味い……」

 

 

 この歳になってあ~んはちょっと恥ずかしかったけど、亜里沙の天使のような笑顔でそんなことをされたら逆らえねぇよ。向こうに悪気はないと思うが、スプーンを向けられている時に若干威圧感もあったし……。

 

 

「雪穂はやってあげないの?」

「やらない。もういい大人なんだし、する必要ないでしょ。ほら、リビングに戻るよ」

「ま、待って雪穂ぉ~!」

 

 

 雪穂は亜里沙をクールにあしらっていたように見えるが、俺は見逃さなかったぞ。頬を赤くして自分のスプーンと俺の顔を交互にチラ見していたことを。アイツのことだ、恐らく間接キスを気にして恥ずかしがっていたのだろう。現実主義者で冷めているように見えて、意外と心は乙女なんだよなアイツ。

 

 

「まさか雪穂があそこまでデレるなんて、穂乃果にももっとその優しさが欲しいよ……」

「穂乃果、お前いつから隣に座ってた……?」

「えへへ、さっき来たばかりなんだね。零君に挨拶しようと思ったら顔を赤くした雪穂とすれ違ったんだけど、また何かした?」

()()とはなんだ()()とは。別になにもしちゃいねぇよ」

「どうかな? 零君ってデリカシーないから、女の子をすぐ惚れさせちゃうんだよね。穂乃果たちもその性格のせいで何度困らされたか……」

「悪かったな、どうせ一生女心なんて分からねぇ鈍感野郎だよ」

「ゴメンゴメン、楽しくてテンション上がっちゃった。こうしてみんなで集まるのは久しぶりだもんね」

 

 

 少し卑屈になったが、俺にデリカシーがないのは本当のことだ。そのせいでみんなにはいつの間にかセクハラ発言をしていたり、そんなつもりはないのに相手を胸熱にさせたりと、女の子の心を引っ掻き回す才能は世界一とμ'sに絶賛(非難?)されたくらいだ。自分でも改善しようとは思っているのだが、高校時代から根付くこの性格を治すのは到底無理な話だろ。

 

 そんな自分の性格を皮肉っていると、穂乃果がリビングを振り返り笑みを浮かべていることに気付く。

 リビングではμ'sとAqoursの面々が入り乱れ、歳の差やグループの間柄など関係なく談笑している。お互いに何の柵もなく、何の重荷も背負っていない。そんなみんなの純粋な笑顔を見て、穂乃果はほっこりとしていた。

 

 

「みんな笑ってる。これが、零君の夢なんだよね?」

「俺の夢か……そうだな。でも、これだけじゃまだ足りない。Aqoursのみんなとはむしろこれからだろ」

「お付き合いし始めたのに、何もしてないまま1週間以上経ってるもんね。早く何かしてあげないと、もっと騒がしいことになっちゃうかもよ?」

「今日だけでもアイツら相当溜まってたから、これ以上欲求を爆発されると何をされるか分かったものじゃねぇな……」

 

 

 そもそも千歌たちに告白してから1週間以上も会えなかったのは高校の夏休みが終わってしまったからであり、アイツらが地元へ帰るのは仕方のないことだった。だから俺のせいではないんだけど、どんな事情があれアイツらに寂しい思いをさせてしまったことに変わりはない。1週間も待たせてしまった分、今日はスクフェス以上の思い出を作ってあげないとな。

 

 

「それにしても、μ'sが解散してもこうしてみんなと一緒にいられるなんて思ってなかったよ。これも零君のおかげだね!」

「俺の?」

「うんっ! 穂乃果たちにとって、零君は帰るべき場所なんだよ。にこちゃんはアイドルとして全国に、ことりちゃんはファッションデザイナーとして海外に、他のみんなも夢のためにここを離れちゃうけど、ここに帰ってくれば零君がいる。零君がいるからこそ、穂乃果たちは夢に向かって羽ばたけるんだ。だって、帰ってくる場所があるってとっても安心するもん! 零君が穂乃果たちを繋いでくれているんだよ?」

 

 

 みんなの帰る場所になる……か。全然考えたことなかったが、確かにそれが穂乃果たちの夢を一番近くで見守れる場所なのかもしれない。そして、そんな場所こそ自分の夢を叶えるのに最適だ。俺の夢はみんなの笑顔を守りたい、ただそれだけ。俺がここにいるだけでみんなが夢に全力をかけられるのなら、喜んで帰るべき場所になってやろう。そう、俺は夢に向かってひたむきに羽ばたくみんなの笑顔が大好きなんだから。

 

 

「零さん、穂乃果さん!」

「ん、千歌か? どうした?」

「え、えぇ~っと、ちょっとお話したいことがあると言いますか……あっ、もしかしてお邪魔でしたか!?」

「うぅん、大丈夫だよ。それで、何かな?」

 

 

 リビングから庭へ出てきた千歌は、縁側に座っている俺と穂乃果の前に回り込む。さっきまで俺と添い寝をするくらい積極的だったのに、今は借りてきた猫のようにおとなしい。今更改まって、一体何をするつもりだ……?

 

 

「零さんも穂乃果さんたちも、この度はありがとうございました! 皆さんのおかげで、スクフェスではとても貴重な体験ができました! Aqoursとしての成長にも繋がりましたし、私たち個人も強くなれた気がします」

「本当に今更だな。でも、お前らの自信に繋がったのなら良かったよ。お前らの目標、達成できるといいな」

「"いいな"じゃないです、絶対に達成します!」

「おっ、いいやる気じゃねぇか」

 

 

 浦の星の統廃合を阻止するため、学校の名前を知らしめる目的で参加したスクフェスだったが、結果としてAqoursが優勝したことでその目的は達せられた。レジェンドスクールアイドルのμ'sや、事前人気投票1位で天才的な実力を持つ虹ヶ咲を破ったことで、俺たちの想像以上にAqoursの名が世界に知れ渡ったのだ。

 

 だがAqoursの目標としてはスクフェスなんて通過点であり、本当の敵は内部にあり。つまり浦の星の存続だ。千歌たちは統廃合の話になると険しい顔になることが多かったが、今では目標完遂のために苦い顔は一切見せない。自分たちが笑顔でいること、そして内浦や浦女がどれだけ魅力的なところかをアピールするため、自分たちが沈んでいられないからだ。そんな前向きな気持ちを育んだのは、間違いなくスクフェスでの出来事のおかげだろう。

 

 

「穂乃果たちって、何かしたっけ? コラボライブで一緒にステージに上がったり、決勝で競い合ったりしただけだと思うけど」

「そんな! μ'sの皆さんがいてくれたから、私たちももっと輝きたいと思ったんです! μ'sや虹ヶ咲の皆さんと一緒に競い合えたからこそ、今のAqoursがいるんですから!」

「そう言ってもらえると照れるなぁ~♪ 穂乃果たちはただ思い出作りのためにスクフェスに出場しただけだから、あまり何かをやった自覚はないんだけどね」

「だからこそ、ライブを純粋に楽しむ気持ちを千歌たちに教えられたんじゃないか? ステージに上がる興奮や快感は、スクールアイドルじゃない俺には教えられないことだからな」

「はい! これからは零さんとμ'sの皆さんに教えてもらったことを教訓に、私たちの力で目標を達成してみようと思います!」

 

 

 Aqoursの歩んできた道は、俺がμ'sが先導していた。

 だけどこれからは違う。これからは千歌たちが自分たちの力で目標を完遂する番だ。そんなひたむきな彼女たちを見ているとどうも手を差し伸べてやりたくなるのだが、ここはグッと我慢。スクフェスで頂点に輝いたコイツらがどんな奇跡を魅せるのか、楽しみに静観しようじゃないか。もう既に、意気込みMAXの千歌は朝の陽ざしに負けないくらい輝いてるけどな。

 

 

「え、えぇ~と、も、目標もそうなんですけど……」

「なんだよ、また畏まって」

「そ、それとは別に、零さんともっとお近づきになりたいなぁ~なんて」

「うわぁ~零君ってやっぱり罪だよ。こんなにも零君を想っているのに、1週間も放置したんだから。うわー最悪だー」

「棒読みやめろ。千歌、放置してたわけじゃなくて、物理的に会いに行けなかっただけだからな?」

「あはは、分かってますよ。でもこれからは、もう少し一緒にいてもらえると嬉しいです♪」

「っ……!?」

 

 

 千歌の眩しい笑顔に、俺は思わず怯んでしまった。もうその笑顔から目を離せない。雰囲気が許せば、今すぐ抱きしめてしまいそうな愛おしさだ。女の子のこの笑顔を見るために生涯を捧げてもいい。以前穂乃果からどんな夢を持っているのかと聞かれた時に『女の子の笑顔を守り、最高の笑顔を見る』ことを夢として掲げたが、今まさにその夢を絶対に実現させようと心に決めた。もちろん最初から決めていたのだが、こんな眩しい笑顔を見せられたら決意がより固くなっちまうって。本当に最高だよな、女の子の笑顔って。

 

 

 すると、千歌の顔が俺の眼前にまで迫ってきた。

 

 

 そして気付けば、唇と唇が重なっていた。

 突然だったが乱暴ではなく、優しく唇を重ねられる。彼女の唇は熱く、柔らかく、甘い。相手を思いやるような心の籠った口付けで、そんな彼女からありったけの想いが俺の中に流れ込んでくる。俺もその気持ちに応えようと自分からも唇を押し付けるが、彼女は俺が与えたものよりももっと強く応えようとする。そんな彼女の純情な気持ちに、俺は安らぎながら唇を受け止めていた。

 

 

 どれくらいの時間が経っただろうか。唇と唇が離れて我に返った時、時間が再び動き出したような気がした。時間が止まっていると感じるほど千歌のキスに心を奪われていたらしい。

 そして俺から一歩後ろに下がった千歌は、改めて俺と向き合った。

 

 

「大好きです。今も、これからも」

 

 

 今まで見た千歌の笑顔の中でも、最高の笑顔。

 

 

 惚れた。

 いや元から惚れてはいたけど、笑顔でそんな告白をされたら余計好きになっちまうだろ。嬉しさや感動、愛おしさや満足感、こんな素敵な子に告白されているという高揚感、女の子から愛を向けられているという欲高い優越感――等々、あらゆる感情を抱いていた。誠実な感情もあれば欲塗れの感情もあるが、どちらにせよ彼女の想いによって生まれた感情なことには変わりない。

 

 

「俺もだよ。これからもよろしくな」

「はいっ、よろしくお願いします!」

 

 

 俺たちの関係は、ここでようやく始まったのかもしれない。告白自体は1週間前に済んでいるが、あの時はAqoursがスクフェスで優勝した直後でお互いに気分が高ぶっていたから、お互いに落ち着いて気持ちを伝えあったのはこれが始めてだったりする。だからこそ、俺たちの物語はここからが本当のスタートなのだ。

 

 

 すると、隣から熱い視線を感じた。

 まあ隣に座っているのは穂乃果なので、さっきの光景をネタにして弄ってくるんだろうな……。

 

 

「……って、えっ!? お、お前ら!?」

「という訳で零さん、あとはごゆっくり♪」

「ちょ、千歌!? 逃げるな……あっ」

 

 

 千歌が逃げるのも無理はない。俺の背後には千歌を除くAqoursのメンバー全員が、何か言いたげな様子でこちらを見つめている。恥ずかしそうにしている者もいれば、期待している奴もいて、中には不機嫌そうにしている者もいた。

 そういや、Aqoursのみんなとはお付き合いする関係まで進展したけどキスは一切してなかったな。そりゃ千歌とだけあんなにロマンチックな口付けをしたんだ、みんなが直訴したい気持ちは分からなくもない。つうか、嫉妬して当然だよなぁ……。

 

 そんなことを考えている場合ではない、もうみんなの欲求が爆発しそうに――――!!

 

 

「零さん! 千歌ちゃんと2人で隠れてだなんて、そんな秘密の関係だったんですか!?」

「わ、私は零さんに愛してもらえるのなら、別に何番目でもいいですよ……?」

「凄くドキドキする光景だったずら……。マルもあんなキス、零さんとできるかな……?」

「ル、ルビィにも、お暇な時にしてもらえると、そのぉ、嬉しいかなぁ~って……」

「別に私はしてもらってももらわなくてもどっちでもいいけど? ま、まぁアンタがしたいってのなら仕方ないわね!」

「好きな人とキスをするのは私としても憧れだったので、わ、私にもできたらお願いしたいなぁ……なんて」

「全く、私たちに内緒でそんなことを……べ、別に羨ましくも何ともないですわ!」

「よ~し、こうなったら今からみんなでKiss Timeにしましょう♪ 大丈夫、アメリカなら挨拶みたいなものだから!」

 

「ちょっと、みんな落ち着けって! わ、分かったら、そんなに流れ込んでくると――――って、うわ゛ぁ゛あ゛あっ!?」

 

 

 リビングから庭を覗き込んでいた梨子たちがバランスを崩し、全員が波となって俺に雪崩れ込んでくる。これだけたくさんの女の子に密着され、愛を向けられるなんて……この重さもそんな愛の強さだと思えば、多少は我慢できるかな? 

 

 い、いや、普通に重いけどね。

 

 

「お前ら、見てないで助けてくれよ……」

 

 

 そうμ'sのみんなに助けを求めるが、誰もかれもが笑みを浮かべていたり呆れていたりと、手を差し伸べてくれる気配が全くない。秋葉も微笑ましい表情を向けるばかりだった。もはやアイツらからしてみれば日常的な光景すぎて、助けようとも思わないのだろう。薄情な奴らめ……。

 

 

「零君はいつまで経っても零君のままだね! 零君が女の子で災難に遭ってると、なんか安心しちゃうかも」

「あぁ、ことりも久しぶりに零くんに可愛がってもらいたいなぁ……♪」

「はぁ……全く、零と一緒にいるといつも騒がしくなって困りますね」

「でも、Aqoursのみんなも零君も楽しそうだよ」

「いいなぁ、凛も混ぜてもらおっかな?」

「やめておきなさい。あの子たち今とても熱くなってるから、下手に割り込むと火傷するわよ」

「見てる分には楽しいんだけどね。零も相変わらずと言うか……」

「ウチらにもあんな時期があったから、ちょっと懐かしいかも♪」

「ま、にこからしてみたらあの程度の押しじゃまだまだね」

「これから今まで以上に騒がしくなるんだよね。少し面倒かも……」

「私はAqoursのみんなと一緒にいられる時間が増えるから、これからがとっても楽しみだよ!」

「こうなったのも流石はお兄ちゃんって感じ? 女誑しもここまで来ると表彰ものだね」

 

 

 μ'sのみんなは各々好き勝手なことを言ってるが、どれも的を得ているため反論することができない。

 もちろん、女の子たちに囲まれるこの状況を作ったのも俺だし、そんな状況を楽しんでいる自分がいる。それに楽しんでいるのは俺だけではなく、騒がしい状況ながらもμ'sもAqoursも和気藹々としているため雰囲気はとても和やかだ。そんなみんなの表情には笑みが浮かんでいるので、嫉妬したり恥ずかしがったり、呆れたりしながらも今を楽しんでいるのだろう。

 

 そう、これが俺の望んだ日常なんだ。

 誰も悲しまず、みんなが笑っていられる究極のハッピーエンド。俺は遂にその日常を手にした。長年追い求めてきた、女の子たちの笑顔で溢れかえる世界。そんな夢みたいな世界をようやく現実できたんだ。誰にも真似できない、誰にも到達できない、魅力的な女の子たちに囲まれた最高の日常に、もう湧き上がる愉楽が止まらない。様々な苦難を乗り越えたこの日常を掴み取ったんだ、こうなったら思う存分楽しませてもらおうか。

 

 こう言っては欲望塗れの変態に思われるかもしれないが、やっぱり女の子はいい。笑顔はもちろん、夢や目標に向かってひたむきに努力するその姿、何気ない日常で垣間見える可愛い仕草、自分へ真っ直ぐな愛を向けてくれる一途さ、男の欲求を唆る肢体――等々、女の子の魅力を1から10まで語っていたら人生いくらあってもキリがない。そんな魅力を教えてくれたのがコイツらで、俺はコイツらに没頭するくらい女の子の全てが好きだ。もうお互いにお互いを求め合い過ぎて、何があっても一生離れることはないだろう。

 

 

 俺たちの物語はここで一旦の区切り。

 でも、またすぐに新たなる日常が始まる。例えこの先にどんな日常が待ち受けていようとも、俺たちはずっと――――――

 

 

「あ~穂乃果お腹空いちゃったよぉ~! みんな、早くリビングに戻った戻った。ほら、零君も行こ! 千歌ちゃんもね!」

「はい! 零さん、そんなところで寝てないで、早くリビングに戻りましょう」

「寝てるのは半分お前のせいだけどな……。はいはい、今行きますよっと」

 

 穂乃果と千歌は、俺に手を差し伸べる。

 雪崩に巻き込まれて横になっていた俺は、穂乃果と千歌から差し伸べられた手を掴む。

 なんかこれ、俺たちのこれからを暗示してるみたいだな。ま、そんなものがなくても俺たちはずっと一緒だよ。今でももう満足し過ぎて笑いが出ちゃいそうだ。

 

 

「どうしたの? 面白いことでもあった?」

「いや、ただ思っただけだよ」

 

 

 

 

 そう、俺が言いたいことはこの一言に尽きる。

 

 

 

 

 やっぱり――――――

 

 

 

 

「女の子は、素晴らしいってな」

 

 

 

 

~FIN~

 




『日常』『非日常』『新日常』を通して4年半、ご愛読ありがとうございました!
『新日常』としてはこれまで何度か最終話を迎えてきましたが、今回こそ本当の最終回ということで、
零君とμ's、Aqoursの物語はここでピリオドとさせていただきます。

もう読者様への思いや、ここまで私に付き合ってくれたキャラたちへの思いなど語りたいことが多すぎるので、
そのあたりの個々へ向けたお礼は活動報告にて投稿する予定です。
とは言ってもこの後書きを描いている時点では既にその活動報告は作成済みなので、近いうちに投稿できると思います。

ここでは『日常』から『新日常』を通して、総合的なお礼と感謝をお伝えします。

冒頭でもお伝えしましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
5年間も小説活動を続けられたのは、間違いなく読者様からの応援があってこそです。特に目に見えて声援が分かる評価と感想はいつも励みになっており、「投稿したら誰かが評価や感想を入れてくれる」と確約されていたからこそ、毎話自信を持って投稿できたのだと思っています。中でも毎話感想を書いてくださった方には多大なる感謝を。割とありきたりな感謝の伝え方ですが、いざこの立場になってみると本当にこうやって感謝することしかできないです(笑)

自信になったと言えば、同じ『ラブライブ!』小説の作家さんたちにも感謝を。
2015年には『新日常』のアンソロジー企画に付き合ってくださり、2018年秋の平成終わり企画にもたくさんの作家さんたちにご参加いただきました。もしかしたらすっごく上から目線になるかもしれませんが、私が企画したらこれだけの作家さんたちが集まってくれたので、自分には人望があると思っただけでも小説への自信に繋がりました(笑)
同じラ作家の方々に薮椿という存在が知られていることでも執筆を続ける気概となったので、この場を借りてお礼を申し上げます。どれだけの人がここを読んでくださるのか分からないですが……()

この小説は元々『ラブライブ!』のキャラでハーレムモノを描きたいという、私の欲望から創作されたものでした。
私自身ハーレムモノが大好きで、しかもそれに加えて誰も悲しまないハッピーエンドも好きという、無茶なシナリオがドストライクだったりします。もちろんそんなアニメや漫画は早々ないので、こうなったら自分が書くしかないと思ったのが始まりだったりします。結果的には自分が想像していたよりも輝かしいエンドを迎えられたので、私自身この小説に非常に満足しています!

ハーレムやハッピーエンドの良さを伝えたかったのもそうですが、もう1つ、『ラブライブ!』のキャラの可愛さもこの小説を通じて伝えようと考えていました。
穂乃果や千歌などのメインキャラはもちろん、ツバサたちなどのサブキャラまで、登場する女の子は読者様が忘れられないほど魅力的に描くことを念頭に置いていました。
結果的には読者様から「この小説を見てたら公式の穂乃果たちじゃ満足できなくなった」や「公式よりもこの小説のキャラの方が魅力的」などいった声があり、私の目標としては完遂できたのではないかと思います。中にはオリキャラである楓や秋葉にカルト的な人気があったりと、オリキャラたちも原作キャラに負けない魅力を放ち、『新日常』ワールドを盛り上げてくれました。

長々と語ってしまいましたが、最後にこの小説がハーメルンの『ラブライブ!』小説でどの立ち位置にいるのか公開します。

・総合評価―1位
・通算UA数―1位
・平均評価(高い順)―1位
・お気に入り数(多い順)―6位
・投票者数(多い順)―1位
・総評価数(多い順)―1位
・感想数(多い順)―1位
・Wilson Score Interval―1位
・相対評価―1位

(※日間・週間・月間総合評価等、順位の変動が短期間で入れ替わる条件や、1話辺りの文字数等、さほど努力せずとも上位を取れる条件は集計対象外です)

やっぱり、ハーレムモノは最強ってことがこれで証明されましたね(笑)

改めて、ここまでのご愛読ありがとうございました!
またどこかのハーレム小説でお会いできればと思います。

最後の高評価、ご感想お待ちしております。




【オマケ】
前回の実施したアンケートの結果を開示します。

『Q1. シスターズの中で妹に欲しいキャラは?』(投票数93)
・高坂雪穂(40票/43%)
・絢瀬亜里沙(31票/33%)
・神崎楓(22票/24%)

雪穂が1位だろうなとは思っていましたが、全体の4分の1が楓好きと知って嬉しい自分がいます(笑)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編
矢澤虎太郎の憂鬱


 お待たせしました。今回から不定期で番外編を投稿します!
 話ごとに時系列はバラバラになる予定なので、毎話の前書きに今回のお話が本編のどの時期にあたるのかを明記するつもりです。


 そんな訳で今回はスクフェス編の最終話後のお話で、意外と要望が多かったあの子が登場!



※後書きにて第2回のアンケートを実施しているので、是非最後までご覧ください!


「あっ……」

「よぉ、久しぶりだな――――って、おい、どうして無視する!?」

「いや、ただ単にアンタに巻き込まれたくないなと思って……」

 

 

 素っ気ない態度で露骨に俺を避けようとしているのは、本屋でたまたま出会った矢澤虎太郎だ。

 虎太郎は俺の顔を見るなりあからさまに面倒臭そうな顔をし、本棚から分厚い参考書を素早く取り俺の横を素通りしようとする。だからコイツの進路を遮りながら再び声をかけたのだが、相も変わらず俺への警戒心は常にMAXだ。

 

 相も変わらずと言ったのは、今の虎太郎が如何にドライなのかを既に知っているからだ。

 出会った頃は鼻垂れ小僧だった虎太郎だが、今では立派な小学生。しかも小学生ながらに容姿が整い、もはや小学生モデルと引けを取らないくらいのイケメンだ。流石は矢澤家の姉弟ってところだが、コイツの凄さはそれだけではない。ちょっと頭の弱い姉3人とは真逆で、コイツの頭脳明晰さは本当にあの矢澤家の人間かと疑ってしまうくらいだ。小学生にも関わらず私立中学の参考書を買おうとしているあたり、コイツの頭の良さが窺える。どうやら今は中学受験のために奮闘しているらしく、もはやガキの頃とは見違えるほど逞しくなっていた。

 

 その影響もあってか、俺への態度も段々辛辣になっている。鼻垂れ小僧だった頃は俺に懐いてたのに、今ではここまで露骨に避けられるくらいだから、子供の成長って喜ばしくもあり怖くもあるよな。

 ま、コイツがそんな性格になってしまった理由の一部は俺にあるんだけどさ……。

 

 

「こうして会うのは結構久しぶりだよな、1年ぶりくらいかな? まあお互いにたまたま顔を合わせた時くらいしか話さないし、仕方ねぇか」

「別にアンタと話すことは何もない。文句ならたくさんあるけど」

「あぁ、お前がず~~~っと言い続けてるアレね……」

「そうだよ。何度でも言う――――――早く姉ちゃんたちを引き取ってくれ」

「会うたびにそれを聞いてるけど、ホント同じ家族とは思えないセリフだよな……」

「いやほとんどはアンタのせいだろ……」

 

 

 そのセリフを聞くのももはや耳に穴が空くほどだが、虎太郎の気持ちは痛感と言ってもいいほど俺の心にも響く。

 卓越した頭脳とクールさを持ち合わせる虎太郎と、天真爛漫で頭のネジが数本外れているにこ、こころ、ここあの3人とではテンションの差に違いがあり過ぎる。しかも家は未だにアパートだから、そんな姉たちと常日頃一緒にいる虎太郎の気苦労は絶えないのだ。しかもそれだけではなく、俺のせいで引き起こされた事態がコイツの気苦労に更に拍車をかけている。

 

 

「これも何度も言ってるけど姉ちゃんたち、ずっとアンタの話をしてるんだ。それが日常会話のレベルを遥かに超えてることくらい、アンタなら分かってるよな……?」

「まぁ……な。こころもここあも、家まで俺とするような会話をしてるのか。そりゃ憂鬱にもなるわ」

「他人事だと思って……。1人で勉強してる最中も、姉ちゃんたちの訳分からない猥談がBGMとして聞こえてくるんだ。もうツッコミを入れる気力すらないって」

「そりゃまぁ、災難だな……」

 

 

 虎太郎がここ数年の間で積りに積もっている悩みに、もはや同情しかできない。あの3人をあんな性格にしてしまった俺にも原因はあるのだが、だからと言って今から矯正させようと思っても無理な話だ。せめて自分だけの部屋があれば余計なBGMを聞かずに済むのだが、タコ部屋のような狭さのアパートではどうしようもない。つまり、お手上げってことだ。

 

 

「何も解決策がないみたいな顔してるな。アンタが姉ちゃんたちを貰ってくれれば全てが丸く収まるのに」

「それはアイツらに嫁げと言ってんのか……?」

「そうだよ。そうなれば夜に変な喘ぎ声を聞かなくてもいいから」

「え゛っ、それマジ? 確認するけどお前んち、部屋も狭いし数も少ないから、お互いのやってることが割と筒抜けなんだよな??」

「だから、ずっとそれで文句言ってるだろ……」

 

 

 アイツらが夜に何をしているのか。いちいち口に出さずとも容易に想像できるのは悲しいな……。

 あんな狭い部屋で、しかも隣の部屋の音がダダ洩れするような環境で自らを慰める行為に耽っているとは、相変わらず矢澤の女性陣は貞操観念が低い。でも矢澤ママはまともな人だから、あの3人がこうなってしまったのはやはり俺のせいだろう。そう考えると、虎太郎にすげぇ申し訳なくなってきたぞ……。いや前々から申し訳ないとは思っていたが、その話は初耳なのでなんか罪悪感がさ……。

 

 だからと言ってこちらの家にアイツらを呼んだところで、次に被害を受けるのは俺だってことくらい目に見えている。ただでさえ家族が周りにいるのに自分の性欲を満たそうとする奴らだ、その欲求の矛先である張本人が1つ屋根の下にいるとなれば、アイツらがどんな奇行に走るのか恐ろしくて堪らない。悪いがこっちに淫獣たちを押し付けるのはNGでお願いするよ。

 

 

「いっそのことストレートに言ってみたらどうだ? 猥談を自重しろとか、夜中に自慰するのはやめろって」

「それ、姉ちゃんたちが頷くと思うか……? それに僕に配慮する心があるなら、そもそもそんなことはしないだろ」

「にこはともかく、こころもここあも思春期の真っ只中だから仕方ねぇと言えば仕方ねぇけどな」

「だからと言って弟が隣の部屋にいるのにそんなことするか普通? それもこれもアンタが姉ちゃんたちを貰ってくれれば解決なんだけどな」

「こころとここあはまだ高校生と中学生だろ? 嫁がせるどころか同棲するのも犯罪だろ……。同い年なら最悪いいとしても、ほら、歳の差的な意味でさ」

「今更そんな背徳感を持ってたのか。Aqours……だっけ? その人たちを自分のモノにしたんだろ?」

「ぶっ!? お、お前それどこで!?」

「姉ちゃんたちの会話は全部聞こえてるって言ったろ……」

 

 

 弟に聞こえる声と音を立てて自慰するのも大概だが、気軽に俺の秘密を暴露するのもやめてもらいたい。別に隠している訳じゃないけど、複数の女の子と付き合ってるなんてわざわざ公言するほどでもないし、なるべくなら他人に知られたくないだろ? なのにアイツらは自分の家だからってペラペラと…………って、あれ? 虎太郎も知ってるってことは、矢澤ママも知ってるってことか? こりゃもう隠そうにも隠し切れないほど女の子に手を出しすぎたか……?

 

 

「ま、まぁとにかく、お前もいつか分かる時が来るって。沸き立つ性欲を満たしたくなることや、たくさんの女の子に囲まれる快感とかさ」

「アンタみたいな変態と一緒にしないでくれ。僕が望むのはただ1つ、静かな日常だけだ」

「お前も言うようになったなぁ……」

「あの姉ちゃんたちとずっと一緒にいるんだ、そりゃ謙虚に育って当たり前だろ。それに姉弟で1人でもまともな人がいないと母さんに苦労もかけるしな。まあ母さんは母さんで姉ちゃんたちの暴走を楽しんでるのが現状だけど……」

「お前らの母さんも気ままな人だもんな……。お前の気苦労にホント同情するよ」

 

 

 矢澤ママも真面目だがノリのいい人だから、にこたちの猥談で一緒に盛り上がっている姿が容易に想像できる。まあ娘たちに将来を託せる男ができたとあれば、母親としても嬉しい限りなのか。それともあの母自体が理事長並みの淫乱属性を持っているのか……。俺の母さんも含めて、知り合いのお母さん方にまともな人が全然いないのはもはや運命、いや悲運なのかもしれない。

 

 ここまで自分の姉や俺に対して苦言を漏らしている虎太郎だが、忘れがちだけどまだ小学生である。小坊にも関わらず俺と対等に会話ができ、しかも度重なる正論の砲撃でむしろ俺が圧倒されているくらいだ。もはや小学生とは思えないほど大人びているが、姉3人が()()()()()なのに対し、コイツだけどうしてまともになったのかは世界の不思議だ。しかしさっき虎太郎が言っていた通り、ウザいほど猥談や自慰を繰り返す姉たちを見ていたら、そりゃ賢者モードのまま成長してもおかしくはないだろう。

 

 でも小学生の頃から女難に遭いながら生活しているので、虎太郎が正当な恋愛ができるのかお兄さんは不安だな。もはや女性に対して嫌悪感とか持ってそうだし……。

 

 

「こころ姉ちゃんもここあ姉ちゃんもアンタにご執心だし、アンタも満更じゃないんだろ? だったら早く引き取って欲しいよ」

「満更じゃないって言われると、そりゃそうだけどさ……。可愛い女の子に好かれるのは悪くない」

「はぁ……人生ハードモードって僕みたいなことを言うんだろうな。自分の周りにまともな人がいないから、せめて自我だけは自分で保たないと」

「達観してんなぁお前。将来絶対に大物になるぞ」

「いや、僕はただ静かに毎日を過ごしたいだけだ。アンタや姉ちゃんたちみたいに波乱万丈な日常を送るのはゴメンだね」

「アイツらと同列に扱われるのは癪だけど、お前からしてみりゃ一緒か……」

 

 

 小学生となり自分のアイデンティティを確立した時には、既に周りが大惨事になっていた。自分の姉たちの思考回路が桃色で、母親もその状況を楽しんでおり、頼みの綱である俺も複数の女性と付き合っているヤリチン野郎と来たもんだ。そりゃ関わり合いたくないと思っても仕方がない。それでもどうにか折り合いを付けてあの姉たちと一緒に生活しているあたり、今の虎太郎がいかに強靭な精神を持っているのか分かるだろう。心身の成長と同時に精神も鍛えられているから、他の小学生と比べて大人びて見えるのは当たり前だ。つうか、"大人びて"じゃなくてもはや"大人"だろコイツ。少なくとも()()()()()よりかはな。

 

 

「今すぐには無理だけど、いつかは静かに暮らせる日が来るさ。悪いけど、それまで我慢してくれねぇか?」

「それは姉ちゃんたちを自分が貰う宣言をしてるって認識でOK?」

「そう捉えてもらっても構わない」

「あっそ……」

「自分のお姉ちゃんたちがみんな取られちゃうのは平気か?」

「どうして寝取られみたいなシチュエーションを想像してるんだ……。アンタと一緒にいることが、姉ちゃんたちにとって一番の幸せだろ」

「へぇ、意外とにこたちのこと心配してるんだな」

「うるさい……」

 

 

 ちょっとツンデレなところはにこに似てるかな。さっきまでは自分の姉たちのことをボロクソ言ってたけど、なんだかんだ心配をする優しさはあるらしい。確かに矢澤姉妹は脳内お花畑の連中ばかりだが、あれでも姉弟の絆は強い。特に虎太郎が幼い頃は、仕事で忙しい母の代わりに姉3人で虎太郎の面倒を見ていたくらいだ。だからこそ虎太郎も多少の恩義は感じているのだろう。アイツらに直接文句を言わないのも、それが起因しているのかもしれない。

 

 そんな健気な様子を見ていると、小学生にしては大人びてるコイツも可愛く見えてくるな。

 

 

「じゃあもう行くから。今日は買った参考書を図書館で読み耽るって予定があるし」

「なるほど、だったら俺が勉強を見てやろうか? 勉強くらいなら頼りなると思うんだけど」

「知ってる。海外の大学から推薦が来るほどの学力だってことくらい。そこだけはアンタを評価してるよ」

「だったらなおさら頼ってくれ。ほら、こころやここあがあんな感じになっちゃった負い目もあるしな……」

「それで償いになるとでも?」

「意外とがめついんだなお前……。ま、できることがあるなら何でも相談しろ」

 

 

 こんな達観した少年でも俺にとっては長年の親友みたいなものだし、虎太郎も虎太郎である程度は俺を信用してくれている……と思う。さっきも言った通り勉学の観点では評価してくれているので、俺もにこたちのように完全に捨てられた存在じゃないみたいだ。だからこそこれからもコイツのストレス発散のために、定期的に相談に乗ったり愚痴を聞いてやるとするかな。ま、コイツのストレスの原因は元を辿れば俺のせいなんだけどさ……。

 

 

「そうか、だったら物凄く相談したいこと、今すぐやって欲しいことが1つある」

「おっ、教えて欲しい教科があるのか? 算数? それとも英語?」

「姉ちゃんたちを嫁にしろ」

「それはまだ無理……」

 

 

 俺が言えた義理じゃないが、虎太郎の憂鬱はもうしばらく続きそうだ……。

 




 てな感じで、不定期にはなりますがまたちょくちょく番外編を投稿していきます。とは言っても既に4話ほど執筆に着手しているので、また近いうちに投稿されると思います。

 今回は超久々に登場した虎太郎くんメイン回でしたが、成長した彼の嘆きは皆さんの心に響いたでしょうか(笑) この小説の矢澤姉妹と1つ屋根の下で、しかもアパートの狭い1室で一緒になったらこんな性格になってしまうのは仕方ないかも……。
 まあ私は歓迎なんですけどね(笑)



 そんな訳で、番外編もよろしくお願いします!

 次回はどの話を投稿するか未定ですが、こころとここあ回、詩織さん回、ことほのうみ回、シスターズ回と、割とハード(桃色的な意味で)な回が目白押しです(笑)



新たに☆10評価をくださった

t.kuranさん、ネインさん、チアトさん

ありがとうございます!
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

I Love My Mother!?

 今回は神崎兄妹の母親である詩織さん回であり、中々のマジキチ回。
 神崎家のやべー奴と言ったら秋葉さんでも楓ちゃんでもなくこの人かも。


 今回の話の時系列はスクフェス編の最終話後です。


 ※原作キャラは登場しないので、ラブライブ小説というより『新日常』が好きな人向けです。


『それでね、パパったら全然帰って来なくて……って、聞いてる零くん?』

「はいはい、聞いてるよ母さん……」

 

 

 電話口で父さんの愚痴を溢すのは、現在アメリカにいる俺の母さんだ。

 朝っぱらから突然電話してきたので何事かと思えば、どうやら父さんが連日まともに家に帰って来ていないことが原因らしい。母さんは父さんが別の女を引っ掛けて遊んでいると推測しているのだが、そもそも2人は職業からして家に帰れないことが多いため、俺は特段心配することではないと思っている。そう言っても納得していないあたり、父さんが信用されていないのか、それとも心配され過ぎるほどに仲がいいのか……。どちらにせよ、息子の俺に愚痴を溢されても困るんだけどな。

 

 ちなみに父さんはアメリカの大学の教授をしていて、それなりにの有名人なので授業以外にも学会等に参加したりとそれなりに忙しい。

 もちろん母さんは言わずもがなで、世界を股に掛ける女優のため忙しくないはずがない。

 

 そんな多忙な2人だが、それでもアメリカのマイホームに一緒に暮らしているので、2人の愛の強さは半端なものじゃないだろう。だからこそ母さんがここまで心配するのも無理はないか……。ま、父さんはのことだから、きっと連絡も忘れるほど研究に没頭しているに違いない。その性格が秋葉に受け継がれているあたり、神崎家の研究家たちはズボラなのだ。

 

 

『あぁ~もうっ! こうなったら私も浮気してやるぅううううううううううううううううううううう!!』

「おいおい、落ち着けって……」

 

 

 母親から浮気宣言を聞かされている息子の気持ちを10文字以内で答えよ。

 まあそんな長い文字数制限なんて必要なく、ただ単に『呆れた』の一言でカタが付く。母さんは見た目は穏やかなのだが意外と感情的にもなりやすいので、こうして俺に愚痴を溢すことはよくあるのだ。そしてその度に長電話に付き合わされるので、いつやらか俺は話を聞き流すようになっていた。だってこんなにも憤ってるくせに、いつも翌日にはケロッとしてるんだぞ? 心配する方が時間の無駄だっつうの。

 

 さてと、母さんも溜まっていた鬱憤を電話口で吐き出してくれたし、そろそろ電話切るか。

 

 

『浮気、するもん……』

「はぁ……。誰と? 相手なんていねぇだろ」

『フフフ、それはねぇ~♪』

 

 

 その時だった。俺の部屋のドアが蹴り破られたかのような勢いで開く。

 あまりの衝撃音に思わず身体をビクつかせてしまうが、部屋の入口に立っていた人を見てそれ以上の衝撃が走った。

 

 

「か、母さん!?」

「やっほ~零くん♪ ひっさしぶりぃ~!」

「な゛っ、だ、だから会うたびに抱き着くなって言ってるだろ!? ガキじゃあるまいし!」

「私にとってはいつまでも子供なの! いやぁ~やっぱり零くんのもっふもふ具合が一番好きかも♪」

 

 

 これぞ母さんの得意技、出会って1秒でハグ。果南や鞠莉もビックリの抱き着き癖だ。

 いきなり抱き着いて来るのでその勢いにビビってしまうのは確かだが、母さんの包容力は凄まじいため、抵抗しようにも自然と心が落ち着いてしまうのも事実。言動は物凄く幼いけど、これでも3人の子供を育て上げた立派な母親だから、この包容力はあって当然なのかもしれない。それでも俺に対する抱擁だけは人一倍パワーがあるような気がするけど……。本人曰く、『零くん分を補給しないと生きていけないカラダ』らしい。これだけ溺愛されていることに喜ぶべきなのだろうか……。

 

 そういや、どうして母さんがここにいるんだ? アメリカにいたはずじゃなかったっけ??

 

 

「もしかして、さっきの電話って部屋の外からかけてたのか……?」

「ピンポーン! サプライズ大成功だね♪」

「ったくガキみたいなことを……。てか、秋葉と楓には声掛けたのか?」

「もち! むしろあの子たちは私の計画を知っててね、今日私が帰国することを零君に黙っていてもらったんだから」

「アイツら……」

 

 

 以前にAqoursがこの家に訪れた時も、家主である俺だけに内緒で襲来の計画が組み立てられていた。そして今回も同じくだから、もう誰がいつこの家に突撃してくるか分からねぇってことか? 今日は何も予定がなく1人でのんびりしようと思っても、誰が襲ってくるか分からない恐怖に怯えなければならない。あれ、俺の平穏どこへ行った……?

 

 

「で? 何をしに来たんだよ?」

「えっ、さっき言ったじゃん。浮気だよ浮気」

「それってサプライズのための冗談じゃなかったのか……。相手なんていねぇくせによくやるよ」

「いるじゃん」

「は?」

「私の目の前に♪」

「え゛っ…………えっ!?!?」

 

 

 母さんは俺を抱きしめながら笑顔で俺を見つめてくるが、もはやその笑みに怖気しか走らなかった。

 思考がぶっ飛んでいる性格は元からだが、ここまで狂気の沙汰である母さんを見るのは初めてだ。だって息子を浮気相手に選んじゃう女だぞ? 息子としてどう反応したらいいのか模範回答があるなら教えて欲しいっつうの!

 

 秋葉と楓がぶっ飛んでるのは自明の理だけど、その血筋の元はもっとヤバかった。

 あぁ、今日は母さんの相手だけで1日が潰れると思うと急に萎えてきた。平穏な日常って中々訪れないもんなんだな。俺だけかもしれないけど……。

 

 

「一応確認しておくけど、父さんにはちゃんと連絡してこっちに来たんだろうな?」

「何も言ってないに決まってるじゃん。だって浮気なんだよ浮気!」

「やっぱりな……」

 

 

 あとで父さんには連絡を入れておくか。今の母さんを見ていると信じられないかもしれないが、これでも自他共に認めるラブラブ夫婦なのだ。ちょっとやそっとのことでは夫婦仲に亀裂どころかかすり傷すら付かないと思うが一応な。

 

 そういや、母さんについて今一度説明しておこう。

 神崎詩織(かんざきしおり)。芸名の藤峰詩織(ふじみねしおり)として女優をしており、日本だけでなく世界で活躍する人気女優だ。日本の時代劇からハリウッド映画まで幅広いジャンルに出演し、その演技力は世界一と言われるほど。ファッション誌やモデル誌で行われる『魅力的な女性ランキング』や『オシャレな女性ランキング』では、ほぼ毎回1位に君臨するほどの魅力がある。それほどまでに世界的なカリスマを持っており、多くの女性から目標にされている人なんだ。

 

 また、そのプロポーションの抜群さたるや男女共に惚れ惚れする程だ。女性からは羨望の眼差しで、男性からは汚い話だが卑しい目で見られるのは当たり前。人当たりも良ければスキャンダルは一切なく、さっき説明した女優としての実力も相まって、外見だけを見ればパーフェクトな女性だ。

 

 そう、外見だけ見れば……な。

 今の母さんを見れば分かる通り、根は強情でイタズラ好きで、しかも息子を溺愛しているという変態っぷり。自分が気に入った人に抱き着くことが大好きで、言動も子供っぽい。傍から見れば可愛い一面で済むかもしれないが、俺にとってはテレビで見る時と実際に会った時のギャップが凄まじすぎて、毎回圧倒されるんだよな……。

 

 ちなみにこれは余談だが、強情な部分は楓に、イタズラ好きの部分は秋葉に、プロポーションの良さは両方にと、母さんの特徴や性格は見事に血筋として娘たちに受け継がれている。それをまとめて相手をする俺の苦労が改めて分かってもらえただろう。

 

 

「百歩譲って浮気はいいとして、どうしてその相手が俺なんだよ……」

「どうしてって、好きだからに決まってるじゃん」

「はいはい、素晴らしい親子愛ですねぇ~」

「いやいや、私から見ても1人の男性として素敵だよ? 本当に、浮気しちゃいたいくらい……♪」

「あ、あのなぁ……」

 

 

 母さんは俺の腰回りに抱き着きながら、こちらを上目遣いで艶やかな表情で見つめてくる。流石に母親にドキッとすることはないが、その妖艶な笑みで上目遣いをされると他の男なら速攻で虜となってしまうだろう。この笑みが果たして演技なのかそうでないかは察しが付かないので、その線引きを曖昧にできるのはやはり女優と言うべきか。どちらにせよ、母さんに遊ばれていることは事実だ。でもここで話に乗ってしまうと、それはそれで新たな爆弾発言の導火線に火を点けかねない。どうするべきか……。

 

 

「誰が好き好んで母親と男女の関係になるんだよ」

「えぇ~楓ちゃんや秋葉ちゃんとはあんな関係なのに??」

「か、楓とはそうだけど秋葉とは違う!! ってか、どこまで知ってるんだ!?」

「全部だよ全部。秋葉ちゃんからスクフェスの件、全部聞いちゃった♪」

「相変わらず何でも話すよなアイツ……」

 

 

 秋葉は一応μ'sの顧問という名目だったから、μ'sの活動状況や俺との関係の変化も詳しく知っていた。だからなのかそれを日常会話レベルで母さんに話していたらしいのだが、それで母さんがμ'sに会いにわざわざ帰国してきたことは4年前のことながら記憶に新しい。あの時はμ'sと母さんが初対面だったけど、母さんの勢いに圧倒されっぱなしだったよな穂乃果たち。あれを見てアイツらに同情しちまったよ。

 

 

「姉や妹とは付き合えるのに、母とは付き合えないの? それ差別だよ!!」

「その姉とは付き合ってないし、そもそも母親と付き合うなんて姉や妹と付き合うより業が深すぎるだろ! 同人やAVでも姉モノや妹モノは多いけど、親子モノは少ないのがその証拠だ」

「だったら私たちが開拓していけばいいんだよ! この世はネットやSNSの普及ですぐに話題が移り変わるでしょ? 大衆の興味がいつどれに向けられるなんて、もはや一期一会。だからこそその波に乗れば、親子モノが日の目を浴びることだってあるかもしれないじゃん!」

「浴びちゃいけねぇんだよそのジャンルは!! 偏屈な性癖者は光を求めちゃいけない。それがその手の界隈の鉄則だ」

「なるほどぉ~。だとしたら、私たちもコソコソ陰で浮気するしかないよね♪」

「なんでそうなる!?!?」

 

 

 日常会話からして話が通じないのは楓や秋葉はもちろん、ことりや理事長、こころやここあなど、俺の知り合いだけでも相当な数がいる。だが母さんはその誰よりも会話の次元を超越しており、やはり俺たち3兄妹の親なだけのことはあると悲しい事実を再度実感してしまう。だからこそ抵抗しても無駄な気もするが、今の母さんの勢いだと本気で浮気相手にされそうで怖い。自分の親ながら、思考回路が正気の沙汰とは思えんぞ……。

 

 しかもだ、さっきから俺に異様なまでに密着してきやがる。自分の身体が如何に扇情的かを熟知しており、胸をやたらと押し付けてきては俺の顔を見て反応を確かめているようだ。さっきも言った通り、流石に母親では欲情はしない。だが男の性として、やはり女性の胸は気になってしまうもの。これで俺の集中力を擦り減らそうと画策しているのかは知らないが、胸が気になってしまうのは事実なので悔しいところだ。

 

 

「実妹の楓ちゃんと恋人同士なだけで、零くんは十分に変態さんだよ。秋葉ちゃんとも、ただの姉弟の関係じゃないんでしょ?」

「ま、まぁそれなりには……」

「でしょ? とりあえず、2人と何回エッチしたのか教えなさい」

「はぁ!? どうしてそんな話になる!?」

「母親として、自分の子供の性事情を知っておく義務があります」

「余計なお世話だ! 何が悲しくて親に自分の性事情を暴露しなきゃならねぇんだよ!」

「言いなさい。さもなければ私とエッチです」

「ぶっ!? こ、このババア、ついに言いやがった……」

 

 

 世間から外れた界隈には母と息子の禁断の愛を描いた小説や漫画も少なからずあるので、母さんの虚言もその妄想の延長線上だろうと思いある程度は我慢していた。

 だが母さんはやる気、いや、ヤる気だ。根拠はないが、今の母さんからは冗談とは思わせない謎のオーラを感じる。女優の雰囲気作りに騙されているのかもしれないが、何にせよ肯定も地獄で否定も地獄という、背水の陣よりも窮地に立たされてしまった。

 

 

「妹ともエッチして、姉ともエッチしたのに、お母さんとだけできないなんて言わないよね? 歳の差なんて微々たることじゃない。妹だろうが姉だろうが、それが母だろうが近親相姦には変わりないんだし」

「問題なのは歳の差じゃねぇよ。確かに妹や姉とするのも相当な変態だけど、自分の母親と比べれば全然マシだろ。その、背徳感っつうかさ……」

「背徳性が上がれば上がるほど盛り上がるんだよ! それに極論、男女なら求めあうのは必然だと思うんだよね」

「俺は求めてねぇよ! 恋人をたくさん作るほどの犯罪者だけど、母親と交わるほど堕ちちゃいねぇって!」

「零君は求めてないけど私は求めてる……。なるほど、逆レイプがお望みってわけね」

「どうしてそうなる……」

 

 

 世界の有名女優が『エッチ』だの『逆レイプ』だの、その音声を録音して売るだけでも大金が稼げそうだ。まあ俺からしてみればこれがいつもの母さんなので、母さんの言葉に何の価値も見出してないけどな。それよりも今にも襲われそうになっているこの状況を打破しないと、それこそ妹、姉、母をも手中に収める最低最悪のヤリチン野郎の汚名を貼られてしまう。家族ハーレムなんて需要の薄さが極み過ぎてんだろ……。

 

 

「さて、零くんに与えられた選択肢は2つだけだよ。秋葉ちゃんと楓ちゃんとのエッチの回数を教えるか、私とエッチをするかの2択ね。ちなみにオススメは後者だから。なぁ~に、お母さんとして息子の身体は生まれた時から見てるんだよ? お母さんがリードしてあげるから任せなさい♪」

「実の息子に自分を売るってことが如何に異常か分かってねぇのか……。まぁこんなこと言ってる時点で分かってねぇか」

「零くんが拒否する意味が分からないんだよね。だって藤峰詩織と言えば、世界中の富豪たちがいくら大金をつぎ込んでも抱けない女なんだよ? 世界中の男は私のカラダを見て欲情して、そして哀れにも1人寂しく自分の手で性処理する。そんな罪な女を、零くんは好きなだけ抱けるんだよ!! そんな都合のいい女が目の前にいるのに、零くんは私のことをどう思ってるの!?」

「母親」

「ホントに、ブレないよね……」

 

 

 ブレないというか、母親を相手にブレるブレないの感情を持ち合わせる方がおかしいだろ。母親にそんな感情を抱いた時点で終わりだ。

 正直な話、女の子に淫語混じりで誘惑されると、いくら鋼メンタルの俺と言えども心がくすぐられてしまう。俺自身、割とその誘惑の仕方はストライクなのだ。だから目の前にいるのが母さんではなく、μ'sやAqours誰かだったら速攻でこちらから襲い掛かっていただろう。それが母親ってだけで俺からは全ての欲求も欲望も消え失せ、募るのは性欲ではなく応対による疲労だけだ。

 

 今ははた迷惑な暴走特急として熱を噴いている母さんだが、これでも素は真っ当な母親として俺を導いてくれたこともある。雪穂や亜里沙、楓の妹トリオとの関係性に悩んでいた時も、母さんが後押ししてくれたから俺は前に進めた。その他にもにこや秋葉の心境も変化させたりと、大人の女性としての尊厳は一応あるんだ。自分の欲望に忠実で暴走癖があるのは母さんも秋葉も楓も変わらないけど、それでもみんな純粋に家族を愛していることに変わりはない。

 

 だからと言って、今の行為が許されるはずはないのだが……。

 

 

「しょーがない、今日は諦めるか」

()()()ってなんだ()()()って。また来るのかよ……」

「愛しの息子の様子を見に来るのは、母親として当然でしょ?」

「絶対に別の目的も混じってるよなそれ……。ま、来たけりゃ勝手にしろ。秋葉も楓も会いたがってるしな」

「零くんは?」

「俺は…………たまには顔見せろよってくらいかな」

「ッ~~!?!? 零く~~ん!!」

「お、おいっ!! だから急に抱き着くなって!!」

 

 

 こうなるから下手にデレたくなかったのに、ついつい本音が出ちまった。でも海外にいて俺たちに会えず寂しがっているのは確かだから、たまには抱き枕になってやるのもいいかな。これも一種の親孝行ってやつだ。流石に母親と交わるような真似はしないけどね。

 

 すると、母さんのポケットからやたらポップな音楽が流れだす。どうやら携帯にメールが届いたようなのだが、そのメールの内容を見て、母さんは暫し硬直する。

 そして俺の方へ振り向くと、頬を崩して恥ずかしそうな笑顔を見せた。さっきまでとは面持ちが違い過ぎて気味悪いな……。

 

 

「いやぁパパがね、『今日は俺とお前の初デート記念日だから早く帰って来いよ』だって! ちゃんと覚えていてくれたんだ超嬉しいよ♪ そうだ、勝手にこっちに来ちゃったこと謝っておかないと! でもとりあえず今は『もちろん! 愛してるよ♡』っと、これで送信! はっ、こうしちゃいられない、急いでアメリカに戻らないと。それじゃあ零くん、また今度ね! アデュー♪」

 

 

「は……??」

 

 

 まさに嵐。母さんはこれまで俺にした仕打ちを反省することもなく、むしろ何もなかったかのように家を飛び出していった。まあもう母さんの対応には慣れっこだし、むしろ素直に謝られると気持ち悪いから別にいいけどね。

 それよりも、やっぱり相変わらずな夫婦仲で安心したよ。母さんが勝手に暴走しただけで、父さんに非がないことくらいは最初から分かってたけどさ。

 

 そして、母さんが飛び出してからしばらくして、俺の携帯に母さんから連絡が届いた。

 

 

『聞きそびれちゃったから聞いちゃうね? お母さん、零くんのことが、そのぉ……』

 

 

 お、おいおい、まさか母さん本気で俺のことを……!?

 わざわざこんなことを連絡してくるくらいだし、()()母さんだったら有り得そうだから怖い。やめてくれよ、俺の平穏な日常に一石を投じる新たな女性が母親だなんて……。

 

 

 

『零くんの……零くんの性事情が知りたいの!! だから明日までに楓ちゃんと秋葉ちゃんと何回エッチしたのか、お母さんに報告すること! 以上!』

 

 

「は…………? いや教えねぇよ!?!?」

 




 親子モノは同人誌やAVで観てる分にはいいんですけど、それでもあまりにドギツイ親子関係を見せれると流石の私もちょっと引いちゃいます(笑)
 しかし、詩織さんは言動が幼過ぎて母親に見えないので、今回の話の執筆になんの抵抗もありませんでしたが……。むしろ久々にキチガイ染みた話を描けてテンションが上がっていたくらいです(笑)

 実際に妹、姉、母のハーレム作品なんてあるんでしょうかね? 知っていたら教えてください。見る勇気はないですけど……()



 次回はシスターズ回の予定です。



まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!


【オマケ】
前回の実施したアンケートの結果を開示します。

『Q2. 姉になって欲しいキャラは?』(投票数:76)
・絢瀬絵里(42票/55%)
・東條希(18票/24%)
・矢澤にこ(5票/7%)
・神崎秋葉(11票/14%)


絵里がダントツトップなのは、やっぱり頼り甲斐がありつつも、天然ボケなところが可愛かったりもするからでしょうかね(笑)
一番女子力が高くて家庭的なのはにこですが、彼女はこの小説の印象のせいで姉とは思えないのかな……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シスターズの日常

 爆速の投稿頻度()
 今回はシスターズ回ですが、1話の中で3つの話がある短編集となってます。改めてシスターズの魅力を感じていただけたらと。

 でも雪穂が割を食ってる感は半端ないですが……




※今回の時系列は零君たちが音ノ木坂を卒業する前です。


【高坂雪穂は超苦労人】

 

 

 

 私は亜里沙と楓の3人で旅行をすることになったので、今その旅行先を決める打ち合わせをしている。

 ちなみにその打ち合わせを青空の下の野外カフェでしているんだけど、亜里沙も楓もカフェの特製パフェに夢中で打ち合わせは一向に進まない。ま、この2人と一緒にいると話の主題から脱線することなんていつものことだから、今更咎めたりはしないけど……。

 

 でもこのままだと亜里沙も楓も目的を忘れちゃいそうなので、ここは私が舵を切ってあげますか。

 

 

「ねぇ、そろそろ旅行について話し合わない? このままだとただのお食事会になっちゃうよ」

「あっ、パフェが美味しいからすっかり忘れてた!」

「そういえば、そういう名目で集まったんだったね」

「いや名目じゃなくてそっちが本命だから……」

 

 

 亜里沙はいつも通りマイペースだけど、楓も楓で自分の興味が唆られるものがあるとそっちに熱中してしまい、本来の目的を見失ってしまうことがままある。だからそんな2人を軌道修正させるのが私の役目。高校入学の時に楓と出会った頃は亜里沙のこの性格も相まって苦労したけど、今では私が面倒を見てあげることが普通になってるから、本当に慣れって怖いよ……。

 

 

「まずは行き先を決めなきゃだけど、亜里沙と雪穂はどこへ行きたい?」

「う~ん、せっかくだから日本の文化を思う存分感じられるところがいいかな」

「相変わらず和風テイストが好きなんだね。そうなるとホテルよりも旅館、温泉旅行にするのがいいかも。雪穂はどこか行きたいところある?」

「私はまぁ……2人の行きたいところでいいよ」

「雪穂も相変わらずだねぇ~。欲がないと言うか、冷めてるって言うか……」

「別に私はみんなで行けたらそれでいいってだけだよ」

 

 

 この3人で旅行をすればどこへ行っても楽しいのは目に見えている。まあ楓もそれを踏まえてどこへ行きたいのか私に聞いてきたんだと思うけどね。移動時間や費用の面を考えて、この打ち合わせの前にあらかじめ決めておけば良かったかな?

 

 

「どうせならお兄ちゃんも一緒に行けたら良かったのになぁ~」

「うんっ! 零くんが一緒だったら絶対に楽しいよね!」

「仕方ないよ。一応受験生なんだから」

「穂乃果ちゃんたちに勉強を教えるから家に残るって言ってたし、零くんって意外と律儀だよね。一緒に旅行できないのは残念だけど、流石に勉強の邪魔はできないし」

「それもこれもお兄ちゃんを拘束してる穂乃果先輩のせいだ。穂乃果先輩さえいなければ穂乃果先輩さえいなければ穂乃果先輩さえいなければ穂乃果先輩さえいなければ穂乃果先輩さえいなければ穂乃果先輩さえいなければ……」

「楓、いつもの病気発症してるから落ち着きなって……」

 

 

 また始まったよ……。楓は零君のことになるとすぐに熱くなる上に、そこにお姉ちゃんが絡んでいると大体この発作が発症する。もちろん本気で憎んでる訳じゃないって分かってるけど、楓もいつまで経っても治らないなぁこの性格。零君曰く、楓のこの様子を巷ではヤンデレって言うらしい。精神が異常なほどに病んでるけど時折デレを見せる――――らしいんだけど、どう見てもデレてはないよねこれ……。

 

 中学生時代から亜里沙の天然っぷりに大きく振り回されていたけど、高校に入ってからは楓も加わって、私がフォローする手間が二倍になった。慣れたとはいえ、こうして会話が脱線し過ぎるのは毎回困っちゃうよ……。

 

 

「そうだ! 私たちが零くんの家に行けば、それで解決じゃない? 楓も零くんと一緒にいられるし、私たちも零くんと1日中一緒だしね!」

「なに言ってるの亜里沙……? 流石にそれは――――」

「えっ、もしかして亜里沙って……天才!? 確かにお兄ちゃんがいるところこそ私の聖地なんだし、他の観光スポットなんかよりもお兄ちゃんと一緒にいる方が断然いい!」

「いや、いつも一緒にいるでしょ……」

「それじゃあ、私たちの旅行先は零くんと楓の家に決定だね♪」

「それってただのお泊り会じゃ……って、どうせ聞いてないからもういいや……」

 

 

 こうしてツッコミを入れることすら放棄してしまうほど、この2人が生み出す超展開には慣れている。こうして人って毒されていくんだね……。

 

 

 

 

【絢瀬亜里沙は超天然】

 

 

 絢瀬亜里沙。私が中学生の頃からずっと一緒にいる親友です。

 彼女は身の回りの何事にも興味を持ち、自分の打ち込むことはどんなに些細なことでも全力で取り組む一途さを持っている。そして菩薩の心を持っているかってくらい優しく、先生や同級生からも人一倍頼りにされている存在。

 

 そんな聖人のような親友ですが、親友であるがゆえに困った言動が多いのも知っている。

 言うまでもなく、彼女は天然な性格。それも"超"が付くほどのド天然で、返答に詰まったり思わずツッコミを入れてしまうこともしばしば……。

 

 

「ねぇ亜里沙。私にホーム画面のスクショを送って来たでしょ? 突然どうして自分のスマホのスクショを……?」

「その時ね、うっかりスマホを落としちゃって画面が割れちゃったんだ。でもそれがお花のような模様で割れちゃって、綺麗だと思ったから雪穂に見せたかったの♪」

「え、え~と……あ、あのね亜里沙、スクショしても割れた画面は映らないよ……?」

「えっ……あっ、そ、そっか!!」

「…………」

 

 

 このように、こっちが説明するまで自分の行動のミスや問題に気付かないこともある。まあこういうところが可愛いって思う男性もいるし、むしろそっちの方が多数派だと思うけど、私は亜里沙や同じうっかりさんのお姉ちゃんを昔から見慣れてるから、もう呆れて溜息しか出ないんだよね……。

 もちろんいつも天然を発揮してるわけじゃないけど、だからこそこうして天然ボケの行動を炸裂されると衝撃が大きい。これが亜里沙の魅力と言えば魅力なんだけど……。

 

 次はこんなエピソードを。

 

 

「ど、どうしよう雪穂!?」

「どうしたのそんなに慌てて。とりあえず落ち着いて」

「だって財布を落としちゃったんだもん! 落ち着いていられないよ!!」

「なるほどね。気持ちは分かるけど、私も一緒に探してあげるから安心して。そうだ、μ'sの皆さんにも連絡したいから、どんな財布なのか教えてくれる? 形とか色とか」

「う、うん……あっ、これだよこれ! こんな感じの財布!」

「…………そ、それは新手のボケ?」

「どういうこと?」

「ズボンの後ろポケットから出したそれが、探してた財布じゃないの……?」

「あ……あ゛ぁ゛あああああああああああああっ!? ゴ、ゴメン雪穂! いつもは後ろポケットに入れないからつい……」

「…………」

 

 

 この後しばらく私は無言になっちゃって、その間も亜里沙がずっと謝っていたのは記憶に新しい。こうして慌てている原因が自分の天然さだったなんてこと、もう何度見てきたか分からない。人前では普通にしっかり者だから、私や楓といる時は安心して無意識に気を抜いちゃうのかな……?

 

 そう楓。あの悪戯好きで小悪魔な楓すら困惑するエピソードもあったりする。

 

 

「私、亜里沙みたいな天然な子は初めて見たよ。でも、純粋な子ほど黒に染めやすいけどね……♪」

「天然……? 髪はお姉ちゃんとは違ってパーマをかけてるから、天然パーマじゃないよ? それにこの髪の色は地毛で私のお気に入りだから、いくら親友の頼みでも絶対に染めたりしないもん!」

「い、いやそうじゃなくってね……」

 

 

 楓は亜里沙を弄ろうとしたのに、逆にカウンターをもらって戸惑ったりすることもある。

 そして、極めつけはこれ。

 

 

「亜里沙って意外と胸が大きいよね。ロリ巨乳は世間からの需要が高いよ~♪」

「高校生になってから急に大きくなり始めたんだけど、私としては大きくなって良かったかな」

「確かにその胸さえあれば、お兄ちゃんも絶対にイチコロ――――」

「だって大きい方が、赤ちゃんが母乳を吸いやすいでしょ? 私いつか立派なお嫁さんになって、子育てを楽しむのが夢なんだ! 早く赤ちゃんのお世話とかしてみたいの!」

「そ、そっか……」

「ん? どうしたの楓?」

「いや、なんか亜里沙が眩しすぎて自分に罪悪感が……」

 

 

 こんな感じで、楓が際どい話題を振ってもスルーどころか、純白度100%の心を無意識に曝け出して楓に懺悔させる。この時だけは亜里沙の天然な性格が本領を発揮する瞬間だったりする。私でも楓の相手は苦労するのに、それをノーダメージでカウンターするのは尊敬しちゃうよ……。

 

 

 

 

【神崎楓は超ブラコン】

 

 

 

 私たちは零君からシスターズって呼ばれているらしく、その理由はもちろん私たちがみんな誰かしらの妹だからだ。しかも零君曰く、妹は妹でもブラコンとシスコンの集まりだから奇妙な連中――ということらしい。

 確かに亜里沙は姉である絵里ちゃんのことが大好きだし、楓は零君のことを心酔していると言ってもいいほどのブラコンだ。対して私は……うん、お姉ちゃんのことは普通のお姉ちゃんと思ってるだけだよ。お姉ちゃんがμ'sのリーダーや生徒会長をやっていた頃に、ちょっと心配してあげるくらいの普通の妹だから。

 

 私の話はさて置き、問題は楓だ。

 楓のお兄ちゃん好きは一般的に許容し難いものとなっており、友達として誰よりも近くで彼女の話を聞いてる私なら分かる。もう病気だよ、楓はね……。

 

 

「楓って家事が得意だよね? 料理も洗濯も掃除も……。まだ高校生なのに、どうして家事をしようと思ったの?」

「そりゃ私は綺麗好きだからね。対照的にお兄ちゃんとお姉ちゃんってズボラでしょ? だから私がしっかりしないと、家が汚れ塗れのゴミ屋敷になっちゃうよ」

「ふ~ん……」

「なにその期待外れ感を醸し出してる顔は……」

「いや、もっと人様の前では公言できない答えが返ってくるものかと……」

「ということは、雪穂は人様と認められなくてもいいから裏の回答を聞きたかったと」

「別にそういう訳では……」

「いいよいいよ言い訳しなくて。そっかぁ~聞きたいか~♪」

 

 

 うわぁすっごく嬉しそう……。私が余計なことを言ったばかりに、楓の発揮しなくてもいい欲求を刺激しちゃったみたい。この小憎たらしい顔は、明らかに際どい発言で相手を困らそうと画策している時の顔だ。長い間ほぼ毎日一緒にいるので、もう顔を見ただけでこの小悪魔の考えてることは大体分かるようになってきた。なんか、私ってつくづく亜里沙と楓に毒されているよね……。

 

 

「今私ってお兄ちゃんと2人暮らしでしょ? だから家事を一手に引き受けることにメリットしかないんだよねぇ~♪」

「あの……聞いてないんだけど?」

「例えば、洗濯物を洗う時にお兄ちゃんの服の匂いを嗅げたり、食器を洗う時はお兄ちゃんの使ったお箸を咥えてみたり、お兄ちゃんの毛布をクリーニングする時はそれに包まって、お兄ちゃんの香りに囲まれたり――――」

「あぁもういいからいいから! 段々声も大きくなってるし、周りに聞こえちゃうって!」

「はぁ? まだ話したいことの100分の1も話せてないんですけど??」

「どうして私が悪いみたいになってるの……」

 

 

 楓は傍から見たら間違いなく奇行だと思われる行動を自慢話として話す。しかもその間にテンションが上がって自然と声が張るため、毎回こうして私が失速させてあげないと周りの目が痛くなる。兄のことを好きだって気持ちは伝わってくるけど、伝える相手は私くらいにして欲しいよ……。い、いや変な意味じゃなくて、単純に耳が痛くなりそうなこんな話を他の人に聞かせたくないだけだから。

 

 しかしこれだけだと、普通のブラコンで片付けられる範囲だ。

 だけど楓はそこらのブラコンとは一回りも二回りも違って――――

 

 

「妹として、兄の体調管理をするのは大切だよ。ちゃんといい香りや味がするかを確かめて、健康かどうかをチェックしないと。そのためにはお風呂のお湯だって……♪」

「なにニヤニヤしてるの気持ちわる……。まさか飲んでるの……?」

「えっ、飲まないの?」

「そのさも当然かのように質問するのやめて……。ていうか、飲むわけないでしょ汚いじゃん」

「お兄ちゃんは汚くない!! この世のどんな万物よりも清潔で、お兄ちゃんの存在があらゆる穢れを浄化することを知らないの!? ここまで一緒に付き合ってるのに!? いくら親友でも、お兄ちゃんを侮辱したらここで首折るからね!!」

「えぇ……」

 

 

 こうして、零君のことになると発狂するレベルで暴走する。これが零君の言っていたヤンデレ妹ってやつらしいけど、確かに狂気だよこれは……。

 楓が重度のブラコンなのはμ'sでも周知の事実だし、楓の零君に対する態度を見ていればμ's以外の人でも分かる。でも分かっていてもなお極限を振り切った暴走には毎回驚かされてしまう。この世の中には色んな趣味を持った人たちがいて、その人たちはそれがさも当たり前のように生きていると思って住み分けをした方がいいかもね。素人が気軽に足を突っ込んじゃうと、こうして殺人宣言をされるくらい怒られるんだから……。

 

 

 ちなみに、ここに亜里沙が加わると別の意味で面倒なことになる。

 

 

「昨日ね、お姉ちゃんが財布をなくしたって慌ててたんだけど、実は後ろのポケットにあったんだよ。天然なお姉ちゃんも可愛いでしょ♪」

「お兄ちゃんは天然ボケはしないけど、寝起きでぼぉ~っとしている時は子供みたいで可愛いよ!」

 

 

 こうしてお互いの姉と兄の自慢話が始まる。 

 そして極めつけは――――

 

 

「雪穂も穂乃果ちゃんの可愛いところとか知ってるでしょ? ほら、雪穂も話してみて!」

「えっ、私はいいよ……」

「穂乃果先輩って可愛いというよりドジっ子だから、雪穂ならいいエピソード知ってそうだよね。こりゃどんなうっかりエピソードが語れるのか楽しみだなぁ~♪」

「うんうん! 雪穂は周りのこともよく見てるし、面白い話たくさんできそう!」

「え、えぇっと……」

 

 

 このように、理不尽に話題を振られるのはもはや定番オチとなってしまっている。亜里沙は純粋だからこそ無茶振りをしていると気づいておらず、逆に楓は分かっていながら無茶振りをしてくるので相変わらずの小悪魔、いや悪魔だ。関わりたくない話題が私に飛び火してくることなんて日常茶飯事だから、いつも通り慣れちゃってるけどね。

 

 あぁ、この2人のペースに順応してきている私が怖い。むしろこの2人をある程度手懐けていることに対してご褒美が欲しいくらいだよ。いや、ホントに……。

 




 私からはこれだけ、3人共みんな可愛いっす! 以上!!
 シスターズの構成ってアニメでのサブキャラ2人+この小説のオリキャラ1人の組み合わせなのに、この3人のグループ回も多く穂乃果たちよりも目立ってるような気がします(笑)


 次回は零君たちが音ノ木坂を卒業した直後の話で、穂乃果、ことり、海未の3人と卒業旅行に行く話です。もちろんこの4人の旅行なので、騒がしくない訳がなく……()



 ここからは宣伝になりますが、本日の早朝に『BanG Dream!』、通称バンドリの新作小説『ガールズバンドの子たちに甘やかされる日常』を投稿しました。ラブライブ小説が肉食系ハーレムなのに対し、向こうは草食系ハーレムとなっています。どういう意味かはあちらを読んでご確認ください!
(まあ1話目は企画小説の時に投稿した話の焼き増しですが……)

 この小説と同様にキャラを知っている前提のお話ですが、知らなくてもオリジナル小説として楽しめる……かも?

 もしよろしければ、是非あちらの小説にも感想と高評価をよろしくお願いします!

URLで飛ぶ方は↓から
https://syosetu.org/novel/186595/

それ以外の場合は私のユーザーページより小説にアクセスしてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】色欲香る卒業旅行(前編)

 なんと『新日常』は4周年を達成! 5年目もよろしくお願いします!

 今回は懐かしの4人組で高校の卒業旅行回です。
 もちろん時系列はμ's編の終了直後で、それに伴い零君の性格もかなり性欲に従順となっています。Aqours編では少し大人びていたので、改めて昔の零君を見るとちょっと新鮮かも……?



※後書きに第3回のアンケートを設置していますので、是非ご投票をお願い致します!


「わぁ~♪ 写真で見るより綺麗なところだね!」

「そうですね。和の風情がある旅館で、私好みです」

「これもこの旅館の宿泊券をくれたお母さんに感謝しなくちゃ♪」

 

 

 穂乃果、海未、ことりは目の前の立派な建物を見上げ、口々に感想を漏らす。

 俺たち4人は高校の卒業旅行と称して、世界から注目されるほどの高級温泉旅館に来ていた。建物は古来の日本を感じさせる風情のある造りとなっているが、ただ古臭いと片付けることはできないほど外装は綺麗だ。だから下々の高校生が泊まるような旅館でないことは、こうして外から見ているだけでも明らかだった。旅館へ出たり入ったりする人たちはみんな金持ちそうな人ばかりで、駐車場に古風な温泉宿に似合わないリムジンが停めてあることから、この旅館の宿泊客がいかに世間離れしているのか分かるだろう。

 

 そんな高級旅館に俺たちが泊まれる理由は、さっきことりが言っていた通り理事長のおかげだ。どういうルートでこの旅館の無料券を手に入れたのかは知らないが、たかが高校生の卒業祝いに俺たち4人の宿泊券を手配してくれるくらいだから相当太っ腹だ。今まで親鳥だの淫乱母鳥だの言って罵ってきたけど、今回ばかりは足を向けて寝れねぇな。

 

 

「なんか、穂乃果たちの場違い感が半端ないね……」

「こんなことなら、もっと正装をしてくるべきでした。着物を着てくるとか……」

「他の客のことなんて、いちいち誰も気にしちゃいねぇよ。ほら、とっとと入るぞ――――って、ことり? ニヤニヤしてんだ気持ち悪い」

「なんでもないよなんでも! ただ4人で温泉旅行なんて初めてだから、テンション上がっちゃって♪」

「ふ~ん……」

 

 

 なにやらことりの様子がおかしいが、コイツって如何にも旅館とか温泉とかまったりしたところが好きそうだし、楽しみにしている気持ちは分からなくもない。最近まで卒業制作やら卒業式やら、μ'sのラストライブやらで忙しかったので、全てが終わって一息つきたいのは俺も同じだ。そう考えると、もはや卒業旅行ってよりは慰労会だな。

 

 

 

~※~

 

 

 

「お部屋も広~い!! これ、4人で使っちゃってもいいのかな?」

「下手するとそこらのホテルのスイートルームより広いな。逆に居づらくねぇか……?」

 

 

 建物が立派であれば部屋も豪華で、4人部屋なのにスペースを持て余しているくらいだ。だがこの部屋を景色として眺めたいくらいには内装が整っており、名も分からぬ高級そうな花瓶や花、いくらするのか分からない掛け軸、年季の入ったお高そうな木材で作られたクローゼットとタンス、窓から見える緑の山々等、その素晴らしい光景に一般庶民の俺たちは萎縮してしまいそうだ。

 

 とは言ってもそんなことを感じているのは俺くらいであり、穂乃果は早速畳の上で大の字になって寝転び回ってるし、和のテイストが大好きな海未は部屋の景色を興味津々で眺めている。ことりはことりで備え付けのお菓子とお茶の準備をし始めたりと、さっきまで旅館の外装を見て圧倒されていた奴らとは思えない。これもμ'sの経験で屈強な精神を手に入れたからなのか、それとも俺が堅苦しく思い過ぎているだけなのか……。

 

 

「そうだ、温泉に行こうよ温泉! 今日はたくさん歩いて疲れちゃったから、早く汗を流したいんだよ」

「そうですね。夕食までまだ時間もありますし、私も賛成です」

 

 

 今日の日中帯はほぼ観光で時間を潰したのだが、穂乃果の言う通りほぼ歩きっぱなしで疲労が溜まっている。これほどまでの高級旅館なので1日中ここでまったりしたい気持ちもあったのだが、せっかくの卒業旅行なので4人の思い出作りとして朝から夕まで色んな所を巡ったのだ。それに疲労が溜まった状態で入る温泉もまた格別だから、この計画もこの計画で悪くないだろう。

 

 

「決まりだね。それじゃあ早速みんなで大浴場に――――」

「ゴメンね穂乃果ちゃん。この旅館の大浴場は予約制なんだ。ことりたちは予約してないから入れないよ」

「へ……え゛ぇっ!? 穂乃果たち、温泉に入れないの!?」

「それは聞いていた話とは違うような……。ことり、この旅館を予約したのはあなたでしたよね? その時に大浴場も一緒に予約しなかったのですか?」

「心配しないで、大浴場よりももっといいところを貸し切ってあるから♪」

 

 

 なんか雲行きが怪しくなってないか……? いや俺たちへのサプライズという点では大成功かもしれないが、()()()()()が策を弄しているとなるとそれはそれで怖い。そういや旅館に入る前から少し様子がおかしかったし、これヤバくね……?

 

 

「ほら、これ見て!」

「なになに……って、え? まさかこれって……」温泉!?」

「露天風呂ですか……、も、もしかしてこの温泉って!?」

「そう、この部屋の宿泊客専用の露天風呂だよ! だからことりたちの貸切だね♪」

「なるほど、そういうことか……」

 

 

 ことりに先導されて部屋の窓から外を見てみると、そこには緑の山々を一望できる露天風呂が広がっていた。もちろん他の部屋からは石垣によって隔離されているので、この露天風呂は俺たちが占有できる。だだっ広い部屋に専用の露天風呂とは、この部屋の宿泊代がいくらなのか怖すぎて調べたくねぇな……。

 

 

「サプライズも成功したことだし、早速みんなで入ろっか」

「えっ、みんなって、私たち4人でですか!?」

「当たり前だよ、混浴だもん」

「いやいや、男女で時間を分けて入ればいいですよね!?」

「もう海未ちゃん、ことりたち一緒の部屋に泊まってるんだよ? だったら一緒の温泉に入っても同じじゃない?」

「同じではないです!!」

「いいねそれ! 穂乃果もことりちゃんに賛成!」

「ほ、穂乃果!?」

 

 

 ようやくことりが何を企んでいたのか、その全貌が明らかになったな。それは単純明快で、俺との貸切混浴のシチュエーションを作りたかったからだろう。それに親友の穂乃果と海未を巻き込むところがまた黒い性格が滲み出ているところだが、穂乃果が乗り気になるのは簡単に読めるし、あとは海未を上手く言い包めればそれで解決なんだろう。

 

 現に穂乃果もことり同様に混浴温泉に意気揚々としており、もはや周りに味方がいなくなった海未は戸惑いから抜け出せずにいるようだ。そう、味方は()()いない。

 

 

「零、あなたからも2人に言ってください。卒業式を終えたとはいえ、3月まではまだ高校生。男女で混浴など破廉恥なことは――――」

「いや、別にいいだろ」

「はぁ!? あ、あなたまで……」

「つうかさ、どうして俺が拒否すると思った? お前らと一緒の風呂に入れるなんて、むしろこっちが頼みたいくらいだ」

「あなたって人は相変わらず……!!」

 

 

 海未は俺を仲間だと思っていたようだが、俺が1人の男だってことを失念していたようだ。俺の性格を考えれば、混浴の誘いを断る理由がないってことくらい想像できただろうに……。

 

 美少女たちと温泉に入れる機会なんて早々ない上に、しかも貸切の露天風呂と来た。そりゃ女の子側から誘われたら断る理由はないだろう。女の子たちと温泉旅行に来ているんだから、そのアドバンテージはしっかり活かさないとな。据え膳食わぬは男の恥とはよく言ったものだが、今がまさにその時だ。ただの観光で思い出作りを終えるなんて、そんな単純でありきたりな思い出はむしろいらない。やっぱ女の子たちと温泉旅行ときたら、こういうイベントがあってこそだろ。

 

 

「零君も来てくれるんだ! 零君と一緒にお風呂に入るのって久しぶりだから、穂乃果楽しみだよ♪」

「ことりも! 全てはこの時のために準備してたから、もうワクワクが止まらないよぉ~♪」

「最初からこれが狙いだったのですね……」

「海未ちゃん、今日くらいは思い出作りだと思って一緒に入ろうよ。みんなで入った方が絶対に楽しいよ?」

「それに俺たちはただの男女関係じゃないんだ。付き合ってる仲なんだし、混浴なんて今更だろ」

「それとこれとは話が別です!」

 

 

 お互いに告白し合って1年、未だに海未は色欲が香る話題が苦手だ。逆に得意になってる穂乃果やことりの方が異常なのかもしれないが、俺たちに囲まれている中でそうやって純情を保っていられるのも珍しい。むしろ高校生活の中でよく染まらなかったと感心するよ。尿意を強制的に感じさせられたり、巨乳にさせられたりと、色々辱めを受けたのにも関わらずだ。

 

 

「一緒に入りたいのならあなたたち3人でどうぞ。私は後から1人でゆっくり入りますので」

「えぇ~!? それじゃあみんなで来た意味ないじゃん! タオル巻いてもいいから……ダメ?」

「ということは、あなたはタオルを巻かずに入ろうとしていたのですか……?」

「そ、それはぁ……ほら、湯船に入る時だけ。マナー的にね!」

「全く…………今回だけですよ」

「えっ、いいの?」

 

 

 意外や意外、穂乃果の押しにもなってない押しが効いたのか、海未の防壁はあっさり陥落した。これ以上抵抗されるなら俺ももう無理強いはしないでやろうと思っていた矢先なので、このチョロさには驚くばかりだ。それとも抵抗しても穂乃果もことりも執拗に誘ってくるため、仕方なく諦めたのかもしれない。俺が言うのもアレだけど、妥当な判断だな。

 

 

「いいのか? 穂乃果とことりに何をされるのか分からないぞ?」

「どうせ拒んでも執拗に縋り付いてくるだけなので、もう腹を括りました」

「やっぱりそうか……」

「さっすが海未ちゃん、ことりたちのこと分かってるね♪」

「褒めてもないのにどうして嬉しそうなんですか……。言っておきますが私がいる以上、不純異性交遊と見なされる行為は厳しく取り締まりますので、ご覚悟の上を」

「なるほど、そっちの目的もあったって訳ね……」

「えぇ~でもそれだったら混浴の意味ないよぉ~! せっかくみんなで一緒の温泉に入れるのに……ねぇ、零くん?」

「ここで俺に振る!?」

「ことりにとって、混浴とは如何わしい意味みたいですね……」

 

 

 そもそもこの卒業旅行かつ温泉旅行を提案してきたのはことりなのだが、恐らくコイツの目的はみんなで混浴することだったのだろう。もちろんただの混浴ではなく、同じ浴場で男女が一緒にいればやることは1つと言わんばかりに不純異性交遊は当たり前だと思っている。そう考えると、露天風呂が専用貸切できるこの部屋を用意した理事長もグルの可能性が高いな。まあ脳内お花畑の親鳥のことだ、どうせ俺とことりが自分の孫を作って帰ってきてくれることでも想像してたんだろ。本当に神聖なる学び舎の長かよアイツ……。

 

 そんな訳で紆余曲折あったが、めでたく(?)4人で混浴することになった。女の子の裸体を見られるだけでも相当な興奮モノだが、それが自分の彼女たちと来たもんだ。今の俺は穂乃果やことりの勢いに押されておとなしいように見えるが、これでもかなり期待が高まってるんだぞ? そりゃ美少女たちと一緒に温泉に入ることができるなんて、男なら誰でも興奮するだろ。高校を卒業した身だが、この調子だとこれからも永遠の思春期のままな気がする……。

 

 

「穂乃果もことりも、高校を卒業したのですからもう少し大人になって欲しいものです……」

「そりゃ遠回しに俺に文句を言ってるのか……?」

「あの2人があんな風になったのは零のせいだとは思っていませんが、単純に貞操観念が低いだけのようですね……」

「諦めてんなぁお前……。まあ性欲が強いのも、それはそれで大人になったんじゃねぇか?」

「精神は子供なのに、欲求だけは旺盛って一番タチが悪くないですかそれ……」

 

 

 海未は混浴をすることになってはしゃいでいる2人を見ながら、もう何もかも諦めたかのように溜息をつく。天真爛漫な穂乃果とおっとり不思議ちゃんのことりを昔から面倒見てきたんだ、そりゃ悟りを開きそうにもなるわな。俺はみんなとつるみ始めて2年だが、あの2人を手懐けられたとは一切思っていない。今の海未でさえそうなんだから、2人を掌握するのは相当時間がかかりそうだ。

 

 

「2人共なにしてるの~? 脱衣所はこっちだよ!」

「着替えの浴衣はそこのクローゼットの中に入ってるから、早くおいでよ!」

「ちょ、ちょっと待ってください!? 温泉には一緒に入りますが、脱衣所まで一緒とは聞いてませんよ!?」

「もう海未ちゃんは細かいなぁ~。どうせ温泉で裸を見せるんだから、脱衣所で見せても変わらないよ」

「変わります! それに見せません!!」

「アイツらに抗っても無駄だって分かってるだろ? もう諦めろ」

「そんなことを言って、少し嬉しそうにしてるのは何故ですかね……」

「は、はぁ!? そんなことは……ないぞ? うん」

 

 

 ヤバい、俺があらぬ妄想をしていることがあっさりバレちまった。この3人は俺といる時間が他のメンバーよりも圧倒的に長いから、もはや俺の思考回路を表情から読むくらい造作もないのだろう。

 

 いやでもさ、温泉で肌色塗れの女の子と混浴するのもいいけど、着ている服が徐々に脱げていき肌色が少しずつ晒される様を見るのもこれまた至高なんだよ! 穂乃果に脱衣所へ誘われた時、真っ先に妄想したのがそのシチュエーションだ。そして、俺にはその光景をまじまじと眺めることができる権利がある。だって3人と付き合ってるんだから、ちょっとくらい欲を出しても……いいよな? むしろ俺だけの特権と言い張ってもいいくらいだ。そのためなら穂乃果とことりの提案に同調するのも厭わない。脳内桃色ちゃんたちと同列になるのは癪だけど、己の色欲には逆らえないのだ。

 

 しかしここまで煩悩に塗れていると、俺もあの2人と同じく大人になれてないなって思うよ。卒業して気分的にハメを外したくなっているのかもしれないが、この調子だと大学に入ってからウェイ系になって盛りまくりそう……。

 

 

 こうしてことりの計らいで混浴することになった俺たち。

 温泉に入る前から騒がしかったが、もちろんこれで終わるはずがないことは容易に想像できる。一体どうなることやら……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 この4人でメインを張るのはμ's編の最後以来なので、個人的には超懐かしさを感じました(笑) 4人の会話のテンポといい、仲の良さといい、やっぱりこの4人のお話が一番執筆しやすいです。


 次回は今回の波乱を更に上回る、卒業&温泉旅行の後編です。



新たに☆10評価をくださった

星中 凛丸さん

ありがとうございます!


 この小説が気に入られましたら、是非お気に入り、感想、評価をよろしくお願いします! 
 小説を執筆するモチベーションに繋がります!


 バンドリ小説『ガールズバンドの子たちに甘やかされる日常』の第2話『Roseliaに甘やかされる』も昨晩投稿されているので、よろしければそちらにも是非お気に入り、感想、評価をよろしくお願いします! 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】色欲香る卒業旅行(後編)

 前回の続きで、高校の卒業旅行編です。
 高校生の頃の零君の描き方を忘れちゃってましたが、今思い返せば思春期男子のお手本のような存在でした(笑)


 海未が我儘を言うので、混浴は許容されたが着替えは別々となった。そのため先に俺が着替え、その後にみんなが着替えて露天風呂に入ってくる流れだ。

 そんな訳で俺は一足先に露天風呂を堪能しているのだが、やはり高級旅館の温泉はお湯から違う。詳しいことは何1つ分からないけど、なんか身体が芯の底から癒される感じがする。温泉なんてな、疲れが取れた()()()()だけで別にいいんだよ。それらしく書いてある効能の説明なんて、どうせ適当だし役に立たん。自分が癒されると感じられたらそれでいい。

 

 それにしても、露天風呂から見える景色が絶景すぎるのなんのって。夜空に浮かぶ月や星は壮大で、夜の闇に包まれた山々は雄大、その山から流れる大きな滝は広大で、それを眺めている自分が自然の支配者となった感覚になる。人間がどれだけ頑張っても屈することしかできないのが自然なので、それを支配したとなれば笑いも出ちゃうってもんだ。露天風呂からこれだけの絶景を見ることができるんだから、そりゃお高いわなこの旅館。

 

 そうやって大自然の王となって温泉を満喫していると、露天風呂の扉の開く音が聞こえた。

 振り返りたい衝動に駆られたが、ここはみんなから姿を見せてくれるのを待とうと思う。だってほら、みんなの一糸纏わぬ姿を今か今かと心待ちにしてるなんて知られたくないじゃん? これでも穂乃果たちの主人な訳だし、どっしり構えていたいんだよ。だから敢えて振り返らず、堂々と景色を見ている――――フリをする。

 

 

「お待たせ、零君!」

「わぁ~景色が綺麗だね! これを零くんと温泉に入りながら見られるなんて、ことり幸せだよ♪」

「卒業旅行にしては勿体ない気もするけどな――――って、マジか……」

 

 

 穂乃果とことりは躊躇いもなく湯に足を浸ける。それは別にいいのだが、想像以上に俺に近い場所、もはや身体と身体が密着するかのような場所に入ってくるものだから驚いてしまう。しかも穂乃果は俺の右隣に、ことりは左隣に、俺を挟み込むような形で入ってきた。

 

 振り返らないと決めていたのに思わず目だけを動かしてしまったのだが、2人の生脚が見えた瞬間に俺は息を飲む。最近までスクールアイドルで練習漬けだったのにも関わらず、どうしてコイツらの脚はこれほどまでに美脚なのだろうか。筋肉質になっているとか、日焼けをしているとか、余計な要素は一切ない。穂乃果もことりも、今にもむしゃぶりつきたくなるような綺麗な脚をしている。

 

 そして少し目線を上げてみると、ことりが今まさにバスタオルを取って湯船に入ろうとしていた。直後に俺の右隣で穂乃果が湯船に浸かる勢いの良い音が聞こえたから、恐らくそこら辺にバスタオルを投げ捨てて雑に飛び込んだのだろう。

 だが、ことりはその逆。まるで俺を誘惑するかのようにバスタオルをゆっくり外そうとするが、どこまで外せば自分の身体が外界に晒されるのかを熟知しているようで、胸も下半身もギリギリ見ることができない。身体を湯船に入れながら、同時にバスタオルが湯に浸からないように、更に俺に身体を見られないようにする見事な3連コンボを披露して、とうとう女の子の大切なところを一切見せずに湯船に浸かることに成功した。その美麗な技に興奮したってよりかは、その華麗な動作に拍手をしてしまいそうだった。

 

 

「残念だったね♪」

「何のことだか……」

「さぁ、ことりもし~らない♪」

 

 

 ことりは自分の肩を俺の肩に触れ合わせながら、笑顔で俺の顔を覗き込む。正直、凝視してたことバレてるよな……。でも、昔の俺だったら女の子の裸どころかメイド姿を見るだけで鼻血を出してたから、全裸の女の子たちに挟まれて平静を保っていられるあたり成長しただろ?

 

 

「そういや、お前ら身体洗ってないよな? いきなり湯船に浸かるなんてマナー違反も甚だしいぞ」

「だって早く温泉に入りたかったんだもん! それに穂乃果たちの貸切なんだし、細かいことは別にいいじゃん」

「温泉に飛び込むくらいだもんな……。お前にマナーもへったくれもねぇか」

「むっ、そんな零君だって穂乃果たちのカラダを舐め回すように見てるし、節操がないと思うけど?」

「零くんは男の子だもん。目の前の無防備な女の子を放っておくほどウブじゃないよね」

「お前ら俺をなんだと思ってんだ……」

「「変態さん♪」」

 

 

 ということは、自分たちは変態と混浴してるってことになるが、その事実は受け入れられるのだろうか。いや、むしろコイツらにとっては俺が肉食系であればあるほど嬉しいのだろう。穂乃果はどうか分からないが、ことりなんて完全に俺に食べられるのを待ってるし、どうしてこんな風に育っちまったんだか。出会ってもうすぐ2年になるけど、人の性格ってここまで捻じ曲がるもんなんだな……。

 

 ちなみに俺が2人のカラダを舐め回すように見ていたってのは、事実でもあり事実でもない。この露天風呂はお湯が純度100%で透き通っている訳ではなく、若干だが濃い目である。お湯の循環と同時に少し入浴剤を混ぜているのか、それとも天然でこの色なのかは知らないが、濁っていて汚いという見た目ではない。だが透き通っていないせいで、お湯に浸かっている2人のカラダを見ることができないんだ。両隣に女の子が全裸になっているというのに、その姿を視姦できないなんて何たる生殺し。2人もそれが分かっているからこそ俺を煽っているのだろう。

 

 全身が見えなかったとしても、温泉に浸かっている姿だけでも扇情的だ。穂乃果はサイドポニーを解き、ことりは長い髪を後ろで縛っているため、2人共いつもと違って大人っぽくに見える。全身がお湯に浸かっているため2人の姿は鎖骨から上だけを目視できるのだが、鎖骨から首のラインがお湯でしっとりと濡れているので異様に艶めかしい。肩にお湯をかける様も美麗であり、それらの光景に思わず黙りこくってしまった。

 

 

 そして、その状態は露天風呂の扉が再び開かれる音に気付くまで続いた。

 そういや、もう1人忘れてたな……。

 

 

「全く、どうして私までこんなことを……」

「あっ、海未ちゃん遅いよぉ~! 今まで何してたの?」

「どうしたらバスタオルで上手く全身を隠せるのかを試していました」

「相変わらずマメだなお前。どうせ湯船に浸かる時も身体を洗う時も素肌を晒すんだし、気にしなくてもいい――――――えっ……」

「ど、どうしたのですか? こっちを振り向くなり硬直して……」

「い、いや、お前のカラダ、綺麗だなって」

「は、はぁ!? いきなり何を言っているのですかあなたは!!」

 

 

 穂乃果とことりに対しては卑しい目を向けていたことは認める。だけど、海未に対してだけはそんな感情はほとんどなかった。海未のカラダは、目の前に広がる大自然の景色と肩を並べるほどに綺麗だ。2人と比べるとどうしてもカラダの凹凸や肉付きは劣ってしまうものの、そんな不利さえ凌駕するほど彼女の引き締まったカラダに目を奪われた。スクールアイドルだけでなく剣道や弓道など、あらゆる武道や華道を学んでいることもあり、それによって整えられたスレンダーな肢体は俺の心を動かすには十分なくらい艶やかだ。

 

 全身をバスタオルで隠してはいるものの、流石に1枚の布切れで全てを隠し切れる訳じゃない。むしろバスタオルで隠れるか隠れないかの瀬戸際で、綺麗な肌をチラチラ見せつけてくる方がよっぽど興奮を唆られた。

 

 

「む~! 穂乃果たちが来た時は褒めてくれなかったのに、どうして海未ちゃんだけ!? 依怙贔屓だよ!」

「ことりも零くんが襲ってくれるように色々頑張ってみたんだけどなぁ……」

「女の子によって抱く感情っつうか、欲情の仕方が違うんだよ。穂乃果とことりは性欲を掻き立てられる欲情で、海未は見惚れちゃうような、芸術的な興奮が湧き上がってくるんだ」

「それは褒められている、という解釈でよろしいのでしょうか……?」

「どうかな? その言葉を聞いて嬉しいと思ったんなら褒めてるんじゃね」

 

 

 あまり理解してもらえないのだが、さっきも言った通り下劣な興奮にも2パターンある。花陽や凛、希、にこの場合は穂乃果たちと同じで、絵里や真姫だったら海未と同じ欲情を抱く。そう考えると、女の子のビジュアルで興奮のパターンが決まっているのかもしれない。

 

 海未は呆れた様子で溜息をつきながら、1人で身体を洗いに行った。穂乃果やことりと違って、俺と少しでも一緒にいたいからって理由で、1日中歩き回った身体を洗いもせず湯船に浸からせる真似はしない。そういうところがしっかりしてるっつうか、そもそもそれが正しい行動なんだけどな。

 

 海未はこちらに背を向けながら、洗い場の椅子に座って身体を洗い始める。水も滴るイイ女っつうか、海未ほど水が似合う女はいない。ただでさえ背中のラインが艶めかしいのに、そこに水も滴って余計扇情的に見える。綺麗な長髪を洗う動作も相まって、やはりアイツの存在こそ芸術だよ。浮世絵にして部屋に飾りたいくらいだ。

 

 

「もうっ、また海未ちゃんばかり見てる!!」

「ほ、穂乃果!? つうか前!!」

 

 

 穂乃果は湯船から飛び出て、自分のカラダで俺の視界を遮る。湯船に浸かる時はもちろん一糸纏わぬ姿だから、そこから飛び出したらコイツがどんな姿なのか説明するまでもない。

 

 俺の目の前に、穂乃果の健康的なカラダが晒される。多少前屈みになっているせいか、年相応より少し大きめの胸2つが重力に従ってぷらぷら揺れていた。いつの間にかドスケベな身体になりやがって……。ちなみに下は湯に浸かっているので確認することはできないが、この体勢、穂乃果に覆い被さられているようでちょっと唆られるな。

 

 

「ほ、穂乃果ちゃん、大胆だね……」

「あっ、そっか。何も着てないんだったね、あはは」

「ッ…………!?」

「もう零くんったら、相変わらず分かりやす過ぎだよ~。だったらことりも~♪」

「うおっ!? お、お前まで……!!」

 

 

 ことりは俺の腕を取り、自分の胸で挟み込むように抱き寄せる。ことりの胸を幾度となく堪能してきた身だが、こうして生身の感触を味わうのは久しぶりだったりする。最近は卒業式やμ'sのラストライブ等で忙しかったので、このような欲情を感じることすらも久々だ。だからなのか、今まで溜まっていた欲求が爆発しそうになる。

 

 

「そうだ。このままことりたちが零くんの身体を洗ってあげようか? スポンジなら零くんの()()()にたくさんあるしね♪」

「お前らが来る前に既に洗ったんだけど……。ま、たまには身を委ねるのもいいか」

「おぉっ、零君がここまで潔い良いのは珍しいね」

「そりゃお前、この状況を堪能しない奴なんて男じゃねぇだろ。いい女たちと混浴できる立場にいるんだ、楽しまなきゃ損じゃねぇか?」

「零君、久しぶりにブーストかかってきたね!」

「ご主人様気質の零くん、ことり大好きだよ♪」

 

 

 そうだよな。俺はたくさんの女の子を合法的に侍らせるという、誰にも辿り着けない境地に達しているんだ。女の子が自ら裸になり、俺に肢体を晒す。こちらから何も言わずとも、向こうから自主的に擦り寄ってくれる。こんな最高のシチュエーションを前にして、いい女を喰わずにいられるだろうか? いや、いられない。

 

 以前、海未に聞かれたことがある。私たちと付き合い始めたのは、身体が目的なのか……と。それに対し俺は『そうでもないし、そうでもある』旨の回答をした。そもそも男なんだから、女の子のカラダに興味を持たない訳がないだろう。しかもこうして女の子が自ら、俺のために痴態を晒してくれているんだ、そのシチュエーションに靡かない方がおかしい。同性愛者じゃないんだから、女の子に欲情するのは至極普通のことだと思うんだ。

 

 そうやって正当化してるけど、言ってしまえばコイツらは俺のモノなんだから自分の好きにしていいよなってことだ。露天風呂でくつろぎながら女の子からのご奉仕を受けるなんて、最高にして至高のシチュエーションじゃないか。

 

 

 だが、もちろんそんな破廉恥な状況を快く思わない奴もいる。

 急に俺たちを照らしていた月明かりが消えたと思ったら、真上から海未が鬼のような形相でこちらを覗き込んでいた。こう間近で見ると、本当に水が似合う女だよなコイツ。ご丁寧にバスタオルで身体を隠しているが、恥ずかしそうにしているその様の方が堂々としているよりも男を誘ってること、コイツの場合は気付いてないよなぁ。

 

 ま、今はコイツの怒りを抑えるのに集中しようか……。

 

 

「誰も見ていないからと言って、羽目を外さないようにと言ったはずですが?」

「海未ちゃんも混ざる?」

「私の発言をどう捉えたらそんな言葉が出てくるのですか……」

「誰もいないからこそだよ! ほら、もう高校を卒業したし……」

「3月まではまだ高校生です。それに大学生になったとしても、不純異性交遊をしても良いとは一言も言っていません」

「相変わらず堅いなぁ海未ちゃんは。それじゃあもう穂乃果とことりちゃんの2人だけで楽しんじゃうよ?」

「そうだね。海未ちゃんは部屋で1人ぼっちで待っていてもいいんだよ?」

「そ、それは……」

 

 

 いいよいいよ、穂乃果とことりが上手いこと海未を篭絡しようとしている。俺は裸の女の子に抱き着かれながら露天風呂を楽しみつつ、勝手に海未が堕ちるのを待つだけだ。さっさと手を出してしまえば早い話なのだが、女の子をじわりじわりと追い詰め、最終的には完全に屈服させる様子も見てみたい。そのために今は敢えて手を出さず、穂乃果とことりに海未の攻略を任せているのだ。

 

 現に、海未の心は揺らいでいる。口では反抗的なものの、コイツもコイツで少なからず俺と一緒にいたいと想う気持ちはある。それは俺も同じで、どうせ混浴なんだったらみんなで一緒に入りたい。そしてどうせ夜の情事に励むのであれば、4人一緒がいい。そもそもぼっちで部屋で待っていたとして、外で俺たちが何をやってるのか気になっておちおちじっとしていられないだろう。だったら最初からこちら側に参加した方が、欲求的なストレスが溜まらずに済むだろ?

 

 

「全く。私の周りはいつの間にこんな風になってしまったのでしょう……」

「隠れていた性格が前面に押し出されただけさ。それに、それはお前もだろ?」

「な゛ぁ!? 私をこの2人と一緒にしないでください!!」

「海未ちゃん、何気にヒドいこと言うね……」

「ことりはどれだけ追い詰められても誠実を貫こうとする海未ちゃんのこと、大好きだけどね♪」

 

 

 確かに抵抗されたとしても簡単に陥落できちゃったらつまらないもんな。即落ち2コマもそれはそれで刺激的な欲求があるけど、それはそれ、これはこれだ。今は難攻不落の大和撫子をどう攻略するか、色々と試行錯誤するくらい興奮している。しかし、どうせ勝ち確定のゲームなのは変わらないので、勝ちまでのルート分岐をどれにしようか悩んでいるだけなのだが。

 

 とは言いつつも、温泉で女の子に抱き着かれているこの状況。これでも耐えに耐えていたのだが、そろそろ我慢の限界だ。生憎、心の底から噴き出す情欲を抑えきれるほど、俺は男ってもんが出来上がってないんでね。

 

 

「ひゃっ!? れ、零――――うむっ、んっ……!!」

「零君!?」

「わぁ~大胆……」

 

 

 俺は海未のバスタオルを剥ぎ取り、彼女の身体を抱き寄せる。そして、その勢いで彼女の顔もこちらに引き寄せて唇を奪った。

 あまりの突然の接吻に、海未は目を見開きながら唸る。だが次第に慣れてきたのか、いつの間にか俺からのキスを素直に受け止めていた。少しばかり激しくし過ぎたためか、唾液の音が卑しく鳴り響く。お互いに吐息を漏らしながらも、与えられる愛に夢中となっていた。現に、海未の強張っていた表情が解されて穏やかになっている。そして彼女からも、俺の唇を味わうように啄んできた。

 

 

「もうっ、やっぱり海未ちゃんばかり依怙贔屓じゃん! 穂乃果も!」

「お、おいっ――――う、ぐっ」

 

 

 穂乃果は俺を海未から無理矢理引き剥がすと、俺の唇を捕食するかのように吸い付いてきた。

 いつも元気いっぱいの穂乃果らしく、キスの激しさも半端がない。ただでさえ海未との接吻で俺の口の中が体液で満たされているのに、そこに穂乃果の唾液が流し込まれるとどうなるのかお察しのこと。液体音が凄まじく、お互いにお互いを貪り食うような欲望塗れのキスとなる。ただ俺も穂乃果も多少息苦しくはあるものの、互いを求める愛を感じようとしてただただ夢中となっていた。

 

 

「零くん、ことりだけ仲間外れなんて許さないからね」

「なっ、だ、だからいきなり――――ん、ぐっ……!!」

 

 

 ことりも穂乃果と同じく、俺の唇に無理矢理自分の唇を交差させる。

 ことりとのキスを一言で表現するなら、甘い。どうして女の子ってキスの味や香りまで甘いんだろうな? 男の匂いなんて想像もしたくないが、特にことりの甘さは脳が昇天してしまうほど甘々だ。穂乃果とは違って激しさはないが、優しい口付けが故に彼女の温もりも感じる。もちろん優しさはあれど、俺を絶対に離したくないという強い意志も伝わってくるほどのキスだった。

 

 恋人たちからの3連続キスに耐え……とは言っても最初は俺からだが、ともかく、溜まりに溜まった欲求はまだ発散しきれていない。

 

 

 前座は済ませた。後は――――――

 

 

「お前ら。もう覚悟はできてるってことだよな……?」

「もちろん。零君、大好きだよ……♪」

「今日はこのために来たんだから、好きなだけ……していいよ」

「仕方ありませんね……。や、優しくお願いします……」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、もう俺を阻む理性なんて存在しなかった。

 




 久々に欲求が爆発した零君を描きましたが、性欲に従順なのは如何にも高校生って感じです。Aqours編以降は大人になったので、意図的にそのような性格は前面に出さないようにしていたのですが、そのせいで高校生の彼と大人の彼が別人に見えてしまいました(笑)

 そもそも、ここまでねっとりとした回すらもμ's編以来な気も……?



 溜めておいたネタが尽きたので、次回はどんな話になるのか未定です。
 バンドリ小説の方に注力したいこともあり、投稿はこれからも週1ペースになる予定です。


【前回のアンケート結果】(投票数:57票)
『Q3. 幼馴染になって欲しいキャラは?』
 高坂穂乃果 20 / 35%
 南ことり 16 / 28%
 園田海未 21 / 37%

意外と僅差で驚きました(笑)
ことりは原作版ではなく、この小説版の彼女だと明言しておけばもっと伸びたかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

浦女の下着ドロボー(前編)

 久々にAqours登場!
 今回の時系列はAqours編で零君が浦女の教育実習生として活躍している時のお話です。


 

「お前、下級生の教室にズカズカ入り込んでくるなんて、生徒会長としてどうかと思うぞ?」

「誰もないのですし、気兼ねする必要はないでしょう。それに、素直に真実を話してくださったら即退散しますので」

「はぁ……?」

 

 

 放課後、俺は誰もいなくなった2年生の教室で今日の活動報告を作成していたのだが、そこにダイヤが殴り込んできた。

 何があったのかは知らないが、教室に入ってきた時からコイツはご立腹のようで、腕を組みながら鋭い目付きで俺を見下す。こうしてダイヤに怒られるのはもう慣れっこなのだが、今回ばかりは心当たりが全くない。これまではラッキースケベとは言え、この学校の女の子たちにあれこれ手を出しちゃったので、それで怒られるならまだ分からなくもない。そもそも教育実習生が生徒に怒られること自体がおかしいんだけどさ……。

 

 

「何があったんだ? 今活動報告を書いてる最中だから、片手間でいいなら聞いてやるよ」

「しらばっくれても無駄ですわ。先生でしょう? 女子更衣室から下着を盗んだのは」

「はぁ? んなことする人間に見えるか?」

「見えます」

「即答かよ……。とにかく、俺は知らん」

「教師の立場において、嘘は付いてないと誓えますか?」

「どれだけ疑ってんだ……。お前がそれで満足するなら誓ってやるよ」

 

 

 俺がそう言っても、自分が納得していないのか、それとも片手間に会話をされてあしらわれてると思っているのか、ダイヤは未だに難色を示している。どうにもこうにも俺を犯人に仕立て上げたいようだが、思い込みで犯人を決めつけるのは真実を暴く立場として解せないな。

 

 最初は適当に聞き流すつもりだったけど、一応生徒のピンチっぽい問題なので、ここで活躍して教育実習生としてポイントを稼いでおくのも悪くない。しゃーねぇから付き合ってやりますか。

 

 

「ま、お前の気持ちは分からなくもねぇよ。だってこの学校、教師と生徒を含め男が俺しかいないからな」

「そういうことです。先生は前科もありますし」

「前科持ちだからって疑うのはよくないぞ。ってことで、何があったのか言ってみろ。少しくらいなら力になってやる」

「あ、ありがとうございます……。さっきも言った通り、プールの女子更衣室で千歌さんのショーツがなくなってしまったのです」

「盗まれたの千歌のやつかよ……。で? アイツは今どうしてんだ? まさか……ノーパン??」

「そこで興奮なさるから疑われるのですわ……」

「じょーだんじょーだん」

「保健室に替えの下着がありますから、今はそれを着用しています。なので被害という被害は出ていないのですが、今後も同じ被害者が出ないよう、生徒会として問題を解決しておきたいのです」

「なるほどねぇ……」

 

 

 まさか千歌のパンツが盗まれてたとはな。アイツのパンツって子供っぽいし、盗んでもそれほど利益にならないと思うけどどうなんだろう。どうせ盗むならダイヤや鞠莉のような、お高そうで上品なパンツを履いてそうな奴を狙った方がマシだ。

 

 そもそもの話、ここは女子高だ。校門には警備員がいるため外部からの侵入は不可能。となると、千歌のパンツを盗んだのって女性ってことになるよな? つまり、犯人は百合属性持ち、または生粋のレズビアンだと考えられる。同性のパンツを更衣室からパクるなんて、超ド級の変態に他ならないに決まってる。なんか、底知れぬ泥沼に足を突っ込んでしまった気がするぞ……。

 

 

「先生? 顔色が悪いようですが、どうかされましたか?」

「いや、何でもない。じゃあ行くか」

「えっ、行くって……どこへ?」

「その女子更衣室だよ。現場百回(げんばひゃっぺん)って言うだろ?」

「ちょっ、そんな躊躇いもなく!? あっ、待ってください先生!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ここか。そういや、ここに来るのは初めてだな」

「男性なのに女子更衣室に来た経験がある方がおかしいと思いますが……」

「細かいことは気にすんな。行くぞ」

「えっ、い、行くって、一応確認しますけど、ここ女子更衣室ですよ!?」

 

 

 ドアノブに手を伸ばそうとしたら、ダイヤに手首を掴まれて遮られる。男が躊躇もせずに女子更衣室に入ろうとしてるんだから、誰がどう見ても妥当な判断だと思うだろう。そもそも俺は教育実習生とは言えども教師だ。こんな行為が上の人にバレたら、一発で人生が崩壊するに決まってる。

 

 だが、俺にはそうならない保証と自信があった。

 だから俺はダイヤの手を振り解き、その勢いで女子更衣室のドアを開け放った。

 

 

「せ、先生なんてことを……!!」

 

 

 目の前には男が絶対に訪れることができない花園。今まさに水泳部の着替えの途中だったようで、制服を開けている者、下だけ脱いでシャツだけになっている者、下着を脱いでいる者、スクール水着を着用している最中の者等々、女の子が制服からスク水に着替える各工程を一目で捉えることができた。学校の更衣室と聞くと多少薄暗くて辛気臭いイメージがあるけど、目の前に広がっているのはまさに桃色。この光景を1枚の絵にするだけでも芸術品になりそうだ。

 

 女の子たちは突然開いたドアの先に俺がいたので、目を丸くして驚いている。しかし、だからと言って叫び声を上げる子は誰1人としていなかった。

 しばらく場の空気が硬直したままだったが、ここで着替え途中の女の子たちが一斉に口を開く。

 

 

「きゃっ♪ もしかして、今日は神崎先生が指導してくださるんですか!?」

「嘘!? 先生に手取り足取り教えてもらえるなんて、今日部活あって良かったぁ♪」

「あ~ん! 先生が来るならもっと可愛い下着を履いてこれば良かったぁ……」

「ちょうどダイエットしたばかりだし、これはアピールするチャンスだよね!」

「先生、ようこそおいでくださいました。事前に連絡をくだされば、しっかりとおもてなしできましたのに……」

 

 

「これで分かったろ、ダイヤ。みんなこんな感じだから、女子更衣室だろうがどこだろうが入っても問題ねぇって訳だ」

「な゛っ……!! 水泳部の方に一体何があったのですか……?」

「この前、ちょっと親睦を深めただけだよ。ちょっとだけな」

「皆さんの反応を見てると、ただ事ではないようですが……」

 

 

 何も知らない奴からしてみれば、この光景が異様なのは分かる。俺だって冷静そうに見えるが、これでも想像以上に友好的に出迎えてくれて少し驚いているんだ。この子たちと何があったのかは今回の本題とは違うため多くは語らないが、ここは思春期で多感な女の子たちが集まる女子高。しかもこの子たちは生まれも育ちも内浦という田舎住みで、男との遊びとは何たるかも知らない。まぁ今は男との遊びを知り尽くしているているんだけど、とにかく、田舎の女子高に若い男が教師としてやってきたら、生徒の子たちはみんな気になる訳だ。

 

 

「これはこれでまた先生の罪状が増えましたが、今は目下の問題を解決するために敢えて目を瞑ることにしますわ」

「そりゃどうも。だったら、この事件を見事に解決したら許してくれよ」

「それはそれ、これはこれです」

「ったく、わざわざ協力してやってんのに……。なぁ、曜?」

「ふぇっ!?」

「曜さん、いたのですね……。しかもそんな隅っこに」

 

 

 当然と言えば当然だが、水泳部の曜もこの更衣室で着替え中だ。だが他の子たちは俺を歓迎するムードなのにも関わらず、コイツだけは更衣室の隅で顔を真っ赤にして俺を見つめていた。そもそも、曜の反応こそが健全なんだけどな。コイツ以外の部員が全員歓迎ムードだから、普通の反応をしているコイツの方が目立っているという異様な状況となっていた。

 

 歓迎されたいのは山々だけど、このまま身を委ねるとダイヤにどやされるのは目に見えているので、しっかりとここへ来た目的を果たすとしますか。

 

 

「曜、お前も千歌のパンツが盗まれた事件は知ってるよな? 2年生のプールの時間に怪しい奴はいなかったか?」

「う~ん、特にはいなかったかと……。それに今日の授業はほぼ自由時間だったので、誰がいつ抜け出して更衣室に戻ったとかも覚えてないんですよね」

「なるほど。その時間はみんな授業中だし、生徒では犯行は無理か」

「だとしたらまさか、外部から……ということですの?」

「校門には警備員がいるからそれは無理だろ。水泳部のみんなに一応確認するけど、千歌の下着がどこかに挟まってたりとか、カゴの下敷きになってたりとか、そういうのはなかったんだよな?」

「はい。着替える前にみんなで確認したのですが、特に何も見つかりませんでした」

 

 

 千歌のことだから、うっかりパンツを落としてしまったとかマヌケな事態も想定したが、どうやらそうではないらしい。これでパンツの消失が事故ではなく事件だってことが明らかになったのだが、同時にパンツを盗む変態が近場に存在するって事実も明らかになった訳だ。外部から侵入できない学校で、しかも俺以外は教師と生徒含め全員女性。あまり関わりたくないと思っていたのだが、こりゃ生粋のレズビアンと真っ向から戦うことになりそうだな……。

 

 

「なぁ曜、梨子がどこにいるのか知ってるか?」

「梨子ちゃんですか? 確か、練習の前に図書館で勉強をすると言ってましたけど……」

「そうか。ダイヤ、次は図書館だ」

「え? 梨子さんが何か関係あるのですか?」

「あぁ、お前は知らないのか……」

「え、えっ……??」

 

 

 梨子の名誉のためにも、アイツへの聞き込みは俺だけでやった方が良さそうだな。人には1つや2つ、例え仲間であっても知られたくない秘密があるってもんだ。

 まぁアイツにとっては一番知られたくない俺に知られてしまっているのだが……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「よぉ花丸、邪魔するぞ」

「先生、ダイヤさん? 2人揃ってどうかしましたか?」

 

 

 梨子から話を聞くために、俺たちは図書室へとやって来た。

 受け付け席にいた図書委員の花丸は、突然俺たちが殴り込んできたのを見て本を読む手を止めた。そもそも俺は図書室へ来る柄じゃないし、ダイヤも主な根城が生徒会室だから、俺たち2人がここに来ることを珍しく思ったのだろう。

 

 

「ちょっと梨子に用事があってな。ここにいるって聞いたんだけど」

「梨子ちゃんなら、奥の机で宿題をするって言ってましたよ。でも先生たちがわざわざ図書室へ来るなんて、何かあったんですか?」

「実は例の下着泥棒の事件を調査していたのですが、先生がここにヒントがあると信じてならないようで……」

「あぁ、そういえば学内SNSはその話題でもちきりだったずら。それに便乗して、『神崎先生に調査されるなら、私もパンツ盗まれたい』って声もたくさん……。他にも『先生がパンツを盗んでくれるのなら、いくらでも渡しちゃうのに』とか、『むしろ盗んで欲しい!』とか……」

「この学校の生徒はいつから変人の集まりになったんですの……」

 

 

 ダイヤと花丸は呆れた顔をしながら俺を見る。いつからとか言いながら、如何にも犯人は俺だって言いたげじゃねぇか……。確かにこの学園の女の子たちが淫乱思考になったのは俺のせいかもしれないが、そもそも淫乱になる奴ってのは潜在能力を秘めてる奴らだ。つまり、生徒たちが勝手に自分の内なる性格を発揮しただけに過ぎない。俺は田舎の穢れも知らない少女たちに少し教育を施してやっただけなんだから。

 

 何か言いたげな2人は放っておいて、さっさと梨子に話を聞きに行こう。このままでは下着泥棒とはまた別の問題で立件され兼ねないしな。

 

 この時間帯は部活時のためか、あまり人はいない。それ故にただでさえ静かな図書室がより静まり返っており、確かにここであれば勉強をするのにはもってこいの場所だろう。そもそもこの学校自体が生徒過少だから、浦女にとってはこれがいつもの風景なのかもしれない。

 

 

「梨子」

「ひゃっ!? せ、先生?? どうしてここに?」

 

 

 花丸の言う通り、梨子は図書館の奥の隅っこの机で数学の教科書を開いていた。如何にも地味なコイツがいそうな場所だが、今はどうでもいいか。とにかく、俺はコイツから聞き出したいことがある。

 

 

「勉強中に悪いが、ちょっとこっちへ来てくれ」

「え? どうして……?」

「いいから」

「は、はい……」

 

 

 梨子は怪訝な表情で立ち上がり、俺の元へと歩み寄ってくる。

 数日前までは俺を汚物を見るような目で見下してきたのに、今ではこれほどまでに無防備になっちゃって。コイツは警戒心は強いけど、信じた相手にはとことん油断する傾向にあるので、将来巧妙な詐欺に引っかからないか心配になってくるな。

 

 ま、それはそれとして――――――

 

 

「えっ、ひゃっ!? 先生!?」

「静かにしろ」

「そ、そう言われましても……」

 

 

 俺は梨子を本棚と本棚の間の誰にも見えない、いわゆるデッドスペースに追い込んだ。どこからどう見ても俺たちの体勢は俗に言われる『壁ドン』であり、この体勢こそまさに梨子が最も興奮するシチュエーションなのだ。現にコイツの顔からは既に湯気が立っており、もう今にも沸騰して爆発しそうだ。

 

 そう、梨子のこの性格を知っているのは世界で俺だけ。その他にも、梨子には誰にも話せない特殊性癖があるのだ。

 

 

「素直に吐けばすぐに解放してやる。盗んだモノを出せ」

「ぬ、盗んだって……何をですか?」

「惚けるな。知ってるだろ、千歌のパンツが盗まれたって騒動」

「そりゃ千歌ちゃんとはいつも一緒にいるので知ってますけど……って、まさか、その犯人が私だと思ってるんですか!?」

「この学校に外部から侵入するのは無理だ。そして、この学校には俺以外の男はいない。それで俺は犯人じゃないとすると、犯人は女だ。つまり、女が女の下着を盗む度し難い変態と推測できる。その条件に当てはまるのはただ1人、お前だ」

「は、はぁ!? 意味が分からないんですけど!?」

「それはお前が一番よく知ってるだろ。お前の部屋のどこに何の本があるのか、ここで赤裸々にしちゃってもいいんだぞ?」

「な゛ぁ……!?」

 

 

 梨子もようやく俺の言いたいことが理解できたようで、それを把握した瞬間に真っ赤だった顔が一瞬で真っ青になる。

 俺の知る女の子の中で、百合モノをこよなく愛しているのはコイツしかいない。しかも女の子同士の壁ドンという、偏りに偏ったシチュエーションが大好きだとすれば、千歌の下着を盗んだ犯人候補としてコイツが挙がってもおかしくないだろう。

 

 いくら偏屈な趣味を持っている人でも、外見だけを見れば至って普通に見える。だが世間の需要から外れた趣味を持っているってことは、それだけ心には一般人とは違う偏った考えがあるということだ。つまり、ソイツが何をしでかすかなんて想像もできない。だって自分には受け入れがたい趣味を持っている奴の行動なんて、予測できると思うか? 何が言いたいのかと言えば、梨子なら下着ドロボーくらいやり兼ねないってことだ。

 

 

「素直に吐け。今なら盗まれたパンツがそこらに落ちていたってことにしてやるから」

「私は何もしてませんよ!? た、確かに女の子同士は見ている分には好きですけど、二次元は二次元、三次元は三次元の区別はできています!」

「ホントかぁ~?」

「そうやってありもしない事実を自白させようとするの、良くないと思いますよ……」

「なんだ、つまんねぇなオイ……」

「まさかとは思いますが、私を困らせようとしてました……?」

 

 

 この俺が適当な推理で幼気な少女を犯人に仕立て上げる訳ねぇだろうが。とは言いつつも、コイツが犯人だったら面白いだろうなぁってお遊び思考はあったんだけどな。

 それにもし梨子が下着を盗むとしたら、人目が多いプールの更衣室なんかよりも直接千歌の部屋に行って盗んだ方がいいに決まってる。

 

 

 ま、お遊びはこのあたりにしてそろそろ本題にでも――――――

 

 

「なっ!? 先生に梨子さん!? こんなところで何をやっているのですか!?」

「ダイヤさん!? い、いやこれはそのぉ……」

「梨子の恥ずかしい秘密を赤裸々にしようとしていたところだ」

「い、意味は分かりませんが、とにかく校内での不純異性交遊……と言いますか、そもそも教師と生徒でしょう!? いいから早く離れなさい!!」

 

 

 物静かな図書室にダイヤの怒号が飛ぶ。

 梨子の秘密がバレないようにわざわざ本棚の隙間に連れ込んで人目を避けてやったんだから、感謝くらいして欲しいもんだけどな。

 

 

 そんな訳で、下着ドロボー探しはまだまだ続く。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 浦の星を舞台にした話を描くのは久々ですが、結局雰囲気はいつもと変わらないので舞台がどこだろうが関係なかったりします(笑)
 それよりも、せっかく最終章でAqoursが零君のことを名前呼びできたので、その後の話の方も描いてみたかったり。


 次回は下着ドロボーの真実が明らかとなります。
 また、バンドリ小説の方が一段落したので、しばらくはこちらの投稿ペースを上げていこうと思います。


 本日バンドリ小説も同時に投稿しているので、そちらも是非ご覧ください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

浦女の下着ドロボー(後編)

 令和1発目!
 今回のお話は推理モノというよりかは、零君とAqoursの日常回としてまったり読んでいただければと思います。


 

 図書室をあとにした俺たちは、Aqoursの部室へと向かっていた。

 当時の状況を知るには被害者に直接話を聞いた方が良いと思い、当の本人である千歌に会おうとしたのだが――――――

 

 

「ち、違うんですこれは!! ちょっとパンツのサイズが小さくて気になるなぁと思っただけで、決して脱ごうとしていた訳じゃ……」

 

 

 千歌はこちらにおしりを向け、パンツに手をかけて今にも脱ぐ体勢であった。健康的な太ももと脚が見事なまでに晒され、おしりは触ってくれと言わんばかりにつんと上を向いている。まさに男を誘うようなポーズに、俺は思わず息を飲んでしまった。コイツの言い訳を聞くに脱いではいないらしいのだが、どこからどう見てもおしりを振ってこちらを誘惑しているようにしか見えない。いつも思うけど、千歌って無防備が過ぎる。誰とは言わないが、いつか汚い男に襲われても知らねぇぞ?

 

 ちなみに、ダイヤは口をあんぐりと開けて硬直している。学校の秩序を守る立場として、不純異性交遊や破廉恥なことにはうるさい彼女のこと。目の前の状況を見たら唖然とするしかないのだろう。

 

 

「言いたいことは山ほどありますが、まずはその格好を何とかしなさい」

「そ、そうしたいのは山々なんですけど、あいにく下着がキツくて……」

「じゃあどうしてそれを履いたのですか……」

「そもそも保健室に下着がこれしかなかったんですよ! でも履かないのはないなぁ~っと思って、渋々これを……」

「しかし履いてる間にキツくなって、部室に誰もいないのを見計らい緩めようとしたら私たちが来てしまったと」

「そういうことですね……」

 

 

 股に食い込みそうなくらいの下着を装着するなんて、もはや大人の玩具と何ら変わらねぇじゃん。そもそも、部室に誰かいようがいまいが野外で脱ぎだすこと自体が異常だ。この部室は体育館に面しているため、俺たち以外の誰かの目に触れる可能性もある。それもこれもこの学校に生徒が少ないが故の油断だったのだろうか。まぁ千歌のことだから、そこまで考えてはいないと思うけど。

 

 

「そんなことより、どうしてここへ!?」

「そんなことではないと思うが……。お前に当時の状況を聞いておこうと思ってな」

「当時って、私のパンツがなくなったプールの授業のことですよね? う~ん、私は授業中に更衣室へ戻らなかったので、その時の状況と言われても……」

「なんだ、役に立たねぇなオイ」

「ひどっ!? 被害者を労わることくらいできないんですか!?」

「パンツを盗られた女の子にかける言葉を知ってるのなら教えてくれ……」

 

 

 どうせ俺に女心なんてものは分からない。デリカシーのない発言をするのであれば、いっそのこと堂々と他人事でいた方がマシだ。そもそも犯人が男ではない時点で犯罪の線は消えたし、そのせいで俺ものんびりしてるって自覚はあるけどな。むしろ犯人の女性がどんな目的で千歌のパンツを盗んだのか、その理由の奇々怪々さに期待しているくらいだ。

 

 

「手掛かりは0ですか……。犯人の目撃者もいないようですし、追跡は諦めた方がいいのかもしれませんわね」

「おいおい、俺を犯人に仕立て上げてる時の勢いはどうしたよ。でも、このまま放っておくと二次被害が出ちまうかもな」

「それは避けたいのですが、今の状況だと何とも……」

「そうですよ! 先生たちには犯人を捕まえてもらわないと!」

「ダイヤの言いたいことは分かるけど、千歌、お前も犯人に相当怒ってるのな」

「あっ、そ、それは個人的な事情があると言いますか……。ま、まあ可愛くてお気に入りの下着だったことは間違いないですけど……」

 

 

 千歌は頬を染めたままそっぽを向いてしまった。まぁ女の子には女の子の事情があるのだろう。単にお気に入りのパンツを盗られて憤ってる可能性もあるが……。

 

 とにもかくにも、このまま引き下がるのは負けた気がする。だから、どんな手段を用いても犯人を白日の下に晒さないと気が済まない。可愛い教え子のパンツを誰かに寝取られるのは我慢ならねぇって訳だ。

 

 

「あのぉ、ダイヤさん。今日の練習ってどうします?」

「この騒動を解決しない限り、千歌さんも私も練習に集中できないでしょう。とりあえず、先生が犯人を見つけてくださるまで待機しておいてください」

「おっ、なんだかんだ俺のことを頼ってくれるのか。素直じゃねぇなお前も」

「いえ、先生なら下着を盗む人の気持ちが分かると思いまして」

「俺が常日頃から女の子の下着を狙ってるみたいなニュアンスやめろ」

 

 

 そりゃ欲しいか欲しくないかで言ったら欲しいけど、妹に頼めば好きなだけ貰えるので、わざわざ盗む必要はない。俺は鬼畜かもしれないけど非道ではないので、女の子の温もりを感じたいのなら本人を直接襲う。つまり、俺の場合はコソコソする必要はないってことだ。

 

 犯人を探すとは言っても、犯人側がほとんど手掛かりを残していないので、ほぼ手詰まりに等しい。今までありとあらゆる謎を解明してきた名探偵の俺であっても、こればかりはお手上げだ。もっと有力な情報があればこっちも検討をつけて動き出せるのだが……。

 

 

「お姉ちゃん? 千歌さんに先生も」

「おぉ、ルビィか」

 

 

 俺たちが犯人捜索に行き詰っている中、部室にルビィがやって来た。ルビィは自分の身体くらいの大きさがある布束を抱えており、もはや自分の顔が布の塊に隠れてしまっていた。そのため、その布束からひょっこり顔を出す形で俺たちと会話をしている。

 

 

「ルビィ、何なのですかその布の量は……」

「これ? 次のライブの衣装を作る材料だよ」

「次の衣装の担当はルビィちゃんたちだったよね。本担当の曜ちゃんはいるとして、今回は善子ちゃんと鞠莉ちゃんも一緒なんだっけ?」

「善子さんと鞠莉さんですか……。まともな衣装にならないような気が……」

「あはは……。そうならないように、ルビィと曜さんでセーブしたから大丈夫だよ。むしろ、しっかりセーブしないと堕天使の羽とか付けられそうだし……」

 

 

 衣装を鞠莉に任せたら露出多めのサンバ衣装になりかねないし、善子に任せたら堕天使のコスプレになりかねない。衣装担当は本担当の曜とルビィを含め、残りのメンバーから2、3人のローテーションで人員を回しているのだが、今回ばかりは衣装決めに相当な時間を要したに違いない。主に問題児2人を言い包めるために……。

 

 

「ルビィに面倒をかけるとは、善子さんと鞠莉さんにはあとでお灸を据えないと……」

「確かに衣装決めは大変だったけど、面白いアイデアがたくさん出てきて、今後の衣装作りの参考にはなったよ。曜さんも2人の奇想天外な発想に驚いてたし。もちろんそれだけ衣装を作るルビィたちが大変なんだけどね……」

「そういえば、プールの授業中に曜ちゃんがそんなことを言ってたよ。鞠莉ちゃんが提案する派手な衣装と、善子ちゃんが提案する黒系統の衣装が相反しているから困ってるって」

「うん。だからルビィも何か参考になるものはないかと思って、こうして色んな生地を持ってきたんだ」

 

 

 どうやら次のライブの衣装作りはかなり難航しているようだ。曜とルビィの発想ではどうしても可愛い系統に偏ってしまうため、Aqours内でも屈指のキチガイであるあの2人の意見を上手く取り込むのが難しいのだろう。

 

 

「それはそうと、お姉ちゃんと先生はどうしてここに? まだ練習の時間じゃないと思うけど……」

「知ってるだろ、コイツのパンツが盗まれたって話。その調査をしてるんだけど、進展がなくてさ」

「それ、学内SNSで回ってたような……。でも、みんなそこまで気にしていない様子ですよね?」

「それは先生がこの学校の生徒を誑かしているせいですわ。さっきプールの更衣室へ行った時に、皆さんの豹変具合に驚いてしまいましたから……」

「人聞きが悪いな。俺がアイツらを変えたんじゃなくて、アイツらの才能が勝手に開花しただけだ。ま、水泳部の連中は俺の目から見てもやり過ぎだと思うけど……?」

「先生? どうかされましたか?」

「い、いや、何でもない。とにかく、ダイヤはダイヤで聞き込みを続けてくれ。俺は行くところがあるから」

「せ、先生!? ここへ来て用事って……って、行ってしまいましたわ……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あぁ、勢いで持って来ちゃったけど、どうしよっかなこれ……」

 

 

 校舎の渡り廊下、1人の少女が制服のポケットの中を探りながら歩いていた。時折ため息をつきながら、どんよりとした雰囲気を醸し出している。

 俺は渡り廊下の柱にもたれ掛かりながら、その子の様子を眺めていた。その子は前を向かず自分のポケットに意識を集中しているためか、俺の側を通りかかってもこちらに気付くことはない。ま、あんなことをしたんだから気にするのは当然と言えば当然か。

 

 

「おい、無視すんな」

「ひゃぅ!? せ、先生!?」

「水泳部のあとにアイドル活動とかお疲れだな、曜」

 

 

 俺はAqoursの部室へ向かっている曜を捕まえ、彼女の進路を遮るように立ちふさがる。

 曜は慌てた様子で俺の顔を見ながら、一歩二歩後退りをして距離を取る。よほど後ろめたいことがあるらしいのだが、俺からしてみればそれはもうお見通しだ。

 

 

「ど、どうしたんですか? もう部室にいるものだとばかり思ってましたけど……」

「お前を待ってたんだよ。生徒を出迎えるなんて、いい先生だろ?」

「は、はい、そうですね……」

「なんだ、元気ねぇな。まるで興味本位で手にしてしまったものを返すに返せなくて困ってるような、そんな顔をしてるぞ」

「えっ、どうして分かったんですか!? って、いや、何でもないです……」

「今更言い直しても遅いって……」

「ぐっ……」

 

 

 曜は観念して幾分か気が楽になったのか、強張っていた表情が徐々に落ち着きを取り戻し始めていた。とは言っても罪状が軽くなるかどうかは、この後の尋問にコイツがどう答えるかで変わってくる。プールの更衣室へ殴り込んだ時からコイツは隅っこで気配を消していたので、最初から怪しいとは思っていたんだがな。まさか本当に女の子が女の子のパンツを盗むとはねぇ……。

 

 

「別に盗ろうと思って盗った訳じゃないんです! そ、そのぉ、一瞬の気の迷いと言いますか……」

「まぁ誰でもそういうことはある。でもそれで済まされたら警察は要らねぇよ」

「もしかして私、退学……だったり?」

「お前が千歌のパンツを盗んだってことは俺しか知らない。だから、俺が言いふらさなければ大丈夫だ」

「そ、そっか、良かったぁ……」

 

 

 何を安心しているのか。もし俺がここで『退学になりたくなければ、俺の言うことを何でも聞いてもらう』系の展開に持ち込んだら、自分の身体が無事では済まされないっていうのに。それだけ俺を信頼してくれているとしたら嬉しいけど、曜に至っては最初から好感度が高かった気がするんだよな。どうしてかは知らねぇけど。

 

 

「で? どうして盗んだんだ?」

「厳密には盗んではないです。って、先生ならもう理由が分かってるんじゃないですか?」

「あぁ、善子と鞠莉の無茶振りのせいだろ?」

「あはは、よくご存じで。次のライブの衣装をどんな風にするかを、プールの授業中や更衣室で迷ってたんですよ。授業が終わって1番乗りで更衣室にいた私は、ふと千歌ちゃんの下着が目に入っちゃったんです。それを手に取って、あぁ綺麗だなぁ可愛いなぁとか、衣装の参考になりそうだなぁとか思ってたら、シャワーで身体を洗い終えたみんなが更衣室に戻ってきてしまいまして……」

「それで千歌のパンツを戻す暇がなく、咄嗟に自分の制服に隠してしまったと。そもそも、親友の下着を手に取るなんてどんな趣味してんだよ……」

「仕方なかったんですよ! 可愛くて衣装のアイデアが広がりそうだったんですから!!」

「開き直んなよな……」

 

 

 でも曜ならやり兼ねないと思ってしまうあたり、本人に対して失礼だろうか。梨子といい曜といい、どうも親友関係以上に千歌に入れ込んでいる節がある。そのせいか、千歌の下着を盗んだのは故意なのではないかと、本人の口から真実が語られるまで疑いが晴れなかった。μ'sもそうだけど、スクールアイドルの女の子たちって百合百合しい一面があるよな。μ'sもAqoursも、俺が介入してなかったら女の子同士でどんな関係になっていたことやら……。

 

 それにしても、蓋を開けてみれば事件でも何でもなかった訳だ。まぁ見ず知らずの人が犯人で、騒動が大きくなるよりかは良かったのかもしれない。

 

 

「それで物は相談なんですけど、このことは内密にお願いしたいなぁ~と」

「俺は別にいいけど、どうやって返すんだそのパンツ」

「それは先生が『そこらに落ちていた』と言ってくれれば……」

「そうなると俺が盗んだと勘違いされるからパスだ。ただでさえダイヤから疑われてるっつうのに……。いっそのこと、プールの更衣室に戻しておけばいいんじゃね? 次に入った奴が気付くだろうし、お前が犯人だとは特定されないだろ」

「そうですね……」

 

 

 知らぬが仏という言葉もあるので、このことは俺と曜の内緒にしておくか。

 そういや、なんかコイツとの内緒事が多くなってきた気がする。雨の日に曜と公園で雨宿りをしたことがあるのだが、その時に起こった出来事は口が裂けても誰にも話せない。今でもどうしてあんなことになったのか、思い出すだけで少し罪悪感があるからな……。

 

 

「そういや、アイツのパンツってどんなのだったんだ? お前が目を引くくらいだから、相当奇抜な柄だったんじゃ……」

「そ、それが、千歌ちゃんにしてはちょっと大人っぽいと言いますか、ピンク色でこの生地の薄さ、しかもレース模様なんですよ」

「確かに、子供っぽいアイツには合わねぇよな」

 

 

 俺は曜に手渡された千歌のパンツを受け取ると、何を思ったか広げてしまった。

 よく考えてみれば、これは店で下着選びをしているのとは訳が違う。数時間前まで千歌が実際に履いていたモノなのだ。そう考えるとなんかこう、くるものがあるな。

 

 

 だが、運の尽きとはまさにこのことだった。

 

 

「せ、先生!? やっぱり……!!」

「えっ、ダ、ダイヤ!? いや違うんだこれは!!」

「そうですわね。着任早々私たちにセクハラをするような先生が、シロなはずないですわ。さぁ、生徒会室へ連行します!」

「誤解だって! おい曜――――って、いない!? アイツ逃げやがったな!!」

「なにを騒いでいるのですか! 千歌さんの言っていた下着の柄と全く同じモノを持っているそれこそ、動かぬ証拠ですわ!」

「だから違うってぇえええええええええええええええええええ!!」

 

 

 神崎零の教育実習生編、これにて完……?

 




 前編からかなり時間が空いてしまいましたが、既に完結しているので今後も不定期にまったりやるつもりです。楽しみにしていただいている方がいましたら申し訳ないです。


 次回はこころとここあ回を予定していますが、ネタは色々溜め込んでいるのですり替わっているかもしれません()



新たに☆10評価をくださった

黒電話の所有者さん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

卒業祝いにロリっ娘の花びらを貰うお話

 今回はもはやこの小説の準レギュラー的なポジションを獲得している矢澤のロリ姉妹回。
 スクフェス編では中学生と高校生になってロリ成分は消えちゃいましたが、今回の時系列は零君が高校を卒業した直後なので、ちゃんとロリロリですよ(笑)


 

「お兄様、ご卒業おめでとうございます!」

「おにーちゃん、卒業おめでとう!」

「あ、あぁ……」

 

 

 どうしてコイツらはいつも俺のベッドに潜り込んでくるのだろうか……? アポさえ取ってくれれば普通に出迎えるのに、コイツらと会う時の大半は自分のベッドの上だ。女子中学生と小学生をベッドに侍らせているこの絵面、事情を知らない人に見られたら即通報ものだろう。もちろん俺は何も悪くないのだが……。

 

 そんな訳でまたロリっ娘たちに絡まれているのだが、今回は純粋に俺の高校卒業を祝ってくれているらしい。いつもは覚えたての性知識を俺に披露してばかりなので、今回ばかりは安心かな。そもそも男のベッドに上がり込んでいる時点で安心していいのかどうかは分からないが、(恐らく)純粋なコイツらのことだから、そんなことは気にしちゃいないだろう。

 

 

「祝ってくれるのはありがたいけど、来るなら来るって言えよな……」

「だって、おにーちゃんにサプライズしたかったんだもん! それにプレゼントもあるしね」

「プレゼント?」

「はい。愛しのお兄様にどんなプレゼントを渡せば良いか、去年から2人でずっと考えていました」

「去年って、それはありがとうとしか言いようがないけど……」

 

 

 コイツらが俺にプレゼントを渡す画策をしているなんて、にこから聞いたこともなかったぞ。恐らく口止めされていたのだろうが、数か月にも渡ってプレゼントを厳選してくれたとなると単純に嬉しいな。中学生と小学生なのでお金がかかったものではないだろうが、逆に高価なモノを渡されても恐れ多いだけなので、多分2人の手作りの何かだと推測する。ほら良くあるじゃん、子供がお父さんの似顔絵を描くってことが。それに数か月もかかったということは、それなりの創作物だと思うんだ。

 

 なんだろう、久々にコイツらに安らぎを感じた気がする。いつもは2人に引っ掻き回されっぱなしだから、久々に子供っぽいことをする2人を見ることができた。こうやって普通にしていれば可愛いのだが、コイツらの場合どこで覚えたての性知識を披露してくるか分からねぇからなぁ……。

 

 

「という訳で、プレゼントです!」

「えっ……? い、いや、どれ……?」

「もうっ、察しが悪いなぁおにーちゃん。プレゼントは、わ・た・し・た・ち!」

「えぇ……そんなご飯にする? お風呂にする? それとも私……? みたいなノリで言われても……」

「おかしいですね。思春期の男性の約8割はロリコンだというデータがあるのですが……」

「俺を含めた全世界の思春期男子に謝れ……」

 

 

 あぁ、やっぱりこういった展開になるのね……。いつも思うけど、俺が女の子に対して安心を覚えた時って大抵そのフラグをへし折られるよな。いやμ'sを相手にするのなら別にいいんだけど、ロリ系2人を相手にするのは倫理的にさ……? 

 

 

「そもそもなんですけど、お兄様は私たちを手に入れたいとは思わないのですか?」

「そうだよそうだよ! 普通の男だったら、目の前にいる少女を自分好みに染め上げて、身体の芯まで貪り尽くしたいって思うはずなのに」

「お前らの中で男は全員獣かよ……」

「しかも、私たちはただの少女ではありません。従順で幼気で、それでいて貧乳で、更にはロリ。しかも自分の先輩の妹だなんて、これほどまでのステータスを持っている私たちを見て何とも思わないなんて、もしかしてお兄様……ED??」

「その質問、答える必要ないよな……?」

 

 

 つうか、コイツらは自分たちが持っているステータスを熟知してたのか。どうせにこやμ'sの面々からの入れ知恵なんだろうが、元々押しの強いコイツらに余計な知識が身に付くと厄介なことこの上ない。全く、相手をするこっちの気にもなって欲しいよ……。

 

 こころもここあも、男の前で身体を差し出すことがどれだけ重要なことか分かっていない。大好きな人に構ってもらいたいから、とりあえず自分の身体をエサにしておけば引っかかるだろう的な考えだとは思う。そんなお茶目なところが可愛いと微笑むべきなのか、それとも男を誘惑する危険性を教えてあげた方がいいのか。どちらにせよ、また俺はコイツらと戦わなければならないってことだ。

 

 

「お兄様が困ってしまうのも分かります。いきなり私たちを差し出されても、どう使っていいのか迷いますよね」

「いや、それ以前の問題だと思うけど……?」

「だから、最初は無難に花束を渡そうと思ってたんだよ。でも、おにーちゃんって知り合い多いし、花束なんてたくさん貰うでしょ?」

「まぁ人脈は人並み程度だけど、このご時世で花束を貰うことなんてほとんどないだろ。実際に1つも貰ってないし……」

「もしかしたらそうだと思って、私たちと花束を同時に渡すことにしたんだよ!」

「はぁ? 花束なんてどこにもねぇじゃん」

「何を惚けてるんですか? 女の子には、みんな花びらが付いてますよ♪」

「お前ら、どこでそんな言葉を学んできた……」

 

 

 ネットが発達している時代だからこそ、こんな子供でも性知識をいつでも好きな時に学べる。コイツらのようにませたガキが増えたのもその影響かもしれない。

 その知識を披露するのは最悪いいとしても、コイツら学校でも今と同じような会話をしていたりするのだろうか……? 覚えたての言葉をすぐに使いたがる性格は年相応なのだが、せめてその性格を発揮するのは俺の前だけにしてもらいたい。いや、ヤンデレ風にコイツらを独占したいとかじゃなく、コイツらの会話に苛まれる不幸な人たちを憐れんでのことだ。

 

 

「安心してね、おにーちゃん! 花びらは花びらでも、私たちのはびらびらじゃないから! まだ咲いたばかりのつぼみだよ!」

「安心するしない以前に、お前らがびらびらだったら公序良俗的にマズいだろ。いや、今の会話だけでも相当だけどさ……」

「思春期の男性の約8割は処女厨だというデータがあります。お兄様も多分に漏れずそうなのでしょう」

「勝手に決めんな……」

「それではもしですよ? もし仮に私たちとエッチすることになったとして、私たちが処女か非処女、どっちが興奮できますか?」

「その質問は答える必要あんのか……?」

「あります! もしお兄様が非処女厨だった場合、この買ってきたゴーヤで私とここあの下を――――」

「な゛っ、分かった分かった! 処女厨でいいからそれ片付けろ!!」

「おにーちゃんは処女厨っと。いやぁ嬉しいなぁ♪」

「逃げ場がない……」

 

 

 どの選択肢を選んでもハッピーエンドに向かうルートが見えないんだがそれは……。

 ぶっちゃけて言ってしまうと、そりゃどうせ相手をするなら初物の女の子がいいに決まってる。純潔をこの手で散らしてやったという証を自ら刻み込みたいんだ。もちろん、こんなことはコイツらの前では言わないけどさ。言ったら最後、どれだけコイツらが暴走するのか分かったもんじゃねぇからな……。

 

 

「そんな訳で、お兄様は目の前のお花を好きなだけ散らし放題です。男性は小学生の頃、道端に綺麗な花が咲いていると踏み潰したくなる衝動に駆られたと聞きます。それは単なるイタズラではなく、純潔の女性を穢したいという無意識的な行動だったのでしょうね。つまり、そんな男性は将来が有望ということです」

「俺がツッコミを入れる前に完結させやがった……」

「お兄様の子供の頃はやんちゃ坊主だったと、お姉様から聞いています。まだ性知識の『せ』の字も知らない同級生を、毎日家に誘って食っていたとかいないとか……」

「いや食ってねぇし! それに俺とにこが知り合ったのは2年前なのに、どうして俺の過去を知ってるんだ……」

 

 

 またしてもこころとここあの知識に俺のあることないことが植え付けられていく。コイツらは良くも悪くも純粋で、しかも姉であるにこのことを俺と同等以上に慕ってるから、アイツの言うことなら何でも信じちゃうのがこれまた困りものだ。どうやらにこ以外のμ'sの面々からもあらぬ知識を埋め込まれているみたいだし、その火種を消す役目は俺だってこと分かってんのか……?

 

 そういや、この2人について疑問に思っていたことがある。

 そもそもの話、どうしてコイツらは俺に懐いているのだろうか? 2人はまだ小学6年生と中学1年生の幼子なので、よく遊んでくれる近所のお兄ちゃん的な感覚で懐かれているのかもしれない。ま、流石にこんな小さい子が明確な恋愛感情を持つ訳ねぇか。最近はマセガキたちが多いから中学生でもデートなりエッチなりは普通だって聞くけど、仮にも純粋の皮を被っているこの2人に『恋』は程遠いだろう。

 

 

「おにーちゃん? どうしたの私を見つめて? そんなに見つめられると恥ずかしいよ……えへへ♪」

 

 

 こうして余計なことを口走らなければいい子たちなんだけど、コイツらからしてみればどんな猥談でも世間話レベルなんだろうなぁ……。今みたいに頬を染めながら笑顔を向けてくれるだけでいいのに、覚えたての性知識をドヤ顔で披露されると暖まっていた空気が一瞬で凍り付く。猥談を仕掛けてくるのも、俺の反応を見て楽しんでいるとか、俺に構ってもらいたいとか、そんな感じなんだろうか?

 

 ま、こういうことはストレートに聞いてみるのが筋ってもんか。

 

 

「なぁ、お前らってどうして俺に固執するんだ? なんか好感度が上がることしたっけ? こころに至っては出会った頃なんて、俺と遭遇したら防犯ブザーを鳴らしてたよな?」

「そんな昔のことは忘れました。大切なのは今。今ここに芽生えている愛こそ育むべきものなのです」

「忘れたって、まだ1年半くらいしか経ってねぇだろ……」

「私はおにーちゃんに一目惚れしちゃったよ! おねーちゃんから聞いてた以上に、カッコよくて頼りになって、変態さんだったんだもん」

「最後のは褒めてねぇだろ……。でもそれって、単なる憧れとかそういうのじゃねぇの? やっぱり、お前らに恋は早かったか」

「早くないよ! 私、おにーちゃんのことが好きだもん!」

「そうですね。そうでなければ、私たちが男性に身体を許すはずありませんから」

「好きだから身体を差し出すって考えもどうかと思うが……」

 

 

 考え方は極端だが、意外にも自分たちが恋をしてるって自覚はあるみたいだ。だからと言って俺がどうこうできる訳じゃないが、コイツらが本気なんだったら俺も相応の覚悟で答えてやらなければならない。1年前のμ'sみたいに、女の子の気持ちを知りながらもスルーしたらどうなるのか、身をもって知ってるからな……。

 

 

「どうしてそんなこと聞くの? もしかして、私たちを貰ってくれる気になったとか!? そっかぁ~私たちも今日から非処女かぁ~♪」

「初めては痛いらしいですが、お兄様のためなら我慢できます。むしろお兄様は私のことなんて気にせず、好きな時に好きなように使ってくれてもいいんですよ?」

「だから、どうしてお前らは恋人になる=非処女になるって発想なんだ……。そもそもお前ら、子供がどうやってできるのか知ってるのか?」

「お、お兄様……!?」

「お、おにーちゃん……!?」

「な、なんだよ? そんな分かり切ったことを聞くなってか?」

「女の子に子供の作り方を聞くなんて……」

「セクハラですよ」

「こんな時だけ常識人ぶってんじゃねぇ張り倒すぞ……」

 

 

 セクハラは相手の意に反する性的言動を行うことを指すが、それは男から女性だけでなくその逆も然りだからな? つまり、俺はこの2人が襲来するたびに毎回幼女からセクハラをされている訳だ。幼女2人からのセクハラとかその筋の男からすると興奮モノだろうが、生憎だが俺にロリ好きの趣向はない。以前に服が濡れて透けているコイツらの服を見てしまったことがあるが、それは男の生理現象だから仕方がないってことで。

 

 

「冗談はさて置き、子供の作り方なんて弁えてますよ」

「その年でどう弁えるんだ……」

「そうは言っても最近知ったんだけどね~。でも繋がるだけで子供ができるなんて、意外と簡単なんだね」

「簡単って、それこそ簡単に言うなよな……」

「あそこまで簡単にできると、普段の日常生活でも気を付けなければいけませんね。例えば、私が階段から足を滑らせて落ちた時に、下にいた男性の股間に股がブッスリ――――みたいな展開があり得ますから」

「それに、満員電車に乗ってる時とか大変だよ。車両が揺れたら、男の子のあそこがうっかり入っちゃうかもしれないでしょ?」

「お前らは露出狂しかいない世界に住んでんのか……」

 

 

 そんなシチュエーションばかり思いつくなんて、AVやエロ漫画の見すぎだろ……。どうやら矢澤家にはコイツらの手が届く範囲でR-18モノが転がっているらしいので、とてもじゃないが年頃の女の子が3人いる家とは思えない。矢澤家がそのような惨状になったと聞いてから俺は1度も訪れたことがないのだが、まぁ訪れようとは思わないよな……。

 

 

「よ~しっ、おにーちゃんもやる気になったことだし、そろそろ始めよっか?」

「お兄様、不束者ですが、これからもよろしくお願い致します」

「うぉおおいっ!! 何で脱ぐんだよ!?」

「おにーちゃん、もしかして着衣プレイがお好み?」

「ふむ、CMNF派ですか」

「だから、そんな言葉どこで覚えてくるんだよ……」

 

 

 『CMNF』=『Clothed Male and Naked Female』。つまり、着衣の男性と裸の女性という意味なのだが、この世でその言葉を知ってる奴の方が少ないと思うぞ……。こうやって解説してるだけでもなんか恥ずかしいし……。

 

 

 そんな訳で、こころとここあの卒業祝いは気持ちだけ受け取ることにした。今日から非処女になれると謎に意気込んでいたコイツらには悪いが、もう少し大きくなってから出直してこい。せめて、猥談が日常会話にならないレベルの大人になるまでな……。

 

 




 μ's編の最終回の直後にも彼女たちのメイン回を描きましたが、その話を読むと今回の彼女たちとややギャップがありますね。どちらかと言えば、今回の方が純粋さが欠けて、淫乱度が上がってる気がする……




新たに☆10評価をくださった

hirohirosanさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Q. ハーレム主人公はクズか否か?

 今回はほのぼの(?)日常系。
 サブタイトルは永遠の疑問ですが、実際にハーレム主人公である零君を例に疑問の解決を試みます。

 今回の時系列は、μ's編の終了から半年後。つまり、零君が大学1年生、にこが大学2年生、楓が高校2年生の時のお話です。
 (ちなみにAqours編は零君が大学4年生の頃の話)


「やっぱりさ、エプロン姿の女の子を後ろから視姦するのは最高だな」

「アンタねぇ、そういうことは心の中で留めておきなさい……」

 

 

 にこが自慢のツインテールを揺らしながらため息をつく。

 キッチンに立つエプロン姿の女の子って、別に萌え要素がある訳でもなければ卑しくもないのに、どうしてここまで見つめたくなっちゃうんだろうな。自分のために料理を作ってくれている、その様子に母性のようなものを感じちゃうからだろうか? なんにせよ、薄い本の展開のように突然後ろから抱きしめたくなる衝動は半端ないよ。欲塗れだけど、この光景を毎日見るためだけに新婚生活をしてみたいと思ってしまうほどだ。

 

 

「感謝しなさいよ。いきなり『楓が修学旅行で飯を作る人がいないから、ちょっと俺の家に来て作ってくれよ』なんてワガママ、聞いてあげられるのはにこくらいなんだから」

「もちろん感謝してるって。いやぁ電話1本で飯を作りに来てくれる彼女がいるなんて、俺も幸せ者だよ」

「女の子をパシらせるなんて、普通の恋人同士なら即破局ルートよ? こんなクズ男に尽くす自分、なんて健気なのかしら……」

「とか言っちゃって、内心頼られて嬉しいくせに」

「このまま帰ってアンタを餓死させてもいいんだけど……?」

 

 

 そんなクズ男を好きになったのはお前にくせに――――と反論してやろうと思ったけど、流石に飢え死には避けたいのでグッと我慢する。

 にこが俺の家にやって来たのは彼女がさっき言った通り、俺の電話によるものである。楓が音ノ木坂の修学旅行で家に不在だから、飯を作る人がいなくなったのが事の始まりだ。最初は適当なカップ麺やコンビニ弁当で済ませようと思ったのだが、毎日楓が作る三ツ星レストラン以上の料理を口にしていたため、俺の身体が食に対して贅沢を覚えてしまったのが運の尽き。もはや適当な飯では俺の身体が満足しなくなってしまったんだ。

 

 そこで目を付けたのが、毎日仕事で忙しい母親や、まだ幼い妹弟に飯を作ってるにこだ。もう何年も矢澤家の食を支えてきた彼女なら、俺の口も胃も満足させてくれるはず。そう考えた瞬間には既ににこに電話をしていた。まあ本当のところは断られること前提だったけど、意外や意外、にこはあっさりOKしてくれた。やっぱり、持つべきものは家庭的な彼女だよな。しかも、わざわざ食材まで買ってきてくれて、この時以上ににこに感謝したことはないよ。

 

 にこはマイエプロンを持参してキッチンに立っている。俺はその姿をずっとリビングから観察しているのだが、包丁がまな板に触れる音、フライパンで野菜を炒める音、スープの味見をする動作など、もはやこの光景と雰囲気に没頭していた。短絡的な感想だけど、料理をしている女の子っていいよなぁ。料理をする際の音も相まって、新婚生活のような感覚に浸っちゃうよ。

 

 

「そういえば聞きたかったんだけど、どうしてにこなのよ? ことりや希とか、料理ができる子なら他にもいたでしょ?」

「そりゃお前、暇そうな――――料理が一番上手そうな奴がいいに決まってるだろ」

「………アンタね、建前より先に本音が漏れるその性格をなんとかした方がいいわよ」

「どっちも本音だって。いやホントに」

「それはそれでちょっと腹立つわね……。はぁ、どうしてにこたちってみんなしてコイツのことを好きになったのかしら……」

「それ、絵里にも同じこと言われたぞ……」

「ま、アンタは出会った頃からお調子者だったし、もう慣れたわ」

 

 

 俺って、そんなに調子に乗ってるのか?? 確かにμ'sという美女美少女たちと付き合っているという事実と、誰にも到達できない女の子たちの中心ポジションを獲得したことに酔ってはいる。だがそれはもう1年以上も前の話であり、月日が経った今ではそれが当たり前になってるから、今更自分が特別な立場だと意識したりはしない。

 

 あ、なるほど、こうして自分が特別な存在だと誰かに知らしめようとしている時点でクズなのか……。

 

 

「お調子者のチャラ男には、何を言っても無駄だろうけどね」

「ちょっと待て、百歩譲ってお調子者はいいとしてもチャラ男は認めねぇ。髪も染めてねぇし、肌も白くてピアス穴もない。親から貰った身体を大切にしてるんだぞ!」

「アンタの中でのチャラ男は金髪ガン黒ピアスか!? にこがいいたいのは、見た目じゃなくて普段の振る舞いよ。アンタが大学生に入学して半年だけど、既に色んな噂を聞いてるんだから」

「俺が全ての講義の単位を最高評価でパスをした功績のことか……」

「そうやってす~ぐ調子に乗るんだから。しかもそれじゃないし」

「じゃあなんだよ? そんな悪い噂を立てられるようなことはしてないぞ?」

「携帯」

「へ?」

「携帯に入ってる女の子の連絡先、何件か言ってみなさい」

「そ、それは……」

 

 

 どこからその話を聞いたのか疑問だが、穂乃果たちからμ'sのネットワークを通じれば俺のことなんて何でも筒抜けか……。別に隠すつもりはないのだが、これでもμ'sのみんなと付き合っている関係上、大っぴらに他の女の子と遊んでいるなんて言える訳がない。それに関しては穂乃果たちは容認してくれているし、むしろ自分たちの存在で俺の自由を縛ることはしたくないと考えているくらいだ。だとしても、こうやって別の女の子の話題になると気まずくなるのはもはや仕方なかった。

 

 

「言ってみなさい。20件? 30件?」

「…………6、70件くらいはあるかな?」

「ば、倍!? 想像以上に女グセが悪いのねアンタ……」

「おいおい失礼なこと言うな。確かに大学で知り合った女の子も何人かいるけど、高校で連絡先を交換した子も多いんだぞ。しかもそれだけ多いと、全く連絡をしていない子なんて何人もいるしな」

「それでも、1人の男がそれだけたくさん女の連絡先を持ってるなんて異常よ。アンタ将来は教師を目指すんでしょ? そんなことでは女子生徒に手を出して捕まるのも見え見えね。下手をしたら教師のくせに生徒と付き合っちゃうかも」

「多方面に手を出してる事実は認めてもいいけど、それだけは絶対にありえねぇよ。教師と生徒の恋愛なんて、マスコミが舌舐めずりをして飛びつく話題だぞ……。想像しただけで冷汗が走るっつうの」

「だといいけど」

「信用ねぇな俺……」

 

 

 そもそも複数の女の子を股にかけている時点で犯罪者は確定だけど、まだ年の近い子たちだから罪悪感はない。だが教師と生徒になると、その年の差は歴然。大人と高校生なので一見許されそうにも見えるが、高校生と小学生の年齢差と同じと考えると一気に背徳感が出てくる。ま、思春期で多感な時期の女の子が先生のようなオヤジに興味を持つ訳ないか。部活の顧問を通じて、女子生徒と結ばれるなんて……うん、アニメや漫画の見すぎだな。

 

 

「アンタの女グセの悪さももう慣れたわ。このままだと大学の種馬と呼ばれる日も近いわね」

「ちょっと待て。女の子と遊んでいると言っても、部活やサークルにお邪魔したり、ちょっとお出かけするだけだ。だから断じてそのような行為はしていない。そんなことをするのは、ほら、お前らだけだから」

「何その発言、気持ちわる……」

「あのな、それだけお前らを愛してるってことだよ。伝わらねぇかなぁ俺の気持ち」

「…………気持ちが大き過ぎて、受け止められないくらい伝わってるわよ」

「ん? なんだって?」

「別に何でも。相変わらずのクズ野郎で安心したってこと」

「いつにも増して言葉に棘があるな……」

 

 

 にこも真姫に負けずのツンデレ性だから、いきなり棘が鋭くなった時は照れ隠しをしている可能性が高い。でもそれを追求したら今度こそ飯を作ってもらえなくなるので、ここは敢えて我慢しよう。たった一言で餓死の道を辿るのだけは勘弁だからな。

 

 料理もいい感じに進んできたようで、リビングにまでいい香りが漂ってきた。美味い料理ってのは香りの時点で分かるもので、腹の虫もこれから雪崩れ込んでくるご馳走に対して臨戦態勢に入り始める。料理も佳境なのににこは忙しないどころかテキパキと動いており、流石数年間も自宅の味を支えてきただけのことはある。

 

 何か手伝ってやろうかとも思ったが、リビングからキッチンに立っているにこを眺めているので精いっぱいでそれどころではない。キッチンに出向いて『何か手伝おうか?』からの『気持ちだけ受け取っておくわ。だから楽しみに待っててね』という新婚夫婦のやり取りも夢見ただけど、にこのことだから罵声に罵声を重ねて追い出すだろう。だから、俺はここでツインテールを揺らしながら料理をしているにこを視姦しているのがお似合いなのだ。

 

 

「さっきから何をニヤニヤしてるのよ、気持ち悪いわね。アンタ家の中ではいつもこうなの?」

「本人には言えないけど、楓のエプロン姿はもう見慣れてるからなぁ……。それでも飽きはしないけどさ」

「外だと楓のブラコンでアンタが迷惑を被ってるけど、家だとその逆なのね。毎日こうして背中に卑しい視線を感じまくっている楓が気の毒だわ……」

「楓はむしろそっちの方が料理のやる気も上がるって言ってたぞ」

「兄が兄だと、妹も妹か……」

 

 

 お前も人のこと言えねぇだろってツッコミは野暮なのだろうか? 今日のにこは俺の無茶振りで料理を作らされているためか、やたらと冷めている。だけど、コイツの裏の性格を俺は知っている。そのせいで、コイツの妹であるこころとここあが無自覚淫乱少女に成り下がってしまったからな。どういった度胸があれば部屋数が少なく隠す場所がないアパートに、R-18の薄い本を堂々と持ち込めるんだよって話だ。それを妹たちが拾ったせいで、ソイツらの性格が変態の方に捻じ曲がっていることに気付いているのか?? その事実を踏まえると、コイツに俺と楓の関係を語って欲しくはないな。

 

 

「全く、楓も大変ね。健気にこんなクズ兄の面倒を見てるなんて」

「まぁ妹と関係を持っている時点でクズなのは認めるよ……」

「楓がいなくなったくらいで生活できなくなるなんて、どれだけあの子のヒモになってんのよ……」

「掃除、洗濯、食事、性欲しょ――――いや、なんでもない」

「今、聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど……。アンタ、妹にやらせてるの……?」

「ち、違う! アイツが寝込みを襲ってくるだけだ!!」

「ふ~ん……気持ちわる」

 

 

 コイツ、明らかに信用してねぇな。もはや感情すら感じられない表情で、細目で俺を見下してくる。もう今日だけでもにこの中の俺の評価がダダ下がりしている気がするんだが、このまま破局ルートにはならないよな……?

 

 

「実の妹を恋人にした挙句、その妹に自分の性欲処理までさせてるなんて、どれだけ社会の外れ者になれば気が済むのよ……」

「俺は自分の進むべき道を自分で決めただけだ。周りの評価や批判なんて関係ねぇよ」

「話題が話題じゃなければカッコいいセリフだったのに、アンタが言うとただのクズ野郎にしか聞こえないのよね……」

「もうクズクズって言われ過ぎて、そろそろ粉になっちゃうぞ俺……」

「だって、それこそアンタを端的に表現する言葉なんだから仕方ないじゃない」

 

 

 なるほど、だからアニメや漫画に出てくるハーレム主人公=クズって方程式が成り立つんだろうな。これは全世界の二次元ハーレム主人公のためにも、俺がハーレムはクズがやることという印象を払拭しなければ。まぁハーレムも二次元だからこそ成り立つのであって、リアルでやってるのなんて歴史上の偉人を除けば俺くらいのものだろう。そう考えると、誰にも到達できない人類未踏のポジションって感じがして、やっぱり優越感が沸いてしまう。うん、クズだわ……。

 

 

「ほら、もうすぐ晩御飯できるから、お皿を取ってちょうだい。にこは楓みたいに甘くないからね。あの子の代わりに家事をやってあげてもいいけど、アンタにもしっかり手伝わせるから」

「俺は俺のために家事を頑張っている女の子を見るのが好きなんだけどなぁ」

「楓がいないとホントに腑抜けなのね……。あの子が引っ越してくる前は1人暮らしだったんでしょ? それまでどうやって生活してたのよ……」

「それまでは自分でやらなきゃ死ぬから何とかしてたんだよ。でも、楓の奉仕を受けたら自分の家事スキルでは満足できなくなっちゃってさ。ほら、アイツって掃除も丁寧だし料理も上手だし、一度贅沢を経験したら元には戻れないんだよ」

「そうやって妹を奴隷扱いしてきたことで、ワガママお坊ちゃま体質になっちゃった訳ね」

「言い方!!」

 

 

 1人暮らしをしていた頃の方がしっかりしていたかと言えば、別にそうではない。そもそもこの家は親のモノであり、2階や庭まである家に1人暮らしは荷が重すぎた。だから1人暮らしの頃は掃除も自分の行動範囲しかやってなかったし、雑草塗れの庭の手入れもしていなかった。料理も雑で、俗に言われる男飯で数年間を過ごしてきた。思い返すと、今その頃の生活に戻れと言われても絶対に無理だな。妹による至高の贅沢を経験しているので、自分の生活水準を下げることなんて今更できやしない。

 

 なんだかんだ世間話(半分以上は俺への罵倒だが)をしている間に料理も終わったようだ。急に呼び出された挙句に材料まで買出しに行かされて、そして俺と無駄話をしながらも完璧に料理を仕上げられるのは、やはりにこの料理スキルが成せる技だろう。その技を前面に押し出せばアイドルとしてウケも良くなるだろうけど、余計な部分でウケようとするのは彼女自身が許せないんだと思う。駆け出しのアイドルだとしても、自分の魅力だけで人気を押し上げたいと思っているに違いない。打算的で小悪魔的なところもあるにこだけど、そういうところだけはストイックだからな。

 

 

「なによ、またこっちをジロジロ見て。にこじゃなかったら通報されてるわよ」

「大丈夫、通報されないと分かってる子しか見ないようにしてるから。それよりも、皿ってどれを出せばいいんだ? つうか、こんなに皿あったっけ?」

「家主なのに家にあるモノを把握してないなんて……。ま、この家の実権は楓が握ってるようなものだし、仕方ないか」

「人間っつうのはさ、如何に自分の置かれているポジションを活かすかなんだよ。つまり、お前や楓から奉仕を受けられるなら、俺は全力でそれに甘える。お前らは持ち前の家事スキルで家主を満足させる。言うなれば適材適所ってやつだな」

「女の子のヒモになってる現実を少しでもいいから恥じなさいよ……」

「ヒモじゃねぇよ。その対価として、色んな意味で愛してやってるだろ」

「そうやって事あるごとに肉体関係を示唆するセリフを発するから気持ち悪いのよ、アンタ」

「いつもよがりまくってるくせに良く言うよ……」

「ご、ご飯の前にそんな話やめてくれる!?」

 

 

 にこも何だかんだ大人になったと言うか、やはりアイドルとして社会に出ていることで精神的にも成長したのだろう。大学に行きながらも既に駆け出しのアイドルとして活躍をしているから、メディア進出といった意味でも彼女は穂乃果たちよりみ一回り大人っぽくなった。まぁ身体がちんちくりんなのは変わりないので、見た目は完全にロリアイドルだけどな。

 

 

「ほら、できたわよ。本当なら家族以外ににこの料理をタダで食べさせたくないんだけど、今回は特別よ。知り合いが餓死したとか笑い話にもならないし」

「つまり、家族以外だと俺以外には飯を作らないってことか。にこの料理を独り占めできるなんて、素直に嬉しいな」

「な゛っ……!? そ、そうよ! アンタはそうやってにこを褒めてさえいればいいんだわ」

 

 

 相変わらずの上から目線発言だが、口元が緩んでいるあたり、俺の言葉が相当響いたんだと分かる。ツンデレちゃんは素直に褒められるのが一番の弱点だから、こうして心をくすぐってやると表情が目に見えて変化する。なんだかんだ、恋人に料理を振舞うのは彼女にとっても嬉しいことなのだろう。良くも悪くも楓がいるせいで、他のμ'sメンバーは俺に手料理を味わってもらう機会がないからな。俺としても、にこの手料理は超久々なので楽しみにしていた。本当のところ、にこが暇そうだったから呼び寄せたんじゃないんだよ。

 

 

「飯を食い終わったら、次は風呂だな。そしてその流れで就寝と」

「ま、まさか、それもにこに面倒を見させる気!? 身体を洗ったりとか一緒に寝たりとか、本当に女使いが荒いわねアンタ!」

「別に俺は今後の予定を語っただけで、一緒に何かをしろといった訳じゃないぞ? いくらアイドルで活躍してるとは言え、脳内ピンクなのは変わってねぇな」

「アンタねぇ……。カマをかけるような言い方をするんじゃないわよ」

「何とでも言え。俺はお前ともっと一緒にいたい。だから泊ってけ」

「まぁ、アンタを放っておいたら自堕落な生活をするだろうし、楓が帰ってくるまで面倒を見てあげるわよ。それに、にこもアンタと一緒にいたいって思ってたし」

 

 

 こっちが素直になれば、向こうも便乗して素直になってくれるのもツンデレの特徴。複数の女の子と付き合っている時点で自分がクズなのは認めるけど、だからと言って女の子1人1人を愛していない訳じゃない。むしろ複数いるからこそ、女の子をたくさん愛することができて俺は楽しいよ。そうやって考えちゃうあたり、やっぱりクズか。

 

 

「そういや、シーツとか外に干しっぱなしだった……。夜になったし、早く取り込まないと冷たくなっちまう」

「全く、あの子がいないと何もできないのね。にこが取り込んでベッドメイクもしてあげるから、先に晩御飯食べちゃいなさい」

「助かる。でも、メイクだけは慎重にな」

「え? どうして?」

「今日お前が乱れる場所なんだから、ちょっとやそっとでシワにならないようにしておけよ」

「な゛ぁ……。バ、バカ!!」

 

 

 にこは顔を真っ赤にしてリビングから離脱する。

 こういった女の子の可愛い表情を見たいがために、ついつい意地悪をしちゃうんだよな。神崎零=クズの方程式は、もう崩れ去ることはなさそうだ……。

 




 クズであることを認めましたが、クズであることで本来幸せにできなかった女の子をたくさん幸せにできたので、そこだけは評価できるかもですね(笑)
それにこの話から3年後には、教育実習生としてまた女の子たちを引っ掛けて幸せにしてますし()


 次回のネタは未定ですが、μ'sのお話で1本、先生たちのお話で1本を考えています。


新たに☆10評価をくださった

sti gc8さん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

どうしてこんなところに先生が!?

 今回は今期の某アニメのパロ。偶然にもこの小説に元ネタと同じ美人の鬼教師がいたため、このネタをやるしかないと思いました()

 今回の時系列はμ's編の秋~冬あたりのお話です。


 

「どうしてお前がここにいる……」

「そりゃこっちのセリフだって!? どうしてここに先生がいるんだよ!?」

 

 

 音ノ木坂学院のとある昼下がり。俺はプール近くの男子トイレで笹原先生に遭遇した。

 どうして校舎から離れたトイレに人がいるのか、そもそもここは男子トイレだとか、なぜ先生とこんなところで鉢合わせたのかとか、様々な疑問が俺を混乱の渦に巻き込む。トイレの個室を開けたら先生が便座に座っていたこの状況で、冷静になれる方法があるなら今すぐ教えてくれ。ただでさえ意味不明な状況なのに、笹原先生から鋭い目付きで睨まれて死にそうなんだよ……。

 

 

「もう一度聞く。どうしてお前がここにいる?」

「俺は男子トイレが混んでだからわざわざここに……。俺も言いたいことは色々あるけど、まずここ男子トイレですよ……?」

「これは不幸に不幸が重なったことだ。教職員の女子トイレが設備不良により今日1日閉鎖している。だからといって生徒と同じトイレを使う訳にはいかない。だから、少し遠くにはなるがプール横のトイレまで来たという訳だ」

「いやいや、隣に女子トイレもあるじゃん……」

「どうやらドアの建付けが悪くなっていたようで、ドアノブを回しても開かなかったんだ」

「あぁ、そりゃ不幸も不幸だわ……」

 

 

 笹原先生と言えば、俺たち生徒からしてみれば超が付くほどの鬼教師だ。だがその反面、教育に関してはストイックで、俺たち生徒をどの教師よりも大切に考えてくれていることも知っている。だから意外にも、先生を支持する生徒は多い。

 しかも、生徒の俺の目から見ても先生は美人だ。性格がキツそうな風格も相まって、先生に調教されたい男性生徒も少なからずいるとかいないとか……。

 

 そんな先生が自ら男子トイレに飛び込むなんて、いくら尿意を催していたとしても、この人の性格的に考えられない。厳格で誠実な先生が、男子トイレに入るような変態だとも思いたくはない。やっぱり、俺の想像もつかないのっぴきならない事情があったのだろうか……?

 

 

「あ、あの、不幸は不幸でも女性が男子トイレに入るのは……」

「し、仕方ないだろう、が、我慢ができなかったんだから……」

「へ、へぇ……」

 

 

 負けた!? あの厳粛な笹原先生が、尿意に負けた!? つうか、のっぴきならない事情でも何でもなかったじゃん!?

 それにしても、先生も恥ずかしそうな表情をするんだな……。俺と会話をする時は怒ってばかり(主に俺が何かをやらかすせいで)だから、羞恥心を感じている先生を見るのはこれが初めてだったりする。これでもこの人の歳は20代前半だからな、先生もまだまだ若いってこった。

 

 

「おい、何をほっこりとした顔で私を見ているんだ……?」

「いやぁ~先生も男の嗜虐心をくすぐるような顔ができるんだなぁと思って」

「は?」

「い、いや、何でもないです……」

 

 

 や、やべぇええええええええええええええええええ!? あと少しでも先生を挑発するような真似をしたら、確実にこの鋭い目付きだけで殺されるところだった。いつもいつも生徒指導室でお世話になってるから、日頃の感謝と恨みを込めて調子に乗ってみたが、先生から発せられる仰々しい威圧には敵わなかったよ……。

 

 

「お前、いつまでここにいるつもりだ? 教師と生徒の関係以前に、女性が用を足そうとしているところに居座るとはいい度胸だ。それとも、普段から女子生徒相手にこんなことをしているのか?」

「ちょっ、あらぬ罪を着せないでくださいよ!? 流石にμ'sの奴ら以外にはしてないですって!」

「それで言い訳になると思っているのか……。何にせよ、早く出ていけ。お前に構っている暇はない」

「い、いや、先生知らないんですか? このトイレ、個室の鍵が壊れていて、一度扉を閉めると中々開かなくなるって……」

「は?」

「う゛っ……」

 

 

 こわっ!? 言っておくが、今回俺は何も悪いことをしていない。しかもこのトイレの事実を包み隠さず公開してあげたのに、何故か笹原先生は俺を睨み付けている。自分にとって現状が不利だからって、俺に八つ当たりするのはやめてくれ――――なんて、この威圧を前に言える訳ねぇんだよなぁ……。

 

 

「仕方がない。お前の目と耳を潰し、脳を割って記憶を消去するしかないか」

「ちょっ、先生が言うとシャレにならないからやめてくれ!? そんなことをしなくても見ないし耳も塞ぐから! それに、この話は誰にも他言しないって誓いますって……」

「絶対にこっちを見るなよ。音を聞いても処刑だ」

「それってフリ……?」

「は?」

「い、いや、何でもありません、はい……」

 

 

 やはり先生に余計なネタは通用しない。少しでもピリピリとしたこの空気を和らげてやろうと思ったのだが、この堅物の角を取るのはパンチが弱すぎる。そもそ笹原先生にはネタも冗談も弾き返されるのがオチなので、最初から負け戦だったのかもしれない。この人とフレンドリーかつ冗談も言える山内先生が頼もしく思えてくるよ……。

 

 

 すると、トイレの入り口の扉が鈍い音を立てて開く音がした。その音に張り詰めていた緊張の糸が一瞬解けたが、その後に発せられた声を聞いて俺と笹原先生に再度悪寒が走る。

 

 

「ちょっと凛ちゃん! ここ男子トイレだよ!?」

「へーきへーき! このトイレ古いし、誰も使ってないって噂だよ。そんなことより、子犬さんどこに逃げちゃったのかなぁ~?」

「流石にこんなところにはいないと思うけど……」

「でもこっちの方向に逃げて行ったよね? それにここの扉が少し開いてたし、可能性はあるにゃ!」

 

 

 この声は、凛と花陽か!?

 なんでこんなところにと思ったけど、会話から察するに校舎内に入り込んだ犬を追いかけてきたのだろう。ただでさえ犬が迷い込むなんてイベント自体が稀なのに、女の子が男子トイレに侵入し、その個室に俺と笹原先生が相部屋しているなんて奇跡的状況にも程がある。どんな天文台確率だよこれ……。

 

 それよりも、個室のドアを開けられたらヤバい。鍵が壊れているので簡単には開けられないのだが、あの凛のことだ、無茶をするなんてことは十分に考えられる。まだ入り口近くにいるようだが、このまま個室の近くにまで来られたら気付かれるのは時間の問題かもしれない。

 

 そうやって凛と花陽の気配を伺っていると、笹原先生が鬼の形相を崩さず、超小声で俺に話しかけてきた。

 

 

「どういうことだ? 人が来ないんじゃなかったのか?」

「不慮の事故ですって! まさかこんなことになるとは……」

「経緯を遡っても仕方がない。私がいると気付かれず、早く星空たちを追い返せ」

「そ、そんな、こんな狭い個室に一緒なのに無茶言わないでくださいよ……」

「も、もう我慢の限界なんだ……」

「そ、そうだったな……」

 

 

 さっきから先生の殺気にビビってたり、凛と花陽の登場で驚いていたけど、そういや先生の膀胱がピンチなことをすっかり忘れてた。先生の表情を見る限りでは本当に余裕がないようで、いつもは凛然としている先生が顔を赤くして悶えている。鬼教師が見せる女性の顔に少し見惚れてしまいながらも、俺としても先生と男子トイレにいるなんて事実を誰かに知られたくはないため、この状況に動揺しているのは同じだ。

 

 さて、ここからどうするかなぁ……。

 流石に放尿の音をかき消すなんて芸当はできないし、かと言って凛は子犬を探して男子トイレの中に入ってくる気満々のようだ。だから2人が出ていくまで先生に我慢をお願いすることはできない。既に先生は片目を瞑って今にも限界を解き放ちそうになっているので、もはや一刻の猶予も残されていないだろう。

 

 

「ね、ねぇ凛ちゃん。なんか変な声が聞こえなかった……?」

「声? あっ、もしかして子犬さんの声かも!?」

「い、いや、人の声だったような気もするけど……」

「何言ってるのかよちん。ここは使われてない男子トイレだよ? そんなところで人の声がする訳ないにゃ」

「そうだよね!? うん、そうだよ……ね」

 

 

 あ、あぶねぇ……!! もう少しで花陽に気付かれるところだった。いつもはのほほんとしているくせに、人の心情や場の雰囲気に対しては勘が鋭いんだよなアイツ。それも周りをよく見ているが故の彼女の長所なのだが、そのせいで今回はアイツが最大の敵に思えてくるよ……。

 しかし、花陽が怖がりなのが俺たちにとっては大助かりで、俺たちの気配を気のせいだと思ってくれたみたいだ。凛が花陽に間違った安心感を与えてくれたおかげだな。

 

 とは言っても、俺たちの危機的状況に変わりはない。危機なのは俺ではなく先生なのだが、俺がこの状況を打破しないと、後で先生から地獄よりも恐ろしいお仕置きが待っているだろう。そう考えると、俺も先生と同様の状況なのは変わらない。

 

 だけど、何をしようが下手に音を立てれば絶対に2人が怪しむ。多少の声や音なら子犬のせいにできるものの、怪しまれないことに越したことはない。

 もういっそのことラップ現象のごとく大きな音を鳴らして、2人をビビらせてここから立ち去らせた方がいいかもしれない。一応その作戦には穴があり、花陽は撤退させられるだろうが、凛が興味を持ってしまったらそれでアウトだ。アイツのことだからその可能性が極端に高い以上、この作戦は渋々却下するしかない。

 

 

「くっ、うっ……」

「ちょっ、先生。もう少し我慢してください」

「できる訳ないだろ。も、もう……」

 

 

 我慢に我慢を重ねた尿意を解き放った時の快感は素晴らしいものだ。それは例え鬼の笹原先生と言えども至高の快楽であり、思わず淫靡な声を漏らしてしまうに違いない。そうなったら最後、この個室に誰かがいることは2人にバレる。それを回避するには俺も性に満ちた野太い声をあげて、個室で性行為をしているカップルとして凛と花陽に印象付けるしかない。そうなればいくら好奇心旺盛な凛と言えども、黙ってこの場から離れるだろう。まぁカップルに偽装したとしたら、俺と先生の今後の関係はよりギクシャクするだろうが……。

 

 そもそも、我慢していた尿意を解き放った時の音のせいで、どんな偽装工作も無理な気がしてきた。我慢を重ねた後の放尿は凄まじい快感だが、それだけ音も卑しく響き渡る。こんな静かな空間でその音を完全にかき消すことは不可能だ。つまり、このままだと先生の卑猥な放尿音が俺の耳に……。相手は先生と言えども若い美人の先生だ、意識しないはずがないだろ!!

 

 

「子犬さんの姿が見当たらないね。もっと奥に行ったのかな? 凛、ちょっと見てくるよ」

「り、凛ちゃん! いくら使われていない男子トイレだからって、私たちが入るのは……」

「誰も見てないから大丈夫! それに、子犬さんが迷ってたら助けてあげないといけないしね」

「トイレで迷わないと思うけど……。それに、やっぱり変な音が聞こえるから入らない方が……」

「かよちんは怖がり過ぎだって。今時学校の階段なんて流行らないにゃ」

「そ、そうだといいんだけど……」

 

 

 マ、マズい! 今までは凛たちがトイレの入り口にいたから多少の音も誤魔化せていたものの、個室の前まで近づかれたらもう終わりだ。

 となると、何かアクションを起こすなら今しかない。2人をここから遠ざける方法は何かないのか……??

 

 

 ――――――そうだ、さっき凛が言っていた学校の怪談。これしかない!!

 

 

「先生、思いっきりぶちまけてください」

「そうしたいのは山々だが、このままだと星空と小泉に……」

「俺が何とかしますから。先生は何も考えず気持ちよくなってください」

「…………信じていいのか?」

「もちろん。だから、ちょっと失礼します」

「なっ……!? あっ……!!」

 

 

 その時、先生の我慢と膀胱の限界はすぐに解き放たれた。

 聞こえてきたのは滝の音――――とまでは行かないが、便器を貫きそうな勢いの良い音であることは確かだ。先生の名誉と尊厳のために目を瞑ってはいるものの、鼓膜に響くその音だけで目の前の光景が容易に想像できる。先生は今どんな顔をしているのだろうか? 想像するだけでも申し訳なくなってくる。

 

 そんな俺は、両手で先生の両脚を大きく開いていた。これも放尿の勢いを極限まで強めるため。内股になればなるほど尿の勢いが弱くなるため、俺の作戦を実行に移すには先生に限界を突破するほどの放射をしてもらわなくちゃいけないんだ。女教師が男子生徒に股を大開きにさせられて黄金水を噴き出すこの構図、あまりにも背徳過ぎる……。目を瞑っているから見えていないが、もはや見えてるとか見てないとか関係ないくらいヤバい状況なのは確かだ。

 

 

 だけど、これで――――――

 

 

「ちょっ、凛ちゃん!? トイレの水が流れてない!?」

「ずっと使われてなくて、水が出るかも怪しいって聞いてたけど……。もしかして、本当に学校の怪談!?」

「凛ちゃん、逃げよう! 子犬さんはきっとお家に帰っちゃったんだよ!」

「うん、犬は賢いもんね……。い、行こっかかよちん」

「そうだね、今すぐ!!」

 

 

 そして、2人の立ち去る音が聞こえた。これでミッションはコンプリート。2人に自分たちの存在を悟られなかったどころか、放尿音をトイレの水が流れる音と誤認させた。うん、我ながら完璧な作戦だったな。先生も満足できただろうし、これで何も後腐れはないだろう。

 

 

「いやぁ危なかったですね。もう少しで凛に個室のドアを開けられるところでした」

「…………」

「せ、先生? さっきからずっと黙ったままですけど……。あっ、もしかして気持ち良すぎて昇天しちゃったとか? 分かりますよその気持ち。我慢に我慢を重ねた後に用を足すと、性的興奮を解き放った時とは別の快感が味わえますよね」

「…………」

「先生……?」

 

 

 先生は未だに便器に座ったまま、顔を伏せて何も喋らない。てっきり用を足した時に快楽を感じちゃったのかと思っていたが、よくよく考えてみると、異性の生徒の前で漏らすような形で放尿しちゃったんだもんな。そりゃ恥ずかしいに決まってるか。俺としても、年下の女の子に無理矢理脚を広げられて用を足す介護のような展開になるのはゴメンだ。

 

 

「おい……」

「はい?」

「どういうつもりだ……?」

「い、いや、あれは凛と花陽に怪しまれずあの状況を脱する決死の作戦で……」

「…………」

 

 

 違う、先生は快楽に浸っている訳でも、恥ずかしさで伏せている訳でもない。

 キレてる!! 俺が感じたことのない冷たい悪寒が走るくらいに先生はキレている。顔を伏せているので表情は見えないが、この殺伐としたオーラが俺を押し潰そうとしている。そうだよな、だってあの笹原先生だもん。先生が一番の問題児だと認めている俺にこんな屈辱を受けるなんて、そりゃキレるに決まってるよ……。

 

 とにかく、せっかく俺の素晴らしい機転による作戦が完遂したのに、ここで先生にどやされるのだけは勘弁だ。これが最終ミッション、何とか先生の怒りを静めないと……。

 

 

「ほ、ほら! 俺のおかげで凛と花陽に見つからなくてよかったでしょ? あのままだと、男子と一緒に男子トイレにいる変態先生のレッテルが貼られかねなかったし」

「………」

「う゛っ……まだ怒ってらっしゃる。そ、それに、トイレの音も水の流れる音とアイツらに勘違いさせてあげたじゃないですか! まぁ滝のような音だったんで、勘違いするのも無理はないと言うか……なぁ~んて」

「…………そうか、お前は聞いたのか」

「そりゃ目の前にいたんで……って、あっ!?」

 

 

 そういや、耳を塞がなければ地獄より遥かに恐ろしい目に遭わせるって言っていたような……。

 つうか、そんなことすっかり忘れてたんだけど!? これも凛と花陽を追い払うことと、先生の放尿音をどう誤魔化すかばかりを考えていたせいだ。あの時の俺は自分の耳を塞ぐどころか、先生の両脚を広げて先生に恥辱を与えていた。今思い返せば、俺って何をやってんだろうな……。

 

 すると、先生はその場で立ち上がる。いつの間に服を整えたのか、先生はいつも通りスーツを隙なく着こなしていた。

 あぁ、今から説教タイムのスタートか……。こりゃ普段以上にこってり絞られるのは確定なので、腹を括るしかないみたいだ。

 

 

「まぁ、今回の原因は全て私だ。お前の行動を認める訳ではないが、とりあえず助かったとだけ言っておこう」

「あ、あれ? いいんですか?」

「なんだ? そんなに説教されたいのなら、生徒指導室に来るか?」

「け、結構です! ていうか、笹原先生に良心があったとは……」

「……やっぱり生徒指導室へ来い」

「そんな、煽ってる訳じゃないですから!!」

 

 

 驚いた。まさかお咎めなしでこの騒動が終幕するとは思っていなかったぞ。どれだけ上手くいこうが、先生にはたんまり怒られるものとばかり思っていたので、この展開は予想外過ぎてならない。やはり先生は頭ごなしに生徒を怒っているのではなく、状況が状況ならこうして生徒に感謝の意を述べることのできる凄い人だ。格下の相手に感謝の言葉が言えるのは、普通のことのようで中々できないことだからな。

 

 兎にも角にも、平和に終わることができるのならそれでいい。それに『先生と同じトイレに入って、用を足す介護をしてあげた』という黒歴史を誰かに知られずに済んだのは、今後ネタとして持ち出されなくて助かったよ。いやぁ、良かった良かった!

 

 

「別に私は好きでお前を指導したい訳じゃない。お前の素行が問題だからだ」

「分かってますって。お堅すぎるのは玉に瑕ですけど」

「問題ばかりのお前に言われたくはない」

「いや先生だって大概頭が固いですよ? でもまぁ、意外とあんな表情もできたんだなぁって思うと少し親しみを覚えましたよ。我慢を解放した時の先生の緩んだ表情を見て、ちゃんと俺と同じ人間なんだってね。今まで鬼か何かの生まれ変わりだと思ってましたから」

「…………なるほど、見たのか」

「へ……? あ゛っ!?」

「目を、開けていたのか……」

「い、いや! ちょっとだけ、薄っすらとです! ちなみに見たのは顔だけで、下は見てませんから! そこだけは神に誓えます!!」

「お前を救う神など存在しない。指導室へ来い。その腐った性根を教育し直してやる……」

「ちょっ、首根っこ引っ張らないで!? せ、先生!?」

 

 

 なんか、いつも大団円の後に大どんでん返しが待ち構えている気がする……。

 最後の最後まで気を抜くな。この言葉こそ俺の人生の教訓になりそうだ……。

 

 

 でも先生、ちょっとだけ可愛かったな。

 

 

 ちょっとだけな?

 

 




 ちなみに元ネタのアニメはもっとエロく規制が半端ないので、今回の話が気に入った人は是非アニメの方を視聴してみてください。今回の話のサブタイトルと似たようなタイトルなので、すぐに見つけられると思います。

 そしてそのアニメにはおっとり系の先生がいるのですが、偶然にもこの小説には同じキャラの山内先生がいるので、好評であればまた別の話で山内先生とのドタバタを描いてみたいですね。



新たに☆10評価をくださった

帰宅部日本代表さん

ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

妹たちの試練

 たまには真面目なお話もどうぞ。

 今回の時系列は零君や穂乃果たちが音ノ木坂学院を卒業した翌月、シスターズが2年生になった直後のお話となります。

 3~4話構成の予定で、視点も場面によって変えていくつもりです。
 今回は1話丸々雪穂視点です。


 お姉ちゃんや零君たちが卒業して1ヵ月、音ノ木坂に新しい春がやって来た。

 今年度の入学者は私たちの世代の入学者よりも多く、生徒数の減少で廃校の危機に瀕していた学校とは到底思えない。私たち1年生……じゃなかった、2年生のクラスは6つもあるが、今年度の1年生のクラスはそれ以上という噂だ。これだけ入学者が増えたのも、μ'sの活動を頑張ってきたおかげかな?

 

 とは言っても、μ'sは既に解散しているため、私たち目的で入学してきた人には非常に申し訳ないと思っている。絵里ちゃんたち3人が大学生になってもお互いの予定を合わせることで何とか活動できていたものの、μ'sメンバーの半分が高校を卒業してしまっている現状ではそれは難しい。だから解散の道を選んだんだけど、それを嘆くファンの人も大勢いて嬉しいような悲しいような……。

 

 私としてももうμ'sとして活動できないのは寂しいけど、いつまでも立ち止まっていられない。先輩たちは既に新たな夢に向かって歩き出しているから、私も早く自分の夢を探して先を見据えないと。それにいつまでもμ'sの解散を悲しんでいたら、お姉ちゃんたちに心配をかけちゃうしね。心機一転、今日から頑張ろう。

 

 

「あっ、おーい! 雪穂ぉーっ」

「亜里沙?」

 

 

 桜の花びらが舞い散る音ノ木坂の校門。そこで亜里沙が私に手を振っていた。

 相変わらず亜里沙はいつでも笑顔で、一緒にいるだけでも元気をもらえるよ。さっきは少しナーバスになっちゃったけど、亜里沙を見たら何だか安心しちゃった。

 

 

「おはよう雪穂、今日から2年生だね! 私たち、先輩になるんだよ♪」

「おはよう。先輩って、先輩じゃなかったのって去年だけで、2年前は中学校で先輩だったじゃん……」

「音ノ木坂学院で先輩になるってことが重要なの! あの伝説のμ'sが守り抜いたこの学校で新入生を迎えるなんて、私、今とっても感動してるんだ!」

「いやいや、亜里沙も元μ'sでしょ」

「そうなんだよね……。穂乃果ちゃんたちがキラキラしているところを想像すると、私ってただのファンに戻っちゃうみたい……」

 

 

 さすがは亜里沙、常人では考えないような妄想に浸ってる……。自分もμ'sとして音ノ木坂の知名度上昇に貢献してきたはずなのに、お姉ちゃんたちの話題になると途端にファンとしての目線で話し出す。別にそれでもいいんだけど、新しいクラスでまた周りからド天然って言われるんだろうなぁ……。亜里沙が健気で天然なことくらいは同学年の人なら誰でも知ってることだけど、こうして会話をしてみると想像以上だからね? スマホの画面が割れたことをスマホのスクショで報告してくるくらいだから……。

 

 

「そうだ、クラスだよクラス! そこに張り出されてるから、一緒に見に行こう!」

「そうだね。でも6クラスもあるし、また一緒のクラスになれるかなぁ……」

「同じクラスになれると嬉しいけど、なれなくても一緒にお昼ご飯を食べることはできるし、一緒に帰ることもできるでしょ? それに、また新しいお友達が増えると思うと不安なことばかりじゃないよ」

「あはは、亜里沙ってホントに前向きだよね。その性格だけは見習いたいよ……」

「その性格()()……?」

「い、いや何でもない! ほら、早く見に行こ!」

 

 

 危ない危ない、思わず本音が出ちゃった……。もちろん天然な性格をバカにしている訳じゃないけど、私まで天然になったら誰が亜里沙と楓を止めるんだって話。もはや2人のブレーキ役を自ら買って出てる時点で、私も相当2人に毒されてきてるなぁ。親睦を深められていると喜ぶべきなのか、それとも気苦労が増えると危惧するべきなのか……。

 

 私と亜里沙はクラス表が張り出されている掲示板までやって来た。だけど、やはりと言うべきか人が多い。クラス発表は学校のイベントの中でも1、2を争うくらいにビッグなイベントだ。だからなのか、クラス発表を見終わった後でも一喜一憂したり友達と話し込んだりして、中々掲示板から離れない人が多い。これだといつになっても掲示板を確認できないかも……。

 

 

「あ゛ぁあああああああああああああああああ!?!?」

「うわっ!? ど、どうした亜里沙、急に??」

「同じ! 同じクラスだよ雪穂!」

「えっ、見えるの? ここからクラス表が?」

「うん、自慢じゃないけど目はいい方だから。それよりも、また同じクラスだよ雪穂! しかも楓も!」

「そ、そうなんだ……」

 

 

 亜里沙は私の両手を掴んで上下に大きく振り回す。

 また2人と同じクラスになれて私も嬉しいはずなのに、亜里沙のテンションの上がり方が異常だからそっちに気を取られてしまう。さっきは別々のクラスになってもそれはそれでいいみたいなことを言ってたけど、やっぱり同じクラスになれることに越したことはなかったのか、亜里沙は少し涙目になっている。やっぱり健気だよね亜里沙って。いや、私の感受性が欠如しているだけかもしれないけど……。そういや、零君によく『クール』だって言われてる気がする。これでも1年間スクールアイドルをやってたんだけど、まだ表情が硬いのか私……。

 

 すると、突然亜里沙が私の手を振り回すのをやめた。

 いきなりどうしたのかと思ったら、彼女は私の肩越しに誰かを見つめているようだ。私もその場で首だけ振り返ってみると、そこには私たちのよく見知った顔があった。その人の存在を確認するなり、亜里沙が声をかける。

 

 

「楓! おはよう!」

「ん……? あぁ、おはよう……」

「もうクラス表見た? なんと私たち、また同じクラスなんだよ! 6クラスもあるのに、これは奇跡だよね♪」

「そうだね。ま、どうでもいいけど……」

 

 

 なんだろう、楓の様子がおかしい気がする。楓は亜里沙のようにいつでもテンションが高い訳じゃないけど、彼女の魅力は私たち女子でも思わず振り向いてしまうほど。女子力の塊とも言っていい楓は、いつも周りに憧れを抱かせるほどの存在感を放っている。1年間ずっと側にいた私が言うんだから間違い。

 

 でも今の楓は、一言で表すなら()()。いつも感じるオーラもその欠片すらも全くなく、亜里沙がいなければ私は楓に気付かずスルーしていただろう。それくらい、目の前の彼女は存在感がなかった。私たち以外にも周りにたくさんの生徒がいるけど、誰1人として彼女を認識していない。そう思ってしまうほどに暗いオーラを醸し出していた。

 

 

「それじゃあ私、先に行くから」

「えっ、同じクラスなんだから一緒に行こうよ――――って、行っちゃった。どうしたんだろうね、元気がないみたいだけど……」

「私にもよく分からないけど、掲示板の前にたくさんの人が騒ぎ倒してるのが気に食わなかった……とか? ほら、楓って些細なことでも毒を吐くことあるし」

「そうなのかなぁ……? よしっ、あとで聞いてみよう!」

「そうだね」

 

 

 人に毒を吐いたり馬鹿にしたりするのが楓の性なので、掲示板の前で動かず騒いでる人たちを見て少し苛ついていたのかもしれない。楓は感情的になりやすいので、些細なことでも感情の起伏が激しくなることがある。そういう時は時間を置くと何事もなかったかのようにケロッとしていることが多いので、今はそっとしておいた方がいいのかも。

 それに、新しい環境になったことでストレスが溜まる人は多いと聞く。亜里沙のように前向きに心機一転できる人もいれば、楓のようにストレスから苛立ちを感じる人もいるだろう。だからこそ、今は1人にしてあげるのが一番だと思う。

 

 

 

 

 ――――――と、そう考えてしまって後悔したのは、もう少し先のお話。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ちょっ、ちょっと亜里沙。引っ張らなくても普通に歩けるから」

「だって、楓さっきすぐに帰ろうとしていたよね? 先輩たちから呼び出しがあったのに、無視するなんてダメだよ」

「もう……」

 

 

 始業式とその後のホームルームを終えた私たちは、先輩たちからの呼び出しにより理事長室に向かっていた。

 私たち3人に連絡が来るってことは間違いなくμ's絡みだとは思うんだけど、さっきも言った通りμ'sはもう解散したし、一体どんな用事で呼び出されたんだろう……? 

 

 ちなみに楓は亜里沙に手を引かれて無理矢理歩かされている。今日は午後から入学式があるため、2年生と3年生は午前中で下校だ。だから楓はそそくさと帰ろうとしていたんだけど、そこを亜里沙に捕まって現在に至る……というわけ。結局、楓の様子は朝から変わることがなく、今でもどんよりとした雰囲気。ここまでテンションの低さが続いてる楓は久しぶり。というか、見たことがないかも。

 

 そんなことを考えながら理事長室の前の廊下に差し掛かると、部屋の前には既に先輩たちが集まっていた。

 

 

「あっ、来た来た! 雪穂ちゃん、亜里沙ちゃん、楓ちゃん、こっちだよ!」

「り、凛ちゃん! 理事長室の前なんだから、大きな声を出しちゃダメだよ」

「あ、あはは、ゴメンかよちん……」

「全く、今日の凛はテンション高すぎるのよ。3年生になっただとか、新入生がたくさんいるだとか、それのどこがいいんだか……」

「逆に真姫ちゃんのテンションが低すぎるんだよ。もっとないの? こう、先輩として堂々と振舞いたいとか」

「別にどうでもいいわよそんなこと。それに、あまり騒がしくし過ぎると新入生に子供だって思われるわよ。今のあなたみたいにね」

「むぅ~! 真姫ちゃんは何事にもドライ過ぎるんだにゃ!」

「ま、まぁまぁ、2人共落ち着いて。ここ、理事長室の前だからね……?」

 

 

 なんだろう、花陽ちゃんに凄く親近感が湧いちゃう……。相変わらず先輩たちは仲が良いけど、普段の私たちも同じように見えていたりするのかも。亜里沙がよく分かんないことを言って、楓も意味分かんないことを言って、そして私が落としどころを決めると。私の苦労は多いけど、それはそれで楽しかったりするんだよね。そうは言っても、最近はそのような会話どころか、3人で集まること自体が少なくなっちゃったけど……。

 

 

「とにかく、早く行きましょう。理事長によれば、私たちに何かお願いしたいことがあるみたいだから」

「お願いしたいこと……?」

「詳しい話は理事長室で話すって言ってたから、割と重要な依頼なのかもね」

 

 

 真姫ちゃんはそう言いながら理事長室のドアをノックし、自分の名前と私たち全員が揃った旨を伝える。すると、部屋の中から『どうぞ』と入室を促す声を聞こえた。真姫ちゃんは理事長室のドアを開けて中に入り、私たちもそれに続く形で入室をする。

 

 そういえば、理事長室ってこの1年間で1度も入ったことがなかったな。学校って無駄に部屋や教室の数が多いから、3年間で1度も訪れない場所もいくつかあると思う。生徒からしてみれば理事長室なんて特にそうで、問題児が連行される場所というイメージしかない。ちなみに零君やお姉ちゃんは何回か来たことがあるって言ってたけど……まぁ、妥当かな。

 

 初めて入るお高くまとまった部屋に私たちは少し緊張しながらも、花陽ちゃんが理事長に話を切り出した。

 

 

「あのぉ……私たち、どうして呼ばれたんでしょうか?」

「その件についてだけど、単刀直入に言うわね。μ'sとして、新入生歓迎会でライブをして欲しいの」

「「「「「「ライブ!?」」」」」」

 

 

 驚いた。まさかμ'sに正式なライブの依頼が来るなんて。

 でも、μ'sは既に解散している。それは音ノ木坂の理事長でもありながら、ことりちゃんの母親でもあるこの人なら分かっているはず。なのにどうしてもう一度ライブを……?

 

 

「あなたたちが考えていることは分かっているわ。μ'sは解散したのに、どうして今更またライブの依頼をされているんだろう、こんなところかしら?」

「え、えぇ、そうですけど……」

「理由を話すと打算的と思われるかもしれないけど、あなたたちには率直に話すわ。今年は去年以上に入学者が多いでしょ? だからこそ、新入生歓迎会はこれまで以上に豪華なイベントにしたいと、先生や生徒たちから提案があったのよ」

「なるほど。だから私たち元μ'sにもう一度ライブをしろ、ということですか」

「そう。μ'sはもはや音ノ木坂の伝説と呼ばれているから、新入生歓迎会を豪華にするためにはあなたたちの協力が必要不可欠だと考えたの。もちろん、解散したばかりのあなたたちを再び引っ張り出す真似をしたことは謝るわ。だけど、新しい音ノ木坂がより良いスタートダッシュを決めるため、今回だけでいい、あなたたち6人でライブをして欲しいの」

 

 

 確かに理事長の言う通り、学院側の打算的な部分は見え見えだ。『音ノ木坂=μ's』という方程式はもう切っても切り離せないものだし、それが世間にも深く浸透している。だから新入生歓迎会にμ'sが出てきたとなれば新入生は盛り上がるだろうし、何よりSNSで歓迎会の様子が拡散されれば、世間に学院を大きく宣伝できる。つまり、学院側にとってμ'sの出演は得でしかない。もちろんμ'sを学院のための引き合いに出すってことだから、理事長が謝った理由も分かるよ。みんなで決断してグループを解散したのに、それを大人の事情で復活させようとしているんだから。

 

 でも、私はそれでもいいかなぁと思ってる。新入生を歓迎するという意味ではμ'sを出演させるのが得策だろうし、何よりまたみんなとライブができるのは嬉しい。しかも『ラブライブ!』のようにグループ同士で競い合う訳でもないから、気軽にライブができるのも良い点だ。

 

 

「凛はいいと思うよ! ねぇみんな、やろうよ!」

「うん、私も賛成かな。新入生があれだけたくさんいたら、やりがいもあるよね」

「はいはい! 私もやりたいです! また雪穂と楓と、先輩たちと一緒にライブできるなんて夢みたいだよ♪ ねぇねぇ、雪穂はどう?」

「そうだね、やっていいかも」

「ま、他のみんながこれだけやる気だったら、私も賛成せざるを得ないわね」

「真姫ちゃんってば、またそんなこと言っちゃってぇ~。ホントはやりたくて仕方がないんでしょ?」

「な゛っ、り、凛!!」

「あはは、やっぱり図星……いや、冗談だって♪」

 

 

 どうやら、亜里沙も先輩たちもみんなやる気みたいだ。真姫ちゃんも表面では仕方ないという雰囲気を出してるけど、先輩の性格を考えるに凛ちゃんの言う通り素直になれていないだけだろう。凛ちゃんや花陽ちゃん、亜里沙は予想通りで、その3人は理事長の話を聞いている途中から既に目を輝かせていたくらいだ。そうやって好きなモノを素直に好きと感情表現できるのが羨ましいよ。私の性格はどちらかと言えば真姫ちゃん方面の人間だからね……。

 

 こうして私たち5人の意思表明はできたけど、音ノ木坂に残っているμ'sのメンバーはもう1人いる。

 ここまで一切の会話に参加していなかったけど、彼女の意思はどうなんだろう――――――って、あれ?

 

 

「か、楓? どこに行くの?」

 

 

 私の隣にいた楓はいつの間にか姿を消し、振り向くと彼女は既に理事長室のドアに手をかけていた。私は思わず彼女に声を掛ける。

 楓が勝手な行動をするのはいつものことだけど、ここまで協調性がないのは珍しい。それに表情を見るだけでも不機嫌そうで、如何にも帰りたいと言いたげだった。

 

 

「どこへ行くのって、私は不参加だから帰るだけだよ」

「不参加って、どういうこと……?」

「別に私がいなくてもμ'sとしてはライブできるでしょ? それに穂乃果先輩たちがいない時点でそもそも人数は欠けてるんだし、もう1人いなくなったくらいでは支障はないと思うけど」

「そ、それはそうだけど……」

 

 

 楓の言っていることは最もだ。μ'sとしてライブをすればいいだけだから、私たちが6人集まる必要はないという主張も理にかなってはいる。

 でも、どこか納得できない私がいた。6人揃ってライブがしたいというのは私のワガママであり、やりたくない人を巻き込む必要はない。それは分かっているけど、腑には落ちない。それ以上に、私はどうして楓がいきなりこんなことを言い出したのかが分からなかった。いつもは誰にも負けなくらいライブを楽しんでいたのに……。

 

 恐らく私が何を言っても、今の楓の意思を変えることはできないだろう。だから、理事長室から去る楓の背中を見つめることしかできない。

 

 

「待ちなさい」

「真姫先輩……。なんですか? 不参加の人がここにいても意味ないでしょ」

「別に参加を強制するつもりはないわ。でも、不参加の理由くらい教えてくれてもいいでしょ。ここにいるみんなは、あなたと1年間一緒に同じグループとして活動してきた仲間じゃない」

「…………どうでもいいですよ、そんなもの」

「練習時間の心配なら、これまでやった曲を6人用にアレンジするだけだから問題ない。ステージのポジションも6人程度なら簡単に組める。それに解散からブランクが長くないから、あなたの体力なら練習も余裕のはずよ。何をするにも時間はかからないわ」

「だから、どうでもいいですよ。話が済んだのなら、もう帰ります」

「ちょっと待ちなさい!」

 

 

 楓は真姫ちゃんの制止を振り切って、理事長室から去った。

 さっきまではμ'sとしてもう一度ライブができると知り、みんな和気藹々としていたのに、今は楓の唐突の不参加宣言により雰囲気が重くなってしまった。私の気持ちと同じく真姫ちゃんも楓の不参加には納得がいっていない様子。確かに、私も不参加の理由は知りたいと思っていた。だけど、楓は何も話さなかった。想像は全くつかないけど、やっぱり何かあったのかな……。

 

 

「ともかく、これはお願いであって強制ではないわ。だから、あなたたちで結論を出してちょうだい。遅くても2日後までにはね」

「分かりました。みんな、行くわよ」

「真姫ちゃん、いいの? 凛は楓ちゃんとも一緒にライブがしたいにゃ……」

「それはここで話し合う問題じゃないわ。理事長、失礼します」

「えぇ。いい答えを期待しているわ」

 

 

 真姫ちゃんに半ば強制的に促され、私たちは理事長室を後にした。

 楓はお調子者だけど、情に厚い人だってことは私たちが一番良く知っている。だからこそ、あそこまで冷たい態度を取る彼女が不思議でならなかった。そう、私たちがこれまで紡いできた友情や絆が、全部嘘だと言わんばかりに……。

 

 

「やっぱり私、楓のことが気になります! 行こう雪穂、楓のところに!」

「えっ、今から?」

「楓に悩み事があるなら、すぐに解決してあげないと。友達として! ほら、早く!」

「亜里沙、いきなり走り出さないで!? 分かったから手を放して!」

「あっ、ゴメン。では皆さん、楓のことは私たちに任せてください」

「えぇ、頼んだわ……」

 

 

 こうして、私と亜里沙は楓の元へ向かった。

 そして、これはまだ始まり。この時の私は、まだ楓が抱く気持ちに一切気付いていなかった。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 またシスターズのお話かよって思う方も多いと思いますが、私が好きな子たちなので許してください(笑)

 そもそも今回のお話はスクフェス編の時から描きたくて、ずっと暖めていました。でもスクフェス編はAqoursや虹ヶ咲がメインだったのでμ's関連の話は出すことができず、最終回を迎えた後すぐにシリアスな話を持ってくるのもどうかと思い、ここまで貯蔵していました(笑)

 私としては珍しくラストシーンまでの構想は大雑把に練ってあるので、従来よりもコンスタントに投稿できると思います。3~4話の長編になる都合上、バンドリ小説との投稿順が変わるかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

妹たちの決裂

 絆のシスターズ編、その2


「楓! ちょっと楓ってば!」

「亜里沙……なに?」

 

 

 私と亜里沙は理事長室を後にして、1人で帰宅途中の楓を捕まえた。

 朝から様子がおかしいとは思っていたけど、先輩たちにあんな冷たい態度を取るなんて驚いたよ。楓はお調子者なので、普段から先輩たちにも容赦のない発言をしているけど、あからさまに不機嫌を前面に押し出したのはこれが初めてかもしれない。おふざけとお真面目の切り替えなんて、彼女ならしっかりできるはずなのに……。

 

 

「どうして歓迎会のライブに参加しないの? せっかく理事長さんから頼まれたのに……」

「別に強制じゃないって言ってたでしょ。私は興味ないの」

「そんな……去年はあれだけライブを楽しんでたのに?」

「昔は昔、今は今。昔は興味があったからって、今がそうだとは限らないでしょ」

「そ、それはそうだけど……」

「μ'sは解散したから、いつまでも過去の栄光に(すが)りたくないの。ま、縋るも縋らないも個人の自由だけどね。だからこそ、私は参加しない。分かった?」

「うっ……」

 

 

 ダメだ、楓の正論に亜里沙が完全に押されている。楓にライブ不参加の理由を聞き出し、あわよくば説得しようと考えていた亜里沙の計画は崩壊してしまった。

 でも、ここで逃げられる訳にはいかない。確かに楓の言っていることは正論だけど、だからって素直に納得できないのが人間というもの。私は知りたい、楓がどうしてその結論に至ったのかを。傍から見ればただのお節介かもしれないけど、ここで彼女の本音を聞き出しておかないと、どうも取り返しのつかないことになる気がする。私の直感がそう告げていた。

 

 

「ねぇ、楓。何か悩み事があるなら話して欲しい」

「は? どうしてあんたたちに……?」

「楓の様子を見ていると、ただ気分で不参加って言ってる気がしないから……。もしかしたら、何か理由があるんじゃないの? だから話して欲しんだ。まだ1年だけど、それでもクラスメイトとして、μ'sとして一緒に過ごしてきた友達だから」

「友達……か」

 

 

 楓が私たちから顔を逸らした。

 嫌な予感がする。自分から聞いたくせに、今すぐにでも耳を塞ぎたい。そんな衝動に駆られる。

 

 

 そして、その瞬間はすぐに訪れた

 

 

「別に友達とは思ってないから、あんたたちのこと」

 

 

「「え……?」」

 

 

 私も亜里沙は目を見開いて硬直する。一瞬、楓の言葉が理解できなかった。いや、脳が理解することを拒否している。その現実を受け入れたら、本当に取り返しのつかないことになりそうだったから。

 

 でも、彼女の言葉は無残にも心の方に届いてしまった。それは亜里沙も同じようで、わなわなと震えているあたり、むしろ私よりも動揺が激しいみたい。そうやって亜里沙の状況を窺って冷静そうに見える私も、身体の水分が抜けきるほど嫌な汗が出ていた。

 

 

「ね、ねぇ、それってどういうこと……?」

 

 

 亜里沙が声を震わせて楓に問いかける。

 楓から突き付けられた言葉の意味は理解している。だけど、受け入れたくはない。だから亜里沙は聞き返したんだと思う。だって、私も同じ気持ちだったから――――

 

 

「最初から友達だなんて思ってなかったから。私の目的は既に達成されたしね」

「目的って……なに?」

「私がお兄ちゃんのことを大好きなのは知ってるでしょ? そのお兄ちゃんと恋人同士になれた。血の繋がった兄妹だけど、愛する恋人同士。これほど幸せなことはないよ」

「そ、それってつまりどういうこと!? 私、分からないよ!!」

「鈍いね亜里沙、相変わらず……。雪穂は分かってるでしょ?」

 

 

 楓の冷たい笑みに、私は少し臆してしまう。彼女が私たちに何を伝えたかったのか、その意図が分かってしまったからこそ口に出したくない。言葉にしたら私たちの関係は二度と修復しないような気がするし、亜里沙を余計に絶望させてしまう。自分で言うのもおかしいけど、自分の察しのいい性格をこれほどまでに恨んだことはないよ。

 

 しかし、このままでは楓は立ち去ってしまう。そうなったら、これからこうして3人で面と向かって話す機会は訪れないかもしれない。

 つまり、楓を会心させるなら今しかない。最初にして最後のチャンスに、私は慎重に言葉を選ぶ。

 

 

「もうあなたにとって、私たちは不要とでもいいたいの……?」

「おぉ、意外と直球なんだね。そうだよ、私はお兄ちゃんと結ばれることができた。だからもう、私の人生の目的は達せられているんだよ」

「そう……。自分の目的を達成したから、私たちはもういらないと……」

「そういうこと。雪穂は物分かりが良くて助かるよ」

 

 

 楓は私たちの心が弱っていることにつけ込んで、必ず高圧的な態度で来ると思っていた。だからこっちも遠回しに会話をせず直球で攻めてみたけど、これで楓を会心させられるかは分からない。なんとか彼女のペースに飲まれないようにはしているけど、どう説得すればいいかなんて考えてすらいない。結局私も、亜里沙と同じく動揺に飲まれるだけだった。

 

 

「元々あんたたちもμ'sも、私の魅力をお兄ちゃんに知ってもらうための手段に過ぎなかったんだよ。だからお兄ちゃんと結ばれた今、もうお兄ちゃん以外は何も必要ないってわけ」

「楓らしいね。本当に、楓らしい……」

「でしょ? これで私がライブに出ない理由も分かってもらえただろうし、もう帰るね。お兄ちゃん、今日は大学から早く帰ってくるから、急いで昼食を作らないと」

 

 

 楓は私たちに背を向けて帰路に立つ。

 説得しようと思っていたのに、私はこれ以上何も言えなかった。ここで彼女と別れてはならなない。どんな言葉でもいいから引き止めなければならない。自分でもそう思っているはずなのに、立ち尽くすことしかできない。何を言っても今の彼女の心には届かないことは薄々察していたし、何よりこれ以上自分の心を傷付けたくなかった。ただでさえ辛いのに、そこへ更なる苦痛を感じたくはなかったんだ。

 

 するとその時、私の隣にいた亜里沙が一歩前へ出る。

 

 

「だ、だったら、私たちが1年間築いてきた思い出はなんだったの!? 楓が私たちに向けてくれた笑顔も、全部嘘だったの!?」

 

 

 一瞬、楓が歩を止めた。

 だけど、すぐにまた歩き始める。

 

 亜里沙は涙を流していた。自分の気持ちが楓に伝わらなかったからだろうか。それとも裏切らるような真似をされて悲しかったからだろうか。いや、どちらもだろう。私も同じ気持ちだから……。

 

 

 私たちは、楓の背中を見つめることしかできなかった。

 その背中が視界から消えてもなお、私たちは呆然としながらその場に佇んでいた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 しばらくして、私たちは音ノ木坂のアイドル研究部の部室に戻り、真姫ちゃんたちに事の顛末(てんまつ)を報告した。

 先輩たちも私たちと同じように、楓の気持ちを知って暗い表情になる。

 

 

「そう、楓は参加しないのね……」

「はい……。ゴメンなさい、私、楓を引き止めることができませんでした」

「亜里沙が謝ることじゃないわよ。あの子はあの子なりの考えがあって、今回のライブには不参加。ただそれだけのことだから……」

 

 

 流石真姫ちゃんは大人だと言うべきか、既に楓のことは割り切っているようだった。でも、どこか寂しそうな雰囲気を醸し出しているあたり、先輩も楓と一緒にライブをしたいという気持ちはあったんだと思う。先輩にとっては私たちは初めての後輩で、そして1年間共にμ'sとして活動してきた仲間なんだから、そこで何も思わないはずがないだろう。

 

 

「楓ちゃんがやりたくないって言うのなら、仕方ないのかもね。理事長さんも言ってたけど、強制参加じゃないから……」

「そうだね。無理矢理に誘っても、楓ちゃんが笑顔でいられないのならライブは成功はしないし……。ちょっと残念だけど、凛もかよちんと真姫ちゃんの意見に賛成かな」

 

 

 花陽ちゃんも凛ちゃんも、私と亜里沙が楓を連れ戻さなかったことに苦言を漏らしたりはしない。むしろ、5人でライブをするなら5人でやり通す意志を見せている。強い、先輩たちは強すぎるよ。私たちもここで心を切り替えて、新入生のために良いライブができるよう頑張らないといけない。そうしないといけないことは、自分でも良く分かっているんだけどね……。

 

 

「気になる? 楓が私たちと決別したこと」

「は、はい! むしろそれが気になって、連れ戻すことすらも忘れていたと言いますか……ゴメンなさい」

「だから、あなたが謝らなくてもいいわよ。あなたの心の痛みは、十分過ぎるほどに分かってるつもりだから……」

「凛たちもそういう経験、少し前にあったからね。あまり思い出したくはないけど……」

 

 

 そういえば、零君から聞いたことがある。零君とお姉ちゃんたち9人の関係に亀裂が入り、地獄のような9日間を送ったことがあるって。その時の先輩たちは零君を手に入れたいがために、長年連れ添った仲間ですら決別した。最終的にその関係は修復されたけど、先輩たちが私たちの気持ちを汲み取れる理由はそこにあるんだ。仲間に、親友に、絆を断ち切られる辛さを知っているから。

 

 そうか、今この瞬間も辛いのは私と亜里沙だけじゃない。先輩たちも同じ気持ちなんだ。さっきは強い人たちだと思ってたけど、恐らくそれは私たちを余計に心配させないようにしてくれているのだろう。自分たちが不安そうにしていたら、私たちをより落ち込ませてしまうから。

 

 

「個人の参加不参加は自由だけど、新入生の歓迎会でライブをするのも自由だって理事長は言ってたでしょ? あなたたちがその調子だと、ライブをしたとしても新入生たちを感動させることはできない。それならいっそのこと、μ'sとして参加すること自体を止めた方がいいかもしれないわね」

「そんなのダメです!! 私、6人でライブがしたいです!!」

「亜里沙……」

 

 

 亜里沙は楓と別れてから初めて大きな声で感情を吐露した。さっきまで必死に抑えていただろう涙腺は崩壊し、頬に涙が垂れている。あれから少し時間も経ってようやく心の整理もできていたと思った矢先、真姫ちゃんの決断に亜里沙の心は再び揺らいだのだろう。もちろん真姫ちゃんが失言をしたとは思っておらず、むしろ英断だと思うけど、どこか納得がいっていないのは私も同じで、それは苦い表情している先輩たちも同じようだった。

 

 

「私、もう一度楓を説得してみます! 楓は親友ですから、私たちの気持ちもきっと伝わるはずです!」

「あ、亜里沙ちゃん落ち着いて……ね? 湧き上がってくる感情だけを押し付けても、相手に何も伝わらないよ」

「花陽ちゃん……。でも!!」

「亜里沙ちゃんの気持ちは分かるけど、楓ちゃんの気持ちも考えてみてね? 親友で近くにいるからこそ、相手の気持ちって気付きにくいものなんだよ。親友だからきっとこうだろうと思い込んでたら、本当に大切なことは伝わらないと思うな」

「そ、そうですね……」

 

 

 花陽ちゃんの優しい助言に、亜里沙は少し落ち着きを取り戻しつつある。それでも荒れに荒れた心は収まっていないようで、またちょっとでも刺激すれば今度はさっき以上に暴走してしまうだろう。彼女にとってはそれくらい楓が大好きなんだ。どう説得するかは考えていないだろうけど、楓のことをどれだけ大切に想っているのかは十分に伝わってきた。

 

 

 だけど、私は――――――

 

 

「凛、気になってることがあるんだけど、どうして楓ちゃんは急に冷め切っちゃったのかな?」

「そういえば確かに……。亜里沙ちゃんたちから聞いた話のインパクトが強すぎて、根本的なことを忘れちゃってたね」

「そうそう。零くんと恋人同士になれて目的を達成したっていうのは分かるんだけど、それで凛たちと離れ離れになるのはどういう関係があるのかなぁって」

「2人の話では私たちはもう用済み扱いらしいけど、どうしてそこまでしてあっさり関係を断ち切れるのかは疑問ね」

 

 

 言われてみればその通りだ。私も亜里沙も楓に拒絶されたと思い、彼女の言葉をそのまま受け止めて絶望していた。

 だけど、楓がここまで冷酷になるのは何か理由がある。そう先輩たちは言った。楓と1年間一緒にいた私たちなら分かる。確かに彼女は人を小馬鹿にしたり、先輩にすら傲慢な態度を取る子だ。でも、優しい子であることも事実。だからこそ、私たちとの関係を断ち切ったことにも何か理由があるはずなんだ。

 

 そう考えると、僅かだけど曇っていた気持ちが晴れてきた。

 私は亜里沙とは違って諦めていたのかもしれない、楓を説得することを。彼女は賢くて頑固で芯が強いから、私から何を言っても彼女の決意を変えることはできないだろうと思い込んでいたんだ。元の関係に戻りたいと思いつつも、説得なんてできないだろうって半ば諦めていた。亜里沙はずっと足掻いて足掻いてこの状況を好転させようと考えていたのに、情けないなぁ私って……。

 

 

「楓は、ただ私たちとの関係を断ち切った訳じゃないんですね。だとしたら、やっぱり何か悩み事があるのかも」

「うん。私たちで解決してあげられるのなら、してあげたい。楓には絶対に余計なお世話だって言われるけど、私はそれでもいい。親友を見捨てることなんて、絶対にできないから」

 

 

 力になれるかどうかは、楓の抱く悩みを聞かないと分からない。もしかしたら、手を差し伸べることすらできないかもしれない。

 だけど、それは私と亜里沙が何もしない理由にはならない。私はただ、傷付いている親友を見過ごせないだけだ。それは結局何もしないってことだと思われるかもしれないけど、ここで立ち止まる訳にはいかないから。

 

 

「雪穂。もう1回、楓と話し合ってみよ? そもそも話を聞き出せるかも怪しいけど、ここで落ち込んでばかりじゃいられないよ」

「そうだね。行ってみよう、楓のところへ」

 

 

 正直、上手く楓の気持ちに向き合えるかは不安だ。だけど、亜里沙と一緒ならできる気がする。さっきまで意気消沈していた私たちじゃない。2人で力を合わせて、親友の心にかかった曇りを晴らしてあげるんだ。

 

 

「そう。それなら、楓のことはあなたたちに任せるわ。ライブに参加するかどうかは後回しでいい。まずはあなたたちの関係を取り戻しなさい」

「「はいっ!」」

 

 

 真姫ちゃんに激励され、私たちは再び音ノ木坂を後にした。

 待っててね、楓。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そう息巻いて音ノ木坂を飛び出したものの、何の策もなく楓と会っても追い返されるだけだろう。

 私と亜里沙は、どうやって話を切り込むかを神崎家へ向かう道を歩きながら喋っていた。

 

 

「楓、家に入れてくれるかな?」

「あそこまできっぱりと決別されちゃったから、そもそも私たちと取り合ってくれなさそうだよね……」

「う~ん、もう少し先輩たちの知恵を借りれば良かったなぁ……」

「そうしたかったのは私もだけど、楓を救ってあげるって言ったのは私たちなんだし、あまり先輩たちには頼れないよ」

 

 

 先輩たちには助言を貰っただけでもありがたいのに、これ以上甘えることはできない。楓の本当の気持ちに向き合うためにも、私たちが成すべきことを自分たちで考えないと。

 

 

「少なくとも、楓の様子が冷たくなった理由さえ分かればいいのになぁ~」

「それが分かったら苦労しないよ。ていうか、それが私たちの考えるべき全てだと思うんだけど……」

「う~ん、やっぱり学校の環境が変わってストレスが溜まってる……とか?」

「私もそうだと思ったけど、学年が上がっただけで楓がストレスを感じるとは思えないんだよね。だってほら、大舞台のライブですら緊張しないんだよ?」

「そっかぁ~確かに。だから余計に気になるよね、楓の心境が……」

 

 

 こればっかりは、本人に直接聞かなきゃ分からないのかも……。そもそも取り合ってくれるかも怪しいから、できるなら事前に事情が分かればこっちも話しやすいんだけどね。

 

 

「春休み中に会った時は何ともなかったよね? むしろ先輩になったら後輩をこき使えるって喜んでたし」

「それはそれで問題な気もするけど……。まぁ、それがいつもの楓だからね。いつもみたいに暴走されると調子狂うけど、あれだけテンションを下げられたら更に調子が狂うよ」

「雪穂は楓と言い争いをしている時、いっつも楽しそうだもんね。調子がおかしくなっちゃうのも無理ないよ」

「ちょっと亜里沙……? 別に楽しくはないから。楓の発言に呆れてるだけだし……」

「それが楽しそうなんだよ♪」

「そ、そう見えるのかなぁ……」

 

 

 彼女の傲慢な発言といい、下品な発言といい、それを受け流すのが私の役目になっている。亜里沙は天然過ぎて、どんな言葉でも素直に受け入れちゃうからね。楓もそれが分かっているから、根も葉もない話を私に振ってくる。私としてもそれが楽しい……か。

 

 確かに言われてみれば、そんな関係にももう慣れた。流石に1年間同じコミュニティにいたら、会話におけるそれぞれのポジションも明確になっている。2人のぶっ飛んだ会話には時折追いつけなくなるし、なんなら最初から追いつくことを諦めているくらいだけど、そこが自分の居場所と考えるととても落ち着く。もうこの3人でなければ私が私じゃないような気がしてならない。いつかは1人立ちをしなければならないって分かってるけど、せめて高校だけはこの3人で一緒に――――――

 

 

「1人……?」

「雪穂? どうしたの……?」

 

 

 分かったかもしれない、楓の悩み事が。

 でも、当たっている保証はない。もし間違えていたら、楓をより傷付けてしまうかも……。

 

 

 すると、俯きながら歩いていた私たちに影がかかった。

 顔を上げてみると、そこには――――――

 

 

「雪穂、亜里沙?」

 

 

「「零くん……?」」

 

 

 なんていうか、相変わらずいいところで現れるよね、この人は……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 別にシリアスモノが好きな訳ではありませんが、たまにはこういった話を描いた方が文章にメリハリがついて、いつもより短時間で描き終えることができます。
 逆に言えば、今回のシスターズ編を完結した後に頭が悪いギャグ話を描くことを何より楽しみにしている自分がいます(笑)

 それにしても、執筆している自分が言うのもアレですが、雪穂も亜里沙も健気でとても可愛いです!(笑)


 次回は楓視点の話からスタートです。
 まだ少し暗いお話が続きますが、あの男がでてきたのでなんか安心できますね(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

妹たちの決意

 起承転結の『転』の回。
 前半は楓視点で、前回の最後で零君と雪穂たちが出会った時間系列よりも前の話。後半は雪穂視点で、零君と出会った後の話となります。


 

 私の全てはお兄ちゃんのためにある。

 私の人生はお兄ちゃんによって導かれ、私のアイデンティティもお兄ちゃんによって形成されたと言ってもいい。

 

 私は幼い頃からずっとお兄ちゃんに遊んでもらっていて、話す言葉も身体の動かし方も、世間の常識も何もかもお兄ちゃんから教えてもらった。お父さんは海外の大学の教授、お母さんは女優の仕事、お姉さんは研究に没頭しがちだったせいで、最も私の身近にいたのがお兄ちゃんだ。

 

 そうやって溺愛されていたせいか、私の人生の楽しみがお兄ちゃんと一緒にいることになった。友達と遊ぶ暇があったらお兄ちゃんと遊ぶ。だから私は小学生の頃から掃除や洗濯、料理などの家事スキルを身に着け、将来お兄ちゃんに尽くすために躍起になっていた。

 

 もうその頃から惚れていたのかもしれない。幼い時は恋愛感情を抱いているなんて思わなかったけど、今思えばそれは紛れもなく恋だったのだろう。

 実の兄妹だからとか、周りの目が痛いとか、そんなものは関係ない。私の世界にはお兄ちゃんと私しかいないんだから、世界の外にいる連中の目を気遣う方がおかしい。私たち以外の人間なんていないも同然。恋人同士になった今だからこそ余計にそうだ。

 

 これからはずっと一緒。ずっと隣にいる。

 お兄ちゃんが音ノ木坂に入学する年、お兄ちゃんは学校の近くへと引っ越した。まだ中学生だった私は追いかけることもできず、途方に明け暮れ――――はしなかった。逆に来年から2人暮らしができるチャンスだと思い、そのためにその1年で私は家事スキルを完璧に仕上げた。そう、全てはお兄ちゃんの側にいるために。

 

 そして、私が音ノ木坂に入学する年、お兄ちゃんに尽くす完璧な妹となって家に転がり込んだ。

 そこからはもう至高の毎日。毎朝お兄ちゃんの寝顔を見ながら起こしてあげて、朝食を作ってあげて、一緒に学校へ行って、一緒にμ'sの活動をして、一緒に帰宅して、一緒に夕飯を取り、たまに一緒にお風呂に入り、たまに一緒に寝る。もう私の人生の全てがお兄ちゃん色に染まった。

 

 そんな最高の生活の中で恋人同士になり、現在に至る。

 だから私にはもう、お兄ちゃん以外に必要なくなった。友達も仲間も、何もかも。

 

 

 そう、思っていた。

 

 

 思いたかった。

 だけど、何故か心が苦しい。

 

 

 違う、これはお兄ちゃんと離れ離れになった寂しさのせいだ。

 ()()()()は関係ない。

 

 

 お兄ちゃんさえ、いればいいんだ。

 

 

 そう、お兄ちゃんさえ――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「お兄ちゃん、昼食できたよ。ゴメンね、帰ってくるのが遅れちゃったせいでご飯も遅くなって……」

「別にいいけど、何があったんだ? お前、今朝は早く帰ってくる気満々だったのに」

「ちょっと邪魔者がね……。そんなことより、早く席に着いて!」

 

 

 お兄ちゃんは大学生になった。大学は高校までとは違って朝から夕まで授業――ではない。今日のように、朝のみの講義で昼からは帰宅して家にいることもある。大学生が人生の夏休みと言われるのはそれが理由だ。

 

 今日は高校が午後から入学式のため、在校生は午前の始業式だけで終わり。だから私も早く帰宅して、お兄ちゃんに手厚い昼食を振舞っているという訳。なるべくお兄ちゃんには贅沢させてあげたいしね。カップラーメンでお昼を過ごすなんて言語道断だから。

 

 それに、私はお兄ちゃんにご奉仕をしている瞬間が人生で一番楽しい。それが私の生き甲斐であり、生きている意味でもある。お兄ちゃんがいなかったら、私がこの世に存在する必要もないんだから。

 

 

 だけど、今日はどうも様子がおかしい。お兄ちゃんは黙々と昼食を取っている。いつもなら会話の話題が途切れたりすることはないのに、空気が少し重い。お兄ちゃんに限って大学の環境に慣れず疲れているってことはないと思うから、もしかして――――――

 

 

「お兄ちゃん、私の料理美味しくなかった? さっきから手が全然動いてないようだけど……」

「ごちそうさま」

「えっ、待って待って! まだこんなに残ってるのに!? 身体の調子が悪い……とか?」

 

 

 お兄ちゃん、怒ってる……? いや、私の料理を食べてそんなことはないだろう。いつもは美味い美味いと言って笑顔を見せてくれて、私はその表情を見るのが何よりも至高なのに……。

 

 お兄ちゃんは箸を置いて、その場で立ち上がった。

 

 

「お前、俺にこんなマズい料理を食わせる気か?」

「え……?」

 

 

 お兄ちゃんが何を言っているのか、さっぱり分からなかった。

 私の料理が不味い……? お兄ちゃんが今までそんな文句を垂れたことはない。それに、私の料理はお兄ちゃんの愛がふんだんに込められているはず。料理は愛情。私の料理が不味い訳がない。私の人生の全てをかけて、お兄ちゃんの好みの味付け、食感、盛り付け――ありとあらゆる技術を身に着けたはずだ。それなのに不味い?? これまでそんなことを言ったことは一度もないのに、今日に限ってどうしてこんなことを……。

 

 お兄ちゃんがテーブルから立ち去ろうとしたので、私は咄嗟にその進路を遮る。

 このままだと、お兄ちゃんが私を拒絶したままになってしまう。だから、何としてでもそれを避けないと……!!

 

 

「どけ」

「具体的にどこが悪かったか教えて? もう一度作り直すから!」

「その必要はない。マズいモノを食わされて、食欲がなくなったんだよ」

「ゴ、ゴメンね……」

 

 

 お兄ちゃんが怖い。でも、ここで引く訳にもいかない。お兄ちゃんに拒絶されっぱなしなんて、私が生きている意味がなくなってしまう。そんなの耐えられない。ただでさえ、今日は耐えられない日だったのに……。

 

 

「部屋に戻って昼寝したいから、早くドアの前からどけ」

「嫌だ! 気に入らないことがあるのなら遠慮なく言ってよ!」

「だから飯が不味いって言っただろ」

「私の料理に限ってそんなことない!! あっ、もしかして大学の環境に慣れずにストレスが溜まってるとか? だったら、私をストレスの捌け口にしていいから! 私の身体はお兄ちゃんの身体なんだよ? だから好きに使っていいの! 乱暴にされてもいい、私はお兄ちゃんを感じられればそれでいい!」

「早くどけ」

「どうして!? もう何度もエッチしてるのに、どうして今日だけは抱いてくれないの!? 私にもっとお兄ちゃんを感じさせてよ!」

「…………それが本音か」

「え……?」

「何でもない、ちょっと出かけてくる」

「ちょっ、お兄ちゃん!?」

 

 

 お兄ちゃんは無理矢理私のガードを通り抜け、リビングを後にした。

 さっきは昼寝をするって言ってたのに、突然出かけるなんて……。そんなことよりも、お兄ちゃんに見捨てられたことの方が問題だ。お兄ちゃんからの愛を感じられなかったら、私は生きている意味がない。咄嗟に自分の身体を差し出したのも、どんな形でもいいから愛を感じたかったからだ。お兄ちゃんから与えてくれるなら、それが純愛であろうが苦痛であろうが何でも構わない。それくらい、お兄ちゃんが好きなんだから。

 

 今まではお兄ちゃんの愛を感じられなくなることなんてないだろうと思っていた。恋人同士になり、その可能性はより一層薄くなったはずだ。

 だけど、拒絶された。そんな、そんな……!!

 

 

「お兄ちゃん、どうして……」

 

 

 私にはお兄ちゃんしかいない。ぽっかり空いたこの心を埋めてくれるのは、お兄ちゃん以外にあり得ない。

 今日の午前中、ずっと我慢していた。朝食の時はまだ耐えられた。だが、それ以降はもう虚無だ。新しいクラスも、始業式も、何もかもがどうでもいい。私の頭に浮かぶのはお兄ちゃんの笑顔だけ。それ以外には何もいらないんだから……。

 

 

「くっ……」

 

 

 その時、脳裏に嘗ての親友であった2人の顔が浮かぶ。

 μ'sを含め、あの2人は私の引き立て役。お兄ちゃんと結ばれるために、私自身の魅力を上げる手段の1つに過ぎない。そして、私とお兄ちゃんが恋人同士になった以上、あんな奴らはもう必要ないんだ。所詮、私が人生を円滑に歩めるようにするための駒。そんな駒の分際で、今日の帰りに声をかけてきて……。

 

 そう思っているはずなのに、どうしてこんなにも心が痛いの……?

 あの2人と別れてから、家に帰るまではずっとそうだった。私はお兄ちゃんさえいればいいのに、これからお兄ちゃんに私の料理を振舞える喜びがあったはずなのに、帰宅途中ずっと心が締め付けられていた。

 

 今もそう。私がお兄ちゃんを求めるたびに、あの2人の顔がチラつき心が痛む。

 

 こんなことなら、最初から友達になんてなるんじゃなかった。

 やっぱり、私にはお兄ちゃんがいてくれればそれでいい。

 

 だから、お兄ちゃんにまた求めてもらえるように、今度は失敗しない。そのためにはまず料理を作り直さないと。このまま拒絶されっぱなしだったら、私が私でなくなってしまう。お兄ちゃんが私の心を掴んでいるように、私もお兄ちゃんの心を掴み取っているはずなんだ。私たちは相思相愛。そこに、誰1人として入り込む隙間なんてない。

 

 それが、あの2人であったとしても――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 私と亜里沙は神崎家に向かう途中、偶然にも零君と出会った。

 どうやら零君は私たちを探していたようで、私たちどちらの携帯にも連絡が入っていた。私たちは楓とどのように話し合うのかを議論することに集中していたから、零君からの連絡に全然気づかなかったよ。そして彼に出会うまで、私たちよりももっと楓の近くにいる人のことをすっかり忘れていた。灯台下暗しっていうのはこのことを言うのかな……?

 

 私たちは場所を公園に移した。

 私たちとしても、零君から楓が今どんな様子なのかを聞きたかったところだ。彼ならいつどんな時でも的確な助言を与えてくれる。どれだけ考えても楓の気持ちを汲み取れない今の私たちには、もう彼に縋るしかなかった。

 

 

「なるほど、アイツとお前らにそんなことが……」

 

 

 私たちは零君に、今日起こったことの全てを話した。

 音ノ木坂の新入生歓迎会でライブをすること、楓がノリ気ではなかったこと、そして、彼女から縁を切られてしまったことを。その話をしている間にも楓に決裂された時のことを思い出し、私も亜里沙もまた気持ちが沈んでしまいそうになったけど、零君がいるという安心感が私たちの正気を保ってくれた。一緒にいるだけでここまで救われるなんて、本物のヒーローみたいだね……。

 

 

「それで真姫たちに頼まれて、お前らが俺の家に来ることになったのか」

「はい。でも結局勢いだけで、楓とどう向き合うかは行き当たりばったりなんですけどね……」

「そうか。確かに、それだとお前らの声は楓の心には響かないな」

「えっ、零くん、楓の様子がおかしい理由を知っているんですか?」

「あぁ、朝からテンションが低かったからなアイツ。その時はまだ確証がなかったけど、お前らに対して冷酷に振舞うアイツを想像したら、何となく分かったよ」

 

 

 やっぱり、楓のことを知るなら一番近くにいる人に聞くのが手っ取り早かったね……。もし零君に相談することに気付いていたら、私たちもあそこまで心が締め付けられずに済んだかもしれない。まぁ、今となっては後の祭りだから、楓と真っ向から向き合える方法を考えよう。そのためには、彼女の悩みの種を教えてもらわないと。

 

 

「結論から言うと、アイツは寂しいんだよ」

「「寂しい?」」

 

 

 今日の楓を思い出すと、あまりそういう風には見えなかったけど……。なんか何もかもやる気のない感じで、いつも以上に自分の気に触れるような人には容赦がなかった気がする。寂しいというよりかは、むしろイライラしている印象だった。

 

 

「お前らも知っての通り、アイツは超が付くほどのブラコンだ。アイツが音ノ木坂に入学したのも、俺と一緒の学校に通いたかったから。そうすれば起床から登校、下校からおやすみまでずっと一緒だからな」

「おやすみって……」

「い、いや、1日中一緒にいられるって比喩表現だ分かれよ!」

「そっか! 楓の様子がおかしくなったのは、零くんが大学に行っちゃったからじゃないですか?」

「うん、俺もそうだと思ってる。アイツにとっての生き甲斐は俺だから、その俺と一緒に学校に行けなくなって寂しいんだろう」

 

 

 確かに言われてみれば、この4月から零君は大学に行ってしまい、楓は1人で登校せざるを得なくなった。お兄ちゃん大好きっ子の彼女からしてみれば、愛しのお兄ちゃんと一緒にいられる時間が減ることは私の想像以上に辛いことなのだろう。

 

 でも――――

 

 

「でも、それだけであそこまで不貞腐れたりするんですかね……? 登下校は一緒じゃないにしても、家だと2人きりな訳だし……」

「楓にとっては些細なことじゃないんだよ。わざわざ俺と一緒の高校に入学して、親元を離れて2人暮らしをしようと転がり込んできた奴だぞ?」

「だけど、零君が卒業したらいずれは1人で学校に通うなんてことくらい、分かっていたはずですよね? 零君が留年でもしない限り、卒業するのは零君の方が早いなんて普通のことですし」

「それは楓も分かり切っていたはずだ。でも、自分が想定していたよりも虚無感が半端なかったんだろ。今日という日を実際に迎えて、それを痛感したんだと思う。兄と通学できないことなんて『たかが』と鼻で笑われるかもしれないけど、アイツにとってはそれが全てだったんだよ」

 

 

 ようやく楓の苦しみが分かった。私はお姉ちゃんとそういう関係ではないから理解することはできないけど、彼女の性格が兄によって成り立っていることはよく知っている。零君の言う通り、私も少し『たかが』そのくらいのことと思ってしまった。だけど楓にとっては重要な問題で、自分の心にぽっかり穴が空いてしまうほどだったんだ。私たちが楓の悩みに気付けなかったのは、もしかしたら『たかが』で軽んじていたからかもしれない。神崎楓という人物を知って入れば、誰にでも辿り着けそうな問題だったのに……。

 

 亜里沙も事の概要は全て把握したようで、黙っているところを見ると、私と同じように自分の中で情報の整理をしているようだ。

 楓の悩みの原因が零君と一緒にいられないことだったら、もう私たちの出る幕はない。彼女を救ってあげられるのは、他の誰でもない零君だけなんだから。

 

 

「という訳だ。雪穂、亜里沙、お前たちが楓を救ってやってくれ」

「「え……?」」

 

 

 零君の考えは私の考えとは全くの逆。私と一緒に亜里沙も驚いたので、彼女も楓のことを彼に任せるつもりだったのだろう。

 それにしても、私たちが楓を救う……? 彼女が悩んでいる原因は零君と一緒にいられないことなのに、どうやったら私たちが救ってあげられるの……?

 

 

「どうして私たちがって顔してんな……。アイツの心は今、何も満たされず空洞になっている。だから、何かでそれを満たしてやらないといけない」

「それこそ零くんの出番なんじゃないですか? 楓は零くんを求めているんですから」

「亜里沙の言う通りですよ。私たちが楓に会いに行ったとしても、また逆上されちゃうのは目に見えてますし……」

「アイツを満たしてやれるのは俺じゃない、お前たちなんだよ」

 

 

 私たちが楓を……? 冷たい目で絆を断ち切られた私たちに、一体何ができるんだろう……。

 

 

「もし仮に、俺が楓の欲求を満たしてやったとする。でも今のアイツでは、満たした分だけ消費しちまうんだ。俺から愛情を注がないとは言っていない。だけど、愛情を注いだら注いだ分だけ浪費して、次はこれまで注いだ愛情よりも更に強い愛情を求めてくる。そうなったら最後、楓は俺に完全に依存してしまう。これまでもそこそこ依存していた方だけど、ここで俺たちが方法を間違えば、アイツはもう二度と元の自分には戻れない。注がれた愛情を使い切ったら、次の愛情欲しさに自ら精神の崩壊を起こしかねないからな」

 

 

 愛しの兄が離れ離れになったと思い込み、自分から依存することで虚無感を満たそうとする。それが楓の考えだったのか。私たちとの縁を切ったのも、自分の心を満たしてくれるのは零君しかいないと信じているからだろう。それに彼女の性格上、零君以外の誰かに慰めてもらうことはプライドが許さなかったんだと思う。

 

 もしここで零君が楓に愛情を与えたとして、楓が『その方法だったら自分の心が満たせる』と信じ込んでしまったらお終いだ。その方法とは、零君からの愛を感じるために、自ら自我と精神を傷付けるような真似をする。そうなってしまったら、彼の言う通りもう元の彼女には戻れなくなるだろう。

 

 

「俺では今のアイツを本当の意味で満たせない。アイツが元に戻らない限りはな。でも、お前たちだったらできる。この1年間、俺と同じくらいアイツの隣にいたお前らならきっと」

「私たちが……」

「あぁ。楓にとって、雪穂と亜里沙こそが人生で初の、本当の親友なんだ。幼稚園でも小学校でも中学校でも、アイツのカリスマ性は多くの人を惹きつけた。表の性格だけを見れば人当たりもいいから、生徒や教師問わずみんなに信用されていた。でもお前たちも知っての通り、アイツの裏の性格は傲慢で人を見下し、誰とも構わず小馬鹿にする。その性格が災いして、アイツの中で本当の友達ってのはいなかったんだ。元々、兄である俺以外の人間は存在価値もないと思ってるくらいだったからな。だからこそ、アイツを真の意味で救えるのはお前たちしかないない。そんな楓と親友になり、固い絆で結ばれたお前たちならきっと……」

 

 

 そういえば、楓は自分自身の過去の話を一度もしたことがなかった。もはや彼女と一緒にいる時間が長すぎて、過去のことなんてとっくに世間話か何かで話したものとばかり思っていたから……。

 

 言われてみればそうだ。私たちは楓が零君を追いかけて音ノ木坂に来たことは知っていたけど、それ以前のことは何一つ聞いたことがない。

 そうか、私たちは楓にとって初めての―――――

 

 

「雪穂、行こう。楓のところに」

「そうだね。親友が傷付いているのに、私たちが立ち止まっていられないよ」

 

 

 私も亜里沙も、抱いている想いは同じようだ。

 私は亜里沙と、そして楓と、もう一度3人で笑い合いたい。彼女とは出会ってまだ1年だけど、そんじゃそこらの1年とは濃密さが違う。μ'sとして一緒に練習して、助け合って、時には泣いて、時には笑い合って、親友として毎日他愛もない話をして、くだらないことで笑って――――――思い出話だけでも1日中語り尽くせるくらいだ。

 

 さっきまで気持ちが沈んでたけど、零君と話し合ったおかげでもう自分の心の曇りは完全に晴れた。

 伝えよう、私たちの想いを。

 

 

「ついでなんだけど、楓と話し合うついでに俺が謝っていたって言っておいてくれ。家から抜け出す時、割と厳しいこと言っちまったからな……」

「「イヤです」」

「お、おいっ!? 笑顔で否定すんな!?」

「そういうことは自分で伝えるものですよ」

「自分の気持ちには素直にならないと」

「さっきまでのお前らだったらブーメランだっただろその言葉……。はぁ、分かったから、早くアイツのところへ行ってちょいと救ってやれ。頼んだぞ」

「「はいっ!」」

 

 

 あの日々を取り戻すため、楓の笑顔を取り戻すため、私たちは行く。

 もうさっきまでのようにウジウジ悩んだりはしない。楓の心に、真っ向から向き合おう。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 楓のブラコンをここまで壊したのは初めての気がしますが、これで彼女が如何にお兄ちゃん好きかを分かってもらえたと思います。やはりオリキャラは原作キャラとは違い、どう弄ってもいいので小説を執筆する側としても楽ですね(笑)
まあこれも4年以上、楓というキャラを皆さんに知ってもらっているがゆえにできることなんでしょうが()


 次回はいよいよ完結編です。シスターズの絆の強さ、是非ご覧ください!



新たに星10をくださった

Pureピークさん

ありがとうございました!

この小説が気に入られましたら、是非お気に入り、感想、評価をよろしくお願いします! 
小説を執筆するモチベーションに繋がります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

妹たちの絆

 シスターズ編の最終回。
 友情を確かめ合うシーンは、どんな作品であろうとも涙を流す派の人間です()


 

 

 

 

「なに……?」

 

 

 楓は私たちの姿を見るなり、あからさまに嫌そうな表情で後退りする。家のドアを開けた時は眩しい笑顔だったのに、私たちの顔を見るなりこれだよ……。

 多分だけど、零君が帰ってきたと思ったのだろう。彼の話では今の楓はお兄ちゃん依存症が末期レベルらしいから、そりゃ間違えても仕方ないよね。ていうか、零君だったらわざわざ家のチャイムなんて鳴らさないと思うけど……。そういったことも考えられないくらい、今の彼女は追い詰められているに違いない。

 

 状況説明が遅れたけど、私たちは楓と本気で向き合うために神崎家を訪れていた。今朝はずっと彼女に押されっぱなしだったけど、もう怯んだりしない。目の前で困っている友達に手を差し伸べないなんて、それこそ友達じゃないもんね。

 

 そう思っているのは亜里沙も同じで、まずは彼女が話に切り込む。

 

 

「楓とお話がしたいの! 家に上がってもいいかな……?」

「必要ない――――って言ったら?」

「必要ないことは絶対にないよ。だって楓、苦しそうな顔してるもん」

「っ……!! ったく、分かった。話だけは聞いてあげるから、早く入って」

 

 

 意外とあっさりと承諾してくれたと思うかもしれないけど、最初のこの関門は乗り越えられる自信があった。

 実は私たちが神崎家に向かう時、零君がこんなことを言っていた。『今の楓は寂しさのピークを迎えている。だから、お前たちが行っても家には入れてくれるだろう。その寂しさを紛らわすため、やり場のないストレスをお前たちにぶつけるためにな』と。彼女の気持ちを利用したようで悪いけど、まずは話を聞いてもらう場を整えるのが先決だからね。

 

 そうして私たちは、無事に楓と話し合う機会を作ることができた。

 でも、本番はこれから。零君の話から、楓の心境が自分たちの想像以上に追い詰められていると知った今、不用意に彼女を刺激する訳にはいかない。だったらどうすればいいのか、それも考えてきたつもりだ。

 

 彼女を救うために、私たちのやるべきことは――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「で? 話ってなに? 私はもうあんたたちと話し合うことはないんだけど?」

 

 

 楓は普段は零君が座っているお高そうなソファに深く腰を掛け、床に雑に敷かれた座布団に座っている私たちを見下している。私たちでストレスをするっていう零君の読みは間違っていなかったみたい。別にそれで楓の気が休まるのならいくらでも相手になってあげるけど、今の彼女の心境では気が済むことがないだろう。

 

 

「単刀直入に言うけど、零君と一緒にいられる時間が減って寂しいんでしょ?」

「は、はぁ? 何を根拠に……」

「さっき零君から聞いたんだ。今朝から楓の様子がおかしかったって」

「会ったんだ、お兄ちゃんに。私は見限られたのに……」

 

 

 あぁ、こりゃ相当苛立ってるね……。零君の話題になった途端に話の腰を折ってきたから、精神的に余裕がないのが見え見えだ。

 でも、これで少し安心した私もいる。嫉妬の目を向けられて悦ぶとかそういうのではなく、今朝私たちに向けた威圧は彼女の本心ではないと分かったから。兄である零君と一緒にいる時間が減った心の隙間を埋めるために、ただ私たちに八つ当たりしていると確信したからだ。

 

 そうと分かれば話は早い。私たちのやることは、ぽっかりと空いた彼女の心の隙間を埋めてあげるだけだ。

 そして、遂に亜里沙が本題へと乗り出した。

 

 

「私たち、楓を助けてあげたいの! 楓にとってみたら余計なお節介かもしれないけど、友達が苦しんでいるのは見過ごせないから……」

「へぇ、私をダシにしてヒーロー気取りってわけ? 悲劇のヒロインを救うのはさぞかし気持ちがイイでしょうよ」

「そんなのじゃないよ。私たちは親友として――」

「それが迷惑だって言ってんの。それに親友? 朝も言ったけど、私にとってアンタたちは最初から手駒に過ぎなかったんだよ。お兄ちゃんと結ばれるための、ただの手段の1つ。だから、駒ごときに助けてもらおうなんて思わないから」

「どれだけ罵ってくれてもいい。それで楓が私たちの話を聞いてくれるなら」

「……ったく、本当に面倒。朝は何も言えなかったくせに……」

 

 

 その通り。朝は楓に言いたいことを言われているだけで、私たちは絶望してしまった。自分の気持ちを我武者羅にぶつけても、彼女に真っ向から打ち砕かれ、何も言えず彼女が立ち去るのを見守るだけだったのは記憶に新しい。

 

 だけど、今は違う。自分たちの本当にやりたいこと、伝えたいことを、しっかりと胸に秘めているから。

 

 

「楓は覚えてる? 私たちが出会った時のこと。開口一番に自分こそ零君の妻だって宣言した時は、私も亜里沙も驚いちゃったよ。もちろん冗談なのは分かってたけど、そのとき思ったんだ。あぁ、これからの学校生活は騒がしくなるなって。案の定、同じμ'sのメンバーになって、私たち3人は一緒にいることが多くなった。もうこの1年で、どれだけ2人に振り回されたことか……」

「なにそれ。昔話なら興味ないんだけど」

「でも、楽しかったんだ。この1年間、毎日が充実していたのはμ'sや亜里沙、そして楓のおかげだよ。ほら、私って性格的に積極的になれないタイプだから、新しいことに挑戦するとか、刺激的な生活を送ることに無縁なんだよね。だからいつも私を未知の世界へ引っ張ってくれた亜里沙、そして楓には感謝してるんだ」

「あっそ。そんな覚えはないけどね」

「楓にはなくても、私はずっと覚えてる。休日にここに遊びに行ってみようとか、このスイーツが有名だから食べに行ってみようとか、ダンスの振り付けはこっちの方が雪穂の身体能力に会ってるとか、私の日常はプライベートからスクールアイドルの活動まで楓に先導されっぱなしだった。でもね、そうやって振り回されるのも悪くない、むしろ楽しかったよ」

「ドMじゃん。救えないね」

「あはは、そうかも」

 

 

 私にとっては、亜里沙と楓がいてくれたからこそμ'sをやっていけたと思っている。私は周りの変化に適応せず、ただ静かに毎日を過ごすことができれば良いと思っている人間だ。だからなのか、何事も積極的になることはできない。将来の夢もなければ、高校選びだって家から一番近いところだったから、勉強は他にやることがないからそれなりに頑張り、学校行事や委員会活動などは他人に役に立たないと言われない程度には働く。そんな感じだ。

 

 だから、私を常に新しい世界に連れて行ってくれる亜里沙と楓には感謝している。特に楓はあらゆる知識が豊富なので、美味しいレストランや質の良い服がそろうブティックの情報はもちろん、ダンスや歌の稽古も指導できるなど、私から見れば彼女は隙なし。私が外の世界に目を向けるようになったのは、間違いなく楓のおかげだ。

 

 

「私に感謝をするなんて、こっちからしてみれば滑稽だよ。駒に感謝されてもねぇ……」

「いいよ、駒でも。それでも私は毎日が楽しかった。楓からしてみたら友情なんて嘘だったのかもしれないけど、私からしてみたら本物だったんだよ。友情も、今まで積み重ねてきた思い出もね」

 

 

 さっきから楓は私の目を見ない。照れ隠しっぽい表情をしているあたり、私の言葉が楓の心に響いている証拠だ。そうでなければ、会話の節々で嫌味を挟んだりはしないだろうから。

 

 彼女が私たちの話に耳を傾けてくれている。

 私に勢いに乗じて、亜里沙も自分の心中を打ち明けた。

 

 

「私から見た楓は、いつもキラキラしてた。何事にも軽口を叩くけど、いざ取り組む時はいつも一生懸命。μ'sの練習もライブも零くんに自分を魅せたいという、ただその一心のために頑張る。それ以外のことでも、楓の行動原理はいつも零くんのためだったよね。私、楓のそういった一途なところがとても大好きなんだよ」

「別に、亜里沙だってそうでしょ。私よりも亜里沙の方が、何事も純粋に取り組んでるように見えるけど……」

「なんだろうね、私の頑張りって空回りすることも多いんだよ。確かにどんなことでも頑張ろうと努力はするけど、結局なんのために頑張っているのか分からなくなる時があるんだ。何事も取り組むなら全力でやろうとは思うし、それを実行には移す。でも、ただ1人のためにあらゆることに情熱を注ぐ楓とは違って、私はとにかく我武者羅に頑張っているだけ。だからこそ、私には楓がキラキラして見えるんだよ」

 

 

 本人の言う通り、亜里沙は手を抜くという言葉を知らない。だから勉強でも運動でも、μ'sの練習でも、例え誰かに押し付けられた雑用なんかでも全力でやり通す。一切の妥協はなく、自分の成し得ることのできる最高のカタチで作業を終える。そのことに関して、亜里沙は面倒だと思ったことは一度もないらしい。自分のためになるなら、誰かのためになるなら、何事も全力を出す。親友ながら感服しちゃうよ……。

 

 まるで善人の鏡のような彼女だけど、結局のところ、どうしてそこまで何でも本気になれるのかと言われたら答えることはできない。自分がやりたいからという意欲もあれば、誰かのためにやらなければならないからという使命感もある。彼女にとってはそれは苦でも何でもないけど、自分のためや相手のため以上の気持ちはない。だからこそ、ただ1人の愛する人のためにひたむきになれる楓が輝いて見えるのだろう。

 

 

「私、もう一度だけでいいからこの3人でステージに立ちたい。親友でいつも私の隣にいてくれる雪穂と、私の憧れで目標でもある楓。またみんなでライブができたら、それはとっても楽しいなって」

「残念ながら、私にはもうステージに立つこともしないし、ライブもしない。お兄ちゃんと結ばれた今、もう必要のないことだから」

「本当にそう思ってる? 楓はただキラキラしていただけじゃない。練習中も笑顔で、ステージの上ではそれ以上、とびきりの笑顔だったんだよ? それが例え零くんのためだけであっても、楓は楽しそうだった。どれだけ否定しても否定しきれないほどね」

「それは……」

 

 

 体裁を取り繕ったとしても、私たちが見てきた楓の笑顔は嘘じゃない。もう1年も一緒にいるんだから、それくらいは分かる。誰かと一緒に笑い合える時間こそ、彼女にとって一番大切なんだ。そう、零君が言っていた、楓と本当の意味で親友になれたのは私たちだと。そんな仲間と分け隔てなく共に同じ道を歩む時間は、彼女にとってかけがえのない時間だったはずだ。

 

 

「思い出して欲しい。零君と一緒にいる時間だけが、楓の時間じゃないってこと。もちろん零君といられる時間は私も楽しいよ。だけど、あなたの目の前にはもっともっと世界が広がっているだって知って欲しい。そして、自分自身も誰かの世界を広げていたこともね」

「どれだけ世界が広がろうとも、お兄ちゃんと離れ離れになったことに変わりはない。それなのに、周りだけが広がっても虚しいだけだよ……」

「だったら、私たちがずっと隣にいる! 楓が寂しくならないように、楓が悲しまないように。私も零くんと会う機会が減って残念だけど、だからこそ、顔を合わせた時にこれまで以上の笑顔で出迎えたいんだ。楓だってそうでしょ? 好きな人にお料理を振舞いたい、綺麗にお掃除をして褒めてもらいたい。だけど、心が籠ってなかったら意味ないよ。相手に何も伝わらない」

 

 

 楓は亜里沙の言葉で何かを思い出したようで、少し前の記憶を振り返っているようだ。

 私たちは零君からその話を聞いていた。楓はようやく気付いたみたい。どうして自分の手料理が零君に拒絶されたのか? それは亜里沙の言う通り、心が籠っていなかったから。最愛の人への真心なんてものはなく、ただその人と自分を辛うじて繋ぎ止めるための苦肉の策だった手料理。その料理を愛する人が食べてくれる瞬間こそ、自分が自分でいられる瞬間。そう、全て自分の私利私欲のためだった。もちろん零君には何もかもがお見通しで、その場しのぎで繋ぎ合わせた糸なんてすぐに切られちゃったけど。

 

 しばらく沈黙が続いたけど、徐々に楓の表情に変化が現れた。

 さっきまでは険しそうな顔をしていたのに、冷静になってこれまでの自分を振り返ったためか、少し落ち着きを取り戻したみたいだ。

 

 

「あっ、その澄ました顔。ようやくいつもの楓っぽくなってきたね!」

「それ、いつも私がぼぉ~っと妄想に耽るメルヘン女だと思ってる訳……?」

「それそれ、もういつもの楓だよ!」

「なにそれ、意味分かんない……」

「真姫ちゃんのマネ?」

「えぇいっ!! ああ言ったらこう言う!!」

 

 

 声から分かるテンションの高さ。そして、このツッコミ。やっとペースが元に戻ってきたみたいだね。

 だけど自暴自棄に振舞っていた頃の後ろめたさも残っているようで、自分から私たちに声をかけるのは躊躇っているようだ。

 

 

「そういえば、出会った時に楓が名付けてくれたんだよね、"シスターズ"って。楓がいなかったら、シスターズじゃなくなっちゃうでしょ」

「あぁ~あったあったそんな言葉。よく覚えてるよね……」

「もちろん覚えてるよ、楓との思い出は全部ね! だって、楽しかった思い出しかないもん」

「全く、亜里沙の純粋さを見てると、自分が淀んでいたことが馬鹿らしくなってくるよ。目の前にこんなお花畑がいたらねぇ……」

「いやぁそれほどでも♪」

「いやいや、バカにされてるからね……」

 

 

 でも、こうやって人の悪口を冗談交じりで語るあたり、かなり本調子を取り戻したようだ。相変わらず亜里沙は持ち前の天然で楓にバカにされていることすら気付かないけど、これが私たちのいつもの光景だから、むしろ普段の日常が帰ってきて嬉しく思うよ。

 

 

「バカなのは2人だよ。最初から友達じゃないって友情を断ち切られたのに、わざわざ家にまで乗り込んで助けに来るとかさ。そんなヒドイことを言われたら、そっちから縁を切るよね普通」

「だから言ったでしょ、友達だもん! それに友達じゃないって言いきった時の楓、とても辛そうだった。でも、そのおかげで気付いたんだ。もしかしたら楓は、自分の気持ちを整理できずにただ傍若無人に振舞っているだけだって。本心では、私たちとの縁なんて切ろうとはしていなかったってね」

「腐れ縁ってやつなのかな? もうね、そう簡単には断ち切れないよ。この1年間はただの1年間じゃない。出会って、同じスクールアイドルのグループに入って、一緒に練習して、同じ人を好きになって、その人にどう振り向いてもらえるか考えて、時には笑って、時には泣いて、そして、みんなであの人と結ばれて、μ'sの一員としてラストライブまでやり切った。その思い出を全部語ろうと思ったら、1日あっても足りないよ」

 

 

 正直、私は騒がしい人は苦手だ。最初に出会った時は私の日常はどうなることやらと思っていたけど、その結果はさっき私が話した通り。

 もう今の私は、この2人と一緒じゃないと落ち着かないよ。静かな毎日で無難な人生を歩むのが私のモットーだったけど、やっぱり亜里沙と楓には毒されちゃうな。もちろん、感謝という意味でね。

 

 

「雪穂も雪穂で面倒な性格って言うか、私の手のひらで転がせない感じがもどかしいよ。ま、私としてはそれが気に入ってるんだけどね」

「悪かったね、面倒な女で……」

「でもまぁ、雪穂がいるからこそ私も好き勝手できるんだけどさ。私に平等に対抗できて、なおかつ抑止力になれる人なんて早々いないからね」

「それ褒められてるの……?」

「褒めてる褒めてる」

 

 

 零君に対してはド直球な愛情を伝える楓だけど、それ以外の人に対してはかなり不器用になる。もちろん長い付き合いだから、楓が如何に言葉を濁そうと、それが皮肉めいた感謝の言葉だってことは分かる。それに彼女の言葉に物申したいのは、面倒な性格はどっちだよって話……。

 

 すると、隣で亜里沙が少し震えていることに気が付いた。楓も私と同じようで、彼女の様子を見て目を丸くして驚く。

 

 

「ちょっ、どうして泣いてるの!?」

「うっ、か、楓が帰ってきてくれたことが嬉しくて……。もしこのまま離れ離れになって、友達じゃなくなっちゃったらどうしようって……。楓を助けようって意気込んでたけど、心のどこかではやっぱり不安もあったから……うぅ」

 

 

 亜里沙は涙を流しながら、自分の心の弱さを語る。いや、こうやって親友の前で感情を露わにできる時点でこの子は強いのかもしれない。

 実は私も不安はあった。零君から楓の様子を聞いて、彼女と再び日常を築くために彼女を救う。そう決心はしていたけど、先行きが見通せない不安は拭いきれなかった。また楓に拒絶されたらどうしようかと考えると、途端に彼女の顔を見ながら会話をするのが怖くなる。でも、ここで私たちが目をそらしてしまったら、彼女は本当に1人ぼっちになってしまう。そう思うと、自然と前向きにもなれた。

 

 そうやって、私たちは自信と不安の境を彷徨っていたんだ。

 

 だけど、全てが解決した今は耐える必要がなくなった。だから亜里沙は、今まで抑えていた感情が全部涙として漏れ出してしまったのだろう。正直、私ももうちょっと刺激されれば涙腺が崩壊しそうなんだよね……。

 

 そして、それは私たちだけではない。

 楓もまた僅かだけど、目に涙を溜めていた。

 

 

「本当に、こんな私のために……。でも、ありがとう、雪穂、亜里沙」

 

 

 楓は涙を見せながらも、とびきりの笑顔を私たちに向けた。彼女の明るい笑顔を見たのは久しぶり、いや、こんな目も眩みそうな笑顔は初めてかもしれない。

 そして、彼女の言葉を聞いた瞬間、私も遂に涙が漏れてしまった。溢れる感情が涙となって、私たちの頬を伝い滴り落ちる。でも、3人で同じ感情を共有できていることが何よりも嬉しい。またこの3人の心が1つになったことが、今はとびきりの幸せだ。

 

 

 零君と一緒にいられる時間が減っちゃって悲しいのは、私もよく分かる。

 だからこそ、私と亜里沙がずっと彼女の隣にいよう。腐れ縁と言われてもいい。確かめ合ったこの友情は、もう絶対に途切れないから。

 

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 ちなみに、私たちシスターズは真姫先輩たちと一緒に、新入生歓迎のライブをすることに決めた。先輩たちは私たち3人の様子を見て安心しているようだったけど、特に追及はしてこなかった。それが先輩たちの優しさなんだろう。だけど、私と亜里沙の苦しみを目の当たりにしただけ、相当心配していると思う。

 だから、せめてライブでは恩返ししよう。先輩たちがいなかったら、私と亜里沙はずっと絶望したままだったからね。

 

 問題は楓。どうやらその日以降、零君へのアタックがより過激になったらしい。私も零君から話を聞いただけなので詳細は不明だが、どうやら公序良俗に反することらしいから放送禁止とのこと。一体何をされてるんだろう……? でも零君には悪いけど、楓といえばやっぱりブラコンだから、いつもの彼女に戻ってくれて良かったよ。彼も彼で、楓の近況を話している時は楽しそうだったしね。

 

 

 でも、毎日楓に襲われている零君に対してはまぁ、私と亜里沙で労わってあげようかな……?

 




 長かったシスターズ編ですが、ようやく完結です。
 私がこの小説のキャラの中で好きなのは、穂乃果や千歌といった主役級キャラを差し置いてシスターズだったりします。
 穂乃果たちは割と原作で完成されたキャラですが、雪穂や亜里沙に関しては性格の肉付けの余地が残されており、楓に関しては完全にオリジナルのため、自分の手で育ててる感があったからかもしれません(笑)
現に彼女たちの登場から4年以上も経過しており、愛着が湧くのはもはや当然かもしれません。


 次回からはまた頭が空っぽでも読めるお話に戻りますので、乞うご期待です!



新たに☆10評価をくださった

蒼柳Blueさん、ハラクリ男さん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2人の渡辺

 サンシャインの映画のDVD/BDが解禁されたので、満を持して映画で初登場したあの子が登場。


 

「相変わらず、ここは何にもねぇな」

 

 

 俺は内浦の海岸沿いを歩きながら、相変わらずの田舎の街並みを皮肉ってみる。もちろんバカにするつもりはなく、東京に比べれば景色も良ければ空気も断然いい。まぁ景色や空気を褒めるのは、何もない田舎を褒める時の常套文句みたいなところはあるけどさ……。

 

 俺が再びここにやってきたのは、千歌たちの呼び出しがあったからだ。どうやらAqoursで新たなイベントに参加するらしく、俺にまたコーチをして欲しいとのこと。それに加え、Aqoursの顧問としてイベントにも出席して欲しいそうだ。最初はそこまで乗り気でもなかったが、山内先生まで引き合いに出されてお願いされたらどうしてもな。だから仕方なく、こうして俺がまた浦の星に出向いてやったって訳だ。

 

 俺が浦の星女学院の教育実習生を終えて4ヵ月、スクールアイドルフェスティバルが終わって2ヵ月、Aqoursの奴らとはこの短期間でお互いの関係が濃密になり過ぎた。しかし、親密になった直後に千歌たちは東京からこっちに帰ってしまったため、教師生徒の垣根を超えてからは特にアクションを起こしていない。テレビ会議でAqoursのミーティングには参加するくらいで、結局デートとか男女の遊び的なものは一切やったことがないのが実情だ。アイツら、俺に会えなさ過ぎて飢えてねぇだろうな……? 出会った頃は純粋だったのに、知らない間に肉食系になってたらどうしよう……。

 

 そんなこんなでアイツらに会うのが楽しみでもあり恐ろしくも感じている中、浦女行きのバスが出るバス停に到着した。

 教育実習生の頃はここに毎日通っていたが、思い返してみればよくその生活に耐えられたよなぁと思う。俺は省エネ主義なので、家と学校や勤務先は近ければ近い方がいい。だから最初はバス通勤に抵抗があったのだが、教育実習終盤はもうそんな生活が当たり前となっていた。バスの本数が少ないためか生徒たちと一緒になることも多く、そんな環境に多少なりとも楽しみを感じていたのかもしれない。だってほら、学校行きのバスの中は当たり前だけど女の子ばかりで、しかも俺を慕ってくれる女子生徒ばかりだったし。

 

 それでも田舎のバスは不便なところもあり、今のように次のバスまで30分以上待たされることはザラにある。でもガチの田舎は午前と午後で1本しか出ていないところもあるみたいだし、これで文句を言っていたらガチ田舎勢から怒られるかもしれない。ま、都会民の俺には関係のないことだが……。

 

 

 特にやることもないのでバス停で次のバスを待とうと思ったら、どうやら先客がいるみたいだ。

 高校生くらいだろうか、対して日差しも強くないのに黒い帽子を深く被っている。服装も黒を基調としてオシャレだし、ファッション雑誌のモデルとして起用されていてもおかしくないくらいの()()()だ。つうか、俺としたことが不覚にも男を見つめてしまっていた。でもそれくらい綺麗な顔立ちをしてるんだよ。

 

 

「こんにちは。どこかへお出かけですか?」

 

 

 うぉっ、いきなり話しかけてきた。この街の人たちはみんな社交的で、見知らぬ土地にいきなり引っ越してきた俺や秋葉を歓迎してくれた過去があるから、特に不思議なことではない。しかし、やっぱりコミュニケーション力の塊に突然話しかけられるとビックリするよ。なんたって都民はコミュ障なんでね。

 

 

「あぁ、浦の星にちょっと用事でな」

「……? あそこって女子高なのに、お兄さんが用事……?」

「お前、俺が何かよからぬことを企んでるんじゃないかって思ってねぇだろうな?」

「だってお兄さん若いですし、女性に飢えてそうな顔してますもん!」

「初対面の年上に向かってヒドい言い草だなお前……」

 

 

 むしろ初対面の男にここまでのコミュ力を発揮できることを褒め称えるべきか? 俺が若いとは言っても、こっちは大学4年生でそっちは精々高校生くらいだろうから、歳の差はそこそこありそうなんだよな。とは言っても歳の差でマウントを取ろうなんて思ってないけどさ。

 

 

「でもお兄さんカッコいいですし、モテそうな気がしますけど……。実際のところ、女性をたくさん食べちゃってるとか?」

「えっ、あぁ、それはない……」

「目が泳いでる……。やっぱり肉食系なんだ!」

「なんでそんなに楽しそうなんだよ……」

 

 

 このガキ、確実に俺で遊ぼうとしてやがるな。しかも女を食うとか食わないとか、やはり思春期男子はその手の話題に敏感ってわけか。こりゃとんでもないガキに捕まっちまったな……。

 ていうか、コイツもそこそこ美形男子だから、女を引っ掛けようと思ったらいくらでも手籠めにできそうな気がする。まぁナンパなんて行為は今時流行らないし、草食系の男子が増えている世の中だ。その手の話題に興味はあっても、自分からは手を出さないのかもしれない。だからこそ、明らかに肉食系に見える俺を面白がって煽っているのだろうか……? あまりにもはた迷惑な話過ぎるだろそれ……。

 

 

「実際、お兄さんって彼女いるんですか?」

「グイグイくるな……。いるよ」

「へぇ、どんな人ですか? カッコいいお兄さんのことですし、彼女さんも素敵な方なんでしょうね」

 

 

 この質問は分が悪い。だって彼女、たくさんいるんだもん。この会話で誰を引き合いに出すか迷うところだが、どうせコイツは赤の他人なんだし、名前を出さなければ誰を話題に持ち出そうが問題ないだろう。そうだな、曜あたりにしておくか。美少年のコイツを見てたら、さっきから曜の顔が脳内にチラつくんだよな。よく顔を見てみれば、曜とも少し顔が似ている気がする。アイツはかなりボーイッシュだから、目の前のコイツとよく似ていると言っても無理はない。

 

 

「ちょっと男勝りなところはあるけど、心は純粋な乙女で、俺に一途なところが好きかな。ファッションセンスも良くて、イマドキの女の子の服も着こなすし、お前みたいな男の服装もナチュラルに着こなす凄い奴だよ。男物も女物も、どれを着ても可愛いってのが反則かな」

「へぇ~。よく見てるんですね、その彼女さんのこと」

「当たり前だ。でなきゃ好きにならねぇからな」

「ふ~ん……」

 

 

 コイツ、さっきから俺の顔を覗き込むように喋りかけてくるからやりにくいったらありゃしない。食い気味の会話といい、まるで俺を試しているかのようだ。なんかただモノじゃない雰囲気を漂わせているので、コイツに並大抵の嘘は通用しないだろう。とは言っても、さっき俺が言った曜に対する想いは本物だ。どうやらコイツも俺が本気であることが分かったらしく、渋々ながら納得しているようだった。

 

 てか、よく考えればコイツはどうして浦女行きのバス停にいるんだ? いきなり俺を女子高に忍び込もうとする不審者扱いをしてきたが、コイツも同じじゃねぇか?

 

 

「お前も浦女に用があるのか? 彼女を迎えに行く途中とか?」

「う~ん、ちょっと違います。実はお兄さんを一目見かけた時から、少し興味があったんですよ。だから話しかけてみたんです」

「なにそれ、ホモ? ゲイ? BL愛好者??」

「どうして話しかけるくらいでそこまで言われなきゃならないんですか……。その口振りからすると、お兄さんって本当に女性好きなんですね……」

「男に話しかけられるよりは、女に話しかけられた方がいいだろ。それが男の性ってやつだ」

「ふ~ん。僕は好きですよ、肉食系の男性って」

「男に好かれてもな……」

「ふふ、そういうところですよ♪」

 

 

 何を喜んでいるんだか。コイツ、もしかして本当にBL思考があるんじゃねぇだろうな? 男が男に向かって好きって、よほど仲の良い間柄で相手を褒める時くらいにしか使わない気がするんだよ。増して初対面で、しかも名前も知らない相手に向かってそんなことを……。いくら美形男子だからって、流石に同性愛者は世間受けしねぇって。

 

 こうやって冷静に相手を観察しているが、もしかして逃げた方が良かったりする? 巷では男をナンパする男という、もはや字面だけでも吐きそうな行為が流行りつつあるらしいので、身の危険を感じる前にそそくさと退散した方がいいかもしれないぞ……。

 

 

「それじゃあ、ちょっと試してみますか?」

「試してみるって何を――――な゛ぁ!? お、お前……!!」

 

 

 コイツ、いきなり俺の膝に馬乗りになってきやがった! しかも誘惑するような妖艶な瞳をこちらに向け、不敵に微笑んでいる。見ず知らずの男にここまで密着するなんて、やっぱりコイツそっち系か……!? となると、この状況は俺の貞操が危ういのでは……??

 

 

「あれ? もしかして……ドキドキしてます?」

「そりゃ男に馬乗りになられたらビビるっつうの……」

「ふふっ、意外とウブなんですね♪」

「俺のことより、男同士でこんなことをしても平気なお前の性根を疑った方がいいぞ……」

 

 

 コイツが何を考えているのかさっぱり分からないが、1つ言えるのは、この状況を誰かに見られたら相当マズいということだ。イケメンと美少年が絡み合っているシーンなんて一部の腐女子界隈では卒倒しそうなシチュエーションだが、こっちからしてみれば堪ったものじゃない。別に男性嫌いとはそういうのではないが、同性にここまで絡まれたら普通に身も毛もよだつだろ。

 

 

「よく見たら、お兄さんって綺麗な顔してますよね。食べちゃいたいくらい……」

「はぁ!? ちょっ、お前どうして近づいて――!?」

 

 

 もはや暴走が止まらないホモ美少年は、自分の顔を俺の顔に近付けてくる。

 このままでは唇と唇が密着するのも時間の問題。どうして男に組み伏せられてキスされる状況になっているのかは不明だが、ここは力づくでも押しのけるしかない。これまで様々な黒歴史を築いてきた俺だが、この歴史を刻ませる訳にはいかねぇぞ……!!

 

 俺はただ我武者羅に、自分の右手を目の前の少年に向かって勢いよく伸ばした。

 ここまで乱暴にされてるんだ、こっちから多少傷付けるような真似をしても問題はないだろ。

 

 

「ひゃっ!?」

「えっ、柔らかい?」

 

 

 俺の右手は少年の身体の一部を鷲掴みにしていた。しかし、それが何かおかしい。掴んだのはコイツの手でも腕でもない。胸元あたりのとてつもなく柔らかいモノに、俺の右手の5本の指が食い込んでいた。当然ながら、男の身体にそのような柔軟性のある部位などはない。そして、俺にとっては馴染みのある感触。もうこの感触を人生で何度味わってきたか分からない。そう、男の欲情を煽る、まさに魅惑の手触り。その正体は――――――

 

 

 そうか、俺はとんでもない勘違いをしていたようだ。

 

 

「お前、女だったのか……」

「あはは、バレちゃいましたか。それよりも、早く手を放して欲しいんですけど……」

「いや、俺を騙した罰だ」

「ひゃぅっ! 指を動かさないでくださいよ!? 見知らぬ女の子の胸を触るだけじゃなくて揉みしだくって、普通に犯罪ですよ!?」

「いきなりマウントポジションを取ってきた痴女に言われたくねぇ!!」

「とにかく早く手を放してください! でないとあの子が来ちゃう……」

「あの子……?」

 

 

「ちょっ、ちょっと!? 月ちゃん、零さんに何してるの!?」

 

 

「えっ、曜!?」

「あちゃ~間が悪い……」

 

 

 いや、それかなりこっちのセリフなんだけど……。知り合いの女の子に見知らぬ女の子に馬乗りになっている現場を見られるとか、もう修羅場と言う名の罰ゲームだろこれ。

 しかし、曜の口振りからすると、散々俺を弄って遊んでいたコイツとは知り合いなのか。目の前のコイツも曜が来ることを分かっていたみたいだし、もしかして俺、最初から罠に嵌められてた??

 

 疑問の渦に苛まれている俺を他所に、曜が月と呼ばれた女の子に鬼のような形相で詰め寄る。曜のあんな顔、初めて見たかも……。

 

 

「ここバス停だよ!? 私じゃない他の人に見られてたら通報されちゃうんだよ!?」

「お、落ち着いて曜ちゃん。ただ少しだけコミュニケーションを取ってただけだから」

「これのどこが少し!? それに零さんは肉食系ってこの前話したよね!? もしかしたら月ちゃん、ここで純潔を失ってたかもしれないんだよ!?」

「曜ちゃん、大きな声でそんなことを叫ぶのはどうかと……」

「月ちゃんのせいでしょ!?」

 

 

 曜が怒っている様を見るのは初めてだけど、意外と大胆なことを平気で叫ぶんだな……。

 それはそれとして、俺が女の子を食ってるってデマは曜が流していたのか。あながち間違いではないのだが、どうりでコイツの察しが良かったわけだ。なるほど、曜から俺のことを聞いていたってことね。それにしてももっと俺を褒め称えるような話題があっただろうに、どうして俺の女癖が悪いことまで話してんだ……。

 

 

 そして、しばらくの間、曜の尋問は続いた。

 その間もずっと月って子に馬乗りにされていたのだが、そこを突っ込むと曜が更にヒートアップしそうなので敢えて黙っておいた。俺は特段Mではないが、マウントポジションにいるのが女の子と分かれば、まぁこの状況も悪くないかなぁ~なんて思ってたり。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「なるほど、俺を試していたのか……」

「ゴメンなさい。最初からお兄さんが神崎さんだって分かって近づいたんです。今日浦女に来るって情報を曜ちゃんから聞いていたので、このバス停で張っていたんですよ」

「もうただのストーカーじゃねぇかそれ……」

「あはは、そうとも言いますね。でも気になってたんですよ、曜ちゃんがここまで入れ込む男性がどんな人かを」

「だからと言って男装して騙す必要はなかっただろ。キスされそうになった時は本気で焦ったぞ」

「キス?」

「よ、曜ちゃん、顔が怖いよ……? スクールアイドルなんだからもっと笑って笑って!」

 

 

 まだ少し騒動の尾は引いているが、事の概要は全てこの渡辺月から話してもらった。

 渡辺月、曜と同じく()()高校生である。曜とは従姉妹同士の関係であり、学校は違うものの、プライベートではよく遊ぶくらい親密な仲のようだ。見た目は俺も騙されるくらいボーイッシュであるが、よく見てみれば身体の細さや綺麗な黒髪、艶やかな唇に美麗な顔付き、なにより年相応に張った胸など、女の子を匂わせる要素は見た目だけでもたくさんある。コイツが最初から積極的に攻撃を仕掛けて来なければ、俺も冷静に彼女を分析することができただろうが、まんまと騙されちまったよ。

 

 ちなみに会話の中で気付いたんだけど、生粋の僕っ子らしい。最初は俺を騙すためにわざと一人称を男モノにしていると思っていたのだが、どうやら素の状態で僕っ子のようだ。

 

 

「曜ちゃんの話ではお兄さんは肉食系だって聞いてたから、少し警戒していたんですよ。曜ちゃんに相応しいかどうか、僕が確かめてやろうと思いまして」

「今度はBLじゃなくてガールズラブの方か? そんな関係なのお前ら?」

「えっ、月ちゃんもしかして……!?」

「違う違う! 従姉妹が変な男に騙されてないか心配してただけだから! そう、ただの家族愛だよ!」

 

 

 それにしてはやけに積極的だったと言うか、名前や性格を聞いていたと言っても初対面で年上の男をあそこまでからかったり、馬乗りになってキスするフリをしたりと、探りを入れるにしてはやり過ぎな気がする。口では否定しているが、まぁ人の本性なんて分からねぇもんだからな。ここは大人として、下手に追及するのはやめておいてやろう。

 

 

「でもビックリしましたよ、まさか曜ちゃんが男の人とここまで仲良くしているなんて。小さい頃から千歌ちゃん一筋だったのにね」

「ちょっ、語弊がありすぎるでしょそれ!? 確かに千歌ちゃんは大切な幼馴染だけど、そんな関係じゃないって!」

「分かってる分かってる。逆に言えば、それだけお兄さんのことが好きなんだ? 私や千歌ちゃんとの関係とはっきり区別するくらい、お兄さんのことがね」

「す、好きって……そ、それはす、好きだけど……」

「あーあーもうお腹いっぱい! 曜ちゃんがここまで乙女な表情をしているの、僕初めて見たよ」

「も、もうっ、すぐ人をからかって遊ぶんだから……」

 

 

 ノリがいいのか性格が悪いのか。どちらにせよ、他人の恋愛沙汰に興味があって首を突っ込みたがるところはイマドキの女子高生って感じだ。こういう奴ほどこっちから攻めてやるとウブな反応をするのだが、曜がいる手前もあるし、ここは素直に静観しておいた方が良さそうだ。触らぬ神に祟りなしってね。

 

 

「それで曜ちゃんは、お兄さんのどこを好きになったの?」

「もういいでしょこの話題は! ほら、早く学校に行かないとミーティングの時間になっちゃうよ!」

「お兄さんは、曜ちゃんのどこを好きになったんです?」

「曜の? 色々あるけど、一番は純粋に俺を慕ってくれる気持ちかな」

「な゛っ!? どうして正直に応対してるんですか!?」

「あはは、曜ちゃんの顔赤すぎ」

「うぅ……」

 

 

 曜の顔が熱くなっているのは見ているだけでも分かる。別に俺は彼女を困らせようと思ったわけではなく、単純に好きな女の好きなところを挙げるくらいは普通だと思っただけだ。それに時間さえあれば、曜の魅力的なところや惹かれたところを1時間は語り尽くすことができる。これでもマイルドに済ませた方なのだが、曜にとっては致命的な大ダメージだったようだ。

 

 

「でもお兄さん、僕にもドキドキしてましたよね?」

「そうだな」

「あ、あれ? 認めちゃうんですか?」

「俺が男に靡くはずがない。つまり、お前が女の子としての魅力があったから見惚れちまったところがあったのかもな」

「ぼ、僕が!? こんな男っぽいのに……?」

「ボーイッシュが極まっている女の子も、結構好きだぞ俺は」

「へ、へぇ……」

 

 

 月は髪の毛を指でくるくると掻き回す。どこかで見たような仕草だが、照れ隠しをしていることくらいは赤みがかった頬を見れば一目瞭然。チョロい――とまではいかないが、やはりSな女の子は防御力が低い。もちろんそれ以前に、異性から容姿を褒められるのは悪い気はしないのだろう。この街は女子高が多いらしいし、異性との関りが少ないであろう女の子は純粋な子が多いのだ。だからなのか、正直μ'sの奴らより、Aqoursの奴らの方がそういう傾向がある気がする。まぁμ'sの一部は俺と付き合い始めて変わったようなものだから、俺のせいかもしれないが……。

 

 

「あ、あまりそうやって女の子を口説いていると、浮気になっちゃいますよ……?」

「問題ない。女の子たちに『俺はたくさんの女の子と付き合ってこそ輝く男』という考えを持たせれば、必然的に浮気じゃなくなるだろ」

「そ、それはそれでどうかと……」

「俺は自分の好きに生きる。女の子を何人好きになろうが俺の勝手だ」

「そこまで傍若無人な男の人、初めて見ましたよ……。ということは、私のことを本気で口説いてたりします……?」

「口説いている」

「ふぇっ!?」

「って言ったら、お前はどうする?」

「えっ、そ、それは……」

 

 

 見事な立場の逆転に、月は焦りに焦って吃るばかりだ。そりゃね、俺とコイツでは経験の差が違う訳よ。こちとら無数の女の子と付き合い、幾多の修羅場を乗り越え、そこで育まれた愛情もある。こんな田舎の片隅の女子高に通って、本やネットの知識だけで男を手玉に取ろうとする奴なんかとは大違いってことだ。ま、そんなウブなところが可愛いんだけどね。

 

 

「そういうところは零さんらしいね。やっぱり肉食系っていうのは間違ってなかったよ」

「別に俺は自分で自分を肉食系なんて思っちゃいねぇけど。つうか、もう俺のことはいいから早く行くぞ。ちょっとでも遅刻したらダイヤが怒鳴ってくるからな」

 

 

 そんなこんなしている間にバスが来た。

 いきなり美少年を気取った美少女に襲われて驚いたけど、女の子に対して百戦錬磨の俺には敵わなかったって訳だ。でも月が魅力的なことだけは確かで、彼女に本気で誘惑されたら俺も男が黙っちゃいないだろう。もし機会があれば、今回のような強襲の形ではなく、ゆっくりとお話してみたいもんだ。

 

 

「月ちゃん? 零さん行っちゃったから、私たちも早く行かないと」

「曜ちゃん……」

「ん?」

「肉食系の男性って、いいね」

「そりゃ零さんはカッコいいし――――って、つ、月ちゃん!? も、もももしかしてほ、惚れ??」

「あはは、冗談冗談♪ 曜ちゃんってば慌て過ぎだって」

「そ、そうだよねぇ……」

「うん、冗談……だよ」

 

 

 それからしばらく、2人からの目線が物凄く熱かった。

 




 月ちゃんのキャラは他の子と同様にかなり肉付けしてあるので、普通の彼女が見たい場合はサンシャインの映画を見てみましょう。とは言っても私も流し見だったので、ストーリーはあまり覚えていないという事実()



新たに☆10評価をくださった

ヴォルフガング・マーサーさん、月渡さん、KRリバイブさん

ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔境の南家

 作者も手が付けられないマジキチ回。


 

 この世には、『魔境』と呼ばれる場所が存在する。ファンタジーの世界では魔物が住むおどろおどろしい境界で名が通っているが、リアルだと身の毛もよだつような秘境といった意味らしい。心霊スポットのような背筋が凍る怖さと言うよりも、いるだけで気分が悪くなるような沼地や空気が悪く険しい山岳地帯など、精神的にSAN値が擦り減りそうな場所を差すのだろう。まぁ、リアルに魔物なんていないからな。

 

 しかし、俺が住むこの東京には『魔境』が存在する。現代科学に塗れた都会で何を言ってるんだと思うかもしれないが、()()()()()の魔境が、今()()()にあるんだよ。

 俺の目の前にそびえ立つ一軒家。この家、謎の瘴気で覆われている気がするんだけど気のせいか? うん、この場所がそう見える俺だけだろうな……。

 

 

『南』

 

 

 その表札を見た瞬間、本能的に臆してしまう。

 俺がここを魔境だと解説した理由が、これで分かってもらえただろう。単刀直入に言ってしまうと、この家の女たちは度を通り越した変態ばかりだ。もっとヒドい言葉を使えば基地外と言ったところか。それくらい俺はこの家が軽くトラウマになってるんだよ。この家を訪れて、精神疲労せずに帰れたことなんて1回もないからな……。

 

 それなのに今日ここへ来た理由は、理事長からとある依頼を受けたからだ。どうやら家をリフォームしたらしく、模様替えのために家具の模様替えを手伝って欲しいとのこと。南家の大黒柱は海外で働いているため、この家に男手は存在しない。そこで俺に白羽の矢が立ったって訳だ。面倒だから断ろうと思ったんだけど、大の大人に頭を下げられたらどうしようもない。魔境に足を踏み入れるのは抵抗しかないけど、高校時代にお世話になった恩もあるし、仕方ないから手伝ってやろうとして現在に至る。

 

 ここで立ち往生していても何も解決しないため、意を決して南家のインターホンを押す。

 すると間もなく、玄関から理事長が現れた。

 

 

「あら、零君いらっしゃい」

 

 

 どうでもいいことだが、理事長は場所によって俺のことを『神崎君』と『零君』で呼び方を変えている。学校を含め外にいる時は『神崎君』で、南家にお邪魔した時だけは『零君』となる。公私混同しない大人の事情ってやつだろうが、外と中では馴れ馴れしさが全然違うため、この人のテンションの差にいつも違和感を覚えてしまう。外では立派な理事長だけど、南家の敷地内に入ると――――それはこれから分かるだろう。

 

 

「来てやったぞ親鳥。休日に元教え子を引っ張り出してんだから、感謝して欲しいもんだ」

「もう、相変わらず辛辣ね」

 

 

 お世話になった理事長になんて口の利き方をしてるんだと思うかもしれないが、南家の敷地に入ったら俺はいつもこんな感じだ。俺も理事長と同じく、外と中では呼び方と口調を使い分けている。敬意を払う必要なんてないってことも、この後すぐに分かる。それに理事長も俺とのこんな関係になれているのか、『親鳥』なんて馬鹿にされていることや、こっちの口調が荒くても文句1つ言わない。むしろ俺がどんなに罵っても常に笑顔だから、ことりと同じくやっぱりコイツもドMなんじゃ……。親子の血筋だしな、あり得る。

 

 

「夫がいないから、どうしても力仕事が捗らなくてね。零君が来てくれて助かったわ」

「一応お世話になっていた恩もあるからな。そうでなきゃ誰がこんな魔境なんか……」

「そんなこと言っちゃって。ゆくゆくはあなたの家になるんだから、今のうちからこの家もことりも自分色に染め上げちゃいえばいいのよ」

「とりあえず、今の旦那さんを大切にしてくれ……」

 

 

 こんな会話、ことりのお父さんには聞かせられないよな……。

 実はことりのお父さんに会ったことがない。俺がこの家に来るときは、いつも出張で出払っているので顔を見たことすらないんだ。そんなタイミングを見計らって俺を家に呼ぶなんて、浮気を疑われても仕方ねぇぞ……。

 

 玄関先で早速気が重くなりながらも、遂に魔境に侵入する。

 すると、ちょうどことりが2階から降りてきた。

 

 

「あっ、零くんだ! いらっしゃい。今日は頑張ってことりたちの愛の巣を作ろうね♪」

「何が悲しくて彼女の実家を愛の巣にしなきゃならねぇんだ……」

「そうよことり。流石の私も娘の彼氏と3Pをする勇気はないわ」

「ちげぇよ!! 両親がいるかもしれない緊張感で、あることないことできないって意味だよ!?」

「それはそれでことりは興奮するけどね。いつバレるかも分からない緊張感の中で、零くんに激しく攻められるとか……♪」

「私も、娘の部屋からギシギシ音が聞こえる恥ずかしさをようやく体験できるのね。もうすぐ孫が見られると思うと嬉しいけど、お婆ちゃんになるのはちょっと寂しいわ」

 

 

 どこで会話の道筋を間違えた……? いや、コイツらと話していると話が脱線どころか地球の裏側へ行くことなんていつものことだから、もう気にするだけ負けなのかもしれない。もうツッコミを入れるだけでもこちらが疲弊するので、早く用事を済ませてとっとと帰った方がよさそうだ。そうしなければ、この2人の妄想に飲み込まれてメルヘン空間から脱出できなくなりそうだから……。

 

 

「とりあえず、まずは何を運べばいいのか教えてくれ。グダグダ話してたらいつまで経っても終わらねぇぞ」

「そうだね。それじゃあ、まずはことりの部屋のモノから運んでもらおうかな」

「はぁ? お前の私物くらい自分で運べよ。力仕事が必要になるモノなんてお前の部屋にねぇだろ」

「むしろ、ことりの私物こそ零くんの力が必要なんだよ。そのために今日は来てもらったんだから」

「どういうことだ……?」

「それはことりの部屋に来ればすぐに分かるよ」

 

 

 俺はことりに促されるまま2階へ上がり、コイツの部屋に入る。

 そして、部屋の中を一目見ただけで俺がここに呼ばれた理由が分かった。テレビ局の衣裳部屋かと勘違いしてしまうくらい、ことりの部屋には大量の服がハンガーラックにかけられていたのだ。

 

 

「なんだよこの服の量……」

「えへへ、可愛い服があるとついつい買っちゃって……。それにファッションデザイナーの勉強のために、自分で作ったのもたくさん……」

「これとか、まだビニール被ってるじゃん。てことは、まだ1回も着てねぇってことか」

「だって、綺麗な服は着るのが勿体なくて……。ほら、汚れちゃったら嫌だし……」

「いるよな、買ったばかりの傘や自転車が使えない奴……」

 

 

 その思考は勿体ない主義というか、買ったモノを部屋のインテリアとして見ているのだろう。現にことりが持て余している服は素人目から見てもブランド製だと分かるので、あまり外の空気に触れさせたくないのは分かる。言ってしまえば、オタクのエロ本の買い方となんら変わりはないな。使う用、保存用、鑑賞用といった感じだ。

 

 

「こっちにデカいクローゼットがあるけど、ここには何が入ってんだ? これだけ大きいのに、部屋に服が溢れるとか異常だろ……」

「あっ、そこは……!!」

 

 

 俺は何んとなしにクローゼットを開けてしまう。そこが魔境の中でも底なしの魔境だとは知らずに……。

 ここを開けなければ良かったと後悔するのは、その直後だった。

 

 

「な゛っ……なんじゃこりゃぁああああああああああああああああアア!?」

「もうっ、女の子のクローゼットの中を勝手に覗き見るとか、デリカシーがなさ過ぎるよ!」

「いやいやいやいや、そんな問題じゃねぇだろ!?」

 

 

 本来なら服を収納するクローゼットだが、そこには布切れ1枚も存在しない。存在しているのは、俺の姿が写り込んだ写真ばかり。クローゼットの中の隅々まで、俺の写真が貼り巡らされていた。最初ここを開けた時は鏡に自分が映っていると思ったのだが、明らかに盗撮としか言えないようなアングルばかりなので、一瞬血の気が引いてしまった。

 しかし、一瞬だけと言うのが如何にも訓練されていて、すぐに冷静さを取り戻した自分自身が恐ろしいよ……。ぶっちゃけ、コイツの奇行とは数年の付き合いだから慣れてんだよな。だからといって許したことは一度もないが……。

 

 

「クローゼットの右半分の写真は、大学に入って撮った新鮮な写真ばかりだよ♪」

「釣ったばかりの魚で魚拓を取ったみたいに言うなよ……。つうか、お前まだこんなことやってたのか……」

「まだって、ことりは永遠にやり続けるつもりだよ! 零くんの成長過程を描いた写真集を作ること、それがことりの夢なんだから!」

「お前の夢はファッションデザイナーだろうが!! こんなことに魂をかけている暇があったら、ちょっとでも服のこととか英語を勉強したらどうだ?」

「それはそれ、これはこれだよ。零くんがよく言ってるでしょ? 二兎を追う者は二兎とも取れって。だから、ことりは自分の夢は全部叶えるよ!」

「盛大な夢を語ってご満悦だろうが、これただの盗撮写真集だからな? 犯罪だからな??」

「零くんがよく言ってるでしょ? 人間は正しいことばかりをして生きてたら、絶対に損をするって。どこかで手を抜いたり、卑怯な真似をして利益を得ている人こそ世渡りが上手いって。だから、犯罪者と言われてもめげないんだから!」

 

 

 確かにその考えは俺の主張に基づくものだが、まさかそれをコイツに伝えたことで己の首を絞めることになるとは……。俺だってたくさんの女の子を恋人にしている以上、ことりの発言を聞いて反論できないのだが実情だ。でも俺は人様に迷惑をかけていないのに対し、コイツのやっていることは俺がめちゃくちゃ被害を被っている。この差はどう足掻いても覆せないくらい大きいことを、コイツは理解しているのだろうか……? いや、満面の笑みを見る限りではしてねぇだろうな……。

 

 

「あらあら、零君にその写真を見せちゃったのね」

「親鳥、アンタ知ってたのか!? 知ってたのなら娘の躾くらいしっかりしておけよ……」

「いいえ、むしろもっと写真を撮ってこさせたわ。ことりと、そしてあなたの将来のためにもね」

「盗撮なんかで俺の将来が変わるとでも……?」

「私は既に考えてるのよ。あなたとことりの結婚式に映し出される写真をどれにしようかなってね。そのためには零君の写真がもっともっと必要なの」

「は……?」

「お母さん、最近はよく零くんとことりの結婚式で使う写真を選定してるんだよ。ことりたちの結婚式なのに、お母さんが張り切っちゃって♪」

「大切な1人娘の結婚式だもの、張り切らない方がおかしいじゃない♪」

「いい話に持って行こうとしてるけど、選別してるのって全部盗撮写真だろ!? 人の知らないところで何やってんだお前ら!?」

 

 

 親が親なら子も子。子も子なら親も親だ。俺のどんな写真を結婚式に流そうとしているかは知らないが、別にそんなことをしなくても式典用の写真くらい普通に撮られてやるのに……。もうストーカー魂が心の奥にまで根付いてしまっているため、一般常識的な行動を取ること自体を忘れているのかもしれない。

 

 

「それじゃあこの写真はことりが運ぶから、零くんはこの服たちをお願いね」

「平然としてるけど、これは没収だからな」

「ええっ!? ことりが5年間も撮り溜めてきたお宝だよ!? いくら零くんの頼みでも、これだけは渡せない!!」

「そんなに前から!? 確かに、制服姿の俺の写真もちらほらあるような……。つうか、どうやって隠し撮りしたのか分からないようなアングルのもあるんだけど……」

「それはね、お母さんのおかげなんだよ」

「実はね、音ノ木坂学院の至る所に監視カメラを設置していたの。ことりが零くんの写真がどうしても欲しいっていうから、高いカメラだったけどちょっと奮発しちゃった♪」

「笑顔で恐ろしいことを暴露すんな!! 学校の金を私的利用するとか横領じゃねぇか!?」

「いいのよ、私が理事長なんだから。音ノ木坂は私のモノよ」

「職権乱用どころの騒ぎじゃねぇだろそれ……」

 

 

 魔境は南家だけではなく、まさか音ノ木坂まで浸食していたとは……。学校に監視カメラなんて教育委員会が許さないと思うのだが、この理事長のことだ、裏で手回しすることなぞ容易いだろう。それが全て1人の男子生徒を監視するためとか、この世の誰も南家の野望に気付くことはない。それくらいこの親鳥は聡明なのだ。今の親鳥を見ているとそうは思えないが、外ではしっかりとした理事長であり教育者なんだよ。敵に回したら厄介ってのはまさにこのことだな。

 

 俺が制服姿で映っている写真のほとんどは、監視カメラの撮影によるものだろう。いつから設置されたのかは不明だが、通報されていないってことは誰にも気付かれずに設置してあったと見て間違いない。でもこれだけ鮮明に俺の姿が映っているから、設置されたカメラはよほど性能の良いモノだ。つまり、それだけ学校の金が南家の私利私欲に使われたってことか。そう考えると、学費を払ってた俺たちが馬鹿らしくなってくるじゃん……。

 

 

「これを教育委員会に報告したら、お前らの人生を終わらせるのは簡単だな……」

「それは無理ね。あなたが卒業したその日にカメラは全て撤去済みだから、証拠は何1つ残ってないわ。この写真だけでは明らかに証拠不十分だし、何より教育委員会にも……フフ」

「えっ、もしかしてそこにも工作員がいんのか!?」

「零君、あなたは自分の魅力を分かっていないのね。幾多の女性が、どこであなたを狙っているのかも知らずに……」

「こえぇよ! それで『女性に好かれまくってるぜ、やっほぅ!』とはならねぇからな!?」

「大学でも零くんに抱かれていい女の子をたくさん知ってるよ? 見知らぬ女の子に好かれるのが怖いなら、今度紹介してあげようか?」

「そんな子たちがいるのかよ……。どうやって知り合ったんだ……」

「零くんの写真を見せたら一発で堕ちちゃったよ♪」

「俺の写真って病原菌かなにか……??」

 

 

 俺の知らぬところで、教育委員会や大学の女性たちに謎の感染が広がっているらしい。もうそれは俺のせいじゃなくて、人に断りもなく勝手に写真を広めている南家の人間が悪いんじゃないか……? それで堕ちる方も堕ちる方だけど、諸悪の根源はコイツらなことは間違いない。

 しかし、ここで犯罪の尻尾を掴もうにも、証拠不十分で不起訴にされるのは確定的に明らかだ。こういった打算的で狡賢いところは南家の人間って感じがするよ。犯罪に走るとしても絶対にヘマをしないので、もうどう足掻いてもコイツらを止めることはできないだろう。

 

 

「さて、無駄話もここまでにして、模様替えを始めましょうか」

「無駄どころかこれは撤去して欲しいんだが……もういいよ。とりあえず片っ端から服を運んでいけばいいのか?」

「そうやってなんだかんだ許してくれるところ、ことり大好きだよ♪」

「はいはいありがとな――――ん? なんだこの段ボール?」

「あっ、それは……!!」

「いや、今度は開けねぇからな……」

 

 

 さっきは制止されたのと同時にクローゼットを開けて痛い目をみたから、今度はしっかり様子を窺った。ことりの反応を見るに、どうやら九死に一生を得たみたいだ。またこの中にとんでもないモノが隠されているのは確定的だが、できれば拝みたくはない。知らぬが仏という言葉通り、どうせ中身を知ったところで俺のSAN値が削られるだけだろう。だったら知る必要はないのだ。

 

 

「この中にはね、ことりと零くんの愛の営みが映像媒体として……きゃっ、これ以上は恥ずかしいよぉ♪」

「おいちょっと待て、今なんつった?? 学校の隠し撮り以上に衝撃的な事実を突きつけられたような……」

「いくらことりでも、自分の口から言うのは恥ずかしいよ……。見たかったら、零くんが自分の目で確かめてみて」

「イヤに決まってんだろ! 何が悲しくて自分が出演してるAVを見なきゃいけねぇんだ!!」

「でもこのおかげで、ことりの日々の性欲は抑えつけられているのです。これがなかったら、いつ零くんを襲ってもおかしくないからね」

「いや、今でも普通に盗撮してんじゃねぇか。それで欲求を抑えてるってよく言えたな……」

「盗撮は欲求を満たす行動じゃない、ただの趣味だもん」

「そっちの方がタチ悪いだろ……」

 

 

 これだけ至る所で盗撮されていたら、おちおち外も歩けねぇじゃん……。いや、コイツのことだから自宅にいてもあらゆる手を尽くして盗撮されそうな気がする。もはやプライベートどころか、プライバシーすら吹き飛んでしまっているような……。

 

 

「てか、これこそ何に使うんだよ。個人使用なら百歩譲っていいけど、さっきの写真みたいに誰かに布教してんのなら流石の俺だって怒るぞ?」

「これは南家のお宝なんだから、誰かに見せるなんて絶対にしないよ! ね、お母さん?」

「そうね。私たちが使用する以外の目的では絶対に使わない。これで儲けようなんて一切思ってないしね」

「私たちって、アンタも観てるのかよ……」

「我が娘とその未来の旦那の濡れ場、母親としてはいいシチュエーションよね♪」

「気持ち悪っ!」

「私が特にオススメするシーンは、零君がことりに対して『いつもいつも誘惑しやがって、こんなエロい身体で誘惑したらどうなるか教えてやる』って迫るところよ」

「零くんがことりを押し倒して、そのセリフを言ったんだよね。あの時は興奮し過ぎて押し倒されただけで濡れ濡れだったもん♪」

「言ってねぇだろそんなこと!! もはや妄想と現実が混在してるじゃねぇか!!」

 

 

 突然何を言い出すのかと思ったら、根も葉もない事実をあたかも被害者ヅラして語りやがった。一応誤解されないように説明しておくと、俺はそんなセリフを吐いたことは一切ない。コイツらの嘘があまりにも衝撃的だったから、思わず記憶の糸を手繰り寄せてしまったが、そんな事実は存在しないと断言できる。コイツら、どれだけ俺を鬼畜に仕立て上げたいんだよ……。

 

 この展開で1つ分かったことは、コイツらが普段からどんな目で俺を見てるかってことだ。そしていつも俺にどんなことをされるのか、どんなことをされたいのか、そんな妄想で頭がいっぱいだってこともな。その妄想が捗り過ぎて、とうとう現実と虚構の区別がつかなくなったらしい。幸いにもその嘘を誰かに言ってはいないみたいだが、今後あらぬ噂が俺の周りに蔓延りそうで気が抜けねぇな……。

 

 

「そもそも、教育者としてこんなことをして大丈夫なのかよ……」

「大丈夫、仕事とプライベートは完全に分離する主義だから」

「全然大丈夫じゃねぇよ。仮にも既婚者なんだから、俺に現を抜かすような真似はやめとけ」

「それは俺のモノになれって暗喩かしら? そ、そんな、夫もいるのに……」

「頬を染めるな誰得だよ」

 

 

 ったく、南家の女連中は悉くこんな奴らばかりで身が持たねぇよ。むしろよく5年間もこの変態たちと付き合ってきたんだと、自分自身を褒め称えてやりたい。俺自身も性欲に従順なヤリチン――とはまではいかないが、そこそこやり手な男だと自負している。しかしコイツらを見ていると、自分がまともな人間なんだって思えるから安心するよ。むしろコイツらと自分を比較して、なお自分の方が変態だと思う奴がこの世に何人いるだろうか……?

 

 まぁどうやってもコイツらを更生させることはできないので、他の人に迷惑がかからないようコイツらの欲望は俺が抑えつけておいてやろう。こんな性獣をこのまま世に解き放つ訳にはいかねぇからな。

 

 

「さてと、長話しが過ぎたわね。そろそろ模様替えを始めましょうか」

「お前らが無駄に話を引き延ばすからだろ……。今日は早く帰ろうと思ってたのに、とんだ災難だよ」

「ことりは零くんと1秒でも長くいたいから、もっとお話していてもいいけどね」

「だったらもっと有意義な時間を過ごさせてくれ。あんな話で引き延ばされたら堪ったものじゃない」

「それじゃあ早く作業を終わらせて、お茶にしましょうか」

「賛成! 零くん、まずはこれから運んでね!」

「またダンボールかよ。うわ、結構重いな……」

「だってそれ、零くんとことりの毎日を綴った日記とか、戯れに描いた同人誌とか入ってるもん。つまり、ことりの愛がたっぷり詰まってるんだよ!」

「またその展開!? もう絶対に中身見ねぇからな……」

「ちなみに描いたシチュエーションはね――――」

「言わせねぇよ!?」

 

 

 ことりも親鳥も楽しそうだが、俺の正気度はみるみる削れていく。

 分かってもらえたと思う。日本にも魔境が存在することがな……。

 

 




 ことりの誕生日に間に合わせたかったのですが、他の人の小説に比べて流石に度が過ぎているので投稿日をズラしました。

 それにしても、ことりも理事長もいいキャラをしていると自分が描いておきながらにそう思います(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

生意気な後輩とドセクハラ野郎の先輩

 お待たせしました(笑)
 先日やっとスクスタがリリースされ、虹ヶ咲の子たちのストーリーも大きく注目されてますね。私は少ししか見てないのですが、その中でも改めて好きになった中須かすみのメイン回です。


 中須かすみから連絡が来たのは突然だった。メッセージの内容は簡潔で、『デートしましょう♪』の一文と待ち合わせ時間、場所のみ。こっちの予定なんて一切考慮せず、相手を弄びたいという思惑がこの短文からひしひしと感じられる。

 

 かすみもそうだが、虹ヶ咲の面々とは1ヵ月前にスクフェス会場で別れてからは一度も会ったこともなければ、連絡をし合うこともなかった。特に疎遠になったわけでもなく、時が来ればまたアイツらから俺の前に現れると思っていたからだ。それがまさかこんな突然に、しかも別れてから間もない時期とは想像もしていなかったから驚いた。どんな用事があるのかは分からないが、アイツらの近況も気になっていたところだし、会わない選択肢はない。

 

 そんな訳で、俺はかすみに指定されたショッピングモールに来ている。たくさんの人が往来するところには疲れるので、個人的にあまり好きではない。それにこんな人の多いところで待ち合わせとか、相手を見つけるだけでも苦労しそうだ。素直にどこか分かりやすいところに集合してからここに来ればよかったんじゃ――――――

 

 

「えへへ、だーれだ?」

「えっ!?」

 

 

 いきなり後ろから目を遮られる。その力が強くて少し後ろにのけ反ってしまうが、所詮は女の子の力。無理矢理振りほどき、悪戯っ子と対面する。

 

 

「やっぱりお前か……」

「えへへ♪ こんにちはです、零さん!」

 

 

 中須かすみ。虹ヶ咲学院スクールアイドル同好会に所属する高校1年生。典型的なぶりっこで、自分が可愛いと自覚している上に周りにそれを自慢する、かなり厄介なタイプの女の子だ。更に腹黒属性まで持ち合わせているのでコミュニケーションをするだけでもウザったいが、見た目通り小物なので適当にあしらっていれば勝手に自滅する。そのためこちらに害はなく、むしろ微笑ましいくらいだ。

 

 ちなみに身体はにこやルビィと同じく幼児体型ではあるが、コイツはそれを武器にして自分の魅力を際立たせるのが得意だったりする。現にコイツの私服、ベージュのブラウスに黄緑のミニスカートから清楚さを感じられ、年相応な可愛さを残しながらも少し大人っぽくも見える。こんな女の子と一緒に外を歩いていたら、それだけで男にとってはステータスだろう。やはりスクールアイドル、容姿と風格は抜群だな。

 

 

「で? どうしていきなり俺を呼んだんだ? 1ヵ月前に颯爽といなくなったと思ったら、今度は強引に誘いやがって……」

「理由がなかったらデートにお誘いしてはいけないんですか?」

「いや別にいいけどさ、あれから連絡もなかったから、ちょっとは気にしていたんだよ」

「心配してくれていたんですね、嬉しいです♪」

「そりゃするだろ。幼馴染みたいなもんなんだしな」

「なるほどなるほど、つまり私は零さんの幼馴染ポジションの女の子ですか……。うん、いい!」

「何を喜んでいるのかは知らないが、幼馴染キャラは負けフラグだぞ」

「負けてません! むしろ将来、零さんを手中に収めて私から離れられないくらいに調教しちゃうんですから!」

「ヤンデレ幼馴染とかまたテンプレだな……」

 

 

 ヤンデレになったキャラは負けフラグなのだが、どうも小物臭が漂うコイツにとってはピッタリの役だろう。

 それはそうとして、コイツの様子を見る限りでは、スクフェス以前の時と変わらない笑顔を見せている。スクフェスでちょっとしたいざこざがあったから、多少は気にしてるのかなぁと思っていたのは杞憂だったようだ。まぁ、俺としてもそっちの方が気を張らなくてもいいから楽だけどね。それにあの時のことを気に病んでいるとしたら、わざわざ俺には会いに来ないだろう。とにかく、いつも通りのかすみで良かったよ。いつも通りはいつも通りでウザったいけどさ……。

 

 

「それじゃあ早速行きましょう!」

「行くって、そういや今日は何をするのか全く聞いてねぇんだけど?」

「ふふん、今日は私にたっぷり付き合ってもらいますからね。まず最初の行き先は――――」

 

 

 この時、俺は思った。

 あぁ、荷物持ちとして呼ばれたんだと……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「まずはここです!」

「おい、ここ下着売り場じゃねぇか。デートのお約束スポットなんだろうけど、男がどれだけ恥ずかしい思いをするか知ってんのか??」

「んふふ、むしろ零さんの恥ずかしがっている様を見られるからこそここに来ようと思ったんですよ。普通にデートをしても面白くないじゃないですか」

「何故デートにそんなスリリングさを求める……」

 

 

 かすみに連れて来られたのは、デート中にハプニングが起きるランキング上位、ランジェリーショップだった。店の外観も内装もそこそこ派手で、いかにも若い女の子たちが好き好みそうな下着が多い。店員さんも陽キャっぽく、店の客も高校生や大学生くらいの女の子ばかりだ。流石に女の子慣れした俺でも、この桃色楽園に足を踏み入れるのは相当な勇気と覚悟がいる。水着選びならまだしも、思春期の女の子の下着を選ぶって犯罪臭が半端ないんだが……。

 

 

「しっかりと見定めてくださいよ。外で履いても恥ずかしくないような、なおかつ可愛いモノを期待してますから」

「別に誰に見せる訳でもねぇのに、普段の日常で凝った下着を着ける必要があるのか……?」

「女の子を分かってないですねぇ零さんは。女の子ってのは、見えないところにもオシャレに気を遣うんですよ。見せる見せないの問題ではないのです。それにもし見せることになった場合、地味な下着を履いていたら零さんも興ざめでしょ?」

「いや、むしろその子が日常的にどんな下着を履いているのか、着飾ってない素の下着が見られるのは興味あるよ」

「うわぁ、キモ……」

「お前が言わせたんだろうが……」

 

 

 なるほど、今日はこうやって俺を困らせる作戦か。コイツは人を貶めて影でほくそ笑むことが好きなプチデビルであり、悪く言ってしまえば性悪女だ。だからこそ今日は普通のデートでは終わらないだろうと思い警戒していたのだが、もうこの時点で俺はコイツのステージに上がってしまっていた。デートが開始された以上ここで逃げ出すのは男が廃るので、不本意だけど付き合ってやるか。それに、虹ヶ咲の面々とはこうして気楽に遊んだことはなかったから、これもいい機会だろう。

 

 

「あっ、見てください零さん。この下着、とっても綺麗ですね~」

「流石に派手すぎないかこれは……。いや、今の子はこれくらいが普通なのか……。穂乃果たちや千歌たちもこんなのを……?」

「もう、何を想像しているんですかイヤらしい」

「う゛っ……。だけど、少なくともお前では想像してないから安心しろ」

「それはそれでちょっとムカつきますね……」

 

 

 だったらどうすれば良かったんだよ……。とは言いつつも、この派手な下着はロリ体型のコイツには似合わない。モデル体型の絵里とか果林ならまだしも、ちんちくりんなかすみには程遠い代物だろう。

 かすみが目を付けたのは、最新作のトレンドであろう下着の数々。エレガントさをウリにしているだけあってか気品高く、それだけに優美で派手である。どこかの貴婦人が装着していてもおかしくはないが、最新トレンドなこともあってか、若い子にも手が出せそうなリーズナブルな価格で売られていた。

 

 

「もしかして、これを買うのか?」

「う~ん、可愛いのは可愛いんですけど、身の程に合った下着を着けた方がオシャレなんですよね~。零さんはどう思います?」

「確かにお前に派手なのは似合わないと思うよ。かといって地味で落ち着いた感じなのも微妙だし、子供らしくはあるけどそれなりには遊んでるやつが一番似合うんじゃないか? 色は赤や黒みたいな自己主張が激しいモノじゃなくて、黄色やピンクみたいに明度が高く、それでいて無駄に装飾が凝っていないモノがいいな。まぁぶっちゃけて言ってしまうと、下着だけを見ても男は興奮しなくて、肝心なのはその下着と下着を着けている女の子とのバランスなんだよ。美人のお姉さんキャラが派手な下着を着けている、可愛い美少女が落ち着きながらもどこか背伸びした下着を着けている、その程よい塩梅こそ男の欲情を掻き立てるんだよ……ってオイ、顔が引きつってんぞ?」

「い、いや、女性の下着をそこまで熱烈に語るなんてドン引きと言いますか……」

「だからお前が言わせたんだろ……」

「そこまでは求めてないし、それに男性の興奮を唆るとか聞いてもいない話題に派生するしで、これは立派なセクハラですよ! このドエロ先輩!」

「ちょっ、そんなことを大声で叫ぶな!?」

 

 

 俺は自分の意見を率直に述べただけなのに、どうしてこうなった……?? μ'sやAqoursの面々で女の子の下着は見慣れているからこそ、こうして男であっても女性の下着について熱く語ることができるんだ。女性からしてみれば、男性が女性モノ下着についてどう思っているのか気になっているはず。だからそれなりに真面目だったんだけど……どうやら猥褻行為だったようだ。

 

 店の中で騒いでいるせいか、周りの女性店員や女性客からの視線を浴びている。ただの恋人同士(実際にそんな関係ではないが)の喧嘩だと思ってくれればいいが、ランジェリーショップで喧嘩をしている恋人ってのもそれはそれで気恥ずかしい。そしてこういう時は大抵男のせいにされるため、あまりここに長居しない方が良さそうだ。

 

 

「変に注目を浴びてるし、一旦ここを離れないか?」

「むぅ、もっと見て回りたかったんですけど、仕方ないですね…….。零さんがセクハラするから……」

「そもそも俺を辱めるために下着を選ばせるお前のせいだろ……」

 

 

 誰のせいにしろ、周りの人たちから見れば痴話喧嘩をしている男女ほど迷惑な奴らはいない。そろそろ女性客たちの目線も痛くなってきたので、そそくさとここを離れよう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「回転寿司なんて久々に来ましたよ! 忘れた頃に食べたくなるんですよね、お寿司って」

 

 

 ランジェリーショップから逃亡した俺たちは、レストラン街の中にあった回転寿司に転がり込んだ。回転寿司と言えば遊園地のアトラクション並の待ち時間で有名だが、お昼前なので客が少ないことが幸いしてか、来店してすぐに席に案内された。逃げる勢いに乗せられるままに店に入っちまったけど、ここなら何とか落ち着けそうだ。

 

 

「そういえば私、デートの準備で忙しくて朝ごはんを食べていないんですよ。だからたっぷり食べさせてもらいますよ♪」

「もらいますよって、まさか俺に奢らせる気じゃねぇだろうな……?」

「私は高校生、零さんは大学生。それに私は音ノ木坂も受験しようと思っていたので、実質零さんの後輩です。そんな可愛いJKの後輩に割り勘をしろと?」

「俺は男女平等主義なんでね。つうかいつもは男女平等を謳ってるくせに、こういう時だけ女を優遇しろとか男性差別だろ」

「あはは、嘘ですよ。それに割り勘の方が、これからもっともっとたくさんデートできますしね! お互いの懐的に♪」

 

 

 これが素なのか狙っているのか、どちらにせよ割と嬉しいことを言ってくれる。正直なところお金なんていくらでもあるのだが、こういった気遣いができる女の子に男は惚れるもんだ。デートでも何でも、男が全てを賄うのは時代遅れなんだよ。

 

 

「あっ、『いくら』だ。私『いくら』好きなんですよね。さっぱりして食べやすいですし、ぷちぷちとした食感も大好きです」

「そ、そうか……」

「ん? どうしたんですか? 急に黙っちゃって」

「い、いや何でもない。ほら、流れちゃう前に取って食え」

 

 

 俺が変態思考なのがいけないのだが、『いくら』とか『ぷちぷち』とか響きがエロいんだよな。しかもその言葉が女の子の口から放たれるとなおさらだ。『いくら』が具体的に女の子のどの部分の比喩なのかは敢えて言及しないが、とにかくエロいものはエロいんだ。常日頃から女の子を下劣な目で見てあらゆる妄想に耽っていると、今の俺のようになるから気を付けた方がいいぞ。

 

 とりあえず落ち着くためにお茶を飲もう。寿司を嗜むのは煩悩を振り払ってからだ。

 

 

「零さんは食べないんですか? そうだ、せっかくのデートなんで私が取ってあげますよ。えぇっと――――あっ、アワビなんてどうですか」

「ぶっ!!」

「ちょっ、きたなっ!? 食事中に噴き出すなんて、デートどころか常識的なデリカシーも欠けてますよ!?」

「わ、悪い。こりゃ座禅を組んだ方がいいかも……」

「何をぶつぶつ言ってるんですか。ほら、取ってあげましたよ」

「あ、あぁ……」

 

 

 俺の前に差し出される『アワビ』。かすみが取ってくれた『アワビ』。かすみの……『アワビ』。

 ち、違う!! 何考えてんだ俺!? コイツは高校生で俺は大学生、俺からしてみればコイツなんてガキじゃねぇか。そんな奴の『アワビ』なんて想像しても俺は絶対に興奮なんて……興奮なんて……。ダメだ、自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど妄想が膨らんでしまう。容姿が並程度の見知らぬ女の子相手だったらここまでじゃないのに、コイツは中身は残念だけど見た目だけは抜群に可愛いからな。そのせいであらぬ妄想が止まらなくなっている。

 

 あぁ、落ち着け俺!! 女の子の裸なんて嫌ってほど見飽きてるじゃねぇか。今更妄想の『アワビ』ごときで悶え苦しむなんて俺らしくもない。コイツはまだガキで、身体もちんちくりん。コイツはまだガキで、身体もちんちくりん。コイツはまだガキで、身体もちんちくりん。コイツはまだガキで、身体もちんちくりん。コイツはまだガキで、身体もちんちくりん――――――

 

 

「もう、さっきからお茶しか飲んでないじゃないですか。もしかして体調が悪いとか……?」

「いや、そんなことはない。ただどれを食べようか見定めてるだけだ」

「そうですか。だったら私はどんどん食べちゃいますよ。次は――――この『やりいか』にしましょうかね」

「ぶっ!!」

「ま、またぁ!? なんなんですか!? もしかして私にぶっ掛けるのが趣味な変態さんですか? もうそうとしか思えませんよ!!」

「だから気にするな。気にしたら負けだ」

「何と戦っているんですかもう……。あっ、この『やりいか』かなり乾燥してカピカピだ。ずっとレーンを回っていたせいですかね、想像以上に白い部分がカピカピですよ」

「ぶっ!!」

「そ、そんなに私にぶっ掛けたいんですか!? このドセクハラ先輩!!」

 

 

 俺は悪くない。悪いのは勝手に卑猥な妄想で盛り上がっている俺の脳内だ。もうかすみの言葉の1つ1つが下ネタで作成されているようで、あの悪名高き南ことりと会話をしているかのよう。もちろんアイツとは違ってコイツに悪気も増してや狙ってもいないのは分かっているが、一度淫猥な響きに囚われてしまうともう戻れない。妄想力が豊かなのがここに来て弊害になってくるとはな……。

 

 

「あぁ~『おいなりさん』発見! いやぁ私これ好きなんですよ!」

「『おいなりさん』……ねぇ」

「食感も好きですし、口に入れた時に広がる油揚げの味が堪らないんですよね。ちょっと女子としては不格好ですけど、パクっと1口で頬張るのがマイブームだったりします♪」

「ぶっ……あっ、あぶね。また噴き出すところだった……」

 

 

 『おいなりさん』とか、完全に男の身体の一部を比喩した表現にしか思えない。そしてそれを『パクっと1口で頬張る』シチュエーションが俺の脳内でずっと映し出され、平静を保つことを許さない。しかもコイツにそのような攻撃をされることを想像してしまい、思わず自分の股間に手を当てて自衛しようとしてしまう。これはもうね、末期だよ。

 

 だけど、同じことを4度やるほど俺もバカではない。もうお茶を飲むことすらやめ、ひたすらかすみから放たれる無自覚な猥談に耐え凌いでいた。

 

 

「零さん、本当に大丈夫ですか? 食事中にあまりこういうことは言いたくないんですけど、吐いたりしないでくださいね……?」

「お前が妄想を掻き立てるような言葉を使うから……い、いや、何でもない」

「妄想……? えっ――――――あっ!? ちょっ、ちょっと、もしかしてさっきからずっと変なことを考えてました!?」

「知らん!! 俺はお前で何も妄想してない!!」

「してるじゃないですか!! このエロ!!」

「妄想だけで全てを察したお前もお前だろ!?」

「零さんのせいですよね!? このマジエロドセクハラ先輩!!」

「だから店の中でそんなことを叫ぶなって!」

 

 

 これは誰のせい? 俺のせい? どちらにせよ、かすみの言葉を聞いていると店の中で痴漢が出たと思われても仕方がない。

 流石に気まずくなったので、食いたいネタだけを胃に流し込むように食べ、金を叩き付ける勢いで会計をしてこの場を後にした。

 

 なんかもう、このショッピングモール出禁になりそう……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「もう、零さんのせいでこれからここに遊びに来れなくなっちゃたじゃないですかぁ~」

「俺のせいかよ……。寿司代全部出してやったんだから、それで許してくれ」

「えぇ~どうしよっかなぁ~? 零さんが変態なのは知ってましたけど、まさか公衆の面前でセクハラされるとは思ってませんでしたよ。あぁ、純情を穢されて可哀想な私……」

 

 

 なぁ~に悲劇のヒロインぶってんだか。とは言いつつも、思い返してみれば大体俺が悪いことに今気づいた。だけど仕方ない、男の子だから。

 

 

「こうなったら、午後もとことん私に付き合ってもらいますから。零さんの財布だけでなく、口座の中もすっからかんになるくらいに搾り取ってあげますよ! あっ、搾り取るって言っても変な意味じゃないですからね」

「いや今回ばかりは何も妄想してねぇから。つうかお前も相当末期だな……」

「こうなったのも全部零さんのせいですから。責任、取ってもらいますよ?」

「せ、責任って……。まぁ来るべき時が来たら、いくらでも取ってやるよ」

「またセクハラ!? 気持ちわる~い♪」

「笑顔で言うなよ……ったく」

 

 

 こういうところは生意気だけど、どこか憎めないんだよな。やっぱり可愛いって正義で卑怯だ。どれだけ罵倒されても、どれだけ貶められようとも、笑顔を見てたら許してしまう。もしかしたら記憶喪失になったあの一件でコイツらに情が移っているのかもしれない。それか俺の懐が広く深すぎるせいなのか。何にせよ、コイツや虹ヶ咲の子たちのことを心の中から好きになる日が来るのだろうか。幼い頃から純粋に俺に恋をしてくれた、この子たちを……。

 

 

「なに辛気臭い顔してるんですか? ほらほら、グズグズしてるとあっという間に財布が空になっちゃいますよ」

「お前、デートは割り勘主義だって言ってなかったか……?」

「それはそれ、これはこれです。それに1回でもいい顔をしておけば私の印象は良くなるでしょう? 何事もファーストコンタクトが重要ですからね♪」

「相変わらず小賢しいなお前……」

 

 

 結局のところ、その後のデートは全部割り勘だった。生意気だけど常識は相応に弁えてるらしい。

 でもコイツのことだ、裏でコソコソ何を考えているのか分かったもんじゃない。ま、そうやって色々勘ぐることが楽しくもあるんだけどさ。そうやって女の子の魅力にハマっているあたり、いつの間にか俺も虹ヶ咲カラーに染まりつつあるのかもしれないな。

 




 スクスタによって虹ヶ咲のキャラたちに本格的なストーリーが付いたので、私も大注目しています!
 ストーリーを見てこれまで以上に好きになったキャラも多いので、この小説でもかすみのようにまた出演させてあげたいですね。今の投稿ペースでどれだけのキャラを拾えるかは不明ですが……(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ファッション清楚少女とヤリ○ン主人公

 最近ハーレム系のエロゲーをいくつか嗜んでいたせいか、零君と女の子キャラとの会話を文章に起こすだけでもテンションが上がってきます(笑)


 これでも一応Aqoursのみんなとはそれなりの仲になったつもりだ。スクフェスの決勝前にお互いに気持ちを伝えあい、その想いを受け取った。おかげでアイツらの士気が上がったのか、その勢いを保ったままスクフェスで優勝してしまうんだから驚きだ。でもその姿を見て感動したのは事実であり、アイツらの輝きの源はまさに『愛』によるものだろう。それくらいステージの上のAqoursから強い想いが伝わってきたんだ。

 

 これだけ雄大にお互いの愛を確かめ合ったはずなのに、俺はどうしてこんなところで梨子(コイツ)と初デートしてるんだ……?

 

 

「ちょっと零さん、しっかりと周りを見張ってください。知り合いに見つかったら私たち、もう生きていけないですから……」

「いやそれはお前だけだから、サラッと俺を巻き込むな」

「次はあのサークルに列に並びますよ。さぁ早く」

「どうしてこんなところにいるんだろ、俺……」

 

 

 俺と梨子は大規模な同人誌即売会に来ていた。とは言っても同人誌だけではなく、同人グッズの販売やコスプレイヤーたちの作品披露会にもなっているので、もはやここはオタクたちのお祭り会場である。

 そんなところに俺が来ているのは、何を隠す必要もなく梨子のせいである。清楚な見た目と言動とは裏腹に、そこそこドギツイ性癖と趣味を持ち合わせているのがコイツ。そう、今日俺はコイツの趣味に付き合わされているのだ。多数の大好きなサークルが新作を出すからと、こっちの有無も言わせず強制的にここへ連れて来られた。

 

 荷物持ちのため――――というのは名目で、俺が連行された真の目的は周りの監視だろう。梨子のこういった趣味を知っているのは世界で俺だけであり、家族はもちろん千歌たちにも秘密にしている。とある事情によって俺だけには知られてしまったのだが、そのバレたのをいいことに俺を度々こういうところに呼び出しては、周りに自分の存在を悟られぬよう監視役として置いておくのが常となっていた。確かに梨子はAqoursとして名が馳せてきたせいで、一般の人にも顔が知られるようになっている。だから1人では中々こういったオタク丸出しのところに来られないのは分かるが……。

 

 

「あのさ、俺とお前って一応恋人同士になったんよな? 恋人同士になって初めてのデートがこれって違和感ねぇか……?」

「恋人になったからこそ、お互いのことをもっとよく知るべきだと思うんですよ。そして、私の秘密を知っている人は唯一あなただけ。つまり、私とここでデートできるのは零さんただ1人なんですよ!」

「なんか『私を独占できることに喜びを感じろ』って上から目線で強制されてるみてぇだな……。てかお前、今日はいつもと全然キャラが違うじゃん。いや分かってたことだけどさ……」

「他にこんな興奮できることがありますか!! もちろんAqoursの活動も作曲も楽しいのは楽しいですけど、それとこれとは話が別ベクトルです。ねじれの位置です」

 

 

 いつもは物静かでお淑やかで見た目は整ってるけど、どこか地味だからモブキャラにも見えるのが梨子の特徴だ。だから親しい千歌たちを含め、周りからの評価は総じて物静かな清楚系と言われることが多い。ピアノを弾いている優雅な様が似合っているのも相まってか、そういった印象を持たれるのはもはや必然だろう。

 

 だが、人間は表もあれば裏もある。スクールアイドルの活動とピアノの練習を両立して頑張るひたむきな姿とは逆に、BLもGLもこよなく愛する腐女子レズなキャラも持ち合わせている。自室には同人誌が至る所に隠されており、時には自分の妄想をノートに書き出して小説やイラストを描いたりする本格的なオタク少女なのだ。

 そしてそのオタクモードに入った時が少々扱い辛く、普段の引っ込み思案で自信なさげなお嬢様キャラはどこへやら、今のようにただ自分の欲望に忠実になる下等生物に成り下がっている。そのせいで恩師である俺すらぞんざいに扱い、自分の目的(今回であればお気に入りサークルの同人誌を全入手)のためなら顎でこきを使うのほどだ。

 

 それにテンションもやたら高く、食い気味に喋っているのが特徴的。いつもは相手の会話を聞く立場で、いわば聞き上手というやつなのだが、今に至っては完全にコミュ障のオタク。オタク特有の早口で聞いてもいないのに自分の好きなサークルについて語り出す始末で、もういつもとは別人としか思えない。言うなればそう、淫乱化する前後のことりを見ているかのような変わりようだ。

 

 

「ったく、こんなところに付き合ってられるほど暇じゃねぇのに……」

「何を言ってるんですか。特に用事がなければ家に引き籠っているくせに」

「引き籠っているイコール暇だと思うなよ。家の中でもやりたいことがたくさんあるんだ」

「そろそろお目当てのサークルの列ですよ。迷子にならないようについてきてくださいね」

「人の話聞けよ……」

 

 

 梨子は俺の手を掴み、こちらの意思など無視して人混みを練り歩く。いつもなら異性どころか同性と触れ合うことすら恥ずかしがっているのに、この積極性はテンションの高さから来るものなのだろうか。なんにせよ、このままでは即売会の会場から帰るまでに体力も精神も疲れ果ててしまいそうだ。色物揃いのμ'sと付き合ってるから変人の扱いには長けてると自負してたんだけど、コイツはまた別のヤバさがあるんだよなぁ……。

 

 もう抗うだけ無駄なので、無気力状態で梨子に手を引かれながら歩く。

 だが、すぐに梨子の足が止まった。さっきまであれだけ急いでいたのにどうしたんだ……?

 

 

「物販の列に並びに行くんじゃなかったのか? まさかトイレとか?」

「相変わらずデリカシーの欠片もないですね……。とにかく、向こうから回り込みますよ」

「えっ、どうして? お目当てのサークルの列に並ぶなら、こっちの方が近いじゃん」

「だ、だってそっちは……ほらあそこ」

「あそこって――――あぁ、なるほどね……」

 

 

 さっきも言ったが、ここは同人誌の即売会の会場であるのと同時にコスプレイヤーたちの集いの場でもある。そのため同人作品に興味がない人たちもたくさん会場に来ているのだが、梨子にとってはそこが盲点だった。

 

 

「全力全身! ヨーソロー!」

「虚空からの誘いか。フフッ、そろそろこの世にも飽きてきたところ。別次元へ転移する準備を進めないといけないわね」

 

 

 多くの人に囲まれて写真を撮られているのは、そこそこ際どいへそ出し腋出しの航海士のコスプレをしている曜と、いつも通り堕天使紛いの痛々しいコスプレをしている善子だった。コスプレの出来もそうだがやはり女の子としての見た目も良いからか、男女関わらずたくさんの人の被写体となっている。会場を行き交う人たちの目を引いたり足を止めさせているので、アイツらのコスプレが如何に高クオリティなのか人だかりを見れば明らかだった。

 

 そんな彼女たちもこちらの存在に気付いたようで、善子は驚いた顔で、曜は笑顔でこっちに手を振ってきた。周りの人の注目も一気に俺たちに集まるからやめて欲しいのだが、本当に危機を感じているのは俺の身体の後ろに隠れている梨子だろう。見てみればいつの間にか帽子を深く被り、マスクまで装着して完全に顔を隠していた。男がその恰好をすれば怪しすぎて即通報されるレベルである。

 

 まさか自分と同じグループの1人が不審者のような風貌になっているとはつゆ知らず、曜と梨子は俺たちに近づいて来る。

 

 

「こんなところで会うなんて奇遇ですね! 零さんの姿が見えた時に驚いちゃいましたよ」

「まぁちょっとな……。つうか、お前らこそこんなところにいるとは思わなかったぞ」

「善子ちゃんに可愛い服をたくさん着られて、しかも大々的にお披露目できるイベントがあるから参加してみないかって誘われたんですよ。ね?」

「曜もコスプレに興味があったみたいだし、ついでに誘ってあげただけよ」

「つうことは、お前はこういうイベントに結構参加したことあんのか?」

「ちょいちょいね。堕天使の格好をして『カッコいい』とか『似合ってる』って言われたいからとか、決してそんな意図はないわよ?」

「つまり快感に浸れるってことか……」

「わざわざ意訳すんな!!」

 

 

 なるほど、確かにコスプレってこういうイベントの時でないと冷ややかな目で見られるだけだもんな。だからこそここは痛い格好が大好きな善子にとって絶好の場所なのだろう。本人は結構打算的な考えでここに来ているみたいだが、普段は社会の裏でこそこそしているオタクたちが自分の作品を披露できる数少ない場からこそ、そういった承認欲求が湧いて出るのは分からなくもない。

 

 

「そういや、アンタもこういうところに興味あったのね。こういった趣味に理解はあるみたいだけど、ここまでオタク趣味にどっぷり浸かってるとは思わなかったわ」

「いや、俺はコイツに無理矢理――ぐふっ!?」

「えっ、なにどうしたの??」

 

 

 梨子の奴、いきなり俺の横腹に肘打ちをしてきやがった。しかもそこそこのパワーで……。

 梨子に目を向けてみると、既に怒りの籠った目線で見つめられていた。『余計なことを言いそうになりましたよね、バカ』と罵倒まで含んでいるかのような強い眼力をしているため、何としてでも自分の存在をこの2人に知られたくないらしい。自分の裏の趣味を誰かに知られるのは黒歴史に発展するし、何より俺がその怖さを知っている。仕方ない、コイツの名誉は俺が守ってやるか。

 

 

「一度こういうところに来てみたかったんだよ。特定のサークルのファンとかはいないけど、雰囲気を楽しむ……みたいな?」

「なるほど。それで、零さんの後ろにいる女の子は……?」

「あ、あぁ、この子は……」

「もしかしてその子――――」

「えっ、ち、違う、この子は――――」

「アンタ、またナンパしたのね。どこへ行っても女を引っ掛けて……常に女と一緒にいなきゃ生きていけないの?」

「そ、それは……そうだよ!!」

「うわぁ、不潔……」

 

 

 なぁ、これどうしたらよかったの!? 梨子の存在を隠すためとはいえ、俺が無実の罪を背負うことになってるんだが……? 善子からは冷たい目で見られるし、曜は呆れた表情をしている。確かに女の子は大好きで知り合いも多いけど、別に俺から引っ掛けているわけではなく勝手に向こうから来るんだよなぁ……。とは言ってもここで弁解して信じてもらえるとも思っていないので、梨子のプライドのために俺が犠牲になったと思って納得するしかない。腑に落ちなさ過ぎるけど……。

 

 とりあえず、適当な理由を付けて自然な感じで会話を流そう。

 

 

「いいか? この子がお目当てのサークルの列が分からなくて迷っているところを助けてやっただけで、決してナンパしたわけじゃないんだぞ? ただ声を掛けただけだ」

「ふ~ん、ホントに~?」

「ホントだって、なぁ?」

 

 

 梨子は俺の後ろに隠れたまま頭をブンブンと縦に振る。声を出さないのは、声色だけでこの2人に正体がバレるのを防ぐためだろう。スクールアイドルだからこそ同じグループメンバーの歌声は聞き慣れているだろうし、声だけで身バレする可能性は相当高い。やはり梨子もオタクの中のオタク、自分がリアルバレしないように陰キャ戦法を取る方法を熟知しているようだ。

 

 

「そうだ、せっかくだし一緒に色んなサークルの本を見て回りませんか? 私はコスプレが着られるって聞いてここに来ただけなので、他の皆さんがどんな作品を出しているのか気になるんです」

「一緒に? それは―――ぐふっ!? な、なんだよ……」

 

 

 またしても梨子にエルボーをされたので彼女に目を向けてみると、今度は涙目になって首を横に激しく振っていた。

 そりゃそうか、なんたって今から回るサークルの出している本はオタクであろうとも受けの良いものではない。例え他人のフリをしていると言えども、流石にBLやGLが趣味だってことをバラすのはそれなりの度胸がいる。梨子の涙の訴えから必死さが伝わっており、何としてでもこの2人とは別行動しろと切実に訴えかけてきていた。

 

 

「悪い。回るサークルの数が結構あって、時間的にかなり急がないといけないんだ。でもお前ら、その格好じゃ動きにくいだろ?」

「確かに、先に着替えないといけないかもですね」

「流石にこの翼を着けたまま列に並ぶことはできないわね。イベント終了間近だと更衣室も混んじゃうし、今のうちに着替えに戻ったほうがいいかも」

「それじゃあ着替えが終わったら連絡しますんで、その時にまだ回るところがあればご一緒させてください!」

「あ、あぁ……」

 

 

 そして曜と善子は着替えのため更衣室エリアに向かった。

 なんとか別行動になることはできたが、時間限定という制約付きに止まってしまった。でも梨子の存在を悟られないようあれこれ画策しながらもこの場を切り抜けられたから、結果としては上々だろう。

 

 

「零さん、早く行きましょう! そして早々に目的を達成して帰宅します!」

「アイツらの着替えがいつ終わるかも分からないし、各サークルを回るにものんびり歩いてる暇はないな。待機列が長くなっていなけりゃいいけど……」

 

 

 梨子が目的としているサークルがどれだけ人気なのかは分からないが、周りを見渡す限り同人誌の購入のために列が形成されているところはいくつかある。あまり並んでいる時間もないので後日通販で買えばいいじゃんと言いたいところだが、彼女曰く『エッチなゲームを特典目的であちこち走り回るのと同じく、同人誌も自分の足で手に入れたものでないと意味がない』らしい。俺もオタクの端くれだから分からなくはないが、その面倒な性格のせいで劇的に偏った自分の趣味が親友たちにバレそうなのを忘れないで欲しい。

 

 

「そうと決まれば、片っ端からお目当てのサークルに――――」

 

 

「あっ、零くんだ! にこちゃん、ちょっとこっちに来て!」

「どうしたのよことり――――って、零!? なんでアンタがここに!?」

 

 

「またかよ……」

 

 

 不運ってのは大体上乗せされるもんなんだよな……。今度はことりとにこの2人とエンカウントしてしまった。しかもメイド姿だし、もしかしなくてもコイツらもコスプレイヤーとして参加してるクチか……?

 ちなみに梨子はまたしても帽子とマスクを装着し、俺の後ろに隠れた。その速さはまさに忍びのごとく、普段から自分の正体を隠し慣れているな絶対。もう既に涙目になっているので、今頃身に降りかかっている不幸を呪っているに違いない。

 

 

「お前ら、どうしてメイドなんだよ……」

「以前ことりがバイトをしていたメイド喫茶のオーナーに頼まれちゃって。今日のイベントで出張店として参加する予定だったんだけど、メイドさんに2人欠員が出ちゃって、昔の好みでピンチヒッターをすることになったんだ」

「それでもう1人の補充要員として、ことりからにこに連絡が来たのよ。まぁ可愛い服が着られるのなら大歓迎だし、何より日当もいいから断る理由はなかったわ」

「そうか……」

「なによその微妙そうな顔は。可愛い恋人2人がメイド服を着てるってのに、感想の1つもないわけ? ホントにいつまで経ってもデリカシーってものがないんだから」

 

 

 今日はナンパに間違えられたり女性扱いを無下にしていると勘違いされたりと、何かと俺の評価が落ちるシチュエーションばかりな気がする。俺は梨子の気持ちを汲み取り、彼女の正体を隠し通すという善意に満ち溢れたミッションを遂行しているというのに、この仕打ちはあんまりじゃねぇか……??

 

 

「ん? 零くんの後ろにいるのは……女の子? まさかまたナンパしてたの?」

「だから、お前らはどうして俺をチャラ男に仕立て上げるんだよ!? この子が目的のサークルがどこにあるのか分からないって迷ってたから、案内してるだけだっつうの!」

「な~んだ、てっきりアンタが迷子になって寂しそうにしている女の子の心に浸け行って、言葉巧みにお持ち帰りしようとしてるのかと思った」

「零くんってウブっぽい子を自分好みに染め上げるのが大好きだもんねぇ~♪」

「お前ら仮にも清楚なメイドの設定だろ、会場のど真ん中で猥談を持ち出すんじゃねぇよ――――って梨子、じゃなくてお前、どうして距離を取る……?」

「い、いえ、なんか身体が零さん……神崎さんに拒否反応を起こしちゃいましてはい……」

「どうしていきなり他人行儀になるんだよ!?」

 

 

 なんか最近よく俺が誰とも構わず女の子に手を出すヤリチン野郎だと思われることが多いような……。しかもそのせいで、さっきまで俺を心の拠り所にしていた梨子までが離れていく始末。なんかコイツを守るたびに俺が損をしている気がする。あぁ、女の子を守るために自己を犠牲をするなんて優しいな俺って。そう言い聞かせないと惨めになりそうだ。

 

 

「後ろのアンタ、零に手を出されそうになったらにこたちに連絡しなさいよ。ちょっとでも油断すると、いつの間にか脱がされて挿れられちゃうから」

「お前の中で俺はどれだけヤリ手なんだよ……」

「挿入から種付け、そして着床させるまでのタイムアタックなら零くんの右に出る男性はいないよね♪」

「ちょっ、あらぬ誤解を振り撒くなコイツが信じちまうだろうが!!」

「あ、あなたって人は、もしかして私のことも……!?」

「違う! 違うから逃げ腰になるな!!」

「零くんってば照れちゃって~。ことりのココにはもう……ね?」

「おい、お腹をさするな余計に勘違いされるだろ……」

 

 

 断っておくと、誰かを妊娠させた覚えは一切ない。これをしっかり弁明しておかないと、この先また同じような話題で俺が虐げられるから必死にもなる。ただでさえ大学ではセフレが欲しい女子は神崎零を誘惑しろって噂も流れているってのに……。放っておいても噂は消えないだろうから、捻じ曲げられた事実はこうして俺自身が少しずつ矯正していくしかないんだ。その間にもあらぬ事実がどんどん膨らんでいく未来しか見えないのが絶望だけど……。

 

 

「コイツを案内する役目があるから、俺はもう行くぞ。ほらお前も、そんなところでビクビクしてないで早く来い」

「ヒッ!? 孕まされる!?」

「お前は味方じゃなかったのかよ!? ここまで散々助けてやってんのに……」

「流石ね零、ここでおっぱじめるなんて。今まで数々の女を手籠めにし、その淫らな欲望で数多の純潔を散らしてきただけのことはあるわね」

「やる? ヤっちゃう零くん?? セッ○ス? レ○プ?? 見知らぬ女の子相手に鬼畜ぅ~♪」

「セ、セック……レ、レイ……零さんに……!?」

「なにテンション上がってんのお前ら!? えぇい、お前も黙って俺についてこい」

「「まさか青姦プレイ!?」」

「もうお前ら黙って!!」

 

 

 もはや俺を強姦魔に仕立て上げて人生を終わらせたいようにしか見えないんだけど、これどうすればいいの!? この世にはこうやって女の子に弄られることによって興奮を覚える変態もいるようだが、生憎俺はドMではなく健全なのでこの状況に危機感しか覚えない。ことりやにこに悪気があるかどうかは分からないが、自分たちが楽しんでいるだけってのは確かだろう。μ'sの奴らは俺の醜態を見て『どうしてこんなのを好きになったんだろう』と言うことがあるけど、それは俺も同じだからな??

 

 

「零さん! 更衣室が空いてたから意外と早く着替え終わっちゃいました……って、ことりさんににこさんも!? ここで何をしてるんですか!?」

「アンタ周りから注目浴びまくってるけど、また何かやらかしたの? 興奮しているメイド2人に、涙目になっているマスクの女の子……はぁ、アンタまた……」

「曜に善子!? だ、だから違うってぇええええええええええええええええ!!」

 

 

 その後、なんとか梨子を連れてここから離脱した。あのままアイツらの波に飲み込まれていたら、周りの人に警備員を呼ばれて拘束されていたところだ。アイツら、次に会った時は絶対にアヘらせてから覚悟しておけよ……。

 

 

 そんなことがあってどっと疲れたから、すぐに帰ろうかと思っていたのだが――――――

 

 

「さて、次は各ショップを回って委託販売専用の限定グッズも手に入れますよ! 私たちの戦いはここからです!!」

「まだ別のところを回るのかよ!? 疲れてるから、どこかで飯を食いがてら休憩にしないか?」

「…………」

「な、なんだよ……?」

「食事のお誘い……これが幾多の女の子を誘惑してきたさり気ない手口なんだなぁと。それから言葉巧みにホテルに連れ込まれて――――」

「もうその話題から離れろ!!」

 

 

 梨子と2人きりになった後も、俺の疲労は積り続けていた……。

 




 本来は梨子をメインに据えようと思っていたんですけど、いつの間にか零君が蔑まされる事態に……。

 最近は自分の中でハーレム旋風が再び吹き荒れているので、こういった女の子たちとの日常を描くことにまたしてもやる気が出ています。だからといって更新ペースは上がってないのですが……また気長にお待ちください(笑)


 ちなみにですが、11月7日にこの『日常』シリーズの小説が5周年になりました!
 一応完結はしているので今は蛇足的に更新しているだけなのですが、まだやめるつもりはないので6年目も応援をよろしくお願いします!(バンドリ小説の方も是非!)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

即堕ち栞子

 虹ヶ咲に新しいメンバーが追加されたってことで、重い腰を上げて久々の最新話となりました。

 ぶっちゃけ恋愛過程を描くのは面倒だったので1話読み切り。恋愛モノよりもネタとして見ていただけると嬉しいです。

 ちなみに新キャラの説明はある程度していますが、詳しく知っておきたい方は先に調べておくと楽しめるかも……



 話の時系列はこの小説でのスクールアイドルフェスティバル終了後です。


 俺は歩夢からの連絡により都内の喫茶店に呼び出された。用件も何も聞かされてないので少し不穏だが、また虹学スクールアイドルの指導でもしてもらいたいのだろうか。それなら直接学校に呼び出せばいいのに……。

 

 そんなことを考えつつ所定の喫茶店の前に来たのだが、歩夢の姿は見当たらない。待ち合わせ時間ギリギリに到着したのでアイツが来ていないのは不可解だが、男1人でシャレオツなカフェに入るのはかなりハードルが高いので、とりあえずここで待つことにする。そう思った矢先、見知らぬ女の子が俺の目の前にやって来た。

 

 

「神崎零さん」

「あん?」

 

 

 肩に掛からないくらいの黒髪ショートカット。ちらっと見えた八重歯が特徴的な高校生くらい女の子が話しかけてきた。見知らぬ美少女に声を掛けられるなんて俺も有名になったもんだ――――なんて楽観的に捉えるのはまだ子供。名も知らぬ美少女が男に話しかけるなんて怪しい勧誘の匂いがプンプンするぞ。

 

 

「怪しい壺を売りつけるなら他の男にしてくれ」

「違います」

「街角アンケートには答えない性分なんだ」

「だから違います」

「逆ナンは勘弁してくれ。お前は可愛いけど、彼女持ちなもんでな」

「か、かわっ!? 軽率な発言、やっぱり危険な人……」

「そっちから話しかけておいて勝手に不審者判定はどうかと思うぞ……」

 

 

 初対面なのに睨まれるほど警戒されているとはあまりにも理不尽すぎる。見た目の雰囲気的にお堅い感じがしていたのだが、ちょっと話しただけでここまで嫌悪されるとは……。Aqoursの面子と出会った時は俺の痴漢未遂の罪で中々に悪い印象を与えてしまったが、今回俺は正真正銘この子に何もしていないはず。もう意味わからん。

 

 

「申し遅れました。三船(みふね)栞子(しおりこ)と申します。一度あなたにお会いしたくて、上原さんに頼みこの場をセッティングしていただいたのです。上原さんから何も聞いていないのですか?」

「な~んにも聞かされてないが。当日のお楽しみとだけ言われてたからな」

「上原さん……。まぁ無事に出会えたのでいいです。とりあえず喫茶店に入りましょう。店の前でナンパをされていると勘違いされたら迷惑ですから」

「どうして俺が迷惑をかけてる側なんだよ……」

 

 

 出会って早々多数の理不尽が俺に襲い掛かるが、それを仕向けた張本人は至って澄ました顔だ。どうやらよっぽど俺に言いたいことがあるらしいが、この定期的に女子高校生に敵意を向けられる自分をなんとかしたいよ。

 ていうかこの子、歩夢の知り合いらしいが一体何者なんだろうか……?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 俺たちは喫茶店に入り、お互いに向かい合って座っている――――のだが、どうも空気が重い。周りの客はカップルで食事を楽しんでいたり、女友達同士で談笑していたりと和気藹々としているため、俺たちのテーブルだけ別次元のようだ。

 

 テーブルに着くなり俺たちは軽く自己紹介する。三船栞子は最近虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバーに加入したメンバーであり、中須かすみや桜坂しずく、天王寺璃奈と同じ1年生らしい。今は学園の生徒会長を務めていて、最初はスクールアイドルを頑なに認めない絵里のような奴だったようだ。それから歩夢たちと紆余曲折あってスクールアイドル堕ちしたっぽいのだが、どうやらその過程で俺のことを知ったらしい。俺への印象がどうも悪い方向に傾いているみたいだけど……。

 

 

「単刀直入に言います。上原さんたちに手を出すのはやめていただけませんか?」

「て、手を出す……?」

「はい、調べはついています。あなたが幾多の女性と浮気をしていることに」

「浮気だぁ?」

 

 

 とか強気に出てみるも、あながち間違いじゃないのが心に突き刺さるところ。コイツがどこからその情報を仕入れてきたのかは知らないが、俺がたくさんの女の子と関係を持っていることは公然には隠しているはずだ。

 

 

「上原さんたちが頻繁にあなたの名前を出すので気になって聞いてみたのです。そうしたら上原さんたち全員とプライベートでお付き合いがあるようではないですか。しかも皆さん、あなたの話をしている時はライブをしている時と同じくらいに輝いている」

「それくらいだったらいいじゃねぇか。思春期の女の子だったら男の1人や2人くらいとそんな関係になるだろ」

「私たちはスクールアイドルです。そんな浮ついた心は認められません」

「認められないわぁ~ってか」

「は?」

「いやそんな怖い顔すんなって冗談だから……」

 

 

 

 コイツがスクールアイドルに入った生い立ちといい、どうにも絵里を思い出しちゃうんだよな。そのせいで思わずふざけてしまったが、殺傷能力を持っていそうな鋭い目を向けられてビビってしまう。どうやら向こうは本気で俺と歩夢たちを遠ざけようとしているみたいだ。まあ俺はこれまでコイツのような敵意剥き出しの女の子たちを何人も相手にしてきたし、結局その子たちも俺と関係を持つことになったんだがな。目の前の三船もつまりそういうことになる可能性が……?

 

 こうして向かい合ってみれば、やはりスクールアイドルになるくらいの容姿と魅力が彼女にはある。日本舞踊を嗜む和風美女であり、意志を感じさせる厳粛な風格。俺より5、6歳も年下なのにこちらの身が引き締まってしまうほどの凛然としたオーラ。そんな奴がスクールアイドルになったんだから、歩夢たちにとっては大きな戦力だろう。そんな子に出会えたのは偶然なのか、それとも俺の女の子を呼び込むスキルが有能なのか。どちらにせよまずコイツの警戒心を解かないと話にならないけどさ。

 

 

「もうネタは上がっています。上原さんたちだけではなく、μ'sやAqoursの皆さんともただならぬ関係を持っているようで」

「英雄色を好むって言うだろ? たくさんの女の子と付き合うのも必然ってわけよ」

「なんて軽薄な……。ますますあなたを皆さんに近付けるべきではないと思いました」

「そんなに睨むなって。俺は女の子の笑顔が好きなんだ」

「あなたのいいところを1つも見ていないのにどう笑えと……」

 

 

 マズい、このままでは俺の好感度がどんどん下がってしまう。まぁ全ては三船に対する俺の言動のせいなのだが、別に間違ったことは言っていない。正論を正しく言えないこの世の中、なんか悲しいね。そんな冗談を言ってる場合じゃないってのは分かってるけども……。

 

 

「複数の女性と付き合っているだけでも人としてどうかと思いますが、こちらにはそれ以上に咎めるべきことがたくさんあります」

「ほぅ、言ってみろ」

「どうして上から目線なんですか……。いいでしょう、その自信を打ち砕いてみせます」

「なんか趣旨変わってないか……?」

 

 

 三船は俺のことを完全にスクールアイドルの敵だと思っているようだ。μ'sもAqoursも、なんなら虹ヶ咲も俺が育てたようなものだし、俺の唾が付いた3グループがこの前のスクフェスで優勝争いをしていたことを知らないのか? スクールアイドルの敵どころか、むしろ先導者なんだけどな。

 

 

「1つ、女性がトイレに行くのを阻止して反応を見て楽しんでいたこと。2つ、実の妹と身体の関係を持っていること。3つ、教育実習生なのに生徒であるAqoursの皆さんとお付き合いしていること。4つ、女子小学生と中学生に淫行したこと」

「待て待て待て! ここ喫茶店だから! 女の子の口からそんな爆弾発言はヤバいって!」

「どうです? 降参するなら今のうちですよ?」

「そもそもどうやってその情報を仕入れてきたんだよ……」

「スクールアイドルに入ってからというもの、人脈が凄まじく広がりました。それにどこからもあなたの名前が聞こえてくるので、黒歴史を収集するのは容易かったです」

「アイツら普段どんな会話してんだ……」

 

 

 三船の口から語られる俺の悪行の数々。未成年淫行はもちろん、教師生徒の肉体関係や近親相姦など口に出すだけでも人によっては反吐が出そうだ。でもこうして今までに行ってきた変態行為を列挙されると、その時の情景が鮮明に思い浮かんで何だか懐かしくなる。残念ながら俺に反省の二文字がないんでね。これもいい思い出なんだ。

 

 それにしても俺のいないところで勝手に世間話で話題に出しやがって。話のネタにするのはいいが、一般受けしないような際どいネタを持ち出すのはやめていただきたい。そう、目の前の鬼みたいに過敏に反応する奴がいるからさ。

 

 

「あなたの犯罪を世に暴露すれば、もう社会では生きていけなくなりますよ。でも私も鬼ではありません。スクールアイドルから手を引いてくださるのであれば、あなたのことは見逃しましょう」

「これはまた随分と嫌われてることで……。でも思い出してみろ、俺の話をしているみんなの顔を。楽しそうだっただろ?」

「ま、まぁ……ライブをやっている時と同じくらいには」

「そんな俺が社会から抹殺されてみろ、アイツらが悲しむだろ? そのせいでスクールアイドルの活動ができなくなっちまうかもしれない」

「まさか私に脅しをかけようとしていますか? 皆さんを悲しませないよう、あなたの悪行に目を瞑れと……?」

「そういうことだな」

「なんて狡猾な……」

 

 

 それなりに俺を打ち負かす準備をしていたようだが、残念ながら高校時代から悪行三昧してきた上に罪から逃げ続けてきた俺に勝つのは不可能だ。どうやら三船はいいところの娘らしいのだが、そんな箱入り女子高生と淫行に幾度となく手を染めてる汚い大人の俺とでは勝敗は目に見えている。

 

 

「まぁお前の言い分も一理あるし、俺の頼みを1つ聞いてくれたらアイツらに会うのはやめてやる」

「本当ですか? 一応聞いておきます……」

「今日1日だけでいい、俺と付き合え」

「え……? つ、付き合うって……」

「堅物生徒会長で箱入り娘じゃ話の流れで分からないか? 今日1日は俺のものになれって言ってんだ」

「は、はぁ!?」

 

 

 三船は顔を赤くしその場で立ち上がる。その反応を見るだけでこれまでの人生で男と一切の付き合いがなかったことが分かる。今までどの男の手垢も付いていない女子高校生……うん、字面だけでも唆る。しかもソイツはスクールアイドルになるくらいの美少女と来たもんだ。そりゃ自分のモノにしたくなるよ。

 

 

「いいですよ。私の犠牲で皆さんを守れるのであればお付き合いします」

「いい友情だな。その気概が保てるかどうかも見ものだ」

「私は皆さんとは違い、あなたに靡くことはありません。あなたのような軽薄な男性が一番嫌いな人種ですから」

「なんというフラグ……。そんな大見得を切って後で堕ちても知らないぞ?」

「そんなことは断じてあり得ません。むしろあなたに社会の秩序というものを教えて差し上げます!」

 

 

 未だかつてこれまで分かりやすい死亡フラグがあっただろうか? いや、ない。

 威勢だけは素晴らしいのだが、喫茶店の中でそんなに叫ぶと注目を浴びるからやめてもらいたい。なるほど、コイツは自分の固執に酔って周りが見えなくなるところがあるらしい。そのお堅さのメッキが剥がれて女を見せる時が楽しみだな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「どうした栞子? 服の袖を掴まれたら帰れないんだが?」

「その、まだ零さんと一緒にいたいと言いますか……」

「随分としおらしくなったな。そっちの方が可愛いよ」

「か、可愛いってもう……あなたって人は……」

 

 

 夕日で紅く照り付ける街道。その真ん中で夕日に負けないくらい赤面している少女。なんとも素晴らしい絵面だ。

 俺と栞子は1日デートをしていたわけだが、その間にコイツの態度もかなり柔らかくなった。いや、この態度を見ればそれ以上の気持ちを俺に向けていることが分かるだろう。いつの間にかお互いに名前呼びになっているあたり、関係も大きく深まった。どんな卑劣な手段を使ったかと言われたらそんなことはなく、ただ普通に遊んでいただけなんだけどな。

 

 そもそも栞子は男と遊んだ経験どころか、女友達とも遊んだ経験がなかったようだ。それに性格があまりにも現実主義でハードな考えの持ち主のため近寄りがたく、同性の友達すら少なかったらしい。だからこそこうして誰かと遊びに行くこと自体が新鮮なのだ。それに人生初のデート、しかも相手は幾多の女の子と付き合って女心を心得ている俺だ。そんなデートが楽しめない訳がない。

 

 最初は表情も硬く嫌々俺の隣を歩いているようだったが、広場の出店で食べ歩きをしたりデパートでウィンドウショッピングをしたり、他愛もない世間話をしている間にいつの間にか心の距離が縮まっていた。次第に笑顔も見せ、もはや俺への反目はなくなっているようだ。俺から特別なことは何もしてない。ただ一緒に彼女が楽しめるように隣を歩いていただけだ。

 

 

「俺と別れるのが名残惜しいと思ってくれたのなら今日は楽しんでくれたって証拠だな。嬉しいよ」

「はい、とても楽しかったです。学校が終わった後はお稽古があったり、休日はボランティア活動をしたりしてこうやって遊ぶ機会はなかったので……」

「だろうな。自己紹介してくれた時からそんな奴だと思ってたよ」

「まさか、私のために今回のお出かけを提案してくださったのですか?」

「さぁな」

 

 

 俺が栞子を誘ったのは可愛い女の子とデートができればいいというただの打算であり、別に彼女の境遇を察したからではない。俺はこれまでの人生で自分自身が満足すればいいという利己的な精神で動いているから今回もいつも通りだ。それが毎回いい方向に転んでいるだけってことだな。

 

 

「もうすぐ日が落ちる。早く帰らなきゃ家族に怒られるんじゃなかったのか? 最初はそれを理由に帰る気満々だったのに」

「それはデートというものが楽しいと知らなかったものですから……。だからもう少しだけ、一緒にいてもいいですか?」

 

 

 夕日をバックに赤面しながら俺の袖を指で摘まむ三船栞子。大和撫子な見た目も相まってとても絵になる。

 そんな子にここまで誘われたら断る気にはなれない。それに女子高校生に求められるのは優越感、独占欲、支配欲、その他様々な背徳感情に満ちて気分がいい。しかも相手は大和撫子の美少女と来たもんだ。むしろこっちから手放すまいと捕まえておきたいくらいだ。

 

 

「あの……ダメ、ですか?」

「ダメじゃねぇよ。むしろあんなに規律を重んじるお前が門限破りだなんて、随分と不良になったなぁと思ってさ」

「確かに自分でも自分は堅いと思う時はありますけど……。でも以前上原さんたちと遊びに出かけた時、アイスを2段重ねで食べてしまう禁忌を犯してしまいました! スクールアイドルがあんなにカロリーが高いものを2個同時に! こ、これでお堅いなんて言わせません……よ?」

「それで不良になったつもりとは、ホントお前可愛いな」

「ふぇっ!? ど、どこに可愛い要素が!?」

 

 

 どうやら栞子はアイス2個食いで罪を感じているらしい。よく食べ過ぎで体重を気にしている穂乃果や花陽に聞かせてやりたいよ全く。しかもそのエピソードを無理矢理黒歴史にして門限破りを許されようとしているところがこれまたピュアだ。お堅いのは絵里やダイヤもそうだったが、コイツはソイツらよりも純粋だなこりゃ。

 

 

「別に俺はいくらでも付き合ってやってもいいんだが、夕暮れ時に女が男を誘うってことがどういうことか分かってるんだろうな?」

「えぇっと、どういうことですか……?」

「はぁ~これだからいいところの娘は……。男と女が夜にすることなんて1つしかねぇだろ」

「え……? はっ、そ、そそそそそんな私と!? でも私は学生ですし、流石に男性とそのようなお付き合いは……」

「真面目なんだよお前は。人生ってのは掟破りなことをしないと成功しないんだよ。生徒会長をやったりボランティア活動をしたりするのは立派だよ。だけど社会で綺麗だとされているレールに乗っかっているだけじゃ一般人のままだ。スクールアイドルになるってことはな、そういった経験も必要なんだよ」

「なるほど、勉強になります」

 

 

 出会った頃は俺の言葉なんて聞く耳を持たなかったのに、今では何でもホイホイと信じてしまっている。聞くところによると新人のスクールアイドルは先輩のパシりになるといった中須かすみの嘘を堂々と信じていたらしい。厳粛な過程で育ったゆえか、信頼を置ける人を疑うことを知らないようだ。なるほど、これは色々俺の好みの色に染めることができそうだぞ……。

 

 

「で、どうなんだ? これ以上俺と一緒にいるなら、それなりの覚悟をしてもらわないと」

「き、緊張はしますけど覚悟はあります! まだ私はスクールアイドルの端くれですが、上原さんたちみたいな立派なスクールアイドルになるためなら逃げたりしません!」

「そうか。スクールアイドルとして重要なのは女性としての魅力だ。歌やダンスが上手いのはもちろんだが、世間の目が一番最初に触れるのは自分の容姿だ。つまり一目で魅力的に映ることが大事なんだよ」

「女性としての魅力……」

「だから俺が鍛えてやるよ。女としての魅力をな」

「えっ、れ、零さん……??」

 

 

 俺は近くの壁に栞子を追い込んだ。頬を染めながらも目は驚きに満ちている。

 傍には大人のホテルがネオンの輝きと共に俺たちを待っている。恐らくコイツはこれから何が起こるか想像もしていないだろう。それなのに無謀にも覚悟を持ってしまうとは、そんな世間知らずのJKちゃんに社会を教えてあげないとな……。

 

 

「な~んてね」

「へ……?」

 

 

 俺は壁から離れて栞子を解放する。いきなり追い込みすぐに離れる謎行動に唖然としているのか、きょとんとした顔つきで俺を見つめている。

 

 

「出会ったばかりの女の子といきなりホテル行きとか、お前の言う通り犯罪者になっちまう」

「ちょっ、せ、せっかく思い切って覚悟をしたのに……」

「悪い悪い。俺なりにお前の覚悟を試させてもらっただけだ。ま、新人にしちゃ俺に立ち向かってきたことだけでも合格だよ」

「試しただけだったのですか……」

「なんだ? もしかして本当に俺と繋がりたかったのか?」

「つ、つなっ!? そ、そんなことはありません!!」

「これ以上ないってくらい顔赤くなってんぞ? お前、嘘つけないだろ」

「ち、ちがっ、これは……!! うぅ……も、もう門限なので帰ります!!」

 

 

 出会った時は面の皮が堅いと思っていたが、剥いでみると表情も豊かだし面白い子だ。融通の効かない面も多く自分の認めないことはとことん淘汰する人間だけど、それ故に新しい経験には新鮮味を感じて高揚する性格。これまで外食や寄り道すらしたことがなかったコイツのことだ、男とのデートなんて初体験の連続だっただろう。何かもウブってのが俺好みで気に入ったよ。

 

 

「お前がもっと俺のことを好きになってくれて、俺もお前のことをもっと好きになったら、今日やれなかったことを考えてやってもいい。どうだ?」

「~~~~ッ!? し、失礼します!!」

 

 

 あらあら、こちらを振り向くことなく立ち去ってしまった。

 でも俺は見逃さなかったぞ。夕日に負けないくらい耳が赤くなってたこと。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

《翌日》

 

 

「あれ? 栞子ちゃんスマホをじ~っと見つめてどうしたの?」

「う、上原さん!? これは違います!!」

「何が違うって――――あっ、もしかして零さんとお出かけした時の写真?」

「こ、これはそ、その……。うぅ……」

 

 

「信じて送り出したしお子が調教されて帰ってきた……」

 




 また零君の携帯の連絡先が増えましたとさ。彼と知り合いの女の子って何人いるのかもう数えるのも面倒なので誰か数えてください(笑)


 ていうか零君を描くのが久々過ぎてキャラが高校時代の頃に戻っているような気がしてならない……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

煩悩退散の試練

 虹ヶ咲のアニメが決まって小説の執筆意欲も上がったので投稿!


「零君、はいこれ」

「あん? なんだこれ?」

 

 

 秋葉からいきなり渡されたのは女性モノのブレスレットだ。オシャレに全く興味のない俺だが、見た目だけでもかなりの高級品だと分かる。水のようにしなやかな曲線美を描き、一粒一粒のダイヤでチェーンが形成されている。女性がこれを身に着けているだけでそこそこのステータスになること間違いなしだろう。

 

 

「男がこれを着けるのはハードルが高いだろ……」

「だからスクールアイドルのみんなにプレゼントしてあげて。ほら、同じのいくつか用意してあるから」

「こんな高そうなものをそんなにも? そりゃお前の財力があれば買えると思うけど……」

 

 

 秋葉は箱から俺に手渡したブレスレットと同じものを複数個取り出す。1個だけでも相当な金額になると思うのだが、コイツはこれでも世界を股にかける研究家。それでしこたま貯めた金があれば高級品の大量買いなど造作もないだろう。

 

 そんなことより、いきなりどうして俺にこれを渡してきたのかが気になるところだ。また何か妙なことを企んでいなければいいのだが……。

 

 

「あっ、その顔は怪しんでるね? 大丈夫、この前海外で有名な研究者同士の会食があって、その時にお土産として貰ったものだから」

「そういや数日いなかったなお前。でもいいのかよ?」

「私も零君と一緒でオシャレには興味ないからさ、どうせならスクールアイドルのみんなに着けてもらった方がいいかなぁと思って。でも残念ながら零君の知り合い全員分ないから、そこは誰に渡すか見極めてね」

「そりゃまた修羅場を生みそうな……」

 

 

 とは言ってもお土産を持て余すのは勿体無いので、出会った女の子に先着であげるとしよう。スクールアイドルの知り合いが多すぎるから、逆に全員に上げようと思っても手間になるだけだから。

 

 

「じゃあ私はまた部屋に籠るから、修羅場をどう乗り越えたかだけまた教えてね♪」

「相変わらず人の不幸は蜜の味なのなお前……」

 

 

 この時はまだ知らなかった。秋葉の笑みが黒く染まっていることに――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「これ、本当にことりにくれるの……?」

「あぁ、余り物だからな」

「零くんの贈り物ってだけでも嬉しいよ! ありがとう!」

「そりゃどうも。ほら海未、お前にもやるよ」

「わ、私にもですか!? ありがとう、ございます……」

 

 

 秋葉からブレスレットの詰め合わせを受け取った翌日、俺はことりと海未と一緒にライブ用品の買出しに出かけていた。そのついでにブレスレットを渡したのだが、予想以上にコイツらの反応がいい。そういや付き合い始めてからここ数年あまりプレゼントを渡したことがなかった気がするな。だからこそコイツらにとっては物珍しく、恋人からのプレゼントが嬉しいのだろう。こういう反応が見られるのであれば己の懐を割いてももっとみんなに貢ぐのもやぶさかでないかもしれない。

 

 ブレスレットが気に入ったのか、2人は早速身に着ける。コイツらの容姿がいいってこともあるだろうけど、やはりお高いアクセサリーは女性に映える。2人はそこまで装飾品をジャラジャラと付けるタイプじゃないけど、装備したブレスレットを完全に自分の一部として取り込んでいる。俗に言われる『服やアクセサリーに着られている』ではない。ま、そこはさすが伝説のスクールアイドルってところか。

 

 

「そういえば、明日は零くんの家にお泊り会だね。楽しみだなぁ~♪」

「μ'sのみんなで泊まりに来るのは4年ぶりだもんな。今回は秋葉もいるし、厄介事に巻き込まれなきゃいいけど……」

「私は皆さんが飲み過ぎないように制止させるだけで手いっぱいになりそうです……」

「そりゃご苦労さん。俺もハメを外しすぎないように善処するよ」

「えぇ~せっかくみんなで集まるんだし、ハメ外すどころか逆にヤらなきゃ勿体ないよ――――ひゃぅっ!?」

「な、なんだよ急に変な声出して……」

「な、なんだろうねぇ……あはは」

 

 

 明日のお泊り会でテンションが上がっているせいか下ネタもド直球だけど、なんだ最後の卑猥な声は……。しゃっくりのようには聞こえないし、なんならことりの顔がじんわりと紅い。コイツもしかして良からぬ妄想をしているのか? 往来のど真ん中だがコイツならありえる。来年には海外で働くっていうのに、こんな発情期が服を着て歩いてるような奴を海の向こうへ出せんのか……?

 

 

「ことりはまたそんなことを……。私の目が黒い間は淫らなことは許しませんから」

「そんなこと言っちゃって、海未ちゃんも期待してるんじゃないの? ほら、この前お出かけした時に新しいパジャマを買って気合入ってたしね♪」

「え゛っ、み、見ていたのですか……!?」

「零くんに見てもらいたいんでしょ? ことり的にはもうちょっと露出が高いパジャマにすれば零くんが襲ってくれると思うなぁ~」

「そんな目的で買ったのではありません――――ひぅっ!?」

「お前まで何だよいきなり……」

「い、いえ……」

 

 

 今度は海未がしゃっくりに似た声を上げる。しかも周りの人が一瞬こちらを振り向くくらいには声量がある。顔を赤く染めた女の子が淫猥な声を上げ、その近くには若い男。周りの人から見たら痴漢されていると思われても仕方ないから困る。逆に俺以外の奴に触られたのかと思ったが、ものの見事に周りにいるのは女性ばかり。よほどのレズじゃなければそんなことは起きないとは思うが……。

 

 

「お前ら顔赤くなってるけどどうした? よもやこんなとこで発情してんじゃねぇだろうな?」

「そ、そんなことは決して!! でもこの感じは一体……」

「私は零くんと一緒にいる時ならいつでも――――ふゅっ♡」

「なんだよそのマヌケな声は!? どんどん顔赤くなってんぞ大丈夫か?」

「れ、零くんの顔が近いよぉ……ひゃんっ♡」

 

 

 ことりは奇妙な声を上げながら目をぐるぐる回し気絶しそうになる。なんか内股になってるし、一体何が起こってるんだ? 冗談で発情しているだなんだの言ったけどもしかして本当に本当……? だとしたらとんだ脳内ラブホテルだ。いくら恋愛百戦錬磨の俺でも痴女を更生させる腕はない。コイツ早く何とかしないとってセリフを言えなくなったのはいつからだっけか……。

 

 

「おい海未、お前もまさか……」

「な゛っ!? ことりと一緒にしないでください不名誉です!!」

「それはちょっと、いやかなり酷くない海未ちゃん……」

「あなたのように所かまわず破廉恥なことを考えているような人と一緒にされる身にもなってください!」

「お前も相当煩悩に支配されてきたと思うけどな。高校時代は俺が触ろうとするとすぐ手を出してきたのに」

「セクハラされそうになったら誰でも防衛するでしょう……」

「でも今は満更でもないんだよね海未ちゃん♪ 零くんと触れ合うのに慣れちゃったんだよね? どうしてかなぁ~♪」

「そ、そんなどうしてって――――ひゃぁ♡」

「またか……」

 

 

 俺たちも大学4年生だ。それに5年も付き合っていれば身体の付き合いってのもあるだろう。恐らくそのことを思い出し、自分で自分を辱めているに違いない。とんだ自爆だが、ぶっちゃけ海未も最近妄想癖に囚われることが多くなってきた。まあ脳内ラブホが幼馴染だったら少なからず影響を受けるよな……南無阿弥陀仏。

 

 

「あっ、パンツが濡れ……零くん、ちょっとお花摘みに行ってくるね」

「わ、私も少し……」

「あ、あぁ……」

 

 

  顔を赤くしたままトイレに行くって、それトイレで何をするのかを宣言してるようなものじゃん。表情も蕩けていたのでもう何が起こっているのかさっぱりだ。女の子の日にしては何やら気持ちよさそうだったし……。

 

 

「あれ? アンタこんなところで何してんの?」

「あん……? にこ?」

「お兄様!?」

「あっ、おにーちゃんだ!」

「こころとここあまでいんのか」

 

 

 唐突に矢澤3姉妹とエンカウント。街中でコイツらと遭遇するなんて珍しい。こころとここあに出会う時は大抵俺のベッドの中だからな。ていうか最近それ以外の出会い方をしていない気がする。コイツらも高校生と中学生になったから手を出してもロリコン犯罪者になることはないが、この2人のやんちゃさを相手にすると今でも精神力が擦り減る。逆に姉のにこが落ち着いて見えるから不思議なもんだ。

 

 

「そういやライブの買出しに行くって言ってたわね。ていうかまだ何も買ってないじゃない。もう日が落ちそうなのに大丈夫なの?」

「まあ色々あってな……。そうだ、お前にもこれやるよ」

「これって……ブレスレット? アンタがプレゼントなんて珍しいじゃない……」

「嬉しいなら嬉しいって言えよ。顔に出てるから」

「フ、フンッ! ま、まぁそれなりにいいモノっぽいわね。このにこに合うものを見繕うなんて上出来だわ。ほら、着けてあげたわよ」

「はいはい似合ってる似合ってる――――ん?」

「「じぃ~~~~」」

 

 

 にこの後ろからこころとここあが俺をジト目で見つめてくる。そりゃ一緒にいる別の女にプレゼントを渡して自分だけ渡されないのは嫉妬を感じちゃうか。

 

 

「なんだ、お前らも欲しいのか?」

「欲しい!!」

「欲しいです」

「でもお前らは俺の彼女じゃないが?」

「でもおにーちゃんのおち〇ちん舐めたことあるよ?」

「お兄様におち〇ちんを舐めさせられたこともあります」

「お前らはそれで彼女扱いされてもいいのか……」

 

 

 ここで大声でツッコミを入れてしまうと逆に怪しまれるので、敢えて冷静に対処することであたかも何もなかったかのようにこの場を収めることができる。そもそも俺がコイツらに淫行を指示したのは4、5年前なのでもう時効だろう。

 

 

「アンタねぇ、この子たちに変なことをするのはやめなさい。なんのためににこが身代わりになってると思ってんの?」

「なにお前、俺にこころとここあを近付けさせないために俺と付き合ってんの??」

「お姉様はそんなことを言っていますが、夜はお兄様のことを考えて情事に耽っているのです」

「おねーちゃん隠れてやってるみたいだけど、エッチな声漏れちゃってるもんね♪」

「ア、アンタたち聞いてたの!? そ、そんな零のことなんて――ひぅ♡」

「そうそうそんな声!」

 

 

 にこもことりと海未と同じく話している最中に絶頂を迎えたかのような表情になった。どいつもこいつも人の往来の真ん中で発情しやがって、もっとスクールアイドルとしてモラルを持って欲しいもんだ。妹たちに自分の情事がバレていたことに対する恥ずかしさなのかは知らないけど、アパートのあんな狭い部屋でバレていないと本気で思っていたのだろうか。しかも妹たちから最初にその話を聞いたのはそれこそ4、5年前だから今更感が強い。てか今までずっとオカズは俺だったのかこの淫乱ツインテは……。

 

 

「お姉様がお兄様を想う気持ちはそれだけではありませんよ。お兄様に似たキャラが出てくる薄い本を隠し持っていたり」

「ひゃっ♡」

「アイドルの練習で疲れた時であっても、お兄様の名前を呼んで1人での情事を欠かさない」

「ひぃぅ♡」

「それにおねーちゃんがとっても嬉しそうな日は、大抵おにーちゃんとエッチをした日なんだよね! その日は夜ご飯がご馳走になるから私嬉しいんだ♪」

「ひゃぁっ♡」

「にこの奴、物凄くダメージを受けてるけど……?」

「お姉様がエッチなことを考えている時はまさにそういう顔になりますね」

 

 

 にこは肩で息をしている。妹たちに自分の行動パターンを全て把握されているだけでなく、俺の目の前で暴露するんだから堪ったものではないだろう。もはやオーバーキルも甚だしく、もう俺と目を合わせようともしない。

 

 それにしても今日は出会う女の子がみんな発情モードに入っている。しかも俺がブレスレットをあげた奴ばかり……って、あっそうかなるほど、事の真実がだんだんわかってきた気がするぞ。せっかくだから実験してみようか。

 

 

「こころ、ここあ、お前らにもこれやるよ」

「えっ、いいの!? ありがとうおにーちゃん!」

「ありがとうございます。大切にしますね」

 

 

 2人は早速俺から貰ったブレスレットを装着する。それが自分の性欲を無自覚に助長させる魔道具であることも知らずに……。

 

 

「ねぇねぇおにーちゃん。久しぶりにおにーちゃんの家でお泊りした~い! 明日μ'sのみんなが集まるんでしょ? 私たちも行ってい~い?」

「別にいいけど、勝手にベッドに潜り込んだり風呂に突撃してくるのはなしな」

「えぇ~!? じゃあ何のためにお泊りするのか分からないよ!」

「目的が不純すぎるんだよ」

「そんなことを言いながら、お兄様だって期待しているのではありませんか? お姉様たちとは恋人同士、つまり最近はノーマルなエッチしかしていないはずです。でも私たちはお姉様の妹。自分の恋人の妹とエッチ、背徳的で興奮しませんか?」

「まぁするかしないかで言えばするかも」

「ですよね! お兄様の裏の欲求を満たせるのは私たちだけですから――――あっ♡ きゅ、急に身体が熱く……」

「やっぱりお前もか。ここあは……うん、聞くまでもなかったな」

「お、おにーちゃん……なんか身体がウズウズするよぉ……」

 

 

 案の定この2人も腕輪の魔力によって自身の性的欲求を増幅させられていた。思った通り、性的なことを考えると己の欲情が膨れ上がるみたいだ。赤みがかった頬、蕩けている表情、荒い息、脚を内股にして震わせている。もはや自分は痴女です襲ってくださいと宣言しているようなものだ。しかも見た目は完全にロリ体型の少女であるため犯罪臭しかしない。それを真顔で眺めている俺が一番ヤバい奴なのかもしれないが……。

 

 そしてブレスレットの正体と効果はコイツらの反応通り。そりゃそうだ、秋葉が何の企みもなしにこんな高級品を渡すはずがない。スクフェスの一件以降その悪魔的な性格も丸くなったと思ったけど、やはり心の奥底に眠る本性は隠しきれなかったか。

 

 

「ちょっと、妹たちに何したのよ……」

「別に俺からは何もしてねぇよ。コイツらがただ淫乱だっただけだ。お前の教育不足が招いた出来事だから悔い改めろ」

「はぁ、はぁ……私もさっきから身体の至る所が疼いて仕方ないんだけど……」

「あまり息を荒くするな。周りから変な目で見られるだろ」

「おに~ちゃ~ん……私のここ、触って……?」

「おい、シャツを捲るな」

 

 

 矢澤姉妹の血筋が故か胸は小さいのだが、ちっぱいが故の服を捲る動作は中々に唆る。服を捲り上げる過程で引っかかるものがないというのは視覚的な刺激があると思うんだ。俺だけかもしれないけど。

 そんなことはどうでもいいとして、事実確認が済んだ以上コイツらに恥辱を与え続ける必要はないのだが、どうもこのまま眺めて虐めたくなってくるのがドSの性だ。周りの目は確かに気になるけど、野外プレイの一貫と考えればコイツらにとっても逆に快感を覚えるかもしれない。疑われたら最悪AVの撮影と偽って誤魔化せばなんとかなるだろう。

 

 

「はいはい、流石にもう許してあげてよね」

「秋葉……」

 

 

 女の子たちが往来の真ん中で性に溺れるところを鑑賞しようと思ったら、突然秋葉が現れてにこたちからブレスレットを取り上げてしまった。その瞬間にみんな顔色が良くなったので、あの腕輪が如何に強い効果を発揮していたのかが分かる。もはや大人の玩具のレベルを超えてるな。

 

 気付けば、色欲に囚われトイレに籠っていたことりと海未の姿もあった。どうやら秋葉によってブレスレットを取り外され調子が戻ったらしい。

 

 

「いやまさか腕輪の効果を知ったのにも関わらず、たくさんの人がいる中で女の子に配るとは思ってなかったよ。私のことを悪魔とか呼んでおきながら、零君だって相当だよね。さっきもみんなの様子を眺めて楽しんでたでしょ?」

「お前の実験に付き合ってやったんだ。性欲を強制的に滾らせたコイツらがどうなるのか、経過観察ってやつだよ」

「そのせいでことりは替えの下着を買いに行くことになっちゃったよ……。濡れちゃったパンツ……いる?」

「いらない」

「今なら海未ちゃんのも一緒にあげちゃうよ?」

「ことり!? 私を巻き込まないでください!!」

「お前も濡らしたのか。澄ました顔をしながら意外と淫乱だったんだな……」

「違います!!」

 

 

 だがこのブレスレットは装着者の隠れた性欲を増大させるもの。つまり元から淫らな心を持っていなければ効果が現れることはない。だが海未にはその効果がことりと同じくらいに現れた。つまりそういうことだろう。

 

 

「いやぁみんなゴメンね。こういうAVグッズって高値で取引できるから、ついつい開発に力が入っちゃって! なんたって零君の周りにはいい実験台――――反応がいい女の子たちばかりだから、発明意欲が上がっちゃうよ♪」

「今俺たちをいいように扱っていることを隠しきれてなかったからな……?」

「でも最後の実験がまだ残ってるんだよねぇ……。ってことで、零君も着けてみて」

「はぁ!?」

「そうよそうよ! にこたちのあんな姿を見たからには、アンタも同じ目に遭いなさい!」

「零君が性に塗れて悶えてるところ、ことり見てみたいなぁ~」

「妥当な罰ではありますね」

「お兄様、ご武運を」

「おにーちゃん頑張れ~!」

 

 

 なにこの流れ?? これが同調圧力ってやつなのか?? そもそもの話、男が色欲に溺れている姿を見て何が楽しいってんだ。女の子が性に悶え苦しむ姿こそ絵になるのに、男の俺がそんな姿を晒したところで何の価値もない。

 だがコイツらは本気だ。それにこのブレスレットを作ったのは秋葉であって俺も被害者と言えば被害者側なのだ。なのになぜ罰ゲームって扱いになってるんだよ……。

 

 

「はい、隙あり」

「おい秋葉!? や、やば……」

「ほら零君、ことりとたくさん夜を過ごした時のことを思い出してみて……ね?」

「お兄様、欲望に任せて私たちに至るところを舐めるよう命令した時のこと、思い返してください」

「気持ちよかったでしょ? おにーちゃん♪」

 

 

 くっ、コイツらあの手この手で俺の性欲を高ぶらせようとしてきやがる。考えまいとしても逆に妄想が捗ってしまうのが人間というもの。俺の脳内には彼女たちとの背徳的な情事シーンが次々と浮かび上がってくる。そのシーン1つ1つが自慰行為のネタになるくらいは濃密で、思い出すだけでもムラっけが湧いて来た。

 

 なるほど、コイツらが味わったのはこの感覚か。いや、下着を濡らすくらいだから腕輪の威力は計り知れなかっただろう。俺も遂にもがき苦しむ時が来るのか――――――って、あれ?

 

 

「何をその平気そうな顔は。零、アンタ何も感じないの?」

「あぁ、全く」

「おかしいですね。零と言えば性の権化と言える存在。そんなあなたが何も感じないなんて……」

「俺を蔑むのはいいが、そんな俺と付き合ってるのはお前だからな……」

「も、もしかして零くん……勃起不全?」

「ちげぇよ! 人並みに性欲あるわ!」

 

 

 もしかしてこれって女の子にしか効果がないのか? だが秋葉がそんなミスをするとは思えない。まぁ女の子が恥辱に苦しむ様を見る方がAV的にも絵になるし、これでも何ら問題はないが。

 

 

「ふむふむ、なるほどねぇ……」

「ん? お前のミスじゃないのか?」

「私がそんなミスするわけないじゃん。これはね、零君の性欲がブレスレットの魔力を凌駕し過ぎてるんだよ。そもそもあなたの性欲が元々大き過ぎるせいで、魔力で性の感情を増幅させるも何もないってことだね。つまり、零君の存在自体が犯罪ってことだね」

「零くん……」

「おいことりが引いてるんだけど!? コイツに引かれるくらいの性欲してるってこと俺!?」

「そういうこと! やっぱり零君と一緒にいると実験が捗るね。こんな想定外の事態に出くわすなんて研究者として楽しいのなんのって! よしっ、それじゃあこのブレスレットの改良に取り掛かるからみんなまたね♪」

「ちょっ、おいっ! 行っちゃった――――って、お前らドン引きするのやめろ!!」

 

 

 俺の無尽蔵たる性欲の強さを前にことりたちは一歩ずつ俺から離れていく。あれだけコイツらの性の乱れに文句を言っておきながら、当の本人が一番不潔だったんだからそりゃこうもなるのは仕方ないけどさ……。

 

 あぁなるほど、これが俺への罰ゲームってことね……って、なんか理不尽!?

 




 虹ヶ咲のアニメのキャラデザ、普通に可愛くて今から期待が高まってます!
 この小説では既に零君との絡みがありますが、アニメを見ればまたキャラ1人1人の性格を熟知できると思うので、また違ったストーリーを展開できるかもしれません。
あと何気にあなたちゃん(高咲 侑)も可愛いので気になっていたり……

 とりあえず虹ヶ咲のアニメが始まるまでに400話に到達したいので、月末までには400話記念回を出せるよう努力します!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】A-RISE恋のクライシス

 なんだかんだ400話に到達です!
 そして今回は久々にA-RISE回ですが、ぶっちゃけ記念回と呼べるほど特別なネタではないです。
 その代わりアニメでもあまり描写されなかった彼女たちの女の子としてのキャラを見ていただければと思います。


 スクフェスが終わって数日後、UTXにて打ち上げパーティが行われていた。後夜祭自体はスクフェス最終日の夜にあったのだが、その頃にはみんな疲れ切っていて満足に楽しめなかった現状があったのだ。だからUTXは独自で打ち上げを主催し、自分のところのスクールアイドルたちを労わろうとしているのである。

 ちなみにUTX所属はマジモノのアイドルを養成しているため、スクールアイドルはA-RISE以外にもたくさんいる。そのことは知っていたのだが、こうして一堂に会しているところを見るとそれなりに数も多く圧巻だ。

 

 しかし、何故かスクールアイドルでも何でもなくUTXの関係者でもない俺まで呼ばれている。当初は面倒だから行く気はなかったのだが、ツバサたちに無理矢理連れ出され渋々足を運ぶことにした。関係者以外の人間は俺しかいないためかなり場違いでなので、今はホールの端っこで細々と飯を頬張っている。なんかこれ、スクフェスの前夜祭でも同じことをしていた気がするぞ……。

 

 

「零君まーたこんなところに隠れてる。せっかくみんなで集まってるんだし、もっとお話すればいいのに。初めて見る子たちもいっぱいいるでしょ?」

「ツバサ……。別に隠れてるつもりはねぇよ。騒がしいのは好きじゃないだけだ。それに誰とでもすぐ打ち解けられるほどのコミュ力はない」

「そんなこと言っちゃって、いつもみんなの中心にいるのはあなたの方なのに」

「なりたくてそうなってるわけじゃねぇ。アイツらが勝手に俺を巻き込むだけだ」

「みんなそれだけ零君のことが好きなんだよ」

「そうだといいけどな」

 

 

 ツバサは俺の隣に座り、皿に乗せた料理を食べながら俺を諭す。せっかく端っこで細々と飯を食ってたのに、誰よりも目立つコイツが来たら注目されちまうだろ……。正直UTXのスクールアイドルはそこまで知り合いがいないから、中々みんなの輪に入って行きづらい。豪華な打ち上げ会場だからなおさら萎縮してしまうんだよな……。

 

 

「そういや今回の打ち上げって金はどこから来てるんだ? あとから参加費を請求されないだろうな?」

「しないしない! UTXの本社に打ち上げをしたいって相談してみたら快くOKしてくれて、しかも費用も全部工面してくれたんだよ。太っ腹だよね」

「流石は天下のUTX、金あるな。どこぞの音ノ木坂や浦の星とは大違いだ」

「それみんなに言わないようにね……」

 

 

 UTX内の大きなホールを貸し切っての打ち上げ。しかも30人以上のスクールアイドル+余計な男1人の料理まで手配。やはりスクールアイドルからガチのアイドルを育成しているような大企業は違うな。UTXの主戦力でもあるA-RISEの頼みだから断れなかったってのもあるだろうが、それはそれでツバサたちの人望と権力に感服してしまう。

 

 

「実はUTXだけじゃなくて、スクフェスの本社も打ち上げに協力してくれてるんだよ。お菓子や飲み物もたくさん提供してくれたからね」

「お前らどれだけスクールアイドル界隈に力があるわけ? カリスマを通り越して独裁者になれるんじゃね?」

「零君は私たちのことを何だと思ってるのかな……」

 

 

 何気に俺とよく絡むスクールアイドルって、世間的に見たらかなりの有名人なんだよな。普段から脳内がお花畑だったり思考回路ラブホだったりする連中が多いから忘れてたよ。全国の女子高生からは羨望の目、メディアからは注目の的。俺はそんな子たちと毎日を過ごしている。そう思うと独占欲が満たされてちょっぴり気持ちいい。

 

 

「あれ~? ツバサちゃんってば零くんと密会中? いつもは奥手なのに今日は積極的だねぇ~♪」

「あ、あんじゅ!? これは零君が1人ぼっちだったから付き合ってあげているだけで……」

「その割に打ち上げの最初から彼の様子を窺い、1人になったタイミングを見計らっていたようだが?」

「英玲奈まで!? そ、そんなことは……」

「なんだお前、そんなに俺と飯を食いたかったのか?」

「そ、それは……」

 

 

 あんじゅと英玲奈にからかわれ、ツバサの顔が一気に赤くなる。羞恥を紛らわそうと自然と飯を食うペースを早くしているが、もはやその動作だけでも動揺していることが分かる。素直になれない恋する乙女は大変だねぇ。

 

 

「そういえば、どうして俺を呼んだんだ? UTXには何も協力してない気がするんだけど……」

「もう鈍いね零くんは。そんなのツバサちゃんが呼びたかったからに決まってるでしょ」

「あ゛っ、あぁああああああああっ!!」

「自分で誘うのは中々勇気が出ないから、打ち上げという後ろ盾を借りて君を誘ったんだ。それだけの苦労があってのことだから彼女をよろしく頼むよ」

「ちょっ、あ゛っ、ひゃっ……!!」

「ツバサの精神的ダメージが半端ないんだけど……」

「ツバサちゃんったら、零くんのことになると本当に可愛いんだから♪ いつも可愛いけど余計にね」

「うっ、うぅ……」

 

 

 普段はA-RISEのリーダーとして英玲奈とあんじゅを引っ張るツバサだが、こういった恋愛沙汰には弱いみたいだ。今も顔を真っ赤にして俺と目を合わせようともしない。いつもはステージに上がっているコイツの姿を見ることが多く、その時のコイツはまさに女神。からかわれただけで悶絶するような小心者とは到底思えない。これはファンには見せられないギャップだが、そういった一面を俺だけが見ることができるってのも優越感かな。

 

 

「つうかお前が俺のことをそこまで意識してくれているとは思わなかったよ」

「そりゃ私の周りの男の子なんて零君だけだし、色々お世話になってるし……」

「お前モテそうなのに誰とも付き合ったことないのか?」

「ツバサちゃんは小さい頃からアイドルとして有名だったから、高嶺の花すぎて近づく男すらいなかったんだよ」

「周りの男性はみんなツバサに憧れを抱くだけだっただろうからね。だからこそ君のような自分と対等に接してくれる男性に惹かれているんだ」

「ま、また知ったような口を利いて……」

 

 

 2人のツバサ煽りが止まらない。長年一緒にいただけのことはあり、彼女の心は完全に透けて見えているようだ。

 でもあまりコイツをイジメると羞恥心が爆発してしまいかねないので、ここらで助け舟を出しがてら話題を変えてやるとするか。

 

 

「さっきからやたら注目されてる気がするんだけど、俺ってそんなに有名人なのか? この会場に入ってからもやたら女の子たちに挨拶されたし」

「そりゃ零くんが手を出したスクールアイドルは確実に成長できるジンクスがあるんだから、是非ともお目にかかりたいって子が多いんだよ」

「マジで? 俺ってそんなにパワースポットなの?」

「μ'sやAqoursがその最たる例だろ? 言ってしまえば私たちだってそうだ。なんというか、君がいることで心の持ち方が違う……みたいな感じかな」

「それは俺に自分を見てもらいたいから頑張れるってことか?」

「そ、それは……」

「あっれ~? あれだけ私のことをからかってきたのに、英玲奈だって満更でもなさそうじゃん? 英玲奈が頑張る原動力は零君だったんだね~へぇ~」

「な゛っ!? そ、そりゃ彼には色々助けてもらったり、練習に付き合ってくれているから……」

 

 

 今度はツバサの逆襲が始まった。英玲奈は頬を染めながら後退りするが、ツバサはここぞとばかりに彼女を追い詰める。まあ自業自得というか何というか……。

 ツバサを救出するために話題を変えたのに、結局この騒動はまだ終わらない。本人たちが楽しそうなので別にいいのだが、どうやら話のネタの中心は俺のようなのでなんとかしなきゃという責任を感じてしまう。つうか当の本人がいる前で恋バナをされると、こっちもどう反応していいのか微妙なんだけど……。

 

 

「2人共あっさり恥ずかしがって可愛いんだから♪ アイドルなんだったら、もっと精神力を鍛えないとね」

「は、恥ずかしがってなどいない!! 彼がいる前でこんな話をされて迷惑しているだけだ」

「ホントにぃ~? 私知ってるんだから、今日の打ち上げに零くんが来てくれるってツバサちゃんから聞いた時、ほんのり笑みを浮かべていたこと。嬉しかったんでしょ?」

「ほら! やっぱり英玲奈も喜んでるじゃん!」

「それは来てくれないよりかは来てくれた方がいいと思って……」

「英玲奈ちゃんも零くん狙いだったとはねぇ~。これはツバサちゃんもうかうかしていられないよねぇ~」

「狙うだなんてそんなことは……」

 

 

 自分の心を見透かされ、見事に集中砲火を受けた英玲奈はあっという間に身を縮こまらせる。さっきまでツバサを煽っていた勢いはどこへやら、一転して崖っぷちに追い込まれてしまう。

 ていうか俺ってA-RISEの2人から狙われてんのか……。なんとなくそんな気がするのは分かってたけど、ここまで感情を露わされるのは初めてだから少し戸惑ってしまう。女の子からアプローチされることには慣れているが、コイツらはもはやスクールアイドルのようなアマチュアではなくガチのアイドルと言っても差し支えない存在だ。そんな高嶺の花たちに言い寄られると流石の俺でもビビらずにはいられない。

 

 

「そんなことを言ったらあんじゅだって、結構彼に連絡してるじゃないか。ライブの控室でも電話しているところをよく見るぞ」

「それは緊張を解すためであって、別に他意はないわよ?」

「なるほど、あんじゅにとっての緊張を解く方法が男の声を聞くことなんだね。へぇ~」

「だって零くんの声を聞くと安心するし、勇気をもらえるんだから仕方ないじゃない!」

「あんじゅも私たちと同じだよね?? 理由を付けて押し通ろうなんてそうはいかないから」

「そもそもそれでよく私たちをあれだけ煽れたな……。ライブ本番前に特定の男性の声を聞いて心を落ち着ける。そこに特別な感情がないわけがない。これは黒だな」

「も、もう2人共……」

 

 

 英玲奈の言う通り、確かにあんじゅは時々俺に電話を寄こしてくる。それもライブの前などイベントでの重要な場面でだ。彼女はいつも他人の恋愛沙汰ばかりに首を突っ込んでいるため自分の恋愛には興味がないと思っていたが、同じメンバーの2人は見抜かれていたらしい。そりゃ普通に考えて女が男に電話すること自体プライベートで起こらねぇもんな。それこそ特別な感情を持っていない限りではだ。

 

 

「零君に電話をしているあんじゅの声って、いつもの人の心を見透かしたようなミステリアスな雰囲気じゃなくて、しっかりと女の子だよね。上手く言えないけど」

「それって私が普段は女の子っぽくないってこと? ひっど~い!」

「そうじゃなくて、あんじゅも恋する乙女なんだなぁと思ってね」

「こ、恋とかそんなのじゃないんだけど……」

「そろそろ観念したらどうだ? 口では強がっているけど、君の顔はトマトのように真っ赤だぞ? それにいつものふわっとした口調にも余裕がなくなっているみたいだが」

「そうそう。これでめでたくA-RISE全員が零君のモノになっちゃったってことで」

「お前らはいいのかそれで……」

 

 

 なんかツバサが物凄い結論を叩き出したが、どうして俺の周りの女の子はみんな二股以上もOK思考なのか。俺を好きでいてくれる女の子をみんな幸せにしたいという勝手な発想、俺の持つそんな病原菌が感染してしまったのかもしれない。感染したらもれなく社会不適応になるその病気がとうとうA-RISEの奴らにまで浸食し始めた。まあそれに関しては俺に不利益はないため反省も後悔もしないわけだが。

 

 

「また相手にする女の子が増えるのか……。別に困らないけど俺の身体がもつか心配だ」

「零くん、もう私たちとの身体の関係を心配してるの? 相変わらずエッチだねぇ~」

「えぇっ!? さ、流石にそれは早すぎるというか何というか……」

「そりゃさ、可愛い女の子と付き合ってんのにエロいことを考えない男なんていないだろ。むしろ微塵も考えないのであればそれはそれで問題あると思うぞ? よく女の子の悩み事であるだろ、私をオンナとして見てくれないのかなぁって」

「君の言いたいことは分からなくもないが……。というか、μ'sのみんなともそういう関係だったりするのか? その……大人の関係って言えばいいのか……」

「そうだが何か?」

「複数の女の子に手を出していることを当然のように語ってるの、今思えば異常だよね……」

 

 

 μ'sのみんなとの関係はもう5年以上も続いているし、周りからも咎められていないのでもはや今更感がある。Aqoursの梨子からは唯一ツッコミを入れられたことはあったが、それも俺の巧みな話術によって半ば洗脳気味に納得させたこともあった。その関係を内緒にはしているのだが、A-RISEのように俺たちの事情を知っている奴らもいて、しかも暗黙的に認められているのがこれまた異常レベルを引き上げていた。

 

 

「しかしμ'sのみんなってとっても幸せそうだよね。たまに穂乃果とお出かけしたりするけど、ずっと零君の話ばかりしてるもん。可愛い女の子だったら見境のない最低男だっていうのに」

「そんな最低男を好きになったのはお前の方じゃないのか?」

「そ、そうだけど……。もし、もしだよ? 私とあなたが付き合ったとして、私も穂乃果みたいに笑顔になれるのかなぁって思っただけだから」

「なれる。俺は大切な人を絶対に悲しませたりはしない。今もこれからもずっと」

「やけに自信満々だな。聞けば今度はAqoursのみんなともいい関係になっているみたいじゃないか。ただでさえたくさんの女の子を抱え込んでいるのに、1人1人の笑顔を見ていられる余裕があるのか疑問だよ」

「それこそ愚問だ。だって俺だぞ? 天に選ばれた天才にできないことなんてねぇよ」

「凄いね、そこまで自分自身を持ち上げている人見たことないよ。でも零くんの良さはそこだし、その頼れる姿に私たちも惹かれちゃったのかもね」

「俺ほど女の子のことを考えてる男はいないぞ。惹きつけられて当然だ」

「そういうことをキメ顔で言わなければもっとカッコいいのに」

 

 

 自分に能力がないと思い込んで後ろ向きになるよりも、自分には何かをやり遂げる力があると思っていた方が自信に繋がる。自分に自信が持てればそれだけで前向きになれるし、周りの人からも好意的な目を向けられる。もちろん俺はその気持ちだけではなく、しっかりと結果を伴う男だ。だって俺だもん。どれだけの女の子がいようと幸せにできないはずがない。むしろ俺と1つになってくれるのであれば大歓迎だ。別にイキっていると言われてもいい、それが俺の人生の歩み方だから。

 

 

「そうだ、今度の休み俺の家に泊まりに来るか? 女の子と親睦を深める時は一晩を共にするのが毎回の定番なんだ。一緒に出かけたことはあるけど、泊りがけは今までなかったからさ」

「零君の家に!? それって自宅デート……?」

「そんな生温いものじゃないぞ。男の家に来るってならそれなりの覚悟をしてもらわないと。つまり下着の選別くらいはちゃんとやっとけってことだ」

「ちょっ、何をする気!?」

「あ、あくまで友人として泊まりに行くのではないのか!? いくらなんでも淫らな欲求が溜まり過ぎだぞ……」

「だから言ったろ、男1人が女3人を侍らせているのに何も起きないわけがねぇって。なぁあんじゅ?」

「そうだねぇ~いい下着を買わなくっちゃ!」

「あんじゅはのほほんとし過ぎなんだよ……」

 

 

 話の流れでお泊り会をすることになり、急遽A-RISEメンバーの襲来が確定した。高嶺の花とも言われたこの美人3人を自分の家で独占できるなんて、もはや支配欲が止まらなくなりそうだ。こういった背徳的感情が好きだったりするのが俺の欠点なのかもしれない。もう今更治す気はないけどさ。

 

 もちろん自分の欲を満たすためだけに企画したわけじゃない。この3人から初めて実感することができる好意を受け取ったんだ。最初はからかいからかわれつつの拙い告白だったけど、その気持ちを裏切るつもりはない。男として俺なりに彼女たちの想いに答えてあげるつもりだ。

 

 これから彼女たちとの関係がどう進展するかは分からないけど、これが最初の一歩なのかもしれないな。

 

 

「ツバサちゃんも下着を買いに行かないとね。いつもの子供っぽいおパンツじゃ色気ないでしょ?」

「あんじゅ!? それは誰にも言わないでって言ってるでしょ!?」

「零。済まないが聞かなかったことにしてあげてくれ」

「いや、逆に見てみたい」

「零君!?」

 

 

 うん、色んな意味で楽しいお泊り会になりそうだ。

 




 後編に続きそうな勢いですが1話完結です。A-RISEの面々にもいいキャラ付けができたと思っているので、また機会があったら零君との絡みを描いてみたいです。

 この小説も400話と長丁場ですが、次回からは虹ヶ咲のアニメと連動してしばらく虹ヶ咲中心のストーリーを描いて行こうと思っています。アニメによってキャラの理解も進むので、今までよりももっと魅力的に描けるかと。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

虹ヶ咲編
変態な彼はいつまでも変わらず


 虹ヶ咲のアニメが始まったので、今回からそれに便乗してしばらく虹ヶ咲メインのお話を投稿していこうと思います。

 虹ヶ咲のキャラと主人公は既にこれまでのお話で出会っているのでその前提で話は進みますが、初見の方でも違和感なく楽しめるように描いています。

 それでは、この話から読み始める方も今まで読んでくださっていた方もよろしくお願いします!


 スクールアイドル。μ'sやA-RISEを筆頭に社会現象とまでなったこのコンテンツは、今やオタク界隈だけでなく一般のメディアにまで進出するくらい大規模となった。企業や商品宣伝にスクールアイドルを起用するところも珍しくなく、普通に生きていれば毎日スクールアイドルの何かしらの情報に触れてしまうほどだ。当初は高校生の部活程度の扱いだったが、今では小学生から大学生など在学している者であればスクールアイドルと見なされ、その影響かグループの数も爆発的に増えた。だからこそこうしてスクールアイドルに触れることが日常となりえているのかもしれない。

 

 俺は今とある駅にいるのだが、360度どこを見渡してもスクールアイドル関連の広告ばかり。アニメやゲームの広告を潰すかの数であり、それだけでスクールアイドルの社会現象化が伝わってくる。しかもアイドルになるだけあって可愛い子ばかりでついつい目移りしてしまうため、企業としても宣伝にはうってつけの人材だろう。

 

 そんな俺はスクールアイドルとの付き合いが長い。今日はその長い付き合いの中でも比較的最近知り合った虹ヶ咲スクールアイドル同好会のみんなと会うことになっている。メンバー個々人とはそこそこ付き合いはあるものの、グループとしての付き合いはほとんどなく、練習風景も見たことがない。それどころかアイツらの学校にも行ったことがないので、今日は交流も兼ねて虹ヶ咲の学校にお邪魔することになった。

 

 ちなみに俺とアイツらの関係性は話すと長くなるが、まぁ最近久しぶりに再開した幼馴染程度だと思ってくれればそれでいい。俺は大学生でアイツらは高校生なので少し歳が離れていて最近までやや複雑な事情はあったが、今は何の柵もなく元通りになっているから問題はない。

 

 

 そんなことを考えながら虹ヶ咲行きの電車を待っているのだが、ホームにやたら人が多い。ここがオタクの聖地の最寄り駅ってこともあるが休日の混雑具合は本当にうんざりする。たった今電車が到着したのだが、こりゃ満員電車確定だな……。

 

 早速意気消沈しながらもドア近くを確保するため敢えて最後の方で電車に乗り込む。端っこなら満員電車でも少しは落ち着けると思った矢先、ツインテールの女の子が勢いよく飛び込んで来た。電車のドアが閉まりそうだったのでギリギリだったのは分かるが、あまりの勢いの良さに女の子の身体が俺に思いっきり密着する。しかも正面から抱き着くような体勢で……。

 

 

「ゴ、ゴメンなさい……」

「あ、あぁ……」

 

 

 よく見たらめちゃめちゃ美少女だこの子。背丈的に高校生くらいだろうか、ツインテールの髪だがその先っぽが緑に染められているのが特徴的だ。両手には明らかに駅周辺の店で買い物してきたであろう紙袋を持っており、上から除き見てみるとスクールアイドル関連のグッズがたくさん入っていた。いるんだよな、女の子でもスクールアイドルのファンってのは。μ'sの花陽やにこ、Aqoursの千歌がその典型的な例だ。

 

 そんなことよりも気になることが1つ。この子、そこそこ胸が大きい。ぶっちゃけ言ってしまうと密着し過ぎてさっきから電車が揺れるたびにこの子の胸が俺の身体に当たっている。中々いいモノをぶらさげていると感心しつつ、満員電車が故にどうにもできないこの状況にビビってもいた。本来なら役得としてこの楽園に浸るのが男なのだが、俺は過去に教育実習先のバス内で生徒に痴漢紛いなことをした結果、教育実習1日目から解雇されそうになったことがある。そのせいで素直にこの子の胸を堪能できないのが困りものだ。

 

 

「あ、あの……」

「ど、どうした?」

「ゴメンなさい。その、色々と……」

「別にいいよ、慣れてるし」

「え、慣れてる?」

「いやなんでもない……」

 

 

 あぶねぇあぶねぇ……思わず自分の経験を口走っちまうところだった。女の子とこうして触れ合うことには慣れているというか、()()()()()()()の女の子がたくさんいるので正面から抱き合うような状況は日常茶飯事だったりする。

 だけどやはり電車の中ってのが背徳感が増す。周りはもちろん人、人、人。どこで見られているのかも分からない。しかもお互いに動くことができないこの状況で女の子と抱き合うのがいかに背徳的か、分かる人には分かってもらえるだろう。普通に2人きりで抱きしめ合うのはロマンティックだけど、この状況は周りにバレるかもというスリルがあるため青姦に近いものを感じる。そのせいかは知らないが、久々に高校生の女の子に対して自分の欲求が高鳴っていた。満員電車内、胸の発育が合格ラインの美少女JKに仕方なく抱き着かれるこの状況。これを興奮せずにどこで興奮するって言うんだ。

 

 見てみれば、その子の顔はかなり赤くなっていた。どうやら彼女も自分の胸が俺に当たりまくっていることに気付いているらしい。俺と目を合わせようとせず、黙ったまま俯いている。その表情を見れば羞恥に悶えているのは火を見るよりも明らかであり、何か言いたげだがあまりの恥ずかしさに何も言えず唇をもじもじとさせていた。

 

 そんな可愛い姿を見てしまうと、少しちょっかいを出したくなるのが男の性というもの。もはやさっきまで痴漢に間違われるかとビビっていた気持ちはどこへやら、この子を辱めたいというサディスティックな思考で俺の脳内は埋め尽くされていた。元々そういったイタズラプレイが好きなんでね、仕方ないね。

 

 

「ひゃ……っ!!」

 

 

 電車が揺れた反動を利用して彼女を俺へ引き付けてみた。いきなり身体を触られたからか声を上げそうになるが、周りに人がいることもあり必死に声を抑えているようだ。もちろんここで叫ばれればアウトなのだが、叫んだところで逃げ場がないのでここで泣き寝入りする女の子は多いと聞く。そうなると痴漢からすれば絶好のカモになるので、女の子側は怖くても助けを求めた方がいいぞ。痴漢側が言えたことじゃないけどな。

 

 

「両手に荷物を持ってたら体勢整えられないだろ。だからもっと寄り掛かっていいんだぞ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 なんだろう、特に嫌悪感を示してはいないようだ。それどころか恥ずかしがっていた表情が徐々に溶けて、妙に安心感を覚えているようにも見える。ちょっとイタズラをするつもりだったのだが、逆に自分を守ってくれた優男と勘違いされてしまったとか……? いや嬉しいんだけど、嬉しいけどそう思われると俺の痴漢精神が廃るというか、このままではプライドが傷つけられる。今まで幾多の女の子と触れ合ってきた故のテクニックがあるのに、それで安心されるだけってのはどうも癪だ。危険だけどもうちょっと過激にしてみるかとか考えているあたり、やっぱ俺って度し難い変態だって思うよ。

 

 

「ひぃ……っ!!」

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫……です」

 

 

 電車の揺れを利用し、今度は腰に手を回す形で彼女を引き寄せる。やや強引だったがあからさまに密着度が増えたためか、今回はしっかり恥ずかしがってくれている。そうそう、俺は女の子のこの表情が見たいんだよ。女の子で一番好きな表情が『笑顔』、次点で『羞恥』だ。性的なことに辱められるその姿は何度見ても飽きない。たくさんの女の子と関係を持っているのもこういうことが合法的にできるからだ。客観的に見なくても最低だけどそれでいい、だって男だもん。

 

 さっきよりも一層の密着展開となったためか、彼女の体温から香り、胸の柔らかさまでダイレクトに伝わってくる。僅かだが鼓動の音まで感じるため、俺たちがどれだけ近いのか分かってもらえるだろう。近すぎて逆に彼女の表情は見えづらくなったが、耳まで赤くなっているところを見るに羞恥心の限界に来ているのは間違いなさそうだ。

 

 それからしばらく電車に揺られながらこの体勢を維持していたが、残念なことに降車駅に着いてしまった。久しぶりに思い出した青春の時のような淫らながらも高揚する欲求。それを感じさせてくれたこの子には感謝だな。

 

 

 引き寄せていた身体を離してあげて電車を降りたのだが、なんとその子も俺と並ぶ形で降りた。まさかの同じ降車駅で驚いたが、これは流石に気まずい。さっきまで身体でコミュニケーションを取っていたとは言え、この子は初対面で名前も知らない。駅員の声や電車の音、乗車客の話し声などで周りは賑やかなのだが、俺たちの間には何とも言えない気まずさが漂っていた。

 

 

「あ、あの、さっきはありがとうございました。正直お兄さんが支えてくれなかったら倒れちゃったかもしれないので……」

「い、いや、別にいいよ。彼女に対してよくやってることだから」

「女の人をさりげなく守るなんて、お兄さんいい彼氏さんですね」

「普通だろそんなこと」

 

 

 意外や意外、辱めを受けたから逃げると思っていたのに普通に話しかけてきやがった。それにあんなことをした俺を優しいだなんて、やっぱり自分の身体を支えてくれた優しい兄ちゃんと思われていたらしい。こうなるんだったらもっと激しく触ってやりゃよかったよ。もはやこの子とではなく自分との戦いになっている気もするが。

 

 

「そうだ、お礼させてください!」

「はぁ? いきなりどうした??」

「お兄さんに抱き寄せられた時、ちょっといいなって思ったんです。だから少しお茶でもと……」

 

 

 マ、マジで!? 今時のJKってこんなに簡単に堕ちちゃうの!? 逆ナンにしても唐突な気もするし……。確かに結果だけを見ればこの子を助けたことにはなるだろうが、俺自身に邪な気持ちがあったせいでどうも複雑だ。だけどこれは結果オーライと捉えてこの子に惚れられた方がいいのかもしれない。それともこれは新手の詐欺か売春で、俺から金をむしり取ろうとしているとか……?

 

 何の関りもない子なのでこのままとんずらすればそれっきりなのだが、もしかしたら今向けられているのは本気の好意である可能性もある。だったらここはホイホイと釣られてみよう。もし怪しい勧誘や売春目的だったら逆にこっちが闇を暴いてやればいい。

 

 

「分かった。でも待ち合わせの時間があるから少しだけな」

「やった! とは言っても私も待ち合わせがあるんですけどね。でもパパっと終わりますよ」

「誘われている身でアレだけど、お礼なのにそんな適当でいいのか……」

「大丈夫です、多分お茶くらいは出るんで」

「多分って、一体どこへ行こうとしてんだ……」

 

 

 そんな感じで電車内の雰囲気とは比べ物にならないくらいお互いにフランクになりながら、彼女の先導で駅構内を進んでいく。

 このまま外にある喫茶店にでも行くと思ったら、まだ構内なのに彼女は足を止めた。構内にも喫茶店はあるのでそこに入るのかと思ったが、周りにはそんな店らしいものはない。

 

 

「着きましたよ」

「着いたって、店なんてねぇじゃねぇか」

「ここですよここ。お兄さんを連れて行きたかった場所です」

「ここって、駅員室……って、まさか!?」

「駅員さーーーん! ここに痴漢がいまーーーむぐっ!?」

「バカかお前!? なに叫んでんだ!?」

「むぐ、うぐっ……」

 

 

 俺は咄嗟に手で彼女の口を封じる。幸いなことに誰にも気付かれてはいないようだ。

 今何が起こった……? 俺は彼女を守ったお礼をされるはずだったのに、いつのまにか罪を暴露されそうになっている。さっきまであんなに交遊的だったのに、まさか最初からこのつもりで……!?

 

 

「お前、まさかハメやがったな……」

「ぷはっ! そりゃまぁあんなに鼻の下を伸ばされたら誰でも勘付きますって。最初は電車を降りた瞬間に叫ぶつもりでしたけど、お兄さんイケメンだし、もうちょっと一緒にいたいなぁと思って少々イタズラをしちゃいました♪」

「そんな軽いノリで人の人生を終わらせようとすんな! 心臓止まるかと思ったぞ……」

「アハハ、仕返しですよ仕返し♪ ここならお茶も出してくれるし、私が痴漢って叫べばお兄さんの逮捕までパパっと終わりますからね」

「さっきの意味深なセリフはそういうことだったのか……」

 

 

 見知らぬ男に対してトラップを仕掛けつつ見事に誘導してみせるとは、俺が思っていた以上にやんちゃガールだ。電車内では顔を赤くし俯くばかりでしおらしかったから完全に騙された。初対面の女の子に手を出したのは久々だけど、女の子からここまでしてやられるのも久々だ。これは大人の男を煽ったら怖いということを成熟途中の身体に分からせる時が来たのかもな……。

 

 

「そういえばお兄さん、お名前は?」

「おい、それを知ってどうするつもりだ? 名前を叫びながら駅長室に飛び込むつもりじゃねぇだろうな……?」

「別にそんなことはしないですよ! 多分」

「今の小声聞こえてたぞ!? そもそも相手に名を聞くのならまずは自分からだろ」

高咲(たかさき)(ゆう)です!」

「何の躊躇もないな……。それはレンタル彼女としての名前か? それとも売春目的の偽名かどっちだ?」

「本名ですよ! 私どれだけ信頼されてないんですか……」

「そりゃ意気揚々と罠にかけてきた女を警戒しないわけねぇだろ……」

 

 

 先っちょ緑のツインテ少女、高咲侑。反応を見るにどうやらその名前に嘘はないようだ。あまりにも鮮やかに俺を罠に嵌めたので、そのような手口に慣れているのかと思ったぞ。普段から適当な男を引っ掛けて金を搾取するだけして後はポイ。コイツの愛嬌のある顔と凹凸が目立つ身体付きならばそれが可能なのが怖いところ。初対面の男に対してのコミュニケーション力も高いので、もしコイツが本気で演技をしたら騙される奴は多そうだ。

 

 それにしても、このままやられっぱなしなのは癪だ。いや最初に手を出したのは俺だけども、それでも女の子に上位マウントを取られるのは俺のプライドが許さない。高咲の警戒心もかなり薄れているようだし、ここは――――――

 

 

「あっ、そろそろ待ち合わせの時間なのでここで失礼しますね。お兄さんの慌てる姿、結構可愛かったですよ♪」

「逃がすと思うか?」

「えっ――――きゃっ!」

 

 

 いわゆる壁ドン。俺は駅長室から死角になる位置に高咲を連れ込むと、そのまま壁に追い込んだ。俺を無害だと思って完全に安心しきっていたようで、力づくで無理矢理追い詰められたことでかなり動揺しているみたいだ。それでいて、顔は電車内の時と同じくらいに紅に染まっていた。

 

 

「あ、あの……」

「あまり男を嘗めない方がいい。こうやって分からされるぞ。傍から見たら公衆の面前でイチャつく迷惑カップルにしか見えないだろうけど」

「い、今私が大声を出したらどうなると思います……?」

「助けが来る前にお前の純潔がどうなると思う?」

「ち、近い……」

 

 

 高咲は耳まで顔を沸騰させながら俺から目を逸らす。表情もいい感じに蕩けており、大声を出すだの何だの言いながらも抵抗する気はないようだ。彼女は小さく吐息をしながら平静を保っているようだが、そこで更に顔を近付けてみるとその息も荒くなる。逃げようにも俺と壁に挟まれて逃げようがないため彼女は俺にされるがままだった。

 

 ま、このくらいで勘弁しておいてやるか。駅の通路から死角にはなっているもののいつ誰に見つかるかも分からないので、そろそろ解放してやろう。

 

 

「これに懲りたら俺を煽るような真似はすんなってことだな」

「あっ……」

「なんだ? もしかして離れて欲しくないのか? 流石にそれはないか」

「え、あ、その……」

「…………?」

 

 

 

 

「ふ、二人共、そんなところで何をしているんですか!?」

 

 

 

 

「な゛っ……!?」

 

 

 ヤバい、誰かに見つかった!! ここはもっと近づいて迷惑カップルアピールをした方がいいのか?? だが高咲が便乗してくれるかも謎だし、さっきから言葉もまともに発せられていないのでコイツに余裕がないことは確かだ。とりあえず彼女か離れてみたが、未だ誤解されているこの状況を怪しまれずに打破するには――――って、あれ?

 

 

「歩夢?」

「えっ、歩夢?」

「「えっ……?」」

 

 

 俺と高咲は同時に同じ名前を口走り、そしてお互いに顔を見合わせる。歩夢を知っていてこの駅で待ち合わせって俺と全く同じなのだが、まさかコイツの待ち合わせ相手って――――

 

 

「どうして零さんと侑ちゃんが一緒にいるんですか? それにこんな端っこでお互いに抱き合って……もしかして、そういう関係!?」

「ち、違うよ歩夢! お兄さんとはさっき会ったばかりで――――って、零さん? もしかしてお兄さんの名前って……」

神崎(かんざき)(れい)。それが俺の名だ」

「あなたが零さん……へぇ~」

「なんだ? 何かおかしいか?」

「歩夢がよくお兄さんのことを話してるんですよ。歩夢が好きな人ですよね?」

「ちょっと侑ちゃん!?」

「ですよねって俺に聞くなよ……」

 

 

 俺が待ち合わせをしていた相手の友達らしき女の子が痴漢の相手だったとはまさにミラクル。そしてノリで自分の名前を明かしてしまったが、どうやら歩夢を通じて俺の名前だけは知っていたらしい。そのせいで早速歩夢がイジられている気もするが……。

 

 

「てかお前は歩夢の友達か何か?」

「幼馴染なんですよ私たち。私の名前を聞いても反応がなかったので、歩夢から聞いてなかったんですね」

「あぁ。そもそもプライベートで話し込んだことがまだ少ないからな」

「なるほど。つまり、その少ない時間で歩夢は零さんにかまけてばかりだったと。ま、好きな人の前だったら仕方ないよねぇ~。幼馴染の話なんてしないよねぇ~」

「ニヤニヤしながらこっち見ないでよ侑ちゃん!!」

 

 

 分かってはいたが、歩夢の落ち着いたキャラとは対照的に高崎はややS気味のキャラなのかもしれない。だが仲の良さは今のやり取りからでも伝わってくるので、高咲が歩夢を引っ張りながらも支えている関係なのだろう。

 

 

「もうっ、今日は零さんに虹ヶ咲の学校を案内する予定なんだから、こんなところで遊んでいられないの!」

「ゴメンゴメン! でも歩夢の想い人さんとあんな出会い方をしちゃうなんてなぁ~」

「まだやるの!? ほらもう行こ!」

「はいはい♪」

 

 

 高咲の奴、さっきしれっと俺たちが痴漢によって出会ったことを暴露しかけなかったか……? 別に歩夢に話される分にはいいのだが、今後それをネタに歩夢がイジられるとなると少し申し訳なくなってくる。以前からこういった関係っぽいので今更止めようがないけど、俺と高咲が出会ったことで歩夢がより一層煽られることになるな。南無阿弥陀仏……。

 

 すると、前を歩く高咲がこちらを振り向いて小声で話しかけてきた。

 

 

「安心してください、誰にも言いませんから」

「そう安々と信用すると思うか……?」

「大丈夫です。だっていっぱいドキドキしましたし、それに……たくさんときめいちゃいましたから。これは私の中だけに留めておきます。歩夢には悪いですけど、独り占めですね♪」

 

 

 屈託のない笑顔。不覚にもその笑顔に見惚れてしまった。

 高咲はそれ以上は何も言わず歩夢と並んで先を歩く。ここまで心を動かされるとまたしてやられたと敗北を感じるものの、今回はまぁいっかと許してしまうくらいには俺の心も穏やかだ。やっぱり女の子の笑顔にはいつまで経っても敵わないよ。

 

 

 そんな感じで新たな出会いがあった。もう幾度となく女の子たちと出会い関係を築き上げてきたが、俺の人生はこの期に及んでまだ俺を満足させ足りないらしい。

 

 そう、ここからまた新しい物語が始まろうとしていた。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 虹ヶ咲メイン章の1話目なのにメンバーじゃないのかよってツッコミはなしで(笑)
 アニメを見た時に高咲侑がかなり好みのキャラ&デザインだったため、思い切って今回メインで登場させちゃいました! アニメを見る限りでは押しが強そうな子だったので、この小説ではその部分を強調させてみましたがいかがでしょうか? 
 個人的には可愛く描けたと思うので、また個別のメイン回をやってあげたいです。


 投稿に関してですが、これから虹ヶ咲のアニメをやっている期間は定期的に投稿していくつもりです。全盛期のようなハイペースは無理ですが、気長に応援していただけると嬉しいです。
 基本的にはアニメ展開に沿ったりはしないので、アニメでキャラの特徴を捉えつつ、この小説でその魅力を引き出していこうと思います。なのでキャラの個人回が多めになりそうです。



 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界一の可愛いと世界一の黒歴史

 虹ヶ咲のアニメ2話、キャラの作画もいいし可愛く描かれてるので普通に満足しました!
 というわけで今回はアニメ最新話でもメインだった彼女が登場です。


 駅で何だかんだありつつも、その後は高咲から何かを仕掛けてくることもなく無難に虹ヶ咲の学校へと向かっていた。

 別に自分のしでかしたことに対して後悔も反省もないのだが、こうも水に流されると拍子抜けだ。電車内で散々セクハラされたっていうのに今ではこっちに笑顔を向けることが多い。それは高咲が寛容なのか、それとも俺が魅力的過ぎてセクハラされたことが逆にステータスになっているのか。でも今までは痴漢行為に対して厳粛な対応を取ってきた奴らばかりなので、ここまでさっぱりされると逆に反応に困っちまうんだよな……。まぁ痴漢魔を淘汰するのが普通の流れなんだけれども。

 

 

「あのぉ……」

「ん? どうした高咲?」

「さっきからお兄さんの目線がグサグサ突き刺さっているのを感じるんですけど、また私に何かしようとしてます?」

「目の前で女の子がケツ振って歩いてたらそりゃ……な?」

「もうっ、私ばかり見てたらダメですよ。歩夢が嫉妬しちゃいますから」

「ゆ、侑ちゃん!? まだ続けるのそのくだり!?」

「大丈夫、歩夢のことしっかりアピールしてあげるから♪」

「だから本人がいる前でする話題じゃねぇだろって……」

 

 

 このように、俺のセクハラ紛いの発言に対して高咲侑は動じない。それどころかその発言に乗っかりつつ会話を広げてきやがる。心が広いのか淫猥ネタに慣れているのかは知らないが、俺が今までに出会ったことのないタイプの女の子だ。もう数えきれないくらいの女の子と出会ってきたけど、まだ自分の知らないキャラの子とエンカウントできるなんて飽きねぇな、俺の人生は。

 

 

「零さん見えてきましたよ! あれが私たちの通う学校、虹ヶ咲学園です!」

「あれが――――って、でけぇ!?」

 

 

 あまりにも語彙力のない感想が出てしまったが、本当にそう思ったんだから仕方がない。自分が通っていた音ノ木坂や教育実習に行っていた浦の星が割と古風の学校だったため、一流大学のキャンパス並みのデカさを持つ学校に驚くのも無理はないだろう。建物の立派さで言えばUTX、いやそれ以上かもしれない。高校だけど様々な専門学科もあるらしいのでこれだけ巨大な建物を構えるのも納得できるが、実際に目の前にしてみるとその雄大さがよく分かる。なんかここまで通っている学校の面構えが違うと、それほど歳が離れてないのに歩夢たちとのジェネレーションギャップを感じるよ……。

 

 遠くから見てその反応なので、次第に歩を進めて近づくほど俺の通っていたちんけな学校との差を実感する。校庭がもはや街並みにような造形でちょっとした近未来感がある。綺麗な噴水、手入れされた草木、しっかり補装された道。もはや観光施設に来ているかのようだ。

 

 

「お兄さんどうしたんですかさっきからキョロキョロして? まさかウチの学校の女の子を狙ってるんですか?」

「ちげぇよ!! 高咲お前、俺を何だと思ってるわけ?」

「ド変態のセクハラ野郎に決まってます♪」

「笑顔で言うことではないよな……」

「さっき私に散々あんなことして、もう次の女の子に乗り換えようとしているんですか? あ~あ、私とは遊びだったのかぁ~」

「あんなことってなに!? やっぱりあの時2人が抱き合っていたのって何か意味があったの!?」

「落ち着け歩夢。お前が思っているようなことはない」

「そうそう。ちょっと女の子の本能を目覚めさせられただけだから」

「お前、そろそろ黙らないとまた分からせてやるぞ……?」

 

 

 どうも高咲の人に対する煽り能力は相当高いようだ。それに俺がそうやって脅しても笑みを崩さないあたり強固な精神力を持っている。ちょっとしたことでも羞恥心を感じる歩夢とは正反対だな。その対照的なのが幼馴染が故なのかもしれないが。

 

 ちなみに高咲が言っていたこの学校の女の子を狙っているのかという質問に付いてだが、狙ってはいないが品定めはしている。やはりいい学校に通っている女の子は容姿のレベルも高い。敷地内を歩いているだけでも次から次へと可愛い女の子とすれ違うため、それだけでもここへ来た価値がある。むしろいい女の子を見繕ったのでもう帰ってもいいくらいだ。

 

 

「あーーーっはっはっは!! 遂にやってきましたね、世界一可愛いかすみんの居城に!!」

 

 

「あん……?」

 

 

 耳障りな声が聞こえてきたので見上げてみると、近くの高台に中須かすみが腕を組みながら仁王立ちで俺たちを見下ろしていた。華奢で小柄な身体の彼女だが、今の状況に加え無駄に張りのある声と鬱陶しいくらいに大きい態度のせいでそれなりに貫禄はある。だがよく見ればちんちくりんだし胸は控えめ、あまりにも小物感満載で感じた貫禄はすぐに消え去った。

 

 それに、俺にはもっと注目すべき部分が――――

 

 

「パンツ見えてるぞ」

「ひゃっ!? ヘ、ヘンタイ!!」

「そんな短いスカート履いて高台に昇ればそりゃ見えるだろ……」

 

 

 最近の若者っぽくスカートの丈を短くしているのが仇になったな。ていうか短くなくてもそんな高いところにいたらスケバンが履くようなロングでない限り見え見えだっつうの。もちろん男からすれば眼福だが、パンツのチラ見えはたまたま見えるからいいのであってあからさまに露出されるとなんか違う。女の子の水着と下着は同じ形状だが、目にした時の興奮具合は普段見られない下着の方が圧倒的だってのがいい例だな。

 

 かすみは早々に高台で威張るのをやめ、スカートを抑えながらそそくさと降りてきた。

 そして俺に詰め寄ると、全く怖くないツリ目で俺を睨む。頬がじんわりと紅くなっているので恥ずかしさは隠せていないようだが、下手にあしらったら根に持って永遠と粘着されるので仕方なく反応してやる。

 

 

「責任……取ってください。女の子の下着を見る、それすなわち零さんがかすみんと添い遂げるってことです」

「そんなことしなくても、お前となら別にいいけどな」

「ふぇっ!? そ、それはその……えへへ、ありがとうございます」

「そのためにはお前がもう少し大きくなってからだ。あっさりとデレるなんて相変わらずチョロい奴」

「むっきぃ~~っ!! からかいましたね、かすみんのこと!!」

 

 

 あまりにも簡単に堕ちるものだからこっちも張り合いがない。コイツの小物感は拭えないけど、可愛さを一途に求めるのは並の女の子では恥ずかしくてできないことなので素直に凄いと思っている。だからこそさっき一瞬デレた時の緩んだ表情が可愛かったわけだが。でもからかった時の反応が良すぎるから思わずイジめたくなっちゃうんだよな。素直に好意を伝えても可愛い反応を見られるし、からかってもいい表情が見られる。小生意気なところも相まって後輩キャラとしては100点満点だ。

 

 

「かすみちゃんはどうしてここに? てっきり部室にいると思ってたけど……みんなは?」

「皆さんは他の部活だったり用事だったりがあるらしいので一旦解散しました。それにしても歩夢先輩! どうして零さんが来ることを黙ってたんですか!?」

「ゴ、ゴメン! プチドッキリしてみようかなぁ~なんて」

「いいですか歩夢先輩。かすみんたちに必要なのはそんなバラエティ要素じゃなくてアイドル要素です。あまりエンタメ能力を増やすと、それこそ身体を張ったバラエティ番組の出演オファーばかり来てしまいますよ! 熱々のお鍋の具を食べさせられたり、顔にパイを投げつけられたり、そんな散々な目には遭いたくないでしょう? だからこそスクールアイドルは清楚でお淑やかであり、野蛮なドッキリなんてしちゃいけないのです!」

「そ、そうなんだ。スクールアイドルってそこまで見据えないといけないんだね……」

「アイドルの極意を教えてあげたんです。かすみんを褒めてもいいんですよ? ほらほら!」

「いや歩夢騙されちゃダメだからね。かすみちゃんの数々のイタズラに清楚もお淑やかもないから」

「もうっ、カッコよくキメているんですから侑先輩は黙っていてください!!」

 

 

 テンポいいなコイツらの会話。その会話だけでも日常的にこのようなやり取りが行われていると分かる。俺の知らないところで繰り広げられる女の子たちのほのぼのとした日常を垣間見るのは個人的に好きだったりするんだよ。早速かすみは揚げ足を取られてしまっているが、それもいつも通りだろう。

 

 

「ところで、零さんはどうしてここに? もしかして世界一可愛いかすみんのお迎えに来たんですか!? いやぁ~わざわざ私のためにご足労いただけるとは、かすみんってなんて罪な女……」

「いや私が呼んだんだよ。零さんに私たちの学校を案内しようと思って」

「むぅ……。零さん、私の呼び出しには応じないのに歩夢先輩の呼び出しには簡単に釣られるんですね……」

「そりゃお前に呼び出されてもロクなことにならないからに決まってるだろ。既読スルー安定だ」

「ヒドイ!? それだとかすみんポイントが溜まるどころか下がっちゃいますよ!! かすみんルートに行けなくなったらどうするんですか!?」

「勝手に俺の人生を決めるな。それに俺が取るルートは全員幸せの大団円ルートだから」

「ハーレムルートってやつですか。それを堂々と宣言するのもそれはそれでどうかと思いますが……」

「それが俺なんだ、諦めろ」

 

 

 俺と男女の関係を持った女の子は俺に幸せにされる義務がある。それがスクールアイドルだったとしても、特に肩書のない子だったとしても、肉親であっても女性なら誰だろうと関係ない。むしろ俺の懐が女の子1人で満たされるはずがない。だからこそいきなり出会った高咲にあんなことをしてしまったのだが、それでコイツと仲良くなったんだから結果オーライだ。

 

 

「ねぇ歩夢。薄々勘付いてたんだけど、お兄さんって相当な肉食系だよね。超自信家だし、オラオラ系っていうか……」

「あはは、確かに間違ってはないかも……。女性の知り合いとかたくさんいるからね。ほら、あのμ'sとかA-RISEとか」

「えっ、あの伝説と呼ばれたスクールアイドルの人たちと!? 大学生に良くいるようなウェイ系の陽キャだと思ってたけど、私の想像以上だった……」

「でもでも、女性に対して優しいし、自分のことより私たちのことを一番に考えてくれてたり、私たちを身を挺して助けてくれたこととかあるし、その他にもいいところはいっぱいあるんだよ!」

「はいはい分かってる分かってる。歩夢いつも嬉しそうにお兄さんこと話すもんね。私が満腹でも詰め込むような勢いでさ」

「そ、そんなに食い気味に喋ってるの私……?」

「そりゃもうお兄さんへの愛を感じざるを得ないよね。お兄さんとは今日知り合ったばかりなのに、なんか初めて会った気がしなかったもん。それだけ歩夢の愛が籠ったお話が凄かったってことだね♪」

「もうそれ以上はやめてぇぇええええ!!」

 

 

 また歩夢が顔を真っ赤にして悶えてやがる。今日会った時から赤くなってない時間の方がないくらいだ。高咲にここまでイジられるなんて今までどれだけ嬉々として俺のことを話してたんだか。俺の魅力を別の女の子に叩き込んでくれるのは大いに結構だけどさ。

 

 

「ていうか、かすみちゃんもお兄さんのこと好きなの?」

「はいっ! ていうか零さんもかすみんのことを虎視眈々と狙っているので、実質両想いですけどね!」

「好きな奴をストーカーしてるみたいな言い方やめろ……」

「歩夢もお兄さんのことを狙っていて、かすみちゃんも狙っている。二股?」

「どうしてこっちを見る……。別に同じ奴を好きになるくらいまでは普通にセーフだろ」

「いやぁ同じグループ内にライバルがいて歩夢も大変だなぁと思って。かすみちゃんは歩夢にとってスクールアイドルのライバルでもあり、恋のライバルでもあるってことだ」

「そ、そんな別に私はかすみちゃんのことは……」

「べ、別にって……。つまりかすみんのことは眼中にないってことですか!? ぐぬぬ、確かに歩夢先輩は清楚系で可愛いですけど……」

「いやそういうことじゃなくてね!?」

 

 

 そういや虹ヶ咲のスクールアイドルって、同じグループでありつつもメンバーはライバル同士なんだっけ。グループとして活動をするから仲間意識は当然強いけど、個々として社会展開することもあるからかすみが狙っているのは恐らくそこなんだろう。だから己の可愛さで歩夢たちと張り合っているのかもしれない。それに対して歩夢はそれほど対抗意識はなく、それは他のメンバーだってそうだ。お互いに切磋琢磨して頑張る意識の方が強いのか、それともかすみのマウントを取りたい意欲が強すぎるだけなのか……。

 

 

「こうなったら、歩夢先輩とはここで決着を着ける必要がありそうですね。最初から分かっていたんですよ、歩夢先輩が一番の強敵になるって」

「どうしてそうなるの!? ゆ、侑ちゃぁ~ん……」

「なんか面白い展開になってきたね! どっちも頑張れ~!」

「完全に野次馬!?」

「ということで歩夢先輩、覚悟してください!」

「えぇ……」

 

 

 突如として勃発したメンバー間対決。争いを好まない温和な歩夢は既にこのノリに取り残されているが、かすみと高咲のハイテンションに巻き込まれた以上もう後には引けない。なんか普段から歩夢が苦労してそうなのが伝わってきて同情するよ……。

 

 

「そもそもこの勝負、かすみんの勝利は決まっています。なんたって歩夢先輩が泣いて白旗を上げるような黒歴史を知っているんですから!」

「な、なにそれ!?」

「そんなのあったかなぁ~? お兄さんじゃあるまいし、あの歩夢が人に見られて恥ずかしいことをするとは思えないんだけど」

「お前事あるごとに俺に喧嘩を売ってくるよな……」

「そりゃ逃げ場のない中で乙女の純潔な身体をめちゃくちゃにしたじゃないですか。普通なら慰謝料案件ですよ?」

「お前そのあと自分でドキドキしたって言ってたじゃねぇか。ときめきって奴を感じさせてやったんだからむしろ感謝して欲しいくらいだ」

「やっぱり肉食系でオラオラ系だ。そういう男性、私は好きですよ?」

「そこっ、何をイチャイチャしてるんですか!? もしかして侑先輩もライバルですか? だったらとっとと歩夢先輩を倒して、次は侑先輩ですからね!!」

「私、雑魚扱い!?」

 

 

 なんかどんどん話が広がっているが、高咲の言った好きって絶対に恋愛的な意味じゃないと思うぞ。それで俺をからかっているのかもしれないが、生憎女の子から伝えられる好意が恋愛的かそうでないなんて俺クラスになればすぐに分かる。むしろ高咲とはさっき会ったばかりなのにもう惚れられていたらそれはそれでチョロすぎるだろ。流石の俺でも女の子攻略のタイムアタックをそこまで大幅に更新することはできないぞ。

 

 

「歩夢先輩を速攻で倒す秘策はこれです。この動画を見てください!」

 

 

 かすみがスマホで1つの動画を再生する。そこには歩夢が映っていた。カメラに映ることに慣れていないのかかなり緊張しているようで、既にスクールアイドルとして活躍している今の彼女とは思えないくらいオドオドしている。動画内でかすみが自己紹介を勧めているので、どうやら個人の自己紹介動画を撮っているらしい。だが恥ずかしいのか声が小さすぎる。これだとお世辞にも外に出せるような動画ではないな。

 

 しかし動画内で歩夢はかすみに何か指摘された後、唐突に両手を頭に――――まるでウサギのようなポーズを取った。もちろんあり得ないくらいの羞恥に襲われ顔を真っ赤にして――――

 

 

『あ、歩夢だぴょん……』

『声が小さい! もう1回!』

『歩夢だぴょん!!』

『うさぴょんになり切って!!』

『うさぴょんだぴょん!!』

『ぴょんに気持ちが籠ってない!!』

『ぴょーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!』

 

 

 

「こ、これは……」

 

 

 確かにこれは黒歴史だ。下積み時代の動画は黒歴史とはよく言ったものだが、まさか歩夢も同じ道を辿っていたなんて。しかも割と可愛く様になっているのがこれまた反応しづらく、これが全然可愛くなければネタにもできたのだが……。

 

 

「か、かすみちゃん!! その動画消してなかったの!?」

「ふっふっふ、歩夢先輩と対決する時のために切り札を隠しておいたんですよ! どうですか自分の黒歴史を掘り返されるのは!!」

「消して!! 消してよぉ~~っ!!」

「ちょっ!? いきなりスマホを奪いに来るなんて、直接攻撃は反則ですよ!!」

「零さん見ないでください!!」

「いや見た後にそんな無茶言うなよ……」

「うわぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

「歩夢先輩が感情に支配された獣になって襲ってきます!! もう人間の心を失ってますよ!?」

 

 

 歩夢が喚きながらかすみを襲いスマホを奪取しようとする。歩夢は人間の言葉を発していないので、今のアイツはさながら野生動物。これまで黒歴史を刻むなんて人生を歩んでこなかったせいか、初の暴露話で人間としての心を失っているようだ。

 そしてかすみはこんなことになるとは想定もしておらず、ただ本能的に襲い掛かってくる歩夢から逃げ惑っている。まぁ歩夢の場合、過去の恥ずかしい自己紹介を掘り返されたらその場で降伏すると思うわな……。

 

 

「うわぁぁあ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「もう泣いてるのか怒ってるのか全く分かりませんけど!? 侑先輩は歩夢先輩の幼馴染なんですから慰めてあげてくださいよ!!」

「いやまぁ……自業自得だね。かすみちゃんにはピッタリの終わり方だよ♪」

「なんでそんなに嬉しそうなんですか!? 先輩ってそんなにドSでしたっけ!?」

「泣き喚いてる歩夢も自分の策に溺れて絶望するかすみちゃんも、どっちも可愛いなぁ♪ はっ、女の子をイジメたくなるお兄さんの気持ちが分かったかも!」

「いやそんな悟り開かなくていいから……」

 

 

 黒歴史に喘ぎながらかすみを追いかける歩夢と自業自得の化身であるかすみ。そしてその様子を見て微笑み(愉悦)を浮かべる高咲侑。女の子同士のじゃれあいと可愛く言ってしまえばそれまでだが、事情を知る者であればそれなりに地獄絵図だ。こんなノリでグループとしてのまとまりが取れているのが不思議だな……。

 

 

「分かりました! 今回は私の負けでいいですから!! だからゾンビみたいな声で襲ってくるのはやめてください!!」

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「どれだけ黒歴史なんですかこれ!? 分かりました動画消しますから!!」

 

 

「こうなった原因を突き詰めると、お兄さんが誰構わず女の子に手を出していたことが最大の要因ですよね?」

「なんだ唐突に。この状況になったのは俺のせいだと言いたいのか?」

「そう思ったらそろそろ止めてあげた方がいいんじゃないですかね?」

「いや、面白いからいいや」

「お兄さんも相当なドSさんですね」

「お前ほどじゃねぇけどな」

 

 

 そんな感じでかすみは敗北を認めたが、歩夢の嘆きはしばらく止むことはなかった。しかもその火種が元を辿ると俺ってそんなことは……あるかも? 俺は自分の黒歴史を暴露されることには慣れているが、慣れていないと歩夢みたいなことになるので羞恥心なんて持つもんじゃねぇな。完全に他人事だけど。

 

 

「でも可愛かったと思うぞ、うさぴょん」

「み、見ないでください!!」

「いやもう見ちまったし……」

「あ゛っ、あ゛ぁ……っ!!」

「歩夢が気絶した!? これはお兄さんのせいですからね」

「事実を言ったまでだ」

 

 

 その後、歩夢が回復するまで相当な時間を要した。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 せっかくアニメと並行して投稿しているので、アニメネタもちょいちょい拾っていくつもりです。なので最新話の閲覧前にアニメの最新話を見ておくとより楽しめると思います!

 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大好き!大好き!!大好き!!!

 虹ヶ咲のアニメを見るたびに好きなキャラが増えていくので、小説でもネタに困らないのが助かります(笑)

 というわけで今回は一応せつ菜回です。


 かすみに自身の黒歴史を晒され気絶していた歩夢だが、その後なんとか復活し俺への学校案内は再開された。とは言っても完全回復には至っておらず、度々過去の自分の自己紹介を思い出してはわなわなと震えている。コイツのことだ、今まで穢れのない純粋な人生を送ってきただけに黒歴史の刻印がより強く疼いて仕方がないのだろう。まあその傷を煽る高咲やかすみの方が悪いんだけど……。

 

 紆余曲折ありながら、遂に虹ヶ咲の校内へと侵入する。さすが生徒数3,000人を超えるマンモス校と言うべきか、ロビーからして広大だ。1階のホールから天井まで大きな吹き抜けがあり、入口には各教室や部活室の場所を示した案内板があったりと、まるで大型ショッピングモールかのような構造をしている。虹ヶ咲の建物が豪邸だとしたら、俺の通っていた音ノ木坂は家の隣にあるようなボロ倉庫だな。あまりにも格が違い過ぎる。

 

 そうやって現代高校生とのギャップを感じながらも、それ以上に周りから熱気のような目線を浴びまくっていることが気になっていた。

 

 

「なぁ。さっきからジロジロ見られてるんだが……」

「そりゃお兄さんはいい意味で目立ちますから。こんなカッコいい男性が学校に来たら女の子たちは気になっちゃいますって」

「それは分かるけど、なんか気が散って歩きにくいんだよ」

「カッコいいってことは否定しないんですね……」

「その謙虚のなさこそ零さんですからね! 世界一可愛いかすみんと、世界一カッコいい零さん。う~ん、いいコンビです!」

「なんだお前まだいたのか」

「いますぅ~!! 私に隠れて先輩たちとイチャイチャしようたってそうはいかないですから!!」

「えぇっ!? 私そんなことしないよ~!?」

「じゃあ私はしちゃおうかなぁ~♪」

「侑ちゃん!?」

 

 

 騒がしい、実に騒がしい連中だ。俺が周りから見られてるって話からどう歪曲して誰と誰がイチャつく話になるんだか。まぁ仲が良いからこそここまで話が広がるんだろうけど、会話のたびに逐一こんなやり取りをしていたら俺への学校案内がいつ終わるのか分かんねぇな……。

 

 

「お前らとならいつでも誰とでもイチャついてやるから、とにかくこの注目されまくってる状況を――――」

「じゃあ今しましょう! ここならかすみんと零さんの仲の良さを見せつけるチャンスです!」

「誰も腕を組んでいいとは言ってないんだが……?」

「かすみんと腕を組めて照れちゃうのは仕方ないことです。それにこんな美少女に抱き着かれるなんて、もっと誇っていいんですよ♪」

「ほら、歩夢も黙ってないでお兄さんに抱き着かないと。このままだとかすみちゃんに取られちゃうよ?」

「だ、抱き着く!? そ、そそそそんなの無理だよぉ~!!」

「さっきは野生動物と化した歩夢先輩に負けちゃいましたけど、今回はかすみんの勝利みたいですね!」

「お前ら何の勝負してんだよ……」

 

 

 コイツらが更に騒がしくなった&かすみが抱き着いてきたので周りからより一層注目されてしまう。しかも校内で恋愛沙汰が発生していると思われているのか、周りの女の子たちから黄色い声が聞こえてきた。やはり思春期女子ってのは恋バナにテンションが上がるようで、しかもそれが同じ学内の有名なスクールアイドルってんだからなおさら注目されるわな。歩夢たちはスクフェスの一件を経てかなり名が知れてるし、そんな奴らが年上の若い男を学内に連れ込んだとあればこれだけ女の子が群がってくるのも仕方がないか。

 

 

「これは一体何の騒ぎですか? 部活をやっている人たちから騒がしいと苦情が来ていますよ」

「せ、せつ――あっ、中川元生徒会長……」

「あん……?」

 

 

 1人の少女が騒ぎに割り込んできたと思ったら、周りの子たちが一気に押し黙った。さっきかすみがこの子のことを生徒会長って言ってたからそれなりの威厳はあるのだろう。

 綺麗な長い黒髪を三つ編みにし、制服をきっちり着こなしている地味な眼鏡っ娘。如何にも真面目そうで、それでいてお堅い感じがする。社会的な正しさに拘って遊びを知らず、周りから浮いてしまったり嫌われてしまう典型的なタイプに見受けられる。

 

 でもコイツどこかで見たことあるような。まさか――――――

 

 

「この学校の生徒が大学生くらいの男性を校内に連れ込んで騒いでいるという噂が流れています。まさか()()あなたたちの仕業だったとは……」

「またって何ですかまたって!? それだといつも私が元凶みたいな感じじゃないですか!?」

「そうだね、だからこそ私たち3人で一纏めにされてるのは少し心外なんだけど……」

「侑先輩まさか自分だけ助かろうという魂胆ですか!? あ、歩夢せんぱぁ~い……」

「私は今回の被害者だから……」

「れ、零さぁ~ん……」

「自業自得だ」

「味方がいない!?」

「あなたたちは言ってる傍から騒ぎ立てて……」

 

 

 かすみがいる限り静かにしろってのは無理だな。ていうか『また』って言ってたからコイツらは常日頃からうるさくて注意されていたのか。別に何度注意されようが俺には関係ないけど、今日の俺はゲストなんだからコイツらのついでにお説教されるのだけは勘弁して欲しいぞ。

 

 

「大学生の男性というのはあなたのことですね? 初めまして、私は中川奈々と――――――ッッ!?」

「中川ぁ? お前せつ菜だよな? 優木せつ菜」

「れ、れれれれれれ零さん!? どうしてここに!?」

「なに驚いてんだ。まさか気付いてなかったのか?」

「は、はい。まさかいらっしゃるとは思わなくて……。と、とにかくこっちに来てください!!」

「お、おい引っ張るなって!」

 

 

 何故か地味な風貌にイメチェンしているせつ菜に引っ張られ、周りから注目されていたこの場から強制的に脱出する。その際に周りの女の子からは『まさかの略奪愛!?』とか『スクールアイドルと元生徒会長で同じ男性を!? これって修羅場!?』やら『あのお堅い中川さんがあれだけ取り乱す相手、一体どんな男性なの!?』などとの声が各所から聞こえてきた。思春期女子ってのは妄想豊かだな……。

 

 

「お兄さんがせつ菜ちゃんに連れて行かれちゃったよ! 歩夢、取り返しに行かないと!」

「と、取り返すってなに!?」

「ちょっと先輩たち待ってくださいよぉ~!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……ここまで来ればもう大丈夫ですね」

「おい、いい加減に説明しろ……」

「す、すみませんすみません!!」

 

 

 せつ菜は握っていた俺の手を離し、綺麗な姿勢でペコペコと謝る。

 コイツの名前が『中川奈々』になっているのも気になるし、慌てた様子でホールから離脱したのも怪しい。周りは人気のない校舎裏であり、こんなところに来ないと話せないことなのか……。

 

 

「まずは『中川奈々』という名前ですが、それが私の本名です。『優木せつ菜』というのはスクールアイドル活動の時の芸名と言いますか……。名前を分けているのには色々理由がありまして――――」

「なるほど、もういいよ。それなりの事情があるってことだろ? それに俺にとっては『中川奈々』でも『優木せつ菜』でもお前はお前で1人の女の子だからな。俺が好きなのはたった1人のお前なんだよ」

「す、すすすすす好きぃ!?!? そ、その不束者ですがよろしくお願いします……」

 

 

 もしかして、俺のことを好きでいてくれる女の子は俺も好きだって事実を言った方が良かったか? なんか一世一代の告白みたいに受け取られちゃったし、なんならせつ菜は完全に俺と添い遂げるムードでいるようだ。もはや顔が真っ赤とか言う次元ではなく、今にも顔から爆発してしまいそうなくらいの湯気が出ている。こうやって軽率に好きだのなんだの言ってしまうから女垂らしって言われるんだろうな……。

 

 

「ちょっとちょっと!? かすみんたちもいるんですよ忘れないでください!!」

「いつもはみんなに大好きを伝えるせつ菜ちゃんも、お兄さんから大好きを伝えられると流石に戸惑っちゃうみたいだね!」

「え、えへへ……」

「いつもリーダーシップを発揮する先輩とは大違い……」

「そうだね。せつ菜ちゃんはいつも活発でみんなを元気付けてくれる印象が強いから、こうしてしおらしい姿は初めて見るかも。零さんに好きって言われたらそうなる気持ちは分かるけど……」

「えへへ……」

「いつまで照れてるんですか!? 顔が蕩けすぎて全部溶けちゃいそうですよ!?」

 

 

 せつ菜は蕩けた笑顔でトリップしたまま戻ってこない。もはや歩夢たちの声なんて聞こえていないようで、俺と2人きりの妄想を繰り広げて幸福感に浸っているのだろう。ライブではいつも凛とした表情を見せている彼女だが、今はただの恋する乙女で到底ファンに見せられるような顔ではない。俺から女の子に好意を示したことは数あれど、ここまで間抜けな表情になった子はコイツが初めてだよ。

 

 そういや結局せつ菜の話を遮ってしまったが、普段は『中川奈々』で生活してスクールアイドルの時だけ『優木せつ菜』になっているとかそんな感じだろう。さっき周りに人がいる状況でかすみがせつ菜の名前を言いかけたのがその証拠だ。詳しい事情は本人が言い辛そうにしていたため敢えて聞かなかったけど、家の事情とか諸々あると思うのでそれはまた追々話してもらおう。

 

 

「さっきからせつ菜先輩だけいい雰囲気になってますけど、かすみんも零さんのこと大好きですから! この愛は例えせつ菜先輩と言えども負けません!!」

「ほぅ……。いつもは皆さんと切磋琢磨してお互いに高め合っていますが、零さん大好きレベルの勝負であれば私も負ける訳にはいきません!」

「おっ、三つ編みを解いて『奈々』から『せつ菜』に変身した! これはせつ菜ちゃん本気だね!」

「えぇっと、2人を止めなくてもいいのかな……」

「女の戦いに割り込むなんて無粋だよ。お互いに1人の男を求めて雌雄を決する。こんな熱い展開見逃せないって!」

「修羅場で熱くなってる奴がいるぞ。歩夢、幼馴染なんだったら宥めてやれ」

「侑ちゃんは心がときめいたらそれに一直線なんで……。つまり無理です」

 

 

 校舎裏で対峙するかすみとせつ菜。イメージ的にはお互いの背後で炎が燃え上がっている感じだろうか。そしてその様子を見て目を輝かせる高咲侑。思うんだけど、もう俺の学校案内っていう目的を誰も覚えてないよな……。

 かすみは元々熱くなる性格だけど、それはせつ菜だって同じだ。スクールアイドルだけでなくアニメやゲームといったオタク趣味も持ち合わせており、それ故に自分の趣味趣向に引っかかればたちまちオタク特有の早口でまくし立てる。今回はその話題が『俺』になっただけ。俺のことが好きなせつ菜が同じく俺のことが好きなかすみにマウントを取られたら、そりゃ黙っちゃいないだろう。

 

 

「こうなったら今度はせつ菜先輩と勝負するしかないですね」

「いいでしょう、受けて立ちます。ルールは零さんに対する大好きエピソードを1つずつ交互に言い合って、出てこなくなった方が負けでどうですか?」

「いいですよ、余裕です」

「おい、人を勝手に勝負のネタに使うんじゃねぇよ……。つうか普通に公開凌辱だろそれ」

 

 

 なんか勢いだけで話が進んでるけど、本人がいる前で褒めちぎり合戦をするか普通?? 鋼鉄のメンタルを持つ俺であってもその対戦の場に居合わせるのは流石に気恥ずかしいんだが……。

 

 

「待って! 誰もこの戦争の参加者が2人とは言ってないよ」

「侑さん? でもさっき『割り込むなんて無粋』と言っていませんでしたか?」

「やっぱり見ていたら我慢できなくなってね。参加するよ」

「も、もしかして侑ちゃんも零さんことを……!?」

「参加するよ――――――歩夢がね!!」

「は?」

「「え?」」

「ふぇ……? え、えぇえええぇええええええええええええええええええ!?!?」

 

 

 高咲は勢いよく歩夢に向かって指を差した。俺たちはもちろん、当の本人もいきなり自分に火の粉が飛んできたのを目を丸くして驚く。

 

 

「歩夢だって隙があればお兄さんの話ばかりしてるからね。むしろお兄さん大好き合戦をするならいなくちゃならない存在でしょ!」

「確かに歩夢先輩って結構愛が重いですからね……」

「相手はたくさんいた方が勝った時の快感が素晴らしいので、歩夢さんも是非参加してください。その上で打ち負かして見せます!」

「おぉ~せつ菜ちゃん燃えてるねぇ~。これだけ期待されてるんだから歩夢も参加しないと嘘でしょ!」

「侑ちゃんが作ったんだよねこの流れ……。でもまぁ、ちょっとだけなら……」

 

 

 歩夢は勢いに乗じて渋々参加をするようだが、ほんのり顔を赤くして嬉しそうにしているあたり少しノリ気っぽいんだよな……。そんなに俺に対して愛を叫んで間接的に凌辱したいのか……? もう誰も制止役がいなくなった以上また俺への学校案内は果たされないようだ。このままだとコイツらの余興に付き合わされるためだけにここに来たみたいじゃねぇか。なんという時間の無駄。

 

 

「それでは早速始めましょう。まずは私のターンですね。私は以前零さんに助けていただきました。複数の男性に囲まれていた私の手を握り、その場から連れ出してくださったのです。それはまるで愛の逃避行のようで、逃げる際に零さんは仰ったんです『俺の恋人』だと。もはやこれは愛の告白。そうです、先程だけでなく既に私は告白されていたのです!! 零さんに好きを伝えられ、私はこう応えました『私も好きです』と。それ以降私は零さんからたくさんの大好きと笑顔をいただき、幸福に包まれたまま一生を過ごす……予定です。これはもう私の勝ちですよね? ワンターンキルってやつです」

「ぐぬぬ、かなり羨ましいエピソードですね……」

「零さんから告白、いいなぁ……」

「相変わらずキザったらしいですねお兄さん」

「おい待て、色々と着色されてる気がするんだが!? 自分の都合のいいように解釈しすぎだろ!!」

「零さん、この世は自分がどう思ったかではなく相手にどう伝わったかなんですよ」

「いやそれっぽいこと言っても騙されんわ!!」

 

 

 正しい歴史としては、ファンたちに囲まれて困っていたせつ菜を恋人の待ち合わせと()()()俺が連れ出したってだけだ。決して愛の逃避行だとか告白だとかはやっていない。あまりにも平気で歴史を改変するものだから歩夢たちも信じてしまっているのがこれまた迷惑。せつ菜はせつ菜はテンションが爆上がりして熱くなってるし、このまま行くと俺とのエピソードじゃなくて俺との妄想シチュエーションを垂れ流すだけになりそうだが大丈夫か……。

 

 

「かすみんだってとっておきのエピソードがありますよ。なんたって零さんと街中で抱き合ったことがあるんです! その時の零さんはかすみんの可愛さと身体にメロメロで、あと1秒長く抱き合っていたらかすみんは確実に襲われていましたね。零さんの心臓もバクバク鳴っていましたし、かすみんだってとてもドキドキちゃいました。周りの人たちからも拍手喝采でかすみんたちのことを祝福してくれたんですよ。もはや結婚式です。これはもう恋人同士と言っても過言じゃないでしょう!」

「そんな貧相な身体でドキドキするわけねぇだろ。心臓が鳴ったのだって女の子に抱き着かれたら男なら誰でもそうなるし、街中とか言ってるけどあの時周りに人は全くいなかったからな」

「辛辣!? あれだけ身体で愛を確かめ合ったのにもう萎えちゃったんですか!?」

「身体という点ではかすみさんより私の方が身長が低く、胸のサイズも大きいです。つまりロリ巨乳という観点でも私が勝利しているってことですね!」

「な゛っ……!? かすみんは妹的な愛くるしさで勝負するんですぅ~!!」

「ほら歩夢も参加しないと。お兄さんのどのポジションになりたいの?」

「え、えぇっ!? 私だったら……零さんの奥さんとか……?」

「恋人をすっ飛ばしていきなり正妻宣言。愛が重いと言われるだけのことはあるね」

「侑ちゃんが言えって言ったんだよね!?」

 

 

 コイツら一体何の戦いをしているんだ……。もはやツッコミを入れる気力もなくなるくらい常に話が斜め上に逸脱しやがる。俺とのエピソードよりも自分が相手よりどれだけ俺と濃厚なシチュエーションにいたのか、その叩き付け合いになっているのは言ってやった方がいいのか……? それだけ自分のことを好きでいてくれるのは嬉しいことなんだけど、やってることはメンコと変わらんな。

 

 

「さて、次は歩夢さんのターンですね。歩夢さんの零さん大好きエピソードはなんでしょうか?」

「う~ん、たくさんあるんだけど、まずは幼い頃に助けてもらったことかな。火事に巻き込まれて逃げられず、何もかも諦めていた私を危険を顧みず助けに来てくれたところとか、夏祭り会場で久しぶりに再会した時に、私のことを忘れていてほぼ初対面みたいな感じだったのにしっかりエスコートして楽しませてくれたりとか、スクフェスではそんな初対面同然の私にエールを送ってくれたりとか、とにかく私、いや私たちのことを大切にしてくれているところが大好きなの。零さんの唯我独尊な性格も私は好きで、だからこそ頼りがいがあって、私は守ってもらっているんだって感覚が安心できるんだよね」

「歩夢先輩……それ、かすみんも分かります!!」

「なるほど、『私』だけでなく『私たち』ですか……。確かに私も同じ気持ちです」

 

 

 さっきまでハイテンションで盛り上がっていた2人だが、歩夢の俺への純粋な気持ちを聞いて共感を覚えているようだ。私たちはどうして争っていたんだろうと言わんばかりの静けさで、2人だけでなく高咲も興奮は止み歩夢の言葉に聞き入っている。

 

 やっぱり最後に勝つのは清楚系の正統派ヒロインってか? 歩夢も再会した当時は俺に久々に会えた感動でキャラがかなり積極的だった記憶はあるが、今では恋愛モノのヒロインにいてもおかしくないくらい純粋になった。そんな彼女の心中はそりゃもう綺麗で透き通っていて、せつ菜やかすみの野望や欲望に着色されたエピソードでは到底歯が立たない。もちろんみんな気持ちの伝え方に違いはあれど俺のことを想ってくれているため咎めることはしないが、やはり歩夢のように純粋に想いを伝えてくれるのは嬉しいよ。

 

 

「そんな過去があったからこそ、いつも零さんのことが頭に浮かんじゃって。侑ちゃんにも零さんの話ばかりしてるし、次はいつ会えるのかなぁとか、会えたらどんなことをお話しようかなぁとか」

「うん、いつも聞かされてる……」

「ウェディングドレスは可愛いものがいいなぁとか、結婚式は身内でやるのか盛大にやるのかどうしようかなぁとか、新婚旅行はどこに行こうかなぁとか、子供ができたら名前はどうしようかなぁとか、子供は何人欲しいかなぁとか、結婚3年目は夫婦仲が疎遠になりやすいからどう対策しようかなぁとか、エッチなことは週に何回しようなぁとか――――」

「ストップストップ先輩!! 妄想を垂れ流しすぎて映像になって見えそうですよ!? それに最後のは先輩らしからぬセリフ!!」

「侑さん、いつもこの歩夢さんに付き合っていたんですね……」

「うん。分かってもらえたらたまに変わってもらえると嬉しいかな……」

「それは……遠慮しておきます」

「――――はっ、私は一体何を!?」

「自覚なかったのかよ……」

 

 

 もはや夢遊病と疑われてもおかしくないくらい夢が現実にすり替わりそうだった。日々あれだけの妄想を聞かされている高咲に同情しちまうよ。これだからかすみにも『歩夢先輩』は重いって言われちゃうんだろうな……。

 

 

「それでせつ菜ちゃん、零さん大好き合戦の勝敗はどうなったの?」

「え~と、考えたんですけど、やっぱりみんな違ってみんないいということで! ほら、零さんの懐は無数の女性を受け入れてくれますから!」

「まぁ皆さんのエピソードも正直羨ましかったですし、かすみんも引き分けでいいですよ」

「私は最初からただ零さんに自分の想いを伝えられたらなと思って……」

「だそうです。自分のことを大好きな女の子に囲まれて、今どんな気分ですかお兄さん? いや、お・う・さ・ま?」

「その言い方やめろ……」

 

 

 気分で言えばそりゃこんな可愛い子たちに好意を向けられているんだから満足感に支配されてるに決まってる。だがその気持ちを素直に吐露するとまた高咲が調子に乗るのでやめておく。

 そうだ、逆にこっちから仕掛けてやるのもアリかも――――

 

 

「高咲、お前は参加しないのか? 出会ってから数時間で見つけた俺の魅力をいくつでも垂れ流していいんだぞ?」

「そうですねぇ……見た目がイケメンで付き合ったらそれだけでステータスになることと、エッチが上手そう、いや上手いってことでしょうか」

「おい……」

「侑ちゃんなんでそんなこと知ってるの!? やっぱり電車の中で何かあったんじゃ……」

「どうしてかすみんを差し置いて会ったばかりの侑先輩に!? も、もう身体を重ねたってことですか!?」

「出会って間もない女性だろうと自分が気に入ればすぐさま手を出す。そして身も心も自分のモノとして掌握する。さすが零さんです、そこに痺れます!!」

「これちゃんと収集つけてくれるんだろうな……」

「つまり虹ヶ咲の中では、私がお兄さんのハジメテの人ってことですよね?」

「侑ちゃん!?!?」

「歩夢が壊れるからそろそろやめてやれ……」

 

 

 高咲の奴、最後にとんでもない爆弾を投下しやがった……。一応断っておくと、俺は確かに手を出したがあくまで密着していただけでハジメテ云々は一切関係ないからな?

 そんな感じで高咲が撒いたタネのせいでまた俺の学校案内が遠くなりましたとさ。本当に今日一日コイツらと戯れてるだけで終わりそうなんだけど大丈夫か……?

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 虹ヶ咲キャラのプロフィールを見て思ったことは、せつ菜って意外と小柄でかすみよりも背が低いことに驚きました。それでいてあれだけ胸があるのでこれはネタにするしかないと思ったのが作中のやり取りです。
 彼女だけでなく普通にスタイルのいい子ばかりなので、零君は困りそうになりですね。何がとは言いませんが……



 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

愛・LOVE・侑!?

 愛さんアニメで見て評価が変わったと言いますか、アニメのビジュアルやら性格やら全てが良くて推しになっちゃいそうでした!

 というわけで今回は怪しいサブタイトル通り愛さん登場回です。


 せつ菜が開始した神崎零大好き合戦も無事(?)に終結し、やっとこさ俺への学校案内が開始された。校舎に入ってから1時間以上が経過しているのにも関わらず、まだ構内のエントランスホールまでしか案内されてないのはあまりにもスローペース過ぎる。歩夢たちが事あるごとに騒ぎを起こすため話が中々先へ進まなかったんだ。もう日が暮れるのは覚悟しておくべきだろうな……。

 

 そして再び校内に入ったわけだが、やはり何度見てもこの広さは圧巻だ。聞けばレコーディングルームやカメラの撮影スタジオ、最先端PC大量配備のコンピュータルームまで完備されており、学科の多い学校の財力を見せつけられる。A-RISEが所属するUTX学園もそりゃ大層ご立派だったがこちらも負けてはいない。生徒不足で廃校が騒がれていたどこぞの学校と本当に同じ高校かと疑ってしまいそうだ。

 

 そんなことを考えながら俺はせつ菜の先導で校内を見て回る。かすみは用事で一時離脱したため、今は歩夢、せつ菜、高咲侑との4人パーティだ。

 

 

「学校案内であれば元生徒会長の私にお任せください! いつもは零さんにエスコートされている私ですが、今日は私がしっかりとエスコートしてみせます!」

「零さんを誘ったのは私なんだけど!? せつ菜ちゃんに役目取られちゃった!?」

「せつ菜ちゃん、今日は生徒会の手伝いがあるって言ってなかったっけ?」

「だったらところで油を売っていていいのか? 生徒会の手伝い放り出したら栞子が怒るだろ」

「ま、まぁ来客をもてなすのも生徒会のお仕事ですから……」

「お前そんなに不真面目だったっけ……?」

「今はスクールアイドルとしての優木せつ菜ですから、多少のやんちゃはご理解ください!」

 

 

 なんかいつもの数倍テンション高いなコイツ。俺と出会ってからずっと目を輝かせてるし。そりゃ好きな人がいきなり自分の学校に来たら嬉しいだろうが、なんつうか圧が凄まじいんだよ。さっきからやたら距離も近いし、男に対してここまで無防備な女子が生徒会長をやっていたなんて考えられない。構内では規律を重んじる秀才キャラでいるようだが、俺の目には『神崎零の熱烈厄介オタク』にしか見えねぇな。

 

 

「次は我々同好会の部室へ行きましょう! 誠心誠意おもてなしをさせていただきます!」

「あぁ私の役目がどんどん取られていく……」

「これは歩夢が誰にも負けないご奉仕力でお兄さんをもてなすしかないね。例えばロップイヤーを着けてあゆぴょんをするとか!」

「巷ではそういった喫茶店も流行っていますし、私もアリだと思います!」

「全然アリじゃないよ!? しかもそれって如何わしいお店になっちゃうよね!?」

「お兄さんはどうですか? あゆぴょんメイドにご奉仕されるのって」

「そりゃ女の子に1から10までお世話してもらうのは男の夢だろ」

「だってさ歩夢。お兄さんの夢を叶えてあげよう?」

「し、しないよ!? でも零さんの頼みなら……うぅ」

 

 

 歩夢の中で葛藤が渦巻いているようだ。歩夢のような可愛い女の子のご主人様になれるなら大金を積んで、更に土下座し懇願する男もいるだろう。まあ俺はそんなことをしなくても逆に向こうからやってくれる立場なのでふんぞり返っているけども。そんなご主人様ポジションにいるからこそ動画ではない本物のあゆぴょんを見てみたいんだ。

 

 

「侑ちゃんも一緒にやってくれるならやってもいい……かな」

「歩夢さんがあゆぴょんなら、侑さんはゆうぴょんでしょうか?」

「いいじゃんそれ! やろうやろう!」

「えっ、や、やるの!?」

「もしかして私が断ると思ってた? 長い付き合いなのに読みが悪いよ歩夢。お兄さんみたいなイケメンご主人様のメイドになれるなんて人生で一度あるかないかだよ? そんなのトキメクに決まってるじゃん!」

「そうだね、侑ちゃんはそういう子だったよ……」

 

 

 薄々分かってはいたけど、高咲って子供みたいに自分のアンテナが立つものには何でも飛びつく性格のようだ。とりあえずやってみて経験をするのは悪い考えどころかむしろいいことだが、今回のみたいに歩夢がその勢いに引き摺られることも多かっただろう。現に今も1人で『どんな可愛い服を着ようか』とか『実際にメイド喫茶に行って勉強した方がいいかな』とか妄想を膨らませている。そういうところは穂乃果や千歌の本能的な勢いに通づるところがあるかもな。

 

 それにしても、この2人って会話のテンポが良くそれだけで仲の良さが伝わってくる。俺の知っている幼馴染メンバーは数あれど、ここまで息の合った引っ張り引っ張られ具合はコイツらが一番かもしれない。まぁ歩夢的にそれがいいのか悪いのかは別として……。

 

 

「いいですよね幼馴染。私と零さんも幼馴染のようなものですし、お二人のような関係になれたら……」

「アイツらのようにか……。女の子同士の幼馴染って妙に百合百合しいから俺じゃとても真似できないぞ」

「確かにアニメや漫画でも、女の子たちの幼馴染はレズっ気がある子たちが多い気がします。そういえば歩夢さんと侑さんも……」

「えぇぇっ!? 私たち普段からそういう目で見られてたの!?」

「お互いに正妻アピールをすることがありますよね? 歩夢さんは『侑ちゃんは昔はこうだったから~』とか、侑さんも『歩夢はこんな子だから~』とか! お互いがお互いに対して昔から知っているアピをしているので、てっきり他の女性を入り込めないようにしているのかと思いました」

「そんなことしてないから!! ねぇ侑ちゃん?」

「えっ、歩夢裏切ったの……?」

「ゆ、侑ちゃんまさか……」

「冗談だって♪」

「もうっ!!」

 

 

 世間的にはこういうのをイチャイチャしてるって言うのだろうか。ただ仲が良いように見えても女の子同士が仲睦まじく会話をしているだけで百合と呼ばれるこの世の中、そこに男1人介入した時点でボコボコに叩かれる世知辛い世の中でもある。もしかしたら俺がここにいること自体に怒っている百合好きもいるかもしれないな。

 

 

 そんな百合談義をしている中、遠くの廊下からこちらに勢いよく走ってくる子がいた。

 

 

「あっ、零さんだ! 私が求めてる時にいてくれるなんて運命感じちゃうよ!」

「えっ、愛? ちょっ、どうして腕組むんだよ!?」

「いやちょっとばかり助けて欲しいなぁ~ってね!」

「はぁ?」

 

 

 同好会メンバーの1人、宮下愛が突然こちらに駆け寄ってきたと思ったら、周りに同好会の仲間がいるのにも関わらず俺の腕に絡みついてきた。歩夢もせつ菜もいきなりの出来事に目を丸くして驚いているが、一番驚いているのは俺だ。女の子たちにはそれなりに好意を持たれている俺だが、公衆の面前で出会い頭にここまで密着されたのは初めてだ。ご自慢のスタイルの良さのせいで、俺の目測推定Gカップの巨乳がこれみよがしに押し付けられているため調子を乱される。

 

 そういやさっきコイツ助けて欲しいとか言ってたような? もしかしてまた厄介なことに巻き込まれるんじゃねぇだろうな……?

 

 

「愛さんそんな羨ま――――大胆な!? 私たちはスクールアイドルでここは校内なんですから、もっと節度を持たないと……」

「お前もさっき俺にくっつきそうなくらい近い距離で歩いてただろ……」

「いやぁ今日のところは許してよせっつー! こうしないと誤解されちゃうんだよ」

「零さんに引っ付いているこの状況こそ勘違いされそうですが……」

「そういえば愛ちゃん、さっき零さんに助けて欲しいって言ってたよね? 何か困りごと?」

「歩夢とゆうゆもいたんだ。てことは、この状況は結構マズいかも……」

「えっ、もしかして私たちが何かしちゃった……とか?」

「えっ、いやゴメンゴメン! そういうことじゃなくてね、なんか愛さんね――――――レズ認定されてるみたい……」

「「「「はぁ!?」」」」

 

 

 まるでさっきの会話を聞いていたかのようなネタ被りだが、どうやらこっちの方は深刻のようだ。なんかさっきから周りを気にしているし、ここまで挙動不審なコイツを見るのは初めてかもしれない。いつもは同好会のムードメーカーであり、コミュ力もMAXで明るい笑顔も絶やさない愛がここまで何かに怯えてるのは大変珍しい。

 

 

「レズってお前、まさかそっちの毛があったのか。ギャル系のくせに女に興味があるとか新境地開拓し過ぎだろ……」

「違うよ!? いつも助っ人をしている部活の子にアッチ系の本を書いている後輩がいてね、最近目を付けられてるんだよねぇ……」

「なるほど、お前が百合同人のネタにされてるのか。で? 誰とのカップリングだ?」

「ゆうゆ」

「ゆうゆって、もしかして高咲?」

「えぇっ!? どうして私が愛ちゃんと!?」

「その子曰く、同い年の女の子同士、かつ身長差カップルが最近のマイブームらしくて、それで日々私とゆうゆの妄想が捗ってるとか何とか……。そのせいでその子から獲物を捕食しそうな目線で毎日見られてるんだよねぇ……」

「そういえば、私も最近背筋に悪寒が走るときがあったかも……」

 

 

 この世にはとんだ性癖の持ち主がいたもんだな……。女の子同士なら分かるけど身長差に美を感じるのは流石の俺でも理解できねぇ世界だ。身長差が自然である男女ならまだしも、それに百合要素を加えるとは……うん、なんかAqoursの梨子が好きそうなジャンルかな。

 

 身長差で言えば確かにこの2人は歴然で、愛のスタイルがいいのも相まって高咲が一回り小さく見える。この場合は愛が女子高生の平均より高いと言った方がいいのか。どちらにせよギャル系の高身長女子と無邪気な低身長女子なのでとても同学年同士とは思えない。そう考えると同人のネタとしてはこれ以上にないってくらい魅力的な逸材なのかも。俺には到底たどり着けない境地だけど。

 

 

「まさか愛ちゃんと侑ちゃんがそんなことになっていたなんて……」

「もしかして歩夢さん、愛さんに嫉妬ですか? 愛しの幼馴染を奪われて、今まで眠っていたヤンデレとしての本性が目覚める展開来ちゃいます!?」

「せつ菜ちゃんどうしてそんなに嬉しそうなの絶対に楽しんでるよね!? それに私また愛が重い設定!?」

「いや最近そういったドロドロ展開のアニメを一気見しちゃいまして! そうだ、歩夢さんも一緒に見てみます? ストーリー構成やキャラ心理描写の描き方が凄まじくって!」

「歩夢にそれを見せたら、なんか間接的に私の寿命が縮みそう……。刺される的な意味で」

「私そんなに猟奇的に見える!?」

「歩夢がゆうゆのことを寝取ってくれたら私も楽になるのになぁ~」

「それだと今度は侑さんが病んでしまうのでは?」

「展開ややこしいなぁオイ……」

 

 

 冗談でも学園昼ドラのようなやり取りをしているから百合同人作家に目を付けられるんじゃねぇのか……?

 とりあえず今回は女の子同士の話で俺は蚊帳の外っぽいから妙なことに巻き込まれなくて安心――――と思ったが、騒動の中心である愛に抱き着かれている以上そうはいかないらしい。確かに少し視線のようなものを感じるので、コイツらが百合同人のネタするために観察されてるってのは間違いなさそうだな。どうしてこうも続々と俺に騒動を持ち込むかねコイツらは。

 

 

「なるほど、つまりお前は男の俺と仲が良いことをアピールして、自分が同性愛者であるという偏見を払拭しようってわけか?」

「そうそうその通り! さすが零さん察しがいい! と言うことで、今日は1日私の恋人ってことでよろ~♪」

「えっ、こ、恋人って何もそこまでしなくても……」

「お堅いぞせっつー! 私こういうことはカタチから入るタイプだからね!」

「零さんの恋人、零さんの恋人、零さんの恋人、零さんの恋人、零さんの恋人……」

「歩夢が壊れた時計みたいに同じこと繰り返してる……」

 

 

 愛は俺と恋人ごっこをする気満々のようで、腕だけでなく指も恋人繋ぎで絡めてくるし、自分のスタイルの良さを活かしてその健康的な身体を俺に押し付けてくる。明らかに男の本能を誘った動きだが、男女問わず友達も多いコイツのことだ、どうすれば男が喜ぶかくらいは心得ているのだろう。ただいくら男慣れしている愛の策略だろうと、こっちだって女の子を相手にするのは日常茶飯事だから慣れている。だからボディタッチを激しくしたところで俺には――――――

 

 効くんだなこれが。そりゃね、こんな陽キャギャル美少女に言い寄られて期待しない男は男じゃないだろ。合法的に女の子の身体を楽しめるんだ、それが例え電車内でも学校内であっても身を委ねないのは損だ。逆にそういった状況だからこそ余計に興奮できるってのもあるけどね。

 

 

「俺の恋人になるってことは、例えフリでもそれなりの覚悟はしておけよ。俺の隣いる=何をされても文句は言えないってことだから」

「いいねいいねそのご主人様気質! 愛さんそうやってグイグイ引っ張ってくれる人が大好きなんだよね。零さんの隣にいるといつも楽しませてくれるから居心地いいよ!」

「そりゃ俺と付き合えるなんて女の子としては最大のステータスだからな。それに恥じないくらいの楽しみは与えてやるよ」

「友達と遊んだり部活の助っ人をしたり、もちろんスクールアイドルをするのも楽しいけど、零さんと一緒にいるときは他では味わえない体験ばかりできるからドキドキしっぱなしだよ!」

「どうせ今まで恋愛には興味なかったんだろ? だったら俺が『愛』ってやつを教えてやる。それでそのドキドキの意味が分かるはずだ」

「愛さんに愛を教える……あはは! 愛だけにって?」

「せっかくいいムードだったのに台無しにするなって。いやギャグが好きなのは知ってるけどさ……」

 

 

 愛は自分が楽しんだり相手を楽しませることが好きな女の子。その行動理念は俺と似たところがあるため割とウマが合う。部活の助っ人をしたりスクールアイドルをしたりと多趣味だが、唯一恋愛沙汰には全く触れて来なかった模様。だからこそコイツは自分に近しい男である俺に興味津々なのだ。持ち前のコミュ力の高さで異性を何度勘違いさせてきたのかは分からないが、男性との会話でドキドキしたのは俺が初めてらしい。最初から俺の手付けだと公言しておけば百合ネタにされることもなかっただろうに……。

 

 ま、それはそれとして、さっきから隣でめちゃくちゃ笑っている奴がいて気になるんだが??

 

 

「ぷっ、あはは!! 愛と愛をかけて愛だけにって……あはは!!」

「高咲、お前まさかあのダジャレ程度で……?」

「侑ちゃん、小さい頃から笑いのツボが赤ちゃんレベルなので……」

「ますますコイツのことが良く分からん……」

 

 

 さっきの愛の放ったギャグ。別に大したものでもなかったのに高咲は腹を抱えて笑い転げる。年上の俺に物怖じせずからかってきたり言いたいことをズバッと言える図太さあり、幼馴染の歩夢を積極的に俺とコミュニケーションを取らせようとする積極さあり、笑いのツボが幼い子供っぽところあり。コイツもコイツでキャラ強すぎて逆に掴みづれぇよ……。

 

 

「ということで、今から愛さんとデートに行こ! 男女でラブラブしているところを見せつければ、もう百合ネタにされることもなくなるっしょ!」

「ちょっ、ちょっと待って愛ちゃん! 零さん今日は()()()と学校内を回る約束が……」

「さっきやたら『私』を強調してませんでしたか……? それに私も元生徒会長として零さんの学校案内に同席する予定があったりなかったり……」

「お兄さんって本当にいつでもどこでもモテモテじゃないですか。女の子たちに取り合いをさせて今どんな気分ですか?」

「別にいつものことだが?」

「何その澄ました顔!? この人この状況に慣れてる……!!」

 

 

 そりゃ女の子に囲まれる生活を伊達に5年以上続けてないからな。もはやこれが日常的過ぎて何も思わないせいか、『どんな気分』と聞かれると逆に困ってしまう。毎日顔を洗ったり歯磨きをしたり風呂に入ったり、そんな感覚で誰かしらの女の子と一緒にいるからどう思うとかどう感じるとかないんだよ。

 

 

「だったらみんなで校内デートすればいいじゃん! 零さんがいるから女の子同士じゃないし、それで完璧!」

「俺は別にいいけど、そこまでするほど同人のネタにされるのがイヤなのか? 自分が標的になってないからお前の気持ちは分からないけど」

「百合好きの子の妄想に付き合わされるこっちの身にもなってみてよ。『愛さんが攻めで侑さんが受けの方がいいですか?』とか『もし侑さんに告白するとしたらどんな言葉をかけてあげますか?』とか『愛さんがキスするとき、小柄な侑先輩が背伸びをしてくれるんですよ! 女の子がキスするために背伸び! 堪らないですね!』とか、こんな話ばかり聞かされてるんだから」

「それはなんつうか……御苦労」

「知らないところで私妄想のタネにされ過ぎじゃない!? さっきの話を聞いて背筋がより一層凍ったんだけど……」

「同人界隈は如何に妄想を膨らませるかのスキルが重要ですから、その人の職業柄であれば重要なことなんですけどね……」

「だからこそデートをするんだよ! ゆうゆも零さんと一緒にいればあらぬ視線から解放されるって!」

「私が、お兄さんと……?」

 

 

 高咲と目が合った。まだ出会って数時間なのにいきなりデートはハードルが高いんじゃないか? 俺はいいけど高咲はどう思っているのか。電車内での一件があったとはいえ特に俺に対して嫌悪感を抱いている様子もなく、逆にずっと楽しそうにしているためもしデートをしたとしても気まずくはならないだろう。むしろ普通に楽しめると思う。別にお互いに恋愛感情を抱いているわけでもなく、かといって他人で済ますにはおかしいくらいの仲にはなっている微妙な距離感。そういえば女の子とそんな仲になったことってなかったな。

 

 

「零さんと付き合ったらあ~んなことやこ~んなことされちゃうよ?」

「知ってる。見るからに言動も何から何まで肉食系だもん」

「私は肉食系男子って好きだけどね! ということでまず何からする? 同性愛者って疑われないようにキスでもする?」

「展開がはえぇよ……」

「キ、キス……校内デートした挙句にキス……キス……キス……」

「元生徒会長として校内でふしだらな行動は……。でも零さんとの接吻チャンスをみすみすスルーするわけには……。それに私、今はスクールアイドルとしての優木せつ菜ですし……」

「オイ何故かみんなとやる前提になってね?」

 

 

 もちろん可愛い女の子とできるのであればやぶさかではないが、こんなところで、しかも複数人と連続なんてロマンティックな雰囲気もあったもんじゃねぇな。俺は特段ロマンチストではないが、男としてそれなりに女性に最高の形での思い出を作ってやりたいと思っている。これでもただの女好きではないんでね。だからこそ既にやる気満々なコイツらに対して困っているわけだが……。

 

 

「そりゃ私たちが百合営業してるなんて思われたくないし、ここは零さんに踏ん張ってもらわないと!」

「わ、私も零さんとならいつでも……そのぉ、零さんがイヤでなければですけど……」

「スクールアイドルの優木せつ菜、ここは一世一代の覚悟で臨ませていただきます!!」

「えぇ……。なんか毎回最後は俺に委ねられてる気がするぞ……」

「キース! キース! キース!」

「うせぇぞ高咲。まずはお前からやってやろうか?」

「通報する準備はいつでもOKです!」

「煽り力たけぇよなお前って……」

 

 

 もうキスをしなければいけない雰囲気になっているんだけど、校内デートの予定じゃなかったっけ? デート開始直後いきなりキスをするってどこのDQNカップルだっつうの。コイツらにとってキスってそんなに安いものなのか、それとも好きな男に対してだからこそ積極的なのか……。

 

 

「ここで零さんとキスしないと愛さんレズ同人誌のネタになっちゃうなぁ~。ゆうゆにキスを迫る愛さんってシチュエーションが校内に広まっちゃうんだろうなぁ~。言わばそう、愛・ラブ・侑ってね!」

「ぷっ、あははははは!!」

「オヤジギャグと高咲のマヌケな笑い声でテンション下がったから、また今度な」

「えっ、うそぉ!?」

「恨むなら自分のギャグセンスを恨むんだな」

「「えっ……」」

「お前らマジで凹んでんじゃねぇよ……」

 

 

 これでムードもへったくれもないキス祭りは回避された。俺的にはそれで良かったのだが、どうやら本気にしていた歩夢とせつ菜は絶望に満ちた表情をしている。気持ちは嬉しいけどこんなことで落ち込むなんてどれだけ俺に人生をかけてんだよ……。

 

 でもこれだけ俺と密接に絡めば下手に百合思考が校内に蔓延することもないだろう。なければいいんだけどな……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 愛さん勉強もスポーツもできるし、料理もできるしで完璧スペックなことに驚きました。これだけの要素があればこの小説でも色々ネタにできそうなので、アニメで惚れたのも相まってまた登場させたいキャラになりました!


 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!

 また評価を入れていただいた方のコメントはしっかり確認しております!
 虹ヶ咲編以降に評価をくださった

 佐倉行李さん、れい君ですさん、ゲルミンさん

 ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Loving Sweetest Cooking

 エマを見るたびに抱きしめたら柔らかそうとしか思わないのは私の頭がお花畑だからか……?

 今回はエマ登場回ですが、内容は箱推しみたいになっちゃいました!


 俺への学校案内もロクに行われないまま昼になり、腹を満たすために虹ヶ咲校内の食堂へとやって来た。校内が一流企業並みの造りだったのは驚いたが、食堂も綺麗で様々なお店が立ち並んでいる。もはやデパートのフードコート並であり、しかも客人であれば値段に割引が適用される神システム。ここに入り浸るだけで日々の食事には困らなさそうだ。

 

 ちなみに今のパーティだが、せつ菜が生徒会の手伝いで抜けたため歩夢、愛、高咲の4人となっていた。

 

 

「昼時だからか人多すぎだろ。いつもこんな感じなのか?」

「ピーク時はもっといるよ。だけど安心して、外部から来たお客様用のテーブルがあるから」

「俺1人でぼっち飯をしろと?」

「大丈夫! 付き添いの学校関係者の人も同じ席で食べられるから!」

「なんつうかまぁ、よくできた学校だよな……」

 

 

 外部のお客に不自由をさせないルールは、地味ながらもこういった細かい待遇の良さこそこの学校が支持される理由なのだろう。支持されてるからこそ学校の設備もよく生徒も優秀。その生徒たちも校内ですれ違うたびに客人である俺に挨拶をしてくれるので、しっかりとした教育が行き届いている。さすがグローバルな高校はそこらの学校よりもひと味もふた味も違うな。どことは言わないけど。

 

 生徒たちが席を取り合っている中、俺は客人優待で悠々と特別席を確保する。

 さて、これだけ店があるとどこに行こうか迷っちまうな。妹の手作りより勝る料理はないものの、人間であれば少なからず上手い飯屋にテンションは上がるものだ。見てみれば立ち並んでいる店は聞いたことがあるような高級店ばかりで、こりゃ目移りしてしまうのも仕方がない。意気揚々と店に繰り出そう―――――と思ったのだが、何やら歩夢がもじもじとしている。

 

 

「零さん、あ、あのぉ……お弁当を作ってきたので一緒に食べませんか!!」

「弁当? お前が?」

 

 

 歩夢は頭を下げながら弁当箱を俺に差し出す。告白のラブレターを受け取るときみたいなシチュエーションで、早々に飯を買いに行こうとしていた侑と愛も思わずこちらを振り向く。

 なるほど、どうやらどんな店よりも美味い料理がここにあったらしい。もちろん答えは1つ。

 

 

「そうか、それじゃあありがたくいただくよ」

「ありがとうございます! それでは準備しますね!」

 

 

 歩夢は嬉々としてお弁当箱を開ける。中身は女の子らしいヘルシーで色鮮やか――――ではなく、男の俺に食べてもらうことを想定してか肉料理主体のそれなりにボリュームのある弁当だ。本人が料理好きなのも相まって見た目だけでも美味そうで、肉主体でありながらも野菜を織り交ぜ色合いを意識した盛り付けはプロの腕を感じる。俺のために相当な気合を入れてくれたのは間違いなさそうだ。

 

 

「歩夢自分だけずるーーい! 愛さんだって零さんが来ること知ってればお弁当を作ってきたのに!」

「歩夢は密かに腹黒かったりするからね。みんなを出し抜くために、こっそり愛する人にお弁当を作るとか平気でやってみせるよ」

「そ、そんなこと思ってないから!! 零さんが来るのをサプライズにしてたのはみんなをビックリさせたかったからで……」

「ま、零さんを呼んでくれただけでも私は満足だけどね! でも歩夢だけ零さんとイチャイチャランチをするのはいただけないかな~」

「別に独り占めしようとも思ってないけど……」

 

 

 なんか歩夢が腹黒策士の扱いを受けているが、謙虚でお淑やかな女の子ってそういうイメージを持たれがちだよな。裏で何を考えているのか分からないっつうか、笑顔にも何か含みがありそうな感じがしてやや怖い。しかも良くも悪くも一途だからヤンデレ気質もあるというおまけ付き。そういやコイツと最初に出会った時もそんな感じだった気がするぞ……。

 

 またしても歩夢がイジられている中、聞くだけで母性を感じざるを得ない声が耳に入ってきた。

 

 

「零……さん? 零さん!!」

「ん……? エマ?」

「はいっ、エマ・ヴェルデです! お久しぶりです!」

 

 

 俺たちの前に現れたのは同好会メンバーの1人であるエマ・ヴェルデだ。相変わらず希以上の巨乳に目が行き、それに加え穏やかな雰囲気と溢れ出る母性で年上の俺でも甘えたくなる衝動に駆られてしまう。声色は歩夢以上に優しく癒されるので、コイツに膝枕をされて頭を撫でられて寝たいと願う男は多いだろう。

 

 

「どうして零さんが私たちの学校に?」

「毎回それ聞かれるな……。歩夢に学校を案内してやるって誘われたんだよ。他のみんなにはサプライズにしてたみたいだけど」

「そうなんですね! ここにいるということは、もしかしてこれからお昼ですか?」

「そうなんですよエマさん! これから()()()が作ったお弁当を零さんに食べてもら――――」

「だったら調理室に行きませんか!? 実は最近料理部の人たちにキッチンを貸してもらって創作料理を練習中なんです。よろしければそこでお昼をどうですか? いや振舞わせてください!!」

「そ、そうか……」

「わ、私の計画が……!!」

「やっぱり最初から織り込み済みだったんだね歩夢……」

 

 

 エマっておっとり&のほほんとしてるけど、自己主張は自己顕示欲の塊であるかすみに引けを取らないくらいに強い。だから今もこうして俺に手料理を振舞うためにこちらに詰め寄り、手を握ってこの食道から連れ出そうとしている。そのせいで全ての計画が破綻した歩夢が絶望しているが、エマの行動は明らかに善意なので引っ込み思案の彼女では引き下がらざるを得ないようだ。

 

 

「ナイスアイデアだよエマっち! 料理勝負とあればアタシも参加させてもらうからね!」

「勝負とかいう名目だったか……?」

「私だって零さんに料理を振舞うためにこれまで料理の練習をしてきたんだから! 負けないよ愛ちゃん!」

「だったら……」

「おっ、ゆうゆうも参加する系?」

「参加するよ――――――歩夢がね!!」

「えぇええええええっ!? 私お弁当作ってきてるんだよ!?」

「お兄さんは男性なんだよ? 女の子のお弁当1つで満たされるわけないじゃん。だったら追加を作るしかないよね♪」

「侑ちゃんが楽しみたいだけだよね……」

 

 

 またしても高咲のご指名で歩夢が勝負に強制参加させられる。

 そりゃ男の俺からしてみれば女の子のお弁当では小さいので料理を追加してくれるのは大歓迎なんだけど、流石に大食漢でもないので3人分+弁当はキツイと思うんだが……。でも女の子たちが俺のために作ってくれるので無下にするわけにもいかないので、ここは男らしくみんなからの愛情を満腹になるまで受け取るしかなさそうだ。

 

 

「そうと決まれば調理室へ行きましょう! こっちです!」

「おいそんなに手を強く握らなくてもいいって!!」

「じゃあ愛さんはもう片方の手をお借りしちゃうよ♪」

「お前まで!? ちゃんと着いてくから走るなって!」

「歩夢がもたもたしてるせいで零さんの両手が取られちゃったよ! あとは後ろから抱き着くしかなくなっちゃった!」

「やらないからね!?」

 

 

 エマと愛に引き摺られる形で食堂を後にする。後ろからまたしても高咲が歩夢を煽っていたが、ただでさえ両手に花のこの状況ですら注目されてるのに、女の子を背負っていたら今度こそ生徒会に突き出されるぞ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「準備もできたし、早速お料理始めちゃおー!」

「おーーっ!」

「お、おーー……?」

 

 

 場所は調理室。キッチンに立つのはエプロンを装備した3人。やる気に満ち溢れている愛とエマ、自分は弁当を作ってきたのに何故か巻き込まれて未だに困惑する歩夢。そして俺の隣には――――

 

 

「どうしてお前まで実食する側なんだよ……」

「えぇ~いいじゃないですか。私だってみんなの手料理食べたいんですもん」

「お前もあっちで俺に愛を伝える側でよかったんだぞ?」

「そもそもの話、ここまでで私がお兄さんに惚れる要素ありました?」

「俺という存在を目の当たりにしただけで惚れてもおかしくない」

「可哀想な人」

「オイ……」

 

 

 笑顔で罵倒してくるあたり本気でそう思ってはいないようだが、確かにコイツとの絡みって電車内で痴漢したされたの関係でしかないためそう思っても仕方ないか。それに同好会メンバーの俺に対する反応を見れば俺が如何に女の子を侍らせるかも分かるため、初対面の高咲からしてみればむしろ不信感を抱いてもいいくらいだ。だがコイツは俺と普通に接しているどころかからかってきたりもするため、それなりに友好度は高い……と思う。

 

 

「ここで優勝すれば零さんからハグをしてもらえるから、俄然やる気上がっちゃうよ!」

「はぁ!? いつの間にそんな話になった!?」

「今さっき決めたんですけど、ダメ……ですか?」

「それで血で血を争うことにならなければいいけど……」

「今回はあくまで零さんにお料理を振舞うことですから、ご安心ください!」

「ならいいんだけどさ……」

 

 

 知らない間に勝手に俺が優勝得点にされていたのだが、抱いて欲しいのであれば好きなだけ抱いてやるのに。それで本人たちの士気が上がるのであればそれでいいけども。

 そんな感じで歩夢、愛、エマの3人は早速料理を開始した。3人共日頃から料理をやっているだけあって手際が良く、包丁やフライパン捌きが軽やかだからか思わず見入ってしまう。エプロン姿の女の子たちが自分のために料理を作ってくれるこの状況、男からしてみれば何とも羨ましい光景か。いつもは妹がその役割を担ってくれているのだが、やはり女の子が変われば新鮮さも増す。この状況を堪能するために女の子を囲っていると言っても過言じゃないな。

 

 

「いい匂いしてきましたね~♪ もう待ちきれませんよ!」

「言っておくけどみんな俺のために作っているのであって、お前のためじゃねぇからな? つうか人のモノを奪って食おうなんて食い意地張り過ぎだろ……」

「食べること大好きなんですよね~私♪ たまに歩夢が手料理を持ってきてくれることがあるんですけど、もう最高で!!」

「なるほど。それだけ食っても背が伸びないのは胸に栄養が行ってるからか」

「痴漢であれだけ痛い目に遭っておいてまだセクハラします普通……?」

「これくらい大人の中では日常会話だ」

 

 

 電車の中で高咲の身体に触れた時、それなりにふくよかな双丘を感じた。俺の周りの女の子って食う奴ほど巨乳の傾向があるため、もしかしたらコイツもと思ったら案の定だったらしい。そしてそれを指摘してやったら有無を言わせずセクハラ扱い。言いたいことも満足に言えないなんて困った世の中になったもんだな。

 

 俺たちが雑談をしている間にも3人の料理がほぼ同時に完成した。全員で1人に飯を食わせるためか1人1人の料理の量は少なめで配慮が効いている。

 

 

「まずは愛さんからお披露目しちゃうね! 愛さんからはじゃーん! これぞお袋の味、肉じゃがでーすっ!」

「すごーーいっ! 彩りも綺麗でいい匂いだし、思わず涎が……」

「零さんって洋食好きでしょ? だから和食も美味しいんだぞ~ってことを知ってもらいたくて!」

「確かに妹は俺の好きな料理しか作らねぇから、こういう形で煮込み料理を食うのは久々だな。いただくよ」

「どうぞ召し上がれ!」

 

 

 高咲の言った通り煮込み料理にしては彩りがいい。煮込み過ぎるとどうしても茶色ベースとなり色合いは薄れてしまうが、愛が作ったものは人参やさやいんげんの鮮やかさを残し色とりどりの見た目となっている。じゃがいもも煮崩れがなく、高咲ほどではないが俺も食欲を唆られてしまっていた。

 もちろん味も完璧で、薄味醤油のおかげで醤油の味がしつこくないのが俺的にグッド。甘みがあるじゃがいもと玉ねぎに牛肉の旨味が融合した日本人にとってはシンプルな味付けだが、だからこそ久々に食べても舌に合う。確かにこれは母親や奥さんに作ってもらいたい味かもな。

 

 

「美味しいよ愛ちゃん! 是非毎日ウチに作りに来て!」

「いやぁ~そこまで言われると考えちゃうなぁ~アタシ!」

「そんな掛け合いをしてるからレズネタにされるんじゃねぇのか……。まぁとにかく、久しぶりに食ったのに懐かしい感じがして美味いよ。高咲が嫁に来いって言った気持ちも分かるな」

「えっ!? ふ、不束者ですが……」

「なに急にしおらしくなってんだ!? 気持ちが分かるって言っただけだぞ」

「零さんって女の子を勘違いさせる天才ですよね」

「お前らの妄想が豊か過ぎるんだろ……」

 

 

 天真爛漫なコイツらしくもなく乙女の表情で俺の告白を受け入れた紛いの反応を見せる愛。その表情を見られただけでも儲けものだが、ちゃんと料理も美味しかったからな? 見た目ギャルの割に和食好きだったり料理もできる家庭的なところがポイントが高い。やっぱ美味い飯が作れる女の子ってそれだけで惚れちゃいそうになるな。女性の恋愛の王道手段で『男の胃袋を掴め』とはよく言ったもんだ。

 

 

「次は私ですね」

「歩夢頑張れーーっ!」

「何その声援!? ていうか料理作りはもう終わってるんだけど!?」

「無自覚に歩夢を煽るよなお前……」

「私は凝ったものは作れないので、ミニハンバーグと玉子焼きを……」

「いや、十分過ぎるラインナップだろ……」

「キタ歩夢の十八番! これなら零さんに娶ってもらえるよ!」

「め、娶って……。ふ、不束者ですが」

「またそれかよ……」

 

 

 どいつもこいつも勝手に側室に入ろうとしやがって。そんなにも娶って欲しいならいくらでも囲ってやるが、俺だってそれなりにロマンチストではあるから女の子と1つになるならいい感じの雰囲気を所望する。

 

 歩夢が作ったのは如何にも女の子の手料理っぽいハンバーグと玉子焼き。ハンバーグは手短に作ったからかソースなどの味付けはないものの、程よく焦げが入った牛肉の表面と香ばしい肉汁で見た目を全てカバーしている。玉子焼きも多少の焦げが入って手作り感が満載。ふわっとした玉子が6等分に切り分けられ、切り口も整っており非常に綺麗だ。愛の肉じゃがと同じく家庭感があり、見ているだけでも実家を思い出し自然と落ち着く。

 味付けもしっかりされており、ハンバーグは噛んだ瞬間にたっぷりの肉汁が、玉子焼きは噛んだと分からないくらいの柔らかさとほんのりとした甘さを感じられる。どれも俺の好みの味付けなのでどこからか情報を得たのだろうか。それ故に愛情もたっぷりと伝わってきた。

 

 

「最後は私ですね! いつか手料理を振舞う時のために考えていた自信作です!」

「わぁ~タルトだ! 甘い匂いがすると思ったらこれを作ってたんだね」

「エンガディナー。スイスの銘菓だな」

「えっ、知ってたんですか!?」

「世界の名物なんて常識の範囲内だ」

 

 

 嘘です、エマの故郷であるスイスについて色々調べて最近初めて知りました。自分のことを好きでいてくれる女の子のことを知っておくのは当然だろ? もし仮にデートとかする時の世間話にもなるしな。

 エンガディナー。ヌガーという白く柔らかな飴に杏やクルミの実などを絡め、たっぷりのクルミをクッキー生地で包み込んだボリューム満点のタルトだ。スイスの伝統的なお菓子で、その歴史は200年にもなる。

 

 エマが1片切り取り皿に盛り付け、俺と高咲に差し出す。

 そして食い意地の張った高咲は早速口にする。

 

 

「美味し~い♪ 思った以上に甘いんだね」

「バター生地のまろやかさとキャラメルの甘さが際立ってるからな。食後のデザートにはピッタリだよ」

「ありがとうございます! 故郷の兄妹みんなに美味しいと言ってもらえるまで練習した甲斐がありました!」

「どれどれ私もいただいちゃうよ! ――――んっ、これいい! いいよエマっち!」

「だったら私も――――あっ、美味しい♪ 食後のデザートでもいいけど、3時のおやつのティータイムにもいいかも」

 

 

 愛と歩夢も超絶賛。想像以上に褒められたためかエマはさっきからずっと照れたままだ。確かに甘味の強いお菓子は女子高校生からしてみればドストライクだし、俺を喜ばせるよりもむしろ同好会メンバーの方を喜ばせている。愛と歩夢の料理もみんな実食して高評価だったが、やはり女の子だから甘いお菓子が大好きなのだろう。

 

 

「これでみんなの料理の実食が終わりましたけど、優勝は誰ですか?」

「そりゃお前、みんなだろ」

「うわっ、優柔不断! まぁお兄さんならそんな気はしてましたけど……」

「愛のお袋の味も、歩夢の家庭的な味も、エマの故郷の味もみんな良かった。それにここまで愛情を込められたらみんなを選ぶしかねぇだろ?」

「あぁいつものハーレム思考ですか。そんなのでみんなが納得するはず――――」

「歩夢、今度玉子焼きの作り方教えてよ。アタシもおばーちゃんも甘い玉子焼き好みなんだよね~」

「うん、今度一緒に作ろ! エマさんのタルトも教えて欲しいです!」

「もちろん! 私は和食料理が好きだから、愛ちゃんに教えてもらってもっと色んな料理を食べたいな」

「オッケーオッケー! どうせならみんな誘ってクッキングしよっか!」

 

 

 一応争っていたはずなのだが、お互いがお互いの料理を褒め合って切磋琢磨している。美味い料理は人の荒ぶった精神を安定させるとも言われているが、まさにその通りなのかもしれない。つうか本当に最初から争うつもりがあったのかも不明だが……。

 

 

「みんなが優勝ってことは、みんなハグしてもらえるってことですか?」

「ん? まぁそうなるのか……」

「それじゃあ……いいですか?」

「あ、あぁいいけど……」

 

 

 エマは恥ずかしそうにしながらも、両腕を広げて俺を迎え入れる体勢は万全だ。俺は彼女に歩み寄り、正面から思いっきり抱きしめた。

 

 

「ひゃっ……!! んぅ……♪」

 

 

 なんか変な声したけど聞かなかったことにしていいか……?

 一言で言おう、とても母性を感じる。元々同年代の女の子と比べても背が高く、暖かそうな雰囲気で胸もふくよかな彼女。そんな彼女を正面から抱きしめた瞬間に俺まで身体が火照り、こっちが主体で抱きしめているはずなのに向こうに抱きしめられている感じがする。それだけコイツの温かみに包まれていると言うことだろうか。さすが森ガールと呼ばれるスイスの美少女、普通の女の子の濃厚接触では味わえない感覚だ。あと俺の手にも収まりきらないだろう大きな胸の感触がもう……ね。なるほど、これがバブみってやつなのか。

 

 

「愛さんも優勝したんだから抱き着いていいよね? えいっ♪」

「ちょっ!? 体重かけ過ぎだって右腕外れる!!」

「零さんの左腕が空いてるよ! 歩夢も早く行かないと!」

「そ、そんな恥ずかしいよぉ……」

「だったら私が行っちゃうよ?」

「そ、それはダメ!! えいっ!!」

「歩夢!? お前も力強いって!! 高咲が変に煽るから!!」

「いい身分ですね、お兄さん♪」

 

 

 3人の女の子に纏わりつかれ、もはや動けなくなってしまう。そんなことをつゆ知らず、俺に抱き着いて幸福に浸っている3人。特に真正面から抱き着かれているエマは蕩けた表情でトリップしているようだ。愛は自分の胸に俺の腕を挟み込むようにしてくるので気が散るし、歩夢は俺に抱き着くこと自体が恥ずかしいのか顔を赤くしながら目を瞑っている。俺からしてみたらこっちの方がよっぽどご馳走だよ。

 

 あと横でイタズラそうに笑っている高咲ね。いつか覚えてろよ……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 料理の見た目や味を文字で表現するの難しすぎて、執筆に無駄に時間が掛かっちゃいました(笑) 投稿が遅れたのはそのせいだったり……

 みんなが零君に抱き着く抱き着かれるの部分を主体の話にしようと思っていたのですが、1話完結だと文字数が足りな過ぎる!! ぶっちゃけもっとハーレム感を満載にしたいですね。



 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

表情もなければおっぱいもない!!

 璃奈とエマがこの小説に同時出演するってことはこのネタをやらざるを得ないと思いました(笑)

 そんなわけで今回は璃奈回です!


 結局あの後は歩夢たちの作ってくれた昼飯を全員分たらふく平らげた。食ってる途中でもみんなが抱き着いたまま離れてくれなかったため、何故かみんなに食べさせてもらうという赤ちゃんプレイにまで発展したのは内緒だ。四方八方から俗に言う『あ~ん』攻撃を一身に受けたため食い切るのに時間がかかってしまったが、それでも美味しくいただけたのはコイツらの愛情があってこそだろう。みんな将来いつ俺に嫁いでも問題なさそうだ。

 

 長かった食事も終わり俺への学校案内が再開される。午前中は次から次へ騒動に巻き込まれたためか学校周りとエントランスホールくらいしかまともに見て回れていないので、そろそろ同好会の部室や練習場を紹介して欲しいもんだ。まあこの学校は設備も充実していて内装も近未来的だから歩き回っているだけでも飽きないのがまだ救いか。

 

 午後から運動部のサポートがあると言ってこの場から抜けた愛を除き、歩夢、エマ、高咲の面々で校内を練り歩く。

 

 

「歩夢さっきからずっとニヤニヤしてるよ? お兄さんに手料理を食べてもらったのがそんなに嬉しかった?」

「そりゃもう『あ~ん』って零さんに食べさせてあげたこととか、なんか新婚さんみたいだったし……えへへ♪」

「表情緩み過ぎでしょ……ね、エマさん――――って、エマさん?」

「…………はっ、な、なにかな侑ちゃん?」

「さっきお兄さんとの食事シーンを妄想してましたよね……?」

「えぇっ!? どうして分かったの!?」

「いや歩夢と同じ顔だから嫌でも分かるって……」

 

 

 歩夢とエマはさっきから前を見て歩いていないというか、いや向いてはいるんだけど完全に自分だけの世界に入り込んでしまって妄想に現を抜かしている。心ここに在らずという言葉がお似合いだが、俺が顔を覗き込んでみると途端に顔を真っ赤にして慌てた様子を見せる。もはや辞書の『恋』という言葉の欄にコイツらの表情を載せておけば誰でも意味が理解できそうだな……。

 

 そんな中、高咲は訝しげな顔で俺を見つめていた。

 

 

「お兄さん、エマさんが来てから頻繁に胸見てますよね……」

「なんだ藪から棒に。まぁそりゃ見るだろ、男だもん」

「否定したり誤魔化さないのがお兄さんらしいですね……」

「そ、そんなに私の胸が気になるんですか……?」

「制服の上からでも分かる手に吸い付くだろう大きさ。男の大きな手でもたっぷりと鷲掴みにできるボリューム。エマ特有のふんわりとした雰囲気から胸の柔らかさも伝わってくる。これだけ見るべき要素を並べたら十分か?」

「うわぁ……ソムリエっぽくてなんかキモい……?」

「おいおい見くびるなよ。ただ人より女の子の胸を触る機会が多いだけだ。俺の人徳が成せることだな」

「お兄さんって本当に俺様系ですよね。女性の敵と思われてもおかしくないですよ……」

 

 

 それで嫌われているんだったら俺の周りにこんなに女の子はいないって。それに高咲も何だかんだ俺と仲睦まじく(?)話をしてくれるので、内心俺のことを嫌ってはいない……と思う。そもそも俺から変態精神を奪ったらそれこそ完璧超人になってしまうから、そのようなマイナス要素があった方が帳尻が合ってちょうどいいんだよ。

 

 

「胸が大きいと肩が凝ったり男性にジロジロ見られていいことがなかったんですけど、零さんに褒めてもらえるのであれば悪くないかなぁ~って。むしろ零さんが求めてくれるのであれば――――どうぞ!!」

「どうぞってこんなところで!?」

「わ、私だってエマさんには敵わないけどそれなりにはあるつもりです!!」

「なんのアピールだよ!? てか仮にもスクールアイドルなんだから校内でそんなこと叫ぶなって!」

「こうなったのお兄さんのせいですから」

「なんで!? 最初に話を振ってきたのはお前だろ!?」

 

 

 火を点けたのは俺だが、油を撒いたのは高咲だ。なのにコイツはこの期に及んで無関係者を装い周りの目から逸れようとしてやがる。

 てかコイツもそこそこに胸あるくせに――――とか言ったらかつてないほど冷たい目で見られるんだろうな……。

 

 

「あっ、れ、零さん……?」

「お前……璃奈か?」

 

 

 廊下の真ん中で騒いでいると、曲がり角から突然きし麺ピンク髪のロリ少女――天王寺璃奈が現れた。ぶっちゃけてしまうとコイツの素顔をあまり良く見たことがなかったため、最初は璃奈だと気付かなかった。ロリ体型と特徴的な髪から何となく察したのだが、どうやらビンゴだったようだ。

 

 本人もいきなり俺とエンカウントしてビビったのか、一瞬で手で顔を覆う。

 

 

「あわわわ……ちょ、ちょっと待って、ボードを用意するから」

「いやそのままでいいだろ。素顔、可愛いじゃん」

「えっ、あっ、う、うん、ありがとう……」

「それでもまだ手で隠すのな……」

「だって恥ずかしい……」

 

 

 顔を手で隠してはいるが、その隙間からでも顔が赤くなっているのが分かる。表情を出せないから『璃奈ちゃんボード』なるもので顔を隠すのがコイツの常なのだが、今の羞恥に塗れている様子を見るに感情を出せている気がする。ライブやメディアの前でも素顔を隠しているため彼女の本当の顔を知っている者は意外と少なく、俺もその1人だったりする。さっき曲がり角の出会い頭で一瞬顔を見えたのだが、別に隠すほどでもなくむしろめちゃくちゃ美少女だった。だからもう一度見てみたい。

 

 

「璃奈ちゃん私たちの前だとボードを外して会話ができるのに、お兄さんとはできないんだ」

「恥ずかしすぎて無理。目を合わせても無理。そもそも会話をすること自体、気持ちが変に舞い上がっちゃって無理」

「零さんが好きな故なんだよね。この前なんて零さんの写真を写したスマホと睨めっこして慣れようとしていたんですけど、写真に負けちゃったんですよ璃奈ちゃん。可愛いですよね♪」

「エマさんそれ言わない約束……」

「いやそれは結構なことだけど、どこで写真を手に入れたんだよ……」

「確か歩夢ちゃんが――――」

「な、なんのことでしょう分からないですね~あはは……」

「おいどこで手に入れた……」

 

 

 歩夢は俺と目を合わせないが、明らかに目が泳いでいるのでそれなりの違法手段で手に入れたのは間違いなさそうだ。前も言ったけど、やっぱりコイツ少しヤンデレの気質あるよな……。入手経路は聞いたらそれはそれで闇が深そうだから敢えて追及するのは避けよう。

 

 それにしても璃奈の奴、俺の写真相手でも睨めっこに負けるとは。それはもう表情を出せないのではなく羞恥心のような気もするが、一度街中でエンカウントした時もコイツは恥ずかしいからと俺の前でボードを外さなかった。ボードを着けている時はそこそこ饒舌だから人とのコミュニケーションは好きなんだろうけど、これだといつまで経っても『俺』を克服できないだろう。

 

 そして璃奈は恥ずかしい過去を暴露され動揺しながらも、カバンから表情が書かれたボードを取り出して顔の前に持ってくる。それでようやく俺と向き合った。

 

 

「やっぱ表情が見えないってのは喋りにくいな……」

「喜怒哀楽ならボードで表現できる。それに紙を素早く捲れば表情変化にも対応できるし大丈夫」

「それでも俺はお前の素顔が見たい」

「それはまだ難しい。むぅ……エマさんみたいな身体だったら表情が見せなくてもスキンシップ出来るのに……」

「ええっ!? 私みたいな身体って……そういうことだよね?」

「そういうこと。零さんはおっぱい星人だから」

「あのな、否定はしないけどただおっぱいを押し付けるだけで俺が惹かれると思ったら大間違いだぞ」

「なんで? おっぱい、好きでしょ?」

「好き」

 

 

 己の欲望には逆らえないため即答してしまったが、俺に女体を差し出せばホイホイ釣られる時代は終わった。高校時代の思春期MAXの時期ならそれでも良かったかもしれないが、俺だって今は大学生。しかも数多の女の子と付き合っているため女体なんて慣れに慣れ過ぎている。だから少し巨乳だからってそれでスキンシップを取ろうなんて片腹痛い。まぁエマくらいの大きさであれば多少は靡くかもしれないが、それはそれ、これはこれだ。

 

 

「エマさんはどうしてそんなに胸が大きいの? 何をしたらそうなったの?」

「そ、そんなこと言われても何もしてないというか、成長の過程で勝手にこうなったとしか……」

「くっ、これが持つ者だけに許された余裕……」

「確かに胸があればお兄さんを誘惑できるし、璃奈ちゃん的にはステータスなのかも。ね? 歩夢」

「私に振るの!? ま、まぁ零さんが喜んでくださるのなら大きくてもいいかなぁって……」

「ここには理想的な体型と規格外体型しかいないから、貧乳ド陰キャの私がいる場所がない……」

「お前少し自暴自棄になってないか……?」

「表情もなければおっぱいもない!!」

 

 

 璃奈は『怒』のボードを前面に向ける。コイツの喋り方はトーンが一定で起伏がないのだが、今は普通に興奮しているのが声だけで分かる。今こそ感情が表に出ているだろうからボードを剥ぎ取る時なんだろうけど、流石の俺でもそこまで畜生ではない。それに素顔を見せる時は自分の意志で見せて欲しいもんだ。

 

 

「胸を大きくするためには、男性から揉まれるのが一番ってよく言われるよね。そこのところどうなんですかお兄さん?」

「どうして俺に聞く……」

「いやぁ~触り慣れてるって話だったから知っているのかと思って」

「慣れてるって言われたらそうだけど、大きくなる原因は分かんねぇよ。好きな男に揉みしだかれたら性的興奮から女性ホルモンが多く分泌され、その影響で胸が大きくなるとかじゃねぇの? 知らないけど」

「そ、そうなんだ……」

「もしかして歩夢、今想像した? お兄さんに触られるところを想像した??」

「ふぇっ!? し、してないしてないしてない!!」

 

 

 いや、顔の紅潮具合を見るに絶対に良からぬ妄想をしていたなコイツ。性格は紛うことなき清楚キャラなのに中身がアレってのはどこぞの淫乱バードを思い出すな。アイツのような歩く変態にはなって欲しくないというか、ならないように俺が努力しよう。

 

 高咲が言っていた男に胸を揉んでもらう理論は昔からあるが、それは別に間違っちゃいないと思う。科学的根拠はないが、好きな男に触られるためならバストアップ術を試すという気概が起きるだろう。それで胸が大きくなれば結果オーライなのだ。

 

 

「なるほど……。ということで零さん、私の胸を触って」

「あぁ分かった――――って、今なんつった??」

 

 

 璃奈の爆弾発言に場の空気が変わる。口調が淡々としているから思わず適当に返答してしまったが、よくよく言葉を辿っていくとまさか自らセクハラを求めるとは……。璃奈の発言に歩夢たちも唖然としている。

 

 

「好きな男性に触られたら大きくなる理論が合っていれば、零さんに触られたら私の胸が大きくなるってこと。だから触って」

「と言われてもなぁ……」

「私の胸は零さんのモノ。つまり私が触ることを許可している以上、何も迷う必要はない。それにいつもの零さんなら女の子のおっぱいを好きにできるのなら鼻の下を伸ばして飛び込んでくるのに、ここで躊躇する理由が分からない。Why?」

「だ、だったら私も自分の胸に自信がないから零さんに触ってもらいたいなぁ~……って」

「歩夢お前、さっきそれなりにあるって豪語してなかったか……?」

「私だって零さんのお好みのサイズになるまで触っていただいてもいいです……よ?」

「お前はもう十分だろエマ……」

 

 

 なんか流れで俺が豊胸手術をしてあげるみたいになってるんだけど……。いや触ること自体は大歓迎だが校内でやるべきことじゃないだろ……。

 エマはもちろん歩夢も胸はそれなりにある部類なのに、ここに来てまだ豊胸しようとする謎の向上心。全ては俺のために求めていることだから嬉しくはあるんだけどさ。

 

 

「据え膳食わぬは男の恥と言いますから、ここはお兄さんも男を見せるしかないですよ」

「あのな、客人としてこの学校に来てるのに余計な不祥事は起こせねぇだろ……」

「女の子が恥を忍んで頼んでるんですよ? しかも女の子が自らのカラダを差し出してお願いしている。これを拒むとか男性器付いてるんですかぁ?」

「あん? 先にお前の胸揉むぞ」

「は? 普通にキモいのでやめてもらっていいです……?」

「まぁそれが一般的な反応だよな……」

 

 

 あまりにも簡単に女の子の胸を揉める状況だから感覚が麻痺していたが、高咲の反応こそまさに普通だ。俺から揉ませてくれとお願いすれば触らせてくれるし、逆に女の子たちが自ら触らせようとするこの状況が異質だと改めて実感した。俺たちが如何に日常の皮を被った非日常を繰り広げているのか、高咲を通じて思い出したよ。

 

 

「歩夢さんの胸もエマさんの胸も触っちゃダメ。今は私の強化回で、ここで自分の胸を強化しておっぱい魔人にリベンジを挑む激熱展開なんだから」

「別に私は胸の大きさで戦おうなんて思ってないんだけど……」

「胸が大きくなるとメリットしかない。貧乳を見下すマウントが取れる。貧乳で悩まなくていいから心に余裕ができる。零さんに注目される。零さんを誘惑できる。零さんにおっぱい枕として使ってもらえて一緒に寝られる」

「後半はお前の欲望じゃないのか……」

「そんなことはない。ね、歩夢さん?」

「うんそうだね――――って、どうしてみんな私に振るの!?」

「油断して素の反応だったよね歩夢……」

 

 

 サラッと歩夢の化けの皮を剥がすのはやめてやれ。ただでさえ淫乱の片鱗を見せてるってのに……。

 胸を大きくする理由は何であれ、璃奈はそれなりに真剣なようだ。だったら男として応えてやるべきなのか……? ムードもへったくれもない状況だけど豊胸手術、つまり医療行為だと思えば問題ない。それもAEDを使用するような緊急性の高い手術で、場所なんて選んでいる場合ではない。それくらい璃奈は胸を大きくすることを熱望しているらしい。なるほど、なるほどなぁ……。

 

 

「いいだろう。俺が直々に揉んで大きくしてやる」

「ホントに? やった」

「いいんですか零さん!?」

「これは医療行為だ。お前は心肺停止でぶっ倒れている奴を見て、AEDも使わず知らんぷりするのか?」

「そんな急を要することなんですかこれ……」

「持っている者には分からない。貧乳の持つ悲しみ、苦しみ、僻み、嘆き、そして絶望を」

「そもそも私、璃奈ちゃんが胸のことで困っているなんて知らなかったよ……。そんな素振り一切なかった気がするんだけど」

「困っている風を装っておけば零さんの同情を誘って胸を触ってくれるなんて思ってないから」

 

 

 なんか深層意識が表層意識に現れた気がするんだけど、これは聞かなかったことにしておこう。そうしないとさっきまで割と本気で心配していた俺が馬鹿らしくなってくるから……。

 璃奈は俺と向かい合う。どうやらもう俺に触られる覚悟はできているようだ。どんな表情で待ち構えているのかはボードに遮られて分からないが、ボードに描かれた表情は本心を隠すためかハイテンションのもの。もっと緊張を表す表情のものはないのか雰囲気出ねぇな……。

 

 ここまで来たら俺も引き下がれない。俺は璃奈の胸元に手を伸ばし、膨らみかけで熟す前の胸を――――――

 

 

「ひゃっ……んっ♪」

「ちょっ!?」

 

 

 柔らか!? っと思った矢先、璃奈は後退して俺の手の呪縛から逃れる。やっぱり小さくてもおっぱいはおっぱい、柔らかさは大小関係なく変わらない――――なんて考えている間に俺の手は空を掴んでいた。本当に一瞬しか触っておらず、なんなら指を食い込ませる前に逃げられてしまった。だが俺の手には彼女の胸の感触が微かに残っており、空気を掴みながらも指を動かして無を揉んでしまう。それくらい手に馴染む感触だったんだ。

 

 ていうか、そっちから求めておきながらどうして逃げた?? 見ればボードの表情が羞恥モードに変わっている。

 

 

「恥ずかしがるのなら最初からやめとけよな……」

「こんなに刺激の走ることだとは思わなかった。胸の外から中へ、芯まで熱い。今までに感じたことのない未知の刺激。これは胸が大きくなる前兆かも」

「璃奈ちゃんとっても気持ちよさそうですけど、お兄さん本当に触っただけですか? ほら、璃奈ちゃんずっと身体をモジモジさせてますよ?」

「いや触ったレベルに到達してねぇぞ。逃げたせいでほんの一瞬触れただけなんだけど……」

「例え一瞬でも零さんの手が私の胸に触れた時、身体中に電流が走った。そして現在進行形で胸が熱い。胸の先端から付け根に熱さが流れ込んでくるかのよう」

 

 

 やけに生々しい解説だな……。それってただ羞恥心で体温が上がってるだけなんじゃねぇのと思ってしまう。でもプラシーボ効果というのは本当にあるみたいで、本人がそれで胸の何かしらの変化を感じているのならそれでいいのかもしれない。でもこれで本当に俺が触ったことで胸が大きくなったら女の子たちから引っ張りだこになりそうだ。うん、それはそれでいいかもしれない。

 

 

「いいなぁ璃奈ちゃん。私も胸が小さかったらおねだりできたのかな……」

「歩夢だって成長の余地あるじゃん。この際だからお兄さんに触ってもらえば?」

「えぇぇっ!? ま、まだ心の準備ができていないというか……」

「あまり男に触ってもらいたいとか言ってると痴女と間違われるぞ。エマを見てみろ、巨乳が故の心の余裕ってやつが――――」

「璃奈ちゃん気持ちよさそうだったなぁ……。私も零さんに触られたらあぁなっちゃうのかなぁ……。ふわぁ……ひゃんっ♪」

「えっ!?」

「もしかしてお兄さん、一瞬でエマさんの胸を……!?」

「いや何もしてねぇ!! おいエマ、俺に胸を揉まれる妄想で卑猥な声出すな!!」

「はっ!? 私は何を!?」

 

 

 危ない危ない、もう少しで痴漢冤罪を吹っ掛けられるところだった。だが弁解したのにも関わらず高咲はまだ鋭い目を俺に向けるので疑いが晴れていない。エマは自分の妄想を思い返して恥ずかしがり、歩夢は俺に揉まれる覚悟を決めようと呪文のような独り言をぶつぶつ呟き、璃奈はまだ俺に触られた余韻に浸っている。あぁ、こうやって収拾がつかなくなるからこの場ではやりたくなかったんだよな……。分かっていたんだけど女の子の胸には勝てない。野郎であればこの気持ちを理解してくれるはずだ。

 

 

「零さん、もう1回私の胸を触って」

「はぁ? 恥ずかしいんじゃなかったのかよ」

「確かに恥ずかしい。でもそれ以上にカラダに走る刺激が堪らない。感じたことのない感覚に興味しか湧かない。これで女性ホルモンを大量に分泌して、エマさんのようなボディに――――」

「じゃあ、ほい」

「ぴゃぁっ♪」

 

 

 今度は戯れに敢えて璃奈が覚悟を決める前に胸に触ってみた。不意打ちだったからか回避行動が間に合わず、さっきよりも胸に触れた面積も大きく時間も長かった。ふにょんといった効果音が似合うほどの柔らかいおっぱい。例え小さくても女の子としての成長をしっかりと感じられた。

 

 そしてあまりに突然の出来事だったためか、璃奈はその場で尻もちをついてしまう。更にその衝撃で手からボードが外れ、遂に素顔が俺の眼前に顕現する――――――

 

 

「なんだ、ちゃんと感情出せてるじゃねぇか」

「み、見ないで恥ずかしい……」

 

 

 璃奈は顔を手で覆って俯く。だが俺の反応が気になるようで、顔を赤くしながら指と指の間から目だけを覗かせている。

 表情が上手く表に出せないと嘆いていたが、その心配は杞憂だったみたいだ。羞恥に塗れる様子、そしてその恥ずかしさに耐えられず赤面する表情はしっかりと女の子だ。つうか普通に可愛いんだよな。恋人でもいいけど妹にもしたいくらいだ。

 

 璃奈は床に落ちたボードを素早く拾い上げ自身の眼前に持ってくる。

 

 

「こうなったら零さんに責任を取ってもらうしかない。素顔を見た責任。心の準備ができる前に胸を触った責任」

「いやなんでそうなる」

「だったらもっと触って。身体に走る刺激が快感で衝動が抑えられない。もっと感じてみたい。触って、触って」

「どんどん痴女化してるぞ!? おい高咲、見てないで止めてくれ。歩夢とエマは妄想に耽って使い物にならないからお前だけが頼りだ」

「私も電車内で痴漢されちゃったからなぁ~どんな責任を取ってもらおうかなぁ~。ね、お兄さん♪」

「お前……」

 

 

 1つ言っておくけど、今回は女の子側から触っていいと言ってきたから俺は無罪だ。だけど何故か俺が撒いた種ってことになってるし、何でも男のせいにされるからやっぱり男が生きづらい社会になってるよ全く。

 結局璃奈の暴走を止めるためにもう1度触ってやったのだが、それはそれで余計にコイツの興奮に拍車をかけるだけだった。頼むから脳内ラブホテル化だけはやめてくれよ……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 璃奈ってアニメだとあまり喋りませんが、スクスタのストーリーとかを見ているとかなり饒舌なのが驚きでした。なのでこの小説でも斜め上の方向に暴走させてみましたが、私はこのキャラ付けの璃奈がかなりお気に入りになりました(笑)

 評価コメントで「零くんとアイドル達の絡みは最高です」といただきました。ハーレム要素はもちろんキャラ同士の仲の良さを前面に押し出しているので、読者さんに一瞬でも面白いと思っていただけると嬉しいですね。


 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!


 新たに評価をくださった

 羊田さん

 ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スリーピング・ドリーム・ワールド

 虹ヶ咲のアニメが放送されるたびに推しキャラが増えていく現象が続いています。
 ぶっちゃけただのお眠キャラだと思っていた彼方が意外としっかり者でビックリしたのがアニメの感想です(笑)

 てなわけで今回は彼方登場回です!


 璃奈の暴走というまたしても余計な騒動に巻き込まれた俺たちだったが、なんとかその場を収めて学校案内を再開した。あのまま廊下で乳くっていたら確実に校内から追い出されていただろうから、誰にもバレなかったのは僥倖だったかもしれない。俺が常日頃からコイツらを性的に満足させてあげりゃこんなことにはならなかったのか……?

 

 そんなこんなでいつものメンバー+璃奈で校内探索を再始動。エマは衣装部の手伝いがあるらしくてパーティから抜けてしまった。

 

 

「ふわぁ~なんか眠くなってきたな。そりゃあれだけ飯を食わされた挙句、その後あんなに騒いでたらこうもなるか」

「ゴメンなさい。私の作ってきたお弁当まで召し上がっていただいて。多かったですよね……」

「いや、男の胃を舐めるなよ。むしろいい感じに満腹になったから気にすんな」

「その後は私でいい運動ができたはず。感謝して欲しい」

「お前は乳くる乳くられるのが運動だと思ってんのか……」

 

 

 そりゃいきなり胸を触れと暴走されたら抑え込むのに体力も精神も持ってかれるけど、それが運動と見なされるなら苦労しない。だって日頃からそういった生活を送っているんだからさ。

 

 

「お兄さん、だったら次は中庭に行きません? あそこ日当たりも良くて、お昼はそこで休憩を取っている人も多いんですよ。私たちもそこで休みましょう」

「あぁ。ずっとお前らに巻き込まれっぱなしで疲れたから、ちょっくら休憩してくか」

「えぇっ!? 私たちのせいですか!?」

「じゃなきゃ学校案内ごときで何時間も費やすのはおかしいだろ。まだお前らの部室にすら案内されてねぇのに」

「みんな零さんに迷惑を掛け過ぎ。テンションが上がるのは分かるけどもっと落ち着かないと」

「お前がトップクラスで落ち着いてなかった気がするけど……?」

 

 

 自分のことを棚に上げて歩夢たちを咎める璃奈。相変わらずボードを着けると饒舌になり、それだけでなく煽り性能まで付与されている。発言がブーメランにしかなっていないので大した性能ではないんだけども……。

 

 高咲の提案で中庭に行くことになった俺たち。早速行ってみると、確かにお昼休みだからかそれなりに人はいる。日当たり抜群で休憩するなら絶好の場所なのだが、程よく暖かいせいで昼寝が捗ってしまいそうだ。流石に客人としてこの学校に来ている身として寝るわけにはいかないので、ここは眠気を堪えて耐えるしかないか。そうなるとさっきまでの騒がしい時間が恋しくなるな。

 

 

「ていうかコイツ……」

「すぅ……すぅ……」

 

 

 案の定と言うべきか、虹ヶ咲の眠り姫である近江彼方がベンチで気持ちよさそうに眠っていた。スカートが捲れかかっているので目線をズラせば余裕でパンツが見えそうだ。こんな無防備な状態で寝ているとは、どこぞにいる悪い男に襲われても知らねぇぞ?

 

 

「うにゅ……あれ、零さん……?」

「よぉ。てかぐっすり眠っていたのにどうして起きた……」

「零さんの香りと気配で分かるよ~」

「寝てるのに分かるとか地味にこえぇよ……」

 

 

 彼方は俺が近づいた瞬間に目を覚ましてむくりと起き上がる。睡眠中なのにも関わらず俺の匂いと雰囲気を察して起きたようだが、それってもはやエスパーの類を疑いたくなる。まぁ俺の周りの女の子たちはそういった特異体質持ち(脳内お花畑、歩く猥褻物、妄想ラブホテルetc…)ばかりなので、今更驚くことでもないけどな。

 

 

「おはようございます彼方さん。相変わらずお昼休みはお昼寝タイムなんですね」

「あれ~歩夢ちゃん? 侑ちゃんに璃奈ちゃんも。そして零さん……えっ、零さん?? どうしてここにいるの~?」

「今頃気付くのか……。歩夢たちに学校案内をしてもらってるんだよ」

「みんなは驚いていましたけど、彼方さんは全然いつも通りだね」

「いやいや彼方ちゃんも物凄く驚いてるよ~? 寝起きだからまだ夢見心地なだけで……ふわぁ~」

 

 

 相変わらずマイペースな奴で、俺が来てやったのにも関わらずまた寝ようとしてやがる。いや別にいいんだけど、せめて寝ている間に乱れた服を整えてからにして欲しい。傍から見たら怪しい男が夢見心地で思考回路が満足ではない女の子を脱がしている構図と捉えられなくもない。この学校に来てからやれ略奪愛だの、やれレズの間に割って入る男だの、やれ乳くり合戦だのに巻き込まれてるせいで、周りの生徒たちからの評価がガタ落ちしてないか気になるんだが……。

 

 

「そうだ、零さんもこっちに来て一緒に寝ようよ~。この中庭とっても暖かいからお昼寝に丁度いいんだよ~」

「いや人様の学校で寝るわけにはいかねぇだろ……」

「えぇ~? だったらこっちから行っちゃうから。え~い!」

「うぉっ!? いって……急に抱き着いてくんな!?」

「すぅ……」

「寝んな!!」

「大丈夫ですか零さん!?」

「あ、あぁ、コイツがめちゃくちゃ軽くて助かった……」

 

 

 彼方って如何にもどんくさそうだが、スクールアイドルをやっている以上は一定の運動神経は身に付いている。そして今回無駄にその身体能力を活かし、俺が受け身を取る前に懐に抱き着いてきやがった。そのせいで思わず尻もちをついてしまうが、本人は意に介さず俺を抱き枕にして眠ろうとしていた。

 

 

「零さんの香りだぁ……すんすん」

「嗅ぐな!! ったく気持ちよさそうな顔をしやがって……」

「久しぶりによく眠れそうだよ~。最近少し寝つきが悪くって……」

「お前が? 珍しいな」

「バイトとか掛け持ちしてるし、疲れが溜まり過ぎて逆に寝られないのかも……」

 

 

 そういやコイツ、忙しい母親や愛しの妹のために家事も家計も支えてるんだっけ? そのためにバイトを掛け持ちして家の収入を増やしたり、毎日3食の食事を作ったり、特待生として勉強も頑張り、しかもスクールアイドルまでやっている始末。そりゃ疲れすぎて逆に気持ちよく眠れないのも無理はないだろう。

 

 

「彼方さん、私にいい考えがある」

「およ? なになに璃奈ちゃんいい考えって……?」

「私が独自ルートで開発したこのインディアンポーカーのカード。これを額に張って寝れば同じカードを持つ他の人と夢が共有できて、かつぐっすり眠れる効果付き」

「何それ凄い!! 璃奈ちゃんって何でも作れると思ってたけど、そんな凄いのまで作れるの!? 夢を共有なんてどういう仕組み??」

「それは教えられない。ある人の協力で開発したもので、極秘情報だから」

「その人ってアイツだろ絶対」

「…………ノーコメント」

 

 

 こんな役に立ちそうで無駄なことにリソースを費やすのは秋葉(アイツ)しかいない。言わずもがな俺の姉なのだが、アイツが絡んでいると知った途端に『他人と夢が共有できる』とか『ぐっすり眠れる』の効能部分が胡散臭くてしょうがない。最近おとなしいからこの学校にまで影を見せるとは思ってなかったけど、まさか璃奈に余計な知識を埋め込んでいたとは……。俺の行くところ行くところにアイツの面影を感じられるから非常に不愉快だ。俺のこと好き過ぎだろ……。

 

 璃奈は俺たちに1枚ずつインディアンポーカーのカードを手渡す。カードはトランプよりも少し大きめであり、星型だったりハート型だったりの模様が描かれているだけで特に目立つ変な部分はない。そこらのおもちゃ屋で売られていてもおかしくなく、これを額に張るだけで効果が発揮するとは到底思えない。だが秋葉と璃奈の共同開発したこれのことだ、見た目がカモフラージュなのは確定的に明らか。あまりにも怪し過ぎるから使うのは控えた方が――――

 

 

「これみんなで使ってみようよ! 私、歩夢の夢を見てみたいなぁ~」

「えぇっ!? そんなの恥ずかしいよぉ……」

「彼方ちゃんもみんなと同じ夢を見られて気持ちよく眠れるのなら使いたいかな~」

「彼方さんまで……」

「歩夢はお兄さんの夢、見たくないの? もしかしたら夢の中でとっても愛してくれるかもよ?」

「ふえぇぇぇっ!? そ、それは……み、見たいかも……」

「よしっ、じゃあ決まりだね!」

 

 

 意志が弱い歩夢は俺をエサにまんまと高咲の策略に乗せられてしまった。これでカード使用の流れとなり、俺が抵抗する間もなくみんなでのお昼寝タイムとなる。

 もうこうなったら覚悟を決めるしかないか。何か起こっても夢の中ならノーカウント扱いにできるし、もしかしたらそこまで気負う必要はないかもしれないしな。

 

 俺たちはベンチに座りカードを額に張る。張ったのはいいのだが――――

 

 

「おい、どうして俺にもたれ掛かって寝る……?」

「だって零さん抱き枕気持ちいいんだも~ん……」

「私も便乗する」

「あ~あ、お兄さんの隣どっちも取られちゃったよ歩夢。だったら前から抱き着いて寝るしかないよね!」

「そんなの逆に寝られないから!!」

 

 

 高咲の奴、何かにつけて歩夢を俺に抱き着かせようとしてるよな……。俺たちの距離を縮めようと画策しているのかは知らないが、ここまで強引だと逆に煽りに見えてきちゃうぞ。

 

 そして俺は彼方と璃奈に両方から抱き枕にされている。さっき彼方が俺の香りがイイと言っていたがそれは俺もそうで、女の子特有の甘い香りが鼻孔を唆るため心地よいアロマのようだ。2人の体温も暖かく、抱き枕にされているが逆にコイツらが俺の布団になってくれているとも言える。しかしこれだけですぐに熟睡できるとは思えないんだが、こんなことで本当に夢を見られ――――――zzz

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

 なんか周りが異空間のようだ。まさか本当に夢の世界に来てしまったってのか……? この空間にいるだけで心地良いので璃奈が言っていた『快適な眠り』ってのは満足に満たされそうだ……今のところは。

 もしここが夢世界なんだとしたら、インディアンポーカーの効果で誰かの夢に入っているってことになる。夢というのは見ている本人は別の意志とされているため、普通に現実と変わらぬ意志を持っている俺の夢ではないことが分かる。だったら一体誰の―――――

 

 

「れ、零さん……」

「こ、これキツい……」

「歩夢と高咲か――――って、どうしたその胸!? でかっ!?」

「下着のサイズが合わないどころか、制服がはち切れそうなんです!!」

「Fカップ? Gカップ? いやもっと……」

「彼方ちゃんのもほらほら見てみて~。これなら零さんにおっぱい枕してあげられるね~」

「うぷっ!? おい苦しいって!!」

「元気でちゅね~~いい子いい子~」

「普通に気持ちいいのがムカつく……」

 

 

 歩夢と高咲がかなりの巨乳に、そして元からそこそこあった彼方も胸が一回りどころか二回りも大きくなっていた。そして俺は彼女に顔を引き寄せられ胸に谷間にダイブさせられると、赤ちゃんをあやすように頭を撫でられる。年下の子にこんなことをされるのは屈辱だとは思いながらも、母性を感じ気持ちよくなってしまうのが男の性というもの。しかも彼方のふんわりとした声色で囁かれたら甘えたくなる衝動に駆られてしまう。ここは夢の中、多少自分のプライドを傷付けてでも女の子に甘えることは許されるのではないだろうか……?

 

 

「待って彼方さん、それは私の役目」

「璃奈お前は――――えぇっ!? 何その胸!?」

 

 

 ロリ巨乳が目の前にいた。元から胸が小さかったためか歩夢たちよりも特に大きくなったように見え、まさにコイツの欲望が夢の中で具現化している。薄々勘付いてはいたがやっぱり璃奈の夢だったか……。

 

 

「さぁ零さん。今度こそ私の胸を揉みしだくチャンス。気に入らないのならもっと大きくできる。夢の中だから何でもあり」

「夢の中で揉んでも仕方ねぇだろ。やっぱ現実じゃないと……」

「むぅ……。だったらおっぱいの良さを零さんの身体に分からせる」

「えっ? 身体が勝手に……」

「わわっ、お、お兄さんにぶつかっちゃう!」

「うぐっ!? お、お前ら……」

 

 

 大きくなった自分の胸に困惑していた歩夢と高咲は、何故か勝手に身体が引っ張られて強制的に俺に抱き着かされた。しかも俺の顔面を胸で抱え込む形で。気付けば璃奈も正面から抱き着いている。4人の女の子の大きくなった胸、それに顔を挟まれるなんて男なら歓喜するところだがなんか違う。そうだ、やっぱり俺は女の子の天然モノのおっぱいが好きなんだ。例え夢の中であろうと作られたおっぱいに興味はない。だからこそ今の状況はただただおっぱいで窒息死するのが怖い! 夢だけど!!

 

 

「ちょっとお兄さん! 変なところ触らないでください!!」

「動けねぇんだから仕方ねぇだろ!!」

「零さん……むにゃむにゃ……」

「コイツ夢の中でも寝てやがる……!!」

「ひゃっ!? 零さんそんなところを触られると……」

「夢の中で感じるなって!!」

「もっともっとおっぱいを知ってもらいたい。だからもっともっと堪能してもらう。そして私にメロメロに……」

「ふええっ!? また胸が大きくなってる!? これも璃奈ちゃんの夢のせい!?」

「こ、これ以上大きくなったら本気で窒息するって―――――――!!」

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

「あれ……? 別の世界に来てる……?」

「どうやらそうみたいだねぇ~」

「いい夢を見ていた気がするけど……よく思い出せない」

「やっぱり夢を見ている本人は覚えてないのか……」

 

 

 いつの間にか別の人の夢にジャンプしていたようだ。近くには彼方と璃奈が意志を持っているため、ここは歩夢か高咲の夢なのか……?

 

 

「ちょっ、ちょっと侑ちゃん勘弁してよぉ~!?」

「あゆぴょん可愛いよぉ~♪ ほら写真撮るからこっち向いてぇ~♪」

「変態さんになってるよ侑ちゃん!! 涎垂れそうになってるから!!」

 

 

 見ればバニーのコスプレをした、いやさせられた歩夢が高咲の欲望に振り回されているようだ。つまりここは高咲の世界ってことか。

 歩夢のバニー衣装はエロ目的のモノではないので露出は少ないものの、ピンクのフリフリスカートだったりもふもふのロップイヤーだったりと、如何にも可愛いモノ好きの高咲が好きそうな衣装だ。てかカメラを持ちながらニヤニヤしやがって、普通に変態オヤジだなアイツ。自分のことを棚に上げるが通報してしまいそうだ。

 

 

「次は少しスカートを捲ってみよう! このままでも歩夢は可愛いけど、恥じらってる姿も可愛いから大丈夫!」

「全然大丈夫じゃないよ!? ちょっと勝手に捲らないで!!」

「歩夢って本当に綺麗な脚してるよね。こんなにきめ細かな肌でシミ1つない。それにこの健康的な太もも! 同じボディソープ使ってるのにどうしてこうも差が出るんだろう……」

「そんなところに顔近付けないで――――やぁ……んっ、息がくすぐったいよぉ……」

「さっきの喘ぎ声可愛い! もっと聞かせて!」

「い、嫌に決まってるでしょ!?」

 

 

 な~にやってんだアイツら。幼馴染同士で仲が良いと片付けるには無理がある光景に、俺も璃奈もただ見ていることしかできない。ちなみに彼方は俺の肩にもたれ掛かって寝ている。

 高咲が歩夢のことが好きなのは良く伝わってきたが、これ以上アイツの変態オヤジ化はアイツ自身の尊厳に関わる。うん、ここは何も見なかったことにしてスルーした方が良さそうだな。

 

 

「零さん璃奈ちゃん! 見てないで助けて!!」

「幼馴染にそこまで愛してもらえるなんて微笑ましいなー」

「そんな幼馴染がいるなんて羨ましいなー」

「棒読み!? 早くしないと侑ちゃんに私の身体が――――――!!」

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

「あ、あれぇ?? ここは……? 制服に戻ってる……」

「どうやらまた誰かの夢に飛んだみたいだな。てか高咲、お前大丈夫か……?」

「あまり思い出せないけど思い出したくない何かが頭に……」

「あそこに彼方さんがいる。それにその周りにいるのって――――」

 

 

 珍しく彼方が起きていると思ったが、それ以上に気になるのはアイツの周りにいるたくさんの女の子たち。見た目が全く同じで明るい茶髪のツインテール、ヘアピンは彼方とは反対の右に付けており、水色の瞳をしたロリ顔の女の子。正直言って俺好みで妹キャラ的ポジションに配置したい人材なのだが、あの子は一体誰だ……??

 

 

「「「「「お姉ちゃん!お姉ちゃん!!」」」」」

「わぁ~遥ちゃんがいっぱいだぁ~♪」

 

 

「お姉ちゃんってことは、彼方の妹か……?」

「近江遥ちゃんですよ。それにしても数が多いけど……」

「アイツが相当シスコンだとは聞いてるけど、夢の中にまで妹に囲まれたいのか……」

 

 

 まぁ気持ちは分からなくもない。俺だって世界最強の最可愛の妹がいるからな。でも同じ顔に囲まれるのは幸福よりも狂気の方が勝ると思うのだが、どうやら彼方はそうではないらしい。妹の遥に『お姉ちゃん』を連呼されて今にもヘブンに昇りそうになっていた。

 

 

「お兄ちゃん!!」

「えっ、こ、近江遥!? どうして俺のところにも!?」

「「「お姉ちゃん!!」」」」

「わわっ、こっちにも! 遥ちゃんがいっぱい!?」

「ここ、彼方さんの夢の中だから……」

「彼方さんが大好きな遥ちゃんがたくさんいるってこと……!?」

 

 

 いつの間にか俺たちも近江遥の軍団に包囲されていた。遥たちは屈託のない明るい笑顔で俺たちを『お兄ちゃん』『お姉ちゃん』と呼び慕う。彼方の夢の中の彼女なので着色はされているだろうが、この時点で近江遥の妹キャラとしての強さが現れていた。見た目がロリ顔の子に上目遣いで『お兄ちゃん』なんて呼ばれた時の心の高ぶりは半端ない。こりゃ彼方がデレデレなのも分かる気がする……。

 

 そしてそれは歩夢たちもそうで、最初はたくさんの遥の圧力に戸惑っていたものの、上目遣い+笑顔+甘い声のトリプルコンボで『お姉ちゃん』と呼ばれた瞬間から頬を赤くして照れていた。

 

 

「お姉ちゃん!!」

「お姉ちゃんだよ~えへへ♪ 歩夢も可愛いけど遥ちゃんもやっぱり可愛いなぁ~」

「お姉ちゃん!!」

「はわっ!? お、お姉ちゃん……同好会の中で最年少の私がお姉ちゃん……うん、いい」

「お姉ちゃん!!」

「は、は~い……って、そんな笑顔で見つめらると……うぅ可愛い……」

 

 

 コイツら、見事に彼方の夢の中に引き摺り込まれてるな……。実妹がいる俺でも心を動かされそうになったのに、妹がいないコイツらは遥の笑顔で完全にノックアウト状態だ。聞くところによれば近江姉妹は双方でシスコンを患っているので、こうやって遥の方から自分たちに懐いてくれるのが歩夢たちにとっては嬉しかったりするのだろう。

 

 だがそうやって幸せな時間が流れている中で、次々と近江遥が増殖していることにそろそろ目を向けた方がいいか。彼方の夢の中のせいで遥好きの欲望が止まらずこのような事態を招いているのだろう。流石にここまで同じ顔の妹が増えるとこえぇよ……。

 

 

「おい彼方、もう俺たちの目の前が遥で埋め尽くされそうなんだが……」

「遥ちゃん遥ちゃ~ん……しあわしぇ~……」

「あぁこりゃダメだ。次行こう次――――――!!」

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

「遥ちゃ~ん――――あれ?」

「残念、もう次の夢だ」

「「遥ちゃ~ん――――あれ?」」

「璃奈、高咲……。お前らもかよ……」

 

 

 いい感じに妹色に染まっているところ悪いけど、遥軍団で全てが埋め尽くされる前に次に行かせてもらった。

 このメンツがここにいるってことは最後は歩夢なんだろうけど、どうも見覚えのある場所なんだよな。いや見覚えがあるとかそんな次元じゃない。ここって――――俺の部屋だ!! そして俺のベッドに上にいるのは――――歩夢!?

 

 

「零さん、いつもここで寝てるんだよね……。すぅ~はぁ~……零さんの香りだぁ~……。毛布も暖かい……零さんの温もりを感じちゃう……」

 

 

「…………おい高咲、幼馴染なんだったら何とかしろ」

「あれお兄さんのベッドですよね? だったらお兄さんが何とかするべきですよ」

「お前、歩夢のことが好きなんじゃなかったのか?」

「好きですけど、今の歩夢はちょっと近寄りがたいと言いますか……。お兄さんのことを嬉しそうに話して暴走する歩夢があんな感じなので……いやそれ以上かも」

「とか言ってるけど、さっきのお前もあんな感じだったけどな」

「え゛っ!? なんのことですか!?」

 

 

 さっきのは高咲自身の夢だったから本人は覚えていないらしい。まぁ知らぬが華という言葉があるように、覚えていない方が幸せなのかもしれないが。

 

 

「毛布にくるまっていると零さんに抱きしめられているみたい……。あっ、んんっ……!!」

 

 

「おいなんださっきの声!? やたらエロかったぞ!?」

「カードの見せる夢はその人の欲望を見せる。だからこれは歩夢さんの欲望のはず」

「ということは歩夢ちゃん、もしかして夜な夜な零さんのことを想って……? 健気だねぇ~」

「えぇい、もうやめだやめ!! みんな目を覚ませ――――――!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ふわぁ~。よく眠れたよぉ~」

「そうかぁ? むしろ余計に疲れたぞ……」

「お兄さんに同じくです……」

「最後の私、とんでもないことをしていたような……。全然思い出せない……」

「これは実験成功。私の開発スキルも大幅レベルアップ、えっへん」

 

 

 俺たちは夢の世界から脱出し、何とか現実へと帰還する。

 彼方と璃奈は満足しているようだが、俺たちはむしろ夢の中まで騒動に苛まれ疲労が溜まったように感じていた。ただでさえ午前中からずっと騒ぎに巻き込まれてるのに、休憩目的の睡眠でさえ満足にできないとそりゃこうもなるって。

 

 

「そういえばお兄さんだけ夢の世界がありませんでしたよね? どうしてだろう」

「あれ~? 零さんのカードが壊れてるよ? ほら傷が入ってる」

「ホントだ。どうして?」

「恐らく零さんの欲望が強すぎて、カードが耐え切れなくなったんだと思う。つまり、私たちの誰よりも業が深い欲望を抱いているということ」

「えぇ……どんな夢なんですか……」

「引きながら聞くんじゃねぇよ……」

 

 

 俺の額に張り付けてあったカードはド真ん中に大きな傷が付いていた。璃奈からその理由を聞いた高咲はドン引きするが、夢の中でのみんなの欲望以上のことを俺が抱えてるってことだからそりゃ気持ち悪がられても仕方がないか。高咲自身も相当気色悪いことになってたしな。

 

 

「ま、いつか話してやるよ。あの歩夢の醜態よりも物凄い夢をな」

「聞きたくないけど気になりますね……」

「ちょっと待ってください!! 夢の中での私って何をしていたんですか!? 零さんも彼方さんも璃奈ちゃんも黙ってないで答えてくださいよ!! 侑ちゃんも目を逸らして……一体何が起こったの!?」

 

 

 言ったら言ったで歩夢の精神が崩壊しかねないので黙っているのはむしろ正解だろう。てかもうあれだけの欲望を抱いている時点でそれなりに理性が崩壊しかかっている気もするが、まぁ何も言うまい……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 実は零君の夢をオチに持ってくるつもりだったのですが、1話完結の都合上により没になりました。そこにたっぷりのハーレム要素を入れるつもりだったので残念ですが、今回のネタは個人的にかなり気に入ったのでまたいつかやってみたいと思っています。


 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

メンヘラツンデレヤンヤンヤンヤンデレ

 しずくや歩夢のような清楚系キャラは私の小説でキャラ付けしやすくて大好きだったりします。もちろんキャラとしても大好きですよ!

 今回はしずく登場回です!


 なんだろう、さっきはこの学院に来てから過去一で疲れた気がする。それも身体的ではなくて精神的に。例え夢とはいえ人が欲望に塗れた姿を目の前で見るのは中々に狂気染みたものがあった。まあ俺の欲望がアイツらの眼前に曝け出されなかったのは良かったかな。いくらアイツらの欲が深くても底なし沼の俺には勝てないし、そんな沼に捕らわれたら最後夢から解放されるかも怪しかったから。

 

 そんなわけで疲れが抜けきらぬまま学校案内が再開された。璃奈は俺の壊したインディアンポーカーのカードを修復するために一行から外れ、代わりに眠気が覚めた彼方が加わった。

 今は校舎から伸びる連絡通路を歩いているのだが、隣を歩いている高咲がさっきからチラチラ俺のこと見つめてきやがる。また知らず知らずのうちにセクハラ行為をしちまったか……?

 

 

「お前なんださっきから。言いたいことがあるなら素直に言え」

「い、いや、お兄さん彼女とかいるのかなぁ~って」

「俺のことを狙っているのか? モテる男は辛いな」

「違いますよ! お兄さんって自意識過剰でチャラチャラしてるしたくさんの女の子と遊んでそうじゃないですか? だから本気で好きになった女性とかいるのかなぁと気になっちゃいまして」

「明らかに褒められてはねぇよな……。好きになった女の子はたくさんいるし、惚れられた回数は無数、付き合っている子は10、いや20くらい?」

「は?」

「お前から聞いてきたくせになんだその『コイツ何言ってんの』みたいなリアクションは……」

「いやいや、普通『0』か『1』だと思うじゃないですか!? あまりの桁違いに驚いちゃったんですよ!!」

 

 

 そういやコイツには俺のことを全然話してなかったっけ。そもそも好んで人に話すような内容ではないので口を滑らせてしまったのは迂闊だったか。これまでの高咲との会話で何度コイツをドン引きさせたか分からないが、間違いなく今回が一番嫌悪感を示されていると思う。手を出しただけの女の子が20人なら最悪まだしも、付き合っている子が二桁人数だなんてそりゃそう思っても仕方ねぇよな……。

 

 

「侑ちゃん落ち着いて。零さんだったらこれくら当然だから」

「彼方ちゃんたちも最初はビックリしたけど、今となったら『あぁ~また付き合っている子増えたんだぁ~』程度で納得しちゃうよ」

「想像以上にお兄さんの魔の手がみんなに浸食してる!? もう私の方がおかしいみたいな雰囲気になってるじゃん!!」

「俺のことを好きにならない奴は不要だ」

「なんでちょっとヤンデレ気質になってるんです……?」

「冗談だ。お前の方が正常だから安心しろ」

「なんかお兄さんや歩夢たちと一緒にいたら私までおかしくなりそう……」

 

 

 高咲は頭を抱えて項垂れる。そりゃ男1人と女の子複数人の集団なんていつの時代だよって話だからな、コイツの気持ちは分からなくもない。むしろコイツのような正常な奴が1人いてくれた方が俺たち自身が異常な日常を繰り広げていることを自覚できるし、この関係が大っぴらになるような真似を止めてくれそうだから高咲の存在は貴重だ。そもそも俺たちの関係を知っている人が少なく、知ってる奴が漏れなく変な奴(悪魔の姉、子煩悩母、淫乱理事長、ロリガキ姉妹、ビッチ幽霊)ばかりだからな……。

 

 そんな感じで高咲に衝撃の事実を振り下ろしながら、歩夢の先導で俺たちは校舎とはまた別の大きな建物の前へとやって来た。

 

 

「ここは?」

「講堂です。ライブや公演用の設備が充実していて、他校からここを使わせて欲しいとわざわざ足を運んでくれることもあるんですよ」

「もう悉く俺の母校との差を見せつけられるな……」

「音ノ木坂だっていいところはたくさんありますよ! ほら歴史があるところとか、それと……う~ん」

「ないなら無理に擁護しなくてもいいぞ。もう何年も前に卒業したから過ぎた話だ」

「彼方ちゃん的にはあの伝説のμ'sがいたって事実だけでも凄いと思うけどね~」

「実際にそれで廃校は逃れたし生徒もまぁまぁ増えたからな。逆に言えばそれ取り柄がないけど……」

 

 

 μ'sと言えば今ではレジェンドスクールアイドルとしてA-RISEと肩を並べている。ソイツらが通っていた学校ってだけでも大きなアピールポイントだが、もちろん当の本人たちはもう学校にはいない。今でも廃校にならないくらいの生徒数はいるみたいだが、アイドル研究部とか今どうなってんだろう。もし新たなスクールアイドルが誕生していたら様子を見に行ってもいいかもしれない。

 

 そんな会話をしながら講堂内に潜入した。広さは音ノ木坂も負けていないが、やはり内装も古臭くなくてオーケストラ会場のような美麗さを誇っているこちらに軍配が上がる。

 そしてステージでは何やらお芝居の練習が行われているようだ。そこには見慣れた顔もあったので声をかけてみる。

 

 

「相変わらずいい演技じゃねぇか、しずく」

「えっ……? ふぇえええええええっ!? れ、零さん!?」

 

 

 桜坂しずく、彼女も同好会メンバーの1人だ。どうやら演劇部で練習をしていたようで、役にのめり込んでいたしずくは俺の姿を見て後退りして驚く。

 

 

「私がみんなにサプライズで零さんをお連れしたの。しずくちゃんのいい反応が見られてドッキリ大成功だよ♪」

「そりゃ驚きますよ! それに零さんに私なんかの拙い演技をお見せするなんて恐れ多いです!!」

「いやここに入った時にちょっと見たけど全然そんなことなかったぞ。一度お前の演劇を見てみたいと思ってたから丁度良かったよ」

「だったらもっと本気でやれば良かった……いやいつも本気ですけど、零さんに見られているとなればそれ以上に!!」

「別にそこまで力まなくても……」

「いえ! 零さんが見ている前で真の本気を出さなかったらどこで出すっていうんですか!!」

「お前、演劇のことになるとマジで熱くなるよな……」

 

 

 しずくはお淑やかで清楚な見た目とは裏腹に、自分の熱中するものには情熱を大量に注ぐ熱血である。その点はスクールアイドルに魂をかけているせつ菜と似たようなもんだ。たまにいるんだよな、普段はおとなしいのに特定の話題の時にだけ早口になるオタク気質を持つ奴。ご飯のことを熱く語る花陽を思い出したよ。

 

 そしてそんな俺たちの隣では、歩夢たちが演劇部の長身の女の子(リボンの色的に3年生)と会話をしていた。

 

 

「ねぇねぇ、もしかしてしずくってあの零さんって人のこと好きなの?」

「部長さん!? そ、それはその……」

「別に隠さなくて分かるけどね。あんなに女の子の顔をしているしずくは初めて見たから。これなら恋をテーマにした演劇の主演もできそうね」

「まあ好きなのはしずくちゃんだけじゃなくて彼方ちゃんたちも――――」

「あーーあーー彼方さん演劇部から枕を借りましたからこっちで寝ましょう!!」

「えぇ~さっきたっぷりいい夢を見たから流石に眠くないんだけど……」

「こういう時に限って目が冴えてる……」

 

 

 彼方が公開してはならぬ事実を暴露しようとしたが、高咲のナイスディフェンスによって何とか危機を脱出する。アイツら俺の知らないところで勝手に俺と女の子たちとの関係をバラしたりしてねぇだろうな??

 

 そして歩夢たちと話していた演劇部の部長は、俺としずくを品定めするようにまじまじと見つめる。俺はここで実感した。また何か面倒事に巻き込まれるのだと……。

 もちろん俺の予感に間違いなどない。部長は何やら策士染みた顔で俺たちに話しかける。

 

 

「せっかくだから特別練習をしましょう。しずくが想いを寄せるそちらの男性と、もちろんしずくでね」

「えぇええええっ!? 零さんと演技練習ですか!? そ、そんな私、零さんの前でなんて緊張して上手くできる気がしない……」

「おい勝手に決めるな……」

「すみません。でも愛しのしずくのためだと思ってここはどうかお願いします!」

「断るって言ったら?」

「しずくが泣きます」

「勝手に人の涙を人質にすんなよな……。てか愛しのって……」

「違うんですか? しずくが男性に対してあそこまで活発にコミュニケーションを取るところを初めて見たので、てっきりそういう関係なのかと」

「まぁ間違ってはないけど合ってもいない……かな」

 

 

 ここで否定したらしずくを悲しませることになるので敢えてぼかした言い方をしたが、別に間違ってないよな? 虹ヶ咲の奴らとは親友以上恋人未満の言葉がピッタリと合う。本人たちからは度を超えた愛情を持たれているからそう思われてないかもしれないけど……。

 

 

「はいはーい! しずくちゃんがやるなら彼方ちゃんもやりたいで~す!」

「はぁ? お前も?」

「一度でいいから演劇をやってみたかったんだよね~。スクールアイドルとしてのスキルアップにもなるし、しかも零さんと一緒にできるなんていい機会だもん」

「あのな、俺はまだやるとは言って――――」

「はいはいはい! 参加します!!」

「侑ちゃん!? もしかして侑ちゃんも零さんと――――いや、この流れって……」

「参加します! 歩夢が!!」

「やっぱり!?」

「皆さんがやるのであれば、演劇部の私が逃げる訳にはいかないですよね!」

 

 

 あぁダメだ、またしても同調圧力により拒否すらできない状況になってしまった。なんだかんだしずくもやる気に満ち溢れた目をしてるし、彼方も珍しく熱くなっていて、歩夢はいつも通り高咲によって推薦(強制)参加。ただの学校案内のはずがどうして演劇までさせられるんだ俺は……。

 

 

「ちゃんとした台本はないけど、いずれ演劇でしずくにやらせるつもりだった役の構想はこの紙にまとめてあるから、みんなはこれを参考にしてね」

「俺は? 男役の台本はないのか?」

「アドリブ力をお見せいただけると大変助かります」

「随分とへりくだってるけど言ってることめちゃくちゃだなお前……」

 

 

 演劇をやったことない素人にアドリブを要求するとか演劇部の部長がやることかよ……。どうもこの部長に遊ばれている気もするが、歩夢たちのスクールアイドルとしてのスキルアップと考えて割り切るしかないか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 最初にステージに上がってきたのは彼方だ。だが雰囲気がいつもとは違う。普段はマイペースでのんびりしていて見てるこっちまで眠くなりそうなのに、今は顔付きも冷たく触れたら凍ってしまいそうだ。しかもご丁寧に衣装はドレスのような白いワンピースに着替えており、白い傘を差してお嬢様のような風貌になっている。既に役になり切っているんだろうけど、従来の暖かい雰囲気が全くないので一瞬別人かと思ったぞ。

 

 ここまで来た以上適当に演技をするのも申し訳ないから、ここは俺もコイツに合わせてやるか。

 

 

「あら、ごきげんよう零様」

「様……?」

「こんなところで偶然会うなんて、やはり私たちは共に結ばれるべき運命なのですね。さて、結婚式はいつにいたしましょうか? 場所の確保や式の費用は全て私の財閥が負担しますので、あなたは何も気負う必要はありません」

「話が超速で進んでいくな……」

 

 

 いつもの彼方とは思えないほどはきはきとした口調で見事にお嬢様を演じている。設定的にどうやら婚約をしている男女らしいが、敢えてここで突っ撥ねてみたらどうなるんだろうか……? 台本がないためどのような演技をするかは俺たちの自由なのでちょっくら反応を見てみるか。

 

 

「俺たちってそもそも付き合ってたっけ……?」

「な゛っ……!? 毎晩愛し合っているというのに、まさか私とは遊びだったのですか!? 私の身体の隅々まで好き勝手に開発しておきながら!!」

「俺どれだけ鬼畜設定なんだよ!? そんなことをした記憶はない」

「まぁ!? ということは、まだ私を認めてくださらないと言うのですね。何が欲しいのですか? 私をATMとして利用したい? 私をダッチワイフとして使用したい? 財閥のお嬢様である私をあなたの都合のいい時に使い走りにするパシリとして傍に置きたい? さぁなんなりとあなたの欲望を吐き出して、私をあなたにとって価値あるモノとして認めてください!!」

「最初のクールな雰囲気はどうした? 蓋開けたらメンヘラかよ!?」

「あなたが私を認めるまで、この場を離れることはできませんよ」

「なに……?」

 

 

 気付けば周りに黒服サングラスの女性たちが俺たちを取り囲んでいた。どうやらSPに変装した演劇部の部員たちだろうが、この短時間でこのシチュエーションまで考えたってことか??

 そして彼方のこのキャラ、ただのメンヘラではない。あまりにも拗らせ過ぎて末期症状となり、相手を傷付けてでも自分を認めさせようとする厄介メンヘラだ。しかもお嬢様が故に自分の財力を駆使して意中の相手を何が何でも我が物とするその狡猾キャラは、まさに創作キャラあるあるで既視感しかない。それに加え彼方の名演技が合わさって最強に見えた。

 

 

「無理矢理私のことを認めてもらおうとは思いません。しかしあなたがこのまま拒み続けるのであればお屋敷に連れ込み、しばらく私と共に生活していただきます。そして私との生活、いや"性"活に耐えられなくなったあなたは、いずれ私を襲うことでしょう。その時こそあなたが私を認める時となるのです。フフフ、あなたの忍耐力が強いか、それとも理性が崩壊するのが先か、とても楽しみですね♪」

 

 

 彼方は俺の顔を下から覗き込むように見つめると、笑顔で壮絶なる計画を暴露する。こんな小悪魔、いや悪魔となったドSキャラの彼女はもちろん初めて拝むので、もし俺がドMだったら例え演技だったとしても身体に走る快感が止まらなかっただろう。

 

 

「はいそこまで!」

「えぇ~これからいいところなのに、彼方ちゃんもっとやりた~い」

「残念ながらもうすぐ別の部活がここを使う予定なのでこれ以上は。でも今のだけでも見事な演技でしたよ」

「凄いです彼方さん! 私ゾクっとしちゃいました!」

「私はあまりキャラ付けとかに詳しくないんですけど、いつもと雰囲気の違う彼方さんもいいと思います!」

「これからは演劇部に助っ人が欲しい時は頼りにさせていただきます!」

「そこまで褒められると照れちゃうよ~♪」

 

 

 みんなに演技を絶賛されて緩んだ表情で照れる彼方。いつも通りの彼女に戻ったが、やっぱり演技のキャラとのギャップが凄まじすぎるな。本当にさっきのはキャラ付けだったのか、それとも彼方の中にメンヘラの気質があってそれが発揮されただけなのか。それは彼女のみぞ知る……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「次は歩夢か」

「は、はいっ! よろしくお願いします!!」

「あ、あぁ……」

「…………」

「…………」

「…………」

「あのさ、何かやってくれないと反応できないんだけど……」

「す、すみません!! まだ心の準備が……」

 

 

 次にステージに上がってきたのは歩夢だが、やはり緊張しがちで引っ込み思案な性格も相まって役にのめり込めていないようだ。

 歩夢は大きく深呼吸をすると、目を鋭くさせて俺を睨み付けるような目線で睨む。とは言ってもそもそもコイツは怒りを露わにする性格ではないので、必死に怒り顔を作っている様は非情に微笑ましい。ていうかどんな役柄を渡されたんだ……? なんか弁当箱を持ってるし……。

 

 

「ほ、ほらお弁当よ!」

「あ、あぁサンキュ」

「か、勘違いしないでよね!! いつもコンビニ弁当だと身体に悪いと思ってるだけで、別にア、アンタのためじゃないんだから!!」

「いや身体のことを想ってくれてるのに俺のためじゃないって言われても……」

「ふぇっ!? た、確かにそうですね……」

「キャラ崩れてるぞ」

「はっ!?」

 

 

 なんとも分かりやすいツンデレキャラだが、歩夢が受け取った役柄はそれか。しかしメンヘラを完璧に演じていた彼方とは違って、歩夢はツンデレに全然なり切れてない。セリフだけはいっちょ前だが、そもそも表情に羞恥が見えているため雰囲気が伝わってこないんだよな。真姫のような刺すようなツンツンをよく見ているせいか思わずダメ出ししちゃいそうだ。

 

 だが必死に演じているその姿はとても可愛い。小さい子供が頑張って大人の女性になろうと背伸びをしている、そんな光景を見ているかのようだ。

 

 

「はぁ? お弁当を食べさせてくれ!? そ、そんなことするわけないじゃない!!」

「ちょっと待て、勝手に話を進め――――」

「お前の料理は美味しいから是非お前の手で味わいたい!? そ、そこまで言われたら仕方ないわね……。アンタのためじゃないから勘違いしないでよね!!」

「ツンのレパートリーそれしかねぇのかよ……って歩夢、聞こえてるか……? いや必死過ぎて聞こえてねぇなこれ……」

「はい口を開けて!! あ~ん!!」

「おい箸を口に突っ込もうとするな!!」

「はっ!? 私は一体何を……!?」

 

 

 もはや役を演じてるというよりも役の方に捕らわれてしまってるな……。

 ようやく目を覚ました歩夢だが、やはり必死さが先行していたためか自分が何をやっていたのかもよく覚えていないらしい。何も挟んでない箸を無理矢理こちらに押し付けようとするくらい妄想が広がっていたみたいだし、その点においてはしっかり役にのめり込んでいたとも言える。ただ本人の性格が圧倒的にツンデレ向きではなかったせいで微笑ましくしか見えなかったけど……。

 

 

「歩夢可愛かったよーーーっ!!」

「歩夢ちゃんみたいなツンデレ幼馴染だったら、彼方ちゃん欲しいかも~」

「例え自分の役柄に合わずとも全力で演技をする。歩夢さんの演劇魂、見せていただきました! 次は私の番ですね!」

「あ、ありがとう……」

 

 

 想像以上に褒められたようで、歩夢はもじもじしながら照れる。ツンデレにはなり切れていなかったけど、ツンデレになりたい清楚系幼馴染キャラだと思えば可愛さ100点満点だったかもな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 最後はしずくがステージに上がる。

 ――――のだが、何やら様子がおかしい。俯き前髪で表情を隠しているのでかなりホラーチック。それに衣装の袖から赤い絵の具を垂らしてまるで血のようだ。

 

 そして俺はしずくの演じているキャラを知っている。女の子の放つこの異様な雰囲気は数年前のあの苦い記憶を呼び覚ます。

 

 

「どうして……どうして他の女のところにいくの……? これからは私がずっと愛してあげるって言ったのに……」

「俺は女を1人だけ愛することはできない。俺のことを好きになった子はみんな大事にしたんだ」

「私だけを見てくれればいいんだよ……。あなたの瞳に他の雌豚が映ること、あなたの耳に他の雌豚の声が聞こえること、あなたの鼻に他の雌豚の匂いが入り込むこと、あなたの脳内に他の雌豚の記憶が植え付けられること、みんな耐えられない。だから全て私で染める……」

「残念ながら俺はお前のモノじゃない。俺は俺のモノだ」

「そう……だったら私のモノにするしかないね……」

「はい……?」

 

 

 途中までは演技に付き合ってやったのだが、懐からナイフを取り出したのを見て思わず素に帰ってしまう。演劇の小道具なのは分かるのだが、本物と差し支えないくらいに刃先が鋭く煌めている。しかもそのナイフからも赤い絵の具が露のようにぽたぽた滴り落ちていた。流石演劇部が演じていると言ったところか、ヤンデレ慣れしている俺でも思わず戦慄してしまう。

 

 

「あなたの首、腕、脚、性器まで全て切り落として私のモノにするよ……。私だけを愛してくれないのなら、もうあなたの全部を私が貰うしかないよね……」

「やってみろ。できるものならな」

「行くよ――――ッ!?」

「うぉっ!? あぶねっ!? てか本気かよ!?」

「私はあなたの全てが欲しい。あなたの全てを私のモノにしたい。私の部屋をあなたの身体の一部で飾るの。これでいつも一緒だね! アハハ、アハハハハハハハ!!」

「ちょっと!? マジで刺さるって!!」

 

 

 しずくは俺との距離を一気に縮めると、何の遠慮もなくナイフを俺の身体に突き刺そうとした。そしてようやく見えたその表情、目は濁り切っていて笑顔は黒い。本当に演技なのかと錯覚してしまいそうになるくらいだ。てか最近会ってなかったからその鬱憤が溜まって今発散しようとしてねぇよな……?

 

 

「どうして逃げるの……? やっぱり他の女のところに行こうとしてたんだ……。私の方が何百倍も愛していると言うのに!! でも残念、他の女はもういないよ。私の腕から流れるこの汚らわしい血、誰のか分かる……?」

「他の奴も殺ったって設定かよ本格的だな……。だったら――――」

「ひゃぅっ!?」

 

 

 さっきまでのドスの効いた声とは裏腹に、しずくは雌の声を上げる。それもそのはず、俺が正面から抱きしめてやったからだ。彼女のそれなりにある胸の感触が俺に伝わるくらいに思いっきり抱き寄せる。表情こそヤンデレを演じるために冷たかったが身体はちゃんと暖かい。この状況でヤンデレキャラとしてどんな演技をするか、虹ヶ咲演劇部の主演女優まで務めたコイツの実力をしかと拝見しようじゃないか。

 

 

「ふにゃ~……」

「しずく……? おい頭から湯気上がってんぞ!?」

「零さんに抱きしめられるなんて……ふにゃ~……」

「即堕ちが早過ぎるだろ!? もっと抵抗するところを見たかったのに……」

 

 

 いくらヤンデレを演じようともしずく本人の恋心の方が表に出てしまったようだ。しずくは目を回しながら顔を赤くし頭を沸騰させている。もはや俺が支えていないと動くことすらできず、さっきの俺を刺そうとした機敏な動きが嘘みたいだ。ちょっと抱きしめただけで堕ちるヤンデレなんて、アニメや漫画でこんな展開をされたら絶対に読者に叩かれるだろうな……。

 

 

「おいお前ら、しずくを介抱してやってくれ――――って、どうして席の後ろに隠れてるんだよ……」

「どうやらあの子たち、しずくの演技を見て怖くなっちゃったみたいで……。それにしても、やっぱりしずくはあなたのことを……」

「だったらアンタが引き剥がすの手伝ってくれ。コイツ気絶してるくせに俺にベッタリで離れようとしないから」

「あら、お似合いですよ。しずくも幸せそうだし、しばらくごゆっくり~」

「おい待て!! どうしてステージの上で気絶した女の子を抱きしめなきゃいけねぇんだ!? それにもうすぐ別の部活がここを使うんだろ?? おーーいっ!!」

 

 

 演劇部部長は悪戯そうな笑顔を俺に向け舞台裏に消える。そして他の部員も『お幸せに!』だとか『ヒューヒュー!』だとか、もしかしなくてもコイツら最初からこれが見たいがための特別練習だっただろ……。

 あぁ分かった。この部の部員全員俺が徹底的に調教してやる。自分が女の子であること、男の俺に屈服する様をたっぷり堪能させてやる。こうなった俺はヤンデレより執着心が強いからな、覚悟しておけよ。

 

 だけどその前に、幸せそうな顔をしているコイツをなんとかしないとな……。

 

 

 一方その頃、歩夢たち。

 

 

「しずくちゃん、まさか私たちのことを想像してあんなことを……!? もしかして私たち刺されちゃう!?」

「学校案内が終わったらしずくちゃんの好きなモノを買ってあげよう! うん!」

「さっきのしずくちゃん、夢に出てこないといいなぁ……」

 

 

 ビビっていた。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 ハーメルン内で虹ヶ咲の小説がどれくらいあるのか調べてみましたが、意外と少なくて驚きでした。やはりアニメの出来がいいのでそっちで満足しちゃってる感じなんですかね……? 私としてはストーリーよりもキャラの可愛さ重視なので、キャラに重点を置いた小説をもっと見たいです。この小説で自給自足はできないので、どなかたに丸投げします!(笑)


 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スキャンダル・ガールズ

 大人びたお姉さんキャラはもちろん好きなのですが、そんな子の弱い面や年相応な可愛らしい一面を見るのが好きな特殊趣味があったりします(笑)

 そんなわけで今回は果林さん登場回です!


 演劇部の奴らの罠に嵌められたことでまたしても精神的に疲労が溜まってしまった。演技とは言え俺に抱きしめられて昇天し、抜け殻となったしずくを抱えて講堂を出る。たかが学校案内で演劇部の練習に付き合わされ、挙句の果てに案内する側の人間の介抱までしなきゃいけないなんて客人としてもてなす気あんのかコイツら……? 学校の施設や部活を知るといった体験ができる学校案内と言えば聞こえはいいが……。

 

 その後まもなくしずくは復活し、またしても眠気に苛まれて昼寝をしに行った彼方の代わりに彼女も学校案内の一団に加わることになった。

 

 

「零さんすみません。わざわざ来てくださったのに私の介抱だなんて粗相を……」

「別にいいよ。そもそもお前もアイツらに騙された側だから謝る必要はないだろ」

「そうだよしずくちゃん。それにお兄さんにお姫様抱っこされて嬉しかったんじゃない?」

「そ、それは光栄と言いますか何と言いますか、その……結婚式でやってもらいたいことのNo.1があそこで叶うとは思っていなくて……」

「そんな壮大なことをしなきゃいけねぇのか俺……」

「もう結婚することは前提なんですねお兄さん……」

 

 

 そりゃ俺の女なんだから当たり前だろ――――なんて言ったらまた高咲に白い目で見られるのでやめておく。コイツの中で俺の評価がどうなっているのかは分からないけど、多分あまりいい印象は与えてないだろう。だったらどうして俺の学校案内にずっと付き合っているのかは謎だが、歩夢やみんなを俺の毒牙から守るためだったりするのか? 既に守れてない気もするが……。

 

 

「真っ白なウェディングドレス……零さんの隣でバージンロード……そして誓いのキス……」

「しずくちゃん? おーいしずくちゃーん? ダメだ、お兄さんとの結婚式の妄想に現を抜かしてる……。ねぇ、歩夢もしずくちゃんを――――って、歩夢?」

「ウェディングドレスを着るならダイエットをしなきゃだよね……。ドレスって身体のラインが出ちゃうし、零さんに見られて恥ずかしくないスタイルにならないと……。そのためにはもうちょっと甘いモノを我慢して……」

「歩夢まで……。みんなどれだけお兄さんのことが好きなの……?」

「モテる男は辛いな」

「もうこの状況に慣れてきてる私が怖いですよ……」

 

 

 このまま一夫多妻なこの状況に違和感を覚えなくなったら神崎零ファミリーの仲間入りだ。そしてコミュニケーションを重ねていく間にどんどん俺に対する想いを募らせてしまい、最初は嫌悪していた俺を好きになるまでがテンプレ。コイツもものの見事にその道のスタートラインに立とうとしているから歓迎してやろう。

 

 それはいいとして、そういや誰かにウェディングドレスを着させたことって今までになかった気がする。女の子たちに多種多様なコスプレを着させて遊んできた経験のある俺だが、ウェディングドレスはどうも神聖な感じがして遊びには使い辛いんだよ。神聖と言えば巫女服もそうだが、そっちは普通に興奮できるんだよな。人の性癖ってまさに人それぞれだってことが分かるいい例だ。

 

 

「ウェディングドレスってそんなにスタイルが出るのか。だったらお前らは問題ないんじゃないか? 歩夢もしずくも抱き易いいいスタイルをしてるじゃん」

「だ、抱くって……。お兄さん相変わらず変態的な目線でしか物を語れないんですね……」

「はぁ? ただウェディングドレスの姿のコイツらを抱きしめたいって意味なんだけど?? お前も大概エロい思考してんじゃねぇか」

「してないですよそんなこと!! お兄さんの今までの言動から察しただけです!!」

「どうだか。お前も案外いい身体してるから脳内までエロい説はあるな」

「ちょっ、今度こそ本気で通報しますよ!?」

 

 

 通報通報って、たまには自分の力で何とかしようと思わないのか現代の若者は……。

 冗談はさて置き、本当に鋭い目で睨まれているのでからかうのもこのあたりにしておこう。高咲は両腕を自分の腕に巻き付けて身震いしながら俺と距離を取っている。その動作も男の嗜虐心を誘ってるってこと分かってねぇなコイツ。まぁ男との付き合いがない人生だっただろうから仕方ないか。

 

 そんな最低なやり取りをしている中、校内の休憩所に雑誌が並べられているコーナーを見つける。女子高だからか女の子が好きそうなファッション誌や旅行雑誌、グルメ本などが数多く揃っていた。

 その中で俺は1つのモデル雑誌を手に取る。そしていつの間にか妄想の世界から帰ってきていた歩夢としずくが俺の持つ雑誌を覗き込んだ。

 

 

「その雑誌の表紙、果林さんですね。普段の果林さんも素敵だけど、モデル姿はより一層綺麗だなぁ~」

「私も果林さんのような気品ある立ち振る舞いができれば、演劇の役者としてもっとレベルアップできそうです」

「お前らにとって果林は目標にすべき1人なのか。まぁ雰囲気的に何でもそつなくこなせそうだもんなアイツ」

「そ、それは……」

「あん? なんだ?」

「いやなんでもないです……」

 

 

 高咲は咄嗟に口ごもるが、何か果林の秘密でも握っているのだろうか……? 見た目や雰囲気で人を完璧超人だと思い込んでしまうことはあるけど、蓋を開けてみたら意外とそうじゃなかったってパターンも多い。身近な奴で言ったら絵里やダイヤの名を挙げれば分かってもらえるだろう。いわゆるポンコツってやつだな。

 

 休憩がてら果林が映っている雑誌を眺めていると、誰かが小走りでこの休憩室に駆け込んできた。

 

 

「はぁ……ここまで来ればもう大丈夫かしら……」

「果林?」

「えっ、れ、零さん!?」

「もう驚かれるの慣れてきたな……」

 

 

 毎回同じ反応をされるためもはや学校案内をされているという説明すら面倒で省略してしまった。そもそも歩夢はみんなにサプライズをするために内緒で俺を呼んだらしいのだが、みんなしっかり驚いてくれたからそれなりの成果はあったのだろう。だがみんなが最初から一堂に会してくれればこれまでの余計な騒動に巻き込まれることもなかったんだろうけど……。

 

 朝香果林。歩夢たちと同じ同好会メンバーにして年長者。さっきの雑誌の通り読者モデルをしておりスタイル抜群。容姿良し、カラダ良し、気品ありと言った文句の付けようのない属性から男性人気はもちろん、女性人気もかなり高い。コイツの隣にいるだけでステータスになることは間違いないだろう。

 

 

「どうしたそんなに息を切らして? 誰かに追われでもしてんのか?」

「えぇ、新聞部の取材の子たちにね……」

「ホントに追われてたのか……。新聞部ってことは天下の読者モデルがスキャンダルでも握られたか?」

「うっ……」

「マジで……?」

「いやそれはデマだって抵抗はしてるんだけど……」

 

 

 果林は恥ずかしそうな表情をしながら顔を背ける。マスコミがマスゴミと呼ばれる所以の1つが過剰な取材なのだが、まさか身近でその被害に遭っている奴がいるとはな。そりゃ全国的に有名なモデルが自分と同じ学校にいたらマスコミ魂が疼いて話題にもしたくなるか。

 

 

「で? どんなスキャンダルの疑いをかけられてんだ?」

「さっき新聞部の子たちから次に掲載する新聞のサンプルをもらったんだけど……これ」

 

 

 果林から新聞を受け取る。そこには『朝香果林、まさかの熱愛発覚!?』と大きな見出しが書かれていた。細かい文章は読むのが面倒なので省略するが、まぁ女性有名人にはよくありがちなネタだろう。こんなのをまともに信じる奴なんて――――

 

 

「熱愛って果林さん、もしかして彼氏!?!?」

「違うわよ!? デマだって言ってるでしょ!?」

「どうせお前がモデルの仕事で男スタッフと事務的な会話をしてるところを見られて、それを新聞部が盛りに盛ってこう書いたってところか。話題作りのためにマスコミがやりそうなことだ」

「いや、これってどう見ても……」

「はい、どこからどう見ても……」

「えっ、なに……?」

 

 

 みんなが一斉に俺を見る。高咲が雑誌に掲載されている写真を指差したので見てみたら、映っているのは果林と……俺? 俺は後ろ姿で映っているのでこの記事を書いた奴に正体はバレていないものの、俺を知っているコイツらであれば誰だか分かるくらいには写真が鮮明だった。

 

 

「この前スクフェスの会場で零さんと話していた時の写真よ。ただ話していただけなのに熱愛だなんて大袈裟な……」

「なるほど、だったらむしろ俺の恋人になれば全部解決だな」

「えっ!?」

「「「えぇっ!?」」」

 

 

 まさか告白をされると思ってなかったのか、果林はもちろん歩夢たちも同時に驚く。

 

 

「いいか? こういったマスコミってのはこっちがコソコソするから調子に乗るんだ。だから敢えて何食わぬ顔で恋人を作ってアイツらに反応しなきゃいい。そして時間が経てば奴らは勝手に飽きるしネタも風化する。そうだろ?」

「確かに過剰な反応は良くないかもしれないけど、だからと言って恋人ってそんな……」

「俺と恋人ごっこは嫌か?」

「い、嫌じゃないけど……。むしろ……」

「ちゃんと言わなきゃ分かんねぇぞ」

「もうっ、相変わらず意地悪なんだから……」

 

 

 俺はいつの間にか果林を休憩室の端に追い詰め、いわゆる壁ドンで彼女の精神すらも掻き乱す。

 こうして近くで見るとモデルをやってるだけあって顔が整っていることが鮮明に分かり、本当に高校生かと錯覚してしまうほどの美人だ。とてつもなくセンシティブでアダルティックな彼女だが、今はただただ頬を染めて俺に為す術もなく追い詰められるか弱い少女。そのギャップを自分が操っていると思うと良からぬ興奮が湧き上がってくるな。

 

 

「お兄さんと果林さんって絵になるよね。やっぱりイケメンと美人だからかな?」

「この壁ドンを絵にするだけでも芸術になりそうな、そんな感じがしますね。零さんも果林さんもファンが多いですから、お二人が劇場で今のような演技をするだけで黄色い声が上がりそうです」

「果林さん、いつもとは雰囲気が違ってちょっと可愛い♪」

「ちょっと歩夢やめてよ!? 別に私だって好きでこういうことをやってるわけじゃ……」

「だったら好きで恋人ごっこをするようにお前の意識を変えてやるしかねぇな」

「れ、零さん近い……っ!!」

 

 

 壁ドンの距離を更に縮めてやると、果林はもう俺の顔を見られないのかそっぽを向いてしまった。いくら大人びて見えてもまだ高校3年生で男経験もないウブっ子だから仕方ないか。でもこれくらいやらなきゃ新聞部の鼻っ柱を折ることはできない。よそよそしく付き合っている風を装う方が格好の的になるから、いっそのこと突き詰めてマジモノの恋人っぽく見せてやろうってことだ。

 

 それにそれは果林だけの問題ではないしな。

 

 

「歩夢もしずくも人ごとみたいに言ってるけど、その新聞の記事の端っこをよく見てみろ。高咲、読んでやれ」

「はい。えぇっとなになに……? 『朝香果林以外の虹ヶ咲スクールアイドル同好会のメンバーの動向もチェック。スクフェス会場で一般男性とのツーショットを激写。今後の関係に目が離せない』だって。この写真、歩夢もしずくちゃんもお兄さんといるところを撮られちゃってるね」

「ということは、私たちもスキャンダルを握られてるってこと!?」

「そうだ。つまりお前らがいつボロを出すかどこかで誰かが目を光らせてるってわけ」

「スクールアイドルとして有名になったが故なので嬉しいような、悲しいようなですね……」

 

 

 スクールアイドルは今や世界から注目されるほどのビッグコンテンツだから、そこで一定の活躍を挙げた歩夢たち同好会がマスコミに狙われても仕方がない。だが所詮は校内新聞、下手に奴らの内容を否定したりせずにむしろ男との関係を見せつけて度肝を抜かせてやろう。

 

 

「だったら歩夢としずくちゃんも零さんに恋人役をやってもらったら? 私が感じた羞恥をあなたたちも感じるといいわ……」

「怨念が混じってる!? 可愛いって言ったこと謝りますから!!」

「別にいいのよ。あなたたちが零さんによってただの雌になるところをじっくり撮影してあげるから……フフフ」

「思った以上に根に持ってた!? いつもの誠実な果林さん帰ってきて!!」

「撮った動画をかすみちゃんに送ったらどうなるでしょうね……フフフフフフ」

「かすみさんにそんな動画を手に入れたら、それをネタに一生遊ばれちゃう気が……!!」

 

 

 さっき歩夢たちに煽られたせいか、今度はコイツらの痴態を動画に収める気満々な果林。普段の大人びた様子とは違い、もはやかすみのような腹黒さを見せている。そういうところが年相応で可愛いって言ったらまた赤面するんだろうな。

 

 

「せっかく恋人ごっこをするんだ、1つだけお前らの望むことをやってやろう。まずはしずく、何をして欲しい?」

「そ、そんないきなり!? そ、それじゃあ手を繋いでください……」

「はぁ? この俺が何でもしてやるって言ったのにそんなことでいいのか?」

「いやお兄さん分かってない。本当に女心が分かってない!」

「は?」

「分かるよしずくちゃんその気持ち! 手を握るって簡単そうに見えてハードルが高いんだよね」

「零さんは女の子に対して手練れだからそう思わないかもしれないけど、私たちからしてみれば切実な願いなのよ」

「そ、そうか……」

 

 

 やたら説教されちゃったけど、考えてみりゃコイツらの気持ちが分からなくもない。俺クラスになると女の子との身体接触は日常茶飯事だから手を握るくらい何も感じないけど、男付き合いが俺しかなく、かつその相手が想いの人であればそりゃ緊張もするわな。何でもしてやるって言ったから『押し倒してください!』とか『キスしてください!』とかもっと大胆なことを期待していたが、それは流石に脳内ラブホテルの一部μ'sメンバーの印象が強く残っていたかららしい。

 

 だったら話は早い。俺はしずくの手を取ると互いの指を絡ませる、いわゆる『恋人繋ぎ』で握った。

 

 

「ひゃぃっ!?」

「うおっ!? ただ手を握っただけなのに変な声出すなよ……」

「だ、だって零さんの指が私の指に……ひゃっ、そ、そんな強く握られると私……」

「なんでこのくらいで興奮してんだ!? 顔も真っ赤だし大丈夫か??」

「もう一生手を洗いません!! いえ零さんの手垢があればその必要すらありません!! それに例えこの身体が朽ち果てようとも、この手だけは未来永劫冷凍保存してでも守り続けます!!」

「俺の手垢は消毒液か何かか……?」

「零さんの手と指から温もりが伝わってくる。その温もりが徐々に私の身体を包み込んで零さんのモノになっちゃいそう……。はぁ……暖かい。お返しに私の温もりも零さんに伝えて、零さんの身体も私で満たさないとですね」

 

 

 なんか少しヤンデレっぽさを感じるんだけど気のせい?? もしかしてさっきの演劇で演技をしていた内容って実は本心だったのではないかと勘繰ってしまう。ヤンデレの相手は過去に腐るほどやってきたので心得てはいるが、できればあまり関わりたくねぇな。しずくには天然で病む才能がありそうなのがこれまた怖いけど……。

 

 だが見せている反応は間違いなく恋する乙女のものだ。さっきステージ上で俺に抱きしめられた時にある程度耐性はできたようだが、それでも緊張は拭えていない。そのせいか俺の手を握る力も強くなってるし、それこそ俺の手を離したくないという彼女の気持ちの現れだろう。だから絡めていた指をそっと解くと名残惜しい表情で見つめられたのでちょっと罪悪感があった。

 

 

「分かったからそんな寂しそうな顔すんな。手を握るくらいならまたいくらでもやってやるから」

「本当ですか!? 絶対ですよ!? 言質取りました!!」

「なんか重いよなお前って……。まぁいいや、次は歩夢だけど何をやって欲しい?」

「わ、私ですか!? えぇっと、さっきの演劇でしずくちゃんにやったように、思いっきり抱きしめて欲しいです……」

「おっ、歩夢ここに来て大胆になったね。今まで私が後押ししなきゃ指を加えてみんなとお兄さんのイチャイチャを見てるだけだったのに」

「そ、そんなにおかしいかな!?」

「そうね。歩夢のことだから『勉強教えてください』とか『頭を撫でてください』とか、結構控えめなことを言うんじゃないかと思ったわ」

「あっ、それいいかも……」

「色んなことをやってもらいたいって欲望自体はあるんだな……」

 

 

 後ろから抱きしめながら頭を撫でつつ勉強を教えるなんて、それどこのバカップル……? ぶっちゃけやってみたくはあるのだが、コイツの場合は俺が後ろから抱きしめた瞬間に緊張と羞恥に苛まれて勉強どころじゃなさそうだ。だからこそ実際にどういった反応をするのか見てみたくなるのがサディストというもの。いきなり後ろから抱きしめたらどうなるのか見てやろうじゃねぇか。

 

 というわけで歩夢があれこれと俺にやって欲しいことを取捨選択している間に、彼女の身体を俺の身体にすっぽり収まるように抱きしめた。

 

 

「うひゃぁっ!?」

「なんか不審者に襲われた時みたいな悲鳴だな……」

「だってそ、そんないきなり、えっ? へっ? えぇっ!?」

「いやそんなに驚かなくても……」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

「落ち着け。言葉になってないぞ」

「お兄さん、そういうところですよそういうところ」

「零さんの不意打ちは本当に心臓に悪いです……」

「さすが女心を弄ぶ天才ね……」

「えっ、そんなに悪いことしてんのか俺??」

 

 

 その瞬間みんなが『してる』と即答する。誰もこの嗜虐心が分からないとは心の余裕がない奴らめ。そんなことだから手を握られたり抱き着かれただけで自我を失うんだよ。まぁそんなウブな反応を見せてくれるだけでも俺としては儲けものかもしれないが。

 

 それにしてもしずくもそうだったけど、女の子ってどうしてこんなに柔らかいんだろうな。いや胸や尻の話じゃなくて単純に全身がって意味ね。それでいて程よい体温に男の興奮を誘う甘い香り。やっぱり生物学上で女の子は男を誘うようにできているのかもしれねぇな。そうでなきゃ幾度となく女の子とこんなことをやってきた俺がコイツを抱きしめることにハマりそうになるわけがない。

 

 

「お~い歩夢~。お~い……あぁ、今度は歩夢が気絶しちゃってる」

「分かりますよ歩夢さんその気持ち!! 私も零さんに抱きしめられた瞬間に幸福の絶頂で何も考えられなくなりましたから!!」

「そ、そんなに凄いの? その……零さんに抱きしめられるのって……」

「もしかして果林さんも体験してみたいですか!?」

「おい、俺を遊園地のアトラクションみたいに言うな」

「今しかないですよ果林さん! 零さんに甘えられるのは!!」

「そ、そう言われても……」

 

 

 年長者のプライドとして俺に自らの欲望をただただ吐き出すことができないのか、それとも単に恥ずかしいだけなのか。でもやってもらいたいという気持ちは見え見えなので、口では迷っている風を装っていながらも心は取り繕えないようだ。うん、いくら美人のお姉さんキャラと言えどもまだまだ子供だな。だったら俺がやることは1つしかないか――――――

 

 

「ひゃああんっ!?」

「なんつう似合わねぇ声出してんだ……」

「ひゃっ、あっ、がっ……」

「お前ガチガチに固まり過ぎだろ。モデル業やってる時みたいに堂々できないのか?」

「ぐっ、あ゛っ、んっ……」

「顔あかっ!? 今にもショートしそうなロボットみたいになってやがる……」

 

 

 歩夢の場合は後ろから抱きしめたが、果林は前から抱きしめてやったからコイツがガッチガチになってるのはそれが原因か……?

 それにしてもスタイルがいいってのは抱き心地もいい。巨乳が故の凹凸のある身体と腰のキレイな括れのおかげで腕が回しやすく、俺の身体と見事にフィットする。こういうのを身体の相性がいいと言うのか。それに全国人気のあるモデルの女の子の全部を俺の身体で包み込んでいるので、それこそ優越感や独占欲を半端なく感じる。こんな気持ちを抱くってことは、コイツらが俺を求めるように俺もコイツらを求めているのかもしれないな。

 

 

「果林さんすっごく可愛いよ! こんなに女の子な果林さんもう見れないだろうから、今のうちの写真撮っておこう!」

「侑さんいいんですかそんなことをして!?」

「だって見てよ、あの果林さんの借りてきた猫のようなしおらしさ! しずくちゃんも可愛いと思うでしょ? あとで何をされるかとか考えるよりも先にカメラに手が伸びちゃうよ!」

「確かにそうですけど……。ほ、本当に可愛い……。私も1枚だけならいい……ですよね?」

「あとから仕返しされても知らねぇぞ……?」

 

 

 普段とは違う果林の可愛さに我慢できなくなった高咲としずくはそんな彼女をスマホで撮影する。1枚だけと言っておきながら連写してやがるし大丈夫か本当に……。

 

 

 そして後々聞いた話によれば、恥ずかしい写真を同好会内に共有された果林は悪魔のような笑顔で何故か全員を粛正したらしい。粛正の内容ははっきりと教えてもらっていないが、どうやらこの世のものとは思えない羞恥の地獄だったそうな。

 

 ていうかどれだけ黒歴史を生み出せば気が済むんだこの同好会……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 アニメでも少々果林さんのポンコツっぽいところが見られて嬉しいと言いますか、むしろ早くみんなにボロがでないかとワクワクしている異常性癖者になっている私がいます(笑) だからこそ今回の話は年相応な彼女を見せた次第です。


 そういえばスクスタでは同好会メンバーが分裂する展開で批判殺到みたいですね。アプリをやっていないので詳しい話は分かりませんが、零君を投与して解決できないかな……?



 さて、アニメではメイン9人の個人回が全て終わりましたが、実はこの小説ではまだ残っていますね。しかし毎話出ている影響からか個人回をやっていないことに気付いた人すら少ないかもしれませんが……



 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幼馴染は魔法少女!?

 歩夢回にしようと思ったらいつの間にか侑もいい感じに活躍してしまったでござるの回。
 恐らく公式で侑がピックアップされることはあまりないと思うのですが、この小説ではヒロインの1人として扱っていく予定です!


※虹ヶ咲編から読んでいる方からキャラ設定が知りたいというお声をいただいたので、後書きに虹ヶ咲編の設定を追記しています。ただ虹ヶ咲編から読んでいる方のためにその設定が活かされることはないので読み飛ばしOKです。


「あのさ、どうして俺の歓迎会なのに本人が買出しに付き合わされてるわけ?」

「お兄さん、か弱い女の子に荷物を持たせるんですか?」

「よく言うよ。スクールアイドルの練習で鍛えてるくせに……」

 

 

 同好会メンバー全員とエンカウントした後、歩夢たちの提案で突発的に俺の歓迎会を開くことになった。そのせいで急遽買出しをする必要が出てきたのだが、何故か俺まで連行されている。その理由はさっき高咲が言った通りだけど、そりゃ納得はしてねぇよ。この世のどこに自分の歓迎会の準備を自分でやる寂しい奴がいるんだって話だ。残念ながらその誰かさんが俺になってしまったわけだが……。

 

 そんな感じの流れで不本意ながらも歩夢、果林、高咲の買出し組に付き合うことになった。まぁ何もしなかったらしなかったで学校で待ちぼうけになってただろうから仕方なく付き合っているわけだが……。

 

 

「このままだと歓迎会は夜になるんだろ? そんな時間にギャーギャー騒いでいいのか?」

「ちゃんと栞子ちゃんに許可を貰ったので大丈夫です。栞子ちゃんに零さんの歓迎会をやりたいって言って連絡したら二つ返事でOKしてくれましたよ」

「あの堅物で真面目な栞子ちゃんが()()()()するようなパーティを承諾するなんて、一体彼女にどんなことをしたのかしら? ねぇ零さん?」

「なんだニヤつきやがって。ただ()()って言葉を知らないアイツに()()を教えてやっただけだ。ちなみに変な意味じゃないから」

「どうだか。もしかして本格的に手を出した……とか?」

「そこはご想像にお任せだな」

 

 

 夜にパーティをするなんて学校側からしたら迷惑極まりないが、俺が生徒会長の三船栞子を懐柔しておいたおかげであっさり承諾されたらしい。確かに規律を重んじて正論こそが正義だと思ってるアイツだったら夜に騒ぎ立てるなんて不純行為は本来なら禁止にしていただろう。そう、本来であればな。今のアイツは俺と文字通り遊んで心の余裕もできたので、時間外にちょっと歓迎会をするくらいの融通は効かせてくれたようだ。

 

 

「俺は栞子よりも高咲が歓迎会に乗ってくるとは思わなかったよ。俺のこと嫌いじゃないのか?」

「別に嫌ってはないですよ? ただ変な人だなぁと思ってるだけで。それに歩夢たちがこんなに楽しそうにしてるのに、私だけ水を差して不参加とかできるわけないじゃないですか」

「俺が来てやってんだからそりゃそうだ。だからお前もじゃんじゃん歓迎してくれよ」

「相変わらず俺様系ですね……。でも急なことなんで飾り付けとかはできないことだけは許してくださいね」

「そうね。零さんが来るって知っていればあらかじめ飾り付けを買えたし料理も豪華にできたんだけど……」

「私がみんなにサプライズにしたいと思ったばっかりに!? ゴメンなさい!!」

「謝らなくていいのよ。そもそも零さんを連れてきてくれたこと自体がグッドなんだから。みんな会いたくて会いたくて飢えていたもの」

 

 

 今でもみんなが俺を見た時の驚きとその表情をよく覚えている。俺が来ることを伝えられていなかったからこそ自然体のアイツらのいい反応を見られたから、俺としても収穫はあった方だ。それでもアイツらのハイテンション具合には疲れたけど……。

 

 そんなやり取りをしながら街中を練り歩いていると、ふとコスプレが立ち並んだ店を見かける。そして何やら俺のお目に敵うようなイベントをやっていることにも気付いた。

 

 

「おいあれ。あのイベントに参加すればパーティグッズが貰えるらしいぞ」

「あれって――――コスプレ試着会!?」

「参加してくれた方には漏れなくパーティグッズを進呈って書いてあるわね。飾り付けの装飾品一式も入ってるみたいだし、確かに今からあちこち回って買いに行くよりもこれに参加した方が効率はいいんじゃないかしら」

「ってことだ歩夢、参加してこい」

「えぇえええっ!? どうして私なんですか!? コスプレを着るならいつもモデルをやっている果林さんの方がいいんじゃ……」

「でも飾られているコスプレって可愛い寄りじゃない? だったら歩夢の方が似合うわよ」

「そうだよ歩夢! ピンクの可愛い衣装大好きでしょ? それならいつもライブで着慣れてるから大丈夫だよ!」

「ライブの衣装とコスプレは違うよぉ……」

 

 

 コスプレイベントだが別にステージに立つわけでもなく、ただ単にコスプレの体験ができるだけだ。大勢の前に立ってわざわざアピールする必要もなく、ちょっと着るだけでパーティセットが貰えるんだからハードルは低い。それにイベントに参加している人はたくさんいるから自分だけコスプレで浮く心配もなければ注目されることもないだろう。コイツがコスプレイヤー顔負けの着こなしをしなければの話だがな。

 

 よし、そうと決まれば後押しをしてやろう。

 

 

「そんなに緊張するなら高咲も付けてやる。幼馴染が隣にいれば心配ねぇだろ」

「はぁ!? どうして私まで!?」

「お前いつも歩夢の背中を押してばかりだから、たまには横に並んで一緒の景色を見てみろ。それに幼馴染なんだったら一心同体にならなきゃな」

「そ、そうやって言われたら断るに断れない……」

「それに見てみろあれ。今流行りの2人組の魔法少女のコスプレだ。2人でワンセットなんだから歩夢だけに着させるわけにはいかねぇだろ」

「ちょ、ちょっと待ってください零さん! あの衣装そこそこ露出多くないですか!? 私の知ってる魔法少女とは違う……」

「そうですよお兄さん!! もっと別の無難な衣装があるのにどうしてわざわざあれなんですか!!」

「そんなもの俺があのコスプレをしたお前らが見たいって理由だけで十分だ。お前らに拒否権はない」

「零さんの独裁政治が始まった以上もう逆らえないわね。歩夢、侑、とっても可愛い魔法少女のポーズ、期待してるわよ♪」

「果林さんまで……」

 

 

 歩夢も高咲も俺に反抗しても無駄だと知っているため、渋々ながら魔法少女コスを手に取って試着室に入っていく。衣装の際どさや果林の煽りもあって相当緊張している2人だが、スクールアイドルたるものこの程度で羞恥を感じているようじゃダメだ。それに一生俺の隣にいたいのであればそんな恥辱を感じている暇さえないからここで慣れておいて欲しいもんだ。1人はスクールアイドルでもなければ俺の隣にいたいとも思っていないだろうが、まぁ道連れってことで。

 

 

「知ってると思うけど、あまり歩夢をイジめちゃダメよ? 歩夢ってば零さんの話題になるだけで極度にアガっちゃうんだから、本人が目の前にいるとなればいつ気絶してもおかしくないわ」

「お前も煽ってたけどな……。それに歩夢のことなら心配すんな。俺がどれだけの女の子と付き合ってきたと思ってるんだ? 女心がどう揺れ動いてるかなんて全部お見通しだよ」

「でしょうね。だからこそ私たちはあなたに弄ばれてしまっているもの。私も壁ドンされたり抱きしめられた時はどうなることかと思ったわ……」

「ああやってお前らは俺のモノなんだって自分で自分に教え込みたいんだよ。異常性癖者で悪かったな」

「そんなことないわよ。あなたに求められれば求められるほど心が高鳴るから……」

 

 

 果林は自分で言っておいて恥ずかしくなったのか、頬を染めたままそっぽを向く。果林ですらこんな感じなんだからずっと俺の隣にいた歩夢は極限までアガっていただろう。しかも事あるごとに自分の痴態を晒し続けたので黒歴史に呻る気持ちも分かる。それだけ緊張が高ぶってしまうほど俺のことを想ってくれていたってことだ。もちろん俺もその想いには気付いてたし、今日はバタバタと騒がしいながらも俺のやり方でコイツらに応えてきたつもりだ。

 

 そこそこ真面目な話をしていると、歩夢と高咲が入っていた試着室のカーテンが開く。そこから出てきたのは――――――

 

 

「この衣装可愛いけど、やっぱり露出が多くて恥ずかしよぉ……」

「私はスクールアイドルじゃないからフリフリで可愛い衣装なんて似合わないと思うけどなぁ……」

 

 

 開口一番に不安を口にする2人。だがそんな懸念など一瞬で払拭されていることに気付いていない。

 歩夢はピンクを基調とした魔法少女衣装である。胸元には大きなハートマークのリボンがあり、スカートは可愛さ重視のフリフリが付いている。深夜アニメのキャラだから肩や太ももなど露出は多く大きなお友達向けのデザインだ。探偵をモチーフにしている魔法少女だからか虫眼鏡などの小道具も身に付けており、右手にはステッキを持ち如何にも魔法少女さを演出している。

 高咲が来ている衣装は緑を基調としており、胸元にクローバーのマーク、露出が多いのは歩夢の衣装と同じだ。だが持っている武器は弓矢であり、狩人の魔法少女である元ネタのキャラそのまんまだ。狩人意識だからか衣装は薄着で歩夢のよりも身体のラインが良く出るものであり、彼女のスレンダーな体型が浮き彫りとなっている。

 

 

「2人共とっても似合ってるわよ! 想像以上に可愛らしくて写真が止まらないわ!」

「わわっ、果林さん写真は早いですって! まだ心の準備が……」

「魔法少女はそんな後ろ向きじゃないはずよ。もっと堂々と振舞って、人前に現れる時はポーズを取るものでしょう?」

「そんな突然言われても無理ですって!? それにこの魔法少女が出てくるアニメのこと知らないですし……」

「はいこれ私のスマホ。あなたたちが着替えている間に調べておいたからこれを参考にしなさい」

「えぇ、余計な気遣いを……」

「名前はキャラの名前じゃなくて自分の名前にしてリアリティを出すんだぞ」

「注文が多い!!」

 

 

 ただキャラの衣装を着るだけではコスプレではない。そのキャラになり切り、自分をキャラとして昇華させてこそ真のコスプレイヤーなのだ。つまり今のアイツらはちょっとばかり可愛らしい衣装を着て恥ずかしがっているだけの少女に過ぎない。そしてここに来ている奴らはそんな生温いキャラの演じ方を見に来ているのではない。一端のコスプレイヤーであればギャラリーの血の気が上るほど興奮させてやるべきだろう。歩夢たちはコスプレイヤーじゃない? コスプレをしたらみんなコスプレイヤーなんだよ。

 

 歩夢と高咲はしばらく渋っていたものの、このまま粘っていても状況は変わらないことを悟ってか遂に諦めたようだ。2人は魔法少女の登場シーンと同じくお互いに背中合わせになり、大きく深呼吸する。せっかく演技をするからには本気という気概が2人から伝わってきており、笑顔も作ったものではなく本気のものだった。

 

 2人はその状態で決めポーズを取る。

 

 

「愛の力で闇を拘束! 魔法使いピュアリー☆歩夢! 卑劣な悪は逃がしません!」

「あなたのハートをロックオン! 魔法使いマジカル☆侑! 邪悪な闇に愛の矢を!」

 

 

 2人が決めゼリフを放った瞬間、周りから歓声が上がる。想像以上の出来に俺も果林も満足したのだが、それは周りの人たちも同じ気持ちだったらしい。最初は恥ずかしがっていたが決める時は堂々と振舞うのはスクールアイドルとその幼馴染と言ったところか。そもそも人気の魔法少女キャラのコスプレを現役女子高生がしているってだけでも得点が高いからな、注目されても仕方がない。

 

 

「お兄さん!? 一気に注目され始めたんですけど!?」

「もう着替えてもいいですか!? いいですよね!?」

「いや店の人もいい被写体だって褒めてるぞ? ほら、ポスターにしたいから写真を撮りたいってさ」

「ポスターって私が!? だったらスクールアイドルの歩夢だけに……」

「ここで裏切るの侑ちゃん!? 私を1人にしないで~!!」

「いや歩夢の方が可愛いから!!」

「侑ちゃんの方が可愛いよ!!」

「いやどっちも可愛いわよ♪」

「「うっ……」」

 

 

 果林の言葉に嘘はないのだが、笑顔の圧が凄まじくて2人はこの場を去ることができない様子だ。お互いに謙遜し合いつつ逃げようとしていたのでよっぽど注目されているのが恥ずかしいらしい。確かに生きてて露出の高いコスプレなんてする機会はないし、そもそもこういったキャラの衣装ってコスプレしてもらうために一般大衆に媚びるようなデザインだからスクールアイドルの衣装とは可愛いの毛色が違う。だからこそ慣れてない2人は余計に恥ずかしいのだろう。

 

 すると、歩夢がもじもじしながら俺のことを見つめていることに気が付く。

 

 

「あ、あの……零さんはどう思いますかこの格好……? やっぱりプロのコスプレイヤーさんが着た方が可愛いですよね……」

「そんなことはない。今のお前は世界の誰よりも可愛いぞ。いや、()()()って言った方がいいか」

「ひゃっ!? そ、そうですか……えへへ♪ 零さんに褒められるとやっぱり嬉しいです。ありがとうございます……」

「ちょっと待ってください! 今『お前ら』って言いました? わ、私もってそんな……」

「そうだが? てかお前も歩夢たちと並んでスクールアイドルできるほどの可愛さがあるだろ。なぁ果林?」

「えぇ。いつもマネージャーとしてサポートしてくれるのももちろん嬉しいけど、今からでもグループとして一緒にライブに参加してもいいのよ?」

「えぇぇえええっ!? そ、そんな……ええっ!?」

 

 

 歩夢が頬を赤らめながら嬉しそうにしているのに対し、高咲は自分の容姿を褒められ慣れていないのか歩夢以上に顔を沸騰させている。いるんだよなこういう奴。いつもはみんなに『可愛い可愛い』って持ち上げてるけど、実際に自分が褒めちぎられると何も言えず恥ずかしがっている奴。同好会のマネージャーである高咲はまさにそのポジションで、こうして派手な衣装を着るのもスクールアイドルの歩夢とは違って初めてだろう。慣れない環境、慣れない衣装、慣れない褒め言葉に羞恥心が爆発しそうになっている。

 

 

「ほら見て。さっき同好会のグループチャットに歩夢と侑のコスプレ写真を送ったんだけど、みんな大絶賛よ!」

「ちょっと勝手に送らないでくださいよ!? あぁ今からチャットを覗くのが怖いし、みんなと会った時になんて言われるか想像するのも怖い……」

「俺は好きだけどな、お前らのその衣装。次は魔法少女モノでライブなんてどうだ?」

「零さんが期待してくれるのであればそれもやぶさかではないと言いますか……」

「ダメだよ歩夢流されちゃ!! スクールアイドルってもっと清楚なモノでしょ!?」

 

 

 その言い方だと魔法少女が穢れてるってことか……? まぁ魔法少女のキャラってエロ同人のネタにもされやすいし、何かと二次創作で敗北絵なんかで脱がされたりエロいことをさせられているイメージが強い。そういった意味では確かに穢れてるのかもな。深夜アニメ枠の魔法少女だからお察しなところもあるが……。

 

 

「とにかくお前らどっちも似合ってるから大丈夫だ。色んな女の子の色んな姿を見てきた俺のお墨付きなんだから、もっと自信を持て」

「歩夢ってばライブの衣装が出来上がるといつも『零さんに似合ってるって言ってもらえるかな』とか『零さんに可愛く見てもらえるかな』とか心配してるものね。もう好き好きオーラが隠せていないのよ。だから零さんに褒められるのが歩夢にとっての一番なのよね?」

「ひゃあっ!? そ、それは言わない約束だって……。そんなことを言ったら果林さんだって新しい衣装を着るたびに『どの角度から写真を撮れば零さんに美しく見られるかしら』って悩んでいますよね!?」

「そ、そんなこともあったようななかったような……」

「お墨付きとはこういうことだ高咲。俺のお目にかかれて良かったな」

「べ、別にお兄さんに褒められたって嬉しくもなんともない……ですよ」

 

 

 高咲は俺に対して悪態をつくが自分の心に嘘は付けないようで、頬を染めながらも満更でもない表情をしている。ここに来てツンデレ属性まで発揮するとか、やっぱりコイツもスクールアイドルの奴らに負けず劣らずいいキャラしてるじゃん。無理矢理でもいいから可愛い衣装を着させてステージに立たせてライブをさせてやりたい。それくらい高咲には歩夢たちと同じ魅力があった。

 

 

 そんな感じで突如として始まったコスプレイベントは終了し、歩夢も高咲も無事に羞恥の渦から解放された。最終的には2人共ちょっと名残惜しそうにしていたので、多少なりとも魔法少女コスに思い入れはできたかもしれない。幸か不幸か俺と一緒にいる以上は恥ずかしい衣装を着ることなんていくらでもあるから安心してくれよな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして歓迎会の買出しを終えた帰宅途中――――

 

 

「どっと疲れた……。いつも観客席でみんなを見てるだけだったけど、周りから注目されるのって思った以上に疲れるんだね……」

「分かってもらえたのなら、今日みたいな無茶振りはやめてもらえると嬉しいかな……。『やります! 歩夢が!』っていうあの流れのことだけど……」

「そうだね、善処するよ……」

 

「結構魂が抜けちゃってるわねあの2人。全く、零さんが無茶振りするから……」

「お前も相当煽ってたけどな。それに俺はアイツらの魔法少女コスを見たいからやったんだ。後悔はしていない」

 

 

 俺は俺の欲望に従ったまでの話だ。いつも女の子たちの暴走を止めたり欲求不満に応えてやったりしてるんだから、これくらいのワガママは許してもらいたい。それに可愛い女の子の可愛い姿を見たいのは男として当然の欲求だろ? 俺はそれを真っ向から見られる立場にいるからその特権を活かさずどこで活かすって言うんだ。これぞたくさんの女の子を囲ってる醍醐味だな。

 

 ま、俺の欲望を満たすためだけじゃなくて今回は副産物としてパーティセットが――――って、あれ……?

 

 

「そういえばコスプレイベントの特典のパーティセット、誰か貰ったか?」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 あっ……。

 

 

「ちょっと!? 私たちの苦労は一体なんだったんですか!? どうして受け取らなかったんですかお兄さん!!」

「お前らが衣装を返す時に貰ってると思うだろ普通! 俺は観客、メインはお前らのはずだ!」

「ということは私たち、ただ恥ずかしい思いをしただけってこと……?」

「骨折り損のくたびれ儲けがこれほど体現されてるのを見るのは初めてね……」

「うがぁあああああああああああああお兄さん!!」

「だから俺のせいにすんな!! つうか疲れてたんじゃねぇのかよ元気じゃねぇか!!」

 

 

 怒りに身を任せるとはまさにこのことか、高咲は今にも襲い掛かってきそうだった。

 ていうか悪いのは俺でも高咲たちでもなくて、特典を渡さなかったイベントスタッフじゃね? とか言ってももはや聞く耳をもたない高咲と、またしても黒歴史を刻んで嘆く歩夢を宥めるのに相当の時間を要したのだった……。 

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 アニメでは歩夢⇒侑の構図が前面に押し出されていて若干ヤンデレENDになりそうな予感もしましたが、この小説では完全に歩夢⇒零なので逆に侑が嫉妬しちゃいそうな気がします(笑)

ちなみに今回モデルとなった某ゲームの魔法少女ですが、原作の著作権意識で敢えて2人のモチーフと技を逆にしてます。

 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!



【知らなくてもいい設定集】
・虹ヶ咲編の時系列は某年10月
⇒Aqours編が同年6月、スクフェス編が同年8月なので203話から200話以上にわたり4ヵ月くらいしか経ってません(笑)

・零は大学4年生、同好会メンバーは原作同様
⇒Aqoursと同好会メンバーは同年代、μ'sは零と同年代なので先輩スクールアイドルです

・零と侑以外の同好会メンバーは幼い頃からの知り合い(メンバー同士もその頃からの知り合い)
⇒スクフェス編の端々でその経緯が語られていますが、今から見返すのは大変だと思うのでスルーしていいです。多分ほとんど使うことのない設定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

侑とハーレムの王

 ついに侑の個人回! あのハーレム王に真っ向から挑むとはなんて無謀な……

 そして今回は1話通して侑視点でお送りします。


 歓迎会の買出しから帰ってきた私たちは早速部室の飾り付けや料理に取り掛かった。とは言っても歓迎される側のお兄さん――――神崎零さんにそこまでさせるわけにはいかないため、今は私と2人で休憩所で休憩中。私も準備の手伝いをしようと思ったんだけど、お客さんであるお兄さんを校内で1人はしておけないため私が付き添いで一緒にいることになった。

 これまで歩夢やお兄さんと一緒にみんなと交流したり学校案内をしてきたけど、こうして2人きりになったのは初めてなんだよね。年頃の男性と2人きりになるなんて経験はしたことないから何を話せばいいのか迷っちゃうな。歩夢たちがお兄さんに緊張しまくっていたのも今なら分かる気がする。

 

 そんなことを考えていると、自動販売機で飲み物を買う音が聞こえてきた。そしてお兄さんは私に向かって缶ジュースを投げる。

 

 

「ほらよ、お兄さんからの奢りだ」

「わっ、とっと! 危ない落としそうだった……。ていうか悪いですよ! 仮にもお客様なのに奢ってもらうなんて……」

「気にすんな。年上からの慈悲だと思って素直に受け取っとけ」

「は、はい、ありがとうございます。炭酸――――じゃないみたいですね」

「俺がそんなイタズラをすると思うか?」

「痴漢ってイタズラの究極系だと思うんですよ」

「まだそのことを引き摺ってんのか、みみっちい奴め。俺と一緒にいるとそんなこと日常茶飯事だぞ」

「お兄さんって普段どんな生活を送ってるんですか……」

 

 

 お兄さんの周りにはたくさんの女の子がいて、その全てを侍らせていると歩夢たちからの噂がある。何がどうなったらそんな状況になるのか分からないけど、それが本当なら私の想像も付かないような毎日を送っているのだろう。想像したくもないけど……。

 

 受け取ったジュースを飲んでいると、お兄さんがずっとこっちを見つめていることに気が付く。

 出会ってからずっと視線が気になってはいた。ただ私のことを舐め回すような怖気の走る目線ではなく、チラチラと様子を窺われているようなそんな感じの目線だ。それは今もそうだった。

 

 

「お兄さん、また私のことジロジロ見てる……」

「そりゃ話し相手がお前しかいないんだから必然的にそうなるだろ」

「もしかして私、今とっても身が危険だったりする……? 通報した方がいいの……?」

「仮に通報したとしても助けが来る前にお前の純潔は失われてるだろうな。ここの休憩所、周りに人もいなければ往来も少ない。行為に及ぶなら絶好の場所だ」

「そんなところまで目が行き届くなんて、まさか常習犯だったりします……?」

「これが男の生き様ってやつだよ」

「いやカッコよく決めようとしてるみたいですけど全然カッコよくないですから!!」

 

 

 女の子に対して真顔でそんなことを言えるのがもう凄い。本来なら嫌悪感しか湧かないところだけど、不思議なことに呆れるくらいで済んでいる自分がいる。むしろ負の感情を抱かない自分自身がお兄さんよりよっぽど怖いかも……。もうお兄さんがいる環境に慣れちゃったのかな? とてつもなくイヤなんだけどそんなの!!

 

 

「お兄さんってこんなに変態さんなのに今までよく捕まりませんでしたね……」

「こんなに天才で顔も良くてコミュ力も高い俺が通報されると思うか? それに俺と関わった女の子たちはみんな自分から俺を求めてきてくれるぞ。今日散々間近でそれを見てきただろ?」

「歩夢たちのことですよね? 確かにみんなお兄さんのことしか頭にないような感じでした。お兄さんに会えて嬉しかったのが一目で分かるくらいに……」

「だろ? 俺はアイツらを幸せにしてやってるんだ。だから文句を言われる筋合いも、誰かに横槍を入れられる道理もない。それが例え歩夢たちに最も近しいお前であってもな。誰も俺たちの邪魔をする権利はない」

 

 

 ちょっと悔しい気もしたけど、お兄さんの圧力に押されて言い返すことができなかった。確かにお兄さんが来てからの歩夢たちはいつもと違う。自然と女の子の一面を見せているし、みんなスクールアイドルをやっている時と同じくらい、いやそれ以上に積極的に自分をアピールしている。普段とはまた違うみんなの別の顔。みんな本当に好きなんだ、お兄さんのことが。それはここ数時間でみんなの様子を見てきた私が断言できる。お兄さんに同調するようだからあまり断定したくないけど、目の当たりにした事実がそう語っているんだから仕方ない。

 

 

「私、最初はお兄さんのことを警戒していました。そりゃ電車内で痴漢されたらそうもなりますけど」

「まぁ普通はそうなるよな。でもお前、そのあと普通に俺と会話してたじゃねぇか」

「それはお兄さんに怪しまれないように観察するためです。歩夢たちが恋焦がれる相手がどんな人なのか、歩夢たちに相応しいのか、私が見極めてあげようと思いましたから」

「それは御苦労なことで。で、俺の評価は?」

「逆に聞きますけど、私の中でお兄さんの評価が上がることあったと思いますか?」

「ないな。でも認めるしかない。そうだろ?」

 

 

 当たりだ。やっぱりお兄さんには私の考えなんて全部お見通しらしい。

 お兄さんは歩夢たちのことが好き。そして歩夢たちもお兄さんのことが好き。その関係に私が入り込む隙間も評価する余地もない。つまり、私が認める認めないではなくみんなに認めさせられているんだ。

 

 

「今日の歩夢たち、すごく楽しそうでした。普段以上に生き生きとしていて、お兄さんこそがみんなの原動力になっているんだって実感しましたよ。そんなのを見たら認めるしかないじゃないですか」

「だろうな。誰かに止められるような中途半端な恋愛なんてしねぇってことだよ。文句を言ってくる奴はみんな黙らせてやる。誰も俺とアイツらの関係を邪魔させたりしない」

「お兄さんが言うと貫禄がありそうなセリフに聞こえますね……」

「あるんだよなこれが。俺を誰だと思っている?」

「痴漢魔」

「お前それ以外に俺の印象ないわけ? いつまでも古臭い肩書を背負わされる俺の身にもなってくれ」

「いやいやサラッと水に流そうとしても無駄ですからね!? 一生覚えていてやりますから!!」

「一生俺のことを覚えていてくれるのか、嬉しい限りだな」

「とことんポジティブですよねホント……」

 

 

 もはや許して当然みたいな雰囲気になってるけど、お兄さんの世界ではこれが普通なの……? 歩夢にこのことを話しても『零さんなら仕方ない』みたいなニュアンスだったし、なんなら小さい声で『羨ましい』とか言い出す始末。歩夢たちまでこうだったらもう私ってお兄さんの世界からのが逃れることができないかもしれないなぁ……。ていうか私の逃げ場を奪ってるのもお兄さんの作戦の内だったりするのかな……? さ、流石に違うよねぇ……うっ、き、気になる……。

 

 

「もしかしてお兄さん、私のことも狙ってます」

「あぁ」

「ぶっぅうううううう!!」

「うぉっ、汚ねぇなお前!? いきなりジュース噴き出すな!!」

「いきなりはこっちのセリフですよ!? なにさも当然かのごとく肯定しちゃってるんですか!?」

「だって可愛い女の子に惹かれるのはオスとして普通の本能だろ?」

「か、可愛いって……」

 

 

 ちょっと待って、さっき少し胸が高鳴ったのは一体……? いやこんな変態お兄さんに容姿を褒められたところで鋼のメンタルである私の心が響くはずない!! でもさっき魔法少女コスをした時に同じことを言われたけど、その時もほんの少し、本当にちょびっとだけドキッとしちゃったんだよね。歩夢やみんなに『可愛い』と言われるのとは違う。カッコいい男の人に褒められるってこういうことか。だから慣れてないだけだよね、うん。

 

 

「俺は誰とも構わず『可愛い』を安売りする人間じゃない。これと見定めた奴にしか言わないし、それにお前のことを何とも思ってないなら魔法少女のコスなんて着させねぇって」

「えっ、あれは歩夢1人じゃ心細いからって……」

「それもある。だけどあの時言っただろ? 俺が見たいからだって。つまりお前のコスプレ姿も見たかったってことだ。お前はあんな衣装を着るのは初めてだろうから緊張しまくっていい表情が見られると思ったけど、まぁ俺の期待に応えてくれることくれること」

「それだとお兄さんのために着たみたいじゃないですか……」

「それでいいんだよ。俺はな、自分の女の色んな姿を見たいんだ。スクールアイドルとして輝いているところも、羞恥心に駆られて恥ずかしがっている姿も、俺への愛にどっぷりと浸かって俺を求める様も全部な」

 

 

 なんとも形容し難い欲望に私は言葉を詰まらせる。歩夢たちがお兄さんに尋常じゃない愛を抱いているのは知ってたけど、まさかお兄さんまで同じだったなんて……。お兄さんの欲望は理解できないくらいに深いけど、歩夢たちはそれに応えている。そしてその逆も然り。だから一般常識からかけ離れた世界でもお兄さんとみんなの関係が保たれているんだ。そしてそれは同好会メンバー以外の女の人たちとも同じだろう。お互いが相手に対して果てしない愛と欲を抱いているから世界は壊れない。異常だ、と思うのと同時にこんな絆の強い関係が築けるなんて凄いとも思った。

 

 そして、私もその世界に引き摺り込まれようとしている……。

 

 

「残念ながら、私がお兄さんを好きになる理由もきっかけもありません」

「だろうな。俺も同じだ」

「はぁ!? 好きでもないのに『可愛い』とか『コスプレしろ』とか言ってたんですか!?」

「そりゃお前の外見は知っていても中身はまだあまり知らないからな。でもそれとお前の可愛い姿が見たいって思うのは別の話だろ。俺の欲望が満足させろと言ってきたんだよ、あのとき自然にな」

「自然と……へぇ……」

「おっ、まさかときめいちゃったか?」

「自惚れ過ぎですよ痴漢魔!!」

「お前それしか罵倒のレパートリーねぇのかよ……」

 

 

 いやだってお兄さんの欠点らしい欠点ってそれしかないし……。あとは自意識過剰、唯我独尊、傍若無人、利己主義者、自尊心の塊――――ダメだ、何を言ってもお兄さんはそれを誇りにしてそうだからダメージを与えられそうにない。そもそも痴漢だってもう遠い過去のことにされてるもんね……。

 悔しいけど容姿はイケメンでカッコいいし、頭も海外の大学に推薦されるくらいにはいいらしく、女性に対するコミュニケーション力も高い。認めたくはないけどこんな男性と付き合えた女性はそれだけで勝ち組だと思う。だからこそ歩夢たちが惹かれるのも分かる。えっ、なにチートってやつ? アニメや漫画の主人公か何か?? それでももっとマシな設定にしない普通??

 

 

「女の子を言い包めてしまった。また勝っちゃったな俺」

「いやいやどうして勝負事になってるんですか……。まさか常に自分が他人より上にいないと満足できない人ですか?」

「う~ん、まぁ女の子を導く側に立ちたいって意味ではそうかな。あとSかMかで言えばSだから」

「そんなこと聞いてないです!! お兄さんってつくづく一言多いですよね。周りの女性にデリカシーがないって言われません?」

「あぁ~よくあるよくある。妹からも言われてるよ。もう何年も前からだもんなぁ懐かしい」

「そんな昔から言われてる上に家族にまで咎められているんだったら治しましょうよ……」

「おいおい、それが俺の唯一の欠点なんだぞ? それを治したら世界で一番完璧な男が出来上がっちまう。そうなったらお前も一瞬で惚れちゃうだろうな」

「いやないです、絶対に」

 

 

 もしお兄さんに惚れることがあったらスカートのまま逆立ちをして校内を1周してもいいくらい。こんな欲が深くて変態さんで顔がいいだけの人にときめくはずがない。可愛いって言ってもらえてちょっと、ほんのちょっとだけ嬉しいかったけどそれだけ。本当にそれだけだから……。

 

 

 あぁ……お兄さんと出会ってから変な世界に引き摺り込まれるし、男の人と初めて親しくなって『可愛い』とか平気で言われちゃうしで調子狂う~~!! こんなことに悩んでいるのも全部お兄さんのせいだ……。

 

 

「なんか怒ってる?」

「怒ってないです」

「出た出た。女の『怒ってない』は『怒ってる』ってことだし、その理由を聞いたら『それくらい自分で考えてよ』って逆ギレされるんだよな。そして『言ってくれなきゃ分かんないだろ』って返したら『察してよ』って言うんだぞ、酷くないか?」

「それはもう腹を割って話し合うしかないとは思いますけど……。なるほど、恋愛関係が拗れたことが過去にあるんですね……」

「あぁ、高校生の時にそんなこともあったなぁ……」

「遠い目をしてる!? 冗談で言ったつもりですけど本当にあったんですね……」

 

 

 お兄さんがここまで物思いに耽るのは珍しい。過去なんて振り返らずに猪突猛進で未来を進んでいく人かと勝手に思い込んでいたから尚更だ。もしかしてお兄さんがさっきのように達観してたのもその過去の出来事が原因なのかな? よく考えてみれば何も経験せずにあんなに達観できてたらそれこそ痛い人だから、お兄さんもそれなりの苦労を乗り越えてきたってことだよね。どんな過去があったのかは知らないけど、ここまで感傷に浸るってことはそういうことなのだろう。

 

 

「そういやお前はどうしてスクールアイドルをやってないんだ? お前の容姿ならアイツらと並んでステージに出ても全然通用すると思うんだけど」

「それは私の大好きはステージの上だけじゃないからですよ。私は歩夢たちがスクールアイドルとして輝いているのを見たい。他のスクールアイドルを見てときめきたい。スクールアイドルを見て笑顔になっているお客さんたちを見たい。沸き立つ興奮の中で、みんなが一体となって楽しんでいる景色を見たい。だから私の夢はステージの上だけじゃなくて、全てのスクールアイドルとお客さんたち、そしてそれを見ているまた別の誰かが笑顔になれる世界なんです。そういった世界を作るために同好会のお手伝いをしているんですよ」

「なるほど。俺のことを散々欲深いとか言っておきながらお前も相当じゃねぇか。スクールアイドルだけじゃなくて観客も、たまたまそれを見た赤の他人ですら笑顔にさせたいなんて無茶言いやがって」

「あはは、そうかもしれませんね。でもお兄さんには負けますよ」

「別に夢に勝ち負けなんかないだろ。いい夢じゃないか。俺と似たところもあるからそう思っちゃうのかもしれないけど」

「お兄さんと一緒……? なんかヤダ……」

「おいおいもっと誇っていいんだぞ? 俺と並び立てるほど欲がある夢を持ってることにな」

 

 

 お兄さんと同類になったら私まで冷ややかな目で見られそうだけど、逆にお兄さんと一緒だからこそ自信が持てるという見方もある。あのμ'sやA-RISE、AqoursやSaint Snowをあそこまで輝かせたのはお兄さんらしいから、同じ夢を持つ者としては尊敬する部分もあるんだよね。それに自分の欲望を自信満々に語るお兄さんはスクールアイドルに負けないくらい輝いている。その欲望は中々一般受けするものじゃないけど、なんかカッコよく見えちゃうのはお兄さんだからかな……? せっかくだし、今度ゆっくりお話しながらアドバイスを貰お――――――ッ!?

 

 私、今お兄さんと2人きりになるところを想像してた!? 喫茶店とか自宅とかでまるでデートのように2人きり―――――あぁダメダメ、余計な感情に苛まれる前に私の話はここで終わらせよう。

 

 

 私は雑念を払うために勢いよく立ち上がり、缶ジュースを一気飲みしようとする。だがその勢いに負けて身体がバランスを崩し、後ろに倒れそうになってしまう。

 ダメだ、頭が床に――――――!!

 

 

「えっ……?」

 

 

 身体は後ろに倒れた。でも頭に衝撃は走らなかった。

 優しく、それでいて暖かい。これは人の……手? あっ……!?

 

 

「意外とどんくさいんだなお前」

「お、お兄さん……?」

 

 

 えっ、えぇええええええええええええええええええええええっ!?!?

 私はお兄さんに押し倒されていた。いや、お兄さんが助けてくれたんだ。お兄さんは私の後頭部と身体を守るように手と腕を下敷きにしてくれており、それにより全身に全く痛みを感じなかった。だけどそれ以上にお兄さんの顔がち、ち……近いッ!!

 

 そしてお兄さんの髪からオレンジ色の液体が滴り落ちている。近くには転がったジュースの缶。つまりあの缶の中身がお兄さんに……!?

 

 

「お、お兄さんすみません! ジュースが――――」

「大丈夫か? 足を捻ったようにも見えたけど」

「お、おかげさまで大丈夫です! ありがとうございます。でもお兄さんの髪に――――」

「ったく、俺の歓迎会があるってのに歓迎する側がケガしてどうする。そんなので俺をもてなせんのか?」

「そ、それはそうですけど……」

「お前と2人きりの時にケガをされたら、歩夢たちに『襲ったんですか?』とか言われそうで怖いな。ま、何ともないなら良かったよ」

 

 

 この人、自分のことより私のことを心配してくれている。私を抱きかかえる形で倒れたってことは、私よりお兄さんの方が身体への衝撃が大きかったはずなのに……。それなのにも関わらず私の身体の心配ばかり……。

 

 ていうか顔近い!! こうして見るとやっぱりお兄さんって顔が整っていてるな……。瞳も綺麗だし、そんな眼で見つめられると――――ってお兄さんは真面目なのに何考えてるの変態か私!! なんか顔も熱くなってきたし!! 私こんなにチョロかったっけ!?

 

 

「そういやお前の欲望と俺の欲望では1つ違うところがある」

「ふぇ?」

 

 

 な、なにいきなり!? 抱きかかえられて押し倒されているこの状況でまさかの別の話題!? しかも今まで以上に真剣な眼差しで見つめてくる!! 恥ずかしいから目を逸らそうとしてもお兄さんの力強い眼に捕捉されて目が離せない。

 

 

「お前はみんなが幸せになることで自分も幸せになれる。俺はその逆で、自分の幸せを高めることで相手の幸せも高めるってことだ。言わば幸せの主体がどっちかってことだな。つまりお前が俺の世界に踏み込んだ以上、お前も俺に幸せにされるべき対象ってことだ。よく覚えとけ」

「ふぇっ!? わ、私もってそんな……」

「俺もお前と一緒で相当欲深いからな。二兎追う者は二兎とも取れって言葉があるように、俺はみんなを幸せにする。俺にはその力がある。みんなが笑顔みんなでハッピーになれる、それ以上のことってあると思うか?」

「な、ないです!」

「だろ? だから俺は欲しい。歩夢たちも、そして……」

「そして……?」

 

 

 思考回路がショート寸前の私はお兄さんの言葉をそのまま肯定し、そのまま返事をすることしかできなかった。

 そしてこの後。この後に来るだろう言葉、名前に私の胸は高鳴り――――――

 

 

「侑ちゃん、零さん、な、何をやってるの……?」

 

 

「歩夢?」

「あ、歩夢!?」

 

 

 休憩室の入口で歩夢が驚きと絶望の目で私たちを見つめていた。今まで見たことのない表情に思わず背筋が凍りそうになる。

 そして今の私とお兄さんの体勢、お兄さんが私を抱きかかえながら押し倒しているこの状態。もちろん経緯があってのこの体勢なんだけど、そんなことを知らない人が見たらどう思われるかはもちろん明白で――――――

 

 

「零さんと侑ちゃんってまさかそんな関係だったの!? 今日会ったばかりだよね!? もしかして侑ちゃんが零さんに付き添ったのってこれが目的だったの!?」

「お、落ち着いて歩夢違うから!! お兄さん、歩夢の暴走を止めてあげてください!!」

「ただ同じ夢を持つ者として意見交換していただけだ。なぁ、侑?」

「そうだよ歩夢、私はお兄さんと――――って、えっ? い、今私のこと名前で……??」

「いつの間にそんな親密な関係に!? 侑ちゃんやっぱり零さんのことを!?」

「どうしてそうなるの!? 違う! 違うから!!」

 

 

 あぁもうどうしてお兄さんはこんなに冷静なの!? ていうか歩夢が暴走している今でもずっと私のことを抱きかかえたままだ。しかも唐突に名前呼びされたしもう訳分からない!! でも不思議と嬉しくなっちゃったのはきっと気のせいだよね? 歩夢の暴走で私までおかしくなってるだけだよね? きっとそうに違いない。同じような夢を持ちそれを激励してもらい、人生で初めて1人の女の子として見られ、年上のカッコいい男性から下の名前を呼ばれたくらいで嬉しくなるはずがない。

 

 とりあえず今は歩夢を何とかしないと。今日だけで何回歩夢の暴走を止めればいいんだろう……。

 

 

「零さんと侑ちゃんが隠れてイチャイチャするなら――――私も混ざるぅうううううううううううう!!」

「今は来ない方がいい。侑にぶっかけられて濡れてるから」

「ぶ、ぶっかけ……。そ、そそそそそんな破廉恥なこと……!! 侑ちゃんは穢れとは無縁の清楚な人だと思ってたのに!!」

「ちょっと何誤解してるの!? すぐに意味を察せる歩夢の脳内の方が破廉恥だよ!!」

「とにかくシャワー浴びてぇな早く。ジュースで髪がベトベトしてきた」

「まずは私は解放してください!! いつまで抱きかかえてるんですか!?」

 

 

 今お兄さんの苦労が分かった。今日はずっとお兄さんを中心に騒動が起きてたけど、その中心にいるのってかなり疲れるんだね……。その騒動を毎回収めているお兄さん、やっぱり凄いよ……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 スクールアイドルではないとかアニメのオリジナル主人公だとか、そんなことは零君の前では関係なく女の子なら等しくヒロインです。私はハーレム大好きなのでこんな展開になっちゃいましたが、この小説を読んでくださっていると言うことは皆さんもハーレム大好きだと思うのでいいんじゃないですかね(笑) むしろ侑が零君に惹かれることを望んでいた人も多そう……

 侑って公式グッズからもハブられているので、もしかしたらアニメが終わったら急激に出番が減るかもしれませんね。しかしこの小説で永遠のメインヒロインに昇格したので休む暇ないです(笑)


 この小説の投稿ペースですが、今まではアニメの個人回を見てからネタを考えていたので週1投稿でしたが、それももう終わったので最新話が完成次第投稿していきます。なので週2投稿になる可能性もあるので頻繁にチェックしてくださると嬉しいです!

 これからのネタとしてはこの小説で個人回を残している歩夢や栞子回、全員集合回や遥ちゃんも登場させようと思っています。順番は未定で別のネタが挟まるかもですが……




 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シャワールーム大乱戦!

 虹ヶ咲の子たちって一部を除いてスタイルがいい子ばかりなので、こういった話にはうってつけだったりしますね(笑)


 侑に(オレンジジュースを)ぶっかけられて頭からベトベトになった俺は、歩夢に教えてもらったシャワー室へとやって来た。応急処置としてタオルで拭いてはみたものの、糖分たっぷりのジュースを被ったせいか髪のベタ付きが半端ない。そのため早急に洗い流したいのだが、そもそも女子高のシャワー室を男の俺が使うのもどうかと思う。まぁ歩夢が言うにはこの時間になれば生徒はほとんど帰っていないらしいから一応大丈夫っぽいが……。

 

 一流の高校はシャワー室も豪華で、まるで高級ホテルのバスルームのような内装だ。運動部が使うことを想定されてか大人数で一気に入れる広さとなっており、お高そうなバスタオルやシャンプーまで用意されている。食堂の充実具合や彼方曰く寝床になる場所も多いので、もうこの学校に住んだ方が生活水準が上がる気がするぞ。

 

 そしてこれだけ豪華だと人っ子一人いないこの場所を占有できるのはテンションが上がるというもの。適当に脱いで意気揚々とシャワールームへとお邪魔する。

 もちろんシャワールーム自体も広く、浴場のように身体を洗うところまで備わっているため湯船がない銭湯のような感じだ。もちろん肝心のシャワーは個室として十数個並んでいる。個室の背は高く、湯気を逃がすため上方は空いているが下はほとんど空いていない。いないとは思うが下から覗く奴対策だろう。ちなみに男子大学生の俺が個室に入っても全身が隠れるくらいなので程よいプライベート空間となっている。

 

 

「とっとと入ってとっとと出るか。普通に気が引けるし……」

 

 

 例え誰もいない貸切状態であっても女子高のシャワールームに居座るのは流石の俺でも難易度が高い。思春期時代であれば性欲に従って素直に喜んでいたんだろうが、大人になってまで下心丸出しなわけがないだろう。だからここは大人としての節度を持ってサッサと用事を済ませて帰りたいところだ。節度のある大人だったらそもそも女子高のシャワーなんて浴びないとか反論は受け付けないから。

 

 ――――なんてのは余計なフラグになると分かり切っている。そして俺のそんな予感は当たる。

 ほら、もうシャワールームのドアが開く音がしたぞ。ヤバいとは思いつつもこのようなお約束展開には慣れているので半ば諦めムードだ。このままでは女子高のシャワールームに忍び込んだ犯罪者として通報され兼ねないので、こうなったら入ってきた女の子を力技で俺に懐柔させるしかない。ちょっと恋に落ちてもらえば俺のことを許してくれるはずだ。でもできるのか? シャワールームに入っていきなり口説き落とすなんて暴挙……。いや、やるしかないか。

 

 そして遂に、女の子が更衣室からシャワールームに入って来た――――って!?

 

 

「愛、せつ菜……?」

「えっ、零さん!? ちょちょちょっ!? 零さんがこんなところに!?」

「ふぇっ!? 零さんどうしてシャワールームに!?」

 

 

 入って来たのは愛とせつ菜だった。当たり前だが2人はここにいてはならぬ存在の目撃に驚き、そのせいで声がやや裏返っていた。シャワーを浴びる前から顔を赤くしているが、バスタオル1枚の姿を男に晒しているのだからそりゃそうなるだろう。そういやコイツらの脱いだ姿を見るのは初めてだったな。初めて裸を見せるのがまさかこんな形になるとは2人も思っていなかっただろう。

 

 でもとりあえず、見知らぬ子じゃなくて安心したよ。全く知らない子だったら犯罪者扱いされないために速攻で壁に追い込んで口説き落とし、この罪をチャラにしてもらうよう仕向けるつもりだったから。

 

 

「あの……零さん? どうしてホッとした表情をしているのでしょうか……」

「いや、入って来たのがお前らで良かったなって」

「えっ、もしかして愛さんたちの裸を見るために待ち伏せしてたの!? 変態さんなのは知ってたけどまさか女子高のシャワールームに忍び込むなんて……」

「勝手に誤解すんな! 侑にジュースをぶっ掛けられてシャワーを浴びに来ただけだ!」

「な~んだ、てっきり女子高にテンションが上がって我慢できなくなったのかと思ったのに……」

「どうしてちょっと残念そうなんだよ……」

 

 

 思春期時代の俺は女の子の裸を見るだけでも鼻血を出すほど性的興奮に弱く、性欲の暴走も自分で抑えられなかったのはよく覚えている。だが今の俺の周りにはたくさんの女の子たちがいて、ぶっちゃけお願いすれば風呂でも何でも付き合ってくれる子も多い。つまりそれが日常になって女の子に耐性が付いたのだ。だから女子高で可愛い女の子をたくさん見たくらいで性欲が高鳴るなんて不純な欲求は持ち合わせていない。一言で言えば成長したんだよ、俺もな。

 

 

「そういうお前らはどうしてここにいるんだ? 歓迎会の準備をしてるって聞いたけど?」

「あぁ……アタシとかすかすがお互いにイタズラし合ってたら、買ってきたペットボトルのジュースが落ちていることに気付かずかすかすが踏みつけちゃって……」

「その中身が愛さんと、そして何故か近くにいた私に向かって噴き出しちゃいまして……」

「いや本当にゴメンせっつー!! 零さんの歓迎会をするってなって思わず舞い上がっちゃったから……」

「いえ、私も今晩零さんと一緒にいられると思って活気づいていましたから。お互い様です」

 

 

 どうやら事の発端は俺と全く同じ出来事らしい。つうか俺がシャワー室にいるってことを歩夢は知っていたはずなのに、どうして2人を止めなかったんだ……?  なんにせよこの場で出会ってしまった以上は済んだことを追及しても仕方がないのでまずは今を切り抜けるか。

 

 

「目的が同じなら早くシャワーを浴びてここから出るぞ。万が一誰かに見つかったりしたら面倒だ」

「そうだ話し込んでる場合じゃない! もうすぐバスケ部の子たちがここに来るよ! ていうかもう脱衣所にいるんじゃないかな?」

「は、はぁ!? 歩夢がこの時間は誰も来ないって言ってたけど!?」

「そういうことですか……。歩夢さんは運動部じゃないから知らないと思いますが、運動部の方たちは割と遅い時間でもシャワーを浴びに来るんです。練習の片付けなどをしていると部活の終了時間よりも後になることはむしろ普通なので……」

「じゃあこんなところでグズグズしてる場合じゃ――――」

 

 

 やはりフラグというものは回収するもの。主人公の身には逐一騒動が舞い込む運命らしい。

 脱衣所からたくさんの女の子の声が聞こえてきた。どうやら愛の言う通りバスケ部が練習終わりにシャワーを浴びに来たらしい。シャワールームから外に出るにはもちろん脱衣所を通らなければならないので、もはやここに監禁状態となるのは確定だ。1人2人くらいなら口説き文句で落とせば問題ないと思っていたが、多人数で来られたらもうどうしようもない。どうする……? 間もなくアイツらがここに入ってくるぞ……。

 

 

「ど、どうしますか!? このままでは零さんが見つかってしまいます!?」

「零さんこっち来て! 早く!」

「お、おいっ!?」

 

 

 愛が俺の手を引っ張り個室に入ったのとバスケ部の面々がシャワールームに入って来たのはほぼ同時だった。あと少し愛の判断が遅れたら間違いなくここで見つかって人生終了の道を辿っていただろう。

 ただ今はそれ以上に気になることがあった。

 

 

「運よく隠れられたのはいいんだけど、どうしてお前らまで一緒の個室に入ってんだ……!?」

「だって零さんを隠すのに精一杯だったから……!!」

「愛は俺の手を引いてくれたから分かるけど、なんでせつ菜まで……!!」

「私も気が動転していたんです!!」

 

 

 何故か愛とせつ菜まで同じ個室に入っていた。シャワーが置かれているだけの個室なのでもちろん1人が入れるくらいの広さしかない。そこに3人が押し込まれたら俺たちの体勢がどうなっているかはもうお察しのこと、3人で身体を寄せ合うしかない。しかも俺たちはみんなバスタオル1枚の状態で、大切な部分は隠れているもののこれだけ密着すればお互いの体温や身体付きを自分の身体で感じることができる。左右から愛とせつ菜に抱き着かれるように密着されている状態だが、この状況は流石に性欲コントロールできるようになった俺でも耐えきれる自信がなかった。

 

 

「ひゃぅっ!? れ、零さんあまり動かないでください。そ、その……零さんの腕が私の胸に……」

「悪かったからあまりデカい声出すな……!! 気付かれるだろ……!!」

「そんなことを言われましても、零さんとこうしてタオル1枚で抱き着いているというだけでも私は……私は今にも……」

「顔真っ赤じゃねぇか興奮してんのか?? ちょっとは抑えろ……!!」

 

 

 せつ菜はもう興奮が爆発寸前のようで、欲望の糸がはち切れようとしていた。想いの人に抱き着くってだけでも相当胸を焦がす行為なのだが、増してタオル1枚でほぼ裸同然で密着しているため興奮が止まないのも無理はない。だがここで見つかってしまうと俺が女の子2人を個室に連れ込んでいるヤベー奴としか思われないし、そこからどんな処遇が待っているかも想像できない。だからここは何としても耐え抜いて欲しい。

 

 とは言いつつも、俺自身もずっと我慢できるかと言われたらそれは怪しい。今日初めて気付いたのだが――――――せつ菜って意外と胸大きいんだなって。小柄なのにここまで大きいのはAqoursの花丸と似たような体型なのだが、肉付きが良くて柔らかい身体をしている花丸とは違ってせつ菜はスレンダーなので余計に胸の大きさが目立つ。ロリ巨乳という類ではないが、背が低い子+巨乳はそれだけで唆られる。その胸がタオル1枚を隔てて俺の腕に押し付けられているこの状況、男として情欲が湧きたたないわけがないだろう。

 

 1人用の個室に3人が入っているすし詰め状態のため、少し身体を動かすだけでも相手の身体の感触が分かる。だからこそ敏感な部分に触れてしまい声を上げる可能性も高い。多少騒いでいてもシャワーや換気の音である程度はかき消されるのは幸いだが、その安寧もいつまで続くか分からない。俺たちからここを出る選択肢はないのでバスケ部の連中が全員出て行くのを待つしかないか……。

 

 

「あっ、ん……!! ちょっと零さん動き過ぎ……!!」

「お前らがもぞもぞ動くからだろ……!! そんな程よく成熟した身体を押し付けられて冷静でいられるかって」

「何考えてるのこんな状況で!? 相変わらずエッチなんだから……!!」

「男だから仕方ねぇだろ……!! ていうかもう少し声を抑えろ……!!」

「零さんに触られて我慢しろって方が無理だから……!!」

「えっ、零さん愛さんを触ったのですか……!?」

「自然と触れただけだ……!!」

 

 

 せつ菜のスタイルも良いが、愛のスタイルは高校生離れし過ぎだ。このウエストの細さでこのバストサイズは反則級で、バスタオル1枚ではもはや隠し切れないアダルティックな身体は俺の性的欲求を煮え上がらせる。ぶっちゃけ今すぐにでも抱きしめたい。抱きしめてその身体の隅々まで感じたい欲求に駆られる。コイツの身体を一言で言えば、そう、エロ過ぎる。下品な言葉だけどこの言葉が一番似合うのが宮下愛だ。

 

 

「あれぇ~? その声、もしかして愛? そこにいるの?」

 

 

 ヤバい、気付かれた!? 確かに個室のドアが1つだけ閉まっていれば誰かがいるなんてすぐに分かるし、さっき俺が愛に触れた時にコイツがそれなりの声を上げたので気付かれるのも無理はない。僥倖なことに3人が入っているとは思われていないので、ここは怪しまれないためにも俺は愛に目配せをして外の連中に応答するように伝えた。

 

 

「そ、そうだよ愛さんだよ!!」

「なにその挨拶……。いるならいるって言ってくれたらいいのに」

「あはは、ゴメンゴメン! 考え事をしてた――――ひゃぁああああっ!?」

「えっ、どうしたの急に??」

「な、何でもない何でもない……アハハ」

 

 

「零さんどうしてシャワーを……!? いきなりお湯がかかったからビックリしたじゃん……!!」

「シャワールームにいるのにシャワーの音が聞こえてないと不自然だろ」

「それはそうだけど……」

「3人で同じシャワーを浴びるって、なんだか変な感じがしますね……」

 

 

 何とかバスケ部の連中を誤魔化すことはできたが、シャワーを流したのは諸刃の剣だ。シャワー音が聞こえないと不思議に思われるけど、密着し合っているこの体勢でシャワーを流すのは背徳感が増す。具体的に言えば、俺から見たら水も滴るいい女2人が目の前に、コイツらから見たらいい男がいるわけだ。ただでさえタオル1枚の密着で興奮状態になっているのにも関わらず、こんな濡れ場のような状況になれば余計な雑念と色欲に苛まれる。これは我慢できずにコイツらを襲っても仕方ないで済むだろ……。

 

 水に濡れた女の子ってのは艶やかで、男の汚い本能が疼いてしまう。男女の身長差から俺がコイツらを見る時は必然的に見降ろす形になるのだが、バスタオル1枚で巻かれた身体が水に濡れている様は何とも絵になりつつも、度し難い性的興奮を煽られる。見降ろしているせいで胸の谷間も丸見えで、シャワーのお湯が谷間に滴り落ちる様子は見ているだけでも背徳的だ。今すぐにでもその谷間に手を突っ込みたくなる。愛もせつ菜もいい胸をしているため直接触れたらさぞ気持ちいいことだろう。

 

 俺たちの興奮レベルがみるみる上がっている中、またバスケ部の子たちの声が聞こえてきた。

 

 

「そういえば今日学校に超イケメンの男の人が来てたって噂知ってる?」

「あぁその話ね! 実は友達がその人を見かけた時に写真を撮ってて、さっき写真を見せてもらったんだけど想像以上にカッコよくて震えちゃったよ♪」

「えっ、後で私にも見せてよ! 聞くところによると元生徒会長の中川さんが逢引してたって……」

「もしかして付き合ってたりするのかな? 堅物そうなのに結構やることはやってるんだねぇ~」

「あ~あ、私もあんなイケメンと付き合いたいなぁ~」

 

 

「ダメです!!」

 

 

「「えっ?」」

 

 

「おいっ……!!」

 

 

 せつ菜の奴、気でも狂ったか!? せっかくここまで俺たちの存在を隠しきれていたのに、いきなりアイツらの会話に割り込むなんて正気の沙汰とは思えないぞ……!!

 せつ菜の謎行動に焦る俺と愛だが、当の本人は俺の腕をより一層強く抱きしめてこちらに身体を寄せてくる。何を考えているのかはさっぱりだが、まずはこのピンチを切り抜けなければ。愛に目配せをしてみるが流石に声色が違うので声では誤魔化しきれないと言いたげな様子だ。どうする……!?

 

 

「す、すみません!! スクールアイドル部の優木せつ菜です。あ、愛さんが頭からシャワーを浴びせてきたので思わず驚いてしまいまして……。大きな声を出して申し訳ございません」

「そ、そうなんだよ! ゴメンねせっつー!」

 

「えぇっと、せつ菜ちゃんがいるのはいいんだけど、2人で1つのシャワーを使ってるの……?」

「えっ、あ、うん、愛さんたち仲がいいから。ねぇせっつー♪」

「は、はいっ! スクールアイドル部の絆は誰にも負けません!」

 

 

 まさか個室に2人で入っていることを堂々と暴露するとは大胆だなコイツら……。でもあれこれ対応策を考えるよりかは愛とせつ菜が同室にいるって事実を他の奴らに植え付けておいた方が今後怪しまれることもなくなる。その点ではいい作戦だったのかもしれない。あとはスクールアイドル部の部員同士がレズビアンだと思われなければいいんだけど……。

 

 とにかくバスケ部の子たちは納得したようで、それ以上の追及はなかった。もしかして女子高では2人で同じシャワーを浴びるなんて日常茶飯事だったりするのか? アニメや漫画だと女子高の生徒の百合百合しさはよくある設定だが、この学校はお嬢様学校って感じでもないので大丈夫……だと思いたい。

 

 

「おいせつ菜、どうして急に叫んだんだよ? 心臓止まるかと思ったぞ……」

「すみません……。でも零さんを取られてしまいそうだったので思わず……」

「そうか、意外と可愛いところあるんだなお前」

「か、かわっ!?」

「だから大声出すな」

「す、すみません……」

 

 

 なんとも分かりやすい嫉妬だが、大好きなモノに一途な性格のコイツだからこそ他の奴らに安々と俺を取られたくなかったのだろう。元生徒会長でしっかりしてそうで意外と子供っぽい言動もあるんだよなコイツ。それがせつ菜の可愛いところなんだけどさ。

 

 

「安心しろ、俺はお前ら一筋だ。俺のことをただカッコいいからだとか、外見で近寄ってくる奴を相手にはしない。俺が本気になるのは俺を本気で好きになってくれた奴らだけだ」

「そ、そうですよね! 私、零さんのこと本気で大好きですから!」

「あ、あぁ、ありがとな」

「せっつーだけズルい! 愛さんも好き♪」

「お前まで――――って、どうして抱き着く……!?」

「えへへ、せっかくこういう状況なんだからもうとことん楽しんじゃおうと思って!」

「正気かよ……」

 

 

 せつ菜だけではなく愛も俺の腕に絡みついてきた。個室に飛び込んだ直後は恥ずかしがっていたのに急に積極的になりやがってからに。虹ヶ咲の面々は元からアプローチが強い傾向にあったが、まさか俺がまともに抵抗できないこの体勢で仕掛けてくるとは……。

 

 2人は俺の腕を自分の胸で挟み込むようにして密着してきた。そのせいか身体に巻き付けてあるバスタオルがズレて今にも剥がれそうで、古語で言う『ポロリ』現象が起きようとしている。コイツらはもはや自分が今どんな姿を晒しているのか気にしていない。ただただ俺という存在に寄り添って自分の欲求を最大限に高めているだけだ。

 

 未だに俺たちのいる個室のシャワーはお湯を噴射し続けている。ドアを隔てた向こうにバスケ部の連中がいるため騒ぎ立てたらダメだってことは分かってるけど、水も滴るいい身体をした女の子たちがタオル1枚で俺に好意を伝えて抱き着いて来るこの構図。そうだ、これに興奮しない奴はいない。複数の女の子から求められているこの状況にゾクゾクするほどの愉悦を感じるぞ。騒いではいけないという制約がなければ自分から理性を断ち切ってしまうところだ。

 

 

「愛? まだシャワー浴びてるの?」

「あっ、う、うん。中々汗の粘り気を洗い流せなくってさぁ~。しっかり洗わないと肌へのダメージとか半端ないし……」

「相変わらずそういったケアもマメだねぇ~。私たちは先に上がるから、またバスケのヘルプお願いね!」

「もちっ! じゃあまた!」

 

 

 よしっ、何とか切り抜けた。バスケ部の子たちは次々とこのシャワー室を出て行く。あとは脱衣所からいなくなるタイミングを愛とせつ菜に窺わせて、誰もいなくなったタイミングで俺が脱出するだけだ。 

 

 

「ふぅ、どうやら零さんがいることだけはバレずに済んだみたいですね」

「ヒヤヒヤしたけど、愛さんは何だかんだ楽しかったよ。それにいっぱいドキドキさせてもらっちゃったしね!」

「俺はお前らが大きな声を出すたびにドキドキしたぞ……。しかも思いっきり抱き着いてきやがって。あそこで俺が暴走したらどうするつもりだったんだよ……」

「その時はその時で、愛さんは零さんになら別にいいかなぁ~って……」

「そうですね。零さんがお相手であればむしろ大歓迎と言いますか……」

 

 

 愛もせつ菜も俺に襲われることに対してやぶさかでないようだが、言っている本人たちも恥ずかしいのか頬を紅潮させて女々しく俯いている。未だシャワーでの熱気が冷め上がらぬ中、お互いに濡れた身体、タオル1枚で佇む男女がいる状況。男としてこの後に取るべき行動は1つしかないのではなかろうか。据え膳食わぬは男の恥と言った言葉があるが、まさに今それを実行すべき完璧なシチュエーションが整っている。

 

 常識とか倫理観とか全てを投げ捨ててでも男を見せる、それが俺にとって最善の――――――

 

 

 そう決心し、俺は一歩踏み出す。2人は身体をビクッとさせるが逃げるようなことはせず、ただ女の顔をしながら俺を待っている。手を伸ばせば2人のバスタオルを引き剥がせる。そしてその勢いで押し倒すこともできる。ここまで来たらもうやるしか――――

 

 

 

 

「いや~零れたジュースに足を滑らせて転んじゃうとか、かすみんなんてドジっ子! でもそんなお茶目なところが可愛かったり――――えっ??」

 

 

 

 

「「えっ!?」」

「か、かすみ……!?」

 

 

 突然シャワールームのドアが開き、かすみがバスタオル1枚で乱入してきた。思わぬ来客に俺たちはもちろん、何故か女子高のシャワールームにいる俺の存在を見てかすみはあんぐりを口を開けて驚く。しかも俺が手を伸ばして今にも愛とせつ菜に触れようとしている、まさにその光景を目撃したものだからなおさら衝撃的だろう。

 

 そしてかすみはまさか俺がいるとは思っていなかっただろうから、バスタオルで身体をそこまで隠してはいなかった。そして驚いた衝撃でそのタオルが手から滑り落ち――――

 

 

「あ゛っ……あ゛っ……!!」

「かすかす!? 立ったまま気絶してる――――って、バスタオルずり落ちちゃう!!」

「早くタオルを抑えないと見えちゃいますよ!! 零さん、ここはかすみさんの名誉のために何卒見ないでいただけると!! とりあえず私たちで何とか……!!」

「おーいかすかす戻ってこーい!! ダメだ、かすかすって言葉にすら反応しない! いつもだったら全力でツッコミを入れてくるのに!?」

「あは、あはは、あははははは、あはははははははははははは!!」

「かすみさん!? かすみさーーーーーん!!」

 

 

 結局かすみの乱入により俺たちの興奮は冷めた。女子高での不祥事を回避できて助かったと言うべきなのか、それとも惜しかったと思うべきなのか……。どちらにせよあまりにも完璧なタイミングで入って来たお前が優勝だよかすみ。ネタ的な意味でも……。

 

 ちなみにこの後かすみには身体を見た責任として1週間毎日デートという拷問を計画されそうになった。そもそもコイツの身体、見えそうで見えていなかったんだけどな……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 そもそも女子高のシャワールームに入るって発想自体が度胸の塊なので、やはり零君はこの小説の主人公です(笑) 所々自分の性欲に従順になっていますが、鼻血を出していた小説序盤と比べると成長はしている……のかな?


 そして今回をもって歩夢と侑が皆勤賞じゃなくなりました。特に歩夢がオチを担当することが多かったので、その点ではいつもの光景が見られなくて残念かも……?




 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全員集合!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会!

 ようやく同好会メンバー全員が集合! ハーレムはいいぞ!


「全く、かすみんのカラダを見られるなんて特別中の特別なんですから感謝してくださいね!」

「そうは言っても女の子のカラダなんて見慣れてるからなぁ。あまり特別感がないっつうか。それにお前のカラダを見たところで……うん」

「なんですかその悟ったような顔は!? ふ~んだ! どうせかすみんのカラダはちんちくりんの幼児体型ですよぉ~だ!」

「そんなことないよかすかす! だって抱き着きやすい程よい身体で愛でやすいもん!」

「玩具扱い!? ていうかかすかすって呼ばないでください!!」

 

 

 シャワールームでの乱戦後、俺たちは同好会の部室に向かいながら不機嫌なかすみの愚痴を聞いていた。聞いてやってるとは言っても彼女のご機嫌取りをする気はさらさらない。コイツに対しては煽りに煽ってムキにさせた方が可愛さが光ると分かっているからだ。それは俺だけでなく愛も理解しているようだった。

 

 

「そもそも同好会の皆さんのスタイルが良すぎるんですよ! かすみんは歳相応だと思います!」

「それは確かにあるかもな。まぁどんなスタイルにせよ、お前らは俺にさえ需要があればそれでいいんだよ。どうせ俺以外に裸を見せることなんてないんだからな」

「そ、それはそうですけどぉ……。でも零さんはかすみんのカラダ、貧相だと思ってるんですよね……?」

「思ってるけど別に胸が大きいとか小さいとか、そんなことは気にしてねぇよ。そのカラダが『中須かすみ』のものであればどんなスタイルだろうが興奮する自信がある。俺が見たいのは肉体そのものじゃなくて『お前の』カラダなんだから」

「も、もう、何の恥ずかし気もなくそんなことを……」

 

 

 かすみは頬を染めてそっぽを向く。さっきまで大声で反攻してきたのに今は声も小さく別人のようだ。

 ちなみに俺の言ったことは嘘偽りは一切ない。俺が好きなのは女の子のカラダという単純なモノではなく、自分が好きになった奴のカラダなんだ。だからスタイル云々は関係ない。良くあることだと思うが、自分が好意を抱いている女の子であれば容姿やカラダだけではなく、何気ない仕草や声まで魅力的に感じる。俺が好きなのはあくまでそれを全てひっくるめた女の子そのものってことだよ。

 

 

「零さんって愛さんたちのこと良く見てるよね。μ'sとかAqoursとか、あんなに可愛い人たちがたくさんいるのに」

「そりゃお前らだってアイツらに負けず劣らず可愛いからに決まってるだろ。自分の大好きなものには全力を注ぐ、せつ菜と同じだな」

「その精神は幼い頃に零さんから教えていただきましたから! お互いがお互いに好きをぶつけ合ってより好きになっていく。なんてハートフルなのでしょう!」

「せつ菜先輩の情熱は結構暴走する時がありますけどね……。間近で声をかけても気付かないこと結構多いですし……」

「う゛っ、それは熱中すると目の前しか見えない私の性格と言いますか……。とにかく反省です……」

「愛さんは好きなことをマシンガントークで話すせっつーのこと好きだよ♪ 誰かが輝いているのを見るのは愛さん大好きだしね」

 

 

 自分の好きなことに真剣になるのは何も悪いことじゃないだろう。誰かの目を気にして好きなことをやめてしまうよりかは、もはや他人からどう思われようが自分の大好きを貫いた方が人生が豊かになると思っている。だから俺も自分の好きな女の子のために全力になっているわけだ。

 

 そんな会話をしつつ、とうとう同好会の部室の前に到着した。忘れてたけど俺の歓迎会を予定しているみたいで、その会場はこの部室らしい。歩夢たちに学校案内をされて最後に案内されるのがコイツらの部室ってのもおかしな話だよ。普通は最初に紹介されるようなところだけど、これまでに色々あってもう夜も近いからな……。学校案内で1日潰せるくらい話題に事欠かないコイツらとの日常、これからも飽きることはないだろう。

 

 

 かすみが部室のドアを開ける。部室の光が漏れ出し、俺の目が慣れたその瞬間――――――

 

 

 

「「「「「「「「ようこそ! スクールアイドル同好会へ!」」」」」」」」

 

 

 

 同好会メンバーの歓迎の声と同時にクラッカーが鳴らされた。クラッカーから飛び出た花吹雪やリボンが俺の頭にかかる。

 色々と思うところはあるのだが、まず感じたことは――――――

 

 

「クラッカーって、別にお祝いじゃねぇんだから……」

「いやいや! 私たちにとってはずっと待ち焦がれていたことですから!」

 

 

 歩夢の言葉にみんなが頷く。確かにコイツらとの過去を思い出せば同好会のみんながどれだけ俺を心待ちにしていたのか分かる。そういった意味で自分たちが今輝いている場所の拠点に俺を招くのは願ってもないことなのだろう。

 

 

「ていうかちょっと待って! 愛さんたちもクラッカー鳴らしたかったんだけど!?」

「そうですよ!! かすみんたちが来るまで待っていてくださいよぉ!!」

「私たちも零さんをお出迎えしたかったのに……」

「ゴ、ゴメンね……。零さんが部室に入って来た時に鳴らしたくて……」

「だったら今鳴らしちゃおう! ようこそスクールアイドル同好会へ!! はいパーン!!」

「うぉっ!? 至近距離で鳴らすな!?」

「かすみんだって!!」

「私も失礼します!!」

「だからもっと離れて鳴らせ!!」

 

 

 シャワールーム混浴組に荒っぽい歓迎をされながらも、歩夢たちに部室の中へと案内される。

 部室にしてはやけに広いと思うのは音ノ木坂や浦の星の部室がやたら狭かったからだろうか。部室内の飾り付けのおかげでより豪華に見える。高性能っぽいパソコンがあったり中々にくつろげそうなソファがあったりと、やはり金のある学校は部活への投資も半端ない。そして中央の大きな机にはみんなが作っただろう料理がたくさん並べられていた。俺の歓迎会をするってなったのは突発的なことだったのに、その短時間で飾り付けをして料理も作るなんて熱の込め方が凄まじい。

 

 そうやって感心をしていると、俺のもとに1人歩み寄る。

 立ち姿や歩く姿だけでも気品があり、1年生にして生徒会長の任を受け持つ誠実さ。そして同好会メンバーの中で今日俺が唯一会っていないコイツは――――

 

 

「よぉ栞子、元気だったか?」 

「はい。零さんもお変わりなくお過ごしのことと存じます。この度は本校に足を運んでいただいたのにも関わらず、案内どころかお出迎えすることもできず申し訳ございません」

「いや別に謝ることじゃねぇって。生徒会で忙しかったって聞いてたから仕方のないことだ」

「しかし……」

「自分の職務を途中で放り投げる子に育てた覚えはないぞ。それにこうして歓迎会に参加してくれただけでも嬉しいから」

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 栞子はペコペコと頭を下げて謝ってくるのでその頭を撫でてやると、頬を染めて微笑みながら顔を上げた。生徒会で忙しい中で時間を合わせてくれたんだから、むしろ感謝すべきは俺の方なんだけどな。コイツも堅物だから客人をもてなさないのは生徒会長としての責任とか思っているのだろう。相変わらず堅物な奴だ。

 

 そんな中、俺たちのやり取りを見ていた侑が口を挟む。

 

 

「お兄さん、いつの間に栞子ちゃんとも仲良くなってたんですか……。栞子ちゃんの性格的にお兄さんとの相性って良くはないと思ったので……」

「確かに最初は零さんことを警戒していました。歩夢さんたちが男性に現を抜かして練習に身が入らないことを危惧し、一度零さんにお会いして歩夢さんたちとの関係を問い詰めようとしたのです。しかし、私の考えが間違いでした。逆にこの方に教えていただいたのです」

「な、なにを……?」

「そ、それは言えません……」

「どうして顔を赤くしてるの!? 目線も合わせてくれないし!! お兄さん栞子ちゃんに何をしたんですか!?」

「コイツは遊び心ってやつを知らなかったからな、それを教え込んだだけだよ」

「ちなみに聞きますけど、どういう風に……?」

「それは言えない」

「ちょっ、不純異性交遊じゃないですよね!?」

 

 

 いつも通りツッコミがうるせぇなコイツは。もしかしてコイツも『遊び』ってやつを知らないのか? 俺の周りにいるのであればもっと心の余裕を持たないと一生ツッコミを入れ続けることになって息絶えてしまうぞ。俺の周りにいるってことはそこはもう俺が常識の世界なんだから適応してもらわないとな。

 

 そうやってまたしても侑の好感度を下げている中、場を宥めるためにしずくが割って入った。

 

 

「まぁまぁ、今日はパーティーなのでそれくらいにしておきましょう。零さん、こちらへどうぞ」

「いやこんな目立つ席に座らせなくても……」

「今回の主役は零さんなんですから当然です! 私たちはこの時をずっと心待ちにしていたんですから!」

「そりゃお待たせしましたと言わざるを得ない。つうかお前ナチュラルに手を握ってきたな」

「ひゃっ!? い、言わないでください!! これでも一大決心をしての行動ですから!!」

「恥ずかしいならやめりゃいいのに……」

「これも零さんのせいです。演劇部の練習の時に零さんに抱っこされてからというもの、ずっと零さんに触れていたくなって仕方ないんですから……。責任、取っていただけますよね?」

「なんでそうなる!?」

 

 

 しずくは俺の手を引いてお誕生日席に俺を導いたが。俺が座った後もずっと手を握ったままだった。その理由がさっき演劇部の練習の時に俺が抱き着いたかららしい。その余熱が残っていたと言うことか。別に手を握るくらいはいいんだけど、抱っこされたというフレーズに周りのみんなが一斉にこっちを振り向いたので非常に嫌な予感がする。

 

 そして案の定と言うべきか璃奈が俺に詰め寄ってきた。

 

 

「しずくちゃんだけズルい。ここは平等に私にもやるべき」

「あれは演劇の練習でやっただけで本気でやってたわけじゃないぞ?」

「零さんに抱き着いてもらえるのなら何でも同じ。どうしてもやってくれないって言うのなら――――えいっ!」

「うおっ!? り、璃奈!?」

 

 

 璃奈が正面から飛びついてきたと思ったら、こちらに背を向け脚と脚の間に座りやがった。俺とコイツの対格差のせいか、俺の身体に璃奈がすっぽりと収まる形となる。そうなれば必然的にコイツを抱きしめながら座る体勢になるわけで……。1つの椅子に女の子と一緒に座るこの行為、なんか久しぶりな気がする。

 

 

「これで満足。璃奈ちゃんボード、『えっへん』」

「りな子ズルい!! かすみんもかすみんも!!」

「彼方ちゃんも零さんベッドで寝たいなぁ~」

「私もお願いしたらやってくれるかしら……」

「やりたいと思った時から始まっているんだよ、果林ちゃん!」

「それ、エマも同じでしょ? さっきから零さんを見つめてウズウズしてるわよ?」

「そ、それは……。私はいつもみんなを抱きしめる側だけど、零さんには抱きしめてもらいたいなぁ~って……」

 

 

 各々心中を吐露しているが、璃奈は俺から離れる気が一切ないらしい。俺の身体を背もたれにしてちょこんと座っている。コイツは同好会の中では一番小柄だから一緒に座ること自体は邪魔にはならないが、こうも密着されていると身動きが取れない。本人は嬉しそうに擦り寄ってくるものだから跳ね除けるのは心苦しいし、どうすんだよこれ……。

 

 

「一緒に座るの別にいいけど、このままだと飯すら食えねぇな……」

「だったら彼方ちゃんが食べさせてあげるよ~。はい、あ~ん」

「これってピザ? わざわざこのために注文したのか?」

「うぅん、彼方ちゃんが作ったんだよ~。零さんの歓迎会だから張り切っちゃった~」

「見た目に反して料理できたんだな。いや家事ができるってのは知ってたけど、いつもぐぅたらしてるからそうは見えないっつうか……」

「むぅ、そんなことを言うなら彼方ちゃんの実力を見せつけてやるぅ~。えいっ」

「むぐっ――――――ふ、普通に美味い」

「愛情をたっぷり込めたからねぇ~♪」

 

 

 彼方直々に手作りピザを食べさせてもらったが、専門店に負けず劣らずの美味さだった。いやコイツが込めた愛情の分だけどの店のピザよりも出来栄えが上回っていると言ってもいい。

 でもまさか彼方がここまで料理上手だっただなんて。バイトもしてるからやる時はきびきびと動ける奴だとは知ってたけど、俺の超えた舌を唸らせるほどとは恐れ入った。自慢ではないが俺は周りに女の子がたくさんいる環境で生きているから、女の子の手料理をいただく機会は非常に多い。だからちょっとやそっとの飯ではグルメとなった俺の舌と胃袋を満足させることはできないと高を括っていたのだが、やはり愛情のスパイスの力は凄まじいよ。

 

 

「あ、あの、零さん……」

「果林? どうしたそんなにしおらしくして」

「もう果林ちゃんってば、せっかく作ったんだから後は零さんに渡すだけだよ!」

「エ、エマ!? そんなに押さないで……」

 

 

 果林がエマに押されて俺の元へとやってきた。手には綺麗なトッピングが施されたカップケーキを持っている。

 

 

「もしかして、それはお前が作ったのか?」

「え、えぇ。エマに教えてもらって作ったんだけど、召し上がってくれるかしら……?」

「なんでそんなに緊張してんだよ。いつもの堂々とした姿はどうした?」

「不安なのよ。上手くできているかどうか……」

「零さんの歓迎会のために果林ちゃん張り切っちゃって、そのせいで力が入り過ぎてカップケーキを何回も焦がしちゃったんですよ♪」

「ちょっとエマそれは言わない約束だって!?」

「果林ちゃんの健気な頑張りをどうしても伝えたくて♪」

「も、もう……」

 

 

 みんなの前では思う存分にお姉さんキャラを発揮している果林だが、エマの前だけではドジっ子キャラが炸裂するようだ。俺に壁ドンされた時も純情な反応ばかり見せて余裕ってものがゼロだったし、見た目に反して中身は子供っぽいんだよな。その点は見た目が遊んでそうなギャルなのに文武両道の優等生である愛と正反対だ。こういったイロモノ揃いの女の子が集まるからこそスクールアイドルと交流を持つのをやめられないんだよな。

 

 果林はいつまで経ってもカップケーキを渡さないので、エマとじゃれている隙を突いてケーキを奪い一口味見をしてみた。

 

 

「れ、零さん!?」

「うん、美味いよ。他所に出しても誇れるレベルだと思うぞ」

「て、手作りなんてあなたにしか作らないわよ……」

「そうだな。これだけ美味いなら他の奴らに食わすのは勿体ない。俺だけのために料理を作ってくれ」

「な゛ッ!? あ、あなたって人はそんなことを平気で……」

 

 

 そりゃ好きな女を独占するってことは、ソイツが手料理に込める愛情すらも独占できるってことだ。それってとても支配欲が満たされるとは思わないか? 自分のために腕によりをかけて、自分ことだけを想って料理を作ってくれる。そんな最高な愛情表現が他にあるだろうか? いや、ない。

 

 

「零さん、次は私の焼いたクッキーをどうぞ!」

「エマも作ってくれたのか。昼に引き続いてサンキューな」

「いえいえ! むしろ零さんの頼みがあればいつでもどこでも作りますので遠慮なく言ってください!」

「じゃあそうだな……毎日味噌汁を作ってくれるか?」

「ふぇっ!? 日本伝統のその言葉、確か意味は――――あっ、えぇぇえええええええええええっ!? こ、ここで告白!?」

「いやそこまで驚かなくても……」

「遂に私が嫁ぐ時が……い、今すぐスイスの家族に報告してきます!!」

「気がはえぇよ!! 軽率な発言をしたことは悪かったから落ち着け、な?」

 

 

 エマは目を回して気絶しそうになりながらも、スマホを取り出して家族に連絡を取ろうとする。

 俺が安直に女心をくすぐる発言をするのはいつものことだけど、まさかここまで信用されるとは思ってもいなかった。確かにエマって人を疑うってことを知らなさそうだし、増して好きな相手に告白紛いな発言を突然されたら(しかもみんながいる前で)気も狂うだろう。俺がいつも相手にしているのが恋人たちだから軽率な発言をしても受け止めてもらえるけど、エマや同好会の奴らからしたらまだ俺の想いが大きすぎて持ちきれないらしい。気を付けなきゃいけないと思いつつも、ウブな反応が見られるのならそれもアリと思ってしまうな。

 

 

「お兄さんのためだけにみんなが短時間で歓迎会の準備をして、そしてしっかり開催まで漕ぎ着けるなんて……。お兄さんの人望の厚さが窺い知れますね」

「あぁ、最高だよコイツらも、お前もな」

「えっ? どうして私まで……?」

「だって少なからず歓迎会の準備を手伝ってくれたんだろ? 魔法少女のコスプレまでしてパーティ用の飾り付けまでゲットしようとしてくれたしな。お前からしたら今日まで全く知らなかった男の歓迎会をするってノリ気じゃなかったんじゃないのか?」

「今日1日だけでお兄さんの人柄を知れたので、別にイヤとは思わなかったですけど」

「俺の人柄に惚れるなんてお前も案外チョロいな」

「どうしてそうなるんですか!? 自意識過剰で傲慢、唯我独尊で変態、そんな人のどこに惚れる要素が!? 見ず知らずの私に容赦なく痴漢してきたくせに!?」

「ムキになるな、顔真っ赤だぞ? それに俺はお前のこと気に入ったぞ。俺と似たような欲深い夢を持ってるからそれだけでも親近感が湧く。それにこんな可愛い子に出会えたんだから、今日は来て良かったよ」

「うぅ……あ、歩夢あとはお願い!!」

「えっ!? ちょっと侑ちゃん!?」

 

 

 侑は顔を赤くしたまま歩夢を俺の前に突き出し、当の本人は部室の奥に引っ込んでしまった。2人きりの時にそこそこ腹を割って話をしたつもりだが、やはりまだ出会って初日だから心の距離はそこまで縮まっていないらしい。逆に痴漢の被害者加害者同士でここまで会話ができる方が凄いかもしれない。俺の人柄で惹かれた云々はともかく、侑自身の素直な気持ちをいつか聞いてみたいもんだ。

 

 

「零さん、あまり侑ちゃんをイジメないでくださいね」

「そんなつもりはないんだけど、表情がコロコロ変わって面白いからついつい弄りたくなるんだ。小学生が好きな女の子に対して無自覚に意地悪するのと同じだよ」

「えっ、ということは侑ちゃんのこと好きなんですか!?」

「恋愛的な意味ではまだだな、そもそも出会ったばかりだし。でもアイツいい夢を持ってるから気に入ってはいるよ」

「あの時、零さんと侑ちゃんはその話をしていたんですね……」

「なんだ嫉妬か? 安心しろ、俺はお前らの誰1人として後ろを歩かせるつもりはない。みんなで手を取り合って共に人生を歩むのが俺の夢だ。そのためにお前らのことをもっと良く知りたいと思ったから、今日の学校案内はいい機会だったよ。誘ってくれてありがとな」

「い、いえ! 零さんのお役に立てたのなら光栄です!」

 

 

 今はこうやって親し気に会話してるけど、意外にも出会ったのは2か月くらい前とそれなりに直近だったりする。だがその時は過去の諸々の事情によりお互い距離を測りかねていたが、スクフェスの一件でそれも全て解決した。つまり本当に心を通わせることができるようになったのは最近のことであり、だからこそこうやって歩夢たちの学校に来てコイツらの日常に触れることが新鮮なんだ。そしてそのおかげで今まで見たことがなかったコイツらの一面を知ることができた。それだけでも今回は収穫だよ。

 

 こう見えて俺も割と一途だから、コイツらが楽しく日常を過ごしているところを垣間見るだけでも嬉しくなってくる。そんな気持ちを抱いて心が暖まって来たせいか、衝動的に一緒に座っている璃奈の頭を強めに撫でてしまう。すると璃奈は何事と言わんばかりの顔でこちらを振り向いた。しかし俺の手が気持ち良かったのかすぐに身を寄せてくる。うん、このペット家で飼っていいかな??

 

 

 そんなことをしていると、せつ菜がみんなの前に自信あり気に立った。両手には鍋を持っているようだ。

 

 

「なんだ、お前も料理作ってくれたのか?」

「はいっ! いつか零さんに召し上がってもらおうと思い秘蔵のレシピを作成していたのですが、今回こそその機会だと思い腕によりをかけました! 実は皆さんにもサプライズをしようと思って内緒で作っていたのです!」

「やけに自信満々だな。そこまで言うのならグルメ舌の俺が味見を……って、どうした璃奈? さっきから震えてるぞ……」

「零さん、ご武運を」

「お、おい! なんなんだ一体……」

 

 

 璃奈の奴さっきまで俺の膝の上で猫のように丸くなって擦り寄ってきてたのに、せつ菜が鍋を持ってきた瞬間に逃げ出してしまった。見てみれば他のみんなも顔を引きつらせて徐々に俺とせつ菜から距離を取っている。それほどまでにコイツのサプライズが危険なのか? もう今から怖いんだけど……。

 

 

「こちらが私の作った特性味噌煮込み鍋です! どうぞ心行くまで味わってください!」

「うっ……こ、こういうことか……」

 

 

 せつ菜が鍋の蓋を開けた瞬間に事の全容が判明した。この鍋の中――――異様なまでに紫!! もう清々しいくらいに紫!! 味噌なのに紫!! 幸いにも匂いに臭みがないものの見た目で全てがアウトだ。なるほど、コイツはアニメや漫画で良くいるような料理下手キャラ、しかも無自覚にやらかしてしまう系の一番厄介なキャラだ。だから璃奈は逃げ出してみんなも露骨に避けてたのか。つうかせつ菜のこのキャラを知ってたのなら最初から教えろ!!

 

 

「私も皆さんのように零さんにあ~んをしてあげたいです! いいですか?」

「い、いや……」

「ダ、ダメ……ですか?」

「ぐっ、そんな目で見るなって……!! あぁもう分かった! 食ってやるから!」

「ありがとうございます! 手料理を零さんに召し上がっていただくこの感覚を、私も体験してみたかったのです!」

「そ、そうか……」

 

 

 さっき俺は愛情は最高のスパイスだと言った。それが正しければ如何にドギツイ料理だろうとも食えるはずだ。せつ菜が俺のために愛を込めて作ってくれたこの料理。見た目はアレだが味はいいみたいな奇跡が起こるかもしれない。いや、俺は奇跡を呼び起こす男だ。起こすのではなく呼び起こす。今まで幾多の女の子を俺好みに懐柔してきたんだから、その応用でどんな料理でも俺の口に合わせてみせよう。そんな覚悟を持たなくても意外と普通に美味かったりして本末転倒みたいな展開も極僅かに存在するかもしれないしな。

 

 

「行きます。はい、あ~ん」

「あ~~ッ―――――――ッッッ!?!?」

 

 

 その瞬間目の前が真っ暗になった。

 

 

「気絶しそうなくらいに喜んでくださるとは! まさか私を喜ばせるためにオーバーリアクションを……? 流石零さんです!!」

 

 

 

「彼方先輩、この前みたいにあの料理に手を加えなかったんですか……?」

「サプライズで作ってたみたいだから知らなかったんだよねぇ~。とりあえず、南無阿弥陀仏……」

 

 

 死んでねぇ!! けど今にも昇天しそう!!

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 このラブライブ小説全般でそうなのですが、全員集合回は1人1人の出番が少なくなってしまうのがちょっと残念なところです。それでもいつも以上にハーレムを描けるので私は好きですけどね(笑)
私は安直でゴリゴリのテンプレハーレムが大好きなので、今回のようにたくさんの女の子が主人公をおもてなしをしてくれる展開が自分で描いておきながらお気に入りです! この小説を読みに来てくださっている方はハーレム好きだと思うので、この気持ちが分かってもらえる……かな?


 次回ですが、今年中にもう1話投稿しようと思っています。アニメは終わっちゃいましたがこの小説はまだまだ続ける予定ですよ!




 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

酔いどれパニック!狂乱の少女たち!

 よくある定番ネタ。年末なのでド派手に騒がしいお話を。
 女の子に群がられて羨ましいと思うのか、それとも酔っ払いに絡まれて心配と思うのか……


「ふぅ、危うく死ぬところだった……」

 

 

 トイレで腹に溜まった不純物を流したことでようやく現実に帰ってくる。せつ菜の作った料理もどきを口にした瞬間、魂が昇天してこの世の存在から卒業するところだった。それでもせつ菜の笑顔を守るために何とか鍋の中身を1人で全て食い切り、命からがら這いながらトイレに駆け込んだ。女子高が故に男子トイレが少ないのがまた俺にとって試練であり、部室からトイレが遠いせいでその途中何度も死線を乗り越えた。奇跡的にも拾った命、これからの人生大切に生きていこうと決心した瞬間だ。

 

 

「あら、あなたは……」

「お前は確か……演劇部の部長だっけ?」

「はい、さっきぶりですね。こんなところでどうされたのですか? しずくがあなたの歓迎会をすると言っていましたが、なんだかげっそりしてません……?」

「この世にはな、度し難い絶望であっても受け入れなきゃいけない時があるんだ……」

「は、はぁ……」

 

 

 しずくの所属する演劇部の部長と廊下でエンカウントする。俺の様子を見て心配してくれているようでありがたいが、残念ながらコイツには俺の体験した地獄は分からないだろう。人を死へ誘うために作られたと言ってもいいあの料理は、下手をしたら軍事兵器として利用できるレベルだった。だからあのとき璃奈が咄嗟に逃げた理由も頷ける。

 

 

「もしかしてしずくが何かご迷惑をお掛けしているとか? あの子、あなたとお会いできることをずっと楽しみにしていたので気分が高ぶっているのではないかと……」

「確かにテンションは高いけど、それはアイツだけじゃなくてみんなだからな。それに俺が疲れてるのはアイツらのせいじゃないから安心しろ」

「ならいいのですが……」

「アイツらの期待を裏切ることはしねぇよ。だから早く戻って元気な顔を見せてやらないとな」

 

 

 俺がトイレに行く時、歩夢たちが気がかりな顔をしていたのを覚えている。せっかくの歓迎会であり、しかもアイツらは俺が来るのをずっと待ち望んでいたらしいからなおさら心配させるわけにはいかない。それにアイツらを悲しませたら侑にどやされてしまうからそれは避けたいところだ。

 

 

「そういえば差し入れの方はどうでした? 世界的にも有名なお店のチョコレートが同好会に差し入れされたって、しずくが言ってましたけど」

「えっ、そんなのあったかな……? 戻ったら確かめておくよ」

「私甘いモノに目がなくて、できれば1ついただけたらとしずくにお願いしているのですが、あの子覚えてるかな……?」

「しずくも歓迎会で相当熱くなってるから忘れてる可能性はあるな……。あとで聞いておいてやる」

「ありがとうございます。助かります」

「あぁ、それじゃあ。これからもしずくのことよろしくな」

「それはこちらこそですよ。それでは」

 

 

 しずくの奴、いい先輩を持ったな。過去に色々あったからこそアイツらが有意義な日常を過ごせていることに嬉しさを感じる。今日1日だけでも幾多の騒動に巻き込まれて大変だったけど、それだけに平和だったからほっこりした気分になるよ。今ならせつ菜にあの料理を食わされたことも笑って許せるかもな。

 

 演劇部の部長と別れて部室の前に到着する。

 もういい時間だから歓迎会もそろそろ終わりか。そう思うと今日の出来事が思い出となって想起される。ギャルゲーのごとく数多のイベントが発生したがどれもこれも思い出深い。だが今日はこれ以上のイベントは起きないだろうから、あとはゆっくりさせてもらおう。

 

 そうやって感傷に浸りながら部室のドアを開ける。

 

 すると、歩夢がいきなり俺の胸に倒れ込んで来た。

 

 

「歩夢!? どうした!?」

「零しゃ~ん……しゅき……♪」

「どうしていきなり告白なんてお前らしくもない――――って、呂律が全然回ってないぞ? つうかこの部屋……酒くさっ!?」

 

 

 歩夢の顔が真っ赤になっており、この舌足らずな感じは確実に酔ってやがる!! しかも部室全体が酒臭く、見てみればみんなフラフラと足元がおぼつかなかったり気持ちよさそうにトロンとした目をしていたりと、この中の誰1人としてまともな奴はいないようだ。これだけの女の子が一斉に酔っているせいで部屋全体に妖艶なムードが漂っており、さっきまでの和気藹々としていた雰囲気とはまた違った興奮に包まれていた。

 

 机の上を見てみると、小さいチョコレートがいくつも転がっていた。これがあの部長の言っていた差し入れなんだろうが、どう考えてもこのチョコに酒が含まれているのは明らかだ。しかも部室中に匂いが充満するほど酒の含有量が半端ない。俺がこれだけ察しがいいのは過去に同じ体験をしたことがあるからで――――って、またこの展開かよ!? どいつもこいつも学ばねぇなオイ!!

 

 チョコレートの入っていた箱に何やらカードが入っているのを発見したため、そこに書かれている文面を読んでみると――――

 

 

『零くん虹ヶ咲学園に初訪問記念! これを食べて大人な夜を過ごしてね! あなた想いのお姉ちゃん 神崎秋葉より』

 

 

 なぁ~にが『あなた想い』だ遊びたいだけだろアイツ!! 帰ったら締め上げてやる……。

 まぁカードを見る前からそんなことだろうとは思ったけど、まさか最後の最後でコイツが出てきて俺の平穏をぶち壊すとは想像してなかったぞ……。流石にもう何も起こらないだろうからゆっくりしようと言った矢先にこれだ。やっぱフラグは立てるものじゃない。つうかどうして俺がここに来てること知ってんだ――――って、アイツの思考なんて考えるだけ無駄だからやめよう。とりあえず今はコイツらの対処が優先だ。

 

 とは言っても――――――

 

 

「零さぁ~ん! 歩夢しぇんぱいだけズルいですよぉ~」

「かすみ!? お前まで抱き着いてくんな!?」

「そんなこと言っちゃってぇ~。今日はかすみんたちをみんな抱くまで帰れないんですよぉ~」

「いや、歓迎会が終わったら帰る気満々なんだけど」

「そんなぁ~夜は長いんですよぉ~?」

「その指の動き辞めろ……」

 

 

 かすみは左手の親指と人差し指で輪っかを作り、右手の人差し指をその輪っかに通して前後させる。それが何を比喩しているのかは確定的で、どうやらそのような行為をご所望らしい。

 この野郎、超憎たらしい顔をしているので腹パンしたい。そして涙目になっているところを見たいドS精神が煮えたぎってきそうだ。

 

 つうかコイツその手の話題に耐性あんのか? 俺に裸を見られそうになっただけでも発狂してたのに、やはり酔った勢いが故か。あぁクソめんどくせぇな酔っ払いって奴は。これまで何度も酔っぱらった女の子を相手にしてきたがいつまで経っても慣れる気配がない。慣れたくもないけど……。

 

 ちなみにこうしている間にも、歩夢は腕と脚をフルに使って俺に絡みついて来る。普段のコイツなら羞恥心で絶対にしないような行為なのに、酔うだけでここまで人が変わるのか……。

 

 

「かすみちゃんばかり……。私も構ってくれないと寂しいですよぉ……」

「いや構ってるつもりだが……?」

「全然足りません!! ちゅー、してもいいですか? んっ……」

「こっちに唇を突き出すなこっちに迫ってくんな!!」

 

 

 普段は清楚キャラを気取っている歩夢だが、今は酔いで顔が赤くなっているのも相まってかやたらと色っぽい。そのせいで目を瞑り唇をこちらに向けるコイツがやたらと艶やかに見えるので、このパニックとなっている状況でなければ容赦なく飛びついていたところだ。振り払おうにも反対側には既にかすみにホールドされているため動くに動けない。これもしかして、早速マズい……??

 

 

「おい侑、歩夢を何とかしてくれ!」

「…………」

「侑? 寝てんのか?」

「ひっく……うぅ……」

「えっ?」

「うわぁああああああああん!! お兄さんが歩夢ばっかり構うぅううううううう!!」

「はぁ!? ちょっ、なんで泣くんだよ!?」

 

 

 侑に助けを求めようとした矢先、突然俺の脚元に縋り付く形で泣き出しやがった。酔っ払いの中で一番面倒なのが突然泣き出す奴だとよく言われているが、確かにこう真っ向から対峙してみると非常に面倒臭い。つうかコイツも俺に構って欲しいのか?? 素面の時はそんな素振りを見せないどころか敬遠してたのに、キャラ変わり過ぎだろ……。

 

 

「お兄しゃん、ひっく、私の夢を応援してくれるって言いましたよね?」

「あ、あぁ」

「私のことがお気に入りで大好きだって言ってくれましたよね?」

「そこまでガッツリ入れ込んでいるわけじゃないけど、まぁニュアンスは間違ってないな」

「電車の中で身体を触られて私は純潔を失いました。その責任を取ってくれるって言いましたよね??」

「重てぇなオイ!? そこまでは言ってねぇぞ!!」

「それなのに歩夢やかすみちゃんばかり構って……うぇええええええん!!」

「だから泣くなって……」

 

 

 勝手に捏造した記憶に対して泣き出すとか救いようがねぇんだけど……。むしろ戸惑っているのは俺の方で、いつものツンケンしているコイツがべったりと擦り寄ってくるものだからどう対応したらいいのか分からない。泣いている酔っ払いは泣き止めば静かになる理論があるので、ひとまず放っておこう。これ以上刺激してもまた大声で泣きついてくるだけだから。

 

 

「もう、そうやってすぐに女の子を手玉に取るんだから……ひっく」

「果林……。耳元で囁くのはやめろ酒くせぇから」

「あなたは私たちの心をくすぐってばかり。だからこうして愛情表現したがるの……あむ」

「ちょっ、耳噛むな! そして俺の話を聞け!」

「夜はまだ長いわ。だから……ね?」

「下半身に手を伸ばすんじゃない!!」

 

 

 果林は俺の背後から抱き着き誘惑をしてくる。果林のようなイイ女に誘われたら並大抵の男なら余裕で釣られるだろうが、残念ながら女の子に百戦錬磨である俺に対してはそうはいかない。とは言ってもコイツのねっとりお姉さんボイスで背筋がゾクゾクしてしまっているのは内緒。酔ってさえいなければ押し倒していたところだ。

 

 

「あれあれ~零さんやっぱり期待してるんじゃないですかぁ~。かすみんの魅力とテクニックですっきりさせてあげますよぉ~?」

「自惚れるなよ。男を知らないクソガキが俺を手玉に取れると思うな」

「だったら私たちみんなで攻めちゃおうかしら? ふ~」

「耳元で息を吹きかけるな。歩夢も隙あらばキスしようとしてくんな」

「口元が寂しいです……。私、今すぐに満たされたいです……。零さんのことを考えると頭がぽわぽわ~ってして、顔も熱くなっちゃって……」

「うん、それは酔ってるからだ。そして侑、俺の脚にしがみつくのはやめてくれ」

「こうしておかないとお兄しゃん逃げちゃうもん……。私に責任を取るまで返さないもん……ひっく」

 

 

 歩夢とかすみに抱き着かれ、侑に脚を奪われ、果林が後ろから誘惑してくるこの構図。普通なら舞い上がるような状況でもこの酒の臭さとコイツらのダル絡みのせいで雰囲気が台無しだ。もう酒を何杯も飲んだかってくらいみんな酔っぱらっているので1人1人の相手をするだけでも疲れる。もう酔っているコイツらよりも俺の方が頭が痛くなりそうなんだけど……。

 

 そうやって頭を抱えていると、背後から冷たいオーラを感じる。身体は動かせないので顔だけを後ろに向けてみると、そこには前髪で表情を隠したしずくが立っていた。歓迎会の飾り物であろう紙のテープを持って……。

 

 

「零さん……また私以外の女の子とイチャイチャ、イチャイチャイチャイチャイチャイチャ……ひっく」

「お、お前またそのキャラに――――って、演技じゃないんだよな? 酔ってるんだよな??」

「やっぱり零さんはしっかり束縛しておかないと……これで……」

 

 

 しずくはさっき演劇部で演じていたのと同じ病み成分たっぷりのキャラになっているが、これ本心じゃねぇよな……? さっきから前髪で全然顔が見えないから普通に怖いんだけど……。

 そしてしずくは一瞬でこちらとの距離を詰めて俺の手を握ると、自分の手首と俺の手首をテープでぐるぐる巻きにし始めた。

 

 

「おい何すんだ!?」

「もう一生私から離れないように繋ぎ止めておこうと思いまして……。おっと、暴れないでくださいね。どうしてもと言うのであれば……璃奈さん!」

「璃奈ちゃんボード、『拘束』!」

「ぶっ!? な、何すんだ!?」

「こうして零さんを拘束すれば、いついかなる時も零さんと一緒に居られるとしずくちゃんに乗せられた……ひっく」

「これで暴れることはできませんよ……。かすみさんたちに抱き着かれて身体も動かせないでしょうから……フフフ」

「お前本当に酔ってる……?」

 

 

 璃奈のボードと彼女の身体によって俺の視界は完全に防がれた。そしてヤンデレの化身となったしずくの手首と俺の手首が完全に繋ぎ止められ、振りほどこうとしても外れる気配もない。それどころか俺の手を力強く握ってアイツの方からも離そうとしない。テープでもぐるぐる巻きにし、自分からも手を握って束縛するその執念はヤンデレキャラとして合格だ。感心してる場合じゃねぇけど……。

 

 

「おい璃奈、俺は別にどこかに行ったりしないからこのボードだけは外してくれ」

「ダメ。零さんは璃奈ちゃんボードの中、つまりずっと私の世界で暮らすの……」

「お前も相当怖いこと考えてんな……。だったら悪いけど力尽くで――――ん? なんだこの柔らかいの?」

「ひゃっ!?」

「えっ、なに!? その声は……愛か?」

「も、もう零さんってば……そんなに溜まってるの……?」

「まさかこれって……!?」

 

 

 璃奈のボードに顔面を拘束されているので直視はできないが、俺の手に触れたのは間違いなく女の子の胸。このボードを外そうとしてしずくに拘束されている手とは別の手を伸ばした時、愛の胸に触れてしまったらしい。

 まず一言感想、凄く大きい。シャワールームで見た時から高校生とは思えないスタイルとバストをしていると思ったけど、これは俺の手に馴染む。今までたくさんの胸を触ってきた俺なら分かる。この大きさ、柔らかさ、張りの良さ、どれも男を悦ばせる要素しかないと。俺なら耐えられるけど、思春期男子だったら我を忘れて病みつきになってるぞ絶対に。

 

 

「ひっく……言ってくれればいつでも処理してあげたのに……。零さんも男の子だもんねぇ~。こんなに大勢の女の子に囲まれちゃったらそりゃ溜まっちゃうよねぇ~♪」

「酔った勢いなのか本心なのかどっちだよ……。残念ながらお前1人が相手にできるほど俺の欲求は甘くないぞ」

「そんなに強がっちゃっていいのかなぁ~? もうりなりーたちに羽交い締めにされて動けないのにさぁ~。それに愛さんの胸を鷲掴みにしながらイキっても説得力ないよ~?」

「お前が俺の手を離さないからだろうが……」

 

 

 俺の手を愛自身が握って抑えているため離すことができない。だからずっとコイツの胸の感触を味わっているのだが、もはや押し付けられすぎて柔らかさを感じなくなっている。これだけ自由自在に形が変わるってことは相当柔軟性が高いけど、これだけ長時間触れてると流石に飽きも来る。璃奈のボードで視界が遮られて直に触っている様を見られないのも影響してるのかもしれない。やっぱり女の子の胸は直視しながら鷲掴みにするその瞬間が最高だな。

 

 そんなことはさて置き、これで俺の両手までもが封じられてしまった。両腕も背中も脚も顔も女の子たちに占拠されてしまい、これじゃダッチワイフのようだ。もう人が入り乱れて周りが見えやしない。

 そんな中、お腹が暖かい感触に包まれる。また誰か俺に群がってきやがったな……。

 

 

「頭がぐるんぐるんして目が回るから、今日は零さんのお腹を枕にして寝るよ~……ひっく」

「彼方か……。普通にそこのソファで寝た方がぐっすり寝られると思うぞ?」

「零さんの温もり以上に安心できるものはないよ~。一家に一台零さんだねぇ~」

「お、おい、そんなに押すと――――うわぁっ!?」

 

 

 彼方が俺の胸に飛び込んできたその勢いに負け、俺は後ろに倒れ込んでしまう。そのおかげでしずくと愛の手も離れ、歩夢たちの拘束からも逃れる。それでも彼方は俺を抱き枕にすることをやめずガッチリとホールドしているのだが――――そうだ、俺ってさっき倒れたんだよな? なんかやたら身体への衝撃が少なかったような気がする。ていうか頭にクッションのようなものがあって、それに倒れた勢いを吸い取られたと言うか……。

 

 

「れ、零さん……」

「エマ……? あっ……!!」

 

 

 俺の顔が倒れ込んだ先はクッションではなくエマの胸だった。いやもうクッションと言っていいほど柔らかかったのだが、俺の後頭部がちょうと彼女の胸の谷間に入り込むような形となっている。見た目で大きな胸だとは思っていたけど枕にできるようなこの弾力は、コイツこそ一家に一台必要だろう。

 

 

「零さん……」

「わ、悪い、すぐに離れるから!」

「私に甘えてきてくださって嬉しいです!! ぎゅ~ってしちゃいます♪」

「うっ、ぐっ……」

 

 

 エマはなんと俺の頭を抱えて胸で包み込んだ。さっきまでの胸の感触がより鮮明になり、頭がより深く彼女の胸に埋没する。男の頭をここまで埋めることができるなんてどれだけボリュームがあるんだこのおっぱいは……。2つの双丘で俺の顔を挟み込むことができるくらいに谷間が深く、他の奴らとは圧倒的に違うボリュームがあるのがよく分かる。

 

 それにこうして胸に顔を埋めて抱きしめられているとえげつないほどのバブみを感じる。みんなのママと言わている所以はそういうことだったのか。確かにこれは甘えたくなる気持ちも分かる。ただ今はコイツもみんなと同じく酒臭いので母性溢れるママとは到底思えないんだけどな……。

 

 

「零さんが嬉しそうにしてると彼方ちゃんも嬉しいよぉ~。彼方ちゃんもぎゅ~ってしてあげる~♪」

「おい足まで絡ませてくんなって!? 身動き取れなくなるだろ!?」

「ほらほら暴れちゃダメですよ~。もう夜も更けてきましたから、いい子はママたちのお布団とお枕でおねんねしましょうね~♪」

「誰が子供だ!? ぐっ、む、胸が……!!」

 

 

 彼方もそれなりに胸が大きいため俺に抱き着くとその肉丘が存分に押し付けられる。そしてエマも本当のママになったかのように俺の頭を胸に埋める形で抱きしめる。前後から来るおっぱいの猛攻に俺はもがくが酔った勢いでパワーアップしているコイツらを引き剥がすことができない。それ以前におっぱいの魔力で力が抜ける。酒の匂いと酔っ払い軍団が充満する場所じゃなきゃ愉しめる状況なのに……!!

 

 さっきまでは女の子たちに群がられ、今度はおっぱい地獄(天国?)に苛まれ一難去ってまた一難だ。次から次へと女の子たちが進軍してくるせいで身体が休まる暇も酔っ払い共を宥めることもできない。

 どうしようかとあれこれ考えていると、俺たちの前で仁王立ちする1つの影が――――

 

 

「栞子……どうした?」

「皆さん、ここは学校です! こんな気の抜けたことではスクールアイドルの名が穢れますよ!!」

「は、初めてまともなことを言う奴が……。ってかそれを言うのならもっと早く言えよな……」

 

 

 ここに来てようやく救世主現る。ぶっちゃけ手を差し伸べるのが遅すぎる気もするが、この女の子スパイラルから抜け出すためには誰かの力が必要だったから助かるよ。

 そういや栞子の奴、酔ってないのかな? あのチョコレートは歩夢たちがキャラ崩壊するくらいに酒の量が多い。だから漏れなくここにいる全員を相手にする覚悟だったのだが、どうやらコイツが酒に強くて助かった。

 

 

「おい、とりあえず彼方とエマを引き剥がしてくれ。コイツら酔ってるせいか自分の世界に入っちゃって俺の声が届いてないみたいなんだ」

「…………」

「えぇっと、どうした?」

「生温いです……」

「は?」

「生温いです!! 意中の男性を射止めるためにはボディタッチではなく、心から本気にさせなければなりません!! ひっく……」

「って、お前酔ってんじゃねぇか!!」

 

 

 コイツ、ここに来て裏切るのかよと思ったら最初からあっち側だったらしい。救世主かと思った栞子は他の奴らと同じくただの酔っ払いで、酔うとやたら声が大きくなってテンションが上がるこれまた面倒なタイプだ。普段がおとなしいせいかキャラ変わりのギャップが凄まじく、もう今のコイツを見て生徒会長だと思える人が果たして何人いるのやら……。

 

 

「恋愛は心です! まずは相手の心を奪うところから始まるのです!」

「そもそもお前、恋愛を語れるほど熟練者だっけ? まだ初心者も初心者だろ……」

「黙ってください!」

「あぁその威圧的な態度、出会った時のお前を思い出すよ……」

「あなたは私たちの心を奪った罪もあります! なので私も今からあなたの心を奪います! いいですね?」

「いや、それは――――」

「いいですね?」

「はいはい……」

 

 

 なにが罪なのか、どうして俺の心を奪う展開になっているのか意味不明だが、酔っ払いの発言に対して理由を求めても仕方がない。救世主がいなくなったことで俺を助けてくれる奴は皆無なので、もう諦めて状況に流されるか。それにここまでヒートアップすれば勝手に疲れ果てて酔いも覚めるだろう。気付いたんだよ、酔っ払いは下手に相手をせず受け流すのが一番だと。そう考えると無駄な体力を使っちまってたな……。

 

 

「とりあえず、零さんも興奮状態になっていただく必要がありますね」

「どうしてそうなる……」

「というわけでせつ菜さん、お願いします」

「はいっ! 差し入れのチョコレートを私なりにアレンジしてみました! これを試食してみてください!」

「は? アレンジだと!? てかさっきお前の料理は全部食っただろ!?」

「実はお持ち帰りしていただく用に別でもう1品作ってあったのです!! まさかこんなところで役に立つとは思ってもいませんでしたが」

「俺ももう1回同じのを食わされるとは思ってもなかったよ!!」

 

 

 まさかの同じネタで2段階オチされるとは想像もしてなかったんだが!? もうせつ菜に食い物を与えるのはやめろ!! いつどこで誰が地獄を見るか分からないぞ!!

 せつ菜は笑顔で俺に改造チョコレートを差し出す。酒の匂いはキツイが、それ以上にこのチョコレートからは禍々しい邪気を感じる。さっき食べた時はせつ菜が殺戮兵器を作るなんて思ってもいなかったから何の抵抗もなく口にしたけど、今回は知っているからこそ覚悟がいる。栞子の作戦では俺がこれを食うことで酔い状態になると考えているようだがそれこそ生温い。こんなのを食ったら酔うどころか一発で戦闘不能だ。

 

 

「はぁ、はぁ……零さんが興奮して肉食系になられる姿、早く見たいです……。あのとき私に『遊び』を教えてくださった記憶が蘇ります……はぁ、はぁ……」

「それが目的かよ!? つうか妄想で興奮すんな!!」

「分かりますよ栞子さん! 零さんに組み伏せられてねっとりカッコいい言葉で誘惑されるシチュエーションは全世界の女性が夢見てますから!」

「そんな世界があったら今頃ハーレム王国を築いてるよ……」

「さあ、零さん。おとなしくせつ菜さんのチョコレートを召し上がってください。とは言っても、皆さんに抱き着かれているこの状況では抵抗することはできないと思いますが」

「えっ、え!?」

 

 

 彼方とエマに抱き着かれているのは知っていたが、いつの間にか他のみんなも床に転がっている俺に密着していた。中には酔いが回り過ぎて今にも寝そうな奴もいて、もはや呼びかけてどうにかなるレベルではない。久々に実感した、万事休すって言葉を……。

 

 

「零さん、私たちと一緒に気持ちよくなりましょう! 大丈夫ですよ、怖くないですから♪ ひっく……」

「いや怖いのは酔いじゃなくてお前の料理だ……」

「私たちはいつも一緒です。だから零さんも私たちと同じ至福の世界へ……」

「それはお前らが酔っているだけで気持ちいいのは一時的な――――――むぐっ!? んっ……がぁっ!?」

 

 

 喋っている最中にせつ菜にチョコを口に押し込められる。

 

 

 その瞬間、俺は本日二度目の地獄を味わった。

 酔っ払いの女の子たちに抱き着かれているせいで抵抗できず、ただただ気が遠くなるを待つばかりだった。

 

 

「今なら零さんとちゅーできるかも……」

「いやさせねぇよ!?」

 

 

 どうやらおちおち気絶することもできないらしい。あまりに過酷すぎる……。 

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 虹ヶ咲編の1話からここまでの話は全て1日の出来事なのですが、零君の体力と精神が保てるかそろそろ心配になってくる頃に……。ハーレム主人公としてはこれくらいで音を上げられても困るので、彼にはもうひと踏ん張りしてもらいます(笑)


 今年の投稿はこの最新話をもって終了です。
 アニメは終わってしまいましたが、この小説では独自で虹ヶ咲メンバー+高咲侑の活躍を描いていくので来年も引き続き読んでくださると嬉しいです!
 そのうちアニメに登場した遥ちゃんや藤黄学園、東雲学院のキャラ、今界隈を騒がせているスクスタのキャラなども登場させられたらと思っています。


 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2人の恋人

 あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします!


 年明け1発目ですが虹ヶ咲メンバーとの再会編の最終話です。
 今回は普段よりちょっと短め&侑視点でお送りします。


 お兄さん――神崎零さんの歓迎会が終わり、歩夢と2人で帰路に就く。

 お兄さんの話によると私たちはみんなお酒に酔って暴れていたらしく、無駄に消費された体力が回復していない中での解散となった。酔った最中にお兄さんに何をしでかしたのか記憶が鮮明で、歩夢と共に今でも後悔と羞恥心に襲われている。歓迎会の片付けをする際もお兄さんの顔が見られなかったりと、昼間では考えられないくらいお兄さんのことを意識していた。結局酔っぱらっていたせいで満足に動けない私たちの代わりにお兄さんが片付けを主導してくれたし、なんなら気分が悪くなっているところを介抱してくれたりと、お客さんなのにとても迷惑をかけちゃったな……。

 

 もう辺りは真っ暗で、道を歩いている人はほとんどいない。いっそのこと人の往来が多く騒がしければ気が紛れたものの、これだけの静寂だと逆に私たちの思考を邪魔する雑音がないせいで余計に後悔の念と羞恥心が肥大化する。今日は流れのままに解散となってしまったので、今度お兄さんに会った時は誠意をもって謝ろう。お兄さんは『俺の身内のせいだからいいよ。むしろ謝るのは俺の方だ』って言ってくれたけど、迷惑をかけたことは変わりないからね。

 

 そんな感じでどんより気分でお互いに黙ったまま夜道を歩く。しばらくして、隣にいる歩夢が口を開いた。

 

 

「なんだかんだあったけど、私は楽しかったなぁ。侑ちゃんはどうだった?」

「えっ? う、う~ん……私の知らないみんなの一面が見られて新鮮だったかな」

「あはは……みんな零さんがいるといつも以上に生き生きしてるもんね」

「それは歩夢もでしょ。いつもよりテンションが一回りも二回りも高くて、正直手に負えないかと思った」

「えぇっ!? そんなにかなぁ?」

 

 

 お兄さんを常に目で追っていたり、目を合わせられただけでも顔を赤くし、話しかけられるたびに声が裏返りそうなくらい気持ちが舞い上がってるのは見ているだけでも分かった。まさに恋する乙女を具現化したような存在で、私の見たことのない歩夢ばかりだったんだよね。小さい頃からずっと一緒だった幼馴染の新しい顔を見られて新鮮だったけど、それをお兄さんにしか見せないんだと思うとちょっぴり妬けるかな。

 

 他愛もない会話で心が少し落ち着く。もしかしたらこのどんよりとした雰囲気を取っ払うために会話を切り込んだのかもしれない。気持ちがちょっと暗くなってたから助かったよ。

 

 

「それにしても凄い人だったなぁお兄さん。上手く言えないけどその……あんなに存在感のある人っているんだなぁって」

「そうだね。今でも隣にいるだけで緊張しちゃうもん。侑ちゃんは零さんの印象ってどうだった?」

「傲慢で自意識過剰。唯我独尊で高飛車。自己顕示欲の塊で自分が世界で一番偉いと思っているナルシスト。あと変態さん」

「け、結構言うね……。でもそのおかげかな、零さんの隣にいると安心するんだよね。これだけ存在感のある男性に私は守ってもらってるんだって」

「まあ確かに貫禄はあるし、お兄さんに頼っておけば安心っていう気持ちは分かるよ。変態さんなのは流石に擁護できないししたくもないけど……」

「それもその、零さんの良さの1つだよ! ほら、優しく導いてくれる的なそんな感じ! それでいて少し強引なのも良くて、零さんに羽交い締めにされたら私、されるがままになりそう……♪」

「歩夢、今絶対にエッチな想像してるよね……」

「ふぇっ!? そ、それはその……!!」

 

 

 この場にいないのに歩夢にこんな反応をさせるなんて、やっぱりお兄さんは恐ろしい人だ……。今日の歩夢ってずっとこんな感じな気がするけど、これは歩夢自身が淫猥な思考の持ち主なのか、それともお兄さんにこんな性格になるように仕込まれたのか……。あのお兄さんのことだから何でもアリなのがこれまた怖いんだよね……。

 

 

「と、とにかく、侑ちゃんも零さんの良さが分かるときが来るよ!」

「そうなのかなぁ……。まあ歩夢の言う通り、手を引いて引っ張ってくれる安心感はあるよね。自分の人生を共に歩んでくれている……みたいな?」

「そうなんだよ! もうず~っと傍にいたい!」

「そ、そこまで!? 歩夢ってお兄さんの話をするとき本当に嬉しそうだよねぇ……」

「えへへ、そうかなぁ~♪」

「凄い、今日一番の笑顔……」

 

 

 甘いモノを食べている時やスクールアイドルとしてライブをやっているとき以上に嬉しそう。明るい笑顔というよりは表情が蕩けていると言った方がよく、まさに恋する乙女って感じだ。こんな恍惚とした歩夢を今まで一度も見たことがない。

 歩夢がスクールアイドルを始めた一番の理由はお兄さんだ。過去に自分を助けてくれたお兄さんに成長した自分を魅せるため、お兄さんに想いを伝えるためにスクールアイドルになった。好きな人のためにここまで頑張れるなんて、今の私には分からない感覚だな。そういった意味では歩夢は自分の夢を叶えつつあるんだよね……。

 

 

 私も、そういった相手、好きな人ができたら――――――

 

 

 って、どうしてここでお兄さんの顔が思い浮かぶの!? いやいやいやいやいや、あり得ないあり得ない! 傲慢で自意識過剰。唯我独尊で高飛車。自己顕示欲の塊で自分が世界で一番偉いと思っているナルシスト、超ド変態のお兄さんのことなんて好きになるはずがない! だって考えてもみてよ、電車の中で身体を触ってくるような人だよ!? そして私はその被害者なんだよ!? 好きになるとか絶対にあり得ないでしょ、うん!

 

 

「侑ちゃん、さっきから首を横に振ってどうしたの……?」

「へっ!? い、いやお兄さんのことなんて考えてないから!!」

「零さんのこと? そういえば侑ちゃん、今日零さんと2人きりになってたよね? その時に何かお話しなかったの?」

「………したよ、たっぷりした。お兄さんがどれだけ歩夢たちのことを本気なのかとか、私の夢を応援してくれるとか、そ、その……私のことを可愛いとか……」

「流石は零さん、相変わらず手が早いというか……。でも零さんに応援されたり褒められるのって嬉しいでしょ?」

「確かにまぁ……うん」

 

 

 自分のことしか考えていないような人だと思ったけど、私の話には静かに耳を傾けてくれた。自分の欲の深い夢を受け止めてくれて素直に嬉しかったんだよね。それはお兄さん自身も欲深いからってのもあるかもしれないけど、同じ欲望を持った人に出会えて、それを認めてもらえて安心したよ。

 

 お兄さんと会話をしていると分かる。あの人はこっちの目を見て話す。会話だったら普通のことかもしれないけど、意外と出来る人は少ないんだよね。

 お兄さんに見つめられるとなんだか心の奥まで見透かされているような感じがして恥ずかしい。でもそのせいかお兄さんはこちらの心情や考えを汲み取ることが得意のようで、だからこそ私の心に寄り添うことができたんだと思う。暖かかったんだよね、その時のお兄さんが。

 

 

 暖かかったと言えば、抱きしめられた時は心がポカポカしたなぁ……。ぎゅっと抱きかかえられて、男性の力強さを感じた。そしてその後、抱擁されながら下の名前を呼ばれた時は心が――――って、また思い出しちゃいけないことを思い出してる!! 煩悩退散煩悩退散!!

 あの時から定期的にお兄さんに抱きしめられた時の記憶がフラッシュバックして悶々としてしまう。そして脳内に妄想として広がるたびに身体が熱くなって胸がドキドキするので本当に迷惑。うん、迷惑迷惑迷惑!!

 

 

「ねぇ、もしかしてだけど……侑ちゃんも?」

「はぁ!? そ、そんなことは断じてないから!!」

「そ、そうなんだ……。でも、顔真っ赤だよ……?」

「う゛っ……!? そ、そんなたった1日で意識しちゃうとかどれだけチョロいのって話で……」

「でも零さんの場合はそうなっちゃうのも仕方ないというか、栞子ちゃんもそうなっちゃったし……。それに零さんの前だとみんなヒロインにされちゃうんだよ。自分がどんな自分であっても、零さんは私たちを魅力的にしてくれる、とっても不思議な人」

「信じられない。信じられない……と思いたい」

 

 

 自分の中で気持ちの整理がついていない。男性のことを考えてここまで身体が熱くなったのも、心が揺れ動かされたのも全部初めてだから。歩夢が『ヒロインにされる』という中々のパワーワードを放ってたけど、もしかしたら私もそうなのかも……。これが『恋』、なのかなぁ……。まだ分かんないや。それにお兄さんには歩夢たちがいるし……。

 

 

「歩夢はさ、お兄さんがたくさんの女性を付き合っていても平気なの? ほら、μ'sやAqoursの人たちとも知り合いだってお兄さん言ってたじゃん?」

「う~ん、零さんだったら仕方ないかなぁって。それだけ器の大きい人だってみんな分かってるからね。それに零さんは私たち1人1人のことをしっかり愛してくれるから」

「そうなのかなぁ……」

「それもいつか分かるよ、きっと」

 

 

 1人の男性に複数の女性が添い遂げる異常事態。でもそれを違和感なく受け入れようとしている私もいる。そうやって順調にお兄さんの世界に飲み込まれ、そして慣れていく自分が一番怖いかも……。

 歩夢もそうだけど、他のみんなもお兄さんと1つになる気満々だ。お兄さんによって極上の幸せを与えられ、誰も不幸にならない、そんな日常。今日1日だけでもみんながどれだけお兄さんに対して好意を抱いているのか分かり、お兄さんがいることでいつも以上に和気藹々としていた。そう考えるとそんなお兄さんが作る世界も悪くない……のかなぁ? 悪くないとか思っている時点で私も毒されてるような……。

 

 

「それにしても、自分の夢を出会って1日目の人に話すとは思わなかったよ。お兄さんが相手だと自分のことを自然と喋っちゃうんだよね」

「そうだね。零さんは自分のことを包み隠さずに全部話してくれるから、私たちもその影響を受けちゃうのかも」

「確かに……。でも出会ったばかりの女の子に『自分を好きになってくれた女の子はみんな幸せにする』とか宣言したり、『可愛いコスプレを見たいから着ろ』なんて命令したりする普通? 私に嫌われるとは思わなかったのかな?」

「嫌われないと思ったから話したんじゃないかな。それに例え嫌われても零さんなら自分への好感度くらいすぐに逆転できるからね」

「まさか、私も逆転されようとしてる……? いや別に警戒していただけで嫌ってたわけじゃないけど」

「もしかしたら侑ちゃん、1ヵ月後、いや来週にも恋人に……?」

「あーーーー聞こえない聞こえない! なーーーーんにも聞こえない! なんかお兄さんの手のひらで転がされているようで癪だもん!」

「今日の侑ちゃんとてもツンデレさんだね♪」

「デレてないし!!」

 

 

 アニメや漫画で誰かにツンデレと言われて否定するシーンがあるけど、そのキャラの気持ちがよくわかったよ。だってツンデレじゃないもん。お兄さんをからかったり、声を荒げてツッコミを入れてツンとした態度を取るときもあるけど、決してデレてはいない。気付いていないだけではと言われるかもしれないけど、いやデレてないから。うん、デレてない。

 

 

「あぁ~もうお兄さんの話は終わり! 次はいつ会うか分からないし、もしかしたら一生会うかも分からないんだから悩んでも無駄無駄!」

「あっ、そのことなんだけど、私たちの練習を見に来てくださいって零さんにお願いしたら『いいよ』って言ってくれたんだ! だから定期的に見に来てもらおうと思って!」

「え゛っ、また来るの??」

「うん。零さんって今大学4年生で、教員免許も取得済みでもう大学でやることがないから暇なんだって」

「へ、へぇ……」

 

 

 お兄さんが目の前にいなくてもこんなにモヤモヤしてるのに、今度顔を合わせたら私一体どうなっちゃうんだろう……。しばらく会うことはないだろうと信じて心の平静を保っていたけど、お兄さんの暇具合を聞くにすぐに再会しそうだなぁ……。とりあえずまたお兄さんに身も心も掴まれないためにも己の精神力を鍛えておかないと。

 

 

 そして気が付けば、私たちの住むマンションの前に到着していた。結局帰宅中はお兄さんの話題一色で途切れることがなく、あの人の存在が歩夢の、そして私の中でとてつもなく大きくなっているのを実感した。今日はお兄さんのことばかり考えて疲れたから早く寝よう。

 

 

「それじゃあ侑ちゃん、また明日!」

「うん、おやすみ歩夢。お兄さんにかまけて夜更かししちゃダメだよ」

「そ、それは……」

「やる気満々だった!?」

「ゆ、侑ちゃんも同じだよね!?」

「どこが!? むしろ一刻も早くお兄さんを頭の中から消し去りたい! そうしないと私――――あ゛ぁ゛あああああもうっ! なんか熱くなってきたからもう帰るね!!」

「侑ちゃん!? ふふっ、素直じゃない侑ちゃんも可愛いなぁ♪」

 

 

 ツッコミを入れたくなるような言葉が聞こえたような気がするけど聞こえなかったフリをしておこう……。

 そして私は超特急で部屋に帰ると、そのまま倒れ込むようにベッドにダイブする。月明かりに照らされた暗い部屋の中で、私は枕を抱きしめながら天井を見つめる。頭の中の()()()は、まだ消えない。

 

 

「ホントに迷惑……」

 

 

 それからしばらく、身体と心の火照りは止まなかった。

 




 自分で描いておいて言っちゃうのもアレですが、侑ちゃん可愛いですね(笑)
 アニメで主人公ムーヴをしているからこそヒロインとして零君に攻略されているのが描いていて堪らなくなります!

 今回は2回目の侑視点でしたが、恐らくそういった話が今後も増えていくと思われます。零君と女の子たちの関係を客観的に分析したり、メインヒロインの中では唯一まだ抵抗している方なので彼女の心情の変化も描きやすいためです。あとは零君の前でツッコミを入れられる貴重なキャラなので(笑)

 前書きにも書きましたが、今回で長かった再会編は終了です。次回以降は虹ヶ咲メンバー主体のいつも通りの短編集になる予定です。




 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

近江姉妹の秘密特訓!

 ようやく遥ちゃん登場回。
 ちなみに自分は妹キャラが好きなので遥ちゃんは問答無用で好きになりました(笑)


 虹ヶ咲学園への訪問から数日が経過した。久々の再会や歓迎会を経て歩夢たちとの仲もより一層深まり、高咲侑といった新たな女の子の出会いもあったりと非常に内容の濃い一日だった。歓迎会の最後はみんなが酔っ払ってしまい流れで解散になったものの、過ぎてしまえばあのどんちゃん騒ぎもいい思い出だ。あとからみんなに一斉に謝られはしたが、元を辿れば秋葉が元凶なのでむしろ謝らなければならないのは俺の方なんだよな……。

 

 ちなみにその日以降、俺のごく普通の日常にも少し変化が出てきた。歩夢たちとの仲が深まったおかげかアイツら(侑以外)から割と頻繁に連絡が来るようになり、メッセージで他愛もない話をするのが日常となっている。スクールアイドルのことはもちろん、こんなお菓子作りに挑戦してみたから今度試食して欲しいやら、みんなでここへ遊びに行ったから次は俺と行きたいやら、俺の家に訪問して秋葉や楓とお話したいといった自ら地獄へ飛び込む無茶話やら何でもありだ。もちろんアイツらとそういった話をするのは苦ではなく楽しんでいるから困ってなどいない。まぁ普段からμ'sやAqoursの相手もしているから、今更何人か増えたところで手間は変わらないからな。

 

 そんなわけで親睦を深め合いつつ数日が経過したある日、同好会メンバーの1人である彼方から連絡があった。どうやら男性が苦手な妹のために特訓をしてやって欲しいとのこと。その救援要請を受けて虹ヶ咲近くの公園へとやって来たのだが――――――

 

 

「なんでお前がいるんだよ……」

「お兄さんが遥ちゃんに何かしないように見張り役が必要だと思いまして」

「彼方がいるだろ」

「彼方さんはその……色々と甘いので」

 

 

 公園には近江彼方とその妹の遥、そして何故か侑までいた。どうやら俺の監視のために同行したらしいのだが、俺ってどれだけ信用ないんだよ……。流石の俺でも出会って1日目の女の子に対して何かしでかすはずが――――と思ったけど、そういえば侑に対しては名も知らない時に痴漢プレイしちゃってるな。なるほどそれを警戒しての監視ってわけか、中々に堅実なことしてんじゃねぇか。

 

 そして初対面になるのが彼方の妹であるこの子。以前彼方の夢に入った時に姿は見たことがあるのだが、リアルで会うのはこれが初めてだ。明るい茶髪のツインテール。ヘアピンは彼方とは反対の右に付けており、目は綺麗な水色。そして超絶美少女なコイツは――――

 

 

「は、初めまして、近江遥です! そ、その、お噂はかねがね姉から聞いています! 今日はよろしくお願いします!」

「神崎零だ。いきなり緊張しまくってるけど大丈夫か……?」

「は、はいっ、大丈夫でしゅ! あっ……!?」

「大丈夫ではなさそうだな……」

 

 

 早速噛んでしまうあたりガチガチに緊張してんなコイツ……。まだ出会って数秒なのにも関わらず既に表情にも身体にも焦りが現れており、常にマイペースな姉とは性格がかなり違うらしい。そう考えると容姿は彼方は大人っぽいけど遥は童顔でロリっぽく、胸の大きさは遥の方が控えめで背も一回り低いから姉妹でも如実に違う。μ'sの絢瀬姉妹と似たような関係性だな。

 

 

「どう零さん? 我が妹の遥ちゃん、とっても可愛いでしょ~?」

「お、お姉ちゃん!? そんな恥ずかしいよぉ……」

「知ってる。事前に東雲学院のライブ映像を見てきたから。お前がセンターの動画な」

「私の!? そ、その……どうでしたか?」

「可愛かったよ。幾多のスクールアイドルを見てきた俺が思わず見入っちまったくらいだ」

「か、可愛いって、恐れ多いです!」

「いや事実だろ」

「ふぇっ!? そ、そんな、えっと……あ、ありがとうございます」

 

 

 遥は頬を紅潮させて俺に頭を下げる。

 俺は別に感謝されるようなことは言っておらず、ただ単に自分の感想を述べただけだ。可愛い女の子に対して素直に可愛いと伝えるのが俺の中での鉄則。それに贔屓目で見なくても遥のパフォーマンスは素晴らしく、可愛い女の子を見続けて肥えている俺の目を惹きつける魅力があった。

 

 

「お兄さん……」

「何故睨む。何も悪いことやってねぇだろ」

「そうやって女の子の心を軽々しく乱すようなことをするのは罪です。お兄さんはいつもそうなんですから……」

「罪って……。つうかまるで経験してきたような口振りだな」

「は、はぁ!? そんなことあるわけないじゃないですか自惚れないでください変態!!」

「急に暴言の嵐かよどうしたいきなり!?」

 

 

 侑の顔色が一気に赤くなる。突然声を荒げて暴言を投げつけてきたから驚いたけど、もしかして俺が無理矢理魔法少女コスを着させて可愛いと煽ったり、倒れそうになったところを抱きしめて助けたりしたことの尾がまだ引いているのかもしれない。そうなるとお手本のようなツンデレを披露しているなコイツ。本人にそれを言ったらまた暴言の雨を降らされるのでやらないけども。

 

 

「私のことはどうでもいいんです。今日は遥ちゃんの特訓なんですよね、彼方さん?」

「うん。男の人に不慣れな遥ちゃんのために零さんに人肌脱いでもらいたいんだ~」

「男が苦手なのかお前?」

「はい……。スクールアイドルをやっているので男性ファンの方も多く、最近有名になったおかげで握手会とかも開催されたりするんですけど……そのぉ、男性を前にすると緊張して上手く喋れなかったり手が震えたりしちゃうんです。それだとファンの皆さんに失礼ですよね……」

「それで俺が呼ばれたのか……」

 

 

 スクールアイドルは今や男女問わず人気のコンテンツだが、アマチュアでもアイドルの名を冠している以上男のファンは当然多くなる。ファンあってこそのアイドルなのでよほどの厄介オタクでない限り蔑ろにするわけにもいかず、ひたすら笑顔でファンサービスしなければならない。だから男に不慣れなのはアイドルとしてはそれなりに致命的だ。遥のその苦手意識を改善するために今回俺が呼ばれたのだろう。

 

 

「目的は分かった。それで? 俺は何をすればいいんだ?」

「…………」

「彼方?」

「あぁ~そこまで考えてなかったよ~うっかりうっかり~」

「おい……」

「彼方さん……」

「お姉ちゃん……」

 

 

 彼方が黙った瞬間から薄々勘付いてはいたけど、やっぱり俺に丸投げなのかよ……。確かに俺の女性経験は無数だが、男不慣れを矯正してやったことは一度もない。侑のようなツンツンした奴や栞子のように最初から嫌悪感MAXの奴の相手なら慣れてるけど、奥手の女の子ってどうも距離感を掴みづらいんだよな。かといって有効的な作戦も思いつかないので、とりあえず俺のやりたいようにやってみるか。よく考えてみれば遥というロリ系美少女と合法的に戯れることができるチャンスだしな。意外と役得なのかもしれない。

 

 

「よし、まずは手でも繋いでみるか」

「ふぇっ!?!?」

「えっ、俺変なこと言ったか?」

「お兄さん、初対面の女の子といきなり手を繋ぐなんて……。相変わらずヤり手ですね……」

「おい誤解を招くような発言すんな!」

「いやぁ流石は零さん、ウブな女の子が相手でも容赦なく身体に触ろうとする。そこに痺れる憧れるってやつだよねぇ~」

「いやいや握手会をするって言ってたから、まずは男との握手に慣れるところからだろ!? なんで俺がウブな子に手を出す鬼畜野郎みたいに言われてんだ!?」

「まぁ実際そうだしねぇ~」

「電車の中で私の身体も触ってきたし……」

 

 

 彼方も侑も遥の弱点克服に貢献する気あんのかよ……。俺が危険人物だって情報を発信したら遥が余計に怖がるだろうが。いや全然危険でも何でもないけど!!

 遥は既に緊張しまくっており、手を繋ぐ宣言をしただけでこの様子だ。実際に繋いでいるわけでもないのにここまで赤面するとなると、これまでの握手会をどうやって切り抜けてきたのか気になるところだな。本人としてはあまり思い出したくないだろうから敢えて聞かないけど。

 

 

「遥」

「ひゃ、ひゃい!!」

「……てかさ、いちいち叫びながら返事するのどうにかならねぇか……?」

「す、すみません! 急に名前を呼ばれたので……」

「そりゃ苗字だと彼方と被るから仕方のないことだ。それに名前呼びの方が親近感が湧いていいだろ? 俺と手を繋ぐんだったらまず俺に慣れておけ」

「神崎さん……いや、零さんに慣れる……ですか?」

「そうだ、それでいい。ちょっとは緊張解けたか? 強張った顔をしてるより笑顔の方が断然可愛いぞ」

「は、はいっ! 零さん……えへへ♪」

 

「なんか既にいい雰囲気になってる!? お兄さん、やっぱり女の子を垂らし込むのが上手い……」

「遥ちゃんの目線に合わせて会話をして、自分の胸を借りるように仕向けながら甘い言葉を投げかける。零さんが女の子を落とすときの常套手段だね~」

 

「聞こえてるからなお前ら。もっと素直に褒められねぇのかよ……」

 

 

 今の俺、めちゃくちゃいいことしてるよな?? なのにコイツらと来たらどこかにマイナス要素をぶち込む褒め方しかできねぇのか?? まぁ遥みたいな可愛い子が相手だから俺もそれなりに欲を持ってるってのもあるが、下心があっても彼女の弱点を克服できればそれで結果オーライだろう。それにこっちだってタダで依頼を引き受けるわけにはいかないから、ここからは俺のやり方で俺にも得があるようにやらせてもらうぞ。

 

 いきなり握手はハードルが高いらしいので、まずは肩に触れてみた。

 

 

「ふにゅっ!?」

「なんだよその声……。いいか、まずはリラックスだリラックス。深呼吸してみろ」

「はいっ! すぅ~~はぁ~~」

「手を握るぞ? いいか?」

「ど、どうぞ!」

「ほい」

「ひゃあんっ!?」

 

「至極真っ当な方法で男性慣れさせようとしているのは分かっているんですけど、遥ちゃんの声だけ聞いたらお兄さんがセクハラしてるみたいですね……。いやもうしてるんじゃないかな……?」

「零さんセクハラ慣れしてるから、どうすれば女の子を恥ずかしくできるか熟知してるんだよねぇ~。お~怖い怖い」

 

「なぁ、そろそろ普通に褒めてくれないと俺帰っちゃうぞ??」

 

 

 わざわざ呼び出されて来てやったのに、何をしても難癖を付けてくるとは何事か。遥の反応が可愛いから彼女に免じて許してやるが、これで俺の目に敵わない容姿をしていたら間違いなく帰宅して昼寝をしていたところだ。それに男性恐怖症を治すのであればまずは気持ちから改善する必要がある。つまり優しい言葉を投げかけてるのも治療の一貫なんだよ。

 

 

「さっきからずっと震えてるけど大丈夫か?」

「はいっ! そ、そのぉ……零さんの手が暖かいので安心できます……」

「そりゃよかった。だけど俯いてばかりじゃダメだ。ほら、こっち向いて」

「あっ……」

 

 

 俺は遥の顎を親指と人差し指で摘まみ、俺と目を合わせるように彼女の顔の角度を上げさせた。

 こうして見ると美少女がとても際立っている。緊張からかやや涙目になりながらも、頬を赤く染めているその様は絵にしたいくらいの可愛さだ。それにいつでも抵抗したり逃げ出したりできるのに、今は俺の目をしっかりと見つめている。男が苦手なのに目線すらも逸らさないそのやる気のある姿勢、気に入ったよ。それにこの純粋っ子をもっと俺の色に染め上げたいと思ってしまうのは、やっぱりサディストが故の性なのか……。

 

 俺と遥の体勢が完全に少女漫画のイケメンが主人公の女の子に迫るシーンを彷彿とさせており、現に今もそれなりのムードが漂っている。お互いにお互いを見つめ続け、遥は恍惚とした表情を浮かべている。あまりにもいい雰囲気なのでこのままキスをしても許されるのではないかと思ってしまうくらいだ。出会って数分の女の子と愛を交わすなんて超絶背徳的だが、そのやってはいけないことに手を染めるのが素晴らしい快感なんだよな。恐らく俺が何をしても遥は受け入れるだろう。桃色でぷりっとした唇が僅かに開いているので、まるでこっちを待っているかのような……そんな錯覚に陥ってしまう。

 

 

「ちょっとストップ! ストーーーープ!! 2人共怪しい雰囲気を醸し出してませんか!?」

「なんだよいいところだったのに。もしかして嫉妬か?」

「は、はぁああああああああっ!? あ、相変わらず自意識過剰すぎますよ!! 私のことはどうでもよくて、さっきから遥ちゃんフリーズしてますけど!?」

「…………」

「蕩けた顔のまま止まってるな。無意識でこの表情をしているのであれば男を誑かす才能があるぞ。思わず飛びつきそうだった」

「やっぱり!? 私が止めてなかったら今頃マウスtoマウスになってましたよね!? いいんですか彼方さん、この人に妹さんを任せちゃって!?」

「う~ん、そうだねぇ……可愛い遥ちゃんが見られるならOK~」

「えっ、私がおかしいの!? 私真っ当なことしか言ってないよね!?」

 

 

 確かに侑の言っていることは正しいが、この世には同調圧力ってものがある。いくら正論を掲げても大衆の意見によりそれが捻じ曲げられることがあり、今がまさにそんな状態だ。俺は遥の『女』を見たい、彼方も遥の可愛い姿を見たい、遥も(多分)俺を受け入れている。つまり俺が遥を好きにしてもいいってことだ。違う??

 

 

「とにかく、必要以上の接触は禁止です!」

「ごちゃごちゃとうるさい奴だな。だったらお前が男との付き合い方の手本を見せてくれんのか?」

「へ……? え゛っ、ど、どうしてそうなるんですか!?」

「侑ちゃんは同好会のまとめ役で、スクフェスを成功に導いてプロデュース力もあるから、男性との正しい付き合いの方も良く知ってるかもねぇ~」

「意味分からないですよそれ!? 彼方さんなにを根も葉もないことを!?」

「侑さん……男性への心得も持ち合わせているなんて凄いです! 是非ご教授をお願いします!!」

「遥ちゃんいつの間にか復活してる!? そ、そんなことを言われても……」

 

 

 さっきまでただの傍観者だったのに、何故か自分へ矛先が向いて焦る侑。そりゃ代替案を出さずに文句ばかり言ってたらそうなるだろうよ。

 侑は自分が標的になった途端に遥と同じく、いや遥以上に動揺している。目も泳いでおりそわそわとした様子で落ち着きがない。どうせなら遥だけじゃなくて侑の特訓もしてやろうか? その前にコイツがどれだけ男慣れしているのかはっきりさせておかないとな。さっきから散々横槍ばかり入れてきたからそれなりに耐性はあるのか……? 

 

 

「手、握るぞ?」

「て、手だけですからね? 他のところは触らないでくださいよ?」

「分かってる分かってる。行くぞ?」

「どうぞ……」

「はい、握った」

「ひっ……!?」

「えっ?」

「「へ……?」」

 

 

 俺も彼方も遥も目を丸くして驚く。そりゃそうだ、手を握った瞬間に侑はすぐに解いて後退りして俺と距離を取ったんだから。顔は燃え上がるように赤くなっており、手もぷるぷると小刻みに震えていた。あの遥ですら耐えていたのに、まさかここまでウブだとは……。もはや見た目から緊張と恥ずかしさを隠しきれてないぞ。

 

 

「なるほどなるほど、とんだピエロだったんだな。なるほどなるほど……」

「侑ちゃんの新しい可愛いを見られて、彼方ちゃん満足だよ~」

「恥ずかしくて思わず逃げてしまう侑さん、とっても可愛いです……♪」

 

「やめてやめて!! その微笑みやめてぇええええええええええええええ!!」

 

 

 侑は叫びながら手で自分の顔を覆って表情を隠す。これまでの人生で男付き合いがないのはコイツの言動を見ていれば分かるが、この前抱きしめた時はここまであからさまな反応はしていなかった気がする。もしかしてあの時から今日までに心境の変化でもあったのだろうか。今日の侑は初日に出会ったときよりもチョロ……いや、恋する乙女のような反応になっていた。

 

 

「まあ今日は遥の特訓だからお前の特訓はまた今度な。でも遥、お前もう俺に慣れてないか?」

「そういえば緊張は結構解けているような……」

「あのとき俺と目を逸らさず頑張って見つめ合ったおかげだな」

「ひゃッ!? そ、そんないきなり頭を撫でるなんて……♪」

 

 

 とか言いながら嬉しそうな笑みを浮かべる遥。顔の前で両手の指と指を重ね合わせたり離したりしながらうっとりとした表情をしている。これは彼方がコイツを溺愛する気持ちが分かる。彼方が許可してくれたら是非とも俺の妹コレクションに加えたいところだ。俺の妹(実妹1人、妹扱い4人)はたくさんいるけど、妹キャラ好きの俺からしてみたら遥みたいな純粋な美少女妹は何人でも歓迎するぞ。

 

 そうやって遥とじゃれていると、それを見ていた彼方が俺たちに近づいてきた。

 

 

「もう2人だけでズル~い! 彼方ちゃんも混ぜて混ぜて~」

「えっ、お姉ちゃん!?」

「おい急に抱き着いてくんなあぶねぇだろ」

「ほらほら~彼方ちゃんの頭も撫でてよ~零さ~ん」

「ったく……」

「あぁ~これこれ~。このまま眠っちゃいそう……ぐぅ~」

「お姉ちゃんこんなところで寝たらダメだよ!!」

 

 

 急に抱き着いてきたと思ったら、俺に頭を撫でるようおねだりをする。仕方ないから撫でてやるとものの数秒で夢見心地となっていた。流石は虹ヶ咲の眠り姫と言ったところか。

 彼方の髪はゆるふわウェーブなので撫でているこちらも気持ちよくなってくる。この2人はどちらも緩い雰囲気でほのぼのとしているため俺まで眠気に誘われそうだ。それでいて2人に抱き着かれている形だから女体の布団に包まれているようで、近江姉妹のほんのりとした温かさに現を抜かしてしまう。しかもこうして自分の腕で姉妹を囲っていると自分のモノにした征服感もあっていいな。

 

 そして、この状況に困惑している奴が1人――――

 

 

「お兄さんここ公園ですよ!? 周りに人もいるしこんなところを見られたら……!!」

「だったら侑ちゃんもこっちに来る~? 零さんと遥ちゃん、とっても暖かいんだよ~」

「い……行きません!!」

「素直じゃないねぇ~」

「うぐっ……」

 

 

 なんか図星みたいな反応をしているが、俺の気のせいだよな……?

 

 こうして紆余曲折ありながらも遥の男性克服特訓は幕を閉じた。ぶっちゃけこれだけの特訓で男に慣れるとは思えないが、少なくとも握手会くらいは普通にできるようになっただろう。あと何回かは特訓に付き合ってやってもいいかもしれない。どちらかと言えば遥より侑の方が慣れていない感じがしたので、いずれコイツも特訓してやるか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 その数日後、彼方から電話があった。

 

 

「まだ男に慣れてないのかアイツ? あれから何回か特訓してやっただろ??」

『そうなんけどねぇ~。多分その特訓で零さんに惹かれちゃって、零さん以外の男の人に慣れたくないらしいんだよ~。最近ずっと零さんに抱きしめられたいとか、頭を撫でられたいって呟いてるからね~』

「まさか依存されてる!?」

 

 

 数回の特訓でスキンシップが多かったせいで神崎零依存症になったらしい。

 懐いてくれて嬉しいと思うべきか、事態が余計にややこしくなって申し訳ないと思うべきか……。とりあえずは結果オーライ……かな?

 




 遥の回にしようと思ったらいつの間にか総受けっぽくなっているのは私の性格なので許してください(笑)


 最近虹ヶ咲のアニメが終わった影響からかハーメルンでも虹ヶ咲の小説が増えましたね。自分は全然読めていないのですが、この小説並にハーレムしている作品ってあるのかな……? ラブライブ小説って意外とハーレムモノ少ないんですよね。




 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

揉みに揉ませのオナニー中毒

 サブタイトルがヒドいですが、話の内容的に忠実に再現しているのでご安心(?)ください。

 今回は侑視点でお送りします。


 とある日の放課後、私は職員室へ次のライブのための事務手続きを行い同好会の部室へ向かっていた。

 今日はお兄さん――――神崎零さんが歩夢たちの練習を見てくれる日。お兄さんは何回か虹ヶ咲に来てみんなの練習を見てくれているけど、私には到底できない指導で歩夢たちをスキルアップさせている。流石はμ'sのマネージャーでAqoursの顧問をやっていただけのことはある。悔しいけど私のマネジメント力ではお兄さんは敵わないことを実感した。だからこそお兄さんから多くのことを吸収したいので、歩夢たちだけではなく間接的に私の指導にもなっているんだよね。お兄さん自身は気付いてないだろうけど、そこのところだけは感謝してるよ。

 

 今日もお兄さんの隣で色々学ばせてもらおうと思いつつ部室の前に到着する。

 すると、部室のドアに耳を当てている怪しい子――――三船栞子ちゃんがいた。なんかそわそわしているみたいだけど、一体何があったんだろう……?

 

 

「栞子ちゃん? そんなところでどうしたの?」

「ひゃいっ!? ゆ、侑さんでしたか……」

「驚かせちゃってゴメンね。でも何をしていたのか気になっちゃって。中に入らないの?」

「そ、それが……。ちょっとこちらに……」

 

 

 栞子ちゃんに手を引かれ、一旦部室から離れた私たち。何が何だか分からないけど、栞子ちゃんの顔がやたら赤い。いつも誠実な態度で取り乱すことはあまりない子なんだけど、今は見ただけで動揺しているのが分かる。さっき部室を覗いていたのと関係があるのかな……?

 

 

「部室に入ろうとした時に零さんたちの声が聞こえてきたのですが……」

「お兄さんもう来てたんだ。他には誰がいたの?」

「声を聞く限り、果林さん、エマさんがいたと思います」

「あっ、もしかしてお兄さんがセクハラ発言をしていたとか? お兄さんだったらあり得るもんね」

「えぇっと、その……うぅ……」

「もっと顔赤くなった!? 大丈夫栞子ちゃん!?」

 

 

 栞子ちゃんは手で顔を覆ってしまう。そこまで恥ずかしがるってことは、やっぱり私の勘が当たっているのかもしれない。お兄さんってそれなりに真面目でそれなりに頼りになることもあるけど、それ以上に変態さんなんだよね。でも知能指数の低いセクハラ発言はしないような人なので、また言葉巧みに女の子を引っ掛けている可能性は高い。初対面だった遥ちゃんの心すら奪ってしまったあの人のことだ、あり得る……。

 

 

「それで? お兄さんたちは何の話をしてたの?」

「それがその……零さんが揉みたいと……」

「は?」

「零さんが果林さんとエマさんのを……揉みたいと」

「は……????」

 

 

 なるほど、お兄さんならド直球でそういうこともいいそうだ。だからこれは日常茶飯事、今更何も気にすることは――――――って、そんなわけあるかぁあああああああああああああ!! さっき知能指数が低いセクハラ発言はしないって言ったけど、思いっきりしてるじゃん! ちょっと褒めてあげた私の気遣いを返してよ!! それに人様の学校にまで来て生徒に堂々とセクハラ発言とか頭おかしいよ絶対! いやあの人は元からおかしいけどさ!!

 

 

「よしっ、引っぱたいてくる!!」

「待ってください侑さん!! 落ち着きましょう!!」

「離して栞子ちゃん!! あのドセクハラ痴漢魔に一発浴びせてやるぅうううううううううううううう!!」

「あの零さんのことです! 何か崇高なお考えがあってこその発言なのでは!?」

「いやそれはあの人のことを無駄に信用し過ぎでしょ!? ただの変態ナルシスト野郎だよあの人!」

「それこそ無駄に蔑み過ぎなのでは……」

 

 

 私は栞子ちゃんに後ろから羽交い締めにされて部室への突撃を阻止される。

 どうやら私と栞子ちゃんではお兄さんに対する見方が違うらしい。確かに私も言い過ぎたかもしれないけど、栞子ちゃんも大概褒め過ぎだと思うよ……?

 

 とりあえず一旦落ち着こう。ただでさえいつもお兄さんに手玉に取られちゃうのに、我を忘れてたらそれこそ玩具にされてしまう。お兄さんに対抗するにはまず冷静に情報収集をするしかない。

 そのため部室のドアに耳を傾け、お兄さんのセクハラ発言が聞こえたら現場を取り押さえて突撃する。よしこれだ。

 

 私と栞子ちゃんはドアに耳を当てて中の会話を盗聴する。

 

 

『最近モデルの仕事が忙しくて、ここがよく張るのよ。どうしたものかしら……』

『だから俺が揉んでやるって言ってんだろ? 俺がやると気持ち良すぎて昇天しそうだってもっぱらの噂だ』

『私も零さんにそのぉ……揉んで欲しいです! ダメ……ですか?』

『もちろん。エマは体型的にも揉み甲斐がありそうだな、任せておけ』

 

 

「本当に揉むつもりなの……? 部室で女の子の……胸を!? しかも果林さんとエマさんのって、同好会の中でもトップ2の大きさを持つ胸を……!?」

「どうしましょう侑さん……。止めるべきなのでしょうか? でも胸の大きい女性にとって胸部が張るのは辛いことと聞きますし、それを零さんが解決してくださるのなら……」

「でもここ学校だよ!? 部室だよ!? 秩序ってものがあるでしょ生徒会長さん!!」

「それはそうですが……。しかし果林さんやエマさんも零さんに全て委ねようとしていますし……」

「本人たちの同意があるからいいってことかなぁ……う~ん納得いかないぃいいいいいいいいい!!」

 

 

 このままお兄さんの欲望が全てまかり通ってしまうのが癪で、これを許してしまうと今後も同じような暴挙に出かねない。だから災いの芽は早期に潰す。歩夢たちが既にお兄さんの手に落ちている以上、あの人のことを()()()()()()()()()私が同好会の秩序を守るんだ!!

 

 そしてまた部室からお兄さんたちの会話が聞こえてくる。

 

 

『零さん凄く自信満々ですけど、もしかしてそういった資格とか持っているんですか?』

『流石に免許皆伝クラスではないけど、μ'sやAqoursの連中には好評だぞ? これでもお手伝いの立場だったり顧問だったりしたからな』

『そこまで自慢されると期待しちゃうわね。これで治らなかったらどうしてあげようかしら』

『安心しろ。俺の手で極上の快楽を与えてやる』

『私、マッサージされることに弱いので思わず声を上げちゃうかも……』

 

 

「胸を揉む資格……。お手伝いと顧問の立場を思う存分に利用……。そして女性に性的快楽を与える技術……やはり零さん、タダモノではありませんね」

「納得してどうするの!! もうただのセクハラじゃん!! それを堂々と誇示するお兄さんはやっぱりお兄さんだよ!!」

「極上の性的快楽……零さんが与えてくれる……あっ、な、何でもありません!!」

「栞子ちゃん想像してたよね!? 妄想の中でお兄さんが出てきてたでしょ絶対に!!」

「そ、それはその……うぅ……」

 

 

 栞子ちゃんも完全にお兄さんの手に落ちちゃってるよ……。やっぱり私がこの流れに一石を投じるしかない。このままだと由緒正しきスクールアイドルの部室がお兄さんの手によって破廉恥な現場に塗り替えられちゃうから!!

 

 

『あっ、んっ……』

『おいエロい声が漏れてるぞ……』

『仕方ないじゃない。気持ちいいんだから……』

 

 

「果林さん!? 今さっき変な声聞こえてきたよね!?」

「はい……。聞くだけでも気持ちよさそうな声で、一体中でどんなことをしているのでしょうか……?」

 

 

『ひゃっ、零さんの手付き、いいですぅ……』

『もうちょっと声抑えてくれ。勘違いされるだろ……』

『そ、そんなこと言ったってぇ……んんっ』

 

 

「今度はエマさんの声ですね。聞いているこっちまでドキドキしちゃいます……。それほどまでに零さんの胸部を揉んでもらうのが気持ちよいのでしょうか……」

「騙されちゃダメだよ栞子ちゃん! お兄さんはそうやってみんなを手玉に取ろうとしているんだから!!」

 

 

 私たちは息を飲みながらドアに耳を当ててお兄さんたちの会話を聞く。もはや声だけを聞けば年齢制限を付けざるを得ないほどのシチュエーションが繰り広げられている。このまま黙って見逃すのも1つの手だけど、お兄さんを調子に乗らせて歩夢たちにまで手を出されたら堪ったものじゃない。だったらここで私が――――叩く!!

 

 

 と思った矢先、突然部室のドアが開け放たれる。

 

 

「「ひゃぁ!?!?」」

 

 

 ドアにもたれ掛かってた私と栞子ちゃんはそのまま部室へと倒れ込む。

 見上げると、そこにはお兄さんが怪訝そうな顔で私たちを見下していた。

 

 

「お前ら部室の前でコソコソ何やってんだ……」

「お兄さん!?」

「零さん……。ど、どうして私たちがいるって……」

「そりゃあれだけ騒いでたら誰でも分かるだろ……」

 

 

 私たちはお兄さんが差し伸べてくれた手を握って立ち上がる。さっきまで欲望に忠実なセクハラ魔だったのに要所要所で優しくしてくるから困ったものだよ。

 部室の雰囲気に大人の色気が漂っているのかと思ったけど、見た感じそうではなさそうだった。果林さんもエマさんもきょとんとした顔でこっちを見つめてくるし……。いやさっきまでおかしなことをしてたのはそっちじゃんと言いたくなるけど、盗聴していた私たちも私たちだから何も言えないよね……。

 

 しかし同好会の部室で破廉恥行為を許すわけにはいかない。ここは相手の非を追及する覚悟で切り込もう。まあさっきの状況を自分の口から説明するのはとても恥ずかしいんだけど……。

 

 

「お兄さん、さっきその……果林さんとエマさんのむ、胸を触ってました……よね?」

「はぁ? してねぇけど」

「でもさっきお二人の気持ちよさそうな声が外に聞こえてきて……ねぇ栞子ちゃん?」

「はい。お二人が張っていると仰っていたので、零さんがそれを解決するために胸部を……その、揉んでいたのではと思いまして……」

「何言ってんだお前ら。揉んでたのは『肩』だぞ?」

「「へ……??」」

 

 

 か、肩……? 胸じゃなくて……? ということは……勘違い!?!?

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁああああああああああ!? 顔が熱くなってきた!! ていうかそうだよ、最初から胸を揉んでるなんて一言も言ってなかったもん!! 私たち勝手に勘違いしてたってこと超恥ずかしいんだけど!?!?

 

 横にいる栞子ちゃんも全く同じことを考えていたようで、茹で上げられたように顔が真っ赤になっていた。

 

 

「なるほど、お前らは俺たちの会話だけを聞いて俺がコイツらの胸を揉んでいたと思ったわけか。とんだ淫乱だな、悔いて恥じろ」

「ち、違うんです!!」

「いいや違わないね。お前らは立派に脳内ラブホテルを建設してるよ。さぞ立派で豪華なホテルなんだろうなぁ」

「からかわないでくださいよ!! あぁ~もう恥ずかしい……!!」

「す、すみません侑さん! 私が早とちりしたばかりに……」

「二人とも思春期ねぇ~。初々しくて可愛がりたくなっちゃう♪」

「その……2人共妄想豊かだね! スクールアイドルはイマジネーションが大切だから恥ずかしがる必要はないよ、うんっ!」

「エマさんのフォローが一番心に来る!!」

 

 

 こうして私たちは他のみんなが来るまでお兄さんと果林さんに弄りに弄られ、エマさんによる心を砕く悪意なきフォローに滅多打ちにされた。

 私も栞子ちゃんも元々こんな破廉恥なことを考える性格じゃなかったのに、これもお兄さんに出会ったせいだ。そうだよ全部お兄さんのせいだよ!! こうするしか心の安寧を保てないのでそう思っておこう……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 例の事件から数日後が経った。私は今日も同好会の部室へと向かっているんだけど――――部室の前に歩夢がいる。しかもドアに耳を当てて……なんかデジャヴ?

 歩夢は私に気付くと、慌てた様子でこちらに駆け寄ってきた。

 

 

「侑ちゃん大変だよ!!」

「な、なに急に……」

 

 

 歩夢は私の両肩をがっちりと掴み詰め寄ってくる。相当切羽詰まっている様子だけど何かあったのかな……?

 

 

「そ、そのぉ……いきなり変なこと聞いちゃうんだけど……」

「歩夢の質問なら何でも答えてあげるよ。なに?」

「侑ちゃんってその……週に何回するの?」

「えっ、するって何を?」

「オ、オ……」

「お?」

「オ、オナニー……」

「ぶっ!?!? は、はぁ!?!?」

「ち、違うのこれはえぇっと身辺調査みたいなもので……」

 

 

 身辺調査どころか猥談でしょこれ!? あの歩夢の口からそんな言葉が飛び出すなんて想像もしてなかったから思わず吹き出しちゃったよ。本人も一応恥ずかしいと思ってはいるようで、耳まで真っ赤にしてもじもじしている。そんなに恥ずかしいなら聞かなかったらいいのにどうしたんだろう……。

 

 

「ど、どうしてそんなことを聞くの……?」

「部室に入ろうとしたら中から声が聞こえてきてね。その……愛ちゃんと璃奈ちゃんがオナニー……自慰行為って言うんだっけ? それをたくさんしてるって……」

「え゛っ!? 流石にそれはないんじゃないかなぁ? ほら聞き間違いとかさ」

「だって零さんとそういう話をしていたから気になっちゃって……」

「またあの人か……」

 

 

 お兄さんがいたら猥談が発生する可能性はあるから歩夢が気にするのも分かる。でもお兄さんは大学生だよ? 男子大学生が女子高生とオナニー……この言葉恥ずかしいな、自慰行為の話をするなんて普通に犯罪でしょ。しかもお兄さんがそんな知能指数の低いセクハラ発言はしないような人――――って、なんか前も同じような流れだった気がする……。

 

 

「自慰行為をたくさんし過ぎてオナニー中毒になってるんだって! 今の子ってやってる人の方が多いのかな!?」

「だから私に回数を聞いたんだね……。その回答に関してはノーコメントだけど」

「どうして!? なんでも答えるって言ったよね!?」

「いや親しき中にも礼儀ありだよ!? 今日の歩夢怖いよ!?」

「そ、そうだね、とりあえず落ち着くよ……。落ち着いて外から零さんたちの会話を聞こう」

「それはそれでどうかと思うけど……」

 

 

 歩夢は再び部室のドアに耳をくっつけて中の会話を盗み聞きする。そして歩夢に手招きされて何故か私まで同じことをさせられているんだけど……。もう私、お兄さんと同じくらい巻き込まれ体質になっている気がするよ……。

 

 ドアに耳を当てると、部室の中から会話が聞こえてきた。

 

 

『愛はたくさんやってそうだな』

()()()が多いから大変だよ~! でもやると癖になるっていうか、楽しいんだよねぇ~!』

『私も最近ハマちゃった。先週はほぼ毎日やってる』

『りなりーが他の子と楽しそうにしてると愛さんも嬉しいよ! 零さんはどうなの?』

『俺はあまりそういうのはやらねぇな。そもそも中学から今まで続いてる方が凄いだろ』

 

 

「ほら侑ちゃん聞いたよね!? 愛ちゃんが()()()だって! それにあの可愛くて純粋無垢な璃奈ちゃんが毎日やってるなんて……」

「ちょっと変な想像しないでよ私まで想像しちゃうじゃん!? それにしても最近はみんなやってるって、それが普通なのかな……」

 

 

 オナニー中毒、略してオナ中。これは聞いてはいけない会話を聞いているような気がする。でも私も歩夢も顔を真っ赤にしつつもドアに耳を傾けるのをやめなかった。背徳に愉悦を感じるとはまさにこのことなのかもしれない。人の性事情に足を踏み入れてはならないと分かっているのに、興味本位で相手のプライベートを知りたいと思うのは私たちがまともな興奮状態ではないからだろうな……。

 

 

『へぇ~意外! 零さんならやってると思ってた! ()()()で一緒にやってくれる女の子なんていくらでもいそうなのに』

『そりゃいるにはいたけど、あの頃の俺は騒がしいのは嫌いで1人が好きだったからな。今みたいに親しい女の子はあまりいないんだよ』

『じゃあ逆に今は誰かと一緒にやったりしないの? μ'sとかAqoursのみんなとか』

『やってる。物凄くやってる。夜の時間が枯れ果てるくらいにはな』

 

 

「れ、零さん!? μ'sやAqoursの皆さんとその……オ、オナニーを一緒にやっているってこと!? しかも一晩中!? 零さんとお付き合いするってことはそういうことにも慣れないといけないんだ……」

「歩夢落ち着いて! もうお兄さんってば、部室でなんて話をしてるのかなぁ……。それに女の子と一緒にやってるってことは、それもう自慰じゃなくて普通の……いやなんでもない」

「ど、どうしよう侑ちゃん!! 私も毎日やって零さんに見合うような性欲を身に着けた方がいいのかな!?」

「やらなくていいから!! それにスクールアイドルがそんな発言しちゃダメ!! あぁ~もうお兄さんのせいで歩夢がこんなことに……」

 

 

 お兄さんが虹ヶ咲に来てから歩夢はとてもイキイキとし始めたけど、同時に隠れていた破廉恥な思考が少しずつ表に出るようになってきた。でもそのおかげで今まで以上に表情豊かになったし、スクールアイドルの練習もより一層気合が入っている。幼馴染としては喜ばしいことなんだけど、スクールアイドルとしてはあるまじき性的欲求が見え隠れしているのが心配でならないよ……。それは歩夢に限った話ではなくてみんなそうなんだけど……。

 

 

『そういや()()()の子に零さんの話をしたら会いたがってたよ! とっても可愛い子だから零さんのお目にも敵うと思うんだけど、どうかな?』

『あっ、それなら私も紹介したい子がいる。()()()仲間って名前のグループに入ってるんだけど、その子たちが零さんに会いたいって』

『お前ら人のことを勝手に喋り過ぎだろ……。ま、美人か美少女なら会ってやってもいいけどな』

『じゃあ決まりだね!』

 

 

()()()仲間だって侑ちゃん!? 璃奈ちゃん意外と遊んでそうなグループに入ってるんだね……。あの愛くるしい璃奈ちゃんが……」

「だから想像しないの!! 愛ちゃんも同じようなグループに入ってるみたいだし、最近はみんなで報告し合ったりするのが流行ってるのかな……。ほら、特に愛ちゃんは若い子の流行に敏感だから」

「みんながやっているのなら、私たちもやるしかない……よね?」

「私()()ってなに!? 私はやらないからね!!」

「侑ちゃん。幼馴染として私と侑ちゃんはいつも一緒だよね!」

「さっきまで顔真っ赤にして恥ずかしがってたのにここだけ満面の笑顔にならないでよ!! とても胡散臭いんだけど!!」

 

 

 ダメだ、歩夢がみんなの圧力に屈しようとしている。まあ向こうはそんなつもりで会話をしてないと思うから歩夢の勝手な自爆なんだけど……。

 そしてこのままだと私まで()()()グループに入れられてしまうので、それだけはなんとか避けないと。そもそもお兄さんたちが部室であんな会話をしなければ歩夢の暴走に巻き込まれなかったわけで、私は完全に被害者だ。自慰行為は自分の好きにどれだけでもやってもらって構わないけど、私には関係ない! 関係ないはずなのに……あぁもうお兄さんに抱きしめられた時の光景が未だにフラッシュバックされちゃう!! まさかこれをオカ――――いや、煩悩退散煩悩退散。勝手に妄想で現れるなんて本当に迷惑だよお兄さん……。

 

 

 と煩悩に支配されていると、突然部室のドアが開け放たれる。

 

 

「「ひゃぁ!?!?」」

 

 

 ドアにもたれ掛かってた私と歩夢はそのまま部室へと倒れ込む。

 見上げると、そこにはお兄さんが怪訝そうな顔で私たちを見下していた――――って、あれ? 前もこんな感じだったような……。

 

 

「お前ら部室の前でコソコソ何やってんだ……」

「お兄さん!?」

「零さん……。ど、どうして私たちがいるって……」

「そりゃあれだけ騒いでたら誰でも分かるだろ……。しかも前も同じことをやらなかったか?」

 

 

 私たちはお兄さんが差し伸べてくれた手を握って立ち上がる。これも前回と全く同じで―――――ん? 展開が同じ? 待って、ということは歩夢が聞いた()()()ってもしかして……!!

 

 

「あ、あの、零さん!! ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」

「何をしていたのか聞きたいのは俺の方なんだけど、まぁいいや言ってみろ」

「待って歩夢! 多分私たちの勘違いで――――」

「そ、その……オ、オナニーする子が好きなんですか!?」

「はぁ!?」

「「えっ……?」」

「あちゃ~……」

 

 

 お兄さんと愛ちゃんは歩夢の爆弾発言に目を丸くして驚き、璃奈ちゃんは仰天表情のボードを顔の前に掲げていた。そりゃいきなり歩夢から自慰行為の話を持ち出されたら誰でもそんな反応になっちゃうよね……。だってお兄さんたちは()()()()は一切していなかったんだから。

 

 

「だって零さんたち、さっき()()()の話をしてたので……」

「もしかしてお前、オナニー中毒と勘違いしてんのか? お前の脳内も相当極まってんな……」

「えっ……え!?」

「もしかしてもしかしなくても歩夢勘違いしちゃってる系? 私たちの言ってた()()()って同じ中学の友達って意味なんだけど」

「え゛っ……!?」

「私も愛さんも最近同じ中学の子とビデオ通話することがあって、零さんとはその話をしてた。でも歩夢さんと侑さんはアッチの意味で捉えちゃったってことだよね。うん……とっても思春期」

「あ゛ぁ……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁあああああああああああああ!!!!」

「歩夢が壊れた!?」

 

 

 歩夢は全てを知った直後、まるでショートした機械のように頭から煙を出して謎の奇声を上げた。スクールアイドルとは思えないほどの汚い声で、どれだけ歩夢の心が乱されているのか分かる。お兄さんたちは普通の話題で普通に会話をしていただけなのに、自分が勝手に猥談だと勘違いして、しかも好きな人に対して自慰行為をする女子は好きかを質問する始末。これだけ重なれば心が壊れる要因としては十分だよね……。私も一部絡んでるから全くの他人事ではないんだけど……。

 

 

「2人共見かけによらずえっちぃ子だったんだねぇ~♪ 愛さん2人のことがもっと好きになっちゃったよ!」

「好きになる要素あった!? それに私は歩夢に乗せられただけで……」

「お前、この前もエロいこと考えてたよな? 認めろ、それはお前の性格だ。このむっつりめ」

「ち、ちがぁああああああああああああああう!! 私は……私は!!」

「安心して侑さん。どんな侑さんでも私たちはずっと友達だから」

「その純粋な気遣いやめて!! 余計に恥ずかしいから!!」

「もしもし、建設会社ですか? ラブホテルの建設場所ならここにいい物件があるんですけど」

「なに電話してるんですか!?!?」

 

 

 そして私たちの痴態は黒歴史として刻み込まれ、同好会に未来永劫語り継がれ……って、そんなのイヤ!! いつか絶対に、絶対に私は破廉恥じゃないってことをお兄さんに証明して見せる!!

 ちなみに歩夢は今日一日あまりの羞恥心にずっと気絶していた。まあ歩夢の場合は自業自得……だよね??

 




 こういったすれ違いのネタは大好きなのですが、如何せんこれまでにネタを使い過ぎたせいで1から考えるのが大変で大変で……。できればすれ違い系のネタください(笑)

 この章では零と侑のW主人公の予定なので、今後も彼女視点は増えていく予定です。侑視点だと零君ハーレムを客観的に描けるので重宝しています。
もちろんヒロインとしての侑が零君色に染まっていく様子もお楽しみください!



 よろしければ小説に感想をお願いします!
 虹ヶ咲編に突入以降感想が減ってしまっているので、これまで書いたことのない方や書きたいけど渋ってる方はこの機会に是非!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

孕ませエンドの先行体験

 こういった小説の終わり方もありかなぁと思ったのですが、ぶっちゃけこの小説がいつ終わるかも分からないのでネタだけ投下。
 もちろんネタの1つなので今回で終わりではありません。


 今日も今日とて虹ヶ咲へ足を運んでいる。最初は客人として女子高に入ることに対してそれなりに緊張していたのだが、最近は歩夢たちの練習を見てやる機会も多くそのたびに来ているので流石にもう慣れた。女子高なら浦の星女学院だってそうなのだが、あの時は教育実習生としての大義名分があったからな。男が私服で女子高に入るのは中々に勇気がいる行動だったんだよ。

 

 そんなわけで虹ヶ咲の敷地内に侵入し、大きな噴水のある中庭を抜けて同好会の部室に行こうと思ったのだが――――誰かが噴水近くのベンチに座っている。あれは……歩夢? 小さい子を抱っこしているみたいだけど何してんだアイツ?

 

 

「おい歩夢」

「あっ、こんにちは零さん。今日もご足労いただきありがとうございます」

「あ、あぁ。それはいいんだけど……その子は?」

「その子はって、私と零さんの愛の結晶じゃないですか♪」

「え゛っ……!?」

 

 

 愛の結晶ってつまり……そういうことだよな!? えっ、い、いつ!? いつ俺は歩夢と1つになった!? いつこの子を誕生させた!? いつ産ませたんだ!? 一体何が起きている!?

 歩夢はうっとりとした表情で赤ちゃんを抱きかかえる。確かにこの赤ちゃん、どことなく歩夢に似ているような……。それに赤ちゃんを抱いている歩夢から放たれるこの母性は、まさしく母となった女性のみに感じられる雰囲気だ。どういうことだよこれは……。

 

 

「まさか高校生で赤ちゃんを授かっちゃうなんて思ってもいませんでした。でも周りの人たちは歓迎してくれましたし、零さんとの子供ならとても嬉しいです♪」

「そ、そうか……。こ、子育ての方は順調なのか?」

「順調どころか、むしろ零さんの方がこの子をとても可愛がってるじゃないですか! それはもう妻の私が嫉妬しちゃうくらいに♪」

「つ、妻!? まぁそうなるよな……」

「……? 零さん、どうかしましたか? 今日は少し様子がおかしいような……?」

「いや、それはない……うん」

 

 

 情報の波が俺の思考回路を飲み込んでイマイチ整理できてない。とりあえず俺と歩夢は付き合っているどころか結婚していて、しかも子供を授かっていると。そして夫婦関係は良好過ぎるくらいに良好で、子育ても全く問題なし。うん、流石は俺、女の子との関係はしっかり構築できてるな――――って、そうじゃねぇ!! 身に覚えのないことばかりで意味不明なんだよ!! いつ結婚した!? いつ性行為したんだよ俺たち!! もしかして未来の話かこれ!?

 

 混乱しつつも幸せそうな歩夢を見ているとこの雰囲気をぶち壊すような真似はできない。だから怪しまれないよう話を合わせつつ現状を探ってみるか。

 

 

「そういやスクールアイドルはどうなんだ? ほら、子供ができたから両立は大変じゃないかなぁって」

「確かに忙しくはなりましたけど、それはみんな同じなので身体に負担がかからないようにみんなで気を付け合っています。零さんの赤ちゃんをいただくことができただけでも幸せなんですけど、みんなとスクールアイドルの夢も叶えたいので両立頑張りますね!」

「それは善処してくれ――――ん? さっきみんなって言ったか? みんなって……かすみたちのことだよな?」

「そうですけど、それがなにか?」

「マジかよ……」

 

 

 みんな同じってことは、歩夢以外の同好会メンバー全員が俺との子を授かっているってことか!? どれだけ性豪なんだよ俺!? 女子高校生に子供を仕込むとか背徳感情昂り過ぎて何だか唆られるんだけど!! お互いに責任を持てるようになってからという俺のモットーを遂に破壊したのか知らぬ間の俺!? 別に金も同居する場所もいくらでもあるから困らないけど、そういう問題じゃねぇんだよ!!

 ていうかこの状況で慌ててるってことは俺自身にまだ倫理観が残されてたんだな。そこだけはちょっと安心したぞ……。

 

 

「とりあえず他の奴らの様子も見てくるよ。ここにいると何だか……熱くなっちゃいそうだ」

「熱く……? もうっ、まだ夜まで長いですよ♪」

「そういう意味じゃねぇよ!? とにかく行ってくる」

「はいっ! この子、噴水の音が好きみたいなので私はもう少しここにいますね」

「あ、あぁ、よろしく頼んだ」

 

 

 俺はそそくさと噴水広場から離れる。このまま歩夢と一緒に居たら俺の思考が爆発しそうだったから離脱して正解だったな。まぁ同好会の誰と会っても同じことになるだろうけど、まず一旦脳を落ち着かせよう。あまりの情報過多にパンク寸前だけどこの先耐えられるのか俺……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「なんだこの人だかりは……」

 

 

 校内のロビーにたくさんの女子生徒たちが集まっていた。嫌な予感がしたので誰か有名人が来ているものと信じて大衆の中心を覗き込んでみると、案の定その予感は的中する。

 かすみとしずく、栞子、璃奈の1年生組が各々赤ちゃんを抱えており、周りの女の子たちはその子たちに見惚れていた。赤ちゃんって年頃の女の子がいかにも好きそうだからこうして集まる理由も分かる。黄色い声が上がり過ぎて鼓膜が響きそうなのも女子高クオリティだ。

 

 

「あっ、零さん! こっちですよこっち!」

「そんな大声で呼ぶなよな……」

 

 

 かすみが手を振って俺を招くせいで、周りの女の子たちの目線がこちらに向いて注目される。ぶっちゃけこうなるのがイヤだったからスルーしようと思っていたけど、こうして注目されたら逃げるに逃げられないか……。

 そしてかすみを皮切りに、しずく、栞子、璃奈も俺に気付いて表情が晴れやかになる。

 

 

「見てください! この子かすみんに似て可愛くなってきましたよ! 零さんのカッコよさとかすみんの可愛さが合わさって美形になること間違いなしです!」

「あ、あぁそうだな……」

「零さん! 最近この子が片言ですけど『ママ』って言ってくれるようになったんです! 私ももう一端のママなんでしょうか、ね、ねぇ……アナタ。きゃっ、まだ恥ずかしいですねこの呼び方……♪」

「しずく……そ、そうかもしれねぇな」

「零さん、最近は生徒会が忙しく代わりにこの子の面倒を見てくださりありがとうございます。しかし今日からはたっぷり時間があるので、私と一緒にこの子を可愛がってあげましょう。そ、そしてできれば私の方も可愛がってくださると……」

「わ、分かった後でな……」

「この子のためにおもちゃを買ってあげたいんだけど、零さん一緒に来てくれる? たまには家族でデートしようよ」

「か、家族か……そうだな、いつでもいいぞ……」

 

 

 息もつかせぬ怒涛の会話に俺は曖昧な返事しかできない。この赤ちゃんたちが自分とコイツらの子だってことは分かってるんだけど、当たり前だが身に覚えが1つもないのでイマイチ実感が湧かない。そのため歯切れの悪い応答しかできないんだ。

 それに1年生組は元々容姿が幼く見えるせいか、赤ちゃんを抱いてママになっている姿を見るとどうも犯罪臭が半端ない。4人共それなりに小柄なのでまだ思春期始まりの女の子って感じがするんだよな。それでいて笑顔で赤ちゃんをあやしている姿はしっかりとママなので容姿的な意味でのギャップが凄まじい。かすみや璃奈に至ってはロリキャラが自分の子供を可愛がるというエロ同人でも中々見ない光景だ。背徳的ってのは本来こういうことを言うんだろうな……。

 

 

「それにしても人が集まり過ぎじゃねぇか? こんな人目に付くところで赤ちゃんをあやさなくても……」

「な~にを言ってるんですか! むしろ見せつけるためにここにいるんですよ! これぞ零さんとかすみんたちの愛の形だぞ~って♪」

「赤ちゃんができた時、皆さんとても祝福してくださって嬉しかったです。零さんと結婚できただけでも幸福なのにこんなに可愛い我が子を授かって、これ以上幸せになっていいのかと思っちゃいました!」

「かすみんたちはこんなに幸せなのに、零さんさっきから冷めてないですか? いつもだったら『コイツらはみんな俺が孕ませたんだぞ! 見ろこの幸せそうな顔を! 俺のモノになれば漏れなく俺の人生をお前たちに分け与えてやる! さぁ、幸せになりたい女の子は俺についてこい!』ってテンションなのに」

「俺どれだけ盛ってんの!? 嘘だよなしずく?」

「そういうテンションってだけで豪語していた記憶はないですから安心してください。でも零さんなら有言実行してもおかしくないかも……」

 

 

 マジかよ……。確かにこんな美少女軍団に子供を仕込むなんて男としては最高潮の悦びだが、それにしたって調子に乗り過ぎだろ俺。自分のことを客観的に見たことはあまりないけど、いつもの俺って中々に痛いこと言ってたんだな。いや今更かよって話だけど……。

 

 

「あっ、今この子が笑った。零さん……パパが来てくれて嬉しいんだよきっと。ほら、パパですよ~」

「すっげぇ笑顔だな……。まだ赤ちゃんなのに俺のことが分かるのか」

「当たり前ですよ。この子も皆さんのお子様もあなたのことをパパだと認識しています。流石、女性に対しては百戦錬磨ですね」

「いや相手赤ちゃんだぞ!? 俺のストライクゾーン広すぎじゃね??」

「過去に女子小学生を相手にしていたのでしょう? 今更驚きませんよ」

「流石に小学生と赤ちゃんが違い過ぎるだろ……。てかお前らは俺が赤ちゃんも行けるような男でいいのかよ……?」

「何を言っているんですか零さん! かすみんたちはもう結婚しているんですよ? 零さんの全てを受け入れているに決まってるじゃないですか♪」

 

 

 中々にぶっ飛んだ発言だと思ったが、結婚しているってことはそういうことになるわな。まあ俺も『俺について来られる奴だけついて来い』理論を提唱していた身ではあるから、未来のコイツらがこの程度の発言をしたところで今更驚くことはない。だけど赤ちゃんを抱えたコイツらを見ると俺の横暴な恋愛論が一気に現実味を増すな……。

 

 各々自分の赤ちゃんを抱きかかえながらこれ以上ないってくらいの幸せを醸し出す1年生組。どうしてこんな状況になっているのか分からないけど、とりあえずこれはこれでハッピーエンドなんだろうな。自分の未来を先行体験することほど恥ずかしいことはねぇけど……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 1年生組と別れた俺は同好会の部室へ向かう。すれ違う生徒たちに逐一『おめでとうございます!』と出産の祝いの言葉を送られるあたり、未来の俺はこの学校での知名度を大幅に上げているようだ。てか複数の女の子を孕ませたのにそれを笑顔で祝福されるのも異常な話だよな。自分がそういった未来を作ってるとは言え客観的に見るとそれがよく分かる。こりゃ侑に咎められるのも無理ねぇな……。

 

 そんな感じで部室へ向かっていると、途中の休憩室にまた見知った顔があった。

 

 

 

「おぉ~零さんだ~。お~い」

「彼方か。エマと果林も」

「こんにちは零さん! 今日も練習を見に来てくださったんですか? ありがとうございます♪」

「最近よく来るわよね。まあ自分の子供がいるんだから仕方ないと思うけど。ほら、パパが来たわよ」

 

 

 この3人ももちろん俺の子供を抱いていた。コイツらの赤ちゃんは割と活発らしく、俺の顔を見た瞬間に『あ~あ~』と元気よく叫んでいる。こうして赤ちゃんに好かれると本当にパパになったみたいだ。

 それにこの3人はさっきの1年生組とは違い見た目からも分かるお姉さんキャラであり、だからなのか赤ちゃんを抱く姿が非常に絵になる。1年生組は小柄なせいか赤ちゃんとのツーショットがやや不釣り合いだったから、コイツらが余計にママに見えてならない。美人が恍惚とした表情で赤ちゃんを眺める様はまるで人妻のようだ。

 

 

「それにしてもコイツら元気すぎじゃね? 歩夢たちの子供はアイツらの腕の中で今にも寝そうだったのに」

「それは多分お腹が空いているから催促しているのよ。だからその……」

「ん? どうした顔赤いぞ?」

「彼方ちゃんたち、今からこの子たちにおっぱいをあげるつもりだったんだよ~」

「え゛っ……!?」

 

 

 女の子の口から突如としてそんな言葉が放たれると反応せざるを得ないが、恐らく彼方はそういった意味で言ったのではないだろう。赤ちゃんにおっぱいをあげるというのは母が子に愛情を与える至って堅実な行為だ。だから決して卑猥な意味で捉えてはいけない。パパになったのならなおさらだ。

 

 で、でもなぁ……。

 改めて3人の胸を見る。うん、高校生とは思えないくらい大きい。彼方も果林もエマも、制服の上からここまでのボリュームを感じられるのは犯罪級だ。μ'sもAqoursも最上級生全員が巨乳であることはなかったため、こうしてお姉さん組が揃いも揃って胸が大きいと見ているだけでも圧巻だ。そして男としては飛びつきたくもなる。今からその胸にしゃぶりつける赤ちゃん(一応自分の子供だが)に嫉妬してしまいそうだ。思春期の頃から年を食ったとは言えどもおっぱいに対してだけは興奮が冷めないな。

 

 

「エロい目になってるわよ? 私たちがこの子たちにおっぱいをあげるとき、いつも目になるんだから……」

「結婚しても治らなかったのか未来の俺……。いやなんでもない」

「もしかして、零さんも私たちのおっぱいをその……欲しいんですか?」

「へ!?」

「あっ、零さん目の色変わった~。そんなに彼方ちゃんたちのおっぱいが気になるなら飲ませてあげよっか~?」

「えっ、あっ、えぇっ!?」

「驚いてるけど内心期待してるのがバレバレよ。相変わらずエッチなんだから……」

 

 

 そうだよな。よく考えてみたらコイツらは一児のママ、おっぱいをあげることができる身体になっている。つまり吸えば白い水分(?)が吸引できるわけで……いやこれ以上の妄想は公序良俗的にマズい!! でもこの3人に甘えながら、そして甘やかされながらおっぱいをもらうのは男なら誰しもが夢を見るシチュエーションだろう。その夢が今まさに叶ってしまうとしたらどうする?? 自己の立場を守るか、それとも男としてのプライドを全て捨て一時の快楽に浸るか……。

 

 

「お、お前らはそれでもいいのかよ……」

「私は大歓迎ですよ! それって零さんが私たちを求めてくれているということですから嬉しいんです! いつもは私やこの子を抱きしめてもらってますから、たまには私が抱きしめてあげたいです♪」

「彼方ちゃんもばっちこ~いだよ。みんなの前では立派にパパさんしてるから、彼方ちゃんたちの前だけは甘えていいからね~♪」

「この子ももちろん可愛がるけど、あなたのことももちろん可愛がってあげるわ。だっていつもあなたが私たちのことを可愛がってくれるものね。子育ても、そして夜も……ね?」

 

 

 な、なんだよこの誘惑!? 流石はお姉さん組と言うべきか、誘い方が大人っぽくて男の欲求をくすぐってきやがる。周りには誰もいない。コイツらは歓迎状態。そしてこれは赤ちゃんプレイなどではなく、ただ単にコイツらが俺に感謝をしておりその恩返しをしたいと思っているだけ。

 

 くっ、気になる! 吸ったら一体どんな味なのか……!? どうやって甘やかしてくれるのか……!! だけど――――!!

 

 

「あぁ~もう部室に行かねぇと!! じゃあまた後でな!!」

 

 

 あ゛ぁああああああああああああ逃げちまった!! でも俺のプライドと立場を守り切ったと思えばそれは勲章モノだ。そう思って無理矢理納得しておくしかない。そうしないと後悔の念で押し潰されそうだから。

 

 

 …………うん、惜しいことしたなぁやっぱ。

 

 

「やっぱり零さんって……」

「うん、いつもはカッコいいけどたまにこうして……」

「可愛いところあるよねぇ~♪」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……あれが人妻の余裕ってやつか……」

 

 

 煩悩を退散させるため校則違反全開の全速力で廊下を駆けて部室に到着した。あれだけの余裕を見せられるのも結婚して人妻となり、我が子を授かった大人の余裕ってやつなのかもしれない。対して俺は結婚前の状態だからまだ未成熟だ。アイツらとは歳が離れているのに精神年齢で負けてる気がするぞ……。

 

 

「あれ? 零さんじゃん! 息を切らしてるみたいだけどどしたの??」

「愛……。せつ菜もいるのか」

「こんにちは零さん! この子も私も元気です!」

 

 

 もうコイツらが赤ちゃんを抱いている姿を見るのには慣れた。愛もせつ菜も活発系女子で、そんな子が赤ちゃんを大事そうに抱えている姿は1年生組とはまた別の意味で背徳感がある。ほら、普段は活発で明るい子が赤ちゃんの前では聖母のような清純さになる様、それがいいんだよ。

 

 

「それにしてもこの子、零さんにとても似てるよね~! 目元とか鼻とか零さんにそっくり!」

「そうですね。つまりそれだけ私たちの中に零さんの遺伝子が……♪」

「え゛っ……!? ちょっ何の話!?」

「激しかったもんねぇ~零さん。対面で上からのしかかられて、好きだって連呼されたら誰でも堕ちちゃうよ♪」

「な、生々しいなオイ……」

「この子を出産してしばらくは身体を安静にしていましたが、もう体調も良くなってきました。なのでこの子だけではなくまた私たちも可愛がってくださいね……♪」

「みんな子供が生まれたばかりなのに、早々に2人目を仕込むとか零さんもやるねぇ~! しかも女子高校生の私たちに♪ この世界一の幸せ者め!」

「気が早すぎるだろちょっと待て!? 俺ってそんなにヤる気満々だと思ってんのか!?」

「でも零さん、私たちとのエッチの時はその……とても逞しかったですよ? 色々と……」

 

 

 そんなにノリノリだったのか俺!? 愛もせつ菜もその時のシーンを思い出してうっとりとしているから、つまりそういうことなのだろう。そんなテンションで俺はみんなに種を植え付けたってのか……? 自分の未来を体験するのは恥ずかしいけど、自分がコイツらとどんな情事に耽っていたかを暴露されるのはあり得ないくらいの羞恥を感じる。でもコイツらはそんな俺の性豪っぷりがさも当然かと言わんばかりなので、もうコイツらと一緒にいるだけで己の汚い部分がどんどん露呈するな……。

 

 今の話題をこれ以上広げたくはないので、とりあえず話題を変えないと――――

 

 

「あれ? お兄さん来ていたんですね」

「ゆ、侑……!? そうかお前なら」

 

 

 そうだ、侑は俺のことを警戒していた。だからこのおかしな状況にも巻き込まれていないはずだ。子供を授かって子煩悩になり、俺への愛情がより一層深まった歩夢たちの貴重な制止役になってくれるはず――――って、えっ……!?

 

 

「侑……その子、どうした……?」

「どうしたって、お兄さんと私の子に決まってるじゃないですか」

「な゛っ、に……!?」

 

 

 侑は不思議そうに俺の顔を覗き込みながら抱いている赤ちゃんを俺に見せる。

 まさかコイツも俺の子供を……!? 歩夢たちとは違って明確に好意を抱かれていたわけではなく、むしろ警戒されまくっていたのにどうしてこんな関係になった!? しかもよくよく考えてみたら果林たち3年生がこの学校にいるってことは、俺はコイツらと出会った同じ年にはもうそういった関係となり子供を仕込んだってことだ。あまりにも俺の手が早いし、平行線だった侑との関係も進展したってことか?? もうわけが分からねぇ……。

 

 

「お兄さんに酔った勢いで襲われた時はどうしようかと思いましたけど、私のことをぎゅっと抱きしめてくれて、耳元で『好きだ好きだ』って囁かれたら『まぁこの人となら添い遂げてもなってもいいかな』ってなったんですよね。そう思うと私も興奮しちゃって、途中から私もお兄さんの名前をずっと言い続けていた気がします」

「ゆうゆうは零さんのことをあれだけ嫌ってたのに、保健室のベッドで1つになっている時はずぅ~っとラブラブだったもんね! やってる時の音とか半端なかったし♪」

「お互いにお互いの名前を言い合って交わり続けていましたから、その声を聞いているだけでも興奮しちゃいそうでした♪」

「もうっ、愛ちゃんもせつ菜ちゃんもやめてよ~♪」

 

 

 そう言いながらめちゃくちゃ嬉しそうじゃねぇか!? いつもの侑だったらこの手の話題は『破廉恥です!!』とツッコミを入れて避けたがるのに、今のコイツは何故かノリノリだ。それほどまでに俺との情事が思い出になっているのか……? そもそも俺の前でこんなに笑顔になってるコイツを見るのは初めてだ。ということは未来の俺は侑も漏れなく幸せにしたのか……。

 

 

「お兄さん? どうしたんですかさっきからキョトンとして……?」

「い、いや、お前と結婚できたことが未だに信じられなくて……」

「実感が湧かないのは私もそうですよ。でも、お互いの夢を近くで支え合うって誓ったじゃないですか。私たちはもう運命共同体なんです。だからちゃんと責任を取ってくださいね、お兄さん……い、いえ、アナタ♪」

「う゛っ……」

 

 

 コイツの笑顔、本物だ。今まで様々な女の子の笑顔を見てきた俺なら分かる。これは本当の幸せを噛み締めている奴の笑顔だ。赤ちゃんをより一層自分に抱き寄せながら向ける暖かい表情に俺は思わず見惚れてしまう。これが望んだハッピーエンドってやつなのかも。だとしたらもうずっとこの世界に居続けるのもやぶさかでは――――

 

 

 と思った矢先、突如異変が起こる。

 あ、あれ……? 目の前が崩れていく?? 侑も愛もせつ菜も、周りの景色も全部。こ、これ一体どうなって……!?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「うわぁああああああああああああっ!? ん? あれ?」

「わっ!? お、お兄さん起きたんですね……」

「侑? ここは?」

「保健室ですよ。もうお身体の方は大丈夫なんですか?」

 

 

 思い出した。今日も歩夢たちの練習を見てやるために虹ヶ咲へ来たんだけど、アイツらを待ってる間に小腹が空いたから部室の冷蔵庫にあったチョコレートを勝手に食ったんだ。でもそのチョコが以前秋葉が持ってきたアルコール純度MAXのチョコだったらしく、酔っ払ってしまいコイツらに介抱されたところまでが一連の流れだ。なるほど、それで保健室に運ばれて寝てたってことか。ということはさっきのは……夢なんだよな?

 

 ん? 酔っ払って? そういや侑が『酔った勢いで襲われた』って言ってたような……? ま、まさか……!!

 

 

「おい侑!! ちょっと制服脱いでみろ!!」

「はぁ!?!?」

「いいから脱げ!!」

「ちょっ、ちょっと!?」

 

 

 俺は侑のシャツを裾を掴んで無理矢理たくし上げる。緑色の可愛い下着が見えたが俺が確認したいのはそこではない。気になるのはお腹。赤ちゃんが産まれてるのであれば……と思ったがその心配は杞憂に終わり、傷1つない綺麗なお腹であった。安心して思わず彼女のお腹を手でさする。

 

 

「お腹を切った跡はないか。そりゃ流石に子供は早いよな……」

「お、お兄さぁん……」

「侑?」

「この……この……このドセクハラ野郎がぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「ぶがぁ!?」

 

 

 そして虹ヶ咲学園中に、超絶綺麗なビンタ音が響き渡ったのであった。

 ダメージは深刻だったが、夢であることを確認できたからこれで良かったんだろうな……。

 




 よく考えてみれば孕んで出産した後の話で孕み要素はなかった気がしますが、『孕み』って言葉がグッとくるのでややタイトル詐欺ですがこのままにしておきます(笑)

 今回は笑えるネタ寄りとして話を執筆していますが、女子高校生が自分の子供を持って幸せそうにしているのって普通にヤバいシチュエーションですねこれ……(笑)


 宣伝ですが、2年ぶりに『ラブライブ!』の企画小説をやろうと思っています。複数の作家さんたちが小説を持ち寄って毎日投稿する企画で、誰でも参加可能なので概要は私のTwitterにてご確認ください!

 以前の企画小説は私のアカウントから複数投稿されているので是非ご覧ください!



新しく評価をくださった

慎彩さん、tokyoomegaさん ありがとうございます!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神崎ファミリーと悪意なきもふもふ

 久しぶりに神崎ファミリー大集合回!
 今回は侑視点でお送りします。





「ここが神崎家……」

「侑ちゃん強張り過ぎだよ……」

「そういう歩夢も緊張してるじゃん……」

「だ、だって零さんの家だし……」

 

 

 私と歩夢は神崎家の前に来ていた。それなりに大きな建物だってこと以外は至って普通の家なのになんだろう、今からRPGのラストダンジョンへ向かうようなこの感覚は。私も歩夢も男性の家にお邪魔するのは初めてだからってのもあるかもしれないけど、それ以上の禍々しい雰囲気を感じる。遊園地のお化け屋敷とは比べ物にならないくらい足がすくむんだけどどうしようか……。

 

 私たちがここに来たのはお勉強をするためだ。勉強とは言っても高校の勉強ではなく、スクールアイドルとしての勉強。歩夢はスクールアイドルとしてのいろはを、私はマネージャーとしてのノウハウを学びに来た。お兄さんに頼んだら『だったら家に来るか? 教えてくれそうな奴がいるから』と軽い気持ちで誘われ今に至る。ちなみに他のみんなは用事で来られず、だったらみんなが揃う別の日にしようと思ったけど、お兄さんがどうやら今日しかダメらしいので歩夢と2人でここに来た次第だ。

 

 

「ずっとここで立ち往生していたら私たち不審者だよね……。覚悟はいい侑ちゃん?」

「う、うん! お願い!」

 

 

 歩夢は意を決して神崎家のインターホンを押す。呼び出し音が鳴り響き、私たちは息を飲んで相手方の反応を待つ。

 すると間もなく会話口から女性の声が聞こえてきた。

 

 

『は~い!』

「あっ、えぇっと、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の上原歩夢です! 神崎零さんいらっしゃいますか?」

『虹ヶ咲? 上原歩夢……?』

 

 

 声は非常に若々しい。そして歩夢が自分の所属と名前を伝えた瞬間、何かを思い出そうとしているかのように黙り込んでしまった。ただでさえお兄さんの家の前に来て緊張しているのに、ここで変な間を作られると更にそわそわしちゃうんだけど……。

 

 すると、突然家のドアが開いた。私たちは驚いて一歩後退る。

 出てきたのはとてつもない美少女。女の私でも惚れてしまいそうな愛くるしい女性に目を奪われてしまう。私とは天と地ほどオーラが違い、この人の輝きで目が潰れそうなくらいだ。

 

 しかし、どうやら様子がおかしい。私たちのことを見下して今にも襲い掛かってきそうなくらいの怖さで――――――

 

 

「アンタたちが……」

「「え……?」」

「アンタたちがお兄ちゃんを監禁したのかぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああああ!!!!」

「「え゛ぇ゛ぇ゛え゛え゛ええええええええええええええええええっ!?」」

 

 

 目の前の美少女さんは持ち前の愛くるしさを捨てて鬼の形相で私たちに襲い掛かる。突然の襲撃に私たちは野太い悲鳴を上げることしかできない。

 そもそもお兄ちゃんってお兄さん――――神崎零さんのこと!? それに監禁ってありもしない無罪の罪を被せられるとか意味が分からないんですけど!? いきなりこんな展開になるなんてやっぱりラストダンジョンだよここ!!

 

 すると、美少女さんの後ろからお兄さんが現れ、首根っこを掴んで動きを封じた。

 

 

「おいやめろ、俺の客人だぞ」

「お兄ちゃん離して! ソイツらを殺せない!!」

「いきなりこんなことになってわりぃな。この前お前らの学校で夜遅くまで歓迎会をやっただろ? しかも突発的に。それで晩飯をキャンセルしちまったから怒ってんだよ。コイツ、俺に飯を作ったり世話をするのが生き甲斐だから」

「は、はぁ……」

 

 

 お兄ちゃんって言ってたからこの人はお兄さんの妹さんか。兄をお世話するのが生き甲斐って、それブラコンってやつじゃないのかな……。しかも有無を言わせず私たちに襲い掛かってくるあたり相当拗らせてるよねこれ。お兄さんも大概変な人だけど妹さんも相当だなぁ……。

 

 お兄さんに封じ込められたことによって妹さんの暴走は収まったようで。乱れた服を正して私たちに向き直る。黙っていれば物凄く可愛いけど、こういうのを残念美少女っていうのかも。

 

 

「えぇっと、お久しぶりです楓さん。上原歩夢です」

「久しぶり。スクフェス以来だね」

「楓……さん? も、もしかして元μ'sの神崎楓さん!?」

「この子は?」

「あ、歩夢の幼馴染の高咲侑です!! 最近μ'sのライブいっぱい見ていて、それでファンになっちゃいました!」

「そ、そう……。また相当アクの強い子を引っ掛けてたんだねお兄ちゃん……」

「可愛いだろ?」

 

 

 お兄さんが何か言ってるけど今は気にしている場合じゃない。μ'sと言えばあの伝説のスクールアイドルで、神崎楓さんはそのメンバーだった1人だ。スクールアイドルの勉強のため、そして自分自身の趣味のためにμ'sのライブ映像は穴が開くほど見たんだけど、どのライブも心から熱くなるほど素晴らしかった。そのライブをしていたメンバーの1人に会えるなんて最高でテンション上がっちゃうよ!

 

 

「歩夢どうして言ってくれなかったの!? お兄さんの妹さんがμ'sのメンバーだって!」

「いや別に隠していたわけじゃなくて、そういえば言ってなかったなぁって……」

「お兄さん……だぁ?」

「えっ!?」

 

 

 またしても楓さんの目付きが鋭くなる。私なにか失礼なこと言ったかな?? お兄さんって呼び方は馴れ馴れしくもなければ他人行儀でもなくいい塩梅だと思うんだけど……。

 

 

「お兄ちゃんをお兄ちゃんって呼んでいいのは私だけだぁ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああ!!」

「えぇっ!?」

「あ~あ、地雷踏んだな」

「引っかかりやすい場所に置きすぎですよその地雷!? だったら先に警告してくれません!?」

 

 

 再度襲われそうになるも、お兄さんが楓さんの首根っこを掴んでいたおかげで難を逃れる。

 そうか、ブラコンで独占欲も強いから私の『お兄さん』呼びに反応しちゃったんだね……。じゃあこれからお兄さんのことを呼ぶたびに楓さんに睨まれるってこと?? 流石にそれは怖いというか勘弁して欲しいんだけど、今更名前呼びをするのも恥ずかしいというか……う~ん。

 

 

「玄関先で騒ぐのは近所迷惑だから、とりあえず家に入れ」

「そ、そうですよね……。でも楓さんが……」

「大丈夫だ。あとから『一緒に風呂入ってやる』『夜一緒に寝てやる』『また一緒にデートしてやる』のどれかをぶらさげておけば勝手に機嫌が治る」

「そ、そんなことで……」

「もう~お兄ちゃんったら♪ それ全部やってくれなきゃ満足しないんだからね♪」

「うわぁ凄くデレてる……」

 

 

 チョロいというか何と言うか、出会って数分でこの人が更生しようのないブラコンだってことがよく分かる。神崎家の人たちは色が濃いと歩夢から薄っすらと聞かされていたけど、今それを思う存分に実感したよ。このまま家に入っちゃって本当に大丈夫かなぁ……。主に私たちの精神力が。

 

 そんな心配をしながら神崎家にお邪魔する。玄関先もそうだけど家の中も掃除が行き届いていてとても綺麗だ。面倒くさがりなお兄さんが掃除をやるとは思えないから、これは楓さんのおかげなのかな? ぶっちゃけさっきの楓さんを見てるだけだとただの変人でマメな人には見えないけど……。

 

 私と歩夢は靴を脱いで家に上がる。

 初めての男性の家に緊張しつつ、掃除が完璧にされた内装に目を奪われていたためか、背後から近寄ってくる1つの影に気付かなかった。

 

 気配を察した時はもう遅く、私と歩夢はその影の人に後ろから思いっきり抱き寄せられる。 

 

 

「いや~2人共もっふもふで気持ちいいねぇ~♪」

「わぁああっ!? な、なんですか一体!?」

「ちょっ、えっ、誰!?」

「あなたたちのぉ~未来のお姉さんだよ♪」

「いや俺の母さんだから。てか『お姉さん』じゃなくて『おばさん』だろ」

「「お母さん!?」」

 

 

 お姉さんって言ってたからこの人が噂の『秋葉さん』かと思ったら、まさかお兄さんのお母様だっただなんて……。顔は超絶美人で大学生と言われたら信じてしまうくらいで、それにノリが若々しくてとてもパワフル。私たちはこの人の腕から抜け出そうにも抜け出せず、曰く『もふもふ』されまくっている。でも不快を感じないあたりは流石母の温もりと言ったところか、暖かくてとてつもない母性を感じる。

 

 

「あ、あなたが零さんのお母様ですか!? は、初めまして、上原歩夢です!」

「零くんから聞いてるから知ってるよ! 神崎詩織です♪ あなたたちには藤峰(ふじみね)詩織の芸名を使った方が分かりやすいかな?」

「ふ、藤峰って、あの世界的大女優の藤見詩織さん!? えっ、お兄さんのお母さんって女優さんだったんですか!?」

「あぁ。いつもは海外にいるんだけど、最近は家に帰ってきてんだよ」

 

 

 藤峰詩織と言えば世界を股にかける大女優であり、スクールアイドルをやっている者であればその演技やパフォーマンス力を学ぶ一番の対象でもある。私も歩夢たちのマネージャーをするにあたってこの人の舞台や映画を動画で何度も見たんだけど、まさかこんなところで本人登場だなんて思ってもいなかったから開いた口が塞がらないよ……。ていうか有名人が近くにいても案外気付かないという話がネットでよく上がってるけど、それって本当だったんだね……。

 

 

「でも今日は妹さんとお姉さんしかいないって連絡があったような……」

「悪いな歩夢。お前らにサプライズもふもふしたいからって口止めされてたんだよ。約束を破ったら母さんと風呂に入らなきゃいけない上に、添い寝までしなきゃいけなくなる罰ゲームがあったからな」

「罰ゲームってひど~い! 私はただ息子と家族団欒したかっただけなのにぃ~!」

「いやお母さんの家族団欒はお兄ちゃんの貞操が危ないから!! 私が何度注意しても勝手に添い寝してるし、お兄ちゃんのお世話は私の役目なの!!」

「あっ、楓ちゃんいたの」

「いたよ!! ずっとお兄ちゃんの隣にいたよ!!」

 

 

 あれだけ存在感を放っていた楓さんを蔑ろにするなんて、詩織さんも相当大物だなぁ……。お兄さんも詩織さんに逆らえない雰囲気を出してるし、今私たちを抱きしめている強引なところも含めて神崎兄妹の母親だって思うよ。ていうかそろそろ離してくれないかな……。

 

 

「それにしても2人共可愛いなぁ~♪ このままウチの娘にならない? 零くんと添い遂げるまで待てないからね!」

「うっぷ! し、詩織さん苦しいです!! それに零さんのお嫁さんだなんてそんな……」

「今たっぷりと想像しちゃってるね? いいよいいよ如何にも思春期の乙女って感じで、抱き着いてる私まで若くなった気がするよ♪」

「わ、私は別にお兄さんのことなんて何とも……」

「そうかにゃ~? 零くんに時々目を向けているような気がするのは気のせいかぁ~?」

「そ、それは助けを求めようとしてるだけで他意はないです!!」

 

 

 詩織さんはまるで修学旅行の夜の恋バナのようなテンションで私と歩夢の心を揺さぶる。この慣れたからかい方は確実に女の子を弄ぶのに慣れてるよね。楓さんを一瞬でからかったように、私たちも今まさにその餌食となっている。詩織さんはにんまりと悪い笑顔で私たちを見つめるが、ここで顔を逸らすとこの人の意見を肯定してしまうようなもの。だからと言って世界の大女優を相手に見つめ合うのは目が焼ける。これって……詰み??

 

 

「お母さん、そろそろ離してあげたら? お母さんのもふもふは緊張を解すという意味では効果的だけど、初対面の子からしたら刺激が強すぎるからね」

「秋葉ちゃん!」

「お姉ちゃん、おはよう。起きたんだ」

「ふわぁ~おはよう……。そりゃこれだけドタバタされたら起きるって。昨日は夜遅くまで研究してたんだから寝かせてよ……」

「お前こそコイツらが来るのを知ってながら寝起きで現れるのはどうかと思うぞ……」

「いいじゃん別に、知らない仲じゃないんだし。ね、歩夢ちゃん、侑ちゃん」

「お、おはようございます、秋葉さん」

「秋葉さん、この人が……?」

 

 

 2階から誰かが現れたと思ったらまたしても美人さんだった。しかもこの人が噂に聞く秋葉さんか……。寝起きだというのに詩織さんに負けないくらい美貌が整っている。お兄さんによればこの人は『悪魔』らしいんだけど、雰囲気的には普通にいいお姉さんにしか見えないけどなぁ……。寝起きなのに何故か白衣だからファッションは難アリかもだけど。

 

 

「侑ちゃんはこうして会うのは初めてだね。知ってると思うけど、この子のお姉ちゃんの秋葉です!」

「は、はい! 歩夢からお話は聞いてます」

「つうか頭をポンポンすんな! この家の主は俺だぞ? だからもっと敬え」

「そうだねぇ~。美人の母と姉、可愛い妹に囲まれて最高の家族ハーレムだね~」

「それは流行らせてはいけないジャンルだろうが……」

「お母さんも仲間に入れてくれて嬉しいなぁ~♪ お礼にもっふもふしてあげるね♪」

「ちょっ!? やめろって!!」

「もうお母さんもお姉ちゃんもお兄ちゃんにくっつきすぎ!!」

 

 

「ふぅ~なんとか解放されたね……。でも零さん大変そう……」

「うん。まさか家の中まで女性に囲まれてるなんてね……」

「そうだね。家族だけど……」

 

 

 お兄さんは秋葉さん、詩織さん、楓さんに密着されて身動きが取れなくなっている。お兄さんは抵抗してるけど仲が良い……と言ってもいいんだよね一応。

 世界を股にかける大女優の母親、世界を牛耳る美人研究者の姉、超絶美少女で元スクールアイドルの妹。そんな女性たちに囲まれた毎日がどんなものなのか想像することもできない。それにお兄さん自身もイケメンで超スペック人間だから、家族ぐるみで異常者の集まりだ。そういえば以前に愛ちゃんが『神崎家の人たちはこの世の人たちの集まりではない』って言ってたけど、その理由がよく分かったよ。

 

 そういえば私たち玄関にいるんだよね。まだ家の中にも案内されていないのにここまで話が膨れ上がるなんて、やっぱり神崎家の人たちは濃すぎる。濃すぎて同じ空間にいるだけでも胸焼けしてしまいそうだ。これ帰れるのいつになるんだろう……。

 

 そんなこんなしている間にお兄さんが女性陣の拘束から抜け出す。

 

 

「ったく、客人の前でなんてことすんだお前ら……」

「お兄さんいつもこんなことをやってるんですか……?」

「主に母さんのせいだな。楓は母さんがいると今みたいにより積極的になるし、秋葉も無駄に悪ノリするから……。まともなのは俺だけだよ」

「「「「えっ?」」」」」

「えっ!?」

 

 

 お兄さん以外の女性陣全員から疑問の声が上がる。そしてそれに対してお兄さんは驚きの表情を見せているけど、まさか本当に自分がまともだと思っていたなんて……。私はお兄さんと出会ってまだ間もないけど、思い返してもこの人が正常な思考を持っていたことは一度もない。私がそうだから付き合いがそれなりの歩夢や家族の人たちは更にそう思うだろう。

 

 

「お兄ちゃんよく自分をまともとか言えたよね。女の子を何十人も侍らせて、次々と新しい子を引っ掛けて自分のモノにして粋ってる。これをヤバい人と言わずに何て言うの」

「それに家族である私たちですらこんなに虜にしちゃってね。私のことを散々悪魔だとか言って罵ってたのに、最終的には結局自分のモノにしちゃうんだから大物だよ」

「どうしてかは知らないけど、零くんが一番もふもふ度が高いんだよね~。お母さんもうメロメロになっちゃう♪」

「さて、家族にこれだけ言われてますけど弁解は?」

「誰が何と言おうが俺は認めない。そうだよな歩夢?」

「ふぇっ!? そ、それは……」

「そうだよな!?」

「ち、ちかっ……!? は、はぃ……」

「そういうところだよ、お兄ちゃん……」

 

 

 お兄さんは自分の味方がいないと分かると、歩夢を壁ドンで追い込んで無理矢理従わせる。

 うん、楓さんの言う通りそうやって女の子をすぐ手玉に取るようなことをするからヤバい人扱いされるんだよ……。

 

 

「つうか俺のことはどうでもいいんだよ。今日は歩夢と侑がお前らにスクールアイドルのこととか、マネジメントについて聞きに来たんだよ」

「そうなんです! 私たちまだスクールアイドルを結成したばかりなので、元μ'sの楓さんとμ'sの顧問だった秋葉さんに色々聞きたくて……」

「なんだそんなこと? だったらスクールアイドルの極意についてこの私が教えてあげる!」

「「お願いします!」」

「スクールアイドルに必要なのは――――お兄ちゃんへの愛だよ!!」

「「は、はい……??」」

 

 

 なんか私たちの考えていたこととは違う斜め上の回答が飛んできたんだけど……。もしかしてからかわれてる?? でも楓さんの目は本気だ。まだ出会って数分だけどこの人はお兄さんの話をする時だけ目がマジになるのは既に理解済み。ということはこれが本気のアドバイス……なの?

 

 

「お兄ちゃんのために歌い、お兄ちゃんのために踊り、お兄ちゃんのために可愛い衣装を着て、お兄ちゃんのためにライブをする。そうっ、自分が抱く愛を全てお兄ちゃんに向けてこそのスクールアイドル! 私がスクールアイドルをやってきた意義!」

「え、えぇ……。歩夢はこのアドバイスで大丈夫なの?」

「わ、分かる気がします!!」

「嘘!? あっ、でも歩夢たちは最初からそれが目的でスクールアイドルになったんだっけ……」

「うん。だから楓さんの言いたいことはよく分かるような気がして」

「一応忠告しておくけど、その考え方は一般的じゃないからね……」

 

 

 お兄さんの周りは偏った考えの持ち主が多すぎて、あたかもその人たちの意見が世論だと思い込まされてしまうから怖い。私もその世界に取り込まれつつあるけど、まだ染まっていないので最後の良心としてみんなが世界の外れ者になる事態だけは避けさせてあげないと。

 とは言っても、誰かのために頑張ることは間違いじゃない。楓さんや歩夢の場合はお兄さんへの愛が強すぎるところがあるけど、その意気込み事態は私が否定できるものではないからね。むしろ誰かへの愛だけでスクールアイドルに情熱を注げるならリスペクトするくらいだよ。

 

 

「お前らをここに連れてきて言うのもアレだけど、楓の発言をまともに受け取るなよ。コイツ、男性ファンが多いくせに男からのファンレターは全部焼却してるから。ファンサービスもあったもんじゃねぇよ……」

「だってお兄ちゃん以外の男なんて視界にも入れたくないしぃ~! それに私の中では他の男なんて存在そのものを消してるから、汚らわしい」

「こうやってアドバイスも偏ってるから、やっぱり穂乃果たちを連れてくるべきだったか……」

「スクールアイドルって清楚とか清純とか、そういうイメージがあったんですけど違うんですね……」

「あぁ~中々の妄想だなそれは。清楚か……懐かしい響きだ」

「お兄さんなんか遠い目になってますけど大丈夫ですか!? もしかして……」

「侑ちゃん!? どうして私を見るの!?」

 

 

 いや最近の歩夢の痴態を見ていると他人事とは思えないような気がして……。幼馴染が欲深い煩悩を持っているなんて最近まで知らなかったから、私もお兄さんの気持ちが分からなくもない。でもお兄さんは私の想像以上に女性たちの醜態を見ているみたい。μ'sもAqoursも清楚ってイメージがあるけど違ったりするのかな……?

 

 

「秋葉さんはμ'sの顧問だったんですよね? マネージャーをするにあたってのアドバイスをいただけると嬉しいんですけど……」

「フフッ、それを聞いちゃう? 秘訣と言えばそうだなぁ、みんなの自主性に任せていたってところかな」

「えっ、それって自分では何もやってないってことでは……?」

「そうとも言うね! でも私の目的はどちらかと言うと零君のサポートだったから。零君が穂乃果ちゃんたちとくっつくように同棲生活を提案してあげたりだとか、たまにキツく当たって心を調教してあげたりだとか、今の零君があるのは私のおかげだよ♪」

「そう考えるとお前との思い出っていい記憶が全くねぇな。ただ自分のやりたいように俺ばかりにかまけてたし」

「そりゃ私はこの世の人間の中で興味があるのは零君だけだからね! つまり自分の愛する者のために全力を注げってことだよ、侑ちゃん」

「は、はぁ……」

 

 

 これってアドバイスになってるのかな……? でも自分の好きなことに全力を注ぐのはせつ菜ちゃんと同じ考え方だから、マネージャーとしても大好きなみんなのために全力を出すのは当たり前のことかもしれない。もっと具体的なアドバイスを期待していたから最初は拍子抜けだったけど、意外と的を得ている意見だったから納得はした。それよりも『愛する者のため』と言った時に私とお兄さんの顔を交互に見ていた意味を知りたいけど、追及するとまた弄られそうだからやめよう。

 

 それにしても楓さんも秋葉さんも行動原理は全部お兄さんか……。もう家族愛を通り越して男女の関係みたいだけどどうなんだろう。近親愛にはあまり踏み込まない方がいいかもしれないけどね。

 

 

「じゃあ最後は私からのとっておきアドバイス!」

「母さんはいいだろ」

「なんでぇ!? こちとらドラマに映画に引っ張りだこに大女優なんだぞぉ!?」

「そういう時だけ肩書を誇示するのやめろよな……」

「私は詩織さんのお話も聞きたいです! お会いできたこの機会に是非!」

「さっすが歩夢ちゃんは分かってるねぇ~! ご褒美にもふもふしてあげるね♪」

「ふぇっ? ひゃぁあああっ!?」

 

 

 あぁ、また歩夢が詩織さんの魔の手に……。とは言っても不思議と包み込まれたいと思っちゃうくらい包容力がある。よく見ると歩夢も困った様子でもないし、もしかしたら私もあんな顔してたのかな?

 

 

「スクールアイドルとして上達するにはまずは仲間を知ること。それつまり、大好きな人と一夜を共にするってことだよ!」

「えぇっ!? 親睦の深め合い方が濃すぎませんか!?」

「ということで、今日はみんなお泊りね! なんなら他のみんなも用事が終わったら呼んでいいよ!」

「えっ、それって私も……??」

「もちろん! 歩夢ちゃんも侑ちゃんも今夜は寝かさないよ~♪ はい、ぎゅ~っ!」

「ひゃぁ!? ま、また!? お、お兄さん……!!」

「母さんがこうなったらもう手が付けられない。諦めろ」

「ちょっと!! ここは私とお兄ちゃんの愛の巣なんだよ!? ただでさえお姉ちゃんとお母さんっていう邪魔者がいるのに、他の雌を泊めるなんて……!!」

「いいじゃん楽しいし。お姉ちゃんもたまには楓ちゃんを可愛がってあげるよ♪」

「ノーセンキュー!!」

 

 

 こんな感じで終始混沌とした状況が続き、なし崩し的に私たちは神崎家に泊まることになった。この家に足を踏み入れた時からこの家の人たちに押されっぱなしなのに、一夜を共にするってなったら私たちどうなっちゃうんだろう……?

 

 今日一日で神崎家の恐ろしさを知った私たちだった……。

 




 神崎家の女性陣は本当にキャラが濃く、出演するたびに原作キャラを食ってしまいそうです(笑) それでも私はそんな彼女たちが大好きなので、今回出演させてあげられてよかったです。
オリキャラであってもこの小説のシリーズは6年間も続いていることから、もうラブライブのキャラとして溶け込んでいる感はありますね(笑) それだけ読者さんにも愛されているのはこれまでの反応から分かっているので、私も臆せず出演させやすいというのもあります。


 しかし虹ヶ咲編は過去作キャラやオリキャラを出さないスタンスですから、次の登場はいつになるやら……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

かすみん・オブ・ザ・リベンジ

 R-17.9ネタを要望する声が多かったので、それに準ずるネタをご提供。


「急に雨降ってきやがったな……」

 

 

 ちょっとした用事の帰り、突然のにわか雨に襲われる。昼間は雲1つない青天だったのに夕方になったらこれだよ。楓に傘を持っていけと言われなかったら用事先で立ち往生していただろう。いるんだよな、天気の勘が優れている奴。俺の勘は精々女の子が卑猥な妄想をしているかどうかを察知することくらいしか役に立たないってのに。

 

 そんな風に勝手にやさぐれながら歩いていると、道沿いのアクセサリ店の前に美少女が佇んでいるのを発見する。どうやら傘を忘れて困っているらしいので、ここはカッコよく傘を貸して関係に唾を付けておくか――――って、アイツは……?

 

 

「かすみ?」

「あっ、零さん!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「いやぁ~傘を忘れちゃったので零さんが通りかかってくれて助かりましたよ!」

「それはいいとしても、どうして相合傘で帰る必要があるんだよ……。そこらへんのコンビニでビニール傘を買えばいいだろ」

「ビニール傘なんてこの美少女かすみんには似合いません! こうしてカッコいい男性と一緒に1つの傘で歩くのが一番お似合いですから♪」

「俺がたまたま通りかかったから言えたセリフだろそれ。都合のいい奴だな……」

 

 

 案の定と言うべきか、かすみが半ば強引に傘に入ってきやがった。最初は傘を買える適当な場所までにしてやろうと思ってたのだが、さっきのような理由を振りかざして俺から離れようとしない。これが別の誰かだったら家まで送り届けてやるんだけどな。なんかかすみのウザったい声を聞くとイジメたくなっちゃうんだよ。これもサディストゆえの性ってやつか。

 

 

「やいのやいの言いながら、かすみんが濡れないようにしっかり傘の中に入れてくれているじゃないですかぁ? 零さんの肩、濡れてますよぉ? 自分の身を犠牲にして女の子を気遣うその姿勢、かすみん大好きです♪」

「どうして上から目線……? それにあまり俺を煽ると自分の身が危ないと思え。雨に濡れるだけでは済まなくなるぞ」

「雨じゃなくて、かすみんのどこが濡れちゃうんでしょうかねぇ~♪」

「お前それ以上言ったら本気で襲うぞ……」

 

 

 まだ高校一年生のくせに盛った言葉を使いやがって。俺が大人だったからまだ耐えられたけど、思春期時代の俺だったらそれをGOサインと見なして押し倒していたところだ。あの頃は公園でも学校でも人がいるところでも構わず性欲を発散させていたから、高校時代の俺だったらかすみは手も足も出ずにぽっこりお腹ルートだっただろう。今そうなっていないことを感謝して欲しいもんだ。

 

 

「今日は用事で疲れたから早く帰りたいんだよ俺は。お前を傘に入れたのはついでだ」

「相変わらず素直じゃないですね。ツンデレさん♪」

「あのなぁ……」

 

 

 そんな感じでかすみと軽いレスバトルをしている最中だった。俺たちの向かいから車がやって来てそのまますれ違う。そして車の通り道に水溜まりがあったのが運の尽きで――――

 

 

「うわぁ!? お、おいマジかよ……」

「あっ、もしかしてぶっ掛けられちゃいました?」

「言い方!! まあ、かなりな……」

「かすみんは零さんが盾になってくれたおかげで助かりましたけど、その代わり零さんがびしょびしょに……。これはもうウチに来るしかないですよね??」

「ぐっ……」

 

 

 俺の家はここから遠い。今日の気温の低さも相まって濡れたまま歩いていたら確実に体調を崩すだろう。かすみはそれを察してか目を光らせて俺を誘う。

 コイツの言いなりになるのは気に食わないけど、緊急事態だし仕方ないか……。

 

 

「今日ウチ、両親居ないんですよ♪」

「意味深なセリフを言わなくてもよろしい」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「服を乾燥機にかけましたから、あと2時間くらいで渇くと思います」

「あぁ、悪いな」

「いえいえ! かすみんとしては零さんがウチに来てくれただけでもお礼をしたいくらいなので!」

 

 

 誘われるがままにかすみの家にお邪魔し、今彼女の部屋で服が渇くのを待っている状況だ。代わりの服はかすみの父親のものを借りている。

 コイツの部屋、可愛いものに囲まれていて目がちかちかするな……。ぬいぐるみや絨毯、壁紙はもちろん、鏡やテーブル、ベッドといった家具までキラキラとした装飾が付いているからだろう。可愛いもの好きなのは知っていたが男がこの空間にいるのはいささか場違い感がある。部屋の雰囲気は子供のおもちゃ箱の世界のような、そういった感覚だ。

 

 

「かすみんも少し服濡れちゃったので着替えちゃいますね! よいしょっと」

「おい、ここで脱ぐな……」

「えぇ~本当はかすみんのスレンダーボディを見たいくせにぃ~」

「スレンダーってのは背が高くてモデル体型の女性のことを言うんだ。ちんちくりんで幼児体型のお前が使っていい言葉じゃねぇよ」

「あぁ~言いましたね~!! あとからかすみんのカラダにドキドキしても触らせてあげませんから!!」

 

 

 かすみは頬を膨らませてぷいっと顔を背ける。つうか俺に触って欲しいのかよコイツ……。以前シャワールームでばったり出くわした時は恥じらいを持っていた気がするが、あれは突然だったから驚いていただけでそういやコイツはこんな性格だったな。自分の身体が貧相だって分かってるのにここまで俺を誘惑できるのはすげぇよ。まあ一部界隈には需要のあるボディだから気にすることでもないと思うが……。

 

 

「こうなったら今ここで脱いでかすみんのカラダを分からせてあげますよ! あとからメロメロになってもおさわり禁止ですからね??」

「だから脱ぐなって!? そもそも一般常識としてだな……」

「零さんが常識を語るなんて片腹大激痛ですよ! ほらほら、このスカートを脱げば生パンが――――あれ?」

「ん……? なんだこの声?」

 

 

『かすみちゃーーん! いないのーー?』

 

 

「この声は……侑!?」

「あっ、そういえば今日は侑先輩と打ち合わせをする日でした」

「なに!?」

 

 

 マズい。このままでは半脱ぎのかすみと俺が一緒の部屋にいるところをアイツに目撃されてしまう。もちろん俺は何もしておらず全てはコイツが勝手にしていることなのだが、侑がこの状況を見たらどうなるかはお察しのこと。有無を言わさず俺に矛先を向け説教を始めるだろう。この前アイツの下着を見てしまって思いっきりビンタされてしまったから、その尾を引いて俺をどやしてくるのは確実。そうなったら確実に――――死刑!!

 

 

「おい、とりあえず服を着ろ! このままだと半脱ぎの姿を見られるぞ!」

「侑せんぱーーいっ! 2階の私の部屋にいるので上がってきてくださーーいっ!」

「ちょっ!? どうして呼ぶんだ!?」

「さぁ~てどうしましょう零さん? このままだと侑先輩はこう思うでしょうねぇ~。零さんがかすみんを脱がしたと。最近の侑先輩は零さんに厳しいですからねぇ~♪」

「お前って奴は……!!」

 

 

 かすみは殴りたくなるほどニヤニヤしながら俺を煽る。コイツ、侑がこの部屋に入ってもなお服を着ないつもりだ。相変わらずズル賢いことに関してだけは頭の回る奴で、俺がどうすれば窮地に陥るかも完全に熟知している。いい性格してるよホントに……。

 

 感心している場合ではない。侑が階段を上がってくる音が聞こえる。俺の手でかすみをどうにかする時間はないのでもうどこかに隠れるしかない。目に付いたのはクローゼットだが、コイツは服とか大量に持っていそうだから隠れるスペースはなさそうだ。あと隠れられそうな場所と言ったら――――!!

 

 

 

 

 そして、部屋のドアが開く。

 

 

 

 

「かすみちゃんお邪魔します――――って、あれ? 寝てるの?」

「はい! ちょっと暖まりたいなぁと思いまして!」

 

 

 なんとか隠れることには成功した。かすみのベッドに潜り込み、掛布団を被る形で己の存在を消す。

 だが想定外だったのは、なんてかすみまでベッドに入ってきたことだ。コイツは顔だけを出していて俺は全身が布団で隠れている形なのだが、そうなると当然コイツの半脱ぎの身体が俺の眼前に……!! くそっ、ちんちくりんのくせに半脱ぎのせいかちょっとエロく見えるのがもどかしい!!

 

 

「どうしたの? 寒いの?」

「実は突然雨に降られて濡れちゃいまして……」

「あぁ~急に降ってきたたもんね~」

 

 

 ベッドの外でかすみと侑が普通に世間話をしている。どうやら侑は俺の存在に気付いていないみたいなので、このままやり過ごせばアイツとのエンカウントを回避できる。女の子の怒りの雷にここまでビビるのは恐らく海未に何度も落とされたトラウマがあるからだろう。相手は年下だってのに情けねぇな俺……。

 

 

「そういえばまだ濡れた服を着ていたので、ちょっと脱ぎますね」

「こ、ここで?? まあ早く着替えた方がいいとは思うけど……」

 

 

 えっ!? 何してんのコイツ!?

 いきなり脱ぐ発言をしたと思ったら、目の前で生脱衣が行われ始めた。かすみは器用に服のボタンを外し、スカートのジッパーを降ろす。半脱ぎになっていたのが4分の3脱ぎくらいになり、彼女の肌がほぼほぼ露出した。当然俺の眼前で発生している行為であり、下手に動くと侑に見つかる可能性があるため止めることができず、その光景をまじまじと見つめるしかない。布団の中でのストリップショー、とてつもない背徳を感じるぞ……!!

 

 かすみは服を脱ぐ手を止めない。俺は唾を飲み込みその動作を凝視していると、かすみが布団を少し上げてこちらに顔を覗き込ませてきた。

 そして侑に聞こえないくらいの小声で話しかけてくる。

 

 

「気分はどうですかぁ~零さん♪」

「どうですかじゃねぇよ! お前何考えてんだ!?」

「あれあれ~? そんな態度でいいんですか~? かすみんがここで布団を上げたら侑先輩に何をされちゃうか分かりませんよぉ~?」

「お前なぁ……」

「かすみんを子供扱いした罰ですよ! しばらくそこでかすみんのカラダに悶絶していてくださいね♪」

「お、おい……!!」

 

 

 とびきりの笑顔で恐ろしい罰を実行しやがって……。

 かすみは顔を布団の外に出すと、脱ぎかけの服に手をかけてストリップショーを再開した。上着とシャツ、そしてスカートを順番に脱いでいき、そして、とうとう、下着だけの女の子が目の前に顕現する。白い肌に白い下着、相手が例えロリっ子体型であったとしても目の前でずっとこれを見せられるのは男の性欲的に辛い……!!

 

 

「侑先輩、はいこれ脱いだ服です。そこのハンガーにかけてもらってもいいですか?」

「うん。クローゼットから適当に上着を持ってきたけど、これでいい?」

「ありがとうございます! でももうちょっとこのままでいます。なんか下着のまま布団に包まってると、肌が直接暖められて気持ちいいんですよ~♪」

「そうかもしれないけど、変態さんっぽい格好をするのはどうも……」

「でもこの格好、零さん絶対に喜びますよ!」

「う゛ッ!? この前お兄さんに下着を見られたトラウマが……。もし今度私の、いや他の誰のでも下着を覗くようなことがあったらビンタよりも恐ろしい目に合わせてやるぅ……!!」

 

 

 相当前のことを根に持ってんな……。俺に地獄を見せる気満々じゃねぇかこえぇよ……。

 もはやμ'sの連中のレベルになると下着を俺に見られるなんて日常茶飯事の出来事なので、怒られはするものの許してくれることが多い。だから俺自身も感覚が麻痺していた。そりゃ異性に下着を見られるのは恥ずかしいよな普通。もはや俺の世界が異常すぎて一般的な恥じらいとは何なのかを忘れてしまっていた。

 

 そうやって目の前の女体と侑の恐怖に苛まれていると、突然かすみが身体を動かす。俺に密着するくらいに幅を詰めると、何やら両脚を広げて俺の手を――――――ぎゅっと挟んだ。

 

 

「え゛っ……!?」

 

 

 布団の中で声を上げそうになったが何とか押し黙る。

 俺の手は今かすみの脚、いや太ももに挟まれている。おっぱい、二の腕、ふくらはぎetc……女の子には柔らかい部位がいくつかあるが、その中でも太ももは肉付きも良くトップクラスで柔らかい。しかも太ももをすりすりと動かして俺の手を摩擦してきやがるから余計にタチが悪い。完全にコイツに主導権を握られているものの気持ちいいと思ってしまう情けない自分。そして太ももを動かされて手に感触が伝わってくるたびに声が出そうだ……。

 

 くそっ、揉みしだきたい! コイツが淫猥な声を上げるくらいに力強く!! でもコイツの作戦に乗ったら負けな気がする……!!

 

 かすみは顔に布団を半分だけかけ、つまり口だけを布団の中に入れて俺に話しかける。

 

 

「どうですか? 気持ちいいですか?」

「そりゃそうだろ……。お前どうしてこんなことを……」

「性欲が我慢できなくなってかすみんを襲っちゃったら、その時はもう言い訳できませんね♪ ほら、すぐそばに侑先輩がいますし!」

「なんの拷問だよこれ……」

 

 

 俺が少しでも性欲を解放させれば侑に見つかる可能性が高くなる。かすみはそれを狙って自ら仕掛けてきたのだろう。目の前に食べごろの太ももがあるのに声も手も満足に動かせないのは地獄すぎる。俺の中では侑に制裁されたくないという真面目な心と、下着姿の女の身体を弄り回したいという邪な心がせめぎ合っていた。

 

 

「そういえば侑先輩は零さんのことをどう思っているんですか?」

「な、なに藪から棒に……?」

「侑先輩と零さんって最近出会ったばかりじゃないですか? それでも一緒にいる機会が多いのでどうなのかなぁ~っと」

「ど、どうって、スクールアイドルのお手伝いとして学ぶことはたくさんあるよ。でもエッチなことだけは慎んで欲しいかな。ほら、私もみんなもまだ高校生でしょ? そういうのはまだ早いと思うんだよね」

「侑先輩って意外と純情なんですねぇ~。今の女子高校生は色々進んでるんですよ? そんなピュアな考えを持ってるから先輩は処女なんです」

「しょ、処女……って、それはかすみちゃんもでしょ!?」

「かすみんはまだ高校一年生ですから! 歳の差ですよ先輩♪」

「1つしか変わらないじゃん!!」

 

 

 なんの話をしているんだコイツらは……。

 でも処女か、いい響きだよな……って、まるで俺が処女厨みたいじゃねぇかそれはない。俺は女の子と心と心が通じ合っていれば別に……。まあ自分が初めての男になるのは征服感があって俺は好きだけどな、俺は。そして侑は処女らしい。この確認に意図はないぞ。いや本当に。

 

 そんな濫りがわしいことを考えていると、また布団の中で動きがあった。

 またかすみが太ももを動かしているのだが、さっきまで摩擦運動とは違う。今度は俺の手をどこかに誘導しようとしており、その先はコイツの――――パンツ!? 彼女の太ももに挟まれた俺の手はコイツの股に誘導されている。

 

 もう間もなく俺の手が股に触れて――――って!? 割れてる!! 何がとは言わないけど裂け目が見える!! パンツにその形が浮き彫りになってやがる!! 何がとは言わないけど!!

 マジかよ……。このままだと俺の手が、指がこの裂け目に食い込んでしまう。しかしかすみはそれを狙っているのでこれは合法……だよな?

 でも触れたら最後俺もかすみも声を我慢できないだろう。そうなればもちろん侑に存在を気付かれてしまう可能性があるわけで……。でも男の性として触れたいという大いなる欲求もある。だって中須かすみだぞ? 小悪魔系美少女の股に触れられるなんて富豪がいくら大金を積んでも叶わない願いだ。だけど俺の場合は今まさに向こうから誘ってくれているのだ。据え膳食わぬは男の恥という言葉に従うべきかこれ……??

 

 

 そして――――――

 

 

「ひゃんっ♪」

「えっ!? どうしたの変な声出して!?」

「ちょっとお股に布団が擦れていい感じの刺激が……♪」

「えぇ……」

 

 

 俺の手は現在かすみの太ももから解放されている。だがさっき一瞬味わった感触はまさに……いや、これ以上言うのはやめておこう。この感触は俺の中だけに残し続けておくことにする。

 ちなみに案の定かすみは声上げたが、あまりにも変態的な言い訳をして侑の追求から逃れる。敢えて欲情丸出しの言い訳をすることで侑を呆れさせ、そのままこの話題をお流れにする作戦だろう。布団の中にいるのでアイツの表情は見えないが、顔を引きつらせてドン引きしてんだろうな……。

 

 そしてかすみはまた布団を顔の半分までかけ、口だけを布団の中に入れて俺に話しかける。

 

 

「どうでした? 性欲、滾っちゃいました? 襲いたくなっちゃいました?? あ~あ、かすみんももうすぐ非処女ですかねぇ~♪ 処女っていうのは女の子にとってステータスなんですけど、零さんに奪われたレッテルもそれはそれでステータスですよね?」

「知らねぇよ……。つうかこれ以上はやめろ、絶対に見つかるぞ……!!」

「別にかすみんは見つかってもいいんですけどねぇ~。それに布団の中で零さんを弄ぶのは楽しいですし♪ ま、かすみんを子供と罵った罪をそこで反省をするといいです」

「お前なぁ……」

 

 

 かすみはしてやったり顔だ。悪戯好きのコイツだが普段はその策が上手く行くことは少なく、大抵ツケが跳ね返ってきて自分がオチになることが多い。なので今回は己の作戦が上手くハマって上機嫌なのだろう。

 

 そしてしばらくかすみと侑は他愛もない会話を続け、幾分か時が経った。その間も俺は彼女のパンツを目の前にずっと布団に引き籠っていた。布団の暖かさと興奮の熱でおかしくなっちまいそうだ……。

 

 

「とりあえず、今日はもう帰るよ。かすみちゃんあまり体調良くなさそうだし、打ち合わせならテレビ会議でもできるしね」

「すみません先輩。わざわざ来てくれたのに……」

「うぅん、いいのいいの。かすみちゃんの体調が良くなったらまた来るよ」

「ありがとうございます! それじゃあまた!」

「うん、じゃあね」

 

 

 俺にとって好機が訪れた。侑が部屋を出て、念のため少し時間を置いてから俺は布団を捲ってベッドから脱出する。

 もちろんだが、かすみは今も下着姿だ。上下真っ白の下着はコイツの肌の白さを相まって似合っており、そんな奴にさっきまで誘惑されていたと思うと興奮が湧き上がる。確かに身体は幼児体型のちんちくりんだが、見た目だけは美少女も美少女、上の上だ。やはり外見が良ければどんな体型であってもそれだけで性欲を掻き立てられる。ロリっ子が大人びた妖艶さを醸し出しているのは何とも背徳的だな。

 

 

「もうっ、そんなにジロジロ見ないでください恥ずかしいです♪」

「なにを急にしおらしくなってんだ。さっきまで散々俺を弄んでたくせに、俺が自由になったらどうなるか想像くらいできただろ。このやろっ!」

「きゃっ!? もうっ、乱暴ですねぇ……♪」

 

 

 俺はかすみをベッドに押し倒す。男女の力の差を見せつけるかのように強引に。

 だってさ、そりゃ性欲も滾るだろ?? ベッドの中で下着姿の女の子と一緒にいて、しかもあんなところまで触らせてくるんだから誘っているとしか思えない。だからこれは合法なんだ。よく考えれば相思相愛なんだから俺がコイツを襲っても誰に何も言われる筋合いはない。全ては男の欲求を最大限まで刺激して理性を崩壊させてきたコイツが悪いんだから。

 

 するとかすみは何故かベッドの上で四つん這いとなり俺におしりを向ける。てっきり抵抗してくると思ったから力尽くで抑え込んでやろうとしていたので、突拍子もない行動に一瞬怯んでしまう。

 それにしてもおしりもいい色、いい形だ。小ぶりなのがこれまた俺の手に馴染みそうで、今にもパンツを剥ぎ取りたくなる衝動に駆られる。

 

 

「そんなに触りたいなら好きにしていいですよ。今日はかすみんの負けです。侑先輩に見つからなかったご褒美、あげちゃいます♪」

「俺から押し倒しておいてアレだが、いいのか?」

「もちろん。むしろ零さんがお相手なら本望ですから。さぁ早く、かすみんの大きな桃と小さな桃を召し上がってください♪」

「桃って、それって何も生えてないって――――」

「おっと、それ以上は実際に確かめてみてください。そもそもかすみんのカラダは最初から零さんのものですよ♪」

「そ、そうか……」

 

 

 本人から許可が出た。そうだよ、かすみも虹ヶ咲の他の奴らもみんな俺のモノなんだ。そのカラダを好きにしていいのも俺だけだ。そう思うとただならぬ支配欲が煮えたぎる。もう俺を止めるものは何もない。そもそも止める権利すらない。この時の俺は既に性欲に従順になっていた。

 

 俺はかすみのパンツに指をかける。少し降ろすと大きな桃の切れ目がひょっこり現れ俺の目と欲情を刺激する。このまま降ろせば大きな桃はもちろん、小さな桃も全てが露わに――――!!

 

 

 

 

 その時だった。部屋のドアが開いたのは――――

 

 

 

 

「ゆ、侑!?」

「先輩!?」

 

 

 現れたのは侑だった。俺もかすみも思わず目を丸くする。普通にあのまま帰っていたと思っていたし、戻ってくるもしかしての可能性を考慮して敢えて布団から飛び出るタイミングも遅らせていたのにどうしてこうなった!?

 

 

「家から出ようとした時にふと違和感に気付いたんですよ。かすみちゃんがエッチな話題を出すのはお兄さん絡みの時だけ。かすみちゃんは小柄なのに布団がやけに盛り上がっていた。そしてなにより――――玄関の靴、隠し忘れてますよ」

「す、すげぇ推理力だ。将来は探偵になることを勧めるぞ……って、落ち着け……な??」

「お兄さん!! またあなたって人は――――!!」

「い、いやこれは誤解じゃないけど誤解なんだって!!」

 

 

 そんなわけであと一歩のところで侑に見つかりいつも通りお説教された。とは言っても事の発端はかすみが仕掛けたことなので、説明したらそれなりに分かってくれて助かった。侑の好感度も今回はあまり落ちずに済んだ……でいいのか? でも俺だけ怒られてかすみだけお咎めなしは中々に理不尽な気もするが……。

 

 

 でも最後、あと1秒でもあれば……うん、惜しかったなぁ……。

 

 

 そして俺が侑にどやされている間、かすみは――――

 

 

「今日はお預けかぁ……。でもいつかきっと、今回以上に獣にして襲わせてみせますから♪」

 

 

 なにやら恐ろしいことを考えていた……。

 

 




 何気にかすかすのイタズラが大成功した稀な例になるかもしれません(笑)
 そういえば彼女、先日誕生日だったらしいですね。別に狙ってかすみメイン回を投稿したわけではありませんが、とりあえずおめでとうということで。しかしこんなエッチな話で祝われても嬉しくなさそう……



 ここから宣伝↓
 以前も告知しましたが、大勢のハーメルン作家さんが集まるラブライブの企画小説が2月より開始されます。
 数年前にラブライブ小説を書いていたけど今は引退してしまった方も多く参加しているため、昔から読んでいた方にとっては懐かしい人がいるかもしれません。企画小説が投稿された際は是非ご覧ください!

 また、企画に参加したいという方がいらっしゃいましたら、私のTwitterかハーメルンのメッセージでお声がけください。募集期間は終わりましたが、飛び込み参加は全然OKです!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハーレム王はデートも多難

 これが零君の日常。羨ましいと思うのか大変だと思うのか……


 俺クラスになると女の子とのデートなんて幾度となく経験しているが、一度たりとも飽きたことはない。それはもちろん相手が変わればデートの内容も大きく異なり、遊園地や水族館といった定番スポットから、ショッピングモールで買い物や食べ歩き、中には自宅デートと毎回多種多様なシチュエーションで俺を楽しませてくれるからだろう。俺は元々遊び歩くのが趣味ではないのだが、度重なるデート経験で女の子が好きそうな場所は大体把握しているデートマスターとなっている。なんかもう女性向けのレンタル彼氏として小遣いを稼げそうだな……。

 

 そんなことを考えながら俺の向かう先はデートの待ち合わせ場所だ。人が大勢集まる噴水広場なので目的の人物が見つかるか怪しかったが、先に向こうが俺に気付いたようで、手を振りながらこちらに駆け寄ってくる。

 

 

「こんにちは、零さん!」

「あぁ。待たせて悪かったな、しずく」

「いえいえ! 零さんとの2人きりのお出かけが楽しみで、ずっとドキドキして待ってたら時間なんてあっという間でした!」

「そこまで喜んでくれるのなら来た甲斐があるよ。で? 今日はどこに行くんだ?」

「こっちです!」

「お、おい!」

 

 

 しずくは俺の手を握って嬉しそうに走り出す。急ぐようなデートじゃないってのにここまで舞い舞い上がっちゃって、コイツの心が行動にまで現れているようだ。いつもは女の子を先導する立場の俺だが、今日はしずくに全てを任せてみよう。たまには女の子に手解きされるのも一興だろ? いやエロい意味じゃなくて……。

 

 しばらくして、しずくの誘導でとある喫茶店の前に到着する。見たところ若者カップルが多く、如何にもデートスポットって感じだ。テラス席にはカップルたちがお互いにスイーツを食べさせ合っており、ラブラブとした桃色の雰囲気が漂っている。正直に言ってしまうと露骨に甘々とした雰囲気は好みではないのだが、彼女がここをご所望とあれば俺も勇気をもってこの空間に踏み入ってやろう。

 

 店に入ると、めちゃくちゃ美人な女性店員が俺たちを出迎えてくれた。名札には『綾小路』と書かれており、大和撫子の言葉がピッタリの高校生くらいの子だ。

 

 

「いらっしゃいませ! お二人ですか?」

「はい」

「現在カップルキャンペーンを開催しておりまして、カップルでご来店いただいた方はお食事からお飲み物まで全品半額になります。お二人はカップル……みたいですね♪」

「お、俺たちは――――」

「はい、そうです♪」

「え゛っ……!?」

 

 

 店員に勘違いをされたから否定しようと思ったら、しずくは満面の笑みで堂々と嘘をつきやがった。何故勘違いされたのかは明白で、俺たちは出会ってからずっと手を繋いだままだったからだ。しかもいつの間にかお互いの指と指を絡め合う恋人繋ぎになっており、そんな様子を見たら誰でも勘違いするだろう。

 てかしずくの奴、手を握る力が強くなってねぇか?? 決して俺を離さないという意思表示か、流石ヤンデレ属性を持っているだけのことはあるな……。

 

 それよりもコイツ、最初からこれを狙ってたのか。何の躊躇いもなく清々しい顔でのカップル偽装はやはりコイツの演技力があってこそだろう。案の定店員にカップルと思い込ませることに成功している。

 そんなこんなで疑似恋人同士になった俺たちはカップル席へと案内された。

 

 

「ここ、前にかすみさんと璃奈さんと3人で来たことがあるんですよ。その時に食べたケーキがとても美味しくて、零さんとも一緒に食べたくてまた来ちゃいました!」

「女の子って甘いモノ好きだよな。スクールアイドルをやってんだからカロリーは気にしろよ」

「う゛っ……。でも今日は特別です! 筋トレをしている人にもあるじゃないですか、チートデイって食事制限をせずたくさん食べていい日が。それと同じです!」

「お前のことだから心配はしてないけどさ……。で、どのケーキなんだ?」

「これです!」

「これって――――え゛っ、7段重ねのパンケーキ!? 食ったのか? これを3人で??」

「はい♪」

 

 

 メニューの写真からでも伝わってくるこの迫力。虹色7色のホットケーキの間に生クリームとイチゴが挟み込まれる形で積み重なっており、もう見ているだけで胸焼けしてしまいそうだ。女の子は甘いものは別腹とよく言うが、身体の小さい1年生組がこれを完食できたことに驚きだよ……。

 

 正直食べきれる自信は全くないのだが、しずくが俺とこの店へ来るのを楽しみにしてくれていた以上ここで引くのは申し訳ない。だから覚悟を決めるしかないか。

 しずくは7段重ねのパンケーキを注文する。そしてしばらく他愛もない世間話をした後、程よくして例のケーキが運ばれてきた。大きさが大きさなのでそこそこ立派なワゴンに乗って……。

 

 さっき俺たちを出迎えてくれた店員がケーキをテーブルに置く。

 実物を目の前で見てみるとメニューで見るよりも数倍も圧巻で、しずくと向かい合って座っているはずなのに相手の顔が見えなくなるくらいだ。それでいて見た目も派手で、如何にもSNS映えしそう、ていうかそれ目的で作られているのが分かる。確かにかすみとか好きそうだなこういうの……。

 

 どこから手を付けようかと迷っている最中、何故か俺たちのテーブルから離れない店員。見てみるとハンディカメラを抱えており、俺たちを撮影しようとしていた。

 

 

「えぇっと、どうして撮ってるんだ……?」

「どうしてって、カップルキャンペーンのために決まってるじゃないですか♪ 全品半額の特典を適用するには、カップルらしくスイーツを食べさせ合っている様子をビデオ撮影すること。これが条件です!」

「はぁ!? 聞いてないぞそんなこと!」

「いやこのキャンペーンは有名も有名なので、それを承知で来られたのかと。それに彼女さんはもう待ってますよ♪」

「えっ……?」

 

 

 しずくの様子を見てみると、頬を赤く染めながら口を半開きにしている。もう俺に食べさせてもらう気満々で、店員の煽りもあってかやらなければならない雰囲気が形成されていた。カメラは既に回っているみたいだから、もはや逃げ道はないか……。それにしずくがこれを楽しみに俺をここに連れて来たのだから、男らしく応えてやるのが責任ってものだろう。仕方がない。

 

 俺はテーブルの向かいに人に食べさせてあげる用の長いスプーンを手に取り、タワーケーキが崩れないように注意しながらクリームを1口サイズすくう。

 そしてしずくの小さな口にスプーンをゆっくりと入れ込む。しずくはケーキをパクっと咥えると、あまりに美味しかったのか直後に幸せそうな表情を向けた。

 

 

「いい『あ~ん』でした! とても初々しくてこれ以上にないってくらいいいPVになりそうです!」

「ケーキの美味しさももちろんですけど、零さんに食べさせていただいたことが嬉しくて、より美味しく感じちゃいます♪」

「いい笑顔ですね! ラブラブカップル過ぎて嫉妬しちゃいそうです」

「ラブラブねぇ……」

「はいっ! 最近付き合い始めたばかりなので零さん緊張しちゃってるんですよ」

「まぁ! 彼氏さんも可愛いですね♪」

「なにこの羞恥プレイ……」

 

 

 たかがケーキを一口食べさせただけでこの盛り上がりよう。店員さんも俺たちと同年代くらいなので、やっぱ若い女の子ってこの手の話題が好きなんだな。俺は女の子付き合いに慣れ過ぎているせいか、今更こんなことではテンションは上がらないのでこの場に置いてけぼりにされている。そもそもの話、俺たちカップルじゃねぇんだよなぁ……。しずくの演技が完璧すぎてバレてないけど。

 

 

「それでは愛の告白タイムと行きましょう! 彼氏さんから彼女さんへの熱い告白を見せてください! ここで見せつけたラブラブ度によって、お食事のお値段が半額以上になりますよ! やりますか?」

「いや、やらな――――」

「やります!!」

「はぁ!?」

 

 

 告白するの俺なんだけどどうして勝手に決めてんのコイツ!? しずくは目を輝かせて店員の策略に乗りやがった。店員も引っかかったと言わんばかりの黒い笑顔をしている。完全にコイツに遊ばれてるだろ俺たち……。

 

 

「それでは彼氏さん、告白をどうぞ!」

 

 

 カメラを回しながら俺を煽る店員と、期待を込めた眼差しで俺を見つめるしずく。場の雰囲気が告白ムードになっているせいか到底回避できる状況ではない。ここはもう腹を括るしかないか……。

 俺は大きく深呼吸をして、しずくと目を合わせた。

 

 

「好きだよ、しずく……」

「ッ!?!? は、はいっ! 私も大好きです!!」

 

 

 とびきりの笑顔。とんだ羞恥プレイだったけど、この笑顔が見られたことだけは満足していいかもしれない。

 

 

「お互いに初々しさが堪りませんね! いいラブラブ度を見せてもらったので、お値段全品4分の1になります♪」

「わぁ~! これで今日はたくさん食べられますね、零さん!」

「いやこのタワーだけで腹いっぱいだろ。ていうかこれを食いきれるかも分かんねぇし……」

 

 

 幾度とない羞恥プレイを受けながらも何とか全ての試練を乗り越えた俺。最終的にカップルだとバレなかっただけでも御の字と言ったところか。しずくの演技の良さと俺が微妙にやる気のなさを出して緊張したと思わせられたおかげか、出来立てほやほやカップルだと思われたみたいだしな。

 

 その後はしずくのハイテンションに何とか付き合いながらも、命からがらタワーケーキを完食した。女の子とのデートは大歓迎なんだけど、しばらく甘いモノは勘弁して欲しいよ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 しずくの一件から間もなく、またしてもデートの予定が入った。連日デートは女の子の知り合いが多いので別に稀なことではなく、むしろ日常茶飯事だったりする。もちろん誘われたから渋々とかでもなく、俺はデートの関してはいつも前向きだ。たくさんの女の子と付き合っているだけあって個々人との時間をあまり作れないこともあるから、必然的に1on1になれるいい機会だと思ってるよ。

 

 ちなみに今日のお相手は――――

 

 

「零さん、こっち」

「璃奈、早いな。まだ待ち合わせまで時間あるだろ」

「楽しみ過ぎて居ても立っても居られなかった。お店、予約してあるから行こ」

「あ、あぁ……」

 

 

 璃奈は自然に俺と手を繋いで歩き出す。普段のコイツはボードで顔を隠しているから引っ込み思案だと思われるかもしれないけど、話してみると意外と積極的な子だ。本人もお喋りは大好きと公言しているくらいだし、今もこうして俺の手を握りながら導くことくらいはやってのける。それに胸の小ささを気にして俺に揉ませて大きくしようと画策していたくらい大胆な積極性があるから、俺からしたら引っ込み思案な部分があるって方が疑われるよ……。

 

 そうして璃奈にリードされながら向かったお店は――――

 

 

「ここ」

「マ、マジで……?」

「ん? どうしたの?」

「い、いやなんでもない……」

 

 

 ここって、この前しずくと行った例の喫茶店じゃねぇか……。しかもまだ忌々しいあのカップルキャンペーンが継続中のようで、ご丁寧に看板まで新調して設置してやがる。そういや璃奈も以前にしずくたちとここに来てあのケーキを食ったって言ってたな。あれ、ということは……?

 

 

「ここのタワーケーキ、とても美味しいの。だから零さんとも一緒に食べたいと思って」

「そ、そうか。そりゃ楽しみだな……」

 

 

 やっぱりぃいいいいいいいいいいいい!! しずくと食べた時も腹に来て倒れそうだったのに、また同じ地獄を味わうのか??

 しかも懸念点はそこだけではない。以前はカップルとしてここに来たけど、恐らく今日も同じノリで入店しようとしている。そうなると店の人に俺と璃奈の関係だけでなく、俺としずくの関係まで怪しまれる。つまり俺が浮気しているクソ野郎ってレッテルが貼られそうで……。

 前と同じ店員が接客するとも限らないが、なるべくバレないようにしないと。せっかく璃奈が俺を誘ってくれたんだ、コイツを悲しませたくはないしな。

 

 

「あっ、これキャンペーン中に撮ったカップルの写真だって。私たちもここに飾られたりするのかな……?」

「なに!? あっ……ッ!?」

「どうしたの?」

「いや虫が止まってから追い払ったんだ……」

 

 

 あぶねぇ……。もう少しで俺としずくがケーキを食べさせ合っている写真を璃奈に見られそうだった。咄嗟に看板から引き剥がしたおかげで対処できたが、これ本当に入店して誤魔化しきれるのか? まあ璃奈のことだから説明すれば分かってもらえるかもしれないが、できることならコイツには俺たちが新鮮なカップルという体でいて欲しい。デートに来てるんだ、女の子に気負わせたくはないだろう?

 

 様々な不安点を抱えつつも、俺たちは入店する。

 

 

「いらっしゃいませ! お二人ですか?」

 

 

 前と同じ店員じゃねぇか!?!? いやいや落ち着け、客は数人しかいない店員の顔を覚えられるが、店員からしてみれば無数に来る客の顔なんていちいち覚えていないはずだ。しかもカップルキャンペーン中だから普段以上にたくさんの客が来るだろうし、俺たち以上にラブラブした奴らなんていくらでもいただろう。だから印象の強さって意味でも大丈夫、俺の顔は覚えていない絶対に。

 

 

「2人です」

「現在カップルキャンペーンを開催しておりまして、カップルでご来店いただいた方はお食事からお飲み物まで全品半額になります。お二人はカップル……って、あら? う~ん……」

「どうかしましたか? 私たち、そ、その……恋人同士です」

「い、いえ、申し訳ございません。お席にご案内しますね!」

 

 

 なんか俺の顔をじっと見つめられたんだけど本当に大丈夫かよこれ……? 席に案内されている時も首を傾げて不思議そうにしていたし、もしかしてもうバレてるんじゃねぇだろうな……。

 璃奈はたどたどしく嘘をつき、またしても偽カップルがここに生まれる。バレてるかもと疑惑を抱かれつつ案内された席に着く俺と璃奈。そして前回と流れで店員にキャンペーンの説明をされ、璃奈は例のタワーケーキを注文する。ここまでほぼデジャヴなんだけど、穏便に事が進んでくれることを祈るばかりだよ。最悪愛の告白をするってのはいくらでもやってやるから、前回来店した事実だけは気付かないで欲しい。

 

 しばらくしてタワーケーキがワゴンで運ばれてくると、俺たちのテーブルの上に配置される。何度見てもその大きさに驚かされるが、今回は前回の地獄を知っているからこそ既に胸焼けが半端ない。璃奈は胃袋が大きいと思えないが食いきれんのかこれ……。

 

 

「それでは彼氏さん、彼女さんにケーキを食べさせてあげてください! 勝手は……分かっていらっしゃいますよね?」

「え゛っ!?」

「カメラを回しておきますねー! そう、前と同じく……」

「な゛っ……!?」

 

 

 店員はプロ意識がゆえに笑顔を崩さないが、青筋が立っているのが見えた。

 バレてる!! 完全にバレてた!! 言葉にはしていないが伝わってくる謎の殺気。『あなた、以前別の彼女とここに来ていましたよね? 今度は別の女性とカップルでご来店ですかそうですか……』と言いたげな表情が伝わってくる。笑顔が怖いとはまさにこのことか……。

 

 

「零さんに食べさせてもらえるの? ちょっと恥ずかしいかも……」

「そうですよ! 私の見立てでは彼氏さん、『あ~ん』をするのがとても上手いと思いますから……。女性を悦ばせるのも得意そうですよね……」

「やっぱりそういうの分かるんですか?」

「はいっ! なんたってたくさんのカップルを見てますから! 中には何度も来店してくださる方もいるようで……」

 

 

 基本笑顔なのにところどころドスが聞いた声になってるからこえぇよ!! それに俺の俺を見つめる時だけ目が鋭くなり怒ってますアピールが丸分かりだ。もう自分が『あなたが二股をしているのは分かってますよ』と気付いていることすら隠しもせず、むしろそれを意味ありげな言動として俺に圧をかけてきやがる。店内だから雰囲気を壊さぬよう黙ってくれてはいるみたいだが、外だったら確実に不倫野郎と罵倒されていただろう。

 

 璃奈は恥ずかしいのか目を瞑ったまま口を小さく開く。これだけ期待されていたらやるしかないんだけど、目の前には何も知らず純粋に恋人ごっこをやっている女の子、隣には全てを知っていて青筋を立てながらカメラを回す女性店員。しかし、どうにもこうにも、やりにくいねぇ……。

 

 俺はしずくの時と同じく長いスプーンを取り、タワーケーキから1口すくって璃奈に食べさせてやる。すると璃奈は愛くるしい笑顔でケーキを頬張った。まるでというか、もう小動物の餌付けと全く変わらないな。いや馬鹿にしてるわけじゃなくて、マジで可愛いから。

 

 

「どうですか? ()()()さんからの愛情は?」

「うん、美味しい。前に同じものを食べた時も美味しかったけど、零さんに食べさせてもらえるとより美味しく感じるかも」

「そうですよねー。皆さん同じ感想なんですよねー。どうですかねー()()()さん?」

「そ、そうだな……」

 

 

 璃奈はしずくと全く同じ感想を述べる。それを同じと知っているのは俺だけではなくこの店員もで、それを知ってかまたしても俺に圧をかけてくる。璃奈は俺とのデートを存分に楽しんで幸せの絶頂みたいだが、俺は場の空気が悪すぎて胃に穴が開きそうだぞ……。

 

 

「次は愛の告白をお願いします!」

「告白……?」

「はい! 彼氏さんから彼女さんへ告白することで、このケーキが何倍も甘く美味しくなるんですよ! それにケーキのお値段も半額以下になるかもしれません」

「そ、そうなんだ……。零さん」

「あぁ、やるよ……」

 

 

 店員からの煽りもあってまたしてもやる雰囲気になってしまった。でもやる以上は事務的に済ませるのではなく、しっかり璃奈の心に言葉を届けたい。例え偽りのカップルだとしても今は2人きりでデートしているのは変わらないからな。まぁ別の子に告白してるシーンを見たこの店員がどう思うかは知らないが、璃奈にバラす気はないのようなので最悪の事態にならないことだけは安心か。

 

 俺は大きく深呼吸をして、璃奈と目を合わせた。

 

 

「好きだよ、璃奈……」

「っ……!? わ、私も……大好き! 好き!」

 

 

 いい笑顔……ではないが、表情を作れないにしても頬を紅潮させ恍惚な顔をしている。表情作りが苦手だとか言ってたけど、女の顔はしっかりとできるみたいだ。この瞬間だけは誰かに見られていることも忘れて2人きりの空間にいるように思えるな。

 

 

「はい浮気……いえ、告白大成功ですね!」

「今さっき本音が出てなかったか……?」

「なんのことでしょうか。私はカップルたちを応援する、いわばキューピットです」

「どこのキューピットが鬼のような形相で人を睨むんだよ……」

「ん? 何の話?」

「いや、なんでもねぇよ。ほら、ケーキ食っちまおう」

 

 

 その後は璃奈にまた『あ~ん』をして欲しいとせがまれたり、それを見ていた店員が『浮気野郎は死すべし』の雰囲気を醸し出していたり、先日と同様にタワーケーキに撃沈したりと、俺のデートはまたしても多難であった。女の子とのデートは大歓迎だけど、今度は心の安寧を保てるようなところに行きたいよな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして後日、俺はまたデートの待ち合わせをしていた。

 その相手は――――

 

 

「ゴメンなさい、モデルの仕事で遅れちゃって。待った?」

「よぉ。お前の出てる雑誌を立ち読みして時間を潰してたから平気だ」

「そこは買って読んでくれてたらポイント高かったのに」

「お前以外に興味ないから、他の奴らが載ってる雑誌に金を払いたくねぇな」

「も、もうっ……100点よ」

 

 

 今日は果林とデートの約束をしていた。いつものように待ち合わせをし、今日も女の子の先導でデートをする予定だ。俺の手を何の躊躇いもなく握った果林は、俺を引っ張る形で歩き出す。

 そしてしばらくして辿り着いた先は――――

 

 

「で? どこに行くつもりだ?」

「実は前に1年生たちが食べたっていうケーキが気になっていて、今日はそこに行こうと思うの」

「1年生たちが――――まさか!?」

「ほら、ここよ。タワーケーキが美味しいお店で、期間限定でカップルキャンペーンをやっているらしいの。だ、だから、その……零さんと一緒に来たくて……」

 

 

 やっぱりぃいいいいいいいいいいいい!? 別にコイツらが悪いわけではないが、デートで行った店くらい仲間内で共有して被らないようにこっそり配慮とかしてくれ!!

 その時、背筋に悪寒が走る。振り向いてみると店の前を掃除している店員が――――

 

 

「いらっしゃいませ! あら、また随分とお盛んなことですね……彼氏さん♪」

 

 

 また、コイツかぁああああああああああああああああああ!!

 そしてまたこの店員に()()で接客された。それはもうとびきりのくろーーーーーーーっい笑顔で……。それに今日は前よりもかなり露骨に俺に圧をかけてきやがったし、なんか果林を見て顔を赤くしていたしどういうことなんだ……?

 

 ともかく、どうやら俺のデートはどう足掻いても穏便には終わらないらしい……。

 

 

 

 

 余談だが、あの店員どこかで見たことがあるんだよな。名札に掛かれていた苗字は『綾小路』、他の店員が『姫乃』って呼んでいたか。普通に可愛い子だったから、俺と縁があればまたどこかで会えるだろう。この喫茶店で会うのだけはもう勘弁だけど……。

 




 零君くらい女の子付き合いが多いとデートスポットが被ることなんていくらでもありそうですよね。そしてデート中に他の子に見つかるイベントも多そうで……。修羅場ネタも面白いと思うのですが、この小説は女の子同士の仲が良すぎるのであまりそういった展開にはならなさそうです。

 今回出てきた綾小路姫乃はアニメにも出てきた子で、今後この小説にも登場予定です。零君との出会いはそれなりに最悪になってしまいましたが……



 よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
 今後の小説執筆の糧となります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エッチな子になりたいです!!

 久しぶりに変態的なプレイを描きたいなぁと思ったらこうなっていましたね……


 今日も今日とてアイツらの指導役として虹ヶ咲に来ていた。何度も来ているせいか私服で女子高を歩くのにも慣れ、学校の人たちも俺の存在を認知しているようだ。そのせいかこの学校に入る時は顔パスであり、校内を歩いているだけで女の子たちに話しかけられる。やっぱり女子高の子たちって男に飢えてんのかな? この学校って先生も女性ばかりだし、若い男を喉から手が出るほど欲しているのかもしれない。それに高校だから思春期の子たちばかりだもんな、そりゃカッコいい男に惚れるのも無理はないか。

 

 思ったけど、この学校の生徒も先生もみんな美女美少女揃いだ。この学校に男子がいたら常日頃から性欲が滾って仕方がなかっただろう。

 それにしても俺好みの容姿を持った女性しかいないので、もしかしたら何か仕組まれているのか? これほどまでお目に敵う女性ばかりで、俺を受け入れてくれるような都合のいいことが――――いや、アホらし。マンモス校なのに俺好みの生徒と先生をここまで集められるわけねぇか普通。くだらないことを考えていないでさっさとアイツらのところに行こう。

 

 と、その前に、俺は会いに行かなければならない子がいる。昨日『相談したいことがあります』とメッセージを受け取ったので、練習の前にその相談に乗ってやる予定だ。

 待ち合わせ場所は何故か教室棟のどこかの教室。来客があまり立ち寄ることがないためか男の俺がウロウロすると余計に目立つ。それでも明るく話しかけてくれる子ばかりなのでよっぽど俺に恋焦がれているのか、それとも物珍しさなのか……。

 

 相談相手の待ち合わせ場所の前に到着した。したのだが……ここって空き教室じゃないか? 教室の扉の上のプレートには何も書かれていないので素通りしてしまいそうだったが、窓から相談相手が見えたから辛うじて踏みとどまれた。こんな人の影も形もないところで何をしようってんだ……?

 

 

「待たせたな、エマ」

「零さん! わざわざ来てくださりありがとうございます!」

 

 

 待ち合わせの相手はエマだ。俺の顔を見た瞬間に明るい表情になり、こちらに駆け寄ってきて頭を下げる。

 こうして見るとやっぱり虹ヶ咲の中でもとびきりの純粋っ子だな。歩夢やしずくもその部類と言えばそうだけど、片や煩悩に支配されつつあり、片やヤンデレ気質を持っているため純粋と言うにはやや疑問が残る。となるとコイツが虹ヶ咲最後の良心かもしれないぞ……。

 

 

「それにしても、どうしてこんな人気がないところに呼び出したんだ?」

「少し相談事があるんですけど、あまり人には聞かれたくないことなので……」

「早速顔が赤くなってるぞ。らしくもなく緊張してんのか?」

「わ、私だって緊張したりしますよ! 零さんの前だと特に……」

 

 

 エマはほんわかとした雰囲気とは裏腹に堂々としてるから、こうして頬を染めてもじもじとしている様が意外と珍しかったりもする。みんなのお姉さんポジションを確立してるってのもあるだろうし、甘やかし上手なママ属性をも備えているから年相応の女の子の反応を見るのは新鮮だ。他の奴らに見せないその姿を俺の前で披露してくれるんだから、ちょっと優越感を感じちゃうな。

 

 それにしても俺たち2人しかいない空き教室。そして目の前にスタイル抜群で緊張をしている美少女。エロ同人だったらここからどうなるかは明白で、想像すればするほど期待してしまう。さっきコイツをとびきりの純粋っ子と言ったが、もしかして悪い子になっちゃうのか? シチュエーションだけ見れば男女の情事にはピッタリだからコイツもそれを狙って――――

 

 いや、それはねぇか。エマに限って自らエロいこと懇願するなんて妄想もできない。それにほら、聖母でありママだしな。

 

 

「で? 相談事ってのは?」

「そ、その……わ、私に――――エッチなことを教えてください!!」

「な゛ぁっ……!?」

 

 

 最速フラグ回収。毎回そうだが、今回こそは大丈夫だろうと思った直後に想定が現実になってしまう現象に陥っている。これが主人公属性ってやつなのか……。

 俺のことはともかく、エマの口から放たれたのは衝撃の言葉。穏やかな風貌とあまりにも不釣り合いなその言葉に俺は一瞬何を言っているのか理解できなかった。聞き間違いと思ったらどうやらそうではなく、嘗てないほど緊張している様を見るに本気なのだろう。一体なにがどうなってそれを相談しようってなったんだ……?

 

 

「どうしていきなりそんなことを? 言っておくけど正気の沙汰じゃねぇぞ……」

「私、零さんともっと仲良くなりたくて……。だとしたら零さんが好きなエッチな子になるしかないと思ったんです!」

「おいそれ誰からの入れ知恵だ!? お前がそう考えたわけじゃねぇだろ??」

「かすみちゃんが『零さんと仲良くなるならエッチなことを覚えればいいですよ♪ 零さんそういうの大好きですから!』と。でも私、エッチなことの知識は全くないので……」

「それで俺に聞こうってことか。ロクでもないこと教えてんなアイツ……」

 

 

 エッチな知識がないのは分かるが、だからって俺に直接性的好みを聞こうとする度胸がすげぇよ。それがエマの純粋さなんだろうけどさ……。

 それよりもねじ伏せるべきはかすみだ。純粋っ子に性的な種を植え付けるのはこの世で重罪に値する。俺がμ'sの一部の連中にそうさせてしまったからこそ被害がどれだけ深刻なものになるかよく分かっているからな。アイツは後でお尻ぺんぺんの刑に処そう。

 

 

「エロい知識って言ったってなぁ……。こう言っちゃアレだけど無数にあるっつうか、ソフトなものからハードなものまであるっつうか……」

「零さんが好きなことでいいんです! 私がしてあげられることがあれば何でもします!」

「な、何でも……?」

「はいっ! 私は本気です!!」

 

 

 女が男に『なんでも』発言は迂闊にしない方がいい。この世にはそれだけで興奮して襲ってしまう性欲魔人がいるくらいだから。ちなみに俺は違うよ? いやホントに。

 でもエマは言葉通り本気らしい。コイツの意志は自分の中でしっかりと芯が通っておりブレることがない。あれこれ悩んで優柔不断になるよりもまず行動をするタイプだ。そうでなければ好きな男に対して性知識を求めたりはしないだろう。

 

 それにしても『なんでも』かぁ……。下心丸出しになるが、コイツに相手をしてもらえるとなるとまず胸に目が行ってしまう。明らかに高校生離れしたB92の胸は男にとって眼福過ぎる。その豊満な双丘で色々なところを挟んで欲しい、顔を埋めたい、揉みしだきたいetc……妄想は無限大だ。だからこそそれを好きにしていいと言われたら逆に困っちまうよ。それにやっぱほら、エマにそういうのを教え込むのは罪悪感があるというか……。まあお前が今更何を言ってんだって話だけど。

 

 

「やって欲しいことが決まらないのであれば、私からいいですか?」

「お前から? 俺にやって欲しいことがあるのか?」

「はい。ちょっと待ってください……あった、これです!」

「なんだそれ? コンデンスミルク……?」

 

 

 エマはカバンからコンデンスミルクを取り出して俺に見せつける。この流れでどうしてそんなものを取り出したのか全くもって意味不明だ。お菓子作りが得意なのは知っているが、まさか俺と一緒に料理でもしようって魂胆か……?

 

 

「残念ながら俺は料理ができない。どう作っても男飯になって見た目最悪になっちまうからな」

「そうじゃないです! これを零さんにお渡ししますので、自分の身体のどこでもいいのでミルクを付けてください。そうしたらそ、その……私が舐め取りますから!!」

「は、はぁ!? それまた誰の入れ知恵だ!?」

「愛ちゃんが『零さんは女の子の誘惑に弱いから、攻め続けたらいつか理性が崩壊して襲ってくれるよ! 零さんに襲われたら女の子として一人前だから♪』と……」

「どうしようもねぇなアイツも……」

 

 

 確かにそんな危ないことを思いつきそうなのは愛くらいしかいねぇよな……。つうかあまりにもプレイがマニアック過ぎる。一体どこで仕入れてきたネタなのやら……。

 だけどちょっぴり興奮してしまったからあまり強くは言えない。ミルクをかけた場所を舐め取ってくれる、それつまり俺の身体のあらゆる場所をエマに綺麗にしてもらえるってことだ。女の子で身体を洗うといった背徳的満足感に浸ることができる。そう考えると男の性として期待せざるを得ないだろう。もう一度言う、身体のどこでも舐め取ってくれるんだ。そう、どこでも……。

 

 エマからコンデンスミルクのチューブを渡される。何の躊躇いもなく受け取ってしまったから、俺自身も今から行われる情事に否定的ではないらしい。

 そうだよ、コイツがやる気なんだったら応えてやるのが男ってもんだろ? こんなマニアックなプレイに誘ってくるくらいだ、本気以外の何物でもない。いつも女の子たちに変態変態と罵られているけど何だかんだみんな俺を受け入れてくれているから、俺も変態プレイを仕掛けてくる子をしっかりと受け止めてやるよ。

 

 俺は自分の右手の指にミルクをかけエマの前に差し出す。するとエマはゆっくりと膝立ちになり、目を瞑って俺の指を――――パクっと咥えた

 

 

「んっ……ちゅっ……」

 

 

 冷静にならなくても俺たちは今とんでもなく偏ったプレイをしていることが分かる。指を舐められているだけなのにここまでアダルティックな雰囲気になるとは……。

 エマは顔を前後に動かして俺の指を舐める。その動きはまるで()()()()を想像させる。唾液音が艶めかしく響き、口から零れ出るミルクは()()にしか思えない。遠目でこの光景を見た人は確実に男女の情事に浸っていると勘違いするだろう。

 

 

「ちゅっ……あ、んっ……」

 

 

 息継ぎをしながらも俺の指から唇を離さないエマ。ママ属性のコイツに指をしゃぶらせるなんて、なんだか人妻を従えているみたいでやや興奮する。俺は至ってノーマル趣味なのだが背徳感情もそれなりに好きだ。だからこういった変態的なプレイも悪くないと思ってしまう。

 

 それにエマのこういう姿、意外と似合っていてアリだ。多分虹ヶ咲の誰にやらせてもそう思うのだろうが、女子高校生が自ら跪いてしゃぶってくれる快感は計り知れない。こういったプレイを繰り返すことで人は偏屈趣味趣向を持っていくのだろう。俺は別にいいのだが、思春期で多感な時期の女の子にそれを教え込むのは犯罪臭がプンプンするよ。それはそれでまた背徳感があっていいのかもしれないけど……。

 

 エマの唇と舌に包まれた指はまるで抱きしめられているかのように暖かい。彼女が顔を前後に動かすたびに唾液でぬるぬるになっている俺の指が唇と舌で綺麗にされ、その後すぐさま分泌された唾液によって濡らされる無限ループ。肉厚の唇、ねっとりと絡みつく舌によって、俺の人差し指は極上のご奉仕を受けている。ただしゃぶりついているだけじゃなく、相手を気持ちよくさせたいというエマの真心も興奮の相乗効果となっているのだろう。ご奉仕の丁寧さといい、やはりみんなのお姉さんやママと言われるわけだ。

 

 妖艶な雰囲気に、俺も徐々に飲み込まれていく。そしていつの間にか、彼女からの奉仕をぼ~っと受け止めていた。

 

 お互いに黙ったまま現状が続き、しばらくしてエマが俺の指から唇を離す。

 俺の指と彼女の口に唾液が付着しているのがプレイの生々しさを語っている。エマは顔を紅潮させたまま小さい吐息を吐き続け、ハンカチを取り出し自分の口元、そして俺の指を拭う。その姿は上品だがあまりにも淫猥で事後処理、つまりお掃除〇〇〇と思われても仕方がない。そんなエマを見て俺も正常な思考回路ではいられなくなっていた。

 

 

「あ、あの、私……エッチな子になれてますか?」

「あ、あぁ、エロくて猥褻物そのものだ……」

「零さんが悦んでくださったのなら嬉しいです……♪」

 

 

 とんでもないことを言ってしまった気がするが、俺もエマも正常ではないためお互い気にも留めなかった。

 小さく微笑んで嬉しそうにしている彼女の頭を撫でてやると、目を瞑って気持ちよさそうな反応をした。俺も彼女も場の雰囲気に飲まれ、もうお互いがお互いしか見えていない状況だ。もはやお互い何をされても抵抗せず、何を言われても肯定し、何をされても純粋な反応を見せるだけ。それくらいに思考が妖艶な雰囲気に支配されていた。

 

 そして俺は、またエマに舐めてもらいたいという淫らな欲求がある。

 再びコンデンスミルクのチューブを取り出し、今度は自分の右耳にミルクをかけた。

 

 するとエマは膝立ち状態から立ち上がり、俺の身体の右側に移動すると、背伸びをして白い液体が滴る耳を――――はむっと咥えた。

 

 耳を甘噛みされるなんて人生初体験なのだが、これはこれで悪くない。なんせ密着しなければできないプレイだし、お互いに顔を近付けなければならないので相手の存在を思う存分に感じられる。それに顔やその周辺パーツは神経も敏感なので、彼女の唇の柔らかさや暖かさが鮮明に伝わってくる。エマのほんわかとした心地よい香り、空き教室でこんな変態プレイをやっているという背徳的な雰囲気も相まって、より一層2人だけの空間が作り出されていた。

 

 

「はむ……んっ……ちゅっ……」

 

 

 エマは卑しく甘噛みする音を立てながら、俺の耳に付着したミルクを舐め取る。そこまでの量をかけていないのでもうとっくにミルクは拭きとられていると思うが、彼女の唇は俺の耳を離さない。それだけ夢中になっているということだろう。エッチな子になりたいという話だったが、これだけ色っぽく男の指や耳をしゃぶれるんだから相当エッチで変態になっていると思うぞ。身長差を埋めるために健気に背伸びをしているところもポイントが高い。俺も変な性癖に目覚めてしまいそうだ。

 

 

「はぁ……零さん……」

 

 

 耳元で名前を囁かれ、俺の身体にゾクゾクとした震えが走る。エマは特に意識して俺の名前を呟いたのではなく、どうやら俺と同様に気持ちが高ぶり過ぎて思わず囁いてしまったのだろう。そうやって自然と耳をくすぐられたせいか、幼い頃に母さんに優しく名前を呼んでもらった時のことを思い出す。こんな変態プレイをしているのに妙な安心感を持っていたのはコイツが母性を持っているからに違いない。エッチなことをしているはずなのに癒される謎の矛盾。そんな味を出せるのも彼女だからこそだろう。

 

 しばらく彼女の暖かさに浸る。更にしばらくして、エマは背伸びの体勢がキツくなってきたのか俺の耳から唇を離す。

 そして俺の顔を覗き込むようにこちらを上目づかいで見つめた。

 

 

「そ、その……他のところはどうですか……?」

「どこでも……いいんだよな?」

「はい。零さんのお身体、綺麗にしてあげたいです……」

 

 

 汚しているのは俺自身なんだけどな……。そう言いながらも次はどこにミルクをかけようかと悩んでいるあたり、俺も相当このプレイが板に付いてきたらしい。俺もエマも雰囲気に飲み込まれまともな思考をしていないのは同じで、お互いにもっと相手と密着したい、身体で感じたいと思っている。淫猥なムードのせいでお互いに小さな依存関係にありつつあった。

 

 いつもみんなのお姉さんやママとしてのポジションであるコイツにこうして求められる快感は堪らない。もっとコイツの恥ずかしい姿を見たいという欲望ばかりが渦巻く。

 そこで俺は妙案を思いついた。

 

 

「なぁ、今度はお前がこれをかけろ」

「えっ、私がですか……?」

「あぁ、立場逆転だ。お前がこのミルクを自分の好きなところに塗れ。そうしたら俺が舐め取ってやる」

「そ、そんな、零さんに綺麗にしてもらえるなんて……」

 

 

 相変わらず変態的なことはすぐに思いつく。だがここまで形容し難いプレイに没頭するくらいのめり込んだから、この後にいかなる変態プレイが待ち受けようとも動揺しない精神が作られた。エマも恥ずかしがってはいるが否定的ではないため、コイツも相当思考回路がバグっているのだろう。

 

 俺はエマにコンデンスミルクを渡そうとする。しかし、彼女はそれを受け取らなかった。

 

 

「どうした?」

「私ではなく、零さんが好きに私に塗ってください……。そ、その、どこに塗られても受け入れますから!!」

「本当にいいのか? 俺は優しくないぞ?」

「大丈夫です。むしろ乱暴にしてくださった方が嬉しいです。そっちの方が零さんに求められている気がして……♪」

 

 

 ここで小さくはにかむとは中々の度胸だな。それか俺がどれだけ女の子のカラダに詳しいかを知らず、ただただ欲望だけで俺に身を委ねようとしているのか。どちらにせよ俺にとって好都合だ。女の子の『すべて受け入れる』『好きにしていい』ほど嗜虐心を満たされるセリフはない。

 

 改めてエマの全身を眺めてみると、本当に高校生離れした健康的過ぎるカラダをしている。胸は規格外の大きさで、抱き着くだけで暖かそうな肉付きの良いスタイル、思わず鷲掴みにしたくなる太ももやヒップなど、もう俺に侵略されるためだけに生まれてきたようなカラダだ。スイスの大自然で育まれたであろうそのワガママボディを、都会育ちの穢れた手で浸食しようとする征服欲を今まさに味わおうとしている。

 

 故郷の親御さんが大切に育て上げたこの子は、俺がいただく。思春期という最も多感な時期の女の子に、男を刻み込む。もう俺の欲望は世界一黒くなっていた。

 

 そして――――

 

 

「きゃぁっ!?」

 

 

 俺はコンデンスミルクのチューブをエマに向けると、チューブの腹を思いっきり押し込んだ。

 そうすればもちろん中に入っているミルクが勢いよく噴射され、目の前にいたエマの全身に降りかかる。エマはその場で女座りになりながら自らに降りかかってきたミルクに戸惑っていた。彼女の全身に白い液体。そう、事情を知らない奴が見たら()()がぶっ掛けられたようにしか思えない。いや、事情を知っていたとしてもこの光景は非常に扇情的だ。いわゆる顔射、胸射、その他諸々、滴り落ちるミルクがとてつもなく卑しい。

 

 

「どこでも、受け入れるんだったよな?」

「は、はい! これで零さんの好みのエッチな子に、なれますよね……?」

「あぁ、とても興奮してる。完璧だよ」

「えへへ……♪」

 

 

 白い液体をかけられているのに笑顔になるとは、どこまでも俺のことを想う純情な奴だ。俺のためにここまで穢れてくれるなんて、そんな姿を見たらもう我慢できるはずがない。

 俺は一歩、二歩、徐々に彼女に近づく。エマも心の準備はできているようで、目を瞑って受け入れ態勢は万全のようだ。

 

 

 もうすぐ、もうすぐこのカラダを俺が――――――

 

 

 その時、空き教室であるはずのこの部屋のドアが開いた。

 

 

「全く、臨時でこんなところを掃除するなんて先生も無茶言うよ。今日は歩夢の練習を見てあげる予定――――え゛っ!?」

「仕方ないよ。この教室は来週から改修工事って、どうしたの侑ちゃん――――ふえっ!? えぇええええっ!?!?」

 

 

 教室に入って来たのは掃除用具を持った侑と歩夢。

 この瞬間、さっきまで変態プレイに興じてバグっていた思考回路が正常に戻った。

 

 

 そして俺は思った。

 また、お預けオチかと……。

 

 

「お、おおおおおおおお兄さん!? そ、そそそそそそその白いのって……!?」

「零さんとエマさんいつからそんな関係に!? が、学校でやるなんてはしたないですよ……!!」

「ち、違うの2人共!! これは2人が考えているようなことじゃなくって!!」

「れ、零さんってたくさん出すんですね!? ビックリしました!!」

「驚くところそこかよお前……」

 

 

 歩夢の驚くベクトルがおかしいが、今は触れないでおいてやろう。

 

 結局エマとの一件はこれで終わってしまった。女の子といい感じになったら別の女の子が乱入してくる子の展開、そろそろ断ち切りたいんだけど……。これも主人公としての運命なのかもしれないが、こうも寸止めをされると欲求不満になっちゃうぞ……?

 

 ちなみに今回は状況が異常すぎたためか、侑に怒られなかった。

 これでホッとする俺も俺だよな……。

 




 ハーメルンにエマがメインの小説がないので『この小説では大活躍させて可愛いところを見せてあげるぞ!』って思ってたら、いつの間にかこんなことになってました(笑)
でも純粋っ子だからこそこういったプレイが似合うと思うので後悔はありません!





【告知】
 前々から告知していた作家勢が集まって投稿する企画小説ですが、2/7(日)より始動します。投稿された際は是非ご覧ください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゴーストバスター侑

 今回はほのぼの日常回。
 侑と一緒にお化け退治にいざゆかん!


「よぉ、ってあれ? 侑だけ?」

「こんにちは、お兄さん」

 

 

 今日も奴らの練習を見てやるために同好会の部室を訪れてみると、そこにいたのは侑だけだった。いつもは何を言っているのか聞き取れないくらい部屋中騒がしいから、こうも閑散としていると部屋を間違え方と思ってしまうくらいだ。それなりに広い部室ではあるのだが、誰もいないせいで今日は一段とだだっ広く感じるな。

 

 

「今日は練習が休みなんですよ。なのでみんな各々の用事でここには来ていないんです」

「はぁ? 今日は練習だって俺に連絡してきたのはお前だろ?」

「その件に関しては申し訳ないです。でもここまで来て何もせず帰るというのも勿体ないですし、ちょっと私に付き合ってくださいよ」

「待て、話が全然見えないんだが……」

 

 

 まるで俺を待ってましたかと言わんばかりの口振りだなコイツ。俺と会ったらあらかじめこの話を切り込むと決めていたような感じがする。まさかとは思うけど、嵌められた……??

 

 

「とりあえず行きましょう」 

「行くってどこに?」

「そりゃもちろん――――お化け退治ですよ」

「はぁ?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「なるほど、虹ヶ咲で幽霊騒動ねぇ……。如何にも学校って感じの噂だな」

「そうです。だから私たちでその問題を解決してあげようと思いまして」

 

 

 校内を歩きながら侑に事のあらましを聞く。どうやら虹ヶ咲内で幽霊の噂がひっきりなしらしく、夕方の時間帯になると幽霊の怪しい声まで響き渡るという。それを正義に味方を気取っているコイツが解決しようって魂胆らしい。本来なら生徒会の仕事らしいのだが日々の業務で忙しいらしく、栞子から依頼を受け取って今に至るというわけだ。つうか先生や警備員に相談するというツッコミは野暮なのだろうか。それを言ったらおしまいだもんな、話のネタ的にも……。

 

 

「そもそもどうして俺までこんなお遊びに参加しなきゃいけねぇんだよ。俺は雑用係じゃねぇぞ?」

「今日は練習がなくなったので暇ですよね? だったら付き合ってくださいよ」

「お前、まさか1人じゃ怖いから俺を練習という名目で呼び出したって腹じゃねぇよな……? 元から幽霊調査に同行させる気だったんだろ?」

「そ、そそそんなわけありませんよ!! お兄さんがいたからって何が変わるって言うんですか!? 相変わらず自惚れ屋さんですねもうっ!!」

「じゃあ帰るわ」

「ゴメンなさいゴメンなさい1人だと怖いからついてきてくださいぃいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 侑はUターンした俺の腰にしがみついて必死に引き留めようとする。最初から素直に自白していれば素直に同行してやったものの、変にツンデレを発揮するからこうなるんだよ。

 ていうか割と大胆にボディタッチしてきたからちょっと驚いた。いつもだったら身体に触れただけでも『破廉恥です!!』と怒ってくるのに。つまり今回はそんなことを言っていられないくらい俺のことを必要としているのだろう。

 

 

「分かったから離せ! 校内で男を抱きしめてるところを見られるなんて、破廉恥魔人のお前が一番嫌うことだろ??」

「なんですかそのあだ名!? まるで私がいつもエッチなことを考えてるみたいじゃないですか!?」

「破廉恥ってツッコミを入れられるってことは、目の前で起きている状況をエロいと判断できるってことだからな。そりゃそうだろ」

「う゛っ……!?」

 

 

 侑は顔を赤くして押し黙る。もう図星と言ってるようなものだぞ……。

 

 とにかく、このまま帰っても暇だから仕方なく付き合ってやるか。いつもとは違って俺の下手に出てるコイツの姿を見るのも楽しいしな。特に最近はコイツが抱く俺への評価がダダ下がりになっている気がするから、ここで恩を売って上げておくのも悪くないだろう。

 

 

「ッ!?」

「お兄さん? どうかしました?」

「いや、さっき視線を感じたような……」

「お兄さんってこの学校でも人気者ですから、誰かに見られるなんていつものことじゃないですか?」

「そうなんだけど、背筋が凍るような視線だったぞ今……」

「……? 別に怪しい人はいませんけど……」

 

 

 廊下ですれ違った子たちは何人かいるけど、特段怪しい雰囲気を持った奴はいない。さっき感じた全身を舐め回すような視線は一体なんだったんだ……?

 

 

「そろそろ行きましょう。幽霊が出るところに」

「えっ、幽霊の出没スポットとかあるのか?」

「はい。頼りにしてますよ、お兄さん♪」

「全部俺任せかよ……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ここの噂は通称『幽霊の断末魔』と呼ばれています。どうやら夕方になると悲鳴や呻き声が廊下に響き渡るそうですよ」

「もう夕方も夕方だしな。部活も終わって学校には人がほとんど残っていない。確かにその中でそんな声が聞こえたら不気味ではあるか……」

 

 

 夕日が差し込む部室棟の廊下。もう校内に生徒はほとんど残っておらず、俺たちの影だけが廊下に伸びる。どうやらここが最初の幽霊スポットらしいのだが、ぶっちゃけ夜じゃなくて夕方に出るなんてかなり早漏な幽霊さんだ。どうせ静かで誰もないから、適当な物音や足音が不気味な声に聞こえたとかそんなオチだろう。学校の怪談なんてそんなものなんだよ。

 

 ていうか俺はそんなことよりももっと気になることが――――

 

 

「お前、どうして俺の背中に隠れる? 粋がって俺を連れ出した割には逃げ腰じゃねぇか」

「だ、だって怖いもは仕方ないじゃないですか! ほらお兄さん、早く調査開始です!」

「もう何も隠すことなく俺をコキ使うようになったな……」

「お兄さんは女の子の笑顔を見るのが夢なんですよね? これを解決しない限り虹ヶ咲の生徒に笑顔はないですよ!」

「俺の夢を盾にするなよ……」

 

 

 侑は早く進めと言わんばかりに俺の背中を押す。俺に対して信頼を寄せてくれているのか、それとも本当にコキ使っているだけなのかは不明だが、コイツもかなり図々しくなったもんだ。出会った頃の警戒されまくっていた時期と比べるとフレンドリーになっていると思い込んでおこう。

 

 物静かなためか聞こえる音は俺たちの足音のみだ。特に怪しいことも何もなく、むしろ朱色の夕日に程よく照らされた廊下は風情があり心を奪われるくらいだ。こんな状況で幽霊の存在なんて1ミリも感じず、侑も同じことを思ったのか俺の背中から徐々に離れ、いつの間にか隣を歩いていた。

 

 

「分かっていたけどまぁ、何もねぇよな」 

「所詮噂は噂だったってことですね。そりゃそうですけど」

「よく言うよ。ほんのさっきまで俺の服を摘まんでビビり散らかしていたくせに」

「そのためのお兄さんなんですから最大限に利用しますよ――――ひゃっ!? なんですかこの声!?」

「確かに、何か聞こえるな。こっちか?」

「ちょっ、置いて行かないでくださいよ!?」

 

 

 噂通り謎の悲鳴や呻き声のようなものが聞こえてきた。俺はその声がする方向に向かって廊下を駆け出し、侑もその後を追ってくる。

 声の主は1人ではなく何人かいる。中には断末魔に近いような悲劇的な声まで聞こえてくるから、怖いものに耐性のない奴だと卒倒レベルの怪現象だろう。現に侑は俺の後ろにベッタリとくっついたままついてくるので非常に走りにくい。どうしてこんなメンタルで幽霊調査を引き受けようと思ったんだ……?

 

 声はとある部屋から聞こえていた。部屋の明かりが僅かに漏れてるが、点いているのかと疑ってしまうくらいには暗い。

 俺はその部屋の前に到着し、ドアに手をかける。そして未だにビビっている侑の手首を掴み、俺の身体に隠れるように配置してやる。

 

 

「ったく、そこにいろよ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 侑は俺の服をぎゅっと掴み、俺が部屋のドアを開けるのを固唾を呑んで見守る。

 一体この先には何があるのか。流石の俺もさっきの不気味な声を聞いたら真剣にならざるを得ない。

 

 ドアを一気に開け放つ。

 そこにいたのは数人の女の子たち。

 

 

 ん……?? あれ、なんか見たことあるような……。

 

 

「お前……璃奈?」

「璃奈ちゃん!?」

 

「零さん? それに侑さん……?」

 

 

 部屋にいた1人は璃奈だった。璃奈はゲーミングチェアに座りながらコントローラーを握り、大きいモニターの前に座っていた。見ただけで高性能と分かる立派なパソコンとモニターがたくさん配置され、まるでゲーム実況者の部屋かのような設備が揃っている。部屋が多少薄暗かったのもモニターに映し出されるゲーム映像をより際立たせるため、つまり部屋で映画を見る時の手法を使っていたかららしい。

 

 

「お前こんなところで何してんだ?」

「なにって、ゲーム部のお手伝いだけど」

「やっぱり部活だったのかここ。お前ここの部員なのか?」

「違う。同好会の練習が終わった後とか、お休みの日にゲーム部の練習に付き合ってるだけ。だいたいこうなっちゃうんだけど……」

「他のみんな白骨化してるけど大丈夫なの……? 口から魂抜けてる子もいるけど……」

 

 

 璃奈以外の女の子たちはみんな机に伏せていたり床に転がったりしていて、見ようによっては殺人現場かのような殺伐さがある。もはや魂すら抜け落ちているみたいで、白目をむいて今にも天に召されそうだった。一体なにがどうなってこんなジェノサイド空間になってんだよ……。

 

 

「ゲーム部の特訓をしてあげているんだけど、毎回私が圧勝しちゃうせいでみんなこうやって打ちのめされるの」

「あぁなるほど、璃奈ちゃんゲーム得意だもんねぇ……。それにしても他のみんなをここまで戦意喪失させちゃうなんて……」

「いつもこうなるから、毎回やる前はちょっとは手加減しようと思ってるの。でもゲームが始まるとつい熱が入っちゃって……」

「それでコイツらの叫び声と断末魔が廊下にまで響き渡っていたってわけか」

「あっ、もしかしてお兄さん! 幽霊の正体って……!!」

「あぁ、間違いなくコイツらだな」

 

 

 日の暮れた夕方にしか聞こえなかったのは、璃奈が同好会の練習終わりという割と遅い時間にしかここに来れなかったからだろう。そしてこの部活に来た際には毎回部員たちに奇声を上げさせてボコボコにすると。確かにこれだと事情を知らない奴が幽霊と勘違いしても無理ないわな……。

 

 

「幽霊って最近噂の?」

「そうそう。それを解決しようと思って私がここに来たんだよ」

「な~にが『私が』だよ。俺がいなかったらお前1人で何もできてねぇだろ」

「お兄さんを連れてきたことこそ私の功績です!」

「自慢するところそこかよ……」

 

 

 幽霊の気配がないと分かった瞬間に俺の横に立つよな侑の奴。ちょっとでも幽霊の影がちらつくと後ろに隠れてビクビクしてるのに、事実確認が済んだら途端にいつもの調子に戻る。知ってはいたけど意外と子供っぽいよなコイツ。まあ愛の寒いギャグで大笑いするから薄々感じてはいたことだけど。

 

 

「とりあえず1つ目の噂は解決ですね。次に行きましょう」

「ったく、都合のいい奴……」

「頑張って。私はみんなを起こして特訓を再開するから」

「結構鬼だなお前……。あまり断末魔を上げさせないようにしてくれよ。幽霊と勘違いされるからさ」

 

 

 そんなこんなで無事に1つ目の幽霊騒動は解決した。

 てか今知ったんだけど、噂って1つじゃねぇのかよ。どれだけ俺を引っ張るんだオイ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「次はここ、『悲痛の幽霊』と呼ばれる場所です。どうやらこのあたりで幽霊の苦しむ声や嘆く声が響き渡るらしいんですけど……」

「また大層な噂だな……」

 

 

 俺たちは部室棟から離れ本館へとやって来た。またしても夕日に照らされた廊下が目の前に広がっているわけだが、本館なだけあってかここには部屋も多く道も広い。今は放課後からそれなりに時間が経っているので人はいないが、本館なので普段は生徒もたくさん通る場所だろう。そんな賑やかなところに幽霊なんているのか……?

 

 

「さっきはたまたま声が聞こえたおかげで問題を解決できたけど、別にいつも聞こえるわけじゃないんだろ? だったら解決しようにも解決できねぇと思うけど?」

「そこは大丈夫です。だってお兄さん、女の子に対してだけは巻き込まれ体質じゃないですか。女子高の幽霊ってことは女の子だと思いますし、向こうからやって来ますよきっと」

「幽霊なんかよりもずっと解決したい問題なんだけどな……。それに幽霊の方から来るってのはあながち間違いでもない」

「もしかして経験あったり? いやお兄さんでも流石にそれは……」

「あぁ~まぁ……うん」

「えっ!? ホントに……??」

 

 

 実際に浦の星女学院で教育実習をしていた頃に本物の幽霊に会っている。その幽霊はなんだかんだあって成仏したのだが、後に天国から俺の家に旅行感覚で戻ってきて再会したという過去もある。よく考えればソイツに連絡してこの学校に本当に幽霊がいるのか確かめてもらった方が早いような……。

 

 

「とにかく、適当に歩いてみて何もなかったら次へ行くぞ。俺だって暇だけど暇じゃ――――ん?」

「ひっ!? 聞こえてますよ何か!!」

 

 

 またしても廊下に響く声。噂通り唸ったり嘆いたり、どこか悲し気な声が聞こえてくる。妙にリアリティのある悲壮感増し増しの声は第一の現場の時とは別ベクトルで不気味だ。

 そして侑はまた俺の服を強く握りしめ密着する。

 

 

「こっちだ。行くぞ」

「は、はい……。あれ、でもそっちって……」

 

 

 恐る恐る歩を進めると、とある部屋の前に辿り着く。

 普通の部屋とは違い割と立派なドアで、部屋のネームプレートを見てみるとここがどこなのか一瞬で判明した。

 

 

「やっぱり生徒会室ですよここ。栞子ちゃんたちがいる場所です」

「でも声の発生源は間違いなくここだぞ。悲痛そうな声がずっと聞こえてる」

「もしかして生徒会の人たちが危険……とか?」

「だったら中にいる奴らに気付かれないようにちょっと覗いてみるか」

 

 

 部屋の状況を確認するためにもまずドアを少し開けて中の様子を見てみることにした。

 俺は音を立てないようにゆっくりと少しだけドアを開け、2人で中を覗き込む。

 

 すると、栞子を含む生徒会室いる人の声がはっきりと聞こえてきた。

 

 

「会長、下期の予算見通しですがこの部活とこの部活、かなり厳しくないですか……?」 

「えぇ。他の部活との兼ね合いを考えても下期はかなり厳しくなりそうです……」

「電卓を叩きすぎてもうボタン壊れそうですよ……」

「そういえば上期予算が未達の部活への対処はどうしましょうか……」

「とりあえず過達のところは報告書だけでいいとして、未達のところは下期の予算をどうするか検討をしていただかないと……」

「分かってはいましたが、半期の終わり頃は大変です……」

 

 

 あまりにも重い話に、俺はそっと生徒会の扉を閉めた。

 

 

「なんか、大変そうですね……」

「あぁ、お金関係は常にトップ層を悩ませるからな」

「つまり2つ目の噂は生徒会役員たちの悲痛の叫びだったってことですね。さっきの光景を見て納得です……」

「学園の未来を考えてくれているアイツらに注意することはできねぇし、幽霊問題は解決してないけどそのままにしておくか」

「はい。いつか栞子ちゃんを遊びに誘って気分転換させてあげようと思います……」

 

 

 今回の幽霊はまさかの生徒会役員たちの業務疲れであることが発覚した。見た感じメンタルがボロボロになってそうだけど、それこそトップ層の仕事だから今は何も言わずに静観しておこう。

 そんなわけで2つ目の噂はあっさりと解決(?)した。なんか後腐れが残りそうだけど、俺たちからは口出ししない方が良さそうだ。しかし疲れ切った社畜の怨念と言われたら、それはもう幽霊なのかもしれないな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「最後はここです。通称『幽霊たちの円舞曲(ワルツ)』と呼ばれている場所ですね。幽霊たちが楽しく騒いでいる声が聞こえるそうです」

「なんだろう、さっきまでとは違ってノリが陽キャっぽいな……」

 

 

 生徒会室から離れ今度は教室棟へやって来た。しかし最後の最後にして全く怖くなさそうな噂が流れているようで、侑もそれほどビビッていないようだ。だがこれまでの部室棟や本館に比べれば放課後に生徒が頻繁に訪れる場所ではないため、逆にここで大盛り上がりしている幽霊となるとそれはそれで謎ではある。人がいないからこそ幽霊にとっては住みやすいとか、そういった感じだろうか? そもそもこれまで幽霊とか全く関係なかったわけだけど……。

 

 

「てかもう早速聞こえてね?」

「ほ、本当ですね……。なんかとても興奮していて楽しそうだから怖くはないですけど……」

 

 

 陽気に響き渡る声。そしてこれまでの噂が幽霊とは全く関係なかったことも相まって、俺たちの気分もかなりお気楽だ。侑は幽霊の声に怖気づくこともなく俺の後ろに隠れることもしなくなっている。

 もはや消化試合感もあるが、念のため警戒はしながら声の発生源を追跡する。すると、とある空き教室に到着した。窓には黒いカーテンが張られ中を確認することはできない。

 

 

「中にそこそこ人がいるみたいだな。さっきみたいにコソコソするのも面倒だからもう突入するぞ。一応俺の後ろに隠れとけ」

「は、はいっ。ありがとうございます」

 

 

 自分の身体で侑の姿を隠しつつ、楽し気な声が聞こえる幽霊スポットのドアを開けて足を踏み入れた。

 そこにいたのは予想通り幽霊ではなく女の子たち。その中の1人には見慣れた顔もいた。

 

 

「せつ菜!?」

「零さん!? 侑さんまで!? どうしてここに……??」

「どうしてはこっちのセリフだ。なんだよこれ本屋か何かか??」

 

 

 見たところ本のようなものを販売しているようだ。しかも本は本でも薄い本、いわゆる同人誌ってやつだ。空き教室かと思ったらプチ即売会の会場に足を踏み入れてしまったらしい。

 そして突然乱入したからか、周りの目が一気に俺たちに集まる。それだけではなく何やら黄色い声も聞こえ、今までとは違って現場に入っても状況が掴めない。陽気な声の正体は即売会を楽しんでいるコイツらだってことが分かったけど、そもそもどうしてこんなところで同人誌を……?

 

 

「実は漫画研究部が定期的に同人誌を販売していまして、この学校でもこうして教室を借りて即売会をしているのです。もちろん学校には認可されているのでご安心ください」

「なんか高校生とは思えねぇことやってんな……。それにしても盛り上がり過ぎてる気もするが」

「ここの漫画研究部の作品は学校内外どちらも評価が良くて、近々公式に書籍化されるものもあるのです」

「割と本格的なんだな――――ん? どうした侑?」

「えぇっと、この本の表紙のキャラ、どこかで見たような……?」

 

 

 侑は販売されているとある同人誌を手に取って俺に見せる。

 表紙には大学生くらいの男キャラと高校生くらいの女の子キャラが描かれている。しかもその女の子が男の上に覆い被さるという中々に大人向けのシーンだ。大人の男が年下の女の子に攻められるシチュエーションは良くあるので珍しくはないが、侑の言う通りこのキャラには見覚えがある。いや、どこかで見たことがあるとかそんな次元ではない、コイツらは――――

 

 

「俺と侑じゃねぇのかこれ!?」

「あっ、本当だ! ということは……私とお兄さんがエ、エッチなことを……!? こんな破廉恥な同人誌を学校で売っていいの!?」

「ち、違いますよ侑さん! 表紙はアレですけど健全な本ですから! 表紙のシチュエーションはただのイメージです、多分……」

「つうかどうして俺たちモチーフのキャラなんだよ……」

「この本の作家さん曰く、普段から仲の良い2人を見ていたら構想が思いついたんだそうです。特に侑さんが年上の零さんにも容赦なくツッコミを入れているところとか、年下の女の子キャラが年上の男性を尻に敷くといったシチュエーションにピッタリの配役だと。それで最近虹ヶ咲の間ではこっそり『侑×零』のカップリングが流行っているんです」

「オイちょっと待て、『侑×零』が流行ってるだと?? もしかしてそれ、『幽霊』の噂のことか……?」

「そういえば幽霊の噂が出始めたのも最近だし、も、もしかして……!!」

「あぁ~確かにそれはあるかもですね……。即売会は学校公認ですが、販売はこうしてひっそりとやっているので『侑×零』の言葉を勘違いした人が間違えて『幽霊』が流行っていると思って間違えたのかも……」

「おいおい……」

 

 

 その瞬間、俺も侑も一気に肩の力が抜けた。幽霊なんて全く関係なかったのもそうだが、勝手に作られた自分たちのカップリング名に踊らされていたという事実に情けなさを感じてしまう。音ノ木坂でも浦の星でも怪談話はあり、それなりに良いオチだったからこそこの落差がヒドい。こんなものに振り回されていたと思うと気も抜けるっつうの……。

 

 それにそういった幽霊の噂が間違って広まった結果、ゲーム部の断末魔や生徒会の呻き声が幽霊の声に聞こえたのだろう。あまりにも拍子抜けで『な~んだそんなことか』と笑い飛ばすこともできねぇよ……。

 

ちなみに最初に感じた視線は『侑×零』愛好家のものだったらしい。俺と侑が仲良く話しているのを見て興奮していたそうだ。

 

 

「お兄さん、その……騒ぎ立ててゴメンなさい」

「いやいいよ。これで変な噂が消えてくれたのならな」

「あとはその……守ってくれて嬉しかったです」

「あぁそのことか。別に俺がやりたくてやっただけだ」

「……!? そうですよね、お兄さんはそういう人ですもんね。そういうところですよ、お兄さん♪」

「どういうところだよ……」

 

 

 骨折り損のくたびれ儲けかと思ったが、侑の怯える姿や今のようなしおらしい様子が見られただけでも収穫としておこう。最近はコイツに嫌われるようなことばかりしていたけど、これである程度信頼を取り戻すこともできたしな。コイツの中で俺の評価が上がったのなら儲けものだ。

 

 

「侑さんと零さんの関係……イイですね! この本読みますか!?」

「読まねぇよ!! 何が悲しくて自分が出演してる同人誌を読まなきゃいけねぇんだ!?」

「ちょっと気になるかも……」

「え゛っ!?」

 

 

 聞くところによるとその後『侑×零』モチーフの同人誌の続編がいくつか創作されたようだ。

 本人の俺からしてみたらめちゃくちゃ複雑だし、その話題を挙げると侑が顔を赤くしてしまうのでコミュニケーションにも困る。

 

 

 ていうか侑の奴、同人誌の中身を知ってそうだからもしかしてリピーターになってねぇだろうな……??

 




 侑ちゃん全然ゴーストバスターしてない件。それでもいつもとは違う可愛い面もお見せできたので私は満足です(笑)


 面白いと思った方は是非とも感想・評価をください!
 今後の執筆活動の糧となります!


【宣伝】
 2/7(日)より作家陣が集まって虹ヶ咲の企画小説が毎日投稿されます。
 既に1話投稿されているので、よろしければ閲覧をよろしくお願いします!

 『ラブライブ!~虹ヶ咲学園合同企画集~』
 https://syosetu.org/novel/249753/


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スクールアイドルキラー零

 近江遥と綾小路姫乃の再登場回。
 虹ヶ咲はサブキャラも可愛い子が多くて小説に出したくなっちゃいます!

今回は以前投稿した『ハーレム王はデートも多難』回を先に読んでおくとより楽しめます!


 この世にはたくさんのスクールアイドルが存在する。μ'sやA-RISEが席捲していた頃はその数も割と控えめだったが、ソイツらの引退後は爆発的に数が増えた。その理由は間違いなくその2グループが影響しており、Aqoursや虹ヶ咲もアイツらの影響を受けたグループの1つだ。今ではどんなグループが存在するのか把握するのも面倒になるくらいのスクールアイドル戦国時代となっている。

 

 だからこそスクールアイドルのイベントは各地で頻繁に行われている。黎明期ではライブをやるためには何事も自分たちで用意する必要があったが、今はスクールアイドル人気を受けてかライブやそれに伴う費用は企業が負担してくれるところも多い。そのおかげで様々なスクールアイドルが数の多さに埋もれずに活動ができるわけだ。作曲やダンスをプロに指導してもらうくらい本気のところもあり、この業界が今いかに熱いか分かってもらえるだろう。

 

 スクールアイドル同士の交流も盛んに行われているようで、虹ヶ咲も俺の知らないところでいくつかのグループと合同ライブを開催したことがあるらしい。本人たち曰くそのイベントは大成功だったそうで、ファンの好評を受けて既に第2回を計画しているそうだ。

 

 まあそれはアイツらが勝手にやってくれればいいのだが――――

 

 

「どうして俺まで合同ライブの打ち合わせに参加しなきゃいけねぇんだよ。これはお前らの仕事だろ?」

「いいじゃないですか。お兄さんどうせ暇なんですよね? だったら付き合ってくださいよ」

「お前さ、俺がこの前お化け退治に付き合ってやったことで味を占めてないか? 練習がないのにあるって嘘をついてまで呼び出しやがって……」

「今回は騙さずにしっかりと目的を伝えましたよ?」

「打ち合わせをするとだけ聞いたら内部のことだと思うだろ。誰が他のグループとの打ち合わせを想像するんだよ……」

 

 

 そう、今回も半ば騙される形で侑に連れ出されてしまった。『活動の方針で相談事があるから打ち合わせをして欲しい』って言われたら誰でも虹ヶ咲のことだと思うだろう。もう俺を騙すことに何の躊躇いもないよなコイツ……。

 

 

「それにお兄さんがいたら打ち合わせがスムーズに進むと思って。すなわち必要な存在なんですよ」

「はぁ? どうして?」

「女性に対して無敵のお兄さんであれば、相手を惚れ堕とすことで意見を我が物にできるじゃないですか。打ち合わせの主導を握ったも同然です」

「つまり俺を使って合同フェスを自分の意のままに操りたいわけか。意外と陰険なんだなお前……」

「冗談ですよ♪ 本当の理由は……」

「理由は?」

「一緒に……い、いえ、なんでもありません!」

 

 

 侑は照れた時の真姫のように髪をくるくると掻き回しながらそっぽを向く。耳まで赤くなってるけど何が恥ずかしいのやら。もしかして俺と一緒に居たいから呼び出したとか? いやコイツは俺のことを嫌ってるはず……だよな? 前回のお化け退治でそれなりに株を取り戻したものの、最近はコイツからの粛清を受けるくらいの醜態を連発してたからな……。

 

 連れ出した理由が何であれ、ここまで来たからには打ち合わせとやらに参加してやろう。どうやら最近人気のあるスクールアイドルと会うらしいので、女性関係に目が肥えた俺が直々にソイツらを見定めてやろうってわけだ。俺の周りには容姿レベルが抜群に高い女の子しかいないから、神崎零先生の採点はかなり厳しいぞ。

 

 そんな感じで侑と会話をしながらとある喫茶店で待っていると、明らかに容姿レベルの高い2人の女の子がやって来たことに気が付いた。

 ていうかコイツ――――

 

 

「遥?」

「零さん!? こ、こんにちは! ご無沙汰しております!」

 

 

 やって来た女の子の1人は彼方の妹である近江遥だった。以前彼女の男性恐怖症を治すために俺が手ずから特訓してやったのだが、その結果あまりにも俺に惚れ込み過ぎてしまったという経緯がある。そのせいか遥は俺の顔を見た瞬間に嬉しそうな笑みを浮かべていた。相変わらず笑顔が無邪気で可愛く、いつか妹の1人として迎え入れたい欲求が生まれてくる。これだけいい笑顔ができるのも流石は人気のスクールアイドルと言ったところか。

 

 そして、何故か俺を冷ややかな目で見る女の子が1人。遥と一緒に入って来たこの子もスクールアイドルだろうか。艶やかな長い黒髪に大和撫子が似合う気品ある佇まい。そんな清らかそうな子に睨まれることなんてしていないような――――ん? コイツどこかで見たことあるような……?

 

 

「あっ、お前まさか……例の喫茶店の店員か!? あの地獄のようなカップルキャンペーンを勧めてきたあの!!」

「えぇ、その件はどうも……」

 

 

 笑顔が怖い。傍から見たら大和撫子の女の子が笑顔を振りまく心地良いシーンにしか見えないが、俺からはコイツの額に青筋が見え明らかにそんなお気楽ムードではない。カップルキャンペーンなのに俺が別日に3人の女の子と例の喫茶店に訪れたためか、コイツは俺を浮気野郎と思い込んでいるらしい。そして果林と訪れた時はコイツに怒りが目に見えて分かるくらいの接客を受け、久々に女の子の恐怖を身に染みて感じてしまった。見た目だけでは清楚に全振りした女の子なのにここまで怒りを面に出せるとか、やっぱりスクールアイドルの演技力ってすげぇな……。

 

 

「ん? お兄さんと綾小路さんって知り合いなんですか?」

「あぁ、ちょっと色々あって……。ていうかお前もスクールアイドルだったなんてな……」

「えぇっ、お兄さん知らないんですか!? 綾小路さんはあの藤黄学園のスクールアイドルで、公式グッズも作られるくらい人気なんですよ!?」

「別に俺はスクールアイドルに特段興味があるわけじゃねぇから知らねぇよ……」

「あれだけスクールアイドルの人たちと付き合ってるのに??」

「俺の周りに集まってくる奴らがたまたまスクールアイドルなだけだ。ていうかコイツらの前で付き合ってるとか言うな!」

 

 

 だが時すでに遅し。綾小路の顔は笑顔を保ちつつも『鬼』となっているのが雰囲気で分かる。隣に座っている遥もその邪気を感じ取っているようで、身を縮こまらせて萎縮し怯えていた。

 そんな感じで最悪な再会をしつつ、俺と侑の対面に遥と綾小路が座る。初っ端から険悪なムードだけどこれで打ち合わせが進むのか……? つうか俺がいない方が良かったじゃねぇか……。

 

 

「取り乱して申し訳ございません。改めて自己紹介をしましょうか」

「そうですね。お兄さんもいることですし」

「ますは私から。綾小路(あのこうじ)姫乃(ひめの)。藤黄学園の2年生で、学園のスクールアイドルに所属しております。今日は何卒宜しくお願い致します」

 

 

 綾小路は深々と頭を下げ、育ちの良さを存分にアピールする。こうして激昂していなければお淑やかな子なのに……。まぁ海未もそうだったけどこういう奴ほど怒ると怖いな。見れば胸の大きさも海未と変わらない。やはり着物を着る習慣がある子は日常的に胸元が抑えつけられるから胸が薄いのか? そういや華道を習っている栞子もそれほど大きくないし、この考えは意外と合っているのかもしれない。

 

 

「えぇっと、近江遥です。東雲学院の1年生で、スクールアイドル部の代表として来ました。今日はよろしくお願いします!」

「高咲侑です! 虹ヶ咲のスクールアイドル同好会のお手伝いをしています! ほら次、お兄さん」

「神崎零だ。日々コイツに騙されている可哀想な男だよ」

「なんですかその自己紹介……」

「だったらお前が代わりに俺の紹介をしてくれ」

「この方は神崎零さん。傲慢で自意識過剰。唯我独尊で高飛車。自己顕示欲の塊で自分が世界で一番偉いと思っているナルシスト、そして超ド変態」

「やはりあなたは……!!」

「おいっ!? また綾小路に睨まれてんだけどちょっとは自重しろ!?」

「私は事実を言っただけでーす」

 

 

 知ってはいたけどコイツ本当にいい性格してるよな。いつの間にか憎まれ口を叩けるくらいには俺に信頼を寄せてくれている。相手のことが嫌いだったら俺をこの場に誘ったりはしないだろうし、悪口を言ってもネタにできると思っているのもその証拠だ。信頼関係がなかったら笑いながら悪口も言えねぇしな。だからと言ってこの場で俺の本性をバラすのは違うと思うぞ……。

 

 

「神崎零さん……。あっ、どこかで聞いたことがあると思ったら、まさかの()()()()()()()()()()()の神崎さんですか!?」

「な、なんだよそれ!? 誰だ? そんな厨二病の異名を付けたのは??」

「スクールアイドル界隈では有名な話ですよ。スクールアイドルの人たちを狙って純潔を食い散らかす暴漢がいるという噂ですが、まさか本当に実在していたとは……」

「待て待て待て!! 普通に犯罪者の噂じゃねぇかそれ! 根も葉もなさ過ぎるだろ!!」

「えっ、違うのですか?」

「違うに決まってんだろ。なぁ侑?」

「え゛っ!?」

「なにその意外な質問が来たみたいな反応は!? いつも一緒にいるから分かるだろ!」

「えぇ……」

「お前ちょっと笑ってるのバレバレだからな……」

 

 

 スクールアイドルキラーとかいう俺に合ってなさそうで合っているニックネームがこの世に出回っているらしい。さっきも言ったけどスクールアイドルの連中が勝手に集まってくるだけで、別に特定の奴らを狙ったりはしていない。それに手を出しているのもただの欲望ではなく、向こうから求めてきたからそれに応えてやっているだけだ。なんて説明しても綾小路には伝わらねぇんだろうな……。

 

 そして俺の素行を知っているにも関わらず、何故か俺をスクールアイドルキラーに仕立て上げようとする侑。コイツ、この前お化け退治に同行してやった恩を忘れてんのか? 恩を仇で返されたとは思ってないが、このままだとかすみと並ぶくらいのナマイキ後輩になっちまうぞ……。まぁ後輩キャラでからかってくる侑も可愛いと言えば可愛いが、生憎俺は罵倒で悦ぶドMじゃないんでね。

 

 2人の女の子にイジメられる中、遥だけは俺たちの様子を窺いながら何か言いたげにそわそわしていた。

 

 

「あ、あのぉ……零さんはそういった噂もありますけど、とても親切で優しい方ですよ……?」

「遥お前……てかどうして疑問形?」

「ち、違います! 別に他意はないです!! 零さんのおかげで男性恐怖症も治りましたし、手取り足取り指導してくださって嬉しかったです。なのでよろしければまたご指導いただければと思いまして……」

「なるほど、遥さんまでも手中に収めているということですか。そしてゆくゆくは東雲学院をも支配し、合同ライブで縁のある我が藤黄学園まで浸食を始めようという魂胆ですね」

「妄想力豊かだなお前。お前の中の俺のイメージどうなってんだよ」

「スクールアイドルを自分のモノとして堕とし、いずれこの界隈を牛耳る王となる野望を抱いている方だと」

「俺いつの間にRPGの魔王に仕立て上げられたわけ……?」

 

 

 別に王になろうとは思っていないが、スクールアイドルの伝説とも言われるμ'sを手に入れてA-RISEとのコネクションもあるからそれなりの地位にはいると思う。トップ2のグループに対してここまでの関係を築いている男は俺くらいだろう。最近そこそこ知名度を上げてきたAqoursや虹ヶ咲に対しても同じ男の影がチラついているってことで、そう言った意味では何も知らない奴から警戒されるのも仕方ないのかもしれない。それでもあらぬ噂が独り歩きし過ぎな気もするが……。

 

 

「目を覚ましましょう皆さん! この殿方はケダモノです!」

「う~ん、確かにお兄さんは変態さんですけど、いつも私が見張っているので大丈夫ですって」

「いつも……? 高咲さんはいつもこの方とご一緒なのですか?」

「ふぇっ!? ま、まあ歩夢たちを補佐する立場として同じポジションと言いますか、ほ、ほら、利害の一致ってやつですよ!」

「侑さん、顔赤くなってますけど……」

「え゛ッ……!? な、何を言ってるの遥ちゃん……。お兄さんはスクールアイドルのマネージャーとして大先輩で、近くで色々学んでるだけだよ!!」

「そもそもそのお兄さんって、随分と親しみを込めた呼び方で呼んでいるのですね」

「そ、それは電車内で痴漢された時にそれをダシにしてからかおうと思って……」

「ほぅ、痴漢……ですか」

 

 

 侑の奴また余計なことを……!! 綾小路がまたしても冷たい目線で俺を睨んできやがった。まあ痴漢を仕掛けたのは俺の方だから何も言い返すことはできないのだが、何もここで言わなくてもいいだろう。それだけ侑の思考は切羽詰まっていたのか。最近コイツと一緒にいることが多いけど、こういった女の子の表情をすることが多くなってきた。もしかして惚れてる……は流石にねぇよな。

 

 それよりも早く俺の誤解を解かないと綾小路にずっと不審がられたままになってしまう。そしてこのまま解散するとスクールアイドル界隈に本格的に俺の悪評が垂れ流されてしまうだろう。俺本人から何を言ってもコイツは信用しないと思うので、侑と遥かに頑張って欲しいが無理そうだよなぁ……。

 

 

「もしかして遥さんもこの殿方にお身体を触られたとか、そういったご経験がおありだったり……?」

「そ、それはたくさん……」

「たくさん?」

「い、いや変な意味ではないんです!! 男性恐怖症の治療のため零さんと手を繋いだり、ちょっと触れ合ったりしただけですから!!」

「本当は?」

「抱きしめ合ったりキスしそうに――――って、あっ……!?」

「治療なのに随分と濃厚なことをやってらしたんですねぇ神崎さん?」

「ぐっ……」

 

 

 綾小路の誘導尋問にまんまと引っかかった遥の口から治療内容が暴露され、またしても窮地に立たされる俺。そしてその様子を見て黙ったままペコペコと頭を下げて謝る遥。もう侑と遥が口を開くたびに俺がどんどん危険な状況に追いやられている気がするぞ。それだけ綾小路の仕掛けたトラップが巧妙だってことだ。澄ました顔をしてるくせに恐ろしい奴だよ……。

 

 

「俺は遥に必要なことをしてやっただけだ。現にこうして男性恐怖症が治ってるわけだし、そもそもこっちの事情だからお前には関係のないことだろ」

「それはそうですが……。しかし、スクールアイドルとして公序良俗に反することはやはり認められません」

「公序良俗ねぇ……」

「私、何かおかしなことを言いましたか?」

「いや、お前が正しいよ。そうだよな、スクールアイドルは清楚であるべきだよな……」

「……?」

 

 

 スクールアイドルに対して公序良俗なんて片腹痛いと思ってしまうのは、恐らくμ'sの一部連中のせいだろう。ソイツらの印象が強すぎるせいでどうもスクールアイドルに清純なイメージを持てなくなっている。俺と関わってしまったってのも要因の一つなんだろうが、自分から堕ちていく奴は大抵淫猥なことに対して素質があるってことだからな。だから俺のせいだけじゃないんだよ、いやホントに。

 

 

「お兄さん、どうして綾小路さんにここまで嫌われているんですか? まさか初対面の時に手を出したとか? お兄さんらしいと言えばお兄さんらしいですけど」

「勝手に結論付けんな! この前しずくたちと行った喫茶店の店員がコイツだったんだよ」

「はい、あそこではスクールアイドルとして接客や態度、表情作りといった基礎を学ぶためにアルバイトをしています。握手会などファンの方との交流もありますから、その練習としてお客様をお相手に勉強をしているのです。でもまさかカップルキャンペーンを3回、しかも毎回別の女性と訪れる男性がいるとは……」

「あぁ……デートの行き先が被っちゃった感じですよねそれ……」

「それにあろうことかあの果林さんまでこの殿方の毒牙に……!! フフフ、フフフフフフフフフ……!!」

「おいどうした!? 今にも人を殺めそうなオーラが出てるぞ!?」

「綾小路さんは果林さんの大ファンなんですよ……」

「なるほど、だから果林と行った時だけあんなに接客が荒っぽかったのか。ていうか公序良俗云々言っておきながらちゃっかり私欲混じってんじゃねぇか……」

 

 

 あの時はてっきり俺が浮気をしているものと思い込んで怒っているのかと思ったが、まさか果林大好きっ子だったとは……。反応を見るに綾小路は果林のファンでもかなり熱狂的なようで、そう考えるとアイツと一緒にいる男が浮気野郎と信じ込んで怒るのも無理はない。実際には浮気ではなく公認の仲なんだけど、まぁ部外者はそんなこと知る由もないか。複数の女の子に対し1人の男って構図なんて稀だしな……。

 

 

「とにかく、俺は果林や他のみんなを騙しているわけじゃない。至極普通の健全な付き合いだから心配すんな」

「色んな女の子とデートをしているのを健全かどうかは分かりませんが、綾小路さんが危惧するほどお兄さんは危険じゃないですよ」

「私もそう思います。初対面で私が悩みを打ち明けた時も真摯に対応してくださりましたし、心にしっかりと寄り添ってくれて嬉しかったです。男性恐怖症が治ったのも零さんのおかげで、こうしてスクールアイドルを続けていられるのも零さんのおかげなんですよ」

「遥さん……」

 

 

 いいぞ遥。持ち前の純粋さを遺憾なく発揮して綾小路のお堅い心を溶かしてやってくれ。本人である俺はもちろん、いつも一緒にいる侑も身内の発言として無視され兼ねなかったから、俺たちから一歩離れた立場にいる遥の言葉はより強くコイツに響くはずだ。現に綾小路は俺の顔をチラチラと見て困惑しているようで、どうやら自分の想像と周りの評価が違うことを受け入れるか受け入れまいか迷っているようだ。

 

 

「分かりました、神崎さんへの非礼をお詫びします」

「そうそう、全部誤解だったんだよ。分かってくれればそれでいいさ」

「お二人の熱い信頼が故です。それにしてもお二人共、神崎さんのことをとても慕っているのですね。それはもう見ているこっちが火傷しそうなくらいお熱くて……」

「し、慕ってるとかそんなのじゃありませんから!! ただお兄さんがスクールアイドル界隈から追放されたら歩夢たちが悲しむと思って……」

「まぁ! それは俗に言う"つんでれ"と呼ばれるものでしょうか?」

「は、はぁ!? ち・が・い・ま・すぅ~!! ねぇ遥ちゃん!?」

「わ、私はそのぉ……信頼していますよ、零さんのこと……♪」

「遥ちゃん……?」

 

 

 遥は恥ずかしそうにしながらも小さくはにかむ。そして仲間を作れなかったことで1人ツンデレを発揮しているだけとなった侑はあたふたと慌てだす。これほどまでに純粋に好意を伝えらえる子とツンデレ不器用な子を一度に見られる場面はそうないぞ。これも綾小路の誘導尋問の賜物か。心を見透かされて侑も遥も頬を染めて黙ってしまった。

 

 ていうかコイツ、例の喫茶店でカップルキャンペーンを主導して推進していたからか、こうして人の心を引き出すの上手いよな。あの時もしずくや璃奈はすぐコイツの口車に乗せられたし、心理戦で最も相手をしたくない奴だ。

 

 

「つうか打ち合わせはいいのかよ? もう何のために集まったのか分からねぇぞ」

「そうですね。誤解も解けたことですし、そろそろ始めましょう」

「一番誤解してたのはお前だけどな……。今にも俺を潰しそうな形相してたし、普通にしてりゃ可愛いんだからもっとポーカーフェイスを鍛えたらいいと思うぞ」

「か、かわっ!? 可愛いって、そんなことないですよ……」

「そんなことあるだろ。普通に好みだぞ、お前のこと」

「な゛っ!? 御冗談を……。で、でも嬉しいです。ありがとうございます……」

 

 

 初めて見た綾小路姫乃の女の子っぽい表情。さっきまでツンツンしていたからこそこうして照れているところがより新鮮に見えて可愛く感じる。この反応を見るに異性から好意を伝えられたことがなく慣れていないウブっ子に違いない。いいじゃん、誰の手にも穢されてない女の子って。自分の色に染めてやりたくなってくる。

 

 照れたまま黙ってしまった綾小路とは対照的に、俺をじっと見つめる2つの視線あり。侑は呆れたように、遥は苦笑して何か言いたげにしていた。

 

 

「そういうところですよ、お兄さん」

「あはは、零さんらしいと言えば零さんらしいですね……」

「なにがだよ……?」

「遥ちゃん、前に話したけどこういうことだよ」

「なるほど、納得です」

「なにが!?」

 

 

 そうやってケチを付けられ、納得がいかない流れのまま打ち合わせに突入した。

 綾小路の誤解も解けて俺への態度が軟化したのは良かったが、どうしてケチを塗られたのかは教えてもらえず結局最後まで不明のままであった。異世界転生モノのテンプレ主人公になったつもりはないけど、俺なにかやっちゃった……のか?

 




 侑と遥の言う通り、そういうところがスクールアイドルキラーなんですよね零君。スクールアイドルがいる限り彼の魔の手は無自覚に伸び続けそうです(笑)

 小説を面白いと思った方は是非とも感想・評価をください!
 今後の執筆活動の糧となります!


【宣伝】
 2/7(日)より作家陣が集まって虹ヶ咲の企画小説が毎日投稿されます。
 既に8話投稿されているので、よろしければ閲覧をよろしくお願いします!
 ちなみに最新話は私の小説が投稿されていますので、是非ご覧ください。

 『ラブライブ!~虹ヶ咲学園合同企画集~』
 https://syosetu.org/novel/249753/


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歩夢ちゃんは思春期

 歩夢回は初めてですがこんなネタでいいのか……?


 上原歩夢。女子力が高くお淑やか、謙虚で控えめの引っ込み思案。自分の言いたいことをなかなか言い出せないが信念はある。何ごともコツコツ真面目に取り組む努力家。いつも前向きで、諦めることや投げ出すことはしない。自身のスローガンは『一歩一歩』。

 これだけ聞くと特徴と言った特徴もなく目立たないが、好きになった相手にはとことん惚れ込んで献身的に尽くし、しかも身体付きもいい。そう考えると理想のヒロイン像をこれでもかってくらい取り込んでいる。ギャルゲーやエロゲーだったら間違いなくヒロインのセンターを飾るようなキャラだろう。清楚で純粋っ子で、幼馴染属性があるってのもポイントが高いんだろうな。

 

 

「あ、あのぉ……」

「なんだ? 気を散らせてないで目の前の勉強に集中しろ」

「零さんが見つめてくるから集中できないんですよぉ……!!」

 

 

 歩夢はシャープペンシルを動かす手を止めて俺を見つめる。自分から勉強を教えて欲しいと頼んできたのにサボるとは何事か。そもそもスクールアイドルをやってんのに男の視線に耐えられないのは問題がある。これは勉強だけではなくて精神も鍛えてやらなきゃいけねぇな。もっと見つめて羞恥心を煽ってやるとかさ。

 

 ってのは冗談で、今日は歩夢の勉強に付き合っている。コイツ成績はそれなりにいいらしいのだが気を抜くとすぐ点数が落ちてしまうタイプで、最近スクールアイドルに集中しているせいか勉強が疎かになりテストが危ういらしい。だから俺に頼み込んで来たってわけなのだが、コイツにとって俺と2人きりの空間は気が気でないらしく、俺が教えている間も問題を解いている間もずっとそわそわしていた。

 

 

「一応確認しておくけど、お前から頼んできたんだよな? それなのにお前を見るなって相当無茶だろ……」

「見つめる必要はないですよね!? もしかして私の顔に何かついてますか……?」

「いや、お前こそ理想の結婚相手だよなぁと思って」

「ふぇっ!? わ、私が零さんの……!? ぷしゅ~……」

「俺だけじゃなくて一般的な意味でなんだけど――――って、湯気出してやがる……」

 

 

 歩夢の目はぐるぐる巻きになっており、顔から煙を出すくらい困惑している。たったこれだけのことで顔を真っ赤にするのもある種の才能っつうか、非常に妄想力が豊かな奴だ。こうやってウブな反応を見せるのも正ヒロインとしての風格だろう。幼馴染+清楚+初心なんて使い古されたキャラだと思っていたが、こうして面と向かって見てみると可愛いもんだ。

 

 

「おい目を覚ませ。もうすぐ練習だろ? 勉強する時間なくなっちまうぞ」

「はっ!? ご、ゴメンなさい! 舞い上がっちゃってつい……」

「よくそんなメンタルでスクールアイドルできるよな。ステージの上で緊張しまくりなんじゃねぇのか?」

「私がこうなるのは零さんの前だけですよ……。好きな人から結婚相手に選ばれるなんて……!! うぅ……恥ずかしい!!」

「また顔赤くなってんぞ。いいから落ち着け」

 

 

 どんな妄想をしているのかは知らないが、自分で話を掘り返して自爆しやがった。程度の違いはあれど今日のコイツの様子はずっとこんな感じで、俺と2人きりという状況に心が乱れているらしい。そのせいかさっきからあまり勉強が進んでいないのでマンツーマンが完全に足を引っ張っていた。

 

 もうすぐ練習なので時間がない。あと教えていない教科は――――あった、保健体育だ。問題集やプリントたちの下に埋まっていたところを見るに歩夢の奴、露骨に避けてやがるな……。見た目は清楚を気取っているみたいだけど脳内はそれなりの規模のラブホテルを建設しているので、こう見えて意外とむっつりなのは知っている。これまでもコイツの発言や反応の端々に淫乱の兆候を感じたことがある。もしかしたら、いやもしかしなくても清楚を気取ってるだけじゃねぇのか……?

 

 そうだ、せっかくなら歩夢のむっつり度を俺が測ってやろう。これでコイツが本当に清楚キャラなのか、もしくは淫乱ちゃんなのかが明らかになる。この俺がお前のファッション清楚を白日の下に晒してやるから覚悟しておけ。

 

 

「そういやせつ菜ってさ、縛りプレイが好きだって知ってたか?」

「えっ……? え゛ぇぇぇえええええええええええええっ!? し、縛り……せつ菜ちゃんが!?」

「あぁ、縛れば縛るほど熱くなるそうだ」

「そ、そうだったんですね。いつも無邪気なせつ菜ちゃんがそんな、縛られるのが好きだなんて……」

 

 

 一応解説しておくが、俺が言っているのはゲームの話だ。ゲームを普通にプレイするのではなく自ら制約を課すマゾの遊び方、それが縛りプレイである。

 だけど歩夢の脳内には今頃せつ菜が縄で亀甲縛りにされている光景が映し出されていることだろう。顔を赤くしてあたふたしている様子を見るに間違いない。このままネタ晴らししてもいいけど、反応が面白いからもうちょっと遊んでやるか。

 

 

「この前せつ菜の奴、俺を誘ってきたんだよ。面白い縛りプレイがあるから一緒にやらないかって」

「ふぇええええっ!? そ、そんなにマニアックなプレイを零さんが……?」

「まあ俺は縛る側で縛られてんのはアイツだけだったけどな。でも楽しそうにしてたぞ」

「楽しそうに……!?」

 

 

 歩夢の妄想では俺がせつ菜を縛り上げて服従させている情景が浮かび上がっているに違いない。あまりの鬼畜プレイを想像してか歩夢の身体は震えていた。たかが縛りプレイって単語だけでそこまで淫猥な妄想ができるなんて、やっぱり素質あるなコイツ。思春期の女の子が身に付けてはいけない気もするが……。

 

 

「アイツさ、縛れば縛られるほど興奮するタイプなんだよ。ガチガチに縛ると余計に喜ぶから困ったもんだ」

「せつ菜ちゃんって意外とそっち系だったんですね……。でも零さんに縛られて悦ぶって気持ち、分からなくはないかも……って、今のナシで!!」

「ほぅ、ならお前もせつ菜と一緒に縛りプレイをやってみるか? 縛りに縛り過ぎて一晩中かかるかもしれねぇけど」

「一晩中!? そ、そんなに耐えられるかな私のカラダ……」

 

 

 おい、もう縄で縛られる気満々じゃねぇかお前……。もっと抵抗を示すかと思ったら割と乗り気な様子だから俺の方が驚いたぞ。

 もちろん俺はゲームの縛りプレイのことを言っているのであって、歩夢の想像するような鬼畜なハードプレイのことではない。それにさっき語ったことは全て事実であり、せつ菜が自ら俺に縛りプレイの内容を決めさせてきたり、2人で部屋に引き籠って徹夜でゲームをしていたのも全部本当だ。そしてせつ菜が過酷な縛りプレイに喜んでいたのもマジであり、あの時は散々付き合わされて疲れたのなんのって……。でもこうして歩夢で遊ぶネタにできたから、あの日の疲労も無駄じゃなかったってことだな。

 

 

 気を取り直して勉強を続ける中、ふとソファに旅行雑誌が置いてあるのに気が付く。そういや合宿に行きたいって言ってたなコイツら。合宿自体は夏にやっており、俺とコイツらが初めて一堂に会したのが今年の海の合宿だった。あの時はお互いに複雑な関係だったからその合宿が楽しめたかと言われるとそうではなかったようで、俺との関係が戻った今だからこそもう一度一緒に旅行をしたいそうだ。

 その後コイツらだけで合宿をしたことがあるみたいなのだが、その場所は校内でちっとも合宿感はなかったらしい。もっと海とか山とか旅行感覚で楽しめる場所に行きたいと、特にかすみや愛から愚痴を聞かされていたのでよく覚えている。

 

 

「お前ら、旅行に行きたいんだってな」

「あっ、その雑誌……。そうなんですよ。流石に校内での合宿はいつもの練習の延長線上だったので、次は自然いっぱいのところでたくさん遊びたいです!」

「合宿なのに遊びたいのかよ。穂乃果みたいなこと言うな……」

「あっ、も、もちろん練習がメインですよ!? えぇっと、μ'sの皆さんとの合宿はどちらへ?」

「海も山も両方行ったよ。まあ結局遊びがメインで練習らしい練習ってあまりしてなかった記憶があるけど……」

「あはは……。でも綺麗な海や山に行ったらそうなっちゃいますよね」

 

 

 アイツらとの合宿の思い出と言えば、海未の地獄のような特訓メニューで全員がのたうち回っていたこと、真姫が高校生にもなってサンタクロースを信じていた事実が発覚したことなど、ぶっちゃけスクールアイドル関連以外のことの方が記憶にある。そもそもまともに練習してたかすら怪しいレベルで、ただ金持ちの真姫の好意に寄生する形で遊びに行ったに等しい。そう考えると普通の合宿を経験してないな俺……。

 

 そうだ、ここでも歩夢を試してみるか。普通の人間なら世間話で流すところをどういった反応をするのか見物だ。

 

 

「そういや俺、アイツらの前でテント張ったんだよ」

「へっ……? ど、どうしていきなりそんな話を……?」

「いや山に行った時にアイツらに頼まれたからさ」

「そ、そうなんですね……。高校生の頃からお盛んだったんだ……」

 

 

 歩夢はまたしても顔を真っ赤に燃え上がらせる。期待通りの反応を見せてくれたから満足すべきなのか、それともあっさりと自分の煩悩を晒してしまっているので淫乱女子と罵るべきなのか。どちらにせよまたコイツの隠れた色欲が暴かれた瞬間だ。

 

 もちろん俺が言っているのは山での合宿の際にテントを張ったことである。だが歩夢が想像しているのは男性の下半身、ズボンが膨らんでいる妄想に違いない。現に今も俺の下半身に目を向けては背けを繰り返している。よく女性が『男性にエロい目線で見られているとすぐ分かる』みたいなことを言っているが、それはその逆も然りなんだと実感した。歩夢の挙動が怪し過ぎるだけなのかもしれないが……。

 

 

「テントを張ると合宿らしくなってアイツらも興奮しちゃってさ、そのせいで夜も全然眠れなかったんだよ」

「えぇっ!? 眠れなかったって、山でのキャンプでそんなことを……??」

「あぁ、あの時は寝かせてくれなくて大変だったなぁ」

「そ、そんなずっとやってただなんて……。なんて絶倫……」

「次の日も練習があったから、俺が無理矢理寝かしつけたんだよなそういや」

「無理矢理!? 野外のキャンプでなんてマニアックなことを……」

 

 

 歩夢の奴、もう口から妄想が漏れて煩悩を隠しきれていない。歩夢の脳内には俺が下半身をテントのように立て、キャンプ場でμ'sの奴らを襲っている光景が広がっているのだろう。さっきから身体をもじもじさせ、俺の下腹部をチラチラと見る不審な挙動で考えがバレバレだ。俺はただ西木野家の敷地内にテントを立て、キャンプだと興奮した穂乃果たちをあやしていただけなのにな。まあ俺が勘違いさせるように喋っているのも悪いのだが、それだけで何の疑いもなくエロい妄想をするコイツもコイツだろう。

 

 

「そんなことをやってたからか、1日目の夜から全てを出し切ってヘトヘトになったよ」

「だ、射精(だし)きった!? 絶倫の人が全部って、一体どれだけの量を……」

「夏の夜は蒸し暑いからさ、もう身体中濡れ濡れのベトベトで大変だったな」

「濡れ濡れ!? ベトベト!? そ、そんなにも射精(かけ)ちゃったんですね……。零さんにそこまで攻められたら私なんて……うぅっ……」

 

 

 俺はただ騒ぐ穂乃果たちに巻き込まれ体力を出し切ったり、そのせいで汗をかいたりしただけなんだけど、歩夢のイメージでは汗ではない真っ白な液体が飛び散る言葉ですら描写できないほどの絵図が広がっているのだろう。これ以上コイツの妄想を俺の口から語るのはあまりにも危険すぎる。

 

 ていうかコイツの中で俺がテクノブレイクを知らない精力魔人だと勘違いされてるような……。そうやって想像させるように仕向けているのは俺だけど、ここまで性欲の権化みたいな扱いにされるとは思ってもいなかった。情報化社会の発達で誰でもその手の知識を簡単に仕入れることのできる世の中だが、まさか思春期女子の妄想力がここまで成長していたとは世も末だな。

 

 

「どうした? さっきから落ち着きがないぞ?」

「い、いえっ、特に疚しいことは何も考えていませんから!!」

 

 

 自分で言っちゃったよ。それもう自分の脳内はエロに塗れているって言ってるようなもんだからな?

 それにコイツ、微妙に発情してやがる。ぱっと見では分からないのだが、幾多の女の子を相手にしてきた俺なら女の子の興奮状態なんて雰囲気で分かるんだ。もし俺がここで歩夢を押し倒したらコイツは抵抗せずに受け入れてくれるだろう。猥談のようで猥談ではない会話だけでここまで興奮できるなんて、それもある種の才能だな。

 

 よし、ここまで来たらもう一押ししてみて発情の限界まで追い込んでみるか。

 

 

「でもあの頃からアイツらと付き合ってたから相手にするのは慣れてたけどな」

「つ、突き合う?? 零さんと穂乃果さんたちが……突き合う? 意外と変態さんみたいなことを……」

「そりゃ俺もアイツらもみんな変態だよ。俺からすれば複数の女の子たちと同時に付き合ってるし、アイツらからすれば1人の男に手籠めにされてんだから」

「同時にやってたんですか!? どうやって!?」

「俺クラスにもなればな、手なんていくらでもあるんだよ」

「手……つまり指の1本1本でμ'sの皆さんを突いて…… あわわわ……!!」

 

 

 俺の指はエロ同人に登場する触手かよ……。女の子たちを指を使って同時に相手をするとか下手をしたら触手プレイよりマニアックだぞ。つまりそんな変態プレイを容易に想像する歩夢は度し難い変態ということだ。コイツもう墓穴を掘り過ぎて地球の裏側に行ってしまいそうな勢いだな……。

 

 

「そんなことで悶えてたら、もし俺と付き合った時はどうなるんだよ」

「零さんと突き合う!? そ、それは私からも攻めて良いということでしょうか……」

「俺は別に構わないぞ。女の子側からグイグイ来られるのはむしろ求められている感じがして気持ちいいからな」

「気持ちいい!? そ、そんなものなんですかね……。でも確かに女性が装着できる男性器を模したモノもあるみたいですし、それを使えば――――って、零さんにそんなことできませんよ!!」

「そ、そうか……」

「う~ん、でも零さんがお望みであれば私もそういうことをいっぱい勉強して、零さんを悦ばせられるようになった方がいいよね……。そ、そういった玩具って買ったことないけど高校生でも買えるのかな……」

「歩夢? お~い」

「それに絶倫の零さんを満足させるためには私も体力を付けないとだよね。でもμ'sさん全員を相手にしてようやく射精(だし)きったみたいだし、私1人でお相手が務まるのかな……」

 

 

 ヤバい。羞恥心が爆発するどころかそれを通り越して妄想が爆発している。もはや自己暗示かのように自問自答をし続け、ありもしない未来(俺との突き合い)に備えようとしているようだ。正直ここまでやる気にさせるつもりはなく、どちらかと言えばあまりの恥ずかしさに悶絶すると思っていたから予想が外れた。歩夢はひたむきに努力をするタイプだからその性格がこういうところでも発揮されたようだ。完全に努力の無駄遣いだけど……。

 

 

「零さん!!」

「えっ、な、なに??」

「私、決めました。零さんのお相手として相応しくなるために、全ての恥を捨てて零さんを攻められるように今日から努力します!」

「な゛っ!? いやその努力する必要は……」

「そうですよね。μ'sさんに比べたら私は未熟で、努力したところで零さんを満足させることはできないかもしれません。でも私、零さんとお突き合いできるよう頑張りますから!」

「お付き合い……だよな?」

「お突き合いです。なので零さんが攻められて好きな部分を教えていただけたらなぁ~と。生憎ですが私は男性ではないのでそ、その、零さんがいつも女性のどこを突いているのかとか……うぅ、や、やっぱりこれ聞くの恥ずかしいよぉ……」

「いやそれまでも十分に恥ずかしい要素あっただろ……」

 

 

 歩夢の奴、もう羞恥心が膨張し過ぎて自分でも何が恥ずかしいことなのかの判断できなくなっているのか。そんな決意を抱いている時点で女の子としては恥じるべきことなんだけど、逆に考えれば俺を喜ばせようと思って恥を忍んでいるのかもしれない。それを健気と言うべきかただの淫乱思考だと貶すのか。どちらにせよこのままだと俺の穴という穴が歩夢に浸食されかねない。もちろん俺にそんな趣味はないので勘違いなさらぬよう。

 

 

「歩夢、お前の気持ちは嬉しいよ。でも今はテストに集中しよう……な?」

「あっ、ゴメンなさい。私から勉強を教えて欲しいとお願いしたのに、こっちで勝手に盛り上がって中断させちゃって……」

「お前が謝る必要はない。先に話題を振ったのは俺だしな……」

「いえいえ、私の集中力が足りないがために招いたことですから。その代わり、テストが終わったら私が零さんをたくさん満足させてあげます!」

「い、いやぁそれはまたの機会に……かな」

 

 

 そうやって適当にはぐらかしてみたが、歩夢のやる気を見るに俺が止めても強行してきそうで怖い。まあそれで勉強に対してやる気を出してくれるのならそれでいいか……って、俺の後ろの貞操を生贄に捧げてまでは流石にやめて欲しいぞ……。

 

 ちなみにしばらく虹ヶ咲の中で俺にマゾ属性があるというあらぬ噂が流れていた。恐らく歩夢がさっきの話をお漏らししたからだろうが、そのせいで侑たちから奇異な目で見られてしまった。話題の発端は歩夢の煩悩を晒そうとする俺の欲望とはいえ、ここまで自業自得になるのは久しぶりだ。コイツの煩悩だけには絶対に触れてはいけないと誓った瞬間だった……。

 




 むっつりスケベな歩夢がとても可愛いと思いながら執筆していましたが、ここまで来るとむっつりというレベルを超えていそうな気がします(笑)

 でも歩夢ってリアルでも謎に性知識があってむっつりそうなイメージがあったりします。もしかしたら私がこんな話を描くので皆さんに無理矢理そういうイメージを植え付けちゃってるかもしれませんが(笑)



 新しく高評価をくださった

 ホイケルさん

 ありがとうございました!
 もしまだ評価を入れてくださっていない方がいましたら、是非評価をお願いします!



 先日私が主催している企画小説にて私の担当分の小説が更新されました。
 この小説とは毛色が違ったハーレムモノとなっているので、そちらも是非ご覧ください!

『虹ヶ咲ガチャで悠々自適なハーレム生活』
https://syosetu.org/novel/249753/8.html



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

淫靡な誘い、蠱惑な彼女

 今回は果林回。
 ロマンティックなシチュエーションを描くのは苦手です。


 今日は虹ヶ咲学園ではなくとある撮影スタジオに来ている。最初から予定されていたことではなく突如果林に呼ばれ、バイクを飛ばしてここに来た次第だ。何やら同じ撮影に参加予定だった男性モデルが急病で長期の休みになったらしく、その代役として何故か素人の俺に白羽の矢が立てられた。どうもそのモデルの背丈や体格、顔面のビジュアルが俺に似ているらしく、それで果林がスタッフに俺を提案したらしい。そのせいで休日なのに1日中この撮影に付き合わされるハメになったんだ。

 

 一通り撮影を終えた俺はスタジオの隅っこで休憩していた。そこに果林がやって来て俺の隣に腰を掛ける。

 

 

「お疲れ様。初めての撮影だったのにいい被写体になっていたわよ。流石の天才肌ね」

「まあ注目されることには慣れてるからな。ほら、お前らの学校で女の子たちに視線を向けられてるから」

「女子高なんだし、あなたみたいなイイ男が歩いていたら気にもなるわよ。でも今日は本当に助かったわ」

「これでタダ働きってんだから感謝して欲しいよ」

 

 

 そう、代役を務めたのはいいものの報酬は一切なかった。そりゃ俺自身が突然の配牌だから何も用意できないのも仕方ないが、特に問題なく撮影を終えたのだから何かしらあってもいいんじゃねぇか? こちとら休みを返上してんだからさ。

 

 

「骨折り損のくたびれ儲けって言葉が良く似合うな。撮影があんな堅苦しいものと思ってなかったから妙に肩が凝っちまった」

「それだけご褒美が欲しいなら、私から何かあげるわよ」

「え、マジで? そうだな……お前自身とか?」

「それはもう手に入れているものじゃない?」

「確かに。お前はもう俺のモノだったな」

「そ、そうね……」

 

 

 果林は顔を紅潮させて俺から顔を背ける。自分で話題を振っておいて恥ずかしがるなよ……。

 ご褒美とは言っても別に金に困っているわけでもないし、世間一般で求められているものを貰っても仕方がない。現時点で俺の望むものは手に入っており、隣にいる果林もその中の1人だ。強いて挙げるとするならば女の子たちを大量に囲っておくための豪邸が欲しいくらいか。秋葉や母さんの財力を使えば何とかなるのだが、あの2人に借りを作ったら最後、己の人生をかけて支払うことになるだろうからそれは避けたい。そう考えると金はいくらでも欲しいのかもな。

 

 

「仕方ないわね。だったらこれ、あげるわよ」

「えっ……?」

 

 

 果林は自分の胸の谷間に指を突っ込むと、その中からチケットのようなものを取り出した。アニメや漫画のお色気シーンでよくあるシチュエーションを生で観たのは初めてだ。あまりにも自然な動作だったから驚くこともなかったけど、よくよく考えてみたら何してんだコイツ……。

 

 

「あら? 男性ってこういうので興奮するものだと思っていたけれど、案外冷静なのね」

「いや時間差で驚いてるぞ。てかリアルでその動きをする奴を初めて見たな……」

「感想は?」

「超エロい。今にもその谷間に手を突っ込みたくなるくらいには興奮してるよ。それに巨乳の女の子が自ら特権を活かす様を見てると、誘われているような気がして嗜虐心がくすぐられるんだ」

「急に欲望の塊になったわね……」

 

 

 男はみんな性欲の権化なんだからそりゃそうだ。健全者と変態なんてその欲求を表に出すか出さないだけのほんの少しの差に過ぎない。だったら自分の欲望を押し殺さずに曝け出した方が人生豊かになると思わないか? せつ菜も『好きなことを隠す必要はない』って良く言ってるだろ?

 

 

「俺の話はいいとして、そのチケットはなんだよ?」

「この撮影現場の近くにある高級ホテルの宿泊券よ。私は明日も朝から撮影があるからここに泊まることになっているの。実は誰か友達でもってスタッフさんからもう1枚余分に貰っていたから、いい機会だしあなたにプレゼントするわ」

「そんなのがあるなら最初から渡せよな……」

「それはつまり、ホテルに泊まるということでいいのよね……?」

「高級ホテルにタダで泊まれるなんて滅多にないことだしな――――って、挙動不審だぞどうした?」

「い、いえ、なんでもないわ。そうと決まれば着替えてホテルに行きましょう」

「あ、あぁ……」

 

 

 果林は急かすように俺の手を引いて無理矢理立ち上がらせる。俺がホテルに泊まると決めた瞬間からコイツの様子がおかしいが、それほどプレゼントを受け取ってもらったことが嬉しいのだろうか。そりゃタダよりありがたいものはないので嬉しいのは当たり前なのだが、妙にそわそわしているのが気になる。まさかスタッフが用意してくれたホテルが実はドッキリ会場で、仕掛け役の果林が俺を罠に嵌めようとしている……のは流石にねぇか。ポーカーフェイスは得意そうだし、今のようにここで取り乱すような真似はしないだろう。

 

 結局果林の緊張している理由が分からないまま俺は例のホテルに行くことになった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おい、どうして同じ部屋なんだよ……」

「別に最初から別室とは言ってないでしょ。2人1部屋の宿泊券だったのよ」

 

 

 高級ホテルのとある一室。俺はベッドに腰掛けながら果林を尋問していた。確かに別々とは言っていなかったが普通に考えて同室だとは思わないだろう。まさに口車が詐欺師の手口そのもので、完全にしてやられた気分だ。

 

 だが果林の挙動不審だった様子を見るに、恐らく最初から狙って俺を誘いだしたに違いない。素直に真実を伝えたら俺が帰ってしまうとでも思っていたのだろう。

 しかし、もうチェックインが済まされてしまった。このまま帰るのもホテルに悪いので、気は乗らないが今日はコイツに乗せられてやろう。

 

 俺たちの部屋はこのホテルの中でもかなり上位の部屋のようで、2人部屋にしてはかなり広い。さっき部屋中を見て回ったのだが、ベッドもクローゼットもジャグジーもトイレも何もかもがお高そうだ。普段庶民的な生活を送っている俺からしたらこの空間は落ち着かない。高級飯よりも家庭飯、高級ベッドよりも家のベッド、バスローブよりも安物の寝間着。この気持ちを分かってくれる人はたくさんいると思う。

 

 

「落ち着かない?」

「あぁ、ただでさえ堅苦しいのは苦手なのにお前と一緒だからな」

「それは私と一緒にいるのが嫌ってことかしら?」

「そうじゃない。俺が場違いすぎるってだけだ。お前はビジュアル的にもこういった高級感溢れるところが似合ってるじゃねぇか」

「あら、だったらあなたも同じよ。男性として顔もスタイルもいいのだから」

「そりゃどうも。だけど俺はただの庶民だ。作法を気にしなきゃいけないお高い食事よりカップ麺、牛丼、コンビニ弁当。そっちの方が楽しめる。高級ホテルと聞いてちょっと期待したけど、ここまで落ち着かないとは思わなかったよ」

「知ってはいたけど、あなた相当捻くれているわね……」

 

 

 俺が一般常識内で生きていたらあれだけたくさんの女の子を恋人にしてないって。自分の欲望に忠実で社会から逸脱した人間だからこそ女の子を囲っていられるんだ。俺はそれが楽しいから真っ当な人間になろうとは思わないけどな。

 

 

「とりあえず仕事の汗を洗い流したいから、シャワーでも浴びようかしら」

「は?」

「なによその反応。もしかしてドキドキしてる?」

「そりゃするだろお前。それに男と2人きりの状況でシャワーを浴びてくるのがどういうことなのか、知らないはずねぇよな?」

「そうね。でも今のあなた、凄く堅苦しい思いをしているじゃない。そんなガチガチの状態で私の相手ができるのかしら?」

「興奮すりゃお前しか見えなくなるから平気だ」

 

 

 2人きりのホテルでシャワーを浴びる。これが示す意味はただ1つだが、果林の奴が俺をおちょくっているのか本気で誘っているのか真意は分からない。だが俺を欲情させようとしているのは事実であり、少なくともシャワーを浴びてそのまま就寝のルートにはならなそうだ。

 

 果林はシャワールームへと入る。扉越しに彼女の身体が薄っすらと透けて見え、1枚、また1枚と身に纏う服を脱いでいく様が何とも艶めかしい。俺に見せつけているのか読者モデルが故の性格なのか、服の脱ぎ方がストリップショーのようで非常に情欲を唆られる。更に服を脱ぐたびにシャワールームの扉越しに肌色の面積が増えるので、扉1枚隔てた先に裸の女の子がいると思うと今にも飛び込みたくなりそうだ。さっきまで高級ホテルに堅苦しい思いをしていたはずなのに、やっぱエロは人を変えるんだな。

 

 しばらくして、シャワーの音が響き出す。スタイル抜群の果林のシャワーシーンなんてどれだけ金をつぎ込んでも覗きたいという輩がいるだろう。だが俺はそれを無償で、しかも(恐らく)向こうから誘ってきている状況だ。ここは性欲に従って突撃した方がいいのか、それとも雰囲気重視で女の子のお清めを邪魔しないべきか。わざわざシャワーを浴びるってことは()()()()()()()を期待しているんじゃないか? だったらシャワールームへ突撃なんて早漏っぽいことはせず、大人の男として身体を綺麗にした女の子を待つべきだろう。

 

 だけどモヤモヤすることに変わりはない。女の子との性行為の際にここまでロマンティックな状況に陥ったことがないため、こう待たされていると焦らしプレイをされている気分だ。別に俺がどこでも構わずがっつく性欲魔人ではないのだが、男って性欲が高ぶると我慢が苦痛になる生き物なんだよ。

 

 そんな風に性欲に苛まれつつもベッドに腰を掛けて時を消費する。

 そして、遂に果林がシャワールームから出てきた。バスタオルを1枚身体に巻いて――――――

 

 

「お前その格好……」

「我慢できなくなって入ってくるかと思ったけど、意外と欲求のコントロールはできるのね」

「見くびって貰っちゃ困る。まぁ今のお前の姿を見て理性も何もかも吹き飛びそうだけど」

「そうやって女の子を前にしても自分の欲望を忠実にぶつけるところ、私は好きよ」

 

 

 ドライヤーをかけたけどまだ少し濡れている髪、清めたての艶やかな肌、そしてバスタオル1枚という扇情的な格好。もう襲ってくれと言わんばかりの蠱惑的な女が目の前にいる。タオル1枚だからか身体のラインが浮き彫りになっていて、凹凸が激しい彼女の身体の艶めかしさが見るだけでも分かる。高校生離れした胸と尻が揉めと主張しているくらい形が出ているため、気を抜いたら確実に俺の本能がコイツに降りかかるだろう。

 そして、バスタオルからはみ出て見える胸元や脚もシャワーの影響で瑞々しく、思わずしゃぶりつきたくなる。肌が綺麗なのは読者モデルやスクールアイドルをやる上で当たり前のことかもしれないが、男は女の子のきめ細かい肌が大好きなんだよ。

 

 

「フフッ、目がエッチよ?」

「これだけ分かりやすく誘っておきながらそんなこと聞くか普通?」

「ゴメンなさい。でもからかいたくなっちゃって。零さんの可愛いところ、もっと見たいもの」

「お前、俺が可愛いってよく言うよな。20年生きてきて初めてなんだけど……」

「だっていつもはトレーナーの立場として私たちを熱心に指導してくれているけど、今みたいに性欲が滾った時は分かりやすく本能的になるもの。赤ちゃんがお母さんのおっぱいを求める時みたいで可愛いのよ」

 

 

 これでも思春期時代に比べれば性的欲求はかなり抑えられている方だと思うんだけどな……。高校生の時は所構わず手を出したり、女の子の裸を見るだけで鼻血を出すような奴だったからな俺。つまり今の俺は行動には出ていないだけで雰囲気というか、目で追っていたり興奮しているのが目に見えて分かるってことか。やっぱ男特有の欲望には逆らえねぇよ……。

 

 

「ねぇ、見たい?」

「は?」

「このバスタオルの下、見てみたい?」

「そ、そりゃ……見たくねぇ男はいねぇだろ。好きな女の裸姿なんだから……」

「……!? 欲望を口に出す潔さもそうだけど、不意打ちで好きって言ってくれるのも好きよ。それに『読者モデル』の私じゃなくて、ありのままの私の裸を見たがっているというのもポイントが高いわね」

「俺は貪欲だからどっちもだな。読者モデルとして活躍するお前の裸を拝んで他の奴らより優越感に浸りたい気持ちと、好きな女を抱きたい気持ちの両方だ」

「抱きたいって、そこまで許してはないわよ?」

「お前なぁ、力の差は歴然ってこと知ってるか? 俺がお前を押し倒したら最後、もうお前に為す術はないからな」

「フフッ、それよそれ、零さんの可愛いところ。肉食系だけど思春期男子のような純粋な欲望がある、そういうところね」

 

 

 お前も高校生なんだから、仮に俺が思春期男子としても同年代だろ……ってツッコミは野暮なのか? それで可愛いと罵られる(?)のは中々に理不尽だと思うのだが、コイツ自身どこからどう見ても高校生には見えないビジュアルなので男子高校生が可愛く見えるのも仕方ないか。こうして年上の俺に対して手玉に取るような言動はμ'sを始め他の奴らはできなかったことだから、そういった意味で誰よりもお姉さんキャラに見えるな。

 

 果林は怪しく微笑むとベッドに腰を掛けている俺の前に立った。素っ裸に布1枚を羽織る姿はてるてる坊主のようだ。どこまで俺をからかっているのか、それとも俺から手を出してくれているのを待っているのか。どちらにせよ俺の我慢が解き放たれる瞬間が訪れそうではある。

 

 

「私のこんな姿、あなたにしか見せないんだから。私を煮るなり焼くなりするのもあなた次第。私をどう料理してくれるのかしら?」

 

 

 果林は俺の嗜虐心を刺激する言葉をかけると、羽織っていたバスタオルを両手いっぱいに広げた。あの朝香果林の極上のカラダが俺の眼前に晒されて――――

 

 

「えっ? 中にもう1枚タオル……だと??」

「フフッ、いいわねその子供がおやつをお預けされたかのような悲しい表情。あなたのその顔が見たいがためにタオルの上に別のタオルを羽織ったのよ」

「お、お前なぁ……」

「ゴメンなさいね、期待させちゃって。でも性欲に負けず襲ってこないのは流石ね」

「あぁ、しっかりとした大人だろ……?」

 

 

 まんまとしてやられた。果林がバスタオルを広げた瞬間、俺の目が顔の形が変わるかってくらい見開いていただろう。そのせいか今でも目の周りが痛いのだが、それだけコイツの裸体を期待していたってことだ。それなのにこのザマ。男の純粋な情欲を弄ぶとか鬼かよコイツ……。

 

 ここまで興奮状態が湧き上がっているのに冷静さを保っているように見えるが、実のところ自制できるギリギリのラインにいる。バスタオルの下にタオルを仕込んで大切なところを隠している果林だが、逆に言えば大切なところしか隠れていない。さっき上に羽織っていたバスタオルとは違って今のタオルはサイズも小さく生地も薄いため、彼女の胸の膨らみと腰の括れなど、もはや全裸と変わらないくらいその凹凸が分かる。曝け出される太ももも、タオルを少しずらせば秘所が見えるくらいに際どい格好なのだ。それを見て()()自制心があるから我ながら凄いと思うよ。

 

 しかし、果林の攻撃は終わらない。ベッドに腰を掛けている俺の隣にその格好のまま腰を下ろす。

 ち、近い……!! 風呂上がりだからか超絶いい匂いがするし、間近でコイツのカラダを見てみると……うん、男を獣にするドスケベボディ。やっぱりエロいわコイツ。

 

 

「その目、もう欲望丸出しね。息も荒くなっているわよ?」

「あぁ、分かってる。ただ座っているだけでも自分の身体が熱くなってるからな」

「でもそろそろ限界なんじゃない? 今にも私に襲い掛かって来そうだから」

「元々お前から誘ってきたんだから襲われても文句は言えねぇよな? 残念ながらこの調子だと優しくしてやれそうにない。だからいつ純潔を散らされてもいいように覚悟しておけ」

「そうやって事前に忠告をしてくれるのだから、やっぱりあなたは優しいわね。だからこそ私もこうやって大胆なことができるのだけど」

「俺が優しいとか冗談だろ」

「自分の性欲が高まっても私の身体のことを気にしてくれているじゃない。性欲のない引っ込み思案の優男なんて私、いや私たちは興味がない。あなたのように私たちに直接愛を語ってくれて、そして行動で示してくれる。そんな肉食系で優しい男が好きなのよ」

 

 

 肉食系で優しいとか矛盾の塊みたいな性格だが、どうやら俺はそれに当てはまるらしい。確かに自分でも気づかないうちに自分の欲望よりも相手の身体を心配していたようで、興奮したら何も考えず即行動していた思春期時代とは大違いだ。そのおかげか女の子たちの扱いも自然と上手くなっている。まあ好きな奴でなければ果林もこんな大胆な誘い方をしないわけだしな。

 

 でも、我慢するのももう限界だ。優しいと太鼓判を押してくれたのは嬉しいけど、残念ながら目の前に誘ってくる女がいて耐えられるような精神力は持っていないんでね。

 

 

「そう、来るのね……」

「なんだかんだお前も望んでいたんだろ? わざわざ俺をホテルに、しかも同室に誘い込んだんだからな。それにホテルの券を差し出すときにちょっと恥ずかしそうにしていたのって、こういう展開を期待していたからじゃねぇのか?」

「さぁ、どうかしら」

「なんにせよ、もうお遊びは終わりだ。ここからはずっと俺の独壇場だから覚悟しておけ」

「きゃっ!?」

 

 

 俺は果林を突き飛ばしてベッドに倒れ込ませた。身に纏っているタオルが開け、胸や秘所が今にも見えそうになっている。男の俺と女の果林では力の差は歴然なので、コイツがいくら抵抗しようとも真っ裸に引ん剝くことは造作もない。果林はここに来て恥ずかしくなってきたのかタオルで自分の身体を隠そうとしているが、あれだけ誘惑しておいてその行動は流石に女々し過ぎるだろう。今頃メスの目をしても遅い。逆にさっきまで積極的だった奴が急に奥手の女の子っぽくなるのは、サディストの男にとって危険な刺激になるぞ。

 

 俺もベッドに上がり、仰向けとなっている果林に覆い被さるような体勢を取った。果林は恍惚とした目で俺を見つめる。

 

 

「もう、乱暴なんだから」

「言っただろ。俺は優しくないってな」

「仕方ない。あなたの欲望、お姉さんが全部受け止めてあげるわ」

 

 

 布1枚の果林が腕を広げて誘ってくる。またしても欲望に忠実な子供扱いされてしまったが、この際どうでもいいことだ。コイツを好きにできるのなら年下に誘惑されようが、子供のように甘やかされようが何でもいい。これまで散々焦らされたんだ、ここからは俺の好きにさせてもらおう。

 

 俺がずっと気になっていて仕方がなかったコイツの盛に盛られた胸。タオルの形状を変えるほどの豊満な胸。仰向けになっているせいかツンと上を向くその胸を両方、俺は鷲掴みにした。

 

 

「んんっ、が、がっつき過ぎよもうっ……!!」

「いいだろ、これは俺のモノだ」

「なにそのガキ大将みたいなセリフ。でも逃げないから安心して。私はあなたのモノ。つまり私のカラダのどの部分もあなたのモノなんだから」

「そうだ。もう俺のモノなんだから、これからしっかりとこのエロい身体を維持するんだぞ」

「はいはい。本当に可愛いんだから」

「その余裕ももう終わりだ」

「そう……みたいね」

 

 

 果林は俺の目を見て一気にしおらしくなる。どうやら俺は獲物を捕食する獣のような眼光を放っているらしい。目の前に転がる極上の獲物に舌なめずりをしてしまいそうなので、確かに今の俺は獣と大差ないのかもしれない。

 

 部屋の窓から夜の月の光が差し込み、薄暗い部屋を妖艶に彩っている。その中にタオル1枚の女の子と2人きり。仕上げられたシチュエーション、男の性欲を掻き立てる要素をふんだんに持った女の子、幾度とない誘惑。俺が取れる選択肢なんて1つしかなかった。

 

 

「来て……」

「あぁ……」

 

 

 今の俺に倫理観はない。相手が高校生だとか、人気の読者モデルだとか、そんなものは一切関係なかった。お互いに愛し合っているのならそれでいい。お互いに求めているのであればそれでいい。

 刻み込みたい。コイツが俺のモノだという証を。スクールアイドルとしてステージで輝く朝香果林は、読者モデルとして女性に人気の朝香果林は、最高峰の美貌で男を虜にする朝香果林はもう俺のモノなんだ。

 

 久々に思春期時代の容赦ない欲望が戻ってきている。でもそれでいいんだ。これで余計なことを何も考えずコイツだけに集中できる。

 

 

 それからの俺は間違いなく人間としての理性を失っていただろう。ただただ愛を果林に注ぎ続けるだけの獣と化していた。

 だが後悔はしてない。いずれはこういった関係になる。だからそう、今やっておいても同じことなんだから‥‥…。

 




 私はギャグ系専門なのでこういったいい感じのシチュエーションのシーンは描写がとてつもなく苦手だったりします。でも果林さんはこういったシチュエーションが似合っているので頑張りました。
 そして何気に手玉に取られまくる零君も珍しかったりしますね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

虹ヶ咲楽園計画

「なぁ侑」

「なんですか?」

「おかしくないか? この学校……」

「えっ、また幽霊騒動か何かですか……?」

「いや違うが……。ここの学校の生徒、俺に対してやたら友好的だよなって」

「あぁ、確かに」

 

 

 最近気になっていた。虹ヶ咲の学校へ来るたびに女の子たちに話しかけられる頻度が増えていることを。最初は女子高に若くてカッコいい男が出入りしてるから物珍しさに惹かれているのかと思っていたのだが、様子を見ているとどうやらそうではないっぽい。街中の川にアザラシがやって来たから観に行こうといった野次馬気分ではなく、どうも熱の籠った『愛』を感じるんだよな。校庭や校内ですれ違った時の挨拶はもちろんだが、衣装部の子は作成した衣装を着て俺に感想を求めてきたり、料理部の子は自作した手料理を俺に味見させ、運動部の子は俺が見学しているとやる気が一回りも二回りも上がるらしい。もう虹ヶ咲のどこにいても誰かしらの女の子に声を掛けられる、そんな変な状況なのだ。

 

 それを侑に話すとジト目で見つめられた。

 

 

「もう校内の生徒全員に手を出しているんですね……」

「知るか。アイツらが勝手に寄ってくるだけだ。俺は何もしていない」

「何もしていないのならそこまで友好的にならないと思いますけど」

「だから不思議に思ってんだよ。俺自身は女の子に惹かれる要素が満載だけど、この学校の生徒と深い付き合いがあるわけじゃないからな」

「サラッと自画自賛するのはいつものことですね……。確かに、最近お兄さんの話題をよく聞く気がします。休み時間とかお兄さんの話をしている子、結構いるんですよ」

「それそれ、それがおかしいんだよ」

 

 

 自分が女性受けの良い男だって自覚はあるのだが、普段から不特定多数の女の子に絡まれるわけじゃない。仮にそうだとしたら日常生活もままならないだろう。

 しかし、この学校は違う。虹ヶ咲の敷地内を少し歩くだけであちこちからお声がかかる異常な状況。この前なんて俺の誕生日でも何かの記念日でもないのに手作りお菓子をたくさん貰った。どうやら調理実習があったらしいのだが、スクールアイドルのサポートに来ているだけの男にそこまでするか普通? 浦の星女学院にいた頃も俺が唯一の男で注目はされていたものの、ここまで積極的な女の子で溢れてはいなかった。

 

 

「それでお兄さんはどうしたいんですか? 迷惑ならこれからの練習場所を変える必要があるかもですけど」

「いや、別に迷惑だとは思ってねぇよ。むしろ可愛い子に群がられるのは嬉しいぞ」

「そういえばそういう人でしたね……。だったら気にしなくてもいいことなんじゃないですか?」

「まあそうなんだけどさ。つうかここの生徒、容姿レベル高くね? そっちも気になってたんだ」

「そうなんですか?」

「あぁ、ぶっちゃけて言えば俺が知るどの学校の生徒よりもレベルが高い。ここまで容姿のいい女の子たちが揃う集団は見たことがないぞ」

「特に気にしたことはありませんでしたけど、言われてみればみんなスクールアイドルができるくらいには可愛いかも……」

 

 

 そう、この学校の生徒誰もがスクールアイドルになっても不思議ではないくらい容姿レベルが高い。スクールアイドルはアマチュアだが仮にもアイドル。男性ファンが多めになることから容姿はそれなりではなく高いレベルで整っていなければならない。だけどこの学校はスクールアイドルのグループを組もうと思えば何十もの組を作ることができるだろう。それくらい容姿端麗な子が揃っているのだ。こう言っては悪いが容姿難アリの子は一切おらず、誰もかもが俺の目に付く魅力的な子ばかりだ。

 

 そうだ、それも疑問に感じていた。ここまで俺の好みの女の子たちが揃っているのは偶然なのかそうでないのか。清楚系から活発系、お嬢様系etc……色取り取りの特色を持った女の子たちが余すことなく揃っている。この世に存在する女の子の性格を全て網羅している可能性が高い。しかもその1人1人がみんな美人美少女であり、俺の目に留まるような容姿の持ち主なのだ。これは何かあると思って間違いないだろう。

 

 

「よしっ、そうと決まれば実際に聞きに行ってみるか」

「へ? 聞きに行くって?」

「そりゃこの学校の理事長に決まってるだろ。これだけ俺の好みが集結するなんて偶然とは思えねぇからな。何かしら裏はあるぞこれは」

「それはそうかもしれませんけど……。お兄さん、虹ヶ咲の理事長って誰か知っているんですか?」

「さぁ? お前は?」

「私も会ったことも見たこともないです。そもそも表に出てきたことがない気がします。誰なんだろう……?」

 

 

 生徒に姿を見せない俺好みの女の子ばかりが集まる学園の長か。ますます怪しくなってきたな。これだけのマンモス校を束ねる長なのに、美女美少女ばかりの生徒を集めて囲っているその変態精神。そこらのエロ同人のような展開に巻き込まれ、この状況に疑問を抱きながらも楽しくなってきたぞ。

 

 

「じゃあ理事長室へ殴り込みに行くか。ほら、ボケっとしてないで案内しろ」

「えぇっ!? 私も行くんですか!?」

「そりゃそうだろ。俺はお前らのサポートという立場で来てるけど、これでも外部の人間だからな。乗り込むなら内部の人間と一緒でないと」

「だからって私を巻き込まないでくださいよ……」

「イヤなら家に帰って寝てろ。それでお前の気が休まるのならな」

「あぁ~もうっ、分かりましたよ! このままだとお兄さん何をしでかすか想像もできないですし、付き合ってあげますよ!」

 

 

 侑をゴリ押しで仲間に加え、謎の存在が潜むダンジョンへと向かうことになった俺たち。そこで俺の人生を大きく左右する真実が――――って、今度こそそんな面倒事にならないように祈るばかりだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ここが理事長室か」

「はい。私も始めてきましたけど、むしろこんなところにあったんだっていう……」

 

 

 俺たちは理事長室の前に到着した。場所は職員室の近くなので訪れようと思えば誰でも簡単に来られる場所なのだが、やはり一般の生徒にその機会はないのか侑も物珍しそうにしていた。まあここがどんな場所にせよ俺のやることは変わらない。

 

 俺はノックもせず声も掛けずに理事長室の扉のドアノブを掴むと、礼儀の欠片もなく扉を開け放ち室内にズカズカと足を踏み入れた。

 

 

「ちょっ、お兄さん!?」

「大丈夫。俺の予想が正しければ中にいるのはどうしようもないバカだから」

「えっ……?」

 

 

 その『バカ』は理事長室の入口に背を向け、大きな窓から虹ヶ咲の校庭を見下ろしていた。綺麗な長い黒髪で長身、そして凹凸の激しい我儘ボディを持つ女。それだけ見れば男が惹かれる要素だが、着ているのは何故か白衣。研究者のコスプレをしているようにしか見えないソイツは――――

 

 

「ようこそ、虹ヶ咲学園トップのお部屋へ」

「秋葉、お前なぁ……」

「えぇっ!? あ、秋葉さん!? どうしてこんなところに!?」

 

 

 やはり俺の予想通り、虹ヶ咲の理事長の正体は秋葉だった。コイツはいつも神出鬼没。仕事で海外に行ってると思っていたらいつの間にか家に帰ってきてたりするし、こうして思わぬところでばったり出会ってしまうことも多い。そもそもコイツは歩夢たちと縁が深いので、ここにいてもなんら不思議ではないか。

 

 

「ここの理事長が私だってよく分かったね」

「そりゃ俺好みの女の子を集めて学校を作るなんて、生まれた時から俺を熟知していて世界的に権力のあるお前しかできない芸当だろ。そんなの考えなくても分かるっつうの」

「お~凄い凄い! やっぱりこの世で私を楽しませてくれるのは零君だけだよ。他の男なんてつまらないのなんのって」

「つうことは、この学校を作ったのもお遊びか何かか?」

「ん~そうって言いたいけど、健やかに学校生活を送ってる侑ちゃんの前では100%そうですとは言えないよね。9割9分9厘くらいそうかな」

「いやそれ誤魔化しになってませんけど……」

 

 

 容姿が整っている女の子を一か所に集結させるほどの権力を持ち、学校を建てられるほどの巨額の富を持つのは世界中を探してもコイツだけだろう。今回はどういった目的でこんなことをしているのかは知らないが、今までは比べ物にならないくらいお遊びの規模が大きい。コイツは開発した発明品を実験するために平気で誰かを巻き込んだり、意図的に火事を引き越して俺の根性を試したりとそれはもう自分が楽しめればそれでヨシの悪魔だ。今回も何をしでかすか油断できねぇぞ……。

 

 

「ほら、早くネタ晴らしをしろ。このあと歩夢たちの練習を見てやる予定だから、お前に時間を割いてる暇はない」

「はいはい急かさないの。とは言ってもただのお遊びだからそんなに真剣になる必要はないよ。私は零君が中心の『虹ヶ咲楽園計画』を実行しているだけだから」

「ら、楽園……?」

「そ。このために色々頑張ったんだよ? 零君が好きそうな女の子を日本中、そして世界中から自ら厳選したんだから。ほら、これがその時の資料」

 

 

 秋葉から渡された資料には女の子たちの顔写真とプロフィールが事細かに記されていた。名前、年齢、スリーサイズ、性格、体重、趣味、特技、家族構成、貧富の度合い、アピールポイントetc……もはや個人情報保護法とは何だったのかレベルの機密事項の盛り合わせだ。しかも日本人だけではなく海外からもかなりの数がいる。虹ヶ咲がグローバルな学校なのはこれが原因か。

 

 それだけではない。女の子1人1人の胸や性器の形、胸のカップ数、性感帯、自慰の頻度etc……当の本人が見れば悶え死にたくなるようなセンシティブな内容まで網羅されていた。それを見た俺もそうだが、侑はそれ以上に驚きを隠せていない。

 

 

「な、なんですかこれ!? まさか私のも……!?」

「この学園に入学できたってことは、つまりそういうことだよねぇ~」

「うわ゛ぁ゛ぁ゛ぁあ゛あ゛ぁああああああああああああああ!! どこですか!? 私の資料はどこですか!? 今すぐ燃やし尽くします!!」

「落ち着いて。ここで騒いでもデータが消えるわけじゃないから」

「そもそもどうやってそんなデータを採取したんですか!? 守られるべき情報が全部筒抜けじゃないですか!!」

「私の手に掛かれば女の子を丸裸にするくらい容易いことだよ。個人情報を入手することだってできるし、その気になればその人の悪い噂を捏造して流して人生を破滅させることも……ね♪」

「ひっ!? お、お兄さん、この人怖いです……!!」

「だから言ったろ、悪魔だって……」

 

 

 笑顔で恐ろしいことを語る秋葉と、俺の後ろに隠れて怯える侑。この前コイツが俺の家に来た時、母さんの勢いが強すぎたせいか秋葉の傍若無人っぷりはかなり鳴りを潜めていた。だが今回で侑も思い知っただろう。全人類が敵に回してはいけない人物が誰なのかを。

 

 

「これだけの女の子たちを集めるのは大変だったよ。零君のお目に敵う容姿がいい子で、なおかつ処女の子だなんてね」

「えっ、お前そういうところも気にしてたのか……」

「当たり前。零君はそっちの方が好きでしょ? 男を知らない女の子を自分の色に染めちゃうのがね♪」

「お兄さん……」

「どうして俺を睨む!? 元凶はコイツだろうが!」

 

 

 ここで謎の責任転嫁が始まり侑に標的にされる俺。そもそも俺は秋葉のお遊びのネタとして利用されているだけで、俺を悦ばせようとは一切思っていないだろう。だから俺も巻き込まれている立場なのでコイツと一緒の元凶扱いするのはやめて欲しい。

 

 それにしてもこの学園で出会った子たちってみんな処女だったのか……。巻き込まれたとか言っておきながらアレだけど、学園の生徒が全員初心っ子だと思うとちょっぴり興奮しちゃうな。つまり俺には生徒数と同じ数の初物をいただく権利があるってことか。そりゃ秋葉の言う通り楽園に相応しいシチュエーションだな。控えめに言って悪くない。

 

 

「でもまだ解決していないことがある。アイツら、どうして俺にあれだけの好意を持ってるんだ? まさかそういう風に矯正したとかじゃねぇだろうな?」

「そんな怖い顔しないの。女の子の性格を無理矢理捻じ曲げることは一切していないから安心して。ただあの子たちは素質があっただけ。あなたを好きになる……ね」

「なんだよそれ……。俺のことが好きになる素質?」

「全然訳が分からないんですけど、つまりお兄さんを好きになるようには仕向けてはいないと?」

「そうそう。この学園の子たちはみんな自然に、本心であなたを好きになってるの。まあ零君のことをちょっとお勉強させたりもしたけど、あの子たちは進んで学んでいたよ。だから零君のことを恋焦がれていたんだよ、ずっとね」

「本心ならそれでいいけど……いや、いいのか?」

 

 

 危うく納得しそうになったけど、コイツのやっていることはめちゃくちゃだ。だけどそれで誰かが不幸になっているとか、誰かが被害を被っているわけでもない。むしろみんな俺に憧れるような素質を持っていて、秋葉がそれを引き出しただけだ。自分でも何を言っているのかよく分からないが、大丈夫。秋葉のやることなんて誰も理解できないんだから。

 

 そんな中で、俺以上に不可解な様子を見せているのが侑だった。

 

 

「おかしくないですか、それ。だって私、他のみんなが持っているようなお兄さんへの深い愛情っていうものはありません」

「そうだな。お前が俺に愛を抱いていたのなら、電車の中で痴漢されて悦んでただろうし」

「ッ…………!!」

「だから睨むなって……。なんにせよ秋葉、お前の思惑なんてコイツは寝耳に水らしいぞ」

「そりゃそうだよ。私が選定した女の子の中で唯一、侑ちゃんだけ零君を好きになる素質がない子だからね」

 

 

 それはこれまでを振り返ってみれば分かる。電車の中での痴漢はもちろん、下着を見たり歩夢たちに手を出したりと悪行ばかり繰り返していたから、コイツにとって俺は『敵』として認識されているだろう。今は世間話ができる関係くらいには落ち着いているが、最初は警戒心が半端なく、見えない圧に押し潰されそうだった。俺への愛をほんの僅かでも持っていたらもちろん嫌悪感丸出しにはならないはずだ。

 

 

「どうしてコイツだけ入学させたんだよ……」

「私は見たいんだよ。あなたのハーレムっていうのがどこまで広げられるかを。そのためにはあなたに盲目になっている子だけじゃなくて、第三者視点で協力してくれる子が必要だと思ってね」

「そ、それが私……? お兄さんの浮気に協力!? 私が!?」

「おい、言葉を選んでくれ……。まるで俺が犯罪者みてぇじゃん」

「犯罪ですよ、普通に」

「どう零君? 今までこうして反論してくれる子っていなかったでしょ? とっても貴重な存在じゃない?」

「確かにな。俺にここまで噛みつく度胸のある女の子は初めてだよ」

「ぜっっっっっっんぜん嬉しくない!!」

 

 

 『初めて』というのは割と功績になることが多い。例えば人類未踏の地を初制覇、得体の知れない物体の食用に初成功、未知の病気のワクチンを初製造、そして女の子のハジメテを奪う。こうして並べるだけでも達成感にあるものばかりなので、俺に反抗をしてくる初めての子ってのもそれなりに偉業だぞ? そういった意味では秋葉の人選は大正解だったと言える。もちろん本人は全く望んでいない立場に立たされているわけだが……。

 

 

「つまり私がやりたいのはね、零君がどれだけたくさんの女の子をモノにできるかを見てみたい。そしてそれをサポートする役割を与えられたのが侑ちゃん、あなたってことだよ」

「だからそれが意味分からないんですって! 協力するわけないじゃないですか!!」

「えっ、でももう一緒にいるよね? 今もほら。侑ちゃんはこの超マンモス校の生徒の1人にしか過ぎないんだよ? それでもあなたたちは巡り合った。これはもう運命なのかもね」

「そ、それは……」

 

 

 侑はおずおずと俺を見る。俺が見つめ返すと侑はぷいっと顔を背けた。

 そう考えると俺たちが出会ったのは本当にたまたまだ。これに関しては秋葉が仕組んだものではなく偶然である。もしかしたらコイツの言う通りの運命で、侑が俺を支える立場の女の子になるってことになるのか……?

 

 

「とりあえず話はもう終わり。ほら、私は仕事があるから早く出ってた出てった」

 

 

 未だに情報の整理ができず戸惑っている俺たちを、秋葉は背中を押して無理矢理理事長室から追い出した。

 あまりにも壮大な準備と計画を聞かされてもう驚きを通り越して感心するくらいだ。今回は特に裏があるわけでもなくただ単にアイツの興味本位らしいのだが、その興味を満足に変えるための規模が大きすぎる。俺の同意もなくまた勝手に巻き込んでいるのが秋葉クオリティで、それに慣れてしまっている自分が怖いよ。逆に不慣れな侑は理事長室を出た後もずっと怪訝そうな表情を浮かべていた。

 

 

 その後、黙ったまま廊下を歩く俺たち。現実を受け入れつつある俺と未だに何かを考えこんでいる侑。

 しばらくして、侑が沈黙を破った。

 

 

「お兄さんは……あの計画に賛成なんですか?」

「どうだろうな。でも俺としてはオイシイ展開だし、楽しまない方が損だろ」

「あの姉にしてこの弟ありってことですね……」

 

 

 そう、アイツの思考回路はぶっ飛んでいるが俺も相当だと自負している。だからこそ俺とアイツは妙な信頼関係で結ばれているんだ。そのアイツが俺のために最高の楽園を用意してくれるのであれば、俺は全力でその楽園の頂点に立ってみせる。だって素晴らしいじゃないか、俺のことが好きな美女美少女たちが集まる楽園って。短絡的な考えとか、その欲望丸出しの精神が気持ち悪いとか言われてもいい、これが俺の夢なんだ。

 

 

「ということで頼んだぞ。俺の右腕としてな」

「私がお兄さんに協力するなんてあり得ませんから。まして好きになることなんて、絶対に!」

 

 

 侑は頬をほんのり赤くしながら先へと行ってしまった。

 俺に対してそういったことを言いきれる度胸を持っているから秋葉に目を付けられたのだろう。そして俺たち姉弟に絡まれた以上、もう抜け出すことはできない。楽園計画もそうだが、俺と侑の関係がどうなっていくのかも自分のことながらに気になるな。

 

 

「お兄さん、もうすぐ練習なんですから早く来てください! 今日は馬車馬の如く働いてもらいますよ!」

「今日は一段と攻撃的だなオイ……」

 

 

 その言葉通り、今日は侑は俺にだけスパルタだった。

 

 




 割と壮大な計画が語られた回でしたが、ぶっちゃけネタとして見ていただければと思います。これからは学校ぐるみで零君にアプローチを仕掛けてくるのでお楽しみください!
 零君はもちろん、侑もこれから大変になりそうな予感が……



新たに星10評価をくださった

あやたくさん

ありがとうございました!
実は星10評価者があと1人で合計300人を達成するので、小説が面白いと思った方でこれまで評価を入れていない方は是非星10評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハーレム実態調査

 今回は久々に侑の視点です。


 『虹ヶ咲楽園計画』

 まるでアニメや漫画の世界かのような壮大で受け入れがたい計画に私は巻き込まれてしまった。この虹ヶ咲学園はお兄さん――――神崎零さんの好みの女の子を集めて創設された学校で、お兄さんを好きになる素質を持った子たちが集結しているのだそうだ。確かに言われてみれば美麗な子、愛嬌のある子など、世界でもトップクラスに容姿がいい人ばかりが揃っている。入学した時から気になってはいたけど、先日の一件を経てその理由がようやく分かった。

 

 そして、その中でも唯一私だけがお兄さんを好きになる素質がない人間らしい。何故そんな私が虹ヶ咲の入学を許されたのか。それは楽園計画の成就をサポートするためとか。お兄さんに対して恋の盲目にならない女の子を1人入学させ、第三者目線でお兄さんの補助をする役割だと言われた。この学校の受験はテストと面接両方あったけど、お兄さんのお姉さんである秋葉さん曰くそれは無意味なことで、容姿が良くて学力が一定レベル以上あれば入学を許可されていたらしい。じゃあ何のために受験勉強してきたんだか……。

 

 ともかく、訳の分からないまま訳の分からない計画に巻き込まれていい迷惑だ。こっちのことなんてまるでお構いなしで、勝手にお兄さんのサポートを任された。一体これからどうすればいいんだろうな私……。

 

 

「侑さん、どうかされたのですか? 難しい顔をしていらっしゃいますけど……」

「せつ菜ちゃん……」

 

 

 部室で机に肘をつきながらぼぉ~っとしていると、せつ菜ちゃんが心配そうな顔で話しかけてきた。

 虹ヶ咲の人たちがみんなお兄さんを好きになる素質があるってことは、せつ菜ちゃんや歩夢も同じなんだよね。もちろん知ってはいるけど、ちょっと気になったから聞いてみようかな。これは個人の知的好奇心であって、決してお兄さんに協力しているわけじゃないから勘違いしないように。

 

 

「ねぇせつ菜ちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「はいっ、どうぞ! お悩みがあるのであれば、親友として万事解決してみせます!」

「いや悩みと言うかなんというか、せつ菜ちゃんってお兄さんのことをどう思ってるのかなぁ~って」

「零さんですか? それはもう私にとって尊敬する人であり、目標にする人であり、そして愛する人でもあります!」

「まぁそうなるよね……」

 

 

 こんな質問、しなくても答えは分かっていた。だけど改めて本人の口から聞くとせつ菜ちゃんがお兄さんに対してどれだけの愛情を抱いているのかが分かる。お兄さんの話をした瞬間にとびきりの笑顔になり、そして頬を染めて恋する乙女になった。もうそれを見ているだけでお腹いっぱいになりそうだけど、お兄さんのことが具体的にどれだけ好きなのかをこの際確認しておこう。ぶっちゃけみんながせつ菜ちゃんのような深い愛情があれば私なんて必要ないし、だとしたらお兄さんをサポートする云々で悩むこともなくなるだろう。

 

 

「本当に好きなんだね、お兄さんのこと」

「はいっ! ゲームやアニメと行ったサブカルチャー系の趣味も合いますし、スクールアイドルの指導も熱意を持って取り組んでくださっています。それに私が零さんに『大好き』を伝えると、零さんも決まって私に『大好き』を伝えてくれるのです。言葉や行動ではっきりと自分が愛されていることが分かるので、一緒にいて心が温かくなりますよ!」

「へ、へぇ……。もう大好きを通り越しているような……」

「そうですね、もうこれっっっっっくらい大好きです♪」

 

 

 せつ菜ちゃんは両腕を大きく広げてお兄さんへの愛の大きさをアピールする。その動き、可愛いな……。

 彼女が言わんとしていることは大体分かる。お兄さんは褒めて伸ばすタイプの指導者だ。歩夢たちがそれぞれ得意としていることはとことん褒め、苦手としていることが少し克服できても褒め、まだ克服できていない場合も伸びしろを感じさせるような言葉をかける。そんな優しいお兄さんだからこそ歩夢たちは惹かれ、そして指導してもらいたいと思うのだろう。それは歩夢たちのマネージャーをやっている私が一番近くで見ているからよく分かる。

 

 

「それに私、いや私たちは幼い頃からずっと待ち焦がれていたのです。零さんに会えることを、零さんに元気な姿を見せることを、零さんに愛を示すことを」

「それってみんなが小さい頃に遭ったっていうあの……。歩夢から聞いたよ」

「そうだったのですね。あの時に零さんに助けられたこと、今でも忘れていません。全てを諦めかけていた私たちの手を握ってくれたあの手、抱きしめられた時の温もり、勇気をくれた言葉、あの方は私たちの希望なのです」

 

 

 歩夢から過去の出来事は聞いていた。幼い頃に火事現場に取り残された歩夢たちみんなを救い出したのがお兄さんだってことを。もう助からないと諦めていた歩夢たちを、お兄さんは命を懸けて救ったってことを。その時から歩夢たちはずっとお兄さんのことを想っていたらしい。その後は色々あって離れ離れになり関係もギクシャクしていたみたいだけど、この前のスクフェスで(しがらみ)もなくなり今の関係となった。そう考えるとみんながお兄さんに底知れぬ愛を抱くのは当然かもしれない。

 

 

「あっ、すみません、こんな暗い話をしてしまって。ライブも近いのでテンションを上げないとですよね! では、私が零さんの好きなところ100連発を披露しちゃいます!」

「え゛っ、ちょっ、ちょっと待って! ひゃ、100個!?」

「はいっ! むしろ100個では足りなくらいです。今から新品のノート1冊をあの方の好きなところで埋めろと言われたら、絶対にできる自信があります1」

「いや、やらなくていいからね!? 私どんな顔をして見ていればいいの!?」

「そうだ、せっかくだから侑さんも一緒にやりましょう!」

「は、はぁ!?」

「侑さんはあの方と一緒にいた期間はまだ短いですが、いいところはたくさん知っているはずです!」

 

 

 まさかの無茶振りに開いた口が塞がらなくなる私。あまりにも変態的な遊びに巻き込まれそうになっている危機。確かにいいところはあるけど、ぶっちゃけた話ノート1冊はもちろん1ページ埋めるのも難しいと思う。逆に悪口や憎まれ口なら1ページくらい余裕で埋められると思うけどね。お兄さんと出会ってからのこの短期間であの人の悪行をどれだけ見てきたことか……。

 

 

「ん? もしかして乗り気ではない?」

「そりゃそうでしょ……」

「おかしいですね。この前クラスのみんなでやった時は購買のノートが売り切れるくらいに盛り上がったのですが……」

「なにそれこわっ!? ていうかノートを買い占めたのせつ菜ちゃんたちだったの!? 買いに行こうと思ったら完売になってて超迷惑だったんだよ!?」

「それくらい私たちは零さんへの愛がたっぷりだってことです♪」

「うん。笑顔で嬉しそうなのは分かったけど、まず反省しようね……」

 

 

 授業直前でノートを使い切ってしまったことに気が付いて、急いで購買に走ったら全部完売だった私の気持ちを分かって欲しい……。まさかそんな高度で変態的なお遊びのために買い占めが発生していたなんて思いもしなかったよ。てっきり最近流行りの悪質な転売かと勘違いしちゃった。

 

 それにしてもクラス全員で……か。もうそれほどまでにお兄さんの波がこの学校に押し寄せていると思うと驚きを隠せない。お兄さんが虹ヶ咲に来るようになってまだ1ヵ月しか経ってないため、その中には未だお兄さんと満足に話をしたことがない子も多いだろう。それなのにこの盛り上がり様、正直に言って異常だ。この学校で自分以外のみんながそうだと思うと少し気味が悪くなってくる。

 

 

 嬉々としてお兄さんのことを話すせつ菜ちゃんの言葉を聞き流していると、部室に愛ちゃんと璃奈ちゃんが入って来た。

 

 

「ちーす! ってあれ? 2人だけ?」

「こんにちは。もうすぐ練習なのに少ないね」

「お疲れ様です、愛さん、璃奈さん! 今日も練習頑張りましょう!」

「おぉう? せっつーなんだかテンション高いね~」

「えへへ♪ そう見えますか? 実は侑さんと零さん談義が捗っちゃいまして!」

「えっ、侑さん、もしかして零さんのこと好きなの?」

「え゛っ!? どうしてそうなるの!? 違うから!!」

 

 

 せつ菜ちゃんの説明不足のせいで寝耳に水な事態となる。しかも何故か3人共目を輝かせて私を凝視してくるので、その圧に押されて若干引いてしまう。2人もせつ菜ちゃんと同じくお兄さんの話題になった瞬間に様子が変わったので、やっぱりあの人のこと好きなんだな……。特に璃奈ちゃんは普段無表情なせいかテンションが高いのか低いのか分からない時が多いけど、お兄さんの話になると目に見えて気分が高揚しているのが分かる。

 

 

「私がお兄さんのことを好きになるわけないじゃん! あんなセクハラ発言上等な変態を!」

「でもセクハラされるってことは、それだけ愛さんたちを女性として見てくれているってことだよね。零さんにそこまで想ってもらえるなら愛さん嬉しいよ!」

「えぇ……。でも平気で身体を触ったりしてくるんだよ? 私に直接被害は少ないけどみんなは……」

「私は零さんに触れてもらえるの、とてもドキドキするから楽しみにしてる。心がぽかぽかして、勉強も練習も何もかもやる気になれるから」

「えぇ……。そういえば自分から触ってもらおうとしてたもんね璃奈ちゃん……。でもお兄さん絶対にいやらしいこと考えてるよね」

「それが何か問題なのですか?」

「へっ?」

「いずれ零さんに貰っていただくこの身体です。それが今求められるようになっただけ。遅かれ早かれのことだけですから、私たちは何の問題もないのですよ」

「えぇ……」

 

 

 

 もうダメだ。私が何を言っても逆にお兄さんがどれだけ愛されているかを確認するだけになってしまう。それにみんなの価値観と私の価値観が違い過ぎて戸惑うけど、私の方が正常だよね?? この学校の生徒たちが私を除いてみんなせつ菜ちゃんたちと同じ考えだから、このコミュニティ内で言えばおかしいのは私の方かもしれないけど……。

 

 とにかく、このまま私が抵抗を続けてもこちらに勝ち目はなさそう。それどころか正常な私の方が異常扱いされている始末。前々からお兄さんへの愛が強い人ばかりだと思ってたけど、だからこそ実感したよ。もう楽園って出来上がってるんじゃないかな? だとしたら私ってサポートする必要なくない??

 

 

「ゆうゆって零さんのこと嫌いなの? お互い憎まれ口を叩き合っているような気がするけど」

「別に嫌いではないけど、素直になると付け上がられると思って……。それに出会いも出会いだったし、素直になって許されたと思われるのもヤダし……」

「確かに電車でいきなり身体を触られたんだっけ? いやぁ滅多にない経験だねそれは」

「私はむしろちょっと興奮すると言いますか、一度でいいから体験してみたいシチュエーションではありますね。もちろんお相手は零さん限定ですが」

「なんでみんなそんな肯定的なの!? 触られたんだよ!? 当時は見ず知らずの男の人に!!」

「でも今はそれなりに許しているんだよね? なんだかんだ侑さん、零さんと一緒にいることが多いから」

「うっ、それはマネージャーとして勉強するためだからその……」

 

 

 璃奈ちゃんに痛いところを突かれて戸惑ってしまう私。お兄さんの前ではよく痴漢された話題を出すことが多いけど、ぶっちゃけた話そこまで嫌悪感はない。というか知り合う前に痴漢されたあの時だって特に不快は感じなかった。お兄さんが見た目もいい男性で、手付きも慣れていたからだろうか。気持ち悪くて背中に悪寒が走る感覚もなくて、ちょっと、ほんのちょっとだけ気持ちよかったような……。

 

 いやいや、これだったら私がチョロいヒロインみたいじゃん! 確かにお兄さんのことはそれなりに信用しているけど、決して過去の悪行を許したわけじゃない。痴漢もそう、私の下着を見たのもそう、エマさんに舐めさせようとしていたのもそう、かすみちゃんのベッドでいやらしいことをしていたのもそう、他にも事件を上げ出したらキリがない。それを見て心を許すなんてできるはずないんだよ。今後も絶対に許してあげないから、絶対に!

 

 

「でも零さんのいいところも知ってるでしょ? ゆうゆ結構頼りにしてるじゃん」

「そりゃスクールアイドルを指導していた経験は向こうの方が圧倒的に長いし、近くで見ていても学べることは多いから……」

「そういうところが多くなってきて、いつの間にか好きになっちゃってるから。零さんってそういう魅力があるんだよね」

「いや絶対にない……」

 

 

 これで私までお兄さんのことを好きになっちゃったら、それこそ歯止めになる人がいなくなるので私こそ最後の砦だ。みんなに関してはもう手が付けられないくらいの状況だけど、だからこそ私まで堕ちるわけにはいかない。実際に歩夢たちの中に私がいなかったら、練習そっちのけでお兄さんの話題で盛り上がる可能性が無きにしも非ずだしね。それにお兄さん自身が欲望に捕らわれて暴走しないように見張っておく役目もある。

 

 あれ? そういった意味ではお兄さんのサポートとしての役割を全うしているのかな……? 秋葉さんの思い通りになっていると思うと負けた気がしてイヤなんだけど……。

 

 

「侑さんも分かるときが来るよ、きっと」

「そうかなぁ……。あまり期待はできないけど……。璃奈ちゃんはお兄さんに触られたりするのがそんなに好きなの?」

「うん。特に頭をナデナデされるのが一番好き。零さんがしっかり自分のことを意識してくれているんだって強く実感できるから」

「あぁ、そっちか。意外と真っ当な理由なんだね……」

「もしかしてエッチなことを想像してた?」

「ぶっ!? し、してないよ全然!!」

「胸を大きくしたいから、好きな人に揉んでもらいたいって願望はあるよ?」

「あるのか……」

 

 

 自分の想像とは違って璃奈ちゃんが純粋っ子だったから反省しようと思ったけど、最後の言葉を聞いてやっぱり自分は正しかったんだと自信を取り戻す。まあ虹ヶ咲の一員だから仕方ないねって納得できるから凄い話だ。璃奈ちゃんのような幼く見える子も、果林さんのような大人の女性に見える人も、みんな等しくお兄さんとの肉体関係はまんざらでもない様子。これでいいのかな、華の女子高生たち……。

 

 

「そうだ、昨日肉じゃがを作ったからみんなにおすそ分けするよ! あとで零さんにもあげないと」

「愛ちゃんってお兄さんによく料理を作ってるよね」

「だって零さん、なんでも美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるんだもん。それに『また腕を上げたな』って褒められると、自分が必要とされている感じがして嬉しいんだ」

「そういえば歩夢とかすみちゃんもお兄さんのためにお菓子やパンを作ったりしてるなぁ。好きな男性に手料理を振舞うってそんなに楽しいことなんだ」

「当たり前ですよ! 胃袋を掴むのは恋する乙女の常套手段ですから!」

「せつ菜ちゃんがそれを言うの……?」

 

 

 そういえばお兄さん、せつ菜ちゃんの手料理を食べて気絶したことあったような……。それでも本人の前では決して不味いとは言わないあたりお兄さんの優しさを感じる。練習の時はみんなを褒めて伸ばすタイプだって言ったけど、それは日常生活でもそうらしい。私たちが本気で落ち込むような言動は一切せず、そういうところに歩夢たちは惹かれているのだろう。普段は割と汚い口調で喋ってるから性格のギャップが凄いな。

 

 

「私もお料理を勉強しようかな。零さんに喜んでもらいたいから」

「おっ、りなりーもやる気だね! だったら将来のために今から特訓しようよ。愛さんも付き合うからさ!」

「将来? 愛ちゃん料理人にでもなるの?」

「違う違う! 零さんと結婚した時に決まってんじゃん!」

「け、結婚!?」

「そう遠くない未来に添い遂げる運命ですから、私も零さんを満足させてあげられるように練習しておかないと」

「私も朝起きてきた零さんにご飯とお味噌汁を作ってあげたい。新婚生活……うん、いい」

「あぁ~本当にいいよねぇ……」

「はい、いいです……」

 

 

 ダメだ、みんながお兄さんとの新婚生活を想像して妄想から帰って来なくなった。お兄さん本人がいないところでもここまで盛り上がれるなんて、もう私には理解できない次元にみんながいる。それで疎外感なんて全く感じてないし、なんならそんな世界にはいたくないから別にいいんだけどね。それでもこうしてみんなと関わっていると、強制的にお兄さんの楽園に巻き込まれてしまうジレンマ。これほど迷惑な話はないよ……。

 

 

 そんな感じでしばらくしてもみんながお兄さんの妄想にニヤついたままだったので、無理矢理叩き起こして練習着に着替えさせに行かせた。みんなにとってはお兄さんの話は天国なんだろうけど、私にとってはこれから地獄になりそうだよ……。

 

 

 そして更にしばらくして、お兄さんが部室にやって来た。

 

 

「よぉ、お前だけか?」

「あっ、お疲れ様です。今みんな着替えに行ってる最中ですよ」

 

 

 なんだろう、今日は初めて会うのに初めてではないようなこの感覚。恐らくさっきのお兄さんの話題の連発でお腹が膨れているからに違いない。申し訳ないけど今日は事務的な話以外はあまりしないようにしよう。食べ過ぎた後にどんなに美味しいモノを見せられても拒絶反応を示してしまう、あの感覚と似たようなものだ。

 

 

「そうだ。新しい練習メニュー考えてきたか? お前がスクールアイドルのマネージャーになるための宿題だったはずだが」

「は、はいっ! ここにまとめてきました」

 

 

 私はタブレットをお兄さんに渡す。今まではお兄さんの考えたプランで歩夢たちに練習をさせていたけど、今後は私の練習メニューを使うことになった。スクールアイドルのマネージャーの第一歩として、お兄さんに出されたのが練習メニューの考案だ。そのプランをこの連日で練ってきたからお兄さんに確認してもらっているんだけど……大丈夫かな?

 

 お兄さんは私のプランを上から下まで見え終えたのか、タブレットから目を離して私の目をじっと見つめる。そして私の頭にそっと手を乗せると、ナデナデと優しく撫で回した。

 

 

「ふにゃっ!?」

「いいじゃねぇか。想像以上によく練られてるよ」

「な、撫でないでください!!」

「おっと」

 

 

 私は思わずお兄さんの手を跳ね除ける。

 だけど、顔はずっと熱かった。璃奈ちゃんたちが言ってたお兄さんに褒められたり、頭を撫でられたりする気持ちよさっていうのが少し分かった気がする。とても暖かくて大きな手。撫でられると安心して心がポカポカする。うん、まぁ……悪くはない……かな。

 

 

「どうした? 顔が赤いぞ?」

「か、勘違いしないでください! お兄さんに惚れたわけじゃないですから!!」

「えぇっ!? なんだ急に!?」

 

 

 結局今日は練習のサポートに身が入らず、お兄さんや歩夢たちに心配されるだけの日になってしまった。

 やっぱりお兄さんといると調子狂うよ……。

 

 

 そして、お兄さんの良さがほんの少しだけ分かった気がする。

 あれ、もしかして楽園入りしようとしているの……私!?

 

 




 ハーレムの中で1人で足掻き続ける侑、頑張れ! 君が堕ちたらこの小説のツッコミ役が不在になってしまうぞ! 
 そうなると私が困るので、何が何でもハーレムを耐え抜いて欲しいものです(切実)





新たに☆10評価をくださった

りょー201831さん、幡山桜さん

ありがとうございます!
評価コメント読ませていただきました!

小説が面白いと思った方、是非ご感想や☆10評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

至れり尽くせりの看病祭り

「ん……? ここは……?」

 

 

 目が覚めた。どうやら寝ていたらしい。

 目の前に見えるのは天井……ではない? 上を向いているはずなのに視界が何かに阻まれている。前留めボタンの白いシャツが豊かな膨らみによって押し上げれており、これじゃあまるで女の子のおっぱい――――ん?。い、いや、これは本当の――――!?

 

 

「あっ、起きた~?」

「彼方!? えっ、どんな状況だこれ!?」

「彼方ちゃんが膝枕して寝かしつけてあげてたんだよ~」

 

 

 確かに俺の眼前に見える彼方の顔と胸からして、膝枕をされているのは紛れもない事実だ。やたら寝心地の良い枕だと思ったら彼方の膝だったのか、そりゃ安眠できるよな……。

 だけど、どうしてこんな状況になっているのか分からない。見たところ周りにベッドがいくつかあり、壁に立てかけられている棚には医療用品がたくさん並べられているから、恐らくここは保健室なのだろう。女の子に膝枕をされながら保健室のベッドで休息って、それ最強するシチュエーションじゃね?

 

 

「零さん疲れてたの? 今日ずっとぐったりしていて、気が付いたら座ったまま寝ちゃってたからみんなでここに運んできたんだ~」

「あぁ、なるほど。まぁ疲れてないと言えば嘘になる。最近卒業論文とか教師になるための特訓とかで忙しくてな」

「卒業論文は分かるけど、特訓ってなぁに?」

「地獄だよ、この世のな……」

「零さんが怯えるなんて珍しいこともあったものだねぇ~」

 

 

 先日の話だ。俺が音ノ木坂学院にいた3年間ずっと担任だった笹原先生に、教師としての特訓を受けさせられている。先生曰く『お前のような問題児が不祥事を起こさないように、私が教師の心構えを骨の髄まで叩き込んでやろう』だそうだ。先生は当時から問題児だった俺に特にスパルタであり、それは今も変わっていないのだと実感した。鬼教師と呼ばれる所以を久々に痛感し、しかもその特訓は1回ではなく定期的に行われる恐怖。何をされているのかは察して欲しいが、こうして五体満足でいるだけマシなのかもしれない。もちろん俺を心配してのツンデレ行動だってことは理解してるから、別に特訓がイヤってわけじゃないけどね。教師を目指すって大変なんだな……。

 

 

「つまり零さんはお疲れモードってことか~。だったら彼方ちゃんが癒してあげるよ~」

「えっ? うっぷ!?」

 

 

 何をされるのかと身構えていたのも束の間、彼方は前屈みとなり自身の乳袋を俺の顔面に押し付けた。おっぱいに溺れるとはまさにこのことで、もはや窒息しそうなくらいだ。胸の感触はそれはもう極楽浄土の世界で、俗に言われる『ぱふぱふ』をここまで真っ向から味わったのは久しぶりだ。そのせいかおっぱいに埋もれて息苦しくなりながらも、俺の心臓は大きく高鳴っていた。

 

 

「ど~お? 男性は大きなおっぱいで癒されるって聞いたことがあるから、これで疲れが取れるといいんだけどね~」

「うっ、ぐっ……!!」

「おっ、そんなに嬉しそうに暴れてるってことは早速効果あったのかな~。流石はおっぱい星人だね~」

「うっぷ……!!」

 

 

 ちげぇよ!! おっぱいを押し付けられ過ぎて息できねぇんだよ!! と叫びたいのだが乳袋に顔面を封じられて口を開くこともできない。正直めちゃくちゃ気持ちいいのだが、幸福に包まれて死ぬってのはこういうことを言うのだろう。

 

 こうして胸の感触を実感して見ると、彼方の胸ってかなり大きいな。今まで幾多の女の子の胸を触ってきた経験があるから分かるけど、こうして自分の肌で触れてみると目で見ている時よりも胸の膨らみが大きく感じる。特に彼方の胸は同学年の果林とエマのと比較すると小さく見えるのだが、それはあの2人が規格外なだけで彼女も十分に大きい。それが顔面に押し付けられてようやく分かった。この大きさ、柔らかさ、弾力、温もり、その全てでパーフェクトだ。いつも寝てばかりの彼方に逆に膝枕で寝かしつけられているってシチュエーションも相まって、それなりに母性を感じられるのも影響しているのかもしれない。

 

 そんな風に彼方のおっぱいを味わっていると、保健室の扉が開く音が聞こえた。

 ヤバい、こんなところを誰かに見られたら確実に変態扱いされてしまう。成人男性が女子高校生に膝枕をしてもらって、しかも顔に乳袋を乗せてもらっている傍から見たら情けない格好。いくらこの学校の生徒が俺のことを好きな女子で溢れ返ってるとしても、こんな痴態を見られたくはないが……。

 

 

「失礼しま~す……って、えぇぇぇええええっ!? 零さんと彼方さん何をしているんですか!?」

「あれ~しずくちゃん?」

「し、しずくか!? これはその……」

「巷で噂のおっぱい治療法だよ~♪」

「そ、そんな淫らな方法が……」

「いや嘘だからな……。息苦しいだけだ」

「彼方さんの胸でアイマスクされてる状態でそう言われても……」

 

 

 保健室に入って来たのはしずくだった。そして案の定この状況を見られて若干引かれている。確かに女子高校生に膝枕をされて乳袋でアイマスクをされている滑稽な図、俺が何を言っても説得力はないだろう。でも気持ちいいからこの状態から脱却しようとは思わない。男ってのは快楽に浸るために多少の羞恥心は覚悟の上で行動する生き物だ。快楽を気持ちよく解き放った時の快感と言ったらもう至福の一言だから。

 

 

「とにかく、お元気そうでなによりです。とても疲れているようでしたので心配しました」

「気遣いありがとな。最近忙しくてちょっと体力を奪われていただけだ」

「そう、ですか……」

 

 

 しずくの言葉が潰えたので、彼方の胸から目を外に出して彼女に向ける。するとしずくはスポーツドリンクを持ったままずっとこちらを見つめていた。しばらくそわそわしていたのだが、意を決したような表情をして俺の寝ているベッドに近づいて来る。

 

 

「私も零さんを心配して、このスポーツドリンクを買ってきたんですよ」

「あぁ、ありがとな」

「でもその体勢じゃ飲めないですよね」

「あ、あぁ……」

「だから……私が飲ませてあげます」

「えっ?」

 

 

 確かに彼方に膝枕をされおっぱいを顔面に押し付けられているこの状況では飲み物を飲むことはできない。もしかしてコイツ、俺の口に無理矢理ペットボトルを押し付ける気か? 彼方におっぱいアイマスクをされているが口だけは外に出ているため、その方法なら飲めるかもしれないが……。寝ている状態で水分補給すると身体の中に上手く流れていかず、食道あたりでつっかえているような心地悪い感じがして気分的に嫌なんだけどな。

 

 だが、目の前で起こったのは予想の斜め上だった。チラッとしずくを見てみると、なんと彼女はスポーツドリンクを俺の口ではなく自分の口に含み始めたのだ。そこでようやくコイツが決意を固めた顔をしていた理由が分かった。

 

 まさか本当にやるのかと思ったのも刹那、しずくは俺の唇に自分の唇を押し当て、スポーツドリンクを俺の口内に流し込んだ。

 

 

「んぐっ!?」

「んっ……!」

「おぉ~しずくちゃん大胆だねぇ~」

 

 

 彼方はいつも通りマイペースにツッコミを入れているが、俺にとっては衝撃的なことが起こっている。口移しもそうだし、あっさりと唇を奪ってきたことが何よりも驚きだ。しずくは目を瞑って俺にキスをし、唇を巧みに動かして少しずつ俺にスポーツドリンクを送り込む。この口使いは流石舞台役者と言ったところか、発声練習などで普段から口を開く動作を鍛えているからこそ成せる技だろう。口移し自体は彼女の清楚な性格の通り優しいのだが、いきなりキスをする覚悟は明らかに肉食系だった。

 

 

「んっ……はぁ……」

「男の子と女の子のキスって、彼方ちゃん生で初めて見たよ~。なんだか思ったよりもエッチだねぇ~」

「んぐっ……!!」

「零さんとっても嬉しそう。彼方ちゃんも負けていられないから、たくさんおっぱい押し付けちゃうよ~。うりうり~♪」

「ッ!? ぐっ、う゛っ……!!」

 

 

 顔面に彼方の胸が、後頭部には同じく彼方の膝が、口はしずくの唇にそれぞれ浸食されている構図。これは天国なのか、それとも生き地獄なのか。女の子のあらゆる身体の部位に自分の顔が包まれているという、これこそ極楽浄土のパラダイスだ。ぶっちゃけて言えば少し苦しくて呻き声を上げてしまったが、快楽を味わえると思えば多少の苦しさなど我慢できる。まあこれが看病なのかと言われたらそれは否だが、実際のところこうして奉仕されているだけで元気が回復したから効果はあるのだろう。

 

 そうやって女の子たちから献身的な奉仕を受けている最中、またしても保健室の扉が開く音が聞こえた。

 もはや何も言い逃れできないこの状況。普通の女の子が見たら校内で堂々と行われている不純異性交遊として通報されるだろう。外部からやって来た男がこの学校の女生徒を侍らせているんだからそりゃそうだ。だが、この学校の生徒は普通ではない。

 

 

「零さ~ん! 可愛いかすみんが疲れを癒しに来ましたよ――――って、え゛ぇ゛え゛ええ!? 彼方先輩としず子、一体何やってるんですか!?」

「あ、かすみちゃんだ~。今日も元気だねぇ~」

「はいっ、かすみんは元気が取り柄ですから……じゃなくて、この状況は!? くっ、零さんとベッドの上とかなんて羨ましい……」

 

 

 ほら、この通りだ。しずくの時もそうだったが、かすみはこの異様な光景を見ても通報は愚かドン引きすることも、咎めるようなこともしない。むしろ自分がこの場からハブられていることを悔しがっている。それくらい思考回路がバグっていると言ったら口は悪いが、つまり俺を心酔するほど好きな子ばかり集まっているのがこの学校なのだ。でなきゃ彼方もしずくもここまでのアプローチをしてこないだろうしな。

 

 未だ彼方の乳袋から顔面が解放されていない俺だが、流石に目を合わせず会話をするのは人間としての礼儀がなっていない。だから仕方なく目だけを外に出してかすみに視線を向ける。

 すると彼女はこちらにトコトコと近づき、俺の寝ているベッドの側に腰を下ろす。そしてベッドの端に手をかけ、寝ている俺と向き合った。ここまでの動作が逐一ちょこまかとしており、マスコットみたいで可愛いなコイツ。そういうところがあざといんだぞ。

 

 

「随分と気持ちよさそうですね」

 

 

 ジト目で文句を言われる。言い返したいがしずくとのキス状態がここまでずっと続いている(しかも口内のジュースはとっくの昔になくなっている)ので、彼女の頬を人差し指で軽く突いて離れるように促した。ぷはっ、と唇と唇が離れる音を立てながら、ようやく俺の口が解放される。

 

 

「あぁ、気持ちいいよ。死後の世界がこんな感じだったらいいのになぁ……」

「なんか悟ってる!? どれだけこの2人に身を委ねていたんですか!?

「お前、男ってのを全く分かってねぇな。女の子に奉仕されることが生きてる全てなんだよ」

「ひぃいいいっ!? 零さんが変な悟りを開いちゃってますよ!? これでいいんですか彼方先輩!?」

「零さんが悦んでくれるのなら何でもいいよ~。この大きく育ったおっぱいで零さんを癒してあげられるのなら、彼方ちゃんは何度でもご奉仕しちゃうから~♪」

「し、しず子……」

「はぁ、はぁ……零さんとのキスにハマっちゃいそう……。零さん、もう一度いいですか……?」

「圧倒的無視!!」

 

 

 いとも容易く行われる、通称『かす虐』。いくら頭のネジが外れているかすみと言えども、目の前で繰り広げられる極楽プレイを一目で受け入れることはできなかったようだ。とは言ってもこの状況をぶっ壊そうと思っているわけではなく、単純に自分が仲間外れにされてるから何とか仲間に入ろうとしているのだろう。そういうところ健気だよなコイツ。

 

 

「うぅ~。これじゃあかすみんの場所がないじゃないですか」

「お前の場所ねーからってやつだよねぇ~」

「うるさいです! うぅ、かすみんも零さんの看病したいのに~!」

「ありますよ。かすみさんにピッタリの場所が」

「えっ、ホントに!? って、しず子、なんだかいつもより艶々してない? さっぱりしているというか、普段よりもクールというか……」

「零さんとの口移しで穢れが全て浄化されました」

「しず子も何か悟ってる……」

 

 

 しずくほど『清純』で『清楚』って言葉が似合う女の子はいないと思うのだが、俺が今まで見てきた清楚キャラってとことん変態思考が染みついてるから察してしまうところはある。まあ主に某淫乱バードちゃんのせいなのだが、しずくに至ってそんなことはないだろう……と信じたい。だが今の超絶冷静でいつもより声のトーンの低いしずくを見ている限りでは、賢者モードに入るくらいには欲求の発散に成功したらしい。つまりコイツにも性的な欲求はあるってことだ。ヤンデレ気質も持ち合わせているっぽいから欲深さはそれなりにあるのかもしれないな。

 

 

「それでしず子、かすみんの場所があるってどこのこと?」

「零さんは私の口移しと彼方さんの乳攻めで心底性欲が滾っているはずです。つまり、それを発散してあげるのがかすみさんの役目ですよ」

「おいちょっと待て。それって……」

 

 

 かすみ、しずく、彼方の3人の目線が一点に向く。俺の下半身。

 そりゃこれだけ欲望塗れの多幸感を味わったらこうもなっちまうって。ここが学校でなければ何も迷うことなくみんなに襲い掛かっていたところだ。女の子におっぱいを押し付けられながら別の子から口移しをされるって、それで性欲を感じない方が男じゃねぇだろ。

 

 そんな俺の高揚する部分を目の当たりにしてか、かすみはニヤ付きながら俺に向き直る。

 

 

「もう~そんなに溜まっているのなら早く言ってくださいよ~♪ 主役が登場するまでメインディッシュを取っておいてくれるなんて!」

「何をする気だ……」

「そんなの決まってるじゃないですか。主人の性欲を解消するのはお嫁さんの役目、ですからね♪」

「結婚した覚えはないが?」

「相変わらず悟ってますけど、実は期待していることバレバレですよ? 男性は性欲に逆らない獣さんですから、ほら、この通り」

 

 

 かすみは俺の下半身を指差す。

 メスガキに煽られて仕返しをしたい気分は山々だが、言ってることは図星なのでぐぅの音も出ない。正直な話このままコイツに身を委ねた方が楽になるし、今まで以上の快楽を得られるのは間違いない。だがコイツが優位の状況ってのが気に食わなく、おとなしく身を捧げてもいいのかと考えてしまう。彼方としずくに取りつかれていなければ真っ先に押し倒してやるのだが……。

 

 俺があれこれと悩んでいる隙にかすみはベッドに上がり込み、四つん這いで這いながら俺の下半身へと到着する。もはや俺の性欲処理をすることに対し問答無用なのは間違いないようで、このままだと確実に保健室で女の子に脱がされる情けない姿を晒してしまうだろう。膝枕をされながら性欲処理されるシチュエーション。天国のようにも見えるし介護されているようにも見えるよな……。

 

 だが、かすみはまだアクションを起こさない。何をしているのかと見てみると、彼女と目が合った。またしてもニヤ付きながら右手を筒状にして上下に摩ったり、自分の唇に人差し指を当ててなぞったり、左手の親指と人差し指で輪っかを作ってそこに右手の人差し指を通し前後させたりと、意味深な動作をしてみせる。

 そして、何やら声を発さず口だけを動かしている。口の動き的に『ど・れ・が・い・い・で・す・か』。つまり俺に性処理の方法を決めさせようとしていた。手でするか口でするか、はたまた下と下同士で結合するか。究極の選択だ。まあぶっちゃけ全部ってのが本当の願いだけど……。

 

 

「しずく、どう責任を取るつもりだ? お前が煽ったせいでこうなったんだぞ」

「私はただ零さんの疲れを癒してあげたいと思っただけです。愛する殿方に誠心誠意尽くすのが私たちの役目ですから」

「そうだよ~。彼方ちゃんたちは好きでやってることだから、零さんも自分の好きにしてくれて構わないからね~」

 

 

 女の子たちからの甘い誘惑。虹ヶ咲の子たちは俺の言うことは何でも聞いてくれるし、全てを肯定してくれる。まさに俺にとっての『楽園』であり、コイツらに身を委ねればこの先一切のストレスを感じることもなく幸せに暮らしていけるだろう。

 

 別にここで抵抗しているのも自分の欲望を抑え込んでいるわけじゃない。溜めて溜めて溜めて溜め込んで、最後にその溜めを解放したとびきりのご奉仕を与えられた方がより快楽を得られるからだ。かすみは俺をその気にさせようと色々誘惑してくるが、痺れを切らしそうなのは俺だけでなくコイツも同じだ。そうなればかすみもやる気になり、溜めに溜め込んだ欲求を存分に吐き出してくれるだろう。俺はそれを狙っていた。

 

 ちなみにこの期に及んでコイツらに手を出すことを拒んでいるとか、そういったことは一切ない。既にホテルで果林に手を出しているんだから今更だろう。μ'sやAqoursと一緒にいた頃と比べてコイツらは積極性が半端ではないから、こっちも一線を超えるハードルが低くなっている気がする。だがそれでいい。可愛い子には誰だって手を出したくなるだろう?

 

 

「零さんがやる気を出さないならこっちから攻撃しちゃうよ~。ほ~ら、おっぱいでちゅよ~。うりうり~♪」

「うっ!? ま、またお前胸を……!!」

「私も我慢できません! 零さん、またお口を失礼しますね」

「むぐっ!?」

 

 

 先に痺れを切らしたのはこの2人だった。だが結果オーライとはこのことで、俺の顔面には再び彼方の乳袋が、唇にはしずくの唇が添えられる。もはや看病や治療といった当初の目的など誰も覚えておらず、ただただ自分たちの欲望を満たすためだけに本能で動いていた。

 

 そうして視界も塞がれ声も出せない状況に陥る中、自分のズボンのベルトが外される音が聞こえてきた。恐らくかすみが例の行為を本格的に実行しようとしているのだろう。乳袋で目を封じられているせいで具体的に何が起こっているのかは分からない。だがあと数秒で下半身に刺激が走るのは明白だ。

 

 

「かすみん、いや、私はこの時をずっと待っていたんです。零さんにお礼ができる日を。助けてもらったあの日から何かお返しできる日をずっと。今はこんなことしかできませんけど、たっぷり私たちで気持ちよくなってください♪ それでは、いただきますね」 

 

 

 なんとも嗜虐心を煽るセリフ。1人称もいつもの『かすみん』と言ったおちゃらけた呼び方ではない。しっかりと俺に愛を伝えるために珍しく改まっていた。

 そこからはもう言葉では言い表せないほど至福の天国だった。上も下も女の子たちに存分に奉仕され、日々感じていた疲れなど一瞬で吹き飛んでしまうくらいだ。むしろ興奮による疲れが溜まってしまうかと思うくらいには性欲を解き放った気がする。彼方に胸で、しずくに唇を、そして下半身にはかすみが取りつき――――久しぶりの至れり尽くせりで、もう俺はされるがままとなっていた。

 

 楽園計画か……。最初はぶっ飛んだ話かと思ったけど、これを経験してしまうと加担してやりたくなるな。アイツの手のひらで動かされているのは癪だけど、それ以上に俺へのリターンが大きすぎる。

 

 俺のことを好きになる素質のある女の子たちが集まった学校、虹ヶ咲学園。

 上等だ。だったらこれからもたっぷりとこの生活を楽しませてもらうとするか。

 

 




 最初はもっとアルコール入りチョコ回みたいな感じでネタ寄りにしようと思ったのですが、自分のハーレム欲求が見事にマッチして普通のハーレムプレイになっちゃいました。まあそれが最高なんですけども(笑)


 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】サブキャラたちのバレンタイン(前編)

 先日この小説が投稿から6周年となったのでその記念回です!
 今回と次回はサブキャラたち(中にはメインキャラも混ざりそうですが)を中心に、この小説では全然触れて来なかったバレンタインのお話となっています。

 虹ヶ咲編の時系列的に年齢がおかしいキャラがいますが、それは特別編ってことでパラレルワールドと思っていただければと……



 神崎家族 → A-RISE → 矢澤ここあ、こころ姉妹


『バレンタイン特別ミッション』

1日でチョコレートを1000個貰え

 

 

 

「はっ、何か電波のようなものを受信した気がする――――って、そんな夢で起きる俺の方が電波少年だよな……」

 

 

 何やら夢の中でやらなければならないミッションが浮かび上がってきたような気がする。起床後に夢の内容を思い返すことがあるようだが、それは自分の妄想で、実際に見ていた夢の内容とは異なるという研究結果があるらしい。医学的根拠があるのかは知らないが、どうもこのミッションはやり遂げなければならないという謎の強迫観念に捕らわれていた。別に達成しなくてもペナルティはないのに、何故かやり遂げる必要がある。これが神からのお達しってやつか。痛い子になったな俺も……。

 

 2月14日の朝6時。どうやらいつもより早く目が覚めてしまったらしい。夢のお告げを受信した影響か知らないけど迷惑な話だ。今なら眠気も残っているので二度寝してもすぐ夢の中にとんぼ帰りできるだろう。

 

 ――――と思ったのだが、毛布の中がやけに暖かい。つうか明らかに俺じゃない何かが中にいる。さっきから何やらゴソゴソと、主に俺の下半身あたりで……。この後に何をされるのかその時点で察した。

 朝から性的欲求の解放で余計な体力を使いたくない。中にいるのは誰なのか想像はつくが、とりあえず毛布を捲ってみよう。

 

 

「あっ……お兄ちゃん起きてたんだ」

「やっぱりお前か……」

 

 

 予想通り俺のベッドに忍び込んでいたのは楓だった。ぶっちゃけた話、こういったことは割と日常茶飯事なので特に驚くべきことでもない。部屋に鍵をかけても何故かこじ開けられるので俺の方から諦めてしまった経緯もあるくらいだ。実の妹に朝ご奉仕で起こしてもらうなんて最高に望まれるシチュエーションだが、俺にとってはいつものこと過ぎて喜びすらなくなっていた。慣れって怖いな。

 

 

「今日は勘弁してくれ。どうやら1日中動き回る必要があるみたいだから。夢のお告げでな」

「は? 何それ電波? それは私がお兄ちゃんをご奉仕することより重要なことなの?」

「重要だ、今日だけはな」

「なんか今日は一段と冷静だねお兄ちゃん。ま、私の目的は別にあるんだけどね」

「別?」

「うん。はいこれ、チョコレート。今日はバレンタインでしょ? お兄ちゃんには誰よりも真っ先に渡したかったから、こうして朝から忍び込んでたんだよ」

 

 

 楓から綺麗にラッピングされた箱を渡される。まさか起床直後から受け取るとは思わなかったが、思い返してみれば毎年のバレンタインでチョコ受け取り一発目は毎回コイツだったな。流石は俺のことを世界中のどの女よりも好きだと言い張るだけのことはある。健気と言うか執念深いと言うか……。

 

 

「ありがとな。お前の手作りは何でも愛が籠っていて美味いから、そんな世界最強の妹を持って俺は幸せ者だ」

「えっ、お兄ちゃんどうしたのデレ期!? ま、まぁ褒めてもらえたことは嬉しいんだけどね、えへへ。お兄ちゃんはやっぱり世界最強のお兄ちゃんだよ♪」

「そうだな。世界最強だからこそ、あと999個集める必要があるのか」

「ん? なんの話?」

「モテる男への試練ってところかな」

 

 

 冷静に考えて、1日で1000個のチョコを貰うことなんてできんのか……? 今まで3桁にすら到達したことがないのに4桁とか、その要求はあまりにもハードすぎる。でも何故か達成しなきゃいけないような感じがするので頑張ってはみるか。俺がこんな早朝に起こされたのもそのミッションのために動き出せということなのだろう。神からなのか天からなのかは知らないけど無茶な要求をしやがる……。

 

 そんなことを考えていると、突如として俺の部屋のドアが開け放たれる。ノックもせずに入って来た失礼極まりない奴は――――

 

 

「楓ちゃ~ん! 朝ごはんまだ~?」

「ちょっ、お母さん!? 今お兄ちゃんととってもいい雰囲気なんだから邪魔しないで!!」

 

 

 案の定と言うべきか母さんだった。寝起きなのか気の抜けた様子だが、声だけはやたら大きいのは女優の性だろう。母さんのダイナミックな入場のせいでもうこっちの眠気吹き飛んじまったぞ。テレビやドラマを見ている時はあんなに品行方正で落ち着いているのに、実家に帰ってくるとまるで子供だからな……。

 

 

「楓ちゃんって、まだ零くんにチョコを一番乗りで渡すのやってたんだ」

「やってるよ! これからも一生やるよ! だからあっち行った、しっし。大人なんだから朝ごはんくらい自分で作ってよ」

「え~。日本にいる間は楓ちゃんの手料理がいいのに~。零くんもこの気持ち分かるでしょ?」

「まぁ……な」

「安心して。お兄ちゃんなら私の手料理を好きなだけ振舞ってあげるからね、一生。むしろ他の女の料理を食べようなんて許さないから」

「重いな!?」

 

 

 俺への愛が深い妹だけど、深すぎてヤンデレ気質を発揮するのが玉に瑕だ。まあこちらも悪い気はしないので別にいいんだけどさ。

 こんな感じで朝から騒いでいると、またしても俺の部屋に侵入者がやって来た。とは言ってもこの家の住民はあと1人だが……。

 

 

「もう朝からうるさいよみんな。徹夜で研究していて今寝ようとしていたんだから静かにしてよ」

「ゴメンね秋葉ちゃん。楓ちゃんがギャーギャー騒ぐから」

「いやお母さんが駄々こねるからでしょ!? いい大人が娘に責任を押し付けないでよ!」

 

 

 如何にも眠そうにしている姉、秋葉まで俺の部屋に入って来た。跳ねている髪やよれよれの白衣を見るにまた研究に没頭して一睡もしていないのだろう。

 それにしても、相変わらず賑やかだねぇ神崎ファミリーの女性陣は。母さんが楓を弄り、それを秋葉が冷静に宥めるこの構図。楓が子供っぽくなるのは母さんがいる時だけだし、秋葉がまともに見えるのも母さんと楓が一緒にいる時だけだ。つまり家族団欒の状況にも関わらず家族の意外な一面が見られるから、いつもの光景に見えて意外と新鮮だったりするんだよな。

 

 

「そうだ、お母さんも零くんにチョコ用意してるんだよ。せっかくバレンタイン当日に日本にいるんだから直接手渡ししたくてね。はい、どうぞ」

「あぁ、サンキュ」

「だったら私も今渡しちゃうね。この私が直々に手作りしたんだよ?」

「なんか変なモノ入れてねぇだろうな?」

「してないしてない。好きな人に想いを伝えるためのチョコだもん」

「そ、そうか。悪いな、疑ったりして」

「素直過ぎてお姉ちゃんらしくない……」

「楓ちゃんは後で薬付け実験の被検体になってもらおうかな♪」

「ひっ!?」

 

 

 家族から貰うのも毎年のことだが、今年はいつも海外にいる母さんが帰ってきていたり、秋葉が素直になって手作りチョコを作ってくれたりと至れり尽くせりだ。母、姉、妹。この歳にもなって家族の女性陣からここまで心の籠ったプレゼントを貰うのは中々に珍しいことだろう。それだけ仲がいいって言えばそうなんだけどさ。

 

 

「秋葉ちゃんチョコ作り頑張ってたもんねぇ~。あなたがここまで健気になるなんて、やっぱり零くんの魅力って半端ないよ」

「ちょっ、お母さんそれ言わない約束!」

「息子を溺愛するお母さんもお母さんだけどね」

「今でも狙ってるよ、零くんのこと♪」

「それは冗談にならねぇからやめてくれ。姉と妹ならまだしも、母親は笑えない」

「もうお兄ちゃんったら、妹だったら押し倒して拘束して自分のモノにしたいだなんて♪」

「言ってねぇよ……」

「ふ~ん、お姉ちゃんでもいいんだ……」

 

 

 これ以上口を開くとああ言えばこういわれるのでやめておこう。神崎ファミリーの女性陣は元気過ぎて俺だけではツッコミが追い付かない。ここで疲れていたら今日1日チョコレートを貰うために動けないから体力は温存しておかないとな。

 

 こうして俺のチョコレート1000個チャレンジが始まった。夢のお告げを聞き試練を達成しなければならない使命感のもと、俺の長いバレンタインデーの幕が開けるのであった。

 

 

 

 

【現在のチョコ数】

 3個(残り997個)

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 幸いにも今日は色んな女の子たちを会う予定がある。だからその時にチョコは一定数確保できるだろう。問題は流石にたくさんの女の子を囲っているとは言っても4桁はいない(と思う)ので、目標の1000個をどうやって集めるかだ。1つ心当たりがあると言えばあるのだが、果たしてどこまでアテにできるかは分からない。

 

 つまりだ、目標達成のためには今日会う予定がない女の子とエンカウントするしかない。それもただ会うだけでなくチョコを貰わなければいけないので、それこそハードルは爆上がりだ。わざわざ『バレンタインのチョコが欲しいから今日中に作って』と連絡をするのも気が引けるし、さてはてどうすっかなぁ……。

 

 

「零君!」

「えっ……?」

 

 

 チョコを貰うための作戦を考えていると、通りかかった公園から女の子の声が聞こえたのでそちらを振り向く。

 その声の主はA-RISEのツバサ。そして英玲奈とあんじゅの姿もあった。3人はラフな格好でドリンクを片手にしているので、恐らく練習か何かの最中だろうか。朝から御苦労なことで。

 

 

「れ、零君おはよ! 奇遇だね……」

「あ、あぁおはよう。こんな朝っぱらから練習か?」

「練習というよりかは体力作りだな。朝ほど運動が身に染みることはない」

「私はもっと寝ていたいんだけどねぇ~。英玲奈ちゃんの体育会系のノリに付き合わされる身にもなって欲しいよ」

「君は誰かが起こさないと二度寝三度寝も辞さないだろう……。まあ、今回の目的は()()()ではないがな」

「はぁ?」

 

 

 すると英玲奈とあんじゅはツバサの方を見る。いきなり注目されたためか肩をビクつかせて驚くツバサだが、コイツさっきからなんだかよそよそしくないか? いつもだったら明るいテンションで絡んでくるのに、さっき挨拶した時も言葉がたどたどしかった。今も何やら焦っているようで、俺とまともに目も合わせてくれない。割と会うのは久しぶりだから、俺が何かをやらかしてこういう反応になっているとは思えないんだけど……。

 

 

「ほらツバサちゃん。せっかくここで会えたんだから渡さないと」

「ちょっ、ちょっとあんじゅ押さないで! 分かったから!」

「渡すってもしかして……」

「そ、そうだよチョコレート! UTXのキッチンを借りて作ったんだから、う、受け取らないと承知しないんだからね!!」

「なんだその慣れないツンデレは!? 目がぐるぐるしてるぞ大丈夫か!?」

「最近のツバサは君の話になるといつもこうなる。それだけ愛情があるということだ」

「え、英玲奈!?」

 

 

 とりあえずツンデレ風に渡されたチョコレートを受け取る。ツバサと言えばA-RISEのリーダーで誰もが羨む存在で憧れの対象ではあるが、こうして見るとただの女の子だな。そういった一面を俺だけが見られると思うと優越感だが、まさかバレンタインにチョコを渡してくれるくらい好感度が上がっていたとは思っていなかったぞ。

 

 

「正直に話すとな、ランニングをしながら君の家にお邪魔するつもりだったんだ。君のことだ、この後もたくさんの女の子と会う予定があるのだろう? その群衆に飲み込まれる前にチョコを渡したかったのだ、ツバサは」

「なるほど。純粋に恋する乙女に見えて意外と出し抜く奴だったんだなお前」

「な゛っ!? そんな計算高い女みたいに……。それにさっきあなたに声を掛けろって言ったのはこの2人で私は別に……」

「だったら私も出し抜いて渡しちゃおうかなぁ~。はい零くん、私からもプレゼント!」

「えっ? あぁ、ありがとな」

「では私も便乗させてもらおう。2人と一緒に作ったから味は保証できるぞ」

「お、お前もか。サンキュ」

 

 

 まさかこの2人からも貰えるとは意外だ。つうかトレーニングの最中に俺の家に寄るって押しかけ妻じゃあるまいし、中々にぶっ飛んだことやろうとしてたんだなコイツら。でもそれだけ俺にチョコを渡すのを心待ちにしてくれたってことか……。そう考えると目的を達成するための数合わせではなく素直に感謝しなくちゃな。

 

 

「ありがたく受け取らせてもらうぞ。ホワイトデーで何かしら返せるようにするからよ」

「おっ? 零くんから慈悲なんて珍しいこともあったもんだね」

「俺ほど慈愛に満ちた男はいねぇぞ。それにお前らのチョコに愛を込めてくれたのなら、それに応えるのが男ってもんだろ」

「愛って、ツバサはそうだが私たちは……」

「違うのか? わざわざ手作りなのに?」

「そ、それは……」

「も、もうっ、零くんそういうところがズルいよ……」

「って、英玲奈もあんじゅも照れてるじゃん!! 私を散々からかっておいて!!」

 

 

 そんな感じでA-RISEの3人からもチョコを受け取った。スクールアイドルの中では間違いなく最も社会進出を果たしている彼女たちだが、そんなコイツらからバレンタインチョコを貰うなんてちょっぴり、いやかなり優越感だ。それを抜きにしても俺のために手作りしてくれたんだから素直に嬉しいけどね。

 

 そしてやいのやいの楽しそうに言い争いをするA-RISE。男に恋をするって大変なんだな……って、恋されてる側の人間が言うセリフじゃねぇか……。

 

 

 

 

【現在のチョコ数】

 6個(残り994個)

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 ここまでは至って順調のように見えるが、集まったチョコの数は全体の数%でしかない。だが千里の道も一歩から、塵も積もれば山となる。それを信じて女の子たちと巡り合っていくしかない。こうしてチョコをくれそうな女の子たちに心当たりがあり過ぎるのは我ながら自慢だ。

 

 ちなみに今まで貰ったチョコは秋葉が考案したポケットに全て格納してある。上着の両方のポケットの中身が四次元空間となっており、無尽蔵にどんな大きさのモノでも保管できるそうだ。相変わらずどんな原理なのか意味不明な発明品だが、よくよく考えてみたら人間の日常生活に激震が走るような代物だよな。それを俺のためにしか活用しないのがアイツっぽいけど……。

 

 

「おにーちゃーーん!!」

「お兄様!!」

 

 

 鼓膜に響く元気な声色とお淑やかな声色。まるで幼い女の子が叫んでいるかのようなオクターブの高い声の主は――――

 

 

「ここあ? こころ?」

「うんっ、おにーちゃんおはよう!」

「おはようございます、お兄様。本日もご機嫌麗しく存じます」

 

 

 矢澤家の次女で中学生のこころ、三女で小学生のここあが俺に駆け寄ってきた。俺を見かけて嬉しいのかここまでずっとニコニコと笑顔を絶やさず、もはや朝日よりも圧倒的に明るい表情だ。小さい子の活発な姿を見ているとこちらも元気を貰えるってのはこのことなのだろう。『元気』と言っても変な意味じゃないから勘違いしないように。

 

 

「えへへ、私たち実はおにーちゃんに会いに行く途中だったんだ」

「俺に?」

「はい。本当はお兄様にお宅に突然お邪魔してサプライズをする予定だったのですが、まさかこんなところで出会えるなんてこっちがサプライズでした」

「お前らまで押しかけ妻かよ……。で? 俺に何か用か?」

「またまた惚けちゃって~! 今日が何の日か知ってるでしょ?」

 

 

 そりゃ既にチョコを貰ってるからな――――とは純粋無垢なコイツらに言えるはずがない。ここは何も知らないふりを装って、今日はチョコレートを始めて貰う反応でも見せておくか。俺にエッチなことを要求するくらい神経の図太いコイツらならそんなことは気にしないと思うが、幼女に対する配慮くらいはできるさ、紳士だからな。

 

 

「お兄様!」

「おにーちゃん!」

「「ハッピーバレンタイン!」」

 

 

 こころとここあはラッピングされた可愛らしい包装を小さな手のひらに乗せて俺に手渡す。こころのラッピングは超絶に綺麗で真心が籠っていることが一目で分かり、ここあのラッピングは多少粗があるがそれも無邪気で元気いっぱいの彼女らしい。恐らく俺のために包装の仕方を勉強して準備してくれていたのだろう。コイツらの笑顔とチョコレートの包装の手の込みようでそれが分かる。

 

 

「お姉様に教えていただき、心を込めて作りました。是非受け取ってください」

「おにーちゃんに笑顔で美味しいって言ってもらうところを想像して作ったんだよ! 料理は初めてだけど頑張ったんだから!」

「ありがとな。お前らの想い、ありがたく受け取るよ」

「やった! ありがとうおにーちゃん!」

「お兄様、ありがとうございます」

「どうしてお前らがお礼を言うんだよ」

「だっておにーちゃんにはいつも遊んでもらってるし、日頃のお礼がたくさんあるんだもん!」

「そうですね。バレンタインはお兄様に感謝を伝えられる数少ない機会ですから、そこで本気を出すのは当然です」

 

 

 まだ幼くして男への愛を抱いている中学生と小学生。こんな小さい子たちに惚れられるなんて中々に背徳的だが、ぶっちゃけ恋愛に年齢は関係ない。この子たちが俺に愛を示してくれるのであれば俺はそれに応えるだけだ。まだ思春期を迎えていない多感な時期の女の子を自分の色に染め上げられると思えば、それはまた一興だろう。

 

 

「お兄様にはまだまだ教えていただきたいことがたくさんありますからね。またエッチなこと、たくさんご教授ください♪」

「おにーちゃん、私たちに舐められて気持ちよくなってたもんね~♪ またやってあげようか~?」

「ぐっ、それは忘れろ……」

 

 

 ノリと勢いでロリっ子のコイツらにご奉仕させた苦い記憶が蘇る。コイツら事あるごとにそのネタを引き合いに出すものだからタチが悪い。まだ誰にもバラしてはいないようだが、もしかして手のひらで踊らされてるのって俺の方だったりするのか……? コイツらと付き合うのはそう簡単なことではなさそうだ。

 

 

 

 

【現在のチョコ数】

 8個(残り992個)

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 実はメインキャラも描く予定だったのですが、そうなると余裕で4~5話に膨れ上がりそうだったのでサブキャラのみに断念しました。
 次回はSaint Snow、近江遥、綾小路姫乃+αになる予定です。


 それにしても6周年って小学生が入学から卒業まで一通り経験するくらいの期間ですから、そう考えると長いことやってるなぁ~って(笑) ここまでお付き合いいただきありがとうございます! ラブライブも新しいシリーズが7月アニメ開始ということで、どれだけ零君のハーレムが広がるんだろうか……?



新たに☆10評価をくださった

五月雨@ノンさん

ありがとうございます!

小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】サブキャラたちのバレンタイン(後編)

 6周年記念の後半戦です。
 Saint Snow → 近江遥、綾小路姫乃 → 高崎侑

 サブキャラとかいいながら侑ちゃんはメインですが、まあ書きたかったので許してください(笑)


 矢澤のロリ姉妹と別れた後、また別の女の子たちと会ってたくさんのチョコを貰った。

 まずμ's。いつも通り集まって練習をしている最中にみんなからチョコを貰い、既に貰っていた楓の分を除いて一気に11個プラスされた。そしてその後は東京に遠征に来ていたAqoursの練習にも付き合い、そこで更に9個を貰ったことで現在の総数は28個だ。普通の男であればこれだけの量を貰えば歓喜に満ち溢れるんだけど、残念ながら俺は普通ではない。女の子たちに好かれ過ぎてバレンタインチョコを1000個受け取らなければならない謎のミッションが掲げられている身。これ、相当贅沢な悩みだよな……。

 

 次なるチョコレートを求め、μ'sがよく練習に使っている神社へとやって来た。幸いにも今日はたくさんの女の子と会う(恐らくバレンタインチョコを渡すためだろうが)から、俺が必死をこかなくても自然とチョコは集まるだろう。それでも1000個の大台に乗せるためには普段から連絡を取り合っている子たちじゃ足りないわけだが、それ対策でしっかりと作戦がある。とりあえず今は久々に会う()()()()との再会を喜ぶか。

 

 そう思って神社への石段を登り切った時、突然誰かが俺の胸に飛び込んで来た。危うくのけ反りそうになるが、勢いに反して抱き着いてきた子が小柄だったので意外と楽に持ちこたえる。つうかこのバイオレットのツインテールは――――

 

 

「理亞?」

「うん。こんにちは、兄様。ずっと会いたかった」

「もうっ、理亞ったら危ないよ。大丈夫でしたかコーチ」

「あぁ、女の子を受け止めるのは慣れてるからな。それに理亞の元気な姿を見られて良かったよ。お前も変わりなさそうだな、聖良」

「はい、ご無沙汰しています。私も理亞もコーチに会えるのをずっと楽しみにしていました」

 

 

 北海道出身のスクールアイドルであるSaint Snowの2人。鹿角聖良と理亞の姉妹。今日は東京に来るってことで久しぶりに会うことになった。ここに来た理由は近々行われるスクールアイドルの選手権に参加する目的だと聞いているが、コイツらの最優先目的は絶対に俺だろう。いつも連絡自体は取っているのだが、理亞は『会いたい会いたい』と念仏のように唱えていたし、聖良も普段通り凛とした様子だが時折寂しそうな声を出すなど、もはや姉妹の会いたいオーラが電話口からでも伝わって来ていた。だから理亞が俺に飛び込んできたのも無理はないってことだ。

 

 

「兄様、いい匂いがする。すぅ~~はぁ~~」

「人の胸に顔を埋めて匂いを嗅ぐなよ……」

「今日だけは許してあげてください。理亞、これを楽しみに東京に来たようなものなので……」

「これをやるためって、なんか再会を喜びづらくなったのは俺だけか……?」

「素直に喜んでいいと思います。理亞がここまで人に懐くなんて普通ではあり得ないことですから。私にすらこんなことをしないので」

「普段は素っ気ないからこそ、欲望を解放した時の鬱憤晴らしが凄いってことか……」

 

 

 女の子から好意を向けられることには慣れているが、こうして斜め上からのアプローチは未だに慣れねぇな。自分の妹や淫乱鳥、虹ヶ咲連中の大胆アプローチで普通ではない女の子たちに囲まれてはいるけど、これが俗に言う同族嫌悪の一種なのかも……。変態度で言えば俺も負けてはないどころかアイツらを優に上回っているだろうからな、そういうことにしておこう。

 

 理亞に抱き着かれ未だに動けずにいると、聖良がカバンから包み紙を取り出して俺に差し出してきた。

 

 

「コーチ、ハッピーバレンタインです。こうした洋物のお菓子を作るのは初めてだったのですが、愛をたっぷり込めて作ったので召し上がってくださると嬉しいです」

「あっ、姉様だけズルい。兄様、私も作ってきたからあげる」

「おぉ、ありがとな」

 

 

 2人の実家が和風の喫茶店だからか、チョコレートの包み紙がかなり古風だ。俺はコイツらの実家に行ったことはないのだが、実際に現地へ出向いたことのあるAqours連中の話によると、コイツらの和風メイド姿は超絶に可愛いらしい。そりゃ美人因子抜群のこの姉妹だったら何を着ても似合うだろう。だから俺もこの目で直々に拝んでみたいもんだ。コイツらのことだ、俺が見たいって言ったら写真くらいすぐに送ってくれるはず。女の子の衣装を好きに指定できるなんて贅沢だよな、我ながら。

 

 

「せっかくだし、お前らのライブでも見ながらこのチョコをいただこうかな。ほら、お前らが参加するスクール選手権だよ」

「兄様はふんぞり返って私たちのライブを見ていていいよ。どうせ優勝するのは私たちなんだから。兄様と心と心が繋がっている私たちが勝つのは自明の理。兄様の加護があれば負ける気はしない」

「余裕だなオイ。精々足元をすくわれないように気を付けるんだな。ま、その余裕こそがSaint Snowって感じだけど」

「問題ないです。コーチは()()()の愛がたっぷり詰まったチョコを召し上がりながら、()()()のステージをのんびりとご覧いただければと思います。そして、優勝して観客から注目を浴びているあの女たちは俺のモノで、俺のためにチョコを作ってくれたんだぞと是非優越感を満たしてください。こちら、ステージが良く見える特別席のチケットもご用意しましたので」

「なるほど、それはチョコがより一層美味くなりそうだな」

 

 

 今や死語となりつつある言葉に『メシウマ』ってのがあるが、まさにその使い時だろう。コイツらレベルになればファンも多く注目度も高い。そんな子たちを有象無象は観客席から眺めることしかできないのに、俺はコイツらの真心が籠ったチョコを特等席で頬張りながらそのステージを眺める。金持ちの道楽みたいなシチュエーションだが、これは紛うことなき現実だ。スクールアイドルの子と知り合っておくとこうやって満足を感じられる機会が多いから楽しくて仕方がねぇよ。

 

 そうやって打算的な考えを張り巡らせているが、それもコイツらの従順な想いがあってこそだ。ぶっちゃけ俺に心酔していると言っても過言ではない。ま、たまにはそんな子たちと一緒に背徳的な刺激を感じてもいいだろう。

 

 

 

 

【現在のチョコ数】

 30個(残り970個)

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 鹿角姉妹と別れた後、俺は自身の通っている大学へと向かった。4年生の秋なので授業という授業はないのだが、俺の目的はたった1つ。もちろんバレンタインチョコだ。同じ大学で4年間も過ごしていれば必然的にたくさんの女の子と出会うことになり、それなりに親密になっている子たちも多い。いわゆる友達以上恋人未満の関係だが、ミッション達成のために1つでもチョコが欲しいこちらとしてはそんな関係性だろうが関係ない。女の子から貰えればそれが本命であれ義理であれバレンタインチョコには変わりないのだから、貰えるものは貰うに決まってる。

 

 そうやって期待した結果、なんとか68個の収集に成功した。チョコを渡してくれた女の子は他の奴らにも配っていて明らかに義理だと分かるモノ、ばったりと出会った際についでに渡されたモノ、俺のことを待ち伏せして渡されたモノ、頬を赤くして本命っぽい感じで渡されたモノなど、女の子の様子は千差万別であった。関係性の浅い深いはあるにせよ、ここまで女の子の人脈を広げていたことを便利だと思ったことはない。もちろんただミッション達成のために貰ったと言うのは流石に申し訳ないので、あとで1つ1つしっかりといただくとしよう。本命はもちろん義理でも俺のために買うか作ってくれたものだしな。

 

 ちなみに毎年チョコを貰い過ぎて食い切るのに軽く1週間はかかっていたのだが、今回はそれどころの話じゃない。この冬どころか春、いや夏、最悪1年かかってもおかしくはない。そしてまた次のバレンタインが来ると。あれ、これって無限ループ……??

 

 そんなこんなで大学を後にして、ミッション達成の立役者となるだろう虹ヶ咲学園へと向かう。

 その道中で見知った顔にばったりと出くわした。

 

 

「遥? それと……姫乃?」

「えっ、零さん! 姫乃さん、零さんですよ! 虹ヶ咲へ行く手間が省けましたね!」

「零さん!? えっ、あっ、まだ心の準備が……」

「ん?」

 

 

 エンカウントしたのは虹ヶ咲の近江彼方の妹であり、東雲学院スクールアイドルの遥と、藤黄学園のスクールアイドルである綾小路姫乃だ。どうやらコイツらも虹ヶ咲へ向かう予定だったらしく、手間が省けたってことはもしかして俺に会う目的だったとか? もしそうだったとしたら出会えたことには僥倖だ。それにしても姫乃がそわそわしているのが気になるが……。

 

 

「今日はバレンタインデーですから、私たち、零さんにチョコをお渡ししたくて虹ヶ咲へ向かっていたんです!」

「えっ、俺のために? 姫乃もか?」

「そ、そうです! 悪いですか?」

「いや悪くはねぇけど、お前が俺にチョコを渡すなんてどういう風の吹き回しかと思ってな。お前、俺のこと嫌ってなかったっけ?」

「別に嫌ってなどいません。でも遥さんから一緒にチョコケーキを作ろうとお誘いを受けたので……」

「でも引き受けたってことはそのつもりだったんだろ? 心の底から嫌ってる奴に対してチョコを送ろうなんて思わねぇからな」

「実際姫乃さんとてもやる気でしたよ! 何度も何度も生地を作り直したりして、チョコケーキの見た目にも拘ってましたから」

「な゛ぁ!? は、遥さん!? それは作るのであれば手を抜きたくないという自分の性で、決して零さんのためでは……」

 

 

 大和撫子が似合いいつも凛然としている姫乃だが、今はまさに恋する乙女のようだ。実際に恋をしているのかは知らないけど、出会った頃の噛み付き具合に比べれば態度に天と地ほどの差を感じられる。遥には最初から慕われていたからチョコを貰えるだろうという自慢に近い確信があったが、コイツからも貰えるなんて今日最大の驚きだ。

 

 

「今日のために一生懸命作りました。是非受け取ってください!」

「ありがとう。あとで食った感想を送るから楽しみにしておけ」

「はいっ、ありがとうございます! 大好きな零さんに喜んでもらえて私嬉しいです!」

「遥さん凄く直球……。羨ましい……」

「俺からしたら、お前がそこまでデレてくれているだけでも嬉しいけどな。どうしてそうなったかは知らねぇけど」

「い、意外と朴念仁なんですね……」

「そうだな。だから想いを直球で伝えてくれないと分かんねぇんだよな~」

「し、白々しい……!!」

 

 

 別に嘘ではないぞ。女の子と交流を深めていたら何だかんだ惚れられていた経験は今まで無数に存在した。だからこそさっき大学に行った時も本命っぽいチョコをたくさん貰った訳だしな。俺からしたら自分の想いを押し殺している女の子の方が珍しく、それ故に奥手の子の想いに気付かないこともあるから、その気持ちを直球で伝えてくれないと分からないってのは特段嘘じゃないんだよ。これでも女心はある程度察することはできるようになったけど、それでもデリカシーがないだのなんだの未だに言われるからな。女の子と付き合うって難しい……って、どの口が言ってるんだと思われるかこれ。

 

 

「これまで色々助けていただきましたから、今日はそのお礼です。義理ですから」

「なるほど。義理でも俺にこのチョコケーキを贈ろうとしてくれた気持ちは本物ってことか」

「ち、ちなみに私は本命ですよ……? きゃっ、言っちゃった……」

「お前も遥みたいに素直になってくれるのを待ってるぞ、姫乃」

「うっ!? うぅううううううううううううううううう!!」

「姫乃さん顔真っ赤ですよ!? 姫乃さーーーーんっ!!」

 

 

 初心っ子をイジメすぎるのはよくねぇな。俺の周りには純粋な心を持つ奴が少ないからこそその清らかな心を大切にしなければならない。そうでないと脳内ラブホテルを建設する奴ばかり出てくるから……。

 とにかく、意外な子たちに会ったおかげでチョコの受け取り数を増やすことができた。全体の必要数から見れば到達までまだまだだが、そんなミッションよりもコイツらから貰えたことは素直に嬉しいよ。

 

 

 

 

【現在のチョコ数】

 100個(残り900個)

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 遥と姫乃と別れ虹ヶ咲へ向かった俺。そこでは案の定というべきか、栞子を含めた歩夢たち虹ヶ咲のスクールアイドル10人からバレンタインチョコを貰った。これは予定調和でありがたくいただいたわけだが、これだけではまだミッションの達成には程遠い。

 だがここは虹ヶ咲学園。秋葉によって俺を好きになる素質を持つ女の子ばかりが集められた、いわば楽園なのだ。つまりバレンタインに俺がこの学校に出向けばどうなるかはもうお察しのこと。一歩歩けば女の子たちからチョコを貰えるほどであり、これまでとは比にならないスピードでチョコの総数が加算されていった。もはや何個貰ったのか途中から数えることができなくなったが、秋葉が作ってくれた四次元ポケットの格納庫に現在の収納数が記されており、その数値がボタン連打の回数を数えているかのように増加していた。これだけ勢いがあれば目標達成は余裕だろう――――そう思っていたのだが……。

 

 

「やべぇ。あと1個足りねぇ……」

 

 

 現在のチョコ数は999個。そこまで搔き集めただけでも上出来なのだが、残念ながらあと一歩届かなかった。

 現在は日も落ちもう夕方。部活も終わり校内に人はほぼ残っていない絶望的な状況。それに俺への想いが強い子たちであればこんな遅い時間にチョコを渡しに来るはずもなく、実際ほとんどの子が俺がここにやって来てすぐに駆けつけてくれた。だから貰うべき子からは貰えているはずだ。だからこそアテがなくて困っているわけだが……。

 

 いや、全く心当たりがないと言ったらそうではない。俺の知る限り1人いる。この学校出身で俺にチョコを渡していない女の子が。そしてソイツはこの学校で唯一俺を好きになる素質がない子であり、秋葉によって意図的に投入された異端分子である。それ故に歩夢たちを含めこの学校の生徒はみんな俺を好意を抱いているのに対し、ソイツだけは俺の扱いが雑というか、恋愛の波動を感じたことがない。それこそただの悪友みたいな関係なので、ソイツからチョコを貰うのはかなり厳しいと見ている。

 

 そうなると別の子に頼りたいが、流石にこの夕暮れの時間帯からチョコを作らせるのも図々しいし、俺に渡す予定がありこれだけ時間が遅くなるのであれば事前に連絡くらいは入れるだろう。もちろんそんな連絡なんて来ていない。こうなるとミッションの制覇は絶望的であり、特にペナルティがあるわけではないが普通に悔しい。もはやここまでかと思っていたのだが――――

 

 

「あれ? お兄さん?」

「侑……」

 

 

 夕日を見つめながら目標達成を諦めようとしていたところ、帰り道でばったり侑と出くわした。今日は用事で練習には参加していなかったようだが、ここで出会えたのは運命のイタズラか。どうせ何も貰えないのに出会っちまうなんて運命も残酷なことをしやがる。こうして巡り合わせるなんて俺への当てつけかよ……。

 

 

「お兄さん何だかやつれてません? チョコを持ったみんなに押しかけられて疲れちゃったとか?」

「いや、嬉しいことだよそれは」

「ですよね。女の子好きのお兄さんのことですから、どうせ楽しんでいたに決まってます」

「チョコを貰うこと自体は嬉しいんだけどな……」

「それにしては元気がないですね。もっとほくほく顔になっていると思っていたので、意外です」

「チョコ自体は毎年たくさん貰ってるから。それでも気持ちの籠ったプレゼントはありがたいよ」

「ふ~ん……。あの、ちょっとだけ一緒に帰りますか? ちょっとだけ」

 

 

 なんだそのエッチの時の『先っちょだけ』みたいな言い方はとツッコミを入れそうになったが、絶対に機嫌が悪くなるので言い止まった。よく分からないが珍しく俺のことを心配してくれているようなので、その好意を踏みにじりたくはない。

 

 そしてしばらくお互い無言で歩き続けた。隣同士で足音だけが聞こえる状況だったが、最初にその空気を侑がぶち破る。

 

 

「女の子からチョコを貰うのって、そんなにも嬉しいことなんですか?」

「当たり前だ。本命であれ義理であれ、俺のために時間を割いてチョコを作ってくれたり買ったりしてくれているわけだしな。例えちっぽけでも俺への想いがあるのなら、俺だって全力で応えるよ。だから毎年みんなにチョコの感想を送り、ホワイトデーにお返ししてるんだ」

「えっ、1人1人にですか? 意外とマメというか律儀なんですね」

「俺の女の子に対する愛が強いのはお前もよく知ってるだろ? 何をいまさら」

「ふ~ん……」

 

 

 この会話の意図は何だ? ただの世間話だとは思うのだが、さっきから俺の方をチラチラと見てくるし一体どうしたんだ? 少々顔が赤くなっているのはこの夕暮れに照らされているから……だろうか。

 

 

「あっ、そういえば今日の放課後は音楽関係の資格試験に行っていたんですよ」

「なんだ藪から棒に……」

「やっぱり勉強って頭に糖分が必要じゃないですか。だからコンビニでいくつかチロルチョコを買って試験前に食べていたんですけど……あっ、たまたま1個残ってました。そういえば私ビター苦手なんですよね。適当に選んだので種類を見ていませんでした。そうだ、捨てるのも勿体ないのでお兄さんにあげますよ」

「えっ、あっ、あぁ……」

 

 

 これまで幾多のチョコレートを受け取ってきたが、今回以上に不自然な流れで渡されたことはない。最初からこう言おうと決めていたかのような台本セリフであり、淡々と語っていたエピソードに俺が割り込む隙もなかった。それにかなり棒読みだったし演技には向いてねぇなコイツ……。

 

 それでもチョコを渡してくれた事実は変わらない。どんな形にせよ贈り物は贈り物だ。手作りではなく、それでいて店に売っているようなバレンタイン用のチョコを買ったわけでもない。指で摘まめるだけの小さなチョコだけど、俺に渡そうと思ってくれていただけでも何だか嬉しいな。俺のことを嫌っていたコイツだからこそだ。

 

 

「ありがとな。助かったよ」

「今日がバレンタインだからとか、そんなのは全く関係ないですから。間違えて苦手な味を買ってしまって、捨てるのが勿体ないからお兄さんにあげただけです。そこにお兄さんに対する想いとか、そういうのはありませんから」

 

 

 侑から貰ったチョコを四次元ポケットに入れたら、チョコ総数が1カウント増えて1000個となった。ちなみに女の子から貰った心の籠ったバレンタインチョコ以外のチョコはカウントされないことを確認しているので、コイツから貰ったのは紛れもなくバレンタイン向けのものだ。なんだかんだ言いながらも最初から俺に渡そうとしてくれていたんだな。それが例え自分の試験のためにチョコを買うついでだったとしても、その気持ちを微量ながら込めてくれたらしい。コイツも素直じゃねぇな。

 

 何にせよ、これで目標の1000個は無事に達成された。最後に受け取ったのは誰よりも小さなチョコレートだったけど、俺の救世主であることも相まって忘れることはないだろう。

 

 

「あぁ、でもバレンタインチョコってことにしておけば、ホワイトデーにお返しを貰えたのか……。お兄さんに服とか買ってもらうチャンスだったかも」

「おいせっかくいい雰囲気で終われそうだったのにぶち壊すな……」

「ふふっ、冗談ですよ♪ お兄さん、いい顔になりましたね。良かったです」

「おかげさまでな」

「お兄さん」

「なんだ?」

 

 

 侑は夕日をバックにこちらに顔を向ける。

 

 

「ハッピーバレンタインです♪」

 

 

 それは、今日俺にチョコを渡してきた女の子の誰にも負けないくらいの笑顔だった。

 

 

 

 

【現在のチョコ数】

 1000個(クリア!)

 




 この特別編で普段はあまり描くことのできないサブキャラを割としっかり描写できたので私は満足でした! ラブライブのサブキャラは魅力的な子が多いので、皆さんのお気に入りが1人は出演できていたと思います。

 ちなみに公式では雪穂と亜里沙はサブキャラですが、この小説ではメインキャラなので省略されてしまいました。私はこの2人が特にお気に入りなので泣く泣くカットしましたが、また登場させてあげたいキャラの有力候補だったりします。



 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

変態と本気系と漫画喫茶

 漫画喫茶って響きがエロく聞こえるのは、多分自分が汚く育ったからに違いない。ていうかそういったシチュエーションがあること自体が間違いなきがする……


 こうして思い返してみると、俺の日常生活って女の子たちで満ち溢れている。特に最近は大学4年生特有の授業ゼロの暇な期間に突入していることもあってか、歩夢たちの練習指導の日以外でも誰かしらと一緒にいることが多い。遠方にいるAqoursはともかくとして、μ'sや虹ヶ咲の連中とは顔を合わせない日はほぼなく、それがもはや俺のプライベートと化していた。

 

 もちろんそれが苦と感じたことはない。俺が望んでこの状況を作り上げたのだから、可愛い女の子たちに囲まれて過ごすこの毎日に飽きることはないだろう。むしろもっと人数を増やしてもいいと思っている。だってたくさんの女の子たちに愛されるなんて最高に幸せなことじゃないか。そんな生活が常だから、女の子と一緒にいるだけでお金を稼げれば楽なのにと考えてしまうのは邪なのだろうか。まあ女の子たちに貢がれるヒモ生活も悪くはねぇよな。最低野郎だけど、最悪その選択肢を取れる俺の立場ってつくづく最強だと思うよ。

 

 そうやって自分で自分の承認欲求を満たしつつ、とある子との待ち合わせ場所に向かう。

 目的の人物はすぐに見つかった。スクールアイドルがゆえか周りの女の子よりもオーラが凄まじく、ソイツ自身が待ち合わせ場所として最適なくらいだ。

 

 

「あっ、零さん! こっちです!」

「そんなに大声を出さなくてもいいって……。遅れてわりぃな、せつ菜」

「いえ、私も先程来たばかりなので大丈夫です! というかこのやり取り、なんだか恋人同士っぽいですよね♪」

「まぁ別に間違ってねぇんじゃねぇか。いずれはそうなるんだから」

「そ、そうですか!? では……」

 

 

 待ち合わせの相手はせつ菜だ。そして早速俺に似合わない砂糖を吐きそうな会話を繰り広げていると、唐突に彼女が俺のもとに駆け寄ってくる。

 すると、躊躇いなく自分の腕をこっちの腕に絡ませてきた。そして俺の隣に立つと、こちらにややもたれ掛かる形となる。

 

 

「おい、街中だぞここ。現役のスクールアイドルがこんなことをやっていていいのか?」

「もちろん! むしろ今日は零さんとプライベートデートですから、私のことはスクールアイドルではなく1人の女の子として扱っていただければと」

「なるほど、心配は野暮だってことか。でも……」

「でも?」

「ま、これはこれでいいか」

 

 

 せつ菜が腕に絡みついてきた時からずっとなのだが、胸が存分に押し付けられていた。コイツはかすみよりも小柄なくせに胸だけは女子高生の平均よりもかなり大きく、もはやロリ巨乳と言っても過言ではないスタイルを持っている。そんなおっぱいをむにゅむにゅと腕に擦りつけられたら誰でも意識するだろって話だ。意図しているのかは知らないが、これだけ密着しているんだから本人も気付いていないわけがないだろう。それでもさっきからずっと笑顔なので羞恥は感じてないのかもしれない。まさか本当に無自覚……だったらこえぇよ。男垂らしかって。

 

 ダメだ、早く話題を変えよう。そうしないと男として健全な性的欲求が煮えたぎりそうになるから……。

 

 

「そういや今日はどこへ行くんだ? 行き先の話なんてしてなかった気がするんだけど」

「実はですね、前から行ってみたかった場所があるのです。1人では行きづらいと思っていたので、零さんと2人きりの今せっかくだし挑戦してみようと思います!」

 

 

 せつ菜が何かに臆するなんて珍しいな。好きなことは迷わず好きと言えるタイプの人間で、それゆえに全力系スクールアイドルを名乗っているから『躊躇う』って言葉が出てくること自体が不思議だ。俺と2人きりだと行ける場所。男と2人……ま、まさかラブホテル!? 今日のせつ菜はスクールアイドルとしてではなく1人の"女"として振舞っている。しかも俺だけの前で。それはつまり期待していると言うことだろう。何がとは言わないけど、わざわざ"女"として見られたいと宣言した真の目的はそれかも……?

 

 

「私、初めてなので緊張しています。零さんと2人になったら絶対に行きたいと思っていましたから……」

「そ、そうか……。昼間っからてのはムードがないけど、できるだけ先導してやるから胸を借りていいぞ」

「はいっ! よろしくお願いします!」

 

 

 そんな感じでデート開始直後にクライマックスな展開になってしまったが、コイツが求めてくるのなら仕方がない。虹ヶ咲の子が相手だと色々なハードルが下がり、既に咥えさせたり襲ったりとタガが外れている。コイツらがμ'sや他の奴らより何倍も積極的でそのような展開を望んでいるからこそ、こちらも全く気兼ねする必要がないんだ。

 

 それにしても、こんな真昼間から性欲を解放しようだなんてとんだ淫乱ちゃんだ。思春期が故にエッチなことに興味が出始めるのは分かるけど、精々歩く猥褻物にならないよう俺がしっかりと教育してやろう。男を誘惑することが如何に恐ろしいことか、このあと身をもって体験することになるとも知らずに……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おい、ここって……」

「はいっ! 一度来てみたかったところです――――漫画喫茶!」

「あぁ、なるほどね……」

 

 

 なんか俺、超恥ずかしくね?? な~にが『俺がしっかりと教育してやろう』だよ変態かよあの時の自分をぶん殴りてぇ。脳内ラブホテルになっていたのは俺の方だったか……。

 というわけで、俺たちがやって来たのは漫画喫茶だ。確かにせつ菜の趣味と女の子があまり来る場所ではないことを踏まえると予想できた範疇ではあるか。コイツは自分の趣味の話に全力だっただろうに、変な妄想して申し訳なかったと心の中で謝っておこう。

 

 とは言いつつも、漫画喫茶だって見ようによってはそれなりにピンク色の施設だ。個室で猥褻行為を禁止する注意書きは漫画喫茶のどこにでもある。つまりそれだけ官能的なことが行われており、公園の公衆トイレと同様の野外プレイスポットとなっている。まあ漫喫のほとんどに監視カメラが付いているのでもはや公開プレイだが……。

 

 

「零さん? 黙ったままですけどどうかされましたか?」

「いや、大丈夫だ。女の子から漫画喫茶に誘われるなんて初めてだから、ちょっと驚いただけだよ」

「確かに、普通の女性が好んでくる場所ではないですからね……」

「璃奈だったら趣味も合うし、一緒に来てくれるんじゃないか?」

「そうなんですけど、やっぱり最初は零さんと一緒にと思いまして。零さんも体験したことがないだろう漫画喫茶デート。そして私も初めてですから、せっかくなので一緒にその初めてを共有したかったのです!」

「なるほど。何事にも熱くなるよな、お前って」

「それが私ですから!」

 

 

 お互いに初めてを共有するって響き、なんかエロいよな。純粋に俺とのデートを楽しみにしてくれているせつ菜には申し訳ないが、さっき変な期待をしてしまった余波がまだ残っているらしい。そのせいで卑猥な妄想をしてしまう。いかんいかん、これでは某淫乱鳥と同列になっちまうぞ。そうなると人間として恥なので早く煩悩を退散させないと……。

 

 俺たちは受付を済ませ、2人1部屋の個室へと向かう。受付の女性店員に注意書きをよく読むようにと念を押されたが、その注意書きには案の定不純異性交遊禁止の旨も記されていた。そりゃ若い男女が漫画喫茶に来ることはあまりないだろうから、わざわざ来たってことはそういった行為をする危険性があると判断されたのだろう。受付さんは終始笑顔で接客者の鏡みたいな人だったが、俗に言われる笑ってるけど笑ってないやつだ。『お前たち、汚らわしい行為をしたらどうなるか分かってんだろうな……?』と言わんばかりの迫真の笑顔だった。やっぱり盛んなんだな、そういった男女間でのプレイって……。

 

 

「ドリンク付きでマンガ読み放題とか天国ですかここは!? それにソフトクリームも無料だなんて、もうここに住みたいくらいです!!」

「おい静かにしろ。テンションが上がるのは分かるけど落ち着け」

「す、すみません。想像以上に夢のような場所だったのでつい……」

「ったく……。とりあえず、こいつを部屋に置いてから漫画を取りに行くぞ」

 

 

 せつ菜は漫画喫茶に入った瞬間から目を輝かせており、傍から見ているだけでもテンションが騒がしい。漫画喫茶の沈静な雰囲気とは似ても似つかないため、俺はすれ違った客から『お前、連れなら黙らせろ』と無言の圧を送られていた。まあ家ではアニメや漫画を制限されていていつもこっそり嗜んでいるらしいから、親の目が届かないこの場所はコイツにとって天国なのだろう。いつもはみんなのまとめ役として立派に見えるのに、こういうところ子供っぽいんだよな。そこが可愛いところだけどさ。

 

 一旦ドリンクを部屋に置いてから漫画を取りに行く。せつ菜は未だ目をキラキラさせたまま片っ端から漫画を取り、気付けば既に両腕で抱えるくらいになっていた。俺は特にこれといって読みたい物はないのだが、精々若者の流行に遅れない程度に話題の漫画を読んでおくことにする。こういうのが好きな奴との話題作りにもなるしな。

 

 部屋に戻った俺たちは早速漫画を読み始める。2~3人掛けの大きなソファに横並びで座り、まったりと漫画を嗜む。空調により室内が程よい温度であり、ソファも柔らかく座り心地がいい。金を払えば飯も出てくるしシャワーも浴びることができ、コインランドリーも使用可能。Wifiもパソコンも無制限で使い放題。ここまで贅沢出来るならせつ菜の言う通り住んでみたくはあるな。

 

 ただ、デートスポットとして見るとどうだろうか。当たり前だがお互いに黙々と漫画を読み進めるばかりで会話がない。せつ菜は表情を見てるだけでも楽しそうなのでそれはそれでなによりだが、果たしてこれはデート……なのか?? どちらかと言えば漫喫を楽しんでいる子供とそれを見守る親の気分だ。

 

 

「ちょっと飲み物取ってくる」

「…………」

 

 

 返事がねぇ。集中してんなぁ……。まあコイツが楽しんでいるならそれに越したことはないし、下手にあちこち振り回されて疲れる心配もないから別にいいんだけどさ。ファッション好きな子と出掛けると100%の確率で荷物持ち&たくさんの店をはしごすることになるから体力がもたないんだよ。

 

 飲み物のおかわりに行こうと立ち上がると、ふとせつ菜の全身が目に入る。俺たちの取った部屋はソファ設置で足を伸ばせるそれなりにお高い個室なのだが、せつ菜はそのリクライニングを十分に活かしている。つまりスカートから綺麗な生脚を存分に伸ばし、リラックスし過ぎて服もややはだけている非常に無防備な格好なのだ。秋口になったとは言えまだ暑さも残っているせいか服も薄着で、その隙だらけの格好は男の情欲を唆る。さっき微妙に卑猥なことを考えていた影響で俺の興奮は既に一定値まで溜まっており、今のせつ菜の格好はその数値を一気に押し上げた。

 

 俺は手に持っていた空のグラスをテーブルに置き、再びソファへと戻る。そして未だに漫画を黙々と読むせつ菜の隣に座ると、彼女の小柄な身体を軽く持ち上げ、彼女の座っていた場所に自分の身体を滑り込ませた。そしてせつ菜を俺の膝の上に乗せると、俺がソファに腰を掛けてせつ菜が俺に座っている構図となる。

 

 さっきから漫画に集中し周りが見えていなかったせつ菜も流石にこれには反応を示し、驚いた表情でこちらに振り返る。

 

 

「ちょっ、えっ!? 一体なにを!?」

「気にするな。構ってもらえなくて寂しくなった男の戯れだ」

「絶対に違いますよね!? さっきから色欲染みたモノを感じているのですが、そのせいですよね!?」

「ま、興奮はしてるかな」

「こ、こんなところでもうっ……」

 

 

 俺が後ろからせつ菜を抱きしめている構図となっているが、ただ抱き着いているのであればここまでの背徳感情は抱かなかっただろう。しかし、ここは漫画喫茶。さっきも言った通り人によっては名前を聞くだけでアダルトスポットの香りがする場所だ。そこで大人の女性に熟す前の発展途上の若い身体を見せつけられたらそりゃ……ね? 発想がもう完全にオッサンの思考だが、男は誰でも脳内変態不審者なんだよ。

 

 

「ひゃぅ!? う、腕が胸に当たって……」

「いいのか? この部屋は2時間しか取ってないんだ。集中しないと漫画を読む時間がなくなっちまうぞ?」

「これで集中できるわけが……。ただでさえ零さんに抱きしめられて身体が熱くなっているのに……」

「興奮しているのか? 漫画喫茶はホテルじゃねぇんだけどな」

「それ、思いっきりブーメランですよね……」

 

 

 とかなんとかツッコミを入れるせつ菜だが、無理矢理振りほどこうとしないあたり期待しているのは確かだろう。それどころか俺の胸に背中を預けているので抱きしめられたい願望が強いと見える。もはや手に持っている漫画のページは全く進んでおらず、俺の腕の中でただただ身体をもじもじとさせていた。

 

 こうして抱きしめていると分かるせつ菜のボディライン。ロリ系の部類であるかすみよりも身長が低いのは驚きだが、カラダの凹凸具合は雲泥の差だ。胸のサイズは女子高生の平均を余裕で上回り、腰の括れや脚の肉付きにも一切の無駄がない。スクールアイドルに誰よりも熱意があるからこそ体型維持を欠かしていないのだろう。そしてそのわがままボディこそが俺の欲求を刺激する。女の子たちがスクールアイドルのために身体を磨けば磨くほど俺好みになる、まさにwin-winの関係だ。

 

 

「あっ……ふぅ……」

「どうした?」

「息を整えているのです。零さんにハグをされて本当なら舞い上がるところですが、一応場所が場所なので……」

「ちゃんと配慮しているのか。流石は元生徒会長、規律はしっかり守るんだな」

「当たり前です――――ひゃうっ!? そ、そんなギュってされると私……!!」

「声を荒げると誰かに気付かれるぞ?」

「そんなことを言われましても、零さんの温もりが直接……」

 

 

 せつ菜は羞恥心からか耳まで真っ赤にしている。漫画喫茶のルールに従い声を上げないように耐えてはいるみたいだが、己に降りかかる愛する者からの寵愛に心の高鳴りは止まらないようだ。

 それは俺も同じで、せつ菜を淡々と煽っているように見えて女の子を抱いているこの状況に興奮せざるを得ない。それが特にスタイルのいい少女だからなおさらだ。自分の身体にすっぽりと収まる小柄な身体。そしてそのロリボディに不釣り合いな胸。彼女の胸元に腕を回すとその胸が腕に乗る形となり、その感触が大いに味わえる。この女の子を我が物にしているシチュエーションが最高なんだよ。漫画喫茶でこんなことをする背徳感、せつ菜をモノにしている優越感、その他諸々の感情に酔いしれてしまいそうだ。

 

 

「んっ、はぁ……」

「おい、エロい吐息を出すな。こっちまでマジなムードになっちまいそうじゃねぇか」

「この状況で身体の火照りを止めろと言われても無理です! 零さんとデートというだけでも気持ちが抑えられないのに、こんなことをされたら私……」

「俺はただ抱きしめているだけだ。これで桃色の思考を張り巡らせているんだったら、それはお前が先天的にエッチな子なんだよ」

「そ、それは……」

「恋人同士で密着し合うなんてよくある話だろ? そこに官能的要素は1つもない。だがお前は興奮している。違うか?」

「うぅ……」

 

 

 とかなんとか言ってるが、興奮しているのは俺もなんだけどな。でもこちらの煽りにぐぅの音も出ないせつ菜が可愛いので、自分のことは敢えて棚に上げて攻め立てている。声を上げることができずガッチリとホールドされて身動きができない少女、なんとも淫猥なシチュエーションだ。健全な男であればそんな女の子をイジメたいと思うのは当然だろう。えっ、違う?

 

 

「零さん今日はやけに積極的ですね。いつもは私たちのアプローチに対して『やれやれ』系の主人公みたいな感じなのに……」

「あぁ、それか。アプローチっつても周りに人がいる学校や街中でベタベタされたらそりゃ呆れるだろ」

「もしかしてご迷惑……でしたか?」

「いいや、そんなことねぇよ。自重しろよとは思いつつお前らに迫られるのは嬉しいからな。たくさんの女の子に好かれているっていう高揚感を感じられるのが堪んねぇんだ」

「あはは、そういうところが零さんらしいですね。今時そんな肉食系の男性、中々いませんよ」

「だろうな。だからこそ周りの目がない個室だとこうやって本性を隠すことなく現わせる」

 

 

 俺は女の子たちから好かれまくっている、いわば楽園の中心にいる。せっかく男として幸せの絶頂にいるのに受け身でいるなんて勿体ないだろう。普段はコイツらのアプローチに身を委ねていることの方が多いが、その気にさえなればこうやって自分から手を出すことも辞さない。俺だって誰にも負けないくらいの欲望を塊として持っているので、女の子にただただ攻められるだけでは満足できないんだ。先日は保健室で彼方、しずく、かすみに気持ちよくしてもらったが、女の子に奉仕させるのもいいし自分で攻めるのもいい雑食系が俺である。ま、これこそご主人様特権ってやつだな。

 

 そうやってあらゆる多幸感で自分を満たしている最中、さっきから与え続けられている刺激がずっと気になっていた。抱きしめられたり腕で自分の胸を弄られているのが恥ずかしいのか、せつ菜は身体をもぞもぞと動かしているため彼女を抱きしめている俺も当然その衝撃を受ける。別に痛覚もないほんの些細な衝撃だが、下半身にまでその刺激が伝わるのは男として我慢ならない。もしかしてコイツわざとやっているのか……? それともいきなり仕掛けてきた俺への逆襲か?

 

 

「おい、あまり動くな」

「なんですかいきなり!? 強盗みたいな脅し文句は!?」

「そんなに襲って欲しいのか? 不純異性交遊禁止の漫画喫茶で? とんだ変態だな」

「脅された上に罵倒された!? それに変態なのはいきなり抱きしめてきた零さんですよね!?」

「言ったろ、これは男女間の至って普通の交遊であり、決して不純な交遊ではないって」

「でも私も言いました。今の零さんからは色欲を感じると。エッチな気分になっているのは零さんの方ではないですか?」

 

 

 せつ菜にジト目で見られる。やっぱり女の子って男の卑しい目とか、そういった雰囲気を出してるのが分かるものなのか? 胸に目線を向けられると分かるとよく聞くが、それってただの自意識過剰っつうか、本人に淫乱思考があるからだと思っていた。まあ今回の場合はどっちもどっちだけど……。

 

 

「お前ほど性知識が豊富なら分かってんだろ? 俺が今どういう状態かってくらい」

「そ、そりゃあここまで密着していたら分かりますよ……。私が動くたびに零さんのが当たっていることくらい……」

「だったらその責任は取ってもらわないとな」

「えっ、ここでですか!?」

「お前とはまともではない場所でお互いその気になることが多いよな。今といい、この前のシャワールームといい」

「もうやることは確定しているのですね……」

 

 

 基本的に自分たちの世界に入れない場所(野外とかシャワールームとか学校とか)でやるのは集中力が削がれるから乗り気にはならないのだが、逆に背徳を感じられることで得られる興奮もある。それに今日は序盤から己の性的欲求が出来上がっていたせいで、ここが漫画喫茶であろうとあまり抵抗はない。まあ普通のオープン席とは違い扉付きの個室だから監視カメラが届かないってのも理由の1つだが、たまには背徳感情に酔いながらのプレイも良い趣向だろう。

 

 

「俺とやるのはイヤか? 本気で拒否するなら俺のその尻で思いっきり潰せ。そうすりゃ男は簡単にダウンする」

「そんなことできませんよ!? それに……零さんとならイヤなわけないじゃないですか」

 

 

 せつ菜は両手で俺の腕をそっと掴んだ。それは俺への全幅の信頼の現れであり、彼女もやる気になったのだろう。その気にさせるのに少々手間はかかったが、こうやって女の子を篭絡させるのは至高の一言に尽きる。このサディスティックに満ちた心があれば彼女をたっぷり可愛がることができそうだ。

 

 果林の時もそうだった。女子高生の子に手を出すのは以前の俺ではあり得なかったが、どうせ将来そういった関係になるんだから別に問題はない。

 それに虹ヶ咲の連中は俺に心酔するほどの愛を抱いている。だったらコイツらが思春期で多感な時期に俺という存在をその心と体に刻み込むのは悪くないだろう。むしろゾクゾクしてクセになりそうだ。

 

 

「そうか。だったらもう容赦なしでいいんだな?」

「は、はい! よろしくお願いします!!」

 

 

 そして俺たちは、そんな非常識な感覚に身を委ねていった。

 

 こうやって俺の楽園は、徐々にその色濃さを増していく。もう戻れない、戻る気なんて一切ないくらいの俺の色で……。

 




 ハーレムモノは大体好きな私ですが、主人公がハーレムの中心にいると自覚してその状況に酔って楽しむみたいな話が好きだったりします。そして女の子たちがその思考を煽ってくれるとなおいいです!
なのでこの小説も零君がハーレムを楽しみ、歩夢たちも零君を中心にしようとアプローチするのもその影響だったりします(笑) ぶっちゃけただのハーレムだと満足できないのが理由だったり……




 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プールサイド危機一髪!

 虹ヶ咲はマンモス校で先進的な学校のためか、保有する施設の規模もビッグサイズだ。図書館は国立並、食堂は有名店が多く並び立ち、運動場は陸上競技場かってくらい整地され、ここは本当に学校かと疑ってしまうくらいには豪華。これまで廃校寸前でオンボロ校舎の音ノ木坂や、少子化の影響をモロに受けたゴーストタウンならぬゴースト学校の浦の星と、未曽有の危機に立たされた学校生活ばかり経験したからここの充実っぷりには驚くばかりである。流石は国際化を謳っていることもあり金のつぎ込み方も半端ではない。まあこの学校を作ったのは秋葉だから金は湯水のようにあるだろうけど……。

 

 数々の最新設備が揃うこの学校の中でも特に際立つのがプールだ。高級ホテルの屋上にあるような広大なプールであり、街の絶景を見渡せる巨大な窓も完備。もはやレジャー施設と言っても過言ではなく、それでいて生徒や学校関係者の連れであれば外部の者でも無料で利用できるのが凄いところだ。やっぱ金を持ってるところは懐も太っ腹らしい。

 

 そして俺は今そのプールにいる。

 いるのはいいんだが――――

 

 

「な~んで俺がプール掃除の手伝いをしなきゃなんねぇんだよ……」

 

 

 何故かプール掃除の手伝いを強要されていた。

 どうやら学校全体で大掃除があり、部活単位で掃除場所が決まっているらしい。そこで虹ヶ咲はプールの掃除になったのだが、俺が参加させられる意味がよく分からない。どうしてこんなことしてんだ俺……。

 

 

「文句を言わないでください。お兄さんだって同好会の一員なんですから、手伝うのは当然です」

「侑……。いや俺部外者だし、なんならお前も俺のことをただのお手伝いとしか思ってなかっただろ。都合のいい時だけ仲間扱いすんなよな」

「いやいや、お兄さんは私たちの大切な人ですから♪」

「作った笑顔で告白紛いなことを言うな。そんなあからさまな下心は久しぶりに見たぞ……」

 

 

 侑に手伝って欲しいと言われどこへ連れ込まれるのかと思ったらここだよ。前もそうだけど、コイツ俺を誘う時に嘘をつくのが定番になってきてねぇか? いつも騙される俺も俺だけど、俺を良いように使うことに対して完全に味を占めてるよなコイツ。こうやって人をこき使う能力は社会に出てから役に立つだろうが、やられた側からすればはた迷惑な話だ。

 

 

「このプール広いので私たちだけでは大変なんですよ。なので男手があって助かりました! やっぱりお兄さんがいてこそですよね♪」

「笑顔で人を労働力扱いすんなって。ったく、こうなったら――――」

「?」

 

 

 こき使われていることに腹が立ったので、俺は持っていたホースの口を指で潰し、侑に向けた上で蛇口を大きく捻った。

 

 

「ぶっ!? あ、ぶぅっぅ!!?」

 

 

 ホースから勢いよく噴射された水が侑の顔にクリーンヒットする。水の勢いで息ができないのか情けなく苦しそうな声を上げる侑。ざまぁみろ。

 侑は自分の顔面と髪にぶっ掛けられた水を振り払うため、犬みたいに顔を左右に大きく振る。その際にツインテールがスクリューのように回転し、髪についていた水滴が周りに飛び散った。

 

 

「い、いきなり何をするんですか!?」

「プール掃除ではホースを持っている者が支配者だ。つまり俺に逆らうなってことだよ」

「はぁ~……真面目にやってくださいよ……」

「侑ちゃん、はいタオル」

「ありがとう歩夢。もうお兄さんが暴走するから……」

「当然の制裁だ」

 

 

 こちらを騙してまでプール掃除に引き摺り込んだ奴が言うセリフかよ……。こうして帰らずに掃除に付き合ってやっているだけマシだと思って欲しい。本来な即帰宅するのだが、俺がわざわざ手伝ってやっているのには理由がある。いや、理由があったと過去形にした方がいいか。

 

 

「あのさ、女の子がプール掃除するってなったら白の体操着が定番だろ。どうしてジャージ着てんだよ。俺の期待返せ」

「えっ、どうしてですか?」

「水で濡れ濡れになって下着を透けさせるのがプール掃除女子の仕事だろうが。だから脱げ」

「はぁ!? それを聞いたらこそ脱ぎたくないですよ!? 相変わらず変態なんですから……ねぇ歩夢?」

「うぅ……」

「歩夢?」

 

 

 歩夢は自分の胸元に手を当ててそわそわしている。俺に下着を見られる想像をして羞恥心を感じたのか。それとも見られることを想定してもっと可愛い下着をつけてくるべきだったと後悔しているのか。どちらにせよ頬を赤くしていることから何かしら意識しているのは間違いないだろう。

 

 そしてさっきの体操服の件だが、残念ながらみんな虹ヶ咲指定のジャージを着ているせいで透けブラ現象は拝めそうにない。ぶっちゃけそういったエロハプニングがあってこそのプール掃除なので、それが期待できないとなるとここにいる意味は薄い。だから俺のテンションは最初から低かったわけだ。でないと誰が好き好んで自分の学校でもないプールの掃除なんてやるかよ。まぁ高校時代は授業も掃除もサボってた記憶しかないけど、それは若気の至りってやつだからノーカンだ。

 

 そうやっている間にも他のみんなは掃除を開始している。これだけ人数がいたら俺は必要なさそうだけど、人数を揃えないといけないくらいプールが広いので困りものだ。

 

 

「あなたたち、そんなところでサボってないで掃除しなさい。もうみんな始めてるわよ」

「果林さん……。ゴメンなさい、お兄さんがサボってたので注意してました」

「おい」

「零さん、あまり侑をイジメちゃダメよ。仲が良いのはそれこそいいことだけどね」

「いやむしろ常日頃イジメられてるのは俺だから。まぁいいや、やるからにはとっとと終わらせるぞ。全員配置に付け」

「配置?」

「全員ブラシを持ってプールの中に入れって言ってんだ」

 

 

 不貞腐れていても仕方がないので、ここは大人の対応で掃除を手伝ってやることにした。

 とりあえず全員をプール内に立たせると、広範囲に水を放射できるようにホースの口に巨大なシャワーヘッドを付ける。見た目が巨大なスプリンクラーに見えるが、こうでもしないとこの広大なプールの全範囲に水をまき散らすことはできないからな。

 

 そんな中、1年組の会話が聞こえてくる。

 

「むぅ~しお子だけ不参加なんてずる~い。プール掃除担当はかすみんたち同好会の仕事なのに……」

「仕方ないよ。栞子さんは生徒会長として学校の見回りがあるから」

「管理者は腕を組んで指示を出しているだけでいいから楽でいいよね。かすみんもそっち側が良かったなぁ……」

「いや、かすみさんには無理だと思うよ」

「そもそも、かすみちゃんがクジ引きで掃除場所人気最下位のここを引き当てなければ良かっただけの話」

「悪運しかないかすみさんにクジを任せるべきではありませんでした……」

「一生の不覚……」

「う゛っ!? しず子もりな子も当たりが強い!?」

 

 

 俺がこんなことに巻き込まれた根本原因はかすみのせいだったのか。そしていつも貧乏くじを引かされる才能を得ているかすみに掃除場所抽選を任せた同好会の責任でもある。この無賃労働に対して労基に訴えるときが来たら迷わずこの同好会の名を挙げてやるからな。

 

 そうやってストレスMAXの社会人のような心を持ちながら、蛇口を捻って水をホースより噴射させた。先端がスプリンクラー状になっているので水がプール全体に雨のように散布される。その雨はプールの奥の方にいるせつ菜、愛、エマ、彼方にも届いているようだった。

 

 

「ひゃうっ!? 意外と冷たいですね……」

「あははっ! せっつーさっきのいい声だね~!」

「でも今日は秋にしては結構暑いから、水浴びしながら掃除できるのは助かったかも」

「エマちゃんやみんながやる気だったら彼方ちゃんも本気、出しちゃおうかなぁ~」

 

 

 今日の蒸し暑さを考えると水浴びしながら掃除できるプールは場所として割とアリかもしれない。聞くところによれば運動場や屋上など外気に晒される掃除場所も候補としてあったらしいから、そういった点では室内プールを抽選で引き当てられて良かったかもな。

 

 それにしてもホースから噴射されている水、さっき侑にぶっ掛けた時とは違って僅かに粘り気がある気がする。小雨となって降り注いでいる水滴を見る限りでは分かりづらいが、ホースから吹き出る水を見ると明らかに純度100%の水じゃない。かといってローションのような粘り気があるかと思えばそうではなく、目を凝らさなければ普通の水と勘違いしてしまうくらい緻密な造りだ。だからアイツらはこのことに全く気付いていない訳だが、なんかイヤな予感がするのは俺だけ……?

 

 そんな疑念を抱きながらも、虹ヶ咲の面々はブラシでプールの底を掃除し始める。俺はホースを持って上から水を撒いているだけの楽な作業で、アイツらの掃除シーンをぼぉ~っと見つめていた。

 だが、事態はすぐに動き出す。

 

 

「あれ? 歩夢、いつの間にジャージを脱いだの?」

「えっ、脱いでないけど――――って、あれ? いつの間にかジャージが……あっ!?」

「どうしたの歩夢?」

「み、見えちゃう……」

 

 

 目の前で俺の期待していた珍事が発生している。白の体操服が水に濡れて肌が透ける、ありきたりだけど男なら誰でも目を見開くこの現象。流石は歩夢、俺へのサービス精神が半端ねぇな。

 とかのんきなことを思いつつも、どうして歩夢がジャージを脱いだのかが疑問ではある。恥ずかしがり屋のアイツのことだから透けブラは阻止する派の人間だと思うのだが……。それに本人にも脱いだ記憶がなく、それにジャージはプールサイドのどこにも置かれていない。

 

 そして、ジャージに関する話題は他の面々からも聞こえてきた。

 

 

「ひゃぁっ!? エマ先輩、かすみんが可愛いっていきなりボディタッチはダメですよ!」

「ゴ、ゴメンなさい。でもかすみちゃんのジャージ、布が解れてるよ。1か所だけじゃなくてたくさん……」

「そんなことを言ったらあなたもそうよ。背中とか特に荒々しくなってるわ」

「皆さん。スクールアイドルたるもの、例え練習着であっても手入れは欠かしてはいけませんよ」

「そんなことを言ってるせつ菜さんだって、肩のところとか穴が開いてますけど……」

「えぇっ、そんなことは――――あ、開いてる……」

 

 

 他のみんなのジャージも布が解れ、ヒドいと穴が開いていたりと浮浪者が来ている服かのようにボロボロになっていた。そこまでボロボロだったら流石に着る時に気付くだろうし、こうなったのは明らかに掃除をし始めてからだろう。だったらその原因は絶対に――――

 

 

「おい侑、ちょっと俺の前に立ってみろ」

「えっ、どうしてですか?」

「いいから早くしろ」

「本当に強引なんですから――――これでいいですか?」

「よし、動くなよ」

 

 

 俺はホースからスプリンクラーを外し、さっきと同じくホースの口を潰してその銃口を侑に向けた。また水攻めされると察した侑は今にも逃げそうになるが、それよりも先に俺は水を侑の胸元にぶっ掛ける。

 すると俺の予想通り、侑のジャージの胸元辺りがみるみるうちに溶けていた。下に着ている白の体操服が見え、既に湿気で濡れているためか下着の緑色が透けに透けている。間違いないこれはこの手のネタで定番の――――女の子の服を溶かす水!!

 

 

「へ……え゛ぇっ!? どうしてジャージが破れて……って、服がどんどん溶けてるんですけど!?」

「やっぱりこの水のせいか。さっきは小雨にして降らせてたから被害は最小限だったけど、こうして直接ぶっ掛けるとダメージ大きいんだな」

「なにを冷静に解説しているんですか!? なんなんですかこれ!?」

「知るかよ。どうせ秋葉のイタズラだ」

「だったら早く蛇口を閉めてください! 被害が大きくならなうちに!!」

「いやそれがな――――閉まらねぇんだ」

「は……?」

 

 

 蛇口がぶっ壊れたのか細工をされているのか不明だが、いくら蛇口を捻っても水の噴出は止まらなかった。それどころか俺の制御を振り切りそうなくらい水の勢いが強くなっている。まるでこの水自体が女の子の服を溶かしたいと性欲を持って暴れているかのようだ。

 

 それにしても女の子の服を溶かすなんてこれまた使い古されたネタを……。でも服が濡れて女の子の下着やボディラインが浮き彫りになる様は男のロマンでもある。ただ下着を見るだけでは味わえない謎の背徳性。パンツを直で見せられるよりもスカートを覗き見した方が興奮できるのと原理は変わらない。水に濡れて身体にピッタリと密着する体操服やシャツ、そして服が溶けることにより脱ぎかけに見えるその様は男のロマンをくすぐられる。健全な性欲を持った者であれば興味を持たない訳がないシチュエーションなのだ。

 

 場が騒然とし始めた矢先、遂に俺の持っていたホースがこちらの拘束を解いて暴走し始めた。意志を持っているのかと疑うくらい虹ヶ咲の面々に向かって放水を開始する。さっき俺がやっていたような小雨にして降らせるといった生易しいものではなく、もう服を溶かすために狙い撃ちしているかのようだ。

 

 

「わっ!?」

「彼方さん!? 大丈夫ですか!?」

「お~本当に服が溶けてる~。これだと丸見えになっちゃうね~」

「なにを呑気なことを!? 早くここから離れないと――――きゃっ!? つめたいっ!!」

「しずくちゃん?」

「せ、背中がすーすーします……」

「背中の部分が溶けちゃって、綺麗な肌が丸見えになってるね~」

「ふぇっ!? 零さん見ないでください!!」

 

 

 彼方は胸元が、しずくは背中の生地部分が溶けて肌が露出していた。しずくは恥ずかしがりながら背中に腕を回して隠そうとするが、女の子の細い腕で隠しきれるほど開いた穴は小さくない。つうか背中くらいだったら水着を着る時だって見えるんだし、そこまで隠す必要もないと思うが、それも個人の抱く羞恥心の度合いによるのだろう。

 

 しずくの反応とは対称的に、彼方の反応はかなりのほほんとしていた。元々羞恥心を感じないタイプの子だとは思っていたが、自分の服が溶かされ胸が曝け出されそうになっている状況を前に落ち着ける精神が凄まじい。いや、ただ鈍感なだけなのか。一応生乳は見せないように腕で隠してはいるが、そのことに対して特に恥じらいはないようだ。こっちからすれば上半身裸の女の子が胸を隠している仕草だけでも眼福レベルで、その仕草は確実に男の注目を浴びるだろう。だからこそ恥じらうことがない強靭なメンタルに感心するわけだが……。

 

 流石に他の奴らは戸惑ってるだろうな――――

 

 

「ねぇねぇりなりー! この服だけ溶けるのってどういう原理!? 凄くない!? SNS映えしそうなピンチじゃん!?」

「服を溶かす水。塩酸かと思ったけど人体に影響はないみたい。それに零さんの服は溶けてないから、女性の服だけを溶かす原理は私も分からない。でも興味はある」

「だったらこの水を持って帰ろうよ! 何か遊びに使えるかもよ?」

「うん。私も研究の材料として持って帰りたい」

 

 

 なんつうか、コイツらはいつも通りだな。どちらも良くも悪くもマイペース人間だからこんな状況であっても楽しんでいるのだろう。どちらも環境の変化に柔軟に対応できる素質があるので、自分が珍事件に巻き込まれていること自体が楽しいことと思っている違いない。もちろんどちらも服が溶けており、肩、背中、脇腹、胸etc……手や腕であまりブロックしていないせいか他の奴らよりも露出部分が多い。特に愛はそのスタイルの良さも相まって、破れかけの服を着ているようで超エロスを感じる。胸や下半身はギリギリ見えていないのは残念だが……。

 

 

「果林しぇんぱ~い、エマしぇんぱ~い……。かすみんの……かすみんの服がぁ~……って、え゛っ!?」

「どうしたのかすみちゃん、そんなに口を開けてたら水を流し込まれるわよ」

「ふ、2人共とてもエッチと言いますか、大人っぽいと言いますか……」

「まあモデルをやってるときはそれなりに際どい格好もするから、特に恥ずかしいとは思わないわね」

「でも胸が見えちゃいそうなのは気になるかなぁ~って。こうして腕で抑えていないと全部見えちゃいそう……」

「腕で隠しても結構見えてるじゃない。全く、どれだけ大きな胸をしてるのかしらね。これは零さんも夢中になるわけだわ」

「そ、そんな夢中だなんて……!! でも零さんに気に入ってもらえるのならいくらでも……」

「ぐぐぐ、なんかかすみんだけ話題に入れず負けてる気がする……」

 

 

 いや、負けてるぞお前は。虹ヶ咲の中どころか全ての女子高校生の中でもトップクラスのスタイルを持つこの2人と並んでいるだけでもその幼い身体付きが目立つ。特に今は服を溶かされて生の肌が露出しまくっているから、余計にそのスタイルの違いが浮き彫りになっている。巨乳2人に挟まれて悶絶している貧乳の子ってシチュエーションは悪くないんだけどな。

 

 ていうかコイツらも意外と冷静なのは何故だ……? 男が俺しかいないから羞恥心はあまり感じていないのだろうか。μ'sやAqoursだったら確実に阿鼻叫喚の図になっていただろう。

 

 そして結局、俺の期待していた反応を見せている奴らはコイツらだけらしい。

 

 

「せつ菜ちゃんのズボンも溶け始めてるよ!? み、見えちゃいそう!!」

「えぇっ!? あっ、ちょっ、下着まで……!? それに歩夢さんも上はほとんど溶けかかってますよ!?」

「えっ、えぇっ!? 侑ちゃんゴメン、タオル取って!」

「ゴメン、今私も自分のことで精一杯で無理……。さっきお兄さんに思いっきり水をかけられたせいで上も下も……」

「侑さん全部見えそうですよ!? 早く隠さないと!!」

「大きなタオルは更衣室なんだよね。でもこの格好で外に出たくないし……」

 

 

 そうだよこの反応が見たかったんだよ。しずくとかすみも割と焦ってはいたが、今の侑たちのようにお互いに全裸を晒さぬように大切な部分を隠し合っている光景は唆られる。もうどうしようもなく現状に屈服している様がサディストの俺にとってはいい刺激になるんだよ。それなのにどいつもこいつも恥じらいを捨てやがって、男のロマンってのが分かってねぇな。

 

 

「お兄さん何をまじまじとこっちを見つめているんですか!! 蛇口が閉められないのならホースを抜いてください!! このホース、さっきから私たちを追いかけて水をかけてくるんですよ!?」

「あぁ、さっき試したけどホースを抜くこともできなかったぞ。つまり俺じゃ制御不能ってことだ」

「はぁ!?」

「ちょっ、ゆ、侑ちゃん……あれ」

「えっ……えええっ!?!?」

 

 

 さっきから女の背中を追い回していた変態ホースだが、いつの間にか時間が経ったカップ麺の麺かのようにその長さが伸びていた。まるで巨大な蛇のようで、うねうねと動く様は触手にも見えなくもない。そしてそのホースはもう完全に自律しており、プールの入口へとその長さを伸ばしていく。そして入口を無理矢理こじ開けると、なんと外へと飛び出してしまった。もちろん服を溶かす水をあちらこちらにまき散らしながら……。

 

 

「おいおい、学校の中に侵入する気かアイツ? このままだと全員脱がされるのは秒読みかも……」

「冷静に分析している場合ですか!? 早く止めないと他のみんなの服まで……!!」

「あぁ、学校の女の子全員が全裸祭りになっちまうな。とんだ変態ホースだなぁアイツ」

「いいから早く追いかけて止めてください!! 私も着替えたら手伝いますから!!」

 

 

 服を溶かす水を無差別にまき散らすホースが学校内に浸食し始め、更なるピンチを迎えた虹ヶ咲学園。このままだと学校内の女の子たちは確実にその制服をひん剥かれ、思春期の瑞々しくも成長途中の若い肌をこの世に晒すことになるだろう。果たしてこの学校の運命や如何に……。

 

 

「余計なモノローグはいいですから、早く行ってください!!」

「はいはい……」

 

 

 侑にケツを叩かれたので、仕方ないから対処してやるか。

 それにその途中で女の子の生裸を拝めるのなら悪くもねぇしな。ま、あくまで仕方なくだ。

 

 

 

To Be Continued……

 




 この小説を書き始めてからというもの、学生時代に女の子の制服や体操服の透け下着をもうちょっと拝んでおくべきだったと後悔するときがあったりなかったり……
だから小説でこういうネタを描いて自分で自分の欲求を満たすしかないんですよね(笑)
そもそもラブライブのハーレムを描き始めた理由も、自分の納得のいくハーレム小説がハーメルンになかったからだったりします。


 というわけで次回に続きます。



 新たに☆10評価をくださった

 かりぶの山賊さん

 ありがとうございました!

 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

虹ヶ咲学園危機一髪!?

 前回からの続きです。


 女の子の服を溶かす水を放つホースが独りでに暴走を始め、その長さを無尽蔵に伸ばしプールから学園内へと侵入してしまった。プールでは歩夢たち虹ヶ咲の面々のジャージ、体操服、下着を次々と溶かし、ほぼ丸裸にした超ド級の変態ホースだ。握られていた俺の手を振りほどき、今は蛇のようにうねうねと動きながら学園内で女の子を狙っているに違いない。服を溶かす効力は男には効かず女の子のみ有効であることから無機物のくせに男の性欲しか感じられねぇぞあのホース。

 

 ちなみにそのホースがどこにいるのか追跡は簡単で、プールから質量保存の法則を無視してどんどん伸びているからその胴体を辿っていけば必ず先っぽに辿り着ける。

 そのはずだったのだが――――

 

 

「全然追いつけねぇな。どんなスピードで伸びてんだ……」

 

 

 廊下に伸びる緑色のホースの胴体を辿っているのだが、中々追いつく気配がない。こうしている間にも道行く女の子たちの服が溶かされているだろう。俺としては眼福なのでホースが暴れようが別にいいのだが、何もしなければ侑に怒られるので仕方なく止めてやることにする。

 

 そんな中、近くで女の子たちの悲鳴が聞こえてきた。何が起こったのか容易に想像できるし、なんなら男の俺がその現場を見に行ってもいいのかとツッコミを入れられるかもしれないが、犯人を見つけるためにはまず現場検証が大切だ。それに侑から犯人を捕まえろって指令も出てるから、そのためなら現場へ踏み込むのは合法だろう。

 

 そして声のした方、廊下の踊り場に踏み入って見ると――――

 

 

「おお~っ!!」 

 

 

 思わず感嘆の声が出てしまった。

 それもそのはず、女の子たちがびしょ濡れになり、自分の胸と下半身を腕と手で隠しているこの光景は芸術と言ってもいい。もちろん服は溶け、中には裸のまま女の子座りで身体を隠している子もいる。男ならそんなシチュエーションに何も感じないわけはなく、息を飲みながらじっとこの光景を見つめていた。

 

 

「きゃっ、零さん!?」

「ひゃっ!? み、見ないでぇええええええええ!!」

「零さんに裸を見られてる!? シミとかないよね!?」

「もしかして私たち襲われちゃう!? 純潔なくなっちゃうの!?」

 

 

 女の子たちは三者三様の反応を見せるが、みんな恥ずかしがっていることには変わりないようだ。中には妙な期待をしている奴もいるみたいで、それも女子高校生が故の思春期脳だからだろう。

 この学園の生徒は秋葉によって俺を好きになる素質がある子たちで集められている(1人を除く)。そのため俺に裸を見られたとて恥ずかしいと思うことはあれど嫌悪感を抱くことはない。だからこの子たちも逃げるようなことはせず、顔を赤くして悶えながらもどこか期待した目で俺を見つめていた。ぶっちゃけ女の子の裸姿なんて見慣れているのだが、裸で水で濡れ濡れの女の子たちがあちこちにいるこの光景は興奮を煽られざるを得ない。

 

 目の前の淫猥な楽園に目を奪われていると、後ろからこの学園の現生徒会長・三船栞子がやって来た。

 

 

「どうされましたか騒々しい。皆さん真面目に掃除を――――って、うえっ!? 校舎濡れてるぅう゛う゛う゛ううううううううう!?」

「今すげぇ声出たな……」

 

 

 元々コイツの声は低い方だが、目の前の惨状に普段の冷静さに似合わない低い叫び声を上げる。まあ廊下も窓も壁も、なんなら天井まで水に濡れ、まるで校舎が洪水に飲み込まれたみたいになってるからそりゃそういう反応にもなるわな。

 それにコイツが驚くのはそれだけじゃないだろう。校舎のびしょ濡れよりももっとヒドいことになっている女の子たちが目の前にいる。

 

 

「な゛っ!? あ゛っ、ちょ゛っ、え゛っ゛ぇ!? こ、ここは学校ですよね? いかがわしいお店ではないですよね!?」

「どこから声出してんだそれ……。落ち着け、これでも学校だ。見た目はソープランドみたいだけどな」

「えっ、ソープ……って、なんですか?」

「いやなんでもねぇよ……」

 

 

 そういや栞子は純粋っ子ちゃんだったわ。性知識の"せ"の字もしらない子なので俺のお得意のR-18ジョークが通用しないのが辛いところだ。そういう子に良からぬ知識を教え込むのも楽しくはあるんだけどな。

 

 そんなことはさて置き、栞子にこの状況に陥った理由を手早く説明する。ホースが暴走して女の子の服を溶かしまくっているなんて謎の事態を常人であるコイツが理解できるはずもなく、俺の話の1から10まで常に『?』を浮かべて聞いていた。まぁコイツが俺の日常(傍から見れば非日常)に染まり始めたのは最近だから仕方ねぇか。

 

 それでも生徒会長として目の前の惨状を放っておくことはできないのか、とにかく関係者各位に電話をして事態の収拾のための支持を出していた。咄嗟の出来事だけどこの要領の良さと大勢の人を動かすカリスマ性は流石せつ菜を生徒会長から引きずり下ろしただけのことはある。

 

 

「服飾同好会の方々に服を持ってくるよう依頼をしました。すぐに来るそうなのでもう少しの辛抱です」

「まあ服を着せてやるのはいいけど、正直追いつかないと思うぞ?」

「えっ?」

「とりあえず暴走蛇を追いかけよう。ここは後から来る奴らに任せればいい」

「は、はいっ!」

 

 

 ぐんぐんとその胴体伸ばし続ける蛇(ホース)を追いかける俺たち。だがその道中の廊下は至る所がびちょびちょに濡れており、服を溶かされた半裸、全裸の女の子たちが腕と手で身体を隠したり、身を寄せ合って大切な部分を守ったりしていた。とてつもない淫猥な現場に思わず歩を止めてその光景を眺めてしまう。そして俺の視線に気づいた子たちは頬を赤くして恥ずかしがっていた。その仕草が男の性的興奮を更に加速させるとも知らずに……。

 

 女の子たちが羞恥に悶えながら、高校生らしい熟す途中のカラダを見せつけられたらこちらも我慢できるはずがない。しかもコイツらはみんな俺のことが好きなんだ。つまり襲ってOKってことだろ? ぶっちゃけプールで歩夢たちの半裸姿を見た時からこちらの興奮度は跳ね上がってるんだ、我慢しろという方が酷だろう。

 

 だがもちろんそんなことを隣にいる栞子が許すはずもなく、呆れた表情で俺を見つめていた。

 

 

「零さん……。お気持ちは分からなくもないですが、今は事態の収束を優先してください。この学校には女性しかいない以上、まともに動けるのは零さんだけですから」

「それは重々承知だけどさ……。てか俺の気持ち分かるのかよ」

「それはまあ、男性でしたら悦びそうですから……って、そんなことより早く行きましょう! でなければ次々に被害が出てしまいます!」

 

 

 気持ちは分かると言った瞬間にコイツにレズ属性でもあるのかと思ったから少し焦ったぞ。澄ました顔をしている奴ほど心の奥で何を考えているのか分からないため、清楚に見えて意外と脳内ピンクだったってことは余裕で有り得る話だ。特に桜内なんとかさんはとんでもない性癖の持ち主だったな……。

 

 そんなことはさて置き、ここにいる服を脱がされた子たちも服飾同好会の奴らに任せて俺たちはド変態通り魔を追う。

 そんな中、栞子の携帯が鳴る。栞子は俺の聞こえるようにスピーカーにして応対した。

 

 

『会長……』

「どうかされましたか副会長さん? 声が弱々しいですが……」

『学校を蝕む悪意には、勝てませんでした……』

「副会長さんっ!? 一体何があったのですか!?」

『私も書記さんも会計さんも、みんな衣類を溶かされてあられもない姿になってしまいました……。神聖なる生徒会役員が全身肌を晒すなんて、もう切腹してお詫びをするしか!!』

「落ち着いてください。大丈夫です。こちらには零さんがいますので」

『まぁ!? 確かに私たちの未来を預けるのにふさわしいお方です! これで安心して眠りにつけます……』

「えぇ、安らかに……」

「危機感があるのかないのか分からねぇなオイ……」

 

 

 コントのような会話を繰り広げる生徒会役員たちだが、電話の向こうでは服を溶かされ身体を濡らされた生徒会役員たちが無残にも転がっていることだろう。学園の中枢組織である生徒会が潰れたとなると、指令を出す組織がいなくなりもう本格的に学園が支配されかねない。そして間もなくこの学園全ての女子生徒は服を消され全裸を見せることになるだろう。俺としては別に構わないのだが、俺がこの状況を解決してくれるという謎の期待を背負わされているため頑張らざるを得なくなっていた。別に俺のせいでこうなったわけじゃねぇんだけどな。身内の失態と言えばそうなんだけど……。

 

 

「とにかく作戦を考えましょう。ということで零さん、何かいい策はありますか?」

「丸投げかよ……。とりあえず、ホースの先端に追いつくしかなさそうだな。引っ張っても伸び続けているから意味ないし」

「でも追えども追えども追いつかないではありませんか。どうやって追いつくのですか?」

「アイツは女の子の服を溶かす猛獣として、舌なめずりしながら服を着ている女の子を探している。つまり、女の子が目立つ場所にいれば向こうからやって来るはずだ」

「な、なるほど、おとり作戦というものですか……」

「だけど既に虹ヶ咲や生徒会を含め、ほとんどの子が服を溶かされている。全裸になった子にはもう興味を示さないだろうから、そのおとりは服を着ている奴に頼むしかないな」

「そ、それって誰に……」

「そりゃお前しかいねぇだろ――――生徒会長さん?」

「えっ……えぇえええええええええええええええっ!?!?」

 

 

 そもそも服を溶かされた子は全裸状態になっているから、裸で徘徊趣味のある変態でもない限りまともに歩き回ることもできないだろう。そうなればおとり役は必然的に服が生き残っている子に限られるわけで、そうなると学校のトップである生徒会長が文字通り身体を張るしかないだろう。まあそのための『長』なわけだしな、知らんけど。

 

 とにもかくにもグズグズしていたら学校中の女の子が全裸になりリアル売春施設になりかねない。だから栞子の制服を犠牲にしてでも奴を捕獲する必要がある。まあ本人の羞恥心が揺さぶられるだけなので安い代償だろう……多分。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「うぅ、どうしてこんなことに……」

 

 

 

 俺たちは中庭へとやって来た。ここで栞子(の制服)をおとりに暴れ狂うホースをおびき寄せる作戦だ。開けた場所の方が見つかりやすいと思ってここに来たのだが、来る途中の廊下も案の定水浸しになっており、服を溶かされ全裸剥き出しになっている女の子たちに何度も遭遇した。学校中のあちこちで女の子が脱がされていると思うとちょっぴり興奮するな。

 

 栞子を中庭の中心に立たせ、俺は物陰から例の暴走蛇を止めるために様子を窺う。

 すると服を溶かすことだけに執念を抱く通り魔のホースが遂に中庭に現れる。現れたのだが――――――

 

 

「えっ、こ、これは……!!」

 

 

 栞子が思わず声を上げる。

 それもそのはず、ホースの先が一本ではなく複数あったからだ。一本の胴体から水の噴射口が複数に分かれており、もはや触手のようにうねっている。コイツ、戦いの中で進化してやがったのか……。

 

 

「ちょっ、零さん聞いてませんけど!?」

「相手が誰であれ生徒会長なら凛然とした態度を保て。触手っぽくなってたのは予想外だけど……」

「なんだかうねうねしていますよ!? 大丈夫なんですか本当に!?」

「まあなるようになるだろ」

「なんて投げやりな……!?」

 

 

 いや俺もかなり焦ってんだよ。ホースが栞子の服を溶かしている間にその先端を掴んでやろうと思っていたが、まさか複数に枝分かれして触手みたいになっているとか知らねぇっつうの。胴体は無限に伸びるみたいだから引っ張るのも無意味だし、このままだといい対処法が見つからず栞子の制服が犬死になっちまうぞ……。

 

 さてはてどうするかと頭を捻っていると、後ろから肩をつんつんとつつかれる。

 振り向いてみると白いシャツとハーフパンツ姿の侑がいた。

 

 

「お兄さん」

「侑……。お前その服は?」

「部室に置いてあった予備の体操服を借りました。それよりもこれを使ってください」

「なんだそのデカいハサミは……?」

 

 

 侑が手渡してきたのは雑草を狩る時に使うような大きなハサミだった。どうしてそんな物騒なモノを持っているのかと思ったが、それを使ってやることなど1つだろう。

 

 

「園芸部の友達から借りてきたんです。とは言ってもその子たちもみんな服を溶かされて動けなくなっていましたから、勝手に持ち出してきたんですけど……」

「こんなデカいハサミを奪ってくるなんて中々にワイルドなことしてんなぁお前。で、これでアイツの胴体を切れって言うんじゃねぇだろうな?」

「もちろんそれですよ。水も止まらない、蛇口から栓を抜くこともできない。だったら――――切断します!」

「なにその猟奇的な考え。最近何かイヤなことでもあったか?」

「いや割と普通の考えだと思いますけど……」

「ただお前の思考回路がサディストなだけだったか……」

「そんなことはどうでもいいんです! さっき廊下に伸びている胴体を切ろうとしたんですけど、異常に堅くて切れなかったんですよ。だから男性の力なら行けるかもと思って……」

「なるほど。ま、試す価値はあるか」

 

 

 侑からハサミを受け取る。気が付けば触手と化したホースが今にも水を噴射しようとしていた。機会を見計らっている暇はなさそうだ。

 俺はホースの背後に回り込み、ハサミでその胴体を――――ッ!?

 

 か、かてぇ……!! ハサミで胴体を挟んだのだが刃が全く食い込まない。進化していたのは胴体の長さだけではなく硬度もだったのか。秋葉の奴、余計なところまで魔改造しやがって……。

 

 そうして俺が油断していると、一瞬の隙を突いてホースがその触手を栞子――――そして侑に目掛けて伸ばし始めた。

 

 

「ひゃっ!?」

「きゃっ!?」

 

「な、んだと……っ!?」

 

 

 いつも通り水をぶっかけるのかと思ったら、その触手で栞子と侑の胸元をぐるぐる巻きにした。しかも上手いこと胸を囲うようにその上下に触手を巻き着かせている。だから2人の成長過程の胸が触手によって強調されていた。

 しかも触手の胴体から漏れだした水が胸元の服の布をどんどん溶かしている。

 

 

「な、なんですかこれ!? む、胸が見えて……!?」

「シャツが溶けてる……!! し、下着まで……!! お兄さん見ちゃダメですよ!!」

 

 

 触手(ホース)に巻き付かれてその粘液(ただの水)で服を溶かされるとか、もはやエロアニメやエロ漫画の類だけど映して大丈夫か……? それに見るなと言われて見ない男はいないので現状をまじまじと観察しているが、もはやどちらも服はほぼ溶けかかっており、元凶の水が下着まで浸食し始めている。身体に巻き付かれているせいで振り払うこともできず、ただただ自分の胸が曝け出されるのを待つしかないようだ。

 

 

「ちょっ、見えちゃう……!! お兄さん何を黙っているんですか早くなんとかしてください!!」

「お前が見るなっつったんだろ……。とは言ってもなぁ……」

「つめたいっ!? あっ、む、胸が……」

 

 

 水の冷たさにしかめっ面をしながらも羞恥心に耐えている栞子と侑。でも抵抗することはできないのでただされるがままとなっている。でもそんな様がえげつないほど淫猥で、何もできない女の子の服を脱がすという男のロマンを目の前で再現され俺も心の中でよからぬ欲求が沸き立っていた。

 

 

「お兄さん聞いてますか!? お兄さん!?」

「み、見え……っ!?」

 

 

 侑は必死に俺に語りかけ、栞子は目を瞑って現実逃避をしている。それもそのはず、もう下着のほとんどが溶かされ、もう少しで胸の先端がその姿を見せようとしているからだ。女の子の大切な部分の1つであり、男なら誰でも吸い付きたくなるその部分。思春期女子としては見られたくない痴態がもうすぐ俺の目の前に――――!! あまりの興奮具合に俺は全身に力が入っていた。

 

 その時だった。2人に巻き付いていたホースがその力を緩めて地面に落ちたのだ。その瞬間に2人は反射神経で胸を隠す。

 気付くといつの間にかホースの胴体は切られていた。どうやら俺が2人の痴態に興奮し過ぎたため手に力が入り、その勢いからハサミでホースの胴体を真っ二つに切ったらしい。それでホースの暴走が止んで2人が解放されたのだ。

 

 色々思うところはあるけど、まあこれで良かったんだろうな。でももうちょっとだったのになぁ……。

 そんなことを考えていると、侑は胸を腕で隠しながらジト目でこちらを見つめてきた。

 

 

「お兄さん……」

「なんだ助けてやったのにその目は?」

「いや助ける気なかったですよね!? 明らかに私たちの服がなくなるのを待っていたじゃないですか!?」

「この世は結果だ。結果的には何も見えていないんだから別にいいだろ。下半身はほぼ被害もないしな」

「胸に憑りつかれていただけですから……って、そういう意味じゃないんですけどまぁいいです」

 

 

 なんだろう、最近思春期並みの性欲がカムバックしている気がする。果林とのホテルやせつ菜との漫画喫茶で色々あったからか? こんなエロアニメのようなシチュエーションでここまで滾るなんてらしくないが、やっぱりフィクションのネタを現実で見られるという一種の興奮があるのだろう。ほら、普段テレビで見ているヒーローをデパートのショーで見るような感じだよ。

 

 一通り問題が解決したのだが、結局残された爪痕は大きくなってしまった。今日は虹ヶ咲学園の大掃除の日なのだが、校舎全体がびしょ濡れになったので掃除されたのかされてないのかよく分からない状態だ。まあほとんどの生徒の服が溶けたのでその対応の方が大変だろう。そこに転がっているホースの残骸の処理もしないといけないしな。

 

 

「とりあえず私はこの残骸を回収しますので、零さんと侑さんは持ち場に戻ってください」

「あっ、それなら私も手伝うよ。あっちは歩夢たちに任せてあるしね。そうだ、お兄さんは私たちのために上着を取って来てください」

「なんでお前にパシられなきゃいけねぇんだ……」

「動けるのがお兄さんくらいしかいないんですから協力してくださいよ」

「はいはい……」

 

 

 服を持ってきてやるためにこの場を離れようとしたその時、転がっていたホースが小さくビクついたことに気が付いた。

 そして栞子と侑がホースの残骸を手に取ろうとしたその瞬間、ホースの先端に溜まっていたであろう残水が噴射され2人の全身にぶっ掛けられた。汚い例えになるが、用を足した時の残尿感を振り払うような感じだ。溜まっていた水をぴゅっと噴き出すあの感じがまさに目の前で起こってしまった。

 

 もちろんその水は女の子の服を容赦なく溶かし、それが今回は全身にぶっ掛けられたので――――

 

 

「えっ!? スカートが……!! し、下着にまで水が……!!」

「ひゃっ!? ハーフパンツが溶けて!? お兄さん絶対にこっち見ちゃダメですよ!? 絶対に!!」

 

 

 この暴れ蛇のせめてもの抵抗だろうか、それとも俺に夢を見させてくれるのか。

 どちらにせよ事件の爪痕は想像以上に大きかったようだ。

 

 

「だからこっち見ないでくださいってばぁああああああああああああああ!!」

 

 




 前回と今回は割とネタ寄りのお話でしたがどうでしたでしょうか?
 ぶっちゃけ服が溶けるという定番ネタを描きたかっただけです(笑) でも零君と一緒にいるとこういうことは日常茶飯事なので、侑が耐えられるかどうか……





 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

妹の道、妹の味

 璃奈回。
 執筆途中で虹ヶ咲アニメ2期の包装が決まってテンション上がってました(笑)


 我が道を進むのが俺という生き物なのだが、女の子のためであれば彼女たちの趣味に付き合ってやることもある。例えばかすみであればきゃぴきゃぴしたお店を一緒に巡ることもあり、しずくであれば演劇の演技指導をしたりもする。自分の興味のないことだけどそれで露骨な態度を示したらそれこそ相手に失礼だし、こうしてたくさんの女の子と付き合う以上はせっかくだし女の子たちと趣味を共有したいってのもある。ご主人様は俺なのだが、自分の世界に引き摺り込むだけではなく相手の世界も知ることが楽園を作る秘訣だ。

 

 いきなりそんな話をし始めたのも、今日は璃奈の趣味に付き合ってやっているからだ。彼女の趣味はプログラミングでアプリや機器の開発、動画編集、3DCG作成、オリジナル機械の制作とそれへの機能付加、公共施設にあるマシンの改造などIT方面で多岐にわたり、もはや余裕で社会貢献できるほどの卓越した技術を備えている。それ以外にもアニメや漫画などサブカルチャーも幅広く嗜んでおり、全国のオタクが彼女とお付き合いして同じ趣味を共有したいと思うだろう。

 

 そんな中でもゲームの腕はピカイチであり、プロさえも泣かせるほどの腕前だとか。

 そして今日はその対戦相手として彼女の家に駆り出されていた。

 

 

「これで10勝8敗。10先だから私の勝ち」

「お前なぁ、今日始めたばかりの奴に本気出すか普通?」

「手加減なんてしないし、慈悲もない。戦いの世界は厳しい。それに零さん普通に強い。私このゲームとてもやり込んでるのにいい勝負だった。流石は天才」

 

 

 俺たちがプレイしていたのは格闘ゲームだ。ダメージを蓄積させて場外へ落とすシンプルなゲームなのだが、やってみると意外とハマってしまった俺がいる。普段はあまりゲームはしない俺をここまで熱くさせるなんて、やっぱりこういった格闘モノで盛り上がるのは男の性なのかもな。それでも璃奈には負けてしまったけど、己の天性のセンスによって僅差に持ち込むことはできたので結果的には満足だ。

 

 

「約束、負けた方は勝った方の言うことを聞く」

「自分がやり込んだゲームで初心者相手にその持ちかけって、めちゃくちゃ残酷なことしてるよな……」

「零さんだって処女の女の子相手に容赦ない。それと同じ」

「お前それ絶対に外で言うなよ!?」

 

 

 いきなり何を言い出すんだコイツは……。いや間違ってはないんだけど、お前こそ処女のくせに何あたかも体験したみたいな口振りで喋ってるわけ?? しかも意味の捉え方によっては俺が無理矢理初物の女の子を襲ってるみたいじゃねぇか。とんだ誤解を生みそうだから外で言わぬよう後でもう一回釘を刺しておこう。

 

 

「で? 命令したいことってなんだ? 金銭が絡むことじゃなければいいぞ」

「大丈夫、零さんなら慣れていることだから」

「え?」

「零さんの妹になりたい。つまり、私のお兄ちゃんになって欲しい」

「お前が、俺の……??」

 

 

 ゲーム対戦開始前に真剣な面持ちで賭けを仕掛けてきたからどんなことを要求されるのかとビビっていたが、蓋を開けたら別ベクトルで意外なお願いが来た。確かに俺には実妹がいるので妹の相手は慣れてはいるけど……。

 

 

「いや別にいいんだけどさ、どうしていきなり?」

「私、一度でいいからお兄ちゃんが欲しかった。それに零さんは妹好きだからお兄ちゃん役にピッタリだと思う」

「あぁ、兄が欲しい系女子ってたまにいるよな。年上の男が欲しいって願望が思春期女子っぽいし」

「実はこの日のために『妹』というものをたくさん勉強してきた。だから今日は零さんに満足できる妹を見せてあげる」

「おっ、言ったな? ウチの最強の妹と肩を並べることができたら認めてやるよ」

 

 

 俺には妹ポジションと言えるべき女の子がそれなりにいるけど、それでも楓の妹キャラを超える奴はいない。やはり実妹というアドバンテージが大きくて、更にブラコン+容姿端麗+家事万能+淫乱を兼ね備えた最強の妹である。なんか一部変な属性が混じっている気がするが、俺としてはプラス要素なので問題なしだ。

 

 そして早速璃奈の妹チャレンジが始まったのだが、何故かベッドに腰を掛けた。ぶっちゃけその無感情な表情で『お兄ちゃん』と言われ『あれ? 意外とトキメクぞ?』みたいな展開を期待していた。それ故に璃奈の不可解な行動に『?』マークを浮かべるしかない。一体何をしようってんだ……??

 

 

「えぇっと、どうした?」

「どうしたって――――ヤるんでしょ?」

「は?」

「ん? 妹はお兄ちゃんの性欲処理が義務って勉強したんだけど」

「おいどこの教材使ってんだそれ!?」

 

 

 無表情の口から放たれる偏りに偏った性知識。あまりに淡々としているから俺も一瞬納得しそうになったぞ……。

 

 

「兄と妹がどうして男と女なのか分かる? 男の兄の性欲処理をするために女の妹が存在する。生物学的に定められた原理」

「なにその謎理論!? 情報源どこだよ!?」

「ネットで妹を理解する方法を調べていたら、これの人気が高くて買ってみた」

「なに? 『押しかけ通い妹~お兄ちゃんとエッチしまくりの日々~』って、エロゲーじゃねぇか!!」

「でもこのゲームに出てくる妹キャラにはとても勉強させてもらった。妹としてのいろはがたっぷり詰め込まれていたから」

「詰め込まれていたのは妹成分じゃない。これを作った奴らと妹欲しい願望を持つ全世界の男たちのきたねぇ欲望だよ………」

 

 

 未成年のくせに堂々とエロゲーの箱を見せつけてくる璃奈。羞恥心とかあまり感じない奴だとは思ってたけど、まさかここまで鋼のメンタルを持っているとは思わなかったぞ。お得意の無表情のせいであたかもこれが普通みたいなノリで話してくるのも相まって、こちらの常識が間違っているのかと思考がバグりそうだ。

 

 

「そもそも最初からエロパートに入るやつがあるか。まずは兄に甘えたり兄を甘やかしたりして、エロいことするのはそれからだろ」

「流石は現役お兄ちゃん、妹の使い方を心得ている。つまり前戯が重要」

「いやまず妹イコール兄の性処理って方程式から離れろよな……。お前が見てたのはキモオタたちの妄想の妹だから。それにそのゲームでもちゃんと普通の日常シーンはあるだろ? それを参考にしたらどうだ?」

「わかった。そうする」

 

 

 どうして俺はコイツに妹というものを教え込んでいるんだ……? まあコイツが偏った妹知識を身に付けているからだが。勝ったら相手を言いなりにできる設定はどこへやら、璃奈は妹道を極めようとしていた。

 

 俺に襲われることを期待してベッドに腰を掛けていた璃奈は、ソファに座っていた俺によちよちと近づいて来る。

 そしてソファに上がり込むと、俺の膝に跨るようにこちらと向かい合った。すると何の躊躇いもなく顔をこちらに近づけてきて――――ッ!?

 

 

「ちょっ、ちょっと待て!? 今明らかにキスする流れだっただろ!? なにしやがる!?」

「えっ、だってこのゲームでは妹キャラがお兄ちゃんに抱き着くのは日常茶飯事だったよ? キスも日常的にしてたもん」

「妹いない男の欲望を詰め込み過ぎだろそのゲーム……。これが日常だったらエロシーンはどれだけ濃厚なんだよ……」

「試してみる?」

「ムードもへったくれもない状況でヤるのは性に合わない」

「エッチしよ、お兄ちゃん」

「セリフだけ変えりゃいいってもんでもねぇからな……」

 

 

 まあ少しだけドキッとしなくもなかったが、やはり興奮できないとノリ気にはならない。ホテルで果林に誘惑されたり、保健室で彼方たちにお世話されたり、漫画喫茶でせつ菜の無防備な姿に興奮したりと、俺の気分とシチュエーションが大事なんだ。だからゲームのストーリーをなぞるだけでは俺をその気にさせることはできない。

 

 

「エッチな妹路線だったらお兄ちゃんを興奮させることができると思ったのに……」

「お兄ちゃん呼びは継続なんだな……。ま、淫乱属性の妹は実妹で間に合ってるからなぁ」

「だったらお兄ちゃんはどんな妹が欲しい? クーデレ系?」

「もういる」

「天然系?」

「もういる」

「お兄ちゃん妹多すぎ。しかも血の繋がってない子ばかりでしょ? 犯罪者」

「いやR-18のゲームを買ってるお前に言われたくねぇよ!!」

 

 

 自分のことを棚に上げて俺を罪に陥れようとしやがって、俺とアイツらの妹関係は合意の上だっつうの……多分。

 ちなみに俺の妹ポジションの子たちは璃奈が言っていた属性以外の子もいて、家族構成上の妹も含めると恐らく10人くらいはいる。そう考えるとコイツの性格と同じ子はいない気もするな。

 

 

「それで? 私はどんな妹になればいいの?」

「う~ん、お前にピッタリなのは無表情無反応系とか? 兄が何をしても塩対応で、カラダを見られたり触られたりしても無表情。つまり上手く表情が作れないお前にピッタリだ」

「!? この私でもできる妹属性があるなんて……。早速やってみる」

「あ、あぁ……」

 

 

 璃奈は再びベッドに歩み寄ると、うつ伏せとなってダイブした。こちらにおしりを向けてまるで誘惑しているかのようだ。しかも璃奈の着ている服が薄い部屋着のためか細くてスレンダーな身体がよりよく表れており、おしりもその形がよく分かるほど小さくぷっくりとしていた。短パンからは細脚ながらも肉付きが良さそうな太ももやふくらはぎを晒し、シミ1つないきめ細かな白い肌のせいでこちらの欲求を大いに刺激する。ガキ体型のくせにちょっと卑猥さを感じてしまったのが悔しい限りだ。

 

 

「私は漫画読んでるから、お兄ちゃんは好きに触っていいよ、私のカラダ」

「言ったな? 本当に無表情無反応を貫けるのか?」

「できるんじゃない、やるんだ」

「熱血系のテンプレセリフを無表情で言われてもな……。分かった、じゃあちょっと試してやるよ」

 

 

 これは決して璃奈の寝姿に欲情したとかではなく、仕方ないから奴の挑発に乗ってやっているだけだ。無表情系女子の表情が崩れるところを見てみたい。しかも羞恥心も感じない系女子でもあるから、その全身に刺激を与えて快楽というものを教え込みたい。そんな願望がある。この前に起こった服が溶かされる騒動の時もコイツ、自分の胸が見えそうになっても至って平常心でむしろ水で服が溶けるメカニズムを知ろうと探求心が芽生えてたくらいだからな。そりゃ快楽に染まった表情をさせたくなるよ、男ならね。

 

 俺はベッドでうつ伏せになっている璃奈に近づく。ラフな格好であまりに無防備。まるで襲ってくださいといわんばかりの体勢、形が分かるくらいぷっくりしたおしり、惜しみなく曝け出される綺麗な脚、鷲掴みにしたくなるほどの華奢な身体etc……男の嗜虐心をくすぐるのにこれ以上ない要素ばかりだ。せつ菜の時もそうだったが、女の子の下手に着飾った服よりも普段着とか生活感が溢れる軽装の方が興奮できるらしい。もしかして俺だけ??

 

 俺もベッドに上がり、璃奈の背後に膝立ちになる。そして彼女の脇腹に狙いを定めると、両手で両方の脇腹を深く掴んでみた。

 

 

「あっ、ん……」

「…………今反応しただろ?」

「してない。漫画がいいところだからそっちで興奮しただけ」

「いや俺が触った瞬間に身体ビクってなってたからな? 早速無反応キャラ崩壊してんじゃねぇか……」

「それは空想。お兄ちゃんの手で私がイクなんてありえないから」

「ほぅ……」

 

 

 意外にもキャラ付けはしっかりしているようだ。『私を性欲処理に使いたいなら勝手に使えば? 本読んでるから気が散らないようにね』といった無反応系妹の体裁を守ろうとしている。そういった妹キャラは兄がどんなにエロいことをしても反応を示すことはなく、兄が満足したら『終わった? じゃあ部屋に戻るね』とあたかも何もなかったかのように振舞う。そして兄が敗北を感じるまでが創作のテンプレだ。どちらかと言えば妹上位のシチュエーションだが、たまに本当に気持ちよくなってしまい妹側が陥落するなど逆転展開もある。とどのつまり結構偏った趣味だな、それが好きな男は。

 

 

「ふぅ……んっ」

 

 

 いやめちゃめちゃ反応してるじゃねぇか……。璃奈の脇腹を優しく摩ったり強く押し込んだりと緩急をつけて揉んでいるのだが、刺激を与えるたびに璃奈から小さな吐息が漏れる。これだけで感じるなんて口弁慶にも程があるし、なんなら感度がクソ雑魚まである。意外と敏感な部分をくすぐられるのが弱いのかもしれない。これはコイツの弱点を初めて知ったかもしれないぞ。

 

 同じ場所を攻め続けていても面白味に欠けるので、今度は小ぶりなぷりケツを狙ってみることにする。璃奈のような小さい子の身体に触れるのは犯罪臭が半端ないが、本人が触ってもいいと許可を出していたので流石に無罪だろう。むしろ相手の要求に対し誠実に応えてやっているだけ評価して欲しいもんだ。

 

 今度はもっと刺激を与えるため、両手で璃奈の桃尻を鷲掴みにした。

 

 

「んっ……はぁ……」

「吐息漏れてるぞ」

「違う。漫画の展開に興奮し過ぎたから深呼吸しただけ」

「頬もちょっと赤いけど?」

「これはいつものこと」

「いつも漂白剤使ってるかってくらい顔も肌も白いのによく言うよ」

 

 

 意地でも感じていないと言い張る璃奈vs攻め続ける俺の熱き戦いが繰り広げられている。とは言っても一方的にこちらが有利で、今は優しく触ってやってるが激しくしたらすぐ我慢の限界に達するだろう。ま、幾多の女の子と関係を持っている俺を挑発してきた報いだな。つうかもう妹云々の話題なんて忘れて、ただ俺がセクハラしてるだけの構図になっているような気がする……。

 

 そろそろ強がりも聞き飽きたので、ここらで1回本命を仕掛けてやろう。

 俺はうつ伏せになっている璃奈の腹に両手を潜り込ませる。その時点で璃奈は身体をビクつかせるが、今回はただ触っていた前回までとはわけが違う。その潜り込ませた両手を徐々に彼女の胸元へと滑らせていく。

 

 

「あっ……」

 

 

 俺の手の動きの怪しさに気付いたのか、もはや言い逃れできないほどに璃奈の頬は赤くなっていた。それでも無表情なのは表情が作れない性格による弊害だろうが、それでもさっきまでの強がりは完全に消えていることが分かった。それでも彼女は抵抗せず、ただ俺の手が自分の胸に到達するのを固唾を飲んで見守っているようだった。自分から挑発しておきながら緊張し過ぎだとは思うが、やっぱり好きな男に身体を触られるのは平常心を保てないか。それでも覚悟は決めているようで、拒むような行動は一切見られない。

 

 このまま璃奈を満足させてやってもいいけど、それではまんまと妹の挑発に乗せられた哀れな兄となってしまう。兄に勝る弟はいないという名言があるように、妹も兄には勝てないことを証明してやろう。

 

 

「っ!? どうして止めたの……? お兄ちゃん、もしかしてヘタレ?」

「んなわけあるか。お前から直接触って欲しいって言うまで寸止めしてやろうと思ってさ。この前、自分の胸を大きくしたいから触って欲しいって懇願してきたくらいだしな。だから今も期待してたんだろ?」

「それは……。零さんに触られて期待しない女の子はいないと思う」

「侑が聞いたら大声で反論してきそうだな……」

「お兄ちゃん、私の身体では欲情しない?」

「するに決まってんだろ。でなきゃ堂々と触ったりしねぇよ」

「ふ~ん……」

 

 

 どんな状況であっても相変わらずの無表情、そして声のトーンも変わらないところが璃奈らしい。それでも雰囲気で嬉しそうにしているのは伝わってきて、今も俺の腹が蹴り上げられそうなくらい脚をばたばたさせている。自分の身体がちんちくりんで自信がないからこそ俺を欲情させられると知って嬉しいのだろう。喜び方も子供っぽくて愛らしいなコイツは。

 

 なるほどそうか、ようやく分かった。最初は全然興奮できなかったのに、今はそれなりにやる気になっているその理由が。

 

 

「お兄ちゃん? どうしたの?」

「そうだよ、お前は元々妹みたいなもんだ。見た目の愛くるしさとか、俺に振り向てもらおうとひたむきに頑張るその健気さとか、それだけで妹成分はバッチリなんだよ。だから最初に着飾っていた時の妹キャラでは靡かなかったけど、無表情無反応系をやった途端に興味が唆られたのはそのせいだ。俺はやっぱりお前そのものに興奮させられたんだってな」

「そうなんだ……。もうお兄ちゃんの妹になってたんだ……」

「それにお前に『お兄ちゃん』って呼ばれるの、ちょっと、いやかなり心が高鳴ったよ。俺をこういう気持ちにさせられるだけでも妹としての素質があるぞ」

 

 

 そもそもの話、あの天王寺璃奈に『お兄ちゃん』と呼ばれたい男が全世界にどれだけいるかって話だ。それを考えると下手にキャラ付けなんてしなくても『お兄ちゃん』呼びしてもらうだけでも舞い上がるファンは多いだろう。俺、いや俺()()はありのままの璃奈に妹として甘えられたいんだよな結局。

 

 

「そう。だったらここからは本来の私で行かせてもらう。容赦はしない」

「いくらでも、何度でも受け止めてやるよ。兄としてな」

「うん、お兄ちゃん」

 

 

 うつ伏せ状態になっていた璃奈は身体を起こし、そのまま俺の胸に飛び込んで来た。

 これだよ、この感覚。妹好きの俺からしたら妹を抱きしめるこの感覚が堪らなく好きだ。妹というものは必然的に年下となり男女の体格の差もあるから、自分の身体にちょうどすっぽり収まるサイズなのがこれまた愛らしい。こうやって受け入れてしまったのも璃奈の作戦の内なのかもしれないが、こうして妹属性の子とまったりできるのなら別にいいかな。だから今日は璃奈を抱き枕にしてゆっくり休日を嗜むか。

 

 

「そうだ。さっき触って欲しかったら自分から言えって言ったよね? じゃあお兄ちゃん、触って」

「えっ、この状況で? ここは兄妹でのほほんとしたエンディングを迎えるところだろ??」

「まだおっぱいを大きくしたいという計画は諦めてない。ほら」

「ちょっ、お前見えそう―――って、下着付けてねぇのかよ!?」

「家にいる時は付けない。それにこのゲームの妹キャラが『お兄ちゃん』を誘惑する時に下着は不要って言ってた」

「またソイツの影響か……」

「お兄ちゃん」

「…………少しだけだぞ?」

「うん。ありがとう、お兄ちゃん」

 

 

 今日イチで嬉しそうな雰囲気を醸し出しやがって。無表情が故にオーラで全てを現わそうとしているためその圧力が凄まじい。思わず豊胸マッサージを引き受けてしまったが、どうせやるならコイツの満足の行くまで揉みつくしてやるか。向こうが容赦しないんだったらこっちも容赦しねぇからな。

 

 それからは璃奈に甘えられつつも、妹属性と化した彼女の味をたっぷりと味わった。これ楓にバレたらたっぷりと搾り取られそうだな、色々と……。

 




 私自身が妹キャラ好きなので、妹系のネタで話を書く時は自分の性癖がありえないくらいに盛り込まれます(笑) そもそも無反応系妹とか聞いたことない人が多いくらいのマイナー属性だったり……


 虹ヶ咲アニメの2期が来年に決まったようで。スーパースターのアニメも夏から放送ですし、この小説はいつ終われるんだろうと続けることができて嬉しい反面、将来ずっと続けてそうで怖かったりします。
 そもそもスクスタの方で出てるキャラもこっちで出してあげたい欲があるので、本当に終わらなさそう……



 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

俺こそ正義!!

 閑話休題回、真面目回、侑視点回。
 侑の迷う心と新キャラ登場。


 虹ヶ咲楽園計画。お兄さん――――神崎零さんのお姉さんの秋葉さんがお兄さんを好きになる素質のある女の子たちを集め、お兄さんを主として君臨させようとするとんでもない計画だ。しかもその女の子たちを生徒として構成されているのがこの虹ヶ咲学園であり、私を除いた全員がお兄さんに恋心を抱いているらしい。そんなことができるのかと思うけど、実際に自分自身がその渦中にいるからこの状況を受け入れざるを得なくなっている。

 

 ただ唯一、私だけはお兄さんに好意を抱かない女子生徒して入学させられている。その理由はお兄さんに対して恋の盲目にならない女性という立場でお兄さんをサポートさせるのが狙いらしい。こっちの事情なんて全く考えていない人員配置で怒りを通り越して溜息しか出ない。普通の進学校だと思って生活していたのにいきなり変な計画に加担させられ、その事実を伝えられて数日が経つはずなのにまだ混乱してるよ……。

 

 秋葉さんからその話を聞いた後、虹ヶ咲学園の景色が変わった気がする。お兄さんの話をする子が目に見えて増えたし、自分の身なりやオシャレに気を使う子も増えた。しかも私の教室や学科の生徒だけじゃない、全ての生徒がだ。あまりに異様な光景に私がここにいるのが場違いな気がしてくるんだよね……。

 

 

「はぁ~……」

「どうしたの侑ちゃん? お疲れ?」

「いや、改めて自分の境遇を認識して落胆してるだけだよ。どうしてこうなっちゃたかなぁ~ってね」

「えっ? どうしたのいきなり……?」

 

 

 同好会の部室で歩夢と次のライブの段取りを決めていたけど、余計な雑念のせいで全然集中できない。その様子が疲れているように見えたのか歩夢に心配される始末。まあ疲れていると言えば疲れてるけどね。肩身が狭い思いをしてるからって意味で……。

 

 そういえば秋葉さんの計画って歩夢たちは知ってるのかな? 内容が衝撃的過ぎて当たり前のことを聞くのを忘れていた。思い立ったが吉日、せっかくだし聞いてみよう。

 

 

「ねぇ。歩夢って秋葉さんの計画のこと……知ってる?」

「えっ、なにそれ?」

「いや、知らなかったらいいんだ。生きていく上で知る必要のないロクでもないことだから」

「侑ちゃんどうしたの!? とても遠い目をしてるけど……?」

 

 

 そりゃあね、いきなり変な計画に巻き込まれた挙句にサポートしての立場に強制任命されたら誰でもそうなるよ。1人の男性のために何百人もの女の子を用意して、その女の子たちに囲まれる楽園を作る? もはや常識が逸脱するどころか宇宙の彼方まで飛んでちゃって理解できないんだよね……。その計画を知って以降は学園の雰囲気も変わったみたいで、正直少し居づらさはある。まあ歩夢も他のみんなもそんな堅苦しい思いは一切していないだろうし、この違和感を察知してるのは私だけだろう。

 

 

「あっ、もうこんな時間だ。ゴメン歩夢、ちょっと行ってくる。さっき言ってた()()()をお迎えに」

「うん、行ってらっしゃい」

 

 

 とにかく今は計画のことは忘れよう。考えても私だけでどうにかなる問題じゃないしね。そもそもあの神崎姉弟が良い意味でも悪い意味でも変人で狂人だから、私から何を言っても体よく丸め込まれるだけだろう。あれ? もしかして私……味方が誰もいない??

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 とある人を迎えに学園のロビーに向かうと、間もなくその人がやって来た。

 赤いメッシュの入ったロングヘアに革ジャンと、だいぶロックなファッション。如何にもイケイケな風貌をしている女性であり、スクールアイドルフェスティバル関連で私が過去にお世話になった人だ。

 

 

「こんにちは侑ちゃん。迎えに来てもらって悪いね」

「いえいえ! お話したいと言ったのはこちらなので、薫子さん」

 

 

 三船薫子さん。苗字から分かる通り栞子ちゃんのお姉さんだ。元々スクールアイドルとして活動しており、引退後は以前開催されたスクールアイドルフェスティバルの実行委員を務めていた経歴がある。それ故にスクールアイドル界隈や内部事情に詳しく、雑誌やネットでは得られない知見で色々勉強させてもらっていた。

 

 そして今日も色々とお話を聞ければと思って待ち合わせをしていたけど、それ以外にももう1つ理由がある。それは薫子さんがこの学園の教育実習生になったこと。スクフェスの時にお世話になったこともあって、そのお礼も兼ねて今日はお話を聞きがてらお祝いをする予定だ。まあ私ができることと言えば学園の学食でランチをするくらいだけど、ここの学食は有名レストランのメニューが並んでるからそれなりに豪華にはなる……よね?

 

 

「そういえばさ。この学園、なんか雰囲気変わった? 教育実習生になる前に打ち合わせで何回か来たことはあるけど、その時と比べて女の子たちの雰囲気が違ってるような気がするんだよねぇ~」

「っ!?」

「元々この学園の子たちは可愛い子ばかりだったけど、今はより魅力に磨きがかかっているというか、もうその辺の男がここに迷い込んだら楽園すぎて卒倒しちゃうんじゃない?」

「そうですよね!? やっぱり分かりますよね!?」

「えぇっ!? どうしたの急に迫真のそうな顔をして……。まぁそうだね、みんながみんな恋する乙女って感じで異様な光景に見えるかな」

「やっと……やっと会えました!! この状況に疑問を感じてくれる人に!!」

「えっ? いきなりテンション高くなってない?? 涙流しそうになってるけど!?」

 

 

 今までハブられてたこの状況を打破してくれる人が現れたんだから、そりゃテンション上がっちゃうよ!

 当たり前だけど歩夢たちを含め、ここの生徒は自分たちが置かれている状況を異常だとは思っていない。だからこそ同じ感覚を共有できる仲間ができて思わず涙が出そうなくらい舞い上がっちゃったんだ。

 

 仲間発見により嬉しさに満ち溢れていた私は、その勢いのまま薫子さんにこの学園の創設理由、現在進行形の計画の実態、この学園の女の子たちが入学できた真の理由、その全てを話す。最初は当然『なにそのアニメや漫画のような話は……』と驚いていたけど、私の真剣な様子を見てか話をしっかりと受け止めてくれた。

 

 

「なんていうか、違和感の正体が想像を絶するほど意味不明な計画だったからビックリだよ……」

「信じたくないとは思いますが、何もかもが事実なんですよね……。別にその計画を阻止しようとは全然考えていないんですけど、異様な空間に1人だけ放り込まれた感じがして少し居づらいなぁと思ってるだけです」

「それでその計画のためにサポートに駆り出されてるわけでしょ? 苦労してるね、ホント」

「分かっていただけただけでも気持ちが軽くなりました。お兄さんからはスクールアイドルのマネージャーとして学べることはたくさんあるけど、それ以上に大変なこともたくさんありますから。特にツッコミとか……」

「ボケとツッコミが成り立ってるなんて、聞く限りでは普通に楽しそうだけど?」

「普通にボケてくれるだけならまだ可愛いものですよ……」

 

 

 お兄さんを相手にする場合はその唯我独尊な性格に付き合っていくのもそうだし、日頃から行われる女の子たちに対するエッチな行動を監視する必要がある。最近は同好会メンバーの何人かとデートをしたみたいで、流石にそこで何が行われているのかまでは把握していない。だけどお兄さんとデートをした人は決まって女の子としての魅力が上がっている気がする。いや歩夢たちは元から魅力だらけなんだけど、もうこっちの目が痛くなるくらい女子として磨きがかかっているみたいで……。一体何があったんだろう……?

 

 

「でも侑ちゃん、別にイヤそうではないよね? ただ単に呆れているだけって言うか」

「まあイヤではないですよ。別にお兄さんや歩夢たちと一緒にいて楽しくないってことはないですし……。それとこの学園の実情に疑問を抱くのとは別問題ですから」

「そうだねぇ……。でも誰も不幸になってないどころか、生徒個人が各々自分を磨き上げて、その結果学園自体の魅力が上がれば学園としてもプラス。入学する生徒を成績だけではなくて容姿で決めているのは難色だけど、実際にこの学園の偏差値は日本上位、部活もインターハイを常に首位。成績が結果として現れている以上教育面で咎めることもできないね」

「そうなんですよねぇ……。やっぱり我慢するしかないのかなぁ……」

 

 

 薫子さんの言う通り、この学園は世間からも認められるほどの結果を残している。生徒の学力も問題なし、部活も常勝、海外交流も盛んなことから文句の付けようもない。だから学園の方針云々のネタで秋葉さんの計画を論破することはできないんだ。別に最初から反抗するつもりはないけど、たまに湧き上がってくるこのいたたまれない気持ちを誰かにぶつけて気分を発散する時の話題として欲しいだけだよ。さっきも言った通り結局私だけではどうしようもないから。

 

 

「それにしても私はその神崎零くんって人の方が驚きだよ。これだけの女の子たちを虜にしちゃうなんて、男優とかタレントか何か?」

「いえ、本人曰く普通の男子大学生だそうです。あの人のような普通がいてたまるかって話ですけど……」

「一夫多妻制って言葉は知ってるけど、現代社会でその制度を利用している人がいたことに驚きだよ。もしかしたら私たちはこれまでの常識を覆すような革命に立ち会っているのかもしれないね!」

「なんで嬉しそうなんですか……。勝手に巻き込まれてるこっちの身にもなってくださいよ……」

「あはは、ゴメンゴメン。でも型にはまらない我が道を行くって感じ、私好きなんだよね。会えるなら一度会ってみたいよ」

「会えますよ。今日来ますから」

「えっ、そうなの!?」

 

 

 うわぁ~目がキラキラしてるよ……。最初は薫子さんのこと仲間だと思ってたけど、今はもうお兄さんに興味津々じゃん……。そういえば薫子さんも自由気ままに海外を飛び回ったりする自由人だから、我が道を行くって意味ではお兄さんと似ている。だからこそ一夫多妻制上等という常識を逸脱しまくりのお兄さんに惹かれているのかもしれない。やっぱり変人同士は引き付け合うのか……。

 

 このままだと薫子さんまでお兄さんに取り込まれ兼ねない。薫子さんには申し訳ないけど、お兄さんが来る時間を適当に誤魔化して遭遇しないように仕向けよう。せっかくこの状況に違和感を覚える貴重な仲間(多分)ができたから、ここで失うわけにいかないもんね。

 

 お兄さんが来る時間までもう少し。手遅れにならないように薫子さんを教育実習生就任歓迎会って名目で食堂へ連れて行くことにする。

 

 

「薫子さん! とりあえず食堂へ行きましょう!」

「なになに焦ってどうしたの??」

「早く行かないともうすぐお兄さんが――――」

 

 

「俺がどうかしたか?」

 

 

「お兄さんが来たら話がややこしくなるので――――って、え゛ぇえええっ!? お、お兄さん!?」

「すげぇ分かりやすい反応だな……」

 

 

 いつの間にかお兄さんが私の背後に立っていた。あまりに突然だったので思わずノリツッコミのような反応をしてしまう。

 時間を見てみるとまだお兄さんが来る予定時刻前だ。いつも時間ギリギリに来るはずなのに今日に限ってどうして余裕を持って来ちゃうんだろう……。今日に限って運が悪い。そういえば最近変なチョコで酔わされたり、水で服を溶かされたり、挙句の果てに謎の計画に加担させられたりとロクな目に遭っていないから、お兄さんと出会ってから自分の運が地に落ちてる気がする。

 

 

「おっ、もしかして君が神崎零くん?」

「あん? なんだこの赤メッシュ?」

「ちょーーーーーーっと!? 失礼ですよ!!」

「いやだって俺の学園に異分子が紛れ込んでるからさ」

「それでも言い方ってものがありますよね!? この方は三船薫子さん。栞子ちゃんのお姉さんですよ」

「へ~。品行方正なアイツと比べて姉の方は随分と遊んでるようだな」

「だ~か~ら~っ! 失礼ですって!!」

「あははっ! 思った通り面白い人だね!」

「それで許しちゃうんだ……」

 

 

 初対面の人に対しても容赦ないのがお兄さんの性格で、曰く自分の能力が高すぎる故に尊敬に値する人にしか敬語は使わないらしい。なんとも唯我独尊だけど、それを笑って済ませられる薫子さんも懐が広すぎる。凡人の私にはこの2人の独特のノリについていくのがやっとかもしれない。あれ、まさかまたツッコミ役にされるの……??

 

 

「で? 栞子の姉が俺の学園に一体なんのようだ?」

「もう我が物顔だね……。私、この学園の教育実習生になったんだよ。今日はその打ち合わせに来ただけ。だから君のシマには長くいないよ」

「その口振り、この学校の実態を知ってるかのようだな。どこから聞いた? まさか侑……」

「えっ、そ、それは……」

「私から無理を言って教えてもらったんだよ。前に来た時とは学園の雰囲気や女の子たちの魅力が段違いに変わった気がしたからね」

「ほぅ、意外と分かるんだなそういうの」

「スクールアイドルをやってた時期があったから、他のグループを観察している間にそういった目だけは良くなっていたのかも。女の子の変化は特に気付きやすいよ」

 

 

 薫子さんのフォローのおかげでお兄さんからの追及は逃れられた。他人にはあまり口外しないように言われてたから、お兄さんに目を向けられた時は挙動不審になっちゃった。栞子ちゃんが姉さんは世渡りが上手いって言ってたけど、今のお兄さんへの対応を見てる感じまさにその通りだと思う。当たり障りなくお兄さんの気を損ねないようにしているようだ。まあお兄さんも別にたった1つの言葉でキレるような人じゃないけどね。このまま薫子さんが穏便に話を済ませてくれれば万事解決だ。

 

 

「この学園の内情を知るのはいいけど、余計なことはすんなよ。ま、しようとしたところで俺たちに潰されるのがオチだろうけど」

「へぇ~、凄い自信だね。やっぱ学園をモノにした男は心も尊大だ。ますます興味が出てきたよ」

「あまり俺に入れ込むとすぐに惚れるぞ。他の男が見えなくなるくらいにな」

「それはこの学園の生徒のように?」

「そうだ。俺が幸せにする子たちだ」

 

 

 ちょっ、ちょっと薫子さん踏み込み過ぎじゃない?? 上手いこと話を流してくれると思ったのにお兄さんに興味津々なためか、初対面なのにどんどん会話が深く掘り込まれていく。具体的にはお兄さんがどう返答してくるか試しているかのように、薫子さんはやや挑発的な口調になっている。お兄さんもそれを察知してかお得意の自尊自大を発揮していた。流石に喧嘩にならないよね? 大丈夫だよね? 胃がキリキリ痛みそうだから早く終わってぇ……。

 

 

「君が只者ではないってことはよく分かったよ。私は人を見る目がある方だと自負してるけど、君以上に自信に満ち溢れ、それを態度で示せている人はいない。だからこそそれが仇になって欲しくないんだ。これだけの女の子たちがいて、その中の誰か1人でも不幸になると考えると……ね。そう思うとこの学園、そして異質な計画は私は擁護できない。常識もさることながら、明らかに世間、世界から見てもルール違反だからね」

 

 

 薫子さんの目は真剣だった。そしてその意見は至極真っ当で、お兄さんに現実を突きつけるかのようだ。夢のような妄想に浸っている暇があったら現実を見ろと遠回しに言っているようにも見える。お兄さんには付き合っている女性が多々いるようだけど、流石にこの学園ほどの人数は抱えていないだろう。だからいきなり大勢の女の子をモノにすることができるのか? 全員を幸せにすることはできるのか? そもそも世界から見たらルール違反だけどいいのか? など、私が言いたくても言えなかったことが遂にお兄さんに投げかけられる。

 

 だけどお兄さんは一瞬も怯まなかった。それどころか薫子さんに近づくと、なんと壁際に追い込んだ。いわゆる壁ドンの形となるが、それには私も薫子さんも、周りにいた生徒たちもみんな驚いている。

 そしてお兄さんは薫子さんの目を真っ直ぐ見つめて口を開く。

 

 

「全員幸せにできるかだと? できるに決まってるだろ! 何故かって? 俺だからだ! 俺が成すことやること何事も不可能はない! 森羅万象宇宙全て何者も何事も俺を否定することはできない! 俺を好きになった女の子は全員笑顔で幸せにする。それが俺の流儀だ! 誰にも口出しさせないし、なんなら反抗してきた女の子も全て俺が取り込んで幸せにしてやる! それにルール違反だぁ? いいかよく聞け! 俺がルールだ! 俺が世界の中心。ルールとは俺自身。俺が正義だ!!」

 

 

 私も薫子さんも、みんな唖然としている。

 心がギュッと鷲掴みにされる感じがしていた。言っていることはめちゃくちゃなのに、お兄さんならできる、お兄さんなら大丈夫、お兄さんなら……と納得してしまっている。もはや社会の規律とか常識とか関係ない。あまりの迫力と威圧、説得力によって私たちの中のルールを根底から書き換えられてしまう。間違っていたのは私たちだと、そう思わされてしまう。いや、そんな洗脳みたいな強制力じゃない。自分自身でそう納得してしまっているんだ。私たちがついていくべき人。私たちを導いてくれる人。それがお兄さんだと意識づけられそうだった。

 

 

 そして少しの沈黙を挟み、薫子さんが苦笑した。

 

 

「凄い横暴。だけど妙に納得させられちゃうのはなんでだろうね。初対面なのにここまで心を掌握されるなんて。侑ちゃんが手を焼く理由が分かったよ」

「そうか。だったらそれでいい。これに懲りたら俺のやり方を否定してレスバトルを仕掛けないことだ。今度は本気で心を動かされて俺に付き従うようになっちまうぞ」

「はは、その可能性はあるね。だったらそうならないように私は退散させてもらいますか」

「あぁ。悪かったな、追い込んだりして」

「うぅん、大丈夫。むしろちょっとドキッとしたしね♪ それじゃ、またどこかで!」

 

 

 薫子さんはウィンクをするとそそくさとこの場から退散してしまった。余裕そうに見えたけど内心では少し焦っていそうにも見えたのは気のせいだろうか。まあ男の人に無理矢理壁ドンされたら女性だったら誰でも驚くよね。そういや私も押し倒されてお兄さんの自論を間近で、顔と顔が至近距離の位置で聞かされたことがある。なるほど、これがお兄さんの女性の心を掌握するテクニックか。意外と効くんだよねぇあれ……。

 

 

「侑」

「は、はいっ! あっ、ゴメンなさい。計画のことを勝手に話したりして……」

「いいんだ別に。それより、お前にも悪いことをしたな」

「へ?」

 

 

 お兄さんが謝るなんて意外だ。お兄さんと出会って1ヵ月くらいだけど、これまでこうして神妙な面持ちで謝られたことは一切ない。さっき自分がルールだって言ってたのにその直後に謝るなんて、よほど後ろめたいことがあったのかな?

 

 

「悪いことをしたって?」

「アイツに計画のことを話して、自分の立場について相談してたんだろ? それはつまりお前が窮屈な思いをしてたってことだ。違うか?」

「そ、そうですね……。でも、さっきのお兄さんの言葉を聞いて心は軽くなりました。お兄さんについていくとは言いませんけど、近くで様子を見守るくらいならいいかなって」

「そうか。それでお前の中で腑に落ちたのなら良かったよ」

 

 

 お兄さんのことも、計画のことも完全に認めたわけじゃない。でもお兄さんの隣にいるだけならもう窮屈な思いはしないと思う。お兄さんや歩夢たちが今後どういった関係になるのかを見届けたい。私が何か自発的にフォローすることはないけど、見守るくらいだったらもう心がモヤモヤすることはないだろう。はぁ、もう私、本格的にお兄さんに捕まっちゃってるなぁ~……。でも、居心地は悪くない。

 

 

「俺も反省だ。女の子を幸せにしてやるとか言っておきながら苦労させちまったみたいだしな」

「幸せ――――って、それ私のことですか!?」

「当たり前だろ。お前も含まれてんだよ」

「『俺を好きになった女の子は全員笑顔で幸せにする』って話でしたよね!? 私は別にお兄さんのことなんか……!!」

「いずれそうなるさ」

「なりませんから、絶対に!!」

「いつものお前に戻ったな。悩んでるお前よりぷりぷり怒ってるお前の方が可愛いぞ」

「あっ……。ふ、ふんっ!」

 

 

 自分でも顔が熱くなっているのが分かる。悟られないようにそっぽを向いたけどバレてるよなぁ絶対……。

 可愛いって言われただけでこれだもん。チョロいなぁ~私。でも、悪くないと思っちゃうのが悔しい。もしかしたら心のどこかでお兄さんのことを認めつつあるのかもしれない。

 

 

『あまり俺に入れ込むとすぐに惚れるぞ』

 

 

 お兄さんが薫子さんにかけたこの言葉が、私の心の中にずっと残っていた。

 そんなわけない。ない……よね?

 




 こうして見ると零君のキャラでよくこの小説が総合評価1位を取れたなと思います。今となっては彼のこの性格なくしてこの小説は語れませんし、私も大好きなのですが、万人受けするキャラではないと思っているのでここまでやってこれたのが意外です。それでも零君のこと好きだよと言ってくださる方も多いので、ハーレム主人公としては魅力あるのかな?

 今回初めて薫子さん登場。ぶっちゃけ今後話に絡ませる予定はなく、ただ単に零君にあのクソ長セリフを言わせたいがために登場させました(笑) 




 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラッキー・ドスケベ・デイ

 前回の雰囲気とは違って今回は完全にネタ方面に振り切り。
 まあこういうネタが大好きなんで仕方ないです(笑)


「くそっ、なんで今日はこんなにもツイてねぇんだ……」

 

 

 俺は占いというものを信じないし嫌いなのだが、今日だけは自分の運勢を占いたくなるくらい不幸に陥っていた。

 自販機で飲み物を買おうと思えばお金を飲み込まれ、だったらコンビニで買おうと思ったら何故か売り切れ。だったら喫茶店でテイクアウトをして飲み歩るこうとしたら、物陰から野良猫が飛び出してきてカップの中身をぶちまけ、たまたま傍を通った車のタイヤによって飲み物の飛沫が俺に飛び散った。もう憑りつかれていると言わんばかりの負の連鎖に善子でも憑依したのかと思ったぞ……。

 

 ここまで不運続きだともう自分の部屋に閉じこもりたくなるが、残念ながら虹ヶ咲へ向かう用事があるのでこの運命から逃げることはできない。手が滑ったとかバナナの皮を踏んで転んだとかなら自分のドジで笑えるのだが、外部から干渉されるとそれは不可抗力なのでどうしようもない。昨日世界のルールは俺自身だとイキリ散らかしてたけど、流石に運まで味方につけることはできなかったか……。

 

 そんなこんなで虹ヶ咲の学園内を歩いていると、後ろから声を掛けられた。

 

 

「あっ、零さんじゃん! おっすおっす!」

「愛……。相変わらず元気だな――――って、なんだその恰好? テニスウェアか?」

「そう! さっきまでテニスの助っ人してたからね!」

「これからスクールアイドルの練習だろ? その前に運動部でバリバリ動き回るとかどれだけ体力お化けなんだよ……」

「えへへ、これが若さってやつ?」

 

 

 愛が色んな運動部から助っ人を頼まれているのは知っていたが、まさかスクールアイドルの練習がある日まで依頼を引き受けていたとは……。俺もまだ若いが流石にスポーツを掛け持ちできるほどの体力はない。そうやって心身ともに逞しくなればこの不幸も寄り付いて来ないのかもな……。

 

 それにしても、愛のテニスウェア姿が堪らなくエロい。元々高校生離れした超絶スタイルの持ち主なのだが、身体のラインが良く出るテニスウェアを着ているとそのアダルティな身体が浮き彫りになる。胸も大きければ腰のくびれもあり、男の欲情を誘うのはもちろん女性からしても理想的で尊敬してしまうような体型だ。短いスカートのせいで脚の艶めかさを存分に曝け出されてるし、これもう襲ってくれと言ってるようなものだろ。さっきまで運動していたせいか全身が少し蒸れてるのも誘惑されるポイントだ。

 

 

「もう零さんったら目がエッチだよ? そんなに愛さんの身体が気になる?」

「そりゃ男ならお前の身体に興味ないわけねぇだろ」

「そうなんだ。だったらちょこぉ~っとだけならいいよ。零さん何だか元気なさそうだし、私なんかで元気が出るならね」

「そう見えるか? でも今日は俺に近づかない方がいい。お前にも不運が伝染するぞ」

「不運? 大丈夫大丈夫! 愛さんいつも運いいからむしろ相殺してあげるよ!」

 

 

 女の子から誘惑、つまりお触りOKの承諾が取れたらいつもなら容赦しないんだけど、今回は己の不幸を考慮して敢えて、いや歯を軋ませながら身を引く。これでも女の子の身体を案ずるのは指導者として、そして男としての役目だからな。ライブも近いからこの不運を感染させたくはない。

 

 

「ありがたい申し出だけど、今日はパスだ。気分が乗らない」

「えっ、珍しいねぇ~靡かないなんて。だったらこっちから行っちゃうよ~♪」

「うおっ!? おい急に抱き着いて来るな!? ちょっ、倒れる……!!」

「えっ、あっ、きゃっ!?」

 

 

 いきなり飛び込んで来た愛を俺が上手く受け止めてやれなかったためか、そのまま2人して倒れ込んでしまう。幸いにも芝生の上で衝撃は少なかったが――――つうか、衝撃がなにやら柔らかいクッションのようなものに吸収された気がする。むしろ倒れたと感じないくらいやんわりとしてるけど、これは一体……。

 

 

「ひゃっ! 零さんどこ触ってるの……!?」

「こ、これは……」

 

 

 密着した拍子に女の子の身体に触れてしまうことなんてよくあることだ。今も俺の顔は愛の胸に埋められ、右手がもう1つの胸を鷲掴みにしている――――ところまでは認識できた。ここまでなら興奮はするけど冷静にもなれる状況だが、俺の左手の感触が明らかにおかしい。目を向けても俺の左手は目視ができない。それもそのはず、愛のスカートの中へと入り込んでいたからだ。しかもそれだけではなく、俺の人差し指が彼女のアレに触れていた。

 

 

「ちょっと零さん今日大胆過ぎ!! そんなに攻められたらくすぐったいって言うか、変な感じになっちゃうからぁ!!」

 

 

 まさか倒れただけでここまで女の子のありとあらゆる部分を攻める体勢になっているとは、もはやラッキースケベの次元を超越している気がする。傍から見たら青姦している現場にしか見えないくらいには愛の興奮を掻き立てている。これが不運によって巻き起こされた状況なのか、前代未聞の淫行に俺の思考回路は麻痺していた。

 

 

「も、もうっ、ちょっとだけって言ったじゃん……!! あっ、んっ……」

「わ、悪い……!! でも手がお前の胸と股に吸い付いて……」

「何言ってるのももうっ! あっ、そ、そこはぁ……」

「ちょっ、動くなって。余計にもつれるだろうが!?」

 

 

 俺と愛の腕や脚が絡み合っているせいか、暴れられると当然彼女の性感帯は大きく刺激される。しかも俺の片手はその大きな胸に吸い付くように鷲掴みをし、もう片方の手は指が彼女のパンツに引っかかって脱がしそうになっている始末。それを避けようと身体をもじもじさせる愛だが、逆にその動作をすると俺の手が強制的に動かされるため更に自分の性感帯をくすぐられる負のループに陥っていた。

 

 じゃあ俺が離れればいいだろって話だけど、男の性なのか俺の本性なのかは知らないが、こんないいボディをしている女を逃すまいと自分の意志に反抗して離れようとしない。もうレイプ魔一歩手前レベルの行動を衝動的に犯していた。

 

 そして気付けば愛の身体をあらかた堪能し終わった後だった。ようやく己の暴走を制御することができたので起き上がってみると、彼女は生気を吸い取られたかのようにヘトヘトになっていた。しかもテニスウェアは半脱ぎとなっており、しかも荒く淫猥な吐息を小刻みに漏らしているため完全に事後のような状況である。

 

 

「俺が言うのもアレだけど、大丈夫か?」

「大丈夫じゃないよぉ~……。あんなにめちゃくちゃにしてさ……はぁ、はぁ……」

「そりゃ悪かったけど、言ったろ? 今日の俺は不運だから近づくなってな」

「それを警告した後すぐ倒れてきたじゃん。まあアタシが急に抱き着いたのも悪いんだけど……」

「でも不運はお前の言う通り相殺されたかもな。正直なところ、超天国だった。もう何も考えられないくらいには夢中になってたよ、お前にな」

「ふふっ、それなら良かった♪」

 

 

 あれだけ身体を弄り回したのに笑顔で許してくれるのか。流石は虹ヶ咲の子、俺への愛が膨大なだけのことはある。自分の胸も下半身も、何もかも揉みしだかれたのにも関わらず笑顔を向けてくれるとかまた性欲が唆られそうだ。オタクに優しいギャルを具現化した存在の愛がエロ行為まで許してくれるなんて、こりゃ全国の陰キャ男子が惚れるわけだ。

 

 そんな感じで愛は少し休んでから同好会の部室へ行くらしいので、俺は先に立ち去らせてもらった。半脱ぎの女の子を残して帰るとかレイプ魔一歩手前からレイプ魔に進化したみたいだが、本人がいいって言ってるんだから許してくれ。まあこの学園は女性しかいないから、ここに放置しても二次災害に遭う心配はないだろう。

 

 そして、俺が立ち去った後――――

 

 

「はぁ、はぁ……激しかったぁ~♪ あっ、パンツ濡れてる。変えないと……」

 

 

 愛は快楽の余韻に浸っていた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「なんか、どっと疲れたな……」

 

 

 思いがけない展開に興奮して無駄に体力を浪費したためか、まだ練習が始まっていないのにも関わらず疲労が溜まっていた。別にガッツリと性行為をしていたわけではないが、理性が飛ぶと欲望を満たすことだけに集中してしまい体力管理もままならなくなる。性欲に良くも悪くも従順になってしまう俺の悪い癖だ。治したいとも思っているが、これこそ俺のアイデンティティみたいなところもあるので誇りにしている部分でもある。来年から女子高の教師になるっていうのにこんなことで大丈夫か、俺……。

 

 自分の汚い部分を推し量るのもいいが、今は我が身に憑りついている不幸をどうにかすることを考えよう。校舎に入って部室へ向かっているのだが、さっきその道中でいくつもの災難が降りかかっていた。ソフトボール部が運んでいたカゴからボールが1個が転げ落ち、それを踏んで思わず階段から滑り落ちそうになったり、調理部が落としたトマトが床にぶつかった衝撃で中身が飛び散り俺に被弾しそうになったり、園芸部が運搬していた袋の中身が空いており、そこから土が漏れ出して1階にいた俺に降りかかりそうになったりと、もう周りの何もかもが敵だった。

 

 次は何が起こるのかと挙動不審となって周りを観察しながら歩いているためか、体力だけでなく精神力も使うようになりより一層疲労が溜まる。ここまで来ると一歩踏み出したら床が抜ける事故とか命懸けの天災が発生しそうで怖いんだよな……。

 

 

「あっ、零さん! こんにちは」

「エマ……」

「今日は来るの早いんですね――――って、顔が強張ってるようですけど大丈夫ですか?」

「あ、あぁ……ん? おい、それはなんだ?」

「これですか? 服飾同好会から衣装の生地を貰ったんです。これでライブの衣装でも作ろうかと思いまして!」

 

 

 俺はこの時、これから巻き起こるである災害を察知した。エマが持っている布生地は折りたたんであるため長いものと推測できる。つまりコイツの手からその布が垂れ、俺がそれを踏み、エマを押し倒す形で倒れる――――これが予測する未来だ。あまり俺を舐めるなよ。さっきまで幾多の不幸を経験してきているんだ、これくらいの危険予知は容易い。そして予測さえできてしまえば対処なんて簡単だ。コイツの前を歩けばいいだけのことだよ。

 

 おいおい焦らせるなよ。俺こそ世界のルールなんだ。たかが不幸の悪霊が憑りついたくらいで俺の運を吸い取れると思うな。

 

 そして俺はエマの前を歩く。これで何も起こりようがない。つまり俺の勝ちってことだ。

 

 

「さっきは険しい顔をしていましたけど、今はなんだか爽やかそうですね」

「そう見えるか? ま、自分の人生は自分で切り開くもの。運ごときで左右されねぇってことだよ」

「えぇっと、本当にどうしちゃったんですか? なんか悟っているような感じがしますけど……」

「気にすんな。運さえも覆す力を手に入れてご満悦なだけだ」

 

 

 エマは頭に『?』マークを浮かべているが、まあそうだろう。不幸を乗り越えた喜びは最大級の不運を味わった者にしか分からない。これで運に左右されない男という俺の長所がまた1つ増えてしまったな。

 

 それから俺の危険予知能力は卓越していた。外でサッカー部が練習をしているのが見えたので、今日は寒いからという名目で窓を閉める。これでボールが俺に飛び込んでくることもなくなったわけだ。そしてゴミが落ちていればそれを拾い、踏んづけて滑る可能性を潰す。廊下の掲示物が剥がれていたら張り直し、こちらに飛んでくる外的要因を消す。こうして見ると普通にいい奴じゃねぇか俺。別に善行を積む必要はないのだが、ありとあらゆることに気をかけていたら自然と気遣いができていた。しかし俺のこういった行動が不可解なのかまたエマに心配されたけど……。

 

 そしてここで気付く。エマの足元に何かが迫り寄っていることに。あの黒光りするボディは紛うことなき『アレ』。カサカサと細い脚を動かしながら俺たち足元に順調に進軍していた。

 エマが『アレ』に気付けば当然騒ぎ出す。そうなれば愛の時と同じく俺の方に倒れ込んでくる未来が容易に想像できる。俺は危険予知の達人、なんとしてでもその未来を捻じ曲げてやる。

 

 

「きゃっ!? れ、零さん!? ち、近いです……」

「俺がいいって言うまで黙っとけ」

 

 

 俺はエマを壁に追い込む。これで黒光りの『アレ』が通り過ぎるのを待つ作戦だ。少々荒っぽい作戦だが、こうして壁際に追い詰めて身動きを取れなくしておけば愛のようにバランスを崩すこともない。コイツはまだ布を抱えているためそれを踏んで滑ることもない。これは勝った。もう俺が不運に見舞われることもない。完璧なる作戦で完全なる勝利だ。

 

 ――――と思った矢先、突如後ろから大声で声を掛けられる。

 

 

「ちょっと!? 何やってるんですかお兄さん!!」

 

 

「えっ、侑!?」

「ひゃっ!? 零さん!? ち、力強すぎ――――きゃっ!?」

「うおっ!?」

 

 

 いきなり侑に大声で話しかけられたことにビックリして、思わずエマを抑えつけていた力が強くなる。そして案の定と言うべきか、勢い余って彼女を床に押し倒してしまう。徹底的に外的要因を排除していたが、俺にとって一番厄介な奴を忘れていた。だが気付いた時にはもう時すでに遅し、俺は再び女の子と身体を混じり合わせて倒れ込んでしまった。

 

 

「あっ、れ、零さん……く、くすぐったいです!」

「うっぷ、ぐぅ……!!」

 

 

 まず俺の目の前に広がっていたのは白い布。だがこれはコイツが持っていたモノではなく、無地にリボンがワンアクセントのみ付いているまるで女の子のパンツのような――――って、パンツ!? そして俺は何かに挟まれているような気がしたがそれは気のせいではなく、肉厚の柔らかいモノに顔面をサンドイッチされている。その柔軟なお肉はパンツからスラっと伸びており、まるで抱きしめられているかのような暖かさを感じた。

 

 そう、俺はエマのスカートの中に頭を突っ込んでおり、太ももに顔を挟まれていた。目の前にはエマのパンツがあり、俺の鼻息や吐息が彼女の大切な部分に吹き掛けられるくらいには近かった。

 

 

「ひゃんっ、くすぐったい……あ、んんっ!!」

「お兄さんなんて転び方をしてるんですか!? 早く離れてください!! お兄さん……?」

 

 

 偶然この状況になったとは言え、とてつもない興奮が俺を襲う。2人の声は聞こえてはいるのだが得体の知れない情欲が俺の中で煮えたぎっており、その興奮が俺の身体を支配していた。したがって自分で自分の身体を制御できず、ただただ目の前の桃源郷を目にして鼻息と吐息を荒くするばかりだ。

 

 

「零さん、そんなところに息を吹きかけられると……ん、あっ……」

「お兄さん早く立ち上がってくださいぃぃぃいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 侑は頑張って俺の身体を持ち上げようとするが、俺の身体はこちらの意思に関係なく抵抗をしているので女性の力ではビクともしない。その間にも俺の息遣いがエマの大切な秘所を刺激しているようで、俺の顔を挟んでいる太もももビクビク震えていた。そうなればもちろんその柔らかい肉質のボリュームを存分に顔で感じられるので、余計に興奮度が高まり息が荒くなる。そうしてまた彼女の秘所をくすぐることになるため、愛の時と同じく負のループに陥っていた。

 

 エマも力が抜けているのか逃げ出すこともせず、ただただ俺から与えられる快楽に身を委ね喘ぐだけだ。これが校内の廊下で堂々を行われている事実。だからこそ侑は焦っているのだろうが、幸いにもここは俺の学園なので万が一バレても許してもらえる範囲だろう。かといってこの学園以外でこの現象に陥ったら我慢できるかって話だけど、まぁ無理だな……。

 

 段々エマのスカートの中が熱気を帯びてきている。俺の息もそうだが、エマの体温も上がってきているからだろう。少し蒸れてきたせいか女の子特有の甘い匂いも強くなり、太ももやパンツも汗で濡れてきているのが分かる。水分を含んで伸縮性が上がったパンツ、そこにもぞもぞと太ももを動かせば当然パンツは徐々に縮んでいく。パンツの布が縮むことで段々太ももの付け根が見え始め、そして挙句の果てには――――!!

 

 

「れ、零さん!? ひゃんっ、い、息が強く……!!」

「もうお兄さんいい加減にしてください! もうっ!! こうなったら思いっきり行きますからね!!」

 

 

 熱気が上がっていくスカートの中。俺の興奮のボルテージも急上昇し、あと少しタガが外れるだけでこのままエマの下半身に吸い付きそうだ。彼女が動くたびにパンツが縮み、もうちょっと、もうちょっとで大切な部分が見え――――――!!

 

 と目を見開いてその時を待っていたが、突如として俺の身体がエマのスカートから引き剥がされた。どうやら侑が力を振り絞って俺の腰に腕を回して引き抜いたらしい。ありったけの力を込めたのか俺を引き剥がしただけではその勢いは収まらず、今度は侑と一緒に廊下に倒れそうだった。

 

 

「きゃっ!?」

「うぉっと、あ、あぶねぇ……」

 

 

 今回は何とか倒れずに持ちこたえた。いつの間にか俺が侑を後ろから抱きしめる形となり、そのおかげでどちらも倒れることなく踏ん張れたのだろう。ぶっちゃけ狙ったのではなくたまたまこのような体勢になっていたのだが、転倒していたら確実にセクハラ行為を誘発していたので助かったよ。最悪他の女の子ならいいけど、侑の身体を触ったとあれば後でみっちり怒られるのは目に見えてるからな……。

 

 ――――ん? 両手がかなり柔らかい。この手に馴染む柔らかさと大きさ。試しに少し揉んでみると分かるこの世のモノとは思えない柔軟性。女の子の身体の部位で俺が知っている最も手に馴染むここは……ま、まさか……!?

 

 そう、俺は侑の背後から彼女の両胸を思いっきり鷲掴みにしていた。これが不運の力……いや、男としては幸運なのか? って、今は損なことを言っている場合じゃない。これは……マズい!!

 

 

「んっ……お、お兄さん……」

「えっ、あっ、わ、悪い!!」

「と、言いながら揉むのやめてください!! 通報しますよ!! あっ、んっ……も、もうっ!!」

「そのなんだ、いい胸してるよお前――――って、違うんだ。これは衝動的に!!」

「そっちの方がタチ悪いですよ!! って、いいから手を放せぇええええええええええええええええええええ!!!!」

 

 

 廊下で女の子を羽交い絞めの状態にして胸を揉む変態、顔を耳まで真っ赤にしながら叫ぶ少女、壁にもたれ掛かって今なお興奮冷め上がらず吐息を漏らしているもう1人の少女。ここは天国か地獄か。傍から見たら乱交現場にしか見えないが、あながち間違っていないのかもしれない。

 

 ちなみに侑に事情を説明したところ、他に被害が出ないうちに今日は帰れと口うるさく言われたので帰宅した。確かにこのままだと歩夢たちも襲ってしまいそうで賢明な判断ではあったけど、男としてはちょっぴり残念……と思ったり。

 

 久しぶりに思春期の頃の興奮を味わって、ちょっぴり味を占めた俺であった。

 




 どうせセクハラするならスタイルのいい子がいいってことで愛とエマには犠牲(?)になってもらいましたとさ。それでも彼女たちは零君に触られることに関しては割と寛容なため、一番の被害者は何と言っても侑だったり……



↓ここからは宣伝↓

 他の方が主催しているウマ娘の企画小説に参加しており、つい先日私の小説が投稿されました!
 そこでも相変わらずハーレムモノ全開となっているので、興味のある方は是非読みに行ってみてください。面白いと思ったら感想をいただけると私と企画が盛り上がるので嬉しいです!

【無自覚にハーレムを形成してウマ娘たちにアタックされまくる話】
https://syosetu.org/novel/258946/3.html



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

女の子の(裏)ステータスが見られるようになった

 虹ヶ咲のキャラのスリーサイズを見ていたら唐突に思いついたネタ。
 多分こういうネタを執筆してる時が一番テンション上がってます(笑)


 教育者たるもの、指導する子たちの健康管理は必須と言える。もちろん自分の体調は自分で管理するのが普通だが、学校の先生が生徒の、会社の上司が部下の、親が子の、教育者が教え子の面倒を見る場合はただ職務を全うするだけではなく、その人の健康には常に気を使わなければならない。体調不良であっても相手に心配をかけぬよう症状を隠す人も多いから、その無理を見抜くのも教育者の義務だ。

 

 何故いきなりこんなクソ真面目なことを言い出したのかって? そりゃ来年から教師になるんだから教育の仕方について勉強するのは当然だろう。それに今は教師ではないものの歩夢たちを指導する立場にあるため、彼女たちの健康管理は俺のなすべきことである。いつもエロいことばかりやってると思われてるかもしれないけど、これでも立派に教育者として成長してるんだぞ?

 

 そんなことを考えながら部室のソファに腰を掛けつつ、秋葉からもらったタブレット端末を手に取る。アイツにさっきの話をしたところ、『だったらこのタブレットを貸してあげるからこれで管理するといいよ。スマホだと画面が小さくて見づらいでしょ?』とのことでこの端末を押し付けられた。別にそれ自体はありがたいことなんだけど、『秋葉のモノ』って汚れが付いているだけで妙に胡散臭いんだよな……。爆発オチにはならないだろうが、アイツが無償の善行をするわけがないので警戒せざるを得ない。

 

 とは言っても別の端末を買うお金も勿体ないので、仕方なく使ってやることにする。

 電源を入れると至って普通のホーム画面が映り、その画面にもごく普通のアプリ(時計やメモ帳、カメラなど)が並んでいるだけだった。この時点では特に怪しいところはない。だが俺はアイツの発明品で数えきれないくらいの被害を受けているから、最初だけ安心させて油断を誘うこの手法が来ても油断しないぞ。

 

 

「零さん、どうかされましたか? さっきから画面を見つめたまましかめっ面をしていますけど……」

「歩夢か……。いや、ただ爆弾の解体班ってこんな気持ちなんだろうなぁ~って」

「ば、爆弾!? それ爆発するんですか!?」

「いや例えだよ例え。まあアイツのことだから爆弾以上の危険物の可能性も大いにあるけどな」

「ど、どうしてそんな物騒なモノを……?」

「冗談だ。気にすんな」

 

 

 そういやコイツに冗談は通じないから、あまり心配をかけるようなことは言わない方がいいな。かすみが『(性格的に)重い』と言ったのを歩夢は『(体重が)重い』と勘違いしたり、イタズラを真に受けて嫌われてると思ったりととにかく純粋だ。俺が出会った女の子の中でもその純粋さはトップクラスで、こういう騙されやすい子ほど俺が守ってやらなきゃって思うんだよな。

 

 歩夢の応対方法を改めなければと思っていたその時だった。何も操作をしていないのに突然カメラのアプリが起動した。カメラは自動で歩夢に照準を向けると、音もなく彼女の姿を激写する。もはや盗撮以外の何者でもなく、更に歩夢の写真が撮られた瞬間に画面に何やら文字が映し出された。

 

 

=====

名前:上原歩夢

健康状態:良好

身長:159cm

3size:B82/W58/H84

経験人数:1

従順度:S+ ※ご主人様にどれだけ従順か

淫度:A ※女の子の淫乱度合い

感度:A ※女の子の性的感度

H経験値:C ※ご主人様とのHや1人H、Hな調べものなどで溜まる経験値

H幸福度:S+ ※ご主人様とHしたときの悦び度合い

H技術:B ※Hの上手さ

=====

 

 

 えっ!? なにこれ!? 歩夢のプロフィールが映し出されたと思ったら、後半がやたら生々しくて目が飛び出そうになる。何の音もなく写真を撮りこのステータスが現れたので、もちろん歩夢はこのことを知る由もない。俺は彼女と画面を交互に見るが、その様子を不思議に思ったのか歩夢は小さく首を傾げていた。

 

 なるほど、秋葉から貰ったタブレット端末だから何かしら仕掛けがあると思っていたがこういうことか。そういやこの学園は容姿や学力と言った表のステータスの他に、こういった裏のステータスまで加味されて女の子の入学を決めているとアイツが言っていた。つまり入学テストとしてコイツを使ったってことね……。

 

 それにしても経験人数1人って、つまり俺との経験が裏ステータスに反映されているのか。従順度と幸福度が高いのは流石純粋っ子ちゃんと言わざるを得なく、経験値が低いことからも純粋度が高いことが窺える。もっと色々と教え甲斐がありそうだな……。

 

 

「お疲れ様です! 今日も張り切っていきましょう!」

「おっ、せっつーテンション高いねぇ~」

「昨日見たアニメが切ない展開で少し意気消沈してましたから、練習で活力を取り戻そうと思いまして!」

「せつ菜が切ない……ぷくく……」

 

 

 部室にせつ菜と愛がやって来た。

 またしょーもないダジャレで場の雰囲気を白けさせつつも、俺の持っているタブレットだけは元気に暴走していた。歩夢の時と同じく無音で2人の写真を撮ると、プライバシーもへったくれもない裏ステータスを赤裸々に画面に映し出す。

 

 

=====

名前:優木せつ菜

健康状態:良好

身長:154cm

3size:B83/W56/H81

経験人数:1

従順度:SS

淫度:B+

感度:B+

H経験値:B+

H幸福度:S

H技術:A

=====

 

 

 いつ見てもこの低身長でこのバストサイズは反則だろ……。彼女自身が大人びているためあまりロリ系って感じはしないけど、数字だけを見れば完全にロリ巨乳キャラだ。以前に漫画喫茶で後ろから抱きしめたことがあったが、俺の身体にすっぽりと収まるサイズにも関わらず胸の触り心地はいいといういいとこ取り仕様。しかもH技術も高いとか最高かよ……って、Aってことは1人で夜な夜なやったりしてるのか……?

 

 

=====

名前:宮下愛

健康状態:良好

身長:154cm

3size:B84/W53/H86

経験人数:1

従順度:A+

淫度:A+

感度:B

H経験値:A+

H幸福度:S

H技術:S

=====

 

 

 コイツもコイツで女子高校生とは思えないくらいのスタイルだ。この前は俺の不運でコイツの胸や身体のあちこちを触ってしまったが、男の性欲を逆立てるほどエロい身体付きをしている。この身体を自分のモノにしたいってくらいは病みつきになってしまい、あの時の俺がまさにそうだった。それ以外のステータスも高ステータスをマークしており、勉強スポーツなんでも万能な愛をそのまま数値に現わしているかのようだ。

 

 

「お疲れ様でーすっ! 今日もかすみんの可愛さを皆さんに知らしめてあげますよ~♪」

「もうっ、かすみさんってば走らなくても……。あっ、皆さんお疲れ様です」

「お疲れ様。愛さんたち、もう来てたんだ」

「お疲れ様です。今日は生徒会の仕事がないので最初からフルで練習に参加できます」

 

 

 今度はかすみ、しずく、璃奈、栞子の1年生組が元気よくやって来た。

 鴨が葱を背負って来るとはこのことか。秋葉のタブレットということで最初は不信感を抱いていたけど、こうして女の子の裏を覗き見できるのは背徳感があり愉しくなってくる。故に他の子のステータスももっと見てみたいという邪な心が湧き上がってきていた。別にいいだろ、みんな俺の(モノ)なんだからさ。

 

 そして案の定タブレットが強制的にカメラアプリを立ち上げて4人を順番に撮影、もとい盗撮していく。女の子に勝手に照準が合い、シャッター音も鳴らないなんてもう犯罪やりまくれるなコレ。まあアイツの存在自体が犯罪のようなものだから今更驚くことでもないけど……。

 

 

=====

名前:中須かすみ

健康状態:良好

身長:155cm

3size:B76/W55/H79

経験人数:1

従順度:SS+

淫度:A

感度:A+

H経験値:C

H幸福度:S

H技術:B

=====

 

 

 うん、いつ見ても身体付きは平凡だな。とは言っても一般女子高生としては普通であり、ぶっちゃけさっきのせつ菜や愛がぶっ飛んでるだけだったりもする。つうかそれ以上に淫度や感度が高いのは自分で開発していたりするのか? そういやコイツが寝ているベッドに潜り込まされたことがあったが、あの時もちょっと肌に触れただけなのにやたら顔が赤くなっていた気がする。その反応を見るに感度が高いのは間違いない。ただ経験値は低いので、これはむっつりスケベと言っても過言ではないだろう。

 

 

=====

名前:桜坂しずく

健康状態:良好

身長:157cm

3size:B80/W58/H83

経験人数:1

従順度:SS

淫度:A

感度:B+

H経験値:C+

H幸福度:SS

H技術:B

=====

 

 

 巷では正統派ヒロインと呼ばれるくらいには清楚キャラが身に付いているが、実のところはそうではない。少々ヤンデレ気味なところがあったり、俺が彼方に膝枕してもらっている時でも容赦なくキスをしてくるなど、意外と黒さと積極性を持った子なのだ。それは従順度やH幸福度の俺が関わる項目2つに如実に表れており、彼女が俺に依存気味なのが見て取れる。まあ歩夢もそうだけど、純粋っ子ほど愛が重いってやつだな。しかも意外と俺との行為を妄想するタイプと見た。

 

 

=====

名前:天王寺璃奈

健康状態:良好

身長:149cm

3size:B71/W52/H75

経験人数:1

従順度:S+

淫度:A+

感度:B

H経験値:A+

H幸福度:S

H技術:A

=====

 

 

 なんつうか、コイツも高めのステータスが並んでるな。ロリ体型とコミュ障以外はそれなりにハイスペックなのでそうもなるか。以前に妹を勉強するためにエロゲーを嗜んでいたためか、淫度とH技術の高さが目立つ。しかもそのゲームで興奮知ってしまったのかは知らないが、H経験値が高いのも夜な夜な1人でやっているからだろう。妹キャラを勉強して俺を誘惑してきたこともあったし、無表情キャラのくせに淫乱属性が付与されているとかもはや隙なしだ。

 

 

=====

名前:三船栞子

健康状態:良好

身長:160cm

3size:B79/W56/H78

経験人数:0

従順度:S

淫度:C

感度:C

H経験値:E

H幸福度:C

H技術:E

=====

 

 

 虹ヶ咲スクールアイドルの中では唯一俺との経験が0の子。厳密には0ではないのだが、まだ初物だって言えば理由は分かってもらえるだろう。それ故に俗に言う破廉恥なことに対しての抵抗力は愚か理解力も低く、裏のステータスも他のメンバーより一回りも二回りも低い。だがそのおかげで自分好みに染めやすいという大きな特徴もあり、俺に関わった子は何故か淫乱属性が勝手に付与されることからここまで真っ白なキャンパスが残っているのも珍しい。今後に期待というか、俺の手腕によってステータスが大きく変わるだろう。

 

 

「ふわぁ~~彼方ちゃんお眠だよぉ~」

「彼方ちゃん歩きながら寝たらダメだよ! それにもうすぐ練習だから!」

「エマは甘やかし過ぎなのよ。ほら彼方起きて」

「うぐっ!? もう優しく起こしてよぉ~」

 

 

 今度は3年生組がコントを繰り広げながら入って来た。当然この盗撮魔であるカメラアプリは俺の意志に関係なく起動して彼女たちを撮影する。

 もう至っていつもの日常感覚で盗撮が繰り広げられているが、これに関しては俺悪くないよな?? このタブレット端末は秋葉のモノだし、盗撮もこのアプリが勝手にやっていることである。俺がしていることと言えば女の子たちの裏のステータスを勝手に見て、1人1人が持つエロさってものを考察しているだけだ。うん、まぁこれでも十分変態か……。

 

 

=====

名前:近江彼方

健康状態:良好(眠気アリ)

身長:158cm

3size:B85/W60/H86

経験人数:1

従順度:S

淫度:S

感度:A+

H経験値:C

H幸福度:A

H技術:A

=====

 

 

 健康状態に眠気アリって、コイツの場合はいつでもそうだから治しようがないのでは……? それはともかく、経験値以外が高いのは彼方自身の魅力でもあるからだろう。以前に膝枕をしてもらったことがあるが、その最中に容赦なく自分の胸を俺の顔に押し付けるなどサービス精神も旺盛であり、そのせいで淫度や技術が高いのかもしれない。同学年のエマや果林の身体付きが凄すぎるだけで彼女も凄まじく恵まれたスタイルの持ち主であり、その身体に抱きしめられて寝たい、もしくは抱きしめて寝たいという俺が後を絶たないという……。

 

 

=====

名前:エマ・ヴェルデ

健康状態:良好

身長:166cm

3size:B92/W61/H88

経験人数:1

従順度:S+

淫度:A+

感度:S

H経験値:C+

H幸福度:A+

H技術:A

=====

 

 

 コイツのスリーサイズが規格外なのは知ってたけど、改めて数字で見ると圧倒的だ。流石は自然豊かなスイス生まれで、海外産の血筋がここまでの化け物スタイルを作り出したのだろう。大人の日本女性でも珍しい豊満なバストとヒップは男の欲情を誘うのには十分で、薄着の練習着を着ている時は目のやり場に困るくらい身体の凹凸が激しい。それでいて淫度がそれなりに高いのは、誰もない教室で自ら懇願して俺のをしゃぶった(指など健全な場所)経験があるからだろう。そして先日コイツのパンツに顔を突っ込んだ(事故)際には、股に少し息を吹きかけただけでも感じてしまうほど感度が良い。純粋っ子ちゃんが故にこのエロさは唆られる。

 

 

=====

名前:朝香果林

健康状態:良好

身長:167cm

3size:B88/W57/H89

経験人数:1

従順度:A+

淫度:S+

感度:A

H経験値:A+

H幸福度:S

H技術:S

=====

 

 

 なんだこのステータスの高さは!? 自分でセクシー系を名乗っているが、それに恥じぬ色気を持っている彼女。スタイルもそうだが、ホテルで俺を風呂上がりのバスタオル1枚で誘惑するほどの淫猥さがある。あの時はその誘惑に負けて思わずベッドに押し倒し、お互いに性欲を貪り食うくらいには致してしまった。その経験と己のセクシーさから裏のステータスが高水準であり、もはや彼女の技術を持ってすれば並の男なんて一瞬で果ててしまうだろう。淫度も高くHな技術もあるなんて、もう彼女の手解きに身を委ねて快楽に浸るのも一興かもな。

 

 

 そんな感じで虹ヶ咲スクールアイドル全員の健康管理が終わった。測定された結果はご丁寧に健康管理アプリにまとめられていていつでも閲覧可能になっていた。もし何か一線を超えるようなアクションがあればその度にステータスが更新されているか確認してもいいかもしれない。なんか体調の心配よりもそっちの方がメインな気がするけど、女の子が純粋なのか淫乱なのか、感度は良いのか悪いのか、経験があるのかないのかなど、その要素は身体を重ねる時に意外と重要だったりするからな。どういう攻め方をすればいいか、好きなプレイにも関わってくるしな――――って、何をご丁寧に解説しているんだ俺は……。

 

 

「お疲れ様でーす! ゴメン掃除で遅れちゃったよ~」

「侑!?」

「えっ、今更私で驚いてどうしちゃったんですか……?」

「い、いや何でもねぇよ……」

 

 

 そういやスクールアイドルはコイツらだけだけど、同好会の部員は侑もいたんだった。

 そしてカメラアプリは女の子であれば誰でもいいらしく、無慈悲にも侑に照準を向けて無音のシャッターを切る。俺が焦っているのはスクールアイドルでもない侑の健康管理まで記録され、それをアイツにもし見つかった場合のIFルートだ。普通の健康診断の結果なら見つかってもまだ言い訳できるが、こんな裏ステータスまで丸裸されたら侑が黙っているはずがない。おいおいまた制裁&粛清ルートかよ……。

 

 ヤバい、画面にステータスが映し出された。俺は咄嗟に目を瞑る。スクールアイドルではないので本当は見てはいけないのだろうが気になるものは気になるので、その瞑った目を徐々に開き画面を見た。

 

 

=====

名前:高咲侑

健康状態:良好

身長:156cm

3size:不明(親密度が一定値以上ではないので表示されません)

経験人数:0

従順度:E

淫度:B

感度:C

H経験値:E

H幸福度:E

H技術:E

=====

 

 

 …………なるほどな。いや本人の名誉のために敢えて伏せようと思っていたが、気になったから言ってしまおう。意外と淫乱だったんだな……。いや他の奴らが特別高すぎるだけなので彼女自身はノーマルだと思うのだが、案外下ネタやセクハラにも反応できたりするので妥当なラインかもしれない。未経験で俺の色にも染まってない唯一の子だからあらゆるステータスが最低値のEなのは頷ける。だからこそ淫度が普通に見えない錯覚が起きているわけだが、それだけ高いってのは相対評価抜きでむっつりちゃんじゃないのか……?

 

 

「お兄さん? タブレットをじっと見つめて何をしているんですか? まさか勝手に写真とか撮ったりしてないですよね……?」

「へっ? するわけねぇだろそんなこと。気になる漫画があるからこれで読んでたんだよ」

「お兄さんが漫画? 珍しいですね」

 

 

 侑の奴、相変わらず俺に対してだけは疑り深いな……。先日後ろから抱きしめて胸を揉んでしまったことを今でも根に持っているのか? まあ歩夢たちが特殊なだけであって普通なら根に持つか。咄嗟に嘘をついてしまったけど、このご時世スマホやタブレットで電子書籍を読むなんて珍しくもないし、なんとかこの場を凌げるだろう。

 

 

「漫画ですか!? 一体何を読んでいらっしゃるのですか!?」

「えっ、せつ菜!?」

「私も気になる」

「璃奈!?」

「ちょっと愛さんにも見せてよー!」

「愛まで!? ちょっ、ちょっとくっつくなってオイ!?」

 

 

 しまった、漫画の話題をするとコイツらが食いついてくるの忘れてた!!

 せつ菜と璃奈はソファに上がり込み、左右から俺の身体に抱き着くように座りタブレット画面を覗き見ようとする。そして愛はソファの背後に回り込み、俺の首に腕を回して肩に顎を乗せてきた。いきなり女の子たちに囲まれて戸惑うが、それ以上にあのステータス画面を覗き見られることがピンチだ。一瞬の隙を突いてスリープボタンで画面を暗くしようとしたのだが、せつ菜たちの抱き着く力が強すぎて思わず手が滑ってしまう。俺の手から離れたタブレットが不幸にも液晶画面を上にして床に落下、そのまま侑の足元にまで滑って行ってしまった。

 

 侑がタブレットを手に取る。

 ヤバい、侑のステータス画面を開いたままだ。あれが見つかったら俺は跡形もなく粉砕されてしまうかもしれない……!!

 

 

「何も映ってないじゃないですか、これ」

「えっ……?」

 

 

 侑からタブレットを受け取って画面を見ると、確かに見つかったら殺害確定であろう彼女のステータス画面が映っている。でも侑は映ってないと言った。実際せつ菜たちも何も映ってないと言っている。俺の目がおかしくなったのかと思ったが、ステータス画面の下の方に小さく注釈が添えられていることに気が付いた。

 

 

『※このステータス画面はアプリのオーナーとご主人様として登録された方にしか見えません』

 

 

 つまり俺と秋葉にしか見えないってことか。なんとまぁ都合のいい設定なんだよこれ。流石は秋葉、こういうことにも抜かりはないようだ。これでもし女の子たちに見られても、もし誰かに拾われたとしても安心かもな。

 

 

「よく分からないですけど、もう練習に行きますよ。遊んでないで準備してください」

「あ、あぁ……。そうだ、侑」

「なんですか?」

「お前意外とむっつ……いや、なんでもない」

「はぁ?」

 

 

 あぶねぇ……もう少しで事実確認をしてしまうところだった。事実を大っぴらにした際の侑の反応が気になるという好奇心から思わず口走りそうになってしまった。さっきまで情報開示にビビってたのにこんな危険を犯すなんて、人間が持つ危険な橋を渡りたくなるアドレナリンはなんなんだろうな。

 

 とにかく、せっかくいい代物が手に入ったんだからフル活用させてもらおう。個々の健康管理はもちろん、この裏ステータスもしっかり伸ばしてやる。それはもちろん侑も例外なくだ。いつか全てのステータスを最高値SSにまで成長させてやるから覚悟しておけよ。

 




 こうして見ると虹ヶ咲の子たちってスタイルが現実離れし過ぎていますが、私としては小説のネタとして取り入れることができるのでむしろもっとエロい身体にしてくれって感じです(笑)

 今回は虹ヶ咲の子たちがターゲットでしたが、もっと色んなキャラのステータスを考えてみたいと思いました!





 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

無期限発情期あゆぴょんゆうぴょん

 今日も今日とて虹ヶ咲学園へと来訪している。もう歩夢たちの練習を見てやるのも完全に日常化してきており、大学4年生で授業もほとんどない暇な時間を大いに活用できているだろう。大抵の大学生はこの暇な期間をバイトやら卒業研究やら、就職先へ配属になった時に備えた勉強やらに費やすのだろうが、俺がしていることは現役女子高校生と戯れることである。しかもその全員が男の欲情を唆るような美女美少女。ソイツらと一緒に居られるだけで人生の勝ち組って感じがするな。優越感が半端ねぇ。

 

 この学園内であれば女の子をいきなり口説こうが抱きしめようが、なんなら襲おうが全てが合法だ。秋葉によってこの学園は楽園計画という社会から隔離された独自の文化が根付いているので、俺が何をしようが全てが許される、ある意味で無法地帯と言ってもいい。だからといって所構わず己の性欲を振り撒くことはしないのだが、こんなパラダイスにいたら俺の常識や性的価値観が捻じ曲がってしまうかもしれない。来年から教師になるのに大丈夫か……? もう捻じ曲がっているどころか軌道上すら逸してるかもしれないけど……。

 

 改めて自分の異常さを再認識しながらも、同好会の部室の前へと到着する。最近は服が溶ける液体が散布されたり、我が身に不幸が降りかかってラッキースケベを連発したり、女の子の裏ステータスを見られるようになったりとイベント続きだったから、今日くらいは平穏な日常を送りたいよ。

 

 だが、その願いをぶち壊すような勢いで部室のドアが開く。

 

 

「うわぁあああああああああああああああああん!!」

「えっ、歩夢!? おっと!」

 

 

 部室から歩夢が飛び出してきて、その勢いのまま俺の胸元に飛び込んで来た。咄嗟の衝突事故で倒れそうになるも、なんとか踏ん張って彼女を受け止めた。いきなりの出来事だったので思わず抱きしめる形となってしまう。いつもおとなしい歩夢があんな大声を出すなんてただ事じゃないと思うが、一体部室の中で何が行われていたんだ……??

 

 

「あ、あれ、零さん? って私、零さんに抱きしめられちゃってるぅうううううううううううううう!?!?」

「さっきから情緒不安定になってるぞ落ち着け。どうしたんだ柄にもなく荒れ狂って……」

「そ、それはぁ……」

 

「もう歩夢ったら逃げなくてもいいのに~」

 

「侑?」

「あっ、お兄さん。来てたんですね」

 

 

 歩夢の後を追う形で侑も部室から出てきた。どうやら歩夢は侑から逃げていたようだが、どうして発狂までして逃げ惑っていたのかはコイツが持っているモノを見て全て察した。

 侑はゲームのカジノでバニーガールが付けているようなロップイヤー、いわゆる『うさみみ』を持っている。歩夢がロップイヤーに恐怖を抱くのは己の過去が関係しており、以前かすみに自分が『ぴょんぴょん』言っている自己紹介動画を見せられた時には涙目で暴走してしまった。

 

 つまり、うさみみこそ歩夢の黒歴史なのだ。だがそのうさみみ姿を侑は可愛いともてはやし、あわよくばその姿をもう1度拝みたいと思っていると以前に聞いたことがある。だから今回もそれ絡みのやり取りが発生しているのだろう。

 

 

「大体分かった。お前が歩夢をイジメてるってことがな」

「イジメてなんてないですよ! ただもう一度あゆぴょんが見たいなぁ~って♪」

「その笑顔が怖いよ侑ちゃん!? 絶対に写真とか撮る気だよね!?」

「だって自己紹介の時のあゆぴょん超可愛かったんだもん! それに都合良くうさみみが部室にあったし、これはもう歩夢に着けてもらうしかないよ!」

「だ、そうだが?」

「イヤです!!」

 

 

 歩夢は俺の背中に隠れながら身体を震わせている。侑の推しがあまりにも強くて若干狂気のレベルに達しているのが原因だろう。侑の奴、可愛い歩夢の姿を見ることだけには盲目的な情熱を注ぐもんな傍から見ててもちょっと怖いもん。普段俺と一緒にいる時は冷静なツッコミ役として活躍しているが、今日の侑はなんつうか圧力が半端ねぇな……。

 

 

「お兄さんも生あゆぴょん見たくないですか? 動画よりも生で見た方が絶対に可愛いですから!」

「零さん私信じてます!! 女の子に悲しい表情をさせない零さんなら私の味方だって!!」

「なにこの板挟み……」

 

 

 正直に言うと生で見たくはある。だって健全な男子であれば自分の好きな女の子が可愛いコスプレをしている姿を見たいと思うだろう。もちろんそのままの姿でも可愛いのだが、そんな子ほど色んな衣装、もとい恥ずかしい衣装を着させて楽しみたいもんだ。

 だがそれだと一方的に侑の提案に乗ってしまい歩夢を蔑ろにしてしまう。俺に必死に助けを求めてきているのにここで裏切れば歩夢の発狂具合は頂点に達するだろう。だから俺の取るべき選択肢はこれだ。

 

 

「見たいよ、破壊的可愛さのあゆぴょんってやつをな」

「お兄さん!」

「れ、零さぁ~ん……」

「その代わりお前もだ。両成敗ならいいだろ歩夢?」

「えぇっ!? 私もですか!?」

「ま、まぁ私だけが恥ずかしい思いをしないのであれば……」

「そ、そんな、私もやるの……?」

「そうだよ、『ゆうぴょんだぴょん♪』ってね♪」

「急に歩夢の笑顔が怖くなった!?」

 

 

 今度はこっちがやり返すと言わんばかりに歩夢も笑顔(暗黒)になって侑を攻める。

 他人の羞恥心を煽ることができるのは、自分も羞恥を捨てて同じことをできる覚悟のある奴だけだ。お互いがお互いの恥ずかしくも可愛い姿を見たいと願っているのは仲が良い証拠だとは思うのだが、この足の引っ張り合いはもう沼だな……。

 

 

「ほ、本当に私も着けないとダメですか……?」

「当たり前だ。それにこの学園にいる以上は俺のルールだから、逃げられねぇってことくらいは理解してんだろ」

「も、もうっ、横暴なんですから……。あぁもう分かりましたやりますよ!!」

「なんで逆ギレしてんだよ……。歩夢もそれでいいか?」

「は、はいっ、零さんに可愛いって思ってくださるのなら……」

「なんでお兄さんの頼みだとあっさり着けるの!? なんか私の時と反応違わない??」

 

 

 恥ずかしい思いをしてまで俺が悦ぶことをやってくれる歩夢、健気でいい子だ。こういう子が自分を慕ってくれるとあらぬ支配欲がふつふつと湧き上がってきて、サディスティックな性格の俺にとってはドストライクだったりする。まあこういった奴ほど淫乱化の発症率が高く、意外とむっつりスケベだったりするんだけどな。真っ当な純粋っ子なんてほとんどいねぇんだよ、俺の経験上。

 

 侑と歩夢はおずおずとうさみみバンドを頭に装着する。

 当たり前だが、容姿がいい女の子がうさみみを装備すれば魅力は格段に上昇する。歩夢は清楚な感じからうさみみが付いたことでややアゲアゲな女の子っぽく、侑は髪型が元々ツインテールなためかうさみみを付けたことで触角が4つ飛び出ているみたいになっている。これ、褒めてんのかな……? いや普通に可愛いっつうか、死語で言うと『萌え』ってやつだな。

 

 

「うぅ、またこれを着けることになるなんて……。もう一生うさみみだけはって思ってたのに……」

「そこまでトラウマなのかよ……。でも似合ってる、可愛いよ」

「ふぇっ!? そ、そうですか? ありがとうございます……♪」

「お前もな」

「私も!? べ、別にお兄さんに褒められたところで何とも思いませんけど……」

 

 

 とか言いながら侑のうさみみがフリフリと動いているところを見るに本心では嬉しいのだろう。まだデレ要素はないのでツンデレキャラの領域には到達してないが、初めて会った時よりも明らかに褒められた時の反応が良くなった気がする。恋する乙女とまではいかないが、反応の合間合間に嬉しそうにしているオーラを感じる。少しずつだけど距離を縮められ、コイツも俺を気になる異性くらいには認識しているのだろう。完全に自惚れだけどさ。

 

 ちなみに歩夢は俺に褒められた瞬間にうさみみが引きちぎれるかってくらいにブンブン揺らしていた。コイツは他の奴らとは違っていつも俺への好き好きオーラを静かに放っているのだが、やはり心の中では他の誰にも負けないくらいの思慕を抱いているのだろう。そういうとこやっぱ健気なんだよな。

 

 

 ――――――ん? ちょっと待てよ。どうしてうさみみが動いている? あれはヘアバンドにうさみみが付いているだけで勝手には動かないはずだ。まさか本人の喜怒哀楽を読み取って動くなんてハイテク技術が搭載されているなんてことはないだろうし、一体どうして自動で……?

 

 

「ひゃっ!?」

「んっ?! い、今なにかビリって……」

 

 

 いきなり侑と歩夢の身体が少しビクついた。少量の電流が走ったかのようで2人も最初は戸惑っていたが、見ている限りでは特に変わった様子はない。2人も自分の身体の異変を探るためにあちこち見たり触ったりしているが、おかしなところは何もなさそうだった。

 

 

「大丈夫か? おい歩夢」

「ひゃあっ!?」

「えっ、なんだよ急に?? ちょっと肩を触っただけだろ……」

「あっ、そ、そうですよね……」

「お前真っ赤だけど? これくらいのボディタッチで恥ずかしがるほどウブだったかお前?」

「はぁ……はぁ……そ、そんなことは……」

 

 

 歩夢は俺に肩をほんの少し触られただけで頬も耳も顔面全てを真っ赤に染め上げる。どちらかと言えばウブ系よりの彼女だが、流石にこれくらいでビビるほど小心者ではないはずだ。でも今の歩夢は顔が赤いだけではなく息遣いも荒くなってきており、これだとまるで発情してるみたいじゃねぇか……。

 

 となるとこのうさみみがますます怪しく見えてくるな。ちょっと調べてみるか。

 とりあえず歩夢は得体の知れないダメージを受けているので、未だノーダメージの侑のうさみみを軽く触ってみる。

 

 

「うひゃっ!? あっ、んっ……」

「お前もか……」

「違うんです!! なんかうさみみを触られた瞬間に身体がビクビクって……」

「肩に触れてもうさみみに触れてもそうなるのか。じゃあ頬は?」

「ひゃいっ!? うっ、んっ……」

「反応は同じか……」

「はぁはぁ……安易に試さないでくださいよ!!」

 

 

 うさみみも頬もほんの少し触れただけだ。それなのに侑も顔を真っ赤にしてエロい吐息を漏らしている。

 間違いない。この2人、間違いなく感度が上がっている。ただ上がっているだけではなく、身体に快楽が走るくらいには発情具合が限界に達していると見える。この発情した表情で深夜の公園なんかに行こうものなら秒で押し倒されるだろう。それくらい2人は見ただけでも分かりやすい興奮状態だった。

 

 

「零さんに触れられただけで身体がビクってなって、とても気持ちよくなっちゃうんです……」

「やっぱりか。まあウサギってのは発情が常の動物らしいし、そのうさみみがお前らを興奮状態にしてるんだろうよ」

「だったらこんなもの外しちゃいますよ――――って、外れない!? どうして!?」

「そらこんな仕掛けを作れるのは秋葉くらいしかいねぇし、そう簡単には外れないだろうな」

「えぇっ!? だったらどうするんですか!?」

「アイツは悪魔だけど鬼じゃない。だから時間経過で外れるようにはできてるよ。俺だって幾多も体験したことだから」

「ということは、勝手に外れるまでずっとこのまま……!?」

 

 

 鬼ではないと言ってもいつ外れるのか分からないのは本人にとって恐怖でしかないだろう。そもそも外れるかどうかもあの悪魔次第なので、このままだと本物のウサギと一緒で無期限の発情期に入っちまうぞ。

 

 

「とりあえず歩夢、今日は練習を休んでおとなしくしていよう」

「そうだね――――あっ、ひゃぁっ!?」

「ちょっ、あぶねぇ!!」

 

 

 発情状態で上手く歩けなかったのか、歩夢は足がもつれて転びそうになる。だがこちらに転んできたのが幸いで、俺は倒れ込んで来た彼女を抱きしめる形で受け止めた。これで床に転倒する事故は防げたが、歩夢にとっての地獄(天国?)はむしろここからだった。

 

 

「ひゃっ、あっ、ふわぁぁぁぁんっ!!」

「歩夢!?」

「れ、零さん……んっ、はぁ……っ!!」

「お兄さん早く歩夢から離れてください!! 刺激が走ってますから!!」

「あっ、そうか」

「はぁ……はぁ……」

 

 

 肩を触れただけでも顔面トマトになるくらいの快楽が走ったのに、全身を抱きしめられたら絶頂しちゃうんじゃないか……? 実際に歩夢は俺の腕の中で電流を流されたかってくらいビクビクしていたし、今もその快感でぽけ~っとした表情で夢うつつ状態となっていた。頬も赤く、唇から涎が垂れそうになっており、小さく漏れ出す吐息が甘く淫猥。まるで襲ってくださいと言わんばかりの発情状態で、目の前にいる男が俺でなかったら間違いなく抱かれているだろう。

 

 

「歩夢、大丈夫?」

「はぁ……はぁ……」

「ダメだ、昇天してる……」

「抱きしめられると正気を失うくらい気持ちよくなるのか。とんだアイテムだな」

「何を感心しているんですか。歩夢を部室に運びますよ――――って、お兄さんは触れられないんでしたね」

「あぁ。つうか女の子同士だったら触っても大丈夫なんだな」

「確かにそうみたいですね。都合がいいと言うかなんて言うか……」

 

 

 女の子同士でも大丈夫だし、何なら俺以外に触れられても大丈夫なように設計しているだろう。このうさみみバンドもかすみや愛あたりが面白がって装着するのを想定していたのだろうが、まさかこの2人が罠に引っかかるとは思ってなかっただろうな。まあ想定外の事態が起こるほどアイツは面白がるのでどのみち思う壺なのだが……。

 

 というわけで俺は歩夢に触れないので、侑が歩夢を引っ張って部室に運ぼうとする。だが歩夢は快楽の渦に巻き込まれてまだ抜け出せないのか自分で動こうとしない。しかも未だに身体をビクビクさせることがあるため、部室は目の前なのに中々運び入れられずにいた。

 

 

「もう歩夢ったらちょっとは自分で動いてよ……。ちょっと強く引っ張るよ? えいっ!」

「ゆ、侑ちゃん……そ、そんなに引っ張られると――――きゃっ!?」

「えっ、どうしてこっちに倒れてくるの!? あっ、たおれ――――!!」

「だからあぶねぇって!!」

「お、おにいさ―――きゃぁ!?」

 

 

 歩夢がよろけて侑を巻き込みながら倒れようとしたので、俺はまた咄嗟に2人の腕を掴んでこちらに引き寄せる。やっちまったと思ったが、俺の性格上女の子が危険な目に遭っているのに見過ごすなんてできやしない。コイツらに触れちゃいけないと分かっていても、脊髄反射で転倒を阻止するために2人の身体をまた抱きしめてしまった。

 

 そうなればもちろん、2人がどうなるかなんてもうお察しのこと……。

 

 

「んぁああっ……! だ、ダメぇ……ふぁ……あぁん!!」

「ま、負けない……こんな気持ちいい……んっ、はぁ……あっ、はぁああんっ!!」

「れ、零さぁん、ひぁっっ!?」

「お、お兄さぁん……やっ……ッ!!」

 

 

 まぁこうなるわけだ。俺の腕の中で悶え発情し、興奮に支配される女の子。侑に至っては抵抗の色まで見せているので眺めているだけでもいい光景なのだが、割と限界に近そうなので解放してやるか。ここで2人の様子を楽しむのも一興なんだけど、そうなるとあとで侑にどやされるのは確定だしな。

 

 

「ふぅ、ふぅ……はぁ……んっ、んんっ……」

「ふわぁ……あっ、ん、はぁ……はぁ……」

 

 

 解放してやったのだが、俺に抱きしめられた時の快楽はそう簡単に消えるものではないらしい。そのため2人は廊下の壁に寄りかかりながら息を整えているが、身体のビクつきは全然止まっていない。表情が蕩けているのはもちろん、脚もガクガクと震えており内股になっている。それに2人の太ももに透明な体液が垂れているけど、あれは汗……だよな? あそこから漏れだしたとかじゃない……よな?

 

 

「おい生きてるか?」

「はぁ……はぁ……」

「は、はい……」

 

 

 なんとか昇天から引き戻されて現実には帰ってきているみたいだ。それでもさっきの快感はまだ残り続けているのは見て分かる通りで、もう脚に力が入らなくなったのか、2人はその場でへなへなと崩れ落ちてしまった。真っ赤な顔色、蕩けた表情、垂れそうな涎、ビクつかせる身体、そして女の子座りで壁にもたれ掛かっている。とてつもなくエロい光景なのだが、誰がどう見ても事後現場にしか見えねぇぞこれ……。

 

 そして、俺の悪い予感ってのは大抵当たってしまうのが常で――――

 

 

「しお子最近忙しかったみたいだし、今日は練習に来られて良かったね」

「はい。今週は学内の風紀強化週間なので、その対応に追われていまして……」

「まあここは女子高だし、そんな風紀とか心配いらないよ~。相変わらずしお子は心配性なんだから――――ん??」

「どうしたのですかかすみさん――――え゛っ!?」

 

「あっ……」

 

 

 案の定と言うべきか、部室に来たであろうかすみと栞子に遭遇した。

 何も知らない奴が見れば、この状況をどう思うのかはさっき俺が言った通りだ。つまり――――――

 

 

「ふ、風紀が……!!」

「大事件大事件!! 零さんが歩夢先輩と侑先輩と〇〇してますぅううううううううううううう!!」

「おい今すぐ口を閉じろ!!」

 

 

 快楽に溺れた2人の屍を他所に、学園内が遂に乱交現場になったとニュースになったのは翌日のことだった。

 




 女の子たちに理不尽が襲い掛かるのがこの小説の醍醐味って感じがします(笑)
 まあこれも女の子キャラを可愛く魅力的に描写するための策で、私は甘々なストーリーよりもこういうのしか描けないので許してください!



 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

桜坂しずくは甘えたい

 しずくの個人回。
 普段甘えている姿を見せない子が、2人きりになった瞬間にグイグイ甘えてくるシチュエーションいいですね!


「そんな、零さんにわざわざご足労いただくなんて……」

「お前のピンチだから当然だ」

「ただほんの少し疲労が溜まっていただけなのに、かすみさんたち大袈裟し過ぎです……」

「アイツらもそれだけ心配してるってことだ。もちろん俺もな」

 

 

 今日は虹ヶ咲学園――――ではなく、桜坂邸にお邪魔していた。布団で寝ているしずくの側に腰を下ろし、彼女の様子を窺っている。

 さっきの会話の通り、かすみたちからしずくが疲労で学校を休んだと聞いてこうしてお見舞いに来た次第だ。とは言ってもそこまで深刻かと言われたらそうではなく、単にスクールアイドルの練習と演劇部の練習で力み過ぎただけらしい。なので熱があるとか、体調が悪いとか、そういった心配は無用で安心したよ。こうなった原因はライブが近いからそれに向けた追い込み練習、そして演劇の本番も迫っている中での多忙で多少無理をしてしまったかららしい。集中し出すと自分のことすら見えなくなるからなぁコイツ。

 

 

「悪かったな、気付いてやれなくて。指導者として反省するよ」

「いえ零さんは何も悪くないですよ! それに零さん、ここ最近は大学の用事で忙しくて学園に顔を出していなかったではないですか。それなのに私が無理をしていることに気付けだなんて、そんなこと不可能ですから。ただ私が愚かにも自分の疲労に気付いていなかった、それだけのことです。自分の体調管理は自分でやるものですから」

 

 

 とまぁこうやってさっきから俺を心配させないようにしてくれているのだが、やはりコイツらのコーチとしてはしずくが無理をしていることに気付けなかったのは失態だ。確かに最近は教育実習関連で忙しくコイツらと会っていなかったものの、俺の代理でマネージャーをしている侑を通してみんなの様子を聞けたはず。それを怠っていたのは完全に俺のミスだな。

 

 

「お前の性格上言っても無駄かもしれないし、かすみたちからも言われてると思うけど、あまり無茶すんなよ。俺はアイツらと違って止めはしないけどさ」

「はい。なにより零さんにご迷惑をお掛けするなんて末代までの恥ですから。次にこのような不始末があったら一家諸共切腹する覚悟です!」

「いや心意気は買うけど、普通に家族に迷惑だから自制しような……」

 

 

 しずくにとっての俺ってどれだけ高い地位にいる人間なんだろうか? それだけの覚悟を持ってこれからは無理をしないってことなんだろうけど、コイツって真面目ちゃん過ぎるから冗談も本気に聞こえるからこえぇよ。

 

 

「それよりも私の部屋に零さんが来るだなんて……。うぅ、しっかり掃除しておけば良かったです……」

「いやすげぇ綺麗じゃん。見舞いに来たから別におもてなしされようとは思ってないけど、普通に人を呼べる部屋だと思うぞ」

「いえこの程度では満足できません! 零さんが来てくださるからには部屋に埃1つ残さず、最高級の和菓子を振舞い、私も着物を着てお傍に仕えさせていただく。それくらい愛を込めたおもてなしをする必要があるのです!」

「逆に堅苦しそうだな……。VIP待遇は嬉しいけど俺は普通が一番好きだから普通でいいよ。なんならこうしてお前と2人きりでいるだけでも俺は嬉しいからさ」

「零さん…………はいっ! 私も嬉しいです! あっ、そうか、ずっと寝込んでいれば零さんは永遠にここにいてくれるんだ……」

「なんかもう元気そうだな」

「あいたたたたたたた!! また筋肉痛がぶり返してきました!! これも日頃の疲れが原因だと思うので、どなたか看病してくださる素敵な紳士様はいらっしゃらないでしょうか……?」

「いい演技だな流石だよ……」

 

 

 あまりにも白々しいが、再び疲労が襲ってきたのかと一瞬本気で疑ってしまいそうになったのはコイツの演技力が故だろう。性格的や雰囲気的にも清純はヒロインを名乗れるしずくだが、こういった演技が上手いと男を騙すのも容易いだろうな。容姿も抜群に可愛いから男を惹きつけやすいし、なおさら魔性の女になれるぞ。

 

 

「それだけ元気なら看病らしい看病はいらねぇだろ。とは言ってもせっかく時間をかけてここに来たんだ、話相手にくらいにはなってやるよ」

「えっ、今なんでもしてくれるって言いました!?」

「言ってない」

「いつもなら私が零さんのために何でもしてあげる立場ですが、今日は零さんから私のために……フフッ♪」

「おいあたかも現実で起こったかのように捏造すんな!」

「私、零さんにやって欲しいというか、私から零さんにやりたいことがあるのです!」

「無視かい……」

 

 

 今日のしずくはテンションが一回りも二回りも高い。いつもハイテンションのかすみのツッコミ役かつ制止役になっているからこそ、こういった暴走具合を見られるのは非常に珍しい。恐らく俺と2人きりなのが嬉しいのだろう。確かにコイツと2人きりになることなんてあまりなかったから、今まさにその状況が訪れて舞い上がってしまう気持ちは分かる。それでも想像を絶するくらいグイグイ迫り来られてビビってるけど……。

 

 

「分かったよ。金銭関連以外ならお前の妄想に乗ってやる」

「本当ですか!? でしたら――――――私、零さんに甘えたいです!!」

「えっ、甘える?」

「はいっ! 私に甘えさせてください!」

 

 

 今日のしずくのハイテンションっぷりを見るにどんな無茶な要求が来るのかと身構えていたが、これまた想像の範囲外のお願いをされてきょとんとしてしまう。あまりに抽象的な願いなので特にやりたいことが決まってない……ってことは本人の真面目そうな顔を見る限りなさそうだ。いきなり甘えたいだなんて一体なに考えてんだコイツ……?

 

 

「急にどうした? 別に甘えることを咎めてるわけじゃなくて、もっとこう演劇の練習に付き合えとか、またデートに行きましょうとか、そういうのかと思ってたからさ」

「確かにそれも魅力的ですけど、誰の目もないところで2人きりなので今これをやるしかないと思ったのです。私、性格的に遠慮がちで頭が固くて不器用な面があり、いわゆる甘え下手なんですよね。だからいい機会ですし、零さんに甘えさせて欲しいなぁ~と。ダメ……ですか?」

「ダメではないけど、逆にそんなことでいいのか?」

「かすみさんや璃奈さんみたいに愛嬌があるわけでもないので、私にとって甘えることはもはや試練なのです! 一世一代の覚悟がないと甘えることなんてできません!」

「そ、そうか……。だったらお前のやりたいようにやればいいんじゃねぇか? 俺は逃げも隠れもしないからさ」

 

 

 なんか今日はずっとしずくの勢いに乗せられっぱなしのような気もするが、覚悟は本気のようなのでそれに応えてやることにする。

 彼女が言っていた愛嬌面で言えば、クソ真面目な栞子は除くとして、同学年のかすみと璃奈と比べたら確かにコイツが積極的になっている姿はあまり見ない。積極的になるのはヤンデレ気味なオーラを放っている時が多く、素の状態で甘えられたことは思い返してもほとんどなかった。逆にかすみと璃奈は子供っぽく、俺への身体接触も多い甘え上手なので自分と比較してしまうのも無理はないか。そもそもコイツが甘え下手で甘えたい願望があることすら知らなかったぞ。まだまだ虹ヶ咲の子たちの全てを理解してるわけじゃないってことだな。

 

 

「それで、甘えるって具体的に何をすれば良いのでしょうか? 演劇でもそういう役柄はやったことがないので……」

「そこから!? やっぱり具体的には考えてなかったんだな……。とりあえずかすみが俺にやっていることを真似すればいいんじゃねぇか?」

「かすみさんですか……。『零さぁ~~ん♪ 世界一可愛いかすみんが来ましたよ~♪』みたいな感じですか?」

「モノマネ上手いな……」

「でも媚びるような甘え方は私に似合わないかと……。もっとこう、普通な感じで甘えたいです」

「アイツは普通じゃないのか……。ま、そりゃそうか」

 

 

 かすみの甘え方は特殊で、もはやアイツにしかできないやり方だから参考にはならないか。あそこまで自分の可愛さを自分で持ち上げ、その愛嬌を誰の目も気にせずウザいほど周りにばら撒く。ここまで徹底するだけのことはあり、俗に言う『ウザ可愛い』属性が形成されているのでそれはそれで1つのキャラとして確立している。だから俺も無下にはしてないし、しずくも自分の可愛さを極限なく追及するかすみを尊敬しているのだろう。それゆえにアイツの甘え方を真似することはできないってことだ。

 

 

「かすみの真似ができないとなるとそうだな、まずは何も考えず俺に抱き着いて来たらどうだ? アイツみたいに媚びなくても、お前なりにこう甘えたいってのがあればそれでいいと思うぞ。正解なんて存在しないしな」

「そ、そうですよね! では、いきます――――――えいっ!」

「おっと!」

 

 

 しずくは俺の胸に飛び込むように抱き着いてきた。2人きりのゆったりした空間で別に勢い付く必要はないので、抱き着き慣れしていないのが丸分かりだ。演劇だったらその役柄にのめり込むことで無類の演技力を発揮するものの、自分のことになるとやや不器用になるのが可愛いところ。自分を甘え下手と評価しているのもそのせいだろう。

 

 

「零さん、とても暖かいです……♪ はっ、もしかしてこれが甘えることによる力……?」

「甘えて感動してる奴を初めて見たぞ……」

「零さんの胸の中にいると暖かくて安心します。そして零さんの香りが私の身体を包み込んで気持ちいいです。すぅ~~はぁ~~」

「嗅ぐなよ……。それにえげつないほどキャラ崩壊してるけど大丈夫か?」

「これが素の私なのです。大好きで、愛する人にはちょっぴり過激になってしまう。こんな変態さんみたいな姿、零さんにしか見せませんよ♪」

「自覚はあるのか。嬉しいのやら悲しいのやら……」

 

 

 俺の胸に顔を埋めるしずく。桜坂家の犬、オフィーリアって言ったか、アイツも初対面の俺にかなり人懐っこかったが、その性格は飼い主に似たらしい。かすみや璃奈のように人前で甘えられなかった鬱憤が溜まっていたのか、俺と2人きりの空間では意外なほどの積極性を見せる。頬を俺の胸に擦り付けたり匂いを嗅いだり、もはや犬のようだ。だからこそ愛おしく、少し変態的な行動をされてはいるが微笑ましいので許しちまう。

 

 ちなみに温もりを感じたりいい匂いがするってのは俺もそうである。どうして女の子ってこんなに抱き心地がいいのだろうか? 絶対にやりたくはないが男を抱きしめても同じ快感は得られないだろう。女の子特有の温もり、女の子特有の香り、もうそれだけで男の欲求ってものを唆られる。五感で異性に惹かれるのは生物学上仕方のないことなんだろうな。

 

 

「あ、あの……頭、撫でてもらってもいいですか?」

「えっ、いいけど」

「ふわぁ!? そんな急に!? で、でも気持ちいかも……」

「ま、これでも撫でることには慣れてるからな。かすみとか璃奈がよく要求してくるし」

「こんなに気持ちいいことを独占していただなんて……。かすみさんも璃奈さんもズルい! 2人の回数に追いつくまで毎日撫でてください!」

「無茶言うな! 手首もげるっつうの!!」

 

 

 俺に撫でられるのを気に入ってくれたのはいいんだけど、今後はあの2人だけじゃなくてコイツからも催促される運命にあるらしい。これまで甘えられなかった時間を回数で取り戻そうとするあたりよっぽど気持ち良いのだろう。コイツは普段は誰か(ほとんどかすみだが)を慰める立場だから、撫でられる快感ってものを初めて身に染みて感じたのかもしれない。

 

 

「零さんの手、暖かくて大きくて、撫でられるたびに私の頭を包み込んでくれているようで、これが快楽というものなんですね。あっ、まだやめないでください!」

「ハマり過ぎだろ……。つうかいいのか? 男に髪を触らせちまって。髪を触られるのがイヤな子、結構いるからさ」

「問題ありません。むしろ零さんに触っていただいた方がより一層綺麗に、艶やかになりますから! 零さんの手はまさに神の手、ゴッドハンドです!」

「他の奴らもそうだけど、お前らって俺のことをいるだけで世界の全ての穢れが浄化される神だと思ってね?」

「その通りです! 零さんに撫でていただいたこの髪、一生洗いません! 洗う必要がありません!」

「いや汚くなるから洗えよ!? これから絶対に洗ってない髪を俺に撫でさせるなよいいな!?」

 

 

 冗談を言うような奴じゃないからこそ本当に洗わない可能性があるので一応念を押しておく。これから髪を洗う代わりに俺に撫でてもらうことで汚れを浄化するなんてことになったら堪ったもんじゃない。コイツの長く艶やかな黒髪はまさに国宝。コイツにそれを守る意思がないのなら俺が守ってやらないと……。つうかよく撫でてやっているかすみや璃奈もちゃんと髪洗ってるよな?? おいなんか心配になってきたぞ……。

 

 彼女のイメージはお淑やかな立ち振る舞い、真面目ながんばり屋という印象が強いが、今は頭のネジが外れたかってくらいに奇行に走りそうになっている。これも2人きりというプライベートな空間が原因なのだろう。俺に抱き着いて胸に顔を埋めている様子だけを見れば普通に愛くるしい女の子なのに、口を開くととんでもなく変態なことを言い出すから怖い。まあ歩夢と一緒で正統派ヒロインに見える奴ほど裏で何を考えてるのか分からないってやつだな。

 

 

「抱き着いたり撫でてもらったり、他に甘えられることってないでしょうか?」

「そんな頭を捻って探さなくても、自分がこの人といて安心できる、落ち着くって思えればそれでいいんじゃねぇの? 甘えたことがないから知らねぇけどさ」

「でもそうなると零さんに抱き着かなくても一緒にいるだけで安心できて落ち着くので、それだといつも甘えていることになってしまいますね。せっかくなのでもっとこう、過激に甘えたいなぁ~なんて」

「こうやって正面から密着している時点でそれなりに過激だと思うが?」

「いやもっとあるはずです! 零さんの愛を感じられる方法が! 例えば……え、えっちなこと……とか」

「自分で言って自分で恥ずかしがってんじゃねぇよ……」

 

 

 ほらまたとんでもないことを言い出した。さっきまで甘々なムードだったのに一気にぶち壊しやがったなコイツ。しかもそれで顔を赤くするくらいなら言わなきゃいいのに……。

 恥ずかしがってはいるものの、そういやコイツ俺が彼方に膝枕してもらっている時に無理矢理キスしてきたよな? あの時の積極性はどこへ行ったのか。今は2人きりの温和なムードだからエッチな気が乗らないってことなのか。まぁあの時はコイツもかすみも彼方も俺を攻める流れに乗じてノリノリだったからな……。

 

 

「どうですか? こうして女の子に抱き着かれていると、そういった気持ちになりませんか?」

「まるで俺が女の子と触れ合っただけで発情する猿みたいな言い方だなオイ……。興奮するにはムードってものがあるだろ。こんな付き合って数日の初々しいカップルがするような正面ハグで性欲が滾るかっつうの」

「つまり私が零さんに甘えに甘えて、零さんをその気にさせればいいってことですね?」

「どうしてそうなる!? 俺を欲情させるのは確定なのかよ!?」

「でもかすみさんはそういうことを求めがちですよね? 璃奈さんも胸を大きくしたいから零さんに揉んでもらえるように努力していると言っていましたし」

「だからアイツらのやり方を真似すんなって言っただろ? アイツらが特殊なだけだ」

「ということは、ここで私が零さんをその気にさせれば2人を超える甘え上手になれる……?」

「聞いてねぇなコイツ……」

 

 

 一度自分の役柄に集中し出すと熱血漢となるその性格の悪いところが出ているぞ……。もう『自分が零さんに甘えまくってヤる気にさせる』ことにお熱となっている。もはやそれは甘え上手とか下手とかそんな次元の話ではないが、今のしずくに何を言っても自分のいいように解釈して納得するだけだろう。物事に熱中すると周りの声が聞こえにくくなる性格はせつ菜といい勝負だな。

 

 

「あっ、でも私そういった性知識は全然ないんでした……。ふ、服とか脱げばいいですか!? それともむ、胸を押し当てるとか!?」

「落ち着け。そんなあからさまな行動をされても興奮はしない。」

「だ、だったら『私を好きにしてください!』みたいなセリフで興奮を煽れば……!!」

「もう甘えるってことすら忘れてるよなお前……」

 

 

 しずくは目をぐるぐるさせて混乱状態になっている。エロいことに詳しくないせいかとりあえずありきたりなセッ〇スアピールで攻めようとするが、残念ながらこんなムードもへったくれもない状況で興奮するわけがない。まあ女の子の裸や胸は見たいっちゃ見たいのだが、露骨すぎるのもそれはそれで興ざめだ。女の子のパンツを見たいけど、直で見るよりもスカートの中を覗き見る背徳感があってこその興奮――――みたいな感じだよ。

 

 俺に抱き着きながらあたふたと慌てるしずく。2人きりだから誰も見ていないし何を焦っているのか。早くしないと俺のヤる気が下がるとでも思っているのか。最初からそんな気はさらさらないが、こうやって自分が甘えられている状況こそ珍しいのでこの機会を逃したくないと思っているのだろう。それで焦っているに違いない。

 

 そんな自分を見失っているしずくを見て、俺は彼女の肩を掴んで布団の上に押し倒した。これで一旦は落ち着かせられる。そう思っていたのだが――――――

 

 

「きゃっ、えっ、えぇ!?」

「落ち着けって言ってるだろ。そんなやり方をしても俺は興奮しな―――――な゛っ!?」

「零さん……?」

 

 

 しずくを黙らせるため押し倒したまではいいものの、その姿を見て思わず言葉が途切れる。さっきまで俺に抱き着いていた影響か、頬を赤くしたしずくが布団の上で俺に羽交い締めにされているこの構図。それに俺がアポなしで来たせいもあるが、彼女は寝巻きのままであった。その薄い寝間着は先程の暴走を経て少し開けており、胸は直に見えないものの鎖骨や胸元は曝け出されていた。ずっと抱き着いていた影響か汗もかいており、暴走していたせいで息も荒く、目はうるうると潤っている。

 

 つまりだ、男を誘惑するのに十分な光景が目の前に広がっているってことだよ。まるで襲ってくださいと言わんばかりの表情、仕草、格好。サディストな男にそんな様子を見せたら情欲が湧き上がって仕方がない。清純少女の淫猥な姿に、俺は思わず唾を飲んだ。

 

 さっきまでムードがないから興奮しないだのなんだの言っていたが、あっさりとその気になっちまうんだから俺もチョロい。しかも自分で押し倒しておいてこれだからな、自爆にも程がある。まあ男なんて女の子のちょっとした艶めかしい姿を見たら性欲が滾る猿ってことだ。

 

 

「零さん、私……」

「おめでとう、お前の勝ちだ。俺のオウンゴールかもしれないけど」

「その気になってくださったんですね……」

「どうだろうな。お前が色んな意味で()()()くれたら本格的になるかもしれないぞ」

「あっ…………分かりました。零さんに求めていただけるよう、精一杯()()させていただきます」

 

 

 しずくは優しく、そして艶やかに微笑む。その表情を見て、コイツは俺に全てを捧げてくれるんだと悟った瞬間に性欲が煮えたぎる。

 

 その後、お互いに()()合った。

 溜まっていた疲労はどこへやら、しずくは身体を痙攣させながら快楽を感じていた。これでまた疲労が溜まって練習を休むことになったら、今度こそかすみたちを心配させちまうかもな。ま、誘惑してきたのはコイツの方だから俺は悪くない。俺はコイツの欲求不満を解消してやっただけだ。

 

 それよりも俺に甘えられたことで嬉々としてみんなに今日のことを話さないように口止めしておかないとな。他のみんなに『私も私も!!』と迫られて、今度は俺の方がダウンしちゃいそうだから……。

 




 pixiv百科辞典でしずくの項目を見ていたら『甘え下手』と書いてあり、それを見た瞬間に今回のネタが思いつきました。
かすみや璃奈の場合は甘える系のネタは色々書けそうですが、しずくの場合はそういったイメージがなかったのでとりあえず抱き着かせたり頭を撫でたりと、王道中の王道で攻めてみました。まあ最後はいつも通りになったわけですが(笑)




 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

愛する人にこんな凄い(エッチな)ことされた選手権

 侑視点です。
 今回はこれまで投稿された虹ヶ咲編のお話を覚えていれば覚えているほど楽しめる回となっています。プチ総集編みたいな感じです。

 ていうか零君がいなくてもハーレム要素が成り立つのが凄い。


「もうこんな時間! ピアノの練習をしてたら遅れちゃった……」

 

 

 私は音楽室を飛び出すと、校則違反にならないギリギリの速度で歩きながらスクールアイドル同好会の部室へ向かっていた。

 今日は神崎零さん――――お兄さんが来なくて私が指導役だから遅れるわけにはいかない。まあ私がいなくてもみんななら自分たちで練習ができると思うけど、自分からマネージャーになりたいといった身だから甘えは許されない。最近作曲の練習をするためにピアノを弾き始めたんだけど、集中するとつい時間を忘れちゃうんだよね……。それでみんなに迷惑をかけたら本末転倒だからこれから気を付けないと。

 

 そんな感じで焦りながらも部室に到着。もうみんな練習着に着替えに行っているだろうから、早く私も準備しないと!

 そう考えて部室のドアを開けると――――――

 

 

「しず子ぉ……そろそろ観念した方がいいよ」

「だ、だから何もないんだってば……!!」

 

 

 かすみちゃんがしずくちゃんを部室の壁に追い詰めていた。部室には生徒会の仕事をしているであろう栞子ちゃん以外のみんなが揃っているみたいだけど、練習はどうしたんだろう……?

 

 

「あっ、侑ちゃん。ピアノの練習は終わった?」

「歩夢。うん、終わったけど……これ何が起こってるの?」

「しずくちゃん、この前休んでたでしょ? それで学校に復帰した後のしずくちゃんの様子を見て『しず子の女としての魅力が上がってる。どうしてだ~』ってかすみちゃんが……」

「確かにしずくちゃん、前よりも綺麗になったような……。いつも清純な感じだったけど、大人の魅力が上がったっていうか……」

「ですよね!? 侑先輩もそう思いますよね!?」

「わっ!? かすみちゃん近いって……!」

 

 

 いつの間にかかすみちゃんに詰め寄られており、私は思わず後退りしてしまう。

 かすみちゃんほどじゃないけど、しずくちゃんにどんな心境の変化があったのかは気になるかな。本人のプライベートにも関わるから追及まではしないけどね。

 

 

「零さんとしず子、2人きりで一緒の部屋。それで零さんが何もしないはずがない。しず子が艶々になった原因はそこにあるはず!!」

「お兄さんのことを理性を失ったケダモノだと思ってない……?」

「だって零さん、かすみんのベッドに潜り込んでカラダをめちゃくちゃに触って来たんですよ? かすみんのカラダに興奮して仕方がなかった証拠ですよ!」

「あぁあの時か。ていうかあれってかすみちゃんが引きずり込んだんじゃなかったっけ……?」

「ベッドの中で……いいなぁ……」

「えっ、歩夢?」

「へっ、あっ、も、もしかして声に出してた……?」

 

 

 もしかしてどころかはっきりと口に出していたけどね。歩夢、お兄さんが学園に来るようになってから自分の妄想を声で垂れ流すことが多くなって気がする。引っ込み思案なので自分のことをあまり話したがらない性格だったけど、それが治りつつあって良かったのかそうでないのか……。

 

 そんな歩夢の妄想を聞いてかすみちゃんは腰に手を当ててふんぞり返る。何やら得意げな顔をしているけど、また余計なことを言い出しそうだなぁ……。

 

 

「歩夢先輩は零さんとベッドを共にしたことがないんですねぇ~♪ かすみんはカラダとカラダを交えた関係なので、一歩リードしちゃってますねぇ~♪」

「いやお兄さんの話では無理矢理触らされてたって聞いたけど……? 歩夢、真に受けなくていいからね――――って」

「そ、そんな……私、まだベッドでは一緒になったことがないのに……!!」

「凄くダメージ受けてる!? 歩夢大丈夫!?」

「ふふんっ! お互いに濡れ濡れになるくらいには激しかったですから、零さんの興奮をたっぷりこの身で感じちゃいましたよ♪」

「いやそれ雨で濡れてただけでしょ……」

 

 

 思いっきり過去が捏造されてるけど、そんなことお構いなく歩夢へ精神的ダメージを与えている。お兄さんは別に歩夢を蔑ろにしてるわけではないと思うし、お兄さんに限ってそれはないだろうけど、歩夢は自分がお兄さんとベッドで1つになっていないことを気にしているようだ。

 

 ん? 待って? さっき歩夢『()()ベッドでは』って言ってなかった? もしかしてベッド以外ではやることをやってるの……?? 怖いから聞かないでおこう……。

 

 

「で、でも私だって零さんにカラダのあちこちを触ってもらって、抱きしめてもらって、そ、その……カラダがびりびりってなったことがあるもん……。そうだよね侑ちゃん!?」

「もしかしてうさみみバンドの事件のこと!? ま、まぁそりゃそうなんだけどさ……」

「零さんと3P痴漢プレイ!? 確かにそれはちょっと羨ましいシチュエーションかも……」

「いや納得しないで最悪だったんだからアレ!!」

「これで対等だよね、かすみちゃん」

「ぐぬぬ……」

「どうしてそれで張り合えるのか分からないんだけど……」

 

 

 うさみみバンド事件。2人揃ってお兄さんにあそこまで痴態を晒したのに、他の人の前でよくその様子を話せたもんだと一周回って感心しちゃうよ。ていうかお兄さんに何をされようがみんなにとってはステータスになっちゃうんじゃないかな? 流石は秋葉さんがお兄さんのために集めた子たち、お兄さんLOVE具合が常軌を逸してる……。

 

 そんな中、さっきかすみちゃんに追い込まれていたしずくちゃんが真剣な面持ちでこちらを見つめていることに気が付く。

 もしかしてこの悪い流れを止めてくれるのかな? ぶっちゃけ私ではお手上げだから、清純な心を持ったしずくちゃんならきっとやってくれるはず!

 

 

「しずくちゃん?」

「私だって……」

「えっ?」

「私だって零さんに押し倒されてその……お互いたっっっっっっくさん甘え合いましたから!!」

「えぇっ!?」

「し、しず子やっぱり零さんが家に来た時……やっちゃったんだ」

 

 

 全然違った! この流れを止めてくれるかもと期待した私がバカだったよ!!

 まさかしずくちゃんまで参戦&お兄さんとそういう関係になっていたなんて……。もう本当に理性を失ったケダモノなんじゃないのあの人……。それか歩夢たちの押しが強いのか。うん、どっちもだな。

 

 

「零さんとの甘々なエピソードバトルなら、私だって負けません!!」

「これ勝負なんだ……」

「あら? なんだか面白そうなことやってるじゃない」

「果林さん!?」

 

 

 今度は果林さんが闘技場に乱入してきた。果林さんだけじゃない、さっきまで別のことをやっていたみんなもいつの間にかこちらに注目している。まああれだけ大声でお兄さんに〇〇されただの猥談を飛ばし合ってたらそうもなるか。もう今の時点でツッコミを入れる気力がなくなったのに、ここからまた混沌としてきそうだから困るんだけど……。放っておいても勝手に盛り上がりそうだし、今回は静観させてもらっていいかな? ダメですか、はい……。

 

 

「もしかして果林先輩も何かあるんですか?」

「えぇ、それはもうかすみちゃんが羨ましくなって悶絶するレベルで……」

「な、なんですかそれ。い、一応聞いてあげますよ……」

「フフッ、強がっちゃって可愛いんだから♪」

「いいから早く話してください!!」

「別に()()()()()はなんとないことよ。高級ホテルでシャワーを浴びた後、バスローブ姿で零さんに迫ったわ。そうしたらとっても分かりやすく興奮するんだもの、なんか可愛く見えてきちゃって思わず誘惑しちゃったのよね。でも興奮を煽られて我慢できず、遂に私をベッドに押し倒した。もちろんバスローブも全部取られて、そこからは……お察しの通りよ♪」

「うぐっ、なんか生々しいのが逆に本当っぽいですね……」

 

 

 果林さんの話している内容が脳内で容易に映像として映し出されていた。それくらい話が事細かであり、作り話には思えない。それに女性としても大人な果林さんがホテルでお兄さんとだなんて、リアリティがありすぎてもうツッコミすら入れられなかった。現にかすみちゃんも唸るだけで抵抗しようとしていないし、如何にも大人な雰囲気にたかが高校生の私たちでは太刀打ちできそうにもない。

 

 

「零さんとホテル……羨ましいけどどんなことされちゃうんだろう~!」

「歩夢、なんでも羨ましがるよね……」

「えっ、侑ちゃんは違うの?」

「違うよ!! あたかもそれが常識かのような顔されても困るんだけど!?」

 

 

 とは言いつつもこの学園の子たちはみんなお兄さん至上主義だから、むしろ私の方が非常識人みたいになっちゃうんだよね……。私だけはこの流れに毒されないように自分を保たないと!

 

 

「だったら愛さんも! 愛さんだって零さんと濃密なエピソードくらいあるんだから!」

「えぇ~愛先輩もですかぁ~? もうお腹いっぱいなんですけど」

「そんなこと言っちゃって、実は自分の自慢が()()()見えちゃうのを心配してるんじゃないの~? かすかすだけに!」

「違います! ていうかかすかすじゃないですぅ~!! そこまで言うのなら聞いてあげますよ!!」

「零さんとは学校でイチャイチャすることが多かったなぁ。この前なんて校庭で押し倒されてカラダを隅々まで触られて、弄られて……。テニスの助っ人終わりだったから自分の身体が火照っていたってのもあってさ、もうずぅ~っと興奮状態だったんだよね。下着まで濡れちゃってもう大変だったけど、校内で零さんに組み伏せられるのは背徳感があったよ♪」

「ふ、ふんっ、校内でだなんてムードもへったくれもないですね! かすみんは雰囲気重視派ですから!」

「あっ、そういえば一緒に学園内のシャワーも浴びたことあるよ。せっつーも一緒にね!」

「な゛っ”!? そ、そんな羨まし……いや何でもないです」

 

 

 さっきまで表情で本音が出ていたけど、遂に言葉に出てしまいそうになっているかすみちゃん。ていうかお兄さんがこの学園に来てからまだ1ヵ月くらいしか経ってないのに、どうしてみんな高校生離れしたエピソードを持ってるの? 愛ちゃんの話を聞いている限りだと成人男子と未成年女子がやってはいけないことが平気で繰り広げられてる気がするんだけど……。ま、もう慣れたと言えば慣れたけどね。この環境に適応しつつある自分が怖いよ……。

 

 

「せつ菜ちゃんもあるんだ。お兄さんとシャワーを浴びたこと……」

「うっ、あれは故意ではなく事件だったと言いますか、個室で愛さんを含め3人で密着していたので、シャワーを浴びていると言うよりかは一糸纏わぬ姿で抱き合っていたと言うべきですけど……」

「どうしてそんな状況に……」

「色々あったのです、色々と……。零さんとは個室でそういうことをすることが多くて、この前も漫画喫茶の個室で――――あっ!」

「ん? デートですか!? デート中にしっぽりやっちゃったんですかせつ菜先輩!!」

「そ、それはその……漫画を読んでいる最中に零さんがムラムラしてきたと言って突然後ろから抱きしめてきて、そこから私も不肖ながら興奮してきてしまい、あとはまぁ、そういうことですよね……♪」

「あのいつも全身全霊でパワー系のせつ菜先輩がここまでしおらしくなるなんて、一体何をされたんですか!?」

「それはもう……ひたすらに気持ちよくて言葉では表せないくらいです♪」

「な゛ぁっ……!?」

 

 

 あぁもうかすみちゃんの開いた口が塞がらなくなってるよ……。お兄さんと濃密なプレイをしたことがあるのは自分だけだと思い込んでたけど、みんなに実際のところを聞いてみると衝撃的なプレイがどんどん暴露されるからそりゃ仕方ないか。私もかすみちゃんほどではないけどビックリしてるもん。みんなが話す内容もそうだけど、想像以上にお兄さんがあちこち手を出していることに驚きだよ。肉食系なのは知ってたけど、まさかあのせつ菜ちゃんにここまで羞恥心を感じさせるなんてね……。

 

 

「もうここまでで満腹なんですけど……」

「でもこれかすみちゃんから仕掛けた勝負だから自業自得なんじゃ……」

「べ、別にかすみんが負けたとは一切思ってませんけどね!」

「だったら私も参戦する」

「うわっ、りな子!? って、りな子まで何かエピソードが……?」

「うん。零さんがお兄ちゃんになって、私が妹になる兄妹近親相姦、背徳えっち。楽しかった、気持ち良かった、まる」

「なにその小学生並みの感想!? でも背徳感が凄すぎて濃密具合は誰にも負けてないのが悔し――――いやいや、負けたと思ってないから!!」

「想像してみて。零さんが自分のお兄ちゃんになって、ベッドの上で愛してくれる光景を。兄妹になれば心身ともにより一層繋がっている感じがするでしょ?」

「うっ、ぐっ……ちょっといいかも、ちょっとだけ!!」

 

 

 なんかもう私の常識を飛び越えているとかそんなレベルではない。みんなは私と違う世界に住んでいるんだ、うん、そうに違いない。そう考えないと自分が常識人なのかそうでないのか永遠に彷徨い続けることになるから、自分は別の世界で暖かくこの争いを見守っているのが精神衛生上いいのかもしれないな。

 

 ちなみに璃奈ちゃんの言っていた近親……いや、私の口からその言葉を発したらみんなと同じレベルになっちゃいそうだからやめよう。それにお兄さんと璃奈ちゃんが何をやっていようが咎める気はないし、生きている世界が違い過ぎてもはやツッコミを入れることすらできなくなっている。逆に歩夢たちは誰かが零さんとの体験を語るたびに羨ましそうにしているため、この話題に興味津々みたい。どう収集付けるのコレ……。

 

 

「ま、まあここまではギリギリかすみんと張り合えるレベルの経験談ですね」

「声震えてるよ……」

「うっ!? で、でも彼方先輩とエマ先輩はそういう話は特になさそうじゃないですか? お二人共ぽわぽわしていてそういうのには疎そうですし、戦わずして勝利ってやつです!」

「遂に勝ち確定の相手に喧嘩を売り始めた……」

「う~ん、確かにみんなみたいなえっちぃエピソードは彼方ちゃんにはないけどねぇ~」

「そうですかぁ~ないですかぁ~♪」

「うわぁ凄く嬉しそう……」

「強いて挙げるとすれば、零さんを抱き枕にして添い寝させてもらったり、逆に私から膝枕をしてあげて、おっぱいをアイマスク代わりに顔にむぎゅってしてあげたくらいかなぁ~。確かその時はかすみちゃんもいたよね~」

「い、いましたけど……。なんだか円満な夫婦みたいでした……。う、羨ましくはないです!!」

 

 

 勝てると思った相手に返り討ちに遭ってるよ……。彼方さんのエピソードは他のみんなとは違って至ってほんわかしたエピソードだったんだけど、あまりにもラブラブカップルっぷりが爆発してるからかすみちゃんは思わぬダメージを受けてしまった。確かにエッチなこともそりゃそうだけど、好きな男性と一緒にお昼寝したりするのは私も憧れていたりする。そう考えると真っ先にお兄さんが思い浮かぶけど、身近にいる男性がお兄さんなだけであって、決してお兄さんに添い寝してもらいわけじゃないから! ホント人の憧れにも土足で入ってくるから迷惑だよあの人……。

 

 

「エ、エマ先輩もあるんですか……?」

「あると言えばある……かな?」

「え゛っ……!?」

「空き教室で色々としゃぶらせてもらったこともあったかな。ついこの前だけど壁ドンされた勢いで押し倒されて、零さんの顔が私のスカートの中に入っちゃって、そこで息をふーふー吹き掛けられて……。あの時は今まで感じたことのない気持ち良さだったけど、思い返すだけで恥ずかしいよぉ……!!」

「あの清楚清純を絵にかいたようなエマ先輩がこんな濃密な経験を!?」

 

 

 私も驚きだけど、実はエマさんの現場にはどちらも居合わせていたからその状況が良く分かる。エマさんって意外と奥手なように見えて積極的なところもあるから、特に空き教室でお兄さんのあれこれをしゃぶっていた現場を見た時は別人かと思ってしまった。虹ヶ咲のみんなを見てると人は見かけによらないんだと大いに実感するよ。

 

 

「そういえば、侑ちゃんも零さんに何かされていなかったっけ? ほら廊下で私が壁ドンされた時だよ」

「う゛っ、そ、そんなこともありましたっけ~……」

「えっ、侑先輩も零さんと関係を!?」

「あの時の私は気持ちよくなりすぎてたからあまり覚えてないけど、零さんが侑ちゃんの胸を――――」

「あ゛ぁあああああああああああああああああああああああああああ!! 知らない知らない知らない知らない知らない知らない!! 忘れた忘れた忘れた忘れた忘れた忘れた忘れた忘れた!!」

「うわぁっ!? どうしたんですか侑先輩? さっきまでは冷静にツッコミを入れていたのに急に壊れちゃいましたよ!? ま、まさか本当に零さんと……!? あの侑先輩までもが!?」

「ち、違う!! あれは事故!! ノーカン!!」

「でも侑ちゃん、この前も零さんに触られて興奮してたよね……」

「ちょっ、歩夢いきなり会話に入って来たね……って、あれは秋葉さんのうさみみバンドのせいでしょ!?」

 

 

 なんか強制的に私までお兄さんとのエピソード暴露会に参加させられてる!?

 私はお兄さんに対してこれっぽっちもその気はないのに、あの人と一緒にいるだけでセクハラ紛い、いやもうセクハラ以上の事件や事故に巻き込まれてしまう。そのせいでこの勝負に参加できるほどのネタが揃っているのが何とも不本意だ。プールでも服を溶かされて危うく肌を見られそうになったし、もう散々だよ全く……。

 

 そして結局私を含めみんながお兄さんとのエピソードを語り終わった。ビックリするのがみんなの話の元ネタが全てここ1ヵ月以内で起きていることだ。お兄さんって私たちだけではなく他の女性とも交流があるだろうから、改めてあの人の手広さというか行動力というか、いい意味で捉えれば凄いと思うよ。ここにいるみんなの誰1人として蔑ろにしておらず、お兄さんが言っていた『全員を幸せにする』夢が達成されているとみんなの話を聞いて実感できた。

 

 だからと言ってセクハラ行為が認められるわけじゃないけどね! まあ歩夢たちはそれで悦んで幸せに感じているから結果オーライなんだけどさ……。

 

 

「それでかすみちゃん、この勝負の勝者は誰かしら? 自分で始めたことだからあなたが決めるべきよね?」

「甲乙付け難いですけど、やっぱりかすみん――――――うっ!?」

 

 

 私以外のみんなの目線がかすみちゃんを突き刺す。

 虹ヶ咲のスクールアイドルはグループで活動することもあれば個人で活動することもあるので、そういった意味ではみんなの闘争本能は他のスクールアイドルよりも強い。だからお兄さんとのエピソードを語るだけでも負けず嫌いが発生するのは必然なんだよね。だからこうして1人抜け駆けするかすみちゃんに目線が突き刺さっているんだけど……。

 

 まあここは無難にみんなで優勝が丸いんじゃないかな。愛の強さなんて勝負するものでもないしね。

 

 

「優勝は――――侑先輩で!」

「へ……はぁ!? どうして私!?」

「かすみんたちとは違って、先輩と零さんってここ1ヵ月くらいの仲じゃないですか? それなのに零さんにあそこまで手を出してもらえるなんて、もう優勝ですよこれは!」

 

 

 衝撃的な展開に今度は私の開いた口が塞がらない。しかも他のみんなも便乗してくるものだから、もう味方がいなかった。

 

 

「侑ちゃん……」

「ちょっ、歩夢、みんなになんとか言ってよ!!」

「侑ちゃんと零さんが仲良くなっているみたいで、私嬉しいな♪」

「いや違あぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああう!!」

 

 

 なんだかみんなに物凄い誤解をされているけど、この後いくら反論しても『夫婦漫才を見ているみたい』とか『照れちゃって可愛い』とか言われるだけで私に弁解の余地はなかった。これがお兄さんの耳に入ったら全力で煽られそうだから絶対に言わないようにしよう……。

 




 こうして思い返すと虹ヶ咲編もμ's編やAqours編に負けず色々濃密なネタがある印象ですが、歩夢、かすみ、エマ、彼方あたりはまだパンチが弱い話しか描けていないと思っているので、なるべく早めにもう一度スポットを当てたいですね。栞子も満足に描き切れていない感があるので。
 できるならスーパースターの小説を書くまでには全キャラの個人回を終わらせたい……


 ちなみに今回の話、みんなのエピソードがどの話数の話かが分かる人がいたら『新日常』マスターです(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

彼方SOS!不眠症克服作戦!

 待っていた人が多そうな彼方の個人回。
 サブタイはネタっぽいですが、内容は意外とまったりしています。


「おっす――――って、誰もいねぇのか。鍵も掛けずに不用心だな」

 

 

 もはや日常と化した虹ヶ咲学園への訪問。今日も歩夢たちを指導してやるためにスクールアイドル同好会の部室へとやって来たのだが、鍵は開いているのにも関わらず中には誰もいなかった。

 この学園はセキュリティが厳しいお嬢様学校なのでモノを盗ろうとする輩は入って来れないだろうけど、その慢心からか不用心なのはいただけない。学園唯一の男である俺に見つかってはいけない女の子の恥ずかしいモノを発掘されちまうぞ? まぁ女の子の下着程度であればもはや見慣れているので今更興奮しないけどな。

 

 そこらに適当にカバンを置いてソファで休もうとすると、そこを占領して眠っている彼方がいた。これで部室が静かだった理由も鍵が開いていた理由も分かったが、それはそれで危ないような……。俺だったからいいものの、彼方のような美少女が施錠されていない部屋で無防備に寝ていたらいつ襲われても知らねぇぞ? つうかコイツいつも制服で寝てるけど、そんな短いスカートをおっぴろげて寝るなんて誘ってるにも程があるだろ。現役JKの生太ももとパンツだなんて、男を獣にさせるには十分すぎる要素だ。

 

 

「零さん、目がえっちだよ~」

「な゛っ、お前起きたのか……」

 

 

 今にもむしゃぶりつきたくなる脚を眺めていたら、いつの間にか目を覚ましていた彼方に見つかってしまった。しかし開けたスカートを直そうとしないあたりやはりコイツに羞恥心というものはないらしい。この前も服が溶ける水をぶっかけられて俺の目の前で全裸になる寸前だったが、特に隠そうともせず恥ずかしがってもいなかった。でもそれはそれで女の子としてはどうなんだろうか……。

 

 それにしても、眠っている彼方が自分から目を覚ますなんて珍しい。普段は誰かに起こしてもらわないと永遠に眠り続けているのに、今回は俺が傍に立っているだけで起きやがった。

 

 

()()()んじゃなくて、()()()()()んだよ」

「はぁ? お前がソファで横になってるのに寝てないとか、ここってもしかして俺が元いた世界線とは別次元か?」

「違う違ぁ~う。彼方ちゃん、最近寝不足気味なんだよねぇ~……」

「お前が? 寝不足?? やっぱり別次元じゃねぇかここ!!」

 

 

 あの眠り姫の異名を持つ近江彼方から『寝不足』なんて言葉を聞いたら、そりゃ誰でも異世界にでもやって来たのかと勘違いするって。確かに彼女の顔を見てみれば目の下に若干クマができており、ぼんやりとした表情をしているものの普段の眠そうな感じとは違って少々辛そうだ。眠り姫が寝不足だなんて一体なにがあったんだ……?

 

 

「もしかして不眠症か? まさかバイトや勉強を煮詰めすぎてんじゃねぇだろうな?」

「それはないよ~。零さんも侑ちゃんも『体調だけは気を付けろ』って心配してくれるし、流石に無理はできないからね~」

「じゃあなんだ、もしかして不眠症か? だったら病院に言った方がいいぞ」

「大丈夫、病気でもないから~。それに原因はもう分かってるんだ~」

「なんだよ?」

「遥ちゃんが家にいないからだね~。3泊4日の修学旅行で最近家にいないから、彼方ちゃん寂しくて寂しくて……およよ~……」

「あ、そう……」

 

 

 なんかもっと深刻な問題かと思ったら、ただ最愛の妹が不在ってだけかよ。いや本人にとっては重大な危機だってことは知ってるけどさ。楓だって俺が浦の星女学院に3週間教育実習に行っていた時に高坂家にお世話になってたけど、寂しさを紛らわすために穂乃果をイジメまくってたって雪穂が言ってたからな。

 

 

「でも彼方ちゃんはその寂しさと寝不足を解消するとっておきの方法を思いついたのでした~」

「おい、それってまさか……」

「そう――――零さんを彼方ちゃんのおウチにご招待♪」

「えっ……えぇぇっ!?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 その日の練習後、俺は彼方に連れられて近江家へとやって来た。両親は出張で、遥は修学旅行で不在のため都合よく2人きりだ。もしかして最初からこの機会を狙って俺を誘いこんだんじゃねぇだろうな……。

 

 そんなこんなで彼方と2人きりの夜が始まったのだが、なんつうかコイツ、家の中だと普段ののんびりとした雰囲気を残しつつも家事万能のしっかり者であるイメージが強い。エプロンを付けて晩飯を作る姿、食事の後片付けをする姿、風呂上がりに俺のためにコーヒーを入れてくれる姿、ソファでくつろいでいると隣に座ってきて擦り寄ってくる姿、どれもこれも新妻っぽかった。いいお嫁さんになれるぞって言葉があるが、コイツにこそ使うべき相手だと実感するくらいだ。この行為が俺が家に来ているから張り切っているだけなのか、普段から遥に対してこうなのかは分からないけどな。

 

 改めて隣に座っている彼方の寝間着姿を見てみる。まだ秋に差し掛かったばかりでやや蒸し暑いせいか、薄いネグリジェでボディラインがそれなりにはっきりと浮かび上がっていた。同学年のエマや果林に比べたら劣るが、それでも男の欲情を大いに誘えるくらいのわがままボディをしているのでネグリジェ姿がよく栄える。それに眠り姫の異名もあるからその姿が似合うってのもあるだろう。

 

 

「どうしたのそんなにジロジロ見ちゃって~? もしかしてえっちな気分になっちゃった~?」

「バカ言え。そこらの発情してるサルと一緒にすんな」

「でもえっちなことをすれば彼方ちゃんの寂しさが紛れて、よく眠れるようになるかもしれないよ~?」

「それ興奮して逆に目が覚めるやつだろ……って、お前既に眠そうじゃねぇか……」

「ふわぁ~……そうだねぇ~久しぶりによく眠れそうかも~……」

「だったら眠気があるうちにベッドに入れ。俺はまだ眠たくないからここにいるけど」

「ダメ~。零さんも一緒にいくんだよ~♪」

「はぁ!?」

 

 

 彼方をベッドに送り出そうとしたが、俺の腕にしがみついて離れようとしない。どうやら俺をベッドに連行しようとしているようだが、安易に男を誘惑してはならないって学校で習わなかったのか? こんな美少女に絡みつかれてベッドに誘われるとか、俺じゃなかったら理性が吹き飛んでいたところだろう。ま、俺も平静を装いながらちょっとドキドキしてるんだけどさ……。

 

 だがそれを悟られるとカッコ悪いと思ったので、敢えて強がってみる。

 

 

「俺と一緒に寝るってことは何をされてもいい覚悟があるってことだよな?」

「もちろん。別に彼方ちゃんの許可なんて取らなくても、零さんなら好きにしてくれてもいいんだよ~」

 

 

 なんか強がったところでコイツのマイペースに巻き込まれて勝てる気がしないな……。誘惑する時もマイペース、裸を見られてもマイペース。そんな自由奔放な奴が自分から自分を好きにしていいと宣言してきたら、そりゃ色々滾って来ちゃうだろ。こんな気を起こしちゃうってことはなんか俺、上手いこと彼方の口車に乗せられてる気がするな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんなわけで一緒のベッドで寝ることになった俺たち。遥のベッドが空いているのに2人で1つのベッドで寝る謎。

 そして結局ベッドインしても彼方は俺の身体から離れなかった。むしろ俺を抱き枕にしてやろうという気概があるのか、さっきよりも俺を抱きしめるパワーが上がっている。あまり引っ付きすぎると暑苦しくて寝られないと言ったのだが、いつもマイペースな彼方がここだけは頑固に俺から離れようとしなかった。

 

 そうして抱き枕にされているわけだが、まぁこっちも気持ちいいよなそりゃ。彼方のふんわりとした香り、包み込まれるような温もり、肉質の良いカラダ、まさに極上の少女。こうして一緒に添い寝しているだけでも男としてのステータスが爆上がりしそうだ。

 

 

「こうして零さんに添い寝してもらうのが一番気持ちいいよ~。あぁ~不眠症が治る音がしてる~」

「俺は状態異常回復スポットじゃねぇぞ……。つうかあれだけSOS感を出してたのにすぐ眠くなるとか、本当に寝不足だったのかよ……」

「もしかして彼方ちゃんが零さんと一緒に寝たいと思って嘘をついたと思ってる?」

「別にどっちもでいいよ。俺が役得なのは変わらねぇからな」

「そうだよね~。でもなんだかんだワガママに付き合ってくれる零さん、彼方ちゃん大好き~♪」

「お前に無理矢理連行されてきただけだ」

「そんなことを言いながらも女の子に寄り添うそのツンデレなところが、みんなが好きになる証拠だよね~」

 

 

 彼方は俺の胸に顔を埋めながら知ったような口で俺の性格を語る。流石は何年も俺のことを追い続けていたこともあり、俺の思考や行動パターンは熟知しているようだ。こんなのほほんとしたマイペース少女に自分の思考回路を読まれているのは非常に癪だが、それも自分への愛ゆえだろうと無理矢理納得しておく。

 

 それに俺にとっては彼方が嘘をついているかどうかなんて関係ない。男として近江彼方という美少女とベッドを共にする。それだけで世界中のあらゆる男よりも優越感に浸れるんだ、悪いことじゃない。

 

 仰向けで天井をぼぉ~っと見上げながら寝ころぶ俺に対し、俺の胸に顔を擦り付けて幸せそうにしている彼方。完全に抱き枕にされている俺だが、こちらとしても彼方の温もりのおかげで掛布団いらずになっている。このままでもぐっすり眠れるだろうが、女の子に抱き着かれた状態ですぐに夢の中に入れるほど俺は人間ができちゃいない。男だからな。

 

 

「あ~でもまだ彼方ちゃんの不眠症が治ってないかも~」

「白々しいなホントかよ……。こうやって一緒に寝てやってるだけでは満足できないのか?」

「むしろ女の子と1つのベッドで寝ているのに、何もしない零さんの方が満足できてないんじゃないの~?」

「お前ら好きだよな俺をその気にさせるの。痴女かっつうの」

「みんな零さんに可愛がってもらいたいんだよ~。もちろん彼方ちゃんもね♪」

 

 

 だったら自分から攻めればいいのに毎回毎回俺を誘惑してその気にさせ、俺から襲わせようとしてくる。果林やしずくの時なんて特に顕著だった。コイツらがドMなのか、愛する人から攻めてきて欲しいのか。どちらにせよ淫乱思考持ちしかいねぇなコイツらの同好会……。

 

 

「他のみんなともエッチなことしたんでしょ? 零さんがいなかった時にみんなで盛り上がったもん。『零さんにどんなエッチなことをされたのか』選手権」

「お前ら練習時間で何やってんだよ……。ま、したっちゃしたけどさ」

「だったら今日は彼方ちゃんの番だよね~。どうする? おっぱい触る?」

「どうして急にビッチっぽくなるんだよ。つうか人をおっぱい魔人みたいに言うな」

「でもこの前保健室では彼方ちゃんの膝枕とおっぱいアイマスクに為す術なかったよね~。しかもしずくちゃんにキスされて、かすみちゃんにあそこをしゃぶられてされるがままだったくせに~」

「あれで興奮しない方が男じゃねぇだろ……」

 

 

 思い返してみればあの時は男としてはかなり情けない姿を晒していた気がする。女の子たちに攻めるだけ攻められてM男と言われても仕方なかったが、性的欲求を満たす快楽に浸れるならば多少の羞恥心は捨ててもいいと思っている。所詮この世は気持ちよくなったもの勝ちだからな。

 

 

「零さんから来ないならこっちから行っちゃうもんね~」

「うおっ、柔らかっ!? やっぱり下着は付けてないのか……」

「寝る時まで着けてたら寝苦しくて気持ちよく眠れないからね~。それに零さんにすぐ脱がされるんだから着ける必要もないでしょ?」

「お前らって俺を性犯罪者か何かと勘違いしてるよな……」

「だって零さんって興奮してるとすぐ分かるんだもん。ほら、今も……」

「な゛っ、お前……っ!?」

 

 

 彼方は自分の脚を俺の脚と脚の間に滑り込ませてきた。それだけではなく、脚を動かして俺の下半身を摩るように刺激する。まるで手慣れたかのようなテクニックだが、よく考えてみればベッドは彼方にとってはお得意の戦場だ。だからベッドはコイツの独壇場になるのだが、まさかコイツ最初からこれを想定していたんじゃねぇだろうな……?

 

 

「大きくなってるってことは、もう準備OKってこと?」

「男の生理現象だ。女の子におっぱいを押し付けられながら誘惑されて反応しない奴はいねぇだろ」

「彼方ちゃんでもしっかり反応してくれてるんだね~。どうする? このまま脚で刺激して射精()しちゃう?」

「女の子の脚でイくようなことがあったらもう肉食系男子の名前返上するぞ……。お前もM男が恋人なのはイヤだろ?」

「う~ん、でも赤ちゃんプレイさせてくれるのならそれでもいいかもね~。零さんに膝枕とおっぱいアイマスクをしてクセになっちゃたのかも……」

「残念ながらそんなプレイには興味ないな」

「だったら秋葉さんに零さんを赤ちゃんにする薬でも作ってもらおうかなぁ~」

「それだけはやめろ」

 

 

 アイツだったら面白がって作りかねないけど、思い返してみれば俺って一度赤ちゃんになってんだよな。その時は楓が一時的に母乳が出る薬まで飲んで俺の世話をしてくれたらしい。その時の記憶はないが、客観的に見て自分が赤ちゃんプレイしてる光景なんて共感性羞恥で見てられねぇよ。

 

 そんなプレイをさせられそうになっている中、彼方は未だ脚の動きを止めることはない。定期的に微妙な振動を加えられているせいで俗に言う『甘イキ』現象が発生しそうで、平常心と性的快楽を交互に行き来している状態になっている。この前の保健室の一件でもそうだけど、コイツって誰かに甘える能力もあるけど甘えさせる能力も高いよな。マイペースなくせに男の欲求を揺さぶるポイントを掴んでいる恐ろしい奴だ。

 

 

「おっぱいを触ってくれないと、彼方ちゃん眠れないよ~不眠症継続だよぉ……」

「まだその設定続いてたのか……。そこまで言うのなら――――」

「あっ……」

 

 

 ずっと彼方に優位を保たれているのも気に食わないので、俺は彼女の胸をネグリジェの上から触ってやった。

 当たり前だけど、物凄く柔らかい。これまでの人生幾多の女の子のおっぱいを触ってきたが、やはりこの感触に勝るモノは存在しない。男の大きな手にフィットする女子高生の平均よりも大きい胸。指を動かしていないのに食い込んでしまう柔軟さ。それに夜のベッドという雰囲気も相まっておっぱいを触っているだけなのに興奮を煽られそうだ。

 

 ていうかこの夏に再会してから初めてレベルで彼方がメスっぽい表情をしているのを見た気がする。裸を見られたり自分から押し付けるのは良くても、好きな男に触られるのは流石のコイツでも恥ずかしいらしい。

 

 

「ようやくそういう顔を見られたよ」

「い、いや~まさかいきなり触ってくるとは思わなくて――――んっ、もう喋ってる時に揉んだらダメだよ~♪」

「いや襲ってもいいって言ったのはお前だろ? つまりいついかなる時でも自分のカラダを差し出す覚悟があるということに他ならない。違うか?」

「うんうん、そうだね~。ようやくスイッチが入ってきたみたいで彼方ちゃんもちょっと興奮しちゃうなぁ~♪」

「お前でも興奮するんだな。てっきり不感症か何かかと思ってた」

「心外だな~。彼方ちゃんだって零さんのことを想ってオナニーすることあるんだよ~」

「そういうこと堂々と言うもんなお前。図太くて羨ましいよ……」

 

 

 普段はのんびりしているけど、実は淫乱ちゃんで俺を誘惑することにも躊躇いはなく、自分の性生活すら恥ずかし気なく赤裸々に語れる。今までたくさんの女の子を手に入れてきたけどこんな奴は初めてだ。だからこそさっき赤面している表情を見た時に物珍しく感じたんだろうな。

 

 そして彼方のそんな弱い面を見たからこそ、俺の中の嗜虐心が高鳴ってくる。これすらも彼女の策略なのかもしれないが、相手に性的欲求を煽られようが自分で高めようが関係ない。さっきも言った通り、性欲なんて下品に貪り食って快楽に浸れたもの勝ちなんだから。

 

 

「あっ、ん……もう、強く揉み過ぎだよ~?」

「あれだけ誘惑しておいて今更抵抗はなしだろ」

「でも抵抗する女の子を甚振るのが零さんの好みだよね? 肉食系男子こわいなぁ~」

「俺はサディストであっても鬼畜じゃねぇからな? 女の子が本気で嫌がることはしねぇよ」

「でも零さんを好きになった女の子って、零さんがすることに対して抵抗とか全然しないよね~。それだけ零さんのことが大好きで、エッチの時も安心できるからじゃないかなぁ~」

「急に冷静な分析やめてくれるか? なんか恥ずかしくなって興醒めしそうなんだけど……」

「あはは~ゴメンね~♪」

 

 

 こっちがその気になってるのに一気に現実に引き戻された感じがして少々萎えたんだが、それで鳴り止むほど俺の興奮は小波ではない。むしろまだ余裕そうな彼方を見て、その顔を羞恥に色塗られた真っ赤な色に変えてやりたいというゾクゾクとした感情が煮えたぎる。ていうか俺をその気にさせたら歯止めが効かなくなることくらいコイツは知っていると思うので、だったらもう何をしても問題ないだろう。

 

 そして俺は未だホールドしてくる彼方の拘束を引き剥がし、その勢いで彼女に覆い被さる。

 

 

「零さん……?」

「そんなボディラインが出るネグリジェを晒し、俺に胸を揉ませ、脚であそこを弄り倒す。もう我慢はできねぇぞ?」

「うん、待ってた……」

 

 

 のんびりのほほん勢の彼方とは思えないくらいの妖艶な表情。その表情が俺の性的欲求を更に刺激する。コイツは俺のモノなんだ、俺の性欲全てを受け入れてくれるんだ……と、ヤンデレもビックリの独占欲まで沸き上がってくるくらいだ。さっき自分で自分のことを『性欲塗れのサルじゃない』とか『性犯罪者じゃない』とか言ってきたが、傍から見たら今の俺の興奮具合は間違いなくその類だろう。

 

 だからなんだって言うんだ。俺のことを待っている女の子を喰らう。男にとってこんなにも満たされることってあるかよ。

 

 

「彼方……」

「零さん……んっ……」

 

 

 夜のベッドという雰囲気最強の中、俺と彼方は唇を重ねた。

 結局この夜はお互いに性欲が高ぶり過ぎて、彼方の寝不足は結果解消されなかったことは言うまでもない。

 




 零君が言っていましたが、彼方って甘えさせてもくれそうだし甘えてもくれそうな良いキャラをしています。母性もありつつ幼さもある見た目なのでどっちのキャラでもOKって感じがしますね。
 皆さんは彼女に甘えたいか、それとも甘えられたいどちらですか?


 ちなみに今回の彼方が本当に寝不足だったのかは彼女のみぞ知る……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

高咲侑は自覚する

 今回は珍しく侑の個人回で彼女視点でのお話です。



「零さん! 彼方先輩とエッチしたって本当ですか!? こうなったらかすみんも……!!」

「おいここ部室だぞ!? つうか彼方、あのことをむやみやたらに言いふらすなよ!!」

「え~でも自慢したいじゃ~ん」

「零さん、私の時はそんなロマンティックじゃなかった。今度は兄妹でラブホテルに入ったシチュエーションでエッチしたい」

「愛さんも零さんを家に招待したいな~。今まで学校でしかそういうことをしたことなかったからさ、家ならもっと激しくできるっしょ?」

「分かったからお前らくっつくなって!! もうすぐ練習だろ早く着替えに行け!!」

 

 

 相変わらず同好会のみんながお兄さんとじゃれ合っている。先日『お兄さんに色々なことをされた選手権』が開催されて以降、みんなのお兄さんに対するアプローチがより一層強くなった。最近はお兄さんが部室に来るだけでもこんな感じで、賑やかなのはいいけど話題が話題だからなぁ……。

 

 だからと言って練習が疎かになっているかと言われたらそうではなく、むしろみんなのやる気はこれまでに比べて更に上がっていた。もはやお兄さんという存在だけでみんなのメンタルケアは完璧で、テンションが高すぎて逆に私がみんなのノリについて行けなかったりもする。

 

 それにしても、毎度毎度あそこまでお兄さんにアプローチしてよく飽きないよなぁ~って。別にお兄さんに魅力がないわけじゃないけど、私からしたらあれは過剰すぎるくらい過剰だ。まあこの学園には私のような考えを持っている人がいないから私の方が非常識になるんだけどね……。

 

 

「侑ちゃんどうしたの? ため息なんてついて……」

「いやお兄さんは相変わらずお兄さんだなぁ~って」

「うん……? 侑ちゃんって零さんのこと嫌いなの?」

「えっ? べ、別にそんなのじゃないけど、何て言うか凄く変わった人だから自分の中の常識とか価値観が根底から覆されそうで……。お兄さんがいる日常に慣れてはきてるんだけどね。慣れたら負けな気もするけど……」

「あはは、なんとなく言いたいことは分かるよ。でも零さんのことをもっと知って仲良くなれば、そうやって悩むこともないと思うよ」

「そうなのかなぁ~」

 

 

 思い返してみればお兄さんと一緒にいることは多いものの、プライベートで出かけたことは一度もない。それどころかSNSで連絡し合う時も事務的なことばかりで、他愛もない世間話をするのはこうして学園内で顔を合わせた時、しかも作業の合間合間に少し話すくらいだ。別にお兄さんとの会話に躊躇するとか緊張するとかはなくて、ただ単にそういったビジネスライクの関係なだけ。だからお互いに避けているとかもないから安心して欲しい。

 

 あぁ、なんか最近こうやってお兄さんのことを考える時が多い気がするなぁ。日常的に特定の異性のことを考えるのは『恋』の証ってよく言われるけど、私に限ってそれはないよね。だって今も特別お兄さんを好きだとか思ってないし、思ったこともない。外見はカッコいいし頼りになるとは思うけど、それとこれとは話が別だから。みんながあそこまでお兄さんに惚れる理由が私には分からないってだけだ。

 

 

「そうだ、次の休日だけど侑ちゃん予定空いてる? 気分転換に一緒にお出かけしない? 侑ちゃん最近できた洋服店に行ってみたいって言ってたから、ちょうどいいかなぁって思って」

「お出かけかぁ……。うん、いいね。行こう!」

「決まりだね。じゃあ時間と集合場所はまた連絡するよ」

「うん、よろしく!」

 

 

 そうだよ、たまにはお兄さんのことなんて忘れて休日を謳歌しよう! お兄さんが学園に来てからというもの私の周りではお兄さんがいてもいなくてもこの人の話題に事欠かず、そのせいでお兄さんがいない時でもその影がちらつく始末。

 

 学園は支配されてしまってるけど私の日常だけは完全に浸食されてたまるものか。ずっと脳内にちらつくお兄さんを頭の片隅からすらも消し去って、私のクリーンな日常を守り抜いてみせるぞ!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あれ、侑?」

「お兄さん!?」

 

 

 事前に歩夢から連絡されていた待ち合わせ場所。そこに現れたのは歩夢ではなくお兄さんだった。お互いにプライベートで街中で会うことが今までなかったためか、私もそうだけどお兄さんも驚いているようだ。

 

 でもたまたま通りかかっただけ……だよね??

 

 

「どうしてお前がここにいる? 歩夢に呼ばれて来たんだけど……」

 

 

 ぜっっっんぜん違ったぁあああああああああああああああああ!!

 ていうか歩夢ぅ~騙したなぁあああああああああああああああ!!

 

 と、とりあえず落ち着こう。恐らく歩夢が変な気を使って私とお兄さんをこうして巡り合うよう仕向けたに違いない。お兄さんも歩夢に私と同じ手口で誘い込まれたのだろう。そういえば歩夢『零さんのことをもっと知って仲良くなれば』って言ってたような……。それによく考えてみれば私と歩夢の家って隣同士だから、街中で待ち合わせる意味ないじゃん。完全に騙されたよ……。

 つまり、私とお兄さんがプライベートで一緒に過ごせるように仲介役になったってことか。余計なお世話って言葉をこれほど活躍させられる場面は初めてだよ……。

 

 スマホを見てみると歩夢からメッセージが来ていた。

 

 

『騙すようなことしてゴメンね! でも零さんはとっても素敵な人だから、1日一緒にいれば絶対に印象変わるよ! それで侑ちゃんの悩みが解決すればいいな……』

 

 

 文面を見る限り悪気はないみたいだし、それに私が悩んでいると思って歩夢なりに助けようとしてくれているらしい。悩みというか気になってるくらいで全然深刻じゃないんだけど、ここまで心配をかけちゃった私も悪いよね。

 

 勢いのまま返信しようとしたけど、歩夢の気遣いを好意的に受け取ることにしたので『頑張ってみるよ』の一文だけ書いて送った。

 

 

「お前の反応を見るに、歩夢が狙って俺たちを会わせたみたいだな」

「まぁ、そうですね……」

「どうする? 帰るか?」

 

 

 驚いた、意外と淡々としてるなぁ~って。もしかしたら自分と一緒にいたくないだろうって思われてる?

 別にそんなことはないし、なんならお兄さんのことを知るいい機会だ。巡り合わせは突然だったけど、せっかく2人でお出かけする機会が舞い込んできたんだからそれを利用しない手はない。それに歩夢も私とお兄さんの距離が近づくことを願っているみたいだし、幼馴染の好意を無駄にしないためにもここは流れに乗らせてもらいますかね。

 

 

「いや、行きましょう。私行きたい洋服店があるんですけど、1人でも行くのもアレなので付き合ってください」

「………言っとくけど金は出さねぇからな」

「もちろん分かってますって。むしろそんなことをされたら恋人同士っぽくてイヤじゃないですか? なんとなく」

「可愛く媚びてくれたら考えなくもない」

「ノーセンキュー!」

 

 

 そんな感じでお兄さんとのお出かけが唐突に始まった。

 流石にこれはデート……ではないよね? そう、これは人間観察。お兄さんという珍獣の生態を私が観察して評価するだけだから、決してデートではない。そもそもデートっていうのは恋人同士とかお互いに惹かれ合っている者同士でお出かけすることで、ビジネスライクの関係である私たちには到底似合わない言葉だ。だから断じてデートではない!

 

 そうやって自分に言い聞かせ、私たちの()()()()がスタートした。

 歩き始めるとどちらかが少し前に出たり後ろに下がったり、歩きの()()()()()()()ところが私たちの関係を如実に表している。この調子で今回のお出かけ楽しめるのかな……?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「うわっ、意外と高い……。噂には聞いてたけど高校生にはちょっとハードルが高いかなぁ……」

 

 

 お兄さんを引き連れて例の洋服店へとやって来た。早速気になっていたブランドの服を見てるけど、その値段を前にして購入を躊躇われてしまっていた。よくあるんだよね、家でカタログを眺めている時は少々値が張っても買おうと決意を固めているのに、いざ実際の商品を目の前にすると怖気づいてしまう現象。今がまさにそうで、変えないこともないんだけどバイトをしていない自分にとって財布に大きな痛手となる。そう考えると躊躇しちゃうんだよね……。

 

 その時、店に張られていた広告POPが目に入る。そこには『本日限定! 恋人同士でお会計すると全商品30%OFF!』と書かれていた。

 

 

「30%OFFって結構な割引だな。もしかしてあれが適用されれば現実的な値段になって買えるんじゃねぇか?」

「えっ、あっ、そ、そうですけど……。でも私のためにお兄さんに彼氏役をしてもらうのは申し訳ないと言いますか……」

「別にいいぞ」

「ふぇ?」

「会計の時に一緒にいればいいだけだろ? それくらいだったら別にいいだろ。逆にお前はどうなんだよ? フリとは言え俺の彼女役をすることになるんだぞ」

「私は……まぁ、これだけ安くなるのであれば全然やりますよ」

「決まりだな」

 

 

 まさかお兄さんと一緒にお出かけするだけじゃなくて恋人ごっこまですることになるとは……。自慢でもないしむしろ負け組の類なんだけど、私って男の人と2人でショッピングとか、そういう甘酸っぱい青春みたいなことを一切経験したことがないんだよね。だからフリとは言えかなりドキドキしてしまう。店員さんに怪しまれず会計することできるかな……?

 

 そして私は買うか迷っていた洋服を手に取ってレジへと向かう。

 カップルのキャンペーン中に若い男女2人がレジへ来るってことはそういうことだとレジの女性店員さんも全てを察したようで――――

 

 

「お二人は恋人同士ですか?」

「は、はい……」

 

 

 店員さんが明るい笑顔で聞いてくるものだから返事が吃ってしまった。

 恋人のフリをする展開はアニメや漫画でもよくあるけど、いざ自分がその立場になると意外と緊張するなぁ……。逆に女の子とデートをしまくっているお兄さんならこういうのは慣れてそうだ。でもこのキャンペーンを利用しているのは私だし、お兄さんに頼らず自分の力でこの場を切り抜けないと……!!

 

 

「それではキャンペーンの活動の一環として、お二人を撮影しちゃいますね♪ ラブラブっぷりをたっぷり見せつけてください♪ ちなみに拒否されますと割引キャンペーンは適用されませんので♪」

「「はい……??」」

 

 

 私とお兄さんの声がハモる。そりゃそうだ。だって記念撮影が必要とか広告POPには一切明記されていなかったんだから。

 でもここで『本当は偽の恋人で、服を安く買うための嘘だった』なんて店を騙すつもりだったことは口が裂けても言えない。だったら私たちの成すべきことは1つなんだけど、男の人と写真なんて撮ったことないから超緊張する……!! それにラブラブって、一体なにをすればいいの……!?

 

 

「おい、早くこっちに来い」

「きゃっ!? お、お兄さん……? って、えぇぇっ!? こ、こんなくっつかなくても……!!」

「黙ってろ。怪しまれるだろうが」

 

 

 お兄さんに腕を引っ張られたと思ったら、なんと正面からお兄さんに抱き着く形で抱きしめられてしまった。当然男の人とお出かけするのも初めてであれば一緒に写真を撮ったこともなく、そんな青春を置き去りにしてきたような私がいきなり年上の男性と抱き合うだなんて刺激が強すぎる……!!

 

 いつもは女の子にセクハラ紛い、いやセクハラな言動を見せるお兄さんだけど、不思議なことにそんな人に抱きしめられても嫌悪感は全然ない。自分でもどうしてか分からないけど、こうしてお兄さんに包み込まれていると何故か安心できる。そりゃ他の知らない男性に比べたら知っているお兄さんの方が心は許せるけど、なんだろうこの感じ……。

 

 お兄さんの手、意外と大きいんだな……。男性だから当たり前だけど、その手で力強く引っ張られた時は驚きながらも少しドキッとしてしまった。それに私を抱きしめている力も強く、お兄さんに守られているという謎の安心感が生まれている。現にさっき店員さんに写真撮影をすると言われた際はお兄さんも戸惑っていたけど、その後は偽の恋人だと怪しまれないよう臨機応変に対応し始めた。対して私は戸惑いっぱなしだったので、そう言った意味では本当に守ってもらっているのかもしれない。

 

 それになにより、お兄さんって暖かいんだなぁ……。

 

 

「俺に引っ付くのはイヤだと思うけど今だけ我慢しろ。あとで甘いモノでも奢ってやるから」

「そ、そんな! 私がやるって言い出したので何もお兄さんが気を使うことでは……」

「あっ、もうシャッター押されそうだぞ。黙って俺に抱き着いとけ」

「は、はいっ!」

 

 

 いつも強引な言動が多いしなんなら今もそうだけど、だからこそ頼りになるんだよね。今それを存分に理解することができた。今までは贔屓目で魅力があり()()とか頼りになり()()とか言ってたけど、それが確信に変わるなんて思わなかったよ。歩夢たちがお兄さんに惹かれる理由が少しわかった気がするな……。

 

 その後は何事もなく恋人証明の記念撮影をし、無事に服を割引で購入することができた。できたことは非常に喜ばしいけど、それ以上にお兄さんと抱き合っている写真を撮られた衝撃の方が大きかったりもする。しかもその写真まで貰っちゃって、これ絶対に他のみんなには見せられないな……。『なんだかんだ零さんと仲いいじゃん!』ってからかわれそうだし……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ん! このクレープ美味しいです!」

「そりゃ良かった。お前、歩夢とそういうのを食べてる写真をよく撮ってるから好きだと思ってさ」

 

 

 洋服店を出た後、お兄さんの誘いで大きな公園へとやって来た。そこの出店で売られているクレープが女性に人気らしく、お兄さんの奢りで食べてみたんだけど‥‥…そりゃもう美味しいの一言に尽きる。小学生並みの感想しか出てこないのがその証拠。甘いモノ好きの私にはドストライクのクレープで、永遠のリピーターになってしまいそうなほどだ。

 

 ちなみにお兄さんの奢りと言っても私から強請ったのではなく、さっき無理矢理私を抱きしめたことに対するお詫びらしい。だけど知っての通り抱き着かざるを得ない状況を作ったのは私なので奢ってもらうなんて悪いって言ったんだけど、『だったら男として奢らせてくれ』と割と真剣めに言われて渋々従った。なんか今日のお兄さんって妙に優しいと言うか、男っぽいんだよね。いつもは傲慢で自意識過剰、唯我独尊で高飛車、自己顕示欲の塊で自分が世界で一番偉いと思っているナルシスト、あと変態さんなのに、今日は普通にカッコいいところしか見せていない。なんだかこっちの調子が狂っちゃうよ……。

 

 

「そういえばよくこんな美味しいクレープ屋さん知ってましたね。こういうの好きなんですか?」

「いや、歩夢も甘いモノ好きだろ? だから連れて来てやろうと思ってたんだ。まあ結局アイツの策略のせいでお前を連れてくることになっちまったけどな。でも喜んでくれたのなら俺も嬉しいよ」

「ふ~ん……」

「なんだよ?」

「いや、意外と歩夢とのデートプランを考えていたんだなぁ~と思いまして」

「そりゃ男としてはある程度な。まあいつもは女の子が行きたいところを中心として、俺は付き添いみたいな感じだけどさ」

 

 

 デートをする女の子の好みに合う計画をちゃんと立ててるんだと感心してしまった、上から目線だけど。私の中でのお兄さん像って『俺こそ正義!』みたいな人だから、もっとグイグイ引っ張っていくタイプかと思ってたけどデートの時は女の子に合わせるらしい。そう考えてみると今日もそうで、服選びも手伝ってもらったし、私が甘いモノ好きだと知ってクレープ屋に連れてきてくれた。だけどピンチの時にはしっかりと先導してくれて……って、なにそれ完璧じゃん。これは歩夢たちが惚れるわけだ。

 

 

「それにお前いつも頑張ってるからな、たまには指導者として労ってやらねぇと」

「お兄さんがこんな気遣い上手だなんて、別人を見ているかのようですよ」

「おいおい、俺は可愛い女の子と夢に向かって走る子だけには優しいぞ? お前はそのどちらにも当てはまっている。つまりお前は俺の隣にいるに相応しい奴だってことだ。だからこそ労うんだよ」

「ぷっ、なんですかそれ!」

「笑うところか……? 俺は至って真面目なんだけど……」

「本当に面白くて変な人ですね、お兄さんって♪」

「褒めてんのかそれ……」

「過去にないほど最大級に褒めてますよ!」

 

 

 あぁ、こりゃダメだ。お兄さんとのこのひと時と楽しいと思っている自分がいる。歩夢に騙された後に帰らずお兄さんと出掛けることにしたのはお兄さんの本性を知ろうとしていたからだけど、まさか自分がお兄さんに惹かれて取り込まれてしまうとは……。確かにこれは歩夢たちがお兄さんとのデートを楽しみにする理由が分かる。またデートしたいと思ってしまうよね、これだと。私もそうだもん、不覚にも。

 

 

「褒めるのはいくらでも歓迎だけど、俺のいいところを探そうとするとすぐに惚れるぞ。精々気を付けるんだな」

「それはないですね~。歩夢たちじゃあるまいし」

「そういや秋葉の奴も言ってたよな。お前は俺を好きになる素質がないって。ま、人の気持ちなんて流動的だからいつかは歩夢たちみたいになるかもしれないぞ」

「そうなったら虹ヶ咲学園はもう終わりですね。最後の良心である私までお兄さんのモノになったら、それこそ誰がお兄さんの面倒を見るんだって話ですし」

「面倒って、母さんかよ……」

 

 

 出会ってから早1ヵ月以上、誰がツッコミを入れてきたと思ってるんだこの人は……。私がいなかったらあらゆる話がめちゃくちゃになってたよね絶対に。だから私まで堕ちるようなことはできないし許されない。そう、学園の秩序と常識を1ミリでも死守するためにもね。

 

 そう考えると、お兄さんの側にいるのってなんだかんだ居心地がいいんだと実感する。今でも学園の全ての女の子たちを手にする楽園計画なんて認められないけど、その主がお兄さんなんだったらアリなんじゃないかと思い始めるくらいに……。あぁ、もう完全に毒されてるな私。いつもとは違うお兄さんの一面を知ってしまったせいかもしれない。これだけ女の子のことを考えて大切にできる人なら……ね。

 

 

「どうしたニヤついて気持ち悪い」

「えっ、そんな顔してました?」

「してた。なんか悟ったような感じだったけど」

「あぁ~まぁそうですね。お兄さんってやっぱりお兄さんで、でも私の知らないお兄さんもいたんだなぁ~って」

「なんだよそれ。でもゲシュタルト崩壊しそうなくらい俺のことを考えてくれてたのか。俺を好きでもないお前にしちゃ珍しいな」

「そうですよ珍しいし、迷惑ですよ。ふふっ、本当にいい迷惑……♪」

「ん? 何か言ったか?」

「なんでもないで~~す!」

 

 

 自分の中でお兄さんに対する考えが改まってきている。正直歩夢たちがお兄さんを美化し過ぎていると疑ったこともあったけど、今日だけで印象が大きく変わった。デートの時は女の子に合わせてくれるし、女の子の好みを知ったうえで自分なりの計画も立ててくれるし、いざという時は男を見せてくれるし、何気ない会話でも冗談を言い合いに付き合ってくれるし、一緒にいるだけでも楽しいし――――いやぁこんなことをされたらお兄さん以外の男性とお付き合いできなくなっちゃうなぁ……参った参った。

 

 

 本当に……参ったな。

 

 

「そういや次はどこへ行くんだ。残念ながら俺の用意したプランはここくらいしかないから、お前が決めてくれ」

「そうですね……あっ、そうだ、部屋の模様替えをしたいから、絨毯や壁紙、カーテンも欲しいと思ってたんですよ! それにピアノの練習のために新しい参考書も欲しいし、あとは――――うん、奢ってもらいたいものが多すぎて決められないですね~♪」

「おいっ! さっきは奢る必要はないって言ってただろ!? どうして急に俺の財布に狙いを定めた!?」

「えぇっと、媚びればいいんですよね?」

「へ……?」

 

 

 私は立ち上がると、お兄さんに向かい合った。

 

 

「ほらほら、()()()はまだこれからですよ! 今日は私の満足が行くまでしっかりエスコートしてくださいね!」

 

 

 恐らくこれは媚びではなく本心。認めるしかない、お兄さんに惹かれつつあることを。もちろん好きとかそういうことじゃなくて、人間として、男性として魅力的だからってことだから。これは『恋』ではない……と思う。友達以上、恋人未満。うん、それだ。そうに違いない。

 

 そうなんだけど、私の心はずっと高鳴っていた。

 

 

 お兄さんは小さく微笑んで立ち上がる。

 そして、私とお兄さんは()()()歩き始めた。

 




 変態要素が一切ない綺麗な零君を描いたのって何年ぶりだろう……(笑)
 虹ヶ咲編では歩夢たちが既に零君LOVEモードなので、彼に対する心境の変化を描けるのが侑しかいないんですよね。だからもう1人の主人公としても彼女の存在は貴重です。

 そうは言ってもアニメでイケメンムーヴをしていた侑を女の子として堕としたいだけなんですけどね(笑) でも侑は容姿も可愛いし、そういった展開を望んでいる方は私の小説の読者さんであれば決行を多いと思います。

 そういえば今週末からスーパースターのアニメがスタートしますね。
 ぶっちゃけキャラの情報とか全く仕入れてないので、どんな可愛い子が出てくるのか楽しみです!


高評価をくださった

シロナガシさん

ありがとうございました!
小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

愛と誘惑のピロートーク

 今回は愛さん回。
 いつもの個人回とは違ってピロートーク、つまり事後描写となります。いつも事前描写ばかりなのでこういったのは新鮮かと。

 あとは髪を降ろした愛に誘惑されたいって欲望のまま執筆しました(笑)



「ん……こ、ここは……?」

「あっ、起きた?」

「愛……?」

 

 

 鳥のさえずりが聞こえ、カーテンの隙間から光が差し込んでいる。どうやら朝らしい。

 らしいって言うのは寝る前の記憶が曖昧だからだ。何故目の前に愛がいるのか、どうして自分の部屋ではない場所で寝ているのか、寝惚けて脳の回転が鈍いせいかすぐに思い出せない。それに今の俺の格好……シャツ1枚って超薄着だな。つうかパンイチじゃねぇか情けねぇ格好してんな……。

 

 しかし、愛の姿をよく見てみると彼女もシャツ1枚だった。しかも明らかにサイズが合っておらず、ちょうど彼女の股の部分が隠れるくらいの大きさだ。そして俺と同じくシャツ以外は何も着ていないので、その綺麗な生脚が惜しみなく晒されている。ていうか裸にシャツ1枚、いわゆる裸ワイシャツの女の子って初めて見たレベルだけど物凄くエロいな……。しかもいつもと違って髪を降ろしているためか普段より大人っぽく見えるので、そのせいでより一層艶めかしく感じられた。

 

 それよりどうして俺も愛もこんな格好なんだ。これじゃまるで事後みたいじゃねぇか……。

 

 

「ありゃ? もしかして昨晩何があったのか忘れちゃった感じ?」

「悪い、寝惚けているのも相まって思い出せない」

「でもまぁ仕方ないよ。あれだけ愛さんを愛してくれたんだから。愛だけに♪」

「いやそういうギャグはいいから……」

「ホントだよ? 零さんもう興奮の極限で自我を失いそうな状態だったから、そりゃ力尽きて記憶が飛んじゃうのも無理ないよね~」

「まさかとは思ったけど、本当にやっちまったのか俺たち……。いや待て、少しずつ思い出してきた……」

 

 

 脳が徐々に覚醒してきたので記憶が蘇ってくる。そうだ、俺と愛は一線を越えたんだった。

 昨日練習後に愛から『親が翌朝まで出かけてるから家に遊びに来てよ』と誘われて、コイツの家で一晩過ごすことになったんだ。そしていざ寝るぞってなった時にコイツに誘惑されてムラついて、そしてカラダを重ね合わせた。その時の俺はいつも以上に性欲に従順で、さっき愛も言っていた通り興奮の絶頂に達していた記憶がある。今思い返すと思春期の時よりも遥かに性欲に囚われたサルになってたような……。

 

 

「零さんってば激しかったんだから。誘惑したこっちも悪いんだけどさ、まさか初物に対して手加減無用で攻めてくるとはねぇ~」

「初物って、別に俺とやるのは初めてじゃねぇだろ……」

「だって夜に零さんと2人きりで、しかも自分の部屋のベッドの上なんだからちょっとはロマンティックな雰囲気を味わいたいじゃん? なのにガンガンに突いてきて腰外れちゃいそうだったよ♪」

「それにしては嬉しそうだけどな。つうかお前、普通に気持ち良さそうに悦んでただろ。近所に喘ぎ声が聞こえるレベルだったぞ」

「も、もうっ! それは恥ずかしいから言わないで!!」

 

 

 なんか俺だけが乱れていたみたいな口振りだが、コイツもしっかりと性欲の虜になってたからな? 被害者ヅラしてるけど性に溺れていたのは俺だけではない。こう言っておかないとまるで俺が性欲に負けて襲い掛かったと思われ兼ねないから。

 それに俺よりも乱れていたのは愛の方だ。これでもコイツら虹ヶ咲の面々以外の子とも関係を持ってる身。経験の差を舐めんなよ……。

 

 

「それにしても、零さんって意外と容赦ないんだね。カナちゃんやせっつーたちにも同じことしてたの?」

「当たり前だ。目の前に裸の女の子がいて、俺が攻め立てるたびにエロい声を上げる。自分がコイツを支配しているんだってゾクゾクとした感覚。そうなったらもう自分を抑えきれなくなる」

「相変わらずの肉食系だね~。ま、愛さんたちはそんな零さんが大好きなんだけどさ♪」

「そりゃどうも。でも俺が性欲に苛まれるのもお前たちに魅力があるからだ。そうでなきゃあそこまで無様に興奮したりしない」

「それは喜んでいいんだよね?」

「あぁ。本気を出した俺とヤれるなんて光栄に思え」

「あははっ、いつもながら凄い自信。でも可愛がってくれるって分かってるからこそ愛さんたちも誘っちゃうんだよね」

 

 

 そうやって自分で自分をよいしょしているが、ぶっちゃけると俺の方が感謝すべきだろう。なんたってこんな美少女たちと望めばいつでもヤれるんだから。むしろ女の子たちの方から誘惑してくるので俺の方から何かアクションを起こす必要もない。待っていれば女の子たちがやって来て、俺さえやる気になればすぐさま気持ちよくなれる。そんな素晴らしい生活があるのかと疑いたくなるが、現に俺の世界はその夢が現実となっている。そんな極楽浄土の世界を堪能できるのはコイツらのおかげでもあるので、だからこそ感謝すべきなのは俺の方なのだ。

 

 そんな優越感に浸っていると、愛がベッドメイクし始めた。昨日あれだけ暴れ回ればそりゃシーツも布団もぐっちゃぐちゃになるだろう。だけどそれ以上に気になったのが――――

 

 

「なんか湿ってねぇかこのベッド。起きた時から思ってたけど、少し居心地が悪いな」

「それはまぁ色んな液体が飛び散ってるからねぇ……」

「あぁ、なるほど。お前相当乱れてたもんな。はしたない」

「それは零さんもでしょ! 中で出したり外で出したりもうカラダのあらゆるところがベトベトになっちゃったんだから! そのせいで朝早起きしてシャワーを浴びるはめになったんだからね。もうっ、自分のことを棚に上げないで欲しいよ」

「そんなことしてたっけなぁ~」

「うわっ、エッチの時の記憶がないとかそれもう本当にお猿さんじゃん……」

「冗談だ。忘れられるはずねぇだろあんな濃厚な夜……」

 

 

 女の子の家で、女の子のベッドの上で、その子と性欲を貪り合うのがなんだかんだ己の欲を一番引き出せる気がする。漫画喫茶のような一歩外に出れば他の人に会ってしまいそうな背徳的な場所や、ホテルのようなお色気ムード全開な場所でももちろんいいが、女の子の自宅だとその子の生活環境の諸共を支配しているような感覚に陥るのでサディストにとっては満足できる。まさに俺がそうだ。

 

 そうやって昨晩の余韻に浸っている間にも、愛は慣れた手つきでシーツや布団カバーを交換していく。見た目は完全にギャルなのに家事スキルは高く、得意料理は肉じゃがという熟練の主婦のようだ。遊んでいそうな派手な見た目なのにも関わらず、中身は意外と家庭的というそのギャップが唆られるポイントなのかもしれない。コミュニケーション能力も高ければ運動も万能、成績も超優秀でエッチも上手い文武両道の天才娘。そう考えるとハイスペックすぎるだろコイツ……。

 

 

「はいっ、仕込み終わり――――って、もうそんなにジロジロ見られたら恥ずかしいって! そんなに愛さんのおしり良かった?」

「そりゃお前、裸ワイシャツでこっちに尻をふりふりされたら誘ってると思っちまうだろ」

「ただベッドメイクしてただけでそれか……。零さんってホントに2人きりになると見境なくなるよね。学園で私たちのコーチをしてくれてる時はちゃんと先生してるのに」

「ふん、むしろ容赦して欲しくないと思ってんのはお前らの方だろ。俺に押し倒されることを望んでるくせによく言うよ」

「あはは、バレた?」

「男と2人きりの状況でそんな格好をして誘ってないと思われないわけねぇだろ……。つうか今気づいたけど、そのシャツ俺のじゃねぇか?」

「そうだよ。洗濯カゴに入ってたのを借りちゃった♪」

 

 

 ということはそのシャツは洗濯されてないってことか。昨日は1日中そのシャツを着ていたため俺のエキスがたっぷりとしみ込んでいるはずだ。なるほど、コイツ最初から狙ってやがったな。そういや昨日風呂に入る前にやたら『零さんの服も一緒に洗濯してあげるからこのカゴの中に入れておいて』って誘導されていた気がする。洗濯もされてない男のシャツを真っ裸の上から着るとか、俺のことを言えねぇくらいの変態だな……。

 

 そんな変態がメイクをしたベッドに勢いよく腰を掛ける。整えられたばかりのベッドに飛び込むのが意外と好きだったりするんだよ。楓からは子供っぽいって言われるだけど、綺麗なモノを自分の手で穢したいのはドSの性である。あらゆる液体で濡れ濡れになり、俺たちが寝ている間に乾燥してかぴかぴになったシーツとは違い、柔軟剤をたっぷり含んだ暖かいシーツは座り心地が最高だ。

 

 気が付けば、いつの間にか愛もベッドに上がり込んでいた。

 そしてベッドの端に腰を掛ける俺の後ろに回り込み、こちらに腕を回して抱き着いて来る。それもフレンチなハグではなく、自分のカラダを俺の背中にベッタリと引っ付けてきやがった。そうなれば当然おっぱいという双丘が惜しみなく押し付けられ、俺の背中で潰れる感触が伝わって来る。裸ワイシャツのせいで下着を着けていないからか胸の柔らかさがほぼダイレクトに感じられてしまう。こういうのに弱いんだよなぁ俺。コイツもそれを知っていて後ろから抱き着いたんだろうけどさ。

 

 

「またそうやって俺を誘うのか?」

「ん~なんかこうしたくなっちゃっただけ。零さんにこうしてぎゅ~ってするの、愛さん大好きだから♪」

「だったらせめて服くらいちゃんと着ろ。でないと押し倒されても文句1つ言えねぇぞ」

「忠告ありがと。でもそれはそれでいいかなぁ~ってね。自分で言うのもアレだけど愛さんって恵まれたカラダしてるじゃん? それを存分に活かさないと勿体ないよ」

「なにそのビッチ思考……」

「零さんとエッチできるならビッチでもいいも~ん!」

 

 

 傍から見ると冷静に会話をしているように見える俺だが、実のところ興奮の高鳴りは十分である。そりゃね、愛のような超絶美少女で蠱惑的なカラダをしている娘に裸ワイシャツで抱き着かれたら誰でもそうなるって。俺の見立てだがコイツの胸サイズは恐らくF~Gカップ。胸が極端に大きいわけではないが身体が引き締まっていて細いため、明らかに胸のサイズと釣り合っていない。そして釣り合っていなければいないほど男の興奮は煽られてしまう。引き締まった腰回りに艶やかで長い脚、細いカラダに不釣り合いな巨乳。男を狂わせるには十分だ。

 

 ちなみに余談だが、F~Gカップを重さに換算すると片玉800グラム~1キロぐらいであり、一回り小さいメロン程度である。想像するとなんとなく大きさと重さを感じられるだろう。しかもそれを2つも所持している。そんな重いモノを持って女の子は大変だと思いつつも、胸の大きさを具体的に表現すればするほど男の興奮度は増すってもんだ。

 

 ここまでで察しが付くだろうが、コイツのカラダは男の目に毒だ。虹ヶ咲学園が女子高だったからいいものの、もし共学だったら大変なことになっていると思う。思春期真っ盛りの男子生徒たちはみんなコイツをオナネタにするだろう。それくらいエロ過ぎるんだよ。しかもコミュ力が高いせいで男子にも無自覚に話しかけたり優しくするだろうから、自分に好意があると勘違いする男子を大量生産するに違いない。最近はサークルの姫を巡って男の血生臭い争いというものがあるらしいが、コイツの場合は姫ではないものの男同士の戦争が行われてもおかしくない魅力を持っている。

 

 

「なに考えてんの?」

 

 

 愛が俺の耳元で囁く。状況が状況、雰囲気が雰囲気なためか声がいつもより色っぽく聞こえた。

 

 

「いや、お前が共学の学校に通ってたら男子生徒の性事情に革命が起きるなぁ~っと思ってさ」

「ぷっ、あははなにそれ! やっぱり男の子って女の子のカラダしか見てないんだね~」

「男だからな、仕方がない」

「でも安心して。アタシの心もカラダも零さんだけのモノだから。アタシを好きにできるのは零さんだけだよ。そんなことくらい分かってるっしょ?」

 

 

 愛は耳元で俺のご主人様気質を煽るような言葉を囁く。どうすれば俺をヤる気にさせられるのか、どうすれば性欲を増幅させられるのか、愛は理解しているようだ。自分のカラダを存分に押し付け、相手の性癖を昂らせるような言葉で誘う。もはやビッチ以外の何物でもないが、別にそれでもいいじゃないか。相手が超エロい美少女なんだから清楚だろうがビッチだろうが関係ない。交わってしまえば同じことだ。

 

 愛からの誘いはまだ続く。

 

 

「それにぃ~、好きにできるのは愛さんだけじゃないよ。まだ成長途中で未成熟なカラダをしてるかすかすやしずく、しおってぃーやりなりー。食べ頃に成長してる歩夢やせっつー。成熟して極上の一品に仕上がっているカナちゃんやカリン、エマっち。みーんな侍らせることができるんだよ。今のアタシみたいにシャツ1枚にすることも、どんな格好でも思い通り。零さんならそんな願いが問答無用で叶っちゃう。それくらいアタシたちは零さんのことが大好きなんだ」

 

 

 女の子を自分のモノにしたいという俺の内なる嗜虐的欲求を呼び寄せられる。普段の快活な声色ではなく少しねっとりとした声なのが余計に性欲を逆立たせる。愛もそれが分かっていて煽っているのだろう。しかも一人称が『愛さん』ではなく『アタシ』になっていることで、自分という存在をより一層俺に印象付けようとしている。2人きりの朝、ベッドの上で後ろから抱き着かれて誘惑するように囁かれたら到底興奮を抑えることなどできないぞ……。

 

 

「アタシから見ても、同好会のみんなって美女美少女ばかりで眩しいよ。だからなのかな、みんなで一緒に帰ったりお出かけしてる時も男の人に声かけられることあるんだよね。今時ナンパなんて流行らないのにさ」

「ッ……!?」

「あははっ! もうそんな怖い顔しなくても大丈夫だって! それか心配してくれたのかな? アタシたちもそうだけど、零さんも負けず劣らず独占欲強いよね」

「ほっとけ……」

「ありゃ、怒っちゃった? その男の人たちを無視したり手荒く対応したりせずに、アマチュアでもアイドルって肩書を守るために悠然と、あくまで笑顔で対応しちゃう私たちに怒ってる? アタシたちが他の男の人に笑顔を向けて、それを指を咥えて見てるしかないと思って怒ってる? でも安心して。さっきも言ったけど、アタシたちは零さんのモノだから。もう手に入れちゃってるんだよ。他の男の人たちが見ただけでお付き合いしたくなるような、思春期の男の子の1人エッチのネタにされそうなアタシたち。瑞々しくて食べ頃な適齢期である女子高生。そんなアタシたちを零さんは自由にできるんだから」

 

 

 一度ストレスを溜めさせ、その後にこっちの立場の優位さを自覚させることでストレスを発散させる。そうすれば行き場のなくなった苛つきが自分へ向き、その勢いで襲ってもらえるというプロセス。実に見事だ。愛の思惑通り、俺は今にも振り向いてコイツを押し倒したい衝動に駆られている。ここまで巧みに男の欲求を乱れさせる誘惑をしてくるなんて、コミュ力抜群で頭脳明晰の愛だからこそできる芸当だろう。

 誘惑するなら自分のエロいカラダを見せつけるだけでも十分のはずだ。でもそこに性欲を煽る言葉を織り交ぜることで男を更にその気にさせられる。もうまんまと愛の作戦に乗せられてるな……。

 

 

「零さん息荒いよ~? 興奮しちゃってるねぇ~」

「お前がそう仕向けたんだろ。当たり前だ」

「でもよく耐えるね。愛さんの見立てだったらもう襲われてる頃なのに」

「まぁ散々ヤり合った朝だからな。動ける体力がない」

「そう。だったら――――」

 

 

 愛は俺の目の前に回り込むと、俺の肩を掴みそのままベッドに押し倒す。そして俺の上に四つん這いになった。シャツのボタンを中途半端に留めているせいか、四つん這いになったことで胸元が丸見えだ。そしてシャツの裾で隠れていてはっきりとは見えないが、どうやら下には何も履いていないらしい。あとは俺の下着を脱がし、愛が腰を降ろせば結合完了となる。

 

 

「こうやって零さんを組み伏せるの、なんだか新鮮かも♪」

「楽しそうだな。ま、好きにやってくれ」

「ありゃ意外。『俺はお前のモノだ』理論でガンガン攻めてくるタイプかと思ってた。昨日の夜だってそうだったから」

「そうでもないぞ。女の子が頑張って動いてくれるのを、こうして下から悠々と眺めているのも好きだ。気持ちよくなろうと、そして気持ちよくさせようと健気に頑張ってる姿を見るのはな」

「もう手練れのセリフじゃんそれ。愛さん以外に何人の女の子を鳴かせてきたのやら」

「言ってもそんなにいない……はず。確かに女の子の知り合いは多いけど、心に決めた女の子としかやらねぇから」

「そういうところだけピュアだよね。だからこそ愛さんたちは惹かれてるんだけどさ」

 

 

 突然押し倒されながらも取り乱さず、冷静に会話を続けている。ぶっちゃけ性欲は再び滾り始めているのだが、どうも身体が動かないのは事実であり、この欲求を発散するには愛に任せるしかない。そもそも夜もやって朝もやるだなんて性に塗れた生活は流石に送ったことがないから、ここまでバテるのは自分自身でも驚いている。これまで1回やっただけで体力を消費することはなかったのだが、昨日はあまりにも愛がエロ過ぎて無駄に体力を擦り減らしてまで欲求を発散してたからな……。

 

 

「私ももう止められそうにないや……。ねぇ、もういい?」

「あぁ。またシーツがびしょ濡れになっちまうな」

「あはは……。だったらお互いに気持ちよくなっても我慢し合うしかないね」

「いや、無理」

「うん、愛さんも。そろそろ行くね……」

 

 

 その後、俺たちは夜もやって朝もやる退廃的な生活を過ごした。

 そしてあまりに性を貪り食うのに夢中になっていたせいか、愛の家族が帰ってくるまでにシャワーを浴びたりシーツの替えが間に合わず、男女の香りを宮下家に振り撒いてしまい2人で焦ったのはまた別のお話。

 




 愛が髪を降ろす描写ってアニメだと合宿中の就寝時にしかないんですけど、私はあの髪型の方が好きだったりします。なので今回はデフォルトでそのスタイルで、しかも裸ワイシャツという私の欲全開の格好をさせてみました!(笑)

 そしてそのドスケベボディを押し付けて、囁くように誘惑する。これも自分の好きなプレイですが、上記の格好を含めこれをできるのは愛しかないと思っています!


 話は変わりますが、『ラブライブ!スーパースタ―』の1話を視聴しました。
 虹ヶ咲の時はアニメに追従する形で小説を更新していましたが、私がスーパースターのキャラをよく知らないのもあり、しばらくは虹ヶ咲編の投稿を続ける予定です。
 メイン5人がしっかり掘り下げられてスクールアイドルを本格的に結成したら……もしかしたら虹ヶ咲編と平行して更新するかもしれません。(あくまで予定)




高評価をくださった

しゅみタロスさん

ありがとうございました!
小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最近ロリ成分が枯渇してるから強制補給される話

 3週連続で割と真面目な個人回が続いていたのですが、今回は超絶ネタ回。
 そして久々にあのキャラたちがゲストで登場します。


「あっ、来た来た! おにーちゃ~ん!」

「えっ、ここあ? こころもいるのか」

「お久しぶりです、お兄様」

 

 

 いつも通り虹ヶ咲学園へ向かう途中、その校門前で矢澤のロリ姉妹こと矢澤こころとここあに出会った。ロリと言ってもコイツらは立派な高校生なんだけどな……。

 そう、コイツらももう高校生なのだ。数年前まではこころは中学1年生、ここあが小学6年生のロリっ子姉妹だったのに、それから4年、今では音ノ木坂学院の制服を纏う立派な女になっている。しかも姉のにこと同じく愛嬌たっぷりの美少女に育ち、音ノ木坂男子からの人気も半端ないんだとか。姉の影響でスクールアイドルをやらないかと各所からスカウトも受けてるらしいので、それだけでも如何にコイツらが魅力的な美少女に育ったかが分かるだろう。まあ本人たちは他の男に興味がなければスクールアイドルのやる気もないみたいだけど。

 

 そんな2人は音ノ木坂生徒なので虹ヶ咲にいるはずがないのだが、反応を見るにどうやらここで俺を待っていたようだ。

 

 

「どうしたこんなところで? 何か用か?」

「うんっ! おにーちゃん、そろそろロリ成分が足りなくなってきて辛い時期だろうなぁ~っと思って」

「はぁ?」

「それで私たちの出番というわけです、お兄様」

「ちょっ、ちょっと待て。全然話が呑み込めないぞ??」

 

 

 いきなり現れただけでも驚きなのに、いきなりロリ成分がなんとか言い出すなんて正気かコイツら? 身体はまあまあ成長してるのに性格だけはホントに変わらないな……

 つうか昔からそうだけどコイツら声がでけぇんだよ。人の往来がある道端とか関係なく俺をロリコン扱いしようとしてくるので周りの目が痛い。おい、まさか今回も……!?

 

 

「おにーちゃんってロリコンじゃん? でももう周りにロリの女の子がいなくなってロリ成分が不足してるでしょ? だから私たちが来てあげたんだよ♪」

「だから声を抑えろ! 俺がロリコン?? なんだその根も葉もない情報は!?」

「えっ、でもお兄様、私たちにぺろぺろされて気持ちよくなったことありましたよね? しかもあの時は私が中学1年生、ここあが小学6年生。そんな私たちにぺろぺろされて果てちゃうなんて、ロリコンさん以外に考えられません」

「そ、それは俺も若かったからで……」

「別にロリコンでもおにーちゃんは変なことをしてくるわけじゃないし、何の問題もないと思うけどなー」

「お前らの中でしゃぶらせたのは変なことじゃないのか……」

「えっ? 男性が小さい女の子の小さなおクチに太いモノを突っ込んでしゃぶらせたいのはごく普通の欲求ですよね?」

「ちげぇよ!! どんな性教育受けてきてんだお前ら!?」

 

 

 こんな高校生のガキに言い負かされそうになったり言い争っているあたり、俺もコイツらと同レベルなんだと思いなんだか惨めになる。そもそもコイツらの性的思考回路がバグっているせいで、こっちにもそれが感染して知能が低下しているに違いない。

 

 つうかしゃぶらせ事件からもう4年余りが経過しているのに、まだコイツらはその黒歴史を持ち出してくるのか。やっぱり黒歴史ってのは言い返せないし弁明できないから封印したいのであって、それを掘り返されると文字通りひとたまりもない。俺をロリコンに仕立て上げて一体どうする気だ……?

 

 

「お兄様はロリ好き。でも私たちの調べでは現在お兄様の周りに小さい女の子はいません。私たちが高校生になってしまい、ロリ成分が不足する毎日。そしてそろそろ小さい子にエッチをしたくなってくる頃だと思います」

「いや違うが?」

「だからおにーちゃんのために、私たちがロリ成分を補充させてあげようと思ってね!」

「いいから話を聞け――――って、どうやって?」

「それはね――――この子だよ! スカンク!」

「え……?」

 

 

 どこから取り出したのか、ここあはスカンクを抱きかかえて俺に見せつけてきた。

 そもそもスカンクって日常的に見ることがないし、なんなら生で見ること自体が初めてレベルだ。黒毛に包まれているが胴体の上部は白毛であり、なんとなく中二病心をくすぐりそうなコントラストだ。そして目もくりくりとしていて可愛らしい。

 

 でもどうしてコイツらがスカンクなんかを……?

 

 

「このスカンクは特別でして、秋葉さんが育てていらしたのをいただいたのです」

「あ、秋葉……だと!? ということはただのスカンクじゃねぇだろソイツ!!」

「そうだよ! ねぇスカンクくん、お願いしてもいい?」

「ちょっ、お願いってなんだよ!?」

 

 

 ここあの言っていることが理解できるのか、スカンクは頷くと2人におしりを向ける。

 待てよ、そういえばスカンクって強烈な悪臭を放出することで有名な動物じゃなかったか? 動物のことは詳しくないが、スカンクと言えば臭いオナラのイメージが強い。そして今、そのスカンクがこころとここあにおしりを向けている。

 

 まさか、ここあのお願いって……!!

 

 そのまさかはすぐに訪れた。

 スカンクはおしりからガスを2人に向かって放出する。だがそのガスがおかしい。普通のおならなら目に見えないはずなのに、放出されたガスは煙幕のように広がりこころとここあを包み込む。それになにより無臭である。だが煙の濃さは半端なく、2人の全身を包み隠して外からは何も見えなくなってしまった。

 

 何が起こっているのかさっぱりだが、秋葉が育てたスカンクってだけで身構えてしまう。この全く臭くないが視界を遮るほどの濃さを持つガスも秋葉仕込みによるものだろう。もうスカンクのおならよりもアイツの臭さ――――胡散臭さの方が圧倒的に危険だな……。

 

 しばらくして煙が晴れる。そしてこころとここあの人影が煙に紛れて薄っすらと見えた。だが、明らかに背丈が低い。

 そういやさっきロリ成分が云々って話をしていたよな? もしかして……!!

 

 

 俺が察した瞬間、2人が煙の中から俺に抱き着いてきた。

 

 

「おにーちゃん見て見て! ここあたちちっちゃくなっちゃった!」

「これがお兄様が望んだ私たちの姿です!」

「お前らなんだその身体は!?」

 

 

 2人の身長は小学生サイズにまで縮んでいた。なるほどこれが秋葉が仕込んだスカンクガスの効果か――――って、納得してる場合じゃねぇだろこれ!!

 ようやく状況が呑み込めてきた。要するに俺の周りにロリキャラがいなくなったら、秋葉の力で自分たちがロリになって俺を愉しませようって魂胆か。いや普通にありがた迷惑だけど!?

 

 ちなみに着ていた制服までロリっ子サイズとなっており、身体だけ小さくなって服だけそのままという全裸晒しの展開にはならなった。これもガスの効果らしい。なんと都合のいいことで……。

 

 中身は高校生でも外見は幼女になってしまったこの2人。よく見たら俺が初めて出会った時よりも背丈が低く、小学校低学年くらいのロリロリ幼女と化していた。そして俺は虹ヶ咲学園前でそんな2人に抱き着かれているこの状況、誰かに見られてでもしたら誤解されるのも無理ねぇな。特に(あいつ)に見つかったらどんな罵声を浴びせられるか想像もしたくない。

 

 

「あれ? お兄さん?」

「あ゛っ……」

「学園の前で何を――――って、え゛っ!? な、なんでそんな小さい子に抱き着かれてるんですか……?」

「ちょっ、普通にドン引きすんのやめてくれない……?」

 

 

 言ったことは大体フラグになる俺の能力、そろそろ表彰してくれてもいいと思うんだ……。

 俺の恐れていた侑とのエンカウントが現実となる。そして案の定と言うべきか、侑は引きつった顔をして俺から距離を取ろうとしていた。そりゃ傍から見たら幼女2人に抱き着かれている男なんて怪しい以外の何物でもない。だからコイツの反応は当然と言えば当然なのだが、この前のデートで仲良くなった矢先にこれだからちょっとショックだな……。

 

 

「お兄様、さっきこの方が『お兄さん』とお呼びしていましたが、まさかまた妹を作られたのですか?」

「違う。コイツは高咲侑。虹ヶ咲のスクールアイドルのマネージャー的な感じだ」

「あぁ、お姉様から噂は聞いてます。新しいオンナですよね!」

「お兄さん……。妹とかオンナとか、周りに私のことをどのように話してるんですか……?」

「俺じゃない!! コイツらが勝手に誤解してるだけだ!!」

 

 

 侑の額に青筋が浮かんでいる。そりゃ幼女にあらぬことを吹き込んでいると思われても仕方ねぇよな……。誤解から更なる誤解が広がって収集がつかなくなる前に早くなんとかしよう。

 といった流れで侑に現状を説明する。目の前の幼女は実は高校生であること、こころとここあの自己紹介、そして元凶であるスカンクの正体も……。

 

 

「またあの人の仕業ですか……」

「俺と一緒にいる限りは一生アイツが付き纏う。諦めろ」

 

 

 侑はこの状況に驚くというよりは呆れているようだ。つまり場慣れしてきている。俺と過ごす非日常の生活に慣れてきたのであればそれはもう毒されていると言ってもいい。本人としても慣れたくはないだろうが、俺と一緒にいる以上アイツの魔の手から逃れられないんだよ、残念ながら。

 

 

「それより私たちを見てよおにーちゃん! 意外とちっちゃくなっちゃったね! これ年齢一桁だよ絶対! ひとケタ!!」

「おい大きな声でそんなことを叫ぶな! 勘違いされるだろ!」

「年齢が一桁の女の子を好きな男性のことはロリコンではなくペドフィリアって呼ぶみたいですね。でもお兄様はロリコンの方が似合っているので今後もそれで行きましょう!」

「似合ってるってどういうことだよ!? てか行かねぇよ!?」

「やっぱり私たちにはひとケタが合うね! こっちの身体の方が馴染むもん」

「初めて聞いたぞその馴染み方……」

 

 

 想像以上に背丈が低くなり見た目年齢が一桁になってしまったことに対して焦りもせず、むしろ喜びを見せている2人。俺からすればコイツらはロリっ子の印象が強いためこっちの姿の方がしっくりくるが、まさか本人たちもこの姿の方がいいとか相変わらず思考回路バグってんな……。

 

 

「ねーねーおにーちゃん見て見て~!」

「今度はなんだ――――えっ!?」

 

 

 ここあが俺の服の袖を摘まんで引っ張ってくるので目を向けて見ると、自分の制服のボタンを外し、裾を掴んでたくし上げ始めた。そうなればもちろん上半身が丸見えになってしまうわけで――――!!

 

 

「ほらほらおにーちゃん! あばら骨が浮いてるよ! 小さな子特有の骨の形が分かるやつ!!」

「ちょっ、お前早く隠せ!!」

「なにやってるのここあちゃん! 学園の前でそんなこと……!!」

「そういえばおっぱいもぺったんこになってるかな? おにーちゃん確認してもらっていーい?」

「それ以上服を上げたらダメだから!! お兄さんこっち見ちゃダメですよ!!」

「分かってるから早く止めさせろ!!」

 

 

 侑が俺とここあの間に割り込んだことで、一桁幼女のおっぱいが外界に晒されるのを間一髪で防ぐことができた。いや、ぺったんこだしおっぱいを言うよりかは乳首の方か。もう俺の視界には乳首が見えそうで見えないラインまで到達してたけどさ……。

 

 当たり前だが、身体はしっかりと一桁年齢のそれになっていた。胸も膨らんでなければ骨も浮いて見え、肉付きの幼さをこの目でしかと目撃してしまった。残念ながら俺はロリコンではないのでその程度では興奮しないが、この世のロリ愛好家からしてみればさっきここあがやったような幼女体見せつけ行為は鼻血モノだろう。

 

 

「そういえば、ぺったんこになったのであればブラもいらないですよね。せっかくですし、お兄様に差し上げますね♪」

「なにがせっかく!?」

「だったら私のもあげるよ♪」

「はぁ!?」

「ふ、2人共! 服の中に手を入れて……!?」

 

 

 こころとここあは自分と服の間に手を突っ込んだ。そして胸元あたりで何やらゴソゴソ漁っているのだが、なんつうか、その仕草がエロく感じてしまうのは俺だけか? 女の子の着替えシーンに興奮できる人なら分かってもらえると思う。

 

 ――――て、待て待て、相手の見た目は小学校低学年だぞ? いくら中身が高校生だとしても外見幼女に艶めかしさを感じるのはやべぇ奴だろ。危うく本当にロリコン扱いされるところだった……。

 

 

「取れた! はい、おにーちゃん!」

「お兄様、こちらをお納めさせていただきます」

「な゛ぁっ……!?」

 

 

 2人は自分と服の隙間から下着を取り出すと、そのまま俺に手渡してくる。こころが白でここあが桃色――――って、ダメダメだ何も考えるな!! 目を逸らせ俺!!

 

 

「ほらほら~今なら脱ぎたてを味わえるよ~♪ 私たちの温もりでほっかほかだよ~♪」

「厚かましくて申し訳ございません。でもお兄様が私たちの下着で性欲を発散してくださるのであれば、それほど嬉しいことはないです♪」

「ぐっ……」

「ちょっとお兄さん心揺らいでませんか!? 本当の本当にロリコンになっちゃいますよ!?」

「ち、違う!! 女の子の下着を見せられて動揺するのは男の性だ!!」

「開き直ってる……。とにかく、これは私が預かっておきますから!」

「えぇ~おにーちゃんに使ってもらいたかったのに……」

「その言い方だと代わりに私が使うみたいなニュアンスだよね……」

 

 

 侑が2人のブラを奪い取ったことで何とかこの場を乗り切る。だが俺が幼女の下着に興味があると思われたのはあまりにも名誉棄損過ぎだ。幼女の下着とは言っても元々は高校生サイズだし、だったらそれに興味を唆られようが興奮しようがまだ健全な部類だろう。幼女の下着、いわゆる『おぱんちゅ』に興奮するのであれば今すぐ豚箱行きだけどさ……。

 

 

「どうですかお兄様? ロリ成分は補充できていますか?」

「お前らのその姿に懐かしさは覚えるけど、ロリに飢えてたわけじゃねぇから別にって感じ」

「え~嘘だ~! そろそろ私たちとエッチをしたくなる頃だと思うんだどなぁ~」

「それだけは断じてない!」

「おかしいですね。私たちにぺろぺろされて興奮していたお兄様が、このロリ姿を見て欲情しないなんて……」

「興奮!? お、お兄さんまさか……!?」

「だからコイツらの言うことを真に受けるなって!」

「嘘は言っていませんよ。私たちが本当のロリだった時代、お兄様にたっぷりと辱めてもらいましたから……♪」

「なにうっとりしてるの!? お兄さんやっぱり……!!」

 

 

 この前のデートで上げた侑への好感度がみるみる下がっていく!! やっとの思いで距離を詰めたのにまた離れていきそうだぞ……。

 ちなみに言っておくが、ロリ幼女なんて俺のストライクゾーンからは大きく外れている。ゆえに興奮もしなければ欲情なんてもってのほかだ。しゃぶられた時はまだ高校生で思春期真っただ中だったから、性に関して多少過ちは犯して然るもの。まあ若気の至りってやつだな。

 

 

「でも、私たちのような未成熟な女性とエッチをするのってデメリットがないと思うのです。なんたって生理が来ていないので中に出し放題ですよ♪」

「え゛っ!?」

「な゛っ……!?」

「それになんとなくだけど、処女も新鮮になってる感じがするんだよね~。ほら、1人エッチしてると膜がヨレヨレのおばあさんみたいになるって言うじゃん?」

「知らねぇよ!!」

「つまり、今の私たちは新鮮な膜があっていくら出されても妊娠しない身体になっているということです。それすなわち、一切のデメリットなしでエッチし放題なのです!」

「社会制裁的デメリットが大きすぎるっつうの!!」

「え~孕んじゃって責任を感じたり認知したりで悩む必要もないのに~」

 

 

 今の俺はお前らの言動で大いに悩んでるよ……。

 あらゆる手を使って俺をロリコンに仕立て上げ、そして抱いてもらおうとする2人。これが張り巡らせた策略によるものなのか、それともただただ無邪気に俺を誘っているだけなのか。どちらにせよタチが悪いことには変わりない。元々が純粋な性格なので、裏でこそこそ考えたりするよりかは今みたいに笑顔で明るく振舞っているのがコイツらの素なのだろう。言動はメスガキ以外の何物でもないけど……。

 

 

「お兄さん、この子たちっていつもこんな感じなんですか……?」

「日常は至って礼儀正しい子と無邪気活発な子だ。こうやってマセてんのは俺の前だけだよ、多分。とは言っても本来はお前と同年代なんだけどさ」

「この姿しか見たことないからなんともですけど、なんかこっちの方がしっくりくるような気がします。精神年齢的に……」

「むっ、侑さんロリを蔑みましたね……。この姿でいるだけでお兄様に抱いていただける。それだけでロリは素晴らしいのです!」

「いやぜっっっっっっんぜん心に響かないからねそれ! 私にとっては何のメリットもないし!」

「おかしいですね。女性であればお兄様に襲われたい願望があるはず……」

「非常識人なのは自分だってことを理解しようね……」

 

 

 コイツらは俺がロリコンだとガチで思い込んでいる。純粋が故に疑うことをせず、ロリになれば本当に俺が欲情して襲い掛かると思っているのだろう。一度しゃぶらせてしまったのが運の尽きだったか。無邪気に慕ってくれるところは素直に可愛いんだけど、肝心の中身がメスガキじゃあな……。

 

 

「そうだ! 侑ちゃんも私たちと同じ格好になってみれば気持ちが分かるんじゃない?」

「えっ? 同じ格好って、そ、その小学校低学年に!?」

「そう、このスカンクを使ってね♪」

「イヤ! 絶対にイヤ!」

「大丈夫大丈夫! 時間経過で元に戻るから!」

「そういう意味じゃないから!! 誰でもそんな姿になるのはイヤでしょ!?」

「もう心配性だなぁ~。ほらスカンク、煙出して! ほらほら!」

 

 

 ここあは抱いているスカンクのおしりを水鉄砲の銃口を構えるかの如く侑に向ける。侑はビビりながら後退りするが、スカンクは一向にガスを噴射しなかった。

 中々仕事をしてくれなくて気になったのか、ここあはスカンクの頭をぽんぽんと軽く叩く。壊れかけのテレビじゃないんだからそんなことをしたら気を損ねるだけだと思うんだけど……。

 

 

「あっ、スカンクが!?」

 

 

 と思った矢先、スカンクはここあの腕から脱走した。ここあが急いで取り押さえようとするが、幼女になっているせいか脚の速度では追いつけない。

 そしてそのスカンクは足早に虹ヶ咲学園の敷地へと走って行ってしまった。ん? それマズくねぇか!?

 

 

「おいっ! あのスカンクって女の子を幼児化させるんだよな!?」

「えぇっ!? 虹ヶ咲は女子高だから女の子しかいないんですよ!?」

「そうだ。だから早く捕まえねぇと―――――って、既に悲鳴聞こえてるじゃねぇか!!」

 

 

 嫌な予感やフラグってのは回収されるもの。既に学園内から女の子たちの悲鳴が聞こえていた。

 俺たちは学園内に入って周りを見渡してみる。するとそこには――――――

 

 

「わぁ~ロリっ子いっぱいだよおにーちゃん!」

「小さい方がこんなにもたくさん……。しかも美幼女ばかり揃っているなんて、虹ヶ咲の方々は容姿端麗な方ばかりなのですね」

「遅かった、みたいですね……」

 

 

 既にそこには幼女たちになった女の子がたくさんいた。どこを見渡しても小さな子、幼女、ロリ……まるで幼稚園のようだ。

 中庭、校舎、いたるところにガスが充満している。恐らくスカンクが校舎を駆けまわって女の子を見つけ次第おならを噴きかけているのだろう。そしてそのガスに包まれた子たちが片っ端からロリになっていると。それなんてパンデミック!?

 

 

「これだけロリっ子がいればおにーちゃんも満足できるよね! 誰でも選び放題好き放題できちゃうもん!」

「ここはお兄様にとってのパラダイス。普通のロリコンなら叶えられない願いが、お兄さん限定で今目の間に広がっていますよ!」

「なに呑気なこと言ってんだよ……。いいから早くスカンクを捕まえるぞ!」

「「はーいっ♪」」

「ったく……」

「今回ばかりは同情します、お兄さん……」

「ははっ、ありがとな……」

 

 

 もう渇いた笑しか出ねぇ……。

 

 そんなこんなでスカンクを追うことになった俺たち。幼女になった子たちの介抱をしながらも、気付いた頃には校舎内の生徒ほとんどがロリになる異常事態になっていた。

 結局2人が言った通りロリっ子パラダイスになってしまったわけだが、なんとかスカンクを捕獲した後も姿がすぐ元に戻ることはなく、全員が戻るまでに丸1日を費やした。こころとここあを相手にツッコミを入れ続けていたことで疲れ、スカンクを追い回して疲れ、ロリっ子たちの御守りをして疲れ、もう散々だったよ今日は……。

 

 

 うん、もうしばらくロリはいいかな……。

 




 私は特段ロリ系が好みというわけではないですが、別に嫌いでもないので稀に嗜みたくなることがあります。まさに今回がそうですね(笑)
小説のストーリーをサザエさん時空にしていないせいでロリだったキャラも成長してしまうのが難点でしたが、そこは秋葉さんがしっかり解決してくれました。今更ながら彼女の存在のおかげで色んなネタが無理な設定なくできるので本当に重宝しますね(笑)



 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アダルティック・メイド・レッスン

 二週間お待たせしました!

 今回は3年生組メインのメイド回。
 ちなみに昨日8月1日がおっぱいの日だったということでおっぱい要素も強めです。スタイルが良すぎる3年生がメインなので、そりゃおっぱいを取り上げますわなって話で……


 メイドとは、清掃、洗濯、炊事などの家庭内労働を行う女性の使用人(下女、女中、家政婦、ハウスキーパー、家庭内労働者)を指し、狭義には個人宅で主に住み込みで働く女性の使用人のことである。

 実はメイドには色々種類があり、女主人の一切の身の回りの世話をする『レディースメイド』、寝室や客室など部屋の整備を担当する『チェインバーメイド』、給仕と来客の取り次いで接客を専門職とする『パーラーメイド』など、役職ごとに呼び名があるのはあまり知られていない。しかしこの呼び名は19世紀後半のヴィクトリア朝時代におけるものなので、今となっては呼び名なんて意識せずそのまま『メイド』と称されることが多い。

 

 とはまぁ堅苦しく説明してきたが、現代の汚らわしいオタク知識に塗れた者であれば『メイド』と聞いたらエロコンテンツの1つとしか思わないだろう。コスプレとしても非常にオーソドックスであり、スクール水着やブルマなんかと同様に女性が着ていると興奮する衣装ランキング上位に名を連ねる。もはや性に塗れた男たちの性欲の捌け口の1つに成り下がっている印象の方が強い。スク水もブルマもメイド服も別に性的コンテンツとして作られたわけじゃないのだが、一度世間がそういう目で見るようになったらもう後には戻れない。悲しいな、男の性欲ってやつは……。

 

 そんな感じでメイドは男に性的搾取されるコンテンツに成り下がったわけだが、俺がこんな話をするのには理由がある。

 もうメイドって言葉だけでもエロ界隈が盛り上がるくらいだ。そんなメイド服を着ている女の子がスタイル抜群で、それも美女美少女ばかりだったら? しかもその子たちが自分に献身的なご奉仕をしてくれたら? 並み以上の性欲を持っている男であれば誰しもがそんなことを想像したことがあるはずだ。

 

 今回はそんな欲望塗れの願いが叶う時。だが、同時に願いが叶い過ぎて手に負えなくなった日でもある……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 時はエマがとある依頼をしに来たところまで遡る。

 

 

「あん? メイドとして教育して欲しい?」

「はいっ! 実は学園祭でメイド喫茶をすることになりまして、是非メイドとしての極意を私たちに教えていただきたいです!」

 

 

 ペコリと頭を下げるエマ。

 言いたいことは分かるがそもそもの話、男にメイドの極意を聞くなんてどういうことなんだよ……。もしかしてご主人様気質を持っている俺が家でメイドを雇っているとでも思ってんのか? 家事最強の妹がいるからそんなものはいないがな。

 

 

「それって実際にメイド喫茶にでも行けばいいんじゃねぇのか?」

「実はもう行ってみて店員さんの接客の様子とかを観察してきたんですけど、やっぱり指導してくれる方がいてくれた方が成長できると思ったんです! ほら、スクールアイドルの練習でも零さんが私たちを指導してくださっているおかげで、これまで以上に成長できていますし……」

「なるほど。でもどうして俺なんだ? 別に指導するのがイヤってわけじゃないが、男だぞ俺……?」

「そ、それは彼方ちゃんと果林ちゃんが『零さんは色んな女の子とお付き合いがあるから、メイドの心得のある子が1人くらいはいるはず。それに零さんであればその子にメイドプレイをさせてご主人様として優越感に浸ってそうだから、メイドの在り方についてもそれなりに詳しいはず』……とのことです」

「アイツらなんて寝耳に水なことを……」

「ゴ、ゴメンなさい!」

「いやお前が謝ることじゃねぇけどさ……」

 

 

 この場に彼方と果林がいないのは俺に頼み込む理由を素直に話したら怒られると思ったからだろう。だから素朴で純粋なエマを俺に差し向けることで怒るに怒れなくしていると。よく考えられてやがる……。

 

 それにしても付き合っている子にメイドプレイを強要させるとかなんて痛い奴――――と思ったが、思い返してみればそういう経験があったようななかったような……。

 とにかく、俺に近しい女の子でメイドの心得がある奴を1人知っている。ミナリンスキー。秋葉原で伝説となったメイドであり、その清楚な振る舞いとご奉仕力、そして特有のハスキーボイスにより男を次々に堕としていったらしい。まあその素性はドが付くほどの淫乱娘なのだが、それを抜きにすればアイツのメイドの手腕を見ていた俺がエマたちに教えてやれることはあるのかもしれない。

 

 

「ダメ……でしょうか?」

「ぐっ……」

 

 

 上目遣い+涙目という核兵器を俺に撃ち落とすエマ。こんなあざとい戦術を誰に学んだんだよ全く……。大方果林と彼方がこうすれば俺を陥落させられるだろうと考えてエマにこの手法を教え込んだんだろうが、そんなアニメや漫画のテンプレのような手で心が動くわけ―――――あるんだよこれが!!

 

 そりゃそうだろ! 上目遣い+涙目なんて可愛いじゃん! それで心が揺れ動かない男なんていねぇっつうの! それにエマには何の罪もなく、ここで断ると罪悪感が豪雨のように俺の心に降り注ぐだろう。可愛いから引き受けてしまう+罪悪感により断れない脅威のコンボ攻撃により、俺が出すべき答えは――――

 

 

「分かった。やるよ……」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 

 

 うん、いい笑顔だ。この太陽のような笑顔を見られただけでも引き受けた価値はあるのかもな。っていうかそう思っておかないとあの2人の策略に嵌められたみたいで癪だ。それにエマも本気みたいだし、彼女の期待だけは無視したくなかった。だからあの2人の処遇は追々な……。

 

 そんなこんなあって3年生組に特別レッスンとしてメイドの心得を教えることになった。思えば勢いで講師を引き受けちまったけど、本当に教えられるのか俺……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 講師を引き受けた翌日、俺はエマからの連絡で学園内の保健室にやって来ていた。どうして保健室なのかは知らないが、メイドってだけでもこのご時世はエロいイメージしか湧かないのに、そこに更に保健室なんてアダルティなイメージがある場所を追加すればより一層イケナイ妄想が炸裂する。純粋無垢な子供の頃はどちらも健全な意味で捉えられていたんだけど、この世の穢れた男たちの妄想のせいでそれらのイメージが変な意味に様変わりしてしてしまった。世の中の変態共は反省した方がいいと思うぞ。

 

 そして俺は保健室のドアを開ける。すると――――

 

 

「「「おかえりなさいませ! ご主人様♪」」」

 

 

 そこには既にメイド服姿となっていたエマ、果林、彼方の3人がおり、メイドのテンプレセリフで俺を出迎えてくれた。

 3人が着ているメイド服は至って普通のモノであり、決してエロ目的で使用されるミニスカや胸元オープンの衣装ではない。白と黒を基調にしたシンプルイズベストなデザイン、白カチューシャにロングスカート、まぁ学校の催し物であれば過激な露出はできないだろうしな。俺としてはメイドさんのガーターベルトが好きだったりするのだが、ロングスカートだとそれが見えないので残念なところ。でも結局メイドを光らせるのは衣装を着ている女の子自身の可愛さと魅力なので、この3人であれば露出控えめのメイド服であってもその気品はばっちりだ。胸も大きい奴らしかいねぇしな、そのせいでエロい服ではないのにちょっぴりエロスを感じる。

 

 

 それより、俺には真っ先にやるべきことがある。

 

 

「ん? どうしたのかしらご主人様? ちょっ、こ、怖い顔でこっちに向かってくるなんて一体……」

「えっ、彼方ちゃんも? えっ、え……?」

 

 

 俺は果林と彼方に近づくと、両手でそれぞれの身体を強く押し保険室のベッドに押し倒した。

 

 

「メイドの心得その1。ご主人様に粗相をしたメイドは手荒くお仕置きされる。それもメイド服の原型が留めないくらい濃厚に、濃密にな……」

「零さん……? ど、どうしていきなり怒っているのかしら……?」

「か、彼方ちゃんたち何かしちゃった……?」

「エマに余計な知識を埋め込んで俺に差し向けた事実に弁解があるなら、一応聞いてやるが?」

「あっ……あぁ~……」

「そういえばそんなこともあったようななかったような~……」

「お前らなぁ、その引きつった表情で全部バレてんだよ……」

 

 

 ベッドの上で俺の威圧にビクビクする果林と彼方。メイド姿でベッドに仰向けで倒れているとか背徳感が半端なく、最近メイドを嗜んでいなかったせいか俺の中の隠れた性癖が呼び出されようとしていた。

 

 

「エマを使ってご主人様を焚きつけるとは悪い奴らだ。だから悪い娘にはそれ相応の罰を受けてもらわないとな」

「ご主人様目がギラつき過ぎだよ~。これだとエッチなビデオみたいになっちゃうじゃん。ほらもっと落ち着いて、リラックスリラックス~」

「そうそう、今日はあくまで学園祭、つまり学生向けのメイドの極意を学ぶ場なのよ? これだともう……ねぇ?」

 

 

 チラッとエマを見て見ると、口を手で押さえて顔を赤くしていた。いきなりR-18モノの展開になりそうで緊張しているのか、恥ずかしがっているのか。どちらにせよこの状況は教育に悪い。彼方も果林もその事実をチラつかせることで俺を抑えようとしているのだろう。全く、メイドのくせに打算的な奴らだ。メイドなんてご主人様に仕える忠誠心だけあればいいんだよ。

 

 

「あ、あのぉ……私も混ざった方がいいんでしょうか……?」

「いや、コイツらには絶対に流されるなよ? どんなエロいことをさせられるか分かったもんじゃない」

「ヒドいことを言うわね。それだと私たちが淫乱メイドみたいじゃない」

「そうだそうだ~名誉棄損だ~」

「よく言うよ。お前らどちらも2人きりに時に誘惑してきたくせに。それで普通に気持ちよくなって喘いでいたこと、俺は覚えてるからな。つまりお前らはメイド云々以前より淫乱だったってことだ」

「あれもご主人様をその気にさせるためには仕方なかったのよ♪」

「意外とガード堅いもんね~ご主人様♪」

「普通に認めるのか。都合のいい奴らめ……」

 

 

 果林とはホテルで、彼方とは近江家でそれぞれ誘惑され、そこから身体を重ね合わせてしまったという経緯があった。コイツらにとっては俺をその気にさせたこと自体が自分の中で功績となっており、以前も虹ヶ咲の面々で『俺にこんなことをされた選手権』で盛り上がっていたことを侑から聞いている。それ以降は隙あらばこうして俺を誘ってくることが多くなっているため、それはもう淫乱思考の持ち主と言っても過言ではないだろう。

 

 つうか思ったけど、今回も俺を苛立たせることでその気にさせて襲ってもらうとか考えてねぇよな? さっきから俺の呼び方が『ご主人様』であり、俺の中のご主人様気質を大いにくすぐってくる。どうしたら俺が性に溺れやすいのか、相手に熟知されてるって怖いな……。

 

 

「ご主人様が求めるメイドって、やっぱりこういうことだと思うのよね」

「えっ、うわぁっ!?!?」

「零さ……じゃなかった、ご主人様!?」

 

 

 突然起き上がって来た果林は俺の首周りに腕を回し、そのまま後ろに倒れ俺と共に再びベッドにダイブする。そうなると必然的に俺が果林を押し倒した風となり、隣にいた彼方を巻き込む形で俺の身体が2人の身体に覆い被さってしまった。

 

 だが、倒れた時に衝撃はほぼ感じないレベルであった。それもそのはず、2人の胸が俺の顔面のクッションになっていたからだ。B85とB88のおっぱいというものは見た目以上にボリュームがあるため、こうして顔でその大きさと感触を味わうとその豊満さがよく分かる。どちらも女子高生の平均離れしたサイズであり、顔面を少し押し付けただけで柔軟に形を変えるそのおっぱいは男を確実に篭絡させる。もうずっとこのままでもいいし、このおっぱいの中で生活してもいいと思い込んでしまうくらいだ。

 

 

 ――――って、やっぱりコイツらこれが目的だったんじゃねぇのか!?!?

 

 

「ひゃっ!? も、もうご主人様ったら暴れ過ぎよ! そんなに動かれたらすぐ気持ちよくなっちゃうわ……♪」

「んっ、ご主人様の激しい……。でも今の彼方ちゃんたちはメイドさんだから、ご主人様限定でたくさん甘えていいよ~♪」

「むぐっ、お、押し付けるな……!!」

「そんなこと言いながら、興奮して悦んでるの丸わかりよご主人様♪」

「メイドの心得その2。メイドはご主人様を全力でご奉仕せよ、だね~」

「うぐっ、むぅ……っ!!」

 

 

 おっぱい地獄(天国?)から解放されようと足掻くも、果林と彼方に後頭部を抑えつけられているせいで2人のおっぱいに顔を埋めたまま動けなくなってしまう。いやおっぱいは素晴らしいし大好きだけど、これだともうご主人様にご奉仕するメイドじゃなくてただドスケベ少女に痴女られてるだけじゃねぇか……。

 

 このままだとコイツらの手のひらの上なので、なんとか口元だけでも胸元から脱出させて喋ることができる状態にする。

 

 

「ちょっ、ちょっといったん離せ!! これはもはや奉仕じゃない!!」

「え~? でもご主人様、手足をバタバタさせてとても気持ち良さそうだったよ~?」

「いや確かに気持ちいいけどさ、窒息するくらい押し付けるのは違うだろ……」

「あら、てっきりご主人様ってこういうメイドが趣味だと思ったんだけど?」

「まぁ嫌いではねぇけど……」

「メイドの心得その3。エッチなことは全力で行きましょ~ってことだね」

 

 

 その心得って一般的なメイドじゃなくて、vs俺を意識した戦法では?? いやその戦法が俺の性癖に大きく突き刺さるからそれはそれで困るんだけどさ……。

 なんかその、ベッドの寝ころびながら女の子たちの胸を枕にしているこの構図、男としては非常に羨むシチュエーションではあるのだが、傍から見たらやや情けない構図に見えなくもない。自分から攻めている時であれば何物にも代えがたい優越感を味わっているだろうけど、こうして女の子たちに痴女られているとただ快楽に浸っている性欲に負けた男みたいな扱いでなんかイヤなんだよな……。

 

 ちなみにエマの様子を見て見ると、案の定目の前で行われている淫行に慣れないのか手で顔を覆っていた。だが指と指の間からしっかりとこちらを凝視しているため興味がないわけではないようだ。

 そんなエマを見て、果林はベッドから立ち上がり、彼女のもとへ向かう。

 

 

「エマったら、そんなところで立っていたらいつまで経ってもご奉仕の勉強ができないわよ?」

「で、でも果林ちゃん、流石にあれは恥ずかしいよぉ~っ!!」

「大丈夫よ。ご主人様なら全てを優しく受け入れてくれるわ」

「なんだよその慰め方は……。てか俺は優しさゼロの乱暴被害に遭ってんだけど……」

「それにご主人様から来なかったら、こっちから思い切っていけばいいの。メイドの心得その4。ご主人様を説教的に誘惑すべし!」

 

 

 いやAVじゃないんだから普通のメイドでいいんだよ普通ので……。とか言ってももう誰も聞きそうにもないし、エマもエマで恥ずかしがってはいるもののやる気はあるのでこの流れを止める奴もいない。別に本気を出せば女の子3人くらい止められると言えばそうなのだが、やっぱり美女美少女たちに囲まれるとそりゃ力が抜けるよなって話だ。しかもさっきみたいに胸を顔面に押し付けられようものなら羽交い絞めにされても仕方がない。なんだかんだ抵抗しつつも女の子たちに溺れたいって欲が自分の中にあるんだろうな……。

 

 

「ご主人様っ!」

「な、なんだ……?」

「私もご奉仕、させていただきます!」

「えっ、あ、あぁ……」

 

 

 エマも決意を固めたようだ。しかし果林や彼方とは違ってエロいことには慣れていないのか、やはりまだ表情に戸惑いの色が見える。恐る恐る俺のいるベッドに近づいて来るが、その一歩一歩が重いため緊張しているのは確かだろう。

 

 エマがじりじりと俺との距離を詰める、その時だった。彼女の足元に誰かの衣装から取れてしまったであろうリボンが落ちており、ちょうどエマがそのリボンを踏みつけた。そして踏ん張った時にリボンで滑ってしまい上手く足が動かなかったのか、前傾姿勢となり俺のいるベッドに滑って倒れ込んで来る。

 

 

「ひゃぁっ!?」

「うぉっ!?」

 

 

 俺は何んとかエマを受け止めようとしたが、思ったよりも上から覆い被さろうとしてきたので抱きとめることができなかった。その代わりにこちらに滑り倒れてきたエマの胸が俺の顔面に押し付けられ、その勢いのまま俺は後ろに倒れてしまう。そしてその倒れた先には彼方がいたので、自分の後頭部が彼方の胸をクッションにしてショックが和らいでいた。

 

 状況は男の夢であろう構図となっていた。前からエマ、後ろから彼方のおっぱいに挟まれる形となっている。

 

 

「うぅ……ぐぅ……」

「ひゃうっ!? ご主人様くすぐったいです……っ!!」

「もうご主人様ってば、なんだかんだおっぱいが好きなんだね~♪ だったら彼方ちゃんもたくさんご奉仕サービスしちゃうぞ~!」

「あ゛っ、がっ……!!」

 

 

 前後からおっぱいに顔を挟まれるという桃源郷のような状況。もちろん顔面全てがおっぱいに覆いつくされているので声はまともに発せられないが、もう黙ってこの心地良さを堪能しておけばいいとも思ってしまう。柔らかい。とにかく柔らかい。この世にこれ以上に柔らかいモノがあるかってくらい柔らかい。もはや柔らかいしか言えないほど語彙力低下が激しいが、柔らかいものは柔らかいから仕方がない。興奮する理由に可愛い女の子がぶらさげているエロい部分に顔が挟まれている、といった背徳性もあるのだろう。

 

 ていうか、こうして直接押し付けられるとエマの胸の大きさがよく分かる。果林や彼方も十分に大きいが、エマの海外産のバストは一般女子高生と比べたら規格外すぎる。もう男の顔面ですら2つの双丘で挟んで覆い隠せるくらいであり、将来この大きな乳袋にミルクがたっぷり詰め込まれると思うと謎の興奮がふつふつと湧き上がってくる。そう考えると彼女をママと称して胸に顔を埋めて甘えたいという層の気持ちが分かる気がするな。

 

 

「ちょっと2人だけ楽しんじゃってズルいわ。私も参戦させてもらうわね、ご主人様」

「むぐっ……!!」

「あら、そんなにじたばたしちゃって……楽しそうね♪」

「えっ、これ楽しんでるの……?」

「そうだよエマちゃん。だからご主人様をもっともっとぎゅ~ってしてあげて」

「こ、こう……?」

「ぐっ、ぐぐぐぐっ……!!」

 

 

 その後、俺は3人のおっぱいによる圧死、通称『パイ死』により気絶した。

 死因は主に果林と彼方に乗せられたエマの爆乳攻撃が正面からクリティカルヒットしたからだが、男としては確実に天国へ行ける死に方だろうなこれ。確かにこの巨乳組3人におっぱいで囲まれて一生を終えたいって輩は一定数いそう……。

 

 ちなみに後日、エマがメイドの極意を書き出してそれを目標にしてご奉仕力を高めようとしていたのだが―――――

 

 

・メイドの心得その1:ご主人様に粗相をしたメイドは手荒くお仕置きされる

・メイドの心得その2:メイドはご主人様を全力でご奉仕せよ

・メイドの心得その3:エッチなことは全力で行きましょ~

・メイドの心得その4:ご主人様を説教的に誘惑すべし!

 

 

 これ学園祭のメイド喫茶、大人以外入店お断りにならねぇよな……?

 




 大きなおっぱいに挟まれたいという男なら至極当然の欲求をそのままネタにしてみました。ありきたりのネタですが、私は綿密に練られたストーリーよりもこういったのが好きなんですよね(笑)
 まあこの小説は最初からストーリーも何もあったものではありませんでしたが(笑)



 二週間待たせたのは、またウマ娘の企画小説に参加して、その執筆をしていたためです。私の出番直前になったらまた宣伝しますので、興味がある方はそちらもお待ちください!




 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

かすみん・オブ・ザ・リベンジ・リターンズ

 今回はかすみの個人回です。
 今までにないシチュエーションのお話なので割と新鮮かも……?


「誰もいねぇのか。相変わらず不用心だな……」

 

 

 とある秋口。今日も歩夢たちの練習を見てやるためにスクールアイドル同好会の部室にやってきたのだが、まだ授業中であったためか案の定誰もいなかった。だったら施錠くらいしておけよって話が、この学園は女子高かつ超進学校であるためか敷地内に入るためのセキュリティが厳しく、その安心感が故にいざ中に入って見るとこうして部屋が無防備状態であることが多い。なんかこの前も同じことを言った気がするけど、そもそも男は原則立ち入り禁止だから気が緩むのも仕方がないと言える。

 

 

「アイツらが来るまでにまだ時間あるな……ふわぁ~……寝るか」

 

 

 秋口になったことで夏の蒸し暑さも消え、程よく涼しくなってくるこの時期。その心地よさに眠くなってしまうのは当然のことだ。それに最近は卒業研究やら教師になるための実習やらで忙しかったのであまり寝られてないから丁度いい機会かもしれない。

 

 俺は部室内のソファに寝転ぶと、日頃の疲れにより眠気が襲ってきてそのまま眠ってしまった。

 ただの仮眠のはずだったのだが、まさかあんなことになるとはこの時はまだ知る由もない俺だった……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「こんにちは~♪ 今日も世界一可愛いかすみんが来ましたよ~って、あれ? 誰もいない……?」

 

 

 部室のドアが勢いよく開け放たれる音、そしてかすみの騒がしい媚び声で目が覚めた。寝起きから耳に響くような声を聞かされて大変目覚めが悪いので、そのまま二度寝を決行しようと思いかすみに特に反応することなく再び目を瞑る。こちとらノンレム睡眠に入ってる時に叩き起こされて、下手をすれば寝る前よりも眠気がある状態になっているんだ。そりゃ寝るだろ。

 

 

「ありゃ? 零さんいたんですか? も~うだったら返事してくださいよぉ~いけずですねぇ~♪」

 

 

 よくもまぁこんな人を苛立たせるような媚びた声を出せるもんだ。別にコイツ自身は相手をおちょくる意図はないだろうが、あざとさ初代代表の矢澤にこを経験しているとそういった高音ボイスに敏感になってしまう。しかもこちらは寝起きなんだ、そんな声で話しかけられたら無視したくもなるだろう。

 

 だからかすみに見つかっても敢えて目を開けず、そのまま二度寝することにした。

 そして奴は案の定、俺の寝ているソファに近づいて来る。目を開けていないので音と気配しか分からないが、どうやらかなり至近距離にまで迫っているようだ。

 

 

「もうっ、本当は起きているですよね? 零さんのことだから、かすみんの可愛いボイスがうるさいだのなんだの思って無視してるんですよねぇ~♪ 零さんのことなら何でも分かっちゃうんですよぉ~?」

 

 

 うわぁ~かすみ如きに俺の思考が読まれてるなんて超腹立つ!! つうか声だけでなく息遣いまで鮮明に聞こえてくるので、恐らく俺の眼前にコイツの顔があると思って間違いなさそうだ。目を開けていないので表情は読めないが、こちらの考えを読み切ったと思い込んでしたり顔になっているに違いない。それを想像するだけで今すぐ顔面パンチをお見舞いしたいところだ。

 

 だがここまで来たら俺も意地だ、負けるわけにはいかない。目は覚めているが敢えて目を閉じたまま無視をし続けてやる。

 

 

「ネタはとっくに割れてますからそろそろ起きてくださいよぉ~。せっかく誰もいなくてスーパー美少女かすみんと2人きりなのに、寝たフリだなんて勿体ないですって。今なら世界の男性が求めるかすみんを独り占めして、あ~んなことやこ~んなことができるのに!」

 

 

 知ってたけど、改めてすげぇ自己肯定感の強い奴だなと思ってしまう。いやその点に関しては俺もそうなのだが、ここまで自分を誰よりも可愛いと思い込めるのもある意味で才能だな。この自己肯定が強い性格はまるで鏡を見ているかのようで、もしかしたら他の奴らが俺を見た時も今俺がかすみに抱いている気持ちと同じ気持ちになっていたのかもしれない。痛い奴、とまでは言わないが、ここまで自分に自信を持っていることに圧倒される……みたいな?

 

 かすみは自分を好きにできるというまさに自分をエサにして俺を叩き起こそうとするが、そんなことでは屈しない。そもそも今でなくとも好きなタイミングで好きにできるしな。っていう男としての余裕だ。虹ヶ咲の子たちはみんな俺に思慕を抱いているため、こちらから迫れば100%拒否されることはない。言い方は悪くなるがいわゆるヤりたい放題ってやつだ。だから今コイツの相手をする必要はないんだよ。

 

 

「普段は温厚で品行方正で心優しいかすみんですけど、あまり無視し続けると流石に怒っちゃいますよ!」

 

 

 な~にが品行方正だよイタズラっ子のくせに。最近はみんなに手作りのパンを大量に提供して太らせようとしたり、携帯の待ち受けを自分の自画像にしたりと地味な嫌がらせをしていた。自分の可愛さを磨いて高みを目指す心意気はあるくせに、誰かをイタズラで蹴落として相対的に自分が上になろうっていう狡い手を使うクセはなんとかならねぇのかよ……。

 

 

「…………もしかして、本当に寝ているのかな? そういえば最近は忙しくて疲れ気味だって言ってたし、本当の本当に……?」

 

 

 かすみは恐る恐る俺に喋り掛けるが、声色が少し高いので一種の期待のようなものが含まれているようだった。確かにこのまま寝たフリを続ければイタズラ好きのコイツに何をされるか分かったものじゃないが、逆にコイツがどう仕掛けてくるのか気になっている俺もいる。最初は絡まれるのが鬱陶しいから無視しようと思っていただけなのに、寝たフリと言えども構ってやりたくなる愛嬌があるよなコイツ。もしかした俺は既にコイツの愛くるしさにハマっているのかもしれない。

 

 とりあえずかすみがどう動くかを見物(目は閉じたままだが)するため、わざとらしくそれらしい寝息を立てて様子を窺うことにする。

 

 

「起きないとちゅーしちゃいますよ? いいんですか? いいんですね? かすみんの好きにされちゃいますよ?」

 

 

 まぁこう来るわな。俺のことだから分かっていて無視していると思っており、好きにされてしまうという拷問をチラつかせて音を上げさせようとしてくる。寝たフリをしていると読んでいるところまでは褒めてやるが、こちらから目を開けなければバレることはない。キスをすると脅しているが、俺を誘いだす口実なだけで本気ではないだろう。

 

 そんなことくらいで靡くと思われてんのなら舐められたもんだ。ここ数年でたくさんの女の子と付き合ってきたこの身、そう簡単に誘惑に乗ると思わないで欲し――――

 

 

 ――――ッ!?

 

 

 突然俺の唇が何かに遮られた。小さくて程よい肉厚。人肌の温もり。女の子の甘い香り。それらの感触が俺を刺激する。

 間違いない。かすみの奴――――本当にキスしやがった!?!?

 

 

「んっ……零さん……ちゅっ……」

 

 

 突然の口付けにさっきまでの冷静さを乱されたが、まだ目は開けていない。キスすれば必然的に顔を合わせるので目を開けたら確実にバレるだろう。

 そんなことよりもどうすんだこの状況!? コイツあろうことか唾液まで絡ませてきて、明らかにソフトで終わらせずディープにまで持っていく気満々だ。俺が寝たフリを知っていてわざと濃厚にしているのか、それとも本当に寝ていると思ってバレないと考えてこうしているのか。どちらにせよ女の子とのキスは頭がぼぉ~っとしてやみつきになってしまいそうだから対処に困る。

 

 こちらの唇が貪り食われる感じがするが寝たフリをしている故に反撃ができないため、かすみのされるがままとなってしまう。屈辱だがキスが気持ちいのは確かであり、ぶっちゃけ反撃どころか声を出さず耐えるだけでも精いっぱいだった。

 

 

「はぁ……ちゅ……零、さん……」

 

 

 甘い声で名前を呼ぶのをやめてくれ。ただでさえキスの魔力で正常でいられるか分からないのに、眼前でねっとりと自分の名前を呼ばれると柄にもなくドキッとしてしまいそうだ。目を瞑っているせいかかすみの表情が読めず、キスの感触と息遣い、声しか伝わって来ず、そのせいで大人の雰囲気を感じざるを得ない。見た目がちんちくりんで第二次性徴期も満足に進んでいないような奴にそんな淫猥な感情を抱くなんて、なんたる不覚……!!

 

 

「ぷはっ! はぁ、はぁ……ちょっと気分が高鳴っちゃって思った以上に濃いキスになっちゃった……。でも、起きてないなら別にいいかな……」

 

 

 ようやく唇が解放される。溶接されたかのような熱いキスに苛まれていたためか、かすみの唇が離れた瞬間に自分の唇に寒さを感じるほどだった。しかも唾液によってしっとりと濡れており、かすみがどれだけ濃密濃厚なキスをしていたのか目を瞑っていても感触だけで明らかである。

 

 

「なんかエッチな気分になってきちゃったかも……。カラダも熱いし……はぁ……はぁ……」

 

 

 キスだけで興奮するなんて性のボーダーライン低すぎだろコイツ!?

 俺も脳が蕩けそうにはなったけど別に興奮はしていない。これでも女の子を相手にすることだけは百戦錬磨だから、さっきはいきなりキスをされてビビっただけだ。それにずっと目を瞑って相手の顔が見えないと言うのも不安要素であり、キスに興奮するよりも次は何をしてくるんだと身構える方に意識が向いてしまっている。まあ寝たフリをしているので自業自得ではあるのだが、まさか学校の部室でこんな大胆なことをしてくるなんて誰も思わねぇだろ……。

 

 かすみの息遣いによって吐き出された吐息がずっと俺の顔にヒットしている。どうして女の子ってありとあらゆる香りが甘いんだろうな。淫乱の如く興奮している女の子の猥褻な息が甘いのは、もしかして男を興奮させるための生物的な先天性なのかもしれない。いやそれをこの状況でその性能を発揮されるのは相当マズいんだけどさ……。

 

 

「こうして見ると零さんって寝顔もカッコいいんだなぁ……。こんなイケメンをさっきかすみんはキスでめちゃくちゃにしちゃったんだよね……。はぁ、はぁ……」

 

 

 おい息遣いが荒くなってるぞ大丈夫か!? 吐息が小刻みになっているのでコイツの興奮度が上がっているのだろうが、その上げ方が自分が無抵抗の相手を好きにできて舞い上がったからとかサディストにもほどがあるぞ……。俺もそういうのが好きなので人のことは言えないものの、見た目上寝ている相手に対して息を荒くして興奮できるのは淫乱以外の何物でもないだろう。

 

 

「かすみんがこうなっちゃったのも全部零さんのせいですからね。他のみんなとはたくさんエッチして、かすみんとは全然してくれないじゃないですか。この前みんなに自慢された時は思わずキィッッッッッッッッッッ!! ってなっちゃいましたよ」

 

 

 いや別に俺から『エッチをしよう』だなんてヤリチンみたいなこと言わねぇからな?? 全部アイツらから仕掛けてきた(せつ菜の時みたいに一部は違うが)ことで、俺から手を出した事象は少ないと思う。まあアイツらの誘惑に乗せられて興奮が高ぶって押し倒したりはしたが、それも誘惑してきた方が悪いだろう。

 

 そしてかすみもその誘惑団の一員に加わろうとしている。もはや誘惑というより襲われていると言ってもいいが、とにかくさっき以上に何かやらかしそうなことだけは確かだ。

 

 

「ということでエッチしちゃいますからね? 幸いにも部室の鍵は部長のかすみんに委ねられていますから、誰にも邪魔されませんよ♪」

 

 

 やはり本気か……。さっきキスをされた時からコイツの興奮具合は頂点に達しているようで、もはや自制するなんて考えもしていないだろう。

 流石に校内での不純異性交遊は来年から教師になるこの身からして阻止するべきか? だがコイツの興奮具合から察するに、仮に俺が目を開けて全てをバラしたとしても結局性欲が抑えきれず痴女ってくるのは目に見えている。それに俺もかすみがどんな方法で攻め立ててくるのか多少なり興味があるし、最悪挿入の前に邪魔をすればそれでいいか。

 

 ずっと目を瞑ったままで淫乱魔人となった女の子に好き勝手されるのは怖いが、怖いが故の好奇心でしばらく静観することにする。ぶっちゃけ俺の心臓の鼓動はとてつもなく早くなっているので、胸に耳を当てられたら起きてるって一発でバレちまうな……。

 

 

「興奮したら熱くなってきちゃった……。どうせ誰も部室に入って来られないんだから脱いでもいいよね……」

 

 

 その後、部室の鍵がかかる音、そして布が擦れる音が聞こえてきた。恐らく彼女の身に纏っている制服が現在進行形で、しかも俺の目の前で脱がされているのだろう。

 見たい。正直に言って見たい! 今までかすみの誘惑に負けたくないという己のプライドやら好奇心やらで寝たフリを続けてきたが、そんなものをかなぐり捨ててでも見たい! だって現役JKの生脱衣なんて、日頃からたくさんの女の子に囲まれている俺でも中々見られるものじゃない。それにパンチラと一緒で脱衣も見せつけられると興奮度は薄れるものだが、こういった性的気分が高揚している中で、少し目を開けて盗撮気味に見る脱衣ほど興奮できるものはない。

 

 リボン、ブレザー、シャツ、スカート、ブラジャー、パンツ。制服女子が身に纏う衣類と下着が次々と脱がされる音が聞こえる。寝たフリのせいで音だけしか聞こえないのが歯がゆいが、目を瞑っているせいで妄想だけは捗り過ぎていた。カラダはちんちくりんなかすみだが美少女中の美少女であることには変わりないので、そんな子の生脱衣が目の前で繰り広げられているとなると妄想だけでも心底昂ってくる。

 

 少しだけ。ほんの少しだけ目を開けてもバレない……よな?

 

 

「そうだ。せっかくなのでコレ、零さんにプレゼントしちゃいますね♪ これで毎日かすみんのことを感じて1人でシちゃってもいいんですよ♪」

 

 

 その瞬間だった。俺の目にアイマスクのようなモノ、口には三角巾のようなモノが押し付けられた。人肌ほどの温もりを感じられ、ほんのりと女の子の甘い香りもする。

 そうだこれは――――――

 

 

 かすみの下着だ……!!

 

 

「おっ? かすみんの下着を被せられたら心なしか寝息が荒くなっている感じがしますねぇ~。まぁ世界最強美少女かすみんの下着なんですから興奮して当然と言えば当然なんですけどぉ~。それにしても、寝ながらエッチな気分になっちゃうなんて零さんもイケナイ人ですねぇ~全く♪」

 

 

 俺の顔面に乗せられたのがかすみの下着だと真に判明した。それから間もなく俺の奥底で煮えたぎっていた情欲が一気に噴出しそうになる。

 そりゃそうだろ。だって俺の目に被せられているブラジャーは、さっきまでかすみの乳首が当たっていた場所なんだぞ? そんなの想像するだけでも男子が健全でいられるわけがない。極めつけには俺の唇に密着しているこのパンツ。コイツが狙ったか狙ってないのか秘所の部分がちょうど当たっているため、ほんのりと濡れているような感じがするのは気のせいだろうか……? てか濡れてるってキスしかしてないのにそれはないよな?? 汗……だよなこれ??

 

 つうか下着が俺の顔面にあるってことは、目を開けてブラを振り払えば全裸のかすみが目の前にいるってことでは――――!?!?

 

 

「零さんのここ、脱がしちゃっていいですよね……? だって大きくなってるから期待してるってことだもん♪」

 

 

 なにっ!? と気付いた頃にはもう遅かった。目を封じられている(自分で閉じているだけだが)状況でキスをしたり下着を被せられたり、全裸の女の子が側にいたりと今まで経験のないシチュエーションに本能が期待しまくっている。古くから存在するエロ界隈用語『カラダは正直』を見事に体現してしまっていた。

 

 

「本当に起きてないんですか? 今すぐ目を覚まさないとパパになっちゃいますよ? 高校1年生の女の子を自分の寝ている間に身篭らせるなんて、超背徳的ですねぇ♪」

 

 

 背徳っつうかそこまで来たらもはや犯罪だろ……。もちろん俺のことだから責任はいくらでも取ることはできるが、一応コイツらにはまだスクールアイドルを続けて欲しいから余計なことはしない。興奮するラインが低いこと以外はこう見えても紳士なんでね。

 

 しかし、そろそろ『ドッキリ大成功』をしないと本当に性行為をする流れになっている。虹ヶ咲の子たちのほとんどがこういうことに躊躇がないのは知っているが、他の奴らに影響されたせいかかすみの押しの強さは最近でも特に強くなっていた。そして今回俺と2人きりの状況で、しかも相手が無防備に寝ていると来たからコイツの性的不満は一気に性的高揚に変わったのだろう。もはや歯止めなんて知らず自分の欲求を満たすためだけに動く、まさに性の権化となっていた。

 

 

「こんなエッチな気持ちになっちゃうのも全部零さんが悪いんですよ? 一緒にいるだけで好きにさせられちゃいますし、そんなの……我慢できるわけないじゃないですか。だからこれは復讐です、リベンジです! よくもかすみんをエッチな気持ちにさせたなぁ~プンプンっていう、零さんへの宣戦布告です!」

 

 

 それはあまりにも理不尽すぎやしないか?? 別に俺もみんなを焦らしていたわけじゃなく、それなりに健全なお付き合いを目指していただけに過ぎない。だけどコイツらにとってはそうではなく、俺が中々攻めてこないからこっちから攻めようって気概にさせられていたらしい。でもそれって俺のせいじゃなくてコイツらが性に敏感なだけのような気も……。

 

 そんなことを考えている間にかすみはソファに上がり込み、俺の上に馬乗りになった。未だに寝たフリをしているので全容は明らかではないが、全裸のJKに馬乗りにされているというこれまで類を見ないシチュエーション。しかもその子の下着を顔面に装備させられた状態で……。うん、ちょっと情けないか? でも興奮してしまう。男だから。

 

 さて、どうするかな……。

 

 

「かすみんはいつだって本気です。だから零さんにちょっとでもその気があるのなら、今はかすみんに全てを委ねてくれませんか? かすみんも零さんと1つになりたいです――――なぁ~んて、寝ている人に言っても意味ないか」

 

 

 割と真剣なトーンだったが、睡眠中の相手だってことを思い出してすぐに素に戻る。

 やっていることは相手の寝込みを襲う外道な行為とは言えども覚悟は本気らしい。いつもはイタズラ好きで貧乏くじを引かされがちでネタキャラの彼女だけど、ひたむきに可愛さを追求するその努力と俺に対する愛はまさに本物だ。そんな奴が本気で俺に向かってきているとなれば、こちらのやるべきことは1つ。

 

 

「そろそろ、やっちゃいますね……」

 

 

 最後まで寝たフリ。

 たまには女の子の欲望をそのまま叶え、受け止めてあげてもいいだろう。欲求不満にさせてしまったのはどんな理由があれど俺のせいでもあるからな。

 

 

 その後、かすみは俺のズボンに手をかけた。

 

 

 結局俺が目を開けたのは全てが終わった後、かすみが満足して艶々になったあとだった。

 ちなみに俺が起きていたことをかすみは見抜いていたらしい。そうでなきゃあんな俺に語りかけるような独り言を喋ったりしないわな……。 

 その話をした時の彼女は超したり顔だったけど、まぁコイツが満足できたのであれば今回はそれでいいかな。

 




 寝たフリをして女の子の反応を愉しむ今までにないシチュエーションで、いつものような零君との会話がないことから最初は個人回として成立するか怪しんでいました。ですが普段から押せ押せのかすみがメインだったこともあり、彼女の魅力を引き出すのにはちょうどいいネタだったと思います。

 個人的にお気に入りの場面は脱ぎたての下着を顔に被せられるところです(笑)
 変態的なシチュエーションが好きなので仕方ないですね(笑)



 新しく高評価をくださった

 冬がくれた予感さん

 ありがとうございました!
 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!
 

 ちなみにですが、小説の評価がハーメルンのラブライブ小説初の10,000を突破しました! こちらも合わせてありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

強制ノーパン de 健康デー

 今回は2年生組メイン回で侑視点です。
 偏見かもしれませんが、2年生組って1年や3年組と比べると公式でもまとまった話がない気がする……


「あっ、あぁ……ッ!?」

「えっ、どうしたの歩夢……? そんな干からびた声を出して……」

「侑ちゃん……。い、いやちょっと……」

「もしかして太った?」

「ふぇっ!? ど、どうしてそれを!?」

「いや最近ずっとお腹周りを気にしてたし、みんなが見てない間にこっそり部室の体重計に乗ってたことも知ってるし……」

「え゛ぇええっ!? 見てたの!?」

「あぁ~この前たまたまね、たまたま」

 

 

 スクールアイドル同好会の部室で体重増加に項垂れる歩夢。最近はずっと雑誌やネットで新作スイーツの情報を穴が開くほど調べてたからまさかとは思ったけど、本当にそのまさかが訪れるとは……。隠れて食べても体重は嘘をつかないからすぐバレるのに。そういったちょっと抜けているところが歩夢の可愛いところなんだけどね。

 

 

「うぅ、侑ちゃんも甘いモノ好きなはずなのにどうして私だけ体重が……。私の方がスクールアイドルの練習でたくさん運動してるのに……」

「歩夢がそういう体質なんじゃないの? でも傍から見たら別に太ってるようには見えないけどなぁ」

「そうだけど、体重計で具体的な数字が見えちゃうと焦っちゃうんだよ……」

「まぁ分からくもないけどさ。それにちょっと太ったところでお兄さんは気にしないと思うけど?」

「れ、零さん!? 零さんの前だからこそ体型はしっかり維持しないと! 絶対に!!」

「おぉぅ、恋する乙女は大変だねぇ……」

 

 

 さっきまで意気消沈していたのに、お兄さんの話題になった瞬間に意気込みを熱くした歩夢。私は異性を好きになったことがないから分からないけど、やっぱり恋愛対象ができると見えない部分の身だしなみにも気を付けるものなのかな。まあお兄さんって女の子の変化に鋭いから、それでより神経質になっちゃうのかもね。私もまぁ、お兄さんが学園に来るときは身なりに気を付けてないことはないけどさ。

 

 

「はぁ、私の周りの子ってみんなスタイルがいいから羨ましいなぁ~……。せつ菜ちゃんとか愛ちゃんとか同い年なのにこの差だもん……」

「歩夢もスタイルはいいと思うけどね。でも確かにあの2人は女子高生のスタイルのレベルを逸しているというか、私でも羨ましいって思うよ。せつ菜ちゃんは前からスクールアイドルをやってたから体型維持も欠かしていないだろうし、愛ちゃんはよく運動部の助っ人に行ってるし、朝ジョギングもしているって言ってたからそりゃいいカラダにもなるか」

 

 

「おっ、なになにスケベな話?」

 

 

「「う゛わぁぁあああああああああああっ!?!?」」

 

 

 いきなり後ろから話しかけられて私たちは女の子らしからぬ低い声で叫んでしまう。

 振り向いてみるとそこには愛ちゃんと、その後ろで不思議そうに私たちを見つめているせつ菜ちゃんがいた。話に夢中で全然気づかなかったし、本人たちがいないところでその人のカラダの話題を出していたことがバレてちょっと申し訳なさが……。

 

 

「さっき『いいカラダ』って言ってたよね? 2人共堂々とそんな話をするなんて意外とむっつりさん?」

「ち、違うから!! 歩夢が太ったって言うから同い年の2人と比べてただけだよ!!」

「ちょっと今サラッとバラしちゃったよね!?」

「太った? 歩夢さんが……?」

「は、はい、不覚にも……」

「歩夢のことだから、スイーツの誘惑に負けてこっそり食べてたんじゃないの~? 最近一緒に帰っている時にスイーツのショーウィンドウをよく目で追ってたもんね!」

「うっ、愛ちゃんにもバレてる……」

 

 

 歩夢は思っていることが顔や行動に出やすいからすぐバレるんだって。スイーツ店の前を通るたびにそのショーケースの中身を指を咥えて眺めている姿が容易に想像できる。そこから私たちにバレないように誘惑に負けてこっそり食べているところを想像すると……うん、可愛い。

 

 

「そんな感じで歩夢が唸ってるわけ。ま、いつものことだから心配しなくてもいいよ」

「侑ちゃん!? 確かに体重はいつも悩んでるけど……」

「それでしたらいいモノがありますよ」

「えっ?」

 

 

 せつ菜ちゃんはカバンからタブレット端末を取り出してテーブルの上に置く。そこには『健康促進管理』と書かれたアプリが立ちあげられていた。私たちはテーブルの周りを取り囲むようにしてそのタブレットを覗き込んだ。

 

 

「ん? せっつーこれって最近流行ってるアプリじゃない? よくネットニュースでも見るから」

「はい。実は私も体型維持に悩んでいまして、それを知った秋葉さんからこのアプリを勧められたんですよ。毎日食べたものを記録して、カロリー計算や必要な運動量まで測定してくれる優れもので、どうやら秋葉さんが作成したモノらしいです。私もまだ使ったことがないので、これを機会に是非どうですか?」

「う゛っ、秋葉さんか。前にイヤな思い出が……」

「大丈夫ですよ。このアプリは一般にも使われているみたいですし」

「せっかくだからここにいるみんなで登録してみようよ! 歩夢もダイエット仲間がいた方がいいでしょ?」

「う、うんっ。みんなみたいな理想体型になれるように頑張るよ!」

「それでは皆さんの名前を入れてアプリを開始しますね」

 

 

 せつ菜ちゃんはアプリに私たち4人の名前を打ち込みんで登録する。すると画面に『まずは簡単な方法で健康になってみましょう』と表示された。そんな簡単に健康になれる方法があるのかとこの時点で少し雲行きが怪しくなる。

 

 でも、それ以降画面に変化はなかった。何か変わったとすれば急に寒くなったくらいだ。特に下半身。パンツが消えて外気が直接下半身に触れているかのようなスースーする感覚。最近は秋口になって涼しくなってきており、スカートで過ごすのが億劫になってくる時期。それ故に寒くなってきているのかも――――って、違う!! これって!?

 

 

「ちょっ、なんでパンツなくなってるの!?」

「えぇっ!? って、私も消えてます……」

「愛さんもなんかスースーすると思ったらまさかホントに……??」

「うぅ、もしかしてこのアプリのせいなのかなぁ……?」

「やっぱり秋葉さんの作ったものに下手に触れるんじゃなかったね……」

 

 

 私たち4人からパンツだけが消失してしまう異常事態が発生した。どういう原理で消えたのかはもはや秋葉さんだからという理不尽な理由で納得せざるを得ないジレンマ。

 そんなパニックになっている私たちを他所に、アプリは次の画面に遷移した。

 

 

『まずは簡単な健康法であるノーパン生活から実践してみましょう。ちなみに今着ている服を着替えることはできませんし、そもそも許しません。パンツを隠すためにズボンを履こうとするなんて言語道断ですから♪』

 

 

「えっ、着替えちゃダメってどういうこと……?」

「よく分かりませんけど、部室のロッカーにジャージ入ってますよね? いったんそれに着替えちゃいませんか? そ、その下半身があまりにもスースーして落ち着かないので……」

「そうだね。それにもうすぐ零さんが来ちゃうし……」

「そっか、今日は別室の片付けで零さん呼んでたんだっけ? 零さんラッキースケベの能力があるから、ノーパンの愛さんたちももしかして……」

「う゛っ!? 着替えよう! 今すぐに!!」

 

 

 今日は私たち2年生組で部室とは別のライブの小道具が置いてある部屋の片付け&別室への引っ越しをすることになっていた。流石に物が多いので男手が必要とのことでお兄さんを誘ったんだけど、こっちから誘った身としては『やっぱりなしで』とは言い辛い。しかも集合時間も迫ってるし、なんならお兄さんは今日このために学園に来てくれるから尚更『今から帰ってくれ』とは言えない。ここは無理をしてでも片付け作業を決行するしかないか……。

 

 ちなみに私たち以外のメンバーはみんな用事で既に学園にはおらず、片付けを先延ばしにしようにも今日中に元の部屋を開けろという学園から緊急のお達しがあったため逃げ場は封じられていた。

 

 だけどこのスカートでノーパンの状態だけは何とか回避したい。お兄さんはすぐエッチなハプニングを誘発するからいつスカートを捲られてもおかしくない。それだけは絶対に避けないと……。

 アプリに表示されていた『今着ている服を着替えることはできません』が気になるけど、早くしないとお兄さんが来てしまうので急いで着替えることにした。

 

 したんだけど……。

 

 

「おもっ!? なにこのジャージ全然持ち上げられないんだけど!?」

「鉛のように重たいですね……。まさか着替えられないってこういうことですか!?」

「見た目は普通の服と変わらず軽そうなのに、手に持った瞬間にカチカチになって持ち上げられなくなっちゃうね……」

「そういうことか。もう秋葉さんめ……」

 

 

 着替えることができないってこういうことだったのか。しっかり退路を断っているあたり秋葉さんらしいと言うか……。

 私たちの手に取る服は全て凍っているかのようにガチガチになっていて、とてもじゃないけど着替えることができない。手を離せば風圧でひらひらしているので、完全に秋葉さんの影響で私たちの身体に何か仕込まれているみたいだ。もはや原理なんて分からないけど、あの人の考えてることを知ろうとするだけ無駄だ。って、この前お兄さんが言っていた。こりゃお兄さんが秋葉さんに呆れる気持ちが分かるよ……。

 

 

「どうしますか? スカートのままで片付けをすることになっちゃいますけど……」

「さっきからずっと落ち着かないよ……。それに片付けの最中にちょっとでも大きく動いてスカートが捲れでもしたら……」

「あははっ、零さんにぜ~んぶ丸見えになっちゃうね♪」

「笑いことじゃないよ! どうして愛ちゃんは平気なの……?」

「う~ん、まぁもう見られちゃってると言うか……うん、そんな感じ?」

「えっ、見られてるってどういう……」

「どういうって、そのまんまの意味だよ、そのまんま。ね、せっつー!」

「ふぇっ!? どうして私に振るのですか!?」

 

 

 お兄さんってみんなとデートをしたりしているみたいだけど、愛ちゃんやせつ菜ちゃんの反応を見る限りやっぱりエッチなこともしているのかな……。いや別に他人の私がとやかく言うつもりはないけど、身近な友達がそういったことをしていると知るとなんだかその子がもっと女の子っぽく見えてくると言うか、大人の魅力を感じてしまう。2人のスタイルがよくアダルティに思えるのもそういった理由があるからかもしれない。

 

 それにしても今日はずっとこのままかぁ……。百歩譲って家の中でノーパンにされるのならまだいいけど、野外でノーパンは流石に羞恥心が爆発してしまいそうだ。しかもこの後お兄さんに会うことになるし……。もしかしてお兄さんが来る日を見越してノーパンにさせられたとか……?

 

 

「こういった状況だから気にになるのでしょうけど、やっぱりこの学園ってスカートの丈が短いですね……」

「確かに短めではあるよね。まさかノーパンにさせられることで違和感に気付くことになるなんて……」

「スカートが短いせいでちょっと屈んだら色々見えちゃいそうだよね。ほらっ!」

「ちょっと愛ちゃん!?」

「歩夢ナイスブロック! ていうか普通に全部見えそうだったんだけど何してんの!?」

「あ~どのくらいまでなら見えないかなぁ~と思ったけど、こりゃ相当危険なことになってるねぇ愛さんたち」

 

 

 突然足を着いたまま身体をくの字に曲げた愛ちゃん。思わずスカートの中身が丸見え、つまり全てが曝け出されるところだったけど、咄嗟に歩夢が全身でカバーしたことで私の目にそれが映ることはなかった。それでも超ドキドキしたけどさ……。

 

 愛ちゃんの言う通り、ウチの学園のスカートは短いせいで動き回ったりすると丈がひらひらとして太ももがかなり見えてしまう。ただ掃除をするくらいならいいんだけど、大なり小なり大きさのあるライブ用品を持ち運んだりするとそれだけで大きく動くため、スカートの中が見えてしまうリスクは大きい。ギリギリ全部は見えないとしても下着を履いていないことは丸わかりになってしまうため、お兄さんがいつもの変態を発揮してイタズラされる可能性も……。

 

 ていうか、この学園のスカートが短いのも全部秋葉さんのせいなのでは……? この学園って秋葉さんがお兄さんに見合う女の子だけを入学させて楽園を作るために創設されたから……。ん、待てよ? そうなるとスカートが短いのもお兄さんの趣味ってことだよね? つまり私たちは秋葉さんの悪ふざけと零さんの変態趣味のせいで今不幸のどん底にいるってこと? もう神崎姉弟といるとトラブルが絶えないよ全く……。

 

 

「これはもう諦めてこのまま作業するしかなさそうですね。なんだか既に下半身がムズムズしますけど……」

「愛さんちょっとクセになっちゃうかも。慣れてくれば解放的で、それに見られるかもってスリルがあってドキドキするじゃん?」

「私は恥ずかし過ぎてもう……。零さんに見られちゃうと思うと動けないよぉ……」

「逆にそれで零さんを誘惑したらいいんじゃない? 歩夢に足りないのは押しだから、自分からイケイケで誘惑すればギャップ萌えってやつで零さんも興奮するっしょ!」

「いやいやいやいやいやいや! 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!」

「おぉそこまで否定されるとは、なんかゴメン……」

「いや私だって恥ずかしいですよそれは……」

「でもせっつーだって零さんに裸を見せたことあるでしょ?」

「それは不可抗力です!! し、然るべき場所と雰囲気さえあれば別にいいですけど……」

 

 

 タイミングさえあればそれでいいんだ……。

 なんにせよ私は絶対に見られたくないから細心の注意を払わないと。でも怖いのはお兄さんの主人公補正であるラッキースケベ能力と、愛ちゃんが悪ノリでスカート捲りをしてこないかだ。しかもそれが高確率で起こりそうだから心配なんだよ……。

 

 そうやってビクビクしていると、携帯に通知が入る音が聞こえた。

 相手は案の定お兄さん。学園に来たから早く合流しろと、相変わらずの命令口調での連絡だった。

 

 

「お兄さんから連絡が来ちゃった。もう腹を括るしかないか……」

 

 

 私たちは緊張の中、遂にお兄さんと相見えることになった。

 果たして私たちは無事に大切なところをお兄さんの瞳に映すことなく引っ越し作業を切り抜けられるのか。それとも――――――

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 本来は1話に収める予定でしたが零君の登場までに文字数を使い過ぎてしまったので、今回は珍しく前後編です。
 次回、侑たちが零君にノーパンであることをバレずに場を切り抜けられるのか乞うご期待です!(笑)


 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

強制ノーパン de サバイバル

 前回の続きで、今回も侑視点です。


 ここまでのあらすじを簡潔に説明すると――――

 

・秋葉さんの作成した健康管理アプリによって私たちは強制的にノーパンに

・そのアプリの効果で私たちが手に取る衣類が氷のように固まって着替えることが不可能に

・ノーパン状態でライブ用品の置かれている部屋の引っ越し作業をすることに

・その作業をラッキースケベ能力を持っているお兄さんと一緒にすることに

 

 私たち、お兄さんの目を上手く掻い潜れるのかな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「やっと来たか。遅いぞ」

「ゴメンなさい! 部室で話し込んじゃってて……」

 

 

 お兄さんとの待ち合わせ場所である学園のロビーに向かうと、案の定と言うべきか既にお兄さんが到着していた。こうして実際にお兄さんと相まみえると自分が今ノーパンであるという事実がより一層気になってならない。さっきは歩夢たちだけだったからまだ恥ずかしいと思うだけで済んだものの、異性であるお兄さんを目の前にすると股が変にウズウズしてくる(変な意味ではない)。それは歩夢たちも同じようで、もう既に頬を赤くしたり脚をもじもじさせていた。

 

 

「ったく、お前らから誘ってきたくせに……。まぁいいや。で? ライブの小物が置いてある部屋の引っ越しだっけ? その部屋はどこにあるんだ?」

「こっちです。行きましょう」

 

 

 なんとか体裁を取り繕って平静を保っているようには見せてるけど、内心では心臓が激しく鼓動している。いつ何かの拍子でスカートが捲れ上がらないか、お兄さんや愛ちゃんが悪ノリした際に中が見えちゃわないか、お兄さんのラッキースケベが発動しないかなど、想定しうる事故に身構えているだけで精いっぱいだ。

 

 

「おい」

「は、はいっ!?」

「どうしてさっきから俺をチラチラ見てるんだ? やけに挙動不審だけど……」

「そ、そうですか? いやお兄さんが面倒事に付き合ってくれることが珍しいなぁと思っただけで……」

「まあ自分から面倒事には首を突っ込まないけど、頼まれたとあれば別の話だ。女の子だけに力仕事をやらせるわけにはいかねぇしな」

「さ、さすが零さんです!! そういうところがカッコいいし頼りになります!」

「おぉう、どうしたせつ菜? そんな異世界転生モノで無双する主人公を讃えるような褒め方は……。いや褒めてくれること自体は嬉しいけどさ」

「ホ、ホントにそう思ってますから!! えぇ!!」

 

 

 せつ菜ちゃん、ノーパンが恥ずかし過ぎて空回りしてるなぁ……。お兄さんを褒めることで自分がノーパン状態でいるという事実を忘れようとしているのだろう。顔も赤いし目もぐるぐるしていて焦っているのが丸わかりだ。そりゃ大好きな人が目の前にいるのにスカートの中が丸裸状態だなんてまともな精神状態でいられないよね……。

 

 お兄さんと会って数分も立っていないのに極度の緊張に襲われる。もちろんお兄さんは私たちの身に起きていることなんて知らないだろうけど、むしろ知られたら困るので何とか隠し通さなければならない。

 そんな中、歩夢が小声で話しかけてきた。

 

 

「侑ちゃん侑ちゃん……ッ!!」

「どうしたの歩夢そんな迫真の顔して……」

「こ、この廊下……」

「廊下って別に気にすることでは――――って、え゛っ!?」

 

 

 廊下なんかで何を騒いでいるのかと思って見てみたら、掃除された後なのかピッカピカの鏡面仕上げになっていた。どれだけ磨いたらこんなに綺麗になるのか、アニメや漫画で良くあるキラキラマークが目に見えそうなくらいだ。

 廊下が鏡面になっていればもちろんスカートの中がその鏡面越しで丸見えとなってしまう。つまりお兄さんが少しでも廊下に目線を降ろせば一緒に歩く私たちのノーパン姿が全て曝け出されて――――って、そんなの絶対にダメだから!! そもそも学校の廊下がこんな仕様なのも、この学校を設立した秋葉さんの仕業なのでは……??

 

 なんだかんだ言っても目的の部屋に行くには他にルートはなくここを通るしかない。スカートで股の下を隠そうにも、そんな不自然な格好で歩いていたら察しのいいお兄さんにバレてしまうかもしれない。走って通り抜けようにもご丁寧に側の掲示板に「廊下で走らない!」と注意書きが張られている手前やりにくい。ただでさえ八方塞がりだったのにまだ私たちに蓋をするのか……。

 

 

「いや~まさか引っ越し作業の前に私たちが痴女だってことがバレちゃうかもね~♪」

「愛ちゃんなんでちょっと嬉しそうなの!? ていうか痴女じゃないし! それにまだ私は諦めてないからね!」

「とりあえず零さんの後ろについていく形で歩きましょうか。そうすれば見られないはずですから……」

 

 

 私たちはお兄さんの背後に身を隠しながら鏡面仕上げの廊下を進むことにした。

 したんだけど……。

 

 み、見えてる!! 何がとは口に出して言わないけど廊下にうっすらと!!

 幸いにも本当の鏡ではないのでモザイクが掛かっている感じにはなっているが、肌色なのはバッチリ確認できるのでスカートの下に何も履いていないことは容易にバレる。つまりお兄さんに足元を見られたら何もかもが終わる……!!

 

 

「れ、零さん!!」

「えっ? おい歩夢どうした急にくっついてきて!?」

 

 

 歩夢が突然お兄さんの元へ走り出したと思ったら、なんとその勢いでお兄さんの腕に抱き着いた。あまりに唐突なことだったので驚いたけど、歩夢もさっきのせつ菜ちゃんと一緒で冷や汗をかきながら頬を赤らめているので焦っているのが目に見えて明らかだ。でもどうしていきなりそんなことを……?

 

 

「実は零さんに会えたことが嬉しくてつい……」

「いや昨日も会っただろ……」

「ま、毎日会いたいんです! それくらい零さんのことが大好きなので!!」

「何故ここで告白!?」

 

 

「歩夢ってば、もしかして零さんがうっかり足元を見ちゃわないように自分に集中させようとしてる?」

「そうみたいだね……」

 

 

 歩夢も完全に暴走しちゃってるなぁ……。愛ちゃんの言う通り、歩夢はお兄さんの気が他に散ってしまないよう大胆に告白してまでノーパン状態がバレることを阻止している。お兄さんは夢にも思わないだろうなぁ。ストレートに告白してくる女の子が、実は下着を履いていないなんて……。

 

 

「わ、私も零さんのこと、毎日ずっと心待ちにしているんですよ……?」

「ちょっ、せつ菜お前まで!?」

「せつ菜ちゃん!?」

「私だってその……好き、ですから……」

 

 

 歩夢に続いてなんとせつ菜ちゃんまでお兄さんの腕に抱き着いた。歩夢とは反対方向から抱き着き、これまたドが付くほどのストレートな告白でお兄さんを、そして私たちに衝撃を与える。いくらいつも女の子を侍らせているお兄さんとは言えども、思いがけない展開で両手に花となっては戸惑いを見せるしかないようで、2人の猛アタックに珍しく押されているようだった。

 

 そういえばせつ菜ちゃんは私たちの中で誰よりもノーパンであることを恥ずかしがってたから、羞恥心を我慢できずに暴走しちゃうのも無理はないか……。ノーパンがバレる危険性と常に隣り合わせで緊張を張り巡らすよりも、こうしてお兄さんに告白してでも注意を逸らす方がまだ我慢できる。そう言った判断だと思う。いや私からしてみればそんな勇気はないから本当に勇者だよ、2人共……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 なんとか鏡面仕上げの廊下を無事に渡り抜け、ライブ用品が置いてある部屋に辿り着いた私たち。歩夢とせつ菜ちゃんの健闘もありなんとかノーパンであることをバレずに切り抜けられた。

 だけどあれは前座で本番はここから。部屋の引っ越し作業なので物を持ったり運んだりと、必然的に身体を動かすことが多くなる。そうなれば当然スカートが捲れ上がることも多くなるわけで……。せめて着替えることができたらこんなことで悩まなくても良かったのに……!!

 

 

「そういやお前ら、どうして制服のままなんだ? 動くんだからジャージに着替えた方がいいだろ」

「「「う゛っ……!?」」」

「いや~それがさ、かすかすが私たちのジャージや練習着を全部洗濯に出しちゃって! 本人は善意でやってるとは思うけど、今日私たちが引っ越し作業するの知ってるのにおっちょこちょいだよね♪ ま、そういうところが可愛いんだけど」

「あ~アイツならやりかねないな。制服のままで作業をさせる新手のイタズラかもしれねぇけど」

 

 

 ナイス愛ちゃん! 流石はコミュ力お化け、返答も早く誤魔化し方も自然でお兄さんに怪しまれる気配は全然ない。その代わりにかすみちゃんが犠牲になったけど、今の私たちは背水の陣だからここは我慢して欲しい。

 

 

「まぁお前らがその恰好でもいいってのならそれでいいや。とりあえず早く片付けるぞ」

 

 

 遂に始まってしまった引っ越し作業。予想通り動き回ることからスカートがひらひらしてしまい、中が見えてしまわないか心配になって作業に集中できない。歩夢とせつ菜ちゃんも同じようで、常にスカートを抑えながら物を持ったり運んだりしているので作業に身が入っていないようだ。逆に愛ちゃんはもう見られていいやの精神だからか、スカートが捲れ上がることに何の抵抗もなくテキパキ作業をこなしている。時折本当にギリギリ見えるか見えないかのラインまで捲れ上がっているのでこっちまでヒヤヒヤしてくるよ……。

 

 しかもこの部屋、日当たりが悪いためかかなり寒い。秋口に入って涼しくなってきた影響をモロに受けており、ノーパンにこの寒さはかなり効く。そのせいで今まで以上に股がムズムズして仕方がないんだけど……。

 

 

「おい歩夢。高いところにあるのは俺に任せとけ。そんな背伸びをしてたらバランスを崩してケガするぞ」

「は、はいっ、ありがとうございます――――ふぇぇっ!?」

「お、お兄さん……!?」

 

 

 お兄さんは高いところの荷物を取ろうとしている歩夢の背後に立ち、そのまま荷物を降ろそうとする。それだけ見れば気遣いのできる優しい人にしか見えないんだけど、その体勢が問題だった。

 お兄さんは歩夢の背中にピッタリと引っ付く形で立っているため、歩夢は壁とお兄さんに挟まれる形となっている。そしてお兄さんの脚が歩夢の股の間に入ってしまった。

 

 

「意外と大きい荷物だな。よっと!」

「ひゃぁっ!?」

「えっ、なんだこの感触……」

 

 

 お兄さんが高いところにある荷物を取るために背伸びをしたことで、膝が歩夢の股を押し上げた。幸いにもスカート越しだったから良かったけど、それでもパンツがないから実質布1枚越しにお兄さんの膝と歩夢の下半身が触れ合っていることになる。歩夢は刺激を与えられたため声を上げ、お兄さんは謎の柔らかい感触がして驚いていることだろう。現に荷物を取る手を止めて歩夢を不思議そうに見てるし……。

 

 

「今すげぇ変な感触がしたんだけど……。なんかこう、割れ目を感じられるよう――――って、いや、なんでもない」

「そ、そうですか? わ、私は別に何とも……」

 

 

 いや動揺してるのバレバレだから……。瞬きも早くなってるし、元々嘘を付こうとしても顔に出ちゃう性格だから逆に怪しいんだよね……。ていうかお兄さん、さっき直接的なことを言いそうになったよね? 咄嗟に止めたけど普通にアウトのところまで言っちゃってた気がする。

 

 とりあえず微妙に怪しまれたけど無事に荷物を降ろし、この場は切り抜けた歩夢。

 だけどこれで終わるとは到底思えない。とにかく早く作業を終わらせるしかなさそうだ。

 

 そんな感じで荷物を部屋の外に出す作業は続く。

 

 

「せつ菜、どうした?」

「えっ、えっと、この大きな荷物を運びたいんですけど奥から引き抜かなくてはならなくて……。でも1人だと力が足りないせいかビクともしないんです……」

「じゃあ一緒に引き出そう。手握るぞ?」

「へっ? ひゃっ!?」

 

 

 今度はせつ菜ちゃんがターゲットになった。まあお兄さんは善意だからそんなことを言うのは失礼極まりないけど、今の私たちにとってお兄さんと触れ合うことがどれだけの危険を伴うのか想像するだけでも恐ろしい。いつノーパン状態がバレてもおかしくないからね……。

 

 お兄さんはさり気なくせつ菜ちゃんの手を握って一緒に荷物を取り出そうとする。さっきの歩夢の時もそうだけど、そういったさり気なく優しいところがモテるんだなぁって思うよ。せつ菜ちゃんさっきまでノーパンがバレるか否かで緊張していたはずなのに、今はお兄さんにいきなり手を握られてそっちでドキドキしちゃってるじゃん……。

 

 

「もうちょっとで引き抜けそうだ。せつ菜、力を入れて引っ張れよ」

「は、はいっ! えいっ!」

「よしっ、引き抜けたぞ――――うぉっ!?」

「きゃぁっ!?」

「お兄さん!?」

「せっつー!? 大丈夫!?」

 

 

 お兄さんとせつ菜ちゃんは荷物を引き抜いた勢いでそのまま後ろに倒れ込んでしまう。お兄さんの体勢はさっきの歩夢の時と同様にせつ菜ちゃんの背後から手を沿わせていたので、必然的にせつ菜ちゃんはお兄さんの身体の上に倒れちゃったんだけど……触れ合ってる!! どことは詳しく言えないけど下と下が!! せつ菜ちゃんのスカートで丁度その部分は見えないのが救いか。でもこれも歩夢の時と同じで履いていないせいで下の感触がモロに……!?

 

 

「ひゃぅ!? い、色々当たって……ッ!?」

「なんか傍から見たら挿ってると勘違いされそうだな……」

「なにを冷静に解説してるんですか!! ほら、せつ菜ちゃんも早く離れて!! そうしないとお兄さんに――――」

「俺に?」

「な、なんでもないです……」

「つうかさ、歩夢の時もそうだったけど違和感があるんだよな。俺の考えてることが正しければ――――」

「とりあえずこの荷物をパッパと運んじゃおうよ! ただでさえ始めるのが遅かったのに、これ以上ゆっくりしてたら下校時間になっちゃうよ?」

「そ、そうだな……..。う~ん……」

 

 

 またしてもナイス愛ちゃん! もうお兄さん9割くらい勘付いてる感じだったけど上手く話題を逸らしてくれた。このまま流して有耶無耶になってくれれば私たちの勝利だ。ここさえ切り抜けさえすればあとは家に帰ってパンツが戻るまで自室に引き籠っているだけで済む。もう少しの辛抱だよみんな!

 

 

 ――――と思ったんだけど……。

 

 

「零さ~ん! 愛さんの方も手伝ってよ~」

「分かって今行く――――って、お前スカートの中!?」

「あっ、あぁそういえば。エッチだねぇもう♪」

「振り向いたら目の前におしりが見えて、それで驚かねぇ奴はいねぇだろ!? てか履いてないのか……? ギリギリ全部は見えなかったけどさ」

 

 

 なにやってるの愛ちゃん!?

 棚の下の方の荷物を引き出すために四つん這いになっていたせいでスカートが捲れ、おしりが少し見えてしまっていた。この部屋に来る前からずっとそうだけど、自分がノーパンであることになんら抵抗感がないのが凄い。お兄さんに見られてもいいと思っているのか、それとも日常的にノーパンで生活していて慣れていたりするのかな……? 精神が図太いのか羞恥に無頓着なのか。どちらにせよお兄さんが抱いていたノーパン疑惑を確信に変えちゃダメだって!!

 

 

「履いてるよ。Tバックってやつ?」

「そ、そうなのか。てかスカートの下にそんなモノを履くとか正気かよ……」

「零さんを誘ってるって言ったら?」

「ふん、学校でそんなヤる気になるかよ」

「だったら家で2人きりだったらその気になっちゃうんだ~♪」

「ったく、手伝ってやるから口より手を動かせ」

「りょーかーい!」

 

 

 ヒヤヒヤするなぁもうっ! Tバックを履いているって嘘で誤魔化せたけど、もしノーパンだってことがバレたら芋づる式に私たちまで火の粉が降りかかるから心臓に悪い。誤魔化すためにいつ会話に割って入ろうかと機会を窺っていたけど、相変わらずの機転の良さでこの場は乗り越えた。それでももう愛ちゃんの下はかなり見られちゃったけどね……。

 

 

「侑、お前も何か手伝って欲しいことはあるか?」

「えっ、私ですか? 私はここの小物を運ぶので、お兄さんはみんなの方を手伝ってあげてください」

「そうか。じゃあ余裕があるだろ? ついでにコイツも運んでおいてくれ。そんなに重くないからお前1人でもいけるだろ」

「はい。分かりました――――ん??」

 

 

 その時、私は気付いた。荷物をこちらに持ってくるお兄さんの足元に空き瓶が転がっていることに。どうしてこんなモノがここにとか考えている暇はない。私の脳裏にはこの後の展開が未来予知の如く想像される。

 

『お兄さんがビンを踏んで転ぶ』

『私に倒れ込んでくる』

『ラッキースケベ発動』

『スカートを捲られて中を見られる』

 

 

 

 それはダメ!! 絶対にダメ!! なんとしてでもこの未来を変えないと!!

 

 

「お兄さんストップ! 私が受け取りに行きます!」

「なんだよ急に。俺から持っていくから別にいいって」

「お兄さんはそこにいてください! いいですね?」

「はぁ? 何をそんなにムキになってんだ?」

「い・い・で・す・ね?」

「わ、分かったって……」

 

 

 やり投げな威圧でお兄さんをその場に止まらせ、私から向かうようにする。お兄さんを動かしてしまうとどこでラッキースケベを発動されるか分からないからね。でもこれで安心。転んで女の子のスカートの中に顔を突っ込む展開とか平気で起こりえる人だから、私も最大限の注意を払ってしまう。

 

 しかし、私は気付かなかった。なんと自分の足元にも空き瓶が転がっていることに。お兄さんの足元しか見ていなかった私はまさに灯台下暗しで、自分の足元には全く目もくれていなかった。

 そうなればもちろん私の足はその空き瓶を踏んでしまい――――――

 

 

「きゃっ!?」

「ちょっ、あぶねぇ!?」

「侑ちゃん!?」

「侑さん!?」

「零さんも!?」

 

 

 一瞬でお兄さんがこっちに駆け寄ってくれた光景を最期に、私は目を瞑ってしまい視界が真っ暗になった。おしりに衝撃が走ったことからどうやら尻もちをついてしまったらしい。幸いにも痛みは少なかったけど、もしかして助けてくれようとしたお兄さんを巻き込んじゃったり……?

 

 私は恐る恐る目を開けてみる。すると自分がM字開脚をしていることに気が付く。この体勢は知っての通りスカートの中が丸見えになる危険な格好。つまりスカートの中がお兄さんに……!?

 

 

「ったく、気を付けろよな」

「えっ、あれ……?」

 

 

 自分の下半身を見てみると、お兄さんが裾を手で押さえてくれたおかげで中身を晒す事態は避けられていた。いつもならお兄さんのラッキースケベが発動してスカートどころかパンツまで脱がされる勢い(今は履いてないけど)なので、この展開は正直ビックリしている。お兄さんが転んだのではなく私が転んだから未来が変わった……とか?

 

 

「言っておくけど、スカートを捲ろうとしてるんじゃないからな? いつもだったら転んだ拍子に捲っちまうけど、今回は守り抜いてやったんだ」

「あ、ありがとうございます……」

「侑ちゃん大丈夫?」

「う、うん……」

「ケガしたらすぐ保健室に行けよ。あとは俺たちでやっておくから」

「はい。ありがとうございます……」

 

 

 あぁ~なんかズルい。こうしてたまにカッコいいところを見せるのはズルい。さっきまでお兄さんの目を何とか避けようとしていたのに、なんだかそれが申し訳なくなってくる。もちろんノーパンを見られるのはイヤだけど、愛ちゃんが零さんに対して恥ずかしがらず大胆になれる図太さが少しだけ、ほんの少しだけ理解できた……ような気がする。なんだかんだ女の子を大切にしてくれるから、守ってくれるから安心できるんだなぁって。それでもやっぱり直接見られるのは恥ずかしいけどね。

 

 ちなみにその後は滞りなく作業は終了し、特にノーパンがバレることもなかった。それから間もなくパンツが復活したので、事態は無事に終息した。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 ちなみに少しの間、外で1人で作業していたお兄さんは――――

 

 

「履いてないなら履いてないって素直に言えばいいのに……って、流石に恥ずかしいか。秋葉の奴が悪いことをしたって謝っておくか? いやいや、本人たちが必死に隠してるんだから掘り返す必要はないな、うん。でもそれはそれで逆に俺がモヤモヤするっつうか、目の前にノーパンの女の子がいるなんてドキドキするじゃねぇか!!」

 

 

 私たちの知らないところで葛藤していた。

 




 いつもは変態だったりする男キャラが時折ちょっとイケメンムーヴをする展開、私は好きだったりします(笑)


 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

堕ちるまでのプロセス

 今回は栞子回です。
 1年前に投稿された398話『即堕ち栞子』で、デート中に何があったのかが詳しく語られつつ、即堕ちした理由が明かされます。


「会場の手配、搬入の確認、費用の算出に申請書の提出、それから……」

 

 

 スクールアイドル同好会の部室に来てみると、栞子が慌ただしくパソコンのキーボードを叩いていた。

 発していた言葉から察するに、次のライブに向けた事務作業をしているのだろう。流石は現生徒会長と言ったところか、やるべきタスクを明確に洗い出しており、1つ1つそつなく片付けている。まだ1年生なのにこの効率の良さ、俺も来年教師になる上で見習いたいって思うよ。

 

 それは俺と一緒に部室に入った侑も同じことを思ったようで、申し訳なさそうな顔をして栞子のもとへ駆け寄った。

 

 

「栞子ちゃんそれ!」

「えっ、侑さん? 零さんも、こんにちは」

「うん、こんにちは。じゃなくて! それって私がやる予定だった作業だよね?」

「そ、そうですけど……。もしかして、やってはいけませんでしたか……?」

「いやいや、むしろやってくれたのはありがたいよ。でもみんなのマネージャーとしては私がやるべきことだから、栞子ちゃんにやってもらうのは悪い気がして……。ほら、生徒会の仕事も忙しいでしょ?」

「これくらいなら大丈夫です。むしろ侑さんの方が音楽科へ転科して間もないので、勉強など色々お忙しいのではないですか?」

「だから私の作業までやってくれてたんだ……。凄く頑張り屋さんだね、栞子ちゃん!」

「そ、そんな大したことはないですよ……。侑さんの方が手際がいいですから」

 

 

 栞子は恥ずかしそうに顔を赤らめる。お互いにお互いを気遣って褒め称えるの、いいじゃないか。

 さっきの会話で気付いたけど、侑の奴そういえば音楽科に転科したんだっけ。マネージャー業務だけではなく作詞作曲も手伝いたいということでピアノを弾き始め、そして音楽科に入ったという経緯だったと思う。なんとまぁ勤勉なことか。侑は誰かを輝かせることに生き甲斐を感じているというか、それを夢に掲げているすげぇ奴だ。他人のためにそこまで頑張れるなんて俺には真似できねぇな。

 

 

「1人で何もかもやるのは構わないけど、無理が祟って戦闘不能になるのだけは勘弁してくれよ。そこまで面倒は見切れねぇぞ」

「はい、もちろんです。零さんのお手を煩わせることは一切ありません。零さんには何の柵もなくのびのびと私たちにご指導いただければと」

「そうしてくれると助かるよ」

「ちょっ、ちょっと待ってください!」

「なんだ急に?」

 

 

 突然侑が会話に割り込んでくる。まさか俺が面倒を見切れないと栞子を突っぱねた発言をしたと思ったのか? 別に意地悪でその発言をしたわけではなく、コイツらがスクールアイドルとして自分たちだけでライブの設定や準備ができるように成長を促してやっているだけだ。それはコイツらも了承済みで、俺がやるのは練習の指導だけ。そういう取り決めをしているんだ。

 

 

「気になっていたんですけど、栞子ちゃんってお兄さんを崇拝しているというか、心酔してるかってくらいの接し方なんですけどどうしてなんですか?」

「私は皆さんのことを等しく尊敬していますが?」

「それはそうかもしれないけど、お兄さんにだけは尊敬の大きさが異常じゃない? 最初はお兄さんのことを警戒してたよね? お兄さんが歩夢たちを誑かしてるんじゃないかって」

「その後に俺に凸してきたんだよな。帰る頃には尖ってた性格も随分丸くなってたけど」

「それですよそれ! そのとき一体何があったんですか!?」

 

 

 スクールアイドルフェスティバル終了から間もなく、歩夢を通じて俺を呼び出してきた栞子。俺が歩夢たちと二股どころか九股していると思い込み(実際合ってるが)、それを追求するために俺のもとに乗り込んで来たんだ。しかも俺が歩夢たちに向ける下劣な目(誤解だが)を自分に向けさせる、つまり自分が犠牲になることでみんなを救おうとする勇敢っぷり。当時はとんだ新人が歩夢たちの仲間入りしたもんだと驚いたね。

 

 

「な、何があったと言われましても、そ、それは……」

「ちょっ、顔赤くなってるよ!? 本当に何があったの!?」

「教えてやっただけだよ。色々とな……」

「ま、まさか変なことしてないですよね!? 栞子ちゃん1年生なんですよ!?」

「じゃあ2年生のお前になら何をしてもいいのか?」

「まだ高校生になりたてだって意味です!! いつもはぐらかされてきましたけど、今日という今日は何があったのか全部教えてもらいますからね!!」

 

 

 今まで侑に栞子との出会いの話を聞かれても適当な理由で流してたけど、そのせいで俺が栞子に何かしでかしたのかと思い込んでご立腹気味のようだ。まあ最初は俺を社会の腫物にして干してやる勢いで会いに行った彼女がここまで従順になってるんだから、そりゃ気になりもするか。

 

 

「別にはぐらかすつもりはなかったんだけどな。分かった、話してやるよ」

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

 栞子と初対面し、喫茶店で初会話をしている途中から始まる。

 

 

「まぁお前の言い分も一理あるし、俺の頼みを1つ聞いてくれたらアイツらに会うのはやめてやる」

「本当ですか? 一応聞いておきます……」

「今日1日だけでいい、俺と付き合え」

「え……? つ、付き合うって……」

「堅物生徒会長で箱入り娘じゃ話の流れで分からないか? 今日1日は俺のものになれって言ってんだ」

「は、はぁ!?」

 

 

 俺を糾弾するために意気揚々と乗り込んで来た栞子。超ド級の真面目ちゃんが故か俺を不埒な野郎と認識し、社会的に抹殺しようと企てる恐ろしい奴だった。まあ俺としてはそんなものは子供のおままごと同等なので、特に気に欠けることもなかったけどな。逆にコイツを分からせてやろうという俺の中のドS心が高鳴っていたので、敢えてデートに誘って『遊び』と『余裕』ってやつを教えてあげることにしたんだ。

 

 

「いいですよ。私の犠牲で皆さんを守れるのであればお付き合いします」

「いい友情だな。その気概が保てるかどうかも見ものだ」

「私は皆さんとは違い、あなたに靡くことはありません。あなたのような軽薄な男性、一番嫌いな人種ですから」

「なんというフラグ……。そんな大見得を切って後で堕ちても知らないぞ?」

「そんなことは断じてあり得ません。むしろあなたに社会の秩序というものを教えて差し上げます!」

 

 

 もはやヤラセを疑うような壮絶な前フリだけど、この頃の栞子はツンツンもツンツンだったからな。俺を見る目に怒りが籠っており、そのツリ目がちな視線で俺を貫こうとしてくるくらいだった。まだ高校1年生なのに大学生の男に対してここまで啖呵を切れるなんてと感心してしまうくらいだ。

 

 だが俺からしてみれば可愛いもので、ムキになる子供をあやす大人のようなほっこりとした顔で彼女を見つめていた。それが癪に障ったのか、彼女はより険しい表情で睨み返してきたけど……。ま、俺のことを浮気野郎としか思ってないんだから仕方ないよな。

 

 

「そうと決まればほら、行くぞ」

「い、行くってどこへ……?」

「どこって、遊びにだよ遊びに」

 

 

 未だに俺に対する警戒心MAXの栞子を無理矢理を引き連れ、とくにアテもないデートに繰り出した。

 繰り出したのはいいのだが――――――

 

 

「お前、買い食いしたことないのか?」

「はい。だらしのないことですから」

 

 

「お前、自分で服選べないのか?」

「はい。親が買ってくれたもの、姉のおさがり。それで充分ですから」

 

 

「お、お前、もしかして休みの日に友達とお出かけとか、そういう経験ないのか……?」

「休日は家で勉強、華道の稽古、たまにボランティアに出ているのでそんな浮ついたことはしていません。最近はスクールアイドルの事務作業で忙しいですし。あなたの素性を調べ上げることも……」

「想像以上にクソ真面目だな……」

「やらなくてもいい娯楽に身を投じる時間はありませんので」

 

 

 デートに誘ってみたまではいいものの、ここまで自分に厳しい子だとは思ってなかったので驚きだ。知り合った女の子の中でもこういう子は初めてで、似たような性格であるあの海未でさえ穂乃果やことりに連れられて遊びに行くくらいはしていたぞ。まあ誰かに縛られているのではなく自分で自分を厳しくしてるのならこちらからどうこう言う気はないけどさ、華の高校生なんだからもっと砕けても良いと思ったんだよな。

 

 

「歩夢たちと遊びに行ったりはしないのか? 女子高生だったら部活終わりに美味しいスイーツ巡りとか、一緒にショッピングとかやってそうなものだけど」

「そ、それは……。今まで上原さんたちに失礼なことをしてきましたし、皆さんの輪の中に入るのも空気を乱すような感じがして気が引けてしまいまして……」

「いやアイツらはそんなことを気にするようなタマじゃねぇだろ」

「それに私はスクールアイドルとしても新参者なので、できるだけ早く皆さんに貢献できるよう練習をしたり、事務作業を代行して皆さんの手を煩わせないようにしたりと、余計なことに時間を割いている暇はないのです」

 

 

 当時の俺は歩夢たちとコイツの間で何があったのかは知らなかった。だが無駄な詮索は1人で責任を背負い過ぎているコイツに更なる刺激を与えてしまうような気がしたので、この時は敢えて口を出さずに様子だけを窺っていた。あとから聞いた話ではどうやら歩夢たちと対立していたらしく、スクールアイドル同好会を潰そうと考えていたらしい。そのあとは紆余曲折あって和解し、彼女も同好会に入ったってのが経緯だ。クソ真面目な性格と対立していた負い目もあって、自分を律することでしか反省ができないと思っていたのだろう。

 

 ちなみに同好会を目の敵にしていた理由は、姉の薫子が関係している。薫子は自分の適性に見合った生き方をしていれば三船家の跡取りになれたが、スクールアイドル活動とスクールアイドルフェスティバルに入れ込み過ぎた挙句、結局結果が振るわず何もかも失った。だから栞子はもうそんな人を見たくないから人間の適性を何より大事にし、皆を笑顔にしたかった。特に薫子が入れ込んでいたスクールアイドルは『遊び』だと勝手に定義して執拗に対立していたんだ。

 

 

「他のみんなは許してるけど、自分が自分を許せないってやつか?」

「そう、ですね……。自分のけじめは自分で付けて、上原さんたちのサポートをするのが私の役目ですから。そのために不穏因子は除去する必要があります」

「おいおい、まさかそれって俺のことか……? でも残念だけどお前では俺を排除することはできねぇな」

「な、何故ですか!?」

「余裕がないからだよ。余裕が」

「そ、それがどうしたと言うのです……。第一私は無理なんてしていません! 私は私のやりたいようにやっているだけですから!」

「そうやって声を荒げて反論してる時点で余裕がないんだよ」

「ぐっ……」

 

 

 図星だったのか狼狽える栞子。自分でも相当煮詰めていることは自覚しているっぽいが、それを認めてしまうとただ我武者羅であることが露呈するため否定せざるを得ないのだろう。もちろん焦っているのは目に見えて明らかなので隠しきれてないが……。

 

 

「張り詰めた糸は切れやすい。頑張るのはいいことだけど、もっと心を軽くした方がいいんじゃないか? 緊張感を持ちすぎると視野も狭くなるぞ」

「ですが私には今まで皆さんにたくさんご迷惑をかけてきました! だからこそ私は――――」

「名誉挽回したい? 罪滅ぼしがしたい? 罪悪感を忘れたい?」

「そ、それは……」

「お前すぐ表情に出るよな。ま、そんな自分をも見えてない奴が俺を糾弾しようなんて無理な話だ。俺という自分が完成された人間に対抗できるはずがない」

「きゅ、急に自画自賛なんて痛々しい人ですね……」

「自分の心を削ってまで無理してる奴よりかは真っ当に生きてるとは思うけどな」

 

 

 栞子は箱入り娘だから世間の流行りや一般女子高校生の遊びには疎いとは思うが、それでも『自分はこうしなきゃらなない』という抱かなくてもいい信念に囚われ過ぎだ。だから言動にも余裕がなくなっている。自分を追い込むのが楽しいと思うマゾ属性持ちであれば文句は言わないけど、今のコイツは苦しそうだ。全然楽しそうじゃない。

 

 

「たくさんの女性と浮気している下劣なあなたには言われたくありません。社会常識だけは私の方があると思います」

「そんなしょぼいことでマウントを取るなって。お前が何て言おうと俺はアイツらから離れる気はねぇし」

「な゛っ!? あなたとのお出かけに付き合ったら上原さんたちには会わないと、さっき約束したではありませんか!?」

「俺は会わなくてもアイツらが会いに来てくれるからな。アイツら、俺のこと大好きだから。そうなることくらいお前も分かるだろ?」

「そ、そんな……」

「騙すようなことをして悪かったな。揚げ足を取ったみたいでさ」

「いえ、私の考えが足りていませんでした……」

 

 

 少しは冷静になったらしい。頑張るのはいいことだけど、自分を見ず、周りだけを見て頑張るのはただの我武者羅だ。周りを見ているとは言っても、周りが自分のことをどう見ているかは意識していない。多分歩夢たちも分かっていたのだろう。栞子が無理をしていることに。もしかしたらそれを知っていて、それを俺に何とかして欲しくてコイツを俺のもとに送り込んだのかもしれない。もしそうだとしたら初対面の女の子の無茶を更生させろだなんてあまりにも無理難題過ぎるだろ……。まぁ俺ならやってくれると信じているからこそだろうが。

 

 

「だったら、どうすれば良かったのですか……」

「だから今から遊ぶんだよ。教えてやるよ、お前が経験してこなかった色んなことを。それともこんな浮気野郎と遊ぶのはイヤか?」

「イヤ……ですね」

「おぅ、意外と直球だな……」

「ですが、何かを掴めそうな気がします。自分が変われるような何かを……」

「そっか。じゃあ行くぞ」

 

 

 栞子はレスバトルで俺に打ちのめされたせいか、多少なりとも自分で自分を見つめるようになった。俺に対してツンツンしていることには変わりないが、俺の意見を受け止め自分なりに納得に落とし込むくらいの余裕はできたらしい。頑固だけど話が分からない奴ってことはなさそうだ、というのが当時の俺の感想である。

 

 そしてまた俺たちは遊びに出た。今度は栞子がデートを楽しむことを念頭に置いて。

 

 

「アイスクリームを2段、えっ、3段……よ、4段も!? こんなに贅沢していいのですか!?」

「いいリアクションだな……」

「私、不良になってしまっていいのでしょうか……?」

「お前の中の不良イメージ可愛いなオイ……」

 

 

「こ、こんな可愛らしい服、似合うのでしょうか……。恥ずかしいです……」

「いやお前は普通に可愛いから似合うって」

「か、かわっ!? そんなことは……」

「言っておくけど、俺は美人な子、可愛い子としかデートはしない。俺に並び立つに相応しい奴としかな」

「それって私も……!? うぅ……」

「顔真っ赤だぞ。大丈夫……ではなさそうだな」

 

 

「ラーメンだなんて、高カロリーで何の栄養もない料理がこんなにも美味しいだなんて! なるほど、これが身体に悪いけど食べてしまうという背徳感ですね!」

「言いたいことは分かるけど、声は抑えような? 店の中だから……」

 

 

「うぅ、またやられてしまいました! もう1度やりましょう! この館のゾンビを全て打ち抜くまで引き下がれません! まずは玄関、二時の方向と九時の方向に1体ずつ出てくるので――――」

「もうやりすぎて出現パターン覚えちゃってるし。何分このゲームの前でたむろしてんだよ……」

「今どの角度で銃を撃てばいいか計算中なので少々お待ちを。効率よく、手際よく片付けましょう」

「いやそういうゲームじゃねぇから! もっとキャーキャー言いながら楽しむゲームだから!」

 

 

 こんな感じで、もうすっかり堅物少女から垢抜けた感じになっていた。それでも世間一般の女子高校生とは考え方にズレがあるが、そういうところがコイツの魅力で可愛いところだったりする。もう目に映る全てが初めてであり、おもちゃを与えられた子供の用だ。てか精神年齢だけは子供に成り下がってただろこれ……。

 

 そしてしばらく遊んだ後、俺たちは大きい広場のベンチに座って休憩していた。

 

 

「すみません。1人ではしゃいでしまって……」

「いやそれでいいんだ。楽しかっただろ?」

「はい、柄にもないとか言われてしまいそうですが……」

「そんなことないよ。遊んでる時のお前の笑顔、可愛かったしな」

「か、かわっ!? またそのようなことを……」

 

 

 出会った時は俺に恨みでもあるかのような形相だったのに、今は表情がコロコロ変わって年相応の女の子のように無邪気で可愛くなっている。そしてこのデレ具合。声色も最初はドスが効いて怖かったのに、この時は何オクターブか声が高くなっている。それだけでも俺に心を開いてくれているのが分かって嬉しかったよ。

 

 

「なんだか身体が軽くなったような気がします。自分でも知らない間に肩ひじを張っていたのかもしれませんね」

「あと心もな。頑張るのはいいことだけど、周りもしっかりと見ろ。お前はもう1人じゃない、心配してくれている人がいるからさ。アイツらもお前ともっともっと話したいと思うぞ? なのにお前がずっと1人で頑張ってるから、話すに話しかけられなかったんだろうな」

「そうですね。上原さんたちと話し合って、もっともっと交流を深めていきたいと思います」

「あぁ、そうしてくれ」

 

 

 過去に迷惑をかけてしまったという罪悪感、迷惑をかけた分だけ自分が同好会に貢献しなければという使命感。その重圧を背負って気負い過ぎてしまっていたのだろう。堅物で真面目ちゃんが故に責任感も強く、そうやって背負い込んでしまうのは仕方がなかったのかもしれない。

 

 でももう背中の荷物を降ろしたから大丈夫そうだ。今もいい笑顔してるしな。

 

 

「よし、もう夕方だから帰るか。今日は付き合ってくれてありがとな」

「そ、そんな! お礼を言うのは私の方です! ありがとうございました!」

「いいのか? こんな浮気野郎にお礼なんか言っちゃって」

「上原さんたちがどうしてあなたに、零さんに惹かれているのか分かった気がします。零さんといると楽しいです」

「そりゃどうも。ま、俺はただ可愛い子と遊びたいってだけで何かしてやったつもりはないけどな」

 

 

 俺は女の子の笑顔が好きだから、無意識の間にデート相手を楽しませてしまうらしい。今回はそれがたまたま栞子の問題を解決しただけで、俺からは特別何かを働きかけた気がしないんだ。結果オーライという言葉があるように、それで可愛い子の笑顔が見られるのであればそれでいいけどさ。

 

 

「じゃあ俺はそろそろ帰るよ。あまり遅くなると妹がうるせぇからな」

「ま、待ってください!!」

 

 

 俺が背を向けると、栞子は俺の服の袖を掴んで来た。

 それからは、以前語った通りだ。

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

「なるほど、そんなことがあったんですね」

「あぁ、これで満足か?」

「まぁ聞きたいことは聞けましたけど……」

「けど? あぁなるほど、俺の魅力がアップして惚れたか?」

「本当に女垂らしですね、お兄さん……」

「そっちかよ!?」

 

 

 話を聞いた感想がそれって、侑の奴は相変わらず素直に褒めることをしない。それだけ俺のことを理解して、褒めたら調子に乗ると分かっているからだろう。もう神崎零マイスターじゃねぇかコイツ。

 ちなみに栞子はというと、さっきの話の出来事を思い出して恥ずかしくなったのか、終始顔を赤くして俯いていた。

 

 

「栞子ちゃんがお兄さんを慕ってる理由も分かったよ。そんなことがあったのなら……分からなくもないけどさ」

「今の私があるのは零さんのおかげですから、恩人としても救世主として慕うのは当然です。そ、それに……」

「それに?」

「こ、こんな素敵な男性に可愛いって言ってもらえて、そ、その……もっと言ってもらいたいと思って……えっと、だからもっとお傍にいたいなぁ~って……」

「…………やっぱり女垂らしでスクールアイドルキラーで、浮気野郎だお兄さんは」

「だから罵倒やめな??」

 

 

 あまりにも即堕ちした栞子を見て、俺を見る侑の目がますます呆れかえるのであった。

 だからコイツに話したくなかったんだよ!!

 




 栞子は虹ヶ咲編のメインキャラ……とは言い難いですが、登場させたからには個人回をしっかり作ってあげないとと思い、今回は珍しく過去の話から引用した回となりました。
 彼女はこの小説的にはメインキャラ~サブキャラの間くらいの立ち位置なので、また機会があれば零君と彼女の話を掘り下げたいですね。

 巷ではラブライブに追加キャラはどうなの?? って声もありますが、私は彼女の性格やキャラは大好きですよ!



 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハーレム王は甘やかし上手

 今回は学年別回のラストで1年生回です!
 虹ヶ咲の1年生組って妹っぽいキャラが多くて好きなんですよね~



 学校の教師になるということは、生徒からの信頼を集めるような人格者になることが重要だ。この人になら勉強を教わってもいい、教育されてもいい、一緒の空間にいてもいいという土台を生徒の中に作らなければならない。そのためには教師自身の愛嬌の良さ、頼り甲斐、先導する力が肝となり、生徒から頼られるカリスマ性が必要となる。たが思春期で多感な時期の子供は感情の起伏も激しく考えにも偏りがあり、そんな子たちの信用を勝ち取るのは並大抵ではできないだろう。教師の精神が摩耗したりストレスを貯め込みやすいと言われているのも、そういった大変さがあるからかもしれない。

 

 かくいう俺も来年から教師の身であるため他人事ではない。既に女子高生(Aqoursや虹ヶ咲など)とは交流が深く経験も豊富なのでコミュニケーションに不安はないが、一応正式な教師になるってことで最低限の礼儀は身に付けておく必要がある。浦の星女学院では教育実習生、虹ヶ咲学園にいたってはただのアドバイザー的な感じで好きにやらせてもらってたからな。流石に社会人になってから好き勝手やるようなバカではないぞ。今もこうやって対人関係の向上について勉強してるしな。

 

 

「零さん、なに読んでるの?」

「璃奈?」

「『生徒の信頼を得るための心構え』……? そっか、零さん来年から先生になるから」

「そういうこった。これでもちゃんと勉強してるんだぞ」

 

 

 同好会の部室のソファで啓発本を読んでいると、璃奈が隣に座って本を覗き込んで来た。隣にちょこんと並んで座られると妹みたいで可愛いが、それを本人に言うと以前のように妹キャラとして暴走しかねないので敢えて口を閉ざすことにする。コイツは無表情でおとなしいように見えて、やれ『おっぱいを大きくしたいから揉め』だの、やれ『妹キャラになるから兄としてエッチなことをされろ』だの、意外と押しが強いからな……。

 

 

「零さんだったらそんな勉強をしなくても大丈夫だと思うけど。だって女子高生だったらみんな自分のモノにできるでしょ?」

「なんだその催眠洗脳モノみたいな能力は!? 流石にそれはねぇよ!」

「でも巷ではスクールアイドルキラーとして名を馳せてるし、他のスクールアイドルの子たちも零さんに指導されたいって子たくさんいるよ? その能力があったら女子高生を攻略することなんて簡単だと思うけど」

「それの異名まだ生きていたのか……。てかそれって俺の能力じゃなくてソイツらがチョロいだけのような気が……」

 

 

 藤黄学園の綾小路姫乃が俺にそんな異名が付いていると言っていたが、迷惑なことに勝手に独り歩きしてスクールアイドル界隈に広まっているらしい。俺の人生はどうもスクールアイドルと縁があるらしく、行く先々でスクールアイドルと遭遇するのが常となっている。そしてその度に女の子に惚れられ、いい関係になるのももう定番。別にスクールアイドルを自分のモノにしようと思ってるわけではなく、いい関係になるのもコミュニケーションの結果なんだけどな……。

 

 

「零さんは甘やかし上手だからみんな打ち解けやすい。だから心配する必要もない」

「ぇっ、そうなのか?」

「零さんは私のことをよく『可愛い』って言ってくれる。よく褒めてくれる。よく頭を撫でてくれる。よくドキドキさせてくる。そういうところが好き」

「ちょっ、急に告白すんなよ……。てか褒めたりすんのは指導者として当たり前のことだろ?」

「そういうところが甘やかし上手。零さんに褒めてもらいたいから、私ももっともっと頑張ろうってなる」

 

 

「なりますなります! 私も零さんに褒めていただいている時が一番嬉しいです!!」

 

 

「うおっ!? って、しずくか……」

「しずくちゃん? ビックリした……」

 

 

 いつの間にか目の前にいたしずくが目をキラキラさせて俺たちの話に割り込んで来た。普段は落ち着いた性格をしているだけあってか、子供のようにテンションが高いコイツは新鮮だ。どうやら璃奈の考えに共感したと思われるが、そういやコイツ実は甘えたがりだったっけか。ついこの前だけど桜坂家で甘えたい願望のコイツにたっぷり甘えられたのは記憶に新しい。あの時は甘え上手なかすみや璃奈を羨ましがっていたけど、今のコイツの反応を見るにもう包み隠さなくなったようだ。

 

 

「零さんに抱きしめられると守ってもらっているかのようで安心して、そして心も温かくなって、もうずっとこのままでいたいって気持ちになってしまいます。でも唯一の欠点は、零さんなしでは生きられないカラダになってしまうことですね。抱きしめられた時の温もりが忘れられなくなって、ベッドで悶々とする日々がよくありますから。我慢できずに毛布を身体に巻き付けて疑似的に抱きしめられるのを体現しようとしますが、やはり人肌には勝てません。安心する人肌は麻薬と言いますが、まさに零さんがその人だったんですね。零さんの魅惑に自分がここまで堕とされてしまうなんて、でもそれがいいと言いますか、零さんしか見えなくなるのであればそれはそれで……」

「なにその超長い怪文書!? お前この前までは積極的な中にも恥じらいがあったのに、もはや欲望しかねぇじゃねか!」

「欲しいモノがあるのであれば積極的に掴みに行く。それこそ零さんからの教え。だから私はもう躊躇いや恥じらいは捨てました!」

「元を辿れば零さんのせいだったっぽい」

「いやそんなこと言ったか俺……? なんでもかんでも俺が言った風に見せかけて、勝手に崇拝してるんじゃねぇだろうな……」

 

 

 虹ヶ咲の連中は特に顕著だけど、俺の言うこと為すこと全てを凄いと賞賛するのはどうかと思うぞ……。異世界転生モノで転生してきた主人公が無能な異世界人にちょっと知識を披露するだけで褒め称えられる、その現象に似ている気がする。まあ俺は過去にしずくたちの身も心も救った救世主的な扱いなので、こうやって敬愛されるのも仕方ないと言えばそうなのだが、ここまで大袈裟に賞賛されると背中が痒くなっちまう。本人たちは本気だってことは分かってるんだけどさ。

 

 

「……で? どうしてこんな話になっているんでしたっけ?」

「な゛っ、お前知らずに割り込んで来たのかよ……」

「零さんが教師として生徒に好かれるための研究してるんだって。だから私が零さんがどれだけ甘えられ上手なのかを教えることになった」

「へ? そんな展開だっけ??」

「なるほど。以前は私が甘えさせていただきましたが今回は逆。零さんが如何に女性から愛されているのかを自覚させる会、ということですね」

「いや別に自覚はしてるっつうか――――って、オイ!?」

 

 

 しずくはこちらの話も聞かず俺の隣、璃奈とは反対側の位置に座った。しかもやたらと近く、肩と肩が触れ合いそうだ。しかもしずくの急接近に伴って璃奈も俺に密着してくるようになり、これぞ古き良き言葉を借りると『両手に花』ってやつか……。2人共背丈が低く、可愛らしく愛嬌もあることから妹を2人侍らせてるみたいだ。

 

 

「ここ部室だぞ? 誰かが来たら見られちまうけどいいのか?」

「問題ないです。むしろこうして寄り添っているところを見られて、羨ましいと思われるようになればなるほど零さんが女の子に好かれているという証明になりませんか?」

「いや俺は生徒の信用を勝ち取る手段を知りたいのであって、自分が女垂らしであることの証明は必要ないんだが……」

「今日の零さん結構謙虚。いつもならたくさんの女の子を侍らせて優越感に浸ってるのに。『これが俺の女たちだ。これだけの美少女たちを好きにできるのは世界でただ1人、俺だけだ』って」

「いやどれだけ嫌味ったらしい奴だよ俺……。まぁ考えないこともないけど、もうJKに囲まれてることが日常過ぎてそういったことも感じなくなってきてるな」

「成人男性が女子高生に囲まれることに慣れているっていうのも凄い話ですね……」

 

 

 囲んできているのはお前らだろってツッコミは野暮なのだろうか? 黙っていても女の子たちから寄ってきてくれるのは夢のような状況だが、最近はもうそれがデフォルトとなって優越感に浸るも何もなくなってきているのが現状だ。ニートになりたての人が『これからずっと自由じゃん』と歓喜するけど、しばらくするとそれが当たり前になってただ日常を貪る、そんな感じだ。女の子に囲まれるのもベッドの上とか温泉とか、ムードのあるシチュエーションであればまた違った光景で楽しめると思うがな。

 

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?」

 

 

「なんだうるせぇな――――って、かすみか」

 

 

 学園中に響き渡るような大声を放ったのはかすかすこと中須かすみ。部室に入って来た瞬間にこちらに気付き、如何にも怒ってますよアピールで頬を膨らませてこちらに近づいて来る。あからさまに嫉妬の炎が燃えているのが分かるが、コイツに至っては何かにつけてヤキモチを焼くタイプなので今更気になったりはしない。だからこそ次に口を開く時、俺たちに向かってこう言うだろう。

 

 

 かすみんだけ除け者にしてズルいですぅうううううううううう!!

 

 

「かすみんだけ除け者にしてズルいですぅうううううううううう!!」

 

 

 ほらな。思考が単調で分かりやすいせいかしずくと璃奈もかすみがこう叫ぶことは予想していたようで、俺共々その迫真の叫びを聞いてもほのぼのとしていた。(璃奈は無表情だけど)

 

 

「かすみんに内緒でなにイチャイチャしてるんですか!? する時はかすみんに『イチャイチャしていい?』って許可取ってくださいよ!!」

「いやメンドくせぇな!? つうかコイツらから抱き着いてきたのであって、俺は何もしてねぇよ!?」

「零さんは無意味にそのカッコよさや優しさを振り撒くからイケないんですぅ!!」

「理不尽すぎるだろその理由……」

「かすみさんの言うことも分かります。だから零さんの魅力の虜になってしまい、こうして寄り添うことしかできなくなってしまうんです」

「どうしても俺を原因に仕立て上げたいようだな……」

「零さんと一緒にいると心が落ち着くし、何事に対してもやる気が出るし、滋養強壮にも繋がる。寝る時とかずっと私を抱きしめて欲しい。つまり一家に一台、いや1人一台必要」

「なんかそこまで言われると怪しい勧誘みたいだな。御利益のある壺みたいに言いやがって……」

 

 

 本気で俺のことを慕ってくれているってのは分かってるけど、あまりにも自分が神格化され過ぎて怪しい宗教の教祖にでもなった気分だ。女の子たちに言い寄られるのは悪い気分じゃないが、コイツらの崇拝度具合が異常なだけなんだよな……。ま、それだけ俺のことを好きでいてくれてるってことだから普通に感謝すべきなんだけどさ。

 

 

「それで? どうしてしず子とりな子に抱き着かれてるんですか?」

「今それを聞くのかよ……」

「零さんに自分がどれだけ女の子に好かれているのか、それを私たちが証明しようとしているところ。私たちが零さんに抱く愛を、こうして抱き着いて思い知らせてあげてる」

「生徒からの信頼を得る話からどうしてこうなった……」

「むぅ、だったらかすみんも参加します! かすみんも零さんのこと大好きですから!」

「でももうかすみちゃんの場所はない」

「な、なんか前にもこんなことがあったような……。むむむ、だったら……」

「えっ……?」

 

 

 除け者にされそうになり険しい表情をするかすみ。だが何やら意を決したようで、俺の正面にずんずん迫り寄ってくる。表情はいつの間にかニヤリとしたしたり顔に変わっており、よからぬイタズラを考えている時のような怪しげな雰囲気だ。

 

 

「な~んだ、とっておき場所が空いてるじゃないですかぁ~♪ もうっ、かすみんのためにメインスポットは取っておいてくれたんですね!」

「おいまさか……」

「もちろんここですよ! はい、どーーーーんっ!」

「うぶっ!?」

「零さん!?」

 

 

 左右から抱き着かれているのであれば自分の居場所はここ、むしろここは自分のモノだと言わんばかりの勢いで正面から抱き着いてきた。しかもただ抱き着いてきただけではなく、俺の顔面を自分の胸元で包み込むような形で抱きしめてくる。そうなれば当然俺の顔はかすみの胸に埋もれるわけで――――――

 

 

「零さんの顔がかすみちゃんのちっぱいに……」

「ちっぱい言うな!! ていうかりな子の方が小さいよね!?」

「うぐっ、苦しいって……ッ!!」

「かすみちゃんの胸板が薄いせいで痛くて苦しいんだって」

「今日のりな子なんだか辛辣じゃない!?」

「おっぱいで零さんを誑かすような低俗な行為が嫌いなだけ。ただの肉の塊を押し付けるなんて芸がない」

「恨みつらみが凄い……。でもこの席はかすみんのモノだから!!」

「ちょっ、また力が強く……うっぷ!」

「零さんが窒息しちゃうから! とりあえず一旦落ち着こう? ね?」

 

 

 俺自身意外だと思ったのが、やっぱりおっぱいっておっぱいなんだなって。いや貧乳は胸に包容力がないと思われがちだが、こうして直に触れて見るとしっかり女の子だなって感じられるくらいのボリュームはある。やはりおっぱいの感触なんて普段は味わえないので、例え小さくてもこの身で触れられるという事実だけで興奮してしまいそうになる。こうして顔を胸元に埋められるほどの大きさはあるので、結局エマや果林が規格外すぎるだけなんだろう。

 

 ちなみにしずくと璃奈はかすみを引き剥がそうとしているが、2人も俺の腕に絡みついているせいか胸が思いっきり当たっている。1年生組はまだ成熟途中のせいかおっぱいの発達度は2年生組以上に比べてまだまだ、璃奈に至っては俺の知っている女の子の誰よりも小さいが、それゆえに未熟な果実を手にしている背徳感があったりもする。さっきからコイツらの勢いに押されっぱなしのようにも見える俺だが、やはりおっぱい好きとしては大きいとか小さいとか関係なく女の子におっぱい攻めされるのは悪くないし、なんなら舞い上がるほどに喜んでしまう。でもそれを言ってしまうとコイツらがより調子に乗りそうなので黙っているだけだ。

 

 そんなこんなしている間に俺はかすみの胸から少し解放される。でもかすみが密着し過ぎている体勢は変わらず、俺の膝の上を陣取って正面から抱き着くことはやめなかった。

 

 

「これで分かりましたよね? 零さんはかすみんにこんなにも愛されてるんだって! だからもう信用を勝ち取るとか、そんなことで悩む必要ないですよ! かすみんの愛さえあればそんな悩み関係ないんですから!」

「別にお前に愛されることの証明は今いらねぇんだけど……。つうかその言い方だと俺が人間関係に困ってるみたいな言い方だけど、そんな深刻なことじゃねぇからな?」

「またまた強がっちゃってぇ~♪ この前、寝たふりをしながらかすみんにキスされて興奮しちゃったことや、あそこからたっぷり搾り取られてビクビクしてたこと忘れてませんからねぇ~♪」

「えっ、なにそれ?」

「かすみさん、まさかあなたも……!?」

「ふっふーんっ! かすみんはと~~~~ってもアダルティな女性になったから、崇め奉るといいぞよ少女たち!」

 

 

 たかがちょっとエッチをしただけでよくここまでイキられるな……。コイツの中でステータスになって自尊心を満たせるのであればそれでいいけど、あまり人に話すことでもないし、増してやマウントを取るようなものでもない。そもそもしずくと璃奈を相手にそのマウンティングは一切通用しないってことを知らないのか……?

 

 

「エッチなら私もしたから特に悔しいとかない」

「うん、私も」

「くっ、かすみんが最後か……!!」

「ピチピチの高校1年生が経験の早さで競ってんじゃねぇよ……」

 

 

 明らかに15~16歳の女の子が繰り広げる会話ではないなこれ……。いやそんな子に手を出しているのは紛うことなき俺なんだけど、じゃあこういった争いが起きないためにはどうすればいいのか? 1人1人とヤるのではなくてみんな一斉にベッドに押し倒すとか、もはや乱交レベルのプレイをする必要があるぞ……。

 

 

「でもこれで零さんも納得してくれたと思う。思春期の女の子たちからどれだけ信用されているのかを。私たちのような未成熟な女子高校生とエッチをした挙句、こうして四方八方から成長途中の小ぶりおっぱいを押し付けられて抱き着かれているのってどんな気持ち?」

「なんか俺が犯罪者っぽい言い方だなそれ……。ま、いい気分なのは確かだよ。ちなみに人間関係に悩んでたとかじゃなくて、単純に自分の対人スキルを上げようとしてただけだからな?」

「零さんにこれ以上対人スキルを上げられたら、もう私たち零さんが言葉を発するだけで虜になっちゃうかもしれませんね……」

「もはや催眠の類じゃねぇかそれ……」

 

 

 エロ小説や同人でよくある『自分の言ったことが常識になる系』で、女の子にエロい常識を植え付ける常識改変モノ……みたいなやつだ。俺が対人スキルを上げるだけでそのシチュエーションを作り出せるのであれば実際に再現してみたいよ、興味あるし。でも自分でスキルを磨く努力をしなくても秋葉が勝手にそういった状況を作り出しそうだけど。なんなら虹ヶ咲学園の楽園計画なんて少しその毛があるしな。

 

 

「なんか途中から話が飛躍し過ぎてるけど、俺が甘やかし上手って話じゃなかったか? 自分ではそうは思ってないけど」

「こうして抱き着いても文句を言わずに受け入れてくれる。零さんに少しでも抵抗感があったら私たちはここまで積極的になってない。零さんが私たちの想いをしっかり受け止めてくれるから、こうしてじゃれることができる」

「それは甘やかし上手なのか……?」

「少なくともかすみんはそう思いますよ? 他の男なんて眼中になくなってしまうくらいメロメロですから!」

「そうですね。零さんに甘やかされることに忙しくて、他のことに手が付かないくらいです。なのでもっと誇っていいと思います」

 

 

 現役女子高生からここまでお墨付きを貰ったのも一種のステータスかもしれない。恋は盲目と言うからコイツらのは偏った意見かもしれないけど、少なくとも関わって来た女子高生は一部(侑とか)を除きいい関係にはなってるからコミュニケーションを気にする必要はなかったのかもな。

 

 

「今の零さんなら出会う女の子みんなを恋に堕とすことなんて可能。いっそのこと『全員俺のモノだ』って勢いで手中に収めれば万事解決」

「女子高生に手を出しちゃうくらいですからね。でもそれで女性が多幸感を得ているのは私たちで証明されていますし、もっと積極的に女の子を押し倒してしまっていいのではないでしょうか?」

「エッチがコミュニケーションだなんて、零さん相変わらず変態さんですねぇ~♪」

「お前ら、俺が教師になるってことを忘れてんじゃねぇだろうな……」

 

 

 いざとなれば俺がエッチで女の子を従わせる、なんてとんでもない結論を出されてしまう。もう俺の心配をするよりも、コイツらのピンク色の脳内を心配した方がいい気がしてきたぞ……。

 




 虹ヶ咲の1年生って他のグループよりも後輩感が強いと言うか、そのせいで妹キャラっぽく見えちゃうので、今回は零君を甘えられ役にしたハーレム回にしてみました。栞子も入れようと思ったのですが、前回メインを張りましたし、零君に抱き着く場所がもうなかったので渋々断念……



 小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バブらせないと生きていけない!?

今回はエマの個人回です。
ラブライブにここまで分かりやすいママキャラはいないので、今回はその性質にスポットを当ててみました!


「零さん、今日はお付き合いしていただきありがとうございました!」

「いいよ別に。俺なんかで参考になるならな」

 

 

 エマはお礼を言ってぺこりと頭を下げる。

 今日はエマからの依頼で虹ヶ咲学園の服飾同好会にて色々な衣装の着せ替えをさせられていた。着せ替えとは言ってもコスプレではなく、近日行われる文化祭で男装喫茶をする店があるらしく、その衣装のモデルになっていたというわけだ。スーツやらタキシードやら俺には似合わない正装で、正直肩凝りが半端ねぇんだよな……。

 でもエマやこの学園の女の子のたちのためであればそれも我慢。俺は自分を好きでいてくれる女の子にはとことん優しい出来た男なんでね。

 

 

「参考になりすぎるほど参考になりました! それに写真もたくさん撮らせてもらいましたから♪」

「モデルみたいなことには慣れてねぇから、写真写り微妙じゃなかったか?」

「いえいえそんなことないです! むしろカッコ良すぎて宝物にしたいくらいですから! そうだ、歩夢ちゃんたちにも見せてあげないと……」

「アイツらなら目を丸くして食いつくだろうな……。食いつきすぎて本当に食っちまいそうだし……」

「それくらい零さんがカッコいいんですよ! 家族のお土産にしたいくらいです!」

「どれだけ気に入ってんだよ!? 恥ずかしいから見せびらかすのは俺たちのコミュニティの中だけにしてくれ……」

 

 

 エマは仲間への愛が非常に強く、虹ヶ咲の面々や家族を度を超えるほど大切にしている。そのため自分の好きなモノを仲間内で共有したい意識があり、それはそれで別に構わないのだが、俺の写真をも各所にばら撒こうとするため中々に恥ずかしい。2人でお出かけした際に撮った写真も容赦なく彼女の関係者に出回り、どうやらコイツの家族からはもう俺とコイツが付き合っているどころか結婚していると勘違いされているらしい。そりゃ年頃の女の子が若い男の写真を宝物してたらそう思うよな……。

 

 このように、俺のプライベートがコイツの家族にまで赤裸々にされている。俺がもしコイツの故郷の実家にお邪魔したら赤飯用意されてそうだな……。

 

 

「家族の話をしていたら会いたくなってきちゃった。みんな元気にしてるかな……?」

「本当に家族好きだよなお前って。兄妹もたくさんいるんだっけ?」

「はいっ! 弟と妹が7人いて、みんな人懐っこく甘えてきてとっても可愛いんですよ♪」

「お前が長女として遊んであげている光景が容易に想像できるよ。そりゃお前みたいな包容力があれば甘えたくもなるか」

 

 

 とか思ったけど、たくさんの弟妹がいる環境だからこそ甘やかし上手になったのかもしれない。故郷のスイスの広い高原で、長女として弟たちの面倒を見ながら一緒に遊んでいる光景が簡単に思い浮かぶくらいだ。その母性は日本でも大いに振り撒かれており、かすみや璃奈といった子供っぽい子や同い年なのに何故か甘えたがる彼方の枕になってあげるなど、まさにみんなのママである。

 

 

「でも日本に来てから誰かを甘やかすことが少なくなっちゃったのが、ちょっと寂しいんですよね……」

「母性本能極まり過ぎだろすげぇ悩みだな……。だけどかすみと璃奈とか、甘やかす相手くらいいくらでもいるだろ?」

「それってみんな女の子じゃないですか? それで妹分は満たせるんですけど、弟分は補給できないなぁ~って……。私の身近にいる男性と言えば……」

「おいなんだその情熱的な視線は!? まさか俺を!?」

「そうしたいのは山々なんですけど、流石に年上の男性を甘やかすわけにはいかないですよね」

「ま、まぁそうだな。男としてのプライドとか、その他諸々が一気に崩壊する気がするから……」

 

 

 成人男性が女子高生に甘えるとかヤバイ気がする、絵面的に……。この前はしずくたちから俺が甘やかし上手だって言われたけど、ドSとドSが惹かれ合うことはないように、甘やかし上手が甘やかし上手に甘えるとかプライドが許さない。まあそんなプライド以前にこの歳で女の子に甘える時点でどうかしてると思うけど……。

 

 

「私のワガママなので気にしないでください。とにかく、今日はありがとうございました!」

「あぁ、こんなことで協力できるのならまた呼んでくれ」

「はいっ、よろしくお願いします!」

 

 

 と、エマは笑顔で応対するが、時折うっすら寂しそうな表情を見せているあたり家族に会えない寂しさはあるのだろう。それを1年生組や彼方に母性を振り撒くことで満たしているのだろうが、流石に男がいないので弟分の補充は賄えない。それに彼方たちは大切な友達だけど家族じゃないから結局根本的な解決ではないしな。と言っても俺がどうにかできる問題でもないので、その寂しさはリモート通話をするなりで自己解決してもらうしかないだろう。

 

 女の子の曇った顔は見たくないってのは俺の信念だけど、遠く離れた家族に会いたいとか物理的な問題は解決できないのはもどかしいな……。

 

 

 

〜※〜

 

 

 

 翌日、俺は歩夢たちの練習を見てやるためにまた虹ヶ咲学園へと訪れていた。

 昨日のエマの様子から寂しさを引きずっていないか気になるが、彼女自身くよくよと悩むよりも前に突き進む性格なので特に心配はしていない。やると決めたらすぐに有言実行するタイプなので、その日のうちに家族と電話なりなんなりで連絡を取ったと思う。

 

 今日もみんなの授業が終わる前に学園に到着したので、とりあえず部室で待つことにする。

 相変わらず部室に鍵はかかっておらず不用心。だが今日はいつもと様子が違った。

 

 

「エマ……?」

 

 

 部室には既にエマが来ていた。授業が早めに終わったのだろうか。それにしても様子が変だ。俺が来たのにぼぉ〜っと立ち尽くすのみで反応がない。いつもなら笑顔で駆け寄ってきて迎えてくれるのに……。

 

 彼女の顔を見てみると目が蕩けており、頬が少し紅潮していた。もしかして体調が優れないとか、昨日のことを引きずっているとかそんな感じか?

 

 

「あっ……」

「やっと気づいたか。どうしたんだぼけっとして――――」

「会いたかったよ! 零()()!!」

「うおっ!? れ、零()()だと!?」

 

 

 エマはこちらに気づいたかと思えば、ぼけっとした表情から笑顔になって俺に抱きついてきた。しかも俺の呼び方が『さん』から『くん』に変わっており、抱きつく力も強いことからまるで友達にハグしているかのような感じだ。海外だったらハグは日常的行為なのでこれもただの挨拶かもしれないが、今まで出会い頭でこんな大胆に抱きつかれたことがないので動揺してしまう。

 

 ちなみに抱擁する力が異常なまでに強く、俺の骨を折ってしまいそうな勢いだ。どうしてここまで情熱的に抱きついてくるのかは知らないが、彼女の表情は未だに火照っているので正常ではないことは確か。全くもって何が起こっているのか意味不明だった。

 

 

「零くんお姉ちゃんに会えなくて寂しかったよね〜。今日はずっと一緒にいられるから、寝るときまで、いや寝てるときもずっとお姉ちゃんに甘えていいんだよ〜♪」

「ちょっ、苦しいって!? てか甘えていいってなんだ!? どうしたお前!?」

「どうしたって零くんのお姉ちゃんだよ?」

「な、なにがどうなってるんだ……」

 

 

 エマの巨乳が潰れるほどに抱きしめられているが、それ以上に何が起こっているのか理解するだけで精一杯で気にする余地がない。コイツさっき自分のことをお姉ちゃんだと言っていたが、もしかして昨日の寂しさが尾を引いてるのか……?

 

 そして人の性格がここまで変貌する原因はよく知っている。そう、ほぼ100%で秋葉のせいだ。どうせ何かの実験台としてエマが選ばれたんだろうが、こういう時は大抵周りを見渡せばその原因が――――

 

 うん、あった。

 エマに熱い抱擁を受けながら、テーブルに置いてあったペットボトルを掴んでラベルを見てみる。この飲み物自体は世間で有名な飲むヨーグルトの類だが、ペットボトルの底を見ると何やら怪しい文章が記載されていた。

 

 

『女性がこの乳製品を飲むと、その人の中に眠る母性が呼び覚まされます。特に大好きな人に関しては甘やかしたくて甘やかしたくて仕方なくなります。元に戻すにはその人からありったけのバブみを感じ、バブらせてあげましょう』

 

 

 相変わらずくだらねぇモノばかり作ってんなアイツ……。なるほど、エマがここまで俺を溺愛してくるのはこの飲み物の効能だったわけか。彼女は元々母性の塊のような性格だから呼び覚まされた母性の量も半端ないのだろう。そのせいで俺のお姉ちゃんという設定まで捏造してこうして抱きついているわけだが……。

 

 つうか元に戻すにはエマをバブらせるって、言い換えれば俺が甘えなきゃいけないってことか?? 昨日プライドがどうやら言ったばかりなのに早速プライドを試す試練が降り注がれてるんだけど……。

 

 

「零くんもお姉ちゃんに会えなくて寂しかったよね? ね?」

「寂しいってか、昨日も会っただろ……」

「昨日は昨日、今日は今日だよ! 今日だって朝からずっと会えなくて寂しかったんだから! だから今いっぱい抱きしめちゃう! ぎゅ〜っ♪」

「ぐっ、苦しい苦しい!!」

 

 

 強い力で抱きしめられるのは苦しいけど、この巨乳の大きさ、柔軟さ、弾力をこの身で感じることができて、それはそれで気持ちいと思ってしまう。そのせいで極楽と苦しみの狭間を行き来しておりどう反応していいのか分からなくなっていた。

 

 それよりも今のエマ、母性があるってよりただの寂しがりになってるような……。それだけ俺、もとい弟のことが好きなのだろう。でも今のエマにとっては大好きな俺と大好きな弟が融合し、超大好きな男が目の前にいる状態なのでなおさらテンションが上っているのかもしれない。

 

 

「そうだ? 零くん今日はお昼寝した?」

「えっ、してねぇけど……」

「だったら私がおねんねさせてあげるね♪ ほら、こっちこっち!」

「ちょっと待て! 引っ張るなって!!」

 

 

 もはや勢いフルスロットルのエマは俺の腕を引き、無理矢理ソファに寝かしてつけてきた。そして俺の後頭部には枕似た柔らかさを持つ何かが当たっている。俺の目の前にはエマの顔とおっぱい。そう、膝枕だ。

 

 ていうかあの短時間で男の俺を力技で引っ張り、ソファに寝かせ、そして自分の膝を枕にするこの早業、只者ではない。今まで何度も弟と妹をこの技で仕留めてきたのだろう。手並みが神業だ。俺が抵抗する隙なんて一瞬たりともなかったぞ……。

 

 

「は〜い、おねんねしましょうね〜」

「ちょっ、頭を撫でるなって……」

「零くんこうしたらいつもすぐにおねんねしちゃうもんね。恥ずかしがらなくてもいいよ。お姉ちゃんが寝るまでいい子いい子してあげるから♪」

「ぐっ……」

 

 

 その優しい微笑みこそまさに母性。聖母に膝枕で寝かしつけられているような感覚だ。並の男であればこの時点でバブっているところだろう。いや、ハブらなければ彼女に申し訳ないくらいだ。俺も心が揺らぎかけて危うくプライドを捨て去りそうだった。

 

 そう思わせるのはこの母性。今も彼女は俺に膝枕しながら頭を優しく撫でており、その心地良さに眠気なんて全くなかったのに睡魔に襲われてしまう。優しい笑顔、ふんわりとした声、包まれるような暖かさetc……なにこれ無敵かよ。不眠症を治療する病院を開けば超儲かりそうだな……。

 

 

「あれ、零くん肩にゴミが付いてるよ。お姉ちゃんが取ってあげるね」

「あ、あぁ、サンキュ――――うっぷっ!?」

「零くんどうしたの? あっ、ゴメンお姉ちゃんのおっぱいが当たっちゃった」

「うぐぐっ……!!」

 

 

 当たったとかそういうレベルじゃねぇ!! もはやおっぱいに埋もれてるんだが!?

 エマが俺の肩に付いているゴミを取ろうと身体を屈めると、当たり前だがその巨乳が俺の顔面に覆い被さることになる。貧乳ならまだしも、コイツの豊満な胸を顔に押し付けられれば喋れなくもなるし息もできなくなる。もうコイツの胸には何度も溺れてきたがこの圧迫感は慣れねぇな……。それに気持ちいいのは気持ちいいから抵抗するにできないのがなんとも……。

 

 俺が苦しそうにしてるのを見てか、エマは胸を俺の顔から離す。こうして下から眺めるだけでも胸のボリュームは圧巻だ。思わず鷲掴みにしたくなる衝動に駆られるが、今の彼女だったら恥ずかしがるどころか普通に悦びそうなのでやめておこう。やっぱり胸を揉む時って女の子の恥じらいが見たいんだよ。

 

 

「零くんっておっぱい好きだよね。目線がいつも胸に向いてるもん」

「や、やっぱりそういうのって分かるのか……」

「そんなにおっぱいが大好きなら触ってみる?」

「えっ?」

「恥ずかしいけど、弟のためなら頑張れる! 触るだけで満足できなかったら吸ったりしてもいいからね。流石におっぱいはまだ出ないけど……」

「え゛っ……!?」

 

 

 まさか許可が出た……だと!? 男であれば誰もが夢見るエマの胸をこんなに簡単に触れていい……のか? しかも吸ってもいいとかあまりにも淫乱、いや母性の塊すぎるだろ。ていうか俺にこんなことを言うってことはもしかして弟にもしていたのか……?

 

 エマは羞恥の色を全く見せていない。虹ヶ先の面々の中でもウブなコイツがここまで大胆に甘やかしてくるなんて……。ここはコイツの顔を立てて話に乗った方がいいのか、それとも年下の女の子のおっぱいに甘やかされるという男のプライドをズタズタにされる行為は避けた方がいいのか……。

 

 

「いつもだったらおっぱいって聞いたらすぐに興奮するのに、今日はおとなしいんだね」

「それってお前の弟のことだよな!? 俺のことじゃないよな!? そ、そんな下品じゃないはずだけど……」

「そっか、上を脱いだほうがいいよね。服の上からだと感触が分かりづらいし……」

「へ?」

 

 

 エマは躊躇いなくリボンを外し、ブレザーのボタンに手をかける。ボタンを1つ1つ外し、ブレザーを脱いだ。その際に上着に抑え込まれていた胸が開放されて大きく揺れた。まだシャツを着ているのにも関わらずだ。その光景だけで不覚にも性欲を煽られそうで思わず息を呑んでしまう。

 

 膝枕をされているせいで下から彼女の胸を見上げる形となっており、シャツのボタンとボタンの隙間から薄っすらと下着が見えていた。胸が大きいあまりにシャツのボタンを止めるとそのボリューム感がよく分かる。この膨らみには男の夢がたっぷりと詰まっていると言わんばかりの主張具合であった。

 

 

「零くんだったらいくらでも触ってもいいし、吸ってもいいよ? お姉ちゃんとして弟にはたっぷり気持ちよくなってもらって、心地良くおねんねさせてあげたいんだ♪ だとしたらシャツも脱いだ方がいいよね。零くん、お姉ちゃんのおっぱい……見たいよね?」

「み、見たいといえばまぁ……そうかもな一応」

 

 

 ヤバい誘惑に負けてしまいそうになった。やんわりとした回答でお茶を濁したように見えたが、さっきの返答って見たいって言ってるようなもんじゃね?? 抵抗しているような素振りだけどコイツの圧倒的な母性に負けてんだよな……。仕方ねぇだろ男なんだから!! そりゃ見てぇよ!!

 

 

「あっ、零くん興奮してるんだね。ここも大きくなってるもん」

「な゛っ!?」

 

 

 エマは聖母のような微笑みを崩さず俺の下半身に手を伸ばそうとしてくる。俺は咄嗟に身体の向きを変えて下半身に触れられることは阻止したが、俺の姉となり母性に取り憑かれた彼女はそれくらいで止まるはずがない。優しく『恥ずかしがらなくていいからね』と囁き、俺の性処理を行うために再び手を伸ばしてくる。てかそこまでされるとママってよりソープ嬢なのではと思ってしまうが、深く考えない方がいいか……。

 

 

「ねぇ、零くんも気持ちよくなりたいでしょ? お姉ちゃんも興奮してきちゃったから、一緒にこの興奮を抑えようよ。お姉ちゃんが上で動いてあげるから……」

「おい、まさか……」

 

 エマは俺への膝枕を解除し、今度は馬乗りになってきた。エマのような高身長でスタイルもよく、胸も大きい女の子に組み伏せられるとそれだけで圧倒されてしまう。顔も赤く、心の奥底に眠っていた母性が表に出すぎているのだろう。ただ俺をバブらせるだけでは満足できず、己に湧き上がる興奮を抑えきれていない様子だ。

 

 こうなったのも秋葉のせいではあるが、少なからず彼女自身の本性でもあるのだろう。親愛が強い彼女だからこそ愛する兄弟に会えない葛藤が積もりに積もり、今ここで存分に吐き出しているんだと思う。ここで俺たちが下と下で繋がってしまえば彼女も楽になるのかもしれない。彼女の手解きで、全てを託して、全力で甘えれば……。

 

 だけど――――

 

 

「ダメだ」

「えっ?」

「今のお前は正常じゃないからダメだ。だからお前とこういうことはできない」

「で、でも私は零くんを、弟くんを気持ちよくさせたいの!」

「お前の気持ちは分かるよ。ずっと溜め込んでたんだもんな。そんな悩みを抱えてたのに気づかなくて悪かったよ」

「そ、そんな零くんは悪くない……」

「優しいな、お前。そういうところにみんな惹かれるんだろうな」

 

 

 母性があるってのもただ彼女の雰囲気だけで言ってるわけじゃない。誰もを優しく包みこむ性格、言動。そういうのも相まってみんなが彼女を頼りにしてしまうのだろう。そして彼女もそれを喜びとしているが、そのせいで遠く離れた家族に会いたい、兄弟と一緒に遊びたい、面倒を見てあげたい、甘やかしたいって寂しさに囚われるきっかけにもなっていた。それだけ彼女がみんなを大切に想っていることが分かる。バブみってのはコイツのためにある言葉なのかもな。

 

 

「だから俺ももっとお前のことを頼りにさせてもらうよ。胸を触りたいとかは流石に言わないけど、疲れたからマッサージをして欲しいとか、それくらいなら頼んでやってもいい。だからもう元のお前に戻れ。ま、まぁ、たまには、気が向いたら甘えてやるからさ」

「ッ!? 零くん…………零さん!!」

「うおっ!?」

「えへへ、なんだか力抜けちゃいました……」

 

 

 エマの蕩けていた瞳が元に戻り、頬の紅潮もなくなった。同時にこちらに覆い被さるように倒れ込んできたため、今度はこちらから抱きしめて受け止めてやる。

 さっきまでのハイテンションも興奮も消えており、いつもの温和な雰囲気を漂わせる彼女に戻っていた。正直さっきは母性が前面に出過ぎていて押し付けがましかったからな。母性の押し売りは母性ではなく、ただの構ってちゃんのメンヘラだ。

 

 

「零さん……」

 

 

 エマが俺をじっと見つめてくる。また顔が赤くなっているため例の症状が再発したかと思ったが、表情から羞恥の色が見えるため今は正常のようだ。

 

 すると、エマが突然俺の顔に自分の顔を近づけてきて――――唇と唇が触れ合った。

 

 温かい感触。母性とバブみを両方併せ持つ彼女だからか、キスまでこちらを包み込んでくる感じだ。だがさっきみたいに力任せではなく優しい、ソフトな口づけ。だけど彼女からの愛はたっぷりと伝わってきた。このまま彼女を受け入れて甘えたくなる。そういった気持ちを抱いてしまうくらいだ。

 

 唇が触れ合っている時間は短かった。エマが顔を上げ、俺達は再び見つめ合う。

 

 

「すみません、これだけは我慢できなくて……」

「それでお前が満足するなら別にいいよ。柄にもなくちょっと興奮しちゃったしな」

「確かに、まだ大きいままですね……」

「な゛っ、これは生理現象だ忘れろ!」

 

 

 男の性ってのは悲しいな。ロマンティックな状況であっても身体は正直だから興奮するとこうなってしまう。ただ俺の性欲が強いだけかもしれないけど、この状況に至ってはエマに胸を押し付けられながら覆い被さられているのでそりゃこうもなるだろ。だから俺は悪くなく、ただの生理現象だ。

 

 だが、エマは割と真剣な表情をしていた。

 

 

「いえ、少しだけ、みんなが来るまで私に相手をさせていただけませんか? 私にすべてを委ねてください。たまには甘えさせて……くれるんですよね♪」

「ったく、こんなことをするためにそう言ったわけじゃねぇけどな。でもやるのならお前の勝手にしろ。俺は動かないから、たっぷり()()()()()くれ」

「はいっ、誠心誠意()()()()ますね♪」

 

 

 なんか甘やかすって言葉がアレな意味になっているが、エマがそれで満足するんだったら俺の身体くらいいくらでも差し出してやる。それにバブみを感じられるコイツのご奉仕力も気になるしな。

 

 そんな感じで俺はみんながいないところでこっそりと、彼女の母性煽るるご奉仕をその一身に受けたのであった。

 




なんか2話連続で甘やかし系の話になっちゃいました(笑)
おっぱいが大きかったりハブみがあったりと個性盛り盛りの彼女ですが、エマってあまり二次創作ではスポットが当たらないので、秋葉さんの力を借りてガチのヒロインとして描写してみました! これでエマ好きの方が増えてくれると嬉しいですね!

これで原作キャラの中で個人回が残っているのは歩夢だけです。侑との関係の進展の話を含め、残り数話で虹ヶ咲編は完結にしようと思っています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

頂点の雄

 侑の回。
 話自体は少し短いですが、彼女が遂にある決意を――――




「いやぁ~ゴメン侑ちゃん、部屋の片付け手伝ってもらっちゃって!」

「別にいいですけど、どうしてこうなるまで放っておいたのかが気になります……」

「私、片付けできないから♪」

「いや笑顔で自慢することじゃないですからね!?」

 

 

 何故かは知らないけど、私は秋葉さんに理事長室の掃除に駆り出されていた。

 いきなり『理事長室の片付けを手伝って』と連絡が来たので部屋に来てみたら想像以上に散らかっていて、学校のトップがいる部屋とは思えないくらいだった。秋葉さんがいつも着ている白衣、難しいことが書かれた書類、お偉いさんとの会合やパーティの招待状(秋葉さん自身が有名人で超美人だからこういったのが頻繁に来るらしい)などがテーブル、ソファ、床に散乱している。そして何かの研究の設計書みたいなものや、触れてはいけなそうな用途不明の謎の発明品まで転がっており、辛うじて足の踏み場がある程度だ。

 

 お兄さんによると秋葉さんは片付けができない性格のようで、できないというよりも研究に夢中になって身の回りのことを疎かにしてしまいがちらしい。集中力が物凄いせいで掃除どころか身だしなみを整えなかったり食事を取らないことが多く、大学に研究室を構えていた頃はふしだらな生活が常態化していたんだとか。今は家に住んでいるので妹の楓さんがあれこれ世話を焼いているみたいだけど、このように理事長室に籠っている時は誰の目もないからこうなってしまっている。何でもできる完璧超人にも弱点っていうのはあるんだね……。

 

 

「ていうかこのお皿洗ってないじゃないですか!? すぐ洗わないとカビ生えちゃいますよ!?」

「あぁ~それか。適当に料理はするんだけど、食べてからやろうと思って後回しにしてる間に忘れちゃうんだよねぇ~」

「そもそも料理できたんですね。研究のこと以外には無頓着で、片手で摘まめるモノで済ませてるイメージでした」

「楓ちゃんに料理の極意を叩きこまれちゃったからねぇ……。零君が教育実習で浦の星女学院へ行った時に私も内浦で同居してたんだけど、行く前に楓ちゃんが『お兄ちゃんと一緒に住むのであれば毎日美味しい料理を作ってあげることは絶対!!』って言ってきて、そこから無理矢理料理の特訓をさせられたんだよ。そこで積んだ経験があるから、今でもたまにだけど料理を作ったりするんだよ」

「楓さんらしいですね……。結局お兄さんのためですけど……」

 

 

 こうして神崎家の事情を聴くと楓さんの貢献度が高すぎる。料理や洗濯といった家事は全部楓さんが受け持っているって聞いてるし、もうあの人がいないとお兄さんも秋葉さんも生きていけないんじゃないかと思ってしまう。でもそうやってお世話させているあたりは2人の貫禄というか、人の上に立つ性格の2人っぽさが滲み出ている。そう考えるととんでもないスペックの人たちばかり集まってるよね、神崎家の人たちって……。

 

 

「でも意外でした。楓さんに強制されたとは言えお兄さんのために料理を覚えただなんて」

「好きだからね、零君のこと」

「えっ、好き?」

「うん」

「そ、それって家族として……ですよね?」

「どうなんだろうね? でも私が興味のある男は彼しかいないし、そういった意味では世界の誰よりも好き! みたいな?」

 

 

 元々お兄さんに興味津々なことは知ってたけど、まさか家族愛以上の愛情を持ってるなんて……。確かに秋葉さんって恋愛には興味なさそうだし、超人であるこの人の期待の応えられるのは同じく超人のお兄さんしかいないから惹かれるのは当たり前かもしれない。それにしてもたくさんの女の子と付き合うお兄さんやブラコンの楓さんといい、やっぱり神崎家の人たちってどこかズレてるよね……。

 

 

「そういう侑ちゃんはどうなの? 零君のこと、好き?」

「は、はぁ!? そ、そんなわけないじゃないですか!! あんな傲慢で自意識過剰、唯我独尊で高飛車、自己顕示欲の塊で自分が世界で一番偉いと思っているナルシストで変態な人を好き!? 有り得ない有り得ない有り得ない!!」

「顔真っ赤だし、ムキになって否定してるあたり怪しいなぁ~」

「いや絶対に、決して好きとかじゃないですから!!」

「分かってる分かってる。だって侑ちゃんは私が見繕った、容姿がいい美少女の中で唯一零君を好きになる素質がない子だからね!」

「出たそれ。楽園計画、ですよね……」

「そうそう。侑ちゃんは零君のための楽園を作るお手伝いさんなんだから、零君に惚れちゃって盲目状態になったら困るんだよ」

「私はそれを許可した覚えはないんですけど……」

 

 

 楽園計画。お兄さんに見合う美女美少女を集めた楽園を作るため、秋葉さんがこの虹ヶ咲学園を設立した。私以外の生徒はみんなお兄さんを好きになる素質があり、現にお兄さんに思慕を抱いている子ばかりだ。その中で私は唯一お兄さんのことを好きにならない人間として入学を許可された(もちろん私自身は知らなかったけど)。その理由がお兄さんが楽園を主となるためのサポートをしろだなんて何とも信じがたい理由だ。まあ今のところ何もしてないんだけどね……。

 

 

「でも侑ちゃん、零君のこと嫌いではないよね?」

「う~ん……まぁそうですね。最初は変な人だとは思ってましたけど……」

「けど?」

「あんな『自分が一番偉い』と豪語してる人でも女の子のことを第一に考えているんだなぁと感心しただけです。てっきり自分の欲望のためにたくさんの女の子と付き合っていると思ったんですけど、歩夢たちの反応を見たり、お兄さんと一緒にデート……いやお出かけした時にお兄さんのことを知れたと言いますか、お兄さんがどれだけみんなを大切に想っているのか分かったので……」

「なるほど。侑ちゃんも零君の魅力に憑り付かれちゃったかぁ~」

「そ、そんなのじゃないです!!」

 

 

 歩夢たちもこうやって煽ってくる時があるんだよね……。お兄さんを尊敬したり感心できる部分があるってだけで、好きとか嫌いとかそういった感情はないのに……。

 お兄さん。出会ってまだ1ヵ月ちょっとだけど、歩夢たちのサポートをする立場として同じなので何かと一緒にいることが多い。スクールアイドルのマネージャーとしての経験はμ'sやAqoursを相手にしてきたお兄さんが圧倒的に先輩なので、まだ駆け出しの私はお兄さんにあれこれ教えてもらいながら歩夢たちの手伝いをしている。

 

 お兄さんから学んだことは非常に多い。マネージャーとしての作業や心得もそうだけど、歩夢たち1人1人をしっかり見てあげていたり、個人への適切なアドバイスや些細な体調の変化も見逃さない。普段はチャラチャラした雰囲気なのにこういった細かいことにも気を配れる人だ。だからこそ私も見習うべきであり、いつの間にか目標にする人になっていた。私の夢は誰かにトキメキを届ける人の手助けをすること。そしてお兄さんこそ私が望む夢を叶えるための能力を持った人なんだ。

 

 

「ただ憧れているだけですよ。お兄さんみたいになれたらなぁって」

「彼になることは無理だね。今の人類が彼になるのは100年早いよ」

「分かってますよ。だからお兄さんから少しでも多くマネージャーとしての知識を吸収して、自分の夢に近づけたらなって思うんです」

「うんうん、いい心がけだね。そうやって彼の右腕になって楽園の創設を手伝ってくれると私も心強いよ!」

「いやそれはノーセンキューですから!!」

 

 

 何かにつけて私をお兄さんのサポートに回らせようとするんだからこの人……。

 でもお兄さんについて行きたくなる女の子の気持ちは分からなくもない。お兄さんであれば自分のことを大切にしてくれるって安心感があるし、何より一緒にいて楽しいというのが一番大きい。この前お兄さんとデート紛いのお出かけをしたけど普通に楽しめた。悔しいけど認めるしかない、お兄さんが女の子を惹きつける能力を。

 

 

「でも驚いたよ。好きになってはないにせよ、侑ちゃんがここまで零君を評価してるだなんて」

「節操がなかったり変態さんなところはどうかと思いますけど、お兄さんが歩夢たちや学園のみんなに抱く愛は本物だって分かりましたから。それに本人の自信も凄いんですよね。ちょっと前に栞子ちゃんのお姉さんの薫子さんが来たんですけど、お兄さんってば薫子さんにそのことを咎められた時に壁に追い込んで『俺のやることが絶対。俺こそ正義だ!』って言ったんですよ? 最初は正気かと思いましたけど、お兄さんなら自分が正義になりかねないとも思いました。そんなのもう圧倒されるしかないですよ……」

「あははっ、零君らしいね! でもブレない意思を持ってるのがカッコよくて、そういうところに惚れちゃうんだよねぇ~」

「私は惚れはしないですけど、あの勢いは相手を納得させる気概がありました。この前デートした件も含め、あの人について行かなきゃっていう一種の強制力みたいなのに囚われて、いつの間にかその魅力に惹かれ――――って、私何言ってんだろ!? あはは、忘れてください……」

 

 

 あぁ~なんだか背中が痒い。自分を褒められてそうなる人はいるけど、まさか他の人を褒めてる時にこうなるなんて初めてだよ。でも秋葉さんの言う通り、最初はお兄さんに不信感を抱いていた私が今ではここまでお兄さんを評価してるなんて、そんな自分に自分が一番驚いている。スクールアイドルのマネージャーとして色々とマンツーマンで教えてもらったこととか、デートという名のお出かけで知ったお兄さんが抱く歩夢たちへの愛情とか、倫理観は壊れているところがあるけどそこを除けば男性としてただただカッコいい人だ。惚れ……てはないと思う。ただそこまで自分を貫けるあの人に憧れてるってだけ。

 

 

「まさか零君に惚れるはずがないと思っていた侑ちゃんがここまでとはねぇ……。ま、零君だったら仕方ないか。vs女の子専用の秘密兵器だからね」

「そりゃ歩夢たちが恋する理由も分からなくはないですけど……。女心をガッチリ掴んで離さない感じが強引というか、女性としてはそういう力強いところに惹かれるっていうか……」

「女だからね。生物学上、強い男に惚れるのは普通のことなんだよ。カリスマ性もあってコミュ力も高く、女の子を気遣える。女の子からしたら自分が守られている、一緒にいてくれるから常に身近にいる。だからもっと一緒にいたくなる。そうやっていつの間にか好きになってるんだよね。我が弟ながら恐ろしい子だよ」

 

 

 もしかしたら私もそのいつの間にか好きになってた中の1人になってるのかな……。これって漫画やアニメでよくある『恋を自覚してないけど好きな人の話題になると顔を赤くして必死に関係を否定する』展開に似てる気も……。いやいや、私に限ってそんなことはない……よね??

 

 

「零君は言わばそう、群れの中の頂点。この世の他の男では到底到達できない、美女美少女の楽園の主として君臨しようとしている。そういう男のことをなんて言うのか知ってる?」

「い、いえ……」

 

 

頂点の雄(アルファオス)。本能的にモテる、ヒエラルキーのトップに君臨する男のことだよ」

 

 

「アルファオス……。お兄さんが……」

 

 

 絶対的、という言葉がピッタリだ。あれだけの女性をこよなく愛し、誰1人として粗末に扱わない。それ故にたくさんの女性に恋をさせ、次々と自分の周りへと取り込んでいく。まさにお兄さんのためだけにあるような言葉だ。疑う余地は一切ない。

 

 

「私がこの世で唯一興味唆られるのが零君なの。それ以外の人も物も、森羅万象全て興味はない。だってどれもこれも自分の思い通りになるから。どうなるのか結果が分かってしまうものなんて面白くもなんともないからね。だけど零君は違う。いつも私の予想を裏切ってくれる。美女美少女ばかりを侍らせた頂点の雄。彼が今後どうなるのか、私は見届けたい。そんな彼のためだったら私は自分のできる全てを注ぐ」

「それが、楽園計画……」

「うん。あなたはどうなの?」

「えっ?」

「あの子と一緒にいてヒロインになるか、それとも彼とは距離を置いてただのモブに成り下がるか」

 

 

 お兄さんと関わったら最後、その女性はみんなお兄さんのヒロインにさせられるって話を聞いたことがある。裏を返せばそこでお兄さんを受け入れなかったら自分はお兄さんの物語からは外れてしまい、つまりモブになってしまうということ。別に人生は個人のものだからお兄さんを受け入れるのも自分次第。だけど秋葉さんが言いたいのはお兄さんが頂点の雄(アルファオス)である以上、物語の主役から見向きもされなくなって本当にいいのかってことだ。

 

 でも、その心配はないと思う。だってお兄さんだもん。一度関わった女性にはなんだかんだ気にかけてくれるだろう。今までもそうだった。歩夢たちの指導が自分の仕事のはずなのに、少ない時間を割いて私にマネージャーとしてのいろはも教えてくれた。そんなことをしてもお兄さんには何の得もないのに。でもお兄さんは隣にいてくれる、夢のために寄り添ってくれる。いてくれるって分かってるから安心できる。心が温かくなる。

 

 そっか。もう私、お兄さんのこと――――

 

 

「おっ? もしかして好きになっちゃった感じ? まさか侑ちゃんも私の予想を裏切るの!?」

「違います!! 好きではないですけど、傍にはいたいと思っただけです。なんだかんだ居心地がいいですから、お兄さんの隣って。それに私も秋葉さんと同じく見守りたいだけですよ。この前のデートの時から見守りたいとは思ってましたけど、今さっき自覚しました。ずっと、隣にいたいって」

「なるほど。侑ちゃんも立派なヒロインになったわけだ」

「ヒロインとかそんな柄じゃないですけど、歩夢たちの気持ちが分かったからですかね。一緒にいたい、離れたくないって」

 

 

 こんな気持ちを抱いている時点でお兄さんの虜になっちゃってるのかな……。今まで男の人と付き合ったことがなかったからこの気持ちをどう表現したらいいのか分からない。この先もお兄さんと一緒にいて、時には笑い合って、時には悪態をつき合って、時にはお兄さんを支えて……そんな距離感でいたい。女性としてあなたに尽くしたいと思わせるくらい、あの人は魅力的なんだ。

 

 

「惚れてはないけど尽くしてあげたいか……。ここまで人の心を動かす零君が凄いのか、それともあれだけ彼の側にいてまだ堕ちない侑ちゃんが凄いのか……。フフッ、決めた! 侑ちゃんも私の興味ある人のもう1人にしてあげるよ!」

「いや、それは勘弁です」

「えぇ~どうして!?」

 

 

 そりゃ秋葉さんの興味の対象になったらどんな目に遭うのか想像もしたくないよ……。

 とにかく、私がお兄さんに抱いている気持ちがようやく整理できた。好きではない、惚れてもいない(多分)。でも隣にいたい。尊敬とか憧れとか、そんな類。

 

 

 いつかこの想いは伝えよう。だって楽園を作ることこそお兄さんの夢であり、そして私の夢はトキメキを届ける人の手助けをすることだから。

 




 なんかここまで来ると普通に零君のことを好きだったり惚れてる気がしますが、本人が違うと言っているので違うってことにしておきます(笑)

 ちなみにアルファオスって言葉は私が作ったのではなく本当にある言葉なので、気になる方は調べてみてください。ハーレム小説としては一度でいいからこの言葉を出してみたかった……!!


 次回は個人回のラスト、歩夢回です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歩む夢

 今回は個人回のラスト、歩夢回です!



「ありがとうございます、零さん。わざわざ家に来ていただいて」

「別にいいよ。今日はずっと大学の教員試験やらなにやらで疲れて、外をブラブラする気力もなかったしな」

 

 

 今日は歩夢の家にお邪魔していた。今晩は親がいないから是非ウチで一緒に晩御飯を共にしたいという歩夢のお願いを聞き、ここに参上した次第だ。さっきも言った通り一日中ずっと教員試験やら実習やらで疲弊しきっていたので、もし外へデートに誘われていたら十分に楽しめなかったこともあり家デートは大歓迎。それに歩夢であればかすみや愛みたいにテンションお化けじゃないから相手に疲れることもないしな。

 

 そんな感じで上原家に来た俺は、テーブルに案内されて現在夕食が出てくるの待ちだ。キッチンでは俺に背を向けた歩夢が制服の上からエプロンを装備して料理をしている。女の子が料理をしている姿を後ろから眺めるのは妹の楓で慣れているが、やはりその女の子が現役の女子高生となると興奮度が違ってくる。しかも制服+エプロンなんて暴力的な格好、下手なコスプレよりも破壊力が高い。更に言ってしまえば歩夢は清楚な良妻タイプだからエプロン姿がよく似合う。つまり最強ってことだ。

 

 それにしても歩夢の料理の手際は目を見張るものがある。どんな料理を作っているのかは知らないけど、俺が来ることもあり相当豪華にしているはずだ。品数も多く1人で料理をするのは大変だろうが彼女の手は止まることがない。まるでこの時のために日々料理の腕を磨いてきたかのようだ。侑の話によれば夕飯を御裾分けし合う仲らしいから腕はいいのだろうが、高校生にしてここまで効率よく料理できるのは素直に凄い。プロ並みの腕を持つ楓を見ている俺が言うんだ、間違いない。

 

 そしてなにより、彼女は楽しそうだ。小さい鼻歌も聞こえるし、俺のために料理に想いを込めてくれているのが見て分かる。

 

 

「楽しそうだな」

「えっ、そうですか?」

「なんか如何にも『幸せです!!』って感じが伝わってくるよ。こんな彼女に飯を作ってもらえるなんて、将来の旦那が羨ましいな」

「ふふっ、もう分かってますよね♪ その旦那さんが誰なのか」

「当たり前だ。お前のようないい女を誰にも渡すわけがない」

「だったら私も料理で胃袋をがっちり掴んじゃいますね♪」

 

 

 いい笑顔だ。笑顔が綺麗+料理の腕もいい+胸もそこそこ大きい+スタイルがいい+そもそも可愛い。俺の周りの女の子はそういったスペックが高い子たちばかりだから錯覚するけど、本来ならこんな好ステータスを持つ女の子なんて早々いねぇぞ。そんな子が俺を自分の家に招き、俺のためだけに料理を作ってくれているこの状況。最高かよ。たくさんの女の子と付き合うとこういった状況もその数だけ堪能できるのがメリットだ。

 

 

「野暮かもしれないけど、何か手伝おうか?」

「ありがとうございます。でもお気持ちだけ受け取っておきますね。だって今のキッチンは私の戦場ですから!」

「おぅ、燃えてるな……」

「なんたって今日は零さんと初めての2人きりでのお泊りなので、やる気にもなっちゃいます♪」

「そっか。俺のためにそこまで尽くしてくれるなら嬉しいよ――――ん? お泊り?」

「あっ……」

 

 

 おかしいな。俺は歩夢から『今日のご夕飯、私の家で一緒にどうですか?』としか誘われていない。泊まりなんて寝耳に水だし、当たり前だが着替えなどのお泊りグッズも持ってきていない。対して歩夢は思わず口走ってしまったと言わんばかりの驚きようで、俺に伝え忘れていたというよりかは意図的に隠していたように見える。一体何を企んでたんだオイ……。

 

 

「ち、違うんです!! あわよくばお泊りしたいなぁ~って思ってたんですけど、いざお伝えしようとすると恥ずかしくて中々言い出せなくて……」

「なるほど。でも実際に俺が家に来たことでテンションが上がって、思わずその願望が口に出たってところか」

「そうです……。そ、その零さんも忙しいと思うので、泊まりでなくても全然大丈夫ですよ! 私は晩御飯をご一緒できるだけでも嬉しいので!」

「いや、泊ってくよ」

「ふぇっ? い、今なんと……?」

「泊ってくって言ったんだよ。女の子の家に泊まると楓がうるさいけど、適当に説得しておくから」

「零さん……はいっ、ありがとうございます!」

 

 

 ここまで俺とのお泊りを心待ちにし、喜んでくれるのであれば泊まらない手はない。俺としても今日一日ずっと勉強や実習で疲れて癒しが欲しかったところなので、清楚という言葉を人間にしたような歩夢と一緒にいれば疲労も回復するだろう。ま、唯一の気がかりは他の女の子の家に泊まると小姑みたいにネチネチ言ってくる楓だけだが、それはあとで上手いこと誤魔化しておくか。

 

 

「泊るとは言ったけど着替えも何も持ってきてねぇんだよな。家に取りに行くのは遠いから面倒だし、そこらのコンビニで買ってくるか」

「いえ、心配無用です! この時のために男性の寝間着はあらかじめ買って常備していますから!」

「なぜ!? どれだけ俺とのお泊りを楽しみにしてたんだよ!? てかサイズは!?」

「そ、それはいつも零さんのことを目で追っていますから、バストウエストヒップも身長も体重も全部把握して――――ハッ、い、いえなんでもないですたまたまサイズが合ってただけです!!」

「いやこえぇよ!? 言い直しても無駄だからな!?」

 

 

 清楚ってのは実は殻で、本心は意外とドロドロと濁ってたりするのかコイツ……。どうして一切伝えてもいない俺の身体の情報を知ってんだよ……。まあ俺も女の子のスリーサイズくらいは見ただけで大体分かるが、体重とかどうやって測ったんだって話だ。純情そうな顔をしてる奴ほど裏で何を考えてるのか分からないとはよく言われているが、まさかコイツも多分に漏れず……? 思い返してみればそこそこ脳内ピンク色だったような気がしなくもない。

 

 歩夢の怖い一面を垣間見ながらもテーブルに座って料理が出来上がるのを待つ。

 間もなく料理が皿に盛りつけられ、テーブルに運ばれる。運ばれてきたのだが――――

 

 

「ハンバーグ、カレーライス、オムライス、グラタン、鮭のムニエル、サラダの盛り合わせ、そしてデザートのプリン――――って、多いな!?」

「すみません! 零さんに手料理を振舞えると思うと嬉しくなっちゃってつい……」

「しかも俺の好きなモノばかり……。よく知ってたな」

「楓さんに頼み込んで教えてもらったんです。それでいつか零さんに作ってあげる時のために頑張って練習もして……」

「そっか。ま、今日は勉強漬けで全然飯を食ってなかったからちょうどいいや、いただくよ」

「ありがとうございます! だ、だったら……」

「ん?」

 

 

 目の前に並べられたのは食いきれるか分からないほどの料理の数々。だがそこは料理の腕が立つ歩夢、量が多くても見た目は店で出されるモノと何ら変わりはなく美味しそうだ。俺はそこまで食うタイプではなのだが、料理は愛情、歩夢が俺のために愛を込めてくれたというのであればそれを自分の身体で吸収してやるのが筋ってもんだろう。

 

 そうやって俺が完食を意気込むと、歩夢は自分の箸でハンバーグを一口サイズに切り分けた。そしてその切り身を1つ箸で摘まみ、俺の方へとゆっくり箸を向ける。

 

 

「一度でいいのでやってみたかったことが……」

「あぁ、いいよ」

「い、いきます! はい、あ~ん……」

 

 

 歩夢に差し出されたハンバーグの欠片を口に含む。料理自体はとてつもなく美味しい。噛んだ瞬間に溢れる肉汁とデミグラスソースが見事にマッチしていて完全に俺好みだ。楓から聞いて味付けの方法もマスターしたのだろう。これだけの料理があるのにこのハンバーグの欠片1つだけでもう胃袋を掴まれてしまった。料理ができて自分のことを慕ってくれる美少女JK……完璧すぎる。

 

 食べさせてもらうという行為は恋人同士であればテンプレなシチュエーションだが、テンプレ過ぎるが故に最近こういったことをやってこなかったためか少し恥ずかしい。まさか幾多の女の子と付き合ってきた俺が今更こんなテンプレ行為で羞恥を感じるとかあり得ないことだが、実際にそうなってしまっている以上否定はできない。俺たちの間に流れる雰囲気が甘すぎるってもあるだろう。歩夢から発せられる幸せオーラが全開で、俺もそれに飲み込まれてるってのもある。なんにせよザ・カップルみたいなシチュエーション自体が久しぶりだから緊張してるのかもな。

 

 そんな感じでたまに歩夢に食べさせてもらいながらも出された料理を全て完食した。あれだけの量を平らげることができたのは自分でも驚きだが、疲労で腹が減っていたのと彼女の深い愛情を感じられたってのもあって自然と食べ進められたのかもしれない。

 

 

「ふぅ……。結構食ったからしばらく動けねぇかもな」

「お粗末様です。たくさん作っちゃった身から申し訳ないんですけど、大丈夫ですか……?」

「心配すんな。料理に込められた愛で胃がもたれただけだ」

「えぇっ!? 私そんな重い女なんでしょうか……」

「う~ん……」

「へっ!? そこは否定してくださいよ~!!」

 

 

 幼馴染の侑曰く、重い女とのこと。本人の名誉のために言ってはないようだが、歩夢は好きになった奴のことを男女問わず惚れ込む傾向があるらしい。今の俺に対する歩夢の対応を見てればもちろんのこと、それは侑も自分に向けられる熱い好意から同じく感じているようだ。これはもしもの話だが、侑が他のメンバーに構っているのを見てコイツが嫉妬して、それで2人きりになったところで侑を抱きしめて押し倒す――――みたいな展開はやめてくれよ? もうヤンデレだったりメンヘラの相手はゴメンなんだよこちとらさ。

 

 

「それはともかく、俺はまだ休んでるから先に風呂入ってきたらどうだ?」

「えっ、お風呂?」

「なんだその反応。別に普通のことだろ。まさかお前、俺と一緒に入りたかった……とか?」

「そ、そそそそそそそんなことないですよ!! 決して男性モノのシャンプーとかボディソープとか常備してませんから!!」

「いや誤魔化せてないからなお前!? てか俺のために色々常備し過ぎだろどれだけ楽しみにしてたんだよ!?」

 

 

 俺のために寝巻きだけではなくシャンプーやボディソープまで準備していた歩夢。多分叩けばもっと埃が出てくるだろう。つうかこれだけ用意周到なのにいざお泊りを誘おうとすると緊張して誘えなかったって……。まあそういったウブなところが可愛いんだけどさ。

 

 

「で? 俺と一緒に入るのか?」

「そ、そそそそそれは……恥ずかしいので別々でぇええええええええええええええええええええ!!」

「お、おいっ!! って、行っちまったよ。あれだけ羞恥心を抉られたら仕方ねぇか……」

 

 

 別に羞恥心を掻き乱しているのは俺ではなく、アイツが勝手にお泊りして欲しいとボソッと口に出したり、俺のために生理用品を常備していたりと自爆しているだけだ。本来は一緒に入りたかったと思うのだが、あの調子では混浴したところですぐに沸騰して気絶するだけだろう。欲を言えば俺も男だからJKとの混浴は嬉しくあるのだが、アイツとであれば風呂くらいいつでも一緒に入れるだろう。まあ虹ヶ咲の奴らであれば侑以外なら一緒に入ってくれると思うけどな。改めるといい身分だよな、俺って。

 

 歩夢が入った後に俺も風呂を借り、食事と入浴で今日一日の疲れを綺麗さっぱり吹き飛ばした。

 彼女のベッドに腰を下ろして休憩していると、歩夢も来て隣に座る。

 

 

「顔、まだ赤いぞ」

「こ、これは湯冷めしているだけで決して恥ずかしいとかそういった意味では……!!」

「まあ緊張していてもいいんじゃねぇの。それだけ楽しみにしてくれてたんだろ、俺を家に呼ぶこと」

「は、はい、ずっと夢でしたから……」

「夢?」

 

 

 夢と言えばもっと大層なお話というか、誰かを自分の家に呼ぶこと対してはあまり使わない言葉だ。まあ他人の夢の大小を俺がとやかく言う権利はなく、コイツにとっては俺と自分の家で2人きりになることが他の人が掲げる大きな夢と同じくらいの規模の夢なのかもしれない。

 

 

「幼い頃に零さんに助けられてから、ずっと零さんのことばかり考えて生きてきました。また零さんに会うことがあったらこんなお礼がしたい、一緒にこんなことがしたい、特別なことはしなくてもいいからずっと隣にいたいって。今それが全部叶っているんです。十数年も待って待って待って、今ようやく……」

 

 

 歩夢は俺の腕に自分の腕を絡めると、そのままこちらに寄り添ってきた。もう離したくない、離れたくないという感情が故なのだろう。

 スクフェスの時に明らかとなった俺と歩夢たちの関係性。俺は幼い頃に更に幼いコイツらの命を救ったのだが、その時の俺の記憶がなくなってしまったことから今までずっと離れ離れになっていた。でも今、こうして隣にいる。特に記憶を失っていないコイツらからすれば、この長い年月を経た再会は涙モノだっただろう。ずっと想い焦がれてきた人が隣にいる。たったそれだけのことだけど、コイツらにとってはそれが最大級の幸せなんだ。

 

 

「私、零さんのことが好きです。あの時からずっと、ずっと、ずっと……」

「あぁ、俺もだよ。待たせて悪かったな」

「いえ。過程はどうであれ、またこうして巡り合えたことだけでも嬉しいです。だから零さんが他の女性とお付き合いしていても、裸の付き合いをしていても私は、私たちは気にしません。ただ愛の一端を注いでくれるだけでいいんです。こうして一緒にいるだけで幸せですから……」

 

 

 歩夢たちは俺に多くを求めていない。ただ一緒に居られるだけで満足であり、そこが彼女たちの夢でありゴールだったのだ。

 だけど、俺は――――

 

 

「愛の一端だと? 冗談じゃない。俺はみんなを等しく愛する。お前らだけ他の奴らの『ついで』とか、そんな扱いは一切するつもりはないぞ。やるからには全力だ。俺はその覚悟でたくさんの女の子と付き合うって決めたからな」

「!? とても零さんらしいですね……」

「それにだ、まだゴールじゃないぞ。俺たちはまだ付き合ってすらいない。やってないことはたくさんある。そしてそのやりたいことってのに終わりはない。相手にこんなことをして欲しいとか、一緒にここへ出かけたいとか、お前もやりたことがたくさんあるはずだ。だからその夢を全部叶えてやる。全部叶えてもまた新しくやりたいことは出てくるだろうから、そうなったらまたそれを叶えてやる。お前が満足してもし足りないほどにな」

 

 

 俺と再会したことで歩夢やみんなの夢は一旦ここで区切りかもしれない。でも俺からしたらそれは通過点だ。俺たちはまだ友達以上恋人未満の関係性であり、もちろんそんな関係は俺もコイツらも満足できないだろう。そして付き合い始めれば相手に求めることは今以上に増えるはず。だから俺はそれを全て叶えてやりたい。ずっとずっと待たせてしまったコイツらだからこそ、コイツらのやりたいことは全部叶えてやりたいんだ。夢はここで終わりじゃない。まだ歩んでいる途中だ。

 

 

「そんなワガママを言ってしまっていいんでしょうか……」

「謙虚だな。かすみやせつ菜だったらじゃあこれもこれもこれもやりたいってマシンガンのようにぶっ放すぞ」

「あはは、その光景が簡単に思い浮かびます。私ももっと貪欲になっていいんですね」

「いいんだよそれで。手料理を食べさせたいってのであればいくらでも食うし、デートに行きたいってのならいくらでも行く。お前のやりたいことを全部やろう」

 

 

 貪欲になってる歩夢は想像しにくいけど、どんな頼み事だろうが受け入れる器くらいはある。器がデカくなければあれだけたくさんの女の子と付き合ってないからな。

 歩夢は何か考え事をしつつ、少し俺と距離を取ってこちらを見つめる。早速俺にやって欲しいことを思いついたのだろうか。彼女はどちらかと言えば引っ込み思案な性格なので自分から何かを要求してくるってことが今までなかったためか、どんなやりたいことが飛び出してくるのか楽しみだったりもする。

 

 すると引き出しの中から何かの箱を取り出す。それを持ったままベッドに上がり、再び俺と相まみえた。ここまでの一連の動きは不可解だが、これも緊張してるからってことなのか……?

 

 

「え、えっと、やってもらいたいことがあります!」

「あ、あぁ、なんだ?」

「えぇっと……本当にこんなことを頼んじゃっても……いやみんなももうやっちゃってるって話だし……」

「おい、小声でブツブツとどうした?」

「うぅん、悩んでいても仕方がないよね!」

 

 

 さっきから悩んだり決心したり、忙しい奴だな……。でもようやくその気になったようだ。

 

 

「あ、あのっ、私を――――押し倒してください!!」

 

 

「へ?」

 

 

 今なんつった? 文字通りの意味だろうが、ベッドの上で押し倒すってもはやエッチなことをしたいって言ってるようなものじゃねぇか。って、歩夢のやりたいことってまさか……!? それにさっき取り出したこの箱って……。

 

 

「いざという時のためにこれも買っておいたんです」

「こ、これって……!?」

 

 

 性病予防具。またの名を避妊具。またの名を――――ゴム!?

 コイツ、寝間着やシャンプーだけじゃなくてこんなものまで常備してやがったのか!? 用意周到どころか脳内真っピンクじゃねぇか純情な性格って信じてた俺の信仰心を返せよ!! やっぱり表が純粋な奴ほど裏では何考えてるのか分かんねぇ……。

 

 

「ったく、とんだドスケベ女だったか……」

「違います!! これも私のやりたいことの1つで、ゆ、夢と言ったら汚らしいですけど……」

「でも、お前の望んでいることなんだろ? だったら――――」

「きゃっ!?」

 

 

 俺は歩夢の肩を掴んでそのまま押し倒した。やりたいことをやろうと語った後の1発目がこれなんて正直驚いたが、俺の言葉に二言はない。歩夢のやりたいことは全部やる。例えそれがこんなことであってもだ。

 

 

「歩夢……」

「零さん……私、零さんと1つになりたいです。たくさん、たっぷり、私のカラダの奥の奥まで愛して欲しいです。零さんからの愛を感じられることこそ、私の一番の喜びですから」

「そうか、だったらいくらでも愛してやるよ。お前が受け止めきれないほどにな」

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 夢はまだ終わっていない。歩夢たちはまだ自分たちの夢を歩き続ける。今までは寂しい思いをさせてきたけど、再会した今ではもう過去の話だ。俺がいる。俺が見せてやる、もっと凄い夢を、最高の幸福を、献身的で受け止められず溢れそうなくらいの愛を……。

 




 今回の歩夢を描いていて、自分で描いたくせに『こんな恋人が欲しかった……』と思ってしまいました(笑)
虹ヶ咲の中で誰を彼女にしたいかと言われたら私は歩夢ですかね。まあアニメ次元だと愛が重すぎますが……


 これにて虹ヶ咲の全てのキャラの個人回が終わりました。キャラはこの小説特有に性格を着色しているものの、その魅力が読者様に伝わっていたら幸いです。毎回個人回の最後はアレな描写でしたが、それだけ零君との関係が進んでいるという証拠ですね(笑)

 恐らく虹ヶ咲編は完結まであと3話の予定です。最後まで応援よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【最終話】恋色passions!(前編)

 至って普通の日常回の前編。
 虹ヶ咲編も50話以上連載してきたので、その中で印象付けられた各キャラを思い出しながら見ていただければと思います!


「『今大会人気1位の虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、その実力を遺憾なく発揮して大会優勝!』か。ホントに止まんねぇなアイツら……」

 

 

 とある秋の日の昼下がり。虹ヶ咲学園の校庭のベンチに座りながらスマホでニュースを見ていると、スクールアイドル関連の記事が目に入ったので詳しく読んでいた。そこには歩夢たちが直近の大会で優勝した際の写真が堂々と掲載されており、その注目っぷりたるや下手な芸能人よりも上だろう。スクールアイドル専門のまとめサイトに掲載されるならまだしも、一般人が読む普通のニュースにビッグ記事として載ること自体が異常だ。それだけ世間からスクールアイドルの、そしてアイツらの注目度が高いことが窺える。

 

 最近はスクールアイドル界隈の勢いが凄まじく、μ'sやA-RISEが環境を牛耳っていた時よりも圧倒的にグループの数が多い。それだけ界隈が盛り上がれば世間にも情報が伝わり、こうして一般のニュースにも掲載されるわけだ。アマチュアでもアイドルが故かみんな容姿が良くて可愛いため、世間の注目を集めるのは必然だったのかもしれない。それに今となっては小中学生までスクールアイドルをやる時代だから、そりゃ否が応でも一般大衆の目に触れるわな。

 

 その中でも今は歩夢たちの功績が凄まじい。元々俺と再会する前も人気はあった方だが、俺が指導して以降はほとんどの他を寄せ付けないほどの実力と魅力に仕上がっていた。アイツらに対抗できるグループともなれば、綾小路姫乃がいる藤黄学園、彼方の妹の遥がいる東雲学院、そして俺の指導が歩夢たち以外で唯一入っており、スクフェスでの優勝も果たしたAqoursとそのライバルのSaint Snowくらいだ。レジェンドクラスのμ's(解散済)やA-RISE(プロ行き)がいたらまた別だろうが、虹ヶ咲の同期って意味だと対抗馬はさっきの4グループくらいだろう。

 

 

「零さん」

「ん? あぁ歩夢か」

「昨日はありがとうございました。私が夢に思い描いていたことを全部叶えてもらっちゃって」

「別にいいよ。あれが俺のやり方で、それが生き方だしな」

 

 

 まさかのご本人登場。コイツが美少女なのも相まって芸能人にバッタリ出会ってしまったような感覚だ。

 

 歩夢は俺に深々と頭を下げてお礼を言う。どうやら俺とのお泊り会で自分のやりたいことを叶えてもらってご満悦のようだ。まあその過程で少々、いやかなり性交配的なことを行ってしまったのだが、その相手と翌日素面で対面するのは結構恥ずかしいな……。ただ歩夢はそのことさえも大切な思い出となっているようで、今は緊張すらいないように見える。ま、女の子が満足してくれさえすれば俺はいいんだけどさ。

 

 そんな歩夢は俺と同じベンチ、しかも密着寸前の距離に腰をかけた。普段のコイツであれば遠慮しがちな性格なのでこういう時は絶対に座っていいか許可を求めてくるのだが、今回は何も言わずに穏やかな表情のまま、さも俺の隣にいるのが当たり前のように座りやがった。別にいいんだけど、ここまで積極的な歩夢はスクフェス開催前の正体が不明だった頃のアイツにそっくりだ。元々愛の根が深い奴だから、男女問わず惚れ込んだ人に対してはこうなるのだろう。

 

 

「あっ、それ私たちの記事ですね。もしかしてこの前の大会のライブご覧になってくれたんですか?」

「そりゃお前らの指導役なんだから見るだろ。それにお前たちの功績は毎回しっかりチェックしてるよ」

「そうだったんですね。ずっと零さんに見られてると思うと恥ずかしいな……」

「俺にアピールするためにスクールアイドルになったくせに良く言うよ」

 

 

 コイツらがスクールアイドルになったのは何を隠そう俺のため。もし俺と再会した時のために己を磨く手段としてスクールアイドルを選んだんだ。俺のために自分の魅力を上げることを欠かさず、俺のためだけに努力した結果がこれだ。今では世間一般に注目されるくらいのグループになっている。昨晩の歩夢を見てもらえれば分かる通り、俺への愛だけでここまでのし上がってきた、まさに愛の化身とも言えよう。

 

 歩夢は他の誰よりも俺に献身的であり、俺のために全てをかけて尽くしてくれる子だ。ありきたりな感想だがそれだけ自分のことを好きでいてくれることが嬉しいし、コイツから伝えられる愛に応えたいと思ってしまう。俺がお泊りにくることを想定して色々準備していたことのように、俺のために炊事洗濯料理なにからなにまで世話をしてくれる。その一途な愛の強さは他の奴らの誰にも負けないだろう。愛が深い女の子は重いとよく言われるが、俺は大好きだぞ。

 

 

「零さん♪ 何してるんですか?」

「うおっ!? かすみ!?」

 

 

 またしても突然、今度はかすみがベンチの後ろから俺の首に腕を回して抱きついてきた。もう何の躊躇いもなくその慎ましやかな胸を押し付けてくるあたり、俺との様々な交流(不純異性交遊的な意味も含め)を経て羞恥のハードルが下がっているのだろう。

 

 

「あっ、それかすみんたちのライブ映像じゃないですか! 本人がいないところでもかすみんの可愛さを勉強しているなんて、零さんってば勤勉ですねぇ♪」

「そうだな。お前の可愛さをもっと知ればお前のことをもっと好きになれると思ってさ」

「えっ、ちょっ!? いきなりデレてどうしたんですか!? いつもだったら軽くスルーするのに!」

「そうは言ってもこれが本心だからなぁ……」

「歩夢先輩!! 零さんとうとう頭おかしくなっちゃいましたよ!? かすみんを素直に褒めるなんて!!」

「普通に褒めてるだけだと思うよ……」

 

 

 いやかすみの可愛さは俺が一番良く知ってるぞ。自分の可愛さをとことん追求し、自分が世界で一番可愛いと思っているコイツだが、それは何も間違っていない。つい頭を撫でたり抱きしめたくなる愛嬌、小生意気でからかいたくなる後輩感、エッチなことにも積極的など、男が惹かれて申し分ない要素が揃っている。こんな子に人懐っこく抱きつかれたら(今のように)好きにならない奴はいないだろう。ペットのような可愛がりたくなる可愛さがある……っていったら家畜扱いされたって怒っちゃうか?

 

 

「くんくん、なんだか卑しい匂いがしますねぇ……。歩夢先輩もしかして昨晩……」

「ふえけっ!? な、ななななんのことかな!?」

「いやバレバレですよその反応……。なるほど、零さんもう遂に全員とやることヤっちゃったんですね……」

「お前らが事あるごとに誘惑してくるのが悪い。それにお前らがその方法で手っ取り早く愛を感じられるってのなら、俺は一切拒まないぞ」

「こんなに可愛い女の子たちと関係を持っちゃって、本当に零さんは悪い人ですねぇ〜♪」

「それにしては嬉しそうだな。ま、俺だから許されてることだし、そもそもこれだけの女の子を幸せにするのは俺にしかできないことだからな」

「そういうところだと思います、私たちがみんな零さんに惹かれている理由。頼り甲斐があって、自分を絶対に幸せにしてくれると確信できる。だからこうしてもっと一緒にいたくなっちゃうんです」

 

 

 歩夢は頬を赤らめ、その表情はまさに恋する乙女。俺の腕に絡みつき、そのまま肩に自分の頭を預けてくる。同時にかすみの抱きつく力も強くなり、歩夢の言った『もっと一緒にいたい』というのを行動で体現していた。この積極性はμ’sなど他の奴らにはない特性で、俺に対する押しの強さは他のグループとは違ってピカイチだ。

 

 

「零さん? 歩夢さんにかすみさんも、校庭でとても大胆ですね……」

「ん? あぁせつ菜か」

「せつ菜先輩もこっちで零さんと戯れましょうよ〜! 歩夢先輩の反対側がまだ空いてますから!」

「えぇっ!? い、いいのですか……?」

「そりゃいいだろ別に。むしろ遠慮する必要はない」

「せつ菜ちゃんって好きなことには何でも全力だけど、零さんのことになると結構恥ずかしがり屋さんなところあるよね。可愛いなぁ♪」

「か、からかわないでください歩夢さん! うぅ、分かりました行きます……」

 

 

 せつ菜はおずおずと俺の隣に腰を掛ける。

 いつもであればみんなを引っ張るリーダー的な役割として、ステージの上では堂々と、漫画やアニメの話では嬉々として何事も全力全開のコイツだが、恋愛や性的なことに関しては免疫がなく今のように戸惑いを見せてしまう。そういえば果林が考案したセクシー衣装をいつも顔を赤くして否定しているって噂が流れてたな……。

 

 

「えぇっと、零さんは一体ここで何をされていたんですか?」

「お前らが優勝した大会の記事とか、ライブの映像とかを見てたんだよ。もちろんお前のソロパートの映像もな。お前は動きのキレも良いから指導する立場として逆に学べることも多いんだ」

「そ、そんな私のライブが零さんのお勉強に!? 恐れ多いです……」

「何言ってるんですかせつ菜先輩! 先輩は虹学スクールアイドルのパイオニアで経験も豊富なんですから、もっと誇って良いんですよ!」

「うん! せつ菜ちゃんからはスクールアイドルのことを教えてもらってばかりで、いつも助かってるよ!」

「み、皆さんまで……」

 

 

 かすみと歩夢の素直な褒め言葉に羞恥心を揺さぶられたのか、俺の身体で紅潮している表情を隠そうとしているせつ菜。そのせいで俺に密着しすぎていることに気づいていないのだろうか。これを言ったらまた恥ずかしがりそうだから敢えて言わないけどさ。

 

 俺もせつ菜から色々学ばせてもらっているのは本当で、俺の知るスクールアイドルの中でもコイツのパフォーマンス力はトップクラスだ。それだけスクールアイドルが大好きで入れ込んでいるからだろうが、大好きなことに全力になれ、その大好きを誰かに伝えることを夢としているってのも能力が高い理由だろう。その熱いハートに俺は惚れてしまったのかもしれない。そしてコイツから伝わってくる愛もも燃えるようなくらい力強いので、受け取る立場としてもそれだけ自分に情熱を注いでくれていることに感謝したくなってくるんだ。

 

 

「もうせつ菜先輩ったら零さんに抱きつきすぎですよ〜!」

「ひゃっ!? あっ、すみません思わず……!!」

「敢えて黙ってたのにわざわざ言うなよな……」

「大好きなことに全力なせつ菜ちゃんが零さんの前だとこうなっちゃうの、結構珍しいよね」

「そ、それは零さんが大好きだからですよ! 大好きで大好きすぎて、どうしたらこの高ぶる気持ちをコントロールできるか毎回わからなくなって、気づいたら恥ずかしくなっちゃってて……」

「なるほどお前らしいな。ま、燃えるほど熱い愛を向けてくれているってことは分かるよ。さっき抱きつかれてた時も腕をもってかれそうだったからな」

「それは失礼しました……。でもそれだけ零さんのことが好きだってことです! これは本当の本当、燃え上がる炎のように熱く!!」

「分かった分かってる!! 途端に熱くなるのな……」

 

 

 借りてきた猫のようになっていたかと思えば、俺へのアピールタイムになった瞬間にこの熱血具合である。でもそれがコイツの魅力的なところであり、情熱的になる姿と恋する初心な女の子っぽい反応のギャップがこれまた可愛い。そういった表情がコロコロ変わる元気っ娘、俺は大好きだぞ。

 

 それにしても学校内で女の子に囲まれるこのシチュエーションにも慣れてきた。今回は校庭という野外だが、この学校の女の子たちはみんな俺に好意を抱いている子ばかりなので特に気にもされない。だから俺たちの近くで練習をしている女子ベースボールの部員たちも、こちらを気に留めることなく練習を続け――――

 

 と、思った矢先に目に映る。バットで打たれたベースボールの球が大きく軌道から逸れてこちらに向かっているところを。そして歩夢たちに囲まれているせいかここから逃げ出せず、このままだと俺の顔面にあのボールが直撃する未来を――――!!

 

 どうする……って、もう考えてる時間がねぇ!! このままだと……ッ!?

 

 

「とうっ!!」

「えっ――――うぐっ!?」

「危ないところだったね、零さん!」

「えっ、愛ちゃん!?」「愛さん!?」「愛先輩!?」

「な、何が起こったんだ……? あっ、そういうことか……」

 

 

 いきなり俺の目の前に現れたのは愛。さっきの一瞬で何が起こったかのというと、愛が俺の膝に飛び乗ってきて、それとほぼ同時に装着していたグローブで俺に直撃予定だったボールをキャッチしたらしい。コイツの見た目から察するにいつもの助っ人活動でベースボール部の練習を手伝ってたんだろうが、まさかあの離れたグラウンドからここまでボールの速度に負けずに走ってくるなんてとんだスポーツお化けだな……。

 

 

「えへへ、我ながらナイスキャッチ! いやぁこれでスリーアウト、愛さんたちの攻撃だよ!」

「攻撃だよ、じゃないですよ先輩! いきなり目の前に現れてビックリしたんですから!」

「あはは、ゴメンゴメン! それよりみんな何してるの? 零さんと野外プレイしてる感じ?」

「エロいことしてるみたいに言うな。ただお前らが載ってるニュースとかライブ映像とかを見てただけだ」

「ふ〜ん。だったら愛さんも一緒に見ちゃおっかな? えいっ♪」

「ちょっ、どうして抱きつく!?」

「だって零さんのことだから、歩夢たちに抱きつかれでもしながらみんなで動画見てたんでしょ? だったら愛さんも抱きつかないと平等じゃないじゃん!」

「どういう理由だよそれ!?」

 

 

 愛は正面から俺に抱きついてスマホを覗き込もうとする。だが横からと後ろからの歩夢たちとは違って正面からでは明らかに一緒に画面を見られるような体勢ではない。そのせいかでより密着してきて、思春期女子にしては育ちすぎている胸が俺の胸に……!? 相変わらず超柔らかいな反則だろこの肉丘……。

 

 

「愛さん、ベースボール部の助っ人の方はよろしいのですか? 野外でこんなことをしている私が言えたことではないかもしれませんが……」

「大丈夫大丈夫! さっき練習続けておいてってサイン出しておいたから!」

「助っ人なのに練習の指導もできるなんて、愛ちゃんって本当に凄いね。スポーツもできるし勉強もできるし、文武両道で羨ましいなぁ」

「まあ自分を磨きに磨いた結果かな? その磨き上げた理由が目の前にいるんだけどね」

「俺のことか」

「そうっ! 零さんに見合うイイオンナになるためって思って色々経験してたら、いつの間にかこうなっちゃった♪」

「そんな軽々しく言えるほどヤワじゃないけどな、お前の努力と才能は……」

 

 

 愛は控えめに言わなくても天才の類だ。歩夢の言ったとおりスポーツから勉強まで万能。様々なスポーツ部の助っ人に出向き、勉強も誰かに教えられるくらいであり、それでいて日頃から美容、筋トレ、アイ活など自分磨きを欠かさない。コイツだけ1日が24時間以上あるのかと錯覚してしまうくらいの活動量であるが、それも何もかも効率良くこなせる才能が故だろう。もちろん才能と天才と言われる以前に多大な努力が積み重なっていることは、俺たちはみんな知っている。その全てが俺のためなんだ。

 

 

「こうして愛さんがイイオンナになれば零さんも満足できるっしょ? イイオンナを自分のモノにできて、好きなだけ抱けるってステータスがあるんだもん。零さんのそんなドSな欲求を満たすために愛さんはここまで自分を磨き続けたんだから」

「フン、そうだな。お前のような誰からも頼りにされて、誰からも憧れられる女の子を好きにできるのが一番優越感を満たせる。しかもお前の魅力が上がれば上がるほど、俺はどんどん満足できるぞ」

「そうそう、他の男性から愛さんを見る目が熱くなるほど、そしてエッチになるほど零さんは実感できるもんね。コイツは俺のオンナ、コイツとエッチできるのは俺だけなんだってね」

 

「歩夢せつ菜先輩! なんか2人が怖いこと話してますよ!?」

「2人がこういった性格なのは知ってたけど、いざ目の前で欲望塗れの会話を聞くとビックリするね……」

「ドSとドSが混じり合うとこうも刺々しくなるのですか、納得です……」

 

 

 己を磨くことで俺の優越感を満たそうとしてくる愛。俺の性格を良く分かっているからこそであり、彼氏のことを第一で動いてくれる欲望めいた優しさがある。自分が有名になればなるほど俺の恋人としての価値も上がる。うん、結構なことじゃないか。普通に可愛い子を抱くだけでも満足感は高いが、こうやってステータスがたくさん付いている子を抱けるのはもっと興奮できるからな。

 

 そういった忠義の高さだけではなく胸も大きくスタイルも抜群。俺の好みになるために自分を徹底的に磨き上げる。それが愛の魅力だ。

 

 

「あれ……?」

「ん? どうした歩夢?」

「なんか美味しそうな甘い香りがして……」

「真っ先に気付くなんてさっすが歩夢! 食い意地張ってるねぇ〜」

「も、もう愛ちゃん!!」

「あはは、ゴメンゴメン♪」

 

 

 確かに腹の虫を呼び覚ますくらいの甘い香りがする。女の子たちに囲まれているので既にいい香りの空間にはいるのだが、これはシャンプーとか香水の類ではなくお菓子の匂いだ。

 

 

「あれ? 零さんにみんなも! そんなに抱き着き合ってどうしたんですか?」

「エマ? あっ、お前が持ってるそれって……」

「これですか? さっき調理部の子と一緒に作ったカップケーキです!」

 

 

 たまたま近くを通りかかったエマ。この甘い香りはアイツが作ったらしいカップケーキから発せられていた。

 そしてエマは俺たちが集団で、しかも野外で戯れているのを見て目を丸くして驚いている。そりゃ人の往来があるような校庭で男女がくっついているってだけでもおかしいのに、男1人に女の子4人が前後左右から群がってる状態だからな……。てかもう囲まれ過ぎて周りから俺の姿って全然見えてねぇんじゃねぇか……?

 

 

「エマっちのカップケーキ美味しそ~! 1つ貰っていい?」

「いいって言うか、元々みんなのために作ったから遠慮なく頂いちゃっていいよ!」

「ありがとうございます! いただきますね!」

「エマ先輩の作るお菓子、かすみん大好きなんですよね~!」

「ありがとうございます、エマさん。でも食べ過ぎないようにしないと……」

「は~いみんなどうぞ~♪」

 

 

 作ったお菓子を笑顔でみんなに分け与えるとか、幼稚園の先生が子供にお菓子を配ってる風景みたいだな。もうコイツのやることなすことに全部に母性を感じられ、今もみんなのお母さんにしか見えない。誰もが頼りにしてしまう優しさがあり、包み込んでくれる暖かさがあるなんて並の人間では備わってない能力だ。そりゃコイツの子供になりたいって奴がいてもおかしくねぇよな……。

 

 

「あっ、でも零さんは両手が塞がってますね」

「あぁ、コイツらに密着され過ぎてるせいでな。ていうか食ってる時くらい離れたらどうだ?」

「「「「イヤ(です)」」」」

「えぇ……」

「分かりました! でしたら私が食べさせてあげますね♪」

「えっ!?」

「はい、あ~ん♪」

「ちょっ、えぇっ!?」

 

 

 エマはカップケーキの生地を指で一摘まみし、それを俺に向けて差し出した。この歳にもなって女の子に食べさせてもらうとか……って思ったけど、昨晩歩夢に晩飯をご馳走になった時も同じようなことあったっけ。でもあれは2人きりだったのに対し、今回は周りに傍観者が多数いる状況だ。歩夢たちに見られている中で食べさせてもらうのは普通に恥ずかしい。あとで食べるって選択肢もあるが、ここまで笑顔でやる気になってる彼女を見てると何とも断りづらい。

 

 仕方ないので口を開けてカップケーキの一摘まみをいただく。

 うん、甘い、超甘い。ケーキの甘さもあるがこの雰囲気とエマの愛情も感じられて甘さが際立っている。女の子の料理なら基本何でも美味いと思ってしまう(せつ菜の料理は除く)俺だが、やはり場の雰囲気と愛情ってのは料理を美味しくさせるな。特にエマの料理は母が子供に愛を注ぐ時のような母性も感じられるから非常に美味い。なんとも優しい味がするのもそのためだろう。

 

 

「よく食べられましたね~偉い偉い♪」

「頭を撫でるなよ……」

「あっ、ゴメンなさいつい……。でも零さんいつも頑張ってるから癒しを与えたいなぁ~って」

「もう十分に癒しを貰ってるよ。特にお前は笑顔も、声色も、雰囲気も、仕草も、見たり聞いたりしてるだけで心が落ち着くんだよ。もう俺の側から手放したくないって思っちまうくらいだ。これも子供が母親から離れたくない気持ちと同じなのかもな。つまりそれくらいの癒しがあるってことだ」

「零さん……はいっ、ありがとうございます!」

 

 

 この前コイツが秋葉の罠で母性が爆発した際に俺をバブらせようとしてきたが、危うく陥落しそうになるくらいには俺はコイツを求めていた。女の子に囲まれる生活は楽しいけどそれだけ大変なこともあるので、それを抱き留めてくれる存在が1人は欲しいところだ。その適任なのがエマ。癒し系スクールアイドルを名乗っているだけのことはあり、一緒にいるだけで安心するんだよな。歩夢たちが俺と一緒にいると安心すると言っているようなのとはまた別で、コイツといれば事件が起きない(秋葉の罠はあったが)というか、のんびり日常を過ごせるのが魅力だ。そして甘やかしてくれる。これだけ男の求める要素があれば好きになるには十分だろう。

 

 

 てなわけでこの後も歩夢たちに密着されながらエマにカップケーキを食べさせてもらった。女の子に囲まれる生活も当たり前になっている毎日だが、こうして身近に女の子の好意を感じられる環境っていいよな。愛の言っていた『優越感』が大いに満たされそうだ。

 

 そしてもちろん、虹ヶ咲の女の子たちはコイツらで終わりではない――――

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 1人1人零君に対するキャラの在り方や魅力を描いた回になりましたが、やっぱり1年以上も同じキャラ達で連載を続けていると愛着が凄いです(笑)
 もちろんキャラ1人1人を語るのに1話で収まるはずがなく、次回の中編が璃奈、彼方、しずく、果林、栞子。後編で最終回予定が侑となります。


 そういえばこの話の投稿前にアニメ虹ヶ咲の2期が決まりましたね。まさか13人もの大所帯になるとは思ってもなかったので、この小説での扱いも大変過ぎてどうしようか迷ってます(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【最終話】恋色passions!(中編)

 虹ヶ咲編の最終話の中編です。
 こうして見ると虹ヶ咲編の連載前と後で印象が変わった子がちらほらいるような……


 歩夢たちと別れ、今度はスクールアイドル同好会の部室で休憩することにした俺。女の子たちに囲まれるのはそれだけ自分が求められている、好かれているという証明になるので優越感を満たせる。だけど虹ヶ咲の奴らはみんな押しが強いから、ああやって四方八方から抱き着かれると肩凝るんだよな。まあアイツらにベタベタされるのは最近では日常と化してるからもう慣れたけどさ。

 

 そんな感じで抱き着かれまくってガチガチになったこの身体。適当に伸びをしてストレッチをしていると――――

 

 

「零さん」

「えっ、璃奈の声? どこにいるんだ?」

「ここだよ、ここ」

「うおっ!? てかどうしてテーブルの下にいるんだ!?」

 

 

 誰もいなかったはずの部室に璃奈がいたことにも驚きだが、まさかテーブルの下からひょっこり顔を覗かせてきたことに一番驚いた。つうか見ようによってはホラー番組みたいでこえぇよ。コイツ自身声に覇気がなくてトーンも低いし、しばらくずっと黙って俺を見てたってことだもんな……。

 

 そんな訳でいつの間にか部室にいていつの間にかテーブルの下、俺の股の間から現れた璃奈。俺に見つかるとすぐさま膝に飛び乗ってきて俺の胸に背を預けてくる。コイツ自身の背丈が小柄なためか、それほど背の高くない俺であってもその身体がすっぽりと収まった。

 

 

「はふぅ……」

「なんだその気持ちよさそうな声は……。てかお前このポジション好きだよな」

「他のみんなだと背が高すぎて零さんのここには収まらない。ジャストフィットするのは私だけの特権。それが優越感」

「俺と考え方同じだな……」

「それにこうしていると零さんに守ってもらえてるようで安心する。しかも頭を撫でたりして甘やかしてもらえるから」

「そうか」

「ふにゃ……」

 

 

 ご所望通り頭を撫でてやるといつもの無表情が少しだけ、ほんの少しだけ緩んだ気がする。表情変化が乏し過ぎて気のせいかもしれないけど……。

 こうして妹のように可愛がれるのは後輩組の特権だが、コイツは特に妹色が強い。かすみよりも低い背丈でマスコット的な愛くるしさがあるからだろうか。本人も甘え上手で積極的な性格であり、こうして俺を兄のように慕ってくるのがこれまた可愛らしい。みんなは俺に抱き着いて来るがコイツは俺に抱き着かれに来るといった感覚で、他の奴らが俺に向ける愛情とはまた少し違う。常に無表情で何を考えているのか分からないところもあるが、実は他者とコミュニケーションが取るのが大好きという性格も相まって、こちらとしても甘やかしたくなる要素満載だ。

 

 

「零さん、ぎゅってして」

「はいはい」

「これこれ。まるで効能たっぷりの温泉に浸かってる気分。滋養強壮、疲労回復、健康増進、この世の穢れが全て浄化されていくみたい」

「歳よりくせぇなオイ。てかいつも思ってるけど、お前らって俺をパワースポットか何かと勘違いしてるよな……」

「零さんは私たちにとっての光。零さんが私たちの全て。だからパワースポットというより、生きる意味……みたいな感じ」

「余計に俺の存在が重くなってる……。まあそれだけ尊敬してくれるのは嬉しいけどさ」

 

 

 俺に触られただけで身体が清められるだの、声を聞いただけで聴力が良くなるだの、もはやこじ付けレベルで心酔してるところあるからなコイツら……。それだけ俺のことを求めてくれているって証拠だから嬉しくはあるんだけど、ここまで崇められると背中が痒くなってしまう。ま、これもコイツらと交流を続けていく間にもう慣れちゃったことだけどな。

 

 つうか璃奈の奴、やっぱ抱き心地がいい。以前に妹キャラ(淫乱属性持ち)として俺に迫ってきたことがあったけど、本当の妹として迎え入れたいくらいだ。俺のことをパワースポット扱いしているが、こちらからしてみればいい癒しになるからコイツもコイツで俺にとってのパワースポットなのかもしれない。

 

 

「おや? 零さんと璃奈ちゃん見せつけちゃってくれますな~」

「か、彼方!? いつの間に後ろに……」

「ふっふっふっ、零さんのお疲れモードを察知してただいま馳せ参じました~。ずっといたけど気付かれなかったってことは、彼方ちゃんもしかして忍者の素質あるかも?」

「いやお前みたいな所構わず寝るようなノロマでは無理だろ……」

「え~でも彼方ちゃんの眠気で敵を眠らせる……みたいな特技があるかもよ~」

 

 

 アニメや漫画の見過ぎだと思ったけど、あながち間違いじゃないか。彼方と話していると眠気ゼロでも睡魔に襲われることは往々にしてあった。かすみや愛のハイペースとは逆でコイツはスローペースだから、どうも心も気分もふんわりしちゃうんだよ。もう何も考えずとりあえず寝ちゃうか……みたいな? コイツと一緒にいるだけでストレスフリーになりそうだ。

 

 そんなわけで俺の背後に突然現れたのは彼方だ。後ろから密着してくるせいで彼女のゆる~い声が安眠ボイスとして俺の耳をくすぐる。抱きしめている璃奈が暖かいのも相まってこのまま寝ちまってもおかしくねぇな……。

 

 

「およ? 零さん肩凝ってる?」

「あぁ、さっきまで歩夢たちに揉みくちゃにされてたからさ。抱き着いて来るのはいいんだけど動けないから身体がガチガチになるんだよな」

「なるほど、だったら彼方ちゃんがマッサージしてあげるね~」

「えっ……うおおぉっ!?」

「零さんも私と同じで気持ちよさそうな声上げてる」

「いやホントに気持ちいいからさ。どうしてこんなに手慣れてるんだ?」

「いつも遥ちゃんにやってあげてるからね~。スクールアイドルの練習をたくさん頑張ってお疲れ様~って」

 

 

 スクールアイドルとして頑張ってるのはお前もだろってツッコミは野暮なのか……?

 なんにせよ、彼方のマッサージ技術がすこぶる高い。多少痛いのは効いている証拠なのだが、程よい痛みと同時に気持ちよさを感じられるマッサージは質が高いと思っている。しかも耳元で逐一『気持ちいいですか~お客様』とか『お疲れなのは頑張ってる証拠ですよ~偉い偉い』と囁いてくるので中毒性が半端ない。コイツ、完全に俺の癒し方を理解してやがるな……。

 

 彼方は眠り姫の異名を持つのんびり屋さんだが、スクールアイドルとして活動している傍らプライベートではスーパーでバイト、学園の特待生のため夜な夜な勉強も欠かさないなど、ふんわりぽわぽわしてそうで意外と努力家な子だ。家庭的で家事能力もあり、今のようにすぐさま相手の体調を察知して気遣うこともできる。虹ヶ咲でハイスペックと言えば愛だけど、コイツも相当なマルチタイプだ。それでいて美少女でスタイルも良く胸も大きいといった男を悦ばせる要素が満載。膝枕やマッサージで俺を癒したり、逆に俺を抱き枕にして甘えてきたりと攻めと受けどちらもできる性格であり、この1ヵ月くらいでコイツの魅力をたっぷりと味わった気がするな。

 

 

「零さん気持ちよさそう。今にも寝ちゃいそうなくらい」

「璃奈ちゃんにもあとでやってあげるね~」

「ありがとう。零さんにぎゅってされて、彼方さんのマッサージと膝枕で気持ちよくなる。ここが天国か」

「随分と充実してんなお前……」

「零さんももっと気持ちよくなりたい? 今度は私が抱きしめてあげようか? 下のおクチで」

「流れるような下ネタ止めろ……」

「わぁ~零さんってばお盛んだね~。もしかして彼方ちゃんも出番かなぁ~?」

 

 

 そういや性に対するハードルが低いんだったコイツら。最近はずっと一緒にいるからこれが普通だと思い込んでたけど、常識的に考えて他の女子高生よりも淫乱度が高すぎるよな……。それもこれも俺と1つになりたいという切実な願望が故であり、俺が信頼できる男だからこそ攻めた押しができるのだろう。コイツら素のスペックも高いし性に対して興味津々なので普通の女子高生ってどんな生き物なのか忘れてしまいそうだ。

 

 

「璃奈さんと彼方さんだけズルいです! 私もご奉仕させてください!」

「やってくれるのはいいけどあまり激しいのは――――って、しずく!? いたのかよ!?」

「はい、さっきからずっと零さんのことを見ていましたよ」

「いやこえぇよ!? いるんだったら声かけろよな……」

「そうしたかったのは山々だったのですが、零さんの凛々しいお顔に惚れ惚れとしてしまい、思わず抱き着きたくなる焦燥を抑制するだけで精一杯でした。逸る想いを我武者羅に押し出しては醜いだけです。なのでただ眺めているだけでしたが、我慢できずについ躍り出てしまったことはお詫びします……。ただ零さんは私にとっての太陽。人間は太陽の光を浴びることで活力を得るように、零さんがいなければ私は生きられません。つまり、私が零さんを求めてしまうことは必然なのです!」

「おぉ~流石はしずくちゃん、詩人だねぇ~」

「いや長ぇよ!? 愛は伝わってくるけど長い!!」

 

 

 もう俺への想いを文章にするだけでエッセイ1冊くらいは執筆できるんじゃねぇのかコイツ。怪文書にならないかだけが心配だけど……。

 またしても俺の気付かぬ間に現れた虹ヶ咲メンバーの1人、しずく。もはやいつも通りとなった長文での告白は彼女の物語好きの性格が如実に反映されているが、たまに愛が拗れすぎてやや怪奇的な文章になるのが怖いんだよ。俺と身体を重ね合わせた以降は(たが)が外れたように積極的になり、普段の日常でも自分の想いを一滴残らず暴露している。俺への押しの強さランキングでは余裕の上位クラスだろう。

 

 

「つうかどうして俺を奉仕する話になってるわけ?」

「えっ? だって彼方さんがマッサージ、璃奈さんがエッチなことをして零さんを気持ちよくする会……ですよね?」

「んなわけあるか!? どんなヤリサーかよ!?」

「私はそれでもいい。気持ちよくなれるなら」

「彼方ちゃんもおっけ~♪」

「いや聞いてねぇよ……」

「私、零さんが健やかに過ごせるためであれば何でもしてあげたいです! 毎晩零さんが就寝される時は側で控えさせていただいて、朝に起床のお手伝い、お着替えのお手伝い、料理の配膳、生理現象の沈静化などなど、朝だけでもやって差し上げたいことがたくさんあります。そして夜は逆に私が零さんに甘えさせていただいて、思う存分可愛がってくださればと……♪」

「完全に欲望丸出しじゃねぇか……」

 

 

 でもこの愛の強さがしずくのいいところ……なのかな?

 スクールアイドルと演劇の二足の草鞋を両立しているコイツは一途な頑張り屋さんである。もちろんそのどちらも練習を欠かすことはなく、舞台の主演に抜擢されるほどと言ったら演劇の方の実力も分かってもらえるだろう。また演劇好き、映画好き、小説好きなどの文芸趣味から物語で物事を考えることが多く、そのためさっきのような妄想癖に陥ってしまうのはポンコツな部分であったり可愛い部分でもある。二足の草鞋を両立させるほどの努力とお得意の妄想癖から好きな相手にのめり込もうとする意識が強く、その故に愛が強く、たまに重くもなる。でもその徹底的に尽くしてくれるタイプは俺の大好物だから、俺もまたコイツを強く重く求めちゃってるのかもな。

 

 

「ここまで尽くしてくれる女の子がいるなんて、いやぁ羨ましいねぇ~」

「ちょっと重すぎる気もするけど……」

「零さんがこう教えてくれたのです。『好きであれば遠慮はいらない。自分にどんどん甘えてくれても構わない。でもその代わり、俺の身体が火照った時はお前で慰めさせろ』って」

「しずくちゃん顔真っ赤。それに零さんが堂々としずくちゃんのカラダを使う発言をするとは驚き。まさにドS」

「いやそこまで言ってねぇよ!?」

 

 

 物語を妄想するのはいいけど過去改変を起こすのはやめてくれ……。自分の欲望すらも物語にしてしまうせいか、その欲が爆発すると話の道筋を大きく逸らそうとしてくるからな……。

 

 

「あら? エッチなことをするのに私を混ぜないというのはどういうことかしら?」

「……もう驚かねぇぞ。いつからいた?」

「う~ん、肩凝りで辛そうにしてるところ?」

「それ最初だろ!! てかずっと俺らを観察してたのかよ趣味わりぃな!?」

「どんな濃厚な展開が待ってるかってワクワクしてたんだけど、まさかここでヤっちゃうとは思ってなかったわ」

「いややらねぇから!! ったく、余計な期待し過ぎなんだよ……」

 

 

 もうどこに潜んでいたのか怖いレベルなのだが、今度は果林がどこからともなく現れた。セクシー系スクールアイドルの異名があるためか、俺たちの話題がエロ方面に進んでいると知ってここぞとばかりに顔を出したのだろう。都合がいいっつうか、性に貪欲っつうか……。

 

 

「とか何とか言ってるけど、零さん好きよね? 私のカラダ」

「ぐっ……。そりゃお前ほどのいいカラダの女、早々いねぇからな」

「璃奈ちゃんボード、大敗北……」

「私ももっと胸が大きくなれば……」

「彼方ちゃんも果林ちゃんほどじゃないけど結構いい大きさしてると思うけどなぁ~」

「私はモデルをやってるから自分の身体を磨き上げることには自信があるのよ。そしてそんなアダルティなカラダを、数々のファンや読者が食い入るように見ている私のカラダを、零さんは独り占めできる。そう考えると興奮してこない? お前たちが羨まむコイツのカラダは俺のモノなんだ~ってね♪」

「やっぱり心得てるな、俺の誘い方を」

「えぇ、あなたの性癖と興奮増幅のスイッチも全部ね」

 

 

 相変わらず俺への誘惑が上手く、たったこれだけの会話でも襲いたくなる気持ちが湧いて来るくらいには言葉巧みだ。こういう風に俺がどうすれば悦ぶのか、どうしたら性欲を滾らせられるかなど、男を自分の手で誘導するのが得意なのが果林だ。そして極めつけはこの極上ボディ。モデルによって磨き上げられたスタイルはどこを見ても蠱惑的である。服の上からでもそう感じられるのだから脱いだ時のインパクトは凄まじく、俺自身柄にもなく性の虜になってしまったのはホテルで同じ部屋に泊ったのあの一件の話。こちらの性欲をギリギリまで滾らせて、それを爆発させたときの快楽を最大限にしてくれる誘惑も俺の好みのやり方だ。コイツと一緒にいると性の奴隷になっちまいそうで怖いから、ある程度自制の心を鍛えておかないとな……。

 

 そうやって俺の性癖を隅から隅まで知り尽くし、それに応えてくれる女子高生離れしたセクシー系女子。それが果林である。淫乱系のお姉さんキャラっていいよな……。

 

 

「おい、身体を押し付けてくるな……」

「璃奈ちゃんを抱きしめて、彼方にマッサージしてもらって、しずくちゃんから誘惑されて、そして私のカラダを堪能できる。こんな貴族の中の王みたいな生活はあなたしかできないのよ? 据え膳食わぬは男の恥だわ」

「時と場所を選ぶ権利くらいはあるだろ……。それに女の子に囲まれて誘惑されるくらいいつでもできる、今でなくともな」

「他の男からは絶対に飛び出さないような発言ね……。まぁ、そういった俺様系は私も大好きよ。だからこそみんなこうして愛を真っ向から伝えようとするのよね」

「我ながらいい身分だと思ってるよ。自分の力で上り詰めた地位だから、こういった状況は思いっきり堪能させてもらうけどな」

 

 

 まさかコイツらがここまで押しの強い女の子になっているとは思っていなかったけど、女の子たちに囲まれる生活ってのは俺自身が望んで進んだ道だ。だからこそ四方八方から抱き着かれようとも、揉みくちゃにされようとも、所構わず誘惑されようともそれを楽しめる度量はある。美女美少女たちに囲まれて愛を感じられる日常、とてもいいじゃないか。こういった日常こそ自分が生きてるって感じがするんだよ。

 

 

 ここでふと時計を見てみると意外と放課後もいい時間になっていることに気が付く。そして俺には1つやるべきことがあった。

 

 

「あっ、こんな時間か。悪い、そろそろ行かないと」

「どこに?」

「呼ばれてるんだ、侑に。来て欲しいところがあるってな」

 

 

 俺がこの学園に来た理由、それは侑から事前に連絡を貰っていたからである。どんな用事なのかはその時に話すと言われたので呼ばれた理由は不明だが、なんか雰囲気的に深刻な話のように思える。俺にそんな話をするなんてアイツらしくもないが、行けば分かることだろう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零さん?」

「栞子か」

 

 

 侑に呼び出された場所へ行く途中、廊下で栞子と出会った。

 生徒会日誌を持っているところを見るとまだ生徒会活動の途中だろうか。もう放課後も放課後でいい時間なのにご苦労なことだ。

 

 

「そちらは特別教室や屋上に行く道ですけど、何か御用ですか?」

「侑に呼ばれてるんだ。屋上に来てくれってな」

「侑さんが? わざわざそんなところに呼び出すなんて珍しいですね」

「だろ? この俺を用件も言わずに呼び出すなんていい度胸してるよ」

「それだけ失礼をしてもいいと思えるくらい、零さんと侑さんの関係が深まったということでは?」

「かもな」

 

 

 アイツとの出会いは俺がやらかしたせいでこちらの第一印象が悪くなってしまった。そのせいでしばらくは俺のことを信頼してもらえなかったりもしたのだが、今はそれなりの関係を築けていると思っている。歩夢の計らいで2人でデートした時からアイツの俺を見る目が変わった気がするな。どんな心境の変化があったのかは知らないが、それも屋上に行けば明らかになるだろう。

 

 

「そういった関係、ちょっと羨ましいです。私は皆さんとは違って零さんと深い思い出がないので……」

 

 

 曇った顔をする栞子。歩夢たちが俺に群がる姿を見て、愛を交えて信頼し合っている光景を羨ましく思っていたのか。まあアイツらはいつも全力投球で真っ向から恋愛を仕掛けてくるタイプだから、アイツらと一緒にいたらそういった光景は否が応でも目の当たりにするか。そして俺たちの柵のない関係を見て疎外感を覚えてしまうのも無理はない。歩夢たちと同じスクールアイドルの一員、仲間になったからこそ自分だけが違う関係であることを自覚してしまうのは当然だ。

 

 だけど――――

 

 

「関係なんて、これからいくらでも作っていけばいいだろ。確かに俺とアイツらは昔からの仲だけど、時間なんて関係ない。俺はお前のことが好きだ。馬鹿正直なところも、目的達成のために己を付き通す勇気があるところも、その歳で生徒会長を務められるカリスマ性も、ちょっと不器用なところもな」

「零さん……」

「それに可愛いところも……かな」

「か、かわっ!? もうまたいきなりそんなことを……」

「そういうウブなところがだよ。深い関係でないなら深くなっていけばいい。お前の魅力はさっき言った通りだけど、もしかしたらそれ以外にもあるかもしれない。相手の新たな魅力を見つけていくことが関係を深めるってことだと思うんだよ。だからお前ももっと俺の魅力を見つけてくれ。ま、俺を知れば知るほど惚れちゃうと思うけどさ」

「そ、そう……ですか」

 

 

 合うたびにベタベタと密着してくるアイツらだけど、あれはアイツらなりの愛情表現であって普通ではない。そして今まで社会の常識通りに生きてきたウブな栞子だからこそ、恋愛というのは歩夢たちのやってるようなことと思い込んでしまうのは仕方のないことだ。だから自分だけ仲間外れになっていると感じていてもおかしくない。まぁ過剰な愛情表現を人の目のあるところでも構わずぶっ放すアイツらのせいでもあるけど……。

 

 

「ありがとうございます。スッキリしました」

「悪いな、場当たり的な言葉で」

「いえいえ! こうして咄嗟に相手を気遣えるところが歩夢さんたちが惹かれる要因の1つなのかもしれませんね。それに、私も……」

「俺とお前の関係はまだ始まったばかりだから気にすんな。むしろここからいくらでも関係を掘っていけると思うとワクワクしないか? そうだ、せっかくだしまた2人でどこかに出かけでもするか。いわゆるデートってやつ」

「えっ、よろしいのですか?」

「当たり前だろ。精々即堕ちしないように気を付けることだな」

「が、頑張ります!!」

 

 

 って言ってももう遅いか。顔真っ赤だし……。

 そんな感じで栞子とはまだ付き合いも長くないし、むしろまだスタート地点だ。だからこそこれからどんな関係になっているのか、どう関係を築いていくのかその未来が楽しみでもある。ドが付くほどの真面目ちゃんで世間知らずないいところのお嬢。うん、いいキャラじゃないか。真っ白なキャンパスのような彼女がどう染まっていくのか、今から期待せざるを得ないな。

 

 

 そういや意図せずで今日はたった数十分で虹ヶ咲の女の子たち全員と交流したな。相変わらずの押しの強さで1人1人のキャラが濃く、相手にするだけでも大変だがそれ故に楽しい。自分の日常の色が濃くなっている感じがして充実感がある。だからこそこうして再会できてよかったよ。俺の人生にまた新しい女の子たちで彩られたからな。

 

 そして、次が最後の1人。唯一俺の色に染まっていない女の子がこの先で待っている。

 果たして俺を呼び出した理由とは? 何か俺たちの関係が大きく動きそう、そんな予感がする。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 一応公式のキャラ設定を見て性格はアニメに寄せようとはしているのですが、この小説自体が結構アウトローなので性格が着色されてしまう子は多いですね(笑) 今回登場した中だと璃奈やしずくは私好みのキャラになってしまっていたり……
 例えそうだとしてもキャラ1人1人の魅力はしっかり読者さんにお伝えできているとは思うので、あとは皆さんがこのキャラを受け入れてくれるかですね(笑)



 そんな感じで1年にも渡り連載してきた虹ヶ咲編ですが、次回で最終回の後編で本当のラストとなります!
以前の回で何かの決意をした侑は零君を呼び出して何を語るのか、零君と歩夢たちのこれからはどうなるのか、最後の最後まで是非お楽しみください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【最終話】恋色passions!(後編)

 遂に虹ヶ咲編の本当の最終回です!
 最後の1人、侑が彼への想いを告白する時――――!!


「侑」

「お兄さん……」

 

 

 屋上に到着すると、外は既に夕暮れだった。そして屋上のフェンスにもたれかかって俺を待っていたのは呼び出し人の侑。夕日をバックに美少女が佇んでいるとか何とも風情のある絵だ。普段何気なく接している女の子も、こうしたロマンティックなシチュエーションだと一回りも二回りも綺麗に見えるのはどうしてなんだろうな。

 

 

「ゴメンなさい、今更改まって呼び出しちゃって……」

「いいよ別に。改まりたいくらいの話があるんだろ?」

「はい」

 

 

 雰囲気が厳粛なためかこちらの身も引き締まってしまう。侑の表情を見てみると何かを決意したような真剣な面持ちだった。俺を呼び出すまでにどんな心境の変化があったのかは知らないが、こうしてわざわざ呼び出すあたり自分の中で抑えられない気持ちがあり、それを俺にぶつけたい衝動があるのだろう。告白……ではないと思うけど、俺とコイツの関係が大きく変化する何か。そう思っている。

 

 侑のもたれかかっているフェンスにまで歩み寄り、下の様子を眺めてみる。ここからであれば虹ヶ咲の校庭や運動場が一望でき、夕方もいい時間なので帰宅している子たち、部活の後片付けをしている子たちでいっぱいだ。こうして遠目からでも分かる美女美少女たち。みんな俺のことを好きで恋焦がれる子ばかり。そんな子たちを上から見下ろして、しかも合法的に眺められるなんていいスポットだな。まるで学園の主にでもなった気分だよ。まあ実際にそうなんだけどさ。

 

 

「何を笑っているんですか気持ち悪い……」

「いや俺も来るところまで来たなぁと思ってさ。まさか学園の女の子を丸ごと手に入れることになるとはな」

「楽園計画……」

「そうだ。お前が忌み嫌う、秋葉が勝手に俺たちを巻き込んだ計画だよ。思ったよりその前準備が壮大で、最初計画の概要を聞かされた時はビックリしたよな」

「はい。今聞いてもとんでもないことに巻き込まれたなぁって思いますよ。しかも私には特別な役割まで振られていて……」

 

 

 まさかこの虹ヶ咲学園自体が俺のたの女の子を集める目的で設立され、入学する女子生徒たちは学力はもちろん、容姿の良さや健康状態、秀でた才能、そして何より俺を好きになる素質のある子を秋葉が引き抜いていたなんて、最初聞かされた時は信じられなかった。でも現にこの学園の女の子たちはみんな容姿端麗で何かの能力が突出している子ばかりだ。それに俺の顔を見るだけでも嬉しそうに話しかけてくれたりする愛嬌の良さもある。一歩この学園に踏み入るだけでも自分のためだけの学園なんだと実感することができるくらいだ。

 

 ちなみに侑だけは他の子たちとは違う理由で入学させられていた。それはこの学園で唯一俺を好きになる素質がない子として、俺がこの学園の頂点に立つための補佐係としての役割を与えられている。俺のことを好きにならないから恋の盲目になる心配がなく、第三者視点で俺をサポートできる――という秋葉の狙いがあった。もちろん侑はそれを拒絶。その時から俺との接し方について色々悩んでいたように思える。

 

 

「悪かったな。身内のやったこととは言え謝るよ」

「いえ、もうこの環境にも慣れちゃいましたから。むしろいっそ受け入れちゃったことで逆に居心地が良くなった気がします」

「なんだ? お前もこっち側の空気に染まったのか」

「それでもお兄さんのことを好きになったりはしませんけどね」

「どうかな? 恋愛ゲームのように誰かを好きになるのにイベントは必要ない。一緒にいるだけで意識しちまうかもしれねぇぞ」

「ま、もう意識はしてますけど……」

「あれだけ一緒にいればそうなるだろうな――――って、え゛っ!? おい今なんつった??」

 

 

 同じくフェンスから学園の外を眺める侑の横顔を目を丸くして見つめる俺。

 俺の聞き間違いでなければ『もう意識している』って言ったか? 自分で言うのもアレだが、コイツとの出会いは最悪だった。電車内の痴漢が初対面なんて女の子側からしたら消し去りたい過去だろうが、そんなことがあったのにも関わらず今は俺を意識してるだと? さっきも言ったが元々コイツは俺を好きになる素質がない子だ。今までも冗談で『俺のことを好きになるぞ』ってからかったことがあったけど、その時は決まって軽くあしらってきた。そんな奴が唐突に告白紛いな発言してきたんだからそりゃ驚くだろう。

 

 

「私、お兄さんにずっと不信感を抱いていたんですよ。まず複数の女の子と付き合っている時点で非常識じゃないですか。そして傲慢で自意識過剰。唯我独尊で高飛車。自己顕示欲の塊で自分が世界で一番偉いと思っているナルシスト。あと変態さん」

「お前その罵倒セリフ、言い過ぎてもう早口で言えるようになってるじゃねぇか……」

「どうしてこんな人がみんなから慕われているんだろうってずっと考えてましたから。スクールアイドルのマネージャーとしては頼りになる人、とは思ってましたけど、な~んか私とは合わない気がしたんですよね」

 

 

 理由は分からないけど何となくコイツとは反りが合わない、なんてのはよくある話だ。コイツ的には自分の身近に突然浮気上等の変態野郎が来て、しかも歩夢たちがその男のことを慕うものだから環境の変化に戸惑っていたのだろう。まあ俺の考え方に同調できる奴の方が異常だし、コイツが抱く不信感の方が一般的なんだけどさ。

 

 

「でも、お兄さんと一緒に過ごしていくうちに分かったんです。楽しいって」

「えっ、それだけ?」

「決定的だったのは一緒にお出かけした時です。あの時は歩夢に騙されて成り行きでデートしましたけど、お兄さん、ずっと私のことを気遣ってくれたじゃないですか? 自分で言うのもアレですけど、私っていつもお兄さんを腫れ物扱いしたり、年上なのにからかったりしていました。でもお兄さんは私を楽しませてくれた。それに恋人の演技をする時も、緊張する私を励まして抱きしめてくれた。そんな男らしいところを感じて私思ったんです。あぁ、歩夢たちが惹かれてるのはこういうことなんだって。自分を守ってくれる、大切にしてくれる、幸せにしてくれるというのをお兄さんから伝えてくれる。そういうところに惚れたんだろうって」

「別に普通のことをやってるつもりなんだけどな」

「普通のことをサラッとできるところにときめいちゃったんだと思いますよ、歩夢たちは」

「なんだ、お前は違うのか?」

「私はまぁ、この人となら一緒にいてもいいかなって思っただけです」

 

 

 好きではないけど一緒にいてあげてもいいって、それは告白……ではないのか? コイツが違うと言い張るのであればそれ以上言及するつもりはない。ぶっちゃけここまで親密な関係になれただけでも奇跡みたいなもんだしな。最初の出会いが最悪だっただけに、こうして2人きりで自分たちの関係を隠さず話す仲にまで発展したんだから。

 

 コイツと2人でデートした時のことはまだ記憶に新しい。歩夢に騙されてセッティングされたデートだったから侑も俺もどことなくぎこちなかったけど、いつの間にかお互いの歩幅が合っていた。どうしてあのとき俺はあそこまで侑に寄り添ったのか。俺はそこまで優しくもなければお人好しでもない。自分が好きになった女の子のためなら全力を出すが、それ以外は省エネの人生だ。だけど俺はコイツに本気を出した。つまり、俺はコイツのことを――――

 

 

「そのデート以降ですかね、お兄さんを見る目が変わったのは。この人なら歩夢たちを任せていい、学園の女の子たちも幸せにしてくれる。そうやって自分の中でお兄さんが徐々に信用に値する人になったんです。むしろこの人じゃないとダメだとも思うようになってました」

「その時点で相当毒されてるな、俺の世界に」

「そうですね、もうお兄さんに引き込まれて帰れなくなっちゃいました。だからその責任を取ってもらおうと思って」

「なんだ、脱ぐのか?」

「見たいんですか? 私のカラダ……」

「えっ、あっ、あぁ、まぁ……」

 

 

 おかしい。いつもならセクハラ発言に厳しいツッコミを入れるか顔を真っ赤にして恥ずかしがるのに、なんで今日はこんな冷静にカウンターしてくるんだ?? 驚きすぎてこっちが取り乱しちまったじゃねぇか……。

 

 思わず(ども)りながら侑の問いかけに同意してしまったが、そりゃ見たいか見たくないかで言えば見たいだろう。同年代の思春期女子と比較して虹ヶ咲の子たちはスタイルが良いが、侑もそれに漏れずいいカラダをしている。コイツも一応秋葉が俺のために集めた女の子の1人だからスタイル自体は良く、男の欲情を誘える健康的なカラダと言えば聞こえはいい。本人の前でそんなことを言ったら絞殺されそうだけど……。

 

 

「時には強引に引っ張る男らしさ、時には優しくしてくれる暖かさ。その愛情を誰か1人だけではなくてみんなに向けている。お兄さんこそが楽園の主になるって秋葉さんの言葉、最近ようやく理解できました。こういうの、頂点の雄(アルファオス)って言うらしいですよ」

「群れの中でトップ君臨する雄のことか。俺にピッタリの言葉だな。そんな俺の側にいられるなんて幸運だぞ」

「そうやって無駄に自信満々なところも女の子にとっては安心できるのかもしれませんね。私もそうですし」

「おいおい今日どうした? やけに俺に対して肯定的っつうか、まるで認めてるみたいじゃねぇか」

「認めてますよ」

「えっ……?」

 

 

 今日の侑はやけに素直だ。恐らく自分の中でもう答えが出ているのだろう。これからの俺との関係をどうしていくのか、自分の進むべき道が分かっている様子だ。歩夢たちと普通の日常を送っていたのに突如として俺という不穏因子が紛れ込み、自分の人生が大きく狂った。そのせいで最初は自分の置かれている環境に戸惑っていたが、俺と日常を過ごしていく中で必死に考え抜いて決めた1つの答え。侑はもう決意している。だから今日は何事にも動揺せずに落ち着いているのだろう。

 

 侑はフェンスから離れ、俺と正面から向き合う。普段は可愛い女の子なのに、雰囲気が雰囲気だからか超絶イケメンに見えた。流石は俺と同じ『主人公』ってだけのことはある。

 

 

「私、お兄さんのお側にいます。これからも」

 

 

 秋風が吹き抜ける。

 これが侑の決意。今まで俺や歩夢たちの関係に疑問を呈し、それを咎めていた彼女が辿り着いたのが今の答え。

 

 

「お兄さんのお手伝いがしたい。私の夢は色々な人のトキメキを見ること。そしてお兄さんは女の子の笑顔が見たい。だから似てるんですよ、私たちの夢って。だからお兄さんと一緒にいれば色んな人の笑顔やトキメキがいっぱい見られると思ったんです。もちろん同じ夢を持っているからと言って誰とでも一緒にいたいだなんて思いません。お兄さんだからです。傲慢で自意識過剰。唯我独尊で高飛車。自己顕示欲の塊で自分が世界で一番偉いと思っているナルシスト。でもそうやって自分を強く魅せる男らしさに惹かれちゃったんです、悔しいですけど。だからこの人の側にいたい、尽くしたい、お手伝いしたいって思うようになっちゃいました。この人と一緒に入れば自分の夢も叶えられるし幸せにもしてくれる、そんな最高なことって他にありますか? ないですよね? だったら私の答えは1つ。お兄さんについて行くことです」

 

 

 『そんな最高なことがあるか?』と問いかけるのは元々は俺のセリフだ。自分に恋心を抱く女の子全員を手に入れ、全員と幸せな日常を送る。それ以上の幸せがこの世に存在するか……ってな。コイツと出会った日にそんなことを言った気がする。でもまさかその言葉を相手から投げかけられるとは思ってもなかったよ。俺と一緒にいた時間が長くて思考回路が伝染したのかもしれない。

 

 

「ダメ……ですかね?」

「いや、全然。むしろ大歓迎だ。俺もお前のこと好きだしな」

「えっ、す、好き!?」

「おっ、今日初めて取り乱したな。お前はそっちの顔の方が似合う」

「それ褒めてるんですか……」

 

 

 コイツと一緒にいることは多かったけど、お互いに異性として意識したことはなかった気がする。初対面がアレだったってのもあるが、俺の出会った女の子の中では珍しく長い期間俺に不信感を抱いていたってのもあるだろう。だけどそれすらも時が解決してくれた。当たり前だが一緒にいる時間が長いほど相手の魅力をたくさん目のあたりにできる。侑がさっきの決意に至ったのも俺という人間を隅々まで理解したからだろう。

 

 そして、それは俺もそうだ。

 

 

「俺は女の子をただ可愛いってだけで好きになることはない。ある程度一緒にいて、ソイツの魅力を知って、初めて好きになるんだ。ま、お前の場合は最初から好印象だったけどな」

「あんな出会い方だったのに?」

「まあ出会いはアレだったけど、お前から自分の夢を聞かされて親近感が湧いたよ。そしてその立派な夢を叶えさせてやりたいと思ったんだ。それにそんな夢を抱くお前と一緒にいれば女の子の笑顔がたくさん見られるとも思ったしな。そう考えると奇しくもお前と同じ理由を俺も持ってたってわけか」

「なるほど、その時から私たちはお互いを求めていたんですね。この人と一緒にいれば自分の夢も叶うって」

「そういうこった。それに夢を叶えてやることでお前の笑顔も見たいしな。可愛いし」

「ぶっ!? いつもいきなりですよね!?」

「好きになる理由なんてそんなもんで十分だ。お兄さんお兄さんって呼んで慕ってくれるところも妹みたいで可愛がりたくなるしな」

「ちょっ、もういいですって身体痒くなる!!」

 

 

 自分から真面目な話を振っておいて俺からはダメってそりゃねぇだろ……。

 侑の表情を見てみると最初のド真面目な面持ちはどこへやら、夕日に照らされているのも相まっていつも以上に顔が赤く見えた。やっぱり女の子は羞恥に悶え苦しんでいる姿が一番愛おしいと思う。その姿が好きなのも、多分女の子を自分の手で辱めているという快感が得られるからだろうな。

 

 それは抜きにしても、俺が侑に惹かれているのは事実だ。どんな夢であれ、何事も一直線で突き進む女の子に魅力を感じる。これも侑の言うトキメキってやつなのだろう。俺がスクールアイドルの子たちを次々と好きになったのもそれが理由かもしれない。スクールアイドルをやってる奴はみんなで1つの夢を叶えようと自らを磨き、努力し、輝こうとするからな。今回はそれが侑だったってだけの話だ。

 

 

「でも良かったよ。お前は彼女や恋人ってより相棒って感じだからな。これから存分に楽園計画を手伝ってくれ」

「はぁ? イヤですけど」

「えっ、いや『はぁ?』はこっちのセリフなんだけど!? さっき俺に尽くすって言ってなかったか!?」

「う~ん、捉え方の問題ですかね? 私が尽くすのはお兄さんであって、別にその計画に加担しようとは思ってないです。私が惹かれたのはお兄さん自身なんですから」

「あっそ……」

「もし私がトキメキを見たいって女の子が現れたら、その子を自分のもとに引き込めばいいんじゃないですかね。私の夢を叶える手伝いをするのであれば、これからたくさんの女の子に出会うと思うので」

「女の子を売るのか。お前意外とワルだな……」

「自分を好きになった子はみんな幸せにするんですよね? もちろん私のことも忘れないでくださいよ♪」

「へいへい……」

 

 

 もう俺の側にいる気満々じゃねぇか……。

 お互いの想いを伝え合った俺たち。その結果、意外なことにこれからもずっと一緒にいることになった。出会ってから今まで、侑とは同じ虹ヶ咲のマネージャーとして一緒にいることが多かった。そのせいで隣にいるのが当たり前となっていたが、これからもこうして側にいてくれると思うと心強い。コイツとの関係は他の子たちとは違う。女の子としても好きだけど、俺をサポートしてくれる相棒のポジションでもある。だからなのか隣にいてくれると安心するんだ。それも侑が俺に抱いている想いと一緒だな。抱いている夢といい相手への想いといい、色んな所で俺たちは似ている。もしかしたら最初から相性が良かったのかもしれないぞ。

 

 さて、いい感じにまとまったことだし、さっきからずっと聞き耳を立ててる()()()()を引きずり出してやるか。

 

 

「おいお前ら。もう話は終わったからコソコソしてないで出てこい」

「えっ、お前らって……」

 

 

 屋上の扉に向かって話しかけて見ると、その扉の隙間から何やらコソコソと声が聞こえてきた。やれ〇〇の声がうるさかっただの、やれ後ろから押すなだの、あの扉の向こうで有象無象が騒いでいるのが分かる。やがて大多数が扉に寄りかかる形となり、そうなれば半開きの扉がどうなるかはもうお察しのこと。俺たちの会話を盗み聞きしていた女の子たちが屋上へと雪崩れ込んで来た。

 

 

「歩夢!? みんな!?」

「あ、あはは、ゴメンね侑ちゃん……」

「あれだけ分かりやすく聞き耳を立てられてたのに気づいてなかったのかよ……」

「だってお兄さんに想いを打ち明けるのに全力で、他のことなんて気にしていられなかったんです!」

 

 

 決意を固めて落ち着いているように見えたけど、本心では俺と対面するだけでいっぱいいっぱいだったのか。つまりそれだけ本気で俺に向かい合ってくれたってことだから、そう考えると嬉しくなってくるな。

 

 それに対して興味本位で盗み聞きをしていたコイツらと来たら……。まあ分かりやすく俺に不信感を抱いていた侑が俺を呼び出して2人きりになるなんて、コイツらからしても珍しいことだから気になりもするか。それにしてもバレバレな盗聴だったけど……。

 

 

「零さん零さん! 侑先輩も囲うことができて、遂に零さんとかすみんのラブラブ新婚生活が始まるんですね!」

「いや気が早い!!」

「でもさっき言ってたっしょ? 愛さんたちみんなを幸せにするって!」

「そうだね~男に二言はないよね~?」

「みんなで幸せになる。アニメや漫画の世界では定番ですが、零さんこそそれを現実にしてくれるお方です! 私、期待しちゃいます!」

「私もみんなも零さんのことが好き。だからみんな一緒に幸せになれるなんて、大歓迎」

「みんなで幸せになることができたら、スイスにいる家族も喜びます!」

 

 

 コイツらここぞとばかりに退路を断ちやがって……!! いや逃げるつもりはないが改めて思う。コイツら押しが強すぎる!! てかいつの間にかまた四方八方から抱き着かれてるし!!

 

 

「まるで物語のヒロインになったようです。これからもたくさん愛を伝えせてください!」

「これだけたくさんの女の子を自分のモノにしたんだもの、責任はしっかり取るわよね?」

「分かった! 分かったからいったん離れろ!! おい歩夢、ちょっとコイツらを――――」

「私の夢も、侑ちゃんの夢も、みんなの夢も、ぜ~んぶ叶えてくださいね♪」

「ちょっ、お前まで!? 栞子も侑も、見てないで助けてくれ!!」

「ど、どうしましょうか……?」

「いいんだよ助けなくて。これがお兄さんが作り上げた楽園なんだから、自業自得♪」

「おいっ!?」

 

 

 これが楽園。俺が望んだ、自分のことが好きで好きで堪らない女の子たちに囲まれる生活。絶えず女の子たちからの愛を感じられる至福の日常。そんなことが現実的に有り得るのかと思うが、今まさに現実にしたんだ。俺の手で、俺の力で、遂に楽園を作り上げることができた。周りの女の子たちはみんな美女美少女。手を出そうが何をしようが咎められることはない、まさにご主人様。最高じゃないか。

 

 もちろん男としてみんなの愛に応え、夢を叶えさせてやる義務がある。だが焦る必要はない。一時期はコイツらと離れ離れになってしまったが、もうこれからはずっと一緒なんだから。今まで寂しい思いをさせてしまった歩夢たちに、そして新しく繋がった栞子や侑にも、たっぷりと夢を注いでやろう。もちろん愛も結んでいく。今も、これからも、ずっとな。

 




 虹ヶ咲編は他とは違って珍しく最初からハーレム全開のシチュエーションでしたが、最後の最後でより一層そのハーレムのレベルが上がった気がします。それもこれも侑が本格的に味方になってくれたからであり、零君ワールドがより盤石になってしまいました。

 ちょうど1年間の連載でしたが、虹ヶ咲編はどうだったでしょうか? 今までのキャラとは違いみんな押しが強かったり、愛が重かったり等々、よりハーレム具合を感じられたのではないかと思います。この1年を通してのご感想を是非いただけると幸いです。

 虹ヶ咲編を終えて色々語りたいことや裏話もあるのですが、それは後日活動報告にて投稿しますので、そちらにも目を通していただけると嬉しいです。

 これまで感想やお気に入り、評価をくださった方、毎週読んでくださった方、本当にありがとうございました! 毎週の投稿の励みになりました!

 最後になりましたが、虹ヶ咲編お疲れ様でした! またお会いしましょう!












 とは言ってもあと数話だけ特別編を投稿する予定です。
 恐らく皆さんが見たかったであろうお話になると思います。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】侑とμ's(前編)

 虹ヶ咲編としては完結しましたが、ちょっぴり延長戦。アニメで言えばOVAみたいな感じです。

 今回は侑視点で最終話後のお話。
 そしてあのキャラたちが満を持して登場!


 お兄さんに自分の想いを打ち明けた数日後。自室のベッドにて。

 

 

「あ゛ぁ゛ぁあああああああああああああああああああああああ!! どうしてあんなこと言っちゃったんだろぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 私は未だに悶え苦しんでいた。

 それもそのはず、あの時を思い返せば思い返すほど恥ずかしくなり全身が痒くなってしまうからだ。もはやあれは告白。別にお兄さんのことは好きじゃないけど、傍から見たら夕日が一望できる学校の屋上というシチュエーションは告白の現場にしか見えない。しかも歩夢たちにあの現場を見られており、最近はそれをネタにしてからかわれる始末。今の私はこれからの人生で感じる羞恥心をこの瞬間に全て浴びているようだった。

 

 もちろんお兄さんに想いを伝えたことは後悔してないし、達成感もある。お兄さんとの関係が目に見えて何か変わったってことはないけど、あのまま黙っていても心のモヤモヤは消えなかったからこれで良かったのだろう。私があの人に惹かれているってのは間違ってないしね。

 

 こうして考えると素直になるというのは恥ずかしい。お兄さんに一直線の愛を伝える歩夢たちのメンタルが羨ましいよ……。

 

 

「ちょっと気分転換に出かけよう。もうすぐ晩御飯の時間だし、こうなったらやけ食いだ……」

 

 

 太るのは分かっている。でもさっきまで悶え苦しんでベッドをのたうち回っていたからカロリーは消費されてるだろう。つまりプラスマイナスゼロだ。

 それにこうなったのもお兄さんのせい。あの告白以降は何かとお兄さんのことばかり考えてしまう。常日頃から異性のことを考えるのは恋の証拠らしいけど、もしかしてそうなのかなぁ……。いやないない、絶対にない。あぁ~もうこんな気持ちにさせられるなんて、ホントに迷惑だよお兄さん。ずっと隣にいるとは言ったけど、ずっと脳内にいていいとは言ってないんだけどなぁ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 適当に着替えて外に繰り出した私。秋の夕方は日が落ちるのも早く、あと数十分もすれば上空に夜空が広がっているだろう。そんな中ぼっち飯をするために女子高生が1人で街を練り歩いているこの図 ――――うん、何とも寂しいねぇ……。

 

 食事をするとは言っても何を食べるのかはまだ決めてない。秋も終盤で夕方になるとかなり寒くなってくるから、何か身体が温まるようなものを食べたい気分だ。1人でお鍋はちょっと店に入る勇気がないので、おでんを買いまくって自宅でパーティをするのもいいかもしれない。秋の涼しい夜に1人でおでん――――なんか中年のおじさんみたい……。

 

 そうやって何を食べようか考えながら歩いていると、曲がり角で誰かとぶつかりそうになった。

 

 

「わっ!? ゴメンなさい!!」

「い、いえ、こちらこそ考え事をしていたので……」

 

 

 夕飯に気を取られていたから曲がり角から出てくる人影に気付いていなかった。相手の人が急ブレーキで止まってくれたから良かったものの、お互いにあと一歩でも踏み出していたら間違いなく衝突していただろう。ぼぉ~っとしていたこちらに非があるので謝らないと―――――って思ったんだけど……。

 

 

「……?」

 

 

 相手がこちらの顔を覗き込むように見つめてくるので少し臆してしまう。

 相手は女性。若いけど私よりは年上っぽい。肩にかかるくらいに栗色の綺麗な髪をしており、サイドポニーが特徴的な人だ。それに何よりオーラがある。まだ顔を合わせて数秒なのにこの人に引き込まれるような、そんな感じ。綺麗と言えば綺麗だし、愛嬌があると言えばあり、私が男性であれば一瞬で惚れてしまいそうな風貌だ。それに加えてなんだか太陽って言うか、元気が貰えそうな快活な雰囲気。お兄さんがいたら絶対に自分のモノにしたいって言い出すような、それくらい魅力的な女性だった。

 

 それにしても私の顔をじぃ~っと見つめてどうしたんだろう……? こちらの不注意でぶつかりそうになったことを怒っている……ようには見えないか。優しそうだもんこの人。

 

 

「あっ、思い出した! あなたもしかして――――高咲侑ちゃん?」

「えっ……??」

 

 

 急に自分の名前を呼ばれて動揺してしまう。

 自分の記憶を手繰り寄せてこの人と会ったことがあるかを思い出そうとするが、こんな魅力的な人を忘れるはずがないので流石に会ったことはない。だけど向こうは知っているみたいで、私いつの間に有名になったの……? 最近歩夢たちのマネージャーとしてライブの調整やらで各所に顔を出してはいるけど、もちろん世間一般に名が知られるほどの地位はなく、ただそこら辺にいる一般女子高生だ。だったらどうして私を……?

 

 それに、会ったことはないんだけどこの人どこかで見たことがあるようなないような。う~ん、思い出せない……。

 

 

「えぇっと、私のことを知ってるんですか……?」

「うんっ! だって零く――――」

 

 

「全く、急に走り出したら危ないでしょう!!」

「わっ!? だ、だって久々にみんなで集まれるからテンション上がっちゃって……」

「そんなに急がなくても、集合までまだ時間はあるから大丈夫だよ」

「でも居ても立っても居られなくなっちゃって……」

「言い訳無用です」

「あはは、まぁまぁ。お互いにケガもなかったみたいだし……ね?」

 

 

 栗色サイドポニーの人の後ろから2人の女性がやって来た。

 1人は言葉遣いが丁寧な『大和撫子』って言葉が似合う綺麗な女性。艶やかな青色ロングの髪が夕方の夕日に負けず輝いており、言動から気品ある立ち振る舞いが整っている。雰囲気は厳粛で、思わずこちらの身も引き締まりそうだ。

 もう1人は甘々な声色の、愛嬌たっぷりの女性。髪型は……何とも説明しづらい複雑な形となっており、強いて例を出すのであれば鳥のとさかのよう。雰囲気は非常にゆるっとしており、一緒にいるだけで時の流れが遅く感じるくらいだ。

 

 それになんたってこの3人、本物のアイドルかってくらい女性の魅力がある。私だけ場違い感を抱いてしまうくらいには同じ領域にいることが恐れ多い。だから敢えて一歩引いたところで静観しようと思ったんだけど、栗色サイドポニーの人が再び私の方に迫ってきたためそれも叶わなかった。

 

 

「ねぇ2人共! ほらこの子だよこの子! 高咲侑ちゃん!」

「えっ、えぇっ!?」

 

 

 栗色サイドポニーの人が私の後ろに回り込み、両肩を掴んで青色ロングの人ととさか髪の人に差し出すように私を見せつける。いきなり見世物にされてビックリしたのもそうだけど、私のことを知っている前提で話が進んでいることに追いつけずに混乱しているというのもあった。しかもポジション的にこの3人に囲まれる形となり、謎の羞恥心がふつふつと湧き上がってきた。そりゃこんな綺麗な人たちに注目されたらこうもなるって!

 

 

「侑ちゃんって、もしかしてあの侑ちゃん?」

「うんうん! まさかこんなところで出会えるなんてビックリだよね!」

「こらっ! いきなり理由も説明せず絡んだら彼女も驚くでしょう。すみません、ご迷惑をおかけして……」

「確かに、理由も説明せずに囲まれちゃったらビックリするよね」

「い、いえっ、大丈夫です……」

 

 

 あとから来た2人も私のことを知ってるの!? 自分の認知していないところで自分の名前が出回っているのはちょっと怖い。精々スクールアイドル界隈に名が知られてるかどうかって話だけど――――って、ん? スクールアイドル? そういやこの人たち、スクールアイドル関連の動画で見たことがある気がする。しかもこうやって印象に残っているってことはかなり有名なスクールアイドルだよね?

 

 なんにせよ、どうして私を知っているのか聞いてみよう。そうすればすべて明らかになるから。

 

 

「えぇっと、どうして私のことを知ってるんですか? どこかでお会いした……とかはないと思うんですけど」

「うん。会ったことはないけど零君から話は聞いてるんだ」

「零君って……えっ、お兄さんから!?」

「もしかして初対面だからこっちのことを知らないんじゃないかなぁ? 穂乃果ちゃんがぶつかった時から自己紹介してないでしょ?」

「あぁ、そういえば」

「穂乃果……? えっ、も、もしかしてμ'sの高坂穂乃果さん!?」

「うんっ、高坂穂乃果です!」

「え゛っ、え゛ぇ゛ぇ゛ええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?」

 

 

 私の目の前にいるのがあの伝説のスクールアイドルμ'sのリーダー、高坂穂乃果さんだっただなんて……!? もう驚きすぎて言葉が出てこない。こんな有名人に街でバッタリ出くわすなんてドラマみたいなことあるんだね……。

 

 目の前の女性が穂乃果さんだと知った瞬間、今までの疑問が全て解決した。私の名前が知られていたのも穂乃果さんたちがお兄さんの恋人だから。魅力的なオーラを感じられたのはもちろん伝説のスクールアイドルだから。私の記憶の片隅にあったのはμ'sさんのライブ映像を見たことがあるから。ようやく全てが繋がったよ。

 

 

「南ことりです♪ よろしくね!」

「園田海未です。いきなり驚かせてしまい申し訳ございません」

 

 

 正体が判明して改めて感じるこの見惚れてしまうオーラ。同性の私であってもこれだけ魅力的に見えるから、異性からしたらよほど偏った女性の趣味をしていない限りこの人たちに憧れると思う。さっき場違い感があると思ったのもこの人たちが有名人だったからだろう。

 

 もちろんμ'sさんのことは知ってはいたけど、いざ名乗られずに対面すると案外気付かないものなんだね。やはり映像で見るのと実物を見るのでは迫力が全然違っていて、実際の穂乃果さんたちは『綺麗』だ。あまりにも語彙力がなさ過ぎるけど、言語能力が欠如してしまうくらいに見惚れてしまうってことなんだよ。

 

 あっ、そうだ動揺している場合じゃない。名が知られているとは言えども自己紹介はしないと。

 

 

「えぇっと、高咲侑です。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のマネージャーをやってます」

「うん、零君から話を聞いてるから知ってるよ! とても頑張り屋さんの可愛い後輩だって!」

「か、可愛いって、もうお兄さんめ……」

「零くん、あなたのことをたくさん話してくれるんだよ。つまりそれだけ好かれてるってことだよね!」

「えっ、お兄さんが私のことを好き!? でもこの前そんなことを言ってた気がする……」

「それにあなたも零のことが好きなんですよね?」

「は、はぁ!? な、ななななななななにをいきなり!?」

 

 

 お兄さんが穂乃果さんたちに私の何を話しているのか気になってたけど、まさかそんなデマまで流しているなんて……!? 私がお兄さんのことを好き?? いやいやいやいやいやそんなはずはない。私はお兄さんのパートナーであって恋人ポジションではないということはお兄さんと意思疎通できているはず。それを先日学園の屋上で告白したばかりだ。お兄さんもしかして、あの時の私の告白を恋人になってくださいの告白と勘違いしてる?? だとしたらとんだ自惚れ野郎……ではないよね流石に。自分の相棒みたいと言ったのはお兄さんの方だし。

 

 

「あれ? 違ったのですか?」

「違いますよ!! 私はただこれからも隣にいるって言っただけで、恋愛感情なんてこれっぽっちもないですから!!」

「凄い否定だね……。でも零くんが侑ちゃんのことを気に入っている理由が分かったよ。自分に惚れない女の子が珍し過ぎて気になってるんだね」

「私たちの知らないところで自然と女性を惚れさせて、無自覚に恋人候補を増やすくらいですからね……」

「そうなんですよ。学校の全員がお兄さんに惚れちゃっていて、自分だけ場違い感が半端ないです……」

「なるほど、あなたも相当苦労していますね……。零に苦労をかけられていることが伝わってきます」

「えぇ、本当ですよ!!」

「えっ、急に元気になりましたね……」

「す、すみません……。でもこの気持ちを共有できる方に出会えたのが嬉しくて!」

 

 

 歩夢たちの思考回路は完全にお兄さん色に染まってるから、あの学園内でまともな人っていないんだよね。そもそも虹ヶ咲学園自体が私を除いてお兄さんを好きになる子ばかり集まってる場所だし……。そんな偏った環境で毎日を過ごしてきたからか、こうしてお兄さんのモテモテ体質について語れる人がいて嬉しくなってしまった。あの体質に苦労している者同士いいお酒が飲めそうだよ。未成年だけど……。

 

 

「そういえば皆さんは揃ってどこへ行かれるんですか? さっきみんなで集まるって言ってたような……」

「そうそう! 今日は久しぶりにμ'sのみんなで集まって夜ご飯に行くんだ! 絵里ちゃんたちはもう社会人だし、穂乃果たちも大学4年生で忙しいから最近あまり会えてなかったんだよ」

「μ's全員が集合!? 想像するだけで絵面が凄い……」

「それに何より零くんと一緒にいられる時間ができたってだけでも、ことり嬉しいよ♪ 最近は虹ヶ咲の子たちのコーチや零くん自身も来年に向けて色々勉強してるみたいだから、こうしてまとまった時間を取って会えるのは久しぶりなんだよね」

「そういえばμ'sの皆さんともお付き合いされているんですよね、お兄さんって」

「あぁ、もうそこまで知ってしまっているのですね……」

「お兄さんからあることないこと全て聞かされてますから。こんな綺麗な人たちを恋人にしているなんて、全くあの罪作りだなぁあの人……」

 

 

 恋人がたくさんいるって言うのは聞かされていたけど、実際にその人たちに会ったことがなかったからイマイチ実感が湧かなかった。でもいざこうして出会ってみるとお兄さんの男としての強さをひしひしと感じる。穂乃果さんたちみたいな魅力的で綺麗な人を自分だけのモノにしており、他のメンバーの人も会ったことはないけどこの人たちと同じくオーラのある人ばかりなのだろう。これだけ魅力がある人たちと数年も付き合っていたら、そりゃ女性の攻略方法なんて熟知してるよね。そりゃ学園1つや2つを支配する力もあるわけだよ。

 

 

「誰が罪作りだって?」

「そりゃお兄さんの垂らしっぷりですよ――――って、お、お兄さん!?」

 

 

 よくある誘導尋問に引っかかってしまったが、それ以上に驚いたのは背後にお兄さんがいたことだ。穂乃果さんたちとは違ってもう聞き慣れた声だから油断してしまった。

 

 

「よぉ。ってかどうしてお前が穂乃果たちと一緒にいる?」

「たまたま偶然です。私のことを知っていた穂乃果さんに声をかけていただきまして……」

「なるほど。不思議な巡り合わせもあったもんだ」

「ていうかお兄さんも一緒だったんですね」

「さっきまでコイツらと一緒にいたよ。走るの面倒だったから優雅に歩いてきたけど、まさかお前と穂乃果たちが出会ってたとはな」

 

 

 μ'sさんに会うだけであればお兄さんに言えば会わせてはくれるだろうけど、こうして巡り合ったのも何かの運命だったりするのかな。これを機会に伝説と呼ばれたスクールアイドルから話を色々聞いて、自分のマネジメント力を高めるのもいいかもしれない。全国のスクールアイドルたちの憧れの的であり、誰もが一度でいいからお目にかかりたいμ'sさんに会えた絶好のチャンスだからね。

 

 ただ、それ以上に私には確認したいことがある。

 

 

「お兄さん。穂乃果さんたちに私がお兄さんのことが好きだって嘘を吹き込みましたよね?」

「はぁ? 別に嘘ではないだろ。好きでもねぇ奴の隣にいたいとは普通言わないはずだ」

「それはそうですけど、誤解される形で誰かに話していることを咎めてるんです!」

「細かい奴だな。俺はお前が好き、お前も俺が好き。それでいいじゃねぇか」

「イヤですぅううううう!! 恋愛感情はないって言いましたよね??」

「いつもながらにツンツンしてんな。あーあ、あの屋上の時のお前は素直で可愛かったんだけどな」

「今も本心ですけどね!?」

 

 

 このまま誤解が蔓延して『私がお兄さんに恋心を抱いているから告白した』なんてことになったらもう恥ずかし過ぎて外を歩けなくなる。そうなる前に止めたかったんだけど当の本人は何も気にしてないどころか、私と相思相愛の関係だと誤解されてもいいらしい。別にそれで私が不利益を被ることはないけど、お兄さんに恋愛感情があると思われることが恥ずかしいと言うか……。

 

 とにかくイヤのものはイヤ!! 理由はそれで充分!!

 あぁ、この無理矢理自分を押し通す考え方ってお兄さんに似てきたな……。

 

 

「あははっ、零君と侑ちゃんとってもいいコンビだね!」

「えっ、どうしてそうなるんですか!?」

「だって2人共息ピッタリだったよ? 嫉妬しちゃうくらいにね」

「えぇ、零がパートナーとして見込んだだけのことはあります」

「良かったな、コイツらにも認められたぞ」

「これ喜んでいいんですかね……」

 

 

 お兄さんの側にいると宣言したのは私だけど、その関係について深堀されると何て答えていいのか分からなくなる。変に相思相愛とは思われたくないし、かと言って嫌いかと聞かれたらそうではない。恋愛感情のないお兄さんの理解者……ってところかな? ちょっとカッコつけてる気もするけど。

 

 

「そうだ! せっかくこうして会えたんだし、侑ちゃんも一緒に晩御飯どう?」

「穂乃果!? そんな急に迷惑でしょう!」

「だって侑ちゃんからもっとお話を聞きたいし、それにみんなも会いたがってたからどうかなって思って」

「ことりも侑ちゃんが良ければ虹ヶ咲にいる時の零くんのお話、たくさん聞きたいな♪」

「そ、そんなμ'sさんに混じるとか恐れ多いと言いますか、皆さん水入らずの場所に私なんかが入って悪いと言いますか……」

「心配すんな。コイツらに近寄りがたい雰囲気なんて一切ねぇから。もちろん俺もな」

「お兄さんは最初から別ですよ。当たり前じゃないですか自惚れないでください」

「相変わらず俺だけには厳しいなお前……」

 

 

 こうして憎まれ口を叩ける関係だと本当に楽だよ。世界がみんなお兄さんだったら私も気兼ねすることがなくていいのに……って、それはそれで逆に相手が面倒かも。

 それはそれとして、夕飯をご一緒して本当にいいのかな? 他のμ'sの人たちに会えるのは嬉しいけど、久しぶりに集まるって言ってたから部外者の私がいていいのかって思っちゃうんだよね。

 

 

「いい機会だ。みんなにお前のことを紹介しようと思ってたんだよ」

「私をですか?」

「あぁ。人生を共に歩む大事なパートナーってな」

「だから勘違いされますってそれ!! 絶対に言わないでくださいよ!?」

「よ~しっ、だったら集合場所にレッツゴーだね!」

「えっ、ちょっ、ちょっと穂乃果さん!?」

 

 

 穂乃果さんに手首を掴まれて連行される私。まだ了承してないどころか皆さん水入らずなのにいいのかと聞こうとしていたのに、もう私が行くことは確定事項になってしまったらしい。お兄さんやことりさんは歓迎ムードだし、唯一こちらサイドだった海未さんも流れ的に逆らえないと思ってもう諦めているっぽい。ここは腹を括るしかないようだ。

 

 

 突然巡り合った伝説のスクールアイドル、μ's。そして唐突にμ'sさんたちの飲み会にお邪魔することになった私。憧れのスクールアイドルに会えたことは嬉しいけど、初対面でいきなりテーブルを囲むなんて……一体どうなっちゃうの!?!?

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 μ'sのキャラの登場は1年以上ぶりで超久々の出演となりました! あまりに久しぶりだから『あれ、今までこのキャラどう書いていたっけ』と戸惑ってしまったことは内緒です(笑)
 でも穂乃果たちは私の小説の原点ですから、こうして登場するとどこかしら安心感がありますね。侑と同じく彼女たちからは大物オーラを感じたりもしたので、『いつの間にここまで成長したんだ』と子を見る親の気持ちになったりもしました(笑)


 次回の後編ではμ's12人全員が登場する予定です。もちろん全員久々に描くので、キャラを思い出すところから始めないと……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】侑とμ's(後編)

 侑とμ'sとの邂逅の後編です。
 今回はμ'sメンバー全員が登場します!


 見る人が見れば、この光景で卒倒してしまうだろう。そもそもこの人たちと同じ空間にいること自体が普通では叶わないことであり、それ故に私は今とてつもない体験をしているのかもしれない。

 十数分前にお兄さんたちと出会った後、穂乃果さんのご厚意でμ'sの皆さんが集まる食事会にお誘いしてもらった。食事会とは言っても上品な感じではなく、至って普通の居酒屋さんでみんなでワイワイお話するだけの、いわゆる飲み会というものだ。高校生の私には馴染みのないイベントだから新鮮で、大人数で盛り上がって食事もできる空間ともなれば居酒屋は持って来いの場所なのだろう。

 

 飲み会が始まってまだ10分も経ってないくらいだけど、場の雰囲気は既に和気藹々としている。久々にμ's全員が集まるということもあってか話題には事欠かないようで、こうして見ると解散したのが4年前とは思えないほどみんな仲が良い。誰かが入り込む余地のない絆の強さをこうして座っているだけでも大いに感じられた。

 

 だからこそ、私のような部外者がこの場にいるのはどうも場違い感が強い。穂乃果さんたちも、そして他の皆さんもさっきご挨拶した時はとても歓迎してくれたけど、やはり久々の再会の場に私がいていいのかと考えてしまう。

 

 とは言っても居づらいということはなかった。何故なら私の隣にはお兄さんが座っており、飲み会が開始されてからずっと隣にいてくれているからだ。恐らくお兄さんは私が肩身の狭い思いをしていることを察知しており、飲み会開始前に座敷のどの席に座るかを決める時も私を隣に導いてくれた。そしてそれからもずっと隣にいることから、なるべく私の側を離れないようにしてくれているんだと思う。こういう細かい気遣いができるところが男らしいっていうか、歩夢たちが惚れちゃう理由が分かるよね。現に私も慣れない空間だけどお兄さんのおかげで安心できてるから、そういった頼りがいのあるところをサラッと見せつけてくるのは本当にズルいよ……。

 

 全く話は変わるけど、μ'sさんって本当に綺麗な人ばかりだ。歩夢たちとは違う大人の魅力があり、個人個人が輝かしく見えて目が焼けてしまいそうになる。伝説のスクールアイドルっていうバイアスが掛かっているとは言えども、ここまで魅力的な女性たちに未だかつて出会ったことがない。女性である私までも惹きつけられるのだからそのカリスマ性は半端ではなく、巷のスクールアイドルたちが目標とする人たちなだけのことはある。やはりレジェンドの名は伊達じゃなかったか……。

 

 

「なんだかずっと緊張してるね。全く、お姉ちゃんが強引に誘うから……」

「えっ、い、いえっ、あのμ'sさんたちと一緒に食事ができて光栄ですっ!」

「あはは、そんなに畏まらなくてもいいよ。周りが勝手にレジェンドだなんだの持ち上げてるだけで、私たちに一切その気はないから」

「は、はぁ……。えぇっと、雪穂さん……ですよね?」

「あっ、ゴメン自己紹介まだだったね。よろしくね、侑ちゃん」

 

 

 ジュースを飲みながら周りを観察していると、穂乃果さんの妹である雪穂さんが隣にやって来た。私が穂乃果さんに無理矢理誘われたと思っているのか、非常に申し訳なさそうにしている。

 

 

「騒がしいでしょみんな。久しぶりに会えてテンションが上がるのは分かるけど、子供じゃないんだからもっと静かにして欲しいよ」

「私はみんなでワイワイするのは好きですけど、雪穂さんはそうではないんですか?」

「自分で言うのもアレだけどドライな性格だから、賑やかなのは似合わないんだよね。だったらどうしてスクールアイドルやってたんだって話だけど……。今思い返してもあんなにキラキラした自分が自分とは思えないよ」

「そんなことないですよ! 私、雪穂さんのステージ大好きでした! 元気よく力強いパフォーマンスをする穂乃果さんと、しなやかで流れる水のようなパフォーマンスをする雪穂さん。姉妹なのに動きが真逆なのがとてもいいコントラストで、動画で見て声を上げちゃうくらい興奮しましたから!」

「おぉぅ、そこまで見られてるとなんだか恥ずかしいな……」

 

 

 μ'sさんの動画はもう何度も何度も視聴を繰り返してるから、この方たち1人1人のダンスの特徴は全て把握済みだ。最初は歩夢たちのマネージャーとしてライブの勉強をするために動画を観始めたんだけど、観続けてる間にいつの間にかファンになってたんだよね。それだけ視聴者を惹きつける魅力がある人たちがμ'sさんなのだ。

 

 

「もうっ、雪穂だけ侑ちゃんとお喋りしてズルい!!」

「うわっ!? えっと、亜里沙さん?」

「うんっ、絢瀬亜里沙です! よろしくね!」

「ズルいって、別にそっちから喋りに来ればいいでしょ」

「そうそう。天下のμ's様を相手にグイグイ行ける人の方が珍しいって」

「あっ、楓さん! お久しぶりです!」

 

 

 今度は亜里沙さんと楓さんが私のところにやって来た。雪穂さんを含めてこの3人はμ'sでも最年少組であり、しかもそれぞれ穂乃果さん、絵里さん、お兄さんの妹であることから『シスターズ』とも呼ばれている。特に雪穂さんと亜里沙さんは読者モデルとしても活躍するくらい世間では有名で、そんな凄い人たちに囲まれていると思うと改めて恐れ多さを感じるよ……。

 

 

「久しぶり? 楓って侑ちゃんと会ったことあるの?」

「前にウチに来たことがあるんだよ。 でもまさかあの時のひよっこマネージャーがお兄ちゃんの右腕になるなんてねぇ……」

「こら楓、怖い顔しないの。ゴメンね、零君に新しい彼女ができることを快く思ってないだけだから」

「か、彼女じゃないです!! パートナーとか、そういった類ですから!!」

「でもどちらかと言えば彼女よりもパートナーの方が関係が深いよね! 一緒に人生を歩む伴侶みたいだもん!」

「は、伴侶って、そんなのじゃないですって!!」

「へぇ、伴侶ねぇ………」

「楓、だから怖い顔しない!」

 

 

 ブラコンの楓さんにお兄さんの話をするのは地雷だったか……!! なんか物凄く睨まれてるし……!!

 とは言えども楓さんがこうなるのは良くあることなのか、雪穂さんは呆れながら注意してるし、亜里沙さんはスルーしている。もう何年も一緒にいるから対応に慣れてしまっているのだろう。そういった仲の良い関係を見ていると場の雰囲気が和やかな理由も分かる。

 

 それにしても私がお兄さんの彼女になったって誤解、μ'sさん全体に広まっていたのか……。それもこれもお兄さんが曖昧に話したせいなんだろうけど、そのせいで私は恥ずかしいのなんのって。お兄さんと私が恋人同士とか……うぅん、やめよう。例え妄想の世界であっても恋人同士っていいなとちょっとで思ったら負けだから。最初から妄想しないに限る。

 

 

「はいはい。だったらもうお兄ちゃんのところに行こっと」

「なんで楓がやさぐれてるの……。というか零君となら家でも一緒にいられるじゃん」

「どこでも一緒にいたいの! でも穂乃果先輩たちがお兄ちゃんに憑りついて全然隣が空かない……」

「あっ、だったら私が別の席に移動します」

「その必要はないよ。侑ちゃんはゲストなんだから、お客様を立たせるわけにはいかないって」

「そうそう! 私も侑ちゃんとたくさんお話したいもん!」

「わっ、亜里沙さん!?」

 

 

 突然亜里沙さんに抱きしめられる。確かまだ未成年だったはずだから酔った勢いではないと思う。ということはこれが亜里沙さんの素ってことか。凄く暖かくてエマさんに抱きしめられているかのような母性を感じちゃう……。ていうかμ'sのメンバーに抱き着かれるなんてファンだったらこのまま昇天しちゃいそうだね……。いや私も平静を装っているように見えて結構ドキドキしてるけどさ……。

 

 

「あら、早速仲良くなってるのね」

「お姉ちゃん! うんっ、侑ちゃんからお話をたくさん聞きたくって!」

「やっぱり歳が近い方が緊張せずにコミュニケーションが取れるんやね。だとしたらウチらはお払い箱?」

「ちょっと年寄り臭い言い方やめなさいよ! アンタと同年齢の私たちまでババ臭く見えちゃうじゃない!」

「むしろにこっちは亜里沙ちゃんたちと混ざっても違和感ないと思うけど?」

「それどういう意味よ!?」

「ふふっ、希とにこの漫才も久しぶりね」

 

 

 確かこの人たちは絵里さん、希さん、にこさんのμ's最年長組だ。最年長って肩書もあるけど、この中では唯一の社会人組でもあるから大人の女性としての魅力を感じられる。愛嬌の最年少組、色気のある最年長組と言ったところか。まだ高校生の私がこんな素敵な人たちの風貌を語るのはおこがましいけどね。

 

 

「なによさっきからじぃ~っと見つめてきて。ははぁ~ん、さては初対面にして私の魅力に憑りつかれちゃったのね。まあ仕方ないか、この宇宙No.1アイドルを生で見られてるんだから」

「は、はいっ! いつもテレビで見てますけど、にこさんのパフォーマンスにはいつも心を奪われてます!」

「えっ、あっ、そう? さ、さすが私ね!」

「あれぇ~にこっちってば素直に褒められて緊張してるん? こんな身近にファンの子ができて嬉しかったり?」

「大学を卒業してからソロでアイドル活動を始めて、そしてあっという間に地上波デビューだもの。それだけの実力と魅力があれば身近にファンも増えるわよ。これも高校性からアイドルにひたむきだった努力の賜物ね」

「ちょっ!? アンタたち昔みたいにもっとからかおうって気概はないわけ!? いつの間にそんな丸くなったのよ!?」

「えぇっと……仲いいですね!」

「さっきの会話をどう聞いたら仲良く見えるのよ……」

 

 

 からかっても和やかな雰囲気になるのはお互いに仲が良い証拠だと思う。にこさんも心なしか楽しそうだし、こういう遠慮のない関係ってなんか憧れるな。私も虹ヶ咲のみんなとは仲が良い寄りの関係だとは思うけど、まだ出会ってから半年くらいしか経ってないから絵里さんたちみたいな結び付きが強い関係性には程遠い。そう言った意味ではμ'sが伝説のスクールアイドルになったのも、こうした絆の強さがあるからだろう。これは私たちも見習わないとね。

 

 

「そういえば侑ちゃんは零君のどこを好きになったん?」

「す、好きぃ!?!? 私は別にお兄さんのことなんて……!!」

「えっ、そうなん? でもパートナーになるくらいだから好きなところはあるんと違う?」

「えっ、そ、それはぁ……」

「こらこらあまり意地悪しない。でも零のどこを気に入ったのかは私も知りたいかも……」

「四六時中アイツといるのは大変でしょ? しかも一緒にいたらいつの間にか好きにさせられてしまうのがタチ悪いのよね……」

「いやだから好きではないんですけど……」

 

 

 なんかいくら否定しても私がお兄さんのことを好きってことで話が進んでしまう。恐らくこの人たちはお兄さんと一緒にいる時間が長いが故に、お兄さんの隣にいる人=お兄さんを好きだという感情を抱いているって感覚なのだろう。どうやらお兄さんの周りにはμ'sさんや歩夢たち以外にも女性がたくさんいるみたいなので、お兄さん界隈ではその方程式が定義になっているのかもしれない。改めて思うけど、とんでもない人たちのコミュニティに紛れ込んじゃったな私……。

 

 こうして見ると、μ'sの皆さんはみんなでお兄さんとお付き合いしてるのに何も後ろめたいことはないみたいだ。私はただ隣にいる宣言をしただけでこんなに羞恥心を感じてるのに……。私のメンタルが弱いだけ?? それとも他の人たちの常識がおかしいだけ?? お兄さんと出会ってから常識と非常識の境目が曖昧になり過ぎて何が正しいのか分からなくなっちゃうよ……。

 

 

「侑ちゃん?」

「うわっ!? えっ、えぇっと、花陽さん……?」

「大丈夫? 何か考え事をしてたみたいだけど……」

「あんなに質問攻めにされたら誰でも疲弊するわよ。修学旅行の女子会じゃないんだから……」

「でもみんなそれだけ侑ちゃんのことが気になってるってことだよね! こんな可愛い子とお友達になれるなんて、凛も嬉しいもん!」

「真姫さんに凛さん……? ゴメンなさい、気付いてなくて!」

 

 

 ぼぉ~っと考え事をしていたら花陽さんたちが来ていたことに気が付かなかった。どうやら心配をかけてしまったようで、せっかくの再会の場なのに私が空気を壊すわけにはいかないよね。なにか別の話題に方向転換しないと……。

 

 

「お、お兄さんって本当に人気者ですよね。さっきから皆さんにずっと話しかけられてますし……」

「あぁ、あれね。みんな久しぶりに好きな人と面と向かって話をする時間ができたから、そりゃこうもなるわよ」

「みんなって真姫ちゃん自身も入ってるよね? ということは、真姫ちゃん珍しくデレてる!?」

「違うわよ! ただの一般的な見解を述べただけだから!」

「あはは……。でも私も真姫ちゃんの言う通りだと思うな。みんな零君と一緒にいる時間が大好きなんだよ」

「どうしてそこまでお兄さんのことを……」

「好きだから! 凛たちは零くんのことが大好きで、零くんも凛たちのことを好きでいてくれるから! 一緒にいたい理由なんてそれだけで十分だよ!」

 

 

 この無理矢理な主張だけど説得力はある感じ、お兄さんみたいだ……。でも結局本人たちが幸せで周りに迷惑をかけていないのであればそれでいいのかもしれない。

 自分が好きだから、で十分……か。凛さんたちはお兄さんの隣にいることに悩む様子は一切ない。むしろ自分たちから攻めて攻めて攻めまくる。そういった図太さがあれば私も羞恥心で悶え苦しむことはなかったのだろう。

 でも、お兄さんの隣にいると決めたことは後悔していない。そしてお兄さんも私をパートナーだと認めてくれた。だからそれを誇りにしていいのかもしれない。そうすれば恥ずかしがったりすることもなく、他の人から質問攻めにあっても悶えることはないだろうから。恐らくμ'sの皆さんはお兄さんの隣にいることがごく普通の日常で、それが日常と思えるほどお兄さんとの時間を大切にしているんだと思う。私もそんな風に、お兄さんの隣に相応しい人間になれるかな? いや、なるんだ。お兄さんと一緒にお互いにお互いの夢を追い続け、叶え続ければきっと……!!

 

 

「おいお前ら、あまり俺の侑をイジメるなよ。年上たちから尋問され続けたら萎縮しちまうだろ」

「ち、違うよ! 私はそんなつもりなくて、ただ侑ちゃんのことが心配で……!!」

「花陽の言う通り。あなたこそもっと彼女のことを見てあげなさいよ」

「大丈夫だって。お前らと話したことで決意できたみたいだし。なぁ?」

「えっ、あ、はいっ!」

「ん? どういうこと??」

「お前らには関係ないことだ」

 

 

 もしかしてお兄さん、私の悩みに気付いてた? だから私をこの飲み会に誘った穂乃果さんを止めなかったのかもしれない。μ'sの皆さんとコミュニケーションを取ることで悩みを解決できると踏んでたのかな? 

 相変わらずお兄さんには何もかも見透かされているようだけど、そうやって絶えず気にかけてくれているという安心感を抱かせるところが女性に好かれる理由なのだろう。お兄さんは私がμ'sの皆さんと話している時も、自身が穂乃果さんたちに囲まれている時も、結局ずっと私の隣を離れることはなかった。そういうところなんだよね、男らしいところって。そして女性はそういった男性のことを好きになる。もしかして私も自覚してないだけでお兄さんにハマってたりするのかな……。

 

 その後は飲み食いしながらμ'sの皆さんとたくさんお話をした。最初はお兄さんとの関係を根掘り葉掘り聞かれたけど、今度は自信を持って『お兄さんのパートナー』であることをここで再宣言をしたことで誤解は解けたようだ。それから色々吹っ切れたためか私から穂乃果さんたちに話しかけることも多くなり、スクールアイドルのいろはや世間話、お兄さんを相手にする大変さ(この話題が一番盛り上がった)など、非常に充実した飲み会だった。もうお兄さんが隣に座っていなくとも緊張しないくらいにはこの輪の一員になっていたと思う。

 

 

 そして、そろそろ飲み会終了が迫ってきた頃――――

 

 

「侑ちゃん」

「穂乃果さん。ことりさんに海未さんも」

「すみません。想像以上に騒がしくなってしまって……」

「いえいえ! 楽しいから全然OKです!」

「あっ、侑ちゃんいい笑顔になったね! ことりたちと会ってから緊張しっぱなしみたいだったから心配してたんだ」

「うんうん、だから飲み会に誘ってみたんだけど、余計に緊張させちゃったかな?」

「そうですね。最初はこんな凄い人たちの中にいていいのかとか、お兄さんとの関係を突っ込まれて恥ずかしかったんですけど、皆さんとお話したことで吹っ切れました。お兄さんとの関係をもっともっと深くして、お兄さんの隣が誰に見られても恥ずかしくないくらい誇りのある居場所になるよう頑張ろうって」

「おぉっ、凄いはこっちのセリフだよ! 私も流石にそこまで考えたことはなかったなぁ」

「零の周りにはそういうストイックさを持つ女性はいないので、だからこそ彼はあなたを気に入ったのかもしれませんね」

 

 

 お兄さんに相棒と唯一認められた存在だって思うとちょっと嬉しくなっちゃうな。これだけ魅力的な女性が周りにたくさんいるのに、私を選んでくれたという特別感。うん、悪くない。って考え方もお兄さんに似てるから、確実に染まっちゃってるなぁ私……。

 

 ちなみにさっきの会話から穂乃果さんたちも私に悩みがあると悟っていたらしい。お兄さんもそうだけど、μ'sの皆さんも鋭いよね。これだけ人を気遣えるのも年の功ってやつなのかな?

 

 

「おい侑、夜も遅くなってきたけど時間は大丈夫か?」

「あっ、お兄さん。はい、今日は大丈夫です」

「とは言っても1人で帰らせられねぇから送ってくよ」

「さっすが零くん紳士的♪」

「うるせぇ普通のことだろ」

「ふふっ、そうですね。お兄さんにとっては普通のことですもんね」

「なに笑ってんだよ……」

「いえ、やっぱりお兄さんはお兄さんだなぁっと思って。よしっ、それではお言葉に甘えさせてもらいますね!」

 

 

 こんなお兄さんだからこそ隣にいたいと思ったのだろう。だからお兄さんの隣にいることは恥ずかしくない。むしろこの人だから、この人の隣じゃないとダメなんだ。それくらいの強い想いを抱いているのだから胸を張ろう。羞恥を感じる必要も、悩む必要もない。お兄さんの隣にいることに自信を持て、私!

 

 そして色々吹っ切れたからか心も軽くなったような気がする。だったらここからはいつも通りいかせてもらおうかな。

 

 

「というわけで飲み会の代金、お兄さんよろしくです!」

「はぁ? どうして俺なんだよ!?」

「ここは男らしいところを見せるべきじゃないですか?」

「うわぁ~そういう『男が払って当たり前』と主張する女が一番嫌われるんだぞ」

「でもお兄さんは私のことを嫌いになったりしませんよね? なんたって相棒なんですから」

「…………お前、段々俺と思考回路が似てきてないか?」

「それもこれもみ~んなお兄さんのせいですよ♪」

 

 

「零君と侑ちゃん、とっても仲良いね!」

「微笑ましい夫婦漫才でずっと見ていられるよ~」

「えぇ。これならこの先も良い関係を保っていけるでしょう」

 

 

 やっぱりお兄さんと何気ない会話をしている時が一番楽しいかも。これでようやくお兄さんの側にいるという自覚が生まれた気がするよ。もう恥ずかしがったりすることはない。

 

 こうして私は、本当の意味でお兄さんと隣に立ったのであった。 

 




 零君の隣に立つことに恥ずかしさを感じていた侑ですが、今回μ'sとの交流もあって本当の意味で彼の隣に立つ決意をしました。これで侑の物語も一旦は区切りとなります。

 そして虹ヶ咲編もこれにて本当に終了となります。来年の春に2期が控えており、アニメには新キャラも登場するのでこの小説でも登場させられたらなぁと思っています。ただ放送に合わせて投稿するかは未定なので、虹ヶ咲編の続きが投稿される時期は気長にお待ちください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Liella編
またスクールアイドルかよ!?


 今回からLiella編に突入します! ついでに小説のタイトルも分かりやすくリニューアルしました!
 新しいキャラ、新しいストーリー、新しい舞台、そしていつもの主人公でお送りします!


 話の時系列は虹ヶ咲編の1年後。スーパースターのアニメで恋が加入して、グループ名が『Liella』に決まった後になります。それだけ念頭に置いていただければ、あとはいつも通りノリで楽しめると思います!
 一応キャラの容姿だけはある程度知っておくと良いかもしれません。


 スクールアイドルと言えば、今や日本だけではなく全世界規模にまで発展した超大型コンテンツだ。興味がなくてもその名を知らぬ者はいないと言っていいほどの知名度を誇っており、連日メディアに取り上げられたりするほど有名となっている。昔はいわゆるアイドルやオタクの界隈でしか話題になってなかったのに、今ではそこらの一般人にも認知されるほどである。SNSの発展で情報の伝達が爆速になったってのもあるだろう。そこのところは深夜アニメが一般のお茶の間にまで知れ渡るようになった背景とよく似てるな。

 

 スクールアイドルは言ってみればアマチュアのアイドル集団だが、それでも注目される理由はやはり『若い女の子たち』の集団であるからだろう。女の子は女の子でも成長途中の未成熟な思春期女子たち。そんな華のような女の子たちが愛嬌や魅力を振り撒くスクールアイドルを世間が注目しないはずがない。それに今やスクールアイドルは高校生だけでなく小中学生までもが参戦してきてるから、そりゃ10代の女の子たちの輝く姿を拝めるコンテンツに期待が集まるのは必然だろう。

 

 そんな感じでμ'sやA-RISEが界隈を牛耳っていた昔とは違い、今ではどの学校でもスクールアイドルが存在すると言っても過言ではない。特に女の子しかいない女子高ではスクールアイドルが存在してる率が高い。そして俺は行く先々で女子高生と何かしらの縁を持つことが多く、それすなわちスクールアイドルと遭遇する確率も高いわけだ。アイドルになる子たちだからみんな可愛く知り合えることは嬉しいんだけど、もはや『スクールアイドル』って言葉自体が聞き飽きてるんだよな……。

 

 最近ではあまりにもスクールアイドルの女の子と関係を持ちすぎて、俺のことを『スクールアイドルキラー』と呼ぶ奴まで現れる始末。しかもその異名が独り歩きをして一部女の子は俺と会ったことがないのに警戒しているとか……。自分の知らないところで要注意人物扱いされてるなんてスクールアイドル界隈怖すぎる。たまにはこの界隈以外の女の子と穏便に日常を過ごしたいもんだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 季節は秋。俺の教師生活が始まって半年が経過した。

 勤め先は『結ヶ丘(ゆいがおか)女子高等学校』。文字通り女子高であり、教育実習に行った浦の星女学院や指導役として訪れていた虹ヶ咲学園といい俺と女子高には因縁があるらしい。まあ野郎の相手をするよりも思春期の女の子に色々教え込む方が楽しいから別にいいんだけどさ。

 

 ちなみにこの学校は表参道と原宿と青山という3つの街のはざまにある新設校だ。そのため現在いる生徒はもちろん全員が入学生であり、歴史もなければ名前も全く知られていない、ないない尽くしの学校である。学科は普通科と音楽科の2学科であり、俺が見てきた女子高では初めて学科ごとに制服が異なっている。当初はその格の違いを感じられて音楽科の方が普通科よりも勝っているかのような雰囲気があった(主に生徒会長のせい)が、今では紆余曲折あって学科間の反目もなくなり、学科問わずどちらの制服を着ても良くなっていた。

 

 それよりも俺が一番驚いたのは、新設の学校であるのにも関わらず資金が枯渇ギリギリで学校経営がなされていることだ。そのせいで新設なのに廃校の話が出始めるほどであり、あまりにも計画性のない経営に落胆を通し越して呆れてしまった。結局はそれも山あり谷ありで一部解決したのだが、それはまたの機会に話すとしよう。そもそも俺の関わった学校は虹ヶ咲を除けば廃校やら統廃合の危機やら、何かしら事件が起きないと気が済まないのか……?? さっきも言ったけど、たまには穏便に生活させてくれよ……。

 

 とまあこの半年で大きな問題はあったが、とりあえずその一部は方が付いたので今はいったん平穏な日常を送っている。

 だから教師として毎朝学校の正門に立って朝の挨拶運動をしているのだが……どうして俺がこんなことを?? いやもう立派な社会人だから教師としての責任を全うするのは当然だけど、朝の挨拶のために校門に立つって小学校かよ。しかも朝早くだから眠くて眠くて仕方がない。あのクソババア理事長、俺が新人教師だからって社会勉強の名目で色々頼み込んできやがるからな……。

 

 校門をくぐる女子生徒たちは元気よく俺に挨拶をしてくれる。この学校の生徒も可愛い子たちばかりだから、そんな子たちに挨拶される立場ってだけでも喜ぶべきなのかもしれない。それでも朝早いのは眠気に来るから、うん、やっぱりやりたくねぇわ。

 

 

「ふわぁ~……。ったく、メンドくせねぇなオイ」

「おはようございます。朝にしっかり目覚められないのは生活が不規則な証拠です。神崎先生も教師なのですから、しっかりと生徒の模範となる行動をしてください」

「恋か。朝から説教はやめろ。頭に響くから」

 

 

 気品ある立ち振る舞いで登校してきたのは、この学校の生徒会長でもある葉月 恋(はづき れん)だ。

 その厳粛な雰囲気からお察しのこと、頭脳明晰、加えて様々な習い事の経験から運動やピアノ等、あらゆる分野に精通した優等生である。礼儀正しく落ち着いた物腰から、周りの生徒からの人気も高い。

性格は至って生真面目で向上心も強く、しかもお嬢様という珍しいオプションまで付いているという、中々に属性を盛られた子だ。お嬢様と言うこともありやや世間知らずであるためか天然ボケで、割と周りの説得で流されやすい。完璧なように見えて少し穴があるという、男が惚れる要素まで兼ね備えていた。

 

 そんな彼女だからこそ、俺の態度が気に食わないらしい。もうどちらが教師と生徒か分からなくなるくらい普段の生活態度を注意されており、普通科と音楽科のいがみ合い問題が解決した後はその堅い性格はかなり丸くはなったものの、俺の教師としての態度に対してだけは今でも厳しい。まあコイツが100%正しいから何も反論できねぇんだけどさ……。

 

 

「先生は普段から日常生活がだらしないです。服装は崩さず綺麗に着こなす、歩く時はズボンのポケットに手を入れない、言葉遣いは丁寧に、女性を口説かない、女性に安易に触れない。まだまだありますよ?」

「どれだけ俺のことを見てるんだよ。興味津々じゃねぇか」

「な゛っ!? せ、生徒会長として風紀の乱れを見逃せないだけです!!」

「おい朝っぱらから叫ぶな近所迷惑だぞ。生徒の模範になるんだったよな、生徒会長さん?」

「ぐっ、あなたって人は……。私を助けてくれた時はカッコ良かったのに……」

「ん? なんか言ったか?」

「い、いえっ、なんでもありません!!」

 

 

 恋は顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。今まで女の子のこの表情と反応を何度も見てきたから分かる。コイツは俺に厳しい態度を取りつつも一定の好意は抱いてくれているってな。まあ普通科と音楽科の問題が発生した時に多少なりともコイツを支えてやってはいたから、その影響だろう。思春期の女の子がチョロいとは言わないが、大人としての自我が芽生えてくるこの時期に心の支えとなる男が現れたら、そりゃこうもなるだろう。今までたくさんの思春期女子を相手にしてきたから、何もかも分かってるよ。

 

 

「とにかく、結ヶ丘は由緒正しき校風を目指している学校です。そのことをお忘れなきよう」

「分かってるって。それにそうやって注意するくらい俺のことを見てくれているんだもんな。嬉しいよ」

「だ、だから拡大解釈が過ぎます!! 全く、もう行きます。ごきげんよう」

 

 

 恋は顔を赤くしたままこの場を去ってしまった。そうやって素直になれないところがアイツの可愛いところって言うか、その不器用さがいいんだよな。そしてそういった子がデレた時の破壊力と言ったらもう……ね。生徒会長が故に教師の俺ともコミュニケーションを取る機会は多くなるだろうから、アイツとの関係がどう進んでいくのか今から楽しみでもあるな。

 

 言っておくけど、別にまた女子高生を自分のモノにしようとかは考えていないぞ? あくまで教師と生徒としていい関係を築けたらって思っているだけだ。そりゃ女の子側が本気で愛をぶつけてきたら考えなくもないけど、普段から可愛い女の子がいたらとりあえず自分のもとに引き込もうなんて考えてねぇから、勘違いしないように。

 

 

「あっ、先生だ! ういっすうい~っす!!」

「賑やかな奴が来たな……。てか先生に向かってその挨拶の仕方はなんだよ……」

「えぇ~だって零先生って先生って言うよりなんか大学生のお兄さんみたいな感じだもん! フレンドリーさが半端ない、みたいな?」

「お前が図々しいだけだと思うぞ、千砂都……」

 

 

 次に登校してきたのは嵐 千砂都(あらし ちさと)

 俺との接し方で分かる通り穏やかで友好的な性格であり、趣味でダンスをやっているためかフィジカル、バイタリティも高い。加えて洞察力の高さや頭脳派な一面を見せることもあり、高校一年生とは思えないほどのハイスペックだ。人当たりがいいので友達も多く、俺に対しても友達感覚で話しかけてくることからコイツが自分の生徒だってことを忘れてしまいそうだ。まあ変に畏まられるよりもこうして愛嬌良く接してくれる方がコミュニケーションが楽ではあるけどな。でもコイツの場合はあまりにも距離が近すぎる気もするようなしないような……。

 

 

「てかお前も恋も早いな。アイツは生徒会があるからだろうけど、お前はどうしたんだ?」

「朝練でダンスの練習! 大会とかにはあまり出る気はないけど、ダンスは好きだから続けてはいこうかなって。それに朝ダンスは身体も暖まるし目も覚めるしで、いいこと尽くめなんだよね!」

「朝っぱらから元気だなお前は。こちとら寒い中でテンション上がんねぇっつうのに。それにあまり寝てねぇから眠いし」

「あははっ、寝不足アピとかやっぱり大学生みたいなノリだ!」

「いや小学校じゃねぇんだから校門に立って挨拶なんて必要ねぇだろ……。寒いし眠いしこのまま凍死するぞ俺……」

「ふっふっふっ、だったら先生のためにいいモノがあるよ!」

「いいモノ?」

「はいっ!」

「むぐっ!?」

 

 

 突然口の中に暖かいモノ、いやそこそこ熱いモノを捻じ込まれた。ソース、かつおぶし、青ねぎのトッピング、咀嚼すると外はふわふわ中はとろとろの生地、そしてぷりっぷりのタコ。そう、たこ焼きが俺の口いっぱいに広がった。千砂都はつまようじの先に刺したたこ焼きを俺の口に押し込んだらしい。そういやコイツはたこ焼き屋でバイトしているんだと思い出しつつ、口に広がったたこ焼きを火傷しないようゆっくりと咀嚼しながら体内に流し込んだ。

 

 

「ってか熱いわ!! 危うく火傷するところだったぞ!?」

「でもこれで暖かくなったでしょ? 最近また改良したから先生に味見してもらいたいと思って!」

「だったら普通に渡せよな。つうか学校にたこ焼き持ってくるってどういう神経してんだよ……。まあ美味しかったからいいけどさ」

「美味しかったか……ふふっ♪」

「千砂都?」

「いやなんでもないで~すっ! あっ、そろそろ行くね!」

「ちょっ、おいっ! ったく名前の通り嵐みたいな奴だな……」

 

 

 朝からハイテンションで話しかけられて頭に響いたし、たこ焼きを口に捻じ込まれて物理的に熱くさせられたりと、方法は難あれど眠気を吹き飛ばすことはできた。そうやって持ち前のテンションの高さで周りを奮起させる能力があるのがアイツの魅力だ。どうやら昔はここまで積極的な性格ではなかったらしいけど、そのことについてもまた今度話すとしよう。

 

 

「ふわぁ~……おはよ……」

「お前さぁ、あくびしながら挨拶する奴がいるか普通?」

「今日は朝から神社の掃除で忙しかったのよ。だからアンタの授業で仮眠しないと……」

「先生の前で堂々とサボり宣言かよ……すみれ」

 

 

 気だるそうに登校してきたのは平安名 すみれ(へあんな すみれ)だ。

 金髪で見た目も派手なのは自分を綺麗に魅せようとしている現れか、幼い頃からショウビジネスの世界で生きてきたからだろう。同年代の奴らとは違って既に社会に進出しているためか誇り高い言動が目立つものの、本質的には努力家そのものであり、派手な外見に見合わぬ真面目な性分の持ち主である。

 また、スタイルが良く、ダンスを直ぐに会得できる吸収能力の高さ、料理が得意、相手を思いやる優しさを持つ、神社の巫女、ショウビズへの精通、決め台詞の保有など、属性盛り盛りのフルコース女子でもある。恋や千砂都もそうだけど、最近の女子高生ってどうしてこんなにハイスペックなんだろうか……? それとも俺がそういった子を呼び寄せてるだけ??

 

 

「なにジロジロ見てるのよ……」

「いや朝早くから仕事をしてたのに、身だしなみが整っているっつうか相変わらず光って見えてんなって思ってさ」

「当たり前でしょ。ショウビジネスで生きる者として、どんなことがあってもこの美貌と魅力を衰えさせるわけにはいかないわ」

「なるほど。俺は好きだぞ、自分の魅力を曝け出してくれる女の子のこと」

「べ、別にアンタに好かれたいとか思ってないし……」

「輝いている女の子が大好きなんだよ、俺はな。もちろん可愛い子ってのが前提だけど」

「なにそれナンパのつもり? あぁ~くっさいくっさい! それだから恋人の1人もいないのよ。そんな男の言葉で私が靡くとでも思ってるの?」

「どうだろうな。でもいつか靡かせてやるさ」

「なによその自信!? ったく、勝手にすれば」

 

 

 おっ、ちょっと靡いたぞ! この手の『自分を強く魅せようとする奴』に対しては、こちらからもストレートな想いをぶつけると相手の心を揺さぶれるから有効だ。μ'sのにこや虹ヶ咲のかすみみたいにな。しかも俺が教師だと分かっていてこの鋭い言葉選びをしてくるから、だったらこっちも容赦せず好意をぶつけてやるまでだ。褒め称えまくってあの自信に満ちた顔を羞恥の色に染めてやりたいところだ。

 

 ちなみに俺はこの学校では恋人がいない設定を貫いている。別に隠すつもりはないのだが、虹ヶ咲の奴らとも関係を持った都合上、逐一その関係を説明するのは面倒だからな。しかも相手は思春期女子、複雑な恋愛関係には興味津々のお年頃だからわざわざこちらから餌をぶら下げる必要はない。その餌1つで女の子たちに根掘り葉掘り聞かれるのは面倒だから情報は隠蔽するに限る。まあそのせいで俺はイケメンのくせにこの歳で彼女1人もいない寂しい奴って扱いだけど……。

 

 

「アンタとのタイマンは調子狂うからそろそろ行くわ。この腹いせにアンタの授業の時間フルで爆睡してやるんだから」

「ツンツンしてんな。たまにはデレを挟まないと俺にはモテねぇぞ?」

「アンタにモテてどうすんのよ!? 顔はいいのに性格が難アリじゃねぇ……」

「顔は変えられないけど性格は変えられるぞ。とは言っても俺はお前のことを気に入ってるから、あとはお前が俺のことを気にしてくれるだけでいいんだけどな。あっ、でもこうして校門前で立ち止まって話しかけてくれるくらいには気があるってことか?」

「~~~~ッ!? もう行く!!」

 

 

 あらら、顔を真っ赤にして立ち去ってしまった。流石に少しイジり過ぎたかな? でもいつも自信満々の子のそういった表情が大好きなドSなんでね、仕方がない。この性格は社会人になっても治るどころか、女子高勤務になったせいでより一層歪んだ性癖が加速するかもな……。

 

 

「零先生おはようございマス! 今日はいい朝いい天気で絶好のスクールアイドル日和デス!」

「可可か。いやお前の脳内がスクールアイドルに支配されてるのはいつものことだろ……」

「そんなことはありマセン! 自分が大勢の前でステージに立つ妄想をしたり、可愛い衣装を考えたり、憧れのスクールアイドルの前で頭を垂れているだけデス!」

「それ十分支配されてるからな!? 情熱の強さは分からなくはねぇけど……」

 

 

 次に登校してきたのは唐可可(タン クゥクゥ)。名前を見て分かる通り上海出身の日系中国人である。海外出身とは言っても日本語レベルは検定1級(N1)に合格する程なので、日常会話もさっきの通りなんら問題なく可能だ。

 

 基本的には礼節を重んじる淑女で、誰であっても敬語で接する礼儀正しい子。敬意や好感を持てる人物に対して特に情に(あつ)く、その人のためならばどのような尽力も惜しまない。そして『自分の願い』を叶えるためならば決して諦めず、常に研鑽を重ねる努力家でもある。

 更にコイツを語る上で外せないのが異常なまでのスクールアイドル大好きっ子であること。さっきも彼女が言っていたが、憧れのスクールアイドルに対しては土下座するほどの信仰心を抱く。だがそれだけスクールアイドルに情熱を注いでいるということであり、彼女の燃える闘志は他のメンバーの士気を上げるくらいには熱い。ここまで純粋な心でスクールアイドルに打ち込んでる奴は初めて見るかもな。

 

 

「先生、今日は部室に来てクダサイ! 次のライブの段取りの打ち合わせをするので、顧問がいなかったら話になりマセン!」

「だから言ってるだろ勝手に顧問にすんなって! てかどうして俺なんだよ!?」

「だって可可と一緒にスクールアイドル部の設立や、ファーストライブを手伝ってくれたじゃないデスか! それはもう可可たちと運命共同体になるという意思の現れに他ありマセン!」

「都合のいい妄想だなオイ!? お前らが困ってたからちょっと手伝っただけだろ!」

「そのさり気ない優しさに可可は感動しマシタ! あなたこそが顧問に相応しい人! 可可の目に狂いはないのデス! さぁ可可たちと一緒に世界を目指しマショウ!」

「いやライブするのはお前らだろ……。なるほど、()()()もこんな感じで強引に勧誘されたんだな……」

 

 

 声を上げながら俺に迫りくる可可。わざわざ背伸びまでして自分の顔を俺に近付け、こちらの目をじっと見つめてくる。瞳を見ていると綺麗で透き通っているので、本人も悪気があるわけではないことが分かる。ただ単にそ自分のハートに来た人を前にしてテンションが上がっているだけだろう。こんな可愛い子に誘われてどうして顧問を引き受けてやらねぇんだって話だけど、俺だってたまには平和に生きたいんだよ。それにスクールアイドルの指導は虹ヶ咲でもやってるから、それで十分だ。

 

 

「むぅ、もう少しで朝礼デスか……。今は立ち去りマスけど可可は諦めマセン! 可可をスクールアイドルにしてくれた先生には感謝しているのデス。だから一緒に同じ部活を……あっ、うぅ……」

「えっ、どうした? 顔赤くなってるぞ?」

「な、なんでもありマセン! とにかく次の休み時間にまた勧誘しに行きマス! それでは!」

「そんなに頻繁に来るのかよ……」

 

 

 俺に顔を近付けていた可可だが、突然頬を染めたと思ったらそのまま引っ込んで走り去ってしまった。男とあんなに近くで対面して恥ずかしかったのか、それとも……。

 なんにせよ平和な日常を送るためにどこの部活にも属さないようにしようと思ってたけど、属さなけえればアイツから永久に勧誘されそうだな……。今年の春にアイツがスクールアイドルをやりたがっていたから少し手伝っただけなのに、今ではここまで懐かれてしまって……。やはり触らぬ神に祟りなしだな。

 

 気が付けばもうすぐ各教室で朝礼の時間だ。俺もそろそろ準備して教室に向かうか――――と思ったが、まだ来てない奴が1人いることに気が付いた。遅刻する奴ではないので今日は休みかと考えていた矢先、小走りでこちらに来る女の子が1人。

 

 

「はぁ、はぁ……ギリギリセーフ……」

「どうした? 今日はやけに遅いな」

「えっ、零先生!? お、おはようございます!」

「おはよう、かのん」

 

 

 息を切らせて校門をくぐって来たのは澁谷(しぶや) かのんだ。オレンジ色の髪は穂乃果(アイツ)千歌(アイツ)を想像するが、アイツらとは違いコイツは美人系の女の子である。

 美人系で顔つきも強気を感じられる風貌だが、実は内気で引っ込み思案気味。でも性根は心優しく繊細。理不尽な物言いには強く言い返すなど、ここぞというときの芯の強さも持ち合わせている。ただ他のオレンジ髪の奴らとは違い、何かと我が強い周りのメンバーに振り回される苦労人でもある。

 また自己評価は低く、自分のことを『アイドルってガラじゃない』『普通』と謙遜しており、若干のダウナー気質を持つ。そういったところは他のオレンジ髪とは一線を画す違いだ。ちなみにコイツはアコースティックギター演奏歴があることから作詞と作曲を両方できるため、他のオレンジ髪とは能力が比べ物にならないほど高い。今までの奴らもそうだけど、この学校の生徒のハイスペックさには驚かされるばかりだ。

 

 

「昨晩ずっと作詞をしていたせいで寝るのが遅くなっちゃって、起きたら時間ギリギリに……」

「またスクールアイドルの活動か。頑張るのはいいけど学生の本分を忘れんなよ。これまでのスクールアイドルだって学業を疎かにせずやってきてたんだ」

「これまで?」

「あっ、いや、やってきてただろうなって推測だよ」

 

 

 自分がスクールアイドルの関係者だってこともコイツらには伏せている。そうでもしないと顧問に勧誘されそうだし、何なら伏せてる状態でもされてるんだからスクールアイドルの指導経験があるってバレたら大変なことになるぞ……。

 

 誤魔化せたかは分からないけど、とりあえずこの話題を避けるために校内に戻ることにする。だがかのんは俺に追いついて隣に並んできやがった。まあ行き先は一緒だから仕方ないんだけどさ……。

 

 

「先生。昨晩考えた歌詞、あとで見てもらってもいいですか?」

「…………どうして俺なんだ? 他の奴らでいいだろ」

「もちろん可可ちゃんたちにも確認してもらいますけど、先生のご意見も頂きたいんです。なんだろう、もう歌詞を作る段階でそうしたいって決めていたといいますか……。あはは、ゴメンなさい曖昧で」

「いいよ。それだけ俺を信用してくれてるってことだろ。でもスクールアイドルをやるなら、今後は自分たちだけで曲も歌詞も作れるようになるんだぞ」

「はいっ、ありがとうございます!」

 

 

 うわぁ~すげぇいい笑顔するじゃん。やっぱ女の子の笑顔に弱いんだよなぁ俺。こんな表情を見せつけられたら思わず甘やかしたくなっちゃうよ。特にメンタルが弱いかのんがひたむきに頑張っている姿を見ると思わず手を差し伸べたくなってしまう。今の俺は立派な教師なんだから、そういうところもしっかり指導していくべきなんだろうけどな。

 

 ここで今更の話になるが、この学校にもスクールアイドルが存在している。俺の隣にいる澁谷かのん、そしてさっき俺と会話をしていた唐可可、平安名すみれ、嵐千砂都、葉月恋の5人で『Liella』というグループ名でスクールアイドルをやっている。発起人は可可であり、俺はソイツが1人の頃からグループ名が決まるまで、いわば『Liella』の軌跡に何かと加担してきた。そのせいで可可からはあの手この手で顧問として勧誘されているのだが、ここまでのらりくらりと避け続けているのが今の日常だ。何かとお節介を焼いてしまうこの性格を何とかしてねぇよ……。

 

 まあそういった縁があって今日会話した5人とは特別関係性が強いってわけだ。本来であればあまり面倒事に関わりたくないのだが、一度可可に巻き込まれたら逃げられないのはアイツに勧誘されたかのんも良く知っている。当時エピソードはまた話すとして、その時に俺は真っ先にこう思ったね。

 

 

 

 

 またスクールアイドルかよ!? ってな。

 

 

 

 

 そんな昔話を思い出していると、もう朝礼のチャイムまでマジで時間がないことに気が付いた。

 

 

「意外と時間やべぇな、おい走るぞ!」

「えっ、はいっ! あっ、手……」

「何してるんだ転んじまうぞ」

「は、はいっ! 暖かい……」

 

 

 この時の俺は意識していなかったが、自然とかのんの手を取って走り出していた。やっぱりどうしてもお節介を焼かなければ気が済まない性格らしい。そのせいで毎回面倒事に巻き込まれるけど、かのんたちみたいな美少女に出会えるのであればこれもまた一興なのかもな。

 

 そしてコイツらに関わったことで、また俺の新しい運命が始まろうとしていた。

 社会人になってもまだ新しい女の子たちとの出会いがあるなんて、本当に休まることを知らないな俺の人生って……。

 

 

 ちなみにこの後、かのんと手を繋いでいたことを生徒たちにめちゃくちゃ茶化された。

 




 遂に新章のLiella編が始まりました!
 まだ全体的にどういった話の構成にするのか、何話くらい連載するのかは決めていない見切り発車ですが、いつも通り自由なノリでグダグダやっていく予定です。

 1話目は完全にキャラ紹介がメインの回になってしまいました。当初は虹ヶ咲編のように1人1話の登場回にする予定で下が、5人しかいないので詰め込んだら文字数が意外と多くなってしまい執筆が大変に……(笑)
 それでも紹介編を一気にやったことで、もう次回から好き放題できるのは良かったかもしれません。

 というわけで新しい女の子たちが登場する新章。今まで読んでくださっていた方も、ここから読み始めた方も応援してくださると嬉しいです!



 それにしても零君が社会人か……。大人になりましたね(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いきなり家庭訪問!?

 お待たせしました! ようやくLiella編の第二話になります!
 


「あぁ、もうこんな時間か。今日はこのくらいでいいか? そろそろ帰らないと暗くなっちまうぞ」

「はい、ありがとうございます!」

 

 

 こうして澁谷かのんとの勉強会は終わった。まだ秋口だが、夏に比べたら日が落ちる時間が圧倒的に早い。コイツの凄まじい集中力を見てるとまだまだやれそうだったが、ここは教師として夜道を女子高生1人で帰すわけにはいかないだろうと考え、ここで勉強会を切り上げた次第だ。まあこの学校のある渋谷は若者の街というだけあって夜でも賑やかなので、そこまで心配する必要はないが一応な。

 

 ちなみにこうして夜近くまでかのんと勉強会をするのは今回が初ではない。定期的に授業や宿題で分からないところを俺に質問しに来るのだ。もちろんこれも教師としての役目なので迷惑はしてないのだが、どうも俺のところばかり来ている気がする。他の先生のところに行っているところを見たことがないっつうか、やたらと一緒にいることが多いような……。俺は教師っつっても大学を卒業して間もないので、コイツら女子高生ともそれほど歳は離れていない。だから千砂都が言っていたように頼れるお兄さん的な感じで他の先生よりも接しやすく、それで俺のところに来ているのかもしれないな。

 

 

「俺はちょっと事務作業をやって帰るから、お前は先に帰ってろ」

「えぇっと、待ってちゃダメ……ですよね」

「何故?」

「えっ、い、いや、先生1人で暗い中を帰れるかなぁ~って」

「それはこっちのセリフだっつうの。ほら、暗くなる前に帰れ」

「は、はい……」

 

 

 なんか超残念そうな顔してんな……。そこまで露骨にテンションを下げられると罪悪感が半端ねぇんだけど……。それでも暗くなる前にコイツを帰らせたいのは本当だし、もし待たせるとしても事務作業がどれくらい掛かるのかも分からないから時間を使わせたくないんだ。

 

 

「それでは零先生、今日もありがとうございました」

「あぁ。気を付けて帰れよ、澁谷」

「あっ、名前……」

「えっ? あぁなるほど……ったく、気を付けて帰れよ、かのん」

「はいっ! 失礼します!」

 

 

 名字で呼んだら空気が重くなるくらいしょんぼりし、名前を読んだら夕方の暗さを吹き飛ばすくらいいい笑顔になりやがる。

 これでもある程度の公私混同は避けているので、授業や他の生徒がいる前だと名字呼び、Liellaの連中や今みたいに2人きりの時は名前呼びにしている。俺はよほど親しくならないと下の名前では呼ばないのだが、一応かのんや他のLiellaの奴らとはそれなりに交流はあるからな。特にLiella結成までの道のりで、己のお人好しが祟って思わず首を突っ込んじまった。だから名前で呼ぶくらいには接点ができたんだ。まあそのせいで可可から執拗に顧問に勧誘されて迷惑してるんだけどさ……。

 

 そんなこんなでかのんを帰らせ、後は自分の仕事を片付けるだけとなった。あいつの勉強を見ていたため定時後の作業になってしまったが、生徒の質問に応えてやるのは教師としての責務なので別に苦ではない。それに明日は土曜日。金曜の夜ってだけでもテンションが上り、少しくらいなら残業をしても精神が摩耗することはない。学生の頃は分からなかったけど、金曜日の夜ってこんなウキウキするものなんだな。こういう考え方をしている時点で俺もオッサンなのかもしれないけど……。

 

 黙々と作業を進めて滞りなく片付ける。ようやく俺も帰ることができるのだが、そこでテーブルに見慣れない1冊のノートが置かれていることに気が付く。名前は書いてない。明らかに俺のではないので中を見てみると、そこには数式が書かれており、まさに今日俺がかのんに教えた範囲のものだった。ということはこのノートの所有者はかのんだろう。

 

 

「来週渡してやるか……って、そういや月曜提出の宿題の範囲が教えた部分だったっけ。だったら今日届けてやらねぇと困るよな……」

 

 

 このまま預かっていては休日の宿題に影響が出てしまう。面倒だけど、アイツの家に届けてやるしかなさそうだ。幸いにも教師だから生徒の自宅の住所は調べればすぐ分かる。女子校の全生徒の現住所にすぐアクセス可能って、字面だけ見れば犯罪臭が半端ねぇな……。

 

 

 

 

〜※〜

 

 

 

 

「ここは……喫茶店?」

 

 

 澁谷宅の前に到着したのだが、入り口におすすめメニューを宣伝する看板、綺麗に手入れされた花と鉢植え、煌めく電飾など、明らかに普通の家ではない。そういえばかのんの奴がウチは喫茶店を営んでいるって言ってた気がするな。普通の自宅だったらどう挨拶をして訪問すればいいのか迷うところだったが、喫茶店であれば客という名目で家に上がり込めるのでアイツと接触するのは簡単そうだ。

 

 とりあえず店に入ってみる。店内は自然を基調とした爽やかな雰囲気であり、特に目を引くのは本物っぽいフクロウの置物。あまりにもリアルなので一瞬フクロウと戯れることができる喫茶店と勘違いしそうだったぞ。てかあの置物、俺を見てる気がするけど本当に置物だよな……?

 

 

「すみません。本日はもう閉店の時間で……」

 

 

 カウンターから若い女性が出てくる。穏やかな立ち振る舞いに落ち着いた雰囲気から、どうやらこの人がオーナーでかのんの母親だろう。つうか他のスクールアイドルの奴らの母親もそうだけど、みんながみんな若く見えるのはやはり子供が美少女だったらその母も綺麗という法則があるからだろうか。ことりやにこの母さんだって今でも若々しいし、千歌の母さんなんて合法ロリと言っても過言じゃねぇからな……。

 

 

「突然すみません。実は澁谷かのんさんの担任で、神崎零と言います。彼女の忘れ物を届けに来たんですけど……」

「まぁ、あの子の!? それはそれはご足労ありがとうございます! ささっ、こちらに! 今すぐ飲み物をお入れしますね!」

「えっ、いやただノートを届けに来ただけなのでそこまでしていただかなくても!」

「何を仰いますか! ありあーっ! すぐにアイスコーヒー持ってきて!」

『えっ、今片付け終わったんだけどどうしたの!?』

「かのんの先生が来てくれたのよ。ほら早くね!」

『お姉ちゃんの!? な、なるほどすぐ持ってくから』

 

 

 奥のキッチンから中高生くらいの女の子の声が聞こえてきた。どうやら俺のためにわざわざ飲み物を手配してくれるらしい。

 

 ていうかどうしてこんな厚い待遇を受けてるんだ俺……? まるで俺と話ができることを待ち続けていたような、そんな感じがするけど流石に気のせいだよな?? 第一アイツの家族とは会ったこともないし。まあ俺の知らないところで俺の名前が出回っているのはスクールアイドル界隈ではよくあることだけど、初対面の人にここまで心待ちにしてるような雰囲気を醸し出されるのは初めてだ。

 

 そんな感じでかのんの母さんにカウンター席に案内され、アイツの妹の澁谷ありあがアイスコーヒーを持ってきてくれた。こちらの考えが追いつく前にいきなりおもてなしをされてもう何が何やら……。

 

 

「かのんーっ! 店に降りてらっしゃい!」

『どうしてー? 片付けならありあがやってくれてるでしょー?』

「いいから早く! すぐにね!』

『えぇ~! すぐ行くから待ってて!』

 

 

 かのんママは2階の居住スペースにいるだろうかのんを呼び寄せる。母親だけならまだしも、生徒本人やその妹まで出てくるなんてそりゃもう家庭訪問の範疇超えてるだろ……。いや元々はアイツの忘れ物を届けに来ただけだから家庭訪問ですらねぇけどさ……。

 

 間もなく階段を降りる音が聞こえてきた。その足音はだらしなく汚い音なので、母に無理矢理呼びつけられてイヤイヤ降りてきているのが丸分かりだ。

 

 

「もう急になに? こちとら新曲の歌詞を考えて――――へっ?」

「あぁ……さっきぶりだなって――――え゛っ!?」

 

 

 2階から降りてきたのは間違いなくかのんで、声も同じだから本人であることに疑いはない。だけど見た目が普段と全く違う。自宅にいるから服装がラフなのは分かるけど、下着をつけていないのか胸の形が丸わかりになるくらいの薄いシャツ、寝間着かと思ってしまうほど色気のないハーフパンツ、何より髪型を上の方で団子にして、おでこ丸出し。それにメガネ装着という、締切に追い込まれた漫画家の女性のようで、気品など全くない格好であった。

 

 

「な゛っ、な゛っ、な゛な゛な゛ななななななな!? せ、先生!?」

「よぉ。なんつうかその……家だと相当ラフなんだな」

「今すぐ着替えてきます!! 今見た私は忘れてください別人です!! いいですかいいですね!! あ゛ぁ゛あ゛ぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「ちょっ、おいっ!? また2階に戻っちまった……」

「ふふっ、顔真っ赤にして可愛いんだから♪」

 

 

 まさかこの母親、かのんのあの表情が見たいがために俺がいることを内緒にしてアイツを呼び寄せたんじゃねぇだろうな……。もうこの一連のやり取りだけでも娘をからかおうとする小悪魔的一面が見られる。それに妹のありあもニヤニヤしてるし、この3人の力関係というか、普段どういった会話が繰り広げられてるのか容易に想像できるよ。いつもイジられてんだろうなアイツ……。

 

 

 

 

〜※〜

 

 

 

 

「ほら、忘れ物のノートだ」

「わざわざありがとうございます。えぇっと、中って見ましたか……?」

「そりゃ名前書いてねぇから見るしかないだろ。とは言っても一発目に開いたページの内容が俺の教えた部分だったから、すぐにお前のだって分かったけどな」

「そ、そうですか……」

「あっ、今お姉ちゃんホッとしたでしょ?」

「う、うるさいっ!!」

 

 

 また顔を赤くしてるよコイツ発情期か?? 最近はスマホ1つでいくらでも性知識を付けられるから、今の時代の子はピンク色の脳がより発達していると聞いた。まさかコイツも……??

 そんな冗談はさておき、俺の目的はこれで達成されたのだが、雰囲気的にこれで終わりにはしてくれなさそうだ。飲み物まで出してくれたし、なによりかのんママやありあが俺に興味津々のため素直に退散させてはもらえないだろう。長居するつもりはなかったけど、ここまで手厚く歓迎されたのなら仕方ないか。

 

 

「でもまさかかのんの担任の先生がこんなにもイケメンの若い人だっただなんて、なるほどこれはかのんが惚――――」

「お母さん!! それにその理由が一番じゃないから!!」

「何の話だ?」

「い、いえ何でもないです!」

「私、神崎先生みたいなお兄ちゃんが欲しいなぁ〜。お兄ちゃんになってくれる方法が1個だけあるんだけどなぁ〜。お姉ちゃんが先生と――――」

「あ、ありあ〜〜っ!!」

「あはは、ゴメンゴメン」

 

 

 コイツら一体なんの話をしているんだ?? いや、女の子付き合い百戦錬磨の俺ならなんとなく分かる。でもそう考えるとかのんが俺のことを……? 今まで彼女からの熱い視線に気付いていないわけではなかったが、それも頼れるお兄さん的な感じで憧れの目線を向けられていると思っていた。だけどこの場で感じるラブコメの波動。まさか……まさかな。

 

 

「どうやらかのんが定期的に先生に補習授業をせがんでいるようで、ご迷惑をおかけしています」

「せがむって……」

「教師として当然のことですから。それにかの……澁谷さんは物覚えも良くて、教えているこっちも楽しくなってくるので何の問題もないです」

「!? もしかして今、かのんって呼ぼうとしてました??」

「えっ、あっ……」

「咄嗟に下の名前が出てしまうほどの関係!? ちょっとかのん、そこまでは聞いてないんだけど??」

「べ、別に話す必要はないでしょ!? 私と先生だけの話なんだから!」

「つまりお姉ちゃんと先生は、誰もないところだったら名前で呼び合う秘密の関係ってこと?」

「ち、違う! そんなのじゃないから!!」

 

 

 もう羞恥心で顔が爆発寸前かってくらい赤くなってるぞ……。てかかのんママもありあも相当マセてるっつうか、もう場の雰囲気が修学旅行の女子部屋と化している。別に女子トークを繰り広げるのは良いけど、せめて本人がいないところでやって欲しいよ……。

 

 かのんを見ると相当テンパっているようで、俺に助け舟を出してもらいたく目配せをしてくる。全く、仕方ない。

 

 

「澁谷さんとはスクールアイドル関連で他の生徒よりも接する機会が多かったので、自然と打ち解け合っただけです。だから名前で読んでいるのもその影響で、2人が考えているような秘密の関係ではありません。なのであまり誤解しないでくださると助かります」

「そ、そうですか。でもいつもかのんが先生のことを――――」

「あーっ!! あーっ!! そういうことだから勘違いしないように! ありあもね!」

「わ、分かったから。圧が強い……」

 

 

 なんとか窮地を脱することができたようだ。かのんが『ありがとうございます。助かりました』と目配せをしてきたので、とりあえずこれで良かったんだろうな。

 

 でも俺とかのんの関係を詳しく聞かれたら、実は回答に困ってしまう。コイツが可可と2人きりのスクールアイドルだった時からあれこれと気にかけていたので、他の生徒よりも圧倒的に一緒にいる時間が長い。教師として生徒の支援をするのは当然かも知れないけど、俺はコイツの込み入ったトラウマ事情まで知っており、そのためか必要以上にコイツに入れ込んでしまった過去もあるのでもう単純な教師生徒の関係ではないのかもしれない。まあ全ては俺が女の子に甘くお人好しなせいなんだけどさ……。

 

 そう考えると、かのんが俺に向ける熱い眼差しってやっぱり……。

 

 

「そうだ、せっかくだし家庭訪問っぽいことも聞いちゃおうかしら。先生、学校でのかのんの様子はどうでしょうか?」

「えっ、その話本人がいるところでするの!?」

「私も知りたいです! お姉ちゃんって家だとダウナー気味と言いますか、浮き沈みが激しくてたまに口調も激しくなるし、さっき見ての通り締切ギリギリに追い込む漫画家みたいな格好ばかりしてるので、スクールアイドルみたいな陽キャ活動を真面目にやるようには思えなくて……」

「ちょっ、それ言う必要ある!? てかいいところ1個もないじゃん!!」

 

 

 やっぱりあの格好は家族からも俺と同じことを思われてたんだな……。

 それにしても学校でのかのんの印象か……。この半年、勉強やスクールアイドルの活動を近くで見てきたからコイツの性格や考え方など事細かに理解してはいるつもりだ。コイツから何かと頼られることも多かったしな。

 

 

「そうですね。澁谷さんは内気で引っ込み思案なところもありますが、仲間への気配りができる心優しい子ですよ。理不尽な物言いにはしっかり自分の意見をぶつけて返す芯の強さもあり、だからこそ同じスクールアイドルのメンバーからも信頼されているんだと思います。それに歌唱力も高くて作曲もできる特技を活かしてグループに貢献しようと精一杯頑張ってますし、私から見れば魅力的な女の子ですね。何かと2人でいることも多いですが、私のことを慕ってくれているので、私も彼女に応えたくなっちゃうんですよ。それだけ人を惹きつける魅力がある子だと思います。可愛いし、笑顔も綺麗だし、ずっとのその姿を見てみたいです。彼女のそういうところが好きだから、私も色々気にかけちゃうのかもしれません」

 

 

 一応自分がかのんに抱いている印象をそのまま言葉に出してみたのだが、3人共こちらを見て黙ったままだ。そこまで硬直されるともしかして変なことを言ったのかと心配になってくるぞ……。たくさんの女の子と付き合って早数年、未だに女性に対するデリカシーの無さを指摘されることがある。だからさっきもセクハラ紛いなことを言ってないか怪しいところだが、多分ない……よな?? あれ……??

 

 

「せ、先生……わ、私のことをそんな……うぅ」

「おい今まで以上に顔真っ赤だぞ!? 俺なにか変なこと言ったか?」

「見ないでください! 今の私、とっても情けない顔してるので!!」

「えぇ……」

 

「お母さん、先生の言葉の後半部分ってもう……」

「えぇ……。なるほど、ここまで自分のことを見てくれている男性がいたらそりゃハート掴まれちゃうわよね……」

「お姉ちゃん繊細なところあるし、近くで寄り添ってくれる男性がいたらこうもなるか……」

 

 

 さっきからかのんママとありあがコソコソ話しているが、その内容は俺の耳には聞こえてこない。聞こえてくるのは自分の顔を手で隠しながら呻くかのんの声だけだ。

 

 もう一度自分の言葉を思い返してみると、後半部分って告白になってるようななってないような感じだったかも。学校での様子を聞かれていたのに、いつの間にか俺がかのんに抱く想いを言葉にしていた気がする。思わずいつもの感じで女の子の魅力を語ってしまっていたけど、『教師』としての視点が途中から抜けていたかもな。これは反省。これまでの経験で女の子に直球の想いを伝えることに慣れてたんだよ。

 

 結局かのんの羞恥心の乱れは治ることがなく、かのんママとありあには『ごちそうさま』と言った雰囲気で話をまとめられてしまったので、突然の家庭訪問はこれでお開きとなった。ただノートを届けに来ただけなのにかのんとの関係をここまで根掘り葉掘り聞かれるとは、これから澁谷家の家族には要注意だな。

 

 

 

 

〜※〜

 

 

 

 

「それでは先生、また来週」

「あぁ。夜は冷えるし、ヘソ出して寝るなよ」

「な゛っ!? そんなことしません!!」

「またお姉ちゃんのお話たくさん聞かせてください」

「あぁ。あんな話からこんな話まで全部聞かせてやるよ」

「私の何を知ってるんですか!? そんな変なことしてました!?」

「あはは。じゃあな」

 

 

 店の外で出迎えてくれたかのんとありあに別れを告げてこの場を去った。

 賑やかで雰囲気もいい家族だったけど、俺が来てしまったことでこれからのかのんイジりが加速しそうだな。ま、それも家族の仲がいいからってことで納得しておこう。

 

 

 そして俺が立ち去ってから――――

 

 

「お姉ちゃんって、神崎先生のどこが好きなの?」

「へっ? す、好きとかじゃないから!! 女の子だったらカッコいい先生に興味を持ったりするでしょ。それと同じ!」

「ほんとにぃ〜?」

「もうっ、寒いから部屋戻る!!」

「えっ、ちょっと待ってよお姉ちゃん!」

 

 

 かのんは思い返す。

 

 

『声、綺麗だな』

『似合うと思うぞ、スクールアイドル。だってお前可愛いじゃん』

『いよいよファーストライブか。大丈夫だ、隣に可可がいてくれるだろ。それに観客先には嵐もいる。それでも苦しくなったら俺がいることも思い出してくれ。ずっと見守ってやるから』

『良かったよ、ライブ』

『お前は人の心を開く力がある。言いたいことをド直球に言えるその芯の強さがお前だ。メンバーに誘いたい奴がいたら相手の心に問いかけてみろ。お前に熱い思いがあればきっと届くさ』

『甘えていいとは言わないけど、トラウマが再発して辛くなったらいつでも頼ってくれ。俺は女の子の笑顔が一番好きなんだ。もちろん、お前の笑顔もな。だからその笑顔が崩れそうになったら、俺が全力で助けてやるから』

『過去を乗り越えたからかいい笑顔になったじゃねぇか。今のお前は、この瞬間だけ世界の誰よりも可愛いよ。頑張ったな』

 

 

「先生……」

「ノート、肝心なところを見られなくて良かったね。お姉ちゃん歌詞を思いついたらノートに書くクセがあるから、先生への想いの歌詞も――――」

「う、うるさいうるさい! もう寝る!!」

「本当にわっかりやすいなぁ~ふふっ」

 

 

 そして、かのんたちは家に戻る。

 

 俺がかのんの想いに気が付くのは、まだ先の話だった。

 




 Liella編の第二話、どうだったでしょうか?
 虹ヶ咲編からの続編になりますが、やはりキャラが変わると話の雰囲気もガラッと変わりますね。既に零君に恋心を抱いており、ウブな反応全開のかのん。教師としての自覚があるのか、虹ヶ咲編のようなイケイケではなく落ち着いている零君。それだけでも別の小説かに思えるくらいの雰囲気だったと思います。特に零君が素直に敬語使っているのなんて珍し過ぎて……(笑)

 虹ヶ咲編が零君も歩夢たちもかなり肉食系で恋愛も刺々しかったので、Liella編は割と穏やかで王道な恋愛を展開できたらと思います。(あくまで予定)

 かのんと零君の間に具体的に何があったのかは、またの機会に詳しく描きたいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

先生じゃないとダメなのデス!!

 投稿が遅れてしまい申し訳ございません!!
 毎日が超忙しくてこれからもしばらくそんな日常が続きそうですが、来週からは毎週投稿できるように頑張ります!


 というわけで今回は可可メイン回です。


「先生! 往生際が悪いデスよ! そろそろ観念するデス!」

「………」

「可可もここまで執拗に付き纏いたくないのデスよ? でも先生が頑固だから、わざわざこうして可可が来てあげているのデス!」

「おい……」

「早く折れてくれれば楽になれマス。どうデスか? 顧問になってくれる気になりマシタか??」

「いや昼休みにまで押しかけてくんな!!」

 

 

 昼休みとは社会人にとってひと時のオアシス。午前中に摩耗した精神と体力を回復し、午後のために英気を養う大切な時間だ。逆に満足に休憩ができないと午後の戦いを戦い抜くことはできないし、もし戦い抜いたとしても終業後には満身創痍となっているだろう。社会人にとってはそれくらい昼休みの時間は重要なんだ。

 

 それなのに可可は昼休みになるとほぼ毎日俺のところにやってくる。ライブ直前でかのんたちと昼の打ち合わせがある場合は流石にそちらを優先しているようだが、それ以外の時は決まって俺の隣に来て飯を食う。しかもコイツの言動から『俺のせいで自分がまた来てしまっている』と、何故か被害者ヅラしてくる始末。こちらが何度あしらっても諦めずに俺のところへ通い続けるその図太い精神は凄まじい。最初は鬱陶しかったけど、今となってはその精神に感服するくらいだよ……。

 

 そもそもどうして可可が俺に付き纏っているのか。それはスクールアイドル部の顧問になって欲しいということに他ならない。コイツがかのんと2人でスクールアイドルを始めた今年の春から『Liella』が結成されたこの秋まで、俺は何かとコイツらに世話を焼いてしまった。俺の今年の目標は静かに生きる(去年は虹ヶ咲の奴ら相手に相当ハッスルしてしまったため)だったのだが、やはりスクールアイドルの女の子を放ってはおけないのが俺の性らしい。気付けばいつの間にか首を突っ込んでおり、そのせいでかのんたちから一定の信頼を得てしまった、というのがここまでの経緯だ。

 

 そんなことがあったためか、可可からはスクールアイドル部の顧問になれと今のようにしつこく依頼してくる。それはもう顔を合わせるたびに毎回。自分の夢のためであれば何があっても諦めない闘志があることは知っていたが、それがまさかここまで燃え上がってるとは思わなかったぞ。かのんもコイツにスクールアイドルに誘われた時はこの根気に負けたんだな……。

 

 

「ていうかどうして俺なんだよ? 顧問になってくれそうな先生くらい腐るほどいるだろ。それに今となっちゃ外部に依頼すればスクールアイドルのコーチなんて簡単に見つかる。断られると分かっている俺に時間を使うよりも、とっとと別のコーチを付けて練習に時間を割いた方が効率的だと思うぞ?」

「この世の中は効率ではなく自分の想い、つまりハートが大切なんデスよ! それに日本のアニメや漫画でも、気持ちの強さで修羅場を切り抜ける熱い展開が多いデス ! 可可はそれに感化されマシた! 能力なんかよりも自分がビビッと来た方々に自分の夢を預けたいのデス!!」

「俗に言う根性論って奴か。穂乃果(アイツ)千歌(アイツ)みたいなことを……」

「そうデス! 効率だとか能力だとかそういう問題ではなく、可可が信頼できる方々と1つの夢を目指す! くぅ~っ!! これこそ可可が待ち望んでいたスクールアイドル活動! かのんたちもいて、先生もいて、可可この学校に来て良かったデス!!」

「熱くなるのはいいけど、俺を勝手に含めるなよな……」

 

 

 俺の隣で勝手に燃え上がっている可可。俺は平穏な昼休みを過ごして午後のために英気を養いたいのに、コイツがいるといつも騒がしくなる。賑やかな女の子は好きだけど、ほぼ毎日こんな感じだからそのテンションについていけなくなっていた。もしかしたら俺自身が歳を取ったせいで若い子のノリに合わせづらくなったとか……? まだ20代前半なのにもう歳の差を感じているのか俺……。

 

 

「逆に聞きマスが、先生はどうして顧問になってくれないのデスか? あそこまで可可たちの面倒を見ておいて顧問にはなりたくないって、やっていることと言っていることが矛盾してる気がしマス」

「教師として生徒の活動を手伝うのは当たり前だろ。だけど顧問になるほどこっちだって暇じゃねぇってことだ」

「むぅ、だったらどうすれば顧問になってくれるのデスか?」

「どうしようもないな、諦めろ。ま、困ったことがあったら助けてやっから心配すんな」

「助けてくれるのなら最初から顧問でいいじゃないデスか……」

 

 

 可可は頬を膨らませてぷりぷり怒りながら弁当を食べる。コイツの言うことは最もだが、俺は俺のやりたいようにできる環境が好きなんだよ。正式な顧問になると部活の責任者として学校に活動の報告をしたり外部とライブの調整をしたりしないといけないから、そんな面倒なことはしたくない。これまで俺が指導してきたAqoursもSaint Snowも虹ヶ咲も、みんな俺のやりたいようにやらせてもらったからその環境に慣れてしまったのだろう。堅苦しいのは好きじゃない。この考え方自体が社会人に向いてないのかもしれないけどな……。

 

 

「俺が根負けするのを粘ってるのならやめておけ。俺はお前のようなひよっこが靡かせられるほど安い男じゃない」

「ひよっことか言いながら、可可たちを何度も何度も魅力的だって言って褒めてくれたじゃないデスか!」

「まあ魅力はあると思うよ。勧誘の仕方は鬱陶しいけど、お前と飯を食えるのは楽しいと思ってるぞ。そりゃ女の子と飯の席を一緒にできて嬉しくない男はいねぇと思うけど」

「だったらなおさらスクールアイドル部の顧問になるべきデス! 可可よりも魅力的なかのんたちがいるんデスから!」

 

 

 それは確かにそうだ。やはりスクールアイドルをやる奴ってのは容姿が優れており、Liellaもその例に漏れていない。共学の学校であれば間違いなく男子からの人気ランキング上位に食い込むような奴らばかりだ。普通の男であればそんな子たちの部活の顧問なんてハーレムだから喜んで引き受けるだろうが、俺からしたら女の子だらけの環境なんて珍しいことではない。だからそれをエサにされても俺は靡かないってことだ。こちとらもう何年も前から美女美少女に囲まれた生活をしているからな。

 

 

 その後も可可の勧誘を軽くあしらいつつ、妹の楓が作ってくれた愛妻弁当を食べ進める。今日は天気がいいので外で食っており、そのためか既に飯を食い終わったであろう生徒たちの往来が激しい。そうなればもちろん俺と可可が1つのベンチに並んで座って食事をしている風景をみんなに見られることになる。ただの男女カップルであれば誰も気に留めないだろうが、俺とコイツは教師と生徒の関係。思春期女子が故にあらぬ考えを持つ輩も多くて――――

 

 

「ねぇねぇ、可可ちゃんって先生と付き合ってるの?」

「えっ!? ど、どうしてそんな話に!?」

「だって可可ちゃん、先生と一緒にいること多いじゃん!」

「そうそう! 今日こそは先生を説得してみせるんだって、いつも意気込んでるから気になっちゃって!」

「ち、違いマス!! それもこれも先生の往生際が悪いせいで……!!」

「はいはいご馳走様! じゃあ私たち委員会があるからもう行くね」

「2人きりの時間を邪魔するのも悪いしね。じゃあまた後で!」

「ちょっ、ちょっと待ってくだサイ!! うっ、行っちゃいマシた……」

 

 

 可可の友達なんだろうが、言いたいことだけ言って立ち去りやがったな……。

 そしてやはりと言うべきか、何か勘違いされているようだ。そりゃアイツらの言う通り、俺のもとに足繁く通ってるんだから俺に気があると思われてもおかしくはない。本人は否定しようとしていたみたいだが、動揺のあまり弁解すらできずに友達に逃げられてしまった。どうやら周りからは公認カップルか何かと思われているみたいだ。まあ男性教師と女子生徒がほぼ毎日一緒に飯を食うなんて、勘違いしてくれと言ってるようなもんだしな。

 

 

「先生! さっき言ってたことは全部デマ! 信じてはいけまセン!!」

「さっきのって、お前が意中の相手に対して素直になれず、顧問になれと説得しに行くのを口実に昼飯を一緒に食うってやつか?」

「事細かに説明しなくてもいいデス!! ていうか話に変な着色するなデス!!」

「アイツらの話を要約するとそんな感じだろ?」

「うぐっ……」

 

 

 あれ? 意外とダメージ受けてる? あらゆる手段を使って全力で否定してくると思ったのに、予想に反して顔を赤くしてしおらしくなっている。まさかアイツらの言っていたことは本当で、マジで俺に会いに来るために……?? もしそうだとしたら不器用なんてものじゃないが、言いたいことをダイレクトに伝えるのがコイツの性格なので意外な一面ではある。日常生活では気が強いのに、恋愛沙汰になると途端にウブっ子になるギャップ萌え系のパターンか……。

 

 

「せ、先生は可可のこと、迷惑だとか鬱陶しいとか思ってマスか……?」

「あん?」

「だ、だって友達から見ても可可が押しかけているようにしか見えないようデスし……」

 

 

 これまた意外だ。他人の迷惑なんてお構いなしで自分の情熱を刻み込む猪突猛進タイプだと思っていたのに、心の内ではしっかり俺のことを考えていたんだな。突っ走る性格に見えて仲間への情が熱い奴だってことは知っていたが、どうやらそういった繊細な部分が今まさに発揮されているらしい。さっきまでは何が何でも俺をスクールアイドル部の顧問にさせようと必死だったのに……。

 

 それにしてもコイツ、こんな恋する女の子っぽい顔もできたんだな。普段の見た目ももちろん可愛いけど、いつも元気ハツラツな女の子のしおらしい反応は俺の好みに合う。俺が単純に女の子の恥じらう姿が大好きなドSなだけかもしれないけど……。

 

 

「そりゃさ、毎回毎回昼休みに突撃されて迷惑と思わない奴はいないだろ」

「そうなりマスよね……」

「だけどイヤではないぞ? 女の子と一緒に飯を食えるってだけでも男としては嬉しいことだし、増してお前みたいな可愛い奴と一緒に居られるなんてむしろ歓迎だ」

「ふぇっ、ふぃっ、えぇっ!?!?」

「なんだその意味不明な泣き声は……」

「だ、だって急に可可のこと可愛いとか何とか……!! 先生ってそんなキザなことを言うような人じゃなかったデスよね!? 今までの生涯で一度も女性付き合いどころか女友達もいなかった寂しい男性と聞いてマシたから!!」

「あぁ、そういうことね……」

 

 

 そういえばこの学校ではそういったキャラで通していることを忘れてた。字面だけ見ると超失礼な噂であり、流石の俺も自分からそんな話を誰かにした覚えはない。ただ生徒たちに『今まで女の子と付き合ったことはない』と言っただけなのだが、やはりそこは恋愛話大好きな思春期女子、噂はあらぬ形で大きくなる。その結果が寂しい男扱いだ、悲しくなるな。だからなのか普段からも女の子たちに同情の意味を込めて話しかけられることが多い。まあこの学校では真面目に先生をやっているから、性格も顔もいい男が新品だったら思春期女子たちが黙っちゃいないわな……。

 

 もちろん好きで自分の素性を隠しているわけではない。たくさんの女の子と付き合っていると生徒たちに知られれば当然そのことを追及されるし、そもそも教師という公的な立場として隠しておくのが普通だ。それに過去に何度もスクールアイドルの手伝いをしていたことがバレるとコイツの勧誘が更に激しくなるから、そりゃ本来の自分を裏の顔にしておくのが最善ってものだろう。

 

 俺の話はさて置き、問題はさっきよりも頬を染めてあたふたしている可可だ。いつもの癖で流れるように女の子に対して『可愛い』発言をしてしまったが、本人に与えたダメージは想像以上に大きい。コイツが男慣れしていないってのもあるだろうが、それなりに気にしている男から急に容姿を褒められたら誰でもこうなるか。そういえばかのんも俺が褒めるとすぐ顔を赤くしていた気がする。やっぱ初物の女の子の反応は見ていて面白いよ。こういうところが女垂らしだって侑に怒られるんだろうな……。

 

 

「女性付き合いがあろうがなかろうが、教師として生徒を褒めるのは当然のことだろ」

「普通の教師であれば女生徒のことを可愛いとか言いまセン!! 最近はそういうのに敏感な世の中デスから、すぐにセクハラで通報されマスよ!!」

「でもお前はしないだろ?」

「えっ、そ、それはそうデスけど……」

「お前は俺のことを信用してくれてるからな。それに俺も自分が見込んだ女の子にしか可愛いとか言わねぇよ。だからお前自身のことを鬱陶しいとか迷惑だとか思ったことはない。むしろお前みたいな可愛い元気な子が会いに来てくれるのは嬉しいぞ? ま、会うたびにセールスのような勧誘をしてくることだけはちょっとウザいって思うけど、その情熱もお前の良いところだから受け入れてるよ」

「先生が可可のことをそこまで……。てっきり嫌われてるかと思ってマシた……」

「んなわけねぇだろ。これでもスクールアイドルの活動で半年も面倒を見てきたしな」

 

 

 社会人になってからは穏便にのんびり日常を過ごしたいと思っていたのに、スクールアイドルに魂をかけるコイツの熱さを見ていたらいつの間にか手を差し伸べてしまっていた。女の子の恥じらう様子は好きだけど、頑張る姿を見るのはもっと好きだ。それに己の夢に向かって突き進む子を応援したくなるのは侑の影響もあるのかもしれない。持ち前のお節介とお人好しのせいで可可に付き纏われる毎日となってしまったが、さっきも言った通り可愛い子が隣にいてくれること自体はイヤではない。まあコイツの勧誘は宗教の入信文句かってくらいスクールアイドルの良さを俺に力説してくるから、勧誘の仕方は鬱陶しいと思ったけどな。

 

 

「そういや有耶無耶になってたけど、どうして俺に顧問になって欲しいんだ。そりゃここまで自分の面倒を見てきたのならその流れで顧問になれって主張は間違っちゃいないけど、このご時世だからスクールアイドルの指導者としてプロ級の奴はいくらでもいるだろ」

「先生じゃないとダメなのデス!! 指導の仕方とか技術とかそういうのではなく、先生じゃないと!!」

「だからどうして?」

「うっ、そ、それは……」

 

 

 また頬を紅潮させて黙っちまった。俺に拘る理由はここまで一緒にやって来たが故の愛着なのか、それとも……。

 

 

「ま、俺がいいってのなら諦めろ。こちとら教師としてやることがいっぱいあって時間ねぇんだよ。ま、今までみたいに困ったことが合ったら相談くらいは乗ってやるさ」

「なんか納得できマセン……」

「お前は俺が顧問にならなきゃ何を言っても納得しねぇんだろ……。じゃあもうお昼終わるから、お前も次の授業に遅れんなよ」

「は、はい。次は絶対に顧問になってもらいマスから! 顧問堕ちというやつデス!」

「なにその新しいジャンル!? 日本の汚い知識を覚えるのはやめような……」

 

 

 どうやら友達に押しかけ妻と勘違いされても俺への勧誘をやめる気はないらしい。その心意気は買ってやるけど、周りに勘違いされてもお構いなしに俺へアプローチしてくるのは相当な理由があるからだろう。結局『俺でないとダメ』という声デカ主張に押し切られて、そうでないといけない理由を話すことはなかった。その本心を打ち明ければ俺の心も動くかもしれないけど、暴露するのは本人が耐えられなくなるのだろう。俺としては本心を伝えるかどうか迷っておどおどしている可愛い姿を見られるから、それはそれでいいけどな。

 

 

 そして俺が立ち去ってからも、可可はしばらくベンチに座ったままであった。

 

 

「可可が先生に拘る理由なんて、そんなの決まってるじゃないデスか……」

 

 

 可可は春からの出来事を思い出す。

 

 

『分かった分かったから! 手伝うだけだからな?』

『お前の情熱の強さは俺が認めるよ。だからかのんも分かってくれるさ』

『みんなに内緒で体力作りしてるのか? 闇雲に練習しても仕方ないから、俺がお前でもできるような練習メニューを考えてやるよ』

『ファーストライブか。ようやく夢へ第一歩だな。見ていてくれるかだって? そりゃお前のファン一号なんだから当たり前だろ』

『俺の中ではお前たちが一番可愛かったし、輝いてたよ』

『きっとかのんが千砂都を連れてきてくれる。だからお前は自分が今できることをやって、アイツを歓迎してやれ』

『喧嘩するほど仲が良いってか? でもすみれと一緒に、同じLiellaのメンバーとしてステージに立ちたいんだろ? だったら自分の気持ちを誤魔化さず、お前なりの方法でアイツに伝えてみろ。一度心がすれ違ったら、二度と元に戻れなくなるかもしれねぇぞ』

『どうして手伝ってくれるのかって? そりゃ女の子の笑顔が好き、ただそれだけだよ。それにお前って慌ただしいからほっとけないしな。傍で見守っていてやるよ』

 

 

 

「可可は、先生じゃないとダメなのデス……。だから……だから絶対に顧問になってもらいマス! 覚悟しておいてくだサイ!!」

 

 

 

 可可はベンチから立ち上がって大きな声で意気込む。

 そして俺は職員室に戻る途中、背筋に悪寒が走るのであった。

 




 虹ヶ咲では唯我独尊で尊大な振る舞いばかりを見せていた零君ですが、前回のかのん回の時と同じく今回もやたらまともで作者の自分ですら少し困惑してます(笑) これが社会人になるってことか……

 可可はアニメでも序盤から活躍してたこともあり、その魅力は第一期の12話だけでも十分に伝わってきました。アニメではムードメーカーだった彼女だからこそ、今回のように零君に対してしおらしくなる様子は新鮮で可愛いと思っています!

 特に虹ヶ咲編では女の子たちが零君に対して超積極的な肉食系ばかりだったので、Liella編は至って普通の女の子たちの恋愛を見せられたらと思います。むしろ歩夢たちが零君を心酔し過ぎていて、そっちの方が異常だったかもしれませんが……(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

からかい上手は恋愛下手

 今回は千砂都メイン回です!
 


「先生せんせーーーっ!」

「千砂都か……。なんだようっせーな……」

 

 

 ホームルームを終えて職員室に戻ろうと廊下を歩いていると、後ろから千砂都が大声で呼びながら迫って来た。廊下を走っていはいけないという一般常識を見事に無視した爆走で、ここまで堂々と規則を破られたら逆に注意しにくくなるってもんだ。俺は気にしないけど、生徒会長の恋が見たら発狂するくらいのスピードだったな……。

 

 

「何の用だ? 可可みたいに顧問の勧誘だったら他を当たれ」

「あはは、先生が顧問になってくれるのであれば私も嬉しいんですけどね……。でも今回は別の用件です! はい、これどうぞ!」

「なんだこれ? チラシ?」

 

 

 千砂都から受け取ったチラシには手書きででかでかと書かれたたこ焼きの絵があり、どうやら宣伝のビラのようだ。コイツがたこ焼き屋でアルバイトをしていることは知っていたが、まさか宣伝まで任されているなんて店から相当信頼されてるっぽいな。校内で学校の許可なくビラを配るのはどうかと思うが、廊下を堂々と走り回るコイツからしてみれば些細どころか気にしない問題なのだろう。

 

 

「実はこの前から創作たこ焼きの開発を進めていたんですけど、それがこの秋ようやく商品として売り出されることになったんです! これはもう食べに来るしかない!」

「たこ焼きでも何でもオリジナルが一番うめぇんだよ。創作とか余計な趣向を凝らしたゲテモノなんて口にしたくねぇな」

「ドライだなぁ~。人生は何事も挑戦ですよ? そんな受動的だから彼女の1人もいないんじゃないですか?」

「ほっとけ……」

 

 

 教師に向かってそんなこと言うか普通?? やっぱりコイツ、俺を先生としてではなく年上の接しやすいお兄さん的な扱いをしてないか……? それはコイツだけではなく他の生徒もそうなのだが、やっぱり見た目はまだ大学生にしか見えない若い男だからフレンドリーに接してくるのかもしれない。まあ下手に畏まられるよりも、こうして友達感覚の方が俺としても話しやすくていいけどな。それにしても千砂都はあまりにも距離が近すぎる気もするが……。

 

 ちなみに俺に彼女がいないというデマは、この学院内でのみ事実と称して出回っている。なのでさっきのコイツの発言のように、会話が劣勢になると何かと付けて『彼女いないくせに』と煽って来るのが常となっていた。実際にはいるのでノーダメなのだが、『寂しい』という汚名がここまで広がるとそれはそれでやっちまったなと思うよ。最初は数日程度で風化するものとばかり考えていたので、女子高生の噂の広がり方と定着具合をナメていたな……。

 

 

「そんなことより、今日の放課後絶対に来てください! ほら、チラシに割引券が付いてますから」

「だからゲテモノは食いたくないって……ん? この割引券『全品タダ』って書いてあるけど嘘だよな!?」

「嘘じゃないですよ。このチラシは私が先生専用に作ったものですから」

「なぜ俺だけのために?」

「そ、そりゃ先生に来てもらいたい……じゃなくて、先生に創作たこ焼きの実験台になってもらいたいからですよ! だって他の人にいきなり食べさせるのは気が引けるじゃないですか!」

「人柱かよ俺!? 変なモノ食わされると分かってて行く奴がいると思うか!?」

「ダメ……ですか?」

 

 

 コ、コイツ、成人男性と思春期女子の身長差を活かしての上目遣いは卑怯すぎるだろ……。俺がこういうのに弱いってのは知らないと思うので無意識にやっているのだろう。流石はコミュ力お化け、こういうことも自然にできちまうんだな。なんか薄っすらと涙も見えてるし、そこまでして俺に来て欲しかったのか? コイツはいつも口調が軽いからノリで来て欲しいって言ってるのかと思ったけど、意外と本気なのかもしれない。

 

 

「ったく、分かったよ。行けばいいんだろ行けば」

「ホントですか!? 言質取りましたからね?? いや~やっぱり先生はお優しい限りで!」

「切り替え早いなオイ……。つうかなんだそれの手に持ってる目薬は!? まさかお前……やりやがった??」

「なんのことですか? 秋になると目が乾燥しちゃうんですよねぇ~♪ それでは店に来るということで、放課後お待ちしてますね! それじゃ!」

「ちょっ、待て! って、逃げ足はえぇ……」

 

 

 千砂都はまたしても廊下を爆速で駆けていった。言いたいことだけをまくし立てるように言って立ち去るその様は、アイツの名の通り嵐みたいな奴だ。友達が多くコミュニケーションも達者であるアイツの性格が思う存分滲み出ている。しかも質の良い上目遣いを演出するために涙を流す演技までしやがって……。可可が超ドストレートに想いを伝えてくるのに対し、アイツは変化球を交えてくるからタチが悪い。子供の頃は内気な性格だって聞いてるけど、今の会話を聞くと到底そうとは思えねぇな。

 

 とりあえず店には行ってやるか。ゲテモノを食うかどうかは別としても、バイト先で優良アルバイターとして活躍している様を見て見たいって好奇心がある。それに店に来て欲しいってアイツの気持ちは本物っぽいから、女の子に頼まれたら応えてやる男の義理を果たしに行きますかね。

 

 

 そして、廊下の曲がり角では――――

 

 

「やった、ちゃんと誘えた! ちょっと卑怯だったけど、誘えさえすればこっちのものだもんね。うん、今日は早く店に行って準備しよう」

 

 

 俺の知らぬところで意気込む千砂都だった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ここか……」

 

 

 

 店とは言っても移動販売車でたこ焼き屋を営んでいるようで、日によって場所はまちまちだそうだ。ただどの場所も若い奴らが通るような人通りが良い道や公園を選んでいるためか、経営時間は主に学校の放課後の時間帯となっているらしい。そのためか夕方は若者でごった返す超人気店だと聞いていたのだが――――

 

 

「誰もいねぇじゃねぇか。本当に流行ってんのかここ……」

 

 

 販売車の前にはいくつかテーブルが置かれているが誰もおらず、店の周りにすら人っ子一人いない。もしかして来る場所を間違えたのかと思って千砂都が送ってくれた販売車の写真を確認したが、特に間違ってはいないようだ。放課後と言っても仕事を片付けてきたから来たので少し時間は経っているが、それでも遅い時間帯ではないはずだ。

 

 人影がないことを不思議に思ったが、とりあえず販売車のカウンターに近づいてみる。すると車の奥から千砂都がひょこっと現れた。

 

 

「あっ、先生! 来てくれたんですね!」

「いやお前が来いって行ったんだろ……」

「そういうところが律儀っていうか、約束はしっかり守ってくれるところが評判いいんですよ。放課後に勉強を教えてくれって頼んだら教えてくれるし、進路相談に乗ってくれと言われたら乗ってくれるし、友達もクラスメイトもみんな先生のことを信用しているんです」

「そりゃどうも。てか教師として当たり前のことをしてるだけだ」

「その当たり前のことを真摯にやってくれることが生徒にとって嬉しいことなんですよね。でもそこまで優しいのにどうして彼女いないんだろ……」

「余計なお世話だ! とっとと例のブツを出せ!!」

 

 

 とことん彼女いない話題をこすってきやがるなコイツ……。実は俺の周りには女の子がたくさんいることを暴露したらどんな反応をするんだろうか。言ったら言ったで根掘り葉掘り聞かれて鬱陶しくなるのは目に見えてるので絶対に言わねぇけど。

 

 

「食べてもらいたいたこ焼きですけど、まだ作ってる最中なのでもう少し待ってください。とは言っても今日のお客さんは先生だけなので、すぐに用意しちゃいますね」

「どうして俺以外誰もいないんだよ。実は流行ってねぇのか?」

「今日はリニューアルオープンの前日なので、一般営業は明日からなんですよ。だから先生には明日に向けて新作のたこ焼きを味見して欲しくって」

「話は分かったけど、どうして俺なんだよ? かのんたちに頼めばいいだろ」

「そ、そうですね……ほら、もし不味かったらかのんちゃんたちに迷惑じゃないですか!」

「俺だったらいいのかよ……」

「先生ってタフそうですし、多少変なモノを食べても大丈夫かなぁ~って、あはは……」

「普通にイヤだが!? 何食べさせようとしてんだお前!?」

「大丈夫です安心してください! 一応自分で味見はしましたから!」

 

 

 味見して問題ないならそれこそなくかのんたちに食わせりゃいいだろってツッコミは野暮なのだろうか。わざわざ教師である俺を呼びつけるよりもアイツらを呼んだ方が楽だし、人数も多い分それだけ感想のレパートリーも増えるはずだ。可可もそうだけど、コイツらってやたら俺に固執している気がする。惚れられている……のかは不明だけど、年上の男、しかも自分の教師である男を誘うだなんて普通では勇気を出さなきゃできない行動だ。だが実際にこうして誘ってくるんだからそれなりの理由があるのだろう。

 

 もう少し時間がかかりそうなので、適当に近くのテーブルについて待つことにする。カウンターを見てみると千砂都が慣れた手つきでたこ焼きを作っており、なんだか楽しそうだ。だが俺と目が合うと顔を赤くしてすぐに逸らしてしまい、気が散ったのか危うく火傷しそうになるくらいの危なっかしさもあった。何してんだよアイツ……。

 

 そしてのいい匂いが漂ってきた頃、紙皿にたこ焼きを乗せた千砂都が俺の待つテーブルへとやって来た。

 

 

「へいお待ち! たこ焼き1丁!」

「居酒屋かよ……。って、なんだこれ? 1個1個見た目が違うけど……」

「売り出す予定のたこ焼きをそれぞれ単品で作ったんですよ。もちろん売りに出すのは何個かまとめてなんですけど、先生には全ての種類を味見して欲しいのでとりあえず1個ずつにしようかと」

「それでも8個あるのか……。クレープやアイスクリームじゃあるまいし、こんな種類を出さなくてもいいんじゃねぇか……?」

「それこそクレープやアイスと同じくらい甘い考えです。いくらたこ焼きと言えども、種類を増やさないとJK人気のあるスイーツには勝てません。この世はSNS映えの時代ですから、たこ焼きも進化していくべきなのです」

「その結果がこれかよ……」

「はいっ、どうぞ召し上がれ!」

 

 

 盛り付けられたたこ焼きは1個1個別のフレーバーらしいのだが、明らかに見た目がたこ焼きっぽくないのも混じっている。やけに赤くて明らかに辛そうなのもあるし、もはや口に入れることすら躊躇われるような紫色の物体まで存在している始末。ゲテモノと言っていたのも半ば冗談だったのだが、まさかコイツ本当にゲテモノ使いだったのか……? コイツも言っていた通り今はSNSや動画の時代であり、見た目や味はどうであれとにかくバズってしまえば勝ちみたいな感じがある。ほら、激辛のカップ焼きそばみたいな感じだ。だからこのたこ焼きもバズり重視で見た目や中身は二の次になってんじゃねぇだろうな……。

 

 俺はSNSで有名でもなければ動画配信者でもなく、増してゲテモノ紹介のブロガーでもない。だからこれを食うのは相当な抵抗があるのだが……千砂都の奴、満面の笑みだ。よほど俺にゲテモノを食わせたかったのだろうか……。

 

 

「あっ、そうだ、私が食べさせてあげますよ! ほ、ほらこういうのって恋人みたいでいいなぁって……」

「どうした急に顔を赤くして?」

「な、なんでもないです!! とにかくまずはこれから!」

「おい、その赤いのはよせ!!」

「行きますよ!」

「まだ食うって言ってねぇ――――むぐぅ!?」

 

 

 千砂都はよりによって真っ赤なたこ焼きを爪楊枝にぶっさし、俺の口に突っ込みやがった。あまりの早業に抵抗する余裕もなく、俺の脳も食い物が口内に入って来たと勘違い(俺はゲテモノだと思ってる)して勝手に口が動いて咀嚼してしまう。真っ赤なたこ焼きのことだ、恐らく中に唐辛子やハバネロの類が混入しており飛び上がるような辛さが俺を襲うのだろう……と思っていたのだが――――

 

 

「ん……? ちょうどいいピリ辛で意外と美味い?」

「だからゲテモノなんて出すわけないって言ったじゃないですか! それは辛そうに見せるよう生地に着色しているだけで、中身は至って普通のたこ焼きで、紅しょうがを少々多めにしてるだけです」

「だったら最初からそう言えよ。だったら警戒する必要もなかったのに」

「まあ先生のビクビクしてる様子を見るのが楽しみってのもありましたけどね♪」

「ホントにいいキャラしてんなお前……」

 

 

 千砂都の煽り性能が高すぎる件。そういやかのんも定期的に自分に似合わない可愛い服を着せられてるとか言ってたし、すみれもよくからかわれてるって愚痴を溢していた気がする。それを踏まるとコイツ、相当なドSなのでは……? コミュ力が高くて活発で元気が良くてドSっ娘って、中々に手を付けづらい奴だな……。

 

 それでもゲテモノだと思っていたたこ焼きは意外とまともで、さっきの真っ赤なやつ以外のも食べてみたがかなり美味かった。カレー味やピザ風味と言った王道のものから、紫色をしたのはただのタコなしのブルーベリークリームが入ったもの(もはやスイーツの類だが)で想像以上に食が進んだ。味見をしたとは言ってたけどコイツの味覚がバグっていたらアテにならないので警戒はしていたのだが、そんな心配は無用だったようだ。そしていつの間にか全てのフレーバーのたこ焼きを完食していた。

 

 

「完食してくれてありがとうございます! えぇっと、どうでしたか?」

「いや、普通に美味かったよ。見た目だけだと最初は躊躇するけど、それも若い奴らなら面白がって食うだろうし別にいいんじゃねぇか」

「そっか、よかったぁ……」

「よかった? そんなに自信なかったのか?」

「いえ、そういうわけじゃないんです! ただ先生が美味しいって言ってくれるか心配……って、なんでもないですなんでも! あはは……」

 

 

 途中から聞こえなくて誤魔化されたような気がするけど、まぁいいか。ゲテモノを食わされて腹壊して寝込むみたいな展開にならなかっただけ良しだ。過去にせつ菜の破壊的料理を食わされて死にかけになったことがあったから、ゲテモノにはトラウマがあるんだよ……。

 

 

「つうかアレンジしにくいたこ焼きをここまで進化させるなんて、料理の才能あるんだなお前。それに加えてダンスも歌も上手いし、衣装を作れるくらい裁縫もできる、すげぇ奴だよ」

「えっ、どうしたんですかいきなりそんな褒め殺しだなんて!?」

「素直な気持ちだよ。ここで冗談を言ってどうする」

「いや私ってテンションが無駄に高かったりするので、名前の通り『嵐』みたいだねってよく言われるんですよ。先生に対してもそんな感じで、結構失礼やっちゃってません私……?」

「そりゃフレンドリー過ぎるところもあるけど、俺は全然構わないぞ。むしろそっちの方が堅苦しくなくていい。それにお前のからかい混じりの会話、俺は結構好きだぞ」

「す、好き!?」

「そこだけ切り取るな勘違いされるだろ……」

「好き……私のことが……好き??」

「おい、おーい! 聞こえてんのか……?」

 

 

 顔を赤くしたままフリーズしたんだけどコイツ……。まさか千砂都の奴、人をからかうのは得意だけど羞恥心をくすぐられるのには弱いタイプか? こうして長所を褒め殺しされると今みたいに動揺するクソ雑魚メンタルなのかもしれない。人を煽るのであればまず自分に煽り耐性を付けてからやれってのが常識なのに、意外と恥ずかしがっちゃうんだな。

 

 

「はっ、私は何を!?」

「俺に褒められた瞬間にショートしてたぞ。まさかかのんたちに褒められてもそうなんのか?」

「違いますよ! 先生だけですから!!」

「なぜ俺だけ?」

「あっ、い、いや何でもないです!! とにかくたこ焼きのお代払ってください! ほらほら!」

「えっ、急にどうした? ってタダじゃなかったのかよ!? あのチラシの割引券はなんだったんだ!?」

「私の機嫌を損ねたから有効期限切れでーす! さあさあ早く!」

「分かったから急かすなって! つうか顔真っ赤だぞ?」

「~~~~ッ!?!? あぁ~もう代金2割増しです!! さっきのたこ焼きの材料が超高級食材だったので!!」

「どうしてそうなる!?」

 

 

 何故か暴走し始めた千砂都に理不尽な金を請求される。頬を真っ赤にしているその様は髪が白いためかよく分かり、羞恥心を隠そうとして言葉をまくし立てているのだろうが全く意味がない。ドSキャラにこういった表情をさせるのは俺の愉悦でもあるのだが、コイツの場合は取り乱しすぎてこっちがやり過ぎたと思ってしまうくらいだ。俺はただ褒めてただけなんだけどな……。

 

 でも思い返してみれば、褒めただけでここまで恥ずかしがることは過去になかった気がする。褒め方の度合いにもよるだろうが、ここまで露骨に反応を見せたのは初めてだ。クソ雑魚メンタルかと思っていたけど、本当は俺から褒められて嬉しいってことなのか? 単に照れ隠しってだけなら可愛いものだけどな。

 

 

 その後、千砂都をある程度宥めることに成功したおかげで無駄な金を払わずには済んだ。もう夜も近くなってきたのでそのまま帰宅したのだが、結局別れ際まで彼女はずっと照れてしおらしくなっていた。それでもたこ焼きは美味かったから食いに来ると言ったら笑顔が戻ったあたり、俺に褒められるのは嬉しいことなのだろう。

 

 

 そして俺が立ち去った後、千砂都は店の片付けをしながら1人呟いていた。

 

 

「美味しいって言ってくれた美味しいって言ってくれた……。また来るって言ってくれたまた来るって言ってくれた……。ふふっ♪」

 

 

 千砂都の脳内に過去の記憶がフラッシュバックする。

 

 

『ダンス上手いな。思わず見入っちゃったよ』

『かのんと可可の夢、叶える手伝いをしてくれねぇか? ファーストライブを成功させてやりたいんだ』

『過去に何があったのかは知らねぇけど、もし誰かに話して気が楽になるんだったら俺が相手になってやる』

『別に逃げたっていい。かのんも可可もすみれも、何も言わないし咎めない。でも、お前はそれでいいのか? 本当にやりたいこと、あるんだろ?』

『見ていてやるよ。お前がダンスの大会で優勝するところも、スクールアイドルとしてステージに立つところもな。俺、お前のダンス好きだからさ』

『かのんがお前の過去から解き放ってくれたように、お前もアイツを前に進ませてやれ。大丈夫だ、今のお前は強くなった。俺が近くで見てきたんだ、保証するよ』

『残業お疲れ様たこ焼き? わざわざサンキュ。お前のたこ焼きは好きだから嬉しいよ』

『俺にダンスを見て欲しい? 別にダンスに詳しくないから教えられることは何もないぞ? えっ、見てるだけでいい? ったく、仕方ねぇな……』

 

 

「今日も何だかんだ付き合ってくれたし、やっぱり優しいな先生って……」

 

 

 ここで自分を鼓舞した千砂都は、片付けを途中でやめ、たこ焼きの質を上げるために夜遅くまで料理の練習をしていたという。

 そして、新作たこ焼きを携えた翌日のリニューアルオープンは大盛況だったようだ。

 




 からかい混じりでフレンドリーに接して来るけど、恋沙汰になると恥ずかしがって弱いところ見せる女の子、いいですよね(笑)
 特に千砂都はアニメでも有能な面を何度も見せてくれたので、そういった子に恋愛でモヤモヤさせるのが大好きだったりします! 今回は零君をからかったりたこ焼きの試食という大義名分を盾に彼と一緒にいたいという、彼女の可愛いところを押し出してみましたがいかがでしたでしょうか?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世話焼きギャラクシー

 今回はすみれメイン回です!



「ふぅ……。時間も遅いけど頑張るか」

 

 

 とある平日の放課後。今日も今日とて授業を終えて残る雑務を片付けるだけとなった。とは言っても時間はもう遅く、秋口に差し掛かって来た季節が故か日が落ちるのも早い。あと1時間もすれば外は真っ暗になっているだろう。暗くなると残業をしている感がより一層強くなるため早々に片付けたいところだ。

 

 職員室にいる先生たちはもう帰宅の準備を始めている。このままだと俺だけになってしまうが、これは自分だけに仕事が降り注がれているとかそういうわけではなく、放課後にも生徒たちの相手をしてやっているからだ。勉強で分からないところがあると俺に質問しに来たり、彼女がいない歴=年齢だと思い込んでいる子たちが同情して世間話をしに来てくれたり、可可が顧問になれと勧誘しに来たりと、毎日色々相手をしているせいか雑務をする時間が遅くなってしまう。だから決してブラック企業とか、俺だけイジメられて仕事を増やされてるとか、そんなことは一切ないから安心して欲しい。

 

 そして遅くまで仕事をしていることに対しても別に苦痛ではない。女の子の相手をするのは何だかんだ俺が大好きなことだからな、個人的にこの教師生活は充実していると思ってるよ。

 

 そんなこんなで日も暮れ、外も暗くなってきた。職員室の窓から部活を終えた子たちが帰宅する様子が見える。職員室にいた先生や部活の顧問をしていた先生も順次帰宅し、とうとう残っているのは俺だけとなった。ここまで来ると本格的に自分が残業をしているという自覚が湧き始め、時間が経つにつれて精神も体力も大きく摩耗することになるだろう。そんな疲れを感じるまでには仕事を終えたいところだ。

 

 

「失礼しまーす――――って、あれ?」

「すみれ……?」

 

 

 唐突に職員室に入って来たのは平安名すみれだ。すみれは部屋を見渡して誰もいないことに驚いているようだったが、俺しかいないことを知ると特に躊躇いもなく足を踏み入れてきた。

 

 

「こんな時間までどうした? スクールアイドルの練習か?」

「えぇ。もっと早く終わる予定だったんだけど、ライブが近いからつい熱が籠っちゃってこんな時間になっちゃったわ」

「こんな暗い時間まで練習してたらあぶねぇだろ。ほら、屋上って明かりもないし」

「大丈夫、練習は日が暮れる前に切り上げて、後はライブの打ち合わせをしてただけだから。はい、これ部室と屋上の鍵。先生に渡しておくわね」

 

 

 どうやらライブに向けて相当入れ込んでいるようだ。メンバーが5人となりグループ名も決まったことでコイツらのスクールアイドル活動は本格化してきた。今は『ラブライブ!』の優勝を目標としており、そのためにグループの知名度を上げるため小さなライブイベントにも積極的に参加している。μ'sやAqoursの例に漏れずコイツらもグループ結成までの道のりはそれなりに険しかったものの、今となってはそれなりの実力のグループとなっており、コイツらの活躍こそ俺の今後の楽しみとなっていた。

 

 

「そういう先生は1人で残業?」

「教師には色々やることがあるんだよ。ただお前らを教えるだけだったらどれだけ楽だったことか」

「そういえば放課後にもよくみんなの勉強を見てたりしてたわね。全部1人で請け負わなくても少しは他の先生に任せればいいのに」

「俺に期待をして頼みに来てくれたんだから、その気持ちを無下にするわけにはいかねぇだろ。それに生徒が先生に授業以外で話しかけるのって、まあまあ勇気がいることじゃないか? だったらその勇気に免じてやるってのが教師だろ」

「そうかしら? 別にアンタに話しかけるくらいはどうってことないわ。なんか先生ってより大学生の先輩って感じだし」

 

 

 俺が気になっていたことをストレートに言うなコイツ。やっぱり俺って社会人に見えてないのか?? 確かに身だしなみや言葉遣いがズボラなのは性格なのか中々治らず、挙句の果てに恋に注意されるくらいだから大人と思われなくても仕方ない。フレンドリーに接してくれるのはありがたいけど、これだと威厳も何もあったもんじゃねぇな……。

 

 

「忙しいけど苦ではないってことだけ伝えとくよ。ほら、日も落ちてるから早く帰れ。まだやることがあるからボディガードとして帰ってやることもできねぇしな」

「…………」

「なんだよこっちをじっと見て?」

「あっ、う、うぅん、なんでもない。そっちこそ遅くならないように気を付けなさいよ、まだ月曜日なんだから」

「分かってるよ」

 

 

 意外にも俺のことを心配してくれるんだな。コイツのことだから『残業するなんて効率悪い人の証拠』とか『彼女いない上に残業マンとか、仕事に魂を捧げてる社畜みたいで惨めね』とか、普通に罵倒されると思っていた。被害妄想が過ぎるが、そうやって罵声を浴びせられるくらいの関係だってことだ。こういうところが教師として威厳がないんだろうな……。

 

 すみれは俺に鍵を渡すと早々に職員室から出て行った。いつも素っ気ない態度のアイツが心配してくれたことに小さな喜びを感じながら、残りの作業を黙々と進めていく。

 そして少し時間が経った時、俺のテーブルに突然マグカップが置かれた。入れたばかりほろ苦いコーヒーの香り。顔を上げて見ると、そこには帰ったと思っていたすみれが立っていた。

 

 

「えっ、お前どうして?」

「煮詰めてるみたいだから差し入れよ。勝手に職員室のポットを使わせてもらったけど、他に誰もないからいいわよね」

「いやそれはいいけど、わざわざ俺のために?」

「か、勘違いしないで! 1人寂しく居残りしてるアンタを見てたら同情しただけ! あのまま何もせず帰ったら罪悪感に苛まれそうだったから仕方なくよ!」

「そ、そうか、そりゃありがとな……」

 

 

 これほどまでに分かりやすいツンデレを久しぶりに見た気がする。顔を赤くして全力で否定している様がまさにそれらしい。何かと俺に悪態をついてくるコイツだが、その実、性格はかなりのお人好しである。イジラレキャラとして確立されながらも世話焼きってのはμ'sのにこを思い出すな。

 

 お節介欲も満たされたので今度こそ帰宅するのかと思っていたが、すみれはまだ職員室に居座っていた。なんだかそわそわして落ち着かない様子で、俺の方をチラチラと見ては何か言いたげな表情をしている。ぶっちゃけ隣で見られてると作業しにくいっつうか、気が散って仕方がないんだが……。

 

 

「あのさ、帰らないのか?」

「べ、別に今日は家に誰もいないし、遅くなっても問題ないのよ!」

「いや家族がいるいないの問題じゃなくて、夜遅くなるから早く帰った方がいいってことだよ。それにかのんたちを待たせてんじゃねぇのか?」

「みんなは先に帰らせてるから気にしなくていいわ」

「ということはなんだ? やっぱり俺のために……?」

「だから違う!!」

 

 

 かのんたちを先に帰らせたってことは、最初からここに残る気満々だったってことじゃねぇか。そんなにも顔を真っ赤にして否定されても説得力の欠片もない。罪悪感とかなんとか言っちゃって素直じゃねぇ奴。ま、本人のプライドのためにも敢えて核心は突かずに黙っておいてやるか。

 

 

「た、()()()()こうして残ってるんだし、私に手伝えることがあったら手伝ってあげてもいいわよ……?」

「たまたまね……。気持ちは嬉しいけど、仕事を生徒に任せるわけにはいかねぇよ。お前を信頼してないとかじゃなくて、社会的にな」

「そ、それはそうかもしれないけど……あっ、机の上汚いじゃない! 片付けてあげるわ!」

「いやいいって!」

「このショウビジネスの世界で生きてきた私を拒もうって言うの!? この私が直々に雑用をしてあげようとしてるのに!?」

「それは関係ねぇだろヒドいこじ付けだなオイ!?」

 

 

 どんなことでもいいので俺を手伝いたいらしい。だがあまりにも必死過ぎて怖いというか、普通に片付けてくれるのであれば大歓迎なのに鬼気迫る感じで来られたら誰でも警戒するだろ……。これもお人好しでお節介な性格の性なのか、それとも空回りしているだけなのか。どちらにせよ俺のために残ってくれていることは確からしいので、せっかくだし頼ってみるか。

 

 

「ったく、だったら適当に片付けておいてくれ。最近忙しくてデスク周りに気が払えてないからさ」

「そ、そう? 仕方がないわねぇ~やってあげるわよ。感謝しなさいよね」

「調子に乗るのは相変わらずだな……。」

 

 

 ゴリ押しだけど自分の思い通りに事が進んで何故か得意顔になるすみれ。空回りしてたのに何だかんだ結果オーライになった時の快感が半端ないのは知っているが、ここまで得意気になれるのはある意味才能だな。でも俺は年下の女の子が胸を張って粋がる姿を可愛いと思っている人種だから、別に迷惑でもなんでもない。むしろ微笑ましくて癒しになるからもっと自分を誇示しようと空回りして欲しいもんだ。こういうところがドSキャラって言われるのか俺……。

 

 こうしてすみれが俺の周りをうろちょろしながら片づけを始めたのだが、想像以上に散らかっていたためか早速呆れられていた。

 

 

「片付けるとは言ったけど、思ってたより大変そうね……。お菓子の空き袋とか要らない書類の山とか、アンタもしかして片付けできない系男子なの?」

「いやそんなことはない。最近忙しかいから片付ける暇がないって言ったろ? まあ家だと妹が世話を焼いてくれてるから、自分ではあまり片付けしない方だけどさ……」

「彼女なし。だけど妹には甘えている。意外とダメ男に片足突っ込んでたのね……」

「なんだその冷たい目線は!? そりゃ妹に頼ってるところはあるけど、別に社会人として真っ当に働いてるだけいいだろ!!」

「仕事の疲れやストレスを妹にバブることで発散してなければいいけどね」

「そこまで来たらもう人間として終わりだろ……」

 

 

 楓だったら言ったら何でもやってくれそうで、それこそバブらせてもくれそう……いやいや、俺のプライドのためにも考えること自体をやめよう。

 楓に頼っているってのは本当で、アイツが家事好きお世話好きってのもあり、部屋の掃除とかもアイツに任せることが多い。もう何年もそのスタイルだから気にしてなかったけど、さっきみたいにそのことを指摘されるとダメ人間の烙印を押されても仕方なく思える。でも女の子に頼って生きていくのって男の憧れの1つでもあるからな、恥じてはいないぞ。

 

 

「この食べかけのお菓子、捨てちゃっていいの?」

「あぁ」

「この書類の山は要るの?」

「そこに溜まってるのは全部いらない」

「お腹空いてない? 軽くなにか作ってあげてもいいわよ」

「大丈夫だ、もうすぐ終わる」

「座る姿勢が悪いわね。もっと背筋を伸ばさないとすぐ疲れるわよ」

「分かってる――――って、お前は俺の母さんかよ!?」

 

 

 身の回りの片付けをしてくるのは嬉しいけど、いつの間にか空腹や体調の心配までされていた。本人は善意だと思うのだが、年上の男性に対してよくそこまで過保護になれるもんだ。やっぱり他人を思いやれる性格が自然と表に出ているのだろう。今回その他人の枠が俺だから余計に入れ込んでいるのかもしれないけど……。

 

 

「ちゃんと言ってあげないとアンタすぐズボラになりそうで危なっかしいもの。自分の先生の怠惰な姿なんて見たくないでしょ。だから『カリスマギャラクシースクールアイドル』である私が直々に相手をしてあげてるの、感謝しなさいよね」

「長い異名だな……。ま、感謝はしてるよ。俺のためにわざわざ夜残ってまで世話してくれてんだから」

「な゛っ!? だからアンタのためじゃないって何度も言ってるでしょ!! 私のためよ私の! 自分の先生の評判が悪いと生徒の私まで影響するんだから。もしそれでスカウトされなかったらアンタのせいだからね!」

「へいへい」

「なに笑ってんのよ!!」

 

 

 さっき軽食を作るか聞かれたが、その分かりやすいツンデレを堪能してお腹いっぱいになったから十分だ。素直に遅くまで仕事をしている俺が心配だからって言えばいいのに。もしかして本当に俺のことを心の底から意識してるからこそ……なのか? 俺のことを好きかどうかはさて置き、ここまでいい反応をされるともっと心を掻き乱してやりたいというサディスティックな欲望が湧き上がってくる。千砂都が人をからかう時もこういう快感があるのか、あまり共鳴したくはなかったけど今ならアイツの気持ちが分かるよ。楽しいもん、コロコロ変わるすみれの反応を見るのがな。

 

 

「笑ったのは悪かったって。でも残って世話を焼いてくれてるってことは、少なからず俺の手助けをしたいって思ってくれてるんだろ? そう考えると嬉しくってさ」

「そ、それは……ちょっとはアンタのためでもあるけど……」

「優しいんだな、お前」

「は、はぁ!? なによ急に!?」

「自分を誇示する性格ながらも相手を思いやれる人格の良さがある。何だかんだ言いながらお前が一番かのんたちを気遣ってるもんな。それこそ母親みてぇにさ」

「そ、それはみんなが私をヒヤヒヤさせるからよ。特に可可なんて運動音痴なくせに無駄に活発だから、ダンス練習の時に怪我をしないかいつも心配で……」

「そういうところが優しいんだよ。こうして俺にも構ってくれるしな」

「う゛っ……」

 

 

 さっきまで言い返してきたのに何も言わないってことは、俺の指摘が図星だってことを自覚しているのだろう。流石のツンツン少女もここまで自分を分析されたら黙るしかないようだ。自分の考えを相手に読まれるほど恥ずかしいことはないが、今のすみれがまさにそれで、羞恥心でまたしても顔を真っ赤にしていた。

 

 

「またこうして残業をすることになったらコーヒーを入れて欲しいって思うよ。お前の入れてくれたコーヒー、美味かったしな。こりゃ拒否せず飯も作ってもらえばよかったよ」

「ふえっ!? そ、そんな……ふ、ふんっ! まぁアンタがどぉ~~~~してもって言うのであれば作ってあげるわよ」

「かのんたちがお前の料理は美味いっつってたしな。楽しみにしてるよ」

「私が先生に手料理を……」

「ま、残業することになったらって言ったけど、そもそも残業したくはないんだけどな……って、どうした?」

「先生に手料理を――――ふえっ!? な、なんでもないわよ!!」

 

 

 今ちょっとフリーズしてたけど、何か妄想してたよな……? 男に手料理を振舞う妄想をして恥ずかしがるなんて意外とピュアなのかもしれない。そう考えるとLiellaの子たちってみんな恋愛関係には弱くて、何かと都合のいい妄想をしては羞恥心爆発する子たちばかりな気がする。別にそれは構わないのだが、虹ヶ咲の奴らの積極性を見ていると同じ年代の女の子なのにギャップを感じちゃうな。まあアイツらが異常と言えば異常なんだけどさ。

 

 恥ずかしさからかしばらく俺と目を合わせてくれなくなったすみれは、手早く俺のデスク周りの片付けを進める。話しかけられなくもなったので、俺も残りの作業を超特急で終わらせた。気付けば溜まっていたゴミも書類も綺麗に片付けられており、散らかっていた教材も整えられている。他人への思いやりがあり、料理が上手く掃除もできるって、男が理想として描く彼女そのものじゃん。これから毎日俺の周りの整理整頓を頼みたいって言ったらまた恥ずかしがるのだろうか。

 

 

「思った以上に綺麗になってるな、ありがとう。こっちの仕事も終わったし、そろそろ帰るか」

「え、えぇ……」

「なんだ歯切れが悪いな。まさか俺と一緒にいる時間が終わって()()()……って、流石にそれはねぇよな」

「…………」

「えっ?」

「な、なんでもないわよ!! ほら、アンタのせいで遅くなったんだから早く準備しなさい!」

「いやこの時間まで残ってたのはお前の意思であって強制ではないだろ……」

「なんか言った?」

「なんでもねぇよ」

 

 

 まさか俺と2人きりになるために残っていた……ってことはないよな? コイツのお人好しでお節介でお世話焼きの3段スキルが発動しただけで、そんな桃色の展開はない……のかな? あれだけの女の子たちと触れ合っておきながら未だに女心が分からないからな俺。そもそも女心をどう理解するのかって永遠の課題だろ。こういう時に気が利く言葉をかけてやれる奴がデリカシーのある男って言われるんだろうな。

 

 職員室を出て廊下を歩く俺たち。俺の少し後ろをすみれがついて歩いている状態。

 背中にずっと彼女を視線を感じる。気になるが振り向くと『こっち見るな!!』と言われそうだったので、歩幅を合わせながらゆっくりと玄関へ向かう。

 

 

 その途中、すみれは思い出していた。

 

 

『興味あるのか? スクールアイドル』

『他の奴らはバカにしてるかもしれねぇけど、俺はお前が街中でスカウトされてもおかしくないって思うぞ。だってお前美人で綺麗で、魅力あるじゃん』

『アイツらは確かにアマチュアだけど、自分が輝くのにプロもアマも関係ないだろ。誰かに声をかけてもらうまでくすぶっている誰かさんより、アイツらの方がよっぽど夢に近づいてるぞ』

『お前はどうなんだ? 自分が輝けるステージに、立ってみたくないか?』

『可可はお前を信じて、お前がセンターで主役となる夢を思い描いて衣装を作ってるぞ。センターが怖いのは分かる。でも、お前は1人じゃない。信じてるさ、アイツらも、俺もな』

『初めてのセンターで緊張してんのか? 大丈夫、お前が見えるところで見守ってやるから安心しろ』

『よく頑張ったな。今のお前はどのショウビジネスの奴らよりも輝いてたぞ』

『ありがとうって、別にお礼を言われるほどのことはしてねぇよ。ただお前のことが気になってた、それだけのことだ』

 

 

「寂しいに決まってるじゃない……。だったら、今この時間は全力で――――」

 

 

 後ろにいたすみれは駆け足となり、俺に追いつき隣に並んだ。さっきまで目も合わせてくれないほど羞恥に苛まれていたのに、今は何故か表情が晴れやかになっていた。

 俺はまだコイツの心境の変化を捉えることができない。だが、少なくとも俺と一緒にいる時間は楽しいと思ってくれているようだ。だとしたらまたコイツを頼ってみるかな。それでコイツの楽しそうな様子を見れるのであれば、俺はそれで満足だからさ。

 




 すみれってアニメで登場してから話数を重ねるたびに株を上げていたキャラだと思っていて、今回零君が言っていた通り人を思いやる気持ちが人一倍強い子だと思っています。そしてネタキャラも務めることができるので、キャラ付けとしてはこの小説にピッタリです(笑)


 今年分の投稿はこれにて終了です。今年は虹ヶ咲編の本格始動から始まり、そして完結、更にLiella編のスタートと激動の年になりました。少しお休みした期間はありますがほぼ毎週投稿できていたので、私としては満足に活動できたかなぁと思います。
 来年は春にアニメ虹ヶ咲の2期も来ますし、ラブライブ界隈がもっと盛り上がってくれれば嬉しいですね!

 それではよいお年を! また来年もよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お堅い表情のほぐし方

 今回は恋の個人回です!



 どうも俺と縁のある学校の生徒会はスクールアイドルを潰したがる傾向があるらしい。音ノ木坂の時は絵里、浦の星ではダイヤ、虹ヶ咲では栞子、そして結ヶ丘では恋。もはや同じ展開を見すぎて飽き飽きしていたくらいだが、一応本人たちもそれなりの理由があってスクールアイドルを否定していたので非難するつもりはない。ただ結ヶ丘でも同じ展開が勃発した際に『またか……』と呆れてしまったことを言いたかっただけだ。

 

 結局のところ、最初は対立していた生徒会長たちはみんなスクールアイドル堕ちしている。その後は今までの威厳はどこへやら、RPGで敵側の時は強かったのに味方になると弱いというテンプレキャラと似たような末路を辿ることが多い。生徒会長はどこかポンコツでないといけないルールにでもなってんのかな……。完璧に見えるけど意外と抜けているところもあるというキャラとしてみれば、それはそれで可愛いのかもしれない。

 

 

「先生! 最近生徒の皆さんとの距離が近すぎます! 新社会人とは言えども教師なのですから、皆の手本になる行動を心掛けてください! あとは口の悪さ、服の着こなし、その他諸々、気を付けて欲しいことがたくさんあって――――」

 

 

 本当に可愛いのか……? 恋と会うたびにこうしてガミガミ文句を言われるんだけど……。

 俺は何故か生徒会室で恋から説教を受けていた。別に説教をするために呼ばれたのではなく、生徒会業務に勤しむコイツの様子を見に来たら説教が始まっただけだ。まあもう何度も同じ内容の説教を受けているので今更響かないけどな。それはそれで問題ありかもしれないけどさ。

 

 

「分かった分かった。善処するよ」

「いつもそうやってはぐらかして……」

「お前こそいつも同じ説教して飽きねぇよな。そんなに強張ってたら綺麗な顔が台無しになるぞ」

「な゛っ!? いきなり何を仰るのですか!?」

「率直なアドバイスだ。怒ってるよりも、いつもの澄ました顔の方が凛々しくて可愛いってことだよ」

「あ、あなたはいつもそんなことを……」

 

 

 そしてそうやって恥ずかしがっている表情も非常に唆られる。女の子の百面相は見慣れてるけど、人が変われば表情もその数だけ存在し、雰囲気も個人ごとに全く違う。俺は女の子個々人の表情変化を見るのが好きなんだ。だから女の子を恥ずかしがらせる言葉も平気で言っちゃうんだよ。別に口説いているとかそういうことではなく、単にこの子のこの表情を見たいって好奇心だ。サディストなんでね。

 

 

「てか様子を見に来てやってる先生に対して即説教とは、お前も肝が据わってるな。まあ教師に堂々と意見が言える度胸くらいねぇと生徒会長にはなれないか」

「来てくださることには感謝をしていますが、素行の悪さの件とは別です。それに関しては生徒会長としてしっかり指導しますから。例え教師であっても……」

「おー怖い怖い。そういうところがお堅いって言ってんだよ」

「由緒正しき結ヶ丘を穢したくないだけです。親の性格が子に移るように、教師の素行の悪さは生徒にも移ります。私はそれを阻止しようとしているだけです」

「真面目だねぇ……」

 

 

 色んな女の子と交流をしてきた俺であっても、流石にここまでド真面目でお堅い奴を見たことがない。栞子と通ずるところがあるくらいだ。恋と言えば名家の令嬢ではあるものの、その実は家が没落貴族一歩手前くらいの資金不足に陥っており、その話諸々あってかこの学校への執着が凄まじい。そりゃ亡き母が創設したこの学校を守りたいって気持ちは分かるけど、未だに俺にだけ厳しいのは愛情の裏返しだったりするのか? かのんたちや他の生徒たちには温和なのに……。

 

 ちなみに生徒会業務の様子を定期的に確認して欲しいというのは理事長の依頼だった。朝の挨拶運動など何かと面倒事を押し付けられているが、どうやら生徒会の様子を見るのは俺でないといけないらしい。

 

 

「だったらどうすれば……」

「ん?」

「どうすればこの堅さをほぐすことができるのでしょうか。かのんさんたちからも『前に比べてマシになったけど、まだ堅いところがある』と言われることがありますし……。笑顔を作るのも苦手で……」

「スクールアイドルをやっていて柔らかい表情ができないってのは致命的だな。でもお前って別に仏頂面ではないし、笑うことくらいはできるだろ。ほら、俺に笑顔を向けてみろ」

「えっ、どうして先生に!?」

「なんだ、特訓に付き合ってやろうと思ってたのに嫌なのか?」

「い、嫌と言うよりも恥ずかしいと言いますか……」

 

 

 恋は顔を赤くしたまま俯いてしまった。確かにいきなり笑顔を作れと言われて綺麗に作れる奴はいないし、意図的に笑みを見せるのは恥ずかしかったか。でもかのんたちと対立していた時と比べると表情は柔らかくなった方(それでもまだ堅いが)であり、俺以外の子たちには普通に笑顔を見せている。だったらどうして俺だけ……。

 

 

「そ、そんなジロジロ見ないでください! セクハラで訴えますよ!?」

「なんでだよ!? お前のためにわざわざ協力してやってんのに!?」

「とにかく見られていると笑顔を作れないので、先生はあっちを向いていてください。鏡の前で練習しますから」

「見られてるとって、スクールアイドルなんだから見られて当たり前だろ……」

「先生だからですよ……」

「なんか言ったか?」

「い、いえ!! とりあえず練習するのでこっちを見ないでください! 絶対ですよ!!」

「はいはい……」

 

 

 つうか邪魔者扱いするんだったら生徒会室から追い出せばいいのに。一応生徒会業務の様子を見るという権限がある都合上、生徒会長の面目として追い出すに追い出せないのかもしれない。

 締め出されないと言ってもこれ以上怒らせたくないので、素直に後ろを向いてやる。今まさに笑顔を苦労して作っている最中なのだろうか。慣れない笑みを必死で作ろうとしているその姿は想像するだけでも健気で可愛い。正直に言ってしまうとその様子を見てみたいのだが、今振り向けばこれまでにない罵声の雨を降らされるだろう。

 

 

「う~ん、何か違います……。もっと口角を上げる? 目を細めてみる……?」

 

 

 色々試行錯誤しているようだが、自分の納得のいく表情になっていないようだ。まあ慣れてない奴がいきなり笑顔を作るってのは難しいよな。仕方ない、拒否されること前提で手を貸してやるか。数多の女の子の数多の表情を見てきた百戦錬磨の俺がな。

 

 

「上手く行ってないみたいだな。手伝ってやるよ」

「な゛っ!? こっちを見ないでくださいと言ったはずですが!?」

「このまま目を逸らしていても日が暮れるどころか年も越しちまうだろ。生徒の悩みを解決するのが教師の務めだ、任せとけって」

「う゛っ……不本意ですが、このままだとライブの時にかのんさんたちのご迷惑になりますから、仕方ないです」

「素直にお願いすりゃいいのに。よし、だったら――――」

「ふぇっ、ちょっ……!?」

 

 

 俺は歩を進め、恋へと近づく。恋が後退りしてもお構いなしに生徒会室の隅っこにどんどん追い詰める。いつも俺に厳しい態度を取るコイツだが、余裕な顔をした年上の男に追い詰められると流石に何も言えないようだ。

 

 そしてとうとう後ろへの逃げ場がなくなり、俺と壁に挟まれるしかなくなった恋。そこで俺は壁に手をつく、いわゆる壁ドンの体制を取った。

 

 

「ひゃっ!? えっ、へっ、ふえぇえええっ!?」

「いい表情じゃないか、柔らかくなってきてるぞ」

「ちょっ、ちょちょちょちょっと!! いきなり何をするのですか!?」

「こうしたら嫌でも表情筋を使うしかないだろ? つうか堅いどころかもう顔がふやけそうになってるぞ」

「み、見ないでください!!」

 

 

 恋は自分の顔を手で覆ってしまった。それほどまでに自分が情けなく表情を崩していることを自覚しているのだろう。しかも箱入りのご令嬢だから男慣れしておらず、ただこうして追い詰められただけで顔を真っ赤にしてショート寸前になっている。かのんたちもそれなりに初心っ娘だがコイツは格別で、今にも目を回して倒れそうになっている。これくらいだったら虹ヶ咲の奴らは耐えられるので感覚が麻痺していたが、普通の女の子からしてみたら刺激は大きいよな。とは言ってもこれは表情を和らげる特訓、やめる気はない。

 

 

「てかそんな顔もできたんだな」

「これって笑顔を作るための特訓ですよね!? だったらこんなことをしなくてもいいではないですか!?」

「そもそもな、笑顔ってのは作るもんじゃねぇんだ。嬉しい時、楽しい時に心から出る表情なんだよ。だから無理矢理作ってもそれには気持ちが籠ってない。まあファン程度なら騙せるかもしねぇが、俺には無意味だ」

「普通にいいことを言っているようですけど、別に私の笑顔は先生のためにあるものではありません」

「あれ、そうだっけ? とにかく笑顔は自然に漏れるのが一番ってことだよ」

 

 

 女の子の笑顔が好きすぎる自分の趣味と、ここ数年ずっと美女美少女たちの笑顔を自分のモノにしてきたので『女の子の笑顔=自分のモノ』という方程式が勝手にできあがってしまっていた。そう考えると相当痛い奴だな俺……。

 

 それはともかく、自然に零れ出す笑顔が一番ってのは気休めではなく本当だ。俺は幾多もその笑顔で心を打たれてきたから間違いない。だから俗に言われる営業スマイルは素人であれば騙せるかもしれないが、真に笑顔の効力を発揮するためには自分が嬉しい、楽しいって思わないといけないんだ。

 

 

「先生が言う笑顔は最もですが、こうして私を追い詰めるのとどんな関係が……」

「ただお前の反応を見たかっただけだ」

「そ、そういうことをするからセクハラ扱いで訴えられるのですよ!?」

「訴えようとしてんのお前だけだから……。まあそれは建前で、お前の緊張を解してやろうと思ったんだよ。お前って俺といる時いつもお堅いからさ」

「こんなことをされたら逆に緊張しますよ……」

「それでいいんだよ。恥ずかしがって熱くなれば凝り固まった心も和らぐだろ」

「それでもこれは強引過ぎです!!」

 

 

 本人は気付いていないかもしれないが良い表情になってきた。俺と一緒にいる時は畏まっている時が多いから、こうして年頃の女の子っぽい仕草をさせれば緊張も解れる――――と思っていたのだが、想像以上に戸惑わせてしまったようだ。でもそのおかげで羞恥に悶えるいい顔を見ることができたから結果オーライかもな。

 

 これ以上壁ドンしたままだと本当にショートさせかねないので離れてやる。すると恋は何故か息を荒くしており、ただ追い詰められていただけなのに疲労が溜まっているようだった。

 つうか顔を赤くして息を切らしてるとか超絶にエロい。恋が美人系だからかその淫猥さが良く似合っている。もはや教師なのに生徒をそんな目で品評するとか終わってんな……。

 

 

「…………」

「ん? どうした胸に手を当てて。まさか意外とドキドキしてたり? なぁ~んてそんなわけ……ないよな?」

「…………」

「恋?」

「ひゃいっ!? えっ、そ、そうですね……」

「えっ、そうなのか!?」

「へっ? す、すみません適当に答えてしまいました……」

「何を物思いに耽ってたんだよ……」

 

 

 俺が離れた瞬間から何やらぼぉ~っとしていた恋。一体何を想像していたのかは知らないが、頬が紅潮しっぱなしなのと関係あるのだろうか。口では俺のことを拒否してたけど、いざ離れてみると温もりを感じられなくなって寂しい――――って思ってくれていたら嬉しんだけど流石にないか。コイツもそうだけど、Liellaの子たちは虹ヶ咲の奴らと比べると好意を表に出さないから俺のことをどう思っているのか掴みづらいんだよな。それだけ恋愛弱者ってことだから、それはそれで反応が新鮮で楽しめてはいるけどさ。

 

 

「とりあえず、笑顔を作る練習はやめにします。先生が言っていた『笑顔は嬉しい時、楽しい時に自然と出るもの』というアドバイス、納得しましたから」

「だろ? ま、ステージに立ってライブを楽しめるようになれば自然と笑えるようになるよ」

「先生って、たまに先生らしいところがありますね。たまにですが」

「2回言わなくてよろしい……。まだ新米教師の身だけど、これでもお前らよりちっとは人生経験積んでんだよな」

「そうですね。私がスクールアイドルになれたのは、先生のおかげでもありますし」

「特別なにかをやったわけじゃない。教師として当然ことをしたまでだよ」

「そういうところですよ。そういうところ」

 

 

 恋は小さく微笑んだ。なんだ、普通にいい顔できるじゃん。小さくても本人から僅かな幸せを感じることができる微笑みだ。どうして笑ったのかは分からないけど、一応教師としては認められているみたいで良かったよ。

 

 その後、生徒会の作業が片付いたので俺は生徒会室を後にした。次は自分の仕事を始末しようと職員室へ向かっている時、偶然にも俺に生徒会の様子見係を命じてきた理事長と遭遇した。

 

 

「あら、もう終わったの?」

「言い草だな。アンタの個人的な事情に付き合わされてるこっちの身にもなってくれ」

「なんのことかしら?」

「惚けんなよ。亡き親友の娘だからか知らないけど、心配してるのがバレバレだっつうの。でも理事長の自分が個人に依怙贔屓するわけにはいかないから、代わりに俺に恋を見守らせてるんだろ?」

「な~んだ、気付いてたんだ」

「当たり前だ」

 

 

 理事長は何かと面倒事を俺に押し付けてくる。そしてその面倒事の内容は大抵が恋や他の生徒が関わることが多い。そのおかげで新米教師にして生徒たちとあっという間に仲良くなったのだが、俺に生徒を任されているという事実にはもちろん気付いていた。理事長は恋の死んだ母親の親友で、その親友と共に築き上げたこの学校を守るためにも生徒のいざこざ、悩み、はたまた日常的な生活の見守りまで俺にやらせているんだ。生徒思いっつうか、過保護っつうか……。

 

 

「やっぱりあなたに任せて正解だったわ。思春期という多感な時期の女の子の心に寄り添うなんて、ベテランの教師でも中々できないから」

「俺が思春期女子に強いってこと、どこで知ったんだ? まあ言わなくても分かるけど」

「そう? じゃあその話はまた今度ということで。これからもあの子、そして生徒たちのことをよろしくね」

「ったく。直々に依頼してくるんだったら特別待遇で給料上げろよ」

「あら? 教師としては当然のこと、だったかしら?」

「っ……覚えてろよクソババア」

「ひどい! これでも理事長だからあなたよりは目上なんだけどねぇ~」

()()()の知り合いなんだったら容赦はしねぇよ」

 

 

 浦の星に虹ヶ咲に結ヶ丘。俺が行く学校は悉く女子高であり、しかも容姿レベルの高い生徒ばかり集まっている。もはや何者かに仕組まれている(虹ヶ咲はマジモノの意図的だが)としか思えない。まあその犯人の正体はもう知っているので今更言及しないけど、もし仮にこの学校にまで顔を出して来たら徹底的に問い詰めてやる。

 

 そんなわけで俺は理事長の個人的な理由により恋を見守っていた。まだアイツに厳しいことを言われたりはするけど、普通科と音楽科の一件を経てその関係も大きく緩和された気がする。なんだかんだ生徒会室から追い出されなかったのがその証拠だ。

 

 

「あ、そうだ。あの子のことを見守って欲しいっていうのは私のお願いでもあるけど、あの子のお願いでもあるのよ」

「えっ?」

「ふふっ、慕われているのね」

「アイツが俺を……?」

 

 

 そんな匂わせることを言い残して理事長は去っていった。

 慕われているってことは俺のことを好き……とか? さっきも言ったがかのんたちは俺が見たことないくらいの初心っ娘すぎて逆に心が読みづらく、俺にどこまで好意を抱いているかはまだ未知数だ。だけど理事長のさっきの言葉、アイツから俺を指名してきたとなると……う~ん、分かんねぇ。もっとアイツらの近くにいれば心の内を知ることができるかもな。

 

 もっと近くにいるために、そうなると―――――

 

 

 そして、俺がいなくなった生徒会室。恋はスクールアイドルの練習へ向かう準備をしながら、ここ半年の出来事を思い出していた。

 

 

『堅いな~お前。もっと楽に生きたらどうだ?』

『どうして声を掛けるのかだって? そりゃ心配だからだよ、お前のことが』

『普通科を除け者にしていいのか? 自分だけ仲間外れになっちまうぞ?』

『嫌でもお前の隣にいてやるよ。そうでないとお前に寄り添ってくれる人、誰もいなくなっちまうだろ。お前は拒否しても、俺は味方であり続けたい』

『俺はお前に普通の女子高生として生きて欲しいんだよ。誰からも恨まれず、日々疲弊するほど思い悩む必要がないようにな』

『一度だけでいい、かのんたちと面と向かいあったらどうだ? 自分の気持ちを押し付けるんじゃない。相手の気持ちを受け取ったうえで、自分の思いを打ち明けるんだ。大丈夫、アイツらも同じだ。今こそ同じ土俵に立って、向かい合って見ろ』

『スクールアイドルになったのか。そりゃ良かった』

『ありがとうございましたって、俺はなにもしてねぇけどな。教師として当然のことをしただけだ』

『いい初ステージだったな。やっぱり笑ってる方が可愛いよ』

 

 

「何をやっても当然ことだって、どれだけお人好しなんですか……ふふっ」

 

 

 どんな時でもずっと寄り添ってくれた人を思い出し、恋は今日もスクールアイドル活動に勤しむのであった。

 




 あけましておめでとうございます! 今年もこの小説をよろしくお願いいたします!

 というわけでキャラ紹介を兼ねた1回目の個人回が終了しました。メインキャラが5人しかいないおかげで各キャラをより深堀することができ、しかもメインを担当させられる回数も増えるのがLiella編の特徴になると思います。虹ヶ咲編では主人公格の侑を除き、各キャラの登場話数がかなり少なかったので……

 次回からはいつも通り日常回に突入していく予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

顧問になるなる催眠療法

 キャラ説明も兼ねた初回の個人回が全員分終わったので、今回からはいつも通り日常編となります!




「な~んで俺が部室の物置の片付けを手伝わなきゃいけねぇんだよ……」

「先生はスクールアイドル部の顧問なので当然デス!」

「いや勝手に顧問にすんな……」

 

 

 俺は可可にスクールアイドル部の部室にある備品倉庫の片付けを手伝わされていた。『棚の上の重い荷物を降ろしたい』と男手が必要そうなお願いの仕方だったのだが、蓋を開けてみれば倉庫全体の掃除にまで駆り出される始末。実際に女の子が運ぶには重い荷物があったので騙されたわけじゃないのだが、その流れで他の作業まで手伝わされてしまっていた。最初から普通に頼み込んでくればこっちだって素直に了承したのに、わざわざ変な口実を作りやがって……。

 

 つうかコイツらって俺を誘う時に何かと理由をこじ付けてくる。2人きりで勉強を見てくれだの、顧問の押し売りに来るだの色々だ。別に一緒にいたけりゃ空いてる時間であればいくらでも相手をしてやるのに、そういう素直に自分の気持ちを表に出せないところがまだウブなんだろうな。

 

 

「先生も往生際が悪いデスね。さっさと顧問堕ちすればこうして執拗に勧誘されることはなくなりマスよ」

「顧問堕ちって……。むしろ拒否され続けてんのに諦めないお前の方が往生際悪いだろ」

「諦めない粘り強さこそスクールアイドルに必要な根気デスから! それに顧問になってくれるのなら先生の方が嬉しいデスよね、かのん?」

「えっ!? 私に振るの!?」

 

 

 俺たちの会話に混ざらず隣で黙々と作業をしていたかのんに飛び火する。俺と可可の顧問やるやらない論争はもはや日常会話レベルで定番になっているから、かのんは特に気にも留めなかったのだろう。だからこそ急に標的が自分になって驚いていると思われる。

 

 かのんは頬を染めながら俺の顔を見たり目を逸らしたりしている。もしかして、いやもしかしなくてもコイツも俺に顧問になって欲しい系女子か? スクールアイドルが有名になったこのご時世、コーチを募集したり逆に募集されたりするビジネスが流行るくらいだ。それを利用すればいくらでもコーチを兼ねた顧問になってくれる奴はいると思うが、本人たちからすれば他所の見知らぬ奴より信頼できる奴の方がいいということだろう。ま、その気持ちは分からなくはないけどさ……。

 

 

「わ、私は……あっ、なんだろうこの本!! 埃被ってるからとても古そうだな~~なぁ~んて」

「ちょっとかのん逃げないでくだ……ん? サルでもできる催眠療法?」

 

 

 かのんが棚の奥から取り出したのは、もう何年も開かれてないだろう埃塗れの本だ。かろうじてタイトル部分だけは読め、そのタイトルはさっき可可が言った通りだ。

 つうかサルでもできるって、本当にそんなタイトルが付けられた本がこの世に存在してたんだな。漫画やアニメなどの創作世界だけのモノかと思ってたぞ。

 

 

「ふむふむ、どうやら日頃の疲労やストレスを催眠術によって解消する方法が書かれてるみたいデス」

「でもどうしてこんな本がスクールアイドル部の倉庫にあるんだろう?」

「日本の女子高生ってこういう効果が曖昧な遊びで盛り上がるのが好きじゃないデスか。かつては占いとか嘘くさい恋愛指南とかが流行っていたと聞きマス。これもその一環じゃないデスか?」

「どうだかは分からないけど、ここの倉庫にあったってことはスクールアイドルの誰かが使ってたのかな? ほら、疲労回復にも効果があるって言ってたし、練習終わりとかに遊びがてら試してたとか」

 

 

 疲労を催眠術で治すなんてカルト的な何かを感じるんだが……。効果があるとは到底思えないが、こういうのはプラシーボ効果もあるから一概に効果ゼロとは言えないか。自分が元気と思い込むことで心身ともに活力が湧いて来るのは良くある話だ。それでスクールアイドルの活動が頑張れるのであればそれほど楽なことはないけどな、金もかからねぇし。

 

 

「あっ、いいこと思いつきマシた! ふっふっふっ、この催眠療法を先生に試してみるのデス!」

「はぁ? どうして俺なんだよ? 仕事は忙しいけど別に疲れてもねぇしストレスもねぇぞ」

「いや先生は重大な病に侵されています。顧問イヤイヤ病というどこの病院でも治療できない不治の病に……」

「それ俺がワガママ言ってるみたいじゃねぇか……」

「とにかくモノは試しデス! いいからそこに座わるデス!」

「ったく……」

 

 

 可可は一度興味を持ち始めるとその対象に対して異常なまでの執着を見せる。俺に顧問になれと言ったり、かのんを執拗にスクールアイドルに誘っていたのがその証拠だ。そして今回も無理矢理倉庫の片付けを手伝わせてる上に、胡散臭い催眠療法を他人に試そうとしている始末。辛抱強いと言うべきか諦めが悪いと言うべきか。まあそれくらいの押しの強さがあるこそ今のLiellaがあるわけだから、一概にその性格を否定できないけどな……。

 

 仕方ないから適当に付き合ってやることにする。椅子に座り、前には可可が本を開いて仁王立ちしている。

 

 

「ふむふむ、こうして五円玉に糸を括りつければ――――はい、催眠道具の完成デス!」

「なんて古典的な……。今の時代そんなのに引っかかる奴いねぇだろ」

「だからはモノは試しデス。絶対に先生を顧問にしてみせマスから、覚悟してくだサイ!」

「大丈夫かなぁ……」

「心配するなら止めてくれよ……」

「一度走り出したら満足のいく結果になるまで止まらないのが可可ちゃんなので……」

 

 

 かのんも流れに逆らうのは諦めムード。もう半年も一緒にいるから可可が猪突猛進な性格だってことは分かっているのだろう。おみくじを何度もリセマラして大吉になるまで粘ってそうな性格だもんな……。

 

 可可は催眠術のテンプレ道具である五円玉を垂らした糸を自作し、俺の目の前に突き出してくる。現代科学が発達したこの時代に子供騙しもいいとこだが、コイツが上海出身なことを考えると日本の古典文化に興味を示すのは不思議ではない。現に今のコイツ、超ノリノリだし。てか顧問にできるのなら手段を選ばないのな……。

 

 

「あなたは段々眠くな~る。あなたは段々眠くな~る。眠くなって可可の言うことを何でも聞くようにな~る」

 

 

 最後思いっきり自分の願望を垂れ流してんじゃねぇかオイ。

 可可は五円玉を括りつけた糸を左右に振りながら、これまた古典的なセリフで俺を催眠で操ろうとする。もちろんそんな子供騙しで強固なメンタルを持つ俺を意のままにできるはずがない。だけど効かなかったら効かなかったで効くまでこの場で耐久されそうな気もするので、ここは大人らしく子供の遊びに付き合ってやろう。

 

 ゆっくりと目を瞑り、頭を頷くように動かして眠そうな様子をアピールする。これであたかも効いているかのような演出を作り出せているだろう。これでも世界的名女優である母さんの息子なんでね、演技は上手いぞ。

 

 

「く、可可ちゃん、先生の様子なんかおかしくない?? 凄く眠そうにしてるけど……」

「おぉ~まさか可可に催眠術の才能があったとは! こんなに簡単に人間を操れるのであれば世界征服も夢じゃないデスね……ククク」

「可可ちゃん、笑い方が完全に悪役だから……」

 

 

 俺の見事な演技によって2人を騙せているみたいだ。かのんはまさか本当に催眠術が成功するとは思っておらず驚いており、可可は自分の新たな才能の開花(笑)に胸を躍らせている。つうか催眠で人を操るとかエロ同人じゃねぇんだから。もし本当にそんな力があったら俺が欲しいくらいだ。

 

 

「そろそろ何か命令してみマス。まずはお試しで……うん、あなたのお名前はなんデスか?」

「………神崎零」

「おっ、効いてますよかのん!」

「ホントに!? 可可ちゃんに才能があったのか先生がこういうのに弱いのかは分からないけど、とにかく凄いよ!」

「かのんも何か命令してみてくだサイ!」

「えっ、私も!? え、えぇっと、先生が勤務している学校の名前はなんですか?」

「…………結ヶ丘」

「「おお~っ!!」」

 

 

 目を瞑ってるから分からないけど、コイツら今凄く目を輝かせてんだろうな……。まあまだ高校一年生だし、ガキっぽいところがあるのは仕方ないか。

 つうか人の命令に対して律儀に反応するなんてペットの躾をされてるみたいで、なんだかプライドを傷付けられそうなんだけども。そのプライドを踏みにじってまでコイツらの遊びに付き合ってあげているんだから、大人の鏡として賞賛して欲しいよ全く。

 

 

「効果も実感できたので、そろそろ本題に行きまショウ。スマホで録音をオンにしておいて……よしっ、先生、可可たちの顧問になってくれマスか?」

「これで先生が私たちの顧問に……」

「…………」

「と思ったけど、何も答えないね……」

「何故デス!? まさか顧問になりたくない意思が強すぎるから!? くぅ~可可の催眠に抗おうなんて不届きものデス! 可可に不可能はないってことを教えてあげマス!!」

「ちょっ、可可ちゃん何をする気!?」

「ちょっとこの本を読み直して強い催眠のかけかたを調べるので、かのんは先生を見張っておいてくだサイ!」

「えぇ……」

 

 

 敢えてだんまりを決め込んでみたが、案の定諦めてはくれないみたいだ。むしろ正常に応答しなかったせいで腹いせとして変なことを命令してきそうで怖いな……。

 更に強い催眠術を探すため、可可は俺から少し離れたところで本を読んでいるようだ。そしてその間はかのんが俺の監視をしているみたいだけど……なんか距離が近いような気がする。催眠で目を瞑っている(設定)だから距離感は正確でないものの、女の子特有のいい香りとなんとなくの雰囲気から近くにいることが分かる。コイツ、一体どうしてこんな接近してくんだよ……。

 

 

「先生……もしかして今なら言えるかも」

「…………」

「せ、先生……わ、私のこと……好き……ですか? う゛っ、言っちゃったぁ……!!」

 

 

 えっ、何言ってんだコイツ!? す、好き?? 俺が……かのんのことを??

 驚いてはいるが、確かに予兆と言うかそういった素振りを見せることは幾多もあったから意外ではない。放課後に勉強を教えてくれと言って2人きりのシチュエーションをよく作ろうとするし、そもそも日常的に俺を見る目が熱い。これまで何人もの女の子に言い寄られていた俺なら分かる。コイツ、もしかして俺にことを――――ってな。

 

 だけど実際に直接本人の口からそれが暴かれると分かっていても流石に驚いてしまう。目を瞑っているので彼女が今どんな表情をしているのかは見えないが、恐らくいつもみたいに顔を沸騰させて混乱しているのだろう。だって本人からの熱がこっちにまで伝わってくるくらいだし。

 

 

「先生、答えてくれるかな……」

 

 

 そうか、何か反応してやらないといけないのか。とは言ってもどう返事をするべきか。無言を貫くのが最善手かもしれないけど、いくら俺が眠っている設定とはいえ勇気を出して質問をしたかのんの気概に応えてやりたい欲もある。現に本人も本音を聞きたい欲と、でもやっぱりまだ聞きたくない抵抗感が半々くらいだろう。目を瞑っているけどコイツがそわそわしているような雰囲気が伝わって来るからな。

 

 しゃーねぇ。多感な思春期女子に華を添えてやるか。

 

 

「…………好き」

「ふえっっ!?!?」

「か、かのん!? いきなりどうしたのデスか……?」

「えっ、いやなんでもないよなんでも! あはは……。せ、先生、もう一回言ってください……」

 

 

 なんだコイツ欲しがりかよ……。

 俺に話しかける時はひそひそ声なので可可には聞こえていないらしい。これは『好き』という言葉を自分だけが聞きたい、自分だけに向けて欲しいという現れだろうか。なんにせよ今のかのんは心臓バクバクで息を飲みながら俺を凝視しているに違いない。まるで思春期男子がお目当てのエロ動画を見つけてドキドキ半分、緊張半分で再生ボタンを押す時のような、そんな感じだ。

 

 

「…………好き」

「ぴゃぁっ!?」

「かのん!? 本に集中できないので変な声上げるのやめてくだサイ!」

「ゴ、ゴメン……。先生、本当に私のことを……私を……あぁあああああああああああああっっ!!」

 

 

 動揺しまくってるけど大丈夫かよ……。

 好きかどうかって言われたら好きと言わざるを得ない。だって『恋愛的』に言われてないから人として好きってニュアンスでもOKってことだろ? コイツのことは我が子のように半年も近くで見続けてきたからな、それなりの情ってもんがあるんだよ。

 

 もちろんそんな俺の意図はかのんには伝わっておらず、ガチで告白されたと思い込んであたふたしている当の本人。さっきから荒い息遣いが聞こえるので目を開けていなくても彼女の様子が伝わって来る。てかさっきから全然声が聞こえてこないんだけど、かのんの奴なにしてんだ……?

 

 

「よし、次はこの方法で――――って、かのん!? 顔真っ赤になってマスよ!? というよりショートしていマスけど大丈夫デスか!? それにどうしてそんなにいい笑顔で……」

「ふにゃぁ……す、好き……先生が……私を……」

「先生? 好き? 一体何があったのデスかかのん!? とりあえずそこに寝かせておきまショウ……」

 

 

 どうやらかのんは沸騰のし過ぎで気絶してしまったらしい。笑顔ってことは、さぞ高揚感のある幸福に包まれてぶっ倒れたのだろう。『好き』というたった2文字で女の子をここまで悦ばせられるなんて超安いな……。

 

 

「好き……。そういえば、これを使えば先生に好きって言ってもらえるのデスよね……」

 

 

 同じこと考えてやがるコイツ!? てか可可も俺に好きとか言ってもらいたい人種だったのか?? ほぼ毎日飽きもせず顧問に勧誘しに来るし、その流れでたまに昼飯を一緒に食ったりもするから意識はされてるとは思ってたけどここまでとは……。

 

 

「先生、可可のこと……好き、デスか……?」

 

 

 さっきまでのテンションの上がり具合はどこへやら、急にしおらしくなって俺に問いかけてきやがった。未だに目を瞑ったままなので表情は見えないが、心の目でなんとなく分かる。じんわりと頬を染めてまるで恋する乙女かのような、人には見せられない羞恥に負けた顔をしているのだろう。

 

 そこまで期待を込められたら応えてやるしかないだろう。まあ繊細なかのんとは違って気絶することはないだろうからな。

 

 

「…………好き」

「ふみゅっ!?」

 

 

 なんだその異世界のマスコットキャラのような声は……。

 

 

「い、意外とダメージを受けマスね……。でも可可を倒すには至らなかったようデス……」

「…………好き」

「ひぎゃっ!?」

「…………好き」

「ひゃんっ!? はぁ、はぁ……顔が熱い……胸がドキドキするデス……。でもどうしていきなり連呼を……」

「…………好き」

「うひゃんっ!? あ、あぁ……」

 

 

 ダメだ、反応が面白くてつい連発してしまった。いや今の可可の表情がどうなってるのか目を開けて見てみぇよ! 実はドッキリでしたって言った瞬間の驚く顔、羞恥に染まる顔が見てみたい! でも本人は幸せそうなのでこのまま気絶させてやるってのが一番の優しさだろう。ここまで好き勝手弄んでおいて優しさもへったくれもあったものじゃないけど……。

 

 

「先生が可可のことを……好き? 可可も先生のことを……うぅ、うぅぅううううううううううううううう!! かはっ!?」

「えっ、おい可可!? ってここで気絶するのか……」

 

 

 俺はようやくここで目を開ける。まるで吐血したかのような声だったが、頭から煙を出しているのでただ心の熱さの限界に耐え切れなくなっただけのようだ。もちろん苦しみながらではなく幸せそうに気絶しており、隣に転がっているかのんも頬を紅潮させたままいい表情で眠っていた。自分で『好き』って言わせておいて自爆して気絶するって、どれだけ恋愛クソ雑魚なんだよコイツら……。虹ヶ咲の奴らとは特徴がまるで違って面白くはあるけどな。

 

 このまま2人を床に寝かせておくと身体を痛めそうなので、とりあえず部室に運んでソファに寝かせてやる。未だに顔を赤くして息も荒いので、傍から見れば事後風景に見えなくもない。ていうか普通に勘違いされるよなこれ。千砂都たちが来る前に目を覚ましてくれると助かるのだが―――――

 

 

「こんにちはーーっ! って、あれ? 先生だけ……あっ」

「お疲れ~。ん? 先にかのんと可可が倉庫の片付けをしてたはずだけど……あっ」

「お疲れ様です。先生、いらしていたのですね……あっ」

「あっ……」

 

 

 部室に千砂都、すみれ、恋の3人がやって来た。

 

 催眠なんてかからねぇだろ~って言って実際にかかってしまうというフラグは回避したのに、どうしてエロハプニングに関わるフラグは毎回回収しちゃうかな俺……。

 無駄だと思うけど一応弁解しておくか。こうして冷静でいるあたり、やっぱフラグ回収に慣れてるのだろう。慣れたくねぇけど……。

 

 

「な゛っ、な゛ななななな!? 先生あなたって人はまた学校の風紀を乱すことを!!」

「いや誤解だ」

「どうしてそんなに冷静なのです!?」

「アンタって意外とヤリ手だったのね……」

「人は見かけによらないってな」

「どうしてそんなに淡々としてるのよこわっ!? まさか他の子にも手を出してるんじゃないでしょうね!?」

「ビッグニュースビッグニュース!! 先生が部室でかのんちゃんと可可ちゃんを――――!!」

「おい学内で言いふらすのだけはやめろ!! 女子高生の噂の攻撃力知らねぇだろお前!!」

 

 

 その後、なんとか噂が広がることだけは阻止することができた。この3人の納得を得るのは難しかったが、催眠術で遊んでいる最中にテンションが上がって興奮し過ぎたってことでこじ付け気味に説明して何とか理解を得た。俺に『好き』って言われて気絶したなんて俺からは言えねぇしな。それにコイツら自身も自分の恋心をまだ誰にも知られたくないから、恐らくこの説明で良かったんだろうな。

 

 その間も、2人は幸せそうな顔をして眠っていた。

 




 この小説でのLiellaのキャラは虹ヶ咲のキャラとは違って明確に恋愛下手なので、今回のようにたった一言で悩殺されるほど弱かったりします。そういうところが可愛かったりもするんですけどね(笑)

 メインキャラの数が虹ヶ咲編の半分なので、1人1人の色々な反応を描くことができるため、キャラ個々人により深みが増すと思います! もしかしたらスーパースターのアニメ2期で追加キャラが来る可能性がありますが……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

迫りくる『あ〜ん』

「先生、遅いですよ!」

「いや時間ちょうどだろ……」

「5分前集合は社会人どころか人間としての基本ですよ。しっかりしてくださいよ全く」

「休日に呼び出される社会人の心境も考えてくれ……」

 

 

 今日は千沙都に呼び出され、とある喫茶店の前に来ていた。ちなみに千沙都だけではなくLiella全員大集合であり、何気に休日にコイツらと全員と会うことも、大した目的もなく遊ぶのも初めてである。まあ教師と生徒がプライベートにまで関わりを持つのはどうかと思うけど、俺から呼び出したんじゃねぇからノーカンだよな……。

 

 

「女性を待たせるなんて男の風上にも置けないわね。これだから年齢=彼女いない歴は……」

「そーデスそーデス。顧問として可可たちを待たせるなんて責任能力が疑われマス」

「言いたいこと言いやがって。てか顧問じゃねぇし……」

 

 

 すみれと可可を含め、辛辣組の舌回りは休日であっても絶好調のようだ。年下に、しかも自分の生徒にここまで言われるのは教師の威厳としてどうかと思うが、それだけ距離が近くフレンドリーという意味で肯定的に捉えておこう。コイツらも俺のことを教師としてでなく年上のお兄さんポジションとしてしか見てねぇだろうしな。

 

 

「すみません先生。休日にまでご足労いただき、ありがとうございます」

「昨日は夜まで勉強を見てもらったのに、今日も呼び出しちゃってゴメンなさい。でも、来てくれて嬉しいです」

「お前らだけだよ。俺を気遣ってくれるのは……」

 

 

 対して恋とかのんは他の奴らとは違って大人を休日に呼び出す申し訳なさを理解しているようだ。何気ない気遣いだけど、教師をぞんざいに扱うアイツらいるからこそコイツらに癒やされるよ。恐らく俺を呼ぶのか呼ばないかみんなで議論していたんだろうけど、よりにもよって押しの弱いこの2人が呼び出し否定派となってしまい、多数決を取るまでもなく押し強い派閥の千沙都たちにあっさり敗北したのだろう。なんか2人の苦労が用意に想像できるな……。

 

 

「で? 今日はどんな風にこき使うんだ?」

「やだなぁ〜それだと普段私たちが先生に敬意を払ってないみたいじゃないですか〜」

「いや払ってねぇだろ。特にお前なんて俺の予定も聞かず、自分のたこ焼き屋に無理矢理誘ったりしてくるじゃねぇか」

「そ、それは仕方ないと言いますか普通に誘うと恥ずかしいって言いますか……。とにかく! 今日の目的はこれです!」

 

 

 千沙都は喫茶店の前にある立て看板を指差した。そこにはイチゴのショートケーキ、チョコケーキ、チーズケーキと言った数々のケーキが合体した特別なホールケーキが描かれており、実物を見ていないのにジャンボサイズだってことが分かる。どうやら期間限定のキャンペーンスイーツらしく、完食できたら様々な特典がもらえるらしい。

 

 

「おぉ〜っ! 今まで画面越しでしか見られなかった特製ジャンボホールケーキを、本日ついに食べることができるのデスね!」

「女の子ってこういう甘いの好きだよな。しかもこんなでけぇの、食ったら食っただけ苦しくなって終わりじゃねぇのか?」

「それに見合った報酬があるのよ。ほらこれ、スクールアイドル応援特別キャンペーンって書いてあるでしょ?」

「ホントだ。なにが貰えるんだ?」

「グループのメンバー全員でこのホールケーキを食べきると、このお店直々にそのグループの宣伝をしてくれるんです。だから何か貰えるというよりかは宣伝がご褒美、みたいな感じですかね」

「可可さんたちに聞いたところ、このお店は学生の間で非常に有名なお店で、全国にその名が知れ渡っているとのことです。このお店にLiellaを宣伝してもらうこと、それすなわち全国に名を売ることと同義なのです」

「なるほど、スクールアイドル側からすればスイーツを食えて自分たちの宣伝もしてくれるし、店側もバズって更に人が来てくれるしでwin-winってわけか」

 

 

 Liellaはまだ結成したばかりであり、スクールアイドル界隈でも新参も新参だ。スクールアイドルが流行しているこのご時世、そのグループ数はμ'sが活躍していた頃と比べると格段に多い。だから自分たちの名を売ることもスクールアイドルとして重要な活動の1つとなっている。歌やダンスだけではく自分たちのプロデュースもしなきゃいけない世の中とは、中々混沌とした界隈になったもんだな。

 

 コイツらがこのジャンボケーキに挑戦する理由は分かった。分かった上で気になることが1つある。

 

 

「これ、俺って必要なくないか? 必要ないって言うよりスクールアイドルではない奴は一緒に挑戦できねぇだろ」

「問題ないデス! ほら、ここを見てくだサイ!」

「ん? 顧問の方も一緒に挑戦できます……か。確かにこれなら挑戦できるな――――って、んなわけあるか! 顧問じゃねぇっていつも言ってんだろ!?」

「あれ? 違いマシタっけ?」

「先生っていつも一緒にいるからもう顧問になったんだと思い込んでました。ま、似たようなものですよ!」

「何が!? つうか俺が顧問だって証明は何もねぇだろ。ほら、この看板にも顧問としての証明が必要って書いてあるし、俺は挑戦できねぇから」

「あぁ、その件だったらこの店の予約をするときに、アンタの名前を勝手に借りて顧問として予約させてもらったわ。理事長が根回ししてくれて、今日だけ1日顧問って扱いになってるからよろしく〜」

「あのクソババア覚えとけよ……」

 

 

 勝手に人の名前を使って予約して、勝手に1日顧問に就任させるとかやりたい放題だなコイツら……。てかあのババア、理事長のくせにコイツらにだけそんな贔屓していいのかよ……。まあ自分の学校を救ってくれそうなスクールアイドルだから期待してるってのは分かるけど、あまりにもやんちゃが過ぎる。ここまで堂々と不正を連打されたらいっそのこと清々しくなるな。

 

 

「すみません。止めたのですが、私の力及ばずで押し切られてしまいました……」

「お前が謝る必要はない。まともな奴がいてくれるだけでもありがたいから。かのんも恋と一緒に止めてくれたんだろ?」

「ふえっ!? えぇっと……」

「かのんちゃん、なんだかんだ先生とお出かけすることができるってワクワクしてたでしょ? 頬赤くしながら期待してたのバレバレだったもん!」

「な゛っ!? それはちーちゃんもでしょ!? 先生の話になるといつもノリノリだけど、この話をしてた時はいつも以上だったもん!」

「えっ!? そ、そうかな……あはは」

 

 

 お互いに煽り合って最終的にはどちらも羞恥で自爆するとか何やってんだコイツら……。前の催眠の件でもそうだけど、コイツらやたら自分の行動に対して自爆することが多いよな。それだけ異性とのコミュニケーションが下手ということか。俺は今までたくさんの女の子と出会ってきたけど、ここまで純粋な連中を見るのは初めてレベルだ。ここまで初心だと逆にやりにくいよ……。

 

 

「何してるのよ、もう予約時間だから店に入るわよ」

「早くしてくだサイ! ジャンボケーキが可可たちを待ってます!」

 

 

 すみれたちに煽られ入店する俺たち。店内を見渡すと学生たちに人気な店なだけあってか若い子が多く、壁にはスクールアイドルたちのサインが飾られている。スクールアイドルに力を入れているだけあってかレジでグッズを販売していたり、注目のグループのライブをテレビで流していたりと、聖地と言われている理由が目に見ただけですぐに分かった。

 

 店員の女性にLiellaとその顧問の団体様として席に案内される。『顧問の方ですね?』と聞かれた時、隣で笑っていた可可たち、いつか覚えてろよ……。もちろんここで顧問を否定して帰るような大人げないことはしない。社会人だからな。

 

 そんなこんなで席につき、早速例のジャンボホールケーキを注文する。

 しばらくした後、そのケーキが俺たちのテーブルに運ばれてきた。

 

 運ばれてきたのだが――――

 

 

「こ、これは想像以上にでけぇな……。小さいケーキをホール状に並べてあるとは言えこの大きさか……」

「見てるだけで胸焼けしそうですね……」

 

 

 やはりジャンボサイズってのは実物を見た時の破壊力が凄まじい。最近ではネットの発達もあってこういった規格外の料理やスイーツは画像によって容易に拡散され、動画サイトでは大食いの人たちがそれに挑戦する動画も多く投稿されている。そのためジャンボサイズの料理を目にする機会は多いのだが、やっぱり画面越しで見るより実際に見たときの衝撃は半端ないな。かのんも息を呑んで目の前の特大ケーキに戦慄していた。

 

 対して他の奴らは期待に胸を躍らせているようだ。千沙都、可可、すみれはここに来たがっていたから分かるとしても、恋が目を輝かせているのは意外だった。彼女は没落貴族の家系とは言えども一応名家の娘、こういった一般女子高生が嗜む常識外れのスイーツに物珍しさを感じているのかもしれない。だから意外とこの店に来ることを楽しみにしていたのかもな。

 

 

「うんっ、噂に聞いてた通り美味しいよこのケーキ!」

「はい。これだけ大きくて値段が控えめだったので味の方を心配していたのですが、有名店のケーキ以上の美味しさです」

「これデスこれデス! 可可が食べたかったのは! あぁ〜こんな幸せあっていいのでしょうか……」

「ショウビジネスの世界で生きてきたこの私を満足させることができるなんて、褒めてあげてもいいわね」

「ホントだ。最初は大きさに驚いちゃったけど、これならたくさん食べられるかも」

 

 

 早速みんなでケーキを突っつき始めたのだが、可可たちからは大絶賛のようだ。美味い飯を食う、つまり人間の三大欲求の1つを満足行くまで満たされ、彼女たちの楽しそうな顔は止むことはない。その表情を見られただけでもここに来た甲斐は一応あったかな。まあこのジャンボサイズにコイツらの腹がどこまで耐えられるか。限界を超えそうになったときにその表情がどうなるか見ものではあるがな。

 

 デザートは別腹という言葉の通りか、手を止めることなくどんどん食べ進めるかのんたち。しかしチョコやチーズ、ブルーベリーといった様々な味のケーキが存在しているせいか、同然人気の味のものは真っ先に皿から消える運命にある。そして最初にその運命を辿ったのはケーキの王道たるショートケーキであった。

 

 俺が最後の1切れを食べようとフォークを伸ばした瞬間、ほぼ同じタイミングでかのんもフォークを伸ばしていた。ただ俺のほうが僅かに先で、かのんのフォークに気付いたときにももう遅い。俺のフォークがラスト1切れにぶっ刺さる。

 

 

「悪い、これ食いたかったか?」

「い、いえっ! 先に取ったのは先生ですからどうぞ!」

「生徒にそんな大人げないことするかよ。ほら、食えよ」

「えっ?」

「「「「えぇっっ!??」」」」

 

 

 かのんは目を見開いて驚き、他の4人は声を上げてこちらを凝視する。俺はただフォークの先端に刺さったケーキをかのんに突き出しているだけだが……って、なるほど、この行動が問題なのか。もうこんな感じの食べさせ合いを何度も経験してるから気にならなかったけど、普通に考えれば恥ずかしい行動だったか。

 

 

「せ、先生が私に向かって『あ〜ん』って、えっ、えぇっ!?」

「悪い、配慮できてなかった。フォークから外してお前の皿に置いてやるから、ちょっと待ってろ」

「は、外したところで先生と間接キ……うぅ……」

「なんだよ食うのか? 食わないのか?」

「た、食べます!! そのまま食べます!! いただきます!!」

「えっ、おいっ!?」

 

 

 かのんは俺のフォークの先端に刺さっているケーキをぱくっと食べた。何故か目を瞑りながら、恋人と初めてのキスをするかのような一世一代の覚悟を決めているみたいだ。てかコイツ、恥ずかしがってはいるが今日一番の幸せそうな顔してやがる……。

 

 

「私が先生のケーキを……先生のフォークで私がケーキを……」

「おい気絶しそうになってるけど大丈夫か?」

「せ、先生! 私はこれ! このチョコケーキが欲しいなぁ〜なんて」

「千沙都……? いや自分で食えばいいだろ」

「あぁああああああああフォーク落としちゃいました!! 早く食べないと新しいフォークが来る前にチョコケーキなくなっちゃうなぁ〜フォークがある人が食べさせてくれればなぁ〜」

「俺たちしか食う奴いないんだから待っててもいいだろ……。ったく、分かったよ」

 

 

 普段はあの手この手で俺と2人きりになる口実を作っている千沙都だが、今回の作戦はあまりにも稚拙すぎる。わざとらしいし棒読みだし、そこまで必死になられると応えざるを得なくなるだろ……。

 

 俺はチョコケーキを1切れ自分のフォークに刺すと、それを千沙都に向ける。

 

 

「い、いただきます――――美味しい。先生が私に……ふふ♪」

「千沙都?」

「こんなに美味しくなるんだ……食べさせてもらえるのって……」

 

 

 なんか妄想の世界に入り浸ってないか?? コイツも頬を染めて謎の余韻に浸ってやがる。ただケーキを1切れ食べただけのにこの満足感。そんなにいいのか『あ〜ん』ってやつは。

 

 

「可可も! 可可もお願いしマス! このチーズケーキがいいデス!」

「別に食べさせ合いをしてるわけじゃねぇんだけど……」

「ふ、普段顧問に誘ってあげている恩をここで返すべきデス!」

「恩の押し売りが過ぎる!! 分かった分かった、やればいいんだろ」

 

 

 今度は可可の順番。チーズケーキを1切れ取って彼女の目の前に持っていく。

 すると待ってましたかと言わんばかりに即座に飛びついてきた。なんかコイツの愛嬌の良さもあってペットに餌付けしてるみたいな感覚だな……。

 

 

「美味しい……幸せデス……」

「それはケーキが美味しいのであって、俺は関係ないだろ」

「美味しいデスよ、先生のケーキ……」

「いや俺のではないが……って、もう聞いてねぇなコイツ」

 

 

 愛情の込められた料理が美味いってのはよく聞く話だが、食べさせてもらっただけでトリップするほど味に変化があるか普通……? まあ人それぞれの想いがあるから否定はできないが、一口食べただけで妄想の世界に浸るくらいだから相当嬉しかったのだろう。それだけ喜んでくれるのなら本望だよ。

 

 

「あ、あの、差し支えなければ私もお願いしたいかと……」

「お前が? 珍しいこともあったもんだな」

「か、勘違いしないでください! 私はあのキャンペーンで料金を少しでも安くしようと……」

「『男女でスイーツを食べさせ合った場合、そのスイーツの料金を500円引きします』か」

「だからこれは食べさせてもらいたいとかではなく、ただ単にお金の効率を考えて出した結論で―――――」

「はいはい言い訳はいいから。別に変な理由をつけなくてもやってやるよ」

 

 

 生徒会長として俗物に染まらないプライドなのか分からないが、適当な言い訳を並べて自分の真意を悟らせまいとする恋。だが恋愛下手の女の子が恋愛強者の俺に叶うはずがない。他の奴らを見て自分も興味津々なのが丸分かり。それを悟られぬよう必死になる様子は可愛いけどな。だからその可愛さに免じてやってやりますかね。

 

 

「この抹茶ケーキでいいか? お前こればかり食べてたから好きなんだろ?」

「そ、そこまで私のことを見ていらっしゃったのですね……私のことを……」

「教師として生徒を見守るのは当然ことだ。ほら、食べろ」

「は、はい、いただきます――――ん、こ、これは想像以上に……美味しい……クセになる可能性が……でも恥ずかしい、うぅ……」

 

 

 名家の令嬢には似合わぬ口に物を含みながらの呟き。なんて言っているのかは聞き取れなかったが、コイツもコイツで自分の世界に入り込んでこちらに帰ってこないようだ。彼女がここまで分かりやすくおねだりをしてくるのは初めてだったので俺も応えてやったのだが、どうやら相当なダメージを与えてしまったみたいだ。

 

 

「全く、みんな子供ね。そんなことで動揺するなんて」

「すみれ……。お前はいいのか?」

「はぁ? 私がそんな子供騙しで恥ずかしがるとでも思ってんの? 残念ね、私の無様な姿を見られなくて。で、でも、アンタがどぉ〜〜〜〜してもって言うのであれば『あ~ん』させてあげなくもないわよ? 本気でどぉ〜~~~しても言っていうのならね」

「ならどぉ〜してもやりたいからやらせてもらおう」

「えっ?」

「聞こえなかったのか? やらせてもらおうって言ったんだよ」

「そ、そう? そこまで頼まれたのなら仕方ないわねぇ〜」

 

 

 相変わらず分かりやすいツンデレご苦労さん。煽りに煽ればプライドから俺が敗走するとでも思っていたんだろうが、そんな安っぽい煽りに乗るほど俺の心はヤワじゃない。むしろ他の奴らとは違って自分から頼み込まず、わざわざこちらから食べさせるよう仕向けるその浅はかな考え、俺が打ち砕いてやろう。いや、どちらかといえば『あ~ん』させられてるからコイツの勝ちなのか。ま、どっちでもいいか。

 

 

「ほら、このシャルロット・ポワールってケーキ。洋梨のムースが美味かったから俺のイチオシだ。食ってみろ」

「ちょっ、フォークをこっちに向けないで……。食べたくなっちゃう……だ、ダメよ、負けたら……」

「何と戦ってんだよ……。いいのか? やめちまうぞ?」

「くっ……あぁもう食べればいいんでしょ食べれば! あむっ!!」

 

 

 抵抗していたが、ようやく観念して俺のフォークに刺さっているケーキを口にした。すみれの顔は既に真っ赤であり、さっきまでの抵抗も全て照れ隠しだったのだろう。自分の意志は反抗してるけど、本心は素直になりたがっていたことが丸分かり。ツンデレキャラが使い潰されたこのご時世、ここまで分かりやすい反応をする子は非常に珍しい。もしかしたら歴史的遺物として守っていく必要があるかもしれないぞ。

 

 

「ま、まぁまぁね」

「そんなに顔を赤くしてよく言うよ」

「な゛っ!? これはこのケーキが美味しかったから興奮したのであってアンタのせいじゃ……ま、まぁちょびっとくらいアンタのおかげで美味しくなったかもしれないけど……」

「ん? おいすみれ? あぁ、お前もか……」

 

 

 すみれはぶつぶつ言ったまま俯き、俺の声はもう届かなくなっているようだった。

 ノリではあったものの5人全員にケーキを食べさせてしまった俺。そういや1年前にも虹ヶ咲の奴らに同じことをやった気がするが、あの時は俺も周りの目を気にして恥ずかしがっていた記憶がある。でも今回はもう慣れたのか、逆に女の子を手玉に取る余裕まであった。こんな女の子を誑かす技術ばかり身に付けるから侑に女垂らしって言われるんだろうな……。

 

 そんな余韻に浸っていると、俺たちのテーブルに店員がやって来た。

 

 

「お客様。そろそろお席のお時間が迫ってきておりますが、そのケーキ、食べきれますでしょうか?」

「そっか、席の時間っていう時間制限があったのか。おいお前ら、早く食べ――――って、え゛っ!?」

 

 

 かのんたちを見てみると、気絶しそうになっていたり自分の世界に入り込んでいる奴らばかりで誰1人目の前にまだケーキが残されている現実を向き合っていない。だがもうすぐでタイムリミット。このままだとただケーキを食うためだけに金を払って当初の目的であるLiellaの宣伝を果たせなくなってしまう。残るは1人。そう、ここにいる唯一動ける男が頑張れば話は別だが……。

 

 

「あぁくそっ! 食ってやるよ!!」

 

 

 そしてかのんたちが現実に戻ってきた時、テーブルに青い顔をして突っ伏している男が目撃されたという。

 




 それぞれの個人回でもそうですが、謎の積極性を見せるくせに自爆したり気絶しそうになったりと、あまりにも初心すぎてこんな純粋なこっているのかって話に……(笑)
まあこの小説はキャラが可愛く見えれば何でもOKみたいなところがあります。なので多少のキャラ崩壊も何もかもフリーダムです(笑)

 今回は初めて零君+Liella5人が一堂に会しましたが、文字だけだと誰が喋っているのか分かりづらくなる現象がいつまでも憑いて回ります。特にかのんと千砂都って同じような喋り方なので書き分けが難しい……
もし分かりづらいところがあればコメントください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

結ヶ丘女子高等学校パンツ盗難事件

「おい恋――――っていねぇのか。いねぇんだったら部屋に鍵かけとけよな……」

 

 

 またしてもクソババア、もとい理事長の命令によって生徒会の様子見を任された俺。面倒だと思いながらも生徒のためと思いこうして放課後に様子を見に来てやったのだが、生徒会室は何故かもぬけの殻だった。そういえば今日はスクールアイドルの練習があるって可可が言っていたので、もしかしたら今はそっちに出向いているのかもしれない。それでも施錠されてないのは迂闊すぎるけど……。

 

 机の上を見てみると、作業し終わったであろう書類が乱雑に置かれている。品行方正で礼儀正しく、風紀を重んじる恋は当然ながら身の回りの細かいことにも気を配るタイプ。例え書類のような紙束であってもきっちり整え、ファイルに挟むなどして丁寧に管理する性格のはずだ。やや潔癖症の毛があるアイツなのだが、だからこそこうして散らかったままになっているのが気になる。よく見たら床に書類が何枚か落ちており、アイツにしてはかなり杜撰な管理だ。

 

 

「ったく、仕方ねぇな……」

 

 

 生徒の尻拭いをする教師の鏡。どうして教師たるこの俺が地に這いつくばって書類を引っ掻き集めなきゃなんねぇのかねぇ……。

 そんな惨めな気持ちになりながら片づけを進めていると、傍に何やら布きれが落ちているのことに気が付く。綺麗な純白でシミ1つない。もしかして恋のハンカチだろうか。雑に置かれた書類といい、ハンカチを落としてるといい、アイツにしては珍しいこともあったもんだ。

 

 

「女の子の落としたハンカチを男が拾って届けてあげるとか、そんなテンプレラブコメみたいな展開を今更味わうことになるとは――――ん??」

 

 

 女子のハンカチにあまり男の手垢を付けたくないという配慮から指でハンカチを摘まんで持ち上げたのだが、この布、どうも変だ。持ち上げたときの重力で布が垂れ、その全体像が明らかとなる。その全体は普通のハンカチの形状である四角ではなく三角。しかも二層になっていて大きな穴が1つと小さな穴が2つ。女の子の腰下くらいの大きさと、ちょうど脚が2本入るくらいの穴だ。しかも何故かいい匂い。

 

 ずっとハンカチだと思い込んでいたがこれは違う。これは――――ッ!!

 

 

「パ、パン――――ッ!!」

 

 

「練習に行くことを優先して生徒会室を片付けないで出るなんて、恋にしてはドジねー」

「す、すみません……」

「まぁまぁ、それだけ私たちとの練習を大切にしてくれてたってことで、ね?」

 

 

「うぉおおおおおおおおおおいっ!?」

 

 

「「「えっ、先生!?」」」 

 

 

 一瞬で雪崩のように展開が進んだので説明すると。

 

・俺が摘まんでいた布がハンカチじゃなくてパンツだったことが判明

 ↓

・その瞬間にすみれ、恋、千砂都の3人が生徒会室に入ってきた

 ↓

・俺はその驚きで咄嗟にパンツをポケットに隠してしまった(イマココ!)

 

 

「先生、いらしていたのですね……」

「あ、あぁ、いつもみたいに生徒会の様子を見に来てな……」

「いつもみたいに?」

「はい。生徒会の仕事は大変だろうって、先生がよく私の様子を見に来てくださっているのです」

「恋ちゃんのために? ふ~ん……」

「恋のためにねぇ……」

「な、なんですかその目!?」

 

 

 色々起こって状況整理に時間がかかったが、どうやら俺は自分で自分を窮地に追い込んでしまったようだ。生徒会に置いてあったってことは、今俺のポケットに入っているパンツは恋のものだろう。そして状況証拠だけを見たら俺が盗んだと思われるのは確実。驚いてしまったとはいえ何たる失態なんだ……。てかそもそもどうしてパンツが床に落ちてたんだ?? そもそも練習着に着替えるだけなのにどうして下着まで脱いでるんだ?? 意味不明なことが多すぎる!!

 

 とにかくこのパンツを早めに俺の手元から離したいが、黒い服を着ている男のポケットから純白のモノが現れたら確実に目立つ。千砂都とすみれの注目が恋に向いている今がチャンスなんだろうけど、恋は俺の方をチラチラ見て助けを求めてくるので隙はない。とりあえずまずは話を合わせておくか。

 

 

「俺が生徒会の手助けをしてるのは教師としてだからだ。お前らが嫉妬するほどの他意はない」

「し、嫉妬って、そんなことあるわけないじゃないバカなの!?」

「あ、あはは、そう見えました?? いや~全然そんなつもりなかったんですけどね~……」

 

 

 自分の本心隠すの下手すぎかコイツら。明らかに羨ましそうな目と表情をしてたのバレバレだっつうの。これだから恋愛下手は……。

 ま、今はそんなことより気になっていることを明るみにするのが先か。

 

 

「それよりどうしてこんなに部屋が汚いんだ? 書類が床に落ちてたぞ」

「すみません! 片付けてくださったのですね! 実はスクールアイドルの練習の時間が迫っておりまして、急いで支度をして生徒会室を離れたものですから……。時間がなかったので更衣室ではなく着替えもここで済ませていたので、その時に山にしていた書類を崩してしまったのかと……」

 

 

 なるほど、コイツのパンツが落ちていた理由はそれか。よく見たら生徒会室の端にある机に恋の制服が畳まれて置かれており、この部屋で着替えをしていたことは明白である。急いでいたのでパンツだけ床に落としてしまい、それを何も知らない俺が拾ってしまった、というのがここまでの流れだろう。それでも下着まで着替えた理由は分からないが、女子には女子の理由があるのかもしれない。

 

 うん、大方は理解した。理解したうえで今の状況はヤバいと実感する。女子が着替えをしていた部屋に男が忍び込み、そこでパンツを盗んだという傍から見たらそう思われかねないこの状況。やはり早いところポケットの中に入ってる純白パンツを手元からおさらばさせないと……。

 

 

「それで練習が終わったらこの部屋の片づけをしようと思ったのですが、先生がやってくださったのですね、ありがとうございます」

「ま、まぁ教師として……な」

「な~んだ、だったら私たちが手伝いに来る必要なかったわね」

「うん。あの恋ちゃんが片づけを手伝って欲しいって言うから何があったんだろうって思ったけど、先生のおかげで大丈夫だったね」

 

 

 パンツを盗んだ(故意ではない)事実があるのに感謝されているなんて心がいてぇ……。別に取ろうと思って取ったわけじゃないけど、衝動的にポケットに隠したのも女の子のパンツに対する執着が僅かながらあったからだろう。正直女の子のパンツなんて見慣れてはいるが、だからと言って興奮しないかと言われたらウソになる。女子高校生のパンツって語感だけでも唆られるものがあるだろ? 男ってのはそういうもんだ。いや、こんなことを言ったら俺が本当に故意で盗んだみたいになるからやめよう……。

 

 

「他にも生徒会の仕事が残ってるって言ってたわよね? せっかくここまで来たんだし、手伝ってあげるわよ」

「そうだね。練習後で疲れてる状態だと1人じゃ身が入らないだろうし、私たちも手伝うよ!」

「ありがとうございます。助かります」

「ほら、アンタなにやってんのよ」

「え?」

「恋が着替えるから出てけってこと」

「そ、そうだな……」

 

 

 マズい、着替えが始まったらパンツが存在しないことがバレてしまう。だからと言って俺が犯人だと証拠付けるものは何もないが、ただでさえ今でも緊張感が漂ってる(俺だけ)のに更に張り詰めた空気(俺だけ)にはしたくない。かと言ってパンツを持ったままこの場を去ろうものならパンツ盗難事件が学校中まで広まってしまい、そうなるともはや収拾がつかなくなる。どうすんだよこれ……。

 

 

「ほらほら、早く出て行ってください。もしかして女の子の着替えを見たいっていう変態さんですか?」

「んなわけねぇだろガキが粋がるなよ」

「彼女いない歴=年齢の男だったとしても、流石にそんな真似はしないわよ。多分……」

「おいそこは自信を持って言い切って欲しかったんだが……」

 

 

 そりゃ見たいか見たくないかで言ったら見たいだろ、男なんだから。この欲望だけはいくら歳を取ろうと変わることはないだろう。男には誰しも表には出さないだけで裏では誰にも言えない性癖を拗らせてるもんだ。その欲望をコントロールできる奴が大人なのだろう。

 

 

「あっ……えっ!?」

「ん? どうしたの?」

「し、下着が……ない??」

「えぇっ!? 周りに落ちてないの??」

「探してみたのですがどこにも……」

「ということは誰かが持ち去ったとか、そういう話じゃないでしょうね……」

「そんな……」

 

 

 まあバレるよな。パンツがないことに気づかれるのは遅かれ早かれの問題なので特に驚きもしない。問題なのは俺の手中にあるパンツをどう手放すかだけだ。

 恋のパンツを持っているのが実は目の前にいる男とは知らず、盗まれた可能性があると思い込んで緊張感を走らせる3人。まあ盗まれてると言えば盗まれてるし、盗まれてないと言われたら盗まれてないんだけどさ……。

 

 

「盗まれたとは言ってもここは女子高ですよ? 同性の下着を盗むなんてあまり考えられない気がしますが……」

「そりゃ普通犯人は男でしょ? そしてこの学校に唯一いる男といえば――――」

「おい、どうして俺を見る……」

「別に~。ただこの学校の男ってアンタくらいだから」

「いや流石に先生はないと思うよ。彼女いない歴=年齢だけどそんなことをする人じゃないってみんな知ってるでしょ?」

「千砂都お前、俺のことを信頼してるのか馬鹿にしてんのかどっちなんだ……」

「もちろん信頼してますよ! 下着を盗むなんて心が寂しいことをするわけないじゃないですか。ねぇ~先生♪」

「いややっぱ馬鹿にしてねぇか!?」

 

 

 そりゃ学校に男は俺だけだから疑うのも無理ねぇか……。実は同性愛者がいて恋のことを密かに想い焦がれてる奴がいるのであれば話は別だが、女子高って意外とそうところあるからな。まあ純情なコイツらのことだからレズビアン云々などの俗物的思考にはならないだろうから、必然的に俺が標的にされるわけだ。しかもそれが合っているから怖いところ。さて、どう切り抜けたものかな……。

 

 

「しかし誰が盗んだにせよ、今日私は生徒会室で着替えをしたのですよ? 下着を盗むのであれば普通は更衣室を狙うはずでは?」

「確かにおかしいわね。だとしたら犯人の狙いは最初から下着じゃなくて、この生徒会だったってことかしら。たまたま恋の下着を見つけたから男の欲望に負けて、衝動的に手に取っちゃったとか」

「同じ男性としてどうですか先生? 女の子の下着を見つけたらそういう気持ちになっちゃうんですかね?」

「俺に聞くなよ……。でも男だったら並々の性欲くらいはあるんじゃねぇの。知らねぇけど」

「じゃあ先生もそうなることあるんだ……」

「ねぇよ!! てかまだ俺のこと疑ってんのか!?」

「冗談ですよ冗談! 先生って変なところありますけど、それなりに誠実だってことも知ってますから!」

「それなりって……」

 

 

 素直に褒めるってことを知らないのか千砂都の奴……。

 それにしても更に状況が悪くなりやがった。そもそもコイツらが生徒会室に来る以前に俺が1人でここにいたってことだけでも疑われて当然の状況だ。一応俺を信頼してくれているっぽいから犯人と断定はされてないけど、それでも容疑者候補になっていることには変わりない。ただ疑われないために外部犯の犯行に話を持っていくと学校中を巻き込んで大ごとになってしまうので、そういった騒動はあまり起こしたくない気持ちがある。

 

 てなると未だにポケットに忍ばせているこのパンツを今見つかった扱いにして、犯人は最初からいなかった説で押し通すしかないだろう。だが俺が見つけてしまうと『先生が持っていたんじゃないですか??』とまた難癖をつけられるので、あくまで誰かに見つけてもらう形にしたいが……そんな方法あるのか??

 

 

「とりあえず、かのんか誰かに連絡して保健室から替えのパンツを持ってきてもらったら? 流石に汗のついた練習着のままでいるのは気持ち悪いしね」

「どうして下着まで着替えてるのかって思ったらそれが理由か」

「あれ? 普通そうしません? 運動部とかは替えの下着を持ってきている子、結構いますよ?」

「女の子の事情なんて男の俺が知るかよ。ほら、かのんに連絡するなら早くしてやれ」

「そうですね、お願いしてみます」

 

 

 これはチャンスだ。替えのパンツさえあればいったんは犯人捜しの流れは止まるから、その間にどさくさ紛れてこの部屋のどこかにパンツを落としておけばいい。幸いにもまだ部屋中を細かく探されてはいないから、さっき恋が探した時には見逃していたとか言っておけば大丈夫だろう。

 

 恋がかのんに電話で状況を伝え、保健室から替えのパンツを持ってきてもらうことになった。とりあえずこれで俺への疑いの目はなくなりそうで一安心だ。あとは未だポケットに幽閉されているこのパンツを誰にもバレず外界に解き放ってやれば万事解決。やっぱり世の中って上手いこと回るもんだな。生徒会室でコイツらと鉢合わせした時は下着ドロボー扱いされて退職の未来が思い浮かんだから……。

 

 

「ということで先生、今日は千砂都さんとすみれさんに生徒会の仕事を手伝ってもらいます」

「そうか、だったら俺は必要ないな。あまり遅くなるなよ」

「はい。お気遣いいただき、ありがとうございます」

 

 

 よし、俺が帰る流れになったからこれでみんなからの目が逸れる。ようやく隙ができたので、適当にその辺にパンツを落としておけばそのうち誰かが気付くだろう。その頃には俺はこの場からとんずらしているので、誰も俺がパンツを拾って焦っていたとは思わないはずだ。これで俺の勝ち。余裕だったな。

 

 

「あっ、先生!」

「な、なんだよ千砂都……」

「また新作のたこ焼きを発明しまして、今日みんなにおすそ分けしようと思って持ってきてるんです! さっき温めたので先生もお仕事中のおやつにどうぞ!」

「あ、あぁ……」

 

 

 俺を引き留める気かコイツ。とっととこの場から脱出して晴れ晴れしくなりたいのに……。

 いや落ち着け。ただたこ焼きを受け取るだけだ。トラブルが起きるはずもない。今はもうウィニングラン。ここから大逆転敗北なんてありえねぇから。

 

 千砂都がたこ焼きが入っているだろう弁当箱を持ってこっちに駆け寄ってくる。

 だがその時、彼女の足元にまだ回収しきれていない書類が落ちていることに気が付いた。何か嫌な予感が俺の全身を駆け巡る。千砂都の足が床の書類を踏む。踏まれた勢いで書類が滑り、彼女の体制が崩れ、その身体が俺の方へ――――

 

 

「きゃっ!?」

「ちょっ、あぶねっ!?」

 

 

 千砂都の身体を受け止めて、なんとか転倒することは防げた。言っても俺も後ろに壁がなかったらそのまま仰向けで倒れていたので助かったよ。

 

 

「ちょっと千砂都、大丈夫?」

「うんヘーキヘーキ! 先生が助けてくれたから!」

「すみません、私が片付けなかったばかりに……」

「いいよいいよ、お弁当も中身出てなくて大丈夫そうだしね。先生、ありがとうございます!」

「ったくお前いつも危なっかしいよな。気を付けろよ」

「はいっ! 先生、温かいな……」

 

 

 どうして転びそうになったのに嬉しそうなんだよコイツ……。

 まあいいか。トラブルはあったけど俺の勝ち確定ルートは変わらな――――

 

 

「あれ? 先生ポケットから何か出てますよ?」

「へ? あ゛っ……!?」

「なにそれハンカチ? 真っ白で薄くて、結構女々しいの使ってるのねアンタ……って、恋? どうしたの?」

「あっ、いや、どこかで見たことがあるような気が……」

 

 

 ヤバい!! 千砂都を受け止めた衝撃でポケットからパンツが少しはみ出てしまった!! 黒い服に白いハンカチ(パンツ)なので少しでも頭が出てればそれはそれは目立つこと。しかも恋はこのハンカチ(パンツ)を見て自分のパンツであることを思い出そうとしている始末。勝ち確定の状態から一気に背水の陣。やっぱ俺の人生って穏便にいかねぇな……。

 

 でもどうする? このまま黙っているだけだとバレる。起死回生の一手を打たなければ本当の本当に犯罪者になっちまう。素直に返却すればまだ罪は軽くなっただろうが、ポケットに入れたままこの場を立ち去ろうとしていたことはここの全員が知っている。だから今バレたときの罪状は……想像したくもない。千砂都の身体を支えているので身動きも取れず絶体絶命。恋が思い出す前に、ポケットのパンツが取り出される前になんとかしねぇと……。どうする……ッ!!

 

 

「恋ちゃん、替えの下着持ってきたよ――――」

「かのんさん!?」

「かのん!?」

「えっ、なんですかこの空気……」

 

 

 生徒会室に入ってきたのは替えの下着を持ってきたかのんだった。目の前の状況を見て驚いているようだが、すぐに澄ました表情になると俺に向き直る。

 

 

「先生、ちょっと用事があるんですけどいいですか? あっ、下着ここに置いておくね恋ちゃん!」

「は、はい……」

「さ、行きましょう!!」

「おい!」

 

 

 俺はかのんに手を引かれて生徒会室から図らずとも脱出できた。恋たちはぽかーんとしていたが、そりゃ下着を持ってきたはずなのに急に俺を連れ出すものだからその反応にもなるだろう。

 つうかかのんの奴、一体俺をどうしようっていうんだ……??

 

 あまりに突然の出来事に、俺も頭に『?』を浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして、かのんに廊下の途中まで連れてこられると、ようやく手を離された。

 

 

「危ないところでしたね」

「…………どういうことだ?」

 

 

 何か全てを見透かされているような、そんな気がする。背筋に悪寒が走る。

 

 

「そのポケットに入ってるのって、恋ちゃんの下着……ですよね?」

「…………いや、違うけど」

「恋ちゃんから電話をもらった時、そこに至るまでの出来事も全部話してくれました。私の予想ですけど、もしかしたら先生が落ちていた恋ちゃんの下着を別の何かと勘違いして拾って、その直後にみんなが来たから衝動的にポケットに隠してしまった、と思っていたんですけど違いますか? 生徒会室に入ったとき先生とても焦ってるみたいでしたし、さっき先生のポケットから出てた白い布みたいなもの、よく見たら下着っぽかったのでそういうことかなぁ~っと」

「お前、俺が焦っていたことが分かったのか……?」

「先生のことはいつもよく見てますから……」

 

 

 サラッと怖いことを言われた気がするが聞かなかったことにしよう。

 それにしても、あの一瞬でそこまで察する力があるなんて観察力が高い奴だ。流石はLiella随一の常識人、普段から一歩引いて周りを見ているその観察眼が活きたのだろう。ここまでバレるともう隠しておくのも馬鹿馬鹿しくなってくるな。

 

 

「あぁ、お前の言う通りだよ。参った」

「やっぱり。だったら私が返しておきますね。練習場所に来る途中に落ちていたって言えば多分信じてくれます。急いで生徒会室を出てきたから服のどこかに引っかかって、その途中で落ちたとか、色々言い訳できますし」

「ホントか!? わりぃ、ありがとな」

「いえいえ! 先生にはいつもお世話になっているので、恩返しです! それではまた!」

「あぁ」

 

 

 ようやくポケットに入っていたパンツが外界に解き放たれ、かのんに渡った。

 

 衝動的とはいえ間違えてパンツを隠してしまったことを何一つ咎めず、むしろ受け入れてくれたかのん。すげぇいい子じゃねぇか。俺が思春期男子だったら間違いなくその優しさに惚れてたぞ。笑顔で立ち去る様も絵になってたし、恩返しって言われたけど今度何かアイツの望むことを叶えてやるか。

 

 そんな感じで、波乱万丈なパンツ盗難事件は幕を下ろした。

 なんか、色々ありすぎたせいでどっと疲れた。今日は残業をほどほどにして早く帰るか……。

 




 大体こういうネタの落ちって最後にはバレて何かしらの制裁を浴びるのが普通ですが、今回は聖母かのんのおかげで何もお咎めなしでした! 実際に彼女はこういうことも笑って許してくれそうな気がするので、オタク男子の私としてはお気に入りの子です(笑)



 面白いと思ったらご意見、ご感想をよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

保健室は淫靡な香り

「すみませーん……って、誰もいねぇのかよ」

 

 

 結ヶ丘女子高等学校の保健室。来たのはいいものの中には誰もおらず、机の上の置き書きには『出かけています。何かありましたらお待ちいただくか、常備しているお薬などを使っていただいても構いません』とあった。

 

 俺がここに来たり理由はただ単に手の甲を机の角にぶつけて擦りむいたからだ。根がワイルドだから絆創膏と言った医療用具は持ち合わせておらず、我慢しようも手の怪我は目立つため生徒たちに心配されてしまう。だからあらぬ気を使わせないようにと保健室に治療に来たのだが、あいにく保健の先生は留守にしているようだった。

 ただ消毒液を付けてガーゼを張るか絆創膏を張るだけでいいから特に誰かの手助けは必要なかったんだけど、美人で謎の色気がある保険の先生に手当てしてもらう夢が男なら誰でもあるはず。俺もそのシチュエーションを若干期待して保健室に来てみたのだが、そんな浅はかな欲望はあっさりと潰されてしまった。仕事中の癒しになればいいと思ったんだけどな……。

 

 気を取り直して自分自身を治療することにする。救急箱から適当に消毒液と絆創膏を取り出し、適当に塗って張って1分足らずで治療完了。大した怪我でもないのでこれで終わりだ。

 

 それにしても、保健室ってなんだか学校のどの教室よりも異質な空気を感じるよな。なんかこう淫猥な雰囲気っつうか、俺が毒されているだけかもしれないけど……。

 誰にとは言わないけど様々なプレイに使えそうな治療器具、カーテンで仕切られたベッドなど、もはやラブホやそこらの大人の施設と大差ない空間に思えてしまう。思春期時代に脳を穢し尽くしてきた男からしたら保健室って言葉だけでもあらぬ想像をしてしまうだろう。

 

 

「大人になってまでそんな想像をしちまうなんて、俺もまだまだ子供ってことか。この空間にいたらまた余計なことを考えそうだし、とっとと職員室に戻ろう」

 

 

 未だに保健室でここまで妄想を掻き立てることができるんだから、思春期時代の性欲は失っていないということだろう。それはいいのか悪いのか。どちらにせよこれ以上ここに長居をする必要がないので帰ることにする。これまで脳内ラブホテルの女の子に対して厳しいツッコミを入れてきたが、これだけ妄想が膨らむってことは俺も同類だな……。

 

 そして保健室から出ようとしたとき、俺がドアを開ける前にそのドアが開いた。

 

 

「いったぁ~っ!! もっとゆっくり歩きなさいよ!」

「早く保健室に連れていけと言ったのそっちじゃないデスか! ていうかそれくらい我慢してくだサイ! 女の子なんデスから!」

「いやそれは男の子に言うセリフでしょ! どれだけ日本に毒されてるのよ!」

「すみれ、可可……?」

「「先生!?」」

 

 

 保健室に入ってきたのは体操服姿のすみれと可可だった。向こうも入っていきなり俺が目の前に現れて驚いているようだ。

 当たり前だがここに来るってことは穏やかではないことが起きたということ。可可がすみれに肩を貸している姿を見て大体を察する。

 

 

「なんだ? すみれお前、体育で怪我でもしたのか?」

「ただ足を挫いただけよ。軽く捻っただけだから少し休めば問題ないんだけど、可可が大袈裟にするから……」

「何を言っているのデスか! これでもしちゃんと治療せずに放置してヒドいことになったら、スクールアイドルの練習ができなくなってしまいマスよ!? そうなったらLiellaのレベル低下に繋がるのデス! それでかのんたちに迷惑をかけたくないので、こうして可可が面倒を――――」

「はいはい分かった分かった。可可はすみれが心配だったんだな」

「ち、違いマス!! 誰がこんな高飛車ナルシストなんかを心配するのデスか!?」

「アンタ私のことをそんな目で見てたわけ!? くっ、いてて……」

「とりあえず先に座らせてやれ」

 

 

 相変わらず喧嘩するほど仲が良いって言葉を表現したかのような2人だな……。外見だけを見ればギスってるように見えるが、もちろんお互いの絆の強さは本物だ。最近までは言うほど仲が良かったわけじゃなく(一方的に可可が強く当たっていただけだが)、とあるライブですみれがセンターを任させられた時に一悶着あり、紆余曲折あってお互いを認め合って今の関係に至る。それでもさっきみたいな煽り合いはなくならないけど、それももはや微笑ましい日常会話レベルになっているので誰も気にしない。夫婦喧嘩が痴話喧嘩に見える現象と同じだな。

 

 そんな会話を経て、すみれを近くの椅子に座らせてやる。

 

 

「そこの戸棚に包帯が――――あった。これでいいか? 軽く捻っただけならこれを巻いておくだけでいいだろ」

「えぇ。でも今身体を曲げると脚にも刺激が走って痛いから、申し訳ないけど代わりに巻いてくれない?」

「だとよ、ほら可可」

「可可はいったん体育館に戻りマス! 体育の先生もかのんたちもすみれのこと心配していたので、大丈夫ということを報告したいのデス!」

「えっ、ということは……」

「アンタがやってよ……」

「先生がお願いしマス! また戻ってきマスから!」

「マジで……?」

 

 

 いきなり女の子の治療を押し付けらてしまう。どうしようかと迷っている間に可可が保健室から立ち去ってしまい、ここには俺とすみれの2人だけとなった。いや別に治療をしてやるのはいいんだけど、あまりこういったシチュエーションを経験してこなかったせいか少し緊張してしまっている。やっぱり保健室という場所が煩悩を掻き立てているからだろうか。

 

 

「あぁ、まず脱がないといけないわよね」

「脱ぐ……?」

「ちょっ、なに変な想像してるのよ!? 靴下を脱ぐって意味よ、この変態!!」

「いやお前が想像力豊かなだけだろ!? 脱ぐってだけで反応するとか性欲塗れの思春期じゃねぇんだから!」

「どうだか……。とりあえず靴下を脱ぐから、早く包帯を巻いてよね。我慢してるように見えるけど普通に痛いんだから」

「お前が突っかかってこなけりゃ穏便に事が進んでただろ……」

 

 

 とは言いつつも、保健室って言葉だけで妙な妄想を抱くくらいにはまだ思春期の思考が残ってるんだよな……。男だから仕方ないけど、さっきみたいにそこにツッコミを入れられると如何に自分が低俗な存在か分かるな。これも思春期時代に大人の知識にどっぷり浸かり込んでしまった結果だろう。女の子が『脱ぐ』発言しただけで反応しちまうんから……。

 

 そしてすみれは白のロングソックスを脱ぎ始める。

 なんだろう、やっぱ謎の艶めかしさがある。女の子が脱ぎ、素肌が徐々に見えていくこのシーンを思わず見入ってしまうのは男の性だろう。極まってくれば肌が見えなくても上着のファスナーを下げている仕草だけで興奮できる人がいるらしいが、流石にそこまで変態ではない。でも女の子の綺麗な肌が顕現するとなれば話は別だ。それに見入ってしまうのもすみれの脚が特別綺麗だから、というのもある。シミ1つないきめ細かな白い肌が輝き、まるで芸術作品のよう。普段からショウビジネスに生きる者として自分を誇示しているが、その自慢も伊達ではないようだ。自分自身の身体をしっかりとケアし、磨き上げているらしい。

 

 

「ちょっと、何ジロジロ見てるのよ……。あっ、もしかして私が靴下を脱ぐ姿に見惚れちゃってるとか? なるほど、私も罪な女ねぇ~年上の男性すらも虜にしちゃうなんて。ま、アンタはあまり年上って感じがしないけど」

「…………あまり煽ると包帯巻いてやらねぇぞ?」

「あれ、図星?」

「ほい」

「ひぎゃぁあああああああああああっ!? きゅ、急に捻ったところを突っつくんじゃないわよ殺されたいの!?」

 

 

 涙目になりながら文句を言うすみれ。相変わらずいい反応するなコイツ、もっと触ってやろうか……。

 案の定脚をひねった部分は軽く青血になっていた。そこまで深刻ではなさそうだが捻った直後なのでまだかなり痛むらしい。だからさっきみたいに指1本で軽く突っつかれるだけでもかなりの刺激が走るようだ。

 

 

「いいから早く巻きなさい! 次余計なことをしたら容赦しないからね!」

「はいはい……。脚、掴むぞ。固定しないと巻けねぇからな」

「え、えぇ……。んっ!」

「変な声出すな」 

「い、痛かっただけよ……」

 

 

 なんださっきの謎に色っぽい声は……。まさか俺に脚を掴まれただけで感じちゃったとか、そんなド変態もド変態なことは流石にねぇよな?? 包帯を巻くためには彼女の脚を片手で固定しなければならないので、必然的に痛みを走らせてしまう。そのせいで変に艶やかな声が出てしまったのだろうが、俺にあまり性的な要素を想像させる行為はやめてくれ。ただでさえ保健室の空気ってだけで卑しいのに、そこに女の子に色っぽい声を上げられたら……ダメだダメだ、あまり想像しないようにしよう。

 

 

「あっ、んっ!」

「だから変な声出すなって! もし誰か外にいたら勘違いされるだろ!?」

「痛いんだから仕方ないでしょ! もっと優しくしなさいよ!」

「これでも十分に優しくしてるっつうの。ていうかこれ以上力を緩めたら包帯を巻けねぇから!」

 

 

 敢えて言葉には出さなかったが、『痛いから』とか『優しくしろ』とか、もはや本番行為に慣れていないベッドの上の男女そのものだよな。そんな妄想が簡単にできるからまだ思春期脳が抜け切ってないんだろうな俺……。

 

 

「分かった。もう1つ椅子を用意するからそこに脚を置け。そうすれば俺が支える必要もなくなるし、余計な力が加わることもなくなる」

「そうね。最初からそうすれば良かったわ」

「椅子椅子っと……これでいいか。ほら、用意してやったぞ」

「うっ、くっ、脚を上げるだけでも結構痛むわね……」

「それくらい我慢しろ。ちょっと触るぞ」

「脚くらい自分で上げられるからいいわよ! って、いたッ!?」

「おい大丈夫か――――って、あぶねっ!?」

「きゃっ!?」

 

 

 脚を上げる動作でそれなりに痛みが脚に走ったのか、すみれはその衝撃で椅子から転げ落ちそうになる。俺はそれを察知してすかさず彼女の身体を支えようとしたのだが、こちらが支えようとしたのと同時に彼女が後ろに仰け反ったため、その勢いで彼女を押し倒してしまう形となった――――――ベッドの上に。そう、彼女の背後にはベッドがあり、俺たちは勢いのままベッドにダイブしたのだった。

 

 

「おい、平気か?」

「え、えぇ、大丈夫――――ん?」

「ん? あっ……!」

 

 

 すみれに怪我がないかを心配していたため気付かず、彼女自身も自分のことで精一杯だったのでお互いにようやく状況を飲み込んだ。保健室、ベッドの上、男女で2人きり、男が女に覆い被さっている、しかも教師と生徒。AV商品のタグのような要素の詰め込み具合に俺たちは今の体勢が相当ヤバいことを悟った。

 

 

「ア、アンタ……これって……!!」

「悪い! 今離れるから!」

「待って!」

「へ!」

「なんか今、あまり痛くないの。かと言って動くとまた痛み出すかもしれないし、こ、このまま包帯を巻いてくれないかしら……」

「えっ、この状態で……?」

 

 

 すみれはこくりと頷く。

 驚いた。てっきり跳ね飛ばされるものとばかり思っていた。だけど彼女の言動は全くの逆。まさかのこのまま治療を続行しろというものだった。確かに人間は寝ている体勢が一番楽だから脚の痛みもそれなりに和らぐのかもしれないけど、流石にこのままだと俺の方に無理がある。それに女の子、しかも美人女子高生を押し倒したままって、一体コイツは何を望んでこの体勢を保ち続けようとしてるんだ……?

 

 彼女の頬は赤みがかっており、先程と違って態度もしおらしい。そのせいか元々美人顔なのに更に美人に見えてきた。そんな姿を見て俺も謎の緊張が走りながらも、彼女の捻った脚の部分に包帯を巻き始める。女の子を押し倒しながら綺麗な脚を包帯でぐるぐる巻きにするこの構図、めちゃくちゃ奇妙だ。そもそも押し倒している都合上、自分の身体はすみれの方を向いているのに、脚に包帯を巻くために顔や腕は後ろを向いているため中々キツい体勢となっている。

 

 

「痛い! 痛いって! もう少し優しく!」

「仕方ねぇだろこちとら変な体勢してんだから! ちっとは我慢しろ!」

「もう少しゆっくり! いたっ!」

「思ったよりキツいな……。体勢変えていいか?」

「…………ダメ」

「なんでだよ!? 見つめ合う体制のままできるかっつうの!」

 

 

 お互いに向き合った体勢のまま相手の脚に包帯を巻く行為、この体勢があまりにもキツい! どれだけ俺に身体を捻らせればいいんだって話だ。下手をしたらコイツの脚よりも大きく捻ってそうだ。それなのにも関わらずコイツは顔を真っ赤にして俺がこの体勢を崩すのを阻止しようとしている。もしかして俺と向かい合うこの体勢、この近い距離感を堪能しようとしてるとか? だとしたら紛うことなきツンデレだが、本当にそうなのかな……?

 

 そしてまたしても勘違いされそうな会話を繰り広げる俺たち。そろそろ可可が戻ってくる可能性があるから、あまり人に誤解を与えるような言動は避けたい。だから早くこの体勢も解除したいのだが――――

 

 

「痛い……。もう少しゆっくり……。思ったよりキツい……。そして先生がすみれをベッドの上に押し倒している……。なっ、なななななななななな何をやっているのデスかお二人共!!」

 

 

 

「「可可!?」」

 

 

 

 ハイパーアルティメットフラグ回収速度。毎回高速でフラグを回収するから、もうフラグになりそうなことを言うのやめようかな……。

 案の定と言うべきか、今の会話、この体勢を戻って来た可可に聞かれ、見られてしまった。しかもアイツが口走っていた言葉から察するに、ちょうど男女の営みのセリフの部分だけを都合良くピックアップしているようだった。そして勘違いした可可は顔を沸騰させて保健室に飛び込んできた。

 

 つうかコイツ、あどけない顔をして意外とそういった知識はあるのな。まあ初心っ娘とは言えども今時それくらいの知識はあるか。

 

 

「聖なる学び舎でそ、そそそそんなことを!? しかもすみれはスクールアイドル、スクールアイドルは清きものなのデスよ!? なのにベッドでそ、そそそそそんな……そんな……!!」

「落ち着け! 目がぐるぐるしてるぞ!?」

「別にやましいことは一切ないわよ!? ただ挫いたところに包帯を巻いてもらっていただけだから!」

「そうだ。お前が妄想していることは断じて起こっていない」

「だったらどうしてベッドの上にいるのデスか!? 包帯を巻くだけなのに!!」

「「…………」」

 

 

 まあそう来るわな。すみれを押し倒したことに関しては事故だが、だったらその後は早く離れればいいだけのこと。この体勢のまま治療を続行する意味はない。これもすみれの奴が『このままがいい』とお願いしてきたからだが、それを可可に伝えたらまたあらぬ誤解をされるのは明白。だから俺もすみれも上手な返答することができずにいた。

 

 

「どうして黙っているのデス!? ま、まさか2人ってそういう関係だったのデスか!? 可可たちには内緒で、しかも学校でそんなことをする秘密の関係!?」

「おい声が大きいぞ誤解が波及するだろ!! 違う! これは事故でこうなっただけだ!」

「せ、せめてすみれがスクールアイドルができなくなるような身体にはしないでくだサイ! 脚を挫いただけでなく、ずっこんばっこんして腰を痛めたとか、ひ、避妊せずにお腹がぷっくり膨らんでしまったとか、そうなったらLiellaは……Liellaはどうなってしまうのです!!」

「心配するのそこかよ!?」

「いくら保健室でもそのぉ……ひ、避妊具はないと思いマス!!」

「なにその余計なお世話!? 女子高の保健室に避妊具とか女同士でやる想定かよ意味不明だっつうの!! おいすみれ、お前も何か言ってくれ」

「えっ、あっ、そ、そうね……。あ、赤ちゃんか……」

「おい、答えなくてもいいけど何想像してんだ……」

 

 

 どういつもコイツも妄想力豊かな奴らめ! 俺も人のことを言えないけど、コイツらの方が大概だろ。いくら初心っ娘でもそれなりの知識があり、そこからあらぬ妄想をするのは思春期が故の必然だってことか。

 混乱を極めて暴走する可可と、脳内が桃色になっていると思われるすみれ。今のコイツらには俺の言葉はまともに届かないだろう。この事態、どう収拾をつければいいんだよ全く……。

 

 このまま話続けていても状況を打破できないので、すみれの脚に手早く包帯を巻いてベッドから降りる。降りたときにすみれが少し惜しそうな表情をしていたが、多分気のせいだろう。

 

 

「ほら、これでいいか?」

「え、えぇ、ありがとう……」

「ということだ。お前が想像するような変なことは何もしていない」

「…………」

「可可? どうした?」

「…………ズルいデス」

「へ?」

「すみれだけズルいデス……」

「えぇっ!?」

 

 

 なんかこの前もなかったかこの流れ!? Liellaの奴らと一緒にカフェに行って特大ケーキを食べたとき、1人に『あ~ん』をしたら他の奴らも同じく懇願してきたあのシチュエーションと同じだ。対抗心があるのか、それとも羨ましいと思ったのか。どちらにせよこれはまた面倒なことになりそうだぞ……。

 

 

「ズルいって言ってもお前はいたって健康体だろ」

「だったら今脚を挫きマス! 痛くなりマス!!」

「ちょっ、落ち着け!! こっちに迫って来んな!!」

「ちょっとベッドにはまだ私がいるのよ、アンタたちがこっちに来たら――――きゃっ!?」

 

 

 何故かこちらに迫って来て飛びついてきた可可と、その勢いを受け止めきれずに後ろに倒れた俺、そして俺たちに潰される形となったすみれ。もはや可可は正気を失ってるかってくらい迷いのない暴走であり、そもそもどうして押し倒されたのかも分からない。そして脚を刺激されて痛みを感じているすみれ。もうこれは自然とみんなの熱が収まるのを待つしかなさそうだな……。

 

 だが、現実はさらに無慈悲で―――――

 

 

「失礼しまーす。体育の授業終わったのですみれちゃんの様子を見に来たんですけど―――――う゛ぇええええっ!?」

「か、かのん!?」

 

 

 唐突に保健室にやって来たのはかのん。時間を見てみるとちょうど授業が終わった直後で、彼女の言葉通りお見舞いに来たのだろう。

 そして彼女の目の前には、ベッドで乱れている男1人と女2人。教師1人と生徒2人。その光景を何も知らない奴が見たらどうなるかはもうお察しのこと。

 

 

「せ、先生と可可ちゃん、すみれちゃん……い、一体ベッドで何をしているんですか!? ま、ままままさか学校でそ、そんな……ッ!!」

「だから違うって!! つうかこの誤解の連鎖いつ止まるんだよ!?」

 

 

 この後、全ての誤解を解くのに1日費やした。

 




 『保健室』とか『保健体育』って聞くと真っ先にアレな意味を思い浮かべてしまうので、まさに今回の零君みたいな思考になっている私です(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

愛しの先生大追跡!

「ライブ会場に使えそうなところ、大体見て回ったね」

「はいっ! どれもこれも素敵な会場ばかりで、可可迷ってしまいマス!」

「だったらもうお昼にしない? ずっと歩き回ってたからそろそろ休憩したいわ」

「そうですね。午後は衣装合わせがあるので、早めに昼食にしましょう」

 

 

 澁谷かのんです。今日はLiellaのみんなと一緒にお出かけをしています。と言ってもショッピングやスイーツ巡りといったザ・女子高生みたいな目的ではなく、ただ単に次のライブに向けての会場選びをしているだけ。それでも休日に5人で一緒にお出かけするなんて珍しいから、それだけでも楽しくなっちゃいます。

 

 時間は午後に差し掛かった頃。すみれちゃんの言ったとおり、今日は午前からずっとあちこち歩き回って会場候補を探してたから私ももうヘトヘト。ただちーちゃんや可可ちゃんはとても元気そうで、まだまだ体力は有り余っている感じだ。可可ちゃんってこの中の誰よりも体力がないのにまだあれだけの活力を残してるなんて、やっぱりスクールアイドルが大好きなんだね。好きなものだから疲れ知らずで楽しめる。うん、可可ちゃんらしいよ。

 

 そんな感じで昼食を取るお店を探しながら街中を練り歩く私たち。だけどお昼もいい時間だからかどこもお客さんでいっぱいで、中々すぐ入れそうなお店はない。これはもうお腹を満たすのはもう少し先になりそう……。

 

 

「もうっ、どこもかもまともに入れる店がないじゃない!!」

「仕方ないですよ。休日のお昼の飲食店街というだけで混雑しますから……」

「この時間は混んでるから、先に衣装合わせを済ませてお昼のピークを過ぎるのを待った方がいいかもね」

「えぇ~私もお腹ペコペコなんだけど!? ねぇかのんはどうなのよ?」

「私!? 私は別にどっちでも――――ん? 可可ちゃんどうしたの? さっきから遠くをぼぉ~っと見つめてるけど」

 

 

 どの飲食店もいっぱいで入れず苛立つすみれちゃんを他所に、口を小さく開けたままぽか~んと別のところを眺める可可ちゃん。可可ちゃんのことだからワガママを言うすみれちゃんに対して悪態をつくものとばかり思ってたけど、どうやらそんなことも忘れ何かに没頭しているみたいだ。

 

 

「あそこにいるのって先生……でショウか?」

「「「「先生?」」」」

 

 

 可可ちゃんが指を差した方向に他のみんなが目を向ける。

 確かに先生っぽい男性が見える。少し遠いから確実に視認はできないけど、先生は男性でも特に容姿レベルが高いので離れていても私たちの目に留まるくらいのオーラがあった。でも先生は騒がしい場所はそれほど好きではないと聞いているので、人の往来が激しいお昼真っ盛りの飲食店街にいるとはあまり思えない。

 

 あれが先生なのか真実を確かめるためにも、私たちは特に何も相談していないのに歩き始めていた。私もそうだから人のことは言えないけど、やっぱり先生のことが気になっちゃうんだねみんな……。

 

 

「あっ、やっぱりあれは先生だったみたいデス!」

「だったらさ、一緒にお昼できないか誘ってみようよ! もしかしたら奢ってくれるかもしれないよ?」

「ちーちゃん……」

「冗談だって♪」

「でもご迷惑ではないでしょうか。どなたかと一緒に来ているかもしれませんし」

「アイツに彼女なんていないんだし、それはないんじゃない? いい歳の男が寂しくランチするくらいなら、私たちがアイツの華になってあげようじゃない」

「すみれちゃんも大概ヒドい……」

「じゃあ声をかけてみまショウ! お~い、せんせ――――――ん?」

 

 

 可可ちゃんは呼び止めるのを途中でやめてしまった。それもそのはず、先生のもとに誰かが駆け寄って来たからだ。そしてその駆け寄って来た人は――――

 

 

「「「「「女の子!?!?」」」」」

 

 

 私たちに衝撃が走る。クレープを手にした女の子が先生と仲睦まじくしているからだ。お互いに同じクレープを食べており、まるでデートみたいなお熱いシチュエーション。だからこそ私たちは雷に打たれたようなショックを受けていた。

 

 それもそのはず、先生は恋人もその候補すらもいないと言っていたからだ。その公言のせいで結ヶ丘の学校中から独り身で寂しい男性のレッテルを張られていた。だけどそれは汚名ではない。なぜなら人も良くカッコいい男性を女の子たちが放っておくはずがなく、独り身だからこそ狙っている子たちもたくさんいる。そのせいで先生は学校内では密かにモテ男となっており、生徒への面倒見の良さや分かりやすい授業など頼りになる一面も相まって人気者なんだ。

 

 だからこそ、結ヶ丘の生徒ではない女の子と仲良くしている様子に衝撃を走らざるを得なかった。あの女性の匂いすら付いていない純白の先生にまさか親しい女の子がいたなんて……。

 って言ってしまうとヤンデレっぽいけど、単純に聞いていた事実と違っていたから驚いてるだけだからね。少なくとも私はそうだけどみんなは……。

 

 ちなみに先生の隣にいる子は私たちと同じ高校生くらいの女の子。私たちと同じ学年か、上か下か、ぱっと見では判断できない。髪をツインテールにしており、毛先が緑色で容姿レベルも非常に高く可愛い。それに会話は聞こえないけど、遠目から見ている限りはとても仲が良さそうで友達以上の関係に見えた。

 

 

「そ、そんな、先生に彼女がいたなんて……ッ!!」

「お、落ち着いてください! まだそうと決まったわけではないと思います!」

「そ、そうデスそうデス! ただの友達付き合いという可能性も大いにありマス!」

 

 

 ちーちゃんも恋ちゃんも可可ちゃんも、みんな焦っているのが目に見えて分かる。もう先生のことを力強い眼力で凝視してるし、そんな圧力で見つめられたら身体に穴が開いちゃいそうだよ……。

 対してすみれちゃんは騒いでいないっぽい。まあ恋愛系に関しては強そうだし、流石はショウビジネスの世界で生きていただけのことはあるね。

 

 

「みんな動揺し過ぎだって……。ねぇすみれちゃん――――ん?」

「アイツに彼女? アイツに恋人? ありえないありえないありえない、そんな気配なんて今までなかったはず……」

「……なんか一番ダメージ受けてない?」

「は、はぁ!? そんなことないわよ!?」

「図星……」

「か~~の~~ん~~ッ!!」

「ゴ、ゴメンって!!」

 

 

 騒いでいなかったのは目の前の現状を受け入れるか受け入れまいか葛藤しているからだったらしい。気持ちは分からなくはないけど、いつも先生のことを彼女いない歴=年齢と馬鹿にしていたすみれちゃんがここまで慌てるなんて……。

 

 

「よしっ、ちょっと様子を見てくるよ」

「であれば私も行きます」

「可可もお供します!」

「し、仕方ないわねぇ~私も行ってあげるわよ」

「えっ、行くってなに!? もしかして尾行する気なの!?」

「あっ、早くしないと先生たち見失っちゃうよ! 行こう!」

「えぇええっ!? いいのかなぁ……」

 

 

 先生に親しい女の子がいて慌てふためくならまだしも、ちーちゃんたちはなんと先生の後をつけ始めた。しかも生徒会長で堅物な恋ちゃんまでそんな非行に走るなんて、もうみんな我を忘れてちゃってるみたいだ。午前中に歩き回って疲れてるとか、お腹がペコペコだとかもう忘れてるよね絶対に……。

 

 流石に多数決1対4で勝てるはずもなく尾行をするはめになってしまった。クレープを食べながら飲食店街を練り歩く先生と女の子。そのあとをこっそり追う私たち。周りに人が多いからか木の葉を隠すなら森の中状態となっており、幸いにも誰にも怪しまれることはない。でも非人道的なことをやっているのを一番分かっているのは私自身だから、さっきからもう心苦しいのなんのって……。

 

 さっきよりも先生たちに近づいたからか、戦線と女の子の会話がこちらに聞こえてきた。

 

 

「やっぱりここお店のクレープが一番美味しいなぁ~」

「それは俺との初めてのデートで食った思い出のクレープだからってことか?」

「な゛っ!? 相変わらずの自惚れマンですねお兄さんは! ただただこのお店のクレープが好きなだけです!」

「そっか。あの日はお前との関係が前進した特別な日だと思ってるから、そう考えるとクレープが美味く感じるぞ。お前にとってはただの日常生活だったかぁ~残念だなぁ~」

「そ、それは……。私もあの日は思い出ではありますけど……」

「やっとデレたか」

「だから! 自惚れが過ぎますって!! 全く、教師がこんなのだと生徒さんたちが苦労してそうですね……」

「こんなのって言い草だなオイ……」

 

 

「なんだかとっても仲がいいデスね……。遠目から見ていた時もそう思っていマシたが、会話を聞くとより実感させられマシた……」

「あの女性の方。年上の先生を相手にして敬語は崩していませんが、会話に遠慮も容赦もないので想像以上に親しい間柄なのかもしれませんね……」

「でもあまり恋人同士っぽくはないね。学校の先輩後輩とか、そういったイメージだよ」

「それにあの子、アイツのことをお兄さんって、あまり聞き慣れない呼び方よね……」

 

 

 みんなの言う通り、先生とあの女の子の仲の良さがひしひしと伝わって来た。でもその関係には疑問点が多く、恋人同士でイチャイチャラブラブといった雰囲気ではなく、お互いにお互いが何の遠慮もなく容赦なく突き刺しているみたいな感じだ。言わば心を許した友達といった印象が強い。だけど容赦ない会話ができるということはそれだけ相手のことを心の底から信頼しているってことだから、あの2人の間に強い結びつきがあるのは間違いないと思う。

 

 それにすみれちゃんも言っていた『お兄さん』呼び。最初は兄妹かと思っていたけど妹が兄のことをそう呼ぶのは他人行儀すぎるし、もしかしたらあの女の子は先生の妹の友達とか、そういった関係なのかな? だったら『お兄さん』呼びをするのも頷ける。確か先生には妹さんがいたはずだから、その線はありそうだ。

 

 私たちは更に尾行を続けて先生とあの子の関係を探ろうとする。もはや尾行が悪いことなんて誰も気にすることはなく(そもそも私以外は最初から気にしてもいなかったけど)、ただ先生のことをもっと知りたい好奇心だけで行動していた。

 

 

「それにしてもどこのお店も人気で人がいっぱいですよね。これだけ人気店が並んでるとどの店にするか迷っちゃいます」

「別にどこでもいいんじゃねぇの?」

「ダメですよ! 選ぶ店次第で私たちの将来が関わって来るんですから!」

「そんな大げさな……。ただ夜にやるだけだろ?」

「私は1回1回を大事にしたいんですよ。お兄さんに付き合ってもらっているのはそれが理由です。男性の意見も取り入れて、いいお店を選びたいですから」

 

 

「付き合ってる!? 付き合っている男女が夜に行くレストランを選んでいる……ロマンティックだね……」

「夜のレストランでお食事とか、もう告白に十分なシチュエーションではないデスか!? やっぱり先生、可可たちに内緒であの方と添い遂げようと……」

「信じたくはないですけど、私たちの将来と言っていたのでそう考えた方が自然ですね。ここには手頃な飲食店から高級なレストランまで並んでいますから、夜に2人で優雅なお食事をするのにもピッタリの場所です」

「なによ私たちには恋人なんていないとか言ってたくせに、ちゃんとやることやってんじゃない……」

 

 

 なんか凄い拡大解釈で話が進んでるような気が……。でも仲が良い男女が将来のために食事をする場所を探し、夜景が見えるレストランでお互いの想いを告白する。うん、結ばれるシチュエーションの前触れとしか思えない。

 あぁ~そのシチュエーションを想像したら私が恥ずかしくなってきちゃったよ! 先生はイケメンでカッコいいし、あの女の子も可愛くてお似合いのカップルだと思う。その2人がそんなロマンティックな場所で結ばれるなんて、テンプレだけどそういった展開は憧れちゃうなぁ……。

 

 でもなんかやっぱりモヤモヤするぅ~!! 先生に騙されていたとは思わないけど、彼女とかいないって言ってたことを目の前の現実を知ってもなおまだ引きずっている私がいる。それはみんなも同じようで、さっきからずっとウズウズしていた。

 

 

「私、ちょっと行ってくる!」

「えっ、すみれちゃん!? 行ってくるってまさか先生たちのところへ!?」

「いいでショウ。可可が許可します。むしろ可可も一緒に行きマス」

「可可ちゃん!? いや気持ちは分からなくはないけど流石に迷惑だって! 恋ちゃんも止めてよ!」

「ここは学校ではないので生徒会長として厳粛にならなくても良いでしょう。時には気を張らずに砕けることが重要だと、先生も仰っていました」

「いや多分それ空気を壊していいって意味じゃないからね!? ち、ち~ちゃぁ~ん……」

「全軍突撃準備ヨシ!」

「ちーちゃん!?!?」

 

 

 ダメだ、もうみんな暴走していて誰も私の話を聞こうとしてくれない! 先生たちのところへ乗り込む気満々だ!

 でも乗り込んだところで一体何をするっていうか、何かできるのかな……。みんなからしてみれば何ができるとかそんなのは関係なく、ただただ湧き上がってくるモヤモヤの感情を抑えきれないから暴走させて発散したいだけだと思っている。そうでなきゃあの恋ちゃんまで巻き込んで暴走なんてしないから……。

 

 このままみんなを行かせてしまうと先生たちのデートを邪魔してしまうことになる。私は今にも出陣しそうなみんなの前に立ち何とか場を宥めようとした。

 

 

「とりあえずみんな落ち着いて……ね? ん……? え゛っ……!?」

 

 

 みんなが静まる。私の思いが通じたと思ったんだけど、みんなの目はまた先生たちの方に向けられていた。私も振り返って先生たちの様子を確かめてみると、そこには衝撃的な展開が……!!

 なんと先生が女の子を自分の身体に抱き寄せていた。

 

 

「お、お兄さん!! やっぱり恥ずかしいですってこれ!?」

「今だけだ。我慢しろ」

「こ、こんな恋人みたいなこと……ッ!! うぅ……」

 

 

「な、なにやってんのをアイツら!! 見せつけてくるとはいい度胸じゃない!!」

「もう我慢できないデス! 今すぐ乗り込みまショウ!」

「見ていられません。例え教師であっても不純異性交遊は生徒会長として認められませんから」

「いやさっき生徒会長は学校の中だけとか言ってなかったっけ!?」

「かのんちゃん、度胸がないならここで待ってて。ここからは激しい戦いになりそうだよ」

「なにが始まるの!? って、みんな!?」

 

 

 もう暴走が暴走の頂点に達したみんなは、遂に先生たちへもとへと飛び出そうとしていた。みんなを抑えられなかったことを申し訳なく思いつつも、さっきの先生たちの行動が気になっている私もいる。どうすればいいのか私自身も分からない中、私たちと太陽の間を遮るように誰かが背後に立った。

 

 

「お前らなぁ、さっきから騒ぎすぎだっつうの……」

「「「「「先生!?!?」」」」」

 

 

 いつの間にか私たちのもとに来ていた先生。突然の登場に私たちは目を丸くして驚くことしかできなかった。

 

 

「尾行してたのかは知らねぇけど、うるせぇしバレバレだ」

「えっ、私たちが後をつけていることを知っていたんですか?」

「途中からだけどな。最初は無視しようと思ったんだけど、あまりにもお前らが騒ぐもんだからコイツに協力してもらっておびき寄せたってわけだ」

「コイツって……」

「全く、いきなり俺に抱きつけって言われた時は何事かと思いましたよ……」

 

 

 先生の後ろから現れたのは、さっきまで先生と一緒にいた女の子だった。呆れ顔で先生のことをジト目で見つめている。

 

 

「えぇっと、この方は……?」

「実際に会うのは初めましてだね。高咲侑です。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のマネージャーをやってます、よろしくね。ちなみにみんなことはお兄さんから聞いてるから知ってるよ」

「に、虹ヶ咲!? 虹ヶ咲ってあの虹ヶ咲デスか!?」

「そ、そうだけど……」

「虹ヶ咲と言えば数々の大会でも優勝し、メディアへの出演も引っ張りだこな超有名グループなのデス! 可可もブロマイドとかグッズをたくさん持っていマスし、ライブも行ったことがありマス!!」

「スクールアイドルになるとホントにテンション高いわね、アンタ……」

「あはは、ありがとね。みんなに伝えておくよ」

 

 

 私ももちろん虹ヶ咲さんのことはよく知っている。スクールアイドルを始めてからそのコンテンツ自体を勉強するために色々調べたからね。ライブ映像も見た、というか可可ちゃんに穴が開くほど見せられたからよく覚えている。いつか私たちも虹ヶ咲さんたちにようなライブができたらと、密かに憧れの存在だ。他に目を引いたスクールアイドルはμ'sさんとかAqoursさんとかだけど、実際に会ったら私もだけど、可可ちゃんは気絶して昇天しちゃうんじゃないかな。まぁ有名人だしそんな簡単に会えないけどね。

 

 

「そ、それで高咲さんにお聞きしたいのですが、先生とはどのようなご関係で……?」

「あぁそれね。言っておくけど、私とお兄さんはみんなが思ってるような関係じゃないから。多分恋人か何かと勘違いしてると思うけど、同じ虹ヶ咲のマネージャーポジションとして何かと一緒に関わることが多いだけだよ」

「じゃ、じゃあ告白のためにレストランを選んでいたこととか、それはどういうことなんですか!?」

「告白? よく分からないけど、みんながこの飲食店街でライブをするから、その後の打ち上げでどのお店にお邪魔しようか選んでただけだよ」

「だったら将来云々とか言ってたのは?」

「あぁ~それか。ほら、今の虹ヶ咲って結構有名になっちゃったでしょ? だからみんなが食事をしたお店ってだけでその場所が聖地になっちゃったりするんだよ。そうすると取材とかですぐ話題にされちゃうからね、お店選びも割と慎重になるんだ。だから変な意味は全然ないから安心して」

「お前ら、何かもの凄い勘違いをしてたな……」

 

 

 脱力、って言葉をここまで身にしみて感じたことはないよ。みんなも同じ気持ちのようで、暴走していたテンションもようやく元に戻ったみたい。この壮大な勘違いは後々思い返して恥ずかしくなるやつだよね……。

 

 これは後で聞いた話だけど、先生は1年前に虹ヶ咲学園へアドバイザーとしてスクールアイドルの指導をしていたらしい。これで先生がどうして私たちの指導ができるのか分かった。経験があったからだ。そのことを私たちに話していなかった理由は、変に話題になって学校中に広まり、みんなから質問攻めされるのが嫌だったかららしい。ということは、まだ喋っていないことがたくさんありそうだね……。

 

 

「そうだ、せっかくなら一緒にランチしない? Liellaのみんなのお話もたくさん聞きたいからね!」

「いいんデスか!? だったら可可は虹ヶ咲さんのお話を聞きたいデス!」

「決まりだね。お兄さんもいいですか?」

「あぁ。だったら早く行くぞ。大所帯になったら入れる店も少ないだろうしな」

 

 

 というわけで先生と高咲さんと一緒にランチをすることになった。

 先生が先導して人混みを書き分け歩いてくれている中、高咲さんが私たちの方を振り返り先生に聞こえないような声で話しかけてくる。

 

 

「私から1つ忠告」

「「「「「えっ?」」」」」

「お兄さんには気を付けた方がいいよ。すぐに惚れさせられちゃうからね」

「「「「「ほ、惚れ……!?」」」」」

「その反応……ははぁ~ん、なるほどね。全くお兄さんは手が早いんだから……。じゃあ私から言うことは1つ」

 

 

 高咲さんは一呼吸置く。

 

 

「頑張ってね♪」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、私たちの顔は茹だこに負けないくらい赤く沸騰した。

 そしてその反応を見た高咲さんは――――

 

 

「いやぁ可愛いなぁ~♪」

 

 

 そして今日、このことをネタに散々弄られた私たちでした……。

 




 Liella編に入って初めてゲストキャラ登場ということで、虹ヶ咲編から侑に来てもらいました! 
 本来Liella編ではメインの5人+零君で話を進行させる予定でしたが、侑はもう1人の主人公的な立ち位置でしたし、なにせ私がまた会いたいからという理由で登場してもらいました。
 そもそもLiellaのキャラって虹ヶ咲のキャラの半分以下ということもあり、話のマンネリを打開するためにもゲストは時たま登場するかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

突然の妹体験!?

「理事長のクソババア、また俺にだけ課題を突き付けてきやがって……」

 

 

 脳内にチラつく結ヶ丘女子高等学校の理事長、通称クソババア。理事長に課題を押し付けられたせいでこうして休日に外に出るはめとなっている。これまで『早朝に校門に立って挨拶運動をしろ』だの、『恋が無理しないように生徒会の様子を定期的に見に行って欲しい』だの、その他諸々、俺が結ヶ丘に赴任してから幾多の課題を押し付けてきやがる。()()()と繋がっているから俺の教師生活を見守って欲しいと頼まれたのか、それとも一端の教師に育て上げたいのか。どちらにせよ俺にとっては過保護すぎるので迷惑極まりない。

 

 ただ課題と言っても無理難題ではなく、『教師としての振る舞いを学ぶべき本を自分で見つけ、学んだことをレポートにしてまとめて提出する』という社会人なのに大学の授業レベルの課題だった。俺には俺の教師としてのやり方があるし、なんなら既に生徒たちに慕われているので特に誰かのやり方を参考にする必要はない。だが社会人とは世知辛いもの、上司の命令に逆らうと社会的に抹殺されかねない。しかもこの課題を課した時のあのクソババアの笑顔と来たら、サボらないよう威圧をかけてくる笑みだった。仕方ないのでこうして休日に本屋に来て適当な本を物色しているってわけだ。

 

 

「あれ? あっ、先生だ! こんにちは!」

「千砂都? かのんも」

「こんにちは。最近休日によく会いますね」

「今日は誰か女の子を連れてないんですか?」

「お前は俺をなんだと思ってんだ……」

 

 

 本屋で偶然にも出会ったのは千砂都とかのんだった。休日によく会うようになったのはその通りで、ケーキ大食いの時や俺と侑をストーカーした事件など、プライベートでも何かとコイツらと一緒にいる機会が多い。それが予定されたものであっても偶然であっても、こうして巡り合うようになったのはコイツらも俺の世界の住民になりつつあるということだろうか。ただでさえ女の子が増えすぎて侑から呆れられているのに、これはまたアイツにグチグチ言われるんだろうな……。

 

 それにしても千砂都は俺を女垂らしとでも思っているのだろうか。確かに周りに女の子は多いし、なんなら虹ヶ咲が繋がっていることがコイツらに知られたことで俺の女経験ゼロ発言が疑われつつある。そのせいで今は『彼女いない歴=年齢』煽りよりも『女垂らし』としての煽りの方が増えている。まあ彼女がいない寂しい男と思われないだけマシかもしれないけど、女子高生特有の噂の飛躍で『女垂らし』が『二股野郎』みたいな最悪なレッテルにならないことを祈るばかりだ。

 

 

「てかお前らなにやってんだ? 他の奴らは一緒じゃないのか?」

「私とかのんちゃんだけですよ! それに今日はかのんちゃんの可愛さがより一層際立つ日なんです!」

「うぅ、ちーちゃん今からでもやめない? 別のお願いにしよ? ね??」

「なに言ってるの今更! 私は今日という今日のためだけに生きてきたんだから!」

「なにか穏やかじゃないってことだけは分かった」

「いや穏やかも穏やかですよ! 私の心は超晴れやか! 今日はかのんちゃんをたくさん着せ替え人形にできる日なんです! 合法的に!」

「うぅ、あの時ゲームに負けてなければ……」

 

 

 端的に言えばかのんは罰ゲームを受けるらしい。話によると先日ゲーセンのダンスゲームで彼女が負けたからだそうだ。大会優勝者の千砂都にダンスで賭け事を挑むなんて無謀も無謀だが、どうやらスコアのハンデを付けてもらっていたらしい。それでもかのんが負けたから、今日は『かのんを着せ替え人形にして写真を撮りまくる』という千砂都の願望を叶えるためにお出かけしているそうだ。

 

 

「そうだ、せっかくだし先生もご一緒しませんか? 今日はお一人ですよね?」

「ちょっ!? 先生に見られるの!?」

「いいじゃんいいじゃん! かのんちゃんの可愛さをアピールできるチャンスだよ?」

「そ、そんな……せ、先生に……恥ずかしいぃいいいいいいいいいいいいい!!」

「何かする前からこんな調子で大丈夫かよ……」

「大丈夫ですよ! いつもこんな反応ですけど、無理矢理連れて行けばすぐ諦めてくれますから♪」

「お前って結構ドSだよな……」

 

 

 幼馴染が恥ずかしくて悶え苦しんでいる姿を前にしても笑顔でいられるその精神、中々にサディストだ。何事もポジションシンキングなのがかのんにとっては時には恐怖だろうな……。

 

 そんな感じで俺も巻き込まれる形で2人のお出かけ(という名のかのん罰ゲーム)に付き合わされることになった。もう今更かもしれないけど、教師としてプライベートでも生徒と関わることが多くなったな。それがいいのか悪いのか、まあ俺の女運が未だに衰えていないってことで納得しておこう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「兄妹?」

「イベント?」

「また訳の分からないイベントが……」

 

 

 意気揚々とした千砂都の先導で、本屋と同じデパート内にあるブティックにやってきた俺たち。だがそのブティックは中々に異様な雰囲気というか、男女が多い。しかも年齢的に男が上で女性が下のような組み合わせが多く、ただのカップルではない雰囲気を匂わせていた。

 その理由は店のイベント告知の看板を見れば明らかで、どうやら『兄妹フェス』ものを開催しているらしい。兄妹であれば全品3割引きという謎の高額割引。どうして兄妹をフィーチャーしたのかも謎だが、どうやら今この店はとある兄妹アニメのコラボをしているかららしい。そもそも兄妹なんてキャンペーンの対象になる奴らが少なそうだが、それゆえに高額割引なのだろう。なんつうか、俺の経験的にまた面倒なことになりそうだぞ……。

 

 

「ここのお店の服、結構欲しいの多かったんですけどそれなりに値が張るから買い渋っていたんですよね。でもこんなキャンペーンが開催されているなんて……。ほらあれなんて、かのんちゃんがずっと気になってた服じゃない?」

「ホントだ、これも割引の対象なんだ……。しかも普通に買えそう……」

 

 

 罰ゲームはどこへやら、2人は目を見開いて目の前の格安キャンペーンの虜になっていた。やはり『割引』って言葉はみんなを幸せにする魔法の言葉、この2人も例外ではないようだ。

 

 

「いらっしゃいませー! お客様は3人兄妹でしょうか?」

「えっ!? いや俺たちは――――」

「そ、そうだよねお兄ちゃん!」

「きょ、今日は3人でお出かけできて楽しいなぁ~。ね、お兄ちゃん……?」

「へっ?」

「あら、腕を組むなんて仲が良いですね♪」

「え゛っ!?」

 

 

 ブティックの店員に誤解されそうだったので弁解しようとしたら、なんと千砂都とかのんが俺の両腕に抱き着いてきた。それだけでなくどちらも俺のことを『お兄ちゃん』呼びになっており、あたかも俺と自分たちが兄妹であることをアピールしている。

 めちゃくちゃ顔が赤くなっているので本人たちも恥ずかしさMAXなのだろうが、そこまでして割引を適用させたいのかコイツら……。中々に見上げた根性だが、既に羞恥心が爆発しそうになってるけど大丈夫か……?

 

 ちなみに話しかけてきた女性店員は俺たちを仲睦まじい兄妹だと思い込み、こちらにいい微笑みを向けている。こちらがどれだけ焦っているのか気づきもせずに……。

 

 もちろん俺も驚いている。女の子に抱き着かれるのは慣れてるが、Liellaの子たちから抱き着かれる現象はあまりないから柄にもなく少し取り乱してしまった。コイツらからは普段から普通ではない好意を向けられていることは知っているが、まさかここまで大胆になるなんて……。しかも店員が見ている前だから、恋愛下手で初心なコイツらからしたら男に抱き着くなんて相当な覚悟だったはずだ。両手に花とはまさにこのことだけど、これマジモノの教師と生徒だからな。その事実を知っていると若干背徳感があるな……。

 

 

「もう店員行っちまったから、兄妹のフリをする必要ねぇぞ」

「で、でもバレたら割引がなくなっちゃいますし……」

「つまり、今だけは兄妹として振る舞えと?」

「ですです!」

「かのんはそれでいいのか? さっきから顔真っ赤にして黙ってるけど……」

「が、頑張ります!」

「えぇ……」

 

 

 小心者のかのんなら『やっぱりやめましょう!』って言うと思ったけど、やはりコイツも『割引』という言葉の魔術に囚われてしまっているようだ。

 それにしても俺たちが兄妹か。事実としては教師と生徒、成人男性と未成年の女の子だが、見た目では若い男女で男の方が年上に見えるので、己の素性を明かさなければ他人に自分たちを兄妹と勘違いさせるのは容易い。俺はいいのだが、後はコイツらが上手く妹を演じきれるかがカギだ。

 

 そして案の定また面倒事に巻き込まれてしまった。ま、ここは2人の慌てふためく可愛い姿を見られると思って納得しておこう。なんか無理矢理納得してばっかだな、俺……。

 

 そんなこんなで兄妹もどきの俺たちは、兄妹キャンペーンを開催しているブティックに潜入する。

 

 

「うわっ、欲しかったあの服もこの服もみんなお手頃価格に……!! あっ、この服とかかのんちゃんに着させたら面白そう……」

「面白いってなに!? ちーちゃん本音ダダ洩れだよ!?」

「あれ、声に出ちゃってた? あははっ!」

「お前よくこんなドSの幼馴染やってるよな……」

「昔は違ったんですよ! 昔は『かのんちゃんかのんちゃん』って後ろをついてくるくらいに可愛かったんです!」

「ちょっ、それは恥ずかしいからやめて……!!」

「なるほど、このエピソードがちーちゃんに最も効率良く反撃できる方法か……」

「おいおい幼馴染のくせに牽制し合うな……」

 

 

 逆に言えば相手に効く一番効果的な攻撃を理解しているくらい仲が良いと言えるか。なんにせよ、普段からかのんの恥ずかしがり屋を千砂都がイジっている様子が目に浮かぶよ。

 そんな幼馴染の戦いがありつつも、格安になった高級服に目を光らせて店内を回る2人。やがて個々が興味のある服を選び始めたので、俺は客の邪魔にならないところで彼女たちを見守る。しばらくして、千砂都が同じ柄で違う色の服を両手に持って俺にもとにやって来た。

 

 

「この服、どっちの色の方がおすすめですかね? せんせ――――じゃなかった、お、お兄ちゃん……」

「慣れねぇのなら無理すんなよ……。お前は白とか、落ち着いた色の方が似合うと思うぞ」

「そ、そうですか! ありがとうございます!」

 

 

 やり取りが教師と生徒なのか、兄妹なのか、それとも初々しいカップルなのかどっちか分かんねぇ。本人が楽しそうだからいいけど、傍から見たらいい兄妹カップルを演じられていると思う。もし教師と生徒の関係だってバレたらスキャンダルもいいとこだけどな……。

 

 次はかのんが手袋を持ってこちらにやって来た。

 

 

「せんせ――――あっ、お、お兄ちゃん……」

「お前もまだ慣れねぇのか……」

「あはは……。この手袋なんですけど、ペアで買っても同じ値段なのでその……お、お兄ちゃんと私で一緒のモノを買いませんか!?」

「えっ、あぁいいけど」

「ふぇっ!? い、いいんですか!?」

「お前がそう言ってきたんだろ……。ま、妹のワガママを聞くのも兄の義務ってことだよ」

「ありがとうございます、せんせ――――お、お兄ちゃん!!」

 

 

 俺の呼び方が毎回たどたどしいなコイツ……。それでも妹を演じるために健気に頑張っている姿は愛らしい。

 つうか俺とペアルックの手袋を買いたいだなんて、意外と攻めてくる奴だ。恥ずかしがり屋だけど積極性があるところは彼女らしい。俺に拒否られる覚悟はしていたのか、だからこそ俺があっさり承諾したことに驚いている。あまり女の子っぽい手袋なら渋るけど、彼女が持ってきたのは男が装着しても違和感がないグレーの手袋なのでなんら問題はない。そもそも俺の身に着けている衣類って、実は女の子たちからプレゼントされたもので構築されてたりするからな……。

 

 それにしても、かのんと千砂都が俺の妹か……。実際にそうなったら賑やかどころか騒がしいだろうな。いつも元気ハツラツな千砂都とツッコミ役のかのんでいいコンビだ。ぶっちゃけ言ってしまうと2人から『お兄ちゃん』呼びされた時は少しドキッとしてしまうので、俺としてもこの関係は全然ありだと思ってしまう。特別に妹萌えってわけでもないけど、実妹が献身的で超絶に美少女だからこそ『妹』という存在が可愛く思えてしまうのだろう。あんな完璧な実妹を持っているのに、例え設定であっても他の妹に惹かれるなんて相当な変態だな俺……。

 

 

「待たせちゃってゴメンね、お兄ちゃん。私は選び終わったからお会計はいつでもいいんだけど、かのんちゃんは?」

「うん、私も大丈夫。行きましょう、お兄ちゃん」

「あ、あぁ……」

「どうしたのお兄ちゃん? もしかして私たちが本当の妹だと勘違いしちゃったとか? いやぁ~妹としての愛嬌たっぷりで申し訳ないですね~♪」

「そうだな。そりゃお前ら可愛いし、俺の妹になる素質は十分だよ。俺はお前みたいな元気いっぱいで一緒にいると元気をもらえる女の子、好きだぞ」

「か、かわっ!? 先生っていつもそうやって急に……」

「先生呼びになってるぞ、可愛い可愛い千砂都ちゃん?」

「ちょっ、やめてくださいよもうっ!!」

「今日はちーちゃんの弱点がよく分かる日だ……」

 

 

 やっぱり恋愛クソ雑魚じゃねぇか千砂都の奴……。自分の妹力を過信して人を煽ろうとしたら、自分を褒め殺しされてしまいあっさりと陥落。即堕ち2コマって言葉がここまで似合う奴は早々いないぞ。だ、コイツに妹としての愛嬌があるのは確かだ。俺のことを『お兄ちゃん』呼びする姿が結構様になってたからな。

 

 そんなやり取りをしながらも会計へ向かおうとするのだが、こんな謎のキャンペーンが開催されているのにも関わらず店内に人が多く中々に歩きづらい。もちろん客の全員が全員兄妹ってわけじゃないけど、高級ブランドの服を格安で買えるともなれば人が集まるのも必至。恐らく俺たちと同様に本当の兄妹じゃねぇだろって奴らもいるが、店側としても本当に兄妹かをいちいち確認する手間を省くために兄妹の真偽についてはスルーしている。だからなのか普通のカップルも多く、店から溢れているとまではいかないけどかなりの人がいた。

 

 

「人の波になっていて歩きにくい――――あっ、きゃっ!?」

「かのんちゃん!?」

「おっとあぶねぇ、気を付けろよ?」

「ひゃっ、ひゃいっ!!」

 

 

 かのんが人の波に連れ去られそうになったので手首をつかみ、自分の身体に引き寄せた。必然的に抱き寄せる感じになっちゃったけど、羞恥心が弱々な彼女にそんなことをしたらもうお察しのこと。頭から湯気を出し、目をぐるぐるさせ、ぶつぶつと言葉にならない言葉を発しながら今にもショートしそうだ。

 

 

「あ、あぅ、せ、先生……お、おにいちゃ……う、うぅ……」

「落ち着け。ここでは『お兄ちゃん』だろ? ほら、千砂都もなんとかしてやってくれ」

「お……」

「ん?」

「お兄ちゃん!!」

「な゛っ!? どうして急に腕に抱き着く!?」

「か、かのんちゃんだけズルいと思って……」

「な、なんだよそれ……」

 

 

 かのんを抱き寄せて宥めていたら、今度は千砂都が俺の腕に絡みついてきた。コイツは別に人の波に飲まれたとかではなく、完全に故意で俺に抱き着いてきている。本人も恥ずかしさが爆発しそうなのか、もはや何の言葉も発さずにただただ俺に密着するだけだ。ズルいって、こんなところでも妙な対抗心を発動するなよな……。

 

 

「おいかのん。起きろかのん」

「先生……お兄ちゃん……先生……お兄ちゃん……」

「ダメだ、壊れたレコードみたいになってやがる。おい千砂都、分かったからそろそろ離れろ。周りの目が痛い」

「…………」

「おい更に力を強くするな!? てかなんか喋れよ!!」

「お兄ちゃんに甘えるのは妹の特権ですから……」

「そりゃそうかもしれねぇけど今はいったん離れろ! 周りからの注目が半端ないぞ! ったくコイツら……」

 

 

 店にはたくさんの客がいるが、流石に騒ぎすぎたせいか周りの目がこちらに向いてしまっていた。ただ『迷惑だから帰れ』みたいな雰囲気を漂わせているかと思えばそうではなく、見た目は兄妹に見える俺たちが仲睦まじくイチャコラしていると思われているのか、やたらと微笑ましい目線が多い。もちろんコイツらと男女の関係ではないとは言えず、ただただ注目の的になるしかなかった。

 

 結局かのんは壊れたままで千砂都は俺を黙ったまま離さなかったので、コイツらを無理矢理引きずって退店することにした。ちなみにコイツらが選んだ服などは俺が代わりに支払いを済ませ、幸か不幸か店中に兄妹愛(偽りだが)を見せつけてしまっていたので、しっかり代金から3割引きにしてもらった。

 

 その後、2人が正気に戻るのに1日費やしたのは別の話。

 そして、俺の妹になったという思い出(ある意味で黒歴史)は2人にしっかり根付いてしまったようだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 翌日。学校にて、かのん、千砂都、すみれの3人が昼食を取っている中――――

 

 

「アンタたち、昨日は服を買いに行っていたみたいね。なんかいい服あった? 私もそろそろ新しいのが欲しいから何かいいのがあったら紹介して頂戴」

「うん! お兄ちゃんに選んでもらった可愛い服があるから、今度見せてあげるよ!」

「私はお兄ちゃんと一緒の手袋を買っちゃった。これでお揃いかぁ……」

「は? お兄ちゃん?」

「「あっ……!!」」

 

 

 そう、いい意味でも悪い意味でも思い出(または黒歴史)として彼女たちの脳内にこびり憑いているのであった……。

 




 妹キャラ好きな私が、Liellaが妹になったときの妄想を少し文字お越ししたのが今回です(笑)
 文字数や話のネタの関係で5人全員出せなかったのは残念で、話を読み返すと妹っぽいことをあまりやってない気がするのが反省ですね……。それでもかのんたちの『お兄ちゃん』呼びには作者ながらドキッとしちゃいました(笑)

 でも元々妹キャラでない子を妹キャラにしてしまうと、零君の実妹であるあの子がキレ散らかしそうで怖いです……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハーレム王の秘密を暴け!

 秋口に入ってからずっと寒い日が続いていたが、最近は寒暖の変化からか少し暖かい。寒さで断念していた中庭での優雅な昼食も、これだけ暖かければ気温を気にせず嗜めそうだ。仕事の区切りの昼休みに最愛の妹が作ってくれた愛妻弁当を食い、残り時間を心地良い暖かさの中で昼寝をする充実した時間。馬車馬のように働く社会人にとってはまさに砂漠の中のオアシスのようだ。

 

――――と言いたいのだが……。

 

 

「くぅ~~!! 苦手な体育を終えた後のお弁当は全身に染み渡りマスねぇ~!!」

「弁当食ってるだけなのに酒を飲んでるみたいなセリフを吐くな勘違いされるだろ……。つうか、どうしてお前がここにいる?」

「どうしてって、先生を顧問に勧誘しに来たに決まっているじゃないデスか」

「まだ諦めてなかったのか……」

「可可の辞書に『諦める』なんて言葉は存在してマセン!」

 

 

 優雅な昼休みを過ごそうとしていた矢先、可可が俺の隣を陣取って一緒に飯を食い始めた。もはやいつもの光景なので慣れたと言えば慣れているのだが、最近は以前に比べて来る回数が多くなっている気がする。コイツがいると騒がしいから『優雅』なんて時間は容易にぶち壊され、飯を食った後は永遠と宗教のお誘いのような勧誘を受けるだけとなる。それをのらりくらりと受け流しているだけで昼休みが終わってしまうため、最近の俺の昼休みはコイツに支配されてしまっていた。

 

 可可の根気強さは凄まじい。1回や2回ならまだしも、こちらが顧問に興味を全く示していないのにコイツは諦めない。それどころか俺を顧問堕ちさせるためにあの手この手で勧誘してくるため、むしろ勧誘を楽しんでいる節がある。それの裏付けになるかは分からないが、稀に勧誘なしで普通の世間話で昼休みを過ごすこともあった。そう考えるともう勧誘しに来ているというよりは俺と飯を共にしに来ている、という見方もあるかもしれない。

 

 

「可可も毎回ここに来るのは大変なので、そろそろ顧問になってくれると助かるのデス」

「どうして俺がワガママを言ってるみたいになってんだ。お前がしつこいだけだろ……」

「それこそが可可の長所デスから! この根気強さのおかげでかのんも陥落しマシタから、先生もいずれ根負けして顧問に成り下がることでショウ!」

「下がるのかよ!? 誘ってくるのであればもっと持ち上げろ!」

「それは先生の態度次第デスね」

「だからなぜ俺が選別される側なんだよ……」

 

 

 この強引さといい上から目線といい、この短時間で可可という人間の裏側をたっぷりと堪能しちまってるな……。本人は長所と言っているが、確かにそれがいいところでもあり悪いところでもある。コイツがかのんを誘い続けてスクールアイドルを結成しなければ、そもそもLiellaなんてグループは存在していなかったからな。だがその強引さのせいで俺の優雅な昼休みは破壊されてしまっている。いい迷惑って言葉はこういう時に使うのだろう。

 

 

「そもそものお話、先生は虹ヶ咲の顧問をやっていたのデスよね? だったらLiellaの顧問になってくれてもいいと思うのデスが……」

「あぁその話か。別にアイツらの顧問をしていたつもりはない。ただアドバイスをしていただけだ、今のお前たちにやってるみたいにな」

「それはもう顧問をしているのと同義だと思いマス! それにスクールアイドルを教えた経験があるのであれば、可可はより一層先生に顧問になって欲しいデス!」

 

 

 まぁこうなるわな。先日プライベートで侑と一緒にいるところをコイツらLiellaのメンバーに見られてしまい、流石に誤魔化し切れずに虹ヶ咲の奴らとの関係を話してしまった。今までスクールアイドルと関りがないと言っていたのが嘘だとバレ、しかも指導経験持ちということも判明してしまったので当然コイツらの俺を見る目が変わった。特に可可は今みたいに勧誘のしつこさが一回り強くなり、顧問に誘ってくる頻度も目に見えて多くなっている。こうなるから黙っていたのに、これはもう迂闊に女の子と外も出歩けねぇな……。

 

 

「それよりも先生、聞きたいことがあるのデスが……」

「ん? 勧誘を差し置いて別の話題か? 珍しいな」

「は、はい……。えぇっと……」

「なんだよ歯切れが悪いな」

 

 

 さっきまで威勢良く上から目線で勧誘していたのに、一転、今度は頬を赤らめてしおらしくなる可可。相変わらず表情がコロコロ変わるので見ていて飽きない奴だ。

 

 

「あ、あの……虹ヶ咲の方たちとはその……どういったご関係デスか?」

「えっ、関係??」

「はいっ! 侑さんのお話を聞く限り、先生は虹ヶ咲の方々にとても慕われているようなので……」

 

 

 なるほど、想いの男が他の女の子と仲良くしているのが気になる典型的な純情乙女タイプか。そりゃ気になるよな普通は。歩夢たちがかなり特殊で、俺が他の女の子と何をしていようが自分たちも同時に愛してくれればそれでOKタイプの連中だったので、可可のような純粋な疑問を抱くこと自体が普通のことだと忘れてたよ。俺の周りにいる子たちって俺のせいでどんどん恋愛に関する価値観が歪み、俺の周りにたくさん女の子がいるのは当たり前の風潮になっていくからもはや何が普通か分からなる現象が発生したりする。

 

 それにしてもコイツ、そこそこ破天荒な性格をしているのに意外と俺に女がいることを気にしたりするんだな。侑と一緒に歩いている俺を怪しんでストーカーするくらいだし、それだけ純粋な想いを俺に抱いてくれているってことだろう。まあそれはそれで嬉しいからいいんだけど、さてどう答えたものかな。当たり前だけど歩夢たちと肉体関係を持っていることは言えないし、言えるはずもない。現役女子高生たちとただならぬ関係であることは確かだが、流石にそれを公言するほど俺の口は軽くないんでね。

 

 可可はさっきからずっとそわそわしている。さっきの歯切れの悪さといいこの反応といい、恐らくこの質問をすること自体が彼女にとって勇気のいることだったのだろう。好きな奴に付き合っている人はいるのかと聞いて、もしいたとしたら精神的ダメージが半端ない。それを覚悟で質問してくるってことは相当な度胸の持ち主で、何事も恐れない彼女らしい。

 

 

「関係って言われても、俺にとってアイツらは教え子だ。お前が心配するようなことはない」

「し、心配って、可可はただただ興味本位で聞いただけで、べ、べべべべ別に他意はないデスよ!?」

「いやキョドり過ぎでバレバレだっつうの。そもそも俺に他の女がいたとしても、お前はそれを諦める理由にはしないだろ? なんたってお前の長所はしつこさと根性の強さなんだから」

「そ、それはそうデスけど……。虹ヶ咲の方たちは女性としても魅力的で、可可なんかが到底敵う相手ではないデスよ」

「そういうところだけは卑屈だよなお前。お前の好きなスクールアイドルなんだっけ、サニパ、サニパ……サニーパラダイスだっけ? お前いつもポジティブなのに、アイツらを信仰してる時だけは自分を下にするもんな」

「『Sunny Passion』デスよこれから可可の前で二度と間違えないでくだサイ首の骨折りマスよ?」

「こえぇよ! 急に真顔になるな!」

 

 

 好きな相手だろうが躊躇なく抹殺しそうな殺気を放ってたぞ今……。さっきから上から目線の強引さを見せたり、キョドりまくる純粋な面を見せたり、自分の信仰しているグループの名前を間違えられてキレたりと、もう表情変化が豊か過ぎて逆に情緒不安定に思えてくるな……。

 

 

「とにかく、俺が言いたいのは安心しろってことだ。女の子付き合いがないって嘘をついてたのは悪かったけど、それも下手に騒がれないためだ。だから許せ」

「別に怒ってはないデスよ? ただ先生ってやたら女の子の扱いに手慣れていたので、気になっていただけデス。それに可可、先生には虹ヶ咲の方々以外にもまだ関係を持っている女性がいるんじゃないかと睨んでいます」

「えっ? どうして?」

「匂うのデスよ、可可の鼻は犬よりも敏感。この名探偵可可にかかれば嘘の裏の更なる嘘も見抜くことができるのデス!」

「犬なのか名探偵なのかどっちだよ……」

 

 

 口には出さなかったけど、他に女がいると指摘された時は思わず心臓が飛び出そうだった。コイツのことだから適当なことを吹かしているだけだと思うが、その勘の鋭さは俺に冷や汗をかかせるのには十分だ。ただでさえ虹ヶ咲と関係がある男として認知されてしまったのに、それ以外の女の子とも関係があるとバレたら……うん、学校中で噂になり面倒なことになりそうだ。だから秘密の漏洩は全力で阻止したいが、可可の目が輝いているところを見ると俺の裏側を暴露したくて堪らないって感じだな……。

 

 

「さあ先生、吐いてくだサイ! いるのでしょう? もっと他に知り合いの女性がいっぱい!」

「なんだ急に元気になりやがって! さっきまで俺に女がいるかいないかで悩んでたくせに!」

「安心しろって言ったのは先生じゃないデスか! だったら可可はもう迷いません! 先生の秘密を暴くことを!」

「それは迷えよ!? つうか俺の人間関係を暴露しても面白いことは何もねぇぞ?」

「探偵業に面白いもつまらないもありません。これは仕事デスから。仕事に感情は無用なのデス!」

 

 

 なんか真っ当なことを言っているような雰囲気を醸し出しているのもムカつくし、眼鏡をかけてないのに眼鏡をクイっと上げる動作も腹が立つ。心配するなと言ったのは俺だけど、まさかそれをすぐ本気にしてテンションを切り替えるとか、コイツのポジティブシンキングはいい意味で見習うべきものがあるな。

 

 

「超インテリ探偵可可からは逃れられマセンよ! さぁ早く自白するのデス!」

「な~にがインテリだよ馬鹿馬鹿しい。アホっぽい顔して良く言うよ」

「な゛っ!? 言いマシタね! 結ヶ丘の賢者と呼ばれた可可に対してなんたる言い草!!」

「名探偵だったり賢者だったり忙しいなオイ。てかお前ってLiellaの中でも童顔だし、子供っぽいところが……な」

「『な』ってなんなのですか『な』って! そんな悟った顔しないでくだサイ!」

 

 

 Liellaの中でも特に愛嬌があると思っているのはコイツだが、裏を返せば可愛くて愛くるしいというのは子供っぽい顔立ちと言い換えることもできる。しかも表情変化が豊かでたまにクソガキっぽいワガママを言ったりするところも相まって、総じてアホっぽいと一言で片付けてしまった。そのせいで可可は顔を真っ赤にして否定するが、そうやってムキになるところが子供っぽいんだよ。

 

 

「むぅ~こうなったら無理矢理にでも先生の秘密を暴いてみせマス! あとで泣き叫んでも許してあげマセンから覚悟してくだサイ!」

「ちょっ、おい!? どうして俺の膝に乗る!?」

「逃げられないようにするためデス! こ、これで自白するまでずっと可可と一緒にいなければなりませんよどうしマスか?」

「顔赤くなってるぞ恥ずかしいんだろ!? 恥ずかしいならやめておけばいいのに」

「そ、そうやって諦めさせることで逃げようという魂胆デスね!? ふ、ふん、名探偵可可にそんな浅はかな手は通用しまセンよ!」

 

 

 だったら探偵らしく相手から巧みに話を引き出させて推理しろっつうの。これだと警察の尋問じゃねぇか……。

 今の体勢としては、ベンチに座っている俺の膝の上に可可が向かい合って跨っている状態だ。まるで人目を憚らず公園でイチャついている迷惑カップルのようだ。誰がどう見ても恥ずかしい体勢なのだが、それは可可も承知の上らしく、それが分かっていてもなおこの体勢を崩そうとしない。顔を真っ赤にして息遣いも荒いし、今にも爆発しそうな羞恥心を押し殺してこの体勢を維持しているのだろう。

 つうか、そこまでして俺の秘密とやらを知りたいのか。見上げた根性と褒めるべきか、この意地の張りこそ子供っぽいと馬鹿にすべきか……。

 

 

「そもそもこんな状態で自白すると本当に思ってんのか?」

「せ、先生だって恥ずかしくなって冷静でいられなくなるはずデス! その時に隙をついてなんとか自白を――――って、どうしてそんなに澄ました顔をしているのデスか!? 女子高生に馬乗りになられて平気とか、本当に男性なのデスか!? 下半身に付いているのデスか!?」

「失礼だなお前!? ま、こんなことは日常茶飯事だからどうってことねぇよ。いきなり飛び乗って来た時はビックリしたけどな」

「えっ、日常茶飯事??」

「あっ、あぁ……」

「女の子にいつもこんなことをさせているということデスか!? 日常的に!? やっぱりラブラブカップルの関係である女性がいる、ということなのデスね!?」

「ち、違う! そういうことじゃない!」

 

 

 やべ、思わず余計なことを言ってしまった。精神的にもこちらが優勢だったので油断しちまったか。もちろん可可が失言を見逃すはずがなく、ここぞとばかりに追及してきやがる。追及されるだけならまだいいけど、俺が女の子に対して対面座位をさせているという発言はどうかと思うぞ……。妹の楓を始めとした甘え上手な奴らが勝手にやってくるだけで、男から膝に乗ってくるように誘ったことは一度もない……多分。

 

 とにかく、失言をしてしまった以上は自分で尻拭いをしなければならない。あまりコイツに調子に乗られても面倒だからな。

 

 

「世の中にはな、お前の想像を遥かに超えた積極性を持つ女の子がいるんだよ。お前のように恥ずかしがったりせず、むしろノリノリで俺の膝に飛び込んでくるような奴らがな」

「そ、そうなのデスか? 凄い……。可可はこの体勢を維持するだけでも心臓がバクバクしていマス……」

「だろ? アイツらからしてみればただ俺にじゃれてるだけなんだ。いわゆる猫なんだよ。だから俺がさせてるとか、ラブラブカップルとか、そんな甘い妄想は捨てろ。アイツらは目をギラつかせて俺を狙う肉食系動物なんだから」

「い、意外と苦労されていたのデスね……」

「あぁそうだ。分かってくれたのなら嬉しいよ」

 

 

 ま、俺の言ったことの半分くらいは嘘なんだけどな。俺から直接させることはないが、ラブラブカップルかと言われたら一部そういった雰囲気もあるかもしれない。でも楓や虹ヶ咲の奴らなんて本当に肉食系で身体でのスキンシップも躊躇がない子ばかりだから、たまに俺の意思なんて関係なくグイグイ迫って来ることがあるのでそこは苦労しているポイントだったりする。男にとって相当贅沢な悩みだよなこれ……。

 

 

「おい、納得したのならそろそろ降りろ。貴重な昼休みを対面座位のまま終わるつもりか? 学校でイチャつく迷惑カップルだと思われるぞ」

「ふぇっ!? そ、そうデスね……」

「また急に恥ずかしがりやがって……。さっきの勢いはどうしたんだよ」

「さっきは先生の秘密を暴こうと躍起になっていマシタが、よくよく考えてみれば可可、とんでもないことを……!?」

「あれだけ指摘してやったのに今更気付いたのかよ……」

「でもこの体勢で先生に迫った女の子はみんな肉食系で、ラブラブカップルはいない……。となると、可可はその第一号になろうとしてる……??」

「おいどうしたさっきからブツブツ言って? 第一号ってお前、俺たちはそんな関係じゃねぇだろ」

 

 

 もしかして俺の声、聞こえてない?? Liellaの奴らは羞恥心が正常でない状態で考え事をすると周りの声が全く聞こえなくなる習性があるらしい。今も可可が何やら不穏なことを言っており、どうやら俺の膝を降りる気はなさそうだ。

 

 このままだとコイツを膝に乗せたまま昼休みが終わりかねない。午後に向けて体力を蓄えるために昼寝をしたいのにこれでは不可能だ。仕方ないから自分の世界に迷い込んでいるコイツを正気に戻してやるか。

 

 俺は可可の両肩を掴み、揺さぶってやる。

 

 

「おいしっかりしろ。妄想に耽ってる場合じゃねぇぞ」

「ふえっ!? あっ、先生!? って、ち、近い……ッ!! 先生の顔が可可に……ふわぁっ……あぁ……!!」

「落ち着け! また気絶しようとしているぞ気をしっかり保て!」

「せ、先生の顔が近いデス! 息がかかりマス! それに先生の声が可可の耳に入って……ッ!!」

「なに訳の分からないことを言ってんだ耳フェチかよ!? こんなところを他の生徒に見られたらまた変な噂が――――」

 

 

 

 

「騒がしいと思って来てみれば、まさかあなた方だったとは……」

 

 

 

 

「れ、恋……」

 

 

 いつの間にか俺たちの目の前に恋が仁王立ちで立っていた。こめかみに怒りのマークが現れており、明らかにキレている。そして気付けば周りには多数の女子生徒がおり、男女の交遊を間近で見られて興奮しているのか黄色い声を上げていた。

 

 

「違うんだ。誤解だ」

「いつも言っていますよね? 教師たるもの生徒の模範であるべきだと。それなのにも関わらず、中庭で女性を抱きしめようとしているなんて……」

「だから違うって!」

「とりあえず、この件は理事長へ報告します!」

「だから違うんだって!! てか起きろよお前も!!」

「ふにゃぁ……」

 

 

 どうやら恋や周りの女の子たちは俺が可可を抱き寄せようとしていたと思っていたらしく、白昼堂々と不純異性交遊をする教師というレッテルを張られてしまった。つうか、何かあるたびに変なレッテルを張られてる気がするな……。

 

 そして、可可は昼休みの間ずっと気絶していた。いい加減に恋愛弱者を卒業して欲しいよ……。

 

 




 作者の私自身がこんなことを言ってはお終いかもしれませんが、零君に自白させるよりも侑にこっそり聞いた方が簡単にハーレム王の実態を暴けるかも……?

 それにしてもLiellaメンバーの恋愛クソ雑魚描写をほぼ毎回描いているせいか、毎回誰かしら気絶してるような気がする……(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お嬢様を誑かす輩

 とある平日の夕方。今日は久々に仕事が早く片付いたので日が昇っている間に帰宅している。特に部活の顧問を請け負っていないメリットがここであり、自分の仕事さえ終わればそそくさと帰れるのが大きい。いつもは放課後に生徒たちから勉強で分からないことを聞かれる質問攻めに遭うのだが、今日は奇跡的にそれもなかった。だからこうして悠々と仕事終わりのアフター5を楽しめるってもんだ。

 

 楽しめるとは言っても基本的に俺はインドア派なので、時間があるからと言って仕事終わりにどこかに立ち寄る趣味はない。かと言ってせっかく早く帰れているのに何もせずに帰宅するってのも勿体なく感じる。家に帰れば楓が出迎えてくれるから暇ではないのだが……うん、どうせならアイツに何か買ってやるか。いつも家事(という名の俺の身の回りの世話)をしてもらってるからそのお礼だ。まあアイツなら『お兄ちゃんがいるだけでご褒美』とか言いそうだけど、たまには労ってやるのも家主の務めだろう。

 

 そんなわけで渋谷の街中を練り歩きながらいい感じのスイーツを探しているのだが、俺の目利きがないせいかどれを買っていいのかさっぱりだ。普段はそういったモノを食べない、食べるとしても女の子たちから貰う手作りお菓子ばかりなので、女の子向けにどのスイーツを買えばいいのかその知識がない。相変わらず流行りとか、そういうことに関しては世間知らずなんだよな俺……。

 

 そういや虹ヶ咲やLiellaの連中はよくみんなでケーキを食べに行ってたような……。俺も何度か付き合わされたし、若い女の子だったらケーキ好きなのは必然か。買ってやるにしてはありきたりなものだけど、そんな奇抜なモノをプレゼントする必要もないだろう。

 

 そう考えつつケーキ屋の前までやって来た。なんか男が1人で来るのは場違い感があるけど、俺以上に異様な雰囲気を醸し出している女性が近くにいた。

 

 

「お嬢様が好きなケーキ、今日は売っていてよかった。人気でいつも売り切れていますから……」

 

 

 俺の隣にいる女性は紛うことなきメイドさんだ。秋葉原にいるような萌えを売りにしたオタクに媚び媚びのメイドではなく、清楚さ全開のモノホンのメイドさんである。街中にまでメイド服を着ているのはかなり目立つが、それも自分の職務に誇りを持っているからだろうか。

 

 

「あら……?」

 

 

 えっ、なんかこっちを見てるんだけど……。ここまでまじまじと見つめられるともしかして知り合いなのかと思ってしまう。でも俺にメイドの知り合いなんていないし、流石に人違いだろう。まさか一目惚れ……は自惚れすぎか。

 

 

「あなた、もしかして神崎零先生ではないでしょうか?」

「へっ、そ、そうですけど……」

「やっぱり! 一度お会いしたいと思ってたので嬉しいです!」

「えっ、ちょっとどういうことだ??」

 

 

 いきなり俺に詰め寄って来た謎のメイド。名も知らぬ女性に会いたかったと言われ、初対面なのにこの近さ、もしかして怪しい勧誘業者か何かか?? メイドをやっているだけあって美人であり、この容姿であれば並大抵の男であれば即靡いてしまうだろう。女性経験が多い俺であってもちょっと緊張してるっていうのに……。

 

 

「申し遅れました。私、葉月家でメイドをしておりますサヤと申します」

「葉月……? あぁ、恋のところの」

「はい。よろしくお願い致します」

 

 

 いい笑顔でお辞儀をする葉月家メイドのサヤさん。ぶっちゃけ渋谷の街の真ん中でそんなことをされるとこっちが恥ずかしいのだが、街中でメイド服を着ているといいこの人には羞恥心はないのか……?

 それにしても恋の家にメイドさんがいたとは……。デカい家に住んでいることは知っていたけどメイドがいることは初めて知ったぞ。お金持ちの女の子となら何人か知り合い(真姫とか鞠莉とか)だけど、実際に本職のメイドを見るのはこれが初めてだ。俺が今まで見てきたメイドってコスプレばかりで、しかも大体が脳内ピンクの淫乱だったからな……。

 

 

「お嬢様からいつもお話は聞いています。とても頼りになる先生だとか」

「アイツがそんなことを? 学校では仏頂面でツンツンしてるんだけど……」

「お嬢様ほど素直な方はいませんよ。そうだ、お時間があるのであれば学校でのお嬢様の様子を聞きたいのですが、いかがでしょうか? 葉月家でたっぷりとおもてなしをさせていただきます……フフ」

「時間はありますけど……」

「けど?」

「いや、なんでも」

 

 

 なんかさっき不敵な笑みが見えたような気がしたが、俺の気のせいか?

 とりあえず俺は誘われるがままに葉月家に向かうことになった。あまりにも突然すぎる家庭訪問だが、この人が実質恋の保護者的な立ち位置だと思うので、大切なお嬢様の生活ぶりを聞きたいと申し出ているのであればそれに応えてやりたい。恋の両親はもう亡くなっているからな、そういった意味でもこの人は恋を心配しているのだろう。だからこそ彼女をよく見ている俺がこの人の心配を払拭してあげないと。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 普段から庶民生活を満喫しているせいか、こういった豪邸クラスの家に来ると柄にもなく身が引き締まってしまう。海未や真姫の家もそこそこに大きいが、葉月家はそれ以上の敷地を誇っている。そもそも葉月家は没落貴族と言っても差し支えないくらい金銭に余裕がないのだが、この土地を維持するくらいにはまだ生活は困窮していないらしい。家賃が安いオンボロアパートに住んでいるとかじゃないから、それはそれで安心したかな。

 

 

「改めまして、ようこそお越しくださいました。葉月家特性のハーブティをお持ちしますね」

 

 

 案内されたのはだだっ広い応接室。柔らかいソファ、お高い机、豪華なシャンデリア、踏むのすら躊躇する綺麗な絨毯。何から何まで庶民離れした高級感溢れる家具のせいで若干居心地が悪い。俺自身それほどお洒落な性格ではないので、こういった堅苦しい場所は苦手だったりする。それにお上品な作法とかも分からないので必然的にソファに座ったまま何もせず固まらざるを得ない。これが知ってる人の家ならふんぞり返れるんだけどな。これでも教師で家庭訪問をしているわけだから、社会人として学校の面子を保つために失礼はないようにしないと。

 

 しばらくして、サヤさんがケーキスタンドとティーカップを持ってきた。ケーキスタンドには先程のケーキ屋で買ったであろうケーキが、ティーカップには葉月家直伝のハーブティーが注がれており、見た目からして俺には似合わぬ飲食物ばかりだ。俺はハンバーガーや牛丼といったジャンクフードが好きな人種。だから見た目は美味しそうだけど高級オーラ溢れる食事ってのは萎縮しちゃうんだよ……。

 

 その後は慣れないアフタヌーンティーを嗜みながら、恋の学校での様子やらその他諸々をサヤさんに話した。やはり付き人兼保護者である彼女からしてみれば恋のことが心配らしく、俺があれこれ話す前に食い気味で恋の学校生活について質問をしてきた。それだけ恋のことを大切に思っているのは分かるけど、引くくらいに必死に質問攻めをしてくるものだから少し怖かったぞ……。どこか大切にしている以上の何かを感じなくもない。主従の愛って言うのか、そういうものがひしひしと伝わってきた。

 

 

「あっ、そろそろお嬢様をお出迎えに行かなくては。すみません先生、少しの間ここを離れますわ」

「だったら俺も帰ろうかな。アイツが帰って来て俺がここにいたら驚くだろうし」

「そんな! お嬢様のことでもっとお話をお聞きしたいです!」

「そ、そうですか? まあ今日は時間ありますし、少しだけなら……」

「ありがとうございます! お嬢様を連れてすぐに戻るので、しばしお待ちを!」

 

 

 恋の話をしてから謎にテンションが高くなってるなこの人。それだけ大切な人だってことなのか。それにしても異様なまでに過保護っつうか、何か異質な愛みたいなものを感じるようなそうでないような……。

 

 つうか恋を連れて戻ってくるのはいいにしても、この家庭訪問って突然決まったことだからもちろんアイツは何も知らない。だから帰ってきたら俺がいて、しかも俺の口から自分のあることないことをサヤさんに話しているとバレたら怒られそうな気がする。いや、逆に恥ずかしがるか。どちらにせよ家に俺がいることでアイツの精神は掻き乱されることだろう。

 

 

 ――――と、思っていたのだが……。

 

 

「遅い……」

 

 

 全然帰って来ない。もう30分は経っているはずだ。この家から学校までの距離は短く、車を使えば片道5分もかからない。そう考えるともう恋を連れて戻ってきてもいい頃だがかなりの時間を待たされていた。

 

 

「客人を待たせるとかどういう神経してんだよあのメイド。ったく、もう勝手に帰らせてもらうか」

 

 

 これ以上遅くなるとせっかくのアフター5が無駄になってしまう。そうならないためにも悪いがここで帰らせてもらうことにした。もしかしたらどこかで事故ってるのかもしれないが、だとしたら余計にここで待っているわけにはいかない。それに遅れるなら遅れるで連絡を寄越せばいいだけの話だ。俺の連絡先を直接知らなくても学校経由で教えてもらうことはできるはず。それすらもしていないってことは意図的に放置されているか、それとも本当に何かあったのかの2択だろう。

 

 どちらにせよここで待っていても状況は変わらないので帰る支度をし、この部屋から出ようとする。

 だが――――

 

 

「なに!? 開かない!?」

 

 

 ドアノブを回したけど一向にドアが開く気配がない。壊れているのかと思ったけど部屋に入るときは普通に入れたからそれはないはずだ。だったらどうして……? ていうか俺、ここに閉じ込められたってことか!?

 

 

「残念ながら、あなたを帰すわけにはいきません」

「サヤ……さん? どうしてここに??」

 

 

 恋を迎えに行ったはずのサヤさんが、何故か俺と同じ部屋にいた。少しホラーチックではあるが、そんなことよりも彼女の様子がさっきまでとは違う。清楚なメイドを具現化したような彼女から一転、冷ややかな目でこちらを見つめてくる。あからさまに怒ってますよと言わんばかりの表情であり、さっきまでの穏やかなオーラは完全に消えていた。

 

 ていうかどうしてこの人がここにいるんだ?? それに部屋から出て行ったはずなのにどうして密室の子の部屋にいるんだ?? それに怒っている意味は?? もう何が何だか全然わかんねぇ……。

 

 

「お嬢様を誑かす輩……ここで粛清します!!」

「ちょっ、どういうこと!? 一体何を言ってんだアンタ!?」

「はぁ……やはり無自覚野郎でしたか。流石はお嬢様を誑かすだけでは飽き足らず、他の女子生徒まで毒牙にかけているだけのことはありますね」

「失礼な言い方だなオイ……。もしかして俺が恋たちを惚れさせてるとか、そんな風に思ってる?」

「当たり前です!! 女子高に男性が1人! それでケダモノにならない男がいますか!? そんな輩にお嬢様が……お嬢様がぁああああああああああああああああああああ!!」

「いや何もやってねぇからな!?」

 

 

 うん、なんとなくこの人の本性が分かった気がする。最初に話した時から恋への愛情がどこか異質だとは思っていたからな。それでもこの壊れっぷりは相当アイツに入れ込んでると見える。もしかして俺、とんでもない地雷を踏んでしまってるのか……??

 

 

「何もやってない……? だったらどうしてお嬢様があんな乙女な表情をするのです!? 『恋』という名前なのに今まで『恋』をしてこなかった初心っ子のあの方が、ここに来て急に乙女チックになっているというのに……!!」

「サラッとアイツのことを馬鹿にしてるような……。ていうか別に思春期女子だったら恋ぐらい普通だろ」

「そのせいで……そのせいでお嬢様が私のことを見てくれる時間が減ったというのに!?!?」

「知るか!! 一緒に住んでるんだったらそれこそ一緒にいる機会が誰よりも多いだろ。それでも不満なのかよ」

「1分、1秒でも話す時間が減るのが私にとってどれだけキツイことか……。目の前の私がいるというのに、妄想の中の男にかまけるなんて……」

「その男ってもしかして俺のことか?」

「そうですよ!! お嬢様を穢した罪、ここで断罪させていただきます!!」

「おいおい……」

 

 

 これまた面倒な奴に巻き込まれたもんだ。言わんとしていることは分からなくないが、あまりにも被害妄想が過ぎる。お嬢様LOVEなのは咎めないけど、恐らく恋はこの人が百合妄想が甚だしい残念メイドだってことを知らねぇんだろうな……。

 

 

「いいから落ち着けレズビアンメイド」

「レズ!? 私はそんな悪趣味はないですよ!! ただずっとお嬢様のお側にいて、お嬢様とお話しできるだけでいいのですから!!」

「いや俺には見えてるぞ。アンタの後ろにムチとかロウソクとかボンテージ服とか、明らかにアイツと何かする気満々じゃねぇか」

「こ、これはあなたを粛清するための道具で、決して私がお嬢様に躾けてもらいたいとか、そういった類の趣味は一切ないですから!!」

「もう全部口に出てるぞ淫乱レズビアンメイド」

 

 

 蓋を開けてみたら想像以上に趣味趣向が偏ってるメイドで、驚くのを通り越して唖然としてる俺がいる。同性愛がどうとか俺からしたらどうでもいいことだが、ドM趣味は流石に擁護できねぇぞ……。しかも今からそれを俺に使おうとしているらしい。うん、面倒臭い。早く帰りたいけど密室にされてしまっているから付き合うしかねぇんだよな……。

 

 

「お嬢様に群がる悪い虫は私が追い払います。いや、追い払うどころか二度と纏わりつかないように地に這いつくばらせなければ……」

「お付きのメイドがこんな性格だと知ったら、アイツなんて思うだろうな……」

「な゛っ、まさか脅す気ですか!? ですが心配ありません。今の私を知っているのはあなたのみ。でもあなたはここで終わる。つまり真の私を知る人はこの世で誰もいなくなるというわけです」

「終わるって何をする気だよ……」

「お嬢様に使ってもらうはずだったこの調教道具を逆に私があなたに利用することで、あなたを下僕にするだけです!」

「使わせる予定だったって、そんなことしたらいずれお前の性癖がアイツにバレてただろ……」

「大丈夫です! お嬢様はお嬢様が故に天然ですからね、この手の知識は全くありません。つまりイケナイことをしているという概念すらないはずです」

「ちょくちょくアイツのこと馬鹿にしてるよなお前……」

 

 

 確かに恋は今流行の動画配信を知らなかったので、世間の俗物というモノにはかなり疎いのだろう。だからSMプレイどころか『S』や『M』の意味すら知らないと思う。つまりコイツは恋のそういった純朴さに付け込んでこっそりSMプレイを楽しもうとしていたらしい。策士なのか外道なのか、いや、ただの変態か……。

 

 暴走する変態メイドに面倒なことをされる前に戦線を離脱したいのだが、生憎部屋はロックされており逃げ出せない。ぶっちゃけこの淫乱メイド1人であれば俺1人でもなんとかなるんだけど、いくら相手がド変態だからって手荒な真似はしたくないんだ。相手は女性、これでも紳士なんでね。

 

 

「さて、お話は終わりにしましょうか。ここからたっぷりとその罪を身体に味わってもらうのですから……フフ」

「どうでもいいけど、そろそろやめておいた方がいいと思うぞ? 後悔する前にな」

「なにを言っているのですか。後悔するのはそちらの方です。お嬢様に手を出した報い、ここで受けてもらいます!」

 

 

 ロウソクに火をつけ、ムチを片手にこちらに迫る変態メイド・サヤ。その姿を見るとS属性に見えるけど本人はM属性。両方はプレイが中途半端になりがちだからどっちかにしろってのがAVの鉄則なんだけどな。つまりこいつもまだまだにわかだってことだ。

 

 そして、じりじりと詰め寄って来る変態メイド。だが俺はその場から一歩も動かなかった。

 

 

「もう逃げることすら諦めましたか。往生際が良いのは助かります」

「いや、逃げる必要がないだけだ。変態の扱いはこの世の誰よりも慣れてるからな」

「それはどういう意味です……」

「それに俺を閉じ込めるにしても場所が悪かったみたいだぞ」

「えっ……?」

 

 

 

「サヤさん? どこに――――あっ、いました……って、サヤさん!?」

 

 

 

「お、お嬢様!?」

 

 

 

 密室のはずだったドアを開けて部屋を覗いたのは、家主でありこのメイドの主でもある恋だった。そしてその後ろにはかのんたちLiellaのメンバーが勢揃い。

 さて、次は俺ではなくこの淫乱メイドがどうこの危機を乗り越えるのか、間近で拝見させてもらうとするか。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 Liella編で初めての前後編ですが、ぶっちゃけ本番は次回で今回は完全にネタです(笑)
 今回のメイド・サヤさんはアニメでも登場したキャラですが、万が一アニメを見ていなくてこの小説だけ見ている人がいたら絶対にキャラを勘違いさせてしまいそうですね……。そういう人っているのかな?


 次回はLiellaメンバーが零先生の誤解とを解くため、胸に秘めた想いを打ち明けます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

解放される想い

 前回のお話の続きとなります。
 


「サヤさん? どこに――――あっ、いました……って、サヤさん!?」

「お、お嬢様!?」

 

 

 M属性持ちド変態メイドのサヤは、突然現れた恋(とかのんたち)に口をあんぐりと開けて驚く。当初見せていた清楚なメイドの雰囲気はどこへやら、完全にネタキャラとしての地位を確立している。本来メイドとはご主人様のために誠心誠意を尽くす清純な女性というイメージがあるが、どうも俺が会うメイド(コスプレしてる奴ばかりだったが)はどこか頭がぶっ飛んでいる奴が多い。そろそろ俺を癒してくれる献身的なメイドに会いたいもんだよ……。

 

 

「お、お嬢様……帰っておられたのですね……」

「は、はい、練習が終わったもので……」

「お嬢様だけではなくてLiellaの皆様もいるのですね……」

「はい、今後のライブについて打ち合わせをしようかと……。事前にサヤさんに電話したのですが、全然反応がなかったもので……」

「そ、そうなのですね。この人を調教……いやお相手をしていたので気付きませんでした……」

 

 

 なんだこの空気。恋は目の前の状況が飲み込めずに混乱しており、サヤはいきなり現れた愛しのご主人様に混乱している。恋の後ろにいるかのんたちも何が起きているのか分からずに黙ったままだし、この中で俺を覗き正常でいられている者はいないだろう。それ故に微妙な空気が漂っているのだ。

 

 

「と、とりあえずお客様にお菓子とお飲み物をお出ししますね……」

「は、はい、お願いします……」

 

 

 そう言って何事もなかったかのように手に持っているロウソクとムチをクローゼットの中に隠し、本来のメイド業に戻ったサヤ。恋も何かの見間違えだろうと思って何度も目を擦って現実から逃避しようとしていた。

 

 そんな中、かのんたちが俺のもとにやって来る。

 

 

「先生、一体どういう状況なんですかこれ……?」

「さぁな。メイドが清楚だとか淡い期待はするなってことだ」

「えっ、全然意味分かんないんですけど……」

 

 

 ありのままを話すとコイツらをドン引きさせてしまいそうだし、何よりサヤ本人の名誉のために黙っておいてやる。このままこの状況がスルーされれば実はアイツがド変態メイドだったという事実も有耶無耶になるだろうしな。それに俺があることないことを話して恋とサヤの関係が悪くなるのも避けたいところ。ま、俺の温情に感謝することだな淫乱メイド。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんなこんなで先程の調教現場は何もなかったかのように片付けられ、俺が来たばかりの綺麗な応接室に戻った。長いソファにLiellaの5人が腰を掛け、1人用の高級感が溢れるソファに俺が座る。そして俺たちの近くにはサヤがメイドらしく立ったまま控えている。ソファの前のテーブルには庶民が口にすることすら憚られるお高そうなスイーツとハーブティーが並んでおり、かのんたち4人はお言葉に甘えてそれを頂いていた。

 

 かのんたちがここに来たのはライブの打ち合わせをするのが目的だったそうだが、さっきまでの微妙な空気を未だに引きずっているのか誰も言葉を発しようとしない。先程の事件のことをスルーしていいのか、それとも何か言及した方がいいのか迷っているようだった。これじゃあもう打ち合わせどころじゃねぇな……。

 

 

「そういえばどうして先生がここに? 先生が来るとは聞いていませんでしたが……」

「あぁ、コイツに誘われたんだよ。街中でいきなり知らない奴に名前を呼ばれたからビックリしたけど、まさか恋のお付きだったなんてな。それでコイツが学校での恋の様子を聞きたいって言うから、家庭訪問って名目でお邪魔したんだ」

「そんな勝手に私の話を!? サヤさん!?」

「す、すみませんすみません!! でもお嬢様の学校生活が気になって仕方なくて!」

「そこに関しては許してやれ、お前のことが心配だったんだよ」

「それはそうですけど……。うぅ、恥ずかしい……」

 

 

 性格に色々難アリのサヤだけど、恋を心配する気持ちは本物だろう。実際に俺から恋の学校生活の話を聞いていた時は熱心だったし、食い気味に質問してきて親バカの毛もあったけどそれだけ恋を大切にしているということだ。M属性で主に調教されることを夢見ている変態ではあるが、心配する気持ちだけは彼女の純粋さを感じた。

 

 

「安心しろ、変なことは何も喋ってないから」

「な゛っ!? それだと私に裏があるみたいじゃないですか!! 変なこととは一体どういうことですか!?」

「なんだ? ここで言ってもいいのか? お前が羞恥心に悶えて苦しむだろうから黙っておいてやったのに」

「うっ、それは……」

「お前のあんな表情もこんな表情も、あんな姿もこんな姿も俺だけの心に留めておくから心配すんな」

「先生に知られていること自体が一番心配なのです!! 全くもう……」

 

 

 恋は怒っているようだが別に満更でもない様子だ。普段は生徒会長としての大義名分があるためか教師の俺に対してですら厳しく指導することがあるけど、その仮面さえ剥がれれば割と天然で従順な一面もある。厳粛な性格だが常にツンツンしているわけではなく、助けられたら素直に感謝できるし、教師として俺のことを尊敬してくれてもいる。なんだかんだ心はしっかり開いてくれているんだよな。

 

 そんな感じで俺と恋が話している傍らで、サヤが不満そうな表情をしていた。

 

 

「随分と仲が良いのですね……」

「えっ、そうですか? 先生には生徒会の仕事もよく見てくださっており、スクールアイドル関連でもお手伝いいただいているので、他の先生たちとは交流の機会が多いのは確かですが……」

「それでもお嬢様が旦那様以外で男性のお話をしているという、この事実が衝撃的なのです!!」

「そ、それは先生にはお世話になっているからで話題もこと欠かないですし……」

「な゛っ!? 何をニヤけているのですかはしたないですよ!!」

「ふぇっ!? そ、そんなことないですよ!!」

「いや、顔真っ赤ですから!!」

「えぇっ!?」

 

 

 なにやってんだコイツら。かのんたちもポカーンとしてるぞ……。

 どうやらサヤは俺と恋が想像以上に仲が良いことに不満のようだ。そりゃ以前の恋は学生が背負うには重い使命を背負っており、それ故に他人との交流は断絶していた奴だった。その頃をよく知っているサヤは自分こそが彼女の一番の理解者であり、自分だけは頼りにしてくれていたこともあってかある種の独占欲が生まれていたのだろう。

 だが、そこに俺が現れた。長年付き合ってきた自分ではなくぽっと出の男の方に心を開いた主を見れば、そりゃ嫉妬の1つや2つはするかもしれない。寝取られってほどでもないけど、サヤからしてみれば面白くないのは間違いないだろう。

 

 

「まさかお嬢様がノンケになってしまわれるとは……。あれだけ……あれだけ愛し合っていたのに!!!」

「ノ、ノ……なんですか? 意味は分かりませんが、否定しなければならないような気がします」

「ノンケって、恋は最初から同性愛者じゃねぇだろ……」

「でも唯一私と繋がっていたことは事実です! あなたがお嬢様を変えてしまわなければこんなことには……」

「何を仰っているのか一部理解できないところはありますが、変わったと言えば確かに先生には私を変えてもらいましたよ?」

「やっぱり!! そうでなければお嬢様がノンケになるはずがないのです!!」

「いや、変わったってお前の言う変な意味じゃねぇからな絶対」

 

 

 恋の言う変わったは『人間的に成長した』という意味で、サヤの言う変わったは『性的趣味』の意味だと思うので、お互いの会話が絶妙に噛み合っていない。つうか恋の奴、サヤから同性愛者の毛があると思われてたのか。小さい頃からずっと一緒にいたらしいし、つまり自分の近くにずっとレズビアンメイドがいたってことになる。そう考えると怖いな……。

 

 

「お嬢様! この方に何を吹き込まれたのですか!? 生徒どころか教師も女性しかいない女子高。そんな環境に男性がお一人だなんて、絶対に何か良からぬことを企んでいるに決まっています! 絶対に食って食べようとしていますよ!!」

「2回食ってるじゃねぇか俺どれだけ肉食だと思われてんだ……」

「仰る意味はよく分かりませんが、先生に悪気は一切ないと思いますよ……?」

「もう刷り込みをされている!? 自分の都合のいいように女性の思考を書き換えるなんて、もはやマインドコントロールの類……!?」

「落ち着け、話が飛躍し過ぎだ」

 

 

 俺は宗教団体の教祖か何かか……?? 確かに自分の世界観に女の子たちを引きずり込んでいるような気がしなくもないけど、あくまで女の子たちが自分で決めた道だから俺が強制しているわけじゃない。そうやって言い返したいんだけど、今のサヤに何を言っても火に油を注ぐだけだから余計なことは言わないでおこう。

 

 

「あ、あのっ!」

「えっ、可可さん?」

 

 

 突然話に割り込んできたのは、さっきからずっと黙ったままで背景と化していた可可だった。それは他の奴らもそうだが、どうやらみんな何か言いた気な真剣な表情をしている。レズだのノンケだの飛び交うカオスな会話に割り込むのは相当勇気がいることだと思うけど、その勇気が出るくらいには主張したいことがあるのだろう。

 

 

「確かに先生はちょっとおかしいところがありマス。学校の先輩、頼れる近所のお兄さん感が強くてあまり教師らしい雰囲気もありマセン」

「おい」

「しかし、可可たちが思い悩んだ時はいつも近くにいてくれマシタ。手を差し伸べてくれマシタ。助けてくれマシタ。こうしてLiellaがスクールアイドルとして結成できたのも、先生がここにいるみんなを1つに紡いでくれたおかげなのデス!」

「そ、それはそうかもしれませんが……」

 

 

 意外と恥ずかしいことを言いやがって可可の奴……。でもこうやって自分の想いを躊躇いなく表に出すのはコイツのいいところであり、その純粋さと想いの強さのおかげでかのんをスクールアイドルに誘うことができ、今のLiellaがあるんだ。それでも俺のことをここまで褒めてくれるなんて初めてだから、流石にちょっと驚いたよ。

 

 そして可可の素直な想いをぶつけられ、さっきまで勢い付いていたサヤは怯んでいる。多分だけど、彼女も俺のことを本気で非難するつもりはないんだと思う。ただ俺に対して少し疑いがあり、自分が長年付き添ってきたお嬢様に悪い虫が付かないようにしているだけだろう。性格はアレだけど純粋な気持ちがあることは間違いないからな。

 

 可可が先陣を切って主張したのを皮切りに、すみれと千砂都も同じく会話に割り込んでくる。

 

 

「お人好しなのよね、ホントに。頼んでもいないのに助けに来ちゃってくれてさ。でもまぁ、そのおかげで今の私たちがいるのよね……。だから……感謝してるわ」

「そうだね。他人には全く興味がない唯我独尊な性格をしているかと思えば、困ったときはいつも隣にいてくれる超ド級のお節介さんだもん。だけど、その優しさが先生のいいところだと思いますよ」

「み、皆さんまで……」

 

 

 自分の性格を冷静に分析されるほどムズ痒いことはない。それでもコイツらがここまで素直に自分の気持ちを告白するなんて初めてだから、教師として生徒に慕われていると実感できて嬉しいな。恋愛弱者のコイツらからしてみたら、恥ずかしがらずに自分の想いを打ち明けるだけでも珍しい。それだけ俺のことを悪く思われていることが許せなかったのだろう。

 

 みんなに追従してかのんも同じく口を開く。

 

 

「春に可可ちゃんからスクールアイドルに誘われた時から、先生は私の相談に乗ってくれました。何事も自信を持てなかった、逃げてきた私の背中を押してくれたのは先生です。そしていつの間にか先生と一緒にいる時間が多くなりました。安心できるんです、先生の隣は。先生が見てくれているから、先生なら絶対に目を逸らさないでくれるから頑張ろう。そう思えるんです。可可ちゃんもすみれちゃんも、ちーちゃんも、恋ちゃんも、それに学校のみんなだって先生のことを信頼していますよ。スクールアイドルのことだけではなく、自分の担当教科外の勉強を見てくれたり、ちょっとしたお願いでも助けてくれる優しさが先生のいいところです。多分私たちはそういうところに惹かれて好きになったんだと思います」

「か、かのんさん……!!」

「えっ、私なにか変なこと言いました??」

「かのん、さっきの言葉はまるで……」

「えぇ、サラッとそういうことを言うあたり抜け目ないわね……」

「うん、告白……みたいだったよ」

「えっ、あっ……うっ、うぅううううううううううううううううううううううううううう!!!!」

 

 

 かのんが顔を真っ赤にして唸る。俺への想いと思い出を語る中で、しれっと『好き』というワードを混ぜてくるあたり流石Liellaの作詞家と言えよう。もちろん本人にその意図はなく、自分の言葉を思い返しては更にショートするばかりだ。つうかいつも自爆してるような気がするぞコイツ……。

 

 

「皆様そこまで神崎先生のことを……? 学校の皆様からも慕われているのですね……」

「サヤさん」

「お嬢様……?」

「先生は信頼のおける方ですから、安心してください。重責に縛られていた私を解放してくれたのはここにいる皆さんと、そして先生のおかげです。あの頃の私は自分にも他者にも厳しく接しており、それで先生にも多大なるご迷惑をおかけしました。何度追い返しても先生は何度も何度も私に会いに来て、1人ぼっちだった私に寄り添ってくれました。皆さんの言う通りのお人好しですが、そのお節介のおかげで今の私がいます。ですから、先生のことを悪く思わないであげてください」

「お嬢様……」

「それに私はサヤさんを放っておいたり、ないがしろにしているつもりはありませんでした。でも、寂しさを感じさせてしまったのなら申し訳ございません。サヤさんには本当に感謝しています。先生やかのんさんたちと出会うまで、重責に苦しむ私を唯一支えてくれていたのがサヤさんでしたから。もちろん皆さんと出会ってからもそれは変わらず。日頃から常に神経を張り詰めていたあの頃、家に帰ると出迎えてくれるサヤさんにどれだけ救われたことか……」

 

 

 恋は俺への誤解を解くこととサヤのサポートをどちらも一瞬でやってのけた。こういう咄嗟の出来事でも要領よく対応できるのが如何にも生徒会長っぽいな。

 俺への誤解を解くことはともかく、最後のサヤへの想いは彼女の心にも響いたようだ。近しい関係だと一緒にいることが当たり前すぎて、感謝の気持ちを伝えるのも気恥ずかしくなっちゃうんだよな。だからこそこうして直接気持ちを伝えられた時の感動は大きく、相手との繋がりをより一層強く感じることだろう。

 

 

「お嬢様……私……わたしぃいいいいいいいいいいいい!!」

「ええっ!? どうして泣きそうになっているのですか!?」

「お嬢様にそこまで大切に思われていたことが嬉しくて嬉しくて……!! ずっと一方通行の関係だと思っていましたから……」

「そんなことないですよ! さっきも言った通り、サヤさんに救われたことが何度あったことか……」

 

 

 これでサヤが抱いていた俺への嫉妬心みたいなのは消えただろう。そりゃ幼い頃に両親を亡くし、それからずっと自分のお付きでお世話をしてくれた人をないがしろにするわけがない。結局今回の出来事は全部サヤの早とちりだったってことだ。

 

 

「先生も、申し訳ございませんでした。本日は色々ご迷惑をおかけした挙句、挙句の果てに調教だなんて……」

「別にいいよ。これでお前の心も張れたみたいだしな。結果オーライだ」

「あれだけの仕打ちをされたのに、お優しいのですね」

「あぁ、慣れてるからな」

「調教されることに?」

「それは違う」

 

 

 M属性メイドの登場、しかも危うく調教されそうになったのは驚いたけど、ぶっちゃけそれくらいの衝撃であれば過去に何度も体験している。だからこそ驚くことはあれど嫌悪することはない。むしろそれが俺の日常なんだって半ば諦めてるからな。もう何年もたくさんの女の子に囲まれつつ騒がしい毎日を送っている俺を見くびるなよ。

 

 

「それにしても、お前らが俺のことをあそこまで褒めちぎってくれるなんて初めてじゃないか?」

「えっ、あっ、それはそうデスが……」

「思い出さなくてもいいわよ! もうっ、何を言わせてくれたのよ全く……」

「ほ、ほら、あのままだと先生が変態さんだと疑われたままでしたし、仕方なくですよ仕方なく……あはは」

 

 

 可可もすみれも千砂都も、顔を赤くしたまま俺と目を合わそうとしない。ちなみにかのんは未だに羞恥に悶えて気絶していた。

 まだ恋愛経験は未熟ながらも、俺への想いを語るときのコイツらは真剣そのものだった。つまり嘘偽りはなく、心の奥に隠している気持ちをすべて吐き出したということだ。恋も俺とサヤに対する想いを解放した。

 

 つまり、残るは俺の気持ちだけってことか。

 教師として、そして男として。俺が取るべき選択。それは――――――

 

 

「ちなみにサヤさん、結局このムチとかロウソクは何に使う予定だったのですか?」

「ふぇっ!? い、いやその……せ、先生?」

「いやこっちを見ても助けてやらねぇからな!?」

「嘘付き!? さっき皆さんが『困ったら助けてくれる』って言っていたではありませんか!?」

「他人の尻拭いはしねぇよ!?」

 

 

 おいおい、いい感じに話をまとめられそうだったのにこのドMメイド……。

 尻拭いはしないと言ったが、一応フォローだけはしておいてやった。我ながらお節介焼きだな、俺……。

 

 




 今回はLiellaの面々が初めて零君への想いを語った回でした。ただ恋とサヤさんがメインだったので、かのんたちの出番が控えめで1人1人の気持ちはそれほど描写はできませんでした。また個人回で各々の気持ちを物語として描写できたらと思います。

 とりあえず今回は想いの頭出しということで!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

教師と生徒、男と女

 今回も前回の続きとなっているので、今回単発で読まれる方は前回、できれば更にその前回も読んでおくとより楽しめます。



 ドM変態メイドのサヤに拉致された事件の翌日、俺にはいつもの日常が戻っていた。昨日は危うく無実の罪を着せられ、ドMに調教されそうになるという大珍事が発生。これまで何度も修羅場を経験してきた俺だけど、ご主人様に調教されたい願望のある変態メイドに屋敷に監禁されるという色濃すぎるシチュエーションはこれまでにない経験だった。今なら話のネタとして笑えるが、当時はこんなド変態がまだこの世に存在していたのかと衝撃を受けるしかなかったな……。

 

 その後、かのんたちLiellaの面々たちの活躍により修羅場は終息した。彼女たちは俺への一途な気持ちを伝えたことで、俺にあらぬ疑いを持っていたサヤの誤解を解くことができたんだ。俺と一緒にいると常にそわそわしていた恋愛弱者の彼女たちが、まさか修羅場の中で自分の気持ちを大っぴらにするとは思っていなかった。でもそれだけ俺のことを信頼してくれており、俺を悪く言う奴のことを許せなかったのだろう。自分の想いを曝け出すのは相当な覚悟と勇気がいるはずなので、あの時の彼女たちの本気が垣間見えた。

 

 そう、本気。アイツらが俺に抱いている想いは本物だ。今までたくさんの女の子と恋愛交流を深めてきた俺だから分かる。普段の日常生活でもアイツらから熱い視線を向けられていたから、多分そういうことなんだろうなってのは理解していた。誰かと2人きりの時は特に『もっと一緒にいたい』というアイツらの素直な想いをひしひし感じられるくらいだ。そういった意味では可可が俺にスクールアイドル部の顧問になってくれと執拗に頼み込んでくるのは、もしかしたら俺と一緒にいる時間を増やしたいからという一面もあるのかもしれないな。

 

 アイツらは少しだけど自分の気持ちを表に出した。つまり、俺は何かしらの反応を示す義務がある。学生時代の俺であれば『来るもの拒まず』の精神で、自分を好きになってくれた女の子は全員迎え入れる気満々だったのだが、今の俺は社会人だ。しかも教師と生徒。学生の頃ならやんちゃしても問題ないが、紛いなりにも大人なので地位的にも考えてしまうところはある。虹ヶ咲の連中とよくつるんでいた去年の自分は完全に肉食系だったので、今となってはあの頃の傍若無人っぷり(何も考えていなかったとも言える)が羨ましいよ。

 

 そんなことを考えながらいつもの食卓で朝食を取る。

 向かいの席では妹の楓がマーガリンを塗ったトーストにかじりついていた。俺は考え事をしながらその様子を特に意味もなくぼぉ~っと見つめていたのだが、流石にその視線に違和感を覚えた楓が話しかけてくる。

 

 

「どうしたのお兄ちゃん? そんなに私が食べてる表情に興奮する?」

「どんな趣味をしてたら食事の様子で興奮すんだよ……」

「だったらどしたの?」

「いや……。楓、お前って教師と生徒の関係ってどう思う?」

「男性教師が女子生徒に対して成績アップを餌に毎日放課後にエッチを強要するシチュエーションか、女子生徒が男性教諭の弱みを握って毎日足で搾精してあげるシチュエーションか、どっちか選べってこと? ん~私はお兄ちゃん相手だと攻められたいから前者かな。パパ活がバレて生徒指導室で尋問された挙句、親に報告されたくなかったら毎日俺の性処理をしろってやつ。あっ、でも私はお兄ちゃん以外の男と死んでもエッチしたくないから、そのシチュエーションはなしかな。ちょっと待って、また考え直す」

「もういいって妄想豊か過ぎるだろ!! てかそんな意味で聞いたんじゃねぇよ!!」

 

 

 確かに男性教師と女子生徒って単語だけを聞くと変な妄想をしてしまう気持ちは分か……るのか?? ただ単に俺たちの心が荒んでいるだけなのかもしれない。つうか咄嗟にそのシチュエーションが浮かんでくるのも流石は俺の妹。曇りなく近親相姦を当たり前のように主張してくるその精神、感服するよ。

 

 

「ま、別に関係なんてどうだっていいんじゃなの? そもそもあれだけたくさんの女の子を自分のモノにしておいて、今更なにを悩んでるんだって話だよ」

「おい、問いかけの意図を汲み取ってるなら最初からボケるな……」

「えへへ、ゴメンゴメン」

「そうは言っても、これでも社会人だからな。軽率なことは避けたいんだ」

「はんっ! な~にが軽率だよ馬鹿馬鹿しいの! 私が好きなお兄ちゃんはね、容赦がないところなの。自分の気に入った女の子は全員自分のモノにして、全員を幸せにするその度量の大きさ。私はそんな女を支配する力を持ったお兄ちゃんに組み伏せられるのが大好きなんだよ。お兄ちゃんが女の子をモノにする、つまり女を屈服させる力を振りかざせば振りかざすほど私は言葉に出来ない快感でゾクゾクする。そんなお兄ちゃんが好きなの。だから迷う必要はない。お兄ちゃんは相も変わらず唯我独尊の道を突き進めばいいの。以上!」

「すげぇ個人的な感情ばかりだな……」

 

 

 しかし、楓の言うことは最もだ。結局ここで立ち止まっていても何も変わらないしな。それにうだうだ悩んでいるのも俺らしくない。当初はアイツらが恋愛弱者のせいでアイツらに壁を作られていたと思っていたのだが、本当に壁を作っていたのは俺の方かもしれないな。教師と生徒の関係とか、顧問にならない理由をつらつら並べたりとか、自分でも気づかないうちに逃げ道に入り込んでいたんだ。

 

 

「お前の言う通りだよ。グダグダ考えるのはもうやめだ」

「そうそうこれだよこれ! この肉食系溢れるオーラ! 女を今にも食らいつくさんとする、まさにオスの頂点を感じさせるよ! このオーラを浴びた女は素直に股を開かざるを得ない……。どうする? とりあえずお兄ちゃん復活記念に一発ヤっとく?」

「今は平日の朝! 今から通勤!」

「ノリわるっ!!」

「ノリで性行為ってそれ一番やっちゃダメなやつだからな……」

 

 

 こんな妹だけど、俺のことを誰よりも理解している最強の妹だ。下手をしたら俺よりも俺のことを理解しているまである。アドバイスにしてはアレな内容だったが、俺の考えを改めさせることだけで見ればコイツらしい良い喝の入れ方だったと思う。やっぱ持つべきものはブラコンの妹だってことか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 その日の昼。授業の合間の昼休みは生徒にとっても教師にとっても至福の時間。その時間を()()()と過ごすのももはや日常と化しており――――

 

 

「そろそろ、いい加減に先生には顧問になってもらわないと困りマス。顧問になってくれないせいで、可可の貴重な昼休みをこうして潰してしまっているのデスから」

「だから毎回お前の方が被害者みたいに言うのやめろ……」

 

 

 中庭でベンチに腰を掛けながら弁当を食う流れ、そして可可が理不尽な理由で俺を顧問にさせようとする流れ、どれもいつも通りだ。前にも言ったが可可ももう本気で勧誘しに来ているのではなく、恐らく俺と一緒に昼飯が食えるという状況を作れるがためにここへ来ているのだろう。俺としても最初はそれなりに鬱陶しかったけど、今となってはこれが当たり前になっているため何とも思わない。コイツの強引な勧誘方法に俺がツッコミを入れるのが定番化していた。

 

 物事が日常化するということは自分にとって苦とは思わない、つまり心の平穏なわけだ。だからコイツとのこの時間はこのまま維持し続けてもいいのだが、それでは前には進まない。もう壁を作ることも逃げ道に逃げ込むこともしなくなった俺は強いぞ。

 

 

「そんなに俺に顧問になって欲しいのか?」

「ふぇっ!? は、はい……」

「どうして驚くんだよ……」

「い、いえ、先生が顧問に興味を示してくれたことが意外で……。ほら、今までそんな素振り一切なかったじゃないデスか!」

「そりゃお前の勧誘が強引すぎるからだろ。熱意は伝わるけど人によっては避けられるのも無理はねぇって」

「うぐっ!! す、すみマセン……」

「別にいいよ。可愛い子に言い寄られるのはいい気分だしな」

「先生いきなりどうしちゃったのデスか!? なんか話がとんとん拍子に進んで逆に疑いマス!!」

 

 

 そりゃそうなるわな。昨日までありとあらゆる勧誘を受け流してきた奴が、今日になって人が変わったように話を聞いてくれているのだから。だからなのか可可は『本物デスよね?』やら『頭でも打ちマシタか??』などぶつぶつ言いながら俺を怪しむ始末。その様子を見るに、恐らく心のどこかで顧問にはなってくれないだろうと諦めていたのかもしれないな。

 

 

「そうだ。今日も練習あるんだろ?」

「は、はい……。も、もしかして先生、遂に顧問になってくれるのデスか!? 今まで放課後に練習があるかどうかなんて聞いてくることはなかったはずデスから!」

「相変わらずポジティブ思考だなお前……。それに関しては……どうだろうな」

「な゛っ!? どっちデスか!? もしこれで可可の一途な心を弄んだだけだったら許さないデスよ!!」

「弄ばれて絶望するお前の表情も見てみたい」

「今日の先生本当に攻め攻め過ぎて若干引きマス……」

「なんでだよ!? ま、これが本来の俺だから」

 

 

 自分で言うのもアレだけど、虹ヶ咲の相手をしている時の肉食系の血が戻ってきたようだ。結ヶ丘に教師として就職してからはどうも無難な性格になってたから、自分で自分が懐かしく思えてくるよ。だが本来の俺の姿を知らない可可は今の俺のSっ気ムーヴに困惑している。無難な性格とは言ったけど女の子に優しくする性格はいつも通りだったから、これまでの俺ってただの模範的な優男だったんだな。でも普通の女の子であればただの優男の方が好みか? それに人間性的にも今のような女の子を囲って喜んでいる外道よりも、ただの優男の方が良かったのでは……??

 

 

「あっ、もう昼休みが終わりそうだ。ほら、遅刻する前に早く戻れよ」

「やっぱり弄んだだけなのデスか……?」

「そんな悲しい顔すんな。近々答えを出してやっから安心しろ」

 

 

 これまで無駄だと分かっていても持ち前の元気とポジティブ思考で顧問の勧誘を続けてきた可可だったが、期待を煽るだけ煽られてはぐらかされたので流石に悲しそうな表情をしている。やはり無駄とは言えども俺に顧問になって欲しいという願いは諦めの中でも密かに持ち続けていたのだろう。コイツの場合は考えていることが表情に出るから非常に分かりやすい。そういうところが可愛かったりするんだけどな。

 

 とりあえず昼休みが終わったのでこの場は離脱した。職員室に帰るまでも後ろからずっと可可に視線をぶつけられていたから、相当期待してるんだなアイツ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そしてその日の放課後。廊下でかのんと出会った。

 

 

「先生?」

「よぉ、今から部室か?」

「そうですけど、先生もどこかへ行かれるんですか? こっちはスクールアイドル部の部室しかないですけど……」

「だからその部室に行くんだよ」

「えっ、今日先生が来る予定ありましたっけ?」

「いや、特にない」

「だったらどうして……って、おいていかないでくださいよ~!」

 

 

 先に歩き出した俺の隣にかのんが追い付いてきた。俺の行動意図を全く掴めないためか不思議そうにこちらを見つめている。これまで顧問ではなかったものの、たまに練習を見てやったり部室の掃除に男手として駆り出されたりもしていたのでスクールアイドル部に関わってこなかったわけではない。そこまでするのであれがもう顧問と等しいって意見もあるが、やはり部活に所属しているのとしていないとでは仕事の量も違うので、そういった意味でも顧問を避けてきた。だがその避けてきた理由も、教師と生徒という微妙な立ち位置の関係のことであれこれ悩むのを避けるための逃げ道だったのかもしれない。

 

 

「そういや昨日はありがとな。俺のことを庇ってくれてさ」

「そ、そんな庇うだなんて! ただ私もみんなも自分の気持ちを素直に吐き出しただけですよ。それで結果的にサヤさんの誤解を解くことができただけです」

「結果オーライって言葉があるだろ? お前らのおかげで助かったのは変わりねぇから」

「そう言っていただけると私も助かります。あの時は結構無我夢中で、先生を悪く言われたことに反論したくなっちゃっただけですから」

「それで告白紛いなセリフになって自爆してたもんなお前」

「ぐっ!? もう思い出させないでくださいよ!!」

 

 

 自分の言葉が自然と告白文になってしまい、後に指摘されて自爆することに定評のあるかのん。昨日も無事に自爆して可可たちに介抱されてしまっていた。そして後日それを思い出してもう一度恥ずかしがるまでがデフォルトとなっている。本人にとっては黒歴史かもしれないが、自分の気持ちを隠さずに曝け出してくれるので、己の想いの真剣さを伝えられるのはコイツの長所だったりする。引っ込み思案な性格に見えて意外と真っ向から意見する度胸もあるからな、コイツ。

 

 そしてそのおかげで昨日は助かった。俺から何を言っても警戒心MAXなサヤの心を動かせなかったので、かのんたちが勇気をもって俺への気持ちを示してくれて九死に一生を得たって感じだ。それ故に俺もその想いに応えてあげなければならない。

 

 

「ほら、いつまで恥ずかしがってんだ早く行くぞ」

「先生が言い出したことですよね!? それより、今日は何の用事なんですか……?」

「なんだ? 顧問なのに用事がなかったら部室に行っちゃいけねぇのか?」

「確かに顧問ならいいですけど――――ん? 今なんて言いました?? こ、顧問……って、なんだっけ? 部活動を指導してくれる先生のこと……ですよね??」

「言葉の定義から疑うなよ。顧問になったんだ、スクールアイドル部のな」

「ふぇっ……え゛ぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?」

 

 

 学校中に響きそうなくらいの大声でかのんの叫び声が響く。

 すると部室の方から汚い足音を鳴らしながら誰かがこちらにやって来る。見ればかのん以外のLiellaの面々が全員集結していた。

 

 

「かのんちゃん!? 凄い声聞こえたけど一体どうしたの!?」

「かのん? かのん? 開いた口が塞がっていません何があったのでショウか!?」

「アンタ、またかのんを恥ずかしがらせるようなこと言ったんじゃないでしょうね……」

「先生。あれほど軽率な発言は慎むようにと何度も言っているではありませんか」

「別に大したことじゃねぇよ。俺がスクールアイドル部の顧問になったってだけだ」

「「「「「ふぇっ……え゛ぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?」」」」

「かのんの時と全く同じ反応……」

 

 

 これだけたくさんの女の子に叫ばれると俺が何かしでかしたと思われそうだな……。

 とにかく衝撃が強すぎて気絶しかかっているみんなの回復を待つ。そしてしばらくしてようやく話せる状況に戻った。

 

 

「先生お昼休みの時ははぐらかしてたじゃないデスか。顧問になるって決めてたのなら最初から言ってくだサイ!」

「あの時はまだ決まってなかったんだよ。顧問の申請を理事長に提出して受理されるの待ちだったから、確定するまで言わないようにしようと思ってさ」

「でもどうしていきなり顧問になったんですか? 可可ちゃんの話ではずっと拒否されていたって……」

「それは――――お前たちの傍にいたかったからかな」

「なによそれ。ストーカー?」

「別にそれでもいいよ。でも俺はお前らのことをもっと知りたい。俺への気持ちをあそこまで表に出されたら、そりゃ男として応えるべきだろ。つまり教師としてじゃなく、男の俺としてお前たちと一緒にいたいって思ったんだ」

 

 

 教師と生徒だとか仕事量が増えるとか、そんなものは些細なことだ。俺は俺のやりたいようにやる。俺のことを好きになった女の子がいたら全員こちらの世界に引きずり込む。変に自分を縛るよりもそっちの方が遥かに自分の性格に合っており、久々に肉食系の血が騒いでいる。虹ヶ咲の奴らの初めてを次々を奪い続けた去年の日常のゾクゾクを思い出したよ。

 

 

「ということはこれから先生がずっと練習を見てくださる……ということでしょうか?」 

「あぁ。嬉しいだろ?」

「だ、誰もそうとは言ってません!! ただ、これでサヤさんも安心できると思っただけです」

「そうだな。顧問っていう地位がある奴にだったらアイツもお前を任せてくれるだろ」

 

 

 これでサヤから調教されそうになることもなくなった。理事長に顧問申請を出した時も二つ返事だったし、それほど俺がスクールアイドル部の顧問になって欲しい奴らがいたってことだ。ぶっちゃけ期待されることに関して悪い気はしねぇからな、これで良かったのだろう。

 

 

「つうわけだ、俺が顧問になったからにはこれまでの生ぬるい練習は終わりだから覚悟しておけ」

「先生が見てくれるからには可可、もっと体力をつけて練習についていけるよう努力しマス!」

「私は体力には自信ありますから、逆に先生のレッスンがどれだけのものか見てあげますよ!」

「仕方ないわね。私をより一層輝かせることができるか見極めてやろうじゃない!」

「先生のご期待に沿えるよう、私も精一杯精進いたします」

 

 

 可可も千砂都もすみれも恋も俺の言葉には怯まず、逆に奮起してやる気を上げている。それだけ俺が顧問になってくれたことが嬉しいのか、それとも近くに想いの人がいることで自分を良く見せたいのか。いや、どっちもだな。それは俺も同じであり、今までより近くにいるようになったからにはコイツらにもっともっと俺というものを教え込んでやる。

 

 そして、最後にかのんが一歩前へ出た。

 

 

「あ、あのっ! これからも私たちLiellaをよろしくお願いします!」

「あぁ、よろしくな」

 

 

 今までは序章。今からが俺たちの本当のスタートだ。

 コイツらと一緒にいることで俺の人生がどんな風に彩られるのか、見てやろうじゃねぇの。

 

 




 零君が虹ヶ咲編のような前のめりモードに戻りいつもの彼が帰ってきたので、Liella編はここから再スタートといった感じです!
 気づいていた方もいるかもしれませんが、Liella編開始時の彼は保守モードであり、虹ヶ咲編の彼と比べるとかなり大人しいと感じたかと思います。それがようやく解消され、次回以降はいつものこの小説が戻ってきそうです!

 そういえば本日のLiellaのリアルライブでスーパースターのアニメ2期が7月からに決まったそうで。4月から虹ヶ咲2期なので2クール連続でラブライブを楽しめちゃいます! つまりこの小説もまだ休めないということ……(笑)



 ちなみに今回何気に楓がLiella編で初登場しました。ちょい役でしたが相変わらず好きなキャラなのでもっと出演させたいのですが、オリキャラなので虹ヶ咲編やLiella編から入った方からしたら『コイツ誰?』みたいにならないか心配です(笑)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心の距離

 俺が結ヶ丘のスクールアイドル部の顧問になって数日が経過した。部活動の顧問になったことで教師としての仕事は増えたけど、かのんたちと一緒にいる時間も増えて楽しいので苦ではない。むしろ今まで見られなかったアイツらのスクールアイドルに込める気概に感化され、顧問としてより支えてやりたいと思ってしまうくらいだ。それに美少女たちを合法的に眺めることができるってのはやはり眼福。未だに思春期時代の欲求が残っている俺からしたら、これ以上に適任な仕事はないだろう。指導自体はAqoursや虹ヶ咲でやったことがあるから慣れてるしな。

 

 俺が顧問になったことでLiellaとしてのスキルもアップするだろう――――と、最初はそう思っていた。

 意外というか、想定はできたかもしれないけどこれまでとは違う問題をアイツらは抱えていた。

 

 その問題は主に俺が練習を見てやっている時に発生する。

 

 

「どうしたかのん? 動きが悪いぞ」

「そ、そうですか……? でもそんなにじっと見つめられていると恥ずかしい……」

「ん? 悪い声が小さくてよく聞こえなかった。とりあえず動きにキレが戻るまで見続けてやるから安心しろ」

「そのせいで安心できないんだけどなぁ……」

 

 

「可可、お前いつもそんな大振りのダンスしてたっけ? 体力ないくせにいきなりそこまで飛ばすと後がもたねぇぞ」

「せっかく先生が顧問になってくださったのデスから、もっともっと頑張ろうと思って……」

「いやそれでも力み過ぎだ。リズム感もなさ過ぎる」

「で、でも先生に指導してもらっていることが嬉しくて、いいところをたくさん見せないと……」

「いいから一旦落ち着け」

 

 

「すみれ、さっきから先走り過ぎだぞ。どうしてそんなに焦ってんだ?」

「別に焦ってないわよ! ただアンタの前で無様な姿は見せたくないだけ」

「相変わらず見栄っ張りだな……。練習なんだからそこまで気にする必要ねぇだろ」

「気にするの! アンタの前だから余計にね……」

 

 

「どうですか先生! 先生が見てくれるからいつもよりやる気もアップアップですよ!」

「千砂都……。テンションを上げるのはいいけど、周りにも合わせてやれ。お前のダンスだけプロレベルで誰もついて来られてないから……」

「あっ……。先生にいいところを見せようと思ってつい♪」

「おいおい……」

 

 

「恋、動きがガッチガチだぞ。そこまで運動音痴だったっけお前?」

「い、いえそういうわけでは……。でも先生にご指導いただいているので、勝手に身が引き締まると言いますか……」

「なんだ緊張してるのか? 堅いのは性格だけにしておけ」

「先生の前で情けない姿を見せたくないと思っているだけで……。いや、それが空回りしているのかも……。うぅ……」

 

 

 といった感じだ。全員が本調子ではない。コイツらはこれまで何度もライブを経験してきているので、自分のパフォーマンスに今更恥ずかしがったりはしないはずだ。それなのにも関わらずただの練習でこの体たらく。俺に見られているからか緊張したり自分を良く見せようとして焦ったりと、誰一人として普段の自分を発揮できていなかった。

 

 ただこうなってしまうのも仕方ないのは分かる。これまで憧れで恋焦がれてきた先生が遂に自分たちの顧問になったのだから。だがその喜びで気持ちが先行してしまい、自分の身体が思うように動いていない。恋愛に関しては初心者なコイツらだからこそ、俺にまじまじと見られているという状況だけでも激しく動揺してしまう。見方を変えれば恋愛に勤しむ可愛い女の子たちで微笑ましい光景、とでも思えるかもしれないが……。

 

 とにかく、このままでは顧問がいなかった時代の方が濃密な練習ができていたという謎事態になりかねない。俺に向き過ぎている意識をなんとか自分自身に向けさせないとな。そうでないとそもそも練習にならないから……。

 

 そのためにはコイツらにとって俺の存在をもっと身近に感じてもらうしかない。緊張しない、焦らないくらいに身近に。教師と生徒の関係なのである程度の線引きはあるだろうが、コイツらにとっては俺という存在がまだ上の方にありすぎていると思うんだ。だから普段の練習でも自分をより良く見せようとして、つまり俺を意識し過ぎるがために動きが悪くなっているのだと思う。だから自然と肩の力が抜けるように仕向ける必要があるってことだ。

 

 

「つうわけで、学校の調理室を貸し切ったからみんなで晩飯を作るぞ」

「どうわけよそれ!?」

 

 

 いきなり場面が変わったが、これこそ俺の考えた作戦だ。名付けて『共同作業をすることでお互いの距離を縮めよう』作戦。人が仲良くなるためには仕事とは関係のない無駄なことを共有して楽しむのが一番だからな。だから合宿みたいな感じで学校で一夜を共にしようってわけだ。一夜を共にと言っても変な意味ではないのであしらかず。

 

 

「晩御飯と言いましても、材料はどうするのですか?」

「料理部から許可を得ている。冷蔵庫の中身とか調味料とか、勝手に使っていいってさ。ほら、早く作った作った」

「へ? 先生は作らないのデスか??」

「なに言ってんだ? 俺の食事ってのは女の子から与えられるものなんだよ。だから自分で作らない。ていうか作れない」

「清々しいまでの傍若無人っぷりね。それをわざわざ女の子の前で言う普通?」

「ちーちゃん、こういうのってご主人様体質って言うんだっけ……?」

「う、うん。侑さんが言っていたのはこのことだったみたいだね……」

 

 

 俺の胃袋は基本的にジャンクフードか女の子からの料理しか受け付けない特異体質となっている。ほぼ毎日妹の楓の美味い料理を食っており、楓がいないときは秋葉か他の女の子を呼び寄せて料理を作ってもらっている。そのせいで胃袋がブルジョア化しており、もはや自分の適当に作った男飯では満足してくれない困ったちゃんなのだ。共同作業とか言っておきながら最初からコイツら任せなのだが、コイツらが作る役、俺が食べる役でいい役割分担だろう。

 

 

「どうであれ先生も含めてみんなで合宿みたいなことをするのって初めてだから、私は今とっても楽しいよ! それにLiellaを結成してから部活動以外でみんなで何か一緒のことをやるって今までなかったから、先生の歓迎会も兼ねていい機会かなって思うな」

「確かにそうですね。料理には自信がありませんが、私も精一杯貢献させていただきます」

「そう考える可可も楽しみになってきマシタ! まずは冷蔵庫の中身を確認してレシピを決めるところから始めまショウ!」

「アンタ料理作れるの? サニパと一緒の時は相当ヒドイ料理になってたけど」

「そっちこそ、腕が鈍っていないか可可が直々に確認してあげマス!」

「仲良くしようって会だから、いきなり煽り合わないで……ね?」

 

 

 あまり詳細な事情を話さずに誘ってしまったが、どうやらみんなやる気になってくれたみたいだ。教師生徒の関係性を考慮してコイツらとはプライベートであまり関わってこなかったので、俺としてもみんなと教師生徒云々抜きで交流できるのは楽しみだったりする。そりゃ1人の男として美少女たちと一緒の時間を過ごせるのは最高だからな。男としての欲望を満たしたくなったからこの合宿もどきを提案した、という背景もある。

 

 そんなわけでLiellaの面々によるお料理が開始された。冷蔵庫に入っている材料から5人でレシピを決め、それぞれどの調理を担当するかを迅速に割り当てて作業にあたる。まだLiellaとして5人揃ってからそれほど時が経っていないのに、メンバーの得意分野から役割を振り分けてすぐに作業に取り掛かる様子を見ていると、お互いのことをよく理解し合っているいいチームだと思う。チーム間の結束を高めるためにも今回の催しはやって良かったのだろう。

 

 それにしても、エプロン姿の女の子が自分のために料理を作っている姿を見るのは至福のひと時だ。日頃の仕事の疲れが全て吹き飛ぶっつうか、いい目の保養になる。しかも相手は女子高校生たち。未成年の美少女たちに料理を作らせ、自分はのんびりと完成を待つ。この待っている時間が溜まらなく快感なのだ。

 

 そんなこんなで料理は滞りなく進み、調理室のテーブルに食事が並べられた。洋食、和食、中華といった様々なジャンルが入り乱れており統一性はないが、各々の得意な料理を作ったようだ。合宿の飯だけど俺に振る舞うためかそれなりに本気を出して作ったのが良く分かる。

 

 

「先生! まず可可が作った小籠包、是非食べてみてくだサイ!」

「ちょっ、押し付けようとするなまだ熱々だろそれ!?」

「そうデスよね! だったらふーふーしてあげマス!」

 

 

 可可は箸の先で摘まんだ小籠包を自分の息で冷まそうとする。必然的に唇がキスの形になるので、その表情はちょっぴりエロい。コイツのこの姿に惹かれてしまうあたり、俺も少なからず意識はしているのかもしれないな。

 

 

「これで大丈夫デス! はい、あ~ん」

「いや自分で食えるから……」

「自分の料理は自ら先生に食べさせる。それが先程皆さんを決めたルールなのデス!」

「みんなやるのかよ!? こんなことを聞くのもアレだけど、恥ずかしくねぇのか?」

「そりゃ恥ずかしいわよ! でも自分の料理をアンタに食べてもらうなんて初めてだし……」

「今日は先生の歓迎会でもあるから、先生におもてなしするのは普通でしょ!」

「それに先生にはいつもお世話になっていますから、そのお礼もかねてご賞味いただきたいのです」

「私も恥ずかしいですけど、手料理を先生に食べてもらえると思うと張り切っちゃいました……あはは」

 

 

 普段は恋愛弱者だけど、この前サヤに対して俺の身の潔白を主張していた時のように、やはりやる時はやる子たちだ。そりゃいざという時の覚悟がないとスクールアイドルなんてできないもんな。だったら俺もどっしりと構えてやろう。

 

 ってことで、その後はみんなに料理を食べさせてもらう介護プレイにより食事を進めた。流石の俺でも一度に5人の女の子から『あ~ん』攻撃をされるのは少し戸惑ってしまったが、どの料理も舌に合う絶品で文句なしだった。最初はコイツらが俺に抱く緊張を解すための合宿だったのに、どちらかと言えば俺がコイツらから与えられてる気がするな。でも女の子の手料理を、それを作った子が直々に食べさせてくれるシチュエーションに身を委ねない男はいない。客観的に見てみれば、なんかもう普通に恋人みたいなことしてるんないか俺たち……。

 

 さっき覚悟はあるとは言ったが、俺に手料理を食べさせるときは流石に緊張していたようだ。そりゃ想いの人に対して初めて手料理を振る舞うのだから仕方がない。俺に食べさせた時に俺からの感想を待っている時のあの表情は、なんというかこちらも見惚れそうなくらいだった。頬を赤くして、どんな感想を言われるのかドキドキしている期待半分・不安半分のあの表情、めちゃくちゃ愛おしくなったぞ。

 

 

 そんなこんなでみんなで料理を平らげて自由時間となった。いつもなら各々がプライベートに勤しむ時間の中、今日だけはみんなが同じ時間を共有する。普段学校内でしている何気ない日常会話も基本的には休み時間や下校時間までなので制限時間がある。でも今日は時間を気にせずお喋りできることから、時の流れがゆっくりに感じられた。

 

 同じ時を過ごしながらも、各々学校の宿題や自分に与えられたスクールアイドルの作業も並行して進めていた。

 そんな中、校内の宿泊部屋の外で星空を見ながらぼぉ~っとしているかのんを見つける。

 

 

「よぉ、作曲中か? 相変わらず変な方法で作曲してるんだな」

「へ、変って、そんなに変ですかね……?」

「千砂都から聞いたぞ。瞑想しながらとか、ヨガのポーズをしながらとか、とりあえず周りの雑音がなく集中して作業するのがお前風だってな。そうなると俺、邪魔だったか?」

「いえいえそんなことないです! むしろ先生が近くにいた方が落ち着きます……♪」

 

 

 驚いた。Liellaの中でもかのんは特に俺と一緒にいる時に緊張するタイプだったはず。それがいつの間にか落ち着くに変わっているなんて、やはり今回の合宿で心境の変化があったのだろうか。

 

 

「私、先生のことを手の届かない存在とか、雲の上の人とか、そんな感じで思っていました。先生は私の思い描く先生像の理想そのもので、親しみやすいけどどこか私とは生きている世界が違うって勝手に線引きしていたのかもしれません。でも、今日一緒に合宿をして分かりました。私、先生の隣にいるんだって。手料理を美味しいって言ってくれた時、とっても嬉しかったです。だからまた先生の喜ぶ顔が見てみたい。先生に笑顔になって欲しい。って、こんなこと子供の私に言われても迷惑ですよね、あはは……」

 

 

 かのんとの距離がぐっと縮まったのを感じた。彼女だけではなく他のみんなもそうであり、相変わらず積極的な可可と千砂都、悪態をつきながらも慕ってくれるすみれと恋。俺との接し方は違えど、この合宿で個々人とゆっくりコミュニケーションを取れたことでお互いのことを良く知ることができたことで、俺たちの距離はもうこうして隣にいるくらいにまで近くなったのだ。

 

 

「迷惑じゃない。むしろ俺のことをそこまで意識してくれていて嬉しいよ。今までも意識はしてくれていたんだろうけど、どっちかって言うと我武者羅で空回りしてたもんな」

「そうですね。あまり情けない姿を見せたくないと私も、みんなも強く思い過ぎていたんだと思います。でも今はもうそんな姿を見せたっていい。ありのままの私たちを先生に見てもらって、先生と一緒に『ラブライブ!』の優勝を目指したいです! 先生の喜ぶ顔、また見たいですから!」

「そうか。なら俺もお前たちの笑顔をもっと見たみたいよ。掲げる夢は一緒か」

「はいっ! ずっと先生と一緒にいたいです! 先生の笑顔、ずっと見てみたいので!」

「ずっと、か……」

 

 

 星空の下で見つめ合う俺たち。同じ夢を持っていることを確認し、お互いの心の距離を縮めた。

 かのんの頬がじんわりと赤くなっている。距離も近ければ、何故か顔も近い。このまま雰囲気に飲み込まれそうだ。このままお互いの顔が近づけば、男女の証を立ててしまうことになる。そうなってしまうのか、本当に――――――

 

 

「な~にを2人だけでロマンティックな雰囲気になっているのデスか……?」

「ふぇっ!? 可可ちゃん!?」

「ホントにアンタって抜け目ないわね。サヤさんの時もそうだったけど、すぐ告白するんだから」

「え゛っ!? き、聞いてたの……!?」

「覗き見するつもりはなかったのですが、あまりにもいいムードだったので様子を見るしかなかったと言いますか……」

「うんっ! いい告白だったよかのんちゃん! 私もちょっとドキドキしちゃった」

 

 

 まさか他の連中に見られてたとは……。まあ部屋から俺とかのんの2人が同時に消えたら不思議に思うのも仕方ないか。確かに当事者の俺からしてもさっきのムードはもうゴールインしそうな感じだったし、傍から見たら水を差すのは悪いって思うわな。それでも本当に1つになりそうだったから可可が耐え切れずに止めたってところか。

 

 

「ったく、雰囲気に飲み込まれそうになるなんて俺もまだまだだな。ちょっと冷えてきたし、そろそろ部屋に戻るぞ。おいかのん、座ってないで早く立て――――って、ん?」

「ふにゅ……」

「コ、コイツ、また気絶してやがる!? 結局こうなるのかよ!?」

「あ~あ、先生またやっちゃった」

「これ俺のせいなのか!?」

 

 

 いつもの恒例行事と言うべきか、かのんが告白文を放った後に羞恥心で気絶するこの流れ。せっかくのいいムードだったけど、もしかしたら唇を重ね合わせていた可能性があると思うと今のところはこれで良かったかもしれない。その代償としてかのんの羞恥心は抉りに抉られたわけだが……。つうか本人の意識が変わっても中々羞恥心は克服されないものだな。

 

 ただ、その翌日からの練習はかのんを含めてみんな動きに機敏さが戻っていた。

 かのんと恋は動きのガチガチさが消え、先走ったり大振りになっていた可可、すみれ、千砂都の動きは逆に緩和されていた。これも俺への気持ちを自分で見直して落ち着いた結果なのだろう。かのんの黒歴史がまた刻まれはしたけど、結果的には合宿は大成功だったんじゃないかな。

 




 この着実にハーレムが形成されていく流れが溜まらなく好きです!(笑) ハーレム好きな私が自分でハーレムモノを描くことで自足自給できているのが我ながら凄い……

 サヤさんの時も含めてかのんの告白文が結構目立っていますが、もちろん他の子たちも活躍させるつもりなのでお待ちください! 他のグループと違って5人しかいないので、どうせなら1人1人濃密に描いてあげたいですから。

 ここ数話はそれなりに真面目な話が続きましたが、次回からいつも通りに戻ると思います。なんせあの人が満を持して登場するので多分……(笑)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新人教師登場!?波乱の予感!?

 俺が結ヶ丘のスクールアイドル部の顧問になってから早数日が経過した。最初はかのんたちが俺のことを気にし過ぎていたせいでまともな練習にならなかったけど、合宿を経てお互いのことを良く知り、距離もぐっと縮まったことでようやくしっかりとした練習に漕ぎつけることができた。まあ想像以上に距離が近くなり過ぎて危うくマウス to マウスの展開になりそうだったけど……。

 

 そんなわけでかのんたちとの日常は顧問になる以前よりも色濃くなり、教師としての仕事は増えたけどそれなりに充実した毎日を送っている。やっぱ汗水垂らしながら頑張っている女の子を見られるのは俺の趣味に合ってる。そのために教師になったみたいなところあるからな。完全に私欲だけど、それで女の子に迷惑をかけているわけではないから別にいいだろう。むしろ女の子たちから好かれるくらいだから誰にも咎められる言われはない。

 

 と、まぁこんな感じで顧問としての生活も日常化してきたある日。

 

 

「えっ? 新しい先生?」

「はいっ! さっき理事長室の前を通ったら聞き慣れない声が聞こえたので、こっそり聞き耳を立ててみたのデス!」

「ウキウキしながら言うセリフじゃねぇな……」

「そうしたら中から若い女性の声が聞こえてきて、どうやら近々教師になるとかなんとか……。しかもその方、教師の仕事は初めてだそうデス」

「こんな秋も真っ盛りの時期に新人かよ。学期や年度の切り替わりなら分かるけど、どうして今?」

「さぁ?」

 

 

 部室で可可は盗聴した内容を俺たちに披露する。教師としてはまずその汚い行為を注意すべきなのだが、俺の関心は新人教師の方に傾いていたためここはお咎めなしにしてやろう。

 さっきも言ったけど、新しい教師が入って来るには時期が中途半端だ。しかも未経験の新人だなんて、この学校は生徒数だけではなく教師の数も足りてないのだろうか。いや、そういった話は今まで聞いたことがない。むしろ生徒数が少ないからこそ教師の数は少なくてもいい。しかも人を入れればそれだけ金もかかる。資金が潤沢ではないこの学校に新人教師を入れるなんて、、一体何を考えてんだあのクソババ……理事長のやつ。

 

 それにしても若い女性の新人教師か……。もしかして俺、まだ1年目なのに先輩になっちゃうのか?? 女の子から『先輩』呼びで慕われるのってちょっと憧れてたから、そのシチュエーションが発生しようとしている状況に喜びを隠しきれない。高校時代は年下の奴らからは『くん』付けだった(μ'sの方針で)し、Aqoursや虹ヶ咲の奴らからは基本『さん』付けだからな。男ってのは『お兄ちゃん』だったり『先輩』だったり、呼び方1つでテンションが上がる単純な生き物なんだよ。

 

 そんな感じでワクワクしていると、同じく部室にいるすみれがジト目で、千砂都がニヤニヤしながらこちらを見つめていた。

 

 

「アンタなにこっそり笑ってるのよ気持ち悪い……」

「いやしてねぇよ。してない……よな?」

「どうせ『若い女性』っていうところに惹かれたんじゃないですか~? 男性教師って年下の女子生徒ばかり相手にするから、同い年以上の同僚を好きになるってよく聞きますよ!」

「やけにリアリティのある分析だな……。いや、俺も意外と欲しているのかもしれないな……」

「なぜ!? 私たちがいるのに!?」

「そうよ! ショウビジネスで輝ける魅力のある私がいて何が不満なわけ!?」

「そりゃお前らはお前ら、他の女は他の女だから。お前らに魅力がないとは言ってねぇよ。むしろある方だから安心しろ」

「「うぅ……」」

「自分たちで焚き付けておきながら恥ずかしがるなよ……」

 

 

 いくら俺に慣れたとは言っても羞恥に対する弱さは克服できていないようだ。てか自分を褒められてここまで顔を赤くして恥ずかしがれるのもすげぇよ。羞恥心の弱さってよりも俺に褒められたからなのかもしれないけどさ。

 

 ただ千砂都が言っていた『若い女性』に惹かれたというのは本当の話だ。隠す必要はない。そりゃ男だから若い女の子に興味を持つのは当然のことだ。自分の周りにはたくさんの女の子がいるが、それでも飽きることはない。だから自分の日常に新しい若い女性が増えるとなれば、それはそれは大いに期待してしまうだろう。男ってのは性欲に従順だから……。

 

 そんなことを考えていると、同じく部室にいるかのんと恋の会話が聞こえてくる。

 

 

「恋ちゃんは生徒会で何か聞いてないの?」

「いえ、こちらに全く情報は降りてきていません。なので新しい先生が来るなんて私も初めて知りました」

「そうなんだ。だったら私たちにも知る術はないし、気になるけど練習に行こっか」

「そうですね。理事長と面会しているということは、もう間もなく生徒にも紹介されるでしょうから」

 

 

「そうデスよ! さっき理事長と会っていたとすれば、まだ学校にいる可能性は高いと思いマス!」

「確かに! だったら私たちも一足先に会えるかも!」

 

 

「「へ……??」」

 

 

 早速話の流れが二分されてるけど大丈夫かオイ……。新しい先生のことは気になるけど今足掻いても仕方ないと練習しに行こうとしたかのんと恋に対し、新人教師に興味津々な可可と千砂都。ただこのコンビの組み合わせは前者の2人が圧倒的に不利で、なんせ可可と千砂都なんて行動力の塊で声もデカい奴らだ。そんな奴らが一度暴走し出すと――――

 

 

「ちょっと先取りして顔を見に行ってみまショウ! 多分まだ校内のどこかにいると思いマス!」

「そうだね! 気になって練習どころじゃないから行こうよ、みんなで!」

「「みんな!?」」

 

 

 まあこうなるわな。しかも練習をそっちのけにされるどころか、自分たちまで巻き込まれてしまい驚くかのんと恋。こうなってしまうと押しの弱い性格の2人は声のデカい可可と千砂都に対抗することはできず、心の叫びも虚しく話に流されるしかない。言ってもいつものことだけどな……。

 

 

「すみれちゃん!」

「この私に対抗できる魅力があるかどうか、いち早く確かめてやるわ!」

「すみれちゃ~ん……」

 

 

 かのんは多数決勝負に持ち込むためにすみれを頼ろうとしたが、まさかの裏切りにより戦うことなく敗北してしまった。これで今日の練習サボりは確定。顧問が入ってようやく乗りに乗り始めたのにこれでいいのかコイツら??

 

 ちなみに俺もどちらかと言えば気になるから、顧問としては練習を押すべきだろうが男としては『若い女性』に釣られてしまう。ま、練習はいつでもできるけど新人教師のフラゲは今日しかできない可能性があるので、気が散って練習に身が入らないのであればコイツらの興味を満たしてやるのがいいだろう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「で? どこを探すんだよ? 外見容姿も分からねぇのに」

 

 

 みんなで部室を飛び出したのはいいが、ぶっちゃけその新人教師がどこにいるか見当もつかない。しかもまだ学校にいるかもというのは可可の予想であり、最悪の場合もう帰ってしまっていて無駄足になる可能性もある。とりあえず好奇心だけで後先考えず突っ込むのはコイツの性格らしいけど……。

 

 

「ふっふっふ、実は事前にまだ学校に残っている友達から情報収集をしたのデスよ! もし新人教師っぽい人を見かけたらその特徴を教えて欲しいと。名探偵の腕は伊達ではないのデス」

「なにが名探偵よ。さっき裏で必死に電話して聞きまくってたくせに」

「こ、この世は結果デス! 結果的に新人教師さんを見つけられればOKデスから!」

「まぁまぁ、とにかくみんなからの情報を教えてよ可可ちゃん」

 

 

 電話で多方面に聞けるくらい可可の人脈は広いらしい。まあ交遊的な性格なので誰とでも友達にはなれるか。そもそもこの学校は生徒数が多くないので全校生徒がほぼ顔見知りになっていてもおかしくない。ただ今は放課後で生徒数が少ない状況なので、正しい目撃情報をキャッチできるかは微妙なところかもな。

 

 

「はい、いただいたい情報を上から読み上げていきマス。若い女性……は可可の予想通りデスね。他は……綺麗な黒髪ロング、背が高くてスタイルもいい、美人すぎて女の自分でも惚れそう、頭が良さそうなオーラを感じる、お姉ちゃんに欲しい……」

「な、なんか凄い……。凄いしか言えないけど……」

「最後のとかただの願望だったけどね……」

「本当に存在するのですか? そこまで女性としての理想を詰め込んだ方って……」

「ふ、ふんっ! ま、まぁまぁの魅力ね……」

 

 

 みんなから貰った情報には、女性なら誰しもが思い描く理想の女性の要素がこれでもかというくらいに詰め込まれていた。カタログスペックだけでここまで、異性ならともかく同性の生徒たちにここまで言わせるなんてどんな奴が着任してるんだ……? 情報を聞く限りでは女の子たちはかなりその先生に惹かれているようだ。情報の中に願望が紛れ込んでいたのがその証拠。かのんたちも唖然としていた。

 

 ただ、俺としては気になるところがある。それは自分のよぉ~~く知っている人物にさっきの情報全てに合致する奴がいるってことだ。だが名前を呼んではいけないアイツは今年に入ってから海外にいるため日本にはいないはず。だから別人だとは思うのだが、俺の嫌な予感は大体当たるから怖いんだよな……。

 

 

「でもこれだけ魅力的な女性だったら歩いているだけでも注目されるよね。もしまだ校内にいるとしたら探せばすぐ見つかりそうだけど……」

「というより、校内にいるかどうかは理事長に聞けば分かることじゃないの? ほら、可可ちゃんが盗聴してたのってまだ20分くらい前だし」

「いえ、この時間は別の仕事で外出すると仰っていました。その先生との面会が終わった後なのでもう出かけているはずです」

「やはり探偵の鉄則は足デス! 皆さんにここまで言わせるような女性のお顔、是非この目で拝見しマス!」

 

 

 可可の乗り気は変わらないが、最初は探すことを渋っていたかのんと恋にもやる気を感じられた。ここまで属性を盛りに盛った奴のことが気になって仕方ないのだろう。誰一人として酷評する人はいなかったのは本当にソイツに魅力があるのか、それとも飲食店のサクラレビューのようにヤラセなのか。どのみちこの目で見てみれば分かることだ。俺も俄然興味がある……と言いたいが、アイツの顔がチラつくからあまりやる気が出ないんだよな……。

 

 その後、校内を回って例の人と会話をした生徒たちから色々情報を聞いた。

 聞いたのだが――――

 

 

「さっき音楽室に来たときに、壊れて困っていたピアノをすぐに直してくれたの! あんな短時間で修理できるなんて凄いよ!」

 

「化学の実験で行き詰っていたのですが、あの方の助言のおかげで大成功を収めました。少し話を聞いただけでこの結果、何者ですかあの方は……」

 

「料理の味付けに困っていたんだけど、あの人のアドバイス1つで劇的に美味しくなっちゃった! これで料理部の大会にも自信を持って参加できるよ!」

 

「この問題をどう生徒に教えようか悩んでいたけど、その教え方を指導してもらいました。教師として非常に勉強になり、尊敬します」

 

 

 などなど、行く先々で人助けをしているようだ。

 その事実にかのんたちも驚きを隠しきれないようで――――

 

 

「見た目も完璧で人助けをする優しさもある。どんな聖人が先生になったの……?」

「まだ姿を見たことないのに噂を聞くたびに株が上がっていくわね……」

「しかも生徒だけじゃなくて先生にも手助けして感謝されているなんて、とんでもない人が先生になったものだね……」

 

 

 美人で壊れ物の修理ができ、化学に精通していて料理の知識もあり、そして聡明。更にその知識をフルに活用して人助けをしている。かのんの言う通りの聖人だが、俺の想像で思い描かれる姿は悪魔そのもの。この想像が俺の思い過ごしだと助かる、というか思い過ごしであって欲しいが……。そもそも利己主義者のアイツが誰かの手助けをするなんて考えられないから、流石に別人だろう……って納得できればこんなに悩まねぇよ!!

 

 

「生徒から教師まで様々な方々を助けているということは、校内全体を見回り歩いているということですよね。これだと中々お会いできない気がします」

「このまま諦めたくはありマセン! むしろここまで聖人だともう今すぐにでもお目にかかりたいくらいデス!」

「いや、俺帰っていいか?」

「えっ、どうして?」

「う~ん、なんか顔を合わせるべきではない気がして……」

 

 

 別人かどうかはさて置き、余計なことが起こるのであれば最初から首を突っ込まないのが定石だ。災いの予兆を感じ取ったのなら嵐が来る前に逃げるに限る。自分の危険予知には従った方がいい。特に俺の不幸センサーは敏感だからな……。

 

 

「新人教師が聖人すぎるからビビってんの? 案外臆病なのねアンタ」

「お前な、この世には出会ってはいけない奴がいるんだよ。アイツの織り成す地獄を知ってたら臆病にもなるって」

「先生がこの世の果てを見たような顔をしていマス!? 一体何があったのデスか!?」

「何があったも何も、何かなかったことの方が少ねぇからな? その新人教師ってのが人違いであれば助かるんだけど……」

 

 

 

 

「いや~人生ってのはね、上手く行かないようにできてるものなんだよねぇ~」

 

 

 

 

「「「「「えっ!?」」」」」

「お前……」

 

 

 美人の黒髪ロングで容姿良し、スタイル良し、機械や化学に精通していて料理もでき、頭がいい。こんな最強スペックを持ち合わせている奴はやっぱりこの世で1人しかいない。俺にとって時にかけがえがなかったり、時に人生を狂わせた悪魔。

 

 

「やっほ! 久しぶり――――零君♪」

「秋葉……」

 

 

 神崎秋葉。俺の実姉であり、人の不幸を嘲笑う悪魔の研究者。悪魔。悪魔。悪魔。以上。

 ちなみに生徒たちが可可に送った容姿の情報はその通りで、外見だけ見れば世界中の男が付き合いたいと思えるくらいの美麗である。ただコイツは男どころか他人に興味はなく、ただの実験モルモットとしか考えていない。人知を超えた発明ができるくせに、それを世界平和に役立てようとか貢献しようとか一切考えておらず、ただただ自分の愉悦のためだけにその力を奮う。唯一興味のある人間が俺らしいので、基本的にはその力は俺の周りに降り注がれるのだが……。

 

 

「久々なのになにその顔! まるで私に会いたくないって言ってるみたいだけど?」

「会いたくねぇよ」

「いい即答だね。でも私は海外にいる間と~~っても零君に会いたかったんだから! 実家にいた頃は毎日顔を合わせていたのに、これが失って分かる寂しさってやつかな~」

「てかどうしてここにいるんだよ。仕事はどうした?」

「飽きたから帰ってきちゃった。零君がいない生活なんてつまらないしね。それにこの学校の教師になれば、零君と一緒にいる時間が増えてそっちの方が楽しいもん。だから教師になっちゃった♪」

「かるっ!? そんな簡単に教師になれねぇんだよここまでのプロセス知ってるか!?」

「零君が一番よく知ってるでしょ? 私に常識なんて通用しないこと」

「全国の教師目指して頑張ってる奴らに謝れ……」

 

 

 相変わらず自由奔放っつうか、もうやりたい放題だな……。海外に仕事に行っていたはずだがそんな理由で帰国して、現地の人たちは大丈夫なのだろうか。そして勝手に教師になったそうで、免許なり面接なりはどこへ行ったんだ……。でも常識が通用しないと言われて頷くしかないのが悔しいよ俺。

 

 あっ、そういえばコイツらを放置したままだった。見てみればみんなこちらを眺めたまま固まっていた。聖人だと思っていた女が俺と親しげに話しているんだから、そりゃそうもなるか。

 

 

「えぇっと、その方って先生の知り合いなんですか……?」

「いや、赤他人だ」

「相変わらずつれないなぁ~もうっ! こんにちはLiellaの諸君。近々ここの教師になる神崎秋葉です!」

「えっ、神崎って……」

「みんな大好きなこの零君のお姉ちゃんです! よろしくね!」

「「「「「ふぇっ……え゛ぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?」」」」」

 

 

 この驚き方、前も見た気がするぞ……。

 そんなこんなで実姉であり悪魔でもある秋葉がこの学校にやって来た。今まで平穏な毎日を過ごしていたのに、今日からまた波乱になるのか……!? おいおい勘弁してくれよ……。

 




 ようやくLiella編でも登場させることができました!
 今までは零君とかのんたちの関係を進めることがメインだったので登場は渋っていましたが、その関係性もある程度進んだので話のネタのためにも彼女に来てもらっちゃいました(笑) この小説では現実ではありえないネタをするために必須のキャラなので、Liella編でも大いに活躍(?)してもらう予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その発明品、触れるべからず!!

 秋葉が結ヶ丘の教師に赴任するという衝撃イベントが発生して早数日が経過した。最初は自分の姉と同じ職場で働くという違和感を拭えなかったが、仕事時間の大半である授業をしている間は顔を合わせることもないので自分の教師生活にそこまで影響はなかった。ていうかアイツは正式な教師ってよりかは非常勤講師という扱いのため、学校にいない日も多い。そのためアイツが暴走して身の回りで何かハプニング、というのはまだ起こっていない。このまま平穏に教師生活を送らせて欲しいが、それでもアイツと同じ職場という事実は変わらないのでいつこの学校が恐怖のどん底に叩き落されるか不安しかねぇな……。

 

 ちなみに秋葉の登場に慣れたのは生徒たちも同じであった。唐突に超美人教師が赴任してきて生徒たちも盛り上がっていたが、数日も経てば流石に落ち着きを見せていた。

 しかも秋葉の奴、自分の超人能力を生かして生徒の勉強や各部活の備品修理や指導などあらゆる面で手助けをしているため、生徒だけでなく教師たちからも感謝され聖人扱いされている。そんな同調圧力があるから、アイツのことを実は『悪魔』だなんてとてもじゃないが言い出せないのが歯がゆい。人助けなんて1ミリも興味のないアイツがここまで人のために動くなんて、それこそ何か裏があるようで怖いんだよな……。

 

 

「本当にビックリしました。まさか秋葉先生が先生のお姉さんだったなんて」

 

 

 部室へ向かう途中、隣を歩くかのんが言葉を零す。この件で一番驚いていたのはかのんたちLiellaの面々だったかもしれない。気になっている男のお姉さんがいきなり現れたらそりゃ驚きもするか。しかも秋葉はかのんたちの恋愛事情を出会う前から知っているような素振りだったし、見知らぬ相手に情報が筒抜けとあればかのんたちが警戒しても不思議ではない。アイツと話しているとどうもこちらの心を見透かされてる感じがして、なんか気持ち悪いんだよな……。

 

 

「でも秋葉先生と先生ってどこか似てる気がします。勉強の教え方が上手いところとか、何でもできちゃう超人みたいなところとか、誰にでも手を差し伸べる優しいところとか」

「優しいのか俺って……。ちなみにアイツは全然優しくも何ともないから、あまり油断しない方がいいぞ」

「そうですか? 悪い人には全然見えないけどなぁ……」

 

 

 こうして外壁を固めて何をやらかそうとしているんだ秋葉の奴……。虹ヶ咲のときは理事長の席で傍若無人に振る舞っていたのに、ここではまるで人が変わったかのように善行しかしていない。アイツの本性を知っている俺からしたら、その内に秘めた悪魔がいつ解放されるのか心配でならない。いつになっても俺の周りでコソコソしやがって、どれだけ俺のことが好きなんだよ……。

 

 

「おーい! かのんちゃーん!」

「ちーちゃん! 日直の仕事で遅れてゴメン!」

「えっ、千砂都? 部室はそっちじゃないだろ?」

「あっ、そういえば言うの忘れてました。私たち秋葉先生に部屋の掃除を任されてまして、今日やる予定なんですよ」

「なんだよそれ」

 

 

 顧問である俺に全く知らされていない情報が急に出てきたから驚いてしまう。聞くところによると、化学室の部屋の一部を秋葉は自分の部屋として借りており、その部屋がものの数日で散らかってしまったためにかのんたちに掃除を頼んだらしい。そして秋葉の聖人部分のみを見てきて、何度も助けられているコイツらはその依頼を二つ返事で承諾。今日の放課後に掃除をする予定らしい。

 

 そもそも非常勤講師のくせに特別教室を自分のモノにしているのがアイツらしい。しかも借りた教室をすぐ散らかすのもアイツらしく、昔から掃除のできないクセをここでも発揮している。大学の研究室に籠っていた時も絵里たちに掃除させていたらしいし、家でも楓が毎日掃除をするくらいにはすぐゴミを溜め込むからなアイツ……。

 

 掃除なんてただ雑用を押し付けられてるだけなのに、コイツらはギブアンドテイクだと思ってるから『やめとけ』とは言い出せない。この数日で外堀を埋めているのは雑用を頼みやすいからなのか、それともまだ別の目的が……。

 

 とりあえず、心配だから俺も同行することにする。

 そして秋葉の部屋の前には既に他のLiellaのメンバーも集まっていた。

 

 

「部屋の鍵は私が預かっています。皆さんお揃いのようなので、もう入りましょうか」

 

 

 恋が部屋のドアを開ける。

 まず感じたのは化学室特有の薬品の匂い。それだけならまだマシなのだが、部屋は書類やどう使用するのか不明な器具、謎の液体の入ったビンなど様々な異物が転がっていた。清掃業者を呼ぶまでとはいかないものの、赴任数日でここまで散らかすことができるのはもはや才能だろう。かのんたちも顔を引きつらせて引き気味で驚いていた。

 

 

「これは想像以上に汚い……散らかってマスね……」

「もう完全に言い切ったわねアンタ……。でもこれは衛生上ドン引きするレベルだけど……」

「もうそこら辺に虫とか爬虫類とかいてもおかしくなさそうだね!」

「ちょっとちーちゃん怖いこと言わないでよ!!」

「ま、まぁそれだけ掃除のやりがいがあると思えば……」

 

 

 あの美人で聖人の秋葉先生にこんな弱点があったなんて――――とか思ってそうだなコイツら。まだイメージは崩したくないから思うだけで口に出してはないが、さっきの会話だけで僅かに落胆したことが見え見えだ。まあこの部屋の惨状を見たら嫌でも本人の生活態度が分かるもんな。

 

 

「とりあえず掃除を始めましょうか。ゴミ袋はここにあります。そして念のために持ってきた軍手がまさか活躍することになるとは……」

「なんか液体が零れてるビンもあるし、その判断はまさに英断ね……」

「散らかってマスけどみんなでやればすぐに終わるはずデス! 頑張りまショウ!」

 

 

 目の前の惨劇に直面しながらも掃除をしてあげるその優しさは、やはり秋葉に恩があるからなのだろう。コイツらも勉強とか教えてもらってたみたいだしな。俺だけだったら目の前の状況を見た瞬間に速攻で部屋のドアを閉めて退散していたところだ。でも今回はコイツらを手伝うと言ってしまった手前、付き合ってやるしかないか……。

 

 そんなわけで掃除が開始された。俺が自分の手で秋葉のために何かをしてやるなんて、思い返せばこれが初めてかもしれない。向こうから与えられること(いい意味でも悪い意味でも)はあるが、こちらから与えたことは何もない。まあアイツからしたら俺の存在そのものがアイツ自身の喜びになっているから、こちらから何もせずとも与えているのかもしれないけど。だからアイツはいつもいつも俺の周りでウロチョロしてるわけだ。

 

 

「あっ、なんかカメラが出てきたよ! しかも撮影したらすぐに現像されて写真が出てくるタイプ!」

「今時珍しいカメラよね。大体スマホで良くなってるし」

「なんだか物凄く古いタイプのようですね。どうしてここにあるのかは分かりませんが、実験した結果をすぐに撮影できるように置いてあったのでしょうか?」

 

 

 千砂都がゴミの山から発掘したのはかなり古いポラロイドカメラだ。シャッターを押したら排出口から即座に写真が出てくるタイプのカメラであり、その見た目は年代物で汚くはあるが間違いなく普通のカメラのようだ。

 

 

「ちゃんと動くか確かめてみようよ! はい可可ちゃん、チーズ!」

「えっ、あっ、は、はいっ! チーズ――――――うひゃんっ!!」

「えっ、なにさっきの声……?」

「ひゃっ、あぁ……」

 

 

 千砂都が可可にシャッターを切った瞬間、可可は顔を真っ赤にしたまま床にぺたんと座り込んでしまった。身体と股をもじもじとさせており、まるで発情しているかのように……。

 その瞬間、俺は全て悟った。ここは秋葉の部屋。だから落ちているモノはただのモノではなく、アイツによって何かしらの悪意が込められている可能性が高い。というかそういったモノしか置いていないはずだ。そうなればあのカメラも何か仕込まれているのは必然。忘れてたよ、秋葉の部屋の掃除をするってことが爆弾処理に等しいことを……。

 

 

「あれ? おっかしーな写真が出てこない。可可ちゃんもう一回取るよ? はいチーズ!」

「ちょ、ちょっと待ってくだサイ! 身体が熱く――――ひゃんっ!!」

「えっ、さっきからどうしたの?」

「あっ、んっ……。よく分からないデスけど、急に身体の芯から熱くなって……」

「写真を撮っているだけなのに? じゃあすみれちゃんにも試してみよう。はいチーズ!」

「ちょっといきなり!? うひゃぁああっ!? うっ、あぁん……」

「凄い、同じ反応だ……」

「いいから千砂都、カメラから手を放せ」

 

 

 コイツ爆弾を軽々と起爆しすぎだろ危険すぎる!! 武器を持たせたら笑いながらぶん回すタイプだな気を付けないと……とか冗談を言ってる場合じゃねぇなこれ。

 可可と何故か巻き込まれたすみれは身体をピクピクと振るわせており、頬を赤く染めてまるで襲ってくださいと言わんばかりの様子だ。明らかにあのカメラが原因で、撮影した女の子の発情させる効果があるのだろう。まだピュアなコイツらのことだ、自分の身体に性的な電流が流れることに慣れていないはず。未経験の快楽を無理矢理身体に流し込まれ、その結果、床に座り込んで荒い息を整えることしかできないようだ。

 

 つうかコイツらのこんな姿、初めて見た気がするな……。やっぱり美少女女子高生の発情姿はエロい。世間から教師の性犯罪がなくならない理由がこれだろう。思春期女子が快楽に負けている様子を見るのは男のロマンだから仕方がない。ぶっちゃけ俺としても眼福だけど、可愛い教え子のために流石に止めてやるか。

 

 

「このカメラは俺が預かっておくから、お前らは別のところを掃除しろ」

「結局それってなんだったんですか? 普通のカメラじゃないっぽいですけど……」

「小細工が施されている場合があるから気を付けろ。だから落ちてるモノを不要に触るんじゃねぇ―――――」

 

 

「「きゃあっ!?」」

 

 

「今度はなんだよ!?」

 

 

 注意喚起しようとした矢先に次のイベントが転がり込んできやがった。今の声はかのんと恋のもの。この2人は慎重派なので下手なことはしないと踏んでいたが、世にも危険な発明品がそこらかしこに散乱している現場なんて初めての経験だろうから何が起きてもおかしくないと事前に察しておくべきだったか。そもそもこういった現場に慣れている俺の方が異常なのかもしれないが、俺と関わった女の子たちはみんなこの理不尽を乗り越えてるんだよな。そう考えるとコイツらにとってこれは乗り越えるべき試練なのかもしれない。

 

 とは言っても教師として生徒を守るのは当然の義務なので、とりあえずトラブルからは救出してやるか。

 

 ………と思ってかのんと恋の方を見てみたのだが――――

 

 

「せ、せんせぇ……ふ、服が……」

「は、肌が……先生こちらを見ないでください!!」

「制服が溶けてる……!!」

 

 

 2人の制服にスライムのようなゼリー状の液体が飛び散っていた。近くでビンの破片が落ちていることから、そのドロドロの液の入れ物を取ろうとして起爆したらしい。起爆したのはたまたまではなく、アイツのことだから人肌が近づいたら爆発するように仕込んでいたのだろう。抜け目がないっつうか、今もどこかでこの様子を見てほくそ笑んでいるのだろうか……。

 

 それより問題はこの2人だ。あのスライム液はご都合的に女の子の服だけを溶かしている。しかも服だけであり、下着は消えていない。今も現在進行形で徐々に溶かされているが、綺麗に下着だけ残っているのが逆に艶めかしい。制服やスカートがダメージジーンズかのように一部分だけ溶けているが、そこから見え隠れする肌や下着が普通の裸体より唆られる。ブラ紐が見えていたりパンツの一部が見えていたりと、教え子相手だけど思わず見入ってしまいそうだ。

 

 

「先生なにをじっと見守っているのですか!? 早く助けてください!!」

「あっ、あぁ、とりあえず暴れるな。下手に動くと液体が服を伝って被害が広がるだけだから」

「でももう私の肩が……あ、あまり見ないでください!! し、下着が……」

「大丈夫だ。そんなもの死ぬほど見慣れてるから」

「見慣れてるってどういうことですか!? ていうか先生が大丈夫でもこっちが大丈夫じゃないです!!」

 

 

 しまった、安心のさせ方を間違えて思わず本音が出てしまった。なんにせよこういう時は慌てず騒がず、冷静に対処することが重要だ。俺たちがあたふたしているところを見てアイツは愉悦を感じているから、騒げば騒ぐだけアイツの思う壺だからな。アンチや荒らしには反応しないのが一番というネットの常識と考え方は同じだよ。

 

 

「動くなよ。引っ付いてるスライムを取ってやるから」

「えっ、先生がですか――――って、ひゃあっ!?」

「だから動くなって。ちょっと指が肌に触れただけだろ」

「でも先生に触られるなんてその……恥ずかしぃ……」

「緊急事態だ、我慢しろ。ほら、恋のも取ってやる」

「それはありがたいのですが、その……あまり肌には触れないように――――って、ひゃんっ!?」

「いや無理あるから。てか少し触ってくらいで反応し過ぎだ」

 

 

 今日は冷えるから指が冷たいのは申し訳ないが、それでも敏感すぎやしないか?? いや男に肌を触られた経験がないから羞恥を感じるのは分かるけど、まさかここまでいい反応をするとは思わなかったぞ。でもこの場を打開するのには必要な治療行為だし、ここは羞恥に耐えて我慢して欲しい。それか男の俺ではなく生き残っている他の誰かに頼むべきか? でも可可とすみれは快楽が身に染みてまだビクビクしてるし、後は千砂都くらいだけど――――

 

 

「ひゃぁああっ!? せ、先生!!」

「またかよ!?」

「スプレー缶を拾おうとしたら勝手に動いて吹きかけられちゃいました……」

「だから安易に触れるなって言ったろ? ん? 別にお前に変化はなさそうだけど……」

「えぇっと、スカートの中がスースーするので確認したらそのぉ……パンツがなくなっていまして……」

「あぁ、ノーパンになったのか」

「そ、そんな直接言わないでくださいよ!! 今もスースーして落ち着かないのに……」

 

 

 今度は逆で服は残して下着だけ消えるパターンか。写真撮影で発情するのも服だけ消えるのも、そして下着だけ消えるのも見たことあるから今更驚きはない。ハプニングが日常と化していて取り乱さない自分が怖いけど……。

 

 千砂都は内股になって秘所に当たる寒気をなんとか防ごうとする。もちろんスカートで隠れているので直接は見えないが、その仕草は男の嗜虐心をくすぐるからやめた方がいいぞ。秋もほどほどなので寒いのは分かるが、必死にスカートを抑えて恥ずかしがっているのを見ると思わず捲りたくなってくる。男子小学生がスカート捲りのいたずらをする時ってこういう気持ちなのだろうか。いや流石にガキは俺みたいな性欲は持ち合わせてないか……。

 

 とにかく、かのんと恋に着せる服と千砂都に履かせるズボンが何かがあればいいけど、そんな都合のいいモノはない。そもそも俺たち早くここから離れた方がいいのでは? そうしないとまた面倒なイベントが――――

 

「ちょ、ちょっと……」

「どうしたすみれ? もう大丈夫なのか?」

「さっきからそこに置いてあるアロマ。その香りが心地よくて、はぁ……はぁ……」

「さっきより顔赤くなってるぞ!? てかそんなものが仕込まれてたなんて、部屋に入った時から何もかも始まってたのかよ……」

「せんせぇ……身体がぽかぽかして、でもなんだか気持ちよくて……いい気分デス……」

「それは発情して……いや、夢だと思っておけ」

 

 

 最初からアロマが置いてあったなんて気づかなかった。恐らく男には無臭で、女の子のみ作用する効果なのだろう。つまりこの部屋に入ってから可可もすみれも、他のみんなもずっとこの香りに心地良さを刺激されていたらしい。とりわけこの2人はカメラの効果で快楽を増幅させられていたので、アロマの効果が回るのも、その影響も大きいのだろう。現に俺の身体を支えにしないと立っていられないらしい。ていうか、発情した状態で寄りかかって来るなよ誘ってんのか??

 

 そして、もちろんアロマ効果が作用しているのはこの2人だけではなく――――

 

 

「せんせぇ……身体が熱いです……なんだかムズムズします……」

「かのん、お前まで俺に……」

「すみません先生、私も少し支えてもらってもよろしいでしょうか……はぁ、はぁ……」

「俺に触れられたらイヤなんじゃなかったのかよ!?」

「さっきまで寒かったのに、今では蒸れそうです……」

「千砂都!? どこがとは言わなかっただけ許してやる……」

「ちょっとアンタ、あまり動かないでよ……。その刺激で身体がもう……」

「あぁぁもう分かった! 一旦ここから避難させてやるから我慢してろ!!」

 

 

 そんな感じで全員が俺を支えにしないと立てないほど身体に巡る快楽が凄まじいらしい。それはいいんだけど、発情状態の女の子を5人も抱えてるって教師として犯罪級だ。別に俺のせいではないが、傍から見たら通報されてもおかしくないだろう。

 

 このままだと埒が明かないので、何とかみんなを部室に運んで休ませてやった。その途中でたくさんの生徒と先生に目撃されてしまったが、顔を赤くして気持ちよさそうにしている女の子を抱えて歩く怪しい教師ではないと言い訳するのに苦労したぞ……。

 

 ちなみにこの時の記憶だが、ぶっちゃけあまり覚えていないらしい。それはそれでコイツらの黒歴史二ならずに良かったのだろうが、秋葉という人物をはっきり理解した1日にはなった。

 これに懲りて教訓。悪魔の発明品、いや悪魔自身には手を出すな、そう言い聞かせておこう。

 




 秋葉さんが来てくれたことでこういったネタもできるようになり、これで前触れなく超常現象的なネタも披露させられるので大助かりです(笑) 発明品ネタは虹ヶ咲以来なので超久々な気が……

 そういえばアニメ虹ヶ咲2期をリアルタイムで視聴しました!
 ランジュが対立こそしたもののいいライバル関係となっており、今後の展開が非常に楽しみな1話でした。ミアやアニメのラストにスクフェス時代のモブキャラも登場したので、またこの小説に出てくるキャラが増えそうで嬉しいような面倒なような……(笑)
 ただしばらくはキャラを掴むためにアニメを何話か視聴したいので、しばらくはLiella編をお楽しみください!

 話題は変わりますが、この小説は投稿からなんと7周年になりました!
 まだやってるのかよと思われがちですが、私のラブライブ熱が冷めない限り、そして何よりどなたかから感想を頂いている間はモチベがあるので投稿を続けていこうと思います!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去への扉:銀河の女王

「やっぱり早く帰れると清々しさが違うな。精神的にも体力的にも」

 

 

 最近は仕事も順風満帆であり、部活が休みであれば定時で上がれることも多い。別に教師としての仕事が辛いわけではないので残業が嫌ではないのだが、やはりまだ日が落ちていない時間に1日の仕事が終われると身も心も晴れやかになるってもんだ。特に最近はスクールアイドル部の顧問になったことで放課後はほぼ毎日練習に付き添ってたから、こうして早く帰れること自体が珍しかったりする。もちろん顧問は苦ではないし、むしろアイツらと一緒にいる時間が増えて楽しくはあるんだけど、よくある『結婚したけどプライベートの時間は欲しい』って感覚と同じだ。誰しも1人の時間を謳歌したいときはあるんだよ。

 

 そんなことを考えながら街中を練り歩いていると、金髪の少女が道端で誰かと会話をしている光景を目にする。金髪+美少女と言えば俺の身近にはたくさんいるが、ロングヘア―に美貌を伴った女の子は知りえる中で1人しかいない。

 

 

「すみれか……? てかあの男……誰だ?」

 

 

 すみれと話しているのは謎の男。爽やかそうで雰囲気も良さげだが、一体なにをしてんだアイツら? まさか付き合っている――――ってことはないか流石に。男の方は明らかに社会人っぽいし、女子高生と社会人がそういう関係になるのとか正気の沙汰じゃない。ん? まてよ? これブーメラン発言か……。

 

 とにかく、すみれが変な奴に絡まれているのであれば助けてやらなきゃいけない。スクールアイドルとして名が広まると男に声を掛けられやすい、というのは聞いたことがある。特にスクールアイドルは容姿が抜群に良くないと成り立たない故、そりゃ男に注目されるのは必然だ。Liellaも最近徐々にスクールアイドル界隈に認知されるようになってきたし、男が寄り付いてもおかしくないだろう。

 

 俺は人混みを避けながらすみれたちに近づく。だがその途中でアイツらの会話が終わったようで、俺が到着する頃には男は早々に立ち去ってしまったようだ。

 

 

「あれ? 先生?」

「よぉ。さっきの男はもう帰ったのか?」

「えぇ……。って、どうして先生が知ってるのよ? まさか見てたわけ?」

「たまたまだよたまたま」

「ちょっと焦ってる? ははぁ~ん、さては私がナンパされてると思って急いで止めに来たわね?」

「自惚れるなよ。教師として不純異性交遊をしていないか確認しに来ただけだ」

「アンタに不純異性交遊とか言われたくないんだけど……」

 

 

 まあそれに関しては一理、いや百里くらいある。コイツらは既に俺が虹ヶ咲の奴らと交流があることも知っており、しかも侑の仕業なのか俺と歩夢たちがいい関係を築いていることも知っているらしい(流石に身体を重ねたとかの事実は知らないだろうが)。そのせいで俺の女の子ネットワークが広いことがバレている、つまり教師のくせに女子高生とプライベートな繋がりが強い輩と認識されているのだ。だから俺が不純異性交遊を語るなんて確かに滑稽だな……。

 

 ちなみにナンパされているとは思ったけど、危機感を抱いていないってのは本当だ。そりゃコイツが誰に想いを募らせているのか俺が一番良く知ってるからな。他の男に靡くわけがないだろう。

 

 

「で? 結局なにを話してたんだ?」

「スカウトよ。ス・カ・ウ・ト。断ったけどね」

「え? スカウトって、お前が待ち望んでいたあの?」

「そうよ。とは言っても最近では珍しいことじゃなくなったけどね。Liellaとしてそこそこ名が知られるようになってから、さっきみたいに声をかけられることが増えたから」

「そうなのか。でもあまり嬉しそうじゃないな。断ったって言ってたし。スクールアイドルを始めたての頃はあれだけ渇望してただろ」

「これも環境の変化ってやつよ」

 

 

 もう半年くらい前になるか、春の時期のコイツはスカウトされたい欲が特に顕著で、放課後に街に繰り出してはショウビジネスの世界へ誘われるのを待っているという中々に難易度の高いことをしていた。動画のネタだったら間違いなく『スカウト耐久』のタイトルがつけられそうだ。自分からオーディションを受けずにあくまで誰かに誘ってもらうその女王様気質、俺は好きだけどよほど自分に自信がないとできないことなので感心するよ。もちろん世の中はそんなに甘くはないのでスカウトされることはなかったが、その後かのんにスクールアイドルの勧誘を受けてめでたくグループ入りした、というのがコイツの経緯だ。

 

 そんな過去があるから正直スカウトを受けたら喜ぶものかと思っていたが、今のコイツは至って冷静。むしろスカウトされることをどこか鬱陶しいと思っている節がある。さっき男と会話してた時も冷めた様子だったしな。

 

 

「今はスクールアイドルに力を入れたいから他のことをする余裕なんてないのよ。なんだかんだ居心地いいしね、みんなと一緒にいるのって」

「なるほど。かのんたちに聞かせてやりてぇ」

「ぜっっっっったいにダメ!! 100%馬鹿にされるに決まってるわ。特に可可とか可可とか……」

「いいんじゃねぇの? アイツらも喜ぶだろうし、それだけグループの絆も強くなる」

「私が恥ずかしいからダメ!!」

「はいはい……」

 

 

 恥ずかしいと言いながら俺には素直な気持ちを吐き出せるってことは、それだけ俺のことを信用してくれているってことか。それか感謝の気持ちを本人たちの前で言うのは恥ずかしいだけか。どちらにせよ仲間想いなのは変わらないな。

 

 せっかくなので2人で帰宅することにした。すみれと2人きりになることはあまりないのでかなり新鮮。こうして美形の男女が横並びだと服さえプライベートのものであれば恋人同士に見えても不思議じゃない。制服の女の子と一緒に並んでいるので教師と生徒……よりかは兄妹っぽく見えるか。

 

 

「でも驚いたよ。最初はスクールアイドルなんてアマチュアだって言ってたお前が、今はスクールアイドルにお熱だなんて。スカウトされてプロへの道が決まりでもしたら、即グループから抜けるかと思ってたよ」

「アンタがいるからよ……」

「ん?」

「べ、別に!! も、もし私が抜けちゃったら寂しい?」

「そりゃかのんたちは寂しがるだろうけど、俺はどうだろうな。俺はスクールアイドルのお前を応援してるってより、お前自身を応援してるから寂しくはならないかもしれない。お前が別のステージで輝くっていうのなら俺は止めたりしない。別にスクールアイドルに拘りがあるわけじゃなくて、単に頑張ってる女の子を見るのが好きなだけなんだけどさ」

「ふ、ふ~ん……」

 

 

 すみれは赤面してそっぽを向いてしまった。人に質問しておきながらそっちからの返答はなしかよってツッコミを入れたかったが、どうやらまたクソ雑魚な羞恥心がくすぐられて本人はそれどころではないらしい。つうか俺がみんなに本心を語るたびに頬を赤くされるのか……。顧問になって距離も近くなったんだし、そろそろ恋愛弱者を卒業してくれると助かるよ。むしろ近くなったからこそ悪化してるとかあるのか……??

 

 

「そういえば、私がスクールアイドルをやる前もこうして一緒に帰ったことがあったわよね」

「そうだっけ? あぁ、スカウトされようと周りをキョロキョロしていて挙動不審なお前を補導しようとしてたんだっけか」

「違うわよ!! まああの時はそれなりに必死だったから怪しいと言えばそうだったかもしれないけど……。そんなことよりもっと大切なことがあったでしょ! と言ってもその調子だと覚えてなさそうね。私にとっては忘れられない時間だったけど……」

「かのんに勧誘されてた時期だっけ?」

「しっかりと覚えてるじゃない!! 惚ける必要あったわけ……?」

「お前と初めてまともに話した日だからな。そりゃ覚えてるよ」

 

  

 そういやその日も今日みたいに街中ですみれを見つけて話しかけたんだった。その日は今日みたいにスカウトされているところではなく、さっき言った通り怪しい動きをしているコイツのことが気になったんだ。それで思わず話しかけてしまった。

 

 

「あの時のお前は今以上にツンツンしてたよな。俺だけじゃなくて誰にでも噛みついていた気がする」

「あの時はショウビジネスの世界に行くことに躍起になってたから。それにかのんから何度も誘われるし、スクールアイドルなんて訳わかんない単語も出てくるし、それなりにうんざりしてたのよ」

「でも興味はあったんだよな? かのんと可可の初ライブまで見に来るくらいだから」

「それよそれ。アンタと初めて話した日にそう言われた時も驚いたわよ。今日もそうだけど、アンタ私のこと見過ぎじゃない??」

「可愛い女の子はつい目で追っちまうんだ。男だからな」

「顔がイイからってセクハラ発言が許されると思ったら大間違いだから……」

 

 

 目で追っているだけでもセクハラになるとは世知辛い世の中になったもんだ。だが俺だって女の子なら誰でも惹かれるわけではなく、自分のお眼鏡にかなう子にしか興味を示さない。つまりコイツから運命的な何かを感じ取ったってわけだ。何年も前から美女美少女と一緒にいる俺の関心を引いたんだ、それこそ誇ってもいいことだぞ?

 

 

「街中にまで自分の先生に話しかけられて最初はウザって思ったけど、あの時があったから今の私がいるのかもね」

「そんな人生逆転のイベントなんてあったか?」

「アンタにとってはその程度かもしれないけど、私にとってはあったのよ。そもそも、ショウビジネスの世界に行くこともスカウトを待ってたことも、何もバカにしなかったのはアンタが初めてだったしね。しかも『俺はお前が街中でスカウトされてもおかしくないって思うぞ。だってお前美人で綺麗で、魅力あるじゃん』なんて恥ずかしいセリフ、普通は生徒に対して言わないわよ」

「そんなこと言ったっけ? でも魅力あるだろ、実際」

「だ、だからそういうことをサラッと言うのはやめなさい! はぁ、アンタの周りの女性って苦労してるわね絶対……」

 

 

 いやそれ侑にも耳にタコができるくらいに言われてる。なんならアイツが一番苦労してるまであるからな……。

 俺はどちらかと言えば自分の気持ちを隠さないタイプなので素直に口に出してしまう。しかも女の子を褒めることを恥ずかしいこととは一切思っていないため、そこで女の子たちと認識齟齬が起きるらしい。まあ褒めちぎって恥ずかしがっている様子を見たいという俺のサディストな心が疼く、ってのもあるけどさ。

 

 ちなみにすみれに魅力があるって言ったのは紛れもなく本心だ。嘘偽りなんて一切ないし、あの時から本気でスカウトされてもおかしくないと思っていた。だって色白の金髪美人でスタイルもいいって、男が放っておくわけねぇだろ。教師じゃなかったら俺が引き取ってやったかもしれない。

 

 

「でもアンタって褒める時は褒めるし、諭す時は割と厳しく諭してくるわよね。私がかのんたちスクールアイドルを馬鹿にしてた時、『アイツらは確かにアマチュアだけど、自分が輝くのにプロもアマも関係ないだろ。誰かに声をかけてもらうまでくすぶっている誰かさんより、アイツらの方がよっぽど夢に近づいてるぞ』って言ってきたくらいだし」

「気に障ったのなら悪かったよ」

「いえ、むしろ私がスクールアイドルになる着火剤になったわ。スカウトを待つだけのくすぶっていた私よりも、自分たちでゼロから必死でファーストライブに漕ぎつけて、しかも結果を出した2人の方がよっぽど輝いて見えたもの。心では分かってたけど、それを認めたくないからプロだのアマチュアだのうだうだ言ってたのよね」

 

 

 コイツは子供の頃に少しメディア進出した経験があるから、ズブ素人のかのんたちのことをおままごとだって思う気持ちは分からなくはない。すみれは確かに魅力的な子だけど、魅力だけで言えば自分たちの力で何もないところからステージに上がったかのんと可可の方が()()()()魅力的だった。それを自覚していたからこそコイツもアイツらのファーストライブを見に来てたわけだしな。

 

 

「それにスクールアイドルに誘ってきたのもアンタだった。かのんもそうだったけど、後押ししてくれたのはアンタだったわよね。『お前はどうなんだ? 自分が輝けるステージに、立ってみたくないか?』って」

「だってあのままだとまたスカウトを待ってるだけの存在になってただろ。だから自爆する前に引き込もうとしただけだ。ま、俺がいなくてもかのんたちが何とかしただろうから必要のない助言だったよ」

「いいえ、先生のおかげ。スクールアイドルをやる前も、その後も、ずっと背中を押してもらったから。視野が狭かった私の世界を広げてくれたわ」

「珍しいな。お前が素直に俺を認めてくれるなんて」

「昔に浸るときって感傷にも浸っちゃうじゃない? そういうことよ」

 

 

 その時に感謝を示せなくても、時間が緊張を解して素直になれることもある。いつもは顔を真っ赤にして突っかかってくるくせに、今のコイツは一回りも二回りも大人に見える。いつもこうだったらいいんだけど、ツンデレのたまに見せるデレの威力は凄まじいのでこれはこれでありなのかもしれない。決してツンツンされたいってM属性じゃないからな……。

 

 

「そう考えると、今年の私の人生ってずっとアンタがいた気がするわ」

「なんだ、またストーカーだって言いたいのか?」

「そうね、かのんも可可もそうだけど、頼んでもないのにお節介を焼いてくる人たちばかり。みんなストーカーよ」

「それだけお前のことが気になって、好きだってことだろ。でなきゃ付きまとったりしねぇよ」

「……アンタも私のことが好きでその……付きまとってたわけ……?」

「さぁな? 俺は俺のやりたいことだけをしたまでだ」

 

 

 俺は利己主義者だから誰かを助けようと思って行動することはあまりない。自分のやりたいように行動してたらたまたま誰かのためになっていただけだ。とか言ってもみんな微笑むだけで誰一人として共感してくれないのは何故……?

 

 

「自分がやりたいから……ね。だったらこの前、私が初めてライブのセンターになるからってアガってた時に励ましてくれたこと、あれも自分のため? 『大丈夫、お前が見えるところで見守ってやるから安心しろ』って、私の彼氏かっての」

「あぁ~そんなこともあったな。別に彼氏面をするつもりはなかったし、教師としてでもなかったよ。ただあのままお前が輝く機会から降りてしまうことを見逃せなかっただけだ。そうしないと俺が後悔するからな」

「ふふっ、なんだかんだ言い訳してるけど、やっぱり私のため――――」

「それ以上はいい。全部俺のためだ」

 

 

 なんかコイツ、俺のことを分析し過ぎてないか……? あまり調子に乗らせると面倒だから会話を打ち切ったが、なんか得意気に笑っているので遅かったかもしれない。俺のこういうところって付き合いの長いμ'sの奴らやずっと隣にいる侑には見抜かれてんのかな。だから『俺のため』って言ってもアイツらは微笑んでたのか……?

 

 

「自分のためであれ相手のためであれ、アンタのおかげで今の私がいるのは確かだわ。なんだかんだ一緒にいてくれたときは安心して、鼓舞されるたびに自分の世界が広がった。私の中で先生の存在はもう大きすぎる……。だから私は先生のこと……」

「…………」

「あっ、もうここでいいわ。送ってくれてありがとね」

「あぁ。じゃあまた明日。宿題ちゃんとやって来いよ」

「小学生じゃあるまいしそんな忠告いらないから! じゃあね!」

 

 

 そう言って分かれ道ですみれと別れた。

 アイツが最後に言いかけたセリフ。その最後にくる言葉は容易に想像できる。だが、アイツもまだその時ではないと思って言わなかったのだろう。アイツが言わなかったら俺が話題を変えていたと思う。

 

 それにしても、こうして過去を振り返ってみるとコイツらとまだ半年しか一緒にいないのに色々あったと感傷に浸ってしまう。俺が教師になって初めて担当した生徒ということもあるだろう。それになにより、俺たちの関係がどれだけ進んだかが浮き彫りになる。他の奴らとも同じように振り返ったらその浮彫がより鮮明になるんだろうな。たまには過去を見つめ直すのも絆の繋がりをより強く感じられていいかもしれない。

 

 今はまだ保っておきたいこの関係。でももしかしたら、コイツらともいつか……。

 ま、そんなナーバスにならなくてもいいか。今は教師として可愛い生徒たちに囲まれるこの生活を謳歌するとしよう。

 




 今回はすみれとの過去回でした!
 まだ1年生なのに美人で仲間想いでネタもこなせる万能キャラなので、私としても非常にお気に入りのキャラです! 特にセンターを任された時の回は非常に彼女らしく、仲間からも頼りにされていることが分かるいい回だったと思います。

 これからも定期的にLiellaの面々と零君との過去回は描いていく予定です。ただもう一歩踏み込めばゴールインしそうな感じがするのは気のせい……?


 虹ヶ咲編もアニメ2期が放送している間にまた始動させたいと考えています。ただタイミングはいつになるか不明で、もしかした来週あたり唐突に虹ヶ咲編2の1話が差し込まれて投稿されるかもしれません(笑) まあそれは気分次第ってことで……
もし虹ヶ咲編2を投稿する場合はLiella編と同時並行になると思います。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暴発!惚れ薬パニック!

「ふわぁ~~……」

「おはよう零君♪ 相変わらず眠そうだね」

「あん? 秋葉……?」

「今日は楓ちゃんが用事でいないから、私がその代わりってわけ」

「あぁ、そういえばそうだったな」

 

 

 朝起きてリビングに降りてみると、そこにはエプロンを身に着けた秋葉が朝食を作っていた。本来ならその役目は妹の楓なのだが、昨日から雪穂と亜里沙の3人で旅行に行っていることを忘れていた。だから今日は秋葉が朝飯の準備をしてくれているらしい。

 

 コイツが料理できるのかよって思うかもしれないが、意外にも家事スキルはある。以前に俺が浦の星女学院へ教育実習へ行った際、秋葉も別の用事で沼津に行くことになり、その時に2人で一緒に住むことになった。だが楓は『お兄ちゃんと一緒に住むのであれば身の回りのお世話をしてあげるは必須』と、秋葉に己の家事スキルをこれでもかというくらいに刻み込んだんだ。あの時のアイツの勢いは凄まじく、悪魔と言われる秋葉が圧倒されるくらいだったのはよく覚えている。でもそのおかげで教育実習期間中の飯は何とかなったし、今もこうやって楓がいないときのピンチヒッターになってくれるので助かってるよ。

 

 そうこうしている間にテーブルに朝飯が並べられた。

 俺と秋葉はテーブルを挟んで向かい合って座りながら飯を食う。

 

 

「どう? お姉ちゃんのお味は?」

「その言い方だと卑猥な意味に聞こえるだろ……。普通だ普通」

「もうっ、そっちの言い方の方がヒドいよ! 久々にお姉ちゃんの手料理を食べさせてあげたのに!」

「楓の味をほぼ再現してる。そして俺はいつも楓の飯を食ってる。つまり日常的だから感想はない」

「褒められてるのかそうでないのか分からないんだけど!?」

「女の子の手料理なんて食べ慣れてるからな。俺の胃袋はグルメなんだよ」

「相変わらず王様してるなぁ零君は……」

 

 

 俺の周りに料理が上手い女の子しか存在していないのが悪い(せつ菜とかせつ菜とかせつ菜は除く)。手料理を作ってもらったりするのは日常茶飯事だし、定期的に手作りお菓子も供給される。それで舌が肥えない方がおかしいだろ。そんなご馳走を定期的に摂取していれば当然舌も胃袋もグルメになってしまうのは仕方のない話だ。

 

 

「なんにせよ、私の手料理が今日一日の活力になってくれるのなら嬉しいよ!」

「意外と体力使うからな教師って……。つうかお前、学校行ってんのか? 教師になったくせにあまり授業してないって話だけど……」

「私は非常勤講師みたいなものだからね、あまり授業は入ってないんだよ。それに別の仕事もあって忙してくてさ。今日も新薬のテストだから行けそうにないね」

「何してんのかは知らねぇけど、あまり学校で暴れるなよ。この前の一件でかのんたちに余計な警戒をさせちまってるから」

「はいはい善処しま~す♪」

 

 

 なんだよその笑顔はホントに分かってんのかコイツ……。毎回言葉もテンションも軽いから、本気と遊びの境界線が自分の姉なのに未だに判断できない。だからなのか言葉の節々が怪しすぎて怖いんだよ……。

 

 そんなやり取りをしながら朝食を平らげ、身だしなみを整えて学校へ行く準備が整う。

 意外にも俺の着ていく服にアイロンをかけてくれていたり、さっきみたいに飯を作ってくれたりと献身的なところがあったりする秋葉。そういう姿だけは誰もが憧れる理想の姉なんだけど、中身がな……。

 

 その後は特に何も起こることはなく出勤の時間になった。わざわざ玄関まで来て見送ってくれるあたり、謎の新妻感を醸し出している。その優しさが逆に怪しいっつうか、嵐の前の静けさって感じがするのは気のせいか……?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 異変は学校に到着してすぐに気づいた。職員室へ向かおうとする最中、既に登校していた生徒たちに見つかり挨拶をされるまではいつも通り。だが今日は挨拶だけで終わることはなく、何故か俺にベッタリと引っ付きながら一緒に歩いていた。

 

 

「先生、今日は一段とカッコよく見えますぅ……♪」

「また勉強で分からないところがあるので教えてもらってもいいですかぁ~?」

「お、おい……。一体どうしたんだお前ら……」

 

 

 女の子2人が俺の両腕に抱き着いてホールド。2人だけではなく、途中で挨拶を交わした女の子たちも漏れなく俺に引っ付いてくる。発情してるんじゃないかってくらい赤面し、声も蕩けていて甘々な声色となっている。発達途中の胸や肉付きの良い太ももが当たっていてもお構いなし。むしろ自分たちから擦り付けているようにも見え、メスとしてオスを誘惑する動物の本能が滲み出ているかのようだ。

 

 いくら思春期とは言えどもこの学校の生徒ってここまで淫乱だったかと疑ってしまう。以前から積極的だった子たちばかりではなく、割と大人しい子だったり清楚な子も同じ様子なのが謎だ。いつの間にここは虹ヶ咲のような俺のこと大好きっ子が集まる場所になってしまったのか。実は裏でパパ活をしている子が俺を騙して金をせしめようとしているのか。あらゆる妄想は尽きないが、少なくとも虹ヶ咲生徒のような淫乱度を持つ子やパパ活をするような薄汚れた子はこの学校にはいない。みんないい子なのは知っている。だからこそこうして密着されているのが不思議でならないんだ。

 

 つうか最近の女子高生って身体の発達具合がいい。さっきから押し付けられている胸は全部手頃サイズであり、今のままでも十分に男を誘惑できそうだ。教師として女子生徒に劣情を抱くなんて言語道断だが、男なんだから仕方ないだろう。しかも女の子に囲まれ密着されているこの状況で卑猥なことを考えるなって方が無理な話。成長途中の健康的な身体を押し付けられたらそりゃ誰でも取り乱すって……。

 

 

「こらっ、そこ! 一体なにをしているのですか!!」

「恋!?」

 

 

 不純異性交遊と聞いて飛んで来たと言わんばかりの生徒会長・葉月恋の登場。規律を重んじる彼女にとって目の前の状況は卒倒してしまうくらいの如何わしい状況だ。もはや雰囲気から怒ってるオーラが出てることが丸分かりである。

 

 あぁ、これはまた俺が集中砲火を受けるパターンかな。毎度のことだが女の子側から近寄って来るのに、女子との距離が近いと怒られるのはいつも俺の方なのだ。なんでもかんでも男が悪いと思い込んでいる、最近SNSで良く出没する出来損ないのフェミニストかよ……。

 

 

「先生! あなたはまた女性を誑かせて!!」

「いやだからいつも言ってるだろ! 別に俺からこの状況を作り出してるわけじゃないって!」

「あなたの意志の弱さが原因ではないでしょうか? 教師なら教師らしく抱き着いてくるのであれば嗜める。それが重要――――――!?」

「まあそうなんだけどさ……。ん? どうした?」

「い、いえ……。でも先生なら仕方ないですよね……。親しみやすいですし、スキンシップを取りたくなる皆さんの気持ちも分からなくはないと言いますか……」

「え゛っ!?」

 

 

 急にキャラが変わった……? いきなり主張を変えるなんてどうしたんだコイツ……?? 厳粛な雰囲気の中にも優しいところがあるのは知っているが、如何にも怒ってますよオーラを醸し出しながら突然デレを発動させるのはおかしい。しかも他の奴らみたいに顔を赤くして……。

 

 

「せ、先生、私もその……」

「な、なんだ? 怒ってないのか?」

「なんでしょう。私もよく分からないのですが、先生の近くにいるとその……とにかく、もっと近くに寄ってもいいでしょうか!?」

「えっ!? ていうかもう他の奴らに抱き着かれて場所がないんだけど……。いや寄るだけなら場所はどこでもいい……けど、ホントにどうしたんだお前?」

「先生と一緒にいると熱くなると言いますか……身も心も。それに何故かドキドキしてしまって……」

「えぇ……」

 

 

 コイツもしかして淫乱属性持ちだったのか!? ド真面目が故に純粋なところがあり、その手の知識に関しては『無』だと思っていた。だがしかし、今は他の女の子たちと同じく俺に傍にいることが至高の悦びと言わんばかりの様子だ。ガミガミ文句を言いながら怒るといったいつものパターンとは打って変わり、今日は他の子たちと同じく媚びに媚びている。やはり現代のJKってのは如何に表で清楚ぶっていても裏では大なり小なり淫乱属性を持っているものなのか……。

 

 まあそんなわけねぇか。どう考えてもこの状況はおかしい。また秋葉(アイツ)の仕業か?? でも何かを仕掛けるような素振りはなかったように見える。今日アイツに何か特別なことをされたっけ――――あっ!! 朝飯!! アイツの作った朝飯を全て胃袋に入れてしまった!! それにアイツ、新薬の実験があるとか言ってなかったっけ? なんつうフラグだよ!!

 

 

「あっ、先生だ! おっはようございまーすっ!」

「千砂都!? おい今こっちに来るな!!」

「えっ、どうしてですか? 来るなと言われたら行っちゃうのが人間の性です――――――よ!?」

 

 

 後ろから現れた千砂都。全てを悟った俺の忠告を無視してこちらに駆け寄ろうとするが、その途中でこちらをぼぉ~っと見つめたまま硬直してしまった。そして次第に頬が赤みがかっていき、さっきまでの元気溌剌なテンションはどこへやら、彼女も他の子たちと同様に徐々に蕩けた表情になっていく。女の子をここまで豹変させるなんて、俺の身体って今どうなってんだ……。

 

 

「せんせぇ~~っ♪」

「うぉっ!? 他の奴らもいるんだから急に抱き着くな危ないぞ!?」

「えへへ~ゴメンなさい♪ でも先生を見てたら我慢できなくて!」

 

 

 千砂都は俺の腕に絡みついている女の子の上から抱き着いてきやがった。まるで俺たちを押し潰さんとする勢いだったが、下敷きになった女の子も俺の腕に絡みつく体勢を崩していない。それだけ俺と一緒にいたいという思い、何としても離れないという根性があるからだろうか。そして千砂都が覆い被さっても文句1つ言わないどころか、俺をじっと見つめてこちらに夢中になっているせいか気にしていないようだ。

 

 

「実はまた新作のたこ焼きを作って来たんですよ! 食べたいですか? 食べたいですよね!? それでは今日、昼食をご一緒しましょう!!」

「早い早い!! 話題転換が早い!!」

「だって先生と一緒にお昼を一緒に出来るとか嬉しくなっちゃってぇ~♪」

 

 

 コミュ力抜群な元々の性格と惚れが深くなる謎現象が相まって、いつもより一回り積極的に見える。それでも照れる時は他の子たちと同じく媚びた女の子の声を出したりと、もうそこらの男だったら簡単に恋に落ちてもおかしくないぞ……。俺はこの状況に慣れ……てはいないけど、発情女子の対応には自信があるからな。主に誰のせいとは言わないが……。

 

 そして、また新たな刺客が現れる。

 

 

「アンタ、また女の子を侍らせていい身分ね」

「すみれ!? お前までまさか……!? ダメもとで言うけど、もし平常心を保ってるのなら助けてくれないか? 流石にこの状況だと歩けないから……」

「わ、私だけ仲間外れにするなんてズルいわよ!」

「な゛っ!? お前、既に……!!」

「勘違いするんじゃないわよ! アンタの近くにいないと心臓が高鳴り過ぎて困るってだけだから!!」

 

 

 なんと見事なテンプレートツンデレセリフ。普段もツンデレ気味なところはあるが、まさかそんな模範を披露するなんてこれまでに例がない。つまり自分の行動がテンプレになってしまうくらい俺に惚れこんでしまっているのか。秋葉(アイツ)が俺にどんな副作用を仕込んだのかは具体的には不明だが、恐らく女の子が抱く俺への気持ちを増幅させるものだろう。そうでないとすみれがここまで分かりやすくデレることなんてないからな。

 

 すみれの襲来に手を焼いている最中、更なる子が声高らかに駆け寄って来た。

 

 

「すみれが抱き着くのであれば可可もそれ以上に、思いっきり抱き着いちゃいマス!!」

「可可、お前!? てかどこから現れた!?」

「ちょっと邪魔するんじゃないわよ! 早い者勝ちよ!」

「いいえ! 先生は先着順で女の子を選んだりはしマセン!」

 

 

 今度は可可が襲来したと思ったら、いつも通りの痴話喧嘩。千砂都の時もそうだったが、惚れる気持ちが増大しても元の性格はそのままらしい。特にLiellaの面々はその傾向が強く、最初に俺に抱き着いてきた子なんてもう恍惚な表情をするだけでまともにコミュニケーションを取れる様子じゃないからな。そのせいで俺は女の子に密着されて囲まれてミノムシ状態になりそうだけど……。

 

 

「せんせぇ~可可も……可可も仲間に入れてくれマスか……?」

「わ、私も……いいでしょう?」

「うっ、ま、まぁいいけど……。そもそも既にコイツらがいるから場所がねぇぞ」

「まだ顔がありマス!」

「下から抱き着くこともできるわ」

「正気かよ……」

 

 

 顔って上から抱き着くってことか?? そして下ってお前、男のどこに抱き着こうとしてるんだよ……。もはや俺に密着したいがために俺のどこにでも抱き着きたいと思うその精神、性格はそのままだけどまともな思考回路は奪われてんじゃねぇのか……? 普段のコイツらは恋愛下手でちょっとしたことでもすぐに恥ずかしがるから、いつもなら絶対にそんな変態発言はしないはずだ。それほどまでに思慕が増幅されてるのか恐ろしいな……。

 

 そんなことよりもこの状況をどう打破すべきか。もうすぐで始業だってのに職員室に間に合わないどころか、女の子たちに引っ付かれて歩けもしない。俺に惚れている力が時間経過とともに強くなっているのか、恋や千砂都は俺と対面した直後はまだ正気を保っていたのに対し、すみれと可可は既に惚れ込んでいる状態だった。しかも他の子たちもさっき以上に頬を染めて何やらブツブツ愛を囁いてくるし、ちょっと怖いところもあったりなかったり……。

 

 もちろん男なのである程度は力尽くで振りほどけるのだが、女の子に手を上げるなんて行動はできない。だったらこの状況をどうするか。誰かが通りかかってくれて助けてくれればいいのだが、この学校は女子高。つまり生徒は全員女の子なので漏れなく惚れられてしまう。しかも教師陣も俺を除けば全員女性。これって大人にも効くのか? もしかしたら成人女性にも惚れられるみたいな展開も……!?

 

 ダメだ、詰んでる。秋葉の作るモノの効果は全て時限式なので、このまま待っていればいつかは解放されると思うのだが……それっていつだよ!?

 

 

「えぇっと、先生……ですよね?」

「えっ、かのん……?」

 

 

 少し離れた場所から声が聞こえたので頑張って首を捻ってみると、そこには不思議そうな表情をしているかのんがいた。俺かどうかを疑ったのは、恐らく女の子たちに囲まれ過ぎていて俺がそこに存在していると認識しづらかったからだろう。

 

 ようやく助けが来た! と一瞬喜んでしまったが、さっきも言った通り女の子は漏れなく異様な惚れ方をしてしまう。彼女を見たところまだ正気は保っているようだが、もう間もなくコイツらみたいに堕ちてしまうに違いない。そうなったらもう本格的に助力を願える人がいなくなるぞ……。

 

 

「大変そうですけど……私に何かできることってありますか?」

「ん? お前大丈夫なのか……?」

「? 何が大丈夫なのかは分からないですけど……。た、多分大丈夫です……」

「大丈夫ならそれでいい。コイツらを引き剥がすのを手伝ってくれ。俺から何を言っても悦ぶだけで離してくれないんだ」

「は、はいっ!」

 

 

 理由は分からないがかのんだけはいつも通りだった。ただこのミノムシ状態を見ても驚くこともなく、冷静にこの状況に対処していたのは謎だ。コイツも他の奴らと同じくらいに恥ずかしがり屋なので、男1人に女の子がたくさん群がるこの光景を見たら驚くと思ったんだけど……。

 

 その後はかのんが女の子たちを引き剥がしてくれた。中には子供っぽく俺から離れることを駄々をこねて抵抗する子もいたが、彼女が宥めてくれたおかげで助かったよ。別に抱き着かれるのは嫌じゃないしむしろ歓迎なんだけど、ここまで大勢に密着されたのは今までなかったかもしれない。もう秋もいい季節で寒いのに、あまりの人肌に汗かいちまったよ……。

 

 

「お前、本当に何もないのか?」

「何もって……一応……はい」

「そっか、ならいい。でもありがと――――」

「す、すみません! 朝礼が始まるので先に行ってますね!」

「あ、あぁ……」

 

 

 かのんは逃げるようにここから立ち去ってしまった。

 本人は何ともないと言っていたが、どうしてアイツだけ? それに逃げる時にテンパってたし、顔もじんわりと紅に染まっていた。俺にお礼を言われて照れくさくなったのか?

 

 事の真相を究明するため、秋葉に連絡してみた。

 すると―――――

 

 

『もしかしたら、零君を想う気持ちが他の子たちより一回り大きかったのかもしれないねぇ~』

『それでどうして効果がなかったんだよ?』

『あの惚れ薬は零君への想いを増幅させる。つまり、かのんちゃんは増幅させる分のキャパシティすらなかったんだよ。そう、元々あなたへの想いが強すぎてね』

『まさかそんな……』

『でも顔を赤くしていたってことは抵抗してたってこと。あなたの傍にいると薬の効果で更に好きになってしまうから、思わず逃げちゃったんだろうね~。自分の意思に関係なく好きになっていくことが自覚できたのも、恐らくかのんちゃんだけ。いい素質持ってるよあの子!』

『マジかよ……。でもあの状況を見て驚かなかったのは、自分の中で勝手に膨れ上がる想いと必死に戦ってそれどころじゃなかたってことか』

『いやぁ~でもまさか薬の効果が効かない子がいるとは……。想いの力が強すぎるとそういった結果になるんだねぇ~いいテストになったよ♪』

『ったくお前って奴は……』

『それにLiellaの他の子もある程度自我があったんでしょ? それだけ惚れられてるってことだよ』

 

 

 そうだ、かのん以外の4人も他の女の子と比べて自分の性格を保っていた。それすなわち、薬の効果で増幅する影響が少なかったってことだ。だって元からその相手に対する想いが強かったんだから……。

 なんか今回も秋葉のイタズラに巻き込まれてあぁ~疲れたみたいな感じだったのに、まさかみんなの好意を自覚する展開になるとは。もしかしたら色々と結論が出る時は意外と近いのかもしれねぇな……。

 




 この小説では恒例となった零君羽交い締めシリーズ。Liellaのメンバーだけでは人数が少なかったのでモブキャラも増やしてみたのですが、もう零君が埋もれてしまうくらいに……(笑)
 やはりハーレム好きとしては手っ取り早くハーレムを感じられるこのような話が好きなので、恐らくまたこういった展開があるかも……


 虹ヶ咲2期と並行してこの小説でも虹ヶ咲編の続きを投稿するかも……と先日言っていましたが、とりあえずLiella編が落ち着くまでは投稿は控えようと思います。
 ただアニメ3話の最後を見て侑を描きたい欲が高鳴って来たので、特別編として近々投稿したいと思います!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】侑と歩夢は彼の家で一晩を過ごす(前編)

 虹ヶ咲アニメ2期の影響を受け、虹ヶ咲の話も書きたくなっちゃったので堪らず投稿しちゃいました(笑)

 時系列としては虹ヶ咲編の特別編『侑とμ's』の回以降、Liella編突入前のお話となります。



「んんっ~~ちょっと休憩」

 

 

 高咲侑です。

 自室で勉強を始めて数時間、集中し過ぎて張った身体を大きく伸ばして一息入れる。音楽科に転科してからしばらく経つけど、元々音楽スキルがほぼゼロの私にとっては宿題を片付けるだけでもまだ一苦労していた。もちろん自分で選んだ道だから苦ではない。歩夢たちのため、そして自分の夢のために、苦労しながらも楽しんで音楽を学べていると思う。そのせいで時間も気にせず集中しちゃってみんなに心配されたりするんだけどね……。

 

 忙しいのは音楽科の勉強だけではない。スクールアイドル同好会のマネージャーとしてみんなの練習メニューを考え、お兄さん……神崎零さんにそのメニューを添削してもらったりと、同好会の作業も並行して行っている。特にお兄さんの添削はそれなりに厳しくて作成したメニューを差し戻されることも多いため、場合によっては夜遅くまで練習案を考えていたりもする。だけどこれに関しても苦だとは思っておらず、お兄さんにスクールアイドルのマネージャーとして教育して欲しいと依頼したのは自分なので、むしろ厳しくされるのは大歓迎。μ'sやA-RISE、AqoursやSaint Snowと言った名だたるグループを見てきたお兄さんだからこそ、こちらから学べることは多い。

 

 そんな感じで今日も音楽科の勉強とお兄さんからの課題を着々と進めていた。気づけばもう夕方。昼食を取ったのがさっきのような感覚に陥るほど集中していたみたい。あまり根を詰めすぎるとまたみんなに心配をかけちゃうからほどほどにしないと。特に歩夢は心配性だから、1時間に何回も『大丈夫? あまり無理しないようにね』とかメッセージを送ってきちゃうんだよね……。いや心配してくれるのはありがたいけど、あまりのメッセージ量に1回ドン引きしちゃったことあるのは内緒……。

 

 とりあえず、適当に夕飯の準備でもしようかな。あっ、でも買い物に行かないと冷蔵庫に何もなかった気がする。最近時間があるときは音楽科の勉強やお兄さんの課題をやってるから、あまり買い出しにも行ってなかったんだよね……。面倒だけど気分転換にもなるし出かけよう。

 

 そう思った矢先、携帯にメッセージが入る。また歩夢からかな?

 

 

「えっ、お兄さん?」

 

 

 驚くのも無理はない。お互いに連絡先は知っているものの、大抵私が事務連絡をするくらいでお兄さんから連絡をしてくることはほとんどないからだ。わざわざ向こうから来るなんてよっぽどのことなのでは……??

 

 そう考えてメッセージの内容を見てみると――――

 

 

『俺の家に飯を作りに来い』

 

 

「はい……?」

 

 

 結論だけを書いた非常に簡潔な文章。言いたいことを的確に相手に伝えるいい文章。流石は来年から教師になる人、文章力がある―――――って、そんなわけあるかぁああああああああああああああああああああああああ!!

 

 なにこの内容!? いきなり飯を作りに来いってどういうこと!? 百歩譲ってそれはいいとしても何故に命令口調!? それが人にモノを頼む態度なの!? たかだか数文字の文章なのにツッコミどころが多すぎるのがお兄さんらしいというかなんと言うか……。

 

 まずどうしてこんな突拍子もない依頼をしてきたのかを聞こう。

 そう思っていると続けてメッセージが届いた。

 

 

『今日は楓も秋葉も用事でいないから飯を作る人がいないんだ。だから来い』

 

 

 いや理由は分かったけど、どうして人に作らせようとするの!? しかもまた命令口調だし!! 全くあの人はもう……。

 このまま無視してもいいけど、後で絶対に詰め寄られるので仕方なく応答することにする。

 

 

『自分で買いに行ったり出前を取ったりしたらいいのでは?』

『お前の作った飯が食いたい。それだけだ』

 

 

 な、なにそれ……。ちょっとドキッとしちゃったじゃん……。

 

 

『いいから来てくれ。飢え死にする』

 

 

 相変わらず一方的なんだからもう……。こうやってメッセージでやり取りしているだけなのに肉食系の片鱗が見える。そういうところが男らしいのかもしれないし、なんなら歩夢たちなら二つ返事で飛んで行くだろう。残念ながら私はお兄さんに惚れてもないし、もちろん恋愛的に好きではない。お兄さんの言葉を借りるなら相棒ポジションだ。お互いにお互いの夢のために支え合っていく仲。歩夢たちはお兄さんに従順でお兄さんの言うことならなんでも喜んで聞いちゃうけど、私をそう簡単に従わせられるとは思わない方がいい。ていうか私が最後の砦にならないとお兄さんにツッコミを入れる人がいなくなっちゃうからね……。

 

 

 だけど――――

 

 

『分かりました。行きます』

 

 

 あ゛ぁ゛ああああああああああああああああどうして行くって言っちゃうかな私!! これじゃあ即堕ち2コマって言われても反論できないよ……。

 別にさっきの私とメッセージに返答した私が二重人格なわけではない。お兄さんには人を従わせる圧力があるっていうか、恐らく私自身も口では抵抗しているけど心ではその王様ムーヴを受け入れているからだと思う。お兄さんの隣にいるのって……まぁ心地いいし。なんだかんだ付き合ってあげるあたり、お兄さんにツンデレとか言われそうだな……。

 

 その後はお兄さんから電子マネーが10,000円分送られてきて、これで食材を買って来いとのことだった。2人で10,000円分の食材費ってどれだけ食べるつもりなの……? 手間賃として少し着服させてもらおう、うん。

 

 するとまたしても携帯にメッセージが入った。まだ何か言いたいことがあるのかと呆れそうになったけど、送り主はお兄さんではなくて歩夢だった。

 

 

『今日も勉強お疲れ様! もしよかったら晩御飯を作りに行きたいんだけど、いいかな? 忙しいと思うから迷惑じゃなければだけど……』

 

 

 見てよこの健気さ。これがお兄さんとの差ってやつだね。依頼してくる立場なのに横暴な口調のお兄さんと、控えめで心の底から私のことを心配してくれる通い妻のような歩夢。やっぱり持つべきものは幼馴染――――と言いたいけど、心ではお兄さんのお世話をしに行ってあげたいと思っているあたりお兄さんから逃げられないんだろうなぁ私……。ていうか私、お兄さんから離れられなくなってない?? もしかして依存?? 気持ちわるっ!!

 

 それはともかく、これはいい機会だ。せっかくだから歩夢も誘ってみようとメッセージを入れたら、秒で返信が返って来た。

 

 

『行く! すぐ準備するね!』

 

 

 短い文章だけど勢いは伝わってくる。。歩夢は私の部屋の隣の部屋に住んでいるけど、今頃めちゃくちゃテンションが上がっているのが見えてないのに分かるよ。なんかちょっと隣が騒がしいし……。

 歩夢、というより他のみんなもそうだけど、お兄さんの話題を出すだけで舞い上がっちゃうくらいだからね……。

 

 そんな感じで急にお兄さんの家にお邪魔することになった。そういえば、男性にご飯を作ってあげるのって初めてなんだけど大丈夫かな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 食材の買い出しのため歩夢と一緒にスーパーにやって来た。私がカートを引き、歩夢がいい野菜やお肉などを歴戦の主婦のような観察眼で見極めカートに入れていく。歩夢とは何度も一緒に買い物に来たことがあるけど、今の歩夢がちょっと怖いよ。目が本気。本気と書いてマジだ。それだけお兄さんのために少しでもいい食材を選んでいるのだろう。

 

 

「あゆむぅ~いつまで選んでるの~……」

「ゴメンもうちょっと待って! 零さんの身体に入れるものだから、今あるモノの中で最高のお肉を選ばないと!」

「いや気を使い過ぎだって。早くしないとお兄さんが餓死しちゃうよ」

「う゛っ、それは困るかも……。でも零さんに料理を作ってあげるんだよ!? そんなの最高級のおもてなしをしないとダメ! 妥協はできないよ!」

 

 

 歩夢がここまで自己主張を強めるのは珍しい。いつもは割と引っ込み思案だけど、お兄さんのことになると途端に目が血走ってハイになる。どれだけお兄さんのことが好きなんだって話だけど、私も恋をして好きな男性ができたらその気持ちが分かるのかな。そしてこういう時にどうして真っ先にお兄さんが思い浮かぶかなぁ……。

 

 

「そういえば侑ちゃんは零さんに料理を作ってあげるのは初めて?」

「そうだけど、それがどうかした?」

「だったらとても驚くと思うよ。零さんってとても美味しそうに料理を食べてくれるし、いっぱい褒めてくれるんだぁ~♪」

「歩夢、幸せで顔が崩れてる……」

「だって零さんの笑顔は私の笑顔だもん。今日は一緒に頑張ろうね侑ちゃん!」

「う、うん……」

 

 

 歩夢からのハッピーオーラが凄まじすぎる……。人は恐怖ですくみ上がると頷くしかできないって言われるけど、その逆も然りでここまで幸せを振りまかれたら否定なんてできない。だから歩夢の幸せそうな様子を見たら頷くしかできないよ……。

 そもそもお兄さんに褒められたくて料理を作りに行くんじゃなくて、命令されたから仕方なく作りに行ってあげるだけなんだから。お兄さんの笑顔のためとか、そんなの関係ないから。って、これツンデレっぽいなぁ私……。

 

 お兄さんが褒めてくれる。褒めてくれる、か……。

 

 

『美味しいよ。ありがとな、侑』

『お前料理上手いんだな。もう俺の嫁に来い』

『あはは、お前って俺に頭を撫でられるとすぐに振り払うもんな。でも今日は本当に助かったから、感謝させてくれ』

 

 

 あ゛ぁあああああああああああああああああああっもうっ!! どうしてこんな妄想が流れ込んでくるの!? 本当に迷惑!! 忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ……。

 

 

「ど、どうしたの侑ちゃん? 急に頭を抱えて……」

「歩夢の妄想癖が移ったのかもね……」

「も、妄想!? 私いつもそんなことしてた!?」

「いや自覚なかったの!? お兄さんのことになるといつもそうだけど!?」

 

 

 そうツッコミは入れたものの、最近は私も妄想の世界に囚われてしまうことがあるのでブーメラン発言かもしれない。それでも四六時中お兄さんのことを考えている歩夢よりかはまだマシだと思いたい。こうやって人と比較をして自分を正当化していかないと自我を保てなくなるなんて、もう昔の私とは全然別人のようだ。でもそうだとしても別によく、むしろこっちの世界の方が心地良いと感じてしまうくらいには毒されている。私もこの雰囲気に相当調教されちゃってるなぁ……。

 

 

「そういえば侑ちゃんは零さんに何を作ってあげるの?」

「えっ? 私は歩夢の手伝いでいいよ。ほら、歩夢の方が料理上手だし、お兄さんも美味しい料理を食べられた方がいいでしょ」

「それは違うよ侑ちゃん。料理は愛情。零さんの一番の大好物は私たちの愛情なんだから」

「愛って、別にお兄さんに対してそんな感情はないんだけど……」

「あれ、そうだったんだ」

「なにそのきょとんとした顔!? 私がお兄さんのことを好きだと思ってたの!?」

「侑ちゃん最近零さんの話題多いから、てっきりそうかと思ってた♪」

「屈託のない笑顔で勘違いするのやめてもらっていいかな!?」

 

 

 もしかして、歩夢以外のみんなにも勘違いされちゃってるのかな……? お兄さんに自分の気持ちを曝け出したあの屋上の一件はみんなに見られていたわけだけど、確かにお兄さんLOVEなみんななら私のあの発言は告白に聞こえても仕方なかったのかもしれない。思い返すとまた恥ずかしくなるからこれ以上は掘り返さないでおこう。

 

 そしてさっき歩夢の手伝いでいいとは言ったが、私の妄想では褒められる描写が強制的(決して故意ではない。ここ重要)に流れ出した。つまり潜在的にお兄さんに料理を褒められたいと思っているってこと……? まあ褒められること自体は悪くないから、仕方ないか……。

 

 

「分かった。私も何か作るよ。歩夢がいない最初はそうするつもりだったしね」

「本当に!? 侑ちゃんと一緒に料理できるの楽しみだよ♪」

 

 

 全く、女子高生2人に料理を作らせるために家に呼び寄せるなんて超贅沢だよあの人は。しかも本人のいないところでこうして本人の話題で盛り上がる。これを知ったらふんぞり返って優越感に浸るんだろうなぁ……。

 

 そんなこんなで買い物を終え、お兄さんの家へと向かった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「こんにちは零さん! 侑ちゃんからお呼ばれして来ちゃいました! 急に来てご迷惑ではなかったですか……?」

「別にいいよ。お前ならいつでも歓迎だ」

「そ、そうですか!? ありがとうございます♪」

「侑も来てくれてありがとな」

「呼ばれたので仕方なく、ですけどね」

 

 

 歩夢とお兄さんの家にお邪魔したけど、意外にも歓迎ムードで驚いた。傍若無人で唯我独尊のお兄さんのことだから、もっとこう『よく来たな』みたいに来てもらって当然のような言動を想像していたんだけど、蓋を開けたら素直にお礼を言われて拍子抜けだ。いつも尊大に振る舞っているわけではなく他人への感謝ができる人だってことは知ってるけど、私へのメッセージの内容を見たらどうも……ね。

 

 家に上がらせてもらって早速夕食の準備に取り掛かる。本来ならもっと余裕を持って来られたんだけど、スーパーで歩夢の慎重な食材選び、そしてお兄さん関係の話題で歩夢とドンパチやっている間にいい時間になってしまった。それに関しては流石にお兄さんに『遅い』って言われちゃったけど……。

 

 

「…………おぉっ!」

「な、なんですかさっきからジロジロ見て……」

「やっぱりさ、エプロン姿の女の子が自分の家のキッチンに立ってると興奮するよな」

「気持ちわるっ!? 見ないでください!!」

「いや見るべき光景だよ。目を逸らせない」

「そうだよ侑ちゃん! そのために2人でお揃いのエプロンも買ったんだから!」

「それは歩夢が勝手に買っただけでしょ!? 私知らなかったんだからね!?」

「いい仕事だ歩夢」

「はいっ! 侑ちゃんの可愛いところ、もっともっと知ってもらいたいですっ!」

 

 

 なにこの公開処刑!? もしかして歩夢を呼んだのって失敗だった!? もうお兄さんと一緒にいる世界が独特過ぎて何が地雷なのか分からない……。

 帰りたいけど2人がそうはさせてくれないから観念して残ることにする。ぶっちゃけて言えばお兄さんにジロジロ見られるのは日常的だから今更騒ぎ立てることでもない。恥ずかしいから慣れてはいないけど、さっきはお兄さんのセクハラ(?)発言に反応してしまっただけだ。ちなみに日常的に見られているのは仕方なく、お兄さん曰く『男は可愛い子を目で追ってしまうもの』らしい。可愛いって、私なんかより歩夢たちの方がよっぽど魅力的だと思うけどなぁ……。

 

 いつまでもお兄さんの相手をしていると本当に日が暮れるので、歩夢と一緒に料理を始める。2人での共同料理はもちろん、各々個人でも料理を進めていく。まさか1人暮らしで身に着けた料理スキルを突然男性に向けて発揮するなんて思ってなかったから少し緊張する。歩夢はお兄さんに対して作り慣れているようだから相変わらず手際が良く、傍から見ていても新婚夫婦の妻にしか見えない。こんな健気な子に料理を作ってもらえるなんて、お兄さんって本当に幸せ者だよ。私はまぁ、オマケってことで。

 

 ちなみに私たちが料理をしている最中、お兄さんはリビングのソファに寝転がって悠々としていた。女の子に料理を作らせるだけ作らせて、自分はのんびりですかいい身分だよ全く。でもそれが許されるのがお兄さんだから仕方がない。そうやって納得してしまう自分も自分だけど……。

 

 たけどただ寝転がっているだけではなく、携帯を触っていたり料理をしている私たちの後姿を見つめたりしていた。気を張っているからかその視線には気づいていたけど、男性の立場に立ってみるとこの状況が天国だって言いたい気持ちも分からなくはないかな。お揃いのエプロンを着た女子高生2人がキッチンに立つって、女の私からしてもドキッとしちゃうようなシチュエーションだもん。

 

 

「零さん、料理できました!」

「おおっ、サンキュ」

「お礼が事務的ですね……。もっと感謝の気持ちはないんですか? 嬉しすぎて涙が止まらないとかとか……」

「ありがとな、侑」

「うっ……」

 

 

 急にお兄さんに頭を撫でられる。憎まれ口には憎まれ口で対抗してくるのがいつものお兄さんなのに、出迎えてくれた時を含めて今日はやたらと素直だ。そのせいで手を振り払おうとも思わず、そのまま黙ってお兄さんの撫で回しを受け入れていた。その手は大きくて暖かく、お兄さんに褒められ、認められていると実感できて心が落ち着く。なるほど、これは歩夢たちが求めちゃうわけだよ。今の私、多分とても顔が赤い。だって熱いもん、全身が……。

 

 

「れ、零さん……」

「もちろん歩夢も、いつもありがとな」

「い、いえいえ! 零さんのためならいつだって……♪」

 

 

 歩夢もお兄さんに撫でられる。そりゃ餌をねだる子猫のような愛嬌で期待されたら誰でも甘やかしたくなっちゃうよね……。

 歩夢はもうお兄さんしか見えていなさそうな恍惚な表情でうっとりしている。もうお兄さんに褒められ、撫でられるだけのために生きていると言っても過言ではなさそう。赤面しているのはもちろん、その溢れ出る喜びは隣にいる私にも伝わって来る。お兄さんもお兄さんで撫で慣れているのか微笑ましい表情をしているし、なんという甘々空間。その雰囲気に私も巻き込まれており、不本意だけど悪くないと思ってしまう。私、こんなチョロかったっけ……??

 

 そんな穏やかな空気の中、私たちはダイニングのテーブルについて食事を取る。私と歩夢が隣同士で座り、向かいにお兄さんがいる構図だ。

 こうしてお兄さんと一緒に食卓を囲むのは初めてで、そして自分の料理を振る舞うのもこれが初めて。だからどんな反応をされるのか気になっていたけど――――

 

 

「このオムライス、歩夢が作ったのか。見た目も味も何もかも楓に匹敵するくらいだ。美味すぎて箸が止まらないって言葉、本当にあったんだな……」

「零さんのために、この想いをたっぷりと込めましたから……。あっ、お口にソースついちゃってますよ! 取ってあげますね♪」

「あぁ」

「――――はいっ、取れました! あっ、手にも少し飛んじゃってますね。タオル持ってきます!」

「あぁ」

「お茶がもうなくなりそうですね。――――はいっ、どうぞ♪」

「あぁ、サンキュ」

「ちょっ、ちょっと待って!! メイドさんか何か!? いやメイドさんでもここまでしないよ!?」 

 

 

 次から次へとお兄さんに世話を焼く歩夢にビックリして、食事中だけど思わず大声でツッコミを入れてしまった。更に驚いたのはお兄さんも当然のごとく歩夢からの奉仕を受け入れていることだ。お兄さんの家にお呼ばれしたときはいつもやっていることなのだろう。さっきは冗談交じりで新婚だとか言ったけど、もう完全にラブラブ夫婦だよこれ……。

 

 

「もしかして――――侑ちゃんも零さんにご奉仕したいの!?」

「したくないよ!? 料理を作ってあげただけで満足でしょ!? ね、お兄さん!?」

「あぁ、お前のから揚げも美味いよ。俺の好きな竜田揚げにしているところがベストだ。ん? そういやどうしてお前が俺の好みの揚げ方を知っている?」

「歩夢から聞いたんですよ。聞いてもないのに勝手に聞かされたんですけど……」

「そっか。でもその気はなかったけど、結局は俺の好みに合わせてくれたってことだろ? そこまで俺のことを考えてくれたのなら嬉しいよ」

「そりゃ料理を振る舞うのであれば、その相手の好みに合わせるに決まってるじゃないですか……」

「それでもだよ。お前が俺の好みを知って、俺のために作ってくれたって事実だけでも嬉しいんだ。実際に美味いし、歩夢の料理に負けてないよ。ありがとな」

「は、はい、こちらこそ……」

 

 

 なにその笑顔!? 思わずしおらしくなっちゃったよ!? 

 今日はお兄さんが素直過ぎて調子が狂うというか、的確に心をくすぐられている感じがしてドキドキしてしまう。あぁなるほど、今までこうやって女の子たちを落としてきたのか。そりゃ笑顔で手料理を食べてくれて、ここまで褒められたら誰でも惚れちゃうよ。歩夢が何度もお兄さんの家に通いたいって気持ちが少し分かった気がする。お兄さんの幸せそうな顔を見るとこっちも幸せになりそうだからね。

 

 時間が経って、私たちは料理を全て綺麗に食べきった。

 後片付けをして、もう帰るだけ。だけなんだけど、なんだかちょっぴり寂しい気がしてならない。それは歩夢も同じようで何やらそわそわしていた。

 

 

「せっかくだから泊っていかないか?」

「「えっ?」」

「いつもだったらこれでさよならだけど、今日はなんだかお前らともっと一緒にいたい気分なんだ。だからどうだ?」

「は、はいっ、是非!!」

「でも着替えとかないし……」

「楓のを借りればいい。俺から連絡しておくから」

「そ、それなら私も……いいかな」

 

 

 承諾してしまった。最初はお兄さんからのミッションが全部片付いたらすぐ帰る予定だったのに、どうやら私もこの穏やかな雰囲気に飲み込まれてしまったらしい。帰るのが惜しくなっていたところに家主であるお兄さんからの提案。そんなのもう乗るしかない。実はお兄さんと一晩を過ごすのは初めてなんだけど、別にいいかなって思えてきちゃった。それくらいこの3人の空間の居心地がいいみたいだ。

 

 いつもはお兄さんと一緒だと色々事件に巻き込まれるけど、このいい雰囲気。今日という今日はのんびりできそう――――

 

 

「そうだ! せっかく3人でお泊りすることになったので――――お風呂、一緒に入りませんか!?」

「えっ?」

「ふぇっ? え゛ぇ゛ぇ゛ぇええええええええええええええええええええええええ!?!?」

 

 

 のんびりできそうと言ったのも束の間、歩夢からの爆弾投下で一気に現実に引き戻される。

 お兄さんと歩夢。3人で初めての一晩。これ、どうなっちゃうの……??

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 1話で完結させるつもりが妄想が膨らみに膨らんで、結果的に前後編となってしまいました(笑) そして自分が書きたかった描写は次回に持ち越しなので、下手をしたら次回も文字数が膨らんでしまいそうな気が……

 虹ヶ咲のキャラはもちろん全員大好きですが、その中でも侑は容姿良し、性格良しで私の好みに合致するのでこの小説でもメインで出したくなっちゃったりします。多分彼女がいなかったら今回のような虹ヶ咲特別編を書こうとは思ってなかったかも……?

 そんなわけで次回は後編で、お風呂パートと就寝パートを予定しています。
 そして、もしかしたら虹ヶ咲のアニメ中にまた特別編として何話か虹ヶ咲の話を投稿するかもしれません。Liellaのお話を期待してくださっている方には申し訳ございません!!







 思ったけど侑さんこれ、零君を好きじゃないってもう無理があるような……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】侑と歩夢は彼の家で一晩を過ごす(後編)

 歩夢の何気ない一言。それは私と歩夢、そしてお兄さんの3人一緒にお風呂に入ろうという衝撃発言だった。歩夢はお兄さんにデレデレだから時たまぶっ飛んだ発言をすることはあるけど、さっきのは過去一で驚いてしまった。確かに食卓を囲んでいる時はいい雰囲気だったとは言え、だから一緒にお風呂に入ろうという思考回路が宇宙どころか銀河系遥か彼方へとぶっ飛び過ぎている。

 

 どんな間違いがあってもお兄さんとお風呂に入るわけがない。女性のカラダを性的にしか見てないお兄さんの前で肌を晒したらどうなることか。お兄さんの相棒として隣にいるとは言ったけど、裸の付き合いをするつもりは一切ないんだから!!

 

 だから私は――――――って、どうして2人と一緒に脱衣所にいるのかなぁ!?!? またこのパターンだよ!! 否定しているつもりでも心はお兄さんに流されちゃってるこのパターン!! そもそも女の子同士でお風呂に入るのも結構恥ずかしいのに、それがお兄さんとだなんて……。

 

 

「侑ちゃんどうした? 早く入ろうよ」

「ぐっ……。行かなきゃダメ?」

「そのために服を脱いだんだよね? ほら、早くしないと先に行ってる零さんがのぼせちゃうよ?」

「そうなんだけどさ……」

 

 

 髪を下ろし、服を脱ぎ、タオルを身体に纏ったまではいいもののお風呂のドアの前で躊躇する。この先にお兄さんがいると思うと緊張してしまいドアを開ける手が動かない。そりゃ一般の女の子であれば男性とお風呂に入るのは緊張して然りで、歩夢が特殊なだけだと思いたい。自分の周りの女の子はお兄さんLOVE勢ばかりだから常識外れが常識みたいになっちゃってるからね、私だけは健全者でいないと……。

 

 とは言いつつも、背後には歩夢がいるので逃げられない。私に残された選択肢は1つ、お風呂場に入るだけ。でもそれができたら苦労はしないんだよね……。

 

 

「緊張してるなら手をつないで一緒に入ろ!」

「ちょっ、歩夢!? ちょっと待って――――――あっ!!」

 

 

 歩夢は私の手を握り、こちらの抵抗する間もなくお風呂場のドアを開けた。タオル1枚を纏った私たちが手を繋いで、遂にお風呂場のお兄さんと対面する。

 

 

「零さん、お待たせしました♪」

「遅いぞ――――おぉ……」

「ジ、ジロジロ見ないでくださいっ!!」

「お前な、この状況で見るなっていう方が無理あるだろ。でもなんつうか……2人共綺麗だよ」

「ありがとうございます! よかったね侑ちゃん!」

「喜んでいいのかなぁ……」

 

 

 当たり前だけどお兄さんに全身を見られてしまう。もちろんタオルで隠してるから大事なところは見えないけど、それでも肩や脚など普段見せない部分が思う存分曝け出されていて心底恥ずかしい。ただ羞恥心はあれど嫌悪感はないので、お兄さんに見られること自体に抵抗はない。そう考えると私も相当お兄さんや歩夢たちの雰囲気に飲み込まれてるなぁって思うよ。

 

 そして当然お兄さんのカラダも晒されている。下半身にタオルを巻いているので流石に女の子の前で全てを露出させる変態さんではないみたい。

 それにしてもお兄さんって意外といいカラダをしてるな……。こちらに背を向けて身体を洗っているけど、その背中の広さは男性としてのガタイの良さが現れている。カッコいいと思ってちょっと見入ちゃったよ。普段はあまり骨格がいい感じには見えなかったから着痩せするタイプなのかもしれない。

 

 

「零さん、私がお背中をお流しします♪」

「そうか、ありがとな」

「ほら、侑ちゃんも!」

「へ?」

「私は零さんの背中を洗うから、侑ちゃんは前から洗ってあげてね♪」

「へ……ふぇええええええええっ!?」

 

 

 また出たよ歩夢の無茶ぶり!! お風呂に誘ってきたときもそうだけど、お兄さんが絡むと強引が過ぎる!!

 いや落ち着こう。歩夢がこう言ってるだけでお兄さんは乗り気じゃないかもしれない。歩夢とはほぼ恋人同士みたいな感じだけど、私とは裸の付き合いをする間柄でないとお兄さんも分かっているはず。お兄さんは変態だけど性欲の権化ではない。だから歩夢の暴走も抑えてくれる――――

 

 

「侑、いいか……?」

 

 

 乗ってきちゃったよ!! ていうかなにその目は!? 期待とか、興奮しているとか、そんな活気な瞳ではない。私を諭すような、吸い込まれてしまいそうな澄み切った瞳。恐らく試されている。敢えて自分からお願いするのではなく、こちらからどうアクションするのかを。まさに頂点の雄(アルファオス)。自分の手を汚さず女の子から動かそうと誘導させる。しかもお風呂場という淫靡な雰囲気は私に正常な判断をさせない。そうなると取るべきアクションは――――

 

 

「はい……」

 

 

 頷いてしまった。いつもなら全力で拒否するのに、今日お兄さんの家に来てからというものずっと雰囲気に飲み込まれている。これもお兄さんの誘い方が上手かったから……なのかな? 自分でもどうして承諾しちゃったのか分からないけど、ここで拒否しちゃいけないような、そんな感じがした。

 

 私はお兄さんの前へ行き、ボディスポンジを持ってしゃがむ。歩夢は既にお兄さんの背中を洗っている。

 ボディソープをスポンジに沁み込ませ、お兄さんの胸元に当てる。背中を見たときから思っていたけど、実際に触ってみると男性らしいいい身体で胸板が厚くてたくましい。歩夢たちは毎回この胸に抱かれていたのか……。い、いや羨ましいとかはないけど、女性として頼りになる男性が気になっちゃうのは当然だよね。

 

 それにしても、女子高生2人に前後から身体を洗わせているこの構図。私が男性だったら夢のような光景だと舞い上がってしまいそうだ。お兄さんは周りに女性が多いからこの状況にも慣れているんだろうけど、それでもお風呂場で女の子に囲まれているシチュエーションには今この世の誰よりも優越感を得ていると思う。

 

 

「お痒いところはありませんか~?」

「ない。てかそれって頭を洗う時に言うセリフだろ……」

「えへへ、言ってみたくなっちゃいました♪」

「楽しそうだな」

「はいっ! 侑ちゃんと零さんの家でお泊りできるのが嬉しくって!」

「私がいてもいなくても関係ないと思うけど……」

「大好きな侑ちゃんと一緒に大好きな零さんの家にお泊りできる。これほど嬉しいことはないよ♪」

「こんなご満悦な歩夢、中々見えねぇな……」

 

 

 歩夢、すっごく幸せそう……。これだけ大好きなものに囲まれてたらそりゃそうもなるか。でも私までお兄さんと一緒にお風呂に入ったり、こうして洗ってあげる必要はないんじゃないかなぁ……。そうは言ってももうお兄さんにご奉仕しちゃっているわけだけど……。ていうかこれ、傍から見たらアブナイお店――――いやいや、その発言はダメでしょ!! いくら女子高生2人とお風呂にいるからと言って!!

 

 

「侑! 力強いって!」

「あっ、ゴメンなさい。考え事をしてました……」

「恥ずかしいから早く風呂から上がりたいってか?」

「いや、何故だか分からないですけどこの状況が嫌とは思ってないです。むしろ居心地がいい、なんて思っちゃったりしてます」

「そうか」

 

 

 いやどうしてそこで微笑むのさ。いつもなら上から目線で『俺の虜になったか??』とか『俺のためにもっとご奉仕力を磨いてこい!』とか尊大な態度で言いそうだけど、今日はとても紳士だ。食事の時もそうだったけど、そんな優しい微笑みを向けられると調子狂うんだよね……。もしかしてこれ、女の子に優しくすることで篭絡しようとするお兄さんの作戦だったり……?? やはり女の子に対しては天才級の手練れ、私もまんまと罠に嵌めらそうになったよ。手遅れ感もあるようなないようなだけど……。

 

 その後は歩夢がお兄さんの身体についた泡をシャワーで洗い流した。流石に下半身は自分で洗ってたけどね。

 そしてお兄さんが終わったということは、次は――――

 

 

「あの……今度こそジロジロ見ないでもらえます? 全部見えちゃうので……」

「湯船に浸かってまったりしてるから、勝手にしてろ」

「いや見ないって確約が欲しいんですって! まあ歩夢ならともかく、私の貧相なカラダなんて見ても嬉しくないと思いますけど……」

「なに言ってんだ、十分健康的だろ。つうか虹ヶ咲は秋葉が俺のために作った学校だから、そこに入学できてるってだけで俺好みなんだよ。アイツ、入学させる生徒を容姿やスタイルで決めてたみたいだしな」

「別にお兄さんに好かれようとは思ってないですけどね」

「だろうな。ま、目は瞑っておいてやるよ」

「一応信じてはおきます」

 

 

 結局のところ、見られていたかどうかは分からない。もし見られていた場合を考慮して、なるべく腕や泡で隠すようにしていたから大丈夫だとは思う。歩夢は結構無防備だったけど……。

 歩夢に背中を流してもらったり、こっちも洗ってあげたりと、こうして2人で洗いっこをするのも幼いとき以来だ。まさか高校生にもなってこんなことをするとは思ってなかったし、少し恥ずかしかったけど、これもお兄さんが作り出した雰囲気に飲み込まれたからかもしれない。

 

 ちなみに、その後もまた一悶着あって――――

 

 

「零さん、一緒に湯船に浸かってもいいですか!?」

「ちょっ、また私もって言い出すんじゃないよね!?」

「…………ダメ?」

「そんな悲しそうな目で見ないでよ罪悪感半端ない!!」

「俺はいいけど、流石に3人は入れるスペースはないと思うぞ。誰かが俺の後ろから抱き着いて、俺が残った方を抱きかかえれば話は別かもしれないけど」

「はぁ!?」

「だったら私が後ろに回るので、侑ちゃんを抱きかかえてあげてください♪」

「はぁああああああああああああああああああああ!?!?」

 

 

 結局逃げることはできず、お兄さんに後ろから抱かれる形で湯船に入った。

 死ぬほど恥ずかしかったせいで思考回路を『無』に徹し続けていたので、ぶっちゃけその時のことはあまり覚えていない。覚えているとすればお兄さんの肌は暖かかったこと、それだけだった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 お風呂から上がった私たちは、特に生産性もない他愛ない話をして夜を過ごした。着替えは楓さんのパジャマを借りたから問題ないけど、ブラコンのあの人のことだから後で何を言われるか……。

 そしていい感じに夜も更け、そろそろ寝ようということになったんだけど――――

 

 

「あのぉ……零さん、一緒に寝てもいいですか……?」

「あぁ、いいけど」

「相変わらず話がぶっ飛ぶし、お兄さんもあっさり承諾しますね……」

「侑ちゃんも一緒に寝よ♪」

「うん、流石にもう驚かないよ……」

 

 

 今日だけでも歩夢の爆弾発言は何回も聞いてるから、今更声を上げることもない。夜だから近所迷惑だしね。

 それにしても一緒に食事をしたり、一緒にお風呂に入ったり、そして今度は一緒に寝るだなんてもうやってることが恋人なんだよね……。歩夢の場合はそれでいいけど、私はどうして律義に付き合ってるのか自分でもよく分からない。でもお兄さんとなら『まあいっか』と思ってしまうあたり、私の常識も相当歩夢たちに似てきているのかもしれない。

 

 

「もう何を言っても抵抗すらさせてもらえないし、分かったよ」

「ただ寝ると言っても俺のベッドはそこまで広くねぇぞ。3人だったら身を寄せ合ってギリギリってところだ」

「だったら大丈夫ですね♪」

「えっ、身を寄せ合って? お兄さんに……? 一緒の部屋でとかじゃなくて、一緒のベッドでってこと!?」

「大丈夫だよ。零さんは暖かいから♪」

「今日の歩夢、いつも以上にどこかズレてるよね……」

「えぇ~そうかなぁ~!? って、いつも以上ってことはいつもズレてるってこと!?」

 

 

 お兄さんが絡まなければお手本のような清楚系だけど、お兄さんが絡む話題ではとことん常識が欠如する。それは他のみんなも同じだけど、いつも常識人なのにお兄さん絡みだとツッコミを入れざるを得ない発言しかしなくなるそのギャップが凄まじいんだよ……。しかもさっきの反応を見てもらったら分かる通り、本人にその自覚がないっていうのまたね……。

 

 戸惑っている歩夢はさて置き、もう口でも拒否の言葉を出すことなくお兄さんの部屋へと向かった。

 部屋は意外にもしっかり片付けられており、特段綺麗好きでもないだろうからかなり意外だ。でも楓さんが家事好きお掃除好きだって聞いたから、もしかしたらあの人のおかげなのかもしれない。

 

 そしてベッドに上がる私たち。ベッドの左側に私、その隣にお兄さん、更にその隣に歩夢。お兄さんを挟み込む形で川の字で寝転んだ。部屋は暗く、かろうじて月明りが差し込んでいるだけ。もう完全に寝る体勢なんだけど、こんなにもお兄さんにくっついていてすぐに寝られるわけがない。ポジション的にはいつもお兄さんの隣にいる私だけど、物理的にこんな近くにいるなんてお風呂の時もそうだったけどこれが初めてだ。私も一応思春期女子なわけで、お兄さんみたいなそれなりにカッコいい男の人に抱き着く形で寝るなんて緊張するにも程があるよ……。

 

 

「歩夢くっつきすぎだぞ。いくら秋だと言ってもそれだと暑くて眠れねぇだろ……」

「えへへ、ゴメンなさい♪」

「それでもやめる気はないってか」

「零さんと寝る時まで一緒にいられるのが嬉しくってつい……」

「ったく……勝手にしろ」

「はいっ! ありがとうございます!」

 

 

 やっぱりお兄さんは甘い。自己中心な態度が目立つお兄さんだけど、その実は女の子に対して甘ったるいほど甘い。普段も歩夢たちが抱き着こうとしたら文句を言いながらも受け入れてるし、心の底では女の子たちへの対応を面倒だとは微塵にも思っていないのだろう。だからこそ歩夢たちだけではなく、他の女性からも好かれる。この人なら、絶対に自分を受け入れてくれるって分かってるから。決して自分をないがしろにされたりしない、そう確信できる。

 

 こんなのもう夢中になるしかないじゃん。しかも他の男性に恋することなんてできなくなっちゃうよ。ま、私は別に好きとかそういう感情はないから関係ないことだけど??

 

 

「侑、おい侑」

「えっ、は、はいっ!」

「起きてたか。寝ようとしてたのなら悪い。なんかぼぉ~っとしてたからさ」

「い、いえなんでもないです! 気にかけてくれたんですね」

「お前にとっては刺激が強いイベントが続いてたからな」

「心配してくれてありがとうございます。大丈夫ですよ、思ったより」

「そうか。ならよかった」

 

 

 本当にこの人は……。こうやって私にも目を向けてくれる。もう寝るだけだから黙っていればいいのに、そうでなくても歩夢が楽しそうだからそっちの相手をすればいいのに、わざわざ私にも声をかけてくれる。以前にμ'sさんとの飲み会にお邪魔させてもらった時も、私が肩身の狭い思いをしないようにずっと隣にいてくれたし、そういうところだよ本当に……。

 

 私は反射的にお兄さんにぎゅっと抱き着いてしまう。自分でもどうしてこんなことをしたのか分からないけど、多分この温もり、お兄さんの暖かさが好きだからだと思う。(恋愛的な意味はない、ここ重要)

 お兄さんの身体に回している腕が歩夢の腕と当たる。恐らくお兄さんを挟んで向こう側にいる歩夢も抱き着いているのだろう。お風呂でもベッドでもJKサンドイッチを堪能できるなんて、この世でお兄さんだけだよ全く。その状況を私と歩夢の2人で自主的に作り出しているから軽口を叩ける立場じゃないんだけどね。

 

 少し時間が経ち、私たちの間にも会話がなくなった。お兄さんの身体が寝息で上下に動いていることから、もしかしたらもう寝ちゃったのかもしれない。まあお兄さんは女の子に囲まれる状況にも慣れてるだろうからすぐ寝られるのかもね。私はまだ緊張してるって言うのに……。

 

 

「侑ちゃん……」

「えっ、歩夢まだ起きてたんだ」

「うん。今日はずっと興奮しっぱなしだったから眠れなくて」

「あはは、だろうね。お兄さんは寝ちゃってるみたいだけど」

 

 

 お兄さんを挟んだ向こう側から歩夢に話しかけられる。眠れないのは歩夢も同じだったらしい。そりゃ料理の時もお風呂の時もテンションMAXだったから仕方ないよ。お兄さんと一緒にいる時の歩夢は常にお兄さんに付いて回ってまるで子犬のようだから、そんな大好きな人と一晩を共にするんだから興奮もしちゃうよね。こんな楽しそうな歩夢を見られたのなら今日誘ったのは正解だったかもしれない。

 

 

「侑ちゃんは今日どうだった? 零さんと一緒に夜を過ごしてみて」

「う~ん、意外とまともだった……かな? お兄さんのことだからもっと仰々しく私たちをこき使うと思ってたけど……」

「零さんと一緒にいるとお世話してあげたいって思っちゃうんだよね。これって私だけなのかなぁ……」

「いや、みんなそうだと思うよ。それに私もそうだった。でなきゃ料理を作ってあげたり、身体を洗ってあげたりなんてしなかっただろうから」

 

 

 なんかお兄さんってそういうご主人様オーラがあるというか、女の子が必然的に惹かれてしまう何かがある。普段はお世話になってるからその恩返しがしたい、そんな感じかな。なんて、本人の前では絶対に言えないけどね。

 

 

「ふふっ、侑ちゃんも零さんのこと好きになっちゃいそうだね」

「いや、それはない」

「言い切ったね……」

「でもお風呂もベッドも共にしちゃったし、もうこれって健全な関係のボーダーラインを超えてるような気が……」

「零さんはその、ほら、そういった基準とか全部無視しちゃう人だから……」

「あはは、確かに」

 

 

 たくさんの女の子と付き合う常識外れ。いずれ近いうちに歩夢たちともそういった関係になるだろう。

 だけどそれを止めようとは思わない。むしろどうなるのか隣で見守りたい、手助けをしてあげたいと思ってしまう。私の常識も世界も、何もかもお兄さんに変えられてしまった。だけどお兄さんの世界は嫌いじゃない。今でも脳裏にしっかりと焼き付いている。初めてお兄さんに押し倒された時に言われたこのセリフ。

 

 

『二兎追う者は二兎とも取れって言葉があるように、俺はみんなを幸せにする。俺にはその力がある。みんなが笑顔みんなでハッピーになれる、それ以上のことってあると思うか?』

 

 

 最初はなんて横暴な人だと思った。でも納得させられた、強制的に。みんなが笑って幸せになれる世界があるとすれば、それほど素晴らしいことはない。そして更にお兄さんは今それを実行している。とっても幸せそうな歩夢。そして、私も――――

 

 

「お互いにお兄さんからは逃げられないってことだね」

「私は逃げるどころか、むしろ自分から追いかけちゃってるけどね。そうさせちゃうのが零さんの魅力なのかも」

「だね」

 

 

 なんか今日は歩夢とお兄さんの話しかしてない気がする。そもそも私もお兄さんのことばかり考えてる気がするし、これが恋……んなわけないか。別に好きとかじゃないし。ただちょ~~っと魅力的な年上のお兄さんってだけなんだから。

 

 

「ふわぁ~眠くなってきちゃった」 

「うん、私も。もう寝よっか」

「時間も結構遅いしね。じゃあおやすみ、歩夢」

「おやすみ、侑ちゃん」

 

 

 その後は私も歩夢もすぐに夢の世界に落ちた。

 

 そして―――――

 

 

「ったく、本人の前で本人に向けた女子トークをするなよ。気恥ずかしくて眠れるかっつうの……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「んっ、んん……あ、朝か……」

 

 

 

 カーテンの隙間から程よい日光が部屋に差す。どうやらもう朝のようだ。

 身体を起こしてみるとお兄さんはまだ寝ていて、歩夢の姿はない。いい匂いがすることから朝食を作っているのだろう。寝るのが遅かったのにも関わらずよくやるよ。それだけお兄さんへのご奉仕精神が極まっているのか、もういいお嫁さんになる以外の道がないね。

 

 それにしてもお兄さん、ぐっすり眠ってるなぁ。カーテンをしているとは言っても隙間からの日光のせいでそれなりに部屋は明るいので、私みたいに自然と目を覚ましてしまいそうなのにこの熟睡具合。そういえば楓さんがお兄さんは女の子に起こしてもらうまで中々起きないタイプって言ってた気がする。どれだけ王様なのこの人……。

 

 

「お兄さん。起きてください、お兄さん」

「んっ……ん……」

「起きないし……」

 

 

 少し身体を揺すってみても起きない寝坊助さん。でも起こそうとするたびに声を漏らすのはちょっと可愛いかも。よく見たら寝顔もイケメンなところはあれど可愛いところもある。いつもとのギャップに愛おしくなり、思わず構ってあげたくなっちゃうよ。

 

 私は自分の顔をお兄さんの顔に近づける。

 

 

「朝ですよ~起きてくださ~い」

「ん……」

 

 

 これでも起きないのか。女の子に起こされるだけでなく、何回も呼びかけないとダメっていつもどれだけ王様な日常を送ってるのかなこの人は……。いつも起こしてるのは楓さんなんだろうけど、あの人もあの人で楽しんでやってそうだから誰も損はしていないのか。

 

 ていうか、こんなに顔を近づけてたらキスしてるみたいだ。そう思うとなんだか恥ずかしくなってきたから早く離れよう。

 

 そう思っていた矢先、部屋の外からシャッター音が聞こえた。

 冷汗をかきながら音のした方を見てみると――――

 

 

「か、楓さん……ッ!?」

「浮気現場。キス未遂。全て保存したから」

「ち、違うんですこれはそのぉ……!!」

 

 

 お兄さんの妹である楓さんがいつの間にか帰って来ていたらしい。そしてスマホでさっきの状況を激写されて……って、お兄さんじゃないんだからそんなオチはいらないんだって!!

 

 

「あっ、楓さん。帰っていらっしゃったんですね――――え゛っ゛ぇえええええええええええええええ!? 侑ちゃん、零さんに何をして……」

「いや別に何もしてないよ!?」

「でも四つん這いで覆い被さって……」

「あっ、い、いやこれは違う!! ただ起こしてあげようと思って!!」

「起こすためにキスですかそうですか……。お兄ちゃん、まさかこの子の調教がここまで済んでいたとは……」

「だから違うんですってぇええええええええええええええええええええええええ!!!!」

 

 

 あらぬ誤解が広まり人生の終わりかと思ったけど、時間をかけてなんとか勘違いだったことを信じてもらうことができた。

 だけどその代わり――――

 

 

「うるせぇぞお前ら!!」

 

 

 私たちの大声で寝起きが悪く不機嫌なお兄さんに3人共怒られちゃいましたとさ。

 

 ――――って、起こそうとしていただけだよ私!? なんか理不尽!?

 




 そんなわけで久々に侑視点での日常回はいかがだったでしょうか?
 アニメの最新話を見るたびに『このキャラでこんな話を描きたい』というのが先行してどんどん生まれるので嬉しい悲鳴を上げていたりします(笑) もちろん今はLiella編なので虹ヶ咲の話を投稿できないというジレンマが……
 ただLiellaの話はLiellaの話で書きたいことがたくさんあるので、そっちをないがしろには絶対にしません!


 そういえばスーパースターに新しいキャラが登場したみたいで。虹ヶ咲の方でもランジュやミアが残っているのに、また新しい子が出てくると中々対応しきれないのが悩みですね(笑)
 恐らくアニメ2期からの登場でこの小説のLiella編もまだ続いているとは思いますが、今のところ進行中のLiella編については初期の5人の登場に抑える予定です。もしかしたらチョイ役か、特別編か何かで登場したりするかもしれませんが……


 次回の投稿からまたLiella編に戻りますが、虹ヶ咲アニメ放送中にまた特別編を投稿するかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Sunny Passionと大ピンチのハーレム王

 Liellaの面々とはそれなりに仲が深まっているが、当たり前と言うべきか俺の女性関係についてはある程度の情報制限をしている。虹ヶ咲と関係があることは侑によってバレてしまったが、μ'sやA-RISE、AqoursやSaint Snowとも関りがあることはまだ知られていない。ただでさえ歩夢たちの指導をしていたことで期待の目を向けられるようになってしまったのに、他のグループとまで交流があったことを知られたら更に注目されることは必至だ。そうなれば目立つし、生徒たちから女性関係の広さをいびられるのも予想できる。だから面倒なことになるくらいなら黙っておこう、ってのが俺の考えだ。

 

 ただ、持ち前の『女性に対する扱い』のスキルは隠し切れていないようで、たまにだがLiellaの面々から女性扱いに長け過ぎていると怪しまれることはある。アイツらからしたら虹ヶ咲のコーチをしているだけ(実際にはもっと深い関係だが)の男が、どうしてここまで女性扱いに慣れているのか不思議に思っているらしい。能ある鷹は爪を隠すと言うが、女の子に接する態度だけはどうしても変えられない。μ'sから始まり女の子に囲まれる生活がもう何年も続いているんだ、そう簡単に隠し切れるものではないしな。

 

 ちなみに虹ヶ咲と関係があるとアイツらに知られてから、学校中の女の子たちにその事実が広まるのは1日もかからなかった。流石は女子高生、噂の伝達スピードが速すぎる。どうやら学内SNSで情報共有されていたらしいが、これじゃあ俺にたくさんの恋人がいることを知られた瞬間に晒し者になっちまう。だからこそ下手に交遊関係をバラさずに黙っておきたいんだ。

 

 そんなことを考えてしまうのも、今日かのんと可可と一緒に学外へ出向いているからだ。ライブで使う備品の買い出しに行くため2人に同行している。男手があった方がいいからと可可に無理矢理連れ出されたのだが、コイツらさっきから服やアクセサリーを見て回ったりともう普通のお出かけになっていて目的を忘れてやがる。わざわざついてきてやったのに待ちぼうけ。しかも女の子の買い物は長い。このままだと知り合いの女の子の誰かに見つかる可能性が高く、そうなればあの2人に女の子との交友関係の広さがバレる可能性が……。

 

 

「先生! このワンピースの色、白か水色、どちらがかのんに似合うと思いマスか?」

「ちょっ、ちょっと可可ちゃん!? 先生に聞くとか聞いてないんだけど!?」

「まぁ白かな。って、お前らライブの備品を買いに来たんじゃねぇのかよ……」

「そうなのデスが、かのんに似合う服を見つけたら思わず着せ替え人形にしたくなりマシて♪」

「ものすごぉ~~~~く迷惑なんだけど!? いいから早く行こうよ~!」

 

 

 ニコニコしながら両手に服を持って俺に見せつけてくる可可と、彼女を引っ張って何とかこの場を脱出したいかのん。いつもの構図っつうか、相変わらずかのんの苦労人っぷり。聞くところによるとお出かけするたびにみんなにあれこれ試着させられているそうで、今回もその苦労に付き纏われているようだ。

 

 つうかこれ、いつ帰れるんだ……? 女の子の買い物の長さには慣れているが、今日は仕事終わりに来ているってことを忘れないで欲しい。いくら顧問とは言えどもプライベートの買い物に付き合う必要はないからな。

 

 

「とりあえず可可、服は戻してこい。手に持ってウロウロすると店に迷惑だ」

「はぁ~い……」

 

 

 残念そうに渋々店内に戻る可可。そして助けてもらったと思い込んで明るい顔をするかのん。別に手を貸したわけではないが、このまま放っておけば服の感想を逐一求められそうで面倒だから言ってやったまでだ。それに女性用のブティックに長居することは他の女の子に見つかる恐れもある。それを避けるためにもここからは早く退散したいのだが――――

 

 

「あっ、いたいた! おーい!」

「あん?」

「えっ、え゛ぇ゛ぇぇっ!?」

 

 

 声がした方を見てみると、2人組の女の子のうち金髪のポニーテールの子がこちらに手を振っているのが見えた。もう1人バイオレットの長髪の子がいて、こちらに軽くお辞儀をする。制服を着ているので女子高生だろうか。それなりに人が往来するショッピングモールでもそれなりにオーラがあり、何やらそこらの一般女子高生とは違う雰囲気を醸し出していた。

 

 そしてかのんはソイツらを見て目を丸くして驚いている。制服が違うから他校の生徒だろうが知り合いなのか? でもアイツら、どこかで見たことがあるんだよな……。

 

 

「どうしたのデスか、かのん? スクールアイドルらしからぬ汚い声が――――って、うぉ゛え゛ぇ゛ええええええええ!?」

「お前の方が吐きそうな声できたねぇけどな……」

「ど、どうして……どうしてあの方たちがここに……!?!?」

「私も知らないよ……」

 

 

 服を店内に戻して俺たちのところに帰って来た可可は、こちらに来るあの2人組を見て全身から汚物を排出しそうな声を出す。コイツらがここまで驚くなんて相当な大物なのかあの2人。確かに見た目が派手で美人で可愛くはあるけど……。

 そうこうしている間に例の2人が俺たちのもとに到着した。

 

 

「ひっさしぶり~っ! 相変わらず元気そうで!」

「ご無沙汰しております、かのんさん、可可さん」

「お久しぶりです、悠奈(ゆうな)さん、摩央(まお)さん」

「誰だコイツら?」

「はぁあああああああああああああああああああ!? 何を言っているのデスか先生!! スクールアイドルの顧問をやっていてこの方たちを知らないなんて言語道断デスよ!!」

「なんだよ急に……」

 

 

 可可が鬼の形相でこちらに詰め寄って来る。いつもなら俺に顔を近づけるだけで恥ずかしがるので今は相当頭に血が上っているようだ。

 つうか知らねぇものは知らねぇし。別にスクールアイドルと関りが強いからと言ってその界隈に詳しいわけではなく、むしろ無知に近いレベルだ。自分の周りの女の子にしか興味がないと言った方が正しいか。しかもこのご時世スクールアイドルの急速な流行によってたくさんのグループが誕生しているから、それをいちいちチェックする方が大変だろう。別に俺はスクールアイドルのコンテンツが好きなのではなく、スクールアイドルをしている女の子が魅力的で好きってだけだからな。

 

 

「この方たちは何を隠そう、あの『Sunny Passion(サニーパッション)』なのデス!!」

「あぁ、それってお前たちがよく話題に出してたグループか」

「はいっ! Sunny Passionの聖澤(ひじりさわ)悠奈(ゆうな)ですっ!」

「同じくSunny Passionの(ひいらぎ)摩央(まお)です。以後お見知りおきを」

 

 

 Sunny Passionか、そりゃ聞き覚えがあるわけだ。かのんたち、主に可可が話題にしているのを聞いたことがある。過去に神津島(こうづしま)という離島で合同でライブを行ったこともあったっけ。その時は顧問ではなかったため引率はしておらず、そのせいでサニパの2人の顔は今まであまり知らなかった。ただ可可に無理矢理コイツらのライブ映像を見せられた時に頭の片隅に2人の容姿が断片的に記憶されていたようで、さっき一目見たときに感じた既視感はそのせいだろう。

 

 それにしても、やはりスクールアイドルをやっているためか2人の容姿は抜群にいい。アマチュアでも仮にもアイドルだからそれなりの容姿がなければ人気になれないのは確かだが、流石は現代のスクールアイドル界隈を賑わせていることはある見た目だ。聖澤悠奈は明朗快活、柊摩央は物静かでクール。そこに持ち前のビジュアルの良さが加われば男のファンを増やすのは造作もないだろう。それでいてライブでのパフォーマンスも一級品らしいので、世間の人気はもちろん、かのんたちや他のスクールアイドルが憧れる理由も分かる気がするよ。

 

 ただそんなことよりも、俺の危惧した通りかのんたちと一緒にいるところを別の女の子に見られてしまった。コイツらと一緒にいること自体はいいのだが、女性関係を色々勘ぐられるのはマズい。ここはあくまでLiellaの顧問として振る舞っておくか。

 

 

「神崎零だ。コイツらの顧問をやっている」

「神崎零さん……。なるほど、この人が……」

「ん? 俺のことを知ってるのか?」

「はい。先日かのんさんたちから『顧問の先生が入ってくれた』とお話を聞いていたので」

「それにさっき一目見たときからな~んか初めて見た気がしないんですよね。なんでだろ?」

「…………さぁな」

 

 

 おいおいおいおい、どういうことだ?? どうして俺のことを?? たくさんの女の子と交流があるとは言えど、一度会った女の子の顔は忘れない。しかもコイツらのような美少女なら尚更だ。だったらどこで……? 一応過去にスクールアイドルの真似事をやってその動画が公開されたこともあったが、あれは秋葉の力で全世界から、個人で隠し持っているものも含めてデータが消去してもらったから塵一つ残っていないはず。だから俺のことを知ることができる要素なんてこの世には存在していないはずだが……。

 

 とりあえず、余計な詮索をされると面倒だから話題を逸らすか。

 

 

「そんなことより、どうしてお前らがここにいる?」

「こっちでスクールアイドルのイベントに呼ばれたからですよ。今日は前乗りしがてら渋谷の街を観光していたんですけど、その道中ですれ違った人から『Liellaの子がいた』って声が聞こえてきまして」

「それで近くを探してみたらあなたたちがいた、というわけです。突然現れてすみません、お邪魔でしたか?」

「全然そんなことないデスよ!! むしろ再会できて光栄デス!!」

「あはは、可可ちゃんの可愛さは相変わらずだね。でも顧問ができたって連絡が来た時の方が何百倍もテンション高かったかも……」

「そうですね。嬉しさで興奮して眠れなかったと言っていましたから、うふふ」

「ちょっ、それは言わないでくだサイ……」

 

 

 子供かよ、って子供だったか。可可は春からずっと俺を顧問にしようと誘ってきたので、実際に顧問になってくれた喜びは誰よりも大きいのだろう。でもまさか寝れなくなるほど興奮していたなんてどれだけ俺のことを……。

 

 

「でも羨ましいなぁ~。こんなイケメンな人が顧問になってくれるなんて。こりゃ練習も捗っちゃうよねぇ~?」

「な、なんで私を見るんですか!? そ、それはまぁ……顧問の先生が入ってくれたら頑張らないとご迷惑と言いますか……」

「ホントにそれだけ~?」

「わ、私はそ、そんな……」

「あはは、ゴメンゴメン! 可愛すぎてついからかっちゃった! でも羨ましいっていうのはホントだよ?」

「なんだ、お前そんなに面食いなのか?」

「でも実際そうじゃないですか? 女性としては自分を見守ってくれるカッコいい男性がいるとテンション上がるし、その逆も然りですよね?」

「まあ男という生物上否定しようもない」

 

 

 聖澤の奴、意外と欲望に忠実なんだな。そりゃ男も自分の周りの可愛い女の子がたくさんいればいるだけ人生が充実するだろ。美少女が近くにいると空気が違うっていうか、自分の日常に彩りが加わる気がする。

 

 そんな他愛のない話をしている中、柊がこちらをじっと見つめていることに気が付いた。

 

 

「…………なんだよ?」

「あっ、すみません。でもやはりどこかでお見かけしたことがあるような気がして……」

「気のせいだろ」

「そうかもしれません。ただ、1つスクールアイドル界隈の都市伝説を耳にしたことがあります」

「なんだその如何にも胡散臭い話は」

「真実かどうかは分かりませんが、スクールアイドル界隈には最強の指導者なる人が存在しているそうです。その人から指導を受けたら最後、界隈だけではなく全国的にも名が知られるトップクラスのスクールアイドルになることができる。そう伝えられています」

「へぇ、すげぇ奴もいたもんだな」

「その方の詳細情報は明らかではないのですが、どうやら若い女性受けをする男性のようでして、指導を受けている女性は皆その方に魅入られ、その方に自分の魅力を見せたいと尋常ではない努力をするようになるとのこと」

「ん……?」

 

 

 あれ、なんかそれに近しい人物を聞いたことがあるぞ……。敢えて誰とは言わないけど、敢えてな……。

 いやでもそうと決まったわけじゃない。そもそもスクールアイドルを指導する男なんて、スクールアイドルが流行っているこのご時世ならいくらでもいるだろ……って、ちょっと強がってみるけど既にもう冷汗が……。

 

 

「そしてどうやらその方はたくさんの女性と交流があるそうで、巷ではスクールアイドルキラーとも呼ばれているとか……」

「まだ通ってたのかよその異名……」

「えっ、何か仰いましたか?」

「いや別に……」

 

 

 てかもう核心突いちゃったよ!!

 その異名は藤黄学園の綾小路姫乃から直接知らされたから俺も知っている。薄々勘づいてたっつうか自分ではないと思い込ませようとしていたがもうダメだ。また俺の関与していないところで俺の話が広まってるのか。そんな女垂らしみたいな異名で目立ちたくねぇんだから勘弁してくれよ……。

 

 いや、でももしかした俺以外にも偶然同じ境遇の奴が1人や2人……は流石にそんな変態はいないか。

 

 

「その情報からすると、なんだか神崎先生ってそれに結構当てはまるよね?」

「そ、そうか……?」

「ほら、神崎先生ってイケメンでカッコいいから間違いなく女性受けバッチリじゃないですか! それにかのんちゃんたちが気にしてる男性、つまりスクールアイドルを魅了している男性って情報も合致してますし!」

「み、魅入られてって可可ちゃんと違って私は別に!!」

「な゛っ、かのんだけ何を逃れようとしているのデスか!! それを言うのであればかのんだって先生の前ではいつも乙女になってマスよ!!」

「ほらね! こういうところです! あっ、これがスクールアイドルキラーたる所以……っ!?」

 

 

 ヤバい、バレる!! 

 まさかぽっと出の奴らに俺の素性を暴かれそうになるなんて想像もしていなかった。このままでは保たれていた平穏が崩れてしまう。たくさんの女の子と関係を持っていることがバレでもしたら、学校中の女の子たちがそれはもう容赦がなくなるだろう。女性関係の多さで蔑まされるよりも、恐らく『それだけたくさんの女性と付き合っているのであれば私たちもいいですよね』みたいな感じで積極的に攻められると思う。そうなったら最後、結ヶ丘も虹ヶ咲と同じ環境になってしまうぞ。ただでさえ結ヶ丘の子たちも押しが強いのに……。最近の思春期女子ってみんな活発だよな……。

 

 別に女の子に好かれるのはいいんだけど、楽園の虹ヶ咲、平穏の結ヶ丘で住み分けしたいんだよ。それに大騒ぎになって注目されるのは目に見えている。女の子たちに好かれていることを自覚しながらいい気分に浸る虹ヶ咲と、ひっそりと平穏を過ごせる結ヶ丘。この均衡を破らせるわけにはいかねぇぞ。

 

 

「先生があのスクールアイドルキラー……?」

「本当なのデスか? たくさんの女性と関係を持ってるって……」

 

 

 かのんも可可も怪しんでいる。バラしたところでコイツらとの関係に何か影響があるとは思えないが、ラブライブも迫るこの時期に余計な衝撃を与える必要もないだろう。

 自分が想像以上に有名人であったことに自覚しつつも、今はそれを誇示せずに冷静にこの場を対処しよう。

 

 

「仮にもしそうだったとして、どうするんだ?」

「ど、どうすると言われても……先生に教わるのをやめたりはしないと思います」

「可可も同じデス! スクールアイドル部は先生を含めた可可たちみんなの部活デスから!」

「だったらそれでいい。真実かも分からない都市伝説を信じるくらいなら、ラブライブ優勝のためにもまず自分たちの夢に目を向けるんだな。余計なことに現を抜かしている暇はねぇぞ」

「「は、はいっ!」」

「よし、それでいい」

 

 

 あぶねぇ……。いいことを言ったように見せかける作戦は大成功のようだ。教師という立場だからこそそれっぽいことを言って納得させられるのだろう。

 とか言い訳をしてるけど、俺の言ったことは間違ってないと思っている。都市伝説なんてあーでもないこーでもないって色々予想している時が楽しいのであって、真実を知るコンテンツじゃねぇんだよ。まあ今回に至っては当の本人が目の前にいたわけだが……ま、バレなかったから結果オーライだ。

 

 

「私も謝罪します。都市伝説はあくまで都市伝説、誰かを標的に追い詰める道具ではないのに……」

「私からも変に疑っちゃってゴメンなさい」

「別にいい。若い男が女子高生たちの指導をするって、疑ってくれと言わんばかりの立場だしな」

 

 

 なんとかサニパの2人も誤魔化せたようだ。俺の情報をもう少し広く収集されていたら危なかったけど、付き合いの浅さのおかげで助かったよ。でもコイツらの勘の良さは非常に危険だ。もう二度と会わない――――とは思わないが、コイツらの前であまり自分の話をしない方がよさそうだな。

 

 

「あっ、もうすぐイベントの打ち合わせだ! ゴメンせっかく会えたのに変な話で時間潰しちゃって!」

「いえいえ! むしろ会えただけでも嬉しいので問題なしデス!」

「もしよろしければイベントにいらしてください。ライブで新曲も披露するので」

「新曲!? 行きマス行きマス! 例え雨の中水の中、這いつくばってでも!!」

「雨だったら中止になっちゃうから可可ちゃん……。えぇっと、ちーちゃんたちも誘ってみんなで行かせていただきます」

「うん、待ってるね! 神崎先生も!」

「えっ、あぁ、時間があったらな……」

 

 

 そんな屈託のない笑顔で誘われたら行くしか選択肢がねぇだろうが全く……。俺が女の子の笑顔に弱いという情報は流石に知らねぇよな……??

 

 それにしてもなんつうか、フレンドリーな奴らだな。どの界隈においてもトップというのはある程度の傲慢さを持っているもので、自然と相手を見下しがちな奴らも多い。だけどスクールアイドル界隈は治安がいいのか知らないけど、トップを走る奴らって人格がしっかり形成されている奴ばかりだ。μ'sに対するA-RISE然り、Aqoursに対するSaint Snow然り、虹ヶ咲に対する藤黄や東雲しかり、そしてコイツらSunny Passion然り。いいライバルに巡り敢えて良かったな。

 

 その後、ちょっと気になったのでスクールアイドルキラーの都市伝説について深く調べてみた。

 すると――――

 

 

・その男性に強制的に惚れてしまう

・惚れたら最後ベッドに連れ込まれる

・未成年関係なく処女はなくなると思え

・そうやって女性の交遊関係を広げてハーレム勢力になっているらしい

 

 

 噂にしてももっとマシなこと書けよ生々しいだろ!!

 でも大体当たってるから、こりゃもうなにがなんでも正体がバレるわけにはいかねぇな。とりあえず女性の連絡先がたくさん登録されているこの携帯は隠しておくとするか……。

 

 

 

 

《付録:携帯の連絡先リスト(Liella編時点)》

【あ】

朝香果林

絢瀬亜里沙

絢瀬絵里

綾小路姫乃

嵐千砂都

上原歩夢

エマ・ヴェルデ

桜坂しずく

小原鞠莉

親鳥

 

【か】

鹿角聖良

鹿角理亞

川本美里

神崎秋葉

神崎楓

神崎詩織

綺羅ツバサ

国木田花丸

黒澤ダイヤ

黒澤ルビィ

小泉花陽

高坂穂乃果

高坂雪穂

近江彼方

近江遥

 

【さ】

桜内梨子

笹原 京子先生

サヤ

澁谷かのん

鐘嵐珠

園田海未

 

【た】

高咲侑

高海志満

高海千歌

高海美渡

唐可可

津島善子

天王寺璃奈

東條希

統堂英玲奈

 

【な】

中須かすみ

西木野真姫

 

【は】

平安名すみれ

葉月恋

ヒデコ

フミコ

星空凛

本城愛莉

 

【ま】

松浦果南

ミア・テイラー

ミカ

南ことり

三船薫子

三船栞子

宮下愛

 

【や】

山内奈々子先生

矢澤ここあ

矢澤こころ

矢澤にこ

結ヶ丘理事長

優木あんじゅ

優木せつ菜

 

【わ】

渡辺月

渡辺曜

 




 Sunny Passionの初登場回でしたが、零君にとっては早々に危険な相手となってしましました(笑)
 ライバルポジションのスクールアイドルはみんな強者感はありますがみんないい人たちばかりで、見ている我々からしても不快に思うどころか彼女たち単独のサイドストーリーとか見てみたいって思うくらい魅力があるのはいいところだと思います。だからこそサニパは劇中で1回くらいライブを披露してもらいたかった……



次回も引き続きLiella編ですが、以下の話を復習 or 見てない方は見ておくとより楽しめると思います!

・Aqours vs 淫乱幽霊ちゃん(前編)(後編)
・ 【スクフェス編1周年記念】淫乱幽霊再降臨!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

性なる夜と性なる幽霊(前編)

 12月に入ってクリスマスも近くなってきたとある日、今日も今日とてスクールアイドルの練習をしていた。冬の寒さが本格化してきて日が落ちる時間も早いため、練習をするにはあまりいい季節ではない。世間ではもうすぐクリスマスで浮かれ気分になってるけど、外で練習しているかのんたちにとっては寒さと下校時間の早まりによる練習時間の短縮で厳しい環境となっていた。そういった意味では冬の夜ってのはいいことがねぇな。俺も早く家に帰ってこたつむりになりてぇよ。

 

 そんな中、恋から身体の芯から燃え滾らせるような事件が――――

 

 

 

「「「「学校に幽霊が出る!?」」」」

「またかよ……」

 

 

 恋が語った結ヶ丘幽霊騒動に、かのんたち4人は目を見開いて驚いた。どうやら生徒会で議題に上がったらしく、最近生徒たちの間で噂になっているらしい。事の詳細は聞いたことはないが、ぶっちゃけた話またくだらねぇ勘違いか何かだろうよ。

 

 そう、また。音ノ木坂、浦の星、虹ヶ咲と、俺の行く先々で毎回幽霊騒動だの怪現象だの起こっているからもはや恒例行事なのか? 確かに学校には怪談話が付き物だけど、ここまでお約束を守られると何か仕込まれている気がしてならない。別にただ俺の運が悪いからなんだろうけど、毎回毎回巻き込まれるから面倒なんだよな。社会人になってより一層日常に平穏を求めるようになってしまったから、たまには俺の関係ないところで穏便に解決して欲しいもんだ。

 

 

「それなら噂で聞いたことがあるよ。確か校舎裏の古井戸から声が聞こえる……みたいな」

「そういやそんな話が流れてた気がするわね。でもこのご時世に井戸なんて誰も使ってないでしょ? どうしてそんな声が?」

「分かりません。ただ、複数人が聞いたとなれば空耳の類ではないかと」

「それで恋ちゃんは生徒会として調査をしようとしてるってこと?」

「はい。事実ではない噂が広まっているだけかもしれませんが、不安がっている方も多いので生徒会としては見過ごせません」

 

 

 くっだらねぇなオイ。どうせ夜遅くまで部活をやっていた奴らの声が聞こえたとか、そんなところだろ。今は日が落ちるのも早くて部活も早く終了するけど、申請さえ出せば下校時刻以降も活動できるし、どうせ夜まで残るんだったら遅くまで部活してるところも多いからな。ま、学校の怪談にありがちな勘違いパターンだ。

 

 とは言いつつも、本物のガチの幽霊を1人知っていたりする。だから科学的に証明できない現象ってのは実際にあるわけだが、ぶっちゃけ秋葉が周りにいる俺からしたら常識なんてものはあったものじゃない。そう考えると俺の日常ってつくづく非日常だよな……。

 

 

「でしたら可可たちで解決してあげまショウ! スクールアイドルは学校の平和を守る、正義のヒーローなのデスから!」

 

 

 コイツなら絶対にそう言うと思った。てかアイドルの意味を履き違えてるっつうか、面白がって首を突っ込みたがってるとしか思えねぇけどな。とは言ってもこんなお遊びに乗る奴なんて――――

 

 

「おおっ! だったら私も協力するよ!」

「えっ、可可さんも千砂都さんもいいのですか? これはあくまで生徒会の仕事であって、皆さんのお手を煩わせるなんて……」

「そのためにこうして私たちに話したんでしょ? 協力して欲しいって素直に言えばいいのに仕方ない子ね……」

「つ、つまりすみれさんも……?」

「アンタたちだけに任せると変に暴走しそうだし、仕方なくよ仕方なく。まあちょっとは面白そうってのもあるけどね」

 

 

 意外と乗り気な奴らばかりじゃねぇか……。学校の怪談と言えば青春イベントの中でも定番中の定番なので興味が沸く気持ちは分かるけどな。

 だが、既に震えている奴がここに1人。

 

 

「かのんちゃんはどうする?」

「ちーちゃんそんな笑顔を向けて……分かってるよね!? 私がお化け苦手なこと!!」

「大丈夫! 何があっても先生が守ってくれるから!」

「はぁ!? どうして俺まで行くことになってんだ!?」

「アンタこそ何言ってるのよ。生徒が夜まで残る場合は顧問の引率が絶対条件。顧問のくせに忘れたの?」

「じゃあ俺は最初から頭数だったってことかよ……」

「そうですがなにか?」

「恋、お前まで……。ったく……」

 

 

 どうやら俺はパーティの初期メンツだったらしい。調査なんて面倒だからコイツらに任せて帰ろうかと思ってたけど、強制加入イベントにより退路は封じられてしまった。とは言っても夜にコイツらだけ残すのも顧問としてどうかと思うし、万が一なにかあったら示しがつかないから仕方ねぇか。

 

 あとは幽霊って言葉だけでビビり散らかしてるコイツだけだが、別に全員で行く必要はない。むしろ下手に騒がれると足手纏いだから置いていった方がいいだろう。

 

 

「よ~しっ! それでは早速今日から幽霊調査を開始しまショウ!」

「えぇっ!? ちょっと待って私は行くとは一言も!!」

「かのん、可可たちはスクールアイドルなのデスよ? 世界平和のために立ち上がらなくてどうするのデスか!!」

「いやスクールアイドルは何でも屋じゃないし……」

「いつからそんな薄情者になってしまったのデスか!! 可可と共に頂点を目指すと志した時のあの希望と勇気はどこデス!? いい機会なので、これを機にかのんのアガリ癖も直すといいデスよ!」

「えぇぇええっ!?」

「諦めよかのんちゃん。可可ちゃんがこうなったら止まらないから」

「うっ……」

 

 

 もはや勢いだけでよく聞いたら全く意味分かんねぇ説得の仕方だなオイ……。

 どうやら結局全員集合らしい。つうかかのんってこういう多数決でいつもぼっちになって負けてるイメージがあるよな。他が暴走しがちだったり天然だったりするせいなのか、その苦労人っぷりには同情するよ。俺だって昔はやんちゃしてたけど、今では女の子たちの方が勢い強いからな。こう言ってしまうと自分がジジィになったみたいでつれぇ……。

 

 そんなわけで俺たちは幽霊の声が聞こえるという夜を待つことにした。その間も練習を続けていたわけだが、幽霊騒動に興味津々でウッキウキな可可や千砂都とビビってぎこちない動きのかのんでは到底まともな練習になるはずがなく、結局早めに切り上げて部室で時間を潰すことになった。

 

 なんにせよ、面倒な事態にならないことだけを祈るよ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「よしっ、それでは出陣デス!」

 

 

 恐らく生徒は全員帰宅し、今校舎に残っているのは残業している先生くらいなものだろう。とは言ってもさっき職員室に戻ったときに残っていた先生も帰りの支度をしていたから、もう誰も残っていないとみて間違いない。つまり正真正銘ここにいるのは俺たちだけ。つまり俺たち以外の声が聞こえたら怪しいってことだ。

 

 それはそうとして――――

 

 

「可可お前、なんだその装備は……?」

「お鍋の兜、まな板の盾、泡だて器のこん棒デス! 調理室から借りてきマシた! 学校の平和のために戦地へ赴くのデスから当然の装備デス!」

「なにと戦うんだよ……」

「なにをバカやってるんだか。ほら、早くしないと置いていくわよ」

「バカとはなんデスかバカとは――――って、ちょっと待ってくだサイ!! 1人は流石に怖いデスから!!」

 

 

 調理器具を身に纏っているコイツの方が怪しい奴に見えるなこれ……。

 下校時刻は過ぎて教師陣もいないため、当然校舎内は暗い。冬の夜だからもちろん外も暗い。まさにホラーイベントにはうってつけの状況ってわけだ。そんな状況だからかかのんはずっと俺の服の裾を掴んでいるわけだが……。

 

 

「歩きにくいんだけど……」

「我慢してください……ッ!!」

「必死だねぇ……」

 

 

 裾を掴まれているのに彼女がブルブルと震えているのが分かる。嫌なら待っていれば良かったのにと思ったが、1人で部室にいる方が怖いか。だったら帰らせてもよかったんだけど、こうして同行しているってことは本人も好奇心ではないが仲間を放って逃げ出したくはないらしい。

 

 しばらくして校舎裏の古井戸まで辿り着く。今のところ幽霊が出る気配も声も音も何も聞こえない。ただ夜の古井戸は見た目だけでも雰囲気があり、実物を目の前にしてさっきまでテンションの上がっていた可可たちも流石に息を呑んでいるようだ。

 

 試しに古井戸に近づき、その中を懐中電灯で照らしてみる。

 

 

「あれ……?」

「先生? どうかしたのですか?」

「この井戸、やけに底が浅いなって思ってさ。長年蓋もされずに放置されてたから、雨風で塵とか木の枝とかが積もりに積もって底上げされたのか」

「でも謎の声はその井戸からすると連絡がありましたが……」

「やっぱりただの噂だったんじゃねぇかそれ。夜の古井戸って響きだけで大きなバイアスがかかって、噂にあらぬ尾ひれが付いて広まったとかそんな感じだろ」

「そうなのでしょうか……」

「でも何もなかったのならなかったでいいんじゃないかな? 武装して気合を入れていた可可ちゃんには悪いけど」

「こ、これは保険と言いマスか、然るべき武装をしてたまでデス!」

 

 

 確かに何かあった方が顧問として対処をしたり上に報告したり、色々面倒なことが多いからこれで終わってよかったのかもな。こちとら暇じゃねぇし、生徒が遊びで流した可能性もある噂を1つ1つ調査してたら身が持たねぇっつうの。

 

 しばらく井戸の周りを見てみたが特に何も起こらなかったので、みんなにも諦めムードが漂っていた。だからもう切り上げて帰ろうとしていたのだが―――――

 

 

「ひゃああああっ!?」

「な゛っ!? なによかのん! 隣でいきなり叫ぶんじゃないわよビックリするじゃない!」

「な、なんかさっき首筋にヒヤッとした何かが……!!」

「はぁ? 今晩は冷えるし風もあるから寒いのは当たり前でしょ」

「ち、違うもん! 首筋をスッと通り抜けていったと言うか、あれは絶対に風なんかじゃない!!」

「と言われても、別に何もないわよ。ねぇ?」

 

 

 首筋に冷たい何かが触れたと主張するかのんだが、すみれを始めとした他のみんなはその現象は起こっていないようだ。俺も特に何も感じず、ただ単にかのんが叫んだようにしか思えない。コイツ校舎を歩いている時からずっとビビってたし、恐怖に囚われすぎて幻覚を見ているとかじゃねぇだろうな……? ただ嘘をついているような感じでもないし、一体どうなってんだ……?

 

 

「えっ、みんな何も感じなかったの!? 先生はどうですか!?」

「いや俺も……」

「えぇっ!? もしかして私だけ霊感が強いとか……?」

「気のせいだってかのんちゃん。変に意識し過ぎるから――――って、ひゃあっ!?」

「どうしましたか千砂都さん? ひゃうっ!?」

「レンレン!? えっ、こ、この白いものって……!?」

「こ、これは……!?」

 

 

 いつの間にか俺たちの周りに白い霧の球体みたいなものがぷかぷかと浮いていた。それも数個じゃない。無数の霊魂のようなものが宙に蠢いている。そしてそれが俺たちの近くを横切るたびに悪寒が走る。どうやら幻覚でもなんでもなくマジらしい。あれだけ非科学的だの噂だの馬鹿にしてたのに、今回は本当に起っちまうなんてホントに飽きねぇな俺の日常ってやつは。

 

 

「つめたっ!? なんなのよこれ!?」

「お前ら校舎に戻れ! 早く!!」

「先生は!?」

「すぐに追いつくから早く行け!」

「で、でも……」

「俺の言うことを聞け!!」

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

 かのんたちは霊魂の軍団を掻い潜りながら校舎に戻る。とりあえずこれで一安心。俺自身驚いてはいるけど、マジモノの幽霊と相対するのは経験があるためある程度は冷静でいられる。こんな常識ではあり得ない状況でこの場に留まれるのも我ながらヤベぇやつだな、俺って。

 

 念のために目の前の光景を写真と動画に収め、校舎に戻って戦線を離脱する。色々あの現象を調べたいところではあるが、かのんたちが心配そうな顔をしているのでまずはそっちを解決してやらねぇとな。

 

 

「なんて顔してんだ、心配すんな。アイツらぷかぷか浮いてるだけで、特に何もされてねぇからさ」

「でも私たちを逃がすために自分だけ残るなんて無茶な……」

「そうデスよ! アニメや漫画だったら死亡フラグってやつデス!」

「心配かけたのは悪かったよ。でもお前らに何かあったら教師として申し訳立たねぇし、それに教師とか関係なく俺としてもお前ら守りたかったからな。つまりだ、俺のワガママってことで許してくれねぇか?」

「「「「「…………」」」」」

 

 

 コイツら赤面したまま俯いてやがる。また変なこと言っちゃったのか俺……? 確かに女心はくすぐられるかもしれないけど、男としては普通のことを言ってるっつうか、これで恥ずかしがられても困るっつうか。相変わらず羞恥心が弱すぎるぞコイツら……。

 

 

「とにかく、今はあの幽霊だ。そもそもあの正体がなんなのかは分からねぇけど」

「そ、そうですね。まさか例の噂が本当だとは思っていませんでしたが……」

「でもどうすんのよアレ。あんなのがいることが全校に知られでもしたら大騒ぎよ?」

「お祓いとかできないの? ほら、すみれちゃんの家ってお寺でしょ?」

「寺の娘だけどそういうの、信じてなかったから」

「現実主義者っぽいもんねすみれちゃん……」

「だったらどうするのデスかあの幽霊!」

 

 

 久しぶりに秋葉関連以外の超常現象を目の当たりにした気がするな。逆に言えばアイツと一緒にいるおかげで現実離れした意味不明な事象でも驚かなくなっている。俺と一緒にいた歴代の女の子たちも鍛えられ、『秋葉の仕業』と言うだけで不可解な現象も納得できるくらいになってるからな……。

 

 今回はアイツの仕業とは違う。違うならどうしようもないからお手上げ、と言いたいところだが俺の交友範囲を嘗めてもらっちゃ困るぞ。

 

 

「じゃあ会いに行ってみるか? こういうことに詳しい奴に」

「「「「「え……?」」」」」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 俺たちは校門まで移動した。それで俺が呼んだとある人物(?)を待っている。

 

 

「ねぇねぇ、幽霊のことに詳しい知り合いって誰のことだろうね?」

「先生は交友関係が広いようですから、霊媒師や巫女など除霊できる方の知り合いがいても不思議ではないと思いますが……」

「ま、どうせ女でしょ。アイツの周り、色んな女の匂いがプンプンするのよね」

「私たちが知らないだけで、虹ヶ咲の人たち以外にもたくさん女性の知り合い多そうだもんね……」

「いつか可可たちが暴いてみせまショウ! 先生の秘密を!」

 

 

 聞こえてるぞお前ら……。

 まあそれはいいとして、そろそろ到着するはずなんだけど……あっ、来た――――空から。

 

 

「零さ~~ん! お久しぶりで~~すっ!」

「来てもらって悪いな、愛莉(あいり)

「「「「「えっ……?」」」」」

 

 

 本城(ほんじょう) 愛莉(あいり)。幽霊だ。もう一度言う、幽霊だ。長い黒髪の大和撫子の美少女なのだが、幽霊だ。

 頭には白の三角巾、そして白の喪服を着ている様はまさに絵本で見る幽霊のよう。しかも脚は一反木綿のようにひらひらとした紙のようになっており、その見た目でザ・幽霊だと分かる。

 

 俺が浦の星の教育実習生だった頃、学校で心霊現象が多発している情報を受け、Aqoursの千歌たちと一緒に裏山を調査している時に出会った子である。幽霊になって人間の前に現れた理由は、生前にカッコいい男と性行為ができなかったからという何とも欲深い理由だった。その欲が暴走して成仏できず、しかも幽霊の身体では生身の人間とでは性行為できないためか、当時は千歌たちに次から次へと憑依して彼女たちの身体で俺と性行為をしようとしていたのだ。しかし俺が千歌たちに抱いている想いを伝えたら心中を察してくれたようで、気持ちがすっきりしたのかその場で成仏した。

 

 ――――と思われたのだが、どうやら俺と性行為したいという欲望は残っていたようで、天国に住んではいるけど未だに成仏しきれていないらしい。俺の自宅にまで現れたことがあるし、霊界と現実を何度も行き来していることからフットワークも軽い。軽いのは俺にすぐ開こうとする股の軽さだけにしておけ。まあそれもそれで問題だけど……。

 

 

「えぇっと、先生? 誰とお話しされているんですか……?」

「えっ、お前ら見えてないのか? おい愛莉、コイツらにも姿を見られるようにできるか?」

「あぁちょっと待ってください。今からスマホで設定解除するので」

「随分と現代的なシステムだな……。つうか天国にスマホあるのかよ」

「当然、この世はIT社会真っ盛りですからね。今や現世と天国を繋ぐ新幹線も通っていて、あらかじめネットで予約すればものの数分で到着できる高速新幹線も手配できるのです! しかもこのスマホで動画視聴やソシャゲなどもプレイできて、もう毎日が楽しくて楽しく仕方がないんですよ♪」

「なんか快適だな死後の世界……」

 

 

 以前会ったときに連絡先を教えてもらったのでまさかとは思ったが、本当に携帯で連絡して来るとは思ってなかったぞ。しかもさっきの霊魂騒動から数十分しか経っておらず、即日急行とは現世と天国って意外と近いのか?? なんか日帰り旅行も余裕そうで生死の境界線が曖昧になるな……。

 

 

「はいっ! これで私の姿があなたたちにも見えるようになったはずです!」

「「「「「う、浮いてる!?」」」」」

「本城愛莉ですっ! 零さんとの関係は……う~ん、セフレ?」

「おいややこしいこと言うな!! ただでさえマジの幽霊だって言うのに余計な情報与えなくていいから!!」

「あれ? ということはセフレだってことは認めてくださるんですね?」

「ちげーよ! んなわけあるか!!」

「「「「「…………」」」」」

「まあこういう反応になるよな……」

 

 

 心霊系の映像や画像は数あれど、自分で経験したことのある人はごく僅かだろう。だからこうして本物の幽霊、しかも日本語達者な霊と出会うというのは本当に現実かと疑うのも無理はない。現にかのんたちは唖然としてるし、ちゃんと説明してやらねぇとな。

 

 というわけで愛莉本人についてと、俺たちが出会った経緯を説明した。当たり前だが現実離れしたことなので最初は半信半疑の様子だったコイツらがだが、疑う疑わない以前に目の前に本物がいるので信じざるを得ない。俺が嘘をつかないという信頼もあってかようやく目の前の現実を受け入れ、幽霊と相対する緊張も解けたようだ。まあ仰々しい見た目ならともかく、人間でもこんな美少女なかなかいないってくらい愛嬌と明るさがあるからな愛莉の奴。

 

 

「それで、愛莉さんとこの幽霊騒動にどう関係が?」

「あぁ。幽霊のことなら幽霊のことに聞くのが一番だと思ってさ。だからコイツを呼んだんだよ」

「えぇえええええっ!? セックスするためじゃなかったんですか!?」

「おいコイツらはそういうことに耐性ないから口を慎め!! つうか呼び出した時にちゃんと目的を話しただろ。なのにわざとらしく言いやがって……」

「セ、セ……!!」

「セッ、セッ……!!」

「セック……!!」

「おい近づいてきてるぞやめろやめろ!! さっきのは何でもないから!!」

 

 

 かのんたちは恋愛下手で、自分の気持ちを口に出す前に羞恥心が暴発して自爆してしまうような奴らだ。そんな奴らがR-18系のネタに耐えきれるとは到底思えず、そういった意味では淫乱幽霊こと本城愛莉と出会わせるのは失敗だったか?? 俺と性行為をすることで成仏を願っている愛莉だが、その欲望は汚らわしいの一言。成仏するための願いと言われれば聞こえはいいが、言ってることはただのド淫乱で本人も度し難い痴女だ。ホントにコイツを呼んで良かったのか……?

 

 

「それにしても幽霊のお知り合いがいるなんて、先生って一体何者なのデスか!?」

「何者って、ちょっと交遊関係が広いだけだよ」

「いや明らかに異常でしょ。どんな人生を送ってたら幽霊をあの世から呼び出せるようになるのよ」

「もしかして……先生もこの世の人じゃないとか!?」

「千砂都お前、その噂だけはややこしくなるから絶対に広めるなよ? 生身で生粋の人間だから……」

 

 

 そりゃ幽霊と知り合いだなんて異常者扱いされてもおかしくねぇよな……。実際に幽霊と友達みたいなことを言い出す奴がいたら俺だったら距離を置いちゃうね。怖いと言うか不気味だから……。

 

 

「それで? 幽霊とか言う得体の知れない奴の助けを借りるのは不服か? 生徒会長さん?」

「い、いえ、私はいいのですが、かのんさんが……」

「えっ?」

「幽霊怖い幽霊怖い幽霊怖い幽霊怖い幽霊怖い幽霊怖い幽霊怖い幽霊怖い幽霊怖い幽霊怖い幽霊怖い幽霊怖い……」

「あちゃー震えちゃってますねぇ~。どうしてこんなことになってるのやら」

「お前だよお前……」

 

 

 コイツを連れてきた俺にも非はあるが、幽霊だけど見た目は超絶美少女なのでコイツで怖がるとは思ってなかったんだ。しかし、ザ・幽霊と言わんばかりの三角巾や白の喪服、一反木綿のようなひらひらとした下半身を見たら流石にホラー嫌いのかのんはビビっちまうか。他の奴らは平然としているので本当にこういうの苦手なんだなコイツ……。

 

 そんなかのんの様子を見てか、愛莉はかのんのところへ浮かびながら近づく。

 

 

「ヒィッ!?」

「そんな怖がらなくても大丈夫ですよ! 私もあなたたちと同じ瑞々しい女子高生なのですから! ま、死んでるので歳を取ってないだけなんですけどね♪」

「ゆ、幽霊ってこんなにもフレンドリーなの……?」

「幽霊にも色々ありますが、ここまで情緒が安定してる幽霊は極僅かですね。まあ死んでる点を除けばあなたたち人間とそう変わりません♪」

「一番重要な点を除かれてもな……」

 

 

 美少女で愛嬌もあってコミュニケーション力も達者。そんな奴が幽霊って信じられないっつうか、見た目を除けば普通の人間に見えるんだよな。てか性行為が目的ならその容姿の良さを振り撒くだけでその辺の男が放っておかないだろうに……。どれだけ男の理想が高かったんだよコイツ……。

 

 

「おい愛莉、そろそろ本題に入らせてくれ。コイツらをあまり遅くまで残したくないしな」

「そーでしたそーでした零さんの依頼で来たんでした! 久しぶりにお会いできたのでテンション上がって忘れちゃいましたよ~♪」

「ったく……」

 

 

 ようやく本題。みんなの口からこの学校で起こっていること、そしてさっき目撃した霊魂らしきものの軍団について話す。

 

 

「ふむふむ。彷徨ってる魂がこの学校に集結してるみたいですねぇ~」

「実は動画を撮ってあるんだ。ちょっと見てくれ」

「えっ、先生いつの間にそんなものを……?」

「お前らが逃げてるときにあの場で撮っておいたんだ。コイツに見せるためにな」

「だから先生だけ来るのが遅かったのですね……。あの霊に何かされたのかと思って心配していました……」

「悪かったよ。でも全部お前らを守るための行動だ、許してくれ」

「うんうん、相変わらず零さんの愛は素晴らしいですねぇ~♪ ということで動画、拝見しますね」

 

 

 愛莉は俺のスマホを覗き込んで動画を確認する。

 動画には井戸の周りに現れた白い霧の球体が無数。そして音声には呻き声のようなものがしっかり録音されていた。流石に動画だからかみんなも怖がらず、逆に興味津々なのか映像に釘付けとなっている。もちろんかのんを除いてだが……。

 

 そして動画を見終わると、愛莉は得意げな顔を浮かべていた。

 

 

「その顔……アイツらの正体とか、どうすればいいのか分かったか?」

「はいっ! あの霊魂たちを成仏させる方法、それは――――」

「「「「「それは……?」」」」」

 

 

「セックスですっ!」

 

 

「「「「「へ……??」」」」」

「おいおい……」

 

 

 不穏な単語を堂々と言い放つ愛莉と唖然とするかのんたち。

 これはまた成仏させるのに苦労しそうだ。色んな意味で……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 久しぶりに登場した淫乱幽霊こと愛莉。ぶっちゃけると私自身彼女の存在を忘れかけていたのですが、感想欄で名前を出されたので久しぶりに出演させたくなっちゃいました!
 相変わらずの引っ掻き回し能力を発揮する彼女ですが、めちゃくちゃいいキャラをしているので非常に扱いやすいです。下ネタを堂々と発言できる女の子キャラがなんせ中々いないもので、書いていて楽しかったりします(笑)

 ただこの小説特有のオリキャラはぶっ飛んだネタ製造要員の秋葉さん以外は極力出さないように心がけています。この小説を見に来ている方は零君とラブライブの女の子たちとの絡みを見たいはずなので、オリキャラで現作キャラの出番を食いたくはないからです。そしてそれ以上に零君以外の男はほぼほぼ出しません。ハーレム小説ですからね(笑)
 妹の楓だけはこの小説でも人気があると勝手に思っているので、またどこかでメインを張らせてあげたいと思っています。


今回登場した幽霊ちゃんの活躍を見たい方は、以下の話をご覧ください。
・Aqours vs 淫乱幽霊ちゃん(前編)(後編)
・ 【スクフェス編1周年記念】淫乱幽霊再降臨!





【付録】※アニメ虹ヶ咲7話の栞子回を見て思いついた小ネタ

「なるほど、そうやって栞子に加入させたのか。てかそんな大人数で寄ってたかって、人の心に土足で上がり込むなんてお人好し過ぎるだろ。誰に習ったんだか。あ~痒い痒い。痒くなるんだよ、お人好しが余計なお世話してるところを見るのって」
「あの……お兄さん? とりあえず部室に置いてあったブーメラン投げますね」
「なぜ!? てかそんな至近距離で投げたらぶっ刺さるだろ!?」
「いや刺すためですよ」
「なんでだよ!?」
「お兄さんって、たまに訳わからないところで鈍感ですよね……」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

性なる夜と性なる幽霊(後編)

「セックスですっ!」

 

 

 美少女幽霊・本城(ほんじょう) 愛莉(あいり)の渾身のドヤ顔。呆れる俺と唖然とするかのんたち。もっとオブラートに包んでくれればツッコミのしようもあるのだが、ここまでド直球に言い放たれるとその勢いに圧倒されてしまう。かのんたちも聞いたことのある言葉だろうが、コイツらの日常生活では縁のない言葉のため愛莉が何を言っているのか理解に苦しんでいるだろう。

 

 だがコイツもただ性行為を意味する言葉を叫びたいから叫んだのではないはず。とにかく理由を聞いてみるか。

 

 

「で? どうしてその結論に至ったんだ……?」

「それはですねぇ、零さんたちが見たのは性欲を持て余した死者の魂だからですよ。だからぁ、目の前でエッチなことすれば満足して成仏するはずです♪」

「せ、先生、私の頭が理解を拒んでいるのですが、愛莉さんは何を言っているのでしょう……?」

「俺もだから安心しろ……」

 

 

 この展開、コイツと初めて出会ったときを思い出す。性行為をしないと成仏しないと駄々をこねていたコイツと出会ったんだ。まさか1年後に同じ展開を繰り広げるとか正気かよ。てか普通に受け入れてたけど、性欲を持て余した幽霊ってなんだよわけわかんねぇ……。

 

 

「おい愛莉、それはお前の欲望ではなく本当にあれを除霊するのに必要なことなんだろうな?」

「えぇそうですよ! もうすぐクリスマスも近いじゃないですか? クリスマスは()なる夜、改め()なる夜ですからね。性欲が溜まった幽霊たちも出没しやすいってことです。しかもここは女子高、瑞々しい若い女の子を求めた幽霊たちも集まりやすいのですっ!」

「なんていうか、想像以上にはた迷惑な幽霊たちね……」

「未だに信じられないけど、本物の幽霊さんにそこまで言い切られると本当なのかなって思っちゃう……」

「というか、女子高にそんな目的で現れるなんて随分と変態な幽霊さんデスね……」

 

 

 みんなの言う通りあり得ないくらいどうでもいい理由で校舎裏を占拠してやがる……。まあ男からしてみれば、性欲を発散したい悶々とした気持ちを抱き続けるのは身体に毒って分かるけどな。でもアイツら幽霊だし、性欲の発散に未練タラタラって生前どんな生活送って来たんだか……。

 

 ただ幽霊に文句を言っても現状が解決するわけではない。仕方がないけどアイツらを満足させて成仏してもらうしかないか。

 

 

「そういやお前とアイツらって同じ欲望を抱いてるけど違いってなんだ? お前は自我があるけどアイツらは魂が浮いてるだけだろ?」

「それは個人が持つ性欲の強さ、性欲を発散したいと言う欲望の強さ、その他エッチなことにかける気持ちの強さ、それが高ければ高いほど幽霊となっても自我が形成されるのです! つまり、魂だけで喋れもしないあの方たちはその程度の性欲だったってことですよ。そんな性欲で現世に留まるなんて迷惑な話ですよねぇ~」

「お前の方が重症なのに呆れるんじゃねぇよ……」

 

 

 どうやら性行為したいって欲望だけで自我が形成された幽霊になれるらしい。あの世とこの世を行き来したりスマホが流通していたり、性欲を満たせないこと以外は幽霊の方が快適なんじゃねぇか……?

 

 

「お前の自慢はいいとして、解決手段ってそれしかねぇのか? また俺と性行為するとか言い出すんじゃねぇだろうな?」

「う~ん零さんとセックスできるのなら願ったり叶ったりですけど、そのためには私がかのんさんたちに憑依する必要がありますからねぇ~」

「えっ、私たち……ですか?」

「はいっ! 私って見ての通り霊体じゃないですか? だから直接人間とセックスして性欲を満たすことはできないのです。ですが憑依で誰かのお身体をお借りすることはできるので、かのんさんたちのお身体を使えばセックスできるってことですよ!」

「ちょっ、私たちの身体ってそれ本気なわけ!?」

「せ、先生とそ、そんな……破廉恥ですっ!」

「俺に文句言うな! てか愛莉、その方法はAqoursのときもダメだって言っただろ……」

「えぇ~っ!!」

 

 

 どうして今回は行けると思ったんだよ……。

 俺と身体を重ね合わせることが解決方法だと聞かされ、かのんたちは顔は夜の暗闇でもはっきりと分かるくらいに赤くなった。ただでさえコイツらは恋愛下手なのに、そこに18禁要素をぶっ込んだらそりゃこうもなるよ。逆に虹ヶ咲の奴らだったらテンション爆上がりで喜びそうだけど……。

 

 そして俺に性行為を止められて心の底から残念がる淫乱幽霊の愛莉。幽霊になってもまだ肉体接触を諦めてないその根気だけは認めてやるけどさ……。

 

 

「とりあえずもう少しまともなのはないのか? コイツらへの刺激が強すぎない方法とか」

「う~ん、あるにはあるんですけど面白味に欠けるんですよねぇ~」

「お前は肉欲さえ満たせればなんでもいいんだろ……。とにかくもう1つの方法ってのを教えろ」

「そうですねぇ~。あの魂たちは結局は欲望の残りカスみたいなものなので、セックスをせずとも男女の仲の良さを見せつければ満足して成仏すると思います」

「仲の良さを見せるって、どうやって……??」

「それは抱き合ったり愛を囁いたりじゃないですかね」

「「「「「「へ……??」」」」」」

 

 

 俺たちは一斉に素っ頓狂な声を上げる。確かに肉欲を満たす行為はNGだと言った。だがぶっちゃけた話、初々しい恋人のような行為ですらコイツらの羞恥心は爆発するだろう。なんたって俺も恥ずかしい。デートの流れで自然にやるならまだしも、イチャつき目的で女の子と、しかも例え幽霊だろうが誰かに見られている状況で堂々とやるのは流石の俺でもキツイ。だが愛莉曰くもうそれ以上の妥協策はないらしく、俺たちの選択は窮地に迫られていた。

 

 

「本当にそれしかないんだな?」

「はいっ! 見せてください! あなたたちの愛を!!」

「愛ってそんな、先生とデスか!?」

「せ、先生となんてそんな……私はどっちでもいいけどねどっちでも!!」

「きょ、教師と生徒でそんなことをしてしまってもいいのでしょうか……」

「でもやらないとこの学校が幽霊塗れになるんだよね……。先生と抱き合うなんて……」

「ほ、本当に!? 本当に先生が私たちを……ううっ……」

「やるしかないだろ。なに、この淫乱幽霊を相手にするよりか全然マシだ」

「サラッと面倒な奴だと言ってません? 言ってますよね!?」

 

 

 性行為したいがために成仏しない幽霊を迷惑がらない奴はいねぇだろ……。そもそも俺にしか狙いを定めていない時点でその願いは叶わないんだから諦めて欲しい。ま、幽霊が憑依できるアンドロイドでも作成されれば別かもしれないけどさ。

 

 そんなわけで、俺も別に乗り気ではないがこの窮地を脱するためにかのんたちを説得する。女の子と抱き合ったりするのは俺は慣れているが、問題はコイツらだ。ただでさえ俺の隣にいるだけで顔を赤くしたりするのに、抱擁なんてしたらその場でショートするんじゃねぇか……?

 

 だがここまで来てやらないという選択肢は取れないため、コイツらの納得は得られなかったが学校のために一応付き合ってくれることにはなった。果たしてどうなることやら……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「おぉ~これは動画で見る以上に大変なことになってますなぁ~」

 

 

 再び校舎裏に戻ってきた俺たちは、物陰から古井戸の様子を窺うことにした。だがさっきの霊魂たちは俺たちの気配を察知したのか、まだ顔を見せていないにも関わらず白い霧の球体の姿を見せてぷかぷかと浮いている。しかも言葉になっているのかなってないのか分からない謎の呻き声を発しており、雰囲気のおどろおどろしさが頂点に達していた。

 

 

「一応確認だけど、お前がアイツらにここから離れろって説得することはできないんだな?」

「やろうと思えばできますけど、別の女子高に移動するだけですよ? そんな迷惑をかけていいんですか?」

「お前にしては真っ当なことを……」

「それにですねぇ、あんな自我も持ってない低級の幽霊を最高ランク幽霊の私が相手にすると思いますかぁ? 同じ性欲を持て余した幽霊なのに私とあの霊たちでこの差ですよ? どうせ性欲を持つのであれば、私みたいに超イケメンとセックスしてイキ狂いたいって思うくらい高らかな欲望を持たないと。そうですよね?」

「俺に聞くなよ……」

 

 

 あたかも自分の欲望が他より勝ってるみたいな言い方だけど、欲望って深ければ深いほど汚らわしくなるから誇るものじゃねぇぞ? でもそのおかげで自我を保った幽霊になっていると思えば幽霊界隈ではそれが正解なのかもしれない。

 

 この場でずっと様子を窺っているわけにはいかないので、意を決して物陰から出ていく俺。だが案の定と言うべきか、みんなはまだ緊張しているのかその場に留まったままだ。まあかのんは目の前で浮遊している霊魂にビビって気絶しそうになってるので、今回コイツが役に立つのか分からないけどな。

 

 

「もうじれったいですねぇ~いつまで隠れているんですか? 勇気が出ないのであれば私が後押ししてあげますよ! そうですねぇ~~はいっ、まずはあなたからで!」

「ふぇっ!? 私ですかっ!? あっ――――!!」

 

 

 まず愛莉に引っ張り出されたのは恋だった。その勢いでよろめきながら俺のもとにやって来る。

 男女ペアの姿を視認したのか、白い霊魂たちは俺たちの周りに集まりだす。さっきもそうだったが特に気概を加えてくる様子はなく、ただただ低い唸り声のようなものを漏らしているだけだ。夜の校舎裏に若い男女という、もう卑猥なことしかしませんよ的な匂いを嗅ぎ取ったのかもしれない。

 

 

「あの……本当にやるしかないのでしょうか……?」

「ここまで来てやめる選択肢はないだろ。嫌かもしれないけどすぐに終わるから安心しろ」

「い、嫌とか別にそんなことは――――ひゃうっ!!」

 

 

 変に時間をかけると余計に恥ずかしくなりそうなので、何も考えずに勢いで恋を抱き寄せてしまった。その瞬間、霊たちの呻き声も少し静まったような気がする。向こうの物陰からもみんなの驚きの声が聞こた。

 そして一番ビックリしているのはもちろん恋だろう。俺に抱き寄せられた瞬間に身体をビクッと震わせる。コイツの顔は俺の胸元に埋められているため表情は確認できないが、耳が真っ赤になっているので見せられない顔になっているのは確かだ。恋愛に慣れていない女の子をいきなり抱き寄せるのは彼女たちの羞恥心を爆発させる起爆剤としては十分で、息も荒くなっていることから早く事を済ませないと本当にショートしてしまいそうだ。

 

 愛莉はこの抱き合った状態で愛を囁けばいいって言ってたな。恋はそれどころじゃなさそうだし、こっちからやるしかねぇのか……。

 

 

「恋」

「は、はいっ! なんでしょうか……?」

「好きだ」

「へ? えぇえええぇええええええっ!?」

「落ち着け。本心だ」

「そうですよね演技ですよね――――って、え゛っ!?」

「お前の世話焼きには感謝してる。俺って怠惰だからさ、誰かにケツを蹴られないとちゃんとしねぇんだよ。だからお前が逐一声をかけてくれたり注意してくれるのってありがたいんだ。なんだかんだ生徒会とかで一緒のことも多いしな、長年連れ添った熟年夫婦みたいで……その、居心地がいいよ。それにスクールアイドルになってからよく笑うようになったよな。お前の綺麗な笑顔、好きだぞ。それにお前ずっと色々抱えこんでいたからな。だからこそ生き生きしてる今を見てると俺も嬉しいんだ」

 

 

 なにこのクサいセリフ!? 自分で言っていて痒くなってくるんだけど!? しかもこれって愛莉やかのんたち、周りにいる霊たちにも聞かれてるんだよな?? 誰もいない2人きりの空間なら余裕だけど、最初から見世物にされると知っているこの状況は流石の俺でも恥ずかしいって!!

 

 だが、さっきの内容は全て事実で俺の素直な気持ちだ。自分の想いを伝えているってことには何ら変わりない。

 ただ恋が正気を保っていられるかだけど……。

 

 

「せ、先生……私もそのぉ……先生と一緒なのは居心地がいいと言いますか心が高鳴る――――きゅぅ……」

「な゛っ!? おい恋!?」

 

 

 あまりの羞恥に耐え切れずに気絶してしまったようだ。なんか厳粛な見た目とは裏腹のとてつもなく可愛い声を出していた気がするが、聞かなかったことにしてやるのがコイツのためだろう。

 

 

「おぉ~凄い! 霊魂たちが少し消えましたよ! 恐らく零さんと恋さんの愛に満足したのでしょう!」

「あれでよかったのか……?」

「OKOKです! じゃあ恋さんはこちらで回収するので、次の方どうぞ~!」

 

 

 なんかテレビの撮影かってくらい事務的な発言をしてやがるけど、そんな軽いシチュエーションじゃねぇだろ……。

 この状況で1人楽しそうにしている愛莉と、目の前で恋が撃沈する姿を見て緊張しまくっているかのんたち。いずれ自分の番がやって来るが、やはり恥ずかしさからか自ら物陰から飛び出したりはしない。しかし愛莉がそんな奥手を許すはずがなく――――

 

 

「ほらほらビビってたらいつまでもあの霊魂を成仏させられませんよ! 次はあなたが行く!!」

「えっ、私!?」

「次はすみれか……」

 

 

 愛莉に背中を押されて意図せず決戦の場へ足を踏み入れたすみれ。さっきの一連のやり取りを見ていたためか既に顔は赤く、耳元で少し囁くだけでも気絶してしまうだろう。いつもは持ち前のツンツンした性格が故に自分の弱みを見せない、つまり何とか羞恥心を押し殺そうと頑張っているのに、今回はそれができないほどに調子を乱しているようだ。

 

 正直に言ってしまうと俺も怯んでいないわけではない。あらかじめ覚悟を決めてはいるけどみんなに見られてるし、幽霊だけどたくさんの見世物になっているのは事実だ。それにコイツらに対して自分の気持ちを面と向かってしたことなかったから、そりゃ女の子慣れしてる俺でも緊張するって。

 

 だがこの場に立っている以上は本気でやる。そもそも女の子に想いを伝えるのに嘘偽りはもちろん、適当にだなんて俺自身が許さないからな。

 

 

「あっ……」

 

 

 俺はすみれを抱き寄せる。ちょっと力強く強引だったけど、これくらい俺と密着した方がコイツも緊張は解れる……のか? 実際に彼女の震えは収まっているようで、やはり人肌の温もりってのは相手を落ち着かせる効果があるらしい。これも包容力の権化であるエマの受け売りだけどな。

 

 

「い、言いたいことがあるなら早く言いなさいよ……」

「あぁ。お前ってツンツンしてるけど、その実すげぇ面倒見がいいよな。可可ともなんだかんだ言いながら常に気にかけてるし、他の奴らに対しても同じだ。自分の力を誇示しながらもみんなを見てるお母さんっぽいんだよ。俺が仕事で遅くまで残ってる時も気にかけてくれるし、そういうところが嬉しいよ。それに自信満々な性格とは裏腹に、実際に主役になると恥ずかしがるお前の性格、可愛くて好きだぞ。古い言葉でギャップ萌えって言うのか? そういった些細な弱みで可愛さを見せつけられると、お前のことがより魅力的に思えてくるよ」

 

 

 俺もそれなりに緊張しているが、一度口を開けばすらすらと気持ちが言葉になって出てくる。もっと喋ろうと思えば喋れるのだが案の定すみれも顔を沸騰させて恥ずかしがっており、俺の言葉を聞く余裕はないだろうからここでやめておくことにする。

 

 

「ま、まぁ私を褒める言葉としては上出来なんじゃない?? 良かったんじゃないかしら…………でもその……あ、ありがと……」

「!? フッ、どういたしまして」

 

 

 まさにありきたりだけど、ツンデレのデレる瞬間って最高クラスの可愛さを感じる。王道って言われるくらいだから万人受けするんだろうが、こうして自分に向けられるデレほど嬉しいものはない。女の子を囲んでいるから飽きる、なんてことはないのがツンデレちゃんの魅力だ。コイツもコイツで素直になりたいくらい俺の気持ちを受け入れてくれたと思うと更に嬉しくなるな。当の本人はもう気絶しかかってるけど……。

 

 

「おぉ~相変わらず女の子の扱いが上手ですねぇ~。そのおかげでほら、霊魂たちも満足したのか成仏して少し減りましたよ」

「ただお気持ち表明しているだけなのに満足してるのか……」

「でもまだまだいるので、ここで選手交代ですね!」

 

 

 霊魂たちは順調に成仏している。あと3人で全ての霊魂たちを満足させることができるのか。てか性欲が滾り過ぎてこの世に残ってるのに野郎の言葉なんかで満足できんのか……? いや実際に満足してるっぽいからいいんだけどさ。

 

 だが相変わらず恥ずかしいのか、残る3人も自分からこちらに出てこようとはしない。なので今度もまた愛莉が誰かの背中を押してこちらに無理矢理出向かせた。

 次に俺のもとにやって来たのは――――

 

 

「千砂都……」

「あはは、こ、こんばんは……」

「なぜここで挨拶? さっきまで一緒にいただろ……」

 

 

 それくらい緊張してるということだろう。いつも明朗快活な彼女だからこそ恥ずかしがっている姿は映える。

 だが緊張していても持ち前の積極性は完全に消えてないようで、羞恥にたじろぎながらも抱き着かれ願望があるのか俺の傍まで歩み寄って来る。その心意気に応えて優しく抱きしめてやると、千砂都も俺の腰に腕を回してきた。先の2人は俺に抱かれるがままだったので、緊張していてもこういった自然な行動1つ1つに個人の性格が出るのが面白いところだ。

 

 

「暖かいですね、先生はいつも……」

「お前もな。いつも明るい笑顔でみんなを引っ張って、見てる俺も元気を貰えるよ。やっぱ活力のある子と一緒にいるとこっちまでテンションが上がっちゃうって言うか、気分がいいよな。だからこそお前が『ダンスの大会で優勝しました!』とか『新作たこ焼きを作ったから味見してください!』とか、笑顔で嬉しそうに話しかけてきてくれるのが好きなんだ。そうやってお前からは色々貰ってるからさ、俺もいつか恩返ししたいと思ってるよ。それでお前がずっと明るい笑顔でいてくれるのなら、尚更な」

 

 

 千砂都は何か言いたげだが言葉にならないようだ。それだけ心に響いているのか。別に俺は普通のことしか言ってないし、女の子1人1人の見たまんまを語っているだけだから特別なことはないんだけどな。

 

 

「そ、そんな、むしろ先生には貰ってばかりで……。どちらかと言えば私からもっとたくさん恩返ししたいなぁ~って……」

「そうそう、そうやって元気っ娘が時たま見せるしおらしい姿も可愛いんだよ」

「な゛っ!? あ゛っ……うぐっ……」

「零さんって追い打ち得意ですよねぇ……。とりあえず気絶しかかって動けなさそうなので回収しますね。霊魂完全消滅まであともう少し!」

 

 

 追い打ちっつうか、言いたいことがたくさんあり過ぎてついつい漏れ出してしまっているだけだ。まあ一度俺の言葉を聞き終わって心の整理をしているときに、また褒められたらそりゃ調子を乱されもするか。しかも相手はまだ恋愛初心者だから、後追いの誉め言葉は追い打ちと言われるのも仕方ないかもしれない。

 

 そして次にこちらにやって来たのは可可だった。今回初めて愛莉に無理矢理連れ出されずにこっち来た子になる。とは言っても恥ずかしさは最高潮のようでずっと身体をもじもじさせている。その様子が愛らしくなってしまい、つい俺の方から歩み寄って優しく抱きしめてしまった。

 

 

「ひゃいっ!?」

「悪い。でもこれを望んでたんだろ?」

「そ、それはぁ……ま、まぁ……」

 

 

 千砂都の時もそうだったけど、普段テンションが高い子がここまでおとなしいとキャラが全然違って見えるな。特にコイツの場合は入学直後から俺の周りをチョロチョロして積極的だったので、こうして借りてきた猫みたいになっているのが珍しいんだ。

 

 

「さっきの皆さんとのやり取りを見て、先生って可可のことをどう思っているのか気になってマス……。鬱陶しく纏わりつく子供……とか?」

「ん? ははっ、お前そんなこと考えてたのか? 安心しろ、俺は全然そんなこと思ってねぇよ。むしろお前のおかげで俺の教師人生が彩られてると言っても過言じゃない。執拗に俺に迫って来るのも俺に興味があるからなんだろ? そうやってグイグイ来られると俺もこんな可愛い子に好かれてるんだって、自尊心が高まっちまう。それにお前どこか危なっかしいからな、いつも傍にいて手助けしてやりたいって思う。お前が俺に寄り添ってくれるのなら、俺もそれに応えたいんだ。だから全然迷惑なんかじゃない、むしろ頼ってくれて嬉しいよ」

 

 

 俺に寄生虫してるときって何も考えてないのか思ったけど、意外と繊細なところがあったんだな。そういう女の子の弱いところに気づけただけでもこの幽霊騒動の収穫はあったかもしれない。さっきも言ったけど、弱い一面を知るとソイツをより好きになったりするしな。

 

 

「く、可可も、先生のことがその……す……き……」

「ん?」

「い、いえ、なんでもないデス……」

「なるほどなるほど、聞いていた通りの初心さ。私もそういう時代が――――」

「お前に恥じらいねぇだろ」

「あはっ♪ とにかくあと霊魂さんたちも僅かなので、最後もビシッと決めちゃってください!」

 

 

 愛莉は羞恥で動けない可可を連れて奥に引っ込む。なんだかんだ性欲を満たしたい願望がありながらも、俺とみんなが2人きりになっている時は茶々を入れることもせず見守っていたり、みんなをこちらに連れ出す手解き(力尽くだが)をしてくれたりと、意外としっかりしてるんだよな。ただの性行為願望の淫乱幽霊じゃないから憎めないんだよ、普段はあんなのだけど……。

 

 そして最後はかのんだ。愛莉に連れ出されて戸惑っているのはもちろん、順番のトリを務める意味でも緊張しているのだろう。千砂都や可可と違って普段からあまり自分を出さない性格も相まって、俺と相対してどうしていいのか分からなくなっているんだと思う。それになにより、幽霊が苦手なコイツにとって周りに浮かぶ霊魂にビビっているに違いない。可可たち4人のおかげでもうかなり数を減らしたが、それでもまだ残っているからな。

 

 

「まだ怖いか?」

「は、はい……」

「安心しろ。俺が守ってやるから」

 

 

 コイツ、校内を歩いている時ずっと俺の服の裾を掴んでたからそれだけ幽霊を怖がっていたのだろう。本人が怖いのを承知で俺たちと一緒にいたとは言え、教師として、そして男としてビビってる女の子に何のフォローもいれないわけにはいかないな。

 

 俺が彼女に近づくと、向こうからもこちらに寄り添ってきた。俺は今までの流れと同じく自然にかのんを抱きしめてしまう。かのんは肩をビクッとさせるが、他の奴らと同じく俺の腰に腕を回してすぐに受け入れた。

 

 

「せ、先生は、どうしてそこまで私たちを助けてくれるんですか……? 私がスクールアイドルを始める前も、始めた後も、そして今も……」

「そんなの当たり前だろ。好きだからだよ」

「ふぇっ!?」

「なんか誤解されそうだな……。そりゃ男として魅力のある女の子を好きになるのは当然だろ。最初お前を見たときはこんなに美人で歌も上手い子がいるんだってビックリしたよ。お前はよく自分には何もないって卑下してるけどさ、俺の目を惹く女の子ってだけでも誇れることだぞ。自己肯定感が低く自信も持てない。だけどお前はそれを理由に諦めたりしない。自分の短所を乗り越えて突き進む強さを持ってること、俺はよく知ってる。迷ったりうじうじしているのも、自分の中で正しいと思う信念があるってことだかさ。そういうお前の熱いところ、好きだよ」

 

 

 またもかのんは身体をビクつかせる。俺の胸に顔を埋めているので表情は見えないが、自分の中で気持ちを整理するのでいっぱいっぱいなのだろう。確かに自分をここまで褒めてくれる存在がいると嬉しくなるよな。

 

 他の奴らと同じくかのんも落ち着くまでに時間がかかりそうだ。見れば霊魂たちは次々と天に昇っていき、遂に俺たちの周りから全てが姿を消した。

 

 

「あっ、霊魂たちが全部成仏しましたよ! やりましたね零さん!」

「あぁ。つうか本当にこんな方法で良かったんだな」

「魂の残りカスみたいな方たちで欲望も浅いので、男女がいい雰囲気なシーンを見られただけでも満足なのでしょう。なにはともあれお疲れ様でした!」

「お前もな」

「えっ、零さんがデレた!? これは相思相愛になってセックスする日も近い!?」

「デレのハードル低いなオイ。てか愛し合ってすぐ性行為とか正気かよ。もっと段階ってものはねぇのか……」

「そりゃ好きだからに決まってますよ……」

「ん?」

「なんでもないでーすっ!」

 

 

 よく分からないが、とにかく古井戸に寄生していた幽霊たちを全員成仏させることができて良かったよ。性欲滾りの幽霊と聞いて最初は馬鹿馬鹿しいと思ってたけど、逆にそのおかげで男女の仲の良さを見せつけるだけで解決できたんだよな。そう考えると俺たちの中だけで解決できて助かったっつうか、性欲以外の他の欲望を持っていたらこうはいかなかったか。無理難題を押し付けられることもなかったのは僥倖だったかもしれない。

 

 そんなわけで無事に事件を解決できたわけだが、その代償として――――

 

 

「コイツらどうすんだ……」

「全員マットの上に寝かせてありますから、今ならJKと校内でハーレム青姦&睡眠姦プレイができますね!」

「この世の背徳的要素を詰め込みすぎだろ……」

 

 

 未だに顔を真っ赤にして(ほう)けているLiellaの面々。夜もいい時間なのでそろそろ帰してやりたいのだが、この様子だと復活するのに結構時間がかかりそうだ。まあ本人たちは幸せそうな顔をもしてるから、今はその余韻に浸らせてやってもいいか。今度はしっかり起きている時に幸せにさせてやりたいもんだ。

 

 なんか久々にいい雰囲気のまま事件を終えることができそう――――

 

 

「そんなわけで、最後のメインディッシュと行きますか!」

「え? もう終わっただろ」

「ここにいますよ!! まだ成仏してない幽霊が!!」

「おいまさか……」

「私の成仏条件はセックスですっ! それも超イケメンで超肉食系の男性を希望!! そして目の前にちょうどいい人材が!!」

「そのギラついた瞳やめろ!! つかいい感じの幕引きだっただろ欲望で穢すな!!」

「私の取っ手のハッピーエンドはセックスなんですぅ~っ!! さあさあヤりますよ!!」

 

 

 やっぱり、幽霊と絡むとロクなことがないと改めて実感した俺だった……。

 




 今回の話の途中だけを見れば最終回っぽい雰囲気がありましたが、もちろんまだまだ続きます(笑)
 今回は緊急事態だったので仕方がありませんが、零君が女の子たちより先に気持ちを伝えるのは珍しいことだったりします。Liellaの面々が想いを素直に伝えられない子たちばかりなので零君が自ら歩み寄った、という感じのお話でした。
零君の想いをここまでみんなとの思い出が積み重なって来たからの結果なのですが、この小説ではそこに至る経緯をあまり詳しく描写してないので、以前のすみれの過去回のように他キャラの過去を掘り下げた話を投稿予定です。

 そしてこうして書いてみると自分で作成したキャラながら愛莉もいいキャラしてますね(笑) またどこかで登場させたいと思います!





【付録】※アニメ虹ヶ咲8話の文化祭フィナーレ回を見て思いついた小ネタ


「お兄さん! いい曲できたんですよ! 是非聞いてください!」
--
「お兄さん! 私のピアノどうでしたか!? あれからしっかり上達してるんですよ?」
--
「お兄さん! みんなのライブさいっっっっっこうでしたね! トキメキが溢れて昇天しちゃいそうでした♪」
--
「お兄さん! 合同文化祭楽しかったですね! また来年もやりたいです!」
--
「侑、お前さ……」
「はい?」
「似てきたよな、歩夢たちに。俺に依存……いや、なんでもねぇ」
「へ?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去への扉:仮面の奥の笑顔

「先生! 今日はSNS映えする激辛MAXたこ焼き作ってきました! 最新作なので是非食べてください!」

「なんだそのあからさまな地雷は!?」

「それじゃあチーズたっぷりとろとろたこ焼きはどうですか?」

「チーズで固めてあるだけだろそれ!? 普通に胃もたれしそうなんだけど……」

 

 

 千砂都は満面の笑顔でもはやたこ焼きとも言えない物を食わそうとしてくる。コイツが俺に創作料理を作ってくるようになってもう結構経ち、最初の頃は普通のたこ焼きの改良版でまだ食えたモノだったが、最近はSNSや動画映えを狙ったのか言ってしまえばゲテモノが多い。激辛とかチーズマシマシとか、本当に自分で味見してんのかよコイツ。鞠莉やせつ菜もそうだけど、味覚偏屈者が飯を作るなよな……。

 

 

「つうかお前、最近よく俺に味見をさせに来るよな。前までは月に1、2回くらいだったのに、今は週に1回ペースだぞ。そこまでして俺に食って欲しいのか?」

「ふぇっ!? あっ、いやぁ~こういうのってかのんちゃんたちに食べさせづらいじゃないですか~」

「こういうのって、自分でゲテモノだって認めてんじゃねぇか……」

「あはは、先生だったら文句を言わず食べてくれるという私の信頼ですよ! 嬉しいですか?? 嬉しいですよね??」

「はいはい構ってくれてありがとな」

「むっ、なんて事務的な返事……」

 

 

 変に挑発してくるところもいつもと変わんねぇなコイツ。

 少し前は俺を顧問に勧誘する名目で可可がよく飯を一緒に食おうと引っ付いてきたが、最近は千砂都ともこうして昼を共にすることが多い。別にたこ焼きを貰うくらいは昼飯のおかずが増えるから別にいいんだけど、その目的って一体何なんだ? しかも新作のたこ焼きを短いスパンで開発しており、中にはそれなりに美味いと太鼓判を押したモノもあるのだが、それが本当に発売されたのかは定かではない。

 

 もしかしてコイツ、俺と飯を食う口実のためにわざわざ新作のたこ焼きを作ってるんじゃ……? ちょっと鎌をかけてみるか。

 

 

「お前、最近よく新作のたこ焼きを作って来るよな」

「へ? ま、まぁ私の創作意欲の賜物と言いますか、これでも創意工夫は得意なんですよ! 昔から創作ダンスも大好きでしたから!」

「そうか。だけどたまには休むことも大切だぞ。スクールアイドルとバイトの掛け持ちで身体を壊したら大変だ」

「分かってますけど、新作を作るのをやめたら先生と合う時間が――――って、別になんでもないですっ!」

「フッ、あっそ」

「ちょっ、どうして笑うんですか!?」

「別になんでもねぇよ」

 

 

 やっぱりそうだったか。新作のたこ焼きを味見させると言う口実で俺と昼を一緒にしようって魂胆らしい。真正面からぶつかって来る可可と比べて遠回りな手を使う彼女だが、それがコイツの可愛いところでもあったりする。イタズラっぽく色々策を張り巡らせてお近づきになろうとする、その小悪魔っぽさがコイツの魅力でもあるからな。そして毎回俺にその策を上回る動きをされて自爆するところまでがテンプレ。ま、女性に関して百戦錬磨の俺を出し抜くなんて思わないことだ。

 

 そんなことを考えながら、彼女の作ってくれたたこ焼きを1つ摘まんで食ってみる。

 

 

「えっ? 先生?」

「やっぱ辛いなこれ……」

「どうして食べてるんですか!? さっきいらないって……」

「別に最初から食わないとは言ってねぇだろ。俺のために作ってくれたんだったら食すのが礼儀ってもんだ。それにお前なら本当に食えねぇモノは作らないだろうしな」

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 赤面して俯く千砂都。俺と一緒にいたい口実、そして話題作りのために変なたこ焼きを作っているのかと思ったが、毎回しっかり食えるモノを持ち込んでくるのでやはり自分の料理を褒められたくもあったらしい。見た目はアレだけど普通に美味いから、それなりに時間をかけて創意工夫で完成させたのだろう。そうやって手間をかけたからこそ俺に食べてもらいたかった、ってところか。活気ある様子とは裏腹に健気なところあるじゃん。

 

 ちなみに女の子の中にはガチで食えないモノを悪気もなく作る奴もいるので、食えるってだけでマシなんだよ料理なんてさ……。

 

 

「そういやお前、ダンスの方も調子いいのか? スクールアイドルを機に練習を減らしたって聞いたけど」

「は、はいっ、そちらも順調です。先生のおかげで続けられているんですから、疎かにすることなんてできません!」

「俺なんかやったっけ?」

「…………」

「なんだよそのジト目は……」

「先生って天然なのかわざとなのか分からないときありますよね……。こりゃかのんちゃんたちも苦労するなぁ~」

 

 

 自分だけ惚れてないみたいな言い方してるけどお前もだろ……。てかかのんたちが俺に気があることを知ってんのな。まあアイツらの反応って分かりやすいし、勘のいいコイツなら気づいていてもおかしくないか。自分が俺に気があることを誤魔化しているくせにな。

 

 

「話を戻しますけど、ダンスを続けられているのは先生のおかげです。どちらも諦めずに続ける選択肢。あの時、手を取って教えてくれたじゃないですか」

「そんなこともあった気がするな。そう考えるとお前もあの時より笑うようになったもんだ」

「えっ、私ってそんな表情なかったんですか?? 自分で言うのもアレですけど明るかった気がしますけど……」

「いや明るかったよ。でも時折曇ってるっつうか、笑顔が作られてたしな」

「あぁ、そんなこともあった気がしますね」

「お前こそわざと(とぼ)けてるだろ……」

 

 

 コイツはかのんと可可がクーカーとして初舞台に上がる前から2人の手助けをしていた。もちろんそれは紛れもない善意だったのだが、コイツの中ではかのんたちと一緒にスクールアイドルをやりたい想いと、自分の趣味で夢でもあるダンスを極めたいという2つの気持ちが混在していた。それに悩んでいたが誰にも話さず、ただただ仮面の笑顔を振りまいていたのが嵐千砂都という子だったんだ。

 

 

「でも驚きましたよ。『お前の笑顔ってどこか心配なんだよ』って先生に言われた時は。あの時はまだ入学したての春だったのに、新任の先生にそこまで見透かされてたなんて……」

「女の子の表情に対しては敏感だからな。心の底では笑顔じゃない奴を見ると、どうしても気になっちまう。あの時のお前がそうだった」

「あはは、確かに。自分の心の奥がバレそうになってたんで、あの時は頑張って誤魔化していましたね。でもかのんちゃんたちの名がどんどん知られていくようになっているのを見て嬉しくなったり、ダンスの大型大会の参加者に選ばれたりして舞い上がっちゃったり、それは嘘の笑顔じゃなかったですよ?」

「だろうな。だからこそお前には苦労させられたよ。本当の笑顔とそうでない笑顔を混在させるのが上手い」

 

 

 千砂都はかのんや可可とは違い目に見えて分かりやすく悩みを外に出さない性格だ。心の奥を突っつかれそうになるとすぐに作り物の笑顔で誤魔化す。何も知らない奴からすれば笑顔=悩みがないと思いがちだが、残念ながら俺の目は誤魔化せない。他の奴らだったらこちらから会いに行きさえすれば感情を吐露することが多いだけに、コイツだけは本心を打ち明けてくれるまで時間がかかったな。

 

 

「それにしても先生ってお人好しですよね。私の作り笑顔に騙されてくれればこっちも楽だったのに、それが通用しなくて何度も私に話しかけてきて……。もしかして私のことが好き、いやストーカーかと思いましたよ」

「それすみれにも言われたぞ……。俺ってそんなにしつこいのか……?」

「フフッ、しつこいですよ♪ でもそのおかげで今の私がいるので結果オーライですっ!」

 

 

 別に悩みを解消してやろうと思ってわざわざ会いに行ったとかではなく、たまたま顔を合わせたときに話をしたくらいだ。でも思春期女子ってのは自分の周りを嗅ぎまわる男子の動きに敏感だから、会話を仕掛けるだけでも気がある、もしくはストーカーと思われても仕方ないのかもしれない。いやそんな理由だけでストーリー扱いとか超絶理不尽なんだけど……。

 

 

「ただ結局、今の道を選んだのはお前自身だ。だから俺は大したことはしてねぇよ。そもそも俺は自己満足のために手を差し伸べてるだけであって、別に他人がどうなろうがどうだっていい。女の子の笑顔が消えるのは自分が許せなくなる、ただそれだけの理由だよ。俺が誰かを助けてるんじゃなく、お前らが勝手に助けられてるだけだ」

「それ同じことじゃ……。でも、終わり良ければ総て良しって言葉知ってます? 結果的にみんなが満足してるから慕われているんですよ。音楽科と普通科の関係が少しギクシャクしていた頃も、先生への気持ちだけは一致団結していました。2つの学科に在籍していた私が証人です!」

「別に慕われようとは思ってないけどな。俺が好き勝手にやってるだけだから、そっちも勝手に助けられてろって感じだ」

「先生ってやっぱり肉食系ですよね……」

「これが俺なんだ、諦めろ」

「いや、ガツガツ来られた方がむしろ好きと言いますか……と、とにかく! 先生は今のままでも全然大丈夫だってことです!」

 

 

 もしかしてコイツ、肉食系の男が好きなのか? 積極的な男の方が頼りがいがあって好きって奴もいるけど、コイツ自身世話焼きでグイグイ来るタイプだからどちらかと言えば守りたくなる男の方が好きなのかと思ってたぞ。Sっ気のある者同士は惹かれ合わないというのはオタクの考え方なのかもしれない。

 

 

「先生こう言ってましたよね、二兎追うものは二兎とも取れって。その言葉だけでも肉食系だって分かりますよ。スクールアイドルかダンスどちらかで悩んでるのならどっちもやればいいなんて、最初は何を言ってるのかと思いました。それで悩んでるんだって言ってるのに言葉の意味分かってる? 大丈夫この先生? って」

「ひでぇこと考えてたんだな……。とりあえず、まず常識から打ち破ってやらねぇとって思ったんだよ。お前はスクールアイドルでもダンスでも輝ける、俺はそう信じてたんだ。だったらどっちも取れば2倍輝ける。そしてその姿を俺自身が見てみたい、そう思っただけさ」

「どちらも諦めずにやれって命令された時はもうどうしようかと。強欲で、貪欲で、そして強引。生徒の立場からしても、教師がそんな適当な教え方でいいのかとも思っちゃいましたよ。でも、先生がずっと見てくれていたおかげでどっちも頑張れました。ダンスの練習をしている時も、スクールアイドルの練習をしている時も、先生はどっちにも顔を出してくれましたよね? それが嬉しくて、どちらの私も応援してくれる人がいるならどっちも諦めたくないって思ったんです」

 

 

 千砂都がダンスを始めたのは、かのんにとっての歌のように、大好きで夢中になれることをできるようになろうという決意からだった。そんなコイツがダンス大会に向けて抱えていた決心とは、もしも大会で優勝できなかったら退学し、海外へダンス留学をするというもの。『かのんの横に立って支えたい』という思いが、やがて『かのんを支える強い人になるには、彼女のできないことを自分一人で出来なくてはいけない=1人でダンスの結果を出せなければ、かのんの近くにいる資格が無い』と思い詰める原因にも繋がり、それがコイツに退学という選択肢を強いていたんだ。本当はかのんの隣で一緒にスクールアイドルをやりたかったはずなのに、自分自身の夢に縛られていた。コイツ自身、過去にイジメを受けていたところをかのんに救われ、それで彼女に見合う人間になりたいという願望が強かったのだろう。

 

 それに対して『どちらもやれ』と助言したのが俺だった。傍から見れば理不尽なアドバイスだったかもしれない。だけどそんなことは関係なく、ただ単に俺がスクールアイドルでもダンスでも輝いている彼女の姿が見たかっただけのことだ。ま、少々入れ込み過ぎて感は否めないけどな。教師として特定の生徒を贔屓しようとは思わないけど、男として気になる女の子に構いたくなるのは当然だろ? しかもその子のとびっきりに笑顔を見たいとなれば、その子のやりたい何かを未練がある状態で諦めてもらっては困る。完全に自分の都合でしかないけど、これが俺なんだよ。

 

 

「それで結果的に両立しちゃいました。先生のせいですよ、どっちも本気でやるの大変だったんですよ?」

「それにしては嬉しそうだな」

「はいっ! 自分の夢、やりたいこと、どちらも叶えることができたのは先生のおかげですから! でも今はスクールアイドルに集中しちゃってますけどね。ダンスの方は大きな大会で優勝して満足したのでいったんお休みです。それでもたまに思いっきり身体を動かしたくなるので続けてはいますけど、これは妥協ではないので結果的に今ではどちらも楽しめてます!」

「そうか。いい顔になったな、ホントに」

「えっ?」

「春からずっとお前を見てたから、夏に色々吹っ切れたお前を見てようやく本心から笑顔になれたよなって思ってさ。あの時は本当に嬉しかったよ」

「どうして先生が嬉しくなるんですか? 感謝するのは私の方なのに……」

 

 

 Liellaの5人の中では最もアクティブである彼女だが、意外と頭脳派な一面もある。それ故に色々考えて悩み込んでしまって1人で抱えることも多く、しかもそれを周りに悟られないようにするのも頭脳派ちゃんの困ったところ。だからこそ本当の笑顔を表に引き出すことができて嬉しかったんだ。本気で笑顔になれない女の子を放っておけない俺のこの性格も困ったもんだな。ついつい構ってやりたくなる。分け隔てなく人を助けるようなキャラじゃねぇのにさ。

 

 それでも身体が動いてしまうのは、やっぱり俺は女の子の笑顔が――――

 

 

「大好きなんだろうな」

「ふぇっ!? えぇっ!? す、すすすすす……き??」

「なんだよいきなりテンパったりして。あれ、俺今なんか言ったか?」

「そ、そそそそんな!! この前の幽霊騒動の時もそうでしたけど、先生って私のことをそこまで……ちょっ、ちょっと待ってください心の準備をするので!! そっか、先生が私のことを……」

「ん……?」

 

 

 ここまで顔を真っ赤にした千砂都は初めて見たかもしれない。恥ずかしがったり照れたりした表情はこの1年で何度も見てきたが、今ほど爆発しそうになっているのは中々なかったぞ。表情を見られないように両手を俺に前に突き出したり、自分の顔を覆ったり、もはや誰の目から見ても恋心の波動しか感じられない。

 

 つうか俺、心の声が漏れてた? もしかして千砂都が恥ずかしがってるのって、さっきの言葉の最後をお漏らししたからなんじゃ……。意味を捉え違えていて、『お前の笑顔が好き』という意味だったのに『お前のことが好き』と勘違いしてるパターンだこれ。

 言い直そうと思ったけど、本人は照れているとは言え嬉しそうでもあるからこのままいい夢を見させてやるか。それに『笑顔が好き』=『その子のことが好き』とニュアンスはあまり変わらないから、コイツの勘違いがあながち間違いでもないしな。

 

 

「おいいつまで恥ずかしがってんだ。もうすぐで昼休憩終わっちまうぞ」

「えっ!? ま、まだお返事が……!!」

「やっぱそう捉えてるよな……。ま、すぐじゃなくてもいいよ。心の整理がついてからでな」

「そ、それって!! やっぱりさっきのってこ、ここここ告白―――――ッ!!」

 

 

 これ本当に勘違いを正してやらなくて良かったのか……? 想像以上にパニックになってるけど……。このままだと告白返事待機待ちの関係になってしまう気がするが、それで本人が俺のために練習を頑張ってくれるならそれでいい。遅かれ早かれ、好意を抱かれてるのならいつかは向こうから想いを打ち明けてくれるだろうしな。こうやって女の子からの告白を待つ行為、いい気分だけど侑とかにまたグチグチ文句を言われそうだな……。

 

 

「せ、先生はお味噌汁の味は濃い派ですか薄い派ですか!? 目玉焼きにはソースですか醤油ですか!? それとそれと、一緒になるなら考えることが多すぎるぅうううううううううううう!!」

「ちょっ、落ち着け気が早すぎる!! まずスクールアイドルに専念しろ!!」

 

 

 この後、千砂都を宥めて次の授業に遅刻してしまったのは別の話……。

 




 今回は千砂都との過去回のお話でした。
 基本はアニメと同じストーリーを零君も経験している設定ですが、今回は千砂都がまだダンスを趣味レベルで続けていたりと少し改変してしまいました。零君がいたらスクールアイドルと両立させるだろうなぁ~と勝手に想像した結果ですが、ぶっちゃけ両立してる設定はこの小説ではあまり活かされないと思います。この小説のコンセプト自体普通に日常系の小説なので(笑)

 千砂都はアニメ初期の方から可可にスクールアイドルに誘われて微妙な反応をしてたりと、ところどころ闇が垣間見えました。それを零君が解決してくれたわけですが、たまにこういったカッコいい零君を描くと私も思わず筆が進んでしまいます!

 残り3人との過去編も定期的に投稿する予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゴッドフィンガー零

 12月某日、早朝。秋葉が運転する車の中にて。

 

 

「ふわぁ~~……」

「今から学校だって言うのに、そんな眠そうな顔をしてたら生徒たちに示しがつかないよ?」

「お前が夜中に変な実験で大きな音立てるからだろ。そのせいでしばらく寝られなかったっつうのによぉ……」

「あははっ! 一応私の部屋は完全防音なんだけど、それすら貫通しちゃうとは♪」

「俺の家でそんな矛盾検証なんていらねぇから……」

 

 

 昨晩は秋葉が謎の実験で不気味な爆発音を鳴らしくまっていたせいで寝不足だ。長年大学の研究室を我が物顔で占拠してそこに住んでいたのだが、去年開催されたスクフェスが終わったのを機に家に戻って来た。その際に実験で迷惑をかけるといけないからと、自分の部屋を完全防音にしたはずなのにこのザマ。こちとら社会人で夜の睡眠は貴重なんだから勘弁してくれよ……。

 

 そんな愚痴を車内で漏らす。今日も今日とて結ヶ丘へ向かっているのだが、非常勤講師である秋葉が学校へ行く日のみ限定で車に乗せてもらって出勤している。免許は持っているから別に1人でも車を出せばいいんだけど朝は何かと眠くて判断力が低下していることが多いから、事故を警戒して悪天候のとき以外は基本は徒歩。だから秋葉が出勤する日は楽でいいよ。これほどまでにコイツの存在をありがたいと思ったことはない。

 

 

「てかなんだよこの荷物。邪魔すぎるぞ」

「あぁそれね。消毒液だよ。冬になるとインフルエンザが流行るから、学校に設置しようってことになったらしいんだ。それで理事長に頼まれて買いだめしたってわけ」

「随分な衛生管理なことで。ま、あんなオンボロ学校でも世間からはお嬢様学校扱いだし、体裁を守るためにもそういうのは必要か」

「そんなこと言っちゃって。今のご時世は男でも清潔さを保つ時代だよ? 衛生さをないがしろにして女の子に逃げられちゃっても知らないからね」

「逃げるもなにも、女の子側から寄り付いて来てんのにそうはならねぇよ。むしろ俺が不潔にしていても、その不潔さを喜ぶ奴も一定数いるしな。それこそ爪の垢でもな」

「うわぁ~すっごい王様発言。なんかムカついたから浄化しちゃお♪」

「ちょっ、おいっ消毒液かけるな!! 運転に集中しろ!!」

 

 

 そんなこんなで学校に到着したわけだが、生徒たちとすれ違うたびに『先生なんかいい匂いする!』やら『いつも以上に清潔感がある!』やら、やたらめったら褒められた。それも消毒液を大量に噴きかけられたからであり、その香りが俺の全身から放出されているせいで徹底的な衛生管理がなされていると勘違いしているのだろう。やっぱ今の女の子って男のそういうところも見てるのか。でもまさか消毒液を全身で浴びたなんて思わねぇよな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 その日の放課後。服の湿りは流石になくなったが結局匂いは残ったままだった。とは言えども女の子たちに『先生の雰囲気変わった?』等々やたら話しかけられたので、女の子に注目されたい人は全身に消毒液を浴びるのもありかもしれないな。よく思われるかはさて置き、清潔にしていることを悪く思われることはないだろう。

 

 そんな冗談はさて置き、スクールアイドルの部室。授業の後処理を終えたので来てみると、恋が1人で作業をしていた。

 

 

「あっ、先生。お疲れ様です」

「おぅ。なにやってんだ?」

「次のライブに向けて、曲の構想を練っているのです。かのんさんだけに負担をかけられませんから。それにライブの申請書作りやステージ装飾、立ち位置の調整などを書き出して検討しています」

「色々やってんのな。つうかさっきまで生徒会だったんじゃねぇのか? それでまだデスクワークを続けるなんてよくやるよ」

 

 

 歴代の生徒会長ってことごとく働きすぎな面もあるから心配になることがある。絵里やダイヤ、せつ菜や栞子、そして恋。こうして名前を並べるだけでも真面目ちゃんたちで、机に何時間も向かっていられる奴らばかりだ。疲れ知らずではないと思うが、学校のために仲間のために多少の無茶は余裕でしてしまうだろう。若いからそういった歯止めも効かなくなることがあるだろうし、そこは教師として止めてやらねぇとな。ちなみに生徒会長経験はもう2人――――穂乃果や凛がいるが、アイツらは……うん、サイドキックたちの方が働いていた気がするな……。

 

 

「長時間のデスクワークは慣れてはいるのですが、最近どうも肩や腰がこっている気がします。スクールアイドルの練習で運動をしてはいますが、デスクワークをするとどうも肩肘を張ってしまうせいかすぐに身体が固くなってしまうようで……」

「そういやお前、生徒会の時もよく肩を回してるもんな。俺なんかよりよっぽど姿勢がいいのにガチガチになりやすいなんて、もしかして体質かも……」

 

 

 性格だけではなく身体の方も固かったのか恋の奴。コイツ自身は運動神経がよく千砂都に次ぐくらい柔軟ができるため、本質的には身体が固いわけじゃない。でも中には定期的に運動をしていてもデスクワークなどで座ったままじっとしているだけで身体が凝り固まっていく体質の人がいるらしく、恋もその部類なんだと思う。

 

 

「分かった。俺が身体を解してやるよ」

「えっ、先生が……ですか?」

「あぁ。これでも楓……妹とかにマッサージしてやることもあるし、それなりに経験はあるんだ。それとも男に身体を触られるのはイヤか?」

「い、いえっ! むしろこちらから是非お願いしたいです! 先生にマッサージされるなんて夢のような――――い、いえっ、とにかくお願いします!」

「あ、あぁ。じゃああっちのソファにうつ伏せになってくれ。指圧しやすいようにブレザーだけは脱いでな」

「は、はいっ!」

 

 

 意外かもしれないが、俺だってスクールアイドルの体調管理にはそれなりに貢献していたんだ。昔は絵里や真姫など恋と同じく長時間机に向かっているような奴らに肩揉みしてやったこともあるし、家だと未だに楓にマッサージをねだられたりする。ただ自分なりの方法で揉み解しているだけなのでプロに比べたら敵わないだろうが、楓曰くこうのも料理と同じく愛情が重要らしい。愛の相乗効果で身体が気持ちよくなるとかなんとか。まさか気持ちいいって変な意味じゃねぇよな……??

 

 なにやら嬉しそうにソファにうつ伏せになる恋。そこまでガチガチになっていたことが気になっていたのか、それともコイツも俺にやられるから楽しみにしてる? 確かにLiellaの面々に対して俺から物理的になにかをしてやるってことはあまりなかったから、たかがマッサージと言えども俺からの施しを受けることに嬉しさを感じるのかもしれないな。

 

 それにしても、ブレザーを脱いだ女の子がソファの上で無防備でうつ伏せになってるこの絵面。なんか服を着てるのに背徳的だな。俺が教師で彼女が生徒、そしてその子が何の抵抗もなく誘っているような感じがするからかもしれない。自分で指示したのにも関わらず興奮を煽られるようになるとは、やっぱり女の子の質がいいってのは得だらけだ。

 

 

「よし、じゃあ腰から行くぞ。まず軽めに指圧するから、力が強くて痛いとかあったら言ってくれ」

「は、はいっ! お願いします!」

 

 

 恋の腰の1点に狙いを定め、試しに親指で軽く指圧する。

 

 

「ひゃあああああああああんんっ!!」

「えっ!?」

「へ?」

 

 

 なんだ今の『淫』の波動が混じった声は……? 明らかに普通の気持ちよさから出た声ではなく、『性』を感じさせるような刺激が走ったときに発する声だ。ただ想像以上に腰が凝り固まっていたから、少し指圧しただけでもある程度の痛みは伴う。もしかしたらその痛みに驚いてしまっただけかもしれない。

 

 もう一度、さっきと同じように軽めに指圧してやることにする。

 すると―――――

 

 

「んんっ!! はぁ……」

 

 

 なんだその吐息は!? つうかその声は流石にメスが過ぎるぞ……。痛みの感じ方は人それぞれだから声を上げること自体に文句はないが、コイツが発しているのは明らかに性感帯を弄られている時の声だ。今まで幾多の女の子の幾多の喘ぎ声を聞いてきた俺なら分かる。これはただの気持ちよさじゃない。

 

 

「おい恋。大丈夫か?」

「は、はい……。続けてください」

「痛くないのか?」

「平気です。むしろその、先生がここまで凝り解しが上手だなんて驚いたと言いますか……」

「いや普通に素人だけど……」

 

 

 どういうことだ? 俺は元々才能の塊を集約させたような男だが、まさかこんなことでも力を発揮できるとは思ってなかったぞ。ただマッサージの技術をどこかで学んだことはなく、本当に全てが自己流だ。人間ってのはどこに自分の才能が隠れているか分からないものだが、この才能があれば女の子をもっと気持ちよくしてやれるってことだよな? つまりあんな表情やあんな声もやらせ放題だと。なるほどな……。

 

 恋が続きを希望しているので、恵まれた才能を持ちしこの俺の手でコイツの全身を解しに解してやることにする。

 だが――――

 

 

「んっ! ふぅ……」

 

 

「ひゃぅっ!!」

 

 

「あっ、ん……」

 

 

 いややっぱり普通じゃねぇよこれ!! 全然力を入れてないのに俺の指がコイツの身体に触れただけでこの喘ぎ、明らかにおかしい。しかも時たま漏れ出すのではなく指で一突きするたびに毎回この声を出しやがる。さっきも言ったが特別俺のマッサージ技術が高いわけでもないので、もしかしたら恋が感じやすい体質なのかもしれない。いや感じやすいと言ってもただ触れただけでこんなことになるのは流石に弱すぎるけど……。

 

 恋の頬が赤い。どうやら本気で気持ちよくなっているようだ。頬を染めた女子高生がベットの上で吐息を漏らしながらうつ伏せになっているこの構図、しかも隣には男性教師。うん、アブノーマルな大人のビデオを撮影しているようにしか見えねぇな……。別に俺は悪気があるわけでもないのでセーフだ、多分。

 

 

「はぁ……はぁ……」

「おい本当に大丈夫なのか? 余計に疲れさせてる気が……」

「な、なんでしょう、この天にも昇りそうな気持ち良さは……。刺激が強すぎますが、それが逆にいい……みたいな」

「そんな大層なことはしてないぞ。お前、腰回りが苦手なんじゃねぇのか? 横っ腹をくすぐられると弱いとかさ」

「特に弱いところはないと思いますが……」

「じゃあ次は肩を軽く揉んでやるよ」

「えっ―――――ひゃあああっ!?」

「おいここもかよ……」

 

 

 てっきり腰回りが弱いだけかと思ったら、どうやら肩もらしい。つうか腰や横っ腹はまだしも肩に性感帯があるなんて聞いたことがないので、これは俺の才能云々の話ではなさそうだ。コイツが変な性癖を持っていなければの話だけど……。

 

 恋は俺の指圧がよほど気持ち良かったのか、淫猥な吐息が断続的に漏れ出し身体も少しピクピクさせている。ここまで来るとマッサージなのに刺激が強すぎてリラックスできているかも怪しい。ただそれなりの快楽は得られているようで、さっきからずっと黙っているのもその余韻に浸っているからのようだ。

 

 どうしたものかと考えていると、部室のドアが開いてすみれと可可が入って来た。

 

 

「次の曲のセンターは可可がやりたいデス!」

「残念ながらアンタはその器じゃないわ。ここはまた私に任せておきなさい!」

「最初センターをしたときはビビり散らかしていたくせによく言いマスね」

「あ、あれは武者震いの延長線上のようなものよ! 今だったらどんなライブでも華麗にセンターをこなして見せるわ!」

「いつもいつも自信だけは大きいデスね……」

 

 

 いつもいつもなのはお前らの夫婦漫才だよ……。春からずっと憎まれ口を言い合う仲なのにここまで同じ部活、同じグループでやってこられていること自体がすげぇよ。

 

 

「あれ先生? もういらしていたのデスね」

「今日は早いじゃない――――って、そこにいるのって恋? どうして横になってるわけ?」

「あ、あぁコイツか。生徒会やら次のライブに向けての作業やらで疲れてるみたいなんだ。だから寝かせてやってくれ」

「そう。相変わらず掛け持ちなんてよくやるわよね」

「でも良かったデス。顔が赤いので風邪でも引いたのかと思いマシタ」

「こ、これはさっきまでここの暖房が強かったからだよ。いくら冬で寒いからと言って身体を暖め過ぎるのも毒だしな……」

 

 

 俺の指がコイツを気持ちよくさせて快楽漬けにしたなんてとてもじゃないけど言えねぇよ……。幸いなことに当の本人はあまりの気持ち良さに浸って寝てるから、余計なことを口走る心配はなさそうだ。

 しかし、恋がこうなったのは本当に俺のせいなのかコイツの特殊性癖のせいなのか、どちらか確かめる必要があるな。確かめるだけならこの2人に触れるのが手っ取り早いけど、何の脈絡もなく身体に触れるのはどうなんだろうか……。

 

 

「あっ、これはレンレンが残した忘れ形見! 次のライブのメンバー配置図じゃないデスか! まだ決まってないようなので可可の名前をセンターに……」

「ちょっとなに勝手なことしてるのよ!! 貸しなさい片付けておいてあげるわ!」

「そんなこと言って! 自分の名前を書こうする気満々なの知ってマスから! 大体すみれは昔から単調な作戦ばかりで魂胆がスケスケなのデス!」

「アンタみたいな昔っから変わらない猪突猛進に単調なんて言われたら終わりよ! いいから貸しなさい!!」

「昔って出会ったの半年前だろ。相変わらず仲いいな」

「「よくない!! ―――――あっ!!」」

 

 

 2人は軽く取っ組み合いになっていたためか、その勢いで持っていたライブの書類が辺りに飛び散ってしまう。あわててそれを拾おうとした2人だったが、お互いの脚がもつれてしまい身体が傾く。

 これはいつも見た展開。2人はバランスを崩して俺の方へと倒れてくる。俺は咄嗟に腕を広げ、倒れてきた2人を一度にまとめて抱え込んだ。

 

 

「おっと! 仲が良すぎるのも問題だぞお前ら――――ん?」

「ひゃっ、あっ……!!」

「な、なにこれ気持ちいい……あっ、ふぅ……んっ」

「えっ、まさかお前らも……!?」

 

 

 俺が2人を抱え込んだ瞬間、どちらも一瞬で顔を赤くして淫靡な声をあげた。そりゃそうだ、だって倒れてきた身体を抱え込むには手にも力を入れなければならない。つまり俺の指がコイツらの腰回りを大きく指圧しているということ。そうなればさっきの恋のようになるのは必至だ。

 

 つうかやっぱり原因は俺なのか!? 俺の手にそんな力が宿っていた……とは考えにくい。だって今まで何度も女の子を抱きしめてきてるし、その際に相手が発情なんてしていない。顔を赤くされることはあるけどそれは羞恥心から来ているものであり、決して性的快楽のものでなかったはずだ。だとすると今コイツらが気持ちよくなっている直接的な原因は俺だけど、根本的には俺のせいではないということ。

 

 今日俺の手に何か起きたかと言われたら――――あぁ、あの消毒液か。今朝秋葉に噴きかけられたあの消毒液が原因に違いない。噴きかけられた時に手でガードしたから、消毒液に最も侵されているのはこの両手だ。大体おかしいと思ったんだ、どうして普通に注文して学校に届けられるモノをわざわざアイツが調達していたのか。最初からこれがやりたかっただけかよ……。

 

 

「せ、せんせぇ……」

「なんか身体が熱く……んっ」

「悪い。すぐ離れるから」

「い、いえ、気持ちいからこのままで……ひゃああああっ!!」

「べ、別にこのままでもいいわよ……んっ、くっ……」

「おいおい……」

 

 

 俺に触られているから快楽が走っているはずなのに、コイツら自分から俺を離そうとしない。とんだ痴女だと思ったのだが、2人からしてみれば恋と同じく病みつきになるくらいの気持ち良さなのだろう。顔の赤みも凄まじく、俺の指がコイツらの腰回りを指圧することで電流が走るほどの快楽が伝わっているらしい。

 

 

「おい離れろ。このままだと本気で絶頂するぞ」

「はぁ……はぁ……」

「あっ……んん……」

「俺の声届いてねぇし……」

 

 

 俺に抱き寄せられて嬉しいからこの場に留まっているのか、それとも伝えられる快楽に身を委ねたくてこのままなのか。どちらにせよ俺が抱きかかえたままだと常にコイツらに刺激が伝わり続けてしまう。だったら手を離せばいいのだが、今のコイツらは快楽で力が抜けているため手を離すと俺の身体からずり落ちてしまう。つまり俺が支えておかなければならない。

 

 どっちに転んでも穏便に解決しない。アイツの発明品の影響って解決に向かおうとするとどっちつかずで八方塞りになることが多いけど、もしかしてこの展開も見透かしてんのか?? だったらアイツの手のひらで踊らされてるようで気に食わねぇな……。

 

 それに発情した女子高生2人を抱え込むこの姿を見られたら――――うん、相当マズい。教師の淫行が問題となっているこのご時世、ソファに転がっている発情娘と俺の腕に今にも絶頂に到達しそうな2人の娘。こんなの言い逃れできねぇよどうすんだ……。

 

 そして相変わらず悪い予感は当たるもので――――

 

 

「せ、先生?」

「か、かのん!? いつの間に……」

「今さっきですけど……い、一体部室で何をしていたんですか!?」

「違うっ! お前が思ってるようなことじゃない!!」

「思ってることって!? 恋ちゃんたちが顔を赤くして気持ちよさそうにしてるってことは……やっぱり!?」

「だから違うって!! つうかお前も変な妄想するなまた勘違いされるだろ!!」

 

 

 その後、千砂都までやって来て顔を真っ赤にしたかのんを見られたせいで更なる勘違いを生み出してしまった。とりあえず顔を赤くしているのは部室が暑かっただけと同じ言い訳をしたが、察しのいいかのんと千砂都を誤魔化せたかどうかは微妙なところ。

 

 ちなみにこの手は今日1日ずっとこれだったので、なるべく女の子に触れないように気を遣うのが大変だったこと大変だったこと。俺って意外と女の子と触れ合っていたんだと改めて実感した日でもあった。

 




 今回の話を書いているときに『虹ヶ咲編でも同じようなネタあったなぁ~』と思い出し、やっぱり自分は前回みたいな真面目な話よりこっちの方が好きなんだと自覚しました(笑)
もちろん前回の過去編のような普通の恋愛系も好きですが、今回のネタのような話が特別ってことで!


 スーパースター2期のPVがこれを投稿する夜にちょうど公開されたので見てみましたが、やっぱりキャラが動いている姿を見ると期待が高まります!
なんだかんだスパスタのキャラデザも虹ヶ咲と同じくらい好きなので、アニメを虹ヶ咲→スパスタで連続で見られるのは嬉しいです!





【付録】※アニメ虹ヶ咲10話の合宿回を見て思いついた小ネタ

「お兄さんも一緒に写真撮りましょう! ランジュちゃんきってのお願いなんですから!」
「俺は同好会の人間じゃないから必要ない」
「へぇ~そんなこと言っちゃうんですね。さっきのゲームで勝ったの私ですよ?」
「それがどうした?」
「みんなには私の願いを叶えてもらいましたけど、お兄さんにはまだです。ゲームの勝者は全員に1つずつお願いができる約束でしたよね?」
「がめつい奴だな。いつもお前の手助けしてやってるだろ。それでチャラだ」
「みんな~!! お兄さんとここで写真撮るから集合~っ!!」
「そんなので来るわけ――――って、お前ら全員でこっち来んな潰れるだろ――――むぐっ!!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エンドレスやさぐれモード

 冬の朝ってのは起きるのが億劫でありながら、その寒さが故に一度目覚めてしまえば身が引き締まる。って海未が言っていたのを思い出す。ただそれはド真面目な奴だからこそ身に付く習慣なのであって、朝に弱い俺からしてみれば冬の朝は地獄そのものでしかない。時間が許せばいつまでも布団に潜り込んでいたいのは穂乃果たちのような不真面目組と同じだ。

 

 しかし、社会人になったらそんな甘えは許されない。しかも教師としての立場もあるから生徒にだらしない様子は見せられず、それなりに爽やかな雰囲気を醸し出す必要がある。このご時世、教師の身なりが1つでも整っていないとクレームが付けられる世知辛い世の中なのは息苦しい。個人的にはもっと気楽に生きろとは思うけどな。世間はきちんと整っていないと気が済まない輩の多いこと多いこと。不真面目組所属にとってこれほど肩身が狭い世界はないな。

 

 そんな感じで教師である俺も寒い朝とは言えどもそれなりに身なりは整え、誰から見ても寒さや眠気に負けているようには見えないはずだ。まあ清潔感を保っているのは思春期の女の子たちを相手にするからってのもあるけどな。そりゃ男として女の子によく見られたいのは当然の欲求だろう。

 

 そう、それは教師ではなく生徒でも同じことで――――

 

 

「先生!!」

「可可か。なんだ朝から騒々しい。もうすぐ朝礼始まるぞ」

「か、かのんが……!! かのんが……!!」

「なんだ? また幽霊の噂でも出てビビって気絶したか?」

 

 

 教室へ朝礼へと向かう途中、可可が校則違反余裕のスピードで廊下を駆けてこちらに詰め寄って来た。冬の寒さがあるとは言えども朝はのどかな気分を味わいたいのに騒がしい奴だ。

 つうかコイツいつも『かのん、かのん』って言ってるな。事あるごとにかのんをよいしょして持ち上げているので、どれだけアイツのことが好きなんだって話だ。俺の知っている女の子の中にはそれなりに依存症が高い奴もちらほらいて、妙に百合百合しい奴らもいるから珍しい話ではない。まぁ好意を寄せるのは本人の自由だけど、あまりヤンデレっぽいのは扱いが面倒だからやめてくれよ。

 

 

「かのんが……かのんが……ダウナー系やさぐれヤンキーになってしまいマシタ!!」

「な、なんだ聞くだけでメンドくせぇ属性は!?」

「それはもうこの世のかのんとは思えないくらいの形相デス!! 目が吊り上がって、今にもクラスのみんなをその視線で串刺しにしそうな、そうっ、殺人鬼と化していマス……ブルブル」

「いったん落ち着け。妄想が肥大化し過ぎだ」

 

 

 そこまで自己主張の強くないアイツが不良オーラを周りに巻き散らすなんて想像できねぇんだけど……。作曲の構想を得る際にヨガのポーズをすること以外は割と常識人なので、何の理由もなしに変な奇行に走る奴ではないと思っている。

 だが可可の反応も異常であり、なにか問題が発生していることは間違いないようだ。どうやらクラスのみんなも被害を受けているようだし、ここは教師として何とかする必要があるか。

 

 

「いいから早く来てくだサイ!! ヤンキーかのんを更生させられるのは先生だけなのデスから!!」

「ちょっ、オイ!!!」

 

 

 可可は俺の手を握ってそのまま教室へ向かって走り始めた。

 更生って、俺はカウンセラーじゃねぇんだけど……。確かに過去ヤンデレちゃんたちを相手にしたことはあるにはあるが、最近の女の子はいい子たちばかりなので問題児を相手にするのは久しぶりだったりする。

 

 ったく、朝っぱらから面倒を持ち込むんじゃねぇよ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 可可に引っ張られて教室にやって来てみると、その雰囲気はいつもの平和なクラスとは一線を画していた。普段はみんな仲が良く和気藹々としているのだが、今は1人の席の周りだけ空いて静まり返っている。その席の子たちは友達に抱き着いていたり、教室の隅で震えていたりとまさに異常事態。今まで平穏しか知らなかった女の子たちの間に突如として割り込んでいた不良により、場の雰囲気が支配されている。空いた席の中で唯一埋まっているその窓際の席にかのんがいた。

 

 実際にこの目で見てみるまであまり信じられなかったが、その鋭い目つきはやさぐれヤンキーそのものだ。いつものアイツも割と女性受けしそうなイケメン美人なのだが、整っている容姿が故か不良の形相もそれなりに様になっている。ただ教室に漂わせるあの不機嫌ですよオーラは明らかにいつものアイツとは違う。まさに一触即発の雰囲気で、今もなんとかアイツの相手をして気を静めようとしているすみれが四苦八苦しているようだった。

 

 

「ちょっ、ちょっとかのん! 何があったのか知らないけどいい加減に機嫌直しなさいよ!」

「あん!?!?」

「う゛っ!? ア、アンタねぇ、いつからそんなキャラになったわけ?」

「いいじゃんもうほっといて!」

「そんな不機嫌オーラ醸し出してる奴と一緒の教室にいられないわよ!!」

 

 

「という感じで、さっきから苦労しているのデス……」

「なるほどな……」

 

 

 かのんの声はかなりドスが効いており、綺麗な歌声を発するあの口から出ている声色とは思えなかった。低い威圧感のある声、吊り上がった目、不機嫌オーラ、もはやヤンキーと呼ばれる要素は全て揃っていると言っても過言ではない。流石のすみれもこのかのんにはたじたじであった。

 

 そんなピリついた空気が流れる中、クラスのみんながようやく俺の存在に気が付く。やさぐれかのんにビビり散らかしていた女の子たちは『先生なんとかしてください!!』やら『かのんちゃんを救ってあげてください!!』などなど、俺を背水の陣の状況で颯爽と現れたヒーローかのような扱いをしてきやがる。まぁこの学校はそれなりに名門っぽいので温室育ちの子も多く、不良みたいな低俗な奴の相手に慣れてないだろうから仕方ねぇか……。

 

 

「よくここまで持ちこたえたな。あとは俺に任せろ」

「遅いわよ。それにしても、もはやスクールアイドルがしていい顔じゃないわねあの子」

「半年くらいアイツを見てきたけど、あぁなることって今まであったのか?」

「不機嫌になったときに声が低くなったりするのは知ってるけど、あそこまでヒドイのは初めて見たわよ」

「もしかしてあれがいつものかのんで、スクールアイドルをやっていたかのんは仮の姿。もしかして本心では、『へっへっへっ。今まで私の遊びに付き合ってくれてありがとよ。スクールアイドル、いいおままごとだった。これから今まで築き上げてきた友情をぶち壊して、破壊の快感を味わってやるぜ』みたいなことを……!?!? そんなかのん認められマセン!!」

「それもう不良の域超えてるじゃない……。そんなわけないでしょ」

「つうかそんな世俗塗れの妄想どこから沸いてくるんだよ……」

 

 

 コイツ海外出身のくせにたまに日本の汚い言葉遣いやオタクの言動を取り入れたりしてるよな。そういやエマも若者の独特な言い回しを覚えてたし、日本が誇るオタク文化が悪い意味で海外出身者に伝染しちゃってる気がするぞ……。

 

 それはともかく、今も現在進行形で不機嫌オーラを放っているアイツを鎮めてやるとするか。ま、俺にちょっと声をかけられるだけで頬を染めるコイツのことだ、いくら不機嫌でも俺と相対すればすぐ元に戻るだろう。

 

 

「おいかのん。そろそろ朝礼始めるから、もうふざけた真似はよせ」

「あん? ほっといて!」

「マジか……。何があったかは知らないけど、あまり周りに迷惑かけるなよ」

「は~い、善処しま~す」

 

 

 意外や意外、俺を目の前にしてもかのんの様子は何も変わらなかった。さっきすみれに応対していた時とドスの効いた声も変わらずで、いつも恋する乙女のような表情をしている女の子とは到底思えない。

 そしてこうして目の前に来て分かったことがあった。今日のかのん、様子だけではなく容姿も普段と異なっている。前髪を上げておでこを全開にしており、何より眼鏡をかけている。どちらかと言えばラフな容姿であり、まるで家でリラックスしているときのような感じだ。思春期女子なら身だしなみを整えて少しでも自分を綺麗に見せようと努力し始める大人の時期であり、加えて自分を見せる対象が俺だったらなおさら努力するはず。しかも女の子って男にあまりおでこを見せたくないと聞いたことがある。自分の魅せ方は人それぞれだけど、自分の負の面をわざわざ大勢の前で晒すのは明らかにおかしい。恥ずかしがり屋な一面を持つコイツならなおさらだ。

 

 それにしても、この様子のかのんをどこかで見たことがあるような……?

 

 

「何か悩み事でもあんのか? それとも虫の居所が悪いだけか?」

「別に。作曲に行き詰ってるとか、そんなことないっつーの」

「なるほど。アイデアが浮かばずイライラするのは分かるけど、とりあえず日中は授業に集中しろ」

「分かってま~す」

 

 

 俺を相手にしてここまでぞんざいな態度を取るって相当精神に来てるってことか? いやしっかり良識は弁えている子だから、いくら自分に悩み事があったとしても相手に当たって不快にさせることはしないはずだ。

 ということは秋葉の仕業で性格変更されてる――――ってのも考えづらい。だったアイツがやることにしては規模が小さすぎる。やるなら学校中の女の子を全員淫乱属性に変更する、みたいにスケールがもっと大きくなるはずだ。ただかのん1人だけをヤンキーに変えるなんてみみっちいことは絶対にしない。生まれたときの付き合いだからな、アイツの思考回路は良く分かってる。

 

 

「先生でも元に戻せないなんて、このままだとかのんが永遠の不良、エターナルヤンキーになってしまいマス!!」

「そうなるともうスクールアイドルは続けられないわね」

「そ、そんな!! かのんがいないLiellaなんて、具なしのナポリタン、バナナ抜きチョコバナナ、ミルク抜きミルクティーみたいなものデス!!」

「全部アンタの好きなモノじゃないの。ていうか抜いたモノが全部メインだし、例え方が下手ね……」

「それくらい可可の中でかのんはメインだと言うことデス!! あ~もうどうしてこんなにダウナー系になってしまって、可可は悲しいデス……およよよよよよ……。か、かの~ん……」

「ちょっ、泣きながら抱き着きつくな!! 暑苦しい!!」

「かのんが可可をここまで拒否するなんて!!」

「アンタのせいで余計に話が拗れてる気がするわ……」

 

 

 可可はかのんの後ろから抱き着いてギャグ風の涙を流す。今のやさぐれかのんにそんなことをしたらそれこそぞんざいに扱われるのは確定で、そう扱われたら扱われたで可可が涙して余計に抱き着く。抱き着かれたせいでかのんが更にやさぐれる。まさに負のループが形成されていた。俺もすみれも止めるのがもう面倒になって来ているのだが、教室でこんなことをやられていては授業もままならないので何とかこの事態を解決する必要がある。

 

 だけどコイツのダウナー気質がどうして治らないのかも分からないし、一体どうすりゃいいんだよ……。

 

 

「あれ? かのんの頭、大きなたんこぶができてマスよ?」

「いたたっ!! ちょっといきなり触らないで痛いんだから!!」

「昨日はそんなものはなかったと思いマスが……」

「今朝、家で頭ぶつけちゃったの! 悪い!?」

「頭をぶつけた……? 家……?」

 

 

 そうだ、家で思い出した。この様子、この容姿、どこかで見たことがあると思ったら家庭訪問をした時だ。家庭訪問とは言ってもコイツの忘れ物を届けに行っただけなのだが、何の連絡もなしに突然行ったものだから、コイツは何の準備もしてないラフな姿となっていた。俺に気付くまでは普段とは違いやる気のない声、低い声色で家族に話しかけており、まさに今のコイツそのものだった。そういや家ではダウナーな性格になるってことを誰かが言ってた気がするな、忘れてたよ。

 

 つまり今のコイツは完全オフモード。そしてそのモードのまま通学してきたってところだろう。

 どうやら自分でオンオフを制御できなくなっており、たんこぶができるほど強く頭を打ったことと関係がありそうだ。こうなったらもうコイツの関係者に直接話を聞いた方が良さそうだな。

 

 流石に澁谷家の連絡先は知らないので、可可を通じてかのんの妹である澁谷ありあに電話を繋いで貰った。

 

 

『あ~家だとお姉ちゃんはよく不良っぽくなりますね。気持ちが沈むと人に見せられないくらいにやさぐれまくりますよ』

「やっぱりか。で? 今朝かのんが頭を強く打ったってのは本当か?」

『はい。店の手伝いをしている時ですね。コーヒー豆が入った袋を棚の上から取り出そうとしたら、どうも手を滑らせてしまったらしくて……』

「その時にその袋が脳天に直撃したってわけか」

『はい。確かその時もお母さんに無理矢理手伝わされてたからか、お姉ちゃん結構なヤンキーになってましたよ』

「なるほど。それで頭を打った反動でオフモードから抜け出せなくなっているのか……」

 

 

 これで人前なのに不良モードになっている理由が分かったな。その理由は完全にギャグだけど、言ってしまえば変に悩み事があって精神がおかしくなったとか、深刻な心配事ではないのは良かったよ。

 

 

「それでコイツを元に戻すにはどうしたらいい? 家だとどうしてるんだ?」

『お姉ちゃんの好きなモノを与えてあげればいいと思います。特にハンバーグが好きなので、食べさせればすぐ尻尾を振ってすぐ笑顔になりますよ』

「慣れてるせかもうペット扱いだな……。でも今は教室だからそんなのはないぞ」

『だったら他にお姉ちゃんの好きなモノ――――あっ、先生自身ですよ!』

「はぁ!?」

 

 

 通話口から突然飛び出してきた衝撃のアイデア。俺自身をあげるって、ちょっとエロい意味に聞こえるのは気のせいか……? てか普通あげるのは女の子の方からだろ……って、今はそんなことどうでもいいか。

 

 

『お姉ちゃんってわっっっっかりやすいくらい先生のことが好きじゃないですか? だから先生から甘々な言葉をかけてあげれば、心がくすぐられてすぐ元に戻りますよ!』

「マジかよ……」

『マジです! いくらやさぐれていても心までは変わってないと思います。いやぁ~恥ずかしさで顔を真っ赤にして悶え苦しむお姉ちゃん、容易に想像出来ちゃいますよ!』

「お前、なんか楽しんでないか……?」

『まあ家ではダウナーになっているところをよく見かけますから、そういった乙女チックなお姉ちゃんを見られるだけでも楽しいんですよ♪』

「小悪魔だなお前……。分かった、適当にやってみるよ」

『この後どうなったかまた聞かせてくださいね!』

「会うことがあればな」

 

 

 そんなこんなで謎にテンションが上がっていたありあとの通話を終えた。

 とりあえずかのんを元に戻す方法は分かったが、甘々な言葉をかけてあげるって……それ愛を囁くってことだろ?? つうか最近そういうの多くね?? ついこの前も幽霊騒動で似たようなことやったばかりなんだけど……。そんな短いスパンで何度も何度も、結局気持ちが変わってなければ同じ言葉しか言えねぇからマンネリなんだよどうすんだこれ。

 

 だがそんなことを言ってられる状況じゃないので仕方ねぇか……。

 

 

「おいかのん」

「なに? まだ何か用?」

 

 

 相変わらずの不機嫌だ。ここまでやさぐれてる奴に甘々な言葉なんて通用するか分からないが、とりあえず自分なりの方法でやってみるしかないか。

 俺はかのんを窓際に追い詰める。ちょうど窓際の席だったので2人だけの空間を作り出すにはうってつけのポジションだ。突然詰め寄られたこと、逃げ場がなくなったことで流石のヤンキーかのんでも驚いているようだった。

 ちなみに教室にいるみんなが黄色い声を上げている。そういや今までとは違ってたくさんの女の子たちに見られてるんだったな。ま、気にしたら負けだから無視だ無視。

 

 

「ちょっと、なにするの」

「いいから戻って来い。俺が好きなのはいつもお前だ。今のお前もワイルドさがあって悪くないが、可愛げはないからな」

「は? 私は私なんだけど、そ、そんな可愛いって……」

「いや可愛いだろ」

「ぐっ、意味分かんないんだけど……」

 

 

 いやいやホントに効果があるとは思ってなかった。意外にもまともな反応を貰えて俺自身が驚いている。やはりいくらやさぐれても心の根底は簡単に変わるものではなく、恋愛経験がなく初心なところは不良になっても残り続けていたようだ。

 

 

「かのん」

「な、なに!? ち、近い……!!」

「俺は透き通った綺麗な声で歌うお前が好きだ」

「ひぃっ!?」

「自己肯定感が低いけど、それを理由に諦めたりしないお前が好きだ」

「んぐっ!?」

「自分の短所を乗り越えて突き進む強さを持ってることも好きだ」

「ひぎゃっ!?」

「そして俺を一途に慕ってくれていることもな」

「んがぁっ!?」

 

 

 なんかダメージを受けてるけど本当に大丈夫か?? 俺の言葉は幽霊騒動の時にコイツに伝えたこととほぼ同じだけど、誉め言葉なんてのは同じ内容を何度聞かされても嬉しいものだからな。その証拠に今もコイツの心に響いているようで、顔がみるみる赤くなっていく。いくらダウナー系ヤンキーだとしても女の子である限りは攻略できるんだよ。

 

 

「だから戻って来い。また綺麗な笑顔を、俺に見せてくれ」

「ひゃぅっ、あっ……せ、せんせぇ……」

「か、かのんの声が!?」

「低音な声色から元に戻ったわね……」

 

 

 さっきまでの低音ボイスはどこへやら、興奮を煽られた影響からか謎に媚びた声になっていた。でもその様子を見る限りではオフモードは解除され、いつもの彼女に戻っているようだ。

 かのんは力が抜けたのか椅子から倒れそうになったので、そっと抱き留めてやる。俺の腕の中で目を細めながら微笑む彼女はいつも以上に美しく、俺も自然と笑みを零してしまった。

 

 全く、面倒をかけさせる。別にこうなったのは事故だから攻めはしないが、女の子に想いを伝えるなんて行為はそう易々とやるものじゃねぇんだよ。これでも一応ムードを大切にする男なんでね。しかも以前は幽霊たちの前だったからいいものの、今回はクラスの女の子たちの真ん前だ。女の子に気持ちを届けるのは慣れてるからとサラッとやってるように見えたかもしれないけど、流石に生身の人間たちに見られるのは恥ずかしさもあった。さっきからずっと黄色い声が聞こえてたしな……。

 

 ただなんにせよこれにて一件落着だろう。コイツまだ目覚めなさそうだし、保健室に送り届けてやればミッションコンプリートだ。

 

 

「むぅ……」

「どうした可可そんな不満そうな顔をして? お前からの依頼はこれで完了のはずだが?」

「かのんだけズルいです……」

「はい?」

「そうね。何がどうって敢えて言わないけどズルいわ」

「すみれ!? って、みんな!?」

 

 

 いつもの日常に戻るかと思っていた矢先、可可とすみれ、そしてクラスの女の子たちが見せる不貞腐れた反応。もしかしてかのんだけにあんなことをやってズルいとか思ってんのかコイツら!? そりゃ別にかのんだけを贔屓するつもりはないが、あくまで応急処置で治療の一環だ。それなのに不貞腐れるなんて、おいおいマジかよ……。

 

 

「このままでは可可たち、授業に集中できマセン!!」

「そうね、教師として生徒の士気を上げるのも仕事なんじゃないの?」

「皆さんもそう思いマスよね?」

『思います!!』

「ま、覚悟することね」

「へ……えぇええええええええええええええっ!?!?」」

 

 

 コイツら、普段は羞恥心が激弱なくせに今回だけは人数が人数のせいか一致団結して強気になってやがる!! えっ、さっきの1人1人にやんのか!? いや無理に決まってんだろいい加減にしろ!?

 

 そんな感じでみんなに詰め寄られそうだったが、全力で説得したことでなんとか難を逃れた。

 この学校の女の子は恋愛下手ばかりだと思っていたが、共謀するとここまで強気になれるんだな肝に銘じておくよ。やはり俺の関わる女の子たちは心の奥底で肉食系の性格を隠し持っているのかもしれない。これからは下手に女の子にお気持ち表明するのは避けるかな……。

 




 やさぐれかのんを勉強するためにアニメの該当シーンを見直したのですが、想像以上に不良っぽくて普通に話のネタが沸いてきました(笑)
女の子がオフの時にラフな格好で、言動も荒っぽくなる様子は意外と好きだったりします。死語ですがギャップ萌えって言うんでしょうかね?



【付録】※アニメ虹ヶ咲11話を見て思いついた小ネタ

「私もたまにテストで赤点になりそうなときがあるのでヒヤヒヤしますよ。でも今回はかすみちゃんも果林さんも無事に切り抜けられて良かったです」
「結構勉強してたもんな。結局アイツら何点だったんだ?」
「かすみちゃんも果林さんも55点で赤点回避でした。かすみちゃんとか55でゴーゴー、つまり幸先がいい点数だってむしろ喜んでましたよ」
「1年生はいいにしても、3年生のこの時期にその点数はヤバくねぇか?」
「言わないであげてください!! それだけは!!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

先生へのお見舞い?立ちはだかるSister!

 澁谷かのんです。

 結ヶ丘は先日から冬休みに突入し、学生にとってはひと時の休息期間となった。最近は日中は授業、その他の時間はスクールアイドルの練習や作曲に時間を全て捧げていただけあって大変だったら、ここでゆったりできるのは本当に助かるよ。でも逆に冬休みで時間が余っているからこそ練習のやりどきであり、それで結局学校にほぼ毎日集まってるから生活習慣的には授業がある日とあまり変わらなかったりする。それでも好きなことに1日没頭できて楽しいから、普通の学校生活よりも充実している感はあるかな。とか言っちゃうと授業がつまらないとか思われそうだけど、それはそれ、これはこれってことで。

 

 それに練習があると言うことは、それだけ先生と一緒にいられる時間も増えるということ。零先生は私のクラスの担任だからいつも一緒と言えばそうなんだけど、やっぱり身近で見守ってくれる練習の時間の方が好きだったりする。先生は普段から私たちのことをよく見てくれているけど、練習の時の方が距離が近いからなんだかこう、嬉しい……かな。先生が近くにいてくれると自然とやる気も上がるし、心なしか発声や動きのキレも一回り良くなる気がする。それはみんなも同じようで、先生がいないからと言って練習の手は抜かないけど、いる時の練習の質の良さはいない時よりも確実に上。そう考えると、先生が顧問になってくれて本当に良かったよ。

 

 だけど、今日はいつもとは違う日常で――――

 

 

「かのんちゃん、頑張って! いやぁ~幼馴染がこんな大役を任されて私も鼻が高いよ!」

「かのんさんはいざという時にしっかり決めてくださる方だと、私もよく知っていますから」

「ほら、なにグズグズしてるの。こんなところで立ち往生してたら不審者に思われちゃうでしょ」

「今こそ部長としての誇りと意地を見せるときデス! かのんならやり遂げられると信じてマスから!」

「…………」

 

 

 私っていつもみんなからやたらと持ち上げられることが多いけど、それってまさか危機的状況に陥ったときに私に振るための策略だったんじゃないの!? いつも持ち上げてあげてるんだから今回も代表でお願いって、それ逆にいいように使われてない!? もしそうだったらみんなこと信じられなくなっちゃうよ!? それに持ち上げられてる理由もカリスマ性があるとかヒロインっぽいとか、私に到底不釣り合いな属性ばかり付与されてるんだけど……。

 

 みんなが私の背中を無理矢理押すのも無理はなく、目の前にそびえ立っている建物――――先生の家を見たら怖気づかざるを得ない。

 私たちが先生の家に来た理由はただ1つ、先生のお見舞いをするため。実は先生が風邪で寝込んでおり、症状は軽いらしいけど心配で練習にならなかったので思わずみんなで押しかけてしまった。理事長さんから先生の家の住所を聞いてその前まで来たまでは良かったものの、いざインターホンを押そうとすると指の震えが止まらない。だから他の誰かに押してもらおうと思ったんだけど、それからの流れはさっきの通りで……。

 

 

「や、やっぱり帰らない? ほら、寝てるかもしれないし、ご家族にご迷惑になるかもしれないし……」

「ここまで来て何を言っているのデスか!! そんな臆病なかのん、可可は……可可は見たくありマセン!!」

「なんで泣いてるの!?」

「かのんちゃん……。私たちを逞しく先導する、カッコいいかのんちゃんが見たい!!」

「アンタはここで立ち止まる人間じゃないはずよ。臆病風に吹かれて逃げる人間でもないわよね?」

「かのんさんの前には無限に道が続いています。故に常に走り続けられる、つまりずっと成長し続けられるということです」

「みんな都合のいいこと好き勝手言い過ぎじゃない!? ホントに帰るよ!? いいよね!? ねぇねぇ!?」

 

 

 もう完全に他人事だと思ってるよねみんな……。確かにお見舞いに行きたいって最初に言ったのは私なんだけど、やっぱり言い出しっぺっていいことがない。そもそも私が言い出した後にみんなも『自分もそう思っていた』って言ってたから、私に全てを委ねる権限は誰にもないと思うんだけど……。

 

 

「そ、そんなヒドい!! かのんちゃん、先生を見殺しにしちゃうんだね……」

「意外と薄情だったのね、アンタ……」

「可可はそんなかのんを見たくはありマセンでした!!」

「何事も突き進むだけが正解とは言えません。時には立ち止まることも必要でしょうから、私は責めないですよ……」

「ねぇそろそろ怒っていいかな!? いやもう怒ってるけどね!?」

 

 

 みんなの口角が少し上がってるから、もう私の反応を見て面白がっているのは確定だ。私は自分のことをそれなりに温厚だと思ってるけど、そろそろ怒っていいかな? いいよね?? みんなのイタズラな笑顔が憎い!!

 

 みんなに煽られはしてるけど、先生のことが心配なのは満場一致だと思っている。だからご迷惑でなければ先生のお見舞いをしたいんだけど、ご家族に会うのは初めてだから緊張しちゃうんだよね……。秋葉さんがいたら見知った関係なので話しやすいんだけど、最近はまた海外に行ってるって話だから今は家にいないはず。生徒が教師のお見舞いって変に思われないかだけが心配だよ。それに人の家の前でこんなに騒いでいたら――――

 

 

「なに? ウチの前で何してんのあなたたち」

「ひぃっ!? ゴ、ゴメンなさい怪しい者じゃありません今すぐ帰るので!!」

 

 

 みんなも私と同じく声を上げて驚いている。どうやら周りに迷惑なくらいに騒いでいる認識はあったみたい。

 先生の家の前で突然声をかけられた私たち。ウチと言っていたのでこの家の人、つまり先生のご家族と見て間違いない。

 

 それにしても、すっっっっっっっごい美少女さんだ。女の私ですらその魅力と容姿に目を奪われ、みんなも目の前の女性を見たまま固まっている。アニメや漫画の世界で描かれるような非の打ち所がない美少女さんで、この人が少し街を歩くだけで男性の目を引きまくるに違いない。歳は私たちよりも上、恐らく大学生くらいかな。茶髪でウェーブのかかった長い髪、スタイルの良さ、そしていい匂い。こんな評価をするなんて変態さんみたいだけど、そうなってしまうくらいに綺麗なんだもんこの人。

 

 

「もしもし警察ですか? 家の前に怪しい女が5人も押し寄せて来てるんですけど……」

「「「「「ちがぁあああああああああああああああああああああうっ!!」」」」」

「分かってるようるさいなぁ~もう……」

 

 

 案の定と言うべきだけどまさか通報されそうになるとは……。と思ったけど、どうやら通報するフリだったらしい。なんか私たちの扱いに手慣れている気がするけど気のせいかな……?

 とにかく手慣れてるにせよなんにせよ、怪しい者じゃないって誤解を解かないと。

 

 すると、恋ちゃんが一歩前へ出た。

 

 

「お騒がせしてすみません。私、結ヶ丘女子高等学校のスクールアイドル部の葉月恋です。こちらも同じ部活の仲間です。顧問である神崎先生がご病気でお休みになられていると聞いたので、お見舞いをと思いお伺いしました。ただ事前に連絡もせず、いきなり押しかけてしまったのは申し訳ございません」

「おぉ~っ! 流石はレンレン!」

「これぞ生徒会長って貫禄だね!」

「だから言ったのよ、最初から恋に任せておけばいいってね」

「いや裏切るの早いよ!! さっきまであんなに持ち上げてたのに!! やっぱり怒るよ!?」

 

 

 もうこれ最初から恋ちゃんでよくなかった!? 私なんかよりも圧倒的に礼儀正しいし、今みたいなお堅いお作法も知っているので、初対面の人を相手にするならまず恋ちゃんをぶつけた方が印象が良くなるはず。でも恋ちゃん自身も流石に先生の家に上がる込むとなれば緊張していたのかもしれない。今は緊急事態だから誰かが何かを弁明しないと今度は本当に通報されそうだったしね……。

 

 

「なるほど。またスクールアイドルか……」

「えっ? またって?」

「別に、こっちの話。で? お見舞いしに来たの?――――お兄ちゃんの」

「「「「「お、お兄ちゃん!?!?」」」」」

「だからうるさい……」

 

 

 家族の人だとは思ってたけど、まさか先生の妹さんだったなんて……。そういえば妹がいるって何回か聞いたことがある。先生のお昼のお弁当は毎日妹さんが作っているらしい。そう考えると、こんなに美少女で料理もできる献身的な妹って女の私からしても凄く羨ましいって思うよ。別に妹のありあのことを悪く言ってるわけじゃなく、一般的な考え方でね。

 

 

「先生にはいつもお世話になっていマスし、ご迷惑でなければ少しだけでもいいのでお見舞いしたいと思いマシて……」

「よくまぁ毎回こんなぞろぞろと。相手をするこっちの気持ちにもなって欲しいよ……。でも、どうせならちょっと楽しませてもらおうかな……」

「えっ?」

「いやこっちの話」

 

 

 なんだかさっき黒い笑みが見えたような気がしたけど、流石に気のせいだよね……? こんな美少女で兄である先生に献身的な妹さんなんだもん、優しいに決まってるよ。

 

 

「残念ながら、お兄ちゃんは面会謝絶なの」

「えっ!? そんなに重い病気なんですか!?」

「いや、1日休めば治るくらいには軽いよ。ただ私がそうしてるだけ」

「ど、どうして……?」

「ま、まさか先生……自分の部屋を見られるのが恥ずかしいとかデスか!?」

「ありえるわね。女性慣れしているように見せかけて、裏では意外と変態、しかも特殊性癖の持ち主であらぬ大人のおもちゃが転がってるとか……」

「そ、そんな破廉恥な!! でも時折ですが色男を感じさせる言動もありますし、もしかして……」

「虹ヶ咲の人たちのコーチをしてたって言ってたもんね。女性付き合いが豊富だからありえなくはないのかも……」

「よく自分の先生に対してそこまでの被害妄想ができるね……。ま、お兄ちゃんだから仕方なくはあるけど……」

 

 

 妹さんにまで認められるほどの女性付き合いなんだ先生って……。みんなの言ってることは確かに過剰だけど、そう考えてしまうくらいには先生は普通の男性じゃない。女性への対応には自信満々って言うか、どこか尊大な態度が垣間見えることがあるから女性扱いが手慣れていることは分かる。虹ヶ咲の方たちと知り合いだけじゃない、もっと様々な女性経験を積んでいるような気がするんだよね。もちろん私の想像でしかないけど、いつも女性に対し自信満々な先生を見ているとそう思わざるを得ない。

 

 

「そもそも一般の生徒ごときが教師のお見舞いに来るなんて普通のことじゃないよね? そこまでお兄ちゃんのことが好きなんだ」

「「「「「好きぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?」」」」」

「いやだからうるさいって……。ていうか顔赤すぎるんだけど、好きって言葉だけで恥ずかしがり過ぎでしょ……」

「す、好きとかそういうのではなくて、普段からお世話になっている先生というのもありますし、いつもご健康そうな先生が病に伏せたと聞いて心配になってしまいまして……」

「べ、別に私は心配してないんだけど、みんなが行くってなったら練習もできなくなるし、仕方なくよ、うん!」

「先生って面倒見もいいし、頼れるお兄さんっぽく見えるから家族みたいで……。そうっ、家族のお見舞いに来てる……みたいな? ね? かのんちゃん!」

「ちぃちゃん!? えっ、そ、それはまぁ……先生みたいな頼りがいのあるお兄ちゃんがいたらいいなぁ~とは思うけど……」

「…………お兄ちゃんに欲しいねぇ」

 

 

 あ、あれ? 私たちなんか地雷踏んだ? 妹さんの雰囲気がおどろおどろしくなったような……。また騒いじゃったから怒ってるのかな……?

 一応お見舞いに来た理由も、お兄さんとして欲しい気持ちも嘘ではない。それが本心というのが妹さんに伝わっているのかは分からないけど、何か怒らせること言っちゃったかな……?

 

 

「残念ながら妹は私1人で十分。でもお兄ちゃんの周りには妹系の女がやたら増えてるから、実妹からしたら困ったものだよ。また真の妹を教えてあげなきゃいけないのが面倒で面倒で」

「えぇ~っと、どういうことですか……?」

「ま、高校生のひよっこごときに熱くなる必要もないか。とにかく、家に入るのはダメ。持ってきたものがあるなら私から渡しておくから」

「えぇっ!? どうしてですか!?」

「風邪がうつったらどうするの? スクールアイドルってのは健康第一。もし風邪が治っても身体が上手く動かないってことはザラにあるし、激しい運動でぶり返すこともあるから1日で治りそうな軽い風邪でも安心できない。そんな危険にあなたたちを晒せるわけないでしょ。それにあなたたちが病に伏せったら、一番心配するのは誰だと思う?」

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

 あれ、意外にも私たちのことを心配してくれてるんだ。妹さんもどこか先生と同じような性格、言ってしまうと上から目線の言動が似ていると思ったから驚いちゃった。尊大な態度だけど意外と優しいところも兄である先生と似ているのかもしれない。

 

 そして、そう思ったのはみんなも同じみたい。さっき妹さんに諭されたとき、まるで先生に言われたかのような説得力があったもん。兄妹で似ているのか、先生の面影を感じちゃった。それにスクールアイドルとしてのシンパシーも感じて――――って、あれ? どうしてスクールアイドルが出てきたんだろ……?

 

 ちょっとした疑問が晴れぬ中、妹さんの言葉に納得した私たちは持ってきた手土産を渡した。渋々とかではなく、お互いに元気な姿でもう一度会うことを夢見てのことだから問題ない。こう言っちゃうと先生が重い病気みたいだね……。

 

 

「確かに受け取ったよ。それで、お兄ちゃんに言うことは?」

「先生に早く元気になっていただいて、また一緒に部活がしたいデス!」

「アイツの体調の悪そうにしてるとこっちも調子でないから、早く元気になりなさいよね」

「先生の笑顔がないと全然テンションが上がらないので、またその笑顔を見せてください!」

「今はご安静に。元気になられましたら、また私たちを近くで見守ってください」

「私、また先生にお会いできる時をずっと待ってます!」

「なんかお兄ちゃんが今にも死んじゃいそうな感じだね……。でもまぁ、それだけ愛されてるってことか。全くお兄ちゃんらしいというか、この子たちも本当に……」

 

 

 妹さんは笑みを浮かべていた。

 確かにアニメや漫画だったら最終回近くのクライマックスみたいな雰囲気。でも実際にはただの風邪なのでスケールが大きすぎたけど、それくらい私たちは先生を心配している。だって今まで休んだことも体調が悪そうな様子も見たことがなかったため、体調不良と聞いたら心配してしまうのは当然のことだよ。

 

 そして妹さんのさっきの言葉。愛されることがお兄ちゃんらしいって、やっぱり女性関係は豊富なんだ。しかもそのみんなから慕われているらしい。侑さんも言ってたけど先生は虹ヶ咲の皆さんからの信頼も厚いみたいなので、もしかしたら私たち以外にも家に女性が押しかけていたのかも……? 『また』とか言ってたしね。

 

 そんな感じで結局先生に直接会ってお見舞いはできなかったけど、妹さんを通じて想いを届けることができたのでとりあえず良かったかな。インターホンを押すのに緊張し過ぎてあのままだと帰ってたかもしれないから、声をかけてもらえて逆に助かったかもしれない。

 

 そして、その帰り道――――

 

 

「どうしたの可可ちゃん? さっきからずっと考え事をしてるみたいだけど……」

「先生の妹さん、どこかで見たことがあるような気がしマス……」

「綺麗な人だったし、もしかしたらモデルさんとかやってたりするのかな? だったらテレビや雑誌とかで見たことがあるかもしれないね」

「う~ん……」

 

 

 そして、私たちが帰ったあと――――

 

 

「ふぅ、一応追い返せたみたい。あれで良かったんでしょ、お兄ちゃん」

「あぁ、ありがとな――――楓」

「あの子たちが心配してお見舞いに来ることを予想していて、風邪をうつしたくないから来るなと自分で言っちゃうと突っぱねてるみたいで悲しませるかもしれないから、その役目を私に振った。たまに不器用になるよねお兄ちゃんって」

「うるせぇ……」

「フフッ♪ それに自分の名前を明かすなって無茶な命令も完遂させてあげたんだから、感謝してよね」

「してるしてる。お前の名前がバレると俺がμ'sと関係があるってこともバレかねないからな」

「でも私、あの子たちになら話していいと思うよ。いい子たちだったから」

「そうだな。ま、タイミングを見て話すよ」

 

 

 そのあと、妹さんが先生に聞こえないくらいの小声で――――

 

 

「気付いちゃうよ恐らく。お兄ちゃんとあの子たちの距離、あまりにも近すぎる。さてどうするのかな、お兄ちゃん♪」

 




 Liella編でも楓がまともに本編に登場しました! 1回出演したことはあったのですがチョイ役な上に、今回で初めてLiellaの面々と出会うことになったので初登場と言っても過言じゃないかも……

 こうやって楓を見てみると、高校生時代に比べてかなりおとなしい子になったなぁと思います。スクフェス編で梨子を家に誘った時もそうですが、意外と面倒見がいいのも兄と同じ性格で、どこか上から目線な態度も似ているので流石は兄妹って感じです(笑)




【付録】※アニメ虹ヶ咲12話を見て思いついた小ネタ

「2週間とは言え歩夢と離れ離れかぁ~」
「寂しいのか?」
「吹っ切れはしましたけど少しはまぁ……。お兄さんはそういう気持ちになったことありますか?」
「ないね。離れていても心は隣にいる。それに離れるソイツが自分の夢を追いかけているのであれば、俺は全力で応援するよ。だってソイツが夢を叶えて自分の魅力を上げれば上げるほど、俺の自尊心はより高まる。自分の女の子が魅力的になればなるほどな。だから応援するっつっても俺のためでもあるんだ。ま、俺がやる人助けもみんな自分のためだよ」
「とか言いながらちゃっかり背中を押してくれるんですよね。本当にお兄さんはお兄さんです♪」
「なぜここで微笑む……」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】ファーストライブ後の侑

 今回は虹ヶ咲アニメ2期が最終回を迎えた記念の特別編です。
 時系列的にはアニメ2期最終回のファーストライブ直後のお話となっています。
 アニメ準拠のお話ではありますが、この話自体は零&侑のW主人公がメインのため、アニメの設定よりもこの小説の設定の方が強いので予めご理解ください。


「えぇっ!? お兄さんがいない!?」

「うん、どこを探してもいないの。携帯に連絡してるけど反応ないし……」

 

 

 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のファーストライブが終了し、その片づけをしている最中ってときにお兄さんが行方不明になっているらしい。歩夢もみんなも片づけを手伝いながらお兄さんを探し回っており、携帯に連絡を入れてるけど音信不通。もうこんなに忙しいのに何やってんだろうあの人は……。

 

 

「侑ちゃんお願い! ここは私たちで片づけるから、侑ちゃんは零さんを探して!」

「えっ、私が? 歩夢たちのことだから、いち早くお兄さんに会ってライブの感想を聞くかと思ったのに」

「それは――――侑ちゃんも同じだよね」

「へ……?」

 

 

 何故かにっこりと微笑む歩夢。私がお兄さんにライブの感想を? いやいやライブをしていたのは歩夢たちであって、私はただの裏方だ。とは言いつつも流れでステージに上がってスピーチしちゃったけど、あれこそ完全な流れであり別に感想を求めるほどのことでもない。それなのにこの笑顔、ちょっと怖いんだけど私でも気づいていない何かを見透かされてる……??

 

 

「ねぇ歩夢、同じってどういう――――」

「あっ、せつ菜ちゃんに呼ばれてる。ゴメン侑ちゃん! 片付けに戻るから零さんをお願いね!」

「えっ!? ちょ、ちょっと歩夢!」

 

 

 歩夢はそそくさと片付けに戻る。なんか上手いことはぐらかされた感じがするけど……。

 とにかく依頼されたからにはお兄さん探しをやるしかない。あの人のことだ、どこかでサボっているに違いないよ。自他共に認める俺様系でご主人様気質だから片付けなんて雑用は絶対に自分から進んでやるわけがない。だけど忙しそうにしている女の子を放ってはおけないタイプでもあるから近くにはいるはずだ。

 

 …………なんか私、お兄さんのことを分かり過ぎてない?? 私もお兄さんの行動が段々と手に取るように分かってきている。そこまで来るともうただならぬ関係のような気がしてちょっと複雑。嬉しく……はない。うん、嬉しくはない!!

 

 そんなわけでお兄さんを探すことになった私。

 全く、みんなライブの後なのにも関わらず頑張ってるのにサボりとか、見つけたら背中を蹴ってでも手伝いをさせてやる。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「いやホントにいたよ……」

 

 

 ファーストライブの会場近く、川が見える近くのベンチにお兄さんがいた。寝てる状態で――――

 って、何やってんのこの人。みんなライブの後で疲れてるんだよ!? 疲れてる状態で片づけを手伝ってるんだよ!? それなのにサボって昼寝だなんて中々の根性してるよホントに! 

 

 そうは言ったものの、お兄さんだからの一言で説明が付き、私自身もそれで納得しちゃっている。お兄さんの世界は当然お兄さんが中心。傍若無人に振る舞っても許される。そしてその世界にもう慣れちゃってる私自身が一番怖いかも……。

 

 

「お~い、お兄さ~ん」

「ん……」

「起きてくださ~い。もうっ、起きろ~~」

「ん……? 侑……? ふわぁ~……」

 

 

 大きなあくびをしながらお兄さんが目覚める。あくびって世間的にあまり人には見せたくない行為だと思うから、それを私の前で堂々とやるってことはそれだけ信頼されてるってことかな。ただ子供としか見られてなくて嘗められているだけかもしれないけど……。

 

 

「なんだ? もうライブは終わったのか?」

「とっくに終わってますよ!! ていうかどうしてこんなところで寝てるんですか!?」

「疲れたからな。騒がしいところにいると精神も体力も摩耗する。それでここで休んでたらウトウトしてきて、気づいたら寝てたんだ。悪いか?」

「悪くはないですけど、歩夢たちが心配してましたよ」

「なるほど。だからお前も心配して駆けつけてくれたってわけだ」

「いや私は歩夢たちに頼まれたからで、お兄さんを探しに来たのは仕方なくですよ仕方なく。いつもいつも変な自惚れしないでください」

 

 

 自分の都合のいいように物事を解釈するのもお兄さんの性格だ。そのせいで私がお兄さんに気があるみたいに思われてしまう。別に私はお兄さんのことが好きではない。それなりに頼りになる年上のカッコいい男性ってだけで、それ以外に他意はない。いやホントに。

 

 相変わらずのお兄さんの自由奔放さに呆れていると、携帯が震えたことに気が付く。見てみるとお兄さんが私たちのグループチャットで生存報告、もとい昼寝から起きた報告のメッセージを送ったところだった。みんなからの返信内容は『おはようございます!』だの『早く戻ってきてライブの感想聞かせてください!』だの、誰1人として昼寝をしてサボっていることを咎める子はいない。まさにここがお兄さんワールドの中なんだと実感する。

 

 つまり、常識人は私だけ。分かってはいたけど、最後の砦としての責務は絶対に果たしてみせるんだから!!

 

 

「ほら、起きたのなら早く戻りますよ。まだ片付け終わってないんですから」

「やだね。俺は虹ヶ咲の人間でも同好会の一員でもない。強いて言うのであれば、主様だ」

「なんだか今日はやけにオラオラ系に拍車がかかってませんか……?」

「寝起きだからな。頭が回らないせいで反射的に言葉を放っちまう」

「へぇ、そんなものなんですね……」

「嘘だ」

「なんですか、もうっ……」

 

 

 寝起きだからか冗談も煽りも容赦ない。お兄さんは寝起きが結構悪く、眠気があると感情の起伏が激しい。以前に歩夢とお兄さんの家に泊まったことがあったけど、あの時も寝ているお兄さんの隣で騒いでたら妹の楓さん共々怒られたことがあったっけ。まああれは騒いでた私たちが悪いけど、あまり怒らないお兄さんがあそこまでキレるなんて思ってなかったから驚いた。今回もそんな感じだと思ったんだけど、どうやら今は冗談を言えるくらいには上機嫌らしい。

 

 ていうか、女性が男性の寝起きの様子を知ってるって、これもうただならぬ関係なのでは……??

 

 それにだよ、私ってばナチュラルにお兄さんの隣に腰かけている。なんでだろう、ライブが終わっても熱気が冷めずに活力全開だったのに、お兄さんの顔を見た瞬間に肩の力が抜けちゃった。お兄さんの隣にいると安心するって言うか、なんだかんだ言いながらも2人でお話しできる時間が好きなのかもしれない。お兄さんのことが好きってことじゃなくて、お話しするのがってことだけどね。

 

 

「柄にもなく興奮しちまったから、疲れて眠くなったんだろうな」

「お兄さんがライブでですか? 珍しいですね」

「ちげーよ。いつも言ってるだろ、俺はスクールアイドルやライブとかには興味がない。俺の目に適う魅力的な女の子が好きなんだ。その女の子たちがたまたまスクールアイドルをやってるだけだよ。アイドルとはいえ、アイツらは俺のモノ。つまり、アイツらが輝けば輝くほど、魅力を増せば増すほど俺の自己肯定感も高まる。自分の隣にいる女の子たちがこれだけ魅力的なんだって大衆に見せつけられる。アイツらにとって観客やファンは確かに大事ではある、当たり前のことだ。だけどアイツらが一番好きなのは俺なんだよ。一番である俺のために輝きも魅力も可愛さも、何もかも全力で曝け出す。そう考えるとゾクゾクするだろ? そんな奴らを俺だけが好きにできる。その優越感こそ至高の喜びだ。だからアイツらがライブで魅力を発揮するのが堪らなく嬉しいんだよ。それが俺の夢でもあるしな」

 

 

 結局いつものお兄さんだった。相変わらず横暴な考えだけど、不思議と嫌悪感はなくむしろ安心してしまうくらいだ。そう思っちゃうあたり、最後の砦とか言っておきながら私ってもう非常識人なのかも……。

 

 お兄さんの眼がギラついている。お兄さんが自分の夢を意気揚々と語るときはいつもこの瞳になる。自分の中のご主人様気質がくすぐられると興奮して、すぐ感情が昂るのはお兄さんの悪い癖だ。

 だけど、その意志の強い瞳に私は虜になってしまいそう。お兄さんは自分の夢、自分の周りの女の子を最高級に輝かせるという夢のために一切の妥協はない。今回の歩夢たちのファーストライブはその『輝き』を見せる点において最初の通過点だったと思う。それが見事に達成され、歩夢たちの最上級の魅力をたっぷり味わったことでお兄さんも満足しているのだろう。

 

 悔しいけど、その気持ちは分かる。私たちも歩夢たちが今までよりももっともっと輝いてる姿を見て舞い上がっちゃったから。ベクトルは違えど、私とお兄さんの夢は似ている。そしてその夢をお兄さんは全力で成し遂げたんだ。その逞しい意志の強さには虜にもなるし憧れもする。そして、私から見てもお兄さんは魅力的に見え、そんな強い男性の近くに、隣に寄り添っていたくなる。

 

 

「おい、なに笑ってんだ?」

「いや、ホントにお兄さんはお兄さんだなぁ~って」

「何もかも分かったような顔しやがって。彼女面どころか熟年夫婦みたいじゃねぇか」

「お兄さんが私に何もかも曝け出しすぎなんですよ。そこまで私を信頼してるんですか? たくさんの女性と関係を持っていることを、誰かにバラすかもしれないのに……」

「自分で言っておきながらそんなことしねぇだろ? それにお前も俺のモノだ。誰かにバラすなんて余計なことすら考えられなくしてやるよ。お前は俺と、自分の夢の2つだけに目を向けてりゃいい」

「お、俺のって……。全くもう……」

 

 

 これもうお兄さん完全にデキ上がっちゃってるなぁ……。もう自分の欲望を何1つ隠そうとしない。そのせいで私の心も変に高鳴っちゃうから勘弁して欲しいよ……。別にお兄さんのモノになろうだなんて思ってないし、別に嬉しいとも思わない……多分。

 

 だけどもしお兄さん以外の男性とお付き合いすることがあるかと言われたら……ない、かな。自分の近くにいる男性はお兄さんで十分って言うか、お兄さんの欲望を今みたいに受け止めるだけで精一杯で他の男性に構っている暇はない。私にそういった考えに至らせているのもお兄さんの男性としての強さなのかもしれないね。本当にどこまでも迷惑な人だよ、お兄さんは。

 

 

「だったらなおさら歩夢たちのところに行ってあげてくださいよ。お兄さんのことをずっと待ってるんですから」

「そうだな。でも俺が興奮したのは歩夢たちだけじゃないぞ。お前もそうだ」

「えっ、私ですか!?」

「あぁ。お前も自分の夢を1つ叶えただろ。みんなの輝く手伝いをするって大きな目標をな。それにアイツらのソロ曲も作って、ピアノも演奏して、ファーストライブに込めた想いをステージ上で見ている人たち全員に伝えて、お前も歩夢たちに負けないくらい魅力的だった」

「ちょっ、やめてくださいよ!! わ、私なんてそんな大したことは……」

「言っただろ、俺が興味があるのは魅力的な女の子だけだってな。それはお前も例外じゃない」

「ッ~~~~!?」

 

 

 いや絶対に顔真っ赤っかだよ私!! 今思い返すといきなりステージに上がったあの流れは結構恥ずかしい。あの時は勢いのままだったから何も感じなかったけど、お兄さんに魅力的だとして見られていたんだと思うと羞恥心がくすぐられる。歩夢たちにはスクールアイドルと変わらないとか言われちゃったけど、私はメインヒロインを張れるほどの器じゃないと思うんだけどなぁ……。

 

 

「間違いなくお前はヒロインだった。俺のな」

「うぇっ!? 心読んでるんですか!?」

「知るか。俺がそう思っただけだ。それに自分がメインじゃないとか思ってるのなら考えを改めた方がいい」

「えっ?」

「ここまで頑張って来たじゃねぇか。目に(くま)ができるほど慣れない作曲を頑張って、ファーストライブを企画して、最前線でライブを盛り上げた。これだけ大規模なライブを成功させるためにたくさん悩んだだろ? たくさん頭を捻っただろ? たくさん苦労しただろ? その中でたくさんの不安もあったはずだ。でもお前はライブを成功に導いた。だから自分自身をもっと誇れ。自分をもっと褒めろ。もし自分で褒められないのなら――――」

「ひゃっ!?」

 

 

 お兄さんは隣に座っている私を抱き寄せた。

 

 

「俺が褒めてやる。よくやったな、侑」

「お、お兄さん……」

 

 

 心が溶かされていく。ようやく理解した、歩夢が言っていた『侑ちゃんも同じ』って言葉の意味が。

 私もお兄さんに褒められたかったんだ。もちろんファーストライブを企画したのも作曲をしたのも褒められたいからじゃない。みんなのため、自分のため、それは分かってる。でも、それでも褒められると嬉しい。それがお兄さんにならなおのことだ。お兄さんの言う通り、ここまで何度も何度も苦労した、大変だった。だからこそ、自分を認めてもらうのが嬉しいんだ。私にとって1つのゴールを、お兄さんは祝福してくれた。

 

 

 思わず、涙が零れる。

 

 

「うぅ……わ、私、歩夢たちのライブが成功して本当に嬉しかったです! そしてみんなが私の曲を歌ってくれて、ファンや観客のみんなが盛り上がってくれて嬉しかった! 心のどこかで不安もありました。もしかしてどこかで失敗したらどうしようって! でも……でもやり切りました! 私、最後までやり切りました!」

「あぁ、すげぇよお前。お前こそ俺の相棒として相応しい。よく頑張ったな」

「お兄さん……うぅ……あ、ありがとうございます! うぅ、うっ……っ!!」

 

 

 こちらからもお兄さんの胸に顔を埋めて泣いてしまう。普段ならこんな痴態を晒さないけど、今日だけは特別だ。お兄さんも私を更に強く抱き寄せて、頭を撫でてくれた。

 みんなと一緒に考えたライブ企画。上手く行くだろうとは思っていた反面、やはりどこかで不安もあった。だけどみんなにその不安が伝染するといけないから、それを吐き出すわけにはいかない。だから自分の中で芽生えた僅かな不安を誰にも悟られぬよう押し殺していた。そして最終的にはライブは成功し、心は解き放たれた。ただ、それと同時にひた隠しにしていた不安も表に出てきてしまう。行き場のなくなった不安だけが私の中で渦巻いて、素直に成功を喜んでいいのかそわそわしていた。

 

 だけど、全部お兄さんが解放してくれた。私の嬉しさも不安も、何もかも包み込んでくれた。全て肯定してくれた。全て褒めてくれた。そのおかげで私の流浪していた不安は全て安心に代わり、涙として外に放出される。

 

 そう、私もお兄さんを求めていたんだ。自分が掴み取ったトキメキを、お兄さんに認められ、褒めてもらいたかったんだ。私のことをずっと近くで見守り続けていたお兄さんにだからこそ、褒められるとこうして感情が溢れてきてしまう。恐らくお兄さん以外に祝福されてもこうはならなかったと思う。

 

 その後、羞恥心とか何もかもをかなぐり捨てて全力で泣いた。お兄さんは、黙ったままずっと私を抱き寄せてくれていた。ライブの熱気とはまた違う、優しい温もりを伴って――――

 

 

 そして――――

 

 

「う~~~んっ、泣いた泣いたぁ~っ!! これでスッキリしました!」

「そりゃ良かったな。てかここまで服を濡らされるとは思ってなかったぞ……」

「女の子から出た体液なんですから、お兄さんの大好物ですよね?」

「そうだな、大好き大好き」

「さっきのを歩夢たち1人1人に言ったらもっと涙を貰うと思いますよ」

「だろうな。服がびしょびしょになっちまう」

 

 

 私たちは微笑み合う。やっぱり、お兄さんとこうしてお話しできるのは楽しいな。お兄さんは認めてくれるし激励してくれるし褒めてくれるしで、自分という存在を肯定されているような感じがして気持ちがいい。だからこそ夢に向かって恐れず手を伸ばそうと思える。お兄さんが見守ってくれるって分かってるから。

 

 そう、だから私も――――

 

 

「ん?」

 

 

 私はベンチから立ち上がると、座っているお兄さんと向かい合うように立った。

 そして、手を差し出す。

 

 

「お兄さんには今回もたくさん助けられちゃいました。だから次は私がお兄さんの夢をお助けします。いいですよね? なんたって私は、お兄さんの相棒なんですから!」

「!? ったく、お前も相当ズルい奴だな……」

 

 

 と言いながら、お兄さんは微笑みながら私の手を取る。そして私は強く握り返す。

 私は見てみたい。お兄さんの夢がどこまで行くのかを。いや、もしかしたら終わりのない夢かもしれない。でもそれだったらずっとお兄さんの隣にいればいいだけだ。お兄さんが私を魅力的だと言ってくれたのと同じで、私にとってもお兄さんは魅力的だから。

 

 ま、それはそれとして――――

 

 

「おい、手を握る力が強すぎる気がするんだが??」

「このまま連行です。まだ片付けの途中ですから」

「いや行かねぇっつたろ!? つうかいい雰囲気だったのにここでぶち壊すか普通!?」

「ほら行きますよ! みんな待ってるんですから! 今のうちに歩夢たちへの感想、たくさん考えておいた方がいいですよ?」

「おい話を聞けって! お~いっ!!」

 

 

 私はお兄さんの手を引いて走り出す。

 お兄さんは私の喜怒哀楽の全てを受け入れてくれる。私が掴んだトキメキを隣で一緒に感じてくれる。そして、お兄さんからもトキメキを感じさせてくれる。だったら私も、お兄さんのトキメキをこの身、この心で共感したい。だからこれからもずっとお側にいます。そして私もいつか、今みたいにお兄さんの手を引けるときが来るといいな。

 




 アニメ最終回後のちょっとした裏話をこの小説風に仕上げてみました!
 本来は全キャラ登場させるハチャメチャな打ち上げ回にしようと思っていたのですが、そうなるとランジュやミアを描写する必要がありました。ただ彼女たちの初登場は特別編ではなくメインまで取っておきたかったので、今回はいつもの2人のお話になったという経緯があります。

 虹ヶ咲のアニメは恐らくこれで終わりになると思います。しかし来月の中旬からはスーパースター2期もあるので自分のラブライブ熱はまだ収まっていません! 
ただアニメのみの登場の侑がもう見られないのは悲しいところですが、この小説では無限に登場させられるのでご安心ください(笑) なにせ私自身が侑というキャラを大好きなもので……

 というわけで次回からはいつものLiella編に戻ります。恐らくもう特別編は投稿しないため、このまま最終回までLiellaと突っ走りますのでよろしくお願いします!









【付録】※アニメ虹ヶ咲最終回の小ネタというか今回のお話アフター

「侑ちゃんも色々吹っ切れたみたいだね!」
「歩夢……。もしかして、私がお兄さんに会いたがってるの気づいてたの?」
「うんっ! だって私たちが零さんに会いたいときと同じ顔してたから♪」
「そんなので分かるの!? お兄さんガチ勢怖すぎるよ!!」
「侑ちゃんも零さんのことに関しては博識になってると思うけどね♪」
「自分自身も怖くなってきた……」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去への扉:アナタこそ救世主!

 学校の冬休みも中盤戦に突入し、年の瀬が迫りつつある今日この頃、結ヶ丘は休みなのにも関わらず何故か賑わっていた。どうやら学内SNSで学校中の大掃除をしようというイベントが発足したらしく、本日生徒たちが有志で集まって大掃除を開催しているわけだ。有志とは言えどもそれなりの人数が集まっており、もはや掃除業者すら不要なくらいである。みんな人がいいっつうか、1年間お世話になった校舎を綺麗にしてあげようという律義な奴が多いな。ただ単にみんなでの共同作業が好きなのかもしれないが……。

 

 だが迷惑なことが1つ。そう、俺まで駆り出されていることだ。いくら教師だと言えども年末は学生と同じく冬期休暇であり、つまり俺がタダ働きする必要なんてない。だが生徒だけにやらせるのはどうかとあのクソババア、もとい理事長に出勤命令が下され今に至るってわけだ。はた迷惑な話だよ全く。

 

 

「先生、さっきから全然手が動いてマセンよ……」

「いや逆に聞くけど、休暇中に駆り出されてやる気を出せると思うか……?」

「可可は皆さんや先生と一緒に掃除ができて楽しいデス!」

「ホントに何でも楽しそうにやるよなお前……」

 

 

 現在俺は可可と2人で部室の掃除をしているわけだが、相変わらずどんなことでもテンションを上げて活動するコイツとの温度差がヤバい。その差は掃除の効率の良さにも現れており、てきぱき掃除をする彼女とは対照的に俺はやる気が出ずに掃除と休憩を繰り返すのみ。そしてその度にモップを持った彼女に苦言を呈されながら俺ごとまとめて掃除されそうになる。掃除あるあるの『ちょっと男子ぃ~』と同じシチュエーションだなこれ……。

 

 

「そういやかのんたちはどこにいるんだ? アイツらがいれば部室の掃除なんてすぐ終わるだろ」

「今は講堂の掃除のお手伝いをしていマス。なんたって広いので人手が必要デスから」

「なるほど。だから豚小屋並の狭さのここは俺たち2人でいいって算段か」

「豚小屋じゃないデス! 思い出がたくさん詰まった、いわば可可の記憶そのものなのデスよ!」

 

 

 スクールアイドルに込める気合が人一倍強いコイツだからこそ言い張れるセリフだな。最初のスクールアイドル仲間であるかのんと友達になったときも、専用の部室としてこの部屋が与えられた時も、自身の夢へ一歩進むたびに逐一喜んでいた。そりゃスクールアイドルになるために日本に来たのだから当然と言えば当然か。だからこそコイツにとっては日本での学校生活の何もかもが思い出であり、その活動拠点であるこの部屋が記憶そのものってのも頷ける気がするよ。

 

 ま、だったら掃除くらいは協力してやるか。

 

 

「それに俺たち2人って言ってマシタけど、先生サボりまくりなので頭数にカウントしないで欲しいデス……」

「分かったやればいいんだろやれば。まずは――――ん? このソファの横に積みあがってる段ボールなんだよ。これを捨てればいいのか?」

「ダメデス!」

「じゃあこっちの段ボールは?」

「それもダメデス!」

「んじゃあこれは?」

「ダメ!!」

「なんなんだよ!! こっちがやる気を出したと思ったらダメダメって、人に掃除やらせる気あんのか!?」

「その段ボールの中には可可の思い出たちがたくさん詰まっているので、ダメなものはダメデス!!」

 

 

 思い出云々の話はさっき納得したけど、どれもこれも大切だから捨てられないってそれゴミ屋敷になる奴の言い分だからな……? そういやコイツの家もやたら散らかっていた気がするけど、もしかしたら意外と片付けができない子だったりするのか? コイツと知り合ってもう8ヶ月くらいだが、意外とまだ知らないこともあるみたいだ。

 

 そんなことを考えている間に、可可は段ボールの中を次々と取り出していた。ライブの小物や使わなくなった衣装、ファンレターや学校のみんなが作ってくれた応援垂れ幕など、ありとあらゆるモノが段ボールにぶち込まれていたらしい。思い出なんだったらもっと大切にしろよって話だが、『この一気に詰め込んでいるのが思い出が溢れている感じがしていいのデス』とか言われそうだ。

 

 そうやって色々なモノを取り出していく中で、小さな冊子みたいなモノが出てきた。

 

 

「これは……スクールアイドル発足時から可可が密かに作り上げていた、Liellaアルバムの第一弾じゃないデスか!! まさかこんなところに眠っていただなんて!!」

「思い出を大切にしてるくせにアルバム行方不明だったのかよ……」

「もう第五弾あたりまで来てマスから、初期が疎かになるのは仕方のないことデス。でもせっかく見つけたので、中身を見て思い出を振り返ってみまショウ!」

「おい掃除はいいのかよ……」

 

 

 さっきとは逆の立場になってるんだが……? それに大掃除中に思い出の品を見つけて当時を振り返るって、そんな掃除あるあるまで披露しなくていいから。さっきまでサボっていた俺が言うのもアレだけど、コイツに部室の掃除をさせたら感傷に浸りまくって終わりそうにねぇな……。

 

 

「あっ、これはかのんと2人で初めてステージに上がったときの写真デス!」

「そういやそんなこともあったっけ。ファーストライブに漕ぎつけるまで相当苦労したよなお前ら」

「かのんが中々首を縦に振らなかったり、あの頃は敵対していたレンレンに邪魔されたり……。ただその苦労があったからこそファーストライブの達成感は凄まじかったデス!」

「あの時は今と違って応援してくれる学校の奴らも少なかったもんな。よくやり切ったよホントに」

 

 

 あの頃は普通科と音楽科でギスっていた時期でもあるから、普通科の生徒がスクールアイドルという世俗塗れなことをやるってだけでも珍しい目で見られていた。今では学校中が協力的で入学希望者数増加にも繋がった救世主的な扱いのLiellaだけど、最初は中々に淘汰されたスタートだったと思う。それでもかのんと可可の意思が強かったおかげで、スクールアイドル界隈にもそれなりに認知されるほどの人気になったのはすげぇ話だよ。

 

 

「やり切れたのは先生のおかげデスよ。先生がずっと傍にいてくれたから可可たちは頑張れたのデス!」

「なんか特別なことやったか俺? 記憶にねぇぞ」

「かのんから聞いた話では、先生が背中を押してくれたおかげでスクールアイドルをやる決意を固めたとのことデシタ。つまり、可可がかのんを説得している頃からスクールアイドル活動を手伝ってくれていたってことデスよね!?」

「別にお前を手伝おうとは思ってない。目の前で悩んでる生徒がいたら助けるのが教師だろ」

「新人の先生が、同じく新入生の生徒をあそこまで面倒を見るのは中々のお人好しデス。それにスクールアイドルについて手慣れているような感じで、まさかあの時は虹ヶ咲の方のご指導をしていたとは思わなかったデスが……。とにかくスクールアイドルになりたいって勢いで日本に来た可可に、道を示してくれたのは先生デシタ!」

 

 

 確かにあの時のコイツは今以上に勢いだけだったな……。スクールアイドルが好きでスクールアイドルをやるために日本の高校に入学したまでは良かったものの、メンバー勧誘やライブ出演に向けての作業など、そのあたりのイロハが全くなかったせいで空回りしていた。そのせいで強引な勧誘となりかのんには何度か逃げられ、恋にはスクールアイドル禁止令を出され(アイツの個人的な感情もあったが)、他の生徒たちには奇々怪々な目で見られるなど、どちらかと言えば苦難からのスタートだった記憶がある。

 

 そしてそれを見かねた俺がかのんや恋と話をしてアイツらを諭したり、暴走気味だった可可を落ち着かせてやるべきことを指示したりと色々動いていた気はするな。ただ俺にとっては普通のことだから別に感謝されるようなことじゃない。結局俺は自分のためにしか動かないわけで、入学早々周りから浮きまくってるコイツから更に笑顔まで消したくはないと思っただけだからな。

 

 

「それにそれに! 先生は可可たちの練習まで見てくれマシタ! それはもう完全に可可たちを助けようとした思っていいデスよね!? これでも大したことをしていないと豪語するのデスか!?」

「あれはちょっと走っただけですぐにへばるお前を見かねただけだ。お前って何をするにも危なっかしいんだよ。見てねぇとどこへ突っ走るか想像もできない」

「だからずっと可可を見守ってくれていたのデスか!? 可可のために!?」

「いやお前ためだけじゃねぇ。かのんも千砂都も、すみれも恋もあの頃は色々抱えていてみんな一枚岩じゃなかったからな。アイツらにも相当気をかけてたよ。その点お前は単純で接しやすかったけどな」

「へっ、それ可可がおバカっぽいってことデスか……?」

「別にいいんじゃねぇの。逆にスクールアイドルって単細胞の方がリーダー向きかもしれねぇし」

「……??」

 

 

 μ'sだったら穂乃果、Aqoursだったら千歌、虹ヶ咲だったら一応部長扱いのかすみ。うん、みんな単細胞の単純ちゃんたちばかりだ。でもソイツらに人を引っ張る力があるのは間違いなく、この3人は諦めなかったからこそそれぞれのグループが存在してるわけだしな。その点では可可も同じで、コイツが発端で途中で折れなかったからこそ今のLiellaがある。うだうだ悩んだりする奴よりも、とりあえず猪突猛進の奴の方がスクールアイドルに至ってはカリスマ性は高いのかもしれない。

 

 

「なんにせよ、可可にとっては先生は救世主なのデス! 先生が世話を焼いてくれなかったらファーストライブにも出られたかどうか……」

「さぁな。でもなんとかなったんじゃねぇか? 俺は言うほどお人好しじゃない。誰とも構わず気にかけたりはしないからな」

「だったらどうして可可を? さっき言っていた通り危なっかしいからデスか?」

「まあそれもあるけど、俺は男だぞ?」

「??」

「男だったら可愛い子に目を付けるのは当然だ」

「ぶっ!?!?」

「なんだよきたねぇ!!」

 

 

 いや男だったら美女美少女に惹かれるのはごく普通の欲求だと思うけど違うのか?? 女の子もカッコいい男に惹かれたりする理論と同じだと思うんだけど、そこは男女で感じ方が違うのかもしれない。それにしても驚いて噴き出すことはないと思うが……。別に度し難い性癖を暴露してるわけでもなく、ただ単に生物学的欲求を口に出しただけなのに世知辛い……。

 

 だがそのせいか、可可の顔の色がみるみる赤くなっていく。毎回どいつもこいつもちょっと容姿を褒めただけで恥ずかしがりやがって。そういうところが可愛かったりもするのだが、それを指摘するとなおさら沸騰しそうなのでやめておこう。先日の幽霊騒動で披露した紛いなりの告白でそれなりに耐性は付いているのかと思ったが、やっぱりまだ恋愛初心者は脱していないようだ。

 

 

「この前サニパの方々が疑っていましたが、先生って女垂らしの才能がありマスね……」

「お前らが弱いだけだ。俺のせいにすんな」

「可愛いって、かのんたちの方がよっぽどだと思いマスけど……」

「お前らみんな揃って他の奴らの方を持ち上げるよな……。言っておくけど、可愛くなければライブはあそこまで盛り上がらねぇって。仮にもアイドルなんだから容姿も世間の評価点の1つだ。つまり人気があるってことはお前らが世間から可愛いと思われていることと同義。だからもっと自分自身に自信を持て」

「うぅ、可愛さアピールなんて今まで考えたこともありマセン……」

 

 

 コイツの愛嬌の良さはアピールなんてしなくても常に前面に出ている。どちらかと言えばかのんが大人びた顔付きだから、2人で並び立つとコイツの幼い顔付きが余計に目立つ。だからこそ愛らしく見えるんだろうな。

 

 

「って、可可のことはどうでもいいデス! 先生に自分自身が救世主であることを自覚してもらうのが重要デス!」

「そんな話だっけか……?」

「結局ファーストライブが終わった後も可可たちの面倒を見てくれたじゃないデスか。スクールアイドルとして信頼できる仲間とグループを組んでステージに立つ。その夢を先生が叶えてくれたのデスから! かのんはもちろん、千砂都やすみれ、レンレンたちに引き合わせてくれたこと、とても感謝していマス!」

「アイツらのカウンセリングも大変だったなそういや……。でもそれこそ俺がいなくてもできたことだろ」

「夢だったスクールアイドルのライブまで可可を連れていってくれて、素敵な仲間たちとも出会わせてくれた。これを救世主と呼ばずになんと呼ぶのデスか!!」

「相変わらず折れないねぇ……」

 

 

 コイツって尊敬する人はかのんと言い俺と言い、とことん持ち上げる性格だよな。しかも本人の執念深く頑固な性格も相まって、持ち上げられたことを否定しても折れることはない。本人が本気なのは分かるけど、褒めるときは限界まで褒めちぎってくるからムズ痒くなるんだよ……。

 

 

「ファーストライブ以降も先生にはずっと助けられていマシタ……。今思い返せば可可がスクールアイドルになる前からずっと見守り続けてくれていたのデスね……」

「そういうことになるな。そう考えるとまだ1年も経ってないのに長く感じるよ」

「そうデスね。それだけ長いとこんな気持ちになってしまうのは当然デス……」

「こんなって、どんな?」

「へっ!? い、いやそ、それは……秘密! 乙女の秘密というやつデス……っ!!」

 

 

 うん、めちゃくちゃ分かりやすい。コイツもそうだけど、Liellaの子たちは自分の気持ちを隠しているつもりなんだろうがバレバレなんだよ。挙動不審なのが目に見えて明らかだし、反応そのものが初心で顔もすぐ真っ赤になるから丸分かりだ。それで本人たちは隠し通せている気でいるんだから面白い……いや、可愛いよな。

 

 

「た、ただ、先生にもっと見守っていて欲しいという気持ちは素直に伝えられマス。今は周りにかのんたちがいマスけど、それでも先生には傍にいて欲しいデス。い、いつまた可可が暴走するのか分かりマセンし、せ、先生にはもっと可可がステージで輝いているところを見せたいといいマスか……。と、とにかく、来年からもお願いしマス!!」

 

 

 羞恥心のせいか言葉はたどたどしかったが、それを乗り越えて気持ちを伝えてきた。スクールアイドルをやる以前からお互いに近しい距離にいたからこそなのか、俺のことを完全に信頼しきっているようだ。それだけコイツにとって俺との思い出、俺への気持ちが積み重なって来たのだろう。自分の夢を叶えてくれた、そしてこれからも叶えてくれるだろうと希望を託せる人が目の前にいるんだ、そりゃ信頼もするか。

 

 小動物のようで愛くるしい美少女、それでいて夢に向かう意思は人一倍強い子。そんな奴が俺の隣で全力で輝こうとしてるんだから、そりゃ何もしないわけにはいかねぇだろ。

 

 

「俺は俺の好きにする。だからお前も好きにしろ。隣にいる女の子が輝けば輝くほど俺は満足できるからな。お前は思う存分に暴れればいい。大丈夫、脱線しそうになったらすぐ助けてやるから安心しろ。お前らしく何事も全力で突き進め」

「先生……。はいっ、ありがとうございマス!!」

 

 

 実はお礼を言いたいのはこっちだったりもする。いつになっても女の子の魅力を間近で見られるのはいい。相変わらずいいポジションにいると我ながらに思いつつ、俺を満足させてくれる女の子たちには感謝しかない。Liellaの発端となったコイツには特にな。

 

 春からずっと一緒にいる彼女。二人三脚までとは行かないけど、常に隣で見守り続けていた。だったら最後の最後まで隣にいてやるよ。もしかしたら最後なんてないかもしれないけど、その時はずっと隣にいればいい話だ。こんなことを伝えたらまた顔を真っ赤にして、今度は気絶しちゃうかもな。

 




 Liellaとの過去編の第三弾でしたが、ここまで来ると零君の聖人っぷりが半端なく見えますね(笑) 教師としてのお手本ムーヴではありますが、ところどころに俺様系の言動が混じっているのが作者の自分ながらのお気に入りだったりします!
 聖人とは言えども、虹ヶ咲の子たち、つまり女性高校生と肉欲を満たし合った経験もあるので危険人物には変わりないですが……

 可可はアニメを見ただけでも凄く魅力のあるキャラだと思っていて、どこで覚えてきたんだと言わんばかりの毒舌も好きだったりします。小説だとあまり毒は吐いてないのですが、零君にドキドキするシーンが多いのが理由だったり……(笑)

 アニメ2期もあと2週間後にスタートするので、また動いている彼女たちが見られるのは非常に楽しみです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ドキドキ職業妄想体験!

 今回は話のネタの都合上、一人称がコロコロ入れ替わります。
 読みづらいかもしれませんが、あらかじめご容赦ください。




「どうして高校生にもなって『将来の職業を考えてみよう!』なんて授業あるのよ。小学生じゃないんだから……」

「この学校は音楽科を兼ね備えているので、進学せずに専門の道を歩む方もたくさんいます。そういった背景から、高校生であっても将来のための授業があるのは昔からの伝統なのです」

「可可はお堅い授業よりも、こういった総合学習的な緩い授業の方が楽で大好きデス」

「まあ息抜きにはなるよね。自分の将来ってあまり想像したことないから難しいけど。かのんちゃんは何か考えてる?」

「えっ、えぇっと……」

 

 

 とある日の放課後、Liellaの面々は部室に集まっていた。5人でテーブルを囲みながら頭を悩ませている。

 さっきの会話でもあった通り、この学校では総合学習の一環として将来の職業について考える時間がある。重要なことだとは思うが高校になってまでそんな学習があるのはかなり稀。その理由も恋の言った通りであり、あのクソババア、もとい理事長の方針によるものだ。ただまだ入学して1年の生徒が将来について考えるのは意外と難易度が高く、おぼろげにしか未来を想像できない奴の方が多い。それはかのんたちも同じようで、自分の思い描く未来を文章にまとめて提出という過酷な課題にただただ唸るだけであった。

 

 かく言う俺自身も高校時代は自由気ままに生きていたので、将来のことなんて全く考えていなかった。教師になったのもイキのいい健康的な思春期女子が見られるから――――いや違った、女の子たちが青春に輝く姿を見たかったからである。女子高前提の話ではあるが、女の子を惹きつける魅力のある俺なら女子高に配属されるだろうという謎の自信があった。だって俺だもん、仕方がない。

 

 

「そういえばここには社会人がいるじゃないデスか! 先生! 先生はどうして教師になったのデスか??」

「それを聞くのか……。そりゃまぁ未来のある若者を健全な大人に育てるための手伝いを――――」

「はいはいそういうのいいから。お手本の答えを聞くと逆にアンタの本心じゃないって分かるわ……」

「俺を蔑んでるつもりかそれ……。そもそも大した理由なんてねーよ」

「でも先生って"先生"って感じがするよね! 勉強の教え方も上手いし、頼りになるし、お節介でお人好しだし!」

「最後のは褒めてんのか……?」

 

 

 お節介、お人好し。うん、俺の嫌いな言葉だ。俺は何事も自分のためだけに動き、それがたまたま女の子たちの手助けになっているだけなのでお節介でもお人好しでもない。目の前で困っている女の子がいて、ソイツを放っておくと後味が悪いから仕方なく手を出し述べてるだけなんだ。だからそこを褒められても納得いかねぇっつうか、流石の俺でもそこだけは尊大に振る舞えない。侑とかにこれを話したらまた特大ブーメランを投げつけられるんだろうな……。

 

 

「将来の自分を思い描くのって考えたことなかったけど、案外難しいんだね……」

「かのんさんは作詞作曲、そして歌がお上手という特技がありますし、シンガーソングライターに向いていると思います」

「えぇっ!? 私なんかの腕でそんなカッコいい職業だなんて本職の人に申し訳ないよ!!」

「そんなことないデスよ! かのんの音楽の才能は本物デスから!」

「いいんじゃないの。今は腕とかそういう話じゃなくて、自分がなりたいかそうでないかで考えるべきよ。好きなんでしょ、音楽」

「ま、まぁそうなんだけど……」

 

 

 かのんは俺の知る女の子の中で最も『音楽』と一体化している子だ。作詞と作曲どちらにも精通しており、その圧倒的な歌唱力は可可にトキメキを与え限界オタクにさせるほど。あまりのハイスペックっぷりに本当に高校生かと疑いたくなり、同時に同じオレンジ髪のアイツやアイツと違って才能の差が歴然であることを実感させられる。それでいてこれだけ自己評価が低いのはもはや嫌味なんじゃねぇかって思うくらいだ。

 

 

「だったら想像してみたら? 自分がシンガーソングライターになってるトコ」

「想像……? う~ん……」

 

 

 

 

~~~~~~~

~~~~~~~

 

 

 

 

「皆さん今日もありがとうございました! また次のライブもよろしくお願いします!」

 

 

 今日も大盛況でライブを終えることができた。スクールアイドルをやっていたからか最初から一定の人気があったため、忙しくなっちゃってるけどそれも嬉しい悲鳴だ。

 ただ1つ残念なのは、あの人と会う時間が減ってしまったこと。夢であるシンガーソングライターとして活躍できているのは嬉しいんだけど、やっぱり大好きな人に会えないというのは寂しい。でもどこかで私の歌を聞いてくれているはずだし、また次会ったときにたくさん感想を聞かせてもらおう。その時まで楽しみを取っておけると思えば寂しさも紛らわせる……はず?

 

 そして、その帰り道――――

 

 

「今日もいい歌声だったな」

「えっ……えぇっ!? 先生!?」

「もう先生じゃないだろ」

「あっ、は、はいっ、れ、零さん……。まさか会場に来ていたんですか?」

「あぁ。寂しがってる頃だろうから、たまには顔を出してやろうかなって」

 

 

 私が一番見たかった顔がまさか目の前に……!!

 ファンの皆さんやライブの関係者から褒められるのももちろん嬉しいけど、やっぱり一番に褒めてもらいたいのは先生……うぅん、零さんだ。零さんは忙しいけど私の歌は毎回どこかで必ず聞いてくれる。そしてその度に連絡で感想をくれるから、もうそれが目的で歌っていると言っても過言じゃないかも。

 

 

「あ、あのっ! どうでしたか今日のライブ……?」

「さっき歌ってたのって新曲だったっけ? 相変わらずいい曲を作るよな。作詞も作曲も自分で手掛けて、自分で歌うなんてよくやるよ。今回の曲は……うん、毎回いい歌声で心を掴まれるけど、今日のは特に響いてきたな。なんでだろ?」

「そ、それはラブソングで、れ、零さんのことを想い描いて……あうぅぅ……」

 

 

 つ、つい言っちゃった!? ラブソングは初めての挑戦だったけど、零さんのことを考えながら作詞作曲したなんて絶対に言えない――――と思ってたのに!! 今までの曲の中でも一番歓声が早かったのも恐らく零さんのことをずっと考えて手が進むのが早かったからだ。そしてその当の本人が目の前にいるこの状況、自分の曲の歌詞を思い返すだけで恥ずかしくなっちゃうよ……。ていうか、思わず口に出ちゃう癖を何とかしたい!!

 

 

「お前、もしかして俺のことを……?」

「ふぇっ!? そ、それはそのぉ……」

「あれがお前の気持ちってことか。だったら俺もお前のこと……」

 

 

 えっ、ここでこ、ここここここ告白!? そんないきなり!? しかも私の曲がきっかけで!? ちょ、ちょっと待ってまだ心の準備が……!!

 

 

「かのん……」

 

 

 近い!! 零さんが近い!!

 ちょっ、ちょっと待ってぇえええええええええええええええええええええええ!!

 

 

 

 

~~~~~~~

~~~~~~~

 

 

 

 

「ぷしゅぅ~……」

「え゛っ、大丈夫かのんちゃん!?」

「大丈夫ですかかのんさん!!」

 

 

 なんか違うこと想像してないかアイツ……? 想像している時の顔が明らかになりたい職業のことを考えている顔ではなく、完全に『女』の顔になっていた。別に空想の世界だから個人の自由と言えばそうなのだが、もう将来を考えるコンセプトが忘れ去れている気がする。男と添い遂げて真の女になるってのはある意味で将来を考えている、と言っても間違いはないんだろうけど……。

 

 

「全く、将来を想い描くだけなのに何を想像してるんだか」

「そういうすみれは自分の未来を想像できるのデスか? やけに自信満々のように見えマスが……」

「余裕よ! ま、今でもギャラクシー級の女優として君臨できる実力はあるけどね」

「不遜! 思い上がるなデス!」

「ったくアンタってやつは……。ふんっ、見てなさいよ」

 

 

 

 

~~~~~~~

~~~~~~~

 

 

 

 

 遂に私が最優秀女優として賞に選ばれた。私の才能だから当たり前のことではあったけど、実際にこうして選ばれると嬉しいものね。これでこれから仕事も続々舞い込むから、また私の魅力が全世界に知れ渡ると思うと思わず笑いがこみあげてくる。もっともっと銀河最強女優の実力を見せつけてあげるんだから。

 

 そういえばマネージャーから控室で待っていろと言われたけど、一体何があるのかしら? 私に会いたい人がいるって言ってたけど、たかが1人のファンにそんな贔屓するわけないし……もしかしたらもう大きな仕事が取れたとか!? ドラマ制作会社の社長が直々に私に会いに来るとか、そういうビッグイベントかもしれないわね。

 

 そんなことを考えている間に控室のドアが開く。遂に私が世界に羽ばたく日が――――!!

 

 

「よぉ」

「れ、零!? アンタなにしてんのよこんなところで!!」

「いやお前が女優賞を取ったって聞いたから来てやったんだ。嬉しいだろ?」

「べ、別に嬉しくなんてないわよバカ!!」

 

 

 なんと来たのは高校時代の私の先生だった神崎零だった。最近は忙しくてあまり会えていなかったけど、顔を見た瞬間に何故かホッとしちゃったのは一番心を許せる相手だからかもしれない。最近は女優賞を取れるかもしれないというある種のプレッシャーもあったし、そのせいで常に気を張ってたからコイツの顔を見た瞬間に肩の力が抜けちゃったわ。

 

 

「賞を取ったなんてアンタに言ってなかった気がするけど? ちなみに隠すつもりはなくて、ただ単に忙しくて忘れてただけだから」

「分かってるよ。お前の動向は常に追ってるから知ってるだけだ」

「サラッとストーカー発言をするんじゃないわよ……」

「ちげーよ。自分にとって大切な女の子が活躍してるんだ、そりゃ見守りたくなるだろ。高校生のときよりももっと魅力が上がったお前を見るの、俺は好きだぞ」

「ふ、ふ~ん……」

 

 な、なにこれ、心臓がバクバクしてるんだけど!? 顔も熱いし、コイツの無自覚発言も相変わらずなんだからもう……。

 意識していることを悟られたくないので自分の髪先をくるくると回して弄る。ただコイツにはそんな誤魔化しは通用しない。私が動揺したのを見計らってか、こちらにどんどん近づいてきて――――って、顔が近い!!

 

 

「俺、お前が女優賞を取ったら言いたいことがあったんだ」

「えっ……そ、それって……」

「すみれ。俺は、お前のことを――――」

 

 

 これってもしかして……こ、ここここここ告白!? そんないきなり!? しかも私の女優賞がきっかけで!? ちょ、ちょっと待ってまだ心の準備が……!!

 だ、だから顔が近いって言ってんでしょこのバカぁああああああああああああああああああああああ!!

 

 

 

 

~~~~~~~

~~~~~~~

 

 

 

 

「うっ……うぅ……」

「すみれちゃん? お~いすみれちゃ~ん! ダメだ、全然反応がない」

「あれだけ大見得を切っておきながら情けないデスね。何を想像していたのかは知りマセンが……」

「かのんさんに続いてすみれさんまで……。想像の中で一体何が行われていたのでしょうか……」

 

 

 今度はすみれまで撃沈、もとい自爆した。想像というよりもはや妄想であり、顔が真っ赤になっている時点でお察しだ。つうかアイツらの妄想の中の俺の立ち位置が気になる。なんかキザったらしくて男に嫌われそうな性格に改変されてそう……。

 

 

「2人共夢をしっかり持てていないからこうなるんだよ」

「千砂都さんはやはりダンスを夢にしているのでしょうか?」

「そうだね。ゆくゆくは海外とか行ってみたいかも。私はその様子でも想像してみようかな?」

 

 

 いや、二の舞になるからやめとけって……。

 

 

 

 

~~~~~~~

~~~~~~~

 

 

 

 

 

「先生! 今のステップどうでしたか? 私としては上手にできたと思うんですけど……」

「あぁ、バッチリだ。さっきのが一番難易度が高いところだったから、これで山を抜けたな」

「はいっ! 先生のおかげです!」

「いやお前の才能と実力のおかげだよ」

 

 

 私のダンス武者修行の旅は、なんと海外に舞台を移していた。そして零先生にマネージャー兼コーチになってもらい、今は二人三脚でダンスレッスンをしている。大好きな先生とダンス活動をできるのも楽しいし、それに2人きりで一緒に海外だなんてスケールの大きいデートみたいでちょっと、いやかなりドキドキしちゃうかも……。

 

 

「せ、先生! 次のお休みの日に一緒に街を回ってくれませんか? せっかくの海外なので観光も楽しみたくて……」

「あぁ、いいぞ。練習のリフレッシュにもなるだろうしな」

「よかった……。はいっ、ありがとうございます!」

「なんで感謝してんだよ。俺とお前の仲だろ? せっかく2人きりで海外に来たんだから、2人の思い出を作らなきゃ損だ」

 

 

 えっ、こ、これって先生もデートをしたいって思ってくれていたってことだよね!? 私も先生と同じ気持ち、そして先生も私と同じ気持ち。ということは――――相思相愛!? だったらこの海外遠征でもっともっと距離を縮められるかもしれない。うん、だったらもっと積極的にならないといけないよね!

 

 

「そうだな。その思い出作り中にお前に言いたいことがあるんだ」

「い、言いたいこと!? 相思相愛ってことは、ま、まさか……!?」

「どうした? 顔が赤いぞ。疲れてんのなら休憩するか?」

 

 

 これってもしかして……こ、ここここここ告白!? そんないきなり!? しかも海外遠征がきっかけで!? ちょ、ちょっと待ってまだ心の準備が……!!

 先生が近づいてきている!! まさか今ここで告白するの!? だ、だから心の準備がぁああああああああああああああああああああああ!!

 

 

 

 

~~~~~~~

~~~~~~~

 

 

 

 

「せ、せんせぇ……」

「千砂都さん、先生を連呼しながらショートしてしまいましたね……」

「自分の夢をしっかりと持っている千砂都ですらこうなるなんて、将来を考えることって末恐ろしいデス……」

 

 

 いやここまで将来のことを考えている奴はいなかったが?? だが見ようによっては未来のことと思えなくもなく、将来の職業って言うよりかは家族や家庭を見越した上での妄想だったに違いない。つうか妄想ですら顔を真っ赤にしてるってことは、架空の世界であっても恋愛下手なのかコイツら……。

 

 

「こうなったら、可可が想像の世界に侵入して皆さんの眠りを覚ましてあげマス!」

 

 

 

 

~~~~~~~

~~~~~~~

 

 

 

 

「もうすぐアイドルとしての初舞台、緊張しマス……」

 

 

 スクールアイドルを卒業し、可可は遂に大人の社会に身を置くリアルなアイドルになりマシタ。スクールアイドルの経験はあったものの真のアイドルになるために過去の自分に奢らず、度重なるレッスンを重ねてようやく最初のステージに上がろうとしていていマス。

 

 ただ、ステージに上がる経験があると言っても流石に一発目のステージは緊張してしまいマス。スクールアイドルになってかのんと初めてステージに上がるときを思い出し、初心忘るべからずというのはこういうことなのデスね……。

 

 そうやって不安に苛まれていた可可の手が、突然暖かくなりました。見ると、なんと零さんが可可の手を握っていたのデス!

 

 

「大丈夫か?」

「れ、零さん!? 来てくれたのデスか!?」

「あぁ、お前の晴れ舞台だからな。いくらスクールアイドルをやっていたとはいえ、アイドルとして社会に立つという重圧はあるだろうし、意外とそういうのに弱かったりするもんなお前」

「じゃあ可可を励ますために来てくれたのデスか!?」

「当たり前だろ。可愛い教え子が社会に羽ばたこうとしてるんだ、サポートして当然だよ」

 

 

 その暖かい優しさに可可は思わず涙腺が崩壊しそうになりマシタ。でももうすぐでライブなのでここで泣くわけにはいきマセン。ファンに笑顔と元気を与えるのがアイドルなのデスから!

 ただそのライブが終わった後に零さんの顔を見たら絶対に泣いてしまいそうデス……。それに可可は決めていマシタ。初のライブが成功したら秘めたるこの気持ちを伝えるのだと――――

 

 

「ライブが終わったらお前に言いたいことがあるんだ」

「えっ? 零さんからも!?」

「だから頑張って来い。俺をもっと()()()にさせてくれ」

 

 

 その気って、もしかして……こ、ここここここ告白デスか!? そんないきなり!? しかも可可のライブがきっかけで!? ちょ、ちょっと待ってくだサイまだ心の準備が……!!

 零さんのこの真剣な顔、間違いありマセン!! そんなビッグイベントが待ち受けているなんて、可可、ライブに集中できるのでショウか……??

 

 

 

 

~~~~~~~

~~~~~~~

 

 

 

 

「ライブが終わったら告白、ライブが終わったら告白、ライブが終わったら告白……」

「可可さんが壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返しています……」

「妄想もここまで来ると世も末だな……」

 

 

 もう声となって自分の欲望がダダ洩れしてる時点でお察しだ。もはや将来の職業を考えるという主題は完全に消失しており、どちらかと言えば全員家庭に入る想像をしている気がする。そこまで妄想力があるのなら、結婚後の生活を考える方がよっぽどコイツらには合ってるな……。それはそれで羞恥心を刺激されて気絶しちゃいそうだけど……。

 

 

「想像だけで気絶してしまうだなんて、皆さんは精神力が枯渇しているようです。ここは私が将来の姿というものを皆さんに正確に、分かりやすくお伝えします」

「もう聞く奴ら全員ダウンしちまってるけどな……」

 

 

 

 

~~~~~~~

~~~~~~~

 

 

 

 

 結ヶ丘女子高等学校の理事長になった私、葉月恋。元理事長からの教えを受け継ぎつつ、高校時代の生活で学んだことを活かし、この学校をよりよくするために日々精進しています。生徒だった頃に生徒会長を務めていた経験もあってか、学校運営を生徒目線で努めることができ、生徒たちの学校生活満足度も100%近い数字を記録しています。学校経営は決して楽ではないですが、母が残したこの学校を誇りを持って立派に成長させられていると自負しています。

 

 もちろん成功の道を歩み続けられているのは私だけの力ではありません。神崎零さん、かつて私の先生だった方にサポートを頂いているからこその結果です。今は二人三脚、お互いに切磋琢磨しながらこの学校を運営しています。

 

 

「恋。今日も結構煮詰めてるから来週にしよう。お前は目を離すとすぐ無茶するから心配だ」

「あまり作業を先延ばしにはしたくない性格なもので……。ただもう夜遅いですし、そこまで急を要する作業はないのでお言葉に甘えて来週にします」

「あぁ、そうした方がいい。だったら早く帰ろう」

「はい」

 

 

 実は零さんと夜まで一緒に仕事をするのは密かな楽しみだったりします。だって夜の静けさの中、好きな人と一緒にいられる空間なんて胸の鼓動が高鳴ってしまいますから。そんな空間にいれば疲れなんて全く感じません。ただ零さんを心配させてしまったら元も子もないので、いつもこうして諭される形で、名残惜しいですが帰宅しています。

 

 

「そうだお前、今日の夜は空いてるか?」

「えっ? は、はい、サヤさんには遅くなるとお伝えしており、夕飯も必要ないと連絡はしてありますが……」

「なるほど。それは都合がいいな」

 

 

 都合がいい……? 週末の夜に女性の私に予定を聞く男性の零さん。それってつまり……そういうことなのですか!? これは誘われていると考えてもよいということですよね!? 夜に男性が女性を誘ってくるなんて、もう()()()()()のが目的としか思えません! し、しかし、こういう経験がないのでどう応待したらいいのか分からないのですが……。どうしましょう……!! それに零さんの顔がとても真剣で、もう今ここで想いを伝えられそうな感じが……。

 

 

「恋。実は……」

「な゛っ!? は、はいっ!!」

「その顔、随分とやる気みたいだな。だったら――――」

 

 

 だったらとはなんでしょうか!? もしかしてこんなところで……こ、ここここここ告白!? そんないきなり!? しかも夜の理事長室で2人きりのこの状況で!? ちょ、ちょっと待ってくださいまだ心の準備が……!!

 零さんの顔は本気のようです。このままだとどこへ行くこともなく、この部屋で致してしまうのではないでしょうか!? そ、そんな告白と同時に私を頂こうなんてなんて破廉恥な……。で、でも、それに期待している私がいたりいなかったり……。

 

 ど、どうすればいいのでしょうか……!!

 

 

 

 

~~~~~~~

~~~~~~~

 

 

 

 

「うぅ……。ダメです、こんなところで……」

「目を伏せながらビクビクしてやがる……。VRでエロい映像見てるみたいになってるぞ……」

 

 

 これにてみんな撃沈! 結局全員が気絶してしまったので職業想像体験はお流れになった。こんなことで自爆するなんて、日常生活でも勝手に妄想して勝手に爆発してそうだな……。

 




 零君も言っていましたが、もう完全にサブタイトル詐欺ですねこれ(笑)
 そして作者の自分で言うのもアレですが、妄想の中でも奥手な彼女たちを可愛く描けかた思います!

 来週は遂にスーパースター2期の開始で、小説の投稿スパン的にアニメ後の24時に投稿されるので、アニメの熱を保ったままこの小説を読むことができますね!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

澁谷ありあは探りを入れる

「さみぃ……。あのクソババアのせいで休日に出かけるハメになっちまうなんて……ぜってぇ恨む……」

 

 

 

 年が明けたとある冬の休日。俺は昼下がりの街中を練り歩いていた。冬だから最近はいつも寒いのだが、今日だけは特別に冷え込んでいる。あまりの寒さにすれ違う人たちもみんな上着を着こみ、マフラーと手袋はもはや標準装備。ニット帽や耳当てをしている人も多く、この人混みたちの装備を見るだけでも外の気温の寒さを感じられるくらいだ。

 

 本来であればこんな寒い中、しかも休日に外にいるなんて俺からしたら考えられないことだ。だがあのクソババア、もとい理事長が下すミッション、教師たるもの生徒と同じく日々学べの圧力により資格勉強を強いられている。ただでさえ忙しい教師生活なのに資格勉強を押してくるなんてもはやパワハラだが、資格取得で給料が劇的に良くなるらしいので仕方なく従っている。だからこうやって寒い日であろうとも資格試験のために出かける必要があるのだが、給料云々を度外視しても恨むレベルだぞこの寒さの中での強制外出は。

 

 そんなこんなで試験終わりにこうして帰宅しているのが今なわけだけど、人混みのすれ違いざまに見知った顔を見つけた。それと同時に俺に気付いた向こうが真っ先に声をかけてきた。

 

 

「お姉ちゃんの先生……さん?」

「お前は確か、かのんの妹の――――」

「はい、澁谷ありあです」

 

 

 唐突な出会いに驚いた俺たちは、一瞬お互いに見つめ合ったままだった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「この前はいきなり電話して悪かったな。おかげでかのんを元に戻せたよ」

「えっ、本当にあのやり方で元に戻ったんですね……」

「お前、やっぱり楽しんでただろ……」

「えへへ、いやぁお姉ちゃんの恥ずかしがる姿を思い浮かべるだけで楽しくなっちゃって!」

 

 

 帰り道が同じ方向ってことで、予備校帰りのありあと一緒に帰宅することになった。その途中で以前にあったかのんのエンドレスやさぐれモード事件について、不本意な方法だったがコイツのおかげで解決のは確かなので一応お礼を言う。そうしたら小悪魔的この反応、やっぱ甘い言葉で褒めれば元に戻るってのは自分がただ楽しむための虚言(結果的には成功したけど)だったらしい。こんな性格の妹を持ってしまって、アイツも苦労してんな……。

 

 

「お前のせいで解決したけど、お前のせいで大変でもあったんだぞ。あのあとみんなからも『自分も褒めろ』オーラを無言で醸し出されて面倒なことこの上なかった」

「それはなんと言うか、愛されてるんですね……」

「まあ思春期女子が若い男性教師に惚れるのはよくあることだろ。それがほぼほぼ全員だから対応に困るんだけどさ……」

「よくあることで済ませられるくらいに慣れてるってことですか?」

「へ? いやぁ、そりゃ漫画やアニメでよくある話だってことだよ」

「ふ~ん……」

 

 

 あぶねぇ……早速自分の境遇をバラすところだった。しかもコイツ、あまり話したことはないけど変に計算高いところがありそうだから少しだろうがボロを出したくない。だがぶっちゃけた話、人によって自分の身分を偽ったり大っぴらにしたりして話すのが面倒だから、そろそろ真実を解放したくはあるんだけどな。それがいつになるのやら……。

 

 

「先生ってお姉ちゃんからもそうですけど、Liellaの皆さんからも慕われてますよね。いや、慕われてるっていうよりかは恋愛感情を持たれてると言った方がいいですか」

「お前、よく見てんのな……」

「ていうかあの乙女チックな表情を見て気付かない人の方がおかしいですよ。ウチの喫茶店でスクールアイドルの打ち合わせをしている時も、先生の話題が出るだけで顔を赤くするくらいですから」

「俺がいないところでもそんなことになってんのか。アイツらほど分かりやすい奴を見たことがないと思ったけど、日常生活に支障が出るレベルで恥ずかしがってるとは思わなかったな」

 

 

 先日の職業妄想体験の時もそうだったけど、想像の中で俺が出演するだけで恥ずかしがるとか生きていけるのかって話だ。所構わず考え事の中に俺が出現しただけで顔を赤くするってことは、通学中、授業中、食事中etc……あらゆる場所で羞恥心を刺激されるだろう。目の前の女の子がいきなり顔を赤くしてたら発情してると思われるぞ……。

 

 

「そう言うってことは、先生はお姉ちゃんたちの気持ちを知っているんですか?」

「お前もさっき言ってたろ、気付かない人の方がおかしいってな」

「気付いているのにずっと放置しているわけですか。中々いい身分ですよね」

「あのなぁ、俺たちは教師と生徒だぞ? 若い奴らみたいに惚れて告白して即合体みたいな安定したシナリオで事が進むわけねぇだろ」

「最後のはちょっと、いや結構極端ですけど……」

 

 

 教師と生徒とか言っているが、実のところはもうそこまで抵抗感はなかったりする。サヤに拉致されたあの一件で、自分が教師としてでなく男としてかのんたちと向き合うことを決めて以降は教師生徒の(しがらみ)は感じなくなった。そもそもAqoursとの関係だって最初は教師生徒だったし、虹ヶ咲の奴らとだってコーチと教え子で同じような関係だ。そいつらと男女の経験があるのに今更Liellaの奴らとの間に変な壁を作る必要はないってことだよ。常識とかそんなものは関係なく、俺がやりたいようにやる、ただそれだけだ。

 

 

「なるほど、生徒を惚れさせる先生か……」

「なんだ? 文句でもあるのか?」

「いえ。惚れられるのは仕方ないにしても、教師としてそれを拒否したり否定したりはしないんだなぁと思いまして。なんか見たところその事実を受け入れて当然、みたいな」

「なに言ってんだ。男と女の関係に社会的地位も身分も関係ねぇだろ。好きだから好き、それでいいじゃねぇか。お互いが幸せならそれでな」

「軽薄ですね……」

「だろうな。失望したか?」

「マイナスにはなってないですね。そもそもこうしてじっくり話すことも初めてなので、最初から好感度はゼロですから」

「手厳しいな……」

 

 

 コイツと話していて思ったけど、思ってることを容赦なく発言してきやがる。それが澁谷ありあの性格なんだろうが、とてつもなく警戒されているってのもあるだろう。一時期の侑を思い出すが、アイツの方がまだ親和性が高かったように思える。コイツの場合は自分の小悪魔系が刺激されている時は年相応に無邪気な面を見せるが、それ以外で俺と話している時はかなり淡々としている。そういった意味ではクール属性が強い雪穂に似てるかもな。

 

 

「じゃあお前の好感度を上げるにはどうしたらいいんだ?」

「私のを上げてどうするってのもありますけど、それを本人に聞くってもしかして恋愛下手ですか……? お姉ちゃんが『先生は今まで誰ともお付き合いしたことがない』って言ってたのは本当だったんですね」

「アイツそんなことまで話してんのか……」

「でも話している感じだと女性慣れしてそうな雰囲気がありますし、どっちが本当の先生なんですか?」

「俺に二面性なんてない。俺はいつもありのままの自分を曝け出してるよ」

「ホントかなぁ……」

 

 

 コイツ、意外と鋭いな。あまり一緒にいるとボロを出すとか出さない以前に俺の素性がバレてしまうかもしれない、中々に危険な奴だ。かのんから聞いた話だと中学2年生だって言ってたっけ? 中学時代の雪穂といい楓といい、そして今のコイツといい、最近の中学生は大人びている奴も多い。下手をしたらコイツ、思春期かぶれのかのんたちより精神年齢が上じゃねぇか……? 俺との付き合いは浅いのに、短時間でこちらの核心にここまで迫って来たのは素直に凄いと思うよ。同時に恐ろしくもあるけどな。

 

 それにしても中学2年生か。顔つきも身体つきも幼さから大人になる時期だ。いや別にロリコンとかそういうのじゃなくて、男だったら期待を寄せる年頃の女の子ってだけの話だ。あぁ、それが変態に見えるのか……。

 ただありあに至っては姉のかのんの美人さに似ているところがあるのか、顔つきは中学生のくせに普通に大人びている。改めて見てみるとやはり美人の妹は美人ってことがよく分かるな。眼鏡さえ外せばもっと魅力的に見えるだろう。いや今の状態でも十分に可愛いけども。それに賢い女の子とコミュニケーションを取るのは好きだったりする。女の子と言葉のプロレスをするのも楽しいしな。

 

 

「なんですかさっきから、ジロジロ見ないでください……」

「反応が丸っきり(あいつ)と一緒だな……」

「もう、この人にお姉ちゃんを任せちゃっていいのかなぁ……」

「保護者かお前は」

「だってお姉ちゃんってキツそうな見た目とは裏腹に推しが弱いし、変な男性に騙されそうになったらどうしようって!」

 

 

 なるほどね。俺に下手な探りを入れようとしてるのは姉を心配してのことだったのか。ここで俺と会ったのは偶然だったのだろうが、いつか俺と会話する機会があったときに今回のような探りをしようと決めていたに違いない。そう考えるとちょっとシスコン気味ではあるか。まあ家族のことを心配するのは当然のことかもしれねぇけど。

 

 それにしてもコイツ、俺のことを変な男性と思ってたのか。否定はしないけどもっとこう、言い方ってものがあるだろ。まだ女グセが悪そうとか言ってくれた方がモテ男としてのプライドが高まるから嬉しいんだけどな……。

 

 

「安心しろ。俺は女の子を悲しませたりはしないさ。なんたって俺が好きなのは女の子の笑顔だから」

「…………!?」

「なんだよ?」

「い、いえ、すっごく真っすぐな瞳をしていたので驚きました。さっきまでは口調も態度も何もかもが軽かったのに、今だけは納得せざるを得なかったと言いますか……」

「フッ、そっか」

「なんで笑ってるんですか……」

 

 

 やはり自分が心の底から信じるものは相手に伝わるものだなって思っただけだ。自分自身が軽薄でノリも適当なのは理解しているが、女の子に対しての気持ちだけは本物だ。だからこそ自分の信念を語るときだけはどうしても真面目になっちまう。別にそれで自分を理解してくれない女の子の心に響かせようとは思ってないけど、毎回みんなに共感はされるのでこの信念だけは認めてくれているのだろう。

 

 

「それにさっきからやたらこっちのことジロジロ見てません? セクハラですよ」

「お前なぁ、この人混みを見てみろ。気にするに決まってるだろ」

「えっ……きゃっ!?」

「おいっ!? あ、あぶねぇ……」

「へ……えっ!?」

「ったく、言わんこっちゃない」

 

 

 会話に集中しているように見えるが、実は街中で人の波の間を練り歩いていることを忘れてはいない。だからありあがその波に飲まれないように注意していたのだが、この人混みで四方八方から歩いてくる人全員を警戒することはできなかった。そのせいで小柄な彼女が人混みに流されそうになったのだが、咄嗟に手を掴んでこちらに引いて抱き寄せた。

 

 そして、いったん落ち着くためにその勢いのまま道の脇から裏路地に逸れた。そこでようやく俺の身体から彼女を解放する。

 

 

「大丈夫か?」

「は、はいっ、ありがとうございます。助かりました」

「気にかけてたのに悪かったな」

「い、いえっ、先生が謝ることなんて何もないですよ! むしろ感謝しかないです!」

「そうか。まあ怪我がなかっただけ良かったよ」

「…………なるほど、お姉ちゃんたちが好きになるわけか」

「ん?」

「なんでもないです!」

 

 

 顔を赤くしてるけど、さっき少し抱き合ったときに暑くでもなったか? 外気温は寒いけど、ここまで着込んでるとそりゃ触れ合ったら暑くなるわな。

 その後はありあの口数が目に見えて減ってしまった。帰宅ルートもちょうどそれぞれ分岐するところだったのでそのまま解散したのだが、ずっと恥ずかしそうにしていたのはなんだったんだ。まさかクールキャラだけど俺に抱き寄せられたせいで惚れた……とかは流石にねぇか。だとしたらチョロすぎなんだよな……。

 

 

 そして、1人になった彼女は――――

 

 

「暖かかったな、先生の身体……。まだ温もり残ってるし……」

 

 

 彼女は自分の両腕を交差させて自分の身体に巻き付ける。

 

 

「油断していた私の方が悪いのに、『気にかけてたのに悪かったな』か……」

 

 

 その時の出来事を思い返す。心のモヤモヤが止まらない。

 

 

「なるほどね……。チョロいなぁ、私……」

 

 

 また知らぬところで新たな思慕の芽が生まれるのであった――――

 




 妹キャラ好きの私としては彼女の出番ももっと増えて欲しいです! とは言いつつも本日放送された2期の1話ではそこそこ喋っていた気がするので満足です!

 そして零君に探りを入れるような女性は、大体零君のことを認めてしまうようになるこの小説のシステムがあったりします。今回のありあ然り、侑や栞子、薫子やサヤさんなど、もう彼に出会ってしまったが最後なのかもしれません(笑)



 アニメもスーパースター2期が放送開始となり、早速動いている1年生組を見ましたがみんなキャラが濃い……!! かのんたちとの絡みもそうですが、1年生同士が仲良くなっていく様子も期待してこれからも視聴を続けます!
 ただこの小説に登場させられるのはいつになるだろうって話ですね……(笑) まだランジュとミアが残ってるのに……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たなる星たち! オープンスクール開催!

 今回の話は時系列的に少し前の話となり、零君がスクールアイドル部の顧問になった直後くらいです。




 オープンスクール。高校が中学3年生の受験生に向けて学校説明会、および体験授業や部活を開くイベントのことだ。受験勉強のスパート開始となる毎年の秋口頃に開催され、実際の授業や部活を体験させることにより学生たちへの関心を高め、より多くの中学生たちを学校へ呼び込もうとする意図がある。特に最近はそもそも子供の数が減りつつある社会になっているためか定員割れとなってしまう学校は珍しくなく、こうしたイベントで学生の興味を引くのは学校にとってはビッグイベント、生死を分かつ戦いなのだ。

 

 とは言えども、我が結ヶ丘女子高等学校はそこまで苛烈を極める戦いに身を投じる必要はない。当初は出来立ての学校なくせに廃校になりそうという見切り発車のソシャゲ運営みたいになっていたが、かのんたちLiellaの活躍や、他の部活たちも一定の成績を収めているためか世間の印象はかなりいい。しかも偏差値もそれなりに高く、音楽科というプロへの道を担保された学科もあるため集客には困らないのだ。当初の資金がなくてあたふたしていた頃とは考えられないくらいの地位を築き上げていた。

 

 だが、この学校の連中は集客できるからと言ってイベントに手を抜くような奴らじゃない。むしろ自分たちが輝くことができたこの学校の良さを存分にアピールするため、オープンスクールへの力の入れようは準備段階から半端ではなかった。どの授業も、部活も華やかに、そして真剣にイベントに取り組んでいる。

 

 

「すっげぇ人だな。お祭りかっつうの……」

 

 

 人がごった返している、とまでは行かないが、どこを見回しても学生が多い状況ではあった。中学生たちの関心が高まっていたのは知っていたが、こうして目に見える形になるとこの学校の人気の高さが浮き彫りとなる。これも生徒たちが一致団結して学校おこしをしたおかげか。これには入学者の集客に躍起になっていた恋もにっこりだろう。

 

 ただ人が多すぎるのも困りもので、まだ開花前の蕾である女子中学生たちをたくさん見られるのはいいんだけど、それゆえに俺の仕事が増えてしまう。そのせいでさっきから『このブースはどこにありますか?』やら『この部活の体験会はどこでやっていますか?』などなど、やたらめったら質問される。ただでさえ休日出勤でやる気ねぇのに、仕事量まで増えたら堪ったもんじゃねぇよ。

 

 ほら、今だってそこに周りをきょろきょろとして如何にも迷ってますって女の子が1人――――

 

 

「生物の体験授業の教室は……? 地理の体験授業はどこっすかぁ~……」

「おい」

「飼育委員会の体験入部の場所は……って、このままだと体験の時間が過ぎちゃうっす!! あぁ~もうっ、学校が広すぎてわけわかんないっすよぉ~……!!」

「おい」

「うひゃぁああああああああああああっ!?!? は、はいっ!?」

 

 

 明らかに都会慣れしていない田舎少女が道に迷い嘆いていたので、思わずこっちから声をかけてしまった。自分から仕事を増やすなんて俺としては言語道断だが、コイツの挙動が不審すぎて見てられなかったんだよ。それに田舎感が丸出しで周りから注目されてたし、当の本人はそれに気づいてねぇし……。

 

 手元のタブレットで目の前の少女のプロフィールを確認する。いや裏ルートで独自に入手したとかヤベー情報などではなく、このオープンスクールに参加するためにこの子たちが書いた願書がデータ化され、イベント責任者ならいつでも閲覧できるようになっているだけだ。その願書にアンケート形式ながら、自分の興味ある科目や部活を記入するところがあるので、あくまで学校として今後の参考にするために用意されたものである。だから秋葉に頼んで将来有望な女の子を俺のモノにするために情報収集してたとか、そんなことじゃないから勘違いしないで欲しい。

 

 ちなみにコイツは『桜小路 きな子』。どうやら北海道、それもそれなりの僻地からわざわざ結ヶ丘に来たらしい。なるほど、だから田舎感が満載だったのか……。

 

 

「えぇっと……もしかしてナンパっすか!?!?」

「ちげーよ!! どうしてそうなる!?」

「でもでも、都会ではナンパしてくる男性が多くて、気づいたら色んなところへ連れ込まれるから気を付けろって友達が……。色んな所がどこかは分かんないっすけど……」

「その友達も都会のこと誤解してるだろ……。俺はここの教師だ、だから安心しろ」

「あっ、先生だったんっすね。すっごくお若く見えるので、てっきり女子中学生が集まるイベントに紛れ込んで獲物を狙うナンパ師かと……」

「お前も相当思い込み激しいな!?」

 

 

 女の子から若く見られるのは嬉しいけど、だからってナンパしそうって思われるのは心外だ。俺ってそんなにチャラそうに見えるのか? 侑からはいつも『お兄さんの言動は軽く聞こえる』やら『お兄さんの言うことはいちいち癇に障る』やら『お兄さんって何かと上から目線で高圧的』やら、散々文句を言われてるからそのせいかも……。

 

 

「とにかく、どこかへ行きたいけど迷ってんだろ?」

「ふぇっ!? ど、どうしてきな子の行動が読まれているんっすか!? や、やっぱりナンパするためにずっと観察していたのでは……!?」

「だからちげーっつってんだろ!? そもそもお前、考えてることが声にも動きにも出ていて誰でも読めるっつうの!!」

「あっ、そうなんっすね」

「慌ただしい奴だな……」

 

 

 なんつうか、Aqoursの連中とはまた違った田舎少女だなコイツ……。どちらかと言えば、いや、比べるまでもなくコイツの方がよっぽどヤベぇ。若い男に話しかけられただけでナンパと思い込むとかどうかしてるぞ……。

 

 とりあえず変な誤解は解いたところで、桜小路の行きたい体験授業をやっている教室へ連れていくことにした。確かに校内は大学のキャンパスに負けず劣らずに広いが、オープンスクールの資料に書かれている案内図を見ればある程度は分かるはずだ。それすらも読めないってことは、やはり普段からこういったごちゃごちゃとした生活環境に慣れていないのだろう。隣を歩くコイツを見ていると、常に周りをきょろきょろと眺めていて物珍しそうにしているから慣れてないのが丸分かりだ。

 

 そんなこんなで桜小路を連れて校内を練り歩く。幸いにもまだ生物学の体験授業までまだ時間もあるし、教室も1つ階段を上がった先なので流石にもう迷うことはないだろう。もうすぐLiellaの奴らの体験入部のイベントがあり、俺もそっちに行く必要があるからここでお別れだ。

 

 

「わざわざありがとうございした!」

「これが仕事だからな。気にするな」

「ま、またお礼をさせてください!! 友達たちからの話によると、女性は男性に優しくされたらホテルに案内すべきと……これどういうことっすかね?」

「とりあえずその友達とは縁を切った方がいいな……」

 

 

 田舎の純粋無垢な少女に変な思考を埋め込む奴は万死に値するぞ。もうね、淫乱キャラは十分なんだよこちとらな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そうして桜小路と別れて来た道を戻っていると、とてつもなく特徴的な声が聞こえてきた。

 

 

「オニナッツー! 日々のあれこれエトセトラー。 あなたの心のオニサプリ、オニナッツこと鬼塚夏美ですのー!」

「な、なんだ!?」

「今日は結ヶ丘のオープンスクールに来てますの! 面白そうな体験ブースがあったらどんどん宣伝していくのでよろしくですのー!」

「動画を撮ってんのか……?」

 

 

 階段の踊り場でスマホを設置した自撮り棒を持って、明らかに動画配信 or 収録してますよって感じの女の子が目に飛び込んできた。見た目も派手で、髪型は三つ編みのカール型、クリーム色とピンク色のコントラストでまるでスイーツだ。見た目が地味な桜小路とは性格的にも真逆だとすぐに察知できた。

 

 

「おい、一応言っておくけど校内のライブ配信は禁止だぞ」

「ん~? こ、これは緊急事態ですのっ! まだ高校デビューも果たしていないのに、まさかナンパされる事態に!! 次回、女子中学生を襲うナンパ師とまさかのコラボ撮影、ですのー!」

「おい適当なこと動画で拡散しようとしてんじゃねぇよ!! つうかナンパ師じゃねぇ」

「大丈夫、録画ですの」

「録画だからいいって問題でもねぇだろ」

 

 

 コイツの正体を知るためにタブレットで情報を探ってみる。

 彼女の名は『鬼塚 夏美』。さっき自分でも大声で名乗っていた上に、これだけ派手な見た目で公衆の中でも堂々と動画撮影ができる精神力からして特徴があり過ぎる。さっきの桜小路が田舎寄りだとしたら、コイツは完全に世俗に塗れた都会人間だろう。

 

 つうかそんなことよりも、俺ってやっぱりナンパしそうな男に見えるのか?? これでも最近は社会人として尊大に見える態度とかを抑えているつもりなのだが、どうも軽いノリは抜け切れていないらしい。性格はそう簡単に変えられるものじゃねぇけどさ、ここまで勘違いされると俺の品位に関わるっつうか……。

 

 

「それで? 夏美の動画に割り込んで来たあなたはどこのチャンネルのお人で?」

「俺はエルチューバーじゃねぇ。この学校の教師だ」

「教師……? ま、まさか大人気エルチューバーの夏美を生徒として引き抜こうとしているんですの!? これは裏口入学、つまり動画のネタに……」

「話が飛躍し過ぎだ。校舎の中で動画取ってる派手な奴を見かけたら普通声かけるだろ、教師として。つうかサラッと社会の闇を動画ネタにするんじゃねぇよ……」

「な~んだ、冷やかしですの」

「どうして俺が呆れられる側なんだよ……」

 

 

 流石にコイツのスペックは分からないが、それなりに有名なエルチューバ―なんだろうか。俺はその界隈に興味がないから詳しいことは不明だけど、有名人が動画で宣伝、そして入学したとなれば学校としてもコイツとしても名は売れるだろう。ただでさえLiellaを始めとした生徒たちの功績でオープンスクールにここまで人が集まるようになったんだ、SNS文化の今だからこそ動画宣伝の効果はあるはずだ。まあ由緒ある学園だからそんな不純な理由はダメだって恋が言いそうだけど……。

 

 

「つうかお前、オープンスクールに来た理由って動画撮影のためかよ」

「んー? 新設校って言うのもありますし、原宿も近い流行最先端学校に通えるってだけですの! なのでそんな不純な理由はないです!」

「いや十分私欲塗れだろ……。ま、人の理由なんて俺にはどうでもいいけどさ」

「そうだ! せっかく出会ったご縁です、これをどうぞ!」

「えっ、名刺? 『株式会社代表取締役社長CEO 鬼塚 夏美』……って、どれだけ役職盛ってんだよ。てかこんなの作ってるなんて割と本格的に配信者やってんのな」

「当たり前ですの! 夏美がこの学校に入学した暁には、先生をファン1号にして差し上げます! あっ、だったら生徒である夏美と教師であるあなたの禁断のお付き合いみたいな感じで、炎上商法を狙えるかも……」

「なにもかも必要ねぇ!!」

「あははっ、冗談ですの冗談! ではまたご縁がありましたら、ですのー!」

 

 

 そして鬼塚は走り去っていった。まさに嵐のような奴で、動画配信者のテンションっつうのは凄まじい。しかもやたらと強引だったし、もしアイツが入学したら俺の気苦労がまた増えそうだ。入学したらの話だけど。

 

 それに教師と生徒の禁断の恋愛って、俺にとってはぶっちゃけフィクションじゃないんだよな……。だからさっきアイツにバレてるかと思ってビックリしちまったよ。下手なことを言ったらすぐに動画で拡散されそうで怖いな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そしてまたイベントの見回りを開始する。今はどの教室も部活も体験授業、体験入部で忙しなく、どこも活気で賑わっていた。外では運動部の体験をしている子たちの楽しそうな声も聞こえてくる。昼だからか朝よりも更に人が増えているため、さっきまで感じていたこの学校の注目度の高さすらまだまだ途上だったってことだ。

 

 そんな中でかのんたちスクールアイドル部の体験入部ももうすぐ始まろうとしている。当初は自分たちだけでやってもらえればいいと思っていたのだが、さっきから早く来いとの連絡が全員から送られてきて鬱陶しいので仕方なく部室へ行くことにした。

 

 のだが――――

 

 

「だから私はいいって!!」

「でもスクールアイドル部の体験入部は午後のこの時間で全部終了。さっきもそうやって駄々をこねて午前の部は全てスルーしたから、これが最後のチャンスなんだけど」

「駄々こねたとか言うな子供っぽいだろ!!」

 

 

 部室へ行く途中でやたら騒いでいる赤髪の女の子と、冷静沈着に淡々としている青髪の女の子がいた。廊下の真ん中を2人で向かい合いながら支配している上に、このままだと通れないので騒音の注意喚起も兼ねて声をかける。

 

 

「おい、痴話喧嘩なら外でやれ。廊下で騒いでると迷惑だ」

「誰が痴話喧嘩だ誰が!! って、誰……?」

「それなりの正装、イベントに参加している中学生の付き添いにも見えない、それに校内で私たちに注意をしてきたと言うことは学校関係者の可能性。つまりあなたは――――」

「そう、そのつまりだ」

「ナンパ?」

「なんでだよ!! そこまで来たら教師に行きつけよ!!」

 

 

 この青髪、さっきタブレットで調べたら『若菜 四季』だったか。ミステリアスな雰囲気を醸し出して無口そうな子だが、早速ボケをかましてきやがった。意図的に発言したのか天然なのかどうかは分からないが、俺ってそこまでナンパしそうに見えるのか? しかもナンパ師って言ってくる相手は全員女子中学生、いわゆるJCだぞ? つまり、俺はロリコンに見えるってことなのか……??

 

 そして若菜と一緒にいるのが『米女 メイ』。若菜とは違って血気盛んで真逆の性格のようだ。なんか妙に目力が強く殺気みたいなのが出てるし、そんなことだと不良に見えちゃうぞ? だがさっきからそわそわして、やけに女々しく見えるのは何故だろうか。いや女の子だから女々しくてもいいんだけど、性格や見た目と会わなかったからつい気になってな。

 

 

「この先はスクールアイドル部の部室しかねぇぞ? まさかお前ら、スクールアイドルに興味があるのか?」

「はぁ!? そ、そんなわけないだろ!! 道に迷ったんだよ……」

「なんつう苦しい言い訳だ……。別に行きたきゃ連れて行ってやるよ。これでもスクールアイドル部の顧問だしな」

「こ、顧問だったのか……。まぁ私にとってはどうだっていいけどな!!」

「あっそ。こっちも無理強いするつもりはないからいいけどさ」

「………」

「なんだよさっきからこっちをジロジロ見て」

「本当にナンパ師じゃなかったんだって」

「まだ引きずってたのかよその話題……」

 

 

 よく考えれば女子中学生に声をかける成人男性って字面だけでも危険か。とは言ってもこっちは仕事だから許してほしい。ってかどうして俺が許しを請う立場になってんだ……。

 それはさておき、スクールアイドルに興味がある奴をようやく見つけることができた。探していたわけじゃないが、校内を回っている間にあまりスクールアイドルの体験入部に行ってみようって話題を聞かなかったからだ。ライブがあるのでそちらに興味を示す子はたくさんいたけど、体験の練習に参加しようって子は全然いなかったからな。

 

 

「無理矢理連れて行く気はねぇからいいんだけどさ。だったらお前はどうなんだ?」

「私はメイの付き添いだから、スクールアイドルには興味ない」

「淡々と言い張りやがって……。ま、体験練習に行かないならせめてライブでも見て行け。夕方にライブやるからさ」

「見る!! それは絶対に!! あっ……!!」

「やっぱ興味あるんじゃねぇか。ツンデレとか、意外と可愛いところあるんだな」

「そう、メイは可愛い」

「うるせぇえええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 髪の色と同じくらい顔も赤くなりやがった。好きなら好きって言えばいいのに己のプライドが許さないか。もちろん無理強いはしないのでこれ以上は誘ったりしないが、人は見かけによらないっつうか、不良少女っぽいコイツでも意外と女の子っぽいところがあるってのが気に入ったよ。古い言葉で言うギャップ萌えみたいなの、割と好きなんだよ。

 

 

「せっかくだからお前も見に来いよ」

「ナンパ?」

「なんでだよ!? お前も可愛いんだから少しは可愛げのあるところを見せろよな」

「…………もしかして口説かれてる?」

「えっ、普通のこと言ってるだけだろ」

「…………天然ジゴロ。付き合っている女性は苦労してそう。行こ、メイ」

「あ、あぁ……」

「なんだその見透かした目は!? おい!!」

 

 

 若菜の奴、言いたいことだけ言って立ち去りやがった。なんか冷静にこちらのことを分析されてそうでちょっと怖いんだよな……。

 それで結局あの2人はスクールアイドルの体験練習には行かなかったようだが、夕方のライブを見に来ていることは確認した。そのライブで米女がかなり興奮していたので、やっぱスクールアイドル好きなんじゃねぇかアイツ。入学したらもしかしたら、もしかするかもな。

 

 こうして結ヶ丘のオープンスクールは無事に終了。俺と出会った子たちはみんなキャラが濃くて印象に残る奴らばかりだった。今日少し話しただけでも色濃かったから、もしアイツらが入学したらと思うとまた色々と厄介事に巻き込まれるんだろうな。楽しみでもあり、それ以上に気苦労が多そうだ。

 

 ちなみに俺は結局部室に行かず、あの後もずっとオープンスクールに参加している女の子たちの対応をしていた。(女の子たちから話しかけてきたので、決してナンパではない)

 そして、それをかのんたちに話したら不貞腐れてしまった。なんで!?!?

 




 今回は前書きの通り、スーパースター2期で新登場した1年生組の4人を先行登場させてみました。虹ヶ咲ですらランジュやミアをまだ登場させられていないのに、この4人を登場させるとなったら一体いつになるのか……と考え、今回特別ゲストとして登場させた次第です。流石にこれ以降はメインであるかのんたち5人を描きたいため、少なくともこのLiella編での再登場はないです。

 1年生4人の性格はまだアニメ2話や自己紹介の動画を見ただけなので、ぶっちゃけまだ小説の描写として活かしきれているとは言い難いです。ただこれからアニメでどんどんキャラに肉付けされていくと思うので、今後フルパワーで彼女たちを描けるときを楽しみにしてます!(いつになるのかは分かりませんが……)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去への扉:ずっと隣にいてくれたから

「先生。この資料の最終確認をお願いします」

「あぁ――――ん?? おい、俺は生徒会顧問じゃないぞ? サラッと仕事を振るんじゃねぇ」

「あら、そうでしたか?」

「柄にもなく惚けてんじゃねぇよ……」

「うふふ、すみません。先生いつも生徒会室に入り浸っているので、勘違いしちゃいました♪」

「楽しそうにするなよ……」

 

 

 絶対に勘違いしてないだろって笑みを浮かべる恋。そもそも俺が生徒会室にいるのは恋の様子を見に来ているからで、別に生徒会業務を手伝うためではない。コイツのことを心配している理事長からの命令で、1人で生徒会を背負っているコイツの面倒を見ているだけだ。俺はお人好しじゃないんでね、面倒事は何が何でも避ける。故に頼まれている以上のことはしない、よく覚えておいて欲しい。

 

 ちなみに生徒会がコイツ1人なのは別にブラック職場というわけではなく、ただ単に生徒数が1年生分しかいないこの学校では生徒会の業務も少ないからだ。それでも補佐役ぐらいは誰か引き入れた方がいいと思うのだが、恋の事務処理能力がハイスペックすぎて1人で賄えているのが現状。スクールアイドル活動と余裕で両立できている時点でそれはお察しだろう。

 

 

「それにしてもお前も変わったな。俺に対してそんな冗談を言えるようになるなんて、半年前のお前からしたら考えられなかった」

「そうですね。それだけ心の余裕ができたのかもしれません。これも先生のおかげです」

「随分と素直だな。それも前のお前ではあり得なかったことだ」

「何もかも、先生に変えられてしまいました」

 

 

 なにそのちょっとエロい言い方。コイツにそんな意図はないんだろうけど、女子高生の口からその言葉は犯罪臭がするっつうか……まぁ余計な詮索はしないでおこう。

 冗談を言ったり素直になった恋は本当に別人のようで、半年前のコイツはそれはそれは何かにつけて俺を睨み、何か言えば噛みついてきそうなくらいの狂犬だった。常に険しい顔をしているし、オーラからして氷のように冷たくて他を寄せ付けない。自分の使命、結ヶ丘を存続させるためだったら周りから孤立しても構わないと言う強固な決意から、使命の妨げとなる要素を一切合切を否定してきた。それがスクールアイドルであったり、そして俺でもあったわけだ。

 

 

「Liellaの5人の中でもお前には一番苦労させられたよ。ただコミュニケーションを取ろうとしただけで不機嫌になるなんて、ぶっちゃけお手上げになりそうだった」

「それは私も悪いと思っていますが、先生も先生だったと思います。教師なのに服を着崩し、女性に対する軽率な言動、それに迷惑しているのに何度も何度も話しかけけてくる執拗さ、何をとっても私の癇に障りました」

「多分お互いの相性が悪かったんだろうな。あの頃は」

「そうですね、あの頃は」

 

 

 ただ今ではこうやって生徒会室で2人きりで昔話ができるくらいの仲になっているから、運命ってのは本当に何があるのか分からない。ちなみに俺はコイツに苦手意識を持っていたのではなく、過去最高に手懐けるのが難しい女の子が来たと少し心が躍っていた。だって自分に牙を剥く女の子を懐柔したくなるのは男の性だろ? えっ、違う……?

 

 

「私がずっと1人でいる中、先生もずっと声をかけてくれましたね。『学校生活はどうだ』とか、『生徒会は大変か?』とか、『堅いな~お前。もっと楽に生きたらどうだ?』とか、学校に関係のない日常会話まで、生産性のない他愛のないお話ばかり。それで私も冷たく突き放していたのですが、決して先生との関係を断ち切ろうとはしなかった。もしかしたら自分では気づいておらず、心のどこかでは嬉しかったのかもしれません。同級生との関係を断ち切ったつもりでも、誰かとの繋がりを求めていたと思うのです」

「普通科を除け者にするって相当恨まれることしてたもんなお前。そりゃそんな奴と繋がりを持とうとする奴はいないだろうしな。だからせめて俺だけでもって思ったんだ。そうしないとお前だけ仲間外れになっちまってたぞ?」

「なってしまっていたと言いますか、本当になっていたと思います。だからこそ先生を拒絶しなかったのだと。自覚はしていませんでしたが本当は寂しかったのです。でも弱音は吐けなかった。自分がやらなければ誰がお母様の意思を引き継ぐんだと、そう思っていましたので」

 

 

 普通科を見下していた態度も、スクールアイドルを否定していたのも、別に嫌がらせだったわけじゃない。否定行為はあの時の恋にとって最良の選択肢だったんだ。その考え方の違いでスクールアイドル、特にかのんとは大きく衝突していたけど、それはそれでいい経験だったんだろうなって今になって思うよ。結果として上手く話が進んで今に至るわけだし、衝突した過去があるからこそかのんたちとの友情もより強くあるわけだ。ま、あの頃の静かに暴走していたコイツは中々見るに堪えなかったけどな。同時に手間がかかる奴を構ってやりたくなる俺の衝動もあったわけだ。

 

 それにしても、コイツが背負っていたものは女子高生が1人にしてはあまりにも重荷が過ぎた。そりゃ1人で来年の新入生を集客しつつ、学校の資金難を解決するってぶっちゃけて言えば無理な話だ。どうやら恋の入学前からそんな話になっていたらしいので、もしかして俺がこの学校の教師に選ばれたのはそれを解決するためだったりするのか? どうやら秋葉と理事長には繋がりがあるようなので、うん、ありえる。

 

 

「でもそんな私を見かねたのか、他の方は私と距離を置く中、先生だけはずっとずっと私に話しかけてきました。その理由を聞いたら何と仰ったのか覚えていますか?」

「いや」

「『どうして声を掛けるのかだって? そりゃ心配だからだよ、お前のことが』。あまりにも素直過ぎて虚をつかれてしまいました」

「俺はオープンな性格だからな。欲望も何もかも曝け出す。隠してたら自分の夢は叶えられないんでね」

「夢? 先生には夢があるのですか?」

「あれ、言ったことなかったっけ? そんな大層な夢じゃねぇけどな。ただ女の子の笑顔が見たい、それだけだ」

「それが先生の夢、ですか……」

 

 

 こうして口に出してみると本当に大したことねぇな俺の夢って。特に何か終着点があるわけでもなく、特に達成難易度が高いわけでもない。まあ夢なんて他人と比較するものでもないし、大小なんて関係ないから別にいいんだけどさ。

 恋は何やら物思いに耽っている。あまりにも大したことがなさ過ぎて呆然としているのか、あまり教師らしくないと思われているのか。なんにせよ、意外に思っていることだけは確かだろう。

 

 

「なるほど……」

「なにが?」

「先生がずっと私の隣にいてくださった本当の理由がようやく分かったのです。どうして私にそこまで構ってくるのか、その理由を聞いたら何と仰ったのか覚えていますか?」

「いや、だから覚えてねぇって」

「『嫌でもお前の隣にいてやるよ。そうでないとお前に寄り添ってくれる人、誰もいなくなっちまうだろ。お前は拒否しても、俺は味方であり続けたい』。これは先生の優しさでもあり、そして先生の夢のためでもあったのですね」

「もしかしてお前、俺の言葉を一言一句隅々まで覚えてんのか? こえぇよ」

「私を救ってくれた言葉ですから、決して忘れません。お墓まで、そして天国にまで持ち込む所存です」

「なにその決意に満ちた表情は!? 余計にこえぇよ!!」

「格言として家に飾っておくのもいいですね……」

「そんなことで真剣になるなよ……」

 

 

 感動してもらえるのは嬉しいけど、言葉だけを神のように奉るのは普通に恥ずかしいからやめろ。コイツってドが付くほど真面目だけど、天然の真面目ちゃんだから思考言動があらぬ方向に進むことがある。冗談を言えるくらいには堅物が抜けたのはいいけど、天然系真面目キャラが引き起こす渾身のボケには未だに呆気に取られることが多い。絵里といい、どうして堅物キャラは仲間になったら弱体化するんだろうな……。

 

 

「真剣にもなりますよ。笑顔になるきっかけを作ってくれた、先生からの大切なお言葉ですから」

「あの頃はお前の笑顔、全く見なかったからな。そういう意味では俺が最初にお前の笑顔を見た男、ってことか?」

「そもそもこの学校の男性は先生しかいらっしゃいませんけど……」

「そうだった……。でもまぁ、お前の笑顔が見たいってのは下心のない本心だよ。昔も、今もな」

「分かっていますよ、先生に曇りのない優しさがあることは。『俺はお前に普通の女子高生として生きて欲しいんだよ。誰からも恨まれず、日々疲弊するほど思い悩む必要がないようにな』。この言葉を聞いた時、この人は本気で私のことを心配してくれているんだと悟りましたから」

「そんな言葉まで覚えてんのかよ……」

 

 

 もう下手にキザったらしい言葉を恋の前で言うのはやめた方がいいかもしれない。格言として神格化され、忘れた頃に掘り起こしてきやがる。場合によっては黒歴史にもなりかねないぞこれ……。

 

 

「覚えています。絶対に忘れるはずがありません。だって先生がいなかったら私、今こんな素晴らしい幸せを噛みしめてはいませんから」

「それってまさか、俺と一緒にいられることか?」

「はいっ!」

「なんだよその屈託のない笑顔は……。マジか……」

 

 

 否定される覚悟での冗談交じりの発言だったのだが、まさか本当に俺と一緒にいることに喜びを感じていたとは……。いや嬉しいことなんだけど、素直過ぎるってのも困りものだ。流石の俺も柄にもなく取り乱しそうになってしまった。これなら暴走機関車だけど単純思考の可可の方がまだ扱いやすいぞ……。

 

 

「かのんさん、可可さん、千砂都さん、すみれさん、そして学校の皆さん、その全員と繋がることができたのは先生のおかげです。私の凍てついた心を溶かしてくださった先生には感謝を伝えても伝えきれません。それに私がスクールアイドルになってからもずっとサポートしてくださって、こうして生徒会室にも足を運んでくださっている。そんな先生の隣にいられることが楽しくて、いてくれるという事実が私を勇気づけて、そして……」

「そして?」

「い、いえっ! ともかく、今の私があるのは先生のおかげということですっ!」

「なんかありきたりな言葉で無理矢理まとめたな……」

 

 

 恋の奴、めちゃくちゃ赤面していて今にも爆発しそうだけど大丈夫か?? 最後に何を言おうとしていたのかは知らないけど、今のコイツは俺に相当な執着があるようだ。それはかのんたちも変わらないだろうが、俺によって一番変わったコイツだからこそ俺に対する気持ちは大いに積もっていることだろう。って、自分で解説するのも気恥ずかしいな。

 

 

「なんにせよ、今が充実しているならそれで良かったよ。まだ俺の目的は達成されてないけどな」

「目的?」

「可愛いお前を見ることだ」

「ぶぅぅぅぅっ!!」

「なに水噴き出してんだよ!! 女子のくせにはしたねぇぞ!!」

「せ、先生が変なことを仰るからです!! そ、そんな私なんて可可さんや千砂都さんみたいに愛嬌があるわけでも、かのんさんやすみれさんみたいに美人でもないですし……」

「いやお前マジで言ってんのか……」

「へ?」

 

 

 そりゃLiellaの面々はみんなそれぞれの魅力があり、他のスクールアイドルの奴らもそうだが、それはもちろんコイツも同じだ。まさかここで特大ブーメランを自分で自分に投げつけるほどの天然だったとは。いや謙遜なのか? 自分で自分の魅力を分かってない女の子を分からせてやるのも俺のやりたいことだ。そっちの方がステージでより輝くことができるだろうしな。全く、ブーメラン発言をする奴には困ったもんだ。

 

 ん? この場に侑がいないのに睨まれてる感じがするのは気のせいか……??

 

 

「笑顔を見るってのはスタート地点だ。俺の夢は更にその先にある。だからこうしてお前たちの前に立つんだよ」

「だとしたら、私がステージで輝けば輝くほど、先生はずっと私を見てくださる。ということでしょうか……?」

「逆だな。俺が見てるからお前が、お前たちが輝くんだ。だからもっと想いを募らせろ。俺もお前への、お前たちへの気持ちを高鳴らせておくからさ」

「先生が私たちを……。私も先生を……。はい、私、もっと先生の心を踊らせてみせます」

「言ったな。精々楽しみにしてるよ」

 

 

 少し告白っぽくなってしまったが、恋愛下手なコイツにはこれくらい率直に気持ちを伝えた方がいいだろう。そのおかげかどこか腑に落ちた様子だし、これでより一層輝いて、魅力的で、そして可愛いコイツの姿も見られるはずだ。

 

 それに半年前のコイツの冷徹さを考えると、まず可愛い姿を見られるというスタートラインに立てただけでも喜ぶべきことなんだよな。かのんたちと和解して、学校のみんなに溶け込んだ時は親のように嬉しかった。それだけでもコイツにとっては大きな成長だ。

 

 もちろん俺はそれで満足はしない。ただ魅力的、ただ可愛い女の子だけだったら他にたくさんいる。俺は俺にその魅力を向けてくれる女の子が欲しい。だから恋を助けたのも全て私利私欲のためだ。コイツに想いを向けられているのも全てもたらされた結果なんだ。

 

 スタートは既に切られている。かのんたちも、恋も、まだ走り始めたばかりだ。

 だからこれから、もっともっと俺を楽しませてくれよ。

 




 女の子が過去を背負っていれば背負っているほど零君を介入させて助けるイベントを発生させられるので、非常に話が書きやすくて良きことです(本音) それでも先生が生徒にしてあげることの範疇を超えているような気がしますが、そこは零君なので……(笑)

 過去編も残すところあと1人となりました。そしてこのLiella編も残り数話、時期的には8月中~9月半ばに完結予定です。
 Liella編の後に何をやるのかは……まだご想像にお任せということで!(笑)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

妊娠体験!?バーチャル結婚!?

 今回は話のネタの都合上、一人称がコロコロ入れ替わります。
 前回投稿した『ドキドキ職業妄想体験!』のお話みたいな感じで進みます!




「えぇっと、妊娠体験……ですか?」

「そうそう。女子高ならではの体験イベントってこと♪」

 

 

 澁谷かのんです。

 ウィンクをして楽しそうにしている秋葉先生を前に、私たちは聞き慣れない言葉に唖然とするばかりだった。いや言葉自体の意味は分かるけど、妊娠って私たちにはまだ縁の遠い言葉だから実感というか、何をするのか分かってなくて……。

 

 今日は珍しく零先生のお姉さんである秋葉先生が部室に来ている。秋葉先生は非常勤講師で、研究者として頻繁に世界を駆け巡っているみたいだからそもそも学校に来ること自体が少ない。だから私たちもそこまで頻繁には顔を合わせていなかったりもする。ただ零先生から聞いた話と私たちがこれまで体験したことから察するに、あまり積極的に関わってはいけない人……だと思う。

 でも秋葉先生は勉強の教え方も上手く、授業はラフなスタイルなのにもかかわらず生徒のやる気を引き出すのも上手だから、そこまで悪い人には見えない。私の友達にも秋葉先生の授業が楽しみだって言ってる子もいるし、先生本人もフレンドリーで接しやすく、生徒人気が高いのは間違いない。だから零先生から聞いてたよりも全然まともって感じがするよ。

 

 そして今日秋葉先生が持ち込んできたのは、近々この学校で開催される妊娠体験イベントのプレテスト。それを私たちにやって欲しいとのこと。まあそれくらいであればお世話になっている零先生のお姉さんということもあり、二つ返事で引き受けることにした。ただ秋葉先生が既に楽しそうなのは何か不穏な雰囲気がするようなしないような……。

 

 

「妊娠体験ってアレ? お腹の膨らみを体感するためのエプロンとか、大きくなった胸を再現するための胸パットとか付けるってことかしら?」

「それもあるけど、私が監修してるんだからそんな単純なモノでは終わらせないよ!」

「いや単純でいいと思いますけど……。生徒会長としてその、あまり過激なことは禁止にせざるを得ないと言いますか……」

「なんか凄く警戒してるみたいだけど、実際に子作りから体験してみようとか、そんなエッチなことは求めないから大丈夫だって! それはそれで面白いけど♪」

「なんか可可たち遊ばれようとしてマセンか!?」

「一応これだって保健体育の授業の一環なんだから、流石の私でも真面目にやるって♪」

「さっきから笑顔が怖いんですけど……。ね、かのんちゃん……?」

「ふぇっ!? 答えづらい質問を振らないでちぃちゃん!!」

「この警戒のされよう。どうやら零君が私の悪口を吹き込んでるみたいだね……。ふ~ん……」

 

 

 悪口ではないんだけど、注意するようには言われてたから私たちは思わず警戒してしまっていた。ただそれは秋葉先生の癪に障ったようで、意地悪そうな笑みを浮かべている。これもしかして零先生が遊び相手にされちゃうとか、そういう流れになっちゃったかな……?? だとしたらゴメンなさい、先生!!

 

 そんなこんなで話が進んでいく中、秋葉さんは妊娠体験に必要なモノをバッグから次々と取り出していく。すみれちゃんが言っていた通り、お腹の膨らみを体感するためのエプロンや大きくなった胸を再現するための胸パット、そして双眼鏡のようなゴーグル……って、ゴーグル??

 

 

「これは……VRゴーグルというやつデスか!? 一気に科学的になって面白そうデス!」

「その通り! エプロンや胸パットを付けるだけなんて現代的じゃないからね、もっとデジタルに行かないと! というわけで、それを付けると疑似的に妊婦さんの生活が体験できるってこと。こっちの方が臨場感も現実味もあって楽しそうでしょ?」

「確かにゲーム感覚の方が楽しめるってのはあるわね。エプロンと胸パットを付けて歩くだけとかつまらないし」

「うん、これだったらみんなにも興味を持ってもらえそうかも。それだったら恋ちゃんもいいでしょ?」

「そ、それでしたら……」

「決まり! しっかり5人分持ってきたから早く装着したした!」

 

 

 ゲーム感覚と聞いて可可ちゃんもすみれちゃんもちぃちゃんもみんなやる気満々になり、そんな前向きな様子を見て恋ちゃんも引き下がれなくなっていた。正直私もこれだったら面白そうだし、別にただVRを体験するだけだから何もされない……と思う。変に警戒しちゃってたけど、秋葉先生も教師なんだから生徒に興味を持ってもらえるようにイベント内容を考えてくれてるだけなんだよね。疑っちゃったりして悪いことしたかな……。

 

 みんな席につき、まずエプロンと胸パットを装着する。

 

 

「意外と重いのですねお腹の重り。エプロンなのでここまでずっしりしてるとは思いませんでした」

「もうこの重さだけでも妊婦さんの気持ちがわかるね……」

「でもこの胸パットもそこそこ重いわね。妊娠したらここまで膨らむものなのかしら……」

「こ、これが巨乳の重みってやつ……? 凄い……」

「千砂都? なにやら感動しているみたいデスがどうかしたのデスか?」

「うぇっ!? な、なんでもないよなんでも!!」

 

 

 ちぃちゃん、胸パットの力だけど巨乳になることができてちょっと嬉しそうにしてる。自分がスリムな体型なことを気にしてるから仕方ないけど、まさかここまで目に見えて感動するとは……。スラっとした体型はダンスをする上では理想なんだけど、男性に魅力を見せるという点だと気になってしまうのも無理はない。私自身もスタイルがいいとは言えないからそこのところは先生がどう思ってるのか気になったりしている。

 

 ――――って、ここで真っ先に先生が思い浮かぶなんて先生に失礼だよ!! 先生は誠実だから女性をそんな目で見たりしないから!!

 

 気を取り直してVRゴーグルを装着する。座っているだけでも妊婦さんのぷっくりしたお腹と大きくなった胸を体感できるため、更にVRで実際の生活を体験するとなったら臨場感は凄まじいと思う。期待半分、緊張半分で私たちはみんなゴーグルを付けた。

 

 

「それじゃあみんなのゴーグルのスイッチをまとめてオンにするから、みんなは理想で幸せな世界をたぁ~~~~っぷり楽しんでね♪」

 

 

 なんか凄く含みのある言葉!? 理想で幸せって一体どういうこと!?

 というか、妊婦さんの生活が体験できるって聞いたけどどんなシチュエーションなんだろう……??

 

 そんな疑問を残しつつ、私たちはVRの世界へとダイブした。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

【澁谷かのんのVR空間】

 

 

 

 

「これがVRの世界、まるで本当の世界みたい……」

 

 

 ここって本当にVRの世界なんだよね……? 自分の肉体も周りの世界も現実みたいでVR世界に来ている感覚が薄くてビックリしちゃったよ。私はあまりゲームとかやらないんだけど、最近の技術って凄いんだね。

 肉体が本物っぽいって言ったけど、それはこの膨らんだお腹と胸ですぐに分かった。さっきはエプロンや胸パットを付けている感覚が残っていたけど、この世界だとお腹と胸の重みが直に感じられるため、自分が本当に妊娠しているんだって実感できる。エプロンを付けている時よりも重くて、これはいい妊婦さん経験ができそう。

 

 とは言っても、私はここで何をすればいいんだろう? どうやら家の中らしいから、とりあえず歩いてみたり階段を上ってみたり、それで苦労を体験すればいいのかな? それだったら別にVRの世界に入らなくても学校でできるような気も……。

 

 

「どうしたんだかのん? そんなところで立ち止まって?」

「ふぇっ……? え゛っ、えぇええええええええええええええええええ!? 先生!?」

「なんだよそんなに驚いて。大声出してあまりお腹の子に刺激を与えるなよ」

「ど、どうしてここに先生が……!? まさか私たちと同じVRを!?」

「なに言ってんだお前。俺たち結婚してるんだから同じ家にいるのは当然だろ?」

「け、結婚んんんんんんんんんんんんんんん!?」

 

 

 ちょ、ちょっと待って! 落ち着くから!!

 どうやら先生の反応を見る限り私たちとは別でVRをやっているとかではなく、恐らくこの世界の先生ということだと思う。つまり秋葉先生が言っていた妊娠体験って、先生との結婚生活ってこと……? そ、そんな夢のような……って、もしかして幸せな世界ってそういうこと!? しかも既に私が妊娠済みということは()()()()()()を経験済みってことだよね!? 先生とそんな関係だなんて妄想してないと言われたらウソだけど、VRとは言えその妄想が現実になるなんてどうしたらいいのか……。

 

 

「おい顔赤いぞ大丈夫か? 妊娠中の辛さは男の俺には分からねぇけど、少しでも辛いことがあれば言えよ。なんでも手伝うから」

「ひゃっ、ひゃいっ!!」

「テンパりすぎだろ……。まさかお腹の中の赤ちゃんが動き始めて気になるとか?」

「そ、それはないと思いますけど……。そういうことではなくってですね……」

「そうか? お腹もそこそこ大きくなってきたから動いてもおかしくない頃だとは思うけど」

「ぴゃぁっ!?」

 

 

 いきなり先生にお腹を触られて思わず変な声で驚いてしまう。別に局部を触られているわけじゃないから驚くこともないんだけど、自分が妊娠しているというシチュエーションだからお腹を触れることに敏感になってしまっている。そう、自分の中に先生との愛の結晶がいて、そこを先生に撫でられるなんてとてつもない多幸感が……!!

 

 

「なんだよ急に嬉しそうにして……」

「う、嬉しいんです! 先生とこういう生活ができるのは夢でしたから……」

「なるほど。でもこれは夢じゃない。だからこれからもずっと一緒だ」

「先生……は、はいっ! よろしくお願いします!」

 

 

 ここがVRの世界だってことは分かってるけど、例えウソでも先生とこんな生活を送ることができるなんて本当に夢みたい。現実でもいつかこうなったりするのかな……?

 とにかく今はこの体験イベントを楽しもう。できればもう少し、もう少しだけ時間をくれると嬉しい……なぁ~んて。そしてその時間をより多く楽しむためには、現実世界で私がもっともっと頑張らないと……!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

【唐可可のVR空間】

 

 

 そんなまさか――――可可と先生が結婚してるなんて!! 他の皆さんも同じシチュエーションを味わっているのでショウか……??

 とりあえず落ち着いて素数を数えまショウ。1、2、3、4……あれ??

 

 

「お腹かなり大きくなってきたな。歩きづらいだろうし、無理をする前に俺に言えよ。家事も変わってやるから安静にな」

「先生……や、優しい……」

「その言い方だと普段の俺が優しくないみたいじゃねぇか……」

「い、いえっ、いつも優しいですけど今日は更に男っぽいと言いマスか、可可の旦那様なんだなって実感できて心が躍ると言いマスか……」

「なに言ってんだよ、当たり前のことだろ。俺たち結婚してるんだから」

「ぐぅぅうううううううううううっ!! 結婚という言葉の破壊力がまさかここまでとは……」

 

 

 結婚という言葉がこれほどの威力を持っているなんて思ったこともありマセンでした。これが幸福になった者だけが堪能できる快感でショウか……。普段も先生に優しくされたり褒められたりすると頬が緩んでしまいマスが、先生と夫婦であるというこのシチュエーションのせいで余計に幸福を感じられて……。そ、そんなの―――――最高デスか!?

 

 

「先生は、このお腹の赤ちゃんが生まれたら何をしたいデスか……?」

「何がしたいって言われると色々あるな。お前とこの赤ちゃんと一緒にいられるだけでも俺は幸せだから。強いて挙げれば家族揃ってピクニックとか……まぁそんなの俺の柄じゃねぇけど」

「いえ全然いいと思いマス! 可可の作ったお弁当を先生と、そして可可たちの赤ちゃんに振る舞えるなんて、なんと素晴らしい未来……!!」

「ははっ、赤ちゃんにお弁当はまだ早いかな」

「た、確かに! 赤ちゃんって何を食べるのでショウか!?」

「ペットかよ……。テンション上がったら暴走するのはいつも通りか」

 

 

 ただでさえ仮想世界なのに更に未来のことを妄想してしまい、もう何が現実なのか分からなくなってしまいそうデス……。でもこの幸せを噛みしめられるのであれば現実だろうが妄想だろうが関係ありマセン! ただ、本当の現実でもこのような関係になれたら……いいなぁって。そのために恋愛術を今ここで学び、現実でも先生とこうして一緒に――――!! 

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

【嵐千砂都のVR空間】

 

 

 

 け、けけけけけ結婚!? 先生と私が!? 今まで先生と付き合って海外で一緒にダンス留学する妄想はしたことがあったけど、流石に結婚は想像の範囲外過ぎて……!! VR空間なのは分かってるけどまさか先生とそんな関係になれるなんてVRの私が羨ましい……いや、今の私がVRの私か。ということは――――この生活を堪能してもいいってこと!?

 

 

「いやでも心配になるよ。お前の身体ってLiellaの誰よりも華奢だから、そんなにお腹が大きくなって問題ないのかって」

「そ、それは多分大丈夫です! ほら、私ダンスで結構鍛えてますから!」

「そうか? 胸も大きくなってるし、それだけ体重が増えてるはずだろ? だから心配なんだよ」

「む、胸が!? そうか、赤ちゃんを育てられるように大きく……。つまりこれがあれば先生を……」

「おいどうした? お~い……」

 

 

 胸が薄いことを気にしていた私だけど、赤ちゃんを育てられるように身体が変化してきているおかげで並程度、いやそれ以上に胸が大きくなっている。先生はエッチな人じゃないから胸の大きさで人を測らないと思うけど、女として気になるものは気になっていた。可可ちゃんやすみれちゃんが大きかったのも相まって、私は女性としての魅力が薄いと思ってしまっていた。でも今はその悩みはない。そう、これが夢にまで見た――――巨乳!!

 

 

「先生は私の身体をそこまで気遣ってくれるんですね……」

「当たり前だ。大切な嫁さんの身体なんだ、それこそ大切にするだろ。それに俺たちの愛の印がそのお腹の中にいるんだからな」

「先生との愛の結晶……!! この赤ちゃんが生まれたら、私の胸で、大きくなった胸で……」

「お、お前、変なこと想像させるなよ……」

「え~? 何を想像してたんですか~♪ 意外とエッチなんですねぇ~」

「そのイタズラな笑顔やめろ! ったく、大人をからかおうとするその姿勢は高校時代から変わってねぇな……」

「えへへ……♪」

 

 

 先生もこういうことで恥ずかしがるんだ、意外! そうと分かればこの大人になったこの身体を駆使して先生をもっと誘惑できるはず。そうなったらこの赤ちゃんだけじゃなくて、2人目、3人目も――――って、話が早いよ私!!

 でも、ここはVRだからどれだけ積極的に行っても現実には影響しないから問題ないはず。それにもし現実でもこれだけ攻められたら……うん、頑張ろう!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

【平安名すみれのVR空間】

 

 

 結婚……。私とアイツが……。べ、別に向こうから結婚してくれと言われたらそりゃ考えなくもないけど。でもこのお腹、私たちヤっちゃったのよね……? アイツと私の愛がここにたっぷり詰まって……フフッ。

 

 って、ダメダメ! 嬉しそうにしたら付け上がるだけだから絶対にそんな素振りを見せちゃダメ!!

 

 

「おいすみれ、なんか機嫌悪いのか? そりゃそんなぼってりとした腹で毎日を過ごしてるんだから、ストレスは溜まるだろうけど……」

「別に。それにこのお腹は私とアンタの……いやなんでもない」

「なんだよ。ま、お前は腹の中の赤ちゃんを乱暴に扱うことはないだろうから安心するよ。お前、スクールアイドルをやってた時も誰よりもみんなことを見てたもんな。いいお母さんになるってその頃から保証されてたようなもんだ」

「な、なに分かったような口を……」

「俺はそんなお前と結婚できて嬉しいってことだよ」

「ッ~~~~!?!?」

 

 

 コ、コイツ、毎度毎度さりげなくドキドキさせてくるのやめなさいよ!! 嬉しそうな素振りを見せないようにって思ったけど、こんなの顔が熱くなるに決まってるし、頬が緩みそうなのを抑えるだけで精一杯よ全く……。それに向こうは素直に嬉しさを伝えて来てるのに、こっちだけ平静を装ってるなんてバカみたいじゃない。

 

 

「はぁ……。私も幸せよ。このお腹の重みはアンタとの愛が詰まってるってことだから、それに幸せを感じないわけないじゃない」

「そうか。楽しみだよ、お前との新婚生活。家事もできて料理も上手くて、美人で他人想いのお前と結婚できて、俺は最高に幸せな夫だな」

「ふんっ、私なんだから当たり前でしょ! ま、まぁ私もアンタみたいなカッコよくて頼りになる男と結婚できて、その……幸せだわ」

「そっか。ありがとな」

「ッ~~~~!?!?」

 

 

 なによその優しい微笑みは!? いつもみたいに人を見下すような態度で来いっての調子狂うわ全くもうっ!!

 でも幸せを感じているのは事実。もし現実でもコイツとこんな感じになれたらってたまに想像してしまう。あぁ~もう人の妄想にまで勝手に踏み込んでくるなんてホントに迷惑な奴! こうなったらこのVR体験でたくさん経験を積んで、現実のアイツをリードして優越感に浸ってやるんだから!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

【葉月恋のVR空間】

 

 

 まず落ち着いて状況を整理しましょう。先生と私が結婚して夫婦の関係であり、私が妊娠していて、そして一軒家に一緒に住んでいて――――はい、もう思考回路がパンクしそうです……。私の思い描いていた幸せをありとあらゆる形で詰め込んだ夢のような空間。他のVRがどういうものなのか存じ上げませんでしたが、これだけ幸せを簡単に享受できるなんて、これは中毒者が出るくらいに人気が出るのも分かるような気がします。

 

 

「恋、あまり無理するな。家事なら俺が代わるっていつも言ってるだろ?」

「なるほど、そういう設定の世界なのですね……。いえ、平気です。お任せしているだけでは葉月の名が廃ります」

「変なプライド張るのもお前らしいな。だったら俺も手伝うよ。いいか?」

「は、はい……」

「どうした? なんか緊張してる?」

「い、いえっ! ただ先生と隣同士でキッチンに立っているのが夫婦っぽいなっと」

「なに言ってんだ、夫婦だろ俺たち」

 

 

 それはそうなのですが……。エプロンを付けてキッチンに立つなんて単純な行為。それなのにも関わらずどうしてここまで緊張してしまうのでしょう……!! 想いの男性と夫婦となり一緒に暮らしているというだけでも高揚感が増しますが、こうして共に家事をしていると共同生活をしているという感覚がより一層強くなって、正真正銘の夫婦なのだと実感できます。極めつけにこのお腹の子。少し動くだけでも重みを感じられるので大変ですが、その重みこそ先生との愛。それを感じられるのもまた幸せです。

 

 

「えっ、どうしていきなり私の手を……?」

「包丁を持ったままぼぉ~っとしてたからな、危ないぞ。もしかして気分とか悪いのか?」

「だ、大丈夫です! お騒がせして申し訳ございません。それにしても、こうやって気遣ってくれるのも今と変わっていませんね、先生」

「今……? 俺は元からそれなりに紳士だったと思うが? ま、お前という嫁さんができて更に敏感になったと思うよ。大切な奴を守りたいってのは今も昔も一緒だ。お前も、そのお腹の子もな」

 

 

 例えVRでも先生は先生でした。恐らく現実の先生の未来も性格や考え方は目の前の先生と変わらないと思います。だからこそ私はずっとこの方を想っているのでしょう。もし現実でもこんな未来が訪れるのだとしたら、現実の私も今まで以上に頑張る必要があるでしょう。正直に言ってしまうと積極的になるのは物凄く恥ずかしいのですが、このような幸せな未来のためなら私は――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 私たちがVRを堪能している最中、部室にいる秋葉さんは――――

 

 

「いやぁ~あっついあっつい! みんなゴーグルを付けたまま顔を真っ赤にして沸騰しちゃって、そのせいで暖房いらなくなってるよこの部屋」

 

 

 そして、楽しそうな笑みを浮かべ――――

 

 

「VR空間を作るのは初めてだったけど、流石は私、みんなを虚構の世界に閉じ込めることに成功してるね。この実験結果は今後の発明に使えそう」

 

 

 そして、優しい笑みを浮かべ――――

 

 

「でも楓ちゃんから聞いた通りだったってわけか。ウブなキミたちのままだと一歩踏み出すのもままならないから、こうして後押ししてあげてるんだよ? これも実験に付き合ってくれたお礼ってことで」

 

 

 そして、不敵な笑みを浮かべ――――

 

 

 

「その代わりと言ってはアレだけど、みんなのVR空間の様子はしっかり録画してるから♪ ただの善行なんて私がするわけないじゃん! いやぁ~人の黒歴史を握るのって愉悦すぎてゾクゾクしちゃう! いい夢を見させてあげてるんだからこれくらいは等価交換ね、フフッ♪」

 

 

 この人には関わってはいけないと、VRに没頭している私たちは当然気付くはずもなかった……。

 




 秋葉さんが割といいことをしているので書いている自分でも偽物かと思いましたが、正真正銘の本物です(笑) 5人全員に一歩を踏み出すように促しているとか、これまで以上にない謎の働きに文句を言う隙も無い……(なお最後)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Sunny Passionの騎士

 冬の厳しい寒さも次第に和らぎつつあるこの時期、スクールアイドル界隈はまたも盛り上がりを見せていた。時期に限っていないような気もするが、今日はイベントということもあり熱気も凄まじい。『もうすぐ春到来! 寒さを全て吹き飛ばせ!』なんてキャッチコピーを掲げたスクールアイドルイベントで、言ってしまえばただのライブだ。複数のグループが集まって交代交代で、そしてあちこちの会場でただライブをするだけの単純なイベント。このキャッチコピーもイベントの開催し過ぎでマンネリ化しないよう苦し紛れに掲げているだけだろう。これなら梅雨明けとか、暑中見舞いとか、なんでもこじつけられそうだ。

 

 スクールアイドル界隈はここ最近でまた異様な盛り上がりを見せている。かのんたちのLiellaが活躍しているのももちろんだが、他のスクールアイドルも軒並みレベルが高い。黎明期と言ったところか、μ'sやA-RISEがいた頃と比べるとグループの数も多く、それだけ他のグループから歌やダンスの知見も得られるためより洗練される。つまりお互いに高め合えるライバルが多いってことだ。そりゃレベルも上がるわな……。

 

 そして俺は結ヶ丘のスクールアイドルの顧問としてイベントに参加――――はしていない。Aqoursや虹ヶ咲の時もそうだったが、指導しているからと言ってイベントの参加調整などの雑務までは引き受けていない。それらのマネジメントを含めてすべてアイツらにやらせる、それが成長になるんだよ。いや別に自分でやるのが面倒だとか、そんなことはないから。

 

 そんなことはさて置き、流石に教え子たちのステージを見ないわけにはいかないので会場には既に到着している。会場とは言っても渋谷の街のいたるところでライブをするそこそこ大規模なイベントのため、そこらかしこに広範囲にファンたちがいて妙に歩きづらい。こりゃ連絡を取り合ってもかのんたちと合流するのは難しそうだ。

 

 億劫になるほどの人混みでテンションが下がる。そんな感じで人の波の中を練り歩いていると、突然誰かに手首を掴まれた。驚く間もなく引っ張られ、人の波から強制的に連れ出され道から外れる。

 

 

「な、なんだ!?」

「私です。お久しぶりです、神崎先生」

「お前――――サニパの聖澤(ひじりさわ)か?」

「しっーーーー!! 大きな声で名前を言わないでください!」

「あん?」

 

 

 俺を拉致したのはSunny Passionの聖澤(ひじりさわ)悠奈(ゆうな)だった。近くには相方の(ひいらぎ)摩央(まお)もいる。

 会うのは2度目なのにどうして名前の確認をしたのか。それは俺の記憶力がないわけではなく、2人共それなりの変装をしていたからだ。よく見なければサニパの2人だと分からないくらいで、俺もコイツらの声と雰囲気から何となく察せるくらいであり、元の面影は薄い。

 

 

「何の用だ? しかもそんな変装までして」

「申し訳ございません。実は神崎先生にお願いしたいことがございまして……」

「お願い? 人を裏路地に拉致するってことは相当切羽詰まってるみてぇだな」

「そうなんですよ! ちょっくらボディガードを引き受けてくれませんか?」

「は? ボディガード??」

 

 

 結論から先に話すスタイルは嫌いじゃないが、あまりにも唐突なお願い過ぎて目を丸くするしかない。人を拉致っておいていきなりボディガードになれって、そんな横暴は流石の俺でもしないと思うぞ……多分。

 

 

「一体どういう経緯なのか説明してくれ」

「はい。私たちも今回のイベントに参加していることはご存じだと思います」

「あぁ、可可のウザイほど騒いでたから知ってる」

「参加すること自体は何も問題ないのですが、最近は有名になった影響からかファンの皆様に囲まれることが多くなってしまいまして……。もちろん、私たちに注目してくださるのは嬉しいことです。そうなのですが……」

「ファンの人たちの中でもすこぉ~しアタックが強い人たちがいて、こうして都会のライブに来るたびに頭を悩ませているんですよ。別にその人たちを無下にするとかそういうのじゃなくて、ただ単にライブ外で強く迫って来るのをやめて欲しいだけなんです。ライブ中なら熱狂的に応援してくれて全然OKなんですけどね」

「なるほど、プチ厄介オタクみたいなもんか」

 

 

 ファンに悩まされるとは贅沢な話だ。ただコイツらの人気は現在のスクールアイドル界隈でもトップを争うほどで、ぶっちゃけるとLiellaよりも断然に上だ。アイツらもアイツらでそれなりの地位を築いているが、サニパの2人が立っているステージにはまだ遠い。それくらいの高位にいる奴らだ、そりゃ厄介オタクの1人や2人は生まれてしまうだろう。そうか、それで変装してたのかコイツら。

 

 そんな奴らがいるんだったらイベントの運営やらマネージャーやらに連絡してとっとと摘まみ出せばいいのに、ソイツらであろうともしっかりファンとして扱うその度量、感服する他ない。どんな奴であろうともファンであれば切り捨てることはせず、あくまで自分たちが自衛することでファンの熱意を冷まさないようにしている。なんとも律義だが、なんとも難儀なことだ。

 

 

「理由は分かったけど、どうして俺なんだ?」

「それは男性が近くにいれば私たちに近寄りがたくなると思いまして。普通に握手やサインを求めてくださるだけであれば歓迎なのですが、拒否しているのにも関わらずプレゼントを執拗に渡してくる方も多いので……」

「そういうこと! それで身近にいる知り合いで、近づくのすら躊躇する魅力のある男性と言えば、そうっ! 神崎先生しかいないわけですっ!」

「なんでテンションたけぇんだよ……。つうか1度会っただけなのに、よく俺をボディガードとして信用しようと思ったな」

「神崎先生のことはかのんさんたちからたくさん聞いていますので。とても頼りになる方だと」

「美化し過ぎだ……。ま、アイツらのステージまでまだ時間あるし、会場に送り届けるまでなら引き受けてやってもいい」

「おぉっ! ありがとうございますっ!」

「ありがとうございます。お手数をおかけしますが、何卒宜しくお願い致します」

 

 

 元気よく頭を下げる聖澤と、丁寧に頭を垂れる柊。こうして見るとコイツらもしっかりキャラが濃い。まあ仮にもアイドルなんだから当たり前と言えば当たり前か。

 そんなこんなで突発的にSunny Passionのボディガードを引き受けることになった。だがこれがとある引き金になることを、この時はまだ知らず――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 裏路地から脱出した俺たち3人は、人混みを練り歩きながらライブの会場へと向かう。コイツら有名人だから顔は余裕で割れているはずなのだが、変装しているのもあってか周りから気づかれる気配はない。そりゃサニパほどの人気者がこんな人混みの中を歩いているとは誰も思わないわな。それにもし変装した芸能人が自分の近くにいたら実際に気付けるのかって話でもある。

 

 そうやって高を括っているとフラグになるのでこれ以上は言及しない。それにここに来ているのはスクールアイドルのファンばかりだから、スクドル特有のオーラを感じ取ってもしかしたら気づかれる可能性もある。そうなると油断しない方がいいか。

 

 

「もし見つかったとして、男と一緒にいるのがバレたらお前らの名誉に関わるんじゃねぇか? いや、バッシングを受けるのはむしろ男の俺か」

「その時はそうならないように私たちがしっかりと守ってあげますよ! マネージャーとか言っておけば誤魔化せるんじゃないですかね」

「なんとも適当な……」

「そう考えると、神崎先生にボディガードをお願いしたのは少々軽率だったのかもしれません……」

「いや、別にいいよ。困ってるお前らを放ってはおけないしな。女の子の悩みは見過ごせねぇよ」

「ふ~ん、かのんちゃんから聞いていた通り本当にお人好しなんですね」

「それは俺が一番嫌いな言葉だ」

「頼んでいる立場から言うのもおかしな話ですが、私たちはお互いにそこまで交流がありません。それなのにも関わらず二つ返事で引き受けてくださって、これをお人好しと呼ばずに何と呼ぶのでしょう」

「知るか」

 

 

 ちょっと人を助けただけでお人好しとか、だったら世界のほとんどの人間がそうなっちまうぞ。俺なんかよりもみんなでお手手を繋いでお互いに支え合っているスクールアイドルの奴らの方がよっぽどだろ。俺は後腐れがないようにしたいだけ、つまり俺がやりたいからやってるだけなのにな。

 

 

「俺は誰であろうと助けるような奴じゃない。可愛い女の子のお願いであれば動く、ただの欲望塗れの男だよ」

「か、可愛いって……。そういうことをサラッと言っちゃう人かぁ……」

「いや一般的な目で見た感想だろ。ルックスもオーラも完璧、そんなお前らにお近づきになりたい奴はたくさんいる。そんな奴らを差し置いて俺だけ特別に隣にいられるんだ、そんな最高のポジションは他にねぇだろ」

「高圧的で尊大。しかしその中に心を掴まれるほどの優しさがある。なるほど、かのんさんたちが言っていた通りですね」

「なに言いふらしてんだよアイツら……」

 

 

 そうやって俺のことをペラペラと喋る奴がいるから、スクールアイドル界隈でスクールアイドルキラーなんて噂が広まるんだよ。そのせいで出会ったことのない女の子たちから警戒されるからやめて欲しい。

 

 ちらっと2人を見てみると、頬を染めて少し照れているようだった。そりゃ自分のことを可愛いと褒められて嬉しくならない子はいないだろうが、コイツらはスクールアイドルでもトップクラスだからファンレターや動画のコメントなどで自分たちへの称賛文句は聞き飽きていると思ってた。柊は表情を悟られたくないのか顔を逸らし、聖澤は髪を指でくるくるしている。意外と分かりやすい仕草をするのなコイツら。いくらトップのスクールアイドルと言えども年頃の女の子ってことか。

 

 

「そういやボディガードを頼みたいなら拉致しなくても、普通に連絡を寄越せば良かっただろ。かのんたちを通せばコンタクトはすぐ取れたはずだ」

「いやいや、そんなことをしたらかのんちゃんたち嫉妬しちゃうじゃないですか! ただそれはそれで可愛い反応をしてくれると思うので、からかうのが楽しくなっちゃうかも……あれ、惜しいことした?」

「嫉妬するのかアイツら……?」

「それはもう容易に想像できますね。Liellaの皆さんは事あるごとに先生のお話をするので、彼女たちが如何にあなたのことが好きなのか丸分かりです」

「それなのにかのんちゃんたちに『神崎先生をボディガードにしたいから貸して!!』なんて言ったら、もう卒倒なんてレベルじゃ済まないですよ絶対。もしかしたら私たちを女狐扱いして刺してくるかも……」

「被害妄想も甚だしいなオイ。アイツらめちゃくちゃ純情だから大丈夫だって」

「まあさっきのは冗談ですけど、決心をした時の女の子の積極性は半端じゃないですから、あまり油断しない方がいいですよ」

 

 

 ちょっと褒めただけで顔を真っ赤にして羞恥心に悶える苦しむアイツらが積極的に? あまり考えられねぇな。でも先日秋葉が『そろそろ覚悟しておいた方がいいよ♪』って含みのある笑みを浮かべながら脅してきたから、それと何か関係があるような気がしてならない。そういやその頃からアイツらが俺に向ける目線がより一層熱くなった気がする……。

 

 

「神崎先生ってそれだけ優しいのなら、Liella以外の女の子にもモテたりするんじゃないですか?」

「だと良かったんだけどな」

「女性を先導して引っ張ってくださるその力強さは、男性としては魅力的だと思いますが……」

「現実が物語っている。期待させて悪かったな」

「「…………」」

 

 

 なんだコイツら、まだ俺のことを疑ってんのか? 最初に出会った時もやたらと俺の女性関係を怪しんでたし、コイツらとはあまりこの手の話をしたくない。とは言っても溢れ出ている男としてのオーラがコイツらを靡かせているらしい。中々罪な奴だな俺も。

 

 そんな疑いの目を向けられながらも着実に目的の会場まで近づいていく俺たち。念のためスマホでマップを開きながら歩いているのだが、その最中にメッセージの通知が大量に届いていた。やれ『お兄さん今どこにいるんですか』やら、『内浦からライブの生放送見てます』やら、『虹ヶ咲の出番までには絶対に来てください』やら、『みんな会場に集まって、音ノ木坂の同窓会みたいになってるから早くおいでよ』やら、その他多方面からの連絡を含め今日はやたら女の子たちからのメッセージが来る。元スクールアイドルの奴ら、現スクールアイドルの奴らどちらもいるが、やはりスクールアイドルの肩書を背負っている以上はこういったライブイベントは気になるのだろう。

 

 とりあえずメッセージは無視することにする。人の波の中で携帯の画面を見続けるわけにはいかないし、何よりこの2人を送り届けるのが先決だからな。

 

 そしてそんなこんなしている間に目的の会場が見えてきた。

 

 

「ほら、あれだろ? お前らがライブをするステージって。ったく、あちこちにステージを設置するんじゃねぇよ……」

「せ、先生……」

「どうした聖澤? 柊も、そんなにそわそわして」

 

 

 さっきまで意気揚々と俺を追い詰めていたコイツらだったが、雰囲気が一変、周りを気にして緊張感が増している様子だ。確かに少しざわついている。その理由は耳に飛び込んできた周りからの言葉ですぐに分かった。

 周りのファンたちからは『あれ? あの子たちサニパじゃない?』やら、『まさか悠奈ちゃんと摩央ちゃん!?』やら、まだ正体バレしていないものの疑いの目は次第に強くなっている。そしてその小さな騒ぎが周りのファンにも伝染するようになり徐々に噂が広まっていく。これは騒ぎになるのも時間の問題だ。そうなればファンが押し寄せるリスクもあるし、それ以上に2人が言っていた厄介オタクたちがやって来る可能性もある。そしてこの状況でコイツらの正体がバレでもしたらどうなることか……。

 

 そうか、ようやくボディガードとしての仕事が舞い込んできたわけか。仕事がない方が平和という警察と似た感じだが、こうなってしまったからには仕方がない。守ってやるか。

 この場を穏便に解決し、コイツらを会場に送り届ける方法。それは――――

 

 

「お前ら、もっと俺に近づけ。身体が密着するほどな」

「えぇっ!? そ、そんないきなり……」

「そんなことをしたらより一層の騒ぎに……」

「いいから早く」

「で、でもいいんですか……?」

()()! ()()!」

「「は、はいっ!!」」

 

 

 少し圧力をかけてしまったが、その勢いのおかげか2人は俺に密着しそうなくらいに近づいてくれた。それを見た俺は2人の腰に腕を回す。この光景、女の子2人を侍らせていて見る人によっては羨ましく、また別の人によっては嫌悪するだろう。だがそれでいい。群衆の注目を『あの2人はサニパなのでは??』という疑いから、『なんでこの人混みの中でイチャイチャしてるんだアイツら??』という避けるべき奴らという認識に変えられればそれでな。それにコイツらから抱き着いてもらうことで、『サニパだったら人前で男に抱き着くような真似はしない』という錯覚を利用できる。

 

 もちろんその作戦は見事にハマり、周りからの声が『あのサニパが男を連れてるわけないか』だの、『あんな街中でいちゃつく非常識な人たちがサニパなわけない』だの、俺たちへの注目は次第に薄れている。そして疑いが伝染するのも早ければ誤解が伝わるのも早く、周りの人間たちから見て俺たちはもはや通行人Aというモブキャラ当然の扱いになっていた。

 

 少し様子を見て俺たちへの目が完全に消えたのを確認し、2人の腰に回していた腕を解く。

 

 

「ふぅ……。大丈夫かお前ら?」

「へっ、あっ、はい、大丈夫です……。あ、ありがとうございました」

「そ、その、か、感謝します……」

 

 

 なんか周りから注目されている時よりもそわそわしてないかコイツら? さっきの騒ぎでそこまで緊張したのか、それともいきなり俺に密着しろと言われてドキドキしたのか、まさか腰に手を当てられただけで羞恥心を揺さぶられたとかクソ雑魚メンタルじゃねぇだろうな……? まあコイツらも男と付き合ったことはなさそうだから、いきなりボディタッチされたら驚くだろうけどさ。

 

 

「おいいつまで立ち止まってんだ。行くぞ、悠奈、摩央」

「そ、その……な、名前……いえ、何でもないです。行きましょう、零先生」

「そうですね、零先生!」

 

 

 恥ずかしそうにしたり嬉しそうにしたり忙しい奴らだな。

 俺の後ろを歩く2人は、こちらに聞こえないくらいの小声で話していた。

 

 

「名前を言われた時に思わずビクッてしちゃったよ。驚いたのもそうだけど、強い声で、男らしく物凄い力で心をガチッと掴まれた、そんな感じ……」

「腕の力も強くて、私たちを守るという気概がひしひしと伝わってきました。これが男性、なのですね……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「えぇっ!? サニパさん、先生と一緒にいたのデスか!?」

「そ、そうなんだよねぇ~。あはは……」

 

 

 無事にステージ裏の待合室についた俺たち。そしてLiellaの面々は俺とサニパが一緒にやって来たことに対して口を開けて驚くばかりだった。まさか本当に取られたとか思ってねぇだろうな……。

 とりあえず事情を説明したことで納得してもらえたが、どこか腑に落ちない表情をしているので、やはり何の連絡もなしに他の女の子と一緒にいたことに思うところがあるのだろう。裏では虹ヶ咲の連中を始めとして、他の女の子とたくさん交流があるんだけどな。ただコイツらには虹ヶ咲の奴ら以外のスクールアイドルとも関りがあることを隠しているので、そう嫉妬されても仕方がないんだけどさ。

 

 

「いやぁ~かのんちゃんたちが零先生を好きになる理由が分かったよ!」

「そうですね。あれほど頼りになる方であれば、気になってしまうのも頷けます。魅力的な男性ですね、零先生」

「「「「「零、先生……??」」」」」

「魅力的なんて、俺からしたら当然のことだ。普通のことをあまり褒めるんじゃねぇぞ、悠奈、摩央」

「「「「「悠奈!? 摩央!?」」」」」

「なんだよさっきからうるせぇな……」

 

 

 さっきから5人が声をハモらせている。もしかしていつの間にか名前呼びになってることに驚いてるのか? 俺だって2人に名前で呼ばれてちょっとビックリしたけど、俺もさっきコイツらを救出する際に勢いで名前を呼んでしまったので、もはや気にするようなことではない。

 

 

「ねぇねぇ、また零先生を貸してくれないかな? すこぉ~しだけでいいから、ウチの学校に来てもらって練習を見てもらうとかさ。ダメ?」

「「「「「ダメっ!!」」」」」

「おぉう、こりゃ相当だねみんな……」

 

 

 俺は別にいいのだが、それを伝えたら最後コイツらの嫉妬心が爆発しそうなのでやめておく。つうかコイツらがここまで対抗心を剥き出しにするのも珍しい。やはり先日秋葉と一悶着あったのかもしれない。変なことを吹き込まれてなきゃいいんだけど……。

 

 そういえば、()()()()からのメッセージを全部無視してたんだった。さっきからポケットの中の携帯が何度も震えていたので、恐らく無視を決め込んだ以降も何度もメッセージを寄越しているのだろう。依頼された仕事は終わったから早いところ返信してやるか。あまり待たせすぎるとまたうるせぇからなアイツら。

 

 そうして携帯を手にしてこの場から離れようとしたとき、唐突に後ろから大声で話しかけられた。

 

 

「先生! お互いに名前呼びになっているなんて何があったのデスか!?」

「うおっ!?」

 

 

 メッセージに返信することに完全に意識を向けていたせいか、加えてコイツらはコイツらで話をしていると思っていたため油断していたせいか、後ろから不意に話しかけられて柄にもなく声を上げてしまった。

 その反動で手に持っていた携帯を落としてしまう。変に斜め方向に落としてしまったせいか、不運なことにかのんたちがいる場所へと滑り落ちてしまった。

 

 

「あっ、携帯落としましたよ先生――――ん? えっ!?」

「どうしたのよかのん」

「こ、これって……」

 

 

 かのんは俺の携帯を拾い、その画面を見て固まっている。そしてみんなが同じく画面をのぞき込んだ。

 イヤな予感がした、と思ったときにはもう遅い。

 

 あの携帯には女の子たちからのメッセージがたくさん着信しており、その通知が諸に画面に表示されている。しかもご丁寧に今の状況を顔写真付きで報告して来る奴らもいる。そして今でもその通知はひっきりなしに来ている状況。実際にかのんたちが画面を見ているこの最中にもメッセージが届いているようで、連絡が届いた旨の通知音が鳴っていた。

 もちろんその通知には送り主、つまり()()()()の名前が載っており、スクールアイドルに詳しい奴であればその名前を見れば誰なのか一瞬で分かるだろう。写真付きのメッセージであれば更に一目瞭然だ。しかも俺が関わっているスクールアイドルは全員がこの界隈の有名人。コイツらであればすぐに察せるはず。

 

 その読みはまさにその通りで、メッセージが来るたびにスクールアイドルに詳しい可可が送り主の名前とそのグループ名を叫んでいた。俺と彼女たちの関係が、その叫びで次々と繋がっていく。

 

 

 なるほど、遂にこの時が……来てしまったみたいだ――――

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 今回は久々のサニパ回でしたが、最後の最後でこのLiella編を通じて明かされてこなかった事実が遂に明るみに出ようとするまさかの展開でした(笑)

 ここからは零君とかのんたちの関係の変化の動きを中心に、あと3話程度でLiella編を完結させる予定です。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

明かされる真実、現す本性

 色々と打ち明ける前にLiellaのライブの出番が間近に迫っていたので、とりあえず先にそっちに行ってもらうことにした。傍から見たらファンも興奮するライブだったのだが、俺の目からしたらどこか魅力に欠けた。恐らくアイツらの心が乱れに乱れていたためだろう。そりゃ好きな人に他の女、しかも1人ではなく大勢と関係を持ってるなんて知ったら普通であれば受け入れがたいはず。それが純粋な心を持つアイツらならなおさらだ。

 

 ちなみにSunny Passionの2人も無事に自分たちのライブを終えた。アイツらも事の顛末を知りたいようだったが、俺たちのことは俺たちで決着をつけた方がいいとのことで席を外してくれた。その好意はありがたいが、全てに決着が付いたらアイツらにも真実を打ち明けておこうと思う。乗り掛かった舟のままだと気になっちまうだろうしな。

 

 イベントも一通り終わり、ところ変わって結ヶ丘の学校の屋上。ライブ終了後はいつもであれば倉庫に衣装や小道具をぶち込んだのち、打ち上げで飯を食って解散の流れだ。だが今日は違う。柵を背にして待っていると、屋上のドアが開いてかのんたちがやって来た。

 空は絵になるほど綺麗な夕暮れ。ただかのんたちにとってはそんなロマンティックな光景には見えず、落ち行く太陽を自分たちの沈みつつある心と重ね合わせ、より一層の不安と緊張を渦巻かせているに違いない。いつもならライブ終わりは達成感に満ち溢れているいい顔をしているコイツらだが、今の様子だけを見ていると直前に大盛り上がりのライブがあっただなんて思えないな。

 

 

「そんな顔をするな。俺はこういう人間なんだ、元からな」

 

 

 俺のことを不審に思っているのか、それとも落胆しているのか、はたまた怒っているのか、そもそもどういった反応をしていいのか分からないのか、彼女たちの様子からは読み取れない。ただどれにせよ、俺の口から真実を1から10まで聞くまで自分がどうするべきか結論は出せないだろう。

 

 

「スクールアイドルの奴らとは俺が高校生だった頃から付き合いがある。付き合いってのは文字通り、男女の関係って意味だよ。それも1人だけじゃない。もはや数えるのすら億劫になるほどだ。お前らが俺の携帯の画面で見た名前のほとんどと付き合いがある。付き合いがなくても、こうして連絡を取り合うくらいは親しい仲ってことだ」

 

 

 言い訳なんてしないし、そもそも毛頭するつもりはない。これが結論、これが真実。これが俺の人間関係の全てだ。

 かのんたちの表情がまたしても曇る。そりゃそうだ、自分の好きだった男が他の女の子と付き合っており、しかも1人ではなく複数人だと言われたら『何言ってんだコイツ正気か?』と疑うのは当然。俺がコイツらの立場でも恐らく同じことを考えるだろう。

 

 張り詰めた空気が続く中、最初に沈黙を破ったのはすみれだった。

 

 

「まだ全然整理できてないんだけど、アンタは二股以上のことをしてる、ってことでOK?」

「あぁ」

「それを私たちに隠していた、って認識でOK?」

「あぁ」

 

 

 恐らく何を聞いても否定は返って来ないと分かっているのだろうが、俺の口から直接聞かなければ心の整理ができないのだろう。ただ整理ができても納得はできないとは思う。認めてしまったら自分の入り込む余地は最初からなかったと悩みに苛まれてしまう、そう考えているに違いない。もちろん俺は女の子にそんな絶望を抱かせることはしないけどな。

 

 そしてすみれが先陣を切ったのを皮切りに、他の奴らも溜め込んでいた疑問質問を投げつけてくる。

 

 

「女性とお付き合いしたことがないと言うのも嘘だったんですね……」

「あぁ。たくさんの女の子と付き合ってるとか生徒に言えるかよ。下手に騒ぎになったらどうする」

「でもどうしてスクールアイドルの人たちとばかりお付き合いしているのデスか……?」

「どうやらスクールアイドルを引き寄せる体質らしい。ってのは冗談で、俺は女の子の笑顔が好きだからな。だからスクールアイドルの女の子と相性がいいんだ」

「それだけたくさんの女性とお付き合いして、悪気……みたいなものはないんですね」

「なぜ悪びれる必要がある。むしろ誇りだ」

「社会的に問題があるとしてもですか……?」

「問題はない。社会以上にこの俺が全てなんだから」

 

 

 もはや質疑応答ってよりかは反射だな。投げつけられた質問を握り潰すように受け止め、そのまま剛速球で投げ返す。多分コイツらも俺が自分たちの想定していた答えと違う方向性の返答をされるとは思ってもいなかっただろう。世間外れで常識外れだもんな、俺の考えって。まるで理解できないような顔をしているのがその証拠だ。

 

 

「そんなの、許されると思ってるわけ……?」

「どうして俺が許しを請う必要がある。これが俺の生き方。誰かに言われたからって折れてどうする。俺は俺の信念を貫くだけだ」

「どうしてそこまでしてレールから外れようとするのですか……?」

「たくさんの女の子の笑顔を、誰よりも近くで見たい。ただそれだけだよ」

 

 

 当然のことだがこれだけだと納得しねぇよな。だけど俺はコイツらを自分の世界に引き込もうとか、増してや無理矢理にでも自分のモノにするために自分好みになるように調教してやろうとか、そんなことは思っていない。俺の考え、信念、そして夢、それを聞いてもなお俺についてくるか否かはコイツらが決めることだ。だから折り合いをつけるのはコイツらであって俺ではない。俺についてくるのであれば受け入れる、そうでなければ置いていく。それだけだ。

 

 複雑そうな表情をする5人。その中でも特にかのんは真剣な面持ちでこちらを見つめていた。

 

 

「何か言いたいことがあるのか?」

「先生、いつもより達観しているように見えます。なんと言うかその、さっき自分の信念を語っていたときの先生、私たちではなくて別の何かを見つめていたような気がして……」

「そう見えたか? 俺は人と話している時は相手に集中するタイプなんだけど、流石に色々あり過ぎたからな、昔は」

「色々……? 私、先生のことをもっと知りたいです!」

「そういえば先生ってあまり自分のことを話さないよね。度し難いほどのお人好しになっちゃったのって、何か理由があるんですか?」

「それは貶してんのか千砂都……」

「いやいや、私も聞きたいなぁ~と思いまして。先生のことをたくさん知りたいのはかのんちゃんだけじゃないってことです!」

 

 

 他のみんなも同意するように頷く。そういや俺の身の上話はコイツらにしたことなかったな。コイツらが知っていることと言えば姉の秋葉がいること、妹がいること(会ったことはあるが名前を明かしていない)、そして虹ヶ咲のコーチをやっていたことくらいだ。教師と生徒の関係だから深く話している方がおかしいことだろうが、俺たちはもうただの教師生徒の関係ではない。コイツらの瞳は真剣だ。本気で俺のことを知りたがっているのだろう。どうしてここまでたくさんの女の子を抱え込んでいるのかを。

 

 

「俺の夢の発端となった話か。自分で言うのもアレだけど、そんなに気分のいい話じゃねぇぞ? 聞いてる途中で辛くなるかもな」

「大丈夫デス! 受け止める覚悟はできていマス!」

「こっちはたくさんの女の子と付き合ってるってデカい爆弾を落とされてるのよ? 大丈夫に決まってるじゃない」

「先生ご自身の話を聞くのは初めてですから、先生のことを知ることができてむしろ嬉しいです」

「ったく、物好きだなお前ら……」

 

 

 そう言いつつも話していいと思ってしまうあたり、俺もコイツらとの関係と大切に思っているらしい。特に隠すような話でもないんだけど、重い話だからこそ気が許せて信頼する奴にしか話したくない。話の圧力にコイツらがどれだけ耐えられるか分からないけどな。

 

 やたらと俺の過去に興味津々なかのんたちに、仕方なく俺が俺である所以を話してやることにした。

 どうして俺が女の子の笑顔に魅力を感じるようになったのか。その原因は大きく分けて2つ。

 1つは高校時代に俺が優柔不断だったせいで、μ'sのみんなを苦しませてしまったこと。たった9日間の出来事だったが、あの時の日常はまさに『地獄』だった。体力も精神も何もかも擦り減らしていた気がする。たくさんの女の子に好かれて、その状況に浮かれて、何も答えを出さずに何もかもをキープし続けていた。そりゃ女の子は怒るよな。ああなったのは俺のせいだ。だからあの時は自分の罪を悔いて償いながらも、最後まで諦めずにアイツらの心に俺の想いを訴えかけていた。当時は我武者羅だったが、諦めなかったおかげでみんなを元に戻すことができたんだよな。

 

 2つ目は虹ヶ咲の初期メンバー9人と実は幼い頃に会っていた話。火事の現場で動けなくなって召されるのを待つしかなかったアイツらを、俺は死に物狂いで救いに行った……らしい。らしいってのはその時の記憶がないからで、どうやらアイツらを救った後に気絶して当時の出来事だけすっぽりと記憶が失われていたとのことだ。秋葉やアイツらからそれを聞かされた時は嘘かと思ったが、アイツらが俺に向ける心酔と言っていいほどの愛を見ると信じるしかない。結局あの火事は俺を試すために行った秋葉の自作自演だったとか諸々あったけど、なんにせよ今の俺が出来上がる開幕の事件だったことには違いない。

 

 どちらも俺にとっては大きな出来事だった。しかし、これはあくまできっかけに過ぎない。可愛い女の子が大好きってのは俺自身の欲望であり、女の子の笑顔を守りたいってのはその欲望から来たものだ。だから自分の過去に囚われて女の子に執着しているわけではない。もしそんな訳ありの男だとしたら心から女の子を愛せるわけないし、女の子もそんな男について行こうだなんて思わないだろう。

 

 そして、そんなしがない話を聞いていたかのんたちだったが――――

 

 

「だから辛くなるかもって言ったろ……」

 

 

 俺の話を聞いている途中から各々は眼に涙を浮かべていた。高校生に聞かせるにはあまりに悲痛だったか。流石のコイツらも俺がここまでの苦労を背負っていたなんて思っていなかったのだろう。俺も久しぶりに過去を振り返ったからか、物がパンパンに詰まっている押入れを久々に開けて中身が溢れだしたみたいな感覚で、自分の記憶を雪崩のように喋ってしまった。あの頃のμ'sとの関係性や悲痛な思い出を鮮明に想像できるほど詳しく話してしまった気がする。感受性が豊かなコイツらだからこそ、まるで自分が見てきたかのようにその時の光景が脳内に映し出されたに違いない。

 

 

「この話で同情を得ようとか、俺を理解してもらおうだとか一切考えてない。身の上話をしないと判断材料が少ないと思っただけだ。だからここからはお前たち1人1人が考えてくれ。まあどんな結論に至ろうとも、部活の顧問をやめるつもりはないから安心しろ。その場合はただの教師生徒の関係に戻るだけ、至って健全だろ」

 

 

 これだけたくさんの女の子と出会ってるんだ、1人くらいは俺の考え方について来れない奴もいるかもしれない。だけどそれでもいい。価値観が違う奴ら同士で付き合ってもストレスだろうし、合わないと思ったらその段階で関りを絶てばいいだけだ。今の俺たちはその分岐点に立っている。

 

 つうか顧問をやめるつもりはないって言ったけど、これでもしかのんたちが俺への恋愛線を断ち切ったとして、その先の関係を保てるかは不明だ。ただの教師生徒の関係になるとは言ったが、明らかに気まずいよな……。

 

 

「俺からこれ以上話すことはない。聞きたいことがあればまた連絡してくれ。こんな俺だけど、求めるのであればお前らが納得するまで話に付き合ってやるよ。それで俺が自分に見合う男かどうか判断しろ」

 

 

 そうして俺たちは解散した。

 屋上から立ち去る際も誰もこちらを見ようとはせず、俯いたままずっと考え事をしているようだった。

 

 

 これからの俺たちの関係。それがどうなるかはアイツら次第。俺は自分の信念を曲げるつもりはない。今はただ、待つだけだ。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 今回はかなり短めですが、遂に零君の本性がかのんたちに明かされた重要な回でした。久々に彼の俺様気質が見られたかも……

 彼は『過去への扉』編でも語られた通り可能な限り彼女たちには歩み寄ったので、あとは彼女たちが彼との関係を続けていくのかどうか、それだけです。

 次回はその『過去への扉』編の最後のかのん回で、最終回まで残り2話予定です。
 最終回までこの小説らしからぬシリアス系のお話が続きますが、是非彼らの関係を見守っていただければと思います。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去への扉:思い出には、いつもあなたが

 全てを暴露してから最初の平日、つまり普通に授業がある日になった。この前の土曜日にイベント、および真実の打ち明け、そして日曜日を挟んで本日に至る。

 1日置いてアイツらがどれだけ心の整理ができたのかは不明だが、どうやら授業は真面目に受けているようで、何か考え事をして上の空って感じではなかった。みんな表情が良く出るタイプで体裁を保てるような奴らではないから、ある程度は自分の中で決着がついたのだろうか。だとしたらいつか本心を打ち明けてくれるだろうから、それまで待つとするかな。

 

 そんなこんなで本日の授業が終わって放課後になった。俺は誰もいなくなった教室で事務作業をしている。学校に金がないせいか誰もいない教室の電気は消すようにとあのクソババア、もとい理事長に言われてるので、教室内はやたらと暗い。かろうじて窓から差し込む夕日の朧気な光の中で仕事をしていた。職員室にいてもいいんだけど、1人の方が集中できるからな。

 

 そして事務作業を黙々と進めてもうすぐ終わろうとしていた矢先、教室の扉が静かな音で開かれたことに気が付く。実は今日は授業が昼までであり、しかも全ての部活が休みの日で早く帰りましょうデー、一時期世間で話題になってすぐ消えたプレミアムフライデーのような日だ。だからこの時間まで生徒が残っていること自体珍しいのだが――――

 

 

「かのん……?」

「先生……」

 

 

 教室に入って来たのはかのんだった。部活が休みなので当然スクールアイドル部もその対象なのだが、コイツこの時間まで一体何をしてたんだ? 俺がここで仕事を始めてから廊下を通る生徒の影すら見かけなかったから、ほとんどの生徒はもう帰宅しているはずだ。

 

 もしかして、1人でずっと悩んでたとか? 日中は普通に授業を受けていたから自分の中である程度の決着はついたのかと思っていたけど、そりゃ繊細なコイツのことだからそう簡単に割り切れないか。そしてこの放課後に自分なりの答えを見つけ、たまたま教室の前を通りかかったら俺がいたからここで心中を打ち明けよう。そんな算段かもしれない。

 

 

「先生……」

「ん?」

「勉強、教えてくれませんか?」

「へ?」

 

 

 俺の予想全然違うじゃねぇか……。しかも真面目な顔をして、こちらの瞳を真っすぐ見つめながら言うものだから柄にもなく呆気に取られてしまった。いつものコイツであれば俺と2人きりでいるだけでも顔を赤く染めてそわそわしているのに、今のコイツは凛としていてまるで別人だ。今日はLiellaの面々とは一切会話をしておらず、それはコイツらが色々心の整理ができていないからだと思っていたけど……まさかこのタイミングで勉強を教えろと頼み込んでくるとは思うまい。まあ生徒が教師に相談事をするのは当然のことと言えばそうなんだけどさ。

 

 ちなみに呆気に取られたのはそれだけではなかった。なんとコイツ、教卓で仕事をしている俺の隣に椅子を持ってきて、そこで勉強を教わろうとしている。いや教室だから目の前にいくらでも机があるし、授業のように対面であれば黒板を使って教えられるのにどうして隣に来るのか。しかもその行動すらも普段のコイツとは違っており、いつもなら俺の隣にいると緊張と羞恥心で支配されるはずだ。だが今は至って平静。秋葉に精神安定剤でも打ち込まれたかと疑ってしまうくらいだ。

 

 

「お前そんな奴だったか?」

「えっ?」

「なんか今日は積極的っつうか、物怖じしてない感じがするからさ」

 

 

 気になり過ぎたからもうストレートに訊いちまった。バトル漫画でよくある主人公の覚醒モードに入ったみたいな感じで、メンタルまで鋼になっているかのん。俺と喋っていない間で自分の心の中でどんな修行をしたんだよ……。

 

 

「居心地がいい場所の再確認をするため、ですかね……」

「俺ってそんな癒しスポットだったのか……」

「はい。先生の隣にいるといつも緊張しちゃいますけど、それ以上にドキドキして、心が温かくなって、先生の隣に立つたびに『やっぱりここが一番安心する』ってなります。昨日と今日、ずっと考えた結果がこれって単純すぎますよね」

「なるほどね……。別にいいんじゃねぇの。それがお前の気持ちだったら好きなだけ隣にいればいい」

 

 

 意外にもあっさりと自分の気持ちを吐き出したな。羞恥心がどうこうよりも俺の隣にいると落ち着くってのが勝っているのだろう。かのんはいつも素直で真っすぐだが、その性格が今も如実に表れている。俺が隣にいただけで頬を染めてこちらをチラチラ見ていたウブなコイツはもういなくなったのか。それはそれで寂しくはあるが、教師として生徒の成長が喜ばしくもあるな。

 

 

「それに先生の隣で歩き始めてもう1年ですから、いつまでも緊張していられませんよ」

「そっか、もう1年か」

「そうですよ。私、来月から先輩になるんです」

「へぇ、お前がねぇ」

「ちょっ!? どうして笑うんですかっ!!」

 

 

 まだまだお前は子供だとか思ってしまうあたり、もう親の目線なんだよな。それくらいこの1年はコイツらと色々あったわけだ。

 そしてかのんとは他のメンバーの誰よりも最初に出会い、気にかけていた子だからなおさら思い出が深い。この俺がノスタルジーを感じてしまうなんて相当なことだぞ。

 

 

「こうして隣にいるのも当たり前になってますけど、出会いは突然だったのは覚えてますか? 私が歩道橋の上で歌っていたら先生が『声、綺麗だな』っていきなり。唐突過ぎて新手のナンパかと思っちゃいました。ほら、最初は優しい言葉で声をかけて、心を掌握した後に良からぬことに誘う……みたいな?」

「悪かったなナンパみたいで……。でもあの時は声をかけざるを得なかったんだよ。もう俺の性格を知ってるから言っちまうけど、俺は魅力的で可愛い子が好きなんだ。そんな俺のセンサーに反応する奴が目の前にいたら話しかけるしかねぇだろ。しかも自分の勤務する学校の制服を着てるときたら、そりゃもう自分の手の垢を付けるしかねぇって思ってさ」

「そ、そんなことを考えてたんですね……」

「引いたか?」

「い、いえっ! むしろ先生と知り合えたきっかけのエピソードなので、これも大切な思い出です!」

 

 

 イケメンなら多少のキモさは許されるのか、俺からしたら生きやすいなこの世の中は。

 でもよく考えてみて欲しい。声がキレイで歌も上手い超絶美少女JKが目の前にいたらどうするのかを。一般性癖の男であればお近づきになりたいって思うだろ普通。そのためには声をかける必要があり、俺はその選択肢を選んだ。ただそれだけ。表現の仕方が気持ち悪かっただけで思考回路的には男として真っ当なものだったんだよ。

 

 

「それから先生が私のクラスの担任になったり、可可ちゃんからのスクールアイドルの勧誘を逃れるために先生との勉強会を隠れ蓑にしたり、先生とは入学した直後から一緒だった気がします」

「そういやそんなこともあったな。まあ結局はスクールアイドル堕ちしちまったわけか」

「うぅ、それは先生が『可愛い可愛い』って言うから……」

「そんな面食いみたいな褒め方してたか俺……? そりゃ美少女で声もキレイで歌が上手いってなったらスクールアイドルの適性はバッチリだろ。あくまでそこを褒め讃えていただけだ」

「それ、今ならある程度は耐えられますけど、当時は自分の容姿や趣味を褒められることに慣れてなくて恥ずかしかったのなんのって……」

「お前、俺に褒められたらすぐ茹だこになってたもんな」

「うぅ、思い返すと更に恥ずかしくなっちゃう……!!」

「今も意識し過ぎるとそうなるのか……」

 

 

 1人で歩いているとほぼ確定で可可に襲撃されるから、放課後は自習をかねて俺に勉強を教わろうとするイベント(俺にとっては強制イベ)が何度もあった。ただ結局のところ、可可はそんなことでは止まらない猪突猛進タイプなのであまり意味はなかった。むしろアイツもアイツでよく俺の隣にいた気がする。かのんからはどうすればスクールアイドルにならずに済むかの相談を受け、可可からはどうしたらかのんを誘えるかの相談を受けていたのを思い出した。なんとも不毛な板挟みだったな……。

 

 

「ただ、そこから紆余曲折あってお前はスクールアイドルになった」

「はい。先生のお言葉があってこそですけどね。このまま塞ぎ込んだままの自分じゃイヤだって思って……。それでもファーストライブは入試の歌披露のときより緊張しちゃいましたけど、それも

可可ちゃんと、そして先生のおかげで乗り越えられました。ファーストライブ直前で先生、私になんて言ったのか覚えてますか?」

「そんな昔のこと覚えてるわけねぇだろ」

「『俺がいる』って。今思えば、この時から持ち前のナルシストが出ていたってことですよね。なるほど、これがゲーム用語で言うフラグ……」

「いやいや、見守ってる奴が1人でも多い方が安心するだろうなって思っただけだ。つうか俺の言葉もっと長かった気がするんだけど、そこだけピックアップするからナルシストに見えるんじゃねぇのか?」

「ふふっ。でもどうであれ緊張も解れて、ファーストライブが成功したので問題なしです!」

 

 

 今ではスクールアイドルにもそれなりの自信がついている彼女だが、当時の卑屈さはそれはそれは目に余るくらいだった。今まで出会ったスクールアイドルの中でも随一のマイナス思考っぷりで、ライブのたびにコイツを鼓舞してやった。もちろんファーストライブは最初のライブってこともあり自己評価の低さが逆限界突破しており、励ますためにそれなりの言葉をかけてやった気がする。だがその言葉を都合のいいように切り取られたので、エピソード改変がヒドイのなんのって……。まあそれがコイツの大切な思い出になってるのであればそれでいいか。

 

 

「そこからすみれちゃん、ちぃちゃん、恋ちゃんが加入して、グループ名も『Liella』に決まって、よりスクールアイドルらしくなりましたね」

「お前もそうだけど、他の奴らも一癖も二癖もある奴らばかりで手間取ったけどな」

「それも先生のおかげですよ」

「最終的にアイツらを誘ったのはお前だろ」

「その誘う勇気をくれたのは先生です。だから先生のおかげってことですよ。みんなにどう声を掛けたらいいか迷っていた時に、『お前は人の心を開く力がある。お前に熱い思いがあればきっと届くさ』と励ましてくれたこと、今でも鮮明に覚えてますから」

「お前に限った話ではないけど、よく覚えてるよなそんなこと」

「私にとっては人生の格言ですから」

 

 

 それ恋の時も聞いたぞ。まさか他の奴らも同じことを思ってんのか? このままだと部室に俺の名言が文字起こしされて額縁に飾られかねない。しかも5人いるから部室中の壁一面に。それどんな公開処刑……??

 ただ額に収めたくなるほど俺の言葉が響いてるってことで、そこだけは誇らしく思う。そのおかげで今のLiellaがあると思えば俺の功績が格言になるのも無理はないか。

 

 

「そして、先生は私に過去のトラウマを乗り越えさせてくれました」

「あれはみんなのおかげだろ」

「もちろんそうですけど、やっぱり根底は先生なんです。先生は私たちの笑顔が好き。だとしたら私も今のままではダメだと思って、1人でステージに立つ覚悟を決めました。トラウマとの決別もその時の目標だったことには間違いないですが、それと同じくらい先生に自分を見て欲しかったんです。澁谷かのんという存在を、先生にたくさん知って欲しかった。それくらい私の中で先生が大きくなっていたんだって」

 

 

 今となってはそれなりに克服しているアガリ症だけど、思い返せば歌が好きなのに人前で歌うのは緊張が昂って無理って中々に難儀な性格だったな。可可たちがいればその不安も解消されていたらしいが、それは根本的な解決にはなっておらず、心に枷を付けたままだといつかそれが重圧になるときが来る。彼女も俺たちもそう思っていた。だからこそあの時、小学校のステージに1人で立つ決意をしたんだ。でもまさかその理由がトラウマ克服とは別にもう1つあり、それが俺に向けてでもあったなんて思いもしなかったな。

 

 他の奴らともそうだったが、こうして2人きりだと今まで知ることのなかった相手の本心を知ることができていい。俺は自分のやることなすことに後悔なんて一切ないからコイツらの気持ちがどうであろうがどうでもいいが、あの時コイツはそんなことを考えていたんだって知ることはソイツの魅力をより知ることにも繋がる。だから思い出話をするのは嫌いではない。まあ格言を引っ張り出されるのは流石の俺でもちょっと恥ずかしいけどな。

 

 

「その他にも先生に助けられたことはたくさんありました。普段の勉強とかもそうですし、愛莉さんと一緒に解決した幽霊騒動もそうで……。あはは、もう先生との思い出しかないですね」

「それだけ俺と一緒にいるのが日常になってるってことだろ。もう思い出云々とかではなくて、それが普通なんだよ」

「普通……それが普通ですよね。ふふっ♪」

「嬉しそうだな……」

「そうですよね、これが普通ですよね! 先生の隣にいることが普通なんです。それくらい私、私たちは先生のことを……」

 

 

 それ以上は何も言わなかった。大体察することはできたが、恐らく他の奴らがいない2人きりの時に言うべき言葉ではないと思ったのだろう。だったら俺もここで語るようなことはしない。コイツらが自分の気持ちを自分で打ち明けるまではな。

 

 そうやって思い出話に花を咲かせた俺たち。かのんの目的は俺の隣に来ることだったらしく、隣にいることさえできれば勉強を教わろうが昔話をしようがどちらでも良かったようだ。よくよく考えれば隣に来ることだけが目的って、相当相手に入れ込んでないと出てこない目的だよな……。とりあえず俺の真実つうか、本性を知っても好意は持ち続けているようだ。まあこの一年間でこれだけ距離が縮まったんだ、離れようと思って離れることなんてできないよな、それはコイツらもそうだし、もしかしたら俺もそうかもしれない。

 

 

「そういえば先生、まだ隠してることありますよね?」

「はぁ? んなものねぇよ。全部話したっつうの」

「そっか。だったら勉強会のお礼と言ってはアレですけど、私の家に来ませんか? 喫茶店なので何か甘いモノでもご馳走します」

「いや教師なんだから生徒に勉強を教えるのは当たり前だろ。それに楓がなんて言うか分かったもんじゃない」

「なるほど、やっぱり妹さんはμ'sの楓さんだったんですね」

「お、お前!? まさか(はか)ったのか!?」

「ゴメンなさい♪ 可可ちゃんから確かめて欲しいと頼まれていたのでつい」

「ったく……」

 

 

 やられた。まさかこんな形でアイツの正体がバレるとは……。でもアイツの正体を隠すことは俺の正体を隠すことにも繋がっていたから、俺という人間が知られた今は別にアイツが何者だろうがバレても問題はない。だが高校生ごときに出し抜かれるという失態はプライドに響くぞ……。

 

 

「やっぱり、先生といると楽しいです。それだけで十分」

「そりゃ良かったな」

「もしかして、さっきの根に持ってます?」

「んなわけねぇだろ自惚れるなよガキのくせに」

「ふふっ、やっぱり楽しいです! 今日はそれを確かめられただけでも満足しました!」

 

 

 なんだかもうやり切ったみたいな顔してやがるなコイツ。本番はまだなのにこの余裕。とは言いつつも、心に焦りがある状態で本心を打ち明けようとも気持ちが込められないと思うので、本人が満足したって言うのであればそれでいい。俺の隣にいるだけで落ち着けるのであれば好きなだけこの場所にいろ。むしろ俺から寄り添っちまうかもな。それくらい俺が抱くコイツらへの想いも大きくなってきたってことだ。

 

 そんな感じで今日は解散となった。結局かのんの本当の気持ちはまだ明かされていないが、それが告白される日はもう近いだろう。自分1人だけここで想いを打ち明けたら抜け駆けになって、可可たちが怒っちまうかもしれねぇからな。

 

 

「先生、途中まで一緒に帰りませんか?」

「いいけど、職員室に寄っていくから少し時間かかるぞ」

「大丈夫です。いくらでも待ちます。先生の隣にいられるのであれば、いくらでも……」

「そうか。じゃあ行くか」

「はいっ!」

 

 

 かのんが小走りで俺の隣に並ぶ。

 俺たちの未来が決まるときが来るのも、もうすぐそこ――――と思ってたけど、これはもうお互いに確認するまでもないのかもしれないな。

 

 

 




 前回の事後回であり、かのんとの過去回でした。
 アニメ2期を見て思ったのは、アニメのかのんがイケメンっぷりを発揮するたびに女の子らしい可愛いところも見たくなるって、この小説で恋をする彼女が描けているのは丁度いいですね(笑)

 これで5人全員の過去回が終わったのですが、相変わらず零君のお人好しっぷりとメンタルケアが完璧すぎて……(笑)
メインキャラが少ないからこそ1人1人の過去描写もこのように個人回として無理なく描けるのも良かったです。

 そして、次回はいよいよLiella編の最終回となります。彼らの関係も次回で一通りケリがつくので、是非最後まで見守ってあげてください!





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【最終話】START!! True Lovers

 冬の寒さが完全に抜けきった3月の下旬、結ヶ丘女子高等学校は終業式を迎えていた。生徒にとっても教師にとっても1年の締めくくりとなるイベントで、明日からの春休みにテンションが上がる日でもある。しかも夏休みや冬休みのクソ熱い、クソ寒い時期とは違って今は丁度よい春の暖かさがある。そりゃ舞い上がってしまうのも仕方がないだろう。ただ生徒からしたら来年度から学年も変わり、それ故に生活環境も変わるため、ここ1年で慣れた環境からおさらばするのは少し寂しくはあると思う。まあこの学校は幸か不幸か生徒数が少ない部類であるため、そこまで急激な環境変化がないのは安心要素かもしれない。

 

 そうして1年間の思い出に浸りつつ、また来年度への期待を膨らませつつ終業式が進行される。壇上では理事長やら生徒会長の恋やらのありがたくも堅苦しいお言葉が述べられ、教師である自分ももちろんこの締めくくりの場に出席して―――――

 

 

「いい天気だ。これだけ心地良い気温は久々過ぎる。ふわぁ~……ねみぃなぁ……」

 

 

 ――――なかった。

 俺は学校内でも特に日当たりがいい芝生の上で寝ころび、優雅に日向ぼっこを楽しんでいる。いやさ、どうしてこの俺があんな堅苦しい場所にいなければならない。どうせ大した内容を喋ってねぇんだから聞く必要はないし、もし聞いたとしても耳から反対の耳を通り抜けて10分後には何を言ったのか忘れてる。極めつけに明日になったらそんなありがたい言葉を聞いたという事実すら覚えてないだろう。だったら集会に参加すること自体が意味のないことだ。

 

 そしてどうせここで寝転がっていても咎める奴は誰もいない。教師としてここに配属されて間もなくは新人教師が故にある程度は従順になっていたが、今は俺という人間(流石にたくさんの女の子と付き合っているのをバラしたのはかのんたちだけだが)が教師陣や生徒たちに知れ渡った影響からか、俺もいつもの自分を出すことに気兼ねがなくなった。もちろんただ怠惰でいるわけではなく、生徒たちの成績をしっかり上げた実績が付いているからこそ許されているんだ。理事長も最近俺の反抗的な行動には笑みを浮かべながら呆れ顔をするだけとなっていた。馬鹿にされているのかガチで呆れてるのかは不明だけど……。

 

 そうして心地良い雰囲気の中ウトウトしていると、体育館の方から賑やかな声が聞こえてきた。女の子たちがぞろぞろと出てくるところを見るに、どうやら終業式が終わったらしい。

 ていうかこうして見ると、この学校の生徒って美女美少女ばかりだな。入試の成績とか関係なく顔採用されてるんじゃないかってくらいだ。それは虹ヶ咲がまさにそうで、過去に俺がいた音ノ木坂や浦の星だって――――って、そう考えると俺の関わって来た女子高って全部その傾向のような気がする。これは偶然なのか、俺が可愛い女の子を呼び寄せる体質なのか、はたまた誰かによる計らいか……。

 

 そんなことを考えていると、寝転がっている俺の顔に影がかかった。

 

 

「先生、こんなところでおサボりデスか……?」

「可可……。それにお前らも……」

 

 

 可可が俺の顔をのぞき込んで来た。そしてその周りにはかのん、千砂都、すみれ、恋の4人もいてLiella大集合だ。

 さっき美女美少女の話をしていたせいか、改めてコイツらを見てみるとその見事な容姿の良さを実感する。この学校でもトップクラスであり、その5人が集結してスクールアイドルをやってるなんてもはや奇跡だろう。まあそんなことを言ったら俺と関係のあるスクールアイドルは全てそうなのだが……うん、やっぱり仕組まれてねぇかこれ??

 

 コイツらが戻って来たってことはホームルームも近いはず。心地よい春風の中で眠っていたい気持ちを跳ね除け、渋々上半身を起こした。

 

 

「教師たるもの生徒の見本にならなければなりません。それなのにも関わらず集会を抜け出して昼寝だなんて……」

「相変わらず堅いな恋。それに教師としての役目ならいつも十分に全うしてるだろ。全生徒にアンケートを取ったら満場一致で満足って回答するに決まってる。俺を誰だと思ってんだ」

「アンタ、本性を明かしてから何事も容赦がなくなったわよね……。私たちへの態度だけじゃなくて、他の生徒への対応もこんな感じだし」

「でも先生の評判とってもいいみたいだよ。友達から聞いたんだけど、『最近はよりいっそう男らしくなって好き』とか『強引なところが心をグッと掴まれる』とか『メスとして強いオスに虜になっちゃう』とか」

「最後の奴はまともな性癖じゃねぇだろ絶対……」

 

 どこの高校に行っても女の子たちから好意的な目で見られるせいで、スクールアイドルキラーの異名と持つ俺だがもっと対象範囲を拡大して女子高校生キラーになっているかもしれない。成人男性に対してその異名は確実に犯罪者だけど、丸っきりウソではないのがなんとも歯がゆいな……。

 

 そんな中、1人黙っていたかのんが俺の隣に腰を下ろした。てっきりみんなでサボり魔を咎めに来たのかと思ったが違うのか……?

 

 

「どうした急に?」

「ホームルームまでまだ時間があるので、それまで先生の隣にいようかな~って。ダメ……ですか?」

「勝手にしろ。つうかお前、よく俺の隣にいるよな」

「えっ? そ、そうですか……?」

「かのんまさか……抜け駆けデスか!?!?」

「かのんちゃん、信じてたのに……」

「奥手のように見えて実は肉食系だったのね。騙されたわ……」

「純粋を装って意中の相手に近づくとは、中々に策士ですね……」

「ちょっ、ちょちょちょちょちょちょちょっと待ってみんな!! 誤解だから!!」

 

 

 そりゃ女の子が男の隣を陣取るなんて好意を寄せているか、それとも他の女に取られたくないって思うヤンデレくらいだろ。相変わらず言動も反応も分かりやすいっつうか、そんなに顔を赤くして慌てたら逆にそうですって言ってるようなものだ。

 

 

「私はただ先生の隣にいると居心地がよくて、そこが私にとっての居場所なんだって思ってるからで……」

「かのんちゃんまさかの正妻宣言!? 意外と独占欲高い!!」

「ちぃちゃん何言ってるの違うから!! そういう意味じゃなくって!!」

「だったら可可もここが居場所デス!!」

「うおっ!? おいいきなり抱き着いてくんな!!」

 

 

 かのんの独占力アピールにも驚いたが、突拍子もなく可可が抱き着いてきたことには余計ビックリした。今まで恥ずかしがりながら身体を寄り添わせてきたことはあるものの、ここまで大胆に抱き着いてきたのはこれが初めてだ。しかも今は羞恥心を爆発させている様子はなく、その目は覚悟に満ち溢れていた。もしかしたらコイツも前のかのんみたいに既に俺との接し方について決心をしているらしい。

 

 

「アンタももうなりふり構わなくなってきたわね……」

「じゃあすみれはそこで指を咥えて見ているといいデスよ。その間に可可は先生とイチャつきコラつきしてマスから」

「なんだよそのイチャコラの言い方初めて聞いたぞ……」

「ったく、そこまで言うのなら仕方ないわね。私も傍にいてあげるわよ」

「えっ? お前も?」

「なによ? イヤなの?」

「いやそうじゃなくてさ……」

 

 

 コイツら偽物じゃねぇよな……? 可可もすみれも前のかのんと同じく心の整理をしてきたとは思うのだが、覚悟1つだけで人はここまで変わるのか。可可は俺に真正面から抱き着き、すみれはかのんと反対側の俺の隣を陣取って身体を寄り添わせて来る。これまで俺と身体接触をしようものなら確実に羞恥心に敗北していたコイツら。ダンスの指導で手を握って一緒に練習しようとした際も、恥ずかしがってまともな練習にならなかった記憶がある。そんな奴らがここまでの積極性を見せるとは、どうやら恋する乙女の覚悟ってのは俺の想像以上の度胸を生み出すらしい。

 

 

「恋ちゃん! このままだと私たち置いてかれちゃうよ!」

「千砂都さん? で、でも一体どうしたら……?」

「かのんちゃんが右、すみれちゃんが左、可可ちゃんが前ってことは……上?」

「なんでだよ潰す気か……」

「恋ちゃんにはオイシイ場所を譲るとして、だったら私は――――うんっ、可可ちゃん、ちょぉ~っと我慢してね♪」

「へ?」

「えいっ!!」

「「う゛ぶぇ゛!?」」

 

 

 俺と可可は鈍い声を上げる。そりゃ勢いよく抱き着かれたら誰でもそうなる。可可は俺と千砂都でサンドイッチされてる状態だし、俺は2人分のハグを受け止めている状態だ。この2人はこの中でも小柄だからまだ支え切れてはいるものの、いくら女の子とは言えども2人の合計体重を受け止め続ける筋力は持ち合わせてねぇぞ。ただ千砂都もこちら側の苦しみを理解したのか、可可をやんわりと少し横に押しのけて俺に抱き着いた。つまり俺の右半身と左半身がそれぞれ別の子に抱き着かれていることになる。なんつう密度の高い構図だよこれ……。

 

 俺に密着しているのは4人、残り1人。恋はそんな俺たちを見て頬を染めながらそわそわしていた。自分も行った方がいいのか、それとも止めるべきか。自分の女としての心を優先させるか、それとも生徒会長としての誇りを優先させるのか、その選択肢に葛藤しているのかもしれない。まあ俺のいる場所は別に閉鎖空間でもないので、周りから見ようと思えば見えるからな。こんなところで男女が、しかも教師と複数の生徒が密着していたらそりゃもう風紀が乱れているとかのレベルを超えている。

 

 

「だからオイシイ場所を残してあげたって言ったじゃん。ほら、先生の後ろ。背中だよ背中」

「せ、背中!? つまりそれは先生に後ろから抱き着けと……??」

「なにを今更恥ずかしがってるのよ。アンタだって覚悟を決めたんでしょ?」

「先生と~~っても暖かいので、レンレンも早くこっちに来てくダサイ!」

「恋ちゃん、ここが最大の踏ん張りどころだよ。頑張って!」

「うぅ~~~~~~~~っ!! し、失礼しますっ!!」

「うぉっと!」

 

 

 抱き着かれるって分かってたのに、想像以上のパワーで密着して来るから思わず前のめりになっちまった。恥ずかしいならやめておけばいいのに、恋も他のみんなと同様に覚悟を持って俺と相対しているらしい。ただこういうことに慣れてないせいで力加減を間違っているのか、やたらと強く密着してることには気づいてるのだろうか。それを指摘したら間違いなく羞恥心を刺激するからやめておくけど。

 

 そしてこれで5人全員から抱き着かれてしまった。このおしくらまんじゅう状態には慣れているのだが、学校内という人の目に触れる場所でこういうことをやるのは久しぶりかもしれない。そもそもかのんたちに取り囲まれているせいで、周りから俺を視認することができるのかなこれ……。

 ていうかこうしてお団子状態にされている時に毎回思うことがある。女の子の匂いって甘すぎないか? どうしてこんなにいい匂いがするのか、本当に自分と同じ人間かと疑ってしまう。そして密着されているが故に体温を感じられて暖かく、もう女の子を布団にして快適な睡眠ができるくらいには心地良い。相変わらず贅沢なポジションだよ俺の立場ってのは。

 

 ただ、コイツらがこの状況に至るまでの心境の変化は気になるところ。女の子に抱き着かれるのは日常茶飯事なので驚かないが、コイツらってのがポイントだ。かのんとは以前の勉強会で何となくその気持ちを察せたものの、結局のところ真意の方は分からずじまいだったからな。

 

 

「先生に逃げられなくて安心しました……」

「そもそもこの状態で動けねぇよ。つうかお前らこそよく逃げずに俺の前に現れたな。自分で言うのもアレだけど、俺って男はまともじゃねぇぞ」

 

 

 気になっていたことをストレートに聞いてみる。するとかのんが今までよりも一層こちらに擦り寄ってきた。

 

 

「じゃあ私たちもまともではないってことですね。先生がどんな人であれ、私たちは先生と一緒にいたいって思っちゃってますから」

 

 

 かのんは苦笑する。『私たち』ってことは、一度みんなで集まって気持ちを共有したのか。そうでなければ純粋無垢なコイツらが男にここまで迫ることはできないだろう。

 それには千砂都も可可も、すみれも恋も頷き、かのんの言葉に続く。

 

 

「結局のところ、そんなに難しい話じゃなかったってことです。先生の隣にいたいから隣にいる。先生がどんな人であろうとも、私たちを見守って、手を差し伸べてくれた男性は先生だけなんですから」

「可可たちはみんな先生の優しさに惹かれてここにいマス。先生がどんな一面を持っていたとしても、可可たちはその先生を好きになったのデス」

「そういうこと。だからアンタが何者かとか、本性が危ない人だと分かっていても、私たちにとってはアンタが全てなのよ。だから隣にいたいと思った。たったそれだけの、単純な理由よ」

「気持ちの整理を付けるためにあれこれと考え込んでしまいましたが、自分の心と向き合ったときに気付きました。お側にいたい。ただそれだけですが、それが私たちの一番の気持ちなんだと」

 

 

 この世で最も単純な理由。

 

 なるほど、悩みに悩んで一世一代の覚悟を決めたとばかり思っていたが、どうやら話は至極単純なものだったらしい。好きな人の隣にいたい、ただそれだけ。そこに壮絶なエピソードがあるわけでもない簡素なものだが、それの何が悪い。いいじゃないか、本人たちがそれでいいならそれで。そもそも恋愛の根底なんてもっと相手と一緒にいたいってことだろ。だったらそこに深い理由なんて必要ない。一緒にいたいからいる、隣にいたいからいる、それだけで十分だ。その相手が他の女の子と付き合っていようとも、尊大で性格に難ありだったとしても、自分たちが好きになったのはそういう男。好きなのであれば悩み込む必要はなく、居心地のいい隣にいればいいじゃないか。ということだろう、

 

 そういや教師生活という環境の変化で忘れてたけど、他の奴らともそんな感じだったな。そんな簡単なことを忘れてしまうくらい、この1年はコイツらとの思い出がたくさん詰まっているのだろう。

 

 そうやって決着の内容に納得していると、かのんが不安そうにこちらを見つめていることに気が付く。

 

 

「どうした?」

「先生笑ってますけど、私たち変なこと言いましたか……?」

「いいや。むしろ感心したよ。真の意味で俺の隣に、そして自分たちの力で辿り着いたんだからな。よく折り合いをつけてここまで来たもんだ」

「折り合いとか、そもそもつける必要はなかったんだと思います。先生にどんな一面があれ、私たちはそういうところをひっくるめた先生自身に惹かれました。つまり最初から何も迷う必要がなかったってことです。むしろ自分の気持ちに素直になる方が大変だったかもしれません」

「気持ちの整理をするよりも、こうして男と触れ合うことの方が勇気必要そうだもんなお前ら」

「「「「「うっ……!!」」」」」

「ここに来て全員で恥ずかしがるなよ……」

 

 

 全員で一斉に顔面を沸騰させた。抱き着かれているせいで体温の上昇がこちらにまで伝わり、コイツらがいかに取り乱しているかも分かる。

 こうして密着しているのも『赤信号、みんなで渡れば怖くない』理論で、他のみんながやっているから自分もやる覚悟ができているのだろう。まあ赤信号とは言ったけど俺にそんな危険はないわけだが……。いや、虹ヶ咲の子たちは食ってかかってるけど……。いやとにかくだ、所構わずどこでも抱き着けるようになるくらい羞恥心が克服できた、とまでは行かなかったらしい。そりゃ恥ずかしさだけはそう簡単に折り合いを付けられねぇよな。

 

 

「それでそのぉ……先生はそんな可可たちを受け入れてくれマスか? 隣にいてもいいのか、先生のお返事がきになりマス……」

 

 

 期待と不安が入り混じった瞳を見せる可可たち。その気持ちは分からなくもないが、それこそこの世で一番無駄な心配だ。

 

 

「受け入れるも何も、俺はいつでもオープンだ。可愛い女の子であれば来るもの拒まず。つまり、お前たちが俺の隣に並び立った時点で進んだんだよ。俺たちの関係はな」

 

 

 かのんたちはその言葉を聞いた瞬間に安堵の表情、そして嬉しさに満ちた笑みを浮かべた。自分の気持ちに素直になっても俺が認めてくれるかどうかは別問題だと思ったのだろう。そういう繊細な心配をしてしまうところが可愛いところだな。

 

 

「お前らはこの1年で俺のお眼鏡にかなうくらいに成長してくれた。スクールアイドルとしての実力はもちろんだけど、俺を惹きつけるほどの魅力がな。だからもっと自分を誇れ、自信を持て。オープンとは言ったけど、俺の隣にいるってのはそれだけすげぇことなんだよ。誰しもが簡単に到達できる場所じゃない」

「なんかナチュラルに自分を持ち上げてるわね……」

「でも先生のそういう自信満々なところが頼りになるんだよね~♪」

「そうですね。生徒会も部活も、先生が顧問で良かったと私も思います」

「いや生徒会は顧問ではないが……。お前がそれでいいってのなら別にいいけどさ」

 

 

 女の子が強い男に惚れるのは当然、というのは動物として刻まれた本能なのかもしれない。加えてコイツらは純粋っ娘だから優しい男にコロッと騙されそうだし、一度恋をするとその男に夢中になってしまうのは必然か。もちろん俺はコイツらを騙しているつもりはなく、むしろ1人の女の子として他のスクールアイドルの奴らと同等の存在として接している。そういった意味では俺も惚れ込みやすい性格かもしれないな。

 

 

「今はまだ距離が縮まっただけだけど、高校生活はまだ長い。その先でもっとお前らの魅力を俺に見せて欲しい。もしその時になったら、きっと俺は……。ま、精々『女』をもっと磨くことだな」

「はいっ! 可可、もっともっと先生に輝きを見せられるように頑張りマス!」

「私もダンスとスクールアイドル、そのどちらでも先生を惹きつけられるような魅力のある女性になってみせます!」

「仕方ないわね。だったら私がショウビジネスの世界で一番になる姿を見せつけてあげるわよ」

「私も、この学校の発展のため、私自身のため、そして先生に向けて、誠心誠意努めてまいります」

 

 

 俺からもっと魅力的になれと言われてもプレッシャーと思わず、むしろそれを糧にして前向きになりやがった。自分が『女』として見られることにすら慣れていなかったのに、こういうところもこの1年で大きく成長したな。

 

 そして最後に、立ち上がったかのんが俺と向き合う。

 

 

「私、もっともっと先生と一緒にいたいです。これからもスクールアイドルとして、先生の教え子として、そして1人の女性として、私、いや私たちをよろしくお願いします!」

 

 

 覚悟に満ちた瞳から、心を打たれるような優しい笑顔。俺が女の子の表情で一番大好きな顔だ。

 そんな表情をされたら、もうこう言うしかない。

 

 

「あぁ、任せとけ」

 

 

 春風が吹き抜ける。この1年の間に俺たちの関係は一歩一歩先へ進んでいたが、今回は間違いなくこれまでよりも大きな進展となっただろう。これからコイツらが女の子としてどのような魅力を、どのような笑顔を俺に見せてくれるのか楽しみだ。

 

 そして、来月から4月で新年度。この学校にも新入生がやってくる。もしかしたらその中でも俺たちに新たなる出会いがあるかもしれない。更にそこから、かのんたちみたいに俺の興味を引く女の子が出てくるかもな。

 

 かのんたちとの新しい日々、そしてまだ見ぬ新入生たちとの邂逅。そんな未来に期待を抱きつつ、いったんはこの女の子たちに囲まれる至福の日常をたっぷりと堪能させてもらうとしよう。

 




 ということで、今回でLiella編が最終回となりました!
 ラブライブもLiellaで4グループ目のスクールアイドルとなり、最初はマンネリ化するだろうとは思っていましたが、アニメを見て他のスクールアイドルとはまた違ったキャラ付けになっていることに驚きつつも女の子たちに惹かれていき、今回も無事に小説を完走することができました。キャラに魅力がなかったらここまで小説を続けられませんから(笑)

 特に今回はメインキャラの人数が他のグループとは違って半分になったことで、1人1人をしっかり描写することができた他、1人あたりの登場回数も多くできたかと思います。虹ヶ咲の頃は次の登場が1ヶ月以上空きになっていた子もたくさんいましたから……

 また、Liella編のコンセプトは純愛寄りにしようと思ったのですが、これに関しては皆さんどうでしたでしょうか? いつもみたいにエロコメディの要素が少なくてガッカリした方も多いとは思いますが、私的にはいつもと違う雰囲気のお話を描けて概ね満足しています。それでもエロコメディ系の話はもっと書きたかったですが……(笑)

 これにてLiella編は閉幕となりますが、アニメ2期はまだまだ続いてくので、一緒に彼女たちの応援を続けていきましょう!




 以下、この小説のこれからについてです。
 その前に、実はこの話の投稿で500話目となり大きな節目となりました。いつもなら特別編を投稿するのですが、想定している話のネタが今やるよりももっと先でやった方が自然になるので、500話記念はまた後日投稿予定です。

 そのため、次のお話からは早速新章に突入します。どんな話になるのかは……投稿されてからのお楽しみということで!


 最後になりましたが、Liella編を最後までご覧いただきありがとうございました!
 もしよろしければ、Liella編をご感想をいただけると非常に嬉しいです!





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

虹ヶ咲編2
湯けむり桃源郷 新生ニジガク同好会!


 今回から新章『虹ヶ咲編2』が始動します!
 この章の時系列は『虹ヶ咲編1』のあと、アニメ2期の最終話後のお話となります。そのため『Liella編』は未経験です。
 時系列の詳しくは後書きに記載していますので、まずは1発目のお話をどうぞ!




「お兄さん」

「なんだ?」

「どうしてこんなことになってるんですか?」

「そりゃ慰安旅行だからに決まってんだろ」

「いやそうじゃなくて―――――どうしてみんなで一緒に露天風呂に入ってるのかって聞いてるんですよ!!」

「うっせーな。あまり喚くな」

 

 

 月明かりが差し込む天然温泉。俺と虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバーは、部員が13人となった初めてのライブの成功記念として温泉旅館に来ていた。

 なんといっても目玉はこの夜空が一望できる露天風呂。しかも部屋に備え付けだから誰かと八合う心配はなく、完全に俺たちのプライベート空間となっている。もちろん露天風呂付きの部屋なんてとんでもない宿泊代になるのだが、そこは金が無尽蔵に有り余っている俺の姉・秋葉の預金から拝借した。アイツ金には一切興味がないから、預金が増えようが減ろうが気にしないだろうしな。

 

 そんな感じで慰安旅行に来た俺たちなのだが、現在絶賛その露天風呂を堪能中だ。もちろん全員で、俺を含めてな。そして俺の隣にいる同好会のマネージャー・高咲侑はそれにご不満らしい。

 

 

「つうか今更裸を見られたところで何が起きるってんだ? そもそも一緒に風呂入ったことあるだろ」

「あれは雰囲気と言いますか流れと言いますか……。ていうか恥ずかしがってるの私以外だとせつ菜ちゃんくらいだし……」

「それだけお前が異端だってことだ。世の中は同調圧力、多数決で決まるからな」

「いやお兄さんの世界がおかしいだけですよねそれ!? お兄さんの世界を基準なんかにされたらこの世の決まり事も法律もあったものじゃないですよ……」

「お前はそういう世界に生きてるんだ、諦めろ。それにお前は俺の相棒、パートナーなんだ。この独特の世界観に慣れてもらわないと困る」

「一生慣れそうにないですけどね……」

 

 

 喚くのをやめてため息を吐いているところを見るに、どうやら抵抗するのを諦めたようだ。もう逃げられない立場にまで到達しているってのに諦めの悪い奴だな。

 それにしても、侑も侑でそれなりにいいスタイルをしている。さっきから抵抗のために湯をばしゃばしゃしている時にうっすらと胸が見えそうになったのだが、女子高校生としては妥当な大きさだと思う。まあ歩夢たち2年生組のスタイルが抜群なせいで、比較的貧相に見えちまうのは可哀想なところだ。だがそんな奴を相棒として俺に隣に置くことができたのは僥倖、いや俺からしたら必然か。

 

 そんなことを考えていると、少し離れたところで湯を堪能していた新入部員の1人が興味津々そうな顔でこちらに近づいてきた。

 

 

「えっ、相棒? パートナー? もしかして零と侑って付き合ってるの!?」

「な゛っ!? それだけは決して、断じてないから――――ランジュちゃん!!」

 

 

 鐘嵐珠(ショウ・ランジュ)。虹ヶ咲の新メンバーの1人。最初は同好会メンバーと色々とすれ違うことが多かったけど、なんやかんやあって和解して今に至る。

 香港出身で中国人と日本人のハーフであり、どうやら歩夢たちの活躍を見てわざわざ日本へ来たという根っからのスクドルオタク。しかもただのオタクではなく、スクールアイドルとしての実力はそこらの奴らとは桁違いに高く、ダンス力、歌唱力、パフォーマンス力、持久力、どれを取っても秀でている。

 

 性格は天真爛漫でとてもパワフルな性格。加えて超が付くほどの自信家でもあり、幼馴染の栞子や共に海外からやって来たもう1人はその猪突猛進な性格を評価しつつもツッコミに辟易している。

 

 そして一番目に付くのはそのカラダ。一応高校2年生に属しているコイツだが、そのスタイルはもはや高校生のものではない。胸のサイズはE、F、いやもっと。しかもこんなワガママボディをしているくせにスキンシップがコミュニケーションと言わんばかりにベタベタしてくるので、それはもう男の性欲に悪いのなんのって……。現に今も無防備で、温泉に浸かっているからと言ってカラダを少し湯から出せば上が丸見えになりそうだ。もう北半球が浮いちゃってるし……。

 

 

「違うの? でも零と侑っていつも隣同士にいてすっごく仲が良いじゃない?」

「そ、それはお兄さんのもとで色々学ぶことがあるからで……」

「だったらランジュも零に教えてもらう立場だわ! ランジュが同好会に入ったんだもの、このランジュを最高にプロデュースしてみなさい!」

「「な゛っ!?」」

 

 

 見えてる――――下乳が!!

 ランジュのいつもの大口叩きが始まったかと思ったら、唐突に湯船から立ち上がって胸を張ってみせた。髪を靡かせて自身のパワフルさを存分にアピールしているつもりだろうが、性的概念がなさすぎて今起こっていることに疑問すら抱いていない。俺の目の前で立ち上がったものだから、見上げるとその巨乳の下乳が丸見え。あまりに近くで立ち上がるものだから先端とかは見えないが、それでも大ボリューム過ぎる。幸いにも下半身は侑が咄嗟の反射神経を発揮してタオルで隠したため事無きを得ている。本当に貞操観念がねぇのかコイツ。俺からしたら役得と言えばそうなんだけどさ……。

 

 

「プロデュースって、アイドル事務所じゃねぇんだから。ま、なんにせよ俺に任せておけば大丈夫だ」

「そうやって常に自信満々なところ、ランジュは好きよ! やっぱりランジュとアナタは似た者同士、相性いいかもね!」

「うぉっ!? 急に抱き着いてくんな裸だろ!!」

「ちょっ、ランジュちゃん!!」

 

 

 やわらかっ!? もう全身が柔らかい!! 女の子の生肌の感触は虹ヶ咲の面子でたっぷり堪能しているが、コイツはコイツでまた別格。肌の艶、程よく鍛えられたハリのある筋肉、そして胸の柔らかさ。そんなのが一斉に押し寄せてきたら男がどうなるのかコイツ分かってんのか!? いや分かってねぇから全裸で抱き着いてきてんだろうけど……。

 

 

「ランジュ、零さんが困っているでしょう」

「わっ、栞子!?」

 

 

 危うく極楽浄土に召されようとしていたその時、栞子がランジュの肩を掴んで俺から引き剥がした。同時に湯船に浸からせたために裸を拝むことはできなくなる。

 

 

「すみません、零さん。またランジュがご迷惑をおかけして」

「いやいつも抱き着かれてるから別に今更だよ」

「そうよ! ランジュと零は一心同体なんだから、これくらい当然よ!」

「零さんは良くも悪くも寛容なだけなので甘えないでください」

「悪くもってなんだよ悪くもって……」

「あはは、栞子ちゃんランジュちゃんのお母さんみたいだね……」

「侑さん、それだけは勘弁してください。ランジュの保護者なんて身が持ちません」

 

 

 三船栞子。コイツも同好会の新規メンバーの1人だ。新規と言ってもランジュたちより加入は早く、俺がこの同好会のコーチになる前からの加入だ。

 性格は生真面目で誠実。1年生ながらにせつ菜から生徒会長を任されるくらいの責任能力と管理能力の高さは素直に評価できる。そう聞くとお堅い奴だと思われがちだが、意外と天然ちゃんでウソにコロッと騙されて本気にするところが可愛かったり。

 

 スタイルの方は……まぁ1年生だし今後の成長に期待かな。そもそも2年生以上が規格外のカラダをしているせいで霞んで見えるが、1年生もいいカラダ付きしてるからな。スレンダー&ロリっ子がいる時点でそれだけで他の学年では発散できない欲求を満たせるんだよ。

 

 

「話は変わるけど、栞子ちゃんは恥ずかしくないの? お兄さんと一緒に露天風呂に入ってること……」

「そ、それは恥ずかしいですよ! でも零さんであればいいかと思ってしまって……」

「あぁ、もう毒されてたか……」

「それに抵抗しても零さんからは逃げられないので、いっそのことこの状況を受け入れた方が良いかと思いました」

「おっ、分かってるじゃねぇか。どこかにいる緑ツインテは諦めが悪くて困ったもんだ」

「それは誰のことですかねぇ……。ていうか今はお風呂なのでツインテじゃないし……」

 

 

 自分の中で折り合いをつけてスパッと割り切れるのが栞子のいいところだ。最初は歩夢たちを誑かす輩だと物凄く警戒されていたが、一緒にデートっぽいことをしたことで俺のことを知ってもらうことができた。そういう理解力の高さがコイツの特徴でもあるな。どこぞの緑ツインテは俺という人間を知ってもなお毎回苦言を呈して来るからそろそろ学んで欲しいよ。

 

 

「全く、本当にこの同好会って変人ばかりだな……」

「それなのにどうして私の後ろに隠れてるの――――ミアちゃん?」

「か、隠れてない! 余計なこと言うなよ璃奈!」

 

 

 確かに男と一緒に風呂に入って羞恥を感じない女子高生の方が珍しいか。そう考えるとこの同好会は変人ばかり。というか、歩夢たち初期メンバー9人は俺に裸を見せるために自分を磨いているみたいなところがあるから、変人っつうかそれが同好会の基準になってるんだけどな。

 

 そんな枠組みから外れた1人、新規メンバーのミア・テイラーが璃奈のカラダを隠れ蓑にしていた。

 年齢は14歳。もう一度言う、14歳。いや特別俺に変な性癖があるわけじゃないぞ? それに本人のスタイルは別に璃奈のようなロリ体型ではなく、意外にも高校生程度の丁度いいカラダ付きをしている。流石はアメリカンの血を引いているだけのことはあるな。

 

 学年は14歳ながらに3年生であり、侑と同じ音楽科。俺は興味がないので知らなかったが、どうやら音楽で有名なテイラー家の娘らしい。そして本人もその音楽の才能を買われてか、アメリカでは飛び級により既に大学生である。そしてランジュに強引に日本へ連れてこられ、虹ヶ咲でも飛び級制度を活かして3年生となっている。

 

 

「やっぱり私の気持ちを分かってくれるのはミアちゃんだけだよ」

「ミア先輩だろ。それに気持ちを分かるって言うか、侑も十分そっち側だと思ってるけど」

「えっ、全然違うよ!! 誰が好き好んでこんなのと一緒にいると思ってるの!?」

「こんなのって、俺のことかよ……」

「零も零だ。ボクがいたアメリカは挨拶にハグをしたりスキンシップする習慣も根強いけど、日本は割と他人行儀だろ。なのにお前は何の躊躇いもなくみんなと混浴している。しかも何も言わずにナチュラルに。アメリカでも流石にそこまで男女の仲に溶け込んでる人はいないぞ」

「いつも言ってんだろ、ここは俺の世界だって。他の世界の常識を持ち込まれても困る。お前も早く慣れるんだな」

「あたかもボクがおかしいみたいな言い方やめろって……」

 

 

 人生経験豊富で飛び級もできる14歳と言えども、まだ14歳。精神年齢っつうか、俺の常識に足並みを揃えるのは無理だったらしい。まあこれが思春期女子としては当然の反応っちゃ当然なんだけど、同好会では歩夢たちが俺に対してフルオープンすぎて常識もへったくれもあったものじゃねぇからな……。

 

 

「別にお前のカラダは年の割に貧相ってわけでもないし、むしろいい感じに成長してる方だから別に恥ずかしがることではないだろ」

「どうしてボクがスタイルにコンプレックスを持ってるみたいになってるんだ……。そういう問題じゃない」

「ミアちゃん、だったらもっと零さんの近くに行ってみるといいよ。きっと分かってくれる」

「何が『だったら』!? って押さないでよ璃奈!! 裏切るの!!」

「零さんがミアちゃんのことをもっと知りたいって」

「なんか璃奈が怖い!! 無表情なのが逆に怖い!!」

 

 

 無表情で男の前に全裸の自分を差し出そうとしてくる奴、そりゃ恐怖を感じて仕方ないか……。ミアと璃奈は仲良しで、勝気でプライドが高い彼女も璃奈の前では純粋な少女と化す。それ故に今璃奈に裏切りとも言える行為を受けてショックを受けているのだろう。まあ璃奈も璃奈で自分のロリボディをアダルティックにするために、俺との性交で女性ホルモンを増殖させようとすることを常とするやべぇ奴だけどな……。

 

 

「零さぁ~ん! ほら見てくださいよかすみんのこのお肌! 温泉のおかげでピッチピチですよ艶やかですよ! 興奮しますよね! ねっ!? だったら早くお部屋に戻りましょう! 2人きりで!」

「いきなりどうしたお前。つうか2人でってやる気満々じゃねぇか……」

 

 

 何の脈略もなくかすみがにじり寄って来る。自分の二の腕、うなじ、ふくらはぎを見せつけるという特殊性癖にはガン刺さりな行動を取るが、女の子がそこまで曝け出すってことは誘ってると言うことに他ならない。まあコイツの場合は裸を見せつけなくてもいつも誘ってくるのだが……。

 

 

「かすみさん、ランジュさんたちに零さんを取られそうで慌てているんですよ。だからこうして色仕掛けで誘惑しているんです。可愛いですよね♪」

「な゛っ、しず子!? ち、違いますからね零さん!! 今日はたまたまお肌の調子がいいので、零さんに見てもらおうかなぁ~っと」

「そんな抜け駆けしようとしたかすみさんは放っておいて、零さん、今日は私と……」

「しず子も抜け駆けじゃん!!」

「おいお前ら……!!」

 

 

 両隣からかすみとしずくが腕に絡みついてくる。そして湯船の中なので当然だが裸。夜の露天風呂なので胸は湯に隠れて見えなくなっているものの、その柔軟な双丘がモロに俺の腕を挟んでいる。1年生だから小さいかと言われたら別にそうではなく、しっかり男を誘えるくらいの質量を持っているのはコイツらの日々の努力の賜物と言えよう。

 

 ちなみに歩夢たち初期メンバー9人は、過去に俺となんやかんやあったせいで俺に心酔と言っていいほどの愛を抱いている。そのため自分のカラダを磨いて俺に相手をしてもらうのは当然のこと(せつ菜だけは羞恥心持ちだが)になっているんだ。こう淡々と勝ってるけど相当淫乱性能が高いからまともではないがな……。

 

 

「相変わらず1年生たちは積極的ね。これだとお姉さんの枠がなくなっちゃう」

「果林ちゃんそんなこと言いながら、さっきカラダを入念に洗ってたのはなんでかな~?」

「ちょっとエマ!? それにエマも同じことでしょう?」

「ふふっ、やっぱり考えることは同じみたいだね♪」

「結局お前らもかすみとしずくと考え一緒じゃねぇか……」

 

 

 果林とエマは温泉ではなく石でできた温泉の淵に座りながら、足湯感覚で湯に浸かっている。改めて見ると、この2人のスタイルも抜群にやべぇな。流石はモデルと海外の血筋、もはや高校生レベルではない。タオルで大切なところを隠してはいるものの、そんな布切れでは覆えないほどの淫猥なカラダ付きをしている。湯に浸からせている生脚も蠱惑的で、綺麗で長いその脚が温泉の効能により更に艶やかになっており、これは舐めたくなる感情に囚われても許されるだろう。

 

 

「零さ~ん。彼方ちゃんのお相手も忘れてもらっては困るぜよ」

「なんだその語尾……。つうかお前いつの間に後ろに!?」

「フフフ、彼方ちゃんの忍びの術を十分に堪能させてあげるよ~。後ろからぎゅ~っ!」

「ど、どこが忍びだどこが!!」

「あっ、カナちゃんズルい!! 愛さんもぎゅってしちゃうよ♪」

「お前もいつの間に……!!」

「愛さんたちはいつでも零さんを狙ってるからね! いつでも準備OKにしてもらわないと!」

「俺に変化を求めるより、どこでもヤろうとするその淫猥思考をなんとかしろよ……」

 

 

 いつの間に俺の背後に回り込んでいた彼方と、それを見て便乗してきた愛に前から抱き着かれたことによって、遂に四方八方を囲まれてしまった。しかもこの2人も多分に漏れずに胸が大きく、同好会の面子を見ているともう一般女子高生のスタイルの基準が曖昧になるな……。

 

 

「せつ菜ちゃんは零さんのところへ行かないの?」

「歩夢さん……。い、行きたいのは山々ですが見ての通り全裸なので……」

「せつ菜ちゃん相変わらずだね。零さんのこと大好きなのに、こういうことは苦手だなんて」

「むしろ歩夢さんこそ、そういうことが苦手そうなイメージがありますが……」

「確かに今の愛ちゃんたちみたいに裸であれだけ密着するのは恥ずかしいかもね……。でも零さんが求めてくれるなら……♪ うん、せつ菜ちゃん……一緒に零さんのところへ行こ♪」

「えぇっ!? それに零さんはもう皆さんにおしくらまんじゅうされていますが……」

「大丈夫。零さんは女の子の肌に触れただけで誰が抱き着いているのか分かるから、心配ないよ」

「抱き着いていることに気付いてもらえないことを心配してるわけではないです!!」

 

 

 声だけ聞こえてくるが、なんか歩夢のサイコパスな一面が垣間見えてる気がするぞ……。つうか肌に触れただけでどの女の子か分かるって、そんな肉の卸売り業者じゃないんだから流石にそれほどまでのスキルを身に着けてはいない。胸や尻を触ればその大きさで判別はできるんだけど――――って、この発言も相当やべぇな。でもそれくらい初期メンバー9人との関わりは強いってことだ。

 

 そんな感じで同好会のメンバーは侑を入れて総勢13名と大所帯になった。μ'sの12人もそれなりに多かったが、絵里たちが大学に行ってからは基本活動は大学組を除いた9人だったので、13人が同時に活動するグループはかつて見たことないし聞いたこともない。その大所帯をコーチするこっちの苦労も考えてくれよ……。

 

 もちろん美少女3人が追加メンバーとなってくれたことには好意的だ。むしろ男として新たな美少女が自分の傘下に入ってくれたらそりゃ嬉しいだろ。なんにせよ歩夢たちと比べると交流の頻度が少ないので、これからはもっと積極的にコミュニケーションを取っていこうと思う。こんなこと言ってるから攻略RTAだって言われるんだろうな……。

 

 だけどその前に――――

 

 

「ちょっと愛先輩! かすみんまで一緒に押し潰さないでくださいよ!」

「いやいや、かすみんも一緒に抱きしめてあげてるんだって!」

「月明かりの露天風呂で想いの男性の肩に頭を乗せながら温泉を堪能。いい演技のシナリオが浮かびそうです」

「彼方ちゃんのカラダを枕にして温泉に浸かりながらぐっすり眠っていいんだよぉ~」

「もう抱き着く場所がない。かくなる上は温泉に潜って下から行く。零さんの、下を」

「せつ菜ちゃん、まだ抱き着ける場所あるよ。そのぉ……胸を顔に押し付けるとか!」

「自分で言っておいて恥ずかしがってるじゃないですか歩夢さん!!」

「全く、温泉ではしゃぐなんてまだまだ子供ね。本当に節操がないんだから」

「そう言いながら果林ちゃん、混ざりたそうな眼をしてるけどね♪」

 

 

 どうにもこうにも騒がしいねぇ……。もうコイツらの肌色に阻まれて月明かりの景色とか見られなくなっている。逆に裸の女の子がたくさんの桃源郷が目の前に広がっているのだが……。

 つうかコイツらヤる気満々だけど、これライブの慰安旅行だからな。気持ちよくはなれるかもしれねぇけど、温泉でリラックスした後にまた汗を流して体力を消費するってなに考えてんだ。常識外れの男を好きになる女の子も常識外れだってことか。

 

 しかも今まではコイツらだけだったが、今だと――――

 

 

「みんな楽しそうね! ランジュも参加させてもらうわ!」

「ランジュ!? それ以上押しかけたら、零さん本当に潰れてしまいますから!」

「本当に変人ばかりだなこのグループ。これもスクールアイドルに必要な要素……ではないか。ボクは毒されないようにしよう」

 

 

 追加メンバーを含め、今後は更に騒がしくなること間違いなしだ。

 

 

「おい侑、助け――――」

「私、そろそろ上がりますね」

「どうして俺の言葉を遮る……」

「助けませんよ。これがお兄さんの望んだ世界なんですから」

「お前は俺の相棒じゃなかったのか……」

「どうぞごゆっくり♪」

「おいっ、なんだその笑顔――――ア、アイツ、本当に上がりやがった!?」

 

 

 こんな色とりどりのメンバーと共に、これからの虹ヶ咲生活を堪能しよう――――って、俺の体力枯渇しないよな……。

 




 そんなわけで『虹ヶ咲編2』がスタートしました!
 ランジュとミアの2人を加えた新体制ですが、『虹ヶ咲編1』ではあまり活躍のなかった栞子にもスポットを当て、この章では新キャラ3人を色濃く描いていければと考えています。もちろん既存メンバーも蔑ろにするつもりはないので、どんな話が展開されるのか乞うご期待で!



【付録】
『日常』シリーズ時系列を古い順から並べました。
同時に主人公の零君がそれぞれの作品、章で何歳になったのかも掲載します。

・『日常』シリーズ(前作)
・『非日常』シリーズ(前作)
  前作からの年数:―
  神崎零の年齢 :16歳(高校2年生)

・『新日常』シリーズ(μ's編)
  前作からの年数:1年
  神崎零の年齢 :17歳(高校3年生)

・『新日常』シリーズ(Aqours編)
  前作からの年数:4年
  神崎零の年齢 :21歳(大学4年生)

・『新日常』シリーズ(スクフェス編)
  前作からの年数:1ヶ月
  神崎零の年齢 :21歳(大学4年生)

・『新日常』シリーズ(虹ヶ咲編その1)
  前作からの年数:1ヶ月
  神崎零の年齢 :21歳(大学4年生)

・『新日常』シリーズ(虹ヶ咲編その2)
  前作からの年数:2ヶ月
  神崎零の年齢 :22歳(大学4年生)

・『新日常』シリーズ(Liella編)
  前作からの年数:1年
  神崎零の年齢 :22歳(社会人1年目)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

虹ヶ咲こーないしゃせー大会

 高咲侑です。

 同好会メンバー12人が揃った初のライブも無事に終わり、そしてその慰安旅行もたっぷりと堪能した数日後、私たちはまたいつもの日常へと戻って来ていた。ライブでの熱気も冷めてみんなのんびりとしている――――と思いきやそうではなく、もう次のライブの構想を練っていたり、曲や衣装の新案を考えたりと勢いは留まることを知らない。どうやらお兄さんに褒められたことで相当舞い上がっているようで、歩夢たちがスクールアイドルを始めた理由がお兄さんのためであったことが如実に窺えた。

 

 ただ、どんな理由にせよライブが最高なものであったことは確かだ。歩夢たちもお客さんも、そして私も嘗てないほどテンションが爆上げ。お兄さんはいつも通り素っ気ない態度だったけど、心では柄にもなく興奮しているのが話していて察せた。まだお兄さんとは出会って数ヶ月しかない付き合いだけど、その間で心の距離が近づき過ぎたからあの人の考えていることなんて大体分かっちゃうんだよね。尊大で傍若無人だけど、慣れれば意外と単純で分かりやすい人だって分かる。こんなことをお兄さんに言ったら『そんなことで知った気になるな』って怒られそうだなぁ……ふふっ。

 

 ちなみにお兄さんの魔の手が進行していない栞子ちゃん、ランジュちゃん、ミアちゃんもライブには非常に満足気だった。スクールアイドルに対する価値観の違いや表舞台に立つトラウマなど様々な事情があった3人だけど、ああやって歩夢たちと一緒の舞台で輝いている姿を見てとてもトキメいちゃったよ。(しがらみ)という名の苦難を乗り越えて笑顔を見せてくれた3人を、私はもっともっとバックアップしていきたいと思った。お兄さんの言う通り、スクールアイドルの魅力ってやっぱり凄いな。

 

 そんな余韻に浸っているある日の放課後、私は部室に向かっていた。

 

 

「あっ、ミアちゃん!」

「ミア先輩、だろ。何回注意すればいいんだよ全く」

「あはは……」

 

 

 途中でミアちゃんと遭遇。

 『ちゃん』呼びについてだけど、もうこれがしっくり来すぎて今更直せないし直す気にもなれない。こんなことを言ったら絶対に怒られちゃうけど、本来ならまだ中学生の女の子なんだよ? そりゃ『ちゃん』付けで可愛がりたくなっちゃうよ。学年も先輩だし、作詞作曲のスキルでも先輩だから本当なら尊敬すべきなんだけどね。ついつい愛でたくなっちゃう可愛さがミアちゃんにはある。正直さっきみたいにプリプリと怒っているときの可愛らしさといったら……ねぇ?

 

 

「そういえば今日はお兄さんが来る日だね。そのせいで歩夢たちのやる気が最高潮だったよ。ま、お兄さんといるといつものことだけどさ」

「零か……。気に食わないところはあるけど、スクールアイドルの指導に関しては一級品だから無下にもできないし……」

「ミアちゃんはお兄さんのこと嫌いなの?」

「嫌いって言うか、言葉の節々が癪に触る。そういうランジュっぽいところが気に食わないんだよ」

「あ、あはは……」

 

 

 ランジュちゃんは天真爛漫だけど、無自覚に上から目線発言になることがある。そのせいでミアちゃんと幼馴染の栞子ちゃんは苦労させられてるんだよね。言われてみれば確かにお兄さんも同じような性格かも。ただお兄さんの場合は無自覚ではなく意識しての上から発言だから、ランジュちゃんよりもタチは悪いかもね。私はもう慣れたけど。

 

 そんな世間話をしていると、あっという間に部室の前に到着した。練習まで時間があるし、せっかくミアちゃんと一緒だから作曲についてまた色々教えてもらおうかな。

 ――――と思った矢先、部室の中からお兄さんたちの声が聞こえてきた。その声からどうやら栞子ちゃんとランジュちゃんも中にいるらしい。

 

 

『普段挑戦できないことに挑戦するのはやっぱり気持ちいいわね』

『えぇ、皆さんのいい刺激になると思います』

『つうかどうして俺まで参加させられてたんだ……』

 

 

 なんの話をしているんだろう……??

 

 

『本当に気持ち良かったわね、校内写生』

 

 

「「こ、口内……射精ぇえええええええええ!?!?」」

 

 

 私とミアちゃんは同時に驚く。

 お互いに顔を見合わせるけどどうしたらいいのか分からずに黙ったまま。しかも変態語録が飛び出したと言うのに部室の中は和気藹々としていて、特段あの発言で話が中断している様子はない。あんな爆弾発言をしたのに誰の何も反応しないなんて……。

 

 

「ど、どういうことだ? 虹ヶ咲はそういった性教育が盛んなのか……?」

「そんなわけないでしょ! なにかの聞き間違いだよ!」

 

 

 もし聞き間違いだとしたら私たちの脳内がピンク色ってことになるけど、もうこの際それでもいい。

 私たちは部室の前で耳を澄ませて中の会話を盗聴――――いや確認することにした。

 

 

『初めての体験で興奮できたという意見も多かったので、やってよかったと思います』

『そうね。栞子もいつになく楽しそうだったし♪』

『あ、あれは零さんが上手いと褒めてくださったので、ついやる気を出してしまって……』

『上手いのは当たり前よ! だってあの多芸な栞子だもの!』

『どうしてお前が自慢気なんだよ……』

 

 

 栞子ちゃんが上手かったって、それは口内射精に導く過程が上手かったってこと? つまり、しゃぶるのが――――い、いや何を想像してるの私!! 落ち着け落ち着け!! これは何かの間違い。あの品行方正で純粋無垢な栞子ちゃんがそんなことをするわけない。むしろ生徒会長として不純異性交遊を咎める立場のはず。その割にはお兄さんに従順なところがあるけど、それでも栞子ちゃんの誠実さがあればそんなことは絶対にするはずがないんだ。

 

 かすみちゃんが言っていた、スクールアイドルはイメージが大切だと。だったら例え栞子ちゃんがどんな子であろうとも、私は誠実で純粋な栞子ちゃんのイメージを諦めない。ここで私が負けたら無垢な栞子ちゃんがいなくなっちゃうから!!

 

 

「あの真面目な栞子でさえ舐めたりしゃぶってたりするのか。日本の女子高生は進んでるな……」

「違うよ!! しかもその括りで納得されると私まで含まれるからやめて!!」

「でもさっき栞子が言ってただろ。『興奮』してたって……」

「そ、それは……」

 

 

 確かにはっきりと言っていた。だけどあの栞子ちゃんだよ? 適性完璧主義の栞子ちゃんがそんな欲望塗れで低俗な言葉を発すること自体がビックリで、しかも当の本人がめちゃくちゃ楽しそうなのも意外すぎる。もしかして表では済ました顔をして、裏ではそういうエッチなことが好きだったりするのかな……? 真面目に見えても裏ではパパ活をやってたりエッチな生配信をやってたりとか、現代の女の子なら珍しくはない。栞子ちゃんがその類だと思いたくないんだけど、本人の口から語られてるからなぁ……。

 

 

「それにしても『口内射精』って、零も相当鬼畜なことをしてるんだな……。もしかして栞子とランジュに教え込んだのか……」

「お兄さんは変態さんだけど、そんな女の子をモノのように扱う人じゃないよ。断言する」

「学校で自分のモノを女子に咥えさせてる男を信用するのか……? しかも大の大人が、女子高生に対して……」

「うぐっ! そ、それはまぁ……うん、擁護はできないけど……」

 

 

 ミアちゃんへの印象が悪くなりそうだからせっかくフォローしてあげようと思ってたのに、状況が状況だけに手の打ちようがないよ……。

 でもお兄さんが学校の中で堂々とエッチなことをするなんてこれまで聞いたことがない。歩夢たちとそういうことをしているのは知ってるけど、それはあくまで家での話。流石のお兄さんでも学校という野外でのプレイは避けている様子だった。だからこそ学校内で誰の目も気にせず女の子の口を使った発言をしているのが余計に気になる。もう自分がこの学校の主だということに酔いしれ過ぎて、エッチなプレイすらも過激になっちゃったとか……?

 

 とにかくこのまま聞き耳を立ててみる。だって今部室に入ってもなんて声をかけていいのか分からないし、変に会話が派生して私もやらされたりしたらヤダし……。

 

 

『ランジュも初めてにしてはとても上手でしたよ。はしゃぎすぎてベタベタになっていたことだけは反省していただきたいですが』

『仕方ないじゃない! いきなり先っぽからピュッて噴き出すんだもの!』

『お前は何事もパワフルすぎるんだよ。あんなに力強く触ったら漏れ出すに決まってんだろ』

『だ、だって楽しくてテンション上がってたから……』

『勢いよく漏れ出したせいですぐふにゃふにゃになってたな―――――絵の具のチューブ』

 

 

「ベ、ベタベタ!? ランジュが白いアレでベタベタになったのか……!?」

「さ、先っぽって……生々しすぎるよ!!」

 

 

 あまりの衝撃事実に打ちのめされてお兄さんの言葉の最後だけ聞こえなかったけど、今の私たちは目の前の会話の情報を整理するだけでパンクしそうだった。栞子ちゃんも然りだけど、ランジュちゃんもこういうエッチなことには疎そうな子だ。純粋無垢というか無邪気な子供みたいなことがあるから、こんなことを嬉しそうに話すだなんて予想外すぎてもう……。

 

 

「会話を聞く限りランジュも零のを咥えてたってことか……。あのランジュまでもが零の毒牙に……いやそれにしては喜んでたから自分から進んでやったのか……?」

「惑わされないでミアちゃん! 絶対に何かの間違いだから!!」

「でも力強く触ったら漏れ出したって言ってるぞ。男のモノをあの馬鹿力で触ったら気持ちよくなるどころか痛そうだけど……」

「ちょっと変なこと言わないでよ想像しちゃうじゃん!!」

「漏れ出したらふにゃふにゃになったとも言ってたな。つまり先っぽからピュッ白いのを噴き出して、それで満足して堅いモノが柔らかくなったと」

「だからやめてぇえええええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 ミアちゃんの攻撃により私の脳内にあらぬシチュエーションがなだれ込んでくる。こんなに簡単にエッチな妄想を思い浮かべることができるなんて、私っていつから淫乱になったんだろう……。これもお兄さんのせいだ。お兄さんが変態なせいでいつも隣にいる私に伝染したに違いない。そうでなきゃこの私がこんな淫乱属性になるわけがないっ……!!

 

 

「で、どうするんだ? そろそろ中に入るか?」

「それはまだ心の準備ができていないというか……って、ミアちゃんどうして冷静でいられるの!?」

「ボクだって戸惑ってるさ。今にもキミみたいに騒ぎ出しそうで、そんな自分を必死に抑えてるところだ。ま、キミみたいに1人妄想でエロい思考には陥ってないけど」

「エ、エロいって私が!? それはミアちゃんが口に出すからじゃん!!」

「しっ! 騒ぐと聞き耳立ててることがバレるぞ。それに私はランジュたちの言葉を復唱しただけだ、妄想はしていない」

「ぐっ……!!」

 

 

 ダメだこのままでは相手の思う壺、ここは年上らしく落ち着こう。まあ学年的にはミアちゃんの方が先輩なんだけどさ……。

 とにかく、この状況をどうしたものか。このままだと虹ヶ咲のスクールアイドルというものの品位が落ちる気がする。男性(というかお兄さん一択)のために自分を磨く、という観点では女性の魅力が上がるのかもしれないけど、裏でこんなことをやってるスクールアイドルなんて私がどういう目で見た方がいいのか分からなくなっちゃうよ……。

 

 そしてまたしても中から声が聞こえてくる。

 

 

『これだけ好評でしたら、これを大会として開催してもいいかもしれません。この学校は専門教科のみを学んでいる方も多いですから、イベントというお祭りで別の芸術に触れるのもいい刺激になるかと』

『いいわねそれ! 校内写生大会ね!』

 

 

「口内射精大会、地獄だ……」

「ランジュがあそこまで嬉しそうだなんて、そんなにいいのか口内って……」

「そんなわけないでしょ!!」

「否定するってことは、零にやったことあるのか?」

「ないよ!! 一般的な常識で考えてだから!!」

 

 

 みんな勘違いしてるけど、私とお兄さんとそういう関係じゃないからね!? 最近同好会に加入したランジュちゃんやミアちゃんに間違われるならまだしも、歩夢たちにまで恋人付き合いしているのかと聞かれる始末。いや歩夢たちは絶対に分かってて、からかう意味で聞いてきてるよ絶対……。そもそもお兄さんとはご飯を作ってあげたり、一緒にお風呂に入ったり、一緒のベッドで寝たりしたことがあるくらいだ。それ以上の関係は一切ないからね。

 

 ……ん? あれ? もしかして行くところまで行っちゃってる私たち!?

 

 

『校内写生大会ねぇ……。だったら侑も誘うか。アイツ音楽科に入ってそこそこ苦労して見るみたいだし、休憩にちょうどいいだろ』

 

 

「ぶぅううううううううううううっ!? さ、誘う!? お兄さんの射精に私を!?」

「良かったな、ご指名だぞ」

「良くないよ!! どうして私がお兄さんとなんか……」

「じゃあ他の男の方がいいのか?」

「えっ、そ、それだったらお兄さんと言うか、もう既にお兄さん以外の男性はあまり興味がないって言うか、お兄さんの相手でいっぱいいっぱいと言うか――――って、その話は今関係ないでしょ!?」

「騒ぐと見つかっちゃうぞ」

 

 

 なんかさっきからミアちゃんが私とお兄さんの関係についてチクチク攻撃してくるんだけどどうして!? 怖いよ!! ただでさえこの学校で射精大会が開かれようとして焦ってるのに、別方向から攻撃してくるのはホントにやめて欲しい。

 

 そもそも大会って、この学校は教師も生徒も全員女性で男性はお兄さんだけ。だけと言うよりかはお兄さんのお姉さんである秋葉さんがお兄さん好みの女性を集めたのがこの学校なので、お兄さんが唯一の男性なのは必然。つまり口内射精大会はお兄さんvs全女子生徒ってことになって、お兄さんの体力が保てるかどうか……。いやいや、心配するところそこじゃないでしょ私。大会そのものを阻止しないと。

 

 

『だったらミアも誘ってあげてくれないかしら? あの子、自分から行くタイプではないからあなたから誘って欲しいの』

『なんで俺が。お前が誘えばいいだろ』

『いつも一緒にいる私より、あなたと一緒に行動した方がいい刺激になるわ。あの子もあの子で作曲になると根を詰めすぎるタイプだから、息抜きも兼ねてね』

『なるほど。だったらあの小さいカラダでどこまで頑張れるか見てやるか』

 

 

「ぶぅううううううううううううっ!? ち、小さいって言った今!? ボクの口に何をねじ込もうとしているんだあの変態!!」

「落ち着いてミアちゃん!! ここで騒いだらバレちゃうから!!」

「黙ってられるか!! アイツはボクの小さな口にねじ込んで、どこまで耐えれるか見てやるって言ったんだぞ!?」

「いや曲解し過ぎだから!! 多分!!」

 

 

 唐突に凄く取り乱し始めたミアちゃん。冷静そうに見えたけどやっぱりどこかで焦りを感じていて、お兄さんたちの会話の矛先が自分に向いたことで溜まりに溜まっていた感情が爆発したのだろう。それにしてもミアちゃんの被害妄想があらぬ方向に向いてるけど、もしかして私もさっきまでこんな風だったのかな……。

 

 でも実際にどうすれば止められるんだろう、口内射精大会。歩夢たちに相談……はダメか。お兄さんからそういうことをされるのはむしろご褒美だと思ってるからね。他の生徒もお兄さんに惚れてるし、教師陣も秋葉さんの手が回っている人たちばかり。あれ、もしかして詰んだ……?

 

 すると、いきなり部室のドアが開かれた。座り込みながら聞き耳を立てていた私たちはビックリするも、ドアを開けた張本人を見上げてみる。

 

 

「れ、零……」

「お兄さん……」

「お前ら何やってんだこんなところで?」

 

 

 や、やばっ!! もしかして聞かれてた!? いやうるさかったかもしれないけど、騒ぎ立てる前にミアちゃんとお互いに牽制していたから大丈夫だとは思う。栞子ちゃんとランジュちゃんも不思議そうにこちらを見ているため、部屋の人たちに私たちの会話は聞こえていないはずだ。

 

 

「ちょうど良かったわ。侑とミアにも参加してもらおうと思ってたの」

「それはその、口内射精大会に……だよね?」

「そうです。校内写生大会です」

「ん? なんかイントネーションが違うような気が……。口内射精大会?」

「校内写生大会よ!」

「あっ、もしかして――――!? 侑、あの机の上の絵具セット……!!」

「えっ―――――あっ!!」

 

 

 今、全てを理解した。部室のテーブルの上に置かれているのは2人が描いたであろう絵と、その絵に使われたであろう絵具。

 つまり『口内射精大会』ではなく『校内写生大会』だったってこと!? じゃあ私たちが今まで羞恥心を爆発させてまで騒いでいた時間は一体……。

 

 うっ、うわぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

 

「どうしたのですか侑さん!? 急に頭を抱えて」

「ミアもどうしたの? さっきからため息が凄いわよ?」

 

 

 もう肩の力が抜けたし、疲れが半端ない。そして自分の脳内が相当濃いピンク色だったという事実を突きつけられたのが何よりのダメージ。自爆だろと言われたらそうなんだけどさ……。

 でも私たちが勘違いしたことは誰にもバレていないみたいだから、そこだけは助かったかな。変な妄想をしてたなんて純粋無垢な栞子ちゃんとランジュちゃんに知られるわけにはいかないしね。それになによりお兄さんに知られたら、これを一生ネタに揺さぶられることになるだろうから……。

 

 

「侑さんとミアさん、大丈夫でしょうか……?」

「大丈夫だ。ちょっと脳内が思春期なだけだから」

「?」

「な゛っ……!?」

 

 

 お兄さんは私とミアちゃんの方を見て憎たらしく微笑む。

 バ、バレてるぅううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!

 

 

 私とミアちゃんは、今日一日練習に集中できないくらい羞恥心に苦しんだ。

 

 




 久しぶりにこういったネタを描きましたが、エロい方向にキャラを暴走させられるのが楽しいです(笑)
 そして気付いた方もいるかもしれませんが、実はμ's時代に同じようなネタをやったことがあり、今回は『口内』がついてパワーアップしています。そのせいで侑とミアが非常に妄想豊かな子になっちゃいましたが、淫乱属性はこの小説にとっては名誉なので特に問題ないかと(笑)



 そういえば4コマの『にじよん』のアニメ化が決定したようで、また動いている侑が見られるのが嬉しいです! 
この小説の侑はこんなキャラになっちゃってますが、零君の唯一の相棒枠にするくらいには大好きなキャラなので、また喋っているところを見られるのが楽しみで楽しみで……!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

日向ぼっこ大戦争!

 虹ヶ咲学園。

 自由な校風と専攻の多様さで人気の女子高で、各分野で活躍する人材が集まるいわゆる名門校である。校舎も新設されたばかりなので綺麗で、校内もそこらの大学のキャンパスより広く、部活やフードコーナー、リラックススペース、プールなどなど、もう校内だけで生活できるほどに設備が充実している。しかも東京のお台場という都会の中の都会の立地のため交通アクセスも良く、放課後に遊ぶところなんていくらでも存在する。更に学校としての実績も凄まじく、専門学科のレベルが高いためか進学および就職率は全国でもトップクラス。更に更に女子高は女子高でも生徒は美女美少女ばかりであり、そのため世間から(主に男たち)も注目されるほどの学校なのだ。

 

 そうなればもちろん毎年の入学希望者が後を絶たず、そのため入学は非常に狭き門となっている。設備の充実差から勉学にも励みやすく、一息つきたいときは遊ぶところが無数に存在する。学生であればそれほど恵まれた環境はないだろう。

 

 ――――というのは、表向きの謳い文句である。

 実はこの学校は俺の姉である秋葉が設立した学校だ。もちろんアイツがただ善意のために学校を立ち上げるわけがない。その理由は『神崎零に見合う女の子を育てるための施設』と言えば簡潔だろう。最高級の環境が用意されているのも、その全ては俺のため。俺のための女の子であるならば、その育成環境も最高級のものでなくてはならないという考えからだ。

 そしてこの学校に美女美少女しかいないのもまさにそれが理由。顔採用と言ってしまうと聞こえは悪いが、実際にそうなんだから仕方がない。しかも入学のために学力試験は実施するもののそれは選考基準の一部でしかなく、より重視されるのは容姿の良さと健康的なカラダを持っていること。スタイル云々は問題ではなく、どうやら俺とのカラダの相性の良さで決めているらしい。あとは俺を好きになる素質が高いこと。どうやって判別しているのかは知らないが、そのような理由から選別されるためある意味で狭き門となっているのだ。

 

 ちなみに唯一例外なのが高咲侑。アイツだけは別の理由で入学を認められたのだが、それはまたの機会に振り替えるとしよう。

 

 そんな美女美少女たちが集まる学校。そんな中で俺は―――――

 

 

「いい天気だ……。ねみぃ……」

 

 

 昼寝をしようとしていた。

 自分のことが大好きな女の子たちしかいない空間と聞けば興奮モノだが、もう何年も前からそういった環境に身を置いているので今更舞い上がることもない。むしろ俺がどんな行動をしても咎められることがない空間のため、この学校に対してはそっちの方に価値を見出している。こうして白昼堂々と外で昼寝をしていても全く問題ないわけだ。ご丁寧に校内が広いおかげで日向ぼっこに最適な芝生もあるため、もうここで寝てくださいと言っているようなものだろう。

 

 そうやって理由をこじつけて昼寝をしようとしていると、誰かが近くに寄ってくる気配がした。

 

 

「零さん、お昼寝してるの……?」

 

 

 俺の傍に駆け寄って来たのは璃奈だった。寝転がっている俺の顔を覗き込んでくる。

 超薄目で見ているため起きていることに気付かれてはいない。別に返事をするのが面倒ではなく、単純に眠いだけだ。

 

 

「私も一緒に寝て……いいよね?」

 

 

 璃奈は添い寝をしようとしてくるが、この行動は驚くことではない。俺が部室のソファで寝ている時も無理矢理隣を陣取って来るし、何かと俺に擦り寄ってくるためむしろ添い寝されない方が不自然に思えてくるくらいだ。抱き枕としても使えそうなくらい華奢なカラダは自分の腕に収まる程よいサイズで、添い寝をされると自然と腕を回してしまう。こんな愛くるしいマスコット系美少女なんだ、抱きしめない方がおかしいだろ。

 

 ――――と思っていたのも束の間、俺の予想は裏切られた。

 なんと璃奈は俺に添い寝せず、何故かうつ伏せで覆い被さって来た。抱き枕のポジションではなく掛け布団のポジションを取るなんて未だかつてなかったことだが、何の躊躇いもなく覆い被さってきたのでもう最初からこうすると決めていたのだろう。幸いにもコイツの体型的に体重は軽いので余裕で支え切れているが、左右が空いているのに上からのしかかってくるって何考えてんだコイツ……。

 

 

「どんなふかふかなお布団より気持ちいかも……」

 

 

 うつ伏せで俺に被さっているためか、彼女の慎ましやかな胸が俺の胸元に押し潰されている。ちんちくりんな体型をしているのにも関わらず、こうして感触を味わってみるとやっぱりコイツも女の子なんだなって思う。胸が薄くてもしっかりとその膨らみを感じられ、男の欲情を煽ることのできるカラダなのだと。まあこれだけベッタリと密着してればそりゃそうなんだけどさ。これで胸の感触がなかったら女装男子を疑うトンデモ展開になってたからな……。

 

 そして少し時間が経った。俺は寝たフリをして起きたままだが、璃奈の方は眠ってしまったのだろうか。微かに寝息のようなものが聞こえる。男のカラダの上で自分の胸を押し付けて寝るなんて相当な度量の持ち主だが、コイツもコイツで肝が据わっているところがあるから特別不思議なことではないのかもしれない。

 

 そうしている間に、また別の子が駆け寄ってくることに気が付いた。

 

 

「やっぱり零さんとりな子だった!」

 

 

 この騒がしい声で正体がかすみだと分かる。またさっきのようにバレないよう薄っすらと目を開けて確認して見ると、かすみは物凄いスピードで駆け寄ってきて寝ている俺の隣に腰を下ろした。

 

 

「りな子だけ零さんとお昼寝してるのずる~い! かすみんも一緒に寝ちゃうもんっ!」

 

 

 出たよ謎の対抗心。コイツは俺の隣に誰か女の子がいるだけでいつも張り合ってくる。今は璃奈に覆い被さられているが、誰かに添い寝をされている時もよくコイツは反対側を陣取って添い寝してくる。彼女は俺に心酔する歩夢たち初期勢9人の中でも特に独占欲が強く、絆が強く仲の良いニジガクメンバーの中でもその欲だけは心に宿している。そういった小悪魔系でかませキャラっぽいところが可愛いんだけどな。

 

 そしてかすみは横になって俺の腕に抱き着く。起きていることに気づかれないくらいの薄目で彼女を見てみるが、もうこれ以上にないってくらい満面の笑顔。最近はずっと俺の傍にいるからこのポジションは珍しくも何ともないのに、まだこれで幸せを感じることができるなんておめでたい奴だ。まあ俺の存在で笑顔が見られるならそれに越したことはないけどさ。

 

 そこからまた時間が経過し、怒涛の連続添い寝に対して吹っ飛んでいた眠気がまた戻って来た。璃奈とかすみがいい感じに温もりを与えてくれるので睡眠には最適な環境だ。かすみも寝たのかは知らないが、さっきから全く喋っていない。

 そんな中、またしても俺たちに近づいてくる影が1つ。

 

 

「こ、これは……注意した方がいいのでしょうか……?」

 

 

 この声……今度は栞子か。ただ璃奈やかすみとは違ってどうやらこの状況に戸惑っている様子。そりゃそうだ、男1人が女の子2人を侍らせて女子高の中で昼寝をしてるんだから。もし俺がそんな光景を見かけたら相手の言い訳を聞かずに通報しちゃうね。

 

 

「昼寝をするなとは言いませんが、外で寝ていると風邪を引いてしまうかもしれませんし……。ただ3人共よく眠っているようなので起こすのも気が引けると言いますか……」

 

 

 相変わらず超真面目だな。この学校の生徒の9割9分は寝転がってる俺を見かけたらコイツらみたいに躊躇いなく添い寝する奴らばかりだ。だからこうして注意しようと考える奴は栞子と侑くらいだろう。

 

 

「そ、それほどまでに零さんとのお昼寝は気持ち良いものなのでしょうか……? 確かにここは日当たりが良く休憩している方も多い場所ですが……。それに零さんの隣、まだ空いていますね……」

 

 

 真面目だと思ったけど誘惑にあっさり負けそうになってねぇか? 悶々として己の欲望と戦っている姿が薄目で見てもよく分かる。彼女は堅物そうに見えるが決して融通が利かないわけではなく、むしろ程よい冗談には乗って来ることもあるので意外とノリはいい方だ。だとしてもお嬢様系でド真面目系だから堅物な面もまだ結構多いけどな。

 

 

「少しだけ。少しだけならいい……ですよね?」

 

 

 どうやら欲望に負けたらしい。俺のもとに近づき、かすみとは反対側の隣に腰を下ろす。

 ちなみに彼女の方から添い寝して来るのは珍しい。俺が寝ていて自分に意識が向いていないと分かっているから大胆になっているのだろうか。歩夢たちと比べたら彼女からは形となる好意は寄せられたことはないが、こうして大胆になれるくらいに寄り添ってくるってことは想像以上に好意を抱かれているらしい。そう考えるとなんだか嬉しいな。ま、コイツも虹ヶ咲の生徒ってことは選別された女の子なんだから当たり前か。

 

 栞子が寝転ぼうとする。

 その時、また別の声が、しかもかなり近くから聞こえてきた。

 

 

「何をやってるの? 栞子さん」

「ひぃっ!? し、しずくさん!?」

「静かに。零さんが起きちゃうから黙ってね」

 

 

 いつの間に忍び寄ったのか、しずくが俺たちの間近にいた。栞子はいきなり後ろから話しかけられて肩をビクつかせ、この大胆行動を誰かに見られた恥ずかしさで顔を赤くする。対してしずくは少々機嫌悪そうにしており、ジト目で俺、というより栞子たちを見つめていた。

 

 

「全く、かすみさんの抜け駆け癖はいつものことだけど、まさか栞子さんまで……」

「抜け駆けだなんてそんな! 私はただその……そう、外で寝ていては風邪を引いてしまうかもしれないので起こそうとしていただけです!」

「今日はこんなに暖かいのに?」

「う゛っ……」

「うふふ、からかってゴメンね。でも栞子さんの気持ちは分かるよ。だって零さんに添い寝するのってとても気持ちいいから」

「そ、そうなのですか……」

「うん。それはもう……ね。うふふ♪」

 

 

 なんか怖いなしずくの奴……。1年生の中でもかすみと璃奈は直球の積極性があるが、しずくはなんだろう、ねっとりとした積極性がある。じわりじわりと外堀を埋めてくるような感じで、いつの間にか隣にいる。ヤンデレとはまでは行かないが、それに近しい雰囲気を漂わせてるんだよな……。

 

 

「栞子さんはそこで添い寝していいからね。私もやらせてもらうから、一緒に零さんを堪能しようよ」

「えっ、でも私がここで寝たら、もう零さんに添い寝できる場所はない気がしますが……」

「大丈夫。私とのテスト勉強から逃げて、挙句の果てに零さんの隣を陣取るかすみさんなんて許せないもん。だからこうして――――えいっ♪」

「ふぎゃっ!?」

 

 

 しずくは寝転がっているかすみのカラダを俺から引き剥がすように外側へ転がした。かすみは芝生の上をコロコロと転がされる。

 つうか今日のしずくがやたらヤンデレ気味なのはかすみが勉強の約束を蹴ったからなのか。それなのに俺とイチャイチャと添い寝してたら、そりゃ怒るだろ普通……。

 

 そしてしずくは満面の笑みでかすみが元いた場所を陣取り、俺に抱き着いて添い寝した。

 

 

「うん、やっぱりここが一番落ち着くな~♪」

「ちょっとしず子!? 泥棒猫しず子!!」

「テストの点数が22(にゃんにゃん)のかすみさんの方がよっぽど猫ちゃんだと思うけど?」

「きぃいいいいいいいいいいいいいいい!! しず子ぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 あっという間に奇声を上げるなんて口論勝負弱すぎだろコイツ……。しずくの煽り力が高いと言うべきか。とにかく自分の聖域が侵されたことに『おこ』になっているかすみは、いつもの甲高い奇声を発して俺たちもとに戻って来た。

 

 

「お、お二人とも落ち着いて……」

「じゃあしお子の場所をかすみんに譲ってくれる?」

「えっ、それは……」

「ダメ……?」

「う゛っ……」

 

 

 出たよ、かすみお得意のぶりっこ涙目作戦だ。涙目+上目遣いのコンボ攻撃で栞子に着実にダメージを与えに行く。俺やしずくたちは腹黒ぶりっこ攻撃に耐性があるので跳ね除けられるが、純粋オブ純粋の栞子にとってはクリーンヒットものだ。反撃もできずに唸るばかりだし、こうなってしまったらもう折れるしかないか……?

 

 

「ダメです」

「ふぇ?」

「え?」

 

 

 へ?

 予想外の返答にかすみだけではなくしずくも、そして俺も心の中で驚いてしまった。

 

 

「ここは――――ここは私の場所ですっ!!」

「しお子!? まさかしお子がここまで零さんにハマっていただなんて……」

「この気概、演劇をやっている私なら分かる。これは――――本物」

「そんな目を丸くしてこちらを見ないでください! ただ私は零さんの隣があまりに気持ちいいと聞くので、それを検証すべく場所を譲りたくないだけです。こ、このままでは皆さんが添い寝に夢中になって勉学やスクールアイドル活動に支障が出るかもしれませんし、生徒会長として確認しておくことは重要かと……」

「「ホント……?」」

「そんな疑い深い目で見ないでください!!」

 

 

 驚きの目を向けられたりジト目で見られたりと、自身の行動の1つ1つが自爆へ繋がっている栞子。何かと言い訳を放っているが、自分の欲望を抑えつけるだけで精一杯なのだろう。ここまで自分の欲求を前面に押し出すコイツは珍しいけど、俺に添い寝をするのってそこまで気持ちいいのか? 確かに女の子を抱き枕にすると質の良い睡眠ができるので、それと似たような感じか。妹の楓もよく同じことを言ってるしな。

 

 

「だったらかすみんの場所がないじゃん!」

「大丈夫。零さんは私と栞子さんのカラダを使ったあったか~いお布団で快適な睡眠が取れるようになるから」

「璃奈さんもいますけど……」

「「あっ、本当だ」」

「今まで気づいていなかったのですか!?」

「いやぁ~あまりにも零さんと一体化していたからつい忘れちゃって……」

 

 

 いくら体格が小さいとは言っても一体化しすぎて気付かないは無理ねぇか……?? てか俺も今まで璃奈の存在忘れてた。覆い被さられているのに忘れるとか体重軽すぎだろコイツ。

 でもベッタリと引っ付いているのは本当で、俺のカラダに腕を回し、慎ましい胸を潰すくらい押し付けて寝ているので、確かにこれは一体化していると言っても過言ではない。

 

 つうかこれだけ3人が騒いでるのに寝続けられるって意外と寝坊助なんだな。彼方ほどまではいかないだろうが、隣で添い寝バトルが繰り広げられている戦場の真っただ中で眠り続けるその精神力は素晴らしい。いや、ただ鈍感なだけなのか……。

 

 

「璃奈さん、コアラの子供みたいに零さんに抱き着いていますね」

「りな子のおっぱい、ぎゅ~ってなっちゃってる」

「へ、変なこと言わないでください……」

「かすみさんの大きさではぎゅ~っとはならないよね」

「それどういう意味? それにしず子もそんなに大きさ変わらないじゃん」

「み、皆さん、清純な虹ヶ咲の女子高生たるものあまりそういう会話は……」

「変わるもん。ねぇ栞子さん?」

「そもそも、しお子って大きさどれくらいだっけ?」

「もうやめましょうこの話!!」

 

 

 男の前で胸の大きさ談義をするんじゃねぇよ。そういうのは夜のパジャマパーティーみたいなところで女子だけでやることだろ、どういう気持ちで聞けばいいんだよ……。

 ちなみに胸の大きさは『璃奈』<『かすみ』<『栞子』<『しずく』の順番だ。女の子の胸の大きさを把握してるなんて気持ち悪いと思うかもしれないが、事あるごとに抱き着かれてたら嫌でも個々人の大きさは分かる。それに秋葉が作ってくれた女の子の健康管理、という名目の身体測定アプリが入ったタブレットも持ってるしな。それを使えば女の子のプロフィールは恥ずかしい面も含めて赤裸々にできる。

 

 栞子が淫らな話題をぶった切ったが、結局誰がどこで添い寝をするか戦争は終結していない。戦争とは言ってもしずくとかすみの戦いなだけで栞子は巻き込まれているだけなのだが。それに璃奈は完全に知らぬ顔、ていうか寝たままだし……。

 

 

「話も終わったことだし、私は零さんの添い寝に戻らせてもらうね」

「ちょいちょいちょいちょいちょい! そこっ! かすみんの場所!」

「かすみさんはテスト勉強があるでしょ?」

「だったらしず子も付き合ってよ! そういう約束だったじゃん!」

「先に裏切ったのはかすみさんの方だよね!?」

「落ち着いてください。私もお付き合いしますので、終わったらまたみんなで添い寝をすれば良いかと」

「う~ん、仕方ないか」

 

 

 いや俺がいつまで寝てること想定なんだよ。ただの昼寝だぞこれ……。しかもコイツらの騒ぎに耳を傾けてる間に眠気も覚めちまったし……。

 

 

「もしテストで赤点だった場合、部活に参加することを禁じられる可能性があります」

「しお子そんな殺生な! 友達だよね!?」

「親友ですが生徒会長なので」

「出た! 塩対応のしお子だ!」

「まあまあ栞子さん。私たちで教えれば赤点くらい簡単に回避できるよ」

「しずくさんも、最近夜な夜な零さんとの情事を演劇の台本として書き留めていると聞きます。それで勉学がほんの少しですが疎かになっていることも」

「ど、どうしてそれを!?」

「ですのでお二人とも、今日はみっちりとテスト勉強を仕込んで差し上げますのでご覚悟をお願いします」

「「うっ……!!」」

 

 

 なんか物凄く恥ずかしいプライベート事情が暴露された気がするが、大体想像はつくので驚くことではない。表で清楚ぶってる奴ほど裏で何やってるのか分からないからな。

 

 そんなこんなで栞子がテスト勉強を仕切るという形で日向ぼっこ戦争は終結した。騒がしくはあったけど、それも仲が良いことに現れだってことで納得しておこう。結局のところ戦争の勝利者は栞子ってことになった……ってことでいいのかな。

 

 そして、3人が立ち去ってすぐのことだった。璃奈がいきなり身体を上げた。目覚めたのかと思ったが、寝ていたにしては上体を起こすのがやけにスムーズだ。一体何があった……?

 

 

「おはよう零さん。おはようと言うより、ずっと起きてたんだよね?」

「…………知ってたのか」

「うん。薄目で見てたの気づいてたもん」

「気付いてたって、お前も起きてたのか?」

「うん。零さんを堪能するのに夢中で喋れなかったけど」

 

 

 同級生が周りであれだけ騒いでたのに俺に覆い被さることを優先してたのかコイツ。しかも途中で自分のことが話題に上がったのにも関わらず、それでもなお俺に抱き着いたままツッコミすら入れなかったってどれだけ夢中になってたんだよ……。

 

 

「でもこれは作戦通り。今日はかすみちゃんがしずくちゃんとテスト勉強をするのを知っていた。そしてかすみちゃんが飽きて零さんのところへ行くのも、昼寝していると知ったら添い寝することも、探しに来たしずくちゃんが対抗することも。そして栞子ちゃんが生徒会の仕事で見回りをしに来て、昼寝を注意しようとすることも」

「真顔でそう言われるとマジで掌の上って感じがして怖くなるな……」

「しずくちゃんが夜な夜な零さんとの情事を台本に書いていることも、本人から聞いて知ってる。しずくちゃん、かすみちゃんに弱みを握られないようにえっちなプライベートのことは話さないけど、どうしても誰かに話して欲求不満を解消したいときは私に話すから。それを利用して事前に栞子ちゃんに告げ口しておくことで、しずくちゃんもテスト勉強に強制参加させられるという作戦。上手く成功した、ブイ」

「いややっぱりこえぇよお前!!」

「勝負は残酷。戦いというのは最後に立っていた者が勝者」

 

 

 真の勝利者は璃奈だったか……。流石はゲーム好き、戦略を組み立てる才能に秀でてるな。いつかその戦略で俺も嵌められそうだけど……。

 

 

「というわけで勝者の特権。零さんと本当の意味で『寝る』ことができる」

「へ?」

「脱いで」

「そっちの意味かよ!? 特権とか勝手に決めんな!! って、ズボンに手をかけるなおい!!」

 

 

 ある意味で、一番自分の欲望に忠実なのは璃奈なのかもしれないな……。

 




 今回は1年生回でした!
 1年生が集まるとしずくが無邪気になるところが好きなので、この4人の集まったお話は描くのがとても楽しいです!

 そして虹ヶ咲編1では歩夢たち初期メンバーをメインに据えていた影響であまり活躍のなかった栞子ですが、今回はしっかりと話に絡ませることができて満足です。虹ヶ咲編2が始まったばかりなので満足するのは早いのですが、キャラも段々と掴んで来たので、この小説でもっと彼女を魅力的に描ければと思っています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハーレムデート大作戦!

「デートっていうのを体験してみたいの!」

「はぁ?」

 

 

 スクールアイドル同好会の部室。そこでいつも通りソファに寝転がっていると、ランジュが枕元に詰め寄ってきて意味不明な提案をしてきた。いや意味は分かっているんだけど、あまりにも突拍子と脈絡がなさ過ぎて話が見えないってことだ。まあコイツは思い付きでトンデモないことを言い出すことも多いので、この期に及んで驚くことではないけどな。それに穂乃果や千歌が同じような感じだからもう慣れた。

 

 ちなみに近くにいた侑は飲んでいた水を吐き出すくらいには驚いているようだ。

 

 

「ちょっ、ランジュちゃんデートの意味分かってる!?」

「えっ、男性と女性が一緒にお出かけすることでしょ?」

「まぁそうなんだけど、もっとその、深い意味があるって言うか……」

「ん? ともかく、ランジュは零とデートがしたいの! 次の土曜日でいいかしら?」

「おい何故もう行く流れになってんだ……」

「だって零とお出かけしたことないんだもの。男女の仲を深めるのがデートなんだったら、これはもう行くしかないでしょ? 零ともっともっと仲良くなりたいもの!」

 

 

 自分の都合のいい方向に話を無理矢理引っ張る能力も遺憾なく発揮されている。その能力は決断力の高さという意味ではカリスマ性があっていいかもしれないが、日常会話では逐一ツッコミを入れざるを得ないのが面倒だからデメリット。栞子とミアもコイツのこの性格にはかなり苦労している。だが咎めてきた侑のことを持ち前の猪突猛進さで跳ね除け、俺の意見すら無視するその自己肯定感の高さ、呆れるを通り越して感心しちまうよ。

 

 そんな豪快な面があるかと思いきや、年頃の男女が一緒にデートをする意味について全く知らない天然さも兼ね備えている。そのギャップが可愛いところだから、さっきのデメリットがあったとしても憎みづらいんだよな……。

 

 

「なになに? 零さんとランジュがデートするの!? 愛さんも混ぜてよ!」 

「混ぜてよって、愛ちゃんもデートの意味を間違えてるよ……」

「えっ? だって零さんとのデートって女の子複数人がデフォでしょ? それに零さんって、たくさんの女の子に囲まれて優越感に浸ってないと欲求不満になっちゃうもんね♪」

「どんな禁断症状だよ危なすぎるだろ俺……」

「お出かけはたくさんいた方が楽しいものね。いいわ、愛も一緒に行きましょう!」

「えっ、ランジュちゃんはそれでいいの!?」

「いいのって、どうせならみんな一緒で楽しい方がいいじゃない」

「自分がいいのならそれでいいけどさぁ……」

 

 

 俺のデートは1vs複数になるのも当然だからこれも今更驚くことではない。ただ俺の世界に染まり切っていない侑はデートを恋人同士でやるものと決めつけているのか、自然な流れで二股デートになることに抵抗感を抱いている。そしてランジュは恐らく恋人同士とかそんなことは考えてなくて、ただ単に俺やみんなと遊べればそれでいいと思っているのだろう。まあデートなんて恋人同士であるべきか、それとも男女で一緒にお出かけするだけだったらどうなのか等々、定義なんて曖昧だからどっちでもいい。

 

 

「どうせだったらもっと誘ってみようよ! おーいっ、歩夢ぅ~せっつぅ~!」

「歩夢たちも誘うの!?」

 

 

 離れたところで次のライブの段取りを決めていた歩夢とせつ菜だったが、愛の呼びかけによりこちらに合流した。これだけ人数が膨れ上がるともう放課後にみんなでスイーツを食いに行く感覚とそんな変わらねぇだろ。甘酸っぱい恋のデート感はもう一切なくなったな、最初から分かってたけど。

 

 

「ランジュが零さんとデートしたいらしいから、歩夢とせっつーも来るでしょ? 来週の土曜日!」

「行く!」

「行きます!!」

「そ、即答……」

「だって零さんとデートだなんて、断る方がおかしいよ」

「零さんと一緒にいられることが私にとって一番大好きなことですから、行かない選択肢なんて最初からありません」

「ここだけ切り取ってみると凄く純情そうな話なのに、実際は女の子をたくさん侍らせるだけだからなぁ……」

 

 

 歩夢とせつ菜はどうして自分たちが呼ばれたのか最初は不思議そうにしていたが、愛の誘い文句を聞いた瞬間に目の色が変わった。まるで欲しいおもちゃを買ってもらった純粋な子供の目のように、そして所々ちょっと欲望に満ちた目も……。2人は見た目は幼気だけど俺への欲望の深さは底知れない。だからそんな2人をデートに誘おうものならこうなるわけだ。

 

 

「決まりね。じゃあ次の休日にこの6人で一緒にデートをしましょう!」

「んん?? ろ、6人?? お兄さん、ランジュちゃん、愛ちゃん、せつ菜ちゃん、歩夢……ともう1人は?」

「なに言ってるの、アナタでしょう。侑」

「え゛ぇっ!? どうして頭数に入ってるの!?」

「私は侑とも交流を深めたいの。ダメ……?」

「そ、そんな目で見られると……わ、分かった! 行くから!!」

「ありがとう、侑!」

「な゛っ、いきなり抱き着かないで!!」

 

 

 チョロいな侑の奴。ランジュは豪快さ、天然さの他に純粋さも持ち合わせている。その純粋さを武器に使われたら流石に断れないようで、あっさりと敗北を認めてデートに同行することになった。そしてありがとうのハグでまたしてもその純粋さを、今度は全身に受けて恥ずかしがっている。俺も侑に願い事をする時は同じことをやってみようかと思ったが、心が汚れに汚れている俺では意味がなかったな。それに自分が純粋さの皮を被って媚びてる様子なんて想像ですら気持ち悪い。うん、変な妄想はやめよう。

 

 そんなこんなで2年生組と一緒にデートをすることになった。

 つうか今気づいたけど俺、行くなんて一切言ってねぇんだよな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 デート当日。俺たちはショッピングモールに集合していた。

 ここは飲食店、ブティック、アクセサリーなどの小物店、カラオケ、ゲームセンター等々、女子高生であれば1日暇潰しできるくらいの施設が揃っている。女子高生が5人もいるこの集団であればこれだけ回るところがあるんだから話題は尽きないだろう。俺が楽しめるかと言われたら、まあ女の子たちの楽しんでいる姿を見られればそれでいいかな。いつもそのスタンスだし。

 

 

「結構人いるな。たくさん女の子を引き連れていても目立たずに済みそうだ」

「お兄さんも気にするんですね、そういうこと。てっきり優越感に浸って堂々とするものかと」

「流石に5人は多すぎる……」

 

 

 侑の言う通り確かに優越感はある。だけど人前で堂々とこの楽園を晒すような真似はしたくない。俺のモノだから俺だけが楽しめればいいんだ。だからこそ閉鎖空間、学校内や家でデートする方が俺には合っていたりする。もちろん女の子が外に連れ出してくれることは悪く思っておらず、むしろ普段自分では行かないところに連れて行ってくれるからいい刺激になるからありがたく思っている。

 

 そんな中、他の4人の会話が聞こえてきた。

 

 

「何をするのか聞いていないのですが、どこへ行くのかは決まっているのでしょうか?」

「もち! 最初はカラオケに行くよ!」

「カラオケって、確かみんなで歌を歌うところよね? だったらいつもやってるじゃない」

「ライブの歌の練習とはちょっと違うかな。普段歌わないような曲をみんなで歌って盛り上がれるから。練習していない曲でも即興で歌ったり、ペアで歌ったりもして楽しいよ」

「なるほど、お祭り感があっていいわね!」

「それにそれに、零さんの歌が聞けるのはここだけだから! 零さん歌上手いから、愛さんたちいつも痺れまくって興奮しまくりだよ!」

 

 

 4人の目が一斉にこちらを向く。物凄い期待の籠った熱い目線は今にも俺を焼き殺しそうだ。

 つうか愛の奴、余計なこと言いやがって……。そもそも俺の歌が上手いから興奮しているのではなく、俺の歌っている姿に興奮しているんだろうと言いたくなってくる。歩夢とかせつ菜とかよく俺の姿にうっとりして、歌い終わっても硬直したままのことが多いからな……。

 

 しかもだ、大体は俺が枯れ果てるまで歌わされる。もはやカラオケっつうより俺の歌っている姿を見たいだけの会場になるからなコイツらとのカラオケデート。できれば避けたいが、もう話の流れを変えることもできないので諦めるしかねぇか……。

 

 

「じゃあ早速カラオケにレッツゴー!」

「おい愛、勝手に腕を絡めるな」

「いいじゃんいいじゃんデートなんだし! ほら、反対側がまだ空いてるよ?」

「じゃあランジュもデートの気分を味わってみようかしら! えいっ!」

「うおっ、デカい……」

「お兄さん……」

「いやなんだその目は仕方ないだろ、この状況なんだから……」

 

 

 侑にジト目で睨まれるが、巨乳女子高生が腕に絡みついてきたら反応せざるを得ないだろ、その胸に。言ってしまえば愛もランジュも女子高生としては胸の大きさが規格外で、更にスタイルの良さも相まって出ているところは出ている、引っ込んでいるところは引っ込んでいる理想のスタイルだ。そのせいで胸が一際強調され、こうして腕に抱き着かれるとその感触が良く伝わってくる。愛は狙ってやっているのだろうが、ランジュは天然なので特に気にせずこの行為をやっているのが恐ろしいところだ。

 

 

「むぅ、後から変わってね愛ちゃん」

「そうですよ。私たちだって零さんとデートしている恋人なのですから」

「はいはい、もちろんもちろん!」

「恋人なのかよ重いな……」

 

 

 しかも俺は遊園地のマスコットキャラクターか何かか? 隣に並んで写真を撮る待ちされている着ぐるみみたいになってるぞ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「まさか……まさかの満室!!」

「あはは、仕方ないよ休日だもん。人が多いのは当然だから……」

「ランジュも零とデュエットしたかったから残念だわ……」

「そりゃドンマイ」

「なんでちょっと嬉しそうなんですかお兄さん……」

「いやそんなことねぇよ……」

 

 

 俺とカラオケしたがっていたランジュたちには悪いが、デート始まって早々喉を枯れ果てさせずに済んだのは僥倖だ。俺は自分で歌うよりも女の子が歌っている姿を見る方が好きで、ただコイツらはその逆で俺の歌う姿が好き。そうなれば多数決でどちらが負けるのかは明白であり、その負け確定の未来を回避できたのは相当大きい。下手をしたら喉を潰しすぎてここでデート終了の可能性まであったからな……。

 

 

「皆さん。それでしたらそこのゲームセンターに行きませんか? 今だと人が少ないみたいですから、ゆっくり回れるかと」

「ゲームセンター? そういえば行ったことないわ」

「ランジュちゃんは初めてなことばかりだね。だったらちょうどいいからここにしようよ。侑ちゃんは?」

「えっ、私はみんなが行きたいところでいいよ。お兄さんとみんながハメを外しすぎないようについてきただけだからね」

「どうして俺まで騒ぐ前提なんだ……」

「よ~しっ! じゃあ気を取り直してゲーセンにレッツゴー!」

 

 

 ゲームセンターか。今だと自宅でできる趣味や娯楽の多様化で外出する必要もなくそのせいで閉店ラッシュになるほどだが、デートスポットしてはうってつけの場所だろう。しかもゲーセン初見のランジュまでいるし、何よりこれだけたくさんの女の子がいれば否が応でも盛り上がる。

 

 ちなみに愛とランジュには腕に絡みつかれたままだ。もう胸がクッションになっていて、歩いてるだけでその柔軟な感触を味わいリラックスできる謎の現象に苛まれている。女性耐性のない男だったらここで性欲が枯れ果てデートどころじゃないだろうな……。

 

 そんなわけでゲームセンターにやってきた俺たち。相変わらず音楽が大音量で響いているが、その騒がしさが如何にもゲーセンに来たって感じがする。初めて来たランジュは予想通り目を輝かせており、まるで遊園地に来た子供のようにあちこちのゲームを見回っていた。

 

 

「これはレースゲーム? まさか免許がなくても車の運転を体験できるの!? そしてこれは……シューティングゲーム? 実際に銃を扱えるのカッコいいわね! それにこれはダンスゲーム? スコアランキングがあるけど、ランジュだったら余裕で1位になれるんだから! そしてそして――――」

「ランジュちゃん、プレイもしていないのに既に楽しそうだね……」

「あれだけ楽しそうであればここを提案した甲斐がありました。でも確かに久しぶりに来るとどれも楽しそうで目移りしてしまいますね」

 

 

 現代の若者であればサブカルチャー系を少なからず触れたことは多いだろうから、こうしてゲームが立ち並んでいる様を見るとテンションが上がってしまうのだろう。俺はあまり騒がしいのは好きではないが、音楽を派手に鳴らして画面にゲームのデモを流されると少しワクワクしてしまう。それがゲーセンの魅力なのかもしれない。

 

 

「あっ、このクマのぬいぐるみ可愛い~♪」

「どうしたのランジュ? あっ、UFOキャッチャーか」

「UFOキャッチャー?」

「上にアームの付いたUFOがいるでしょ。それをこの矢印ボタンで操作して、ここに置いてあるぬいぐるみを取るんだよ」

「へぇ~面白そうね。じゃあこれをやってみるわ!」

 

 

 ランジュのゲーセン初プレイのゲームはUFOキャッチャーだ。

 ただこのゲーム、簡単そうに見えてそう甘くはない。基本的にアームが弱いのでコツを覚えないと永遠と沼にハマり続けることになる。悪質な場合は店側で景品を取れなくなる設定をしているとかどうとか。

 そしてその洗礼をランジュも受けたようで、5回プレイしてもぬいぐるみを僅かに動かすだけで終わってしまった。

 

 

「う~ん、上手く行かないわね……」

「天才肌を持つランジュちゃんでもダメなんて、結構難しいんだね……」

「零さん、ランジュちゃんのために取ってあげてください」

「どうした歩夢いきなり……」

「零さんなら絶対に取れます! だって零さんですから!」

「俺を持ち上げたいだけじゃねぇのかお前……。理由にも根拠にもなってねぇぞ」

「お願い零! もう零だけが頼りなの!!」

「ったく……。取れなくても文句言うなよ」

 

 

 やったことないゲームの一発クリアを賭け、5人の女の子から期待の眼差しを受けるこのプレッシャー。さっきも言ったけどこのゲームはコツが必要で、もちろんゲーセンに来ない俺はそんなものを一切持ち合わせていない。知識があるとすればさっきのランジュの5回のプレイでアームの動きを確認できたくらいだ。ただそんな付け焼刃の知識でぬいぐるみが取れるはずが――――

 

 

「取れた……??」

「どうしてお兄さんが驚いているんですか。ていうか上手すぎですよ!」

「まさかワンプレーで取れるなんて、これこそ愛さんたちの零さんだよ!」

「アームの動きからボタン入力の遅延まで綿密に考慮されたプレイ、流石です零さん!」

「凄いわ零! いつも凄いけど今日はもっと凄いわ!」

「うん、やっぱり私の言った通りだったね♪」

 

 

 歩夢の得意気な笑顔は置いておくとして、まさか取れるとは思ってなかった。せつ菜の言う通り計算は多少していたが、まさか付け焼刃の知識で取れるとは……。

 

 

「ほら、これが欲しかったんだろ。クマのぬいぐるみ」

「えっ、いいの? 零が取ったのに?」

「俺には必要ない。その代わり、これは貸しってことにしてくれ」

「謝謝! 大事にするわね!」

 

 

 ランジュはぬいぐるみを抱きしめながら屈託のない笑顔を向ける。その表情に柄にもなくドキッとしてしまいそうになった。そうだよ、俺は女の子のこの笑顔を見るために生きてるんだ。ただここまで何にも染まっていない純情で真っ白な笑顔を見たのは久しぶりで少し心が高鳴ってしまった。最近は歩夢たちと一緒にいることが多いが、コイツらは良くも悪くも俺への欲望で染まってるからここまで真っ白な笑顔を見られるのは珍しいんだ。もちろん歩夢たちの笑顔も好きだぞ?

 

 そしてまたゲーセン内を見て回っていると、ランジュが次なるゲームに興味を示した。とは言ってもプリクラなのでゲームではないのだが、どうやら大人数で写真を撮れるところに惹かれたらしい。

 プリクラももはや今では古代のお遊びみたいになっており、写真を撮るのも加工するのも手持ちのスマホ1つで簡単にできる時代だ。そのため今やプリクラに需要と言った需要はないのだが、こういうのは雰囲気だろう。ゲーセンに来てみんなで盛り上がってプリクラを撮る。まあお祭りの屋台でかき氷なり焼きそばなりを買うのと同じだ。原価を気にせず盛り上がってる雰囲気で食う飯が美味いんだよな。

 

 

「というわけでみんなでプリクラを撮るよ! ほら入った入った!」

「ちょっ、押すなって! つうか流石に6人は多いだろ」

「確かにこれだけの人数だとかなり狭いですね。密着し合わないと画面に収まりきらないかも……」

「だったらもっと密着すればいいじゃない!」

「ちょっと待って! 今まで愛ちゃんとランジュちゃんが零さんに抱き着いてたから、今度は私とせつ菜ちゃんの番だよ!」

「そうですっ! 零さん、お隣失礼します」

「そういう約束だったもんね。だとしたら愛さんとランジュは零さんの後ろから抱き着いちゃお!」

「分かったわ!」

「お、おいっ!」

 

 

 歩夢とせつ菜が両側から、愛とランジュがそれぞれ後ろから俺に密着する。まさに女の子のおしくらまんじゅうで一切の身動きが取れない。でもそのおかげでプリクラの撮影範囲になんとか収まりそうになっているで結果オーライか……?

 

 プリクラの機内ブースは狭く、これだけ女の子がいたら女の子特有の甘い香りがブース内を支配してしまう。しかも2年生組は一般の高校2年生と比べて身体的に成長している奴らばかりなので、こうして密着しているだけで女の子のカラダのありとあらゆる部分を感じられる。頬、二の腕、胸、太もも、ふくらはぎetc……女の子の柔らかい部分のオンパレード。いくら女の子慣れしている俺でも、ここまでたくさんの女の子のデリケートな部分に触れていると平静を保つだけで精一杯だ。

 

 

「ほら、侑ちゃんも入って!」

「い、いや私はいいよ、今日はただの付き添いだし。みんなで撮って」

「そんな水臭いことを言わずに! 侑さんこっちです!」

「ちょっとせつ菜ちゃん!? って、お兄さん!?」

「悪い勢いで抱きしめて――――!?」

「はい撮るよーっ!」

「愛ちゃんちょっと待って!!」

 

 

 怒涛の出来事だった。まずブース内の人数がいっぱいでもう入りきらないためか、それとも恥ずかしくて俺たちに混ざらなかったのかは分からないが、侑だけこの場を離脱しようとした。だが歩夢とせつ菜は彼女を逃がさずに腕を掴んで俺たちのもとへ引き寄せ、こちらに勢いで突っ込んでくる彼女を俺が抱きしめてしまった。生憎と背中から突っ込んで来たので正面からのハグにはならなかったものの、俺たちが慌てている隙に後ろから抱き着いている愛がスマホから遠隔で機体を操作し、この状況を撮影してしまった。

 

 つまり、さっきまでは俺の前は空いていたが、侑を抱きしめてしまったことで俺の周りには四方八方から女の子に囲まれている状況となった。侑の耳が真っ赤になっているのを後ろからでも確認できる。それに腕が胸に当たっていたような気もするし……。怒られそうだから黙っておくけども。

 

 

「撮った写真を色々加工するから、みんなは外で待ってて。ここ暑いからね」

 

 

 密室であれだけ人数が密着し、更に騒いでいたとなればそりゃ暑くもなる。写真の加工は愛に任せて俺たちは機体の外で待機することにした。

 そしてしばらくして、愛が機体から出てきて印刷されたプリクラを俺たちに渡す。何故かにっこにこの笑顔で――――

 

 

「え゛っ!? あ、愛ちゃんこれ……!!」

「やりやがったなお前……」

 

 

 俺と侑の目が丸くなる。その写真にはいくつか文字列が追加されており、そこには『JKハーレムデート♡』『零さんの恋人大集合♡』『これがスクールアイドルハーレム!』の文字が……。

 つうかこれ誰にも見せられねぇだろ!! なんてこと書いてんだコイツ……!!

 

 

「なにこれ!? ハ、ハーレムって……!! しかも私はスクールアイドルでもなければお兄さんの恋人でもないから!!」

「まあまあこういうのは女子会のノリだから♪」

「悪ノリがすぎるよ!! みんなもそう思うよね!?」

 

 

 動揺している侑は歩夢たちを味方に引き入れようとする。

 だが――――

 

 

「零さんと一緒にプリクラが撮れるなんて、また夢が1つ叶っちゃったよ♪」

「みんなで零さんと一緒にいられるのを、こうして記録として残せるのは嬉しいことですね! 大切にします!」

「書いてある文字の意味はよく分からないけど、ランジュは楽しいから無問題ラ!」

 

「み、みんな!? えっ、おかしいのは私の方なの!? お兄さん!!」

「諦めろ。これが同調圧力ってやつだ」

 

 

 残念ながら侑の味方は誰1人としていなかったようだ。そりゃ歩夢とせつ菜は愛と同じ思考回路だろうし、ランジュの純粋さを考えるとこの状況を変に思うのはコイツしかいないだろう。

 ちなみに俺は動揺していないのかと聞かれたら、それなりにヤバいとは思っている。別に女の子に囲まれているのはいつものことだが、この威力の高さは未だかつて見たことがない。このプリクラ、あまり人には見られないようにしよう。特に妹の楓には……。

 

 

「零、デートって楽しいわね! これからも楽しみだわ!」

「これがデートと呼べるかって言われると……いや、お前が楽しいならそれでいいよ」

 

 

 デートを提案した当の本人が楽しめているのならそれに越したことはない。その代わり侑の憂鬱が溜まっていきそうだけど……。

 ちなみにまだデートは始まったばかり。結局ランジュたちは最後まで全力で楽しんでおり、監視役の侑がげっそりしていたのは言うまでもない。

 




 今回は2年生編でした!
 2年生って1年生や3年生と比べるとあまり統一感がないと言うか、学年であまり絡んでいるところを見たことがないので、今回の話を執筆している時は結構新鮮でした。ただ2年生には侑もいるのでキャラが多く、誰が喋っているのか分からなくなって読者様に伝わっているのかどうか怖いところ。もし分かりづらければ教えてください!

 そして前回も今回もガッツリとハーレムを描けてとても楽しく執筆できています! Liella編のゆったりとした恋模様も好きなのですが、本職が虹ヶ咲編のような雰囲気を描くことなのでついつい全力を出してしまいます(笑) 次回もこんな感じの話を予定しています。



 次回のお話ですが、1年生、2年生と来たら……?




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お癒しご奉仕で大乱交!?

 虹ヶ咲学園には学生寮が存在する。しかもタワマンに引けを取らないくらいに大きく、内装もホテルかのように豪華だ。

 これだけ寮が充実しているのは虹ヶ咲がグローバルな学校であることに他ならない。全国、そして全世界から優秀な生徒を集めている学校なので、むしろこれだけの待遇は当然と言える。あまりにも設備が豪華だから、中にはわざわざ実家を離れてここで暮らしたいと思う生徒もいるそうだ。

 

 そして何より女子寮なので男子禁制。寮の入り口は厳重なセキュリティに加え、女性警備員が交代で24時間体制で常駐している徹底ぶり。男1匹見つけようものなら即確保からの通報、逮捕までがスムーズに行われるらしい。虹ヶ咲の生徒は美女美少女ばかりなので男にとっては高嶺の花だが、このセキュリティの高さを見ればそれはもう文字通りの高嶺なっている。

 

 そんな中、俺はというと――――

 

 

「マジで高級ホテルだなここ……」

 

 

 その女子寮の中にいた。

 入口のセキュリティは何故か顔パスで通ることができ、顔を赤らめた女性警備員たちから『女の子に会いに来たのですか? たっぷり可愛がってあげてください♪』やら『次来た時は警備員室に寄って私たちも可愛がってください、零さん♪』やら、名前も知らない警備員たちが既にデレデレだった。しかも何故か俺の名前を知っており、それでいて発情状態だったのでちょっと怖かったぞ……。秋葉の奴、虹ヶ咲の関係者の女性は漏れなく教育(という名の調教)をしてるっぽいな……。

 

 そんな感じでほぼ素通りで男子禁制の寮に足を踏み入れたのだが、中が高級ホテル並みに広すぎて迷ってしまいそうだ。外から見ても大きい建物だとは思ったが、いざ入ってみると萎縮するくらい俺には似合わない場所だと分かる。やっぱこういったお堅い場所は苦手だな。

 

 

「ここか……」

 

 

 ようやく目的の部屋に到着した。先日エマから寮に遊びに来て欲しいと連絡を受けてここに来たのだが、何をするのかは一切聞いていない。寮に行くと承諾したときにやたらめったら嬉しそうにしていたので、もしかしたら家デートをしたいだけかもしれない。でもだったら隠す必要はないよな? エマは言いたいことをはっきり言うタイプなので、家デートごときわざわざサプライズにする奴ではない。ま、アイツだったら他の奴らと違って騒がしいことにはならないだろうから大丈夫だろう。

 

 そんなことを考えながら部屋のインターホンを押す。

 部屋の中にインターホンが鳴る音が聞こえ、通話口からエマの声が聞こえた。

 

 

『はい、エマ・ヴェルデです』

「零だ。来たぞ」

『零さん! すみません。今すこぉ~し混みあっているので、そのまま部屋に入って来てもらってもいいですか? 鍵は開けるので!』

 

 

 鍵の開く音がする。恐らくスマホの遠隔操作でドアのカギを開閉できるスマートロックだろう。こんなのが付いてるなんて高級寮にも程があるな。

 エマの指示通りにドアを開ける。すると既に目の前に女の子がいて、こちらを上目遣いで見つめていた。コイツは――――彼方!?

 

 

「零さ~ん、いらっしゃ~いっ」

「な゛っ!?」

 

 

 エマに呼ばれたのに彼方が出迎える意味も分からないが、俺が驚いたのはそこではない。コイツの恰好が超薄着のネグリジェであることに目を丸くしている。そもそも普通のネグリジェですらかなり薄着なのに、コイツが来ているのはもはや透けそうなくらいペラッペラ。しかも下に何も着ていないのか、よく目を凝らせば生の胸の先端まで見えてしまいそうだ。そんな痴女みたいな恰好をした女子が出迎えてきたらそりゃ驚くだろって。もしかしてこの部屋、そういう風俗を営んでたりする……!?

 

 

「こ、これは……」

「むふふ~逃がさないよぉ~♪」

 

 

 あまりの衝撃に後退りしてしまうも、艶やかな雰囲気を漂わせる彼方に手首を掴まれて部屋に引きずり込まれる。そしてオートロックによりドアに鍵がかかったことで退路まで防がれてしまった。

 そしてそのまま訳も分からずワンルームの部屋に引っ張られ、そこでようやく解放される。

 

 

「な、なんだよ一体――――って、え゛っ!?」

「こんにちは零さん! 今日はたっぷりとおもてなししますね♪」

「今日は癒されるまで帰らせないから、覚悟しておくことね」

「エマ、果林、お前らもその恰好……!?」

 

 

 更にエマと果林が俺を出迎えてくれたのだが、コイツらも漏れなく超薄着ネグリジェだった。彼方が紫、エマが黄緑、果林が青でそれぞれのイメージカラーに合わせているのだろう。てか仮にも清純なスクールアイドルとしてのモチーフカラーなのに、超薄着ネグリジェという淫猥なモノにそのモチーフを重ねるのはどうなんだ……?

 

 とにかく、全くもって今の状況が分からず混乱しているので早く説明を求めよう。

 

 

「その恰好も含め、どうしてこうなっているのかを教えてくれ……」

「ご奉仕だよ~ご奉仕。最近の零さん、下級生たちに揉みくちゃにされてるから疲れてるかなぁ~っと思って」

「それで3年生の中で相談して、あなたを徹底的に癒してあげようと計画したの。全く、あの子たちは愛の伝え方が過激なんだから……」

「それに零さん、最近は来年教師になるための勉強や実習に精を出しすぎてると聞いています。なので私たちでストレス発散になればいいかなと」

「なるほど、俺を癒すためにネグリジェでご奉仕してくれる――――って、意味分かんねぇけどな!? 半裸の女の子たちにご奉仕されるってどんな怪しい店だよ……」

 

 

 しかも相手は現役のスクールアイドル。更に虹ヶ咲と言えば全国でも名が知られるトップクラスのグループだ。スクール()()()()だからもちろん美女美少女の集団であり、しかもこの3年生組は誰しもがスタイル抜群というオマケつき。胸も女子高生離れした大きさのせいで薄いネグリジェから(こぼ)れそうになってるし、ぶっちゃけそこらの適当な卑猥な店よりもこっちの方が破壊力あるぞ。

 

 『スクールアイドル』+『女子高生』+『美女美少女』+『巨乳』+『薄着ネグリジェ』×『3人』か……うん、相当やべぇな。これだったらいくら金を積んでもご奉仕されたいと思う男はいるだろうが、現実は俺だけの空間。しかもタダで味わえるとなればもう楽しむしかないのか……??

 

 そんな優越感に浸ろうとしていると、ベッドの上から何やら音が聞こえた。3人は俺の目の前にいるし、他にも誰か……と思ったけど、そうだよ3年生組は3人じゃない!!

 

 

「ミア……!? お前なんだその恰好は!?」

「気づかれた……!! こ、こっち見るな!!」

 

 

 まさかこの部屋にミアもいたとは。しかも彼方たちと同じくネグリジェ装備で、彼女のモチーフカラーでもあるシルバー(とは言ってもほぼグレー)である。

 ミアはベッドと壁の角に身を寄せており、俺に見つかったことで体育座りから更に身体を丸める形で自分のあられもない姿を何とか隠そうとしている。そんな姿をしていたらより男を興奮させるだけなんだけどな……。

 

 

「ほらほらミアちゃん、せっかく着たんだから零さんに見せないと!」

「エマたちが無理矢理着させたんだろ!? なにあたかも自分から着たみたいに言ってるんだ!?」

「これぞ虹ヶ咲流のコミュニケーションだよ~。零さんと裸の付き合いをするのがみんなとの仲を深める一番の方法なんだから~♪」

「大学のヤリサーか!? しかも乱交まで推奨して!! そもそもボクはコミュニケーションを取りたいなんて一言も言ってない!!」

「私たちとはよく一緒にいるけど、零さんとはまだそこまででしょう? だから今日はたくさん愛してもらいなさい。大丈夫、初めてでも零さんなら優しくしてくれるわ」

「ちょっと何をさせる気だ!? 処女が軽々しすぎるだろ!!」

 

 

 ミアは正論を振りかざすが世界が悪かった。この空間は神崎零至上主義となってしまっているので、彼女の正論はこの世界では正論でなくなってしまう。逆にエマたちの主張が正論となる理不尽仕様のためミアの抵抗は全くの無駄だった。

 

 そして14歳の華奢な少女ではどう足掻いても高校3年生の3人には勝てず、ベッドから強制的に引きずりおろされて俺の前に差し出された。

 

 こうして見るとミアも美人だし綺麗だな。色白なのでグレーのネグリジェがよく似合い、歳はまだ中学生と同じなのにスタイルもいい。ただ胸の大きさは実は栞子やしずくと同じ程度なので、歳の割に発育が進んでいることが良く分かる。それに何よりほぼ半裸の姿で恥じらっている様子がなんかこう、グッとくる。見た目は幼いのに艶やかな色気を感じるっつうか、並の男だったら惚れてもおかしくない。既に彼女が大人びているというのもあるのだろうが、それでもこの色香は男の目を奪うのには十分だ。

 

 

「ジロジロ見るなよ……」

「いや、似合ってるからさ……」

「に、似合ってるって、ネグリジェが似合うって言われても複雑なんだけど……」

「可愛いよ。思わず見惚れた」

「ッ~~!?」

 

 

 ミアの顔色が真っ赤に染まる。そりゃ赤くするようなことを言ったからなのだが、あの言葉は純度100%の本心で何も羞恥心を揺さぶってやろうとか一切考えていない。俺が脊髄反射で口から可愛いと漏らすなんて中々ないぞ。つまり今のミアがそれだけ魅力的だってことだ。

 

 

「あらあら、随分とお熱いことで。今のミアが可愛いのは分かるけど、私たちにそういう言葉はないのかしら?」

「お前らも十分可愛いとは思うけど、いつも言ってるから今更かなぁって」

「私たちは何度でも聞きたいですっ! 零さんからのお褒めの言葉は録音してずっとリピートしたいくらいに!」

「なんだよそれ!? 逆に怖くて言えねぇよ!!」

「もうこうなったら彼方ちゃんたちのご奉仕で気持ち良くさせて、あまりの心地良さに本心しか出ないようにしちゃおうよ~。えいっ♪」

「うわっ!?」

「ひゃっ!?」

 

 

 彼方に背中を押される。すると俺の前に立っていたミアを巻き込む形でベッドにダイブした。ミアが仰向けでベッドに倒れ、俺がその上に四つん這いとなり向かい合っている構図。これ明らかに女子中学生を押し倒す成人男性という即逮捕事案にしか見えない。彼女も何が起こったのか即座に理解できず目を丸くして俺の顔を見つめていた。

 

 だが、もちろんだがこれだけでは済まない。

 

 

「お互い熱く見つめ合ちゃって、さっきから放置されっぱなしで寂しいわ」

「うえっ!? か、果林お前いきなり抱き着くなって……」

「そうだそうだ~平等に相手しろ~」

「お前が背中を押したんだろ――――って、お前まで……!!」

「前も右も左も、そして後ろからも気持ちよくしちゃいます♪」

「エマ!? うおっ!?」

 

 

 左右から果林と彼方に、後ろからエマに引っ付かれる。ネグリジェ1枚しか隔てがない3人の胸がその形が変わるくらい俺に密着する。虹ヶ咲の連中は1年生も2年生も発育はいい方だが、3年生のコイツらはやっぱ特別だ。もう密着されてるだけでデカいことが分かる。俺の腕と背中に肉丘が押し潰され、むにぃ~っと形を変える。その感触が凄まじく心地よく、そして興奮を煽ってくる。

 

 しかもだ、目の前には押し倒されて未だに顔を赤くしているミアがいる。もうどこからどう見ても今からエッチしますよと言わんばかりの体勢であり、14歳の女の子を相手にこんなことをしている背徳感が情欲を増幅させる。別に俺から望んでこのシチュエーションになったわけじゃないのだが……。

 

 

「おい零、いつまでこうしてるんだ……」

「俺のせいなのか……。コイツらに抱き着かれてる時点で俺からはどうすることもできねぇよ」

「だったら私たちがあなたの下着を脱がせてあげましょうか? フフッ」

「「はぁ!?」」

「カラダとカラダで交われば零さんはストレスと性欲の発散になるし、ミアちゃんは零さんとコミュニケーションができて一石二鳥だよねぇ~」

「ま、待て!! じゃあさっきエマが言っていた『前も右も左も後ろも』の『前』ってミアのことか!?」

「そうですっ! お互い『前』と『前』で合体すれば2人まとめて気持ちよくなれますから♪ これこそ究極の癒しですよね!」

 

 

 貞操観念ぶっ壊れてやがるコイツら……。最初に『ご奉仕』と聞いた時から薄々感じてはいたけど、結局はコイツらがエッチなことをしたいだけじゃねぇか。しかも『癒し』を与えるとか言っておきながら結局は『快楽』を与えるって意味になってるし……。それに仮にこれだけの人数を一度に相手にしたら流石に疲れて『癒し』どころではない。コイツらに純粋さを期待した俺が浅はかだったよ……。

 

 ちなみにミアは瞬きを激しく繰り返しながら俺を見つめている。そりゃそうだろうな、自分が今から犯されそうになってるんだから。しかも抵抗できない状況に追い込まれてるからそりゃ警戒しても仕方がない。

 

 

「零、まさか本気じゃないよな……??」

「当たり前だろ。だけど……」

「けど……?」

「俺にはいつもツンツンしてるお前だけど、そういった顔もできるんだな。その……可愛いなと思ってさ」

「な゛ぁっ!? うっ、くっ……ッ!!」

 

 

 ミアはあまりの恥ずかしさが故なのか、現在唯一動かせる顔を全力で捻って俺から目を逸らす。また思わず自分の気持ちを口に出してしまったが、これもしかしてエマたちの思う壺なのでは……?? このシチュエーションになるように仕組まれた可能性がある。このムードのままだと俺の興奮が煽りに煽られ、本当にコイツらとヤっちまう流れになりそうだけど……。

 

 

「なんだか私たちとミアでは対応が違うわね。ぞんざいに扱われるのもそれはそれでプレイの一環にはなるでしょうけど」

「もしかして零さんってロリコンさんですか?」

「ちげーよ。それだけは断じて違う」

「おい、それはボクがロリっ子だと言いたいのか?」

「この中だとそうなっちゃうのは仕方ないかもねぇ~。でもこれは彼方ちゃんたちの読み通りだよ。これだけ大きなおっぱいが集まってたら、箸休めにミアちゃんみたいな華奢な子も味わいたくなるかなぁ~と思って」

「どれだけヤリチン設定なんだよ俺は……」

「ていうかボクは箸休めのために呼ばれたのか!? いやメインがいいとかそういうことではなくて、ただそれだけのために呼ばれたのかって聞いてるんだけど!?」

「まあまあ落ち着いてミアちゃん。零さんなら平等に可愛がってくれるよ♪」

「心配してるのそこじゃない!!」

 

 

 3年生組は普段の日常であれば結構まともな部類の子たちなのだが、やはり虹ヶ咲の生徒ってこともあり性のことになると途端にはっちゃける。いやただ単に性教育程度のことであればここまでのテンションにならないとは思うが、俺が話に絡みだすといつものキャラはどこへやら状態となる。俺としては淫乱な子は嫌いではないし、むしろ歓迎なんだけど、それを目の当たりにする一般人(この場合はミア)のツッコミが追い付かないのなんのって……。

 

 ちなみにロリ云々に関して、いくらミアが飛び級でアメリカでは大学生、こっちでは高校生だとしても、年齢的にはまだ中学生だ。だからこうして女の子の部屋のベッドに押し倒しているだけでも通報レベル。流石の俺でも小学生や中学生のロリと言われる部類の子に手を出すのは少し罪悪感がある。まあ高校生でも相当な問題なんだけど、エロゲだったらヒロインは高校生ばかりだし、そこはセーフかなって。

 

 

「そもそも零さんっていつもはノリノリで彼方ちゃんたちをぶち犯してくるのに、今は被害者ぶってるのはなんでかなぁ~」

「ぶち犯すって言葉遣いひでぇな……。そんな下品なことはしてねぇし、俺は雰囲気を大切にする男なんだよ。こんな騒がしくてムードもへったくれもない空間でノリ気になるかよ。しかもまだ真昼間でそんな気分でもねぇからな」

「性欲が溜まったらそこらかしこでやる節操なしじゃなかったのか……」

「ミアお前、俺のことそういう目で見てたのか……?」

「そりゃお前とみんなの関係を見てればすぐに察せるだろ。成人の男が複数の女子高生と肉体関係を持って性を満喫してるってこと。栞子も察してるだろうし、分かってないのはこういう知識がないランジュくらいだ」

「文章で表すと犯罪臭がするからやめてくれ……」

 

 

 そりゃコイツらとはそれなりの関係だけど、お互いに合意の上だから別にいいだろう。それに俺から誘うことはほどんどなく、ほとんどがコイツらから誘ってくる。俺に学園の種馬という異名が付けられているみたいだが、俺から積極的になっていない以上それは不名誉すぎるんだよなぁ……。

 

 

「つうかお前ら俺を癒してくれるんじゃなかったのかよ。俺からヤらせようとめちゃくちゃ煽って来るじゃねぇか」

「だってケダモノになった零さんの方が私たち好きですから! 男らしく、力強く『お前らは俺のモノなんだぞ~』って言う感じで襲ってくれるので♪」

「興奮してる時の俺、そんなキャラなのか……?」

「でも今の零さんはそういうムードにならないみたいだから、もう彼方ちゃんたちから行っちゃうよ~?」

「零さんってもうおっぱいに慣れ過ぎて、抱き着いている程度だと性欲を煽ることすらできないものね。だったら――――」

「おいっ、服を脱がそうとするな!!」

 

 

 3人で纏わりついているのをいいことに俺の服を脱がそうとしてくる。もちろん抵抗するのだが、いくら女子高生とは言え3人に、しかもほぼ半裸の女の子の肉の感触をたっぷり堪能させられているこの状況では力を十分に出し切れない。ネグリジェ1枚で男の服を脱がそうとしてくるなんて、卑猥な店のオプションとしても破格のプレイだぞこれ……!!

 

 いっそのことこのまま身を任せてもいいのだが、サディスト精神を持つ俺にとって女の子の手玉に取られるのはどうも性に合わない。なんか組み伏せられているみたいで屈辱で、己のプライドが許さないんだ。だからと言って女の子たちに雁字搦めにされてるこの状態を脱せるかと言われたら……キツイな。

 

 かくなる上は、少し強い口調で――――

 

 

「お前らの好意はありがたいけど、また別の機会にいくらでもやってやる。だから今は離せ。俺の言うこと、聞けるよな?」

「「「ッ!?」」」

「えっ、みんなの動きが止まったけど、零が何かしたのか……?」

「い、いやぁ~あんなに鋭い口調で言われちゃったら女心がぎゅ~って掴まれるよねぇ~」

「男性の力強さ、というより零さんの力強さにキュンって来ちゃいました!」

「やっぱり零さんは攻められるより肉食系が似合うということね。こんなことで惚れちゃう私たちも私たちだけど……」

 

 

 ちょっと強めに威圧したら3人はそっと俺から離れた。強い口調で命令する男らしさに女心を揺さぶられ、この人には逆らってはいけないと言うコイツらの本能が呼び戻されたのだろう。聞き分けのいい子は大好きだぞ。

 

 その後しばらくして場の色香が収まったような気がした。淫猥な雰囲気も徐々に消えていったため、こうして見ると女の子の出す色気って場の雰囲気を大きく変えるんだなって思うよ。

 

 

「なんだかエッチな気分が一気に抜けちゃったねぇ~。せっかく今朝たくさんコンセントレーション高めてきたのに~」

「それは1人でヤってたってことか……」

「一区切りついたらお腹空いたわね。朝からこの計画のためにずっと待機してたもの」

「こんなことで本気を出すなよ……」

「それじゃあお昼ご飯を作るね! このまま外に出かけるわけにもいかないので、お家デートと行きましょう!」

「元々そのつもりで来たんだけどな……」

 

 

 部屋に入る前はこんなことになるなんて予想だにしてなかったぞ。半裸の女の子たちにくっつかれるのは嬉しいのは嬉しいけど、コイツらがあまりにも肉食系すぎるんだよ。慣れているとは言えども3人同時は中々にハードだからな……。

 

 そんなこんなでエマたちは昼食を作りに行った。ネグリジェの上からエプロンを付けているのでもう裸エプロンにしか見えないが、あれはあれで俺を誘っているのだろうか……? いやまぁいい光景だとは思うけどさ……。

 

 そんな中でベッドに腰を掛けて休んでいる俺の隣で、ミアが枕を抱えて丸まったまま俺を見つめていることに気が付いた。

 

 

「どうしてあの時エマたちを無理矢理引き剥がさなかったんだ? いくら3人とは言え相手は女だ。お前なら力尽くで跳ね飛ばせただろ?」

「まあ半裸の女の子たちに抱き着かれてる時点で力はある程度抜けてたけど、一番の理由はお前らのためかな」

「へ?」

「カラダをあんなに露出させてたんだ、俺が派手に動いたらその綺麗な肌に傷をつけちまうかもしれないだろ? それにお前を押し倒す体勢だったから、ただ巻き込まれてるお前にこれ以上災害が降りかかるのは避けたかったんだよ。お前もみんなに負けず劣らす綺麗だからさ、そのカラダを穢したくなかったんだ」

「なっ……!? ッ~~!?」

「うぶっ!? 急に枕投げんな!!」

 

 

 突然ミアが抱えていた枕を俺の顔面に投げつけた。そしてすぐさま近くの別の枕に顔を埋めてしまった。そのため表情は分からないが耳まで赤くなっているのが見える。

 

 

「おーおー恋愛してますなぁ~」

「零さんに真剣な目であんなことを言われたら……ねぇ」

「なんだかんだミアちゃんも零さんを意識しちゃってるんだね」

 

 

 台所から何やら聞こえてきたが、それよりこの後ミアが俺の目を一切見てくれなくなったことが気になり過ぎて仕方がなかった。

 また侑からデリカシーがないとか言われそうだな……。

 




 今回は学年別回のラストである3年生編でした!
 3年生はスタイルのいい子+中学生年齢のミアという凸凹スタイルの組み合わせですが、今回のようにそっちの方がそれぞれのスタイルの良さが際立っていいと思います!

 これにて学年別回を一通りやったのですが、3話どれもハーレム全開で描くことができて非常に楽しかったです! まさにこの小説らしさを出せたかなぁと思っています。
この小説を読みに来ていると言うことはハーレム好きの方が多いと思うので、もしよろしければ今回のお話だけではなく、前の1年生編と2年生編を含めハーレム回のご感想を頂けると嬉しいです。

 まあどのハーレム回が良かったのかと言われたら、そりゃハーレム好きだから1つに選べませんね(笑) 



 そういえば公式でラブライブスーパースターのアニメ3期が決定したようで。小説のネタができるのは嬉しいのですが、このままだといつまで経っても小説の進行が公式に追いつかない気が……。ただでさえ今は虹ヶ咲2期の内容なのに、既にLiella2期、にじよんアニメ、幻日のヨハネと回収できるネタが大量にあるのに回収しきれるか不安で空かないです(笑)






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

楽園計画ファイナルミッション

 不意打ちの最新話投稿!
 今回はこの『虹ヶ咲編2』のストーリー的なものを進めるためのお話なので、短めにサクッと書き上げちゃいました(笑)




 楽園計画。

 俺の姉である秋葉が俺の見合う女の子たちを選別して教育。そしていずれは俺の傘下に加えようとする大層な計画だ。その教育のためにわざわざ虹ヶ咲を設立したとのことで、アイツのいつもの戯れにしてはスケールがデカい。しかも全国だけではなく全世界から容姿に優れ、優秀なスキルを持った女の子たちを集めて入学させており、それだけでもこの計画の規模がよく分かるだろう。

 

 そのためこの学園は高校生にして美女美少女が集まり、しかも個々人が何かに秀でた優秀なスキルを持っているため全世界からも注目の的になっているハイパーエリート校なのだ。理事長である秋葉による特殊な教育プランが故なのか大会でも常勝、学力も高く、掃除洗濯料理と言った家事能力も最低限に揃っており非常に優秀。普通ならこんなハイスペック女子を1人見つけるだけでも大変なのだが、この学校の生徒は全員がその集まりだ。どういう教育をしているのかは気になるけど、催眠学習みたいなことをしていないか怖くなってくるな……。

 

 そして今日、俺と侑はその計画の立案者兼黒幕である秋葉に呼ばれて理事長室に来ていた。

 

 

「あれ? 薫子さん?」

「やぁ。こんにちは、侑ちゃん、零くん」

 

 

 理事長室には秋葉と栞子の姉である薫子がいた。一時期この学園に教育実習に来ていたのは知っていたが、その期間はもう終わったはずだ。

 理事長席に秋葉が座っており、その前のソファに薫子がいる。女子高生たちに囲まれているいつもとは違う大人たちの空間。なんだか異質だ。侑も少々居心地が悪そうと言うか、緊張しているみたいだ。

 

 俺と侑はとりあえず薫子の向かい側のソファに腰を掛けた。

 

 

「みんな揃ったし、そろそろ始めよっか」

「いやどういう状況だよこれ」

「慌てない慌てない。1つ1つ順番にね」

 

 

 コイツに呼び出された時点でお察しだが、大抵ロクなことはない。密かに楽園計画なんていう大規模なプランが進行中だって暴露された時もそうだったけど、大体が事後報告なので気付いた頃には渦中に巻き込まれており逃げることはできない。今回もその類だろう。侑もそれを察したのか既にため息をついて諦めかけている。

 

 

「まず楽園計画の話だけど、もう最終段階に入ってるの。ランジュちゃんとミアちゃんをここに留学させた時点でね」

「最終って、そういえば何がどうなったら計画が終わるのか聞いてなかったんですけど……」

「流石の零君でもね、今のままだと抱えきれる女の子の数に限界があるの。だからその人数に達したら終わりだよ。ただ零君の懐は広いからね、今まで出会ってきた女の子たちを含め、この学校にいる女子生徒を合計することでやっとその人数に達するんだよ。ランジュちゃんとミアちゃんはその最後のピースってわけ。ただし、人数はあくまで私の予想だけどね」

「つまり俺がランジュとミアを惚れさせれば、それで楽園は完成すると?」

「イエス!」

 

 

 また勝手に事を進めやがって……。

 確かにこうして聞かされるまでは俺も楽園計画の達成条件を具体的に知らなかった。俺の抱えきれる女の子のキャパシティの限界を満たすことが計画の目的であり、達成条件らしい。そしてそのピースに虹ヶ咲が使われたと言うことだろう。しかも全員が女子高生という若く美しく可愛い女性ばかり。流石の俺でもこれだけの人数は手に余るだろ何百人いると思ってんだ。そう言いつつも全校女子生徒の名前を憶えてる俺も俺だが……。

 

 

「ちなみに正しくはランジュちゃんとミアちゃんだけではなく、栞子ちゃんもだけどね。あの子も零君への好感度は結構高いのだけど、他の子とは違ってそう簡単には惚れない性質を持ってるから意外と手強いの。だからその3人を落としたら、う~ん最低限キスくらいしたらオールコンプリートかな」

「えっ、キスするんですか!? お兄さんとランジュちゃんたちが!?」

「キスってお前、幼い頃からずっと俺を慕ってきた歩夢たちならまだしも、まだ出会って間もないのにそんなこと……」

「虹ヶ咲チルドレンのあの子たちを落としても何も面白くないじゃない。苦労して女の子を落としてこそハーレムのご主人様でしょう?」

「お前、さっき少し遊びの部分が出てたぞ……」

 

 

 超簡単に言ってくれちゃってるけど、キスって俺でもそれなりにハードルが高い行為だからな? それこそ性行為と同等くらいにいい感じのムードが必要だ。海外の挨拶じゃあるまいし、いくら女の子に囲まれた生活を送っているとは言っても流石にキスは常駐化していない。そんな状況でまだ好感度が上がり切っていないあの3人にキスまで持ち込めって無茶言い過ぎだ。

 

 ちなみにそれぞれの好感度を俺の予想で語らせてもらうと、ぶっちゃけ栞子であればある程度コミュニケーションを取っていけばキスに一番近い子だと思う。最初は刺し殺すかのような視線を向けられ警戒されていたが、1回デートをしたらかなり仲良くなったので、本人が男を知らない純情乙女ってことを加味しても惚れさせやすいとは思う。

 ランジュは恋愛に対して天然、というより鈍感なので手強い相手だ。ただ俺に対する好意は見て取れるため、そこを恋愛方面にシフトさせてメスを感じさせてあげられるかが勝負だろう。

 ミアは明確に俺を警戒しているため、3人の中では攻略難易度が一番高い。ただこの前エマの家で起こった騒動の際に俺に押し倒されても突き返すことはしなかったので、そこまで嫌われてはない……と思う。ていうかそう思いたい。

 

 なお、虹ヶ咲チルドレンと呼ばれたのは例の事件が起きた幼い頃から秋葉に育てられた歩夢たち9人のことで。アイツらに関しては俺への好感度がカンストどころかメーターをぶっ壊すくらいの愛を抱いているので、こう言っては悪いがキスに持ち込むのは簡単だ。

 

 

「まあいずれそういった関係になればいいな」

「いずれじゃダメだよ。急がないと零君の身体が爆発しちゃうよ?」

「「はい……??」」

 

 

 俺だけでなく侑も目を丸くして唖然とした。

 爆発ってアレか? 古き良きフレーズの『リア充爆発しろ』的なやつ?? ただ秋葉がやたらとにっこりしているため、コイツが笑顔を見せる時は大抵ロクでもないことが起こるときだ。いやもう言い方から察するに導火線に火が点いているっぽい。今度は俺の知らないところで俺に何が起こってんだよ。またいつも通り変なクスリでも飲まされたか? いつも通りと言ってしまう時点で俺の人生がコイツに弄ばれていることが分かるだろう。

 

 

「今の零君は本当にたっっっっっっくさんの女の子たちから愛を伝えられて、それを1つ残さず受け取っている状態なの。だけどここ数ヶ月で一気に愛を抱え込み過ぎたせいか、その大量の愛に身体が耐えられずに爆発する可能性があるってことだよ♪」

「………何言ってんだお前」

 

 

 楽園計画もまあまあ意味が分からなかったが、今回はいつも以上に訳が分からない。女の子の愛で俺の身体が耐え切れない?? やっぱギャルゲーの好感度メーターか何か?? 侑も当然だがポカーンとしている。なにここゲームの世界だったの??

 

 

「信じるか信じないかはあなた次第。でも回避策ならあるよ。虹ヶ咲の中でも最も愛の大きい同好会のみんなとキスをすれば、愛を受け止めるための器が大きくなってこれから向けられる愛にも耐えきれる。どう?」

「どうって言われても、キスするのか……俺とアイツらが?」

「うん。しかもエッチの時にするような淫欲に塗れたものじゃなくて、恋人同士でやるような愛に満ち溢れたやつね。これを侑ちゃんを除く同好会のみんな12人とすれば、あなたの身体は更なる愛を迎え撃てるはず!」

 

 

 いやいや意味は分かるけど意味分かんねぇ!! どういう原理で身体が耐えられいのかも意味不明だし、女の子とキスをすれば耐えられるのも理屈が分からない。まあ秋葉の言うことに逐一ツッコミを入れていたら日が暮れるどころか老いぼれてしまうので、無理矢理にでも腑に落ちておくしかない。

 

 確かに言われてみれば、虹ヶ咲に来たこの3か月は俺の人生で一番女の子と知り合う人数が多かった。しかもさっき言った通り虹ヶ咲の生徒たちはみんな俺を慕っている。つまり向けられる愛の量も熱も半端ないってことだ。いくら俺であっても人間に耐えきれるものではない、ということだろう。むしろそれ以外に納得できる理由がない。

 

 

「ということであなたのサポートをするために薫子ちゃんと侑ちゃんがいるわけ。こんなことを学校中に大っぴらにしたら大騒ぎになるから流石に言えないけど、それでもあなたの状態を知って裏で動いてくれる人は必要でしょ? ね、薫子ちゃん?」

「実は秋葉さんから事前にその説明をされてね、零くんの身体の様子を確認するためにも手伝って欲しいって言われちゃって。最初は半信半疑だったけど、面白そうだから乗っちゃった♪ 教育実習は終わったけど学園にはまだちょくちょく来るから、自分の身体の心配は私に任せてど~んとキスしちゃいなよ!」

「お前、自分の妹が俺にキスされそうになってるけどいいのかよ……」

「いいんじゃない。栞子は堅物だけど純粋で騙されやすいから、変な男に奪われるよりもキミに貰ってもらった方が幸せになれると思うんだ」

 

 

 自分を卑下するつもりはないが、俺のような偏屈に妹をあげると言っているコイツの精神が異常すぎる。いやその時になればもちろん幸せにはしてみせるけどさ……。

 そういや栞子から聞いたけど、薫子は破天荒な奴だったな。コイツがあまりに自由人だからそれを反面教師にして栞子がド真面目になったという話なので、アイツと真逆の人間がコイツと考えると、コイツがまともな思考回路をしていないのは自明の理か。

 

 

「そうそう、侑ちゃんはいつも通り歩夢ちゃんたちの練習サポートや体調管理をしてくれればいいから。キスをするのであれば女の子側も万全な状態でないとね!」

「どうせ私に拒否権はないんですよね……」

「もちっ♪」

「笑顔が憎い……」

 

 

 侑も俺と同じく秋葉の強引な性格には慣れてしまっているため、自分が抵抗しても無駄だと言うことを理解してる。そのためこの部屋に入ったときから諦めムードに入っており、今その雰囲気がより一層増して頂点に達している。侑は言いたいことをはっきり口にするタイプだけど、そのコイツが何も反論しようとせずに従うって相当だぞ……。

 

 

「分かった分かった。歩夢たちとはともかく、栞子たちとはぼちぼち距離を縮めてくよ」

「いやいや、そんな悠長じゃダメだよ。零君の身体はもっとあと2~3週間くらいなんだから」

「は?」

「つまりあと1ヶ月も経たずしてお兄さんが身体が……」

「女の子たちからの愛で、零くんが爆発四散ってことだね」

「お前ら怖いこと言うなよ……」

 

 

 なんだか思ったより冷静でいられてるけど、普通に考えて現実離れした現象が起こってるから実感が湧かないだけだ。遊びだろうから本当に爆発四散することはないと思っている。秋葉のいつもの戯れだ。とは言っても期限内にキスまで済ませないと何をされるのか……想像するだけでも怖いし、想像できないほど怖い。

 

 

「というわけで話はおしまい! 爆発四散しないよう頑張れ! ハーレムゴッドの称号を手に入れろ!」

「やっぱゲームかよ。てか愛を抱えきれなくなってるのはお前のせいだろうが……。薫子と侑もこれでいいのかよ」

「私は面白い――――零くん体調管理は任せてよ!」

「聞こえたからな。お前さては秋葉と同種だろ……」

「私はいつもとやることは変わらないので別にいいです」

「お前も色々悟ってんな……」

 

 

 そんなわけで、この短期間に女の子の愛を抱え過ぎたせいで俺の身体に異常があるため、あと数週間のうちに虹ヶ咲チルドレンである9人とキスして愛の器を広げることになった。(ぶっちゃけ意味不明)

 それに加えて好感度が上がり切っていない栞子、ランジュ、ミアと仲を深めてキスまで持ち込む必要ありという難題まで課されてしまった。

 

 相変わらず騒がしいな、俺の日常って……。それで済まされない事態が身体に起こってるけど……。

 




 不意打ちの投稿すみませんでした(笑)
 今回は内容の通りこの小説にあってないようなストーリーを進めるだけの話でハーレムや恋愛要素皆無なので、いつもの日曜ではなく今日こっそり投稿しました。不意打ちのため日曜はいつも通り投稿します。

 ただ単にイチャイチャする話を投稿し続けるのもいいのですが、ハーレム系でも色んな方向性があった方がいいと思って今回はちょっとした事件っぽい感じで進めてみようと思いました。一応虹ヶ咲編1では侑との関係、Liella編では純愛と話の軸は各章で存在しています。
まあハーレム系が好きとは言えども何の目的もない話は私が飽きちゃうので許してください!

 とは言っても零君たちの反応を見てもらえれば分かる通り深刻な話ではなく、やれやれと言った感じなのでいつも通りゆる~く見ていただければと思います。



【付録】※完全な遊びのため本編に影響なし
↓秋葉さんが言っていた零君が手に入れようとしてる称号

《ハーレムの神》
獲得条件:自分が抱えきれる限界の人数まで女の子を手に入れる

↓ちなみに零君が現在所持している称号

《ハーレムの王》
獲得条件:女の子を30人以上自分のモノにする

《スクールアイドルキラー》
獲得条件:スクールアイドル30人以上から惚れられる

《ヤンデレカウンセラー》
獲得条件:ヤンデレの女の子を更生させる

《姉妹両取り》
獲得条件:姉妹の姉の方を彼女にし、その妹まで彼女にする

《歳の差の愛》
獲得条件:成人になってから女子高校生を堕とす

《近親相姦》
獲得条件:実姉か実妹と性行為をする

《ロリコン》
獲得条件:小学生以下の年齢の女の子に淫行をさせる

《人妻堕とし》
獲得条件:人妻に惚れられる

《母親愛》
獲得条件:自分の母親に惚れられる

《異種愛》
獲得条件:人間以外に惚れられる

《相棒》
獲得条件:本来成立しない男女間の友情を成立させて相棒となる


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

近江親子丼いっちょあがり!

「ふっふ~ん♪」

 

 

 とある日の放課後。今日は近江家で晩飯をご馳走になるため彼方と2人で帰路についていた。彼方は自分のバイト先のスーパーから食材をたんまり買い込んだので、よほど今晩を楽しみにしていると見える。両手に食材がたっぷり入った手提げバッグを持ち、しかも俺もその状態なのでどれだけ買い込んだのか分かってもらえるだろう。ぶっちゃけこれを1食で食い切れる気はしないのだが、本人が食事を振る舞うことをずっと楽しみにしていたのは知っているのでここは満腹を覚悟するしかなさそうだ。

 

 

「とうちゃーっく! こうして2人で家の前にいると、なんだか女の子の親に挨拶をしに来たみたいにならない?」

「いやそんな心構えできてねぇよ。今日はもっとゆったりとした食事を期待してたんだけど……」

「女の子の家に来てそんなのんびりしてたらダメですな~。今日はお父さんがいないから、お母さんと遥ちゃん、そして私だけなんだよ?」

「だけなんだよってお前、まさか女性しかいないからって俺に何か求めてるのか……?」

「さぁね~? でも一応言っておくと、遥ちゃんもお母さんも零さんのことものすごぉ~く気に入ってるから♪」

「遥はまだしもどうしてお前の母さんまで……」

 

 

 また会ったことのない女性に目を付けられてるよ俺……。この前も虹ヶ咲女子寮の警備員の女性に勝手に惚れられてたし、俺の名前ってどれだけ独り歩きしてるんだ……?

 疑念が晴れないまま近江家に上がる。さっきも言った通り親に挨拶しに来たとかそんな堅苦しい用件で来たわけではないのだが、女の子の家に上がるのは今でも少し緊張する。その子の親と顔見知りなら全然問題なのだが、初見の場合は親にどう挨拶していいのかいつも迷ってしまう。とは言いつつも毎回笑顔で受け入れてくれるので心配する必要はないんだけどな。

 

 そんなことを考えている中、靴を脱いで上がるなり階段を勢いよく降りてくる音が聞こえた。

 

 

「零さん! いらっしゃいですっ!」

「うおっ、遥!? 急に抱き着いてきたらあぶねぇだろ」

「えへへ、零さんが来ると聞いて楽しみにしていたのでつい♪」

 

 

 階段を降りるなり、彼方の妹の遥が俺の胸に飛び込んできた。靴を脱ぐ際に荷物を床に置いていたため両腕がフリーだったのが幸いし、無事に抱きしめることに成功した。凄い勢いで抱き着いてきたので両手が塞がってたら確実に転倒してたぞ。裏を返せばその勢いが付くくらい俺と会えるのを楽しみにしていたのだろう。 

 

 近江遥。彼方の2学年下で高校1年生。彼女も彼方と同じくスクールアイドルであり、東雲学院で1年生にして何度もライブでセンターを務めるスーパールーキーだ。ツインテール+小動物のような愛くるしさからファンも多い。こうして甘え上手なのも相まって、『妹』キャラというものを大いに実感できる存在だ。

 ただ、男性恐怖症という欠点がある。スクールアイドルが故にファンサは必須なのだが、男性恐怖症のせいでファンを蔑ろにしてしまうのではないかという悩みを抱えていた。だが俺とのコミュニケーションと特訓を通じてその恐怖症が解消――――はされておらず、結果的に俺にだけこうして懐いてくるようになってしまった。しかもこうして向こうから抱き着いてくるくらいには愛情表現たっぷり、まるで尻尾をブンブンと振る子犬のようだ。これも以前秋葉が言っていた『愛を受け取り過ぎている』現象の一端かもしれないな……。

 

 

「わっ、お姉ちゃんたくさん買ってきたね。どれだけ作るつもり?」

「だって零さんが手料理を食べてくれるんだよ? そりゃ彼方ちゃんの得意料理を全部食べるまで帰れま10(テン)だよ~」

「どれだけ食わそうとしてんだ。料理が尽きるより先に俺が死んじまうよ……」

「そうだよお姉ちゃん! 私も零さんのために手料理を振る舞うんだから、ほどほどにね!」

「お前も作ってくれるのか」

「はいっ! 今日という今日のためにお姉ちゃんからたくさん学びました!」

 

 

 健気だねぇ~。虹ヶ咲チルドレンの歩夢たちは良くも悪くも欲望が見え見えだから、こうして純度100%の思慕を感じられるのは久々で新鮮だ。淫欲に塗れた彼方に変なことを吹き込まれてないか心配だったけど、どうやらその心配はなさそうだな。

 

 再度食材の入った手提げバッグを持ってリビングに入る。すると超若々しい女性がこちらを視認するなり包み込むような笑顔を俺に向けてきた。

 

 

「あら、いらっしゃい」

「どうも……」

 

 

 なんだかコミュ障みたいな挨拶になってしまったけど、綺麗な女性を目の前にしたら男なら誰でもそうなる。もしかしてこの人が彼方と遥の……?

 

 

「カナちゃんと遥ちゃんの母です。よろしくお願いします、神崎零さん」

「よろしくお願いします。俺の名前、ご存じなんですね」

「えぇ。この子たちから耳にタコができるくらい聞いていますから」

 

 

 これが近江ママか……。さっきも言ったけどめちゃくちゃ若いな。2人の姉と言われても疑いもしないだろう。おっとりぽわぽわ系の彼方と小動物のような愛くるしさを持つ遥のどちらの雰囲気も兼ね備えているため、この人が2人の母さんだってことが良く分かる。しかも2人にはまだない大人の女性特有の母性を感じられるため、これは性欲真っ盛りの男子だったら性癖が破壊されるだろう。女性慣れしてる俺でも思わず見惚れてしまうくらいだ。

 

 

「2人から聞いていた通り、とてもイケメンさんですね。顔も良し、雰囲気も良し、オスとしてのフェロモンも良し。これならいつでも2人を任せられそうです♪」

「なんか最後だけ変じゃなかったか……?」

「はいはい、早く夕飯の準備を始めちゃうよ~。遥ちゃんもお母さんも作るとなれば時間もかかるからねぇ~」

「えっ、お前らだけじゃなくてお母さんも?」

「えぇ。カナちゃんがいつも『零さんは手料理をとても美味しそうに食べてくれるから大好き』って言ってるから、私もその気分を味わいたくなっちゃいまして♪」

「へ? それもしかして俺に惚れ――――」

「料理好きの母親としては、手料理を笑顔でたくさん食べてくれる男の子に興味があるだけですよ♪」

「えぇ……」

 

 

 おい、近江ママの雰囲気がちょっと怪しくないか?? そりゃ女の子より男の方が飯を食う量が多いから料理好き冥利に尽きるのは分かるが、どうもその笑顔に含みがあるような気がしてならない。なんかフェロモンって言葉も聞こえたし、普通に生きていて使う語句ではないのに初対面の相手に放つかそんな言葉……? どこぞの親鳥みたいに娘と同じくらいの年齢の男に余計な愛情を抱くんじゃねぇぞ全く……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 近江親子3人は和気藹々としながら夕飯の準備を進める。その姿をリビングのソファでくつろぎながら見ているわけだが、うん、やっぱり俺は料理している女性の後姿が好きらしい。もう何度もこの光景を目の保養にしているが一切飽きることがない。しかも美女&美少女がエプロン姿で俺のために料理をしているという、その事実が俺の心をくすぐってくる。他の誰にも味わえないこの優越感に浸れるこの状況、いつ見てもいいものだ。

 

 そんなこんなしている間に料理が出来上がった。テーブルに和食を中心とした料理が並べられている。俺の家では俺や妹の楓が洋食人間なので、こうして和食のフルコースを堪能できるのは新鮮。つうかどうして女性の作る料理は男の料理よりも美味しそうに見えるんだろうな。俺が作ったら犬のエサのような盛り付けになるのに……。

 

 

「は~い零さん。彼方ちゃんが1から捌いた鯖の味噌煮だよ~。あ~ん」

 

 

 彼方が箸で鯖の味噌煮をひとつまみして俺の前に差し出す。虹ヶ咲の他の奴らもそうだけど、俺に手料理を作るたびにこうして食べさせようとしてくるんだよな。食べてもらいたいって気持ちは分かるんだけど、女の子に囲まれる生活が長いのにも関わらずこの行為は未だに恥ずかしい。食べさせてもらったり風呂で身体を洗ってもらったりなど、自分でできる日常的な行為を誰かにやってもらうのが気恥ずかしいんだ。

 

 嬉しそうに箸をこちらに向けて待機している彼方。臆していてもしかがないので箸に摘ままれている鯖の味噌煮を口に入れた。濃厚な甘みのある味噌と肉厚でとろみのある鯖が見事にマッチしており、彼女の愛情がたっぷり含まれているのも相まって一口だけで胃袋を掴まれてしまった。

 

 

「どう?」

「美味しい以外の言葉が出てこない。こんな語彙力なかったっけ俺……」

「ふふ~ん。彼方ちゃんは零さんの好みを隅から隅まで熟知してるから、味付けにも全く隙がないのだ~」

 

 

 得意気に胸を張る彼方。

 どこで誰に俺の好みの味付けを学んだのかは知らないが、ゲームで言えばvs神崎零の専用特攻かのような味付けだ。自分より相手に喜んでもらう、その気持ちはもちろん嬉しいからどこで学んだとかは気にすることもない問題だ。

 

 

「次は私の番です! 妹の味をい~っぱいご堪能くださいね♪」

「遥も? つうかなんでちょっと官能的なんだよ……」

「官能……?」

 

 

 あぁ、遥は男性恐怖症になるくらいの純情乙女だからそういった汚い言葉は知らないのか。そう考えるといつもの愛くるしさをより一層感じられるな。

 

 

「一番自信があるのはこの玉子焼きですっ! あ、まだ熱々なので少し冷ましますね。ふ~っ、ふ~っ、よしっ、大丈夫。はい、あ~ん」

 

 

 女の子が息を吹きかけて食べ物を冷ましている様子って、キス顔を見てるみたいでちょっと興奮するな……。

 というのはさて置き、遥が玉子焼きを摘まんだ箸をこちらに向けてきたので頂いてみる。これまた甘みのある味付けで、ふんわり食感で口の中でとろけた。またしても俺の好きな玉子焼きをピンポイントで狙い撃ちしてるのはホントにどこで学んだんだ……?

 

 

「あのぅ……どう、ですか?」

「美味すぎてビビってる。よく俺の好きな味付けを知ってたな」

「お姉ちゃんから零さんの好みは1から10まで聞いていますので! 好みの味付けも、好きな女性の特徴も、好きな体位? とかもですっ!」

「彼方お前、遥に何を教えてんだ……。しかも最後の言葉の意味分かってなさそうだぞ」

「これも大人の階段を上るための勉強だよ~」

 

 

 せっかくここまでこの世の汚れを知らずに育ってきた箱入り娘なのに、彼方によってドロドロに穢されようとしている。シスコンと呼ばれるくらいに妹好きなのにそれでいいのかと思ってしまうが、愛する人のことを教え込むのは平気だってことか。むしろ姉妹丼の道に引き込んでやろうとか? 俺はそれでもいいんだけどさ……。

 

 

「最後は私の番ですね。私はおふくろの味の定番の肉じゃがです。零さん、はい、あ~ん」

「えっ、お母さんも……?」

「遠慮せずに、はい、あ~ん♪」

 

 

 まさか彼方の母さんにまでこんなことをされるとは……。

 包容力のあるぽわぽわした感じの母親かと思っていたが、割と強引な面もあるらしい。その勢いに負けて箸で差し出された肉じゃがのじゃがいもを頂くことにする。

 じゃがいもは想像以上に柔らかく、これまた俺の好きな甘みのある味わいがした。そしてじゃがいもや牛肉、野菜の混じった煮汁も程よい甘みを引き出しており、ぶっちゃけ今からこれを俺のおふくろの味認定してもなんら問題ないくらいだ。そういや母さんの作ってくれた肉じゃがもこんな味だった気がする。他人の家で実家の安心感を覚えるくらい俺に適した料理を作る近江ママ、すげぇ……。

 

 

「どうでしょうか? 零さんの好みに合わせたつもりなのですが……」

「いや普通に美味いですよ。でも俺と会うのは初対面なのに、よく正体も知らない奴の好みに合わせられたな……」

「カナちゃんたちの話で前々から零さんには興味がありましたし、それにこんなカッコいい殿方に自分の料理の腕を振るえると思うと……うふふ」

 

 

 なんか怖いんだけど大丈夫だよな!? ただ娘たちがよく話す男のことが気になってるだけで、それ以上の特別な感情はないよな!? もうこの人生の中で何度も性癖が歪んでる奴を見かけてきたけど、流石に人妻を相手にしていられるほどの余裕はない。つうかもし仮にカッコいいだけで惚れてるとしたらどれだけ面食いなんだよ……。

 

 その後は近江親子3人にテーブル全ての料理を食べさせてもらった。自分の手を一切使わないで飯を完食したのなんてこれが初めてだぞ……。

 しかも途中で彼方が口移しをしようとしてくるせいで遥まで便乗しそうになり、そして彼方ママは微笑むだけで助けてくれないしで大変だった。ただ飯は想像以上の美味さだったのでそこだけは満足かな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 食事が終わり、今度は一緒に入浴の時間――――とはならなかった。このままだと俺という不純物が親子の入浴に混ざるところだったので、なんとか言いくるめて回避して彼方の部屋に待機している。本来なら晩飯をご馳走になった時点で帰宅する予定だったのだが、彼方も遥ももっと俺とお話したいとのことなのでもう少しだけ家にいさせてもらうことになった。ただスクールアイドルの練習で汗をかいている彼方と遥は現在入浴中。つまり俺は風呂上りの女子高生2人を相対することになるのか……。入浴で身体が火照った女子なんて見た目だけで核兵器以上の威力だから頑張って耐えなければ…。

 

 それにしても彼方の部屋って彼方の部屋って感じだ。全体的にこう夢の中にいるようなふわふわした感じで、カーテンも絨毯もクッションもベッドも、部屋のどこにいても眠くなってしまいそうだ。抱き枕もぬいぐるみも完備され、あれを抱いたまま寝ているアイツが容易に想像できる。そして女の子の部屋だから当然いい匂い。なんで女の子ってこんなに男を刺激するような香りをしているのだろうか。俺の家でも俺の部屋と楓の部屋では別空間みたいだからな……。

 

 そうやって部屋を見回していると、唐突に部屋のドアがノックされた。

 そもそも自分の部屋ではないのでどう返答しようか迷っていると、ドアが僅かに開く。そしてその隙間から近江ママが顔を覗かせた。

 

 

「えぇっと、娘の部屋なのにノックする必要ないのでは……?」

「すみません、緊張してしまって……」

「緊張?」

「ご一緒にお話しさせてもらってもよろしいでしょうか?」

「は、はぁ……」

 

 

 娘の部屋なのにわざわざ俺の許可を取ったり、よそよそしく緊張している理由が分からない。だが変に勘繰るのも失礼なのでとりあえずご要望通りお話することにした。

 最初は何か偏った性癖を持った人だと警戒していたのだが、こうして話してみると娘思いのいい母親という認識に改まった。彼方のスクールアイドルのことや遥の男性恐怖症に関しても親として心配しており、スクールアイドルが上手く行っていることや遥の恐怖症を解消してくれたことを深く感謝された。それだけでなく、娘の日常生活の様子を聞いてきたりなどまるで俺自身が家庭訪問をする先生になったかのようだ。こんないい母親を偏屈性癖の持ち主と疑ったのは悪かったかな。

 

 そしてしばらく話した後、彼方ママが腰を上げた。もう俺に聞きたいことはないから立ち去る。そう思ったのだが――――

 

 

「さてと―――――なるほど、娘たちが夢中になるわけです。あの娘たちが夢中になってしまうのであれば、もちろん私もそうなってしまいます」

「へ?」

「こうして近くで見ると、零さんカッコ良さが途端に際立ちますね。さっきまで大人として、そしてあの娘たちの母親として何とか自分を抑えていましたが、これはもう……」

「ちょっ!?」

 

 

 急に頬を染めた彼方ママは四つん這いのままこちらににじり寄って来る。俺は座ったまま後退りし、部屋の角へと追い込まれた。

 さっきまで娘を思うおっとりぽわぽわした母親の印象はそのままだが、何と言うか、目が妖艶になってきている。目の前の獲物を捕食しそうなサディスト性が混じった雰囲気は、その妖気により俺から抵抗する力を吸い取ってくる。歩夢たちにこういうことをされるのなら慣れているが、恋人の母親というポジションの女性にこんなことをされると戸惑って正常な判断ができなくなってしまう。

 

 

「アンタ、夫がいるんだろ……」

「それとこれとは話が別です。メスが強いオスに惹かれて媚びてしまう、いわば野生動物の本能なのです。そう、愛ではなく本能。それであれば浮気にはなりません」

「そんな暴論……」

「零さんだってそうでしょう? 自分の力、自分の好きなように自分の世界を作り、そしてカナちゃんたちみんなを恋人にしている……」

「そこまで知ってんのか……」

「だから私が加わっても問題ないはずです」

「いやその理屈はおかしい」

 

 

 ヤバいこの母親、俺の知りえる中でことりの母親とトップ争いができそうなくらいヤベー奴だ。娘2人が好きな男を娘の彼氏として気に入るならまだしも、自分も取り入ろうとするなんて頭大丈夫か?? これは元々この人がおかしかったのか、それとも俺が女性をこういう感じにしてしまうのか……。いや元からキチガイ染みてるわ絶対。

 

 

「カナちゃんとはもう淫らなことをしたと聞きました」

「アイツなに話してんだ……」

「だとしたら私も……いいですよね?」

「いい訳ねぇだろ黙ってろ」

「う゛っ!? い、いいですその乱暴な口調! メスをわからせる強いオスの言動、素晴らしいですっ! 女性を屈服させんとし、オスの頂点に君臨する貫禄! それにもう敬語まで抜けてしまって……」

「もうアンタには容赦する必要がないって分かったからな……。つうか別にわからせようとしてねぇよ」

「いや、あなたの乱暴な言動とオスのフェロモンが物語っています。これは媚びるしかありません。不束者ですが、そろそろ行かせてもらいますね」

「おいっ!? ちょっと待て!!」

 

 

 彼方ママに詰め寄られる。もしかして本当に俺と交わろうとしているのか?? 愛はないとは言ってたけど、別に愛がなくても性行為はできる。しかもこの人の目、未だかつてないほどメスの目をしてやがる。部屋の角に追い込まれて逃げられねぇし、どうすんだよこれ……!!

 

 と思った矢先、部屋のドアが勢いよく開いた。

 そして彼方と遥が部屋に入って来ると、2人は自分の母親から俺を奪還して抱き着いてきた。

 

 

「もうっ、お母さんってば零さんを困らせたらダメ!」

「あなたたち、どうしてここに……?」

「今まで私たちが零さんの話をするたびに、お母さんがメスになるのを感じてたからだよ~。リビングにいなかったから嫌な予感がして急いでここに駆け付けたけど、これはお風呂を早めに切り上げて正解だったねぇ~」

「やっぱり予兆はあったのか……」

 

 

 じゃあ最初に疑っていた偏屈性癖持ちってのは間違いではなく、むしろドンピシャだったってことだ。どうやらヤベー性癖を持ってる女性を感覚で見分けられるようになっていたらしい。なるべくそういう奴には会いたくねぇから発揮されないで欲しいスキルだな……。

 

 彼方と遥は俺を守るために自分の胸が当たっているとかお構いなしに抱き着いてくる。さっきまで風呂に入っていたためかシャンプーのいい匂いが漂い、入浴で艶やかになった肌を存分に押し付けてくるのでこれはこれでどぎまぎする。風呂上り女子は核兵器以上だって言っただろ。しかも目の前に俺に媚びようとしてくる娘の母親までいるこの光景、なんだこれ……。

 

 

「えぇ~カナちゃんと遥ちゃんだけズル~い!」

「大人のくせにそんな子供っぽく残念がるなよ……」

「零さんは私のこと、魅力的に見えませんか? やっぱり2人みたいに性行為適齢期の若い年齢ではないと……」

「魅力はあるけどストライクゾーンではない」

「見捨てられてないのであれば、それは脈アリと同じです!」

「都合良いなこの母親!!」

 

 

 さっきからこの人ポジティブシンキングが過ぎる。俺に貶されることを悦びにしているようで、こうなってしまうと何を言っても相手に快感を与えるだけなので困ったものだ。ここは彼方と遥に任せるしかないか。暴走する母親を娘たちが止めるってどんな状況だよ……。

 

 

「でもこれはカナちゃんと遥ちゃんにもチャンスだと思うけどなぁ~。だって親子丼だよ? 愛する人に親子丼を堪能させるなんてまずできないことでしょう?」

「親子丼? さっき夕飯を食べたばかりなのにどうしてまた?」

「遥、お前は気にしなくていい。つうかアンタ、変なことを娘に刷り込むな」

「そうだよ~。零さんは処女厨だから、私と遥ちゃんだけ美味しく頂かれちゃうんだぁ~♪」

「お前も変なこと言うな。それにお前の初物はもうねぇだろ」

 

 

 親子丼か。確かに女の子に囲まれる人生であってもその状況になったことは片手で数えるくらいしかねぇな。そもそも俺は人妻好きでもなんでもないので、むしろその状況が訪れようものなら全力で回避する。でも目の前に母親、両サイドに娘2人がいるこの状況はもう親子丼ミニサイズと言っても差し支えなさそう。まだベッドの上で裸になっていないだけマシってことだ。そもそも人妻に手を出そうとは思ってないけどさ。

 

 

「とにかく、零さんは私たちと一緒にお話しするの!」

 

 

 そう言って遥は俺を自分の身体に抱き寄せる。

 

 

「そうそう、若い人は若い人同士で濃厚な時間を過ごすんだよ~」

 

 

 今度は彼方が俺を抱き寄せる。

 

 

「もう2人占めなんてずる~い!」

 

 

 そうやって嘆く母親。

 

 そしてそんな親子に囲まれる俺。

 この状況って男として喜んでいいのかな? 彼方と遥の姉妹丼だったら喜んで飛びついてたかもな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零さんゴメンね~。疲れさせちゃったよね?」

「別にいいよ。お前の母さんに好かれてるのは驚いたけど、変な趣味を持ってる人を相手にするのは慣れてるから」

「おぉ~っ、さっすがぁ~。器が大きいご主人様で助かるよ~」

 

 

 紆余曲折あったけど、なんとか人妻から自分の貞操を守ることができた。彼方と遥があの場を宥めてなかったら俺だけではどうしようもなかったけどな。

 その後に普通に親子3人とお話した後、もう夜も更けてきたので帰宅することになり、今は玄関で彼方にお見送りをされているところだ。

 

 そういえば、せっかくコイツの家に来たんだからキスをするミッションを達成しておけばよかったかな。でも義務感でやる行為ではないし、やはりやるのであればそれなりのムードの中でするべきだ。自分の身体を守るためにはキスをしなければいけないんだけど、その事情を話して事務的にやられても困る。やっぱりキスをするなら本気の愛を感じたいからな、またの機会でいいだろう。そんな悠長なことを言ってる猶予があるかは別として、キスは女の子の気持ちを何より優先したいんだ。

 

 

「じゃあそろそろ帰るよ。また明日から練習頑張ろうな」

「あっ、ちょっと待って」

「へ? んっ!?」

 

 

 立ち去ろうとしたその時だった。彼方がこちらに駆け寄り、背伸びをする。そして彼女の顔が迫って来たと思ったら――――唇を奪われていた。

 柔らかい唇の肉厚。そこまで深いキスではないのに伝わってくる暖かさ。ふわっとした彼女の雰囲気がキスにも表れていた。ただふんわりしているとは言っても彼女から流れ込んでくる愛は本気で、俺を感じたいからか唇を押し当てる力が少し強くなっているのが分かる。

 そして何故か俺の身体が熱っぽくなる。今までキスでこんな現象に見舞われたことがないので、恐らくこれが秋葉の言っていた『キスをすると愛を受け止めるための器が広がる』という現象なのだろう。それが俺の身体で今起こっているのかもしれない。

 

 しばらくして、彼方が唇を離した。

 

 

「えへへ、どうしてもこれだけはやっておきたくって~。彼方ちゃん的にはもっと甘えたいんだけど、2人きりになれていいムードになれるタイミングが中々来なくてね~」

「いや、嬉しいよ。俺もお前と2人きりでこういうこと、したいと思ってたからさ」

「おぉ~相思相愛はいいぞ~。でも彼方ちゃんはこれだけでは満足できないよ? 大好きな零さんにもっと大好きなことをしてもらいたいんだから~」

「あぁ、いくらでも相手になってやる。でも今日はありがとな」

「ん~? どうして零さんがお礼を?」

「お前からの愛を感じられて、自分は特別な男なんだって優越感に浸ってる」

「おっ、いつもの零さんに戻ったねぇ~。だったらこれからはいつでもどこでもアプローチしちゃうからよろしくね~」

「人前であまり過激なのはやめてくれよ……」

 

 

 まさか彼方からいいムードを作ってくれるとは……。でもやはりキスは事務的にやるよりもこうやって相手の心と会話しながらやる方がいいな。そのおかげでまた彼女のことを好きになってしまった。

 いつも一緒にいる彼女だが、再度お互いの気持ちを確認できたことでより深く繋がれた気がする。残りの11人ともこういった関係になれるといいな。

 

 




 零君は拒否していましたが、私なら実際にこの親子3人にああして迫られたら二つ返事で受け入れちゃいます(笑) キャラのビジュアルがここまでいい親子3人がいるアニメなんて早々ない気がしますね。
 ただ親子丼回でありながらその要素が少なかったのが僅かに心残りです。3人バスタオル1枚で零君に迫るみたいなシチュエーションくらいすればよかった……

 そして前回で掲げられたキスするミッションを早速1人目クリアしました。前回は不意打ちで水曜日に臨時投稿したので、もしまだご覧になっていなければ前回も是非ご覧ください。
 読むのが面倒な方のために、前回掲げられたミッションの内容をまとめます。これだけ覚えていればいいですが、ぶっちゃけ覚えてなくても普通にハーレムモノとして楽しめる話にはするつもりです(笑)

《ミッション内容》
・虹ヶ咲チルドレン9人(歩夢たち初期メンバー)と恋人のようなキスをする
・栞子、ランジュ、ミアと交流を深め、惚れさせたうえでキスをする
・上記12人とキスをしないと零が女の子たちからの愛を受け止めきれなくなり、体調不良に見舞われる
・キスをすれば愛を受け止めるための器が広がり体調不良を回避できる



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

せつ菜と菜々、分離deパニック!

 

「あれ? せつ菜……じゃなくて菜々か」

「零さん、こんにちは。ご機嫌はいかがでしょうか?」

「まぁ、ぼちぼちかな」

 

 

 虹ヶ咲の校内をフラついていると、毛先を三つ編みにした如何にも優等生の雰囲気を醸し出している中川菜々と遭遇した。菜々は頭を下げて挨拶をする。

 こうして見ると雰囲気が優木せつ菜の時と全く違うな。表の顔は超ガリ勉の元生徒会長、裏の顔はスクールアイドルとして活動しているが、その顔の違いでテンションの差が雲泥なのでコイツの正体を知らなければ別人に見えてしまうのも仕方がない。それに俺がコイツと再会したときはせつ菜の方だったから、むしろ菜々の冷静沈着タイプの方が珍しく見える。いつもなら俺を見るなり速攻で大好きを伝えようとしてくるコイツだが、菜々モードのためか淡々として落ち着いていた。

 

 

「今日はスクールアイドルの練習の指導でこちらに来られたのですか?」

「そうだけど、お前知ってるだろ」

「……? 申し訳ございません、生徒会長を降りてから各同好会の動向はあまり耳にしていないもので……。それでは私、生徒会のお手伝いがありますのでこの辺りで失礼します」

「へ? 今から練習だろ? 今日は全員集合って聞いてるぞ?」

「そうですか」

「え……??」

 

 

 菜々はきょとんとした顔をしているが、その顔をしたいのは俺の方だ。まるで自分がスクールアイドルの練習に参加しないような言いっぷり。今日練習があることを忘れてるのか? しかし昨日せつ菜から『お弁当を作って来るから明日の練習で味見して欲しい』と連絡が来ていた。またメシマズの料理を食わされるのかと意気消沈していたのだが、コイツそれすらも忘れてるのか? それに例え練習だろうが人一倍やる気を出すコイツがここまで淡泊な反応……何かあったのか?

 

 結局菜々はこの場を立ち去ってしまった。自分で言うのもアレだけど、せつ菜も虹ヶ咲チルドレンの1人として俺を心酔している。なのに俺を前にしてここまで冷静にコミュニケーションを取れること自体がおかしい。まさか―――――女の子の日だから機嫌が悪いとか?? だとしたらあまり触れない方がいい話題だな……。

 

 そんな低俗なことを考えながらスクールアイドル同好会の部室へ向かう。

 

 

「零さん! 今日はお早いご到着ですね!」

「ん? せつ菜……?」

「? どうかされたのですか?」

「いやお前、着替えたのか?」

「えぇ。今日はいいお天気ですし、練習まで時間がありますが気合を入れるために着替えちゃいました!」

 

 

 練習着のせつ菜が目の前に現れた。さっき別れたばかりなのに何という早着替え。だがさっき生徒会室の手伝いに行くって言ってなかったか? 先程とは違って今度は生徒会のことを忘れ、逆にスクールアイドルの練習に精を出そうとしている。どんな心境の変化があったら短時間でここまで乖離する行動を取れるんだ……?

 

 

「お前、生徒会の手伝いはどうした?」

「生徒会……? 私はスクールアイドル一筋ですが?」

「えっ?」

「とにかく、今日は零さんが来てくださると言うことで皆さん心待ちにしています! さぁ行きましょう!」

「お、おい引っ張るなって!」

 

 

 せつ菜と菜々でキャラが全然違うのは知っていたが、キャラ変更前の性格や行動まで忘れて全くの別人になり切るような奴ではなかったはずだ。むしろ冷静沈着な元生徒会長である菜々もスクールアイドル活動には前向きだし、せつ菜の姿であってもよく生徒会の手伝いをしている。だからこそ今のコイツが菜々と全くの別人にしか見えねぇぞ……。でもそんなことあるのか?

 

 何が起こっているのか状況が分からず混乱していると、女の子が1人駆け足でこちらに駆けよって来た。確かコイツは――――

 

 

「生徒会の副会長?」

「はいっ、ご無沙汰しております!」

 

 

 女の子は俺に深々と頭を下げる。

 ストレートのロングヘアで眼鏡をかけているのが特徴で、生徒会で副会長と努めている女の子だ。前任の生徒会長である菜々の補佐も勤め上げ、更には現生徒会長の栞子のサポートもしているため秘書能力が高い。理性的な顔立ちをしており、目は切れ長、眉の優美な曲線、細く長い鼻柱、形の整った唇と、流石は選ばれし虹ヶ咲の生徒だということが分かる。見た目も雰囲気も清楚さと美麗さを感じる正統派美少女だ。

 

 

「副会長なのに廊下を走るなんて、何か急ぎの用事でもあるのか?」

「それはもう!! 零さん、もしかしなくても菜々さんたちのことで混乱しているのでは?」

「あ、あぁ、そうだけど良く分かったな。まさか何か知ってんのか?」

「原因は分からないですけど、今菜々さんとせつ菜ちゃんの間で起きている状況であれば……」

 

 

 うわぁ……また面倒事に巻き込まれるフラグがビンビンだ。ただでさえ自分の身体がピンチだって状況なのに面倒事を増やすんじゃねぇぞ全く……。

 だが困っている女の子を放っておくわけにはいかないので、仕方ないけど巻き込まれてやろう。

 

 

「簡潔に説明しますと、菜々さんとせつ菜ちゃんが2人いるのです」

「へ? 2人? 元々キャラが違い過ぎて2人みたいなものだったけど……」

「今は物理的に2人になっているのです。同じ世界に菜々さんとせつ菜ちゃんが2人共存していると言えば分かりやすいでしょうか」

「んなバカな。いやでもさっき菜々と会ったけど、今のせつ菜と言動が全く違って同一人物には見えなかったな……」

 

 

 同じ顔立ちなのは流石に隠し切れないが、それ以外は性格も雰囲気も何もかもが別人にしか見えない。そう考えると菜々とせつ菜が分離している説は頷けはする。しかしどうしたらこんな事態に陥るのか、その原因は全く分からない。いや、こんなことをする奴は世界でただ1人のような気もするけど……。

 

 疑いの目を奴に向けていると、向こうから何やら騒がしい声が聞こえてきた。

 

 

「菜々ちゃんこっちこっち!」

「引っ張らないでください高咲さん!」

「侑に……菜々!?」

「副会長さんから連絡をもらって菜々ちゃんを連れてきました。お兄さん、これで現実を思い知りましたよね?」

「ホントに2人いるのか……」

 

 

 侑が菜々を引っ張ってきたことで、この場に2人の同一人物が揃った。さっきも言った通り見た目だけだと全くの別人なので同一人物感はさらさらないが、正体を知っている人からすると目の前の光景が不気味でならない。こういうのってドッペルゲンガーって言うんじゃなかったっけ? しかも本人がそのドッペルゲンガーと出会ってはダメみたいな迷信があったような気がする。まあ今回はアイツの仕業だろうからそんな心配はいらなそうだけど。

 

 

「せつ菜さん、ご無沙汰しております」

「いえいえこちらこそ、菜々さん」

「いやお前ら同一人物だから」

「「は?」」

「お前何言ってんのみたいな顔するなよ……。つうか自分自身が相手なのに結構よそよそしいのな」

「みたいですね……」

 

 

 どうやらお互いのことは自分ではなく他人として認識しているらしい。ということは菜々はスクールアイドルとしての記憶は持ってないし、せつ菜は元生徒会長の記憶を持っていない。今は菜々とせつ菜で使い分けをしていた時のそれぞれの役割が分離しているように見える。よくもまぁこんな綺麗に真っ二つにできるものだな……。

 

 

「で? どうしてこんなことになってるんだ?」

「秋葉さん」

「あぁ、もうそれ以上言わなくていい。大体分かってた」

「菜々さんが料理室で零さんにお渡しするお菓子を作っていたのですが、理事長が用意した材料のせいなのか、味見した時にピカっと身体が光っていつの間にか2人に分離していたのです……」

「そんなことだろうと思ったよ。それで元に戻す方法は?」

「「さぁ……?」」

 

 

 まあコイツらが知るわけねぇよな。

 さて、ここからどうするか。菜々とせつ菜はお互いに相手を不思議そうに見つめている。性格が違っても元は1人の人間なので惹かれ合うところがあるのだろうか。なんにせよこのまま放っておくとお互いに単独で行動してしまうので早めに元に戻してやらなければならない。以前コイツは元生徒会長である中川菜々こそが優木せつ菜だと全生徒にバラしてしまったため、その事実が知られた今、コイツが2人別々にいる状況を見られるとパニックになるのは必然。そうなる前に何とかしてやりたいが……どうすんだ?

 

 とりあえず元に戻すにしても何か取っ掛かりがないといけない。性格が二分割されているとは言っても元は同一人物だから、何かしら共通点は残されているはず。その点が分かればそれを皮切りに行動できるのだが……。

 

 

「零さん! 先程クッキーを焼いてみたのですが、味見をしていただいてもよろしいでしょうか!!」

「なんだそのバイオレットに黒を混ぜた毒々しい色は!? つうか何故腕に抱き着く……」

「私が料理を作るといつも逃げてしまうではないですか。だからこうして腕に絡みつくことで逃走を防止しているわけです」

「そ、そうか……」

 

 

 せつ菜は自分の胸と胸の間に俺の腕を挟むようにして抱き着いてくる。コイツはあまりお色気で攻撃してくるタイプではないので、この行為は俺を逃がさんとする人間の本能に基づくものだろう。かすみよりも低い身長のくせに歩夢に匹敵するような胸の大きさの持ち主なので、これはもうロリ巨乳と言ってもいい。本人がスレンダーなことも相まって胸の大きさが一際目立つ。つうか最近みんなにおっぱい攻撃されまくっている気がする……。いや男として嬉しいけどだけどさ。

 

 

「ちょ、ちょっとせつ菜さん! 零さんにそんな羨まし――いや、そんな破廉恥なことを!」

「抱き着く行為は大好きを伝える行動として最適な方法ですから! しかも零さんがお相手ならこの身体いっぱいで愛を伝えて当然ですっ!」

「そんな理由で……うぅ~~っ!! 零さん、失礼します!!」

「えっ!?」

「「えぇっ!?」」

 

 

 なんと菜々も俺の腕に絡みついてきた。明らかにこんなことをする性格ではないのにいきなり大胆になるなんて何があった?? 侑と副会長も菜々のいきなりの暴挙に目を丸くして驚いている。

 ちなみに菜々も当然だがせつ菜と同じカラダ付きなので胸の大きさも当然同じ。そしてその豊満な胸を形が変わるくらい俺に押し付けて抱き着いている。さっき破廉恥って言ってたけどお前のカラダも相当だぞと言ってやりたい。言わないけど。

 

 

「こ、これはせつ菜さんの色香に零さんが惑わされないように対抗しているだけであって、決していかがわしい意味ではないですから!!」

「言ってることめちゃくちゃだぞお前……」

「つまり、菜々さんは抱き着くことで自分の良さをアピールしようとしている、ということでしょうか? そうであれば私も負けません!!」

「お、おいっ、何争ってんだ!? てか抱き着き過ぎだ!!」

「こ、これは元生徒会長として零さんに抱き着く居心地の良さをリサーチしているだけで、別に好きとかそういう感情ではありません!!」

「その割には顔が真っ赤っかだよ、菜々ちゃん……」

「ふえぇっ!?」

「せつ菜ちゃんに笑顔で抱き着かれてるの羨ましぃいいいいいいいいいいいいい!!」

「騒がしくなること言うなよ助けろよ……」

 

 

 せつ菜は大好きを伝える勝負だと思って闘志を燃やしてるし、菜々はそれらしい理由を垂れるも対抗心が剥き出しだし、副会長はその光景を見て羨ましがってるし、コイツら3人みんな優等生なクセして頭のネジが吹っ飛んでやがる。2人の抱き着き攻撃も更に激しさを増し、引っ付かれ過ぎてもはやコイツらが俺の腕かのように一体化していた。侑も『あぁ、またいつものが始まったよ』的な表情で呆れて助け舟すら出さないしで、相も変わらず俺の周りは騒がしいな……。

 

 

「性格も完全に別になってるのに、お兄さんへの愛だけはお互いに持ってるみたいだね」

「もしかしたら、そこにお二人を元に戻すヒントがあるのかもしれません」

「私もそう思うんだけど、当の本人たちがあの調子だからお兄さんも困ってるみたい……」

 

「男性に簡単にカラダを許すようなその抱き着き方、元生徒会長として見過ごせません!!」

「菜々さんだって私と同じように抱き着いているではありませんか!!」

「こ、これは零さんを少しでも守ろうと大きく密着しているだけで、邪な気持ちは一切ありません!!」

 

 

 どっちもどっちだよ……。

 でもこれは参ったな。性格が真逆のせいで同一人物なのにも関わらずそりが合わない。これも別人になるよう性格を分断されたが故なのか。そう考えるとなおさらコイツらが共通して持っているもの、つまり俺への愛を利用してどうにかこうにかするしかない。それが思い浮かべば話は楽なんだけど何をすればいいのやら……。

 

 

「これはもしかしてハーレム漫画やアニメでよく見る修羅場という展開では!? くぅううううううううううっ!! こんな光景が生で見られるなんて最高です零さん! しかも侍らせている相手が私の大好きな元会長の菜々さんとスクールアイドルのせつ菜ちゃんというのがまた興奮します!!」

「副会長さん……? もしかしてもしかしなくてもこの状況を楽しんでる……?」

「高咲さんはハーレムモノは苦手な感じですか? この学園にいるのにハーレム嫌いだなんて不思議ですね」

「やめてよその意外そうな顔! そもそもハーレムなんて好きな人の方が少ないでしょ!? それに誰が好きの好んでお兄さんなんかの……」

「零さんのこと嫌いなのですか?」

「来たよまたその質問……。嫌いじゃないよ」

「あれれ~? 顔赤いですよ~?」

「も~っ、うるさい!!」

 

 

 何やってんだアイツら……。そんなくだらないことを話してないでこっちを何とかして欲しいんだけど……。

 つうか副会長って意外と遊び心があるいいキャラしてるよな。生徒会役員ってどうしてもお堅いイメージがあって菜々はまさにその通りなんだけど、副会長はスクールアイドルにドハマりしてせつ菜の大ファンになるくらいだし、見た目のガリ勉クールな雰囲気とは全く異なる。まあせつ菜の名前を背中に刺繍した法被(はっぴ)を自作したり、それを着て合同文化祭の案内役を勤めていたのでちょっと頭のネジぶっ飛んでるけどな……。

 

 

「おい、いいからこの2人を元に戻す方法を考えろ」

「それに関しては抜かりありません。もうすぐ到着すると思うので」

「到着? なにが?」

「あっ、来たみたいですよ!」

 

 

 副会長が目を向けた方を見てみると、見た目と容姿が全く同じ、緑色の髪を2本の三つ編みにし、眼鏡をかけた少女2人組の女の子がこちらに駆け寄って来ていた。

 そしてその2人は俺の顔を見るなり、揃って頭を下げて挨拶をする。生徒会は礼儀正しいな。

 

 

「「零さん、ご無沙汰しております」」

「お前ら――――右月と左月か」

「「はいっ!」」

 

 

 生徒会の書記を担当する2人。佐藤右月(うづき)左月(さつき)は見た目瓜二つの双子だ。緑髪の三つ編み眼鏡という特徴まで一致してしまっているため、唯一異なる特徴である前髪で判断するしかないためややこしい。本人から見て右に跳ねているのが左月、前髪が左に跳ねているのが右月。ぶっちゃけ名前と髪の流れが逆なのでややこしさに拍車がかかってる気もするが……。

 

 

「どうしてお前らがここに?」

「副会長に頼まれて、菜々さんとせつ菜さんの秘蔵コレクションを拝借して持ってきました」

「これでお二人が持つ零さんの愛をより一層増幅させることができるので、元に戻すヒントになれば良いかと」

「副会長さんいつの間にそんなことを? 私を煽ってただけじゃなかったんだね……」

「少し前にこっそり書記ちゃんたちに連絡を。ま、これでも菜々さんや栞子さんを2年連続でサポートする副会長ですから!」

「で? お前の作戦って?」

「お二人の愛の力を増幅させれば、お互いの零さん好き好きパワーが共鳴して元に戻るかもしれません」

「いや意味不明だからその理論。采配は完璧だと思うけどさ……」

 

 

 いるんだよな、普段はポンコツそうに見えていざという時に本領を発揮する奴。生徒会長をサポートし続けてきたその事務能力は伊達じゃなかったってことか。

 そうやって有能風を吹かせている副会長を他所に、菜々とせつ菜は何やら震えていた。

 

 

「ダメです零さん! それを見ては!!」

「そ、そうですプライバシーの侵害です!!」

「ほぅ、それだけ焦るってことは効果ありそうだな……」

「「ギクッ!!」」

 

 

 いくら性格が分断されようが、中川菜々と優木せつ菜は所詮同一人物だから根底に眠る欲望までは二分できない。つまりコイツらが羞恥心を感じているということは、それは羞恥的な何かを感じていると言うことに他ならない。生徒会としてもスクールアイドルとしてもステージに立つこと、大勢に注目されることに対しては鋼メンタルを持つコイツだが、羞恥心を煽られることだけは絶望的。性格が二分されようが心にこびり付くその性格だけは決してどちらからも消えることがないんだ。

 

 右月と左月からアルバムのようなものを受け取って中を見てみる。侑と副会長も興味津々でアルバムを覗いた。

 そこには――――見事に俺の写真しかなかった。部室や中庭で昼寝をしている写真、飯を食っているところの写真、校内の掃除を手伝っている時の写真、それ以外にもただ誰かと喋っている姿を撮影した写真など日常的なものが何枚も、俺の写真集でも発売するのかってレベルでアルバムが埋まっていた。

 

 

「おい、これどういうことだよ……」

「ち、違いますっ!! これは零さんが学校に来られない日とか、休日で会えない時にこっそり零さん分を補給しようとするためのモノであって、ストーカーとかそういうのではないです!!」

「そうですっ!! それがあればずっと零さんの隣にいられるのです!! 愛する人の傍にずっといたいと言うのは恋人としての常であり、それを批判するのは『愛』というものの定義に喧嘩を売るようなものですよ!!」

「言ってることめちゃくちゃだねせつ菜ちゃん……」

「歩夢たちの中では比較的まともだと思ってたけど、ちゃんと薄汚れた欲望があってどっちかって言うと安心したよ」

「お兄さん驚かないんですね……」

「あぁ、これのくらいは普通だ」

 

 

 女の子に囲まれる生活も長いし、女の子の数も多いからこうやって異様な愛を向けてくる子はたくさんいる。歩夢たちだってそうだから菜々とせつ菜が隠し撮りをしていたところで別に驚くことではない。この世にはもっと欲深い奴がゴロゴロいるからな……。そう思うとこんなことくらい可愛いものだ。

 

 そしてなにより、これがコイツらを元に戻す鍵となる。

 

 

「2人共、俺の写真を集めるくらい俺のことが好きってことだろ?」

「それはまぁ……」

「もちろんですっ!」

「だったらむしろ嬉しいよ。こんなことをするくらい俺の隣にいたいってことだろ? 男としては女の子に求められるのは悪くないどころか、舞い上がっちまうくらい嬉しいことだしな」

「「うぅ……」」

 

「菜々さんとせつ菜さん、一瞬で顔が赤くなりましたね」

「零さんの大人の対応、凄いです」

「隠し撮りされていると言うのに……。まさに手練れって感じですね……」

「色んな女の子の裏側を見て慣れてるから、お兄さんは」

 

 

 俺の周りには変な女の子ばかり集まるから、こんなことでいちいち驚いていられない。そんなことをしている暇があったら女の子の偏屈趣味ですら受け入れてしまった方がいいだろう。あまりにも変態的なのは流石に無理だが、写真を収集している程度であれば全然受け入れられる。つうか想像してみて欲しい。気になる男子の写真を集めてる女の子って可愛くないか? しかもその対象が自分なら。特に菜々やせつ菜のように自分の大好きを表に出すような全力投球ガールが、実は恋にちょっと奥手で裏でこっそり愛を向けている様子とか可愛らしい。まさに今の状況そのものだ。

 

 

「零さんが好きで好きで大好きだからです! 好きだから写真をこっそり撮ってしまうのも仕方のないことです!」

「開き直ったなオイ……。まあでも――――好きだよ、俺も」

「それはせつ菜さんのことでしょうか? それとも私……?」

「どっちもだよ。お前らは本来2人で1人。いや元々同一人物だから2人って言い方もおかしいけどな。俺は菜々モードのお前も、せつ菜モードのお前も好きだ」

「そ、それでしたらその……愛を確かめるためにキス、してくれませんか?」

「そう、ですね……。お願いします」

「「「「ええっ!?!?」」」」

 

 

 生徒会組と侑が声を上げる。そりゃ目の前でキスシーンを見せられることなんて生きてる中でないからな……。

 せつ菜も菜々は本気だ。頬を紅潮させているものの、俺を見つめる瞳に強い意志を感じる。せつ菜はキスとかエッチとか男との情事には弱い面があるから、そんな彼女からキスを求めてきているってことは相当な本気度が見て取れる。女の子にここまで決意させたのなら男がそれに応えないわけにはいかないよな。

 

 

「いいよ。来てくれ、2人同時に」

「2人で?」

「いいのですか?」

「あぁ」

 

 

 せつ菜と菜々はお互いに顔を見合わせると、同時に俺のもとに寄って来る。そして2人で背伸びをして俺に唇を添わせた。

 2人同時という圧力はあるがキス自体はソフトだ。2人からの愛をゆっくりと受け入れて、そしてこちらからも2人に押し付ける。愛する人にただならぬ情熱を持っているのは菜々とせつ菜らしく、それは性格を二分しようが変わることがない。2人からの甘く熱い愛情を感じながらもこちらからも2人を抱き寄せて愛を伝えてやった。

 

 それにキスをした、ということは彼方の時と同様に俺の身体にも変化があり、またしても身体の芯から熱くなってきた。愛を受け入れる器がまた広がったのだろう。図らずも秋葉からのミッションをまた1つ達成した。

 

 そして、突然2人の身体が光る。

 あまりの眩しさに俺たちは目を瞑るも、次に目を開けたときには――――

 

 

「えっ、せつ菜ちゃんが元に戻ってる!?」

 

 

 せつ菜が1人となっていた。制服ではなくスクールアイドルの練習着なので菜々がせつ菜の方に吸収されたのか。せつ菜側の見た目は何も変わっていないのでぱっと見では元に戻ったのか分からないけど……。

 

 

「せつ菜ちゃん? 本当にせつ菜ちゃんだよね!?」

「副会長さん……。えぇ、いつものせつ菜ですっ!!」

「それではいつも優しいあの菜々さんは……?」

「元会長の菜々もいらっしゃいますか?」

「右月さん、左月さん……もちろん―――――この通り!」

「「菜々さんの髪型だ!」」

 

 

 せつ菜は自分の髪の先っぽを一瞬で三つ編みにして菜々モードに切り替える。それも何気に凄い芸当だけどな……。

 そんなわけで無事に1人の人間に戻れたようだ。ぶっちゃけると菜々とせつ菜を両方同時に見られるのは珍しくもあったし、性格真逆の2人が会話をしている光景とか面白くてあれはあれでもっと眺めていたくはあったな。

 

 

「零さんもご迷惑をおかけしました。申し訳ございません」

「いや、いいよ。お前がどれだけ俺のことを好きでいてくれているのか分かったし、嬉しかったからさ。写真まで撮られているとは思わなかったけど」

「その写真は自分の欲求不満の解消用と言いますか……。とにかく、これからは菜々とせつ菜、1人で2人分の愛をこれでもかってくらいに伝えていくので覚悟してくださいね♪」

「あぁ、楽しみにしてるよ」

 

 

 やっぱりせつ菜の全力投球も、菜々のクールな純粋さもどちらも好きだ。どちらにせよ愛をストレートに伝えてくる直球さは変わらず、それを真っ向から受け入れてお互いの愛を感じられる瞬間に多幸感がある。

 

 秋葉から課されたキスをしなければならないミッションはあるものの、こうしてせつ菜たちとの絆と愛を確かめられるのであればそれも悪くない。むしろたまにはこうしてキスをしてこっちからも愛を伝えてあげたい、と思った。いつも女の子から貰ってばかりだから、こっちからもお返ししてやらないとな。

 

 




 今回は菜々にもスポットを当てたせつ菜の回でした!
 せつ菜は正統派ヒロインという感じで、私はラブライブキャラの中でもトップクラスに好きなキャラだったりします。なので今回は思い切って2人を同時に登場させてみたのですが、そのせいでいつもとは話の雰囲気が全然違って違和感ありまくりだったと思います(笑)

 そして何気に生徒会メンバーが全員集合しました。モブキャラの副会長さんも双子の書記ちゃんたちもビジュアルはいいのでいつか登場させようと思っていたのですが、今回のタイミングがバッチリで、更に各々しっかり活躍させられて満足です!
 ちなみに書記の右月と左月はアニメでは名前なしだったのですが、スクスタのストーリーでは名前付きで登場しているのでよろしければ検索してみてください!
 副会長に至っては名前を付けて欲しいくらいアニメでキャラが立っていたので、この小説でオリジナル名を追加するか悩むくらいでした(笑)



 最後にしれっとキスをするミッションが進んで、残り10人になりました。テンポよく毎回別の女の子とキスをする、そう思うと零君のリア充っぷりが半端ない……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嫉妬相手は美里おねーちゃん!?

「おい愛、そろそろ待ち合わせの相手を教えてくれてもいいんじゃねぇか?」

「ダメダメ! 実際に会ってもらうまで秘密なの!」

 

 

 そんなわけで、今日は愛に誘われて2人きりのデート――――と思ったのだがそうではないらしく、どうやら他の女性を連れてきて一緒に遊びたいらしい。名前も顔も知らない見ず知らずの男女を引き合わせるなんて中々に酷な事をするが、愛の友達とあればいい奴なのだろう。相手から見て俺がいい男と判定されるのかは別として……。

 

 ちなみに今日の愛はいつもよりテンションの上がり方が凄い。同好会のみならず虹ヶ咲のムードメーカーとなっている彼女だが、今日だけは子供っぽい無邪気さが感じられる。友達ってよりかは大好きな家族を待っているかのような雰囲気だ。

 時折コイツとの会話で登場していた『おねーちゃん』なる人物だろうか。愛がその『おねーちゃん』の話をする時は、いつも決まって精神年齢が一回り下がって子供のようにはしゃぐ。コイツに実の姉妹はいなかったはずなので恐らく親戚か幼馴染のような近しい人物なんだろうが、愛がその『おねーちゃん』を心底慕っているのは知っている。俺をお出かけに誘ってきたときから笑みを浮かべて嬉しそうにしていたので、噂の『おねーちゃん』が来ることはほぼ確定だろう。

 

 

「あっ、おねーちゃんだ! おーいっ、こっちこっちーっ!!」

「もう愛ちゃんったら。そんなに声を上げなくても分かるわよ」

 

 

 どうやら来たらしいな。

 大学生くらいの女性。おでこの中央で分けたブロンズヘアー。その髪の先をゴムでまとめて肩にかけている。顔立ちは整っており、垂れ眉と垂れ目の特徴から穏やかで物静かな雰囲気だ。その優しそうな見た目からどことなく主婦っぽさも感じる。おとなしそうな女性だけどぱっと見でスタイルは良く、物静かな雰囲気とは裏腹に大人の魅力がある女性だということを一目で実感した。

 

 相変わらず女性を変な目で見ることだけは長けてるよな俺。でもこうして初見の女性の特徴を簡単に言葉で表せるなんて、まるで会ったことがあるような――――って、えっ!?

 

 

「お前、美里……?」

「えっ、零君!?」

 

 

 俺は愛の『おねーちゃん』に見覚えがあった。向こうも俺の顔を見るなり手を口に当てて驚いた。

 

 

「なになに!? 零さんとおねーちゃんって知り合いなの!?」

「あぁ、同じ大学なんだよ。1年生の頃から取る講義が結構被ってて、顔を合わせているうちに話すようになったんだ」

「でも驚いたわ。まさか愛ちゃんがよく話してくれる『おにーちゃんみたいな人』があなただったなんて」

「いや俺も『おねーちゃん』の正体がお前だとは思わなかったよ」

 

 

 愛が美里のことを話す時は決まって『おねーちゃん』呼び、そして虹ヶ咲関係者以外に俺のことを話す時は『おにーさん』呼びらしい。そりゃお互いに代名詞でしか存在を知らないから気付かねぇわな。

 

 さっきも言った通り川本美里とは同じ大学で同じ学年であり、しかも同じ講義を取っていることが多かったから自然と話す仲となった。話す中でスクールアイドルの話題を良く出していたので身内にそんな奴がいるのは知っていたけど、まさかそのスクールアイドルが愛とは思わなかったぞ。世界は広いのか狭いのか分かんねぇな……。

 

 

「でもおねーちゃんも水臭いな~。零さんみたいなイケメンが友達なら私に自慢してくれても良かったのに。それだったらおねーちゃんの話からその人は零さんだって分かったよ、絶対に」

「別に話すことでもねぇだろ。大学で会って話すだけで、特別な関係でもねぇんだから。なぁ美里?」

「そ、そうね……。でも病院にお見舞いに来てくれるのはとても嬉しいわ」

「へ? お見舞い……?」

 

 

 また愛が目を丸くして驚く。彼女はいつものイケイケなノリをしているが、今日は俺と美里の意外な関係が暴露されるたびに素に戻ってしまっていた。

 ちなみに病院へお見舞いに行っているってのは本当の話だ。美里は生まれつき身体が弱く、時折身体の不調が祟って入院を繰り返している。そのせいで大学の講義も病欠で休むときがあり、その情報を聞きつけた際にはコイツの見舞いに行っているんだ。

 

 でもただそれだけ。友達として心配しているだけだから、別に特別なことはないと思うけど……。

 

 

「零君は私が入院すると毎回お見舞いに来てくれて、いつも私の身体を気遣ってくれるの。穂乃果ちゃんたちみたいな恋人でも、深い縁で繋がった親友でもない私にいつも笑顔をくれて、励ましてくれて、そんな彼に私は救われてる。それに退院をするといつも安心してくれて、おかえりって言ってくれて、いつも心をぽかぽかさせてくれるのよ」

「だから普通のことだって。そりゃ入院したって聞いたら心配するだろ。退院したら暖かく迎え入れるだろ」

「零さんってそういうことあるよねー。いつもは肉食系で俺様系なのに、そういった些細な優しさを持ってるからズルいんだよ」

「そうそう。忙しいだろうから毎回来なくてもいいって言ってるのに、絶対に顔を出してくれるのよね。そういうところがモテるのかな?」

「俺様系がたまに見せる一途な優しさっていうギャップ? 多分そういうのが女性に受けるんだよ! 男らしい俺様系と紳士的な優しさの抑揚で女の子の恋心を揺さぶって、いつの間にか心をガッチリ掴まれちゃうんだよね~」

「うふふ、そうかも♪ 無意識なのがまたズルいのよね」

「なにこの羞恥プレイ……」

 

 

 本人がいる前でソイツのモテる要素談義をするな……。流石の俺でも恥ずかしくなってくる。別に誰かに感謝されたいとか、褒められたいとか思っておらず、美里のお見舞いに行くのもただの自己満足なんだよ。入院してるって聞いて無視するのも悪いと思ってるだけなんだから。

 

 

「それにしても零さんとおねーちゃんって仲良くない? ただの知り合いならまだしも、そこまで仲良くなってたなんて愛さん知らなかったなぁ~」

 

 

 愛は口を尖らせる。もしかしてコイツ――――嫉妬してる? 美里の前だと子供っぽくなるとは言ったが、不満そうにしている顔を見ると余計にそう思えてしまう。まあ自分が姉のように慕っている女性と心酔レベルで恋をしている男が裏で勝手に繋がっていたのだから、そりゃ嫉妬して当然と言えば当然だ。愛は俺たちのことがどちらも大好きだからこそ、俺と美里の関係を知らされていなかったことに不満があるのかもしれない。だがそうは言っても俺だって美里と愛が繋がっているって知らなかったからどうしようもないんだけどさ……。

 

 

「零君とは顔を合わせたときにお話しするくらいの仲なだけだから……」

「それっ!! 名前!! お互いに名前呼びしてるよね!?」

「愛ちゃんだって色んな人とすぐ仲良くなって名前呼びするよね……?」

「零さんはね、そう簡単に相手を名前呼びしないの。名前呼びされるってことは、それだけ親密度が高いってことなんだよ!」

 

 

 愛の言っていることは間違いではない。身近に仲のいい女の子ばかり集まっているので名前呼びがデフォみたいになってるが、基本は相手が男だろうが女だろうが苗字呼びだ。呼ぶ相手が姉妹持ちの場合は分かりづらいから最初から名前で呼ぶこともあるが、それ以外はいきなり名前で呼ぶほど距離を詰めようとは思わない。そう考えると美里との関係はどうなのって話だが、大学でよく会話する、病院へよくお見舞いへ行く、おかえりの祝いをしてあげる、そして連絡先を知っている――――うん、普通に友達として名前呼びしてもいい関係なんじゃねぇか?

 

 

「ほら、おねーちゃん! 顔真っ赤だよ! おねーちゃん、もしかして零さんのこと……」

「ち、違うの! 今日は暑いからよ! 冬なのにこんなにも暑いなんてまるで暖冬ね……」

 

 

 愛はジト目で美里を見つめる。美里はいい意味で純粋、悪い意味で単純だから嘘をつくのは下手だ。だから人狼ゲームでも真っ先にボロが出るタイプ。そんな奴の嘘をコミュ力最強の愛が見抜けないわけがなく、もうバレバレのようだ。

 

 

「つうかどこか遊びに行くならそろそろ行かねぇか? 立ち話で時間を使いすぎだろ」

「むぅ~私はまだ聞きたいことがたくさんあるのに……」

「まあまあ愛ちゃん、遊びながらでも話せるから……ね?」

「そうそう」

「2人が息ピッタリに宥めてくる!? 相性いいじゃん2人共!!」

 

 

 うるさい奴だなさっきから。これも嫉妬心が多少なりとも存在しているからだろうか。今日の愛はいつもより一回りも二回りも幼く見えて可愛いな。

 

 そんなわけで俺たち3人の奇妙な関係性が判明した。愛はずっと不平そうだけど、遊びで身体を動かせばすぐ元に戻るだろ。多分……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 やって来たのはボーリング場。女性陣2人はお出かけする時によく来るらしく、身体が弱い美里もこれだけは好きなようだ。俺はと言うと、ぶっちゃけ最後に来たのがいつなのか覚えていなくらい久しぶりだ。ボーリングと言えばレジャー施設の代名詞だけど、そういやデートで全然来たことなかったな。

 

 

「愛の奴、相変わらずなんでもできるんだな。ここまでストライクとスペアしか取ってねぇぞ」

「でも零君の方がストライク多めじゃない? 得点だったら愛ちゃんを抜いて1位だし」

「まあ玉を投げるだけだから簡単だろ。投球フォームってやつ? は全然知らないからさっき少し調べただけだけど」

「綺麗なフォームだったと思うわ。思わず見惚れちゃうくらい……」

「そういうお前もいいフォームだったよ。それこそ俺も目で追ってしまったくらいだ」

「そ、そう? うふふ、ありがとう♪」

 

「あ~またイチャイチャしてる!!」

 

「し、してないわよ!!」

 

 

 愛はまたぷりぷりと怒り頬を膨らませている。それに対し美里も頬を赤らめながら俺との関係性を否定するが、少しニヤけてしまっているので全く説得力がない。しかもその反応は余計に愛の嫉妬心を増幅させるだけのような気もするぞ。

 

 

「別に普通の世間話だ。このくらいの話、お前とだっていつもしてるだろ」

「そりゃそうなんだけどさぁ……」

「お前そんなメンタル弱かったっけ?」

「愛さんだって分かんないよ。あ~~もうっ! こうなったら腹いせに、2人に大差をつけて勝っちゃうからね!!」

「間接的に俺たちに八つ当たりすんなよ……」

 

 

 とは言ったものの、心が乱れている&我武者羅なやる気ではいくら天才肌のコイツでも実力を発揮できず、結局ボーリングは俺の大差勝ちだった。そのせいでまた愛が頬を膨らませていたが、流石にそれは俺関係ねぇよな……??

 

 ボーリングが終わった後も色々なところへ遊びに行った。

 ゲームセンターでは――――

 

 

「このクレーンゲームのお人形、前から欲しかったのだけど取れなくて……。今日も何回かやったけど取れそうにないわね……」

「じゃあ俺がやってるよ。この前ちょっとだけやったからコツは知ってるからさ」

「えっ、あの……手が」

「へ? 一緒に操作してやるって言ってんだ」

「またイチャイチャしてる……」

 

 

 美里がボタンに手を置いてたから、俺もその上から置いただけだ。教えてやるって言ってんだから手を握って一緒に操作するのが普通じゃないのか??

 

 そして喫茶店では――――

 

 

「零君が頼んだそのチョコケーキ、美味しそう」

「じゃあ少しやるよ。お前はもっと食って体力を付けた方がいい」

「カロリーを渡されても……。えっ、今フォーク……。これだと間接キスになっちゃう……!!」

「またイチャイチャしてる!!」

 

 

 ただフォークで少し切り分けてやっただけだろ。それなのに間接キスやらイチャイチャやらで騒ぐなんて、れだけウブなんだよ少女漫画じゃねぇんだから。

 

 そしてたまたま通りかかったところにあった、ウサギのふれあい体験コーナーに参加したのだが――――

 

 

「その抱いているウサギ、とても零君に懐いているわね。女の子からだけでなく動物の女の子にまで好かれるなんて……」

「やめろやめろ獣の趣味はない。それにコイツが人懐っこいだけだから。ほら、お前も抱いてみろ」

「えぇ……。あっ、この子ってば私の腕の中でも気持ちよさそうにしてる。本当に人懐っこいのね」

「お前暖かそうだもんな、雰囲気的に。そうやって包み込まれると気持ちよくなっちまうのは仕方ないと思うぞ」

「そ、そう? だったら零君も……」

「じぃ~……」

「なんだよ?」

「またイチャイチャしてる!! しかも今度は子持ちの夫婦みたい!!」

「そ、そんな零君と夫婦だなんて……!!」

 

 

 そう言ってる割にはちょっと嬉しそうなのは何故なのか……。いや何となく分かるけど……。

 そして愛はまたぷりぷりと怒っている。俺が美里ばかり構っているかのように見えるけど、ボーリングでは愛に強請られて2人で1つのボールを投げる謎の共同作業をやったし、喫茶店では物惜しそうな眼をしていたからこっちから『あ~ん』してやったし、さっきもウサギを抱えたコイツとツーショットを撮った。だから美里以上に絡んでいるはずなのだが、どうしてここまでツッコミを入れて来るんだよ……。

 

 だが頬を膨らませているのは俺たちの前だけであり、ウサギや他の人と接しているときはいつもの明るい雰囲気だ。その太陽のような明るさは無意識に周りを引き込み、スクールアイドルとして有名なのも相まっていつの間にかファンの人だかりができていた。しかもその大勢1人1人と握手をしたりサインをしたりと、面倒だからと無下にせずしっかり応対しているのも凄い。普段から部室等のエースとして各種方面で活躍しているので、こうして大勢から声をかけられることにも慣れているのだろう。人気者って言葉がここまで似合う奴も中々いないな。

 

 

「愛ちゃんって本当に色んな人から愛されているわね」

「そうだな。ま、ガキっぽいところも結構あるけど。俺たちに嫉妬してたりとかな」

「嫉妬? まさか私にあなたを取られたと思っているのかしら」

「いや、お互いにだよ。俺にお前を取られたとも思ってんだろ。だからいつもとは違ってガキっぽいんだ。大好きな兄と姉にそれぞれ彼女彼氏ができた、みたいな感覚だ」

「そんな愛ちゃん初めて見たかも……」

「それだけ好きなんだよ、俺のこともお前のこともな」

 

 

 最初は『大好きな男と大好きなお姉ちゃんを私が引き合わせてやったぜ! 3人で仲良く一緒にお出かけ!』みたいなノリを期待していたのだろうが、実は俺たちが裏で繋がっていて、しかもそこそこ仲が良かったため拍子抜けだったのだろう。自分が先導するはずだったのに知らない間に好きな人同士が繋がっていてなんだか気に食わない、的な?

 

 

「そっか、愛ちゃんも可愛いところあるわね。でもサプライズを無駄にさせちゃったのは申し訳なかったかな」

「別に俺たちのせいじゃねぇだろ。大丈夫、後でフォローしておくよ」

「ふふっ、そういうところが紳士的ね。だから私もあなたのことが……」

「あっ、もうふれあいの時間も終わりか。ほらウサギ、向こうで遊んで来い。お前も行くぞ」

「え、えぇ。愛ちゃんのこと、よろしくね」

「あぁ、分かってるよ」

 

 

 これでも女心に対して少しは敏感になってるつもりだから、アフターケアはしっかりやってやるさ。心にモヤモヤを抱えさせたまま女の子と別れるわけにはいかないからな。

 ちなみにさっき美里が言いかけたことは……うん、これもまたフォローしておこう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして、いつの間にか夕方になっていた。天気がいいためか夕暮れの朱色が際立っている。

 美里とは別れて帰路につく俺と愛。愛は体力お化けだから、今日みたいに1日中遊び尽くしたとしても疲れる様子は一切ない。むしろ帰宅時の方が楽しさの余韻が故なのかテンションが高いことが多く、それは過去の俺とのデートではいつもそうだった。

 

 だけど、今日は別人かのように静かだ。隣を歩く愛はたまに俺をちらちらと見るだけで、全く口を開こうとしない。やはり心の曇りがまだ取れていないのだろう。いつも元気ハツラツな奴がここまでおとなしいとこっちも調子狂うな……。

 

 

「今日は悪かったな」

「えっ、どうして零さんが謝るの? こっちが空気重くしちゃってたのに……」

「重くはなってねぇけどな。美里も今日は楽しかったって言ってたぞ。それにだ、大切な彼女を曇らせるなんて、そんなの男の責任だろ」

「やっぱりそういう紳士的なところがズルいよ……」

「ま、嫉妬に燃えるお前の反応が可愛くて見てるのも楽しかったから、責任とは言いつつ後悔はしてねぇけどな」

「ちょっ!? あんなのが可愛いって零さん趣味悪すぎっ!!」

 

 

 女の子が赤面して戸惑う姿に嗜虐心を感じない男はいないだろ。気になる女の子をイジめたいと思う小学生男子並みの幼稚な考えだが、それも自分の欲求不満を解消するいい手段かもしれない。なんたって肉食系だからな、女の子の困っている姿を見ると心が高鳴るんだよ。可愛らしいとも思うし、守ってやりたいという保護欲も生まれる。あぁ、こんな性格だから趣味が悪いって言われたのか……。

 

 

「今日のお前は普段と違って子供っぽくて可愛かったぞ。部室棟のヒーローと呼ばれてみんなに尊敬されるお前が、実は嫉妬でガキみたいに頬を膨らませているところとか、昔の言葉で言うギャップ萌えって奴だな」

「ちょっ、ちょっ!! 解説しなくていいから! 超恥ずいんですけど!!」

「ベッドの上ではイタズラな笑顔を見せて余裕そうなのに、年相応の女の子みたいに可愛く不貞腐れることもあるんだなって」

「だからやめてぇえええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 もう耳の先端まで真っ赤になって手で顔を覆う愛。

 そもそも恥ずかしがる行為自体がコイツにとって珍しいことだ。容姿を褒められた時も『イケてるでしょ?』と冗談交じりながらも自分を下に見ることはない奴なので、こうして『可愛い』ところを列挙されただけで羞恥心を感じることはあまりなかったりする。流石にベッドなどで俺と()()()()()()()()の時は恥ずかしがったりはするものの、それでも俺のご主人様気質の心を性的に刺激するような言葉を巧みに放ってこちらをヤる気にさせるなど、常に余裕はある奴なのだ。だからこそこういった反応が珍しかったりする。

 

 

「今日はいつもとは違うお前を見られて良かったよ。嫉妬させたのは悪かったけどさ」

「愛さんとしてはあまり見られたくないんだけどなぁ……」

「エロく荒れ狂ってる姿は見られても大丈夫なのに?」

「それはそれ! これはこれだよ! もうっ、今日はずっと零さんにしてやられてる……」

 

 

 そっちが勝手に嫉妬に溺れただけであって、俺から何かしたわけじゃないけどな。

 そしてまた少し不貞腐れる愛。全く、面倒なギャル系お姫様だこと。

 

 

「どうしたら許してくれるんだ?」

「キス……」

「へ?」

「超超ちょー情熱的なキスをして、愛さんを愛してるって感じさせてくれれば許してあげる! 愛だけにね!」

「本気かよ。ここで……?」

 

 

 俺たちが歩いているのは普通に街中だけど、まさかここでしろって言ってんじゃねぇだろうな……? 美少女の彼女を誰かに見せつけたい欲がないわけではないけど、流石に人の往来の場でキスはハードルが高すぎる。まさかこれが嫉妬をさせてしまったが故の罰? つうかそんなシチュエーション、お前も恥ずかしいだろ……。

 

 と思っていた矢先、愛が俺の手を引いて道の外れへと向かう。そこは建物や木々でちょうど人が往来する場所から死角となっている場所であり、まるでここだけ時が止まっているかのように静かなだ。

 木々の影になっているせいか夕日の照り付けも阻害されているような場所。ただそんな中でも愛の頬が朱色にじんわりと染まっているのが分かった。

 

 

「ここでするのか……?」

「うん。感じたいの。私は零さんのモノだって。もう嫉妬すら起こらないくらい、零さんのモノだってキスで教え込んで欲しい……」

「分かった。行くぞ」

「うん――――んっ」

 

 

 俺は愛の唇に自分の唇を添わせた。教え込んで欲しいとは言われたが力を入れたキスは好みではない。だが彼女の願いを汲み取るため、少し吸い付きは強めの熱い口づけをした。彼女も俺を求めるように俺の首に腕を回して、背伸びをしてこちらに唇を押し付ける。彼女の体温の香りも味も、そして愛も全て唇から流れ込んで来た。もう全身も心も彼女と一体化しているようで、それは向こうも同じ気持ちだろう。俺に抱き着く力も次第に強くなっていった。

 

 しばらくして、愛が俺から離れる。未だ余韻に浸っているのか恍惚とした表情で、キスの濃厚さから少し唾液が垂れそうなのが艶めかしい。

 そして俺はキスをしたことでみんなの愛情を受け止める器がまた広がったようだ。そのせいで例のごとく身体が凄く熱いけど……。

 

 

「えへへ、なんかこんなロマンティックなキスは久しぶりな気がするよ。いつもはベッドの上とかでエッチな気分でやってたから」

「あぁ、そうだな。これで気分は晴れたか?」

「うんっ! 零さんは愛さんを愛してくれてるんだなぁ~って実感したからね!」

「当たり前だろそんなこと」

 

 

 愛にいつもの笑顔が戻った。今日この顔を見るのは俺と美里が顔を合わせる前だから随分と長かったな。やっぱりコイツは明るい笑顔がお似合いで、俺もその笑顔が大好きだ。

 

 

「さっきのキスでまた愛さんが零さんのモノだって分からされちゃったなぁ~。あっ、だとしたらこれから愛さんが嫉妬してたら『また嫉妬してるのか? だったらキスで分からせてやるよ』って威圧すれば完璧じゃない? そっちの方が肉食系の零さんらしいよ!」

「いやどれだけ鬼畜設定なんだよ俺……」

 

 

 愛はにひっと笑う。彼女らしいイタズラな良い笑顔だ。しかも夕日をバックに、こちらを見上げるように笑顔を向けるという最高のシチュエーション。思わず見惚れてしまった。

 結局、今の笑みも嫉妬して不満そうな表情も全部可愛いんだよな。それは俺が好きな女の子が見せる顔だからだろう。好きな子の表情ならどんな顔でも可愛いし、もっともっと見たくなる。他のみんなは色欲ではない愛に満ち溢れたキスをした時にどんな顔をするのだろう。

 

 彼方やせつ菜の時もそうだったけど、改めてこういったロマンティックな雰囲気も悪くないと思ったひと時だった。

 

 




 虹ヶ咲アニメの4話を観たときから今回のネタを考えていたのですが、半年の歳月を経てようやく野に放つことができました!

 精神的にも大人びている一面が多い愛が、子供みたいに嫉妬してしまう様子は自分で描いておきながら可愛いと思っちゃいました(笑) 零君も言っていましたが、普段は部室棟のヒーローとして尊敬されている子が『女』を見せる瞬間が堪らなくもあります!

 そして彼方回の遥と近江ママ、せつ菜回の生徒会組に続き、今回のサブキャラは美里お姉ちゃんでした。ふわっとした少しバブみを感じさせるような女性なので、描いていくうちに段々好みになっちゃいましたね(笑) 結局惚れてるんかいって感じですけど……。

 キスのミッションはこれで3人目達成で、残り9人。順調に愛を確かめ合っていますが、これからは果たして……




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

潜入!メイドR3BIRTH!

 俺は占いとかオカルト系の話は信じる方ではないのだが、最近は本物の幽霊(美少女)が現れる現象に苛まれたり、朝の占いを見た日に限ってラッキースケベな出来事が起こるなど、もう信じざるを得ない状況になっていた。

 

 そして今もまさにその状況に陥っている。寝起き、とは言ってもまだ目は開けてないのだが、何故か俺の身体が満足に動かない。これが俗に言われる金縛りというやつか。手も足も首も辛うじて動かせはするが、何やら上から身体を押さえつけられている気がする。このリアル感のある重みは夢ではなく現実だろう。

 

 ちょっと怖いけど目を開けてみよう。実は何かしらドッキリを仕掛けられてるとか、そんなことはないよな……?

 警戒しながらゆっくりと目を開ける。そして俺の瞳に映ったのは――――

 

 

「え゛っ!?」

 

 

 胸の谷間だった。今にも服から溢れそうなくらいの巨乳であり、そのビッグサイズの双丘の谷間が目の前に広がっている。色は白くシミ1つない綺麗な胸。起きたばかりだがその艶めかしさにより思わず性を感じてしまい、気を抜いたらその谷間に指を突っ込んでしまいそうなくらいの衝動に駆られた。しかも目の前にいるだろう女の子が少し縦揺れしているためか、その動きに合わせ胸も上下しているため俺を誘っているようにしか見えない。胸だけ自立しているかのように動いているので、どれだけ胸元ゆるゆるの服を着てるんだよ……。

 

 

「おはよっ! ご主人様!」

「えっ、ランジュ!? おはようって、ここ俺の家だけど!? しかもその姿……メイド?」

 

 

 目を開けてからものの数秒で大量の情報が飛び込んできて処理が追い付かない。

 まず確認したいのは……うん、ここは俺の部屋だ。目の前のランジュが邪魔で周りの景色はあまり見えないが、俺が寝ているのは間違いなく自分のベッド。それはベッドの感触で分かる。

 次に気になるのは胸元が大きく開けたメイド服を着たランジュが、四つん這いで寝ている俺の上にのしかかっていることだ。完全に身体を引っ付かせてはいないものの、胸の谷間がドアップで目に映るくらいには近い。

 

 メイド服は白と黒を基調としたオーソドックスな造りであり、白のカチューシャとフリフリのスカート、黒のガーターベルトなどの基本は標準装備。ただ胸だけ開けて胸の谷間がこれでもかってくらいに露出しているので、そこだけは普通の造りではない。明らかに()()()()()()()をするために開発されたものと見て間違いないだろう。

 

 どうしてこんな状況になってんだ……??

 

 

「うふふ、零って意外と寝坊助なのね。さっきからずっと寝顔を見てたけど全然起きないもの」

「なんで見てんだよ……。いやそうじゃなくて、まず色々説明してもらおうか。最初に、どうしてお前がここにいる?」

「アナタにご奉仕するためよ」

「それ答えになってると思ってんのか……?」

「思ってるわ。だって男性はメイドにご奉仕されて悦ぶ生き物だってネットに書いてあったから」

「その『ご奉仕』は別の意味での『ご奉仕』だ。お前が思っている健全なモノとは違う」

「今日はこのランジュが徹底的にご奉仕してあげるから、ご主人様はただ身を委ねているだけでいいわ! 掃除、洗濯、料理はもちろん、アナタの身の回りのお世話は全てランジュたちがやってあげる! 皆まで言わなくてもいいわ、ランジュに女子力があるのかと問いたいのでしょう? 大丈夫、この日のためにエマたちから家事の特訓をしてもらったから! 今日が終わる頃にはアナタはランジュにメロメロになっているでしょうね。心が高鳴るわ」

 

 

 人に意見を言わせる隙さえなくす捲し立てるような喋り方。そして元々の地声が大きいせいで大層なこと言っているように聞こえるマジック。その2つが絡み合うことであたかもコイツの主張は説得力があるように思えてしまうが、実のところプチ横暴みたいな感じで、多少ズレていても自分に絶対的な自信を持っているせいで主張が理不尽でも納得しそうになってしまう。栞子やミアもこの性格には難儀しているが、まさかメイドになってもそのキャラを発揮して来るとは……。

 

 そう、結局のところどうして俺をご奉仕することになっているのか、その理由が全く見えてこない。自分の意志が強いのはコイツのいいところだが、今回はそれのせいでまた面倒事に巻き込まれそうだな……。

 

 ありえそうな未来に頭を悩ませていると、部屋のドアが開く音が聞こえた。そちらに首を向けると、そこには――――メイド服の栞子とミアの姿があった。

 

 

「ランジュ、零さん……ご主人様を起こしてきてくださいと言っただけなのに、どうしてここまで時間がかかっているのですか……」

「ベッドに上がってご主人様にのしかかって、一体何をしていたんだ……?」

「栞子! ミア! ほらこの通り、ご主人様の起床をしっかりサポートしてあげたわよ! 本人の目覚めもバッチリみたい!」

「いや目が覚めたのはお前の登場に驚いただけで、決して気持ちのいい目覚めって意味でのバッチリではないからな?」

 

 

 起きたら目の前に胸の谷間があって、しかも誘惑するように揺れているとあれば男だったら誰でも目が冴えるだろう。まあ女の子に毎日そんな感じで起こされるのは男の夢と言えばそうなのかもしれないけど……。

 

 

「つうかお前らもメイド服なのか」

「こ、これは姉さんに無理矢理着せられたので……。零さん……ご主人様と仲良くなりたいのであれば、まず本人の私生活に密着しろと言われまして……」

「だからと言ってメイドは極端すぎるだろ。しかも露出度そこそこ高いし、何考えてんだよアイツ」

「ボクはやめようって言ったんだけど、ランジュはノリノリで、栞子も恥ずかしがりながらも拒否はしてなかったから仕方なく合わせてやったんだ」

「お前にして随分と潔いんだな」

「ま、まぁボクもご主人様と親睦を深めたいって少しは思ってるから……」

 

 

 大なり小なり俺のことを想って、わざわざメイド服まで来て家に乗り込んで来たってわけか。どうやって家に潜入したのかは不明だが、薫子と繋がってるってことは秋葉とも繋がってるからそういうことなのだろう。楓が1日外出しているこのタイミングで潜入するって、神崎家の予定を知ってる奴しか立てられねぇ計画だからな。

 

 そんな感じでランジュ、栞子、ミアのメイド1日体験が始まった。

 今思ったけど、栞子は別として他の2人は家事できるのか……?

 

 

「だったらまずは着替えからね! ご主人様! ランジュたちが着替えさせてあげるから全部脱ぎなさい!」

「はぁ!? 全部の必要はねぇだろ!」

「そうなの? 男の人って寝ている間に下半身が濡れちゃうって聞いたことがあるけど……」

「それは夢精だ」

「ミ、ミアさん!?」

「言っておくけど、濡れてねぇからな……」

 

 

 ダメだ、最初から心配になってきた……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 着替えを1人で済ませてリビングへ降りてみると、栞子がせっせと掃除をしていた。メイドの基本と言えば基本だけど、その無駄のない洗練された動きはメイドというよりも熟練の主婦の動きに見える。まあ他の2人が家事できなさそうだから、コイツだけはまともで良かったよ。

 

 

「あっ、零さん……ご主人様、おはようございます」

「おはよう。ってかさっきから言い直すの面倒だろ。別にいつもの呼び方でもいいぞ」

「いえ、メイドたるもの『ご主人様』呼びは絶対です。まだ慣れてはいませんが……」

 

 

 ランジュもミアもご主人様呼びだったし、どうやら3人で取り決めして徹底しているらしい。元々ご主人様気質の俺からするとその呼び方は快感であり、メイドにご奉仕されるシチュエーションも好きだから、本人たちに抵抗がなければ別に拒むこともない。それに普段メイド服を着ない美少女たちがわざわざ自分と仲良くなるためにメイドになるって、そんな状況男だったら興奮しないわけないだろう。さっきも言った他の2人の家事スキル以外は特に心配する要素もなさそうだしな、この状況を堪能させてもらおう。

 

 

「つうかお前、手際いいな。家でも家事とかやってんのか?」

「えぇ。家ではどこへ嫁いでも三船家に恥じぬよう教育されてきましたから」

「そうなのか。お前っていいトコのお嬢様だから、こういうのはお手伝いの人がやるのかと思ってた」

「自分たちの家のことは自分たちで、それが三船家の決まりですから。それに姉さんが()()()()()なので、私がしっかりしなければならないという義務感もありまして……」

「あぁ、アイツってがさつな性格なんだっけ? 俺と話してるときは普通に常識人っぽいけど」

「学園では教育者という立場なので皮を被っているだけです。家だと品位の欠片もないくらい怠けていたり、私を無理矢理ツーリングに誘ってくるなどやりたい放題ですよ」

 

 

 栞子はため息を漏らす。その濃いため息から非常に苦労していることが分かる。スクールアイドルになったことで姉との確執は解消されたはずなのだが、あの破天荒な性格に対してだけは折り合いを付けられないのだろう。でもそのおかげでこの品行方正な彼女が仕上がったと思えば、それだけは良かったことかもしれない。もうド真面目以外の栞子なんて栞子とは思えねぇからな。

 

 

「お前って勉強も学年上位だし、生徒会長も務めて、休日はボランティア活動に勤しんでるって聞いたぞ。それで料理掃除洗濯まで万能だなんてよくやるよ」

「もうこれが趣味みたいなものですから、特に辛いからやめたいとは思ったことはありません。家事修行は嫁ぐときのためと親から言われていましたが、私は楽しいと思ってやっているだけです」

「じゃあその成果が発揮される将来を楽しみにしてるよ」

「しょ、将来を楽しみに!? ということは、私が零さんの、いえご主人様に嫁ぐことを期待されているのですか……!?」

「まあそうなるな。期待してるっつうか、そうなるのは確定じゃねぇの?」

「そ、それはそうかもしれませんが、いざ零さんから承諾を得たとなるとどう反応していいのか困ってしまいます……!!」

 

 

 栞子は頬を染めて俺から目を逸らす。

 俺のところに嫁ぐからその話題を出したと思ったんだけど、違うのか? すげぇ自惚れだけど、コイツも虹ヶ咲の生徒だったら俺を好きになる素質がある女の子のはずだ。つまりその嫁ぐために仕込まれた家事スキルは俺のためだけに発揮されるのが普通だろう。他の男のところに嫁がせるなんて有り得ない、絶対に。

 

 そんな独占欲を発揮していると、別の部屋から何やら大きな音が聞こえた。

 

 

「何か鈍い音がしましたが……」

「風呂の場の方だ」

 

 

 何があったのかと心配しながら風呂場に駆け付ける俺たち。

 そこには掃除用具が風呂場の床に散らばり、そして尻もちをついているミアがいた。何故か泡に塗れた姿で……。

 

 

「ミアさん!? これは一体……」

「風呂掃除をしようと思ってたんだけど、いつの間にか泡塗れになって滑りやすくなって……。気づいたら転んでた」

 

 

 ミアは不満そうな顔をしているが、風呂場全体を泡だらけにしてたらそりゃそうなるだろって話だ。コイツは元から家事そっちのけで作詞作曲にのめり込むタイプなので掃除が苦手なのは把握していたが、まさかこんな惨事を引き起こすくらいだとは思わなかったぞ。自分の部屋の掃除は同じ寮のエマたちに任せることも多いって聞いたし、やっぱりご奉仕力がモノを言うメイドは無理あったんじゃ……。

 

 それにしても、メイドの彼女が全身泡塗れな姿がちょっとばかり、いやかなりエロい。学年は高3だがそれは飛び級制度によるものであり、実質は中学3年生。つまりJC。JCって聞くと一気に背徳感が増し、コイツ自体ロリ体型ってわけでもないけど『メイド姿の中学生が泡だらけ』というそのシチュエーションだけでくるものがある。法律云々の話は知らないが、多分目の前の光景を本物の女子中学生に頼んで再現しようとすること自体違法な気がする。だからこそ偶発的に起きたこの状況にちょっとばかりの興奮を覚えてしまうんだ。

 

 

「おいご主人様、目が犯罪者になってるぞ」

「ちげーよ。お前をどう助けようか考えてただけだ。そのために目の前の状況を詳しく調べてたんだよ」

「じゃあ早く助けてくれ」

「随分と上から目線のメイドだな……。ほら、手」

「あ、ありがとう――――ひゃっ、滑る!!」

「おい引っ張るな!!」

 

 

 座り込んでいたミアは差し伸べられた俺の手を掴んだのだが、起き上がるときに泡塗れの床のせいでバランスを崩したのか、俺を引き寄せる形で背中から倒れた。

 またしても鈍い音が家に響き渡る。俺の後ろで見ていた栞子も思わず声を上げた。

 

 

「ご主人様! ミアさん! 大丈夫ですか!?」

「痛く……ない? 一体何が……?」

「ったく、メイドなんて慣れねぇことするからだよ」

「ちかっ……!! ま、守ってくれたのか……?」

 

 

 本当にギリギリだった。咄嗟にミアの背後に腕を回し、抱き着く形で後頭部と背中を守ったおかげで彼女への衝撃は少なかっただろう。逆に自分へのダメージはそれなりだったが、まあ男なんでそのくらいは全然平気だ。当の本人は俺と顔が近いことに反応して赤面しているので、痛みよりも恥ずかしいって方が大きいと思うけど。

 

 

「だ、抱き着かれてる……!!」

「大丈夫か?」

「ボクは平気だ。それよりご主人様の方こそどうなんだ……?」

「俺も平気だ。多少痛くても女の子を守るのは男の役目だから気にすんな」

「そう……。掃除、上手くできなくてゴメン……」

「俺のために頑張ってくれたんだろ? だったら別にいいよ。それに何事も慣れだから」

「分かった。ありがとう……」

 

 

 頬を染めつつ感謝を述べるミアだが、恥ずかしいのか顔はそっぽを向いて俺と目を合わせようとはしない。完全にツンデレのムーブであるが、コイツが俺に対してここまで素直になるのは珍しかったりする。他の奴らにもツンツンしてるけどそれと同じくらいに素直さを見せることはあるので、もしかしたら俺だけ嫌われているのかと思ってたけどそうではないようだ。そもそも嫌いだったらメイド服を着て俺と交流を図ろうと思わないか。

 

 今度は俺からミアの身体を支えて彼女を立たせる。こうして近くで見ると泡塗れのメイド服、しかもバッサリ開いた胸元にまでその泡が入り込んでいるためとてつもなく艶めかしい。中学生の年齢の女の子がメイド姿で泡塗れなので、ぶっちゃけそこらの怪しい店よりも背徳感は満載だ。

 

 

「とりあえず、風呂場の泡を流すついでにお前もシャワーを浴びろ」

「そうさせてもらいたいけど、ご主人様だって濡れてるじゃないか」

「なんだ? 一緒に風呂入ってくれるのか?」

「な゛っ!? そんなことするかバカ!! 出てけ!!」

 

 

 顔を真っ赤にしたミアに風呂場を追い出されてしまった。そもそもここは俺の家なのにな……。

 

 

「ご主人様、お洋服が濡れているようですけど大丈夫なのですか?」

「いや意外と濡れてないし、寒くもないから大丈夫だよ。心配かけて悪かったな」

「いえ。それよりも……何か臭いませんか?」

「確かに」

 

 

 この家は現在お年頃の女子3人が集まる非常に華やかな領域となっているため、変な匂いがするのは考えられない。もしかして俺の加齢臭(まだ22歳だが)が原因かと思ったが、この臭いは人間が自ら発生させることのできない香辛料を感じさせる臭さが混じっている。

 

 ん? まてよ? そういやこの家のはメイドが残り1人いて、ソイツの家事センスは―――――

 

 

「おい栞子、ランジュは今どこにいる?」

「ランジュですか? えぇっと、掃除をしているときに意気込みよく台所へ向かっているのは見かけましたが……」

「やべぇ、絶対にそれだ。行くぞ栞子」

「ご主人様!?」

 

 

 アイツの家事レベルはたかが知れていると思うが、そんな奴が料理をやったらどうなるのか末路は分かり切っている。大胆で大雑把な性格だから料理なんて緻密な作業ができるはずがない。現にキッチンに近づくにつれて臭いもキツくなっていく。

 

 

「ランジュ!」

「あっ、いいところに来たわねご主人様! もうすぐできるわよ」

「お前、何を作ってんだ……?」

「これ? 麻婆豆腐よ!」

 

 

 鍋の中を見てみると、ブラッディ色をした赤々しい麻婆豆腐が完成しかかっていた。さっきから感じていた香辛料が混じっているような臭いはこの鍋が発生源だったらしい。もう見ているだけでも舌が焼き切れそうだ。

 

 

「ランジュ、まさかこれをご主人様に召し上がっていただくつもりですか?」

「えぇ、このために練習してきたんだもの! ランジュ人生最大の自信作よ!」

「こ、この今にも起爆しそうなくらい真っ赤なモノをご主人様に!? そんなことはさせま――――ん゛っ!!」

「栞子、ちょっと来い」

「ん゛っ、んんん!!」

 

 

 俺は栞子の喋る口を押えてキッチンを離れる。栞子は何事かと目で俺に訴えるが、こちらとしてはあの場を邪魔させるわけにはいかなかった。

 

 

「アイツの飯は食う。だから口を挟むな」

「えっ、何故です? いつもであればああいった地雷系の料理は避けるはずでは??」

「それはまだ作り始めていない時の話だ。作る前なら全力で止めるけど、作っちまったのなら食うよ。俺のために、俺への愛情を込めてくれたのなら無駄にはできねぇだろ。それが例えどんなゲテモノであってもな。その証拠に、俺も歩夢たちもせつ菜の料理は止めるけど、作った後の料理に直接文句を言うことはないだろ? 心の中でどう思ってるかは別として……」

「確かにそうですが……。お優しいのですね、ご主人様」

「ま、ゲテモノはゲテモノだから、実際に目で見たり口にするのは超抵抗あるけどな。割り切ってるっつった方がいいかも」

 

 

 女の子の作るゲテモノはなるべくなら食いたくはないけど心の奥底から嫌悪しているわけではなく、俺のために愛情たっぷりで作ってくれたのであればいただくことにしている。とは言いつつこっちもタダでは済まないことが確定してるから、もし調理前で避けられるのであれば避けたいので一応止めはするけどな。でも今回の場合はもう出来上がりそうになっているため無視するわけにはいかない。女の子側も別に変なモノを食わそうとする意図はなく、至って純粋に作り、無自覚にゲテモノになってるだけだろうしな。ここは腹を括るしかなさそうだ。

 

 

「どうぞご主人様! 盛り付けておいたわよ!」

 

 

 キッチンに戻ってみると、テーブルに料理が並べられていた。破天荒な性格だからそのまま鍋ごと差し出してくるのかと思っていたが、皿に綺麗に盛り付けるとは予想外だ。隣にはついでに作ったのか焼売(シュウマイ)まで用意されており、手先の器用さが必要そうな料理なのに意外とスキルはあるんだと感心してしまった。ただ見た目と臭いは万人受けするものではなく、麻婆豆腐も焼売も紅色に紅色を重ねたように真っ赤だ。臭いも近くにいるだけで鼻の奥を突き刺してきて、既に舌がヒリヒリしていた。

 

 

「じゃあメイドらしくこちらから食べさせてあげるわね!」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 心の準備が……」

「あら、緊張してるの? 大丈夫よランジュが作った料理だもの、美味しいに決まってるわ!」

「相変わらずすげぇ自信だな。味見したのかよ……」

「心配ご無用。はい、あ~ん!」

「むぐっ!!」

 

 

 麻婆豆腐を乗せたスプーンを俺の口元に持ってきたかと思えば、『あ~ん』の掛け声とともに口にねじ込みやがった。もはや準備の時間すら与えてくれない。相変わらずパワータイプだが、ご主人様の行動を待たずして先走るメイドが世界のどこにいるってんだ。

 

 だがここで意外な事実が判明する。この麻婆豆腐、辛くない。見た目と匂いで舌が焼き切れることを覚悟していたので拍子抜けだ。しかも普通に美味い。専門の中華料理屋で出されていても遜色がないくらいだ。見た目と匂いが見掛け倒しって誰が想像できるんだよ……。

 

 

「なんかご主人様、いつも以上に戸惑ってない? あっ、もしかしてご奉仕の仕方が間違っているのかしら?」

「え?」

「こういう時は確か――――そうっ! こうすればいいんだわ!」

「へ……?」

 

 ランジュは自分の作った焼売を箸で摘まむと、なんとその体積の半分を自分の唇で咥えた。そして俺に近づくと、その焼売を俺の唇に押し付けた。

 

 

「ランジュ、あなたいきなり何を……!!」

「んぐっ!!」

「んっ……。どうかしら、味の方は」

「ん……。う、美味い。程よく冷めていい感じに……じゃなくて、どうして口移しをした!?」

「これがメイドとしてのご奉仕方法でしょ? エマや果林があなたにしてあげたいってよく言ってたから」

 

 

 アイツら自分自身の欲望が過激なのはまだ許せるが、それを誰かに伝染させるんじゃねぇよ。口移しなんて他の女の子たちからも滅多にやられないから普通に驚いてしまった。

 ちなみに唇同士が触れ合ってはいないようだ。触れていたらキスをした扱いとなり、俺の身体が例のごとく熱くなっているだろうから。それに感じたのも焼売の感触だけだったので、キス自体は未遂に終わって良かったよ。こんな形でコイツのファーストキスを奪ったら申し訳ないしな。

 

 

「シャワーを浴びている間に随分と大胆なことをしているんだな」

「ミアさん。これはランジュのいつもの暴走と言いますか……」

「暴走じゃない、至って冷静よ。ご主人様にしかこういうことはやらないんだから」

「俺にだけ?」

「えぇ、何と言うか、ご主人様――――零とこういうことをやるのはドキドキして、よく分からないけど幸せな気分になれるから……」

 

 

 ランジュが頬を赤らめて、普段見せない女の表情になる。

 まさか俺のことを意識しているのか? いつもは子供のような天真爛漫さと純粋さ、そしていつも友達感覚で絡んでくることから俺への好意はLOVEではなくLIKEだと思っていた。興味深い男が同じ同好会にいるから気になる程度の認識だと考えていたのだが、これは意外な一面を見ることができた。料理を作ってくれたのもメイドとしてのご奉仕だからってのもあると思うが、ご主人様のためという根底はしっかりと根付いているようだ。実際に料理は見た目と臭いはアレだったけど味は特に問題なかったしな。これも俺のために練習してきてくれたのだろう。

 

 そう考えるとコイツがより一層可愛くなってきた。

 

 

「ふえっ!? ご、ご主人様!?」

「悪い、いつもと違うお前が可愛くて思わず撫でちまった。でも料理を作ってくれて感謝してるから、これくらいお礼させてくれ」

「え、えぇ、こちらこそ……」

 

 

 普段喜ぶときはいつも笑顔満点になるのに、今はまさに恋する乙女って感じだ。いつもの豪快な彼女と比較するとその初々しさが余計に際立つ。ちゃんと女の子っぽい反応もできるんだな。

 そしてその様子を見て、栞子とミアがなんだかそわそわしていた。ランジュと同じく頬を染め、俺の顔を見たりそっぽを向いたりを交互に繰り返している。期待と不安が半々くらいの目。俺に何かを求めてるけど、自分からは言えないジレンマ。

 

 なるほどそういうことか。そんな表情をされたら2人にもこうしてやるしかないだろう。

 

 

「「あっ……」」

「お前らも、今日は俺のためにありがとな」

「い、いえ、ご主人様のためであれば……」

「ボクもいつもお世話になってるし、これくらいは……」

 

 

 やっぱり頭を撫でてもらいたかったのか。そのためにそわそわしていたと思うと可愛いな。思えば胸元が開いたメイド服という普通では恥ずかしい衣装を着てまで俺の家に潜入したんだから、そりゃ俺と仲良くなりたい欲はかなり強いのだろう。だったら俺もその覚悟に応えてやる義務がある。仲良くなると言うか、もうそれ以上の感情をこの3人は抱いているかもしれないけど……。

 

 その後はランジュとミアは栞子の指導の下で、見た目も匂いも完璧な料理を3人協力して作ったり、家じゅうを掃除したり洗濯も完璧にこなすなど、ご奉仕力としても女子力としても大幅にスキルアップしていた。1日一緒に暮らす中で俺たちの関係性も大きく深まったので、これはお互いにお互いの気持ちを伝えあえる日も近くなってきたかもしれないな。

 




 今回は追加メンバー3人と親睦を深めようの回でしたが、結局零君がいつも通り女の子たちを垂らしこんでいただけのような気がします(笑) そして何気に一番描きたかったのが最初の胸のシーンだったという……

 今回はこれまでとは違ってキスなしのお話でしたが、栞子、ランジュ、ミアが零君をどう思っているのか、そして彼も彼女たちとどう接しているのか、その入り口を描くことに重点を置きました。今後は個人回としてもっと彼らの関係を掘り下げていき、進展させていきたいと思っています。




 ここからは別件ですが、本日この『日常』シリーズが8年となりました。同じシリーズで小説を書き続ける私も私ですが、ここまで勢いを保っているラブライブシリーズ自体も凄いですね!
にじよんのアニメ化や幻日のヨハネ、新アプリや舞台化などまだ新たなストーリーやキャラが登場するみたいなので、この小説いつ終われるのか分からないなぁ……(笑)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

かすみんBOX大量発生!

「――――そんなわけで、今日の練習メニューはさっき言った通りで行こうと思います。次は来週のライブのことについてなんですけど――――」

 

 

 いつもの虹ヶ咲学園の校内。いつも通り部室へ向かっているのだが、隣を歩く侑から事務連絡が鬼のように飛んでくる。さっきまで昼寝をしていた影響か頭が上手く回っておらず、そのせいでコイツから押し付けられる連絡が処理できずにパンクしそうだ。あまりの情報過多にそもそも声が耳から反対側の耳へ通り抜けてしまっていた。

 

 

「お兄さん聞いてますか? さっきからあくびばかりして全然聞いてるようには見えないんですけど」

「実際聞いてねぇし。寝起きだけどまだ頭が起きてない」

「もう……。お兄さんのアイデアとか承認を貰いたいことが山ほどあるんですから、しっかりしてくださいよ」

「そういう面倒なことはお前らでやってくれっていつも言ってるだろ。出会った頃はお前もマネージャーとしてひよっこだったから俺もサポートしてたけど、今はその必要もねぇだろうしな」

「認めてくれてるのか、お兄さんが怠惰なだけなのか……」

 

 

 まあどっちもだな。上司である俺が自分の技術を部下である侑に教え込むことで、コイツが1人で同好会のマネジメントができるようになればそれだけ俺が楽できる。出会った頃からそういうなるように動いており、実際にコイツは年末のファーストライブ成功の実績を作ったのでもう俺から教えることはない。でも成長を遂げた後もやたらと俺の隣に来たり、俺にわざわざそれ言う必要あるかって事務連絡を寄越してくるのは何故なのか。もしかして無自覚に俺の隣にいるのが居心地よかったり……?

 

 

「ライブの演出とかは学園の生徒に聞いてもいいんじゃねぇか? これだけたくさんの生徒がいるんだ、お前らだけでは思いつかないアイデアを溜め込んでる奴がいるかもしれないだろ」

「あぁ~それ実はもうやってるんですよね。目安箱みたいなものを設置していて、みんなからのアイデアを募ってます」

「そんなのがあるんだったら俺がアイデア出しする必要ねぇだろ……」

「そうだったらいいんですけどねぇ……」

 

 

 侑はばつが悪そうな顔をする。そんな便利なモノを設置してあるのに、その意見を参考にせず俺に聞いてくるってことはそれなりの理由があるのだろう。

 

 

「あっ、そんな話をしていたらちょうど見えました。アレですよ。目安箱には見えないかもしれませんけど……」

「アレって、あのブサイクな人形みたいなモノが……?」

 

「ブサイクとは失礼な! 超超超プリティなかすみんBOXですぅうううううううううう!!」

 

「うえっ!? かすみちゃん!?」

「いたのかよ……」

 

 

 後ろから俺と侑を引き剥がすようにひょこっと『かすかす』ことかすみが現れた。かすみは廊下のテーブルに置かれていたブサイク人形を抱きかかえると、これ見よがしに見せつけてくる。

 人形かと思ったけど、材質は紙を切り貼りしただけっぽい。目安箱と言っていたのでそりゃそうかって感じだが、よく見てみるとかすみの外見をしていた。投書を収めるための箱としての機能のためか頭でっかちであり、手足はペラッペラの紙を張り付けられており造りは簡素。そして何より目を引くのが、顔面を殴りたくなるほどムカつく表情をしていることだ。目が点で眉も垂れており、まるで『あれれぇ~投書しないんですかぁ~』と言わんばかりのイラつく顔をしている。よく今まで破壊されなかったのか不思議なくらいだ。

 

 

「これが同好会へのご依頼投書箱である『かすみんBOX』ですっ! どうですか零さん? かすみんに似て可愛いですよね? ね?」

「おい侑、これはネタで言ってんのか……」

「残念ながら本気です」

「お二人ともなんですかその呆れ顔!! えっ、可愛くないですかこれ!?」

 

 

 いるんだよな、可愛いのセンスがズレてる奴。顔がキモい動物を可愛いとか言っちゃう女の子とかたまに見かけたりする。それこそ南ことりなんて音ノ木坂のアルパカを可愛い可愛いって言って写真撮りまくってたからな。そのあたりの感性は流石に共感できない。

 

 

「可愛いのは可愛いかもしれないけど、その箱に何か意見が入っていたことって1回もないんだよね……」

「はぁ? なんで?」

「恐らくかすみちゃんの可愛い人形と思われて目安箱と認識されていないか、自分の承認欲求を満たすための道具を設置してるとしか思われてないかのどちらかかと……」

「なるほど」

「ちょっと納得しないでくださいよぉ!! きっとかすみんの魅力が凄まじすぎて、恐れ多くなって意見すら言えなくなってるだけですから!!」

「それはそれで目安箱の意味ねぇだろ……」

 

 

 虹ヶ咲学園はどの部活や同好会も一定の成績を上げるほどの成果を残しているが、コイツらスクールアイドル同好会はその中でも群を抜いており、校内でも全校生徒から応援されるくらい人気のグループだ。だからこそ目安箱に協力してくれる奴がいてもおかしくないのに投書ゼロとか、むしろその実績を達成する方が難しいだろう。ある意味で偉業だな。

 

 

「こんなに可愛いのに、まだかすみんの魅力に皆さんまだ追いついていないってことですね」

「負け姿もお前の魅力だからな、少なくともその人形の顔面はグーパンで凹ませたい。そしてお前の絶望に打ちひしがれる顔が見たい、ってのは全校生徒の総意だと思うぞ」

「それはドSすぎますよ!? いくら零さんでもかすみんの顔を傷つけることだけは許せないですぅ!!」

「いや人形だし」

「かすみんBOXはかすみんと一心同体なので、この子はもうかすみんなんです!!」

 

 

 もうかすみんのゲシュタルト崩壊で何が何やら。もしかしてそれで相手の頭をバグらせてかすみん地獄に陥らせるのが目的なのでは……? いや、短絡思考のコイツにそこまで考えることはできねぇか。

 つうか投書がゼロなのってこのかすみんBOXとやらが微妙に腹立つ顔してるからじゃないのか? 近づいたら顔面パンチをしたくなる衝動に駆られるから意図的に避けていたとか。もう見た目だけで人を煽ってそうな顔してるもんな……。

 

 

「シテナイヨ!」

「あん? いきなり片言で腹話術するんじゃねぇよ」

「へ? かすみん何も言ってませんけど?」

「侑、イタズラが過ぎるぞ」

「いやいや! そんな芸できないですよ!」

「じゃあだったら誰が……」

 

 

 他にここにいる奴と言えば……このブサイクBOXしかない。だけど無機物無生物だぞコイツ。今にも煽ってきそうな表情をしているけどただの紙製の人形だ。天地がひっくり返っても喋るはずが――――

 

 

「カスミン、カワイイ?」

「は?」

「「しゃ、喋った!?」」

 

 

 発せられた声に驚き、かすみは咄嗟に抱きかかえていた自分のBOXを手放す。

 もう誰が聞いても間違いない、コイツ――――今喋りやがった。創造した本人が驚いているので何か仕掛けを施しているとは考えられず、コイツが突然意思を持ったと思っていいだろう。口はマジックで書かれているだけなので動いてないのだが、どこかに音源を発するところがあるのか……? 疑問は尽きないが、とにかくまた面倒事に巻き込まれそうになっているのは確かだ。

 

 

「ネエネエ、カスミン、カワイイ?」

「また喋ってる……。お兄さん、そんなに近づいて大丈夫ですか?」

「喋ってる原理を知りたくてな。かすみ、念のため聞くけど何か心当たりは?」

「う~ん、昨日この子のパーツが老朽化していたので修理をしたくらいですかねぇ~。でもそれくらいで……あっ、その修理の材料は秋葉さんからもらいました」

「「絶対にそれだ!」」

 

 

 俺も侑も全てを察してしまう。もうね、秋葉の仕業と言っておけば天地がひっくり返ってもおかしくねぇんだよ。むしろこの世の非現実的なことは全てアイツの仕業と言っても過言ではない。もはやいつものことだから『何やってんだよアイツ』とか言及すること自体が面倒になっていた。

 

 

「カスミン、プリティ?」

「カスミン、サイコー?」

「ふえっ!? お兄さん増えてますよこの子!?」

「2つ作った覚えはないですけど!? どういうことですか零さん!!」

「俺に聞くなよ知るか。つうかどんどん増えてね……?」

 

 

 かすみんBOXは影分身するかのごとく、瞬きするその瞬く間に次々と増殖していた。そして気付けば廊下の端から端まで列が形成されるほどになっており、どんな駆動装置が付いているのか列を保ったまま行進し始めた。もちろんその間にも瞬きをするたびに増殖を続けており、隊列も廊下の曲がり角で見えなくなるくらいには形成されているようだ。

 

 

「えっ、これどうするんですか!? かすみちゃんの人形がこんなにたくさん……。このままだと学校を占拠しちゃいますよ!」

「かわゆ~いかすみんたちがたくさん見られるなんて、みんな幸せ者ですねぇ~♪」

「そんなこと言ってる場合かよ……」

「だってかすみんの目的は、全世界に自分の可愛さを伝えることですから! これはいい機会ですっ!」

「別にこの現象はお前の力によるものじゃないけどな」

 

 

 自分のために利用できるものは利用する、まさにかすみのズル賢さそのものだ。そこまで自分の魅力を追求し続ける執念だけは認めてやってもいいかもしれない。ただ秋葉の力を利用するのだけは避けた方がいいと思うぞ。最初は協力しているよう見せかけるけど、すぐ裏切られアイツのオモチャにされるのがオチだ。まあ今回はBOXの材料をこうなるとは知らず使ったみたいなので、完全に未遂だろうけどな。

 

 

「あっ、歩夢たちからもグループチャットに連絡が来てますよ。『何が起こってるの!?』って、みんな戸惑ってるみたいです」

「だろうな。あちこちで騒ぐ声も聞こえるし」

「学校中パニックだよかすみちゃん!!」

「と言われましても……。だったら、全校生徒みんなでかすみんたちを愛でればいいんですよ! ほら、こんなに可愛いのに!」

「カスミン、ケナゲ? カスミン、アイラシイ?」

 

 

 憎たらしい表情のまま片言で喋ってるから、愛でる以前にちょっと怖い。しかもさっきから疑問形で自分を褒めさせようとしてくるのは何故なんだ……? しかもコイツら1人1人が個別で音声を発しているため非常にやかましい。

 

 こうしている間にもこのブサイク人形はどんどん増殖しているのだろう。だとしたら侑の言う通り校内がパニックになるのは当然。まあこれも中須かすみという存在を大勢に強く印象付ける、という点では有効な手なのかもしれないが……。

 

 

「どうしますお兄さん? 私たちでどうにかできる事態ではないかもしれないですけど……」

「当の本人に解決する気がねぇんだったらどうしようもない」

「する気はありますよ! ただこれだけ可愛いかすみんたちがいっぱいいると、どうにかするのも気が引けると言いますか……」

「自分に対して気が引けるって自惚れやべぇな……」

「えっ、だってかすみんの可愛さは世界一ですよね? ねぇ!?」

「「…………」」

「お二人ともどうしてそこで黙るんですかぁ!!」

 

 

 いやそりゃ可愛いとは思うけど、小生意気なコイツに対してだからこそこちらも素直に行きたくない。変に調子に乗らせると付けあがるのは確定であり、これまで以上にウザ絡みされるのも必然だからだ。

 

 それにしても、この人形たちをどうしようか。色々と調べるために疑問形を発しながら行進する人形1体を拾い上げる。外見だけは普通の人形そのものだが、コイツらを止める術はあるのか……?

 

 

「カスミン、カワイイ?」

「はいはい可愛い可愛い」

「モットホンキデイッテ?」

「可愛いよ」

 

 

 俺は何を言ってるんだ……? もうどうしたらいいのか分からな過ぎて思わず肯定の言葉を口走ってしまった。もちろん中須かすみ自体は可愛いと思っているので間違いではない。だから本心と言えば本心だ。

 

 

「カスミン、カワイイ!」

「えっ?」

 

 

 その時だった。俺の手からかすみんBOXが煙幕と共に消滅したのは。跡形もなく消え去ったのでコイツはオリジナルではなく分身体の方か。いきなり消滅した理由は分からないが、消える直前の声は片言で疑問文を連呼していた時のトーンとは少し違い、何やら満足気でかすみに極限まで似ている高い声だった。

 

 

「うぅ……」

「え~と、かすみちゃん? 顔が真っ赤になって身体がピクピクしてるけど大丈夫……?」

「ら、らいじょうぶれす……」

「呂律回ってないよ!? 本当に大丈夫なの!?」

「零さんに可愛いって言われて嬉しくて、そして身体がビクビクって……」

「お前に言ったんじゃなくて人形に言ったんだけどな」

「これも秋葉さんに提供された材料で人形を作っちゃった副作用ですかね……」

「だろうな」

 

 

 なんとな~くかすみんBOXの集団を消す方法が分かった気がする。それはコイツの承認欲求を満たしてやることだ。いつも自分が何よりも一番可愛いと豪語しているため、その欲求を大いに(たかぶ)らせてらせてやればさっきみたいに満足して消えていく。この人形たちは自分のことを可愛いかと連呼しているのだが、まさかそれに応えてやることが解決の糸口だったとは……。

 

 ちなみに当の本人だが、自分が世界一可愛いと思っていながらも、こうして直球で可愛いと伝えてやると顔を赤くして照れる。そして今回は秋葉の罠なのか、人形に投げかけられた褒めの言葉は全部自分に言われているかのように仕組まれているのだろう。つまり羞恥心のない人形の代わりに本人が辱しめを受けるようになっているわけだ。しかもこれだけ大量にいるかすみんBOXの羞恥を全て引き受けるとなれば、コイツらを全部消す頃にコイツがどうなっているのか……。うん、口から涎を垂らして失禁してそうだ。

 

 

「侑、コイツを抱きしめてとびっきり褒めてやれ。そうすれば承認欲求が満たされて消えるから」

「なるほど、そういうからくりだったんですね」

「侑先輩、ちょっと待ってください!」

「かすみちゃん、とぉ~っても可愛いよ♪」

「ぶふぇあっ!?!?」

「かすみちゃん!? 身体の奥から何か吐き出しそうな声だったよ!? あっ、でもお人形は消えたね」

 

 

 やはり褒められて満たされると消える仕組みか。これであれば特別なことをせずともコイツらを消すことはできる。

 ただこれだけ大量の人形に誉め言葉をかけるってことは、それだけ生身の方のかすみが褒め殺しにされるってことだ。今も侑の笑顔+可愛いのコンボ攻撃でダウン気味だし、このまま続けても大丈夫なのか……? とは言ってもそれ以外に解決方法もないし、これ以上数が増えたら学校が崩壊するかもしれないのでここは我慢してもらうしかない。それに褒め殺しの快楽に悶えているかすみも見ていて可愛いからOKだ。どっちかって言うとエロ可愛いと言った方がいいか。

 

 

「侑、歩夢たちにさっきの方法でコイツらを消せることを伝えろ。生徒会長の栞子の先導があれば全校生徒も協力してくれるはずだ」

「はいっ!」

「ちょいちょい! お二人の誉め言葉だけでも脚がガクガクするくらいなのに、みんなから言われたら嬉しさがオーバーヒートしてかすみん死んじゃいますよ!」

「お前いつも褒められたがってるだろ? 今日に限って褒めるなって矛盾もいいところだ」

「それはそうですけどぉ~……。とにかく、誰もダメージを受けない平和的な方法を――――ふぎゃんっ!!」

「始まったみたいだな」

「はい。歩夢たちに連絡して、栞子ちゃんも今学校に残っている生徒に助力をお願いしているようです」

「そ、そんな勝手に――――にゃんっ!!」

 

 

 猫か。多分どこかで誉め言葉を受けたかすみんBOXが満足して消滅し、その恥じらいを本人が代理で受けているのだろう。脚をガクガクさせており、まるで後ろから激しく犯されたかのようだ。そんな淫猥な姿となっている彼女だが、ここにはいない同好会のみんな、そして学校にいる生徒たちからの褒め殺し攻撃に喘ぎ、艶めかしい吐息を吐き、頬を羞恥で緩ませていた。

 

 そして、侑がかすみんBOXの集団に近づく。

 

 

「可愛いよ、かすみちゃん」

「ふぎゃっ!?」

「超かわいいよ、かすみちゃん」

「ひぎぃっ!!」

「可愛い可愛い超かわいい!!」

「うにゃぁああああああああああああああっ!!!!」

「侑お前、遊んでないか……?」

「かすみちゃんの反応が可愛くて、つい♪」

 

 

 羞恥に悶える姿が可愛いとか、コイツ俺の性格に似てきてないか……? 一緒にいることが多いせいでドSの性格が伝染して目覚めつつあるとか怖い。

 そして侑の猛攻を受けて3連続ダメージを受けるかすみ。もちろんその間にもここにはいない生徒たちが同じことをしているようで、程度の違いはあれど照れくささが心に降り注いでいるようだ。さっきは冗談で口から涎を垂らして失禁しそうとか言ったけど、今の様子を見るにマジでそうなりそうだな……。

 

 

「そういえばここら辺の人形、一気に消えましたね」

「さっきの攻撃がよほど効いたんじゃねぇのか。お前の3発で二桁人数は消えたから、誰に褒められたかとか、褒められ方によっても威力が変わるっぽいな」

 

 

 かすみとより近しい人間の誉め言葉ほど威力が上がるらしく、俺や侑の言葉だけで周りのかすみんBOXは相当な数を減らしていた。だとすると歩夢たちの方も消すスピードは速そうだ。もちろんそれだけコイツが受ける辱しめと言う名の快楽は大きいわけだが……。

 

 

「ふにゅぅ……」

「大丈夫でしょうかかすみちゃん。気持ちよさそうにしてはいるみたいですけど……」

「快楽の刺激にカラダが耐えきれてないんだろうな。コイツにとっては可愛いって褒められることが快楽のはずだから、それにやられるなら本望なんじゃねぇの」

「いや床にベッタリと倒れてそれどころじゃないですって。もう溶けちゃいそうですよ」

「このまま続けるとアヘ顔になっちまうだろうから、ここは一思いに終わらせてやった方がいいかもしれねぇな」

「えっ、どうやって?」

 

 

 歩夢たちや他の生徒たちの結託により人形の数は減らせているだろうが、増殖のスピードに追い付いているかは謎だ。さっきまでは俺たちの周りもそこそこ数が減っていたのだが、今はまた増え始めている。つまり何か有効な一手を打たな限りコイツらは増え続けるし、かすみもが褒め殺しの快楽を一手に引き受けているせいでアヘ顔で気絶するのももう間近だ。それはそれで見てみたい気もするけど……。

 

 

「おいかすみ、起きろ。カラダをビクビクさせてる場合じゃないぞ」

「ふぇ……? ひぎぃ!? ひゃんっ!!」

「今度は二連続で喘ぎ声が……。かすみちゃんもうビクンビクンってなってるよ……」

「どこかで誉め言葉を2発貰ったんだろうな」

「皆さんからの『可愛い』が心に流れ込んできて、嬉しいんですけど快感が多すぎて……」

「漏らしたか?」

「えっ、漏らしちゃいましたか!?」

「こっちが聞いてるんだ」

「いや濡れてないですから!! 変な冗談やめてくださいよ! かすみんが変態さんみたいじゃないですかぁ!!」

 

 

 変態だよ。幾度となく俺に性的交渉を求めてくるだけでなく、カラダも簡単に許すからそれを変態と言わずに何という。まあ歩夢たち8人もそうだから一概に突出しているわけではないけど、それでも変態なことには変わりない。

 

 

「お兄さん、それでどうやってこの状況を打開するんですか?」

「かすみの可愛いを肯定し、褒めてあげればコイツらは消えるんだろ? それは言葉に愛情が籠っていれば籠っているほど消える数も多くなる。だったらそれを最愛の人に言われたら?」

「なるほど、お兄さんの心からの一撃であればかすみちゃんBOXを消せると」

「れ、零さんがかすみんに??」

「あぁ」

「ひぃ!? 急にそんな真剣な目で見つめられても……」

 

 

 かすみはメスの顔をして俺から目を逸らす。さっきまでも多方面からの褒め殺し攻撃により耳まで赤くしていたが、俺に肩を掴まれて逃げられず、真剣な眼差しで見つめられるものだから余計に顔の紅色が濃くなっている。いつもは小生意気な小悪魔的な感じで誘惑して来るくせに、いざこっちから攻めると途端に純粋な少女っぽくなるんだよな。そしてそういうのが俺の好みにストライクだから勘弁して欲しい。もっと攻めたくなっちゃうからさ。

 

 

「かすみんBOXを消すために、かすみんに可愛いって言ってくれるんですね……」

「いや、そんな事務作業のつもりはない。本気だよ。本気でお前に本心を伝える」

「ふぇ?」

「いつもは軽くあしらってばかりだからな、たまには本気になってやってもいいかなって」

「そ、そんな軽いノリでかすみんが喜ぶとでも……?」

「可愛いよ」

「ぶはっ!!」

 

 

 めちゃくちゃ効いてるじゃねぇか……。いつもは可愛いの押し売りをしてきて鬱陶しいので逆張りで敢えてこちらから褒めることはないのだが、コイツのことは普通に可愛いと思っている。自惚れてもおかしくないくらいの超美少女なのは間違いなく、ぶっちゃけ彼女レベルの女の子と付き合えるだけ、いや友達でいられるだけでも男としては勝ち組なくらいだ。そんな子が自分のことを心酔してくれているんだぞ? 向こうから好意を伝えてくれて、子犬のように寄り添ってくる。そりゃ俺だって惹かれるに決まってるだろ。

 

 

「もっと言ってください……」

「可愛いよ」

「もっと……」

「可愛いよ」

 

 

 今回だけはコイツのワガママを叶えてやろう。かすみんBOXの集団を消すという名目はあるが、今だけは本気中の本気でコイツと向き合う。かすみもこちらの本気を察したのかいつものメスガキ染みた雰囲気はなく、頬を染めてこちらを真っすぐ見つめていた。

 

 

「もっと……」

「可愛いよ」

「好き……ですか?」

「あぁ、好きだよ」

「かすみんも大好きですっ!!」

「むぐっ!!」

 

 

 キスされた、いきなり。

 持ち前の承認欲求で俺に誉め言葉を言わせるだけ言わせているのかと思ったが、そのノリでまさか告白し合うとは……俺も思わず乗っちまった。

 

 かすみは勢いよく俺の唇に吸い付いてきた。こちらに首に腕を回して密着してくる。

 無数の褒め殺し攻撃よる快感が心身ともに蓄積していたためか、それを俺に対して一気に解放したって感じだ。俺を貪り食うようなキスであり、唾液の音が艶めかしく響いている。興奮しているのか彼女の吐息が俺の口内に吐き出され、唾液も相まって甘い味がする。向こうがこちらを求めて来るのであれがこちらもと、俺も少し強く彼女の唇を奪う。それならば私もと、ワガママで欲しがりの彼女ならではのキスを堪能させてもらった。

 

 そして思いがけずキスをしたので、俺の身体も()()()()()()熱くなる。虹ヶ咲12人とキスするミッションがまた意図せず1つ埋まってしまった。

 

 しばらくして、お互いに唇を離す。すると周りのかすみんBOXが煙幕と共に一気に消え始めた。それは他の場所でも同じようで、ここからでも至る所に煙が上がっているのが見える。どうやらこのやり方は正解だったみたいだな。人形はこの場にオリジナルの1体だけが残っていた。もちろんもう喋らない。

 

 

「歩夢たちから連絡が来ました。かすみちゃんBOX、全部消えたみたいです」

「そうか。このやり方でダメだったらどうしようって思ったから助かったよ、かすみ」

「えっ、かすみんはむしろ加害者側なので……」

「いや、俺の言葉を素直に受け止めてくれたからだよ。実質的にお前は悪くないしな。むしろこの事態を止めた立役者だ」

「そ、そうですか……?」

「それに自分への好意を素直に受け取って照れるところ、俺は可愛いと思ってるぞ」

「ふぇえええっ!? れ、零さんってば……も、もうっ、いきなり……。でもまぁ、そんなことありますよぉ~~えへへ♪」

「ホントにお兄さんって天然なのか狙ってやってるのかどっちなんだろう……」

 

 

 俺は本心を語ってるだけだよ。

 かすみ自身の承認欲求が存分に満たされたことで、事件は何とか終息した。コイツの小悪魔系は鬱陶しいこともあるけど、逆にそこが可愛かったりもするんだよな。憎たらしい可愛さと言えばいいのだろうか、そういうところがコイツの魅力でもある。最近は女の子たちとのキスで改めてその子の魅力を再認識することが多いから、自分の身体の不調を治すためというよりも、彼女たちとの愛を確かめ合うって意味でキスは悪くないかもしれない。

 

 

「侑せんぱぁ~いっ! かすみんと零さんのラブラブキスを見て羨ましいですかぁ~??」

「いや全然」

「あれれ~顔赤くなってますよぉ~」

「はぁ!? なってない!! もうっ、元に戻ったと思ったらこれって、これから褒めてあげないよ!?」

 

 

 イイ感じで終わろうとしていたのに、それをぶち壊す生意気さもコイツの魅力……なのか?

 

 




 今回はかすみの個人回でした!
 せつ菜回と同じく事件が入り混じった回でしたが、彼女自身が大好きな『可愛い』を零君や侑、全校生徒から受け取ることができて彼女的にはハッピーだったと思います。まあそれが快楽になって襲い掛かって来たのでダメージは半端なかったですが……(笑)

 そして何気にキスのミッションがまた1つ埋まり、残り8人となりました。これだけキスの描写が増えると、1人1人違ったキスを描くのが難しくなるのが困りどころです……(笑)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お兄さん依存症の危機!?

「お兄さん! お菓子の袋を放置しないでください! 食べたらすぐに捨てる!」

 

「お兄さん、肩を回してどうしたんですか? 肩が凝ってる? 教師のお勉強で忙しそうですもんね。だったら私が肩を揉んであげますよ」

 

「お兄さんってば、おへそ出して昼寝してるよ……。毛布、どこにあったかな」

 

「お兄さん! また学校の中で女の子とベタベタして……。えっ、不可抗力? お得意のラッキースケベですか、相変わらずいい御身分ですね」

 

「お兄さん! 私の作曲した曲がコンクールにノミネートされました! そういえばお兄さんは聴いたことがなかったですよね? 是非聴いてください!」

 

「お兄さん!! ――――」

 

「お兄さん!! ――」

 

「お兄さん!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「侑ちゃんってさ……」

「ん? どうしたの歩夢?」

「零さんのこと大好きだよね」

「はいぃ!?!?」

 

 

 歩夢からの衝撃の一言に思わず目を丸くして驚いてしまう。何の脈絡もなく唐突にそんなことを言われたものだから困惑するのは当たり前だ。

 私がお兄さんのことを好き?? いやいやどこのデマ情報?? 確かにお兄さんのお側にいるとは告白したけど、それは決して恋愛方面の話ではない。ただお兄さんの夢と私の夢が似ていて、だったらお互いに支え合おうって意気投合しただけだ。だからお兄さんのことが好きだとか、そんなことは絶対にない。うん、ない。ていうかそれを何回もみんなに言ってるはずなのに全然分かってくれないんだよねぇ……。

 

 

「念のために聞くけど、歩夢はどうしてそう思ったの?」

「だって侑ちゃん、事あるごとに『お兄さんお兄さん』って言ってるんだもん。もう零さんに懐いている忠犬みたい」

「ちゅ、忠犬!? そんなにお兄さんと一緒にいること多いかな!?」

「自分のことだよね……」

 

 

 一緒にいる時間が少ないとは思ってないけど、歩夢たちみたいにプライベートでの干渉は少ないから他の人と比較すると大したことはないと思っていた。だけど歩夢からしてみると忠犬と見られるくらいにお兄さんと一緒にいることが多いらしい。そりゃお兄さんはスクールアイドルのマネージャーとして先輩だから、私としても色々と学ぶ目的で一緒にいることはあるよ? でもそれだけで『大好き』って言われちゃうのはどうもねぇ……。

 

 

「私がお兄さんと一緒にいるのは、あくまでスクールアイドルのマネージャーというものを学ぶため。そう、先生と生徒みたいな関係だよ」

「そう? だって最近は零さんの肩こりを労わったり、おへそを出して寝ている姿を見て毛布をかけてあげたり、明らかに距離が近いもん。零さんに目を向けている、意識しているからそうなってるんだよね?」

「そ、それは疲れてる人を労わるのは当然だし、寒いのにおへそ出して寝てたら風邪ひいちゃうかもしれないし……」

「零さんが大好きだから心配なんだよね♪」

「その笑顔やめて!! 私が本気でそう思ってるみたいになるから!!」

 

 

 歩夢は満面の笑みで超嬉しそうにしている。お兄さん大好き仲間が増えるから喜んでいるのかも……。いや好きじゃないけどね!?

 歩夢が誤解してるってことは他のみんなも同じ誤解をしている可能性が高い。そういえば最近同好会に入ったばかりのランジュちゃんとミアちゃんも誤解してるっぽかったし、このままだと私の尊厳が失われ、勝手に私たちが付き合っていることにされかねない。

 

 それだけはなんとしでも避けないと!!

 それにそんな誤解をされちゃったらお兄さんにも迷惑がかかるし……。

 

 

「そんなに否定するってことは、侑ちゃんは零さんのこと嫌いなの?」

「まぁ~~~~たその質問! みんな好きか嫌いかの2択でしか判断できないの!? 0か1かの電脳世界で生きてるの!?」

「ゴメンゴメン! 冗談だから!」

「もう……。言っておくけど、好きとか嫌いとかそういう話じゃないから。お互いを支え合う相棒、パートナーみたいな感じ」

「それはそれでお付き合いしている以上の関係のような……」

「と、とにかく恋愛の『れ』の字もないから!! はい、この話おわり!!」

 

 

 下手に私がお兄さんのことを好きだなんてデマが広がってお兄さんの耳に入りでもしたら、絶対にからかわれる。そうなると一生そのネタで擦られ続けるのでそれも避けたいところだ。

 ちなみにお兄さんの方も私に対して恋愛の『れ』の字も感じていないみたい。それは普段の接し方でも分かり、歩夢たちと比べると明らかに私への対応が違う。歩夢たちに誘惑されると持ち前の肉食系を発揮してエッチなことに踏み込んででも攻めるんだけど、私に対してはそれはない。もちろん私から誘惑することがないからだろうけど、歩夢たちとは恋人同士の関係、私とは相棒の関係を徹底しているんだと思う。だからいくら肉食系であっても私の嫌がることは絶対にしない。それがお兄さんのポリシーなのだろう。

 

 ただそれは私の想像。そう考えるとお兄さんって私のことを実際どう思ってるんだろう。相棒ポジションとして共に歩む告白をして以来、そういった込み入った話をすることはゼロだから分からない。ま、今は私との関係はどうでもいいか。お兄さんは自分の身体の治療に専念してもらった方がいい。

 

 

「そういえば侑ちゃん、明日のお休みに零さんと次のライブ会場の下見に行くって言ってたよね?」

「うん。実際に見てみないと舞台のセットをどう配置するとか決めづらいしね」

「それはそうだけど、零さんと一緒に行くのが意外だなぁ~って」

「ん……? あぁ、確かに……」

 

 

 そういえばどうしてお兄さんを誘ったんだろう……? 誰と下見に行くかのか、迷わずナチュラルにお兄さんを選んだ。そしてお兄さんも二つ返事で了承してくれたし、特に疑問に思うことは何もなかったんだよね。でもよく考えたら私はどうしてお兄さんを? 歩夢とか他のみんなとか行く人ならたくさんいるし、なんなら私1人でも良かったはず。う~ん……。

 

 

「それじゃあ侑ちゃん、明日は頑張ってね♪」

「なにを!?」

 

 

 また屈託のない笑顔を向けてくる歩夢。一体何を頑張ると言うのか。まさか私とお兄さんがくっつくことを期待しているのかも。あり得ない未来に希望を託すのはやめた方がいいよ。

 

 

「ちなみに零さんはスカートの方が好きだから」

「なんのアドバイス!? そういうのもいらないから!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 翌日、下見するライブ会場へ向かう電車内。

 

 

「結構混んでますね」

「そうだな。そこまで乗ってるわけじゃないから立ちでもいいけどさ」

 

 

 休日の昼下がりでお出かけしている人が多いのか、座れないのはもちろん立ち人数もかなりいる。こうなるんだったら人が少ない朝早くに来るべきだったんだけど、お兄さんが朝早いのは起きられないから嫌だと子供みたいな言い訳をするから……。それに呆れながらも時間を合わせちゃう私も私だけどね。

 

 

「そういえばお兄さん、お身体の方は大丈夫なんですか?」

「あぁ、特になにもない。心配してくれてるのか? 俺のために嬉しい限りだな」

「そりゃそうですよ。でも自惚れないでくださいね。もし目の前でお兄さんが倒れられたりでもしたら、事情を知ってる私に責任が降りかかって来るのでその保険です。つまりお兄さんのためじゃなくて私自身のためですから」

「結論俺を気遣ってくれていることには変わりないだろ? いいじゃねぇか、俺が嬉しいと思ってんだからそれでさ」

「ふん……」

 

 

 たまに見せる優しい微笑み、ズルい。なるほど、これで次々と女性を自分のモノにしているのか。残念ながら私には通用しないけど。

 ただ心配しているのは本当だ。歩夢たち同好会の12人全員とキスをしないとお兄さんの身体が破裂してしまうらしい(秋葉さん談)。お兄さんを心酔している歩夢たちとならまだしも、栞子ちゃん、ランジュちゃん、そしてミアちゃんとはキスどころかまだ心の距離を詰める段階だし、果たしてのそのミッションが達成できるか怪しいところではある。これでも一応相棒って認めてもらってるからね、心配はするよ。

 

 そんな日常会話をしている間にも電車に人が乗り込んでくる。主要駅へ向かっている最中のため途中で降りる人はほとんどおらず、更に途中の駅でどんどん乗って来るため立つ場所も次第に制限されてしまう。そうなると必然的に私たちは座席と扉の角へと追い詰められていき、いつの間にか動けるスペースがほどんどなくなっていた。

 

 

「おい、こっちに来い」

「えっ、あっ……」

 

 

 お兄さんは私の手首を掴んで自分へと引き寄せた。そのため私は当然お兄さんに抱き寄せられる形となる。そしてお兄さんはそのまま私を電車の扉と自身の身体で私を挟み込んだ。これで私は他の人に身体を触れられる心配はなくなる。

 

 周りに男性が多いから気になっていたことではあるけど、お兄さんそこまで察してくれたんだ……。この前のデートの時もそうだったけど、さりげないところで男らしいんだよね。こういうので女の子を次々とオトしてるんだろうなぁ……。

 

 ちなみに私は……うん、結構ドキッとした。お兄さんの優しさもそうだし、こうしてお兄さんに守られている感覚が心地良いと思っちゃう。こうして触れてみると、お兄さんって身体も手も大きいんだと改めて実感する。男性だから当たり前なんだけど、その大きさにこうして包み込まれていると安心しちゃうな。

 

 

「スカートなんだな、今日」

「は、はい……。変、ですか?」

「いや、珍しいなって思ってさ。お前私服はいつもズボンだろ? 普段は女の子らしい服よりもボーイッシュな服を着てるからつい気になって」

「別に他意はないですよ。ただの気分です……」

 

 

 昨日歩夢に言われたこと思い出す。だからってお兄さんのためにスカートにしたんじゃなくて、本当に本当の気分だから。たまたま今日はスカート日和だっただけだもん。

 電車が揺れるたびにお兄さんが私を支えてくれる。他の人に接触させないようにするためだろう。だけど他の人に触れるより、お兄さんに触れている方がよっぽどドキドキするとは流石に言えない。こういう時のお兄さんは下心は一切なく100%の善意だから。だからこそ私も身を委ねてしまう。

 

 そういえばお兄さんと満員電車に乗ると出会ったときのことを思い出す。あの頃は名前も知らないカッコいい男性に痴漢されたかと思って、同じ駅で降りた際に駅員室に連れて行こうとしたことはまだ鮮明に覚えている。ただそれもおふざけで連れて行こうとしただけで、何故か痴漢されたことに対して嫌悪感はなかったんだよね。その時からお兄さんとの相性の良さを無自覚に感じ取っていたのかもしれない。まさかこんなに心の距離が近づく関係になるとは、あの頃は思ってもなかったけど。運命の出会いというのは本当にあるんだね。

 

 そんなことを考えている間にも電車は目的地へ進む。満員電車だからいくらお兄さんであっても電車の揺れによって引き起こされる人の波には抗えず、その余波によって私を抱き寄せたままよろける時がある。その際に私に回している腕と手の位置が意図せずに変わってしまい、その……おしりに手が当たりそうになっている。というか少し当たってる。ただ周りに人が多く腕すら動かしづらい状況なので、そう簡単にこの位置から手を離すことはできなさそうだ。

 

 

「ん……」

「悪い」

「いえ、平気です……」

 

 

 思わず変な声が出ちゃったぁああああああああああああああああ!! 別におしりを触られて気持ちよくなっているとか、そんなドMじゃないからね!? こ、これはその満員電車で息苦しくなってるだけだから! ほらお兄さんに抱き寄せられるから息苦しさがより一層強くなってるだけだよ!

 

 ただ、これでも心地良いと思ってしまうのは相手がお兄さんだからだろう。もし相手が別の男性だったら怖気が走るし、痴漢をされたとなったらその手首を捻って大声をあげているところだ。お兄さんだから平気。むしろお兄さんだからこそもっと……いや、これだと私が変態さんみたいじゃん。これが歩夢たちであってもこうして正面から抱きしめられるのは恥ずかしくて離れちゃいそうだけど、お兄さんとだったらまぁ……いいかなって。

 

 

「そういや、どうして今日は俺を誘ってきたんだ? ライブ会場の下見なら歩夢たちでも良かっただろ」

「うっ……」

「俺が来たくなかったわけじゃないから勘違いすんなよ。ただ単に疑問に思っただけだ」

 

 

 一番聞かれたくないことを聞かれてしまった。そもそも私だってどうしてお兄さんを誘ったのかが分からない。気が付いたらお兄さんに連絡を入れていて、昨日歩夢に指摘されるまで何も疑問に思っていなかった。そしてその疑問は今も解決することはない。でも沈黙は肯定という言葉があるように、黙っていたら都合のいいように解釈されかねない。だったら――――

 

 

「気分ですよ。今日はお兄さんの気分だっただけです」

「お前今日は気分ばかりだな。どれだけ能天気に生きてんだよ……」

「うぐっ……。最近音楽科の課題が忙しいせいで、休日くらいは何も考えずにのほほんと生きたいんですぅ!!」

「ま、気分であろうとも俺を選んでくれたり、スカートを履いてくれたり、それだけ俺を意識してるってことだもんな。嬉しいよ」

「だから自惚れないでください!」

 

 

 こう言われるからこの質問に答えたくなかったんだよ! 本当にたまたま、たまたまなんだから……。

 

 電車がカーブに差し掛かり、その曲線の動きに合わせて乗っている人の波も大きく揺れる。それと同時にお兄さんの身体も傾き、そうなると当然抱き寄せられている私に思いっきり密着することになる。

 改めて感じるお兄さんの温もり。私は自然とお兄さんの胸に顔を預けていた。お兄さんの腕、胸板、体温、匂い……自分の全身がありとあらゆるお兄さんで包まれていた。次第に自分の顔も身体も暖かくなっていく。満員電車の人混みによる暑さではなく、心の奥から湧き出る優しい暖かさ。このままずっと感じていたいとも思った。

 

 そして実は、お兄さんの手がしっかりと私のおしりに触れている。恐らくさっきの揺れで手の位置がまたズレたのだろう。しかもスカートの中に入り込んでいるので、おしりのお肉と下着に手がかかっている状態だ。とても恥ずかしい。でも振りほどこうとは思わない。満員電車で動けないというのもあるけど、この人混みから守ってくれているんだと思うと抵抗する気になれなかった。電車の揺れに合わせてお兄さんの手も動き、指が下着に食い込む。その度にカラダにヘンな電流が走ったみたいな感じになって声が出そうになるけど、変態さんに思われたくないため必死に我慢する。今の私の表情、絶対に見せられないな……。

 

 私はお兄さんにカラダを預け、お兄さんは私のおしりを支えながら電車は進む。こうしてカラダを触られてもいつもみたいに叱りつけることもなく、むしろ受け入れているのは吊り橋効果だからだよね……? これが気持ちいいとか思ってないよね私……?

 

 そして、ついに目的の駅に到着した。主要駅のためここで一気に人が減り、私たちは混雑を避けるために少し待ってから電車を降りた。

 

 さっきまでお互いにあんな体勢だったから、いざ解放されてみると何を話していいのか分からずちょっと気まずい。お兄さんも私のおしりを触っていたことには気づいてるだろうし、どう声を掛けたらいいのやら……。

 

 

「あっちぃなぁ~。流石に冬と言えども暖房がかかってる車内で満員はキツイ……」

「そ、そうですね……」

「なんだ? やけによそよそしいな」

「えっ、だってさっきあんなことになってたんですよ……?」

「あぁ、ケツを触ってたアレか」

「な゛っ、直接言わないでくださいよ!!」

 

 

 さっきまで男らしくて思わず惚れちゃいそうだったのに、急にデリカシーなくなるんだから。この人たまにそういうところがあるんだよね。普通の女の子相手なら絶対にドン引きされてるよ。まあ私は大丈夫だけどさ……。いや慣れてるって意味でね!? 決して好きだから許すとかじゃないから!!

 

 

「悪かったよ。でもお前を他の輩に触れさせたくなかったんだ」

「えっ、それって……」

「お前は俺だけのモノってことだよ。だからお前も、他の奴らに勝手に自分の身体を触らせるんじゃねぇぞ」

 

 

 自分でも何故だか分からないけど、心が高鳴ってしまった。男性として、雄としての力強いその発言によって心をガッチリと掴まれたような気がした。絶対に逃がさないと、お兄さんの強い意志を存分に思い知らされる。女性として男性の強さに惹かれないわけがない、と言わんばかりに心が揺れ動いてしまった。

 

 ただ、どうもお兄さんをそのまま認めてしまうのは自分に合わないタチで――――

 

 

「モノって、大体お兄さんはいつもいつも横暴なんですよ。女の子をなんだと思ってるんですか? そういうデリカシーのないところから順番に治していけばいいんじゃないですかね。あとは――――」

「おい」

「なんです?」

「行くぞ」

「はぁ!?」

 

 

 私の説教を無視して駅のホームを歩くお兄さん。

 そういう強引なところがいいところなのか悪いところなのか……。まあ強引に手を引いてくれるのは頼りになったりするんだけど――――って、ダメだ。私が自爆して勝手にお兄さんのペースに巻き込まれてる。ただ、私のことを意識してくれていたのは嬉しかったかな。私のことも独占したいって思ってくれてるんだってね。

 

 

「おい、なにしてんだ行くぞ」

「あっ、ちょっと待ってくださいよ! ライブ会場の場所知らないくせに、全くもう……」

 

 

 私は小走りでお兄さんに追い付き、隣を並んで歩く。

 なんだかんだ言っても、お兄さんの隣は安心する。だから『お兄さんお兄さん』言ってたのも隣にいることが多く、必然的に交流が増えるから仕方なく……ってことで納得しておこう。

 

 ただ、お兄さんと一緒にいるのは歩夢たちと一緒にいる時はまた違う。これほど自分を出せて、安らぎを感じられて、そして楽しいと思える人は他にいない。今日の下見にお兄さんを選んだのは多分そのため。だからこれからも――――いや、これ以上は自分の口から言えるようになるまで心に留めておこう。

 




 今回は侑の個人回でした!
 歩夢たちとのキスがこの章のメインだと思って油断していたところに、まさかの侑の回を投下するサプライズ……?

 今回でまた侑に心境の変化がありました。ただ毎回そうですが、これで付き合ってないは無理があるような気がしますね(笑) 個人的には侑の可愛いところをたくさん描けて満足です!

 他の人の小説は全然読まないのですが、アニメの主人公とは言えどもスクールアイドルではないキャラをここまで恋愛沙汰に持っていく小説は他にあるんですかね? つくづくこの小説の『どんな女の子も彼のモノにするハーレム精神』が異端な気がします(笑)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誰がよりエッチな自撮りを送ってくるのか選手権

「お兄ちゃん。お風呂開いたよー」

「あぁ。って勝手に入って来るなよ」

「なに? もしかして妹のお風呂を想像して1人でヤってた?」

「何年も一緒に暮らしてる妹の風呂を未だに想像してたら普通にヤベぇだろ……」

 

 

 とある夜、風呂上りで艶々となった妹の楓がノックもせずに俺の部屋に入って来た。その瞬間に女の子のシャンプーの香りが部屋中に広がり男臭い雰囲気は一気に消え失せたが、流石にもう何年も一緒に暮らしているのでその甘い匂いに欲情することはない。さっきも言ったが、一緒に暮らしている妹に対して性欲が滾っていたら精力が枯れ果てるぞ。毎日空っぽになるまで搾り取らなきゃ満足できないとか、それもう変態どころか人間じゃねぇだろって話だ。

 

 

「それより何の用だ? 生憎と暇な身じゃないんでね」

「お兄ちゃんに構ってもらいたくて来ました」

「なんで?」

「だって最近のお兄ちゃん、そこらのメス豚共にキスしまくってるじゃん? それなのに私への愛はない。そんなの不公平だと思わない??」

「…………なぜ知ってる」

 

 

 俺は虹ヶ咲スクールアイドルの12人とキスをしないと重病になってしまう問題を抱えている。だから最近はみんなとキスをしているのだが……。ただそれを知っているのは秋葉、薫子、侑だけであり、歩夢たち本人ですらその事実は知らない。なのにコイツは知っている。秋葉が喋ったのか? いやアイツから騒ぎになるから誰にも言うなって釘を刺されてるからそれはないはずだ。

 

 

「知ってるっていうか、感じ取れるんだよ。お兄ちゃんの唇に別の女の匂いが付着してるからね。いくら洗い流しても僅かに付着しているメスの粘液。そこから放出される豚たちの匂いがプンプンしてるんだから」

「こぇえよ! どこのソムリエだお前!?」

「これでも私は譲歩してるんだよ? お兄ちゃんにたくさんの恋人がいるのは慣れてるし、その王様気質こそ私の大好きなお兄ちゃんだからね」

「だったらいいだろ誰とキスしても」

「というわけで、今日はささやかな嫌がらせをしたいと思います!」

「は……?」

 

 

 このイタズラな笑顔。こういうところは秋葉と姉妹だってつくづく思うよ。本人は『お姉ちゃんと同じだなんて反吐が出る』っていつも言ってるけど、イタズラ好きな子供心が大人になった今でも残っているところは本当にソックリだ。ただ休日はたまに秋葉と2人で買い物に出かけていたりもするので、口では嫌悪していながらも実際は仲がいいんだけどな。

 

 そして楓はいつの間にか俺のスマホを手中にしていた。慣れた手つきで俺のスマホのロックを解除し――――って……!!

 

 

「おい、どうして俺のスマホのパスコードを知ってる……??」

「以心伝心してるからに決まってるでしょ?」

「サラッと電波発言すんなよ……」

「お兄ちゃんの考えることはね、全部お見通しなの」

「これでも定期的にパスコード変えてるんだけど……」

「スマホに残ってる指紋の位置、お兄ちゃんが考え付きそうな番号。お兄ちゃんマイスターの私なら全部理解してるし、解除なんて1分もあれば余裕だよ♪」

「怖い怖い怖い怖い怖い!!」

 

 

 俺のプライベート支配されてるじゃねぇか!! いや、そもそもコイツに俺の部屋を掃除させている時点でそんなものは最初からない気もするが……。俺とコイツがそこらの兄妹よりも圧倒的に絆の強い仲だってことは俺も重々理解してるけど、まさかここまで俺の懐に入り込まれていたとは。ちなみに俺はコイツが設定しそうなパスコードなんて全然想像つかねぇけどな? コイツが異常なだけだからな??

 

 

「最近よくつるんでる……虹ヶ咲の子たちだっけ? 高校生の身でありながらキスどころかカラダまで許すなんて、相当お兄ちゃんのことが好きなんだね」

「まあ事情が事情だからな。アイツらが俺のことを酔いしれるくらい好きっていうなら、俺はそれに応えるだけだ」

「昔は穂乃果先輩たちとは高校卒業するまでヤらないって言ってたのにね。今では女子高生とセックスするんだ」

「アイツらが求めて来るから仕方ない」

「ヤリチンなお兄ちゃんなんて妹として困ったものだよ。愛しのお兄ちゃんから毎日別の女の香りがして、エッチした後の匂いを嗅がされるんだもん」

「お前の嗅覚が異常なだけだろ……」

 

 

 言っておくけど、カラダを重ね合わせたとしてそんな臭い匂いを自宅で巻き散らすほど激しいプレイはしてねぇからな?? 多分コイツが大袈裟に言ってるだけだろうけど、自分で自分の匂いに気付くのは難しいためもしかすると……ってこともある。念のため今度からは気を付けておこう。

 

 

「そんな虹ヶ咲の子たちに対して、お兄ちゃんから『エッチな自撮りを送って来い』と命令したら躊躇なく送ってくれるのか調査したいと思います!」

「は? なんで?」

「言ったでしょ、些細な嫌がらせだって。それに女狐たちがお兄ちゃんをどれくらい信用してるのかも気になるしね」

「ただアイツらで遊びたいだけだろ……」

「ピンポーン! お兄ちゃんに纏わりつく女はオモチャにするに限るよ♪」

「性根が腐ってやがる……」

 

 

 これが我が妹、神崎楓だ。俺に寄ってくる女の子を徹底的に潰す……とまでは行かないが、全力で弄り倒す。穂乃果とかμ'sメンバーに対してそれは顕著であり、コイツ自身が勉強優秀、運動神経抜群、歌もダンスも超人レベル、容姿端麗の超絶美少女ってことを自分の武器にして、相手の子をこれでもかってくらいに見下して煽る。それを笑顔で楽しそうに実行するものだから恐ろしい。まあμ'sの面々は楓のこの性格を熟知してるので、むしろ可愛いイタズラをする妹みたいな子と認識されてるみたいだけどな。

 

 楓は俺のスマホを操作して、メッセージSNSアプリを開く。そしてそこに登録されている連絡先リストを流しながら見ていた。

 

 

「……止めないんだ」

「ぶっちゃけて言うと、歩夢たちがどんな自撮りを送ってくるのかちょっと興味ある」

「ふ~ん。だったら軽いジャブから入りますか」

「待て。送るのは歩夢たち9人だけにしてくれ。いくらお前のイタズラでも、栞子たちに送るのは許せない」

「分かってるよ。お兄ちゃんが女の子なら誰とも構わずエッチをする男じゃないって」

 

 

 栞子、ランジュやミアとはまだ()()()()()関係ではない。だから冗談でもソイツらに不信感を抱かせたくないんだ。かと言って歩夢たちならいいのかと聞かれたら……うん、アイツらならもう俺から何をされても悦ぶと思う。自分の意思より俺の言いつけを優先しちゃうような奴らだからな……。

 

 

「じゃあまずは『R-18ギリギリのラインでの自撮りを送って来い。今すぐに』っと」

「なんでそんな命令口調なんだ。文章は俺が考えて――――」

「ざんねぇ~ん! もう送っちゃったもんね~! でも上から目線の方があの子たちの忠誠心が反応していいかなぁ~っと思って」

「そりゃそうかもしれねぇけど……」

「あっ、写真が来たよ!」

「はやっ!?」

 

 

 送ってから数十秒しか経ってないんだが!? 俺からの連絡を確認し、エロい自撮りをどう撮ろうかを考え、そして実際に写真を撮ってこちらの携帯に送る。凄まじいスピード感だが、まさか日頃から俺にエッチな自撮りを送るためのシミュレートをして訓練してたとかじゃねぇだろうな……?

 

 楓が俺のスマホの画面を見せつけてくる。そこには服をまくり上げて今にも下着が見えそうになっているかすみの写真、そして極限まで太ももとおしりの肉を見せつけている彼方の写真、上半身半裸で背中を見せながら艶めかしいうなじを見せる果林の写真があった。

 まず思ったのは、1人どころじゃなくて3人が速攻で送って来ていることだ。まるで今まで送りたかったけどタイミングがなく、何故か唐突にそのチャンスが巡ってきて歓喜してるとか? うん、ありそう。

 

 

「おおっ、凄い! どんどん送られてくるよ!」

「マジ……? アイツらに羞恥心とかないのか……って、まぁないか」

 

 

 普段の押しの強さを見るに、アイツらにそんなものがあるはずがない。唯一そういった恥じらいがあるのは保健体育が苦手なせつ菜とまだちっぽけな純情さが残っている歩夢くらいであり、他の連中は揃いも揃って脳内痴女だらけだ。

 写真は続々と送られてきているようで、胸の谷間を強調しているエマ、風呂上りの火照った様子を見せつける半裸の愛、ちっぱいが見えるか見えないか焦らしプレイをしているかのような璃奈、寝間着の浴衣を開けて肌を大きく露出するしずく。

 

 こんな写真、思春期男子が見たら勢力が枯れ果てるまで自慰行為を繰り返して廃人になるだろう。全国で活躍するスクールアイドルがこんなあられもない姿を自分だけに撮影して送ってくれる。この状況だけでも興奮モノだ。俺なら耐えられるけど他の男なら絶対に性欲に耐えられない。しかも相手は全人類のトップクラスに立つほどの美少女ばかりなのだ。

 

 

「現役女子高生でスクールアイドルのエロ自撮りだなんて、スキャンダル以外の何物でもないねぇ~♪」

「お前まさか、それをネタにアイツらを揺すろうとか思ってねぇだろうな?」

「そんな小さい人間じゃないよ~。それに私だったら真っ向勝負であの子たちに勝てるしね。歌もダンスも、美少女力も何もかも」

 

 

 だったらこんなみみっちいイタズラすんなよな……。

 ただ、楓は美少女の中でも規格外だ。あまりも容姿端麗すぎて観ている側の目が焼き切れるとまで言われている。実際に侑もそう感じたと言っていた。

 それだけの魅力があるのなら読者モデルをやっている雪穂と亜里沙と一緒に仕事をすればいいと思うかもしれないが、俺のお世話をしたいという一点のみで楓は専業主婦の道を選んでいる。だがお遊びでたまに参加してシスターズ3人で撮影することがあるらしいのだが、雑誌に楓が登場すると紙媒体と電子書籍共にその雑誌の売り上げが大きく上がるらしい。元々雪穂と亜里沙だけでも人気の雑誌なのだが、それだけコイツの魅力が規格外なのが分かるだろう。

 

 

「あとは2人か……とか言ってる矢先に来たみたいだね」

「速攻で9人揃いやがったよ……。まだ5分も経ってねぇんだけど」

「それだけあの子たちが淫欲に溺れた哀れなメスだってことだよ。私が相手とも知らずにこんな裸の写真を送りつけちゃって……フフフ♪」

「頼むからそれでアイツらに嫌がらせするのはやめろよ……?」

 

 

 送られてきたのは残り2人の自撮り写真。自撮りに慣れていないのか、少し恥じらいを見せながらも脱衣所で脱いでいる途中を撮影したであろう歩夢と、完全に顔が真っ赤になりながらも自分のパジャマを捲って胸の南半球を見せているせつ菜。他の奴らとは違って羞恥心に苛まれている様子がこれまた良き。この前ライブの慰安旅行で混浴温泉に入ったときもコイツらだけ少し恥ずかしがってたからな、当然の反応だろう。

 

 

「それにしてもお兄ちゃん勝ち組だよね~。一言お願いすればこれだけたくさんの女の子からエッチな自撮りが送られてくるんだから。ポージングとか毎日変えるように命令することもできるし、1人でヤるためのオカズが大量に手に入っちゃうよ」

「俺を性欲塗れのサルみたいに言うなよ……」

「そうだよね~。ムラついたら一緒に暮らしている私がすぐに相手してあげられるもんね~。コンビニ感覚で私の部屋に来てパコれるもんね~。なんなら私の方から行っちゃうけどね~」

「今日はやたらベッタリ来るな。どうした?」

「お兄ちゃんにキスされてるあの子たちに対抗するためです!」

「俺の前だとまだまだ子供だな……」

 

 

 年下の女の子たち(Aqoursや虹ヶ咲)相手だとスクールアイドルの先輩としてイイ感じの強者感丸出しなのに、俺の前だと小さい頃から変わらないウザ絡み小悪魔系の妹へと変貌する。むしろこっちの方が素と言った方がいいか。まあどちらにせよ俺の周りにいる女の子にちょっかいをかける悪趣味を持ち合わせてるのは変わらないけど……。

 

 

「みんなのこの写真、エッチではあるんだけど日々淫欲の奴隷となってる私()()からすると物足りないんだよね」

()()って……。だから俺まで性欲に負けてるみたいに言うなよ」

「近親相姦の背徳感が最高とか思ってるでしょ? 私は思ってるよ?」

「妹プレイなら璃奈とかともやってるけど?」

「それってシチュエーションじゃん? 義妹扱いじゃん? それって他人じゃん? こっちは実妹だよ? 同じ血が身体にドロドロ流れてる、正真正銘の家族なんだよ??」

「そう思うと俺って大変なことしてたんだなって……」

 

 

 そう改めて実感するほど楓からの言葉の圧が強い。女子高生たちから無料で迅速にエロ自撮りを貰える身分ってのもそうだし、実妹と何の躊躇いもなく身体を重ねられる。もはや大変なこととか言うレベルじゃねぇなこれ……。

 

 

「次は『は? この程度で興奮すると思ってんの?』っと。強めの言葉で、かつ敢えて具体的な指示をしなかったらどんな写真を送って来るのか検証だよ!」

「楽しそうだなお前」

「すっっっっごい楽しい♪ こんなに楽しいオモチャがあるなんて……」

 

 

 手が震えるほどに楽しいのか……。やはり大人になっても根底となる人を見下して遊ぶその腐った性根は変わらないようだ。

 そして楓がスマホに打ち込んだ命令がまた歩夢たちに送信された模様。常日頃からエロ自撮りを求められているのならまだしも、人生で初めてそんな命令が飛んできたのにも関わらずあの反応速度。アイツらの忠誠心には驚かされるばかりだ。ただ今度はさっきよりも過激な依頼になったので、流石にすぐには対応できないと思うが……。

 

 

「あっ、来た来た。相変わらず早いねぇ~」

「はぁ!? 痴女かよアイツら……」

「愛する人には自分の全てを見てもらいたいんだよ。私みたいにね」

「お前は曝け出しすぎだから……」

「そんなことより見てよこれ」

 

 

 楓はスマホの画面を俺に見せつける。

 そこにはSNSの裏垢に投稿するような際どい写真ばかりが並んでいた。もう言葉で言い表すのがアウトなくらいの肌色ばかりであり、服を着ておらず自分の大切なところが見えそうになっている子もちらほらと……。放送コードに引っかかるからあまり言及はできないが、愛や果林のように自分のカラダに自信がある子は全てを晒しており、歩夢やせつ菜のように恥じらいが残っている子は着衣しているものの恥部が見えそうに……やっぱ言えねぇなこれ。かすみや璃奈みたいにカラダが未成熟な子の裸も背徳性があるし、エマや彼方の肉付き良いカラダや、しずくの上品に脱いでいる姿など、もうそこらのAVよりも断然に淫猥だろう。

 

 

「で? お兄ちゃん的にはどの子の写真が好み? いや、どの子が性欲に来たの?」

「言い直さなくていいから。それに誰がいいとか俺には決められない。多分目の前でコイツらの誰が脱いだとしても俺は興奮する」

「だろうね。優劣を付けないのがお兄ちゃんだもん」

 

 

 分かってるのなら聞くなよ……。

 ただ俺は女の子の裸に興味があるってよりかは、()()()女の子の裸だから興味があると言った方がいい。巨乳や貧乳、スタイルがイイとか貧相とかどうでもよく、好きな子のカラダであればそれでいいんだ。まあ虹ヶ咲の奴らは巨乳と貧乳、アダルティとロリ、つまり全ての属性をカバーしているからスタイルの問題は心配する必要ないけどな。どの属性の女の子もバイキング感覚で堪能できる。って、この発言も相当危ないか……。

 

 

「あっ、間違えてあの子に送っちゃった。ほら、最近金魚のフンみたいにお兄ちゃんにくっついてるあの子」

「侑かよ!? 栞子たちには送るなとは言って侑にはダメとは言ってなかったけど、大体察せるだろ……」

「てへ♪」

「狙っただろ……」

 

 

 おいおいこの前せっかく電車内で好感度が上がってることを実感できたばかりなのに、ここで下げるような真似しやがって……!!

 侑のことだから歩夢たちみたいに送られてきた内容をそのまま受け取らず、俺に毒づいてくるに違いない。それだけだったらまだマシだが、流石にドン引きされるかな……。

 

 

「あっ、あの子から返信が来た。『楓さんですよね? こういうことするのって』……は?」

「えっ、アイツまさか察してるのか?」

「なにこの返信。まるで自分がお兄ちゃんのことを一番分かってるみたいな……」

「ヤバい、楓から負のオーラが……」

「また返信が来た。『お兄さんは変態さんですけど、こういうことをする人ではないので』って……。は? なにコイツ、お兄ちゃんと一番深く繋がってますよアピール??」

「違うから! 曲解すんな!」

 

 

 侑からのまさかの返信内容に静かにキレる楓。もちろん侑にマウントを取っているつもりなんて一切ないだろう。だが最近俺と虹ヶ咲の面々がキスしまくっていることを快く思っておらずピリピリしている楓にとって、侑のこの発言は起爆剤となってしまった。笑顔ではいるがそのオーラは真っ黒であり、怒りのあまり今にも俺のスマホが破壊されそうだ。

 

 

「こうなったら対抗してやる。『いや俺だから。早く自撮り送って来い』っと。これで送信!」

「おい、俺の株がどんどん下がるんだけど……」

「返信来た。『お兄さんって、相手が本気で嫌がることは絶対にしないんですよ。だから私にそんなことは言わないんです。そう信じてますから』だって。ほぉ~ん……」

「侑、そこまで俺のこと……」

「ちょっと!! なにあの子との信頼を感じてるの!? まさか本当に私よりもあの子との絆の方が強いってこと!?」

「違うって! アイツいつも素直じゃないから、本心を聞けて嬉しかっただけだ!」

「ふ~ん……」

 

 

 あ~あ、不機嫌さが最高潮に達してるなこりゃ。自分で嫌がらせを仕掛けておきながら自爆して不快になるって、それはもう自業自得のなにものでもない。外では完璧超人のスーパー美少女なのに、家だと墓穴を掘るくらいにワガママになるんだもんな。そういうところが可愛かったりもするのだが、それで不機嫌になって俺に矛先を向けるのはやめてもらいたい。

 

 楓の負のオーラがどんどん強くなる。明らかな嫉妬。しかも俺の妹様の嫉妬はそこらの女性が抱く嫉妬のパワーとは訳が違うぞ……。

 楓は俺のスマホを放り捨てると、ドス黒い威圧と共に俺と向き合った。そして俺の身体をベッドの押し倒し、自分も乗り込んで来た。

 

 

「えっ?」

「もうこうなったら分からせるしかないよね。誰がお兄ちゃんの一番なのかを……」

「風呂に入ったばかりだろ。汚れるぞ」

「風呂に入ったばかりだから綺麗なカラダなんだよ。いくらお兄ちゃんも汚い女を抱きたくはないでしょ?」

「本気かお前!?」

「そうだよ! あんな女にマウントを取られて黙っていられるかぁあああああああああああああああああああああああああ!! こうなったら私たちのベッドシーンを録画してアイツに送りつけてやるぅううううううううううううううううう!!」

「ちょっ!? それはマズいって!!」

 

 

 その後、実の妹とベッドで――――なんて展開は何とか阻止し、今晩は一緒に寝てやるという条件でなんとか機嫌を宥めることができた。いつもは兄を慕ってくれる可愛い妹なんだけど、たまにこうして狂犬になるから頃合いを見てエサはしっかり与えてあげないとな。

 

 そして後で歩夢たちにも一言謝っておこう。送られてきた自撮りは消しておくから安心して欲しいと。これでアイツらが味を占めてなければいいのだが、これを機にまた送ってきそうな気がする。

 ただ一番の被害者は、楓に勝手に恨まれて勝手に敵にされてしまった侑なのかもしれない。アイツも後でフォローしておこう……。

 




 なんか思ったよりも楓の回になってしまいました(笑) 本来はみんなの自撮りシーンとかを細かく描写するつもりだったんですけど、明らかにR-18になるので描写を避けたら楓の大活躍(大暴走?)回になってしまい……。



 そういえば先日の公式発表でにじよんのPVが公開されたり、アニガサキの映画公開が決定したりと、まだ虹ヶ咲も終わらないコンテンツになりそうですね! ただそうなるとこの小説でも虹ヶ咲を扱う回数が増えることになって、まだ小説を終われそうにないです(笑)


 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三船家の跡取り

 今回は虹ヶ咲アニメの栞子回を回想した話がありますが、この小説での虹ヶ咲編がアニメ2期より前に連載されていた都合上、栞子のスクールアイドル加入の経緯はスクスタ基準となっています。
 そのため、この小説ではアニメ2期の栞子回の話は少し改変されていますので、あらかじめご承知おきください。




「いらっしゃいませ、零さん。本日はご足労いただきありがとうございます」

「あ、あぁ……」

 

 

 想像以上に畏まった栞子の挨拶に適当な返事しかできなかった。

 今日は三船家にお邪魔している。事の発端は栞子の姉である薫子の提案であり、女の子と仲良くなるんだったらその子の住処に上がり込むのが一番という暴論から、話がとんとん拍子に進み今に至る。あまりに唐突な家庭訪問のため栞子も驚いていたのだが、いつも通り薫子の強引さに負けて俺をもてなすことになってしまったらしい。アイツなりに俺と栞子の仲が深まるように気を使ってくれたのだろうが、女の子の家にいきなり男を呼び込むなんて正気じゃねぇぞ。もっとデートとか色々あっただろうに……。

 

 

「それにしてもお前、どうして着物を着てるんだ?」

「こ、これは姉さんに無理矢理着せられてしまって……!! 男性をおもてなしするなら正装をするべきだと……」

 

 

 やりたい放題だなアイツ。そんなウソを信じ込んでしまうほど純粋なコイツもコイツだけどさ……。

 栞子は白を基調とした着物を着ている。厳粛で品行方正、清楚で清純な彼女に『和』のテイストである着物は非常にマッチしており、もうこれだけで絵になる。高校1年生とは思えないその美麗な姿は女性慣れした俺の目すらも惹きつけてしまう。そして普段から華道などのお堅い習い事をしているおかげか、お辞儀や佇まいなど動作1つ1つが無駄なく綺麗であり、見ているこちらまで身が引き締まってくる。名家の娘は俺の知り合いで何人もいるけど、ここまで荘厳な女の子は今まで見たことがないな。

 

 

「でも零さんをおもてなしをするのであれば、正装をするのもやぶさかでないと言いますか……」

「なるほど。つまり俺のためにわざわざ着替えてくれたわけだ」

「自分が似合っていると思う服を着た方が零さんからの見栄えも良いと思いまして……あっ、い、今のは忘れてください!! 決してそんな下心があったわけでは……!!」

「お前も欲がある人間だったんだな。むしろ安心したよ」

「そんなほっこりとした顔で見つめないでください!!」

 

 

 ただ秩序のために動いている子だと思ってたのだが、俺に自分を良く見てもらいたい欲はあるらしい。如何にも年頃の女の子らしい欲望であり、顔を赤くして照れている表情を見るにどこか俺に期待しているのだろう。和服を着てもじもじしているその仕草は、彼女の清純さも相まって非常に愛らしい。

 

 

「とにかく、お客様をいつまでも玄関先に立たせてはおけません。家を案内するので、どうぞお上がりください」

 

 

 栞子に導かれて三船家に足を踏み入れる。俺みたいな一般人の足の油をこんな高級住宅の床に擦り付けていいものかと思ってしまうため、お堅い雰囲気の家は今でも苦手だ。μ'sの海未やAqoursの黒澤姉妹、虹ヶ咲だとしずくの家も似たような和の趣のある家だが、そういった厳格な雰囲気のある家に来ると少しばかり緊張してしまう。来年教師になるとは言っても基本年上にすらタメ口で話すような礼儀のない人間なので、こういった品行な立ち振る舞いを求められるのは苦手なんだ。

 

 

「今日は家族はいないのか?」

「はい。1人を除いて用事で出かけています」

「その1人ってまさか……」

 

「やぁ、いらっしゃい零君」

 

「やっぱりお前か……」

 

 

 現れたのは俺をここへ呼んだ張本人で、栞子の姉である薫子だ。赤いメッシュの入った黒髪ロングに革ジャンと、だいぶロックな外見。格式を重んじるこの三船家には到底似合うはずもなく、コイツの存在感の大きさも相まって浮きに浮きまくっていた。

 

 

「姉さん、今日は部屋から出てこないでくださいと言ったはずでは……?」

「なんで除け者にするの? 私だって零君とお話したいのに!」

「昨日いきなり『零君が来るから』と爆弾発言をして、しかも私にこんな格好までさせて陰で愉しそうにしている人を信用しろと?」

「でもそのおかげで合法的に零君におもてなしできるんだし、結果オーライじゃない? それに零君と距離を縮めたいって言ってたじゃん?」

「そうなのか?」

「な゛っ、それは秘密の約束では……!? お、お茶を入れてきます!! 零さんを客間に案内して差し上げてください。いいですね!!」

「ちょっと栞子! あ~あ、行っちゃった」

「お前のせいだろ……」

 

 

 栞子は顔を紅潮させてこの場を去ってしまった。そりゃ秘密にしておきたい相手の前でそれをバラされたら恥ずかしくなるだろ……。

 微妙な空気間の中で客間へ通される。案の定その部屋は和室であり、洋の生活に慣れている俺からすると堅苦しいことこの上ない。ただ薫子は脚を崩して品位の欠片もない座り方をしているので、俺もそれに倣って座る。正直そっちの緩い雰囲気の方が肩凝らずに助かるからな。

 

 

「で? 本当の目的は何なんだよ?」

「やだなぁ、もしかして裏があるかもって疑ってるの?」

「そりゃそうだろ」

「栞子といい零君といい、みんなヒドい!」

 

 

 自宅とは言えども和を重んじる雰囲気の家でロックな格好をしているのもそうだし、持ち前の破天荒な性格で栞子を無理矢理ツーリングやら何やらで色々連れ回しているのもそうだし、秋葉の計画に加担しているのもそうだし、そんな奴をすぐ信じられるか?? 別に悪い奴ではないんだろうけど胡散臭さが凄まじい。だから俺を家に呼んだのも何か裏があるのかと疑っていた。

 

 

「言っておくけど、別にこれといった理由はないよ。零君の身体を心配してるだけ」

「特に異常はねぇけどな」

「それでも栞子と仲良くなって、キスする必要があるんでしょ? だったらこれを機に交流を深めないと、いつか体調を崩してその身体が保てなくなっちゃうよ?」

「気遣いはありがたいけど、俺がアイツとの仲を深めるのは自分の身体のためじゃない。そんな打算的に仲良くなってキスをしても、それは本当の愛じゃないだろ。心で繋がり合いたいんだよ」

「おぉ~言うねぇ~。流石は楽園の王って感じ? そういう紳士的なところが女の子を惹きつけるんだろうね。私も油断したら惚れちゃうかも……?」

「言ってろ……」

 

 

 こっちは女の子を引っ掻けているつもりはないし、向こうから勝手に寄って来るだけだからな。

 ただどんな理由にせよ、自分のことを好きになってくれる、なってくれた女の子には全力で応える。それが俺のポリシーだ。だから例え自分の身体に異常が発生しようとも、その治療を目的に女の子と仲良くなりキスするようなことはしたくない。ここまで彼方やせつ菜、愛とかすみとキスをしてきたが、どれも男女のいい雰囲気になったからキスをしただけで、決して自分のためにキスをしたことは一回もないんだよ。

 

 

「なるほどね、栞子が惹かれるわけだし、秋葉さんも注目するわけだ。尊大な態度だけど誠実さがあって、自分が女性にモテることを謙遜せずに誇示する堂々とした男らしい態度。私も好きだよ、キミのそういうところ」

「そりゃどうも。勝手に好きになってろ。明確な好意を感じ取れたら相手をしてやる」

「おーおー、凄い貫禄だねぇ……」

 

 

 バカにしてんのかコイツ……? どうもイジリ甲斐のある奴が現れたから遊んでいるようにしか見えない。一応こっちの身体の事情は知っているので心配はしてくれてるみたいだけどさ。なんにせよ、人の本質を見抜くような口ぶりでウザ絡みしてくるあたり、アイツの普段の苦労が垣間見えるな……。

 

 そんなくだらない話をしていると、栞子が部屋にやって来た。湯呑を2つ乗せたおぼんを両手で持っている。

 そのおぼんを机に置くと、湯呑の1つを俺に差し出してきた。

 

 

「粗茶ですが」

「あぁ、サンキュ」

「あれ? 湯呑、もう1つしか残ってないけど?」

「これは私の分です」

「私のは?」

「姉さんのはこれです」

「これコーラじゃん!」

「俗物に塗れた姉さんにはちょうどいいでしょう。それに、いつもそういう身体によくないモノを好き好んで飲んでいるではありませんか」

「いやいや、客人の前で1人だけコーラって空気読めてなさ過ぎでしょ……」

 

 

 薫子が湯呑でお茶を飲んでいる様が全く想像できないので、そういった炭酸飲料とかエナジードリンクを飲んでいる方が似合っている。堅苦しいのは性に合わないのは俺もだけど、コイツもコイツで教育実習生なのに髪型の派手さや赤メッシュを染め直さないあたりかなりの俗物塗れだ。我が道を行くことに特化した奴を相手にするのは大変だな栞子。まあそれに関しては俺も人のことは言えないが……。

 

 

「私のいない間に姉さんが零さんに粗相をしてないかとても不安です」

「今日はいつにも増して私への対応が雑だね……」

「大丈夫だ。コイツがどんな奴であろうとも俺を打ち負かせないから」

「あの姉さんの相手ができるなんて、素晴らしいです! 是非対応方法の伝授をお願いします!」

「そんなところで尊敬を感じられても……」

 

 

 今日イチ、いや今まで見た中でもトップクラスにキラキラと期待を込めた表情をしている栞子。普段が笑顔が少なく押しも控えめなクール系なので、キャラ崩壊するくらい俺に懇願してくるなんてよほど苦労してんだな……。

 

 

「それにしても、栞子が男性に興味を持つなんて今でも信じられないよ。個人の適性とか社会のルールとか、概念だけが恋人だった頃とは大違い」

「きょ、興味って、零さんには色々と相談に乗ってくださっていて、非常に頼りになるお方なので尊敬しているだけであって……。そ、そう、姉さんとは違うのです!」

「最後の条件だけで俺に+100万ポイントくらいありそうだな」

「もう零君までそんなことを……。でもそれだけ栞子が零君のことを好きってことか」

「す、好きって……。恐れ多いです!」

 

 

 そして今日イチで顔を真っ赤にする。侑もそうだけど、俺のことを好きかと聞かれるとみんな否定する。そりゃ肯定したらもう付き合っちゃえよって話になるから仕方ないけどさ。ちなみに顔を真っ赤にしてもじもじしている様子から、ある程度のその気があるのは丸分かりだ。そういった仕草が愛おしいくらいに可愛いから、それが見られるのであれば否定してもらって全然いいけどな。結局いずれ付き合うことになるんだし、付き合う以前の初々しい表情は今しか拝めないので是非堪能しておきたいところだ。

 

 

「俺から言うのもアレだけど、恐れ多いことはないだろ。俺はお前のこと、好きだぞ」

「ぴゃやぁっ!?」

「お前に似つかわしくない声が出たな……。でもお前の魅力からすれば男が惹かれるのは当然だ。文武両道で家事スキルも高く、事務処理能力も秀でていてそれで美少女ときた。そんなの自分のモノにしたいに決まってるだろ」

「私が零さんのモノに……!? そ、そんな……」

「こんなに乙女な栞子、姉として生きてきて初めて見るよ。恋は人を狂わせるって本当なんだね」

「夫婦になると言うことは、起床から就寝まで共にするということ。食事も睡眠も……入浴も!?」

「あちゃ~こりゃ相当な未来設計図を妄想してるねぇ……」

 

 

 妄想は人それぞれだからいいんだけど、栞子の中で俺の存在が妄想するくらいまで大きくなっていたことに嬉しさを感じる。初対面の時は歩夢たちを誑かす性悪な男と思われていて、突き刺すような眼光を向けられていたからな。俺への評価が文字通り天と地ほどの差だ。

 

 ちなみに昔話をすると、コイツが惚れ堕ちするまでには2つのターニングポイントがあった。

 1つ目は初対面で超警戒されていた時、つまり初デート(向こうはそう思ってなかっただろうが)。最初は俺をヤリチンか何かと考えていて疑いの目を向けていた彼女だったが、その日に一緒にデートをしていくにつれて態度が徐々に緩和。いつの間にか彼女から笑顔を引き出すことができるようになり、終いには帰宅時にまだ一緒にいたいと懇願されるようになった。まあ実際に話してみたら意外といい人だった、なんてよくある例だな。

 

 2つ目は虹ヶ咲が発起人となった秋のスクフェスにて、歩夢たちと比較して自分にはスクールアイドルの適性がないと落ち込んでいた時の話だ。歩夢たちは例の過去があったからこそ俺のためだけにスクールアイドルを始め、他人とは比較にならないの努力で今の地位を築いている。ただ栞子は途中加入で歩夢たちのように強い想いや夢があるわけではないため、そこに疎外感のようなものを抱いていたようだ。

 ただ強い想いがないのであれば今から持てばいいと伝えてやったり、夢なんて大きくある必要はなく、どんなちっぽけでもいいから探してみろとアドバイスしたり、さっきのように歩夢たちに負けていない彼女の魅力を語ってやったところ、どうやら調子を取り戻したようである。まあその頃からコイツが俺に向ける目線の熱さが何倍にも膨れ上がった気がするけど……。

 

 そんな過去があり、コイツから見た俺の評価は徐々に上がっていた……と思う。俺の想像だけどな。

 

 

「このまま行くと、零君が三船家の跡取りになるのは確定だね」

「はぁ!? なんだよその話?!」

「ね、姉さんその話は!!」

「あれ、栞子から聞いていなかったんだ。ウチの両親が言ってたんだけど、栞子があまりにも零君にお熱だから、だったらその人を婿に迎えて三船家の跡取りにしたらいいよってね」

「オイなに勝手に話を進めてんだ!? 跡取り? 俺が!?」

「も、申し訳ございません! 私が両親に零さんのお話ばかりしているせいでこうなってしまって……」

 

 

 三船家の中で驚愕な計画が進んでやがる……。もちろん寝耳に水なのだが、そりゃ娘が気になる男の話をしたら両親がその気になるのも無理はない。親であればコイツのお堅い性格を知っているだろうし、色恋沙汰なんて縁がない性格だってことも知っているはずだ。だからこそ彼女の口から嬉しそうに何度も同じ男のことを語られれば、その男こそが娘の運命の人だと思ってしまうだろう。だからと言って顔も知らない男を跡取りにするなんて……。栞子に男ができそうなことを相当喜んでるみてぇだな。

 

 

「実は両親が零君と栞子のツーショットをたまたま見ちゃってさぁ~。そしたら『こんなにイケメンで娘のことを大事にしてくれている男性だったら跡取りに何の問題もなしっ!』って、もう家を継がせる気満々なんだよ」

「顔バレしてんのかよ!? そういや俺と一緒に写真を撮って欲しいって頼まれたことがあったな。いいライブの衣装が出来上がったから、だっけか。あぁ、あの時の写真を見られたのか」

「申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません!!」

「いや攻めるわけじゃねぇけど、想像以上にフィーリングで跡取りを決めちゃうんだなって」

「当たり前だけど私の親でもあるからね。私がこういう性格なのは誰のせいなのか察してよ」

「つまり親の適当な部分がお前に遺伝されて、まともな部分が栞子に遺伝したと」

「そう言われると私がダメ人間みたいじゃん……」

 

 

 ただコミュニケーションが器用なところは姉に、不器用なところは妹に遺伝しているので一概にダメ人間でもないけどな。でも薫子の適当な性格を見ていると、コイツらの親がノリで俺を跡取りに選ぶのも分からなくはない。勝手に跡取りにされそうになってるこっちのことも考えて欲しいが……。

 

 

「申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません……!!」

「もういいって。別にお前らの親が認めてくれるのなら悪い話じゃねぇからさ」

「そうなんだ。だったら栞子とお付き合いするのもやぶさかでないと?」

「俺は最初からそのつもりだが? イヤだとは今まで一言も言ってねぇだろ」

「零さんと私が!? ひっ、あっ、そ、その、よろしくお願いします……」

「早い早い! 話が早い!」

 

 

 このままだと明日には両親にご挨拶しに行く流れになりかねないぞ……。つうか栞子はまだ高校1年生。まだ幼気なそんな子と結婚前提でお付き合いしていますとか、人によっては犯罪者扱いされそうだ。

 

 

「つうかお前はいいのかよ、俺が跡取りになっても」

「そこらの得体の知れない男なんかよりも、こうしてありのままの自分を出せて気楽にいられる零君の方が圧倒的にいいよ。堅苦しい財界のお坊ちゃまとか連れてこられても面倒だしね」

「一般庶民で悪かったな。でも俺もお前のこと、結構好きだぞ」

「ぶぅぅううううううううううう!!」

「姉さん!? コーラ噴き出さないでください!!」

「ケホッ、ケホッ! ちょっ、何言ってるの零君!?」

 

 

 あれ? 意外にもウブな反応を見せるんだな。もうちょっと遊んでる女なのかと思ってたけど、たった一言で顔色が赤くなったのであまり恋沙汰に耐性はないらしい。遊んでそうとは言っても男との交流はなかったパターンか。案外可愛い一面もあるんだな。

 

 

「なるほど、結局姉さんも私と同じだったわけですか。あれだけ零さんと私の関係をネタにしておきながら、自分も零さんとの関係に心地良さを感じているではありませんか」

「いやいや、他の男よりマシってだけで、栞子みたいな恋愛方面では……」

「想像してみてください。起床から睡眠まで共にする零さんとの日常生活を。目覚めたら目の前に零さん、食事の時にも目の前に零さん、入浴時にも一緒に零さん、就寝時にも目の前に零さん。何をする時にも隣に零さんがいる生活を!」

「あっ、あぁ……!!」

「どうですか? 脳内に幸福アドレナリンが大量に分泌されて妄想の世界から帰りたくなくなるでしょう?」

「くっ、うぅ……!!」

「姉さんへの復讐がこれほど愉しいだなんて……」

「おい変な性癖に目覚めんなよ……」

 

 

 栞子は薫子を妄想の世界に幽閉し、幸福アドレナリンとかいう合法ドラッグを流し込むことにより徹底的に復讐をしている。いつもイジラレていたからその腹いせなのか、こんな黒い笑顔をした栞子は見たことがないぞ。薫子も薫子で普段は余裕ぶってるのに今は妄想に悶え苦しんでるし、ここまで狼狽えているのは見たことがない。でもまぁ、こういったいつもとは違う女の子の顔は学校では見られないので、これこそデートイベントの特権だな。今回がデートに分類されるのかはさて置き……。

 

 そんなこんなで三船姉妹とコミュニケーションを取りながら1日を過ごした。姉も妹も可愛い一面を見られたので、俺としては満足かな。薫子は栞子にしてやられて不満気だったけども……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして帰宅の時間。栞子が玄関先までお見送りに来てくれた。空はいい感じの夕暮れとなっており、彼女が未だに着ている着物がより鮮やかな朱色となっているため非常に見栄えが良くなっている。

 そんな中、栞子は深々と頭を下げた。

 

 

「零さん、本日はありがとうございました。色々とお見苦しいかったとは思いますが……」

「いや、お前も薫子も可愛いところがあるんだなって分かったからいい収穫だったよ」

「も、もうっ……」

 

 

 栞子はまたしても頬を染めて俺から目を逸らす。スクールアイドルで注目されることには慣れているんだろうけど、まだ自分が褒められることに関して耐性はないようだ。それは意外にも姉の薫子も同じだったな。ここは姉妹で似ている点らしい。

 

 

「それもそうだけど、まさか家族ぐるみで俺のことを跡取りにしようとするくらい信頼してくれている、って知れたことの方が収穫かな」

「零さんは私から見ても魅力的な男性だと思います。それを親にありのままに伝えただけです。で、でも、本当に跡取りになるのかはしっかり考慮した方が……」

「そうだけど、別に俺は構わないよ。お前と一緒にいられるのならな」

「そ、そんな恐れ多いです……。しかし、私も零さんと一緒にいられるのであれば、それほど幸福なことはないと思っています」

「お互いに、ってことか」

 

 

 彼女とここまでお互いの気持ちを確認し合ったのはこれが初めてだ。意外も心の距離が近くて驚いたが、仲が進展していると知れたのは嬉しいことだな。

 

 

「じゃあもう帰るよ。じゃあな」

「零さん」

「ん?」

 

 

 返ろうと思い背を向けると栞子が呼び止めてくる。振り向くと何やら迷っている表情をしているのが見えたが、すぐに決意に満ちた顔に変わる。

 

 

「またいつかお話させてください。今度はその……2人きりで!」

「栞子……。あぁ、楽しみにしてるよ」

「はいっ! よろしくお願いします!」

 

 

 また深々と頭を下げる栞子。もしかしたら、男女の関係になるのももうそこまで時間はかからないのかもしれない。

 

 




 今回は栞子回でした! 三船姉妹の回とも言えなくもないですかね?
 書いていて思いましたが、女の子たちの親がいつも零君に寛容すぎますね(笑) まあ寛容ではなかったら話が作りにくくなるので仕方がないですが、彼方ママみたいに変な方向にシフトする人もいるので、跡取りを勝手に決めるくらいはまだまともな両親だったと思います!(笑)

 栞子との関係も、もうお互いに告白してもおかしくない段階まで来ているので、次に個人回が来たときはもしかしたらもしかするかも……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私だって甘やかされたい!!

「やぁ~っと卒論終わったよ。ようやく春休みかぁ~」

 

 

 伸びをしながら虹ヶ咲の校内を歩く。

 先日大学の集大成である卒業論文の発表が終わり、ついにお待ちかねの春休みに突入した。大学の春休みと言えば2か月越えの長期休暇であり、もはや人生の春とも呼ばれるくらいだ。その長い休暇期間に旅行へ行く者、バイトに精を出す者、勉強に勤しむ者などなど、これだけ自己研鑽に使える期間は人生で存在しないくらいだ。

 

 かく言う俺の予定はと言うと、別にどこかへ遠出することもないしバイトをするつもりもなく、勉強も卒論でさんざんやったのでもう勘弁。だったら何をするのか、そりゃ女の子たちとの予定が詰まっているのでそれを消化するに限る。俺が長期休みに入ったという情報がどこから漏れたのか、最近やたらめったら女の子たちから予定を入れられるんだよな……。もちろん鬱陶しいとか思ってないけど、ちょっとくらい休ませてくれてもいいんじゃねぇか……?

 

 若干の憂いを感じつつも、女の子たちとの日常をより一層謳歌できる期間は楽しみでもある。そんなことを考えながら部室に入ると、何やら脳を蕩けさせるくらいの甘い香りが部屋を支配していた。

 

 

「な、なんだよこれ……。エマ、お前の仕業か……?」

「あっ、零さん。こんにちは!」

 

 

 エマがお香のようなものを焚いていたので、この甘い香りは間違いなくコイツの仕業だろう。ただ甘ったるくて腹に溜まる重さみたいな感じではなく、むしろ疲れを癒すかのような薄甘い香りのためぶっちゃけ心地良いと言えば心地良い。この部室にいるのが母性の塊であるエマ1人ってのも癒し効果に拍車をかけているのかもしれない。

 

 

「どうしてこんなアロマなんて焚いてんだ? みんな練習続きで疲れてるからとか?」

「それもそうですけど、一番の理由は零さんのためですっ!」

「えっ、俺?」

「はいっ! 最近卒論や教師に向けてのお勉強でお疲れみたいでしたから、これもう私が癒してあげるしかないと思いました♪」

 

 

 今まで見たことがないほどの笑顔を向けるエマ。コイツにとって人を甘やかしたり癒したり、お世話することは何よりの生きがいとなっている。私生活ズボラな果林や寝坊助な彼方が同級生にいるせいでその願望に更に拍車がかかっており、もはや誰かを甘やかしていないと居ても立っても居られない中毒症状に陥っていたこともあるくらいだ。同じユニットのかすみや璃奈の面倒もよく見ていたり、歳の割に大人びているしずくや栞子を唯一甘やかす存在としても活躍。もはやみんなのお母さん、いやママと言っても差し支えはないだろう。

 

 ただ、流石に年上の俺に対しては甘やかそうとしてこない。俺のことを心酔するほど慕っているってのもあるだろうが、コイツが俺に迫って来る時は他の子と同じく女性として誘惑してくることが多い。だから今、こうして俺を癒そうとしてくるのは意外と珍しかったりもするんだ。

 

 

「まあ最近色々重なって疲れ気味なのは確かだからな。で? どうやって癒してくれるんだ?」

「えっ、私に甘えてくれるんですか!?」

「甘えるっつうか、たまにはリラックスしたいだけだ」

「えへへ、ずっとこの瞬間を待ってました♪」

「なんかちょっとこえぇな……」

 

 

 笑顔に曇りは一切ないんだけど、ここまで楽しみにしているってことは虎視眈々とこの時を狙ってたってことだ。もちろん俺を甘やかしたいのは善意なんだろうけど、年上の男にそんな気を向けるのは度胸があるっつうか、怖いくらいの母性の持ち主なんだと思う。コイツのテンションが上がり過ぎて赤ちゃんプレイとか強要されないよな……??

 

 

「怖くないですよ! さぁ思い切って私にオギャりましょう!」

「やっぱり赤ちゃんプレイじゃねぇか!? そんな趣味はない!!」

「私は疲れを癒す達人なんですよ!? だったらここでオギャらないと損です! たっぷりバブみを感じさせてあげますから!」

「どこから覚えて来るんだよその言葉……」

 

 

 エマは名前から分かる通り留学生であり、日本のオタク文化には疎いはずだ。だが最近は自分のライブ動画に寄せられるコメントに影響を受けているため、そういったオタク用語を次々を覚えてしまっているという非常に残念な展開となっている。まあ母性があるってのは自分自身で公言しており、むしろオタク用語を使用することでみんなと一体感を持てるから本人は嬉しがってるんだけどな。ただ真っ白なキャンパスを黒塗りにしてるような気がして罪悪感がある。言っておくと、俺はそういった言葉を教え込んでないからな……。

 

 エマはソファに腰を掛ける。すると大胆にもスカートの中が見えそうになるくらいに両脚を開いた。

 何をしているのかと目を丸くして彼女を見てみると、屈託のない笑顔で自分の脚と脚の間を指差していた。

 

 

「まさか……その間に入れと?」

「はい♪」

 

 

 両脚をパカパカと開閉させながら俺を誘うエマ。女子としてはしたないことこの上ないが、あの柔らかい太ももに挟まれたらどれだけ気持ちいいだろうか。虹ヶ咲のスカートが短いせいで彼女の肉付きが良くきめ細かな白い太ももが露わになっており、開閉して動かすものだからその太ももが揺れて非常に艶めかしい。男と言うのは女の子の胸が揺れる様に目が惹かれるもの。だったら同じ柔らかさと弾力性を持った太ももの揺れに敏感になるも仕方ないだろう。

 

 俺はしゃがみ込み、その揺ら揺らする太ももに釣られるようにエマの開いた両脚の中に侵入する。年下の女の子に脚を開かせてその間に鎮座するだけでも犯罪臭が半端ない。同時に未だにこんなのに釣られる自分が情けなくなってくる。でも男だもん、誘惑に乗って当たり前だろ……??

 

 するとエマは両脚の太ももで俺の顔を優しく挟み込んで来た。いきなりだったので驚いたが、その気持ち良さに抵抗する気にはならなかった。

 なんつうかまぁ……いいじゃん。最近疲れてるってのも相まってか、柔らかいものに包まれるこの感覚に異様なまでの癒しを感じる。その柔らかさは胸で顔を挟まれている感覚と大差はない。傍から見たらさっきよりも情けない姿に見えるが、疲れを癒せるのであれば少しくらいの恥は受け入れよう。どうせ誰も見てねぇしな。

 

 

「どうですか~? 気持ちいですか~?」

 

 

 そして繰り出される癒しボイス。元々コイツの声色は脳トロな部類なのだが、今日は俺を労う目的があるのか意図的にトロける声を出しているようだ。その目論見は見事に的中しており、何故かリラックスできている。ただ太ももに挟まれているだけなのに、やっぱり女の子のカラダの癒し効果は凄い。あとエマ自身の母性滴る雰囲気も相乗効果になっていそうだ。

 

 

「零さん、次は頭を上げてもらってもいいですか?」

「ん?」

 

 

 エマのお願いに従い、太ももに挟まれた状態から頭を上げる。すると目の前には大きな胸、それを隔てて彼女の顔が見える。こうして下から見上げてみると胸の下に影ができているのが良く分かり、コイツの圧倒的な巨乳がやたらと存在感を放っていた。いくら女の子の胸を見慣れている俺とは言えども、この圧巻な光景には思わず息を飲むしかない。

 

 しばらくその胸に見入っていると、それを隔てた向こうにいるエマと目が合う。彼女は聖母のような笑みを見せると、自分の両手を俺の後頭部へあてた。そしてそのまま俺の頭を自分の腹に押し付けて両方の太ももで俺の身体を挟み込んだ。更に上体を少し倒し、その豊満な胸を俺の頭に乗せる。一瞬で俺の身体はエマの全身に包まれた。

 

 

「あ~~今とっても母性が高まっていくのを感じるぅ~~♪」

 

 

 今まで聞いたことがないくらいの昇天しそうな声を出すエマ。確かに男の頭部を自分の手、胸、太もも、腹で抱え込めば、そりゃ包容力も鍛えられるだろう。しかも相手は普段甘やかそうにも甘やかせない年上の男性。そんな奴を自分の温もりで包み込むことができたら、世話好きの身からしたら快感だろうな……。

 

 俺の方はと言うと、またしても情けない光景になってしまった。女の子の脚の間に忍び込み、頭を抱きかかえられながら顔面を腹に押し付けている。成人男性が女子高生に対する行動としてはもう擁護できないレベルで情けなく、傍から見たら気味悪がられることは必至だ。

 

 ちなみに俺の後頭部はエマの巨乳置きとなっているのだが、柔らかいながらにずっしりとした重みを感じるのがこれまた気持ちいい。もう裸の付き合いは何度もあるため彼女の胸を直に触ったことはあるのだが、その双丘を後頭部で下から持ち上げてみるとその重量を実感できる。やはり美味い果実は実もぎっしり、ということか。そしてそんな男を狂わせるような胸を堪能できる唯一の男が自分だけとなると、それはそれで支配欲が湧き上がってくるな。

 

 そんな邪な気持ちはもちろんだが、しっかりと疲れが癒されているのも事実。さっきは胸の話ばかりしていたが、太ももも頭に添えられている手も、顔面を押し付けているお腹も、そして彼女の温もりや雰囲気も何もかも全てが柔らかい。基本的の俺は女の子のメンタルケアをする立場で癒す立場だったのだが、たまにはこうして女の子に身を委ねているだけってのもいいかもしれないな。流石にオギャるのは勘弁だけど……。

 

 

「かすみちゃんとか璃奈ちゃんとか、女の子をぎゅ~ってするのももちろん楽しいんですけど、こうして男の子を癒してあげたいとも思っていたんです。手のかかる男の子をこうして抱きしめて、おとなしくなった姿を見ると母性を感じちゃいますよね♪」

「いや同意を求められても……。つうか俺が手のかかる男の子だってことか? おねショタじゃねぇんだから……」

「今回はちょっと違いますね。私の憧れで大好きな年上の男性が、こうして素直に私に甘えてくれるのが嬉しい、という感じです。どちらにせよ母性を感じられることに変わりはないんですけど」

「人を甘やかすことにそこまで突き抜けてるのがすげぇよ……」

 

 

 何がコイツをバブみの衝動に駆らせるのか。でも世話好きな奴は俺の知り合いにも結構いて、身近だと侑だってそうだ。最近は俺の生活態度を事細かに注意してくる。歩夢の話だとアイツ普段はズボラな方なのに、俺に対してだけはあれこれ世話を焼いてくる。もちろんエマの方が圧倒的に母性が高いが、コイツは人の世話が趣味みたいになってんだろうな。そうでなければ男を抱きしめただけで幸せは感じない。

 

 

「でも良かったです。私でも零さんの疲れを取ることができて」

「噂には聞いてたけどホントにお前って癒しの力があるのかもな。少しの時間だけだったけど、頭を抱きかかえられただけなのに普通に気持ち良かったからさ」

「本当ですか!? ずっと夢だったんです! この手で零さんを甘やかすことが!」

「別に甘やかされてはねぇけどな……」

 

 

 すげぇ夢だなオイ。ここまで来ると俺みたいな偏屈な男だけでなく、不良男子の更生や男性犯罪者の説得や懐柔など、男相手なら無敵の力を発揮しそうだ。もちろん男だけではなく女性も虜にしているので敵はない。母性が高い女性は強キャラなイメージがあるので、コイツからもそのイメージに違わぬバブみを感じられる。油断してるとそのうち本当に赤ちゃんにされそうだから怖いな……。

 

 

「よく頑張りまちたね~。よちよ~ち」

「だから赤ちゃんプレイは勘弁だって言ってんだろ……」

「零さんの精神年齢が幼くなるところを見たいです」

「好きな男が自分にオギャる姿を見たいのか……」

「カッコいい零さんももちろん好きですけど、可愛い姿も見てみたいですから!」

 

 

 意外と欲が深いな……。たださっき赤ちゃん言葉で話しかけられた時、ほんの少しばかり心が揺れ動いたのは内緒だ。下手にこの状態を続けると本当にコイツの母性に飲み込まれちまうかもしれない。

 

 しばらくして結局オギャらせることができなかったので諦めたのか、エマは俺を解放する。彼女は名残惜しい表情をしていたが、流石にご主人様気質の相手をそう簡単に堕とすことはできない。それにあまり続けていると他の奴が来てあの情けない姿を見られる可能性があるため、ここで離してくれたのは助かったかな。

 

 

「これからはいつでも頼ってくださいね! 零さんだったら大歓迎どころか、私からお誘いしちゃいます♪」

「サンキュ。たださっきみたいなオギャるような恰好は恥ずかしいから、次やるときはそうだな……普通に抱きしめるくらいにしてくれ」

「それこそいつでも! あっ……」

「ん……?」

 

 

 さっきまで意気揚々としていたのに、急に頬を染めてしおらしくなりやがった。俺の方を見たり目を逸らしたり、何か俺の方から行動させたがっているのだろうか。女の子特有の『察してよ!』ってやつ……??

 

 

「そういえば私も最近疲れ気味と言いますか、大学が推薦で決まって、残り時間をスクールアイドルの練習に捧げているので……」

「…………なるほど。お前、人にはたくさん甘えてきていいって言ってるのに、自分はそうしないんだな」

「そ、それは……ちょっと恥ずかしいですねこれ―――――はわぁっ!? えっ、い、いきなり抱きしめるなんて……!!」

 

 

 まどろっこしいので抱きしめてやることにした。コイツはいつも誰かを抱きしめる側なので、抱きしめられる側を体験するのは珍しいだろう。まあ裸の付き合いという意味では抱いてやっているのだが、何気ない日常の中でこうして抱きしめられるのはコイツにとってあまりないことだと思う。だからこそこうのように余裕のない表情を見せているのだろう。

 

 

「抱きしめられるって、こんな気持ちになるんですね……」

「なんだよその人の温もりを初めて知ったみたいな反応は……」

「いつもはこっちから抱きしめてばかりなので、逆の立場にはあまり慣れてなくて……」

「じゃあお前を抱きしめられるのは俺くらいってことか」

「そ、そうですね……。でも、それって最高です……♪」

 

 

 エマは嬉しそうに俺の胸に顔を埋める。

 いつもは聖母でお母さんでママだけど、今の表情を見る限りコイツも立派な思春期女子高生だ。やっぱり女の子は恥じる姿と笑顔が良く映える。女の子側から癒してくれるのも悪くはなかったが、俺の本質はサディスティックでバイオレンス。結局はこちらから攻めて女の子の反応を見る方が好きだ。自分が惚れられているという満足感を得られるからかもしれない。

 

 

「みんないつもこうやって抱きしめてもらってるんだ……。私ももっとやってもらおうかな……」

「俺は別に構わねぇけど、誰かに抱きしめられてるお前なんて他の奴らが見たらビックリするだろうな」

「この気持ち良さを味わえるのであれば、今まで築き上げてきたキャラなんて!!」

「おいおいアイデンティティは崩すな。まあ他の奴らは容赦ねぇから、甘えることを躊躇してたのはお前くらいだけどな」

 

 

 歩夢たちは『褒めて褒めて!』と尻尾を振る犬のように擦り寄って来るからな。エマもスキンシップが多い方ではあるが俺に媚びるような態度ではなかったので、ある意味で大人、ある意味では一歩引いていた。まあベッドの上だとそんなコイツも激しく誘惑して来る組の1人なんだけどな。ほら、この前のネグリジェの3年生組が集まって俺を揉みくちゃにしたやつとかさ。あれもエマ考案のイベントだったらしいので、性格的に肉食系ではあるらしい。

 

 

「零さん、ワガママなお願いで申し訳ないんですけど、私を――――甘やかしてください」

「え? 俺がお前を……?」

「たまには甘やかされるのもいいかなって。それだったらその相手は零さんがいいです」

 

 

 エマは俺の胸に顔を埋めながら自分の欲望を吐露する。誰かを包み込んで癒すのが生きがいなんだと思っていたが、それだと内側から人のぬくもりを感じられるけど外側から感じることはできない。今もこうして俺に抱き寄せられているエマだが、よほど嬉しいことなのか俺を抱きしめる力が強い。意外な一面だが、女の子の本髄を見られるのは俺にとっても嬉しいことだ。

 

 エマの頭に右手を添える。すると彼女の身体がぴくっと動く。本当に慣れてないんだな……。

 どうやら甘やかされるのをご所望のようなので、恥ずかしいけどここは彼女のためにも優しく労ってやろう。

 

 

「いつも頑張っていて偉いな」

「ひんっ!?」

「…………。いつもみんなを見守ってくれてありがとな。だから今日は俺にたっぷり身を委ねろ。気が済むまで甘えていいんだよ」

「ひゃいっ!!」

「おい、変な声上げるな……」

「そ、想像以上に心をグッと掴まれてつい……!!」

 

 

 甘やかしてやったらやったで謎の奇声を上げるエマ。もしかして言葉選びを間違えたか? 誰かを抱きしめることはあっても、こうして甘やかすことはあまりないからどんな言葉をかけたらいいのか分からなかったんだ。とりあえず思いついたありきたりな言葉をかけてみたのだが、どうやらコイツにとってはクリーンヒットだったらしい。俺の胸に顔を埋めままなので、自分の羞恥に満ちている表情を見られたくないのだろう。耳まで真っ赤にしているので相当なダメージだったに違いない。

 

 

「こ、これがイケボで癒されるというシチュエーションなんですね……。ファンのみんながいつも私に言ってるASMRというものかな……?」

「いや別に声色はいつも通りだよ。俺に抱き寄せられて、甘い言葉をかけられてるから美化されてるだけじゃねぇのか?」

 

 

 だがコイツからしてみれば美化されてようがどうでもいいことだろう。俺に甘えているという体験ができればそれ以上のことはない。そう考えていると思う。

 しばらくして、エマが遂に顔を上げる。まだ頬は赤いものの、その潤んだ瞳の表情は女性慣れしている俺でも見惚れてしまった。

 

 

「あ、あのぅ……もう1個お願いしてもいいですか?」

「なんだ?」

「キス……して欲しいです。頑張ってるご褒美に……」

「あぁ……」

 

 

 これ以上にないってくらい恋する女子の顔をしている。いつもは暖かい笑顔でみんなを癒す聖母のような子なのに、今は普通の思春期女子。ほんわか雰囲気で歩夢たちの中では背も高いので存在感も大きいが、こうして抱きしめていると俺の身体にすっぽり収まるため、コイツもやっぱり普通の女の子なんだって思うよ。

 

 エマが目を瞑って唇を少しこちらへ突き出してきたので、俺はそれに応える。カラダの肉付きも良いが、唇も肉厚だ。ただこの口付けの温度は彼女自身の穏やかな温もりとは違い、彼女の想いと押しの強さで激しい熱さとなっている。ここまで俺の唇に貪りついてくるのも普段の彼女からは考えられないくらいだ。それほどまでに俺に甘えたい想いは膨れ上がっていたらしい。そしてその想いをキスという形で思う存分に発散している。

 

 受けに回ろうかとも思ったが、甘やかして欲しい願望相手となればこっちから攻めた方がいいだろう。エマもその意図を汲み取ったのか、さっきまでの激しさを抑えて俺からの口付けを素直に受け取っていた。やがてお互いの息遣いや香りを交換する形となり、俺たちがどれだけ密着しているのかが雰囲気だけでも丸分かりだった。

 

 ちなみに俺の身体は()()()()()熱くなっている。虹ヶ咲の子たちとキスすることで、俺の『女の子の愛を受け止めるキャパシティ』が広がっているらしい(秋葉談)。何気に歩夢たち12人とのキスを早々に終えないと身体が破裂するらしいのだが、今のエマの愛おしさを見たら自分のことなんてどうでもいいな。

 

 そして、少し息苦しくなってきたので唇を離す。エマは恍惚とした表情をしており、発せられる微かな息遣いは赤く染まった頬と相まってとても官能的であった。

 

 

「どうだ? 満足したか?」

「はい……。零さんに甘えられて、キスまでしてもらって、もう安らかな眠りについてもいいです……」

「おい冗談言うな。つうか既にカラダの関係にまで発展してるのに、今更甘えられないことにコンプレックスを抱いてたなんて思わなかったぞ」

「エッチなことはエッチなこと、そうでないことはそうでないことなんです」

 

 

 健全なお付き合いをしている恋人がいるけど、裏ではカラダの関係だけのセフレもいるみたいなことか……? いや流石にコイツの純粋な気持ちをそんな邪推に考えては申し訳ないか。

 

 今日はエマの別の一面が見られて楽しかった。甘やかしたい願望と同じくらい甘えたい願望があっただなんて、俺もまだまだ女心の勉強不足だな。いや女心ほど複雑なモノはないと思ってるから、多分一生かけても理解できないだろう。だからこそ意外な一面が見られた時の嬉しさが半端ない。以前の愛が意外な嫉妬心を見せてくれた時のように、裏の姿を見せてくれるってことはこちらを信用して本心を曝け出してくれるってことだからな。

 

 

「零さん、そのぉ……また甘えてもいいですか?」

「あぁ、いつでも。みんなの前で恥ずかしかったら、2人きりの時でもいい」

「ありがとうございます! でしたらお互いにお互いを癒しちゃいましょう! 私も零さんをたぁ~~っぷりと甘やかして、赤ちゃんになっちゃうくらいに甘やかしてあげますね!」

「それは勘弁してくれ……」

 

 

 屈託のない笑顔だから強くは否定できないのがもどかしい……。

 俺がやれることとしたら、バブみを感じてもオギャらないように母性に対する耐性をしっかり付けておくことくらいかな……。

 




 絶対に甘やかされない男 vs 絶対にオギャらせる女の子の試合でしたが、逆に相手を甘やかした零君の勝利でした(笑) ただ全てを振り切ったエマに対して次からどうなるかは予想できないですが……

 そしてこれで虹ヶ咲の子たちとのキスは5人目。なんかもうキスの描写がマンネリしてきている気がする……(笑)




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

はんぺんは見ていた

 寒さも極まって来た1月末。今日は外に出るのも億劫なくらいの気温の低さで、自然と身体を縮こませてしまうくらいだ。

 俺は夏の暑さはもちろん冬の寒さも苦手なニート体質なので、こんな日は部屋に引き籠っているのが常だ。だが今日は虹ヶ咲の連中の練習を見てやる日なので渋々こうして学園に出向いている。大学の卒論も終わって今は春休みの真っ最中、本来なら冬は家のコタツでぬくぬくと過ごすのが何よりの至高なのだが、練習を見てやるのは外出しないとできないことなので仕方がない。最悪練習風景を動画として送ってもらうって戦法もありっちゃありなのだが、それだと俺に会いたがってる歩夢たちが拗ねるので、こうして仕方なく来てやってるわけだ。

 

 とにかくだ、寒いからとっとと校内に入ろう。虹ヶ咲は秋葉が創立しただけあって最先端の技術をフル投入した学校であり、各部屋だけでなく建物全域に冷暖房が完備されている。つまり建物の中であればどこにいても暖かく、冷気が肌に沁みるこの状況からしてみればまさに天国。その理想郷を目指して身体を震わせながら早足で歩く。

 

 そんな中、俺の隣に小さな影がひょっこりと飛び出してきた。

 

 

「何かと思ったらはんぺんか……」

 

 

 俺のもとに駆け寄って来たのは小さな白猫、名前は『はんぺん』。虹ヶ咲の校内で飼われており、なんと子猫のくせに生徒会から『お散歩役員』という役職付きの階級を与えられている。本来校内に動物の持ち込みは禁止らしいのだが、学校の一員になれば校則違反にならないという理由でこうなったらしい。

 

 エメラルド色の綺麗な瞳をしており、その愛嬌もあってか学校内の女の子たちから軒並み愛でられている。特に名付け親でもある璃奈とは大の仲良しであり一緒にいることも多い。

 ただ俺に対してもこうして擦り寄って来るのは何故だろうか? 俺は別にコイツの世話をしているとか遊んでやってるとか、そんなことは一切していないのにこの懐かれ具合。璃奈の話ではコイツはメスらしいのだが、やっぱ俺って人間以外のメスにも好かれる体質なのか……? 以前に愛と美里と遊んでいた時にウサギのふれあい体験に参加したことがあるが、その時もメスのウサギに囲まれたからな……。

 

 

「はんぺん」

「璃奈。なんだコイツに逃げられたのか?」

「違う。零さんを見つけた途端に駆け出して行っちゃっただけ」

 

 

 やっぱり獣の女の子にすら好かれてるんじゃねぇのか俺……。

 璃奈は俺に擦り寄って離れないはんぺんを持ち上げて抱きかかえる。歩けないくらいに纏わり付かれていたから助かったよ。

 

 

「ソイツを連れてどこへ行くつもりだったんだ?」

「お風呂」

「風呂?」

「うん。いつも外にいるせいか結構汚れちゃうから、私が定期的に洗ってあげてる」

「猫って風呂を嫌がるイメージがあるんだけど大丈夫なのか?」

「はんぺんはむしろ喜んでる」

 

 

 確かに今も嫌がっている様子を見せない。

 体毛があるにせよ動物はいつも裸だし、いつも外でゴロゴロしているコイツのために風呂に入れてやるのは当然と言えば当然か。ぶっちゃけ俺の目から見たら全然汚れてるようには見えないけど、体毛で毛深いため微生物が付着しやすいとも聞くし、そう考えると定期的に洗ってやった方がいいのかもな。

 

 

「零さんも一緒に来る? お風呂」

「へ? シャワーを一緒に浴びるってことか? お前と?」

「違う。お風呂に入る。実はこの学園には湯船が設置された個室の浴場があるから」

「学校にそんなのがあるのかよ。なんのために……」

「女の子と一緒にソーププレ――――」

「言わなくていい!! もうほとんど言っちゃったけど!!」

 

 

 こういうことを平気で言うからなコイツは……。しかも表情変化がなく真顔なせいで本気で言ってんのか冗談なのか分からない。ただ恐らく本気だと思っていて、コイツはこんなちんちくりんな身なりで表情も乏しいが性欲だけは人一倍あり、その欲望の強さは歩夢たちの中でも上位に位置する。巨乳に興味があったり妹プレイを仕掛けてきたりと、性に関する積極性は非常に高い。幼い頃からネットの世界に浸ってたみたいだし、()()()()()知識は豊富なのだろう。

 

 

「私、零さんとお風呂に入りたい。歩夢さんや侑さんたちとも入ったのなら、私にもその権利があるはず」

「いやそもそもこの前みんなで混浴しただろ。露天風呂でさ」

「2人きりがいい。それにエッチのない混浴は混浴じゃない」

「エロ同人の見過ぎだ」

「私と一緒に入らないとか、ロリコンの風上にも置けない」

「勝手に決めつけんな……」

 

 

 俺が悪いみたいな流れになってるのは何故……? もちろん女の子との混浴は大歓迎なのだが、どうもコイツの場合はロリ体型が過ぎるが故に犯罪臭がほんの少しばかりあり、僅かだけ躊躇してしまう。あの天下一ロリ体型と言われた矢澤にこ以上に小さいからなコイツ。それでいて性欲も強いと来たもんだ。はんぺんが見ている側であっても俺を襲ってきそうなくらいに……。

 

 

「摘まめるくらいに慎ましい胸、全身で抱きしめられるくらいのカラダ、毛1本も生えていないつるつるの割れ目。ロリコンの零さんにとっては桃源郷のはず。これは一緒にお風呂に入るしかない」

「もう何もかも曝け出す気満々だな……。分かったよ、入ればいいんだろ。どうせ引く気はねぇみたいだしな」

「よし。璃奈ちゃんボード、ほくそ笑み」

「なんて表情のボード作ってんだ。使用用途が限定的過ぎるだろ……」

 

 

 そのボードの表情から作戦通りと言いたいのだろうが、その感情は表に出してはいけないことを学ぶべきだな。

 そんなわけで唐突に璃奈(+はんぺん)と風呂に入ることになった。いつも突拍子もなく事件に巻き込まれることが多いけど、今回は相当だぞ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「どうはんぺん、気持ちいい?」

 

 

 璃奈にぬるま湯で洗われているはんぺんは、心地良さそうな声を出した。そりゃ女子高生に身体を触れてんだから気持ちいいよな。

 それにしても、学園内に本当に湯船付きの浴場があるなんて思わなかった。個室なのでそれほど広くなく、一般住宅に比べてやや大きいくらいだ。学園にはシャワールームもあるのだが、お湯を浴びるだけだとどうしても湯冷めしてしまうので、しっかりと温まって汗を流したい人用に造られたらしい。秋葉の設立した学校なので資金は無尽蔵。それ故に部屋の増設もコンビニでガムを買うくらいの出費だろうが、湯船付きのバスルームなんて存在している学校はここしかないんじゃないかな。

 

 そんなわけで、俺は湯船に浸かりながらはんぺんを洗う璃奈を眺めていた。風呂にいるのでもちろん裸なのだが、大切な部分は泡で隠れており拝むことはできない。地上波放映じゃねぇんだから、そんな規制いらねぇだろ……。璃奈が意図的に泡で隠しているのかもしれないけどさ。

 

 それにしても、猫好きなこともあって璃奈は猫の身体の洗い方を熟知しているようだ。そもそも一緒に風呂に入るとは言っても、人間と同じ温度のお湯では猫はやけどしてしまう。35度くらいが適正だと言われており、璃奈もそれを分かっていてシャワーのお湯の温度を調節している。そしてシャワーから出るお湯の勢いも緩める必要があり、あまり勢いが強いと身体を痛める恐れがあるため、なるだけ霧状の噴射にする必要がある。璃奈はもちろんそれを分かっているようで、はんぺんの身体についた泡をゆっくり綺麗に洗い流していた。

 

 

「零さんの視線を感じる。舐め回されてる。えっち」

「自分から風呂に誘っておいてその言い方はねぇだろ。しかも今見てたのははんぺんの方なんだけど……」

「私の裸は見ないのに、はんぺんの裸は見るんだ」

「どんな煽りだよそれ。つうか猫は常に裸だろ……」

 

 

 まさか動物に嫉妬してるとかねぇよな……?

 言ってしまうと女の子の裸なんて見慣れてるから、素肌を見たところで特に欲情が揺れ動くこともない。女の子と風呂なんて数えるのが億劫になるくらいに一緒に入ってるしな。まあ秘部とか痴部とか見せられたら流石に唆られるが、ただ裸で身体を洗っているくらいでは何も反応することはない。それくらいだったらただの日常風景だからさ。

 

 璃奈ははんぺんの身体を洗い終えると、湯桶にぬるま湯を入れる。そしてはんぺんをその中に入れて猫専用のミニサイズ湯船が完成した。はんぺんは大層気に入ったようで、いつもより低温ボイスで鳴きながら湯を堪能している。温泉に浸かるオッサンみたいだな……。

 

 

「私も入る」

「え?」

 

 

 俺の返事を聞く前に、璃奈は俺の入ってる湯船に入り込んで来た。俺は湯船に脚を伸ばして座っているわけだが、璃奈はその上から俺と同じ方向で座り込む。そうなると必然的に体格差から璃奈のカラダが俺の身体にすっぽりと収まる形となる。本当に妹みたいなムーヴしてくるなコイツ……。

 

 

「あっ……」

「なんだよ」

「勃って……ない」

「なに期待してんだよ……」

 

 

 重なって座っているため俺の下半身の感触が伝わってくるのだとは思うが、まさか()()()()()()を期待していたのか……? もしかしてはんぺんを洗うために風呂に入るってのはただの名目であり、実は俺を誘惑して、あわよくば身体を重ね合わせるという淫乱思考にハマっているのかもしれない。さっきも言ったけどコイツの性欲は半端ないからな、ありえる……。

 

 

「大きくなってないなんて、零さんもしかしてロリコンじゃないの?」

「だからちげーって言ってんだろ! そもそも自分の上に座られただけで大きくする方がどうかしてるっつうの」

「女の子の小さいおしりで踏み潰されてるのに?」

「俺にはマゾ属性はないからな……」

「これが女の子に慣れ過ぎた男性の余裕……。いつもエッチばかりしてるヤリチンだから、この程度ではもう勃たないんだ……」

「一概に否定しきれないのがはがゆい……」

 

 

 もう言われたい放題だが、女の子と触れ合うのに慣れてるからってのはまさにそうだ。別に自分をヤリチンとは思ってないけど、経験だけは無駄に稼いでいるのも事実。そういった経験があるからもう女の子の肌を感じるだけでは大きくならないってことだよ。

 

 

「1つ思ったことがある」

「今度はなんだよ……」

「こうしておしりで零さんのココを触ってみるとその―――――ちっちゃい」

「うるせぇ。誰でも平常時はこれくらいなんだよ」

「そうなんだ。この大きさだったら私の中に入れる時も簡単でいいのに」

「簡単に入ったやらヤってる感が薄くなるだろ――――って、やべ、話に乗せられてた」

「それはつまり、私の小さい穴を大きく太いこれでゴリゴリ広げながら突き入れるのがいいってこと? 相変わらず鬼畜。でもそういうところが好き」

「お前今日アクセル全開だな……」

 

 

 無表情で声にも抑揚がないため気付きにくいが、璃奈がここまで饒舌になるのは非常に珍しい。口数が多くなるのはライブ前でテンションが上がっている時か、自分の淫乱思考が暴走してエロいことばかり考えてると時のどっちかだけだからな。特に俺と2人きりでいる時は後者であることが多い。同じ1年生のかすみやしずくも大概性的な積極性は強いけど、コイツは群を抜いてるな……。

 

 そんな絶好調の璃奈に手を焼きつつも、こうして後ろから抱きしめているとマジの妹かのような感覚に陥り、脳内ラブホテルを建設している奴とは思えないほど愛おしくなるのも事実。本人の胸が薄いため残念ながら柔らかな肉質を感じることはできないのだが、後ろから眺めるうなじや肩甲骨、背中等々、ニッチな性癖だろうが若い女の子が目の前でそれらを晒しているという事実だけで来るものがある。そりゃいくらカラダがちんちくりんでも、天王寺璃奈自体が最上級の美少女なんだ。そんな奴の裸をこうして特等席で見られるとあれば、それは興奮に値しても仕方ないだろう。

 

 

「ねぇ零さん、零さんのコレ、手で触ってもいい?」

「なぜ?」

「落ち着くから」

「手持無沙汰だから何か触って落ち着きたいとか、ハンドスピナーか何かかよ……」

「代わりに私をいくらでも触っていいから」

「代わりって、お前ならいつでもどこでも触らせてくれるだろ。いや触らせようとしてくる、って言った方が正しいか。代替案になってねぇ」

「じゃあは今日は挿れさせてあげない」

「どうして俺が妥協される側になってんだ……」

 

 

 そもそもエロいことをする前提になってるし……。虹ヶ咲の中どころか全国の女子高生の中でも小柄な彼女だが、そんな奴とお風呂で、しかも裸で交わるなんて背徳の中の背徳。しかも俺は成人男性で、相手は高校1年生のロリ系女子。そんな組み合わせの交配を世に送り出したら一発で男側がアウトになる映像が撮れるだろう。

 

 

「誰も見てないからえっちをしても平気。後ろめたいことは何もない」

「別に今更お前とすることに抵抗はねぇよ。だけど今って昼間だぞ? 俺は気分とムードを大切にする男だからな。それに見てないっていうけど、一応そこにはんぺんがいるだろ」

「うん。さっきからずっとこっちを見てる」

「まさか犯罪シーンを現行犯で激写しようとしてるんじゃねぇんだろうな……。いや、んなわけねぇか」

「分からない。でもはんぺんは賢いから」

「おい怖いこと言うなって……」

 

 

 さっきからこっちをじっと見つめているのは、ご主人様たる璃奈を穢そうとする男を監視しているのだろうか。それとも人間の戯れをただ単に見つめているだけなのか……。猫にそんなことを考える知能はないと思うが、ここまでこちらを観察されると変に想像してしまう。

 

 

「私は別に見られてもいい」

「お前が良くても俺が乗り気じゃねぇんだよ」

「ラブラブ度を見せつけられるのに?」

「それだったら裸同士で交わる以外にも方法はあるだろ……」

「今日の零さん、ガードが堅い」

「分かってると思うけど、俺は自分がやる気になった時にしかしないんだ。だからお前ら如きが俺をコントロールできると思うなよ」

 

 

 いつもいつも相手の誘惑に乗っているわけじゃない。どちらかと言えば誘惑をされてもそれに釣られることはほとんどなく、大体は自分の興が乗った時にしか女の子を押し倒さない。まあたまにその色香に惑わされることもあるけど、大抵こちらのペースに乗せることがほとんど。だから『こんな美少女たちに誘惑されてるのに襲わないとか不全か??』と思われるかもしれないけど、安い誘惑にはそもそも興奮もしないってことなんだよ。俺をやる気にさせたいならもっとこちらの性の欲を掻き立ててみろって話だ。

 

 すると、璃奈が180度回転して座り直す。さっきまで同じ方向を向いて俺の身体に収まるように座っていたので、180度回転するともちろんお互いに向き合うことになる。

 湯船に浸かっているため当然上を隠すモノは何もない。つまり華奢なカラダと薄い胸が眼前に現れる。肉付きがない幼さが残るカラダと手のひらには収まりそうにないくらいに慎ましやかな胸。まさに彼女がロリ系であることを体現しており、そんな子と湯船の中で裸で向き合っているシチュエーションに僅かながら興奮を覚えてしまう。さっきまで安い誘惑には乗らないとか言ってたのに即堕ちかよ俺……。

 

 ちなみに彼女との距離が近すぎるため、下を見てもお互いの下半身は見えない。最終防衛ラインだけは絶妙に隠されていた。

 

 璃奈の顔が赤みがかっている。風呂の湯が熱すぎたのか、それとも俺と裸同士で正面を向き合っていることに緊張しているのか。さっきまでは淫乱思考を爆発させて俺を誘ってきてたけど、やはりいざこのような状況になると自分から攻めることはできないようだ。そこのところはまだまだ高校1年生の女の子だなって思うよ。

 

 

「零さん、キスしていい?」

「いきなりだな」

「そういう気分になったから。零さんは? まだそういう気分になれない?」

「いや、ちょっとなってる。裸のお前が向き合ってきた時からな」

「結局えっちなことをしたらその気になるんだ。ちょろい」

「みてぇだな。ま、俺も男だから」

 

 

 無表情だけど璃奈が呆れかえっているのが分かる。そりゃあれだけ誘惑には乗らないって宣っておきながら、ロリボディを前から見ただけでこれだからな。ただ言ってしまうと、男であればロリ系の女の子の裸に大なり小なり反応するものだろう。だから極端な話、男は誰しもがロリコンなんだよ。しかも俺はそんなロリ系女子のカラダを合法的に触ることができる。そりゃそんなオイシイ立場にいたらロリコンに片足を突っ込んでも仕方ねぇって。

 

 璃奈は腕を俺の首に回す。そして目を瞑り、唇を俺の唇に押し当てた。

 虹ヶ咲の誰よりも小さな唇。だが俺の唇に食らいつく勢いは誰にも負けていない。カラダは小さいのに性欲や積極性が強い彼女の性格を表しているような口づけであり、思わず後ろに仰け反ってしまうくらいには勢いが強い。本人が甘え上手なこともあり、こうして誰かに抱き着いて攻めるのは慣れているのかもしれない。風呂の中という熱さもあり、キスと言う熱さもあり、裸の璃奈から伝わってくる体温の熱さもありと、ここまで心と身体が火照るキスは初めてだ。

 

 風呂の中だからなのか吐息や唾液の音が響いて良く聞こえる。そのせいで余計に興奮度が高まって熱さに拍車をかけていた。

 

 そしてなによりまたしても虹ヶ咲勢とキスをしたことにより、俺の中に眠る愛を受け止める器が大きくなった。その副作用で身体の芯から燃えるような熱さを感じるようになる。もうこれで6人目なので熱さを感じるのは慣れたと思ったけど、今回はいつも以上に負担が大きい気がする……。

 

 しばらくして、璃奈は俺から離れる。

 相変わらずの無表情だが、紅く染まった頬と艶めかし吐息から興奮しているのが丸分かりだ。

 

 

「零さん、えっちな気分になった?」

「…………不覚だけど、少しなった」

「もうすぐで練習の時間だけど、ちょっとだけ……ちょっとだけしてもいい?」

「ちょっとだけな」

「うん、ちょっとだけ……」

 

 

 それから俺と璃奈が何をしていたのか。それを知るのは俺たちをずっと見つめていたはんぺんだけだった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あれ? りな子なんだかツヤツヤしてない?」

「別に。いつも通り」

「そういえば璃奈さん、零さんと一緒に部室に来たよね? 何をしていたの?」

「知る必要のないこと」

「「…………」」

 

 

 やべぇな、かすみとしずくが勘ぐってるぞ。()()()()()があったから、流石に別々に来た方が良かったかも……。

 

 

「かすみさん、もしかしたらはんぺんが見てるかも。はんぺんも璃奈さんたちと一緒に部室に来たから」

「そういえばはんぺんもツヤツヤしてる! 何か見てない!? ねぇねぇ何があったの!?」

「猫が分かるわけねぇだろ……」

 

 

 はんぺんはにゃぁ~っと鳴くだけで、当たり前だがそれでかすみたちに何かが伝わることはなかった。

 ただアイツ、俺と璃奈のことを今でもチラチラと見てくるから、やっぱり俺たちが何をしていたのか知ってるんじゃねぇだろうな……。いや猫だし、流石に……ねぇ?

 




 今回は璃奈の回、ついでにはんぺんの初登場回でした!
 璃奈がこういった性格なのは『虹ヶ咲編1』の頃からでしたが、今回で更に欲望深い子になったかと思います。私はこういった淫乱系のキャラが好きなので、虹ヶ咲のキャラの中でもこの小説特有のキャラ変更が色濃い子となっています。
 でも璃奈の無表情の真顔で淫語容赦なしで誘惑されるとか、ちょっと性癖に刺さります(笑) 私だけかもしれませんが……


 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ボクっ子、クール、時々無邪気

「え? ハンバーガー祭?」

「うん。だから明日の12時にさっき連絡した場所に集合で」

 

 

 なに? もしかして俺……デートに誘われてる?

 いつも通りコーチングのため虹ヶ咲学園に来ているわけだが、唐突も唐突にミアからデートらしきお誘いが来た。携帯にいきなり地図を送りつけてくるものだから何かと思ったのだが、どうやら例の食べ放題バイキングの会場らしい。実は事前に空いている時間を聞かれていたので何かあるとは思ったんだけど、まさかコイツからお出かけに誘ってくるなんて思わなかったな。

 

 ミアは同好会の中でも特別コミュニケーションが活発というわけではなく、むしろ周りに人がいるのに1人の世界にのめり込んで音楽を聴いていることも多い。スクールアイドルのくせに騒がしいのは苦手なタイプらしいのだが、そこは部活動とプライベートでしっかり切り分けているのだろう。だからこそコイツから、しかも2人きりのお出かけを提案して来るのは珍しく、デートに誘われ慣れしている俺だが普通に驚いてしまった。もちろんお互いに牽制し合っているとかそういうのではなく、単純にお互いに誰かを誘うような性格ではないだけだ。

 

 

「それにしてもハンバーガーのバイキングって、1個でも相当重いのに食べ放題って無理があるような……」

「ボクは余裕だ。大好きなモノなら別腹って日本では良く言うだろ」

「それを言うならデザートだろ……。意外と食い意地張ってんのなお前」

「そんなのじゃない。日本のハンバーガーはボリューム不足でずっと気になってたんだ。ボクの本場アメリカではまさにジャンクフードの名に相応しいボリュームと大量の盛り付けで、見た目だけでもカロリー過多に陥るくらいだ。そういった如何にも身体に悪そうなモノをお腹いっぱいに食べる、そんな背徳感のある感覚を取り戻したい。ダメか?」

「見かけによらず豪快なところあるんだな……」

 

 

 コイツこの学園では飛び級として入って来たから学籍上は高校3年生だけど、年齢的には中学3年生だ。だから身体の発達もまだまだこれからってところなのに、本場のハンバーガーをたくさん食らえるほどのキャパシティがどこにあるのだろうか……? まあ大食いでも身体が細い人はたくさんいるから不思議ではないが、これもやはり好きなモノだから無限に食える理論なのかもしれない。寮暮らしでコイツの面倒を見ているエマの話では、曲作りに夢中で飯すらまともに食わないことがあると言ってたからてっきり少食かと思ってたぞ。

 

 

「そういやどうして俺なんだ? いや誘ってくれたことは嬉しいんだけど、単純に気になってさ」

「べ、別に理由は……。誰でも良かったんだけど、璃奈たちだったら1個食べたらすぐノックアウトするのは目に見えてるから。その点、男のお前だったらまだ耐えられるだろ?」

「消去法かよ……」

「いや、まぁ……とにかく、明日は遅刻するなよ!」

「分かってるよ」

 

 

 無理矢理はぐらかされてしまった。

 しかし頬を紅くしていたところを見るに、もしかして本当に俺をお出かけに誘いたかったのか……? ハンバーガー祭はデートに誘うネタであり、本命は実は俺……だったり?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そしてあっという間に当日。俺とミアはハンバーガーのバイキングというとんでもないカロリー地獄の食べ放題に来ていた。バイキングとは言っても外で屋台が立ち並ぶ、お祭りの出店のような感じであり、入場料さえ払えばどこの屋台のバーガーも食い放題。しかも付け合わせのポテトやドリンクまで食べ飲み放題だからドカ食いしたい人には夢のような場所だ。

 

 ただ、この屋台たちに並ぶハンバーガーはどれも本場アメリカ仕込みのモノばかりで、見ているだけでも胸焼けしそうなモノばかり揃っている。入場料はそれなりにしたのでたった1、2個食っただけでは元は取れず、かといってこのボリューミーなハンバーガーを何個も食えるかと言ったらかなり怪しい。まあバイキングなんてお祭り気分を味わうものだから、元を取るとか原価はいくらだとか考えない方が良いのだろう。こういうのは楽しんだもの勝ちだからな。

 

 俺は特に食いたいモノがあるあわけではないので行き先はミアに任せることにした。いつもはクールな皮肉屋で大人びている彼女だが、今日は目を輝かせてまるでおもちゃ屋にやって来た子供のようにはしゃいでいる。スクールアイドルをやっている時もこんなあどけない様子は見せないので、本当にハンバーガーが好きなんだな。

 

 つうかこんな無邪気な顔もできたんだと思うとちょっと、いや、めちゃくちゃ可愛く見えてくる。普段は14歳とは思えないくらい精神年齢も高いから、好きなものに尻尾を振って喜んでいる姿を見るとコイツもやっぱり年相応の女の子なんだなって思うよ。そういう女の子のギャップは男心をくすぐられるから参ったものだ。秋葉は俺に女の子を惹きつける力があるって言ってるが、俺も女の子たちに十分惹かれてるんだよな……。

 

 そんなことを考えながらテーブルで待っていると、ミアが喜々としてハンバーガーを持ってきた。

 持ってきたのだが――――

 

 

「おい、なんだこのタワーは……」

「凄いだろ?? 10段重ねだ!」

「ぜってぇ本場でもねぇだろこんなハンバーガー……」

 

 

 テーブルにそびえ立つは10段重ねのタワーバーガー。1つ1つはそこまで大きくないのだが、その高さが故に大ボリュームに見えて圧倒される。それい大きすぎるせいか向かいに座っているミアの顔が見えていない。デザートならまだしも、ハンバーガーをこれだけ食えるのかよ……。

 

 

「もうこれ食ったら腹いっぱいでダウンするだろ絶対。食べ放題にする意味分かんねぇな……」

「璃奈たちがダウンしそうだからお前を呼んだんだ。ここでバテてもらっては困る」

「正気かよ……。デートってのは相手のことを気遣うものだぞ?」

「デートなのかこれ?」

「男女で一緒にお出かけしたらデートらしいぞ」

「ふ~ん……。そもそも男と出かけたことないからそういうのは分からないな」

 

 

 ハンバーガーのタワー越しで会話をしている俺たち。なんか滑稽な図だな……。

 それにしてもデートの言葉が出た瞬間にミアの口数が少し減った気がする。まさか意識してくれているのか? 元から俺をある程度想ってくれていることは知ってるけど、想像以上に仲は進展しているのかもしれない。

 

 ミアはタワーの上から切り崩すように食い始めた。つうかハンバーガーってバンズとパティをまとめて食うから美味いのに、上から食ったらパンとハンバーグを個別で食っているのと変わらなくねぇか? まあこういうのはSNS映えや宣伝目的で派手にしているだけで食い方は二の次だろうから、これはこれでいいんだろうな。

 

 そしてしばらくして――――

 

 

「ごちそうさま」

「マジかよ……」

 

 

 お互いの顔が見えるようになったと思ったら、あっという間に残りも食べきりタワーは消え去った。俺は2段分食ったので、コイツは8段食ったことになる。しかも無理をしている様子は全くなく、終始美味しそうに笑顔でタワーを制圧していた。こんな小さいカラダのどこにあの量が入るのか不思議でならない。好きなモノは別腹って比喩表現だと思っていたのだが、まさか本当だったとは……。

 

 

「なんだよさっきからジロジロ見て。デートっていうのは女の子を視姦してもいいのか?」

「ちげーよ。お前って超大食らいだったんだなって」

「普通だ。まあ今日は久々に本場の味を堪能できるから、テンションが上がっていつもより多く食べられてるのかもしれないけど」

「確かに嬉しそうにはしてたな。お前がそんな顔を見せるなんて珍しいから、思わず写真を撮りたくなったよ」

「な゛っ!? 絶対やめろよ!!」

 

 

 ハンバーガーに刺さっていたピックの先を俺に向けるミア。何気にあぶねぇからやめろって……。

 だがここで恥ずかしがるってことは、無邪気な自分は普段の自分ではないと自覚しているからだろう。スクールアイドルをやってる時に見せるのは楽しそうな笑顔だけど、さっきハンバーガーを食ってた時に見せていた笑顔は無邪気さが大半を占めている。そりゃ同じ笑顔でも後者の方が他人に見られて恥ずかしいだろうけど、俺の前でその笑顔を見せてくれたってことはやっぱり見せてもいい、つまりそれだけ信頼されているのかも。

 

 

「じゃあ次はどこへ行こうか」

「えっ? まだ食うのか?」

「当たり前だろ。いつも食べてない分、今日たっぷり食べ溜めしておかないと」

「常識人だと思ってたけど、お前も相当偏った奴だよな……」

「世界の誰よりも偏った奴に偏ったなんて言われるなんて心外だよ」

「大学生になってからは割とまともだと思うんだけど……」

「まともな奴は女とたくさん付き合ったりはしない」

 

 

 ごもっともで……。だがそれを除けば高校時代にように変に自分から性的にがっつくこともなくなったし、かなり真っ当な人間になっているとは思う。高校時代は俺ももっとやんちゃだったからな。ただまともになったことを差し引いても、女の子複数とお付き合いしていることで大きなマイナス点となるらしい。それを言われたら俺って一生真っ当な人間になれないんじゃ……。

 

 

「あっ、次はあそこに行こう。チーズたっぷり肉厚バーガーだって」

「また商品名だけで腹に溜まりそうなモノを……」

 

 

 ミアはパンフレットを持ちながら会場内を練り歩いていく。ここまで余裕を見せられると本当に食べ溜めができる身体なのかと信じてしまいそうだ。普段は徹夜で曲作りに没頭するくらいだから、あらかじめカロリーを摂取しておきたい気持ちは分かるけど……。

 

 それにしてもお昼真っ只中だからか人も増えてきた。本場のハンバーガーが一挙に楽しめるってことで物珍しさで来ている人もいれば、明らかに大量食い目的の大食い系の人、動画やSNSのネタにしようとしているインフルエンサーなど、たくさんの人でごった返している。人の流れも大きいので、少しでも離れて歩くと小柄なミアを見失ってしまいそうだ。

 

 

「あっ……」

 

 

 俺は無意識に彼女の手を掴んでいた。いきなり身体接触をされて驚いたのか、ミアは目を丸くして俺を見つめる。

 

 

「わりぃ。でも今日のお前なんか危なっかしいから、こうして捕まえておいた方がいいかなって」

「…………」

「イヤだったか? この人混みを抜けるまで我慢しろ」

「別にイヤじゃない。むしろ……」

「ん?」

「いや、なんでも……」

 

 

 意気揚々としていたり恥ずかしがったり忙しい奴だな……。ただ男からいきなり手を握られたら誰でもそうなるか。だけどコイツ目先のハンバーガーにしか意識が向いていなさそうだったし、あのまま人の波に流されては面倒だったから仕方なくだ。ここはイヤでも耐えてもらうしかない。

 

 その後はしばらく2人で手を繋ぎながら歩いていた。俺は他の女の子たちとも同じことをしているから特に気にしてないが、ミアは露骨に口数が減っている。しかも俺に引っ張られてずっと俯いてるし、まさか手を繋いでいるだけでそこまで恥ずかしがるとは思わなかったぞ。そりゃまだ年齢は中学3年生だもんな、こういうことに敏感なお年頃か。

 

 

「こうして……」

「ん?」

「こうして手を握られるのは2回目だと思って……」

「ん……? あぁ、そんなこともあったな」

 

 

 そういやコイツにスクールアイドルになる踏ん切りを付けさせようとした時に手を握ったっけ。

 ミアの過去の話だ。小さい頃から歌を歌うのが大好きで、歌っているだけで幸せな気持ちになれたことらしい。そして念願だったはずのデビューライブにまで漕ぎ付けたが、一流の音楽家系として有名なテイラー家の一員ということを期待する観客達の姿があり、一族のプレッシャーに押し潰されてしまう。そこでコイツは歌うことができず夢を諦めた。代わりの手段として作曲家としての道を見つけ、そこで才能を開花することでテイラー家の一員として認められたかったらしい。

 

 そんな揺れる思いで迷うミアの手を引いて、俺はコイツを一番気にかけていた璃奈のところに連れて行った。話を聞いた璃奈は『テイラー家のことはよくわからないけれど』と前置きをしたうえで『ミア・テイラーじゃなくてミアちゃん自身の歌が聴きたい』と言い、更にミアに音楽を使命のためでなく自分のために楽しんでほしい一心から『ここならミアちゃんの望むものを叶えられる』と語りかけた。

 その言葉に心を打たれたミアは『ここが、ボクが辿り着きたかった場所』と自分の道のスタートラインに立った。それから別のところで悩んでいたランジュの帰国を食い止め、ランジュのための曲、そして自分のための曲を作り上げたんだ。

 

 

「ボクが今スクールアイドルをやれているのも零と璃奈のおかげだ。さっき手を繋がれた時、改めて実感したよ」

「お前を導いたのは璃奈だろ。俺はただの傍観者だ」

「それでも誰かに寄り添えるっていうのは安心するんだよ。悩んでいたら何故かいつも隣に零がいる。璃奈たちが言っていた通りだな」

「俺はただ、女の子から笑顔が消えるのを阻止したいだけだ。全部自分のためだから」

「フッ、それもみんなから聞いていたセリフと一緒だ。なるほど、みんなが惹かれる気持ちが分かった気がするよ。だってボクも……」

 

 

 ミアはそれ以上は語らなかった。ただ相当俺のことを意識してくれているらしく、やはり思った以上に俺たちの心の距離は近いようだ。俺自身も今日いつもとは違う無邪気な笑顔を見せるコイツに目を惹かれたりしたし、お互いに特別な感情を抱いているのは間違いないだろう。

 

 たださっきの過去話について補足しておくと、コイツにスクールアイドルになるよう勧めたのは俺ではなく璃奈だ。この件に関してはアイツの方が圧倒的に貢献度が高い。ま、俺はいつも通りやりたいようにやってるだけなので、特に感謝される(いわ)れもないけどな。

 

 そんな昔話をしながら次のハンバーガー屋台へ到着する。そしてお目当てのチーズたっぷり肉厚バーガーを購入し、ミアは小さな口でかぶりついた。

 

 

「ん~~So Good!」

 

 

 さっきまでしおらしかったのに、ハンバーガーを食った瞬間にまた子供に戻りやがった。頬の緩んだこの笑顔を見ると地獄のカロリーバイキングに連れてこられたことも許しちまいそうだ。こうして意外な一面を見られるのがデートのいいところだな。

 

 俺も同じハンバーガーを買ったので口を付けてみる。一口食った瞬間に口内がバンズやソース、チーズや肉汁のありとあらゆる様々が混じり合った超絶濃い味に支配される。たった一口で腹いっぱいになりそうだが、これが本場の味なのだと認識させられる。そしてさっき食ったタワーバーガーは1個1個それほど重いわけではなかったんだと実感させられた。でも確かにこれだけ味が濃くてカロリーが高いモノは若い子たちにはウケそうだ。カルビやサーモンが好きみたいにな。ただ俺みたいな22歳の老害には重たい代物だ。そりゃ美味いのは美味いけどさ……。

 

 

「ほら、次に行くぞ」

「えっ、もう食ったのかよ!? さっきもそうだけど早すぎる……」

「ボクからしてみればこっちの量の方が慣れてるから。日本のハンバーガーは量が少なくて食べた気がしないからな」

「好きって理由で胃袋のキャパを広げられるのとか幸せ者だな」

「お前だってそうだろ。女の子だったらベッドの上でいくらでも食えるそうじゃないか。璃奈が『零さんは私たち9人を一度に相手に出来るくらいに絶倫』って言ってたぞ」

「だから俺がヤリチンみたいに言うのやめてくれ……」

 

 

 これだけたくさんの女の子を相手にしてるんだから仕方ないと言えばそうなんだけど、最近こういった日常会話でも恥ずかし気もなく俺をヤリチン扱いする奴が増えてきた。そりゃ傍から見たら事実で認めざるを得ないのは確か。しかし女の子が直接その話題を出すのは品位がないと思うんだ。つうか胃袋の話をしていたのにどうしてこの話題になった……。

 

 

「最初は驚いたよ。浮気とか二股とか、そんなのが生温く思えるほどの犯罪者が学園を牛耳っているなんてさ」

「言いたい放題だな……。だけどそんな奴に救われたのがお前だろうが」

「結局、どれだけ人が良くても自分に関与していなかったら意味ないんだよ。だったら多少変態であっても自分のピンチに駆けつけてくれる男の方がよっぽどカッコいい」

「ほぅ。それは俺のことを認めてくれてるってことでいいんだよな?」

「さぁね。ほら、次はあのハンバーガーを食べに行こう」

 

 

 無理矢理話を断ち切りやがった。でも一応デレてはくれているって認識でいいんだよな? 本人はかなりサッパリした感じで遠回しに褒めてくれたけど、ウソやお世辞を言う奴ではないので本心ではあるのだろう。あまり素直ではない性格だと思っているのだが、ここまで自分から本心を曝け出してくれたのは信頼してもらっていると感じられて嬉しいよ。

 

 

「なにニヤニヤしてるんだよ。気持ち悪い」

「別に。女の子のデレる姿はいつ見てもいいなって思っただけだよ」

「は? ボクがいつデレたって?」

「そういやってムキになるところが子供っぽくて可愛いってことだ」

「い、いきなり可愛いとか……。ていうか、そんなことを言ってるそっちも十分にデレてるだろ」

「かもな」

 

 

 そう直球に伝えてやると、ミアは頬を染めてそっぽを向いた。今日俺を誘ってきたのも、璃奈たちがすぐにダウンしてしまうってことよりも俺と一緒に――――

 

 その後はまだ食う気満々のミアに付き合って屋台を数軒回った。お互いに憎まれ口を叩きつつ、時にはハンバーガーにかぶりつく微笑ましい彼女を観ながらも、今日はコイツの本心や珍しい表情を知れたいい日だったと思うよ。やっぱ人に惹かれるっつうのは特別なことはいらず、こうして一緒に日常を過ごしているだけで十分だな。

 

 

 ただ、今日一番の難点は――――

 

 

「次はこの濃厚デミグラス+エッグ増量+Wビーフバーガーにしよう!」

「いや、もう勘弁してくれ!! そろそろ吐きそう……」

 




 今回はミア回でした!
 言ってしまうとミアは見た目も性格も私好みのキャラでして、本編でも零君が言っていた通り、いつもクール系の彼女の無邪気な笑顔たみたいと言う理由で今回のネタが生まれました。自分の気持ちを不器用ながらも真っすぐ伝える様子も、自分で描いておきながら可愛かったと思います(笑)


 そんなわけで、今年の投稿分は今回で終わりとなります。
 今年はLiella編と虹ヶ咲編の2作品を股にかけ、いつも以上に大量のキャラを描けて楽しかったです!
 次回の投稿は1月2日(月) 0時の予定です。

 来年もまたよろしくお願いします!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

No!スカートDay!今日は生パンツ登校日!?

 虹ヶ咲学園は『自由』をモットーとした学校である。過度に公序良俗に反していなければ制服の着崩しはOKだし、明らかに趣味が偏っている同好会(流しそうめん等)も設立が許可されている。部活や同好会の催し物の開催も生徒会を通す必要はあるものの概ね認可される。

 また、勉学面でも情報処理系、デザイン系、音楽系、国際系など、幅広い分野を好きに学ぶことが可能だ。転科するには試験を受ける必要があるもののチャレンジできる回数が多いので受かりやすく、高校3年間で転科を繰り返して様々な分野を股にかけることもできる。そういった風にこの学園は自由を推し進めているのだ。

 

 ただし、自由と言えども何でも許される無法地帯ではない。学校の秩序を守るためにもそれなりの校則は存在し、そのため生徒会役員は管理能力と自治統制に長けた人材が抜擢される。せつ菜や栞子、副会長や左右月姉妹を見ていれば、このマンモス校であっても自由に流されず学園がしっかり機能していることが分かるだろう。香水の匂いをプンプンさせているようなギャルばかり集まる底辺女子高とは違うってことだよ。そもそもこの学園の生徒がみんな秋葉の選んだ優秀な人材揃いなので、自由という言葉を盾にして好き勝手やってる奴は見たことがない。だから俺もこの学校のルールなんてものは知らない(話題にならないから聞いたことない)し、そういった規則が口うるさく言われてないってことは守ってる生徒が多いんだろうな。

 

 そしてそんな中、一番ルールを守らないであろう男が堂々と女子高の中を闊歩している。思い返せば音ノ木坂にいた頃も授業をサボって昼寝してたりもしたし、随分とやんちゃだったなって思うよ。そう考えると今の俺は丸くなったもんだ。まあ複数の女の子と付き合っている時点で社会のルールからは外れているわけだが……。

 

 

「零さ~~ん!」

 

 

 そんなことを考えていると、後ろから歩夢の声が聞こえてきた。駆け足でこっちに近寄ってくる音が聞こえる。

 今日は珍しく朝から来ているので、登校中の生徒と出会ってもおかしくはない。

 

 そう、おかしくはないのだが――――

 

 

「零さん、おはようございます」

「え゛っ……!?」

「零さん?」

「お、お前――――どうしてスカート履いてないんだ!?」

「?」

 

 

 歩夢はきょとんとしている。聞いているのはこっちなんだが!?

 歩夢はなんとスカートを履いていない。そうなると当然パンツが外界に曝け出されている。しかも見せパンとかではなく生パンツ。薄いピンク色の歩夢に似合う大人しい感じで――――って、解説してる場合じゃねぇよこれ……。

 

 歩夢は首を傾げながら俺を見つめるが、どうやら自分の格好に疑問を抱いていないらしい。上は普通に制服なのに、下は生パンツという謎のコーディネート。ぶっちゃけて言ってしまうと、規律を重んじる制服とエロさの象徴である生パンツが絶妙なコントラストとなっていてちょっと来るものがある。しかもパンツから伸びた綺麗な太ももや脚までもが余すところなく晒されており、その半裸姿に高校時代の俺だったら間違いなく鼻血を噴き出しているだろう。

 

 

「スカートを履いていないって、今日はパンツ登校日ですよ? そういう校則ですから」

「はぁ?」

「1年に1回。つまり今日、スカートなしで登校する日なんです」

「さも当然かのような雰囲気だけど、何言ってんのか分かってんのか……?」

「? どこの女子高でも普通のことだと思いますけど……」

 

 

 え、俺がおかしいの!? 実は全国の女子高ではみんなパンツ丸出して登校する日があるってこと!? そんな合法的に女子のパンツが見られる日があったなんて、女の子好きの俺としたことが知らなかった――――って、んなわけあるか。どうせ秋葉(アイツ)の仕業だろアイツの。

 

 歩夢を見る限りでは恥ずかしがってはいないようだ。淫乱思考が集まる同好会初期メンバーの中でもコイツはせつ菜と並んで恥ずかしがり屋な面がある。だからいくら学校のルールだろうが生パンを見せていることに対して平然としていられる奴ではない。つまり、世界の理レベルで常識が書き換えられている可能性が高いってことだ。こんな発想をすぐできてしまうあたり、俺の人生って相当アイツに毒されているよな……。

 

 手早くスマホで秋葉にチャットを打ってみると、すぐに返信が来た。

 

 

『ゴメ~ン! この前作った常識改変装置が誤作動を起こして、私と零君以外の世界中の人間の常識が書き換わっちゃったみたい! 時間が経てば治ると思うから、せっかくだし治るまでこのシチュエーションを楽しんじゃってよ♪』

 

 

 とのことだ。どうして俺は大丈夫なのか。多分もうこういったことに巻き込まれ過ぎて耐性ができてるからだろう。つまり耐性ができるほどに非日常に巻き込まれているってことか。なんかもう平穏な人生を送るのは無理だと言われてるみたいで虚しいな……。

 

 とにかく、時間が経って常識が元に戻るまでの辛抱らしい。ただここは女子高、思春期女子たちのパンツ姿をずっと見続けなければならない。この学校何人の生徒がいると思ってんだよ、耐えられるのか……? もはや生徒全員が俺を興奮させようとしてくる刺客と化す。もちろんコイツらは常識を書き換えられてるから無自覚なんだろうけどさ……。

 

 

「零、歩夢! おはよう!」

「ランジュちゃん、おはよう」

「まあそうなるよな……」

 

 

 次の刺客であるランジュがやって来た。もちろん生パンツ姿。しかも本人のイメージカラーであるピンクゴールドで、捉えようによっては肌色にも見えるので何も履いてないようにも見えるからこれまた目のやり場に困る。更に本人のスタイルや肉付きが抜群にいいためか、むっちりした太ももを惜しみなく晒している姿が艶めかしいの何のって……。

 

 それになにより、上は制服で下がパンツの生徒の女の子たちが並んでいるってだけでも凄まじく背徳性のある絵となる。しかも本人たちは羞恥を感じているのではなく、常識改変により生パン姿で堂々としているのでこれまた背徳感に拍車をかけている。マニアだったら堪らねぇだろうなこの絵面。

 

 

「零? どうしたのさっきからジロジロとこっちを見て」

「零さん、私たちがパンツで登校してることが気になるんだって」

「気になる? だって今日はパンツ登校日じゃない。日本では普通のことでしょう?」

「いやもうそういうことだって認識できたからいいよ。でも日本ではってことは、中国ではどうだったんだよ」

「向こうではない風習だけど、私はすぐ慣れたわ。だってここまで開放的になるなんて気持ちいいし、もうスカートなんて遮蔽物いらないくらいよ」

「えぇ、そこまで……」

 

 

 常識改変装置の影響はかなり根深いようだ。まさかスカート不要理論にまで到達しているとか中々の痴女思考を植え付けられている。しかも歩夢も頷いているので、女子の中ではスカートは余計なモノと認識されているらしい。そんなのが常識になったらとんでもねぇ世の中になるぞ。いや、常識になったらパンツ丸出しでも何も思わなくなるのか。認識の違いってこえぇな。

 

 

「それでどうかしら? 今日の登校日のために新調してきた下着よ!」

「えっ、わざわざこの日のために??」

「こうやって下着をみんなに堂々を見てもらえるのは年に一度のこの日くらいですから、今日のために新しいモノを買う子、結構いるんですよ」

「えぇ……」

「ほらほら、零の喜びそうな色や柄をみんなに教えてもらって買ってきたからたくさん見るといいわ! アタシはもっと派手な柄の方が好きなんだけど、零は落ち着いたパンツが好みだって聞いてね、それに合わせたのよ」

「ちょっ、見えてるからこっちにケツを向けるな……!!」

 

 

 ランジュは自分のパンツを見せびらかすために俺におしりを突き出してくる。

 その行為の性的異常さを理解してねぇだろコイツ! そんな恰好をしていたらバックで突いてくださいって言ってるようなものだぞ!? こんな大きなケツをして、見せびらかすのが俺で助かったなと言ってやりたいくらいだ。他の男だったら間違いなくこの大きなおしりに誘われて耐え切れなくなってるところだろう。俺はまぁ、欲情が湧き上がって来ないわけではないけど女の子のおしりは見慣れてるし……。

 

 

「もうランジュちゃんったら、そんなに零さんに褒めてもらいたいんだ♪」

「当たり前よ! 歩夢もそのために可愛いのを選んできたのでしょう?」

「うん。私だけじゃなくて、多分みんなもそうなんじゃないかな」

「うふふ、みんながどんなパンツを履いているのか楽しみね♪」

 

 

 お互いに微笑みあいながら会話してるけど、明らかに女子高生がする話の内容ではない。もはや日常の女子トークまで常識改変でぶっ飛んだ内容になっている。痴女かよとツッコミを入れたくなるけど、よく考えてみたら今のコイツらの思考こそが世界の常識なんだから、それはもう痴女ではないってことだよな……? 何が普通で何がそうでないのか、頭がこんがらがってくるな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 物凄い光景だ。登校してくる生徒みんなの下半身がスカートなし、生パンツだけ。そんな子たちが次々と校内に入ってくる様はまさに圧巻。まるでエロ同人の世界を体験しているかのようだ。上は制服をしっかり着こなしているのに、下はパンツ1枚の淫猥な姿。そのギャップも見どころの1つだと思う。見どころの解説をしてしまうあたり俺もこのシチュエーションに慣れてきたってことか。もう非日常に対する順応が早すぎるんだよ俺……。

 

 そんなことを考えながら校内を眺めていると、入り口で挨拶運動をしている生徒会長と元生徒会長の2人を見つける。

 

 

「零さん、おはようございます!」

「おはようございます。朝からご足労いただき、ありがとうございます」

「あ、あぁ……」

 

 

 慣れたとは言っても、やはり親しい子たちの生パン姿を見るとちょっとどぎまぎしてしまう。至って普通に挨拶運動をしているせつ菜と栞子だが、その真面目さに反する下半身を見るとそんな感情になっても仕方ないだろう。いつも誠実で真面目な子たちがスカートなしのパンツのみで、本人が全く違和感を抱いていないその姿は歩夢たちとは別の意味で唆られる。なんか俺、新たな性癖に目覚めそうなんだけど……。

 

 ちなみにどちらも白で余計な飾りもなしだから、下着まで真面目なんだなコイツら。地味とも言えるが。

 

 

「お前らこそ朝からご苦労なことで。そんな恰好で挨拶運動なんて大変だな」

「恰好って、私たちはただ校則に従っているだけです。開放的になれるのは悪くないですが……」

「身も心も健やかに過ごすための校則ですから、むしろこういう時にこそ開放的になるべきです! それに栞子さんはいつも生徒会業務で肩肘が張っていると思うので、これを機にリラックスしてください!」

「そうですね。ご心配ありがとうございます」

 

 

 いやその恰好で真面目なこと言うのやめてくれ。ちょっと笑いそうになってしまった。

 パンツ登校日の校則がどのように定着しているのか気になっていたのだが、どうやらリラックス目的らしい。それでも下半身半裸になる理由には全くなっていないのだが、この世界では健康的な生活のためには下を脱ぐことが普通になっている。どうリラックスするんだよその恰好で、と疑問を抱くのも常識改変のせいで俺だけなのだろう。認識1つ違うだけでも結構な疎外感を抱いちゃうなこれ。

 

 そういえば思ったんだけど、男が脱いでいないことには一切の疑問を感じてないのだろうか? 女の子だけがパンツを晒し、男は普通にズボンを履いている世界線。上は普通に服を着用、下半身はパンツのみ、足は靴下と靴を履くアンバランスさ。このままだと男の性的搾取の対象になってもおかしくない。そこに不公正さは感じているのかいないのか……? 気になるから聞いてみるか。

 

 

「なぁ、もしだけど、俺もここでズボンを脱ぐって言ったらどうする?」

「「えぇっ!?」」

「やっぱり驚くのか……」

「当たり前です! そ、そんな公衆の面前で脱ぐなんて破廉恥です!」

「私は零さんがその気ならいいと思いますが、流石に他の皆さんが見ている前だと……。でも2人きりの時なら!!」

「あぁ分かった分かった。そういうことか」

 

 

 せつ菜だけ反応がズレている気もするが、虹ヶ咲チルドレンの9人はみんなこんな感じなのでスルーしておこう。

 どうやら男がパンイチになるのは普通の常識と同じくNGらしい。女の子のみパンツ丸出しでも許される常識ってことだ。なんとも都合のいい設定だな……。

 

 

「なになに!? 零さんも脱いじゃう系??」

「おわっ!? 愛!?」

「えへへ、おはよう零さん! しおってぃーにせっつーも!」

「「おはようございます」」

 

 

 愛に後ろから抱き着かれる。その拍子に脚も絡めてくるのだが、当然コイツもスカートは着用しておらずパンツ1枚。つまり生の太ももが直接俺の脚に絡められており、その柔らかく引き締まった肉質を存分に感じさせられている。

 

 そして抱き着かれながらも彼女の下半身に目を向けてみると、すらりと伸びた脚の付け根にオレンジの布切れが見える。自分の快活さとイメージカラーを模した下着を着用しているようだけど、そのコーディネート流行ってんのかな……?

 

 

「お互いに脱がせやすいと捗っちゃうね、色々と!」

「朝から脳内ピンク色だなお前……」

「だってこんなに開放的になれる日だよ? 零さんも秘めたる汚い欲望をパァーッと発散しちゃおうよ!」

「汚いって失礼だな……」

「愛さん。気持ちは分かりますが、あまり零さんを困らせないように」

「分かるのかよ」

「しおってぃーは真面目だなぁ~」

 

 

 そう言いつつ渋々俺から離れる愛。

 ランジュもそうだったけど、こうして見るとスタイルのいい奴はいつも以上に艶やかな姿となっている。淫猥度が増していると言った方がいいか。ランジュや愛は普段から運動やストレッチも欠かさないためか、歩夢たち以上に引き締まった健康的な脚をしており、パンツから伸びる綺麗な美脚は見る者を惹きつける。エロく感じるのはもちろん、美術的な神々しさも感じられて目を奪われてしまう。しかも愛はギャル系ってこともあり、パンツ1枚だと貞操観念が低い遊んでいるビッチ感もあってそれはそれで魅力的だ。そっち系が好きな人にとってはドストライクだろう。

 

 

「もう、愛先輩だけとえっちなことするなんて許しませんから!!」

「えっ、かすみ??」

「あれ、かすかす?」

「かすみんですっ!! 零さん、かすみんのここもすぐ脱がせますからね! ね!?」

「そんな念を押されても……」

 

 

 いつの間にやら腕に絡みついていたかすみ。もちろん彼女も下半身はパンツのみであるが、そんなことお構いなしに自分の脚を擦り付けてくる。つうかその行為、大切な部分が擦れて当たったりしないのか……? もしかしたらそれで自慰行為をしているのかもしれないが……。

 

 

「もうかすみさん、零さんが困ってるよ」

「しずく!?」

「ということで、私も困らせちゃいますね♪」

「なぜ!?」

「みんなズルい、私も」

「璃奈!? どこから現れた!?」

 

 

 いつの間にやって来たしずくと璃奈も参戦し、猥褻行為だと分かってるのかそうでないのか曝け出されている太ももや脚を俺に絡ませようとしてくる。栞子とせつ菜は健康的な意味で開放的になるって言ってたけど、コイツらの場合はやぱりR-18方面になってしまうらしい。栞子以外の1年生は元々性欲が高いからな……。

 

 それにしても、1年生組はまだ幼さが残る顔立ちをしているように、パンツも可愛らしくそこから伸びる脚も細く子供のようだ。そのせいで犯罪臭がすると言ったら背徳感が半端ない。もちろん子供っぽいとは言えども成長期を感じさせるぷにっとした肉付きの太ももや脚は今まさに実っている途中であり、それをスカート越しではなく直接触れられるのはパンツ登校日様様かもしれない。

 

 

「1年生組は元気ね。パンツ登校日だからって舞い上がっちゃって」

「1年生にとっては初めてのパンツ登校日だからね~。微笑ましいですなぁ~」

「そんなこと言っちゃって、果林ちゃんも彼方ちゃんも零さんに見せるために意気込んでたよね」

「そういうエマだって、早く零に会いたいって寮を出る前からウズウズしてただろ」

 

 

 次は3年生組が揃って登校してきた。もちろん言わずもがなのパンツのみだ。

 年齢的に中学3年生のミアは1年生組と同じく幼い印象が残るが、他の3人はやはりお姉さんの風格。むっちりとした太ももがまず目に入る。下着から伸びた太ももは見ているだけでも弾力性を感じられ、スタイル抜群のお姉さんキャラとしての脚を見事に体現している。パンツも心なしか派手目となっているのは大人への階段を登り切ろうとしている学年だからだろうか。あのパンツと太ももを枕にして昼寝をしたら絶対に気持ちいい―――って、この発言がヤベぇな。俺も段々とこの常識に浸食されているのかもしれない。

 

 

「こうなったら彼方ちゃんも参戦しちゃおっかなぁ~」

「だったら私も!」

「全く、あなたたちも子供なんだから。ま、私だけ仲間外れって言うのも気分が悪いから行かせてもらうけど」

「果林も十分に子供だ……」

 

 

「歩夢! あそこにみんな集まってるわ! アタシたちも言ってみましょ!」

「あっ、ランジュちゃん!」

 

 

 さっき別れたランジュと歩夢が合流し、結局パンツ1枚のスクドル同好会メンバー全員集合となった。

 そしてあなたが抱き着いているのであれば私もと、パンツと太もも丸出し痴女JKに揉みくちゃにされましたとさ。

 

 ――――って、揉みくちゃにされてるのはいつものことだったか。パンツ1枚でもお構いなしだ。それが常識になってるからコイツらは何とも思ってないだろうけどさ。

 

 

 

 あれ? そういや、(アイツ)はどうした??

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あっ、お兄さん」

「侑?」

 

 

 揉みくちゃから解放されて校内を歩いていると、偶然にも侑とばったり出会った。校内にいた生徒もさっきまで漏れなくパンツのみであり、全国の女子高でパンツ登校日のルールが課されている以上はコイツも――――

 

 

「えっ、スカート?」

「スカートがどうかしたんですか?」

「いや、なんで履いてるのかなって」

「はぁ? 新手のセクハラですか?」

 

 

 なんと侑はスカートを履いていた。パンツ登校日なのにも関わらずスカートを着用しているなんて一体どうなってる?? 俺の言ったことに対して怪訝な顔を浮かべているので、どうやら常識改変されておらず1人だけそのままとか、パンツ1枚が恥ずかしいからとか、そういうのではないらしい。下半身はズボンやスカートを履くものと、明らかに俺と同じ認識を持っていると思って間違いないだろう。

 

 そんな状況の違いに混乱していると、ポケットのスマホが震えたことに気が付く。見てみると秋葉からの連絡で――――

 

 

『どうやらさっき常識改変装置の効力がなくなったみたい。みんな元通りスカートを履いているようになってると思うから、確認してみてね』

 

 

 既に常識改変の効果は切れていたらしい。見渡してみると他の生徒もスカートを履いている。改めてさっきのパンイチの光景が異様だったことが分かるけど、もう少し楽しんでいたいと若干名残惜しい気持ちにもなるな。

 でもパンツってのは堂々と見せられるよりも、スカートの奥に幽閉されているからこそ色気を発揮する。スカートが捲れて微かに見えるパンツの方がロマンもあり、そっちの方がエロスを感じられるからこれで良かったのかもな。現にさっきもあまり興奮はしなかったし。

 

 ただ、侑がどんなパンツを履いているのかは永遠の謎になってしまった。そこだけ少し、ほんのすこぉ~しだけ気になるかな。別にコイツの痴態をあまり見たことがないからとか、そういった不純な理由ではなく一般男子としての疑問なだけだ。

 

 

「いつにも増して目がイヤらしいですよ。何か言いたいことがあるならいつも通りはっきり言ってください」

「分かった。じゃあ聞くけど……お前、今日パンツ履いてるよな?」

「…………変態」

「うぐっ」

 

 

 胸を殴られた。グーで。痛くはなかった。

 




 あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします!
 ってなわけで、今年の一発目に相応しい(?)ハチャメチャのネタでお送りしました(笑) 
 本来であればキャラ全員の格好を詳しく描きたかったのですが、メインキャラだけでも12人と多いことと文字数の観点で断念しました。それでもこの小説を読んでくださっている皆さんなら妄想で補えるはず……!

 ちなみに侑のパンツがなかった件に関してはゴメンなさい!! 彼女は零君との関係が特別なように、痴態を見せるのはもっと特別にしたいのです(笑)


 そんな感じで今年もいつものノリでこの小説は進行する予定ですので、今後ともよろしくお願いいたします!



 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

女の子を自覚する日

「お兄さん。次の練習メニューを考えたんですけど、添削をお願いします」

 

 

「零さぁ~ん♪ 愛しのかすみんに勉強を指導する権利をあげちゃいます!」

 

 

「零さ~ん。彼方ちゃんの次のライブの衣装の候補、ちょっとアイデアをくれないかなぁ~?」

 

 

「零さん! 愛さん今からテニス部の助っ人に行くんだけど、少しだけでいいから練習相手になってくれない?」

 

 

「零さん、演劇の練習のお付き合いをしていただきたいのですが――――はいっ、ありがとうございます!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零って何でもできるのね! 凄いわ!」

「なんだよいきなり」

 

 

 いつも通りスクールアイドル同好会のソファで寝ころんでいると、ランジュが俺の顔を覗き込むようにして詰め寄って来た。

 つうか毎回思うけど、コイツ距離感が近すぎるんだよな。誰にでも激しいスキンシップを取るし、それは男の俺であっても変わらない。天真爛漫で恋愛の『れ』の字も知らない天然脳筋少女なので仕方ないか。でもこうして詰め寄られるたびに女の子のいい匂いを強制的に嗅がされる俺の気持ちにもなってくれよ。

 

 そんなことはさて置き、俺が何でもできるという至極当然のことを口走るランジュ。俺を知る者からすれば普通のことなのだが、コイツとはまだ付き合いが短い方ではないが長い方でもないのでこちらの全容を知るには至っていないのだろう。歩夢たちが俺のことを知り過ぎている説もあるが……。

 

 

「侑と一緒に練習計画を考えられるほどマネジメントができて、かすみに勉強を教えられるほど頭が良くて、彼方のライブ衣装を検討できるくらいには衣服のセンスがあって、愛と一緒にスポーツできるほどの運動神経。それにしずくとの演劇練習も見たけど、演技の才能もあるのね」

「普通だよ普通。別に努力したわけでもねぇし」

「ということは天性の才能ってことかしら? そういえば歩夢たちから聞いたんだけど、あなたの両親って海外の大学教授と女優なのよね?」

「あぁ。それがどうかしたか?」

「だったらあなたのその才能は両親からの遺伝ってことかしら?」

「かもしれねぇな」

 

 

 頭の良さは某有名大学教授の父さん譲り、演技力の高さや様々なセンスの良さは女優の母さん譲りだ。ちなみに父さんの頭の良さを強烈に遺伝したのが姉の秋葉で、母さんの女優の才を最も受け継いだのが妹の楓だ。秋葉はご存じの通りこの世ならざるモノを次々と発明しているし、楓はスクールアイドルをやっていたのはもちろん、その美貌とパフォーマンスで世界中の人間の注目を浴びるくらいだからな。そう考えると俺って才能を中途半端にしか受け継いでないような気がする……。

 

 

「なるほど、だったらまたデートをするしかないわね!」

「えっ? どういう経緯でそうなった??」

「アタシ、あなたのことをもっと知りたいの。デートをすればあなたの凄いところをたくさん見られるでしょ?」

「随分と軽々しくデートを使うんだな」

「そう? 男性と女性が一緒に出かければ、それはデートになるって聞いたわよ」

 

 

 それ言ったの俺だよ。そういやこの前ミアとハンバーガー祭に行ったときにアイツに同じことを言った気がする。まさかコイツから同じ言葉をそっくりそのまま返されるとは……。

 

 

「ねぇいいでしょう? 一緒にデートしましょ。ね?」

「分かった分かった、空いてる時間を連絡しておくから。あとその日に何をするかは言い出しっぺのお前が決めておけよ」

「ありがとう! デートプランは任せておいてちょうだい!」

 

 

 そんな悲しそうない顔で手を合わせてお願いされたら承諾するしかねぇだろうが……。ただデートが決まった瞬間に満面の笑顔になったため、相変わらず喜怒哀楽が激しい奴だ。それだけ表情豊かで見ていても飽きないと言ってもいいか。こういう様子を見ると子供っぽいのに、スクールアイドルに対する信念っつうか考え方は非常に大人びている。人は見かけによらないっていういい例だな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「って、またゲームセンターかよ……」

「仕方ないじゃない。この前みんなで行った時に楽しすぎて好きになっちゃったんだから」

 

 

 デート当日。どこへ行くのかと思ったら、以前に2年生組と出かけた際に行ったゲーセンだった。ゲーセンって男女のデートらしい人気のブティックとかカフェとか、そういうシャレオツなところに行ってから時間が余ったら遊ぶ場所かと思っていた。まあ俺は女の子と一緒にいられればどこでもいいから、コイツの行きたいところに合わせるだけだ。

 

 それにしてもコイツ、本当にどこへ行っても何をしていても楽しそうにするよな。スクールアイドル活動をしている時はもちろん、こうしてどこかへ出かけている時、飯を食う時、誰かと話している時、いつもこいつは笑顔で楽しそうだ。かすみの後輩感や愛の活発さとはまた違うベクトルのムードメーカーであり、コイツがいると周りが自然と明るくなる。人を率いる力は少々強引なところはあるものの、そういったパワフルな面がコイツの魅力なのだろう。

 

 

「ほらほら、早く行きましょう!」

 

 

 そう言ってナチュラルに手を繋いでくるランジュ。平気な顔でデートに誘ってくる度胸といい、こうしてすぐボディタッチをしてくる鈍感さといい、やっぱりコイツ男ってものがどれだけ野蛮な奴か知らねぇな? 俺だからまだいいものの、他の男にこんな無防備さを見せたら一瞬で惚れられるぞ。特に今の思春期男子ってのは性欲がお盛んだから気を付けた方がいい。なるほど、この危なっかしさに栞子もミアも苦しめられてるんだろうな……。

 

 恋人のように手を繋ぎながら色々とゲームを見て回る。どうやら俺が本当に何でもできるのかを勝負という名目で調査したいらしい。ただコイツもコイツで才能の塊であり、スクールアイドルはもちろん、やることなすことが天才的である。幼馴染の栞子に劣等感のトラウマを植え付けるくらいには天性の才能を持っているのが彼女なのだ。そんな奴がたかがゲームであっても他人を叩き潰すそうとするなんて、雑魚狩りもいいところだよな。

 

 

「まずはこのレースゲームで勝負しましょ!」

 

 

 意気揚々と初戦を提案して来るランジュ。

 ただ―――――

 

 

「負けた……。零、あなた運転上手くない!? 車の免許持ってないのよね!?」

「二輪しか持ってねぇな。まあ運転は子供の頃にアメリカで父さんに――――あっ」

「えっ、無免許?」

「いいから次行くぞ!」

「誤魔化された気もするけど……じゃあ次はこのゾンビシューティングで勝負よ!」

 

 

 隣のシューティングゲームの銃を持ち、くるくると回して銃裁きの良さをアピールするランジュ。

 だけど――――

 

 

「得点がダブルスコアで……負けた!? 零って銃の使い方も上手いのね」

「これもガキの頃に親父とアメリカの射撃場で……って、この話もやめるか」

「あなた、無免許運転に銃刀法違反って相当野蛮だったのね……」

「言っておくけど教えてもらったのは合法での範囲内だからな」

「だったら次はアレよ!」

 

 

 次はよくある太鼓を叩くリズムゲームか。しれっと自分の得意な領域にこちらを引きずり込み始めたな。これは流石に日頃から音楽と触れ合っているコイツが有利だろう。

 しかし――――

 

 

「これもアタシの負け!? 零、あなたの反射神経とリズム感覚プロ並みよ!?」

「母さんがこういうお祭り系のゲームが好きで、ガキの頃によく付き合わせられたからな……」

「じゃあ何なら苦手なのよぅ……。もうなりふり構っていられないわ、次はアレよ!」

「あれって――――ダンスゲームかよ正気か!?」

 

 

 本格的に自分の分野に土俵を移しやがった。ダンスと言えばスクールアイドルの十八番。しかもコイツのダンス技術は虹ヶ咲、いや全てのスクールアイドルの中でも群を抜いている。ただでさえ天才的なセンスを持っているのに、自分の得意分野で勝負するとかプライドねぇのかよ。それすら捨てたからなりふり構ってられないのか……。

 

 そんなフラグを立てつつ――――

 

 

「負けた……?? スクールアイドルのアタシが……!?」

「なんかまぁ……悪かったよ」

「慰めはいらない! 余計に惨めになるから!!」

 

 

 普通に得点で勝ってしまった。しかも接戦とかでもなく割と余裕に。ちなみにランジュのレベルが低いとかではなく、むしろランキングに乗るくらいの得点を見せていた。だが相手が悪かったようだ。

 ちなみに俺のこういったスキルも母さんからの遺伝だと思う。演劇にダンスといったパフォーマンスは天才的だからな母さんは。

 

 

「でもこれで分かったわ。零、あなたは凄い! 同好会のみんなもアタシにはない魅力をたくさん持っていて憧れるけど、アナタはそれ以上よ! だってここまで人に感動したのは初めてだもの!」

 

 

 すげぇ目を輝かせながらこっちに詰め寄ってきやがった。確かにコイツなら今の俺に興味津々になる理由も分かる。コイツは誰かが自分にはない長所を持っていて、その能力を発揮することに対して興味が湧くらしい。歩夢の手芸能力とか、かすみのカワイイの追及だったりとか、自分にはない相手の長所を褒めちぎるんだ。ただ自分も同じことができる場合、今日のゲーム対決みたいに対抗しようとしてくるんだけどな。

 

 

「それはありがとな。ま、ゲームの勝敗は別としてお前が楽しそうで良かったよ」

「えぇ、本気で向かってきてくれて嬉しかったわ。そこまでの実力があるのなら、手を抜いて私を勝たせて立たせることもできたと思うから」

「んなことしねぇよ。俺は何事も全力投球なんだ。女の子相手にも容赦はしねぇから」

「あなたのそういうイケイケなところ、アタシは大好きよ♪」

 

 

 おい、いきなりとびきりの笑顔を向けるな不意打ち過ぎるだろ。しかも何の裏もない『大好き』をここまでダイレクトに伝えて来るとか、やっぱ無自覚に男を勘違いさせる悪い奴だよコイツは。まあ今のコイツの言う『大好き』に恋愛的な意味は一切ないんだろうけどさ。

 

 

「もっともっとあなたのことを知りたくなってきたわ! 次はどのゲームで勝負しようかしら?」

「まだやんのかよ……。まさか自分が勝つまでやるとか無謀なことをしようとしてんじゃねぇだろうな?」

「自分への挑戦が無謀だということを自覚しているのがまた凄いわね……。ちなみにそんなつもりはないわ。さっきも言ったけど、アタシはもっとあなたのことを知りたいの」

「なんで?」

「えっ? えぇっと……ん? どうしてあなたのことをこんなにも知りたいと思ってるのかしら?」

「俺に聞くなよ……」

 

 

 悩むってことは、ただ単に俺に興味が湧いたからってことではなさそうだ。天真爛漫で破天荒な性格だから何も考えてない雑な奴だと思われがちだが、意外と自分の中での芯は通っており、今日の勝負も意味もなく仕掛けてきたわけではないのだろう。その意味を自分で理解していないのはワケわかんねぇけど……。

 

 

「次は直接あなたを感じたいわね」

「言い方がアレだな……」

「ほら、ここに肘をついて」

「はぁ?」

 

 

 ランジュは近くにあったテーブルに肘をつき、手のひらを広げて自分の身体に対して垂直に向けた。そして俺にも同じことをさせようとしてくる上に、まるで手を握れと言わんばかりに5本の指を開いたり閉じたりしている。

 

 

「まさか――――腕相撲か?」

「えぇ。これでもスクールアイドルで鍛えてるからいい勝負ができると思うけど」

「俺は普段ストレッチとか筋トレとかしないんだけど……」

「そこが狙いよ。瞬発的なチカラならあなたに勝てるかもしれないわ」

 

 

 得意顔になるランジュ。そりゃ何も鍛えていない男よりもアスリート女性の方が筋力は高い。しかもそれが腕相撲のような一瞬で決まるような力比べならなおさら鍛えてる奴の方が有利だ。力の入れ方もそれを発揮するスピードも、鍛えてる奴の方が圧倒的に早いからな。

 

 つまり、今回もまたコイツの得意分野ってこった。雑魚狩りも大概にしろよな……。

 しかしやめてくれと言われてやめてくれそうにもないため、渋々テーブルに肘をついてランジュの手を握る。

 

 

「それじゃあスリーカウントで始めるわよ」

「へいへい」

「行くわよ。スリー、ツー、ワン、ゼロ―――――ッ!?!?」

「ん?」

 

 

 今まさに決戦の火ぶたが切られようとしたその時、いきなりランジュが固まった。何かに打ちのめされたような驚愕の表情をしている。いつもポジティブ思考で前向き向上心のコイツだが、それ故に『絶望』の二文字がここまで顔と雰囲気に現れてるのは非常に珍しい、いや今まで見たことがなかった。

 

 

「おい、どうした?」

「えっ、い、いや、ゴ、ゴメンなさい!」

「なんで謝るんだよ。つうかどうして手を放す?」

 

 

 何故だか知らないけど、ちょっと怯えてる? 逃げるように手を俺の手から離しやがった。声もたどたどしくなっている。

 そして深呼吸をして考え事をしたかと思えば、今度は何かを悟ったような顔をしている。さっきから表情がコロコロと変わり過ぎて、どんな心境の変化があったのか分かんねぇな……。

 

 

「なるほどね。やっぱりあなたは凄いわ」

「さっきからそのセリフばっかだな。賞賛し過ぎると逆に効果が薄くなるぞ」

「そうね。でも気づいちゃったの。あなたは男の子、私は女の子なんだって。さっきあなたと手を組んでグッと力を入れられた時にね。あぁ、これは絶対に勝てないって」

 

 

 些細なことだけど男女の力の差を身に染みて理解したってことか。確かにコイツはボディタッチは多いものの、こうして俺から力を入れて組み伏せようとしたのはこれが初めてだ。だからその力量差を悟ったのだろう。ランジュはパワフル系と称した通り、そんじゃそこらの軟弱男子には負けないほど鍛えている。いや、多少鍛えていたとしてもコイツには敵わないだろう。だからこそ普段鍛えていない俺に負けないと信じていたんだと思う。その自信がぽっきりと折られたから驚いたって感じかな。

 

 ただ今のコイツは俺との差に絶望しているというか、物凄く()()()()()をしている。いつもは元気ハツラツ少女でテンションも高く、他の女の子たちと比べて存在感が大きく見える彼女。だが今はこじんまりとしたか弱い乙女のオーラを醸し出している。抱きしめたらすぐに折れてしまいそうなくらいに弱弱しく見え、その可憐さに愛おしく感じてしまうくらいだ。言うなればそう、男を知った、そういう雰囲気だ。

 

 

「思い出した。この感情は初めてじゃないって思ってたけど、一度だけあなたに手をギュッと掴まれたことがあったわね」

「んなことあったっけ」

「あったわよ。アタシが帰国するために搭乗口へ行こうとした時に引き留めてくれたじゃない。それはもう私の全身全霊の力を込めても振りほどけないくらいの力でね。あの時は今まで味わったことのない心の高鳴りを感じたけど、そういうことだったのね」

 

 

 そういやコイツの帰国騒動なんてあったなぁ。それがコイツが同好会に加入するきっかけになった事件だった。

 

 コイツが日本でスクールアイドルをやりに来たのは自分のパフォーマンスを披露するため。ただ誰かとグループを作ろうとは思わず、ソロアイドルを貫いていた。それは孤高がカッコいいとか中二病な理由ではなく、自分の魅力ってのは仲間やファンから与えられるものではなく、自分の力で発揮するものと信念を抱いていたからだ。そこに間違いはないし、俺も否定はしなかった。

 

 だけど、実際には強がっていたことが判明する。本当は仲間が欲しかったんだ。

 理由は昔からコイツは周りの子と仲良くなろうとしても何故かみんなが段々と離れて行き、友達になってくれる人がいなかったから。何が悪いか何故避けられるか、他人の気持ちを理解できないのがコイツの欠点だ。それはコイツが何でもできる天才的なスキルを持っているがゆえに、できない奴に対して無意識な溝を作っていたからだろう。そしてそんな溝ができていることも知らず、更には自分と異なる考えを持っている奴を見るとやたら突っかかる攻撃的な性格も相まって、お互いを理解し合える仲間というものができなかった。

 

 ただ唯一、人の適性を深く意識する栞子だけは友達になってくれた。しかし、結局コイツの方はただ一人の友達である栞子がスクールアイドルになりたい願望を持っていたことすら知らなかった。だからソロアイドルになった。ソロアイドルなら相手の気持ちが分からなくても相手を認めさせることは出来る筈だった。それなのに同好会はソロアイドルでも他者と信頼し合う絆があり、ユニットを組んでそれ以上のチカラを発揮できる。それがスクールアイドルというものなら自分には出来ない。と結論付けてしまっていた。

 

 自分の中で答えが出たのなら日本にいる意味はなく、栞子に別れだけ告げて帰国しようとしていた。

 そこでいつの間にか手を握っちまってたんだよな。侑たちが来るまで逃がさないようにするために。言ってしまえば俺がやったことってそれだけなんだけども。

 

 

「思い返せばあなたはアタシが同好会に入っていない時から気をかけてくれていたわよね。みんなにひどいことを言ったりもしてたこのアタシを……」

「俺は別にどっちの味方ってわけでもねぇからな。俺が守りたいのは女の子の笑顔だけなんだから」

「その範囲にアタシも入っているのかしら?」

「当たり前だろ。もし逃げようと思っても逃げられねぇよ。ま、俺が捕まえておかなくても、女の子側から逃げようなんて思わなくなるだろうけどな」

「離れるつもりなんてないわ。あなたの隣って心地いいもの。ここまでアタシのことを理解してくれる人はこれまでいなかったし、男性は特に私から離れようとしていたから嬉しいの。このアタシを圧倒的なチカラで捕まえてくれて、包み込んでくれる。あなたのこと……本当に好きよ」

 

 

 またしても女の子の顔になるランジュ。

 結局のところコイツは誰かを理解したくて、誰かから自分を理解して欲しいと願っていた。つまり一種の承認欲求モンスターだったってことだ。それを俺という一度目を付けられたら抵抗できないような存在に見つかってしまい、そのせいで強制的に理解をさせられた。同じ天才肌同士、歩夢たちとは違った惹かれ方をお互いにしたんだと思う。傍から見たら変な愛の感じ方だと思うかもしれないけど、彼女にとってはこれが相手を理解するのに最適な方法だったんだ。

 

 それでいいんじゃないか? 心は人それぞれで、心が揺れ動く動機も心の支えもみんな違うんだからさ。コイツは自分以上のチカラを持つ人に支えられるのが好きってことだ。コイツを真の意味で理解するにはコイツと同じ天才的才能を持ってる奴しかできねぇことだろうしな。

 

 

「よしっ、これからもあなたに挑ませてもらうわ! あなたのことをもっともっと理解したいもの!」

「負けると分かっていて挑むとかマゾか? お前がいいならそれでいいけどさ」

 

 

 これがコイツの愛情表現なのだろう。歩夢たちにも対抗心を抱いたりしてるしな。俺も他の女の子とは違う押せ押せ雰囲気の女の子は新鮮であり一緒にいて楽しいから、また勝負を吹っ掛けられても断る気は更々ない。それにまた完膚なきまでに叩きのめしてコイツの女の子の顔を見たいしな。いつも自信満々な女の子がメスになった表情、意外と好きなんだよ。こういうことを考えてるからサディストって言われるんだろうか……。

 

 ただ、お互いの心の距離はこれでも確実に縮まっているとは思う。そりゃこれだけ相手のことを理解できてりゃそうなるか。

 

 

「つうか腹減ったから飯食いに行かねぇか?」

「待って、ペットボトルだけごみ箱に捨てて来るから」

 

 

 ランジュは休憩スペースの奥にあるごみ箱へ向かう。

 そして俺の聞こえていないところで手を自分の胸に当てる。

 

 

「ドキドキする。初めて分かった。これが恋、なのね……」

 

 

 心の距離は、俺の想像以上に縮まっているようだった。

 




 今回はランジュ回でした!
 恋そのものを知らない女の子が女の子を自覚した瞬間、というシチュエーションが好きで、ランジュのキャラを見たときにそのシチュにピッタリだとずっと思っていました! なので小説で登場させることがあったら絶対にこのシチュで描こうとしていたので、自分の中では結構待望な展開だったりします(笑)



 そういえば先日にじよんのアニメも始まり、早速1話目を視聴しました。
 推しポイントはEDで侑が各キャラと交流するシーンがあるのですが、そこの侑がやたら運動神経が悪かったのが可愛かったことですね(笑) 歩夢とのランニングで疲労が見え、愛とチアリーダーをやっている時は足が上がっておらず、ミアからのボールもキャッチできないなど、皆さんも今度注意して見てみてください!



 小説に評価をくださった方、ありがとうございました! 実は久しぶりにランキングに載っていたみたいです!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一足早いウェディング

 今日の舞台は結婚式場。白を基調とした神々しいチャペル。たまたま近くを通りかかって遠目で見ることはあっても、こうして実際に脚を踏み入れるのは初めてだ。こんな綺麗な土地を俺のような穢れた足で踏みつけるのは少し申し訳ないな。

 

 式場に来たってことで、恋人がたくさんいる中からとうとう結婚にまで漕ぎつけた女の子がいるのか!? と思われるかもしれないが、今日はただ単に果林のモデルの仕事についてきただけだ。いくらなんでも大学生で結婚はまだ早いだろ。まあ俺本人が二十歳になる前にスピード結婚した父さんと母さんの息子なんだけどさ……。

 

 ちなみに俺と同じく付き添いで来ている女の子が1人。藤黄学園の2年生で果林の大ファンである綾小路姫乃だ。

 

 

「果林さんのウェディングドレス姿を生で見られるだなんて、もう今からワクワクが止まりませんよね? ね!?」

「分かってるっつうの。それを俺に聞くの今日で何回目だよ。ここの来る前からずっと言ってるだろ……」

 

 

 見た目も性格も清楚で大和撫子を体現したような彼女なのだが、果林ガチ勢すぎてアイツが絡むと今の様にテンションが爆上がりする。いつものお淑やかな様子はどこへやら、この撮影場所に来るまでに何度も自分の中の抑えきれぬ楽しみを俺にぶつけてきている。まあこれでも以前は果林の前でアガリっぱなしだったから、今みたいに恥ずかしがらずに欲望を解放できているという点では成長(?)なのかもしれない。アガってる奴を宥めるのとテンション爆上げの奴を相手をするのではどっちが楽かって話もあるが……。

 

 そんなわけで俺たちはチャペル内の来賓席に座りながら果林の着替えが終わるのを待っている。奥の壇上では撮影のスタッフたちがせっせと準備をしており、モデルの写真を数枚取るだけでも中々の大仕事なんだと実感させられるな。

 

 

「結婚かぁ……」

「なんだ? 相手でもいるのか?」

「いえいえそんな!」

「告白されたこととかないのか? あぁ、女子高だからそんなのはねぇか」

「中学の頃なら何度か……。でも全て断りました。なんというか、男性とどう接したら良いのか分からなくて……」

「典型的な箱入り娘だな……」

 

 

 見た目の雰囲気の通りいいところのお嬢様らしいので、男との付き合い方なんて全く心得ていないのだろう。でなきゃ俺と初めて会ったときにあんなに警戒しないはずだ。最初は俺をスクールアイドルたちの純潔を奪いまくるスクールアイドルキラーと勘違いしてやがったからな。まああながち間違いでもねぇんだけど。

 

 

「でもさ、俺とは普通に話せてるだろ」

「神崎さんは何度もお会いしていますし、果林さんや虹ヶ咲の皆さんからもお話を聞いて信頼できるお方だと知っていますから」

「そうか。お前可愛いから、そうやって男に慣れていけばすぐ結婚くらいできるだろ」

「うっ……!!」

「なんだよ急に……」

「可愛いって……なるほど、これが果林さんたちが言っていた神崎さんの無自覚攻撃ですか……」

 

 

 綾小路は頬を染めてそっぽを向く。

 そもそも無自覚で言っているつもりはなく、そりゃ可愛い子を見たらカワイイって褒めるのが普通だろ? せっかくその子の持ち味なんだから褒めてあげないと損だ。だからと言ってかすみみたいに執拗に押し付けてくるのはウザイけども……。

 

 それにしても結婚か。俺もみんなも現状で満足している感もあるし、あまり考えたことはない。そもそももし結婚式を挙げるとして、俺って何回式に出ればいいんだよって話だ。1ヶ月間毎日出席し続けなければならないくらいに女の子がいるってのに。毎日誓いのキスをするってのも、慣れてしまって後半は事務作業になりそうだな……。

 

 そんなことを考えている間にも綾小路は待ちきれずじっとしていられないようで、自分から進んでスタッフの人の手伝いをしに行った。

 しばらくして俺の席へと戻ってくる。

 

「果林さんの着替えが終わったみたいですよ! 一足先に私たちに見せてくださるそうです! さぁ、早く行きましょう!」

「分かったから引っ張るなって!」

 

 

 もう漏れ出すテンションを抑えきれない綾小路に、半ば引きずられる形で果林のいる部屋へと向かう。

 部屋の扉の前に立ってみると、新婦の花嫁姿と今まさにご対面する新郎の気分になる。ただの撮影なのに妙に緊張するのは俺がこれまで体験したことのないシチュエーションだからだろうか。女の子が目の前で脱ぐ時よりもドキドキしているかもしれない。ぶっちゃけ女の子の全裸姿の方が慣れちゃってるから、畏まった姿を見る時の方がそりゃ緊張もするだろう。相変わらず歪んでるな俺の人生……。

 

 

「果林さん、綾小路です。入ってもよろしいですか?」

『えぇ、いいわよ』

「失礼します」

 

 

 綾小路が扉を開ける。

 すると目の前に眩い光が飛び込んで来て思わず目を瞑る。部屋の明るさは普通なのだが、目の前の光景が自分にとって眩いがゆえに目を瞑ってしまうあの現象だ。これほどまでに『美しい』という言葉を形として目にしたことがない。

 

 

「いらっしゃい。姫乃さん、零さん」

「果林さん……」

 

 

 もちろんだが果林はウェディングドレス姿だ。ただ俺も綾小路も彼女の想像以上に麗しさに目を奪われてしまう。純白のドレスに身を包み、持ち前の端麗な顔立ちも相まって『美』が現世に降臨したかのような風光明媚の雰囲気。自分の知っている女の子の中でも美人の部類に入る奴はそれなりにいるが、ソイツらがウェディング衣装を着たらここまで美的な色気が高まるのか。もはや目の保養を通り越して盲目になっちまいそうだ。

 

 

「あら、2人共固まってどうしたの? まさか私があまりにも綺麗すぎて驚いちゃったかしら?」

「それはもちろんそうですよ! 今にも眼が焼けて視力ゼロになってしまいそうです!!」

「そ、そこまで持ち上げられるとは思ってなかったわね……」

「似合い過ぎていてもう……もうって感じですっ! もし私が結婚する時は、ウェディングドレス私の代わりに着てください!! そちらの方が全人類、何より私が悦ぶので!!」

「褒め方が限界を突破し過ぎてとんでもないこと言ってるわよ……」

 

 

 果林のウェディングドレス姿にキャラ崩壊までして舞い上がっている綾小路姫乃。

 ただコイツの言わんとしていることも分かる。男の俺も見惚れるほどだが、女性側からしてみても憧れの姿だと思う。果林はモデルとして活躍しているためか女性人気も高く、まさに大人のお姉さんという感じで学生たちからの注目されるほど美麗な容姿をしている。そんな奴がウェディングドレスなんて姿を晒してみろ、綾小路みたいにガチ勢なら発狂するし、そうでなくても惹かれてしまうのは当然だろう。

 

 

「零さんはどうかしら? この格好、初めて着てみて自分では似合っていると思っているのだけど……」

「あぁ、綺麗だよ」

「えっ、それだけですか神崎さん!? もっとこう、果林さんファンとして言うべきことがたくさんあるのでは!?」

「お前みたいな果林オタクと一緒にするな。虫唾が走る」

「大丈夫よ姫乃さん。零さんは毎回一言に全てを込めているの。だからたった一言でも褒めてもらえるだけで嬉しいのよ。それに多分心の中ではそれなりに緊張しているはずだから、フフッ」

「どうだかな」

 

 

 流石は察しがいいっつうか、コイツもコイツで俺のことガチ勢だからこっちのことを隅から隅まで理解してやがる。つうか好きな奴のウェディングドレス姿を見て緊張しない奴はいねぇだろ。それこそさっき言ったみたいに結婚を何度も繰り返して事務作業的にならない限りはな。

 

 

「でもまさか、結婚前にあなたにこの姿を見せてしまうとは思わなかったわ。これだと本当に結婚した時に魅力が半減しちゃいそうね」

「なんだ、式を挙げるつもりだったのか」

「むしろなかったの? まさか女の子たちを侍らせてお世話させて働かせるだけの主従関係だったのかしら? ま、私も歩夢たちもあなたの隣にいられればなんでもいいけど」

「亭主関白……!? 確かに神崎さんってこう言っては申し訳ないですけど――――偉そう、ですもんね……」

「おめぇらがどんな目で俺を見てるのかよ~く分かったよ……」

 

 

 かと言って今更この性格が治るかって言われたら、それはもう無理だろう。侑からはつくづく上から目線だの、ミアからはランジュより圧倒的に癪に障ることがあるだの、他の奴らからも散々な言われようだからな。別に意図して偉そうにしているわけではないのだが、逆にナチュラルに偉そうだから救いようがないのか……。

 

 

「神崎さんと果林さんはそのぉ……もうご結婚を考えているのでしょうか?」

「そうねぇ、ゆくゆくはってところかしら?」

 

 

 果林はこちらを見てウィンクをする。相当やる気のようだ。もしかして結婚式は余計だと思っていたのは俺だけで、他のみんなもやりたいと思ってんのかな。マジで1ヶ月ずっと結婚式を挙げるハメになっちまうぞこれ。1回で済ませてくれれば助かるが、それだと誓いのキスを一気に30人近くすることになる。もう後半戦は俺の唇がふやけてるだろ……。

 

 

「あなたにはそういう人はいないの?」

「えっ、私ですか!? 神崎さんにも聞かれましたけど、私ってそんなに彼氏いなさそうですか……?」

「あなたみたいな絵にかいたのような大和撫子は見たことがない。つまりその魅力を他の男性が放っておくわけがないと思っただけよ」

「さっきも言いましたけど、そういうのはあまり良く分からなくて……。もっとこう、お互いによく知った関係で気兼ねなくお話しできるのであれば良いのですが、結局そのためには試しにお付き合いしてみないという循環に陥ってしまって……」

「あら、その条件に当てはまる男性なら1人いるじゃない。ここにね」

「「へ??」」

 

 

 ここにいる男って……俺!?

 果林と綾小路の目線がこっちに集中する。

 

 

「か、神崎さんが……わ、わわわわ私と!?」

「落ち着け。おめぇもいきなり何言い出すんだよ」

「だって姫乃さんにとって『お互いによく知った関係で気兼ねなくお話しできる』に当てはまる男性は、零さんしかいないじゃない」

「それはそうですけど……」

「ほら、だったらちょうどいいと思うけど」

「マッチングアプリの登録情報を見ただけ、みたな軽い気持ちで決めんなよな……」

 

 

 綾小路が怯むのも分かる。俺とコイツの関係は果林たちみたいな親しい関係でもなければ、かと言ってまるっきり他人かと言われたらそうでもない。綾小路たちのグループとは虹ヶ咲も参加するライブでよく顔を合わせるからな。その時にコイツは律義な性格もあってか、顧問と思われている(実際にはただの部外者だが)俺にも挨拶をしてくるんだ。合同ライブの打ち合わせの場にも毎回コイツが出席してるし、それで気兼ねなく話せるようになった仲と言えばそうだな。まあ一時期はスクールアイドルキラーとして警戒されてたけど……。

 

 

「私が神崎さんと……私が神崎さんと……」

「おい果林、アイツ戸惑ってんじゃねぇか。イジるのも大概にしておけよ」

「そうかしら? あの妄想に耽る乙女な表情、結構脈アリなんじゃない?」

「妄想させたのはお前のせいだろ……ったく」

 

 

 とりあえず乙女チックな妄想に支配されている綾小路を近くのソファに座らせておいた。頬を紅くして壊れたレコードみたいに同じことを呟いている。恋とか男関係に弱そうだもんなコイツ。

 そしていつの間にか目を瞑って眠ってしまった。それでもずっと同じことを呟いているあたり、妄想が夢となっていることが分かる。

 

 

「これでようやく2人きりね、フフフ」

「なんだその不敵な笑みは。まさかこの状況を作るためにアイツを戦闘不能にしたんじゃねぇだろうな……?」

「そんなわけないでしょ。あなたと2人きりになるくらいいつでもできるし、そもそもこの場にあなた以外を呼ばないわよ」

「毎回思わせぶりが過ぎるんだよお前は。俺以外の男だったら余裕で手玉に取れただろうな」

「あら、私ってそんなにドSに見える?」

「見える。普段の生活はズボラなのに、如何にもできるお姉さんっぽく下級生にちょっかいを出してる様を見て微笑ましく思ってるよ」

「そ、そんなところまで分析しなくてもいいから!」

 

 

 下級生には秘密にしているみたいだけど俺はエマと彼方から聞かされて知ってるぞ。エマに掃除をしてもらわないと部屋がものの数日で散らかることも、意外と寝坊しがちなこともな。モデルとしての体型維持のため食事には気を使ってるから料理はある程度できるみたいだけど、それ以外の家事はそれなりに壊滅的のようだ。そんな奴がその素性を隠して、まるで弱点なしの魅惑のお姉さんみたいな感じでかすみたちをからかってるのが微笑ましくて仕方ないんだよ。本人の名誉のために口封じされているのだが、こちとらいつでもその封印を解除してお前の本性を白日の下に晒せるから覚悟しとけ。

 

 ただ中身はともかく外見の素材が完璧なのは間違いなく、改めてウェディングドレス姿を見てみるとその華やかな衣装と彼女の艶やかな顔立ちと雰囲気が程よく合っており、もはや似合っている以外の語彙が消滅するくらいには目を奪われてしまう。部屋に入ってから少しの間一緒にいたのにまだ慣れないのかと思うかもしれないけど、いずれ自分と添い遂げるであろう美人のドレス姿に見惚れない男はいないだろう。

 

 

「果林」

「なに?」

「お前さっき『本当に結婚した時に魅力が半減しちゃいそう』とか言ってたけど、そんな心配はない。好きな女の晴れ姿ってのはずっと見ていられるから」

「えっ!? いきなりデレてどうしたの!?」

「顔赤くなってるぞ」

「そ、それはあなたが唐突に褒めて来るから……。そんな流れじゃなかったじゃない」

 

 

 こうやって余裕ぶってる奴に対しては逆に素直に気持ちを伝えた方が効果的なんだよ。そして攻めっ気がある奴に限ってストレートに褒められると弱かったりする。可愛さの押し売りをするかすみも、俺からの素直な誉め言葉を受けると素のテンションに戻るしな。

 

 

「俺を手玉に取ろうと思った仕返しだよ。そもそもお前こそ俺以上に緊張してるだろ? でもウェディングドレス姿を俺に見せびらかして褒めて欲しいから、俺を撮影現場に呼んだ。違うか?」

「う゛っ……。なるほど、何もかもお見通し。相変わらずね」

「ま、これでも人並み以上に女性経験はあるからな。そう簡単に俺の上に立つことはできねぇぞ」

「そうやって上から目線で女の子を屈服させて支配するあなたのこと、私大好きよ」

「そこまで鬼畜ではないと思うが……」

「でも歩夢たちも同じことを言ってるわよ? あなたのそういうところに惚れたのだから当たり前だけど」

 

 

 もしかして俺の偉そうな性格ってコイツらによってより一層形成されてないか? そうやって何でもかんでも俺を持ち上げるから無意識に自分も調子に乗ってしまうのかもしれない。

 

 

「なんにせよ、変に誘惑しなくてもお前の魅力は分かってるっつうの。おとなしく俺に身を委ねておけばいいってことだよ」

「そうね。参ったわ、降参。あとは好きにしていいわよ」

「それはここで押し倒してもいいってことか……? いやしねぇけどさ」

「でもあなたそういうの好きでしょう? 純白で穢れを知らない女の子を自分の色に染めることが。このウェディングドレスも真っ白も真っ白で、神聖な衣装であるこのドレスを自分の欲望のままに汚すことができるんだもの。あなた好みのシチュエーションよ」

「自分のことを理解されてるのもそれはそれで怖いな……」

 

 

 コイツら俺のことを知り過ぎているがゆえに、俺のニッチな趣味まで把握されているのがメリットでもありデメリットでもある。俺の性癖に応えてくれることもあれば、こうしてイジりの対象にもされるので困ったものだ。

 

 まあ今回のウェディングドレスについては……うん、欲望のままに汚すことができたらそれは楽しいだろうとは思う。ただこれからそれを着て撮影だってのに、ここで押し倒して乱れさせたらそれこそ鬼畜と言われかねない。良識はあるから、これでもね。

 

 

「押し倒すことはできなくても、結婚ごっこくらいはできるわよね?」

「えっ、お、おい!」

 

 

 果林はいきなり抱き着いてきた。お互いに顔を見合わせる。

 結婚ごっこ。花嫁とこうして向かい合っているこのシチュエーションはまさに誓いの席そのものだ。そして果林は今か今かと俺からのアクションを待っている。唇を潤わせ、少し口を開いている様子を見たらやることは1つしかない。

 

 お互いに見つめ合ったまま、さっきまでの気軽なムードが一転。もうお互いが相手のことしか見えていない、いわゆる2人きりの世界となっていた。しかも相手の女の子が唇を気にしながら男に何かを求めている、となれば――――

 

 

「ん……」

 

 

 俺は自然と彼女にキスをしていた。

 花嫁姿の子とキスをしていると本当に結婚式で誓いの口づけをしているかのようだ。しかも抱きしめ合っているせいで俺の手にウェディングドレスの感触が伝わってきており、果林も自分の衣装が特別なためかいつもより欲が出ているようで、息を漏らしながら俺の唇に強く吸い付いてくる。僅かに唾液の水音も聞こえるあたりキスの密着具合が良く分かる。唇からも全身からも彼女の体温が伝わってきて、女の子特有の甘い香りが鼻腔を唆ってより相手を求めてしまう。コイツも俺に夢中になっているが、俺もそうなりかけていた。

 

 しばらくお互いを堪能した後に唇を離す。それからもまたお互いを見つめ合っていたのだが、果林の表情は思いっきり蕩けていた。

 

 

「久しぶりね、この感覚……。ウェディングドレスを着てあなたとキスするなんて、みんなが聞いたら嫉妬しちゃうかも……。でもそれくらい幸せなことだわ……」

「これでお前らが満足してくれるのなら、別にいつでもやってやるよ――――ッ!?」

「ん? どうしたの?」

 

 

 カラダが熱い。秋葉の言っていた歩夢たちとキスをすることで、俺の中の女の子の愛を受け止めるためのキャパシティが広がる現象がいつも通り発生しているらしい。この熱さはそのミッションの影響だと思うのだが、最近は最初の頃と比べると発熱の温度が明らかに高くなってきている。こうして女の子に気にされるくらいになっているのだが、コイツらに余計な心配はかけられないので耐えるしかないか。

 

 

「大丈夫。俺も花嫁とのキスに少し熱くなっただけだよ」

「そう、良かったわ。あなたを本気にさせられて」

「女の子を愛する時はいつでも本気だよ」

「知ってるわ。全力で応えてくれるから、私たちはあなたのことが好きなのよ」

 

 

 言っても自分に全力でアピールしてくる女の子に同じ全力で応えるのは普通のことなんだけどな。その普通のことを複数の女の子相手に満遍なく発揮すること自体が凄いことなのかもしれないけどさ。

 

 

「あっ、もうすぐ撮影の時間ね」

「だったら俺は現場に戻ってるよ」

「だったらこの子も起こして連れて行ってくれない?」

「そうか、綾小路もいたんだった。忘れてた」

 

 

 あんなことがあったから存在を忘れていたけど、そうなると俺たちって人前でキスしてたってことだよな? 寝てんのなら見られてないから大丈夫だけど、果林が変にキスをせがんでくるからバレそうだったじゃねぇか……。

 

 

「ふわぁ……あっ、もしかして寝てしまっていましたか!?」

「えぇ、それはもうぐっすりと。よほどいい妄想だったのかしら?」

「そ、それは……」

「おいあまりイジメてやるなよ。俺、お手洗い行ってくるから先に行ってるぞ」

「は、はい……」

 

 

 俺は部屋を出る。

 そして果林と綾小路、2人きりになった部屋で――――

 

 

「見てたでしょ? さっきの」

「ふえっ!?」

「起きる前から顔が真っ赤だったもの。すぐ分かるわよ」

「す、すみません!! 覗き見するつもりでは……!!」

「謝るのはこっちの方よ。あまり人前で見せるものではなかったわね。でもあなたにも知って欲しかったの。あの人、意外と誠実でしょ?」

「はい。もっとチャラチャラした人と言いますか、女性使いが荒そうな方だと思っていたので。あそこまで女性に真剣なキスをするなんて……って、私が起きているのを知っていたのですか!?」

「ウフフ、ゴメンなさい。でもこれで、あの人との妄想がもっと捗るかもね♪」

「うぅ……」

 

 

 もはや洗脳と言わんばかりの楽園拡大が進んでいた……。

 




 今回は果林回でした!
 長年この小説をやって来てウェディングドレスを披露したのはこれが初めてだったりします。アニメだと凛が着ていましたが、衣装が神々しいのであまりエロ方面でのネタにはできず、思ったより純愛寄りのお話になってしまいました(笑)

 実は構想段階では姫乃ちゃんにもドレスを着せる予定だったのですが、尺の都合でカットされてしまいました。見た目が好きなキャラなのでもっと活躍させてあげたかったのですが、今回だけでも割といいキャラを引き出せたかと思います。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

妊娠ドッキリ仕掛け隊!

 後書きに、にじよんアニメ(この小説ver)の超短編を掲載しています。
 是非最後までご覧ください!



「零君の様子がおかしい?」

「はい。たまにですけど、ぼぉ~っとしている時があるんですよね」

 

 

 高咲侑です。

 教育実習に来ている薫子さんと廊下でばったり遭遇し、歩きながらお話し中。ちょうどいい機会だと思って、最近気になっていたお兄さんの体調について相談しているところだ。

 

 最近のお兄さん、時たま上の空になっていることがある。普段からやる気なさそうな雰囲気なんだけど、ぼぉ~っとしているのは意図して気を抜いているわけではなさそうで、私たちと話をする時は至って普通に応対している。もしかしたら無理をして平静を装っているのかもしれないけど……。

 

 

「もしかしなくても、秋葉さんから課されたあのミッションのせいじゃない?」

「だと思います。まだ歩夢たち全員とキスが終わってないみたいですし……」

 

 

 お兄さんは今、病気――――みたいなものを患っている。女の子の愛を受け止め過ぎたが故に、お兄さんの中の愛を受け止める器のキャパシティが限界を迎えているらしい。そのキャパを広げるためにはお兄さん自身と繋がりが強い女の子、つまり歩夢たちとキスをする必要がある。全くもって意味が分からないけど、あの秋葉さんが柄にもなく真面目に言っていたので多分真実だと思う。

 

 ちなみにキスせずにそのまま現状を放置しておくと、お兄さんの中に溜まっている女の子の愛という愛が器から漏れて爆発してしまうらしい。うん、ますますウソのように聞こえるけど本当らしいんだよね。そしてその病状の宣告がされてからもう1週間以上は経つ。だからそろそろ限界を迎えてもおかしくない時期だ。

 

 

「秋葉さんの話だと零君のカラダはもって2週間程度って話だったし、既に1週間が経過。だから他人の目から見ても分かるくらい疲れてるのかもね」

「そうですね。心配だから体調を聞いてみたんですけど、『大丈夫だ。心配すんな』って突っぱねられまして……」

「人の心配事には容赦なく首を突っ込むのに、自分の心配事には誰も寄せ付けないんだねぇ……」

「そうなんですよ! 全くあの人はもう……」

 

 

 人が悩んでいる時はそれをいち早く察して、いつの間にか隣にいる。音もなく傍に来るから軽くホラー。でもそのおかげで歩夢たちはみんな救われた。そして、私も――――

 

 

「ふふっ、もう好きな男子の面倒を見たい幼馴染キャラみたいになってるよ」

「は、はぁ!? 確かにお兄さんとは相棒として認め合った仲ですけど、そ、そんな恋愛を感じさせる関係じゃないですって!!」

「でも歩夢ちゃんが言ってたよ。『最近の侑ちゃん、よく零さんの身の回りのお世話をしてるし、満更でもなさそう』だって」

「捏造です!!」

 

 

 もういきなり何を言い出すの薫子さん……。あれはただお兄さんがだらしないだけで、それが気になってるだけだ。あぁ、そうやって1人の男性の行動を逐一気にし過ぎてるから意識してると思われるのか……。

 

 

「とにかく、本人が無理をしてないって言うのならもう少し様子を見てみようよ。まだみんなとキスも終わってないみたいだしね」

「はい……」

「ただ念のため私もそれとなく様子を見てみるよ。本気で無理をしてるのなら流石に見過ごせないしね」

「お願いします」

 

 

 お兄さんの身を案じながら薫子さんと別れた。

 こうしてお兄さんのことを過度に心配するのも、その人に気があるからとか言われるのかな。そもそも体調が悪そうな人が目の前にいたら心配するのは当然でしょ。好きな人だから余計に心配するとか、そんなのじゃない……はず。

 

 なんか私、お兄さんと出会ってからツン属性極まってない……??

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「侑先輩も零さんにドッキリをしましょう!!」

「えっ、何の話??」

 

 

 部室に入ったらかすみちゃんが詰め寄ってきて、何やら怪しい計画に私を加担させようとしてくる。さっきまでの真面目な雰囲気とは正反対で、部室内はとあるイベントの計画で和気藹々としていた。

 

 

「ドッキリ? お兄さんに?」

「はいっ! 侑先輩も零さんのしてやられた顔、見たくないですか?」

「別に」

「即答!?」

 

 

 なんと言うか、お兄さんの悔しがっている顔は想像できない。むしろ私の中のお兄さん像と照らし合わせると、あまりそういった顔をしてほしくない願望がある。なんだかんだいつも自信満々で、傲慢で俺様系なところに少し、ほんの少し惹かれてるところはあるんだよね。もちろん頼りになる男性って意味で恋愛の『れ』の文字ない。これは絶対。

 

 

「それで? どうしてこんなことを?」

「かすみんはふと思ったんです。いつも零さんにしてやられてばかりだと」

「まあお兄さん相手だったら仕方ないんじゃないの。しかもそういう雄々しいところが好きなんでしょ?」

「そう言われたらそうですけど、たまにはこっちが上に立ちたいんですぅ!!」

「そんなことをしたら怒られるよ……」

 

 

 お兄さんもお兄さんでプライドが高い人だから、年下の女の子にドッキリで騙されたなんてことになったらどんな報復に出るか想像するのも恐ろしい。しかもかすみちゃんたちを止めなかったってことを理由に私にまで飛び火してきそうだし、ここはやめさせるべきなのかな。とは言いつつも、部外者視点からだとお兄さんがドッキリに戸惑う様子も見てみたい気持ちはあるにはある。自分が参加するのは勘弁だけど、あくまで観客だったらね。

 

 

「ちなみに聞くけど、どんなドッキリを仕掛けるの? お兄さん頭切れるから、並大抵のことだとそもそも騙せないと思うけど」

「これを使う」

「璃奈ちゃん?」

 

 

 いつの間にか私の隣にいた璃奈ちゃんが手に持っていたのは、何やら見覚えがあるようなないような、白色の細長い器具だ。器具には『判定結果』と印字されていて、どうやら何かの検査キットのようだけど……。

 

 

「この妊娠検査キットを使ってドッキリを仕掛ける」

「に、妊娠!? それってもしかして、女性が妊娠したかどうかを確かめるアレ……?」

「そう。これを妊娠判定で陽性が出ているかのように巧みに偽装して、零さんを驚かせるのが目的」

「なんかシャレになってないような……」

 

 

 想像以上にリアルなドッキリでまずこっちが驚いちゃったよ。ただお兄さんと歩夢たち初期メンバー9人とは()()()()()()()であることから、もう()()()()()()は何度もしているはず。だからどこかで間違えて妊娠してしまってもおかしくはなく、確率が0%でないことからこのドッキリのリアル性は非常に高い。『実は私たち妊娠してましたー!』なんて、もし私が男でいきなりそれを宣告されたら頭が真っ白になる自信があるよ……。

 

 

「そんなドッキリを仕掛けたいくらいお兄さんに満足してないの?」

「むしろ逆ですよ! 満足しまくり大満足です!」

「じゃあどうしてこんなことを……」

「零さんは脳内がR-18思考に切り替わると途端にご主人様気質が高まる。この世の全てから私たちを独占しようとして、自分のモノだってことを私たちに刻み込む。優しいけど、時折激しく。私たちの脳も心もそんな雄々しい姿にとろとろに溶かされて、いつの間にか虜になっていく」

「ちょっ、生々しいよ!? 凄くその状況が鮮明に伝わってくるんだけど!?」

「脳内でAVを再生しちゃうなんて、侑先輩もエッチな子ですねぇ~♪」

「う、うるさいよ!!」

 

 

 これは璃奈ちゃんの表現力が豊かで想像が容易くなったせいであって、私が淫乱思考を持ってるとかそんなのじゃないから!!

 それはそれとして、2人がお兄さんにドッキリを仕掛けたい理由が分かった。そうやって男らしく自分を支配しようとするお兄さんのイキリ顔を崩したいってことだよね。確かにお兄さんはあれでも責任感が強いから、エッチなことをしたとはしても流石に孕ませるようなことはしない。だからこそ妊娠ドッキリってことか……うん、鬼畜過ぎない?? いや変態と言うべきかも……。

 

 

「なんかかすみんたちを変態だと疑ってるみたいですけど、真の変態はそこにいますからね」

「え?」

「う゛っ……」

「えっ、ん……? し、しずくちゃん……??」

 

 

 かすみちゃんが指を差した先。ソファで気配を隠していたしずくちゃんがいた。

 かすみちゃんと璃奈ちゃんが悪ノリするのはまだ分かる。でもこういうことを注意しそうなしずくちゃんがどうして……?

 

 

「すみません!! つい出来心と好奇心で『零さんが本気で驚く表情も見たい』と2人に話したばっかりに、とんとん拍子に話が進んでしまって……」

「つまりしず子も淫乱だったってこと」

「違うもん!!」

「零さんのことが好きすぎて、零さんの色んな表情が見たいって気持ちは良く分かる」

「こ、これはただ男性がお相手の女性に妊娠を告げられた時の反応を見て、こちらもどう切り返せばいいのかを勉強……そう、つまり演技のためです!!」

「えぇ……」

「侑先輩!? 私から遠ざからないでください!?」

 

 

 ドン引きしたけど納得できなくはない。しずくちゃんって歩夢と同じで、清楚ぶってるけどどこか淫猥な思考も持ち合わせてるんだよね。特にお兄さんと一緒にいる時はそうで、表では済ました顔をしているのに裏ではイケナイことを考えているに違いない。そういえばお兄さんが『表ではいい子ぶってる奴ほど裏では何を考えてるか分からない』って言ってたけど、今ならよく理解できるよ。

 

 

「とりあえず侑さんの分も用意しておいた。はい、検査キット。もう陽性反応に加工してあるから」

「いらないよ!? ていうかお兄さんとそういう関係じゃないから、私の分があったら即バレでしょ!!」

「あれ? もうそこまで進んでいるのかと思いました」

「侑先輩も意外と奥手ですねぇ~」

「どうして私が躊躇してるみたいになってるの!? 元々あの人と恋愛する気なんてないから!!」

「もしかしたら侑さんが寝ている間に、零さんがこっそり種付けしていたかもしれない」

「どれだけお兄さん鬼畜設定なの……」

 

 

 歩夢も言ってたけど、私ってそんなにお兄さんとお付き合いしているように見えるのかな……? 一緒にいることは多いけど、それはスクールアイドルのマネージャーとして学べることが多いからだ。でもまさかカラダを重ね合わせてると思われてるとは……。

 

 

「じゃあかすみんたちの検査キットだけをここに置いて、別室で様子を見てみましょう」

「えっ、どうやって?」

「この部屋にマイクありの隠しカメラを仕掛けた。これで監視できる」

「緊張しますけど、ワクワクもするね!」

「みんなの行動力が恐ろしいよ……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんなわけで別室。その中はまるで株の動向でも確認しているかのようなモニターの量で、ハッカーの秘密基地のようにも見える。どうして学校の中にこんな部屋があるのかは分からないけど、璃奈ちゃんが秋葉さんに頼んで作ってもらったのかもしれない。

 

 モニターは1つ1つが別角度から部室内を隠し撮りしており、いくつカメラを仕掛けてるんだと思ってしまう。

 離れた部屋から複数のカメラで隠し撮りを眺めてるなんて、ものすごぉ~く悪いことをしてる気分だ。まあ実際に悪いことなんだけど……。

 

 

「あっ、零さん来ましたよ! さぁテーブルの上に置いたかすみんたちの検査薬を見て、絶望の表情に打ちひしがれてください!」

「かすみさん、もう完全に悪役の顔だよ……」

「そういうしず子だってワクワクしてるじゃん。雰囲気から分かるもん」

「あれ、歩夢さんもいる」

「お兄さん、歩夢と一緒に来たんだ」

 

 

 画面を見るとお兄さんと歩夢が一緒に部室に入って来たところが撮れていた。

 そしてマイク付きの隠しカメラのおかげで2人の声が聴こえてくる。

 

『ん? なんだこれ?』

『こ、これって……!?』 

 

 

 早速仕掛けておいた妊娠検査キットに気が付いたみたい。お兄さんと歩夢はそれぞれその中の1本を手に取って眺めている。

 

 

『名前が書いてあります。かすみちゃん、しずくちゃん、璃奈ちゃん……って、零さんもしかして1年生の3人を……!?』

『…………』

『零さん?』

『あぁ、そうみたいだな』

『えぇっ!?』

 

 

「零さん、思ったより冷静じゃない?」

「おかしいなぁ~。高校生は孕ませない精神の零さんが、妊娠確定の検査結果を見たら驚くと思ったのに……」

「全然動じてない」

 

 

 お兄さんは検査キットを軽く確認しただけで、特にこちらが期待した反応をすることはなかった。別に私はお兄さんの動揺を観たかったわけではないけど、逆に反応がなさ過ぎてむしろこっちが驚いてしまう。そうみたいだと言ってたから自覚はあるんだろうけど……。

 

 ちなみに歩夢はずっとあたふたしっぱなし。そりゃ自分の後輩3人が一気に子供持ちになったらビックリするよね。これもう歩夢に対するドッキリなんじゃないかな……。

 

 

『妊娠したってことは、もしかして付けずにナマでやってた……ってことですか? それか危険日にやっちゃったとか……』

『んなわけねぇだろ。こっそりゴムに穴を開けられてたとか、そんなことされない限りな』

『かすみちゃんたちがそんなことを……』

『でもアイツら性欲強いから。自分の中に滾った性欲が我慢できなかったんじゃねぇか』

 

 

「零さん、私たちのことどういう目で見てるんだろう……」

「まるでかすみんたちが淫乱思考持ちの痴女ビッチみたいな言い草じゃないですかぁ!!」

「誠に不本意」

「その文句、こんなドッキリを思いつく時点で言えない気も……」

 

 

 3人共画面の前で抗議をしているけど、ドッキリの題材にリアル感のある妊娠を持ち出す時点で淫乱思考って言われてもおかしくないよ……。お兄さんはみんなのそんな性格が分かっているからこそ驚いていないのか。それでも落ち着きすぎな気もするけど……。

 

 

『良かったんですか? 妊娠しちゃったら流石にスクールアイドルは続けられないと思いますけど……』

『アイツらがそれを望んでたのならそれでいいんじゃねぇか。陽性が出ちまったからには俺がどうこうできる問題でもないしな』

『だ、だったら私も……』

『正気かよ……』

『だって零さんの子供を作るときはみんな一緒にって幼い頃から!! あっ、今のは忘れてください』 

『心の声ダダ洩れとかいうレベルじゃなかったぞ声の大きさ……』

 

 

「うわぁ……」

「ドン引きしないでください侑先輩!!」

 

 

 みんなお兄さんが大好きなのは分かるけど、小さい頃からとんでもない約束をしていたらしくて驚くどころか引いちゃったよ。その頃から妊娠願望があったってことだから、そりゃこんなリアルなドッキリも思いつくよねって話。そしてこんな淫乱思考にもなるよねって話。

 

 

「それにしても零さん冷静だね。何事にも動じない精神力、演技の勉強になるかも……」

「深刻な雰囲気は全くない」

「むぅ~。これだとかすみんたちの大敗北じゃん! よしっ、部室に直接乗り込もう! こっちの口から直接ウソを話せば、少しは戸惑ってくれるはず!」

「もう意地になってるじゃん……」

 

 

 それドッキリっていうかただの嘘つきのような気もするけど、ぶっちゃけた話お兄さんに通用するとは思えないので後ろで見守っておこう。そもそもお兄さん事実を受け入れちゃってるし、ウソをついてもそのまま話が進んでいきそうな気がする……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 私たちは別室から出て部室へ向かう。

 ドッキリの仕掛け役って普通は余裕の表情で相手を眺めるものなのに、今では立場が全く逆。仕掛け人の方が焦ってるってもう完全に敗北してるんじゃないかな……。

 

 そして部室に乗り込む。

 お兄さんと歩夢はさっきまで話題に出していた当の本人たちがいきなり現れたためか、目を丸くしていた。

 

 

「あっ、それ見てしまったのですね……」

「かすみんたち、デキちゃいました……♪」

 

 

 普通に演技が上手いからツッコもうにもツッコめない。しずくちゃんの恥ずかしがる表情とかすみちゃんの上目遣い、どちらもウソを誠と偽れるくらいだ。普通の男性だったらコロッと騙されちゃうかも。

 

 

「ホントに!? 本当なのみんな!?」

「うん。零さんとの赤ちゃんができて、私も嬉しい」

「羨ま……じゃなくて、まだ高校生なのに……」

 

 

 もう隠す気ないよね歩夢……。

 傍から見てもドッキリとは思えないくらい3人の演技は上手い。いずれお兄さんとこうなりたいという願望があるからこそ、演技であって演技ではなく、将来の反応の前借りみたいな感じなのかもしれない。そのせいで歩夢は本当に騙されてるけど。

 

 

「そうか。じゃあしばらくお前らとはベッドの上で会うことはねぇだろうな」

「「「えっ?」」」

「だってそうだろ。お腹の中に赤ちゃんがいるんだからカラダに負担はかけられねぇよ。性欲が強いお前らがお預けをくらうなんて罰ゲームかもしれないが、子供のために耐えてくれ」

「じゃ、じゃあその間は私と……♪」

「歩夢……」

 

 

 別方向で暴走状態の歩夢は置いておいて、お兄さんの言葉に硬直している1年生ズ。性的欲求がお盛んな子たちがお兄さんからお預けをされるとなれば、それはもう人生の楽しみを奪われたようなもの。さっきの上手なウソ演技とは裏腹に、今は誰が見ても分かりやすく絶望している。

 

 

「そ、それはかすみん困っちゃうなぁ~~って」

「零さんの寵愛が得られないだなんて、そんなことは……」

「それは困る。イヤ」

「だったら最初っからそんなウソつくなよな」

「「「へ?」」」

 

 

 私と歩夢も含め、みんながきょとんとした顔をする。

 予想していなかったわけじゃないけど、どうやらお兄さんは初っ端から分かっていた様子。やっぱりお兄さん相手にドッキリは分が悪すぎるよ……。

 

 

「この検査薬が偽物だってことくらいすぐ分かるっつうの。お前ら以外に俺の周りに何人女がいると思ってんだ」

「じゃあお兄さんはドッキリだと分かって話を合わせていたってことですか?」

「まぁな。ただお前らが直接乗り込んで来たことには驚いたけど。痺れ切らすの早すぎだろ……」

「お兄さんがあまりにも動揺しないから、かすみちゃんが怒っちゃって……」

 

 

 確かにお兄さんってみんな以外にもたくさん女性の知り合いがいるし、その中の何人かとは既にカラダを合わせてねっとりやっているみたいだから、女性の妊娠について詳しいのは必然だったのかもしれない。だったらもうドッキリにこのネタを選んだ時点でかすみちゃんたちの敗北は決定してたってことか。まあお兄さん相手の場合はどんなネタでも通用しないと思うけど。

 

 

「ただ未遂で終わったとはいえ、俺に反抗しようとした気を起こした時点でそれは重罪だ。それ相応の報いは受けてもらうぞ」

「ま、まさか本当にかすんたちを孕ませ……!?」

「それは幸せなことですけど、罰ゲームでやられても複雑と言いますか……」

「赤ちゃんを作るならもっといいムードでやりたい」

「妊娠ドッキリを仕掛けたくせにそういうのは切望するんだな……」

 

 

 結局、ドッキリ企画はお兄さんの1人勝ちで終わった。ウソの内容が内容だったけど、女性よりも女性のカラダに詳しそうなお兄さん相手に妊娠ネタは選択ミスだったのかもね。

 そして、私に飛び火しなくて本当に良かった。3人を止めなかった責任を私に押し付けられると思ってたから、それだけはなくて一安心。

 

 

 ただ――――

 

 

「な~んだドッキリかぁ~。よかったぁ~」

 

 

 胸を撫でおろして安心を見せる歩夢。

 このドッキリで一番の敗北者は、本気で信じてしまって動揺していた歩夢なのかもしれないね……。

 




 ドッキリ企画は零君がすぐにウソを見抜いてしまうので、見どころはドッキリを仕掛ける前のかすみたちの掛け合いだったかもしれませんね(笑)

 そして妊娠って言葉が予測変換ですぐ出て来るなぁ~と思ったら、虹ヶ咲編1とLiella編から連続で妊娠ネタをやっていて、今回が3回目だと気づきました(笑)




 以下、にじよんアニメ1~3話(この小説ver)の小ネタの超短編。



~第1話~

「あぁ~『みんなを幸せにします』だなんて、とんでもないこと言っちゃったなぁ……。あっ、でもお兄さんっていつも同じことをみんなに言ってるんだよね……? って、私もお兄さんと同じ思考回路ってこと!? 違う違う、これはいつも一緒にいるお兄さんの病気が伝染したんだ。そうに違いない!!」
「どうした頭抱えて?」
「お兄さんと同じレベルに落ちたと思うと落ち込まざるを得なくて……」
「失礼だなオイ……」



~第2話~

「お兄さん! お兄さんもみんなの可愛さに得点を付けてあげてください!」
「バカ、女の子の可愛さに優劣なんて付けられねぇよ。俺の隣にいる女の子はみんな満点だ。もちろんお前もな」
「な゛っ……!? またそんなことを軽々と……。全く、お兄さんの方がバカですよ……」



~第3話~

「熱い……」
「大丈夫ですかお兄さん……? 歩夢たちもそろそろ……」
「だぁあああああああああ!! お前らくっつき過ぎだ!! 何人俺に抱き着いてんだよ!? 演出の参考にホラー映画ってのは口実で、俺に抱き着きたかっただけだろ!? 『きゃ~怖い』って、明らかに棒読みだったぞお前ら!!」
「みんなお兄さんのこと大好きすぎるよ……」






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

欲望全開濃厚演劇!

 虹ヶ咲学園の演劇部。この学校は秋葉が才能のある生徒を集めているので、どの部活も一定の成績を叩き出すほどの実力がある。ただここの演劇部はその中でも群を抜いており、出演する公演はいつも満席で、いくつもの賞も獲得しておりプロ界隈からも注目されるほどだ。

 

 もちろん部に属する桜坂しずくも類稀(たぐいま)れな部員の1人であり、部長と並んで演劇部のエースとも言われている。元々スクールアイドルを始めたのも演技の幅を広げるためであり、実は彼女のメインはこっちだったりする。ただスクールアイドルとしての実力も本物であり、二足の草鞋(わらじ)をここまで綺麗に成立させている奴を俺は見たことがない。この前は妊娠ドッキリの発起人というバカなことをやってたみたいだが、一応これでもハイスペック少女なのだ。

 

 ただそんな彼女であっても――――

 

 

「えっ、しずくが悩んでる?」

「はい。なのでもしお時間があるのであれば、しずくの演技を見ていただきたいと思いまして。お願いします」

 

 

 演劇部の部長からしずくの演技指導の依頼を受けた。ご丁寧に頭まで下げて、そこまで深刻なのかと少し心配になる。ただ妊娠ドッキリで遊んでいたところを見るに悩みなんてなさそうだったけど……。

 

 

「アイツを見てやるのはいいけどさ、どうして俺なんだ? 部長のお前が見てやればいいんじゃねぇのか?」

「それは次に公演する演劇でしずくが妹役だからです。姉役は私ですが、しずくの演技を客観的に見るためにも私は役者の立場ではなく第三者視点で彼女の演技を見たいので、私の代わりを零さんにお願いしたいんです。妹さんがいると聞いているので、妹役のしずくの兄役としてはピッタリだと」

「えっ、俺も演技すんの!?」

「しずくの演技に合わせて適当に応対していただければ問題ありません。これはしずくのアドリブ力を測るためでもあるので」

 

 

 確かに兄役となればそんじゃそこらの男より俺の方が適任だろう。そして妹の見る目は世界中の誰よりもあると言っても過言ではない。愛しの兄のために最強の妹を磨いた(アイツ)を毎日見てるんだ、そりゃコイツも俺に頼んでくるわな。

 

 

「分かったよ。しずくに合わせるだけってなら協力してやる」

「ありがとうございます。助かります」

 

 

 別に兄役でなくとも、こんなに畏まって依頼されたら断るに断れねぇよ。

 そういやコイツも虹ヶ咲の生徒なんだったら、程度の違いはあれど俺のことは好き……なんだよな? 虹ヶ咲の入学者が全員俺に思慕を抱いている奴らばかりで構成されているのは秋葉から聞かされて知っているが、コイツは他の生徒とは違っていつも平常心すぎる。ここの生徒は俺を前にしたら頬を染めるような奴らばかりだから、ここまでの余裕さを見せるのは大したものだ。こういうポーカーフェイスの強さが演劇部の部長たるが所以なのかもしれないな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「えっ、零さんが直々に演技指導を!? 部長が掛け合ってくれたんですか!?」

「うん。唸ってるあなたを見過ごせなくて、ついね」

「いえいえ! むしろ零さんに演技指導をしていただけるなんて嬉しいですっ!」

「妹キャラには詳しいけど演技に関しては素人だし、あまり期待すんなよ」

「大丈夫です! 零さんに厳しくされるだけでも嬉しいので!」

 

 

 それは厳しく指導された方が自分のためになって嬉しいって意味だよな? 決して厳しく躾けられることに快感を得たいマゾヒストじゃねぇよな……? 清純ぶっておきながら変態的思考を持ってるのはどこかの淫乱バードを思い出してしまう。しかも自分が淫乱思考の持ち主だと分かっていて攻めてくるからタチ悪いんだよ……。

 

 しずくはカバンから何やらノートを取り出す。表紙には『零さんと演劇をすることになったらやりたいコト』って書いてあるけど、まんま直球すぎるだろ。なに書いてあるんだよこえぇよ……。

 

 

「では私は客席から見てますので、しずくに合わせて演技してあげてください」

「あ、あぁ……」

 

 

 やべぇ、この場で唯一の良心が行っちまった。目をギラギラさせて自分のネタ帳を食い入るように確認するしずくと2人きりだなんて、もはや貞操の危険を感じると言っても過言ではない。自分の欲望を隠さなくなった奴は恐ろしいからな。そういう奴を何人も知ってるし……。

 

 

「それじゃあ最初に練習用の設定を説明しますね。そっちの方が零さんも役にのめり込みやすいと思うので」

「えっ、設定?」

「零さんと私、つまり兄妹はとあるワンルームアパートの1室で同棲しています」

「なんか急に始まった。しかも年頃の兄妹がワンルームって無理あるだろ……」

「お互いに高校生で、学校でバイトも禁止されているのでお金は親からの仕送りのみの極貧生活」

「どうして2人で住まわせたんだよその親……」

「貧困なため、その中での唯一の娯楽は兄妹でカラダを重ね合わせることだけ」

「おい……」

 

 

 導入から怪しいと思っていたが、どうやら想像以上にAVの企画やエロ同人の設定に近い内容のようだ。コイツ、こんな設定をノートに書いてたのかよ恐ろしいな……。

 

 

「お互いに肉欲を満たし合いながら、こう思うのです。俺、私の運命の人はこの人だったんだと。恋を自覚してからはお互いにタガが外れ、近親相姦という背徳感でより一層に淫欲を高めながら、2人は結婚して幸せな人生を謳歌するのでした。終わりです」

「えらくトントン拍子に話が進んだな……」

「えっ、このノート1冊分ありますけど……要約しない方が良かったですか?」

「1冊丸々さっきの設定書いてあるのかよ……」

 

 

 しずくはもう全身から嬉々としたオーラを排出しまくっている。俺と演劇をするために書き溜めた設定らしいから、実際にその苦労が活かされる時が来て嬉しいのだろう。気持ちは分かるが想像力豊か過ぎるのもそれはそれで問題だな……。

 

 

「あと重要なことが1つ。私から零さん、兄への呼び方を決めなければなりません」

「確かに妹役をやるのであれば重要か」

「はい。王道で万人受けする『お兄ちゃん』か、誠実で真面目な『兄さん』、清楚でお嬢様な『お兄様』、幼くて甘和え上手な『お兄』、もはや友達感覚の名前呼びっていうのもアリですね。どうされますか?」

「お前がどう呼びたいかでいいよ」

「そうですね……。それでは『兄さん』呼びで」

 

 

 それは自分のことを誠実で真面目と思ってるってことか……? 格式のある良家の娘であることには変わりないのだが、最近の印象だとどうも無様に淫乱思考に支配された女にしか見えなくてな。ただコイツの透き通るような声で『兄さん』呼びをされると、それはそれで兄属性の俺からしたら来るものがある。楓からは『お兄ちゃん』、矢澤の下の姉妹からは『お兄様』と『おにーちゃん』、侑(妹ではないが)からは『お兄さん』と呼ばれているので、また違った新鮮味があるのだろう。

 

 

「それでは早速始めましょう。最初の設定は早朝で、妹が兄を起こすシーンからです。こほん―――――朝ですよ、兄さん、起きてください」

 

 

 思わず衝撃を受けてしまった。しずくの演技を見ることはあれど、こうして真っ向から、しかも自分に対して何かしらの演技が行われることはあまりないからだ。しかもコイツの今回の役は俺の兄属性を刺激する妹キャラ。しかもコイツの『兄さん』呼びはもはや演技とは思えず、もう本当に自分の妹かのように錯覚してしまう。流石は女優の卵、演技開始から一瞬で役にのめり込んでいる。淫乱思考持ち云々の話が忘れ去られるくらいに今コイツの凄さを感じていた。

 

 

「ほら零さんのセリフですよ。夜遅くまで私とカラダを重ね合わせていたせいで、睡眠時間不足で眠たそうにしてください。そして腰を振り過ぎて腰痛になってしまっている描写も追加で」

「おい」

「そして兄は起きようとするんですけど、性的欲求に支配された日常にどっぷりと浸かり過ぎた兄は、ただ朝を普通に起きるだけでは満足できないんです。だから妹に『下半身のここにキスをしてくれたら起きてあげてもいい』と命令するんです。そうしたら私が『もうっ、兄さんったら♪』と呆れつつも嬉しそうにそれに従って―――――」

「おい!!」

「なんでしょうか? まだシチュエーションは始まったばかりですよ?」

「クライマックスだよ既に!」

 

 

 初っ端から自分の書いた設定の妄想が広がり過ぎて1人で先に進んでやがる。しかも思いっきり事後描写だし、俺とどんなプレイを想像してたんだよ……。

 

 

「つうかお前、そんな設定どこで覚えて来るんだよ。AVとかエロ同人とか見てねぇと思いつかねぇ設定だろ」

「そんな下賤なことはしていません。世界最強の妹を名乗る方が兄に毎日やっていることとして、世界中の若い女性に衝撃を与えた設定なのです」

「誰だよその妹って」

「本名までは存じ上げませんが、巷ではMapleと呼ばれているらしいです。その人が説く妹道は素晴らしく、今や世界中のすべての兄持ちの妹がその方の格言に感銘を受けていると思われます。もちろん兄持ち以外でも、私のように心に響く人も多いかと」

「Mapleねぇ……」

 

 

 Maple、メイプル、日本語にすると『楓』ねぇ……。もう隠す気ねぇじゃねぇか。

 ていうかアイツ何を世界中に発信してんだよ。しかもしずくの話ではアイツのくだらない欲望が世界中を汚染してるって話だし、秋葉共々俺の姉妹は世界を牛耳り過ぎだろ。更に『兄に毎日やっている』とか言ってたけど、別に俺はアイツと毎日やったりはしてねぇからな……? 俺が実妹に毎晩カラダを求めてる近親相姦野郎って拡散されてるようなものじゃねぇかふざけんなよマジで……。

 

 

「それでは早速あそこにチュウを……」

「それはいいから、その……早く朝飯を作ってくれ」

「むぅ、兄さんは恥ずかしがり屋さんですね。夜はあんなにイケイケで激しかったのに……」

「あくまでその設定は続けるつもりなんだな……」

「当たり前です! 兄さんのために長年書き溜めた設定ですから!!」

「役にのめり込み過ぎて、普通の時でも俺への呼び名変わってるし……」

 

 

 一度役になり切るとしばらく元に戻らないってのは親友のかすみが言ってたけど、本当にそうみたいだ。そして際どい設定のシチュエーションをこっそり書き溜めていたのも侑が言っていた通りで、歩夢とせつ菜の受け攻めプレイの内容を自分に披露してきたと言っていた。つまり今日のしずくは自身の本心が余すことなく全て曝け出されるってことか。俺の前だから別に隠す必要はないんだろうけど、想像以上に欲に塗れていて今でも驚いてるよ……。

 

 

「それでは朝食にしましょう。献立は『牡蠣』『アボカドとエビのサラダ』『うな重』『サバ味噌』、他には――――」

「ちょっ、朝からどれだけ食わせるんだよ重いっつの!! てか精力の付くモノばかりじゃねぇか!?」

「今は急だったので用意できていませんが、私、実際にさっき言った料理の練習をしているんです! 将来零さんのもとへ嫁いだ時のため、そしてかすみさんたちとエッチをした後にも精が枯れ果ててしまわないように!!」

「俺が一度に何人とヤってる想定なんだよ……」

「それは同好会の皆さん13人と……あっ、でも他のスクールアイドルの方もいらっしゃいますもんね。だとしたらもう1日中やり続けるしかないのでは……?」

「どうして毎日全員とヤる前提なんだよ……」

 

 

 しかも同好会13人って、サラッと侑を含めてるな。アイツにそんな気があるのかと言われたら……流石にないか。

 ちなみに言っておくと1日中ヤり続ける気力も精力も俺にはない。流石にそこまでカラダを求めらることはないだろうが、これから知り合う女の子が増えなかったとしても現状ローテーションでも1度ヤったら次にまた自分の番が回って来るのは数日、数週間待ちになることは普通らしい(某淫乱鳥が言っていた)。もう教師になるんじゃなくてそれを仕事にして女の子から金を貰った方が儲かるんじゃないかな……。

 

 

「実際の料理がないので食事シーンは飛ばすとして、次は――――お着替えですね」

「いや流石にそれは1人でやるだろ。介護じゃねぇんだから」

「妹は兄のお世話役なので、おはようからおやすみ、性処理まで妹の仕事だと聞いていますが?」

「それは楓……Mapleって奴のウソ知識だ」

「しかし、そうだとしても妹として、そして将来の伴侶として兄さんのお世話をしたいです! ダメ……ですか?」

「……ったく、分かったよ。分かったからそんな目で見るな」

「はいっ! ありがとうございます!」

 

 

 物悲しそうなさっきの眼は俺を陥落させるための演技だったのか、それともマジだったのか……。なんにせよ女の子にそういう眼をされると断れないのが俺の弱点だな。

 そして性処理が妹の役目ってのは如何にも楓がいいそうなことだ。しかも発言力が大きいせいで、これ全世界の何人の妹が真に受けているのんだか……。しかも妹なのに伴侶って、兄にとって妹こそが一番近しい女性だからお嫁になるのは当然と考えてそうだなアイツ。

 

 

「そもそも着替えってどこにあるんだよ? 演技らしくフリでもすればいいのか?」

「そこは問題なしです。部の備品として男性用の服もありますから。そしてちょうど部長が今日使う予定だったものがここに」

 

 

 用意周到だな。女子しかいない演劇部だとしても男性が1人も出ない演劇をするのは無理があるので、使用頻度は微妙だけど一応準備はしてあるって感じか。特に部長なんて夢女子が発狂するくらいに美人イケメンなので、こういった男装もよく似合うだろう。客席で俺たちの演技を見ている部長に目配せをすると、どうやら俺の予想は当たっていたようで軽く微笑みかけてくれた。

 

 つうかアイツ、しずくがこんな欲と俗に塗れた演技をして何とも思ってねぇのかな……。そもそもさっきからツッコミばかりで演劇をしているのか怪しい部類だけど……。

 

 

「さぁ兄さん、脱いでください! 上だけでいいので全部!」

「えっ、ここで?」

「恥ずかしいんですか? あの兄さんともあろうお方が??」

「煽ってんのかお前……。そもそもこんなデカい講堂のステージで服を脱ぐことに抵抗があるだけだ」

「今は私と部長しかいませんけど……」

「例え2人でもじろじろ見られながら脱ぐのはハードル高いだろ、男だとしても。どんな羞恥プレイだよ」

 

 

 しずくは瞳をギラギラと輝かせている。客席を見ると部長も何か期待をしているようだし、どうやら多数決では敗北しているようだ。

 つうかしずくの奴、俺の裸なんて何回も見てるはずなのに今更興奮してるのは何故なんだ。コイツのことだから俺に対して羞恥プレイを仕掛けてくるとは思えないし……。

 

 

「さぁ兄さん、迷っているのであれば私が服を脱がせてあげます!」

「おい勝手にボタン外すな!」

「兄妹なんですから、裸を見られたところで何の問題もないはずです! むしろ兄妹だからこそ裸のお付き合いをするべきだと思います!」

「少しずつ欲望が見えて来てるぞお前!?」

「服はこちらで預かっておくので! また洗濯をして返しておきますので!」

 

 

 遂に本性を現したな。いやさっきからずっと表に出ていた気もするが、今の発言でようやく分かった。大体俺の服を脱がそうとしたり預かっておくとか言う奴に渡すと、十中八九その服は返って来ない。別に俺はファッションに興味もないし、服がなくなるくらいはどうでもいいのだが、その服が性的搾取の道具に使われてることが何とも言えない。日々スタイルのいい女性が男の下種な目線にストレスを抱えてる理由が分かった気がするな……。まあ俺はストレスは全く感じてないし、むしろ呆れてるくらいだが……。

 

 それよりもしずくの瞳のギラつき方が尋常じゃない方がこえぇよ。どれだけ俺を求めていたのか、どれだけ俺とこの演劇をやりたかったのか、その目を見ただけで分かる。もうエサを見つけてウキウキなただの獣だな……。

 

 

「さぁ兄さん! 全てを妹に委ねてください! 服も性欲も何もかも!!」

「ちょっ、引っ張るなって!!」

「こら、しずく。落ち着いて」

「いたっ! ぶ、部長!?」

 

 

 しずくはいつの間にかステージに上がって来ていた部長に頭を軽くこつかれて正気に戻る。さっきの獲物を狙う獣のような目から一転、こつかれて少し痛かったのか涙目になっていた。

 

 

「もう満足したでしょ? 零さんと一緒に演劇したい欲、満たせたんじゃない?」

「どういうことだ?」

「黙っていてすみません。しずくが演技に悩んでいた真の理由は、零さんに自分の演技を見てもらい、そして一緒に演技をすることだったんです。その欲が日に日に募って独り言も多くなっていたので、今日こうして私から零さんを誘った次第で……」

「だったら最初からそう言えばいいじゃねぇか」

「ゴメンなさい。最初からしずくの欲求不満に付き合わせると言ってしまうと、承諾してくれないような気がしたので」

「別に拒否はしねぇけどな、渋りはするかもだけど。ま、なんにせよ悩みが解決できたのならよかったよ」

「はいっ! とてもスッキリしました♪」

 

 

 本日一番の笑顔を見せるしずく。そりゃあれだけ自分の欲望を外に発散できたんだから気持ちいいだろうよ。欲を満たした後にこの屈託のない笑顔をされるのも複雑感あるけどな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「すみません零さん、片づけを手伝ってもらって」

「別にいいよ。どうせ暇だしな」

 

 

 しずくの暴走が鎮まり、演技指導も中途半端だったがとりあえず無事に終わった。そのまま帰っても良かったのだが、ステージに出しっぱなしの小道具がたくさんあったので男手が必要ってことで残ることにした。今は俺としずくで舞台裏、部長はステージ側の掃除をしている。

 

 それにしても欲望に支配されたしずくには驚いた。最近はそういった片鱗を見せることは多くなっていたものの、やはり普段は清楚系で通っている子があそこまで自分を曝け出すのはそのギャップにビックリする。まあ俺の周りにはコイツと同等以上の変態さを持った女の子がたくさんいるので、今更コイツ1人が増えたところで何の問題もない……と思う。それに女の子側から自分を求めてくれるなんて、普通に考えたら男にとって夢のような設定だしな。喜ばしいことなのだろう。

 

 

「零さん」

「ん?」

「最後に1つだけ。もう1つだけワガママを言ってもいいですか?」

「あぁ」

「キス……したいです」

 

 

 思わず作業の手を止めてしまう。しずくの方を振り向くと、そこには頬を染めてそわそわしている彼女の姿があった。

 

 

「さ、さっきの演劇は私の欲求不満からでしたけど、キスはその……零さんと相対して演技をしている間にそういう気分になったと言いますか……。つまりさっきみたいな汚い欲望とは違うってことです!」

「自分で汚いとか言っちゃうのか……」

「それに最近皆さんが零さんとキスしているような雰囲気を感じ取って、だったら私もと思いまして……」

「フッ、なるほど」

「えっ、どうして笑うんですか!?」

 

 

 理由が子供っぽいなと思っただけだ。1年生なのに同好会の中では比較的お大人っぽいところがあり、見た目や性格の誠実さも相まって精神的にも成長していると思われがちな彼女だが、意外と中身はこうして子供っぽかったりもする。実際に1年生組で集まると敬語が外れて年相応にムキになったり、ガキがするようなイタズラを仕掛けることに躊躇もないなど、彼女を良く知れば知るほど微笑ましくなってくる。だからキスをしたいのも他の奴らからそんな空気を感じ取って、自分もやって欲しいとある種の幼さが残る嫉妬を抱いていたからだろう。

 

 

「可愛いな」

「ふえぇぇっ!?」

「あっ、声に出てたか?」

「もうっ、そうやって思わせぶりなところが零さんのズルいところです……。だったらこっちも容赦しません!」

「えっ、んっ!?」

「ん……ちゅっ……」

 

 

 しずくはこちらに駆け寄ってきて、そのまま俺の首に腕を巻き付けて唇を押し付けてきた。彼女の熱い想いと甘い香りが押し寄せてくる。想いを伝えるまでは不器用だけど、一度決意するとさっきの演技や今のように欲望のまま相手を貪りつくしてくる。唾液の音を艶めかしく鳴らしながら、何度も何度も俺の唇に吸い付いてくる。まさに彼女の性格を表しているかのような口付けだ。こちらが引いても向こうはそれ以上に自分を押し付けてくるため、俺も彼女の身体を支えながらその欲望を受け止めていた。

 

 そして虹ヶ咲の子たちとキスをするってことは、また俺の中で愛を受け止める器のキャパシティが広がったようだ。その代償としていつも通り全身に熱気が走る。前の果林の時と同じく、そろそろ耐えられる熱量を超えて来ていた。

 

 

「ぐっ、はぁ……」

「ちゅっ……んんっ……れ、零さん?」

「なんだ、もう離していいのか?」

「私がどうこうよりも、零さん喘いでなかったですか……?」

「んなわけねぇだろ。お前みたいな淫乱と一緒にすんな」

「ヒドい!?」

 

 

 果林の時もそうだったけど、熱さに反応しちまって相手にバレそうになってるな。せっかくのキスなんだから女の子には何も余計なことを考えず、俺にだけ集中していて欲しい。だからバレないように体裁を取り繕っているつもりだが、そろそろ危ないかも……。

 

 

「これで満足か?」

「はい。でも将来的には演技ではなく、本当にああやって零さんにご奉仕するのが夢です。だからそのために女優として桜坂しずくという人間を磨いて、最高の形の『現実』として零さんにお届けするので覚悟しておいてください♪」

 

 

 シチュエーションではなく現実か。

 だったら俺もさっきみたいにコイツの欲望に驚いたりせず、堂々と受け止められるように器を広げておかないとな。

 

 

 

 

 ちなみに、ステージで1人片づけをしている部長は――――

 

 

「零さんって、しずくみたいなエッチ……ちょっと変態っぽい女の子の方が好きなのかな……」

 

 

 1人で悶々としていた。

 




 今回はしずく回でした!
 この小説に限らず、何故か世間からは性欲が強くて変態的性のある子と言われている彼女ですが、こうして描いてみるとその気持ちが良く分かる気がします。なんかしずくと変態的な描写って似合うんですよね(笑) 私以外にもそういった小説があるのをよく見かけるので……

 今回出てきたもう1人、演劇部の部長さんですが、どうして名前が付けられていないのかが気になります。あれだけキャラが立っていてアプリにも出ているのに……。名前がないせいでこの小説でも『部長』と呼ばせるしかないのがもどかしいところです。




 キスノルマはこれで8人で、残るは歩夢、栞子、ミア、ランジュの4人となりました。こうして見ると意外と虹ヶ咲編2も終わりに近づいていますね。
 零君のカラダ、果たして大丈夫かな……?







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

虹色の序章

 高咲侑です。

 今日は栞子ちゃん、ミアちゃん、ランジュちゃんのユニット、R3BIRTHの単独ライブの準備をしている。初のユニットライブってことで3人はとてつもなく気合が入っているのはもちろん、私も3人のユニットの晴れ姿を見られるとなって準備段階からやる気マシマシだ。最近は虹ヶ咲も有名になったためか、スクールアイドルの事務局を通じて準備を手伝ってくるスタッフさんを雇えるようになり、それによってステージもより一層豪華にできるようになった。みるみるうちに組み立てられていくステージを見てると、もう明日の分を前借りをして今から興奮しちゃいそうだよ。

 

 もちろん私はその準備をただ眺めているわけではない。これでもライブ企画の責任者としてあれこれ指示を出したり、意思決定をしたり、いつの間にか私も偉くなったもんだとしみじみ感じるよ。まあこれもお兄さんに企画書を添削してもらった結果で、私もお兄さんの指導の下で動いているだけなんだけどね。そう考えるとお兄さんのリーダーシップ能力って半端ない。お兄さんの言葉1つでみんながまとまるんだもん、まさに上に立つ器って感じ。

 

 

「すげぇな、もうステージ出来上がりそうじゃん」

「あっ、お兄さん。お疲れ様です」

 

 

 今日はお兄さんも現場に来ている。いつもは準備の現場に来ることはないんだけど、今回はR3BIRTH初の単独ライブということで、ランジュちゃんたちから一足先にステージやリハーサルを見てもらいたいという要望を受けて足を運んでもらったんだ。

 

 

「ここまでスムーズに準備が進んでるのも、お前の采配のおかげだな」

「それこそお兄さんのおかげですよ。まさか自分が短期間でここまで成長できるなんて思ってなかったです」

「いやそれこそお前の吸収力の賜物だろ。いくら上手に教えてもやる気のねぇ奴には学ぶことすらしねぇからな」

「お兄さんがここまで褒めてくれるなんて、珍しいですね」

「だったらお前が俺の誉め言葉を素直に受け取るのも珍しいだろ」

「じゃあいつも通り会話でプロレスすればいいですか?」

「ご自由に」

 

 

 私もお兄さんも思わず笑ってしまう。

 あぁ、やっぱりお兄さんと一緒にいると楽しいな。歩夢たちとの日常がつまらないとかそういうことじゃなくて、頼りになる男性の隣にいるという安心感と、そんな人と気兼ねなく笑い合えるこの関係が自分にとって安らぎとなっている。そんなことを自然と考えるようになってしまうなんて、私もいつの間にかお兄さんに人生を侵食されちゃってるな……。

 

 そうやって隣のこの人がかけがえのない存在である実感が大きくなっている中、そうなると心配事はただ1つ――――

 

 

「お兄さん、お身体の方は大丈夫ですか? 歩夢たち全員とキスしないと身体がもたないって最初は本当なのかと疑っていましたけど、最近お兄さん少しぼぉ~っとすることが多いじゃないですか。だから体調とか崩されてないかなぁって」

「だから大丈夫っつってるだろ。薫子にも同じことを聞かれたけど、お前らが思っている以上に全然平気だよ。その心配はありがたく受け取るけどさ」

「無理しないでくださいよ。倒れられたりでもしたら、歩夢たちが悲しんじゃいますから」

「そうだな。アイツらにも、そしてお前にもそんな顔をさせるわけにはいかねぇし」

「わ、私は別に……。歩夢たちの落ち込む姿を見たくないからで……」

「はいはい」

「な゛っ、どうして笑うんですか!!」

 

 

 とツッコミを入れつつも、内心では『そうだよ私も心配だよ』とは中々言い出せない。前も言ったけど、私ってこんな典型的なツンデレだったっけ?? お兄さんとの出会い方が出会い方だっただけに、どうもからかいたくなってくるというか、素直になったら負けな気がしてならないんだよね……。なんかこっちがデレたらあの電車の痴漢も正当化されそうだし。『大好きな俺に触られて良かっただろ?』と調子に乗られそう。それだけは避けないと! あのネタで一生お兄さんを揺すってやるんだから!!

 

 

「そういやアイツらはどうした?」

「あ、あぁ、ランジュちゃんたちなら今ライブの衣装に着替えている最中です」

 

 

「零! 来てたのね!」

 

 

「あっ、噂をすれば」

 

 

 着替え終わったランジュちゃんたちがこちらにやって来た。

 ――――って、ランジュちゃんやけに全力疾走じゃない!? そしてその勢いを落とすことなくお兄さんに――――!!

 

 

「うぐっ!」

「どうどうこの衣装?? アナタに選んでもらった柄を私なりにコーディネートしてみたの! カワイイ? 可愛いわよね??」

「ランジュ! 零さんが困っているでしょう!」

「零を見ただけで走り出すなんて、ホントにまだまだ子供だな」

 

 

 ランジュちゃんは関節技を決めるかの勢いでお兄さんに抱き着いた。後から追ってきた栞子ちゃんとミアちゃんはそんな彼女の突発的な行動に驚き、呆れている。

 ただお兄さんはこうして女の子に抱き着かれ慣れているのか、ランジュちゃんが飛び込んできても少しバランス崩しただけですぐに持ち直す。そもそも抱き着かれるときに既に受け入れモードとなっていたため、こういうところが女の子慣れしてるんだろうなって思うよ。

 

 

「可愛いから! 可愛いから離れろ! 大切な衣装にシワが付くぞ!」

「確かに、それは困るわ……」

「衣装を着たお前ならいつでも見てやるから。リハの時も本番の時も、目を離さずな」

「零……。えぇ、アタシという存在をとことん見せつけてあげるわ!」

 

 

 相変わらずだけど、さりげなく本人を立たせる言動が上手い。ランジュちゃんは衣装を見てもらいたくてお兄さんにアピールしてたけど、お兄さんはその衣装を着た彼女をずっと見ると言った。衣装ではなく本人を。そういった些細なことでもドキッとさせてくるからズルいよねこの人。何か事件があって一気に惚れるってよりも、何気ない日常の中で少しずつ恋の外堀を埋めていき、いつの間にか女の子側から好きになってるってのがお兄さんの常套手段だ。

 

 

「零さん、私もその……私に似合うと言っていただいた生地をベースにした衣装なのですが……」

「ボクだって、零と一緒にデザインした衣装なんだけど……」

「もちろん、栞子とミアからも目を離すことはないよ。ま、目を離そうと思っても離せねぇけどな。魅力のある女の子には自然と惹かれるもんだ」

 

 

 栞子ちゃんもミアちゃんも照れたのか、表情を悟られまいとそっぽを向く。あまりにも分かりやす過ぎるから意味ないけどね……。

 それにしても、もうみんなお兄さんに対する反応が女の子って感じがするよ。お兄さんとの距離がグッと縮まっていることが今の反応を見ただけで分かる。キスノルマが発令される以前は精々友達程度の関係性だったのに、私の知らない間に恋人一歩手前くらいまで間柄を深めてるなんて……。やっぱりスクールアイドルキラーの名は伊達じゃないってことか。手の早さが恐ろしいよ。

 

 

「つうか今回のライブ衣装、全体的に少し露出が多くねぇか? ランジュはまだしも、栞子やミアが肩出しミニスカの衣装を着てるのって珍しい気がしてさ」

「こ、これは同好会の皆さんのアイデアでして、こっちの方が興奮させられるから良いと……」

「もしかして性的な興奮のことを言ってんのか? 観客にそんなことさせてどうすんだよ……」

「いや、興奮させるのはお前の方だよ、零」

「へ?」

「歩夢たちが露出が多い衣装の方が零の目を惹けるし、脱がせやすくていいってさ」

「アイツらいつもそんなこと考えて衣装造ってたのかよ……」

 

 

 あぁ、今まで黙ってたのに遂にお兄さんにバレてしまった……。衣装デザインのアイデアがあまりにも不純だったから黙ってたのに……。

 ライブ衣装は自分たちがライブをする曲に合わせてデザインするのは当たり前で、歩夢たちも当然そこは心得ている。だけどお兄さん大好き狂いのみんなはどうしてもお兄さんにどう見てもらえるかを気にしてしまい、いつの間にか露出が少し多めになっていることが常だ。もちろんその露出も見られて騒ぎになるような過度さはないので問題にはなってないんだけどね。歩夢たちがどれだけお兄さんのことが大好きなのか分かるエピソードだ。

 

 

「脱がせやすいって、俺が女の子の衣装を脱がして愉しむような奴に見えるのかアイツら……」

「ライブ終了後の興奮が冷め止まぬ内にホテルに誘い込まれてもいいと、皆さん仰っていましたから……」

「そして興奮の熱気と汗水が染み込んだ衣装を脱がしてもらって、そのまましっぽりってのが歩夢たちの考えらしいぞ」

「汚ねぇな。シャワーくらい浴びてからベッドに上がれ」

「そういう問題ですかね……」

 

 

 脱ぎやすい衣装にデザインしているのは、曲から曲の間に着替える手間を少しでも減らしたいものかと思っていたけど、まさか想像以上に不純な理由だった。流石に私もここまで欲に塗れた理由があったとか聞かされていない。もうお兄さんに期待しまくりでしょ歩夢たち……。まあそれだけお兄さんのことが好きだってことなんだろうけども。

 

 ていうかさ、そんな理由が織り込まれた衣装を採用する栞子ちゃんたちも栞子ちゃんたちだよ。もしかしてお兄さんに侵食され過ぎて、ホテルで()()()()()()をやってもいいなんて思ってるんじゃ……。今も恥ずかしがってるけど満更ではなさそうだし……。栞子ちゃんやミアちゃんは特にこういうことには抵抗感があったと思うけど、その衣装を採用して着ているあたりお兄さんとだけなら()()()()()()になってもいいってことか。みんなのお兄さんへの想いの変化がこんな形で分かるとは思ってなかったな。

 

 

「だったら今日のライブの終わりにみんなで行きましょうよ! ホテルに!」

「えっ、お前さっきの話聞いてた?? 何をするのか分かってんのか……?」

「もちろん。アタシは零と()()()()()()をしてもいいって思ってるわ。こんな感情になるの、生きていて初めてよ」

「自分の魅力を見せつけるどころか、俺の魅力にハマってんじゃねぇか……」

「えぇ、アタシがこんなにも人に見惚れることがあるなんて今までなかったもの。世界中の誰よりもアナタのことが興味深いと思っていて、そして一番好きよ」

「えぇっ!? ランジュ!?」

「相変わらず大胆だな……」

 

 

 まさかの告白。破天荒なランジュちゃんだから恋そのもののハードルが私たちよりも低い可能性があるけど、言いたいことは直球で伝えるタイプなので意外と本気なのかもしれない。その証拠としていつも自信満々な彼女からは見られない、恋する乙女のような柔らかい表情をしている。頬も紅くなってるし、お兄さんのことを男性と見ているのは明らかだ。

 

 そしてそれは栞子ちゃんとミアちゃんも同じ。この2人は積極的に自分を表に出す性格ではないから気付きにくいけど、お兄さんのことを熱い視線で見ていたり、ランジュちゃんと同じく恋する乙女、お兄さんが使う汚い言葉で言うと『メスの顔』をしている。もうお兄さんに対して()()()があるのは丸分かりだ。

 

 

「私も、ホテルとかは今は勇気が出ないですが……わ、私のライブの感想とかいただけると嬉しいかなって……」

「ボクも、今回作曲した曲は今まででも最高傑作だから、ボクのライブを目に焼き付けるくらいに観て欲しい。それくらいに本気で……」

「もちろん。そのためにお前らを観に行くようなもんだからな」

 

 

 ファンや観客に魅せるライブをするのはもちろんだけど、3人共心の奥底にあるのはお兄さんのために輝く自分を観てもらうためのライブにしたいということ。そこにはもう否定しようがない『恋』が芽生えており、本人に今の表情を鏡で見せたら悶絶しそうなくらいだ。

 

 

「そういえば侑もありがとう。私たちのために睡眠時間を削ってライブの企画をしてくれたって、みんなから聞いたわよ」

「別に大したことないよ。それにこれが私の仕事だから」

「仕事とは言いつつも、自分で立てた企画を零に褒められて凄く喜んでいたじゃないか。だからそれなりに楽しんでやってたんだろ?」

「よ、喜んでいたってそんなこと……」

「いえ、とても嬉しそうでしたよ。皆さんが良く使う言葉で言うと……女の子の顔、でしたっけ……?」

「えっ??」

 

 

 えっ、私そんな顔してたの!? みんなに『メスの顔』とか言っておきながら、私も同じ顔だったってこと? だっさ! 私ダサすぎる!! しかもお兄さん私のことをずっと見つめたままだし、そんなに見ないで欲しい。多分見せてはいけないカオになってると思うから……。

 

 そして私を混乱させるだけさせて、ランジュちゃんたちはリハーサルの準備に行ってしまった。

 とりあえず平静を取り戻したけど、お兄さんに変な風に思われてないかな……。

 

 

「まさかお前が喜んでるなんて思わなかったよ」

「そりゃまぁ、褒められたら誰でも嬉しいですよ……」

「そうだな。それで可愛い反応を見られるのなら、いくらでも褒めてやるよ」

 

 

 努力しただけお兄さんは褒めてくれるから、みんな頑張ろうって思えるんだよね。私もそれは同じで、お兄さんに褒められて微笑みかけてもらいたいって思っちゃうあたり、やっぱりお兄さんに人生を侵食されていると感じちゃうよ。

 

 それはさておき、私には聞きたかったことが――――

 

 

「ランジュちゃんたちとあれだけ仲が進んでるのなら、みんなとキスできるのはもうすぐみたいですね。カラダがいつまでもつか分からないですし、今回のライブが終わったら早々に攻めちゃってもいいんじゃないですか?」

「それはタイミングを見て決めるよ」

「なんだったら、お兄さんであればもっと早くにキスすることくらいは――――」

「おい」

「は、はい……?」

 

 

 やけに真剣な声色。思わず喋る口が止まってしまった。

 

 

「俺はな、そんな義務的な感じでキスをしたくねーんだ。確かに俺から攻めればこの身体ももっと早く元に戻せたんだろうけど、だからと言ってノルマとかミッションとか、そんな達成条件のために女の子の唇を汚したくはない。やるならお互いの心が真に繋がり合ったとき、お互いの愛をお互いに理解し合ったときにしてぇんだよ。アイツらの愛情は何の曇りもない俺の心で受け止めたい。だから待ってたいんだ、アイツらがもっと本心を見せてくれるのをな」

 

 

 その本気の眼差しに私は言葉を失う。

 お兄さんが女性のことを大切にする人だとは知っていたけど、改めてその気概を知ることができた。これがお兄さんの信念で、いつも語っている俺様系の自分勝手な信念とはまた違う説得力がある。あまりにも確固たる勢いに私は何も言い返すことができず、納得するしかない。同時に、お兄さんのことを見惚れるくらいにカッコいいと思ってしまった。

 

 そして、反射的に頭を下げていた。

 

 

「すみません。軽率な発言でした」

 

 

 ただただ目の前の事態を解決することだけしか考えておらず、みんなの気持ちを考慮していなかった自分の非礼を詫びる。

 だけど、頭にそっと手が置かれた。もちろんお兄さんの手。頭を上げてお兄さんを見つめる。

 

 

「別に謝らなくていい。俺を心配してくれてのことだろ? お前がここまで俺に気を使ってくれるだけでも嬉しいよ。ありがとな」

「い、いえ、普通のことですから……」

「俺と同じ発言だな」

「確かにいつも言ってますもんね。『そんなの普通のことだろ』って」

「お前も俺に似てきたってことだ」

「ふふっ、そうかもしれませんね」

 

 

 いつもならお兄さんに似ているって言われると全力で否定しちゃうけど、今はそんな気分じゃない。むしろ嬉しいと思ってしまう。そういえば頭を撫でられることにも抵抗がなくなっているので、自分の中でお兄さんのことがどれだけ大きくなっているのか……。

 

 

「あっ、もうすぐでリハーサルが始まるみたいですよ。客席に行きましょうか」

「あぁ」

 

 

 ランジュちゃんたちとお兄さんの関係性がどれだけ深まっているのか実感できる時間だった。そして私自身も、この人の存在がかけがえのないものになっていることも……。

 お兄さんのカラダのことはもちろん心配だけど、ここはお兄さんを信じて待ってみよう。それが相棒として、お兄さんの帰るべき場所になることこそが私の今やれることだから。

 




 今回は次回以降のための回、いわば序章でした。
 今回では4人のヒロインたちが彼に抱く感情を分かりやすく明らかにし、より一層彼の女っ垂らしっぷりが実感できたのではないかと思います(笑)

 次回からは栞子、ミア、ランジュの個人回を3週に渡って1本ずつ投稿する予定です。
 この3人との関係の結末を見届けていただければと思います。







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

翡翠色の慕情

※注※
 今回は虹ヶ咲アニメの栞子回を回想した話がありますが、この小説での虹ヶ咲編がアニメ2期より前に連載されていた都合上、栞子のスクールアイドル加入の経緯はスクスタ基準となっています。(同好会と対立経験あり)
 そのため、この小説ではアニメ2期の栞子回の話は少し改変されていますので、あらかじめご承知おきください。



「零さん」

「来たか」

「すみません。お待たせしてしまって」

「別にいいよ。お前からの誘いならいつまでも待てるさ」

 

 

 とある日の放課後。スクールアイドルの練習と生徒会業務を終えた栞子と校門で待ち合わせをしていた。

 珍しいことに昨日栞子から俺と一緒にお出かけしたいと申し出があり、だったら善は急げってことで今日の放課後となった。コイツ自身いいところのお嬢様が故か誰かと遊びに出かけること自体が稀であり、同好会に加入してからはその頻度は上がっているものの、こうして自分から誘ってくるのは非常に珍しい。しかも俺と2人きりという完全にデートシチュエーション。コイツなら俺を誘うだけでも緊張しそうだが、そこまでして俺と遊びたい理由でもあるのだろうか。

 

 

「えぇっと、私を見つめてどうかされましたか……?」

「いやこれから何をすんのかなぁ~って思ってさ。お前からデートのお誘いなんて滅多にないレベルだからな」

「デート。そうですよね、やっぱりこれってデートですよね……」

「そりゃ男女2人だとそうなるだろ。放課後デートって言葉もあるくらいだし……って、どうした?」

 

 

 栞子は何やら複雑そうな顔をしている。恋愛経験が浅い彼女のことなので緊張しているのかと思ったが、どうやら様子を見るにそうではないらしい。デートをするのはいいとして、別の何かで葛藤しているように見える。

 

 

「考えていたプランはとてもではないですがデートには相応しくないもの。でも行くのであれば零さんと行きたいですし、どうすればいいのか……」

「おい、なにさっきからブツブツ言ってんだ?」

「えっ、あっ、い、いや、一応お出かけ先のプランは考えていたのですが、果たしてデートで行くようなところかと言われたら迷ってしまいまして……」

「なんだそんなことか。お前が行きたいところならどこでもいいぞ。知ってると思うけど俺はデート慣れしてるんだ。だからどこへ行こうが今更ドン引きしたりしねぇよ」

「そうですか。零さんとしか行けないところなので、それを聞いて安心しました」

 

 

 俺とだけってことは、かすみたちとは行けないところってことか。お嬢様で平民の遊びを知らないコイツをアイツらは色々連れ回しているみたいだが、どうやらまだ行きたいところはあるらしい。しかも男と2人きりで行きたい場所となると、コイツなりに男女の関係をそれなりに意識しているのだろう。それを踏まえてどういったプランを立てているのか見せてもらおうじゃん。

 

 

「とりあえず夕食にしましょうか。幸か不幸か、生徒会業務が長引いたおかげで丁度いい時間ですから」

「あぁ。でもどこへ行くんだ? この時間だと、女の子と行くような店は予約しないと入れそうにねぇけど」

「大丈夫です。恐らくその心配は不要なお店ですので」

「ん? 行く店も決まってんのか?」

「はい、これもプランの内です」

 

 

 三船家は日本由来の家柄なので、もしかしたらそれなりに高級な和食の店とかに連れていかれるのだろうか。美味い飯が食えるのであれば別にいいんだけど、お高くまとまった場所ってのは雰囲気だけで堅苦しくなるから苦手意識はある。俺の周りの女の子はお嬢様ポジションの子も多いから、こうした食事の誘いに備えてテーブルマナーくらいは身に着けておいた方がいいのかも……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「こ、ここは……」

「一度こういうところに来てみたかったのです。ですが同好会の皆さんを連れてきて良いものか迷ってしまって……」

「なるほど。だから男の俺と一緒に来たかったのか――――牛丼屋」

 

 

 栞子に連れられて来たのがまさかの牛丼屋。よくあるチェーン店であるため一般人の俺から見てみれば何の変哲もない。だが彼女にとっては物珍しく、さっきから何度も言っている通りいいところのお嬢なのでジャンクフード店には縁がなかったのだろう。いつもは物静かな彼女だが、今はやけにウキウキしているのが分かる。だって輝いてるもん、眼が。

 

 だがこれで俺としか行けない理由が分かった。確かに女性しかいない同好会の奴らとはこういうところに行きづれぇよな。誘えば行ってくれると思うが、コイツの度胸ではそんなことは言い出せなかったのだろう。でも愛や璃奈、ミアあたりはこういうの好きそうだけどな。

 

 

「私、知見を広げるために今までやったことのないことに挑戦したいと思っていたのです。零さんに私のワガママに付き合わせるのは申し訳ないですが……」

「いや、いくらでも付き合ってやるよ。どうせならお前のやりたいこと全部やろう」

「いいのですか?」

「やりたいことは我慢しなくていい。お前がスクールアイドルに入った時に学んだことだろ?」

「零さん……。そうですね。だとしたら、今晩はたくさんお付き合いをお願いします」

「あぁ、派手に自分を曝け出せ」

 

 

 そうやって栞子を奮起させ、俺たちは牛丼屋に入った。少々小汚い感じがまさに牛丼屋って感じがして、俺は落ち着くな。

 席についてメニューを見た瞬間、栞子の眼が余計に輝く。今まで食べたかった牛丼に色んな種類があることで目移りしているようだ。

 

 

「チーズにキムチ、大根おろしにネギ玉の牛丼、牛カレー、牛すき焼きって、なんですかこのラインナップ! ここはバイキング会場ですか!?」

「落ち着け。ありがちな普通のメニューだ」

「てっきり普通の牛丼だけが置いてあるのかと思いました。これは知見が広がりますね……」

「そんな知識を覚えてどこで使うんだよ……」

 

 

 トッピングの豊富さや丼モノ以外のメニューがあることなんて一般常識レベルだから、知見が広がるってよりコイツの常識が一般に追いついただけだな。つまりマイナスからゼロになっただけなのだが、本人が楽しそうなので変に水を差さなくてもいいか。

 

 

「そういえば、牛丼屋にはメニュー表には載っていない裏メニューなるものがあるそうで」

「あぁ、キング牛丼とか超特大サイズのことか。あれはやめとけ、男でも普通にグロッキーになる」

「私が聞いた話だと、もっと呪文だったような気が……。確か――――メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ」

「それは特定のラーメン屋だ……」

 

 

 そもそも最初の麺カタで牛丼の呪文じゃねぇって分かるだろと思ったが、コイツのことだ、まさかその呪文がラーメンのオプションの頼み方だってことすら知らないのだろう。ジャンクフードに興味を持ち始めたからそういった店にも行く可能性あるし、間違っても呪文のような注文をしないように教え込んでおかないと。

 

 結局俺も栞子も普通の牛丼を頼んだ。

 そして目の前に差し出され、早速食らう。牛肉と濃厚な甘いタレ、とろける玉ねぎが絶妙にマッチして米が進む進む。カラダに良くないと分かっていながらも、その背徳感を味わってる感じがいいんだよな。

 

 

「これが……牛丼!? 牛肉と濃厚な甘いタレ、とろける玉ねぎが絶妙にマッチしてお米が進みます!」

「全く同じ感想じゃねぇか……。まぁでも美味しかったのなら良かったよ」

「はいっ! でも、これだけ美味しかったら女性に人気があってもおかしくはないと思いますが……」

「それは男の食い物だってイメージが根付いてるからだろうな。別に女性客がいないわけでもねぇし、好きな人は好きだから。少なくとも同好会の奴らは牛丼が好きなお前を見て偏見の目は持たないよ、絶対に」

「なるほど。それでしたら皆さんにもこの美味しさを伝えたいと思います!」

「あぁ、お前が先駆者になってやれ」

 

 

 ここまでテンションの上がっている栞子はあまり見ない。ライブでステージに上がっている時の高揚さとは違い、こうして年相応で無邪気な様子を見せているのが珍しいんだ。普段は物腰柔らかで落ち着いているせいか、そのギャップの可愛さに思わず見惚れてしまう。また別の魅力を拝むことができたので、それだけでここに来た甲斐があったってものだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「どうだった?」

「とても美味しかったです。今度はトッピングありに挑戦してみようと思います!」

 

 

 どうやら牛丼の魅力にハマったようだ。ジャンクフードなので好みは結構分かれるものだけど、味付けが濃いので若い奴なら食べ応えもあって満足できるだろう。まあイメージ的に女性は店に入りづらいから食べたことがないってだけで、一度食ってみると意外とハマっちまうのも可能性としてある話だろう。今のコイツみたいにな。

 

 

「つうか今更だけど、家に連絡しなくていいのか?」

「今日は親も姉さんもいないので大丈夫です。つまり夜遅くまで出歩くことができます。生徒会長なのに夜遊びとは、この逸る気持ちもさっきの牛丼と同じく背徳感から来るものでしょうか……?」

 

 

 なんかコイツにイケナイ知識をどんどん埋め込んでしまっている気がする。規律を重んじる真面目な生徒会長にジャンクフードの魅力と夜遊びを教えるなんて、一種の調教モノと捉えられてもおかしくない。真っ白なキャンパスを黒塗りにするのが好きな俺ではあるが、ここまで真っ白だと自分の色に染めるのはちょっとだけ罪悪感がある。ちょっとだけな。

 

 

「で? 次にやりたいことは?」

「そうですね、次は――――」

 

 

 もしかしてやりたいことって、また庶民生活の体験なのでは……?

 そしてそれは見事に的中し――――

 

 

「放課後の夜にゲームセンター。生徒会長の私が……!? 本当はいけないことなのに、私は……」

 

 

 葛藤しながらも夜のゲーセンを楽しんだり――――

 

 

「家に帰らずにカラオケ。素行不良の生徒の鉄板生活をこの私がこの身で体験するとは……」

 

 

 そうは言っても悩んでいるのは最初だけで、意外と歌を歌うことに関してはノリノリだったり――――

 

 

「生徒会長なのに買い食い。しかも夜にカップ焼きそばだなんてなんと背徳的な……。でも牛丼でお腹がいっぱいなので、半分お願いします」

「おい……」

 

 

 コンビニで買ったカップ焼きそばを2人で分け合ったり――――

 

 

「おいここホテル街だぞ!? どうしてこんなところに来た!?」

「遊んでいる女性の嗜みだとお聞きしたのですが!? まさかここまでいかがわしいお店が並んでいるとは……」

「同好会の誰がお前に吹き込んだのか容易に想像できるな……」

 

 

 かすみのイタズラだったり、愛や果林の悪ふざけだったり、しずくや璃奈の淫乱思考が暴走したとか、犯人候補は多い。まあ栞子が俺とデートするとアイツらが知れば、その最後にホテルに行かせようとするのは当然か。R-18展開に持ち込むことしか考えてねぇな虹ヶ咲チルドレンの奴ら……。

 

 そして段々と夜も更けてきた。この時間まで外にいる栞子がヤバいってよりも、女子高生を連れ回している成人済み男性の俺の方がヤバいのではと思い始めてしまう。誘ってきたのは向こうだけど監督責任は俺にあるわけで……。ま、んなこと言っても高校時代からμ'sの奴らとフラフラ遊び回っていたわけだし今更だけどな。

 

 

「零さん、私のワガママにお付き合いいただきありがとうございました」

「いいものを見させてもらったから別にいいよ。はしゃぐお前の姿をな」

「そ、そんなに子供っぽかったですか……?」

「まだ高校1年生のガキだろうが。今のうちに思う存分遊んどけ」

 

 

 子供っぽく無邪気に遊んで微笑ましく思われるのも今だけだからな。しかも可愛らしい女の子だけの特権。そういった意味ではいつもは表情の硬いコイツが年相応の笑顔を見せてくれたのは、俺にとって大きな収穫だった。いつもこのために女の子とデートするようなものだからな。

 

 

「もうやりたいことは終わりか?」

「え、えぇ……」

「まだあるみたいだな、その微妙な反応」

「そ、それは……」

 

 

 頬を染めながら俺の顔を見つめたり、目を逸らしたりする栞子。そしてその様子を見て大体の事情を察する。俺を誘った本当の理由も何もかも。ただまだ男に対しては緊張を隠せないコイツのことだ、自分の本心をそう簡単には告げられないのだろう。

 

 だったら――――

 

 

「なぁ、今度は俺に付き合ってくれないか?」

「は、はい。でもどこへ……?」

「大したところじゃない。2人でゆっくり話せる場所なだけだよ」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「星が、綺麗ですね……」

 

 

 街中の展望台へとやって来た。今日は天気が良かったので夜空が綺麗に見えるかもと思っていたのだが、どうやらここに来て正解だったみたいだ。栞子は夜空に広がる星に負けないくらい目を輝かせている。展望台内は灯りが全くないが、そのおかげで星空が更に輝いて見えるので風情があるな。

 

 ちなみに本来ここは夜も更け込んでいるので閉まっている場所なのだが、実は秋葉の所有物なので連絡をして開けてもらった。栞子と2人で来たと言ったら向こうも事情を察したようだ。

 

 

「本当に、今日はお前の表情がコロコロ変わって見ていて楽しいよ」

「そこまで珍しいですか? 私がこうやって楽しそうにしているのって……」

「いやマイナス面の意味じゃない。アイツらといる時とか、ライブをやってる時とか、それとは別ベクトルで楽しそうにしてるなって思ったんだよ。それこそさっき言ったみたいに、子供っぽく無邪気にはしゃいでいるお前がな」

「やっぱり変、でしたでしょうか……?」

「いや可愛かったよ。普段とは違うギャップのある子、俺は好きだ」

「ふぇあっ!?」

 

 

 謎の奇声を発する栞子。これくらいで驚くなんてまだまだ純粋っ子ちゃんだが、歩夢たちが慣れているだけでコイツの反応は至って一般的だ。こういうところも年相応で愛おしく感じちゃうな。

 

 

「零さんはいつも私のことを見てくださっていますね。そして私のことをずっと気にかけてくれていました。初対面であれだけご迷惑をおかけしたのにも関わらず……」

「懐かしいな。でも俺って面食いだからさ、可愛い子にはつい自分の唾を付けたくなっちゃうんだよ。そして自分に笑顔を向けて欲しいとも思ってしまう。あの時のお前の仏頂面を笑顔に変えられたらなって思ったんだ」

「ただそれだけの理由で私のお側にずっと……」

「失望したか? 自分勝手な理由で」

「いえ、零さんのおかげでスクールアイドルを続けられていますので、むしろ感謝するのはこちらの方です。『お前の笑顔が見たい』と私に訴えかけてくれたあの時から、私は……」

 

 

 コイツが同好会に加入する前のことは断片的にしか聞いてないけど、同好会の活動を停止させようとしたりとそれはそれで一悶着あったようだ。それからコイツも同好会の一員としてスクールアイドルを続けていたものの、表情の硬さや明るく振る舞えない自分の厳粛な性格が災いして、自分にはスクールアイドルの適性がないと思い始めていた。だから他の学校との合同文化祭の時は生徒会として裏方に回っていたのだが、そこで声をかけたのが俺だったんだ。

 

 

「あの時は驚きました。『適正なんてなくてもいい。スクールアイドルに向いてないと思うならそれでもいい。やめてしまうのならそれでもいい。だけど今回だけは、自分の最後のライブと思ってもいいから今回だけはライブをしろ。やる意味がないってのなら俺が作ってやるよ。それで続けるかやめるかを判断しろ』って、どれだけ横暴なんだと思いました」

「よく覚えてるなそんなこと」

「私がその意味を聞いたら、『俺のために歌え。俺のためにライブをしろ。それでもお前が満足できないのであれば、俺から無理強いはしない。俺はただお前の笑顔が見たいだけだから。ずっと見ているから、お前のことを』と。皆さんから聞いていた通り、本当に無茶苦茶な人だなと実感しました。でもそのおかげで私の隣でこれだけ応援してくれている人がいるということ、それに何より、私の笑顔を見たいと思ってくださる方がいたことに嬉しくなってしまって……」

「それでステージで『EMOTION』を披露したんだったか」

「はい、それでスクールアイドルを続ける決心をしました。あれだけ自己中心的な説得だったのに、不思議と熱くなってしましました」

 

 

 理屈も道理もなく、ただ適当な理由を並べてそれっぽい説得をするのは俺の十八番だ。こんなのはこっちの熱意が伝われば何でもいいんだよ。結果的に栞子が再起したわけだし、全ては結果なんだ。まあ強いて理由を挙げるなら、俺は女の子の笑顔が消えていくのを見過ごせなかった。そもそも女の子を助けるのに大層な理由なんていらねぇしな。

 

 

「それからですね、より一層意識をし始めたのは」

「いいのか? たくさんの女の子と付き合ってるような男だぞ? 規律や道徳の化身のお前が意識するような相手じゃなかったはずだ」

「仕方がないじゃないですか――――好き、になってしまったのですから……」

 

 

 相手を好きになる理由なんて人それぞれ。例え相手がどんな奴であろうとも、自分が好きになってしまったのならそれでいいってことだ。悪い奴と付き合って人生の転落コースに足を踏み入れてるのなら話は別だけど、本人がよければ他人がとやかく言う必要はない。そもそも俺だって他人がドン引きするくらいのとんでもない淫乱な奴らを好きになってるわけだしな、お互い様だ。

 

 薄暗い中でも栞子の紅い表情が良く分かる。展望台へ来る前の緊張はまだ続いているとは思うが、この夜の静けさと男女2人で夜空を眺めるこのムードに彼女の気持ちも後押しされているようだ。でなきゃさっきみたいな告白はできないはずだから。

 

 

「お前のその表情も最近はよく見るけど、今日のお前が一番可愛いよ」

「ま、またそんなお世辞を……」

「俺の言葉が嘘じゃないってお前なら分かるだろ? 女の子の笑顔なら誰でも好きってわけじゃない。俺が認めた、俺が惹かれた女の子の幸せそうな表情が好きなんだ。それをずっと見ていたい。お前のことも……」

「零さん……」

 

 

 夜空の下で見る恋に満ちた女の子の顔ってこんなにも綺麗だったのか。栞子の顔立ちが美人なのも相まって余裕で目を奪われる。今まで他の女の子たちのこの表情を何度も見てきたはずなのに未だに惹かれるとか、やっぱり俺は自分に恋してくれる女の子のことが好きらしい。そして今、目の前にいるコイツのことも――――

 

 

「零さん、確かめたいです。直接、この気持ちを……」

「あぁ、思う存分確かめてくれ」

 

 

 栞子がこちらに歩み寄って来たので、俺はその身体を抱き寄せた。

 そして俺が顔を少し下げたのと同時に栞子が背伸びをする。お互いに顔を寄せ合い、そして――――唇を合わせた。

 

 優しいけど熱い。今まで溜め込んで来た想いを全てこっちに吐き出して流し込んでくる。冬の夜の気温なんてなんのその、お互いの熱交換に夢中になっている俺たちは外気の温度を感じることもない。唇から伝わる想いの熱気、抱きしめ合っていることによる体温、お互いがお互いを暖め合って完全に自分たちだけの空間を作り出していた。少し息苦しくなるくらいに、それでもこの時を待っていたと言わんばかりの口づけの熱さに俺たちは無心であった。

 

 そして、ゆっくりと顔を離す。

 

 

「ッ……!!」

「零さん……?」

「大丈夫。お前からの想いが熱すぎただけだ」

 

 

 身体が熱い。彼女とのキスの熱さだけではなく、芯から燃え上がるこの熱さ。例のごとくこれまでと同じ現象であり、みんなとキスをするたびに俺の中の愛を受け止めるキャパシティが大きくなることに伴う副作用みたいなもの。カラダの内から火を付けられているようで物凄く熱いが、これも彼女から受け取った告白だと思っておけば耐えられる。だから今は心配をかけないようにしねぇと……。

 

 

「零さん」

「ん?」

「不束者ですが、これからもよろしくお願いします」

 

 

 栞子はぺこりと頭を下げる。

 

 

「ぷっ……」

「えっ、どうして笑うのですか!?」

「悪い悪い。まるで結婚したみたいだからさ。でもそうだな、これからもよろしく」

「はいっ!」

 

 

 今日イチ、いやこれまでで一番の笑顔を見せた。

 これだよこれ。この笑顔を見るのが俺の生き甲斐で、そして女の子たちを幸せにしてやりたいと思う俺の信念だ。また1つ自分の夢を叶えることができたな。

 

 

「帰ろう」

「はい」

 

 

 俺は手を差し伸ばし、彼女がその手を取る。

 その握られた手は暖かく、今の俺たちの幸福を表しているようだった。

 

 

 




 というわけで栞子回のクライマックスでした!

 前半戦は無邪気な彼女の様子をお見せしましたが、これも零君とならそういった表情を見せてもいいと自分が意識せずとも思っていたのでしょう。

 後半戦はこの小説では似合わないガチの純愛でした。自分は下ネタを絡めたギャグ系の話が専門なので、ロマンティックな描写は今でも苦手です(笑) それでも今回でまた私の中で栞子のことが好きになりました!



 次回はミア回で、今回と同じく個人回のクライマックス編の予定です。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白銀色(プラチナシルバー)の恋慕

 後書きに、にじよんアニメ(この小説ver)の超短編(第4~7話)を掲載しています。
 是非最後までご覧ください!


 ヘッドホンから流れてくる音楽を、俺は目を瞑って聴き入れる。

 もう5年以上もスクールアイドルと関わりのある俺だけど、正直なところ音楽にそれほど興味があるわけではない。だから名曲を聴いたとしてもどこがどういいのかなんて指摘できるはずもなく、雰囲気で自分の好みかどうかを決めてしまいがちだ。ただ素人なんてそんなもので、格付けでよくある高級ワインと安物ワインの見分けなんて一般人の俺たちからしたら全く分からないのと同じだ。結局こういうのは知識がないとな。

 

 曲の流れが止まる。ヘッドホンを外して目を開けると、ミアがこちらをじっと見つめていた。

 

 

「どうだった? ボクの新曲」

「いいんじゃねぇの。素人だからどこがいいとか悪いとか全く指摘できねぇけど」

「絶対音感持ちなのに?」

「そりゃそうだけど、残念ながら知識がなさ過ぎて音が不快かどうかくらいしか見破ることは出来ねぇよ。しかもお前がそんな曲を作るとは思えねぇし、俺からアドバイスできることなんてたかが知れてるっつうの」

 

 

 今日の舞台は虹ヶ咲女子寮のミアの部屋。新曲ができたからと半ば強引に連れてこられ、こうして改善点や感想を求められている。ぶっちゃけ俺に聴くよりも同好会の誰かに聴かせた方が効果的な気もするけど……。

 

 

「零に聴いてもらいたかったんだよ。ボクの、自分のライブで披露する曲なんだから……」

「だからそのライブを一番観てもらいたい人に聴いて欲しいってことか」

「っ……そ、そうだよ!! 悪いか!?」

「逆ギレすんなよ……。つうかこういう時って、一番聴いてもらいたい人にはライブ当日に聴かせるもんじゃねぇの? ネタバレしていいのかよ」

「Don't worry。ここからブラッシュアップするし、それに今聴いている曲がステージの上だとボクのライブと合わせてどう輝くのか、ずっと楽しみにさせられるだろ。余計に待ちきれなくなるかもしれない」

 

 

 確かにそういったサプライズもあるか。どんな曲が披露されるのかではなく、聴いたことのある曲がコイツのパフォーマンスと共にどう着色されるのかが気になる、みたいな。ただそれはネタバレをしたとしても盛り上げる自信のある奴にしかできねぇことだけどな。コイツもコイツで澄ました顔をしているようで実は結構な自信家なので、こういったサプライズの方法を取ったのだろう。妙なプライドの高さもランジュに似ており、自分を強く表に出すか出さないかの違いなだけで意外と留学生は似た者同士なのかもしれない。

 

 

「俺のための曲って考えると、さっきのが超いい曲に思えてきた」

「現金だな……」

「それくらい楽しみだってことだよ。お前の術中にハマっちまったな」

「本当にそう思ってる? いつも胡散臭いんだよ、お前が負けを認めるような発言をする時って。なんかわざとらしく負けてあげましたって感じがしてさ」

 

 

 そりゃね、格上が格下に合わせるのは普通ってことだよ。って言うと絶対にウザがられるので敢えて口には出さない。この前のかすみたちの妊娠ドッキリもそうだけど、最初は相手に合わせておいて後から全て自分の手のひらの上でしたってネタバレをするのが物凄い快感でゾクゾクするんだ。侑からもよく趣味が悪いって言われるけど、そもそも俺に見透かされる行動をするお前らが悪いといつも言ってやっている。

 

 

「じゃあ苦手なことってないのか? 苦手とは行かなくても、これはそこまで得意じゃないとか」

「そうだな。強いて挙げればゲームかな、テレビゲームの方」

「えっ? そうなの?」

「あぁ、今の若い男ならガキの頃からやってる人は多いと思うけど、生憎俺は普通じゃない人生を送って来たからさ」

「何をしてたんだ?」

「女の子たちと遊んでた」

「…………」

「自分から聞いておいてそんな目で見るなよ……」

 

 

 遊んでたと言っても別に援助交際とかしていたわけではなく、高校時代は健全にμ'sの奴らとの付き合いで忙しかっただけだ。なんにせよ9人もいたし、翌年には3人増えたし、それだけ女の子が増えたら自分1人でゲームをする時間なんて早々取れない。そのせいでゲーセンの単純なゲームはともかく、コントローラーを手に持ってピコピコするテレビゲームはあまり得意ではなく、プロゲーマーと肩を並べる実力を持つ璃奈にようやく食いつける程度だ。それでも食いつける程の実力はあるのかよって思われるかもしれないけど……。

 

 

「だったらゲームで勝負しよう。ボクが最近ハマってるのは――――」

「オイちょっと待て。さっきの話聞いてたか? 苦手だって言ってんだけど??」

「ボコボコにしたんだよ。いつもその得意顔でやきもきさせられてるから復讐したい。いつも前触れなくサラッとキザなことばかり言って、どれだけ心を掻き乱されてることか……」

「欲望たらたらだな……。つうかやきもきしてんのはお前の恋愛耐性が低いからじゃねぇのか……」

「Noisy! ほら早くこれ持つ!」

 

 

 無理矢理コントローラーを渡してきたミア。都合が悪くなったら有無を言わせず強制的に押し通ろうとするもんなコイツ。そういうところがまだ14歳の子供なんだよ。他の奴らに自分の意見を押し通す時も『自分は高校3年生で先輩』だとよく小物みたいな主張しているので、大人びているように見えて中身はしっかりお子様なんだよな。そういうところがコイツの可愛いところなので否定はしないけど。

 

 ミアが取り出したのは某有名レースゲームのソフトだ。もう何十年も前の機種から継続的に発売している人気シリーズではあるのだが、先述の通り俺はあまりプレイ経験がない。その事実をさっき話したばかりなのに自分の土俵にこっちを引きずり上げるなんて血も涙もねぇな。

 

 

「昔ちょっとだけやったことがある気がするぞこれ。アイテム運の零ってよく呼ばれてたな」

「それ暗に運だけの雑魚って言われてるだけだろ……」

「まあ久しぶりだからお手柔らかに頼むよ。操作方法とか知らねぇけど」

「簡単だから大丈夫。運だけマンのようなクソ雑魚でも勝てるゲームだ」

 

 

 コイツ、俺に勝てると分かった瞬間にイキリ散らかしてんな……。

 ちなみに勝負前から遠吠えを上げるのはコイツに限った話ではなく、かすみや侑も俺が少しでも日和った発言をすると煽ってくる傾向にあったりする。まあそういう奴らに限って毎回俺に分からされるので、自信満々の奴を叩き潰す快感というサディストな俺にとってはむしろカモだけどな。ただテレビゲームで勝てるかは怪しいけど……。

 

 

「そうだ。勝った方は負けた方に1つ好きなことを命令できるルールを追加しよう」

「段々と横暴になって来たなお前……」

「逃げるのか?」

「やっすい挑発だな……。まあもし仮にお前が負けて、そのプライドが粉々になる屈辱を味わうことが怖くないのであればそれでいいよ」

「分かった。遂に零の敗北に打ちひしがれる姿が見られるのか……。作曲やライブ以外でここまでワクワクすることはないね!」

「お前も相当性格ひん曲がってんな……。後悔だけはすんなよ」

 

 

 俺にあからさまに不利な条件で早速レースを開始する。2人しか人間がいないのでCPU入りのレースではあるが、初心者を前にしてミアは何故かそのCPUのレベルをMAXにする始末。しかも本人はやり込んでいるためか当然1位独走。100人が見たら100人が分かる雑魚狩り。ま、強い奴が弱い奴を叩きのめして絶頂気分になるのは対戦ゲームの本質だしな。たまにはコイツに勝ちの余韻に浸らせてやっても――――――

 

 

「負けた……。ボクが……!?」

「アイテムつえーなこのゲーム。逆転要素が多くてパーティゲームとしてよくできてる」

 

 

 天は二物を与えずと言うが、あらゆる天才的な実力だけでなく運までも与えられてしまったようだ。

 そして床に手と膝をついて項垂れるミア。ここまで綺麗な即堕ち2コマは久しぶりに見た。あれほど後悔するなって言ったのに……。

 

 

「これは何かの間違いだ……。タイムアタックもネット対戦もあれだけやり込んだボクが、こんな運だけマンに負けるなんて……」

「ドンマイ。まあ生きてりゃいつかいいこともあるさ」

「その上から目線の慰めやめろ!! もう1回だもう1回!!」

「いいのか? 粉々になったプライドの破片が、今度は文字通り粉末になっちまうぞ」

「実力は運を上回る!!」

 

 

 女子高生(14歳だから実質中学生)を涙目にさせる22歳男性って、もうこれ犯罪じゃないか……? 最悪児童ポル……いやなんでもない。

 だが瞼を腫らして涙目になっているミアの表情はかなり唆られる。さっきまでイキリ散らかしていたメスガキの悔しがる姿をもっと見たいと思うし、もっとイジメたいと思ってしまう可愛さがある。しかもこっちを超睨んできてるけど、そのナマイキな上目遣いも男の情欲を刺激するって気づいてないっぽいなこれ。これだから持ち前の天性の才能と実力、そして運で女の子を分からせるのはやめらんねぇな。

 

 そしてミアの泣きの1回により再度レースをすることになった。

 その結果は――――

 

 

「ウソ……また負けた!? 運がこんなに続くなんてありえない……!!」

「もう諦めろ。この世には逆立ちをしたって覆せない『差』ってものがあるんだよ」

「ただ運が良かっただけのくせに……」

「負け惜しみはやめろ。結局は目の前の現実こそが全てだ。この世は結果なんだよ」

「くっ……」

 

 

 目を赤くして、涙目+ツリ目でベッドに腰を掛ける俺を見上げる形で睨みつけてくる。自分の中のサディスト精神がゾクゾクと刺激され、もう女の子のこの表情を見るために生きてるって感じがするよ。

 

 

「はぁ……。もうやめだ。ほら、晩御飯食べに行くぞ」

「どこへ行くんだ。勝った方は負けた方に命令させることができるんだよな?」

「う゛っ……」

「勝負を諦めたふりをして逃げようたって無駄だ。俺が女の子を好きにできる権利を手放すわけねぇだろ」

 

 

 今日はやたらと自分の口が達者になっているが、あれだけ俺を刺激させるような言葉を放って無様に敗北している姿を見せつけたんだ、そりゃこうもなるって。ただこっちの方が俺の本性だったりするんだけどさ。

 

 

「なにをする気だ……?」

「そうだな。せっかくの個室だし――――こっち来い」

「うわっ!?」

 

 

 俺はミアの手を引いてベッドの上に仰向けで寝かせた。もちろん彼女は何が起こったのかと驚いているようで、瞬きを繰り返して俺を見つめている。

 そして状況を理解したのか徐々に顔を赤らめていく。自分の部屋のベッドに、しかも男に押し倒されるなんて意識せざるを得ないだろう。俺もベッドに腰を掛けながらこちらを見つめる彼女と目線を合わせ続けた。するとミアは恥じらいを感じたのか全身を少し縮こませる。ただ制服のスカートを履いたままなので、もうその奥の下着が見えそうなくらいに捲れあがっているのだが敢えて言わなかった。

 

 しかしこうして見ると、コイツって結構スタイルいいな。14歳でありながらも出るところは出ていて、引き締まっているところはしっかり引っ込んでいる。本人は曲作りやゲーム好きのためインドア派、しかもハンバーガーやピザなどを好むジャンクフーダーなのにも関わらず、下手に肉が付いたりせずにここまでのスタイルを維持できているのは奇跡だ。これもユナイテッドステイツ女性特有の体質なのかもしれない。海外って謎に抜群ボディの女性多いもんな。

 

 ミアのカラダを見ながらそんなことを考えていたのだが、当の本人はまだ戸惑いを隠せていないらしい。そりゃ男に押し倒されるなんて初めての経験だろうから仕方ないか。

 ただベッドに押し倒すだけ押し倒して俺から何もしかけてこないのが気になったのか、ようやくその重い口を開く。

 

 

「襲うのか? ボクを……」

「お前こそ結構満更でもなさそうだけど?」

「驚きすぎて逆に落ち着いてるだけだ。そうか、これが璃奈たちが言っていた零の本性なのか……」

「アイツら何でも喋るな……。どんな尾ひれが付けられてるのやら……」

「聞かされてた通りだよ。『零さんはご主人様気質だから、その嗜虐心をくすぐってあげると途端に猛獣になる』って」

「なんか自分の取扱説明書みたいな感じであまり聞きたくねぇな……」

 

 

 俺の悦ばせ方を知ってそれを利用するのは歩夢たちの得意技でもある。俺のことをひたすら持ち上げて、如何に自分たちに好かれているのか事実を述べて優越感に浸らせようとしてくる。そうなると俺のSっ気のある血が騒いでしまい、いつの間にか襲ってしまっているというのがいつもの流れだ。

 

 今回も似たようなことが発生しており、煽って来たメスガキを分からせ、そして罰ゲームで好きにできるという嗜虐心が昂ることが起きたことによる。いつも強気なミアがここまでしおらしくなっていることから、女の子から見たら今の俺の勢いは猛獣なのかもしれない。

 

 

「本当に強引だな。今も、あの時も……」

「あの時の強引さは純粋な気持ちだったから、今のとはちょっと違うな」

 

 

 ミアが俺に対して語る『あの時』とは、コイツが自分を人前で魅せることに対してコンプレックスがあり、それを俺に打ち明けたあの時のことだ。とは言っても俺がやったことは、コイツの手を握って璃奈の元へ連れて行っただけなんだけどな。しかし当の本人はそれでも恩義を感じてくれているらしい。

 

 

「どうして出会って間もないボクのためにそこまでしてくれるんだって聞いたら、なんて言ったと思う?」

「覚えてねーよ」

「『笑顔が見たいから、ただそれだけだよ』だってさ。たったそれだけの理由で人の心に土足で踏み入って、あんなに真剣になって、こっちの手を取って、導いてくれて……」

 

 

 俺との『あの時』はミアにとっては大切な思い出になっているようで、今押し倒されているなんてことも忘れて過去に浸っているようだ。

 俺が彼女の手を引いたのは、彼女から誰かの曲を作ることしか自分の人生はないと、ある種の悲壮感を感じたからだ。本人は悟られまいと隠していたようだけど、常日頃のドライな態度を見ていれば自然に気づく。諦めムードが漂ってはいたが、何かしらの未練がずっと残り続けてそれに自分を押さえつけられているような、そんな感じがしたんだ。全然笑顔を見せない彼女のことがずっと気になっていた。俺が彼女の手を取る理由はそれだけで十分だったんだ。

 

 

「そう考えると、こうしてお前の部屋で2人きりってのも当時だと考えられなかったな。あからさまにウザがられてたし」

「そりゃ男に付き纏われたら女性なら誰でも嫌悪するって」

「別にストーカーしてたわけじゃねぇよ。ただ全然笑ってくれないから気になってただけだ」

「それだよそれ。ボクを笑わせるためだけに、そこまで自分の時間を他人に注げるんだなって話」

「お前にとっては些細なことだと思うかもしれないけど、俺からしてみれば重要なことなんだよ」

「好きなんだな、女の子の笑顔が」

「そうだけど、ちょっと違うな。俺が好きなのは俺が惹かれた女の子の笑顔だよ。好きな奴の笑顔のためだから頑張れるんだ」

「えっ……? それって……」

 

 

 ミアの顔面が茹で上がる。

 俺は誰しもに手を差し伸べるほどのお人好しではない。ただの利己主義、自分が好きになった奴の笑顔が見たいという、自己満足な理由だ。コイツはぶっきらぼうでクールを装っていて、心の奥底に何かしらの苦しみを抱え込んでいたから、それを解放してやれば笑顔が見られる。そう思ったんだよ。他人のためってより自分のためで、自分のために動いていたらいつの間にか相手を救っていた。いつもそんな感じだ。

 

 

「でも零自身がどう思っているにせよ、強引でも手を繋いで引っ張ってくれる積極さにみんなが惹かれてるんだと思う。安心できるんだ、その大きな手に包まれると。恐らく栞子も、ランジュも、そしてボクも……」

「ミア……」

「手、繋いでもいい?」

「あぁ……」

 

 

 俺が返答するのと同時にこちらの手を握って来たミア。もう最初から握る気満々だったんじゃねぇか……。

 ベッドに腰かけている男と仰向けで倒れている女の子が手を繋ぎ合っている謎の構図。でも彼女は微笑みを見せている。どうやら『あの時』から俺と手を繋ぐ行為に対して高鳴りを感じるようで、以前ハンバーガー祭りに行った時に人混みの中で手を繋いだ時も同じ反応をしていた。人前に出ず1人で作曲活動をすることに人生を捧げようとしていたから、人の温もりに敏感になっているのかもしれないな。

 

 

「いいよ」

「ん?」

「襲っても、別にいい。こっちからの同意があれば、やってもいいんだろ?」

 

 

 自分のカラダを差し出してきたミア。ベッドの上で制服を乱れさせ、スカートが捲れ太ももを晒し、それでいて雌の表情となってこちらを見つめる女の子を相手に我慢できる男がいるだろうか。女性慣れしている俺であってももうベッドに腰を掛けているだけでは衝動が収まらず、彼女の身体の上で四つん這いになった。もちろん手を繋いだままで。

 

 自分から誘ってきたくせにまだ恥ずかしいのか一瞬だけ目を逸らすが、すぐにまた俺と向き合った。どうやら襲われる覚悟を決めたようだ。

 

 

「脱がすのか、これから……」

「馬鹿、まだ早い。お前が大切だからこそ、そういうのは順序立てないとな」

「でも繋がりたいんだ、もっと。零と」

「だったら、やることは1つだろ」

「うん……。来て……」

 

 

 俺は彼女の唇に自分の唇を押し当てた。まだ中学生相当の女の子の小さな唇なので、下手にがっついたら唇全体を飲み込んでしまいそうだ。彼女がある程度こちらに身を委ねていることもあり、勢いを誤ると捕食しかねない。だから敢えて力を抜いて押し潰さないようこちらから唇を絡ませる。女の子の上から自分の想い、熱気、想い、唾液、様々なモノを流し込むのは快感の一言。彼女もそれを丁寧に受け止めており、お互いの唇の接着面が結合し合って熱くなっているものの、俺と繋がっている喜びを感じているようだった。

 

 お互いに手を繋ぎ、指を絡ませたままキスをする。こっちが強く吸い付けば、彼女もそれに反応して指を強く握ってくる。

 

 一通り口付けお互いの想いを伝えあった後、唇を離す。

 

 するとすぐに自分が物凄い汗をかいているのが分かった。いつも通りみんなとキスをすると発症する症状であり、俺の中になる女の子からの愛を受け止めるキャパシティが大きくなることに伴う副作用みたいなものだ。ただ昨日栞子とキスをして同じ症状を患ったばかりなので、こうも連日高熱のダメージを受けるとそろそろこの身体もヤバいかもしれない。でも女の子との愛を確かめ合うのを後回しにしたくない。お互いに相手を求める最高のタイミングは今この瞬間しかないんだから。

 

 

「はぁ……はぁ……。キスってこんなに疲れるのか……」

「悪い。気分が昂って思わずがっついっちまった。これでも力を抜いたつもりなんだけどな」

「いいよ、ボクが求めたことだから。それにこうしてまた繋がることができて、幸せって言葉を初めて実感できた気がするよ。自分だけの殻に閉じこもっていた時とは違う、とても開放的な気分だ」

「それだよ、その顔。お前の幸福に満ちた表情こそ俺の見たかった顔だ」

 

 

 この表情を見るために『あの時』コイツの手を握ったようなものだからな。満足しているのはむしろ俺の方かもしれない。

 

 

「よし、そろそろ飯でも食いに行くか」

「待って。もうちょっとその……零の味を味わっていたい。残ってるから、キスの感覚……」

 

 

 それ俺の唾液が口内に残ってるってことか。頬を紅くしてロマンティックな雰囲気を醸し出してるけど――――

 

 

「変態だな、お前も」

「う、うるさいっ!!」

 

 

 顔を真っ赤にして全力で否定してきた。

 いい表情だ。これからももっと見せてくれよ、お前の魅力(カオ)を。

 

 




 今回はミア編の最終章でした!
 前回の栞子回と同じく前半は日常パート、後半はお真面目パートだったのですが、意外と日常パートの仲睦まじさも気に入っていたりします(笑) むしろ私は日常系の方が本職なので、そっちの方が書きやすかったり……。

 後半パートについては、やっぱり年齢が中学生の女の子の唇を奪ったという背徳感が私は好きです(笑) 元々そういった特殊性癖の持ち主なので、真面目な純愛よりかは零君が言っていたようなご主人様気質のハーレム展開が好みですね!

 次回はランジュ編となります!
 ちなみにキスノルマは残るは次のランジュと……あと1人歩夢だけになりました。
 恐らく3月末には虹ヶ咲編2も完了できる予定なので、是非最後までお楽しみいただければと思います!




 以下、にじよんアニメ4~7話(この小説ver)の小ネタの超短編。


~第4話:小さい頃~

「お兄さんの幼稚園時代ってどんな感じだったんですか?」
「ん? やたらと女の子におままごとに誘われたり、お弁当を作って来てくれたり、身の回りの世話をしてくれたり、まあ色々あったな」
「今と状況変わらない!!」


~第5話:歌~

「歩夢たちからお兄さんは歌も上手いって聞きましたけど、ちょっと聞かせてくださいよ~♪」
「そんな笑顔でお願いされても、人前で歌うのは苦手だから無理だ」
「えぇ~!? 笑顔作ったの損したぁ~」
「魂胆が見え見えなんだよ。それに俺の歌を聞くのはやめておいた方がいい。歌い終わったら歩夢たちいつも昇天してるから」
「それトリップしてるんじゃ……」


~第6話:ゲーム~

「この璃奈のゲーム、結構ムズイな」
「もしかしてお兄さん、ゲームは得意じゃなかったり? あのお兄さんが??」
「なんだその煽りは……」
「これならお兄さんに勝てる。ようやく私がお兄さんに上に立つ時が……!! うぉおおおおおおおおおおっ!! 絶対に極めるよこのゲーム!!」
「普段どれだけ俺に抑圧されてたんだよ……」


~第7話:ババ抜き~

「お兄さんババ抜き強すぎ! ゲームは苦手じゃなかったんですか!?」
「人と向かい合ってするゲームは得意だ。表情や目線で相手の心情を読み取れば余裕余裕」
「なんかメンタリストみたいですね……」
「なんならさっきのババ抜きも、お前の瞳にカードの絵柄が映ってたからな」
「はぁ? そんなの見えるわけが――――」
「だってカードが映るくらい綺麗だし、お前の眼。吸い込まれるように見入っちまう」
「な゛っ……!? も、もうっ、いつもすぐそんなことを言うんだから……」




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

桃金色(ピンクゴールド)の情恋

 何度も言っていることだが、俺はお高くまとまったお作法や場所が苦手だ。

 親が海外で活躍しているためか世間一般で見れば裕福層な家庭で育ったのだが、教育方針が放任主義だったためかこれまで自分の意思欲求に従ってワイルドに生きてきた。そのせいで複数の女の子と付き合うような常識外れの人間になってしまったわけだが、それはそれとして、そういった事情があってか何かに縛られるような雰囲気ってのはどうしても苦手なんだ。

 

 だがそんな俺とは真逆で、付き合っている女の子の中にはお嬢様クラスの子が何人もいる。虹ヶ咲の奴らで言えばしずくや栞子がそうだが、アイツらの家にお邪魔する時はそれなりに緊張してしまう。家で食事をご馳走になることもあるけど、妙に堅苦しい雰囲気が祟って飯を食うのに集中できないのは良くある話だ。

 

 それに飯の方も高級感あふれるお高い料理よりも、女の子が作ってくれる家庭的な手料理の方が俺の口に合う。妹の楓の手料理を始め、歩夢とかも俺によく弁当を作ってくれるし、女の子の愛情が籠った飯の方が美味しく感じるんだよな。それに自分の庶民舌では高級な食材の味なんて見分けられるわけがなく、焼肉もチェーン店で満足できるし、パスタもコンビニの冷凍で味は十分だと思っているくらいだ。

 

 そんなわけで、恋人がたくさんいること以外は真っ当な庶民である俺なのだが――――

 

 

「やっぱりここのレストランのフルコースは上質ね。ここには何度も来てるけど、毎回アタシの舌を唸らせるもの」

「そりゃよかったな」

「あら? アナタの舌には合わなかった?」

「美味いよ。ここまで俺に合う料理ばかりとは思わなかった」

「そりゃそうよ。今日のために歩夢たちからアナタの好みの料理や味付けを聞いて、レストランのオーナーに伝えたんだから。つまりアナタ専用のフルコースになってるってこと」

「マジかよ。金持ちはやることが違うな……」

 

 

 今晩はランジュからの誘いで、彼女の行きつけのレストランで食事をしている。会話でお察しの通りの高級レストランで、しかも俺のためだけの特別フルコースを振る舞うという豪勢っぷり。しかも俺たち以外に誰もいない貸し切りなので、どれだけの金をつぎ込んだらこの状況を再現できるのか想像もできない。まあやることなすことが豪快なコイツだからこそ手を抜きたくはなかったのだろう。

 

 ちなみに料理の味の程はお世辞抜きで普通に美味い。たださっきも言った通り所詮は庶民舌のため、高級素材を使った料理であってもそこらの料理と味の差は分からない。だから美味しいを連呼することしかできないマシーンになってしまうのだが……。

 

 

「この後も最上階に1室しかないスイートルームを予約してあるわ。アナタとの特別な1日だからこそ出し惜しみなんてできるはずないもの。それともこんな豪勢なおもてなしは迷惑……だったかしら」

「いや、全然。お前が考えてくれたデートプラン、隅から隅まで堪能させてもらうよ」

「零……。えぇ、満身創痍になるくらいたっぷり楽しませてあげるわ!」

「かと言って張り切り過ぎるのはやめてくれ……」

 

 

 無邪気な笑顔で俺を搾り取ろうとしてくるランジュ。さっきまで高級レストランに見合う美麗な面持ちで飯を食っていたの、俺から現状満足の言葉を聞いた瞬間に子供みたいに喜びやがった。見た目は美人で性格も高飛車なので寄り付きにくさがあるコイツだが、中身が今の通り意外とガキっぽいんだよな。ステージ上では派手なパフォーマンスで大物感を出してるのに、プライベートではすぐに意地を張ったり対抗心を燃やしたり小物感が目立つ。そういうところが可愛いんだけどさ。

 

 なおそのお泊り会もランジュの提案だ。以前のゲームセンターのような庶民的な遊びではなく、夜にホテルのレストランでディナー、そしてスイートルームに宿泊という成金ムーヴ。だから今日は俺もそれなりにいい恰好をしてきたのだが、やっぱり堅苦しい雰囲気は苦手だ。だが嫌悪感を抱くことはなく、むしろ彼女に誘われたことが素直に嬉しかったりする。そりゃ好きな女とならどこへ行っても楽しいと思ってしまうので、要は付き合う人間が誰かによるのだろう。この人となら苦楽を共にできる、みたいな。

 

 

「張り切るわよ。今日はアタシの番なんだから」

「番?」

「栞子ともミアともキスしたんでしょう? だから今日はアタシの番」

「知ってんのかよ……」

「2人がアナタに向ける表情や態度を見れば分かるわよ。今までより目線が明らかに熱々だったもの」

 

 

 コイツが人の心情を読み取るなんて珍しいこともあったもんだ。周りを巻き込んで突っ走る奴なのでそういうのは苦手だと言っていたのだが、同じく恋する乙女同士なにか感じ取れるものがあったらしい。

 

 言っておくと栞子とキスしたのが一昨日、ミアとが昨日なので、これで3日連続だったりする。まあ女の子と遊ぶ予定が連続するのはいつものことなので、もはや特別なこととは思わないけどな。ただ流石にここまでキスを連打したことはあまりない。記憶に残っているのは4年前のクリスマスシーズンにシスターズとの面々と告白し合った時くらいか。

 

 

「今は食事を堪能するとして、今晩はシャワーを浴びて、抱き合って、キスをして、一緒に寝て……うん、やることがいっぱいでワクワクするわね!」

 

 

 なんかもう性行為をする勢いだけど、あくまで一緒の部屋で宿泊するって意味だよな……? まさか本気でカラダを重ね合わせる気じゃねぇだろうなコイツ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「いやマジでヤんのかこれ……」

 

 

 スイートルームのソファに深く腰を掛けながら、シャワーを浴び始めたランジュが出てくるのを待っている。

 この部屋に入るなりその広さと豪華さに驚いたのだが、ランジュはカバンをテーブルに置いてすぐにシャワールームに入っていった。今日も練習があったのでその汗を流す目的だとは思うのだが、食事の際の言葉を思い出すとどうも淫猥な響きにしか聞こえない。どこまで本気なんだよアイツ……。

 

 それにしても、耳を澄ますとシャワーの音が微かに聞こえる。スイートルームなんだから音くらいちゃんと遮断しておけと思うが、もしかしてこれは女性のシャワー音を聞いて男の性欲を暴走させるためのホテル側の作戦なのではとも考えてしまう。そしてものの見事にその術中にハマっているわけなのだが……。

 

 女の子のシャワー待ちなんてこれまで何度も体験してきているはずなのに、やはりムードとシチュエーションが故なのかいつも胸の高鳴りが抑えられない。これから自分のために、自分に抱かれるためにそのカラダを綺麗にしてくれていると思うと……うん、その献身的な愛に自尊心が高められる。これから男に抱かれますよって自ら言ってるようなものだからな、そりゃ支配欲も唆られるって。まあ今回はアイツが本気なのかどうか分からないけども。

 

 

「ふぅ、スッキリしたわ」

「え゛っ……!?」

 

 

 そんなこんな考えている間にランジュがシャワールームから出てきた――――バスタオル1枚を纏っただけの姿で。

 女性の湯上り+バスタオル1枚という破壊力はこれまで何度も味わっているが、もちろん男の性を刺激するその艶めかしい光景に慣れるなんてことはなく、毎回息を呑んでしまう。しかも持ち前のスタイルの良さが前面に押し出されており、もはやタオル1枚で覆いつくせるほどのカラダではない。タオルに押さえつけられた胸が今にも飛び出しそうになっていたり、すらりと伸びた脚と肉付きの良い太ももが(あら)わになっていたりと、スタイル抜群なせいでそれなりの大きさのバスタオルであっても全てを隠し切れていない。見えないところはもう胸の先端と秘部くらいと本当に大切なところだけだ。しかもそれすらも見えそうになっているという……。

 

 

「お前なぁ、男と2人きりなのにそんな恰好で現れるなよ。自分から襲ってOKって言ってるようなものだぞ」

「アタシ、お風呂上りはいつもこの格好だから。湯冷めするまで何も着たくないのよ」

「目の前にいるのが俺で良かったな。女慣れしてない男だったらすぐに押し倒されてたぞ」

「大丈夫。こんな姿は零にしか見せないから。他の男はもちろん、女の子であってもね」

 

 

 ランジュはウィンクするとソファに座っている俺に隣に腰を掛ける。しかもほぼ密着する状態で。こんな痴女みたいな言動をどこから学んで来たのか、それとも天然で男を誘惑する才能があるのか。どちらにせよ自分の武器を最大限に活かしてやがる。ここからどんな攻撃を仕掛けられるのか身構えざるを得ない。

 

 

「…………」

「急に黙ってどうした?」

「ここからどうすればいいのかしら?」

「はぁ?」

「こうしたら零が襲ってくれて、あとは身を任せて気持ち良くなればいいって言ってたのに……」

 

 

 ランジュはきょとんとした顔でこちらを見つめる。いやその顔をするのはむしろ俺の方なんだけど……。

 さっきまでは男を誘うお手本の動きを完璧にできていたのにも関わらず、俺の隣に座った瞬間に急に動きが止まった。しかも本人はどうすればいいのか分からなくなってるってことは――――

 

 

「誰に吹き込まれたんだ……?」

「えぇっと、かすみ……とか、しずく……とか、璃奈、愛、彼方とか、あとは果林にエマ」

「多いな。なんとなく想像つくけど」

 

 

 虹ヶ咲チルドレン9人の中でも肉食系の連中ばかりじゃねぇか……。性的なことにはまだ恥じらいを感じている歩夢とせつ菜以外と言った方がいいか。

 アイツらが純粋なランジュに余計な入れ知恵をする姿が容易に想像できる。ただ単に俺とコイツを恋人にしてやろうと思ってるのかもしれないけど、その善意を感じるのはエマくらいで、他の6人は絶対に悪意を持っているに違いない。しかもこの程度で俺がコイツを襲うなんて考えてるみたいだけど、随分と俺の性欲を侮ってるなアイツら……。

 

 

「とりあえず、アナタに脱がされるのを待っておけばいいのかしら?」

「馬鹿。んなことするわけねぇだろ」

「えっ、もしかしてアタシに魅力がない……とか?」

「ちげーよ。大切だからだよ、お前のことが。だからそう簡単に脱がして押し倒したりしない。それにお前、今は他の奴らに吹き込まれたことを実践しようとしてるだけだろ。俺に脱がされたいと思っている気持ちが100%お前の本心ならまだしも、そんな中途半端な覚悟の奴を相手になんてできねぇよ」

「!?」

 

 

 コイツは男どころか恋愛の『れ』の字も知らないくらいに純粋なので、どう俺の気を惹けばいいのか分からいのだろう。だからアイツらに吹き込まれたことを試しているようだが、自分の魂が籠っていない誘惑に俺は靡かない。シャワー浴びたての艶やかな肌+バスタオル1枚の姿にドキッとしたりはするが、それはそれ、これはこれだ。男だったら女性の外見で反応してしまうのは仕方がない。でもそんな奴に誘惑されても自分を魅せようとはしない誘いには乗らないってことだよ。

 

 

「アタシ、また人との接し方を間違えてしまったのかしら……」

 

 

 ランジュが俯く。

 コイツってよくこうして曇ることあるよな。同好会に入る前にソロでスクールアイドルをしていた時も、本当はみんなと一緒にやりたかったのにプライドとコミュ障が原因で1人で塞ぎ込むこともあった。そして幼馴染の栞子がみんなと溶け込んでいる姿を見て勝手に落ち込んだりと、何かと曇る様子に定評のあるイメージがある。普段が天真爛漫で自信家なので、そうやってイキっている時とのギャップが凄まじい。そしてサディストな心を持つ俺からしてみれば、強い奴が曇る表情を見るのは結構好きだったり。嗜虐心ってやつだ。だからそんなコイツを見続けるのもまた一興だったりする。

 

 ただ、今回は――――

 

 

「んなことねぇよ」

「え……?」

「今日お前に誘われことは嬉しく思ってるよ。出会った頃はデートすら知らなかったお前が、男に微塵も興味もなかったお前が、こうして俺と一緒にいたいがためにお泊り会を計画してくれるなんて嬉しいに決まってるだろ。そう、お前の本気が伝わってきたからその話に乗ったんだ」

「零……」

 

 

 この場に誘ってきたときのランジュの表情は、いつもみたいに自身に満ち溢れているわけではなく、むしろその逆で女の子の表情(カオ)となっていた。以前のデートで恋を自覚したと自分で言っていたことから、今回のこの場も自分でプランを練って設定したものだろう。だからこそ誘う時に頬を染めてそわそわしていた。そこには確かに彼女の意思と本気があった。だから嬉しかったんだ。あの無垢な彼女がここまで俺を意識してくれることがな。

 

 すると、ランジュは俺の肩に頭を預け、腕を絡めてきた。ぶっちゃけこれ以上くっ付かれると胸がタオル1枚越しに押し付けられ、その柔らかさを意識せざるを得なくなる。ただ今の彼女は誘惑していると言うよりも、俺の温もりに浸りたいだけのようだ。

 

 

「零って暖かいわね」

「シャワー浴びたお前の方こそだろ」

「身体の方じゃない、心の方よ。他人との距離感が分からないアタシを、他人を置いて突っ走ってしまうアタシを、そして特別な存在だと周りから持ち上げられて孤独でいたアタシを、最初に真正面から受け止めてくれたのがアナタだった。そして今もこうして、自分の意見をアタシに直球でぶつけてくれる。アタシのことを特別に思っていた人たちは何も言わずに離れてしまったから……」

 

 

 何でも天才的な才能を発揮する奴の悩みってことだな。自分が何事も他の人よりできてしまうことから相手に劣等感を抱かせてしまう。褒めてくれはするけど実力『差』を実感させてしまっているのは事実で、さっきコイツが言った通り周りから人が離れていく様子が容易に想像できる。俺も同じ天才肌だからこそ共感できたのだろう。俺の場合は女の子側から寄ってくるタイプだから人がいなくなったりはしてないけど、少なくとも他の一般人よりかは彼女の気持ちを受け止めてあげることができると思う。実際に幼馴染の栞子でさえ劣等感を抱いていたくらいだし、中々受け入れてもらいづらい悩みなのかもな。

 

 

「俺は別にお前を特別なんて思っちゃいねぇけどな」

「それはそうよね。前のゲームセンターでの対決もそうだったけど、アナタにしてみたらアタシ実力なんて赤子の手をひねるくらいに屈服させられるもの」

「そうだな。ムキになって対抗してくるところを見ると、ついつい分からせたくなっちまう」

「みんなが言っていた通りの肉食獣ね。ここまで人の心を掻き乱して、実力でも組み伏せて、それでも乙女心をしっかり掴んで……」

「迷惑か?」

「いいえ。そういう(たくま)しいところに惚れるものでしょ、女の子って」

「一般化し過ぎだ」

「少なくとも同好会のみんなはそうよ。そしてアタシも。アナタの男として優しくて、雄として強いところにみんな惚れて、好きになってる」

 

 

 ランジュは更に強く俺の腕と自分の腕を絡める。自分を真正面から抱き留めてくれる人が見つかって、そこに恋を感じているのだろう。さっきの曇りは全て消えて、頬を染めて小さく微笑んでいる。人にここまで自分の心に歩み寄られたのも初めてだけど、コイツ自身も誰かの心の隣に来られたのは初めてのことなのかもしれない。

 

 

「アタシは好き、アナタのことが。自覚したのは最近だけど、多分心の奥底ではずっと前から根付いていたと思うわ。帰国しそうになったアタシを呼び止めてくれた、あの時から」

 

 

 コイツの曇りが究極となっていたころの話か。あの時は自分にスクールアイドルは向いていないと感じて帰国しそうになっていたコイツを、空港で俺がずっと引き留めていた。ミアや栞子、同好会の奴らが駆け付けるまでな。アイツらが来るまで2人で色々話して何とかこの場に留まらせようとしてたっけ。

 

 元から俺はコイツのことは嫌いではなかった。むしろ1人であろうとも自分の信念を貫くその姿勢は評価できたし、だからこそ俺が気になる女の子の1人となってしまった。侑に厳しい言葉を投げていたのもコミュ障が故に伝え方がキツかっただけで、侑自身もコイツの言葉に前向きになれたと公言するくらいその主張には説得力があった。

 

 自分の中にここまで確固たる芯が通っている子はあまり見たことがない。仲間が欲しかったという思いは押し殺していたにせよ、それを殺してもなお孤独で輝けるくらいの実力がコイツにはあった。そこが魅力的に映ったんだよ、俺には。実際に日本でソロスクールアイドルを初めてすぐ大量のファンを獲得してたので、俺以外にもコイツに魅力に感じる人は多かったと思う。

 

 そしてそのことを空港で2人きりの時に打ち明けた。そこからコイツの中で何か決壊したようで、流れ出る水の様に感情を吐露し、さっき語っていた自分の特別さが故に仲間がいなかった過去を話してくれた。

 そこからだったのだろう。俺たちの距離が急接近したのは。そしてコイツは、自分の過去とありのままを初めて受け止めてくれた男に徐々に惹かれていった。

 

 そして、そんな弱さを目の当たりにした俺も少しずつコイツを意識するようになっていた。弱みを知ったから気になったって趣味の悪い奴みたいだけど、俺はその子の本心を知った時が一番惹かれるんだよ。裏表を全て曝け出した、その時が。

 

 

「もっと知りたい、アナタのことを。心だけじゃなくてもっと、もっと違うところでも……」

「それがお前の本気の本心か」

「えぇ。誰に指導されるわけでもなく、吹き込まれたわけでもない。こういう気持ちなのね、繋がりたいって」

「あぁ」

「キスしていい? するわね」

 

 

 衝動を抑えきれなくなったのか、ランジュは目を瞑り、こっちの返事を待たずして俺に唇を押し付けてきた。

 この時を待っていたかと言わんばかりに強く吸い付いてくる。キスの仕方でも本人の性格が出るというがまさにその通りで、彼女らしい力強さをひしひしと感じる。カラダごとこちらに擦り寄わせて来る勢いのため、もう彼女の上半身を全て受け止める形となっている。もちろん押し付けられる唇の進行も同時に受け止める必要があり、しかも舌まで当たりそうになってくらいに濃密で濃厚。唾液音も卑しく鳴り響き、漏れ出した淫猥な吐息に緊張させられる。抑えていたキモチを全て俺に注入する気概を感じた。

 

 甘くて熱い。今の彼女の愛をたっぷりと伝えられていた。

 

 そして十分に堪能(俺は受け止めるので必死だったが)したのか、ランジュは唇を離す。その際にも吐息が漏れ出すあたり、俺たちがどれだけ密着していたのかが分かるだろう。

 

 

「んっ……。はぁ……。いいわね、こういうの……」

「そっか。お前が満足してくれたのなら良かったよ」

「えぇ。スクールアイドル以外でここまで夢中になれるのは初めてだわ。これが恋ってものなのね……」

 

 

 初めての気持ちを粘液接触で確かめ合い、頬を緩めるランジュ。誰かとここまで深く繋がれたのは初めてだと思うので、今まさに味わったことのない幸福アドレナリンが大量に分泌されていることだろう。でなきゃこんなに嬉しそうな顔はしないだろうしな。

 

 そして、これで虹ヶ咲の面々とは11人目のキスとなった。いつもの通りで例のごとく、俺の身体は燃え滾って溶けてしまうかのように熱い。流れ出る汗も凄まじく、冷水を滝のように浴びて洗い流したいくらいだ。ただここを耐えれば俺が女の子の愛を受け入れる許容量が増えるらしいので辛抱のしどころ。身体内の臓器という臓器が焼け落ちそうなくらいに熱いけど、これが女の子のためだと思えば我慢できる。いやしなければならない。

 

 

「汗凄いわよ。大丈夫?」

「あぁ。シャワーを浴びばかりのお前が隣にいるんだ。そんな体温の女の子に抱き着かれたら汗もかくって」

「そう。でも無理はしちゃダメよ。そうだ、これからは自分1人で突っ走らないよう、他人の顔色から何もかも察せられるようになってみせるわ。そうすれば零が無理をしていても一目で分かるもの」

「メンタリストかよ……」

 

 

 コイツもコイツで成長しようとしているんだな。何もかも察せるカウンセラーになれるのかは……大雑把な性格上キツイんじゃねぇか?? まあ本人が変わろうとしているのなら応援しておいてやるか。

 

 

「そうだわ! これでお互いに気持ちを伝えあったわけだし、このバスタオル、取ってもいいわよね?」

「えっ……? いや待て、ファーストキスしていきなりベッドインは早すぎるって!」

「そう? でも璃奈たちが見せてくれたアレなんて言ったかしら……同人誌? とかでは出会って数秒でやることやってるけど」

「もうアイツらから学ぶのやめろ……」

 

 

 今日分かったこと。

 その1:ランジュが抱く本当の愛

 その2:同好会の奴らからアドバイスを貰うな

 

 

以上

 




 今回はランジュ回の最終章で、R3BIRTH編も同時に完了です!
 恋愛も知らず男も知らない子と出会う→悩みを解決する→惚れられる→キスという王道の展開を辿ってきましたが、ぶっちゃけこの小説は王道から外れたことばかりしているので、意外と普通の方が新鮮だったりします(笑) 


 作中でも零君が言っていましたが、これでキスノルマが同好会12人中11人が完了して、残り1人となりました。
 こうして見るとたくさんの女子高生相手に代わる代わるキスしているのって、それこそ普通じゃない気が……(笑)



 以下、今後の予定です。ネタバレOKの方のみどうぞ!






 3/ 6(月) 歩夢メイン回
 3/13(月) 侑メイン回
 3/20(月) 虹ヶ咲編2最終回
 3/27(月) 特別編

 




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

輝桃色(ライトピンク)の献身

 後書きに、にじよんアニメ(この小説ver)の超短編(第8~9話)を掲載しています。
 是非最後までご覧ください!


「もうっ、ダメですよ零さん。あまり無理をしたら……」

「だから大丈夫っつってるだろ」

「ほら、動かないでください」

「ったく……」

 

 

 歩夢は保健室のベッドに腰を掛ける俺のおでこに冷えピタを張った。

 頬を膨らませてあからさまに怒ってますよアピールをしている。いつもはどちらかと言えば引っ込み思案な性格だけど、人の心配をする時は人一倍に世話を焼いて絡んでくるのがコイツのいいところ。だけど今回は体調不良の原因が原因だけにあまりバレたくなかったんだよな……。

 

 さっき少しぼぉ~っとしながら廊下を歩いていたら、たまたま出くわした歩夢と薫子に見つかってしまった。()()()()を良く知っている薫子は俺の体調が悪いことを瞬時に見抜き、2人して俺を保健室へと連行しやがった。ちょっとフラついただけなのに気にかけ過ぎなんだよ。

 

 

「歩夢ちゃん、はいこれ体温計。零君の熱を測ってあげて」

「ありがとうございます。じゃあ零さん、脱いでください」

「なんで!? 普通に脇の下に挟めばいいだろ!」

「あっ、ゴメンなさい! いつものクセで……」

「キミたちいつもこんなプレイしてるの……?」

「んなわけねぇだろ。コイツが淫乱なだけだ……」

「~~~~ッ!?」

 

 

 歩夢の頭から湯気が出る。ナチュラルに男を脱がそうとしたんだから、そりゃ脳内ピンクと言われても仕方ないだろう。髪色もイメージカラーもピンクっぽいしな、もともとそういう素質があったのかもしれない。

 かすみたちとは違い、虹ヶ咲チルドレン9人の中ではせつ菜と並んで性に対する羞恥心には弱かったりする。それは今の反応を見てもらえれば分かる通りだ。他の奴らは俺との情事に一切の抵抗がないからな。ただ羞恥に悶えつつも性には貪欲なのが歩夢の特徴であり、カラダを重ね合わせてからは割と積極的だったりする。

 

 

「それにしても、零さんが体調を崩すなんて珍しい気がします。どこか具合悪いんですか……?」

 

 

 歩夢が心配そうに俺を見つめる。

 薫子に目配せするとウィンクで返事をしてきた。どうやら体調不良の原因は歩夢に伝えていないようで、そこは大丈夫だと言いたいのだろう。まさか俺の身体が女の子たちからの愛を受け止めきれず、そのキャパシティが限界を迎えて爆発しそうになっているとは言えねぇよな。しかもその解決方法が同好会の奴らとキスをすることなんて、傍から聞いたら馬鹿げた話だ。

 でもキスをすることで確かに効果はあるようで、女の子とキスをするたびに身体が燃え上がるような熱気を発し、俺の中で何かが変わっているように思える。医学的根拠なんて全くなく、秋葉が言ってるだけなのでそもそも本当にこれで治るのかも分からねぇけどな。ただ最近は特に熱っぽいことが多く、今もまさにその状態なので本当に治ってるのやら……。

 

 ちなみに例の病状が宣告されてからまだキスをしていないのは歩夢だけだ。他の11人とは既に事を済ませており、その際に伝えられた愛の大きさにより俺の身体にかかる負担も大きくなっていると思われる。

 ただコイツらに心配をかけたくないから、事情を知っている薫子と侑には歩夢たちに何も話さないよう釘を刺してある。話したらコイツらのことだ、無理矢理にでもキスを迫るに決まってる。そんな愛のない義務のようなキスをコイツらにさせたくないんだよ。愛を伝えあうのに余計な雑念は必要ない。

 

 

「4月から教師になるから色々勉強とか実習とかしてんだよ。それで疲れてるのかもな」

「そうですか……。でももし疲れて動くのも億劫であれば私に何でも言ってください! 家だと楓さんがいますけど、学校だったら食事を食べさせてあげたり、飲み物を飲ませてあげたり、上着を着させてあげたり、お昼寝するなら膝枕もしますし、お風呂も入れてあげますし、トイレのサポートだって何でもですっ!!」

「介護か!! 気持ちは嬉しいけどさ……」

「でも私、零さんのお世話をしないと生きていけないと言いますか、そのためにここまで生きてきたので……」

「噂には聞いてたけど、歩夢ちゃんの愛の重さって相当だね……」

 

 

 薫子はこんな歩夢を見るのは初めてのようで唖然としている。

 惚れ込んだ相手へヤンデレ気味の多大なる愛情を抱いてしまうのは歩夢の悪いクセだ。まあ愛が重くて依存してくれる女の子が好きな男もいるので、一概にこの性格が悪いとは言わないけどさ。実際に身の回りの世話をしてくれるのは助かってるしな。

 

 

「じゃ、私は仕事があるからそろそろ戻ろうかな。零君の気持ちも分かるけど、歩夢ちゃんの心配を無下にしたらダメだよ?」

「あぁ、分かってる」

「だろうね。それじゃあ歩夢ちゃん、後はよろしく~♪」

「はいっ」

 

 

 薫子ははにかみながら保健室を去った。アイツもアイツなりに俺のことを心配しつつ、俺の意図を汲み取って歩夢たちに何も話せないジレンマも抱えさせてしまっている。侑もそうだけど結構な板挟みだから、この身体が戻ったら何か奢ってやるか。これでも恩義ってのはあるんでね、一応。

 

 そしてそんなこんなしている間に脇に入れていた体温計が鳴る。取り出して映し出された体温を見てみると――――

 

 

「37度ピッタリか」

「微熱じゃないですか! やっぱり安静にしてないとダメです!」

「いや37度なんて平熱でも普通に行くことあるだろ。そこまで騒がなくても……」

「心配なんです。疲労が溜まって倒れられたりでもしたら、私もショックで寝込んじゃうかも……」

「依存症が過ぎるだろ……」

 

 

 別に俺が倒れても自分のせいじゃねぇのに難儀な奴だ……。

 しかし、俺のことを心配しているという事実は変わらない。薫子の言った通りそれを無下はできないし、身体が熱っぽくてダルいのは確かなので、ここは甘えてやってもいいのかもしれないな。

 

 

「分かったよ。何かあったらお前に頼むから」

「何からあったらじゃダメです! 今から零さんの身の回りの世話は私がやります!」

 

 

 愛する者への押しの強さは誰よりも一級品なことは知ってたけど、ここまでグイグイ来る気概は久しぶりに見たかもしれない。普段の一歩引いたポジションとは違い、今は道行く邪魔な奴らを押しのけるかのような勢いで俺に執着している。これも俺の身体を労わってのことだろうが、若干、いや結構自分の欲も入ってるよなこれ? いつも温和な雰囲気のコイツから邪念に満ちたオーラを感じるから、そのギャップのせいで漏れ出した私利私欲が余計に大きく見えた。

 

 

「それじゃあまずは着替えましょうか」

「えっ、脱ぐの??」

「汗をかいたままだと服が濡れて冷えちゃいますし、幸いにもこの学校の保健室は寝間着も診察着も揃ってるので」

「流石は最先端学校、準備いいな……。じゃなくて、もしかして寝てろってことなのか?」

「熱が出ているんですから当たり前ですよ! 心配せずとも、体調不良が完治するまで私という私をこき使ってください! 零さんの手となり足となるので! このカラダ、好きに使ってください!」

「そんな奴隷宣言みたいな……」

「そ、そういうのがご所望なのであればやぶさかではないと言いますか……。せ、性欲の処理も頑張ります!! むしろさせてください!!」

「今日は一段と暴走度高いなお前!? いったん落ち着け……」

 

 

 AVじゃねぇんだから、そこまで面倒を見る必要は……と言いたいが、コイツだったら本気でやりかねない。自己犠牲も厭わない献身さだが、ぶっちゃけたところ俺はそういう尽くしてくれる女の子が好きだったりする。だってそういった子が隣にいると、この子は自分のモノって感じがして支配欲が増すじゃん? ご主人様気質を持つ俺にとって実は上原歩夢はドストライクの女の子だったりする。押しが強いから引いているだけで、実際には俺自身も興奮で血の流れが滾りに滾っていた。

 

 そんな中、ベッドの上で歩夢に服を脱がされる。しかもボタンを1つ1つゆっくりと外され、まるで脱衣行為を愉しんでいるかのようだ。俺の素肌が徐々に見えていくたびにコイツは小さく声を漏らす。自分で男を脱がせて自分で興奮してるってどういうことだよ……。

 

 

「零さんって、意外とイイカラダしてますよね……」

「そうか? 普通の男だったらこんなものだろ」

「ちょっと、触ってもいいですか?」

「えっ、なんだよいきなり……。はぁ……好きにしろ」

「ありがとうございます。失礼します」

「えっ……!?」

 

 

 歩夢は俺の胸に頬を擦り付けてきた。普通に手で触って来るだけかと思ったので何も考えずにお触りを許可したのだが、まさかここまでベッタリとくっ付いてくるとは思わなくて驚いてしまう。

 

 

「胸板が厚い、逞しい、温かい。居心地が良すぎて私、零さんの胸に住みたいです……」

「何を訳の分からないことを……」

「零さんの胸に住めば、いつでもどこでも身の回りのお世話をしてあげられます。おはようからおやすみまで、朝はお目覚めのキスで起こしてあげられますし、夜は子守唄で快適な睡眠を取れるのでオススメです。なんなら零さんが眠っている最中は私がお布団としてずっと抱き着いたりもできます」

「通販の謳い文句か。てかこっちが寝てる間までサポートして、お前はいつ寝るんだよ」

「零さんのお世話ができるのなら寝なくてもいい……かな。でも零さんが命令してくれればちゃんと寝ますから!」

「全自動のロボット掃除機でも自分で充電できるのに、それ以下に成り下がってるぞ……」

 

 

 そこまで行くともう上原歩夢というアイデンティティを失ってる気がする。人の指示でお世話をするロボットじゃなくて、人間としての温もりくらいは最低限残しておいてくれ。ただ性欲の処理は人間でないとサポートできないか。やらせるかどうかは別として……。

 

 それから歩夢はしばらく俺の胸の中で恍惚とした表情でぼぉーっとしていた。どうやら物思いに耽っているようだが、本人が幸せそうなので何もせず、何も言わずに放っておくことにした。

 そしてまた少し時間が経ち、満足したのか俺から離れ、寝間着に着替えさせてもらった。自分で着替えられると言っても今の押しの強い歩夢には到底聴き入れてもらえなかったのはお察しの通りだ。

 

 

「零さんの服、汗びっしょりですね……」

「…………匂い嗅ぐなよ」

「ふぇっ!? そ、そんなことするわけないじゃないですか変態じゃあるまいし……」

「お前の今日の言動を100人に見せたら100人がどう答えるか想像に容易いんだが……?」

「と、とにかく! これは持ち帰って洗濯しておきますので心配しなくても大丈夫ですっ!」

「いや持ち帰るな。洗うならせめて校内で洗え。確か無料のコインランドリーみたいなところあっただろ」

「う゛っ……」

「『コイツそのこと知ってやがったのか』みたいな反応すんなよ……」

 

 

 愛が重いってのもそうだけど、愛がドロドロって言葉もコイツに似合い過ぎるほど似合うな。好きな人には歪んでいる最上を向けるこの性格、もし俺がいない世界線だったらどうなってんだろう。侑とかにその想いが向けられて、アイツが誰かにトキメキでもしたらコイツ嫉妬してそうだな。そしてその嫉妬が爆発して、2人きりになった途端に押し倒すとか普通にありそうな気がする。ヤンデレが想像しやすいって相当だぞ……。

 

 盗みの犯行がバレそうになって持ち去りを諦めたのか、脱がせた俺の服を綺麗に畳んで近くの机に置く。

 そして俺のいるベッドに腰を掛けた。若干申し訳なさそうな顔をしてるけど、一体どうした……?

 

 

「もしかして私、ご迷惑をおかけしてますか……? 零さん体調不良なのに暴走しちゃって……」

「自覚はあったのか……。確かに今のお前は肉食系と言っても過言じゃないな。でも迷惑はしてねぇよ。それだけ心配してくれてるってことだし、尽くしてくれることに関しては感謝してるから。俺、そういうの好きだから惚れちゃうんだよ」

「零さん……。ありがとうございます。もしかしたらご迷惑かもって思っていたので安心しました」

「お前なら俺の性格は熟知してるだろ。性癖に刺さる女の子、それがまさにお前だ。生まれながらにして俺に尽くす運命だったんだよ、お前はな」

 

 

 改めて上原歩夢という存在を見つめ直してみる。男の欲と言う欲にぶっ刺さりの女の子像がまさに歩夢であり、まさに理想のヒロインであることが分かる。その要素を上げてみると――――

 

・女子力が高い

・お淑やか

・柔らかな言動と雰囲気

・謙虚で控えめの引っ込み思案だが、諦めることや投げ出すことはしない

・何ごともコツコツ真面目に取り組む努力家

・料理など家事万能

・愛が重くなるほど献身的

・ゲーム好きでオタクへの理解あり

・肉付きが良く、カラダ付きがエロい

・胸がデカい

・子供をたくさん作れそうなワガママなボディ

 

 こんな感じで挙げるとキリがない。つまりコイツは顔良し、性格良し、カラダ良し、愛情良しの正当派にして最強のヒロインだったりする。

 だからこんな子にお世話されるほどに尽くされるのは全世界の男が羨むことであり、そして俺こそがその心尽くしを受けられる唯一の存在だ。そんなの自尊心が高まるに決まってる。この美少女が自分のためだけに存在していると思うと、さっきまで滾っていた血がドロドロになるくらいに沸騰してしまいそうだ。

 

 歩夢のこの性格がいつ形成されたものかは分からない。俺のことが好きになったのは幼少期に俺に命を助けてもらったからだろうが、そこから俺の性癖に突き刺さる女になるために今の性格となったのか、それとも生まれつきこうなる運命だったのか。ただ幼少期に虹ヶ咲チルドレンと呼ばれる9人を集めたのは秋葉だったので、もしかしたらその時から『俺を好きになる素質』と『俺に献身的になる素質』の両方を兼ね備えていたのかもしれない。だったら俺と歩夢はこういう関係になる運命だったのだろう。

 

 

「零さん……? そんなに熱く見つめられると恥ずかしいです……」

「あぁ、悪い。尽くしてくれる女の子っていいよなって思ってさ」

「そんなの当たり前のことですよ。零さんが誰かを助けることを当たり前と言っているのと一緒です」

「俺のは本当に自分だけのためなんだけどな」

「だったら私も自己満足のためです」

 

 

 歩夢は優しく微笑む。小さい頃からずっと俺の全てを叩きこまれてきたコイツなら、俺と同じ考えを抱くのも当然のことかもしれない。片や異常な支配欲、片や異様な献身欲を持っているが、俺たちの周りには同じくらい歪な恋愛観を持っている奴がたくさんいるので、これくらいの特殊性癖はもはや普通のことだ。むしろ侑のような一般常識に捉われている奴が異常者に見えてくる。

 

 

「零さんって、なんだか尽くしてあげたいオーラが出ている気がします。割とズボラ寄りの侑ちゃんがあそこまでお世話を焼くだなんて、これまでだと考えられませんでした」

「そうなのか。最近はお世話ってより小姑になってるけどなアイツ。ゴミを置きっぱなしにするなだの、身体を痛めるから昼寝する時は腕枕じゃなくてしっかりとした枕を使えだの、他にもいろいろ」

「ふふっ、それだけ零さんのことを見ているってことですよ。興味もない男性だったらそんなこと言いませんから。それに最近料理も本格的に覚え始めているので、本当に誰のためなんですかね♪」

「嬉しそうだなお前」

「侑ちゃんが楽しそうにしていると私も楽しいので♪」

 

 

 しっかりしてそうで意外とどこか危なっかしいところがあるのが侑の特徴だ。テストの点数もさほど言いわけでもなく、宿題も提出期限ギリギリでやっていたり、他人の魅力的な部分を見るとトキメキすぎて暴走しかけたりと、アイツはアイツで子供っぽさがある。俺の前では結構なヤレヤレ系でツッコミ役でもありトゲもあるが、あれはツンデレの一種だと思っているので別に迷惑はしていない。結局お世話してくれる女の子はありがたい存在ってことだな。

 

 

「侑にもその重い愛を向けたりしないのか? アイツの世話も色々してるって聞いたぞ」

「もちろん侑ちゃんのことも大好きですよ、幼馴染ですから。でも女の子に向ける気持ちと男性に向ける気持ちは違います。恋する気持ちは男性、それも零さんにだけです。零さんの顔も身体も匂いも、性格も言動も性癖も何もかもが好きです。あなたがいないと耐えられない。満たされたい、ずっと。一生お側にいたい、ずっと尽くしたい。変態さんとか、愛が重いとか言われてもいいです。それで零さんの隣にいられるのなら、私にとってそれ以上の幸せはないんですから」

 

 

 歩夢はゆっくりと俺に抱き着いてくる。俺はそれに応えて反射的に彼女を抱きしめ返した。

 歩夢の人生も生きる理由も俺の存在によって成り立っているらしい。それはもはや献身や依存を遥かに超えたその先のような気もするが、女の子が求めてくるのであれば俺は全力で受け止めるだけだ。そして更により深く自分の色に染めたくもなってくる。ここまで惚れ込んでくれるのであればこっちからも徹底的に惚れ込んで、俺という存在を心の奥底まで刻み込んでやりたいとも思ってしまう。

 

 歩夢は頬を朱色に染めて夢心地となっていた。俺もその表情を見て段々と彼女が愛おしくなってくる。もうお互いに相手しか見えていない、そんな感じだ。

 徐々に、徐々に歩夢の顔がこちらに近づいてくる。目を瞑り、唇を少し突き出す。そして遂に俺と歩夢の唇が接触した。

 

 

「んっ……」

 

 

 歩夢は声を漏らす。

 ゆったりとした甘い口づけ。お互いに相手を求めながらもソフトであり、僅かに声や息が漏れながらも唇同士の接合部は緩い。それでも相手の愛を受け止め合って熱くなっており、歩夢は俺の首に腕を回し、自分の胸を俺の胸板に押し付けて唇に吸い付いている。上半身が密着している状態で、歩夢は俺に自分の『好き』を伝えてくる。キスの淫靡な音が保健室に鳴り響くたびに彼女の想いがこちらに流れ込んできて、受け止める。夢中になっているのか次第にキスと抱き着く強さが増してく歩夢だが、俺も俺で彼女の漏れ出した淫猥な息遣いで鼻や耳がくすぐられ、より一層の興奮を煽られていた。

 

 しばらくお互いを堪能した後、唇を離す。その際も歩夢は吐息を漏らしていたのでよほど集中していたようだが、逐一その息遣いが艶っぽいため気になって仕方がない。上原歩夢という存在が容姿もカラダも何もかも男を誘うのに適してるな……。

 

 

「やっぱり気持ちいいです。零さんのキス……」

「あぁ、俺もだ……ッ!?」

「零さん……? また汗びっしょりですよ?」

「大丈夫。興奮し過ぎただけだ」

 

 

 歩夢とキスしたことで、これにて当初から掲げられていた同好会12人全員とキスするミッションは達成した。

 ただその影響からか、今までに感じたことのない熱が俺を襲っている。いつもの副作用だが、最後だからかその威力がとてつもない。臓器と言う臓器が焼け焦げてしまうかってくらいの熱さであり、こうして平静を保っていられるのはこれまでの段階的にこの熱量に耐えてきた経験が故だろう。いきなりこの熱量を味わったら確実に悶え苦しんでいたに違いない。それくらいの熱さだ。

 

 秋葉が言うにはキスした女の子たちの愛が累積して熱に代わっているらしく、これを耐えることで俺の中の愛を受け止めるキャパシティが広がるらしいのだが、科学的なことは一切分からない。とりあえず目の前の彼女を心配させぬようこれまで耐えてきたのだが……。

 

 

「もう少しお側にいてもいいですか? やっぱり心配で……」

「ご自由に」

「ありがとうございます。手、握りますね」

「あぁ」

「好きです。今も、これからもずっと……」

「あぁ、俺も……」

 

 

 とてつもない熱量と共に襲ってくる疲労感、そして眠気。この熱さからして本格的に体温が上がって来ているのは間違いない。

 優しく微笑みかけてくれる歩夢に手を握られ、そこに彼女の想いを感じながら、俺はそっと眠りに落ちた。

 




 今回は個人回のラストで歩夢編でした!
 零君と歩夢の関係は主様とその侍女みたいな関係ですが、決して上下があるわけではなく、お互いに対等に愛し合っているという何とも不思議な関係です。でも私がこういうお世話好きの献身的な女の子キャラが大好きなので、上原歩夢という子がそのキャラにピッタリなのでこの小説ではこんなキャラになっています(笑)

 あと自分で描いておきながら、今回のラストで零君死んじゃったみたいになってしまった……




 次回は侑のメイン回となります。この小説特有の終盤だけちょい真面目っぽくなる展開。
 零君もどうなってしまうのか……

以下、にじよん短編です。

~第8話:妹~

「お兄さんって、同好会の中で妹にするのであれば誰がいいとかありますか?」
「誰と言われたら……。お前らと俺ってそれなりに歳が離れてるから、全員妹と見ることはできるんだよな」
「確かに私たちは高校生で、お兄さんは大学4年生ですもんね……」
「だから妹にするならお前ら13人全員で」
「そういうアニメ、どこかであった気がする……」

~第9話:妹王決定戦~

「璃奈ちゃんの妹力、半端なく可愛かったですね!」
「あぁ、義妹としての素質は十分満たしてるだろうな」
「義妹って、妹に区分けを求めるタイプなんですね……」
「そりゃ実妹がいるからな。それにアイツからしてみればお前らの妹力なんてまだまだ未熟だ。素質が足りない」
「なんですか、素質って……」
「まず血が繋がっていること」
「それあの自分を除いて全員アウトっていいたいだけですよねあの人!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黒緑色の結末

 保健室のドアが壊れるかの勢いで開かれる。

 目を向けてみると、元々俺の看病をしていた歩夢を除く侑と同好会のみんながぞろぞろと中へ入って来た。

 

 

「お兄さんが倒れたってホント!?」

「あっ、侑ちゃん……。うん、私が看病している間に熱が上がったみたいで……」

「ちょっとフラついただけで大袈裟だ……」

「ダメですよ無理をしたら! 寝る前よりも熱が上がって、立ち上がろうとしたらよろけてベッドに転んじゃったじゃないですか!」

 

 

 事は歩夢とキスをして眠り、そして起きた直後の話だ。寝る前よりも楽になったかと思って身体を起こしたら、急激な立ち眩みにより再びベッドにダウンしてしまった。しかも歩夢に熱を測ってもらったら寝る前よりも上がっており、世間一般で言われる高熱となっている。

 

 確かにさっきよりも身体も重く、そして熱い。今にも身体が爆発しそうなくらいで、こうして心の中で状況説明ができているだけでも奇跡だ。ちょっとでも油断したら意識が飛びそうで、またぶっ倒れそうなくらいだからな……。

 

 汗も凄いし息も絶え絶え。傍から見ても今にも意識を失いそうな体調の悪さに、同好会の奴らもみんな心配そうな表情を浮かべていた。

 

 

「かすみんのコッペパンで治りませんか!? それかかすみんの可愛さで熱なんて吹き飛ばしちゃいます……!!」

「かすみさん言ってることが支離滅裂! こういう時はとりあえず睡眠だよ! えぇっと、睡眠導入に効果的な童話は……。いや、ここは女優として今から最高のシナリオを私が……!!」

「しずくさんも慌て過ぎです!! 高熱にはネギを臀部に刺せばいいと古来からの言い伝えですが……。とりあえずスーパーへ行ってきます!!」

「みんな取り乱し過ぎ。私みたいに冷静でいるべき。璃奈ちゃんボード『あわあわ』」

 

 

 ボードの表情と言ってることが合ってねぇぞ……。

 1年生はみんな目に見えて分かるほどに大きく動揺している。突然の異変に慌てることしかできないあたり、まだ精神的にも1年生って感じだな。ただそんな純粋で可愛い反応を見ていると、今にも爆発しそうな熱さで苦しめられているこの苦境も少しは和らぐ気がする。てかそう思っていないとすぐにでも意識を失っちまいそうだ。

 

 

「こうなったらアタシのツテというツテを使っていい薬を取り寄せるから、待ってなさい零!」

「いやいやランジュ、流石にそれは悠長過ぎるでしょ。こうなったら愛さんお得意の、お祖母ちゃん直伝漢方薬を今から作るしかない!」

「愛さんも1から漢方は時間がかかり過ぎます! なんなら私が、せつ菜特性の効きそうなお薬盛り盛りミックスおかゆを作ります!」

「せ、せつ菜ちゃんはお料理やめようね……」

 

 

 2年生はコントをしに来たのか……。

 ランジュが天然でボケて、愛がツッコミを入れつつもボケ、そしてまたせつ菜の斜め上の発想が展開し、歩夢が苦笑しながらツッコミを入れるいつもの光景。まあ和やかな雰囲気になってくれれば意識がそっちに向いて、即ぶっ倒れることはないだろうから逆に助かる。体内から湧き上がる熱さで悶え狂いそうなのは確かだが、その状態を享受し過ぎるといよいよ耐え切れなくなりそうなので少しでも気を逸らさねぇと……。

 

 

「全く、みんな騒ぎ過ぎだ。ただボクたちにできることは……」

「ないわね。あまり心配そうな顔をしてると零さんも心配するから、ほどほどにしておきなさい」

「秋葉さんが来てくれるから絶対に大丈夫。だからみんな落ち着いて、ね?」

「心配で震えてるのなら、彼方ちゃんがぎゅってして安心させてあげるからねぇ~」

 

 

 流石3年生は大人だな。

 ミアは年齢的には最年少だが普段は大人びてるし、人生経験の豊富さから達観しているのでその肝の座り方は今の俺からしたら安心できる。他の3人も今自分にできることは下級生を落ち着かせることだと理解しているようだ。普段もいいお姉さんをしている3人だけど、緊急時にここまで頼りになるとは思ってもいなかった。人間の本性が一番発揮されるのは異常事態が発生した時だとよく言われてることだしな。とりあえずコイツらがいれば他の奴らが下手に騒ぎだすこともないだろう。

 

 

「…………」

 

 

 そして侑。

 コイツ、さっきからずっと黙って俺を見つめている。心配そうな表情をする時もあれば、何やら眉を顰める時もある。他の奴らとは違い、どうやらただ単に俺の体調が気になるだけでこの場にいるわけではなさそうだ。1つ不可解なのは時折俺を睨みつけているような、そんな感じがすることなんだけど……なぜ??

 

 そんなこんなしている間に、またしても保健室の扉が開く。

 さっきエマが言っていた通り秋葉が到着したみたいだ。相変わらずの白衣姿で堂々とした立ち振る舞いで保健室に入って来たのだが、流石に弟が険しい表情をしているのを見てその凛とした顔も少し揺らぐ。いくらコイツと言えども身内のピンチには多少動揺するか。

 

 

「汗もびっしょりだし顔色も最悪。息も絶え絶えで高熱。想像以上に大変な状況みたいだね」

「はぁ、はぁ……こっちは1秒ごとに命削ってんだ。御託はいい、この状況を説明しろ」

「そのためにはここにいるみんなに()()()()を説明しなければいけないけど、大丈夫?」

「別にいい。この状況で隠してなんかいられねぇからな」

「どういうことですか……?」

 

 

 歩夢が怪訝そうな顔で尋ねる。そりゃそうだ、俺のこの体調不良に特別な原因があるって言ってるようなものだから。同好会の12人には俺が患っている症状を話しておらず、知っているのは秋葉を除けば侑と薫子だけ。俺が他の奴らに話すなと口止めしていたのだが、遂にそのヴェールが開かれる。

 

 秋葉の口から歩夢たちに事の顛末が語られた。最初はそんな症状が起きるなんて信じられないという表情をしていたが、実際に目の前にその症状でぶっ倒れそうになってる奴がいるので受け入れざるを得ないようだ。ただ誰も俺たちが嘘をついていたなんて思っておらず、隠していたことに関しても特に言及されなかった。みんなは俺の性格を熟知しているから、自分たちに心配をかけないように黙っていたってことにも察しがついているのだろう。

 

 ちなみに俺がみんなとキスをしないとこの症状が完治しないことについて、これまでみんなとしてきたキスはこの病気を治すための事務的なキスではなく、お互いの愛を確かめ合っての本気だってことも同時に伝えたのだが――――

 

 

「かすみんたちは分かってますよ、そんなこと!」

「零さんはいつでも私たちに本気だってことくらい、当たり前のことですから!」

 

 

 ――――と、かすみとせつ菜は笑顔で答える。他のみんなも笑ったり、苦笑いしたり、呆れたりと、俺から受け取った愛は本物で不純な邪念がないことは既に分かっているようだった。コイツらなら俺の気持ちを察してくれると信じてはいたのだが、やはり心のどこかでは気になっていたので安心したよ。結局余計な心配だったわけだな。

 

 

「で? 女の子の愛を受け止めるための器だっけ? コイツら全員とキスしたらその容量が大きくなって、身体も治るんじゃなかったのかよ。女の子との愛を受け止めきれずに爆発しそうになってるからみんなとキスをする、ってのがお前が言っていた完治の条件だったはずだ。さっきそのミッションは達成したぞ。なのにこの……くっ、はぁ……どうしてこんなことになってんだ?」

「さぁ?」

「はぁ? お前がこれで治るっつったんだろ!?」

「そのはずだったんだけど、零君が人生の中で女の子から受け取った愛情がここまで膨張しているとは思わなかったからね。私の研究の見立てでは、同好会のみんなとキスさえすればその膨張も受け入れられる器になるはずだったの。こうなると手立てを新しく考えないと……。でもそれまで零君の身体がもつかどうか……」

「見立て違いかよ、クソ……」

 

 

 思わず汚い言葉を発してしまったけど、寝込みそうなくらいの体調不良だと精神が安定せず心もとないことを言ってしまう。まあ俺がこの世で唯一八つ当たりするのは秋葉くらいで、コイツもそれを享受しているから特に問題はない。

 

 それよりも秋葉考案の治療法でこの問題が解決しない方がヤバい。コイツはこう見えても1000年に1度の頭脳と呼ばれていて世界を股にかける研究者。そんな奴が顔をしかめるなんてタダごとではなく、いつも自信満々なコイツがお手上げ状態に片足を突っ込んでるなんて珍しい。つまり俺の中で溜まっている女の子たちの愛が今いつ爆発してもおかしくないってことだ。なんつうイヤなカウントダウンだ……。

 

 秋葉が来れば何とかなると思ってみんなを宥めていた3年生たちも、流石に希望が崩れたのか心配の色が見え始めていた。少なくとも俺の隣にいる女の子たちにはそんな顔をさせないと誓っていたのだが、今の俺の状態を見て解決策がないと知ればそんな顔になるのは仕方ねぇか……。

 

 

「解決策となるかは分からないけど、思いつくことが1つだけあるよ」

 

 

 みんなの視線が秋葉に集まる。希望は消えていなかったんだとこの一瞬で不安な雰囲気がほんの僅かだけ和らいだような気がした。

 ただ、そんな空気感に全く流されず、さっきから俺を見つめ続けていた侑がベッドのすぐ横にまで近づいてきた。みんなは秋葉に集中しているから気付いてないみたいだけど、明らかに他の奴らとは雰囲気が違う。一体何を考えてんだ……?

 

 

「思いつくことはあるけど、零君意外と余裕ぶってない? 苦しそうだけど笑ってるもん」

「そうか……? 確かに今にも倒れそうだけど、コイツらの心配を少しでも軽くしてやろうと思ってな。それにお前の必死な顔を見られて嬉しいってのもある。いつも自信家のお前の牙城を崩すことができて満足してるよ」

「減らず口だねぇホントに。1秒後にくたばってもおかしくないくせによく言うよ」

「はぁ、はぁ……ゴホッ、そう簡単には楽なってやらねぇよ……」

 

 

 

 

「なんですか、それ……」

 

 

 

 

「えっ……?」

 

 

 いきなり侑が口を開いた。さっきまでの険しい表情がより一層強くなっており、誰の目から見ても怒っていることが丸分かりだ。コイツさっきからずっとこんな感じだったから、心配しかしていない他の奴らとは違って何か別に思うところがあるのか。1人だけ全く異なる雰囲気を発しているので、みんなの目もコイツに集中していた。

 

 

「どうしてそんなに強がっているんですか……? 苦しいなら苦しいって、言えばいいじゃないですか……」

「別に強がってなんかいねぇよ。俺がここで嘆いたところで、お前らが何とかできる症状でもないだろこれ。だったらお前らを余計に心配させる必要はねぇってことだ」

「またそうやって……」

 

 

 侑の身体が震えている。さっきよりも明らかに増した怒りモード。どうやら俺の発言が起爆剤のスイッチを押してしまったらしい。

 そして侑は目を見開き、圧倒的な目力で俺に詰め寄って来た。

 

 

「どうしていつもいつもカッコ付けたがるんですか!! 私たちには何か困りごとがあったらすぐに言えってキザったらしく言ってるくせに、自分の苦しいことは隠すなんて意味分かんないですよ!!」

 

 

 遂に侑の感情が爆発した。普段こんな大声を上げない奴なので歩夢たちも目を丸くして驚いている。

 確かに俺は人の心の奥に探りを入れたりはするけど、自分から自分を話すことはあまりしない。だからこそコイツからしてみれば『自分のことだけは隠している』と捉えてしまっても仕方がないか。

 

 

「お兄さんはいつもそう。無駄に自信家で、傲慢で、カッコつけて、それらしい言葉でいつも私たちを言いくるめて。言葉巧みにこっちの心を引っ掻き回して、心に土足で踏み込んで、そして全てを知られて……。なのにそっちが大変な時は私たちに本心を伝えないで、心配をかけまいとずっと笑って……。そんなお兄さんにどれだけ振り回されてきたか、私の気持ちが分かりますか!?」

 

 

 俺にここまで感情的に自分をぶつけてくる侑は初めて見た。いつもだったら憎まれ口を叩くくらいで流してくるのだが、やはり心の中では鬱憤が溜まっていたんだろう。そして今回俺がピンチになり、それでも俺が余裕そうに装っているのを見てその鬱憤が破裂した、ってところか。コイツの言うことも、そういった感情を抱くのももっともだな。

 

 

「心配してくれていたのか、俺のことを……」

「当たり前ですよ! 秋葉さんからお兄さんの症状を聞かされた時からずっと! 一緒にいる時も1人でいる時も、お兄さん大丈夫かなってずっと考えてました! それ以前からお兄さんのことを考えることが増えてきて迷惑してたのに、最近はそれ以上になっちゃって迷惑どころじゃないですよ!! でも私からお兄さんの病気を治すために直接的な何かをしてあげられない。だからせめてもと思って身の回りのお世話をしていたんですから……」

 

 

 なるほど、最近やたら俺に構ってきていたのはそのためか。口うるさく世話を焼いてきているとは思っていたが、まさかそこまで考えてのことだったとは。俺に対してだけは素直になれないコイツだからこそ、それこそが自分にできる最大限だったのだろう。

 

 それにしても、ずっと俺のことを考えていたのか。顔を合わせるたびに体調の心配はしてくれていたけど、それ以上の言及は特になかったのでそこまで気にしていないものとばかり思っていた。だけど1人の時にまで俺を気遣っていたらしく、そこは素直に嬉しさしかない。とんだお人好しだとは思ったけど、コイツらが俺にお人好しと言い張る気持ちがようやく分かった気がするよ。こんなに自分のことを考えてくれている奴がいるんだなって。

 

 

「こっちがこれだけ迷惑してるのに、体調を気遣っているのに、いつもいつも返ってくる言葉が『心配すんな』なんて、そんなので気が休まるわけないじゃないですか!! 心配しますよそれは!! そして案の定高熱が出て、呼吸も大変そうで今にも倒れそうで、それでもなお私たちを心配をさせまいと考えてるのどうかしてますよ!!」

 

 

 ごもっともだ。何1つおかしなことは言ってないし、彼女の言いたいことも分かる。むしろコイツの主張こそが一般的だろう。命の危険がある本人がヘラヘラしていたら、そりゃ事情を知ってる他人の方が気が気ではなくなる。今の俺のように明らかに苦しいのに余裕を見せつけ、その空元気っぷりに見ている方が焦るのは当たり前だ。

 

 

「苦しいなら苦しいって言ってください! だからと言って私が何か効果的な治療ができるわけでないですけど……。でも、手を握ってあげるとか、お兄さんの心配を払拭させることくらいならできます! これまで私たちがお兄さんから受けた優しさを、こういう時にこそ返したいんです! だからいくらでも心配をかけて欲しいんです!!」

 

 

 侑の目尻から涙が零れている。感情的になり過ぎて涙腺が緩んでしまったのだろう。両手で俺の着ている病院着の胸元を掴み、思いの丈を吐き出すたびに俺の身体を揺らす。病人をそんな激しく揺さぶるのは良くないと周りにいる歩夢たちや秋葉も分かっているが、侑の言っていることも理解できるので心配そうにしていながらも傍観しているようだ。

 

 侑のその表情と行動だけで、これまでコイツの中で抑圧されていた気持ちがよく伝わって来た。どんな思いで俺の身の回りの世話をしていたのか、どんな気持ちで俺の体調を心配してくれていたのか、想像するだけで感極まってくる。この大切な想いは受け止めねばならず、決して無下にはできない。

 それになにより、侑がここまで純粋に俺のことを気にかけてくれて嬉しいんだ。お互いに相棒ポジションとして隣にいる宣言はしたけど、こうやって腹を割った声を聞ける機会はなかったからな。つまり俺を信頼してくれているってことで、出会った当初に俺に抱いていた評価と比べると大きな差だ。

 

 コイツは俺のことを大切に想ってくれている。だから彼女の主張は受け入れる。

 

 だからこそ、俺は――――

 

 

「バカ、お前にだって心配かけたくねぇに決まってんだろ……」

「え……?」

 

 

 

 

「好きだからだよ、お前のことが。歩夢たち(コイツら)と同じくらいに、ずっと笑顔でいて欲しいって思うくらいにな」

 

 

 

 

「ッ……!?」

 

 

 侑の険しかった表情が崩れ、目を大きく開ける。周りにいる秋葉や歩夢たちも突然の爆弾発言に唖然としていた。

 

 

「好きだから、心配をかけたくねぇんだよ。お前の気持ちは良く分かる。でも俺だって俺の信念がある。だから目の前で辛い状況があったとしても、少しでも、ほんの少しでもお前には笑顔でいて欲しいんだ。迷惑をかけたっていい、悩みを与えてしまってもいい、涙を流させてしまってもいい。仮に俺が弱気になったらお前ずっと笑顔を見せないだろ。心配してくれるのはとても嬉しいけど、辛そうなお前を見たくない。だからちょっとでも強がっちゃうんだよ。それで僅かにでもお前に安心を与えられたらってな。ま、俺のワガママだよ、結局さ……」

 

 

 隣にいる女の子たちには笑っていて欲しい。それだけが俺の唯一の夢だ。そのためには体調不良であっても気取ることを辞さない。少しでも元気な姿を見せて安心させたい。本心をありのまま伝えろと言われるかもしれないし、そっちの方が一般的なんだろうけど、さっきも言った通り俺はワガママだからな。一般論なんて通用しないし、俺の目指す夢のためなら常識だって破ってしまう。いつものことだ。女の子の笑顔を見たいって気持ちは、間違いじゃないだろ?

 

 侑が俯く。前髪で隠れて表情は読めない。だがさっきまでの身体の震えは止まっていた。

 少し経った後に顔を上げる。そこにはさっきまでの険しい表情はなくなり、逆に呆れ半分と笑み半分で涙を流していた。

 

 

「もう、バカはそっちですよ……。そんな告白をされたら、もう何も言えないじゃないですか……」

「何も言わせねぇよ。俺の世界に踏み入ってるからには誰の意見が正義なのかって、考えなくても分かるだろ……ゴホッ、はぁ、はぁ……」

「そんな汗だくで息も切れながら言ってもカッコよくないですよ、ふふっ。もう、ホントに迷惑な人なんだから」

 

 

 笑みを浮かべながら言っても説得力ねぇぞ……。

 ただ笑顔を見せるってことは、コイツの中で何か心境の変化があったのだろう。それか俺があまりにも常識外れな告白をしたから呆れて笑みが出てしまったのか。どちらにせよさっきの仏頂面よりこっちの顔の方が何百倍もいい。

 

 と、イイ感じに話が進んでいるが、根本は何も解決していない。カッコつけたつもりでも高熱と倦怠感が半端なく、今にも意識がぶっ飛びそうなのは変わらない。さてどうすっかなこれ……。

 

 

「秋葉さん。思いついたことを試す前に、1つだけ私にも試させてください」

「ん? いいけど、一体何をするの?」

「ちょっと……ね」

 

 

 ヘッドで上体を上げて座っている俺に対し、その隣に立っていた侑は更にこちらに近づいてくる。

 そして腰を折り、目を瞑り、その顔を俺に近づけてくる。もしかしてと思った瞬間―――――侑の唇が俺の唇に押し付けられた。

 

 

「んんっ!?」

「んっ……」

 

 

 キス……してる? 俺と侑が……!?

 侑が俺を異性として見ているかは定かではない。でも好きでもない奴にキスなんて普通はしないはずだ。ということはこれが侑の想いなのか……?

 そんな感じでもう意識がぶっ飛びそうとか忘れ、彼女から与えられた突然の気持ちにただただ困惑するしかなかった。キスするときは大抵相手の女の子とお互いの愛を確かめ合う目的なので、お互いにお互いが好きだってことが分かっている状態。だからこそ、愛を確かめ合ってもないのに彼女がキスしてきたことに驚いているんだ。

 

 侑は息と声を漏らしながら俺の唇に吸い付く。初めてで力加減が分かっていないのか、少々力が入っているように感じる。だけどその初々しさこそ侑のファーストキスだということを物語っており、それを奪えた(状況的にはキスされた側だけど)のは自尊心が高まる。ただ今のコイツがどんな気持ちを抱いているにせよ、その唇を俺に捧げてくれたことを嬉しく感じた。

 

 ちなみに秋葉や歩夢たちも俺と同じく唖然としていた。俺たちがいつそんな関係になったんだと聞きたそうな顔をしていたが、そんなこと俺の方が聞きたい。ただ疑問に思っても流石にこの光景に水を差す奴はおらず、顔を赤くする者、食い入って見つめる者、興味深そうにする者など、反応は様々だ。

 

 キスの味は甘い。今までに味わったことのない初めての味だ。これが侑の味なのかと俺の脳と身体が記憶し始める。

 そして相棒の関係を結ぶくらいなので元々相性が良かったのか、俺も無意識のうちに彼女を求めているらしく、こちらからも口付けを強くしていた。侑もそれに気付いたのか、今度は俺からの唇を受け入れる体制となり、いつの間にか俺たちはお互いに抱き合っていた。

 

 そしてしばらくして、俺たちは唇を離す。そこそこ濃厚だったためかがお互いの唇から唾液の糸の橋がかかっており、見た目かなり淫猥だった。

 

 

「んっ、くっ……」

 

 

 そのキスを終えた瞬間だった。一瞬熱がまた上がったかと思ったら、その後すぐに熱が引き始めるのを感じた。絶え絶えだった息も整ってきて呼吸がしやすくなり、疲労感も倦怠感も薄まっていく。プラシーボ効果かもしれないが、さっきよりも明らかに楽になっている気がした。もしかしてこのキスこそが最後の治療法だったのか。

 

 そして、眠気に襲われる。でもこれは疲れによる眠気ではなく、気持ち良さによるものだと察する。侑とのキスがまさか特効薬になるなんてな……。

 

 

「なんか一気に楽になってきた。ちょっとだけ寝かせてくれ」

「はい」

「ありがとな」

「いえ、普通のことですよ」

「それ俺の言葉だろ」

「お返しです♪ ふふっ、それではおやすみなさい、お兄さん」

 

 

 侑に手を握られながら、俺は眠りに落ちた。

 その時に見えた侑の顔も、そして歩夢たちの顔もみんな安心に満ちた微笑みが広がっていた。

 

 

 そんな光景を見ていた秋葉は――――

 

 

「思いついたたった1つの方法、それは13人目のキスが必要だってこと。同好会でまだ彼とキスしていない子は……って言おうとしたら、まさか自分から進んでやっちゃうなんてねぇ。やっぱり私の見込んだ女の子だよ、侑ちゃん。そして――――ありがとう、零君を治してくれて。もう既にお似合いだよ、あなたたちは」

 

 

 同好会の全員と愛を確かめ合い、ようやく事態は終息した。

 




 そんなわけで侑のメイン回でしたが、まさかキスするとは……。自分で描いておきながら最後の最後のサプライズに自分で驚いたりしています(笑)
 今回は零君視点だったので、彼の突然の告白を受けて彼女がどう思ったのかは現時点では不明ですが、それは次回で触れようかと思います。

 零君が患っていた症状もようやく治りました。今思えば13人とキスして治る病気ってハーレムモノくらいしかできないので、この小説の性質を活かせたかなぁと勝手に思っています(笑)



 そしていよいよ、次回が虹ヶ咲編2の最終回となります。
 是非最後まで楽しんでいってください!



 以下、今後の予定です。

・3/20(月) 虹ヶ咲編2 最終回
・3/27(月) 虹ヶ咲編2 特別番外編
・4/3(月) 新章突入



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【最終話】Colorful Dreams! Colorful lovers!

「ふわぁ~……」

 

 

 あまりにもいい天気、あまりにも平和なひと時に思わずあくびが出る。

 例の症状でぶっ倒れた日の翌日、紆余曲折あって熱が引いた身体は翌朝になるとすっかり元通りとなり、今までかつてないほどの健康具合だった。今朝ほど気持ちよく目覚められた日がかつてあったかどうか疑うレベルで身体も回復しており、いつも俺を起こしてくれる妹の楓が来る前に起きてしまったため逆に異常がないか疑われたほどだ。

 

 かくして、いつも通りの体調、いつも通りの日常に戻って来たので、今日もいつも通り虹ヶ咲へコーチをしに来ている。最近はずっと体調を崩していたためか、万全な状態となった今だとこうして歩いているだけでも周りの景色が明るく見える。みんなに心配をかけないように症状を黙っておこうと、ずっと抱え込んでいたストレスが解放されたってのもあるかもしれない。なんにせよ、人間は健康が一番ってことだな。肢体が満足に動くってことも、食欲があるってことも、性欲があるってことも健康あってのことだから。

 

 

「気が抜けてますね、お兄さん」

 

 

 そして俺の隣を歩く黒髪のツインテールで毛先が緑色のコケ……じゃなくてグラデーションをした、スクールアイドル同好会のマネージャーである高崎侑だ。顔よし、性格よし、スタイルそこそこ(他の2年生組が規格外すぎるだけ)、最近は俺の指導によってマネジメント能力もめきめき上昇しているため、今となっては助手として隣に置きたい女の子No.1だ。実際にかつて相棒の契りを交わしたので、俺もコイツもお互いが隣にいて然るべきという認識となっている。そのせいで歩夢たちからはよく夫婦とからかわれ、侑が全力否定するのがド定番となっていた。

 

 そんな侑は呆れ顔で俺を見上げる。(この身長差がちょっといい)

 

 

「そりゃ気も緩むだろ。身体も元通りになったし、また色々と手に入れちまったしな。お前とか」

「私って……。まさかキスしたことで、私がお兄さんに恋をしているとか、よもや恋人になったとか思ってるんですか……?」

「違うのか?」

「ち・が・い・ま・すぅ~!! あ、あれは治療の一環で、そうっ、人工呼吸をしただけです!」

「顔真っ赤だぞ」

「ぐっ……!!」

 

 

 いくら取り繕っても、どんな理由を並べようとも、俺とキスをしてしまったことには変わりない。しかもコイツがデカい声で言い訳をする時は、大抵自分の羞恥心を悟られぬようにしたい時と相場が決まっている。まだ出会ってから半年も経ってないんだけど、一緒にいる時間が長すぎてコイツの思考なんて全部読めるようになってんだよな。

 

 

「お前がなんて言おうと俺が全てを手に入れてしまった事実は変わらない。医療行為だろうがなんだろうが、お前には俺との唇の感触がずっと記憶と感覚に残り続ける。つまりお前は一生俺のことが頭から離れなくなったわけだ」

「なぁ~にをさっきからイキリ散らかしてるんですか。今にも死にそうになっていたくせに。誰のおかげで助かったと思っているのか、もう一度考えたらどうですか」

「はいはいお前のおかげだよ。ありがとな」

「頭撫でないでください!」

 

 

 侑の脳天を手のひらで掻き回してやったら即座に弾かれた。誰のおかげなのかと聞かれたからお礼を言ってやって、しかも感謝を示すために撫でてもやったのに拒否するとかそりゃねぇだろ。どうやら羞恥心を堪えるので精一杯で感情が乱れているらしい。多分だけど、1人でいる時は俺とのキスを思い出して『どうしてあんなことしたんだろう』って悶えてんだろうな。甘酸っぱいね、女子高生の恋愛ってのは。

 

 

「昨日のキスが治療だって言い張るのならそれでもいいよ。でもあの時に言った言葉は本当だから。俺とのキスなんて忌むべき過去だって思ってくれてもいいけど、気持ちだけは受け止めてくれると嬉しいかな」

「な、なんですか急に……」

「お前のことも好きだってことだ」

「な゛っ……!? そ、そんな何回も言わなくていいですって!!」

 

 

 慌ただしい中での告白は気持ちがより相手に伝わりやすいと聞く。俗に言う吊り橋効果ってやつだが、コイツもその効力にまんまと引っかかったみたいだ。もちろんそんな効果なんて狙わなくても俺はいつも自分の気持ちを素直に伝えているつもりだけどな。ただ恋愛未経験者にとって年上の男からの告白は威力が強すぎたらしい。

 

 侑は昨日の俺の言葉がフラッシュバックされたのか、顔を赤らめたまま唸っている。治療とは言え男とキスをするなんて並大抵の覚悟でないとできないし、あの時は俺からの告白を受けて一応自分の中で納得と決心をしてからキスしたのだろう。だけどあの時はあの時、今は今。落ち着いた今だからこそ昨日の自分の決断を冷静に振り返り、そして恥ずかしさに苛まれているに違いない。

 

 

「私だって……」

「ん?」

「す、好き……うぐっ、き、嫌いではないですよ、お兄さんのこと……」

「なんだよ釈然としねぇな」

 

 

 最初普通に言えたと思ったのに、やっぱり気恥ずかしさが先行したのか無難な回答に戻しやがった。恋愛絡みでなければコイツは素直に自分の感情を表に出すタイプなので、ここまで誤魔化しを入れるのはやはり恋煩いのせいだろう。ま、恋愛初心者の女子高生なら当然か。しかもコイツの中では俺に素直になったら負けと思ってる節もあるみたいだしな……。

 

 

「で、でも、ウソをついた気持ちのままでは絶対にキスはしないです! 嫌いってこともウソでは言わないし、それにさっきの好きって言葉もウソでは言わないですから! はい、この話はこれで終わり!」

 

 

 なるほど。めちゃくちゃ遠回しな言い方だけど、結局自分の言葉や行動は事務的やお情けはなく本当の気持ちだってことだろう。普段はトキメキを感じたら即行動の前向きキャラなのに、ここまで不器用になってしまうのは俺のことをそこまで考えてくれているってことか。本当に面白いよ、コイツは。

 

 

「ど、どうして笑うんですか!!」

「いや別に。ま、これからもよろしく頼むよ」

「なんですかもうっ……。仕方ないので一緒にいてあげますよ、これからも」

 

 

 キスもして、お互いに好きを確かめ合ったのにお付き合いはしない謎の関係。でも俺たちはこのままでもいい気がする。恋人同士ではない、パートナーとしての別の絆が繋がっているから。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零! もう具合は良くなったみたいね!」

「うおっ!? ランジュ!?」

 

 

 別の用事で音楽室へ寄っていくと言って侑と別れた直後、後ろからランジュがタックルするかの勢いで抱き着いてきた。

 相変わらずの無防備であり、その年齢には相応しくない巨大な胸を俺に存分に押し付けてくる。もちろん天然混じりのコイツに俺を誘惑しようって意図はないだろうが、この前のホテルでの件を思い返すとコイツも性的なことに興味を持ち始めている気はする。エッチな子は好きな部類だけど、何色にも染まってない子はそのままでいて欲しいって思いもあるから悩ましいな……。

 

 

「おかげ様で良くなったよ。むしろ人生で一番の健康状態かもしれないってくらいに元気かな」

「それにしては気ダルそうな顔してるわね」

「それはいつものことだ」

「どんな顔の零もカッコいいから、アタシは大好きよ!」

 

 

 後ろから抱き着きながら、俺の肩越しににっこりと笑うランジュ。

 コイツ、俺が何をしても肯定してくるよな。俺のやることなすことに何にでも興味を持ち、そして褒めてくれる。それは俺に限った話ではないが、これは全肯定のランジュと言われても仕方がない。生まれながらの全肯定ウーマンであるエマに並ぶ時も近いかもしれない。

 

 

「ランジュ。また零さんにご迷惑をおかけして……」

「栞子か。いや別に迷惑ではないが」

「そりゃそれだけ大きな胸を押し当てられてたら、零みたいなドスケベにとってご褒美だろ」

「ミア……。相変わらずの口ぶりだなお前も……」

 

 

 いつの間にか栞子とミアもやってきた。

 思えばコイツらが3人で俺の前に登場する時って、いつもランジュが先に飛びついてきて、その後に2人がやって来るシチュエーションな気がする。もはやトリオでしっかりキャラ付けが決まっていて、ランジュが突っ走る役、栞子がツッコミ役、ミアが呆れる役と言った感じ。R3BIRTHのユニットを結成してまだ間もないってのに、1人1人のバランスとボケとツッコミによる絆の強さは既に形成されているようだ。

 

 

「アナタたち、アタシが零に抱き着くといつも迷惑だ~とか言ってるけど、指を咥えて見てるのがイヤならアナタたちも抱き着けばいいじゃない」

「私たちが負け惜しみを言っているみたいに言うのはやめてください! それもこれも零さんにご迷惑をおかけしていないか心配しているだけで……。ミアさんも何か言ってあげてください」

「そうだな。今更恥ずかしがることはないんだし」

「えっ……?」

 

 

 栞子の隣にいたミアが俺の左隣にまで歩み寄り、何と俺の腕に絡みついてきた。

 あっという間に仲間がいなくなって目を丸くする栞子だったが、もちろん俺だって驚いている。コイツは自分からあまり積極的には動こうとせず、むしろ俺にいきなり抱き着くランジュを咎める役、つまり栞子側だった。ただ今は何の恥ずかし気もなく俺の腕に抱き着き、それどころかこれくらい普通といった態度だ。俺の隣にいるのも、抱き着くのも当たり前と言わんばかりに……。

 

 

「ミ、ミミミミミミミアさん!? 何故!?」

「何故って、もうキスした仲なんだし別にこれくらい普通だろ。それにステイツではハグくらい挨拶みたいなものだから」

「キスをしたからって、そんなに気安く触れていいわけでは……」

「唇同士で触れ合ったんだし、身体でぎゅ~ってするくらい栞子にだってできるわよ。アタシだってできているんだもの」

「ランジュは見境がなさ過ぎるんです!」

「ディスられてるみたいだよ、ランジュ」

「それほどでもないわよ」

「褒めてません!!」

 

 

 漫才しに来たのかコイツら。人を取り囲みながらコントしてんじゃねぇよ……。 

 それはともかく、どうやら栞子はまだ俺と身体的接触をするのは恥ずかしいらしい。普段からスキンシップの激しいランジュや、アメリカではハグやキスが日常的なミアとは違い、本人の真面目な性格も相まって物怖じする理由は分かる。しかも相手が年上の男だしな、緊張もするだろう。あの時に抱き合ってキスをしたのも満開の星が広がる夜空の下ってシチュエーションであり、そのロマンあるムードに後押しされたってのもあった。そのため改めて抱きしめ合うとなると怖気づいてしまうのも仕方ないだろう。

 

 ただ抱き着きたくないと言ったらそうではないようで、さっきからチラチラとこちらの様子を窺っている。どうやら俺の反応を見てコイツらと同じ行動をするのか迷っているようだ。

 ったく、面倒な奴だな。

 

 

「いいよ別に。そもそも迷惑がってないって最初から」

「そうそう、零の懐の広さは無限大なんだから! それこそ女の子が何人抱き着いてきてもしっかり受け止めてくれるわよ!」

「信頼が厚いのは嬉しいけど、流石に潰れるからやめてくれ……」

「そ、それでは右腕に失礼しても……?」

「いいよ。校内だったらお前みたいな謙虚な奴の方が逆に珍しいからな」

「なるほど……。それでしたら行きます!」

 

 

 腕に絡みつくだけでどれだけ気合を入れるんだよ……。とは言いつつも、さっきも言った通り彼女のド真面目な性格を考えるのであれば男に触れるってだけでも大仕事なのだろう。

 栞子はおずおずと俺の右腕に抱き着く。他の2人とは違って抱き着くとは言っても触れるくらいだが、それでも俺と触れ合った瞬間から安心した表情となっているため、やはりコイツも心の奥底では俺を求めていたのだろう。そりゃキスした仲だしな、もうただの男女の関係ではない。

 

 

「零さんって、温かいですよね。心も身体も……」

「そうなのよ! 零を目撃した瞬間にこうして後ろからガバって抱き着いてしまう衝動に駆られるわ。もしかしたらそういうフェロモンが出てるのかもしれないわね」

「そいえば璃奈がモノづくりをする時は零の膝の上でプログラミングすると捗るって言ってたし、ボクも作曲する時は零を椅子にしてみようかな……」

「お前ら言いたい放題だな。もっと好きな男を敬うとか、敬愛的なモノを感じさせろよ……」

 

 

 ランジュに悪気がないのも分かってるし、ミアも膝に乗せて欲しいって意味なんだろうけど、捉えようによっては俺が女子を狂わせる匂いを発していたり、俺が女の子に座られることが好きなMプレイ信者とも思われる。てかそうとしか思えないニュアンスだったからツッコミを入れたのだが……。

 対して栞子は何故かうっとりしている。さっきまで抱き着きを咎めていたコイツはどこへ行ったのか、一度(たが)が外れると男に没頭するタイプか。確かに純粋過ぎるが故に恋愛と言う新たな快楽を知るとどっぷり浸かりそうなタイプではあるな。

 

 それにしてもこの廊下の真ん中で3方向から擦り寄られてると――――歩けねぇ……。

 

 

「こうして零に抱き着いてると、キスした日のことを思い出しちゃったわ。もう今日はこのまま帰ってあの日の続きをしましょうか! 栞子とミアも来なさい!」

「もしかしてそれって乱交ってやつか。ボクには無縁の言葉だと思ってたけど、遂に該当者に……」

「えぇっ!? 私たちと零さんが……!?」

「もう恋人みたいなものだし、当然よね」

「いやいやお前らユニットライブの申請書を生徒会に出しに行くんだろ!? その後も練習があるってのに!」

「あら、みんなとはヤってるのにアタシたちとはイヤなの?」

「ちげーよ。何度も言ってるけど俺は雰囲気重視派。そんな軽いノリでやったりしねぇだけだ。いつも言ってんだろ」

「分かってるわよ」「分かってるよ」「分かってますよ」

 

 

 3人に一斉に笑われる。もしかしてからかわれてるのか? それくらいお互いの距離が縮まったと思えば聞こえはいいが、まぁ焦らずとも()()()()()()()をする機会はいくらでもあるだろう。もうずっと一緒なんだからさ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 ランジュたちから解放され、ようやく同好会の部室にまで辿り着いた。虹ヶ咲の校内は地球上のどこよりも女の子に絡まれる率が高く、目的の場所へ行くまでに相当な時間を費やすことも多々ある。そしてさっきみたいな身体接触が多いと無駄に体力を消費させられるため、そういった意味ではここ数ヶ月で自分のHPが大幅に上がった気がするよ。流石に何度も何度も四方八方から抱き着き攻撃を受けてたら耐性もできるって。

 

 そんなことを考えながら部室のドアを開くと――――

 

 

「零さん退院おめでとうございま~す♪」

「えっ、かすみ!? ぶはぁ!!」

 

 

 ドアを開けた瞬間にかすみが懐に飛び込んで来た。なんとか受け止めることには成功するが、その勢いが強すぎて多くの息が漏れる。

 徐々に落ち着いてきたので部室を見渡してみると、謎に飾りつけされていることに気が付く。そしてホワイトボードには『零さん元気になった記念!!』とでかでかと書かれていた。

 

 

「どういうことだよこれ。てか退院って、別に入院してねぇぞ」

「細かいことはいいんですよ!」

「実はかすみさんの発案で、零さんがお元気になられた記念のパーティを開くことになったんです」

「それでみんなで準備した。この飾りつけも、この料理も」

「マジかよ……」

 

 

 まるで誕生日や入部歓迎などのお祝いかってくらいに装飾も料理も豪勢だ。たかが風邪のような症状から復帰しただけなのにここまでやってくれるなんて、それほど俺のことを心配していたのだろう。でもそれくらいでパーティを開くって如何にもお人好しでお祝い好きなコイツららしい。誰かの誕生日とか、ライブの打ち上げとかも結構豪勢にやるからなこの同好会。

 

 

「ほら零さんこっちに座って座って! 愛さんたちが作った手料理をご堪能あれ!」

「私も腕によりをかけて作りました! 久々のお料理、楽しかったです!」

「せ、せつ菜が作ったのか……?」

「安心してください。私がせつ菜ちゃんの隣にいたので、変な味付けにはなってないかと」

「あぁ、助かるよ……」

 

 

 2年生組に促されて椅子に座らせられる。いわゆるお誕生日席ってやつだが、ここまで注目されると流石の俺でも恥ずかしいんだけど……。

 愛の料理は相変わらずの得意料理の和食。そしてせつ菜もお得意の紫が入り混じった汚料理――――ではなく、歩夢の監修があったためか見た目はかなりまともだった。あとはエマやかすみが作ったであろうお菓子など、みんなの得意分野の料理がテーブルに所狭しと並べられていた。もうコイツらだけでコース料理を提供できるんじゃないかってくらい豪華だな……。

 

 目の前のご馳走に圧倒されていると、またさっきみたいに誰かが後ろからのしかかってきた。

 

 

「あ~これこれ~。零さんの温もりが帰ってきて彼方ちゃん嬉しいよ~。最近の零さんはちょっと体温が低かったからね~」

「彼方か。まあずっと体調悪かったからな……」

「彼方ってば料理に本気を出しすぎて疲れちゃったから、ずっと零さんのことを待っていたのよ。こうして抱き枕にするためにね」

「それだったら私も疲れちゃったから、零さんに甘えてみようかなぁ~なんて。失礼しま~す♪」

「お、おいエマ……」

「あら、だったら私も」

「おい!?」

 

 

 あまりにも積極的な3年生組に驚いている間に取りつかれてしまった。こうなったら飯食えねぇだろと思ったけど、どうやら食べさせてくれるみたいで……。いやもう病人じゃないからそんな介護いらねぇけども。と言ってもコイツら今テンション爆上がりしてるし、止めようにも止めらんないんだろうな……。

 

 

「エマ先輩たちズルいです! 最初はかすみんが食べさせてあげようと思ったのに!」

「弱肉強食の世界って怖いわね」

「むぅうううううううううううううううう!!」

「そうだよ、かすみさん。私だってうかうかしてられないかな。零さん、次は私の手料理を――――」

「私も……この璃奈ちゃん印のハンバーグを、どうぞ」

「みんなに抜け駆けされた!? こうなったら割り込んででも!!」

「ちょっ、待てって!!」

 

 

 なんかコイツらの目の色、いつもと違うんだけど!? 最近は体調が悪そうにしていたから激しく絡むことは遠慮していたけど、元気になったのを機にこれまで抑えつけていた鬱憤をここで発散しているようだ。俺の中で女の子の愛を受け止める器が広がったのはいいけど、今度はコイツら自身が俺への愛情を抑え切れなくなってないか……? いつもの俺が帰ってきて嬉しいのは分かるけど、その興奮具合はもう俺1人では宥めることができそうにない。

 

 

「あははっ、みんな盛ってるねぇ~♪ 歩夢とせっつーは加わらなくていいの?」

「そうしたいのは山々だけど、もう零さんの空き場所が……」

「そうですね。皆さんに囲まれ過ぎて、零さんの身体が全然見えなくなっちゃってますし……」

「女の子たちに囲まれて外から中の様子が分からないって相当だよね。でもこれこそ零さんって感じ!」

「うん。女の子を侍らせてるのが似合うよね」

「アニメや漫画みたいなフィクションだとご主人様キャラはたくさん見ますけど、まさか現実で本物のご主人様を目の当たりにできるとは……。凄いですよ、零さん」

 

 

 なんか離れたところから2年生たちが俺を分析しているみたいだ。てかそんなことを言ってないでこの暑苦しい状況を何とかしてくれ。もちろん女の子たちに抱きしめられるのは自分が慕われていると実感できて嬉しいよ? だけど自分の身体のあらゆる部分が埋め尽くされているせいで、女の子たちの甘い匂いと熱い想いに圧し潰されてしまいそうだ。また熱上がるぞこれ……。

 

 

「ほら私たちも行くよ!」

「えっ、もう抱き着ける場所なんてないですけど……」

「大丈夫! 零さんの懐の広さなら9人くらい余裕余裕!」

「懐と言うより場所の問題だと思うけど……。でも、私も零さんに抱き着きたい! 元気になっておめでとうございますって言いたい!」

「歩夢さん!? み、皆さんがやるのであれば私も……」

「よし決まり!」

 

 

「お前らマジかよ!?」

 

 

 結局全員が参戦したせいで、誰がどこに抱き着いているのか全く分からなくなった。俺の身体の関節が変な方向に曲がっていてもおかしくねぇぞこれ……。

 ただ凄いことに、みんなの顔が全員分目視できる。さっきまで多少のポジション戦争はあったが、それでも俺に認識してもらえるように1人1人が配慮してこの配置となったのだろう。身体の肉付きが良いエマと彼方が枕になってくれて、身体が小柄なかすみや璃奈が手狭になる俺の肩~腕ポジションに陣取るなど、もはや事前に相談していたのかってくらいの完璧な陣形。これだけの人数でなくても一斉に抱き着かれることは過去に何度もあるので、コイツらも自分の適切なポジションがどこか分かってるのだろう。

 

 

「みんなにぎゅってされる気分はどうですか? 私もみんなもいくらでも抱きしめます。零さんになら、いつでも、どれだけでも」

 

 

 歩夢が問いかけてくる。

 ぶっちゃけると言葉にできないくらい気持ちいい。女の子特有の柔らかな身体で抱きしめられ、甘い香りが鼻腔を唆り、そして大好きを伝えてくれる。スクールアイドルとしてもそうだけど、一般女子の中でも最上級に位置する美少女たちにここまでの愛を受けるのは男としての自尊心も高まる。身体が震えるくらいに自分の立ち位置が最高級のものなんだと理解させられる。

 

 なるほど、秋葉が言っていた楽園ってこのことだったのか。もちろん分かってはいたけど、愛を受け止める器が大きくなった今だからこそ、これからもみんなからの愛を無尽蔵に受け入れて愛してもらう。そしてこちらからも愛する。終わることのない恋の連鎖。心を重ね合わせることも、唇を重ね合わせることも、身体を重ね合わせることも、心体全てを使って俺たちは愛し合っていく。誰にも邪魔されない無限の恋と愛。これが楽園なんだ。

 

 そんな快楽に浸っていると、部室のドアが開く音が聞こえた。

 

 

「あぁああああああああああっ!! みんなズルいわ! アタシを差し置いて零と愛し合っているだなんて!」

「いやさっき十分に甘えていたでしょう……」

「相変わらず騒がしいな……」

 

  

 ランジュたちが部室にやって来た。歩夢たちが隙間なく俺に抱き着いているせいで外からこっちは目視できないはずなのだが……まぁコイツらがこぞって抱き着く相手と言えば俺しかいないからすぐに分かるか。

 

 そして、もう1人――――

 

 

「はぁ……。お兄さんは結局お兄さんか。みんなもいつも抱き着いてるのによく飽きないね……」

「ねぇねぇ、侑ちゃんもこっちにおいでよ!」

「はぁ!? い、行かない!! それに、そういうのは2人きりでゆっくりとするものじゃん……」

「ん? 何か言った?」

「別に!!」

 

 

 部室内がより盛り上がる中、これにて楽園計画は完璧に成就された。

 新たに4人の女の子たちからの告白やキスを経て、俺も男としての器がまた広がった気がする。楽園のような幸せを感じられるからこそたくさんの女の子と恋愛するのはやめられないな。複数の女の子に手を出すクソやろうって思われてもいい、打算的な恋愛とか言われてもいい。たくさんの女の子を幸せにして、笑顔にして、そして相手から好かれまくって何物にも負けない優越感に浸る。国宝級の美女美少女に囲まれる最高の生活。これが俺の生き方。男として至福の幸福を手に入れる、それを叶える力が俺にはあるんだ、使わないと勿体ないだろう。

 

 

 これからも新しい女の子の出会いに期待しつつ、今は歩夢たちからの甘い恋慕に酔いしれ、楽園のトップとしての悦びに浸ろう。

 




 そんなわけで、今回が虹ヶ咲編2の最新回でした!

 以下、虹ヶ咲編2を完走しての私の感想を。

 これまでの章よりも短い話数での完結にはなりましたが、当初から予定していた栞子、ミア、ランジュとの恋模様、そして侑との関係のとりあえずの決着がつけられました。やりたいことが全部できたので、私的には大満足です!

 1つ心残りがあるとすれば、全体的な話数が少なかったために13人分の個人回を入れるとなると、それ以外の日常回があまり描けなかったことですかね。ハーレム描写もそこそこになってしまったので、せめてもの足掻きとして最終話はハーレム要素マシマシにしてみました(笑)
 そんな中でも新規キャラの栞子、ミア、ランジュは個人回も複数あり、メイン回も多くあったので、零君との関係性は皆さんの目に見える形で形成できていたかと思います。

 今回の虹ヶ咲編2ではキスがメインテーマとしていました。
 理由は歩夢たち初期キャラ9人の活躍の場を与えたかったからですね。歩夢たち9人は既に彼への好感度MAXで、しかも身体でやることもやっているのでもうこれ以上は日常回くらいしか活躍の場がないと思ったので、今回は零君のピンチをメインに取り入れた次第です。
 ただそれは表向きの理由で、実は前回で突如として行われた侑とのキスを描くためにこのテーマにしたってところが大きいです(笑)

 さて、これで虹ヶ咲編2は終わりとなります。
 恐らくアニメ3期が作られることはなく、これ以上メインキャラが増えるとも思えないので、虹ヶ咲単体で長編を作成するのはこれで終わりになりそうです。
一応今年に映画があるので、その内容次第では特別編で何か描くかもしれませんが、いったん虹ヶ咲の面々とはこれでお別れということで。

 そうは言いつつも1つ描きたいネタがあるので、次回は虹ヶ咲編2の特別編の予定です。ちょくちょく後書きに投稿していた『にじよん(この小説ver)』も、同時に来週完結予定です。

 そして4月からは新章突入ということで、是非ご期待ください!


 それではまだ特別編はありますが、虹ヶ咲編2の本編はこれにて終了です。
 皆さんここまでありがとうございました! また新章が投稿された際にはよろしくお願いいたします!

 今回分を含め、虹ヶ咲編2通してのご感想の投稿、および評価を入れてくださると嬉しいです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【特別編】侑とAqours

 後書きに、にじよんアニメ(この小説ver)の超短編(第10~12話)を掲載しています。
 是非最後までご覧ください!


「わぁ~っ! 海キレイですね!」

「だろ? 都会にいたら味わえねぇ感動だ」

 

 

 高咲侑です。

 今日はお兄さんの運転するバイクに乗ってとある場所――――『沼津』に来ていた。そして私は目の前に広がる海に輝きにとても心を動かされている。

 お兄さんの背中にしがみ付きながら、バイクで颯爽と駆け抜けるこの心地良い風、潮の香り、そして眼に映る雄大な大海原に思わず感情を揺さぶられていた。当初は普通に電車で来る予定だったんだけど、お兄さんがバイクの方が臨場感のある雰囲気を楽しめるからと勧められたので、最初は疑い半分でバイクに乗ってみたんだけど……うん、これで正解だったよ。窓越しでは見られない、風を切りながら見る迫力のある海の景色に目を奪われてしまう。

 

 

「もうすぐ目的地だ。そろそろ心の準備はできたか?」

「う゛っ、そう言われるとまだ……。景色のおかげで緊張を忘れられたと思ったのにぃ~っ!!」

「つうかお前、他のスクールアイドルと絡むことなんてザラだろ。合同文化祭の時とかお前主体で他校と打ち合わせしてたじゃねぇか」

「それは仕事9割みたいなところがあったので……。しかも今回は私もよく動画で観てる()()()()()だし……」

「そんな畏まるほどの地位の奴らじゃねぇから安心しろ」

「そりゃお兄さんはそうかもしれませんけどぉ!!」

 

 

 私のスクールアイドルのマネージャーとしての知見を広めるため、以前お兄さんが指導していたグループのところへ遠征する。というのが恐らく今日の目的(詳しく聞かされてはいない)。昨日いきなり沼津に行くからお前も来いと連絡を受けて渋々同行することになった。でも同年代のあのスクールアイドルに会えるとなると期待は高まっちゃうよね。

 

 だけど新しいスクールアイドルのグループに会うとなるとそれなりに緊張してしまう。もちろん楽しみも大きいんだけど、今日に限っては緊張が勝る。合同文化祭で参加交渉するのはさっきも言った通り半ば仕事みたいなところもあるから、こうしてプライベートで他のグループの人たちと一緒に遊ぶのはこれが初めてだったりする。そりゃするでしょ、緊張。

 

 しかもお相手はあのスクフェスも優勝し、今や全国的にも有名になっているグループ。歩夢たちももちろん凄いし、合同文化祭に参加してくれた東雲や藤黄も素晴らしい人たちばかりだけど、お兄さんの息がこれでもかってくらいにかかったスクールアイドルとなるとどうしても凄みが増す。以前にμ'sさんと突然出会って、しかも唐突に飲み会にお邪魔させてもらった時も緊張しっぱなしだったけど、今日も同じくらいドキドキしてるよ……。

 

 

「着いたぞ。ここだ」

「旅館? じゅう、せん、まん……?」

十千万(とちまん)な。相変わらず読みにくいな……」

 

 

 バイクが止まった先は十千万(とちまん)という旅館のようだ。古風だけどこういった雰囲気、私は好きかな。

 そしてヘルメットを外したその直後、旅館の扉が開いて橙色の髪と赤い瞳の童顔の女の子がこちらに駆け寄って来た。

 

 

「零さん久しぶりぃ~!! お元気でしたか? あっ、こちらは噂の高咲侑ちゃん!? わぁ~とっても可愛いぃ~~♪」

「ど、どうも……。って、もしかして――――高海千歌さん!?」

「うんっ! よろしくね!」

 

 

 顔をこちらの眼前にまで近づけてきたので思わず仰け反っちゃったけど、まさかあの『Aqours』の高海千歌さんだっただなんて――――緊張してるけどトキメいて来た!

 驚きで反応には出てないけど、内心では物凄く興奮してるよ! だってあのAqoursだよ!? スクールアイドルに興味を持ってからずっと動画で観てたあのAqoursが、まさか私の目の前にいるなんて感動するしかないでしょ!!

 

 そしていつの間にか、私は千歌さんにぎゅっと抱き着かれていた。

 うわっ、めちゃくちゃいい匂い――――って、これだとお兄さんと同レベルになっちゃうから余計な雑念は捨てろ私……!!

 

 そんな中、今度は2人の女の子がこちらにやって来た。

 

 

「もう千歌ちゃん、そんなに顔を近づけるからビックリしちゃってるでしょ」

「梨子ちゃん。だってこんなに可愛いんだよ! 抱き着かないなんてウソでしょ! ねぇ曜ちゃん!」

「そうだねぇ。これだけ可愛かったら色々とコスプレさせてあげたいよ!」

「曜ちゃん目がギラギラしてる……」

「いや可愛くないですって。皆さんの方がよっぽど……」

「可愛いよ! ねぇ零さん!」

「あぁ。でなきゃ自分の隣に置いてない」

「お、お兄さん……。もうっ……」

 

 

 可愛い可愛いっていつも私が歩夢たちに言ってることだから、こうして集中砲火を浴びると途端に恥ずかしくなってくる。なるほど、みんなが照れるのはこういうことか。攻撃されて初めて分かるこの羞恥心。みんなゴメン、これからはここぞと言う時に放つようにするから。

 

 

「相変わらず騒がしくて何よりだよ」

「零さんこそお変わりないようで」

「あぁ。あまり久しぶりって感じはしないけどな。テレビ通話で何度も顔を合わせてたし」

「でもやっぱり面と向かってみると久しぶりって言いたい気持ちも分かりますよ! 千歌ちゃんに負けないくらい私たちみんな会えるのを楽しみにしていたんですから!」

「そりゃありがとな。コイツ共々よろしく頼むよ。侑、コイツらが梨子と曜。ライブの動画で観て知ってんだろ?」

「はい。高咲侑です」

「零さんから聞いてるから知ってるよ。凄くいいパートナーだって」

「なんか変なこと言ってないですよねお兄さん……」

「睨むな。事実しか喋ってねぇから安心しろ」

 

 

 事実って、もしかしてキスしたこと話してないよね?? あのキスはお兄さんの体調不良を治すための治療、いわば人工呼吸みたいなものだったんだけど、お兄さんがそれを面白おかしく話して本気のキスと誰かに勘違いされたら困る。男女でキスしたとなればそりゃ本気だと勘違いされるのも無理はないし……。ただ100%本気じゃなかって言ったらウソにもなるけど……。とにかく、それで茶化されるのだけは避けたい! だって現在進行形で歩夢たちにはイジられてるし!!

 

 

「そういえば侑ちゃんずっと敬語だけど、同い年なんだしタメ口でいいよ! もっと侑ちゃんと仲良くなりたいしね!」

「そ、そう? なんだかいつも動画で観てる人たちと実際に会うってなると緊張しちゃって……。でもそう言ってくれるなら私も仲良くなりたいし、これからよろしくね。千歌ちゃん、梨子ちゃん、曜ちゃん」

「「「よろしく!」」」

 

 

 名前呼びになって距離が近づいたわけだけど、3人共いい人たちで良かったなぁって思うよ。いやお兄さんが指導していたスクールアイドルだからみんな優しい人たちだってことくらい知ってるけど、やっぱり直に会ってみないと分からないモノだってあるからね。フレンドリーなおかげで緊張はすぐに解れた。

 

 

「そういや他の奴らはどうした?」

「みんな旅館の大広間に集まってますよ。前に言っていた町おこしのポスターとか看板とか作ったり、ライブで着る衣装のアイデアを考えてます」

「町おこし?」

「観光地として全国から人に来てもらおうと必死なんだよ。ここド田舎だからさ。なぁ都会かぶれの梨子?」

「私まで巻き込まないでください!? そ、そんなこと思ってないですよ……?」

「なんか自信を持って言い切らないところが梨子ちゃんって感じ」

「素直になっていいんだよ、梨子ちゃん」

「千歌ちゃんも曜ちゃんもちょっと怖いよ!?」

 

 

 そういえばAqoursは1人だけ東京からこっちに引っ越してきてメンバーになった人がいるとどこかの記事で読んだような気がする。なるほど、それが梨子ちゃんだったんだ。

 そして笑顔を見せてるけど怒ってますよオーラを出している千歌ちゃんと曜ちゃん。冗談でも静かに怒ってしまうくらいにこの町のことが好きなのかな。バイクでこの旅館に来るまでに町の風景も眺めてたけど、確かに観光客を歓迎するようなポスターや看板、旗やお土産物がたくさん並んでいた。この町が好きなのは千歌ちゃんたちだけでなく、町の人みんなが抱いている思いらしい。なんかいいな、そういうの。

 

 

「じゃあちょっくら俺たちも手伝うか」

「え゛っ!? 正気ですか……!?」

「なんだよその反応……」

「だってお兄さんが進んで誰かのお手伝いをするなんて、明日は雨、いや氷柱が降りますよ!!」

「お前、俺をどんな目で見てんだ……」

「普段はみんなの練習を見ている時以外は大体どこかでサボってるのに、そんなお兄さんが町おこしのお手伝いだなんて……。別人ですか!?」

「失礼な奴だな……。たまにはいいだろ」

「まぁ、私はいいですけど……」

 

 

 もうそれなりの付き合いになってきたから分かる。お兄さんは突発的にこんなことを言い出す性格ではない。こんなことを言ったら怒られるかもだけど、本気の時は全力、手を抜くときはとことんサボる人だ。しかも自分の利益になること以外は興味を持たない人なので、いくら自分の指導していたスクールアイドルの住む町とは言っても、そこの町おこしに協力するなんて意外すぎる。

 

 そもそもだよ。お兄さんが今日私を誘った本当の理由は?? う~ん……。

 

 そんな疑問を抱えながら、千歌ちゃんの実家である旅館にお邪魔することにした。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「フッ、遂にできたわ――――究極の堕天使衣装!! 千を超える漆黒の羽と、堕天を表す割れた頭上リング、綻びたスカートに禍々しく尖ったブーツ! これで町、そして堕天使ヨハネとその眷属として注目を浴びること間違いなし! いいわよね、ルビィ、ずら丸!!」

「それ結局善子ちゃんが目立ちたいだけだよね……」

「しかもそんな恥ずかしい服、マルたちは着たくないずら」

「うぐっ……!! まだまだ眷属としての覚悟が足りてないようね…….。ん? ていうかヨハネよ!」

 

 

 町おこしライブのための衣装をスケッチブックに書いているのはAqoursの1年生。堕天使を称する顔が整った美人さんの津島善子ちゃん、小柄でくりくりした瞳でマスコット的な可愛さを持つ黒澤ルビィちゃん。そして特徴的な語尾と柔らかそうな身体をしていそうな国木田花丸ちゃんだ。ちなみにさっきAqoursと自己紹介は済ませてある。

 

 それにしても、さっきのやり取りだけでこの3人の関係性というか、力関係が分かった気がするよ。善子ちゃん、もといヨハネちゃんがボケて、ルビィちゃんが呆れて、花丸ちゃんがツッコミを入れる。いいコントを見せてもらってるよ、うんうん――――って、善子ちゃんに物凄くガン見されてるけど、もしかして声漏れてた……?

 

 

「アナタ、いい眷属になれそうね」

「へ?」

「その綺麗な黒髪にツインテール。魔力(マナ)の色をした緑のグラデーション。分かった、アナタはヨハネの眷属として生まれるべくして生まれた存在なのよ!」

「えぇっ!? 私が!?」

「侑さん、善子ちゃんの妄言に付き合ってたら日が暮れるどころか朝になっちゃうずら」

「妄想ではない、現実よ。この衣装を以ってこの町にヨハネが堕天するの」

「侑さん、ルビィたちと衣装案を見せ合いっこしませんか?」

「えっ、う、うん、いいよ」

「こら聞けぇ!!」

 

 

 なんだろう、初めて会ったのに凄く馴染めてる気がする。特に善子ちゃんはかすみちゃんに似た何かを感じてしまうので、だから扱いやすいのかもしれない。いや無下にしていいってことじゃなくて、ノリが似てるから……ね?

 

 そうやってイイ感じに雰囲気に溶け込んできたところで、ルビィちゃんの提案でスケッチブックに書いた衣装案を公開することになった。ぶっちゃけAqoursのみんなが着る衣装を私がデザインしていいのかと疑問だったんだけど、みんな揃って『零さんの隣にいる子なら大丈夫』と謎のお墨付きをもらった。お兄さんの隣ってどれだけ高く見られてるんだろう……。

 

 

「ルビィちゃんの衣装とてもアイドルっぽくて可愛いね!」

「えへへ、スクールアイドルが好きだから、色んな動画を見て勉強してるんだ」

「私もだよ! どのグループの衣装も可愛すぎてどんどんアイデアが浮かんでくるんだよね! でも花丸ちゃんの案みたいな落ち着いた和の衣装も好きかな」

「あまりアイドルには似合わないかもしれないけど、この町は古くからある建物も多くて古風な雰囲気があるから、町おこしにはいいかなって」

「うん、とってもいいと思うよ! 善子ちゃんのは――――うん、独創的」

「顔引きつってるわよ……。ていうかあなたの案も中々悪くないじゃない」

「これってテーマは――――海?」

「うん。ここに来る途中に海の雄大な景色に感動しちゃって、思わず衣装に盛り込んじゃった」

「ルビィも凄くいいと思う! 鮮やかな青がアイドル衣装として見ても可愛いし、青が基調だから落ち着いても見えるから」

「ルビィちゃんとマルのどちらのコンセプトにも合ってるね」

 

 

 ルビィちゃんと花丸ちゃんが私の両端から衣装案のイラストを眺めて目を輝かせる。うん、可愛い。

 私の衣装案は海のブルーを基調としたイラストで、ここへ来る時の感動をそのまま絵にしただけだ。Aqoursって名前の通り『水』を表す衣装としてもピッタリだと短絡的な考えを持っていたので、みんなに受け入れてもらえたみたいで良かったよ。

 

 

「ま、まぁ悪くないんじゃない」

「ま~た善子ちゃんのツンデレが発揮されてるずら」

「う、うるさいわね!!」

「ありがとう善子ちゃん! 是非参考にしてもらえると嬉しいな」

「な゛っ!? そんな明るい笑顔向けるんじゃないわよ全く……。町おこしのためだもの、ちゃんと参考にするから……」

 

 

 素直に褒められると弱いのもかすみちゃんに似てるなぁ。そういうところが可愛いから思わずからかいたくなっちゃうよ。

 それにしても、意外とと言ったら失礼だけど、1年生のみんなも町おこしのためにちゃんと考えてるんだね。コント見たいなやり取りをしていたから錯覚しがちだけど、衣装案のイラストを描いているときも町の人たちや観光に来た人たちにどう見てもらえるかを常に話し合って考えていた。善子ちゃんも堕天使衣装は完全な趣味だろうけど、町を盛り上げたいという意思はさっきの発言からあるみたいだ。とてつもなく堅い一体感を感じた瞬間だった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんなこんなで1年生との衣装アイデアの出し合いも終わり、次に3年生たちが作成している看板作りの現場にお邪魔する。

 すると目の前にはでかでかと煌びやかな装飾が付いた看板が置かれており、圧倒的な存在感を放っていた。

 

 

「あれ、もうできちゃってる……?」

「チャオー、侑。私がもうパパっとSpeedilyに完成させちゃった♪」

「いやいやしてないから。そんな都会のネオンみたいなギラギラ、明らかに町の雰囲気に合ってないでしょ」

「鞠莉さんに飾りつけ材料の調達を任せたのが愚かでしたわ……」

「あまりウケ良くないみたいですけど……」

「No Problem! 私たち親友だから、いつかきっと受け入れてくれるはず!」

「断じてないです!」

「このポジティブさは見習うべきなんだろうけどねぇ……」

 

 

 金髪のアメリカンハーフの小原鞠莉さん、黒髪が綺麗な大和撫子の黒澤ダイヤさん。そして妙に達観していてスタイル抜群な松浦果南さん。

 なんと言うか、3年生だからか知らないけどみんな綺麗だなぁって。ウチの3年生たち(ミアちゃんは除く)も個々人の雰囲気は違えどみんな姉オーラが出てるし、1年年代が違うだけなのに大人の女性って感じがするのは何故なんだろう。ていうか私、1ヶ月半後には3年生なんだよね。自分で言うのもアレだけどまだ子供っぽいし、みんなみたいな3年生になれるかちょっと気になってきた……。

 

 

「とりあえず鞠莉さんの案は一旦却下ですわ。目立たせたいって気持ちは分かりますが、町おこしなので雰囲気重視にしませんと」

「だったらダイヤはどんな看板にしたいの?」

「わたくしの書道の力を発揮する時ですわ。あとは海を押したいので、富嶽三十六景 神奈川沖浪裏の如く荒波の絵をここに刻むとしましょう」

「そんな壮大な絵、皆さん描けるんですか?」

「描けません。それはでダイビングショップの娘であり、海の申し子である果南さんがきっと描いてくださります」

「とんだ丸投げだねぇ……。ダイヤもダイヤでたま~に素っ頓狂なこと言い出すから困ったものだよ。侑ちゃんはこういう先輩みたいになっちゃいけないよ?」

「あはは……。でもお兄さんのいつも隣にいるので、いきなり変なこと言いだす人には慣れてます」

「「「あぁ~……」」」

 

 

 納得されてるよお兄さん!!

 やっぱりかつて指導されていただけあって、Aqoursのみんなもお兄さんの性格は熟知しているらしい。そして大体お兄さんを知るみんなから『零さんに隣に置いてもらえるなんて凄い!』と褒められつつも、『あの零さんの隣にいて耐えられているのも凄い』と言われたりする。どうやらお兄さんの隣にいると、お兄さんの超人的スキルとセンス、そして魅力に圧倒されて、自分が隣にいることがおこがましくなってくるらしい。私は全然そんなことないけど、どうやらお兄さんの隣というポジションはある意味で試練だそうで……。

 

 

「それで結局、果南に看板の絵を任せてOKってことでいい?」

「なんでそうなるの。別に絵のセンスがあるわけでもないし、せっかくだしここは侑ちゃんにお願いしようかな」

「えっ、私ですか!?」

「そういえば零さんが言っていました。『侑はピアノも上手で、みんなの衣装案を考える時のイラスト制作も手伝ってるから絵心もある。意外と多芸なんだよな』って」

「ちょっ、お兄さんめぇ……。確かに最近絵が上達してきたなぁとは思いますけど……」

「じゃあ任せたわ! 侑!」

「えぇっ!?」

 

 

 なにがせっかくなのかも分からないけど、突然町おこしの看板に絵を描く大役を任されてしまった。お兄さんは私のことを事実しか喋ってないって言ってたけど、事実だけどそれを拡大解釈される形で話されるのもどうかなぁって思うよ。お兄さんが評価してくれていること自体は嬉しいけどね。

 

 そんな感じで背中を押されたので、仕方なく海の絵を描くことにする。

 そして―――――

 

 

「Beautiful! 侑、あなたとても上手じゃない!」

「そ、そうですか? スマホで見た荒波の絵を少し模写しただけですけど……」

「十分ですわ! これぞわたくしの求めていた絵画そのもの!」

「これなら町の人にも受け入れてもらえるだろうし、観光しに来た人の目のも留まるだろうね」

「だったらいいんですけど……。皆さん、町おこしにとても熱心なんですね」

「うん。なんだかんだ生まれ育った町だし、私たちのスクールアイドル活動で活気づいている今だからこそ、みんなで一致団結してより地域を盛り上げないとね」

 

 

 先輩たちは今年度で卒業だから、なおさらスクールアイドルの間に地域を活性化させたい意識が強いんだと思う。お兄さんに聞いたところだと学校も統廃合になっちゃうらしいので、浦の星女学院のAqoursというあともう少しで消費期限切れになる肩書をフルに使ってみんな精一杯頑張っている。衣装アイデアや看板作りに半強制的に参加させられた時は私にできるか不安だったけど、今は一緒になってみんなの町おこしに協力したいと思っていた。

 

 これこそ虹ヶ咲にいた時には味わえなかった、新たな刺激だね。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 その後は千歌ちゃんのお姉さんが作ってくれた食事を堪能したり、町おこし準備をしていると知って駆け付けてくれた町の人たちからの果物の差し入れを貰ったり、ゆっくりと旅館の温泉に浸かったりと充実した1日を送った。

 色んな人に支えられながらスクールアイドルをしているのは虹ヶ咲も同じだけど、Aqoursのみんなは私たちの比ではないくらい地域の人たちとの結託感がある。スクールアイドルにはこうした活動もあって、グループごとにそれぞれの目標があるんだなって認識が一新されたよ。こうやって新しい刺激が加わるのは今後スクールアイドルのマネージャーとしていい経験なのかもしれないね。

 

 そんなことを考えながら広間の縁側に座って夜空を眺めていると、お兄さんがやって来て私の隣に腰を下ろした。

 

 

「こんなところにいると寒いだろ」

「部屋が暑いくらいなので丁度いいですよ」

「アイツら騒ぎ過ぎなんだよ。シラフであそこまで熱くなれるのはすげぇよ」

 

 

 お兄さんと私が来たということで、旅館の大広間でみんなでお食事会をしている最中。ただAqoursのみんなも揃って食事を取るのは久しぶりだったようで、そのせいか盛り上がりの熱気が半端ない。冬なのに部屋の気温が暖房なしであそこまで上がるなんて初めて見た。そうは言っても私もテンション上がっちゃってたから、気温の上昇に一役買ってたんだけどね……。だから今は落ち着くためにも縁側で休憩しているってわけ。

 

 

「どうだった今日は?」

「そうですね、新しいものがたくさん得られたなぁと。今まで私たち虹ヶ咲はみんなで楽しむため、スクールアイドルを盛り上げるため、なにより自分たちのために活動してきました。でもAqoursの皆さんは違って、町のため、地域の人のために頑張っていて、そういった考え方もあるんだって感銘を受けちゃいました。もちろんどっちがいいなんて決め打ちはできないですけど、これだけ地域の人たちに愛されて、応援されて、千歌ちゃんたちもそれに応えようとしている。そんな関係、凄くいいなって。いい刺激になった気がします、スクールアイドルのマネージャーとして」

「そっか。それなら良かったよ」

 

 

 お兄さん、なんか安心してる? もしかして私を連れて来た本当の目的って、私にこの刺激を味わってもらいたかったからなのかな?

 

 

「お兄さんが私を誘ったのって……」

「あぁ。もう1ヶ月半くらいで4月だろ? 俺が教師になっちまったら、今みたいに暇じゃないからずっとお前を見てやることもできなくなる。だから今のうちに新しい経験を積ませたり、それこそ刺激を感じてもらいたかったんだよ。ま、これも俺の指導の1つと思って納得してくれ」

 

 

 そうか、お兄さんが4月から教師になるから……。そうなるともちろん今みたいに頻繁には一緒にいられなくなるので、最後に私がスクールアイドルのマネージャーとしてレベルアップできるように今日誘ってくれたんだ。地域の人たちとの一体化、町おこしのためのライブ。今まで私にはなかった観点。ライブを企画する上で視野を広げられるように、お兄さんがわざわざ。それを素直に言わずちょっと恥ずかしがってるのが微笑ましい。意外と健気で可愛いところがあるんだね。今ここで口に出したら絶対に髪の毛くしゃくしゃにされるけど。

 

 

「ふふっ」

「どうして笑うんだよ」

「ゴメンなさい。お兄さんがそこまで私のことを考えてくれてたって知って嬉しくなっちゃって」

「当たり前だろ。ずっと考えてるよ」

「そうですよね。ずっと隣にいるって、お互いに言っちゃいましたもんね」

 

 

 やっぱり優しいな、お兄さんは。それでいて心が温かくなる。みんながお兄さんに惹かれてしまう理由をまた再認識してしまった。そうだ、この人だから隣にいたいと思ったんだ、私は。

 

 

「零さーんっ! 侑ちゃーんっ! デザートが来たよーっ!」

 

 

「千歌が呼んでるぞ。行くか」

「はいっ」

 

 

 先に立ったお兄さんが私に手を差し伸べてくれたので、私はその手をしっかりと握る。

 4月から3年生が卒業していなくなり、お兄さんも新天地へと行ってしまうけど、私はそんなことではブレない。お兄さんから教えてもらったことを胸に、これからも仲間と一緒にたくさんのトキメキを探していくぞ!

 




 ということで、突然のAqours登場回でした!
 恐らくAqoursの登場は2年以上ぶりになると思いますが、幻日のヨハネがアニメ化するにあたってどこかで登場させたいなぁと考えつつ、虹ヶ咲編2が完結するいいタイミングに登場させてあげられました。
 ただ尺が全然足りず、元々2話構成にする予定だったので詰め込み過ぎ感は否めなかったです。本来は温泉描写があり、Aqoursの子たちに侑が零との関係を根掘り葉掘り聞かれたり、逆にAqoursが零をどう思っているかなど、女子トークパートを予定していました。尺が足りないのなら仕方ない!

 ちなみに千歌たちを描くのが超久々だったので、キャラの性格や話し方、アニメでの経緯を1人1人調べながら描いてました(笑) またこの9人を描けることに懐かしさを感じながらも、どこかでキャラがブレてたら教えてください(笑)



 そして、今回をもって虹ヶ咲編2は完全終了となります。
 同時にここまでもう1人の主人公として活躍していた侑も一旦はこれでフェードアウトとなります。ただOVAが発表されたので、私がそのストーリーで虹ヶ咲が最熱すればまた出番はあるかも……?
 なんにせよ、零と侑の関係も一旦はこれで完結ということで。恋人同士ではないものの、ぶっちゃけ恋人以上の絆の強さな気もしますね(笑) 個人的には他のヒロインにはない特別な関係で、とてもいいコンビだと思います!


 次回からは間髪入れずに新章へ突入します!
 また次の章でも引き続きよろしくお願い致します!





以下、にじよん短編です。


~第10話:ドッキリ~

「お兄さんってどうやったらドッキリに引っかかるんですか? この前かすみちゃんたちのドッキリもすぐに見抜いてたし」
「お前の仕掛けが生温いだけだ」
「お兄さんが取り乱しそうな仕掛けかぁ……。歩夢たちが他の男性と歩いてるドッキリとか?」
「…………」
「ちょっ、頭わしわしするのやめてください!! てか力つよっ!? 分かりました謝ります!! ゴメンなさい!! ひゃんっ!?」




~第11話:幼馴染~

「お兄さんって幼馴染と言える女性って誰かいますか?」
「そこまで長い付き合いなのはいねぇな。強いて挙げれば幼い頃に歩夢たちと会ってるから、今の関係も考えると幼馴染って言えるかもな」
「そういえば歩夢も同じことを言ってたような気がします。『私と侑ちゃんが幼馴染で、私と零さんが幼馴染なら、侑ちゃんと零さんも幼馴染みたいなものだよね』って」
「単純な数式で考えられねぇだろ。アイツたまに狙ってるのか天然なのか分からないくらいボケたこと言うよな……」




~第12話:私にしかできないこと~

「どうして項垂れる?」
「だって、だって――――お兄さんピアノも上手なんて聞いてないですよ!! ちょっと練習しただけなのに、もう私よりも実力が上に……!!」
「俺を比較相手にするなって誰かに言われてねぇのかよ。大丈夫、お前にしかできないことがある」
「なんですかそれ……?」
「俺の隣にいることだ。それは俺にもできないだろ?」
「…………ぷっ、カッコよくない!」
「笑うなよ……」
「そうですね。4月から少し離れてしまいますけど、それでもずっと隣にいますよ、ずっと」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Liella編2
Welcome to the NEXT LIVE!


 今回から『Liella編』の第二章が開幕します!
 結局やることはいつも通りですが、キャラも変われば雰囲気もガラッと変わるもの。またお付き合いいただけると嬉しいです!



 教師生活2年目も、既に夏から秋に代わりつつある季節となった。

 流石に社会人の日常も1年半が経過すると今の生活にとことん馴染むようになり、1年目の春と比べると大人として色々と成長できている……と思う。大学時代も年下の子に勉強やら何やら教えることは多かったけど、これだけの多くの人数を一度に指導するのはもちろん初めてなので、これでも最初は不安がないわけではなかったんだ。ただそれなりにお嬢様寄りの学校で生徒の治安も良かったためか、教師ボイコットによる学級崩壊みたいなことが起きなくて助かったよ。まあ漫画やアニメで見るような素行不良な奴は現実にはあまりいなんだろうけどさ。

 

 ただ、そうやって平穏な日常を過ごしているとどうしても気が抜けてしまう。社会人生活にも慣れてきた今だからこそ、どうしたら効率良くハメを外せるのかも自然と覚えてきやがった。そしてそれを一度身に沁みついてしまうとどうも本気を出すことができなくなる。つまりサボっちまうってことだ。まあ俺の場合は普段の素行は悪いが結果を出す人間なので、理事長からは特に注意を受けていない。むしろあのババアこそ秋葉を使って俺をここに呼んだ噂があるので、いくら俺の素行が悪くて手放したくても手放せねぇだろうけどな。

 

 もちろんやることはやっている。とある連中による執拗な顧問の勧誘によってとある部活の顧問にさせられてからというもの、教師だけでなく部の仕事まで降りかかってきて迷惑ったらありゃしない。まあ練習メニューなどの各種調整は教育という名目でアイツらに丸投げしているため、俺がやってることと言ったら理事長への活動報告くらいだけどな。まぁそれもサボりがちだけど……。

 

 そして、その部活も今年度から新入生が4人も加入してノリにノっている。ただそれだけ俺が面倒を見る奴の数が増えるわけだが……。

 

 

「あっ、先生こんなところにいたっすか!」

「あん……?」

 

 

 休憩室で適当に時間を潰しているところを、茶髪でおさげをした地味めな女の子に見つかった。

 桜小路きな子。今年度から結ヶ丘に入学した新入生の1人であり、俺が顧問をするスクールアイドル部の新入部員でもある。道民から上京した田舎っ娘であり、『~っす』という語尾が特徴的。大らかで明るく人当たりも柔らかでおっとりとしている。勉強も運動も特筆すべき点はないが、それを自覚しているので、スクールアイドルとして活動することで自分を変えようと頑張っている健気な子だ。

 

 

「理事長が探してたっすよ。部活の月次報告資料がまだ自分のところに上がってこないって言ってました」

「それをどうしてお前が連絡して来るんだ」

「理事長がきな子たちスクールアイドル部に先生を探すように頼んできたっす。携帯に連絡を入れても返事がないからって」

「ったく、自分の生徒をコキ使うなんて偉くなったもんだな」

「いや理事長なのでこの学校で一番偉いっすけどね……」

 

 

 一番偉いのなら資金難で学校の存続不可の状況に陥るなっての。もう去年の話で解決していることだが、新設校なのに金の問題が浮上するってマネジメントどうなってたんだよ。

 そもそもあのババア、俺が教師としてこの学校に入った時から挨拶運動のために朝早くに駆り出したり、親友の娘のことが心配だからとか言って生徒会の様子見を押し付けたり、今の様にスクールアイドル部にすら干渉してきやがる。そんな面倒な奴に関わりたくねぇっつうの。

 

 

「きな子ー。先生いたか――――って、いるじゃん!」

「メイちゃん! 四季ちゃんに夏美ちゃんも、先生確保したっす!」

「ナイス。これで夏美ちゃんにハイスピードシューズを履かせて、学校中を探し回させずに済む」

「なにを安心した風を装っているんですの。さっきまでじゃんけんに負けた私にノリノリで靴を履かせようとしてたくせに」

「賑やかになりやがったな……」

 

 

 そしてぞろぞろと集結する1年生組。

 米女メイ。新入生の1人であり、きな子と同じくスクールアイドル部の新入部員である。斜に構えた、一見とっつきにくい不良っぽい女の子。そのせいか周りから怖がられることも多いが、実はスクールアイドルを含め可愛いモノ好きという非常に女の子らしい性格である。ただ好きな気持ちを素直に表すことができず、素直になれないツンデレさを持ち合わせている純情な子だ。

 

 若菜四季。同じく新入生の1人でスクールアイドル部。無口であまり人に接することがなく、一人遊びが大好き。性格は冷静沈着。ミステリアスな雰囲気で感情を口にすることは少ないが、親しい人に対する熱量は人一倍強い。科学部との兼部であり、普段は表情が乏しくて言葉も総じて片言である。時折怪しい発明品を披露していることから、秋葉を思い起こさせるのでちょっと警戒してしまう。

 

 鬼塚夏美。もう紹介するまでもなく新入生でスクールアイドル部員。お嬢様育ちなのか口癖なのか、それともキャラづくりなのかは不明だが、語尾に『ですの、ますの』などを付ける。髪色は金色で、毛先にピンクのグラデーションがかかっている派手な見た目。それもそのはず動画配信サイトエルチューブの動画配信者であり、自身の人気を上げることに関しては余念がない。明るくて前向き、流行に敏感で、行動力があり何でも挑戦してみるタイプの女の子。目的のためには手段を選ばない所もあり、裏から手を回す作戦を考えることもしばしば。まあ大抵上手く行かずに貧乏くじを引かされるんだけども。

 

 以上が今年スクールアイドル部に入部した新入生4人である。どいつもこいつも個性が強く、ただでさえ騒がしかった部もより一層の活気に満ち溢れているのが現状だ。手のかかる奴しかいないけど、それはそれでいつも通りの俺の日常だからもはや気負うこともない。むしろスクールアイドルになるような奴らだから4人共容姿も良く、余裕で一般の女子高生以上の魅力を持っているから、男としてはそんな子たちを指導できるなんて勝ち組と思われるかもしれないな。まあそれも俺のいつもの日常なんだけども。

 

 

「ほら先生、早く理事長のところに戻らねぇと。このままだとスクールアイドル部が活動停止になっちまう」

「はぁ? なんだよそれ」

「理事長が言ってた。すぐに先生を見つけないと部活動停止の処分を下さないといけないかもって――――笑顔で」

「んだよそれ。どうせ俺を引きずり出すための嘘だよウソ。なりふり構ってねぇなアイツも」

「理事長をアイツ呼ばわりって相当抑圧されてるっすね……」

「新任の頃から相当イジメられてるからな」

「これがブラック企業の実態!? このネタを今すぐに動画に……は、流石にリアリティがありすぎて笑えませんの……」

 

 

 いつか絶対に下剋上をして立場を逆転してやるからそう思え。そうやって反乱を企てなければならないあたりブラックな職場だと思われがちだが、学校の雰囲気も生徒も他の教師も悪くないので、やっぱり懸念はあの意地悪理事長くらいなんだよな。まあ意地悪とは言っても秋葉の息がかかってるわけだし、それだけ俺に期待してるってことなんだろうけどさ。向こうも向こうで面白がって、俺も俺でなんだかんだ楽しくやってるから、その余裕そうな様子を見て俺に仕事を振ることに味を占めているのかもしれない。困ったもんだよ。

 

 

「先生って最近やさぐれ気味じゃないっすか? 授業以外の時は気ダルそうにしていると言うか、なんだか覇気がないって言うか」

「教師生活も1年半経って慣れたし、新入生の顔も性格も大体覚えて、お前ら新入部員とも馴染んだ。そりゃもう気を張る要素がなくてサボりがちになるって。むしろこっちの俺の方が素と言った方がいいかもな」

「意外。私を勧誘した時はあんなに情熱的だったのに」

「だったら私もそうですの。ここにいるみんなで北海道に行った時に、熱い気持ちで本心を引きずり出されましたの」

「私だって一緒だ。先生から『スクールアイドル好きってことを隠しても無駄だ。やりたいことを隠すのももっと無駄だ。お前自身の抱く情熱が全部教えてくれてんだ! いくら隠しても隠し切れないお前のオーラが俺にはっきりと!』って」

「そんなの一字一句覚えてんじゃねぇよ……」

 

 

 コイツらの先輩のかのんたちもそうだけど、俺に言われたことを一言一句違わず覚えているのはやめて欲しい。下手な発言をしたら忘れた頃に蒸し返されて、最悪黒歴史になったりそれで脅されたりされかねないから。あまりクサいセリフを吐くのは柄じゃねぇけど、熱くなってしまうとどうしても思い浮かんだ言葉がそのまま口に出てしまうことがままある。そして後からその言葉をかけた相手に掘り返されて、今みたいな羞恥プレイに遭うわけだ。

 

 コイツらがここまで俺の言葉を覚えているのも無理はない。多感な時期である思春期に1世代上のお兄さんポジションである俺に自分の悩みを解決してもらったら、そりゃ誰でも脳裏と記憶にそのことが刻み込まれるだろう。魅力的な男性に熱い言葉をかけられて、記憶に残らない思春期女子はいないってことだ。つまりコイツらが過去を蒸し返すのも結局は俺のせいってことか……。

 

 

「でもきな子は先生のおかげで今スクールアイドルをやれているっす。自分を変えるきっかけをくれた先生には感謝してもしきれないし、あの時の言葉だってきな子の心にずっと残ってるので……」

「「「………」」」

「な、なんっすかみんな!? じっとこっちを見つめて……」

「いや、不意打ちで告白するなんて中々に大胆だと思いまして……」

「きな子ってそういうところあるよな。天然で毒舌を発揮するところとか、逆に想いをドストレートに伝えるところとか」

「それがきな子ちゃんのいいところだと思う。いい告白だった」

「こ、告白じゃないっす!! 気が抜けている先生を元気づけようと思って、それ以上でもそれ以下でもないっす!!」

 

 

 いや明らかに他意がありまくりだろ。さっきから頬を染めて俺の方をちらちら見て来るし、何かしら別に思うところがあるに違いない。幾多の女の子と恋愛をしてきた俺であればその気持ちが何なのかは察しが付くが、本人がまだその気でないみたいなので敢えて黙っておいてやるか。

 

 

「それを言うならメイちゃんだって、先生の前だと一回り女の子っぽくなってるっす!」

「は、はぁ!? どこがどう見てそうなってんだ!? あぁ!?」

「追い込まれるとそうやって得意の威圧で無理矢理押し切ろうとするのがメイの性格。そして可愛いところ」

「つまりこうして圧をかけているってことは、きな子が言っていることは図星ってことですの。確かに単純で分かりやす――――」

「夏美! 今すぐここに埋めてやろうか……」

「顔が真っ赤で無理して怒り顔を作ってるのがバレバレですの」

「うきぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 なんだその呻き声はサルかよ。

 ただ不良っぽい見た目のメイが案外普通の女の子っぽい反応をするってのはその通りだ。羞恥心を感じたらそれを隠すために言葉も態度も普段の一回り荒くなる。しかもすぐに表情に出るので夏美が言っていた通り単純で分かりやすい。それ故に可愛いと言われてしまう。だからこそ1年生の中では一番乙女と言われてるのかもしれない。

 

 

「んなこと言ったら四季だって、先生に本心を見抜かれて頬がぐちゃぐちゃに緩んでたの知ってるぞ!」

「っ!? そ、そんな事実はない」

「いいや、私はよぉ~く覚えてる。今まで幾多の告白を受けても一切靡かなかったお前が、初めて男に心を開いた瞬間なんだから」

「そ、それは男に惹かれたのではなく先生だったからで――――!?」

「それより具体的になりすぎて余計に自爆してますの……」

「澄ました顔をしてるっすけど、四季ちゃんもこちら側みたいでなんか嬉しいっす!」

「くっ、そろそろ禁断の記憶削除のクスリを試薬させるときが来たかも……」

 

 

 物騒なことはやめてくれよ……。

 四季も四季で手のかかる奴だった。なんせ表情変化が璃奈と同じくらいになさ過ぎて、本心に潜り込むまでに相当苦労した覚えがある。その分それなりに仲良くなった後は向こうから色々と話してくれたもあって、今の様に恥ずかしがる顔など表情変化も僅かだが見られるようになった。璃奈もそうだけど、無表情キャラが感情的になる瞬間はいいよな。

 

 

「全く、皆さん仮にもアマチュアでもアイドルなのですから、スキャンダルはほどほどにしないとダメですの。いつ私の動画にネタとして投稿されるとも知らずに……」

「夏美ちゃん、北海道のことを棚に上げる気? 先生と2人きりで話していた時、私たちが手を差し伸べたとき、その時の顔を今でも覚えてるから」

「う゛っ!? あの時はこれからの自分の晴れ舞台を想像して思わず有頂天に……」

「いや、涙を流してたっす」

「あぁ、いつものイキリ顔が崩れてただのオンナだったぞ」

「先生が自分が夢を持つ後押しをしてくれたって、ずっと感謝して涙してたのきな子たち忘れないっすから」

「むしろ夏美ちゃんのその素顔を動画化した方が再生数が増えるかもしれない」

「うっ、ぐぐぐ……」

 

 

 さっきから人を散々煽っておいて、いざ自分に矛先が向くとポンコツになるのはネタなのか……?

 夏美は俺の出会った子の中では珍しい悩みを持っており、やりたいことがあっても手が届かないから夢を持つことを諦めた女の子だった。そしてコイツを後押しするために1年生だけの合宿にお邪魔したことがある。そのことはまた追々話そうとは思うが、確かに初めて打ち込みたい夢を持ったコイツが泣いてたことは事実だ。まあそれをきな子たちに見られていたので、蒸し返されたら今の様に唸るしかないみたいだけど……。

 

 そんな感じで全員が平等に集中砲火を受けた。4人共スクールアイドル部に入る前に何かと一悶着あり、そのせいで俺のお節介が自制を無視して発揮された結果が今に至る。かのんたちもそうだったけど、みんな入部の話に曰くつきなのは何故なんだよって話。そのせいで全員に対して何かと気に掛けるハメになっちゃったので、1人くらい何の悩みもなくスッと入部をして俺に楽させて欲しかったよ。

 

 

「あっ、先生いたぁ!!」

 

 

 耳に響くこの声。休憩室の入り口に目を向けて見ると、スクールアイドル部の部長となった千砂都がこちらを覗き込んでいた。そして後ろにかのん、可可、すみれ、恋の2年生組が全員揃っており、ぞろぞろと中に入って来た。これで9人全員がこの場に集結したことになる。しなくてもいいけど……。

 

 

「先生どこへ行っていたのデスか! 理事長さんがずっと探していて、可可たちにも探すのをお願いされたマシタ」

「ちょっと休憩してただけだって。少しいなくなっただけで騒ぎ過ぎだっつうの」

「でも理事長も心配しておられました。部活動の報告がまだ上がってこないから、もしかしたら体調不良なのかもしれないって」

 

 

 それはお前たちに俺を探す依頼を押し付けるためのババアの策略だよ。俺に何かあったと思えばお前らが乗ってこないわけねぇからな。

 つうか何かと監視して来るのは誰の命令だ? どうせ秋葉なんだろうけど、また変なことを企んでないといいが……。

 

 

「てかアンタたち、先生を見つけたのならサッサと連絡しなさいよ」

「夏美ちゃんが暴走するからっす」

「いやきな子こそ火種だっただろ」

「それを言うなら火を拡大させたメイこそ黒幕」

「集中放火してきた皆さん全員が悪いんですの」

「えぇっと、先生……?」

 

 

 かのんがたじたじになりながらこちらを見つめる。

 てか俺だって誰のせいとか知らねぇよ。コイツら全員が勝手に暴走して、勝手に俺との過去を思い出し、そして勝手に恥ずかしがっていただけだ。去年のかのんたちもそうだったけど、この学校の生徒は漏れなく恋愛系に弱いのか??

 

 

「分かった!」

「ちぃちゃん?」

「つまり先生がきな子ちゃんたちを垂らしていたってことだよ!」

「「「「あぁ~」」」」

「納得すんな2年共」

 

 

 かのんたちは俺の本性も過去も知っている。だから千砂都が放った簡単な名(迷)推理だけでさっきこの場で何が起きていたのかも察したようだ。

 いや原因は俺が見境なく女の子に寄り添おうとしているからかもしれないけど、コイツらが羞恥心に弱くなったらさっきみたいな集中砲火合戦にはなってねぇからな?

 

 

「とにかく、先生が見つかったのならみんなにも報告しよっか」

「みんな?」

「はい。友達にも連絡をして、一緒に先生を探してもらっていたので」

「1人探すためだけにどれだけ話を大きくしてんだよ」

「みんなそれだけ先生のことが好きだってことデスよ!」

「好きなんだったら、それこそ俺の好きにさせてくれ……」

 

 

 俺が女の子のたくさんいる現場にいると、やたらと女の子側から構ってくるのが常だ。それは過去の学生時代でも教師時代の今でも変わらないが、生徒1人1人に指導する立場である今の方がその傾向は強い。やはり個々人の面倒を見てやってるからこそ好意を寄せられるのか。その人数が学院の生徒となると数は膨大になる。なるほど、だから俺を探すのに協力してる奴らが多いのか。それだけの人数が目を光らせてるとなると、もしかしてもう俺の安息の場所はなかったりする……??

 

 

「あっ、かのんちゃん! センセー見つかったんだね!」

「七海ちゃん! うん、ここでサボってたみたい」

「なるほど。センセー、あまりかのんちゃんたちを困らせたらダメですよ」

「七草……?」

「どうかしましたか?」

「いやなんでも。余計なお世話だ」

「つれなーい! じゃあみんなにもセンセー見つかったって伝えておくね!」

「うん、ありがとう」

「先生もまた! フフッ♪」

「あ、あぁ……」

 

 

 休憩室にひょっこり現れたのは、かのんの友達である七草七海だ。μ'sの穂乃果の友達にヒフミトリオという仲良し3人組がいたのだが、ソイツらと同じくかのんたちスクールアイドルをサポートにも大いに貢献している奴らの1人だ。

 

 だけど――――

 

 

「なぁかのん。七草ってイメージ変わったか? 前までは三つ編みだったのに今は髪を伸ばしてツインテールになってるし、制服も結構着崩していて、かなりイマドキ女子っぽくなってるっつうか……」

「そうですね。2年生になってから凄く明るくなった気がします。去年の時も十分に明るかったですけど、今はなんと言うか、ちょっと掴めない不思議な感じになっていると言いますか……。上手く表現できないですけど……」

 

 

 ここから立ち去るときの俺の向けられた、あの妖艶で小悪魔的な笑み。まるでこちらを見透かしているかのような、ただの笑顔ではない。去年はどちらかと言えば地味っぽい子だったのに、この4月からイケイケ女子っぽくなっている。もしかしたら何か裏が……?

 

 ――――って、考えすぎか。華の女子高生がイメチェンのために容姿や性格を変えてみるのは良くある話だ。それは大体中学から高校に上がった時など学校が変わった時に起こるもので学年が変わって起きるのは珍しいが、さほど気にすることでもないだろう。思春期だからこそ今の一瞬をイメチェンして楽しみたいってのもあるだろうしな。

 

 

「あっ、あのウィーン・マルガレーテがライブ動画を投稿していマス! おぉっ、やっぱり凄いパフォーマンス力デス!」

「どれ、私にも見せて見なさいよ」

「私も、私も見たい!」

「んな凄いのか、ソイツ。お前らがよく話題に出してるけど」

「先生も一度見て見るといいデス! ほらっ!」

 

 

 可可がスマホをこちらに突き付けてきたので、そこに流れている動画を鑑賞してみる。

 以前コイツらが話題に出していたことは知っているが、スクールアイドルのライブ動画なんて日常的に見ないのでその実力がどれほどのものかは全く知らない。そもそも今までたくさんのスクールアイドルと関わってきている俺からしたら、生半可なライブでは感動もしないがな。

 

 ――――なんてイキリっぷりを披露したが、即堕ち2コマだった。

 その動画は確かに俺をも惹きつける魅力があった。一言で表すなら『エレガント』。上品で優雅、気品のあるしなやかなパフォーマンスに俺としたことが釘付けとなってしまう。最近活動を始めたらしいのだが、もう初心者とは思えないそのライブに俺も、そしてコイツらも魅了されてしまっていた。自分と関わりのある奴らのライブであれば感動したことは何度もあるが、全く知らない奴のライブにここまで引き込まれるのは初めてだ。まるで俺をピンポイントで狙い撃ちしているかのような歌、ダンス、演技、音楽の雰囲気。たまたまか、まぁそうだろうけど、ここまで俺の気を惹ける奴がいるとは偶然は恐ろしいな。

 

 

「ウィーンさんの動画を見てたら、きな子もやる気上がってきたっす!」

「あぁ、これだけのライブをされたら黙っちゃいられねぇな」

「次の大会ではこの人よりも上に立つことで、私の実力と魅力をたっぷりと見せつけてやりますの」

「私じゃなくて、私たちでしょ。でもこんな素敵なライブを魅せられたら、燃える」

 

「おぉ~凄い。1年生たちがやる気満々だぁ!」

「このメンバーであれば、去年敵わなかった優勝が見えてくるかもしれませんね」

「だったら私たちも、1年生のやる気に置いていかれないようにうかうかしていられないわね」

「今年は絶対に頂点に立ちまショウ、かのん!」

「うんっ!」

 

 

 熱くなってきたな。

 教師生活にも慣れ、新入生たちとの交流にも慣れて気が抜けていたけど、ウィーン・マルガレーテのライブ映像とコイツらのやる気に触発されて俺も少し熱くなっちまった。可可たちに無理矢理やらされている顧問だけど、やるからには教え子たちをラブライブの優勝に導いてやりたい。そう思うと秘めていた情熱が湧き上がってくる。

 

 冷めていた心が一気に燃え上がった。やっぱりいいな、スクールアイドルって。魅力のある可愛い女の子たちが最高のステージで競い合う。今回は俺が息のかかったコイツらをその舞台の頂点に立たせてやる。そのためにはかのんたち2年生とはもちろん、1年生たちとももっともっと交流をして絆を深めていかないといけないな。

 

 

 新たな目標に想いを馳せて、ここから俺の教師生活本当の2年目が始まった。

 目の前にいる新たな女の子たちとの恋物語。そして、まだ俺の知らないところの恋模様も、もう既に動き出していた。

 




 そんなわけで『Liella編2』が始動しました!
 スパスタ2期の放送からかなり間が空いてしまいましたが、そのおかげで『虹ヶ咲編2』進行中にこの章をどのようなストーリーにしようか構想を練ることができたので、この充電期間は無駄じゃなかったと思います。

 前回でメインを張っていたかのんたちはもちろんですが、今回は2期生たちをバリバリに活躍させていく予定です。
 そんな感じで今回は顔見せ回でしたが、2期生以外にも零君が気にしている女の子が2人ほどいました。今後の展開にご期待ください!



 以下、この小説でのアニメ展開の扱いについて。
 アニメについて突っ込むところがあるので、不快に感じた方がいらっしゃったらゴメンなさい!

 ご存じの方も多いと思いますが、スパスタはアニメ展開が雑と言われるほどの評価で、pixiv百科事典にも炎上騒動がまとめられるほどでした。
 もちろん私もアニメ展開には思うところが多々あったので、この小説ではあるアニメのストーリーをやや改変しようと思います。ただ、この小説自体がアニメから逸脱したオリジナルストーリーなのはいつものことなので、その改変内容を知らなくても楽しめるようにはする予定です。

 改変内容自体は零君が女の子たちの悩み解決をしたのはいつものこととして、今回の場合は夏美の勧誘に2期生が手を差し伸べたことなど、軽くですが自分が納得のいくストーリーになるようにアニメ展開は捻じ曲げる予定です。
 まあこの小説を今まで読んでいる方であれば、多少の改変はもはや気にならないかもしれませんね(笑) そもそもμ's12人ですし(笑)


 以下、上記を踏まえたキャラの紹介です。

《神崎零》
 いつも通りの主人公で、性格もいつも通りです。

《澁谷かのん》
 アニメでは声優も認めるほど教祖化していましたが、この小説では引っ込み思案と優柔不断な性格は初期の彼女からあまり変わらないようにします。あと零先生への依存度が高い。

《唐可可》
 すみれイジリがかなり酷かったですが、この小説では軽口を叩き合う微笑ましい仲に。なんだかんだ2人で一緒に出掛けたりもするらしい。

《嵐千砂都》
 アニメだとかのん信者感が凄かったですが、部長にもなったということで、この小説では自己主張が強めになります。

《平安名すみれ》
 この小説ではアニメよりもカリスマ性が高く、それなりのインフルエンサーになっているらしい。

《葉月恋》
 ゲーム好きになったのはこの小説としてはいいキャラ付けなのですが、生徒会長としての活躍がアニメで少なかったので、この小説ではその設定も活かしたい。

《桜小路きな子》
《米女メイ》
《若菜四季》
 特に変更なし。強いて挙げれば四季メイの活躍がアニメで少なかったので、この小説では活躍させてあげたい。

《鬼塚夏美》
 アニメだと結構な問題児。ただそういう子ほどこの小説ではネタとして輝ける。それでも夢を持つ人たちの気持ちは汲み取ってあげられる優しい子にしたい。

《ウィーン・マルガレーテ》
 零と面識はないが、何故か彼の情熱を呼び覚ますパフォーマンスを披露した。何故かは不明。零自身も何か感じるところがあるらしい。アニメだとキツイ性格だけど、この小説では気高いけどそれなりに温和にしたい。

《七草七海》
 アニメだと『ナナミ』だが漢字名を付与。アニメだとただの三つ編みモブだったが、この小説では赤髪のツインテールで超絶美少女となったり、笑顔が不敵だったり謎多き女の子。




 またキャラの設定に追加があれば更新していきます。
 それでは、新章もよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

自己紹介で覚醒タイム!

「おっ、1年生全員揃ってるな」

「集まれっていたの先生っすけどね……」

 

 

 秋口となり夏の暑さも和らいできたこの時期。学校生活も今年度も半分が経過し、1年生たちは高校生活に慣れ、2年生たちも初めて後輩がいる生活が日常として当たり前になった頃だろう。結ヶ丘はどちらかと言えばお嬢様学校寄りの部類なので生徒の質も高く、新入生が入ってからこれまで校内で目立った問題は起きていない。そういった意味では生徒だけでなく教師たちも過ごしやすい環境になっていた。

 

 そして秋ともなれば体育祭や文化祭などの青春行事が目白押し。去年は1学年しかいなかったもののそれなりに盛り上がりを見せていた。ただ今年度コイツら新入生が入って人数が単純に倍になったため、今年はどちらの行事も昨年以上の盛況になるに違いない。それ故に、準備中の今の段階でも学校中が活気に満ち溢れて血気盛んとなっていた。

 

 そんな中、俺も謎のやる気が出ており――――

 

 

「なんですの、その大きいカメラ」

「経費で買ったんだ。スマホより断然映りも良くなるし、スクールアイドルを続けていくのならあっても損はねぇだろ」

「確かにスクールアイドルは宣伝とかでたくさん動画を撮影するけど、そんな高そうなカメラ、いざ使うってなったら何をするか迷うな」

「文化祭ライブのためのPVとか?」

「いや、もっと先にやることがあるだろ。お前らの自己紹介動画だよ」

「「「「えっ……?」」」」

 

 

 1年生の4人は揃って目を丸くする。

 実はLiellaが9人体制になってからまだ1ヶ月程度しか経っていない。しかも最後のメンバーである夏美が加入してからライブに参加もしていなければ動画も出していないので、この4人の存在が世に知られているかと言われたら……まぁほぼ知られてないだろう。しかもメンバーが揃ったのが夏休み中であったためか、2学期となり学校生活が再始動してからの活動もまだ日が浅い。つまり学校の生徒や教師ですらLiellaが9人になってるなんて知らない可能性がある。だからこそ自己紹介動画でアピールが必要なんだ。

 

 ――――ってことをコイツらに伝えたのだが、1人を除いてなんだかそこまで前向きではない反応を見せている。

 

 

「自己紹介って1人で動画に映るんっすよね……?」

「当たりめぇだろ。個々人の自己紹介なんだから」

「1人かぁ……。1人ってなるとちょっと恥ずかしいな……」

「そういえば1人で動画に出演したことはなかった。だから緊張」

「だから慣れる必要があんだよ。いつまでも殻に閉じこもってないで、ここらで覚醒しないとな」

 

 

 1年生たちは動画はもちろん、まだステージに上がった経験すらほとんどない。動画は夏美がLiellaの練習風景として撮影していたこともあるが、それはあくまで日常を垂れ流しているだけで、カメラと面と向かって何かを披露することはほとんどなかった。そのせいできな子もメイも四季も恥ずかしさを覚えているのだろう。

 

 しかし、ただ1人。1人だけ他のみんなにマウントを取れると確信したのか、生意気で得意げな笑みを浮かべていた。

 

 

「全く、皆さん弱々メンタル過ぎて見ていられませんの。ここはLiellaのメンバーにして公認インフルエンサーであるこの私が、バズる自己紹介というものを教えてあげますの」

「公認って、いつも勝手に撮影して勝手に投稿してるだけっすよね……」

「もう完全な隠し撮り」

「シャラップ! クソ雑魚メンタルの持ち主はこの場で発言権はないですの!」

「じゃあ最初はお前からな。カメラセッティングするから、このホワイトボードの前に立て」

「再生数の持ち主が披露する自己紹介の凄さ、とくとご覧あれ~ですの」

 

 

 どこからそんな自信が湧いてくんだよ。再生数っつったってたかだか数千だし、チャンネル登録者数も最近4桁を突破したばかりだろ。しかも自分の実力ではなくLiellaの肩書の利用と日常の練習風景を盗撮しただけだ。まあ動画投稿が乱立するこのネット社会、登録者が1,000人を超えてるだけでも結構凄い部類なんだけどな。

 

 夏美は堂々とした態度でカメラの前に立つ。

 そして目を閉じたと思ったら、間もなくして今度は目を大きく見開いた。

 

 

「オニナッツー! 日々のあれこれエトセトラー。あなたの心のオニサプリ、オニナッツこと鬼塚夏美ですのー! 皆さんに元気と勇気を分け与えるビッグなスクールアイドルを目指していますので、是非応援の程よろしくお願いしますの! また、Liellaの新規メンバーとして加入したことで、これからはもっと身近にスクールアイドルの活動をお届けするのでチャンネル登録も是非! もしかしたらLiellaの誰にも見せられないあ~んな顔やこ~んな顔まで見られちゃうかも!? というわけでこのチャンネルも鬼塚夏美のことも今後ともよろしくお願いいたしますの!」

 

「へぇ、やるじゃん」

 

 

 自分のチャンネルの宣伝まで織り込みやがったが、自己紹介と共に自分がエルチューバーであることを公にし、自分とチャンネルのどちらも応援してもらうように誘導しやがった。宣伝が混じっているとは言えども自己紹介としては効果的であり、チャンネルのファンを自分のファンにすることも、これから自分のファンになる人を自身のチャンネルに誘導したりと、流石は動画制作者と言うべきかバズる方法はある程度心がけているようだ。

 

 正直最初はちょっとバカにしてたけど、物怖じせず自分を表に出せるこの性格はスクールアイドルとしての強みになるな。

 そしてその自己紹介は他の3人も響いたようだ。

 

 

「すげぇ、初めて夏美を尊敬してる……」

「見直したっす! 輝いてるよ夏美ちゃん!」

「キラキラしすぎて、いつもの小物臭が全然しなかった」

「それ褒めてるんですの!? フッ、でもまぁこの程度であれば余裕余裕」

 

 

 ぶっちゃけ自己紹介もいつも聞き慣れているフレーズだったのだが、あれくらいキャラ付けが濃い方が覚えてもらえる率は高い。スクールアイドルが爆発的に増えているこの戦国時代、よほど容姿が優れているとかビジュアル面で勝らない限り、ただの自己紹介では中々注目しては貰えねぇだろうからな。コイツらも容姿レベルは十分だけど、スクールアイドルになる奴らはもちろんだがみんな見た目レベルが高い。その中で生き残るためにはファーストコンタクトとなる自己紹介の印象が重要になるんだ。

 

 

「次はきな子、お前やってみろ」

「つ、次っすか!? は、はい……」

 

 

 指名されて身体をビクッとさせたきな子。おずおずとカメラの前に立つが、さっきの夏美とのテンションの差は歴然。もう自己紹介が上手くいくとは思えないが、とりあえず実力を見よう。

 

 

「さ、桜小路きな子です……。趣味は家庭菜園、パン作り、好きな食べ物はじゃがいも、かぼちゃ、とうもろこし……。特技は動物と話せること……。せ、先輩たちみたいな憧れのスクールアイドルになるために頑張るので、今後ともよろしくお願いいたします……」

 

「声ちっさ……」

 

 

 録音できていたか怪しいと疑ってしまうほどの音量だった。しかもカメラ目線でもないし、ずっともじもじしてるし、それはそれで可愛いと思う人がいるかもしれないが、自分の名前すらまともに聞こえないのは自己紹介としては成り立っていない。まあ大体こうなることは予想してたけど……。

 

 

「よっ! きな子可愛かったぞ!」

「控えめなところがきな子ちゃんのキャラをよく表していたと思う」

「お前ら、自分たちのハードルを下げようとしてんじゃねぇよ……」

「「う゛っ……」」

 

 

 夏美によって上げられた自己紹介のハードルを必死に下げようとする四季メイの幼馴染コンビ。そもそもコイツらもきな子の声が聴こえてたか怪しいだろ……。

 

 

「こうなったらきな子を覚醒させるしかありませんの」

「な、なにをするんすか!?」

「先生、ちょ~っと失礼しますの」

「えっ?」

 

 

 夏美は俺の後ろに回り込む。

 そして、きな子に向かって俺の背中を思いっきり押した。

 

 

「うわぁっ!?」

「ひゃっ!? せ、先生!?」

 

 

 押された勢いで俺の身体は当然きな子に覆い被さろうとする。そのまま押し潰してしまうのを避けるため、彼女の肩を掴んでホワイトボードの方へと押し当てる。これでお互いの衝突は避けられたわけだが、彼女の身体が俺とホワイトボードに挟まれる形となっている。つまりこれは――――

 

 

「壁ドン。きな子ちゃんと先生が」

「漫画とかでよくあるやつか。現実で初めて見た……」

「あわ、あわわわわわわわわわわわわわわわわわわ……ッ!!」

 

 

 きな子が顔を真っ赤にしながら目をぐるぐるさせる。そりゃいきなり男に顔を近づけられたら普通の女の子なら誰でもそうなるって。隣で見ている四季とメイも頬を染めてこちらをチラチラと見たり見なかったりしてるし、年上の若い男の壁ドンは思春期女子には効果抜群だろう。

 

 つうか夏美の奴、一体どうしてこんなことを……。

 

 

「きな子、あなたのお名前は!?」

「さ、桜小路きな子ですっ!!」

「趣味は!?」

「家庭菜園、パン作りですっ!!」

「特技は!?」

「特技は動物と話せること!!」

「スクールアイドルとしての意気込みは!?」

「せ、先輩たちみたいな憧れのスクールアイドルになるために頑張るので、今後ともよろしくお願いいたします!!」

「よし、これでいいですの」

 

 

 いいのかよ……。確かに大声でさっきよりは格段に聞き取りやすかった、というか声量オーバーで動画にしたら音が飛んでないか心配なレベルだぞ……。

 そして夏美の狙いはこれだったかと理解した。恥ずかしさを極限まで突破させれば、逆に何も考えられなくなってヤケクソになるってことか。ある意味で羞恥心を乗り越えられるかもしれないけどさ……。

 

 

「成功体験を作れば恥ずかしさも払拭できますの。こうして無事に動画を撮り終えることができたので、きな子としても結果オーライですの」

「いやさっきのを動画として上げるのは勘弁っす!!」

 

 

 そりゃそうだ。男に詰め寄られている(不慮の事故だったが)動画なんて公開できないし、増してや自分がオンナの表情を見せてる様を大衆に晒すわけにはいかねぇもんな。

 

 

「ほらほら、次は四季の番ですの。はい、どーんっ!」

「ひゃっ!?」

「おっと」

 

 

 今度は四季が夏美に押されて俺の身体に倒れ込む。そして俺は思わず反射的に彼女を抱きしめてしまう。

 俺の腕の中で目をぱちぱちさせ、一体何が起こったのかと理解しきれていない反応をする四季。ただ徐々に現状を把握したのか、首元から耳の先まで分かりやすく順番に紅くなっていった。

 

 

「せ、先生……!? そ、その私、まだ心の準備が……うぅ……」

「四季、先生に対してお前……そんなに大胆だったのか!?」

「先生に抱き着くなんて勇気あるっす……!!」

「ち、ちがっ!? これは夏美ちゃんが……って、先生、ぎゅってし過ぎ……」

「声ちっさ。聴こえねぇんだけど」

「あの、その、うっ、うぅぅぅぅ……っ!!」

 

 

 ヤバい、ちょっと壊れてかけてる? いつも冷静で表情変化も少ないコイツが珍しく羞恥に表情を崩されている。そりゃ男に抱きかかえられていればそうなるのは必然かもしれないが、コイツもコイツで俺の腕を強く掴んでいるので離れようとはしていない。つまり自ら自分の羞恥心に敗北しに行っているんだ。

 

 

「四季も遂に覚醒の時ですの! はい、あなたのお名前は!?」

「若菜四季……」

「趣味は!?」

「昆虫採集と実験……」

「特技は!?」

「暗算とソロキャンプ……」

「スクールアイドルとしての意気込みは!?」

「メイの可愛さを伝えられるように頑張る……」

「カット! いい表情でしたの!」

「いやもうロボットかのように感情なかったけどな……」

 

 

 四季の奴、夏美の問いかけに対して定型文を答えるだけの人形に成り下がっている。最近AIのチャットボットが流行っているが、もうそっちの方が感情豊かな会話ができそうだったぞ……。

 放っておいても正気に戻りそうにもないから肩を揺すってやる。すると瞳に光が戻ったのでどうやら目を覚ましたようだ。

 

 

「あれ、自己紹介の撮影は……?」

「もう終わったよ。お前が昇天している間にな」

「もしかして、先生と密着して変な顔してなかった……?」

「それはそれで視聴者受けする可愛い顔だからOKですの。さて、最後は――――そこ、なに部室から逃げようとしてますの」

「う゛っ……!?」

 

 

 逃亡既の所で見つかり、冷や汗が止まらないメイ。まあ親友と幼馴染のあの痴態を見て、自分も同じロールプレイをするハメになるんだったら逃げたくもなるわな。

 つうか男にちょっと抱きしめられただけで意識がぶっ飛びそうになるのか。コイツらの先輩たち然り、最近の思春期女子は恋愛クソ雑魚なのか? 虹ヶ咲の奴らが異常だっただけかもしれないけどさ。

 恋をしてもらうのは大いに結構だけど、少し触れただけでここまで羞恥を感じてしまうのは問題だ。だからこそまともな恋愛をするためにも自己紹介での羞恥心克服は重要だったんだ。夏美のせいで直接俺に触れあうという荒治療になってるが……。

 

 夏美は部室の扉とメイの間に割り込んで逃亡を阻止する。これで完全に退路は断たれた。

 

 

「本気でやるのかよ……」

「自己紹介動画のためですの」

「お前笑ってるぞ! 明らかに自分が愉しむためだろ! 助けてくれきな子!」

「あの自己紹介をそのまま動画にするのはきな子もイヤっすけど、先生に抱きしめてもらうのはその……悪くない、というか……どちらかと言えば……いい」

「四季! って、まだぼぉ~っとしてやがる! もう仲間がいねぇ!!」

「さぁさぁ、おとなしく自己を曝け出すんですの。なぁに、羞恥に悶え苦しんでる間に全部終わりますの」

「なんでたかが自己紹介にここまで……って、夏美押すな――――うわぁあっ!?」

「っと!」

 

 

 またしても夏美の勢いに乗せられて、今度はメイが俺に向かって背中を押される。そして俺はさっきと同じくまた女の子を抱き留める係になったわけだが、こうして触れてみると1人1人触り心地が違うんだなと実感する。いや性的な目線ではなく、メイみたいに華奢な子もいれば、きな子や四季のように肉付きの良い子もいて発育具合が違うなぁと思っただけだ。教師になっても治んねぇな、こういう見方をしちまうのは。

 

 そんなことを考えている間にも、メイは俺の腕の中で沸騰していた。

 

 

「ふしゅ~……」

「おい、もう自己紹介どころじゃねぇぞコイツ」

「メイちゃん、今まで見た中でも一番乙女っぽいっす!」

「ぽいじゃない乙女。メイは可愛いんだよ」

「お前らそれ追い打ちをかけてるだけだからな……。今のコイツには聞こえてねぇだろうけど」

「これでメイも都合のいい人形なりましたの。今のうちに自己紹介を――――」

「その前に私に好きって言わせたい」

「私利私欲塗れで汚らしいですの。まあ百合は一定数の需要があるので、動画としては映えるかもしれませんが……」

「やめろやめろ。本人の知らぬところで自尊心破壊するな」

 

 

 メイは普段は勝気で荒っぽいので、だから乙女チックになった今だからこそイジリたい気持ちは分からなくもない。俺だって女の子を自分色に染め上げるのは好きな部類だからな。ただ今は教師として止めに入らせてもらう。むしろ止めないと後でメイに詰め寄られそうだからな。

 だったら最初からこの無理矢理な自己紹介の流れを止めろよって話だが、俺の想像以上にきな子たち3人が自己紹介を恥ずかしがっていたので、話を進めるって意味では多少の荒療治は仕方ないと思って見守ることにした。それに女の子の可愛い反応が見られるのなら俺は満足できるから。

 

 

「それではいつも通り覚醒タイムですの。はい、あなたのお名前は!?」

「米女、メイ……」

「趣味は!?」

「子猫のグッズ集め、猫の動画を見ること、あとスクールアイドル……」

「本当に可愛い趣味ばかりですの……。コホン、特技は?」

「運動全般、特に走ること……」

「スクールアイドルとしての意気込みは!?」

「可愛くなれるかは分からないけど……できる限り頑張ってみる……」

「見た目とは裏腹な謙虚さと健気さ。これは自己紹介でいいアピールになりますの」

 

 

 まるで洗脳されているかのように言わされてる自己紹介だなオイ。催眠系はニッチとは言えども人気が根強いジャンルだから、割と注目度がある自己紹介にはなるかもな……。

 そんな感じで全員分の自己紹介を撮り終わったのだが、もちろん夏美以外の映像は使い物になりやしない。慌てふためいている者、ロボットの様になっている者、催眠洗脳の様になっている者など、本当に偏った趣味の奴にしか刺さらねぇぞ。しかもみんな男に抱かれて顔を真っ赤にしてるから、男性ファンにとっては当然の如く誰得の動画となってしまう。見守るっつってアレだけど、なんか時間だけ無駄に浪費した感が半端ねぇな……。

 

 

「ハッ!? 私は一体なにを……!? って、夏美!? 消せ! さっき撮ったのを今すぐに!!」

「他のスクールアイドルにはないバズる自己紹介でしたので、それ無理ですの」

「先生はこれでいいんっすか!? 自己紹介をしようと言ったのは先生なのに、夏美ちゃんに任せてしまって……」

「確かに方向性はアレだけど、こういうのは生徒のお前らが主体になってやることだ。俺は自己紹介動画を撮ろうってきっかけを与えてやっただけだよ。学校は生徒がメインであって教師が出しゃばるもんじゃねぇからな」

「私たちが主体……。だったらどんな動画にするかは私たちが決めていいってこと」

「そうだな」「そうっすね」

 

「ふぇ……?」

 

 

 四季、メイ、きな子の3人の目が怪しく光る。その眼光はこれまで屈辱を与えてきた夏美に向く。

 そして当の本人は身体を震わせて冷汗を大量に流していた。3人が向ける眼光はまさに捕食者の瞳。黒歴史を刻み込まれた復讐と言わんばかりのドス黒いオーラに、流石の俺も口出しできなかった。

 

 

「こうなったら私らみんな同じ自己紹介をしなきゃ不公平だよなぁ!? あぁん?」

「夏美ちゃんも同じ屈辱を味わうべき。いや屈辱じゃない、先生に抱かれる幸せを共感させてあげる……」

「きな子たちは友達っすよね? だったら夏美ちゃんも同じ気持ちを感じてみるといいっす。大丈夫、先生は暖かいっすよ……」

「皆さん目が怖いですの……」

「人をイジるってことはな、それだけ恨みを買うってことなんだよ」

 

 

 もう過去に何度見て来たか分からないこの因果応報をそのまま体現したかのような光景。自分が加害者になったこともあれば被害者になったこともあり、傍観者だったこともある。てか大体どのスクールアイドルのグループにも1人くらいいるよな、その四字熟語が似合う女の子って。

 

 

「見せてくれよ、お前がぶっ壊れる様を! ほらっ!」

「ひゃあんっ!?」

「おっとっと。すげぇ勢いだな……」

 

 

 夏美はメイに両手で背中を押され、他の奴らが受けた仕打ちをやり返される。ただメイの怨念が詰まっていたのか押しのパワーが強く、さっきの誰よりも勢いよく俺の胸に飛び込んで来た。そのため俺は夏美の頭を自分の胸で抱きかかえる形となったわけだが――――

 

 

「ふわぁっ、せ、先生、ち、近い……!!」

「瞬き凄いぞお前。動揺し過ぎだ」

「だ、だって暖かいし、力強くて男らしくてその私……」

「語尾忘れるくらいか、重症だな……」

「私ら以上にショートしてんじゃねぇか……」

「結局夏美ちゃんもクソ雑魚だったってこと」

「でもいつも自信満々の夏美ちゃんが恥じらってる姿、可愛いっす!」

「あう、あうあぅあぅ……!!」

 

 

 確かに他の奴らと比べても一番顔を赤くしているのもコイツだし、なんならお得意のお嬢様語尾が消えるくらいだから相当追い込まれているのだろう。自分で仕掛けた仕打ちに自分がハメられて、しかも自分が一番ダメージを負うって中々にダサいけど……。

 

 

「それでは覚醒タイムと行くか。はい、あなたのお名前は!?」

「お、鬼塚夏美!!」

「趣味は?」

「スムージー開発とエルチューブ!!」

「特技を教えてくださいっす」

「しゃ、写真と動画制作!!」

「スクールアイドルとしての意気込みは!?」

「自分と皆さんの夢を叶えられるように頑張ります!!」

 

 

 もう脳内に浮かんだ言葉を反射的に発しているのか、ヤケクソ気味になっているのは否めない。気になる男に頭を抱きかかえられてるだけでこうなるのか。それでもここまでバグるのは羞恥心が弱々し過ぎると思うが……。

 

 

「おい起きろ。もう自己紹介終わったぞ」

「ハッ! じ、自己紹介……!? もしかしてさっきのが……ですの?」

「あぁ。バッチリ取れてたぜ、私らと同じ顔をして自己紹介しているお前の映像」

「愛らしさはたっぷりあった」

「これでチャンネル人気が出るといいっすね~♪」

「カ、カメラをこっちに寄越すですの! ちょっ、逃げるな!!」

 

 

 そして1年生同士の鬼ごっこが始まった。止めた方がいいのかそうでないのか。ま、子供のじゃれ合いを見ている感覚でほっこりするからそのままでいいか。

 羞恥心はまだ克服できてないけど、今回でコイツらのメンタルの強さ(弱さ?)がある程度わかっただけでも収穫だ。そのうちみっちり鍛えてやって、卵状態から覚醒させてやるから覚悟しておけ。

 

 ちなみに部室内で騒いでいる最中に部長の千砂都がやって来て、4人がこってり絞られたのはまた別の話。

 




 今回は2期生メインのお話でした!
 前回もほぼほぼ2期生メインだったのでこれで連続となりますが、2話描き続けて思ったことは、意外と2期生ってキャラが立っていて話が描きやすかったことですね。
アニメだとメイン回以外はあまり目立つことがなかったので、私も小説にした時に4人を上手く描けるか怪しんでいたのですが、なんたって全員がボケとツッコミになれるためかネタの幅が広がりそうで今後に期待できる4人でした(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お料理で恋人体験!

「はぁ? 新入部員歓迎会をやりたい?」

「はい。きな子ちゃんたちが部に入ってから、そういったのやってなかったなぁ~と思いまして」

 

 

 廊下を歩きながら、かのんがいきなり提案してくる。放課後にいきなり時間はあるかと聞かれたので何をしでかすのかと思ったが、どうやら相談事だったらしい。

 もうすぐ秋が本格到来する中で、今年度も半分が経とうとしているため歓迎会など今更感が強い。ただ最後のメンバーである夏美が加入してまだ1ヶ月半くらいしか経っていないので、フルメンバーとなったLiellaとしての活動期間はそこまでだったりする。だから歓迎会を開くのは遅いってわけでもない。かのんはそれを言いたいのだろう。

 

 

「歓迎会っつったってなぁ、何すんだよ?」

「最近は体育祭や文化祭の準備とかで忙しいし、練習も本格化してきてあまり凝ったことはできないので、無難に料理を作ってパーティとかですかね」

「ま、好きにやればいいんじゃねぇの。いつやんのかは知らねぇけど」

「えぇっと、言いにくいんですけど――――今日です」

「はぁ!?」

 

 

 かのんは申し訳なさそうな表情で爆弾発言をする。

 コイツ、紛いなりにも顧問の俺に何の事前連絡もなく夜にするって正気かよ……。

 

 

「すみませんすみません!! ちぃちゃんとすみれちゃんと可可ちゃんが『どうせ先生は手伝ってくれないから、当日にドッキリのように伝えて逃げ場をなくせ』って……」

「アイツら俺をどんな目で見てんだよ……。てかお前が暴露する役を押し付けられたってことは、お前のお願いなら俺は言うことを聞いてくれると思われてんのか」

「安心してください! 私は先生の味方ですから! いつでも!」

 

 

 なんかすげぇ真剣だな。かのんは他の奴らとは違って俺に若干依存気味な性格であり、何かと俺にアドバイスを求めてきたり同意を得ようとしてくる。顧問に相談するのは当たり前なんだろうけど、どうも俺の意見1つで自分の考えを変えてるような気がしてならなかったり。だからこそ俺に寄り添ってくるのか。ま、今はどうでもいいことか。

 

 

「それで……来てくれますか? 準備に……」

「心配しなくても行くよ。どれだけ俺を薄情な奴だと思い込んでんだお前ら……」

「ま、まぁ先生のこと色々知っちゃったので、色々と……」

 

 

 苦笑するかのん。そりゃこちらの本性を晒してしまったからには、俺の表の顔も裏の顔も全てコイツに知られている。だからこそ俺が手を抜くときはとことんサボりたがる性格も熟知しているのだろう。一応明らかにヤバいと思われることはまだ喋ってなかったりするのだが、例えば妹とデキているみたいな俺の中でも社会常識を逸脱し過ぎて宇宙にすら飛び出しかねない事実とかな。

 

 そんなこんな話している間に家庭科室に辿り着く。なにやらいい匂いが漂ってくるけど……。

 

 

「あっ、先生が来マシタ!」

「先生お疲れ様でーすっ!」

「かのんさんも、先生をお連れいただいてありがとうございます」

「料理作ってんのか?」

「えぇ、歓迎会用にね」

 

 

 中に入ると2年生たちが料理作り真っ最中だった。しかも1人1つ作ってるようなので結構豪勢にやるようだ。一緒にいたかのんもエプロンを着てオーブンの様子を見に行った。どうやら焼いている時間を利用して俺を迎えに来たらしい。

 

 それにしても―――――

 

 

「似合ってるな、エプロン」

「「「「「えっ!?」」」」」

「んだよその反応……」

 

 

 みんな自分の料理に戻ったかと思えば、俺の言葉にまた全員の目がこちらに向いた。しかもコイツら特性である頬赤らめを携えて……。そんなドキドキさせること言ったか俺……?

 

 

「だ、誰のエプロンが一番似合っていると思いマスか……?」

「誰のって、制服の女の子がエプロンを着てキッチンに立ってる様は男なら惹かれるだろ」

「あぁ~そういう性癖の一般化はいいですから」

「具体的に誰のエプロンが」

「一番似合っているのか」

「答えなさいって言ってんの」

「なんでそんな食い気味なんだよ……」

 

 

 なんか物凄く圧をかけてくる。別に最初から誰かを特定して褒めたわけではないんだけど、恋心に支配されているコイツらにとって俺の思わせぶりな言葉は良く響くらしい。それは今に始まったことではなく、特に俺の本性を打ち明けてからより一層その傾向が強くなった気がする。そのせいでこっちにその気はないのにやたらと妄想を広げて来るんだよな……。これだと1年生たちとそこまで恋愛レベル大差ないんじゃねぇか……?

 

 

「はぁ……。お前らも知ってるだろうけど、俺は誰が一番なんて決めねぇよ。全員が一番だ。それだけは圧をかけられても変えることはない」

「なるほど。やっぱりそう来ますよね、やっぱり」

「ま、アンタならそう言うわよね」

「なんだよ、悪いか」

「いえ、むしろ先生らしい答えが返って来たので安心したと言いますか」

「ここで誰か1人を選ぶことがあったら逆に怒っていたと言いますか」

「それこそ可可たちが尊敬する先生デス!」

 

 

 なに? もしかして試されてるのか俺!? それともただ単にからかわれているだけなのか。やっぱりいくら歳を重ねても、いくら女の子たちと付き合おうとも女心ってのは複雑で分からない。女心を理解するのは男にとって永遠の課題なのかもしれない。

 

 ただコイツらがさっきの問いかけをしてきた気持ちは分からなくもない。俺がどう答えるかなんてこっちの本性を知っているコイツらかしたら分かり切っているだろうが、それでも『みんな似合ってる』という言葉が俺の口から直接欲しいんだ。恋人同士でもよくあることだけど、お互いに好きと分かっていても相手に好きって言って欲しい気持ちと同じだな。

 

 そんなこんなで本格的に料理に取り掛かった2年生。料理下手はいない(今のところそう見える)のか、みんなそれなりの手つきで作業を進めている。

 そういや俺、なんのために呼ばれたんだ?? 理由は分からないがただ眺めているってだけでも暇なので、それぞれのキッチンを見て回ることにした。

 

 

「千砂都はいつも通りたこ焼き……じゃなくて、焼きそば?」

「はいっ。たこ焼きはみんないつもバイト先に食べに来てくれるので、せっかくの歓迎会だし別のモノがいいかなって思って」

「にしても、焼きそばを丸くする必要はねぇんじゃねぇか? お好み焼きみたいになってるぞ」

「いやぁ~やっぱり究極の丸を求めてこその私ですからね~。おぉ~いい丸型になってきた~♪」

 

 

 ヘラを使って鉄板で焼いている焼きそばを丸の形にまとめていく千砂都。誰にだって特殊性癖みたいなものはあると思うが、ここまで丸いモノに執着する偏屈趣味は流石に驚かざるを得ない。たこ焼きを作ってる時も楽しそうにしており、時折熱が入り過ぎて眼がガンギマリになっていることもあり少々怖いのだが、それもそれでコイツの魅力だろう。丸いモノを見たときの無邪気な反応とか、自分で丸いモノを生み出している時の元気の良さとか、一緒にいて楽しい子だって思うよ。

 

 

「たこ焼きとか焼きそばとかお好み焼きとか、お前って屋台の定番料理がよく似合うよな。俺そういったジャンキーなの好きなんだよ」

「好き!?」

「えっ、なにその反応……」

「好き、好き、かぁ……。そういえばこうして並んで料理してるのって恋人っぽいかも……」

「おい」

「先生と一緒にキッチンカーで並べばお客さんに恋人同士って思われるのかな? 友達に恋人ってことを茶化されたりするかも?? それはそれで嬉しいけど、恥ずかしくなってたこ焼きを作る手が止まっちゃいそう……!! だけどバイトがクビになっても先生が貰ってくれればそれで……♪」

「聞こえてねぇな俺の声……」

 

 

 好きって言ったのは料理の方であって千砂都ではないのだが、どうやら勝手に自分のことが好きと告白されたと勘違いしたらしい。しかも恋人同士になった妄想まで繰り広げてやがる。いやコイツのことは好きだけどさ、ちゃんと会話の文脈くらい読め。変にポジティブに思考をしてしまうコイツの性格は時にメリットで、時にデメリットだな……。

 

 妄想はしているが手は動かしているので、この場は離れていいだろう。変なシチュエーションに巻き込まれる前に次の奴のところへ行こう。

 

 

「恋は――――卵焼きか?」

「はい。皆さんと比べて大したものではなくて申し訳ないのですが」

「いやそんなことねぇよ、って歓迎する側の俺が言うのもおかしいけどさ。でもお前って料理できたんだな。てっきりメイドのサヤに任せてるのかと思ってた」

「普段はそうなのですが、自分でも学んでおきたいと思いまして」

「へぇ、どうして?」

「そ、それは……」

 

 

 ま~た顔を紅くして俯きやがった。なんかもうどんなことでも勝手に恋心がくすぐられるのな。だったらいくら言葉を選んでも意味ねぇじゃねぇか……。

 恋の作っている卵焼きは至ってシンプルなモノだが、卵焼きなんてこれくらいがちょうどいいんだよ。大根おろしと醤油さえあればいくらでも食える。見た目もふっくらとしていて色も艶やかでぱっと見ミスをしているようには思えないが、どこか恥ずかしがる要素があるのだろうか?

 

 

「しょ、将来のために練習しておきたくて……。その……せ、先生はお料理が得意な方がお好きだと噂で聞きましたので……」

「噂ってどこ発信源だよ……。まぁ女の子の手料理は好きだけどさ」

「つまりお付き合いをしたら、先生に自分の手料理を振る舞うことも多くなるわけで……。先生の胃に入るものですから、それはもうたくさん練習をして、たくさんお褒めの言葉をいただけると嬉しいと言いますか。できれば一緒に隣に立ってくださると嬉しいと言いますか……」

「また自分の世界に入りやがった……」

 

 

 出たよ得意技。ここまで自分の物語を妄想内で繰り広げられるのはある意味で才能かもしれない。ただ口に出してしまっているので、この音声を録音して後で聞かせたらどんな反応をするのか。それはそれで見てみたい気もする。

 ていうかさ、キッチンで隣に立つ行為がお付き合いしてないとできないと思ってるのがもはや初心(ウブ)だ。別に言ってくれれば料理くらい一緒に作るのに、無駄にハードル上げてるよなコイツら……。

 

 脳内寸劇がまだ続きそうだから、こっそり次へ行こう。

 

 

「かのんはクッキーか」

「はい。恋ちゃんと同じで凝った料理はあまり作れないので、私も簡単なモノですけど」

「でも普通に上手くできてんじゃん」

「お店の手伝いでちょっと作ったことがあるので……」

「あぁ、お前んち喫茶店だもんな。でもお菓子作りができるって女子力が高い証拠だし、俺そういう子結構好きだけど―――――あっ」

「す、好き……!?」

 

 

 やばっ、今回はナチュラルに地雷を踏み抜いてしまった。当然と言うべきか、かのんは俺から一歩後ろに離れてわなわなと取り乱す。耳の先っぽまで赤くして、こちらと目を合わせようとしない。

 てか『好き』って言葉だけでここまで恥ずかしがれるのもやっぱり才能か。それとも俺が恋愛というものに慣れ過ぎて、何気ない言葉も普通の女子高生にとっては突き刺さるものなのかもしれない。いやそれでもコイツらが弱いだけのような気がするけど……。

 

 

「せ、先生!!」

「なんだ? 声の音量間違えてるぞ……」

「機会があればでいいので、え、えっと……またウチの喫茶店に来てください!!」

「いいけど、そんな覚悟を決めたように言わなくてもいつでも行ってやるって」

「そのためにはクッキーだけじゃなくてもっと他に作れるように勉強しないと……。せっかく先生が来てくれるんだから、カフェオレを入れる練習もして、しっかりおもてなしできるようにしないと。でも先生のために練習してるとか言ったら、お母さんとありあが絶対にからかってくるなぁ……うぅ……」

「もうツッコまないぞ……」

 

 

 この5人の中でもかのんは特にこうなりがちだ。元々緊張しやすく優柔不断な性格で、自己評価も極端に低いため、そんな奴に恋心が目覚めれば悩みに悩みまくって妄想スパイラルに陥るのは当然ことだろう。昨年度の1年間スクールアイドルでステージに立って注目されることや、1人で歌う恐怖心もそれなりに克服したのに、こういった小心者な性格はいつまで経っても治らねぇな。それがコイツの持ち味なのかもしれないけどさ。

 

 そんなわけでまだ目をぐるぐるさせて唸っているようなので、放っておいて次の子のところへと向かう。

 隣のすみれのいるキッチンからは既にいい匂いが漂っていた。

 

 

「お前、もう完成したのか」

「えぇ。変に凝っても仕方ないしね。料理部の人に使っていい材料を聞いたから、それだけでパパっと作ったのよ」

「酢豚か。お前料理上手いんだな。めっちゃ美味そうだし」

「親が忙しい時も多いし、妹もいるから必然的にね。あっ、美味しそうだからってつまみ食いはダメよ。私が作ったんだから美味しいに決まってるけど、今日はあの子たちの歓迎会なんだから」

「ガキじゃあるまいし、んなこと分かってるよ」

 

 

 相変わらず容姿は抜群にいいのに口は可愛くねぇなコイツ。ただ美人でスタイルも良くて料理も上手いという相当属性を盛っており、それに加えて姉だからか世話焼きで面倒見が良い。そんな子が手料理を振る舞ってくれるのであれば、男としてこれほど至高なことはないだろう。

 

 

「全く仕方ないわね。そんなに食べたいのなら食べさせてあげるわよ」

「いや何も言ってないが??」

「そ、そういう顔してたのよアンタ! ほら、食べなさい! 早く!」

「だからそんな食い気味じゃなくても――――んっ」

 

 

 すみれに酢豚を摘まんだ箸を口に突っ込まれる。甘酢の程よい酸っぱさと厚みがあるけど柔らかい豚肉、そして食べ応えのあるピーマンと玉ねぎ。1つ1つの具材に絶妙な調理が施されており、ぶっちゃけこれだけで胃袋を掴まれてしまった。

 味の感想を言おうとすみれの方を見てみたのだが、やはり食べさせる行為にそれなりの度胸があったようで、さっきまでの奴らと同じく頬を染めてブツブツと何かを呟いていた。

 

 

「さ、さっきのまるで恋人みたいじゃない!! 私ってば一体何を……!?!?」

 

 

 恥ずかしいと思うのなら最初からやるなよな……。

 ここで俺が声をかけても逆効果だろうし、最後に可可のところへ行って職員室に戻るとするか。

 

 

「って、コゲくさ!? なんだこの石炭は!?」

「ま、麻婆豆腐デス……」

「お前、やっぱ料理下手だったんだな。1人暮らしだろ? 飯はどうしてんだ?」

「ほんっっっっとうに簡単な即席モノなら少々。あとは外食したり、すみれがタッパーに手料理を詰めて持ってきてくれたり……。なのでこんな無様な醜態を晒すのは今回だけデス!!」

 

 

 手と膝を床について絶望しながら叫ぶ可可。醜態を晒したのはサニパとの合宿の時もそうだった気がしたが、記憶から消してんのか……?

 それに別に無様だとは思ってない。中には自分が料理下手だと気づいていない優木なんちゃらさんもいるし、しかも周りの奴らが謎の優しさで指摘しないせいでむしろ自分の料理が美味いと思い込んでる輩だから、ソイツに比べれば自覚しているだけまだマシだ。笑顔で汚物を食わせてくる奴ほど害悪な奴はいねぇからな……。

 

 

「先生は……料理が得意な女の子の方が好きなのデスか……?」

「えっ? 別にそんなことねぇよ。俺の知り合いの女の子の中でも料理苦手な奴たくさんいるしな」

「でも手料理を作ってくれたら嬉しいはずデス!!」

「そりゃ女の子から貰えるものはなんだって嬉しいだろ、男だったらな」

 

 

 どうやら1人だけ料理ができないことを悔やんでいるようだ。まあそんな取柄がなくても苦手な分野に立つ必要はないんだし、別の何かを極めてもらえばいいと思うのだが、やっぱり女の子にとって料理ができないってのは気にするものなのか? いや女の子が料理好きってのは時代錯誤過ぎる発言だったか。ただ周りのみんなができて自分だけができないとなると、それなりに気にしたりするのだろう。

 

 

「決めマシタ! 今年の目標はラブライブ優勝に加え、料理の達人になることも追加しマス! 先生の舌を唸らせるまで朝昼晩毎日特訓デス!」

「いやスクールアイドルの練習もしろよ……。そんな目標を高くしなくても、食えるモノならいつでも貰うからさ。食えるモノならだけど」

「先生のお隣にいると決めた女子として、そんな中途半端な状態で食べてもらうなんてできマセン!」

「俺の隣って、そんな覚悟決めてたのか……?」

「へっ、あっ、そ、それは日本語で言うと言葉の綾というもので……!! うぐっ……可可、とりあえずケーキか何かおめでたいモノ買ってきマス!! それではまた後で!!」

「おいっ! 逃げやがった……」

 

 

 可可は2年生の中でもかなり積極的な方で、俺と密着してもあまり取り乱さないので精神力は強い奴だ。ただ流石に恋人ってのを意識すると気になりまくるらしい。スクールアイドルとしてステージに立つ時は誰よりも堂々としてるのに、やっぱ恋ってのは心の強さに関わらず別種の刺激があるんだな。物理防御で固めているところに魔法攻撃を打たれるようなものだろう。

 

 それにしても――――

 

 

「みんなまだ自分の世界に耽ってやがる……」

 

 

 俺の本性を明かしてからもう半年くらい経ち、コイツらも本当の俺とのコミュニケーションに慣れてきたと思ったが、それどころかまず自分たちが恋愛下手だってことを自覚する方が先だな。大変だねぇ、恋する乙女って奴は……。

 

 そして結局俺が呼ばれた理由は分からないままだった。もしかしたら手料理を味見してもらいたい、という考えがあったのかもしれない。コイツらの反応を見てるとそんな気がしてきたな……。

 




 今回は2年生(1期生)編でした!
 本編中にも零君が言っていましたが、かのんたちの恋愛レベルがあまりどころか全然変わってなかったです(笑) 彼が本性を現したこと、そして彼女たちがそれを知ったことで、逆に彼のことをもっと意識するようになったのだと思います。いつかまともな恋愛ストーリーを送れる日が来るのか、それとも恋愛クソ雑魚のままなのか、乞うご期待ということで!



 そういえばラブライブ5代目である『蓮ノ空』もキャラとかストーリーとか、少しずつ勉強し始めています。スクフェス2も含めまだどちらもアプリは入れていないのですが、ストーリーの評判はいいっぽいのでそこらも含め参考がてら順次見ていこうと思います。
なんの参考にするのかは……内緒で(笑)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歓迎会はホラーの始まり

 結局、新入部員の歓迎会は無事に行われた。

 とは言ってもかのんたちが作っていた料理が全員分出揃ったのはついさっきのことであり、それまでは俺との恋人ごっこを妄想してトリップしていたために危うく歓迎会の開始が遅延するところだった。ただでさえ放課後開催で日が暮れてるってのに、開始と終了が遅くなったらコイツらの親に謝罪するのは顧問である俺の責任になってしまう。そんな面倒なことにならなくて良かったが、変に恋人ごっこを連想させる発言をした俺のせいでもあるか。いや、コイツらの恋愛レベルがクソ雑魚なだけで俺は悪くない。花咲く女子高生なら恋バナくらいで取り乱さないでくれよ……。

 

 そんなこんなでいい感じに夜になり、星空も見えてきた。秋になって日が落ちるのも早くなり、歓迎会が始まってまだ間もないのにあたりはすっかり暗い。一応中庭の灯りで俺たちのいるキャンプテーブルあたりは明るいが、この学校自体が貧乏なためか学校内にそういった設備があまり整っていない現状がある。そのため夜になると校内は校庭を含めてかなり暗くなり、もはや夜の山の中でキャンプをしているのと大差ないくらいだ。だからこの学校の完全下校時刻は他校と比べて少し早かったりする。そのため学校に残るためには今のコイツらのように申請をした奴らだけに限られるってわけだ。

 

 

「先生、ケーキ取ってきマシタ! どうぞ!」

「可可。あぁ、サンキュ」

「アンタねぇ、さっきから全然食べてないじゃない」

「すみれか。いや俺の歓迎会じゃねぇんだし、アイツらに食わせてやれよ」

「料理作り過ぎちゃったのよね。可可が買ってきたケーキを加えると結構な量になってるわ」

「なので男性の先生がたくさん食べてくれないと、全部捌ききれないのデス!」

「俺割と少食なんだけど……」

 

 

 コイツらが料理を作っている時から食い切れるのかと疑っていたけど、可可がそれなりにデカいホールケーキを買ってきたせいで疑いは確信になった。余ったら各自持って帰ればいいと思うのだが、生憎取り分け用の容器がないためこの場で頑張って消化するしかない。ただコイツらは俺が唯一の男性ってことで期待している様子。しかしさっきも言った通り俺はそこまで食える人間ではない。女の子だったらたくさん食えるんだけどな――――って、うるせぇわ。

 

 

「歓迎会の様子も動画にしっかり収めましたの。これでLiellaファンからの再生数を荒稼ぎして、マニーをガッポガッポ……うひひ」

「夏美ちゃん、また悪い顔になってるっす……。Liellaの動画で得た収入は、部費として使うって決めたんじゃなかったっすか?」

「ま、まぁそれはそれ、これはこれですの……」

「ダメだよ夏美ちゃん。勝手なことは部長として許せません。収益が欲しかったら、夏美ちゃん自身が出てる動画を撮ればいいよ」

「そういえば千砂都さん、1年生の皆さんはまだ自己紹介の動画を撮っていません。メンバー紹介も兼ねて撮影してはどうでしょう?」

「おっ、それいいね! ナイスアイデアだよ恋ちゃん!」

「「「「う゛っ……」」」」

 

 

 1年生の4人は身体をピクっとさせる。

 実はちょっと前に自己紹介動画自体は撮影していたのだが、男に抱かれて顔を真っ赤にしている姿を晒しているだけなのでボツとなった。そしてその動画は2年生たちには公開していない。ただいくらボツになったとは言え1年生たちの記憶にこびり付いているのは確かで、スクールアイドルを始めて早々に黒歴史を作る結果となってしまった。

 まあ俺と一緒にいると嫌でも忌むべき記憶は刻み込まれるもの。ラブコメ主人公のヒロインってのはそうなるもんなんだよ。申し訳ないねぇ……。

 

 そんな感じで世間話が盛り上がりつつある中、ただ1人顔が青ざめている奴がいることに気付く。もしかして食い過ぎで気分が悪くなったのかと思ったが、俺と同じことを察知したもう1人が先に動いた。

 

 

「メイ、さっきから震えてるみたいだけど、大丈夫?」

「し、四季……。さ、さっきそこの窓から女の人が……!!」

「ここは女子高。女の人がいるのは当然」

「ち、違うって!! さっきいたんだよ―――――頭から血を流している女の人が、3階の廊下を歩いてたんだって!!」

「えっ?」

「「「「「「「え゛ぇえええええええええええええええええっ!?」」」」」」」

「んなアホな」

 

 

 メイの突然の暴露に四季は珍しく表情を崩して驚いた顔をし、他の奴らはみんな声を上げて驚愕した。

 そりゃもう夜だし、校内の明かりも消えているためそういったホラームードになるのも分かるが、常識的に考えてそんなヤバい奴が学校を闊歩してるわけねぇだろ。ただ女子高生ってのはそういった噂に過敏なもの。更に小心者のコイツらからしたら意識せざるを得ないのだろう。

 

 なんか、また面倒なことになりそうな気がしてきた……。

 

 

「もう消えたけど、さっきあの3階の遠くの窓から見えたんだって!! ウチの制服を着て、血を流して歩いてる女の人が!!」

「んなわけねぇだろ。暗いから見間違えただけじゃねぇのか?」

「そ、そうかもしれないけど……」

「でも学校と言えば怪談、怪談と言えば学校。切っても切れない関係ですの。ね、かのん先輩……って、どうしてそんなに震えてますの?」

「またお化け!? そういうの苦手なんだから勘弁してよもぉ~~~~っ!!」

「かのん先輩ってホラー系苦手なんすか?」

「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理」

「今にも泡噴いて倒れそうになってるわね……」

 

 

 ただ校内に女性がいるって情報だけでこれだけ怖がれるの、ある意味ですげぇな。それだけ作詞担当が故に想像力豊かなのが裏目に出たか。そうやってコミカルにビビられると逆に周りの奴らの恐怖感が薄まるから、1人の犠牲でみんなの精神が安定すると思って納得しておこう。

 

 

「ほっとけ、どうせ見間違えただけだろ」

「しかし、去年のように下手に噂が大きくなっても皆さんを不安にさせてしまうだけでしょうし……」

「だったらどうすんだよ……」

「これはLiella探索部隊が調べるしかないデスね! その血に塗られた女性の正体を!」

「いやそう来ると思ったよ……」

 

 

 去年もそんな軽いノリでお化け捜索が始まった気がする。探求心がある奴にホラー話をしたらダメだって。こうなるのは目に見えたし、どうせ途中でビビって先頭を歩くのはいつの間にか俺になってるのがオチだから。

 

 どうにも、こうにも、面倒だねぇ……。

 

 

「それじゃあ部長として、今晩はスクールアイドル部ならぬゴーストハンター部として学校を探索しよう!」

「えぇっ!? ちぃちゃん本気!?」

「わ、私もイヤだからなそんなの!! てか四季は……そういうの好きか。きな子と夏美はどうなんだよ」

「怖いのは怖いっすけど、気になるのは気になったりもする……かも?」

「こんなスクープ映像を撮れる機会は中々ないですの! お化けの香りはイコールでマニーの香り! 胸が躍りますの!」

「全く、仕方ないわねアンタたちは。私もついて行ってあげるわよ」

「と言いながらすみれ、ちょっと震えてマスよ?」

「う、うっさい! アンタもでしょうが!」

 

 

 顧問の意見すら聞かずに勝手に進めやがってコイツら。まあ俺の性格を知っていれば、こんな面倒なことをせずにとっとと帰ると言い出すに決まってるのでそりゃ無視するか。

 そんなわけで急遽メイが目撃したとされる血染めの赤女の正体を探るべく、スクールアイドル部のゴーストハンターが始まった。

 

 つうかハンターって、捕まえてどうすんだよ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 半ば強制される形で校内を散策することになった。校内は既に消灯しているためスマホのライトで照らしながら突き進んでいるわけだが……。

 

 

「結局全員来んのかよ……」

「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」

「かのん先輩あまり怖がるなよな! こっちまで余計に怖くなるだろ! うぅ……」

「だったら待ってりゃいいだろ」

「みんなと一緒にいた方が怖さ和らぐかなって……」

 

 

 今も普通にビビってるからどちらにせよだな……。

 こんな感じで主にかのんとメイが震えながら付いてきていた。他の奴らも大なり小なり怖くはあるようで、挙動不審だったり周りの様子を常に窺わないと気が済まない奴もちらほらいる。そのせいで他の奴に寄り添っていないと恐怖心が高まるためか、自分の前の奴の服の(すそ)を掴んでおり、その前の奴がまた前の奴の服の裾を摘まむ。そうなると必然的に俺たちは1列の部隊となってしまうわけだ。ムカデかよ……。

 

 そんな中でも恐怖心より探求心が勝っているのが、こういうことに興味津々な四季と、バズりのため赤女を何が何でも写真に収めたい夏美だけだった。

 

 

「職員室にはまだ誰かいると思うけど、流石に生徒はみんな帰ったか。恋、生徒会に居残り届を出してきた奴はいねぇのか?」

「それが、今日は歓迎会のために家庭科室で料理をする予定だったので、本日そういった届け出は理事長が受け取ることになっていまして……」

「なるほど、だから知らねぇってわけね」

「すみません。誰が残っているのか把握していれば、こうやって見回る必要もなかったものを……」

「別にいいよ。廊下だろうが教室だろうが電気はいつでも点けられるし、暗いままってことはどうせ誰もいねぇだろうしな。つうわけだ、一通り見て回って誰もいなかったら、戻って後片付けして帰るからな」

 

 

 みんな頷くが、一番怖がっているかのんとメイは納得してないような感じだ。『お化けが見つからない』=『お化けを見つけられていない』と解釈しているのかもしれない。こういうビビりな奴らをどう安心させるかも教師としての力量が試されてるのかねぇ……。

 

 そうして暗い校舎内を進んでいく俺たち。その途中、俺と共に先頭を歩く四季が話しかけてきた。

 

 

「そういえば先生、外にいたときにかのん先輩が『またお化け』って言ってた。『また』ってどういうこと?」

「それ私も気になっていましたの。もしかして本物が出たな~んて――――」

「あぁ、去年マジで出たんだよ。お化けが」

「「え゛っ!?」」

「「え゛っえぇええええええええええええ!?!?」」

 

 

 四季と夏美の目が丸くなり、メイときな子は絶叫に近い声を上げる。前者の2人もモノホンのお化けがいる事実に驚愕したのか、流石の余裕もなくなっているようだ。

 ちなみに2年生の奴らは体験済みなので、この話題に関しては落ち着いている。それでも去年は浮いてる霊魂たちを見て顔面蒼白だったからな……。

 

 

「そ、そんな……ウソっすよね? 先生さっきまでお化けなんて科学的にあり得ないみたいな顔してたじゃないすか!!」

「ホントよ。ま、そんな仰々しいものじゃなくて、なんていうかその……はた迷惑みたいな?」

「あの時はあの時で、成仏の仕方が結構恥ずかしかったような気も。あはは……」

「「「「??」」」」

 

 

 去年、学園内の井戸の周りに霊魂がたくさん浮遊して、呻き声をあげている事件があった。知り合いの美少女幽霊を呼んで事情を説明してもらうと、それは性欲を持て余した死者の魂であり、ソイツらを成仏させるためにはソイツらの飢えを解消する必要があった。その飢えとは性欲。ただ霊体となった幽霊の性欲を解消することはできないため、目の前で甘酸っぱい愛を見せつけてその霊たちを満足させるという荒業でこの世から成仏させていった。てのが軽いあらすじだ。

 

 つまりその過程で俺に愛を囁かれたのがかのんたち2年生。そして恋愛クソ雑魚のコイツらが俺に抱きかかえられたり、告白紛いなことをされたらどうなるのかお察しのこと。だから今それを思い出して恥ずかしがっているんだ。

 

 

「もし本物がいるんだったら、私の見た血の女も本物にいるってことに!?」

「それは大丈夫じゃないかな」

「千砂都先輩?」

「だって先生が守ってくれるからね。去年お化けが現れたとき、私たちを守ってくれた先生が超イケメンだったんだから♪」

「そうね。ま、まぁ、私と釣り合うくらいにはなってたんじゃないかしら」

「私も、あの時の先生には思わず心が高鳴ってしまいました」

「そ、そんなカッコよかったのか先生……」

 

 

 その話を聞いた1年生たちの頬もほんのり紅く染まる。相変わらず想像力は豊かだなコイツら。てか聞いてるこっちも恥ずかしくなるから、そんなことはこっそり話せよな……。

 

 そんな世間話が発展したおかげか、ビビりにビビっていたかのんとメイの気も少し休まっているようだ。

 そして俺たちは血染めの女がいたとされる3階にやって来る。またしても緊張感が高まるが、今のところ特に怪しい気配などはない。

 

 

「そろそろですの! 遂に赤女を激写するときが来ましたの! その姿をマニーに変えて……フフフ……」

「できれば捕獲して、解剖するのもちょっと面白そう。フフフ……」

「夏美ちゃんも四季ちゃんも怖いっす……」

「下手な霊よりよっぽど化け物だな……」

 

 

 本当にゴーストをハントする気かコイツら……? 思いっきり悪い顔してるし……。

 

 

「バカなこと言ってないで、とっとと見回ってとっとと帰るぞ」

「ひゃぁっ!? せ、先生ぇ……!!」

「ちょっ、急に抱き着くなかのん! 今度はなんだよ!」

「あ、あれ……血?」

「え……?」

 

 

 かのんが腕に絡みついてきた。今日一番の顔面崩壊っぷりに何を見つけたかと思えば、その指を差した先、廊下の床に――――赤い液体が垂れていた。小さな円状の赤い液体がぽつぽつと等間隔に廊下に垂れており、奥へと続いている。そしてL字型の廊下の曲がり角の、更にその先まで繋がっているようだ。

 

 

「ちょっと何よコレ!? まさか本当の本当にいるってことじゃないでしょうね!?」

「そんなの可可に聞かれても困りマス! でもこれはそうとしか思えないような……」

「やっぱり私が見た通り、髪に血がたくさん付いていて、その先からぽつぽつ垂れて……!!」

「じゃあこの先にいるってことかな? その赤い女の人が……」

「ひぃいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 確かに状況だけを見れば現実味を帯びてきた。かのんが奇声を上げるのも仕方がない。

 でも本当にいるのかそんな奴? そもそも何の目的でこの学校に? いくら夜でもこの学校は人の多い都会の中にある学校。そんな血塗れだったらいくらなんでもここに来るまでに誰かに気付かれると思うが……。

 

 

「相当血が付いているようですね。そこの手洗い場にも血の跡があったので、も、もしかしたら洗い流したけど洗い流しきれずに……」

「自分の髪に血がこびり付き。洗い流せない忌むべき印として刻まれている。そしてその怨念が膨らんでいき、この学校に憑依している可能性がある」

「そ、それは更なるバズりが期待できますの……」

「夏美さん、震えていますよ。私も人のことを言えないですが……」

 

 

 コイツらの緊張感が一気に高まって来た。このままだと混乱させかねないが、恐らくこれは――――

 

 

「いや、これは絵具だよ。絵具をここで洗い流す時に、暗くて見えづらいから手洗い場に着色が残ってることに気が付かなかったんだ。同じ理由で、廊下に垂れたことにも気づかなかったのかもな。しかもほら、垂れている絵具の先、角の向こうの教室に続いてるだろ」

「向こうには確か、音楽室や美術室などの特別教室がある場所ですが――――あっ、まさか!」

「あぁ。特別教室で絵具を使うのは美術室だろ? 床の絵具はそっちに向かって伸びている。だからお化けなんかじゃねぇから安心しろ」

「で、でもそう思わせて、実は美術室で血塗れの女の人が待ち構えているかもしれないじゃないですか!?」

「かのんお前、妄想だけは一人前だな……。ったく、安心しろ、もし霊がいたら俺が守ってやっから。お前らには誰にも指一本触れさせねぇよ」

「先生……」

 

 

 Liellaの面々が一斉にこちらを見つめ、ピリついていた雰囲気が少し落ち着いた。

 なんつうか、恋する乙女の香りが9人分も揃うと匂いなんてないのに甘く感じるな。しかもちょっと温度上がった気がするし、コイツらの目が輝いていて期待されまくっているのが見て分かる。もしかしてクサいセリフを吐き続ければ、みんな俺に夢中になって怖さを忘れさせられたかも? いやそんな連続でイタイ発言をしまくると俺の方が羞恥心に溺れそうだ……。

 

 まぁとにかく、美術室まで行ってみることにする。

 

 

「やっぱりここだけ電気が漏れてる。開けるぞ」

 

 

 廊下が暗いためか美術室は締め切ってあっても光が外に漏れていた。ちなみに俺たちのいた歓迎会の場所からでは、この部屋の位置は校舎を挟んでちょうど裏側だったので明かりが点いていることは確認できなかった。

 

 かのんたちは固唾を飲んで俺の後ろに控える。赤女が潜んでいる可能性がゼロとは思っていないのだろう。

 美術室のドアを開ける。徐々に部屋の光が暗い廊下に差し込んでくる。目が光に慣れ、部屋の様子が映し出される――――

 

 

「あれ? 先生?」

「えっ、どうして先生が!?」

「やっほー先生!」

 

「えっ……お前ら、美術部か?」

 

「はい、そうですけど……」

 

 

 中に血塗れの赤い女がいるはずもなく、普通に美術部が部員たちが絵を描いていた。

 ビビっていたかのんたちも、目の前の光景が日常的だと理解した瞬間に警戒を解く。

 

 

「どうしてこんな時間までいるんだよ」

「展覧会が近いんですよ。だから最後の追い込みをしていたんです」

「なるほど。そういや、部員で赤い髪した奴っているか?」

「赤い髪の子……ですか? 部員にはいませんけど、今手伝ってくれている方なら――――」

 

 

「あっ、センセーじゃん! どうしたのこんなところに?」

 

 

「七草、七海……?」

 

 

 現れたのはかのんの友達である七草七海だった。かのんたちスクールアイドルをサポートにもいに貢献している奴らの1人だ。

 それにしても、相変わらず去年と今ではイメージが変わったように見える。前までは三つ編みだったのに今は髪を伸ばしてツインテールになってるし、制服も結構着崩していて、かなりイマドキ女子っぽくなってる。

 

 去年までは言っちゃ悪いがモブキャラに等しかったが、急にキャラ変わったなコイツ。去年の時は明るい性格ってだけの感じだったが、今はちょっと、いや結構掴みどころのない不思議な性格になっている。

 今も向けられている妖艶で小悪魔的な笑み。やはりこちらの何もかもを見透かしているような、そんな感じがした。

 

 

「七海ちゃん、今日は美術部の応援に来てたんだ」

「今日は? ってことは、スクールアイドル部以外の応援もやってたのか」

「え~センセーってば、自分のクラスの生徒のことも知らないのぉ~?」

「全部が全部覚えきれる訳ねぇだろ。つうかお前、絵具廊下に(こぼ)しまくってたぞ」

「えっ、ホントですか?」

「えっ、あれ零したのって七海ちゃんなんですか?」

「あぁ、この赤くて長い髪。メイが遠目でコイツを見て、頭から血を流してると勘違いしたんだよ。コイツの髪、赤って言うよりもそれなりに濃色してるしな。血と間違えたんだよ」

「そ、そうなのか……」

 

 

 さっきの手洗い場はこの美術室から廊下をL字に曲がったところにある。だからそこは美術室とは違って俺たちが元々いた場所から見えて、そこにいた赤毛の七草を見てメイが勘違いしたってところだ。ま、暗かったし、遠目で見たら分かりづれぇわな。

 

 

「女の命である髪を血と勘違いするって、なんか(しん)がーいっ!」

「すみませんすみません! 私の勘違いで!」

「いいよいいよ! センセーのカッコいいところ、見られたでしょ?」

「そ、そりゃ男らしく私たちを引っ張ってくれたところとか、守ってやるって言ってくれたところとか――――って、何言わせんだ!?」

「七草、お前……」

「フフッ、しーっ、ですよ♪」

 

 

 七草は怪しく微笑みながら、口に人差し指を当てる。言いたいことはあったが、コイツの謎の圧に押し負けて何も言えなかった。やっぱ不思議な奴だな……。

 

 

「じゃあ部長さん、もう上がりますね!」

「はい。ありがとう七草さん」

「また明日! かのんちゃんたちも!」

「うん。でもメイちゃんの見た人の正体が七海ちゃんで、本当に良かったよぉ~」

「大変だったみたいだねぇ。でもそうやって先生に抱き着いちゃって、役得なこともあったんじゃないのぉ~?」

「へっ、あっ、す、すみません先生!! 廊下にいる時からずっと……」

「別にいいけどさ……」

「あははっ、かのんちゃんも可愛いね! それじゃあセンセー、また明日!」

 

 

 言いたいことだけ言って、かのんたちの心を掻き乱すだけ掻き乱して帰りやがった。

 本当に、最近はますます何を考えてるのか分からない奴になってきたなアイツ……。

 

 

「ま、本物のお化けじゃなくて良かったな。それじゃあ俺たちも戻って片付けして帰るぞ――――ん?」

 

「きな子もさっき先生に抱き着いてたっす。思い返すと恥ずかしい……」

「守ってやる、デスか……。カッコよかったデス、先生……♪」

 

 

 みんな七草の言葉に惑わされて夢心地になっていた。

 片付け、まさか俺だけやるとかねぇ……よな??

 




 この小説で新章のたびに定番となっているホラー回でしたが、どちらかと言えば描きたかったのは怖がっている女の子の姿だったりします。やはり私も偏屈趣味なので、怖さでブルブル震えている子を見ると、ちょっといいなぁ~とか思っちゃいます(笑)

 そして1話で顔見せ程度に登場していた七草七海(アニメだと『ナナミ』で、2期で生徒会書記をやっていたモブ)が、本格的に登場しました。
 サヤさんと同じくキャラ付けを大きく変更して、ぶっちゃけオリキャラレベルになっちゃってます。オリキャラは本当に至上最低限にして、原作キャラのみで話を進めるのがこの小説の方針です。ただ、Liella編の第二章も第一章と同じことをさせても執筆している自分自身がマンネリになって飽きてしまうため、ちょっとアクセントを付けたいと思い、このキャラ付けで登場させました。
 虹ヶ咲編も第二章では零君の身体のピンチとキスを主題にして、第一章とは別のストーリーを展開してきました。そのため、Liella編も第二章は前回と展開が被らないよう、それでも恋愛面はしっかり織り込んだ、別切り口でのストーリーを展開していきますので、楽しんでいただけると幸いです。




 実はこの小説のオリキャラって500話も連載して、姉の秋葉、妹の楓、母の詩織、幽霊の愛莉の4人だけだったり……。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

きな子とかのんと喫茶店バイト

「手土産、本当にこれでいいんすかね……?」

「いつまで悩んでんだよ。今時引っ越しの挨拶でもモノ持ってったりしねぇぞ」

 

 

 今日はきな子とかのんの家の喫茶店へお邪魔する予定となっている。

 コイツは前々からバイトを探していて、それがかのんの耳に入って自宅の喫茶店でのバイトを勧められた次第だ。言ってしまえばコネなのだが、どうやらアイツの母さんもバイトを探していたみたいなのでお互いにwin-winだろう。

 

 そして俺が同行している理由はコイツのことが心配だから――――とかではなく、以前にかのんからまたウチに来てくれと誘われていたからだ。どうやらアイツの母さんもまた俺に会いたいらしく、ぶっちゃけ何を話すんだって思うが、いい機会なのできな子の初バイト出勤日に便乗させてもらった。まあコイツどんくさいところあるし、バイトなんかできるのかと心配って気持ちは少しはあるけどな。

 

 ただ、バイトに行くだけなのに手土産がどうとか気にするあたり、やっぱり元田舎の人間だって思う。どうやら昨日からずっと澁谷家に渡す手土産を選別していたらしく、結局自分で決めることができなかったので俺に連絡して来る始末だった。そんなモノ持っていく必要はないと何度も言ったんだけど、心配性なコイツはずっと気が気ではなかったので、仕方なく適当なクッキーの詰め合わせを買わせておいた。洋菓子の喫茶店相手にクッキーを持っていくのってどうかと思うけど……。

 

 

「初バイト、緊張するっす……」

「知らない職場じゃねぇんだし気軽に行け。それに形だけとはいえ、一度面接したんだろ?」

「はい。でもかのん先輩のお母さんがきな子を見た瞬間、『うんっ! 可愛い子なら大歓迎! 採用!』ってノリで一瞬で終わったので……」

「適当だなアイツの母さん……」

 

 

 あの人もノリがいい性格だから、面食いな性格が発動してバイトが決まるのは珍しくないってかのんがぼやいていた気がする。そのせいで能力が二の次になっているせいか、仕事に合わずやめていく奴も多いらしい。コイツもまさにその典型になりそうだけど大丈夫かよ……。

 

 

「先生は何かアルバイトの経験あるんすか? 是非アドバイスを頂きたいっす!」

「ねぇよんなもん。金には困ってなかったしな。別に社会勉強をしたいとも思わなかったし」

「だからこんな性格になってしまったんすね……」

「こんなってなんだよ……」

「でも先生は何でもできるし、自分からバイトしに行かなくても色んなところから引っ張りだこなイメージがあるっす。きな子のクラスにも、先生に勉強を教えてもらいたいって人がたくさんいるので」

「昔っからそうだったよ。勉強だけじゃなくて、スポーツ系や文科系の部活どっちからも手伝って欲しいって誘われてたな」

「女の子ばかりに?」

「あぁ――――って、今のなし」

「昔っからモテモテだったんすね」

 

 

 秋葉曰く、俺は女の子にモテる体質とのこと。俺自身それは自覚していて、1人女の子を助けたらその友達に噂が伝染し、更にその子たちを助けてまた別の友達へと活躍が受け継がれていく。そのせいでいつの間にか知り合いの女の子がチェーンメールのように増えていったんだ。しかもそれは大学生の頃も、そして教師になった今も変わってないって言うね……。

 

 

「きな子も先生のおかげでスクールアイドルをやれてるし、こうしてバイトにも誘ってもらえたっす。ありがとうございます」

「なんだよ急に。スクールアイドルはまだしも、バイトは俺なにもやってねぇぞ」

「先生の作ってくれた人脈のおかげっす。縁は自然には生まれないすから」

「そうかよ。そりゃよかった」

 

 

 いつもやってることだから感謝する必要ねぇって言っても、今まで誰にも聞き入れてもらえたことがない。みんな律義にお礼を言ってくるから普通に気恥ずかしいんだよな。しかもどれだけ自分が年下であっても、こうして男と2人きりでいることに対して苦と思っていない。まあコイツらは俺のことを教師ってより頼りになるお兄さん的な、侑のような考え方をしてるから、教師生徒の壁はそれほど感じていないのだろう。

 

 てか、よく考えて教師と生徒、しかも男女である俺たちが休日に2人きりでいること自体が犯罪扱いされかねないよな普通は……。それだけ俺を慕ってくれているってことはありがたいことだけどさ。

 

 そんな話をしている間に目的地が見えてきた。既に店先に店のエプロンをつけたかのんが箒を持って掃除をしていた。

 

 

「かのん先輩!」

「あっ、こんにちはきな子ちゃん! 先生も休日にわざわざありがとうございます」

「別にいいよ。それにしても、お前が真面目に働いているところ初めて見た気がする」

「いやいやスクールアイドルの練習がない時はいつも駆り出されてますよ。そもそも先生、私の働きっぷりを判断できるほどここに来てないじゃないですか」

「そうだっけ。お前の口から労働の愚痴だけ聞かされてたからそのせいかもな」

「かのん先輩も苦労してるんすね……」

「そうなんだよ!! だからきな子ちゃんが来てくれたら、私もちょぉ~っとは楽できるかなぁ~って!」

「えぇっ!? きな子を同じ穴の(むじな)にするつもりだったんっすか!?」

 

 

 バイトが定着しないせいで、娘のかのんが戦線に駆り出されているってのは去年からずっと聞かされていた話だ。しかもスクールアイドルも始めてしまったせいで、練習に作詞作曲、喫茶店の手伝いに学生としての勉強と、もはや何足の草鞋(わらじ)か分からないくらいだ。それなのにこの1年半よくやってるよなコイツ。

 

 そんなわけで現在絶賛営業中なため、裏口から入らせてもらう。

 するとすぐにかのんの母さんに出迎えられた。

 

 

「きな子ちゃん! いらっしゃい!」

「あっ、店長さん。きょ、今日からよろしくお願いします」

「よろしくね! 早速色々と教えたいんだけど、まずはこの制服に着替えてもらってもいいかな? かのん、更衣室に案内してあげて」

「うん。きな子ちゃん、こっち」

「は、はいっす!」

 

 

 言ってもまだ緊張してるなアイツ。元々誰かに自分を魅せる、見てもらうってことをしたことがなかったアイツは、スクールアイドルをやることすら当初から躊躇っていた。それはアイドルになった後も同じで、未だにステージ前は極限まで自分を落ち着けないとまともに舞台に上がれない。それはこの場でもそうのようで、いくらスクールアイドルで色んな人の注目を浴びているとは言っても、活躍の場が変われば緊張もする。この現場も早く慣れるといいな。この店特有のバイトの入れ替わりの波に飲まれなければの話だけど……。

 

 ただスクールアイドルになって前向きになれつつあるってことは事実だから、教え子としても親目線としてもここのバイトが定着することを願ってるよ。

 

 

「先生、今日は娘のわがままにお付き合いいただいてありがとうございます。最近はまた先生の話が多くなって、これで娘の気も晴れると思います」

「私なんかで娘さんの精神が安定するならいつでも。でもまたアイツ……いやかのんさん、私の話を……?」

「ずっとしていますよ。スクールアイドルのことも勉強のことも、もう先生に褒められたくて頑張っているみたい♪ ダウナーになっていた頃がウソのように活き活きしてますから」

「確かに1年生の初めの頃は超やさぐれてましたからね」

 

 

 きな子がスクールアイドルになって変わったと言ったが、かのんも大きく変わった奴の1人だ。去年は何事にも消極的で、特に可可に追い回されていた春の頃はそれはもう自室で触ったら火傷するくらいのダウナー状態だったそうだ。そりゃ親が心配するのも無理ねぇわな。

 

 そんなこんなで学校でのかのんの近況を俺から、家での近況をかのんママからと、お互いに伝えあう。そうしている間にきな子は着替えが終わって俺たちの前に現れた。

 

 

「ど、どうすかね……?」

「あぁ、似合ってるじゃん」

「そ、そうっすか!? 良かったぁ……」

「良かった?」

「きな子ちゃん、ずっと先生に変な風に思われないか心配してたんですよ。いつもの心配症ですね」

「か、かのん先輩!?」

「普通に似合ってると思うぞ。お前も、かのんも」

「ふぇっ!?」

「今更お前まで恥ずかしがるなよ。今日はずっとその格好だろ……」

 

 

 褒められたらダメージを受ける羞恥レベルの低さは、自分のホームであっても健在だな。

 ただ、似合っているってのはお世辞ではない。この2人はどちらもアイドル的な派手な衣装ってよりかは、喫茶店の制服のようなシックな感じが似合うと俺は思っている。もちろんスクールアイドルの可愛げのある衣装もいいけど、だからこそ落ち着いた雰囲気のある今の制服の方が際立つって感じかな。

 

 

「よしっ、それじゃあ早速入ってもらおうかな!」

「えぇっ!? いきなりっすか!?」

「大丈夫。最初はかのんが付きっ切りになって教えてあげるから」

「うん。一緒に頑張ろ!」

「は、はいっ! よろしくお願いしましゅ!」

 

 

 噛んでるし……。

 ホントに大丈夫かよ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そしてきな子のバイト1日目が始まった。とは言っても研修のようなものなので、客の前に出るのはもうちょっと先になるらしい。今は客も少ないのでかのんの母さんだけで店を回せるってことで、カウンターの裏でかのんと一緒に修行中だ。

 ちなみに俺は適当にカウンター席でコーヒーを飲みながらその様子を眺めている。アイツ手先が不器用な部類だから、チマチマした作業が多そうな喫茶店は苦労するかもな。

 

 そんな中、俺の席の隣に誰かが来た。こんなに席が空いてるのにわざわざ隣に座るとか、まさか噂のトナラーってやつか?

 

 

「お久しぶりです、先生」

「ありあ。久しぶりだな」

 

 

 そういやコイツもいたんだった。彼女はかのんの妹で、今は確か中学3年生で受験生だったはずだ。

 姉とは違ってどうも達観している性格で現実主義者。俺のことも最初はやたら警戒していたし、同じ妹って意味でも穂乃果の妹の雪穂に性格も雰囲気も似てるかもな。やっぱ危なっかったりダウナー気味だったり、テンションの浮き沈みの激しい姉を持つと妹は反面教師にするものなのかねぇ……。

 

 

「今日は新人さんの付き添いですか?」

「んなわけねぇだろ。かのんの誘いがしつこいから来てやっただけだ。きな子が今日初バイトっつうからそのついでにな」

「ふふっ、相変わらず似合わずお人好しなんですね」

「似合わずってなんだよ。まあ自分でも合ってねぇとは思うけど」

「だって教師と生徒ですよ? お金にもならないのに、わざわざ休日にまで付き添うだなんてお人好し以外の何物でもないと思います」

「ほっとけ……」

 

 

 お人好しが似合わないってのはそりゃそうだ。でもその似合わないことをもう20年以上やってきてるわけで、それはもう自分のアイデンティティなんじゃないかとも思う。女の子の困ったところを見ると脊髄反射で動いてしまうこの性格は、自分のことながら面倒な性格だと思ってるよ。

 

 

「そういえやお前はどこの学校を受けるんだ。まさか姉と同じウチの学校とか?」

「まだ迷ってます。去年お姉ちゃんたちや他の部活もかなりいい成績を出したからか、知名度が上がって倍率高くなってるんですよ、結女って」

「そうなのか」

「はい。それに先生も原因だって噂がありますよ。お人好しのイケメン先生が勉強でも何でも親身になって相談に乗ってくれて、もうそれだけで惚れちゃうって女子中学生界隈では有名話です」

「マジかよ。最近の中学生の妄想濃すぎるだろ……。てことは、お前もそう思ってんのか?」

「えっ、わ、私は……そりゃ先生に勉強を教えてもらったら捗るとは思いますけど……」

 

 

 戸惑っているあたり、ちょっとは思ってくれているらしい。コイツの中での俺の評価はそこまで高くないと思ってたから少し嬉しかったりする。

 それにしても、女子中学生の中でそんな噂が広まってんのか。そんなので入学の倍率が高くなるとは思えないが、茶目っ気のある理事長だし、こっそり俺をダシにして宣伝している可能性は高い。しかも結ヶ丘は秋葉の息がかかっているらしいので、現実的にあり得る話かもしれない。

 

 思春期女子が面食いなのは分からなくもないけど、惚れちゃうまで行ってるのがなんとも怖い。来年の4月に新入生からいきなり告白されたらどうしよう……。

 

 

「そ、それよりもあの新人さん、大丈夫なんですかね? さっきから苦労してるみたいですけど……。見てるだけでこっちがそわそわしちゃいますよ」

「バイト経験もないみたいだし、手先も不器用だから仕方ねぇよ。最初は大目に見てくれ」

「はぁ……。またすぐ辞めちゃわないといいんですけどね」

 

 

 カウンターから見てみてもきな子が苦労しているのが良く分かる。コーヒー1杯入れるだけでも、その種類によって豆の引き方、ミルクなどの投入分量等々に加え、客の注文に合わせてカスタマイズをしなければならない。まだ客前に出てないので注文は取っていない段階だが、それでも細かい作業の連続で脂汗を流している。慣れない現場で慣れない作業、そりゃ緊張も取れねぇわな……。

 

 

「それでもアイツ、ガッツだけは一人前だ。心が折れても諦めないし、一歩ずつ、いや半歩ずつでも先に進もうとする気概がある。優柔不断だし緊張しがちで自分に自信がない性格だけど、決して後ろに下がろうとはしない。それがアイツの強さなんだよ。そして俺は、アイツのそういうところが好きなんだ。だから、しばらくは様子を見てやってくれ」

 

 

 悩むことは人一倍に多いけど、それでも逃げようとしないのがきな子のいいところだ。それはスクールアイドルに入る前にコイツと交流して感じたことで、前向きという言葉は大袈裟だけど、後ろを見ない、後退りしないのは強みと言える。入部直後は練習のレベルの高さに悩みながらも、それに食らいついていこうとする根気も持っていた。だからバイトも危なっかしいながらもなんとかなるんじゃないかな。

 

 ――――って、ありあがめっちゃこっちを見てる。なんか変なこと言ったか俺……?

 

 

「聞こえてると思いますよ――――向こうに」

「えっ……?」

 

 

「ふえぇ!? せ、先生がきな子をそこまで評価してくれていたなんて……。い、いや光栄っすけど、そこまで期待されていると恥ずかしいっす……!!」

「大丈夫だから! 応援してくれてるから一緒に頑張ろ! 先生も、あまりきな子ちゃんを緊張させないようにしてください」

 

 

「俺のせいかよ……」

 

 

 てかお前だって俺に褒められたら照れるだろ、さっきみたいに……。

 ただなんか既視感がある。さっきの自分のセリフ、どこかでも言ったような……気のせいか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 きな子が照れまくって緊張しまくって細かい作業どころではなくなったので、店の裏でコーヒー豆の入った袋を運ぶ作業をすることになった。どうやらいつも使っている手押し車が壊れたので、人力で運ぶしかないらしい。

 

 ちなみにきな子がああなったのは俺に原因があるようだったので、力仕事なのも相まって俺も手伝ってやることにした。いや褒めるのがNGってトラップにも程があるんだけどさ……。

 

 

「これならきな子でも簡単にできそうっす!」

「おぉ~きな子ちゃん力持ちだね! 女の子にこういうことを言うのは忍びないけど」

「平気っす! 実家のペンションで、よく食材やら色々運ぶお手伝いをしていたので!」

「頼もしいね。私は非力すぎてちょっと事故ったことあるから、未だに豆運びは苦手だなぁ……」

 

 

 かのんはチラッとこちらを見つめる。

 そういや棚から豆袋を降ろそうとしたとき、手が滑ってそれが脳天直撃し、しばらくの間コイツの性格が変わってやさぐれモードから元に戻らないことがあったな。その状態で登校してきたものだからクラスが騒然として、コイツを元に戻すために躍起になっていたことを思い出す。可可とかコイツのあまりの怖さに泣きそうになってたしな……。

 

 豆袋をもって倉庫を出る。

 それなりに重量はあるが、きな子はさっきまでと違い汗1つかいていない。どうやら実家の手伝いで鍛えられたってのは本当だったようだ。その割に運動が去年の可可と同じくらい苦手だったような……。ま、腕の筋肉が鍛えられても体力にはさほど影響しねぇか。

 

 

「先生、さっきは戸惑ってばかり言えてなかったすけど……ありがとうございます」

「何がだよ? まさか聞こえてたって言うアレか? 別に指導者として生徒を褒めるのは普通のことだろ」

「それがきな子にとって嬉しかったっす。かのん先輩たちが言った通り、先生は暖かい方っすね。きな子がスクールアイドルに入るか迷っている時も、同じことを感じた気がするっす……」

「そっか」

「きな子、先生のおかげでこのバイト頑張れそうです!」

 

 

 地味で鈍臭い自分を変えたい、変わりたい、輝きたい。コイツが春にずっと悩んでいたことだ。そしてそんな子を見ると何故か手を貸したくなってくるのが俺の悲しく面倒な性。紆余曲折あってコイツはスクールアイドル部に加入したわけだが、それは別に俺ってよりも同級生の後押しがあってことだと思うけどな。

 

 そんな中、きな子は思い出していた。あの春のことを――――

 

 

『スクールアイドル、気になるのか?』

『迷ってるのなら行ってみるだけ行ってみればいい。体験入部して、それで続けるかどうか決めろ。大丈夫、やらないってなってもアイツらは恨んだりしねぇよ』

『結局はお前が決めることだ、俺が口出しすることじゃない。だけど、見てみたいって思う。お前のスクールアイドル』

『自分が可愛くないって? いや可愛いだろ、何言ってんだ』

『自分を変えるのは難しいことだよな。悩みがあるのなら言ってみろ。これでも教師だからさ』

『どれだけ運動が苦手でも諦めないし、一歩ずつ、いや半歩ずつでも先に進もうとする気概がお前にはある。優柔不断だし緊張しがちで自分に自信がない性格だけど、決して後ろに下がろうとはしない。お前のそういうところ、俺は結構好きだ』

 

 

「うぅ~っ!?」

「お、おいどうした急に顔赤くしやがって!! かのん、ちょっとこっち手伝ってくれ!」

 

「えっ、一体どうした――――って、きな子ちゃん!? また先生がドキッとさせることを!?」

 

「してねぇから!」

 

 

 勝手に妄想して勝手にショートされたら、もう俺どうしようもねぇだろ! それで怒られるのは理不尽過ぎる!

 ただ、コイツの中で何かが変わったらしく、落ち着いた後はこれまでとは考えられないくらいテキパキと研修を受けていた。やっぱり恋する乙女の感情や心情は、一生かけても理解できそうにねぇな。

 




 今回はきな子メイン回でした!
 今回の話を描いていて思ったのですが、零君の信頼され過ぎ感が半端ないですね(笑) かのんママからも信頼が厚く、ありあに対しては何かフラグが立ってそうな雰囲気だったので、やはり女性に対しては最強なのかも……


 そういえば、Liella3期生のメンバーが先日発表されました。
 マルガレーテは予想の範囲内でしたが、これまで影も形もなかった夏美の妹が登場するとは予想外すぎて……。
 ただ自己紹介を見る限りはかなりいいキャラをしているので、スパスタのストーリーをはアレですが、キャラが動く姿は早く見てみたいです!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏美とすみれと映え動画

「はぁ? 今なんて?」

「動画撮影を手伝って欲しいんですの」

 

 

 何気ない普通の放課後。今日は部の練習が休みなのでとっとと仕事を終えて帰ろうとしていた矢先、夏美が騒がしく職員室に押しかけて来た。

 話を聞くと、どうやら動画撮影をしたいから手伝って欲しいとのことなのだが――――

 

 

「どうして俺がそんなことやらなきゃいけねぇんだよ。自分の動画なら自分で撮影しろ」

「ちょっ、ちょいちょいちょい! なに可愛い生徒の頼みを断って帰ろうとしているんですの!?」

「そりゃ平穏な時間を奪われそうになったら誰でも抵抗するだろ。部活が休みなんて最近じゃ珍しいし、早く帰れるときは帰りたいんだよ」

「なら残業ですの。この動画撮影も部活の一環で、顧問として手伝う義務がありますの」

「義務の主張は頼む側が言うことじゃねぇよ。それじゃ」

「ちょいちょいちょい!」

 

 

 腕にしがみついてきやがった。どれだけ俺をこき使いたいんだよ……。

 このままだと他の先生や生徒たちから変な目で見られそうなので、仕方なく話を聞いてやることにする。まあ俺が女の子に人気があるってのはこの学校の人間であれば周知の事実なので、今更女の子に言い寄られている光景に驚く奴はいないだろう。それはそれでこの学校の常識が疑われるけど……。

 

 

「今日は天才エルチューバ―である私と、駆け出し配信者であるすみれ先輩の夢のコラボなんですの! つまり誰かが動画撮影に協力してくれると助かるかなぁ~っと。そ、それで部活がなくて暇そうな先生にお願いして……」

「部活休みだったら他の奴らもそうじゃねぇか」

「言い訳無用ですの! 部室にすみれ先輩を待たせていますから、早く行きますの!」

「へいへい」

 

 

 ったく、俺に来て欲しいなら素直にそう言えばいいのに。こうして生徒に誘われることは珍しくなく、思春期真っ盛りの女の子ばかりなので、中には今のコイツのように恥ずかしさで素直に『勉強教えて』とか『部活の作業を手伝って』とか言えない奴もいる。つまり今までそんな奴らをたくさん見てるから、本当は俺を誘いたいのにまごまごする奴や、コイツみたいに強引になる奴は様子を見れば本心がすぐ分かるんだ。

 

 仕方がないので付き合ってやることにする。そう言ったら夏美はにっこにこになった。いいことを考えてる時も悪いことを考えてる時も、すぐ顔に出るから分かりやすいんだよなコイツ。

 

 そんなこんなで部活動がないのに部室にやって来てしまった。

 夏美の言った通り既にすみれが来ていた。なんかちょっと怒ってるみたいだけど……。

 

 

「遅いわよ」

「いやぁ~先生が駄々こねるから」

「こねてたのはおめぇだろ……」

 

 

 こうやって、生徒たちとは軽口を叩き合えるくらいには一応仲が良い。コイツらにとって俺とは教師生徒の関係とは言えども、ぱっと見だと大学生どころか高校生にも見える若さの男なので、下手な社会的遠慮はいらないのだろう。かく言う俺も変に畏まられるよりかは砕けた態度の方が接しやすい。すみれみたいに別に敬語を使われなくても何とも思わないしな。

 

 

「てか、どうしてすみれと動画を撮るんだよ? 他の奴らはどうした?」

「さっき言いましたの。コラボをするって」

「私も最近始めたのよ、エルチューブ配信」

「えっ、マジで?」

「別におかしなことじゃないでしょ。自分で自分をプロデュースする。Liellaだって何年もずっとやっていられるわけじゃないし、芸能界に入るっていう私の夢もあるんだから」

 

 

 高校生でここまでの行動力、素直に感服するしかない。今の時代、普通に動画配信や投稿をしているだけでは伸びるものも伸びない。スクールアイドルで知名度が上がって来たからこそのクリエイター活動ってことか。夏美の動画も当初は弱小投稿者並みの再生数だったが、スクールアイドルとして名が知られてきた今はまあまあの収益が期待できるくらいには伸びている。

 

 いつもは貧乏くじを引かされたり、イジられキャラとして定着しているこの2人。でも夢に向かうための行動力は他の奴ら以上かもしれない。いい一途さだな。

 さっさと帰りたかったけど気分が変わった。しゃーねぇから手伝ってやるか。

 

 

「コラボとは言ってもまだ何のネタをやるかは決まってませんの。ここに私のネタ帳があるので、先輩が選ぶんですの」

「そんなの書いてるの……? なになに、『カラオケで100点を取るまで帰れません』『スクールアイドルが回転寿司で何皿食べられるか挑戦してみた』『プールの上で1日過ごしてみた』……。ねぇ、これ面白い?」

「それっ!! その反応はNGですの! 自分が面白くなさそうにしていると、見ている人たちを楽しませることなんて到底できませんの! まずは自分が全力で取り組んで、そして楽しむ! それこそエルチューバーですの!」

「な、なるほど……」

 

 

 いいこと言うじゃん。ただ企画内容が一世代前のネタで古臭さしか感じない。まあスクールアイドルって肩書だけで見てくれる人は多いだろうから、自分たちが10代の女子ってところを前面に押し出せば意外と視聴者は釣れるかもな。そういった意味でもやっぱり若い女の子ってのは生きてるだけでも存在価値が輝いてるから色々特だねぇ……。

 

 

「あっ、これっ! これなんかエルチューブの企画っぽいし、視聴者にいい反応を見せられるからいいんじゃない?」

「『たこ焼きロシアンルーレット』って、たこ焼きを順番に食って激辛味を引いた奴が負けってことか?」

「すみれ先輩お目が高いですの! これは1人ではできない企画だったのでボツにしていたのですが、3人いればネタとして成り立ちますの!」

「えっ、3人? 他に誰か呼んでるのか?」

「いえ、ここにいる3人だけですの」

「はぁ!? 俺も勘定に入ってんのかよ!?」

「最初から手伝ってくれって言ってましたの」

「そういう意味には聞こえなかったんだけど……」

 

 

 最初から騙すつもりだったのかそうでないのか。もうこの際どっちでもいいけど、言葉足らずでメンバー内で変な軋轢だけは生まないようにして欲しいものだ。顧問としてもできる限り面倒事は避けたいんでね。だからお人好しって呼ばれるくらい女の子に寄り添っちゃうんだろうな。

 

 

「つうか俺が動画に出ていいのかよ。男のファンに炎上させられるぞ……」

「それ以上に女性人気が凄まじいから大丈夫ですの。この前練習風景の動画を投稿したら、たまたま先生が一瞬だけ動画に映り込んでしまって、それを見た女性ファンたちのテンションが爆上がりしてましたの」

「コメント欄も盛り上がっていたわよね。『このイケメン誰ですか!?』とか『めっちゃカッコいい人いるんだけど!?』とか『女子高なのにイケてる男がいる!?』とか。そして勘違いされないように投稿者コメントでアンタのことを顧問だってを書いたら、『こんな美男子が顧問なんていいなぁ~』とか『もう1時間もこの人の映ってる部分ループしてた』とか『結ヶ丘受験し直します』とか、女性の黄色い声が飛び交っていたわよ」

 

 

 いや注目されるのは百歩譲っていいにしても、俺の正体をバラした後のコメント内容がエグ過ぎるだろ。一瞬しか映ってない俺の場面をループしてたのも狂気だし、受験し直すに至っては『これから受験する』ならまだしも、『し直す』って言ってるから現在絶賛高校生ってことだよな? 来年変な女の子ばかり入学してきそうで怖いんだけど……。

 

 

「とりあえず、今から千砂都先輩に連絡して激辛タバスコ入りたこ焼きを作ってもらいますの! 取りに行きながら作ってもらうので、少し待っていて欲しいですの。それでは!」

「お、おい!」

 

 

 夏美は足早に部室を出て行ってしまった。今から千砂都に仕込みをしてもらって、それを取って来るってホントに行動力とその早さは目を見張るものがあるな。

 それにしても、夏美の奴やたらと楽しそうなのは俺の気のせいか? いつも明るい奴だけど、俺と一緒に動画を撮ると言った時から一回りテンションが上がっているような気がする。

 

 

「今日はあの子の好きにさせてあげて。舞い上がってるのよ、先生と一緒にいられてね」

「俺と? 練習の時とかいつも一緒にいるじゃねぇか」

「あれだけの女の子と付き合っておいてニブちんね。あの子にとってアンタはそれくらい意識しちゃう男だってことよ」

「分かってるよ、んなことくらい」

「でしょうね。ま、私も似たようなもんだけど……」

「なんだって?」

「なんでもない!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「い、意外と大量にあるのね……」

「千砂都先輩が張り切って作ってくれましたの! でも超絶辛いタバスコを仕込んでいる時の顔は見せられなほどに悪い顔で……」

 

 

 夏美がソフトクリーム状に積み上げられたたこ焼きを部室に持ってきた。

 3人で食うにはかなり苦しい量だけど、そうなると激辛たこ焼きに辿り着く前にみんな腹いっぱいでグロッキーになってしまう可能性があるな……。

 

 

「それでは早速スマホをセットして、冒頭の挨拶を撮りますの。準備はいいですか、すみれ先輩」

「OKよ!」

 

 

 スマホを三脚に乗せて本格的に動画撮影が始まるみたいだ。俺も出演者なんだったら参加した方がいいのか? いや男が出るよりも女子高生が挨拶した方が華になるだろうし、そもそもメディア慣れしていないせいで挨拶も何もどうしたいいのか分からない。自分で発見する己の意外な弱点。これまでμ'sやAqours、虹ヶ咲の奴らと一心同体だったから勘違いしてたけど、そういや自分を誰かに見てもらうって行為をあまりしたことなかったな。

 

 

「日々のあれこれエトセトラー! あなたの心のオニサプリ! オニナッツこと鬼塚夏美ですのー!」

「皆さんギャラクシー! 平安名すみれよ!」

 

 

 お互いに肩が触れ合うくらいに密着しながら明るい表情でピースサインを決める。

 こうして見るとこの2人って姉妹みたいだな。2人共金髪で、背丈もモデル並みのすみれと小柄な夏美で姉妹の成長の差っぽいものを実感できる。性格も自分を魅せることに一途なところも似ているし、スタイルの良さも同じくらいだ。なによりどちらもスクールアイドルをやれる人材ってことで顔は良く、姉妹ですと言っても違和感がない。ただすみれには妹がいた気がする。夏美は……そういや聞いたことなかったか。

 

 それにしても、普段は何気なくコイツらと日常を共にしてるけど、やっぱり女の子ってのは好きなことをやって自然体で輝いている様子が一番魅力的だ。だからこそ青春時代に情熱をかけるスクールアイドルをやってる奴らに関わっているのかもしれない。学生時代にしかできない活動だからこそ女の子たちは本気になるため、その輝きを見るのが好きだったりする。故にいつもいつもスクールアイドルをやっている、またはやりそうな女の子に手を差し伸べちゃったりするんだよな。これがお人好しって言われる所以か。

 

 

「今日はコラボ企画! 同じグループの先輩であるすみれ先輩と一緒に、この激辛タバスコ入りのロシアンたこ焼きを食べていきますの! そしてそして! 今日は更に特別ゲスト! 以前の動画のコメントで皆さんが騒いでいた、私たちの部活のイケメン顧問も参戦ですの!」

 

 

 いきなりカメラを向けられたので、とりあえず挨拶だけはしておく。緊張はしないけど慣れていないので、カメラ前でもキャラを保てるコイツらが凄く見えるよ。

 

 

「というわけで、この中で激辛たこ焼きを食べてしまうツイてない不幸中の不幸のどん底に陥る人は、果たして誰なのか! 早速食べていきますの!」

「食べた奴のこと超貶めるじゃねぇか……」

「それで? 最初は誰が食べますの?」

「これだけの量があるからサクサク食べていかないとね。せっかく仕切ってるんだし、夏美から行きなさいよ」

「じゃあ私から。もし辛くても、持ち前の精神力で耐え良きってみせますの。ただこれだけ量があって最初から辛いことなんて起きないから大丈夫ですのー」

 

 

 余裕の表情の夏美。そんなことを言っていたら本当に最初からアタリを引くハメになるぞ。でも流石にいくら貧乏くじを引かされるのが天命にさせられているコイツとは言え、これだけ大量にあるたこ焼きの中からアタリを引くなんて――――って、俺自身がフラグを立てるのをやめた方がいいか。でももし引いたら企画倒れとか言うレベルじゃねぇぞこれ……。

 

 夏美は山となったたこ焼き軍団から1つを爪楊枝で突き刺して、それを口に運ぶ。

 そしてそんな夏美の様子を見ずにすみれは次は自分と言わんばかりに前に出て、爪楊枝を持った。どうやら最初から辛いのが出るわけがないと思っており、自分もとっとと食べて順番を回すために動いたのだろう。

 

 だが、夏美の様子が変わった。顔が赤くなっているように見える。しかもいつも見る羞恥心と恋心から来たものではなく、とんでもなく汗をかいている。

 まさかとは思ったが、コイツもしかして――――

 

 

「引いたのか? 激辛たこ焼きを、この中から……?」

「ホントに!? 確かに急に静かになったわね。どうなのよ……?」

「な、なんともないですの……。さぁすみれ先輩、次ですの……ぐふっ!!」

(むせ)てんじゃねぇか!?」

「か、がら゛ぁ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああああああい!! ん~~っ!! ん~~っ!!」

 

 

 マジで引きやがったよコイツ。部室をのたうち回る。ストローの袋をくしゃくしゃにして、水をかけた時みたいになっている。これを作った千砂都もまさか1発目でお手製の激辛を引き当てられるとは思ってもなかっただろう。俺たちも、夏美だってそうだ。

 夏美の顔は急速に真っ赤になり、汗も半端なく今にも口から炎を吐きそうになっている。企画としてのリアクションなら100%で動画映えするが、意外にもダメージを受けているのでほんの少し心配になってくる。笑いの取れ高ももちろんあるが、それ以上に初手で引き当てたと言う衝撃の方が大きかった。

 

 

「水!! 水をください、ですの!!」

「あっ、そういえば買ってなかった。アンタがたこ焼きを取りに行く間に買っておけばよかったわね」

「ちょっと買いに行ってきますの! げほっ! だ、だから動画は一旦一時停止で……ぐふっ!!」

 

 

 完全に食い切れていないのか、まだ咽ている夏美。

 そして部室を飛び出し、校則違反余裕の大きな音を立てて廊下を走っていく音が聞こえた。

 

 

「持ってるわねあの子。企画倒れでもあるし、ある意味で大成功でもあるわこの動画」

「今まではこういう役目はお前だったもんな」

「ちょっとやめてよネタ担当みたいに言うの! ま、まぁ、あの子がそれを受け持ってくれるのであればそれでもいいけどね~。ほら、今みたいに目立てるオイシイ役だし!」

「だったら嬉しそうな顔すんなよ……」

 

 

 いるんだよな、スクールアイドルをやってるグループに1人は運の悪い奴。ただ天は同じグループに2人同じ運命の奴を選ばないためか、今はすみれから夏美に悪運が移ったようだ。それを目の前で実感できたのかすみれは満足顔。悪い奴だな、面白いけど。

 

 

「それにしても、こうなることが予測できるのによく身体を張れるな。スクールアイドルなんだからもっとそっち方面で魅せる手もあるだろうに」

「あの子言ってたでしょ。どんなことにも全力で取り組むって。もちろんスクールアイドルでも魅せるけど、こういった企画ネタが大衆に受けるのも事実。だったらどっちもやるのよ、あの子はね」

「どれだけ自分が不幸な出来事に巻き込まれようと、どれだけ自分を観てくれる人が少なくても、それでも前を見続けていつか夢に届くと走り続けられる。そんなアイツがすげぇって思うよ。そういうところが魅力的だし、見守り続けたくなっちゃうな。いくら転んでも立ち上がって、常に自分の輝きを見せてる子、俺結構好きなんだよ」

「ふ~ん……」

「その点ではお前も似た者同士だから一緒だな」

「な゛っ!? そ、それは好きってこと……? こ、答えなくてもいいわ。なるほど、あの手のこの手で女の子を篭絡しているってわけね……」

 

 

 顔を赤くして照れたかと思えば、急に呆れ顔になったりとどんな感情がひしめき合ってんだよ……。

 

 

「でも褒めるのはそれくらいにしておきなさい。聞かれてるわよ――――あの子に」

「えっ……? あっ……」

 

 

「うぅ……」

 

 

 ペットボトルを手にした夏美が既に部室の前にいた。やけに帰って来るのが早いと思ったが、そういや自販機が部室の近くに設置されたんだったか。

 夏美は部室のドアを握りしめながらも、中に入るのを躊躇っていた。水を飲んだおかげで辛さは引いていると思うので、今の顔の赤さは辛さではなく恥じらいから来るものか。いつもの明るい雰囲気とは真逆で、しおらしくて大人しくなっている。まさに『純愛』って言葉を体現したら今のコイツがいい例だろう。

 

 特に反応がないのでこっちから声をかけようと思ったが、すぐその場を立ち去ってしまった。

 

 

「若いわねぇあの子も」

「お前も去年似たようなもんだったけどな。あ、今もか」

「う、うっさい!!」

 

 

 すみれは頬を染めながらそっぽを向く。夏美と反応が違うだけで、恋愛には弱いっていう根底は結局同じだな……。

 

 

 その頃廊下に飛び出した夏美は、この春の出来事を思い返していた。

 

 

『いや俺と動画を撮ってバズるよりも、自分をアピールした方がいいんじゃねぇの? そう、可愛さアピールをさ』

『俺は別にアイツらみたいに動画収益を横領するかもって疑ったりもしえねぇし、逆にお前を擁護したりもしねぇよ。ただ1つ、私利私欲のために動いて他の人の夢を邪魔することだけはやめておけ』

『なんとなく感じたんだ。そうやって動画で自分を魅せるのは、金目的以外にも何かあるんじゃないかって』

『お前も感化されただろ。きな子たち、そう、お前の同級生たちは本気なんだ。もしかしたらお前の夢、アイツらと一緒なら叶えられるかもな』

『いいよ、俺がファン一号になってやるから。だから泣くな』

 

 

「先生。いつも私に寄り添ってくれましたの……。厳しくも優しく、そして今日もなんだかんだ文句を言いながらも付き合ってくれて……。迷惑かもと思っていましたけど、まさか私のことをあそこまで褒めて……」

 

 

 顔も心も沸騰しきった夏美が部室に戻って来たのは、結構時間が経った後だった。

 

 

「さぁ、動画撮影を再開しますの!!」

「急に元気になったわね……」

 

 

 戻ってきた夏美のやる気は今日イチ、いや今までよりも一番だった。

 




 今回は夏美メインの回でした!
 アニメでは負の部分が目立って視聴者にあまりいい印象を持たれなかった彼女ですが、小説としては使いやすいネタキャラとして重宝しています(笑)
それでもアニメで少し語られた夢に関しては理解できなくもなく一途な子だと思ったので、公式からももっとそういう可愛い一面を押し出して欲しいです!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

四季と千砂都と胸部格差

 スクールアイドルはその名の通り学生がアイドル活動を行うため、プロと比べると色々と制約が多い。

 例えば、学生のため学業を優先するのは当たり前のため、アイドル活動の時間が制限されること。仕事ではないので生徒自身にお金は入らない、つまり趣味の範疇であること。あとはアイドルプロデュースに特化した会社と比べると、普通の学校では当然一部活に投資できる金が少なくなること。そう、大前提としてスクールアイドルってのは学校の部活動なのだ。

 

 ただ一応例外はあって、μ'sと並んでスクールアイドルの礎を築いたA-RISEは芸能高校だったので、そこは部活動であっても多額の金が投資されていた。実際にA-RISEの奴らが通っていたUTX学園は大企業のオフィスかってくらいの高層ビルだったし、その屋上でμ'sもライブをしたことがある。それくらいの規模があればそもそもスクールアイドルがただの部活動で済まされる話ではないだろうが、それは例外中の例外だ。スクドルのグループが爆発的に増えているこの時代、むしろ普通の学校に所属している奴らの方が大半だろう。

 

 そして、俺のいる結ヶ丘はどうなのかと言うと――――まあ言うまでもなく圧倒的に後者だ。校舎の外見と生徒の制服、生徒の容姿の良さからお嬢様学校扱いされているが、その実は去年まで資金難に陥りそうになっていた貧乏校だったりする。かのんたちLiellaや他の部活も一定の成績を上げたことで有名となって入学者が増え、加えて某姉の援助によってそれなりに金は潤沢になってきたみたいだが、流石に個々の部活に対して特別金を注げるかと言われたらそうではない。むしろ他の学校よりも資金繰りは厳しいはずだ。

 

 だから――――

 

 

「千砂都が唸ってるだぁ?」

「そう。次のライブに向けて新衣装を作りたいのに、お金がないって泣きそうになってた」

 

 

 四季の口から千砂都の現状が伝えられた。アイツがコミカルに涙を流して(わめ)いてる姿が容易に想像できるな……。

 千砂都は今年からスクールアイドル部の部長となっており、それ故に部費の管理は彼女が行っている。たださっきも言った通りこの学校は1つの部活にそれほどお金をかけられないので、衣装代やら、外部でライブをやるならその出演料、演出費など様々な費用が重なるこの部活は資金繰りが常に火の車。アイツが頭を抱えるのも無理はない。

 

 

「で? お前は俺に助けを求めてんのか?」

「うん。生徒の情緒を安定させるのも顧問の仕事」

「本音は?」

「科学室でピーピー泣いてうるさいから早く退去させて」

「容赦ねぇなお前も……」

 

 

 表情変化が少ない真顔で本心を語られると攻撃力が高いな……。

 どうして千砂都が四季の兼部している科学部にいるのかと言うと、それはコイツにファッションセンスがあるオシャレ上級者であるに他ならない。だから衣装の担当をすることが多い千砂都や可可はデザインの感想をコイツに求めることも多く、そのため先輩たちから多大に信頼を寄せられている。それ故に四季が入り浸っている科学室で衣装案を考えたりなど、作業をすることが多いのだが……まぁ今回はこういう有様ってことだ。

 

 

「行くのはいいけど、衣装のことは俺なにも分からねぇぞ? そこだけは自分たちで解決しろ」

「分かってる。ただ話し合いをするために、まず人間以下の知能に落ちて定型文で唸ることしかできない下等生物と化した先輩を何とかして欲しい」

「相当鬱憤溜まってたんだな……。どれだけの騒音なんだよ……」

 

 

 コイツ、スクールアイドルやってるくせに騒がしいのは苦手だからな。特に部員が自分だけしかいない科学室での部活動は、物静かな雰囲気が好きなコイツにとっては安息の地。それ故に鳴き声にその場を占拠されていることにお怒りなのだろう。

 面倒だが放っておくわけにはいかないので、四季の依頼を受けて仕方なく科学室へ向かうことになった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「せ゛ん゛せ゛ぇ゛~!! なんとか部費を工面してくださいよ~!!」

「ホントにうるせぇな……」

 

 

 科学室へ入るなり、机に突っ伏して顔だけこちらを向けた千砂都が泣き喚いていた。実験机には主に衣装デザインを担当している可可から渡されたであろうイラスト画が乱雑に並べられている。そしてその近くにはノートPCが置いてあり、この衣装の完成に必要な費用の合計が計算結果として画面に映し出されていた。

 

 

「この費用で9人分揃えるのは無理だな。諦めろ」

「えっ、何とかできないんですか!? 先生なのに!? 先生オールマイティ過ぎてなんでもできるじゃないですか!?」

「金を生み出す能力があったら教師なんてやってねぇよ」

「余計にうるさくなった」

「諦めさせようと思っただけだ。逆効果だったみたいだけど……」

 

 

 ただでさえ5人時代でも部費に余裕があったわけじゃないのに、9人になったらそりゃ枯渇するわな。しかもアイドル大好きな可可は衣装のデザインも可愛さマシマシにする傾向があるが、そうなると当然装飾品が増えて衣装代もかさむ。部長である千砂都もそういった衣装は好きなため、なるべく貰った衣装案をそのまま採用しようとしているのだが、ここに来て遂に費用の融通が利かなくなったか。

 

 

「次は文化祭でのライブなので、せっかくなら衣装もいいものにしたいんですけど……」

「自分のホームでのライブだからってことか。とは言っても、これまでも金が尽きると分かっていたのに衣装代を惜しまなかったお前らのせいでもあるからな」

「それはそうなんですけどぉ……。四季ちゃん、なんかいい案ない? この資金難と可愛い衣装を両方クリアする画期的なアイデアが……」

「あるにはある」

「えっ、ホントに!?」

「うん。でも先輩が耐えられるかどうか……」

「耐え、る……? とにかく、この問題がクリアできるなら何でも丸!」

 

 

 両手の指で丸を作りながら、一縷の望みを四季にかける千砂都。

 つうかどんなアイデアかは知らねぇけど、そんな案があるのなら最初から言えよな。だったら俺が来る必要なかったじゃねぇかよ。

 

 

「そのアイデアは――――」

「アイデアは……?」

「衣装に使う生地を減らす。つまり、露出を多くする」

「ふぇっ? え゛ぇ゛ぇええええええええええええええええええええええええっっ!?」

 

 

 アイデアってそっち方面かよ。でも費用を抑えられて、かつ可愛さも保てるいい方法かもしれない。

 もちろん千砂都は混乱中。まさかアダルト方面にシフトするなんて思ってもいなかったのか、四季の言葉を聞いただけで赤面している。対して四季はこういうことにはある程度耐性があるのか、普段の真顔を崩していない。まあ自分で言っておいて自分で恥ずかしがるのも変な話だが……。

 

 

「露出を多くするって、そんなの無理無理無理!!」

「かのん先輩がちょっと憑依してる……。無理とかそういう以前に、最近はそこそこ攻めた衣装のスクールアイドルもかなり多いです。あのSunny Passionも結構肌色の面積が広いですよね? あれも費用削減の一環かと」

「それはそうだけどぉ……。先生はどう思いますか、この案?」

「俺は別にどっちでも。男として言うのなら、女の子のそういった格好は見てみたいって思うしな。新たな境地に挑戦って意味でもいいんじゃねぇの」

「えぇ……」

 

 

 千砂都は納得していない模様。スクールアイドルの衣装ってのは四季が言った通り、今やそれなりに露出度があるものも増えている。流石に思春期女子が肌を見せることに対して懐疑的な意見もあるが、別に性的に感じるほど露出が増えているわけではない。可愛さを追求した結果少し肌色が多くなっただけであり、プロ界隈のアイドル衣装であれば普通にあり得ることだ。

 

 ただ身体のラインが浮き彫りになってしまうので、多感な時期の女の子からしたら気になるポイントだろう。

 そして、改めてこの2人のスタイルを見ると――――うん、なんとなく露出OKとNGの理由が分かった気がする。

 

 

「大丈夫。千砂都先輩の身体、引き締まっていて見られても恥ずかしくない」

「一般的な羞恥心の問題だよ!? そりゃダンスもしてるから自分でも自分の身体をそう思ってるけどさ……。ほら、私って背も低いしスタイルがいいとは言い難いって言うか……」

「先生」

「ここで俺に振るのかよ……。ま、背が低いってのは女の子だったらステータスなんじゃねぇの。その背丈のおかげでダンスで機敏に動けてるってのもあるし、お前の魅力はそこにあるっつうか。とにかく、それで気負う必要はねぇってことだ」

「先生……。ありがとうございます」

 

 

 言ってることは嘘ではなく、俺の本当の気持ちだ。そりゃ胸も大きくて肉付きのいい女の子に目を惹かれるのは当然だけど、女の子の魅力って身体だけではない。幼女好きのロリコンがいい例だ。あれはちっちゃい子を視覚的に見て愉しむものだろ? 千砂都がそっち系に分類されるのかは別として……。Liella内ではトップクラスの小柄だからまぁ……ね。

 

 

「それにやっぱり生地が薄いのも気になるし……。ほら、私って四季ちゃんみたいに胸大きくないから……」

「気にしてるんですね」

「するよ!! だって女の子だもん!! しかも後輩の女の子とこれだけの差を付けられたら、そりゃするよ!!」

「あまりいいことないですよ、大きくても。肩凝るし、足元見えづらいし、男の人から凄く見られるし」

「出た巨乳の勝利宣言セリフ! こうやって貧乳のメンタルは削られていくんだ。そして胸も削られて更に絶壁になっていくんだ……」

「いや、なっていくんじゃなくてもう既にぜっぺ――――」

「おい……」

 

 

 部長の泣き喚きを止めて欲しいんじゃなかったのか……? なんで自分で追い打ちかけてんだよコイツ……。

 それはそれとして、確かにこの2人だと身体付きが全然違う。千砂都は華奢で胸薄なのに対し、四季は肉付きが良くて胸もグループ内で1、2を争うくらいには巨乳っ子だ。薄着になる練習着になるとその差は明らかであり、そういえばコイツが目を丸くして四季に釘付けになっていたのを思い出す。

 

 千砂都の気持ちが分からなくもない。四季は1年生にしては美人で程よく肉が付いていて胸も大きい。対して自分が童顔でロリっぽいから、真反対な子が後輩にいたら多少なりとも比べてしまうのも無理はないだろう。ここまで身体の肉質がいいのは文科系の影響なのか。運動でもとりわけ全身を激しく動かすダンスをしていれば嫌でも身体が引き締まるもの、差がついてしまうのは当然だ。それだけ四季の身体が男を惹きつけやすいってことか。

 

 

「やっぱり四季ちゃんみたいな美人で胸の大きい子に憧れるよねぇ~。ねぇ先生?」

「あぁ。文科系特有のだらしない引き籠り体型かと思えばそうではなく、程よく運動もしている肉質の割に整った体型をしている。胸の大きさも高校一年生にしては存在感はあるけど、そのスタイルの良さに似合う形をしていて、女性として色気を感じられるな。そういった子は俺の経験上抱きしめ心地が良くて、俺は結構―――――って、やべっ……!」

 

 

 四季のことを考えていたら、千砂都の振りに思わず心の声をそのまま出してしまった。しかもかなり気持ち悪い感想を述べてしまった気がする。女の子の身体なんて見慣れてるから細かい分析までできてしまう、自分の悪趣味な特技が変なところで発揮されてしまった……!!

 

 

「悪い四季、そんなつもりじゃなかったんだよ」

「い、いえ……ちょっと、ちょっとだけ嬉しかったから……大丈夫」

「そ、そうか……」

「先生に褒められると、ちょっと変態さんな発言でもドキッとしちゃうでしょ?」

「は、はい……」

 

 

 どうやら誉め言葉として受け取ってもらえたみたいだ。いや俺は最初から誉めのつもりだったんだけど、千砂都にセクハラと言われてイジラると思ってたから意外だった。コイツは俺のことをからかいがちだから、下手にセクハラを疑われて教師の立場が危うくなる可能性があるんだよ。

 

 四季も顔を赤くしている。普段は表情変化が少ないのであまり顔色が変わることはないので新鮮だ。

 

 

「先生は、美人で肉質が良くて巨乳の女の子は好き……?」

「そ、そりゃお前……そんなの好きに決まってるだろ」

「そう、良かった」

 

 

 なんかめちゃくちゃ嬉しそうな顔してるんだけど!? つうかそんな男が大好きな属性ばかり集めた女の子、地球上の生物である以上オスとして反応しないわけねぇだろ。中にはロリ、ペドと言った特殊性癖がいるのかもしれないが、彼女のようないい女を見たらそんな奴でも振り向かざるを得ない。そんな奴だ。

 

 

「へぇ、先生やっぱり胸の大きい子が好きなんだぁ~。へぇ~……」

「そうじゃねぇよ。身体なんてのはただのオマケだ。巨乳だろうが貧乳だろうが、俺は四季のことが好きだって言ったんだ。そりゃ男だからある程度カラダを見ちゃうのは仕方ないから許して欲しいけど、俺が一番好きなのはその子自身だから。だから変な勘ぐり方をすんなよ」

「その言葉、言い慣れてそうですね♪」

「意味深な納得の仕方すんな」

「でも手ごたえはバッチリみたいですよ。ほら」

「えっ……?」

 

 

 千砂都が目を向けた先には、表情を悟られぬよう手で顔を覆った四季がいた。メイにスクールアイドルに誘われた時みたいになっている。そういやあの時もこの科学室だったか。

 

 

「そ、その……好き……って」

「そこは耐えだよ四季ちゃん。この先生、好意を伝えるのに『好き』って言葉を多用する人だから」

「失礼なこと言うな。至って真面目な本心だ」

「いやでもそう言っておかないと……ほら」

 

 

「ちょっ、ちょっとタイム……」

 

 

「あぁやって顔真っ赤になってしばらく戻って来られなくなるから」

 

 

 四季はもう手だけで表情を隠すのは無理だと判断したのか、こちらに背を向けて科学室の隅っこに佇んでしまった。とは言っても既に何を考えてるかくらい手に取るように分かるんだけどさ。

 

 ただ、俺は別に女の子をアイツのように悶えさせたいからいつも褒めてたり好意を伝えているわけではない。この学校に赴任した去年、教師としての地位や役割に固執してしまって千砂都たちの想いに応えられなかったことがあったから、考え方を変えて以降はありのままの自分を出しているだけだ。

 そもそも赤面して羞恥に苦しむのは俺のせいではなく、ただ単にコイツらが恋愛ってものに弱いだけなんじゃねぇのか? それに今の千砂都は少しからかいモードに突入しているが、お前も()()()側だと声を大にして言いたい。以前コイツが料理している時に、俺が隣に来たら妄想で手が止まりそうになっていたことを忘れてんじゃねぇだろうな……。

 

 

「先生のさっきの言葉を言い換えると、胸が薄い子も好きってことですか?」

「その言い方はコンプライアンスに引っかかりそうだからやめろ。つうか分かって言ってんだろお前」

「えへへ。そっか、そうですもんね。先生は外見よりも中身ですもんね」

 

 

 嬉しそうにしやがって。やっぱりお前も後輩たちと一緒じゃねぇかと言ってやりたいが、本人が浮かれ気分のところに水を差す必要はないだろう。

 

 

「これで衣装は何とかなりそうか? どれだけ生地を減らすかは検討する必要があるけど」

「恥ずかしいって気持ちは残ってますけど、多分大丈夫です! 最初の頃と比べると、先生に見てもらうことに対して慣れたかと思いますし」

「俺にだけ見せてどうすんだよ。とにかく、後はかのんや恋あたりをどう説得するかだな。アイツらお前よりも肌を見せることに躊躇しそうだからさ」

「そこは心配ないです。その2人は泣き落としやゴリ押しが有効なので、それを武器にすればすぐ堕ちますよ♪」

「策略張り巡らせるの得意だよなお前……」

 

 

 コイツはいわゆるLiellaのブレーンなわけだが、そんな奴の真っ黒な計画を立てている時の悪い顔と言ったらもう……。あのサニパが褒めるくらいの練習計画を立てる能力があるゆえに、アイツらの反論すら通さねぇんだろうな……。

 

 千砂都の調子が戻ったので、今度は逆に調子が狂い始めた四季のケアへと向かう。

 とは言ってもある程度は落ち着いた様子で、俺が再び彼女の顔を見たときにはいつもの真顔に戻っていた。ただじんわりと頬が朱色に染まっているため、羞恥心による火照りはまだ僅かに残っているようだ。

 

 

「千砂都を(なだ)めに来たのに、お前がダメージを受けてどうすんだよ」

「だって先生が好きとか言うから……」

「分かった分かった、軽はずみな発言悪かったよ。でもそれだけお前のことを見てるって証拠だから、それだけは分かってくれ。メンバーへの思いは人一倍強くて、幼馴染のメイだけじゃなくて、きな子や夏美の練習にも付き合ってあげるその優しさ。そっと誰かを後押しするその暖かさ。そういうところが魅力的だって思うよ」

「ま、またそうやって……」

 

 

 また黙ってしまった。一体どんなことを考えているのか。

 俺には分からなかったが、四季は俺との出会いやスクールアイドル加入前のことを思い出していた。

 

 

『お前の考えてることくらい分かる。これでもそこらの教師よりは女子生徒の扱い、手慣れてるからな』

『米女に何もしてあげられてないって思ってんのなら、何かしてあげたって思うくらい自分で動いたらどうだ? ほら、体験入部に行ってみるとか』

『興味があるんじゃないのか? スクールアイドルに』

『どうして構うのかと言われても、それは教師だからとしか言いようがない。でもコソコソ1人で振り付けしてるお前を見て、少し気になったってのもあるかな』

『好きになったのならやればいい。そしてアイツとも話せばいい。幼馴染同士、一度衝突してみたら意外とすっきりするかもな』

『自分に自信を持てず、好きな事物へ素直になれないせいで意地を張るなんて、お前も可愛いところあるんだな。真顔で表情の変化もなくて大人っぽいと思ってたけど、人間味のある一面が見られて嬉しいよ。お互いの距離が近くなったような気がしてさ』

 

 

「先生、ずっと私のこと見てるんだ……。はぁ……これはどんな薬でも治らない病……かも」

 

 

 少しばかり呆れているようでもあったが、それ以上にどこか嬉しそうであり、そして暖かい笑みを浮かべていた。

 

 




 今回は四季メインの回でした!
 私はキャラには推しとかあまり決めないタイプなのですが、Liella2期生の中だと彼女が一番です。表情変化が少ないキャラが照れる瞬間など、ギャップが感じられる瞬間が好きだったりします。決して肉体の凹凸で選んでるわけじゃないですよ(笑) 零君の言っていた通り、好きな子であれば凹凸は関係ないタイプなので!

 これまで先輩+後輩コンビで3話投稿してきましたが、次回残り3人トリオでやってこの先輩後輩回の流れは終わりです。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

メイと恋と可可とスクールアイドルキラー

 昨今の時代、スクールアイドルの数は爆発的に増えている。μ'sとA-RISEの人気を皮切りに、それに感化された全国の思春期女子たちがこぞってスクールアイドルをやり始めた。

 ただ、それだけ数が増えれば必然的に世間からの注目は分散される。下手をしたら脚光を浴びることもなく終わるグループだって存在する。そう、言わばこの世はスクールアイドル戦国時代。注目されれば固定ファンも付いて集客が見込め、学校からの支援も良いものとなり、そこから更に目立てばスポンサーや企業がバックに付いてくれるのも珍しくはない。有象無象が蔓延るこの時代、他の星たちの輝きを潰すくらいの眩さが重要なんだ。

 

 そして、それだけ輝いた暁には――――

 

 

「グッズねぇ……」

 

 

 こうしてグッズ化までされる。

 今やスクールアイドルはオタク界隈の話題ではなく一般娯楽。つまりこうして専門のショップに行けばスクールアイドルたちのグッズが容易く手に入る。もちろんグッズ化されるグループは一握り、人気の奴らだけってことだ。

 

 ちなみに黎明期はμ'sやA-RISEのグッズが勝手に売られていて本人たちが驚くなんて珍事も(普通に犯罪な気がする)あったが、今は流石に許諾が必要らしい。って、グッズ化されている藤黄学園の綾小路姫乃が言っていた。もちろん売れれば売上金の一部が自分たちに還元されるし、口コミでも自分たちの情報が出回りいい宣伝となるため、グッズ化にはメリットが大きい。

 

 いやまぁ、いつからスクールアイドルってビジネスの一端を担うようになったんだよって話だ。μ'sの頃はほぼ趣味感覚だったのにな、時代の流れは恐ろしく早い。

 

 そして、それだけスクールアイドルの歴史が積み重なれば――――

 

 

「おぉ~っ!? 綾小路姫乃のアクキー! もう卒業しちゃってグッズ絶版になったかと思ったけど、まだ売られてて良かったぁ~♪」

「あの~メイさん? 周りにお客様もいますから、もう少しお静かに……」

「これはサニパ様がデフォルメされたストラップ!? こんなグッズが出ていたとは、可可、リサーチ不足で一生の不覚!! すみませんすみません!! 帰ったら100回土下座で礼拝しマス!!」

「可可さんも落ち着いて……」

 

 

 こうやってスクールアイドルの熱烈ファンも出てくるわけだ。まぁ今のコイツらは周りに迷惑をかける厄介オタクでファンの風上にも置けないわけだが……。

 恋が困った顔でこっちを見てる。しゃーねぇから顧問としての役目を果たすかねぇ。

 

 

「おいお前ら、社会人の終業後が如何に貴重な時間が分かってんのか? これ以上時間を無駄にするならもう帰るぞ」

「「どうぞ」」

「お前らなぁ……。ったく、千砂都に連絡しよ。『顧問に対する無礼として、可可とメイの練習難易度ベリーハードにしてくれ』」

「ちょっ!? 何を恐ろしいことをしてんだ先生!?」

「分かりました!! おとなしくしマス!!」

「えぇっ!? お二人とも、顔が死にそうになっていますよ!?」

 

 

 千砂都の地獄レッスンはコイツらの苦手とすることだ。主においたが過ぎる奴らに課される罰。アイツは幼い頃からダンスレッスンで過酷なトレーニングを重ねてきたからか、あのちんちくりんな身なりで結構な脳筋。つまりスクールアイドルでやっている練習など1年半経った今でも生温いと思っている。逆を言えばコイツに合わせた練習難易度だとかのんたち2年生でも余裕でグロッキーになる。むしろ練習(地獄)を始める前から吐き気を催し恐怖する。そう、今のコイツらみたいにだ。その恐怖を利用すれば黙らせることなんて造作もないってことだよ。

 

 

「とりあえず、買うものがあるのならとっとと買え。まだ行くところがあるんだろ」

「「はい……」」

「凄い。借りて来た猫みたいにおとなしくなっています……」

 

 

 そんなわけで、下手な騒ぎを起こされる前になんとか黙らせることができた。(内に秘めたる恐怖を呼び起こして)

 そして可可とメイの買い物を済ませて店を出ようとしたのだが――――

 

 

「これは……」

 

 

 ウィーン・マルガレーテのアクリルスタンドだ。あと1つしか残ってないのを見るにかなり人気っぽいな。

 コイツらに聞くところによると、ウィーンはまだ中学生だそうだ。しかもそれでいて今をときめくスクールアイドルとしてトップクラスの注目を浴びている。スクールアイドルは当初高校生の部活動からスタートしたものだったが、今ではその人気からか中学から始める者も少なくない。ただ思春期の子供の成長は短期間で大きく変わるもの。中学と高校で部門が分かれているわけではない『ラブライブ!』においては、その成長の差で中学生は高校生に大きく差を付けられ、大抵は高校生の奴らの方が体力があっていい動きができ、それ故にランキング上位に入りやすい。つまり、そんな背景があるのに注目されているウィーンが如何に凄いのか伝わるだろう。

 

 にしても、アイツのパフォーマンスは妙に俺に刺さるんだよな。形容し難いけど、なんかこう、俺の好み……みたいな。

 

 

「あっ、これウィーン・マルガレーテじゃん。まさか先生、中学生に興味あるのか?」

「言い方。んなわけねぇだろ」

「確かにウィーン・マルガレーテが魅力的なのは認めマス。でも顧問として、可可たちよりそっちを買おうとするのは規約違反デスよ」

「なんの違反だよ。つうかお前らのグッズまだねぇだろ……」

 

 

 ウィーンのグッズを眺めていたら、両サイドからメイと可可に理不尽に責められる。やれロリコンだのやれ浮気だの、そんなことをする奴に見えるのかこの俺が。いやぁ……中学生どころか小学生に手を出しそうになったり、普通に二股どころじゃ済まないことしてるか……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 買い物が終わって次の目的地へと向かう途中。可可とメイは相変わらずのスクールアイドルオタクを発揮し、道端なのにも関わらず大量買いしたしたグッズを袋から取り出して眺めている。

 

 

「レンレンは何を買ったのデスか!? アクスタ? アクキー? 人形? それともライブBlu-ray!?」

「い、いえ私は……。あまりこういった小物は買ったことがないので、どれにすればいいのか迷ってしまって結局……」

「あんなに魅力的なグッズがあったのに!? だったら可可のイチオシを進呈しマス!」

「えっ、いいのですか?」

「どうぞどうぞ!」

 

 

 すげぇ勢いで恋に迫ってやがる。スクールアイドルのことになったら五割増しくらいでテンション上がって手が付けられねぇからなアイツ。さっきみたいな公共の場は別として、これだけウザ絡みされても恩着せがましくなくて、むしろ純粋だからこそ止めづれぇんだよな。

 

 そして、今年はそんな奴がもう1人追加されて――――

 

 

「これずっと欲しかったんだよなぁ~! 売り切れてるかと思ってたけどギリギリで良かったぁ~!」

 

 

 メイの奴、学校ではガン飛ばしてるのかってくらい強面なのに、スクールアイドル関連になると途端に表情が緩みやがる。それを本人も自覚してるのか、趣味を知ってる奴以外ではその表情はしないようにしてるみたいだ。ぶっちゃけ二度見どころか三度見くらいしないと表情のギャップで同一人物か分からないけどな……。

 

 

「なにさっきからこっちをじっと見てんだよ……。はっ、まさか――――このアクキーはあげないぞ!?」

「いやいらねぇよ」

「藤黄学園の綾小路姫乃だぞ!? いらないってバカにしてるのか!?」

「どっちだよメンド―な奴だな!? してねぇよ!!」

 

 

 ったく、テンションが上がるのはいいけど情緒不安定になって支離滅裂なことを言い出すのはやめろよな。

 ていうか、綾小路のグッズなんて持ってなくても、連絡先知ってるからいつでも本人に会えるんだけどな。なんて言えるはずもない。1年生たちにはまだ俺の事情は話してないからな。

 

 

「つうかお前、推しとかは特にいねぇんだな。色んなスクールアイドルのグッズ持ってるし」

「箱推しってやつ。どのグループも、誰もかれもが輝いて綺麗で、そんなのもう全員推しちゃうしかないだろ!!」

「そ、そうか……」

「これ! μ'sとかAqoursとか、虹ヶ咲とか、特にオススメ!! あぁ~でも先生って顧問のくせにスクールアイドルの知識疎そうだから、有名人って言っても知らないかぁ~。勿体ないなぁ~こんなに可愛い人たちなのに」

 

 

 いや知ってるよ! お前なんかの何億倍も知ってるよソイツらのこと! もはや俺の人生の一部だわ!!

 なんてこれも言えるはずがなく、仕方なく得意顔をするコイツに勝ち星を譲るしかない。前を行く2人もこちらの会話が聞こえていたのか、可可はニヤついて、恋は苦笑いでこちらを見つめていた。事情を知っている組は面白いだろうな、この光景。

 

 そんな中、さっきまではしゃいでいたメイが急に押し黙った。

 

 

「あっ、また騒いじまった! 先生頼む! 千砂都先輩だけには密告しないでくれ!!」

「しねぇよ。でも本当に好きなんだな、スクールアイドルのこと」

「そりゃまぁ……。似合ないとは思ってるけど、好きなものは好きなんだ!」

「別に馬鹿にしてねぇから。普段は見られないお前の可愛さを引き立たせる、いい趣味じゃねぇか」

「そ、そうか……」

 

 

 別に隠す必要はないと思うけど、本人は恥ずかしがってこの趣味のことを他言したがらない。その点、同じ趣味の奴を見つけたら一気に距離を詰めて仲良くなるので、コイツもコイツで難儀な性格だな。そういう見た目とは裏腹な健気っぽさが魅力なんだろうけども。

 

 何気ない日常会話。放課後に連れ出されそうになった時はちょっと面倒だと思ったけど、コイツのこんな顔が見られるんだったら来て良かったって思うよ。ま、何事も面倒事が起きなければそれでいい。

 ――――と、そう思っていた。

 

 

「色んなスクールアイドルと言えば、最近変な噂を耳にしたことがありマス」

「変なって、どんなだよ」

 

 

「どうやらスクールアイドルキラーなるものが跋扈(ばっこ)していると……。1年前も噂になっていましたが、ここに来てまた……」

 

 

「な゛っ……」

 

 

「キ、キラーってそんな物騒な……」

「それ私も聞いたことがある。色んなスクールアイドルを手籠めにしている最悪な男がいるって話だろ……」

 

 

 なんで急にその話題になった!? それ俺のことだよ俺――――なんて言えるはずもない。

 さっきまで割といい雰囲気の会話だっただろ! どうしていきなり崖っぷちに追い込まれるんだよ!

 

 ちなみに、俺にスクールアイドルキラーという不名誉なあだ名が付けられていることはメイはもちろん、俺の裏の事情を知っている可可たち2年生ですら知らない。むしろそれを知ってる方が少数なんだけど……。

 

 

「清純で高潔なスクールアイドルを食い物にする最低野郎か。絶対に許せねぇ……」

「そうデスそうデス! スクールアイドルを傷物にするなんて地球の癌。この世で最も醜くい汚染物質デスよ!」

 

 

 ひでぇ言い草だな。ただ、今徹底的に叩きのめして罵倒している相手が自分たちの顧問だって知ったらどんな顔するんだろうか。見てみたい気もするけど、そんな好奇心でバラすわけにはいかない。

 てか、いつまでそのあだ名が独り歩きしてんだよ。ネット社会こえぇ……。

 

 

「でもそんな人が本当にいらっしゃるのでしょうか? 実際に見た人がいるわけでもなく。もしかしたら勝手に尾ひれ背びれが付いて、見知らぬどなたかが風評被害に遭っているかもしれませんし……」

 

 

 おっ、流石は生徒会長。客観的な見方ができる。

 

 

「噂によるとイケメンで優しく、笑顔が素敵な男性だそうだ。でもそれは仮の姿。裏では仲良くなったスクールアイドルの処女を無惨にも散らしまくっているんだとよ。とんでもねぇ野郎だ」

「しょ、しょ……しょ、じょ!? それは産業廃棄物レベルですねその男性!?」

 

 

 騙されるなよ!? エロい言葉が1つ出ただけで取り乱し過ぎだろ生徒会長!!

 処女を散らすなんて言いがかりも甚だしい誇張表現だ。誇張……誇張……いや、至って的を得ているか。処女散らしってのは健全に愛を確かめ合った証ってことだよ、うん。

 

 

「スクールアイドルはアイドルの名を冠する以上、やっぱり美女美少女が多いデスから、そういった男性の餌食にもなりやすいのデス」

「なんとおぞましい……」

「例えイケメンで優しくても、そんな奴のことを好きになることはねぇな」

「全くデス」

 

 

 いや好きになってるよお前ら。もうこれ絶対に俺がスクールアイドルキラーだってバラせねぇじゃん……。

 ともかく、この話題を続けていると会話に参加してないのに胃に穴が開きそうだ。ったく誰だよ最初にこの噂を流した奴は。いや、噂ってのは勝手に着色されていくもの、発信源も最初は俺のことを褒めていたかもしれないのに、いつの間にかヤリチン野郎になっていた可能性もある。その場合は誰のせいでもないだろう。

 

 

「そのへんにしておいて早く行くぞ。日が暮れるのだけは勘弁だからな」

「むぅ~でもスクールアイドルファンとして、この狼藉は見逃して置けマセン」

「できれば見つけてボコボコにしてやりてぇけど、イケメンで優しくて笑顔が素敵って、そんな完璧な男なんて中々いるわけねぇし……」

 

 

 スクールアイドル好きのこの2人だからこその怒りってことか。正義感を持つのはいいことだが、殲滅対象が目の前にいる俺なんだよなぁ……。

 そんな破壊衝動に駆られている奴らとは真逆に、恋は落ち着いて考え事をしていた。

 

 

「イケメンで優しくて笑顔が素敵。それでいてスクールアイドルの多くとお知り合いって、どこかで聞いたことありませんか?」

「えっ? そんな都合のいい男がそう簡単に見つかるのかよ……」

「う~ん、でも可可も頭に引っかかってはいマス。えぇっと……」

 

 

 やべぇ、いきなり目前まで来やがったコイツら!? しかも可可は前に俺だと疑ってたから、それで引っかかってるんだろ!?

 スクールアイドルのことになると脳カラになるこの2人だけに憤らせておけば良かったものの、無駄な冷静さを持つ奴がいたせいで勘ぐられそうだ。このままだと答え(俺)が導き出されるのも時間の問題か。

 

 仕方がない。

 

 

「そのあたりにしておけ。その噂の奴から被害を受けたって話もないし、さっき恋が言ったみたいに風評被害だったらどうすんだ。そんなありもしない事実に目を向けるだけ時間の無駄だ。それにそうやって憤っている奴こそ噂に新たに余計な装飾を施す。自分たちがそうならないよう、日頃からデマ情報には注意しておくんだな」

「先生……。すみません、少し頭に血が上っていました」

「可可も、ゴメンなさいデス……」

「私も、ついカッとなっちゃったよ……」

「それでいい」

 

 

 あぶねぇええええええええええええ!! それっぽいことで回避成功!!

 デマ情報とか言っちゃったけど、まあ一部合っていて一部デマだから間違ってはいない。1年前もサニパ相手に正論っぽいことで切り抜けた気がするけど、やっぱり教師や顧問の立場ってそれだけで謎の説得力を出せるからいいな。これから立場を隠れ蓑にしてやるか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんなこんなで無事に危機を脱し、もう一件のスクールアイドルショップに訪れたのち、今はメイと一緒に帰路についている。可可と恋は道が逆方向だったので途中で別れた。

 

 

「重い……」

「買い過ぎだ。持ってやるから片方貸せ」

「あっ! あ、ありがとう……」

 

 

 両手に手提げ袋。しかもどちらにもスクールアイドルグッズを大量詰め込んで重量はかなりのものだ。どうやら数日限定のグッズが大量に発売されているらしく、しかも店舗限定特典まであるためそれで複数店を回っていたんだ。まさかここまで買うとは思わなかったけど……。

 

 

「先生って、私みたいなのとも付き合ってくれるんだな」

「へ? いきなりどうした?」

「いや、だってうるさかっただろ、私。あんなにはしゃいで、しかも変な噂に惑わされて勝手に熱くなって。だから先生にあまりいい印象を与えられなかったって言うか……」

 

 

 なるほど、コイツらしく言うのならカッコ悪いところを見せちゃったってことか。確かに自分よがりではあったし、これがもしデートだったら彼氏が愛想をつかす可能性が高い。

 でも――――

 

 

「俺は印象良かったけどな、お前の。なんだかんだ俺もスクールアイドルは好きだし、同じ気持ちを共有できる奴がいるとはしゃぐお前の姿も可愛く見える。俺、女の子のそういう表情をもっと見たいって思うから、できればまたお前の趣味にも付き合いたいって思うよ。また誘ってくれ」

 

 

「せ、先生……」

 

 

 コイツ、顔が赤くなると髪が赤いのも相まって首から上が全部真っ赤になるな。

 そんなことを考えている間に、コイツの中でも俺との春の過去が掘り起こされていた。

 

 

『そんな眉間にしわ寄せるなよ。いい顔なのに勿体ないな』

『ずっとアイツらの練習見てるだろ。興味あんのか?』

『誰にも話せねぇし、笑いもしない。だからまず俺だけでいいから話してくれ。お前のやりたいこと』

『いい笑顔してるじゃん。やっぱ楽しそうにしてるのが一番いいよ、お前は』 

『アイツら、凄く楽しそうだろ? 俺、みんなの笑ってる表情が好きなんだよ。だから1人でも多く、その顔を見たいって思うよ。だから、お前はどうする?』

 

 

「そんなのだから私は……」

 

 

 どんな自分でも受け入れてくれる存在に、メイの顔も心もずっと熱くなっていた。

 




 今回はメイのメイン回でした!
 Liella編のキャラの初回のメイン回では毎回、零君と女の子が出会ってからスクールアイドルになるまでの回想シーンを描いています。ただ今更ながらにして振り返ると、ただの告白一歩手前にしか見えなくなってきたような……




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新生徒会はハーレム集団!?

 新生徒会発足。

 期替わりの秋になると行われる恒例行事。学内での最高権力者の集まりでもあるこの集団は、言わば学内ヒエラルキーのトップ。つまり圧倒的な地位と発言権を持つ無慈悲な独裁者なのだ。その独善的な命令によって学校は支配され、秩序は秩序でも平等さなんて存在しない典型的な縦型社会となる。

 そして、それだけの実権を握っている奴らを相手にすることになる一般生徒たちは常に困窮した学校生活を送ることになり、廊下の向かいから生徒会役員が廊下を歩いてきたら自ら端に除けないと粛清されるほどの階級格差。そんなパワハラ地味た恐怖政治もの下で学校というものは成り立っているのだ。

 

 

 ――――まぁそんなのはアニメや漫画などの二次元の世界でよくある話なだけであって、現実世界はそれなりにまともな奴らによって運営されている。そりゃ内申点も大きく上がるし、マネジメントの経験もタダで積むことができるので、向上心のある生徒からしたらこれほど良い環境はないだろう。

 

 そして俺の勤務する結ヶ丘女子高等学校でも本日、選挙によって選ばれし精鋭たちによる初の顔合わせが生徒会室で実施されていた。

 

 

「去年に引き続き生徒会長となりました、葉月恋です。皆様、1年間よろしくお願いいたします」

「副会長の澁谷かのんです。今までこういった活動をしたことがないんですけど、精一杯頑張ります!」

「書記の桜小路きな子っす。1人だけ1年生でまだヒヨッ子ですが、ご迷惑をおかけしないよう学校に貢献するっす!」

「会計の七草七海で~す! 皆さんで愉しい学校にしていきたいですねぇ~♪」

 

 

 見知ってる奴らしかいない! ここは身内だけ集まる家族経営会社か!? しかも生徒会長まで同じのせいで、"新"生徒会とは言うものの真新しさが全くない! さっき現実世界では支配統治なんて存在しないって言ったけど、ここまで顔見知り同士で固められると意図的な何かを感じざるを得ないな……。

 

 

「先生? 先程からお世辞にもやる気があるとは言えない様子ばかり見せていますが、もっとしっかりしてください。今回から生徒会の顧問でもあるのですから」

「いやそれだよ!! なんで俺が!? 理事長のババアから呼びされたと思ったら、有無を言わせず顧問になれって正気か!?」

「いやぁ~これも生徒会内選挙の結果だよ、センセ」

「はぁ? "内"選挙?」

「きな子たち生徒会メンバーで顧問になって欲しい先生を多数決で決めたっす」

「そうしたら満場一致で先生になっちゃって、あはは……」

「マジかよ……」

 

 

 満場一致ってそもそも4人しかいねぇし、完全にコイツらの独断じゃねぇか。しかもコイツらに馴染みの深い教師と言えば俺になるわけで、だったらもう俺が選ばれるのは必然だったってことだろ。まさか家族経営の欠点がこんな形で俺に影響するとは……!!

 

 

「ったく、面倒だな……」

「そうやって不満を包み隠さずに直接口に出すその性格、先生の悪いところですよ。教師のやる気のなさは、生徒にまで伝染しますのでお気を付けください」

「お前もその教師に対する正論パンチ。度胸は認めるけど俺以外には安易にするなよ……」

「心配ご無用。先生以外にはしないので」

「えっ、それって先生だけには正論で本心をぶつけ合える仲ってこと!? いい男女関係だね♪」

「何を言っているのですか七草さん!? せ、先生とは教師生徒の関係で、私は先生の規律の乱れを正そうかと……!!」

「いい反応。青春してるねぇ~」

 

 

 会計にイジられて手玉に取られる生徒会長の図。本当に大丈夫かよこの体制で……。

 体制とは言いつつも、それこそ全校生徒の満場一致でメンバーが決まったようなものだ。1年生の頃から生徒会長だった恋は、その春こそ音楽科と普通科を分け隔てようとしていたが、そのお堅い氷が解けてスクールアイドルに入ったのを機に皆から慕われる生徒会長へと様変わりした。それ故に生徒たちからの人望も厚く、ぶっちゃけ今回生徒会長の選挙があったとは言っても立候補者はコイツだけだった。学校全体で人望のある奴を相手にしようとは思わないもんな。

 

 気になるのは残りの奴らだが――――

 

 

「つうかどうしてコイツらを選任したんだよ? 去年は生徒数が少なかったからお前1人で全部やれたとは言え、今年は倍以上に増えたから生徒会の人数も増やすのは分かる。でももっと暇な奴にやってもらった方が良かったんじゃねぇの?」

「実は私たちから恋ちゃんにお願いしたんです。また生徒会を1人でやっていくのはスクールアイドルも並行しているので大変かと思って……」

「それにきな子たちだけじゃなくって、メイちゃんたちも、可可先輩たちも手が空けば手伝ってくれると言っていたので、それならスクールアイドルと並行でもやっていけると思ったっす」

 

 

 もう生徒会活動がスクールアイドル部の活動の一環になってねぇかそれ。しかもアイツらまで巻き込むってことは生徒会を私物化できるってことでもある。そうすればスクールアイドル部だけ予算をこっそり上げることもできるわけだ。まあコイツらのことだからそんなことはなしないし、学校の奴らものほほんとした思春期女子ばかりだから疑われもしないだろうがな。

 

 それにしても、スクールアイドルってのはどうして生徒会をやりたがるかね。俺が主に関わったスクールアイドルは漏れなく生徒会役員がいて、生徒会長は必ずスクールアイドルをやってる奴だった。しかもその生徒会長に限ってスクールアイドルを敬遠していたりと、氷属性だった奴らが多い。更には結局スクールアイドル堕ちするところまで似ている。実際に目の前の生徒会長もそうだったしな。生徒会とスクールアイドル、何か因果関係でもあるのかねぇ。

 

 

「まあそれはそれでいいとして、どうして七草がいるんだよ?」

「あっ、センセーひっど~いっ! 私だけ邪険に扱ってるぅ~」

「してねぇよ。さっきの話の流れだったら、会計もスクールアイドル部の誰かになるのが自然と思っただけだ」

「それはスクールアイドル部だけで固めちゃうと、ライブの練習が追い込みに入った時とか生徒会にまで手が回らなりますよね? だから無所属の人が1人いた方がやりやすいと思って立候補したんですよ」

「はい。七草さんが手を挙げてくださってとても助かりました」

「でも色んな部活のヘルパーしている七海ちゃんが生徒会まで手伝ってくれるなんて思ってなかったから、ちょっと驚いちゃった」

「七草先輩の人望の厚さは1年生の間でも広まってるっす! そんな先輩が来てくれるなんて百人力って言葉では収まらないっすね!」

「もぉ~大袈裟だなぁ~きな子ちゃんは♪」

 

 

 七草七海。元々1年生の頃から色んな部活の手伝いをしており、スクールアイドル部に至ってはまだ部として認めらていない頃から、つまりかのんと可可の2人でやっていた頃からサポートしていた。そしてそのボランティア精神は2年生の秋となる今もなお発揮され続けており、教師と生徒どちらの陣営からも人望が厚い。さっききな子が言っていた通り、後輩たちにまでその活躍が噂されるくらいだ。

 

 ただ、去年と今年では雰囲気がガラリと変わった。去年までは活発で明るい三つ編み少女だったが、今年の4月からは掴みどころのない怪しさが滲み出す性格となっている。髪を伸ばしてツインテールになってるし、制服も結構着崩していて、かなりイマドキの女子っぽい。

 モブキャラのような見た目から急にイメージが変わった。そして時折こちらに向けられている妖艶で小悪魔的な笑み。何か裏があるのか、それとも思春期が故のイメチェンなだけなのか……。

 

 

「それにしても悉くスクールアイドルのみんなで固まっちゃって。まさにセンセーのハーレム集団ですよねぇ~♪」

「「「ハ、ハーレムぅうううううううううううう!?!?」」」

「何言い出すんだよお前!?」

「だってそうじゃないですか。ここにいるみんなは先生のことが好き、つまりハーレム生徒会ってことです」

「す、好きとかそういうのはまだ学生の身からして早い気がします……。学生の本業は勉強ですから……」

「そ、そうだよ何言ってるの七海ちゃん!」

「きゅ、急に変なこと言いだすなんて、先輩ってユーモアもあるんすねぇ~……」

 

 

 分かりやす過ぎるだろコイツら。七草が憎たらしい笑顔を見せているので、どうやらかのんたちのこの反応が見たくて煽ったらしい。まあコイツらが俺に気があるってことくらい普段のコイツらの様子を見ていればすぐに分かることだけど、ここまでド直球に茶化してくる奴はいなかったから、それ故にかのんたちへのダメージが大きいのだろう。

 

 

「ほらほらかのんちゃん、センセーの好きなところは? ほら言ってみ??」

「ふぇえええっ!? そ、そんなの無理!! 先生がいる前でそんなこと言うなんて!!」

「じゃあアタシにだけこっそり教えてよ♪」

「なんでそうなるの!?」

「だって先生に直接言えないってことは、誰かになら言えるってことでしょ? ということで、はいこれ」

「えっ、い、糸電話??」

「演劇部にあったやつ。ほらほらこれで私に言ってみ」

 

 

 なんて前時代的な……。いや前時代にもこんな通信方法はねぇよ。

 気持ちを吐露する前から既に悶え苦しんでいるかのん、それを見て愉悦を感じている七草。そして自分が標的にされまいと気配どころか存在すら押し殺している恋ときな子。新生徒会の顔合わせじゃなかったのかよ何だよこの現場……。

 

 七草が糸電話の片方の紙コップを耳に当て、かのんがもう片方を口にあてる。

 

 

「せ、先生の好きなところは――――」

「ふにゃぁん!」

「えっ、なにその色っぽい声!?」

「い、いやぁかのんちゃんっていい声してるから、糸電話が疑似ASMRみたいに聴こえちゃって……。あぁ~くすぐったい」

「じゃあやめようこれ」

「いややめない、耐える」

 

 

 何してんだよコイツら。これでも1年生の春からずっと同じクラスで親友だから仲はいいはずだ。いいはず……だよな?

 そして、かのんが抱く俺に対する気持ちが糸電話を通して七草に伝えられる。どうして七草に言わなきゃいけないのかって疑問はどこへやら、何故か俺たちは黙って見守っていた。まあ女の子から好意を伝えられるのは男として楽しみでもあるしな。恋ときな子も目の前で繰り広げられる恋沙汰に頬を染めて静観していた。

 

 そして2人共紙コップを顔から離す。

 

 

「ほぅほぅ……。なるほどねぇ……」

「絶対に言わないでよ!! 親友としての約束――――」

「頼りがいがある理想のお兄さん像がまさに先生なんだって♪」

「こ゛ら゛ぁ゛あ゛ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 親友の絆、崩壊。かのんはテーブルを挟んで向こう側にいる七草に飛びかかろうとするが、七草は人差し指1本でかのんのおでこを抑えて制止している。なんか無駄に強者感あるな……。

 それよりも、七草が腹黒とかそういうレベルではなく単純な裏切りを披露しやがった。まさに場を掻き乱すトリックスター。かのんは赤面しつつ涙を流しながらコミカルに悶絶していた。

 

 

「さて、次は誰が愛の告白をするのかなぁ~?」

「「う゛っ!?」」

 

 

 恋ときな子の身体がビクつく。標的にならないよう自分自身を空気に同化させていたものの、さっきから謎の強者感を放つ七草にそんな誤魔化しは通用しないようだ。

 もう完全に生徒会の雰囲気を支配している七草。たかが会計役員にここまで荒らされるなんて、最初に言ってたこの体制で大丈夫かって問題が顕著になってきたな……。

 

 このままだと生徒会がコイツのおもちゃにされかねないので、一応顧問になった身として仕事はしておくか。

 

 

「それくらいにしておけ。お前のせいでコイツらが『生徒会に行きたくない』とか、『一緒にいるとイジられるから辞めたい』なんてことになったらどうする。もう手遅れかもしれねぇけど」

「まぁそうですねぇ~。仲間として親友としてこれくらいにしておきますよ。最も、みんなの恋事情は気になるのでそこだけはいつか聞いてみたいですけどね。だってほら、恋バナは思春期女子の嗜みでしょ?」

「それはそうかもしれねぇけど……。だったらお前はどうなんだよ?」

「え?」

「そうだよ! 七海ちゃんはどうなの!? 好きな人いるの!?」

「そうっすそうっす! 先輩の想い人も聞きたいっす!」

「私たちにそこまで言うのでしたら、それはもう素敵な恋をしていらっしゃるのでしょう」

 

 

 ここに来てかのんたちの集中砲火が始まる。人を刺すなら刺し返される覚悟のある奴だけにしろって言葉があるくらいだからな、これくらいの報復は当然だろう。

 ただ、当の本人からは俺たちが期待するような反応は見受けられない。ノーダメージっぽくて、むしろこっちが野暮なことを聞いてしまったのかと少し焦ってしまいそうになる。

 

 

「最初に言ったじゃん、ここはセンセーのハーレムだって。つまりそういうこと」

「えっ、じゃあ七草さんは先生のことが……?」

「好きじゃなかったら、こんな日頃からあつぅ~い視線なんて向けてないって。ね、センセー?」

「えぇぇええっ!? 先輩、先生のことが好きなんすか!?」

「いつ!? どこで!? どういう風に好きになったの!?」

 

 

 今度はかのんたちが根掘り葉掘り聞く側になり、さっきとは立場が逆転する。ただ余裕があるのは依然として七草のままであり、かのんたちの方が必死になっているのは明らか。それでも他人の恋路が気になるから質問攻めにするあたり思春期の女の子って感じだ。年頃の女子ってホントに好きなんだな、こういう話。

 

 

「いつどこでって言われてもかのんちゃんの言った通り、頼りがいがあって顔が良くて優しくて理想のお兄さんって感じの先生が、1年半も自分の担任だったら惚れるでしょ。普通に」

「そ、そうかもしれないけど……」

()()()ずぅ~っとセンセーのこと見てたからねぇ。かのんちゃんより言えるよ、センセーの魅力的なところ」

「むぅ……。それだったら私だって七海ちゃんとずっと同じクラスだから条件は同じだよ。でも私の場合スクールアイドルの活動でも先生とずぅ~っと一緒だから、七海ちゃんよりも先生のこと知ってるもん」

「どうしてそこで張り合うんだよ……」

「そっかぁ~。かのんちゃんセンセーのこと詳しいかぁ~。へぇ~」

 

 

 七草の雰囲気が急に黒くなる。さっきまで羞恥心に苛まれていた奴が強がって張り合ってきたから気に障ったか。それとももっと別の感情があるのか。毎回思うけど、コイツが何を考えているのか俺でも読むことができない。1年生の頃は普通に天真爛漫な女の子ってだけだったのに、2年生になってから含みのある言動ばかりで気になって仕方がない。俺のことが好きって言ってたから積極性をアピールしているのか。これも思春期特有の心境の変化なのかねぇ……。

 

 

「と、とりあえず、会議を進めませんか? あと1ヶ月もしないうちに文化祭ですし、それこそこの新生徒会初の大仕事になりますので……」

「そうだね。ゴメンね、かのんちゃん。ちょっと熱くなっちゃったかも」

「う、うぅん。こっちこそいきなり突っかかっちゃってゴメン……」

 

 

 仲直りした……のか? かのんもさっき雰囲気が重くなった七草に対して何か思うところがあったのか、僅かながらに釈然としない様子だった。

 

 ここまでが新生徒会初の顔合わせと言われると、中々に中身の濃い挨拶だったな。顔合わせとは言っても最初に言った通りほぼほぼ顔見知りだったために挨拶も何もなかった気がするけど。

 それはさておき、生徒会の目下の目標は文化祭の運営と成功だ。とは言いつつも前期の時点で恋や理事長たちがそれなりに準備を進めていたので、生徒会はそれに乗っかってメイン運営として進めていく形だ。それでも生徒数は去年の倍以上に増え、出し物をする文科系の部活も増大したことで規模自体が大きくなることが予想されるため油断はできない。ま、この学校の生徒は一致団結力が強いから心配はしてないけどな。

 

 

「都会の高校の文化祭はスケールが派手と聞いているので楽しみっす! ちなみにきな子のクラスはお化け屋敷です!」

「そ、そうなんだぁ~へぇ……」

「かのんさん、既に顔が青ざめてますよ……」

「だって怖いものは怖いの! ま、まぁでも、文化祭でやるお化け屋敷なんてたかが知れてるよねぇ……」

「そうっすか? 前の赤女騒動のときに感じた雰囲気をそのまま再現しようと思ってるんすけど」

「あ、あれを!?」

「あぁ、私が血塗れの女と勘違いされたアレね」

 

 

 そういやそんなことあったな。確かにあの時は赤い髪をしている七草のことをみんな『頭から血を流している女』と勘違いしていたせいで無駄にムードがあった気がする。夜の学校に出没する血塗れ女、っていうシチュエーションも完璧だったもんな。

 

 

「かのん先輩のところは何をやるんすか?」

「コスプレ喫茶だよ。ほら、ウチって喫茶店だからノウハウがあるし、可可ちゃんは衣装づくり好きだし、そういうの得意そうな人がたくさんいるからそれに決まったの」

「そうそう。みんなでコスプレをして、センセーを悩殺しちゃうんだよね♪」

「えっ、そういう魂胆だったの!?」

「かのんさん! いかがわしい衣装は禁止ですよ!!」

「違う違う私じゃない!? これ最初に提案したの七海ちゃんだからね!?」

 

 

 確かに女子高生がコスプレするって聞くとアッチの意味で捉えてしまっても仕方ねぇよな。俺だって最初に聞いた時はアレな意味を想像してしまったから……。

 

 

「でも出し物とは言え喫茶店をするのなら、同じ喫茶店の娘として絶対に成功させたいよ!」

「おぉ、かのん先輩珍しく燃えてるっす!」

「そうだねぇ。どんなコスプレを着てセンセーをおもてなしするのか、メニューを考えておかないとねぇ~♪」

「コスプレでプレイのメニューを……!? い、いかがわしい……!! それで成功だなんて認められませんよかのんさん!!」

「いやだから私はそんなこと思ってないってぇええええええええ!!」

 

 

 プレイとか思い込んでる時点でお前の脳内の方がいかがわしいよ……。

 そんな感じで、文化祭の準備は着々(?)と進行している。俺も生徒会の顧問を押し付けられてやることが増えそうだけど、特に何も起こらずに無事に終わることを祈るよ。

 

 

「そういうことです。楽しみにしていてくださいね、センセ♪」

「えっ……?」

 

 

 目を細め、口角を上げた含みのある笑み。何も起こらない……よな??

 




 この小説はハーレム系として名を出していますが、安易にハーレムハーレムって言うと安っぽい感じがするので、なるべく本編中にはその単語を出さないようにしてきた裏話があります。
 なので今回は七海が口走っていましたが、意外とレアワードだったりしますね(笑)

 そして、ストーリー面でも変化が出てきました。かのんたちが恋愛弱者で奥手なせいで恋愛面は中々前に進みづらい状況でしたが、七海という爆弾が投下されたことで無理矢理にでも前に進まざるを得ない状況になってきました。

 零君と女の子たちの関係がこれからどうなっていくのか、是非ご期待ください!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

愛しの先生大追跡!再び!

今回のお話は、Liella編の第一章の『愛しの先生大追跡!』をあらかじめ読んでおくとより楽しめます。


「そんなわけで、この前の生徒会でそんなことがあったんす……」

「ハ、ハーレムって、そんなアニメや漫画みたいなこと言う奴がいるんだな……」

「でも結ヶ丘での先生のポジションって、まさにハーレムの中心って感じがする」

「結ヶ丘は先生以外の教師も生徒も全員女性ですの。そう言われても仕方がないと言いますか……」

 

 

 澁谷かのんです。

 今日はきな子ちゃんたち1年生がライブで使用する衣装の装飾を買い出しに行く、ということで先輩として付き添いをしています。

 って言うのは半分嘘で、私は今度の文化祭に向けての準備のため買い出し中。自分のクラスではコスプレ喫茶を開くため、その衣装の装飾を買い出しに行っているというのが本当の理由。目的は違えど目的地は一緒だったので、結局こうして一緒に行くことになりました。

 

 そんな中、先日の新生徒会の初顔合わせの様子をきな子ちゃんが話したことで今の状況に至る。『ハーレム』なんて創作の世界でしか聞いたことがない言葉が現実に出てきて、みんなそれぞれ思うところがある様子。ただ四季ちゃんが言った通り、先生がそのような状態になっているのは周知の事実で、恋愛感情とまではいかなくても先生を慕っている生徒は多い。

 

 そして、その人望の厚さは結ヶ丘の校内だけに留まらない。昨年度の終わり、先生が話してくれた衝撃の事実。それは多くの女性と関係を持っているということ。それを知っているのはその時にいた私たち2年生組だけで、きな子ちゃんたちはもちろん、他の生徒のみんなも知らないはず。先生はきな子ちゃんたちには時が来たら話すとは言ってたけど、あまりに信じがたい事実なだけに、ここにいるみんなが先生の本性を知るのはまだまだ先になりそう。

 

 

「それにしても七草先輩って何て言うか、怪しさ半端ないよなー」

「うん。小悪魔的な笑みでネチネチと煽って来るあの言動、メスガキって感じ」

「し、四季ちゃん、相手先輩っす……」

「かのん先輩は1年生の頃からずっと同じクラスで親友だと聞きましたの。昔の七草先輩もあんな感じでだったんですの?」

「う~ん、去年は活発快活な元気な女の子って感じだったよ。今年からかな、掴みどころがなくなっちゃったのは……」

 

 

 思春期のイメチェンにしては変わり過ぎだと思うんだよね……。ただ色んな部活のサポーターとして活躍しているのは変わってなくて、それ故に生徒だけではなく先生たちからも評価が高い。その実、私たちも去年はライブの準備とかたくさん助けてもらったし、今回だって生徒会の会計として間接的にフォローしてくれている。正直何を考えているのかはサッパリだけど、悪い人ではない……と思う。信じる! だって親友だもん!

 

 

「それにしても、恋してるか根掘り葉掘り聞き出そうとするなんて相当な耳年増ですの」

「それで自分が先生のことを好きだとゲロってしまったの、きな子ちゃん」

「えぇっ!? 違うっすよ!! 標的にされてたのはかのん先輩っすから!!」

「ちょっ、ちょっとその話はしないでって言ったよね!? それにきな子ちゃんだって顔真っ赤にしてたじゃん!」

「えっ、やっぱりきな子って先生のこと好きなのか!?」

「そ、それは……って、だったらみんなもそうじゃないっすか!?」

「「「そ、それはない……」」」

「顔、赤いっすよ……」

 

 

 うわぁ~みんなわっかりやす~い……。元々知ってはいたけど、こうして自分の恋心を指摘されるのって客観的に見るとここまで分かりやすくなるものなんだ。まあ自分のことを棚に上げてるけど……。

 4人共スクールアイドルになる前から先生と交流があり、その過程を経て私たちLiellaに加入したようなものなので、先生に対する意識は私の想像しているよりも大きいものだと思う。そりゃ顔が良く、歳も他の先生と比べて比較的に近い若い男性の先生に優しくされた靡いちゃうよね。私だってそうだもん。

 

 

「好きとか、そういうのは良く分かんねぇなぁ~私」

「私はエルチューブ活動で忙しくて、そんなことにかまけている暇はありませんの」

「恋なんて余計な雑念は邪魔なだけ」

「き、きな子もどうすればいいのか分からないっす……」

「そうなんだ。だったら先生が誰かと付き合ってもいいの?」

「「「「それは……ダメ」」」」

「えぇ……」

 

 

 分かりやすっ!! みんな分かりやす過ぎるよ!! しかも自分は興味なさそうに振る舞って、いざ先生に女性ができたら否定するって結構重いね!!

 とにかく、みんなが先生のことを男性として見ていることがこれで確定したかな。前々から分かってはいたけど、本人たちの口から直接語られたらもう逃げ場はない。多分先生もきな子ちゃんたちの気持ちには気付いてるんだろうな。

 

 そんな恋バナをしながら目的地であるアクセサリーショップに向かう。

 その道中、見知った人影を見つけた。みんなも私と同じタイミングで気付いたみたいだ。

 

 

「あれって、先生だよな?」

「そうっすね。私服姿の先生って、あまり見たことないから新鮮っす」

「でも私服で街中に1人。これは怪しい」

「もしかしたら女がいるかもしれない……って、流石にそれはないですの。先生、誰とも付き合ってないって言ってましたので」

 

 

 言っちゃダメだ言っちゃダメだ! インドアな先生が1人で外出するなんてあり得ないことも、外に出る時は大抵女性に誘われた時だってことも、それに付き合ってる人がたくさんいるってことも! でも言えないのってもどかしい!

 

 ちなみに先生はこっちには気付いていないみたい。

 先生は誰ともお付き合いしていないと信じ、休日の昼間に1人で若者の街の中にいる男性を少し憐れんでいるきな子ちゃんたち。わざわざこちらから声をかけてあげますよ的な僅かながらの上から目線の雰囲気を感じる。

 

 だけど、その余裕は――――

 

 

「お兄さん!」

 

 

 一瞬で打ち崩された。

 

 

「「「「お、女の……人!?」」」」

 

 

 よくハモるねぇ今日は。

 先生の側に駆け寄って来た女性は確か――――そうだ、高崎侑さん! 虹ヶ咲スクールアイドル同好会のマネージャーの侑さんだ!

 侑さんって確か今年の春から大学生になってた気がするけど、残った後輩メンバーのマネージャーは続けていると先生が言っていた。つまり今日もその活動の一環だったりするのかな。以前も同じような状況に可可ちゃんたちと一緒になったことがあって、その時は2人でライブの打ち上げ会場を一緒に探してる最中だった気がする。

 

 あっ、確かにそう思い返してみれば去年と全く同じ場面だ。ということは、きな子ちゃんたちもしかして……!!

 

 

「あ、あれって先生の彼女さんっすか!?」

「休日の昼間、若者の街で若い男女が待ち合わせ。シチュエーションとしてはバッチリ」

「おいおいマジかよ……」

「これはスクープですの! 彼女がいないと生徒を騙していた、一世一代のスクープですの!」

 

 

 あぁ、やっぱり勘違いしちゃってるよねぇ……。先生も見た目カッコいいけど、侑さんもスクールアイドルをやれるんじゃないかってくらい可愛い人だ。それ故にそんなお似合いの2人の仲睦まじい様子を傍から見ると恋人同士と勘違いしてしまうのは無理もない。実際には恋人ではないらしいんだけど、勘違いしてしまうほどには2人の距離も近くて親密なのはやり取りを見ているだけですぐ分かる。羨ましいと思っちゃうくらいにはね。

 

 

「いや、もしかして先生は寂しさを紛らわせているのかもしれない」

「どうことだよ四季」

「レンタル彼女」

「レンカノって、お金を払って彼女役をやってもらうってアレですの?」

「そ、そんな、先生がそんなので気を紛らわせているなんて思えないっす……」

「でも教師って、多感で反抗期な未成年をたくさん相手にするからストレスが溜まりやすいって聞く。だからレンカノで、自分を全肯定してくれる女の子を相手にして癒されているのかもしれない」

「なるほどな……」

 

 

 えぇっ!? なんかあらぬ方向に勘違いしてない!? 動揺し過ぎて冷静な判断ができなくなっているのか、四季ちゃんの言ったことみんな真に受けてるし! 早くそんなことないよって否定しなきゃ……!!

 

 

「それにしても、『お兄さん』ってなんだよあの呼び方。兄妹じゃあるまいし」

「まるで兄妹プレイですの。ま、まさか、そういうオプションを付けてるってことですの!?」

「先生には実の妹がいるはず。なのにレンカノの女に妹キャラをさせるとか、中々に闇が深い」

「もしかしたら先生、家で妹さんと上手くやれてないんすかね……」

 

 

 また新たなる誤解が生まれてる!! しかも先生がちょっと可哀想な目で見られてる!! みんなの勝手な妄想なのに!!

 そういや私や可可ちゃんたちも侑さんの『お兄さん』呼びを聞いて、先生と侑さんが兄妹だって勘違いしてた気がする。だからきな子ちゃんたちに強くツッコミを入れられないんだけど、それでもいくらストレスで寂しいからってレンタル彼女に兄妹プレイのオプションを付けるって被害妄想はヒド過ぎるような……。

 

 

「あっ、移動しましたの」

「バレないようにこっそり後を付けよう。レンタル彼女にしても本当の彼女にしても、今まで隠してきた意味を知りたい」

「そうだな。あんな可愛い彼女がいることを黙ってたなんて……」

「ほら、かのん先輩も行くっすよ」

「えぇ……」

 

 

 みんなの中で先生の品位が勝手に下がっていくから真実を話そうと思っていたんだけど、ぶっちゃけるとこのすれ違いシチュエーションが面白いからもう少しだけ見守っていたくなる。お笑いとかでよくある全てを知ったうえで鑑賞する勘違いネタが面白いように、今がまさにその状況だ。

 

 だからちょっとだけ、ちょっとだけだから。許して先生!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして、きな子ちゃんたちの先生追跡に付き合うことになった。

 往来する人が多いのでこちらに気付かれてはいないみたい。耳を澄ませば辛うじて2人の声が聴こえてくる、それくらいのポジションで追跡をしていた。

 

 

「今日はスカートなんだな」

「気付くの遅いですよ。女の子の服を褒めるのは出会ってすぐでないと」

「いやどう褒めるか迷ってたからさ。普段はズボンのお前がわざわざ俺のためにスカートを履いてくれる、その健気さをな」

「お兄さんと2人で出かける時だけですから、スカートにするのは」

「あぁ、眼福だ。似合ってるよ」

「もうっ……。ありがとうございます……」

 

 

 うわぁ~もうこのやり取りだけで仲が良いのが伝わって来る。むしろこれでお付き合いしていないのが疑問に思っちゃうくらいだよ。しかも敬語の後輩女子と頼りになる先輩男子という、まさにアニメや漫画の世界であるような理想の関係性。好きな男性のために服を選ぶ女性と、それをしっかりと褒める男性。いやもうカップルじゃん。

 

 そして、こっちの後輩たちの反応はと言うと――――

 

 

「レンタル彼女って服の指定とかもできるんすね。都会の男性たちはこういうので火遊びしてるってことっすか……」

「でも普通に恋人っぽくもあるように見えるぞ。どっちなんだ……?」

「どちらにせよ、先生が女に飢えてるのことに変わりはない」

「自分の顧問がここまで性欲の猛獣だったなんて、あまり考えたくはありませんの……」

 

 

 いや拗れ過ぎ。向こうは甘酸っぱい恋人みたいな会話してるのに、どうしてこっちはこうも捻くれてるの……。ただ単に先生には恋人、もしくはそれに準ずるくらいに親しい女性がいて、今日は一緒にお出かけしているって発想で全てが解決するのに……。

 どうやら最初に話が捻じれに捻じれ切ってしまったせいで、きな子ちゃんたちの想像力は常軌を逸しちゃってるみたい。ただ、自分の好きな人にあんなに親しい女性がいたら冷静でいられないのは分かるかも。実際に私たちも去年そうだったからね。

 

 

「それにしても、お互いに全く気兼ねがなくて楽しそうですの。先生とデートするってあんな感じに……」

「先生とデートっすかぁ……」

「先生とデート……」

「先生とデートか……」

 

 

 被害妄想から連想して、今度は自分の妄想に耽っちゃったよ。なるほど、先生がいつも私たちに言ってる状態がこれかぁ。客観的に見て初めて分かったけど、意外と恥ずかしいねこれ。かと言ってじゃあ自分が治せるかと聞かれたら堪えられないけど……。先生とのあんなことを想像しちゃうのは仕方ないもん、華の女子高生なんだから。

 

 

「あっ、ほらみんな早く。先生たち行っちゃうよ」

「「「「あっ……」」」」

 

 

 私の一言で現実に戻って来る。

 先生のいつもの苦労が少し分かった気がするよ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そしてまた追跡再会。その間も先生と侑さんの楽しそうな会話が聴こえてくる。

 

 

「そういえばホテル、どこにします?」

「あぁ、その話か。まだ決めてなかったのか?」

「そんな簡単に決められませんよ。大事な日なんですから」

 

 

「「「「ホ、ホテルぅ!?!?」」」」

 

 

 また何か勘違いが始まっちゃった?? でもこれは私も勘違いしてしまう。多分どこか旅行に行くとかそんな感じだと思うんだけど、きな子ちゃんたちの顔はもう真っ赤に真っ赤。恐らくみんな()()()の意味だと思ってるよねこの反応……。

 

 ていうかさっきの声大きかったけど、聞こえてない大丈夫??

 

 

「レンタル彼女はそういうサービスもやってるんすか!?」

「普通はそういったお触り系のオプションはなかったはず。つまりこれはレンカノではなく――――パパ活」

「なにっ!? マジでそうだとしたら大問題じゃねぇか!!」

「先生の性欲の飢え具合は相当ですの!!」

「えぇっと、パパ活ってなんすか……?」

「お金を払って未成年の女の子とセックスをすること」

「ひっ!?」

 

 

 余計に被害妄想が広がってるんですけど!? これやっぱり本当のことを話した方がいいのかな!? そうしないと先生が犯罪者扱いされちゃいそうなんですけど!?

 よし、流石にもう真実を伝えよう。勝手に被害妄想をして、勝手に先生の信用が低下して、そして顧問と教え子の間に亀裂が入ったらスクールアイドル活動もやりにくくなるしね。それになにより、私がいるのにすぐに本当のことを言わなかったと先生に知られたら……うん。

 

 

「あのぉ、みんな? 実はあの人は―――――」

「しっ! かのん先輩静かにするですの! また何か聞こえて……」

 

 

「みんなで泊まるなら、1室はなるべく広い部屋がいいですよね」

「1つのベッドで2人以上で寝るなら費用は抑えられるけどな」

「極論過ぎますけど、それ窮屈過ぎません?」

 

 

「みんなで泊まるって、これが噂に聞いていたハーレムってやつか!?」

「しかも1つのベッドをみんなでって、一体何、いやナニをするんですの!?」

「複数のパパ活オンナを一堂に集めてセックス」

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 あぁ、もう先生がどんどん犯罪者に仕立て上げられていく……。この負の連鎖を止めようと思ってるんだけど、きな子ちゃんたちが変に勢いづいてしまって私の言葉に耳を貸そうとしない。それどころかあらぬ妄想が全速前進でどんどん加速しているせいで、私まで巻き込み事故でその妄想に囚われてしまいそうで怖い。どうしようこの状況……。

 

 

「あれ、いつの間にか先生たちいなくなってますの!」

「人混みで紛れた一瞬で消えた」

「ん? あっちの路地裏の方にそれらしき人影が見えたっす!」

「よし、行くぞ! かのん先輩も!」

「えぇ……」

 

 

 ダメだ、みんなが止まらない。純粋なきな子ちゃんまでもがピンク色の脳になってしまい、もう私の言葉なんて一切届かないと思う。

 そんなこんなで先生と侑さんが消えたと思われるビルの前に到着する。もしかしたら見失ったのかと誰もが思ったその瞬間、ビルとビルの間、こちらからは見えない日の当たっていない暗い場所から声が聴こえて来た。

 

 

「お兄さん、それ……大きいです」

「そうか? でも入りきるだろ」

 

 

「大きい? 入る? これはセックスの匂い」

「まさか裏路地でそんなことしてんのかよ!?」

「先生の大きいのがあの人にあそこに入りきるかどうかってことですの……!?」

「あっ、あぁ……あぁ……」

 

 

 ていうかセックスセックス連呼し過ぎ!! しかも妄想が超トップスピードで地球一周できちゃいそうになってるから!!

 ただこれはまぁ、声だけしか聞こえないから勘違いしなくもない。私もてっきり変なことしてるのかと思っちゃったけど、周りに慌ただしくしている人がいると自分は冷静になれるって本当だったんだ……。

 

 

「お、お兄さん……それ、ダメぇ……」

「なんだよ、もう押すぞ」

 

 

挿入()れた!? もう挿入(はい)っちゃいましたの!?」

「しかも挿入れたあとに押すってことは……ピストン」

「先生から動いてるのか!? ホテルまで我慢できなくなってここでヤるなんてマジかよ!?」

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 えっ、本当にやってないよね?? みんなの被害妄想の余波で私まで騙されそうなんだけど、大丈夫だよね!? きな子ちゃんもう壊れちゃいそうだし、止めに入った方がいいの!?

 

 

「もう我慢できねぇ。覗く」

「Me Too」

「動画ネタにできないのであれば、せめてこの目で見てやりますの」

「えっ、本当に行くんすか?」

 

 

 怖いもの見たさ、好奇心もある。私たちは恐る恐る声のする路地裏を覗いてみる。すると――――

 

 

「な~んちゃって♪」

 

 

「「「「「うひゃぁああああああああっ!?」」」」」

 

 

 覗こうとした瞬間、侑さんがひょっこり現れる。当然私たちは驚いてしまい、周りに聞こえそうなくらいの悲鳴を上げてしまった。

 侑さんのさっきの口っぷり、もしかして……気付かれてた??

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ったく、勝手な思い込みで変な勘違いしてんじゃねぇよ」

「「「「すみません……」」」」

 

 

 お互いに何をしていたのか事情を話した上で、きな子ちゃんたちがあらぬ勘違いをしていたことに呆れる先生。いくら思春期とは言え、自分の教え子にレンカノ使用してるだの、ホテルでパパ活してるだの、野外でヤっちゃってるだのと思われていたのってどんな気持ちなんだろう。もちろん私が早めに本当のことを喋っていれば全部回避できたことなんだけど……。

 

 

「でもいきなりビックリしましたよ。みんなを驚かせたいから、ナチュラルにちょっとエッチな話題になるように演技しろって。ただ虹ヶ咲のみんなで泊まるホテルをスマホで予約しようとしてただけなのに」

「えっ、そうなんですか?」

「うん。『大きい』って言ったのは予約しようとしていたホテルの部屋が広いって意味で、『入りきる』って言うのは虹ヶ咲のみんなが1部屋で入り切れるかを気にしていたんだよ」

「ちなみにもう押すって言ったのは、半ば勢いで予約ボタンを押す、つまりスマホをタップしようとしただけだ」

「そんな勢いで決めていいのかと思って『ダメ』って言ったんだけど、ここすぐ予約が埋まっちゃうからお兄さんが急いじゃって……」

「ま、エロい意味になるように言葉を選んでたのは確かだけどな」

「「「「うぐっ……」」」」

 

 

 手玉に取られていたことを知り、きな子ちゃんたちは特大ダメージを受ける。やっぱり先生に対してストーカーは無理なんだなって。去年私たちの時もバレてたからね。

 

 

「それにしても、みんなそこまで妄想しちゃうなんてねぇ。それだけお兄さんのことが好きなんだ♪」

「そ、それは違うっす! いや違わなくはないっすけど……」

「そんなじゃねぇし!! 多分……」

「自分の顧問が変なことをしていないか、確かめるのは当然だっただけ……」

「私はスクープ映像が撮れるか期待していただけですの……」

「もう誤魔化しちゃってぇ~。可愛いなぁ♪」

 

 

 侑さんって人の恋愛を期待している感あるよね。私たちの時もこうしてグイグイ突っ込んで来たし……。

 ただ私たちの先生に対する想いがバレバレなのは目に見えていて、七海ちゃんも気付いてたし、今さっき会ったばかりの侑さんにも看破されたので、それ故にみんなからこうして応援されてしまう。嬉しいけどそれはそれで恥ずかしいんだよね。

 

 ちなみに、先生と侑さんはただ単に一緒に遊びに行く予定だったっぽい。もうそれデートじゃんって思ったけど、実際のところ本当に付き合ってないのかな? 仲良すぎるからもしかしてキスとか……付き合ってないんだったら流石にないよね。

 

 

「また女の子増やして……。相変わらずですねお兄さん」

「もうお前も慣れただろ、こういった状況」

「ですね。だから私がやれることは――――」

 

 

 侑さんは私たちに近づく。そして先生に聞こえないような小声で私たちに囁いた。

 

 

「そっちはもうすぐ文化祭でしょ? お兄さんと関係を進めたかったらそこがチャンスだよ。お兄さんってお祭り事とか面倒そうな顔してるけど、一緒に回って見ると意外と楽しそうにするんだよね。だから頑張ってみて! 文化祭パワーだよ!」

 

 

 こちらを鼓舞激励する侑さん。それはきな子ちゃんたちに言っているのと同時に、私にも言っているように聞こえた。先生と特別な関係である侑さんのことだ、こっちの事情は全て先生から聞いて知っているんだと思う。だからこそのアドバイスか……。

 

 

「おい侑、なに話してんだ?」

「内緒です。でも、覚悟しておいた方がいいと思いますよ。もしかしたらお兄さんから恋に落ちちゃうかもしれませんし」

「はぁ?」

 

 

「文化祭、か……」

 

 

 きな子ちゃんたちも何かしら思うところがあるようで、みんなの心の引き金が引かれたような、そんな気がした。

 私も1年生の終わりに先生の過去や本性を聞いたけど、それ以来特に関係は進んでいない。

 

 

 学校生活3年間の内、もう半分が過ぎた。私も先生と、もっと――――

 




 本日はゲスト回として侑に登場してもらいました!
 最後に登場したのが3月なので、そこまで久しぶり感はないかもしれませんね(笑)

 実は別作品のキャラをもっと出して欲しいという声を頂くことがあるのですが、あくまでその章に登場するメインキャラを活躍させる都合上、そう頻繁に別作品キャラを出せないのが事実。
 あとは今回の侑が大学生(虹ヶ咲編の2年後のため)になっているみたいに、時系列によってはキャラを成長した姿で出す必要があるため、下手に出し過ぎると今後また出したくなった時に設定に矛盾が出たり出なかったりを悩みたくない、という作者個人の理由もあったりします。

 でも侑は私のお気に入りで、虹ヶ咲編でももう1人の主人公ポジションでいい役回りをしているので、もしかしたら彼女は他に出番がある……かも?(期待しないでください 笑)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

結婚!浮気!不倫!

 文化祭が迫る秋の中頃。生徒たちは皆それなりに浮足立っていた。文化祭と言えば学校行事の中でも青春ポイントの高いイベント。それ故に思春期女子のパリピ精神が掻き立てられるのだろう。

 ただ、ここは女子高だ。つまり文化祭が持つ効果、『男女の距離接近』が使えないのは惜しいところ。人生の春とも呼ばれた思春期を過ごす女子が、この効果を活かすことができないのは大変勿体ない。そのせいなのかは知らないけど、最近やたら女の子たちが向ける俺に対する視線の熱量が半端な気がする。まあこの学校、男が俺しかいねぇしな……。

 

 そんなわけで盛り上がりが上昇気流に乗る中、最近の結女の授業は文化祭の準備で時間が使われる日も多くなってきた。学校行事にも力を入れているこの学校だからこそだろう。

 そして本日の夕方も授業がなく、文化祭準備の時間に割り当てられていた。

 

 

「テーブルゲーム部の人たちからお手製のすごろくを貰ったので、みんなでやってみまショウ!」

「なんなのよいきなり……」

 

 

 スクールアイドル部の部室でステージの飾りつけを作っている最中、いきなり可可が入ってきてゲームの提案をしてきた。『リアル人生体験すごろく』と書かれた箱を持っている。

 部屋にいるのは俺以外だとすみれと千砂都。すみれはいつもの可可の突拍子もない提案に呆れているが、千砂都はお祭りごと好きなのもあってか既に心が躍っているようだ・

 

 

「さっきテーブルゲーム部の友達からバランス調整をして欲しいと依頼され、試作のすごろくを頂いたのデス」

「遊んでいる場合じゃないでしょ。授業の代わりに準備の時間を与えられてるってのに、遊んでたら怒られるわよ。それに準備が長引けばそれだけスクールアイドルの練習の時間も減る。ラブライブまで期間に余裕があるわけないし、余計な時間を使うわけにはいかないの。はい、分かったら手を動かした動かした」

「もぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!! やりたいデスやりたいデスやりたいデスやりたいデスやりたいデス!!」

「だぁあああああああああああっ!? くっつくな!!」

「何やってんだよ……」

 

 

 すみれの腰に絡みついて泣きつく可可。

 普段はレスバトルしてるくせに、なんだかんだ仲いいよなコイツら。どうやらライブ衣装の参考にするため2人でウィンドウショッピングに行くこともあるらしいので、見た目ほど仲が悪くはないどころかもう友達以上の関係にしか見えねぇなこのスキンシップ。

 

 

「まぁまぁすみれちゃん、せっかくだしやってみようよ。部室だったら先生たちに怒られる心配もないしね」

「俺は先生じゃねぇのかよ……」

「だって先生ってむしろサボり容認派じゃないですか♪」

「そうだけど、笑顔で言われるとなんかムカつくな……」

 

 

 千砂都の心をチクチク刺してくるような発言は2年生になっても健在だ。からかい上手なのは他の奴らに対しても同じだけど、俺に対してだけはやたらとネチネチ絡んでくる気がする。思春期特有の好きな子にはイジワルしたくなるあれか? それを教師に発揮するのもどうかと思うが。

 

 

「アンタ、部長のくせに甘いわよね。練習は鬼コーチになるくせに」

「やるときは徹底的にやるけど、休む時も徹底的に息抜きするタイプだからね。いいんじゃない、最近みんな授業と文化祭準備の連続で集中し過ぎてたし」

「ったくもう……。ちょっとだけよ」

「さっすが千砂都デス! 頼りになりマス!」

「そうでしょ~♪ 褒めたまえ褒めたまえ!」

 

 

 なんなんだよこの茶番……。

 

 

「というわけで4人でやりまショウ!」

「えっ、俺もやんの?」

「当たり前デス。なんたって『リアル人生体験すごろく』、デスから!」

 

 

 いつもの無邪気な笑み。だけど何か嫌な予感がするのは気のせいか……?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 『リアル人生体験』なんて言い出すからどんな過酷なすごろくなのかと思ったら、中身は至って普通の人生ゲームのようだ。新卒社会人時代から老後時代までを駆け抜け、最後に持ってる資金が一番多い奴の勝ち。唯一普通の人生ゲームと違う点は、マスにイベントの内容が描かれておらず、止まったマスとサイコロの結果に応じてイベントが決まるということ。ここら辺はTRPGっぽさがあるな。

 

 そんな感じでゲームスタート。新卒から開始されるため、最初はそれほどまでに金は稼げない緩やかな流れになるだろう。

 そう思っていたが――――

 

 

「『ダンス大会で名声が上がる。10万円もらう』だって。おおっ、私にピッタリなイベント!」

 

「『エルチューバ―として成功。収益として50万円もらう』。ふふん、流石は私ね!」

 

「『SNSで不謹慎動画を投稿したことで炎上。罰金として30万円支払う』。ええぇえええっ!? 可可はそんなことしマセン!」

 

 

 なんつうか、イベントが現代風だな。それ故に若い頃から一攫千金を稼ぐ手段も用意されてるってわけか。もちろん炎上騒動など人生が地に落ちるイベントも若い頃のマスから存在しており、まさにリアルな人生ゲームって感じだ。まあこんな大金が動きまくる波乱万丈な人生を送れる奴なんてほんの一握りだろうがな。

 

 ちなみに俺が止まったマスはと言うと――――

 

 

『学生時代に付き合ってきた女性たちに貢がれる。30万円もらう』

『付き合っている女性たちの姉妹までもを恋人にする。人脈拡大カードをもらう』

『手に入れた女性の年齢層で「小学生」「中学生」「高校生」「大学生」「社会人」を全てをコンプリートする。実績カード、『ヤリチン』を手に入れる』

 

 

「なんだよこれ!? 全然リアルじゃねぇだろ!! アニメや漫画の世界かっつうの!!」

「いや、アンタにピッタリじゃない」

「まるで先生の人生そのものデス!」

「ゲームにまで自分と同じ人生を反映させるなんて、先生はどこまで行っても先生ですね」

「慰めになってねぇだろそれ……」

 

 

 まさか人生ゲームですら自分のリアルと同じ人生を歩むことになるなんて……。

 ただ流石にイベントの内容ほどクズな人生は送っていないはずだ。貢がれたと言えばお弁当を作ってもらったりしたけど、それはそれで可愛いものだろう。姉妹までをもモノにしたってのは、雪穂や亜里沙のことだろうか。そして年齢性は小学生~大学生の女の子たちとならそれなりに濃密な交流があった。確かに、こう振り返ってみると結構やることやってんなぁ俺。

 

 そしてゲームは進み、すごろくも中盤戦。俺たちの駒はそれなりにいい大人となっている。

 割といい感じのリアリティを演出するゲームに場が和気藹々とする中、千砂都が踏んだマスのイベントでみんなの顔色が変わった。

 

 

「こ、このマスは――――結婚イベント!?」

 

 

 人生ゲームでありがちなイベント。結婚という言葉に敏感になるお年頃だとは思うが、これはたかがゲーム、そこまで気にすることでもない。

 ただ、今回のすごろくでは事情が少し違った。

 

 

「結婚って、どうなるの……?」

「好きな男性プレイヤーを1人選んで結婚しマス。つまり今後は2人で1つの駒を動かして、資産も共有することになるのデス」

「ちょっ、それってマジモノの結婚じゃない。しかもここにいる男って……!!」

「先生と私が――――結婚!?」

 

 

 千砂都の熱い視線が俺に浴びせられる。対して可可とすみれはさっきからずっと口をあんぐりと開けていた。

 2人の駒が1つになり、資産も共有されて同じマスの効果も受けることなる。それはもう夫婦の共同生活そのもの、まさに結婚して添い遂げた状況となんら変わらない。ゲームだと分かっていても『結婚』というワード、そして結婚による共同作業のルールによって意識せざるを得なくなっているのだろう。

 

 

「やりましたね先生! 末永くよろしくお願いします」

「へ? いやゲームだからこれ。雰囲気出すぎだろ……」

「あっ、よく見たら他のプレーヤーは結婚したプレーヤーに5万円ずつお祝い金を渡すって書いてある。可可ちゃん、すみれちゃん、お願いね♪」

「千砂都、アンタ幸せオーラ振り撒きすぎよ……」

「なんか屈辱デス……」

 

 

 好きだった男が別の女に取られてしまい悔しがるこの構図、本当にリアルでもありそうだな。ただそんなドロドロ展開は俺はゴメンだね。そうならないようにリアルでは上手く立ち回っているし、そもそも女の子たちが寛容なおかげで泥沼に陥ることもない。

 

 しかし、今回の場合は――――

 

 

「えっ、『一番近くの女性プレイヤーと浮気する。お互いに浮気カードを入手し、これ以降、このカードを持っている男性プレイヤーは手に入れたお金の20%を浮気相手に渡す』だと!?」

「先生の一番近くにいるのは――――すみれ、デスね」

「そ、そんなヒドイ!? 私がいるのに浮気だなんて!」

「なにそのマジな反応!? これゲームだから! フィクションだから!」

「ふふん、先生も私の魅力の虜になっちゃったわけね」

「略奪愛なんてすみれらしいデス」

「なによ、蚊帳の外でヤキモチ?」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……」

 

 

 どうすんだよこの状況。ゲームなのにマジになりすぎだろ。いや本気でやるのはいいんだけど、反応が結婚相手に浮気現場を目撃された状況とそんな変わらないので空気が重い。もはや金で勝敗が付くってルールすらも、そもそも金を稼ぐって目的すらも忘れそうになるくらいの展開だなこれ……。

 

 

「やっぱり先生は私が一番ってことよ」

「そんなことないよ! ねぇ先生!?」

「えっ? 誰が一番とか……。みんな大切っつうか……」

「今のはそういうのいいですから。私が一番と言うのであれば、私の好きなところを言ってください!」

「はぁ!? どうしてそうなる!?」

「結婚しているんですから当然ことです! ほらほら言ってくださいよぉ~!」

 

 

 コイツ、さっきからやたらテンションが高いな。いつもそうなんだけど、ゲームとは言え俺と添い遂げられてそこまで嬉しいか。しかも好きなところを言い合うっていう付き合って月日の経った恋人みたいなことしやがって。

 

 無視してゲームを進行したいのは山々だが、もう場の雰囲気が結婚相手と浮気相手の修羅場みたいになっており、どうにも逃げることは許されないらしい。仕方ない。

 

 

「子供っぽいながらも、部長としてみんなを引っ張る責任感があるところ。明朗快活で笑顔が絶えないところ。素直になれないから、からかうことで俺と距離を詰めようとする可愛いところ。あとは――――」

「も、もういい!! もういいですからぁ……。1つだけだと思ってたからビックリしちゃった……」

「千砂都、顔真っ赤デス」

 

 

 手で自分の顔面を覆い隠す千砂都。だがそれでも顔の赤さは指の間から丸分かりで、もはや隠し切れていない。

 それにしても、自分で褒めろとせがんで来たのにその通りに実行したらこれかよ。やっぱりからかってくるのは一種の強がりなのかもしれないな。

 

 

「このままだと可可だけ男なしの人生になってしまいマス。そんな色のない人生は絶対に嫌デス。だからここでいいイベントを引かないと……」

「そう簡単に引けるわけないでしょ」

「あっ、来た。『男性プレイヤー1人を選ぶ。その男性プレイヤーに不倫をされる。お互いに不倫カードを手に入れる』。らしいデス! 来マシタ来マシタ! これで可可も先生と肉体関係を持つことができマシタ!」

「大声でなに喜んでんだお前!?」

「そ、そんな、私がいるのに今度は不倫!?」

「浮気相手っていう遊び相手がいるのに不倫とか、度胸あるわねアンタ!」

「なぜ俺が怒られる!?」

 

 

 イベントの内容的には怒られて当然なんだけど、なんか理不尽に思えるんだよなぁ……。

 そしてこれで俺には結婚相手、浮気相手、不倫相手の3人が存在することになった。もうドロドロ展開の中の沼の底に到達した感じがする。こんな男がいたら速攻で誰かに刺されるだろ……。

 

 ちなみに浮気と不倫の定義だが、不倫は結婚相手とは別の女性と肉体関係を持つまでに至ったことを指す場合が多いが、浮気は浮気ボーダーという言葉がある通り人それぞれ。結婚前で付き合っているカップルであろうともその言葉を使う機会はあるだろうし、結婚後も相手に隠れて他の異性と飯を食いに行っていたとかでも浮気になりえる。まあどちらにせよ冷たい目で見られる行動だな。

 

 

「いやぁ~不倫しちゃいマシタねぇ~先生♪」

「なんでそんな嬉しそうなんだよ……。結婚相手が目の前にいるってのに……」

「これが噂に聞く『寝取り』ジャンル!? カルト的な人気のあるジャンルだとは聞いていマシタが、この略奪愛、クセになりそうデス……」

「実際に脳内麻薬の分泌が凄いらしいわね、寝取り寝取られって」

「ダメダメダメ! 先生は絶対にそんなことで靡かないから! ねぇ先生!? 寝取りより純愛派ですよね!?」

「教師に向かって性癖を試す質問をすんじゃねぇよ……」

 

 

 もしそれで俺が寝取り好きとか言ったらどうすんだ? まあ俺はそういった略奪愛には興味がないから安心させることはできるが、みんなのテンションがおかしな方向に上がっているこの状況、もうどんな回答をしようともどこかで火が上がるのは目に見えて分かる。浮気や不倫の言い訳現場ってこんな感じなんだろうか。ゲームと言えどもこんなドロドロなリアリティは体験したくねぇって思うよ。もちろんリアルでも。

 

 

「なんとしても先生の愛を取り戻して見せる。何かいいイベント来て……!!」

「もう昼ドラもビックリの展開だな……」

「えっ、き、来た!! 出産イベントですよ先生!!」

「マジかよ。そんなのもあるのか」

「私と先生の子供ですよ! やっぱり先生が一番愛してくれていたのは私だったんだ……!」

「なんでちょっと涙流してんだ……」

 

 

 本当に子供ができたかのように喜んでやがる。ゲームでここまで幸せの絶頂を体験できるのは凄い。ゲームの作者に感情をコントロールされているようでちょっと怖いけど。

 そんな幸福に浸る千砂都だったが、他の2人の目は明らかに穏やかではなかった。

 

 

「ゲームを続けるわよ! 私だってこのまま黙って見てるだけじゃ――――あっ、私も出産マス! 浮気カードを持ってるから、浮気相手との子供ができるわ!」

「えぇっ!? 先生、まさか結婚相手の私を裏切って……!?」

「ゲームの話だろ!?」

「ぐぬぬ、だったら可可も――――よしっ、可可も出産マスに止まりマシタ! 不倫カードを持っているので、不倫相手との赤ちゃんができマス! しかもイベント報酬2倍ボーナスで赤ちゃん2人! 双子! 双子デスよ先生!」

「先生のヤリチン! ハッスルし過ぎ!!」

「だからゲームの話だろ落ち着け!!」

 

 

 混沌とし過ぎてきてもう何が何やら……。片や俺のヤリチン具合を非難してくるし、片や浮気している相手との赤ちゃんができて喜び、片やソシャゲのイベント期間かと言わんばかりの赤ちゃんボーナス2倍に嬉々としている。これ、どう収拾つけんの??

 

 そうか、ゴールすればいいのか。まだ終盤に差し掛かる少し前だけど、ここまで溜め込んで来たサイコロを振る回数を増やすカードを1ターンに一気に使えばもしかして。このままチマチマと進めていたら何度もまた昼ドラ展開を見せつけられるだけだし、ここでもうこの血生臭い関係を終わらせてやろう。

 

 そして俺の番にサイコロプラスのカードを使用し、サイコロを一気に振る。

 結果は――――

 

 

「ゴール! 先生が一着でゴールデス!」

 

 

 無事に完走。ゲーム中は毎ターン毎ターン何かしら修羅場イベントが発生していたため、ようやくこれで爛れた女性関係を解消できるようになった。別に自分が浮気してたり不倫してたわけじゃないのにこの疲労感は一体なんなんだよ……。

 

 もちろん、それはみんなも同じのようだ。

 

 

「なんか、息抜きの予定だったのに余計に疲れたわね……」

「大声を出し過ぎたせいで喉が少し痛いデス……」

「私、とんでもないことばかり言ってたような気が……」

 

 

 賢者モードになっていた。周りの人が聞いたら誤解されかねないことを大声で連発していたので、また新しい黒歴史が刻まれそうになったのは言うまでもない。

 

 

「そういえば、先生って文化祭は誰かと一緒に回るんですか?」

「いや別に。やることと言ったら見回りくらいだ。文化祭のメインは生徒で、教師はあまりすることがないからな」

「そっか、じゃあ時間があったら一緒に回りましょう!」

「ま、別にいいけど」

「千砂都だけズルいわよ! 浮気相手として、私を誘わない手はないでしょ!」

「浮気相手だから隠すんじゃねぇのか……」

「だったら不倫相手の可可だって、先生と回る権利はありマス!」

「てかその設定生きてんのかよ!? 絶対部室の外で言うなよ!?」

 

 

 そんな感じで文化祭の予定を無理矢理埋められた。

 一緒に回るのはいいけど、下手に俺の取り合いになって、その設定を大声で連呼されるのだけは防がないと……。

 




 実際に零君はゲームであっても自然とハーレムを築いてしまう、そんな天の恵みの下で生きています。


 そういえば、この小説を書いている間にLiella3期生のお披露目生放送があったみたいで。アニメがいつになるのかはまだ不明のようですが、とりあえずこの小説のLiella編2期が終わるまで待って欲しい……。虹ヶ咲編2が終わって、ようやく小説がリアルに追いついてきたので(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歩くだけでモテる男の文化祭前日

「本当にあなたには感謝してるわ。今年の文化祭は去年よりも大規模にしようと思っていたのだけれど、いくら学校がその気でも、生徒たちのやる気がなかったら盛り上がらないもの。その点、あなたという存在がいるだけでみんなが一致団結する。この学校が存続できているのもあなたのおかげよ」

 

 

 理事長室。理事長から感謝の言葉を投げかけられる。教師として学校の長に評価してもらえるのは本来なら嬉しいことなのだが、俺の場合は話が違う。むしろその言葉は俺をイラつかせるだけだ。なのでせめてもの抵抗としてソファに深く腰を掛け、両肘を背もたれに置き、足を組むといった、目上の人に対する態度とは思えない恰好をする。明らかに不機嫌な態度を取ってますよアピールをすることでその軽い口を塞ぐのが狙いだ。

 

 ただ――――

 

 

「恋ちゃんも笑顔を見せるようになったし、澁谷さんたちのスクールアイドルの活気が他の生徒たちも鼓舞してくれているし、学校全体が明るくなった気がするわ。それに普通科と音楽科のいがみ合いもなくなって、みんな伸び伸びと学校生活を送っている。それもこれもあなたのおかげね」

「おい」

「なに?」

「聞き飽きた。そうやって褒めれば普段の無理な押し付けが許されると思うなよ」

「あら、褒める教育はあなたに合わない? 最近は怒るよりも褒める方が主流と聞いたけれど」

「馬鹿、こちとらガキじゃねぇんだ。小細工せずにここに呼んだ理由を言えよ」

「段々と私の扱いが悪くなっていくわね。理事長に向かってその言葉に態度、あなた以外だったら即解雇レベルよ」

「アンタが上司らしいことをしてくれれば普通に慕ってるよ」

 

 

 俺がこういう態度を取るのも無理はない。理事長は俺に何かと仕事を押し付けてくる。赴任初日からクラスの担任、朝の挨拶運動、生徒会の顧問、そして今回の文化祭の見回り、その他雑務など、細かいモノまで挙げたしたらキリがない。

 しかもどういうわけか、俺がこの学校に呼ばれたのは秋葉によるものらしく、どうやら学校存続のピンチによって理事長から相談を受けた秋葉が、何でも解決するスーパーヒーローとして俺を寄越したとのこと。

 

 もはや何もかもがこっちに事前相談もなく強制的に決定するため、そりゃこの人の印象が悪くなるのも当然だろう。まあ恋の母親の友人としてこの学校のことを考えているのは分けるけどさ……。

 たださっきも言った通り、素直な感謝を伝えてくれるならまだしも、こうやって無理な押し付けの緩和剤みたいなニュアンスで褒めてくるのが余計に腹立たしい。だから敬意を払う必要もねぇな、秋葉と繋がっていることも加味して。

 

 

「でもあなたの手腕は素晴らしいわ。コミュニケーションが難しいとされる思春期の女の子を、誰1人として曇らせずに笑顔にさせられているなんて」

「手腕って、別に何もしてねぇよ。ただみんな平等に接しているだけだ」

「それが凄いことなのよ。普通の教師はそんなことできないわ」

「ガキの頃からやってたみたいだしな、そういうこと」

 

 

 幼少期の一部記憶がないから伝聞情報だけど、どうやら歩夢たち虹ヶ咲の奴らを文字通り命を懸けて助けたこともあるらしい。そのせいで虹ヶ咲チルドレンと呼ばれていたアイツらにベタ惚れされるようになったのだが、記憶がないながらもそういう意識は俺の中でずっと根付いているらしく、どうも女の子に対しては世話を焼いてしまう。お人好しなんて俺の性格に合わないのにな、なんてことをしてくれたんだ過去の俺。

 

 テーブルに置かれている、俺が飲んでいた紅茶の入ったティーカップが空になる。理事長は理事長席から立ち上がると、わざわざティーポットを持ってカップに紅茶を注いでくれた。

 ここまで俺に媚びるってことはまだコキ使いたいのかと疑いそうになるが、年上の綺麗な女性に奉仕させていると思えば支配欲が高まるので、今日は敢えてそのおだてに乗ってやろう。

 

 

「その実力と魅力があれば、ゆくゆくはこの学校があなたのモノになるかもね。女子高が手に入って、その生徒たちはみんな自分のことが好きとなったら、それほどいい話はないでしょう?」

「そういうおだてが浅はかなんだよ、アンタは」

 

 

 淹れられた紅茶を一気に胃に流し込む。

 そしてソファから立ち上がり、理事長室から退出することにした。

 

 

「学校なんて手に入れなくても、女の子を振り向かせることくらい自分でできるよ」

 

 

 下手な魂胆が見え隠れしている奴とは話にならないと考え、理事長室から退出した。そもそも女子高なら1個持ってるしな。

 そして俺がいなくなった後で、理事長はまた微笑む。

 

 

「本当に面白い子ね。文化祭、楽しみにしているわ」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あぁ~上手いこと乗せられてんのかなぁ俺」

 

 

 あのババア、こちらの神経を妙に逆立てする会話の運び方をするから、向こうのいいように事を進められているような気がしてならない。俺が目上に似つかわしくない口調で喋っても微笑むだけだし、それはそれで不気味だ。ああいった余裕を持つことが社会人になるってことなのかねぇ。

 

 それはさておき、校内は既に文化祭一色に染まっていた。文化祭が目前に迫っていることもあってか、最近は授業が午前中で終わり、午後が全て準備時間になっている。そのおかげで教師も午後は楽できるのだが、それはそれで手持ち無沙汰になって暇になる。一応準備中に危ないことをしてないかを確認するために見回りをしているのだが、逆を言えばそれだけ。ま、ウチの生徒に祭り事でハイになって度を越したことをするような制御不能の不良はいないし、特に心配はしてないけどさ。

 

 去年の文化祭は一学年しかいなかった影響かそれほど文化祭の規模は大きくなかったが、今年は新入生の大量入学によって生徒数も増加、学校が使える金も大幅に増えたことにより今年は他の学校に引けを取らないくらいの規模となる予定だ。それは生徒たちの活気の高さを見てもらえば一目瞭然。生徒が増えたことでクラスごとの出し物もバラエティに富んでおり充実している。

 

 そんな和気藹々とした空気の中、外に出て適当に出店ゾーンのあたりを歩いていると――――

 

 

「先生! 当日あそこで焼きそばの屋台やるんで、是非来てください! これ、割引券です! 先生にだけ特別ですよ♪」

 

「せ、先生、あ、あのぉ……私の主演する演劇が1日目の午後にあるので見に来てくれませんか……? こ、これ、特等席のチケットですっ」

 

「先生。クレープの味見をしていただけませんか? クラスみんなの愛情がたっぷり詰まったフルーツ盛り合わせクレープです、ふふっ」

 

「結ヶ丘の歴史年表を作っています。とは言っても新設されてからはまだ1年半程度ですが……。それで先生の功績をここにトップ記事として掲載する予定です。私たちの憧れの先生を、外部の人に知ってもらうチャンスですから」

 

 

 歩いてるだけでやたらめったら話しかけられる。それは別にいいんだけど、割引券をくれたりチケットをくれたり、屋台に出す飯をくれたりと、依怙贔屓と言わんばかりのプレゼントが多い。中には零先生専用(ハートマークいっぱい)と描かれた割引券まであり、もはや来場者向けというより俺向けの出し物になっている気がする。目的を見失ってねぇかアイツら……。

 

 

「これはこれは非常におモテになっていること、ですの」

「な、夏美……。見てたのかよ」

「えぇ。少し歩くたびに女性に話しかけられて、いい御身分ですの」

「知るか」

 

 

 別に悪いことをしてるわけじゃないのに夏美にジト目を向けられる。なに? もしかして怒ってる??

 ただそんな煽りをしてもワガママに言い返されるだけなので、面倒事になる前に話題転換。見てみるとお高そうなカメラをぶら下げていることに気が付いたので、そっちに話を振ってみる。

 

 

「お前そのカメラどうした? 苦学生のお前がそんな高級品買えねぇだろ」

「失礼な! と言いたいところですがその通りですの……。これは学校のモノで、私は文化祭の写真係なんですの。準備期間から皆さんが切磋琢磨しているところの写真を撮って、ゆくゆくはそれをホームページや広告に載せて宣伝したりしますの」

「なるほど、インフルエンサーっぽい仕事をしてるってわけね」

「はい。なのでさっきの先生の逢引現場もバッチリ抑えてありますの」

「いや全員あっちから来たのであって、俺からはしてねぇよ。そもそも逢引じゃねぇし」

 

 

 なんか少し怒ってる? それともネタになると思って写真を撮っただけか? なんにせよ俺が女の子たちと話しているだけで嫉妬を見せるような奴ではなかった気がするが、以前に侑と会ったときに何か言われてたっぽいのでその影響かもしれない。

 

 

「でも先生と一緒にいる人はみんないい笑顔を見せますの。これは先生と文化祭を回ればいい写真をたくさん撮れるってことで……」

「ことで?」

「うぐっ、だから一緒に回ってあげなくもないといいますか……」

 

 

 なぜそこでツンデレ……?

 どうやらいつもの如く素直にはなれないらしい。頬を染めてもじもじしている様子から俺と一緒に文化祭を回りたいと思っているのは確定だろうが、真っ向からそれを言い出せないジレンマを抱えているようだ。ある程度会話の流れの勢い(先日のすごろくとか)があればノリで言えるとは思うが、何の気なしに誘うのはまだハードルが高いのだろう。

 

 仕方がない。

 

 

「空いてる時間また連絡しておくから、そこでなら一緒に回ってやれるぞ」

「!? ほ、本当ですの!? 文化祭を、先生と一緒に……」

「そんな長時間は無理だけどな、他の人とも回るから」

「えっ。あぁ、なるほど。これからは早めに予約する必要がありますの……」

「予約って、ホテルじゃねぇんだから……」

 

 

 ただ予約したもの勝ちってのは実のところその通りだったりする。既に文化祭を一緒に回りたいと言ってきた奴は何人もいて、それだけ数がいるとどうしても先着順になってしまう。それは日常的にもそうであり、休日なども基本は何かしら予定が埋まっていることも多い。そのせいで妹が『家で一緒にいる時間が短い』とキレ暴れそうになったりもしているが、これで予約制と言った意味が分かってもらえるだろう。のんびり生きてるように見えて、意外と忙しいんだよ。

 

 

「逢引の現場、激写」

「だから逢引じゃねぇって! って、四季かよ」

 

 

 気配もなくぬるっと現れた白衣を纏った四季。立ったまま乗れる電動二輪車に加え、両目にはスコープを付けている。見るからに怪しさしかないが、こんな格好で一体何やってんだ……?

 

 

「それ、もしかして科学部の出し物ですの……?」

「うん。この電動二輪も動画撮影機能付き暗視スコープも私の発明品。文化祭では科学部の出し物として、これの体験コーナーを開く予定」

「他の奴らは古き良き出し物なのに、1人だけ最先端行きすぎだろ……」

 

 

 多様性を認めている学校とは言え、部員が1人しかいない部の出し物すら容認しているのはどうなんだ。あの適当な理事長のことだ、ちょっとやそっとのことだったら俺が手伝って解決してくれるとでも思っているのだろう。去年までは金がなくて貧困な文化祭しか開けなかったくせに、学校の名声が上がって金が舞い込んで来たらまさにこのザマ。部員1人の弱小部活にまで部費を与える始末。大丈夫かよここの経営……。

 

 

「というわけで先生、発明品披露会をやるから来て。これ以外にもたくさんあるから先生に実験台……助手として手伝って欲しい」

「誤魔化せてねぇからなさっきの」

「そのあとは一緒に文化祭を回りたい。それだけ」

「そうか。ていうかそっちが本命だろ」

「そ、それは……。じゃあ準備があるから、また」

 

 

 二輪でもの凄いスピードを出して逃げやがった。どいつもこいつも素直じゃないねぇ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 校内に戻って再び見回り。教室出し物組も準備は大詰めと言ったところ。大学祭はどこのサークルにも属していなかった関係上ずっと客側として参加していたので、こういった催し物に運営側で参加するのは高校時代以来だったりする。そういった意味では久々に青春時代の高揚を思い出すよ。そんなことを考えてる時点で歳を取ったと実感してしまうのが辛いけど……。

 

 見回りで廊下を歩いている中、やはりここでも外と同じように――――

 

 

「バルーンアートで等身大先生を作ってみました! お土産にどうぞ!」

 

「講堂でコーラス部とブラスバンド部の合同音楽会を開くんです! 見晴らしのいい2階席を予約しておきましたので、是非観に来てください!」

 

「漫画研究部で『異世界の女子高に転生!? 異種族の女子生徒たちとのハーレムの日々』という、先生をモチーフとした主人公の漫画を販売します! これサンプルです、どうぞ!」

 

「お化け屋敷の男女ペアチケット割券をどうぞ。あっ、でも先生の場合は女の子が多すぎてペアじゃ足りないですよね。だったらペアのところを消して……はい、『男女比1:n(nは任意の自然数)』券ですっ。これで何人連れ込んでも安心ですね」

 

 

 こうやって色んな女の子たちに声をかけられる。外の奴らと比べると二度聞きしてしまいそうな内容の奴らもいるが、一致しているのはみんな俺を見かけたら嬉しそうにして駆け寄ってきて、押し付けるものを押し付けて俺を見送ってくれることだ。傍から見たら普通の教師生徒の関係には見えないだろう。コイツら以外にも色んな子に話しかけられるから、フロア1階を回るだけでもかなり時間がかかる。中には『これ味見してくれ』だの『ステージで着るこの衣装どうですか』など、全力で当日のネタバレをされることもチラホラ。そのせいで別に文化祭実行委員じゃないのに出し物を大体把握してしまっていた。

 

 そんな中でようやく自分のクラスに到着する。教室を見て見ると、どうやらもう中を装飾するだけでほぼ作業完了のようだ。

 

 

「あっ、先生。もうこっちの作業は終わりそうですよ」

「かのんか。そうみたいだな」

 

 

 俺のクラスの出し物はコスプレ喫茶だ。メイド服だったり和服だったり着物だったり、あまり過激ではない衣装で接客をする。文化祭の出し物といえば鉄板だな。

 教室の見た目も喫茶店が実家のかのんのアイデアによりシックな感じで、あまり豪華な飾りつけにはしてない。女の子ばかりだからピンク色で装飾を固める意見もあったが、コスプレ女子がいる店でそんな色を前面に出したらエロい店と勘違いされかねないので却下になった経緯もある。いくら青春色で活気づいているとは言っても、貞操観念だけはしっかりしていて助かったよ。脳内ピンクの相手をするのは疲れるからな、誰とは言わないけど……。

 

 

「そういや人少なくねぇか? サボり?」

「そうなんですよね。どこかでお手伝いでもしてるのかなぁ」

「七草はどうした? 確か昨日もいなかった気がするけど」

「多分どこかの準備に呼ばれてるんですよ。七海ちゃん、普段から色んなところのサポートに行ってるので」

「どうだか」

 

 

 具体的な数を数えなくても少ないのが分かるってのは問題あるな。思い返せば他の教室も人数が少ないところがあったりした気がする。午後の授業を休みにして準備の時間にしているので学校的にはサボり厳禁なのだが、これは文化祭などの学校行事特有の『陰キャのふるい落とし』が発生しているのか。仲間の輪に入れない陰キャが準備期間すらハブられて、文化祭中はトイレの中で過ごすアレだ。

 

 ……いや、だったらこんなにも人はいなくなってねぇか。どこでサボってんだよったく。

 

 ただ明日に控えた文化祭に対してテンションが上がっているためか、この人数であっても教室内は高揚感に満ち溢れていた。そのせいか、俺を見つけたクラスの女の子たちが迫り寄って来る。

 

 

「先生どこ行ってたんですか?? 衣装の最終着付けをするので見て欲しくて、ずっと探してたんですよ!」

「規定ギリギリまで生地を削った違法スレスレメイド衣装とかもありますよ! 見たいですよね? ね?」

「今からでもアドバイスもらおうよ! 先生に可愛いって言ってもらったらそれはもう本物だもん!」

「じゃあ先生と一緒にみんなで着付けしよう!」

「お、おい!」

 

「先生、相変わらず人気者だなぁ。文化祭、一緒に回れるかどうか……う~ん……」

 

 

 みんなに纏わりつかれ、背中を押されて更衣室に連行されそうになる。ナチュラルに男を女子更衣室に誘うあたり倫理観もあったものじゃないが、これって俺の教育不足なのか……? 道徳の授業くらい中学までに終わらせておけよ……。

 

 

「かのん! ちょっとこれ見てくだサイ!」

「可可ちゃん?」

「どうやらウィーン・マルガレーテが『ラブライブ!』に出るために日本にいるらしい――――って、教室全然人がいなくないデスか?」

「あぁ、先生を連行して着付けに行っちゃって……」

「えぇっ!? 何をここでグズグズしているのデス! 可可たちのコスプレも先生に見てもらいまショウ!」

「えっ、ちょっ、私も!? あぁ~もう分かったから引っ張らないで!」

 

 

 女の子たちが各々の想いを抱きながら、遂に文化祭が始まる。

 




 次々と文化祭デートの約束を取り付けて大丈夫かと疑問に思われるかもしれませんが、彼は幾度となくデートブッキングを体験してきているので、そこら辺の計画を立てるのはもう慣れていることでしょう(笑)

 というわけで次回からは、様々な恋色が混じり合う文化祭編の開始です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

恋色渦巻く文化祭(開幕)

 遂に結ヶ丘の文化祭当日となった。

 今年は2学年になったことで生徒数も大幅に増加、学校側も使える金が潤沢になった影響か、去年よりも規模が圧倒的に大きくなっている。またそういった外的要因だけでなく、生徒たちが部活動で一定の成績をマークしたことによって学校自体が一般にも注目されており、それ故に生徒の士気も上がっているという内的要因もあるだろう。かのんたちスクールアイドルを始めとして、他の部活も大健闘したことで今の反響の大きさがあると言っても過言ではない。

 

 そして、今は文化祭1日目の午前中。既に屋台や屋外ステージ、校内イベントといった出し物全てが盛り上がりを見せる中、教師である俺は準備期間と変わらず見回り。陽のオーラが漂う中で黙々と校内警備ってのは寂しい気もするが、実は俺にはやるべきミッションがある。

 

 それは教え子たちと一緒に文化祭を回ることだ。既にスクールアイドル部の奴らからお誘いが来ており、いわゆる文化祭デートを申し込まれた。文化祭でデートと言えば思春期の男女の距離が一気に近づく定番イベント。それをアイツらが意識しているのかは定かではないが、ここまで積極的になるアイツらは珍しいので何かしら心境の変化があったのだろう。

 

 ちなみにデートブッキングではないかと思われるかもしれないが、流石に過去の二の轍は踏まない。みんなが出し物を担当するシフトの時間を考慮し、ブッキングしないようにスケジュールを組んである。恋愛ゲームなら爆弾ルート直行なイベントでも、これまで幾多のデートを制してきた俺からすればこれくらいのブッキングの処理は容易いことだよ。

 

 そんなわけで今一緒にいるのは――――

 

 

「わぁ~っ! これが都会の高校の文化祭っすか!? 華やか過ぎて気絶してしまいそうっす! どこから回りますか先生!? すみれ先輩!?」

「ちょっときな子落ち着きなさい。あまりそわそわしていると田舎者にしか見えなくなるわよ」

「平気っす。なんたって田舎者ですから!」

「なんで誇らし気なのよ。仮にも私の隣を歩くんだったら、もっとエレガントでいなさい」

「エレガントってなんっすか?」

「も~~うっ!!」

 

 

 牛か。

 見て分かる通り、まずきな子とすみれと文化祭を回っている。ただ幸先がいいのか悪いのか、田舎娘のきな子と都会育ちのすみれで微妙にそりが合っていない。はしゃぐ妹を見守る姉という言い方もできるか。

 なんにせよ、女の子1人1人個別に文化祭を回っていてはいくら俺でも身体も時間も足りないので、一緒に回れる人がいればなるべく一緒になるようにしている。本来であれば1人ずつデート感覚で回るのが本人たちの願いで俺もそうしてあげたいのだが、文化祭は2日間しかなく、しかもコイツらのシフトの時間やステージライブの時間などを考慮するとこうするしかなかったんだ。ただそうなることはみんなに確認して同意済みだから、不満がミリもないと言えばウソになるだろうが、この状況は決して修羅場ではないので安心して欲しい。

 

 そんなこんなで屋台ゾーンを練り歩く。親子連れや他高校の生徒、学校見学も兼ねた中学生らしき子などたくさんの人で賑わっている。

 ただ女性しかいないのは何故なんだ……? 女子高だから来場者が女限定って制約はこの学校にはなく、むしろ規模を大きくしていきたいこの学校からしたらそんな制約を付けるわけがない。それでも女性しか見受けられないから、女の子が活躍するアニメでよくある男が世界から断絶されたかのような感覚に陥ってしまう。そういうアニメや漫画だと故意に男子トイレの存在まで消して男を匂わせないようにするからな……。

 

 

「やっぱり都会のお祭りは最高っす! 焼きそばもクレープも何もかもが美味しくて! もぐもぐ……。もうきな子、都会の濃い雰囲気にどっぷり染まり過ぎて田舎に戻れないっす……! もぐもぐ……」

「あぁ~もうっ、食べるか話すかどっちかにしなさい! ったく、顔はいいのにそんな食い意地張ってたら魅力半減よ」

「えぇっ!? 先生はそういう子って嫌いっすか……?」

「まあいいんじゃねぇの。美味しそうにたくさん食うう奴は見ていて気持ちいだろ。それも魅力だ」

「ふふん」

「なに勝ち誇った気でいるのよ。精々太らないように気を付けなさい」

「う゛っ……」

 

 

 きな子の奴、入学してしばらくは都会の街並みを見るだけでもその華やかさに酔ってたけど、今となってはすっかり馴染んでるな。むしろ染まりすぎてこういったお祭りごとになると普段の引っ込み思案がウソのようにはしゃぐこともある。田舎にいて抑圧されていたってわけじゃないだろうが、潜在的に賑やかなのは好きなのだろう。最初は恥ずかしがっていたスクールアイドルだって今やノリノリでやってるしな。

 

 そしてすみれの方は相変わらずの世話焼き役だ。さっぱりして自分にしか興味がないように見えて、実は根っからの友達想いで心配性。言葉はキツイけどその節々に優しさが見れられる。ま、いつものコイツだな。

 

 

「きな子のことを気にしてくれるのは嬉しいっすけど、すみれ先輩ももっと自分が楽しまなきゃ損っすよ」

「そりゃ去年は質素な文化祭だったから楽しみたいけど、どちらかと言えば……」

 

 

 すみれがちらりとこちらを見る。食べ歩きみたいないつでもできるようなことではなく、男女の甘酸っぱい雰囲気をご所望のようだ。別に彼氏彼女の関係のような濃厚な雰囲気までをも求めているわけではないと思うが、俺と文化祭を回れるまで話を漕ぎつけたんだ、それなりの成果は望みたいのだろう。

 

 それにだ、デートってのは男が先導するものだ。俺だってコイツらと距離を縮めたいって本心は同じだからな。

 その気持ちと同様に、何もしなくても女の子たちから注がれる無償の愛を浴び続ける無生産者にはなりたくねぇし……。

 

 

「ほら、次行くぞ。もたもたしてたら屋台を回ってるだけで時間になる」

「あっ、待ちなさいよ。急にその気になっちゃって、どうしたの?」

「お前らと同じ気持ちってことだよ。ほら、お前も何か食いたいものとかあるだろ? 黙って隠してるみたいだったけど、さっきから屋台に目が行きすぎだ」

「う゛っ!? じゃ、じゃあ……」

「チョコバナナ! きな子、あのチョコバナナが食べたいっす!」

「えぇいっ! だからアンタはムードってものを気にしなさい!」

 

 

 最初はそりが合わなそうとか思ってたけど、意外といいコンビなのかもな。まあ半年も一緒にスクールアイドルをやってればそうもなるか。

 

 その後は普通に文化祭を見て回った。男1人に女の子2人、しかも教師と生徒だからデートと言うのかは怪しいけど、その定義は当事者たちが決めることだろう。俺は女の子たちが楽しそうに笑顔でいられる空間に一緒にいられるだけでいい。そうやって仲を深めていけば、コイツらももっと素直になれるかもしれないしな。

 

 1年生のきな子たちもそうだが、すみれたち2年生たちも未だに俺に本心を打ち明けることに慣れていない。慣れるための一番の近道は、単純だけどこうやって一緒にいることだ。文化祭効果を信じてるわけじゃないが、俺だって望んでたんだよ、こういう時を。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「先生! 千砂都! これが可可たちのコスプレ喫茶デス!」

「おぉ~っ! ちょっと如何わしいね!」

「な゛っ!? いきなり失言デスよ千砂都!!」

 

 

 やっぱり女子高でコスプレ喫茶は道徳的にマズかったんじゃねのか……?

 すみれときな子が出し物担当の時間になったので、次の女の子に乗り換えて文化祭回りを再開する。なんか浮気してるすげぇ最低な男のように聞こえるなこれ……。

 

 今回は可可と千砂都と一緒にコスプレ喫茶をしているクラスに来ていた。まあ俺の担当クラスなのだが、実際に女子高生たちがコスプレして接客しているところを見ると、千砂都の言う通りやはり如何わしい何かを感じてしまう。もちろん衣装は露出が多いものはない。世間的に欲情を煽るものも厳禁で、決してスク水やナース服などは存在しないのでそこは教師としても安心だ。見てみたいかと聞かれたらそりゃそうなんだけども。

 

 席に案内されたのでメニューを見てみる。値段はイベント価格なので通常と比べて割高だが、これもJKが接客してくれるサービス料と思えば許せる範疇。実際に客も入って中々に盛況のようだし、わざわざ文化祭というイベントの場に来て細かい値段を気にする客もいないだろう。

 

 そうやってメニューを品定めしていると、コスプレを着たJKが俺たちのテーブルへとやって来た。

 

 

「ご注文はお決まりでしょうか……」

 

「かのん!」

「かのんちゃん!」

 

「うぐっ……」

 

 

 注文を取りに来たのは和服を着たかのんだった。既に開店してからそこそこ時間は経っている上に、そもそも喫茶店の娘で接客の手伝いをしているくせに顔を赤くして恥ずかしがっているようだ。

 

 

「かのんちゃんいつも以上にも増して清楚だねぇ~♪」

「かのん美しいデス! 美し可愛いデスよ!」

「なにその造語!? やっぱり知り合いに見られるとちょっと恥ずかしいよ……」

 

 

 褒め殺し地獄。朱色の和服を着たかのんは持ってるトレーで自分の顔を隠す。そういった反応がからかう側の人間の嗜虐心を刺激するって分かんねぇかなぁ。

 でも褒め殺したいって気持ちは分かる。かのんはどちらかと言えば和服のような落ち着いた服の方が似合うんじゃないかって思うんだ。もちろんスクールアイドルのようなキャピキャピした感じの衣装姿も可愛いとは思うが、それは本人の性格が故の印象ってものがあるからだろう。逆に可可や千砂都といった元気娘の場合はそっちの衣装の方がいいと思っている。

 

 

「ほらほら先生も褒めてあげてくださいよ!」

「そうデスそうデス! かのんは可愛いと言われて伸びるタイプなのデスから!」

「なに目線なのそれ!? せ、先生ぇ……」

「似合ってるよ。俺はシックな感じの服の方が好きだな、お前の場合はだけど」

「そ、そうですか? ありがとうございます……!」

 

 

 コイツの衣装は着付けの際にも見ていなかったので、これが初感想となる。

 顔を隠していたトレーを下げ、小さく笑みを見せるかのん。去年であればこれくらいの誉め言葉でもパニックになるくらい恥ずかしがっていたが、流石に少しは持ちこたえられるようになったらしい。このコスプレ喫茶に決まったこと自体、俺に自分たちを見せつけたい意図があるらしいので、恥ずかしがって俺の前に出られないってことはないんだろうがな。まあ褒め殺しが羞恥心を煽ってるだけだろう。

 

 

「そういやお前、このシフトが終わったら俺と回るんだったよな。どうせならその服で回るか?」

「ええぇえええっ!? 無理無理無理! これでもギリギリ抑え込んでるのに、更に大勢の人の前に出るのなんて無理ですっ!」

「ステージに上がるときはもっと大勢に観られてるだろ」

「それは大勢に観られる必要があるからであって、この服は店内だけって話ですから! そういう覚悟の差ですよ……。それに、せっかく先生と一緒に回れるのに、そんなたくさん注目を浴びるようなことをしたら素直に楽しめないじゃないですか……」

 

 

 なるほど、それだけ俺との時間を大切にしてくれているってことか。さっきのは失言だったな。

 直球ではないにしても、意外と素直に自分の心を曝け出したかのん。やはりコイツも文化祭に誘ってきただけのことはあり、心境にそれなりの変化があったのかもしれない。

 ただここで俺がそれに応え過ぎて彼女やみんなを即受け入れてしまうと、彼女たちは甘えてしまって無条件に俺の告白を受け入れてしまうだろう。そうなったらもう彼女たちは自分を表に出すことをやめてしまい、成長も止まってしまう。だって俺が受け入れてくれるのであればそんなことをする必要はないからだ。そうならないためにも、こうして一緒にいてもっと自分から素直な一面を曝け出すようにしてやらないとな。

 

 そんなことを考えている中で、向かいに座っている可可と千砂都はジト目でこちらを見つめていた。

 

 

「なんだよその目は」

「な~んだか、かのんちゃんにだけ対応違いすぎません?」

「今は可可たちと一緒なんデスよ? 他の女子に色目を使うのはやめてくだサイ」

「いや対応が違うって、お前ら制服だから褒めるところねぇし、教え子が可愛い服着てたら感想を言うのは当然だろ」

「「ふ~ん……」」

「露骨に不満そうにすんなよ……」

 

 

 いやめちゃくちゃ理不尽だからなこの状況。だってこのクラスに行こうって言いだしたのはコイツらだし、かのんのコスプレを褒めようと言ってきたのもコイツらで、先に褒め殺しをしたのもコイツらだ。更に言えば俺にもかのんを褒めろと言ってきたのもこの2人。なのにかのんを褒めたらこの様子って、じゃあどうすれば地雷を回避できたんだよ……。

 

 

「だったらお前らもコスプレすればいいじゃねぇか。俺に見せてみろよ」

「「えっ?」」

「そうだよねぇ~。可可ちゃんは同じクラスだから元々衣装はあるし、ちぃちゃんにも似合うのたくさんあるよ♪」

「かのんちゃん、笑ってるけど笑ってないよ……」

「ん~? 今まで褒め殺しに殺してきた人が、自分だけ逃げるだなんてしないよねぇ~?」

「かのん怖いデス……。ここは喫茶店なのデスから、もっと笑顔で接客を……」

「なに?」

「ひっ!?」

 

 

 やさぐれモード時のツリ目かのんが現れた。

 そんな感じで裏方へと連れ込まれた千砂都と可可。かのんの奴、今まであの2人に散々褒め殺しにされてきたからそろそろ堪忍袋の緒が切れる頃かと思っていたが、意外とここまで長かったな。俺の一言がなければまた泣き寝入りしていたところだろう。

 

 そうやってデート相手も接客店員も失った俺だが、クラスの子たちが気を利かせてくれたおかげで注文することには成功する。

 そして女子高生が入れてくれたコーヒーを飲みながらアイツらの登場を待っていたのだが――――

 

 

「先生! 可可ちゃんとちぃちゃんのお着替えが終わりました!」

「ちょっ、ちょっとかのん押さないでくだサイ!」

「分かった分かった! そんなに押さなくていいから!」

 

 

 ようやく着替えた2人の姿がこの世に出る。

 可可はメイド服。もちろん露出は控えめであるが、カチューシャやフリフリのスカート、ガーターベルトなどメイド衣装の基礎はしっかり抑えてある。可可のような天真爛漫な性格にはピッタリの可愛らしくも愛らしい衣装だ。

 千砂都はチャイナ服。スレンダーな女性御用達のような衣装なので、細身の彼女にとってはこれとない。スリットから綺麗な美脚も見えており、スカートとは違ってチラッと見える程度なのが逆に目を奪ってくる。可可のメイド服共々これは欲情を煽る衣装なのではないかと疑ってしまう。

 

 

「へぇ、いいじゃん。お前ら自分のキャラってものが良く分かってるな」

「それ誉め言葉なんですか……? なんかチャイナ服って身体のラインがガッツリ出ていて、スタイルちんちくりんな私が着ると幼く見える気が……」

「それがいいんじゃねぇか。それにダンスの練習着はいつも薄着で、そっちの方がライン出てるだろ。今更恥ずかしがってどうする」

「なるほど、かのんちゃんの気持ちが分かったよ。普段着は恥ずかしくないのに、媚びるための衣装を着たら恥ずかしくなるこの現象……」

「うんうん、理解してくれて助かったよ」

 

 

 そういうものなのか。俺は見る側専門でそういったコスプレはしたことないから分からないな。

 

 

「つうか千砂都はまだしも、可可が恥ずかしがるのはおかしくねぇか? お前、次のシフトで着る予定だろ。散々着付けもしてただろうし」

「覚悟の差デスよ覚悟の! こうして誰かに見せびらかされるように着るのは流石の可可でも抵抗ありマス!」

「これで分かったでしょ? 覚悟の違いだって」

「はい……。かのんの言う通りデシタ……」

 

 

 可可も反省の色を見せ、これでかのんに対する褒め殺し攻撃はなくなるのかもしれない。でもかのん自身がこの報復に対して愉悦を抱いているようで、愉しそうにしているのがちょっと怖い。味を占めて今後は立場が逆転しなければいいが……。

 

 ただ、千砂都も可可も他の奴らと比べたら羞恥心には強い方。だからその後は普通に慣れ、そのまま接客の手伝いをしていた。俺に対してだけはかのんを含め他のクラスメイトたちも加わって代わる代わる接客してきたせいで、周りからはコスプレJKを侍らせる謎の男と思われていた可能性があるけども……。

 

 

 そんな中、店の中が少しざわつき始める。まさか俺だけ店員に贔屓されてることが噂になっているのではと思ったが、目線がこちらに集中してるわけでもないのでそうではないらしい。

 何があったのかと、同じく疑問に思った可可がクラスメイトに話しかける。

 

 

「どうかしたのデスか?」

「なんかね、海外のスクールアイドルの人が文化祭に来てるって噂だよ。すっごく綺麗な人が外にいたって……」

「海外?」

 

 

 無難に文化祭は進行していたが、どうやら何かが起こりそうだった。

 




 そんなわけで文化祭編がスタートしました!
 複数話に分けて連載予定となる予定で、次回ではようやく『あの子』が来るらしいです。



 そういえば虹ヶ咲のOVA映画の公開、および幻日のヨハネがもうすぐ放送されるようで。ラブライブのコンテンツが未だ衰えることなく、何かしらの映像作品が毎年出されていることに驚きを隠せないと言いますか何と言うか……
世間的には無印時代ほどの熱はもうないですが、コンテンツ的にはまだまだ盛り上がっているため、その勢いがあるからこそこの小説を続けられていたりします(笑) オワコンになったらネタ供給がなくなって、小説も書いてないでしょうし(笑)

 ちなみに蓮ノ空も現在第6話まで読み終えました。意外とストーリーの追加が早く、頑張って追っています……!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

恋色渦巻く文化祭(邂逅)

 文化祭はいつもとは違いストーリー色がかなり強くなります。この小説でたまにある真面目回ってやつです。



※今回登場するあのキャラについて、アニメでは文化祭までにかのんたちと会っていますが、この小説では今回が初対面の設定です。




 海外からスクールアイドルが来ているとの噂が広まっている。しかも背も高くて美人とのことで、俺も俄然その面を拝みたくなっていた。

 それにしても、学校関係者も来場者も女性しかいないのにその目を惹き付けるなんて、女としてどれだけ魅力的なんだよソイツ。俗に言われるイケメン女子なら話は分かるけど、客がそんな夢女子ばかり集まってるわけじゃないし……。

 

 あれこれ考えるよりも実際に見た方が早い。

 そんなわけで、コスプレ喫茶のシフトが終わったかのんと、廊下で合流したメイと共に野外ステージゾーンへ向かう。

 

 すると、そこにはたくさんの人だかりができていた。見回り当番の教師や生徒が何人かいて解散するように伝えているものの、場の熱気のおかげで聞こえていないか完全にスルーされているようだ。

 

 そんな中で、スクールアイドル好きのメイは当然海外からやって来た名も知らぬスクールアイドルを拝みたいが、思うように先に進めなくて苛立っていた。

 

 

「おい向こうに誰がいるんだよ。こんなに人がいたら見えねぇって」

「これだけ人が集まるなんて、凄く人気のある人なんだね。というかメイちゃんって、海外のスクールアイドルにも詳しいの?」

「そりゃもうっ!! 最近の注目はこの子! ウィーン・マルガレーテ! まだ中学3年生なのに地元のオーストラリアの大会では優勝を総なめ、別の国の大会にも参加してそれをも蹂躙! そして今回は遂に日本に来たって噂なんだよ!! あぁ~今どこで何してんだろ?」

「そ、そう……」

 

 

 オタク特有の早口&聞かれてないこともマシンガンのように放つ性格が遺憾なく発揮されている。まあソイツが凄いことだけは良く分かったけど、今はこの騒ぎを何とかしないとな。

 とは言いつつも、俺1人でどうにかできる問題ではない。せめて群衆の注目の的が誰か分かればいいんだけど、この人混みを掻き分けて進むのは辛すぎる。男1人が女性の群衆の中へダイブするのもそれはそれで犯罪臭がするしな……。

 

 

「こんなところで立ち止まっていられるか! かのん先輩、先生、行くぞ!」

「えっ、この中を突っ切るの!? 危ないよ!」

「先輩は見たくないのかよ、海外から来た美人スクールアイドルを」

「そりゃ見たいけど……。先生、どうしますか……?」

「言っても聞くような目してねぇなコイツ……。ま、ここで立ってるだけでは何もならないか、仕方がない」

 

 

 半ばヤケクソ気味だが、待っていても何もならないのは事実なので無理矢理にでも前へ進むことにする。もはや人気バンドの野外フェスかのような人だかり具合で、奥に行くほど傾斜が高く前も見えないのでどこが先頭かも分からずにひたすら突き進むしかない。

 

 

「すみませ~ん、ちょっと通りま~す」

 

 

 かのんは律義に声をかけながら進んでいく。それが当たり前なのだが、逆にメイはやや強引に掻き分けて進んでいるので、もうこの先にいるスクールアイドルにしか興味はないのだろう。

 そんなことを言いつつも俺も黙って進軍しているわけだが、やはり女性しか存在せず、しかも若い子ばかりでこの熱気なので女の子特有の甘い匂いが鼻腔をくすぐりまくる。ここが桃源郷かと言われたら信じてしまいそうなくらいだ。しかも今日は少し蒸し暑いのも影響してか薄着の人が多く、そのせいで人混みを掻き分けるたびに女性の肌や肉が触れ合ってきてこれまた集中力を乱される。いわばプチ酒池肉林となっていた。

 

 そして、先に進んでいたかのんとメイがようやく群衆の先へ到達したようだ。こっちからギリ彼女たちのおしりが見える。

 俺がその後を追う中、2人が人混みを抜けた途端に何故かフリーズしていることに気付く。まだ人混みにいる俺だが、その隙間からだがチラッと2人の目線の先をこちらでも視認することができた。

 

 そこには――――

 

 

「ウィーン、マルガレーテ……?」

 

 

 メイが唖然としながらその名前を呟く。

 人混みが注目していたのはまさしくウィーン・マルガレーテだった。こうして隙間から見ただけでも分かる、長身と圧倒的な美貌美人による魅惑。もはや大人の女性として完成しているかと言わんばかりの風格で、まだ中学生とは思えない。

 

 手にペンと色紙を持っているところを見ると、どうやらサインを書いてファンサービスをしていたようだ。

 そんな中、ウィーンはかのんとメイの存在に気が付いたようで、彼女たちの方を見つめる。どうやらまだ群衆の中にいる俺には気付いていない様子だ。

 

 

「澁谷かのん、米女メイ……?」

 

「えっ、今名前? 私たちの名前呼んだよな?」

「そうみたいだけど……。とりあえず行ってみる?」

「あ、あぁ……」

 

 

 自分たちの名前を呟かれたことに驚きを隠せないかのんとメイは、意を決して彼女に近づいてみる。まるで珍獣を見つけたときのような反応だが、大物スクールアイドルを目の前にしても特に騒ぎ立ててはいない。噂の人物がまさかこの学校に来ており、しかも自分たちを知っているのだとすればそれはもう驚きを通り越して唖然としてしまうのは仕方ないだろう。

 

 とりあえず俺はまだ前へ出ず、ここから様子を見ることにする。

 

 かのんとメイ、そしてウィーンが相対する。鋭く意志のある目付き、澄ましながらも厳粛な雰囲気を漂わせているウィーンに対し、かのんとメイは息を呑んで相手を見つめている。群衆もただならぬ事が起きていると静まり返り、張り詰めた空気が流れている。

 

 その中で、先に口を開いたのはかのんだった。

 

 

「さっき、私たちの名前を言ってました……よね? 知ってるんですか、私たちのこと……」

「えぇ。澁谷かのんに米女メイ、この結ヶ丘女子学院のスクールアイドル『Liella』のメンバー。最近は実力を上げて、大会でも名が上がるようになった新星。同じスクールアイドルをやっている身として注目しないわけないわ」

「先輩! 私たちのこと注目してるって! あのウィーン・マルガレーテが!!」

「う、うん。なんか嬉しいね。驚きが大きすぎてそれしか言えないけど……」

 

 

 有名になったもんだなアイツらも。まあ去年はSunny Passionに負けはしたが一応『ラブライブ!』の準優勝者だしな。その手の界隈で知らない奴は少ないだろう。

 ただ海外の奴にまで知られているとは俺も驚いた。それだけライバルの情報収集に余念がないってことか。

 

 

「同じスクールアイドルとして知ってくれてるなんて、私たちも嬉しいよ! 特にアンタみたいな有名な人に知ってもらえてるなんてなおさら!」

「スクールアイドルとして……ね。まぁ、それもあるけど……」

「ん?」

「別に、なんでもない」

 

 

 なんだかスクールアイドル以上に何かかのんたちを知る理由があるみたいな言い方だったが……。

 話題が1つ終わったところで、そろそろ俺も前に出ようと思う。ウィーン・マルガレーテ、前々からコイツのライブがずっと気になってたんだ。上手くは言えないけど、この俺を引き込むほどの魅力を持っているコイツのことをな。それにずっと人混みの中にいて熱いんだよ。

 

 そんなわけで人前へ出る。

 周りの人たちやかのん、メイはもちろん、当然ウィーンも動きのあるこっちに注目する。

 

 ただ、その中で1人だけ反応が違った。口を小さく開け、目を丸くし、少し後ろに仰け反る。さっきかのんとメイが彼女を見つけたときにしていた表情と全く同じで、今度は彼女がその顔をしている。

 

 女の集団の中から突然男が出てきたからビックリしたのか。それでもその反応は仰々しすぎるとは思うが……。

 

 ウィーンは大きく深呼吸をする。目を瞑って落ち着こうとしているのか。

 暫し時間が経ち、再び目を開ける。さっきまでは動揺の色しか見えていなかった表情だが、今はさっきかのんたちと応対していた時の顔に戻っていた。だが、頬の色はじんわりと紅色に染まっている。

 

 

「もう話してもいいか?」

「はい……」

「神崎零だ。コイツらの顧問をやってる」

「ウィーン・マルガレーテです。よろしくお願いします。零……神崎先生」

「あぁ……」

 

 

 今一瞬名前で呼ぼうとしなかったか??

 どちらかと言えば硬派な子っぽいので砕けた態度で来るのかと思っていたのだが、急に畏まって来たのでいい反応ができなかった。かのんたちの時とは違って今は礼儀正しいし、中学生ながら目上の人に対してはしっかりしているらしい。

 

 ただ、どこかそわそわしているのは確かだ。頑張って冷静沈着に振る舞っているようだけど、あまり目を合わせてくれず、両手の指を絡ませたり離したりと節々に落ち着きのなさがある。それになにより、俺が来る前までは表情を崩さず冷徹さが垣間見える顔だったのに、今は言ってしまえば『オンナの顔』になっていた。頬が緩み、今にも沸騰しそうだ。

 

 向こうから話題を振ってくる気配はない。もしかしたら自分を保つことに精一杯でそんな暇ではない可能性がある。だったらこっちから聞いてみるか。

 

 

「日本に来てるとは噂で聞いてたけど、その理由はやっぱりラブライブに出場するためか?」

「は、はい……」

「日本の大きな大会と言ったらそれだしな。それで、今日はどうしてウチの文化祭に?」

「そ、それは……」

「先生、さっき私たちのことを注目してるって言ってたじゃねぇか。つまり私たちに会いに来たってことだよ。くぅ~~私も有名になったものだなぁ~」

「メイちゃん、またオタク出ちゃってるよ……」

「それは違う、断じて」

「バッサリ行かれた!?」

 

 

 どうやら違ったらしい。

 でも同じスクールアイドルだったら少なからず去年準優勝のコイツらのことを気にしてそうなのに、そうではないのか。俺を前にした途端にそわそわし始めたから、それを隠すための強がりなのかも。それか本当に目的は別にあるのか。

 ただ偶然目の前でお祭りをやってたから立ち寄ってみた、なんてことはないだろう。スクールアイドル界隈で注目されている自分が有名って自覚はあるだろうし、そのスクールアイドルがいる学校の生徒だったら自分のことを知っている可能性も、ファンがいる可能性も高い。そうなれば今みたいに大勢に囲まれるのは必至で、そんな面倒事は普通避けるはずだ。自己顕示欲の塊であれば注目を望んでいるかもしれないが、明らかにコイツはそんな性格ではない。

 

 

「じゃあどうしてここに?」

 

 

 かのんがそう聞くと、ウィーンは俺を上目遣いで見つめる。

 その反応が答えになっているのだろうか。まさか俺が目的ってこと……? でも俺はコイツと初対面で会ったことすらない。実はどこかで会っていたとしても、こんな美少女を忘れるはずがないだろう。唯一あるとすれば俺の記憶が失われていたあの時くらいだけど……流石にないか。あの時は俺すら幼かったから、中学生のコイツはまだ生まれてなかっただろうしな。

 

 ウィーンは頬を紅くするだけで質問に答えない。やがて俺からも、誰からも目を逸らす。よほど知られたくない理由なんだろうか。

 

 

「えぇっと、ウィーン……さん? ゴメンなさい。聞いちゃいけなかったかな……?」

「とりあえず、今は……」

「そ、そっか。ゴメンね」

「うぅん、気にしないで。こっちこそゴメンなさい」

 

 

 かのんは不思議そうな顔をしている。そりゃさっきまでとは彼女の雰囲気が変わり、堂々とした態度から一転して緊張丸出しになってるからな。目も合わせないし、ここに来たのは相当な裏事情がありそうだ。

 

 

「それじゃあ、そろそろ行くから」

「あっ、だったら私もサイン欲しい! 同じスクールアイドルだけど憧れてるんだよ、アンタに!」

「また今度にしてくれる? 今はちょっと……」

「えっ、あ、あぁ……」

 

 

 結局ウィーンは誰とも目を合わさぬままこの場から立ち去ってしまった。

 俺を見つけた瞬間にあらからさまに表情も素振りも変化した理由は不明だけど、やっぱりここに来た理由と俺に何かしら関係があるのだろうか。本人が逃げてしまったので真実は闇の中だ。

 

 

「ていうか、今度っていつ!? 連絡先とか知らねぇんだけど!?」

「そ、そうだね……。でもいつか会えるんじゃない? 同じスクールアイドルなんだから、どこかのライブで」

「そうだといいけど……。そもそも私、全然目を合わせてもらってない気が……」

「あはは……。名前は憶えてもらってるだけいいんじゃないかな……」

 

 

 メイはウィーンにあまり相手にされなかったことに落胆しているようだ。どちらかと言えばアイツ自身の風格が出来上がり過ぎていて、少し近寄りがたい雰囲気があったのでそのせいかもしれない。ただ初対面の有名人に対して下手に関係を詰めることもできないと思うので、一歩距離を置かれて塩対応をされたのも仕方のないことだろう。アイツも謎の緊張で誰かの相手をする余裕もなかっただろうしな。

 

 それにしても、俺を見つめてきたあの熱すぎる視線の意味は――――って、考えても無駄か。何かあるんだったら向こうから話してくれるだろう。

 

 

 

 

 そして、全速力で校舎裏に逃げて来たウィーン・マルガレーテは――――

 

 

 

「逃げてきちゃった……。やっと、会えたのに……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 ウィーンの離脱後、2人と普通に文化祭を見て回った。

 ぶっちゃけすみれときな子と一緒に回った場所も多く俺としては二度目なのだが、流石に別の女の子たちと一緒にいる時にそんなことを言ったら空気をぶち壊しかねない。

 ただ一緒にいる女の子が変われば楽しみ方も変わり、食事中心のすみれときな子コンビ(主にきな子のせいだが)とは違い、かのんとメイはアトラクション系中心だ。射的やヨーヨー釣りと言った縁日モノから、人形作りや楽器体験等々、子供でも大いに楽しめる出し物を全力で楽しんでいた。だからこちらも飽きが来ることはなく、むしろ女の子たちの笑顔がたくさん見られるので俺自身も結構楽しんでいる。

 

 そしてある程度回った後、俺が見回りの仕事の時間になったため解散。今度は生徒会長として俺と同じ仕事がある恋と、文化祭の様子を記録する写真係の夏美と一緒に校内を見回ることになった。

 

 

「えぇっ!? あのウィーン・マルガレーテが来ていたんですの!? それならそうと早く言って欲しかった……!! このカメラでありとあらゆる角度から舐め回すように撮影したというのに……!!」

「そんな隙を見せるような奴じゃなかったけどな」

「あのウィーン・マルガレーテほどの有名人であれば、プライベートで文化祭を楽しんでいる写真は絶対注目されるはずですの。つまり文化祭の写真集が爆売れし、億万長者も夢じゃなかった……!!」

「それもう文化祭じゃなくてアイツの写真集だろ……」

 

 

 相変わらず下心が見え見えっつうか、いつも通り自分から暴露しているスタイルだなコイツ。

 でもさっきも言ったけど、ウィーンは無断で写真を撮られるほど油断するような奴じゃないと、初対面だけどなんとなく分かる。まあ俺と会ってからは自分の緊張を抑え込んで冷静を装うので精一杯っぽかったけど、それまでのアイツのオーラはそれだけのこちらを硬直させるほど(おごそ)かだったんだ。到底盗撮できるような隙はない。

 

 

「それにもし写真集が売れたとしても、売り上げが生徒の手に渡ることはありません。文化祭での収益は来年の文化祭のための資金となります」

「な、なるほどぉー。それは素晴らしいことですのー」

「棒読みじゃねぇか。絶対納得してねぇだろお前」

「だって仕事してるのにお賃金ゼロなんて、ブラック企業でも流石ありえませんの……」

「成長を与えてやってんだよ、学校はな」

「典型的なやりがい搾取……!!」

 

 

 そうそう、俺もその縮図には嫌気が差してたんだ。だから学生時代はイベントをサボったりしてたな。ただ教師の立場としてサボっていいとは言えないので、ここは文字通り自分のことを棚に上げる。そう思うと、やりたくないこともやらなきゃいけなくなる社会人ってヤダねぇ……。

 

 

「それで、そのウィーンさんは何をしに来られたのですか? 文化祭に来たのだから文化祭を楽しむためと言われたらそれはそうなのですが、先生の話を聞く限りではそうではないような気がして」

「さぁな。でも今は言えないっつってたから、いつか話してくれるんじゃねぇか。ま、俺としては面倒事さえ起こさなければ何でもいいよ」

「でも有名人なので、さっきお話しされていたようにまたファンの皆さんに囲まれることもあるかもしれません」

「まぁな。だからと言って文化祭に来るなとは言えねぇだろ。ただ本人も自分の立場を自覚してるだろうから、今度はもう目立つことはしないと思うぞ」

 

 

 緊張を隠したまま逃げちゃったから、今も人の目がないところで落ち着きを取り戻しているに違いない。だからそこからまた変に目立とうとはしないだろう。ま、最初も周りが勝手に盛り上がっていただけで、自分から注目を集めたりはしてなかっただろうけど。アイツの性格や雰囲気を考えれば分かることだ。

 

 

「そういや、どこへ向かってんだっけ?」

「科学室です。四季さんの出し物が自分の発明品の公開なのですが、直前になって『興が乗って魔改造を施してしまったので、展示規則に即しているものかどうか判断して欲しい』と連絡がありまして……」

「聞くところによると、どうやら人の髪の毛1本や粘液1滴があれば、その人が半径300m以内にいるかを探知できる謎装置らしいですの」

「なにそれ怖っ!? しかもストーカー用かと思ったら、300mって意外と範囲狭いな。人捜しにしても使い道あんのかよ……」

「本人曰く『かくれんぼに強くなれる』だそうです。変な使い方も想定できますが、確かめもせずに出店不許可を出すのは少し横暴すぎるので、とりあえずは行って見てみようかと」

 

 

 くだらねぇ。急に行くのが面倒になってきた。大体そういった意味不明な発明品には触れるべからずと、俺は昔から知ってるんだ。あの悪魔のような、いや悪魔そのもの姉に何度そういった発明品の実験台にさせられてきたことか。触らぬ神に祟りなしって言葉を世界で一番よく知ってるのかもな俺。

 

 

「じゃあ、俺はあっちの見回りをしてくるから。爆弾処理は頼んだぞ」

「一緒に行かないのですか?」

「それくらいお前と夏美だけでなんとかなるだろ。それに同時並行で仕事を早く終わらせれば、お前らと一緒に回る時間が取れるからな」

「なるほど! だったら早く出店不許可を出して先生と合流しますの! さぁ先輩早く!」

「えっ、あっ、ちょっと夏美さん!? 不許可って、勝手な独断で決めてはいけませんから!」

 

 

 そんな感じで科学室に入っていた2人。いつも俺の存在が引き金になって騒動が起こるから、アイツらだけだったら危険物を安全に処理できるだろう。

 その間に他の教室の見回りでも済ませておくか。とは言ってもどうせ何も問題ないと思うので、あくまで仕事をしてるって形を作るだけだけどな。

 

 

「あれぇ~? こんなところで奇遇ですね、センセー♪」 

 

 

 その時、突然後ろから陽気な声で話しかけられる。

 この声は――――

 

 

「七草――――」

 

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

 

「全く、四季のマッドサイエンティストっぷりには呆れますの。もはや犯罪者御用達のアイテムですの、アレ」

「でも事前に指摘できて良かったです。あれが世に出回っていたかと思うと――――って、先生はまだいらっしゃらないのですね」

「四季が駄々をこねるせいで時間がかかっていましたのに、まだ見回り終わってないんですの……?」

「そうみたいですね。少し待ちましょうか」

 




 ようやくマルガレーテを登場させることができました!
 アニメではやたらと刺々しかったので、彼女自身のプロの風格を残しながらも、嫌味のないクール系に仕上げてみました。とは言っても彼を見た瞬間にそのクールさは一切なくなってしまいましたが……(笑)

 それにしてもこの男、また自分の知らないところで女の子に好かれてる……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

恋色渦巻く文化祭(失踪)

 相変わらず文化祭編はストーリー主体なので、いつもの日常回を期待してくださる方はもう少しお待ちください!




 さて、この状況をどうしようか。

 ピンクのライトだけが照らされる暗い部屋。その部屋の面積の大半を奪っている大きなベッド。ラブホテルかと言わんばかりの淫猥な雰囲気である。

 

 俺は右手首に手錠をかけられてベッドの背もたれの支柱に繋がれている。そして俺を馬乗りにしている女子生徒、七草七海はしたり顔でこちらを見つめていた。

 少しばかり気絶していたっぽいのでどれくらいの時間が経ったのかは不明だが、どうやら恋と夏美と別れた後すぐに気を失ってしまったらしい。目の前にいるコイツによってだ。後ろから声をかけられたと思ったら、振り向いて相手を視認した瞬間に気絶させられてしまった。まるでシークレットサービス並の早業で、もはや抵抗すらできなかった。

 

 そして、こうして他の誰もいない2人きりの部屋に拘束されているわけだ。

 

 

「質問、3つだけ聞いたげる。正直もう我慢できなくて襲っちゃいそうだけど、無理矢理連れ去っちゃったお詫びはしてあげるよ」

 

 

 親指、人差し指、中指を立てて微笑む七草。自分が圧倒的優位に立っているのでちょっと遊んでも大丈夫と思っているのだろう。

 七草七海。2年生でかのんや可可とは連続で同じクラスで親友。必然的に俺のクラスの生徒でもある。明るい笑顔と活発な性格で人当たりも良い人気者。色々な部活動の助っ人をしては成果を出すので生徒たちだけではなく教師からも信頼が厚い。それでいて勉強もスポーツも万能で、虹ヶ咲の愛と並んで文武両道って言葉が似合う女の子だ。

 

 そして、抜群の美少女。背は低く幼い顔付きだが、出ているところはしっかり出ているいわゆるロリ巨乳。紫がかった赤色の髪のツインテールで、制服は程よく着崩してイマドキ女子をアピールしている。

 

 ただ、去年はこうではなかった。髪も三つ編みで制服もしっかり着こなしており、美少女は美少女だったがそもそもこの学校の生徒のレベル平均が高いため、そこまで大きく目立った存在ではなかったんだ。どちらかと言えばモブよりで、俺もかのんたちスクールアイドルを手助けするサポーターの1人程度の認識だった。

 

 しかし、今年になって彼女は変わった。先程の通り見た目やオシャレにも気を配ったのか、ツインテロリ巨乳美少女という男にモテる要素しかない最強の女の子となったのだ。しかも時折見せる笑顔は蠱惑的で悪戯で、俺を見つめるその視線は熱く、それでいて誘惑されているかのよう。そんな風貌と言動から、オタク界隈で名が通っているいわゆるメスガキっぽさが滲みに滲み出ていた。

 

 

「あれぇ~? もう諦めちゃった感じ? もっと動揺するかと思ってたのに、意外と冷静なんだねセンセー」

 

 

 人を小馬鹿にするような口調でニヤけ顔になる七草。

 動揺するも何も、こんなの動揺するに決まってるだろ。顔には出さないが、ぶっちゃけ何が起こっているのか1ミリも分からない。分からなさ過ぎて何も反応できないだけだ。

 

 とりあえず、変に気を逆立てないように質問してみるか。

 

 

「ここはどこなんだ? 学校?」

「学校の空き教室だよ。とは言っても隠されてるから、普通だと気付かない場所だけどね」

「なるほど、文化祭の準備を放ってここの準備をしてたってわけか。どうりでウチのクラスに全然いなかったわけだ」

「そうだね。私は信頼されてるから、多分みんな他の教室や部活のお手伝いに行ってると勝手に解釈してたんじゃないかな」

 

 

 1年半もかけて信頼を築き上げてきた結果ってことか。かなり回りくどい作戦だが、隠れ空き教室に忍び込み、そしてビッグサイズベッドを設置するなんて大がかりなこと、普通だったら確実バレる。ただ信頼され過ぎているが故に、自分がちょっと準備をサボっても疑われないし、咎められることもないのだろう。

 

 

「あぁ~もう興奮が収まらないや。あと1つね、質問」

「理不尽な理由で1つ減らすなよ……」

「分かってないなぁ~センセー。この場を支配してるのは私なんだよ? むしろ溢れ出る恋心を抑えに抑え込んで譲歩してるくらいなんだから、感謝して欲しいくらい」

 

 

 恋心ってマジかよ。2年生になってから俺を見る目が獲物を捉えんとするメスの目をしていたのでまさかとは思っていたが、ここまで肉食系だとは思ってなかったぞ……。

 七草は目を細めて怪しく微笑む。心待ちにしていたのだろう、この瞬間を。俺を捕捉し、自分の好き勝手にできるこの時を。1年以上も準備をかけて、ずっと。

 

 

「文化祭なんて生温い。本当の文化祭、そう、『裏文化祭』の始まりだよ、センセー♪」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「お~いっ、恋ちゃ~んっ!」

「かのんさん。こっちです」

 

 

 澁谷かのんです。

 自分のクラスに戻って裏方作業をしていたら、急に恋ちゃんに呼ばれたので科学室の前までやって来た。その理由を電話口で聞かされた時は半信半疑だったけど、恋ちゃんの心配そうな顔を実際に見ると事はそう小さいものではないことが分かる。一緒にいる夏美ちゃんも同じ面持ちだった。

 

 

「先生がいなくなったって本当?」

「はい。私と夏美さんが四季さんの発明品のチェックをしている間に、先生が近くの教室の見回りをするはずだったのですが、どうやらいらっしゃらなくなってしまったみたいで。近くの教室の方々も先生の姿は見ていないと……」

「携帯に連絡してみた?」

「何度もしましたの。でも電源を切っているみたいで、全然繋がらないんですの」

「う~ん……」

 

 

 事は先生の行方不明。話を聞いた時は思わず『えっ!?』と大きな声をあげちゃったけど、よく考えてみたら先生が神出鬼没なのは今に始まったことじゃないんだよね。私たちが困っていたり悩んだりしているといつの間にか隣にいるし、逆にこちらから頼み事をしようと思って探そうとすると簡単に見つからない。やるべき時とサボる時の両立が非常に上手い人で、それは学生時代からそうだったみたい。

 

 だから、行方不明とは言ってもどこかで休んでいるんじゃないかと思う。それにたくさんの女の子と別々の時間で文化祭を回る予定を立てているようなので、見回りの仕事も含めたらそりゃ疲れちゃうよねって話。午前中だけでも私たちが連れ回していたのもあってほぼフル稼働だったみたいだし、むしろ余計な詮索はせずに休ませてあげたらいいのかな……?

 

 

「そういえば、このことは他の先生には言ったの?」

「いえ、それはまだです。行方不明とは大袈裟に言いましたが、お疲れになってどこかで休んでいる可能性もありますので」

「それでも私たちに何の連絡もないのはおかしいのですの」

「だよねぇ……」

 

 

 ただ単に誰にも見つかりたくないから? でも何も言わない方が心配されて連絡される気もする。それに今回は後で合流すると自分から恋ちゃんと夏美ちゃんに言ってたみたいだし、唐突にいなくなるのは流石に不自然かも。ちょっといい加減なところもある先生だけど、私たちに迷惑をかけることだけはしない人だと思うから。

 

 

「一応、さっきLiellaのグループチャットの方だけには連絡しておきました。ただ、行方不明が確定事項ではないので事を荒立てぬよう、自分のクラスの仕事をしながら合間合間で何か情報収集をしていただければとお願いしています」

 

 

 グループチャットを見てみると、やはり突然失踪した先生を心配する声ばかりが上がっていた。流石にインパクトが大きかったのか、可可ちゃんとかコスプレ喫茶のシフトを抜け出してまで探しに行こうとしていたみたい。だけど失踪が確定していない以上余計な騒ぎになるといけないので、今シフト中の人たちには来店した生徒や教師など学校関係者たちに先生を見ていないか、それとなく聞き出す役に徹して欲しいと恋ちゃんが頼んでいる。

 

 

「ん?」

「どうしたの夏美ちゃん?」

 

 

 夏美ちゃんが廊下の端に駆け寄ると、しゃがんで床に落ちていたモノを拾い上げる。

 

 

「これは腕時計、ですの」

 

 

 夏美ちゃんが拾ったのはそこそこいい値段がしそうなシルバーの腕時計だった。

 ぱっと見だと今日ここに来た来場客の誰かが落としたものと思うかもしれないけど、私たちにはそれに見覚えがあった。

 

 

「これって先生の、だよね?」

「そうですね。いつも身に着けているのを見ているので、間違いないと思います。ですが何故こんなところに?」

「そもそもの話、手首に巻き付いている腕時計が落ちるなんて考えづらいですの」

「確かに、バンドが緩んでるとかじゃない限り、自分から意図的に外さないと落とさないよね……」

 

 

 ポケットから取り出す時に自然と落ちる、ようなモノではない。ということは先生が故意にこれを落としたってことかな。でもどうしてそんなことを……?

 

 

「貸して」

 

 

「「「ひゃああっっ!?」」」

 

 

 後ろから突然話しかけられて、私たちは奇声を上げるとともに身体が飛び上がりそうになってしまう。

 振り返ってみると、相変わらず表情変化のない四季ちゃんがこちら、というより夏美ちゃんが持っている腕時計を見つめていた。そしてゆっくりとそれに手を伸ばして奪い去る。腕時計の全体を見回しているみたいだけど、一体何をしてるんだろう……。

 

 

「これ、本当に先生の?」

「多分そうですの。この廊下を通って、かつ同じ時計を持っている人なんて確率なんて低いと思いますの」

「そう。だったら分かるかもしれない、先生の居場所」

「「「えっ!?」」」

「これを使う」

「「それは……!?」」

「えっ、なに??」

 

 

 四季ちゃんの自信に驚く私たちだけど、いつの間にか背後に設置されれていた謎の装置を見て納得をする恋ちゃんと夏美ちゃん。つまりこの状況で置いてけぼりなのは私だけで、一体なにをどうしたら先生の居場所が分かるのか全く分からない。

 

 

「えぇっと、説明してもらってもいいかな?」

「この後ろの装置は、人の髪の毛1本や粘液1滴があれば、その人が半径300m以内にいるかを探知できる。つまり普段使いしている腕時計であれば先生の油が付着しているはずだから、それを媒体として探知することが可能」

「なにそれ。ストーカー用……?」

「なので生徒会として出展は見送りにさせていただきました」

「でもここで活躍したら、その功績を讃えて出展させて欲しい」

「それは……考えておきます」

 

 

 先生は見つけたいけど、ストーカー御用達の発明品は世に送り出したくないという恋ちゃんのジレンマを感じる。そもそもどういう原理で人の探索ができるのか分からない装置を作れる四季ちゃんも凄い。なんか秋葉さんに色々学んだことがあるとか言ってたし、変な悪影響を受けてる気がする……。

 

 それはさて置き、先生が身に常に着けているモノであれば、そこに付着している痕跡から居場所を追跡できるらしい。つまりその腕時計ってことだけど、そうなれば話は早い。これで先生がどこかで休んでいるなどで簡単に見つかれば良かった良かっただし、いなければそれを証拠に正式に他の先生たちに捜索を頼むことができる。前者で杞憂に終わってくれればそれでいいけど……。

 

 

「腕時計をこのビーカーの中に入れて――――うん、これでOK」

「でもこれ、半径300m以内にいる場合しか見つけられませんの」

「学校の敷地はそう広くない。それにここは敷地の中心に近いところだし、300mでも十分のはず」

「しかし、まさかこの犯罪の機械が役に立つ時が来るとは思いませんでした」

「モノは使いよう。それに漫画やアニメでも悪と言われているキャラが、ふとした理由で正義に振る舞うダークヒーロー的な立ち位置になることも珍しくない。それと同じ」

「普段は悪って認めちゃうんだ……」

 

 

 ストーカー御用達っていうもあながち間違いじゃないって言うか、本人もその認識だったんだね……。

 そんな感じでビーカーに入れた腕時計が緑色の発光した溶液に浸けられる。壊れちゃいそうで心配になるけど、そんなことを他所に機械の取り付けられているモニターにレーダーのようなものが映し出された。赤い丸が点滅している箇所、ここに先生がいるってこと……?

 

 

「意外と近くにいる」

「じゃあまだ学校内にいるってことですの」

「だとしたら校内のどこかで休んでいる、ってことかな?」

「しかし、この先には出し物をやっている教室はないはずです。休めるところもない気がしますが……」

 

 

 確かにそうだ。文化祭とは言ってももちろん学校全体を好きに行き来できるわけではなく、来場客の立ち入りを禁止している箇所もある。このレーダーっぽいのが差しているのはまさしくその場所で、文化祭の見回りを仕事にしている先生が人のいないところにいるのは考えづらい。でもレーダーを見るとここにいることになってるし、一体どういうことなの……?

 

 

「案内して、そこに」

 

 

 またしても後ろから誰かに話しかけられ、私たちの身体がビクッと跳ねる。

 意志の強い女性の声。どこかで聞いたことがあると思って振り返ってみると――――

 

 

「ウィーン、マルガレーテさん……?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 裏文化祭、と言ったか。R-18系によくある文化祭の裏でヤることを目的とした、誰も来ない廃校舎や空き教室で行われるイベント。七草の奴、ここでおっぱじめる気じゃねぇだろうな……。

 

 とりあえず、あと1つ好きな質問をしていいらしいから時間を少しでも引き延ばすか。本当は後2つなんだけど、既に性欲が滾っているようで焦らされている。俺に馬乗りになっているコイツが体位的にも立場的にも有利であるため、下手に暴れると即挿入みたいな自体になりかねない。それくらいコイツの顔は誘惑と悪戯に染まっていた。

 

 

「せんせぇ~。質問するなら早くぅ~」

「一応言っておくけど、片腕しか封じられてないから抵抗することはできるんだぞ?」

「それで勝てると思ってるんだ、可愛いねセンセー♪ 私、結構強いよ? しゅっ、しゅっ」

 

 

 俺の目の前に拳を突き出してシャドーボクシングをする七草。鼻尖に当たりそうでちょっと怖い。

 どうやら俺に無理矢理抵抗されても抑えつけられるらしい。小柄で女の子のコイツに大人の男性を制圧するのは難しいと思うが、正直本性を垣間見れたことで底が知れなくなっているため油断はできない。

 

 

「それにさぁ、先生は女の子に手出しできないでしょ? 女の子の笑顔を守るのが夢で、どれだけ自分のことを傷つける女の子であっても、自分から傷つけることはないもんね」

「よく知ってるな、そんなこと」

「そりゃ分かるよ、ずっと好きだったもん」

「ずっと? 1年生の頃からか?」

「ずっとはずっとだよ」

 

 

 何やら含みのある言い方。もしかしてずっと前から俺のこと知っている系女子か? 虹ヶ咲の歩夢たちみたいに、俺の知らないところで勝手に俺の存在が知れ渡っている可能性はある。そういう時って大体()()()が絡んでんだよなぁ。もしかしてこの状況もアイツが加担してたりするのか……??

 

 とにかく、服をひん剥かれる前に質問を投げて時間を稼ごう。そうすればアイツらが捜してくれるはずだ。あからさまに手がかりを残しておいたからあまり時間はかからねぇとは思うんだど……。

 

 

「質問。お前の目的はなんだ? 今やろうとしてることみたいに、俺と1つになることか?」

「う~ん、それは結果かなぁ~」

 

 

 唇の下に人差し指をあって考える素振りを見せる七草。その仕草だけを見れば可愛いんだけど、やってることが痴女過ぎて警戒は怠れない。俺を連れ込んだ手際の良さを考えるに、油断をしていたらお互いに裸になって即合体の展開も余裕であり得るからな……。

 

 

「これも好きな先生を手に入れるためだよ。澁谷ちゃんたちがウジウジし過ぎて見てられないから、もう私が貰っちゃおうと思ってね♪」

「そのためにここまで……? でもかのんたちって、お前アイツらのこと応援してなかったか?」

 

 

 コイツはかのんたちが俺のことを好きなのを知っている。だからそのことをからかったりもしていたし、同時に応援もしていたはずだ。この前の新生徒会の顔合わせの時だってかのんたちの恋心を巧みに引き出そうとしていた。

 

 つまり、いつまで経ってもアクションを起こさないかのんたちを見かねたってことか。自分も好きだけど敢えて一歩引いて応援していたのに、親友や後輩たちが中々動かないせいで業を煮やした。いつしかそのストレスが嫉妬に代わって、略奪愛に目覚めた……とか?

 

 完全に俺の想像だけど、それは今から彼女の口から語られるだろう。

 

 

「私の方が先に好きになったのにね。それなのにわざわざサポートに回ってあげて、あれだけお膳立てしたっていうのにまだウジウジ悩んでさ。後輩ちゃんたちならまだしも、澁谷ちゃんたちに至っては1年半も前から背中を押してあげてるのにこのザマだよ」

「それで嫉妬したってことか?」

「まさか、そんなことするわけないじゃん。嫉妬も喧嘩も、同じレベルでしか起こらないんだよ」

「じゃあお前はアイツらより上だってのか?」

「そりゃそうでしょ」

 

 

 悪戯な微笑みを魅せる七草七海。言動から薄々感じていたが、ナチュラルにアイツらのことを見下していたのか。確かにアイツらは恋愛事に関して弱く、奥手で中々自分から一歩を踏み出せない。ただ文化祭デートに誘ってくるくらいには成長してるし、それはコイツが発破をかけたからだと思っている。でもコイツからしたらそれすら生温いのだろう。

 

 

「でもどうしてわざわざかのんたちの後押しをしたんだ? 俺のことが好きなんだったら、最初から俺にだけ狙いを定めればいいだろ」

「しぃ~。質問し過ぎだよ、センセー。もうとっくに3つ超えちゃってる。このまま黙って私を受け入れればいいんだよ。どうせセンセーは抵抗できないしね」

「やろうと思えばできるけどな」

「強がっちゃって。できないでしょ? μ'sの人たちとあんなことがあったり、スクフェスで自分の過去を思い出したり、自分の行動理念が固まった瞬間がたくさんあったもんね♪」

「お前、どうしてそれを……!?」

 

 

 目を細め、にんまりと怪しい笑みを浮かべる七草。

 何故俺の経験を知っているのか。その腹の内はまだまだ底が見えそうになかった。

 




 恋敵が登場ってこの小説で初めてかもしれない。楓の初期時代はそんな感じだったので、それを思い出すかもしれません。ただシリアス展開にはならない予定です。

 それにしても、アニメではただのモブキャラの七草ちゃんをここまで設定を肉付けしてしまって、アニメ3期で何か設定が加えられたらどうしようって思います(笑)

 そして前書きにも書きましたが、文化祭編はストーリー主体なので、いつもの日常回を期待してくださる方はもう少しお待ちください!
 恐らく文化祭編はあと2話で終わる予定です。愛しの先生を狙って先に動いてきた女の子の登場で、急げLiella! ということで、次回もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

恋色渦巻く文化祭(情愛)

 相変わらず文化祭編はストーリー主体なので、いつもの日常回を期待してくださる方はもう少しお待ちください!



「ウィーン、マルガレーテさん……?」

 

 

 澁谷かのんです。

 先生の居場所を掴めそうだと思った矢先、いきなりのウィーン・マルガレーテさんの登場で私たちは目を丸くした。私はさっき一度会ってるからまだしも、この場にいる恋ちゃんも夏美ちゃんも、表情変化が乏しいあの四季ちゃんまで分かりやすく驚いている。

 

 ウィーンさんはこちらに歩み寄って来ると、四季ちゃん開発のストーカー御用達装置からモニターを取り外す。その画面には、先生が落としたであろう腕時計に付着していた油から割り出した本人の所在が赤く光り点滅していた。

 

 

「この光っている場所にあの人がいるの?」

「あの人っていうのは先生のことだよね……? いるにはいるらしいんだけど、その場所には本来教室とか、人が入れる場所はないって恋ちゃんが……」

「…………」

 

 

 黙ってモニターを見つめたままのウィーンさん。顎に指をあて、何やら考え事をしている様子。

 そんな中、夏美ちゃんたちがウィーンさんに聞こえない程度の小さい声で私に話しかけてくる。

 

 

「どういうことですの?? どうしてウィーン・マルガレーテが先生を探しているんですの……!?」

「知らないよ……。でも先生と会った時、なんか様子がおかしかったんだよね。顔赤かったし」

「まさか、先生のことが好き……とか?」

「えっ、先生とウィーンさんって知り合いなのですか?」

「それは違うと思うよ。少なくとも先生は初対面みたいだし……」

 

 

 先生自身がそう言ってたから間違いないはず。でもウィーンさんの方は先生に対して並々ならぬ興味を抱いているような気がする。私たちと話している時や、文化祭の来場者にサインのファンサービスをしていた時は、どちらかと言えば事務対応的な淡々とした感じだった。

 でも先生を前にすると人が変わったかのように恥ずかしがり、取り乱していた。周りには気付かれないよう頑張って抑え込んでいたみたいだけど、隣にいた私には分かる。先生だけには他の人とは違う感情を抱いているんだと。それは今もそうで、普通の部外者であれば先生を探すのに協力的にはならないはずだから。

 

 そんな考察をしていると、ウィーンさんはモニターから目を離してこちらに向き直る。

 

 

「他のLiellaのメンバーを集めて。今すぐに」

「えっ、みんなを? どうして?」

()()()に対抗するために数の暴力が必要なの。あなたたちだけが向かっても簡単に論破されて、無様に敗北するだけよ」

「どういうこと……?」

「いいから早く。早くしないと――――先生が食べられてしまう」

「ええっ!?」

 

 

 私だけではなく恋ちゃんたちも声を上げる。

 言っていることの意味が分からなくて頭が混乱しそう。先生のところに行けば分かるってことかな……? それでもみんなを集める意味も分からないけど、どうやらウィーンさんが何かを掴んだことは確かだし、協力してくれるのであればそれに乗っかった方がいいよね。それに先生に何か起こっているのであれば早く見つけ出してあげたいもん。

 

 

「それでは私から連絡します」

「うん、お願い」

 

 

 ウィーン・マルガレーテさん。なんだかこうして見ると私たちより断然大人って感じがするね……。先生の前でなければ落ち着いてるし、感情も乱すことなく冷静沈着。雰囲気も結構上品でお堅いから、ステージの上だとあれだけ柔らかくしなやかになるのが今の様子からだと全然想像できないな。

 

 そんなわけで、Liellaメンバーをみんな呼んで先生のところへ行くことになった。

 ウィーンさんは急かしてきたけど、一体何が起こってるんだろう……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 七草は知っていると言った。俺とμ'sの関係も、スクフェスで明かされた俺の失くしていた過去のことも。

 俺に馬乗りになっている七草は目を細めて悪戯に微笑むばかり。今までずっと溜めて来たその話題をいつ解放するのか、タイミングを今か今かと待っていたのだろう。そして2人きりになれるこの時を狙った。誰にも聞かれず、そして俺の驚く顔を見られるこの時を。

 

 

「どうして知っているんだ、俺のことをそこまで……」

「えぇ~? もう質問の回数残ってないんだけどなぁ~」

「いいから言え。もはやお前のお遊びに付き合うつもりはない」

「横暴だね。男らしいとも言える。あんなにたくさんの女の子と付き合える秘訣はそれかぁ」

「それも知ってんのか……」

 

 

 俺が二股どころではない、たくさんの女の子と関係を持っていることさえコイツは知っているようだ。そこまで知っているんだったら、もはや俺のことは1から10まで何もかも把握しているのだろう。

 スクフェス前に歩夢たちと初めて会ったときと同じ感覚に陥る。俺の知らない子が俺のことを熟知しているこのちょっとした恐怖。それが珍しくないあたり、俺の人生ってフリー素材になり過ぎだろ……。

 

 とにかく、俺のことを性的に食いたい衝動でこんなことをしたのではなさそうだ。俺のことを知り尽くしたうえで出入口もなさそうなこんな教室を用意するなんて、コイツもかなり本気の様子。最初は適当に付き合って隙を見て立ち去ろうと思っていたが、どうやら根掘り葉掘り聞き出す必要がありそうだな。

 

 

「もしかして逃げ出そうとしてる?」

「いや、お前のことを知りたくなったからもう少しここにいることにするよ」

「センセーがどれだけここにいられるのかは私次第だけどね。ま、あれだけヤリまくってるセンセーならそう簡単に尽き果てないとは思うけど」

「そんなことまで知ってるのかよ……」

「もちろん! 好きな人のことは何でも知りたいからね」

 

 

 人の過去や性事情まで掘り起こすのは明らかなプライバシー侵害だし、もはやストーカーの類だろ……。

 好きというのは恋愛的な意味だろうか。今の状況は明らかに普通の女の子が好きな人に対して取る行動とは思えないので、どちらかと言えば狂って見える。かのんたちよりずっと前から俺のことを好きだったと言ってたので、コイツにもそれなりの事情があるのだろうか。

 

 

「じゃあもう脱がしちゃっていい? 脱がすね」

「まだ俺の質問に答えてもらってないんだけど……」

「言ったでしょ、もう回数は残ってないって。そうだねぇ、私が満足した後でなら答えたげるよ」

 

 

 好きな男を目の前にして性欲が溜まるとか、思春期男子並みの性欲してやがるなコイツ。このままだと誰かが探しに来てくれるまで時間を稼げそうにない。

 それにしてもアイツおっせぇな。気絶させられる最中、意識が朦朧としながらも何とか腕時計を廊下に残してきたのだが、アイツらもしかして鈍いのか……? 四季の発明品を使えば場所くらいすぐ分かると思ったんだけど……。入り口が隠されている教室っぽいし、もしかしたら探してはいるけど教室が見つからないパターンかもしれない。最悪なのは俺がどこかでサボっていると思われていることだけど、流石に連絡なしで急にいなくなっているのでそれはないよな……?

 

 ただ、その心配は杞憂だったようだ。

 ピンク色のネオンが光るこの薄暗い部屋に、突如として自然光が差し込んできた。七草はここで初めて余裕を崩した顔をしてそちらを振り向く。

 

 

「こんなところに教室があっただなんて、驚きデス……」

「何もない壁が実は回転ドアだっただなんて、まるで忍者屋敷ね」

 

 

「可可と、すみれか?」

 

 

「あっ、あそこに先生がいるっす!」

「ていうかこの教室くらっ!? それにこのピンクのライトはなんだよ!?」

 

 

「きな子にメイまで……」

 

 

「えっ、七海ちゃん!?」

「ホントだ、どうしてここに? ていうかどうして先生に馬乗りに……?」

 

 

「かのんに千砂都……ってか、全員いるのか」

 

 

 まさかのLiella大集合。探してくれているとは思ったが、ここまで大所帯で探してくれていたのか。

 ただ、その後ろにもう1人誰かがいることに気が付いた。ソイツはこちらの様子に気が付くと、先に入って来た可可たちを割って俺たちのいるベッドに歩み寄って来る。

 

 

「まさかこんな教室まで作ってその人を襲うなんて、相変わらず手段を選ばず狡猾ね――――七海」

「マル……」

 

 

 マルとはマルガレーテのことだろうか。ウィーンの方も名前呼びだし、もしかしなくてもコイツら知り合いなのか? かのんたちの乱入で驚いていた七草だったが、ウィーンの顔を見た瞬間に顔をしかめたので、もしかしたら仲がそこまで良くない可能性もある。なんにせよ、コイツらに色々説明してもらう必要があるな。

 

 それ以前に、もう何が何だか分からなくなって頭に『?』マークしか浮かんでいないLiellaの奴らに事情を話さないと、この状況を変に誤解されそうで怖いんだけど……。

 

 

「七海さんとウィーンさんはお知り合いだったのですか!?」

「そもそもこのベッドはなんですの!? それにこのピンクのライト……あっ!?」

「淫靡な雰囲気。手錠で繋がれている男性と、それに馬乗りになっている女性。そこから想像できることは1つ。もしかして私たち、お邪魔? このためにサボってた?」

「んなわけねぇだろ。襲われてるだけだっつうの」

 

 

 ほら、こうやって勘違いされる。そりゃ一目見たらラブホテルのような状況にしか見えないのは仕方ないけど、女子高生と性交する理由で仕事をサボるってもう懲戒免職ものだろ……。

 

 

「この子とは幼馴染よ。生まれた時からずっとね」

「だから『この子』って言い方やめてくれない? そっちは中3、こっちは高2なんだけど」

「ええっ!?」

 

 

 みんなの声が上がる。知り合いどころか出生から時からの幼馴染って、もう肉親みたいなものだ。ただ片や日本人で片や海外の血筋。普通では幼馴染になることなんて難しいはずだが……。

 

 

「そもそも日本(こっち)に来てたんだ」

「えぇ、こっちの『ラブライブ!』に参加するためにね。それでその人に会いに結ヶ丘(ここ)へ来たら行方不明って聞いたから、Liellaの人たちに付き添ってここへ来たのよ。一回逃げちゃったお詫びもしたかったし……」

「ウィーンさん凄いんですよ。何もない教室の壁に回転ドアがあることもすぐに見抜いちゃって」

「この子のことだから、簡単に見つかるような場所にこの人を監禁しない思っただけよ。性格、捻じ曲がってるから」

「じゃあ俺の残した腕時計は、四季の発明品に上手く活用できたみたいだな」

「ナイスプレイ、先生」

「つまんな」

 

 

 親指を上げる四季。露骨に嫌な顔をする七草。さっきまでの余裕はどこへやら、部外者が自分の牙城にあっさり侵入してきてストレスがマッハのようだ。コイツの反応を見るに、ウィーンという変数の登場で自分の完璧な計算が崩れたのだろう。ま、計算高いキャラって大体図式が狂って自滅するパターン多いからな。

 

 

「これだけ役者が揃ったんだ、もうお遊びなしで話してくれてもいいんじゃないか? お前、というかお前とウィーンの事情を。お前もそうだけど、ウィーンも俺に対する意識が他の奴とは全然違うだろ?」

 

 

 そう言うとウィーンは頬を染めて俺から目を逸らす。

 それだよそれ。その反応は初対面の相手に対して明らかにおかしい。ウィーンも七草も俺と会う以前から一方的にこっちを知っていたみたいだし、2人が幼馴染なこともあって何かしらの裏事情があるのだろう。

 

 さっき七草にそのことを聞き出そうとしたが一切口を割らなかった。ただ幼馴染の相方が来て更にかのんたちもいるため、もう数の暴力に追い詰められて今度はコイツが逃げることを許されなくなっている。七草も既に諦めムードのようで、溜息を吐いた。

 

 

「センセーのことを知っていたのは生まれた時からずっと聞かされていたから。私たちを助けてくれた人であり、どれだけ素晴らしい男性なのかってことをね」

「助けた。俺が、お前らを?」

「幼い頃に身に覚えのない女の子たちを助けた、と言えば思い出すんじゃない? 一緒の境遇の人たちがいたでしょ?」

「虹ヶ咲……」

 

 

 虹ヶ咲の初期メンバー、つまり歩夢たちもコイツらと同じ境遇だ。

 幼いアイツらが施設にいた頃、そこで火事が起き、同じく小さかった俺が必死になってアイツらを全員助け出した過去がある。その後事故の反動で俺の記憶はごっそり抜け落ちてしまったのだが、まさかコイツらも……。

 

 

「お前らもあの施設の人間だったのか? でもあの時は歩夢たち(アイツら)ですら幼かったのに、より年下のお前らってまだ生まれてないんじゃないのか?」

「お腹の中にいたのよ、私たち。七海の親と私の親はその頃から知り合いで、だから生まれた時から私たちは交流があった。こうして幼馴染の腐れ縁になるくらいには。ちなみに私の親が日本好きで、だからこの国で私を生んだのよ。七海の母親は施設の職員で、私の別荘がある家の隣だったから、母親同士よく施設で子供たちと一緒に遊んでいたっぽいし」

「じゃあ俺が助け出したのはアイツらだけじゃなくて……」

「お腹に私たちを宿した母たちも救ったのよ」

「そして虹ヶ咲の人たちとは別で、私たちはあの秋葉さんに目を付けられて教育されてきたの」

 

 

 またアイツかよ。もう大体アイツのせいって言っておけば全て納得できるな……。

 そもそも件の火事だってアイツが俺の本領を見るために自分で引き起こしたことだし、そこから俺に助けられた(アイツにとっては予定調和)女の子を拾い上げて好き勝手に教育するとかマッチポンプにも程がある。結局誰も不幸になってないから許したことではあるが、アイツに人生を弄ばれてる感があってすげぇ嫌だな。

 

 

「ちょっ、ちょっと待ってくださいっす! きな子、既に何が何やらで……」

「先生と2人は昔からの知り合いだったってことか……? えっ、え??」

「話が全然見えない」

「私たちにも分かるように説明して欲しいんですの!」

 

 

 そういやかのんたちは俺の過去を知ってるけど、コイツらには何も言ってなかったな。ここまで来て蚊帳の外ってのも申し訳ないあら、もうここで話しておくか。

 そんなわけで俺が俺になった所以である話を聞かせてやった。俺自身は既にその時の記憶はないが、秋葉や虹ヶ咲の面々から聞いた話をタネにしてできる限り詳細に伝えた。ただあまりにも妄想が膨らみ過ぎる内容だったためか、1年生はみんな緊張しっぱなしで、その間は一言も言葉を発しなかった。かのんたち2年生も一度聞いた話ではあるのだが、再び当時の悲惨な現場を想像してしまったようで、みんな険しい顔をしていた。

 

 一通り話したことで、話題は再びこの2人のことに戻る。秋葉(アイツ)が絡んでいるとなると、まだ疑問に残っていたことが自然と糸で繋がった。

 

 

虹ヶ咲(アイツら)と同じ、俺のことを徹底的に叩き込まれたか。被害者だなお前らも」

「私たちはそう思ってないよ。むしろ感謝してるし、命をかけて助けてくれた男性を好きになっちゃうのは当然でしょ。ま、あの胡散臭い女に洗脳教育されたせいってのもあるけどね」

「それでもあなたに恋をしているというのは本当。でも恋愛には条件を課されているから、安易にはあなたに告白できないの」

「条件?」

「私はスクールアイドルになって『ラブライブ!』を優勝すること。そして……」

「私は指定した女の子たちとセンセーを結びつけること。あぁ~メンドくさい!」

 

 

 秋葉は保護した女の子たちに俺のことを骨の髄まで叩き込み、俺以外の男性に見向きもしないような恋心を植え付ける教育しているのは知っていた。恋愛くらい好きにさせてあげればいいのにと思ってしまうが、そういえば虹ヶ咲の奴らもスクールアイドルになって有名になることをアイツに命じられていたのを思い出す。恋愛に条件を課しているのはコイツらだけではないみたいだ。

 

 

「でもどうしてそんなミッションが課されるんだよ?」

「あなたのために、その子の長所を伸ばす形で女としての魅力を上げるのが目的らしわ」

「ホントかよ……。でもお前がスクールアイドルなのに、七草は違うんだな」

「そ、それはぁ……」

「この子、リズム感ないから。だからお得意のコミュニケーションを活かそうと条件に変えられたのよ」

「いや私のリズムは独創的で、誰にも読まれない神秘さがあるだけですぅ~!!」

 

 

 なるほど、リズムが取れないせいでダンスができないのか。意外と子供っぽい理由で微笑ましいが、テストの成績もよく運動もできて、部活のお助けヒーローとも呼ばれているコイツにそんな弱点があったなんて意外だな。あの秋葉ですら矯正できない程なので相当なのだろう。

 

 そんな中、Liellaの奴らは何やら疑問に思うところがあるようで、腑に落ちない難しい顔をしていた。

 代表としてかのんが話す。

 

 

「ねぇ、七海ちゃん。七海ちゃんは先生と誰かを結びつけるのが自分の恋愛のためにやるべきこと、なんだよね?」

「うん」

「その誰かってもしかして――――私たちのこと?」

「へぇ、どうしてそう思ったの?」

「だって七海ちゃん、事あるごとに私たちに先生との関係を聞いてくるでしょ? きな子ちゃんたち後輩にまで。最初は普通に応援してくれているのかと思っていたけど……」

「結局は自分のためにやってたんだって、失望した?」

「そ、そんなことはないけど、ようやく理由が分かってホッとしたって言う方が大きいかな。だって七海ちゃん2年生になってから雰囲気変わって、何考えてるのか分からなくなっちゃったし……」

「それは澁谷ちゃんたちがグズグズしてセンセーとの距離を全然詰めないせいでしょ。だからこっちも強引になるしかなかったんだよ」

「そ、それはゴメン……」

 

 

 つまりかのんたちに発破をかけていたのは単にイタズラではなく、自分が恋愛するためのミッションを達成するためだったのか。恋愛くらい普通にさせてやれよとは思うけど、コイツらも秋葉に保護された恩みたいなのがあるのだろうか。それはもうアイツのオモチャにされているだけような気もするな……。

 

 

「でもだったらどうして裏文化祭なんて言って俺をここに連れ込んだんだよ? 条件を達成するために、こんな無理矢理な方法でなくてもいいだろ」

「だって澁谷ちゃんたちってば、進展が遅すぎてただ煽るだけじゃ効果ないんだもん。だったら『他の雌に取られちゃう!!』って危機感を抱いてもらった方がいいと思ってね。現にもうちょっとで処女破られちゃうところだったよ♪」

「しょ、じょ……!?」

「いやなんでそっちが被害者みたいになってんだ」

「明らかに逆レイプ」

「おい四季……」

 

 

 確かにあの時の七草の目はマジっぽかったから、本当に誰もかもを欺いて自分だけ抜け駆けしたのかと思っていた。一応理由はあったみたいで狂った愛を持っていなくて助かったが、また1人の少女の処女を散らしてしまうのかとちょっと焦ったよ。

 

 

「じゃあ性欲云々言っていたのは演技だったのか? コイツらを焦らせるために仕込んだことなんだろ? 準備をサボってこんな部屋やベッドを用意したり、すげぇ回りくどいけど」

「危機感を持たせるためってのは本当だけど、私自身が先生を欲していることも本当だよ」

 

 

 そりゃそうか。コイツの性格上、ただ我慢して見ているだけってのは性に合わないはずだしな。じゃあコイツらが割り込んでこなかったら相当危なかったってことか。間一髪なんて久々に体験した気がする……。

 

 

「だからぁ、のんびりしていると、痺れを切らした私に先生取られちゃうかもね♪」

 

 

 七草はかのんたちの方へ振り返ると、いつもの悪戯っ子の微笑みを向ける。それに対してかのんたちはその勢いに怖気づいたのか息を呑む。普通なら冗談かと思うけど、男をベッドに押し倒して馬乗りにまでしている奴が放つセリフだから相当な説得力がある。この強行策には相方のウィーンも溜息をつくしかなかった。

 

 そんな感じで遂に本性を現した七草七海。かのんたちの恋愛の後押しをしつつも、同じ意中の相手の略奪も狙う二律背反ポジション。コイツらにとって邪魔者なのか良き理解者になるのか、物凄いトリックスターが来たものだな……。

 

 そしてウィーン・マルガレーテ。コイツらと同じスクールアイドルにして、既に俺のことを好きだと公言した。俺を手に入れるために『ラブライブ!』も狙っているので、コイツらにとっては恋とスクールアイドルで二重の意味でライバルとなる。

 

 七草の言葉の言う通り、もう迷っている時間はなさそうだ。

 




 七海からすると、かのんたちは1年以上も前から零君の前でもじもじするばかりなので、早く進展しろよと言いたくなる気持ちは分からなくもない(笑)

 七海もマルガレーテもアニメとは全然違うキャラ設定にしてみました。もはやオリキャラに近くなってますが……(笑)
 オリキャラは読者さんに受け入れてもらえない可能性が高いのでなるべく出さない方針にしているのですが、まだアニメのキャラを使っているだけ許してください!
 普通に小説を進めるとLiella編の1章と同じ展開になってしまい、描いている私が飽きてしまうのでそこはご了承いただけると嬉しいです。
 ただあまりキャラを濃くし過ぎると目立ち過ぎるため、あくまでメインはLiellaを崩さないようにするつもりです。


 次回で長かった文化祭編もラストとなります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

恋色渦巻く文化祭(閉幕)

 七草とウィーンの衝撃告白から幾ばくかの時間が経った。

 俺は手錠を外され無事に薄暗い監禁場所から救出され、しばらくぶりに日差しを拝むことができた。七草も流石にみんなに見られているあの状況で強行策に出ることはできなかったようで、諦めながらも解放してくれたのはありがたかったな。言動は破天荒だけど、自我を保っていて冷静ではあるのでヤンデレの類ではないだろう。もう病んでる奴を相手にするのは勘弁だからなこっちも……。

 

 しかし、今回の件はただ七草が暴走しただけ、という後に笑い話にできるお騒がせ事件って枠には収まっていない。七草とウィーンが俺を手に入れるために奮闘している以上、かのんたちはもう俺の近くにいる女の子というポジションに甘えてはいられないからだ。もちろん本人たちにそんな気持ちはないと思うが、恋のライバルが現れた以上これまでのように恋愛弱者を発症している場合ではない。彼女たちも変わらなければならない時が来たんだ。かのんたち2年生はまだしも、今年入学のきな子たちにしてみればかなり理不尽な要求だけど……。

 

 そんな中で俺に出来ること。ぶっちゃけて言えばただ待っているだけでいいポジションなので何もする必要はないのだが、アイツらもいきなりの急展開に戸惑うしかないと思うので、ある程度はこちらから先導してやった方がいいだろう。元々文化祭に誘われた時からそのつもりだったしな。

 

 そして文化祭2日間の内、自分の仕事がない時は出来る限りLiellaの面々と文化祭を回った。七草に監禁されていた時間は俺の仕事時間だったので、当初計画していたアイツらとの時間を削られることはなかった。

 ただ、俺に対するアプローチが明確な七草やウィーンを見てアイツらも思うところがあったのか、今まで以上に露骨に赤面したり恥ずかしがったりと、俺を明確に意識するような言動が見られた。文化祭の青春効果で今にも告白してきそうなくらい恋する乙女と化していたのだが、当然ながらそこまでには至っていない。それでも今まではそういった甘酸っぱい雰囲気になることすらなかったので、彼女たちの中で関係性を進展したいという気持ちが芽生えたのは確かなようだ。

 

 そんなこんなあって、2日あった文化祭も最後のプログラムを残すのみとなった。

 キャンプファイヤー。女子高のためお付き合いのある男女がダンスをしたり、燃え盛る炎の前で手を繋いで感傷に浸るみたいなことはないものの、文化祭を締めくくる定番のイベントなので、思い出を作るために友達と一緒に来たり、写真でこの光景を残している子は多い。

 

 俺は誰にも見つからない中庭の端に座り、夜のキャンプファイヤーを楽しむ女の子たちを眺めていた。

 ぶっちゃけて言えば、この2日は結構疲れた。監禁されたのもそうだし、これだけ短時間に色んな女の子たちとデートするなんて最近はなかったからな。それでもなんだかんだ楽しかったので文句は一切ない。

 

 

「せんせ~!」

 

 

「ん?」

 

 

 誰にも見つからないよう気配を消していたのだが、あっさりときな子たち1年生に見つかった。

 

 

「先生どうしてこんな隅っこにいるんすか?」

「休んでただけだよ。お前らこそ、キャンプファイヤーはいいのか?」

「さっき近くで見てきたから大丈夫」

「思い出写真もたくさん撮りましたの」

「だから私たちもちょっと休憩。色々考えることありすぎて疲れたんだ」

 

 

 まあ自分が初めて好きになった男が別の女に取られそうってなったら、そりゃ戸惑うわな。

 ちなみに、監禁現場でコイツらに俺の過去を説明したのだが、その後に俺の本性も1から10まで説明しておいた。μ'sやAqours、虹ヶ咲と言った色んな女の子たちと関係を持っていること、2年生たちは既にそれを知っていることも。

 好きな男が実はたくさんの女と繋がっていると知った時に驚いてドン引きされるかと思っていたが、意外にも反応は淡泊だった。ただそれは浮気野郎を受け入れたのではなく、ただ単に混乱しているが故に脳内整理ができていないだけだったのだろう。かのんたちもそうだったしな。

 

 ただ、そんな俺の本性を明かされた後もコイツらは俺と一緒に文化祭を回っていた。俺が最低な人間かどうか見定めているのか、それとももう受け入れたのか、メイが『色々感がることがあるから疲れた』って言っていたのも無理はないな。

 

 

「そういやかのんたちはどうした? 一緒じゃないのか?」

「先輩たちはウィーンさんを見送りに行ってるっす」

「あぁ、もしかして俺も行った方が良かったのか……?」

「いや、あの人うわ言のように『好きって言ってしまった好きって言ってしまった好きって言ってしまった』って言ってたし、むしろ行かなくて良かったんじゃねーか」

 

 

 ウィーン・マルガレーテ。まさか俺に会いに来るためにわざわざこの文化祭に来てたとは思わなかった。最初に会った時には持ち前のクールさを崩さんとばかりに取り乱していたけど、そりゃ俺が目的でここに来たんだったらそうもなるか。

 しかもさっきの監禁現場でしれっと『俺のことが好き』と告白してたので、想いを伝えるのは緊張するものの口に出すのは惜しまないタイプらしい。その点はコイツらと真逆。些細な差に見えるが、告白の一歩を踏み出せるかの意識があるのとないのでは雲泥の差だ。そういった意味では直接好意を伝えてくる七草やウィーンの方が、コイツらよりも圧倒的に恋愛に強く、何歩も先へ進んでいる。

 

 そう考えると、初めての恋愛なのにいきなり障害にぶち当たるって凄い経験だよな。他人事みたいに言ってるけど、これまで色んな女の子と付き合ってきた俺なら多少はみんなの気持ちは分かる。別に七草やウィーンがコイツらの邪魔しようとしているわけではないと思うが、それでもああやって別の女が自分より先に好きな人に告白したとしたら、少なからず焦らざるを得ないだろう。

 

 しばしの間、みんな黙っていた。キャンプファイヤーで燃え盛る炎とそれを楽しんでいる生徒たちを眺めるだけ。

 そんな中、夏美が沈黙を破る。

 

 

「先生は、七草先輩やウィーン・マルガレーテのことはどう思っていますの?」

 

 

 小さい声だ。恐らく躊躇いながらだったのだろう。もしかしたらその質問をするために俺のところにやって来たのかもしれない。

 

 

「どう思っているも何も、好意を伝えられたんだから真剣に向き合うつもりだよ」

「でも監禁されてた。それでも?」

「それでもだよ。むしろそれは監禁したくて我慢できないってことだ。だったら無視なんてできるわけねぇだろ」

 

 

 やり方はどうであれ、強硬手段に出るくらいはアイツも本気ってことだ。それにかのんたちの邪魔をして抜け駆けしようとしているわけではなく、あくまで自分の恋愛に対し真正面から向き合っているだけ。だから俺が跳ね除ける理由は一切なく、むしろその勢いを受け止めてやる覚悟が必要だろう。

 

 ただ、その俺の返答を聞いた1年生たちは暗然とした。

 理由は分かる。

 

 

「そんな顔すんな。俺の本性を知っただろ? 七草やウィーンがいくら積極的だったとしても、お前らには関係ないことだ。俺は来るもの拒まず、全てを受け入れる人間だからさ。だからアイツらがいくら攻めてきたとしても、お前らを蔑ろになんて絶対にしない」

 

 

 落ち込み気味になっていたみんなが顔を上げる。

 多分このままだとアイツらに押され続けると思っていたのだろう。自分たちだけが取り残され、もしかしたら俺が離れていくかもしれないと。

 もちろんそんなことはしない。今までのスクールアイドルのグループだって、同じグループ内に押しの強い子と弱い子が必ずいた。そのどちらとの恋愛も両立してここまでやって来られたんだ、コイツらだけ例外になんてさせるわけがない。それが俺のやり方で、今までと変わらない。

 

 ただ、今回投下された爆弾の威力が高すぎたのは事実。俺も久々に狂気寄りの愛情表現をされたからビビったし、海外からいきなりやって来た初対面の子に好意を寄せられるのも驚いた。だからこそ俺以上にコイツらの方が衝撃的な体験だったのだろう。初恋から数ヶ月にし、とんでもないことをやらかす女たちの登場で臆してしまうのも仕方がない。

 

 

「これからはどうするのかはお前ら自身が選べ。なんて言ったらプレッシャーだよな。選ばなかったら心残りはあるだろうし、これから先も同じスクールアイドル部の顧問生徒として一緒に活動していくわけだから、綺麗さっぱり元の関係とはいかないだろうし」

 

 

 このように、選ぶ方に多大なる負担がかかる。もし自分1人だけ俺を選ばず、他の3人が選んだ場合、自分はこれからみんなとどう接していけばいいのか想像もしたくねぇもんな。そんなことで俺や他のメンバーの対応が変わったりはしないけど、結局は自分の本心との闘いだから、他人が安心させられるものでもないと思っている。

 

 だからと言ってコイツらの行く末を見ているだけってのも味気ない。複数の女性に好かれているこの状況を堪能して、自分は何もせずどっしり構えているだけってのも悠々自適で気持ちいいのだが、流石にそれは俺のプライドが許さない。ただ単に女の子たちから与えられる無償の愛に甘えたくはないからだ。高校時代にその状況に浸り続けた結果、μ'sと()()()()()事態を引き起こしてしまったわけだしな。

 

 

「だからもう少しだけでいい、俺に付き合ってくれ。『ラブライブ!』もそこまで遠くないし、今ここでウジウジ悩んでいたらスクールアイドルの活動に影響が出る。そうなったらマズいだろ? 俺と一緒にみんなで夢を目指して、その過程で少しずつ考えてくれればいいからさ。その間の俺はもう何も隠していない、ありのままの俺だから。そんな俺を見て、今後こんな野郎とどう付き合っていくのかを決めてくれ」

 

 

 今すぐ決める必要はもちろんないし、俺の本性を知ったこれからこそ俺たちの関係が本番みたいなところがある。いくら他の女の子たちが俺の浮気癖を許しているとは言っても、コイツらが同じかと言われたらそうではない。だから判断するための期間を設ける。俺と関係を続けるのか今すぐ決めろというより、そっちの方が行く道を示されているのでコイツらも幾分か思い悩まずに済むだろう。

 

 

「きな子も先生のことをもっと知りたいと思っていたので、その案には賛成っす」

「そうだな。私もまだ頭の中ぐちゃぐちゃですぐ決めるなんて無理だから、ゆっくり見定めさせてもらうか」

「先生のこと、骨の髄まで理解してみせるから覚悟して欲しい」

「ちょっとでも変な色を見せたら、スクープとして取り上げてあげますの」

「えぇっ!? みんなそういう覚悟なんすか!? もっとこう、ロマンティックなラブロマンスみたいなのを想像してたっす……」

「お前だけは染まるなよ……」

 

 

 みんなに笑みが戻り、コミカルな会話が繰り広げられるようになったから気持ちはある程度落ち着いているようだ。まあこれからが本番なわけだが、今から気負っていても仕方がない。とりあえず今は文化祭の終わりを楽しむことだな。

 

 

「あれ! あそこにいるの先生たちじゃない?」

「あっ、先生たちこんなところにいた!」

「やっと見つけたデス……」

「随分と探しましたね……」

「こんな薄暗いところで何やってんのよ」

 

 

 1年生たちの気分を晴らした矢先、今度は2年生たちがやって来た。

 キャンプファイヤーの炎の灯りが薄っすらとあたる中庭の端っこ。むしろよく見つけられたと感心するよ。他の生徒が炎に見惚れる中で暗闇を動く影があれば、それはそれで逆に目立つのかもしれないが……。

 

 

「ちょっと今後の進路相談をな。それより、ウィーンの見送りは終わったのか?」

「はい。『今度はライブ会場で会いましょう』って。去り際の言葉はそれだけでしたけど……」

「相変わらずクールだな」

 

 

 言いたいことだけ簡潔に伝えて立ち去るって、まさにウィーンらしい。今回が初対面で一緒にいた時間もそれほど多くはなかったのに、何故かアイツの性格を丸裸になるくらい理解している。裏がなさそうな氷属性女子は特徴が掴みやすい気がするな。

 

 それになんだかんだアイツ文化祭は両日来ていたので、氷属性ながらも俺に会いに行きたい欲望が見え隠れして可愛い一面がある。そういう健気さの魅力もあるって思うよ。

 

 

「つうか七草はどうした? 今日姿見てねぇけど」

「あぁ~……。七海ちゃん、『なんか興ざめしたから今日は休むね。興だけに今日ってね』って朝に連絡が……」

「つまんねぇ」

 

 

 なんだよそのギャグ、案外余裕じゃねぇか……。

 人を監禁しておいて、それで他の女に邪魔されたから萎えて休むって正気か。俺たちに裏を見せたから、もう体裁を取り繕わず怠惰で休むことも遠慮なしってことか。他の生徒たちには未だに表の優等生の面しか見せてないので、ここで休んだところで何も怪しまれないだろうしな。表向きしかないウィーンとは真反対で、表と裏をよく使い分けている。手強いな、かのんたちにとっても俺にとっても……。

 

 

「先輩たち。昨日からかなりあっさりしてるけど、なんか悩んでる~とか、意外な敵の登場で身構えてる~とかないのかよ?」

「えっ、どうしてデスか?」

「七草先輩とかウィーン・マルガレーテのことですの……」

「別に大して気にしてないわよ、私たち。そりゃいきなり本性を現して監禁するとか、海外から好きな男に会うためにやって来るとか、中々にぶっ飛んだことをしてるとは思うけど」

「先生のことですから、少し変わった女性のお知り合いもいらっしゃることは承知の上です」

「先輩たち、意外と冷静……」

「先生と一緒にいると変なことによく巻き込まれるからねぇ~。耐性が付いちゃったのかも」

 

 

 世界で一番不必要な耐性だな。だけど騒動のタネである俺の周りにいたら必然的にお騒がせ事件に首を突っ込むハメになる。これまで付き合ってきた女の子たちもそうだけど、唯一謝罪するとしたらそういった余計な騒動に巻き込んでしまうことだな……。

 

 それにしても、かのんたちはノーダメージとは行かなかったが、やはりきな子たちと比べると1年も長く俺と一緒にいるからちょっとした騒動には動じないらしい。俺の周りに女の子がたくさんいるなんて元から知ってたし、侑からもそのことを散々聞かされてるだろうからな。

 

 

「流石に七海ちゃんの裏の顔を知った時は驚いちゃったけどね。それに危機感が全くないって言うとそうでもないかな。決めないといけない。でも『ラブライブ!』が控えてるから、まずはそっちを頑張らないとね。先生のことはこれからもっと一緒にいれば自然に分かって来ると思うから、結論は急がなくてもいいって言うのが私たちの本音かな」

 

 

 想像以上に大人になってるなコイツら。確かに七草に対抗心を燃やしても仕方ないし、そもそも2年生たちは俺が特定の女性と付き合ったとて、他の女の子とも関りを絶つような奴じゃないと分かっている。コイツらに俺の本性をカミングアウトしてから8ヶ月程度、出会ってから1年半以上、これだけ長い付き合いだったら俺の性格くらい熟知しているか。

 

 でも意外と余裕そうで良かったよ。今度は2年生のメンタルケアをする予定でいたから、手間が省けて助かった。子供だと思ってた奴らがいつの間にか成長していると、教師目線としても嬉しくなってくるな。

 ――――この発言、超オッサン臭い気が……。

 

 

「きな子ちゃんたちは大丈夫……と思ってたけど、もう悩みはないみたいだね」

「大丈夫っす。もっと自分と一緒にいて、そこから考えればいいって、先生がアドバイスしてくれたっすから」

「へぇ、またアンタ女の子を口説いてたのね」

「女の子が心配そうな顔をしてるとすぐ首を突っ込むんだから、先生は♪」

「でもそういうところが先生らしいですね」

「教師を煽るんじゃねぇよ……」

 

 

 悩みを解消してやったのにその言い草はねぇだろ……。困っている女の子を相手にすると手当たり次第に声をかけちゃうこの性格に問題があるのは知ってるけどさ……。

 ま、みんな思ったより調子が乱れてなくて良かったよ。逆に七草とウィーンの登場は、俺たちの関係を進展させるいい起爆剤になったのかもしれない。

 

 

「よ~しっ! それじゃあみんなでキャンプファイヤーに行きまショウ!」

「そうだね。まだみんなで写真も撮ってないし。先生も行きましょう」

「えっ、俺も?」

「そうですよ! 先生も部の一員なんですから! ほらほら!」

 

 

 なんかみんなのやる気が凄い。俺は手を引かれて、背中を押されて強制的に歩かされる。そんな楽しそうな様子を見ていると、堅苦しく考えなくても、俺との関係をどうするかなんて答えはもう決まっているのかもしれないな。

 

 文化祭最後の夜。キャンプファイヤーの炎が照らす灯りの中、少女たちはまた新しい恋の一歩を踏み出した。

 




 これにて長かった文化祭編は終了です。お疲れ様でした!
 若干最終回っぽい感じがしますが、もちろんまだまだ続きます! ただ以前のLiella編の第一章のように、純愛路線が太くなっていく予定です。Liella編と言えばこういった路線にして行こうかなぁと考えています。

 今回の文化祭で、自分の気持ちに素直になる必要があることを自覚した女性陣。これからは恋愛弱者だった彼女たちが積極的になる様子も少しは見られる……かも?


 とりあえず、次回以降はいつもの日常回に戻る予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

マゾメイドとアニマルLiella

※来週の更新予定について、後書きをご覧ください。


「葉月家専属メイドのサヤです。本日は恋お嬢様のご依頼のもと、皆様の着付けのサポートをさせていただきます。何卒宜しくお願い致します」

 

 

 部室に恋のお付きであるサヤがやって来た。その背後には彼女が作ったであろうコスプレがハンガーラックにかけられている。

 

 彼女が来た事の発端は、今度Liellaが外部案件による依頼で幼稚園に訪問する予定があるからだ。そこの園児たちと遊ぶためのコスプレを作成する必要があるのだが、彼女がそういったことが得意だと恋が教えてくれたので今回呼んだ次第である。以前の文化祭でも可可たちのクラスがコスプレ喫茶をやったのだが、動物コスはなく、新しく作る予算ももうないとのことなのでサヤにお願いしたのが事の経緯だ。

 

 そして、どうやらもう作成済みの様子で、今日はみんなに実際に着てもらいながらサイズを調整していくらしい。

 

 ちなみにみんなとは言ったが、9人全員で幼稚園に押しかけても圧迫感が強いので、行くのは今ここにいる千砂都、可可、きな子の3人だけだ。これまた見事に人懐っこくて性格も柔らかいメンツが揃っている。確かに俺もLiellaの中から園児と遊ばせるならコイツらを選ぶかもな。人あたりも良くて見た目も幼いから、園児たちから見ても威圧感はないだろう。まあ反応もリアクションが大きくて子供っぽい……いや、ウケが良さそうだしな。

 

 そんなことを考えていると、例の3人からジト目で睨まれる。

 

 

「むっ、先生、なんか私たちを子供みたいって馬鹿にしてる……?」

「してマスしてマス。明らかに可可たちを子供だと思ってマスよ」

「先生すぐ顔に出るから分かりやすいっす……」

「他の奴らの総意で選ばれたメンバーなんだ、そりゃそう思うだろ……」

 

 

 メンバーの選定に関しては一応みんなで話し合って決めたらしいのだが、その時に物議を醸し出したりしなかったのだろうか。園児と触れ合うわけだから、棘の強いすみれや強面のメイ、無表情の四季など論外な奴らを外していき、子供に寄り添える奴らを選んだらコイツらになるのは必然だろうけど。そこは『自分は子供ウケがいい』って喜ぶべきことなんだけどな……。

 

 そうやって千砂都たちは口を尖らせながら、例のコスプレに着替えるため隣の部屋へ向かった。

 

 

「つうか高校生だってまだガキなんだから子供だろ……」

「神崎先生、子供だからって侮ってはいけません。特に思春期時期に得た学びは定着が早く、すぐ大人へと成長してしまうものです」

「そう言うものか」

「はい。かく言う私も、高校時代に主に躾けられるメイドのAVを観てからというもの、大人の階段を全速力で駆け上がってしまいました」

「今すぐ階段から降りてこい……」

 

 

 葉月家専属メイドであるサヤの最大の欠点。それは密かにドギツいマゾ思考を保有していることだ。

 この事実は他言しておらず、主である恋すらも知らない。俺が知るきっかけになったのは、恋が誑かされていると勘違いしたコイツに監禁された時。あの時はコイツがいつか恋に躾けてもらおうと思って持っていたSM器具で俺を拷問しようとしていた。紆余曲折あってその場は何とか助かったのだが、可愛い教え子のメイドがこんなドMだなんて知りたくもない事実を知ってしまった、あの時の俺の気持ちはテストの文章問題に出ても誰も解けまい。

 

 てか俺、コイツといい七草といい、女性に監禁され過ぎじゃね……?

 

 

「でも子供ウケが良いってのは長所だと思うけどな。あの3人、裏もなくて純粋で性格もいい。幼い子って意外と人の純粋なところに惹かれるところがあるから、園児に人気があるならソイツの人格は本物ってことだ」

「ぐふっ!!」

「えっ、急にダメージ受けてどうした……?」

 

 

 サヤは両手と両膝をついて項垂れる。

 見た目は品行方正でお手本のようなメイドのくせに、歪曲した趣味趣向の持ち主のせいで行動の何もかもが読めない。ぶっちゃけあまり関わりたくない人種なのだが、残念なことにコイツのこんな性格を知っているのは俺だけで、コイツもようやく誰かにカミングアウトできて気が軽くなったのか、俺の前だけは自分を隠さなくなった。だから俺が相手をしなきゃならない雰囲気になってんだよな……。

 

 

「私には裏の性癖がありますし、マゾ属性がある時点で純粋ではなく、この通り性的な性格も捻じ曲がっています。つまり子供ウケする要素ゼロ。メイドとは老若男女、大人子供問わずご奉仕する清楚な存在。そんな私が受け入れてもらえない日がいつか来ると思うと……。うぐぅ……!!」

「だったら治せ、その歪んだ性癖」

「でもお嬢様に受け入れてもらえず、むしろ罵られるのであればそれはそれで一興かも……」

「アイツをどんなキャラにしたいんだよ……」

 

 

 警戒心を煽るためにお前のメイドはこんな奴なんだぞって暴露したくなる気持ちもあるし、逆にこんな危険思想の持ち主だとバラして心配させたくない気持ちもある。どんな経緯で葉月家に拾われたのかは知らないが、没落しそうになっても恋の側を離れなかったところを見るにかなりの恩義と愛情がある様子。それなのに本人の本性はコレって、もう真っ当な忠誠心でお付きをしているのか、それとも己の欲望に従っているだけなのかどっちか分かんねぇな……。

 

 そんなことをしている間に千砂都たちの着替えが終わったようで、隣の部屋から3人ができた。

 さっきまで床に塞ぎ込んでいたサヤは、ドアの音が聞こえたのと同時に一切の音もたてずに立ち上がる。そして両手を下腹部に当て、如何にも着替えを待っていたメイドのような佇まいになった。この切り替えの早さ、手慣れてるな。恐らく普段から恋に見つからないよう自分の趣味にコソコソ明け暮れており、いざ見つかりそうになった場合の動きとして練習でもしていたのだろう。

 

 

「先生どうですかこれ? このウサ耳可愛くないですか?」

「きな子は猫っすけど、そんな大人しそうに見えるんすかね……?」

「可可はワンちゃんデス! 耳も手も本物みたいに気持ち良くて、サヤさんの技術に惚れ惚れしちゃいマス!」

「お褒めの言葉、光栄です」

 

 

 千砂都がウサギのコスプレだ。地毛が白のためか白系ウサギのコスは非常に似合っており、元気のよい活発さに連動して長いウサ耳がピコピコ動く仕組みになっているようだ。

 きな子は猫だが、のんびり屋で大人しいコイツにはピッタリだろう。ご丁寧に猫の手を模したグローブには本物さながらの肉球が付いており、まさに猫さながらになれるコスみたいだ。

 可可は犬の格好をしている。人懐っこくコミュニケーションを取る彼女の性格は、尻尾を振り回しながら擦り寄って来る犬そのもの。その純粋さも飼い主の言うことを聞く犬の健気さっぽいしな。

 

 素人目からもよくできている。やはり良家に仕えるメイドともなるとこの程度の衣装の創作は朝飯前なのだろうか。

 ちなみにコスプレは全身が動物の毛皮に覆われているというわけではなく、あくまで耳や手、下半身や足など基本的な部分のみカチューシャやグローブ、スカートやブーツなどを装着するだけとなっている。そのせいで『人間の女の子』+『動物』、つまりケモナーの側面が強い。コスプレは動物なのにスカートだし、胸は人間のままだから乳房が膨らんでいるのが分かるなど、普通にオタク受けしそうな気がする。これもサヤの趣味なのか……?

 

 

「いいじゃん。似合ってるよ」

「私もとっても可愛いと思ってます! 抱き着きたくなりますよね??」

「それはまぁ……柔らかそうではあるな」

「そ、それはきな子たちを抱きしめてくれるということっすか……!?」

「えっ、なんでそうなる!?」

 

 

 みんなの目が光る。文化祭デート以降、みんながそれなりに積極性を見せるようになってきた気がする。あの時にお互いの距離が縮まって、羞恥心もある程度解消されたのだろう。それに七草とウィーンと言った恋のライバル登場で、今まで見たいに恥ずかしがってばかりではダメだと自覚したのかもしれない。いい傾向だけど、みんなが一斉に積極的になられると流石の俺でも相手に困る。嬉しい悲鳴だけどな。

 

 

「今日は着付けメインだから。もう下校時刻も迫ってるし、部外者もいるしでそんなことをしてる暇はねぇだろ? したくないとは言ってないけど……」

「だったらだったら! もし幼稚園でのイベントが成功したら抱きしめてくだサイ!」

「えっ、私も私も! 頑張った結果としてであればいいですよね?」

「き、きな子もお願いしたいっす!」

「ちょっ、ったく……分かったよ」

「「「やった!」」」

 

 

 ご褒美に対して笑顔で喜べるその様子に幼気を感じる。この健気さ、やっぱり幼稚園に出向かせるんだったらコイツらだな。

 あまりの押しの強さに承諾してしまったが、イベントが成功するも何も、園児たちと遊んだり歌ったり、劇の手伝いをするだけだから簡単なミッションなんだよな。だから失敗するはずがないんだけど、本人たちが俺の抱擁で頑張れるのならそれでいいか。単純に考えて、ご褒美と言えども男性教師が女子生徒に抱き着いてやるなんて普通は懲戒免職ものだけど……。今多いからな、男性教師の不祥事。

 

 

「なるほど、そうやってアメを与えて女子生徒を我が物にしているのですね」

「失礼なこと言うな。信頼で勝ち取った結果だ」

「しかし、お嬢様まで男性の手に染まるのはメイドとして複雑です。ここまで手塩に掛けて育ててきたお嬢様が……」

「そのお嬢様に調教してもらいたいって妄想してるくせによく言うよ。どっちが穢してんだか」

「いやでも待ってください。ノンケとなったお嬢様がレズ気質の私に対して裏切り調教をし、脳が破壊される寝取られ展開もあり……ですかね?」

「ねぇよ。てか聞くな」

 

 

 マゾ気質だけではなく寝取られ展開も許容してるとか、人間として絶対に関わっちゃいけねぇ奴だろコイツ……。

 長年あらゆる性癖を持つ女の子たちを相手にしてきた俺だからコミュニケーションできているが、真っ当に生きて来た奴の場合はコイツと話をするだけでもハードルが高いだろう。まあ超えなくてもいいハードルなんだけどさ……。

 

 それにしても、とんでもねぇ奴に目を付けられたもんだな俺も。恋がスクールアイドル加入する前のいざこざの時は至って普通で、まるで保護者かのような優しいメイドだったのに、今となってはこれだからな。

 さっきも自分が男性の手垢が付いたお嬢は受け入れられないと自覚しようとしたが、後に寝取られ展開でもOKと認識をアップデートするなど、思考回路がどんどんマゾ脳に支配されていく。もしかしてこれ、コイツの本性を知ってる俺が抑制してやらないといけないのか……? それは勘弁してくれ……。

 

 

「う~ん……」

「どうした?」

「なんかおしりの方に穴が開いているような気がして、さっきからスースーするんですよね」

「きな子も同じこと思ってたっす。もしかして、きな子たちのおしりが大きすぎて破れちゃったとか!?」

「ええっ!? 可可、最近はずっと甘いモノ抑えて減量してるので大丈夫のはずデス! 多分……」

 

 

 確かにどの衣装の臀部にちょっと穴が開いている。見せパンなので穴があっても最悪問題ないのだが、どうもこの穴、破れたような跡がない。まるで最初から穴を開ける前提で作られたかのようだ。

 おしりに穴。そしてこのコスプレを作ったのはサヤ。まさか――――!!

 

 

「お前……」

「その顔、何か勘違いされている様子ですね。その穴は()()を装着するためのものですよ」

 

 

 サヤが取り出したのはケツにぶっ刺すアナルバイブ――――ではなく、動物の尻尾だった。ウサギ、猫、犬と3人の衣装の合わせた尻尾であり、これまた本物と言わんばかりの出来である。

 

 

「これを臀部に刺せば完璧です」

「あのぉ~。尻尾の付け根の部分にボールが付いているみたいですけど、一体それはなんすか……?」

「えっ、それって……!!」

「これですか。これはおしりに刺した瞬間に膨らんで、穴から抜けないようにするための装飾です」

「おい、ちょっと来い!」

「?」

 

 

 サヤの手首を掴んで部室の端まで引っ張る。ただの尻尾の人形だと思っていたのだが、あのボールの形状と仕組みはまさしく――――

 

 

「あれSM器具だろ!? 直接ケツの穴に挿いれるタイプのあの!!」

「そうですね。余っているアナルプラグを改造して造りました。自信作です」

「胸を張るな……。つうか余ってるって、持て余すほど持ってることにドン引きだよ……」

「ちなみに皆様の衣装もSM用のコスプレを改造したものです。つまりあの穴は私が故意に開けたのではなく、最初から開いていたのです」

「いや自分の責任じゃないみたいな言い方すんなよ……」

「不要になったモノを有効利用しているだけですよ」

「それを女子高生に着させてんのは道徳的にどうなんだ……」

 

 

 もはや悪気や躊躇なんて一切感じてないのが逆に清々しい。確かに見た目は可愛らしいコスプレだが、実はSM衣装を元にしてましたなんて明かされたらもうそういった目でしか見られなくなってくる。純粋無垢な可可たちに着させる衣装として、そして園児たちと触れ合うコスプレとしてこれほど似合わない元生地はねぇな……。

 

 

「大丈夫ですよ。直接臀部の穴に突っ込むわけではないですから。あくまで衣装の穴に挿れるだけです。流石に思春期の麗しき乙女の穴にアナルプラグは可哀想ですから。そういった拷問は私が引き受けます」

「引き受けるって、なに被害者ぶってんだよ。悦んでやるだろお前の場合」

「よくご存じで。女のメスの部分を見抜く才能があるようですね。女性調教が得意な立派なご主人様になれますよ」

「そんな鬼畜な主になるつもりねぇよ……」

 

 

 久々に会話に疲れるパターンのやつだこれ。何にツッコミを入れても自分の世界に取り込んで、自分の都合のいいように解釈されてしまう。これだから偏屈趣味の持ち主は……。

 とりあえず会話を切り上げて可可たちのところに戻る。不思議そうな顔をされてたし、それにいつまでもコイツと2人きりで話してるとこっちのツッコミが追い付かなくなって疲れるから……。

 

 

「えぇっと、その尻尾を差し込めばいいんでしたっけ? 座ったりするとボールが邪魔になりそうですけど……」

「大丈夫。短パンのウエストに引っ掛ける形に変えるから。ケツの穴は塞いでおくよ、コイツがな」

「な゛っ!? それは寝耳に水ですっ!! 私の芸術作品になんてこと――――!!」

「よかった。それなら安心っす!」

「いくら見せパンを履いているとは言え、穴が開いてると気になってしまいマスから……」

「反論させてくれない雰囲気に……!!」

 

 

 そりゃ1vs4ならこうなるだろ。教師として教え子に変な格好をさせるわけにはいかねぇからな。

 それにしてもSM衣装の改造を芸術って……。確かに見た目だけでは普通のアニマルコスに見えるので、改造の技術点だけは高いかもしれない。でもアナルプラグの穴を塞がず活用している時点で自分の性格が表に出てしまっているので、そこだけでマイナス無限点だ。秋葉といい理事長といい、この学校関係者の大人はまともな奴いねぇな……。

 

 

「私の作品、やはりお気に召しませんでしたか……。愛情を込めて1つ1つ丁寧に作成させていただいたのですが……」

「愛情、入ってんのか……?」

 

 

 今度は床に突っ伏したりはしないものの、分かりやすく落ち込んでいるサヤ。さっきの醜態を見るに愛情なんてなく、むしろ自分の欲望だけを詰めんだハッピーセットになっているのは誰の目にも明らかだ。

 

 だけど――――

 

 

「ちょっと変なところはありマシタけど、可可このワンちゃんのコスプレ大好きデス!」

「きな子も可愛いと思うっす!」

「子供たちにも楽しんでもらえそうだよね! 何に落ち込んでいるのか分からないですけど、サヤさんには感謝してますよ!」

「皆様……。うぅ、優しすぎる!!」

 

 

 いい子だなコイツら。ここで実はその衣装はSM用だと暴露したらどんな反応をするのか気になるが、コイツらの純粋さに免じて我慢しておこう。

 そしてその純真さはサヤの穢れも多少浄化できたようで、今まで感じていなかった罪悪感も生まれたようだし、それすらもコイツらによって自然と赦されたようだ。ま、これに懲りたら偏屈趣味は自分1人だけで楽しむことだな。そういうのは人に押し付けるものじゃない。

 

 これでサヤも少しはまともに――――

 

 

「いや、こうやって優しくされるということは、痛めつけられることが好きな私にとっては拷問。拷問、つまり痛み、それは快楽。私にとって、優しくされることは痛みと同じなのでは……?? 先生、閃いたかもしれません!」

「私って天才みたいな顔すんな!!」

 

 

 せっかくいい雰囲気で終わりそうだったのに、何言ってくれちゃってんのコイツ!?

 やっぱりマゾ属性は隔離するに限るな……。

 

 

 そんなこんなで一応着付けは無事に終わり、ついでに幼稚園でのイベントも成功に終わった。

 これに味を占めて、アイツがまた暴走しないことを祈るばかりだよ。

 




 Liella編の第二章も今回から後半戦です。アニメだったら後期のオープニングに変わるってやつですね!

 そして今回からまた日常回に戻って来たのですが、キャラを捻じ曲げてしまったサヤさん暴走回でした。アニメキャラではありますが、これ3期でいい感じにキャラ付けされた状態で登場したらどうしようってビビってます(笑)


 来週の更新ですが、引っ越し作業のためお休みになる可能性があります。空き時間で可能な限り書こうとは思っていますが、もし更新されなかった場合はお察しください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

かんざきれいくんのぼうけん

「なにが起こってんだよ今度は……」

 

 

 起きたら自分の身体が子供になっていた。

 意味が分からないどころの話ではないが、見たところ小学校低学年、下手をしたら幼児に見える背丈になっている。寝ている間に背が縮んだせいか部屋着はダボダボであり、このまま立ち上がるとそのまま脱げてしまいそうなくらいだ。ベッドも自分の部屋も一回り大きく見えているのが自分が小さくなったことをより強く実感する。

 

 こんな状況に陥っている原因は間違いなく秋葉(アイツ)だろう。実際に携帯を見ると奴からのメッセージが届いている。内容を見る前からアイツの笑顔が思い浮かんで神経が逆なでさせられるが、このままの姿でいるわけにもいかないので仕方なく見ることにする。

 

 

『幼児化のクスリの実験台になってもらっちゃった! ゴメンね♪』

 

 

 ノリが軽すぎる……。

 人の身体を容易に伸び縮みできる薬物とか、もはや完全犯罪も余裕の代物を軽々しく使い過ぎだ。つうか試すのなら適当なモルモットで試しておけばいいのに、まず俺に投与してモノホンの人間で効果を確かめる時点でマッドサイエンティスト感が半端ない。

 

 ただこれまで幾度となく身体変化の実験に付き合わされてきたけど、こういうのは久々な気がするな。アイツの薬は大体が時限式のため、このまま自室に引き籠っていれば1日で効果が切れるはず。そういうところにまだ温情があるのだろうか。

 

 そんなことを考えていると、メッセージに続きがあることに気が付く。

 

 

『今回は時間制限で効果が切れないし、いつも通り誰かにバレたら元に戻らない効果もあるから、そこのところ頑張って♪』

 

 

 はぁああああああああああ!?

 温情とか、ちょっとでもアイツを信頼した俺が馬鹿だったよ。いやそもそも人に無許可で怪しい薬を投与する時点で温情もクソもなかったな……。

 

 時間経過で解決しないってなると、じゃあどうすりゃいいんだよ。まさか自分が帰ってくるまで待ってろとか言い出さねぇよな? アイツ基本は家にいねぇから、もしかしてこのまま数日待たされるとか……? いや明日普通に仕事だぞ!? この姿で教卓に上がるのか!? いやバレたら元に戻れなくなるから、そもそも学校に行く選択肢もねぇのか……。

 

 取り乱す中、メッセージに更に続きがあることに気が付いた。

 

 

『解毒剤は、金色のお花の(つぼみ)から貰ってね♪』

 

 

 なんだよこれ謎解き?? どうしてガキにされた挙句にこんな茶番に付き合わないといけないのか。でも付き合わないと元の姿に戻れそうにもないので、ここは仕方ないが従うしかない。なんかいつもこうやって逃げ場をなくされて、アイツの都合のいいように誘導されている気がする。

 

 代わりに楓に外へ出てもらう選択肢もあるのだが、残念ながら今日は不在。自分で何とかするしかないか……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 とりあえず家にいてもやることがないので外に出た。

 服はガキの頃に着ていたものが今でも残されていたので、タンスの奥から引っ張ってきて軽く洗濯してから着てみたら見事にピッタリ。20年以上前の子供の頃の服なんて捨ててしまおうと思っていたのだが、神崎家の女性陣たちの猛反発により永久保存することになった。どうやら思い出のためらしいのだが、ブラコンや子煩悩を拗らせすぎだろ……。

 

 そんなわけで花がたくさん咲いている公園に来てみた。謎の意味は分からないが、『蕾』と書いてあったのでとりあえず花を頼りにしてみた次第だ。

 とは言いつつも、ぶっちゃけ金色の花なんて品種改良をするか、製造しなければ存在しない。名前に『金』がつく花はあるが色は黄色よりだし、そもそもそんな花がそこらの公園に咲いているわけがない。これもしかして大きな庭園とか行かないといけない感じ? 流石にそれは面倒だからやめてくれ……。

 

 それにせっかくの休日に何やってんだ感が強く、若干ナーバスになる。こんな暗い雰囲気の園児がいたら、誰かに話しかけられて――――

 

 

「あなた、何してるの?」

「えっ……?」

 

 

 公園の花壇の前で座り込んでいると、後ろから幼い女の子の声で話しかけられた。振り返ると、赤いカチューシャに金髪ショートカットの少女。見た目的に小学生くらいだ、どこかで見たことのある既視感があるのは気のせいだろうか。

 その子は座り込んでいる俺を見下ろして不思議そうな顔をしている。

 

 

「何をしてるって、花を見てるんだよ」

「珍しいね。男の子なのにそんなに真剣に花を眺めてるなんて」

「まあ色々あってさ……」

「悩み事?」

「そんなところ」

「言えない?」

「あぁ……」

 

 

 こんな小さい子に心配されるなんて、二十歳を超えた男が何してんだよって話だ。ただ見た目は園児とそう変わらないから許してくれ。

 でも小学生から見ても分かりやすいくらいに悲壮感が漂っていたのか俺。園児の姿でそんなムードを醸し出していたら、そりゃ家庭で何かあったのかと思われて心配する気も分かる。

 ただ自分の今の状況をバラしてしまうと元に戻れないらしいので、残念ながら事情を打ち明けることはできない。毎回毎回誰かに頼れないように徹底されてんだよな……。

 

 

「よしっ! それだったら私の買い物に付き合ってよ!」

「はぁ? どうしてそうなる!?」

 

 

 屈託のない笑顔でいきなり自分の都合に巻き込もうとする金髪少女。さっき話せない悩み事があると知ったばかりなのにこの暴挙。

 それにしても、根拠のない自信満々なこの表情、やっぱりどこかで見たことがある気がするな……。

 

 

「落ち込んでいるとき、暗い気持ちのときは気分転換が一番だよ!」

「別に落ち込んでるわけじゃねぇけどな。なんで俺、休みの日にこんなことをしてるんだろうって思ってるだけで……」

「暗い気持ちに大小なんてないから! それに幼稚園児は幼稚園児らしく元気でいればいいんだよ! ほら行くよ!」

「お前も小学生くらいだろ――――って、手引っ張んな!」

 

 

 美少女JSに合法的に手を握られる構図。こうやって小学生に手を触られるだけでも何故か成人男性が犯罪者扱いされるこの世の中、子供の一切の曇りのない無邪気さは意外と怖かったりするものだ。

 それはともかく、コイツどういうつもりだ……? 最近は秋葉やら七草やら、とにかく裏がある奴が多すぎて人を疑いがちなんだよ。まあ小学生だから裏表はないだろうけど、見ず知らずの年下男子に対してここまで世話を焼くなんて、普通に人がいい奴なのだろう。

 

 あれ? 金髪で面倒見がいいってやっぱりどこかで……?

 

 そんな疑問を抱きつつ、彼女に手を引かれて公園を出る。安心させるためかずっと手を握ってるから、もう完全に悩み多き幼稚園児と思われてんだろうな……。

 

 

「おいどこへ行くんだよ?」

「薬局に薬を買いに行くの。お姉ちゃんが風邪気味でね。それよりも――――」

「えっ、なに?」

 

 

 手を握ったままこちらに顔を近づけてくるロリ少女。こうして見ると、幼いながらも顔立ちは整っていて結構な美人寄りだ。これは中学に上がって思春期特有の色気が出てきたら化けるかもな。

 そんなことはいいとして、どうやら何やら言いたげな様子。眉が上がっており、少し怒ってる……?

 

 

「あなた、さっきからやたらとタメ口じゃない? どう見ても私の方が年上でしょ!?」

 

 

 そんなことかよ……。

 確かに今の俺は幼稚園児レベルの背丈であり、いくら男子とは言えども女子小学生には身長で負けている。だけどここまで激詰めするようなことか……?

 

 

「タメ口はまだいいけど、そうだなぁ、せっかくだし『お姉ちゃん』って呼んで」

「はぁ? なんで?」

「私は弟か妹が欲しいの! お母さんたちにそう言ってもはぐらかされるし、お姉ちゃんにもサラッと流されるし……」

「そりゃそうだろ……」

 

 

 子供の頃に弟や妹が欲しいと容赦ない純粋無垢で親を攻撃した人は多数いるだろう。成長してその願望を実行する方法を知って察するまでがお約束だ。まあ小学生で子作りのメカニズムを知って、その上で弟妹が欲しいなんて言ってる方が怖いが……。

 

 それよりも、お姉ちゃん呼びを強要されている方が問題だ。現在何故か俺の両手を掴んでおり、目を輝かせて俺を見つめている。もはや言わないと離してくれそうにもないのだが、姉呼びするのは秋葉のせいでかなり抵抗がある。アイツのことだって呼び捨てだし、相手は違うけどその呼び方をするのは恥ずかしいんだよな。

 

 

「んなこと言ってないで、とっとと行くぞ」

「え~~っ!? 呼んでよほら! 『お姉ちゃん』って! そうすればあなたの悩みも全て吹き飛んじゃうから!」

「因果関係が分かんねぇよ……」

 

 

 ここまでお姉ちゃんに固執するなんて、普段から相当抑圧されているのか? 姉がよく家事をサボるとか、姉らしい振る舞いをあまりしてないとか。俺も兄らしいことは何もしてないのであまり自分が言えた義理ではないが……。

 

 しばらくゴネられていたが、一貫して姉呼びしない態度を取り続けていたら諦めたようだ。俺を励ましたり姉呼びさせたいなどとコイツの目的がコロコロ変わっているが、小学生なんて興味の対象がすぐに切り替わる生き物だし、多少支離滅裂なコミュニケーションでも仕方ないか。

 

 そんな中、名も知らぬ少女と一緒に街を練り歩く。小学生と幼稚園児が親同伴なしで並んで歩くって、見た目だけだと相当目立つ気もするけど……。

 

 

「そういえば、どうして花を見てたの?」

「どうしてって、花が問題解決の糸口になりそうだから……かな」

「ん~? よく分かんないけど、花を見てると悩みが解決するってなんかロマンティックだね!」

「そうか? 男だぞ、俺?」

「別にいいじゃん男の子でも。花は綺麗だから見惚れちゃうものだし!」

 

 

 ニカッと笑う赤カチューシャの金髪少女。ロマンティックってよりメルヘンな考え方だが、この悩み何もなさそうな明るい笑顔を見たら誰でも前向きになる気はするな。今は別に落ち込んだりしてない(アイツに対する呆れの方が強い)が、仕事でストレスがあったらコイツに励ましてもらうのもありかもしれない。成人男性が女子小学生に対して何言ってんだって感じだけど、コイツの笑顔にはその力があるんだよ。女の子の笑顔をたくさん見てきた俺なら分かる。

 

 

「それにそれに、私の名前もお花から来てるんだよ! 綺麗な花を見ると落ち着いて元気が出る。つまり私を見ればその魅力であらゆる人のどんな悩みも吹っ飛んじゃうってわけ!」

「だから因果関係……。てかどれだけナルシストなんだよ」

 

 

 小学生の段階でここまで自画自賛が凄いと、成長するとふとしたことでもイキるようになってしまって苦労するぞ。今の俺もそんな感じだけど、俺の場合は実力が伴ってるから――――って、これがダメなのか。

 

 

「ナルシストっていうのは知らないけど、お姉ちゃんが同じような性格だから移っちゃったのかも。だってお姉ちゃんも花の名前だしね」

「えっ……?」

 

 

 姉も花の名前? 金髪、美人顔、世話焼きで人情がある、面倒事を避けたがる、油断するとナルシスト、そして、花の名前――――まさか、もしかして!!

 

 

「あっ、薬局に着いた! ちょっとお薬買ってくるから待っててね!」

「おいっ!」

 

 

 行っちまった。そういや妹がいるとか言ってたし、俺の予想が正しければアイツの正体は間違いない。

 その時、俺のいる場所に影かかかる。後ろを振り返ってみると――――

 

 

「キミ、先生に似てる」

「おい四季! こんな小さい子に急に話しかけるとか驚かせちまうだろ!」

「メイの声の大きさの方が驚くと思う。それと強面の顔」

「それはどうでもいいだろ! ゴメンな君、コイツ表情がなくて怖いだろ?」

 

 

 四季とメイ!? なんでここにコイツらが!?

 コイツらこんな大きかったっけと思ったが、俺が極端に小さいだけだった。

 相変わらず幼馴染コントを繰り広げられる2人だが、警戒すべきは四季の方。俺の正体がバレてしまうと元に戻れなくなってしまうので、教え子の中でも特に察しのいいコイツに見つかってしまうのは不幸中の不幸。なんとかはぐらかさねぇと……。

 

 

「キミ、こんなところで1人か? お父さんやお母さんは?」

「えぇっと、薬局から帰ってくるのを待ってるだけだから」

「もしかして先生の可能性」

「いやでも先生は結婚してないから子供はいないだろ」

「意外といたりするかも。女性関係が豊富な人だから、どこかで知らないうちに誰かを孕ませてしまって、みんなに内緒で隠し子を育てている可能性もある」

「失礼な奴だな」

「「えっ?」」

「あっ、い、いや、それはその先生って人に失礼じゃないかなぁ~って……」

 

 

 あぶねっ!! 思わず口に出ちまった!

 四季の奴、相変わらず容赦なく失礼なことを言いやがって……。

 

 

「待ってるのはいいけど、こんな小さい子を1人で待たせてるなんて危ないよな。一緒にいてやるか」

「流石メイ、優しい」

「うっせぇ。心配することに優しいも何もないだろ、普通だ。キミもそれでいいか? いいよな??」

「えっ、あぁ……」

「メイ、そんな威圧的な言い方ではダメ。キミ、もしかして怖い? このお姉ちゃん、ちょっと顔怖いけど不審者とかじゃないから」

「だったらお前は表情変化乏しくてこえぇよ。子供には笑顔を見せるんだよ、笑顔」

「メイだって苦手なくせに」

「お前ほどじゃねぇよ」

 

 

 なに幼馴染漫才してんだコイツら。イチャつくなら別のところでやれ……。

 それにしても、コイツらとずっといると正体バレの危険性があるからマズい。しかも小さい子を1人でここに待たせている育児放棄気味の親の代わり、みたいな感じでコイツら一緒にいる気満々だし、1人で逃げ出すこともできなさそうだ。

 

 アイツ、早く帰って来ないかな。成人男性が自分の子供じゃない見ず知らずの女子小学生をここまで待ち遠しく思うなんて……。

 

 そうやって焦っていると、薬局の自動ドアが開く。出てきたのは待ちに待っていた金髪少女。

 そして、俺は今からプライドを捨てる。今の自分が神崎零だと悟られぬようにするにはこれしかないんだ――――!!

 

「あっ、ちゃんと待っててくれたんだ。えらいえらい!」

「う、うん……お姉ちゃん」

「え?」

「「へ??」」

 

 

 言ってしまった……!! でもこの状況を穏便に打破するにはこの方法しかなかったんだ!

 

 

「お姉ちゃんって言った!? 今言ったよね!? うん、お姉ちゃんだよ! 弟くんは可愛いねぇ~♪」

「ちょっ、抱き着くな!」

 

 

 名も知らぬJSに抱き着かれる成人男性(幼稚園児)。もはや状況説明なしでは何を言っているのか分からないが、まあ犯罪ギリ手前ってところか。こっちから抱き着いてるわけじゃないからな、まだセーフの部類だろう。

 

 

「なんだ、お姉ちゃんを待ってたのか。だったら最初からそう言えばいいのに」

「メイの圧が強かったから――――ん? あなた、もしかして……」

「あっ、あなたたちって確かお姉ちゃんの後輩の――――」

「あぁ、そういえばお前。覚えてるか? メイだよ。こっちが四季」

「はい、覚えてます! すみれお姉ちゃんがいつもお世話になってます!」

 

 

 やっぱりそうだった。この女の子、すみれの妹だ。

 最初から色々ヒントは出ていたが、そもそも女子小学生に声をかけられたり手を引かれたりと特殊な状況に陥っていたせいで、別のことに脳のリソースを割いていたから気づくのが遅れてしまった。

 

 そして、そうすれば自ずと元に戻るためのあの謎も解ける。

 

 

「そういえば、その薬は誰かに教えてもらって買ったのか?」

「うん。怪しそうで優しそうなお姉さんに教えてもらったから」

「ちょっと見せてみろ」

「あっ、なにするの!?」

 

 

 あった。カバンの中に風邪薬のほかに謎の薬が。これが元に戻るための薬に違ない。怪しいお姉さんと言ったらこの世で最も怪しいのは秋葉(アイツ)しかいないから、これで間違いないだろう。

 メッセージにあった『金色の花の蕾』というのは、まさにすみれの妹であるコイツのことだったんだ。金色は金髪、花はすみれの名前、蕾はその妹、という意味。ちょっと考えればすぐ分かったな……。

 

 とりあえず、カバンから例の薬だけこっそり拝借しておいた。

 ようやくこれで元に戻れるな。何もかも万事解決ってことだ。

 

 

「それじゃあ俺、用事あるからここで」

「えっ、悩み事はどうしたの?」

「大丈夫、もう解決したから」

「えぇ~!? じゃあもう一回呼んでよ! お姉ちゃんって!」

「だからなんで抱き着く!?」

 

 

 また駄々こねモードに戻ってしまった。まあこれからこの姿で会う予定もないし、後腐れなくもう1回呼んでやってもいいかもしれない。今回の件はこれで()()に解決だろうしな。

 

 

「あの子の方が弟ってことは、つまりすみれ先輩って弟がいたのか!?」

「それは初耳。まさか隠し子とか」

「お前そういうの好きだな……。でもここまで隠してたってことは……」

「その可能性がある。また問い詰めてみよう」

 

 

 やべぇ、無事じゃなかった。

 ゴメンすみれ! あとでフォローしておくから!!

 




 後に続きそうですが、ちゃんと元に戻れたので今回で1話完結です。

 ラブライブでは基本姉妹には名前が付いているのに、すみれの妹だけどうして名前がないんでしょうかね。アンソロジーのコミックでも登場しているので、付けてあげてもいいような気がします。

 今回はすみれの妹だからその妹の名前も花の名前だと思って謎解きのヒントにしてしまったのですが、アニメ3期で全然違う名前を割り当てられたらどうしよう……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

恋愛相談盗聴 with ブラコン妹

「大体お兄ちゃんはさ、教育者として即逮捕案件なことをしているわけだよ。妹っていう身近に手頃な女がいるっていうのに、実の生徒にまで手を出しちゃって」

「手は出してねぇよ……」

 

 

 今日は妹である楓の買い物に付き合っている。どうやら限定のブランド服の発売日らしく、しかも1人1着限定らしいので俺を連れて2着ゲットする算段だったらしい。

 男でも女性モノの服を買えるのか怪しくはあったのだが、最近はジェンダーレスの風潮が強く、女性のみ販売という販売形態自体が減ってきている模様。そのせいか俺でも購入することができた。そもそもカップルで来てる奴らも多かったので、女性の特売争いに参加する男は大変だなってつくづく思うよ。

 

 そして、無事に限定服を2着購入してホクホク顔の楓。家事好きで俺のことを世話するブラコン妹の印象が強いコイツだが、それでも年相応に綺麗な服、可愛い服には興味がある。専業でモデル業をしている雪穂や亜里沙やその会社にたまに呼ばれて一緒に撮影することもあるくらいだ。

 特にコイツの場合はあまりに美少女すぎるために男性女性人気がどちらも高く、コイツがモデルになった時の雑誌(紙媒体と電子媒体どちらも)は爆売れする。

 ただコイツ自身が俺以外に自分の輝く姿を見られることに対して消極的のため、モデルを専業としておらず、あくまで会社側が頭を下げてきたときだけだ。そんな大型のモデル会社を手玉に取れる自分に多大なる優越感を抱きながら生きているのが楓という人間だ。

 

 お目当ての服も買え、必然的に俺とデートすることになったこのブラコン妹の気分は有頂天。

 だが、俺が最近学校であった話をするたびに少しずつ機嫌が悪くなっていき、冒頭の発言に繋がるわけだ。そんなわけで昼飯を食うために、そしてコイツの機嫌を元に戻すためにいい感じに洒落てる喫茶店に入ったわけだが、日頃から溜まっている鬱憤に対する愚痴はそう簡単には止まらないらしい。

 

 

「性欲処理なら昔から使い倒して穴が馴染んでいる妹がいるじゃない」

「俺が欲求不満だから女の子たちと付き合ってるみたいな言い方やめろ。つうかお前、この歳になっても変わんねぇな」

「妹の役割はお兄ちゃんのお世話。そして私は永遠にお兄ちゃんの妹。だから変わらないよ」

 

 

 これでも俺は社会人、コイツは大学生。兄妹で性行為をするなんて許されないけど、学生時代であればまだ若気の至りってことでギリギリ可愛い方だ。だけど今の俺たちは23歳と21歳であり、二十歳越えの兄妹が今でも身体を重ね合わせてるって世間体から見なくてもヤベぇだろ……。

 

 

「大学の授業をサボる時もさ、欠席理由に『近親相姦してました』って書くのちょっと興奮するけどね♪」

「おいマジかよやめろ!」

「ウソウソ! 流石の私も赤の他人にお兄ちゃんとの関係をバラすほど常識欠如してないって!」

 

 

 どうだか。俺が別の女の子といるとやたらと俺との関係性をアピールするくせに……。

 

 そんな感じで注文した飯を食いながら駄弁っていると、俺の後ろの席に女の子3人が着座した。背の高いソファタイプのため立ち上がらなければお互いに顔を視認することはできない。

 だが、その子たちの声を聴いた瞬間にその正体が分かった。

 

 

「わぁ~♪ 凄くオシャレな喫茶店だね! 写真撮っちゃお!」

「悠奈、はしゃぎ過ぎ」

「えぇ~? だって島にいたら中々こんなカフェに来れれないし、楽しめる時に楽しんでおかないと! ね、かのんちゃん?」

「そ、そうですね……」

 

 

 かのんとSunny Passionの聖澤悠奈と柊摩央だ。アイツら東京に来ていたのか。しかも示し合わせたわけじゃないのに俺の側に現れるとは、やっぱり俺と縁のある女の子ってのは物理的に寄り付いてくるものなんだな。

 

 なんて思っていると、楓の機嫌がまた一回り悪くなった。

 

 

「は? 知らない女が2人もいるんだけど」

「あぁ、Sunny Passionか。あれ、話してなかったっけ?」

「知らない。言ったよね? お兄ちゃんはご主人様気質だから色んな女の子たちと仲良くなるのは百歩譲って許すけど、知り合ったら私に報告してよって」

「いやしたつもりだったんだけど……。してなかったみてぇだな」

「むぅ……」

 

 

 報告しなきゃいけない意味も分からないし、俺がそのルールを守る理由もねぇんだけどな。守らないとこうして目に見えて機嫌が悪くなる。だから世間話の一環で俺の人間関係の話もすることにしている。まあ今回は忘れてたわけだが。

 女の子とたくさん付き合ってるからいつか誰かに刺されそうって言われることがあるけど、一番刺してきそうなのは一番身近にいる妹のコイツなのかもしれないな……。

 

 ちなみにかのんたちの会話が楓にまで聞こえているのはアイツらが大きな声で喋っているのではなく、単純に楓が地獄耳なだけだ。俺の些細な言葉も聞き逃さないような耳の造りになっているらしい。理屈はよく分かんねぇけど。

 

 そんな中、再びかのんたちの声が聞こえる。

 つうかコイツら、一体何をしにここへ来たんだ……?

 

 

「すみません、わざわざ付き合ってもらって」

「いいよいいよ! 『ラブライブ!』の会場の下見のためにいつか来る予定だったし」

「そうですね。できれば結ヶ丘の文化祭の日に来ることができればよかったのですが、生憎ながら模擬テストと被ってしまいまして」

「お二人共受験生ですもんね。だったらなおさら申し訳ないことしたかなぁ……」

「大丈夫! 私も磨央も推薦でもう決まってるし、残りの学校生活はスクールアイドルに全力だから! 要するに、相談に乗ってあげるために渡航してくるくらいは余裕ってこと!」

「そうですか、ありがとうございます!」

 

 

 相談事か。同じ部のメンバーでもなく教師の俺でもなく、わざわざコイツらにする理由って? 部外者でないと話せないわけでもあるのか?

 

 

「相談って前に電話で言ってたよね。まさか恋のライバルが現れるなんて、青春だねぇ~」

「悠奈、かのんさんは真剣なのよ。でもあの先生にどうアプローチするか、それを悩んでいるのは可愛らしいことですが」

「も、もう2人共!」

「ゴメンゴメン! 大丈夫、しっかりアドバイスするよ!」

 

 

 なるほど、そりゃ部外者に相談するしかない内容だな。同じ悩みを持っている部のメンバーには話しても意味ないし、もちろんアプローチ対象である俺にするなんてできっこない。そうなれば交流が親密で、かつ部外者のコイツらになるのは必然か。

 

 それにしても、やっぱり恋煩いに悩んでたんだな。文化祭の後夜祭の時はかのんを含め2年生は余裕そうな感じだったが、あの時は後輩たちがいたからある程度強がっていたのだろうか。きな子たちの方が悩んでたし、自分たちまで沈むことはできなかったのだろう。実際そこのところどうなんだろうってずっと思ってたけど、むしろ悩んでいてくれて良かったよ。変に強がって空回りされても困るしな。

 

 

「お兄ちゃんのことが好きになった女ねぇ……」

 

 

 そして目の前には不機嫌な顔をしている奴が1人。俺の後ろでは俺を中心とした恋バナをするJK3人、前では俺に嫉妬する妹。なんとも複雑な雰囲気だなオイ……。

 

 

「それで、かのんちゃんはぶっちゃけ先生のことをどう思ってるの?」

「悠奈、それはいきなり過ぎるのでは……?」

「だってどの程度の気持ちか分からないとアドバイスの仕方も変わってこない? ただの教師生徒の関係としていい感じでいたいのか、それともそれよりももっと先の関係になりたいとか、色々あるでしょ?」

「確かにそうかもしれないけど……」

 

 

 初っ端からぶっこみやがったな悠奈の奴。想いの人がいる目の前でソイツのことをどう思っているのか聞くなんて鋼鉄のメンタルを持っていないとできないことだが、向こうは俺に気付いていないためそこまで重大なことだとは思っていないだろう。裏で聞いている俺は何故か心臓の鼓動が早くなってしまうが、この歳になっても女の子の生告白は結構心が揺さぶられるんだよ。

 

 

「好き、だと思います。多分……」

「「ひゃあぁ……!!」」

「えっ、なんですかその反応!?」

「いや、顔真っ赤でとても可愛くて……」

「抱きしめちゃいそうだった!」

「えっ、そ、そんなに変な顔してましたか私!?」

 

 

 やっぱり人の恋バナを聞くのは緊張するな。しかもその好きな相手が自分自身で、自分のすぐ裏でその恋バナが展開されるのはドキドキしつつも気まずくも思ってしまう。もう俺がここにいることなんて絶対にバラせねぇな……。

 

 

「好きだってさ。良かったねぇ、小学生と中学生くらい歳の離れている女の子から好きになってもらえて。教師として女子生徒に好かれるってさぞかし気分よさそ~」

「顔が祝ってくれている感じじゃねぇんだけど……」

「そもそもたくさんの女と付き合ってるのも問題だけど、女子生徒にここまで恋愛感情を向けられるのも罪だよねぇ~」

「それを言うな。もう十分に自覚してるから……」

 

 

 これまで何度も妄想させられてるよ、教師の不祥事ってやつは。でも俺から手を出しているわけではなく、相手から勝手に好きになられているだけだ。それに淫らなことをしているわけでもなく、むしろ女の子たち側が自分を磨くために勉強や部活動を頑張り成果が出ている状況。そうなればその親からも教師として評価され、もはや不祥事どころか模範教師として持ち上げられることになる。

 

 だがそれでも最近何かと話題の教育界隈のやらかしニュースを見ると、明日は我が身とちょっと心配してしまう気持ちも分かってもらえるだろう。そして楓はそのことをネタにこうして俺に女子の知り合いができるたびに煽ってくると。そもそも俺は職業柄、女子高生と関係を持つことが多いからな……。

 

 

「それでそれで? 先生のどこを好きになったの!?」

「そ、それは……。優しくて、勉強のことや悩み事があったら親身になって寄り添ってくれるところとか……。普段は何事も面倒な雰囲気でいますけど、いざという時は絶対に助けてくれる安心感があります」

「あぁ~それ分かるかも。あの時も普通にカッコよかったなぁ」

「そうですね。あの時の真剣な表情は私も忘れられません」

「お二人共?」

「い、いや何でもないよ何でも!」

「去年東京に来た時のことを思い出していただけで……」

 

 

 悠奈も摩央も頬がじんわりと紅い。

 去年東京に来た時って、もしかして俺がエスコートしてやった時のことか? あの時はファンに見つかってもみくちゃにされそうになったのを、俺が手を引っ張って助けてやった記憶がある。ただその後にかのんたちに俺の携帯の連絡先を見られて本性がバレる大きな事件があったので、その時の出来事はむしろそっちの印象の方が強いが。

 

 それにしても、自分の好きなところを言い合っている現場に遭遇するほど恥ずかしいことはないな。今もかのんたちが俺のことを想像しながら色々と褒めてくれているが、今にも自分の背中を搔きむしりたいくらいだ。誉め言葉を言われることには慣れてるけど、こうやって恋バナの延長線上で話されるとムードがあるため流石の俺でも平常心を保つことは難しい。

 

 

「お兄ちゃんのどこを好きになったのか選手権なら、私絶対に勝つ自信しかないんだけど」

「なんだよ急に」

「お兄ちゃんがお風呂で最初にどこから洗うのかも知ってるし、食事の時もどの順番でお箸をつけていくのかも分かる。寝返りをどのような周期でするのか、エッチする時にドSスイッチが入るのはどんな時か、どんな食事を取らせれば何発発射させられるのかもね♪」

「それ好きなところなのか!? 明らかに俺の生態調査だろ! つうかそんなことまで知ってるのかよこえぇよ!」

「これが兄持ちの妹の嗜みだよ。むしろ妹なら全員やってることだからね」

「ウソつけ……」

 

 

 兄のお世話は妹の務めだの、兄の生態調査は妹の嗜みだの、兄の性処理は妹の義務だの、もう全国の妹という妹に謝って欲しい持論ばかり展開しやがる。あまりに口が上手いせいで、コイツの同級生であり親友でもあり天然である亜里沙が悉く騙された。そのたびに雪穂のツッコミがあって矯正されたのだが、今思えばいいトリオだな。

 

 

「それで? 好きとか言われちゃってるけど、お兄ちゃんはどうするの?」

「どうするもこうするも、アイツらが俺のことを好きなのは知ってる」

「いやぁ男として最高のポジションだよね。女子高生たちがどんどん自分のことを好きになってくれるっていうのはさ」

「煽るな。だからと言って別に構えてるだけってわけじゃない。俺はもっとアイツらの近くにいてやるだけだ」

「心を開いてくれるためには、一緒にいることが何より大事だもんねぇ。お兄ちゃんから告白すれば物語はすぐ終わるんだろうけど、あの子たちがそれに甘えちゃわないように、本心を包み隠さずに打ち明けてくれるようにするために、一緒にいて恋愛の特訓をしてあげてるわけだ。優しぃ~」

「分かってんのなら煽るなよ……」

 

 

 楓は興味なさそうにジュースの入ったグラスをストローでかき混ぜる。

 ブラコン思考が故に俺の行動原理を一番良く理解しているのはやはり兄妹だからなのか。さっきまでぶっ飛んだ発言ばかりしていたのに、突然何もかも理解した風になっているのがその証拠だ。

 

 そんなことを話している間に裏では俺の褒め合いが終わった模様。また相談のフェーズになる。

 

 

「先生には思い切ってアタックした方がいいかもしれませんね。かのんさんのお話や私たちの経験からすると、先生は何があろうと、どんなことがあろうとあなたを受け止めてくれるはずです。もちろん他の皆さんも同じだと思いますよ」

「そうだね。むしろ先生の方が私たちを受け止めてくれるっていうか、来るもの拒まずって感じだもんね」

「かのんさんたちから来るのを待っている節もあります。男性とのお付き合いは最初は誰でも緊張するもの。ただし、緊張しても良いのではないでしょうか。あの先生であれば必ず受け止めてくれるので、その最初の緊張さえ耐えることができれば、あとは成るようになる気もします」

「おっ、いいこと言うね摩央」

「やっぱり、そうですよね」

 

 

 やっぱりってことは、自分でもどう足掻いても緊張は拭えないのでとりあえず突撃するしかないってことは分かっていたのだろう。ただ分かっていたとしてもいざ実行に移すとなると躊躇われるもの。だからこそ最初の一歩を踏み出す後押しをしてもらうためにサニパを呼んだ、そんなところかもしれない。

 

 にしても、恋愛成就の作戦を盗聴するってのは果たして道徳的にどうなのか。いや別に盗み聞きするつもりはなく聞こえてきているだけなのだが、これから相手がどう攻めてくるのか筒抜けになっているのは相手からしたらそれこそ羞恥心を煽られることだろう。ますます今の俺の存在を明かせなくなったな。明かすつもりもなかったが。

 

 

「ありがとうございます、悠奈さん、摩央さん。とりあえず当たって砕けろの精神で勇気、出してみます!」

「その意気その意気!」

「皆さんの恋愛の成就、楽しみにしています」

「はい。みんなも同じ気持ちだと思いますけど、私より全然強いので大丈夫だと思います」

 

 

 どうやら決意はできたみたいだ。そりゃいきなり七草やウィーンみたいな色物が現れて、自分と同じ想い人を狙っていると知ったら大なり小なりビビるよな。後夜祭の時の平静は文化祭の終わりでしんみりしていたってのもあったのだろう。後でよく考えてみたら、『あれ? 意外と複雑な状況じゃね??』って気づくのは当然か。

 

 でもこれで俺たちの関係も無事に進展しそうで良かったよ。やはり女の子たちの成長を見るのは楽しい。教師の仕事をやってるのもその理由が1つだしな。

 

 

 これにて良いお話で終了――――とはなっていない奴がここに1人。

 

 

「なんか人の恋路って邪魔したくなるよね」

「ならねぇよ」

「でも年下相手に大人げないし、どうしたらこの鬱憤を発散できるのか考えてたんだよ。そうだ、見せつけてあげればいいじゃんって」

「見せつけてって、まさかお前、俺たちの存在をバラす気か!? それだけはやめろ!」

「んふふ、それはどうでしょー」

 

 

 悪戯な笑み。このまま無理矢理に腕を組まされて、かのんたちの机に行って俺の姿を見せびらかすとかやらかしかねない。店内で騒げないことをいいことに。

 秋葉もそうだけど、楓も中々に行動が読みにくいからな……。

 

 その時、俺たちのテーブルに誰かが来た。もしかしてアイツらに見つかったのかと思ったが、来たのは店員で、持っているトレーにパフェが乗っていた。

 

 

「こちら、カップル限定特性チョコレートパフェです!」

「えっ、カップル限定?」

「私がこっそり頼んでおいたんだよ」

 

 

 チョコとクリームがたっぷり乗ったパフェと、カップル同士で食べさせ合うための長いスプーンが到着。俺たちは兄妹なのだが、この歳になるとカップルに見られることが多くなった。そのおかげで服も買えたし、こうしてカップル専用を堂々と注文することができるわけだ。まあ俺たちは兄妹でもあるしカップルでもあるのであながち嘘はついてないんだけどさ。

 

 

「恋愛話を聞いてたらカップルみたいなことをしたくなっちゃった。だからこれで鬱憤晴らし。いいよね?」

「そ、そうか……」

「なにその驚いた顔。もしかして私がお兄ちゃんと腕を組んで、あの子たちの前に飛び出すとか思ってた?」

「思って、ないけど……」

「ふふっ、図星じゃん」

「ったく……」

 

 

 バレてたか。俺の思考を読み取る能力は一番ってさっきも言ったしな、仕方がない。

 

 

「いくら私でも人の邪魔はしないよ。お姉ちゃんとは違って、お兄ちゃんの不利益になることは絶対にね」

 

 

 大人になったというべきなのだろうか。昔は穂乃果たちの邪魔ばかりしてきたから、文句を垂れつつも静観できるようになったのは精神的成長なのかもしれない。

 いやまぁ、それが普通っちゃ普通なんだけども……。

 

 そんな中で、また裏からアイツらの声が聞こえる。

 

 

「後ろの席の人、カップルパフェ頼んでたよ。いつか私もそういうことできる男の人ができるのかなぁ」

「えっ、悠奈さんもそういうことに興味あるんですか!? 今好きな人がいるとか!?」

「えぇっ!? ち、違うただの憧れなだけで……。摩央はいないの、そういう人」

「そ、それは……乙女の秘密ということで」

「2人もいるんだ、そういう人……」

「そうは言ってない!!」

 

 

 盛り上がってんなぁ後ろ。

 女の子の恋愛沙汰に付き合うってのは山あり谷あり、悩んだり喜んだり。男としては難しいねぇ……。

 




 前々回、前回から引き続いてサブキャラ登場回の3話目です。別にサブキャラをまとめて登場させるつもりはなかったのですが、文化祭編の長編が終わったのを機にやってしまおうと思った次第です。

 そして今回はサニパと楓が同時出演。とはいってもお互いに会うことはありませんでしたが……

 ちなみに秋葉さんは名前はよく出てきますが、まだLiella2章では生身で一度も登場していないことに今更気づきました(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去への扉:夢焦がすオニサプリ

「オニナッツー! 日々のあれこれエトセトラー。あなたの心のオニサプリ、オニナッツこと鬼塚夏美ですのー! 今日は現役スクールアイドルがスクールアイドル館に来て、スクールアイドルの魅力をたっぷりお伝えしちゃいますの! 既にスクールアイドルって言葉がゲシュタルト崩壊しそうなくらいですが、皆さんこの動画が終わるまでにスクールアイドルって言葉が何回出てくるのか、数えてみるのも面白いかもですのー! それでは最初のブースに移動しますの!」

 

 

 夏美はそこで一旦動画を止める。

 今日は夏美に誘われてスクールアイドル館に来ていた。そこではスクールアイドルのグッズはもちろん、過去のライブ映像が見られたり、歴史について学んだりできる、まさにスクールアイドル好きのためにあるような聖地だ。スクールアイドルと言えば今や世間を賑わすサブカルチャーの最先端。その魅力がたっぷり詰まっているここを動画ネタにすれば、視聴数も評価も伸びると踏んでの撮影だろう。

 

 ちなみにスクールアイドル館はどのブースも動画撮影OKであり、動画サイトやSNSで拡散されることでスクールアイドルの更なる知名度発展を目指しているらしい。そこのところの規制の緩さと情報伝達スピードの利用はまさに若者娯楽って感じだな。

 

 

「つうかさ、どうして俺が呼ばれてるわけ? しかも練習のない放課後に」

「だって先生の方が私よりも断然スクールアイドルに詳しいので、スクールアイドルの歴史を語る上で役に立つかと思いましたの。あれだけのスクールアイドルと付き合っているのですから」

「お前の動画ネタのためかよ……。だったら俺よりも、スクールアイドルファンの可可やメイと一緒に来れば良かったじゃねぇか」

「その2人だと、オタク特有の早口で動画がほぼその2人の絵面になるのが見え見えだったのでダメですの」

「はは……」

 

 

 確かに。スクールアイドルの歴史紹介って名目で動画を回しても、ソイツらの場合は目を輝かせてカメラの前を占拠しそうだもんな。もうどっちが動画のメインだよって話になるか……。

 そして、白羽の矢を立てたのが俺らしい。先日の文化祭で俺が他のスクールアイドルたちと関係を持っていることは1年生たちに話したので、その情報を今回フル活用されたことになる。そりゃそんじゃそこらの奴らより詳しいのは確かだけどけどさ。まあこっちは実際に付き合ったりしてるわけだしな……。

 

 そんなわけで夏美の金稼ぎの道具と使われることを知ってしまったわけだが、別に嫌悪感があるわけでもないので付き合ってやることにする。

 それに、文化祭の例の一件以降でコイツと2人きりになれたのはこれが初めてだ。誘ってくるってことは七草やウィーンといった恋のライバルがいることに対して臆してはないってことだろうが、なんにせよ互いの距離を縮めるのにはいい機会だろう。

 

 とりあえず、最初にスクールアイドルのライブ映像が流れるブースへとやって来た。過去のライブイベントはもちろん、『ラブライブ!』などの大会での映像もあちこちの画面で流れている。

 そんな中、夏美は1つの映像に目と止めた。

 

 

「これは確か、Aqours……」

「あぁ、2年前にスクフェスで優勝した時のライブだ」

 

 

 夏美は目を輝かせながらAqoursのライブシーンを観ている。

 コイツがこんな目をするのは珍しく、目を光らせる時の大抵は自分の利益になること、つまり金絡みの時だけだ。その瞳の光も裏の心が透けて見えているのでくすんでおり、誰の目から見ても胡散臭いってことが分かる。

 しかし、それもスクールアイドルを始めてから変わった。コイツの心境の変化が一番の要因だろう。

 

 

「この時、先生はAqoursの皆さんをご指導されていたんですの?」

「あぁ。ただ教育実習に行っていたのはスクフェスより前の話で、この頃はその延長線上って感じかな。夏休みだったから、アイツらの方から俺に会いに東京に来てたんだよ」

「それで優勝させているのですから凄いことですの。愛と恋の力ってそんなに強いものなんですの?」

「別にそれだけがアイツらの力の源とは思ってないけど、好きな人に自分の魅力を伝えたいって意志は強かったと思うぞ」

 

 

 過去に愛が人格を狂わせた事件があったように、それだけ自分に大きな影響を与えるのが愛の力だったってことだ。Aqoursなんてまだ結成して数か月のグループだったのに、それでμ'sやA-RISEを押しのけてスクフェス優勝だなんて普通はあり得ない。それを可能にしたのがその力だったんだ。

 

 そして、次に目に入ったのはμ'sと虹ヶ先のライブ映像。どのグループも世間を魅了するくらいのライブをしており、来場客の目を引いている。

 

 

「μ'sや虹ヶ先の皆さんも、先生に想いを伝えたいからこうして魅力的に見えますの……?」

「虹ヶ先の奴らは間違いなくそうだな。μ'sの奴らも意識くらいはしてくれていたかも」

「色んな女の子に影響を与えすぎですの、先生は……」

「自分の夢を叶えようとしていたら、いつの間にかそうなってただけだ」

 

 

 μ'sの場合は最初は廃校阻止が目的だったから、ライブは特段俺を意識していたってことはない。ただスクールアイドルを続けていく過程で色々、本当に色々あってからというもの、特に雪穂たちが入った世代は恋色を強く意識したステージになっていたと思う。

 虹ヶ先の場合は、グループ自体が俺にアピールするために作られてたと言っても過言ではないからライブの内容も俺に魅せることが第一だ。そういった経緯で集まった連中だからかライブパフォーマンスはかなりのもので、世間の盛り上がりはスクールアイドルの人気上昇時期と重なったことも相まって、μ'sとA-RISE時代よりも注目されて盛り上がっていた印象がある。

 

 

「夢……。先生は、女の子の笑顔が見たい……」

「そう。先輩たちから聞いてないか?」

「散々聞かされてますの。私がまだスクールアイドルでなかった時、やたらと先生に絡まれることを先輩たちに話したら、『それが先生の優しさ』だって微笑むばかりで……」

「絡まれるってひでぇ言い草だな……」

「先輩たち、それと同時に『また他の女の子にやってるんだ、同じこと』って呆れてもいましたの」

「どいつもコイツもひでぇなオイ……」

 

 

 こちとら善意でやってるのに言ってくれるな。まあ女心に土足で踏み込み過ぎるから、気の強い女の子、Liellaだったらすみれみたいな子からは仲良くなるまではかなり警戒されるけども……。

 

 夢って言葉に、夏美は少し敏感だ。スクールアイドルに入ったのも、自分が初めて本気で続けて結果を出せると思ったから。

 これまで自分のやりたいことがあって、挑戦してきたのにも関わらず結果が実らず、いつしか挑むことをやめてしまった。そんな中でお金稼ぎだけは地道に続ければ貯まっていくってことで、動画投稿をしたりバイトをしたりとせこせこしていた過去がある。

 

 

「そういえば、私がLiellaの皆さんに近づいた時から、ずっと先生は私のことを気にかけてくださっていましたの」

「ただ動画ネタにしたいって雰囲気じゃなかったし、お前。ネタにしたうえで金稼ぎが目的だって思惑が透けて見えてたからな」

「だったら普通は自分の教え子に関わらないように遠ざけようとしますの。でも先生は遠ざけるどころか、そっちから私の内情を探りに来たので驚きましたの」

「そりゃ高校1年生の女子が金に貪欲なんて知ったら気になるだろ、普通。それに俺は教師、授業の担当じゃなくても部活の担当じゃなくても、お前が結ヶ丘の生徒である限り俺の教え子だよ。気にするにきまってるだろ」

「ふ~ん、意外としっかり教師をしていて驚きですの」

「ナメてんのか……」

 

 

 結果的にはその子の悩みやトラウマを解消できているものの、毎回毎回女の子の懐を無理矢理にでも探る異常行動をしているせいで100%良い印象で残らないのが辛いところだな。今みたいにこうやってイジられたりするし、残り数%の悪い情報だけが独り歩きして、親しくない女の子の耳に入って疑いの目だけを向けられることもある。

 

 ただ裏でコソコソやるのは苦手なんだよな。だから女の子の心をこじ開けるような真似をしているんだけど、まあデリカシーはないわな……。

 

 

「それでも、私の本心に最初に気付いてくれたのは先生でしたの……」

「そういやそんなこと言ってたな。ま、さっき言ったみたいに強引なことばかりしてるから、そのおかげで相手の真意を知るのは得意だよ」

「そうやって弱みに付け込んで、今まで幾多の女性を泣かせてきたってことですの」

「いやみんなちゃんと幸せにしてるから! お前だって知ってるだろ……」

 

 

 関わってきた女の子は誰一人として蔑ろにしていないはずだ。人間だけでなく幽霊の女の子だって満足させて成仏させてやったんだぞ、信じてもらわないと困る。てか信じろ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんなことを話しながら、今度はグッズ売り場へとやって来た。スクールアイドル館は常設されているのだが、ここ限定のグッズも結構あり通販もしていないため遠方から足を延ばす人も多く、常設にしては平日でもそれなりに人はいる。

 

 夏美はまた動画を回してグッズ紹介の映像を取った後、録画を止めて今度は個人的に色々とグッズを物色し始めた。

 

 

「未だにμ'sやA-RISEのグッズが売ってますの。流石は伝説級のスクールアイドル……」

「伝説ねぇ。いつも思うけど、そこまで持ち上げるような奴らか……?」

「スクールアイドルをやっている身からしたら伝説そのものですの」

「俺はアイツらと同年代でずっと隣にいたせいか、どうもそうは思えねぇんだよな……」

 

 

 伝説やらレジェンドやら、これも原理主義ってやつなのかねぇ。特撮ヒーローや女児アニメでも初代はやたらと持ち上げられるし、他のジャンルだって大体一作目ってのは定期的にピックアップされる。ただμ'sもA-RISEも、本人たちは自分たちがスクールアイドルの開祖で言われてるほど崇高な存在だとは一切思ってねぇみたいだけどな。

 

 

「そういやLiellaのグッズはねぇんだな」

「そんなものがあったら、既にメイや可可先輩が発狂して喜んでますの。Liellaは名が知られてきたとは言えサニパ程ではないですし、まだこれと言って大会で結果も残せていないので、グッズがなくてもおかしくないですの」

「それもそうか。去年の『ラブライブ!』も準優勝だったしな」

 

 

 普通に考えたら初出場で2位は凄まじい成績なのだが、この世はスクールアイドル戦国時代だ。グッズ化されるためには大会での優勝か、他のグループすらも圧倒する特別な魅力がなければならない。Liellaにもその魅力はあると思うのだが、やはりこれだけスクールアイドルがいると雑踏に埋もれてしまいがちなのは仕方ないか。だからこそ今年は優勝しようとみんなで意気込んでいるわけだ。

 

 

「お前も自分のグッズが欲しいって思うのか?」

「そりゃスクールアイドルをやってるなら」

「お前個人に金は入ってこねぇぞ。グループにはある程度還元されるけど、大体はそのスクールアイドルが所属する会社か学校の資金になっちまうし」

「そんな金の亡者みたいに言わないで欲しいですの!」

「いやどの口が言ってんだ……」

 

 

 出会った頃は何か儲けのネタがあると分かるとすぐ目を円マークに変えてたくせに……。

 だけど、スクールアイドルになってからは徐々にそんな薄汚い貪欲さは次第に見せなくなっている気がする。スクールアイドルになったおかげで自分の中の軸がしっかり固定されたおかげか。それまではさっき言った通り、実りのない人生にフラフラしっぱなしだったみてぇだしな。

 

 

「でも、このまま目立ち続ければお前のグッズもいずれ出るだろ」

「えっ、それホントにですの!?」

「それはLiellaが『ラブライブ!』に優勝できるかにかかってるよ。そのためにはグループとしての魅力も大事だけど、個人としても目立つ必要があるだろ? そしてお前の夢は諦めずに目標を達成し、満足感と自己肯定感を得ること。大会に優勝してグッズが商品化されれば、目標が達成された確かな証拠にもなる」

「な、なるほど……」

 

 

 何かしらご褒美があった方がいいってのは、小学生がテストでいい点を取ったら何か買ってもらえるからモチベが上がるのと一緒だ。コイツの場合はこの歳になるまでそういうのがなかったっぽいから、単にスクールアイドルとしていい結果を残すって目標よりも、結果が出た故の物的証拠が残る方がモチベが上がりやすいだろう。

 

 そうやってゴール地点を設定してやっている中、夏美は俺のことをちらちらと見たり、目を背けたりしていた。

 

 

「なんだよ……」

「い、いや、先生は、私のグッズが出るまでずっと顧問でいてくれるのかと気になっただけで……」

「んだよそれ。そもそも前提が違う。別に部の顧問でなくなったとしても、俺はお前の隣で見守り続けるだけだよ」

「そ、そう、ですの……」

 

 

 頬を染めて俯いちまった。こういうところが女の子を泣かせてるとか言われる所以なんだろうな。でも本当に見守りたいって思ってんだから仕方ねぇだろ……。

 

 

「それに言ったじゃねぇか、お前がスクールアイドルをやるって決意したあの夜。『お前が自分自身に満足するまで、俺が隣にいてやる』って」

 

 

 2年生との実力差を埋めるため、特訓として1年生は北海道にあるきな子の実家の別荘に合宿へ行ったことがあり、俺も引率した。その時はまだコイツは加入しておらず、あくまで練習風景を動画に撮って自分のチャンネルに投稿する(ついでに収益をいただく)ためについてきた。

 

 ただ、その中で夢に向かって努力を重ねるきな子たちの姿に感銘を受けたのか、夜にこっそりステップをやってみるなど影響を受けていたんだ。それを見ていたきな子たちに誘われ、俺の後押しもあって加入に至る。

 

 そして、その時に打ち明けたコイツの悩みは、重くはないけど思春期特有のもので俺も理解できたし、何よりきな子たちが共感していた。何事にも熱く打ち込めず、結果も出せないというジレンマに苛まれながらも底辺エルチューバ―として活動を続けていた。それでも自分の力で何かしら目標を達成したい、諦めたくない気持ちはあったようで、最初は金稼ぎの道具としか見ていなかったLiellaの努力に次第に憧れを抱くようになり、いつしか自分も輝いてみたいと思うようになったそうだ。

 

 その夜、初めてそういった感情を吐露したためかコイツは涙を見せていた。悔しかったのだろう、何もできない自分が。その合宿でも結局自分は動画撮影に回っていただけだし、その動画がバズったとしてもそれは自分が輝いているとは言い難い。何かしら自分の手で掴み取ることのできる夢が欲しかったんだ。

 

 

「ま、お前を悩みの淵から引っ張り上げてくれたきな子たち(アイツら)に感謝することだな」

「分かっていますの。でも、先生にもお礼を言わなくちゃいけないんですの。いくら後押しされたとしても、結局決めるのは自分自身。その決意をくれたのは先生ですの。ストーカーかってくらい付きまとわれて、根負けしてポロっと自分の心境を話したせいで見事に巧みな話術で心を掴まれたと言いますか……。安心させられたと言った方がいいかもしれませんの。先生がずっと見守ってくれたおかげで、また何か新しいことに挑戦してもいい、今度は隣にいてくれる人がいる、と安心できましたの」

 

 

 最後の不安が払拭されたのは俺のおかげってことか。だったら俺がいた意味もあったってもんだ。

 コイツも言っていたが、いくら後押しされようが決断するのは自分自身。後押しされていない、もしくは押されたとしても拭いきれていない不安が残っていたら決意が鈍る。そこのところを俺のおかげで乗り越えられたらしい。

 

 改めて思うのは、女の子の心に寄り添うにはやっぱり直接隣にいた方がいいってことだな。それが変態変人扱いされるんだけど、今のように感謝されていい表情を見られるから、それでプラスマイナスゼロだ。

 

 

「それで、『ずっと隣にいてくれる』という言葉は本当ですの……?」

「なんで疑ってんだよ。ホントだよ。でなきゃ放課後に2人きりでこんなところに来ないって」

「もしかして迷惑、でしたの……?」

「いや、むしろ嬉しいよ。文化祭のこともあったしさ、そのことに臆せず誘ってくれて安心したってのもあるかな」

「そ、それは先生と2人きりのタイミングを逃したくないといいますか……。そんなことで後れは取りたくない、と思っていますの……」

「そうか。強くなったな、お前も」

 

 

 スクールアイドルをやる前は積極的な性格に見せかけて実は後ろ向きだったけど、今は恋敵がいたとしてもその圧力に負けず自分に素直になれる積極さがある。元々金稼ぎに貪欲でがめついところがあったから、やると決めたことに対してはコイツの性格上前向きになることはできるのだろう。どうやらやると決意を固めるまでと、結果が伴わず心が折れた時のリカバリが苦手なだけらしい。

 

 

「じゃ、そろそろ次へ行くか。それとも何か買うのか?」

「えっ、奢ってくれる……とか??」

「ねぇよ」

「えぇ~っ!? 教え子の未来のために何卒投資を……!!」

「ただのグッズじゃねぇか。いやグッズじゃなくても金は出さねぇよ、デートじゃあるまいし」

「じゃあデートだったら奢ってくれますの……?」

「そりゃそうだろ。自分の女に払わせるわけねぇからな」

「そ、そうですの……」

 

 

 女の子と2人きりでお出かけならそれはデート、って誰かが言ってた気がするけど、今回はどうなんだろうか……。

 とりあえず、また頬を染めて俯いて考え事をしてるコイツをここから引っ張り出すか。客が増えてきて店内も混んできたしな。

 

 

「デート、デート……」

 

 

 うわ言のように何やら呟いている夏美。俺を誘うことには抵抗がないのかな……?

 どうであれ、コイツは俺との関係を進展させることに対して特に臆してないようだ。1年生の他の3人も同じだといいんだけど、また近いうちに様子を見てみよう。

 




 今回は夏美の個人回でした!
 彼女の場合、悩みはあるけど年相応って感じがして、アニメを見ていて私も少し共感してしまいました。だからこそアニメではもっと掘り下げて欲しかったのですが、2期は駆け足気味だったのが本当に惜しかったなぁと思っています。

 だからこそ、この小説ではキャラの魅力を個人的解釈ですが描いていきたいと思います。まあ零君が成長しきっているので、恋物語は女の子たちを動かすしかないっていうのが一番の理由ですが(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1年生ピンチ!超危険な相乗り!

 桜小路きな子です。

 今日はスクールアイドル活動のため、きな子たちLiella1年生組で遠征をしています。山の方の農村からの依頼で、お祭りを盛り上げるためにスクールアイドルが何組か呼ばれてライブを披露しました。先輩たちは全国模試と日程が被ってしまったので不参加で、最初はきな子たちだけでライブできるか不安もあったのですが、無事に大盛況で終えることができて満足したっす!

 

 そんなわけで帰宅することになり、バス停にやって来たきな子たちですが――――

 

 

「おいおい、次のバス1時間半後じゃねぇか!! やっぱり間に合わなかったか……」

「流石はド田舎」

「きな子がお土産のお菓子を大量に買い込むから、走るのが遅くて間に合わなかったんですの」

「そ、それを言うなら夏美ちゃんだって、動画のネタ探しであちこち撮りまくっていて遅刻寸前だったじゃないっすか!」

 

 

 ライブが終わってから、お土産物を見たり自由時間を満喫し過ぎたせいでバスにぎりぎり間に合わずに待ちぼうけになってしまいました。

 実家が山であるきな子が言えたことでもないですが、ここも相当な田舎地方のため公共交通機関が2時間に1本程度のバスしかなく、こうして1本乗り過ごすだけでもかなりの待ち時間になっちゃいます。結ヶ丘という都会の学校に慣れ過ぎたきな子たちにとって、帰宅だけでこの待ち時間は軽い拷問に近いのです……。

 

 

「どうすんだよ! 私、次のスクールアイドルライブのイベントチケットをコンビニで発券しないといけねぇんだぞ!! しかも締め切りまであと2時間! 待ち時間と帰宅時間で確実に過ぎる!!」

「それは事前にやっておけば済む話でしたの」

「どうしてこんなギリギリまで引っ張ったんすか……」

「メイは昔から溜め込みがちだから。夏休みの宿題とか」

「くっ……」

 

 

 どうやらのんびりしている暇はないみたいっす(メイちゃんのみ)。

 ただどれだけ嘆いたとしても、バスが来ないことには帰宅することはできません。タクシーを呼ぶ手もありますが、この山まで来てくれるのかは不明であり、来てくれたとしても料金が半端なく高くなりそうで現実的ではなさそう。もちろん歩きで帰るくらいだったらバスを待って乗った方が早いので、これはもうチケットは諦めるしか……。

 

 

「そういえば、そのスクールアイドルのイベントは私たちも参加しますの。だったら参加者特権で舞台袖から見れば、そもそもチケットなんていらないのでは?」

「私は客席から、真正面から観たいんだよ!! お金も払わず横から盗み見るなんて、スクールアイドルへの冒涜だろ!!」

「「「……」」」

 

 

 メイちゃんのあまりのオタクっぷりに唖然とするきな子たち。いやスクールアイドルに入れ込んでいるのは知っていましたが、同じスクールアイドルなのにわざわざ一般人になって一個人として、ファンとして応援しようとする意気込みに驚き、そして感心もしてしまいました。ここまで熱く語られると、どうにかしてチケット発券期限にまで間に合わせたいと思っちゃうっす。

 

 

「おい四季、お前の発明品で何とかならないのか!? ここから東京まで飛んで帰れる画期的な発明を! そうだ! そういえば春にジェット機を付けた靴を造ってただろ!? それを使えば――――」

「無理。そんな長距離ではバッテリーがもたない。それに今日はライブに来たのだから、余計なものは持ってきてない」

「終わった……」

 

 

 地面にがっくりと項垂れるメイちゃん。『期限までに余裕をもって』というよく聞くワードが体現されて、きな子たちにもいい反面教師になっています。

 ただ、このままだと流石に可哀そうだと思ってしまうのも事実。でも期限は期限、個人の事情で自分だけ後ほど発券なんてどこに連絡してもできるはずがなく、メイちゃんの自業自得とは言えども何故かきな子まで途方に暮れそうです。

 

 さっきからずっとバス停の前にいるのですが、ここまで通過する車も一切なし。もし東京に帰る車がいたら相乗りをお願いできるかもしれないっすけど、そんな都合良くは――――

 

 

 その時、車のクラクションが後ろから聞こえました。

 きな子たちは揃って後方へ振り返ります。

 

 

「あなたたち、もしかしてバスに乗り遅れて絶望してる? 良かったら乗ってく?」

 

 

 車の運転席の窓から顔を出したのは、パッと見ただけでも分かる美人さんでした。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「なるほどねぇ、それで地面にキスしそうなくらいに項垂れてたってわけか」

 

 

 お姉さんも東京に帰る途中とのことだったので、ついでに乗せてもらうことになりました。現在は信号もない山の道を軽やかに進行中です。

 この調子であればチケットの発券期限の時間には間に合うため、さっきまでこの世の終わりを迎えるといわんばかりの顔をしていたメイちゃんの表情は一転、頬の緩みを隠し切れないほどの満面の笑みとなっています。

 

 なお、この車が意外と広く、3列シートで1列が2人掛け。前の運転席にお姉さん、2番目のシートにきな子と夏美ちゃん、最後尾にメイちゃんと四季ちゃんが乗っています。

 

 

「それにしても、どうして私たちがバスに乗り遅れて困ってるって分かったのですの?」

「バスの出た時間がさっきだし、それでバス停で手と膝をついてる人がいたら、そりゃ乗り過ごして落胆してるとしか思えないでしょ」

「それでも、きな子たちが東京に帰る人っていうのは分からない気が……」

「あなたたちみたいなキラキラした女の子、あんな田舎にいるわけないじゃん。それに私が用事で行っていたところの近くでスクールアイドルのイベントがあるって聞いてたから、東京から来たスクールアイドルの子たちなんじゃないかと思ってね。ここは山と言っても東京からアクセスいいし、来るならそこからかなぁと」

「おぉっ! お姉さん凄いっす!」

「まぁ頭だけは良いから洞察力はあるかもね。弟には敵わないけど」

 

 

 ちょっとした情報からそこまで分かるなんて、まるで先生みたい……。先生もきな子たちの一挙一動から心まで読めるくらいに洞察力が鋭くて、先輩たちからは逆にストーカー染みていて怖いことがあると言われるくらいっすから。

 

 そんなお姉さんの見た目は、四季ちゃんが科学室で着ているような白衣を纏っていて如何にも研究者って感じがします。綺麗な黒髪でスタイルの良い美人さんで、自分にこんなお姉さんがいたら会う人会う人に自慢できること間違いなし。さっき弟さんがいると言っていたので、その弟さんはさぞこのお姉さんのことを誇りにしていると思うっす。

 

 そして他愛もない世間話をしながらも、車は信号のない道をどんどん進んでいきます。

 そんな中、お姉さんの携帯が鳴る。お姉さんはきな子たちに断りを入れると、スマホスタンドに装着されているスマホを操作して通話モードに切り替えました。

 

 お姉さんとの雑談が一旦途切れる。その機会を待っていたのか、四季ちゃんは前の席にいるきな子と夏美ちゃんを巻き込んで小声で話しかけてくる。

 

 

「この人、ちょっと怪しい」

「えっ、怪しいってどういうことっすか?」

「なんか笑顔が胡散臭いというか、人間観察が趣味の私の目からして、この人はそう簡単に信用してはいけないとセンサーが反応してる」

「それは四季の感情ですの……」

「そうそう、お前の勘違いだ。私の危機を救ってくれた人が悪い奴なわけないだろ」

「それもメイの感情ですの……」

 

 

 四季ちゃんの言わんとしていることは何となく分からないこともないです。このお姉さん、人当たりも良くていい人には見えるのですが、どうも笑みに黒色が見え隠れしているような感じがします。人を見た目だけで決めつけるのは良くないと心の中では分かっていつつも、何やら怪しい雰囲気があるのは否めないっす……。だから四季ちゃんもお姉さんが会話に参加していない今を見計らってきな子たちに話しかけてきたのかもしれません。

 

 

「感情だけじゃない。見て、この座席と座席の間。赤い液体がついてる。それに夏美ちゃんが座っているドアと窓の淵、メイが座っている足元、そこにもある。他にも色んなところに」

「ホントだ。ちょっとネバついてる……?」

「拭き取ってあるみたいだけど、この見る者の嗜虐心を駆り立てられる赤色は――――血」

「えぇっ!? どうして車に!?」

「血? ブラッディの……血ですの!?」

「そう」

 

 

 科学に強い四季ちゃんが言うのであれば間違いはない……っすかね? でも透明感のない赤色なので血と言われてみれば確かにそう見えるかも……。

 

 

「こんな座席のあちこちに血が付いてるなんて、そんなヤバい人なのかよあの人……」

「1人で3シートなんて大きな車に乗っているのも怪しい。そして後部の2シートには血が付いてる」

「それってもしかして、血が付いていた何かを後部座席に乗せて運んでいたってことっすか!?」

「じゃあ私たちが今座っているところに……」

「血が付いた何が乗っていたのかもしれませんの……」

 

 

 想像して青ざめるきな子たち。

 そんな中、お姉さんの電話の会話が聞こえてくる。

 

 

「あぁ~あの時ね。起きたら小さくなっていて嘆きそうになってたんだって? でも小さい彼も可愛いじゃん? 愛で殺したくなっちゃうくらいにはね、あはは♪」

 

 

 

「ち、小さくなった……? 細切れにしたってことかよ……」

「それに愛で殺したくなるとも言っていた。つまり愛しすぎるが故に殺意が……ヤンデレ?」

「しかも彼って言ってたっす。つまりその相手は人間……」

「ストップ! そういう猟奇系は苦手なんですの!! 強制的に妄想されるからストップ!」

 

 

 この人が危ないってことが電話の会話の内容から察したきな子たち。研修者っぽい白衣を着ているので、危ない実験をしている人なのではないかと疑います。

 このままこの人に車に乗り続けてもいいのか不安になってきました。東京へ行くとは言っていたものの、本当は実験動物としてどこか研究所にでも連れていくのではないかと危機感を煽られるばかり。下車してやり過ごしたいのは山々ですが、生憎ここは山の中、途中で降りることはできなさそうです。

 

 

「あっ、この道の途中にパーキングエリアっぽいものがあるとマップにありますの。そこでトイレに行きたいと言って外に出れば……」

「このお姉さんからもおさらばできる」

「でもお別れするとして、メイちゃんはチケットの発券に間に合わなくないっすか……?」

「そうだった!」

 

 

 ここでお姉さんをエスケープすると、今度はメイちゃんの目的が果たせなくなってしまうジレンマ。でも自分たちの身の心配には変えられません。でもこのままメイちゃんの目的を捨てるしかないのかと、きな子たちに迷いが生まれます。

 

 

「そうだ、先生。先生に電話して来てもらうのはどうっすか?」

「でも今日は先輩たちの模試の監督で駆り出されてるんだろ? 来てくれるのかよ」

「もうこの時間だと終わってるはず」

「だったら次のパーキングで降りて、先生を呼んで隠れてますの」

 

 

 作戦が決まりました。先生なら何とかしてくれると、きな子たちの思いは一致です。

 あとは無事に見つからずに隠れ切ることができるかどうか……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

『なに? 悪い奴の車に乗ってた?』

 

 

 パーキングに立ち寄り、お手洗いに行きたいとウソをついて4人でお姉さんから逃げてきました。軽食を奢ってくれるとも言われたのですが、その優しさも自分への疑いを少しでも減らすための策略に見えて仕方ありませんでした。

 

 今はお姉さんから隠れつつ、夏美ちゃんの携帯で先生に電話で連絡をしています。

 

 

『お前らの勘違いなんじゃねぇの? もし仮に危ない奴だとしたら、普通に考えて余計な奴を乗せねぇだろ』

「でもあのお姉さんとっても怪しい雰囲気っす! 笑顔が何というか、黒い……?」

「ちょっと腹立つ感じの笑顔でもあるな」

「それに言ってましたの。『彼』なる人物を小さくしたとか、愛で殺したいとか……」

『愛で、殺す……?』

「ヤンデレかメンヘラか。拗らせすぎて、誰かを手にかけたようにしか思えない。座席に血もあった」

『えっ、マジかよ……』

 

 

 電話をスピーカーにしつつ、みんなで先生に状況を伝えます。もちろんお姉さんに見つからないよう、常に周りを警戒しながら……。

 先生はきな子たちが言ったことに対して最初は疑いを持っていたものの、話を聞くうちに声色も深刻になっていました。どうやら事の重大さが伝わったようで良かったっす。

 

 

『分かったよ。そこならバイクを飛ばせば30分くらいで着く。それまでどこかに隠れてろ』

「バイクって、車で迎えに来てくれよ! 私たち乗って帰れないだろ!」

『故障したから修理に出してんだよ。大丈夫、俺と合流すれば後はなんとかするって』

 

 

 やっぱり先生が来てくれる安心感は地球上の誰よりも一番っす。最初きな子たちだけでイベントに参加するとなった時も、先生が引率しないだけで心配事が増えたくらいっすから……。

 

 先生が駆けつけてくれる間も、もちろんきな子たちはお姉さんから隠れ続ける必要があります。お手洗いに行くと言ってからもう相当の時間が経っており、きな子たちがウソをついたことはお姉さんも分かっているはずです。

 できるだけ動かずに4人で固まっていますが、高速道路のパーキングエリアではないので敷地がそれほど広くなく、ちょっとでも丹念に探されると見つかってしまう可能性は高いです。見つかってしまったら、またあの怪しい笑顔で車に乗せられる未来が……!!

 

 そうやって隠れている間にも先生と連絡は取りあっています。

 

 

『その女ってどんな奴なんだ? 特徴はあるか?』

「人当たりはいいですの。私たちが無警戒で車に乗り込んでしまうくらいには」

「含みのある笑みを見せることが多い。そのせいで怪しいオーラを醸し出してるけど……」

「それと白衣っぽいものを着てたぞ。外行きの服にしてはおかしくないかアレ」

「あとは、とっても美人さんっす! あの人がいい人で、自分の姉だったらみんなに自慢できます!」

『そ、そうか。結構特徴的だなソイツ……』

 

 

 こうしてお姉さんの情報を口に出してみると、改めてあの人が美人で怪しい魔性の女性ってことがよく分かります。もしかして、きな子たちのようにその魅力に騙された人たちがあの人の実験台に……。もしかしたら座席に付いていたの血も……!? あぁ~ダメっすダメっす! 想像したらダメっす!

 

 また暫し時が経ち、そろそろ先生が到着する時間となりました。このまま見つからなければそのまま逃げ出せますが――――

 

 

「おい、あの人こっちに来てるぞ!」

「やっぱり探し回ってるみたいですの……」

 

 

 残念ながらそう簡単にはいかないようで、お姉さんがキョロキョロと周りを見ながらこちらに歩いてくるのが見えました。このままだと、きな子たちが隠れているところがバレて連れ戻されるのでは……!?

 

 

『お前ら今どこに隠れてんだよ?』

「駐車場やレストランから離れているトイレの中っす。あまり人がいなかったのでここでいいかなと思って……」

「ここ、掃除したばかりなのかアルコールの匂いが凄い。科学室の薬品を思い出す」

『薬品? そういやさっき白衣を着てるって……。怪しい雰囲気で、姉だったら自慢したくなるような美人……』

「おいこっちに入ってきそうだぞ! とりあえず個室に隠れよう」

 

 

 1つの個室に4人で隠れます。息を殺し、あわよくばこのトイレから離れてくれればラッキーと思いつつ、だが無慈悲にもそのお姉さんはきな子たちがいるトイレに入ってきました。

 1つ1つの個室のドアにノックして回るお姉さん。何も言わないあたりがより不気味さを増しています。中にいるのがバレないように注意していますが、遂にきな子たちのいる個室の前にお姉さんが……!!

 

 

「どうすればいいんですの……!?」

『個室にいるなら、声を変えて入ってますって1人ずつ言えばいいだろ。ちょっと話しただけだったら、声色なんて大して覚えてねぇだろうし』

 

 

 気が動転しているせいか、先生のアドバイスが何かおかしいことにもこの時のきな子たちは気づきませんでした。

 お姉さんがドアをノックして――――

 

 

「入ってるっす」

「入ってる」

「入ってるっつうの!」

「入ってますの」

 

 

 少し間がありましたが、お姉さんはノックするのをやめてトイレの外に出て行ったようでした。すぐに出ると鉢合わせる可能性があるため、少し待ってからみんなで個室から出ます。

 しかし、ここで1つさっきのおかしな点に気付きます。

 

 

「ちょっと待つっす! きな子たち、同じ個室に4人でいたっすよ!?」

『だろうな。夏美の携帯と通話してるから、4人別の個室に入ってたらさっきのアドバイスをお前らみんなが聞けるわけねぇし』

「おいこれからどうするんだよ!」

『外のトイレだったら窓があるだろ。そこから外に出ろ』

 

 

 先生のアドバイスの意図は不明でしたが、とりあえず次の指示に従います。入口が見張られている可能性があるので、4人で窓から脱出します。

 

 

「次はどうするっすか??」

『そうだな。もうすぐその女が――――お前らの目の前に来るんじぇねぇか?』

「「「「えっ……!?」」」」

 

 

「やっほ! 随分と探したよ。逃げ出すなんて――――悪い子たちだねぇ♪」

 

 

「ちょっと先生!?」

「どういうことだよこれ!?」

 

 

「大丈夫。ソイツ、俺の姉だから」

 

 

「「「「えっ!?」」」」

 

 

 きな子たちの後ろから先生が現れました。

 姉って、もう何がなんだかどういうことっすかぁ~っ!?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 なんと、お姉さんは先生のお姉さんの秋葉さんだったらしいっす。驚きすぎて4人でしばらく唖然としていました。

 そして現在、先生のバイクをトランクに乗せて秋葉さんの車でみんなで揃って帰宅中。その間に色々と気になっていることを先生たちに聞いてみました。

 

 

「この座席に付いた血はなんだったんですの?」

「それは血に似た液体なだけ。実験で使おうと思って積んでたんだけど、持ち出すときにちょっと垂れちゃってね。1人で大きな車に乗ってるのも、山の方の実験施設に行くために薬品とか色々詰め込むためだよ」

「じゃあ小さくなったとか、殺したいほど愛でたいっていうのは?」

「この前の実験で零君を幼児化させただけ。それはもう可愛すぎて、抱きしめ殺しそうになったってことだよ」

「だけって言い方もおかしいけどな」

「先生の子供姿、見てみたいかも」

「そうだな。今度アルバムとか見せてくれよ」

「…………いたんだよなぁお前らも」

 

 

 好きな男性を細切れにして自分のモノにしたいほど好きなのかと思っていましたが、どうやらきな子たちの勘違いだったようです。侑さんの時もそうですが、きな子たち勘違い癖がかなり甚だしい様な気も……。

 

 

「それにしても、この子たちがLiellaの1年生ちゃんなんだね。しばらく結ヶ丘に行ってないから、Liellaに新しい子が入ったことは知ってたけど顔は知らなかったよ」

「お前、きな子たちが入学してから一回も授業に来てねぇじゃねぇか」

「えっ、秋葉さんって先生だったんすか?」

「非常勤講師だけどね。去年はちょくちょくそっちに行ってから、かのんちゃんたちは私を知ってるはずだよ」

 

 

 そりゃきな子たちが知らないわけっす……。先生にお姉さんがいること自体は知っていましたが、まさかこんな形で初対面することになるなんて……。

 

 

「さっき運転中に楓ちゃんから電話がかかってきてね。帰る途中で買い物を頼まれていたからその念押しと、この前零君を子供にしちゃった時のことを追求されちゃって」

「その時の会話でコイツらが変に勘違いしたってことか……」

 

 

 恥ずかしい……。秋葉さん自体は普通に会話をしていただけで、結局はきな子たちが変な方向に妄想をしてしまったせいでこんなことに……。

 

 

「それにしても、この人が秋葉さんか。先生が言ってたこと、大体合ってるかも」

「へぇ、零君が私のことを? なんて言ってたの?」

「おいその話はいいだろ」

「悪魔っぽくて」

「笑顔が黒くて」

「雰囲気も怪しくて」

「危険な人だって」

「ふ~ん……。今度はどんな姿になってみたい?」

「んだよそれ!? いい大人が根に持つんじゃねぇよ!!」

 

 

 仲がいいのか悪いのか。でも先生のお姉さんだし、根は良い人なん……っすよね??

 

 

 ちなみに、メイちゃんのチケット発券はギリギリ間に合いました。これで万事解決、でいいっすよね??

 




 ようやく秋葉さん登場!
 どうやら普段から怪しい雰囲気を漂わせているようで、きな子たちが勘違いするのも無理はないかも……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

チャームポイントを曝け出せ!

 澁谷かのんです。

 今日は休日ですが、2年生は全国模試のため学校に集まっています。

 とは言ってももう終わっていて、今は模試の後の空き時間で生徒会の倉庫の片づけをしているところ。実は文化祭で使用したものがたくさん置き去りになっていて、いつか片付けよう片付けようと言って全然やれなくてズルズルとずっと引っ張ってたのがこれまでの出来事。普段の放課後は授業や部活、生徒会活動があって片付けの時間すらあまり取れなかったんだけど、今日は模試で終わりなのでいい機会だと思って可可ちゃんたちにも手伝ってもらって片付け中です。

 

 ちなみにきな子ちゃんたち1年生はイベント参加のために山奥の街へ。先生はさっき1年生のみんなと電話で話していたみたいで、バイクでどこかへ行くって言ってたけどなんだったんだろう?

 事情は後から聞けばいいと思いつつ、私たち2年生は片づけを進めていた。

 

 

「全く、どうしてこんなに溜め込んでるのよ……」

「初めての大きな文化祭だったので、来年にもまた使えそうなものは残しておこうの精神で捨てずにいたらこのように……」

「外の倉庫には入りきらなかったと聞いていマス」

「だから生徒会室の物置を借りて保管しようと思ってたんだけど、それでももう置ききれなくなっちゃったんだよね」

「去年とは違って今年はどの出し物も気合入ってたもんねぇ。せっかく作ったのに捨てたくないって気持ちは分かるよ」

 

 

 ある程度は外の倉庫に保管してるけど、ここもほぼ限界まで物が保管してある。看板や旗と言った大きな物から、小道具や小物まで多種多様。それらはハンドメイドしたものも多く、だからこそ思い出の品として保管しておきたいって気持ちがあったんだと思う。ただ毎年そんなことを続けていたら溢れることは確定だし、そもそもほとんどが1年に1回しか使わない物で、しかも来年に流用できるかも分からない物も多いので断捨離することを決意。もちろん作った人には許可を得てね。

 

 そんな感じで私たちLiellaの2年生組が処分できそうな物を選定する中で、もう1人この片付けに参加している子が――――

 

 

「なんでアタシがこんなことに駆り出されなくちゃいけないのぉ~。メンドくさっ」

 

 

 七草七海ちゃん。

 2年連続で私とは同じクラスであり、一応親友。一応って付けちゃったのは先日の文化祭でそれはそれは色々あったから。どうやら先生のことを物心が付いた時からずっと慕っていたみたいで、文化祭までは私たちと先生の関係を見守っていたらしいんだけど、あまり進展がなかったのを見るに見かねて遂に表舞台に出てきたって感じかな。

 

 七海ちゃんは秋葉さんによって『先生と恋愛するためには私たちの恋をサポートしなければならない』命を受けているようで、それまではさりげなく私たちのサポートをしていたと言っていた。確かに私が可可ちゃんと2人でスクールアイドルをしている時からやたらと気にかけてくれていて、あの時は親友だから助けてくれていると思ってたんだけど、さっき言ったみたいにどうやら結構な打算だったみたい。

 

 性格も見た目もその頃とは全然違っていて、去年は三つ編みで制服も着こなす、言葉は悪いけど少し地味目ではあった。だけど今はマゼンタを濃くしたような髪色に染め、三つ編みではない普通のツインテールになっている。制服も気崩してスカートも短い。喋り方もなんていうか、煽り口調で心を見透かしたような態度を取る。今も私たちに聞かせるような声色で独り言を言ってるし、正直全然掴めない性格になってしまった。いや、この性格が七海ちゃんの素と言った方がいいのかな。

 

 

「そもそも七海さんは生徒会の役員ではありませんか。これも立派な生徒会の仕事ですよ」

「そうやって言っておけば都合よく動かせると思ってぇ! これだから集団に属する下っ端ポジションは嫌いなんだよ」

「じゃあどうして生徒会に入ったの……」

「そりゃあ澁谷ちゃんたちを近くで監視するためだよ。ちょっかいを出しやすいとも言えるかな」

 

 

 絶対に後者の方が本音でしょ……。

 生徒会役員を募集していた頃はまだ綺麗な七海ちゃんだったから、会計になってくれたことは助かったし、ありがとうとも思っていた。役員をスクールアイドルで固めると部活が忙しくなった時に生徒会の機能が停止しちゃうから、スクールアイドル以外の人で誰かやってくれたら、それこそ七海ちゃんのような色んな人や部活を手助けするヒーローさんに入ってもらえるのは大助かりだった。

 

 ただ、本人の蓋を開けてみるとこんな感じだからなぁ……。

 

 

「去年は葉月ちゃん1人でも仕事が回ってたから、役員になったところでそこまで苦労はしないかなぁって思ってたんだよ」

「もう可可たちの前では形振り(なりふり)構わずデスね、ななみん……」

「ななみん……? はぁ、猫被っていい子面するのって疲れるんだよ。唐ちゃんみたいに頭空っぽでも生きていければ幸せだったんだけどねぇ」

「誰が空っぽデスか誰が!! どこが空っぽにみえマスか!?」

「幼そうな見た目と脊髄反射で喋ってそうなその単純な性格」

「詳しく説明しなくてもいいデス!!」

「求めてきたのそっちじゃん」

 

 

 七海ちゃんてなんていうか、人の欠点を言語化して攻撃するのが得意だよね……。そのせいか煽り能力が高く、可可ちゃんみたいな煽り耐性がない人がこうして手玉に取られちゃうくらい。悪い人ではないことは分かってるんだけど、やっぱり恋のライバルって感じで意識されてるのかなぁ私たち。

 

 

「そんなことを言うのなら、ななみんの背は可可よりちょっと低いじゃないデスか!! 幼さで言えばそっちの方が適任デス!」

「胸は大きいから」

「むっ、ロリ巨乳というやつデスか……」

「そうそう。センセーはエッチな子が大好きだからね、アタシの存在そのものでもみんなに勝ってるってわけ♪」

「エ、エッチな子……!?」

 

 

 先生ってそうだったの!? 普段の先生を見ていると硬派っぽいからそんなことはないと思ってたんだけど、幼い頃から先生のことを教え込まれてきた七海ちゃんが言うのなら間違いないのかも……。

 片づけをしながらも、2人の会話に耳を傾けてしまう私たち。先生がどんな女性が好きかはもちろん、そういえば先生自身の情報ってあまり聞いたことがないことに気が付く。私たちのことは根掘り葉掘り心を漁ってくるのに、自分のことはあまり話さないもんなぁ先生って。

 

 

「エッチなこと……。好きなのデスか、先生が……」

「そうだよ。だって男だもん。それに好きじゃなかったら、あれだけたくさんの女性とお付き合いしてないでしょ。人望で女性の心を惹いているのは確かだけど、結果的には身も心も捧げている人が多いってことは……」

「身も……!?」

 

 

 男性と結ばれるってそこまで覚悟しておかなきゃいけないことなの!? それとも先生だけ!?

 私の脳内に先生とベッドインしている妄想が浮かび上がる。先生がそこまでやり手なんだったら、私も近い将来こうなっているかもしれないと思うと顔が熱くなる。それはみんなもそうみたいで、もう片付けの手は一切動いていない。七海ちゃんが可可ちゃんに向けた強制妄想攻撃の流れ弾でみんながダメージを受けていた。

 

 

「でも唐ちゃんは私ほどじゃないけど胸はそこそこだから、普通にセンセーは靡くと思うよ? 無邪気なロリ顔JKってだけで需要あるし」

「その評価をされても全く嬉しくないデス……」

「いやそれがチャームポイントってやつでしょ。アタシにそう評価されても微妙だと思うけど、先生に褒められたら嬉しいでしょ?」

「そ、それは……」

「『可可は無邪気で可愛いな』とか、『童顔なのに胸は大きくて興奮するよ』とか。そうやって2人きりになって、身体をあちこち触られたらどう思うのかなぁ~?」

「あ、あぁ……ッッ!!」

 

 

 また七海ちゃんに遊ばれてる……。

 先生が好きだという気持ちを最大限に利用されているのはもういつものこと。私も私で恋煩いには弱い方だけど、それはみんなも同じで、恋愛経験のない奥手な私たちの心を好き勝手に弄り回してくる。七海ちゃんからすればこれこそが精神を強くするための特訓らしいんだけど、私たちで遊んでいる時の本人はとても楽しそうだし、本当にそうなのかと疑わざるを得ない。

 

 

「もう、そんなくだらないことやってないで早く片付けて帰るわよ。ただでさえ模試終わりで疲れてるのに……」

「でもさっきは耳をかっぽじってるかってくらい耳の穴を大きくして、ずっとアタシたちの会話聞いてたよね? ツンデレもいくところまでいくとただのむっつりだよ、平安名ちゃん♪」

「は、はぁ!? 誰がスケベよ!?」

「まあ分からなくもないデス」

「アンタはどっちの味方なのよ……」

 

 

 攻撃の矛先がすみれちゃんに向く。

 すみれちゃんは()()()()()()にはあまり興味がなさそうだけど、どうなんだろう? でもスタイルは女性の私の目から見ても抜群だし、美人で雰囲気だけならエレガントさがある。結局は知れば知るほど庶民っぽいんだけど、見た目だけであってもその優雅さでファンを惹きつける力があるのは素直に尊敬だよ。

 

 それで、七海ちゃんが語るすみれちゃんのチャームポイントは――――

 

 

「美人寄りで胸も大きいってことで、脱げばセンセーも勝手に興奮してくれるよ」

「なにそれ適当すぎない……?」

「いやいや、脱げばいいってのは女性にとって最高の誉め言葉だよ。だって肌を晒すだけで男が勝手に欲情してくれるんだよ? コスパとタイパどっちもいいじゃん」

「そんなこと言われても、先生が興味を持ってくれないと意味ないんじゃ……」

「いくら女性経験豊富なセンセーでも、美人の裸となればドキドキするよ。想像してみなよ、夜のホテルで2人きり、自分を求めてくれるセンセーを……。いつも優しいセンセーが、自分の前だけで少し肉食系になって迫ってくる……」

 

 

 恥ずかしい!! 自分が攻撃されているわけでもないのに、勝手に妄想が広がってしまって恥ずかしい!!

 でも確かに先生って時々上から目線で肉食系の片鱗を見せることがあるし、すみれちゃんみたいな綺麗でスタイルのいい女性が脱いだら我慢できなくなっちゃうのかも……。

 

 すみれちゃんは顔を真っ赤にして私たちに背を向けると、流し込まれる妄想を振り払うためか片付けの手を動かし始めた。

 

 

「次は葉月ちゃんのチャームポイントだね」

「まだやるのですか……?」

「まあ葉月ちゃんは生徒会長でお堅い性格だけど、胸はそれなりに大きいからそのギャップだけで男は悶絶するよ」

「ふ、不要ですそんなギャップ!!」

「えぇ~? 普段は真面目でエッチなことなんて無縁みたいな顔している女の子が、脱いだらスケベな身体してるって男の興奮を一番滾らせるシチュエーションじゃん」

 

 

 女の私にはその良さが全く分からないけど、男性ってギャップ萌えみたいなのが好きなのかな……。可可ちゃんの時も童顔だけど身体はいいから興奮させられるみたいなこと言ってたし……。

 なんか、七海ちゃんと一緒にいると知らなくてもいい男性の性癖の情報を強制的に取得させられてる気がする。

 

 

「先生はもっと誠実な方です。たまに手を抜いて楽をすることもありますが、それは私たち全員を満遍なく面倒を見てくださって疲れているからであって、それは労働に対する正当な休暇。つまり七海さんの言うような不誠実なこと、先生は絶対にしないはずです」

「でも複数の女性と付き合ってるよね? それは普通のことなの??」

「そ、それは私には及ばぬお考えが先生に……」

「もう認めちゃいなよ。センセーの世界は一夫多妻制で不誠実で、そんな人の側にいるのなら自分も不誠実にならないとって。想像してみなよ、生徒会長として毎日毎日責務の重圧に押しつぶされている中、唯一の癒しがセンセーに身体を捧げること。普段は生真面目な自分が重荷から解き放たれて裸になり、それを受け入れてくれるセンセーのことをね」

「先生が、受け止めてくれる……?」

 

 

 やっぱり生徒会長ともなるとストレスって溜るのかな? 今は私たちがいるけど、去年までは生徒数が少なかったこともあってかずっと1人でやってたんだもんね。その時から先生は恋ちゃんのことを機にかけていて、1人で生徒会顧問みたいなことをしていたから、そりゃ恋ちゃんの先生への依存度が高くなるのも無理はない気がする。

 

 だからこうやって七海ちゃんの妄言に簡単に捕まっちゃって、妄想の世界から帰ってこられなくなっちゃうんだよね……。私たち、いつもこんな展開になる気がする……。

 

 

「次は嵐ちゃんか」

「やっぱり私もなんだ……。私はみんなみたいにスタイルが良くないから、身体でどうこうっていうのは無理なんじゃないかなぁ」

「分かってないねぇ。貧相な身体にはそれだけの価値があるんだよ。嵐ちゃんは背も低いロリ体型。それつまり、男のロリコン性癖をくすぐるんだよ」

「そ、そうなんだ……。でも先生にそんな趣味があるとは思えないけど……」

「あのね、男ってのは誰しもがロリコンなんだよ。先生は今年で24歳、私たちは17歳。歳の差がないように見えて小学1年生と中学1年生の差くらいあるんだよ?」

「確かに、私の身体にも需要がある……!?」

「そうそう」

 

 

 あの策士と呼ばれたちぃちゃんですら騙されそうになっている。自分の身体が貧相だってことを気にしていたことは知ってたから、だからこそこういった甘言に誘導されちゃうのかも……。

 本当なら幼馴染を元の世界に戻してあげたいけど、自分の身体にも希望があると知ったちぃちゃんは心なしか嬉しそう。だから下手に声をかけるのが躊躇われてしまう。七海ちゃんがこっちを見て口角を上げ薄ら笑みを浮かべてきたので、どうやら私が口出しできないことはお見通しみたい。なんか悔しい……。

 

 

「ロリ体型の裸を見るっていうのは、男にとってそれはそれは興奮を煽られるんだよ。背徳感って言うのかな、犯罪臭がするから見てはいけない、でも見たいという誘惑。嵐ちゃんならそれを叶えてあげられるんだよ。だって自分さえ脱げばセンセーを満足させられるんだから。しかもこの中でそれができるのは、成長が微妙なあなただけ。ある意味でアドバンテージなんだよ」

「私だけが、先生に特別を与えてあげられる……??」

「そうだよ。そのちっちゃいおっぱい、ちっちゃいおしりで、センセーの中の背徳感を刺激して、その快楽に捕らわれたセンセーを独り占めできちゃうんだから」

「先生とそこまで……!!」

「ちょっとちょっと!! 吹き込みすぎ!!」

 

 

 七海ちゃんの口車が上手すぎてちぃちゃんが変な性癖に目覚めそうだったので、慌てて元の世界に引きずり戻す。幼馴染が露出魔になったら一体どうしてくれるの全く……。

 

 

「ま、今日はこのくらいかな。遊んだ遊んだ」

「もう本音を隠さなくなったね……」

「遊びたかったのも本当だけど、これもみんなとセンセーを結びつけるための作戦の1つだよ。自分の魅力を知ればセンセーにもアプローチしやすくなるでしょ」

「そのアプローチの仕方が問題な気が――――って、あれ?」

「ん? どしたの?」

 

 

 可可ちゃん、すみれちゃん、恋ちゃん、ちぃちゃん。みんな七海ちゃんに言葉巧みに誘導されて羞恥心をボロボロにされている。

 そう、みんな。Liella2年生のみんな――――うん、やっぱり!!

 

 

「私は!?」

「へ?」

「私にはないの!? そういった私にだけできるアプローチみたいなの!?」

「なに? さっきまで否定してたのに、今度は求めるって情緒不安定過ぎない?」

「い、いや、みんながアドバイスされてるのに、私だけされてないのはなんでかなぁと思っただけで、別にアドバイスの中身はどうでもいいって言うか……」

「フフッ、欲しがりさん♪」

「違うから!! ハブられたことを気にしてるだけだから!!」

 

 

 別に身体を使って先生の気を引こうだなんて一切思ってないけど、私だけその手段がないっていう事実がね……。内容はどうでもいいし実行もしないけど、私だけチャームポイントなしって言われてるみたいなのがちょっと引っかかる。

 

 そして、七海ちゃんは私の正面に立つと、片手を私の肩に置いた。

 

 

「渋谷ちゃんはね、チャームポイントないよ」

「はぁ!?」

「だってスタイルは平安名ちゃんや葉月ちゃんより下だし、かといって唐ちゃんのようなロリ顔でも、嵐ちゃんみたいなロリ体型でもない。つまり――――下位互換だよ♪」

「いやそうかもしれないけど、そういうのを無理矢理にでも見つけて煽るのが七海ちゃんでしょ!?」

「私をどんな目で見てるのかな……。ていうか、煽られたいの?」

「私だけチャームポイントなしっていうのはそれはそれで……」

 

 

 そりゃ私よりもみんなの方が魅力的だと思うけど、こう真正面から特徴なしとか言われるとそれはそれでちょっと腹が立つ。しかも下位互換って……あっ、いやいや、こうして感情的になるから七海ちゃんの策略に嵌っちゃうのか。みんなももっと冷静でいられれば妄想に連れ込まれることもなかったもんね……。

 

 

「あっ、でも声だけはいいよね。歌声だけは自慢できるポイントだとしたら……」

「だとしたら??」

「おぉ、食い気味だねぇ。声がいいってことは、性行為の時にいい声で鳴けるってことじゃん?」

「へ?」

 

 

 七海ちゃんがニタリと笑みを浮かべる。

 これもしかして、踏み込んじゃいけない話題だったやつ? 感情的になってたのは私もだったってこと!?

 

 

「じゃあセンセーとヤる時に、センセーの興奮がより増すようなメスの声で鳴けばいいと思うよ♪」

「ふえっ、えっ、ちょっ……えっ!? それチャームポイントなの!? 私の!?」

 

 

 いらない妄想が脳内を過る。

 ダメダメ! そんなことを想像したら自分がエッチな子みたいじゃん! それに妄想内の先生にも現実の先生にも申し訳ないよ!!

 

 

「あぁ~そういやこのあと用事あるんだった。それじゃあ渋谷ちゃん、みんな、今日のアドバイスを糧にセンセーへのアプローチ頑張ってね♪」

「ちょっ、逃げるの!? 待って!! 他にあるでしょ私のチャームポイントぉおおおおおおおおお!!」

 

 

 満足したのか七海ちゃんはこの場から颯爽と逃げ出してしまい、これ以上の追及はできなくなってしまった。

 結局みんな恥ずかしがったままだし、私は変なチャームポイントを押し付けられるし……。

 

 えっ、私の特徴の活かし方って本当にベッドの上で鳴くことだけじゃない……よね??

 

 




 Liellaのキャラって何故かスリーサイズが公開されてないんですよねぇ。なのであまりキャラのスタイルについて詳しく言及できないのですが、皆さんの世間的な評価を参考に今回はネタにしてみました。
 まあこの小説で女の子のスタイルを語るのは様式美みたいなものですから(笑)


 そういや2話連続で零君がサブキャラになってしまったので、そろそろ復帰させないと……





☆10評価をくださった、幻聖さん、ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

次なる一歩:逸る気持ちと昂る感情

 

 ただでさえクラスの担任と部活動の顧問を受け持っているってのに、生徒会の監督まで押し付けられてから早1年半以上が経過した。

 毎日担当クラスで帰りのホームルームをした後、生徒会に寄って役員たちの仕事ぶりを確認し、部活でLiellaの練習を見て、隙間時間で雑務をこなす毎日。ぶっちゃけ大変で面倒だと思うこともあるが、好きでやっている仕事なので苦ではない。女子高で教師をしてるのも、若い女の子の輝いている瞬間を見るのが俺の夢だしな。

 

 そんなわけで、今日も生徒会室に立ち寄ることにする。流石に1年以上同じルーティーンを繰り返しているからもう慣れた。

 そう、慣れたと言えば、俺と同じくずっと生徒会役員のアイツとの時間も――――

 

 

「よぉ」

「先生。お疲れ様です」

 

 

 部屋には恋が1人で作業をしているだけだった。今日は1人で書類整理をしているのか忙しいと思うのだが、律儀にも手を止めて顔をこちらに向けて挨拶をするあたり、流石はお嬢様としての礼儀を仕込まれている。朝の挨拶もわざわざ立ち止まってお辞儀するくらいだしな。これまでたくさんのお嬢様キャラを相手にしてきたが、ここまで綺麗な格式を感じられる存在はあまりいなかった。他はダイヤとか栞子とか、そのあたりくらいか。

 

 性格が固いとも言えるが、今はこれでもかなり柔らかくなった方だ。去年Liellaに加入する前なんて不機嫌か怒ってる顔しか向けてくれなかったからな。こうして挨拶を交わせるだけでもあの頃と比べたら奇跡に近い。

 

 

「他の奴らはどうした?」

「かのんさんときな子さんは部活に行っています。『ラブライブ!』で使用する衣装の作成が大詰めなので、そのお手伝いにと。本日の生徒会作業は私1人でも余裕をもって捌ける量のため、私から部の方へ先へ行くようにお願いしたのです」

「そういやそんなこと言ってたな。で、七草はどうした? アイツは何もねぇだろ」

「今日はお休みみたいです。やることがあるからと……」

「今度は何を企んでるんだか……」

 

 

 学校に隠し部屋を用意し、その中に性行為用の大きなベッドを用意。更には俺の意識を混濁させてそこに連れ込むくらいの奴だから、正直何を考えているのかさっぱり分かんねぇ。ただでさえ秋葉っつう警戒対象が常に俺の周りをウロチョロしてんのに、そこにもう1人増えるのは勘弁してくれ。そんな奴らの相手をするくらいならLiellaの面々と恋愛していた方が圧倒的に楽だ。正常な思考回路を持つ女の子の存在にありがたみを感じるなんて、俺の人生ってどれだけ変な奴らに囲まれてんだよ……。

 

 頭の中で愚痴を溢しつつ、テーブルから離れているソファに深く腰を掛けて持ってきたノートパソコンを開く。幸いなことにリモートで事務作業できる環境は整っているため、忙しない雰囲気の職員室から離れて仕事ができるわけだ。

 

 

「先生? 今日はもう私1人で作業できるので、お忙しい先生がわざわざ監督してくださらなくても……」

「お前だけなら静かだからな、俺もここで作業させてもらうよ。それに一応ここの顧問でもあるから、生徒1人にして放ってはおけねぇだろ」

「相変わらず律儀ですね」

「普段の俺を見てそう思えるのなら、認識を改めた方がいいぞ」

 

 

 軽く笑いながら俺に似合わない言葉を放つ恋。

 最近は良く聞く謎の賞賛の言葉。『律儀』『優しい』『面倒見がいい』『お人好し』など、背中が痒くなりそうな言葉をどの女の子の口からも放たれる。俺を辱めて殺すのが目的なのではと疑ってしまうくらいだ。まあ誉め言葉を素直に受け取れない自分の性格が捻くれているだけなのかもしれないけど……。

 

 

「律儀じゃないですか。1年半も、私が皆さんに冷たくしていた頃からずっと生徒会室に足を運んでくださっていたこと、忘れたとは言わせません」

「仕事だからな。そういうのは律儀とは言わねぇ」

「私が1人だった頃からずっと足蹴く通い続けて、そんな個人的な仕事がどこにあるのでしょうか?」

「なんなのお前、今日はやたらと吹っ掛けてくんじゃねぇか」

「ふふっ、すみません。こうして2人きりになることって最近だと珍しいと思いまして、つい喋り過ぎてしまいました」

 

 

 コイツがジョーク交じりで会話を繰り広げるなんて煽りか何かと疑ってしまったが、どうやら本人のテンションが高かったからのようだ。

 性格が丸くなった今でもみんなの前でこんな冗談を言う奴ではない。俺と2人きりの時だけ子供っぽくなるので相当信頼してくれているらしい。凍った視線で凝視されていた頃が懐かしいな。

 

 しばらくの間、お互いの作業に集中していた。書類を捲る音とキーボードの打鍵音だけが部屋に小さく響くだけで、俺の日常とは思えないほどの平穏で静かな時間が続く。

 ただ、恋は作業中もチラチラと俺の方を見てくる。気付いていないと思っているのか、気付いているの承知で見つめているのか。どちらにせよ気が散って仕方がない。

 

 

「何か用か?」

「えっ、あっ、い、いえ、特には……」

「つい好きな人を目で追ってしまうっていうアレか?」

「察しが良いというのも困りものですね……」

 

 

 こちとらもう何十人の女の子と恋愛して来てると思ってんだよ。熱い視線から凍てつく視線、尊敬の眼差しから軽蔑の眼差しまで、もう女の子がこの世で抱く全ての感情を目から発せられたことがある。

 それに頬を染めながらチラチラ見られていたら、いくら女心に疎くても自分に気があるんじゃないかって気づくだろ普通。

 

 

「七草に言われたことでも気にしてんのか?」

「っ!? 本当に、先生は何でもお見通しですね……」

「教師だからな。生徒の様子を察する能力はあって損じゃない」

「教師というはそうですけど、教師生活2年目で既に達観され過ぎでは……?」

「これまで色々あったからなぁ……」

「先生が遠い目に!? すみません! 余計なことを思い出させてしまって!!」

 

 

 思い返せば、明らかに高校生や大学生がやるような恋愛してねぇよな俺の恋沙汰って。ヤンデレの相手なり失っていた悲惨な記憶を蒸し返されたり、自分に恋している女の子ばかり集めた学校を勝手に作られたり、挙句の果てにキスをしなきゃ死ぬ病気だったりと、なんかもうまともに恋愛したことがないレベルだ。だからこそコイツらとの日常は割と平穏であり、七草やウィーンの登場があったとは言えどもまだこれまでの非日常と比べると安寧は保たれている方。今は、ていうかようやくまったりできてるよ。

 

 俺の事情はさておき、どうやら恋も初めての恋愛事情の渦巻きに巻き込まれて悩んでいる様子。かのんもこの前サニパに相談してたから、文化祭の後夜祭で見た余裕そうな態度は実は強がっていただけらしい。初めて男性を好きになったのに、いきなり横からライバル登場でどうしたらいいのか迷っているのだろう。何もかもが初めての経験なので仕方ないと思うが、ここまで戸惑いを与えられたんだから七草にとってはあの攻撃は効果抜群だったのだろう。

 

 

「先生の仰る通りです。先生とは今までの関係で良い。動くとしてもいつか動き出せばいいとは思っていましたが……」

「七草やウィーンが動き出すと聞いて焦ったか?」

「そう、ですね……。でもどうすればいいのか分からなくて……」

 

 

 そりゃ今の関係で楽しくやってたのに、いきなり別の女が割り込んできて、しかも先を越されそうになると知ったら焦る気持ちも分かる。そしてこのまま何もしないわけにはいかないと、(はや)る気持ちだって分かる。

 

 

「自分の好きなタイミングで動けばいいんじゃないか?」

「え……?」

「1つ言っておくと、アイツらは別にお前らから俺を奪おうとしているわけじゃない。アイツらも俺の性格っつうか、俺の取り巻く世界のことは良く知ってる。女の子1人を選んで、他の子を切り捨てるような世界じゃないってことだ。だからアイツらは抜け駆けしようとしてるんじゃなくて、ただお前らを煽ってるだけだと思うぞ。でなきゃ自分から正体を明かす必要もなかったしな」

「そうですね。七海さんとは交流が減るどころか、最近はやたらと話しかけてくるようになりました。遊ばれているだけのような気もしますが……」

「だろうな。アイツもお前らを俺と結びつけることが自分の恋愛を進めるための任務って言ってたし、からかいはするけど悪気はねぇんじゃねぇの。なんにせよ、お前らの後押しをしてくれることには変わりないんだから」

 

 

 恋のライバルとは言えども仲が険悪になったわけじゃない。むしろ七草自身の性格を表に出せるようになったおかげか、コイツらとの交流も増えている。人を小馬鹿にする性格なので会話の展開は向こうに引っ張られがちだが、それでも恋愛を応援していることは間違いないと思う。コイツらのケツを蹴る形で、結構荒っぽい方法だけど。

 

 

「それに、アイツらが急かしてきたからってお前らが急ぐ必要はない。お前らはお前らで、お前はお前でいつも通りでいてくれればいいよ」

「しかし、ずっと何もしないというのもそれはそれで焦りを感じてしまうと言いますか……」

「いつも通りでいいじゃねぇか。いつも通り練習して、『ラブライブ!』でいいステージを見せてくれればそれでな」

「『ラブライブ!』で……?」

「あぁ。俺がどうしてスクールアイドルに構ってやってるのか分かるか?」

「……?」

 

 

 恋は首を傾げる。俺自身のことは過去のこと以外はあまり話してこなかったから、そりゃ知らなくて当たり前か。

 

 

「俺は女の子が笑顔が好きだからな。ステージ上で自然と溢れ出る笑顔と、振りまかれる輝きを見るのが夢だ。短い青春時代に、たった1つの情熱をかけて自分の魅力を曝け出す場がスクールアイドルのステージだ。俺はそこに惹かれている。だから特別なことなんてしなくてもいい、ただ自分を徹底的に磨き上げてステージに立ってくれさえすればそれでな。もちろん特別なことをするなとは言わない。お前から動いてくれてもいいし、求めているのであれば俺が手を引っ張ってやる」

 

 

 女の子の表情で一番好きなのが笑顔なだけであって、それ以外の表情も魅力的に映る。悩んでいる姿も、悲しんでいる顔も、青春の刹那に輝く表情として俺は魅力的だと思っているからだ。だから無意識に声をかけて手を伸ばしてやっているのかもしれないな。その伸ばした手の数が多すぎるのが問題になってるだけで……。

 

 

「プレッシャーをかけるわけじゃないけど、『ラブライブ!』を優勝できるくらいお前の魅力が上がれば、自然とこの関係は前に進む気がするな。何より俺がやる気になるかもしれない」

「優勝ですか。これまた大きな目標を立てられてしましましたね」

「いや俺なんかよりもお前らにとっての方が大きな目標だろ」

「そうですね。前回は負けてしまいましたから……」

 

 

 1年生の集まりのグループで準優勝ってだけでも物凄い記録だと思うけどな。

 だけど、俺が教えてきたスクールアイドルのグループが大型の大会で負けるなんてことはこちらとしても初めての経験だった。そのためか何とも言えぬ渋い顔をしていたら、まさかのコイツらに謝られてしまった。顧問として指導してくれたのに、負けて申し訳ないと。

 

 自分が負けたような気がしたのは、これまで人生でも数少ないことだ。だからなのかもしれない、今度は優勝させてやりたいと思ったのは。俺は自分のためにしか行動しないし、女の子に手を差し伸べるのも全て自己満足のためだ。

 でも、あの時は久しぶりに誰かのために何かをしてやりたいと思った気がする。だからこそ戦力増強に向けきな子たち新入部員の勧誘にも力が入り、当の本人たちからはストーカーみたいって言われてしまった。

 

 

「つうわけだ、お前らの目標が『ラブライブ!』優勝なんだったら、その雄姿を見せつけることで俺たちの関係も更に一歩先へ進める。そして自分たちの目標も達成されて一石二鳥じゃねぇか。だからいつも通りでいいんだよ。それとも、何か特別なことをしたいのか? 俺と」

「先生と、特別なこと……」

 

 

 何やら考え事をし始めた恋。そして少し唸り続けると、頭から湯気が出そうなくらいに顔が茹で上がった。

 俺と特別なことって、デートとかでも想像したか? いやいくら羞恥心がクソ雑魚なコイツであっても、デートの妄想くらいで今更ここまで瀕死になることはないはずだ。

 ただ、若干だけど桃色のオーラを感じる。まさか変なこと考えてねぇよな……??

 

 

「おい」

「ひゃいっ!! ち、違うんです!! 先日七海さんからチャームポイントがどうとか言われまして、それで誘惑したらどうとか何とか……!! 変な妄想はしていませんから! 断じて!!」

「すげぇ喋るじゃねぇか……」

 

 

 それはもうアレな妄想をしていましたって言ってるようなものだぞ……。

 また七草に何かを吹き込まれたってことか。そういや俺が1年生を迎えに行ったあの日、2年生組で生徒会の倉庫の掃除をするって言ってたな。その時に俺がいないことをいいことに弄ばれたのかもしれない。しかも沸騰するくらいってことはR指定が付きそうな知識を埋め込まれたってことだ。余計なことしやがって……。

 

 

「そんなことはともかく、先生と何か特別なことをしたいという気持ちはあるにはあります……」

「何かしたいことでもあるのか?」

「今はこれと言って何か決まっているわけでは……。むしろ先生がご一緒してくださることですから、何をするのかは慎重に吟味する必要があると思いまして……」

「別に1人1回って決まってるわけでもねぇし、やりたいことを好きなタイミングでやればいいだろ」

 

 

 生徒と教師という地位の壁はどうしても払拭できないのか、それともコイツが真面目だからなのかは知らないが、欲望なんてもっと前面に出せばいいのにと思ってしまう。それこそ七草やウィーンが俺を手に入れると公言しているみたいにな。虹ヶ先の連中が好きを隠さな過ぎてスキンシップが激しい奴らだったから、ここまで遠慮されると逆にもっと突撃してこいって思ってしまう。ま、その謙虚さのおかげで平穏な日々が続いているんだろうけどさ。

 

 そもそもの話、コイツも然りLiellaの他の奴らがこうして俺と恋バナ系の話題を真正面から話せるだけでも大きな進歩だ。恋愛沙汰になると勝手に妄想を捗らせて勝手に自爆してたからなコイツら。だからこそ今この瞬間に、自分の恋愛話を想いの相手に対して直接するその度胸は凄まじく、もしかしたそこらの一般女性よりもメンタルが強くなっているかもしれない。まぁ1年半も一緒にいれば自ずと慣れるか。

 

 

「好きなタイミングって、そこまで甘えてしまって良いのでしょうか……?」

「いいよ別に。つうか何かを一緒にやりたい相手が隣にいるのに、ただ見てるだけってのはつまらねぇだろ。スクールアイドルは部活動だから何もしなくても自ずと一緒にいられるけど、それ以外でアクションするなら俺かお前、どっちかが動かないとな。俺はお前に発破をかけた。後はお前が俺と何をしたいのか決めるだけだ」

「そうですね。でも今は『ラブライブ!』に集中したいので、その後でも良いですか?」

「いいよ。いつでもいい」

 

 

 他の奴らと一緒であれば余裕で俺を誘えるが、2人きり、しかもプライベートとなるとまだハードルが高いみたいだ。その緊張も『ラブライブ!』を切り抜けることで同時に乗り越えられるといいな。

 

 それから少し時間が経ち、俺たちの作業がほぼ同時に終わった。

 

 

「終了予定時間より遅れてしましました。お話に付き合わせてしまって申し訳ございません」

「別にいいよ。2人きりの時しかできない話だったしな。有意義だっただろ?」

「はい。先生の面倒見の良さを改めて実感できて、非常に良い収穫でした。豊作です」

「んだよそれ。俺に似合わない誉め言葉を言うのはやめろって言ったろ。俺は好きでやってることだから、感謝されることなんてねぇっつの」

「そういう頑固なところも、少しカッコいいと思っちゃいました」

「言うようになったなお前も」

 

 

 やはりいつもよりテンションが高めの恋だった。しかもさっきよりも一回り。心のつっかえが取れて感情が昂っているのかもしれない。ま、俺に対して冗談を言えるようになった度胸だけは認めてやるよ。

 でも千砂都みたいにからかい上手キャラになるのだけはやめてくれ。特に褒め殺しなんて俺には似合わないからな。

 

 

「ほら、余計なこと言ってないで行くぞ。アイツら待たせてんだろ」

「はいっ」

 

 

 今日の恋の調子は高く、かのんたちからも不思議がられていた。

 心の曇りを1つ取り除くだけでここまで変われるんだ、『ラブライブ!』までにみんなと一度ずつは話しておいた方がいいかもしれないな。俺との関係をどうしていくのかを。

 




 なんだか物凄くゆったりした回だったなぁと自分ながらに思いました(笑)
 しかし、零君も自分への誉め言葉を素直に受け取らないあたり可愛いところがあると言いますか……。教師になる前は誉め言葉を受けてイキっていたので、成長したのか頑固になったのかどちらでしょうか(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去への扉:心の声を聴け!

 スクールアイドルもそれなりに歴史のあるジャンルになってきた。μ'sやA-RISEが活躍していた頃とは比べ物にならないくらいにグループ数も増え、今やその手の界隈に興味がない一般の人でも『スクールアイドル』って言葉くらいは聞いたことがあるレベルだ。

 

 そこまでグループ数が増えれば当然その歴史を築いてきたグループは憧れの対象、度が過ぎると崇拝レベルにまで崇めている奴も多くなる。学校の部活動でアマチュア集団とは言えどもアイドルはアイドル、熱狂的なファンがいるのは芸能界とそう変わらない。もうこの界隈自体、そうやって過去の伝説を持ち上げようとする風潮(夏美と言ったスクールアイドル館とか)があるくらいだしな。

 

 ちなみに俺としてはμ'sやA-RISEが伝説の神のような扱いを受けていることに違和感しかない。そりゃ日常的に隣にいた奴らだし、今でも深く付き合いのある奴らばかりだからだ。むしろパフォーマンス面ではスクールアイドル全体として知識や経験が蓄積されてきたことで、昔よりも今の方がいいように感じる。別にアイツらに魅力がないって言ってるんじゃなくて、あくまでスクールアイドルとしての魅せ方って意味でな。

 

 そういった違和感を抱く瞬間はこれまで何度もあったが、その中で最も強い瞬間が――――

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!! 今のサビのところすげぇ良かった! なぁ、先生もそう思うよな!? なぁ!?」

「はいはい、そうだな……」

 

 

 部室で動画を見ていたメイがハイテンションで俺に同意を求めてくる。

 否定したいのだが、圧が強すぎて選択肢が「はい」か「YES」の2択になっているので仕方なく頷くしかない。

 

 色々な世代のスクールアイドルたちと付き合ってきている都合上、世代が進めば進むほどこうしたオタクのようなファンでかつスクールアイドルって奴と知り合うことも増えた。そうなると当然こうして歴代たちのライブ映像を一緒に見る機会があるわけだが、俺はその歴代たちとも身近で一緒にいたためにどうも盛り上がれない、というか熱狂する要素がない。未だにμ'sやA-RISEが神格化されていることが違和感だし、自分は別に女の子が魅力的なところを見たいだけでライブパフォーマンスに関しては素人なので、さっきも言った通りぶっちゃけ今と昔で差があるとは思えない。

 

 物凄いギャップ。だけど今のスクールアイドルの子たちと付き合っていくには歴代を崇め奉る習慣に慣れていく必要があるため、そこが一番面倒なところだな。スクールアイドルの子たちと一緒にいるのは楽しいけど、唯一でそこの価値観の違いだけが疲れるところだ。

 

 

「おい先生、さっきから欠伸ばかりしてるけど真面目に見てるのかよ。こんなにいいライブ、何度見ても盛り上がるはずだろ」

「いや、何度も見てるからこそだろ。そのライブ映像だって俺が高校時代に生で観たやつだし、これまで付き合ってきたグループ全員がその映像を見てたから俺だって何度も見てきてんだよ。お前こそ何回も同じのを見て、何度も同じところで盛り上がってよく飽きねぇよな」

「先生は情熱が足りないんだよ。やっぱり大人になると社会の現実っていうのを思い知って、自分の夢も情熱も失うって本当のことだったんだな」

「結構非情なこと言うなお前……」

 

 

 まさに通りなんだろうけど、俺の場合はかろうじて夢は残されてるぞ。だからこそこうやって女子高にいるわけだしな。この学校に来たのは秋葉と理事長の策略だけど……。

 

 それはさて置き、コイツはもう自分が熱中できる趣味を何も隠さなくなっている。こうして本心から燃え上っているコイツを見ていると、入学したて頃に強面でツンケンしていた頃とのギャップが凄まじく感じる。人を遠ざけるオーラがあったという意味では、恋が氷の女王様だった頃とよく似ているな。

 

 

「半年前はオタク趣味なんて興味ないどころか、鼻で笑うような不良みたいな目をしてたのに、今となっては瞳も目尻も垂れて限界オタクだもんな。人は変わるもんだ」

「あの時は本当のことを話すと馬鹿にされると思ってたんだよ。こんな怖い顔した奴がスクールアイドル好きだなんて、皆に知られたら入学早々ぼっち確定だから……」

「周りに本心を隠してあんな強面を振りまいてたら、それこそ友達できなかっただろ。そういった意味では四季がいてくれて良かったな」

「それはまぁ、そうかもしれない……」

 

 

 どうやら高校に入る前からの知り合いらしいんだけど、四季がメイに強い興味を持っていたから高校までついてきたそうだ。でもそのおかげでクラスから完全に孤立せずにいられた上に、スクールアイドルに入る後押しも四季との関係があったおかげだったので、これはもうアイツに足を向けて寝られねぇな。

 

 

「それに、こうしてスクールアイドルをやれているのは先生のおかげでもあるよ。四季以上に纏わりついてきてたから、良くも悪くも忘れることはなさそう」

「そんな寄生虫みたいに言うなよ……。やりたいことがあるのにそれをずっと隠してるのが勿体ないと思っただけだ」

「それで毎回毎回声をかけてくるか普通。先生が先生じゃなかったら、女子高生に声をかけるただの犯罪者だぞ」

「だったらお前もずっと練習を覗き見して、十分に怪しかっただろ」

 

 

 あの頃のメイは自分の中の大好きを押し殺していたのにも関わらず、完全には隠しきれなかったようで、Liellaの練習をちょくちょく覗き見ていた。クラスメイトのきな子がかのんたちと関わりを持ってからは同級生がスクールアイドル入りしたのが気になったのか、覗き見する頻度も多くなり、もはや俺や四季だけでなく他の奴らにすら奇行がバレそうなほどであった。それでもずっとかのんたちに見つからなかったのはコイツの隠密性能が高かったのか、それともアイツらが鈍感なだけだったのか……。

 

 そんな感じで、コイツは当初ただのファンとしてLiellaを眺めているだけで、自分がスクールアイドルをやってみたいという気持ちを隠していた。それに気付いた俺は周りをコソコソしていたコイツに何度も声をかけたのだが、案の定最初の方は迷惑がられていたな。また気難しい奴が現れたと、俺も俺で呆れてたけどさ。

 

 

「先生も大概おかしかったぞ。先輩たちを覗き見ていた私を見つけて、追い払うとか注意するのかと思えば普通に話しかけてきて。開口一番が『気になるのか? スクールアイドル』って、自分で言うのもアレだけど覗き見してた奴に言うような言葉じゃないなって」

「そりゃお前、あれだけキラキラした目をしてたらスクールアイドルに興味があるって思うだろ。それにこれまでの経験上、スクールアイドルに付き纏っている奴は何かしらアイドルに思い入れのある奴らばかりだったからな」

 

 

 μ'sのにこや、Aqoursの花丸やルビィ、虹ヶ先の栞子やミアといった奴らが真っ先に思い浮かぶ。もちろんそれ以外にも大なり小なりスクールアイドルに興味をもっていたけどやるか渋っていた奴もいる。俺がいない時に加入した奴もいるが、スクールアイドルをやりたいと思っている奴は目が違う。周りには気付かれてないかもしれないけど、俺の目を誤魔化せない輝きと憧れがあるんだ。

 

 メイなんてまさにそうで、かのんたちの練習を見て1人で盛り上がっているものだからスクールアイドル好きと気付かない方がおかしいだろう。

 それにだ、俺だってコイツがただのファンなら覗き見を注意するだけで終わっていたと思う。だけど話している内に自分でもやってみたい意志を感じられたため、それはもう後押ししてやるしかないと思った次第だ。やりたいことがあるならやりたいって素直に言えばいいのに、どいつもコイツも尻込みするから俺の仕事が増えるんだよな……。

 

 

「確かにあの頃の自分はスクールアイドルをやりたかったけど、同時に向いていないとも思ってたからああやって遠くから眺めて応援することしかできなかった。それに私はツリ目で見た目も強面だから、なおさら自分には似合わないって思ってたよ」

「眉間にしわを寄せると威嚇してる風にしか見えなかったからな。最初その目を見た時は不機嫌のハードルが低い奴だって思ったくらいだ」

「それを直接本人に言う精神がどうかしてる。教師として生徒にかける言葉とは思えなかったよ、あの時。『スクールアイドルをやりたいんじゃないのか?』って聞かれたから『この怖い風貌で似合うと思うか?』って聞き返したら、即座に『怖いな、よく見ると』って! これでも私は女なんだからちょっとは遠慮しろよ!」

 

 

 遠慮なんてしてたら女の子の本心は見抜けないんでね。とは言いつつも自分勝手に人の心を引っ掻き回すからデリカシーがないだの言われるんだろうけど……。

 

 メイが強面で悩んでいるのは出会った初期から本人の口から聞いていたので知っていた。確かに覗き見していた時の目はLiellaの練習風景を生で観られて感動していた輝きはあったものの、時たま眉間にしわを寄せて仏頂面になっていることもあった。スクールアイドルに興味があるのと同時に憎んでるんじゃないかとも思ってしまい、だからこそ声をかけたって経緯もある。

 結果的に遠目の時に強面になってしまうのは視力があまりよくないから、という理由が後から四季によって語られた。つまり憎むどころか大好きなLiellaをもっとよく見たいという、ある意味で純粋な気持ちの現れだったらしい。だがその面の怖さが原因で、友達と言えるのが四季くらいになってしまったわけだが……。

 

 

「怖いとか思っておきながら、結局私に何度も何度も話しかけてきて物好きな先生だなって思ったよ。こんなスクールアイドルに似合わない奴なんて放っておけばよかったのに」

「見過ごせなかったんだよ。やりたいことがあるのにそれを隠して、でも練習を覗きに来るくらいには好きで好きで堪らなくて、結果本心を隠しきれていない中途半端なお前をな。そんな情緒不安定な奴、放っておけないだろ普通」

「放っておくんだよ普通は。教師だから生徒の心配をしてただけかもしれないけど……」

「別に俺が教師だからとか、お前が生徒だからとか、そういった職業の差は関係ないけどな。女の子が困っていたから助けた、それだけ」

「女しか助けないのかよ……」

「俺の夢に男は含まれていない」

「教師としては満点だけど、人間性には問題ありって理事長が言ってたことは本当だったんだな……」

 

 

 なに生徒に吹き込んでんだあのババア。自分では存続させられなかった学校を救った恩人になんて言い草だ。まあ男は見捨てて女を救うって言ってることは最悪だからな。そもそも俺の周りに男がいないから問題になってないだけで……。

 

 

「それにだ、私は自分を『女』として見られたいってのはあるけど、『女の子』って呼ばれるのには抵抗があるんだ。そんな可愛い存在じゃねぇし……。だから先生が目をつけるほどじゃねぇってことだよ」

「可愛いと思うけどな、俺は」

「は、はぁ!? どこがだよ!? 顔も怖いし口調も汚いし、こんなガサツな女の子を誰が可愛いって!?」

「そうやって自分の魅力に気付いていないところだよ。スクールアイドルを初めて何か月も経ってるのに、まだ似合わねぇとか思ってるのか?」

「それは先生のおかげで少しは改善したけど……。でも愛想のいいきな子とか夏美とか、美人の四季の方がまだいいだろ……」

 

 

 スクールアイドルを始めてからは自分に対してある程度の自信がついてきたメイだが、それでもまだ自分が強面風貌なことは少し気にしている様子。まあスクールアイドルをやってるんだから周りがみんな美女美少女なのは仕方がない。アマチュアでもアイドルなんだから、容姿のレベルが高い奴らで集まらないと人気も出ないだろうしな。

 

 その悩みはスクールアイドルになる前から漏らしていたことで、俺もその時からコイツの悩みは知っていた。だからこそ――――

 

 

「あの時も言っただろ、他の奴らと比べる必要はない。スクールアイドルやるような奴はみんな可愛いんだから、比べるだけ時間の無駄だ。だったらすみれみたいに自分がNo.1と思っている方がまだマシだよ。どうしても比べてしまうのであれば、俺がお前だけの魅力を引き出してやる。顧問としてもそうだし、男として女の子を輝かせるのは当然だ、ってな」

「そんな恥ずかしいこと、真正面から良く言えるなって思ったよ。しかも『そんな眉間にしわ寄せるなよ。いい顔なのに勿体ないな』って、褒められたのは四季以外で初めてだった」

「自分の気持ちにウソは付けないんでね。それにあの頃のお前は自分に自信もなくて、本心を隠したがる面倒な奴だったからな、相手にするならまずは自分から本心を曝け出さないとって思ったんだよ」

 

 

 自分に自信がない子ってのは他の子と自分を比べがちだから、まず比較する必要がないことを教え込むことが重要。それでも気にするのであれば、お前の魅力をまず俺だけに魅せてくれとお願いする。もちろんそれで全てが解決するわけじゃないけど、その子の行動理念がちょっとでも変わってくれればそれでいい。隙さえできれば心に入り込む手段はいくらでもある。

 

 

「そこからだったよな、お前がスクールアイドルをやりたいって漏らしたのは」

「こんな私でも受け入れてくれる人がいる、見てくれる人がいるって思ったからな。それに『誰にも話せねぇし、笑いもしない。だからまず俺だけでいいから話してくれ。お前のやりたいこと』って、真剣に聞かれたら言うしかないだろ。そこまでひたむきに応援されたらもう逃げるわけにはいかねぇじゃん。あっ、もしかしてそうやって私の逃げ場をなくしていたのか?」

「どうだかな。俺は聞きたかっただけだよ、お前の心の声をさ」

 

 

 その子の本心が聞ければもうこっちのものだ。ストーカーと言われようとも、ねちっこく話しかけてきていると文句を言われようとも、その子の心を解放することができれば話は簡単に進む。

 結局のところ、コイツは自分がスクールアイドルになれない理由を探していただけだ。やりたいって気持ちは根底にあったわけだから、誰かがコイツの悩みを受け入れて、それでも後ろには引かずに後押ししてやるだけで良かったんだよな。

 

 同期のきな子や四季、夏美はもっと分かりやすい奴だったのに、コイツはひたすらやらない理由を自分に言い聞かせてたから、自分で自信をつけさせるのに苦労した思い出がある。それでも今ではステージ上でいい笑顔を見せてくれるから、やっぱり俺の見立ては間違ってなかったし、なによりコイツの心配は杞憂だったってことだ。今ではその強面ながらイケメンと見られることも多く、そういったファンも少数ながらいるっぽいしな。

 

 

「本当に、先輩たちも言ってたけど先生が心の中を掘りに穿(ほじく)ってくるってマジの話だったんだなって。ちょっとでも隙を見せたら先生の想いが雪崩れ込んできて、いつの間にか一歩を踏み出している。これ、ある種の洗脳教育じゃねぇか??」

「失礼な。もう何年こういうことをやって来たと思ってんだ、慣れてるからに決まってるだろ」

 

 

 μ's時代からカウンセリング地味たことをやってるから慣れるのは当たり前だ。それにスクールアイドルの子ばかりを相手にしてるわけでもないので、その子の本音を聞き出すために無茶をしたことはコイツらの想像以上に多いと思うぞ。自慢することじゃねぇけど……。

 

 

「そこからはあまり邪険にされることはなくなった気がするな。むしろ笑顔が増えて、そっちから話しかけてくれてたっけ」

「だ、だって私を立ち直らせるだけ立ち直させておいて、その後はあまり絡んでこなくなったじゃねぇか! あれだけねちっこく話しかけてきたのに急に……」

「そりゃ後はお前がスクールアイドルに入るってアイツらに伝えるだけだからな。もしかして、俺に会えなくて寂しかったとか?」

「う、うるせぇ!! 自惚れんな!!」

 

 

 顔を真っ赤にして言われても説得力ねぇ……。 

 ただコイツから話しかけてくるようになったのは本当で、自分への自信の問題を解決した後はもう1つの問題を解決すべく俺を頼ってきたわけだが、もうその時点でコイツの中で俺が信頼を置ける人物になっていたことに嬉しく感じた。別に打算的な結果を求めてるわけじゃないが、女の子から頼られるって気持ちいいもんな。

 

 ちなみにそのもう1つの課題ってのは四季のことで、メイは自分がスクールアイドルに入ることで四季が1人ぼっちになるのを気にしていたみたいだが、それはまたアイツと昔話をする時にでも語られるだろう。

 

 

「ま、なんにせよまたそうやって自分が好きなことを誰の目も気にせず楽しめるようになったのはいいことだな」

「それはそうだけど……。何もかも先生の想い通りになってるみたいで釈然としねぇな」

「捻くれてんなぁお前。ただどんな手を使おうと、お前の心からの笑顔が見られたから俺の勝ちってことで」

「なんだよそれ。感謝はしてるけど……」

「そういうのは小さな声じゃなくて聞こえるように言うもんだぞ」

「聞こえてんじゃねぇか!! ほら、さっさと仕事に戻れ!!」

「お前が動画を観るから一緒に来いって誘ってきたんだろうが……」

 

 

 恥ずかしさのあまり部室から追い出しやがったアイツ。すげぇ理不尽を押し付けられたような気がしたけど……。

 でも、そういった恥ずかしがる姿を向けてくれるようになっただけでも、俺たちの関係は良い感じに進んでいるのかもな。

 




 今回はメイの個人回でした!
 零君ってみんなにカウンセリングをやってるので、もはやこの小説の世界線のLiellaは零君が作ったまでありますね(笑)


 ちなみに今回の投稿で話数が555話といい感じの数になりました!
 何か記念回とか描きたいのですが、今のLiella編の第二章の終了予定話数から逆算すると、あまり特別編を描けないジレンマが……。
虹ヶ先映画が上映している期間で虹ヶ先の特別編、というより侑とのいい感じのお話を1個考えていたのですが、明らかにタイミングを失ってしまったのでいつか公開したいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ウィーン・マルガレーテからの挑戦状

 『ラブライブ!』の予選開始まで残り1か月を切り、それに伴いスクールアイドル界隈も盛り上がりを見せていた。

 ただ同時にスクールアイドルたちが1年で最もピリつくのも、予選の情報が発表されるこの季節。最近はグループの増加から予選で相当な数を振るい落とすため、発表されるお題に沿ったオリジナルのライブパフォーマンスが求められるようになった。過去に実績のあるスクールアイドルから曲やダンスの振り付けをパクった奴らがいたからそういう趣向になったらしいのだが、オリジナルってのはそれはそれでハードルが高い。だからこそスクールアイドルたちが最も緊張の高まる季節がお題が発表される今ってことだ。

 

 そのようなこともあってか、この時期は仲の良いグループ間であっても行動ライブや練習など公的な接触は避けることが多くなり、動画配信などでも練習シーンを投稿することは少なくなる。。自分たちの手の内を晒してしまうことにもなるし、何より本番のライブで魅せる際に相手に与える意外性が減ってしまうからだ。一瞬の感動で観客を魅了するのがライブなので、自分たちのパフォーマンスをあらかじめ公開するのは自ら予選に落ちようとしていることに等しい。

 

 スクールアイドルがいくらアマチュアと言っても、コンテンツとしてビッグになってしまったので規律の設定や競争心が煽られるのも仕方のないことだろう。

 もちろん、我が校のスクールアイドルであるLiellaも緊張感が高まってきている。2年生は去年のリベンジで、1年生は初出場として、それぞれ異なる意気込みを持ちながらも一体感はこれまで以上に増していた。

 

 ちなみにその熱狂はLiellaだけではなく学校全体にも及んでいる。去年ほぼ無名のこの学校の名を広めたのがかのんたち2年生組のため、その影響でスクールアイドルはこの学校にとっても象徴的な扱いとなっているからだ。だから今年はスクールアイドルにとって大切なこの時期に応援弾幕が作られたりと、1年生たちが入ったのも相まって去年よりも熱量は高い気がする。

 

 学校中がそんな空気の中、俺はいつも通りスクールアイドル部の部室へと向かう。

 そして中に入ると、案の定というべきかさっき言った通りの緊張感が走っていた。

 

 

「なんだよこの空気。今日はまだ課題発表の日じゃねぇだろ」

「あっ、先生。実はお客様が……」

 

 

 かのんがおどおどしながら話しかけてくる。みんなも同じ雰囲気だ。

 全員の視線が集まる先。真ん中の会議用テーブルの席に着座していたのは――――

 

 

「ウィーン・マルガレーテ……」

「ごきげんよう。神崎零先生」

 

 

 一際目立つ存在がいたので誰かと思ったら、最近何かと界隈を騒がせているウィーン・マルガレーテだった。

 コイツに会うのはこれで2度目であり、1度目はこの学校の文化祭に来た時。あの時は俺の顔を見ただけで照れてどこかへ行ってしまったが、今は割と平常心のようだ。

 

 

「どうしてここにいんだよ?」

「遊びに来ただけよ。『ラブライブ!』の準備も順調で、今日は特に予定もなかったしね」

 

 

 クールな面持ちでこちらを見上げながら会話をするウィーン。

 こうして見るとやっぱりエレガンスだなコイツ。スカートから露出させているきめ細やかな白い肌の脚。そして中学生にしてはそれなりにある胸。その細長い脚を組み、腕を組んで胸が押し上げられている様を見ると、本人のスタイルの良さも相まってここにいる女子の誰よりも大人に見える。この中で一番年下なのにも関わらずだ。それに顔つきも切れ目で鼻の形も良くて整っており、艶やかなピンクパープルの髪は思わず目移りしてしまうほど綺麗だ。流石はオーストラリアの血を引く美少女ってところか。

 

 ただ、その華やかさのせいで隣にいるとこちらが緊張してしまう。なるほど、部室が緊張感に包まれていたのは予選の課題発表が迫っているからではなく、コイツの厳かなオーラのせいだったのか。

 

 

「遊びに来たって、なにすんだよ」

「別にこれと言って。せっかく来たのだから、練習でも見させてもらおうかしら」

 

 

 その瞬間、みんなの目が丸くなる。

 そりゃそうだ。冒頭で説明した通り、『ラブライブ!』の予選が迫っているこの状況ではなるべく自分たちの手の内は隠したいところ。だからここでライバルとなるLiellaの練習を見学したいだなんて、そんなことを言ったら――――

 

 

「まさか偵察!? 偵察デスか!?」

「えぇっ!? こんな堂々とっすか!?」

「これはスクープですの! あのウィーン・マルガレーテが他のグループの懐に……!!」

「そ、そんなことをしても私らから盗める技術なんて何もねぇぞ!!」

「メイ、それ自虐」

 

 

 ほら、こうやって騒ぎ出す。

 だがウィーンは全く動じず、腕と足を組んで目を閉じて完全に無視を決めている。こっちのホームなのにも関わらず既にコイツに主導権を握られているLiellaだが、精神的にもコイツの方が大人っぽいし仕方のない話か。

 

 

「別にパフォーマンスを参考にしたいとか、そういった意図は一切ないわ。自分のライブは私自身で1から10まで作り上げる。だから練習を見て何かしようとか思っていないから安心しなさい」

 

 

 偵察と疑われても戸惑っている様子は一切ない。それどころか自分の意見を堂々と主張したので、その圧に押されてコイツらが逆に押される形となっている。何という強キャラ感。こりゃ口喧嘩したらコイツの圧勝だろうな……。

 

 

「で? どうするのよ千砂都。アンタが部長なんだからアンタが決めなさい」

「うん、いいと思うよ。下心がないのも分かってるし、せっかく遊びに来てくれたんだからスクールアイドルなりのおもてなしをしないとね」

「そうですね。むしろ練習を見てもらって、もしアドバイスなど頂けたらこちらにとってもプラスですし、お互いに良い刺激になると思います」

「それじゃあ見学させてもらおうかしら」

 

 

 そんな感じで流れるようにウィーンのLiella練習見学が決まった。

 それにしてもコイツ、ここに来た目的は特にないって言ってたけど本当にそうなのか? 何もないのにここに来る意味もないと思うんだけど、秋葉や七草の関係者だから裏で何か考えてるんじゃないかって少し疑ってしまう。まあコイツはソイツらの中でも唯一の穏便派だと思ってるから、変な心配は無用かもしれないけど……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 いつも通り練習場である屋上にやってきた俺たち。

 Liellaの面々は今スクールアイドル界のトップを走るウィーン・マルガレーテに練習を見学されていることもあってから、いつもより更に気合が入っている。

 

 そんな中、俺とウィーンはフェンスを背に腰かけてアイツらの練習を眺めていた。ウィーンはかのんたちのダンスの動きを1つ1つ目で追っており、やはり同じスクールアイドルとして思うところがあるのだろう。ただ口出ししたりすることは一切なく、本当にマジの見学なんだとコイツの態度を見て思った。ぶっちゃけ実力ではコイツの方がまだ一回りくらい上回っているだろう。それでもアイツらの練習を見て見下すような言葉も態度も取ることがないのは偉い。中学生ながら出来た奴だって思うよ。

 

 あっ、そういやコイツに言っておきたいことがあるんだった。

 

 

「言い忘れてたけど、この前は助けに来てくれてありがとな」

「助けに……? あぁ、七海に監禁されたアレのこと」

「そう。あの時お前サッサと帰ったから言えなかったんだよな。連絡先も知らねぇし、秋葉を介して人づてで伝えるのもおかしいと思ったから、こうして直接言えて良かったよ」

「帰ってしまったのはまぁ……あなたに初めて会えて色々と感情が昂ってしまって、居ても立っても居られなくなったから……」

 

 

 ウィーンは指で毛先を丸めながら俺から目を逸らす。やはりまだ俺と相対するのは恥ずかしさが残るのか、完全に平常心を保てるわけではないようだ。つまり部室にいた時は結構な虚勢を張っていたってことか。大人びているのは間違いないけど、そういう未熟なところはまだ中学生で子供だな。

 

 

「でもよく分かったな、何もない壁の中に隠し部屋があって、そこに俺たちがいるなんて」

「七海は昔から好きなのよ、あぁやって裏でコソコソ動くこと。そして自分の野望を果たすために、専用の秘密の部屋を用意するのもね」

「とんでもねぇ奴だな。それでも幼馴染なんだから、アイツの味方をするのかと思ってたよ」

「やり方が汚いのよ、あの子。どうせ今でもあの子たちに色々迷惑をかけているんじゃないの? そうやって煽って焦りを与えることで、1日でも早くあなたと結ばれるように仕向けている。もっと真っ向から恋愛のアドバイスをしてあげればいいものを、性格が悪いせいで誰かを玩具にして遊ばないと気が済まないのよ」

「よくご存じで……」

 

 

 七草こそ平穏だった結ヶ丘に投下された起爆剤だ。Liellaの中にも学校の中にもああやったメスガキっぽい奴はこれまで存在しなかったので、アイツの本性の開花はいい意味では賑やかに、悪い意味では厄介者の登場として扱われている。さっきウィーンが言った通り、俺とかのんたちの関係を後押しはしてくれているものの、その手段が姑息なので素直に感謝できるかと言われたらそうではない。アイツが煽るおかげでかのんたちが俺と向き合い始めたのは事実だけどさ。

 

 ちなみにあんなメスガキっぽい性格は俺たちにしか見せず、他の人たちには以前通りの優等生を演じている。その普段とのギャップのせいでこちらも対応を変える必要があるのが面倒なんだよな。

 

 

「それがあの子があなたと付き合うための条件だから、多少の無茶は仕方ないとも思ってるわ。なにせずっと待ち焦がれていた相手と遂に会えたのだから。ま、あなたがこの学校の教師になったのも、七海のクラスの担任になったのも全部仕組まれてのことだけれど」

「そりゃそうじゃないかって思ってたから、今更驚いたりしねぇよ……」

 

 

 待ち焦がれていた相手が現れたで話が終わっていればいい話だったのに、何もかも仕組まれていたことを知らされると途端に気分が萎えるな。秋葉が絡んでいる時点で何となく分かってたから別に思うところはないけども。

 

 ちなみに待ち焦がれていたってのは本当のことらしい。文化祭で聞いたことだが、七草もウィーンも過去を辿ると虹ヶ先の歩夢たちと同じ境遇で同じ経験をしていた。ただコイツらの場合は母親の胎内にいたってこともありまだ生まれてなかったが、その母親が俺に救われて、その後にこの世に生を授かった。

 

 物心が付く幼い頃から秋葉による刷り込み教育が行われていたのは虹ヶ先の奴らと同じ。七草とウィーンが同年代のかのんたちよりクセや我が強いのは、虹ヶ先の人間という要素があるからかもしれない。

 

 俺という存在を叩き込まれたことで、会ったこともないのに抱えきれなくなる愛を生み出された虹ヶ先やコイツらだが、秋葉のことだ、簡単に俺と付き合わせるなんてことはしない。付き合うためには課題を設け、虹ヶ先の場合はスクールアイドルとしてメディアに出るくらい有名になること、ウィーンは『ラブライブ!』の優勝、七草の場合はかのんたちと俺とくっ付けることである。アイツの横暴にも程があるが、自分を助けてくれた男の姉ということで幼い頃から刷り込み教育を行っているので、特に疑いもなく従ってしまうのだろう。独裁政治の教育か何かか……?

 

 

「そういった意味では私も七海には負けないくらいあなたを待っていた。だからこそ、今度の『ラブライブ!』で優勝して見せる。全てはあなたのため、その気持ちだけでスクールアイドルをやってきたのだから」

「そっか。応援してるよ」

「あっさりしてるのね、意外と。あなたはこの学校の所属であの子たちの顧問なのだから、私のことをライバル視していると思ったのだけれど」

「俺は女の子を贔屓しないさ。お前が俺と真剣に向かい合おうとしてくれてるのなら、俺はそれに応えるだけだ。そこに所属も顧問も関係ないよ」

「そう。聞かされていた通り懐が広いのね」

 

 

 広いって言えるのかこれ? 自分で言うのもアレだが、色んな女の子に手を出しまくる節操なしにしか思えないけど……。

 相手がどんな子にせよ、好きになったり個人的に関係を持つのは所属云々は関係ないだろう。そこに口出しするつもりはないし、他の誰にも口は出させない。コイツが『ラブライブ!』で優勝して俺と添い遂げたいっていうのであれば、それを跳ね除けることもない。

 

 ウィーンとそんな話をしていると、向こうから可可が目を細めてこちらを睨んでいた。

 タオルで汗を拭いながら、足音を大きく立ててこちらに歩み寄ってくる。

 

 

「あんだよ?」

「さっきから2人の世界に浸り過ぎじゃないデスか? 可可たちの練習見てマシタか……?」

「見てたって」

「えぇ。だったら私なりにあなたたちのダンスの改善点をまとめて、後で提出してもいいけど」

「うぐっ! そ、それは怖い気も……」

「私なりの改善点だから、特に気にする必要はないわ。あなたたちはあなたたちのやり方でライブをすればいい」

 

 

 レスバは強いな相変わらず。

 でも、俺と話に集中している中でもアイツらの練習はしっかり見学していたのか。ぶっちゃけ俺はコイツとの話に集中して練習風景はぼぉ~っと眺めてしかいなかった。その点コイツは抜かりがないっつうか、実際にスクールアイドルを極めているからこそ練習を少しみただけでも意見を出せるのだろう。

 

 そんな会話を繰り広げている中で、みんなもこちらに集まってくる。

 

 

「私は聞きたいな、ウィーンさんの意見。今後の練習メニューを作る時に参考になりそうだし、ウィーンさんがどういった練習をしているのかも気になるしね」

「おい千砂都先輩! それでもしボロクソ言われたらどうすんだよ……!!」

「いいよいいよ。私たちには私たちなりの練習方法があって、他の人は他の人の練習方法がある。みんな違うのは分かり切ってるし、他の人から見て私のメニューに非効率な部分があるのも知ってる。だからこそ意見は肯定否定問わず聞いて参考にしたいんだよ」

「そう。だったら後で教えてあげるわ。連絡先を教えておいてくれるかしら」

「千砂都先輩、怖いもの知らずっすね……」

「あはは、まぁそれがちぃちゃんだから」

 

 

 ウィーンは納得したような顔を見せる。恐らくだけど、部室にいた時はみんな緊張していたから、年下にそこまでビビるなんて人間としてもスクールアイドルとしても出来上がった奴らではないと思っていたのだろう。それは相手を見下しているわけではなく、ただ単に一般的な評価としてだ。

 でもさっき千砂都が自分に対して後退せずに向かい合ってきたことで、もしかしたらLiellaを少し見直したのかもしれない。元々馬鹿にしていたとかそんなことはないと思うし、むしろ自分と張り合うライバルなんだからビビらずにもっと自信を持って欲しいと思っていたんじゃないかな。文化祭でここに来た時もLiellaのライブは誉めてたしな。

 

 そうしてウィーンは立ち上がると、スカートで臀部を掃う。

 

 

「もう帰るのか?」

「えぇ。でも最後に1つだけ」

 

 

 意志の強い目で目の前にいるLiellaの面々を見定めた。

 

 

「私は『ラブライブ!』で優勝する。幼い頃から、いや、生まれる前からの夢を叶えるために」

 

 

 俺の顔をチラッと見た後、屋上から立ち去ろうとするウィーン。

 コイツらにとって自分たちをここまでライバル視する奴が出てくるのもこれが初めてだ。Sunny Passionはどちらかと言うと先輩ポジションなので、こういった宣戦布告をされるのも初めての出来事かもしれない。

 

 1人の相手、しかも年下の中学生を相手に真っ向から挑戦状を叩きつけられ臆するLiellaの面々。

 だが、ここで圧倒されて黙っているだけでは気概で負けている。そう思ったのか、かのんが一歩前へ出る。

 

 

「私たちも負けない。今度こそ、この9人で優勝する」

 

 

 みんなも頷く。どうやら意気込みはここにいる全員が最高潮に達しているようだ。

 かのんの言葉を聞いてウィーンは足を止める。こちらから見えるのは後ろ姿だが、うっすらと見える横顔に一瞬口角が上がっているように見えた。

 

 

「楽しみにしてる」

 

 

 そして、屋上から立ち去った。

 

 ほんの一瞬だったけど、嬉しそうにしているアイツが垣間見れたような気がする。そういや笑ったところを見たことがなかったなとようやく気付いた。

 なんにせよ、柄にもなくスクールアイドルの大会が楽しみになって来た。これまでは女の子の魅力を引き出す場としてしか見ていなかったけど、スクールアイドルに関わり始めてから数少ない大会の行方が気になるようになりやがった。

 

 それから、みんなの目も更に光が増した。

 ウィーンからの鼓舞激励が効いたのだろう。俺以外の他人に興味がなさそうにしているアイツだけど、ライバルにそんな言葉をかけるあたり意外と優しいのかもしれない。もしかしたら七草とは違う方法でコイツらの成長を促しているのかも。それはつまり俺とコイツらの関係を推し進めるためで、それは七草のためになるってことか? 幼馴染のことまで考えてるとしたらすげぇ聖人だけど、本人は絶対に口では否定するだろうな……。

 

 そして、本日後半の練習では予想通りみんなのやる気向上による熱意が感じられた。

 

 

 と思ったのだが、その練習終わりで携帯に例の件が届いており――――

 

 

「割とボロクソに言われてるわね、さっきの練習のこと……」

「でもほら、否定はされていませんし、とても的確なアドバイスだと思いますよ……?」

「恋先輩、なぜ疑問系」

「でも直球的過ぎて、心にグサッと突き刺さりますの……」

「褒めてくれたりもしてるから……。独特な表現でウッてなるけど……」

 

 

 優しい一面はあれど、スクールアイドルには厳しいウィーン・マルガレーテだった。

 




 アニメ2期を見て思ったことで、ウィーン・マルガレーテをしっかりライバルとして描いていれば展開も少しは良くなっていたのではと考えていました。
 ただ彼女をあまりにも温和なキャラにするとそれはそれでキャラとして魅力がなくなってしまうので、今回の話のようなかのんたちに理解はあるけど譲れない夢があって、それで対等なライバルというのが良い関係ではないかと勝手に思っちゃいました。

 あとクーデレキャラが好きなので、零君にもう少し甘えてるところが見たかったりします(笑)


 余談ですが、最近は結構真面目なお話が続いています。Liella編の第二章も最終回に向けてそろそろ走り出さないといけない話数になってきたので、こういったストーリーを進める話がこれからも増えますがご了承ください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

次なる一歩:ちぃちゃんフルバースト

 時には息抜きってものも重要だ。

 普通に生きている人間であれば誰しもが何らかの組織に属していると思うが、そこには立場の上下はあれど必ずトップが存在する。上になればなるほど組織を運営するマネジメント力、判断力、責任が求められる。トップは常日頃からそういった重圧に頭を悩ませており、そのせいか現代ではトップ層への昇格意欲がない人も増えているのだと言う。結局のところ、管理職になって貰える金が増えてもその使い道がないくらいに忙しくなったら意味ないもんな。一度きりの人生、もっと気楽に生きたいものだ。

 

 だが、そのトップ層は誰かが担わなくてはならない。何事もまとめ役ってのは必要で、それがいない組織なんて責任が全員に等しく分散されてしまい、やがて厄介事の押し付け合いになるだけだからな。もちろん組織のトップになるにはさっきも言ったような能力が必要になるわけだが、同時に多大なるプレッシャーとストレスも抱え込んでしまう。だからこそ常日頃から頭を悩ませているトップの奴ほど息抜きは大事ってことだな。

 

 11月下旬の放課後。場所は某所のゲームセンター。

 目の前のダンスゲームをプレイし、現在進行形で圧倒的なスコアを荒稼ぎしている奴が1人。

 

 Liellaの部長である千砂都は、しなやかな動きで難易度設定MAXのダンスを見事に最後まで踊り切った。しかも店舗内ランキングは堂々の1位。ダンス中、あまりにも華麗なダンスだったためかいつの間にか周りに人が集まり始め、ランキング1位が画面に出た瞬間に大きな拍手と歓声が上がった。

 

 千砂都はこちらに向かってピースサインを突き出すと、タオルで汗を拭いながら歩み寄って来た。

 

 

「こういうゲーム初めてやったんですけど、すっごく楽しかったですっ!」

「お疲れ。気に入ってもらえて良かったよ」

 

 

 息切れして少し疲れた様子は見られるが、本人が満足しているっぽいので俺の目論見は成功したと言っていい。これでつまらなそうにしていたら、成人男性が教え子の未成年女子をゲーセンに連れまわすただの変質者になってたからな。女の子さえ喜んでくれれば周りの目はデートをしているカップルと勘違いしてくれるだろうから。

 

 彼女を休ませるため、ゲームセンター内の休憩コーナーのベンチに並んで腰を掛けた。

 

 

「でも最初は驚きました。まさか先生が私を遊びに誘ってくれるなんて」

「最近お前忙しくてストレス溜まってただろ。『ラブライブ!』も近いからその手続きに追われて、追い込み用の練習メニューも考えて、たこ焼き屋のバイトも休まない。それでいて授業も寝ずに真剣に聞いて、宿題も忘れず、テストはいつも高得点。いつ休んでんだよって話だ」

「あはは、私はあれでも充実してるから満足って思ってたんですけどねぇ……。ストレスも別に感じたことなかったですし」

「バカ。ストレスってのは気付かない間に溜まってるものなんだよ。むしろ感じたことがないってことは、無意識に溜めてばかりで発散したことがないってことかもしれねぇだろ」

 

 

 俺が千砂都をここに連れてきたのは、そのストレスを発散させてやるためだ。コイツはスクールアイドル部の部長という立場もありながら、練習のメニュー作りも一手に引き受け、バイトもして学業にも従事するスーパーマン。体力バカでタフな性格なのは1年生の頃から知ってるけど、だからこそ無理が祟る前にどこかで息抜きさせてやろうと思ったわけだ。

 

 その息抜きの方法だが、コイツと言えばやっぱり身体を動かすことだろう。スクールアイドルの練習で動かしてはいるのだが、スクールアイドルみたいな仲間との連携で格式ばったお堅いダンスとは違い、1人で伸び伸びと、誰の目も意識しないありのままの自分を出せるダンスができる場を提供してやった。そして俺の目論見通りコイツが求める刺激に突き刺さったようで、久々に何も考えずにダンスができてご満悦のようだった。

 

 

「ありがとうございます。確かに頭を空っぽにして『うにゃぁああああああっ!!』って感じで、我武者羅に何かをしたかったんだと思います。自分で自分のことを気付かなかったのに、先生は私の本心に気付いてただなんて流石ですねやっぱり」

「お前のような思春期女子と何人関わってきたと思ってんだ。ま、慣れてるとは言い難いけどな。この世で俺が一番謎だと思ってんのが女心だから」

「あれだけたくさんの女性とお付き合いしてるのにですか?」

「外でそれを言うな……。永遠の課題だよ、女の子とのコミュニケーションは」

 

 

 女の子との関わりはそこらの男よりも断然多いが、毎回ベストなコミュニケーションが取れる自信があるかと言われたらそうではない。誰1人として性格、考え方、内に秘めてる本性は同じではないので、毎回コミュニケーションは違う対応が求められる。今のような世間話は除くにしても、真面目なシーンなんかではどう話したらいいのかワードチョイスを結構考えたりしてるんだぞ。教師になってからの出来事だと、コイツらLiellaのメンバーの勧誘の後押しをする時なんていつもそうだった。それくらい難しいんだよ、女心ってのはさ。

 

 

「えぇ~先生って繊細なところもあるんですね♪ 意外と可愛いところあるじゃないですか♪」

「お前の方が可愛いよ」

「んぎゃっ!? ちょっ、こっちが猫みたいにじゃれついたのに、ガゼルパンチのストレートで返さないでくださいよ……」

「こっちもジャブのつもりだったんだが……」

 

 

 いや可愛いなんて普通に言うだろ。そんなのでダメージを受けるのはお前の防御力が弱いからじゃねぇのか……?

 

 

「話を戻しますけど、先生見てくれていたんですね、私のこと」

「当たりめぇだろ。顧問なんだから」

「先生の場合は顧問というより、女の子だから……じゃないですか? 女性好きは相変わらずですね♪」

「女の子なら誰しも気にかけてるわけじゃねぇよ。顔が良くないとダメだ」

「うわぁ……」

「自分で種撒いておきながらドン引きするなよ……」

「だとすると、先生に気にかけて貰えてるってことは女性として魅力があるってことですよね。あっ、知り合いにスクールアイドルが多いのってそういう……」

 

 

 そりゃスクールアイドルはアマチュアと言えどもアイドルなんだから、美女美少女しか揃ってないわな。だからこそ俺の人生はスクールアイドルに支配されているのかもしれない。

 

 

「とにかく、ストレスとかプレッシャーとかでお前が潰れないようにこうして連れ出してやったってことだ」

「ふふっ、ありがとうございます。確かに最近のダンスレッスンはみんなの動きのことや、グループとしてどう魅せたらいいのかとか、ずっとそんなことを考えながらやってました。もちろんそれが嫌とかではなくて、むしろみんなの役に立てて嬉しかったんですけどね」

「だからこそ休む時は全力で休むんだ。アイツらが心配しないくらい元気でいるためにもな」

 

 

 その休むってのが1人で何も考えずにフルバーストでダンスをするってのも凄い話だ。家に引きこもってゲームをするとか寝るとか動かないことならまだしも、ダンス好きなコイツにとっては羽を伸ばして自由に動き回ることこそ最大の休息なんだよな。あまりのタフさに体力勝負をしたらもしかしたら負けるんじゃないか、俺……。

 

 

「こうして1人で何も気負わずにダンスをするっていうのも確かに息抜きになるんですけど、私にとって一番は――――えっ、あっ、はいっ」

 

 

 何か言いかけたところでゲーセンの店員に呼ばれた千砂都。

 どうやらランキング1位更新の記念で店内に飾る写真の撮っているようだ。店側からすれば自分の店でこんな美少女がランキング首位になったら、そりゃ宣伝になるし撮影もするわな。

 

 当の本人はダンスコンテストやスクールアイドルのおかげでこういう撮影には慣れており、むしろノリノリで撮影されていた。このノリの良さとコミュニケーション力、咄嗟の対応力の高さといった社交性の高さは素直に感心するよ。頭が回るからこそ心の奥底では無意識にストレスを溜め込みやすいとも言える。

 

 そして撮影を終え、千砂都が俺のところに戻ってくる。何やら手に持っているみたいだが。

 

 

「いやぁ撮影だけじゃなくて一言求められたり、お菓子の詰め合わせを貰ったりで至れり尽くせりでしたよ~」

「注目されてチヤホヤされることには慣れてるんじゃないのか? 小さい頃からダンス大会で常に上位をキープしてたって聞いたぞ」

「普通の人に比べるとそうですね。自分が好きでやってることで注目されているので、それってとても嬉しいです♪」

 

 

 自然な笑顔を向けてくれる千砂都。

 普段から表情変化が活発で笑顔も多い彼女だが、最近はさっき言ったように自分でストレスも感じられなくなるくらいの多忙さによって表情も硬くなっていたので、こうして頬が緩んでいる顔が見られてこっちも嬉しいよ。その表情を見ることこそ今回俺の最大の目的だったわけだしな。

 

 

「色んな人に注目してもらえるのは嬉しいことですけど、やっぱり一番はこうして先生が気を向けてくれることです」

「俺?」

「はい。勉強とかダンスとか、スクールアイドルとか、頑張っていい成績を取って、それで誰かに褒められるのはもちろん嬉しいことです。家族とかかのんちゃんとか、Liellaのみんなとか友達とか。その中でも一番、先生に褒めてもらえるのが何より嬉しい。だから自分でも驚くくらい舞い上がっちゃいましたよ。さっきランキング1位を取った時、先生に拍手されて『凄い」って言ってくれたこと……」

「あんなありきたりな言葉でもか」

「先生の言葉ならどんな言葉でも! 好きな人に褒めてもらうのは、やっぱり嬉しいですよ!」

 

 

 驚いた。『好き』なんて素面の状態で言えるようになったんだな。特に恥ずかしがってはいないようなので、2人きりの息抜きという恋愛色のある雰囲気が後押しをしてくれたのか。元々Liellaの中でも俺に対して容赦のないコミュニケーションをしてたしな。よくからかわれたりもしてたし……。

 

 

「あれ、もしかして私、今とんでもないこと口走りました?」

「いや。率直で素直な気持ちだったよ」

「そっかぁ勢いで言っちゃったかぁ……。まあでもこういったノリでないと中々言えないですし、せっかく先生と2人きりでのお出かけだから、これはこれでアリかなって」

「テンションたけぇなお前」

「そりゃもうっ! 何も考えずに『うがぁあああああっ!!』ってダンスができて、先生と一緒に息抜きもできてもう満足過ぎますよ♪」

「ストレス発散できたのなら良かったよ」

 

 

 実は重大な悩みを抱えて今にも爆発寸前でしたぁ~なんて、そんな爆弾を投下されたらどうしようかと思ってたから安心もした。思春期女子の心ってどんな地雷が埋まっているか分からないから、俺も上手くコミュニケーションを取っているように見えてそれなりにしっかり爆弾解除はしているつもりだ。

 

 それはともかく、千砂都の心がかつてないほどに開け放たれている。それはもうかのんたち他のメンバーが見たら『自分も一歩踏み出さなきゃ』と焦るくらいには。

 さっきのダンスゲームでは最近は見られなかった伸び伸びしている子供っぽい彼女が見られ、今ではテンションが上がり過ぎて思わず告白っぽいことを言ってしまう彼女も見られた。

 普段はLiellaのブレインとして、部長として頭脳派として見られることも多いのだが、千砂都の本来の性格はこっちだ。繊細なところはあれど、やっぱり俺はアクティブな方が似合ってると思う。全力の自分を恥じずに俺に魅せてくれているあたり、その考えは間違ってないだろう。

 

 そういや、コイツは七草やウィーンの登場にはどう思っているのだろうか? 恋は特に意識していないフリをしながらも、実は押しの強いアイツらの出現に焦っていたけど……。

 

 

「聞きたいことがあるんだけど、お前は七草やウィーンにあんなことを言われてビビってないのか?」

「あぁ~。特には」

「あっさりしてんな……」

「だって七海ちゃんは七海ちゃんだし、ウィーンさんはウィーンさん。私と先生の関係には入り込めないじゃないですか。それは私もそうで、先生と七海ちゃん、ウィーンさんの関係には入り込めないし、そのつもりもありません。それにただ向こうが勝手にビビらせてきてるだけだと思うので、それに乗ってしまうと思うツボってやつじゃないですか。だから私は私の考えとやり方で先生と距離を縮めちゃいます♪」

 

 

 つえーなコイツ。頭脳派人間だからいきなり出てきた女に好きな男を取られそうになって色々考えちゃう、みたいな展開を予想していたのだが、逆に折り合いをつけていたとは……。不安が全くないわけではないと思うが、そんなことを気にしたらアイツら(というより七草オンリー)の思い通りになってしまうのは目に見えているみたいだ。そういう分別が自分の中で筋道を立ててできるから賢いんだよなコイツ。

 

 

「それに先生は女性の受け入れ人数に制限ないですよね? だったら誰が抜け駆けするとか、そういったこと考えなくてもよくないですか?」

「人を施設みたいに言うなよ……。ま、俺も気にしていないけどな。アイツらはアイツらで相手をするし、お前らはお前らで相手をするだけだ」

「じゃあ私が気に病むことはないです。むしろその質問をされたことに驚きましたよ。心配してくれるのはありがたいんですけど、これってほら、女性と2人きりの時に他の女性の話はするなってやつです。せっかく先生と2人きりのお出かけでいい気分だったのになぁ~」

「はいはい悪かった悪かった」

「もう拗ねないでくださいよ~! からかっちゃったのは申し訳なかったですけど~!」

「笑ってんじゃねぇか……」

 

 

 こうやってチクチク発言でからかってくることも多いが、幼馴染のかのん曰く、こういった態度を取るのはよほど信頼している人だけらしい。それは同じLiellaメンバーでも例外ではないらしく、特に今のようなクソガキっぽく絡むのは『自分か先生くらい』とのこと。さっき猫のようにじゃれていると言っていたが、まさにその通りだな……。

 

 

「そういうわけで、私は私のやり方で、フルパワー千砂都でこれから先生に構ってちゃんするのでよろしくですっ!」

「元気がいいのはいいことだけど、この調子でみんなが構ってちゃんになると骨が折れるな……」

「Liellaのみんなって、意外とそういうキャラ少なくないですか? 可可ちゃんくらい?」

「確かに。でも女心はいつハジけるか分からないからな。男関係が上手く言った途端にタガが外れる奴もいるし」

「じゃあ真っ先に私がハジけてる姿を見せれば、みんなも乗り気になってくれるかも? それに先生といきなり仲良くなってる姿を見せれば、七海ちゃんの意表を突くこともできますし♪」

 

 

 明日いきなりLiellaのみんなが俺に抱き着くようなことがあれば、いつも余裕綽々の七草も少しは動揺するかもな。まあコイツは別としても、他の奴らが俺に抱き着けるような強靭な精神力があるとは思えねぇけど。

 

 余裕綽々と言えば、今のコイツもかなりその域に達している。一時期は他の奴らと同じく俺が隣にいるだけで良からぬ妄想をしていたが、今はフルバーストモードのためかそんな脆さは全く見られない。

 かつてはかのんの隣に並び立つためには、彼女の出来ないことを自分1人の力で出来なくてはいけない、かのんと同じ大人にならなければいけないと思っていた千砂都。小さい頃から歌も上手く、イジメられていた自分を助ける度胸も持っているかのんに対し、自分は弱い存在だと痛感していた。

 だがスクールアイドルに関わり始めたのを機にそれを乗り越えて、遂に自分もスクールアイドルになった。自分の弱い部分は他の人に頼って支えられてもいいという協調力も身に着けたんだ。それからもダンスを続けて自分の強みを磨き上げることはやめず、時にはかのんたちを頼りつつ、そのストイックさと協調力のおかげで同級生からも後輩からも信頼されてスクールアイドル部の部長に抜擢された。

 

 それで自信がついたおかげかもしれない、ああやって別の女からの横やりがあっても動じない精神力と、自分がどうしたいかで道を歩む決断力があるのも。

 

 

「そうか。お前がそう決めてるんだったらもう俺からしてやれることはないな」

「あっ、そうなります? 先生から構ってくれなくなるというのもちょっと寂しいですね……」

「親じゃねぇんだから……。こっちは来るもの拒まずだから、そっちから来たら構ってやるよ」

「言いましたね。本当にそっちに行っちゃいますよ!?」

「どうぞ」

「うぐぐ……」

 

 

 流石に擦り寄ってくるのは今の状態でも恥ずかしいか。いやまぁ思春期女子が好きな男と身体接触すること自体とてつもない羞恥心を抱くだろうが……。

 

 千砂都は躊躇いはしたが、ベンチに座りながらも両手をついて、こちらににじり寄ってくる。余裕綽々だった態度は消えかかっているが、本人はそれを認めたくないようで、羞恥に満ちそうになる顔を何とか押し殺してニヤついた表情をする。

 

 

「もしかして先生も緊張されてますか~? どうせ私にこんなことができないと思ってたんでしょうけど~」

 

 

 恥ずかしさが渦巻く中でお得意のからかい攻撃を仕掛けるが、ぶっちゃけ悪あがきだ。恥辱に追い詰められた状態で攻撃を仕掛けられるだけまだ他の奴らよりかは心は強いだろうが、ここまで溜め込んできたテンションの高さを消費して踏ん張っているだけなので、俺がこのまま黙って見つめ続けるだけでこっちの不戦勝には持ち込める。

 

 だけど、それだとつまらない。コイツの反応が面白いから少し驚かせたいと思ってしまう。じゃれてくる奴を突然ビビらせたらどうなるのかと考えてしまうのは人間の悪い性だろう。目の前の奴をいきなりぶん殴ったらどうなるんだろう、と考える猟奇的思考と一緒だ。

 

 そうと決めたら行動は早かった。

 俺は両手で千砂都の両肩を力強く掴んだ。

 

 

「んにゃっ!?」

「なんだよその声。本当の猫じゃねぇか……」

「だ~か~ら~っ!! 猫のじゃれつきに人間に仕掛けるような壮絶ドッキリをしないでくださいよ!!」

 

 

 人間じゃなかったのかお前……。それに全然壮絶でもなんでもねぇし……。

 興が冷めたのか、千砂都は元の位置に戻って再び腰を下ろした。ちょっと怒っていながらも、どこか楽しそうにしているのは表情から分かる。

 

 ただニヤつきは止んでいない。

 マズイ、これ何かよからぬことを要求されそうな――――!!

 

 

「もう1回ストレス発散をしたくなりました! こうなったら近場のゲーセンのダンスゲームのランキング、1位を全部私にしちゃいます!」

「えっ? ストレス溜めちゃったの俺が原因?」

「当たり前ですよ。だから――――」

 

 

 千砂都は立ち上がって俺の方を振り向く。

 

 

「息抜きが完了するまで、徹底的に付き合ってもらいます! 私を誘ったこと覚悟してください、先生♪」

 

 

 その後、体力お化けの千砂都に何件もゲーセンに付き合わされてヘトヘトになってしまった。アイツは全然疲れていなかったので、やっぱり体力勝負で負けたんじゃねぇかこれ……。

 

 ちなみにランキングは無事首位を制覇しましたとさ。これただの荒らしじゃね……? 本人が息抜きになってんのならいいけど、息抜きでランキングを独占されるほかのプレイヤーが気の毒だな……。

 




 今回は千砂都の個人回でした!
 意外と積極的なところを見せた千砂都ですが、これまで零君とこういった関係になるのは恥ずかしいと思っていただけで、1つ乗り越えればあっさり距離を詰められると知ってフルバーストモードになってました(笑)
 実際に付き合えたら超楽しそうな子だと思います!





☆10評価をくださった、多音さん、ありがとうございました!
(前回お礼言えておらず申し訳ございません!)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

強制混浴大パニック!(前編)

「マジで銭湯造ったのかよ……」

 

 

 結ヶ丘に突如として銭湯が設立された。

 前々から校舎に併設する形で何かを増築しているのは知っていたが、まさか銭湯が作られているとは思ってもいなかった。どうやら秋葉が金に物を言わせて作ったようで、去年まで資金がなくて運営困難になっていた学校とは思えないくらい豪華な施設だ。

 最初からアイツが資金援助してやれば学校の問題も解決し、恋が学校存続に病むこともなかったと思うのだが、アイツは気まぐれだからただ人を助けることはしない。今回もいつも勉学や部活に励んでいる生徒を支援したいからって銭湯を設立したらしいのだが、真の目的は何なのやら……。

 

 そして今回、オープン記念として俺とLiellaの面々が呼ばれ、新たに併設された銭湯への道を歩いている。

 まず先頭で銭湯(ダジャレじゃない)を見上げる1年生たちが感想を述べる。

 

 

「まさか銭湯が造られるなんて、都会の学校は凄いっす!」

「いやいや、こんなの普通の学校にはまず存在しませんの……」

「でもこれで家に帰らずとも汗水を流せるようになるのはいい」

「あぁ。なんならもう泊まり込みで練習できるくらいだな」

 

 

 確かに学校に銭湯があるとなれば、部活の後に一服する楽しみができてやる気は上がるかもしれない。教師としては夜を跨いで泊まり込みってのは勧められたものじゃないが、学校で合宿なんてこともできるし、生徒の活動の活発化という面ではいいのかもな。

 

 1年生たちが盛り上がっている中、俺を挟んで後ろにいる2年生たちも同じくテンションが上がっていた。

 

 

「凄く立派な建物デスね! クラス1つの生徒が丸々入れるくらいには大きい湯舟があると聞きマス!」

「それなら部活終わりに混むことも少なくなるから心配ないね!」

「えっ、毎回入りに行くのですか? これだけ豪華な施設なら夢中になってしまいそうですが……」

「健康や美容にもいい天然温泉らしいし、毎日入りに来てもいいんじゃないかしら?」

「それだと毎日が合宿みたいになっちゃうね……。それはそれで楽しいかもしれないけど」

 

 

 それが日常になったら絶対に飽きるだろ。部活終わりの疲れた身体であそこへ行くことすら面倒になってそうだ。

 

 みんなの期待が膨れ上がる中、遂に銭湯の入り口に足を踏み入れる。

 秋葉が持つ無尽蔵の金から造られたこの銭湯は入り口からしてホテルのようで、もはやエントランスと呼ぶにふさわしい豪華さがある。風呂上りでアイスキャンディーやコーヒーミルクなども食べ放題飲み放題という大盤振る舞いっぷり。学校関係者専用とは言えどもこれが無料で使い放題なんだから太っ腹だ。まぁアイツのことだから警戒は怠らない方がいいが……。

 

 エントランスから男湯と女湯で通路が分かれていて、どうやらここで別れる必要があるみたいだ。

 だが、ここで気になることがあった。

 

 

「どうして男湯があるんだよ。俺が連れてこられた時点であるとは思ってたけど、この学校って教師生徒含めても男って俺しかいないのに……」

「つまりアンタのためだけに施設の半分を使ったってこと? 身内贔屓が過ぎるわね……」

「でもこれでもし合宿をすることになったとしても、先生と一緒にいることができマス!」

「その気持ちは嬉しいけど、あまり拘束するのはやめてくれ……」

 

 

 ただ合宿するとなったらどのみち大人がいないといけないし、そうなったら必然的に顧問の俺が同行する羽目になる。

 それに一晩を自宅以外で過ごすと妹の追及が怖く、『誰と』『どこで』『何を』『いつまで』を正確に答えないと家から出してもらえなくなる。そしてその伝えた情報から少しでも逸脱したことすると、帰宅した際に尋問と拷問が待っているんだ。たくさんの女の子と付き合うことは容認してくれてんのに、夜遊びはダメってどういうことだよ……。

 

 設備や内装の豪華さに見惚れて呆気にとられていたみんなだが、順々に我に返る。

 そして男女の分岐まで辿り着くと、隣にいたかのんが声をかけてきた。

 

 

「それじゃあ先生、また後で」

「あぁ、ゆっくりしてけよ」

 

 

 流石に一緒に入りましょうとか言う奴はいねぇか。これが虹ヶ先だったら間違いなく誘ってくるし、断っても俺しかいない男湯だったら躊躇もなしに乱入してくるだろう。なんなら普通に温泉旅行に行って混浴したことあるしな。1人を除いて誰も混浴に反対しなかったのが倫理観のぶっ壊れを感じちまうよ……。

 

 通路を進むと下へ降りる階段があり、その先のドアを開けると脱衣所が広がっていた。可可が言っていた通りクラス1つ分の生徒くらいなら余裕で一緒に入浴できるくらいなので、もちろん脱衣所も広い。もちろんタオルも使い放題、ドライヤーも高級モノでもはや銭湯というレベルを逸脱していた。ただここは男湯で、この学校には俺しか男性がいないため無駄なスペースだと言わざるを得ないが……。

 逆に言えば俺がいなければここを女子風呂として使ってもいいわけで、だとするとこの大きさでも無駄になることはないのか。果たして男湯を使うことになるくらい人数が押し寄せるのかは別として……。

 

 適当に脱ぎ、いざ中へ。入ってみると出迎えるかのように湯気がこちらに迫り、脱衣所へと吹き抜けていく。

 肝心の湯舟はと言うと、やはり広い。銭湯というのはやっぱり名ばかりで、豪華な内装であったエントランス部分に負けず劣らず。血液濃度を高めない良質な水分の温泉と、内風呂と岩盤浴、サウナに露天風呂までもが完備された高級な大浴場だ。

 

 とりあえず身体を洗うことにする。1人しかいないのでマナーとか気にせずいきなり湯舟に飛び込んでもいいのだが、こういったお高いところに来るとどうも萎縮してしまうもの。誰も見てないけど人間としてのマナーは守らせてもらう。

 

 そんなことを考え、身体を洗おうと湯舟から離れたその瞬間、やたら鈍い機械音が聞こえた。

 音のする上を見渡してみると、なんと天井からお湯が漏れ出していた。

 

 なんという欠陥銭湯。流れてくるお湯は少量だが、このままだと大量に流入してくる可能性がある。秋葉を呼んだ方がいいのかと思いつつも、同時にアイツらの方は大丈夫なのかと不安にもなってきた。

 ――――なんて心配がどれだけ小さいことだったのかすぐに思い知る。なんとお湯が漏れ出している天井の一部が開き、そこからお湯が滝のように流れ出してきた。同時に――――裸の女の子も落下してくる。

 

 

「ひゃあぁっ!?」

「おっと――――って、可可!?」

「えっ、先生!?」

 

 

 上から可可が落ちてきた……のか!? 反射的に受け止めることには成功したが、一体何が起きている……!?

 だがその前に――――

 

 

「とりあえずタオル巻いとけ」

「ぴぎゃっ!? み、見ないでくだサイ!!」

「真っ裸で落ちてきて良く言うよ。タオルも一緒に落ちてきて命拾いしたな」

 

 

 俺の腕の中で顔を真っ赤にして縮みこむ可可。タオルが被さるように落ちてこなかったら、今頃俺の目はコイツの全裸を隅々まで録画していただろう。

 それでも銭湯に持ち込むタオルはバスタオルみたいに大きくないので、いくら小柄な可可でも全身を隠すのは難しい。今もそれなりの巨乳がタオルの横からはみ出してるし、目のやり場に困るどころかそんなもの存在しない。こうして受け止めてやっているだけでも身体の柔らかさを感じられ、全裸の女子を抱いているんだという実感しか沸いてこなかった。

 

 とりあえずここで煩悩に支配されるわけにはいかないので、コイツが落ちてきた原因を探るフリをして気を散らそう。

 

 

「可可~? 大丈夫~?」

「先輩大丈夫っすか~?」

 

 

 上から声が聞こえたので見上げてみると、すみれやきな子、他のみんながこちらを見下ろしていた。

 アイツらがあそこにいるってことは、もしかしてこの上が女子風呂なのか? そういや男湯に行くときに階段を下ったから、だとすると女子風呂があるのは階段を上がった先の可能性がある。おかしいと思ったんだよ、どうして風呂場へ行くのに地下への階段を降りなきゃいけなかったのか。

 

 そしてここで理解する。やっぱり秋葉に関わるとロクなことがないと。まーーーーーーーーーーーーーーーーーーーた変なことに巻き込まれたのか俺たち……。

 

 ――――って、あっ、み、見え……!!

 

 

「……。お前ら、そんなに身を乗り出してると見えるぞ」

「な゛っ!? ちょっと!! まじまじ見るんじゃないわよ!!」

「こちとら天井の穴から話しかけられてんだ、見る以外にどうすんだよ」

 

 

 俺がいるとは思わなかったのか、みんなが一斉に天井の穴から引っ込む。ぶっちゃけギリギリ見えそうで見えなかった奴もいるのだが、本人の名誉のために誰の何が見えたとは言わないでおこう。

 

 可可を床へ下ろし(少し残念そうにしていた)、例の天井の穴を再び見上げてみる。水流で穴が開いてしまったというよりかは、開閉式でいつでも空けられる構造になっているみたいだ。つまりこの状況は明らかに仕組まれたもの。最初からこれが目的の施設構造だってことだ。金の無駄もここまで来ると極まってんな……。

 

 その時、またその穴からお湯が流れ込んできていることに気が付く。

 

 そういやアイツら、まだ穴の近くに――――!!

 

 

「おいお前ら! 今すぐそこから離れろ!!」

 

 

 叫んだ時にはもう遅かった。既に大量のお湯が天井から流れ込んできている。

 つまり、その流れに乗って女の子が――――!!

 

 

「ひゃあっ!?」

「きな子!?」

 

 

 きな子が天井から流されてきたのですかさず受け止める。

 だが連鎖は終わらず――――

 

 

「うわぁあああっ!?」

「メイ!?」

 

 

 今度はメイが落ちてきたのでそれも受け止める。

 しかし――――

 

 

「ににゃああっ!?」

「夏美!?」

 

 

「ひゃあああんっ!?」

「恋!? って、そんなに受け止め切れるかぁああああああああああああっ!!」

 

 

 結局全員が男湯に流されてきてしまい、精々コイツらがケガしないよう下敷きになることしかできなかった。

 

 

「いつつ……。落ちてくるならもっと時間を空けて1人ずつ来てくれよ――――んっ、な゛っ!?」

 

 

 目を開けた瞬間、そこは肌色しか存在していなかった。どこを見渡しても思春期10代女子の瑞々しい肌が視界に入る。当たり前だがここは銭湯で、当然何も着ているはずがない。俺はたくさんの裸の女の子たちに押し潰されていた。

 

 手のひらに誰かの柔らかい部分が乗っており、少しでも指を動かせば余裕で食い込みそうなくらいの柔軟さ。誰かが俺の脚を柔らかいモノで挟んでおり、こちらも少しでも動かせばぷるぷる震えるだろう。それ以外にも全身のありとあらゆる部位で女の子特有の肌質の良さを感じられ、今現在裸同士で絡み合っているのだと強制的に実感させられた。

 

 みんなはすぐに俺から離れようとしなかった。くらくらしていたり身体を摩ったりと、落ちた衝撃で現状を理解するのに時間がかかっているのだろう。ぶっちゃけて言えば時間がかかってくれた方がコイツら的にはいいかもしれない。だってほら、我に帰ったら俺に見られている事実を知ってしまうわけだし……。

 

 

「あっ、先生が助けてくれたんですね。ありがとうございます」

「かのんか。お礼はいいから早く下りてくれ。隠すものがあるんだったらだけど……」

「へ……? ひっ……!! ちょっとタイム!!!」

「うぶっ!!」

 

 

 かのんが反応してくれたと思ったら、自分の裸が見られていることを察したのか一瞬で顔を赤くし、持っていたタオルを俺の目元に押し付けてきた。正直背中しか見えていなかった(それでも綺麗で十分に艶やかだった)のだが、好きな男の前で覚悟もなしに突然肌を晒すのはそりゃ女子として羞恥に晒されるだろう。

 

 このまま目元のタオルを剥がせば桃源郷が拝めるのだろう。だが今の俺は教師、そんなことはしない。虹ヶ先の奴らであれば容赦なく裸を見る、というかあっちから見せてくるような奴らばかりだけど、コイツらは純情だから下手に騒ぎを起こさないためにも穏便に事を対処した方がいい。高校生時代だったらこんなタオルなんて速攻で取っていたんだろうな……。

 

 しばらくしてみんなも状況が理解できたのか、でもどうすることもできないので裸のままわなわなしているみたいだ。

 そして俺の上に乗っかっている奴らは申し訳ない気持ちでいっぱいなものの、離れると俺に裸を見られる恐れがあるので下手に動くことができないジレンマも抱えているようだ。目の前にいるかのんもそうだし、ぱっと見だと四季やすみれと言った肉付きの良い奴らばかりが俺の腕や脚に覆い被さっている。そのせいで変に意識をせざるを得なくなっていて……。

 

 

「っ……! 先生、変なところ触り過ぎ……」

「アンタねぇ、こんな状況で発情してんじゃないわよ!」

「するか!! どこもかしこもお前らに潰されてるから、指でも動かさないと身体が痺れんだよ!!」

 

 

 わざわざ下敷きになって助けてやったのに、人にのしかかっておいて動くなってのもヒドい話だ。俺は女の子の尻に敷かれるような人間じゃないんだけども。まあ指が肌に触れて柔らかさを感じていたのは事実だけどさ……。

 

 そんなこんなでいつまでもこの状態でいるわけにもいかないとコイツらも悟ったのか、渋々ながら離れてくれた。

 ただ、そうなるとさっき言った問題で裸を見られる事故が起こってしまう。女湯ではタオルを持っていたのだろうが、不幸なことに全員分が男湯に流れ落ちてきているわけでもない。そのため大切なところを隠すものがなく、座り込んで腕を回して胸を隠すという凄まじく淫猥な格好になってしまっていた。

 

 

「先生に見られてるとずっとここから動けませんの……」

「わりぃ。あっち向いてるからお前らは先に出ろ」

 

 

 見るなと言う方が男にとっては毒になる。教師だから女子生徒の裸を見ないと決めていたのにも関わらず、どうしても人間の性的欲求に従順になり過ぎてしまった。夏美は早くあっち向いてろと言わんばかりに顔を壁の方へと振る。腕は胸を隠して使えないからな……。

 

 ともかく、このままここに居続けるとまた上の女湯からお湯がこっちに流れ込みかねない。広いのでお湯で溺れることはないだろうが、こんな危険な施設は早めに脱出するに限るだろう。

 

 そして、俺が壁を向いている間にみんなは男湯の入口へ向かった。

 

 しかし、そこで驚きの声が上がる。

 

 

「えっ、開かないのですが……」

「なに!?」

「ちょっ、こっち見んなよ!!」

「うぶっ!!」

 

 

 恋の言葉に思わず振り向いてしまい、その気付いたメイが丸めたタオルを俺の顔面にぶつけてくる。

 見えちゃったよ色々と。みんなの後ろ姿だけど、俺がそっぽを向いていることに気が緩んでいるのか身体のガードも緩くなっていて――――いやまぁ、本人たちの尊厳のためにこれ以上は言わないけどさ……。

 

 とりあえず、再び壁際を向きながら現状を探ってみることにする。

 

 

「開かないってどういうことだよ? 鍵でもかけられたか?」

「いくらスライドさせても開かずで……」

「みんなで体当たりしてぶち破るとか?」

「でもこのスライドドア、すっごく丈夫そうできな子たちだけではどうにもならなそうっす……」

「先生でも無理なんじゃないかな、この分厚そうなドア……」

 

 

 千砂都が指の関節で軽く叩くが、確かに鈍い音が響いている。これは男の俺でも突破するのは難しそうだ。秋葉のことだから、簡単にモルモットたちを逃がすようには造られていないのは当たり前か。だとすると最初から逃げ道なんてあったものじゃないが、もうこの銭湯はさながらモルモットを収容した実験場のようなものだろう。

 

 

「先生、どうしますか……?」

「秋葉は悪魔だけど鬼じゃない。脱出の方法を提示しているはずだ。どこかに何か書いてないか?」

 

 

 アイツのお遊びは毎回度を越してるけど、それを乗り越える方法を用意しているのも事実。優しさがあるとは一切思っていないが、ミリ、いやナノ単位くらいの温情は感じられる。まあアイツからしてみればどうすることもできず絶望に打ちひしがれている姿を見るよりも、奇跡の一手を信じて足掻く俺たちの姿を見る方が楽しめるのだろう。ホントに性格終わってんなアイツ……。

 

 

「あっ、あった」

「本当っすか四季ちゃん!」

「なんて書いてあるんですの!?」

 

 

「『ここは”混浴”温泉。温泉はもちろん、一緒に身体を洗ったりサウナに入ったり、男女の時間を心行くまでご堪能ください。むしろ堪能するまでここから出られません』……だって」

 

 

 それってつまり、みんなと一緒にこの温泉を楽しめと?? みんなの身体を隠すものが少ないこの状況で!?

 

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 Liella編では珍しく肌見せ回。
 純愛をテーマとしているLiella編では恋愛話を中心としていましたが、ネタ思いついてしまったのでカンフル剤として投入してみました(笑)

 本来は1話で完結予定だったけど、見ていただいた通りどう足掻いても1話で収まるボリュームではなかったので前後編です。最後の展開の通り、お楽しみは次回かもしれません(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

強制混浴大パニック!(後編)

 秋葉の造った銭湯に閉じ込められた俺たち。女子風呂にいたかのんたちが水流に乗って男湯に流れ着いたため、男性教師と女性生徒たちが同じ浴場にいるという誰かに見つかったら即時案モノのシチュエーションとなっていた。

 

 浴場と脱衣所を隔てるドアが分厚くぶち破れそうにもないので、ここから脱出するためには秋葉の書き記したミッションに挑戦するしかない。またいつも通りの展開でまたアイツに踊らされていることに自分自身に呆れてしまうが、なんにせよコイツらを無事にここから出してやることが先決だ。

 

 しかし、そのミッションが達成できるかどうかはコイツらにかかっている。

 

 

『ここは”混浴”温泉。温泉はもちろん、一緒に身体を洗ったりサウナに入ったり、男女の時間を心行くまでご堪能ください。むしろ堪能するまでここから出られません』

 

 

 つまり、俺とコイツらが混浴を楽しむ必要がある。ただ入浴するだけではなく身体を洗ったりサウナに入ったりと、この浴場内の設備をフル活用するように求められていた。

 かのんたちは喋らないが、顔だけは真っ赤に燃え上って事の重大さを理解しているようだ。覚悟もないままいきなり好きな男と混浴しろなんて言われたら、そりゃ誰でもこうなるわな。

 

 そもそもの話、今の時点で既にタオル1枚のみでほぼ裸の状態だから、その状況だけで羞恥心は爆発寸前になっているはずだ。湯舟に使っている時にここに流されてきた奴もいただろうから、偶然一緒にタオルが落ちてこない限り身体を隠すものがない。それに浴場にバスタオルなんてデカいものを持ち込めないので、タオルがあったとしても身体を洗うための小さいタオル、到底身体を隠しきれるものでもない。

 だから俺はなるべくコイツらの方を見ないようにしてやっているのだが、こちらに背を向けて腕や手で身体を隠している女の子、しかも水も滴っている瑞々しい肢体を見せられたら――――いや、これ以上はやめよう。せっかく昂りそうな感情を抑えて教師っぽく振舞ってるのに、想像なんてしたらいつ暴発するか分からないからな……。

 

 そんなわけでコイツらを何人かの組に分け、男女の時間を堪能するミッションを開始することにした。

 俺は役得なんだろうけど、これって後で通報して事案になったりしねぇよな……??

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 湯舟に浸かるのであればまずは身体を洗うところから。ということで洗い場に来ていた。

 さっき洗おうとはしたけど、直後にコイツらが流れ落ちてきたから結局ここに来てからまだ何もしていない。だから最初は身体を洗おうと思ったんだけど――――

 

 

「どうして俺がお前らに身体を洗われなきゃいけねぇんだよ……」

「そ、それは洗ってもらうのは流石に恥ずかしいですし……」

「裸を見られるくらいならこっちの方がマシですの……」

 

 

 恋と夏美に風呂椅子に座らされていた。

 ここが最初の試練場。洗い場で男女交流を示すためには洗いっこという子供がやるような遊びを大人の俺たちがやる必要がある。最初は俺が洗ってやろうかと思っていたんだけど、ここに到着した瞬間に目元にタオルを巻かれて強制的に着席させられてしまった。流石に男が女の身体を洗うのは大胆過ぎたか。いや別に下心なんてなかったけどさ。

 

 そんなわけで前から夏美、後ろから恋にタオルを押し当てられている。

 

 

「先生って、意外といい身体してますの……。鍛えていますの?」

「いや、特には」

「細身なのに大きなお背中。肉付きは程よくて思わず触りたくなるお体。異性と言えどもここまで良いお体を前にすると羨ましく思います」

「胸板も厚くて手も大きくて、これで抱き―――――いや、なんでもないですの……」

 

 

 コイツら、俺が目隠しされてる状態で反撃できないからって欲望ダダ漏れだ。目隠ししてるとは言っても声は余裕で聞こえるので、そんなことを言ったら逆に性癖を自爆で暴露しているのと変わらない気もするが、そこに羞恥心はないのだろうか。

 

 もしかしたら、既にもう恥ずかしさなんて限界突破してしまったのかもしれない。最初は恥ずかしがっていたのに、何故か今は落ち着いていながらも積極的に俺の身体を洗ってくれている。こういうことをやってみたいと思っていたのか、それともヤケクソなのか……。

 

 どちらにせよ、風呂場で女子高生に身体を洗われているなんてどんな光景だよって話だ。未成年だぞ? しかも清楚をウリにしているスクールアイドルの美女美少女たちにこんなことをしてもらえるなんて、人生で手に入る全ての金を注ぎ込んででも頼みたい男はいるだろう。それをタダで経験できているんだ、優越感が高まってしまう。言ってしまえば虹ヶ先の奴らと同じシチュエーションになったことはあるが、アイツらと違ってこういう男女交流が苦手なコイツらに洗ってもらうからこそ滾るものがある。

 

 

「前って、その……()()も洗っていいんですの……? それとも恋先輩がやりますの……?」

「えっ、わ、私は……。大切なところだと思うので、夏美さん優しくしてあげてください……」

「それじゃあ、タオルを取りますの……」

「ちょっ、ちょっと待て! そこはいいって!!」

 

 

 コイツら正気か!? 銭湯の暑さと羞恥の熱さ、そして興奮の高まりで頭が狂ったか?? もう少しで下半身のタオルを外されそうだった。少し躊躇していたものの、それでも最終的には脱がそうとしてくるあたり冷静ではないことが丸分かりだ。しかも2人揃って何故か積極的なのは、やっぱり想いの男と一緒に浴場にいるというデート的なシチュエーションが行動意欲を後押ししているのか。それとも何か別の要因が……?

 

 

「下半身は脚だけでいいから。このタオルを取るのはお前らにはまだ早い」

「むぅ、女々しいですの先生……」

「普通の対応だろ。てか見たいのかよ……」

「怖いもの見たさ、という言葉もありますし……」

「はい、この話はもう終わり。十分に男女の仲の良さを見せつけられただろうから、これくらいにしておけ」

 

 

 そんなわけで身体洗いタイムを強制的に終了させた。

 なんだかちょっと肉食系混じってなかったかコイツら? マジで温泉の熱気と羞恥の暑さにやられてしまっているのか。

 かく言う俺も結構ぼぉ~っとしてしまいそうな時があったから気を付けねぇと……

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 身体も洗ったので遂に温泉。と言いたいところだが、どうやら普通の大きい湯舟に浸かるだけではダメらしい。ご丁寧に『こちらが混浴用』と書かれた湯舟があるのだが、大浴場の中にあるくせにしてやけに狭い。子供用だろうか。

 

 そして、こんな狭い湯舟で混浴するとなれば――――

 

 

「本当にここで一緒に入るのかよ、先生と……? 千砂都先輩はいいのか……?」

「やるしかないよメイちゃん。ここから出るためだもん。うん、出るためだから仕方ないよね……♪」

 

 

 千砂都の奴、ちょっと嬉しそうじゃねぇか? この前一緒にゲーセンに行った時から俺に対する容赦のなさレベルは上がったと思われるが、まさか混浴することになっても動じないとかやるなコイツ。

 対してメイは戸惑いを隠せていないようだ。まあこれが普通の反応なんだけどさ……。

 

 このまま手をこまねいていても仕方がないので、まず俺が湯舟に入り、続いて千砂都とメイが俺の両隣に位置する形で浸かった。

 これこそまさに女子高生と一緒に混浴するシチュエーションであり、これまたスクールアイドルと混浴するためであれば大金をはたく男は大勢いるだろう。

 

 

「こんな状況ですけど、湯舟自体はちょうどいい温度で気持ちいいですね。それに私、先生と一緒だったらこんな状況も悪くないかなって思ってます」

「ま、ただ風呂に入ってるだけだからな。そこまで気にするようなこともねぇだろ」

「私はまだ恥ずかしいって! 先輩はどうしてそんなに楽しそうなんだよ!」

 

 

 こうするしかないって分かっていても、それでも恥ずかしさを押し殺して俺の隣に来るあたり千砂都に負けない度胸だけはあるようだ。

 スレンダー組2人との混浴。狭い湯舟だけど、2人がLiellaの中でも相当な細身の部類なおかげで窮屈ではない。別にバカにしてるわけではないが、肉付きのいい奴じゃなくてこっちとしても助かったって言うか何と言うか……。

 

 

「先生、今失礼なこと考えてなかったか?」

「えっ? んなことねぇよ」

「先生。女性っていうのはそういう視線には敏感なんですよ」

「変なことは考えてねぇって。お前らこそよからぬ妄想してんじゃねぇのか? さっきからこっちジロジロ見やがって」

「「……ッ!?」」

 

 

 図星か。男が女の子の裸に目が行ってしまうように、女性の方も魅力的な男に対して目を向けてしまうものだ。さっきから俺の顔だったり身体だったりを見回してきやがって、それこそ視線がまる分かりだっつうの。

 

 

「だって仕方がないじゃないですか。こうして裸同士で隣にいると、先生って意外と大きくて頼りがいのある良い身体だなぁ~って、そりゃ見るしかないです」

「自分の隣にいる男がどんな男かを見定めるのが女の習性だって、最近読んだ漫画で言ってたから……まあ仕方ねぇよな」

 

 

 どんな理論だ2人共。恥辱に支配されながらも相手の裸が気になるって相当なスケベ脳じゃねぇか? しかも漫画って、意外とそういうジャンルのを読むのかコイツ……。

 夏美と恋と同じくこの謎の積極性、裸になっていることで気持ちも多少オープンになっているのかもしれない。それにしてもここまで俺の身体に興味津々だとは思わなかったけど……。

 

 

「それじゃあ先生、もっと見せてくださいよ♪」

「なにを!? てか急にくっつき過ぎだどうした!?」

「緊張してんのかよ。先生のくせに」

「お、おい……!! あぁもうっ! 今回はこれで終わりだ!」

 

 

 2人が急に距離を詰めてきたから驚いて先に上がっちまった。逆にこっちが女々しくなるとは思ってなかったけど、あれほど積極的になるってことは羞恥の限界を突破したってことか? さっきの夏美と恋もそうだったけど、やたらとグイグイ押してくるのは一体どういうことだよ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「熱いわね……」

「すみれ、もう泣き言デスか?」

「そんなわけないでしょ。健康のために時々入りに行ってるから、むしろ慣れてるわよ」

「きな子は暑いのは苦手っす……」

 

 

 そんなわけでサウナに入った俺、可可、すみれ、きな子。サウナって入ったことがなくてただ暑いだけだと思っていたのだが、どうやらそれなりに温度調節はしてくれているらしく、巷で良く言われている目が痛くて居ても立っても居られないとか、全身がヒリヒリするとかそんな症状はなかった。

 

 ただ、ここに来て一番の障害が立ちはだかっていた。

 それは女の子特有の甘くもあり性的欲求が刺激されるような淫猥な香りが漂っていることだった。当然3人はサウナの暑さで汗をかくわけで、しかもこの部屋が特別広いわけじゃないから熱気が籠る。そのせいで女の子の香りが部屋中に充満し、俺の鼻腔をくすぐる。メスの匂いとも言えるだろうか。

 

 

「はぁ、はぁ……ぼぉ~っとするっすけど、ちょっと気持ちよくもなって来たっす……」

「無理はやめなさいよ。逆に疲労で動けなくなるってこともあるらしいから。はぁ……」

「はぁ……。可可は全然大丈夫デス……」

 

 

 いやその吐息も艶めかしくてエロいからやめてくれ。こっちも本気で我慢してんだぞ分かってんのか。ただでさえ身体を洗われたり混浴したりと誘惑に耐えてきたのに、ここでオスの情欲を誘うような匂いや吐息は反則過ぎる。しかも熱気のせいで自身の判断力がどんどん下がっているような気がするし、気を抜いたら襲いかねないぞコイツらを。

 

 女の子とこのような状況に慣れているとはいっても、ここまでメスの匂いを嗅がされると流石にマズい。

 しかもまたコイツらこっちをちらちらと見てくるし、どれだけ俺のことが気になってんだよ。みんなそんなに男の裸が好きだったのか? 筋肉が目立つ良い身体なんてお世辞にも言えねぇのに、どうしてそこまで注目するのやら……。

 

 

「先生の匂いが部屋中に広がって、なんだかとってもいい匂いでふわふわするっす……」

「へ?」

「先生の身体、汗が滴って綺麗でカッコいいデス……」

「へ……?」

「アンタ、ちょっと触らせなさいよ」

「ちょっ、ちょっと待て!! 急になにすんだ!!」

 

 

 すみれが手を伸ばしてきたので思わず椅子から飛び降りて攻撃を避けてしまった。

 やっぱり何かがおかしい。さっきからこれまでのコイツらではありえないくらいの積極性を見せている。しかもその方向が変態的なのがまた困りものだ。俺も気を抜いたら気持ちがふわふわしそうになるし、もしかしてこれ秋葉が変な空気か何かを流し込んでるんじゃねぇだろうな……? いや絶対にそうだろこれ……!!

 

 

「せんせぇ……きな子、暑くなってきたっす……」

「触ってもいいじゃない減るものじゃなし」

「触られて恥ずかしがるとか、意外と初心(ウブ)デスね先生」

「お前が言うな! えぇいっ! お前ら一旦頭冷やせ!」

 

 

 強引だが3人をサウナ室から摘まみ出した。

 最初は暑さや恥ずかしさでやられているのかと思ったけど、まさか裸の付き合いをするって物理的に結合させるってことかよ。だからって無理矢理欲情させてんじゃねぇよ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「これで最後か……」

「先生、疲れてますか?」

「まぁ色々あったからな……」

「リラックスするために温泉に来てるのに、逆に疲れてる」

 

 

 最後はかのんと四季と岩盤浴。サウナと比べたらこっちは寝るだけだし、温度も高くないのでゆっくりできそうだ。コイツらが暴走しなければの話だけど……。

 ただ懸念点がないわけではない。岩盤浴と言えば専用の館内着を着るのが普通だが、もちろんそんなものは秋葉(アイツ)の手によって撤去されている。だからコイツらの場合はタオル1枚で寝転ぶ必要があるのだが……。うん、女の子が裸で布1枚で寝転がってるって、誘われてるようにしか思えねぇんだよな……。

 

 そんなことを考えていると、同じく寝転んでいる四季がじっとこちらを見つめていることに気が付く。

 この展開、まさかコイツもさっきの奴らみたいに……!?

 

 

「先生って――――ED?」

「ぶっ!? なんだよそれ!?」

「勃起不全、勃起障害」

「意味を聞いてんじゃねぇよ! どうしてそんなことを言い出したんだ!?」

 

 

 思春期女子が発してはいけない言葉を連発しやがって。コイツもまた頭がおかしくなったのかと思ったが、元々こういう奴だったなそういや。

 

 

「さっきまでみんなに身体を洗ってもらったり、混浴したりサウナに入ったり、裸の女の子と触れ合ってきたのに全然勃ってないから」

「慣れてるからだよ、女の子と風呂に入ったりするのは。だからそんなことでいちいち反応しないっつうの」

「これが王の貫禄というもの」

「先生って、教師じゃなくてホストとかやってた方が似合いそうですね……」

「お前もなんつうこと言い出すんだよ……」

 

 

 そういや秋葉に言われたことがある。公の場で目立つな、って。目立つと女の子たちがどんどん言い寄ってきて社会問題になるレベルらしい。催眠術の類かよってツッコミを入れそうになったが、現にスクールアイドルの練習風景を映したの動画なんかに俺がうっかり映り込むだけで再生数が爆伸びするので、実際に問題になるってのは間違いなのかもしれない。その割にはスクールアイドル相手には目立ってる気もするけど。スクールアイドルキラーなんて呼ばれてるし……。

 

 

「じゃあ私の身体で欲情する?」

「え?」

「勃起するかと聞いてる」

「だから言葉に気をつけろと……」

「じゃあかのん先輩の身体は?」

「えっ、私!?」

「綺麗な身体か肉付きのいい身体、どっちか選ぶとしたら?」

 

 

 コイツ、これが素の状態なのか? いや普段からこんな猥談を切り込むタイプじゃないし、やっぱり秋葉の罠に引っかかってる可能性が高い。ほんのりと顔も赤いし、相変わらずの無表情なせいで何食わぬ顔で下ネタをぶっ込んでくるその容赦のなさが怖い。

 

 かのんもかのんで顔が赤く、寝ながら身体をもじもじさせている。誘ってんのかその動きと変な衝動に駆られてしまうが、コイツもコイツでタオルが開けて全部見えそうになっているのに気にしていないので、やはり他の奴らと同じく強制的に羞恥が抑えられ、発情指数が高くなっているのだろう。

 

 

「先生は興味あるんですか、私の身体……?」

「へ? そ、そりゃないって言えばウソになるけど……」

「興味はある。だけど勃たない。だったらもっと見るしかない。こっちは魅せるしかない」

「おい自分でタオル取ろうとすんな!! つうかこっちに来んなって!」

 

 

 コイツら、四つん這いになってこっちに迫ってきやがる! ぶっちゃけタオルを巻いていただけなので大切なところ以外は見えてしまっているのだが、女の子の全裸姿をこんな形で見たくはない。やるならお互いに覚悟ができている時って決めてんだ。こっちにも信念ってものがあるんでね。

 

 そう自分に言い聞かせた瞬間に、俺は迫りくる2人の間をすり抜けて岩盤浴から抜け出した。

 しかし――――

 

 

「先生逃げるなんてヒドイっす!」

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃねぇか……」

「そろそろ観念するんですの。脱がしてあげますから……」

 

「お前ら、まだ回復してないのかよ!!」

 

 

 他の奴らに待ち伏せされていた。このままだと変態思考に常識を支配された女の子たちに身体を弄ばれてしまう。人によっては女の子に手籠めにされるのはご褒美かもしれないが、こっちから攻める派の俺としては女の子に主導権を握られるなんてゴメンだ。でもどうやって元に戻せばいいのか……。

 

 そうだ、もう全員と『男女で銭湯を堪能する』ミッションを達成したんだからここから脱出できるはずだ。

 さっきから変なガスみたいな匂いがするし、換気さえできればきっと――――

 

 そう考えて浴場入口へ行き、分厚い鉄製ドアに手をかけて横にスライドさせる。

 すると簡単に開いた。脱衣所の新鮮な空気が浴場の変な匂いのガスを換気する。そのおかげかみんなの血気盛んな勢いが止み、その場で崩れ倒れた。

 

 

「おい大丈夫か!?」

 

『大丈夫。疲れて寝てるだけだから』

 

「秋葉!?」

 

 

 館内アナウンスで秋葉の声が聞こえてきた。やっぱり見てたのかよ……。

 

 

『まさか誰にも襲い掛からずにミッションをクリアするとは思わなかったよ。あのガスで零君も興奮を煽られてたはずなのに』

「正直危なかった。裸の女の子に耐性がなかったら終わりだったな……」

『でもこれでみんなのこと良く知れたでしょ? 変態さんにはなってたけど、これはただみんなの心の奥底を呼び起こしたに過ぎないから』

「なに? コイツら意外とそういう性格なのか……?」

『ふふっ、どうだろうね。まあ裸のお付き合いってことで、君たちの仲が進展したから今回の目的は達成だね♪』

「はは、どうだか……」

 

 

 俺も疲れ果ててその場に座り込む。

 毎回毎回やることが面倒なんだよコイツ。俺たちの関係を進めたかったらもっと純愛的なイベントを用意してくれたらいいのに、いつも騒動ばかり引き起こしやがって。吊り橋効果でも狙ってんのか……。

 

 そんなわけで、裸の付き合いで俺たちの関係も一歩進んで―――――なくね? コイツらにとって黒歴史になっただけのような気がするけど……うん、これからあまり話題に出さない方がいいかもな。

 




 最近μ's編を読み返してたのですが、その頃と比べると零君の紳士っぷりが半端ないデス(笑)
 今回興奮度は高まりつつも女の子に全く手を出していなかったので、自分で描いておきながら大人になったと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

次なる一歩:その想いは銀河を超える

 スクールアイドルはアマチュアのアイドルだが、今や世間でも一般に認知されるようなビッグコンテンツになりつつある。そのため、有名になりさえすれば仮にもアイドルで容姿が優れていることもあってか、スクールアイドル以外の仕事が舞い込んでくることもままある。そこから卒業後の進路を決める奴もいるので、どんな形であれ自分から動いて目立つことは大切なのだろう。

 

 そして、Liellaにもそういった仕事の依頼が初めて届いた。話題のスクールアイドルに新作ドレスを着て欲しいという撮影モデルの依頼で、Liellaからはすみれが直々にご指名された。

 もちろん全員が驚いていたのだが、一番度肝を抜かれていたのはすみれであり、最初はイタズラかと思っていたらしい。ただ連絡してみるとマジの依頼であり、元々自分を魅せることが得意な彼女にとってはピッタリの仕事内容だったので、二つ返事でこれを承諾した。

 

 そんなわけでとある日の放課後、俺たちは依頼元の会社の撮影スタジオに来ていた。別のグループの子たちも何人か同じモデルとして依頼されたのか、すみれと同じくらい容姿端麗でエレガントな女の子たちが揃っている。

 ちなみに俺は顧問として付き添いで来ている。最初は来る予定はなかったんだけど、すみれが顧問の付き添いの許可を依頼元に取ったらしく、せっかく許可をもらったのなら行かないわけにはいかないという理由でここにいる。他のグループの顧問はいないようなので1人だけ付き添いに来ているって現状が少し恥ずかしいのだが、アイツどうしてわざわざ俺を来るように仕向けたのか。ま、女の子の晴れ姿を見られるのは悪くないけどさ。

 

 そんなこんなしている間にすみれの撮影が終わった。モデルに来た子の中で一番最初の撮影だったため当初は緊張した様子だったが、流石はスクールアイドルというべきか、カメラの前に立った瞬間にプロ顔負けの顔立ちとなっていた。プロ扱いするのは早いかもしれないけど、アマチュアとも言えねぇのかもしれないな。

 

 すみれは夢にまで見たモデル撮影を終え、やり切って満足そうな顔をしている。その熱気が収まらぬ中、部屋の隅で撮影の様子を眺めていた俺のもとへと帰って来た。撮影のため白のドレス衣装を着ているのだが、お嬢様キャラが似合うコイツにまさにピッタリだな。

 

 

「お疲れ」

「どうだった? いつもとは違う私の姿は」

「完璧、とは言えないな。初めてにしては良かったんじゃないか、写真映り。スクールアイドルで自分を魅せている経験が活きたな」

「なによその上から目線。たまには素直に褒めたらどうなの?」

「100点を出すとそこで成長が打ち切りになっちまう。だから俺が完璧を判断を下すことはない」

「相変わらずカッコつけちゃって」

 

 

 すみれは微笑みながら俺の隣に腰を掛ける。既に1年半の付き合いのコイツからしてみれば俺の性格も熟知しており、皮肉のような褒め方をしてもさらりとスルーされた。

 素直に褒めはしなかったが、撮影自体はぶっちゃけ良かったと思っている。被写体の美貌と華やかさを映し出すのがモデル撮影。つまりLiella中でもトップクラスでエレガントな彼女にとって、モデル撮影というのはスクールアイドルのステージ以上に自分の魅力を前面に押し出せるわけだ。ステージでは華やかさと言うより煌びやかな面を魅せる傾向にあり、個人撮影の場合は個々の端麗さ、ステージの場合はチームとしての輝かしさを魅せる、と言えばいいか。コイツの場合は前者の方がより魅力が際立つ。

 

 

「スクールアイドルの衣装も可愛いから好きだけど、ドレスみたいな自分を引き立たせる衣装はもっと好き。撮影の感触も良かったし、このまま継続して仕事が貰えるかもって思うと打算的だと分かっていてもニヤケちゃいそう……」

「いいんじゃねぇの別に。やりたかったんだろ、こういうこと」

「そうね。スクールアイドルはこのための足掛かり。夢のスタートラインを切ることができて嬉しさでいっぱいよ。もちろんスクールアイドルも大事だから、今はそっちに専念するけどね」

 

 

 あの『グソクムシ』時代からの大躍進。まさか高校の年代でここまで出世するとは思っていなかっただろう。スクールアイドル活動で人気が出たのが功を奏したか。

 コイツ自身はモデル業など芸能方面への進路を希望しているが、かと言って今のスクールアイドル活動を踏み台にしているかと言われたらそうではない。むしろ自分をここまでの舞台に押し上げてくれたことを感謝しているし、去年スクールアイドルに誘ってくれたかのんたちに対しては言葉だけでは伝えられないほどの恩がある。ってことを俺だけに話したことがある。直接本人たちに言えばいいのにって思うけど、プライドの高いコイツだからこそそう簡単にはいかないのだろう。難儀な性格だな……。

 

 でも実は、Liellaの中でも一番人情味に溢れてるのはコイツ説が俺の中ではある。何かと世話焼きだし、言い方はキツイけど何だかんだ付き合うタイプで、後輩の面倒見もいい。自分以外に興味がないトゲのある性格に見えるけど、実は仲間想いというギャップが余計に人情味の高さが際立って見えるのかもしれないな。

 

 

「そういや、アイツらがお前の晴れ姿が見たいから写真を撮って送ってくれって言ってたな。もう送ったのか?」

「まだよ。ていうか今は送らない。みんなには本が出るまで待ってもらうわ」

「なんでだよ?」

「そ、それは……」

 

 

 すみれは頬を赤くしてこちらを見つめる。だけど俺が見つめ返すとすぐにそっぽを向いてしまった。そんなに恥ずかしいのか、アイツらに見せるのが。コイツの魅力はLiellaの奴らなら誰でも知ってるし、それこそ普段はからかい合っている可可ですら、今回のコイツのドレス姿には見惚れるしかないだろう。

 

 俺も見惚れているってわけではないが、今目の前にいる彼女は俺が今まで見てきたどの彼女よりも綺麗だと思っている。もちろんスクールアイドルの彼女もいいが、どちらかと言えばアイドルのようなきゃぴきゃぴした姿より、ドレスアップした華々しい姿の方が似合ってるしな。

 

 

「じゃ、そろそろ行くわよ」

「行くってどこに?」

「屋上。この会社の屋上、ドラマの撮影にも使われるくらい夕日が綺麗に見えるのよ。せっかく来たんだから行っておきたいと思ってね」

「その恰好でか?」

「そ、そうよ、悪い? いいから早く立つ、てきぱき歩く!!」

「ったく……」

 

 

 どうやらただ撮影のためだけにここに来たってわけではなさそうだ。わざわざ俺を誘ったことといい、屋上に撮影映えのスポットがあると知っていたことといい、何か他に考えがあってのことだろう。

 なんにせよ、まだ他の子が撮影している最中だから解散まで時間はある。何をするのかは知らないけど付き合ってやるか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 確かに言われた通りだった。紅に金を混ぜた強烈な色彩の夕日が街を燃えるような瑞々しい夕映えで包んでいる。事前に予告されていたから感動は半減するだろうと馬鹿にしていたのだが、これは撮影映えスポットとして確かに絵になると、芸術に微塵も興味もない俺ですらそう思えた。

 

 ただ、12月も迫るこの季節。夕暮れの時間帯になると見晴らしのいい屋上にいることも相まって結構冷える。暖かそうな風景が広がっているのに中々のギャップだ。

 俺は上着を脱いで、すみれに放り投げた。

 

 

「あ、ありがとう……」

「寒いこと分かってんだから、着るものくらい持って来いよな」

「この格好じゃないとダメなのよ……」

 

 

 何をするのかは知らないが、その時になったら上着を脱げばいいだけじゃねぇのって、そういう正論は女性に対してNGらしい。最近はロジハラだの論破だのすぐ噛みつかれる時代だからな、今が割といい雰囲気なのも相まって、ここはコイツに主導権を握らせておいた方がいいだろう。

 

 すみれは屋上を囲うフェンスまで歩み寄る。ドレスが白のせいか夕日色に染まり、彼女の色白の肌と綺麗な金髪も夕焼けの朱色によって輝きを増している。その姿に思わず神々しさを感じてしまい、もう景色よりも彼女から目を離せなくなっていた。この光景を見ることができただけでもここに来た甲斐があったってものだ。

 

 

「私、このまま行けば夢だった芸能関係の仕事をやれるかもしれない」

「あぁ、撮影を見た感じはそうだろうな。評判超良かったし」

「えぇ。でも私の輝きをより際立たせるためには『ラブライブ!』に優勝しなくちゃいけない。負けたのに美を語るなんて許せないから」

「プライドたけぇな、相変わらず」

「これが私だから」

 

 

 成功以外に輝く手段はないってことか。まあ幼少期に『グソクムシ』で芸能界の底辺を見たらそりゃそんな考え方にもなるか。ただ俺は否定しない。そっちの方が向上力が上がり、努力した女の子の魅力の良さは俺も良く知っている。それに勝った方が美談になし、なによりカッコいいだろ?

 

 

「だからこそ、みんなと協力して今度こそは優勝を掴む。それが自分のため、みんなのため、どちらにもなるしね」

 

 

 Liellaの中でも優勝することへの気概が強いのは、帰国が運命を握っている可可と自分の夢の行方を賭けているコイツの2人だと思っている。他のみんなももちろんだが、この2人だけはズバ抜けた執念がある。どちらの人生もスクールアイドルでの成功が分岐点となっているからだろう。しかもそれは敷かれたレールではなく自分で決めたこと。だからこそ優勝への意気込みも凄まじい。

 

 だからと言って、仲間を蔑ろにして1人で目立つとか、そういったことは考えていない。さっきも言った通り、コイツほど仲間想いの奴はいない。当初は自分が少し芸能界にいたからって理由でスクールアイドルを見下していたが、今は同じ目標に突き進む仲間として対等に接している。それも自分の夢を叶える過程における成長だったのだろう。

 

 自分のために、我が道を歩いていたらいつの間にか仲間ができて、仲間を助けていた。あれ、どこかで聞いたような人生だな……。

 

 

「それで? 優勝目指して頑張れ、って言って欲しいのか? そのために俺を連れてきたわけじゃねぇだろ」

「ッ!? 話の流れってものがあるでしょ! もう、察しがいいのも困りものね……」

 

 

 ただ優勝を目指していることを口実に発破をかけてもらいたいのなら、俺をわざわざこんな映える場所に呼び出す必要はない。他に理由があるはずだが、実はここまでの流れで大体想像がついていた。

 

 

「『ラブライブ!』で優勝するのも、芸能界に進出する夢を果たすのも、どっちもアンタへの想いに決着をつけてから。そう思っただけよ。このドレスをあの子たちに見せないのも、最初にアンタに見て欲しかったから」

 

 

 やっぱり、そういうことだったのか。

 気持ちが中途半端のままでは自分を魅せることはできない。それはコイツの信念だ。去年とあるライブでセンターを飾ることがあったのだが、その時はビビってライブができない小心者な面を見せた。あれだけ見下していたスクールアイドルで、だ。それを可可に見抜かれた時は激しく動揺しており、でもそのおかげで自分が如何に無駄な自信家で、臆病者であると知れたから精神的な成長の機会でもあった。

 

 その経験があったからだろう、中途半端な気持ちで本番に臨むことを良しとしない考えになったのは。

 つまり、俺に対する想いをここで全て吐き出すつもりなのか……? 他の奴らより先に? マジで??

 

 

「多分! 恐らくだけど、もしかしたら勘違いかもしれないけど――――好き、なんじゃないかって思ってる!! 思い過ごしかもしれないけど!!」

「えっ!? すげぇ曖昧じゃねぇか!?」

「そんなパッと答えが出せるようなことじゃないでしょ!! できると思ったけど、この場所でなら!!」

「にしても保険かけすぎだろ……」

「いいムードの中でなら後押しされると思ってたのよ。それでも恥ずかしさが勝っちゃったけど……」

 

 

 だからこの場所に連れてきたのか。普通に好意を伝えるのは恥ずかしい、だからロマンティックな場所でなら行けると思ったらやっぱり恥ずかしいって何たる茶番。物事を何でもストレートに言うコイツであっても、流石に恋愛に関しては真っすぐ駆け抜けるのは難しいみたいだ。

 

 

「それだと、結局は中途半端な気持ちのまま『ラブライブ!』の予選に臨むことになるんじゃないのか? もうすぐだろ、予選」

「中途半端じゃない。いくら曖昧でも、いくら保険をかけても、言ったことは事実だから。その事実だけで満足よ、今のところはね」

「今のところねぇ……」

 

 

 美味しいものを食べた、旅行へ行った、高いモノを買ったなど自分を満足させる手段はいくらでもあるが、現代の若者はそれそのものの感想と言うよりかは、食べた、行った、買ったという実績が欲しいだけって人も多い。SNSで投稿して自己肯定感を高めたり、他の人との話題のネタにするために、何かをした行動そのものをゴールにする。他の例で挙げるとアニメを倍速で観て、そのアニメを楽しむよりも観たという実績を作りたい、そんなところだ。

 

 つまり、今のすみれがそんな感じ。自分の中で引っかかっていることを解消できれば、その結果がどうなろうと良かったのだろう。自分が動いたという実績さえ作れればそれでな。

 

 俺はそれを中途半端と思うことはない。だってライブをするのはコイツ自身なんだから。自分が迷いなき心でステージに上がれるのであれば、コイツだけが満足すればいい。俺になんていくらでも迷惑をかけていいんだからさ。

 

 ただ、『()()()()()()』って条件付きだけどな。

 

 

「でも安心したよ。七草やウィーンが横やりを入れてきても悩まず、自分自身しか見つめてないいつものお前で」

「そりゃ最初は驚いたわよ。実際の恋愛ってこんなに波乱万丈になるものなのってね」

「まあ大体は素直に行かない気がする。俺の周りでの話だけど……」

 

 

 たまにはまともな恋愛をしたいところだけど、秋葉(アイツ)がいる限りそれは叶わぬ願いなんだろうなぁっと完全に諦めている。俺の周りにいると毎度慌ただしいせいで、女の子たちにちょっと申し訳ない気持ちもあるんだよな……。

 

 

「それにあの子たちはあの子たちの恋があって、私には私の恋がある。邪魔してくるわけでもないし、気にする必要はないでしょ」

「七草はお前らが結ばれないと自分に恋愛する資格が与えられてないからな、むしろ協力してくれる側だ」

「協力してくれるの、あの子が? こっちが恋愛初心者だからってからかってるだけでしょ」

「遊ばれてるとも言えるな……」

 

 

 アイツは煽ることで俺たちの恋模様を加速させようとしているようで、それは大なり小なり成功していると言ってもいい。すみれみたいにあまり気にしていない奴もいるが、ライバルの登場は少なからずLiellaの恋心を刺激したはずだ。

 

 

「とにかく、アンタに想いを伝える手段は自分を魅せること。それはライブで、そして『ラブライブ!』を優勝することで果たされる。見せてあげるわよ、優勝の景色を」

「見届けてやるよ、一番間近でな」

「とは言いつつ、アンタなら見慣れてるんじゃないの? 他のスクールアイドルにもたくさん見させてもらってるでしょ」

「せっかくお互いに意気込んでいい感じだったのに、冷めること言うなよな……」

 

 

 俺の隣にいたスクールアイドルはもれなく結果を出す謎の現象があったので、大会優勝の場面には何度も立ち会ってきた。それでもグループが違えば感動も違うもの、今回もまた俺の観たことのない感動を与えてくれることを期待してるよ。

 

 

「にしても残念だったな。お前の渾身の告白が聞けると思ったのに」

「な゛あっ!? ふ、ふんっ! 私の告白を受けるなんて、アンタにはまだ早いのよ!」

「もしかしてその白ドレスも、ウェディングドレスを想像して選んだとか?」

「はぁ!? 自惚れるんじゃないわよ! これは向こうが用意してくれたの! 全く、アンタも七海と同じね……」

「ははっ……」

 

 

 性悪なアイツと同じって言われるのだけは勘弁だな。

 でも反応が可愛いのは確かだから、からかいたくなる気持ちも分かる。それを含めて、みんなの色んな表情をもっと見てみたいって思うよ。

 




 すみれみたいに我が強くて芯が一本通ってるキャラは好きです!
 そういった意味ではLiellaの中で推しを決めるとしたら、決めたことをやり通す意志が強い彼女や可可が推しキャラになるかも……?



 Liella編の第二章も第30話に到達しました。
 予定としては年末までに完結とし、話数的には残り10話程度になると思います。そのため、来年の1発目から早速新章へ突入できればと計画中です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七草七海は聞き出したい

 澁谷かのんです。

 『ラブライブ!』の予選を終えてから数日が経過。結果は無事に本選出場決定!

 今回は去年よりも更にスクールアイドルたちのレベルが高く、他のグループのライブに見惚れちゃって危うく自信をなくしかけそうになったこともあったけど、9人一致団結して今までのどの練習よりも最高のパフォーマンスを披露でき、私たちの中でも納得のいくライブができたことで不安も乗り越えられました。

 

 そんなわけで、今日は予選通過を祝したパーティ―――――の料理に使う材料の買い出しに行っていました。今は学校に帰ってきて家庭科室の大きな冷蔵庫に食材を詰めているところ。

 ちなみにパーティは明日だから今日は買い出しだけで終わり。でも既に今の時点で一緒に買い出しに行ってくれた1年生たちはテンションが上がっています。

 

 

「メイ、今日ずっとニヤニヤしてる」

「だって予選通過したんたぞ? あの『ラブライブ!』で! そりゃ嬉しいに決まってるだろ!」

「予選を通過してから私のチャンネルの登録者人数も爆伸びですの! これは笑いが止まらない……うひひ!」

「夏美ちゃんは別の意味で喜んでいるっす……」

「そういうきな子ちゃんだって、もう優勝したってくらいに泣いてた」

「う゛っ!? それを言うなら四季ちゃんだって、きな子が見たことないくらい笑顔が決まってたっす!」

「そ、そう……?」

「結局みんな嬉しかったってことだろ」

 

 

 1年生たちは初めての『ラブライブ!』だったけど、初出場とは思えないくらいの良いライブを披露してくれたことは一緒にステージに立った私が良く知っている。グループ加入直後は2年生との実力不足に悩んでいた時期もあったけど、今はもう私たちとの差は一切ない。これも先生が4人に特別指導してくれたおかげかな。やっぱり最終的には先生のおかげと考えてしまうあたり、私たちにとっての先生の存在が大きくなっていた。

 

 そんな中、後ろから赤髪ツインテールの女の子――――七海ちゃんが話しかけてくる。

 

 

「いやぁ~浮足立ってるねぇ1年生ちゃんたち」

「七海ちゃん。うん、今の『ラブライブ!』は参加グループが多すぎて、予選を抜けることさえ難しいもん。それをパスしたとなったらああなっちゃうよ」

 

 

 この場に七海ちゃんもいる。買い出しに行く話を七海ちゃんにもしていたので、用事で来られない他の2年生チームの代役として(勝手に)付き添ってきたのが事の流れ。裏の性格を知ってからは何かと私たちも彼女のことを警戒することが増えたけど、それは今回もそうだ。何の見返りもなく手伝ってくれるって、今度は何を考えているんだろう……。一応親友だけど、あの性格を知っちゃったら……ねぇ。

 

 

「ま、死ぬ気で頑張ってよ。みんなが『ラブライブ!』を優勝して、センセーに告白して結ばれたら私も自動的に結ばれるんだから」

「えっ、そういうシステムだったっけ? 私たちと先生がくっついたら、七海ちゃんの恋愛が解禁されるって聞いたような……」

「だってセンセーが告白してきた女の子を突っぱねるわけないもん。つまり告白した時点で勝利ってこと。そして私はいつでも告白する気満々。だから後はそっち次第だよ」

「そっか、人の恋路を背負ってるのか私たち……」

「そうだよ。だからもし優勝できなかったら――――握り潰してやる」

「どこを!?!?」

 

 

 目こわっ!! 勝手に人のライブに人生を捧げておいてそれはないよ……。

 ただ本人も半分冗談なのか、すぐにいつものイタズラな笑みに戻る。もうどの表情が本当の七海ちゃんなのか分からなくなってくるかも……。

 

 

「で、どうなの? センセーとは最近」

「どうって? なにが?」

「なにって、まさか何も発展してないの? 私が本性まで出してあげたのに??」

「それは七海ちゃんが勝手にやったことだよね……。別に何もないわけじゃないけど、じゃあ何か進展があったと言えるほどの何かがあるわけでも……」

「ヘタレ、意気地なし、小心者、ボロ雑巾。アタシは自分よりも圧倒的に下の人間に自分の人生を託してるのか……。泣けてくるね」

「よくもまぁそんな流れるように悪口を……」

 

 

 七海ちゃんはこちらを見上げるように目を細め、口角を上げる。憎たらしいったらありゃしないけど、先生も言っていた『コイツが超絶美少女じゃなければ今頃顔面パンチしてた。ただの美少女でも殴っていた。超絶だから躊躇ってしまった』という気持ち、よく分かり過ぎる。自分が可愛いのを分かっていて、それを武器にして多少の煽りは許されると思っているからタチが悪い。たまに本当に友達同士なのか疑っちゃうくらいだよ……。

 

 

「1年生ズはどうなの? 先生と何か進展あった?」

 

 

 あっ、きな子ちゃんたちに矛先が向いちゃった。1年生たちにあまり変なこと吹き込まないよう私が会話をすることでブロックしていたつもりなんだけど、流石にもう限界かも……。

 

 

「私はそうでもないけど、メイは進展あったっぽい。先生を見る目が明らかに乙女になってる」

「ちょっ!? お前勝手なこと言うな!!」

「ほほぅ、これはスキャンダルですの。スクールアイドルが教師に恋する、まさに炎上騒動」

「ん? でも夏美ちゃんも最近先生に熱い視線を向けてるっす」

「の゛ぁ゛!? そ、そんなことないですの!!」

「やけに野太い声が聞こえたっす、さっき……」

 

 

 そういや夏美ちゃんとメイちゃん、最近先生と2人きりになれた日があった気がする。先生は身近な存在でありながら、2人きりになれる機会は中々なかったりするんだよね。そりゃ先生は社会人で教師だから仕事がたくさんあって、それでも私たちの指導をしてくれて、他にも学校中の生徒の勉強を見てあげるなど、いつ休んでるんだって思うくらいに忙しそう。だから先生と2人きりでいられる時間は貴重だったりする。

 

 そして、2人きりの時間であったとしても私たちをさりげなくエスコートしてくれたりと、少しは休めばいいのに女性に対する気遣いを常にしてくれる。そのせいでやたらとドキドキさせられたりするから、夏美ちゃんやメイちゃんがこうなってしまうのも無理はないんだよね……。

 

 

「ていうかさ、あれだけのビッグイベントがあったのに進展がそれだけってことはないでしょ」

「ビッグイベント……って、なんかあったっけ?」

「あれ」

「あれって―――――あ゛っ!?」

 

 

 思わず言葉にならない言葉を発してしまい、はしたなくあんぐりと口を開ける。そしてそれはきな子ちゃんたちもそうだった。

 七海ちゃんが指さした先。窓の向こうに見えるのは――――例の銭湯。

 

 

「な、なななななにもなかったよ! なにも!!」

「その反応は逆にあったって言ってるようなものでしょ。せっかくみんな裸を見せたっていうのに、何もなかったはウソすぎるよ」

「ちょっ、ちょっと待って! どうして七海ちゃんがあのことを知ってるの!?」

「だって私も聞いたもん♪ あの秋葉(あくま)に」

「そうなんだ……」

 

 

 秋葉先生、どうして教えちゃったのこの子に!? この世で一番知られたくない人に知られて冷や汗が止まらない。

 そして、これからの展開を暗示するかのように七海ちゃんの笑顔の黒さは最高潮に達していた。イタズラな笑みという言葉を辞書で引いたらこの顔が写真で出てきてもおかしくないくらいに……。

 

 

「それでぇ? センセーの裸は見たの?? どうだった――――鬼塚ちゃん?? センセーの身体、前から洗ったよね?」

「え゛っ!? そ、それはその……意外といい胸板……でしたの」

「は? それだけ?」

「恥ずかしくてあまり見られなかったと言いますか……」

「下は?」

「そこはいいって、先生が……」

「ダメよダメよはやっての合図!! 男も女も変わらない!!」

「ええっ!?」

 

 

 あの時、銭湯に充満していた変な煙のせいで私たちはみんな正気を失っていた。そのせいで大胆な行動を取っちゃったけど、最低限ギリギリのラインに触れないように先生がコントロールしてくれていたんだと客観的に記憶を思い出すと分かる。それでも攻めろと七海ちゃんは言ってるみたいだけど……。

 

 

「あと下半身のタオル1枚でセンセーを丸裸に出来たのに、私が夢見たそのポジションにそっちがいち早く着いたってのに、何もしなかった……? 脱がしたいとは思わなかったの?」

「あの時はちょっと変な気持ちになってまして……す、少しは」

「えっ、夏美お前、そういうことに興味あったのか!?」

「意外。やっぱり動画投稿者の女性は承認欲求の塊。自分を魅せて男性に抱かれたい欲求を持つビッチ」

「そこっ!! 事実無根の偏見を持つのはやめますの!!」

 

 

 なんか話があらぬ方向に進んでいるような……。確かにあの時は私たちがおかしくなってたけど、秋葉先生曰く『あのガスは本心の奥底に眠る願望を引き出す効果がある』って言ってたし、もしかしたら私たちってエッチなことに興味あっちゃったりするのかな……? い、いやいや、そんなことない……はず。

 

 

「そんなこと言いながらも、米女ちゃんはセンセーと湯舟に浸かっている時にずっと身体見てたじゃん」

「がはっ!? ゴホッ、ゴホッ!! そ、そりゃ見るだろ!! 女だったらイイ身体した男くらい!!」

「開き直りましたの……」

「私のメイが男に寝取られていく……」

「おい四季! それだと私まで変態性癖持ちみたいに思われるだろ!!」

 

 

 七海ちゃんによってみんなの心の奥底がまた掘り返されてる。しかも七海ちゃんは最初に一言を言っただけで後は愉しそうに見てるだけ。いいようにオモチャにされてるなぁみんな。私もいつもされてるけど……。

 

 

「内部崩壊ってこうして生まれるのかぁ。ちょっと亀裂を入れてあげただけで勝手に広げて分裂するなんて、これほど面白いことはないよね♪」

「もうっ、予選抜けてこれから頑張ろうって時になんてことしてくれるの……」

「これだけ恥ずかしい思いをすれば少しは羞恥心が晴れるかと思ってね。センセーにも近づきやすくなるでしょ。ま、反応が面白いからっていうのもあるけどね♪」

「そっちが本音だよね……」

 

 

 敵なのか味方なのか分からない人って二次元の世界の話だと思ってたけど、こうも分かりやすい子が現実でいるなんて……。先生は『アイツの好きにやらせておけばいい。裏切るような奴じゃなさそうだしな』って言ってたし、根は優しい子だって1年の頃から友達だったからよく知ってるけど、今の状況を見てると疑いたくなっちゃうよねぇ……。

 

 とりあえず、現在絶賛ヒートアップ中の夏美ちゃんとメイちゃん、クールを装ってるけどアブナイ発言を繰り返す四季ちゃんもついでに止めないと。

 あれ? 夏美ちゃん、メイちゃん、四季ちゃん……? ん? そうだきな子ちゃんは??

 

 

「あっ、あぁ……先生の……裸……」

「頭から湯気が出てますの……」

「きな子、意外とむっつりなんだな」

「純朴な田舎娘ほど、性根はエッチだったりする」

「はっ!? 今とてつもない不名誉が降りかかってきた気がするっす!」

 

 

 このままだとLiellaが男性の裸のことばかり考えているエッチな集団に思われちゃうよ……。

 この前も私たち2年生にも先生とあんなことやこんなことをする妄想を流し込んできたし、これで1年生と2年生どちらも潜在的な性的欲求を七海ちゃんに掘り起こされたことになる。私たちの恥ずかしさを克服するために辱めてるって言ってたけど、痛みに慣れるために体罰をする昔の教育と変わらない気がする……。

 

 

「それで? 知りたくないの? センセーがどれだけ男らしいカラダをしているのか、見てみたくないの?」

「み、見たくないと言えば……」

「見たい部類かもしれない」

「いや普通に……」

「見てみたいっす……」

「思春期女子って感じだねぇ。好きだよ、汚い欲望を曝け出すその姿。渋々ながら自らの欲求を隠しきれずに思わずゲロっちゃうその滑稽さ。フフフ……♪」

「本音漏れ過ぎだから……」

 

 

 また遊ぼうとしてる。だったら抵抗すればいいじゃんって話になるんだけど、何故か暗示をかけられたかのように七海ちゃんに思考を誘導されちゃうんだよね。七海ちゃんの話し方が上手いのか、自分のペースに乗せるのが得意なのか。こちらが何も喋らなくても、その蠱惑的な眼は相手の気を彼女に集中させる効果があるような気もする。私の身近にこんな子がいたなんて恐ろしい。むしろ1年以上もよく猫被っていられたって感心しちゃうくらいだ。

 

 

「ま、センセーの裸を見たいんだったらまずは今の中途半端な関係から先に進むことだね。その気になれば割とヤってくれるから、センセーは」

「やるって、何を……?」

「えっ、エッチなこと。いわゆるセックス」

「「「「セッ……ク!!」」」」

 

 

 みんな大きな声で言いそうになったけど必死に堪えたね……。

 七海ちゃんは真顔だ。如何わしい言葉を使うことに一切の躊躇がない。ただでさえ銭湯であんなことがあったばかりなのに、そんな話をされたらまた余計な想像が止まらなくなりそうな……。

 

 

「センセーに女がたくさんいるのは知っての通り。凄いのは、たくさんの女を1人で一晩丸々相手できること。あの大所帯の虹ヶ先のスクールアイドル相手でさえ、あの人数を1人で相手をしきってなお余裕のある精力の強さがあるんだよ。それは男としての体力、鍛えられた身体、とめどない性欲、全てにおいてパーフェクトな証」

「体力も……」

「身体も……」

「性欲も」

「パーフェクト……」

 

 

 きな子ちゃんたちは顔を真っ赤にしながら息を飲む。ついでに私も唾を飲み込む。

 男女の夜伽がどんなものかは分からないけど、先生の裸を見てしまった今なら少し想像できる。あの意外とイイ身体で迫られたらもう――――って、ダメダメこんな妄想してたら! 先生ゴメンなさい!! あれもこれも七海ちゃんのせいですから!!

 

 

「でもあなたたちはセンセーを丸裸にする最大のチャンスを逃した。また見たいのであれば、それこそお付き合いして一緒にベッドに入るしかないってことだよ」

「それだと先生の裸見たさがメインに思われるような……」

「目的はなんでもいいよ。ただお近づきになりたい、お付き合いしたいってよりも、その後で何をしたいって考えてる方が夢あるし、センセーもみんなとの未来を想像しやすくなると思う。たくさんの女の子と付き合ってるにも関わらず、1人1人との日常を大切にしているあの人になら、自分のやりたいことを伝えた方がいいかもね」

「「「「「…………」」」」」

「なにポカーンとして」

「七海ちゃんって、まともなアドバイスもできたんだね」

「失礼な!」

 

 

 観察眼は鋭いから、自分が面白くないからやらないだけで今みたいに真面目なアドバイスもできるはずなんだよね。いつもそうなら毎回何をされるのかとヒヤヒヤせずに済むんだけど、からかい好きだからこれからもそうはいかないんだろうなぁって。

 

 

「じゃ、興が醒めたから帰るよ」

「えっ、そ、そう。今日はありがとう、買い物付き合ってくれて」

「別に。センセーとの進捗状況を聞きに来ただけだし」

「じゃあ予選の打ち上げ会、一緒にどうっすか! 明日やるので!」

「ゴメンだけどパス。スクールアイドルには興味ないし、そっちは今『ラブライブ!』の優勝だけに集中した方がいいでしょ。そのために英気を養っておいた方がいいよ。少しでも先生の側にいて、力を貰ったら? 私がいても邪魔になるだけだしね。それじゃあ」

 

 

 そういって七海ちゃんは帰ってしまった。

 最後はかなりさっぱりしてたけど、テンションが下がるといつもあんな雰囲気になる。あの七海ちゃんが本性なのか、それとも煽ってくる時が素なのか、相変わらず分からない人だ。

 

 

「七海先輩はよく分かりませんの」

「しっかりとアドバイスはしてくれたよな」

「悪い人ではないってことは分かるっす」

「不思議な人」

「うん。でも応援してくれてると思うよ、心の中では」

 

 

 自分の恋愛のためというのは第一前提だろうけど、それでも少しは私たちを応援してくれているんだろうってことは2年の付き合いからなんとなく分かる。

 人の恋愛を背負わされちゃったとは言え、向こうは期待してくれてるんだ、これはもうこれまでよりも一層恥じないライブを魅せないとね。

 




 七海は名前だけはモブキャラから借りて性格は肉付けの半分オリキャラと化していますが、こうして描くのは楽しいんですけど、どこまで物語に関わらせるか迷ったりもします。
 読者の方が見に来ているのはラブライブの小説なので、オリキャラは極力少なめにしようと思っているのですが、Liella編の女の子が全体的に内気思考なので、こういった物語に爆弾を落とすキャラが欲しかったんですよね(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去への扉:作られた笑顔と自然な笑み

 Liellaは無事に『ラブライブ!』の予選を突破した。これからが本番なのは間違いないが、肩の荷が下りたってのと決勝が少し先なのも相まって暫しの休憩期間だ。

 とは言ってももちろん練習は絶やさない。多少でもライブの質を上げるためにダンスにボイスレッスンに余念はないが、それでも誰も一切文句を言わず、むしろ一丸となって取り組んでいるのが凄いところだ。2年生は去年敗北した苦い過去があるし、1年生もその煽りを受けてモチベが上がっているおかげかもしれない。

 

 ちなみにここまで練習に燃える理由は優勝したいからってのもあるが、ライバルのSanny_Passionとウィーン・マルガレーテがどちらも同じく予選を突破したってこともある。高め合っていた相手と一緒に次のステップへ上がることができてやる気が上がっていた。サニパとお互いに予選突破おめでとう会をしたり、ウィーンとも一言二言だが健闘を称え合ったりと、いいライバルの関係が築けている。そう言った意味で言えば、大会で上を目指すことをしなかった虹ヶ先は別として、μ'sに対するA-RISE、Aqoursに対するSaint Snowといった仲間でライバルがいるってのは向上心を煽られるいい存在かもしれない。

 

 そんなこんなで決勝への意識が増していく中のこと。今日はなんと練習が休みの日だ。予選が終わったばかりというのもあるが、ラストバトルまで休みなしで根を詰めすぎるってのも逆に意識が混濁してしまう。だから部長の千砂都の提案により今日は休みとなった。だから本日は珍しく、Liellaメンバーは各々で久々の休息を満喫している。とは言っても学校は普通にあったので、休めるとは言っても放課後くらいだけどな。

 

 スクールアイドル部が休み。

 ってことは、顧問の俺も久々に休みを――――

 

 

「んで俺がこんなことに付き合わなきゃならねぇんだよ……」

「秋葉先生が言っていた。『零君はいつも私の実験を快く引き受けてくれるから、自分の実験を試したいときは彼を呼ぶといいよ』って」

「引き受けてねぇよ巻き込まれてんだよ」

 

 

 休めると思ったら、四季に呼び出されてしまった。科学室の黒板の前の大きなテーブルに、試験管に入れられた赤、青、黄、緑の液体が怪しく光っている。もう冬だからか放課後なのに外は暗く、それに加えて何故か部屋の電気も点いていないせいで科学室内部の雰囲気は不気味一色となっていた。

 

 

「秋葉に何か唆されたのか?」

「安心して欲しい。先生に何かをするわけじゃないから」

「何か言われたのは確かなのか……」

「アドバイスをくれただけ。その代わり、これを使うときは先生にその場にいてもらうことが条件だった」

「一体何が始まるんだよ……」

 

 

 四季は4本の試験管の中にある液体を1つのビーカーに流し込んだ。どんな化学反応が起こるのか、秋葉がバックにいる状態だとすると何が起こっても不思議ではない。次に瞬きして目を開けて瞬間に世界が変わっていてもおかしくないからな。

 ただ特に目立った変化はなく。混ぜ合わされた4種の液体の色が白に変わっただけだった。その4つの色ではどう組み合わせても白にはならないのだが、何か他に変なものでも混ぜているのだろう。俺には科学知識なんてさっぱり分からない。ま、アイツが絡んでる時点で目の前の事象の原因なんて追及するだけ無駄か。

 

 

「これを飲むと、表情変化が豊かになる」

「えっ、それだけ?」

「それだけ」

「もっとこう、飲んだら性転換するとか、幼児になっちゃうとか……」

「TSモノに興味あるの? それとも赤ちゃんプレイ?」

「んなわけねぇだろ。こちとら生まれてからずっと変な研究の餌食になってんだから、警戒するのは当然だ」

 

 

 これまで幾度となくこの身を実験動物として扱われてきた。そう考えてみれば、俺が科学知識を得ることに抵抗を抱いているのはそのせいかもしれない。薬とか実験とか、そういう言葉を聞くと緊張してしまうのもそうやって調教された成れの果てなのか。自分の身体なのに自分以外の奴に好き勝手弄られ過ぎだろ……。

 

 まあ今は自分のことよりも、さっき四季が言っていたこの薬の効能の方を主題によう。気になることもあるしな。

 

「表情変化って、まさか自分で飲むってことか?」

「そう。これで固い表情を解すことができる」

「どうして今更」

「決勝で勝つため、少しでもいい表情が作れるようになりたい」

 

 

 真剣な表情をしている。とは言ってもいつもの真顔と全然変わりないが、流石に1年も一緒にいれば真顔であっても感情くらいはある程度読み取れるようになった。

 表情が固いというのは四季にとっては永遠の課題だ。決して顔を作れないわけではなく、むしろライブでは豊かではないものの表情は出ている。だが出ているとは言っても普段の真顔と比べた場合なので、他の奴らと比較すると表情変化が乏しいのはライブを見ると分かる。その映像でみんなの表情を観察してみるとその変化が非常によく見て取れる。

 

 それはコイツ自身スクールアイドルを始めた頃から悩んでいたことだが、実際にライブに出てステージに立つたびに徐々に慣れていったのか、最近は特に気にしていないものとばかり思っていた。表情が乏しくても笑顔が作れないことはなく、そういった無表情クール系が好きなファンが一定数コイツに付いているのも事実だ。だから無理にこれ以上表情筋を鍛える必要もないし、本人もそう言っていた。

 

 

「勝つために、そんな薬品を使うのか? そうするように秋葉に言われたとか?」

「違う。これは私が望んで、私がお願いしたこと。秋葉先生は薬の調合を手伝ってくれただけ」

「そこまでしてお前……」

「メイのため、Liellaのみんなのためだから」

 

 

 真顔だけど今度は明らかに落ち込んでいるのが分かる。ここまで固くなかったと思うんだけど、どうやら薬の効果に頼るべきと判断することがあったみたいだ。

 

 

「予選のライブの映像を見た。自分でも今までのどの練習よりもいいパフォーマンスができたと思っている。だけど、やっぱりみんなと比べて表情は固い。それが気になった」

「気になったのなら気にするなとは言えないか」

「うん。だからこれを飲めば表情が作りやすくなるから、決勝ではこれを使う」

「そうか……」

 

 

 決勝なんだから自分にとって、チームにとって完璧を目指すのは当然のことだ。それを飲むだけで表情を作ることができて、それで自分たちのライブの質が上がるのであれば使用するに越したことはないだろう。普通に考えればそうだ。

 

 

「でもそれ、ドーピングとかにならねぇの? スポーツ大会ではないから別にいいのかもしれないけど」

「別に規定はない。それにもしドーピング検査があったとしても、これは検査に引っかからないように調整されてる。秋葉先生がやってくれた」

「堂々と不正できるのかよ。とんでもねぇな……」

 

 

 使えば完全犯罪も余裕の代物を無数に作成できるからなアイツ。でもそれで悪事を働こうとか、金儲けしようとは一切しておらず、全ては自分が愉しむことばかりにその天才的頭脳を回転させている。つまり今回の薬も四季のためにわざわざ一緒に開発したってことだ。でもそれを使う実験をするなら俺抜きでもできたはずなのに、どうして俺を四季に付き添わせたんだ……?

 

 

「とりあえず、これを飲んでみる。それから笑顔とか作ってみるから、感想を教えて欲しい。多分だけど、秋葉先生が先生を呼べと言ったのはそれが理由」

「お前も聞かされてねぇのかよ。ま、飲むかどうかは最終的にお前が決めることだ。決心してるのなら止めはしない」

「決心してなかったら?」

「止める」

「っ!?」

 

 

 四季は目を丸くした。さっきまで飲んでもいいムードだったのに、いきなり真剣な口調になったから驚いたのだろう。

 それに驚いたってことは、少しは迷いがあるってことだろうしな。

 

 

「俺はさ、女の子の笑顔が好きなんだよ」

「……知ってる」

「だから、それを飲んで作った笑顔は本当の笑顔じゃないってことだ」

「そう、かもしれないけど……」

 

 

 俺がスクールアイドルと何かと縁があるのも、女の子の笑顔を見続けたいって夢があるからかもしれない。まあ新しいスクールアイドルと出会うたびに『またかよ!』とは思っちゃうけど、それでも女の子との出会いは期待が膨らむ。笑顔は1人1人違う。だからまた別の笑顔、その子の魅力が見られると思うと年甲斐もなく興奮するし、だからこそその子が困ったり迷っている時は笑顔を見たいがために手を差し伸べてしまう。

 

 

「ただ、これは俺のワガママだ。その薬で『ラブライブ!』に優勝できると思っていて、お前にも迷いがないなら止めないよ。その決心こそがお前の自然体なんだから。でも自分でも作られた自分に抵抗があるってのなら、俺は止める」

「止めるってどうやって? 無理矢理押し倒す、私を?」

「誰がそんな淫行みたいなことすんだよ。そうだな、昔話でもするとか」

 

 

 告白っぽくはなるが、出会った頃から抱いているその子の魅力を語ることで心を動かすのは良く使う戦法だ。相手も同じ過去を経験している都合上、話もしやすいし理解を得られやすいからな。

 ただ、四季は座っている俺を見下してくる。表情変化がないとは言ったけど、目の動きや口角、頬など微妙に動くから良く見たら普通に分かりやすかったりするんだよな。つうかどうしてそんな表情してんだよ……。

 

 

「思い出話をすることでお互いに同じ描写を想像しやすくし、甘い言葉で語りかけることで心を揺れ動きやすくする。その後は流れでその子のことをたくさん褒め、恋心を掴んでいく。なるほど、これがメイすらも落とした手法」

「解説すんなよ! これから喋りにくくなるだろうが……。ったく、止めて欲しいんだろ? だったら邪魔すんな」

「別に止めて欲しいとは言ってない」

「顔に出てんだよ。てか、超シリアスな雰囲気だったのに一気にぶち壊しじゃねぇか。こちとら珍しく腰を据えてやってんのに全く……」

 

 

 てっきりめちゃくちゃ真剣に悩んで自分ではどうにもならない、みたいな感じだと思ったのに、実は構ってちゃんだったとか力抜けるぞ。まあ決勝目前にして新しい問題の種が撒かれるみたいなことがなくて良かったけどさ……。

 

 

「夏美ちゃんとメイが先生と2人きりの時間の後、やたらとやる気が上がっていたのが気になった。だからその原因を確かめたかった」

「なんだよそれ……。じゃあその薬も偽物か?」

「いや、これは本当。飲めば笑顔になれる。私ですら頬が緩んでアへ顔ができるくらいに」

「もしそうだったら別の意味で阻止するぞ絶対に! ったく、だったら本当は悩みなんてないってことでいいか?」

「それも本当。予選のライブ映像を見て、やっぱり自分の表情変化が乏しくて浮いて見えるのが気になってる」

 

 

 別に浮いてはないと思うが……。もう四季の存在はLiellaの中で不動のものになってるし、今更無表情クール系の女の子がいたところで特に気にするファンはいないだろう。ただ『ラブライブ!』はスクールアイドル界隈でも最大規模の大会のため、普段そういったのを観ない人も大型大会だけは観る人がいるかもしれない。普段スポーツに興味がない人がワールドカップを観たりするあれだ。そうやってLiella知識のない人がライブを観たら、『あれ、この子全然笑顔がない』と思われる可能性はあるだろうな。限りなく低いとは思うけど。

 

 

「私にも情熱的な誉め言葉が欲しい。今日はそれを楽しみに日中を過ごしていたと言っても過言ではない」

「欲しがりかよ。話す前からそんな期待されたら言いにくいっつうの……」

「自信を付けたい。決勝ライブのこともそうだし、その、先生への気持ちの折り合いについても……」

「!? そうか……」

 

 

 『ラブライブ!』に向けての自信はもちろんだけど、俺との関係性についても一緒に考えてくれていたのか。

 四季は元々自己評価が高いわけではなく、自信家でもない。むしろ自己肯定感は低い方であり、どちらかと言うと誰かを引き立てる方が合っていると自分で思っている。傍から見てもそうだ。その顕著な対象がメイであり、最近は同級生のきな子や夏美も引き立てている。

 

 その性格せいか恋愛に対して自信が持ちにくいのも当然。普段は淫語を躊躇なく口走ってるくせに、自分の恋愛となったらこれだから可愛いもんだ。

 

 

「そうやって誰かの後押しをするだけして、自分だけは悩みに苛まれるのは出会った頃と変わらねぇな」

「変わら、ない?」

「悪い意味じゃないよ。むしろ尊敬してもいいくらいだ。そうやって一歩引いて誰かを応援している子を見ると、今度は俺がその子を応援したくなる。ほっとけねぇんだよ、お人好しな性格の奴のこと」

「それ、ブーメラン」

「人がいい話してんのに腰を折るなよ……」

 

 

 いつもみたいに上手く喋らせてくれねぇからやりにくいったらありゃしない。でもコイツとの会話ってこんな感じで間の抜けたことが多いのでストレスは一切ない。逆に言えば、まともに俺の言葉を聞いてしまうと恥ずかしいから茶化しているとも言える。普段は真顔なくせにして、実は人一倍の恥ずかしがり屋だってのは俺やLiellaメンバーからしてみれば周知の事実。誰かを可愛い可愛いと持ち上げている奴に限って、自分がその対象になると途端にポンコツになったりするんだよ。

 

 

「俺が言いたいのは、俺が好きなお前は自然な笑顔を見せるお前なんだよ。いくら表情が乏しくても関係ない。僅かに見せるその笑みが好きなんだ。だから変な薬に頼る必要はない」

「…………」

「なんだよ。ずっと黙って」

「いや、覚悟はしていたけど意外と心に響くなと。攻撃が来ると分かっていたのに、褒められるとやっぱり嬉しくて……」

 

 

 読めていた攻撃に対して防御していたのに貫かれるとかクソ雑魚か……? 分かっていたことだけどさ……。

 でも気持ちは分からなくはない。ありきたりな言葉だとしても、人間なら誰しも褒められると嬉しいものだ。自分のことをしっかり見てくれていて、しかもその人が想いの人だとしたらなおさらな。

 

 

「それに好きなんだろ、ライブ。加入前も1人でコソコソ練習してたしな。優勝のためって気持ちは間違ってないけど、好きなことだったらまず自分が全力で楽しめばいいんじゃねぇの。そっちの方が自然と笑顔も出るだろうしさ」

「自分が、楽しむ……」

「そうそう。メイのため、みんなのためを思う意識を持つのはいいけど、何より自分の気持ちを大切にした方がいい」

 

 

 他人を持ち上げるのは良いけど、自分の意志はしっかり持っておかないとな。そうでないといくら他人を引き立てようとも自分の気持ちは伝わらない。自分が本気で楽しんでいれば観客にもそれが伝わる。ライブってそういうのだろ。

 

 

「なるほど……」

「分かってもらえて良かったよ」

「こうしてメイたちが惚れたのか……」

「そっちかよ!? 別にそんなつもりで言ってねぇよ!!」

「冗談。でも、決勝前に話せてよかった。意外と緊張するから、自らのことを話すのは」

「やっぱ自分のことになると引っ込み思案になるよな。メイを褒める時だけオラオラ系になるのに……」

 

 

 そういや同じ無表情系キャラである虹ヶ先の璃奈も、自己肯定感は低いのに他の人の長所を見つけるのは得意だったな。それって無表情系女子の特徴だったりするのか……?

 

 

「うん、先生のことがもっと好きになった」

「意外と真正面から言うんだな……」

「ただもう少し女の子っぽい表情ができるように頑張ってみる。さっきみたいに告白しても、抑揚がなさ過ぎてライクかラブかどっちか分からなくなるから」

「えっ、さっきのはラブの方だったとか……ある?」

「さぁ」

 

 

 四季は惚けた様子を見せると、ビーカーの中の白い液体を全て流しに捨てた。

 コイツのことを分かっているようで、でもどこか読めない。ミステリアスな感じがありつつも、どこか年相応で可愛かったりする。また1つ、彼女の魅力に気付けたのかもしれないな。

 

 あっ、もしかして、秋葉が俺を呼ぶように四季に言ったってまさかこの結果になるのを見越してたんじゃ……。また手のひらで踊らされてる気がして気に食わないけど、四季の頑張りを後押ししてくれたってことで許してやるか。

 




 1年生の過去編の3人目ですが、あまり過去感はなかった気がする……
 表情変化が乏しいとは言っていますが、アニメを観るとそこまで璃奈のようにはなっていないような気がします。むしろライブとかではアダルティな顔を見せているので、むしろ豊かな方だと思いますね。



 余談ですが、投稿日から翌日の11月7日でこのラブライブの『日常』シリーズが9周年になります!
 ここまで続けて書き続けられたのも自分で凄いと思いますが、ラブライブシリーズがここまで続いている公式側はもっと凄いです(笑)

 この小説のLiellaの2章もあと8話程度で完結ですが、それからもまだ続けていく予定なので、お暇な方は是非1週間の楽しみとしてこの小説に足を運んでいただければと思います!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

次なる一歩:思い出クリエイト

「もうすぐ『ラブライブ!』の決勝。すなわち、気を引き締めなければなりマセン」

「あぁ……」

「気を引き締める。すなわち、心の乱れを整理する必要があるのデス」

「そうだな……」

「心の整理。すなわち、この散らかってる部屋を片付ける必要がありマス」

「…………」

「つまり先生! 一緒に部屋を片付けてくだサイ!!」

「どうしてそうなる!!」

 

 

 今日は可可の部屋に招かれていた。

 何やら深刻そうな面持ちで部屋に誘ってきたので、『コイツまさか男を自分の巣へ連れ込むくらいの度胸がついたのか』と思ったのだが、案の定と言うべきか冒頭の会話の通りだ。まあそれでも教師の男を自分の家に上げるのって相当ヤベぇことやってる気がするけど……。

 

 

「別にいいけどさ、お前よくこんな部屋で暮らしてるよな……」

「う゛っ! それは聞かないでくだサイ……」

 

 

 狭いワンルームのくせにダンボールが積み上げられ、いたるところに物が散乱。辛うじて料理はやっているようで、最低限スクールアイドルに必要な体力と健康は気遣っているみたいだ。これでカップ麺の容器が散らばってたりでもしたら、俺はいよいよコイツにダメ人間判定を下すところだったぞ。

 

 

「あっそ。じゃあどこから片付けりゃいい?」

「えっ、手伝ってくれるのデスか?」

「そのために呼びつけたんだろ。それにお願いまでされたんだ、そのまま帰るって方が心残りあるし、やってやるよ」

「あ……ありがとうございマス!! 先生サマ!! 手のひら擦り切れるまで一生崇め倒しマス!!」

「お前の感謝の仕方っていつも大袈裟だよな……」

 

 

 感情の起伏が激しいコイツは何かと表現が豊かで、喜ぶときは満面の笑みで、感謝するときは床にめり込むくらいに首を垂れ、敵と見なしたものは敵意むき出しで容赦なく攻撃する。そういうところが子供っぽいんだけど、その無邪気なところが可愛かったりもするんだよな。

 

 にしてもコイツ、どうして俺を呼んだんだ? 片付けだけならかのんたちに頼めば快く引き受けてくれるだろう。でも俺を呼んだ。いくら顧問と言えども、1人暮らしのJKが自分の家に成人男性を上げるって相当のことだ。でも特に恥ずかしがっている様子もないし、ただ単に労働力としてこき使いたいから身近な男を呼んだってだけか? ここまで動揺が見られないと逆にこっちが気になっちまうな……。

 

 

「とりあえず、先生はそこに固めて置いてある大きな荷物を玄関口に出して欲しいデス。ダンボールのまま外に置いておいてくだサイ」

「なんだよこのデケぇのは。あれか? 家具を買ったけど組み立てるのが面倒で放置してんのか?」

「それはスクールアイドル勧誘のプラカードデス。かのんと2人のときに作ったものデスよ」

「あったなそんなの。じゃあこれは?」

「手作りのステージの照明デス」

「これとこれは?」

「巨大横断幕と移動ステージの残骸デス」

「なんでそんなの家に置いてんだよ。いらねぇんだったらとっとと捨てろよな」

「はぁああああああああああああああああああああ!?!? 捨てるぅううううううううううううううううううううう!?!?」

 

 

 巻き舌で喉を汚く震わせながら俺に詰め寄ってくる可可。そんな濁声で鳴いたら喉を痛めて本番に響くぞと冷静にツッコミを入れそうだったが、今の状態のコイツに何を言っても言い返されるだけだろうから口を閉ざす。感情豊かなのはいいけど、たまに変なスイッチが入ってあらぬ方向に暴走するから取扱注意なんだよなコイツ……。

 

 

「これは日本で作った大切な思い出デス! だから絶対に手放したりはしマセン!!」

「へいへい」

「それ、持っていくときに壊したら一生をかけて償っていただきマス!!」

「一生って、俺と添い遂げる覚悟はできたってことか? あぁ、じゃあ壊せば俺とお前はずっと一緒にいられるんだな。それはそれでありかもなぁ~ってか」

「ふぇっ!? そ、それは……覚悟はまだデスけど――――って、いいから口ではなく手を動かしてくだサイ!!」

 

 

 可可は顔を真っ赤にしながら看板を運ぼうとする俺の背中を押す。ちょっとからかうだけですぐ子供っぽく膨れっ面になるから、千砂都たちがコイツで遊びたくなる理由も分かる気がする。

 

 それにしても思い出、か。冗談で壊すとか言ったが、この積み重なったダンボールの中に幾多の思い出が入っており、大切にしていることは俺も良く知っている。元々スクールアイドルがしたいから上海から日本に来たくらいなので、ここでのスクールアイドルとしての思い出は俺が想像する以上にかけがえのないものなのだろう。だったらその思い出をダンボールに包めて放置しておくなって話だが。傍から見たらただのゴミにしか見えねぇぞ……。

 

 そうして俺が大型の荷物、可可が小物を片付ける。

 そんな中、今まで気になっていたことを質問する。

 

 

「そういやお前、決勝に出るって実家には連絡したのかよ」

「な゛っ!? そんなデリケートな話題をいきなり振らないでくだサイ! みぞおちに入って危うく吹き飛ばされそうデシタ!」

「そんな禁忌な話題だったっけ……?」

「連絡しマシタ、今年こそは優勝するって。勝って有終の美を見せつけるって」

「えらく攻撃的だな。楽しみにしていてね、とか言い方あると思うけど、親との仲そんなに悪かったっけ」

「口うるさいだけデス。だからこうして娘に家出されるんデスよ」

 

 

 親の同意なしではこっちに入学できないからマジの家出ではないだろうが、一度決めたら頑なに考えを変えない一直線なところがコイツだ。親ならそんな性格を熟知してるだろうし、だからこそ『ラブライブ!』の優勝を条件に日本にいさせる約束だったのだろう。それでもそのミッションを達成するためのハードルはえげつないほど高いが……。

 

 そう、帰国。『ラブライブ!』で優勝できなければ実家に帰るという制限がある中でコイツは日本に来ている。その事実を知っているのは直に聞いた俺とたまたま親と電話をしているところを聞いたすみれだけであり、他の奴らには話さないように釘を刺されている。余計な雑念となってしまい練習に影響が出るのを防ぐ目的だろう。俺もすみれもそう思っているから周りには隠したままである。

 その条件自体は去年発覚したことだ。だが去年のコイツらの『ラブライブ!』の順位はサニパに負けて惜しくも2位。初出場かつ1年生だけのグループでそこまで行けたこと自体が奇跡なのだが、条件は条件の通り、1位でなければ意味がない。幸いにも結果は認められたためもう1年の滞在は許してもらえるようになったのだが、もう慈悲はないと言ってもいいだろう。傍から見ると厳しい親に見えるが、そのストイックなところが娘の可可に受け継がれているっぽいな。

 

 

「それにスクールアイドル関係なく可可は、まだ帰るわけにはいかない理由がありマス……」

「なんだよそれ」

「それは……」

「ん? あぁ、この思い出たちを持って帰るのは大変だもんな、そりゃ帰って来いなんて言われて簡単に準備はできねぇか」

「そうそう可可の思い出は飛行機に乗せられないくらいヘビーで――――って、そうではないデス!! いつも察しがいいくせに、こういう時だけ鈍感になって本人の口から言わせようなんてドSデスか!? 羞恥プレイ好きの変態さんデスか!?」

 

 

 相変わらずノリいいな……。堅苦しい雰囲気になりそうだったから冗談を交えてみたが、思ったよりコミカルな反応をしてくれて面白い。やっぱりコイツと一緒にいるのは飽きねぇな。

 

 

「わりぃわりぃ。そうか、俺も同じだよ。一緒にいたいって思うのはさ」

「そ、そうデスか……。ありがとうございマス……」

「俺から言っても結局恥ずかしがってんじゃねぇか……」

「そりゃ先生が自分の部屋にいるってだけで緊張しているのに、そんなことまで言われたら自分の気持ちを抑えきれマセン!!」

「えっ、緊張してたのか。普通に誘ってきたから余裕なのかと思ってた」

「先生は乙女心というものが分かってないみたいデスね……」

 

 

 それは恐らく自分の一生をかけても永遠に分からないものだろう。たくさんの女の子たちと付き合い始めてからもうすぐ10年になるが、それでも女の子の恋沙汰を1から10まで理解するのは難しい。無難な選択肢を選ぶだけでは仲は進展せず、時には地雷の一歩隣を歩く危険を犯さなければ進まない関係もある。人生をギャルゲーとは思ってないが、コミュニケーションの難しさはそれに匹敵すると思ってるよ。

 

 

「可可は両方掴み取りマス。『ラブライブ!』の優勝も、先生とのハッピーエンドも全て」

「2つどちらもか。強欲だな」

「二兎を追う者、二兎とも取れデス! この言葉は先生から教わったものデスから、可可を糾弾しようたってそうはいきマセン」

「そんなの言ったっけ俺」

「先生の生き方そのものデスよ。そもそも、普通の男性は知り合った女性を片っ端から惚れさせたりはしマセン。普通は1人の女性を徹底的に愛するものデス。普通は!」

「そんなに『普通』を強調すんな! 耳がいてぇよ!!」

 

 

 自分で二股だの重婚だのを言うのは一切の抵抗はないが、こうして他人から己の異常さを突き付けられると未だに焦りそうになる。そう言ってくる奴と恋人になればそれを言及してくることもないのだが、最近だと恋仲ではない(アイツ)がいるせいで、自分のやってることが如何に非道かを逐一叩き込まれんだよな……。

 

 

「とにかく、可可はどっちも掴み取って、もっともっと思い出を作りたいのデス。『ラブライブ!』を優勝してもいつかは上海に帰ることになるかもしれマセンし、スクールアイドルとしての思い出ももちろんデスが、先生との思い出ももっと作りたいデス。だけど、先生と2人きりになれる機会はあまりないデスから……」

「まさかお前、今日俺をここに呼んだのって2人き――――」

「そうデスよ2人きりになりたかったからデス! 最近みんなと2人きりでイチャイチャイチャイチャイチャイチャしてたみたいじゃないデスか! すみれのモデル撮影にも同行してマシタし!!」

「別にそんな甘々なことはしてねぇよ。てかいつからツンデレになったんだ……」

 

 

 子供っぽい表情に子供っぽい反応、そして子供っぽい嫉妬。仕草がいちいち小動物っぽくて撫でたくなってくる。まるで犬だな。

 それにしても、一緒にいたいから家の片付けをするなんて大義名分を抱えて呼びつけたのか。何事にも真っすぐで愚直な性格なのにわざわざ建前を用意するなんて、それほど俺と2人きりの時間が欲しかったってことだ。いつも無邪気で子供みたいな子が、年相応に恋愛に悩まされているのを見ると愛おしく思えてくるな。

 

 

「2人きりになりたいのなら連絡くれれば時間作るのに、ってのは野暮か。その連絡が平常心でできれば苦労しないもんな」

「そうデスよ。女心が分かってきたようデスね」

「この短時間でお前の中の俺の成長がすげぇな……。まぁでも、お前のために時間を作るってのはマジだから、フラれるかもって心配はしなくていい。俺もお前ともっと一緒にいたいしな。どこかに出かけたりするのももちろんいいけど、こうやってただ喋ってるだけでも楽しいしさ」

「うぐっ……!! 急に告白染みたことはやめてくだサイ!!」

 

 

 悲しいね、言いたいことを言えない世の中ってのは。

 誰にでも同じことを言ってると言えば聞こえは悪いが、実際にそうなんだから仕方がない。それに別にいいだろ、どの女の子であろうとも一緒にいたいって気持ちは本当なんだから。

 

 可可は深呼吸をする。俺の攻撃に不意を突かれて完全に心を搔き乱されたみたいだ。こっちとしては告白なんてビッグなものではなくただの日常会話のため、そこまでダメージを受けられるともう自分の気持ちを一切伝えられなくなっちゃいそうだけど……。

 

 

「それに、もしお前が上海に帰ったとしてもいつでも会いに行ってやるよ。だから今このタイミングで思い出を詰め込まなくても、この先ゆっくり作っていけばいいさ。お前がどこへ行こうとも俺は離れたりしねぇし、お前を離すつもりもねぇしな」

「だ、だからやめ……ッ!!」

 

 

 顔を真っ赤にしながら震える可可。別にイジメているわけではなく本心をただ打ち明けているだけなのだが、どうも想像以上に心に響き過ぎているようだ。これは可可が恋愛クソ雑魚なのではなく、想いが募りまくっている年上のお兄さん的な男にこんな言葉をかけられたら、思春期女子だったら誰でもこうなるのだろう。

 

 

「はぁ、はぁ……どうして片付けをしているのに、片付け以外のところで疲れているのデスか可可は……」

「お前が俺を呼んだせいだろ」

「先生と一緒にいると心臓に悪すぎマス……。ただ2人きりで思い出を作ろうとしただけなのに、まさか死の淵を彷徨うことになろうとは……」

「俺の言葉は呪詛か何かかよ……」

 

 

 せっかくお互いに本音で本心を語り合っているっていうのに中々の言われようだな……。ま、Liellaの奴らのこういった反応の方がまともなんだけどな。虹ヶ先の奴らが特殊過ぎただけだ。

 

 そんなこんなで手が止まっていたものの、片付けは無事に終了。外の廊下に出した大きい荷物は後日貸しトランクルームに持って行ってもらうらしい。

 改めて見渡すと、狭いと思っていた部屋が案外広かったことに気が付く。どれだけの荷物で面積を埋めていたのか実感できるくらいには。

 

 

「んで? この風呂敷に包まれた絵みたいなのはどうすんだよ? トランクルーム行きにしなくていいのか?」

「それはサニパ様の肖像画デス! サニパ様をトランクに押し込めるとか、そんなことはできマセン!!」

「そ、そうか……」

「でも今だけはライバルで、打ち倒す敵デス! なのですみれの家で預かってもらいマス!」

 

 

 すみれの家とばっちり過ぎる……。

 でもいつも崇め奉っているサニパであっても容赦はしないあたり、しっかり対抗意識は芽生えているみたいだ。そりゃ前回苦い汁を啜らされたんだから仕方ねぇわな。

 

 

「優勝するためにはあのサニパとウィーンに勝つ必要がある。去年よりも厳しい戦いになりそうだな」

「でもそれを乗り越えた先に新たな思い出がありマス。優勝できれば帰国を回避できて、先生にもアピールできて、まさしく二兎を追う者、二兎とも取れデス。あっ、ななみんの恋路の手助けもできるので、三兎を追う者、三兎とも取れデス」

「数増やせばいいってことでもないけど……。でも、七草のことも気にかけてんだな」

「友達デスから。それに先生は恋人候補が1人増えたところで問題ないはずデス」

 

 

 そうか、七草やウィーンからも告白される可能性があるのか。自分が知らないところで知らない女の子に好きになられていて、出会った瞬間から好感度MAXで好意を伝えられるってやっぱ変な感じだ。虹ヶ先の奴らとの出会いを思い出すよ。

 

 よし、片付けも終わったからそろそろ帰るとするか。今日は可可と本音で語り合うことができて有意義な日だったな。

 そんなことを考えていると、足元に小さなダンボールが残っていることに気が付いた。少し上が開いて布切れみたいなものが見えてるけど、一体何が入ってるんだ……?

 

 片付けようとしてダンボールを持ち上げてみる。すると、可可の顔色が変わった。

 

 

「そ、それは触らないでくだサイ!!」

「えっ……?」

 

 

 ダンボールからはみ出ていた布切れが床に落ちる。それに付随して何枚か別の柄の布――――水色、黄色、ピンクのパン……って、パンツ!?

 

 

「こ、これ……!?」

「そういうところデスよ先生!! 女心を理解してくだサイ!!」

「えっ、じゃあこの中って全部下着……?」

「いいから目を逸らしてくだサイ!! ダンボールから手を離してくだサイ!! 快点! 把你的手拿开!」

「ぐはっ!?」

 

 

 可可が俺の懐に突っ込んできて突き飛ばされてしまった。

 コイツの口から中国語が飛び出すのは焦っている証拠だ。それ故に力加減が全くできていないのか思ったより吹き飛ばされて押し倒されてしまった。

 

 

「せ、先生……!! 可可を上に乗せるなんて……ま、まさか今からエ、エッチなことを……!?」

「お前が押し倒してきたんだろ!?」

「うぅ……ふしゅぅ……」

「おいショートすんな!! 俺の上から離れろ!!」

 

 

 可可は俺に跨ったまま気絶してしまった。

 そして、舞い上がっていたパンツが俺の頭の上に落ちてきた。

 

 せっかくいい雰囲気だったのに、肝心な時に締まらねぇな俺……。

 




 そういえばアニメ2期では可可の帰国問題は一切描かれなかったんですけど、設定的にはどうなったんでしょうかね。最後に色々詰め込み過ぎた結果忘れ去られた可能性が……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勝利へFly Away!(前編)

 今回はサブキャラたち勢揃い回です!



 『ラブライブ!』の決勝も近づき、スクールアイドル界隈の盛り上がりも最高潮に達している今日この頃、その熱気を更に激しくさせるイベントが開催されることになっている。

 決勝戦に出場するグループへのインタビュー、および壮行会だ。インタビューはテレビで生放送され、壮行会ではディナーバイキングまで開催されるという大盤振る舞い。昔から大きな大会の前にはこういった行事があったと言えばあったのだが、最近は規模が違う。昨今の界隈の盛り上がりのおかげかスクールアイドル事業の利益は大きく伸び、ライブを伴わない催し物にも金をふんだんに使えるようになったのだろう。

 

 今回のイベントには決勝に出るグループ全てが参加しており、その中にLiellaはもちろんSunny Passionやウィーン・マルガレーテも当然いる。決勝よりも前にいち早く現在をときめくスクールアイドルたちが集結するイベントなので、界隈の熱量はそれはそれは大きく上がるようだ。

 

 そんな中、俺はLiellaの顧問枠としてイベント会場への入場を許されていた。ただ顧問がインタビューを受けたり壮行会で登壇したりすることはないので、夜の開催と言うこともあり生徒の引率という位置付けだ。さっきも言ったが壮行会の後には無料のバイキングが解放されるので、タダ飯を食えるのならそりゃ行くだろうって話。今晩はいつも飯を作ってくれる妹が用事でいないのでちょうどいい。

 

 ただ、1つ気になるのは――――

 

 

「なんでお前がいるんだよ七草。スクールアイドルの関係者じゃねぇだろ」

「Liellaのお手伝いって言ったら入れちゃった♪ ちょろいちょろい」

「どんなセキュリティしてんだよここ……」

 

 

 まあ同じ制服を着てるから勘違いするのも無理ねぇけど、隣にいる奴みたいなのが侵入するから来場者名簿くらい作っとけよな……。

 そんなこんなで俺たちは会場内のイベントステージのある大ホールの隅っこにいる。もうすぐで各スクールアイドルたちが登壇して意気込みを語るインタビューが行われるので、その準備の邪魔をしないよう端っこにいるわけだ。

 

 そして、俺の隣にいる七草七海。赤髪ツインテールの小柄な美少女。ただスタイルは良く出ているところは出ており、しかもイマドキ女子っぽく制服を着崩しているので胸や太ももなどその肉付きの良さが際立っている。

 元々はLiellaの良き理解者でかのんと可可が2人でやっていた時から応援してくれていた古参勢であり、更に他の部活の手伝いもしていた結ヶ丘のヒーロー的ポジションだった。だけどそれは単なる猫被りであり、その実態は人を小馬鹿にして弄ぶことを愉悦としている小悪魔だ。いい子ちゃんをしていたのも目的あってのことで、もはやあの頃のコイツと今のコイツが全くの別人に見えてしまう。

 

 

「いやぁ、澁谷ちゃんたちが無事に決勝に行ってくれて助かった助かった。これで途中で負けたなんて言ったら恨みの炎で消し炭になって今頃この世に存在してなかったから、あの子たち」

「勝手に自分の想いを人に乗せておいて良く言うよ……」

「背負った想いの数だけ強くなるって言葉もあるから。主人公ならね」

「残念ながらここは現実。そんな甘くはねーよ」

「そうだねぇ。この世界は誰しも自分が主人公、ではなくて、センセーが主人公の世界だもんねぇ」

「何言ってんだお前は……」

 

 

 七草はくすくすと笑いながら皮肉を漏らす。こうやって人を煽るような言動をするコイツだが、何故か憎めない。顔がいいからなのかは知らないが、確かにこの終わっている性格で顔も並程度だったら間違いなくパンチしていたので人を惹きつける魅力はあるのだろう。

 

 そんなコイツがLiellaの決勝進出を心の底から喜んでいるわけもなく、それはあくまで自分の未来を叶えるために手段に過ぎない。どうやら育て親である秋葉から、俺と恋愛する場合はLiellaを『ラブライブ!』で優勝させることが必要条件と伝えられてるらしい。どうしてアイツがそんな課題を出したのか、どうしてコイツが従っているのかは不明だが、育て親としてある種の洗脳教育みたいなのを施されてきたせいかもしれない。その割にコイツは秋葉のことを悪魔だのなんだの言ってるが、そう考えるとコイツも被害者なんだよな……。

 

 

「センセーも鼻が高いんじゃないの? 自分の女がスクールアイドルの頂点だなんて。あっ、でもそんな経験いくらでもあるか。人気のスクールアイドルの裏にはいつもセンセーがいるもんね」

「まるで俺が黒幕みたいな言い方だな……」

「実際にそうでしょ? センセーのために女は自分を磨き、その魅力をセンセーのために振りまいて、ついでに優勝しちゃうみたいな? どうどう? 本来スクールアイドルはファンや不特定多数を有象無象に勇気と元気を与える存在。そんな女たちが本当は自分しか見えてなくって、しかもその全員とお付き合いしていて、更にはエッチなことまでしちゃってる優越感は??」

「今更だな。だから何も思わない」

「おぉ~強者のセリフだねぇ。そうそう、コレクターっていうのは自分の手に入れたトロフィーを数えたくなるもの。そしてそれはいくつあってもいい。ふふっ、男にとって本来その(トロフィー)は1つしか与えられないものなのに、それをたくさん手に入れた気分はどう? 手に入れた最高級の(トロフィー)を並べた感想は?? そりゃ最高だよね♪」

 

 

 コイツ、俺のことを煽って何がしたいんだよ……。そうやって俺の立場を自覚させることで、自分も一緒に取り込んでもらおうって腹か?

 ただ、コイツの言うことは間違ってはいない。そりゃあれだけたくさんの美女美少女たちと付き合っていると男として頂に立ってるなって優越感に浸れる。同時にたくさんの女の子の笑顔を見るという俺の目標も達成できて、自分を取り巻くこの環境への満足感も高くなる。七草の言ったようなトロフィーコンプという表現は考えたことがなかったが、そうやって言われてみるとそれに近いのかもしれない。もちろん慕ってくれる女の子たちのことを優越感を満たすための称号なんて思っちゃいないがな。

 

 

「そうやってあなたはいつもいつも……。いい加減、この人を困らせるのはやめなさい」

 

 

 そうやって七草に煽られていると、別のところから鋭い声が割り込んできた。

 エレガントパープルの艶やかな長い髪の少女――――ウィーン・マルガレーテがこちらに歩み寄ってくる。眉間にしわとまでは行かないが、雰囲気的に何やら怒っている様子。こうやって感情を出さずに静かに怒る奴ほど怖いんだよな。中学生相手に何ビビってんだって話だけど、コイツどこからどう見ても中学生には思えねぇんだよ……。

 

 

「関係者ではないのにここに忍び込んだ挙句にこの人にまで迷惑をかけるなんて、相変わらず好き勝手し放題ね、七海」

「大丈夫、センセーは迷惑だなんて思ってないから。むしろこんな美少女まで手に入れることができてラッキー、みたいな?」

 

 

 答えづらい質問を振るなよ……。

 ウィーンと七海は同じ出自と境遇であり、秋葉を育て親としているところも同じ。言ってしまえば幼馴染の関係にある。お互いに名前で呼び合っているものの、仲がいいのか悪いのか。今のやり取りや文化祭で七草による監禁事件の時もそうだけど、傍から見ると関係がギスってるように感じるのは俺だけだろうか……。

 

 

「どうでもいいけど、お前こんなところにいていいのか? もうすぐインタビューが始まるらしいけど」

「大丈夫。出番の直前に舞台袖にいればいいから。それに私の出番は最後の方で、あまり騒がしいのは得意じゃないからここに来た。余計な誰かさんが余計なことをしないように見張っておくためにも」

「余計を強調しないでくれるかなぁ~? で、Liellaのみんなとは挨拶したの?」

「少しだけ」

 

 

 あまり多くを語らないのがウィーンの性格。挨拶と言っても向こうから話しかけてきたのを一言で返しただけなんだろうと容易に想像できる。

 

 

「そうやって誰にでもお堅く振舞ってると嫌われちゃうよ?」

「そうやって誰でも見下すような性格をしてると嫌われるわよ」

「どっちもどっちだなお前ら……」

 

 

 売り言葉に買い言葉。そうやってお互いを牽制しあっているのか。お調子者とお堅い性格で相反するように見えるけど、一緒にいるのなら趣味は合っても同じ性格の奴とはそりが合わないって聞くし、意外と仲はいいのかもしれない。でないとこうやって2人が顔を合わせることも、喋ることもしないだろうしな。

 

 

「でもビックリ。まさかマルがこういうイベントに参加するなんて。騒がしいのは苦手だから、そもそも来ないかと思ってた」

「いつもならそうしてるわ。でも今回は見せつける必要があるから、自分と言う存在を。Liella(あの人たち)にも、そして……」

「俺……?」

「そう。私はこの大会で優勝して、自分の想いを伝える」

 

 

 七草に恋愛するための条件が課せられていたように、ウィーンにも同じくミッションがある。好きな奴と恋愛するってだけでもそれなりにハードルがあるとは思うのだが、そもそも恋愛に漕ぎ着ける前に別のハードルがあるって今思うと意味分かんねぇよな。秋葉(アイツ)のことだ、遊んでいるだけとは思うが……。

 

 ウィーンが恋愛する条件はまさしく今コイツが言った通り、この『ラブライブ!』に優勝することだ。コイツの人の目を釘付けにする圧倒的なパフォーマンスと歌唱力はスクールアイドル界隈だけでなく一般メディアも騒がせた。実力は過去のスクールアイドルと比べても上位クラスなのは間違いなく、基本は複数人でグループを組むのが普通なのにコイツは1人でここまでの成績を打ち出したりと、それこそ本当に自分1人の実力でのし上がってきた証明となる。

 

 ここで気になることは、七草とウィーンの恋愛条件の矛盾だ。

 

 

「お前らって目標がお互いに反対だよな。七草はかのんたちの優勝、ウィーンは自分の優勝。つまりどっちかが条件を達成できないってことだろ?」

「そうだねぇ。でも別にいいんじゃない。できなかったらできなかったで別の方法を考えるだけだし、これっきりで終わりじゃないからね」

「えぇ。私は自分を魅せるのが得意、七海は人を操るのが得意。お互いの特徴を捉えたミッションだから、特段問題はないわ」

 

 

 なるほど、全力を出せるからこそ恨みっこはないってことか。そもそも七草が言っていた通り条件達成に失敗したところで人生が終わるわけではないから、そこまで気負う必要もないのだろう。でも自分の長所を俺に見せ付けるいい機会だから、自分のミッションをクリアするのは自分の実力を示したという確固たるアピールとなる。だからこそ人生が終わるわけではないけど頑張る理由があるのか。引っかかる部分もあるがとりあえず納得はした。

 

 

「なんにせよ、私たちはどちらもセンセーに告白するために生きているってこと。どう? 2人の美少女から愛されるのは??」

「いちいち感想を聞いてくんな……。でも答えるのなら『嬉しい』の一言だろ。男なら誰でも同じ回答になりそうだけどさ」

「拒む意志がないという気持ちが分かっただけでも安心。あなたからしたら、いきなり見ず知らずの女から好意を向けられて困っているだろうから」

「入れ込んでるな、俺に」

「そりゃそうだよ。生まれた時からずっと好きだったんだから」

 

 

 それは流石に言い過ぎだとしても、虹ヶ先の奴らと同じく火事現場で俺に救われた1人ではあるから、恩義を感じたり恋愛感情を抱くのは分からなくもない。でもコイツらの場合は当時まだ生まれてなくて、俺が助けたのはその母親だったらしい。その時の記憶がないから思い出せないけど。

 そしてコイツらを使えると思ったのか、秋葉は2人の母親を上手く騙し教育係として潜り込むことで、コイツらに過去の出来事と俺という存在を物心が付く前から叩き込んだ。そう考えたらまぁ、生まれた時から慕っていたってのはあながち間違いでもないのかもな。

 

 

「あっ、先生だ。おーいっ!」

 

 

「ん? 悠奈……?」

 

 

 元気のいい声が聞こえてきた。

 少し離れたところにいるSunny Passionの1人――――聖澤悠奈が手を振ってこちらに近寄って来た。その後ろには彼女の相棒の柊摩央もいる。

 

 

「先生! 久しぶりです!」

「お久しぶりです」

「久しぶりって、顔は合わせたことあるけどな」

「でもそれって、先生がかのんちゃんたちのビデオ電話にたまたま映り込んだ時だけじゃないですかー!」

「そうだっけか」

 

 

 まさかのサニパともエンカウント。

 こうして生身で会うのは久々、みたいな雰囲気だが、実は少し前に俺だけコイツらの姿を見たことがあるので久々感はない。あの時は楓と一緒にかのんと共にいたコイツらを見かけた上に、恋愛相談をしているところを意図せず盗聴してしまった。そのせいでコイツらの顔を見るたびに、あの時のことバレてねぇよなって警戒しちゃうんだよな……。

 

 

「そちらの方は、確かウィーン・マルガレーテさん、ですよね?」

「えぇ」

「初めまして。私は柊摩央、こちらの騒がしいのは聖澤悠奈」

「おぉ~凄い! こうして実際に見てみるとすっごく綺麗だね! いつもライブ見てるよ!」

「どうも」

「一緒にいるということは、先生とウィーンさんはお知り合いなのですか?」

「あぁ、ちょっとな」

 

 

 サニパ勢の挨拶に対し、壁にもたれながら一言で返すウィーン。もっと愛想良くしろよとは言いたいがそれを言わせぬお堅いオーラを醸し出しており、七草の言っていた堅すぎるって意味が改めて分かった気がする。

 

 ちなみに俺とウィーンの関係を聞かれて少し焦ったのは内緒。実際にどういった関係なのか言葉にしづらい。本当のことを言うわけにもいかないし、今だと教え子のライバルのスクールアイドル、とかになるのか?

 

 

「そっちのツインテの子もスクールアイドル?」

「いえいえ~! 私はかのんちゃんたちを応援しに来ただけですよ!」

「そうなんだ! あれ、でもここってスクールアイドルとその顧問しか入れなかったはず……」

「マネージャーみたいなものなので、特別に入れてもらったんですよ♪」

 

 

 猫被ってる……。あまりの性格の豹変っぷりにウィーンも溜息を漏らしていた。

 いわゆる余所(よそ)行きモード。かのんの呼び方もいつものからかいを込めた『苗字』+『ちゃん』付けではなく名前呼びになっている。

 にしてもこの笑顔と人当たりの良さ、コミュ力の高さを見るとコイツの本性になんて初見で気付ける奴いねぇよな。俺たちだって1年半気付かなかったわけで、しかもコイツからネタばらししてきたから下手をしたらずっと気付かなかった可能性が高い。勉強もできて運動もできて、演技力も完璧。つくづく能力の高い奴だなって思うよ。

 

 

「お前らも油売ってるってことは、インタビューはまだ先なのか?」

「はい。なので先ほどLiellaの皆さんに挨拶した時に先生が会場にいらっしゃると聞いたので、是非ともご挨拶をと」

「律儀な奴だな。ま、頑張れよ。応援してる」

 

 

 その瞬間、サニパの2人は目を丸くした。同時にサニパが来てから微動だにしなかったウィーンも身体をぴくりとさせ、七草もこちらを見上げた。

 

 

「応援してくれるんですね、私たちのこと。Liellaの顧問なのに」

「別にいいだろ。俺は贔屓しない。アイツらに勝って欲しいとも思ってるし、お前らやウィーンに勝って欲しいとも思っている。確かに顧問って肩書はあるけど、俺が見たいのはお前らが輝く姿だからな。そこに所属も肩書も関係ねぇよ。ぶっちゃけて言えば、応援するのにライブなんてシチュエーションすらもいらない。スクールアイドルとか関係なく、何事にも真剣に向き合う女の子は魅力的だから応援したくなるのは当たり前だ。サニパもウィーンも、七草も、そういった意味ではみんな同じだろ。だから応援する、誰であっても」

 

 

 

 大会だから誰かが勝って誰かが負ける。悔しい思いをする奴は絶対にいるだろうが、それ以上に悔しいけど後悔はしないライブをして欲しいと思っている。自分のやりたいことに対して全力で、そして最高の笑顔を見せて欲しい。その俺の想いは誰かを贔屓するとかは一切なく、ただ単に自分を取り巻く女の子たちの可愛い姿を観たいだけなんだ。

 

 それはスクールアイドルをやっているサニパやウィーンに対しても言えるし、別にそれと関係がない七草にも言える。コイツの場合かのんたちを後押しする方法は結構あくどいけど、それでもアイツらの恋愛感情を焚きつけて前進させているのは事実なので、結果だけ見れば助かっている部類だ。だから俺は七草であろうと応援する。

 

 普通のことを言ったはずなのに、4人は俺の顔を見つめたまま目を離さなかった。

 

 

「そういうトコ。そういうトコだよねぇセンセーは……」

「これが神崎零という男性……。なるほど……」

「あはは、結構恥ずかしいねぇこれ……」

「そ、そうですね。でも、ありがとうございます……」

 

 

 この場所だけ気温が上がった気がする。ただ応援してるだけなのに心が揺れ動き過ぎだろコイツら……。

 

 

「応援されたからには頑張らないといけないですね。私たちももう3年生。島起こしのため、島の人たちにワクワクを届けるため、そして何より私たちの高校生活最後の思い出作りのため、絶対に優勝してみせますよ!」

「はい。島の方々の期待を背負い、ステージでは精一杯楽しみながら皆さんにも感動を届けられればと思います」

 

 

 サニパにも勝つ理由があるってことか。大会に参加してるってことは大なり小なり何かしらステージに立つ思いはあるはず。だからコイツらもLiellaやウィーンに負けないくらいの思いがあったってことだ。

 

 誰しもが勝ちたいという気持ちを抱いている。その気持ちこそ彼女たちがより魅力的に映る源になる。今回はそれを知ることができたからここに来て良かったかもな。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 こうやってサブキャラたちを描いていると、サブもサブでいい子たちばかりでスピンオフとかやってみたくなる衝動に駆られます(笑)
それでメインキャラに昇格したのが雪穂、亜里沙、楓なのですが、あの頃は時間があって1週間に大量に話を投稿できたのでサブをメインに押し上げることができましたが、週1投稿になった今ではそれもキツイ現状がありますね。サブキャラばかり活躍させてメインキャラをおざなりにするなんてできませんから。



 今回は前編でサブキャラ回でしたが、次回の後半ではしっかりLiella回です!

 年末に最終回を迎えるにあたりクライマックスが近づいている関係上、結構真面目な話が続くのでご了承ください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勝利へFly Away!(後編)

 壮行会によるスクールアイドルたちの登壇インタビューが間近に迫る中、俺は携帯を片手にLiellaの控室へ足早に向かっていた。

 実は俺とLiellaメンバーが参加しているトークグループがあるのだが、そこに『浮気現場』の4文字がチャットされ、それと同時にさっき七草やウィーン、Sunny Passionの2人と一緒にいた現場を映した写真まで投稿された。

 ただ一緒にいるだけであれば普通のことだが、狙ってたのか偶然だったのかは知らないが、間が悪いことに4人が赤面しているタイミングを撮られてしまった。そしてその写真を見たアイツらは、自分たちの顧問としてイベントに参加しているのに他の女子を侍らせていることが気になったのか、やたらと辛辣なメッセージばかり送り付けてきやがる。ここで俺が返信しても火に油を注ぐだけのような気もするので、だからわざわざこうして弁明のためにアイツらのところへ向かってるってわけだ。弁明も何も悪いことをしてるとは思ってないけど、インタビュー前に余計な雑念を残すわけにはいかねぇしな。

 

 それにしても、こうして歩いているだけでも色んな人たちとすれ違う。他のスクールアイドルたちもそうだし、そのグループの顧問やら関係者やら、イベントスタッフやら。これだけの人たちが集まって、会場の大きさも相まってか、このイベントがどれだけビッグなのかがよく分かる。ここまで期待された『ラブライブ!』で優勝できれば、それはもうすげぇ功績になるだろうな。全国のスクールアイドルたちが夢を見るわけだ。

 

 そんなこんなでLiellaの控室に到着する。流石にいきなりドアを開けて着替えドッキリに陥るような真似はしない。俺だって流石に学んでいる。と思ったが、イベントは学校の制服での参加なので着替えもねぇか。

 しかし、念のため紳士のマナーとしてノックする。耳を澄ますが特に声が聞こえてはこなかった。

 

 もしかしてもう登壇の準備のため出て行ったのだろうか。俺がこの部屋に来ることは言ってないがアイツらの出番はまだ先のはずだ。他のグループのインタビューを観に行った説もあるが、とりあえず入ってみることにする。

 

 

「あっ、あぁ……」

 

 

 開けた瞬間に悟って賢者になる。

 なんつうか、これだけありきたりな展開も珍しい。こうはならないだろうってさっきまで散々言っていたのにも関わらずこれだ。フラグ回収って言葉はあまりに狙っている用語過ぎて好きではないが、今の状況はその言い回しが最も適切だ。

 

 肌色が多い。着替えシーン。

 その瞬間、俺の顔面に丸めたタオルが投げつけられた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 とりあえず、みんなが着替え終わるまで待ってから控室に入った。

 適当に椅子に腰を掛け、部長である千砂都に現状を問い詰める。

 

 

「で? なんで来た時は制服だったのに今また着替えてんだよお前ら」

「実はインタビュー前に予選で披露した衣装で撮影会を行うことになってまして……」

「その撮影が終わったからまた制服に着替えてたってことか。それ、俺に言ってたか?」

「あれ、言ってなかったっけ……?」

「聞いてねぇけど……」

 

 

 たまにこういうことあるんだよなコイツ。でもこうなるのも俺が原因であり、顧問とは言えどもスクールアイドルの活動の管理は全部教え子たちに任せている。練習メニューの作成やライブの準備、企画やその他のイベントの参加可否の調整など、細かい管理までも一任するスタイルだ。他人に投げていると言われると否定しようもないけど、それらのマネジメントも含めてスクールアイドルって部活だからな。もちろん行き詰っている時や求められたら助言するが、あくまでみんなの自主性を重んじている。

 

 だがそうなると、当然俺の知らぬところで話が進んでいることも多い。今回のように事前に通達されておらず当日になって俺だけ知らされるみたいな現象は今回だけではない。高校生だから社会人に求められるようなマネジメントを要求するのも理不尽ってことで、特に怒ったりはしないけどな。

 

 

 そんな話をしている中、すみれが苦言を呈する。

 

 

「それにしてもアンタ、女の子の着替えを見ても全然動揺しないのね」

「見慣れてるからな、そういうの」

「えっ、私たちの着替えそんなに見たことあるの!? 慣れるくらいに!?」

「んなわけねぇだろ。俺が何回女子高でスクールアイドルの相手してると思ってんだよ」

「あ、そう……」

 

 

 同年代のμ'sの着替えを見るくらいならまだ可愛気はあったが、大人になってからも同じ事象が続くのは自分でもどうかと思ってるよ。でも運命がイタズラするから仕方ねぇだろ。Aqoursや虹ヶ咲もそうだったし、もう女の子の下着姿で興奮しなくなって長い。流石に2人きりでベッド上などムードがある場合は話は別だが、ただ着脱衣の現場を目撃しただけでは男としての性が反応しなくなってしまった。不能扱いされそうなくらいには……。

 

 そんな俺の余裕な態度を見てか、1年生たちは戸惑っている――――と思ったが、意外にも気にしていないようだった。コイツらも俺の身の回りの世界ってのに毒されてきたみたいだ。

 

 

「納得。先生は最初から私たちの相手に手慣れていた。馴れ馴れしかったとも言える」

「そうそう、ストーカーみたいに付き纏ってきてな。私たちの着替えを見ても何も思わないって、今までどれだけ女とヤってきたんだよ」

「逆にあまりに動揺しなかったので、最初先生は男性が趣味かと錯覚していましたの」

「先生が何も反応しないせいで、こっちも本当は恥ずかしいはずなのに何もなかったかのようにスルーしてしまうっす……」

 

 

 まだ多感な時期の女子が男に着替えを観られても平気って、中々に倫理観が破綻してるよな……。着替えを見られるよりも手を繋いだりなどの身体接触の方が恥ずかしがったりするので、もはや一般人と羞恥のポイントがズレている。

 そういった環境を作り上げてしまったのは俺だけど、もうあまりに衝撃的なことが起きない限り多少のハプニングでは動じないのだろう。それこそ以前の銭湯騒動みたいなアレだ。

 

 

「それで、先生はどうして控室にきたのデスか?」

「あぁ、忘れてた。どうもこうもこれだよこれ、お前が投稿したんだろ。なんだよ浮気って人聞きの悪い」

 

 

 可可の意図せぬ白々しさに対し、俺は例のトーク画面を開いてそのスマホを彼女の眼前に押し付ける。

 いつもであれば別の女性と話していても文句なんて言ってこない。さっきも言った通りたくさんの女の子を相手にしてきたことくらいコイツらは良く知ってるはずだし、今更浮気なんて言われるなんて思ってなかったからな。理不尽で文句を言ってやるってよりかは単に気になったから聞きに来た、という気持ちの方が大きい。

 

 

「それは先生がななみんやサニパ様たちに現を抜かして、可可たちの撮影を観に来なかったからデス」

「いやだからそれは知らなかったんだって。言ってくれれば行ったよ多分。それに、撮影されたものなんて後でいくらでも見れるだろ」

「写真じゃなくて生で観て欲しかったのデスよ!! 直接!!」

「そ、そっか……」

 

 

 可可は押し付けられたスマホを取り上げ、逆に向こうからこちらに顔を近づけてきた。その言動からよほど俺に来て欲しかったのか。最近はコイツに限らず、みんなからも人それぞれ大なり小なりワガママを言われることが増えてきている。しれっと2人きりになるタイミングを窺っていたり、お出かけと称しているが中身は実質なデートに誘われることも多くなってきた。教師生徒としての関係性が強かった時期では考えられない積極性で、これも男女の関係が色濃くなってきた影響なのだろう。

 

 こうなったのも七草やウィーンと言ったカンフル剤が投与され、やり方は強引だったけど後押しされたおかげか。やはり自分たちの関係を客観的に見てアドバイスしてくれる第三者がいると相互理解も進む。俺も2人きりになれる時間が増えたことで、ソイツの抱いている想いや夢を今一度よく知ることができたしな。有意義な時間が増えたことに対してはアイツらに感謝すべきかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、恋がポットからお茶を汲んでくれた。

 礼の意を込めて軽く手を上げ、ついでに別件で疑問に思っていたことを聞いてみる。

 

 

「それにしても撮影ってお前らだけだったのか? ウィーンとかサニパとかは時間に余裕そうだったけど」

「どちらも撮影は昨日だったと聞いています」

「ふ~ん。それでもインタビュー前ってギリギリだな」

「イベントの時間が押していたみたいで、スタッフさん大変そうでした」

「盛況だなこのイベント、いつにも増して」

「はい、雰囲気からしてそれが窺えます。今年の『ラブライブ!』は去年以上の規模になりそうです。そんな大規模な大会で優勝できた暁には、私……」

「ん?」

「い、いえ、なんでも……」

 

 

 確かにイベントが始まる前から今回の『ラブライブ!』の規模が凄まじいことは分かる。恋の反応からしても、この大会での優勝に自分の想いを賭けてもいいと思うくらいの規模だろう。

 ぶっちゃけこっちはどんな告白だろうと抱き留める覚悟だし、優勝なんて後ろ盾は必要ない。だけど、みんなからしてみたらこの大会は自分の魅力を最大限に曝け出す大きなチャンス。優勝しなくても自分を魅せることはできるが、どうせ参加するならトップを目指したい。金メダルは自分を象徴する武器にもなるし、夢を預けるにはちょうどいい機会なのだろう。

 

 今まではそういった夢を語るだけだったが、大会直前のイベントに参加したことでいよいよ夢が叶うかの瀬戸際に近づいていることを実感していると思う。それ故にコイツらの言葉にも現実味が帯び始めており、1人1人だけでなくLiellaのグループとしての士気も大きく上がっていた。

 

 そういえば、ここには浮気を疑われたから来たんだったか。でもみんな平気そうだし、そんなことより未来の夢にしか目を向けてなさそうなのでもう有耶無耶になっていた。ま、それならそれでいいか。

 ――――と思った矢先、千砂都の手が肩に置かれた。

 

 

「そんなわけで、みんなやる気MAXってことですよ! だから撮影に来ず、他の子たちにふらふら靡いて談笑していた先生が浮気扱いされても仕方ないですって!」

「蒸し返すのかよその話。いい感じでスルーしてたじゃねぇか……」

「張り詰めた空気で肩肘張るので、そういったジョークも必要かなって♪」

 

 

 二カっと笑う千砂都。コイツたまに雰囲気ぶち壊すことあるよな。部長としてみんなをリラックスさせようという魂胆か。その冗談のせいで俺に浮気野郎ってレッテルが貼られてるわけだが……。

 

 

「こんなところまで女に現を抜かすなんて、緊張感ないんですの先生」

「いや俺が出場するわけじゃねぇし。それにデレデレもしてねぇし」

「出場する私たちよりたるんでるんじゃねぇよ、顧問なのに」

「きな子たちも頑張ってるっすから、先生も頑張って欲しいっす!」

「先生は私たちの先生だから、そこのところ間違えないで」

「えぇ……」

 

 

 1年生に糾弾される。

 積極性は上がったが粘着具合も上がった気がする。嫉妬してるのかは微妙なところだが、少なくとも自分たちの側にいろと暗に言えるようなるくらいには精神力も鍛えられたのだろう。半年くらい前だったらこれくらいでも赤面してたくらいだしな。でも他の奴らとちょっと話しただけでこれだから、将来ヤンデレみたいな厄介タイプにならないことを祈るよ。

 

 

「1年生の皆さんもやる気十分ですね」

「そうみたいだな。お前らだってそうだろ」

「ずっと待ち焦がれていた舞台デスから当然デス」

「でもここはゴールじゃない。スタート地点になるのよ、私……いや、私たちのね」

 

 

 私たちってのは自分たちLiellaではなく俺を含めてってことだろう。すみれのこちらを真っすぐ見つめるその瞳を観れば分かる。もう既に覚悟は極まっているみたいだな。

 

 

 一部の奴を除いて。

 

 

 ここまで1人だけ喋ってない奴がいた。登壇の時間が迫って再びみんなが忙しなく準備をし始める中、俺はソイツに話しかけられる。

 

 

「先生……」

「かのん。どうした?」

「い、いえ、あの……」

「お前、俺が来てから一言も喋ってなかったよな? なんかあったのか?」

「そ、その……りゅ、留学……」

「ゴメン。最後の方が聞こえづらかった。りゅ……なんて?」

 

「かのんちゃーんっ! そろそろ行くよー!」

 

「う、うんっ! ゴメンなさい先生! 行ってきます!」

「えっ……?」

 

 

 結局聞き取れなかった部分の補完はされず、かのんは行ってしまった。

 何やら考え事をしていた様子で、『ラブライブ!』優勝の覚悟に満ちているみんなとは雰囲気がまるで違う。大会に集中したいのに別のことが引っかかって気を乱されている様子。最近まではみんなと共にスクールアイドル一筋で打ち込んでいたのに、一体なにが……?

 

 考え事をしていると、後ろから突っつかれる。

 振り向くと、犯人はきな子だった。

 

 

「どうした? 行かなくていいのか?」

「かのん先輩のことっす。理由は分からないっすけど、元気なさそうじゃなかったですか……?」

「なにかあったんだろうな。もうすぐインタビューだから話す暇はなかったけど、後で聞いてみるよ」

「それが……きな子も気になって聞いてみたんすけど、『ラブライブ!』が迫って緊張してるだけってはぐらかされちゃって……。いや本当にそうだって可能性もありますけど……」

 

 

 メンバーにも話してないのか。それとも後輩だから弱みを見せたくなかったとか。だとしたら好きな相手にはなおさら見せたくないだろうから、俺に話してくれるかも怪しくなってきたな。

 決勝も目前。本当に緊張しているからあの様子なのか、それとも別の理由か。どちらにせよ、このまま問題が解決せず迷いが残ったまま決勝に挑んだらLiellaの優勝は間違いなくないだろう。

 

 

「あのっ!」

「ん?」

「かのん先輩のために何かしてあげたいっす。きな子がこんなことを言うのはおこがましいかもしれないっすけど……」

「別にいいんじゃねぇの」

「だから先生! 付き合ってください! 明日!」

「えっ……?」

 

 

 かのんの問題を解決しようと思ったら、いきなりきな子に誘われて思わず驚いてしまった。

 

 

 決勝に向けて、最後の関門に立ち向かう。

 




 アニメでは留学問題は最後の最期でしたが、この小説では『ラブライブ!』前に持っていきました。という注意書きをしても、元々この小説の構成はアニメと全然違うので承知の上の人が多そうですが(笑)
 ちなみに語られていないだけで、アニメ展開の話は小説各話の合間合間に展開しているって設定です。超今更ですが(笑)

 Liella編の第二章の残りは以下の話で終わりの予定です。
 是非最後までお付き合いください!
 ・きな子の個人回
 ・かのんの個人回
 ・最終回(1~3話)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去への扉:その背中を追いかけて

 『ラブライブ!』決勝まであと3日となった。

 先日行われた決勝進出グループたちによるインタビューイベントは大盛況であり、スクールアイドル界隈の熱気も最高潮に近くなってきた。どのグループも最後の追い込みをかけたり、決勝に向けて英気を養うために軽い運動だけにしたり、逆に敢えて遊びまくってリフレッシュするなど、各々自分たちの中で最高のパフォーマンスができるよう力を蓄えている段階だ。

 残り数日の過ごし方はグループの数だけあれど、いずれも決勝戦にかける熱い思いは変わらない。それ故にメンバーの団結力もこれまでの中で一番強くなっていることだろう。よりよいライブのためにはメンバーの心に1ミリの隙もあってはならないからな。

 

 そんな中、その団結力にヒビが入り始めたグループがある。ヒビとは言っても気付いてる奴は少なく、関係性が壊れようとしているわけではない。例え的には曇りが見えてると言った方が良かったか。

 こんな直前になにやってんだと文句を垂れたくなるが、それが残念なことに自分の教え子と来た。顧問として、そして男として女の子が1人で問題を抱え込んでいるのは捨て置けないことなので、本番直前にして最後の関門に立ち向かう時が来たようだ。来て欲しくはなかったけどさ……。

 

 そんなわけで早速動き出そう――――の前に、このことについて情報交換するべき奴がいるので、先にそっちの相手をすることにする。

 

 

「えっ、留学っすか!? かのん先輩が!?」

「あぁ、理事長に聞いたらすぐにゲロったよ。ったく、俺に内緒で勝手に話を進めやがって……」

 

 

 先日のイベントの登壇の前、かのんが俺に言いかけた言葉をはっきりと聞き取れなかった。だけど何となく既視感(μ's時代のことりの件)があったので理事長に問い詰めたところ、隠すことなくかのんに留学の勧誘が来ている件を話してくれた。

 つうか、話すのなら決勝の前ではなくて後にして欲しかったな。その結果アイツに余計な悩みの種を植え付けることになったし、そのせいでスクールアイドル活動にも影響が出ている。理事長曰く『留学するしないの返信期限にあまり時間がないことや、逆にその話を持ち掛ければモチベーションアップに繋がる』と思っていたそうだ。前者の理由はまだ分かるとしても後者は先見の明がなさ過ぎだ。去年学校で起きた資金難問題といい、あのババアの手腕は甘いところがあるな……。

 

 

「それじゃあ、かのん先輩は留学に行くかどうか迷ってる、ってことっすか?」

「恐らくな。高校生活の最期の年を海外で過ごすことになるわけだし、そりゃ悩むだろ」

「えぇっ、1年も向こうに行くんすか!?」

「聞いた話だとそうらしい」

「かのん先輩っすもんね。確かにあの綺麗な歌声の持ち主とあらば、海外でも人気になれると思うっす……」

 

 

 どうやら留学先はウィーン・マルガレーテの所属校らしい。世界的にも有名な音楽学校で、現役でそこに入るってだけでも狭すぎる門なのに、わざわざ向こうから来てくれってのはVIP待遇と言ってもいい。でもかのんの歌声はそれくらいの価値があり、何を隠そうこのきな子もその声に魅了された者の1人だ。

 

 ちなみにきな子にこの話をしているのは、彼女も俺と同じくかのんの変化に気付いた唯一の存在だからだ。不安そうな顔をしていても『決勝が近いから緊張している』で通しているせいか、周りからそのことで励まされることはあっても、本心に気付いている奴は俺たちだけで一握り。それに留学なんてビッグイベントを大切な決勝戦前に流布させて騒ぎにさせたくもねぇし、だからこそ真実を知っている俺たちだけで対策を立てようってなったわけだ。

 

 そんな事情があるため、今日は放課後にきな子と街へ繰り出していた。かのんの問題を解決するためときな子と一緒に出掛けるって因果関係が不明だと思うが、それはコイツがかのんのために何かしてあげたいと思っており、そこで繋がってくる。俺を誘ってきたのもコイツからだしな。

 

 

「で? 何かしたいって言ってたけど、具体的には何か決まってるのか?」

「それが特に……。贈り物、はおめでたいことがあったわけでもないので違うような……」

「んじゃ、お前のやりたいことはなんだよ?」

「かのん先輩の隣に立ちたいっす! お互いに笑顔で! 決勝の舞台に!」

 

 

 その返答に驚いた。てっきり『励ましたい』とか『元気づけたい』とか、優しそうに見えるけど無自覚な上から目線の発言をするかと思っていた。あくまでコイツの願いは同じ志で並び立つことであり、無責任に手を差し伸べることではない。ナチュラルに本質を言葉に出せるのは、普段から正論でツッコミを入れる性格が故だろうか。コイツ自身の成長があってこそ、って方が大きいか。

 

 

「お前も変わったな」

「えっ、きな子も何か悩みがあるように見えますか!?」

「いやそうじゃない。前向きになったって言ってんだよ。出会った頃とかずっとおどおどしてたし、その頃と比べたら結構前を向くようになったなって」

「それは都会の学校に慣れていなかったからで、この歳になって初めてたくさんのキラキラを見続けて、それでずっと緊張してたっす……」

「そういった意味ではスクールアイドルをやって良かったんじゃないか。これほど陽キャ感があってキラってる部活もねぇだろ」

「確かに自信は持てるようになりました。それでもみんなに比べたらまだまだっすけど」

 

 

 地方からやってきた純朴少女のきな子。入学当初はあまりにも眩しい都会の学校生活にいつも圧倒されており、勉強以上に環境に適応する方が大変だったと言う。それで慣れない生活の中で更に自分の地味さとは程遠いスクールアイドルに勧誘されて入ったんだから、それはもう激動なスタートだったはずだ。

 

 それでもコイツはめげない。後ろは見るけど、逃げたりはしない。スクールアイドルなんて自分には似合わないって思いはするけど、それでも勧誘を断ることはしなかった。自分の中でも高校デビューで変わりたいって思いがあったのだろう。逃げていたら変われないと無意識に自覚しているからこそ逃げなかった。自分にはできないことだけどやってみたい、そういった前向きな意識を持つのがコイツの強いところだと思っている。

 

 

「かのん先輩はきな子が一番お世話になった先輩で、きな子の目標っす。だからあの大舞台で一緒に並び立つために、できることはやりたいです。夢だったっす、かのん先輩と一緒に大きなステージに立つのは」

「そうだな。この時期になって悩んでんじゃねぇよって、ヤキでも入れねぇと」

「そんな追い込むことはしないっすけど……。でも、先輩が悩んでいるのなら隣にいたい。春、先輩がきな子にそうしてくれたように」

 

 

 自分が助けたいってエゴは抱いておらず、あくまで隣で並び立ちたいってスタンスは変わらないか。自分ではアイツの悩みを解決することはできないと分かってるけど、できないってのは何もしない理由にはならないからな。可能な範囲で自分でできることをしたいのだろう。そうでないと後悔するし、なにより先輩への恩返しのためでもあるらしい。

 

 この春にかのんがきな子を積極的に勧誘していたのは、単に新入部員が欲しかったって欲望もあっただろうが、自分を変えたいけど一歩が踏み出せないコイツの本心を見抜いていたからだろう。だから俺の様に付き纏ったりはしていないものの、隣で気にかけていたのは確かだ。紆余曲折あって結局はLiellaに入り、そして自分の思いが実って変わることができたから、最初のその足掛かりを作ってくれたかのんには感謝の一言だけでは済ませられないだろう。

 

 

「だったら、何をするか迷う必要はないな。お前も隣にいてやればいいんじゃないか? 自分の気持ちを素直に伝えればいい。留学に行くか行かないかは、他人が口出しするようなことじゃねぇしな」

「それはそうっすけど、先生はどうするんすか?」

「それとなく聞いてみるよ。気になることもあるしな」

「……?」

 

 

 留学に行くか行かないかを迷うのは分かるけど、決勝を目前にしてそこまで気に病むことか? 気にはなるだろうが今は優勝を目指すことに対して突っ走り、留学のことを考えるのは『ラブライブ!』が終わった後でもいいはずだ。なのにアイツは今悩んでいる。元々悩みを溜め込みやすい性格をしているのは知っているが、もしかしたら行く行かない以外に何かあるのかもしれないな。

 

 

「それにしても、やっぱり先生に相談して良かったっす。何かしたいって気持ちはありましたけど、じゃあどうすればいいのか全く思いつかなかったっすから」

「そうだな。俺もいきなりお前が誘ってきたから驚いたよ。切羽詰まった状況ってのもあるんだろうけど、俺と2人きりになろうとするなんてあまりなかったような気がしたからさ。もしかしたら恥ずかしがってんのか、遠慮してるのかと思ってた」

「それは……そう言われると否定できないっすけど……」

 

 

 恋愛経験もまるでなかった純朴少女。他の1年生たちと比べると彼女と2人きりになった機会はあまりなく、直近だと澁谷家の喫茶店でお試しバイトをしたとき以来だ。Liellaメンバーの中でも緊張しやすいタイプで異性への耐性も薄いため、他の奴らと比較して俺に積極的に関わってくることは少ない。そう思ってこっちから迫るとすぐに照れてしまうため、地方少女で隙が多い子かと思ったら意外と付け入る隙がなかったりした。

 

 だから驚いたんだよな、そっちから誘ってきたことに。

 

 

「先生はかのん先輩と同じくきな子にとっての恩人っすから……。ただ先輩は女性で歳も1つ違うだけでもう友達って感覚っすけど、先生の場合は男性でカッコいいお兄さんって感じなので……。い、いや、話しかけづらいってことは全然なくて、やっぱりきな子が初めて魅力的な男性だと思った人なのでつい……」

「初恋ってことか」

「恥ずかしいので言葉で表現しないで欲しいっす!! そ、それはそうっすけど、北海道から出てくるときにお母さんが『向こうで出会いがあるといいわね』って言われたので、その影響でなおさら意識しちゃったっす……。でもまさか――」

「春にいきなり出会っちゃうとは思ってなかった?」

「だから! 言葉にしないで欲しいっす!!」

 

 

 恋愛の『れ』の字も知らず、都会に出て出会いがあるのか疑っている時に、いきなり世話を焼いてくれる年上のお兄さんなんて現れたらそりゃ衝撃的で交流に困る気持ちも分かる。他の奴と比べて俺と関わる機会が少ないって理由もそれなら納得だ。

 それでもコミュニケーションが取れていなかったわけではないので、彼女だけスクールアイドル活動の指導が足らなかったとか、決して不仲なわけではない。単にプライベートでの関わりが薄かっただけだ。まあ男性教師と女子生徒がプライベートで関係を持つこと自体おかしなことだけどさ……。

 

 

「でも、先生のことを意識してるのは間違いなくそうっす。入学した時から、スクールアイドルをやる前からずっと面倒を見てもらっていましたから。最初はストーカーみたいに付き纏ってきて、これが都会のナンパなのかと勘違いしちゃったっすけど」

「ストーカーって、全員同じこと思ってんだな……。ほっとけないから仕方なかったんだよ」

「その強引さのおかげできな子はスクールアイドルになれたので、むしろ感謝してるっす。やりたい気持ちを引き出してくれたり、全然そんなことないのに可愛いって言ってくれたり、自分に自信が持てるようになったのもその時からかもしれません」

 

 

 俺としては結果オーライであってもそれでOKだ。別に見返りを求めて手を差し伸べてるわけではないし、目の前で困ってる女の子を見逃せなかっただけだから。

 

 

「きな子はずっと思い描いていたっす。先生やかのん先輩の背中を追い続けてきた自分が、いつか隣に立てる日のことを。そして、今そのチャンスが巡って来た。先輩と『ラブライブ!』の決勝ステージで隣に立てるチャンスが。そして先生とは、この大会が終わった後に……っ!?」

「どうした?」

「うぅ、ゴメンなさいっす! この先はまだ……」

「いいよ。お前のタイミングで全然」

 

 

 自分の気持ちを伝えたいってことだろうが、やはりこの状況では言い出しづらかったか。

 それにしても、背中を追いかけられていたとは思わなかった。俺もそうだけどかのんも別に背中を見せているつもりは一切なく、何ならずっと隣にいたと思っているだろう。ただ感じ方は人それぞれ、きな子からしてみれば俺たちは目標らしい。後ろを振り返りはするけど後退せず、前の目標を目掛けて一歩一歩ながら前へ進むそのひたむきさが如実に表れてる目標だ。

 

 

「先輩や先生の隣に立つためにも、きな子にできることは何でもするっす!」

「かのんならまだしも、俺って背中を見せるようなことしたか?」

「見せてますよそれは! 前に立って手を引っ張ってくれるのが先生で、背中を押してくれるのが先輩たち、ってところっすかね。先輩たちも、他のスクールアイドルの方も同じことを思ってるんじゃないっすか、先生の立ち位置について」

 

 

 あまり考えたことなかったけど、似たようなことを虹ヶ先の連中も言ってた気がするな。先導するのが俺で、後押しするのが侑だって。

 

 

「先輩たちも、七草先輩もウィーンさんも先生の隣に立つまであと一歩。でもきな子たちはまだ先なので、今回の大会で優勝して、その道を一気に駆けてみせるっす」

「七草たちのことも気にしてんだな。アイツらの登場で焦ったりはしてなさそうだけど」

「気にしてると言いますか、あれだけ自分の行為をストレートに伝えられるのは凄いと思ってるだけです。むしろ尊敬してるので、焦るとかはないっすよ」

「お前、目標にしたり尊敬してる奴多すぎだろ。いいんだけどさ」

「だってきな子よりキラキラしてる人がたくさんいて、もう誰にでも憧れを抱いてるっす! これが都会の女性たちかと今でも感動することがあるんすから!」

 

 

 楽しそうだなコイツ。まあ入学当初は周りの変化に驚いて腰が引けてたから、こうやって環境に適応するようになって成長したと言うべきか。当時のコイツは指一本触れただけで爆発するかってくらいビビってたから、こうなってむしろ安心したよ。入学から世話してる身からするともう親目線になっちまうな……。

 

 

「とりあえず今から、かのん先輩と話してみるっす!」

「今からって、もう日も暮れてるのに……と思ったけど、時間もないから早くした方がいいか。伝えたいことは決まったか?」

「はい。とは言っても留学をどうこうはきな子が決められることではないので、悩みの負担を軽くすることしかできないかもですけど……」

「それでいいと思うぞ。周りに何も言えず塞ぎ込んでる奴も、心の中では誰かに打ち明けたい、分かってもらいたいって気持ちがあるはずだ。だからお前はさっき話してくれたことをそのまま伝えればいい。それに」

「それに?」

「アイツ後輩ができて超嬉しそうにしてたから、お前が隣にいてくれるのはいい清涼剤になると思うぞ。なんたって、アイツにとって最初の後輩なんだからな」

 

 

 きな子の成長を一番喜んでいるのはかのんだ。俺に何度も嬉しそうに話すものだから、かのんがコイツに抱く気持ちを理解しすぎるほどに刷り込まれてしまった。だからこそ、成長した姿を今こそ見せるとき。もちろん悩みの根本解決にはならないし、コイツもそれは分かっているだろうけど、重い気分を和らげるくらいはできるだろう。

 

 そして、その後は――――

 

 

「今から連絡してみるっす。そして、きな子が話した後は」

「俺に任せろ。大丈夫、本番、いや明日にでも復帰させてやるよ。いつものかのん(アイツ)にな」

 

 

 決勝戦目前で余計ことになってしまったが、生徒の悩みを解決するのも教師の務め。まあ教師生徒関係なく俺なら首を突っ込みそうなものだけど……。

 それに、今回はきな子もいる。まずコイツが攻めて、俺がトドメを刺す。

 

 面倒事は早期に片付けるのに限るからな、今回もとっとと終わらせるか。

 

 




 今回はLiella編2章の最後の課題ときな子の個人回を平行で進めていたので話が少しごちゃついていましたが、それなりに無難にまとめられたかと思っています。

 こうして1年生のキャラを描いていると、アニメでもっと掘り下げて欲しかった感はありますね。特にきな子は他の1年生とは違って序盤で先輩たちと6人でライブをしており、それ故に特別な後輩っぽくもあるので何かエピソードがあると良かったのですが……。まあこの小説でそれを補完するってことで(笑)


 次回はかのんの個人回となります。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

次なる一歩:ずっと隣で星を見る

 きな子とかのんのお悩み解決策を練った次の日の夜。俺はかのんを呼び出していた。

 もう明後日に『ラブライブ!』が迫ってるってのに、その直前に撒かれてしまった悩みの種。スクールアイドルお得意と言うべきか、留学に行くか行かないか問題だ。

 

 つうかμ'sや虹ヶ先の時もそうだったけど、どうしてそう簡単に留学なんてビッグイベントが降りかかってくるのやら。普通に生きていて留学のお誘いなんて来る確率なんてどれだけだよって話だ。俺が関わっているスクールアイドルたちの実力が凄いのか、それとも問題を引き寄せがちな俺の体質のせいなのか……。

 

 それは余談として、今はかのんの準備が終わって外に出てくるのを家の前で待っている状態。流石に制服姿のまま夜に連れ出して補導なんて洒落にならない。それに、それなりに冷え込むから着込んで来いと言いつけておいたから着替えに時間がかかっているのだろう。

 

 こうして連れ出す理由はもちろんお悩み解決のためだ。とは言っても今日は授業中も真面目に聞いていたようなので、数日前のような上の空ではなかった。もしかしたら昨日きな子とタイマンで話したことで、自分を見つめなおす機会を得たからかもしれない。もちろん留学に行くか行かないかは本人の意志なので、きな子が何か助言をしたというよりかは悩みの負担を軽くしたくらいだろう。だがそれでも後輩から熱い思いをぶつけられて、少しは自分の取りたい選択肢が見えてきていると思う。

 

 そんな振り返りをしている間に、かのんが喫茶店のドアを開けてこちらに駆け寄って来た。

 

 

「すみません! 遅くなっちゃって!」

「別に。いきなり誘ったこっちが悪いから。でもそんなに着替えに手間取ったのか?」

「いえ、ありあとお母さんが『先生と2人で夜遊び!?』ってからかってくるもので……」

「ハハ、なんだかんだお前のこと好きだよな、お前の家族って」

「煽られてるだけのような気も……」

 

 

 ありあもコイツの母さんもかのんの動向には割と目を配っているようで、スクールアイドルになった時は驚きながらもその心境の変化に興味津々だったし、俺との関係性が深まってからは男女関係で根掘り葉掘り聞かれたりしてるそうだ。ありあは良いとしても、親から見て娘が教師と関係を持つのはアリなのだろうか。いやあの反応を見る限りだとむしろやっちゃえって感じだけど、やっぱスクールアイドルの親って変人ばっかだな。誰とは言わないけど……。

 

 

「それで、いきなり呼び出されましたけど、一体なにを……?」

「分かってんだろ。昨日きな子に呼びつけられた理由を考えれば」

「あはは、そうですね……」

「でもきな子と同じことを言っても仕方がない。それに俺の聞きたいことは別のことだしな」

「えっ?」

 

 

 前にも言ったが、ただ留学へ行くか行かないかだけだったらあそこまで悩むとは思えない。大切な決勝戦の前に意気込みが薄れるほど集中できないのは不可解で、その程度の悩みであれば決勝が終わって心機一転して改めて考えればいいだけの話だ。留学の返信の期限が短いとは言ってもそれくらいの猶予はある。

 だから、他に何か理由があると俺は睨んでいる。ここでそれをぶっちゃけてしまってもいいのだが、せっかくだし決勝戦への景気付けも兼ねて場所を移動しようと思っていた。

 

 

「ここで立ち話もアレだし、そろそろ行くか」

「行くって、どこに?」

「星を見に行く。好きだろお前、そういうの」

「好きですけど、って、今からですか!? こんな夜遅くに歩くのは無理ありますし、電車も終電を考えると時間がないような……」

「だからコイツを引っ張り出してきたんだよ」

「それって、バイク? 先生、持ってたんですか?」

「あぁ、まあこのあたりは交通網が発達してるからあまり必要ねぇけどな。でも2人きりで移動できる手段があって越したことはない」

 

 

 こう言ってしまうと女の子を口説くためにバイクでイキってるみたいに思われるかもしれないが、特にそういった意図はない。ただ基本は女の子を後ろに乗せる場合にしか使用されないため、2人で密着せざるを得ない空間を強制的に作り出す用途として役に立っていることは確かだ。

 

 

「あっ、だから厚着して来いって」

「そう。この時期に風に切られたら凍え死ぬからな。ほら、早く乗れ」

「は、はい。失礼します……」

 

 

 かのんは後部座席に跨り、俺の腰に両腕を回す。思った以上に密着してきて驚いたが、初ライドのためどれだけの強さで抱き着いていいのか分からないのだろう。お互いに厚着なので人の温もりなんて感じられないはずなのに、緊張しているかのんの心臓の鼓動が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あれ、着いたんですか?」

「バイクで来れるのはここまで。あとは足で登るぞ」

 

 

 とある丘のふもとにまでやってきた。ここからは階段を上る必要がある。

 俺もかのんもバイク用の上着を脱いで座席に引っ掛け、街頭も灯りも少ない階段を上り始めた。

 

 

「先生、一体どこへ向かってるんですか? 全然教えてくれないし……」

「言ったら感動が減っちまうだろ。それにせっかく寒い中バイクを飛ばしてここまで来たんだから、お楽しみは最後までってな」

「決勝戦の前なのにこんな寒い夜中に外を歩くなんて、風邪になったらどうするんですか……」

「その決勝の前に塞ぎ込みそうになってた奴が言うなよ……。ったく、こうすりゃいいんだろ?」

「ほええっ!?」

 

 

 なんだよその声。寒くて風邪の心配をしてるっつうから、ただ手を繋いだだけだろうが。

 あまりに突然の行動におどおどするかのん。最初は握る力が弱く俺が引っ張っている感じだったが、階段を上っている間に慣れたのか、向こうからも握り返してくるようになった。

 

 つまり、切り込むならここってことだ。

 

 

「これで満足したか、人の温もりを改めて感じられて。それとも余計に離れたくなくなったか? ――――俺たちと」

「ッ!? ――――気付いてたんですね、私が何で悩んでいるのか」

「ま、これでも人付き合いはそれなりにあった方だからな。ソイツらの中には、今はみんなと別の場所にいる奴もいる」

「そう、ですか……」

 

 

 そう、かのんが悩んでいたのは留学に行くか行かないかそのものではなく、留学によって親しい人たちと離れることに思うところがあったんだ。実際にことりや歩夢も学びという観点では行くことに前向きだったが、ここまで築いてきた仲間の輪から外れるのはどうしても抵抗があった。コイツの場合もそんな雰囲気を感じ取れたからまさかとは思ったが、やはり正解だったみたいだな。

 

 しばらくお互いに手を繋いで黙ったまま階段を上がっていたが、それからまた少し時が経ち、かのんが口を開く。

 

 

「寂しいって気持ちが襲い掛かって来たんです。留学のお誘いはもちろん嬉しかったし、有名な音楽学校でもっと実力を磨けるなら行きたいとも思っていました。でも、そうすると来年の春からみんなとお別れしないといけない。電話とかテレビ通話とか、顔を見る方法はいくらでもありますけど、一緒にいることはできない。隣にいることはできなくなっちゃうんです。まだそうなるとは決まってないのに、想像したらとても寂しくなっちゃって……」

 

 

 そんなことか、とは彼女の気持ちと境遇を考えると無責任なことは言えない。

 彼女はこの2年でLiellaを引っ張れるくらいには成長した。だけどまだ高校生で青春真っ盛りの時期だ、いきなりコミュニティから抜けて1人で新天地へ行くのは度胸がいるだろう。

 

 それに、彼女にとってそのコミュニティは他の人が思う以上のかけがえのない場所となっている。小さい頃にステージで緊張とアガリ症で歌えなかったトラウマから、自分を常に卑下するようになり、少しでも追い込まれると人の見てないところではかなりやさぐれる性格となっていた。

 故に可可に無理矢理スクールアイドルをやらされる前は友達もあまりおらず、だからこそLiellaで形成された今のコミュニティを大切にしているんだ。彼女にとって初めて誰かと積み重ねてきた思い出、そしてこれから共に歩む未来。それをリセットとまでは言わないが、一旦その歩みを止めてまで留学に行っていいのか悩んでいるのだろう。

 

 その彼女の気持ちや過去を考えれば、こうして曇ってしまうのも仕方がない。

 

 

「ちぃちゃんくらいしかまともな親友がいなかった私が、可可ちゃんたちと仲良くなって、去年の『ラブライブ!』では準優勝まで行って絆を深めて、そして今年はきな子ちゃんたち後輩ができました。そして、今年こそは優勝を狙っている。そのためにみんな一致団結してる。そうやってみんなとの繋がりから一旦と言えども離れてしまうのは、やっぱり寂しいです」

 

 

 ただ留学に行くか行かないかを決めるくらいなら決勝戦の後に考えることができた。でも現在進行形で仲間たちと経験や思い出を積み重ねているため、その大切な重みこそ彼女の判断を鈍らせる。仲間と共に夢への道を歩み続けているからこそ、その道を1人で外れてしまうのが怖いんだ。積み重ねれば積み重ねるほどその意識は高まっていくから、だから決勝戦目前なのにも関わらず悩んでしまっているのだろう。

 

 それがコイツの本当の悩み。

 と、普通はそう考えるが、実は更にその奥、真の悩みがあると睨んでいる。俺は大体それを察していた。

 

 

「先生は、どうしたらいいと思いますか……?」

「…………」

「私に留学して欲しいとか、それともそこまでする必要はないとか……」

 

 

 思った通りだ。

 俺が察していたのは――――

 

 

「離れたくないのか、俺と」

「っ……!? はぁ……やっぱりお見通しなんですね。いつもの先生です……」

 

 

 かのんは諦めたかのように溜息を吐く。俺の手を握る力も少し弱くなっていた。

 コイツが留学を悩む理由は数あれど、最大の理由は俺と離れ離れになってしまうことだ。コイツはLiellaの中では俺への依存度がかなり高く、成長したと言ってもそれでも俺に決定を求めてくることは多かった。例え自分の考えがあったとしても、それが自分たちLiellaのことだとしても俺の考えの方を優先してしまう。本人がそれに気付いているかは不明だが、その傾向は1年生の頃から強かった。

 

 そして、今も俺にアンサーを求めている。

 俺と離れたくないから、俺の口から『留学は必要ない』と言ってくれるとコイツ的にはそれで決着。もしかしたら先日のインタビューイベントの控室で言いかけたことは、俺に決定権を委ねる旨の質問だったのかもしれない。

 

 

「先生は私が留学してしまったら、どんな気持ちになりますか……? 離れたくないって、思ってくれますか……?」

「俺が背中を押せば、お前は行くのか?」

「それは……分かりません」

「でも行って欲しくないと言えば、お前は絶対に行かないだろ。だったら、それは俺が決めることじゃない」

「ぅ……」

 

 

 ここで俺が決めればコイツはそれに流されるだろう。それはもう自分の意志とは関係ない。自分が好きな人の決定だったら信じられる。

 そんな考えだとしたら、俺は素直に送り出せなくなる。心のどこかでは俺に留学を止めて欲しいと思っているのだろう。俺と一緒にいられなくなるから、ただその理由だけで。

 

 

「俺が言えるのは、留学に行った場合なら応援するし、行かなくてもそれを責めたりはしない。お前の取った選択肢の方を尊重するよ」

「でも、それだと……」

「決められないんだろ? 今ここで決めろとは言ってない。少なくとも『ラブライブ!』の決勝が終わってからでいい。それでも迷って集中できないってのなら――――ほら、着いたぞ」

「え……?」

 

 

 ようやく丘の上についた。

 俺は夜空に人差し指を上げる。かのんが空を見上げる。

 

 すると、かのんは目を見開いた。

 

 

「凄い、星……!!」

 

 

 かのんの目が輝いた。その衝撃は凄まじかったようで、さっきまでの悩みなんて何もかも忘れてただ夜空の星の海に没頭している。

 あまりにも星々の輝きが綺麗に見えるため、まるで俺がかのんを連れてくるタイミング見計らっていたかのようだ。

 

 

「ここ、星が綺麗に見られるって話があったから、いつかお前を誘ってみようって思ってたんだ。まさかお悩み相談で来るとは思ってなかったけどな」

「それは……ゴメンなさい」

「別にいいけどさ。これも俺との思い出として心に留めてくれればそれで」

「また、積み重なっちゃう……」

 

 

 離れるかもしれないのに、また1つ思い出を積み重ねてしまった。そのことに悲しみを覚えるかのん。

 

 だけど、それは――――

 

 

「いいんだよ、積み重なっても。確かに寂しいの分かるし、もし留学するとしたら実際に最初はそう考えちまうと思う。でもさ、その積み重なった思い出があるからこそみんなとの繋がりがより強くなるんじゃないのか?」

「え……?」

「遠く離れたとしても、みんなとの絆が強ければ強いほど、今度は成長した自分をみんなに見せてやろうって気概も出てくる。自分がいなくてもみんなは成長する、だから自分も負けずに成長しようってな」

「私も、みんなも……」

「だったら!!」

「ひゃ、ひゃいっっ!!」

 

 

 俺は両手でかのんの両肩を掴む。まるでキス一歩前の段階のようだ。

 かのんの顔は夜でも分かるくらいに赤くなっているが、そんなことよりも伝えたいことが俺にはある。

 

 

「だったら、寂しいと思ってしまう以上の思い出を作れ! 仲間たちと一緒に『ラブライブ!』で優勝して、俺にお前自身の魅力をたっぷり見せつけて、最高のエピソードを自分に刻み込め! 悲しみも寂しさも、そのエピソードを思い出せば吹き飛ぶくらいに!」

「先生……」

「それに、俺はいつでも隣にいる! お前が留学に行こうが行くまいが、俺はお前の隣から離れたりしない! もし海外に行くのなら会いにも行ってやる! 新天地で成長した自分を俺に魅せてみろ! 行かないのなら、また来年もスクールアイドルで輝け! その光を俺に魅せてみろ!」

「私……は」

「お前は俺の大切な人だ! だから笑顔でいてくれ! 留学は別れの機会じゃなくて成長の機会だ! 自分の魅力もっと俺に示せると思え! 留学しない場合は、留学先で学べることと同じくらいもっとスクールアイドルとしてのお前を磨き上げろ! 俺はお前で輝く星が見たい!」

 

 

 今、コイツの脳内に、心に、俺の言葉が雪崩れ込んできていることだろう。その1つ1つを受け止めて、理解して、考える。

 これでコイツの悩みが100%解決するとは思っていない。だけど、道を照らすことはできたはずだ。結局は決めるのはコイツ自身。

 

 かのんの表情が落ち着いたように見える。今までは俺に手を引かれて、俺の背中だけを見てきたコイツが、初めて自分で道を歩き始めた瞬間だった。

 

 

「きな子ちゃんが言ってました。先輩と並び立つことができた時、それは最高の思い出になるって。それを目標に、夢にしてたからって。そんなことを言われたら余計に離れたくないって思った反面、目標にされているからこそ自分ももっと成長したいって思いました。だから――――悩むのはもうやめです」

「留学で得られるものもあれば、Liellaに残って得られるものもある。春にはまた新しいメンバーが増えるかもしれないし、そこでまた環境も変わるだろうからな。留学先なら環境が様変わりするからなおさらな」

 

 

 まだどっちにするかは決められない。だけど仲間と離れる、俺と離れる恐怖とはお別れできたのだろう。不安すらも吹き飛ばすような思い出を作りさえすれば、今までよりも強い繋がりを作りさえすれば、いつでもみんなは隣にいることになる。それは、俺も同じだ。

 

 

「それにしても、私ってそんなに先生に依存してたんですね……」

「あぁ、このままだと自身の進路すらも俺に決めさせようとするくらいには」

「それは反省してますけど、仕方ない部分もありますよ。だってずっとここまで面倒を見られて、一緒にいて、さっきの言葉を聞いて、好きにならないはずがないじゃないですか……」

 

 

 一応聞こえないフリをした方がいいのだろうか。俺も俺だが、コイツもコイツで恥ずかしいことを言ってる気がする。

 まあここに上ってくるまでずっと手を繋いでたし、さっきは肩に触れ、今も身体が触れ合いそうになるくらいに近いから、もう恥ずかしいとか関係なく男女の関係っぽく見えるけど……。

 

 

「私、『ラブライブ!』で優勝します。そこで自分の目に何が映るのか。何が想像できるのか。どんな思い出が作れるのか。それを見てから自分の今後を決めようと思います」

「そうか。だったら俺は見届けるだけだ」

「お願いします。それが終わったら、先生と……」

 

 

 かのんはそれ以上口には出さなかった。落ち込むのも早いけど、立ち直ったり決意するのも早いんだよなコイツ。その喜怒哀楽が見ていて楽しくもあり、愛らしくあるんだけど。

 

 

「じゃあ用事も済んだし、そろそろ帰るか」

「待ってください!!」

 

 

 かのんが俺の手を握る。さっきとは逆で、今度はコイツの方から力強く。

 

 

「もう少しだけ、一緒に星を見ませんか……?」

「かのん……。あぁ、いいよ」

 

 

 星を見ている間、会話はなかった。

 しかし、お互いが出会ってからこれまでで一番の思い出になったと、俺もかのんもそう思っていた。

 




 最後の個人回のかのん回でした!
 かのんが留学について悩むなら、海外に行くかどうかよりこっちかなぁと思ったので、もしかしたら皆さんと解釈違いが生まれてるかも……?

 そういや零君って、自分の発言を強く主張するときって女の子を物理的に追い込みがちですよね。肩に手を置いたり壁に追い込んだり(笑) その強引さのおかげでモテているみたいなところがあるのかも……


 次回ですが、遂にLiella編第二章の最終回です。
 1話では終わらないので、2~3話程度に分けて投稿予定です。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【最終話】WE LOVE !!(前編)

「いやぁ~今回も大変だったみたいだね~」

「お前が変に焚きつけたからだろ。他人事みたいに言うな」

 

 

 隣にいる秋葉が弁当を突きながら俺を労おうとしている。ただいつもの如く大体コイツのせいなので、もちろん感謝することはない。むしろ事態を余計にややこしくしたことを謝罪して欲しいものだが、コイツのことだ、現場が荒れることなんて見越した敢えての行動だったのだろう。相変わらずの悪魔っぷりだな、慣れたけど。こうやって慣らされてることすらコイツの計算の内だったりするのか……?

 

 『ラブライブ!』の決勝が終了し、時間が流れて現在は年明け。本日から3学期の授業が始まっている。教師の俺はもちろん、非常勤講師であるコイツも久々に授業にしに学校へ来ていた。非常勤とは言っても今年度はほとんど海外にいたから、もはや教師としての役職なのかすら怪しくなってるけど……。

 

 気になっているであろう結論から先に言ってしまうと、Liellaは優勝した。審査員やファンからの投票で決まるのだが、サニパとウィーンと接戦を繰り広げた後に一歩抜け出して何とか1位。正直ギリギリだったのでアイツらが飛びぬけて凄かったわけではないが、それでも栄冠を手に入れたのは事実。見事結ヶ丘にトロフィーを持ち帰った。

 

 そんなわけで無事に大会も終了し、張り詰めていた緊張の糸も解れたので久々に落ち着いた日々を過ごしていた。

 でも、まだ俺とLiellaの関係の話が残っている。ただあれ以降みんなから動きはなく、そのまま年末年始を過ぎて今に至る。優勝で盛り上がったと思ったらすぐに年越しだったから、俺との関係をどうするのか整理をする時間はなかったのだろう。ま、そんなに急ぐことでもないしな。

 

 そんな状況で始まったのが3学期で、こうしてほのぼのとしている最中に起こったのがこのシチュエーション。昼休みに飯に誘ってきたと思ったら、掛けてきた言葉がさっきの煽りだ。自分で七草やウィーンを焚きつけて俺たちに差し向けたくせによく言うよ。そのせいでLiellaの面々も大なり小なり焦ってたし、背中を押すって意味だとしても強引過ぎるだろ……。

 

 

「他人事って、零君が女子高生と恋愛してることや、かのんちゃんの留学のことは私に関係なかったことだしぃ。ちょっとでも面倒事があると私のせいにする癖やめてよね」

「だったら自分の日頃の行いを思い返してみろ。それに、どうせ俺がこの学校に来ることを仕組んだのもお前だろ。理事長が漏らしそうだったぞ」

「えっ、ホント? 全く、あの理事長ってば節々でツメが甘いんだから……」

「それには同意だけど、とにかく俺とアイツらがこんな関係になってしまったのは間接的にお前が原因ってことだよ。教師と生徒で男女の関係って大概だぞ……」

「既に実姉や実妹と関係を持ってる男が言うと余計に背徳感増すよねぇ。このままもっと色んな属性の女の子をゲットしちゃおっか?」

「するか」

 

 

 反省の色ゼロ。むしろコイツから反省が見られた日には地球の終わりそうだが。

 それにしてもこの調子だと、またいつか別の女子高に俺を差し向けそうだなコイツ。自分の人生に愉しみがなく、弟の人生を弄んで愉悦を感じるしかない人格破綻者だから仕方がないか。それでもそのおかげで俺も色んな女の子に出会えているってメリットもあるため、あまり強くは言えないところがジレンマだったりする。

 

 

「んで、どうするの? これは真面目な話」

「アイツらのことか? 別に俺からはどうもしない。アイツらも自分から言う気満々みたいだから」

「っそ。そうやってカッコつけてるけど、内心楽しみにしてるんでしょ? 零君も案外惚れっぽいからねぇ澄ました顔してるわりに」

「そうだな」

 

 

 俺は弁当箱の蓋を閉じ、立ち上がる。

 

 

「好きになったのは、俺の方が早いかもな」

 

 

 チョロさで言えば人のことは言えないかもしれないと、改めて自覚した。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「七海ちゃん、本気……?」

「もちろん」

「失望しちゃうかも……」

「一応親友だったよしみで遺言を聞いてあげようとしてるから、むしろ感謝して欲しいよ」

 

 

「え……?」

 

 

 部室に来てみたら、拳銃を手に持ち銃口をかのんに向ける七草がいた。一方かのんは部室の端に追い詰められ、まさに一触即発の状況である。

 ちなみに拳銃はどう見てもちゃっちいモデルガンのようであるが、知識のない人が見たら勘違いするのも無理はない。現にかのんがその状況のようだ。

 

 

「せ、先生!! 七海ちゃんが……七海ちゃんが……!!」

「なにしてんだよ……」

「もう用済みってやつだよ、センセー♪ 澁谷ちゃんたちが『ラブライブ!』に優勝したことでアタシの目的は達せられた。そう、Liellaを優勝に導いたらセンセーに恋できる権利を得るっていうね。だからもうLiellaは用済み。1人1人消していく」

「ちょっと本気!?」

 

 

 本気ではない。本気なのはかのんだけで、部屋の隅で怯える彼女を見て七草はほくそ笑んでいた。よく見たらモデルガンより明らかにオモチャ感があり、ハンドメイドであることがはっきりする。

 秋葉もそうだけど、どうして俺の周りには悪女までもが揃っているのか。アイツの言う通り色んな属性の女性を引き寄せる体質が故か……。

 

 

「安心して。仲間の死に顔を見せないよう、澁谷ちゃんを真っ先に逝かせてあげるんだから……♪」

「信じてたのに……」

「じゃあね♪ 楽しかったよ、友情ごっこ」

 

 

 そして、七草は引き金を引いた。

 かのんの胸元から赤い液体が飛び散る。

 

 

「ぐぅぅううううううううううう――――――って、え? 痛くない」

「だって発射したの絵具だもん、それ。血がそんな鮮やかな色なわけないでしょ」

「えっ!?」

 

 

 赤い液体は絵の具であり、かのんの身体から飛び散ったのではなく、銃口から発射されたものだった。肉眼でも簡単に絵具の入った玉が確認できたし、その玉が制服に当たった瞬間に中身が飛び散ったのだろう。

 かのんは自分の胸に付着した赤い液体を人差し指で(すく)うと、その匂いを嗅ぐ。絵具の塗料の匂いが鼻に激しく感じたのかすぐ顔を離すが、同時にこれはマジのイタズラだと確信にも至ったようだ。

 そしてそれを認識した瞬間に顔が真っ赤になり、立ち上がってつかつかと歩いて七草に詰め寄る。

 

 

「七海ちゃん、今日という今日は……!!」

「どうどう。『ラブライブ!』の優勝者がしちゃいけない顔してるよ。スクールアイドルとは言えどもアイドルなんだから、アイドルの子がそんな顔しちゃダメ」

「よく言えたねぇそんなこと!!」

 

 

 鬼の形相になるかのん。そりゃそうなるわとしか言いようがなく、もはや俺は口を挟むタイミングすらも見失っていた。

 

 

「とりあえず、この絵具塗れになった制服をどうしてくれるの?? ねぇねぇ?? まだ午後の授業あるんだよ? ねぇねぇ??」

「アタシはね、これでも感謝してるんだよ。澁谷ちゃんたちLiellaにはね」

「へ……?」

「これでようやくアタシにもチャンスが巡って来た。センセーをようやく手に入れられる、そのチャンスが。生まれた時から願い続けてきた夢が叶うんだよ」

「七海ちゃん……」

 

 

 急に真面目なムードになる七草。彼女の過去を知っている俺たちからすると、チャンスが来て夢が叶いそうになっているというフレーズにはかなりの重みを感じられる。秋葉に植え付けられた想いとは言え、幼い頃から、物心が付く前から好きだった男にようやく手が届きそうになるんだ。その足掛かりをくれたLiellaに感謝しているっていうのは、もしかしたら本心なのかもしれない。

 普段は人をからかって小悪魔な笑みを浮かべているコイツでも、人に感謝する気持ちってあるんだな。

 

 

「というわけでセンセー、これからは容赦しないんでヨロシク~」

「容赦って、監禁までしておいてまだ激しくなんのかよ……」

「センセーだってチャンスだよ。色んな属性の女の子をゲットする、ね」

「するか」

 

 

 秋葉と同じこと言いやがって。アイツに教育されただけに思考回路もアイツ寄りになってんじゃねぇかコイツ。ただウィーンの方はそうでもないから、元からこういった性格なのかもしれない。監禁までするヤンデレメスガキってどこに需要があるんだか。いやまぁ、ありそうなのが怖い……。

 

 

「そういえば先生は七海ちゃんのことをどう思っているんですか……? なんだか七海ちゃんだけ盛り上がっているような気もしますけど……」

「俺? 俺は来るもの拒まずのいつものスタイルだから、相手がお前らだろうが七草だろうが関係ないよ。向かってくる相手に真正面から挑んで応えるだけだ」

「そういうこと。だからアタシがセンセーを監禁しようが嬲ろうが、何をしても許してくれるってこと」

「いやそこまでは言ってねぇ……」

「んなわけで、昼休みも終わりそうだからそろそろ帰るよ。澁谷ちゃんも遅れないようにしなよ」

「えっ、同じ教室なんだから一緒に行けば――」

「それじゃ!」

 

 

 七草は足早に部室から去った。まるで逃げるような素ぶりだったが、その理由はかのんの今の姿を見れば明白。

 

 

「あっ、絵具!? このベタベタになった制服どうするんですか!?」

「俺に聞かれても……」

 

 

 かのんの制服は赤の絵の具によりベッタリと汚れていた。途中で真面目な話を差し込んできたから、かのんの追及を逃れるために話題を切り替えたに違いない。どこまでも策士っつうか、読めない奴っつうか……。

 

 

「もうガッツリ洗濯するしかねぇだろうし、午後はジャージで過ごすしかないな」

「恥ずかしい……。そして七海ちゃんが絶対に笑ってくる。『クスクス。どうしてあの子ジャージなの』って。う゛っ、考えただけで頭が……」

「お前ら、本当に親友なんだよな……?」

「怪しいかもしれない……」

 

 

 コイツらのやり取りを見るたびに毎回本当に友情が芽生えているのか疑わしくなってくる。もはやその芽が刈り取られてるんじゃないかとも思うが、なんだかんだ一緒に出掛けたりすることもあるらしいので、やっぱり仲は良い方なのだろう。七草の仕掛けるイタズラもかのんだったら、Liellaだったら大丈夫という信頼があるからかもしれない。

 

 結局のところ、Liellaが優勝しても七草の調子はいつも通りだった。もしかしたらかのんたちの勝利を確信していたのかもしれないが、それでも自分にとってのチャンス、そして夢の到達点が見えてきたことには大きな喜びが滲み出ていた。これでも2年間アイツを見てきた(とは言っても1年半くらいは仮面被ってたけど)から、外面では分からなくても内面でテンションが高いときの様子くらいすぐ分かる。

 

 どんな事情があるにせよ、アイツだって恋する乙女の1人だ。それはかのんたちと何ら変わりはない。最初は恋のライバルみたいなポジションで本性を現したけど、来るもの拒まずスタイルの俺に浮気の概念が存在しないことを知っていたアイツは元からライバルなんてつもりはなく、だからと言って誰かの邪魔をして出し抜くこともしない。あくまで自分の恋を叶えるために全力を出しているため、その真っすぐな信念は俺も認めざるを得ないところだ。

 

 アイツもまた俺との関係を望んでいるのであれば、さっきも言った通りそれを真正面から受け止める。アイツのイタズラ好きな小悪魔なところも、本性を現した後もLiellaや他の部活のサポートを続けているお節介焼きなところも、色んな魅力を知ってるから受け入れるには十分な子だ。

 

 

「保健室でジャージ借りてきます……」

「じゃあ身体にこのタオル巻いとけ。その恰好で歩いてたら、この学校が戦場になったのかと驚かれるだろうから」

「あっ、そっか……」

 

 

 ま、たま~に遺恨が残りそうなイタズラをするのは今後の課題かもな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 もうすぐで昼休みは終わりだが、昼一に俺の授業はないため一旦職員室に戻ることにした。

 その途中、理事長室の前を通り過ぎようとしたとき、その部屋の中から出てきた人物を見て足を止める。

 

 

「ウィーン?」

「あっ、先生」

 

 

 理事長から出てきたのはウィーン・マルガレーテだ。

 相変わらずの美人で周囲の空気を一変させるような威厳もあるので、これが中学3年生のオーラなのかとこっちが萎縮してしまいそうだ。年上に対しても堂々とした口ぶりは変わらず、かと言って敬意はしっかり払えるので不快感はない。毎回コイツを見るたびに男の惚れ心が揺さぶられるのは、そういった女性や人間としての立ち振る舞いが出来上がっていて魅力に見えるからだろう。

 

 

「久しぶりだな。あけましておめでとう、って言った方がいいか」

「あけましておめでとうございます。こちらから会いに行こうと思っていたので、ちょうど良かった」

「そうなのか。俺も会いたかったよ。決勝が終わってお前すぐにいなくなって、そのあとずっと会ってなかったから気になってたんだ」

「心配させてしまってゴメンなさい。立ち話も迷惑だから、歩きながら話しましょう」

 

 

 ウィーンは俺に背を向けて歩き始めた。その歩き方もモデルかのように綺麗で、制服のスカートから見える艶やかで長い脚を見ても中学3年生とは思えねぇな。

 俺はウィーンの隣に追いつくと、彼女は決勝後の当時のことを語り始めた。

 

 

「何も言わずにいなくなったのは、私が負けたからよ。敗者がステージに留まる理由はないもの」

「厳しいな、自分に」

「えぇ。そうやって自分を磨いてきたから」

 

 

 さっきの七草のチャラチャラした雰囲気とは全然違う。2人は幼馴染らしいんだけど、よく今までその関係を保てたもんだ。ウィーンからしてみれば七草のノリなんて相性最悪に思えるが、逆に物心つく前から一緒だったから慣れたのかもしれない。

 

 

「そうか。お前が敗北に納得してるのなら俺から言うことはねぇな。慰めなんてお前の最も嫌いそうな言葉だし」

「そうね。慰めは『自分が人に優しくしている』って承認欲求を満たすための自分のための言葉」

「厳しすぎるだろ……」

「それに『ラブライブ!』は来年もあるから、慰めを受ける暇が合ったら自分を磨いた方が効率的よ」

「すげぇストイックだな……」

 

 

 負けて悔しいって気持ちはあるだろうが、別に落ち込んだりはしていないようだ。そんな暇が合ったら次に繋げる動きをする。そういった前向きな気概は俺は好きだ。

 プライドが高そうに見えるけど、負けたところで嫌味を言ったりもせず、もちろん負け惜しみも言わない。決勝が決まった後の舞台袖でかのんたちとどういった会話をしたのかは聞いてないが、アイツらから特にコイツの印象が悪くなった話は聞かないので、お互いに健闘を称え合ったのだろう。そう言った誠実な態度も俺好みだ。

 

 

「そういや、どうしてこの学校に? 自分の学校はいいのかよ」

「自分のところはまだ冬休みだから大丈夫。それにこの学校にはちょっとした考えがあってね。それで理事長に話をつけにきたの」

「考えって、どんな?」

「…………内緒よ、今はね。でも時が来たら分かる。そう遠くないから」

 

 

 最初言いそうな雰囲気だったけど、途中で迷って誤魔化しやがったな。どんな思惑があるのかは知らないが、どうやら結構なサプライズが用意されているようだ。

 もしくはかのんがウィーンの学校に留学するって話があったから、それ関係だろうか。ちなみにかのんは留学するかしないかの答えを出したらしいのだが、それはまたアイツと会った時にでも話そうと思っている。さっきは着替えるのが先決だったからな……。

 

 事情を隠してはいるが、決意を固めているような表情をしているウィーン。今回こそ自分の夢に手が届かなかったものの、もう既に次を見据えて行動している。具体的にどんな行動をとるのかは不明だけど、次は確実に夢を掴んでやるって気合は十分のようだ。隣にいるだけでもその意気込みが感じられた。

 

 

「次こそはあなたに恋をするチャンスをモノにしてみせる。最高の舞台で、最高の私を見せ付けて」

「そんなことをしなくても恋愛はできるだろ、って慰めは野暮か。一度でも妥協しないって決めたからには、その目標を達成するまで1ミリも手を抜かない。それがお前だもんな」

「分かっているであればそれでいいわ。あなたはそれまで愉しんでおきなさい。あの子たちや七海と」

「まるで俺が女の子をとっかえひっかえしてるみたいに言うなよ……」

 

 

 まるでアイツらが前座みたいな言い方に聞こえるな……。そうやって煽りを入れてくるあたり、やはり少しは俺に手が届かなかったことを悔やんでいる部分はあるのかもしれない。まあまだ中学生だしな、完全に大人な対応ってのも難しいだろう。現時点ではLiellaの誰よりも大人っぽく見えるけど。

 

 ウィーンも七草と同じ境遇で育てられたから、物心がついたときから俺が好きだったのも同じ。恋するための条件は『ラブライブ!』の優勝だったのだが今回は惜しくも敗れた。

 だけど、コイツはそんなことは忘れて今はしっかりと先を見据えていた。敗けても恋愛はしていいなんて甘えも許さず、自分に厳粛に、一切の妥協がない自分を磨き上げようとしている。そうやって編み出された最高の自分を俺に魅せようと努力している。自分にも他人にも厳しいけど、乙女心って意味では愚直で真っすぐだ。

 

 そんな誠実さ、そして健気さに俺も心を動かされていた。俺たちの距離が縮まるのも、そう遠くはないのかもしれないな。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 最終話は前編、中編、後編の3部に分ける予定です
 そして今回はサブキャラたちのその後を描く回でした。サブキャラの様子を最終話で描くのはこれまであまりなかったのですが、中には今後メインキャラに昇格する子もいるのでね。誰とは言いませんが(笑)

 秋葉はLiella編での出番はかなり少ない方ですが、それでも彼女がいてこそ余計な設定なく物語を展開できるので、私の中では誰よりも超重要キャラです。
 七海はLiella編の第一章と同じ流れにならないようにカンフル剤として投入したキャラですが、個人的には良い働きをしてくれたと思っています
 ウィーン・マルガレーテはアニメのようなヘイトが集まらないキャラにしようと思って描写を色々試行錯誤していましたが、最終的に今の性格に落ち着いてこちらも個人的には満足しています!



 最終話の中編は1期生、後編が2期生の回となる予定です。

 小説の投稿日ですが、あと2話を残す状況の中でいつも通り月曜日の0時投稿を続けていると年内にギリギリ収まらないため、平日のどこかで1話を投稿し、綺麗に年内でこの章を終わらせる予定です。
 候補としては今週の21日(木)の0時(水曜日の24時)に中編、いつも通り来週の月曜0時に後編を投稿予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【最終話】WE LOVE !!(中編)

 『ラブライブ!』に優勝したとは言えども、流石に年を越して3学期にもなればその熱気も薄れ、いつもと何も変わらぬ日常に戻る。

 いつも通り授業をしている時もそうだし、いつも通りアイツらの練習している姿を見ると、決勝直前の忙しなかった毎日と本当に同じ間隔で時が流れているのかと疑ってしまうくらいだ。今の方が明らかに時の進みが遅く感じる。

 

 その現象を如実に表しているのは生徒会室。

 ここでは去年から変わらずいつも通り生徒会長である葉月恋が黙々と業務に励んでいた。

 

 

「結局、ここは相変わらずか」

「はい。むしろ来年度に向けた準備で忙しくなって、最近はスクールアイドルよりもこっちの方が本職かと思うくらいここに時間も多いです」

「あれだけの功績を叩き出したのに仕事は減らないって難儀だな」

「その減った分を誰かが代行してくれるわけでありませんし、やりますよ、好きなので」

 

 

 『ラブライブ!』に優勝したからと言ってその実績を振りかざすわけでもなく、ただ淡々と目の前の作業に取り組む恋。理事長に交渉すればある程度融通はしてもらえそうなのに、こういうところがお堅くて真面目な奴だ。決して甘えは見せないタイプだから、そういったストイックさはウィーンに似てるかもしれない。

 

 ちなみに他の生徒会役員は用事でいない。かのんときな子は次のライブに向けての練習メニュー作り、七草は単純に行方不明。どこかでサボっているのだろう。

 そうは言いつつも俺も特に何か用事があるわけでもなく、ただコイツの様子を見に来ただけだ。一応ここの顧問でもあるし、生徒会で恋の様子を見るのもあのポンコツ理事長に命令されてのことだしな。

 

 気付けば、なんだかんだ生徒会でコイツと2人きりになることが多い気がする。別に狙ってこの状況を作り出してるわけではないが、コイツとのパーソナルスペースといえばここと断言できるくらいだ。故に落ち着く。だから時間経過が遅く感じるのかもしれない。

 

 そんな中、恋が作業の手を止める。

 やることが終わったのかと彼女に顔を向けると、既に向こうが真剣な眼差しでこちらを見つめていた。

 

 

「先生」

「ん?」

「今度一緒にお出かけ……いえ、デートをしてくれませんか? 好きな人と、そういうことをしてみたいです」

 

 

 ド直球。変化球も一切ない。

 今まで何かにつけて言葉を濁して好意を伝えてきた恋が、初めてここまで素直になった。これまで他の2年生たちの誰よりも羞恥心に負けていたが、今回ようやくそれを乗り越えたのだろう。今の表情も恥に負けておらず、真っすぐ俺を見つめたまま。これまでで一番強い覚悟であることがそれだけで伝わって来た。

 

 もちろん、答えは1つ。

 

 

「あぁ、行こう」

「っ…………!? ありがとうございます!」

「なんで感謝すんだよ」

「いや、私からのお誘いなんて迷惑ではないかと……」

「んなわけねぇだろ。むしろこっちから誘おうかと思ってたくらいだ。でもお前が覚悟を持てるまで待ってたんだよ。そのせいで先に言われちまったけどさ」

「そ、そうですか……。ありがとうございます、楽しみにしています!」

 

 

 無邪気に微笑む恋。

 ゆったりとした時間にふとして現れる小さな幸福。彼女と過ごす時間は山も谷もないけど、こうした些細な安らぎを覚えることが多い。そして、それは恋も同じらしい。覚悟を決めて彼女のおかげで更に2人の距離が縮まった今であれば、お互いにその気持ちをもっと共有できることだろう。

 

 

「そういや、さっき好きって言われたような……?」

「そ、それは……!!」

「上手いこと他の言葉に紛れ込ませたな。まだ素直100%には行かねぇか」

「うっ……つ、次のお出かけの時にはしっかり言います!! 伝えます!!」

「あ、あぁ……」

 

 

 どうやら火をつけてしまったらしい。まあ1年生の冷徹生徒会長をやってた頃からコイツは不器用だし、そういった面もコイツの魅力だろう。

 

 変にやる気を出させてしまったからには、胸を抉るようなド直球な告白を楽しみにすることにしよう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「お前、また写真撮ってんのか……」

「あっ、先生。またって、頑張って勝ち取った功績デスから、何回でも何度でも拝みに来マス! この優勝トロフィーを!!」

 

 

 各部活が取った賞状やトロフィーを飾ってあるガラスケース。その前に可可がベッタリと張り付き、『ラブライブ!』で獲得したトロフィーを眺めてウットリしていた。

 もうこうして何度目か。3学期に入ってからは減ったものの、2学期は終業式まで毎日ずっと数分はここで張り付いていた。それこそ頬の形が変わるくらいに……。

 

 

「どうして可可たちが貰ったモノなのに、こんなところに幽閉しておくのでショウ! 家に持ち帰って飾りたいデス!」

「お前のあのぐちゃぐちゃな部屋だとすぐどこか行きそうだけどな」

「今はもう片付けマシタ! ていうか、先生が一緒にやってくれたじゃないデスか!!」

「そうだっけ。ま、精々ガラスケースを割って盗み出すなんて真似はしないことだな」

「そこまでは流石に……多分」

 

 

 そこは言いきれよ。

 Liellaの中で『ラブライブ!』に一番執着していたのはコイツだ。執着というと聞こえは悪いが、スクールアイドルになるために上海から日本へ来たくらいだからあながち間違ってはないだろう。故に自分たちの手に入れたトロフィーを展示場から略奪したいって気持ちがあるっぽい。奪ったら奪ったでそれを枕にして寝るとか、奇想天外なことに使いそうだけどなコイツ……。

 

 そうやって他の奴らとは違って未だに優勝を引きずってハイテンションな彼女だが、実はやんごとなき事情を抱えたまま大会に臨んでいた。

 それがどうなったか聞こうとしたとき、可可が先に口を開いた。

 

 

「帰国の件デスが、無事日本にいられることになりマシタ」

「急に話題変わったな……。そうか。にしてはあまり喜んでないように見えるけど?」

「決まったのが年末に帰省した時なので、流石にもう喜びは冷めちゃってマス」

「さいで……」

 

 

 度々思ってたけど、コイツってテンションの高い時と低い時の差が激しいよな。割かし何でも興味をもって子供みたいに食いつくが、熱が上がらない、または冷めきったものに対しては辛辣と言えるほどの態度となる。あれだけ悩まされてた帰国問題ですら解決したらこれだからな……。

 

 

「これで、また先生と一緒にいることができるようになりマシタ」

「あぁ、そうだな」

「なので、これからはもっと積極的に、もっとアピールして、もっともっと先生に好きになってもらえるように頑張りマス! なんたって、可可の世界一大好きな人なのデスから!」

 

 

 いきなり告白してくるか……。

 1年生の頃からフレンドリーで距離が誰よりもバグっていた子。それに加えて感情がすぐ表に出るから何を考えているのか分かりやすい。だから自分へ向けられる好意の大きさも知ってはいたのだが、それを受け入れるのはコイツの中の(わだかま)りが全て消えた時と決めていた。そう、『ラブライブ!』の優勝、そして帰国の問題を。

 

 そして、今回その障壁を全て乗り越えた。ということは――――

 

 

「うん。これからもよろしくな。俺もお前にもっと好きになってもらえるよう頑張るよ」

「可可はもう先生のことを大大大好きデスけど」

「だったら俺はそれ以上――って、小学生みたいな言い合いになるからやめるか」

「ふふっ、そうデスね♪」

 

 

 無邪気な少女の素直な告白。元々距離が近かった俺たちだが、これから一緒にいる時間が増えることでより一層お互いのことを知ることができる。

 そして、いつの間にかもっと好きになっているだろう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「うぃっす先生! 調子はどうだい? あぁでも先生はいつもダルそうにしてるか! あははっ!」

「酔っ払いみたいな絡み方すんなよ……」

 

 

 なんだか千砂都がすげぇ高いテンションで駆け寄って来た。校則破りなんてなんのその、俺の背中が見えた瞬間に全速力だったのだろう。真面目そうに見えて結構な掟破りちゃんなんだよなコイツも。

 

 

「で? 何か用か?」

「これ!」

 

 

 何やらA4用紙を見せ付けてくる。そこには見覚えのあるゲーセンの名前と、そこに設置されているダンスゲームで最高成績を収めた旨の文章が書かれており、そして、ダンスゲーム大会の招待状が同封されていた。

 

 ――――って、え??

 

 

「ダンスゲーム大会に招待? お前が??」

「はいっ! この前先生と一緒にいったゲーセンのダンスゲームでトップの成績を記録していたらしいんですけど、どうやら年間通して成績が1位の人に招待状が届いて、他のゲーセンで1位だった人たちと大会で争うらしいです」

「そんな地区大会みたいな方式あんのかよ……。いやこれが届いてる時点であるんだろうけど……。んで? 出るのか?」

「『ラブライブ!』も終わったことですし、次の目標としてはちょうどいいと思います! あっ、もちろん先生も来てくださいね! ていうか来い!」

 

 

 命令口調で人差し指をこちらに向ける千砂都。

 ホントにあのゲーセンデート以降から容赦がなくなったなコイツ。もう目上の教師相手というよりかは親戚のお兄さんのような友達感覚で絡んできやがる。まあ俺としてはそっちの方が接しやすいからいいのだが。別に生徒に呼び捨てされてもいいと思っている。

 

 

「私、先生のおかげで自信が付くようになりました。昔はスクールアイドルも部長も自分にできるのかって不安になって、他にも些細なことで心配症を発揮してましたけど、今はむしろ細かいことは気にすんな! って感じです! 先生が一緒にいてくれたからですよ、ここまで強くなれたのは」

 

 

 千砂都は見た目の活発さに反して意外と弱い人間だった。計算高い性格のせいで何事も始める前にあれこれリスクを考えてしまい、その心配が膨れ上がって中々一歩を踏み出させないこともあった。その慎重さのおかげで仲間は救われたこともあったが、肝心の自分の成長を妨げてもいた。

 

 そんな彼女が俺と過ごす間に悩みを共有するようになり、軽く相談に乗ってやったのを機にたちまちその欠点は解消されることになる。元々伸び始めたらひたすら伸びる凄まじい才能があるため、そこからはむしろ自信の塊と化して今に至る。スクールアイドルとダンスはもちろん両立し、更にどちらも結果を出してるんだからすげぇ奴だよ。

 

 文武両道でありながら、それを苦とせず笑顔で楽しむ。それが彼女の魅力で、俺の好きなところだ。

 

 

「あぁ、行かせてもらうよ。その代わりたっぷり見せつけてもらうからな、お前の輝きってやつを」

「もちっ! 先生がいるからなんだってできますよ!」

「むしろ俺がいないと何もできねぇみたいだな……」

「そうやって依存しちゃった方が私としては幸せだったり♪」

「何くだらねぇこと言ってんだ……」

 

 

 もう好き好きオーラが隠しきれてないぞ。他の奴らと違ってもう俺に好意を伝えることに躊躇はない。それは前のゲーセンデートからそうだったけどな。

 

 

「これからはずっと一緒ですよ、先生♪」

「ヤンデレも入ってねぇか……?」

 

 

 腕を組もうとしてきたので咄嗟に避ける。いやそこまで積極的に来てくれるのは嬉しいんだけど、流石に学校内でそれを見られると誤解されるからな……。

 ――――と思ったら、今度は手を握って来た。

 

 これくらいはいいかと、彼女からの愛を初めて肌で受け取った。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「モデルの仕事、継続依頼が来てるみたいだな」

「えぇ。『ラブライブ!』の優勝も響いてると思うけど、何より私の魅力が凄かったってことね」

 

 

 以前すみれのモデル仕事に付き添ったときを思い出す。確かに他の選抜された女の子たちも綺麗で可愛かったけど、身内贔屓抜きにしてもコイツの美麗さは群を抜いていた。それに加えて先日の大会優勝が影響してモデル業界の目にも留まったのだろう。わざわざ個人に依頼が来るなんて珍しく、その珍しさこそが彼女の突出した端麗さを際立たせていると言ってもいいだろう。

 

 

「1年生の頃はクソほどの人気もなかった無名のお前が、まさかここまで昇り詰めるなんて誰も思わねぇよ。名を売りたくて色々やってたみてぇだけど、全部空回ってたもんな」

「ま、あれも今の地位を築くのに必要な儀式だったってことよ。この世は成りあがったもの勝ち。ほら、動画の炎上商法だってそれで有名になって再生数が増えたりするでしょ?」

「なんつう例えだよ……」

 

 

 そりゃまあ空回りでも行動し続けて、いつか目立てば勝ち。それこそ泥を被る度胸が必要なくらいに。

 でもその例えだとコイツ自身が汚い手を使ったみたいに思える。まあ最初はスクールアイドルを踏み台にして芸能界に入ろうと目論んでたから汚い手という意味では変わらず、それで可可と喧嘩したりもしてたしな。

 

 そうやって増長してイキっているすみれだが、もちろんそれは表向き。心の奥ではLiellaの面々に感謝しかしてないだろう。本人がツンデレだからそう口には出さないだろうけど。

 

 

「感謝、しないとね」

「そうだな。アイツらに直接言ってやれ」

「それもそうだけど! その、アンタにも……。ありがとう……」

 

 

 簡単に口に出しやがった。いや本人の中で超絶な羞恥心をねじ伏せたに違ない。顔を背けているが頬が赤くなっているのは丸分かり。度々こちらを見つめては顔を逸らすため、簡易見返り美人みたいでちょっと艶めかしくも感じた。

 

 

「スクールアイドルを始める前、初めてセンターに立つ前、それからも、アンタに手を引っ張ってもらわなかったら私はここまで来られなかった。自分の力だけじゃない、あの子たち、なにより先生の力があってこそ。いつも私を気にかけてくれて、大きな暖かい手でこっちの手を握ってくれて、私を新しいステージへ連れて行ってくれた。感謝してもし足りない」

 

 

 いつもみたいに『俺自身のためだから気にすんな』と言ってしまいそうになるが、ここでその言い分は間違ってるだろう。承認欲求でもいい、ここは彼女の未来を照らしてあげたんだと自分を誇るべきだ。彼女もそれを望んでいる。それがお互い様だから。すみれは俺に感謝してるし、俺もスクールアイドルとモデルとしての輝きを見せてくれた彼女に感謝している。

 

 だからおあいこ。だから伝える、その口で。

 

 

「俺も感謝してるよ。もっと見せて欲しい。隣で、お前を」

「ちょっ、言おうとしてたこと先に言われた……。えぇ、いくらでも見せてあげるわよ。隣でも、前からでも後ろからでも上からでもどこからでも」

「いや後ろにいられても困るだろ……」

「鈍いわね。後ろにいてもアンタを振り向かせてやるって言ってんのよ」

 

 

 綺麗な得意顔。たまに根拠がない時もあるけど、その自信満々な表情が俺は好きだったりする。優雅にエレガントに堂々と、それが彼女の魅力だ。そういうところに俺は惹かれたのかもしれない。

 

 

「そうだな、好きな人を振り向かせたいってのは当然だ」

「だから私の言いたいこと言うんじゃないわよ! 好きって、いいタイミングで言えなかったじゃない」

「もう言ってるようなもんだけどな」

「ふんっ。いつか真正面から言って、アンタを赤面させて悶え苦しませてやるから覚悟しておきなさい!」

 

 

 最高のキメ顔。悶えてはないが、俺がその表情にとっくに惚れてるなんてコイツは思ってないのだろう。

 惚れてるのは、俺の方がよっぽど先だったんだよ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 誰しもが青臭い悩みを抱えていたLiellaだったが、その中でも最も内に溜め込みやすいタイプはコイツだろう。

 他人のことであれば啖呵を切ってでも敵の前に出られるのに、自分のことになるとすぐ殻に閉じこもる。自己評価の低さはグループ内でも随一で、よく2年近くこれでスクールアイドルなんてやってこれたものだと感心するくらいだ。

 

 そんな彼女が抱えていたのが留学に行くか行かないか問題。仲間と離れる怖さ、そして何より俺と離れることの寂しさが募り、なんと『ラブライブ!』決勝直前にして気分が沈んでいた。

 ただ後輩のきな子が発破をかけてくれたり、俺と星を見ながらゆっくり感情を吐露したおかげで自分を見つめなおし、そして今に至る。

 

 見事に大会の優勝を飾った、澁谷かのんの答えは――――

 

 

「私、こっちに残ることにしました」

 

 

 そうらしい。真剣な表情を見る限り、以前みたいに甘えでその選択肢に流されているわけではないだろう。

 

 

「そうか。お前が考えて選び抜いた答えだったら、俺は何も言わねぇよ。元々言える立場でもねぇしな」

「そう、ですか……。てっきり甘えてるって思われるかと……」

「いいんじゃねぇの別に。仲間と一緒にいたいって気持ちが甘えなわけないんだから。それに、仲間と切磋琢磨しながら自分を成長させるって決めたから、その選択肢にしたんだろ?」

「はい。マルガレーテちゃんの学校でしか学べないことも多いと思いますけど、それ以上に、私にとって高校生活最後となるスクールアイドル生活をみんなと一緒に駆け抜けたいので」

「うん。お前がそう決めているのであればそれでいい」

 

 

 決勝戦直前の夜に星空の見える場所に連れ出し、その最中にやたらクサいセリフを吐いた気がするが、結局は自分のやりたいことを優先するで良かったんだ。あの時は自分で決めずに俺に決めてもらおうとしてたから助言しただけであって、そんな深く考えなくても簡単に答えが出る問題だったんだよ。

 

 

「先生は、こんな私でもまた指導してくれますか……?」

「あたりめぇだろ。相変わらず心配性だな、俺がお前から離れる要素がどこにあった」

「そ、そうですよね! 先生はいつも隣にいてくれる。私もいつだって先生の隣に……」

「言うようになったじゃん」

「えっ、あっ、ち、違うんです! 変な意味では……!!」

 

 

 もう普通に告白するよりも恥ずかしいことを言ってる気がするけど……。ナチュラルに男の心をくすぐる発言をする方がよっぽど天然タラシで、もはや『違う』と誤解を解こうとしているのが間違いだろう。もう『好き』を間接的に伝えている、全然間違いじゃない。

 

 

「変な意味か、俺はお前のこと好きなんだけどな」

「ふえぇえっ!?」

「なに今更驚いてんだよ。知ってんだろそれくらい」

「だ、だってそんな直接言ってくることなんてなかったじゃないですか!?」

「分かり切ってることをわざわざ言わねぇだろ」

 

 

 言ったら言ったでさっきみたいに赤面するし、言わなかったら言われてないって文句垂れるし、じゃあどうしたらいいんだよ……。

 ただ、この世は話さなければ伝わらない。察してくれなんて自分が臆病なことの押し付けだ。たった一言ですれ違ってしまう可能性はあるけど、何も言わないことでずっとすれ違ったままになる可能性もある。

 それに今回はお互いの心が惹かれ合って同じ気持ちを抱いているんだ。伝えないと勿体ないだろ。

 

 俺と同じ考えに至ったのか、かのんは落ち着いた後に深呼吸する。

 そして、俺と向き合った。

 

 

「好きです。1年生の頃から、ずっと」

「あぁ、知ってる。でも、伝えてくれて嬉しいよ」

 

 

 伝えてくれた。知ってはいたけど、本人の口から直接聞くことができたのは素直に嬉しい。女の子たちとこういったシチュエーションになるのは慣れてるけど、こうしてお互いに好意を伝え合うのは今でも心が躍ってしまう。好きなんだろうな、『好き』を共有することが。

 

 かのんは目を逸らしてしまうが顔を背けたりはしていない。湧き上がる羞恥心を何とか抑え込み、俺に伝えた好意が本気だと態度で示したいのだろう。

 自己評価が低く、それでも他人のためなら頑張れる。挫けたり泣いたりすることも多いけど、その(しがらみ)を超えて羽ばたける。小心者であり、頑張り屋。そんな健気で可愛い子が、俺も好きなんだ。

 

 

「来年度もよろしくお願いします。先生と一緒なら、もう一度あの舞台に立てるはずです」

「舞台に立つだけじゃない。もう一度見せてくれ、あの栄光を」

「はいっ! みんなと、先生と一緒に!」

 

 

 『大好き』で繋がって、未来の約束もする。

 かのんもすみれも千砂都も、可可も恋も2年間ずっと一緒にいるのに、また見ぬ新しい未来の扉が開いたことに多大なる期待と楽しみを抱いていた。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 これにて1期生組の物語としては一旦区切りです。
 みんなと恋人になるって結末にはしませんでしたが、流石に教師と生徒のロールがあるのでそこは弁えたということで(笑) それでもお互いに『好き』を伝えられたことで、関係性は大幅に前進したと言っていいでしょう。

 虹ヶ先の子たちも高校生ですが、あれは恋人というより彼女たちがそんな垣根すらもなくして言葉より身体で飛び込んでいるので、そこのところはあやふやだったり……



 次回は2期生たちとのお話+αで、Liella編第二章の本当の最終回となります。
 最後まで是非ご覧ください!

 投稿時間はいつも通りの時間に投稿予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【最終話】WE LOVE !!(後編)

「お前もいつも通りだな」

「別に普通。むしろ年を跨いでも未だにあれだけはしゃげるのが逆に羨ましい」

「はは、確かに」

 

 

 2年生たちとの想いのぶつけ合いから数日が経ったとある放課後。俺は四季に呼ばれて科学室に来ていた。

 こうして白衣を着て怪しい液体を試験管やフラスコで混ぜ合わせている物静かな様子を見ると、ステージに立っている時のあの輝かしい姿のコイツとは全くの別人に見える。どちらのコイツのことも良く知っているからこそ違和感が凄い。

 

 ただ、こっちの姿の方がいつものコイツだ。目立たずに集団の隅にいるタイプで、それ故に言動もまったりしているためコイツの周りだけ時の流れが遅く感じる。ミステリアスな雰囲気、と言った方がいいか。

 

 逆を言ってしまえば、ステージだとキャラを180度変えられるスイッチのオンオフ性能の高さがあるとも言える。

 しかし、コイツがその性能を発揮するまでには困難な道のりがあった。

 

 

「はい、これ。おもてなし」

 

 

 四季は薄い黄緑色をした液体の入ったビーカーを俺の前に置く。熱いのか湯気が立っているが、色味からしても明らかに不気味だ。

 これを飲めってか……?

 

 

「なんだよこれ」

「ただのお茶。独自にブレンドしたものけど」

「ビーカーに入ってるってだけで怪しく思えるんだよな……。こういう実験用具みたいなものにいい思い出ないんだよ……」

 

 

 主に悪魔の姉のせいだ。昔からアイツにいいように使われていたせいで、理科の授業で実験とかするたびにまた何か仕込まれてるんじゃないかって変に勘繰るようになり、以降はあまり理科系の分野は好きではなくなってしまった。

 とは言ってもコイツが入れてくれたものなら多分大丈夫だと思うので、ビーカーに口をつけるのは抵抗があったものの、意を決して飲んでみた。

 

 意外にも美味く、それなりの熱さで身体も温まり始めた。

 そんな中、四季が(おもむろ)に口を開く。

 

 

「今日は先生にお礼を言いたかった。優勝した後は色々バタバタしていてすぐに年末になって、言うタイミングがなかったから」

「お礼?」

「うん。今まではずっと陰でいいと思っていた。メイの可愛さを周りに伝えられればそれでいいって、ずっと。そんな私をステージに上げてくれたのは、なにより先生。私が光を浴びるきっかけをくれたのも、先生」

 

 

 四季は人に自分を魅せる性格ではない。むしろ日陰の存在で、やることがなければ科学部や家に引きこもっているくらいだ。他人からは変人に思われるが、本人からしてみればそんな目は気にしておらず、むしろそれであっても毎日が充実していた。そんな彼女が唯一自我を出すのが幼馴染のメイのためであり、スクールアイドルをやるときも裏でコソコソ動いていた。

 

 ただ結局、自分もスクールアイドルとして並び立つようになった。気付いたんだ、自分も変わって大切な人の横にいられるって。

 

 

「ありがとうございます、先生。あのとき私の手を引いてくれて。初めてだった、メイ以外の人にあそこまで惹かれたのは。いや、メイとも違う。この気持ちは間違いなく……」

 

 

 頬をじんわりと朱に染めながらこちらを見つめる四季。その色っぽい表情はステージの上のコイツにそっくりで、俺も思わず見惚れてしまった。

 

 

「好き、だと思います。先生のこと。私に光をくれたあなたのことが、私に女性としての魅力を教えてくれて、自覚させてくれたあなたのことが。付き合う、とはまではいかないけど、この気持ちは伝えたかった」

「あぁ、しっかり伝わったよ。俺も、スクールアイドルを通して花咲いたお前にいつも目を奪われてた。ライブだといつもの雰囲気とは違って余計に女の子になるからなおさら」

 

 

 自分に自信がなかったわけではない。でもメイを前にして自分を出す必要がないと思い込み、それでずっと陰にいたコイツが今や『ラブライブ!』優勝チームのメンバーだ。そんな奴が輝いていないなんてもう誰にも言わせないし、自分でもそう思わないだろう。

 表情が堅く言動も怪しいため見過ごされがちだが、実は繊細で、そして純粋なところがある。そんな子が一皮剥けてステージで魅力を振りまいている姿を見たら、そりゃ誰でも惚れるって。

 

 

「じゃあ来年も、もっとお前を見せてもらおうかな」

「はい、もちろん」

 

 

 そうして、四季は本日初めて微笑んだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「やっぱりこのグループのライブもいいな。あとでこの動画チェックしよう……!!」

「お前は変われよ……」

 

 

 他の奴らがいつも通りの日常を送っている中でも、メイは未だに『ラブライブ!』決勝の映像を見返していた。本人曰く何度観てもいいとのことだが、自分がスクールアイドルのくせに他のスクールアイドルのオタクって改めて見るとすげぇ性格してるよな。まあ花陽だったりダイヤだったり、その界隈では珍しい性格ではないんだろうけどさ。

 

 そんな感じでコイツに度々他のグループのライブ動画を鑑賞させられることが多いのだが、最近は決勝戦に向けて他のグループに流されないようにする意図があったのか、そういった鑑賞会は行われていなかった。

 だから今こうして盛り上がっているのはその反動なのかもしれない。好きだけど優勝のために必死に衝動を押し殺し、そして終わった瞬間に弾ける。ただ年越してんのに未だに盛り上がれるのは幸せ者だだな……。

 

 

「先生は他のグループとか気になったりしないのか?」

「そりゃするよ。サニパとかウィーンとか」

「いや知り合いじゃなくて、一目見てビビッと来たグループとか」

「そう言われたらいねぇな。決勝に出るような奴らだからパフォーマンスに優れてるのは分かるけど、やっぱり普段のソイツらを知ってる方がステージに上がった時に感じられる魅力ってやつが違う。普段あどけない子がステージでは艶やかになってたりとか、そういったギャップも楽しみたいんだよ」

「…………なんか、気持ちわりぃ楽しみ方してるな」

「ほっとけ」

 

 

 長年スクールアイドルと付き合ってきてるから、そりゃ有象無象とは楽しみ方も違うだろ。自分がどうライブを鑑賞しているか話したのはこれが初めてだが、まさか引かれるとは思ってなかった。スクールアイドルやライブってより、女の子個人個人を嘗め回すように見てるのが気持ち悪いってことだろうか……。

 

 

「そういった見方をしてるのはお前らに対しても一緒だけどな。お前も四季と似て、日常生活とステージの上では結構印象変わるから見ていて面白いし」

「そ、そうなのか?」

「あぁ、いい感じに変わったよ。自分にはスクールアイドルなんて可愛いのは似合わないって、駄々をこねるくらいに否定してたのが懐かしいくらいだ」

「う゛っ……あの時はまだ若かったんだよ。でも、先生が可愛いとかふざけたことを言ってくれたせいで、勝手に手を引かれたせいで自信を持たざるを得なくなっちまった……」

 

 

 いつも同じ手を使うが、気になった子がいたらとりあえず付け回し、悩み相談に乗ってあげて無理矢理にでも手を引いてあげ、一度でも軌道に乗せられればそれでいい。あとは他の仲間たちが何とかしてくれるから。メイの時もそうであり、誰にも見つからないよう遠くから練習を観察してる姿があまりに不憫で、なにより自分もやりたいオーラが滲み出てたから声をかけたんだ。

 

 

「四季もそうだったけどさ、結局お前らってお互いのことを考え過ぎた故にどっちも動けなかっただろ? 俺はどちらにも自分に自信を持たせて、一緒に表舞台に立つことに抵抗や遠慮がなくなればって思ってたんだよ」

「うん。そのおかげで私も四季も輝けた。お互いにコンプレックスを克服して、まさか優勝までできるなんて……。恩人だよ、先生は」

「そうか。お前がそう思ってくれるのなら、今回は素直に受け入れようかな」

「だから…………好きになっちまったのかもしれない」

 

 

 声は小さかったが辛うじて聞こえた。本人も本当に俺に伝えたかったのか途中でやめようとしたのかは半々な感じで、でも口に出してしまったことに若干恥ずかしさを感じつつも後悔はしていなさそうだった。

 赤みがかった頬がもう髪色と同化してどっちか分からなくなりそう。まだ俺と知り合って1年も経っておらず、いつも素直になれなかったメイ。でもそんな奴が俺に好意を伝えてくれたという事実に、俺は多幸感に満ち溢れていた。

 

 

「い、今のは聞かなかったことにしてくれ! 聞こえてたとしたら返事はまだでいい。もっと成長した自分を見せ付けたいから、マジで伝えるのはその後で!」

「あぁ、楽しみにしてるよ」

 

 

 そうして、メイは新たな決意を胸にした。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「うひひ、動画の収益が半端ないですの! これも優勝したおかげ……!!」

「お前も変わってねぇな、色々……」

 

 

 本当にスクールアイドルかと疑いたくなるような悪い笑みを浮かべているのはこの女。夏美は自分の動画で得た収益の額を見てニヤニヤしている。今まで散々泥水を(すす)ってきたから、有名になって視聴数が爆伸びしたことによる承認欲求は半端ないだろうとは思うが……。

 

 夏美もすみれと同じような過去を持っていて、有名になろうと空回りしたけどやっとそれが大成した者の1人だ。

 元々去年準優勝のLiellaに入った影響で自分を売名。その影響で動画参入者がじわじわ増え始め、今となっては練習風景の動画や日常動画を上げるだけでも万の再生数は稼げるから、それこそガチのエルチューバーと言っても過言ではない。しかも今回優勝したことでチャンネル登録者も大きく伸びてるし、自分も有名になるしでコイツにとっては人生大成功。花の街道を進んでいるってフレーズは今まさにコイツのためにあると言っても過言ではないだろう。

 

 

「俺に対してなら別にいいけど、他の奴らにはあまり天狗になるんじゃねぇぞ」

「分かってますの。そうやって調子に乗った挙句、炎上発言で身を亡ぼす人なんて今まで幾多も見てきましたの。その反面教師を踏み台に私はもっとのし上がるので、先生これからもサポートよろしくですの!」

「相当調子乗ってんな……。ま、あまり謙遜されるのもそれはそれで腹立つし、お前はそのキャラでいいか」

 

 

 夏美の性格からしてここで冷静になられたらなられたでこっちが取り乱すので、逆に予想していた反応をしてくれて良かったと言うべきか。そして増長した挙句、いつも通り痛いしっぺ返しを貰うところまでを見てみたい。ただスクールアイドルに入ってからは普通に実力で人気を獲得しているため、その成功報酬として今の結果は増長してもいいくらいだけどな。

 

 

「でも良かったじゃねぇか、自分の夢が早々に叶ってさ」

「それはまぁ、そうですけど……」

「ん? まだ何かあんのか? 十分有名になって稼げるようになったのに?」

「いくら有名になってもまだ手に入れていないものがありますの。そう簡単に手に入れられるものでもないし、そのためには今度こそ私から動かないと……」

「それって俺のこと?」

「ちょっ……!? そうやって無駄に察しがいいところ、空気が読めてませんの……」

 

 

 気付いてんのに気付いてないフリする方がタチ悪いだろ。それに鈍感過ぎるのも第三者視点から見て腹が立つし、だったら女の子からの好意に敏感で関係をどんどん推し進めた方がいいだろって思う。

 

 

「こうして打ち込めることができたこと、自分を魅せる場が作れるようになったこと。どれも先生のおかげですの。だから――――これからも隣で見届けて欲しいですの、私の姿を」

 

 

 そういった告白をしない流れかと思っていたが、どうやら自分から動くと意を決したようだ。

 元々は何をやるにも本気になれず、だったら金稼ぎをするという学生にしては堅実過ぎるモードに突入していた夏美だが、スクールアイドルになってようやく自分が立てる舞台を見つけた。それは頓挫しそうになった動画投稿主としての名上げにも利用でき、本気で熱く打ち込めるものとして自分の中に刻み込まれた。スクールアイドルになってまだ1年にもなっていないのに、ここまでの出来事は既に大きな思い出となっているだろう。

 

 そんな彼女の過去を考えると、これまで手を引かれてスクールアイドルをやってきたからこそ今度は自分から動いて未来を掴む、という意気込みを汲み取るのは想像するに余りある。

 

 

「そして、先生から『好き』と言わせてやりますの!」

「言ったな。吐いた唾は吞めねぇぞ」

 

 

 そうして、夏美は未来への目標を大きく掲げた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ぽわぁ~……」

「お前、最近ずっとぼぉっとしてるよな」

「せ、先生!? いやぁ~なんか大きなイベントや年末年始が終わって、忙しいことが一気に過ぎたせいで気が抜けちゃってるっす……」

 

 

 きな子はメイや夏美とは別の意味で年末の怒涛のイベントの余韻を引きずっているようだ。

 やることが全くなくなったと言えばウソになるが、スクールアイドルとしても次の目標が定まっていないので、ゴールに向けて切磋琢磨していた忙しい日々に比べると今がゆったりし過ぎているのは分かる。他の奴らとは違ってスクールアイドルに乗せた想いや治したいコンプレックスがあるわけでもなく、ただ自分を変えたい一心でLiellaに加入したコイツからしてみれば、この何もない時間が空虚に感じられるのだろう。

 

 

「夏美とまでは言わないけどさ、もっと自分が残した功績に自信を持っていいんだぞ」

「それはそうですけど、自分が変われたのかなと自問して、多分変われたと自答すると、だったらOKなんて思っちゃって。なんすかね、この気持ち」

「思った以上に変わることができて驚いてるんじゃねぇの。その驚きに唖然として、みんなみたいにテンションは高くなれないと」

「そうかもしれないっすね」

 

 

 地方から出てきた垢抜けない少女。運動もできないし、リズム感があるわけでもなく歌も上手いわけではない。それでもかのんたち先輩のライブに感動して、自分も先輩たちのように変わることができたらと夢見ていた。

 その結果は大成功。未だにステージに上がる前は緊張するらしいけど、それでも立派なスクールアイドルとして覚醒している。舞台の上の彼女の姿を見てそう思わない奴はいない。誰もコイツのことをスクールアイドルなんて向いてなかった天然の純朴少女だとは思わないだろう。アイドルとしての輝きもさることながら、女性としての華やかさも大きく増していた。

 

 

「実感がないわけではないっす。だから思うんです。同級生のみんな、先輩たち、それになにより、先生と出会えたことが一番良かったなって。先生が隣に来てくれなかったら、きな子は今もウジウジしているだけだったっすから……」

「そうか。だったら良かったじゃん。それにかのんにも自分の気持ちを伝えて、分かってもらえたんだろ?」

「はい。その出来事も自分の殻を破れた要因の1つだと思っています。かのん先輩に思いを告げて、それをしっかり心に届けることができたので、もう引っ込み思案なだけの自分じゃないんだと自覚しました」

 

 

 変わったと言うよりかは強くなったと言った方がいいか。最初は俺やかのんに手を引かれるだけの存在だったコイツが、今や先輩のお悩み解決に貢献するくらいに成長した。精神的に強くなり、ステージでも堂々とし、そして、俺の前でも緊張しなくなった。

 

 

「それもこれも先生のおかげっす。ありがとうございます」

「ま、教師として、男として当然の役目だ」

「あはは、先生ならそう言うと思ってたっす。でもきな子は、先生のその男らしくて頼りになって、厳しいけど優しくて、何よりいつも隣にいると安心させてくれるところが……」

「……」

「好き、です……」

「うん。こっちこそサンキュな、伝えてくれて」

「いえ、これこそきな子が前へ進む、次の目標ですから」

 

 

 これまでは俺に好意を伝えることすら羞恥心に負けてできなかったのに、今は普通に言えるようになったのはやはり精神力の成長のおかげか。内心では今にも感情が爆発しそうになっているかもしれないが、それでも口に出して伝えられたことは彼女にとって大きな前進だろう。

 

 

「でもこれで終わりじゃないっす。言葉だけでは何とでも言えるので、次は行動で――――あっ、そ、そうっすね、あはは……」

「途中で羞恥心に負けんなよ……。ま、とりあえずはこの関係でいいんじゃねぇか。まだ1回優勝しただけ、つまりもっとお前の勇姿を見られるってことだし、これからに期待だ」

「えぇっ!? また優勝ってハードルが高すぎるっす! だけど、先生に色々貰ったお礼に今度はきな子が先生にたくさんプレゼントしたいっす! だから…・・・頑張ります!」

 

 

 そうして、きな子はまた新たな一歩を踏み出した。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 Liellaのみんなの想いを聞いた。ちょっと前までは恋愛沙汰になると途端に雑魚と化していたのに、いつの間にか見違えるくらいに成長しやがった。これも『ラブライブ!』優勝で自信が付いたからに違ない。全員が大会で優勝したら俺に想いを告げると心に決めてたし、そう考えるとその覚悟からして決勝戦以前から精神面では大きく成長していたのだろう。こうした成長に嬉しさを覚えるのは、教師よりも親って気分だなこれ。

 

 校舎の周りを歩きながら思い出していた。アイツらとの出会いとここまでの軌跡を。

 自分の教師人生として初めての教え子ということもあり、ここまでの信頼と愛情の関係を築けたことに自分の柄に合わないながらも感動している。別に狙ってアイツらを手に入れようなんて思っておらず、こういった結びつきになったのは副産物としての側面が強いが、それでもここまでの絆で繋がることができて浮立つ思いだ。

 

 そういった意味では、俺の夢をアイツらに叶えてもらったことになる。

 俺は女の子が輝く姿を見たい。文字に起こすとたったそれだけだが、本当はそこまで単純なものじゃない。自分と相手の絆を深め、自分が相手を、相手が自分を理解して、お互いのいいところも醜いところも、表も裏も何もかも知って、それでも信頼し合える関係になった子の晴れ姿が見たいんだ。ただ女の子ってだけでは夢は叶わない。だって知らない子の晴れ姿を見たところで、その子の魅力を完全に理解したとは言えないからな。その点、絆を深めた子の舞台には感動がたくさん詰まっている。

 

 

 そう感傷に浸っていると、屋上の方からこちらを呼ぶ声が聞こえてきた。

 見上げてみると、Liellaの面々が屋上の練習場からこちらを見下ろして手を振っていた。

 

 

「もうすぐで練習ですよーーーっ!!」

 

 

 かのんの声。いい声してるだけによく通るな。

 他にもみんなが口々に俺を呼ぶ。次第に『そんなとこでサボるな』だとか『早く来い』など心にもない内容も聞こえてきたが、ま、今の俺は何事にも寛容になれるくらい心が透き通ってるから勘弁してやろう。

 

 

「あぁ、今行く!」

 

 

 そして、俺は校舎に向かう。

 一旦は1つの区切り。でもこれからアイツらは俺にまた新しい夢を見せてくれるだろう。だったらこっちもそれに応えるまで。

 

 

 星たちの夢は、まだ終わらない。

 




 これにてLiella編の第二章は完結となります!
 最初から読んでくださった方も、途中から読んでくださった方もありがとうございます!

 第二章も第一章の時と同じく純愛ベースで物語を描いてきました。ただ流石に何もしないと前回と被ってしまうので、ウィーン・マルガレーテや七草七海と投入してテコ入れしつつも主軸は変わらずに最終回まで持っていけたかと思います。
 虹ヶ先編とは違ってキャラ1人1人の過去やコンプレックスに焦点を当てたので、そういった意味でも執筆しながらに新鮮だと感じました。そうやってキャラを深堀すればするほどその子のことを好きになるのは、もはや小説あるあるですね(笑)

 スーパースター2期のアニメは途中も結末も色々と難アリ展開でしたが、一応自分の中ではいい感じに終わらせられたつもりです。これでかのんがやっぱり留学するとかだったらどうしようとか思ったりしてますが……

 これで一旦は第二章完結ですが、公式で既にアニメ3期が決まっているのでそちらにも期待したいところです。つまりこの小説でもLiellaにまた会えるってことですね(笑)

 それではこれにて後書きも終了とさせていただき、Liella編の第二章は終幕となります。皆様ここまでありがとうございました!
今回やこの章を通して、ご感想をいただけると嬉しいです!


 次回の投稿はいつも通りの時間でちょうど年明け、1月1日(月)の0時を予定しており、新章突入となります。
 そちらも是非読みに来てくださるとうれしいです!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

蓮ノ空編
リターン・オブ・ザ・高校生!?


 今回から新章『蓮ノ空』編の開幕となります!
 新キャラ、新設定、新ストーリー、そしていつもの主人公でいつも通りにお楽しみください!


 設定はリンクラのストーリーをベースにしていますが、他の章と同じく99.9%オリジナル展開です。
 私自身の蓮ノ空のストーリー理解度については、アプリのストーリーは最新の12月分まで全て、漫画の方が最新の2話まで全て読破済みです。

 今回の章の時系列は蓮ノ空スクールアイドルが全員揃った後とざっくり決めていますが、具体的にどこら辺なのかは今後話が進む過程で決める予定です。



 あまり良い寝心地ではない。

 俺の部屋のベッドや枕は自分用にチューニングされた寝心地最高の逸品であり、毎日の忙しい教師生活の疲れを癒してくれる。休日だと妹に起こされるまで永遠と寝ていられる心地良さがあり、余程のことがない限り勝手に目覚めるなんてことはない。

 

 しかし、今はそんな心地良いなど皆無だ。まだ目は明けてないが意識は覚醒しており、この不規則で小刻みな揺れは目覚めを促すばかりか寝起きのすっきりとした気分すら害してくる。まるで舗装されていない山道を車で走っているかのような不快な揺れだ。それに何だか身体に違和感がある。体感だけどいつもより身体が軽いような気がした。

 

 そこで目を開ける。まず見えたのは座椅子。この形状、材質は見覚えがある。それに加え圧迫感のある閉鎖空間に地を駆けるこの音は、自分が今どこにいるのかを容易に想像させてきた。さっきは半ば冗談のつもりで例えたが、まさか本当に車の中だったとは思わなかった。

 聞こえる音は走行音。俺は車の後部座席で目覚めたようだ。

 

 でも、おかしい。

 俺は昨晩自室のベッドで寝たはずだ。なのに何故か車内にいる。もしかして誘拐とか犯罪に巻き込まれたのかと思ったが、運転手の顔を視認した瞬間にその疑いはすぐに晴れた。まぁ下手をしたら犯罪者なんかよりよっぽど世界の癌のような奴だが……。

 

 

「あっ、零君。起きた? おはよ」

 

 

 運転手は俺の姉である神崎秋葉。運転席からミラー越しに俺の起床を確認したのか、さもこの状況がいつもの朝がってくらいに気楽に挨拶してくる。

 俺はその顔を見た瞬間に犯罪的なものに巻き込まれていない安心感を抱くが、それ以上にまた変なことが起きそうだと警戒心を抱いた。

 

 座席に横になっていたからか体勢が悪く身体がやや痛いので、この状況について問い詰めるためにもとりあえず身体を起こした。

 そして、ふと窓の外を見てみると、建物すら何も見えないひたすら木々が立ち並ぶ山道をどんどん進んでいることに気が付く。またしてもさっき冗談で言った山道の例えが現実となっていたので思わず唖然としてしまった。

 

 

「えっ、ここどこ……?」

「山の中だよ」

「なんでそんなとこいるんだよ……。今度は何をしようとしてんだ?」

「まあまあ、あとで順を追って話すよ。私だってあなたをこっそりベッドから車に運んで、そして長い間ここまで運転してきて疲れてるからね」

「知るかよ……。今回は何だよもう……」

 

 

 コイツには今まで散々な目に遭わされてきたから、今俺の中で危険信号が激しく点滅している。犬にされたり赤ちゃんにされたり、女の子たちに惚れ薬を入れたり酔わせたり、影響が大きいところでは学園を設立して女の子たちを俺や自分の都合のいいように教育したり、人の行動力を見極めたいって理由で人命救出させるために建物に火を放ったりと、もはややりたい放題だ。

 

 そして今回は勝手に車に乗せられて山の中だ。こんなの警戒せずにいられるかっての。

 

 そんな衝撃展開の中でもまだ眠気が完全に収まっていなかったのか、あくびが出そうになる。そのため口を手で塞ごうとしたとき、自分の手のひらを見て更なる衝撃事実が発覚する。

 

 

「えっ、手が……小さい??」

 

 

 明らかに自分の手が小さくなっている。

 右手も左手も、なんなら頭も脚も身長も、何もかもが一回りどころか二回り以上小さくなっており、明らかに子供の体型となっていた。

 

 

「おい、なんだよこれ!?」

「あぁそれ? これからやってもらいたいことがあるんだけど、それは大人の姿じゃダメだからねぇ。それにほら、相応しい恰好もしてるでしょ?」

「ん? えっ、これ、制服!?」

「そ。高校生、久しぶりでしょ♪」

 

 

 臙脂(えんじ)色のジャケットとスラックスパンツ。襟や袖のラインに金色の2本線。両腰に黒いベルト状の装飾あり、割と高級感を漂わせるデザイン。音ノ木坂の頃と比べると、あの貧乏学校なんかより格段に制服の質がいい。

 

 って、今はそんなことはどうでもよく。コイツさっきなんつった? 高校生? 俺が??

 

 

「高校生ってなんだよ!? 後で話すじゃなくて今教えろ!」

「ちょっとよろしくないことがあってね、その調査のために零君には今から行く高校に生徒として編入してもらうの」

「はぁ!? 訳わかんねぇんだけど!?」

「あっ、もうすぐ着くよ。校舎見えてきた」

「ったく、なんだよもう……」

 

 

 また変な薬でも盛られたか。いつも通りっちゃいつも通りだけど、これに慣れてる俺も俺だよな……。

 

 窓から外を見てみると、確かに校舎が見えていた。建物はかなり古風であるが古臭くはなさそう。むしろ新設されたかってくらいに立派で綺麗だ。

 完全に閉鎖された山中だと思っていたが、校舎回りは意外と自然豊かで見通しが良く蓮の花の咲く湖も見えるので景色は悪くない。まあ学校以外に施設が何もないから山中の牢獄っぽさは否めないが……。

 

 車が校舎裏の駐車場に到着する。

 降りてみると、自分の背丈について更なる疑問が浮かんできた。

 

 

「おい、俺って設定上は高校生なんだよな……?」

「そうだよ?」

「にしては背が低すぎないか? 仮に高校1年生だとしても男だったらもっと伸びてるだろ」

「だって10歳くらいの背丈にする薬を飲ませたんだもん、そりゃそれくらいの背になるよ」

「なんで小学生!?」

「だってそっちの方が――――」

「この背丈じゃないとできないことなのか? この学校に呼んだのもそれが理由?」

「可愛いじゃん♪」

「はぁ!?!?」

 

 

 この小学生身長に何か理由があるのかと思ったら、まさかコイツの趣味かよ。いやコイツは自分の都合を優先させるので全然不思議ではないが、さっきはそこそこ真面目にやって欲しいことがあるとか言ってたのにも関わらずこれだからな、もうやってられっかよ……。

 

 

「一応この春に中学生になったばかりって設定で、ここには飛び級で編入したってことで話を通してるから。ちなみに大学クラスの勉強なら余裕でパスできる有能ってことにもしてあるから、その賢いお(つむ)を思う存分に発揮してくれていいよ。できる子設定にしないと怪しまれるからね」

 

 

 そういった外堀を埋めるところだけはしっかりしてんだよなコイツ。そうやって逃げ場すらも埋められることで、否が応でも厄介事に従わせられているのだが……。

 

 秋葉はトランクに積んでいた荷物を取り出すと、その中からスクールバッグを俺に渡す。どうやら筆記用具や教科書などの準備も完璧らしい。

 そして理事長やら教員たちに挨拶に行くことになったため、秋葉の後ろをついて歩く。

 

 

「おい、そろそろ教えろよ。俺をこの姿にしてここに連れてきた訳を」

「そうだね。歩きながら話そうか」

 

 

 どうせ逃げられないんだったら面倒事を手早く解決して帰るだけだ。抵抗するだけ時間の無駄ってことくらいコイツと20年以上一緒にいるから分かり切っている。こういうところあっさり妥協してしまうあたり俺も調教されてるのかもな……。

 

 

「やってもらいたいことは、スクールアイドル病の治療だよ」

「スクール、アイドル病?」

「私が見つけて名付けたんだけど、文字通りスクールアイドルの子が発症する病気のこと。発症とは言っても、他の誰かは愚か自分でさえ病気になっていることなんて気付かないけどね」

「見つけた経緯とか気になるけど、これからやることだけ簡潔に教えろ」

「さっすが話が分かるぅ~」

「そういうのいいから……」

 

 

 なんか意図的に話を先延ばしにされてねぇかこれ?? そもそもコイツがまともに事情を話したことなんて過去に全然なかったし、これから話される内容が事の全容とは俺自身も思っていない。察しろと思われてるのかもしれないが、いくら姉弟であっても無理があるネタばかりなんだよないつも……。

 

 

「1つ注意点としては、自分がその姿になっていることは誰にもバレてはいけない。この学校の生徒や教師にはもちろん、あなたの親しい人たちにもみんなね」

「またそれかよ……。別にバレたところで何かあるわけでもねぇだろ」

「バレたら熱を帯びて溶けるから、全身が」

「へ?」

「そういう薬の効能にしてるの。ただ若返るだけなんて、メリットしかなかったら面白くないじゃん。強い力にはそれと等しい代償が伴う、昔からの格言だね♪」

「ただのお前の趣味じゃねぇか!? つうかいつもいつも命かけてねぇか俺!?」

「失敗に罰がないなんて生温いよ。私が見たいのはね、零君が颯爽と問題を解決するカッコいい姿なんだから♪」

「お前なぁ……」

 

 

 もう25年以上全く変わってねぇコイツ。

 ただこんなに性格が捻くれてしまったのは理由があり、あまりにも天才過ぎてあらゆる万物の事象が容易に理解できてしまうことにある。それ故に研究者のくせに物事の観測をつまらないものと感じてしまっている。

 しかし、コイツが唯一興味を惹かれる対象が弟の俺だ。どうやら俺の成すことは奇想天外であるとして、それを観測することを生きがいとしている。だからこうして無理難題を押し付けるだけでなく、退路を断つ手段として身に降りかかるような背水の陣を用意してくるのだ。あまりにも迷惑過ぎる……。

 

 背の低い子の姿で無理矢理この学校に編入させられると知った時から既にやる気が最底辺となっていたが、さっきのコイツの言葉でそれが地すらも突き抜けた。

 やることを終えたら絶対すぐ帰ってやるからな。なんなら今日帰るくらいの勢いでもいい。面倒事はとっとと終わらせるに限る。

 

 そうやって意気消沈しながら歩いていると、後ろから女の子の声が聞こえてきた。

 

 

「あっ、あれってもしかして転校生の子!?」

「えっ、ちょっと! もうすぐ授業が始まっちゃいますよ!」

 

 

 振り向いてみると、やたらと明るい表情でこちらに駆け寄ってくる、淡いオレンジ色のボブヘアーで両側頭部を青いウサギの髪留めで小さく結んでいる子。そして、困り顔でその子の後を追いかける、青髪のお下げを水色のリボンで留めている子。2人の女の子が俺たちのところへやって来た。

 

 

「わぁ~!! 転校生さんって本当に男の子だったんだね――――さやかちゃん!」

「はい、まさか男性がこの学校に来るなんて驚きです――――花帆さん」

 

 

 なんかすげぇ物珍しそうな目で見てきやがるなコイツら。別に転校生が来るイベントなんて珍しくもなんともないだろ。それに妙に『男』ってところを強調された気がするが、一体なんなんだよ……。

 

 

「キミたち、見るからにこの学校の生徒さん?」

「はいっ! 日野下花帆です!」

「村野さやかです。えぇっと、あなたは……?」

「今日からここの保険医になる神崎秋葉。編入になるこの子の姉です。よろしくね」

「新しい保険の先生も来るんだ! よろしくお願いします!」

「ははっ、元気いいね」

 

 

 えっ、保険の先生になるって寝耳に水なんだけど?? いやそんなことを言ったら今起きてる全ての事柄がそうだから、もはや耳に水が溜まりまくって難聴になるくらいだ。

 

 そんなこんなで初めてこの学校の生徒にエンカウントした。日野下花帆に村野さやか。どちらも顔がめちゃくちゃに良く、ビジュアルも最高だ。それこそスクールアイドルができそうなくらいには。

 そんなことを考えていると、再び話題は俺へと向けられる。

 

 

「そういえば、転校生は中学1年生から飛び級での編入と聞きました。まさかこの方がその?」

「そうだよん。私の自慢の弟の神崎零、みんな仲良くしてあげてね♪」

「ぶぅうううううっ!!」

「ひゃぁっ!? ど、どうしましたか……?」

「おいちょっとこっち来い!」

「ん? どうしたどうした?」

 

 

 秋葉の爆弾発言に思わず吐き掛けそうになった。驚きを隠せない村野と何故かさっきから目を輝かせてる日野下を放置し、俺は秋葉の手首を掴んで少し離れたところに引っ張った。

 

 

「おいどういうつもりだ!」

「なんか不備あった?」

「あるに決まってんだろ! 正体を隠してこの学校に入るってのにどうして本名を言うんだよ!」

 

 

 当たり前の話だ。正体を知られたら身体が溶けるなんて脅してきた矢先にあっさり本当の名前を出しやがって、意味が分からない。コイツのやること成すことに意味なんて求めてたら答えを理解する前にこっちの人生が干からびるくらいだが、さっきの行動はマジで訳分かんねぇ……。

 

 

「それは私が好きだからだよ、神崎零って名前がね。音の響きもそうだし、『神』って神々しい言葉もそうだし、『崎』は先端って意味があるから常に誰よりも前にいるあなたにピッタリ。何より『零』っていう物事の始まりを告げる、セロからの始まりの言葉が一番好きだね」

「あん……? それだけ……って、俺の名前の由来初めて知ったんだけど」

「だって名付け親は私だもん」

「なにその今回の事態に全く関係のない事実……」

「そういうことだから、私が気に食わないから偽名はナシ」

「マジ……?」

 

 

 まさかの名付け親だったが、そんなことは今どうでもいい。

 俺の名前は一般に知れ渡ってはいないものの、スクールアイドルでまことしやかに囁かれているスクールアイドルキラーとして裏界隈で名が流れているらしい。今回の問題解決のためにスクールアイドルを相手にすると考えると迂闊に名を出してはいけない人物が俺なのだが、この低身長といいまたしても秋葉にワガママを通されてしまった。

 

 ニコニコして明らかに楽しんでいる悪魔が一匹。

 一刻も早くここからの帰りたさで尻込む俺だが、秋葉に手を繋がれて日野下と村野のところへ戻る。姉に手を引かれるって滅茶苦茶ガキっぽくて恥ずかしいんだけど……。

 

 

「ゴメンね~。この子、新しい学校に来て緊張してるみたいで」

「んなわけあるか」

「大丈夫だよ! ショッピングモールがなくてスイーツの食べ歩きができないのは残念だけど、他に楽しいところがいっぱいあるから!」

「ショッピングモールぅ?」

「それはいいですから! とにかく、男性が1人だけだと色々不便だと思うので、困ったことがあれば是非わたしたちを頼ってください」

「えっ、ちょっと待て。男が1人って、ここ共学じゃねぇのかよ!?」

「あれ、言ってなかったっけ?」

「初耳だ! 女子高なんて言ってなかっただろ!」

 

 

 もうこの数十分だけで何回大きな声を出させれば気が済むんだよ。こんな状況だからこそ意外な展開が多いのは分かるが、何1つ俺を安心させる要素がないってのも狙っているとしか思えない。

 女子高に男1人ってシチュエーション自体は慣れており、浦の星に教育実習、虹ヶ先にコーチに行き、結ヶ丘では教師と、女性に囲まれる環境に対して長年の経験がある。でも生徒として女子高で生活するとなると話は別。大人だから余裕のあるデカい顔ができていたのに、周りと対等な立場として放り込まれるどう振舞っていいのか迷ってしまう。音ノ木坂も同年代で女子ばかりに囲まれた生活だったが、そこは共学で性別比率も1:1だったから環境的には特に居心地の悪さはなかった。

 

 しかし、今回は正真正銘の男1人。しかもLiellaの3期生の卒業を見送って、社会人としても教師としても一端(いっぱし)になってきた矢先に高校生に逆戻り。こうして戸惑うのも分かってもらえるだろう。

 

 

「えっ、女子高とは知らずに転入してきたの!?」

「そりゃまぁ……」

 

 

 日野下も村野も驚くが、そりゃ普通に考えれば知らないはずないもんな。体を小さくされて車の中に押し込められ、訳も分からない間にこの学校に連れてこられたとか創作物のストーリーかよって話だ。

 

 

「ふっふっふっ、だったら紹介してあげるよ。創立100年を越え、古くから引き継がれた伝統が今も息づく、自然に囲まれ芸術分野に秀でた有名な学校。それがここ――――蓮ノ空女学院! どう? 凄いでしょ!」

「どうして花帆さんが得意気なんですか……」

「第一印象、周りに何もなくて山の中の牢獄って感じだ」

「そう! 放課後にショッピングモールでスイーツの食べ歩きをしたり服を見て回ったりしたかったのに、こんな学校のせいであたしの花咲く生活が粉々だよ~!」

「自慢をするのか文句を言うのかどちらかにしてください……」

 

 

 思考が1か0に偏ってんな日野下って奴。その極端な考え方、髪の色からしても穂乃果(アイツ)千歌(アイツ)を思い出す。オレンジ髪ってこんな蛍光灯みたいな奴しかいねぇのかよ。比較的おとなしい同じオレンジ族のかのん(アイツ)も、実家ではやさぐれモードを発揮して気分のオンオフが激しいからな……。

 

 

「あっ、花帆さん、そろそろ授業ですから教室に戻りましょう」

「うぅ、もうちょっとお話したかったのに……」

「お話し好きなのは知っていますが、今回は結構拘ってませんか……?」

「えっ、そうかな?」

「なんにせよ、これから話す機会はたくさんあると思うので大丈夫ですよ。ほら、早く行きましょう」

「う~、仕方ない。じゃあね零くん! また教室で!」

「失礼します」

 

 

 いきなり名前って、馴れ馴れしい奴だな。でも笑顔は明るくて元気いっぱい、なにより俺が好きな表情だった。暴走気味ではあったが一瞬話しただけで彼女の溌剌な魅力は十分に感じられた。

 村野はさっきのやり取りを見ている限り、お世話好きっぽい。形式張った喋り方をしているので性格は硬そうだが、日野下とは別ベクトルの美少女であり、どちらかと言えば顔立ちがくっきりして美人寄りに近い。

 どちらも容姿レベルも人当たりも抜群に良く、男でも気さくに話しかけてくれたので、もし俺が女子慣れしてなかったら一瞬で惚れていただろう。それくらい彼女たちの印象は俺の中で良かった。

 

 女子高に男が入るとなって邪険にされるのか危惧していたが、アイツらの様子を見ると割とフレンドリーに受け入れてくれるようだ。俺が転入してくること、そして話す機会が多いと言っていたことから同じクラスになる可能性が高いので、一応男1人で浮かずには済みそうだ。

 

 

 日野下と村野が立ち去ったので、再び秋葉を前にして歩きながらさっきの話に戻る。

 

 

「もう横槍はねぇぞ。そろそろ話せ、俺をここに連れてきた理由。スクールアイドル病、だっけ?」

「そう。症状は、スクールアイドルの子の身体のどこかに傷が付くの。その傷は痛みを伴わず、身体の不調を本人に一切知らせずに陰でどんどん傷口を広げていく。その進行は止まることがなくて、やがてその子の身体は……。つまりそういうこと」

「なんだよ、それ……」

 

 

 どういう原理の病気か全く分からないが、俺だって女の子からの愛情を受け取り過ぎて身体が爆発寸前な爆弾みたいな現象に陥ったし、世の中には理解のできない症状ってのがあるのだろう。

 てかスクールアイドルにだけ起こる病気ってまたピンポイントな……。

 

 

「その病気を唯一治療できるのが零君、あなた」

「俺? どうして俺が……」

「そういう人間なんだよ。特別なの」

「仮に俺が治せるとして、どうすればいいんだ?」

「あなたの指が傷に触れるだけでいい。それで傷跡は塞がるはず」

「原理は全くだが、割と簡単そうだな」

「問題なのは、女の子の身体のどこに傷があるか分からないってこと。少なくとも服を着ている状態でも見える場所、手の甲とかそういうところにはない。あるとしたら、例えば胸とかお尻とか――」

「おい、まさか……」

「下腹部の下、女の子の大切な場所……とかね」

 

 

 ただ女の子の身体に触れるだけかと思っていたら、デリケートな局部に傷がある可能性があるのかよ……。

 あくまで可能性の話で、背中や腹など普段は服に隠れている部分にあるかもしれないが、どちらにせよ治療するためにはその子の服を引っぺがすしかない。面識のある子であれば俺の性格から裸も受け入れてくれるだろうが、この学校の生徒は全員が初対面、脱がすという行為まで漕ぎ着けるのは難関だろう。

 

 しかし、色々と手立ては考えついている。それが実行できるかはコイツに聞いてみないと不明だが――――

 

 

「質問」

「どうぞ」

「そのスクールアイドルの子に病気のことを知らせるのは?」

「病気の特性上、本人に知られた瞬間に傷が瞬く間に広がってお陀仏」

「傷の場所にもよるけど、本人か他の誰かが気づくんじゃねぇの?」

「あなたにしか見えない。これに関しては私も例外じゃない」

「この学校のスクールアイドルって誰なんだ?」

「さぁ? 私も来たばかりだから。それも含めて今回の調査ね」

 

 

 なんか、俺の不利な方向ばかりに偏るな……。

 俺にしか見えないのであれば、もう俺がその子の服を脱がすしかない。禁忌の方法として盗撮して傷口を確認するという手もあるが、結局それを俺が触れなければ話にならない上に、流石に常識に欠けるのでボツ。

 となると正攻法で攻める必要があるのだが、頼み込んで裸を見せてくれるくらいの関係になる必要があるってことか……? そんなことできんの? 転校生が??

 

 初手から手詰まり臭を感じていると、秋葉が小瓶を2つ渡してきた。透明感のある赤と青の小瓶で、どちらも中にはカプセルがたくさん入っていた。

 

 

「それ、持っておいて。青のカプセルを飲めば元の姿に戻れる。逆に赤いのは今のその姿になれるから、臨機応変に使い分けて」

「えっ、そんな簡単に戻れるのかよ」

「だって何日ここにいるか分からないでしょ? だったら向こうに置いてきた女の子たちとたまには連絡を取り合わないといけないし、その姿でビデオ通話をするわけにもいかないよね?」

「何日もって、そんなにここに居させるのかよ!?」

「だって女の子の裸を見るのに1日や2日で終わるわけないでしょ、誰が病気にかかってるのかもまだ分かってないのに。旅行気分じゃなくて、これはれっきとした編入。しっかりと高校生活を送ってもらわなくちゃ。あっ、ここって女子寮しかないんだけど、特別に部屋を用意してもらってるから安心してね」

「えぇ……」

 

 

 今回の問題の解決はそう簡単ではないとさっき自分でも感じたばかりだが、まさか寮生活をするくらいまで長期間拘束されるとは思ってなかった。本当に高校生活をもう一度やらせる気かよ……。

 確かにそうなれば、俺の行方不明を心配させないために知り合いの人たちに無事を伝える必要がある。そのための元に戻る薬ってことか。この学校の関係者には小さい姿のまま正体がバレないように、それ以外では小さくなっていることが知られないように。

 

 いやまぁ、面倒だねぇ……。

 

 

「大丈夫、みんなへのフォローはもう既にしてあるから」

「心を読むな……」

「大好きな弟くんのことだから、それくらいのことは簡単に分かるよ」

「大好きなんだったら、勝手に薬を盛って地方の学校に幽閉なんてすんなよな」

「言ったでしょ、私は難題をカッコよく解決するあなたが見たいの。それに、私はいつだって零君の味方だよ♪」

 

 

 屈託のない笑顔を向ける秋葉。コイツの笑顔ほど怪しく見えるものはないが、ここに至る手段はどうであれスクールアイドルを救おうという正義はあるみたいだ。まあ一番の目的は俺の活躍を見ることなので、今回の問題はそのダシにされただけだろうが。

 

 前を歩いていた秋葉が身体ごとこちらに振り向く。

 その笑みの意図は自分の愉悦が高まっていることを表しているのか、それとも俺の新たな生活を送り出す母親的な気持ちなのか。

 

 

「どれだけ癇癪(かんしゃく)を起こしても、もうあなたは逃げられない。やり遂げるしかないんだよ、誰にもバレてはいけない――――秘密の学校生活(シークレット・スクールライフ)を」

 

 

 唐突に始まった俺の二度目の青春。

 かつてなかった環境とシチュエーションに、もはやどうなるのか未来など想像できなかった。

 




 そんなわけで新章が開幕しましたが、今までにない設定でのスタートで驚かれた方もいらっしゃると思います。

 これはLiellaの3期生の卒業を見送った後という時系列上、そしてラブライブ無印から時の経過が地続きな都合上、零君の年齢が女子高生である花帆たちと大きく離れてしまい、恋愛するには不自然な歳の差になってしまったことが1つ目。
 そして、大人の男性と女子高生たちとの恋愛というシチュエーション自体がLiella編と被ってしまうことが2つ目で、女性キャラが目上の男性と関係を持つという観点であればAqours編から続いていることになります。


 そのため、蓮ノ空では主人公と女の子たちが敢えて同等の立場になるように設定を考えた結果、今回の物語となりました。

 設定もキャラも大きく一新されたとは言え、この小説のコンセプトでもある『キャラを魅力的に描いて伝える』スタンスはいつも通りなので、皆さんもいつも通り彼と蓮ノ空のキャラとの絡みを見届けていただければと思います!

 次回の投稿はスタートダッシュってことで1月3日(水) 0時に投稿予定です。
 ちなみにメインキャラは次話で全員出ます!




 以下、アンケートにお答えいただきたいです。
 (もし蓮ノ空について知らない人が多い場合、キャラとか舞台設定の詳細な説明が必要のため)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小さくなった主人公

 零君の身長ですが、瑠璃乃よりちょい低いくらいです。
 生徒会長と同じくらいだと思っていただければと。




 突如として二度目の高校生活を送ることになった。

 しかもただ学校に通えばいいわけではなく、スクールアイドル病なる問題を解決する必要がある。そのためにこうして背の縮む薬を盛られて中学1年生程度の身体になりつつ、ここ蓮ノ空女学院に潜入することになった。

 

 理事長や自分の所属クラスの担任の先生に挨拶をし、先ほどクラスメイトの前でも自己紹介をしたのだが――――

 

 

「疲れた……」

「あのぉ……大丈夫ですか?」

「零くん、すっごく人気者だったね。みんなに揉みくちゃにされそうだったもん」

「いやあれはもうされていたような……」

 

 

 疲労で机に突っ伏す俺を心配してか、さっき知り合ってクラスメイトでもある村野さやかと日野下花帆がやって来た。

 

 まず、教室に入った瞬間の黄色い声が半端なかった。俺の顔を見た瞬間にほぼ全員の目が輝いており、転校イベントのお手本かのような質問攻め、部活勧誘、自己紹介でアピール等々、女の子たちに取り囲まれて危うく圧死しそうだった。自分の背が高校1年生の女子の平均身長より低いせいで、囲まれるとより相手の威圧感が増す。

 

 ただ名門のお嬢様学校なだけあってか、生徒たちの容姿レベルは抜群に高い。女子ばかりとは言っても化粧や香水の匂いがキツイなんてことは一切なく、むしろ鼻腔をくすぐって男を(いざな)うかのような甘い香りがするため、囲まれること自体は迷惑ではなかった。

 せめて抱き着かれまくって揉みくちゃになってなければ余計な疲労もなかったし、男の性が反応することもなかっただろう。背が縮んで中学男子相応に戻ったせいか、どうも思春期の頃の薄汚い欲求も甦りつつあるようだ。女子のフェロモンに対しては長年晒されて慣れているはずなのに、今はやたらと反応しそうになってんだよな……。

 

 

「でもみんなが盛り上がっちゃう気持ち、あたしは分かるなぁ~。だって零くん、超美少年だもん! ね、さやかちゃん」

「えっ、わたしに振るんですか!? それはまぁ、そうですけど……」

 

 

 やっぱり女子高の生徒って男に飢えてんのか? 浦の星でも虹ヶ先でも結ヶ丘でもそうだったけど、どの学校の生徒も漏れなく俺に色目を使ってきた。それは年上のお兄さんポジションの男が来たからだと思っていたのだが、身体が小さくなったこの姿であっても黄色い声を浴びせられるから、容姿が整っていれば年上でも年下でもあまり関係はないらしい。

 

 特にここは浦の星と同じく地方の学校だが、基本は学校敷地内での生活となるせいで出会いなんてものは存在しない。そんな中で美少年がやってきたら、そりゃ女の子たちのテンションが上がってしまうのも無理ないだろう。それでもあの迫り具合は男に飢えてると言っても過言ではなかったけど……。

 

 そうやって揉みくちゃにされている中で会話に割り込んできたのがコイツらだ。俺に学校案内をするって名目で見事に場を仕切って事態の鎮静化を図った。

 意外と影響力あるんだなコイツら。表立って喋ってた奴がもう1人いた気がするけど、これがクラスカーストの上位ってやつか。

 

 とりあえず、俺の目的としてまずこの学校のスクールアイドルを探す必要がある。学校でアイドルをやってるなんて嫌でも注目されるので、校内で名が通っていないことはないはず。コイツらに聞いてみるか。

 

 

「なぁ日野下、聞きたいことが――」

「花帆でいいよ!」

「日野下」

「か~ほ♪」

「日野下」

「むぅ……」

 

 

 どうして不貞腐れる……。

 いるんだよな、こういう距離感バグってる奴。本来ならウザいだけだが、こういった積極的な奴ほど人生って成功するもんだ。それにしても女子高にいきなり転入してきた男に対して無防備過ぎる気もするけど。日野下が元々こういった性格なのか、それとも別の想いがあるのか……。

 

 

「気にしないでください、花帆さんはいつもこんな感じなので。気付いたら隣にいるどころか密着してくるくらいですから」

「だろうな。初対面の時から薄々感じてた」

「そうやってさやかちゃんとも仲良くなったんだよね。入学式の日にこの学校に向かう途中のバスで、既に友情が芽生えちゃったんだから!」

「いやいや、勝手に捏造しないでください! あの時はウザ絡みされ過ぎてかなり参ってましたよわたし!」

「それでも今は一緒にいるから、仲いいんだな」

「零くんとももう友情を育んでるから、さやかちゃんと同じくらい仲良くなったよ!」

 

 

 なにこのコミュ強。むしろ誰にでも無自覚にそういうことを言って勘違いさせるタイプだから、そういった意味ではコミュ弱なのかもしれない。同性相手に言うのであればまだしも、同じ年代の思春期男子が日野下の明るい笑顔でその言葉をかけられた暁には即惚れだろうな。俺はこれまで幾多の女子高生を相手にしてきたから慣れてるけど、それでもちょっと心が揺れ動くくらいには強烈な攻撃だった。

 

 

「そういえば神崎さん、さっき何か言いかけていませんでしたか?」

「あぁそうだ、この学校のスクールアイドルって誰なのか知ってるか?」

「「…………」」

「え、なに? 変なこと言ったか?」

 

 

 きょとんとした表情で俺を見つめる日野下と村野。

まさか知らない? 自分の学校にスクールアイドルがいるのであれば知らないってことはないだろうけど……。

 

 それなりの静寂が流れた後、いきなり日野下が両手を掴んできた。目が俺と出会った時と同じくらいに輝いている。

 

 

「もしかしてファン!? あたしたちのファン!? ファンだよさやかちゃん!」

「いやそうと決まったわけでは……」

「待て。あたしたちってことは、まさかお前らが?」

「そうだよ! 蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブとは、あたしたちのことだ!」

「どうして自慢気なんですか……」

 

 

 それなりの生徒数がいる学校なのに、まさか初対面で出会ったコイツらがスクールアイドルで、しかもクラスメイトだなんて中々の確立を引いたものだ。確かにコイツらの容姿の良さは他の生徒よりも群を抜いている。他の生徒のレベルも高いが、やはりスクールアイドルをやれる奴ってのは天は二物を与えられたかってくらい顔面偏差値とスタイルはいいらしい。俺が出会ってきたスクールアイドル全員そうだからもはや疑いようもない。

 

 

「実はね、このクラスにもう1人スクールアイドルの子がいるんだよ」

「さっき日直の仕事で日誌を職員室に返しに行ったので、そろそろ戻ってくるかと――あっ、そんなことを言ってたら来ましたね」

「おーいっ、瑠璃乃(るりの)ちゃーんっ!」

 

 

 日野下が教室に入って来た少女に手を振る。

 瑠璃乃と呼ばれた子がこっちにやって来た。日野下や村野と比べると小柄であるが見た目は派手だ。サファイアの瞳をしており、髪の量が多く、金髪で手前に短いツインテール、奥に長いツインテール。それを蓮の花の飾りで留めており、毛先に水色のメッシュが入っている。見た目は結構活発そうな子だ。

 

 

「なになに? 花帆ちゃんたち、もう転校生クンと仲良くなったの?」

「もう完璧にお友達だよ! みんなに取り囲まれて潰されそうになってた窮地を一緒に脱出して、危機を乗り越えたことで友情を育んだんだから!」

「おおっ、ルリがいない間に小説一巻分くらい関係が進展してる……!!」

「そんなわけないです! 今日の花帆さん、やたらテンションが高くないですか……?」

 

 

 村野が呆れながらツッコミを入れる。3人になっても苦労人ポジションは変わらずのようだ。

 

 

「瑠璃乃ちゃん、零くんはあたしたちのファンなんだって!」

「えぇっ!? まさかこんな美少年がルリたちの!?」

「んなこと一言も言ってねぇ。で? お前もコイツらと一緒のグループ、なんだよな?」

「うんっ! 大沢瑠璃乃、よろしくおなしゃーすっ!」

 

 

 笑顔でこちらにピースサインを突き出す大沢。初手の挨拶にしてはやたら言葉が砕けてたな。まさかこの小柄にしてギャルだったりする??

 

 

「それで、花帆ちゃんとさやかちゃんは神崎クンのお守り?」

「なんで介護されてるみたいになってんだ……」

「だってさっきの自己紹介の時、みんなの目がギラギラしていて今にも食べられそうだったじゃん」

「そういえば瑠璃乃さんは日誌を返しに行ってたので、その後のことは知らないんですね。あの後はわたしと花帆さんで皆さんを止めて、その流れで先生から神崎さんへの学校案内を任せられたんです」

「なるほど。なんかアニメやゲームでよくある転校イベントみたいだね」

「なのでお昼休みや放課後のまとまった時間に校内を案内したいのですが、神崎さんはそれでいいですか?」

「あぁ、よろしく頼むよ」

 

 

 こうしてスクールアイドルの子たちからこっちに来てくれたのは探す手間が省けたので助かる。特段自分がコミュ障とは思ってないが、転校初日にいきなり女子高でスクールアイドルを探す男って普通に怪しいもんな……。

 ただスクールアイドルと惹かれ合うのは小さくなっても体質として残っているらしい。これまでも望んでないのに勝手にスクールアイドルの子たちと邂逅してたのだが、この特殊能力が発揮されて初めて助かったかもしれない。

 

 そんなわけで二度目の青春で人生初となる転校イベントを経験した。もはや字面だけ見ると二度目だったり初めてだったり訳分かんなくなりそうだが、本当に大変なのはここからだ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 昼休み。日野下、村野、大沢に連れられて食堂で飯を食った。

 その間にこの学校のことを色々教えてくれたのだが、日野下が文句を言っていた通りプライベート的な自由はかなり縛られた場所であることが分かった。

 ここに来た時から何度か言及したが、学校以外に施設が全くない。山の中なので当然放課後や休みに自由にどこかへ出かけることもできず、しかも出かけようと思えば週に1回のスクールバスに乗るか、数本ある路線バスに乗るしかない。しかも勝手に外に出るのはNGで、学校へ外出申請を出したうえで許可を得る必要があるらしい。

 

 ただ、そうやって縛りがあるのも相応の理由がある。この学校は芸術分野に秀でた学校であり、音楽や美術はもちろん、体育会系の部活も一定以上の成績を安定して残すくらいには技術が高い。また学業面の成績も良く、偏差値も全国でそれなりに高い模様。つまりその縛りは世俗に塗れず、自然豊かな地で純粋に芸術面や学業面の力を伸ばしてもらいたい意図があるのだろう。

 

 しかし、これだと第一印象で牢獄っぽさを感じてしまうのも無理ねぇわな。創立100年を迎えたとか言ってたし、割と老害な考え方は残っていそうだ。

 ま、郷に入っては郷に従え。自分を変に縛り付ける奴やルールが来るまではおとなしくしてるさ。

 

 さて、学校の事情も知ったのでそろそろ本題に入らせてもらうか。

 その前に、ここから早く立ち去らないと……。

 

 

「零くん、何だかそわそわしてない?」

「飯食ってる間も話しかけられるし、遠目からも注目されてるしで落ち着かないんだよ」

「女子高なのに男の子がいるってなったらそりゃそうっしょ。しかも神崎クン美形だから余計に気になるんだよ、しゃーなし!」

「それならば早めに校内案内を始めましょうか。ここだと話しかけられ過ぎて、時間がいくらあっても足りなくなりそうですから」

 

 

 授業の合間の休憩時間もそうだけど、飯の最中も結構話しかけられて、しかもほぼ全員の目がきらきらしていたのでやはり圧が強かった。もちろん誰も取って食おうなんて思ってないのだろうが、こんな閉鎖空間の敷地に押し込められて相当異性が恋しかったのかやけに積極的な子が多い。ま、思春期だから当然か。

 

 食堂から出たことで注目も収まった。

 ここでやっと聞きたいことが聞ける。

 

「そういや、スクールアイドルってお前らだけなのか?」

「いいえ。他に先輩方が3人、合計6人のクラブです」

「6人か……」

「零くん、朝もそうだったけどずっとスクールアイドルのことを聞いてくるよね? やっぱりあたちたちのファン!?」

「ファンだったら6人いるって知ってんだから、わざわざ人数なんて聞かねぇだろ」

「あぁ、確かに!」

 

 

 コイツ、もしかして歴代オレンジ髪と一緒でおバカさんなところがあったりする……? どうして笑顔が明るくて元気いっぱいな性格の奴ってみんな頭のネジどこか抜けてんだろうな……。

 

 

「今めぐちゃんたちに聞いてみたら、部室でお昼ごはん食べてるって。梢先輩と綴理先輩もいるってさ」

「全員揃ってるんだったら先に部室へ行こうよ! 零くんのこと紹介したいもん!」

「いや別に今じゃなくてもいいけど」

「でも今グループチャットの方でメッセージがあって、先輩方も神崎さんのことを一目見たいようです」

「一目見たいって、俺は珍獣かよ……」

「あはは……。スクールアイドルに興味があるみたいですから、行ってみますか?」

 

 

 その言い方だと俺がスクールアイドルをやるみたいじゃねぇか。まあ中学生のこの顔立ちであればイケメン女子に見えなくもないので、騙せばスクールアイドルとして振舞えるかもしれないけども。

 そんなことはさて置き、早々にクラブ全員の顔を拝める時が来た。部員は6人なので先代のグループより大所帯でないのは助かる。人数が多ければ多いほどスクールアイドル病にかかってる奴が誰なのか、探す手間も増えるからな。

 

 

「よ~しっ、じゃあ行こっか!」

「な゛っ!?」

 

 

 日野下が俺と手を繋いできた。あまりにも突拍子過ぎて、そして自然な行動に女性慣れしてない男の情けない声が出てしまった。本来ならこんな無様な声は出さないのに……。

 俺が驚いている理由が分からないのか日野下は首を傾げて不思議そうな顔をしているも、すぐに元に戻って俺を引っ張って部室へと駆け出した。そんな俺たちの後を追いながら、村野と大沢は俺と同じく目を丸くしていた。

 

 

「ねぇさやかちゃん。花帆ちゃん、なんか今日いつもよりテンション高くない?」

「わたしもそう思ってました。一体なにがあったんでしょう……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「こんにちはーっ!」

 

 

 日野下が部室と思われるドアを勢いよく開ける。校則違反かってくらいの速度で走りながら引きずり回されたせいで、無駄に体力を消費して若干息が切れてしまった。

 少し遅れて村野と大沢もやって来た。2人もいきなり全速力になったためか若干疲れた表情を見せている。

 

 そして、部室には先輩と思われる3人がこちらに注目していた。

 

 

「いらっしゃい。もしかしてその子が……?」

「おぉ~、本当に男の子だ」

「しかもすっごい美少年! 学校中が沸き立っていた理由が分かるかも……」

 

 

 眉目秀麗でお淑やかな子が1人、おっとりしていて独特な雰囲気の子が1人、可愛いを体現したアイドル調な子が1人。今しがた飯を食べ終わった頃のようで、弁当箱を片付けている最中だったようだ。

 この3人が日野下たちの先輩で、同じスクールアイドルの子か。やはり第一印象はどの子も顔がいい。毎回同じことしか言ってないような気もするが、同じ印象を抱いてるんだから仕方がない。アマチュアだが仮にもアイドルを関する部活動、その部員が可愛くて当然か。

 

 俺は日野下に引っ張られてその先輩たちの前に突き出されてしまう。

 そして肩に手置かれると、俺のことをペラペラと喋り始めた。

 

 てか、さっきからボディタッチ多くねコイツ……?

 

 

「この子が転校生の神崎零くんです! まさかまさかの女子高なのに男の子! とっても惹かれる見た目で、朝の自己紹介の時やさっき食堂に行った時はそれはもうみんなに大人気だったんですよ!」

「なんだよその他己紹介は……」

 

 

 何故か俺のことなのに自慢気に話す日野下。学校やスクールアイドルのことを教えてくれた時もそうだけど、やたら誇張してきやがるな……。

 

 

「初めまして。(わたくし)乙宗(おとむね) (こずえ)と申します。中学入学早々に飛び級で高校編入だなんて色々と大変でしょうから、是非私たちを頼ってね」

「次は……ボクか。夕霧(ゆうぎり) 綴理(つづり)だよ~。よろしく」

「ハロめぐー! ってことで、スクールアイドルクラブのエース、藤島(ふじしま) (めぐみ)だよ! このクラブに来たからには心の髄まで『めぐ党』にしちゃうから、これからよろしくね!」

 

 

 最後謎な単語が聞こえた気がするが、意味不明でツッコミすら入れられないから気にしないでおこう。

 

 なんつうか、日野下たち以上に個性的なメンツが揃っている。乙宗は品行方正でお堅い喋り方をしていて典型的な箱庭お嬢様感があるし、夕霧は一人称を聞く限りボクっ子で不思議な雰囲気を醸し出してるし、藤島はザ・アイドルって感じの可愛い風貌だけどお調子者っぽい。どうしてどのスクールアイドルも手がかかりそうな奴らばかり集まってるかねぇ……。

 

 そして、コイツら6人がこの学校のスクールアイドルか。

 この中に秋葉が言うスクールアイドル病を患っている奴がいるんだよな。パッと見では体調が悪そうな奴はいないようだが、本人すらも自覚できない程って言ってたし、やっぱり俺自身が直接裸を見て確かめる必要があるってことか。初対面から始まる展開でその目標って難易度たけぇなオイ……。

 

 

「本当に中学生なんだよね……? ボク好みのお人形にして部屋に飾りたいくらいだ」

「えっ、そんな猟奇的なことすんのか……?」

「綴理先輩は表現がちょっと、いえ結構独特なので気にしないでください! 今のもお人形のようにカッコよくて可愛いいって意味で、決して血生臭い意味はないです!」

「うん、さやの言う通り」

「翻訳しねぇと伝わらねぇのかよ……」

 

 

 雰囲気も異質であれば言葉選びも異質な奴だ。てっきり意識を失わせて人形状態にさせられると思ってたから身構えてしまった。てかこうやって通訳係にされているあたり、また村野の苦労人っぷりを知って同情するよ。

 

 

「それで、どうしてキミはスクールアイドルに興味を? まさか――――私のファン!?」

「だからちげぇって! 何回言わせんだ!」

「めぐちゃん、どうやらその話題は神崎クンにとって地雷みたい」

「地雷って、そっちが勝手に爆弾を作ったようなもんだけどな……」

 

 

 山の中でスクールアイドルをやっていると直接ファンと交流することも少なくなるから、こうして直にファンっぽい奴を見ると舞い上がってしまうのだろうか。ライブも今や簡単に配信で見られるが故の弊害ってやつか。

 

 

「とにかく、ファンでもないしお前に興味があるわけでもないから勘違いすんな」

「ちょっとちょっと、先輩に対して口の利き方がなってないなぁキミぃ」

「自分が本気で尊敬できる人にしか敬語は使えない体質なんだ、生まれながら」

「それは可哀想にねぇ!」

 

 

 藤島は横腹に手を当てながらぷりぷりと怒る。ガキ相手に本気で怒っているわけではないだろうが、確かに年下にこんな態度を取られたら気に食わないのは分かる。俺だって同じことをされたら同じことを思うだろうし。

 スクールアイドル病の調査をするためにコイツらと仲良くなるのは最優先事項ではある。だけど自分を偽ってまで他人に敬意を払おうとは思わない。さっきも言ったけど敬うのは自分が本当にお世話になった人だけ。教師の立場としてなら生徒の親に敬語を使うが、それ以外では例え仕事上の上司でも尊敬に値しなければ扱いは自分と対等と見做している。

 

 

「それに、そんな失礼な態度を取ったらド真面目の鬼である梢が怒鳴り散らかしてくるよ」

「あなた、私をなんだと思っているのかしら……」

「だって花帆ちゃんが『梢センパイは体力と練習と正しさの鬼』だっていつも言ってるもん」

「め、慈センパイ! 流石にそこまでは言ってません!」

「2人共、放課後少し残ってくれるかしら」

「「ひっ!?」」

 

 

 乙宗の笑顔が黒い。格式ばった話し方からして多少圧を感じられるので、コイツらが琴線を触発させて説教されるのがいつものパターンになってるに違いない。こうも長年女子高生を相手にしてきていると、1人1人がその集団内でどのようなポジションなのか一瞬で見抜けるんだよな。まさかその特技がこんな形で活かされるなんて思わなかったけど。

 

 

「転校初日だから別に怒ったりはしないのだけれど、言いたいことはいくつかあるわ」

「ん?」

「口調が威圧的で、人を見下していそうな態度が気になるわ。それに制服のボタンが開けっぱなしでシャツが丸見え、明らかに着崩しすぎよ。この学校の制服が着苦しいのは分かるけれど、初日なのだからもう少しこっちの規則に馴染んで――」

「えぇ~っ、でもカッコよくないですかこれ! イケイケ男子って感じであたしは好きですよ!」

「「「「「えっ?」」」」」

「へ?」

 

 

 日野下の告白にみんなが驚き、その声で本人も驚く。

 

 

「花帆ちゃんて、もしかして不良系好き……?」

「神崎さんの顔を見た時も同じことを言ってましたし、意外と面食い……?」

「あ、あれぇ~? 変な方向に勘違いされてる?? 一般女子として普通の感覚だよこれは!」

「じゃあここにいる5人は一般ではなく異常ということなのね……」

「ボクも異常?」

「綴理は元から普通じゃないけどね……」

 

 

 なんだよこの空気。女子トークでよくある好みの男性のタイプの違いで争うってやつか?

 好みは人それぞれだから口に出しては言わないけど、今回に至っては他の奴らの方が正常だと思うぞ? 乙宗が言ったように初対面でいきなり口調が砕けて制服も着崩してる男なんて、それだけで不良かと警戒されてもおかしくない。

 まあこんな異常な奴を好きになった女の子たちが過去にたくさんいたわけだが、全員が全員初対面で俺への印象がプラスだったわけでもねぇしな。コイツらとの関係も徐々に進展させていけばいいだろう。

 

 

「話が横道に逸れてしまったのだけれど、神崎君、どうしてこのクラブに?」

 

 

 ただ、そのためにはスクールアイドルと共に行動する必要がある。

 

 

「手伝わせて欲しい。ここのスクールアイドル活動を」

 

 

 あまりにいきなりの提案だったのか、全員が呆気に取られる。

 とにもかくにもコイツらと一緒にいなければ病気の調査もままならない。だからこうやって――――

 

 

「もしかして零くん、スクールアイドルになりたいの!?」

「れい、美形だから女の子としてもやっていけるよ。応援する」

「性別を偽ってアイドルをするとか、ラノベ展開みたいでかっけーっ!」

「不良系男子だけど性別詐称でスクールアイドル。凄いキャラの子が入って来たね……」

 

「だから! んなわけねぇって言ってるだろ! ったく……」

 

「なんだか、すみません……」

「後でしっかり言いつけておくから気にしないでね……」

 

 

 せっかく意気込んだのに急にこのクラブに入りたくなくなってきたんだけど、いいかな……??

 




 そういえば女の子たちとの出会いから描いたストーリー展開はAqours編以来なので、零君への好感度が割と普通、または低い状態から始まるのは久しぶりだったりします。Aqours編ももう何年も前なので、もはや初めての感覚に陥っちゃいますね(笑)

 それにしても瑠璃乃の芝居がかった喋り方や綴理の不思議ちゃん系の喋り方は文字の起こすのが難しい! これに関しては本家の会話構成担当様を尊敬してしまいます。


 前回のアンケートで蓮ノ空のことを全然知らない寄りの方が多かったので、なるべくキャラ紹介や学校設定などの説明を多めに織り交ぜつつ、この作品のキャラの魅力をお伝えできればと思っています!


 次回の投稿はいつも通りの時間に戻りまして、1月8日(月)0時となります。
 それ以降もいつも通りの投稿頻度になる予定です。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

能ある鷹でも爪を隠せない

 閑話休題。

 勘違いなのかノリでからかってるのかは知らないが、俺をスクールアイドルに仕立て上げようとしていた奴らは漏れなく乙宗に圧をかけられて黙り込んだ。この部活の力関係が一瞬で分かる図で、こういった一面を見せてくれると新入りの俺も誰をどういう風に扱えばいいのか把握できてむしろ助かる。

 

 そんな感じで余計なネタが織り交ざりつつもようやく本題。

 俺がこの部活の手伝いをしたいと言った件。さっきのスクールアイドルになる云々の話を抜きにしても驚かれる話題で、手伝いたいと進言してきたのが女ならまだしも男だったからなおさら怪訝な顔になるだろう。

 

 だからと言って怪しい奴とか迷惑な奴とは思われてないようだ。その点、この中学1年生の幼い見た目で良かったと思っている。大人が言い出すと警戒されるけど子供ならまだ勢いで言っちゃったのかなレベルで済まされるからな。

 

 乙宗は困った顔をして俺に質問をしてきた。

 

 

「えぇっと、特に部員は募集していないのだけれど……」

「別に部員じゃなくてもサポートするだけでいい。練習メニューの組み立てやダンスや歌の指導ぐらい、これまで何度もやってきてる。だから活動改善くらいはできるはずだ」

「何度もって、スクールアイドルを指導していた経験があるんですか?」

「あぁ、ちょっとな」

 

 

 村野の疑問は最もだ。そりゃ中学生に上がったばかりの男子がスクールアイドルを指導してたって信じられねぇもんな。ただ昔はスクールアイドルって青春時代を焚きつける情熱として高校生がやるものだったのだが、今は学生であれば小学生でもやれるし、公式の許可が得られれば大学生でもワンチャンやれるコンテンツとなっている。そのため小学生の頃に同年代の子の指導をしていたと言えば俺のこの姿でもおかしくないが、それでもそんな奴がいきなり自分の部活に乗り込んで来たら驚くのは当然だろう。

 

 

「練習メニューをまとめたやつってあるか? それを添削してやる。改善後のメニューが納得のいくものだったら俺の実力を認める、まずそれでどうだ?」

「『まず』ということは、それだけで自分を認めさせようとはしていないのね。てっきりそれで押し通るものかと思っていたけれど」

「お前らが納得してないのに仲間になっても異物が混入するだけだろ。だからまずは俺の作業を見てもらうだけでいい」

「分かったわ。いいかしら? 慈、さやかさん」

「ま、部長が決めたんだったら仕方ないか」

「わたしは構いません」

 

 

 そんな感じで実力試しをすることになった。

 スクールアイドル病を調査するには現地のスクールアイドルたちに取り入ることが先決。大人の姿であれば顧問やコーチと称して簡単に潜り込めるのだが、子供の姿だと部員やサポートとして潜入する以外に方法はない。だから認めさせる必要がある。俺がこの部活にいても何ら問題ないことを。

 

 練習ノートを乙宗から受け取った。同時に藤島と村野からも練習メニューが記録されたタブレットを受け取ったのだが――――

 

 

「どうして3つもあるんだ? お前ら同じグループじゃねぇのか?」

「私たちはユニットで活動してるの。私とるりちゃんで『みらくらぱーく!』、梢と花帆ちゃんで『スリーズブーケ』、綴理とさやかちゃんで『DOLLCHESTRA(ドルケストラ)』、2人で1ユニットの合計3ユニット。たまに6人でステージに上がることもあるけどね」

「なるほど。でも、その『DOLLCHESTRA』はどうして夕霧じゃなくて村野が練習メニュー管理してんだよ? 先輩の仕事だろ普通」

「さやせんぱ~い」

「ちょっ、おちょくらないでください!」

「大体分かった気がする……」

 

 

 夕霧が不思議ちゃん系でこういった管理仕事には向いてないから、後輩だけど堅物で几帳面そうな村野が指揮を執ってるわけね。年下の方がしっかりしてるなんて珍しいことではないけど、ここまでユニットの実権を握られてると先輩の威厳に関わる気がする。夕霧にそんな危機感は全くなさそうだからいいのかもしれないけどさ。

 

 そんなユニット事情を垣間見ながらも、早速各練習メニューの添削に取り掛かる。

 どのユニットも結成されてまだ半年くらいとはいえ、長年スクールアイドルをやってきた実績のある部活だからか練習メニュー自体は結構練られていた。だがこっちはそれ以上にスクールアイドルを指導してきた歴戦の猛者だ、改善点なんていくらでも挙げられる。ただ着眼点が広すぎて、作った練習メニューを見せてきた虹ヶ先のマネージャーである高咲侑の精神を滅多打ちにしてしまったこともあった。アイツ曰く『お兄さんは妥協がなく厳しい』とのことだ。

 

 乙宗のノートには付箋で、藤島と村野のタブレットにはデバイス用のペンでメモ書きする。

 そんな中、その様子を背後から覗き込んでいる日野下と大沢が驚嘆の声を上げた。

 

 

「零くんすごーいっ! 3つ同時に見て添削してる!」

「人間とは思えねー動き! 神崎クンって実はロボット? AI? あっ、もしかしてギフテッドってやつ!?」

「あたしなんてもう零くんに勉強教わってるもんね」

「今日の英語の小テストも満点で、ルリたちもビックリしたけどセンセーも驚いてて面白かったよ」

 

 

 うるせぇな後ろ。てか俺ってこの設定では中学に入学したてくらいの年齢だぞ? そんな奴に勉強で負けてて悔しくないのか現役高校生。日野下なんて早速宿題で分からないところを聞きに来る始末だし、プライドってものがないのかねぇ。

 

 日野下たちから漏れる賞賛を聞いて気になったのか、夕霧や藤島もこちらに来て、結局みんなでテーブルを取り囲むことになった。

 

 

「れいの動きが早すぎて、ボクの目には残像しか映らないや」

「それは俺が早いんじゃなくてお前がスローなだけだろ……」

「それにしても神崎、アンタっていつどこのグループの指導してたわけ? ただ一緒にいたってだけだと、そんな的確に添削なんてできないと思うけど」

「ま、μ's時代からやってるからな。あの頃は黎明期でスクールアイドルの練習メニューってのも自分の中でテンプレ化してなかったから、割と苦労はしてたよ。それでも1年くらいアイツらと一緒にいて人となりが分かると、コイツはどういう練習をさせたらいいのかって自然と分かってくる。そこからはメニューの組み立ても楽になった記憶がある――――って、あっ!」

「「「「「「…………」」」」」」

 

 

 ヤバい、やっちまった。昔を思い出してたら懐かしくなっちまって思わずペラペラと口に出してた……。

 6人全員ポカーンとしながらこちらを見つめている。そりゃそうだ、明らかに中学1年生のガキとは思えない経験談を話してるんだから。

 

 

「μ'sって、確か梢センパイが話していた伝説のスクールアイドルのこと……だよね?」

「でもμ'sが主に活動していたのは10年前のはずよ。6年前に一度スクフェスで臨時的に復帰したけれど」

「ん? 10年前だったら、神崎クンってまだ3歳くらい? えっ、その頃からスクールアイドルに関わってんの!?」

「ていうか、あの伝説のμ'sを指導してたってこと!? そんな小さい頃から!?」

「やっぱり、さっき瑠璃乃さんが言ってたみたいにギフテッドってことですか……?」

「れい、もしかして本当に天才?」

 

 

 全員の疑惑の目が俺に集中する。

 やべぇ、このままだと正体がバレかねない。正体が明るみに出るとこのカラダが溶けてなくなってしまう(秋葉談)らしいので、なんとしても誤魔化す必要がある。

 

 

「小さい頃からとあるスクールアイドルと関わりがあって、ソイツらの練習を見てたらメニューを組み立てられるようになっただけだよ。μ's時代のスクールアイドルってだけで、μ's本人じゃない」

 

 

 言い訳にしては苦しいけどこれ以外に思いつかなかった。下手に考え込んだらそれだけで怪しまれるし、これで納得してくれればいいが……。

 

 

「零くん……」

「日野下……」

「それ――――もうスクールアイドルとしてもセンパイだよ! あたしたちの!」

「へ?」

「あたしだったらそんなに細かく練習メニューなんて組めないもん。これからは零センパイって呼んじゃおっかなぁ~♪」

 

 

 変な勘違いをしてくれて助かったと言うべきか。でもどこかズレてる日野下の意見だし、他の奴らはどうかと思って横目で見てみたが、さっきみたいな怪しい気な奴を見る視線ってのはなくなっていた。やはり迷わず堂々とウソをついたのが功を奏したか。それでもコイツらを完璧に信用させるためには俺の実力を認めさせることが一番だ。

 

 粗方メモを書き終えてノートを乙宗に、タブレットを藤島と村野に返却する。

 最初は指摘コメントの数に目を丸くしていたが、その内容を確認すると納得の表情になった。

 

 

「悔しいけどよく考えられてる。普通に参考にできるくらいにね」

「そうですね。まだわたしたちの練習を一切見ていないのに、ここまで指摘ができるのは過去の経験の賜物でしょうか」

「お前らが作った練習メニューから、それぞれがどんなスタンスで練習をしていて、誰にどんな長所があり、どんな課題があるかはなんとなく分かる。改善点ってほど言えるほどの質のいいコメントじゃねぇけど、参考くらいにはなるだろ」

「ありがとう、神崎君。今後の練習方針の良い資料になりそうで助かったわ」

 

 

 とりあえず、これで一定の信頼を得ることはできたようだ。じゃあこれで裸にひん剥いて傷を探せると言ったら全然まだだけど、最初の一歩としては良い方だろう。

 

 

「それじゃあこれで零くんはあたしたちの仲間入りだね!」

「まだ練習メニューを見ただけだぞ。それだけでいいのかよ」

「あたしは別に最初から賛成だったよ! 零くんが入ってくれるだけでも嬉しいもん!」

「そ、そうか……」

 

「さやかちゃん、花帆ちゃんってやっぱり……」

「ずっと神崎さんの側にいるので、もしかすると……」

 

 

 今日ずっとやたらと距離が近い日野下。もしかして俺に気があるのかと思ってしまうが、こんなガキショタ姿の男に一目惚れとかありえんのか? 今まで幾多の恋愛を乗り越えてきた俺だが、こんな姿になって女子高生と接する機会はなかったため、相手が俺に対してどんな恋愛的印象を抱いているのか把握しづらい。これはおねショタ系の性癖も勉強しておくべきなのか……?

 

 

「もうお昼休憩も終わりだからそろそろ決めないとね。どうするの梢? 神崎の入部」

「あなたはどうなの、慈」

「私は……ナマイキだけど実力はあるから、有りか無しかで言えば……有り寄り。あくまで『寄り』だから」

「素直じゃないわねあなたも……。綴理はどうかしら?」

「ボクもオッケーだよ。れい、喋ってると面白いから」

「面白いって、大した会話してねぇだろ……」

「ボクの直感が囁いてる。れいはおもしれー男なんだって」

「綴理先輩は表現が独特なので気になさらないでください! 気に障ったのであればわたしから謝ります!」

「親かお前……」

 

 

 夕霧の相手をするのは大変そうだな……。それでもこの部にいるってことはそれなりの実力はあるのだろう。練習メニューを見てみても、ダンスができる前提の練習が組まれているからそれがよく分かる。

 そんなこんなで先輩たちの許可が得られた。藤島はかなり不本意っぽいが、俺への当てつけのようにも聞こえるから無視していいだろう。まぁ、最初の印象が悪かったから素直になりたくない気持ちは分かるよ。そのせいで呼び捨てにされちゃってるしな。

 

 

「ルリも全然、ばっちこいばっちぐー! 神崎クンって本音を隠さず話してくれるから、ルリも喋りやすくて大助かり!」

「本音ばかり喋るって、むしろ嫌われる典型だと思うけど?」

「普通はそうだけど、空気を読み過ぎちゃうルリからしたら余計なことを考えさせてくれない分労力が減るつーか、そんな感じ! さやかちゃんは?」

「はい、わたしも構いません。部にとっても有益になるのは間違いないので。あっ、別に損得勘定で神崎さんを図ってるわけではなくて、入部させる理由として相応しい評価をですね……!!」

「大丈夫、分かってるよ」

 

 

 1年生たちからの評価は最初から結構高い。やっぱ午前中に会話して俺という人物を多少なりとも理解していたおかげか。

 それでも飛び級編入ができる設定があるとは言え、あまりやり過ぎた言動は慎んだ方がいいかもな。その時その時には誤魔化せても、疑いが積もればいつかひょんなことから正体がバレる可能性がある。特にさっきみたいに昔話の振りがあったら気を付けたい。最悪能ある鷹であっても爪を隠せなくてもいいが、タイムパラドックスを怪しまれる言動だけは避けないとな。

 

 

「みんなから承認を貰っておいてアレだけど、もう部員扱いでいいのか? やって欲しいことがあれば大体できるけど」

「そうね、しばらく仮入部という形でどうかしら? ここまで来たら各ユニットの練習も見てもらう方向にしたいのだけれど」

「あぁ、だったらそうするよ。だけど今日の放課後は部屋の整理とかあるから、明日以降でもいいか?」

「えぇ、よろしくね」

 

 

 紆余曲折あったが無事に仮入部という形でこの学校のスクールアイドルに取り入ることができた。

 でもスクールアイドル病の調査はこれからが本番、今はまだスタート地点に立ったに過ぎない。さて、どうやってコイツらの傷の在りかを探るべきか。全然検討もできねぇけど大丈夫か……?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 時が経って放課後。

 秋葉と共に居住場所となる女子寮へとやって来た。話によると特別に俺のための部屋を作ってくれたようで、今そこに向かっている最中だ。どうやら生活に必要なものは既に運び込んでくれているらしい。やっぱりこういう身の回りの配慮だけはいつもしっかりしてんだよなコイツ。俺に対しては事前予告なしで薬を盛るくせに……。

 

 寮内の部屋に入ってみると内装は高級ホテルかと思うくらいの大部屋だった。ベッドはもちろん家電は一通り揃っており、本来部屋の外に出ないと使用できない洗濯機まで存在する。しかもドラム式の高そうなやつで、もはやホテルのクオリティを軽く超えていた。

 風呂も1人用にしては広く、この背丈であれば足を延ばして伸び伸びくつろげる。テレビもソファもビッグサイズで人を呼んでパーティすることだって可能。リビングとベッドルームは別、バルコニーまであるなど至れり付くせりだ。

 

 秋葉も内装は初めて見たようで、自分が住むわけでもないのに目を輝かせてソファにダイブした。

 

 

「すっご! ふかふかぁ~♪」

「部屋の主よりも先に堪能してんじゃねぇよ。てか、話があるんじゃねぇのか?」

 

 

 俺がここに来た元凶はコイツだが、自分の正体を明かせない窮屈な生活を送っている以上、バレるバレないの気を使わなくてもいいコイツと一緒にいる時間は気が休まる。やや毛色は異なるがストックホルム症候群と似たようなものかもしれない。誘拐や監禁などにより拘束下にある被害者が加害者と時間や場所を共有することによって、加害者に好意や共感、更には信頼や結束の感情まで抱くようになるあの現象のことだ。今の状況で頼れるのはコイツしかいねぇわけだしな。

 

 

「それで? どうだったの初日の登校は?」

「とりあえずこの学校のスクールアイドルには潜り込めたよ。それからどうするかは考えてないけど、まずはもっと交流を深めて仲良くなるのが先決だな」

「初日でそこまで行くなんて流石だねぇ。スクールアイドルは6人いるんだっけ?」

「あぁ。あの中の誰がスクールアイドル病なのか、パッと見では全然分かんねぇ。だからどうすっかなぁって話」

「そうだねぇ、誰なのか分からないねぇ」

「なんだよその思わせぶりな口ぶり」

「べっつに~。とにかく、今日は頑張った!」

 

 

 もしかしてまだ俺に開示していない情報があるんじゃねぇだろうな……。

 わざわざ俺が探さなくても、スクールアイドル病を患っている女の子を見つける発明品を自分で作ればいいのに。なんのためにその天才的な頭脳があるんだか。でもコイツは俺が人を救い出す勇姿を見たいらしいので、自分で動くことはよほどのことがない限りないだろう。

 

 

「そうだ、部屋の片付けが終わったら返信しておいた方がいいよ。来てるでしょ、向こうに置いてきた女の子たちからの連絡」

「お前が勝手に置いてきたんだろうが……。ったく、今日ずっと携帯が震えていたからそっちの対応も大変だったっつうの」

「一応事情はみんなに説明しておいたけど、それでも声が聞きたい、顔が見たいって子はいるからねぇ。元の姿に戻れる薬も活用してなんとか乗り切ってね。もう一度言うけど正体バレはダメだよ、絶対」

「他人事が過ぎる……」

 

 

 みんなのケア方法を含め俺がどう対処するのか楽しみにしてるってわけか。これも事前に事情を説明しておいてくれてありがたいなんて思ってしまうあたりコイツに毒されてんだろうな俺も。

 

 

「そういや楓にはなんつったんだ? アイツ、俺がしばらくいなくなるって知ったら発狂しそうだけど」

「そうなんだよ。暴れたから強力な鎮静剤と精神安定剤を打って黙らせた」

「マジかよ。妹なのに容赦ねぇ……」

「楓ちゃんに興味があるわけでもないしねぇ」

「ないからと言って薬ガンガン打っていいわけでもねぇけど……」

 

 

 俺たちには楓っていう妹がいるのだが、ソイツがブラコン妹を体現したような奴なんだ。だから俺が急にいなくなって荒れてるのかと思っていたのだが、実際に暴れたのでどうやら秋葉の手によって黙らされたらしい。あまりにも不憫だから後で連絡入れとくか……。

 

 

「私としては零君が順風満帆な学校生活を送れているようで安心したよ。これも女の子に好かれる体質のおかげであっさり馴染んだおかげかな」

「元凶のくせに勝手なこと言いやがって……。でも、失敗は許されないことなんだろこれ」

「うん」

「だったら最後までやり切ってやるよ。どんな経緯であれ、女の子が傷付くのは放っておけないからな」

「それ、そのカッコいい零君が見たかったんだよ。これから頑張ってね、秘密の学校生活を」

 

 

 そのウィンクした顔面、殴りそうになったけど必死に拳を抑えつけた。

 

 兎にも角にも、またスクールアイドルたちとの日常が始まる。

 しかも今回は人生二度目の高校生活。スクールアイドル病にかかっている子は誰なのか。正体を隠して問題を探る、まさに秘密の学校生活(シークレット・スクールライフ)が本格的に始動しようとしていた。

 




 プロローグ的な導入回はこれで終わり。次回からはいつも通りの日常回となります。
 いつもの日常モノとして楽しんでいただければと思いますが、その中でもスクールアイドル病を探る件や、彼が正体がバレるかバレないか駆け引きする様もついでに愉しんでもらえればと思います。

 予定ですが、次からの3話は各ユニット回となります。
 次回は多分スリーズブーケかな。



【キャラ設定集】
零から蓮ノ空キャラへの呼称(そのキャラへの印象)
・日野下花帆 → 日野下 (距離感バグり過ぎ)
・村野さやか → 村野  (堅物真面目)
・乙宗梢   → 乙宗  (堅苦しい喋り方のお嬢)
・夕霧綴理  → 夕霧  (不思議ちゃん)
・大沢瑠璃乃 → 大沢  (言葉遣い砕け過ぎ)
・藤島慈   → 藤島  (生意気な先輩)

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零くん  (?)
・村野さやか → 神崎さん (50 至って普通)
・乙宗梢   → 神崎君  (40 服着崩しや口調が不良っぽい)
・夕霧綴理  → れい   (50 おもしれー男)
・大沢瑠璃乃 → 神崎クン (50 話しやすいだけで良きかな)
・藤島慈   → 神崎   (30 生意気な後輩)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大好きな同級生、疑惑の後輩

 スリーズブーケ回。

 先日のアンケで蓮ノ空の設定を知らない方が多いとお見受けしたので、ちょくちょく設定説明を織り交ぜながら話を展開する予定です。
 他と比べてこのシリーズ特有の設定が多いため、説明がちょい長くなってしまうのはご了承ください。


 スクールアイドルの女の子にだけ発症するという謎の病気『スクールアイドル病』を調査するため、俺は蓮ノ空女学院に強制的に生徒として転入させられた。

 大人である俺が高校生として転入できたのは、秋葉によって就寝中に無理矢理クスリを投与され、その影響で身体が小学校高学年~中学1年生くらいのまだ成長期に入ってない背丈にされたからだ。しかも自分の正体がバレると副作用により身体が溶けるという罰ゲーム付き。そんな意図しないデッド・オア・アライブの学校生活を送るハメとなっていた。

 

 スクールアイドル病とはスクールアイドル子の身体のどこかに傷のようなものが入り、ある時を境に本人の自覚なしにその傷が身体全体に広がって――――その後はお察し。

 本人がその傷を視認することはできず、他の誰であろうとも確認することはできない。そして本人がその病状を知った瞬間、その傷は瞬く間に全身に広がってしまう。

 そんな中、唯一その傷を視認して尚且つ治せるのが俺らしい。どういう理屈なのか、どういう治療の原理なのかはさっぱりだけど、どうやら俺の指で触れれば傷は塞がるようだ。あまりに都合の良すぎる展開で秋葉が自ら仕込んだ自作自演なのではと疑ってしまうが、アイツもアイツでそれなりに深刻だったので恐らくヤラセではないのだろう。

 

 ちなみにその傷のある場所が厄介で、まず服を着ている状態で見える部位にはないらしい。だとしたら俺にしか視認できない都合上その本人を脱がすしか確かめるすべはなく、最悪胸部や女の子の大切なところにある……なんて可能性もある。

 

 そんな事情があるからこそ学校生活でまずやることはその本人に接触し、裸を見ても良い関係を築くことが最優先。

 実際に昨日が転入初日だったのだが、既にスクールアイドルクラブの子たちと出会い、、仮入部として手伝いのポジションに就いた。初日としては上出来の動きだろう。

 

 そんなわけで、今日は人生二度目の学校生活の2日目。

 蓮ノ空のスクールアイドルはグループよりも2人1組のユニットで活動することが多く、練習も全体より2人でやることが多いらしいので、とりあえずそっちの練習にお邪魔することになった。

 

 今日は同級生である日野下花帆と、先輩(本来俺の方が歳上だが)の乙宗梢のユニットである『スリーズブーケ』の練習を観に行く予定だ。

 予定とは言ってももう練習場である中庭には到着している。日野下が乙宗に大声で何やら嬉しそうに話しており、乙宗も困った顔をしながらその話を聞いているのでこっちには気付いてないようだ。

 

 

「零くんってば凄いんですよ!」

「あなた、昨日からずっと神崎君の話ばかりね……。しかも凄い凄いって、一体何が凄いのかしら……?」

「今日クラスメイトの子が財布を落としちゃって困ってたんですけど、その時の状況や通ってきた場所を聞いただけで財布の場所を探し当てちゃったり、英語がペラペラで帰国子女の瑠璃乃ちゃんが困るほどだったり、体育で膝を擦りむいた子の応急処置を的確にしたり、もうカッコよくてカッコよくて!」

「随分と目立っているのね、彼……」

 

 

 2人の会話が聞こえてくる。

 別に目立とうと思っていたわけではない。転入2日目にして俺を目立たせようとするイベントが発生することが悪いんだよ。昨日もう少し自分を抑えめにすると決めたばかりなのにな。

 つうか何かあるたびに日野下が俺を頼ったり期待してくるせいで、コイツ自身がクラスカーストが高いせいか必然的にこっちが目立たされてしまう。迷惑な話だよ全く。

 

 ちなみに大沢の英語力はカタカナ語レベルだったので、俺が目立つどころか誰でも勝てると思うぞ。

 

 そして、日野下はまだ俺の話を続けようとしていた。

 このまま顔を出さないと無限に俺の話をし続けて乙宗が枯れそうなので、彼女を救うためにも割って入ることにする。

 

 

「よぉ」

「あっ、零くん! やっと来た!」

「20分も遅刻よ。どこで何をやっていたの?」

「元気のない猫が校内に迷い込んでどうしたらいいのか悩んでいた女の子たちがいたから、猫を保護しがてら世話の方法を教えてた」

「なんだか、昨日から問題ばかり起きているようだけど気のせいかしら……」

 

 

 そんなの俺が知るかっての。つうか前からそうじゃなかったとしたら、まるで俺が問題を引き寄せてるみたいじゃねぇか。転入早々トラブルメーカーのレッテルを貼られるなんてゴメンだぞ。

 

 

「今日はあたしたちの練習を見てくれるんだよね! 零くんに見てもらえるなんてテンション上がっちゃうよ~♪」

「自分で言うのもアレだけど、そんな俺を信用していいのかよ」

「信用する……? 零くんって疑われるようなことしてるの?」

「いやそんなことはねぇけどさ……」

 

 

 嘘だ。正体を隠して転入してます、なんて言えねぇ。言ったら俺の身体がここで終わっちまうしな……。

 にしても、コイツはそんな俺ですら疑わない。出会った時から目を輝かせて何かと俺の周りをうろちょろしてたし、もしかして俺に気でもあるんじゃないかと逆にこっちが疑ってしまう。コイツって単純だから表も裏もウソも偽りもなさそうだしな。

 

 でも、初日からそうやって気にかけてくれたことでクラスにすぐ馴染めたのは事実。こうしてスクールアイドルクラブにも簡単に潜入できたし、コイツの存在こそすんなりと事が進んでいる最大の要因でもあるだろう。

 

 

「えぇ~っ!? やっぱりあたしがおかしいの!?」

「おかしくはないのだけれど、突然女子高にやってきた男の子をそう簡単に信用できるかと言われたらそうではないと思うから」

「乙宗の言う通りだ」

「乙宗せ・ん・ぱ・い……ね。服の着崩しも口調もそうだけど、その不良っぽさを改めて普通にしていれば多少は信用してもらえると思うわよ?」

「これが素なんでね。着飾った方が不自然になって余計に疑われる」

 

 

 日野下からは超好意的に見られているが、乙宗はまだまだ俺のことを信頼には遠い存在だと認識されていないようだ。だからこうして練習に参加させることで見極めようとしているのかもしれない。

 そりゃまぁ、女子高に来る男を信頼しろって方が難しいわな。だからこそ俺も昨日は自分の実力の一端を示したし、今日からも練習を見てやることで何かしらアドバイスをして部に貢献しようとしている。日野下みたいにいきなり好感度が高い奴なんて特殊で、やっぱり信頼ってのは積み重ねなんだなって思うよ。

 

 そんな会話をしつつ、ようやくスリーズブーケの練習が開始される。

 先輩の乙宗が後輩の日野下を指導。改善するところは指摘し、できているところは褒める飴と鞭を上手く利用しており、後輩の指導方法としてはお手本と言ってもいい。日野下も無邪気に楽しそうにしているので、この関係性すらもお手本のような先輩後輩関係で見ていて安心できる。

 

 俺は近くのベンチに腰を掛け、練習を見ながらもコイツらについてもっと調べてみることにした。

 昨日は転入初日で疲れてすぐ寝ちゃったから調べられてなかったんだよな。

 

 スマホから『スクールアイドルコネクト』、略して『スクコネ』のアプリを開く。

 スクコネはスクールアイドルのため、そしてスクールアイドルを応援する者のために作成されたアプリで、スクールアイドル本人はここから動画を上げたり配信をしたり、応援する者は動画や配信の閲覧やコメント投稿、ギフトを送ったりなど推しの支援ができる。まさにスクールアイドルってコンテンツのためだけにあるアプリだ。

 昨年度まで指導していたLiellaも使用していた影響で、俺の携帯にもインストール済みである。あまり使用したことはなかったのだが、今思えばこれを使えば昨日わざわざこの学校のスクールアイドルが誰かなんて疑問に思うこともなかったな。

 

 そのアプリでコイツらのチャンネルを見てみる。

 生配信のアーカイブが結構残っているところを見ると、リアルタイムでのファン交流は盛んに行っているようだ。動画の投稿数はそれほどだが、毎月の月末にそこそこ大きなライブを行ってファンサしているらしい。この学校が『ラブライブ!』優勝経験のある学校で名が通っているってこともあるだろうが、動画の再生数も他のグループと比較しても多い部類で人気はあるようだ。

 

 

「零くん!」

「ん? なんだよ?」

「あたしたちの練習見てくれてる? さっきから携帯いじってるけど」

「見てたよ。そんなじっと見てなくてもお前らの練習のクセは分かる。だからこっちも確認しておこうと思ってさ」

「あっ、あたしたちの動画も見てくれたんだ!」

「いやそれはまだだけど……」

「じゃあ零くんに見て欲しい動画を教えてあげるね! これと、これと――――」

「じゃあってなんだよ聞いてねぇって。てかちけぇな……」

 

 

 日野下は俺の隣に座って勝手にスマホを操作しようとしてくる。そのため肩と肩が触れ合うどころか腕や脚まで完全に密着し、男を惑わす女の子特有の甘い香りが鼻をそそってくる。

 コイツ距離感もバグってるけど、こういう無自覚なところも直した方がいいと思うぞ。幾多の女性経験がある俺だからまだ良かったものの、今の俺のポジションが普通の思春期男子だったら確実に惚れていただろう。最悪夜のネタにされてもおかしくないくらいに……。

 

 勝手に画面を操作されそうだったので日野下から携帯を離す。以前結ヶ丘で自分の素性を隠して教師をしていた頃、他のスクールアイドルの子たちから携帯へ連絡が入ったことでLiellaの面々に正体がバレてしまう事故があった。それ以来、安易に自分の携帯を相手に晒すのは避けている。

 つうか秋葉が別の携帯を持たせてくれればこんなことをしなくても良かったのに、もうちょっと配慮して欲しかったよ。設定上は大人の俺とは別人なんだからさ。

 

 

「花帆さん。特にそういった意図はないと思っているのだけれど、その、無防備に男性と密着するのは良くないことだと思うわ」

「えっ、あっ、ゴメン零くん! イヤだった……?」

「いや、んなことねぇよ。下心とかそういうの関係なく、美少女と密着したら意識くらいするだろ」

「び、美少女って! 零くんもそういうの気にするタイプだったんだ……えへへ」

「なんで笑ってんだよ……」

「いやぁ、なんだか嬉しくって♪ 女の子として見てくれてるんだなぁ~とか思っちゃったり」

 

 

 この背丈と年齢設定のせいで女の子側が俺のことをどう思っているのか地味に掴みづれぇな。大人の姿だったらありのままの自分を見てくれているので察するのは容易なんだけど……。

 一応設定では俺よりも日野下の方が年上ってことになるので、もしかしたら弟感覚、つまり姉弟の愛情の面で俺に接している可能性がある。それとも恋愛的な愛があるのか……と思ったけど、出会って2日目なのにそんなことありえるのか?

 

 単純なコイツのことだから何か裏があって俺に接近しているわけでもないだろうが、今のところは下手に恋愛方面へツッコミを入れるのはやめておくか。

 

 

「こほん。それで神崎君、(わたくし)たちの練習を見て何かアドバイスはある?」

「あるよ、いくらでも」

「それならば聞かせてもらってもいいかしら? それと花帆さん、そろそろ彼から離れなさい。そこまで接近するのは女性としてもはしたないわ」

「そ、そうですか……? 女が廃るとか言われたら……うぅ、仕方ない」

 

 

 日野下は渋々俺から離れる。

 乙宗は俺が改善案くらいたくさんあると言ったことに対して自分の練習を少々否定された気分になったのか、やや挑発気味な雰囲気を醸し出している。日野下のおいたを咎めるための圧の意味もあったのだろうか、ややプレッシャーを感じる。品行方正で精神的にもかなり出来上がっている奴だと思ってたけど、俺に変な対抗心を燃やすところとかは年相応で可愛いなと思うよ。

 

 

「日野下はまぁ、頑張って練習してもらうとして」

「それだけ!? もっと具体的なのないの!?」

「楽しいが先行してるからか動きに元気があってそれは伝わってくるけど、1つ1つの動作が大振りだったり、逆に早くなっていることがある。それは乙宗が綺麗にできているからコイツから学べばいい」

「う、うん」

 

 

 入学したての4月から個人でもライブをやりまくっているせいか、1年生にしては実力はそれなりにある。無邪気で元気いっぱいな様子は練習から既に感じられているので、あとは細かい技術を会得していくだけだ。その点、同じユニットで先輩の乙宗の技術が高いので、型に嵌った練習であれば彼女から教えてもらうことでレベルアップは容易だろう。

 

 

「乙宗は……全体的に綺麗なんだけど、お前、もしかして足首とか捻ったこととかあるか?」

「え、えぇ、花帆さんの転倒を防ぐためだけれど」

「無意識にそのトラウマを警戒しちゃってるんだろうな、右足首に重心がかからないようにしてるせいか身体の重心が僅かに傾いてる。さっきの練習を動画に撮って傾きの角度を測ってやったから、あとで携帯に送ってやるよ」

「まさか、いつの間にそんなことまで……」

「あとは日野下のことを気にし過ぎだ。コイツが危なっかしいのは分かるし練習だから指導するって意味もあるんだろうけど、自分の動きも気にしておけ」

「え、えぇ……」

「その日野下への拘り、自分が体調不良で倒れたせいで1人して申し訳なかったとか、そういう過去でもあったのか? 自分が隣に居なきゃって気持ちは分かるけど、そのためには自分もスキルアップしねぇとな」

「…………」

 

 

 乙宗は唖然とした表情をして何も言わない。自分では全く気付かなかったところを指摘されて驚いているのだろうか。それともアドバイスになってなさ過ぎて低レベルを実感してる? ただこれでも長年スクールアイドルを指導してきた経験もあるし、変なことは言ってないと思うけど。

 

 

「わりぃ、電話だ。秋葉かよ……」

 

 

 アイツから電話が来たので一旦その場を離れるが、それでも乙宗は目を丸くして俺のことを見つめたままだった。

 

 

「梢センパイ? どうかしましたか?」

「なんなの……」

「へ?」

「なんなの、あの子……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あっ、零くん。お姉さんからの電話終わった?」

「あぁ、飛ばし過ぎじゃない? ってさ」

「どういう意味?」

「さぁな」

 

 

 いや意味は分かっている。どこかで見ているのか監視カメラがあるのか、さっき日野下と乙宗に対して上から指摘しまくったのが秋葉をヒヤヒヤさせたらしい。有能を見せ付けるのはいいけど、やり過ぎには注意しろと釘を刺されてしまった。

 一応アイツも俺の正体バレのことは気にしてくれているのか。いや、そうなると俺を連れてきた自分の立場が危うくなるので保険をかけているだけなのか……。

 

 

「さっきからずっと黙ってたけど、もう落ち着いたのか?」

「えぇ、ゴメンなさい。あまりにも自分にはない着眼点で指摘されて驚いてしまって。それに、過去のことまで見抜かれるとは思ってなかったから……」

「謝る必要はない。日野下を庇ったって話からコイツを大切にしてるのは分かるし、心配をかけたくないからこそ過去の失態を気にするのも分かるよ。俺はスクールアイドルじゃないけど、似たような経験をした奴と一緒にいたことがあるからな」

「そうなのね。でも可愛い後輩のためとは言え、改善すべきことはしっかりしないとね」

「俺からすれば可愛い先輩のため、でもあるけどな」

「か、可愛いってそんな……」

 

 

 乙宗の頬が少し染まる。

 俺も思いがけず気取ったことを言ってしまったと自覚した。特にここ数年はその言葉を教師として生徒を褒める常套句として使っていたのだが、今は完全に立場が違う。同年代(実際は違うが)からいきなりそんなド直球な言葉をかけられたら、そりゃ多少は意識するだろう。しかも年下とはいえ異性からとなれば尚更だ。

 

 

「そういったお世辞も言えるのね。ただ失礼なだけの人かと思っていたわ」

「これでも人付き合いは多い方なんだ、コミュニケーション力なら持ってるよ。それに本人のためになるのなら世辞なんていくらでも言ってやる」

「それじゃあ練習のアドバイスもお手柔らかに頼もうかしら」

「んなことするかよ。改善点の出し惜しみとかアドバイスで一番意味ねぇことだろ」

「ふふっ、そうね」

 

 

 なんかちょっとだけ距離縮まってないか? 気のせいかもしれないけど、僅かながらまともに会話できるようになったような、なってないような。これまでの乙宗はどこか俺のことを警戒して言葉を選びながら会話をしてたから、こうして冗談交じりで話をするのは新鮮だったりする。

 

 そんな中で、頬を膨らませている奴がいた。

 

 

「むぅ……。どうしてそんなに仲良くなってるんですか?」

「仲良くって、ただの日常会話だと思うのだけれど……」

「零くんも、あたしのことはそうやって言ってくれなかったのに……」

「可愛いって?」

「ぐはぁ!?」

「確認しただけなのにダメージ受けんなよ……」

 

 

 つまるところ嫉妬してるってわけね。どうしてコイツが俺にそこまで執着しているのかは知らないが、やっぱり女の子って可愛いと言われたいのだろうか。虹ヶ先に『可愛い』乞食してくる奴がいたから、その言葉を素直な誉め言葉と認識しづらくなっていた。

 でも男だったら『カッコいい』と言われて悪い気はしない、むしろ嬉しさを感じる奴の方が大半だと思うので、やはりお世辞であっても誉め言葉は素直に嬉しいものだろう。

 

 

「花帆さんは可愛いわよ。特に笑顔が明るくて綺麗なところとか」

「それには同意。それだけでスクールアイドルとしても女性としても魅力がある」

「ちょっとやめてぇええええええええええええええええ!!」

 

 

 日野下は俺と乙宗の波状攻撃に顔を真っ赤にし、顔面を手で覆う。

 自分から言ってくれないとかぼやいていたのに恥ずかしがるとはこりゃいかに……。

 

 日野下が羞恥に溺れたのでしばらく休憩した。

 コイツ自身スクールアイドルのように自分を魅せることをし始めたのが人生で初めてらしいから、さっきみたいに褒められ慣れしていなかったのだろう。普段は元気いっぱいの明るい子だけど、自己肯定感は低いように感じたからその感覚を持たせることも1つの課題だな。

 

 

「大丈夫? 練習に戻れそう?」

「はい、なんとか……」

「神崎君のアドバイスを基に、少し練習メニューも見直したいわね」

「俺の言葉、信じるのか」

「あなた自身のことはまだ完全ではないけれど、アドバイスは的確だからそこだけは信用できるわ」

「前者もお世辞でいいから褒めとけよ……」

「まだ疑うところがたくさんあるのよ。その服装、口調、態度、先輩へ言葉遣い諸々。それに、あなた自身のこともね」

 

 

 距離は多少縮まったかもしれないけど、それはビジネス面での話、つまりスクールアイドルのためだからということだろう。

 俺を疑っているのは無理もなく、上っ面な理由でこのクラブに入って来たことくらい察しのいい奴にはもうバレている。真実を話さない時点で疑いをかけられるのは仕方ない。ただ俺としてはスクールアイドル病のことも話せず、正体も言えないのでどうしようもない。だからこそここからどうやってもっと距離を詰めるのか考える必要がある。

 それでも昨日今日と自分の実力を示したことで、少しは乙宗に俺のことを知ってもらえたと考えれば計画は前進だろう。

 

 

「じゃ、練習しておいてくれ」

「えっ、零くん行っちゃうの?」

「あぁ、秋葉に呼ばれてな。また戻ってくるよ」

 

 

 さっきの電話で身体を検査させて欲しいと言ってきたので保健室へ向かうことにする。

 子供の身体になってまだ間もないからか、この数日は毎日身体検査で健康な状態かを確認したいらしい。正体バレしたら溶けるという爆弾を抱えた身体なので検査してくれるのはありがたいんだけど、それお前が仕込んだことだよなと問い詰めたい欲が凄まじくある。

 

 

 そして俺が去った後、日野下と乙宗は――――

 

 

「ちょっと練習を見ただけでここまであたしたちのことが分かるなんて、零くんってやっぱり凄いですね」

「えぇ。本当に去年まで小学生かと疑ってしまうくらいに……ね」

「年齢をサバ読んでるってことですか? そんなアニメや漫画みたいなこと流石にないですよ~」

「…………それもそうね。それでは、練習を再開しましょうか」

「はいっ!」

 

 

 本日、スリーズブーケの面々と少しだけ距離が縮まった。

 でも縮まれば縮まるほど俺への疑いの濃度もより濃くなっていく。

 

 秘密の学校生活。今日からいよいよ本領が発揮されている気がしてならなかった。

 




 次回も引き続きユニットごととの日常回の予定です。



【キャラ設定集】※更新版
零から蓮ノ空キャラへの呼称(そのキャラへの印象)
・日野下花帆 → 日野下 (俺に気があるのか…?)※更新!
・村野さやか → 村野  (堅物真面目)
・乙宗梢   → 乙宗  (距離が僅かに縮まったかも)※更新!
・夕霧綴理  → 夕霧  (不思議ちゃん)
・大沢瑠璃乃 → 大沢  (言葉遣い砕け過ぎ)
・藤島慈   → 藤島  (生意気な先輩)

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零くん  (? 謎の好感度)※更新!
・村野さやか → 神崎さん (50 至って普通)
・乙宗梢   → 神崎君  (40→45 頼れるところはあるけど疑いもある)※更新!
・夕霧綴理  → れい   (50 おもしれー男)
・大沢瑠璃乃 → 神崎クン (50 話しやすいだけで良きかな)
・藤島慈   → 神崎   (30 生意気な後輩)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

不思議な同級生、面白い後輩

 転入して3日目となった。

 クラスメイトだけでなく学校中の生徒や先生が割と好意的に受け入れてくれたおかげなのか、俺も女子だらけのこの環境に早々に慣れてしまった。

 元々女子に囲まれる生活をしていたからシチュエーション自体には慣れていたけど、自分が生徒となって周りの子と同じ立場なことに僅かながら戸惑いがあった。大人と子供の関係だからこそ成り立っていたこっちの優位性というか、上から目線でも許される風潮があったから女の子ばかりの環境にも馴染みやすかったのだろう。この言い方だとただ年下にイキってる情けない奴にしか思えねぇけど……。

 

 そんな感じで3日目にして既に女子高に溶け込んでいる俺だが、また高校生活をやり直すってのはある意味で楽しく、別の意味で苦痛だ。

 楽しいって意味では可愛い女の子と合法的にコミュニケーションが取れること。この学校は偏差値が高くお嬢様学校っぽい雰囲気もあるせいか、女子生徒のレベルがかなり高い。そこらの思春期男子をこの花園に放り込んだら間違いなくその華やかさに萎縮してしまうほどであり、そういった魅力を持つ女の子たちと社会的抹殺を気にせず交流できるのはこちらしてメリットしかない。

 ただ、勉強をやり直すってのは面倒。高校の範囲なんて余裕でパスできる頭があるのに、毎日授業と言う名の拘束具で縛り上げられるのは退屈を通り越して苦痛だ。俺が現役だった頃と学習指導要領が変わってるからやってること全てが再経験ってわけでもないが、それでも所詮高校学習の域を出ない知識であるためやはり暇になる。これがしばらく続くことを想像すると頭が痛くなりそうだ。

 

 そのような楽しいことあり苦難ありの高校生活を送りつつ、今日もスクールアイドル病の撲滅のために行動する。

 本日の放課後はこの学校のスクールアイドルクラブのユニットの1つである『DOLLCHESTRA(ドルケストラ)』の練習に来ていた。スクールアイドル病の治療には病気になっている女の子の裸を見る必要がある。そのためにはスクールアイドルの子たちと仲良くなるのが先決だ。

 

 そんなわけでドルケの2人が練習している部屋に来たのだが――――

 

 

「えだまめ」

「何してんだお前ら……?」

「あっ、神崎さん!? ち、違うんですこれは! いえ違わないですけど、決して変なパフォーマンスをしているわけではなく、しっかりとした練習なんです!」

「そらまめ」

「ちょっ、綴理先輩! ドン引きされてる最中にまた引かれることしないでください!」

 

 

 謎の掛け声と共に身体を動かしてたから学芸会の練習か何かと勘違いしそうになった。

 『えだまめ』が前屈、『そらまめ』が片足を後ろに曲げて両手で掴む片足上げ。どうやらストレッチの一貫のようだ。

 

 

「そういや村野の練習ノートに全く関係ねぇ単語がつらつら書いてあったけど、もしかしてあれってお前らの練習用語だったのか」

「そんな引き気味の目で見ないでください! 綴理先輩の練習がちょっと、いやかなり特殊なだけでストレッチも練習も不満なくできてますから!」

「良かったな。理解のある子が嫁いでくれて」

「うん。さやは朝起こしに来てくれるし、お弁当も作ってくれる。いい嫁だ」

「その優しさに甘えて愛想を尽かされないように気を付けろよ」

「何の話をしているんですか、もうっ!」

 

 

 以前全員と邂逅したときのやり取りを見てなんとなく分かっていたが、不思議ちゃんでのんびりしている先輩と、堅物で世話焼きな後輩。もはや力関係は歴然だが、それ故に村野がツッコミ役にならざるを得ない大変さにまた同情してしまう。

 ただ俺もそういったブレーキ役には過去に何度もお世話になってるっつうか、そういう奴がいるから好き勝手できるから頼りにさせてもらってるよ。μ'sで言えば海未、虹ヶ先で言えば侑とかな。

 

 

「それで、れいはボクたちの練習を見学しに来たの?」

「あぁ。改善できるところをアドバイスしたりして、ちょっとは俺の有能さを認めてもらおうと思ってな」

「段々と己の傲慢さを隠しきれなくなってますね、神崎さん……」

「元々隠しちゃいなかったけどな。ま、お前らはどっちも身体が柔らかくてダンスも上手いから、もしかしたらアドバイスできるようなことはないかもしれねぇけど」

「そんなことないですよ。以前練習メニューを添削してくださったときは非常に有益な情報を頂きましたし、神崎さんの見る目には期待しています」

 

 

 村野の奴、初対面の頃から特に俺のことを警戒したりはしてないんだよな。堅物のコイツだったら女子高に男が入ってきたりしたら何が裏があるんじゃないかと警戒するものと思っていた。実際には自分がスクールアイドルとして大成するために利用できる奴は利用するって腹らしい。非常に合理的な判断だ。

 

 対して夕霧の方からは……ぶっちゃけどう見られているのか分からない。面白い奴って思われてるみたいだけど、ふわふわしている感じがする中に本心を隠しているようで、実は意外にもまともな思考の持ち主だったりするのかもしれない。不思議ちゃんで仮面を被っているってわけではないだろうが、兎にも角にもクラブにいて危険な奴とは思われないようにしねぇとな。

 

 そんな世間話をした後に練習が始まった。

 夕霧の言葉や表現は相変わらず独特だが、村野は何故かそれを解釈することができており練習として成り立っていた。この状況を見ると、村野が持っていたあの練習ノートは夕霧語の翻訳ノートでもあるってことが分かる。先に村野のノートに目を通していたことで目の前の練習の内容が理解できるが、もし事前知識がなかったら今ここで『?』マークを浮かべていただろう。

 

 しばらくして、次のフェスで披露するだろうダンスの通しが一通り終わる。

 どちらも大した息切れもしておらず、ダンスのフォームも全体的に綺麗だった。夕霧は天性のセンス、村野はフィギュアスケートをやっていた影響だろう。指先など細部の動きなどもノートに書いてあった通り洗練されており、お高く纏まってはいる。いるのだが――――

 

 

「神崎さん、どうでしたか?」

「綺麗だったよ。このままライブをしても問題ないくらいには。でも――――」

「でも?」

「無難に纏まっているよ。だけどもうワンステップ刺激が欲しいっつうか。スクールアイドルのライブなんて目に穴が開くどころか抉り取られるくらい観てる俺からすると、もっと艶やかさが合ってもいいかと思ってさ。お前らの曲がドラマチックでカッコいいものが多いからなおさらな」

 

 

 スリーズブーケの時みたいに具体的にアドバイスし過ぎるとまた秋葉から『有能注意』のクレームが来るので、今日は程々に抑えるようにした。だけどこれだと抽象的にぼかしている気もするし、本格的な指摘を求める村野はこのアドバイスで納得してくれるかどうか……。

 

 しかし、村野がツッコミを入れる前に夕霧が話を切り出してきた。

 

 

「つまり、『花火』みたいに弾けろ……ってことかな?」

「う~ん、どちらかと言えば『イルミネーション』かな。『花火』は情熱的に魅せるものだけど、お前らの曲って等身大の少女の悩みや迷いを歌詞にしたものが多いだろ? 光もあれど、どっちかっつうとダーク寄りな感じだ」

「なるほど、だから『イルミネーション』。ダークさの中で朧気な光か……。だったら練習方法はどうしよっか」

「『ランプ』、『灯篭』」

「そうだ、それだ」

「えっ、えぇっ!? どうしてそんな抽象的な言葉だけで会話できるんですか!? ていうか神崎さん、夕霧先輩の感覚に適応し過ぎじゃないですか!?」

「経験豊富なんでね、これでも」

 

 

 ぶっちゃけ俺も自分の言ってることの100%を理解してるわけじゃないという意味不明な状況だ。でも夕霧の独特なセンスに身を投影した結果、なんだか知らないけど会話が成立した。

 これまでたくさんの女の子と交流があり、その子たちのキャラも性格も様々だったおかげか特有の思考回路を持つ奴にもある程度適応することができる。まあ今回は事前に村野の練習ノートを見ていたおかげってのが大きいけどな。

 

 

「わたしは綴理先輩語を理解するのに1か月はかかったのに、神崎さんはものの数日で会得までしてしまうなんて……」

「これって、噂に聞く『寝取られ』って言うジャンル?」

「別に取ってはねぇからちげぇよ。『寝取られ』って言うのは、例えば朝の世話をしてくれる村野をお前から奪うことだ」

「うぅ、それは困る……」

「そうやって脳が破壊されるのが『寝取られ』だよ」

「なんの話ですかもうっ! それに綴理先輩に変な知識を刷り込まないでください!」

「えっ、俺のせいなの……」

 

 

 先に話題を振って来たのは夕霧からなんだけど、何故か俺が怒られてしまった。先輩なのにその純粋さを守ろうとするその性格、まるでオカンだな。

 まあ夕霧にしっかりしてもらわないとまともに練習できないらしいから、ここまで世話を焼く理由も分かる――――いや、分からねぇよ。ケツを蹴るんじゃなくてだらしない日常をサポートする形で相手を奮い立たせるって、下手したらその献身さを悪い男に利用されそうな気がしてならねぇぞ。注意力はありそうだけど騙されやすそうだもんなコイツ。

 

 

「村野が嫉妬するから、この話題はこれで終わりだ」

「し・ま・せ・ん」

「でもさやとれいも仲いいよね。さやはれいの直球的な性格のことを分かってるし、れいもさやの真っすぐな性格のことを分かってる」

「おい村野、俺たち曲がったことが嫌いなイノシシ頭って言われてるぞ」

「イノシシ?」

「猪突猛進だって馬鹿にされてるって意味ですよ。って、どうしてわたしが解説してるんですか!? そもそも綴理先輩はそういった意味では言ってないと思います!」

「そうなの?」

「俺に振るなよ。ていうかなんだよこの会話……」

 

 

 俺は本気で煽られてるのかと思ったけど? だから俺が話を拗れさせたわけではない……と思う。不思議ちゃん系の相手をするのは慣れたけど、じゃあ会話をスムーズに繰り広げられるかと言われたら話は別だ。夕霧語を完全に理解するまでは会話に村野を挟んだ方がよさそうだな。ツッコミ地獄になるから不服かもしれないけども。

 

 

「さっきみたいな掛け合いができるのは仲がいい証拠だ。今度はボクが嫉妬しちゃうくらい」

「んだよそれ。まぁ村野は日野下と同じで最初に関わったクラスメイトで話しやすいし、真面目でしっかりしてるから、学校やお前ら関連で分からないことがあったら何かとコイツに聞くことが多い。だから話す機会も結構あるんだよ」

「そうですね。わたしからは勉強を教えてもらったり、以前添削していただいた練習メニューを練り直して再レビューしてもらったりと、神崎さんを頼りにさせてもらっています」

「出会って3日目とは思えないほど仲がいい」

「これ、仲がいいって言えるんですか?」

「言えるんじゃねぇの。お前がどう思うかは自由だけど、傍から見られて仲がいいと言われて悪くは思わない」

 

 

 お互いに利用し合っている関係って方が正しいかもしれない。信頼と一括りにされてもそれは何か違うので、お互いが相手と関わることに対して利益があるから交流していると言った方が自然だ。

 ただ普通の信頼関係を築くことを躊躇っているとか、そういう類ではない。()()ビジネスライクって関係なだけだろう。そりゃいきなり距離を詰めて無理矢理親友認定する日野下の方がどうかしてるからな。普通はこんな感じから関係は進展していくものだろう。

 

 

「さやはどう思ってるの? れいのこと」

「どう思うって……。言語化しづらいんですけど、不思議な人だなと思ってます」

「直接そんなことを言われると気になるな」

「だから言葉にしづらかったんですよ。腹に一物抱えている割にはわたしたちに貢献してくれますし、本日も寮の冷蔵庫から勝手にプリンが食べられていた事件を解決したり、他の部活で卒業した先輩が残した暗号っぽいメモを解読してあげたりと、自分の計画があるにも関わらず皆さんとも交流を深めているのはどうしてなのかと気になっています」

「れい、そんなこともしてたんだ。でも、そんなに事件が発生する学校だったっけ?」

「最近割と多くなったような気がします。神崎さんが入ってきてからくらいから……」

「こっち見んな」

 

 

 トラブルメーカーはコイツなのではと疑いを抱いているだろう村野と夕霧。素直に否定できないのが悲しいところだが、俺が騒動を引き起こしてるのではなく騒動からこっちにやって来ると言った方がいい。俺は悪くねぇ。

 

 話を戻すと、村野はやはり俺の手腕を買っているようだ。同時に裏がありそうだけど素直に学校に馴染もうとしている姿勢が不思議に思うらしい。そりゃスクールアイドル病を調査するためにはコネクションを広げておくのは大事だから、多方面に交流を広げるのは仕方がない。それに女の子が困っているのを見過ごせねぇしな。この性格は小さくなっても変わらないらしい。

 ただ俺に裏があると知りながらも自分にとって有益だから交流を続けるってのは、合理的主義の村野らしいと言えば村野らしいな。それはつまり、俺のことを害悪だとは思っていないのだろう。まだ出会ったばかりだし、嫌われてなければ今はそれで十分だ。

 

 

「れい、やっぱり面白いね」

「そうかぁ?」

「うん。だって、ボクが何を言っても返答してくれる。無視しない」

「それ分かります。気ダルそうな雰囲気を出してるのに、誰の話もあしらったりせずにしっかりと聞くんですよね。花帆さんのウザ絡みにも嫌味を言いながらも応対して、しかも学校唯一の男子生徒で全員から注目されているにも関わらず、話しかけてくる人への対応まで欠かさず行っています」

「ファンサービス凄いね」

「イケメン年下美男子が珍しいだけだろ」

「自分で言っちゃうんですね……。間違ってはないですけど」

 

 

 そういえばそうだったか。もはや無意識だったから指摘されてようやく思い出した。

 女の子へ応対しないって選択肢は俺には存在しない。μ'sのみんなと付き合うと決めたあの日から、女の子は誰も蔑ろにしないと誓った。その影響が無自覚に俺に浸透していたのかもしれない。適当に流すことはあれど、決して無下にはしない。それが俺のコミュニケーション方法でもある。

 

 

「でもそれのどこがおもしれぇんだよ?」

「喋っていて楽しいから。れいがこの学校に来た本当の理由は知らないし、多分何かを隠していると思うけど、キミがボクたちに歩み寄ろうって気持ちは本物だと思う。だからボクもこうしてお話しする。それが楽しくて、面白い」

「ふ~ん。こんな不良みたいな着崩し、口調、雰囲気の奴とコミュニケーションを取ろうだなんて変な奴だな」

「だって、さや」

「綴理先輩のことですよね!? いや先輩のことをバカにしてるとかそういうことではなくて……!!」

 

 

 俺のことを不良だのなんだのボロクソ言ってきた乙宗でさえも普通に接してくれてるし、やはり無害な人間であることを示せば態度が大きくても多少は許されるのだろう。村野はさっぱりとしていて、夕霧は許容範囲が他人と異なり独特だ。だからこそ俺を受け入れやすかったのかもしれない。

 

 それにしても、夕霧も意外とまともなこと言うんだなと思った。自分の考えとなる軸はブレずに持っていると予想してたけど、どうやら当たっていたようだ。とは言いつつも特有の言動やぼぉ~っとした態度は変わらないため、コイツと距離を詰めるのは他の奴らと比べるとまた違った方法になりそうだな。

 

 

「そろそろ練習に戻りましょう。このままだとこの教室の利用時間が過ぎてしまいます」

「時間制限なんてあんのか?」

「壁一面が鏡面になっている教室って少ないんですよ。だから他の部活と取り合いにならないよう事前予約が必須なんです」

「なるほど、だからこの時間は貴重ってわけか」

 

 

 この学校は芸術に秀でているからか、バレエやダンス、運動部でもフィットネス、演奏関係の部でも体勢やポジション確認など、こういったミラー仕様の壁のある教室を利用する部活は多いのだろう。それ故に利用タイミングがバッティングすると気まずいから予約する方式になっているのか。

 

 だったら余計な話をせずに練習に集中すりゃ良かったのに。ただ俺としても有意義な時間だったし、他の誰の邪魔も入らずコイツらと交流する時間が取れたので無駄ではなかったかな。

 

 

「神崎さん。次はパートごとにダンス練習をするので、また見てもらってもいいですか?」

「あぁ」

「一緒に踊る?」

「無理。そこまでスタイリッシュじゃないし、アグレッシブな身体じゃない」

「そうなんだ。でもボクの直感だけど、れいはそういうの上手そうに見える」

「想像だよ、それは」

 

 

 上手いんだけどな実際。女優の母さんからの遺伝なのか、演技やパフォーマンスといった類は特段練習したわけでもないのに何故か得意だ。ま、自分を魅せるって点では妹の楓の方が段違いだが。アイツの美少女さは世界を震撼させたからな……。

 

 

「じゃあ想像でもいいから――――踊って欲しい」

「はぁ!?」

「そういえば、今朝木の上から下りられなくなった猫をどうやって助けようか困っていた人たちの手助けをしていました。あの時の木に上る軽やかな身のこなしはダンスでも通用するかもしれません」

「じゃあできるってことだよね」

「どうしてそうなる!?」

「わたしも、できるならみてみたいかも……」

「だからできねぇって!!」

 

 

 こうしてドルケの2人と交流して仲が深まった……のか?

 こういった冗談でも無茶振りをされるってことはある程度の仲の良さじゃないとできないから、それなりに友好度も上がっていると信じたいな。

 




 前回と同じく山も谷もない日常回ですが、キャラ紹介も兼ねているので次回まではほのぼの回としてお付き合いください!


 次回も最後のユニット回の予定です。



【キャラ設定集】※更新版
零から蓮ノ空キャラへの呼称(そのキャラへの印象)
・日野下花帆 → 日野下 (俺に気があるのか…?)
・村野さやか → 村野  (合理主義、頼れる同級生)※更新!
・乙宗梢   → 乙宗  (距離が僅かに縮まったかも)
・夕霧綴理  → 夕霧  (意外と真面目なところもある)※更新!
・大沢瑠璃乃 → 大沢  (言葉遣い砕け過ぎ)
・藤島慈   → 藤島  (生意気な先輩)

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零くん  (? 謎の好感度)
・村野さやか → 神崎さん (50→52 頼れる同級生)※更新!
・乙宗梢   → 神崎君  (45 頼れるところはあるけど疑いもある)
・夕霧綴理  → れい   (50→58 疑いはあるけど一緒にいて楽しい)※更新!
・大沢瑠璃乃 → 神崎クン (50 話しやすいだけで良きかな)
・藤島慈   → 神崎   (30 生意気な後輩)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

すっげー同級生、無礼な後輩

 蓮ノ空女学院に転入して4日目。

 最初はリスタートすることになりお先真っ暗を感じていた青春生活だが、人間ってのは適応が早いもの、既に二度目の高校生活にも慣れてきた。もはや自分が元成人だってことすらも忘れてしまうタイミングがあり、普通に年相応の中学1年生として人生を謳歌してしまっている時がある。もしかしたらいつの日か元の生活に戻ってやるという執念が消え失せてしまい、このままでもいいやと錯覚してしまう日が来るかもしれない。

 

 いや、それだけは絶対に避けたい。俺はスクールアイドル病の問題を解決して、一刻も早くこの山中の牢獄から抜け出すって決めてるんだ。

 何が嫌かって、この学校周りに何もないせいで平日は学校と寮を行き来するだけの生活となる。彩のある日常とは程遠く、これでは日野下が都会のショッピングモールに憧れるだけでなく、願望を周りに振りまいて回るモンスターと化してしまうのも仕方がないだろう。

 実際に俺も最初は学校終わりにどこかへ遊びに行くなんてアグレッシブなことはしないタイプだから別にどうでもいい、なんて思ってたけど、生活してみると分かるこの窮屈さ。選択肢がある上で自分で選ばないのと、そもそも選択の余地が全くない窮屈さとでは同じようで全然違う。最初から自由が広がっているのとそうでないのとでは見える視野が異なるので、その影響のせいで退屈を感じてしまうのだろう。

 

 シャバの空気を吸うためにもとっとと問題を解決しなければならない。そのためにはこの学校のスクールアイドルとの親睦を深めるのが先決。

 

 今日は大沢瑠璃乃と藤島慈が組むユニットである『みらくらぱーく!』の練習へ行く予定だ。

 発声練習もしたいからと声の通りが良い屋上でレッスンするとのことなので、初めてそこに足を踏み入れたのだが――――

 

 

「今日も気合入ってっかーーーっ!!」

「おーーーっすっ!!」

「『ラブライブ!』に優勝したいかーーーっ!!」

「うぉおおおおーーーっすっ!!」

「学校のテスト廃止希望!!」

「いぇええええええええ!! ――――じゃなくて、それは無理だよめぐちゃん!」

「ノリに合わせて派閥を作ろうと思ったけど、無理だったか……」

 

 

 何やってんだコイツら。ガチの運動部ばりの発声練習みたいなことしてるけど、この練習スタイルがコイツらの普通なのか……?

 この2人は他のユニットの奴らと比較して現代色に染まっており、砕けた言葉や芝居がかった表現をよく使う。他の奴らとは別の意味で独特のノリがあり、成人男性の俺(見た目は子供)が現代女子の勢いについていくことができるか少し不安になってしまう。こんなことを言ってるとオッサンっぽいって言われそうだな……。

 

 

「あっ、神崎クン。うぃっすうぃーすっ」

「なんだよさっきの。練習してたんじゃねぇのか?」

「今日は天気もいいし、開放的な屋上にいるとテンション上がっちゃうんだよ」

「下まで聞こえてたけどな」

「えっ、それはヤバっ! この学校の規則って厳しいから、テンションハイで騒いでるとすぐ目を付けられちゃうんだよ~」

「とてもそんな危機感があるようには見えなかったけど……」

 

 

 やっぱり校則が厳しいのかここって。そういや生徒手帳に色々と書いてあった気がするが、長文過ぎて最初の3文字くらいで読むのをやめたっけ。窮屈なのは環境だけでもなく規則もだなんて、ここまで箱庭のお嬢様学校は複数の女子高を渡り歩いてきた俺でも初めての場所だ。まあ箱庭で守られているからこそだから珍しいのは当たり前だけど。

 

 

「とりあえず、練習するなら早くやれ」

「遅れてきたのに命令口調とはホントに生意気な後輩……」

 

 

 藤島は悪態をつきながらも俺に練習メニューが記録されたタブレットを渡してくる。てっきり『お前の力なんて必要ない』と追い出されるものとばかり思っていたが。

 

 

「梢と綴理から聞いてアンタの力量は分かってるからね。気に食わないけど、私たちのレベルアップのために付き合ってもらうから」

「あぁ、とことん付き合ってやる」

「あれ? めぐちゃんと神崎クン、意外と息が合ってる? もっとバチバチしてるのかと思ってた」

「使えるものは何だって利用しないと。『ラブライブ!』優勝のためだもん。例え趣味だろうが好きでやっていようが、勝ちたいものは勝ちたいからね」

「そりゃそうだ」

 

 

 勝ちたいなんて願望は贅沢ではなく、大会に出るのであれば誰しもが持つ欲望だ。記念に大会に出られたらいいねレベルの奴らでも、出るのであれば勝ちたいって気持ちはあるだろう。

 そういった考えが藤島にもあったのか、不信感を持たれているにも関わらず俺と同調した。まだ生意気とは思われているだろうけど、ここ連日他のユニットの練習をサポートして成果を出した影響がコイツにも伝わっているのか、とりあえずサポーターとして利用してやろうという考えにさせることができたっぽいな。

 

 そんなこんなで練習が始まる。

 他のユニットとは違いコイツらは幼馴染の関係なためかコミュニケーションは常にフランクで、仲睦まじく楽しそうに練習が進んでいく。だからと言って浮ついているわけではなく、一応藤島が1年早くスクールアイドルをやっていた経験を生かして大沢にしっかり指導している。その最中にもボケツッコミをお互いに入れつつ進行しているので、乙宗や村野のように格式ばった練習が好みの奴もいれば、コイツらのように和気藹々と練習するのが好きって奴もいるのだろう。

 ちなみに全体練習では乙宗が指揮を執っている。そのためか堅苦しく真面目な雰囲気になっているため、コイツらにしてみれば2人の練習時間ってのは息抜きにもなっていると見える。

 

 しばらくして1曲分の練習を終える。

 コイツらの曲は弾けてる雰囲気のものが多いためか、振り付けも他のユニットと比べて大振りな印象がある。そのせいか1曲やるだけでも体力消費は相当なものだろう。藤島の練習メモに体力作りのレッスンを重点的にするようにしていた理由はそれかと、今の練習を見て分かった。

 

 

「神崎クン、どうだった?」

「いい雰囲気だな。曲がお前らのためにあるかってくらいに歌もダンスも絶妙にマッチしてたし、何より見ていて元気になれそうだった」

「ふぅん、意外にちゃんと褒めてくれるんだ。アドバイスと言う名のダメ出しばかりでボコボコにしてくるものとばかり思ってたよ」

「飴と鞭って言葉があるだろ。鞭を振いたくなることもいくつかある」

「例えば?」

「大沢は曲調に合わせすぎてるのか、動きがちょっと先走り過ぎてる。1つ1つの動作が大振りなのは分かるけど、多分隣の藤島を見て自分もついて行かなくちゃって気持ちが先行してるんじゃないか?」

「えっ、そこは気が付かなかった」

「逆に藤島は振り付けが綺麗すぎだ。お前はもっと弾けた方がいいと思うぞ。練習メニューを見る限りいつも2人で並んでやるか藤島が大沢を見ているらしいけど、一度お互いに向かい合って1曲通してもいいかもな。それかいっそのこと大沢に見てもらうとか。お前は指導する立場だけど自分の実力も伸ばさなきゃいけない立場でもあるから、そこは信頼できる幼馴染に頼んでも問題ないはずだ」

「「…………」」

 

 

 藤島も大沢も黙ってしまった。

 これまさか、また変に有能さを見せ付けてしまったってやつか?

 秋葉からは『あまり疑われることはするな』と釘を刺されていたのだが、ここ何年もスクールアイドルを指導してきた職業柄もあるのかそう簡単に抑えられるものではない。だからついつい喋り過ぎてしまう。疑われる種を撒いただけで悪手だったかも……。

 

 しかし、そこで大沢の目の色が変わり、藤島も不服ながらも納得した面持ちをした。

 

 

「すっげーじゃん神崎クン! まだルリたちの練習を5分見ただけなのにそこまで分かるなんて!」

「練習メニューを添削してもらった時から思ってたけど、大口を叩くだけのことはあるかな」

「そりゃどうも」

 

 

 良かった、感動してただけだったらしい。

 でも事前に藤島の練習メニューを知っていたおかげでこのアドバイスができたので、やはり知り合った初日に全ユニットのメニューを見ておいて正解だったな。その行動がなかったら、ただ練習を数分見ただけでアドバイスできる超人扱いされてただろうし、それだけ疑いの目が厳しくなっていただろう。

 

 

「神崎クン有能だねー。ルリたちのクラブに引き入れておいて良かったよ」

「どういうこと?」

「神崎クンって色んな問題を解決してくれて、クラスの救世主みたいなポジションになってるんだよ。クラスの揉め事も上手くまとめ上げてくれたし、メンタルが落ち込んでいて部屋に引きこもっていた子を巧みな話術で外に連れ出して更生させたり、大切なブレスレットをなくして悲しがっていた子に付き添うだけでなく実物も見つけてあげたりと、もうすっげーっとしかいいようがない!」

「そういえばうちのクラスにも噂が流れてきてた気がする。ていうか、そんな問題ばかり発生する学校だったっけ?」

「またそれかよ……」

 

 

 むしろ俺が聞きたいくらいだ。この3日間でのユニット練習の最中、同級生である日野下たちが俺の活躍を話し、上級生たちが感心しつつも問題が増えたことに疑問を抱くこのシチュエーション。そんなこと早々起こりえることではないが、それだけ毎日俺の手を煩わせる問題が発生してるってことだ。

 これもし俺がいなかったら不登校になってる奴とか、同級生の中で不和とか起きてたんじゃないかと思うけど、多分俺がいなかったら問題すら起こらないんだろうな。こうも連日問題が続くと受け入れざるを得ねぇよ、自分がトラブルメーカーだってさ。作り出すってよりかは引き寄せてると言った方がいいかもだけど。

 

 

「これでめぐちゃんも神崎クンのこと見直したんじゃない?」

「だから、実力は元々認めてるっつうの。でももっと可愛気があればなぁ~って思うよ」

「悪かったな。じゃあ『先輩先輩』って媚びる子の方がいいってことか?」

「それは花帆ちゃんで間に合ってるかも……」

「じゃあ丁寧に敬意を払える子とか」

「それはさやかちゃんがいるかな。元気な子はルリちゃんがいるし……あれ、だったらどんな子がいいんだろう?」

 

 

 自分の従える後輩にキャラのバラつきを求めんじゃねぇよ贅沢か。そもそも異性の後輩がいるって時点でキャラは被ってねぇだろ。

 

 

「考えなくても、こんなイケメン美男子が部活の後輩にいるって相当のステータスじゃね? ルリはクラスにめっちゃ女の子に手練れの男子が転校して来たって、親に速攻で連絡したもん」

「手練れって、神崎アンタもう誰かに手を出してるの!?」

「んなわけねぇだろ。まだ早い」

「「まだ……?」」

「あっ、いやそういう意味じゃなくて、男なら一般論としてそうなりたいって気持ちがあるだけで、俺としてはそんなこと思ってねぇから」

 

 

 ヤバいヤバい、思わず成人の頃の俺の自我が前面に出てしまいそうだった。ていうかもうほぼ言いかけていた気がするが、無意識に女の子と関係を持とうとしてしまうのは俺の性なのかもしれない。いつもは無害そうなのに、攻める時は途端に肉食系になるって女の子からはよく言われてるからな……。

 

 

「ま、顔もいいし救世主って呼ばれるくらいには有能みたいだし、私の隣に並び立つのには相応しいかもね」

「隣って……えっ、まさかめぐちゃんもうそこまで考えてるの!? 堂々の彼氏宣言!? 元芸能界にいたのに躊躇なく男を作ろうとするその精神と度胸……そういうところに痺れちゃうぜ! それで他人に文句を言われても、それを売名に変えちゃうくらいの意気込みも憧れる!」

「こらこら! 勝手に炎上系配信者みたいな言い方するな! そりゃ男を作るなら顔がいい方がいいでしょって話なだけだから!」

「そうだな、俺も彼女を作るならお前みたいなスタイルが良くて可愛い子がいい」

「えっ!? そ、そうなんだ……」

「ん……?」

 

 

 藤島の様子が変わった。頬を少し紅に染める。素直に好意を伝えたはずなのだが、もしかしたら攻撃力が高すぎたかもしれない。

 でも素直に言っちゃうだろって話だ。藤島はアイドル顔だし、雰囲気もノリが良くて一緒にいて楽しそうだし、クラブの中でも随一出るところは出ているので女の子の魅力としては申し分ない。それどころか知り合ったが最後他の男に渡してしまうなんて許せないと、男に眠る謎の独占欲が湧いてくるくらいの子だ。だからこそ素直に言っちゃうんだよ、そういうことは。

 

 

「男の子と関わる機会なんてなかったからさ、異性にいきなり容姿を褒められてビックリしちゃった」

「異性として見てくれてるんだな。年下で、しかも中学1年生なのに」

「つまり、めぐちゃんも意外と面食いだったってことか。これはスクープ! スクープぜよ新聞部! 元芸能人の恋愛事情を赤裸々にするチャンス!」

「さっきから私を炎上させたいのか!」

 

 

 毎回思うけど、出会う可愛い子がみんな男の手垢が全く付着してない子ばかりなのは偶然なのだろうか。俺がそういった能力を生まれながらにして授かっているからかもしれない。出会う子ほとんどが女子高出身でみんな処女ってありえない話だ。まぁ俺の行く先は虹ヶ先も結ヶ丘も、そしてここも秋葉によって決められたからアイツが元凶かもしれないけど。

 

 

「そういったるりちゃんはどうなの? 神崎とは仲良さそうだけど」

「それはなんつーかなー。多分普通」

「そうだな、普通だ」

「なにそれつまんな」

「弄る気満々だったんじゃねぇか……」

「色んな問題を解決するスーパーマンだもん。すっげーかっけー! っとは思ってるよ。こんなアニメや漫画の主人公みたいな男の子が現実にいるんだって、どちらかと言えば感動しちゃってる……かな」

「なんか、友達ってより物珍しさ的な目で見てない……?」

「それはある」

 

 

 大沢は俺が颯爽と問題解決する様を見て盛り上がっている節があり、友達感覚ってよりも観客の立場として見ているような印象が強い。だから日野下や村野とは違い、俺とはどこか一歩離れているような気がしてならない。

 ここまでの会話を聞くと大沢はウェイ系でパリピな子と思われるかもしれないが、意外にも場の空気をしっかり読める子であり、逆にそっちに神経を注いでいる説がある。たまに疲れて元気がなくなっている様を見たことがあるので多分間違いないだろう。だから俺とは気さくに接しているものの、まだ神崎零という人物を測りかねている途中の段階だと思われる。

 ただそれでも興味を惹かれる対象だとは思われているようで、だからこそ藤島が言ったように一歩引いて物珍しい目で見ているのだろう。

 

 

「ま、お前らに嫌われてなくて良かったよ」

「るりちゃんはともかく、私に対してもそう言えるなんて相当な自信だね」

「俺に可愛いって言われて照れてただろ。嫌いな奴だったらそんな反応にはならねぇよ」

「癪に障るから今から嫌いになっていい?」

「なんでだよ……」

「無礼なところは今でも嫌いだもん」

 

 

 ロボットやアンドロイドじゃねぇんだから、切り替え1つで心が180度すぐ傾くなんてありえねぇんだよ。それにこうして面と向かって冗談を言い合いながら会話できている時点で嫌いになられる要素なんてゼロだ。

 ただ意外だったのは、初対面の印象は悪かったのにそこまで好感度が低くなかったってことだ。コイツも村野と同じく自分の利益になるかどうかで俺を見ているところがあるので、そういった意味では側に置いておくのが最善だと思われたか。

 こちらとしてはどんな打算があるのせよ、これからも近づいてOKとなった時点でフレンドシップ形成だ。スクールアイドル病の問題解決の第一歩を踏み出せたとも言える。まぁ、こっちもそういった打算でこのクラブにいるからどっちもどっちかもな。

 

 そういえば、コイツらの近くに謎の装飾された段ボールがあることがずっと気になっていた。

 タオルやら飲み物やらと一緒に置いてあるので練習道具なのかと思ってスルーしようとしていたが、こんなの何に使うんだとさっきから脳内に疑問がチラついてウザいので聞いてみるか。

 

 

「もしかして、あの段ボールが気になる?」

「あぁ、なんだよアレ」

「るりちゃんの充電が切れたときに引きこもるためのものだよ。通称『ぼっちハウス』」

「充電切れ? コイツってロボットだったの?」

「ちげーし! これでも『周りがちゃんと楽しめているか』に常に気を使ってるんだよ。その空間にいる人たちに配慮して、イライラしている子やつまらなさそうにしてる子がいたら、不和が起きないようにその子を楽しませてあげたいんだ」

「なるほど。でもそんなことに神経を集中させてたら逆に自分が参ってしまう。それが充電切れってことか」

「相変わらず理解早いねアンタ……。それでるりちゃんは表向きパリピになっちゃったんだけど、実は独り遊びの方が好きだったりするんだよ。ゲームやアニメ鑑賞みたいなインドアな趣味から、1人バッティングセンターや釣りみたいなアウトドアまでね」

 

 

 やっぱり、俺が予想していた『他人の言動を観察している』予想は大当たりだったみたいだ。

 周りの空気が壊れるのがイヤ、か。結構ナイーブな性格してたんだな。

 

 

「それであの段ボールを被って周りを強制的に断絶することで、その充電っつうのができるわけか」

「そうそう」

「でも俺はここに来てからの4日間、お前のそんな姿を1度も見たことねぇぞ」

「想像以上のミジンコメンタルになっちゃうから、周りにそんな自分を見られたくないが故に逃げちゃってるんだよ。だから見てなくても当然。親友の花帆ちゃんやさやかちゃんの前ですら逃げ出すからね」

「あっ、でもそういえば神崎クンと一緒にいる時に充電切れになったことないかも……」

「なんでだよ」

「るりちゃん、それって……」

「ん?」

 

 

 日野下や村野と一緒の時ですらダウナー状態になるのに、俺の時はそうならないとはこりゃいかに。さっき言ったみたいに俺をエンターテイナーとして見てるから、赤の他人だと思って気を使う必要がないってことなのか。それとも……。

 

 

「それじゃあ練習に戻っか。神崎にはこれ渡しておくから。さっきのアドバイスを受けてメニュー組みなおしたよ」

「練習メニューか、いつの間に」

「そう。だからまた添削お願いね」

「おぉっ、神崎クンめぐちゃんからの信頼が厚い」

「もうそういうのいいから行くよ! あっ、添削しながら練習も見るように!」

「マルチタスクとか無茶言うなよ」

「それが自分の仕事、でしょ♪」

 

 

 藤島がウィンクをすると、大沢と再び練習に戻る。

 結局、大沢も藤島もまだ一歩引いてはいるが俺を受け入れてはくれるようだ。ただどちらもフレンドリーな子だから仲良くなるならコイツらからと思ってたけど、蓋を開けたら一番苦労しそうな部類だったな。

 これはとことん一緒にいて、徐々に心の距離を詰めていくしかなさそうだ。

 




 『みらくらぱーく!』の曲はどれもテンポが良くて好きだったりします。何気に推しユニットだったり。


 次回は久々に全員集合回の予定です。




【キャラ設定集】※更新版
零から蓮ノ空キャラへの呼称(そのキャラへの印象)
・日野下花帆 → 日野下 (俺に気があるのか…?)
・村野さやか → 村野  (合理主義、頼れる同級生)
・乙宗梢   → 乙宗  (距離が僅かに縮まったかも)
・夕霧綴理  → 夕霧  (意外と真面目なところもある)
・大沢瑠璃乃 → 大沢  (意外とナイーブ)※更新!
・藤島慈   → 藤島  (ある程度信頼はしてくれて安心)※更新!

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零くん  (? 謎の好感度)
・村野さやか → 神崎さん (52 頼れる同級生)
・乙宗梢   → 神崎君  (45 頼れるところはあるけど疑いもある)
・夕霧綴理  → れい   (58 疑いはあるけど一緒にいて楽しい)
・大沢瑠璃乃 → 神崎クン (50→53 エンターテイナーとして見てる)※更新!
・藤島慈   → 神崎   (30→35 ちょっとは信頼してもいい)※更新!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夜の魔力と背徳の味(前編)

 蓮ノ空女学院に転入してから5日目となり、本日も終わりを迎えそうになっている夜。

 激動だった転入イベントを終えて初めての休暇を迎えようとしていた。この平日は身体を小さくされた上に女子高に転入させられるわ、スクールアイドル病っつう訳の分からない病気の調査をさせられるわ、そのためにスクールアイドルたちと接点を持つ必要があるので積極的な交流を強いられるわで、ぶっちゃけ教師生活よりも忙しかった気がする。

 

 でもその忙しさも今日で一旦落ち着くと思うと気分が楽になる。

 しかも明日が土日休みとなれば尚更テンションが上がってしまう。子供の頃でも大人の頃でも変わらずその喜びを感じてしまうのは俺だけじゃないはずだ。むしろ土日休みが嬉しいってより、明日から2連休だって事実を受けて無敵モードと化す金曜の夜の方がテンション高いのも万国共通だと思っている。学生でも社会人でも毎週平等に生を実感できる時がこの時間だろう。

 

 とは言いつつも、特に何かをやる予定もない。この学校が山の中の牢獄である都合上、どこかへ行くにもバスに乗らなければならない面倒臭さがあるのでイマイチ外出する気にもなれない。唯一のやることと言えば残してきた女の子たちへの連絡だが、さっきビデオ通話なりチャットなりでみんなと会話して無事を知らせていたのでそのやることも終わっていた。

 

 せっかくの金曜の夜であり、しかも激動のイベントを乗り越えた報酬として何かやりたい気持ちはあるが全く思いつかない。

 本来ならテンションの上がる時間なのに、俺はベッドの上でぼぉ~っとして無駄に時を食いつぶしていた。

 

 ただ、そんな中――――

 

 

「腹減ったな……」

 

 

 夜食が食いたい気分になった。

 飯はいつも寮の食堂で済ませているのだが、ここは女子高なせいか女子の食べる量に合わせてあるため定食の量が少なめだ。いくら中学1年生の身体とは言えども男で育ちざかり、もっと食べたいという欲望はある。一応購買はあるのだが、残念ながらこんな遅い時間にはやっていない。お菓子は秋葉が置いていったものならあるけど、そんな小腹を満たすものではなくてもっとガッツリ食いたい気分だ。

 

 台所に行って冷蔵庫を覗いてみると、割と食材が入っていることに気が付く。秋葉が勝手に入れたのか。

 意外にも料理できるからなアイツ。たまにだけど俺にも作ってくれる。この寮に来てからはまだだが、そのいつかに備えてここに保管してあるのだろう。

 ちなみに俺はあまり料理が得意ではない。高校時代に妹の楓が来る前は1人暮らしだったけど、あの時は適当に飯や肉、野菜を混ぜるいわゆる男飯ばかり食ってたからな。もはや料理と言えるのか分からないレベルの代物しか作れない。

 それに夜食を食うのであればもっと脂が乗った背徳感があるものがいい。どうせこの時間に食うんだ、どんなモノを食っても罪は変わらない。だったら最も罪深いモノを食うべきだろう。

 

 

「あるのは鶏もも肉、にんにくに生姜……これ、からあげでも作れってことか? そういや秋葉の奴、調理器具も置いてったな」

 

 

 想像してしまった、サクサクジューシーなからあげを。そんなのをこんな夜中に想像してしまったらもうそれを食うしかないだろう。口の中で少し涎が分泌されちまってるし、俺が否定しても俺の脳と身体がからあげを欲している。せっかくだ、今日くらい欲望に忠実になってみるか。いつもは自分の正体がバレないように必死に隠してるつもりだからな、割とストレス溜まるんだよ。

 

 ちなみにからあげなら昔1人暮らしだった頃に作ったことがある。楓が来てからはアイツの料理が絶品過ぎて自分で作ることはなくなったけど、あの時の男飯を今こそ復刻させる時だ。

 

 

「でもサラダ油とか、片栗粉とか、調味料とかも一切ねぇ。アイツどうやって作るつもりなんだよ……」

 

 

 冷蔵庫にあったのは材料のみであり、味付けはもちろんからあげの中心核である油すら存在しなかった。何を作るか決めず適当に置いていっただけなのだろう。これでは夜食は作れない。

 仕方がないから諦めるか? 購買もやってないし調達する手段がないからどうにも――――

 

 

「いや、食堂だ。食堂の調理室に行けばあるかも……」

 

 

 油や調味料程度であれば調理室に行けば確実に存在するだろう。

 もちろん本来であれば生徒が入れるようなところではないが、まあちょっくら借りるだけだ。この時間なら食堂の職員もいないだろうし簡単に忍び込めるはず。

 

 こんな犯罪っぽいことを躊躇なく実行しようとするなんて、自分で考えておきながら自分で驚いている。これも夜食のからあげの魔力のせいだろう。正常な思考回路を破壊する力が凄まじいな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 部屋の外へ出た。

 まだ寮の廊下の明かりは点いているが間もなく消灯するだろう。それまでに食堂の調理室でからあげ制作に必要な素材を揃えるのがミッションだ。夜中にコソコソと誰にも見つからずに食材を強奪しに行くなんて、そんなゲームありそうだなと楽観的に考えていた。

 

 でもこれ、持って帰るとして俺1人で全部持って帰ることできるか? 一応中サイズのレジ袋を1つ持ってきた(これしかなかった)が、小麦粉とか片栗粉とか大容量サイズで保管されてたらどうする? 学生がたくさん集まる食堂だ、その可能性はある。

 

 とは言ってもこの時間に増援を呼ぶことはできないし、そもそも女子に夜食に油ギトギトのからあげ食おうなんて誘う男子がいたら間違いなく女子の天敵だ。俺が女子だったらソイツを殺害するまである。

 

 そんなことを考えながら、消灯の危機を前に足早に食堂へと向かっていると――――

 

 

「あれぇ~? 神崎クン??」

 

 

「えっ、大沢?」

 

 

「わぁっ、零くんだ!」

「神崎さん、どうしてここに?」

 

 

「日野下に村野……」

 

 

 まさかの遭遇。相変わらずのフラグ回収の速さに自分でも感心してしまう。

 俺もそうだが3人共部屋着姿である。これまで夜に部屋の外に出ることはなかったので、実はコイツらの私服姿を見るのはこれが初めてだったりする。普通に可愛いのだが、村野の服はなんだ……? 人面トマトのような奇妙なキャラがプリントされているが、これはツッコミどころなのか……?

 

 

「零くん、こんな時間にどうしたの? 部屋の外に出てるなんて珍しいね」

「人を引きこもりみたいに言うな。ちょっと用事でな」

「こんな時間に……ですか?」

「お前らの方こそ何やってんだよ」

「ルリたち自習室で宿題をやってたんだ。ほら、今日数学の宿題めっちゃ出てたっしょ? だから金曜夜に全部終わらせて土日はパーリィ!! にしたかったんだよ」

 

 

 あるある、そういうこと。いつもなら土日があるからどこかでやりゃいいやって感じになるけど、たまにやる気が出て事前に全部終わらせておくんだよな。毎週それをやると特別感がなくなるから本当にたまにやる程度。でもそれがいい刺激になったりする。

 

 

「それで、神崎さんは何を?」

「夜食を食おうと思ってさ。からあげでも」

「「「か、からあげぇ!?」」」

 

 

 3人がハモる。

 そりゃそうだ、こんな夜中に食うモノじゃない。

 

 

「ど、どうして……?」

「どうしてもこうしてもあるか。ただの欲望だよ。想像してみろ、衣がサクッと中がジューシーなからあげを。夜食にそれを食う背徳感をな」

「衣がサクッと……!!」

「中がジューシー……!!」

「背徳感……!!」

 

 

 あっ、これやっちまったか。

 今まさにコイツらの脳内に衣が煌びやかに光るからあげの妄想を送り込んでしまった。そのせいで3人は夜中の背徳感も同時に受け取ってしまったようで一斉に唾を飲む。さっき女の子を夜食に誘う奴はバカとか言っておきながらこれかよ……。

 

 ここまで来たらコイツらを手駒にするのもありか。材料調達の要員として活躍してもらうのもアリだし、調理室へのい不法侵入の罪を分散させることも可能だ。

 

 

「ただ俺の部屋に材料はない。だから今から調理室に言って強奪しようと思ってさ」

「強奪……!! 神崎クンのヤンキーきたぁああああ!!」

「なんで喜んでいるんですか! そんなことしたらダメですよ!」

「じゃあお前が譲ってくれるのか? 普段料理するって言ってたから調味料くらいはあるだろ」

「そ、それは……。実は本日ちょうど色々と切らせてしまって、明日の朝に買いに行こうかと……」

「朝じゃ遅い。夜中に食うから悦びがあるんだろ。それに今食いたいってこの衝動を抑え込んだまま寝るなんてできねぇ。夜更かして身体に毒を与えるくらいなら夜食を食う。何か間違ってるか?」

「えっ、そうなのでしょうか……」

「さやかちゃんが言いくるめられようとしている……!! 神崎クンの卑怯な話術かっけーっ!!」

 

 

 やっぱ大沢って俺を見世物として見ている節あるよな。見ていて飽きないから楽しいっつう、傍観者でもあり愉快犯でもある。パリピな性格のようで実は繊細だから、こうして向こうからある程度の好感を向けてくれるのはコミュニケーションを取る上で助けるけどな。

 

 そして、村野は俺の話術とからあげの魔力に苛まれている。さっき唾を飲み込んでいたところを見るとコイツもからあげを食いたいって欲望はあるみたいで、でもこの時間に食うなんて病的行動だから悩みに悩んでいるのだろう。相変わらずの真面目ちゃんで、普段から規則正しい生活をしているのであれば1日くらい法から逸脱してもいいのにと思ってしまう。

 

 

「花帆さんはどうですかって――――って、涎垂れてますよ!? もう聞く必要ないじゃないですか! もう早く拭いてください」

「えっ、あっ、ホントだ! ハンカチありがとう!」

「じゃあみんなで調理室に乗り込むってことでいいか?」

「どうしてそうなるんですか……」

「あたしは食べたい!! もう脳みそからからあげの油が流れ出しそうで我慢できなくなっちゃった!」

「奇妙な比喩表現しないでください……。瑠璃乃さんは……?」

「消灯時間ももうすぐだし、早く行こうぜ!」

「味方がいない!?」

 

 

 やっぱ背徳メシの威力は凄まじい。体型を気にする女の子相手ですら我慢しようって気を失せさせてしまう。一時の快楽のために自分の身体に害を与える、まさに黒魔術。俺はそんな禁忌に彼女たちを引きずり込んで被害者を増やしてしまったのかもしれない。

 

 

「こんな夜中に揚げ物なんて太りますよ。特に花帆さんは夕食の時に『せっかくの金曜日の夜だし、今日1日だけのご褒美だから』と、プリンを3つも食べてたじゃないですか」

「うぐっ……。こ、これもご褒美の一種だから……ね?」

「多数決の結果だ。民主主義の世界に反するな諦めろ」

「民主主義こそ少数の意見にも耳を傾けるべきでは……?」

「残念ながらここは俺の独裁政治だ」

「全然民主主義じゃない!?」

 

 

 もはや夜食が振りまく黒魔術から誰も抜け出せない。俺が独裁してるってよりかは魔力で場を支配されてるって感じだな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そんなこんなで4人パーティとなって食堂に到着した。もちろんだが扉が閉まっており中には入れない。

 

 

「で? どうやって中に入るの?」

「この鍵を使う。鍵穴に刺すと自動的に鍵の形がその穴の形に変わる代物だ」

「えっ、なにその犯罪御用達アイテム!? 神崎クン、ヤンキーなのは言動だけじゃなくて本職だったの!?」

「んなわけあるか、秋葉が作ったモノだよ。つうかヤンキー=犯罪者みたいな言い方は本当のヤンキーに失礼だから」

 

 

 実は昔から作成されていたこの鍵に似たメカだが、これまでは1回使うと鍵を穴から抜いた瞬間に壊れてしまった。

 だけどこれは3回使用できるようになった改良版であり、つまり施錠された扉であれば3回は忍び込める。色々と怪しい妄想は浮かぶが、夜食の材料を強奪するために貴重な回数を消費するとか客観的に見てイカれてるなとは思う。

 たださっきも言った通り夜食の欲望ってのは抑えきれないものだ。たった一夜の快楽とは言えども、この欲には抗えない。

 

 メカで鍵をこじ開けて食堂の中へと侵入する。

 廊下に電気は点いているが中は消灯していた。もちろん点けたら外から誰かにバレる危険性があるため食堂のホール内は点けず、調理室のみ点けることにした。

 

 

「神崎クン、何が必要なんだっけ?」

「小麦粉、片栗粉、サラダ油、醤油、胡椒、酒」

「肉しかないじゃん! どうしてそれでからあげを作ろうと思ったの!?」

「口に広がる油と鶏肉汁を想像しちまった」

「ちょっやめて! また想像しちゃうから!!」

 

 

 大沢が耳を塞ぐが無駄なこと。既に脳内に夜食の欲望が寄生しているから逃げられない。

 

 

「小麦粉とか大きな袋の中に入ってるよ。これ全部は持って行かないよね?」

「でも小分けにする容器なんてねぇぞ。そこら辺にあったりするか?」

「そもそも、材料って余ったら後から返しに来るんですよね……?」

「もうちょっとで消灯だからそれは無理だ。だから貰えるものは貰っていけ」

「食堂に忍び込むのは寮の規律違反で済ませられますけど、それは紛うことなき略奪ですよね!? 本物の犯罪じゃないですか!?」

「何言ってんだ。高校生なんて無茶の1つや2つ、やんちゃの1つや2つくらいやるものなんだよ」

「やんちゃの言葉で片付けていいのでしょうか……」

 

 

 思春期になると多感になり欲望がダダ洩れになることがよくある。だったら我慢せずに発散しろってことだ。

 ただ我慢せずに生きてきた結果がこの俺なわけで、こんな人生を歩みたいかと人に勧められるかと言われたら怪しいな……。

 

 

「でも夜にこうしてみんなでちょっと悪いことしてるの、あたしドキドキしちゃうよ。これぞ青春って感じ!」

「うんうんっ! 冒険してる感があって、ゲームみたいでルリもワクワクしちゃってるよ!」

「皆さん楽しんでますね……」

「刺激に飢えてんだろ。この学校が閉鎖空間で娯楽も少ないせいでさ」

「本当に大丈夫かまだ心配なんですけど……」

「炎上するほど過激なことをするのはバカだけど、これくらいのやんちゃなら大丈夫だしバレても許してくれるさ。所詮俺たちは高校1年生だしな、若気の至りってやつだよ」

「そんなものなのでしょうか……」

「そんなもんだよ」

 

 

 村野は真面目ちゃんだから、こうしてルールの軌道から外れてはっちゃけて遊ぶなんてしたことがなかったのだろう。日野下や大沢も別にルール破りの不良ではないが、ノリがいいのが本人たちの性格なので今のこの状況を目一杯楽しんでいる。

 もし侵入が見つかったとしても精々風呂場掃除1週間程度だろうし、だったら夜食の欲望に突き動かされて刺激のある時間を過ごすのもアリじゃねぇかな。一時の快楽を味わえるのは今しかないんだから。

 

 そんな会話をしながらもからあげに必要な材料を袋に入れたり、調理室で見つけたタッパーに詰めていく俺たち。傍から見たら完全に盗っ人で、盗んでいるのも調味料とかだからすげぇ貧困に満ちて惨めに見えるな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「結構持ち出しちゃったね」

「問題ない。毎日何百の生徒に飯を出してると思ってんだ、4人分の材料が消えたところで不審には思われねぇよ」

「明らかに4人分以上ある気もしますが……」

「作ってる最中に足りなくなったって嘆くよりマシだろ。タダなら貰っておくだけ貰っておくんだよ、こういうのはな」

「神崎クン、相変わらず破天荒だねぇ~。ポケットティッシュいっぱい貰うために周回してそう!」

「それは流石に失礼だろ」

「牛丼テイクアウトした時に七味や紅生姜を大量に持って帰ってそう!」

「いや失礼だなお前!」

 

 

 笑顔を向ける大沢。煽りセンスが磨かれてきてるな危険だコイツ。

 

 無事に材料を強奪して食堂を出る。流石に消灯間近の時間だからか途中で他の生徒に遭遇することはないだろう。

 あとはこのまま俺の部屋に戻ればミッション完了。料理は部屋でいくらでも作れるし、壁も天井も防音仕様なのでこんな夜にどんちゃん騒ぎしても迷惑にならない。消灯時間までに間に合うように、かつ廊下に音をたてないようにゆっくり迅速に帰るだけだ。

 

 そんな中、隣を歩く日野下が話しかけてくる。

 

 

「やっぱり零くんと一緒にいると楽しいよ♪」

「こんな盗賊みたいなことやってるのにか?」

「それも思い出だよ。それにもしバレたら後でゴメンなさいするから大丈夫」

「思い出か。俺が来てから毎日色んな事件が起こってるけど、それでも楽しいのか?」

「それでもだよ。零くんの隣にいると退屈しないから楽しい。ショッピングモールの建設は諦めてあげてもいいくらいにね」

「えっ、あの花帆さんが、自ら放課後食べ歩きの夢を放棄するなんて……!!」

 

 

 俺も驚いた。ショッピングモール建設への執念深さがまるでアイデンティティかのようだった日野下だが、いつの間にここまで考えが変わったんだ。これも夜食の魔力による一時的な欲望でテンションがおかしな方向に上がっているだけなのか。それとも……。

 

 そんな会話をしていると、別のところから足音が聞こえてきた。

 

 

「やべ、あの曲がり角から誰か来る。しかも1人じゃない」

「えっ、こんな時間にエンカウント? マジぃ!?」

「生徒がこの時間に廊下にいるとは思えません。だとしたら寮の職員さんか誰かが……」

「ど、どうしよう! 見つかっちゃったらゴメンで許してくれるかな」

「お前さっき謝って済ませる気満々だったじゃねぇか……」

「いや本当に誰かいるなんて思わなかったんだもん!」

 

 

 隠れる場所もなければ引き返す時間もない。

 ここは何食わぬ顔で遭遇し、この男1人女3人で荷物を抱えて夜中に出歩いているという、明らかに怪しい状況を1ミリでも疑われないようにするのが賢明か。

 

 そろそろ曲がり角から姿を現す。

 日野下たちは固唾を飲んでその時を待っていた。

 

 

「星、いっぱい見られてよかったね」

「これで天体観測の宿題も終わったし、明日からダラダラしちゃうぞ~!」

「明日は午後から練習よ。寝過ごさないように――――あら?」

 

「綴理先輩?」

「めぐちゃん!?」

「梢センパイ!?」

 

「あれ、みんないる」

「あなたたち……」

「どうしてこんな時間に……?」

 

 

 2年生の先輩たちに遭遇した。

 見つかったのがコイツらで良かったのか、逆に親しいが故に余計な追及をされるからヤバいのか。

 

 とにかく、夜食までの道のりがまた遠くなってしまった……。

 

 

 

 

To Be Continued……

 

 




 前回の後書きで『次は全員出ます』と言ったのですが、内容の通り前振りが長くなってしまったので今回はここまで。なので全員登場は次回に持ち越しです。

 蓮ノ空編で初めての前後編。キャラやユニット紹介パートが終わったので、ここからしばらくは日常回です。

 後編では夜中にスクールアイドルたちと夜食どんちゃん騒ぎの予感……!!



 いつもの好感度リストは後編の後書きにて掲載する予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夜の魔力と背徳の味(後編)

「や、夜食ぅううう!?」

「コイツらと同じ反応だな……」

 

 

 夜食を食いたかったけど、自分の部屋に材料がなかったので食堂の調理室から奪取した帰宅時、運の悪いことにスクールアイドルクラブの2年生たちに遭遇してしまった。

 奪ってきた荷物の量が量だけに、どうしてそんなものを抱えてこんな深夜に出歩いているのか当然聞かれる。コイツらなら別にいいかと隠し事をせず真実を打ち明けた結果、予想通り1年生たちに話した時と同じ反応を示した。

 

 まあ当然ここから咎められるとは思うけど、それは少し前に村野にやられたから再放送は勘弁して欲しいな。同じ言い訳するの面倒だし。

 

 

「夜食って、もうちょっとで日付変わるのだけれど……」

「いいだろ別に明日は休みなんだから。それにもうこの食いたいって欲は抑えられねぇよ。なぁ?」

「そうですよ! もう脳がからあげに染まって、いやからあげそのものになっちゃってますから!」

「う゛んう゛ん! 口に広がる油と鶏肉汁を想像しちゃったせいで、この歩みを止められる者は何人たりとも存在しない!」

「えっ、あんたらからあげ食べようとしてるの!? お菓子とかじゃなくて!?」

「軽食じゃなくてメインディッシュだね。ワイルドだ」

「わたしは止めたんですよ!? でも3人の圧力に押されてしまって……」

「いや口ではそうだったけど、お前も結構ノリ気だったからな……」

 

 

 案の定ツッコミを入れられてしまった。

 しかし、どれだけ咎められようが夜食の魔力に捕らわれたら最後、胃に背徳物を流し込むまでこの欲求が満足することはない。例え先輩たちであろうとも欲望の魔術に捕らわれて闇落ちしてる俺たちに敵わないってことだよ。

 まあ俺は大人なんだけどな一応。高校生たちと同じ目線で生活していると、自分まで子供になるどころかそっちが本当の自分に思えて仕方ない。環境への慣れって怖いな。

 

 

「そうだ、めぐちゃんたちもおいでよ! 今から神崎クンの部屋で料理するからさ!」

「はぁ!? こんな夜中に揚げ物なんて肥満へのサクセスロードだよ!?」

「サクセスって、ネガティブな表現には使わない気がしますが……」

「でもでもめぐちゃん。からあげだよ? さっきまで慣れないお勉強で頭のエネルギー使い過ぎて脳内からっからっしょ?」

「誰がいつも脳カラだごるぁあっ!?」

「そこまで言ってないですよ慈先輩!」

 

 

 おいおい、あまり廊下で騒ぐと誰かに見つかっちまうぞ……。

 ここでウダウダと言い訳を並べていても埒が明かないので、ここはもうコイツらを丸め込んで俺の部屋に連れ込むしかないか。字面だけで見ると誘拐の類に思えけど、ただ夜食を食うだけだ。

 

 ちなみにコイツらは話によると、どうやら天体観測の宿題が出ていたため夜遅くの今まで星を見ていたらしい。そのせいでこんな時間にばったりと遭遇するはめになったんだから運がねぇな……。

 

 

「その脳カラにジュワっと染み込む肉汁と油、口に広がる背徳的な風味、どうどう??」

「うぐっ、想像すると食べたくなっちゃう……!! う゛っ……うぅうううううううううううううううう!! きょ、今日だけ!! 今日だけだから!!」

「よしっ、堕ちた! こちとらギャルゲーすらも嗜むゲーマーだ! 舐めんなよ!」

「何と戦っているんですか……」

 

 

 藤島が陥落した。

 煽った上に夜食の魔力を脳内イメージとして流し込んだ大沢の勝利だな。

 

 

「ボクも行く。おなかすいた~」

「綴理先輩もですか!? 先輩がいいならいいですけど……」

「あれ、さや怒らないの?」

「コイツも堕ちた側の人間だからな。自分のことを棚に上げるなんてできねぇんだよ」

「説明しないでください! 恥ずかしいです!」

 

 

 いつもなら非人道的行為をお母さんのように注意する村野だが、なんだかんだ付き合ってしまっている身からすると強くは言い出せないようだ。さっきからツッコミは冴えてるけどな。

 そして夕霧もこっち側に来た。コイツは別に他の奴らとは違って体型維持なんて気にしてなさそうだし、夜に飯を食おうがお構いなしなのだろう。つうか村野がいなかったら飯を食うことすら忘れるらしいから、むしろ食わせられるときに食わせておけと思ってしまう。村野が来るまでよく死ななかったな……。

 

 

「じゃ、そろそろ部屋に行くか」

「えっ、ちょっと」

「ん? どうした乙宗」

(わたくし)に何も聞かないの……?」

「いやお前は行かないだろ。食生活の管理はしっかりしてそうだし」

「え、えぇ……」

 

 

 まさか仲間外れにされそうになるとは思っていなかったのだろう、驚きと悲しみの両方を見せる乙宗。

 ただそれが狙いだったりする。真正面から誘っても真面目なコイツは絶対に断って来るし、そもそもこの揺さぶりも決定的な一打には成りえない。

 

 じゃあその一打をどう与えるか。これしかない。

 

 

「どうする日野下?」

「あたし、先輩とも一緒に夜食を食べたいです! やっぱり夜中にダメ……ですか?」

「そ、そんな懇願するような瞳は……。う゛っ……きょ、今日だけよ、今日だけ」

「やったぁ!」

 

「チョロいな」

「おぉ~っ、れい、こずのことよく分かってる」

「花帆ちゃんには甘いもんね、梢」

「神崎クン、おそろしーやつ!」

 

 

 出会ったばかりと言ってもこっちは女の子の心を熟知することに長けてんだ。5日もあればソイツがどのような性格で、誰に対してどのような態度でどう対応するのか見ればすぐ察することができる。乙宗は日野下に厳しいように見えてデレデレになるくらい優しいなんて2日目の練習見学の時に既に分かってたよ。同級生の2人に対しては結構辛辣っぽいけどな。

 

 そんな感じで結局スクールアイドルクラブ全員をパーティに加えて夜食会をすることになった。

 これだけの女子高生に夜食、しかも油たっぷりのからあげを誘惑に乗せて食わせるなんて背徳行為、もはやレイプと変わんねぇなこれ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「これが零くんのお部屋……。男の人の部屋って、もっと散らかってるかと思ってた」

「なにもないね」

「悪かったな生活感がなくて……」

 

 

 俺の部屋に入った瞬間の開口一番がそれかよ。

 部屋にあまり物がないのは確かにそうで、何の準備もなしに寝てるところを拉致されてここに連れて来られたんだからそりゃ何もねぇだろって話だ。そのせいで夜にやることがなく、結果的に早寝早起きすることになって健康が回復したという裏話もある。だからこそこうして何気ない夜食というイベントがビッグに見えるのかもしれない。

 

 

「それにしても、台所も広いしベッドも大きくソファまであるなんて……。なんか神崎の部屋だけ私たちのと全然違うくない?」

「しかもどれもお高そうなものばかり……。うおっ、パソコンも超いいやつじゃん!」

「洗濯機も備え付けだなんて羨ましいわね。わざわざ外に出る必要があるのは少し面倒だもの」

「もう高級ホテルの一室よりも豪華じゃないですか……?」

「俺に言われても知るか」

 

 

 どうやら元からあった部屋ではなく秋葉が学校に用意させたらしいのだが、詳しいことはよく分からない。こんなところに金をかけるのなら、誰がスクールアイドル病に罹っているか見つけ出す発明品でも開発しろって話だ。まあ俺の活躍を見たいアイツからすれば、自分で1から10まで解決することはしないんだろうけどさ。

 

 そうやって俺の部屋を羨ましがっているコイツらを中へと招き入れる。

 自分の部屋に女子高生の軍団を入れるなんて良い光景に見えるかもしれないが、さっき村野が言った通りお高いホテルのような部屋なので、自分のモノがあまりないのも相まって私室には思えない。だから自分の部屋に女の子を招き入れてドキドキする、なんて青春的な気持ちも一切ない。そもそも大人の頃は女の子を部屋に連れ込みまくってたから、慣れちゃって緊張なんてしねぇけどな。高校時代には同棲生活なんてこともしてたし。

 

 そんなこんなで奪ってきた材料を使って早速からあげ作りに取り掛かる。当初は4人分盗むつもりだったが、不足を考慮して多めに盗んでおいたおかげで7人分もギリ足りそうだ。

 

 調理は料理ができる乙宗と村野に包丁を持たせ、技術が不要な鶏肉の揉み解しと小麦粉と片栗粉の混ぜ合わせを他の奴らに任せる。俺はフライパンや油を準備していつでも揚げられる体制を作ることにした。

 

 

「そういえば、梢センパイやみんなとこうして料理をするのって初めてな気がしますね」

「そうね。スクールアイドルの活動として何かをすることはあっても、こうしてプライベートまで全員集合というのは珍しいかもしれないわね」

「だったら、この機会をくれた零くんには感謝だよ♪」

「感謝って、お前らが勝手に来ただけだろ。夜食の誘惑に乗せたみたいなところはあるけどさ……」

「みんなで夜食を作るなんて普通なら女子に提案しないもんね。神崎みたいな不良少年だからこそってことか」

「悪かったな」

 

 

 いつか俺が来たことで学校の秩序が乱れたとか苦情が来そうだな。現に体型維持が必須のスクールアイドルたちに夜食で油物を注入しようとしてるわけで……。

 ていうかさっきいい機会を与えてくれたって言ってたけど、どうやら全員で一緒にいるタイミングはあまりないらしい。ビジネスライクの関係ではないと思うが、恐らくスクールアイドルの時間が濃厚過ぎてお互いのプライベートにまで干渉する暇がないのだろう。それに練習が終わった夜にも集まって配信したりもしてるし、そういった意味ではやはりスクールアイドルとして一緒にいる時間が長すぎるって、もはやそれすらもプライベート扱いってことかもしれない。

 

 そんな感じで和気藹々と会話をしながら調理を進めていき、遂に揚げるフェーズに入った。

 170℃に熱した油の海の中に鶏肉を投入する。衣を現在進行形で構築するその揚げ音は、夜のこの時間に聞く音楽としては世界中のどんな曲よりも最高に耳に響いた。

 

 

「この音、やべぇな……!!」

「う゛んっ! 本来は夜に聞いてはいけない音を、こうして耳に入れる背徳感が半端ぱねぇ!!」

「気持ちよく眠れそうな音。ボク、これから寝る前にこの音を聞いて寝るよ」

「まだだ、まだここから伸びるぞ。この音は……!!」

「神崎さん、珍しくテンション上がってませんか……?」

「当たり前だろ。夜食の揚げ物っつう禁忌が今にも出来上がりそうなんだ、昂らないわけがねぇ」

「ホントに美味しそうなんだけど!? はしたなく涎が出ちゃいそう……!!」

「梢センパイ、スリーズブーケの曲にこの音を取り入れましょう……!!」

「それは夜食の魔力に囚われ過ぎよ……。ドキドキしてしまうのは確かだけれど……」

 

 

 あの品行方正で真面目な乙宗ですら心を揺さぶられるこの音。ここまででも夜食の魔力は凄まじい力を発揮して女の子たちを誘惑してきたが、その力の最高潮がまさに今だ。背徳性があるのに女の子をこれだけ夢中にさせるなんて、不良やヤリチンみたいな暴力的な男がモテる理論と変わらねぇな。夢中にさせるという観点で言えば、そこらの男子よりもからあげを揚げている時のこの音の方が女子は振り向くだろう。

 

 なんて、俺も柄にもなくテンションが上がって変なことを考えてしまった。

 大人から子供の姿になった俺だけど、こうして女子高生たちと夜食調理に夢中になっているのを客観的に見るともう同年代と変わらない気がする。意外と満喫しているのかもしれない、この生活を。

 

 

「神崎、そろそろこの子たち救い出してもいい頃じゃない?」

「ここから更に揚げるんだよ」

「二度揚げ!? 神崎くんヤンキープレイが過ぎる!!」

「なんなら3回揚げてもいい」

「そんなことをしたら油が凄すぎて身体に毒すぎますって!」

「バカ、ここに来て罪を感じてどうすんだよ。夜食を食うってだけでもギルティなのに、それが揚げ物と来て、しかも食材を盗み出してんだ。もはやどれだけ罪を重ねても刑罰は変わらねぇよ。なぁ日野下」

「そうだね。いくら食べても太る道に足を踏み入れたのなら、もう諦めて食べまくるしかないよ! それにどうせ食べるなら圧倒的にギルティなやつがいい!」

「もうっ、花帆さんを乗せないでください!」

 

 

 懲りずにツッコミをやめない村野だが、同級生の日野下と大沢が俺に同調しまくっているのでもはや味方がいない。つうか今更太る太らない問題を持ち出すのはナンセンスだろ。もう堕ちるところまで堕ちてんだ。下を見て気にすることなんて何もないんだよ。

 

 

「村野、今何時だ?」

「もうすぐ日付が変わりますけど……」

「いい時間だ。遅い時間の夜食って事実は、どんな調味料よりも最高のスパイスになる。遅ければ遅いほどいい」

「最高! 最高だよ零くん!」

「テンションが高くてついていけない……」

 

 

 7人分を揚げ終わったので、これまた盗んできた大皿に盛りつける。流石に三度揚げはしなかったがしっかり二度揚げをし、衣のカリッサクッ具合が目に見えて分かるくらいになった。

 盛り付けている間にも我慢できそうにない日野下たちに飛びつかれそうになるが、理性の最終ラインを必死に守るように諭し、遂に盛り付けた大皿がテーブルの真ん中に置かれる。

 飲料水と箸、取り分け用の小皿の準備も完了。みんなが手始めに1つずつ箸を伸ばし、からあげを小皿に乗せる。

 

 そして――――

 

 

「「「「「「「いただきます」」」」」」」

 

 

 食事前の儀式をコールし、全員が一斉に油と鶏肉の塊を口に入れる。

 からあげの味なんて誰もが知っている。珍しくもないし、何か特別な味付けをしているわけでもない。

 

 だが、夜の魔力と背徳の味。この煽りを受けたからあげの味の美味さは世界中どの珍味よりも遥かに上回っていた。

 

 

「んっ……くぅううううううううううううううううううう!!」

「藤島。どうしてテーブル叩いて」

「麻薬! 麻薬だこれ! この時間に食べるこの味、至高すぎるぅ~!!」

「ルリもずっと待ってたよこの味。イケナイものを食べてるこの感じはヤヴァイ!」

「おいしい。ずっと食べていられるね、さや」

「えぇっ!? ずっとは怪しいですけど、まぁ……皆さんが舞い上がる気持ちは分かる気がします」

「これから毎日夜食で揚げ物! いいかもねさやかちゃん!」

「そこまでは言ってません!!」

 

 

 流石にここまで抵抗を続けてきた村野も、夜の味を知ってしまうと堕ちざるを得ないか。藤島や大沢はもう唸りながらバクバク食ってるし、これが現役JKスクールアイドルの姿だなんて配信じゃ絶対に見せられねぇな。

 

 そういや、乙宗だけ喋ってないような……。

 

 

「って、お前結構食うの早いな」

「えっ!? ち、違うのよこれは! 決して魔力に負けたとかではなく、個数単位であるのだから一人何個食べるかのノルマが課されているからで、私は他の人に自分のノルマを押し付けたくないだけで……」

「美味いなら美味いって言えよ。ここにはもう罪を重ねた奴しか存在しない、いわば犯罪者集団だ。つまり何でもアリの無法地帯。自分の欲望を吐き出しても誰もが受け入れてくれる」

「そうね。だとしたら――――美味しいわ、食べても止まらないくらいにね。一応弁解しておくと、放課後からずっと練習と宿題続きで疲れていたから、それで空腹になっていただけよ」

「はいはい。結局欲望に忠実になったってことだろ」

 

 

 食べる姿も上品な乙宗だが、実は結構食ってる。欲望を曝け出して抑える必要がなくなったのか箸が進むスピードも少し上がったようだ。

 

 

「マヨネーズもある。かけるか?」

「余計に太りますよそれ!」

「わ~い」

「綴理先輩! もうこれ以上はダメですからね!」

 

 

 そんなこんなありつつも、7人でからあげを全て平らげた。

 材料の量がギリギリだったためか7人分にしては少なかったが、夜食としての量であればこれでも大満足。あっという間に皿から消え去った。

 

 全員が欲望を満たし、後片付けの体制に入った。ぶっちゃけこの満足の余韻を残したまま寝たかったのだが、流石に油がこびりついた調理用具や皿を放置することはできなかったので渋々片付ける。

 そんな中、夕霧が俺に声をかけてきた。

 

 

「この小瓶は……お薬? れい、どこか悪いの?」

「あっ、いや、ただの栄養剤だよ。気にすんな」

 

 

 あぶねぇ。それは秋葉から貰った飲むと大人の姿になれる錠剤だ。残してきた他の女の子たちとビデオ通話をする際にこの小さい姿で映るわけにはいかないので、その時のみこれを飲んで大人の姿に戻る。

 そういや夜食を食う前まで通話をしていて薬を置きっぱなしにしてたの忘れてた。正体を知られるわけにはいかないから管理はしっかりしておかないと。結構ボロ出しちまってるから秋葉もヒヤヒヤしており、そのたびに警告を入れられるのでもうちょい気を引き締めるか。

 

 片づけをしている中で、日野下が笑顔で話しかけてきた。

 

 

「零くん! 今日は楽しかったよ、ありがとう♪」

「またそれか。大したことしてねぇよ」

「うぅん、これも思い出だよ! あたしたち6人の頃ではできなかったことだもん。だから零くんがいてくれたからこそだね!」

「そうか。だったら素直に受け取るよ、その感謝」

 

 

 スクールアイドル病を治すってミッションが完了したら即ここから立ち去るつもりだ。この姿でコイツらとどれだけ一緒にいられるか分からないけど、どうせ逃げることはできないんだ、子供に戻ったのなら戻ったでこの姿でできることを楽しんだ方がいいのかも。

 

 と、日野下の笑顔を見てそう思った。

 




 一応ほのぼの日常回のはずだったのですが、零君も含めみんなのテンションがおかしな方向に高くなっていたような気が……。
 彼も早く大人に戻りたがってはいますが、意外と子供の姿を満喫しているという……ね(笑)


 次回は2年生回の予定です。




【キャラ設定集】※更新版
零から蓮ノ空キャラへの呼称(そのキャラへの印象)
・日野下花帆 → 日野下 (やっぱり笑顔が好き)※更新!
・村野さやか → 村野  (ツッコミご苦労さん)※更新!
・乙宗梢   → 乙宗  (意外と食べる)※更新!
・夕霧綴理  → 夕霧  (薬が見つかった危ない)※更新!
・大沢瑠璃乃 → 大沢  (テンション壊れてた人その1)※更新!
・藤島慈   → 藤島  (テンション壊れてた人その2)※更新!

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零くん  (? 楽しい時間をありがとう!)※更新!
・村野さやか → 神崎さん (52→55 テンション高くないですか?)※更新!
・乙宗梢   → 神崎君  (45→48 割と楽しかった)※更新!
・夕霧綴理  → れい   (58→60 夜食にハマりそう)※更新!
・大沢瑠璃乃 → 神崎クン (53→55 ヤンキープレイいいじゃん)※更新!
・藤島慈   → 神崎   (35→38 不良っぽさをより感じた)※更新!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

口の利き方を叩き込む

 転入生活6日目。今日は転入してから初めての休日である。

 ただせっかくの休日なのに昨晩の夜食会で騒ぎ過ぎた影響か、午前中はぐっすりと眠ってしまって1日を無駄にした気分だ。だけど何気ない日常をアイツらと一緒に過ごしたって観点では、俺に対する好感度を上げることができた(と思う)ので結果オーライかもしれない。アイツらと仲良くなることが例の問題解決に向けての一番の近道だからな。

 

 例の問題、それはこの学院のスクールアイドルに巣食う病気である『スクールアイドル病』のことだ。

 スクールアイドルの子の身体のどこか、通常では周りから見えない部位のどこかに傷ができる。それは周りの人間は愚か本人も認識できず、痛みもない。ただその傷は時期が経つにつれて徐々に広がっていき、やがては全身に侵食して身体の崩壊を招く。

 どうしてそんな病気があるのかは知らないが、秋葉によるとどうやらこの学校のスクールアイドル、つまりあの6人の誰かがその病気にかかっているということだ。

 知っているのであれば早く治してやれよと言いたいが、どんな運命なのか不幸なことなのかその傷とやらは俺にしか見えないらしい。しかも手の甲など日常で目視できるところに傷は付かないらしいので、その子を裸に引ん剝くしか確認方法がない。裸を見せろなんて言ったら好感度が低い状態では通報されかねないので、だから治療より先に好感度を上げる必要があるんだ。

 

 ただ、残念ながらアイツらが俺に向ける好感度はそれほど高いとは言えない。

 そりゃそうだ、女子高にいきなり男子が入って来るなんて何か裏があるに決まってる。だからアイツらもそれを警戒しているのは分かる。唯一1人だけやたらと俺との距離が近い奴がいるが、脳内お花畑っぽいから警戒心はゆるゆるなんだろう。

 

 そんなわけで、昨晩みんなでバカ騒ぎしてたけどお互いの距離を少しでも縮められたいい機会だった。

 ま、最初から狙ってたわけじゃなくて、俺がただ夜食にからあげを食いたくなった結果がアレなだけだが……。だからこそ結果オーライなんだよ。

 

 そういった事情があって、好感度のためにはアイツらと一緒にいる時間を増やした方がいい。いつもだったら休日にまで練習に足を運ぶことはないが、これも仕方のないことだ。

 今日は土曜日だが午後は練習があるとのことで、部室にやって来たのだが――――

 

 

「あれ? 日野下たちは来てねぇのか?」

 

 

 部室には2年生しかいなかった。お茶を飲んでのんびりしているようだが、乙宗と藤島は呆れた様子でこちらを見つめていた。

 

 

「まずは『こんにちは』でしょう、全く……。花帆さんたちは昨日あなたが盗んできた材料を調理室に返しに行ってるわ」

「えっ、なんで?」

「罪悪感じゃないの。あんたの代わりに返しに行ってるんだから、戻ってきたら感謝するよーに」

「たかが数人分の材料なんて、向こうはいつも百単位で作ってんだから誤差だしバレねぇって」

「れいって、ろんりてき? だよね」

「ただいい加減なだけでしょ」

「うるせぇ」

 

 

 俺は何も気にならないけど、アイツらは良心が痛んだか。昨晩は深夜テンションでハイになってたから気にしてなかったけど、寝て起きて冷静になったら気になり過ぎたから正直になろうってパターンだろう。まだまだ青春時代駆け出しの高校1年生だし、そこまではみだし切れなかったようだ。

 

 

「とりあえず、練習は花帆さんたちが戻ってくるまで待つことにしたわ」

「んじゃ俺も何か飲むか。コーヒーでも入れてくれ」

(わたくし)はあなたのメイドではないのだけれど……」

「エスプレッソ、フルシティロースト、お湯の温度は95℃、あとはお前の力量に任せた」

「暗号みたいでボク全然分からない」

「細かいわね……。残念ながら、部員でコーヒーを飲む人がいないから用意してないの」

「品揃えわりぃなこの店」

「喫茶店でもないのだけれど……」

 

 

 今思えば部室のくせに色んな種類のお菓子や飲み物が存在していた学校の方がおかしいか。これまで関わって来たスクールアイドルの部室には漏れなくそれがあったので、今もそのノリで注文してしまった。

 そもそもスクールアイドルって体型がモロに注目されるのに、太りそうな要因を部室に蔓延らせておくって結構意味わからねぇな……。

 

 そんなことを考えていると、藤島がこちらをジト目で睨みつけていることに気が付く。

 コイツが俺のことに呆れた目を向けるのは出会った時からなのでもう慣れた。でも今回はやたらと圧が強い気がする。

 

 

「なんだよ」

「相変わらず上級生に対して口の利き方がなってないなぁ~と思って」

「もう1週間も経ってんだ、そろそろ慣れろ」

「今ここに他の1年坊主たちはいない。だからここらでちょいと分からせちゃおっかなぁ~」

「めぐ、後輩いびり?」

「躾だよ。し・つ・け」

 

 

 藤島が腕を組みながら俺を見下ろす。秋葉の薬で背が縮んでしまった影響で、2年生の中でも背の低い藤島にすら身長が届かない。なんとも屈辱的な絵面だが、年下にこんな舐められた態度を取られたらコイツのオラついた性格を考えればそりゃ頭に来るか。本当の年齢を言えないのがもどかしいな……。

 

 

「生意気な後輩に力の差を分からせてあげるよ――――梢がね!」

「えっ、私?」

「クラブで一番の圧力を持つ梢こそ、後輩分からせ要員に相応(ふさわ)しい!」

「慈。あなた、私をそういう風に見ていたのね……」

「ほらこういうところ! すぐ真顔で威圧してくる! 綴理もそう思うでしょ!?」

「飛び火した……。ノーコメンツ」

「なぜ複数形なのよ……」

 

 

 まぁ藤島の言わんとしていることは分かる。日野下も俺にこっそり漏らしていたが、乙宗の圧は確かに重い時がある。見た目もお嬢様で性格も厳粛で、自分に厳しいためか雰囲気もお堅いと思われがちだ。実際には後輩には甘々なのでその見方は間違っているのだが、同級生にはやたらと辛辣なところもあるので藤島はその部分を指しているのだろう。

 とはいえ、辛辣なのはどちらかと言えば対抗心よるものなので、意外にも可愛いところがあるのが彼女だったりする。

 

 そんなわけで優雅にお茶をしていたところを藤島に無理矢理引っ張り出された乙宗。

 一体何をしようってんだと思っていた矢先、藤島は背の高い小さなテーブルを俺と乙宗の間に置く。

 

 

「力を見せ付けるためには力比べで圧倒的に勝利する。だから――――腕相撲だよ」

「はぁ?」

「力を見せるって、本当に文字通りの意味だったのね……」

 

 

 いつもの口喧嘩レベルの争いかと思ってたらマジでやんのかよ。しかもこんな古典的な勝負で、更に自分の勝敗を同級生に預けて高みの見物ってやることやってんなオイ。

 

 

「だってコイツ、頭もいいし機転も利くし、頭脳勝負だったら間違いなく勝ち目ないもん」

「れい、とっても頭いいもんね」

「そもそもあなた、頭の勝負だったら1年生たちにも負けるのではないかしら? 赤点ギリギリばかりでスクールアイドルの練習すら参加が危うかった記憶しかないわ」

「うるさいうるさい! 今は私のことはいいの! 今日こそ生意気な後輩を徹底的に叩き潰して、目上の人への礼儀を分からせてやるんだから!」

「部に戻ってきた頃のめぐみたいだね。休部している間に軟弱になったこの部を更生するとか言ってた」

「だから私の話はいいの!」

 

 

 自分のこと棚に上げすぎだろコイツ。流石は蓮ノ空のギャグキャラ要員、過去に関わって来たギャグキャラの面影が思い浮かぶこと浮かぶこと。

 

 

「腕相撲はいいけど、女の子相手だったら流石に負けねぇと思うぞ。歳の差があるとは言っても男と女だし」

「あら、勝てると思っているのかしら?」

「むしろ負けねぇって思ってんのか?」

「なるほど。慈の案に乗るのは癪だけど、これはやるしかないみたいね」

「どんな形であれやってくれればいいよ。じゃあ2人共、テーブルに肘をついて」

「こずもれいもがんばれ~」

「ったく……」

 

 

 夕霧の覇気のない応援に力が抜けそうになりつつ、テーブルに肘をついて乙宗と手を組む。

 第一印象で手が暖かい。セクハラ発言の様に思えるが、手のひらと言えども実際に肌を合わせているのだからそう思っても仕方がないだろう。それにやはり指も腕も細い。鍛えているとのことだが、男女差も考えても最悪同等レベルだろう。握ってくる手の握力もそれほどではなく、むしろ柔らかい。

 

 だが乙宗も余裕そうだ。そこまで力に自信があるのか。相手が男と言ってもまだ中学生に上がったばかりのガキだからって舐めているのか。

 また、男に手を握られていると言ってもそれに対し何か異性を思わせる感情は抱いてないっぽい。まあ俺の見た目もガキだし、好感度もそれほど高くないしで異性に思われる要素が少ないからそりゃそうだろって話だが、直近で担当していたグループである『Liella』がこういった身体接触に悉く耐性のない奴らばかりだったのでコイツの反応が新鮮ではある。とは言ってもこれが普通なんだろうけども。

 

 

「スリーカウントで始めるよ。スリー、ツー、ワン、ファイ!!」

 

 

 開始と同時に俺は乙宗の手を軽く捻り倒そうとする。

 しかし、動かなかった。ある程度の力を入れているのにも関わらずビクともしない。

 鍛えている影響が想定以上に大きかったのかと思い、今度は本気で力を入れてみる。

 

 しかし、動かない。

 その瞬間、俺の手を握る彼女の握力が大幅に上がる。

 あまりの出来事から一瞬動揺している隙に、思いっきり手の甲をテーブルに叩きつけられてしまった。

 

 

「いってぇ!!」

「あっ、ゴメンなさい神崎くん! 大丈夫!?」

「梢のかちぃ~!!」

「わぁ~ぱちぱちぱち~」

 

 

 圧倒的敗北。乙宗も意外とあっさり俺を倒せたことに驚いているのか、力加減を完全に間違えていたようだ。その結果俺の手の甲が赤くなってしまったため、心配してか再び手を握ってくれた。もちろん今回は優しく柔らかく、労わるようにだ。

 

 

「全然接戦でもなんでもなかったじゃん。口ほどにもなかったね、神崎後輩♪」

「どうしてお前が嬉しそうなんだよ……。つうか、想像の何倍も力が強かった。すげぇ握力で握られた時なんて、プロのファイターと組んでるみてぇだった……」

「それは分かるかも。私みたいなか弱い可憐な女子には持てない荷物も、梢は汗1つかかずに軽々運んじゃうからね」

「ボクもこの前こずに怒られてるときに肩を掴まれて、危うく脱臼しそうになった」

「ちょっと人をゴリラみたいに言うのはやめなさい!」

 

 

 あまりにも一般女子からかけ離れたエピソードが飛び出してきたせいで、乙宗は慌てて会話を遮る。でもあの時に感じた握力は間違いなくその年代の一般女子には出せない力だった。鍛えてるって公言していたのもあながち誇張ではなかったようだ。

 

 にしても、この姿って俺の思った以上に非力だったんだなとしみじみ感じた。成年男性の身体と比べて筋力が衰えているのは当然分かってはいたが、いざこうして力の無さを突き付けられると自分がマジモノのガキになってしまったのだと実感させられる。中学1年生とは言ってもその中でもかなり小柄な背丈で、もちろん成長期も来てないので力がないのは仕方ないと言えばそうなんだけどさ。

 つうか、年齢が若くなってるけどまた成長期って来るのかこれ? いやそんなのが来る前にこの学院でのミッションを終わらせて、元の姿に戻りたいところだ。

 

 

「どう神崎? 梢の馬鹿力をその身で感じて上級生のパワーってものを思い知ったでしょ? もう参ったする?」

「だから、馬鹿力ではないから。ない……わよね?」

「上級生つっても、思い知らされたのは乙宗の力なのであってお前の力じゃねぇからな」

 

 

 虎の威を借りる狐とはまさにこのこと。力でねじ伏せようとするのはコイツが愉快なお(つむ)、いやおバカさんだから他に良い手が思いつかないだけか。

 

 

「じゃあ綴理にも分からせ役をやってもらおうかな」

「ボク? ボクは平穏に過ごしたいから戦いはヤダ」

「じゃあ背の高さで勝負。はいこれで綴理の勝ち。これでいい?」

「やった。勝利のブイ」

「雑だなオイ。でも身体的特徴で競うのはどうかと思うぞ。最近の世間はそういうのに敏感なんだ」

「そうだね。じゃあれいは背伸びしていいよ」

「いや見なくても分かるだろ。それでも勝てねぇから絶対」

 

 

 的外れのアドバイスに脱力してしまう。

 コイツっていつも発言がふわふわしていたり、素っ頓狂だったりするから笑える時もあればこうして力が抜ける時もある。いわゆる一緒にいると時の流れが遅く感じる系人間なのだが、スクールアイドルとしてステージに立つと人が変わったかのように動きが機敏になる。やる時のみやれる人間、こういうのを天才っつうんだろうな。そういう実力があるからか、村野がコイツから技術を盗もうと何だかんだ世話を焼くわけだ。

 

 

「測ってみなきゃ分からないよ。くっつけば大体分かるかな」

「えっ?」

「「えぇっ!?」」

 

 

 なんと、夕霧がいきなり俺の後ろに密着してきた。

 いや密着程度ならまだ可愛いものの、何故か俺の腰に腕を回してくる。こうすると後ろから抱き着かれる形となるが、それだけでもまだ可愛い方で、今度はそのまま持ち上げられてしまった。

 

 

「おお~、れいって軽いんだね」

「ちょっ、放せ!」

「つ、綴理!? 早く降ろしてあげなさい」

「背の勝負とは言ったけどそこまでしろとは言ってないから!」

「そっか。なんか簡単に持ち上げられそうだったから、つい」

「つい、でやることかよ……」

 

 

 夕霧は2人に諭されて俺を降ろした。

 コイツこそ力がなさそうなのにあれほど軽々持ち上げるなんて、俺の身体ってどれだけ軽いんだよ。小柄で筋力がないからってことなのか? ちょっと悲しくなる事実だな……。

 

 にしても夕霧の奇行には驚いた。いつも突拍子もない発言はするけど、行動は割とまともなこともあるので今回どうしてこんなことをしたのか意味が分からない。ただの好奇心なだけなのか……?

 

 

「中学生とは言えども異性なのだから、いきなり抱きしめたりしたらいけないわ」

「れいが可愛かったから、思わず衝動的にやってしまいました。ただ反省はするけど後悔はない」

「ちょっとカッコよくキメてんの腹立つ……」

 

 

 可愛いかぁ? やっぱり小さいとそう見えんのかな?

 秋葉も俺の身体検査をする時にいつも『子供の頃のキミに戻ったみたいで可愛い』って言ってくるし、こっちの姿はこっちの姿でモテる可能性はあるかもしれない。まぁ今はどちらかと言えばクソガキにしか見えてないだろうけど……。

 

 

「可愛いって、めぐちゃんの方が可愛いけどね」

「お前の可愛さと俺のは違うだろ。それに可愛さってのは競うものじゃねぇよ」

「ふ~ん、結構分かったような口利くんだね」

「分かるさ、女の子の可愛さはな」

「…………」

 

 

 今までのおふざけとは違い、真剣な言葉で返した。

 藤島は何も言い返してこず、こちらをじっと見つめたままだった。いつもなら即レスしてくるが、どうやら言葉の重みを彼女も感じ取ったようだ。

 そりゃ女の子との付き合いは長いし、魅力的な女性の笑顔を見ることを人生の目標にしている俺からしたら、その子の可愛さを本人よりも良く知っている。もちろんそれは藤島に対してもそうであり、誰かと比べられるものじゃない。その考え方には絶対的な自信があり、さっきみたいに誰かに生意気な口を叩かれる筋合いは一切ないし、させることすら許さない。だから柄にもなくシリアスになってしまった。

 

 

「はぁ……なんかどうでもよくなってきちゃった」

「自分で言いだしておきながらかなりの言い草ね……」

「ま、生意気な後輩っていうのは躾甲斐もあるしね。今後の調教を楽しみにしておくといいよ」

「減らず口だなお前……」

「みんながまた仲良くなってくれたみたいで、ボクは満足」

「お前ともな」

「うん、仲良くなった」

「なったの、これ?」

「なった……のではないかしら?」

 

 

 微妙なところだが、俺としては2年生だけとこうして交流する機会はこれまでなかったので有意義だった。どうしても同級生である日野下たちと一緒にいることが多いから、割と貴重な時間だった気がする。休日にまでここに来た甲斐があったってものだ。

 

 好感度が稼げたかどうかまでは不明だけど、また1つ俺と過ごした時間をコイツらに意識付けすることはできたと思う。結局お互いを意識するのは心境が変化するほどのビッグイベントが発生するのが一番だけど、こうして一緒に過ごした何気ない時間の積み重ねも大事だからな。そういうものだろ、距離の詰め方ってのはさ。

 

 

「そういや、めぐだけれいと勝負してない」

「そうだけど、もう別にいいって」

「確かに、私たちがやったのであればあなたもやるべきよ。あ、ちょうどいいところに花帆さんが忘れていった数学の教科書があるわね」

「わざとらしく言っちゃってぇ!! 最初からこれを狙ってたでしょ!?」

「それでは、慈は神崎くんと数学の勝負ね」

「いやぁあああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 苦手分野での勝負に始まってすらないのに藤島の悲鳴が上がる。

 

 

 結果は言うまでもない。ボコボコにしてやった。

 でもこれ、好感度下がってない? 大丈夫だよな……?

 




 無理に敬語を使わせるのも良くないですが、相手が自分の尊敬するに足りえないと分かると基本上から目線になる彼の性格にもそれなりに問題がある気がします(笑)
ただ蓮ノ空のシチュエーションに限っては実年齢は年上なので、そこは小さくされてしまって同情するしかないかも……


 次回はちっちゃい生徒会長が登場予定!




【キャラ設定集】※更新版
零から蓮ノ空キャラへの呼称(そのキャラへの印象)
・日野下花帆 → 日野下 (やっぱり笑顔が好き)
・村野さやか → 村野  (ツッコミご苦労さん)
・乙宗梢   → 乙宗  (ゴリラパワー)※更新!
・夕霧綴理  → 夕霧  (一緒にいると脱力する)※更新!
・大沢瑠璃乃 → 大沢  (テンション壊れてた人)
・藤島慈   → 藤島  (ギャグキャラか?)※更新!

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零くん  (? 楽しい時間をありがとう!)
・村野さやか → 神崎さん (55 テンション高くないですか?)
・乙宗梢   → 神崎君  (48→49 非力な彼に少しドキっとした)※更新!
・夕霧綴理  → れい   (60→61 可愛いし軽い)※更新!
・大沢瑠璃乃 → 神崎クン (55 ヤンキープレイいいじゃん
・藤島慈   → 神崎   (38→39 頭の良さだけは認める)※更新!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

風紀を乱す輩

 転入生活8日目、早朝。転入して2週目の月曜日。

 こうして寮から校舎へ行くのも慣れ、いよいよ自分が本当は大人で教師だってことを忘れそうになるくらい学校生活に馴染んでいた。寮生活は初めてなので新鮮味はあるのもの、一通り平日と休日を過ごしたので目新しさもなくなった。新しいことへの適応が早ければ、それに対する飽きも早い。俺の性格がここでも遺憾なく発揮されている。

 

 それに、この小さい身体にも慣れてきた。最初の頃は大人の頃と同じような力を発揮できずに力量を見誤ることがあったけど、先日の乙宗たちとの分からせ勝負を経て、今の自分が如何に非力なのかを実感した。そして中学1年生にも満たない背丈のせいで何かと下に見られたり可愛がられたりと、今まで自分が誰よりも上というポジションを活かして保っていた尊厳がなくなってやりにくかったが、今やその不慣れさにも適応しつつある。

 我ながら女子高へ転入&子供化というダブルハプニングの中よくやってると自画自賛したくなるが、たまにボロを出しそうになるところだけは直さねぇとな。

 

 

「あっ、零くんだ! おはよーっ!」

「神崎クン、うぃーっす!」

「日野下に大沢か。おはよう」

 

 

 後ろから騒がしい2人に話しかけられて、未だに寝起きな俺の意識を一気に目覚めさせる。月曜の朝だから誰もが陰鬱なはずなのにテンションの高い奴らだ。それもコイツらが月末に定期的に配信しているFes×LIVEとやらが近く、やる気が上がっているが故のなのかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、何故か2人が俺を挟むように歩いているのに気が付く。

 なにこのポジション? つうか俺が一番身長が低いせいで、ガキのお守りみたいになってるのなんか腹立つな。しかもなんかにこやかだし……。

 

 

「なにニヤニヤしてんだよ気持ちわりぃな」

「いやぁ朝から零くんに会えるなんて、今日は絶対に運勢最高だと思って!」

「別に同じ教室なんだから、いつも朝から会ってるだろ」

「そういうことじゃなくて!」

「ルリは美少年の神崎クンの隣にいれば、女子としての格が上に見られると思ってここにいるのだ!」

「井戸端会議で夫の職業でマウント取り合ってる主婦みてぇだな……」

「あはは! そんなカンジ! 一緒にいるだけでルリも一目置かれるみたいな? ステータスだよステータス!」

「俺はゲームの称号かよ……」

 

 

 コイツら俺のことをなんだと思ってんだ……? なんか利用されてる気もするが気のせいだと信じたい。

 これは好感度が上がっていると捉えていいのか微妙なところか。少なくとも隣に来るってことは嫌悪はしてないはずだ。ま、コイツらは元々俺に悪い印象は抱いていなかったっぽいし、利用されてるとしても近くにいてくれるだけで交流の機会は増える。それすなわち、どこかでスクールアイドル病の元凶である身体の傷を見つけられるタイミングがあるかもしれないってことだ。だから今は焦らず無難な交流を続けておけばいい。

 

 そんな中、またしても聞きなれた声がする。

 

 

「もう綴理先輩! 寝ながら歩かないでください!」

「ゴメンなさい、さやかさん。綴理の面倒見を押し付けてしまって」

「いえ、義務みたいなものなので」

「それにしても、ミミズの行進を見てたら夜更かししたって綴理らしいっちゃ綴理らしいけど……さやかちゃんがいなかったらどうなってたことやら」

「大丈夫です慈先輩。もうモーニングルーティーンみたいなものなので慣れました」

「すぅ……すぅ……」

 

 

 また朝から騒がしくしやがって。スクールアイドルの奴らってのは静かにできないものかねぇ。過去に俺と一緒にいることで問題児扱いされることはあったけど、その逆もまた然りだからな?

 

 

「あっ、れいだ」

「起きた。でも神崎さんが目に入った瞬間って……」

「梢センパイたちだ! おはようございます!」

「おはよう。今日も朝から元気ね」

「ていうか、登校からみんなが揃うのって何気に初めてじゃん!」

「確かに、私が復帰してからこんなことなかったかも」

「ほらやっぱり! 零くんがいたからあったよ、いいこと!」

「全員集合ごときで大袈裟な……」

 

 

 朝くらいは寝ぼけと覚醒の狭間の心地良さを感じながらゆったりするのがちょうどいい。だからこうして騒がれると、脳がまだ半分寝てるからやたらと響くんだよな。

 

 こうして何故か全員集合で登校することになった。俺の隣で後ろで賑やかに。

 思い返せばいつもこうだ。音ノ木坂でも浦の星でも、虹ヶ先でも結ヶ丘でも、俺のポジションはいつも通り。小さくなっても女の子の中心にいる生活は何ら変わらないらしい。

 

 その証拠はコイツらに囲まれてるって意外にも――――

 

 

「零君おはよーっ!」

「あぁ、おはよう」

「零くん今日も勉強教えてね~」

「あ、あぁ」

「零さん! 髪型を変えてみたんだけど、どうかな?」

「いいと思う。可愛いよ」

 

 

「神崎君、物凄い人気ね……」

「いつもこうなの?」

「はい! 零くんは人気者ですよ!」

 

 

 こうして色んな女の子に話しかけられる。

 まあこんな牢獄のような学校で更に同性しかいないから、美少年が入ってきたらそりゃ気になるだろって話ではある。ただ見た目が子供だから恋心を抱いてるってのはなさそうだけどな。イケメン子役の熱狂的ファンみたいな感じだろう。それかマスコットみたいに可愛がられているかのどちらかだ。

 

 

「その影響かは分かりませんが、最近おしゃれする人が増えたような気がします」

「分かる! もしかして神崎クンにアピールするためだったりして!」

「んなことあるかよ」

「でも、ボクのクラスでもれいの話をたくさん聞くよ」

「思春期の女子って恋愛には敏感なんだから」

「お前も思春期女子だろ」

「私は鋼のハートを持ってるからね。アイアン慈だよ」

「んだよそれ……」

 

 

 偏差値の高いお嬢様学校っぽいし、家柄もいい子が多いから男との関わりも少なかったのだろう。だからみんなのテンションが上がっているのかもしれない。身なりを整えたりおしゃれしたり、アピール方法が浅はかで可愛い方法なのが経験のない女子を彷彿とさせる。傍から見るとすげぇ浮ついてるように見えるけどな。

 

 靴を履き替えて校舎に上がる。

 すると、掲示板に生徒たちが集まっている現場に遭遇した。

 

 

「みんな集まってる。なんだろう?」

「直近で何か大きなイベントがあるわけでもないから、気になるわね」

「見に行ってみましょう、梢センパイ!」

「あっ、ちょっと花帆さん!」

「ほら、零くんも!」

「えっ、俺はいいって!」

 

 

 日野下に手を引かれて無理矢理掲示板の前まで連れていかれる。他の奴らも俺たちの後を追って人込みをかき分けて前へ出た。

 件の掲示物は今後のイベントを想起させるような心躍る代物ではなく、白地に黒文字とやたら質素なものだった。だがそれ故に賑やかな部活勧誘やらのポスターの中に紛れているため違和感があり、逆に目立つ。

 そして、そこに記載されていた内容を村野が端的にまとめて口に出す。

 

 

「要約すると、最近風紀の乱れが目立つ……ということでしょうか。明らかな化粧が目立つ人、香水の匂いが目立つ人、制服を着崩す人。他にも学校内で細かいながらも色々と問題が起きていること。すぐに何かを規制することはないとのことですが、即急に是正すること。以上が大まかな内容ですね」

「おい、もしかしなくてもこの風紀の乱れの原因って……」

「神崎クンじゃね?」

「そんなはっきりと言うなよ。てか、これ俺のせいなのか?」

 

 

 女の子の身なりが派手目になっているってのも伏線だったか。しかも校内で問題が起きてるってのも、以前に俺が危惧していた『事件が発生し過ぎて俺のせいにされる』現象が実際に起こっていることに他ならない。

 この掲示に元凶が誰なのかは名指しされてないけど、遠回しに圧力をかけられている気がする。

 

 

 するとその時、人混みの外からよく通る良い声が聞こえてきた。

 

 

「ほらほら、確認したら早く散った散った。もうすぐ朝礼だぜぃ?」

 

 

 ここにいた全員が黙ったので、ただの一般生徒ではないことだけは確かだ。

 人混みが道を開ける。生徒たちがそこまでするなんて相当な地位の奴に違いない。警戒を強める。

 

 そして、その道を通って現れたのは――――

 

 

「やぁ、初めましてだね――――少年」

「あん? 誰だよお前。てかちっさ」

「な゛っ!? こ、こら神崎君! なんて失礼なことを!」

「いてっ!? ちょっ乙宗、頭を掴むな!!」

 

 

 乙宗が俺の頭部を5本の指で掴む。しかも自慢の馬鹿力のせいで指圧が凄まじく、頭蓋骨が割れてしまいそうだ。

 かなり焦っているようだが、乙宗がここまで取り乱すのは珍しい。見れば日野下たちも目を丸くしており、俺がこの小さい子に向けた第一声が相当マズかったらしい。

 

 そう、小さい子。

 人混みの道から俺の前に現れたのは大沢より背の低く、俺と同じくらいの背丈の子だった。緑色の長髪にピンクと黄色の2つの髪留めをつけていて、瞳は琥珀色に近い深みのある黄色。小柄ながらに美人でありスタイルも良く、それでいて雰囲気がどこか大物のような尊厳さを感じた。

 

 

「あはは、噂には聞いていたけど初対面から結構なご挨拶だね。気に入ったよ」

「すみません、沙知先輩。あとでしっかり言い聞かせておきます」

「親かお前……」

 

 

 乙宗がここまで敬意を払うなんて相当な奴と見て間違いなさそうだ。見た目で侮るなってのは俺自身がそうだから分かってるけど、でも客観的に見て分かる。どれだけ威厳を見せ付けてもやはり低身長ってのはデバフだな。まず見下されて舐められる。そう、今の俺が『沙知先輩』と呼ばれるコイツにしているように……。

 

 

「あたしは大賀美沙知。この学校の生徒会長さ」

「生徒会長。なるほど、お前の登場でコイツらが黙りこくったのはそのせいか」

「それだとあたしが普段から恐怖政治をしているみたいじゃないか……。一応それなりの支持はもらっているはずだよ――――神崎零少年」

「知っているのか、俺のことを」

「もちろん。生徒会長だからねぃ」

 

 

 生徒会長の大賀美は腕を組み、その小さな身体で俺を見下すような目線を取る。

 なんか上から目線で腹立つと思ったけど、これって乙宗や藤島が俺に言ってたことと同じか。こうした態度を取られたことがなかったから分からなかったけど、傍から見たらこんな感じなんだな。確かにムカつくわ。治さねぇけど。

 

 

「んで? その生徒会長サマが一体なんの用だ?」

「神崎さん。わたしたちには最悪いいですけど、この方にだけは口調も態度もしっかりした方がいいんじゃないですか……?」

「問題ないよ、さやか。生徒会長って理由で萎縮されたり畏まられることが多いから、この子の攻めっ気のある気概は新鮮で面白いよ」

「さちに対しても全く怯まないね」

「もう言い聞かせておくとかそれで治るレベル超えてるね、神崎のやつ」

 

 

 後ろで失礼なことを言われている気がするが、今は大賀美との話に集中しよう。ここでコイツが俺の前に現れたってことは、やはりこの掲示の注意喚起が発生するようになった原因は俺だと思われているっぽいな。だからと言って俺が何かを正すことはないが、あまり暴れすぎると生徒会に目を付けられてスクールアイドル病の調査もやりにくくなる可能性がある。それだけは避けたい。

 

 

「少年。最近生徒たちの着衣の乱れやおしゃれが流行り、更には学校中で小規模ながらも問題が多発している。それはちょうど1週間前、キミがここに来たくらいで時期が一致する」

「あっそ。それで俺を糾弾しに来たってのか?」

「いんや。この声明を出したのは学校側であって、生徒会はただ張り紙を張っただけだからね。ただの仲介役だ」

「だったらどうして俺の前に現れたんだよ」

「そりゃ一目見たいと思うだろ。これだけ学校を賑やかにさせている、女子高唯一の男子生徒をね」

 

 

 どうやら問題の種はお前だと直接言いに来たわけではないようだ。この声明も学校側からでありコイツの意見ではないようだし、ひとまず今すぐに行動が制限されるなど罰則はなくて助かった。転入1週間で犯人扱い、下手したら退学とかそこらの不良生徒でももうちょっと素行はいいぞ。

 

 ただ、雰囲気的に単なる顔見せってわけでもなさそうだ。

 

 

「そうやって表向きは安心させておいて、裏向きは忠告の意味もあるんだろ?」

「ほぅ」

「お前は別に俺のことを問題視していない。だけど生徒会長って役職もあるからな、学校の決定にはある程度従う必要がある。それに生徒たちの風紀を守ることも。だから表向きは俺に挨拶しに来たと言いつつ、今後はあまり目立った行動をしないように忠告しに来たわけだ。これだけ人がいる前で現れたのがその証拠。大見得切って現れて生徒会長の存在を見せ付けることで、周りの生徒に声明を守らせよう抑制も兼ねてんだろ。でなきゃわざわざ周りに人がいて、注目されるこんな場所で挨拶になんて来ねぇよ」

「ふ~ん、なるほど。なるほどねぃ」

 

 

 なんか語尾がムカつくんだよなコイツ。煽ってんのかと思うけど、それは俺も同類なので同じ穴の狢だ。

 大賀美は俺に思惑を見抜かれたからか、軽く深呼吸をして笑みを浮かべた。

 

 

「お見事。心を読まれてるかってくらいだ」

「でも、それがお前の優しさなんだろ? 火が燃えているところにはなるべく風を立てず、ゆっくりコソコソと鎮火させていく。そんな勿体ぶったやり方、この中にも苦労させられた奴いるんじゃねぇか」

「凄い。れい、やっぱり凄いよ」

「あん?」

「沙知先輩の超メンド―な性格まで見抜いちゃうなんてね」

「苦労したと言えばしたわね、色々」

「お前らだったのかよ。これだけ人がいれば1人くらい面倒被ってた奴がいるとは思ってたけど……」

「あはは、あたしもスクールアイドルだったからね。今は『元』だけど」

 

 

 なるほど、俺が大賀美に舐めた口を利いたときにコイツらが焦ってたのは部の先輩だったからか。だとすると取り乱すし驚きもするわな。

 

 にしても、大賀美が生徒会長の器を持ってるってのは分かった気がする。まだ少ししか会話してないけど、生徒たちに慕われる器があるのは乙宗たちや周りの生徒たちの反応を見たら良く分かる。それに波風を起こさないように自分だけ裏で行動するそのやり口、まるで俺みたいだしな。俺みたい、つまりイコール『賢い』という方程式が成り立つんだから、必然的にコイツの評価も高くなる。

 

 

「あ、あのぉ、生徒会長……」

「ん? どうしたの花帆」

「零くんのこと、あまり怒らないであげてください!」

「えっ、いきなりどうした? 大丈夫大丈夫、別に彼のことをどうこうする気はないから」

「零くんはあたしやみんなに勉強を教えてくれるし、スクールアイドルの指導もしてくれて、あたしの友達たちが困っている時も手を差し伸べたり、何より一緒にいると自分も周りも笑顔にしてくれる、そんな人なんです!」

「花帆……」

 

 

 日野下の奴、俺が疑われていると思って刑罰を軽くしようとしているのか。いや、純粋なコイツのことだ、ただ単に俺にだけ注意が促されようとしている事実に居ても立っても居られなかったのだろう。その心優しさこそ、俺よりよっぽど人を笑顔にしていると思うけどな。

 

 

「ルリも、神崎クンが作るみんなが心の底から笑顔を見せる環境、とても好きだよ」

「そうですね。気ダルそうにしていながらも、なんだかんだ助けてくれるお人好しです」

「ユニットごとの練習にも、面倒そうにしていながら全てに顔を出しているものね」

「何事もしっかり話を聞いてくれて、反応してくれるところがボクは好き」

「ムカつくけど、それだけ私にとってもみんなにとっても有益なヤツなんだよ、先輩」

「だから別に彼を咎めてるわけじゃ――――え?」

 

 

 周りからも『財布を見つけてもらったとか』『猫の看病の仕方を教えてくれたとか』、様々な声が上がる。スクールアイドルクラブの奴ら以外からもそんな声がたくさん挙がって来ることに、大賀美は驚いているようだ。

 ぶっちゃけこの1週間は相当大変だった。ただでさえスクールアイドル病の解決とか訳の分からない奇病の調査をしてるのに、身体が小さくなったことに対してのストレスに加え、日野下たちとの交流に細かな事件の解決など、まるで物語を作るからイベントを詰め込んでやろうっていう詰め込み過ぎたゲームに振り回されるプレイヤーのような感覚だ。いつもいつも俺の周りにだけ回避不能イベントを配置しやがって……。

 

 

「たった1週間でここまで慕われるなんて……。魔性の男だねぃ」

「別に魅惑で虜とか、そんな胡散臭ぇ手なんて使ってねぇよ。ま、精々お前も俺にハマっちまわないように気を付けるんだな」

「あはは、面白いこと言うねぇ。でも先にハマるのは花帆たちの方かな」

「えぇっ、あたし!? ハマるってどういうことですか!?」

「顔紅いぞぉ? そういうことじゃないかねぃ」

「も~うっ、せいとかいちょ~っ!!」

 

 

 大賀美の奴、人を弄ぶ能力もたけぇな。こりゃ乙宗たちも相当振り回されてきたに違いない。

 ただ話の分かる奴なことは確かなので、秋葉以外にもSOSの際に相談できる奴が増えたってのは今回の収穫だ。

 

 大賀美沙知。人柄もいいし、頼る価値は大いにあるだろう。ただ勘が良さそうなので正体が疑われる行動だけはもっと慎んだ方がいいかもしれない。

 

 

「おい、もう行くぞ」

「あっ、待ってよ零くん!」

「先輩方、失礼します」

「また放課後に、じゃあにぃー!」

 

 

 1年生たちを引き連れて教室へ向かう。

 その俺の背中を、大賀美は見つめていた。

 

 

「なんだか、中学に上がりたてとは思えない風格だったよ。むしろ年上みたいだった」

「そうですね。私も時々そう思います」

「ふむ……。まぁ、気のせいか」

 




 てなわけで妙に人気のある大賀美紗知生徒会長が初登場しました!
 なんでもできそうなキャラに思えますが、秋のエピソードでコミュニケーション齟齬で意外と苦労してたところを見ると、彼女もまた思春期女子って感じがして可愛かったです(笑)

 それにしても、零くんが子供になっているせいで凄く失礼な子に見えるのが……。いやマジで失礼なんですけども(笑)

 ちなみにこの章の時系列ですが、まだはっきりとは決めていませんが、裏ではアプリの活動記録のストーリーが動いている前提で話が進んでいく予定です。
 ただ活動記録で描かれた問題をそのままこの小説で描くと零君がスーパーマンを発揮して解決してしまうので、相変わらずこの小説はオリジナルストーリーのみで進行します。





【キャラ設定集】※変化なし
零から蓮ノ空キャラへの呼称(そのキャラへの印象)
・日野下花帆 → 日野下 (※変化なし)
・村野さやか → 村野  (※変化なし)
・乙宗梢   → 乙宗  (※変化なし)
・夕霧綴理  → 夕霧  (※変化なし)
・大沢瑠璃乃 → 大沢  (※変化なし)
・藤島慈   → 藤島  (※変化なし)

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零くん  (?)※変化なし
・村野さやか → 神崎さん (55)※変化なし
・乙宗梢   → 神崎君  (49)※変化なし
・夕霧綴理  → れい   (61)※変化なし
・大沢瑠璃乃 → 神崎クン (55)※変化なし
・藤島慈   → 神崎   (39)※変化なし


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

瑠璃乃のモバイルバッテリー

「あぁ~クソ。秋葉の奴、ガキ扱いしやがって……」

 

 

 転入生活8日目の放課後。

 廊下を歩きながら、品行方正な淑女の学校の生徒とは思えない不似合いな汚い言葉を漏らす。

 遅くなったが、家で待たせている妹がこっちに荷物を送ってきてくれた。ここへは寝ている間に薬を盛られて連れて来られたので自分の荷物はほとんどなかったのだが、遂にそれが届いたのがさっきのこと。これで今まで備え付けのアメニティだけで生活している非日常感から解放され、自分愛用の日用品を使えることでようやくいつもの日常が戻って来る。身体が小さくなったのも女子高に唯一の男子生徒として潜り込むのも慣れ、更に日常まである程度取り戻せたとなると、いよいよ元の自分を忘れるくらいにここの生活に馴染んでしまいそうだ。

 

 ただ、1つだけ厄介なことがある。

 それは秋葉が俺のことをやたらとガキ扱いしてくることだ。そりゃ姉だから弟はいつになっても可愛いものかもしれないが、今のアイツは明らかに俺で遊んでいる。まあ遊ばれるのはいつものことだけど、俺がガキだった頃の服を送ってもらってそれを俺に着せようだとか、自分まで若返った気分とか言ってやたらとスキンシップしてきたりだとか、小さくなったこの身体が良い被検体なのか調査のために脱がすだとか、もうやりたい放題だ。

 しかも以前の乙宗との腕相撲で思い知らされたように、今の俺は軟弱で筋肉なんて微塵もないのでザ・リケジョのアイツにすら敵わない。そのため抵抗できずにむざむざ捕まってしまう。

 

 毎日でないにしろ、そんなことを定期的にされたらそりゃイラ立つだろって話だ。

 誰も周りにいないんだ、愚痴を言うくらい許して欲しい。

 

 そんなローテンションのままスクールアイドルクラブの部室に入る。

 ノックもなしに入ったが、特にみんなは驚く様子を見せない。もう俺の性格をそれなりに知っているからだろう。

 

 

「神崎君、今日は結構な遅刻よ」

「仕方ねぇだろ、秋葉が中々解放してくれねぇんだから」

「零くん、また保健室に行ってたの? 蓮ノ空(ここ)に来てから結構行ってるみたいだけど大丈夫?」

「体調不良とかじゃないから心配すんな。アイツが気にしてるだけだ、俺が唯一の男子生徒で学校に馴染めてるかってな」

 

 

 嘘だけど、コイツらに『身体が小さくなった影響で定期的に健康診断している』とは言えねぇよな。まあどっちかって言うとさっき話したみたいに別のことで拘束されてる時間の方が大半だけどさ……。

 

 

「でも神崎さんって、心配するまでもなくここに相当馴染んでますよね……?」

「あんた顔だけはいいからね。小学生の頃に女子に相当モテて、だから女子慣れしてるんじゃないの?」

「れい、意外とヤり手?」

「つ、綴理先輩! 失礼ですよ!」

「はは……」

 

 

 乾いた笑いしか出ないが、概ね合っているので何も言えない。

 小中高大、なんなら幼稚園時代も含めいずれも周りに女の子が多い環境で育ったので、そもそも女子高に身を置くことに対しては緊張なんてゼロ。アニメやゲームの世界線のような男子生徒1人で女子高に転入シチュは実際に経験して流石に最初はやや戸惑ったが、それも何の前触れもなくいきなり年齢を戻されてぶち込まれたからであり、女子高で生活自体には特に違和感はなかった。

 

 ま、家族からして父さん以外はヤベぇ奴らしかいない環境だから、異常な環境の中で生き抜くのは慣れてんだよ。一番厄介なのは実は身内でしたってな。

 

 そんなことを考えていると、またさっきの秋葉の笑顔が浮かんできて腹が立ってきた。明らかに遊んでやるという、自分の愉悦を満たすことしか考えてないあの顔。思わず殴って顔面を凹ませるところだった。

 

 イラ立つから座って落ち着こうと思ったのだが、ソファには大きい荷物が置いてあり、テーブルの周りの椅子も最近いくつか壊れて補充待ちなので、仕方なく近くにあった落書きされたダンボールに腰を下ろす。見た目的に中身が詰まってそうだから、座った瞬間に潰れてヒップドロップにはならないだろう。

 

 ……と、思ったのだが――――

 

 

「ふにゅっ!?」

「えっ、なに?」

「あっ、零くんそのダンボール!!」

 

 

 立ち上がってダンボールを見てみると、どんな仕掛けかぷるぷると震えていた。

 てかこれ、どこかで見たことあるような……?

 

 

「それ瑠璃乃ちゃんだよ! 今絶賛充電中!」

「充電? あぁ、これが例の……」

「そういえば神崎さんは見たことありませんでしたね。瑠璃乃さん、精神力を使い切るとそうやって1人で充電が完了するまで動けなくなってしまうんです」

「るりちゃんも周りに色々合わせ過ぎたり、過剰に様子を窺ったりしてるからね、そのせいだよ」

「また難儀な性格だな……」

 

 

 見た目も性格も表向きではパリピに見えるが、意外と陰キャっぽいところもあるのが大沢瑠璃乃。同じコミュニティの中で仲間外れは作りたくないって考えで、それ故に常に神経を尖らせないといけないからそりゃ精神もゴリゴリ削れるわな。

 

 

「タイミングを限定せずにこうなるんだろ? 日常生活ならまだしも、ライブとかイベントがある日にこうなったらどうすんだよ?」

「祈る。それしかないわね」

「私がいれば電池の消耗もかなり抑えられるんだけどね。ただイベントの規模が大きくなればなるほど私でも抑えられないくらい消耗が早いから、こればっかりは対策を考え中」

「るりの高速充電が必要。へなへな~ってなっても、すぐに元気ビンビンになるようなことをしてあげたい」

「どうしてちょっと官能的なんですか……」

「かん、のう?」

「い、いえ、分からなければいいです……」

 

 

 村野は少し頬を赤くしながら会話から離脱する。コイツ、もしかして意外とムッツリなのか? まあ今の本題はそこじゃないからスルーしてやるか。

 

 大沢のダウナー化現象はそれなりに深刻な問題のようだ。特に自分が主役となるライブイベントでは如何に精神力を保つかがポイントになっているらしく、なんならその維持に精神力を使ってしまうという負のスパイラルに陥ってそうな気もする。引きこもるための専用のダンボールまで用意してるっつうことは、有事の際にいつでも使えるようにしておけるためだろうしな。

 

 

「これを機に、瑠璃乃さんの充電切れを防ぐ方法を考えた方がいいかもしれないわね。慈がずっと付きっ切りでいるのは現実的ではないでしょうから」

「私がいても消耗は抑えられるだけで回復はできないからね」

「るりが気を遣わないようにみんなでわぁ~って、盛り上げる?」

「瑠璃乃ちゃんが誰にも気を遣わず、自分も一緒になって遊んで騒げる方法を考えるってことですね!」

「そんなこと可能なんですか……?」

「考えていることなら一応あるよ。めぐちゃん式るりちゃんの楽しませ方ってやつ。ちょうど最近誰かさんが入ったおかげでレパートリーも増えたしね」

 

 

 なんかまた厄介事に巻き込まれそうな気がしてきた。面倒事にならないといいけど、藤島がこっちを見てウインクしてきたからそうも言ってられねぇんだろうな。

 

 

「まず、るりちゃんは1人の時間も好きだけど家族でいる時間も好きなんだよ。だから家族の安らぎを与えてあげれば摩耗した精神も復活するはず」

「根拠あるんですかそれ……? それにわたしたち、瑠璃乃さんの家族ではないですよ?」

「だから幸せな家庭を演じてるりちゃんに家族を思い出させてあげるんだよ。私が母親役で父親が梢、息子役は――――神崎ね」

「はぁ? 俺??」

「どうして(わたくし)が父親なのかしら……?」

「この中で腕っぷしが強いから」

「あなたねぇ……」

「とにかく、台本はメッセージで送るからそれに合わせて演技よろ~!」

 

 

 どうして俺がこんなことを……。

 でもこれで大沢がダウナー症を克服すれば好感度を上げやすくなるかもしれないし、形だけでも参加しておくか。この作戦にあまり効果があるとは思えねぇけど……。

 

 藤島から送られた来た台本を基に、俺たちは幸せな家庭の演技を始める。

 しかし、それには深刻な問題が――――

 

 

「ふぅ、今日も仕事疲れたわね……」

「おかえりなさい、あなた」

「おかえり、お父さん」

「え、えぇ、ただいま……」

「ちょっと神崎。台本通りにやってよ。『息子が帰宅した父親に抱き着く』っていう、幸せな家庭の代名詞とも言えるシーンを!」

「いやそれはハードル高いだろ。俺がじゃなくてコイツが……」

「そうなの? 男とは言ってもまだ中学に上がりたてのガキんちょなんだから、それくらいで恥ずかしがる必要ないって」

「あなた、自分がやらないからって……」

 

 

 早速ハードルが高い問題が来た。

 確かに帰宅してきた夫を出迎える妻と息子ってのは仲良しをアピールできるかもしれないが、それはやはり本当の家族だから成り立つこと。演技でやっても気恥ずかしいだけだ。増してスキンシップなんてもってのほかで、俺は女の子に抱き着くくらい余裕だが、そんな経験のない乙宗からしてみれば抵抗だらけだろう。

 

 

「できないの? もしかして梢、神崎を男として見ちゃってる?」

「ッ……!? できるわ」

「梢センパイ!?」

「もう幸せな家族のシチュエーションとか、全く関係なくなってきてませんか!?」

 

 

 村野の言う通り。仕事帰りのお父さんが待ち遠しく、玄関先まで走って『パパ~』とか言って抱き着く可愛い息子ってのが本来のシチュエーションだったんだろうが、どこの家庭に夫を挑発して息子を抱き着かせようとする妻がいるんだよ……。

 

 

「ほら、来なさい神崎君」

「いいのかよ?」

「相手はただの中学生、相手はただの中学生、相手はただの中学生……。しかも見た目は小学生、見た目は小学生、見た目は小学生……」

 

「こず、念仏みたい」

「それだと梢先輩が仏になっちゃいますけど……」

 

 

 乙宗は腕を広げて俺の受け入れ態勢を取る。

 まさかこんな形で女の子と触れ合うことができるなんて、小さい身体も捨てたものじゃないと汚い思考がよぎる。『やめてもいいぞ』と声をかけようとしたが、挑発された影響でコイツも後に引けなくなっているのが分かるので言い出せない。ムキになるなんて意外と子供っぽいところあるんだな。

 

 俺を異性と思わないように自己暗示しながら腕を広げる乙宗。覚悟はもうできているようなので、俺は正面から彼女に抱き着いた。

 

 

「あっ……」

 

 

 小さな声を漏らした乙宗だが、それ以上は何も言わずに俺を受け入れた。何故か向こうからも俺の腰に腕を回してくる。

 この体勢は俺にも来るものがある。身長差があるせいで俺の頭が乙宗の胸に当たっており、そのせいでコイツを女と意識せざるを得なくなっている。本人も胸を枕にされていることは分かっているだろうが、突き飛ばさず腕を回して離さないのはやはり俺を男としては見てないからだろうか。少なくとも胸に触れてることは恥ずかしく思ってないらしい。

 

 つうかこれ、見た目は子供だけど成人男性が女子高生の胸を枕にしてるって構図なんだよな。すげぇ犯罪臭がするどころか、俺が教師だってバレたら懲戒モノだなこのシチュ……。

 

 

「零くん、梢センパイ……。見てるこっちもドキドキしちゃう……」

 

「梢ぇ~意外とノリ気になってるんじゃないのぉ~? もしかして、神崎を意識しちゃってるとかぁ~?」

「な゛っ!? だったら、あなたもやってみたらどうかしら?」

「えっ、なんだ?? うわっ!?」

 

 

 藤島がまたしても挑発し、乙宗の眉が動く。

 その瞬間、乙宗は俺の首根っこを掴むと、自慢の馬鹿力で俺を藤島に放り投げた。そのコントロールの良さと俺が軽いのも相まって、俺の身体が藤島の身体に――――綺麗に収まった。

 藤島も反射的に俺を抱きしめる。

 

 

「痛く……はない――――あっ」

「あっ……」

 

 

 またしても身長差が故に胸に頭が当たってしまう。

 コイツ、意外とあるんだな。練習着の上から見ていて知ってはいたし、ワガママボディと言われるスタイルであることは女の子を腐るほど見てきた俺の目からすればすぐ分かる。でも実際にこうして触れてみると、その大きさや柔らかさがより実感できる。

 そんな穢れた思考になってしまうくらいには思春期の性欲が戻ってきそうだった。

 それに体温も高くて抱きしめられて母性に包まれている感じたするのも……なんかいい。

 今の俺、相当気持ちわりぃな……。

 

 

「あら慈、顔が赤いわよ」

「ち、ちがっ!! 男がいきなり飛び込んで来たら誰でもこうなるでしょ!!」

「ふふっ、男と意識しているのね」

「だからこれは突然だったから驚いてるだけで!!」

 

 

 必死に弁解する藤島だが、それでも俺を離さないのは何故だろうか。ただ単に言い訳に集中して忘れてるだけだと思うけど……。

 乙宗もそうだが、藤島も別に俺をすぐに跳ね除けないあたり、そこまで悪い印象は抱かれていないらしい。挑発されたり突然押し付けられたので仕方なく対応しているだけ、とも捉えられる。

 

 ただ乙女心ってのは複雑なもの、もしかしたら……いや、流石にまだそれはねぇか。

 

 

「そういえば瑠璃乃ちゃん、元気になったかな?」

 

 

 日野下が大沢の心配をするが、ぶっちゃけここまでの展開が怒濤すぎてアイツの存在を忘れていた。

 みんなが大沢が入っているダンボールに目を向ける。

 

 

「あぁ、典型的なハーレムラブコメだぁ……。選ばれなかったヒロインのメンタルケアしなきゃ……。また精神削がれる、つらたん……」

 

「るり、全然元に戻ってないね……」

「あんな脚本で戻るわけねぇだろ」

「元々は幸せな家庭を模したシチュエーションだったの! 男女のラブコメは想定してない!」

 

 

 そういいながら最初に煽ったのはお前じゃねぇか……。

 まあ仮に家族シチュエーションが上手く行っていたとしても、こんな演技ごときで大沢の心を動かせるとは思えないけどな。

 

 

「じゃあとっておきのをもう1個。いつも通り神崎が息子役で、その双子の妹がさやかちゃん、2人の妹に花帆ちゃん、その下の妹に綴理。今度は仲睦まじい兄妹愛を披露してもらうよ。るりちゃんに兄妹はいないけど、これも家族愛ってことで」

「また俺かよ」

「わたしも参加するんですか!?」

「零くんの妹かぁ……。ちょっといいかも」

「どうしてボクが一番下なの……?」

「それはまぁ、精神的……雰囲気的に?」

「一瞬バカにされた……?」

 

 

 年長者の1人で一番背が高いのにこの扱いなんて中々に不憫だな。まあ普段の言動を見ていればコイツが先輩だなんて思う後輩はいないだろうけどさ。

 

 そんなこんなで今度は兄妹ネタをすることになった。姉も妹もいる身としては弟しても兄としても演技は余裕だけど、さっきみたいにまともに終わる未来が見えないんだが……。

 

 

「零お兄ちゃ~ん、今日は花帆と遊んで~!」

「宿題はやったのか? どうせやってねぇだろ、それを片付けてからな」

「むぅ~……」

「わたしは片付けたので、その……遊んでください」

「あっ、さやかちゃんズルい。いつもそうやってお兄ちゃんを取るんだから! 抜け駆け禁止だよ!」

「取ってはないんですけど……。花帆さん、ちょっと怖いような……」

 

 

 確かに日野下はかなり演技が上手い。ただ雰囲気派な性格なのでレールに沿った台本通りの演技なんてできないような気がするんだけど、今のコイツはマジで妹に見える。甘え上手で妹属性があるのは間違いないが、聞いたところによると2人の妹を持つお姉ちゃんだって聞くし、だとするとなおさら妹っぽく見えるのが謎だ。

 

 もしかして、本当に俺を取られたくないとか思ってたり? まさかな……。

 

 

「ボクは宿題ないから、何もしなくてもお兄ちゃんに遊んでもらえる~」

「くっつくな。台本にねぇだろ」

「綴理センパイだけズルいです! あたしだってまだ抱き着いたことないのに!」

「えっ、抱き着きたいの!?」

「い、今は妹だから……。ね、さやかちゃん!」

「えっ、わたしですか!? わたしは別に……」

「さやはやりたいことを素直に言えない性格」

「ふぇっ!? 違いますよ神崎さん! だからと言って抱き着きたいとかそういうことではないですから!!」

 

 

 ほらやっぱり台本破綻した。

 そもそもの話、妹が3人いるシチュエーションで幸せな家庭を描くってどうやりゃいいんだよ。これだけ仲がいいと身体の関係になりかねないから無理――――ってのは俺の兄妹での話か。どうも自分の兄妹関係が異質過ぎて、仲の良い兄妹=肉体関係を想像してしまう。俺の倫理観が破綻しているのは認めるが、それにしたって今回のシチュエーションはドロドロする気配しかないが……。

 

 ちなみに大沢の様子はどうだ?

 

 

「ヤンデレになって近親相姦する展開だ……。血が流れないようにルリがみんなを守らないと……。でもこんなウジムシゴミムシなルリにできるのかな……。無理だ……」

 

「るりちゃん、漫画の主人公が悲劇的展開を止められず挫折した時みたいになってる……」

「『自分がやらないと』という使命感が強すぎるのが原因の1つのようね……」

 

 

 案の定ダウナー状態から抜け出せていないようだ。

 もはや何をしてもマイナス思考に陥るのでこれ以上は無駄なような気もするが、この状態では練習もままならないので問題解決屋としては何とかしてやりたい気持ちはある。単純に女の子のこんな姿は見てられねぇしな。

 ただ、どうにかするにしても本人とまともに話せなければ意味はない。

 

 仕方ねぇな。

 

 

「おい大沢、そろそろ出てこい。お前も治してぇんだろそれ」

「…………」

「じれったい。これ取るぞ」

「えっ、あっ!?」

 

 

 俺は大沢が被っていたダンボールを引っぺがす。

 大沢は驚いた様子で顔を上げた。

 確かに気分が悪いのか顔色は良くないが、そんなの俺が知ったことではない。

 

 俺は大沢を壁際に追い込むと、頬を両手で軽く抑え、顔を近づけた。

 

 

「にゃっ、にゃにするの!?」

「ちゃんと声でるじゃねぇか。元気出たか?」

「ぷはっ!? いきなりそんなことされたら誰でも驚くよ!! てか顔ちけぇし!!」

「いつもの芝居がかった喋り方が抜けてるぞ」

「うぐっ……!!」

「…………」

「な、なに急に黙って!?」

「思ったより可愛いなって思って」

「は、はぁ!? 何をいきなり!! ばっかじゃねぇの!?」

「俺はいつでも素直だ」

「ぐぅうううううううううううううう!! あぁ~もうっ分かった! 分かったから、ハイもう元気!!」

 

 

「凄い、瑠璃乃ちゃんがあっという間に元に戻った……」

「神崎さんが近づいただけなのに……?」

「るりちゃん、やっぱり……」

 

 

 下手な小細工なんて必要なかったってことだよ。こういうのは真っすぐ向き合えばいいんだ。

 ま、そんなカッコいいことを言いつつも、大沢がどうして今ので元気になったのかは俺も不明だけどさ。ただ顔を真っ赤にしてたってことは割とこっちを意識してくれてたのかな……?

 

 

「とりあえず、一件落着ということでいいのかしら? 対策は見つからなかったけれど……」

「るりがへなへな状態になったら、れいを呼んでこればいい。さっきみたいに顔をぎゅ~ってされたら元気になるから」

「えっ、さっきみたいなのを毎回!? ムリムリ! あんなこと毎回されたらもう……」

「るりがれいを持ち歩けば完璧。うん、これで解決だ」

「俺はモバイルバッテリーかよ……」

 

 

 まさかの対策が俺を携帯充電器化させることだった。

 でも大沢は恥ずかしがっているみたいで、それで気を紛らわせてダウナー状態を解除できるのだとしたら……あり、というか仕方ないのかもしれない。ただ本人の羞恥心に火がついて、それはそれで精神力がそがれそうな気もするけどな……。

 

 つうかこの対策って、結局はダウナー状態になってからの話だから根本対策になってなくね? どうやったら精神力を保てるのか、まだ一行の余地はありそうだ。

 




 ダウナー状態から元気にはなりましたが、別の意味でまた疲れてしまいそうになる瑠璃乃でした(笑)
 瑠璃乃以外の子も、零君のことをどう思っているのかその一端が垣間見えるようにしてみました。少しずつ彼への見方も変わってきているようです。



 次回からは4~5話程度の長編がスタートします。前のLiella編で言うと、文化祭編のように一気に展開が進むあの感じです。是非ご期待ください!




【キャラ設定集】※変化なし
零から蓮ノ空キャラへの呼称(そのキャラへの印象)
・日野下花帆 → 日野下 (妹キャラが似合う)
・村野さやか → 村野  (意外とムッツリ?)
・乙宗梢   → 乙宗  (色々柔らかかった)
・夕霧綴理  → 夕霧  (先輩には見えない)
・大沢瑠璃乃 → 大沢  (可愛いな)
・藤島慈   → 藤島  (いい身体をしている)

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零くん  (?)※変化なし
・村野さやか → 神崎さん (55)※変化なし
・乙宗梢   → 神崎君  (49→50)
・夕霧綴理  → れい   (61)※変化なし
・大沢瑠璃乃 → 神崎クン (55→58)
・藤島慈   → 神崎   (39→40)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スクールアイドルたちの夜想曲(ノクターン)(序曲)

 転入生活9日目の朝。

 もはや日常と化した寮から教室までの登校は、既に道のりを意識せずとも半分寝たままでも歩けるようになった。学生時代や社会人の誰しもが経験したことがあるだろうこの現象。毎日同じ時間に同じ道を無限に通るせいか頭ではなく身体が覚えてしまい、考え事をしていたらいつの間にか目的地に着いていた、というスキルが身についている人は多いだろう。

 一種の脳死と呼ばれているが、実際に脳が全然働いてないらしいので、たまには別のルートで登校や通勤をすると脳の刺激になって老化が抑えられるらしい。

 まぁ、だからと言って遠回りするとそれだけ早く起きたり家を出なきゃいけないし、ギリまでゆっくりしたい人は辛いかもしれない。

 

 そんな感じで自分が元成人男性だってことすら忘れそうなくらいに学生生活に馴染んできた。身体が道を覚えたおかげで寝たまま登校するってのも余裕になり、教室に入っても眠気が取れないことが多い。教師をやってた頃は生徒の前に出る都合で眠気も吹き飛ぶが、生徒の立場だと授業なんてぶっちゃけ寝ててもいいから夢うつつ状態で登校することも実際の高校時代にあった話だ。そう考えると、学生時代って楽だよな。

 

 そして今日もまたいつも通りの朝、そう思って教室に入ったのだが――――

 

 

「おはよ~れいく~ん……ふわぁ~……」

「日野下? すげぇ眠そうだな」

「うん、ちょっとね……」

 

 

 いつも朝から元気いっぱいで脳に響くほどの声量で挨拶してくる日野下だが、今日は机に突っ伏して今にも寝そうになっている。

 本や漫画の読み過ぎで夜更かしでもしたのか? それとも夜にこっそり練習していたとか。火が付くと自分で鞭を打ってでものめり込むタイプだから、その性格が昨晩に発動した可能性はある。ただコイツのこんな姿を見たのは俺が来てから初めてのことだ。

 

 

「おい村野、日野下の奴どうしたんだ――――って、おい、聞いてんのか?」

「えっ、あっ、すみません。ウトウトしてました……」

「お前もか。珍しいな」

「はい……」

 

 

 朝早起きして夕霧の世話をする超朝型人間の村野でさえこの様子。

 まさかコイツもこっそり夜練してたとか? いやタイムスケジュールを守る真面目ちゃんのコイツがそんなことをするとは思えない。以前にみんなで夜食を食った時でさえあの時間はもう寝ているって言ってたし、翌日に影響が出ないように睡眠はしっかり取るタイプだろう。

 

 

「お゛は゛よ゛~っ。ふわぁ~ぁぁ~……」

「大沢? なにデケぇあくびしてんだよ」

「だって眠いんだもん……」

「お前もか……」

 

 

 教室に入って来た大沢は、挨拶をするなりこちらの眠気を誘うくらいの大きなあくびをかました。

 コイツの場合は夜遅くまでゲームしてたとか理由なんていくらでも思いつく、普段も授業中にウトウトしてることあるしな。

 

 これでスクールアイドル1年生全員揃って寝不足か。村野は珍しいけど、日野下と大沢はあり得そうだし、偶然と言えば偶然とも言えるが不可解であることは否めない。

 もしこれで乙宗たちまで寝不足になってたら意図的な何かを疑うけどな。だけどスクールアイドルにだけそんなことが起こるなんてミラクルが―――――

 

 

 いや、待てよ。

 あるだろ、スクールアイドルだけに起こっている事象が。俺が子供の姿にさせられてこの学校に転入させられた理由であるアレが。

 

 スクールアイドル病。

 もしかして、この眠気ってその病気の副作用か何かなのか? となるとコイツらの身体に何か異常が起こってるとか……?

 スクールアイドル病はその子の身体に痛覚なしの傷が入り、知らず知らずのうちにそれが広がっていく奇病。そんな未知の病だ、何かしら他の異常が発生してもおかしくはない。ただスクールアイドル病になっているのは1人だけだと思うので、全員が眠気を煽られている時点でそれはないか。

 

 だがそうでないとすると、この現象は一体なんなんだ……?

 たまたまコイツらが同時に寝不足なだけかもしれないが、一応確かめておくか。

 

 

「あれ~? 零くんどこへ行くの……?」

「すぐ戻る」

「いってらっしゃ~い。ふわぁ~……」

 

 

 やる気のない見送りをされながら教室を出た。

 何か違和感がする。俺の思い過ごしだったらいいけどな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 2年生の教室のあるフロアに足を踏み入れる。

 学生時代に上級生のいるエリアに入り込むことに緊張する人も多かったと思うが、今の俺の見た目は小中学生なものの実年齢は成人越えをしているため、流石に年下の女子相手に怯んだりしない。

 むしろ俺の存在が有名になって人気が出ているせいか、わざわざ向こうから挨拶しに来てくれるVIP待遇。そりゃ女子しかいない学校に美少年が入ってきたら気になるのは分かるけど、中学生にも満たない姿の年下だぞ? そこまでのおねショタ気質の奴らが揃ってんのか……?

 

 そんなことはさて置き、廊下を歩いていると早速目的の人物の1人が見つかる。

 

 

「藤島。おい藤島!」

「うぇっ!? って、あんたか。大きな声出さないでよ寝不足でイラついてんの」

「お前もかよ……」

 

 

 目の下に誰が見ても寝不足と分かるくらいのクマができている。

 美容や見た目を気にするコイツがそんな顔で人前に出るとは考えにくいが、どうメイクしようにも改善できないくらい睡魔に惑わされているのだろう。昨日まではそんな様子は一切なかったので、その晩に何かあったってことか。アイツらも。

 

 考え事をしているその時、後ろから誰かにのしかかられた。

 

 

「ねむねむ~……」

「夕霧? おい何くっついてんだ!」

「だって眠いから……。いいところに抱き枕があった~……ふわぁ……」

「だから抱き着くなって!」

 

 

 対して好感度が高くない男に密着するなんて貞操観念とかないのかコイツ。それか俺のことを異性としては見てない可能性がある。そりゃ今の俺はただのガキで、思春期時代ってのは1学年上の奴ですら大人に見えるもの。逆に1学年下は幼く見えるので、この密着に大した意味も恥じらいもないのかもしれない。

 

 にしても、やはり夕霧も同じ状況になってたか。

 コイツの場合はいつも眠そうに見えるくらい雰囲気がゆるゆるだが、今日は本気で眠気に襲われているのが口調だけで分かる。いつもほぼ感じない覇気が今は全くないからな。

 

 この2人まで日野下たちと同じ寝不足に陥っている。

 ってことは、残るアイツも――――

 

 

「あら、神崎君。2年生の教室まで来てどうしたの?」

「乙宗。お前……」

「ん?」

 

 

 噂をしているとなんとやら。教室を覗いた瞬間に乙宗が姿を現した。

 藤島や夕霧とは違って特に言葉が眠気でふわっとした感じはなく、いつも通り厳粛な態度と佇まいに見える。

 

 

「慈も綴理も一緒なの? あっ、2人共その顔はもしかして……」

「隠そうとしても隠し切れねぇか。お前も眠いんだろ、瞬きの回数がすげぇぞ」

「ッ!? やっぱり、あなたには秘密は作れないわね……。そう、目覚めも悪くて寝不足で、ずっと眠気と戦っているわ。もうすぐで授業だから、居眠りしないようになんとしても目を覚まさなければと思ったのだけれど……。それに周りからも寝不足だと悟られたくないの」

「優等生ちゃんは難儀だな。周りからの評価も気にするなんて」

「当たり前でしょう。乙宗の家の人間として恥ずかしくないように……ふわぁ……あっ! ち、違うのよこれは!」

「何がちげぇんだよ。ねみぃんだろ、無理すんな」

 

 

 藤島や夕霧のようないい加減な性格とは真逆に位置する乙宗は、他の2人と違って何とか眠気を覚まそうと、そして周りに寝不足で学校に来ているといった不真面目さを感じさせぬよう必死に体裁を取り繕っている。

 しかし、人間は眠気に逆らえない。村野に並ぶ真面目ちゃんのコイツでも例外ではなく、このままだと授業中に居眠りして不良コースに真っ逆さまだろう。

 

 そして、これでスクールアイドル6人全員が寝不足だという事実が浮き彫りになった。

 もちろんまだ偶然と言う可能性も捨てきれないが、乙宗や村野まで同じ状況となればたまたまでは納得できない。そもそもスクールアイドルだけにこの現象が見られるのかまでは確定しておらず、朝だから眠そうにしてる奴は普通にいるし、なんなら今この場で2年生教室を見渡しても何人かいる。あれはただ単に夜更かしが原因なのか、それともスクールアイドルたちと同じ現象なのかも分からない。

 

 こういうときは秋葉に聞くのが一番だ。アイツの仕業説もあるけど、みんなの寝不足を促すなんて意味のないことはしない。ただこれまで意味のある行動だったかと言えば、全て自分の愉悦のためなので俺たちにとっては何の意味もないのだが……。

 

 とにかく、アイツに聞いてみよう。

 と思ったけど用事で午後から出勤するっつってたな。俺たちの求めていない時に現れては好き勝手するくせに、こっちが求める時にはいないってどこまでもはた迷惑なヤツ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「なるほど、原因不明の睡眠障害ねぇ……」

「確認だけど、お前のせいじゃねぇんだろうな?」

「キミらしからぬ短絡的思考だね」

「今までの所業を顧みて、異常発生がお前の仕業だと結び付けない奴はいえねぇだろ」

 

 

 昼休み。秋葉をスクールアイドルクラブの部室に呼び出して問い詰める。予想通りコイツの仕業ではなかったようだが、今の今まで疑いの可能性を捨てきれなかったのは俺がコイツを信頼していないからではなく、過去の事例に基づいた合理的な考えが故だ。それくらいの悪行を働いてきたんだよコイツはな。

 

 ちなみに今部室には俺たち以外に日野下たち6人もいる。だが全員床にタオルを敷いたり椅子を並べたり、ソファなりで横になってぐっすりお眠中だ。午前中の授業を必死に耐えてきた反動が一気に来たらしく、みんな昼飯も食わずに泥の様に眠ってしまった。

 

 

「他の生徒も朝は眠そうにしている奴はいたけど、この時間まで眠気と戦ってる奴はいなかったよ。そういう奴は大抵授業中に寝てるから、ここまで引っ張る奴はいないんだろうな」

「つまり、この子たちだけこの時間になっても寝不足だったってことか。こりゃ相当だね」

「スクールアイドル病の可能性は?」

「ないね。こんな症状は聞いたことない」

 

 

 だったら別の要因があるってことか。スクールアイドル病に関連することだったらコイツに任せりゃ即効解決になった思うが、違うとなるとまた面倒だな……。

 

 

「にしても、みんないいね顔だねぇ。こりゃ相当深い眠りに落ちてると来た。チャンスじゃないの、零君」

「はぁ? 何が?」

「今ならみんなの服を脱がしてもバレない。スクールアイドル病の治療のため、女の子の身体に刻み込まれた傷の場所を特定するのは何よりの優先事項。それをこの一瞬で全員分できるんだよ? チャンス以外の何物でもないでしょ」

 

 

 秋葉が言うことも最もだ。この中でまず誰がスクールアイドル病の兆候があるのか、身体のどこに例の傷があるのかをまず知る必要がある。その傷口が広がるまでにはまだ余裕があるとは言ってたけど、悠長にしている暇がないのも確かだ。手遅れになっては俺がここに来た意味がない。

 

 だけど――――

 

 

「俺は女の子の同意なしで裸は見られない。その姿を見る時は、その子が俺に全てを晒してもいいという決意を表明したときだ。だから棚から牡丹餅の状況では絶対にそんなことはねぇよ。コイツらの心すらも傷つけちまうしな」

 

 

 今コイツらの制服と下着を引ん剝けば今日中にスクールアイドル病の問題が解決し、俺も早々に東京へ帰れるかもしれない。

 だが、それじゃダメなんだ。俺がコイツらと必死に絆を結ぼうとしているのも、コイツらが俺に裸を見せてもいいくらいに信用する関係性を作るため。それは俺のやり方というよりも、コイツらの尊厳を壊さないようにするためだ。女の子はモノじゃない。人形の(ほつ)れを修繕するためにその服を脱がすのとは訳が違う。彼女たちの心に自分の手でダメージを与えるなんてこと俺にはできないし、やってはいけないんだ。

 

 ま、人を実験動物としか見てないコイツにこんなことを言ってもまともに伝わらねぇだろうけどさ。

 

 

「ほ~ん。まだ出会って1週間とちょっとなのに、相当この子たちに肩入れしてるんだね」

「肩入れとかそんなのじゃねぇよ。当たり前のことを当然のようにやってるだけだ」

「そういうところだろうね。好きになっちゃう理由」

「んなことはどうでもいいんだよ。コイツらがこうなった理由は分かんねぇのか?」

 

 

 今こうして寝ることで寝不足が消えれば一時的に解決するが、それは根本解決ではない。

 なんか嫌な予感がするんだよな。ただの寝不足では片付けられない何かが。そもそもスクールアイドルたちだけがこうして昼まで眠気を引きずるのは何かあったとしか思えない。その原因を知ることが根本解決へ第一歩だ。

 

 だが、秋葉も分からない様子。一体何が起きてんだよ……。

 

 手詰まり感が漂っていたその時、部室のドアが何者かにノックされる。

 そこで入って来たのは――――

 

 

「大賀美?」

「やぁ少年。おぉ、みんな見事に熟睡中だねぃ」

 

 

 ちびっこ生徒会長のお出ましだ。

 反応を見るに、どうやらコイツらが寝不足でここで寝ていることを知っていたようだ。

 

 

「キミは、確か生徒会長の大賀美沙知ちゃん?」

「あなたは……あっ、保険医で少年のお姉さんの秋葉先生ですよね? 初めまして」

「よろしくね。早速だけど、ここでキミが現れたってことは何か話が進展しそうってことでいいのかな?」

「おおっ、流石は少年のお姉さん、察しがよろしいことで……」

 

 

 大賀美の奴、何かを知ってるっぽいな。そういやコイツって元スクールアイドルだったんだよな? だとしたら有力な情報を持っていてもおかしくない。これがスクールアイドル関連の問題であればの話だけどさ。

 

 

「梢たちが凄く眠そうにしているのを噂で聞いてね。まさかと思ってここに来たんだ」

「で?」

「実は、スクールアイドルが急な寝不足に陥るのは今に始まったことじゃないんだよねぇ」

「これまでにあったのか? 同じこと」

「うん。とは言っても頻繁にこうなるわけじゃなくて、何故か毎年この時期になると起こる。1人や2人、睡魔に苛まれるスクールアイドルの子たちが出てくる不思議な現象。たまたま寝不足になった日が被っただけだろうって、例年は簡単にスルーされてたんだけど……」

「今年は6人全員がこうなって、もはや偶然ではない可能性が高いってことか」

「その通りさ。だから少年、こうしてキミに伝えに来たってワケ」

「俺に? なんで?」

「キミならこの事態を解決してくれそうだから、かな」

 

 

 笑顔で俺の肩に手を置く大賀美。

 なにその根拠のない期待。変にプレッシャーをかけるのはやめてもらいたんだが……。

 

 ま、どんな期待をされようが俺はやるべきことをやるだけだ。

 そんな中で大賀美が語ったのは、この現象が今に始まったことではないということ。どうやらスクールアイドルを標的にされているらしい。これまでは少数だったから偶然で片付けられてたけど、今回は全員が同じように睡眠障害になってしまったので意図された何かがある、というのが大賀美の言いたいことか。

 

 

「かく言うあたしも過去にその寝不足に陥った1人だからね、参考になる情報は提供できると思うよ」

「お前もかよ。例年っつったけど、どれくらい前からこんなことになってんだ?」

「具体的には分からないけど、少なくともあたしに先輩のスクールアイドルがいた頃は既にあった。ただ、その先輩たちも知らなかったから起こり始めたのは相当前じゃないかな」

「少なくとも、この学校のスクールアイドルにだけ何か起こるのは間違いなさそうだな」

 

 

 スクールアイドル病なんて奇病が存在するくらいだし、スクールアイドルが不眠症になる病気ってのもありそうだ。医学知識なんて知らないからさっぱりだけど、スクールアイドルってなんか特有のオーラでも出てんのか? ここまで奇病に狙い撃ちにされると同情するし、オカルト的な何かを信じてしまいそうになる。

 

 それか、俺がいるせいで奇病を引き寄せている説。そうなるとトラブルメーカーの名は伊達じゃないってなるが、冗談じゃなくて俺の行くところ行くところマジでこうだから否定できねぇんだよな……。

 

 そんな中、いつの間にか日野下たちの体調を診察していた秋葉が再び話に入って来る。

 

 

「沙知ちゃん。さっき自分も同じ状況になったって言ったよね? 眠れない時のこと覚えてる?」

「はい。でもあまり思い出したくないと言いますか、ちょっとトラウマなんですよね……」

「んなこと言って渋ってられる状況かよ」

「分かってる分かってる。そう焦りなさんな」

 

 

 トラウマで乗り気はしなかったが、可愛いスクールアイドルの後輩たちが全員こうなってしまった以上は腹を括ったらしい。

 

 

「端的に言えばうなされていた、と言えばいいのかな。脳内に誰かの声が響くんだ。言ってることはっきりと聞き取れないけど、どこか悲しみを感じる声で、いつの間にか感傷に浸っていて涙を流してしまう。そのせいかな、眠れなくなっちゃうのは……」

「何を言ってるのかも分かんねぇのに情を感じるのかよ」

「そうだね。うなされて、悲しみを流し込まれる感じがする」

「なるほどね。今この子たちがいい顔をしてぐっすり眠れてるのは、そういった余計な感情に心を乱れてなくて、ひたすら自分の睡眠に集中できてるからってことか」

 

 

 悪夢を見せられてるとか、そんなことではなさそうだ。どちらかと言えば悲痛な思いを強制的に共有させられているとか、そっち方面だろう。言ってる意味が自分でもよく分かんねぇけど……。

 なんにせよ、これで今後の動きは決まったな。

 

 

「大賀美。昔ここのスクールアイドルで何か大きな出来事があったとか、そういう話は知らないか?」

「さぁ。あたしもそこまで詳しいわけじゃないからね。でも調べれば分かると思うよ。部室には代々受け継いでいるノート群があって、歴代の部員たちの手で、当時の活動の記録や日誌が綴られてきてるんだ。その他にも、資料室に活動の申請書とか全部保管されてるよ。って、まさか昔の先輩たちが何か関係していると踏んでる?」

「確証はないけどな。つうか今はそれしか調べることがない。何かヒントがあることを期待してな」

 

 

 とりあえず、今は目の前のできることから着手していくしかない。コイツらも昼寝から起きさえすれば頭も冴えるだろうから、みんなで調べれば歴史の長いこの学校と言えどもその遍歴を洗いざらい晒せるだろう。

 

 しかし、集団不眠症に就寝時に謎の声が聞こえてうなされるって、これは俺が定期的に巻き込まれる――――

 

 

「オカルトイベント、みたいだね」

「秋葉お前、知ってんのかよ」

「零くんのことだったらなんでも知ってるよ。色んな学校に行くたび行くたびそういう目に遭ってるよねぇ」

「えっ、行くたびってそんなに転校を繰り返してるんですか?」

「い、いや、スクールアイドルとの関係でちょっと別の学校に行く機会があっただけだ」

「そうそう! それ以上でもそれ以下の意味もないから!」

「ふ~ん……」

 

 

 秋葉の奴、日頃から俺に言動に気を付けろとか言ってるくせに疑われること言いやがって……。

 今回の問題の調査をこれからするわけだが、油断して変にボロを出さねぇように気を付けないとな。

 

 

To Be Continued……

 




 今回から長編(5話程度想定)となります。
 初回の内容だけを見ると毎章恒例のオカルト&ホラー回ですが、今回は長編なのでいつもとは違うかも……?
 この長編で彼とスクールアイドルたちとの関係も一気に進展する予定です。是非最後までご覧ください!


 いつも後書きに書いてある好感度表は、この長編が終わった後にまとめて更新します。


 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スクールアイドルたちの夜想曲(ノクターン)(前奏曲)

 放課後になった。

 日野下たちはたっぷり昼寝をしたおかげか眠気が吹き飛んだようで、午後の授業は俺が過去に見てきた中で一番集中していたまである。

 一応これで原因不明の寝不足に苛まれてる奴はいなくなったが、根本の問題は一切解決していない。このままだとアイツらが今晩また同じ症状になりかねないので、何かしら手を打つ必要がある。

 

 当初はその糸口を見つけられぬままだったが、大賀美の話から過去に何かあるのではないかと思い、現在部室にあった部活ノートを確認している。そのノートは歴代の部員たちの手で、当時の活動の記録や日誌が綴られている。だからその中にヒントがあるのではないか、そう思っていたのだが―――――

 

 

「んだよこれ。半分以上ただの落書き帳になってんじゃねぇか。フェスへの意気込みとかならまだしも、どうでもいい絵とか描いてやがる……」

「零くん、何してるの?」

 

 

 床に胡坐(あぐら)をかいてノートをペラペラめくっていると、後ろから日野下が手元のノートを覗き込んできた。

 

 

「お前らが罹った睡眠不足が昔からあったって聞いたから、ここのスクールアイドルの活動を振り返れば何か分かるかなぁって思ったんだけど、これ無駄足か?」

「あっ、これ!」

「何か見つけたか?」

「『漫画のおすすめリスト』だって! スクールアイドルの大先輩の中にも漫画好きな人いたんだね! 親近感わくなぁ~」

「クラブの活動について書けよ!!」

「ひゃんっ! あたしに言われてもぉ~!」

 

 

 日野下は自分が怒られたと思って涙目になる。こういう緩く(たる)んだ雰囲気の奴がいるからこのノートの品質も低くなってんじゃねぇか……?

 

 他にもスクールアイドルに関係ない話題で半分以上が埋め尽くされているため、早々にこの作業を打ち切りたくなってきた。どうでもいいページは飛ばせばいいのだが、今回の件に関する重要な内容がどこかに書かれているかと思うと安易に読み飛ばすことはできない。せっかく時間を取って確認しているのに知らず知らずのうちに見過ごすなんて本末転倒だ。

 だからこそ、どうでもいい内容でページが埋め尽くされていると余計に腹が立つ。

 

 

「つうかなんだよこの絵しかないページ。当時の部員を描いたのか? 超ヘタクソだし……」

「そうね。芸術の面で言わせてもらうと、相当評価を下げざるを得ないわ」

「乙宗……。ま、お前みたいに芸術スキルが秀でてなくても下手だって分かるけどな、この絵」

「梢センパイ……」

「なにかしら花帆さん? 微妙そうな顔をして……」

「い、いえっ! なんでもないですなんでも! ほんっっっとうになんにも!」

 

 

 日野下が何かを誤魔化そうとしている。

 もしかして乙宗の奴、意外にも絵が下手だったりするのか? あまりそうには見えないけど、そういや最初に最新の部活ノートを見た時に目が点で口が線分の謎の棒人間がいた気がする。てっきり夕霧あたりのセンスかと思ったが、まさか……?

 

 そんな余談も交えつつ、この学校のスクールアイドルの歴史を順々に遡る。

 ただ目ぼしい情報はなく、そのせいで単調作業と脳が認識し始めたのかページを捲るスピードも速くなっていた。無駄に時間が経ったせいで、その間に『DOLLCHESTRA』と『みらくらぱーく!』の面々も練習が終わったのか部室に戻ってきていた。

 

 

「神崎、まだそこに座ってたんだ」

「ずっと部活のノートを見ていたんですね」

「れいには関係ないことなのに」

「普段は気ダルそうにしてるのに、どうしてそこまで頑張れる系?」

 

「あん? つうか、逆に頑張らねぇ理由ってあんのか? 誰かを見捨てるのは相当な理由がいるけど、誰かを助けるのは理由なんていらねぇだろ」

 

 

 その瞬間、部室から音が消えた。振り向いて見上げると、全員の目線が俺に向けられていることを知る。しかも揃って口を半開きにして情けない表情をしていた。何か考え事をしているのだろう、みんな無言だ。

 

 

「んだよお前ら……。余計なこと言ってないで、練習終わったなら早く手伝え――――えっ?」

 

 

 ノートに目を戻してページを捲った瞬間、突如として見開きが真っ白なページが現れた。日野下たちも俺の様子が変わったのを見て我に返ったのか、一斉に俺の後ろからノートを覗き込む。

 ただ、白紙と思ったページの端に、小さな文字で何か書かれていることにも気が付く。

 

 

「『ごめんね』って、書いてあるね」

「これだけですけど、なんか悲しさが伝わってきますね」

「あるぇ? でもこの悲しさ、どこかで感じたことあるようなないような……?」

「昨日の夜、寝ようとしているとき」

「そうね。あの時に流れ込んできた感情と同じだわ」

「もしかして何か関係があるの? 私たちの寝不足とこれに? そんなオカルトみたいな話……」

「あるんだよ、この世には」

 

 

 俺も昔はそういうのを信じてなかったが、マジモノの幽霊を何度も見せられたら信じる信じないのレベルではなく、実在していると認識せざるを得なくなった。幽霊なのに実在してるってのもおかしな話だが、現代科学で説明できないことが自分の周りをウヨウヨしてるのがこえぇよ。

 

 話を戻すと、このページの端に書かれている一言は日野下に悲壮感を与えていた。どうやら寝ようとしていた時に抱いた感情と同じようで、それは大賀美も同じことを言っていたから個人差ではないはず。つまり、今回の現象とこのページの文言が漂わせる感情がイコールなのは何かしら結びつきがあると思って間違いないだろう。

 

 

「このページ、もう15年以上も前に書かれたものか。前後のページは特に変わったところもねぇし、この時期に何があったのか遡るのは結構骨だな。敷いて挙げるなら白紙のページと次の書き込みまで相当期間が空いてることくらいだけど、この時代のスクールアイドルに何があったんだ?」

「この当時は『スクールアイドル』という言葉は愚か、その存在すらもなかったわ。この時は『芸楽部』という名で活動していたの」

「そういやそうだったな。μ'sやA-RISEが活躍した時代がスクールアイドルの始まりって言われるほどだから、15年以上も前ってなると名もなくて当然か。実際に俺も知らなかったしな」

「あたかも見たことあるように語ってるね、あんた……」

「えっ? い、いや、ソイツらを観て『スクールアイドル』を知ったってだけで、別に当時を知ってるわけじゃないから……」

 

 

 知ってるんだけどね、まあ。

 こういう些細な言動で自分の正体を疑われかねないから注意しないと。いくらこの姿に慣れたと言っても、積み重ねてきた人生をナチュラルに改変して話すのは流石に慣れない。てか慣れたら本格的に自分は中学生になっちまいそうで、それはそれでヤダな……。

 

 

「とにかく、この時期に何が起きたのか調べる必要があるな。確か学校の資料をまとめた大倉庫があるんだっけ?」

「はい。沙知先輩に許可を取れば入れます」

「だったら行ってくるよ」

 

 

 問題のノートだけを持って立ち上がり、部室の外へ出ようとする。

 その時、日野下が声で遮って来た。

 

 

「えっ、1人で行くつもり!?」

「お前らは早く帰れ。オカルト的な話なら、もうガキの遊びじゃねぇんだよ」

「あんたもガキでしょ十分に」

「それに自分の問題を他人に押し付けるほど、ルリたち薄情じゃねーしっ!」

「でも今のうちに帰って寝た方がいいんじゃねぇのか? また夜に寝ようとすると寝付けない可能性あるだろ」

「そこまで心配してくれてるんだ、ボクたちのこと……」

「心配しなきゃ動いちゃいけねぇのか? ったく、余計なこと考えてないで来るなら勝手に来い。寝だめしておきたいなら帰れ」

 

 

 どうやら人のために動くことに対して疑問を抱いている様子。

 逆に聞きたいけどコイツらは誰かのために動いたりしないのか? これまで関わって来たスクールアイドルはお人好しばかりで見るも呆れるくらいだった。出会ってまだ1週間と少しだけどコイツらからも同じ風を感じるので、俺のやることに疑いを持つのは不思議だ。もしかしたら俺の方がおかしいのかもしれないけど。

 そういや侑に『お兄さんはお人好しの最上級』って事あるごとに言われてたな。自覚なんて全くないけども、コイツらも同じ気持ちを抱いているのかもしれない、

 

 そう考えると、日野下たちの俺のを見る目が少しずつ変わってきている。そんな感じがした。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 場所を移して大倉庫。

 ここには年に数回ある文化祭で使用される小道具を始め、各部活で使用される衣装や器具が一堂に会して保管されている。それに加えて活動記録となる大会への申請書など、公的書類も生徒会室に置ききれない分はこちらに避難させてあるようだ。この蓮ノ空女学院の歴史を紐解ける資料も大量に保管されており、ここであれば昔のスクールアイドルに何があったのか分かるはず。

 

 と、当初はそう楽観視していたものの――――

 

 

「すっげぇ量だな。衣装や小道具まで入り乱れてやがる。これとかスクールアイドルのものじゃなくて他のクラブのだろ。もっと綺麗にしとけよな」

「大きい倉庫だからってみんな捨てずに次から次へとここに置いていくから、その影響でしょうね。(わたくし)たちが入部した時からこうだったから、あまり整理はされていないと思うわ」

「エリート校が聞いて呆れるな」

 

 

 クラブが残した過去の賞状やトロフィーなんかは丁寧に飾られているが、それ以外は割と乱雑に置かれている。そのため詳細な活動記録が知りたいのに容易に調べられない状況となっていた。

 とは言ってもここで引き下がるわけにはいかないので、小物が入っているダンボールをひっくり返してでも手掛かりを探すことにする。

 

 そんな中、別の場所を探していた村野が戻って来た。

 

 

「神崎さん、15年前のライブの申請書が()じられているファイルを見つけました」

「でかした。で? 目ぼしい情報はあったか?」

「どうやら当時の代は『スリーズブーケ』しか存在していなかったようで、申請書もその分しかありませんでした」

「えっ、スリブはコイツらじゃねぇのか?」

「ユニット名は代々受け継がれているんです」

「世襲制か、珍しい」

 

 

 受け継がれているからこそ、部員が足りないとユニット自体が一時的に消える可能性があるってことね。ただ逆に人数が6人を超過した場合ってどうなるんだろうか。基本は先輩後輩の2人ユニットって謎の縛りがあるため人数の割り振りが面倒になりそうだ。

 

 

「これ、当時の大会か何かの参加申請書っぽいですよ」

「だったら、その時『スリーズブーケ』で何か結果を残したってことかな?」

「参加した大会の結果は全て記録が残っているはずよ」

「そんなの全部記録してあったんだ!? すげー!」

「歴代先輩たちの勝率を赤裸々にしてやろうじゃんか!」

「めぐ、勝率計算できるんだ」

「うっさい!」

 

 

 後ろで騒いでいる奴らはさて置き、村野から渡されたファイルを開いて大会の結果を見てみる。

 

 

「『1回戦落ち』になってます。成績は振るわなかったみたいですね」

「待て、ここに参加人数が『1人』って書いてあるぞ。今も昔もこの学校のスクールアイドルは2人で1ユニットなんだよな?」

「えぇ。だから1人でも参加するなんて、よっぽどのことがない限りないことよ」

「つまり、そのよっぽどのことがあったってことだな、この当時」

「それってなんだろう……」

「この中にあるんじゃないか。記録されてれば、の話だけど」

 

 

 とっ散らかったスクールアイドルクラブの棚を隅から隅まで調べる必要がありそうだ。

 そんなこんなで7人で歴代のゴミ……じゃなかった遺物を漁り始める。こういった整理をし出すと、自分の興味の惹かれるものが出てきて思わず手が止まってしまうのは片付けあるあるだ。現に日野下や大沢は使われてない衣装や歌詞ノートに興味津々だし、真面目ちゃんの村野や乙宗まで今まで見つからなかった秘蔵のダンスの指南書を見つけて読み入っていたりする。

 

 極めつけは――――

 

 

「がおー。見て見て、『大怪獣ハスノドン』の着ぐるみだって」

「綴理先輩!? なにしてるんですかこんな時に!!」

「ふっふっふっ~。めぐちゃんの着付けは完璧なのだ!」

「めぐちゃんが綴理先輩を乗せたの!?」

「だって綴理が着たそうにしてたから」

「どう、怖い?」

「怖いと言うより可愛いですよ綴理センパイ!」

「なにをやっているのよ、もう……」

 

 

 コイツら、自分が今晩も寝不足の危機に瀕しているのを忘れてねぇだろうな……? ここまでのほほんとしているのを見ると事の重大さの程度が低く見えてしまう。まあコイツらが気にしていないのであればそれでもいいけどさ。逆に何者かの手によって睡眠不足に陥ることに感じ、ただ(うずくま)って動けないみたいなことになったら面倒だしな。

 

 馬鹿なことをやっている奴らがいる中でも調査は続くが、特に何の収穫もなく時間だけを貪り食っていく。

 スクールアイドルクラブの領域の棚はほぼほぼ調べつくし、残るはダンボールが1つだけとなった。それも相変わらずガラクタばかり入っており、もう何も残されていないと半ば諦めていた。

 

 すると、底の方に手帳が鎮座していることに気付いた。

 手に取って開くと、挟んであったと思われる学生証が落ちてきた。

 

 

「この学生証は……? 印刷が擦り切れて名前の部分が読めねぇな」

「端っこもボロボロだ。結構前の生徒さんのものかな?」

「多分な。でもどうしてこれが倉庫に……?」

 

 

 今回の件と関係があるか分からないけど、昔の遺物とあればキープして損はないはずだ。手がかりがあまりないこの状況だ、少しでも情報が欲しい。

 とは言いつつも、これからどう事態の解決に結びつけるか。このまま放っておいたらコイツらがまた睡眠障害になりかねない。ライブも近いので体調の維持は必須。ここで立ち止まるわけにはいかない。

 

 そんな中、誰かの足音が聞こえてきた。物がぎっしり詰められた棚が大量に配置されているため姿は見えないが、その足音は確実に俺たち居る場所へと迫ってきている。

 オカルト系の話になってきた影響か、みんなの緊張が一気に高まる。

 

 背後に来た。俺たちは一斉に振り向く。

 

 

「およ? どうしたどうしたそんな怖い顔して」

「生徒会長……?」

「沙知先輩……」

 

 

 驚かせやがって。この大倉庫、窓も少なく照明が薄いせいで暗くてホラーな雰囲気ピッタリなんだよ。オカルト方面に話が進んでいるからなおさらそう感じる。

 

 

「もうすぐ完全下校時刻だぞ。外も暗くなってるから、キリのいいところで切り上げてはどうだい?」

「キリがいいも何も、大した収穫はなかったけどな。あったのはこのボロボロの学生証と手帳くらいだ」

「えっ、それって……!! なるほど、いい収穫だよそれは」

「どういうことだ?」

「実は生徒会業務の傍らで少し調べたんだよ。生徒会室に保管されていたとても古い書類をね。その中で判明した衝撃的な内容が1つ、驚いた」

「勿体ぶんな」

「そうだね。でも聞く覚悟はして欲しい。どうやら過去に、この学校のスクールアイドルでいたみたいなんだ。病死によって引退した部員がね」

 

 

 全員が目を見開く。

 それほど深刻な話になるとは思っていなかったので身構えておらず、いきなり押し潰されるかのようなシリアス展開に圧倒されそうになる。

 

 ただでさえ静かだった倉庫内が更に静寂に包まれる。その中で大賀美は話を続けた。

 

 

「ただ、学校側としてもこのことはあまり(おおやけ)にしたくなかったようだ。無理はない、15年以上前はまだ発展途上の学校だったからね。集客に不利な情報は口外したくないものさ。だから情報はあまり残ってないけど、生徒会室に少しだけあった。当時の『スリーズブーケ』の1人が病死して、その代のスクールアイドルクラブは解散してしまったとね」

「まさか、それがコイツだったりするのか? 名前は擦り切れてるけど、この学生証に写ってるコイツが」

「名前までは分からなかった。でもその出来事が約15年前とされている。この学校のスクールアイドルの睡眠障害が発生したのはその後から。何かあるとは思わないかい?」

 

 

 穏やかではない話になってきたな。

 もし過去の出来事とスクールアイドルたちの睡眠不足に繋がりがあるのなら、オカルトを信じるのであればまた幽霊の仕業とかその類なのか? 傍から聞いたら馬鹿馬鹿しい迷信と思うかもしれないが、俺は実際に幽霊が原因で引き起こした事件を知っている。まさか今回も……?

 

 

「そんな出来事があっただなんて、知りませんでした……」

「隠されていたみたいだからね、無理もないよ」

「でも、一体なにがあったのかな? その時に……」

「調べて出てくるかも分からないですね。これだけ調べても大した情報には辿り着けなかったので……」

「モヤモヤする。頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ……」

「ルリも苦手だ。この手のお話……」

 

 

 大賀美のおかげで話は進んだが、内心で喜んでいる奴はいないようだ。そりゃ人の不幸を聞いて歓喜するような空気じゃねぇもんな。

 進みはしたものの、ここから何をどう調べるのかは検討が付かない。唯一の手掛かりはこの手帳。後ろの方は全然書かれておらず使い切ってはいないようだが、前の方は割と日記のように色々書かれている。その中で、気になることがあった。

 

 

「手帳の中に『練習に学校の離れの練習場を使ってる』みたいなことが何回か出てくるんだけど、知ってるか?」

「学校の離れ……? もしかしたら予備の体育倉庫のことかも。昔は部活の練習場として使っていたって話を聞いたことがある。ただ何回か改装が入って、今は体育倉庫に置けなくなったものを置いておく場所になっているはずだよ」

「なるほど、だったら行くしかないか」

「えっ、今から? もう日が落ちかけてる。今から調査を始めたら確実に夜になるけど……」

「コイツらがまた苦しむかもしれないんだ! 悠長なこと言ってる場合かよ!」

「っ!? ゴメン……」

「零くん……」

 

 

 大賀美の気持ちも分かる。生徒会長としての責任があるのだろう。夜の暗い時間まで居残りさせるような規則(ルール)はないから認められないってことだ。外から断絶された学校で夜遊びできないとは言え、そこのところの常識は徹底しているらしい。

 だけどここで切り上げるわけにはいかない。コイツらが危険に晒されているのであればなおさらな。

 

 

「大賀美。夜の外出許可をくれ。その体育倉庫に行ってみる」

「キミって奴は……。うん、分かった。申請書はこっちで書いておく」

「サンキュ、助かる。お前らはどうする?」

「行く! 零くんが行くならあたしも!」

「日野下……」

 

 

 部室でこの大倉庫について来ると言った時とは違い、やたら真剣な眼差しを見せる日野下。

 そしてそれは、他の奴らも同じだった。

 

 

「そうね。後輩だけに働かせるわけにはいかないもの」

「ボクもやる。このモヤモヤを抱えたまま帰れないから」

「そうだね。スクールアイドルのことはスクールアイドルが解決しないと」

「それに、自分のことは自分でやるべきです」

「みんなで力を合わせればぜってーできるっ!」

 

 

 ぶっちゃけて言えば最悪今晩までに解決できなかったときのために寝だめして欲しかったのだが、そんなマイナス発言はらしくなかったな。コイツらが俺のことを信じてついて来てくれるなら、俺も信じてみよう。今まで、そうやって女の子たちを信頼して生きてきたわけだしな。

 

 

「なるほどねぃ。固くなってきてるね、絆が」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 大賀美と別れ、例の予備体育倉庫の前。

 日もすっかり落ちて辺りも暗い。学校から離れているため照明もなく、肝試しにちょうどいいスポットだ。

 

 

「お化けとか幽霊とか、そういった話になるならそういうのに詳しい人がいれば良かったのにね」

「オカ研とか? ウチの部活にそんなのあったっけ?」

「いるぞ。そういうのに詳しい奴って言うか、それそのものと言うべきか……。とにかく、さっき呼び寄せておいたから」

「どういうことですか?」

「見れば分かる。あっ、来たな」

 

 

 夜空に浮遊する白い影。

 それがゆらゆら揺れてこちらにやって来る。

 

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! 我が愛しの男性より天国から呼ばれ、颯爽と現れ申しました! 本城(ほんじょう)愛莉(あいり)ですっ!」

 

「「「「「「…………へ?」」」」」」

 

 

 今までのシリアスな雰囲気をぶち壊す、陽気で脳カラな声が響き渡った。

 脚はなく一反木綿の様にゆらゆらと、頭に白い三角巾、そして白装束。本物の幽霊である、本城愛梨の登場。

 

 オカルトな話であれば、コイツに頼るのが手っ取り早いだろう。

 これで話が進めばいいけどな……。

 

 

To Be Continued……

 




 思ったよりこの小説に似合わぬシリアス展開になっちゃいました(笑) 定期的にこういうこともあるのでたまにはということで……

 本筋の話もそうですが、花帆たちが零君に向ける目線や気持ちの変化も同時に見届けていただければと思います。むしろ今回の長編をやる目的はそっちなので(笑)

 そして、最後に久々に幽霊ちゃん登場。最後に登場したのが2022年5月なので、ほぼ2年ぶりと考えると時の進みって怖い……
 彼女の活躍は以下のエピソードをどうぞ!

《Aqours編》
Aqours vs 淫乱幽霊ちゃん(前編)
Aqours vs 淫乱幽霊ちゃん(後編)

《スクフェス編》
淫乱幽霊再降臨!

《Liella編》
性なる夜と性なる幽霊(前編)
性なる夜と性なる幽霊(後編)



 いつもの好感度表は長編が終わり次第まとめて更新します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スクールアイドルたちの夜想曲(ノクターン)(間奏曲)

 本城(ほんじょう)愛莉(あいり)

 脚はなく一反木綿の様にゆらゆらと、頭に白い三角巾、そして白装束。絵本に出てきそうな風貌だが紛れもなくマジモノの幽霊だ。

 昔に色々あって事故で死亡し、その時に抱いていた後悔から現世に留まり続けていた。俺がAqoursのいる浦の星女学院に教育実習へ行っている時に幽霊騒動があり、そこでコイツと出会った。そして紆余曲折あって何とか成仏させることに成功。なんとか事件を解決したのだが――――

 

 

「天国のビーチで優雅にバカンスしていたんですけどね、突然愛しの男性に救援を求められてさあ大変! 久々のご指名に心を躍らせて帰宅し、天国発現世行きの新幹線をアプリで割引で予約してウッキウキで来たわけですよ! しかし来てみたらなんですかこれ! 山奥のしけた場所で幽霊の醜い匂いがするし、なにより我が愛しのフィアンセがいないじゃないですかーーーーっ!!」

 

 

 頭を抱えて唸る愛莉。そんな姿を見て啞然とするしかない蓮ノ空スクールアイドルクラブ。

 呼んだのはいいけど、それぞれに1から状況説明するの超メンドくせぇな。俺が小さい姿になっていることも愛莉は知らないわけだし……。

 

 

「えっ、おばけ!? 幽霊!?」

「でもすっげー可愛いんだけど!? アニメや漫画のキャラみたい!!」

「ボク、遂に幻覚が見えるようになった?」

「綴理先輩だけじゃなくて、わたしたちもですよ!」

「本当にいるの? マジ……?」

「立て続けにおかしいことばかり目の当たりにして、頭がパンクしそうだわ……」

 

 

 まあそんな反応になるわな。オカルト話を聞いて怖がる怖がらないは人それぞれだろうけど、誰であれ心の隅ではこの現代科学の時代に幽霊なんていないと思っている。だからこそ本物を目の当たりにすると驚きどころか思考がバグる。今のコイツらみたいにな。

 

 

「コイツは本城愛莉。俺の知り合いの幽霊だ」

「知り合いって、あんたシレっと言ってるけど相当意味分かないんですけど??」

「そうだよ! どういうこと零くん!?」

「そのまんまの意味だ。ちょっと昔に色々あってな、こうした幽霊騒動の時は力を借りてるんだ」

「昔ぃ!? キミみたいなチビすけなんか知り合いにいないんですけどぉ~!!」

 

 

 ひでぇ言い草だなオイ。

 そりゃコイツにとってはここに来た目的が俺のため100%だったのに、いざ現場に本人がいないとなれば憤るのも無理ねぇか。いやいるんだけどね本人。相変わらずややこしいねぇ俺の境遇……。

 

 とにかく、事情は手短に話す必要がある。このまま夜になれば日野下たちにまた悪夢を流し込まれる可能性があり、次は身体にどんな支障をきたすか分からない。ただでさえこの中にスクールアイドル病を患っている奴がいるんだ、これ以上余計な病状を増やすわけにはいかない。

 

 ただ、そのためには俺の正体を愛莉に明かす必要がある。この姿では信用してくれないだろうし、このガキの姿でコイツとの関係を匂わせ続けると今度は日野下たちに怪しまれる。

 でも、正体が他人にバレれば自分の身体が溶け堕ちる迷惑極まりないデメリットを抱えさせられている。こんな時くらい一時的にでもそれを抑えられる薬を作ってくれよと秋葉に物申したいくらいだ。

 

 他人にバレたら……か。

 他、人。人……? だったらいけるか……?

 

 

「おい愛莉、俺に憑依しろ。そうすればソイツの思考回路も全部読めるんだろ?」

「はぁ? どうしてチビの言いなりに――――」

「いいから早くしろ!!」

「ひぃっ!? こ、この女のマゾ心を刺激するサディスティックな声色。それによく見たらイケメンの美少年。私好みな属性てんこ盛りなあなたはまさか……!! い、行きます!! お身体お借りします!!」

 

 

 愛莉は俺の面影を悟ったのか、急にいつもの敬語口調になって俺に憑依した。

 ぶっちゃけ自分が乗っ取られている感覚はあまりないのだが、何者かに自分の脳内を覗かれている感覚はある。彼女は俺に憑依してから特に動きは見せないが、恐らく現在進行形で俺の考えを読み取っているのだろう。

 

 しばらくした後、愛莉は俺から離れて再び霊体に戻った。

 

 

「全て理解しました。幽霊ならバレてもいいってことですか。『他人』、つまり『人』でない私ならって、そんなダジャレで良く自分の身を危険に晒しましたよねぇ。上手く行かなかったらその身体、どうなっていたことやら……」

「んなことで悩んでる暇はない。まずはこの事態を解決しねぇと」

「ほんっとうにあなたって人は……。ま、そういう真っ直ぐなところを好きになったんですけどね」

 

 

 どうやら愛莉に俺の記憶を共有したおかげで日野下たちに怪しまれぬようにこの状況、およびガキの姿になっている理由も伝達できたようだ。幽霊じゃなかったらこんな芸当出来なかったし、助っ人がコイツじゃなかったら危なかったな。

 

 

「神崎クン、ルリたちもう何が何だかさっぱりなんですけど!?」

「コイツのことか? だったら味方だと思ってくれればいい。オカルト話には幽霊で対抗ってね」

「話が1つ2つどころかそれ以上に飛んで、追いつくのがやっとね……」

「追いつけてるだけ凄いよ。ボクは考えるのをやめた」

「どっちでもいいよ。今はお前らのことを解決するのが先決だろ」

「神崎さん、またわたしたちのために……」

「あたしたちより頑張ってるね……」

 

 

 むしろお前らの方が自分のことなのに楽観視しすぎじゃないかと思ってしまう。まあ乙宗の言う通り今は話に追いつくのがやっとみたいだし、大沢みたいにまだ頭の整理ができていない奴もいる。ま、こういった現実離れした事態に慣れてる奴の方が珍しいけどな。

 

 

「お~い! 調査はかどってるかい諸君――――って、ええっ!? お化け!?」

「大賀美……」

 

 

 あぁ、また説明しなきゃいけねぇのメンドくせぇな。もう早々に解決しちまおう、今回の事件。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「話の半分くらいはさっぱりだけど、協力者ってことなら今はその認識で納得しておくよ。説明に時間を使ってる場合じゃないしね」

「理解度高くて助かる」

「君の説明が上手いだけだよ。じゃああたしは外を見るから、君は倉庫の中を頼むよ」

 

 

 大賀美に手早く状況説明をすると、5割くらいしか理解できていないにも関わらず現状を察してくれて調査に動き出してくれた。賢くてできる女っつうのはそれだけで高評価だ。今回の調査もコイツがいなかったら詰んでたし、解決した後に何かお礼でもしておくか。こんなことになる前に去年解決しておいて欲しかったと言えばそうだけどさ。

 

 そんな感じで校舎の離れにある旧体育倉庫の調査に乗り出す。

 ここまでの情報を整理すると、どうやらここが15年以上前の旧スリーズブーケの2人が練習場に使用していた場所らしい。ただそのメンバーの1人が病死。残されたもう1人がどうなったかは不明だが、1人で大会に挑んで1回戦敗退となった事実だけは記録されている。あとは部活ノートに記されていた『ごめんね』の言葉。考えるに何かしら遺恨が残っているように思えるので、もしかしたらそれが悪霊になっているのかと思って愛莉を呼んだ次第だ。

 調査の手掛かりは資料庫から見つけた残された1人のものと思われる手帳。それ読むとほとんどが日記のような日常的な内容だったが、やたらとこの旧体育倉庫で練習した旨の記載がある。もしかしたら当時のスリーズブーケの2人にとって思い出の場所だったのかもしれない。そう思ってここに来たってのがここまでの経緯だ。

 

 毎年この時期にこの学校のスクールアイドルの誰かが睡眠障害に苛まれる。ただ今年は6人全員で、そうなるとただの偶然ではないことが明らか。そして15年前のこの時期に例の病死や1人で大会に参加して惨敗した件が発生していたことを踏まえると、睡眠不足の原因と何かしら繋がりがあるとしか思えない。

 

 だからここにヒントがあればいいんだけど――――

 

 

「そうだ、これを渡しておくよ。秋葉先生と裏ルートで探した、数少ない当時のスクールアイドルの資料だ。この時は『芸楽部』って名前だったけどね」

「アイツと調べたのか。サンキュ」

「頼りにしてるよ少年。あたしはいずれ片付けようと思っていた、この外に置いてある荷物をどうにかするよ。中は任せた」

 

 

 コイツから滲み出る俺への期待はなんなんだよ。今日はずっとそうだな……。

 大賀美は倉庫の周りの雑多に置かれた小道具や器具の大きさや数などをメモしていく。調査と言いつつ生徒会としての仕事も忘れない、ホントにできた奴だ。

 

 そして俺も倉庫の中へ入り、一足先に調査していた愛莉や日野下たちと合流しようとするが――――

 

 

「えぇっ!? セック……えぇっ!? そのために成仏できなかったの!?」

「そうなんですよ~! でもある時、そんな私の性欲を満たしてくれる人が見つかりました! 死ぬ前にイケメンとセックスしたかった夢が叶いそうだったんです!」

「ただでさえ幽霊騒動だのなんだので追いつくのが大変なのに、もう脳がそれすらも拒否しているわ……」

「えっ、でも女なら誰でもそういった願望ありません??」

「いやめぐちゃんたちスクールアイドルだし! そういった純情を汚すようなこと一切ないから!」

「出た出た! これだからスクールアイドルってやつは。もっと性欲に飢えたアイドルはいないんですかねぇ~? イケてる男とヤりまくるために媚びを売る典型的なぶりっ子アイドルみたいなの!」

「めぐちゃんスクールアイドルやり始めの頃は媚び媚びで猫被ったよね。ヤる目的はなかったけど」

「当たり前でしょ!」

「ボク、何の話しているのか分からなくなってきた」

「綴理先輩はそのままでいてください……」

 

 

 なにやってんだコイツら。いやコイツらってより、愛莉がまた自分の欲望を吐き出したせいで周りを困惑させているのだろう。毎度のことながら余計なことしやがって……。

 

 

「おい、お前を呼んだのはそんな話をさせるためじゃねぇぞ」

「分かってますケドぉ~。でもここの空気って重苦しいので楽しい話題でかき消したいくらいなんですよ。幽霊を不快にさせる後悔と憎悪の念が蔓延ってます。これは間違いなく私と同じ霊の仕業ですね」

「えっ、じゃああたしたちの寝不足の原因ってやっぱり幽霊なの!?」

「その可能性は非常に高いです。この倉庫からあなたたちから感じる僅かな邪気と同じ気がします」

「えっ、ルリたちからそんなの出てんの!?」

「昨晩の悪夢の影響かと思います」

 

 

 後悔と憎悪の念、か。病気で伏せてしまったせいでパートナーに迷惑をかけ、そのまま死んじまったことで後悔しているとかあり得るかも。

 でも憎悪ってなんだ? 憎むようなことがあったのか? この手帳を見ていると今のコイツらにみたいにユニット同士仲良くやっていたようにしか読み取れない。だから相手を憎むなんてことは考えられないが、まだ手帳の中身を全て網羅できてるわけじゃないし、もう少し読み進めるか。

 

 その間にも倉庫内に何か手掛かりが残っていないかみんなで調べる。とは言ってもさっきから愛莉がコイツらのことを茶化したり、自分の欲望についてまた大層に語り始めたりとこちらのやる気を削いでくるため、やっぱりコイツ天に送り返した方がいいんじゃねぇか……?

 

 

「にしても、広いなここ。大きな鏡もあるし、本当に練習場として使われてたんだな。いつから使われなくなったんだ?」

(わたくし)も具体的な時期は分からないけれど、沙知先輩も知らないから相当前からじゃないかしら」

「練習のたびにこんな離れにわざわざ来るのも面倒だし、使われなくなっても当然だな」

「でも昔は結構重宝してたみたいだよ、ここ。下校時刻が過ぎてもこっそり練習できる秘密の場所として、生徒の中で有名だったって沙知先輩言ってたし」

「じゃあ昔のスリーズブーケも秘密裏に練習してたってことか。ま、ガキってそうやってコソコソやるの好きだもんな。秘密を共有してるのがカッコいいみたいな風潮あるし」

 

 

 もしかしたら、この手帳にこの倉庫での練習についてたくさん書かれていたのはそのせいかもしれない。2人で夜遅くまでこっそり練習しているのが思い出になっているのかも。

 

 

「うぅ、ちょっとここ寒いね」

「はい。扉を開けっぱなしにしているので夜風が入ってきているのでしょう。でも倉庫には電気がないので、閉めるわけにもいきませんね」

「う~ん、夜風じゃなくて隙間風みたいな感じが……」

 

 

 ここは使われてない影響か電気が通っておらず、そのせいで夜に中の調査をするのはかなり無理がある。とは言っても、今晩もコイツらが寝不足現象に陥る可能性を考えると無理があってもやり通すしかない。

 

 倉庫を調べる傍らで手帳を読み進めていくと、後ろの方になるにつれこの場所で練習した旨を記した内容が多くなってきた。

 どうやらここを秘密基地みたいな感覚で使用していたようだ。ただ秘密と言っても他の生徒も使っていたはずなので、コイツらだけの場所じゃないはず。なのにどうしてこんな表現になっているのかは不明だ。もしかして練習場所って実はここじゃないとか? そんなことあるのか……?

 

 

 考え事をしていると、少し離れたところを調べていた大沢がこちらに声をかける。

 

 

「ねぇねぇ、ここに芸楽部のポスターがあるよ。もしかして15年前のスリーズブーケじゃない?」

「ホントだ! 宣伝用のポスターかな?」

「そうみたいね。かなり前の物なのに綺麗だから、沙知先輩の許可が取れたら部室に持って帰りましょうか」

「さんせーい! これで昔の先輩たちの加護を受けられるようになりますね!」

「ドルケストラのポスターはないかな」

「当時はスリーズブーケだけみたいだったので、残念ながらないみたいですね」

 

 

 日野下たちが当時のスリブが作ったと思われるポスターに群がる。

 今まで大した痕跡がなかったのにここに来ていきなり現れるとは、やはりここを根城にしていたってのは間違ってないみたいだ。でも秘密要素はどこにもない気がする。

 

 

「こうして当時のスクールアイドルの活動記録が出てくると、昔も今も同じ志で繋がっているんだって分かってなんだか嬉しくなっちゃいます!」

「ふふっ、そうね。蓮ノ空は伝統を重んじる傾向が強いから、こうして先輩たちの活動の軌跡が辿れると今も一緒にスクールアイドルをしている気分になれるわ」

「はいっ! これからも頑張れそうです! まずこの問題を解決してからですけど……」

 

 

 スリーズブーケ勢は自分たちと同じユニットの先輩たちが残した遺産に興味津々のようだ。ユニットの名前を継承して使い続けてるからこそ感じられるシンパシーがあるのかもしれない。

 

 そんな中で、藤島が眉をひそめてポスターを眺めていた。

 

「ここ、ポスターの真ん中に切れ込みが入ってる。縦に真っ二つに」

「ホントだ。なんでだろ?」

 

 

 倉庫内が暗く俺は少し離れているから見えづらいが、どうやら1枚のポスターを半分にして壁に張り付けたらしい。

 でも、どうしてそんなことを……?

 

 その時、隣にいた愛莉の表情が一変する。何か怪訝そうな顔をしていたのもつかの間、目を見開いてポスターの前にいた藤島たちに声を上げた。

 

 

「そこから離れてください! 今すぐに!!」

「えっ、どうしたの急に?」

「その隙間から邪気が流れ込んできています!」

「へ?」

 

 

 その瞬間だった。いきなり壁が左右に開くと、霊魂のようなものがその中から雪崩れ込んできた。

 俺は反射的に身体が動いていたが、それよりも前に霊魂たちは日野下たちを包み込むと、そのまま開いた壁の奥へと放り込んだ。

 

 

「「「「「「ひゃぁあああああああっ!?」」」」」」

「日野下! 村野! 大沢! 乙宗! 夕霧! 藤島!」

 

 

 壁の中に消えた――――わけではない。中は滑り台になっており、下へと続いているようだ。日野下たちは霊魂によって連れ去られてここを滑らされたのだろう。

 

 

「どうしたの!? 大きな声が聞こえたけど!?」

「大賀美! 秋葉だ! 秋葉を連れてこい!」

「えっ、どうして?」

「日野下たちが幽霊たちに隠し扉の奥に連れてかれた! この滑り台に押し込まれたんだ! だから秋葉を呼んで外からどうにかできないか調べろ!」

「分かった!」

「零さん! この扉、勝手に閉まろうとしてますよ!」

「愛莉! 俺たちも行くぞ!」

「はいっ!」

 

 

 大賀美がこの場からは無事に離れられたことを確認した後、俺と愛莉は隠し扉の奥の滑り台に乗り込んだ。

 明かりがないので滑ってすぐに周りが真っ暗となる。そして、隠し扉が閉まる音が聞こえた。

 

 暗闇の奥の奥、長い滑り台で蓮ノ空女学院の地下へと滑り落ちていった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「どうやら皆さんも無事みたいですね」

 

 

 長い滑り台の終着点はクッションになっており、しりもちを着いた際にケガをしないように設計されていたようだ。そのおかげで先に落ちたコイツらも俺も無事。愛莉は元々浮いてるから問題なく、突き落とされた反動でここから動けない事態にならなくてまず助かった。

 

 とは言え、脱出しようにも滑り台になってるからここから上ることはできない。残された道は――――

 

 

「1本だけ奥に続く道があるみたいだ。行くしかないか」

「気を付けてください。さっきよりも後悔と憎悪の念が強くなっています」

「分かってるよ。わざわざスクールアイドルのコイツらをここに呼び込んだってことは、この奥に何かいそうだな――――って、お前らどうした? 行くぞ」

 

 

 日野下たちの返事がないから振り向いてみると、みんな揃ってへたり込んでいた。

 さっきまで調査にノリノリだったのにこの落差。どうしたんだ一体……?

 

 

「零くんは、どうして――――どうしてそんなに強いの……?」

 

 

 その悲しげな声で、時間が止まったような気がした。

 

 

To Be Continued……

 




 こうして見ると零君のやる時はやる体質が異様に発揮されているように見えますね(笑)
 いつもそうなのですが、女の子との出会いなどアニメ部分のストーリーはカットされている影響で、あまり有能さを感じられないのが原因かも……


 全く年相応ではない彼の動きや強さに打ちのめされている花帆たち。次回はそんな彼女たちと彼の心の打ち明けシーンからスタートです。




 いつもの好感度表は長編が終わり次第まとめて更新します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スクールアイドルたちの夜想曲(ノクターン)(後奏曲)

「零くんは、どうして――――どうしてそんなに強いの……?」

 

 

 日野下が発した言葉だが、他の奴らも同じ気持ちを抱いているのはその暗い表情から読み取れた。

 俺がこの隠し部屋へ滑り落ちてきたときからコイツらは床にへたり込んでおり、全然口を開かないと思ったらこの様子。地下に連れ込まれる前は冗談を言い合いながらも和気藹々としていたのに、今となっては疑問、恐怖、焦燥、ありとあらゆる負の感情を醸し出していた。

 

 そりゃそうだ。本物の幽霊が現れて自分たちを連れ去ったんだから。これまで緩い学校生活を送って来たコイツらには到底信じられるシチュエーションじゃないし、悪夢を流し込まれるという自分の身に起こっている現象が本気で自分たちを苦しめようとしているのだと、さっきの一連の流れで理解したのだろう。アニメや漫画のようなフィクションではなく、本当に自分たちが狙われているのだと実感した。恐怖心が生まれるのも当然だ。

 

 

「あたし、怖い……。最初はちょっとした冒険気分でいたけど、本当に悪い幽霊がいるんだってさっき分かったから……」

「えぇ、(わたくし)もさっきの出来事で動揺して腰が抜けてしまって……」

「ルリもどうしたらいいのか分からない……。怖くて……」

「神崎、あんたの凄さを思い知らされた……。私もみんなもこんな有様なのに、どうしてそこまで……」

「震えて今にも叫び出しそうだ……。れい、キミが近くにいるおかげでなんとかなってるけど……」

「どうしてあなたはそんなに堂々と立っていられるのですか、神崎さん……」

 

 

 やはり実際に人知を超えた状況に理解が追い付いていないか。それ故に受け入れられぬこの事態に恐怖を抱いている。当然か、普通の女の子だもんなコイツら。

 同時に、自分より年下(本当は違うが)の中坊のくせに、小学校を卒業したばかりのガキのくせにどうしてこんな状況で立っていられるのか、そこに疑問を感じているのだろう。それ以前にもコイツらは俺に対して『なぜ自分たちを助けるのか』と何度も聞いてきたし、何度も疑っていた。その気持ちも恐怖心と同様に爆発したに違いない。こんな地下まで追いかけて来たんだ、我ながらお人好しにも程がある。そりゃ警戒するわな、こんなヤツ。

 

 

「俺は別に強くなんかねぇよ。自分がやりたいからやっているだけだ。お前らの気持ちは関係ない。ただ、手が届くのに目を背けられないだけだよ。つまり俺のワガママだってことだ」

 

 

 結局いつも通りだ。誰かのためじゃなくて全部自分のため。手を伸ばせば届いて相手の笑顔を取り戻せるのに、それをしないってのは自分の信念に反する。しないことで後悔するくらいならする。ただそれだけの話。それは今この状況だけの話ではなく、昔からそうだ。Liella、虹ヶ先、Aqours、μ's、いや、それよりも昔から――――

 

 

「でも、たったそれだけで……」

「それだけであっても、俺にはへたり込まない理由がある。夢だからだ、女の子の笑顔を見ることが」

「夢?」

「あぁ。消させやしねぇよ、その笑顔を。お前らの笑顔を、絶対に。だからこうして立っている」

「強いのね、あなた……」

「そう思うなら勝手にしろ。だけど、この事態は俺だけでは解決できない。お前たちの力も必要だ。なんせ相手は元スクールアイドル。だったら現役のお前たちがいてくれた方が心強い。だから来てくれないか? 俺と一緒に。長年続く、蓮ノ空の悪夢を終わらせるために。なぁに心配すんな。俺が隣にいてやっからさ」

 

 

 みんなは息を飲んで黙りこくる。

 別にコイツらを鼓舞激励しているつもりはない。コイツらだけ逃がそうとも思っていない。俺は女の子をただ守るために動いているのではない。隣にいたいから、ただそれだけの話だ。

 

 一緒にこの事件を解決する。

 それに隣にいないとコイツらに明るい笑顔に戻った瞬間を見られねぇしな。

 

 

 そして、しばらく静寂が続いた。

 ただ、さっきまで重苦しかった空気は徐々に軽くなっているように感じる。そんな中でみんなの俺を見る目が少し変わったような気もした。どこか熱が籠っており、頬も僅かに赤い。灯りもない暗い地下でもそんな表情が分かるくらいには。

 

 そんな暖かい雰囲気に変わりつつある中、みんなは立ち上がった。

 

 

「行くよ、あたし。零くんと一緒ならできそうな気がする!」

「そうね。あなたの言葉に背中を押されたわ」

「クヨクヨしていて仕方がない! 行くっきゃねーっ!」

「まさかこんな中坊に元気づけられるなんてね。やってやろーじゃん!」

「うん、ボクも頑張る。心を温かく包み込んでくれた、れいと一緒に」

「やるしかない、ってことですよね。できると思います、神崎さんや皆さんとであれば」

 

 

 どうやら覚悟は決まったみたいだな。それぞれ自分の動揺する心にどうにか折り合いをつけたのだろう。個々人がどんな思いで立ち上がったのかは想像できないが、みんな俺をこれまで以上に信頼してくれたのは確かだと思う。でなきゃたったあれだけの言葉で再起なんてできねぇからな。

 

 

「子供たちのお世話も大変ですねぇ、零さん」

「いたのかお前」

「いましたよ! 珍しく空気を読んで黙ってたのに!」

「冗談冗談。お前も精々役に立ってくれよ。でないと呼んだ意味がねぇからな」

「えぇ~っ!? 私だけ雑じゃないですか!? 皆さんみたいにもっと熱いラブコールをくださいよぉ~!!」

「ラブじゃねぇ……。くだらねぇこと言ってないで行くぞ」

 

 

 ようやくリスタート。もう夜もかなり遅くなっていそうだが、この調子なら今晩には解決できるはずだ。

 正直この先に何が待ち受けているのか知らねぇけど、アイツらに大見得を切ったからには後腐れなく大団円で終わらせるしかない。それも笑顔のためってね。

 

 

 そんな中、愛莉はぼそっと――――

 

 

「ラブに決まってるじゃないですか。花帆さんたちがあなたを見つめる瞳、さっきと全然違いますよ♪」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「にしてもなんだよこの地下。どうして学校にこんなものがあるんだよ」

「かなり昔だけれど、どうやら聖堂が立っていた時期があったらしいの。礼拝堂として作られたらしいわ」

「答えになってねぇ気がするけど、まぁ用途はどうでもいいか」

 

 

 滑り台から滑り落ちた先の小部屋から出て、長く続いてそうな通路を進む俺たち。今起こっている状況もみんなが受け入れたまでは良かったが、結局ここがどんな場所なのか、どこに繋がっているのか全くの不明だ。しかしそんなことで立ち往生するわけにもいかないので、俺を含め7人が持つスマホの懐中電灯機能を使って進行方向を照らしながら進んでいく。ただ7台同時に照らすと一斉に充電切れになった際に困るので、同時に照らすのは1台のみとして充電切れ対策を行ってる。

 

 

「学校の謎の地下に礼拝堂。なんかRPGのダンジョンみたくなってきた!」

「それに幽霊もいるってことは、もうファンタジーの世界じゃん!」

「なにテンション上がってんだ。さっきまでピーピー泣きそうだったくせによ」

「さや、なにしてるの?」

「携帯の電波が繋がらないか色々試しているのですが、どうやら圏外みたいですね……」

 

 

 繋がったらどれだけイージーモードだったか。秋葉に連絡さえ取れれば万が一の脱出ルートくらいは容易に確保してもらえるだろうからな。コイツらのテンションが戻って気が楽になっているとは言っても、霊魂たちによってコイツらがここに誘い込まれた事実は忘れてはいけない。つまり、相手さんは逃がす気はないってことだ。気が楽になっても警戒は解けないか。

 

 ま、そんな緊張感は関係なく冒険感があるって理由で大沢や藤島が喜びそう、ってか喜んでるけどさ。さっきまで恐怖に(おのの)いていた奴らとは思えねぇな。俺が一緒にいるからかもしれないけど。

 

 

「零くん、この道ってどこまで続くのかな? 結構歩いてるよね」

「さぁ。もしかしたらここでビバークすることになるかもな」

「さやかちゃん、ビバークってなに?」

「登山用語で、予定通りに下山できないときに山中で緊急に夜を明かすことですよ」

「えぇっ!? こんなところでそれはヤダ!!」

「地下だから寒いだろうけど7人もいるんだ、みんなで肌を擦りあって寝れば一晩くらいなんとかなるだろ」

「「「肌を!?」」」

「「擦りあって!?」」

「寝る?」

 

 

 みんなの視線が一斉にこちらに向く。

 何か変なことを言ったかと思ったけど、女の子と一緒に寝るのを特別に感じていないのは俺だけか。俺たちの関係は1週間半前に知り合った同級生と先輩後輩同士、添い寝するほど親密な仲じゃなかったか。感覚がマヒするんだよな、他の奴らとそんなことをしてるからこそ。

 

 

「仕方ないですねぇ。皆さんが恥ずかしいのなら私が零さんと体温を共有しますよ、へっへっへ……」

「ぜってー良からぬこと考えてるだろ。つうかお前、霊体だから添い寝できねぇだろうが」

「そこは抜かりありません。なんたって憑依できる肉体がここに6つもあるんですから!」

「えっ、それってルリたちの身体を使って神崎クンと……!?」

「え、えぇ、それは恥ずかしいと言うか、避けてもらえると助かるわ……」

「そ、そう! めぐちゃんのアダルティなボディで思春期前のコイツの性癖をぶっ壊しちゃうかもしれないし……ね」

「相変わらず積極性がないですねぇスクールアイドルってのは」

「普通に不純異性交遊だと思いますけど……」

 

 

 まだ俺と交わることを諦めてねぇのかよ愛莉の奴。成仏したのにまだ性欲全開とか、よく天国から追放されないもんだ。まぁされたらされたで天国から下山して俺の近くをウロチョロされるだけだろうから、現状維持でいいんだろうな。

 

 ただ、俺と添い寝することに関しては誰もイヤがらなかった。恥ずかしいから拒否はしたものの、添い寝に対して嫌悪感を示したわけではない。そう言った意味では信頼関係が向上した証拠なのかもしれない。

 ま、ビバークなんて冗談で言っただけだ。事件の元凶が近くにいるのに寝られっかよ。

 

 

 そんなこんなで道を歩いている間にも、大倉庫で見つかった15年前のスリーズブーケの1人が残したと思われる手帳を読み進めていく。スマホでページを照らしながら、もはや活動日誌と化している手帳を隅から隅まで熟読する。

 もしかすると旧スリーズブーケが根城にしていたのはあの離れの倉庫そのものではなく、そこから行けるこの地下のことだったのかもしれない。当時のあの倉庫は練習場で他の部活も使用していたことから、2人だけの『秘密』の場所という意味は通りにくい。でもこの地下だったらどうだ? スクールアイドル部の勧誘ポスターの裏に隠し扉があり、この地下がある。もちろん当時の奴らが用意した場所ではないだろうが、たまたまここを見つけて秘密基地として使用していたと考えれば筋は通る。

 

 それに読み進めていくと当時の状況がリアルに伝わって来る。

 この学校のスクールアイドルのユニットは2人で1つ。先輩後輩で組むのがセオリーだが、もはやその垣根を越えてパートナーと言えるほど強い絆で結ばれることもある。旧スリーズブーケの2人もそうであったようで、お互いに絶大な信頼を寄せていた様子。だからこそ相方の病死を転機に日常が大きく傾いた。

 

 更に読んでいくとよりはっきりした。歪んでしまったのは残された方はもちろんだが、恐らく病死した方も――――

 

 

「神崎さん、何か分かりましたか? さっきからずっと手帳とにらめっこしていますけど……」

「あぁ、なんとなく全貌が掴めてきたよ。あとは本人から直接話してもらった方がいい」

「本人って、やっぱりこの奥にいるってコト……?」

「スクールアイドルのお前らをここに連れ込んだんだ。呼んでるんだと思うぞ」

 

 

 今まで夜中に唸らすだけだったのに、今回に限ってはわざわざコイツらを自分のテリトリーに引き込んだ。

 どうしてそんなことをしたのかは分からないが、自分のことを調査されて本人特定されるのを阻止したかったとか? なんにせよ、こちらにしても探す手間が省けてむしろ僥倖(ぎょうこう)だ。

 

 

「れいは、もしその幽霊の子と出会ったら何をお話するのか決めてるの?」

「お話って、そんなのんびりとした雰囲気じゃねぇと思うけどそうだな……。多分向こうは怒ってるだろうから、まず言いたいことを全部言わせてやるかな」

「怒ってる? どうして?」

「そりゃ成仏せずにスクールアイドルに嫌がらせをしてるんだ、何かしら憤りを抱えてんだろ。ま、それは今から待ち受ける奴に全部聞けばいいさ」

 

 

 手帳に記されていた旧スリーズブーケの過去。悲しき過去の裏に何があったのか、大体察することはできたが本人に聞いた方がはっきりするだろう。

 この事態を解決するのは俺だけじゃない。むしろ俺と共に歩くコイツらにかかっている。相手と同じスクールアイドルとして、頼んだぞ。

 

 

「人の目には見えないと思いますが霊魂が漂っています。あの扉の先みたいですね、本丸がいるのは」

「そうか。お前にも期待してるよ」

「任せてください! 身を挺して皆さんをお守りしますから!」

「身はねぇけどな。霊体だから」

「人が意気込んでるのに茶々を入れないでくださいよぉ~」

「人でもねぇだろ」

「もぉ~~~~っ!!」

 

 

 日野下たちはそのやり取りを見て苦笑する。

 これで肩の荷も下りたようだし、そろそろ本人様ご対面と行きますか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「わぁ~っ! この部屋の鏡おっき~いっ!」

「やっぱりここで練習していたみたいだな」

 

 

 長い通路の先の扉を抜けると、そこは大広間となっていた。特に物らしい物はないが、壁が鏡面仕様になっている部分があるので旧スリブの2人はここを練習場所としていたのだろう。確かにここなら誰にも見つからずに夜遅くまで練習できる絶好のスポット。しかも秘密の共有ともなれば2人の信頼や依存関係も更に高くなる。手帳の記載が妙に百合百合しかったのもその影響だろう。

 

 そんな中で、広間の奥にぽつんと佇む石があった。

 

 

「あの石の前にあるのは花……かな?」

「でも枯れちゃってるみたい……」

「枯れていると言うより、もうボロボロで干からびちゃってるね」

「墓石みたい……」

「みたいじゃなくてそうだろうな」

「えっ、近づいて大丈夫なの神崎君」

 

 

 小さな石と何年も前に添えられただろう花。花の方は藤島の言う通り原型を留めていないくらいにしおれており、石も黒ずんでいることから手入れがされた様子はない。

 この場所を知っていたのは旧スリブの2人。その中の1人が病死したってことは、この墓石は残されたもう1人が作ったものだろう。

 

 そして、この事件の元凶が――――

 

 

「余計な人まで来たようね……。だけど、ここに来た以上逃がしはしない……」

 

 

 どこからか誰でもない声が聞こえてきた。

 気付けば墓石に白い霊魂たちが渦巻いている。その霊魂はやがて石を取り囲み1つになる。その形は揺らめいて説明しづらいものだったが、徐々に人型へと形成されていく。背は乙宗と夕霧の間くらい。形ができたら次は顔立ちや服まで作られていき、やがては幽霊とは思えないほど人と近くなっていく。

 

 その姿は肩にかかる程度の白い髪と切れ目、鼻の形も良く綺麗な顔立ち。スタイルも良く、雰囲気はかなり荘厳で怖さを感じる大人びた姿。

 そして、蓮ノ空の制服を着こんでいた。

 

 

「まさかこの人が、病気で亡くなった……」

「あぁ。だろ? 三津音(みつね)さん?」

「えっ、零くん名前知ってたの?」

「この手帳に書いてあったんだ。そう、あんたのパートナーが記したこの手帳にな」

 

 

 そりゃパートナーのことくらい書いてあるわなって話だ。苗字までは分からないが、2人で1ユニット構成であれば頻繁に出てくる奴の名前こそがパートナーの名前。つまり15年前に病死したコイツだってことだ。

 

 三津音(みつね)と呼ばれる女の子は表情を崩さず、俺と後ろにいる日野下たちを見つめる。愛莉の姿を見て少し眉をひそめたがそれ以上のアクションはなかった。自分でコイツらを連れ込んだにしては黙ったままなのが意味不明だが、俺や愛莉のような異物が混入していることに対して警戒しているのだろうか。

 

 

「ある程度は知っている。だから余計な前振りはなしだ」

「何が言いたいの?」

「自分の勝手な恨みで、コイツらを、スクールアイドルを襲うのはやめろ」

「ッ……!!」

 

 

 顔色が変わった。図星なのは間違いないようだが、単刀直入過ぎて相手の事情を一切加味しない言い方になってしまった。

 だけどどんな事情があるにせよ無関係の人間を苦しませているのは事実。しかも長年の間だ。咎める理由に私情を挟む余地なんてない。

 

 ただ相手はそう思っていないようで、俺の言葉を聞いてさっきまでの警戒心を高めているに違いない。明らかに怒りの感情が表情や雰囲気から見て取れた。

 

 

「スクールアイドルなんて無用の産物だ。私を裏切った、アイツと同じスクールアイドルなんて……!!」

 

 

「裏切った……?」

 

 

 日野下たちに疑問が浮かぶ。手帳の内容をまだコイツらにも話してないから当然の反応か。

 そして、目の前の三津音すら知らない事実もこの手帳には――――

 

 

 伝えるしかない。それでみんなで笑顔でここを脱出し、夜を越し、明日を迎える。俺が目指すのはそれだけだ。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 事件もいよいよ本番ですが、零君と花帆たちの距離も縮まりつつあります。今まではただの中学生のクソガキとしか見られていなかった彼ですが、ここに来てようやく目線も揃いつつあるって感じです。

 そういえば、『愛莉』の漢字が間違っていたので今更修正しました(笑)
 登場が毎回久しぶりだから気づかない!




 長かった長編も次回でクライマックス、完結編です。是非最後までお楽しみください!






 いつもの好感度表は長編が終わり次第まとめて更新します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スクールアイドルたちの夜想曲(ノクターン)(終曲)

 15年以上に渡り蓮ノ空のスクールアイドルたちに悲しき悪夢を見せ続けてきた張本人が遂に現れた。

 その姿は肩にかかる程度の白い髪と切れ目、鼻の形も良く綺麗な顔立ち。スタイルも良く、雰囲気はかなり荘厳で怖さを感じる大人びた姿。

 そして、蓮ノ空の制服を着こんでいた。

 

 霊魂が作り出した姿なので実態ではないはずだが、肉眼でもはっきりと分かるくらい本物の人間に見える。霊の力が高いと言われる愛莉ですら姿をここまで実態に近づけることはできないので、如何にコイツがこの世に未練があるのか分かるだろう。残留し年の集合体、とでも言うべきか。

 

 三津音(みつね)。それが彼女の名だ。

 15年前の旧スリーズブーケの1人で。活動期間中に病で倒れ、闘病の末に病死。残されたもう1人が書き記した日記に彼女の名前や当時の活動について書かれていた。日記には百合小説かと思うほど2人の濃密関係、そして楽しかったであろう思い出が描かれていたのだが、病死を期にその幸福も崩れ去ったようだ。

 

 その時に彼女の抱いた感情はその怒りの表情を見れば明らかだ。

 場の緊張は最大限に高まっている。さっき彼女が言ったこの言葉――――

 

『私を裏切った、アイツと同じスクールアイドルなんて……!!』

 

 大切なパートナーであった相方を今では『アイツ』呼び。相当な憤りが溜まっていたに違いない。

 病死の前に何かあったのは明白。スクールアイドルに、何より相方に恨みを抱いているのもそれが起因しているのだろう。

 

 

「裏切ったって、一体どういうこと……?」

「話す必要はない。ここにスクールアイドルを呼んだのは話し合いをするためではなく、もういっそのこと、スクールアイドルなんてまとめて消してしまいたいと思ったから……」

「そ、そんな……!!」

 

 

 攻撃的な目がこちらを貫こうとする。だが、怒りの感情の陰に悲しみの感情も垣間見える。日野下たちを自分のテリトリーに引きずり込んだのも、ただ恨みつらみで罵声を浴びせたかったからではないようだ。

 たが本人は問答無用で何も話すつもりはないらしい。だったら――――

 

 

「お前がスクールアイドルを恨んでいるのは、お前の相方が裏切ったから。そう思ってるからじゃないか?」

「えっ、神崎さん分かるんですか?」

「あぁ、コイツの相方が残したこの手帳を見て大体な。俺の想像もあるけど、思春期の感情的な思考回路を読み取るのは得意だから大体は察せるよ」

「何を分かったような口を!!」

「お前が話さないなら俺が明らかにしてやる。本当の想いってやつを」

 

 

 伝える必要がある、目の前の怒れる亡霊に。伝えてもらう必要がある、後ろのスクールアイドルたちに。

 だからこそここで真実を全て晒す。悲しき真実になるかもしれないけど、負の連鎖をここで断ち切ってやるために。

 

 

「お前が倒れてから、相方はお前の病室に通い続けた。それもスクールアイドルの練習すら放って。そりゃそうだ、1人になったらユニット活動はどうしようもないからな」

「…………そう。病気で()せったけど、あの子との毎日はそれでも楽しかった……」

「だけど病の進行は早かった。余命が告げられた上に、残された時間ももう僅かだった。それでも相方はお前のもとに通い続けた」

 

 

 2人の関係は日記の描写を見ればその深さが容易に感じ取れる。だからこそ大好きなスクールアイドルの活動すら捨てて、残り少ない時間を大切な人と過ごしたのだろう。別に間違ってはいない。むしろ普通に思える感情だ。

 

 

「日記にも、お前との時間を最後の最後まで楽しみたい。もう逃れられない運命だけど、それでも最後の刻まで笑顔でいて欲しい。自分が病室に通い続けてその願いが叶うのであれば、自分は何があっても一緒にいる。そんな思いが綴られてたよ」

「あの子は私に笑顔をくれた。ずっと病院のベッドの上で、いつ死ぬかも分からない絶望を払拭してくれた。あの子といる時間だけが幸せだった。なのに――――!!」

「ある時を境にアイツは来なくなった。お前のもとに」

「ッ……!!」

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

 

 話の流れが変わったからか三津音の表情が険しくなった。同時に俺の後ろのいる愛莉や日野下たちにもより一層の緊張感が走ったのを感じた。

 三津音は俺を睨みつける。怒りをぶつける相手がいないからだろう。今にも刺し殺すかのような眼光をしている。

 

 

「そうだ! アイツは来なくなった! 何をしていたのか知ってるか!?」

「スクールアイドルの練習だ」

「練習? どうして……?」

「なんで今更スクールアイドルの練習なんてって思った! 私にはもうあの子しかいなかったのに!! あの子の笑顔が見られなくなって、私はどんどん病んだ……。死期が前倒しになっている、そんな予感もした。だからこそあの子が必要だったのに……!!」

「じゃ、じゃあ裏切ったっていうのは……」

「そっちの方が大切だったからだ!! 私よりもスクールアイドルの方が!! だから憎い!! スクールアイドルも、アイツも!! 私は絶望しながら死んだ理由がそれだ!!」

 

 

 歪んでいる愛、と言っても差し支えはないだろう。生きている俺たちから見ればそう見える。だがコイツは死にかけていた。もう自分の命が燃え尽きるのを待つだけの日々を、誰が精神を安定させて送ることができるだろうか。

 だからこそ相方は支えになっていた。手帳にも書いてあった。最後まで一緒にいて、笑顔であの子を見送ってあげようと。最後まで絶望させないように、と。

 そう書き記すほどに深い関係性なんだ、逆に自分のところに来なくなったら関係を切られたと思っても仕方がない。死ぬまでの唯一の希望こそその相方だったんだから。死ぬ間際、たった1つの心の拠り所が勝手に消えてしまって絶望に至るのも当然だ。

 

 そう、恨んでしまうのも無理はない。咎めはしない。

 だけど――――

 

 

「確かにその相方はお前の前から消えた。でも誰にも介入できないほど深い関係だったんだ。そう簡単に絆を絶つと思うか? 何も理由がなく」

「なにが言いたい……」

「スクールアイドルを練習をしていたのは、お前のためだ」

「私の、ため? そんな馬鹿な、私のためだったら私の病室に通い続けていたはず! これまでそうだったように! 笑顔を送り続けてくれたはずだ!!」

「いや、お前のためだよ。お前が会話の中でポロっと漏らしたそうだ。『あなたと一緒に次の大会で優勝したかった』ってな」

「あっ、まさかその相方さんが練習していた理由って……!!」

「あぁ、大会で優勝するためだ。その結果をお前に持ち帰ってやりたかったんだろうよ。残念ながら1回戦落ちで終わってしまったみてぇだけどな」

「それって幽霊騒動の調査しているときに出てきた記録に残っていた、大会の実績表のことですか?」

「そうだ」

 

 

 結果が伴わなかったのも無理はない。元々2人でやる予定のライブを1人で強行したんだ、パフォーマンス力も魅力も何もかもが半減する。そんな中途半端が評価されるほどいつの時代も甘くはない。

 ただ、俺の予想では結果なんてどうでも良かったんだと思う。自分たちのスリーズブーケが最後に輝いた、その証さえ残れば……。

 

 

「そ、そんな、大会に出るために……? でもあの子、そんなこと一言も……」

「そのあたりお前にどう伝わってたのかは読み取れなかった。手帳には伝えてあると書いてはあったけど、絆を切られて絶望していたお前の心には届かなかった可能性がある」

「あの子が、そんな……」

「その後、その相方さんはどうしたの?」

「書いてあったよ、思いの丈の全てがな。コイツが死んだ後に書かれたんだと思う」

 

 

 その相方が感情のまま書いたであろうページがあった。涙で紙がぐしゃぐしゃになっていたようで、文章も文法が一部おかしいところがあって如何にソイツ自身も追い詰められていたのかが良く分かる。

 

 

「ソイツはこう書いてたよ。間に合わなくてゴメン、一緒にいられなくてゴメン。でもあなたに届けたかった、最後に私たちがスリーズブーケである証を。結果は伴わなかったけど、それでも構わない。あなたと私で作った衣装、曲、振り付け……最後にライブでファンに届けたかった。でも中途半端で届けるわけにはいかない。だからたくさん練習した。そのライブ映像を見て、あなたと最後の時間を過ごしたかった。でもあなたは目を閉じてしまった。この想いが伝わることは永遠になくなってしまった。もう少し早ければ、あと1日、いや数時間、数分でもあれば一緒に最後の時間を過ごせたのに、それすらもできなかった。ゴメンなさい。謝っても許してくれないし、あなたは多分私を恨んでいる。笑顔を届けると言ったのに最後の時間にいなかった私のことを。どうすればよかったのか、これを書きながら後悔している。私にできる償いはせめてお墓を建てることだけ。あの秘密基地。あなたと一緒に夜遅くまで練習した、あの思い出の場所に……」

 

 

 相方の到着はコイツの命が尽きる刻に間に合わなかった。スリーズブーケとしての最後のステージは、コイツの目に映ることなく終わってしまったんだ。

 そして、コイツが現れたこの墓こそが相方の立てた墓。償いの1つだ。

 

 見れば、三津音は涙を流していた。とめどない感情が溢れ出しているのだろう。

 それは日野下たちも同じようで。涙でむせび泣く声や、鼻を啜る声も聞こえる。同胞のスクールアイドルとして共感できる気持ちがあったに違いない。もし自分たちが同じ状況に陥ったらどうするのか。嫌でも想像してしまうだろう。だからこそ俺よりもコイツらの方が共感できる。その悲しみを理解できる。

 

 

 そんな中、三津音は頭を抱えていた。

 

 

「私は……私はなんてことを……!!」

「お前の勘違いだったんだ。絆は断ち切れていなかった。相方はむしろより強く繋ごうとしていたんだ」

「そんな……そんな、あぁ……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁあああああああああああああああああああああああ!!」

「なに!?」

「皆さん危ない!!」

 

 

 彼女から物凄い力が周りに拡散された。愛莉が咄嗟に俺たちと彼女の間に割り込んで防いでくれたことで難を逃れたが、それでも風のような何かが凄まじいパワーで俺たちの身体を叩きつける。少しでも踏ん張りを緩めれば部屋の端まで飛ばされてしまいそうだ。

 

 強風が吹き荒れる。鼓膜が張り裂けそうなくらいのうねり上げて。

 

 これも幽霊の力なのか。同じ幽霊の愛莉が何とか抑えているものの、限界はすぐに来そうなくらい険しい表情をしている。

 俺たちも風に飛ばされぬように踏ん張るだけで精一杯で、逃げるために足を動かすこともできなかった。俺たちの壁となってくれている愛莉も今にも飛ばされそうだ。

 

 

「この人、強い……!! このままだと私まで……!!」

 

 

 三津音は勘違いで恨んでしまっていたこと、自分のしてしまったこと、何より向こうから絶ったと思っていた絆を自分から絶ってしまっていたこと。その全てが絶望となってこの力を引き起こしているのだろう。もう自分で何かを考えることはできなくなっているようだ。15年以上も現世に留まり続け、アイツへの恨みがいつしかスクールアイドルへの恨みに変わるくらいに心が歪んでしまっていたんだ。

 その歪みがいきなり正されようとしたら混乱もする。仕方のないことだ。

 

 

 でもこの状況は打破しなければならない。

 その鍵を握っているのは俺じゃない。

 

 そのために、俺がやるべきことは――――

 

 

「お前ら、 風の音がうるさいけど聞こえるか!!」

 

 

 正直後ろを振り返っている暇もない。少しでも力を緩めれば吹き飛ばされそうなくらい部屋中に強風が吹き荒れているからだ。日野下たちも同じく飛ばされぬよう踏ん張るだけで精一杯だろう。

 でも伝えなければならない。前を向きながらありったけの大きな声で伝える。

 

 

「お前らも思ってることがあるだろ! それを今ここで全てぶちまけろ!! 届けるんだ、蓮ノ空のスクールアイドルとして!!」

 

 

 俺の緊迫感が伝わったのか、6人も大声で答える。

 

 

「で、でも全然心も頭も整理とかできてなくて!!」

「えぇ、(わたくし)ももうどうしたらいいのか……!!」

「どう伝えたらいいのか、伝わらなかったどうしようとか……!!」

「もう心がぐちゃぐちゃしていて、何も考えられない……!!」

「どうすれば、どうすればいいの!?」

「そんな悲しい過去を聞いて、私たちにどうしろって……!!」

 

 

「いいから伝えろ!! なんだっていい!! 心の内を全てだ!! 同じスクールアイドルのお前たちにしかアイツに届けられないんだ!! アイツは迷ってる! パートナーとの絆が本物だったのかどうか! でも同じユニットで活動してきたなら確かにあるはずだ! だから思い出させてやれ! お前らの想いで!!」

 

 

 日野下たちは渋る。

 そりゃそうだ。この暴風で上手く喋れない、その場に踏ん張り続けるしかないのは確かだが、相手の過去があまりにも悲しすぎた。

 もし同じユニットの仲間がもし病気で臥せって余命を宣告されたら? そんな未来に自分を置き換えてしまって、もう何がなんだから訳が分からなくなっている。自分の相方がいなくなってしまったら。そんな最悪の事態を考えてしまう。思うところはあるはずなのにその思考が邪魔をして何も言い出せない。

 

 そう、今の俺がやるのはコイツらの感情を、想いを引き出させることだ。

 

 

「伝えろ!! その想いを!!」

 

 

 伝えるんだ。俺の想いも乗せて――――

 

 

「花帆!! 梢!! さやか!! 綴理!! 瑠璃乃!! 慈!! 今は俺を信頼しろ!! 今までどう思っていたとか、今後どう思われようが、そんなこと今は関係ない! 俺が何とかしてやるから、伝えろ!!」

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

 

 心の鍵が外れたような音がした。

 今度はコイツらが届ける番だ。

 

 少し間があった。だが、後ろから凄まじい気迫を感じた。

 遂に心の準備ができたようだ。みんなは一歩前へ出る。我武者羅でもいい、自分を前に出す覚悟をしたってことだ。

 

 

「辛いことが起きるたびに泣いちゃうと思うけど、それでも前に進むのはやめたくない! あたしは、梢センパイと一緒に進む!」

「スリーズブーケの先輩方が残してくださった曲や振り付けは、今でも受け継がれています! その希望を胸に花帆さんと夢へ歩み続けます!」

「この先、迷うことも躓くこともたくさんあると思います! でも綴理先輩と一緒なら乗り越えられます! 絶対に!」

「さやがいてくれたから今のボクがいる。もうさやがいないライブなんて考えられない。だから、だから離さない……!」

「めぐちゃんのおかげでルリの毎日が楽しい! メンタル弱者のルリでもスクールアイドルができるのもめぐちゃんのおかげ! だから握られた手は絶対に解かない!」

「ルリちゃんと一緒に最強アイドルになるって決めたんだ! 握った手を更に強く握り返す!! 離れたりなんてあり得ないから!!」

 

 

「お前、スクールアイドルが好きなんだろ! だったら自分の後輩を襲うなよ!! 聞いただろコイツらの意志を!! お前が心配する必要はない!! コイツらは乗り越える!! どんな辛いことがあったとしても!! それはお前らも同じだっただろ!! お前の相方は最後までお前とスクールアイドルを貫いた!! お前もアイツを信じてたんだろ!! だったらそれを誇れよ!! いい相方に出会えたって!! 誇れよ!!」

 

 

 三津音は目を大きく見開いた。

 花帆たちの言葉が伝わったのかは分からない。彼女はそのまま硬直する。自分の中でどう折り合いをつけるのか、この問題が解決するのか最終的にはアイツの心が修復されるか次第だ。俺も愛莉も、花帆たちもアイツを黙って見守る。もし思いが届いていなかったらどうしようと、一抹の不安を感じもする。

 

 しかし、彼女はここで初めて『笑み』を見せた。(しがらみ)が消えた、純朴な笑みだ。

 次第に暴風も弱まり、ようやく身体も自由になった。

 

 そんな中で、彼女が口を開く。

 

 

「もしかしたら、心のどこかでスクールアイドルをやめさせようとしていたのかもしれない。私のような絶望を、後輩たちに感じて欲しくなかったから。あの子を恨んでいた私も私だけど、こんな悲劇を繰り返さぬようにすると願っていたのも私。怒りと悲しみの感情が混じりあっていたからこそ、この世に残っていたのかも……」

 

 

 勘違いだったけど、その怒りで15年以上もスクールアイドルを襲っていたのは事実だ。だけど時折悲しげな表情を見せていたのは、スクールアイドルたちにスクールアイドルに関わって欲しくなかったから、と彼女は思っているようだ。自分のユニットのパートナーが病死するなんて稀すぎるくらい稀だが、そんな極端でなくとも相方と深い関係なればなるほど絆が決裂した際のダメージは甚大となる。そんな未来から遠ざけようとしていた。その気持ちが気付かぬうちに心の片隅にあったのかもしれない。

 

 

「あの子が私よりスクールアイドルを選んだのかと思っていたが、違ったみたいだ。最後まで私を選んでくれた。私と共に歩んできたスクールアイドルで私の最後を看取ろうとした」

「あぁ。スクールアイドルこそお前らそのものだったんだろ? ちょっと意志疎通に失敗してたけどさ、相方の気持ちはずっとお前に向いていた」

「うん。キミたちスクールアイドルのおかげで気付けたよ、本当に大切なものが最後まで隣にいたことに」

 

 

 花帆たちの想いは届いて思い出したようだ。相方は最後の最後までスクールアイドルだった。スクールアイドルでいようとしたんだ、三津音のためにも。同じユニットで繋がった絆を最も示すにはスクールアイドルの活動しかなかったんだから。

 

 そうやって感傷に浸っていると、彼女の身体が薄っすらと消えかけていることに気が付いた。

 

 

「お前、その身体は……?」

「成仏が近づいているようです。幽霊が現世に留まるのは後悔があったから。それが消え去った今、あなたはもうここにはいられません」

「そ、そんな! せっかくお友達になれそうだったのに!」

「花帆さん……」

 

 

 花帆の奴、あんな目に遭わされた張本人に対していきなり絆を育もうとするとか、コミュ強も行くところまで行ったら異質に見えるな……。梢なんて驚いて唖然としてるぞ。

 

 

「そうか、成仏か……」

「はい。それが幽霊界隈のルールですので」

「そんな界隈あんのかよ……」

「じゃあ行くことにするよ。それにしても友達か、あの子以外の友達はいなかったな」

「同じスリーズブーケの先輩だったのに、色々と教わりたかったです……」

「ならば、今度は君たちが見せてくれ。私が叶わなかった全国大会の優勝。今では『ラブライブ!』と言うんだけっか。私たちが、君たちが好きなスクールアイドルを見せて欲しい。それぞれ、いいパートナーを持っているみたいだしな」

 

 

 三津音はこれまで見た中で一番いい微笑みを花帆たちに向けた。

 6人の返事は、もちろん決まっている。

 

 

「「「「「「はいっ!」」」」」」

 

 

 6人も今日一番の微笑みと共に返事をした。

 

 そして、三津音は現世から姿を消した。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 その後、俺の携帯をハッキングした秋葉によって俺たちの位置が割り出され、蓮ノ空地下ダンジョンからの脱出ルートを教えてくれた。

 別に迷宮になっているとかそんなことはなく、そもそも三津音たちが秘密の練習場として使っていた時点で帰宅ルートは存在していた。あの長い滑り台を遡っては戻れないから、どこかに帰り道くらいあるとは最初から踏んでたけどな。

 

 そして、俺たちは遂に地下から地上に脱出した。

 

 

「ぷはぁ~~っ!! 空気が美味いゼェ~!」

「るりちゃん、飲んでるみたいだよ……」

「一仕事した後に飲みたい気分ってこういうことを言うのかな?」

「花帆さんはお酒に飲まれそうだから、将来気を付けてね」

「みんなで飲みに行く?」

「行きませんよ先輩!」

 

 

 さっきまでの緊張感はどこへやら、いつも通りのゆる~い雰囲気が戻って来た。ただもう夜も夜、しかも日中は普通に授業があった日なので疲労感が半端ない。飲みたくなる気分が大いに理解できるな。

 そういやこのガキの姿で飲酒ってできるのか? 中身は成人だけど中学生の身体じゃ流石に無理か……。

 

 

「そういや、お前らにも感謝してるよ。ありがとな、秋葉、大賀美、愛莉」

「おおっ、零君が素直にお礼を言ってくれるなんて! その言葉だけでも手伝った甲斐があるってもんだよ」

「お礼するのはあたしの方だ。この学校の元スクールアイドルとして、生徒会長として、事件の解決に感謝するよ」

「零さんから感謝されるなんて、もう絶頂してホントに成仏しちゃうぅううううううううううううううううううう!!」

「はは……」

 

 

 愛莉の奴、そんなこと言いながら真の意味で成仏するためには俺との生の性行為が必要らしいからな。一生叶わねぇだろそれ。コイツもコイツで今回はカッコいいところを見せたのに、最後の最後は締まらねぇないつも通り。

 秋葉は今回自分にとっても不測の事態だったので、その私利私欲が暴走せず普通に協力してくれた。普段は悪魔と呼ばれる研究者だけどなんだかんだ頼りになるんだよな。だから憎むに憎めない。その飴と鞭がコイツの手口なのかもしれないけど。

 大賀美は素直に頭を下げて感謝を伝えてきた。俺としてもコイツの手助けがなかったら詰んでたから助かった。また困ったことがあったらコイツに頼めば何とかしてくれそうなので、お互いの信頼が深まったのは良かったかな。

 

 

 そして、その信頼が最も深まったと言えば――――って、さっきからやたらと見られてる気がする……。

 

 

「あんだよ?」

 

 

 暗いから表情は読み取りづらい。

 だけど、どこか緊張している様子は見受けられた。頬も少し赤くなっている気がする。

 

 

「零くん、今日はありがとう」

「花帆……。手を差し伸べるなんて普通のことだろ、って言っても納得しないだろうな。素直に受け取っておくよ、その気持ち」

 

 

 女の子の笑顔を見るため。その顔を消さないため。俺の原動力はそれだけだ。自分のためだからお礼を言われるようなこともないけど、今回だけは素直に受け入れていいと思う。その素直な気持ちこそ今の俺とコイツらの結びつきを強くしてくれるから。

 

 

「まさかあなたにここまで助けられるなんてね。ありがとう、カッコよかったわ――――()()

「わたしも、見直したと言ったら上から目線ですけど……助かりました、ありがとうございます――――()()()

「れい、今日は君がとても大きく見えた。みんなと同じくらいこれからも一緒にいたい、そう思ったよ」

「ルリもなんつーか……やっぱり面白いヤツって思った! それと同時に……カッコいいなって。ふふっ、ありがとね――――()()()

「最初はクソ生意気なガキだと思ってたけど、熱い思いを秘めてるんだね。ありがとう。伝わって来たよ、()が私たちを大切に思ってくれる気持ち」

 

 

 ようやく絆を両方から結ぶことができた。片方だけではとても繋げないもの。今回の事件は確かに悲しかったけど、みんなとの距離がこれまでと比べ物にならないくらい縮まったので結果オーライだ。事件の調査をしている間は必至でそんな打算的なことを考えてる余裕もなかったけどな……。

 

 そんな感じで無事に事件は終結した。花帆たちに二度目の夜を迎えさせることなく事を解決できたことが一番安心したかな。

 なんにせよ――――疲れすぎて腹減ったぁ……。朝からずっと調査してたから飯全然食ってなかったな。

 

 そんなこと考えていたからか、腹の音が聞こえた。

 あれ? でも隣から聞こえてきたような――――

 

 

「花帆さん、あなた……」

「ゴ、ゴメンなさい、 安心したらお腹空いちゃって……あはは」

「かほらしいね」

「この締まらなさがですね」

「えぇ~それはヒドくない!?」

「ていうか、もう夜遅いけど寮の食堂開いてる!? ヤバいじゃん!!」

「じゃあみんなで寮まで競争ね! よーいスタート!」

「えっ、めぐちゃん!?」

「あっ、ズルいですよ慈センパイ!」

「ボクも行く~」

 

 

 あんなことがあったのに元気だねぇ。若いってすげぇわ。

 でも、この元気な笑顔を見るために俺たちの日常を守ったんだよな。だったら今は全力でコイツらに付き合ってやるか。

 

 

「さやかも梢も、そんなとこでボサっとしてると飯全部食っちまうぞ」

「えっ、それは困りますよ零さん!」

「ちょっと、待ちなさい零君!」

 

 

 俺たちは寮に向かって駆けだした。その様子を見て微笑む秋葉たち。

 

 ここからが俺と花帆たちの本当のスタート。そしてスクールアイドル病という更に大きな問題を解決するための新たな一歩。

 だけど、とりあえず今はコイツらとの日常を楽しもう。育んだ絆を確かめ合うように、な。

 




 長かった幽霊騒動編がようやく完結しました!
 そして遂にお互いに名前呼びになったことでより絆も深まったことでしょう。
 虹ヶ先やLiella編が最初から名前呼びである程度の関係性になっていたので、今回はゼロから絆を結ぶのに時間がかかった気がします。でもこういった過程を描ける方が後の恋愛要素の説得力が高まるので、これはこの展開でアリな気がしています。



 次回からはまたいつもの日常パートに戻ります。
 今回で彼との関係性がグッと縮まったので、彼女たちが彼を見る目が少し変わってるかも……?


【キャラ設定集】
零から蓮ノ空キャラへの呼称(そのキャラへの印象)
・日野下花帆 → 花帆
・村野さやか → さやか
・乙宗梢   → 梢
・夕霧綴理  → 綴理
・大沢瑠璃乃 → 瑠璃乃
・藤島慈   → 慈

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零くん  (?→95)
・村野さやか → 零さん  (55→80)
・乙宗梢   → 零君   (50→75)
・夕霧綴理  → れい   (61→81)
・大沢瑠璃乃 → 零クン  (58→83)
・藤島慈   → 零    (39→74)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絆も恋もステップアップ!

 転入生活10日目、朝。

 遂に俺の女子高潜入生活も二桁日に到達した。1週間半と言ってしまえば短く聞こえるが、ここに来てから毎日が騒がしくて濃密な日々だったのでそうは思わない。むしろ1か月くらい生活して馴染む感覚をここ1週間半で凝縮して体験しているため、もはや自分が元々大人だってことを忘れるくらいには今の日常にどっぷり浸かっている。早く元に戻りたいのに今の生活も悪くないと思ってしまうあたり、もう自分の感覚が狂っていることが分かるな。

 

 この日常が楽しいと思えるようになったのも、この学校で新しい女の子たちと絆を育むことができているからだろう。

 蓮ノ空女学院。そこのスクールアイドルである6人とは俺が転入して来てから色々あった。最初は花帆以外からは大なり小なり警戒されてたけど、ずっと一緒にいたことで自然と打ち解け合い、そして昨晩の幽霊騒動でその関係は一気に深まったと思う。自惚れかもしれないが、お互いに名前呼びになったから全く進歩がないことはないはずだ。これで調査も捗るはず。

 

 そう、調査。俺が女子高に唯一の男子生徒として転入させられたのにはもちろん理由がある。

 スクールアイドル病の治療。この学校のスクールアイドルが患うとされている病気で、女の子の身体のどこかに小さな傷が入る。それは痛みもなければ本人や周りの人間からも見えず、それを目視できるのは限られた人間、つまり俺のみ。その傷を放っておくとやがて全身にまで傷口が広がり、やがてその子の身体は――――という曰く難病らしい。

 その傷は俺が触れば塞がるらしいので、その治療のために秋葉が俺をここに転入させたんだ。もちろん大人のままでは生徒に接近しづらいので、より密接な距離に近づける生徒として女子高に紛れ込むことになった。薬で身体を中学生、いやほぼ小学生に近い体型にさせられて……。

 

 

「ほい、できたよ」

 

 

 今朝は珍しく秋葉が朝食を作ってくれた。

 いつもは寮の食堂で済ませているのだが、どういう風の吹き回しかモーニングコールから朝の世話まで身の回りのことを全部やってくれている。普段はこんなことしないので逆に不気味だ。

 

 

「なんか企んでるだろ、って顔してるね」

「あたりめぇだろ。今朝に限って何してんだよ」

「ご褒美だよ。昨晩は頑張ったで賞」

「ガキじゃねぇんだから、んなのいらねぇよ」

「今は子供だけどね、見た目が」

「うぜぇな……」

 

 

 この見た目のせいで何度苦労したことやら。体力やパワーが落ちていたり、背が低くて手が届かないとか身体的なハンディキャップはもちろん、生徒の女の子たちに弟感覚で可愛がられる、今みたいにガキ扱いされてイジられる等々、大人の時の威厳はどこへやらだ。しかも子供の姿のせいで尊大に振舞っても微笑ましく見えるんだよな……。

 

 

「そんな煽りは置いておいて、私は今後の作戦を立てに来たんだけどね」

「作戦?」

「そう。みんなとも結構仲良くなったでしょ? だからそろそろスクールアイドル病の調査を本格的に進めようと思ってね」

「仲良く……か。そうだな」

 

 

 スクールアイドル病による身体の傷は俺の目にしか見えないが、都合がいいのか悪いのか、手の甲など外見で目視できる範囲には傷ができないらしい。

 つまり、普段は衣服で包み隠されているその奥を見る必要があるということ。アイツらと親睦を深める理由がそれにあり、裸を見るのにはまず自分のことを信頼してもらわなければ話にならない。しかもただの親友関係では裸体なんて見せてもらえるわけがないので、治療のためにも今以上にアイツらに信頼をしてもらう必要がある。

 スクールアイドル病になっているのが誰なのかすらも検討がついていないので、その対象を見つけるまで交流を続けるのも6人同時並行。ギャルゲーだったら間違いなく爆弾ルートだけどやるしかない。

 

 ちなみに寝ているところをこっそり襲って服を脱がせば手っ取り早いかもしれないが、俺の信念でそれは無理。裸を見るのなら女の子が俺のことを信頼し、見てもいいと許可が取れてからだ。

 

 

「昨晩カッコいいところをここぞとばかりに見せ付けたから、もうみんな零君にメロメロになってるかもよ?」

「昨日の今日でどうだかな。それより夜はあれだけ頑張ったんだから、頑張ったで賞をくれるなら今日くらい休みにしてくれ。いつも通り授業って、全然休めてねぇんだけど」

「それは無理だね。あの事件は学校にも非公開にするって沙知ちゃん言ってたから。でないとお偉いさんの意向で地下施設なんて埋められちゃうし、そうなるとあのお墓もなくなっちゃうでしょ」

 

 

 結局昨晩の出来事は事情を知る者の中で秘匿されることになった。

 悲しい過去だったけど、最後には()()()の反目も解けて成仏したのであの結末で良かったんだろうな。加えて大賀美が『当時のスリーズブーケの残された1人を探して真実を伝える』ことを生徒会の新たなミッションとして掲げると言っていたので、その相方さんが見つかってアイツの真意を伝えれば、それこそ真の意味で大団円を迎えるだろう。

 

 

 顔を洗って着替えて朝食が並べられた席に着く。

 俺も他の生徒と同じく寮の部屋暮らしだが、秋葉の権力によって俺の部屋だけホテルのスイートルームかの如く広くて豪華に改装された。それ故にこうして複数人でテーブルを囲うことも容易。とは言ってもここに人が集まるのはこうして秋葉が来る時と、以前にみんなで夜食を食った時くらいだけどな。

 

 秋葉の作ったパンやスクランブルエッグやウィンナーと言ったゴリゴリの洋食を食いながら、今後の方針について話す。

 

 

「これからもアイツらと交流を続けるしかないだろうな。ここからどう親密になるのか具体的な策はねぇけどさ」

「大丈夫、イベント作りなら私に任せて。得意だから」

「おい、また余計なこと考えてんじゃねぇだろうな……? ストレスが溜まるようなことだけはやめろよ」

「心配し過ぎだって。そんなに信用できない?」

「できるわけねぇだろ。過去の所業を思い返せ」

「ひどいねぇ。昨日はあんなに助けてあげたし、なんなら珍しくお礼まで言ってくれたのに」

「社交辞令だよ。大人として当然の建前だ」

「キミも成長したねぇ~」

 

 

 ガキの姿に戻されたけどな。

 なんにせよ、ここからが本番だ。スクールアイドル病の治療のためには俺とアイツらの絆や信頼が欠かせない。ただ時間にどれだけの猶予があるかも分からないので、昨日の今日だけど早速動き出した方が良さそうだな。

 

 

「そういや、既に1つ目の手は打ってあるから。明日くらいかな? 楽しみにしててね♪」

 

 

 もう嫌な予感しかしないんだけど、コイツ本当に味方なんだよな……? いつもみたいに自分が愉しむためだけの行動にしか思えないけど……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 同日の放課後。

 俺は早足でスクールアイドルクラブの部室へ続く廊下を歩いていた。

 

 

「やべぇ遅刻だ。また梢にどやされる……」

 

 

 またしても遅刻。とは言っても故意に遅れたわけではなく、演劇部の女の子たちに頼まれて舞台衣装の感想を伝えていただけだ。ただ思った以上に向こうがヒートアップし、いつの間にかファッションショーになってしまったために時間を食ってしまった。

 まだこの学校に来て10日なのにそうやって女の子たちから頼りにされることが多く、嬉しいものの遅刻が多くなるのは困りものだ。中身は大人なのに年下の女子に遅刻で怒られるって情けねぇ話だが、まだ正式な部員ではないので許してくれよとは思う。そう、今はまだアイツらが俺を見極める期間であって俺もただのアルバイト感覚だ。ま、アルバイトだからって遅刻していい理由にはならないけど……。

 

 

 そんなこんなでようやく部室に到着する。

 いつも通りノックもせずにドアを開けると、既に中にいた6人の目線が一斉にこちらへ向く。全員がテーブルを囲んで着席しており、ホワイトボードに練習計画が書かれているところを見ると絶賛会議中だったようだ。

 

 

「あっ、零くんやっと来た!」

「零クンおそーいっ!」

「零さんの重役出勤っぷりはもう恒例ですね」

 

 

 1年生組に文句を言われる。同じクラスだから俺が演劇部に誘われて遅れてる理由も知ってるだろうに、その許容すら乗り越えて責められるのかよ。束縛厳しいねぇ。

 

 

「ちょっと他の部活の奴らに捕まってたんだよ。いつものことだ」

「相変わらず主人公だね、れい」

「私のクラスでも零の話で持ち切りだよ。同じ部活の仲間として鼻が高くなっちゃった」

「零君だのもの、当然の評価ね」

「あ、あぁ……」

 

 

 なんかすげー優しくなってねぇか?? 綴理はともかく、慈や梢が素直に褒めてくるなんて昨日までとは態度に天と地ほどの差がある。この2人はこの中でも特に俺を警戒してたけど、今見る感じだとかなり緩くなっているようだ。その変化に若干気味が悪いとは思いつつも、何かと心を通わせあった昨晩の出来事のおかげだと受け取っておくか。

 

 俺も席に着くと、すぐに花帆がティーカップを差し出してきた。見た目だけは良い色をしたアールグレイっぽい何かが注がれている。

 

 

「なんだよ急に」

「今日は梢センパイの代わりにあたしが淹れたよ! 胃袋を掴むために!」

「飲み物で胃を掴むとか聞いたことねぇぞ……」

「いいから飲んでみて! 毎日梢センパイのを見て練習してたから自信はたっぷりだよ!」

 

 

 コイツってこういう洒落たことはあまり得意じゃなさそうなイメージだ。大丈夫なのか本当に……?

 恐る恐るティーカップに口を付けて見ると――――

 

 

「どうどう??」

「不味くはない。けど美味くもない。そこらで買っても同じ味だ」

「ガーーーーーーーン!!」

「いつも通りズバズバ言っちゃう零クン、容赦ねぇ~」

「それに今はコーヒーが飲みたい気分だ」

「零くんの好みを読み取れてなかった! これからは零くん検定を合格できるように精進するよ! 何も言わずとも好みの飲み物を差し出せるように!」

「なんか零と花帆ちゃん、変な主従関係生まれてない?」

「零さんは王様気質なところありますし……」

 

 

 俺がどうこうって言うより、花帆の方が俺にベッタリしてくる方を疑問に思えよな。出会った時から割とその毛はあったけど、名前呼びになった今日は特にスキンシップが激しかった。登校中に会って昨晩は良く寝られたって報告をしながら抱き着いてきたし、授業の間の休み時間も毎回俺の席に来て話しかけてくるし、飯の時も常に隣にいたし、もはやその気があるんじゃないかと勘繰ってしまう。まぁあるんだろうけど、コイツだけ出会った時からこの調子だからどうしてそこまで俺に拘るのかは自分も分からない。

 

 

「とりあえず、あなたが来たらこれを渡そうと思っていたの」

「これは――――入部届?」

「いい機会だし、そろそろ正式な部員として届け出を出そうと思ってね」

「てことは、俺の見極め期間はもう終わったってことでいいのか?」

「えぇ、文句なしの合格よ。そもそも(わたくし)が測れるほどの人じゃないわ、あなたは」

「めぐちゃんのお目にかかる人なんて早々いないから、誇っていいよ」

「なんで上から目線なんだよ……」

「こずもめぐも今日はずっとれいを確保する気満々だったよ。絶対に余所の部活には渡したくないって」

「「綴理!?」」

「へぇ……」

 

 

 わっかりやすいツンデレだこと。ただ警戒心が強かった梢も慈も有能な人材をそう簡単に切り捨てることができず、信頼も低かった時代でもなんやかや俺のことを受け入れざるを得なかった。そして昨晩で真に俺を信じることができたのだろう。

 まあ地下に落とされてからは俺もかなり必死だったから、好感度を稼ぐ云々なんて考えてる暇はなかったけどな。逆に俺の自然な部分を見せられたからコイツらも忖度のない評価を下せたんだと思う。今思えば、ここに入った当初の俺って少し計算された素振りを見せてたような気もする。それはさやかや綴理にも見抜かれていたので俺としては浅はかだったかも。

 

 

「でも零クンを囲っておくのも大変だったんだよ。ルリたち、他の部の人たちに威嚇して回ってたからね。奪いに来るな~来るな~。零クンはルリたちのモノだぞぉ~って」

「俺ってそんなに狙われてたのか……」

「だから花帆さんと瑠璃乃さんがなるべく零さんと一緒にいるようにして、この人はもうスクールアイドルクラブのものだってアピールしてたんですよ。本人に言わないのはどうかと思いましたけど……」

「だからお前ら今日近かったのか。そして入部届を正式に出す理由もそれかよ」

「さやかちゃんは外から見てるだけで協力してくれなかったんだよ~」

「だ、だってそんなに零さんの近くにいたら変な噂をされて困るかもしれないですし……って、困るのは私の方じゃなくて零さんが、という意味ですけど!」

「変な……ってどういうこと?」

「分からないのであればいいです! ほら、早く入部届を書きましょう!」

 

 

 さやかの奴、誤魔化したが顔がほんのり赤くなっているあたり意識はしてくれているのだろう。同じく終日俺に纏わりついていた花帆と瑠璃乃もそうだ。俺たちの関係性は確実にステップアップしている。もしかしたらスクールアイドル病の解決も意外と早いかもしれないぞ。あまりに楽観的だけどさ。

 

 

「これからはれいとたくさん一緒に居られるから嬉しい」

「これからって、今までずっと一緒にいただろ」

「そうじゃなくて、なんかこう……心が躍るみたいな感じ」

「彼が正式な部員になれば、それだけ繋がりが強くなるものね。そう感じるのは当然よ」

「じゃあこずも同じ気持ち? れいのこと、そう思ってるんだ」

「えっ!? そ、それは一般論を言っただけで、だからと言って誰にも当てはまるわけでは……」

「梢ぇ~。もしかして気になってるのぉ~? 何かとは言わないけど」

「慈……。あなただって今日になって話題が増えてるわよ。何の話題かとは言わないけれど」

「ぐっ……」

 

 

 2年生組とも関係は進展しているみたいだ。これまで俺のことは有能だけどどこか裏があって完全に信頼しきれないガキ程度の扱いだったと思うが、ようやくコイツらの中で仲間の1人、更に男として昇格されたらしい。まだ気になる奴程度の感じだろうが、各々の心に歩み寄れたのは大きな前進だ。

 

 俺が今朝日常を謳歌していると言ったのは、ただ単に潜入生活に慣れただけではなくてコイツらとの日常が楽しくなってきているから、というのもあるかもしれない。

 コイツらとの親睦を深めているのもスクールアイドル病の治療をしたいからだけではなく、単純に仲良くなりたいという俺の意志もある。花帆たちは俺と一緒にいて楽しいと言ってくれたけど、それは俺もそうだ。だから自分の正体を隠しつつもできる限り自分の素を出してコイツらとコミュニケーションを取ろうとしているのかもな。

 それに、スクールアイドル病の治療のためだけっていう計略的な打算だけではコイツらとここまで仲良くはなれなかっただろう。なによりそんな打算だけで乙女心を操るなんて本人たちに申し訳ねぇし、そもそも俺の信念に背く。女の子の自然な笑顔を見るにはこっちも自然でないといけないからな。

 

 

「じゃああたしが代わりに入部届を書いてあげるね!」

「どういう流れの『じゃあ』なんだよ……」

「細かいことはいいの! 名前は『神崎零』、学年は『1年生』、志望動機は……なんだっけ?」

「企業へのエントリーシートかよ。たかが入部届なのにハードルたけぇな」

 

 

 格式高い学校だから部1つ入るだけでも関門があるのか? 逆に入部を躊躇しそうだが、この学校は芸術に長けた学校で生徒も志が高い奴が多いから、志望動機を書けと言われたらスラスラ書ける奴の方が多そうだ。

 

 

「志望動機は『スクールアイドルクラブのお手伝い』のため、でしょうか?」

「それだと雑用係みてぇだな。地位が低く見えるのは却下だ」

「じゃあ『下々のお世話のため』でいいじゃん! 零クン俺様系だから! それか『ルリに充電を注入するため』でもいいよ!」

「なんか女の子にイケないことするみたいだろそれ」

「『めぐちゃんのマネージャー』とか? 私のお付きができるのは地位高いよ!」

「『マスコット担当』。れいを抱き枕にして寝てみたい」

「俺にやらせたいことを書く場所じゃねぇからな」

「『マネージャー』でいいのではないかしら。これを受け取るのは沙知先輩だし、彼のことを知っているあの人ならそれだけでも申請は通ると思うわ」

 

 

 どうして無難なのが最初に出てこないかねぇ……。たださっき各々が提案した内容でそれぞれの性格が分かるのも面白いな。ほとんど自分の都合のいいように俺を使ってるだけだけど……。

 そんな感じで花帆が勝手に俺の入部届の記載欄を埋めていき、遂に――――

 

 

「よしっ、完成! これで正式に部員だね、零くん!」

「とは言っても既にどっぷり浸かってるから、今更心機一転することもねぇけどな」

「だとしても改めて歓迎するわ。よろしくね、零君」

「あぁ」

 

 

 正式にスクールアイドルクラブに迎えられたことで、これで合法的にコイツらに近づくことも可能になったわけだ。

 とは言っても淫らに手を出すとかそういったことはせず、適切な距離を見極めながら絆を深めていければと思っている。それに芽吹きつつある恋の苗にも水をやりたい。女の子の心は隅から隅まで知りたい(たち)なものでね。

 

 

 今日は事件もなくて平和に終わる。

 そう思っていた矢先、ホワイトボードに書かれている内容の一部が目に入った。

 

 

「『外部コーチ』? これなんだ?」

「あぁ、それは秋葉先生が勝手にスクールアイドルクラブで応募したらしいの。スクールアイドル公式の会社からコーチを1人派遣してもらって、一定期間だけ練習を見てもらえる制度にね」

「そういえばそんなのあったな」

「人気のコーチはとても倍率が高くて、まず抽選に当たることが大前提だそうです。抽選に当たっても希望した期間ではなくて別の期間に来てもらうことが多いらしく日程調整が大変と聞きました。なのでコーチに見てもらえるだけでもこの界隈では自慢になるそうですよ」

「へぇ~。でもそんなの申し込んでこんな僻地に来てくれんのかよ」

「それがなんとね! 秋葉先生のコネで大人気コーチが特別に来てくれるんだって! しかも明日! もう秋葉先生に足を向けて寝られないよ~」

「はは、アイツがねぇ……」

 

 

 まぁアイツならこんなの余裕でコネクションあるわな。しかも明日という急ごしらえ、どれだけ裏取引に精通してるんだよ……。

 でもコーチ制度はいい刺激になるんじゃねぇか。顧問を立てようにもスクールアイドルの知識がない先生は未だに多いみたいだし、現にこのクラブにも顧問はいない。芸楽部という名で昔からアイドルの真似事をやっていた歴史があるのにも関わらずだ。そう言った意味で実力のあるコーチに指導してもらう機会はコイツらにとってプラスにしかならないだろう。俺も楽できるしな。

 

 

 …………ん? そういやアイツ朝言ってたな。既に1つ目の手は打ってあるから、って。

 まさか余計な事件が待ち構えていたりする?? ただのコーチ制度だし、まさか、ねぇ……?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 都内某所。とある家の個室。

 1人の女性がスマホで蓮ノ空スクールアイドルクラブのライブ映像を見ていた。

 

 

「わぁ~っ! この子たちのライブすっごく素敵! そうだ、今度あの人にも教えてあげよう。どうせ自分の関わっているスクールアイドル以外には全く興味ないと思うからね。私が叩き込んであげないと。そうですよねー―――」

 

 

 その表情はまさに――――()()()()を感じていた。

 

 

()()()()♪」

 




 しばらく名前呼びじゃなかった影響からか、初めて名前呼びで話を描いた今回の執筆が割と新章っぽく感じて新鮮でした!(笑)
 アプリの方も昨日新入部員のお披露目生放送がありましたが、この小説でもここから新展開を迎えて彼と彼女たちの距離も更に縮まる予定です。


 そして次回はゲスト回。話の最後にちょろっと出てきた通り、()()()が登場。にじよん2期も始まったので……ね?
 花帆たちとの絡みも期待して欲しいですが、一番は果たして零君は子供の姿になっている自分の正体をバレずにやり過ごせるのか!? という部分ですかね。幽霊騒動を解決したばかりなのにまたピンチになるとか、彼の人生はいつも波乱万丈で……(笑)




【キャラ設定集】
零から蓮ノ空キャラへの呼称
・日野下花帆 → 花帆
・村野さやか → さやか
・乙宗梢   → 梢
・夕霧綴理  → 綴理
・大沢瑠璃乃 → 瑠璃乃
・藤島慈   → 慈

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零くん  (95)※今回変化なし
・村野さやか → 零さん  (80)※今回変化なし
・乙宗梢   → 零君   (75)※今回変化なし
・夕霧綴理  → れい   (81)※今回変化なし
・大沢瑠璃乃 → 零クン  (83)※今回変化なし
・藤島慈   → 零    (74)※今回変化なし


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

襲来!トキメキがちな緑のアイツ!(前編)

 転入生活11日目、放課後。今日は昨日話題になっていた外部コーチが来る日だ。

 スクールアイドルのコーチ制度とは、スクールアイドル公式の会社からコーチを1人派遣してもらってソイツに一定期間だけ練習を見てもらえる、いわば公式が展開しているサービスのこと。ただ人気のコーチはとても倍率が高く、そんな奴を指名するならば間違いなく抽選。しかも抽選に当たったとしても希望通りの日時に来てくれるとは限らず、人気コーチの場合は特に忙しいのでそのあたりはブレることが多い。

 運が左右するのは仕方ないが、そこを切り抜けられれば自分たちの実力アップに間違いなく貢献してくれるのでこの制度を利用するグループは多いらしい。そもそもスクールアイドル自体がアマチュアである都合上、コーチどころか顧問すらまともに立てられないグループも多いため、こういった知識のある大人から指導してもらう機会すら珍しい奴らもいる。そんな奴らからしたら喉から手が出るほどモノにしたい制度だろう。

 

 そんな激戦が繰り広げられる抽選をVIP待遇でパスしたのがこの蓮ノ空スクールアイドルクラブ。もちろん何のコネもないコイツらがどうにかできるはずもなく、いつも通り秋葉の仕業だ。どんな手を使ったのかは知らないが、どうやら部長の梢にすら知らせず勝手に手を回したらしい。今度は一体何を企んでいるのやら……。

 

 

「どんな人が来るのかなぁ~? 楽しみだね!」

「秋葉先生、ルリたちに何も教えてくれなかったもんね。それだけ勿体ぶるってことは、こりゃ相当凄い人が来るのではなかろうか!?」

「仮にそうだとして、そんな人気のコーチを急に呼び出せるなんて秋葉先生、一体何者なんでしょう……」

「まぁ細かいことはいいじゃん! いつもと違う練習ができそうで楽しみだよ! スキルアップし過ぎて、昨日のあたしたちとは全く別人になっちゃってるかも!」

「メタル系を倒すみたいな感じ? そりゃ中々お目にかかれない人気コーチだから、それくらい経験値をくれないと!」

 

 

 俺たち1年生組は教室の掃除を終えて部室に向かっていた。

 その道中で花帆と瑠璃乃はまだ見ぬ人気コーチに対し既に高揚感を抱いている様子。疑り深いさやかは突発的に決まった人気コーチの襲来に疑問を抱いているようだが、それが普通の反応だと思うぞ。どんな奴が来るのかは知らないけど、練習漬けの時間になってくれれば俺が出しゃばることもないし、今日こそ平穏な日々を過ごせそうだ。

 

 そんな感じで和気藹々とするコイツらの後ろを歩く俺。

 昨日に入部届を提出したことで晴れてスクールアイドルクラブの正式な部員となった。とは言ってもアドバイザー的なポジションで立ち位置は微妙なところだが、コイツらに近づける機会がより増えたと思えばそれでいい。スクールアイドル病の調査をするためには少しでもコイツらと一緒にいる必要があるからな。その作戦はまだ考えれてねぇし、コイツらがそのコーチとやらに扱かれている間に考えるか。

 

 そんな呑気な雰囲気の中で部室に到着する。

 中には既に綴理と慈がいた。

 

 

「こんにちはー!」

「こんちゃーすっ!」

「お疲れ様です。あれ、梢先輩はいらっしゃらないんですか?」

「おっ、1年生ズも来たね」

「こずはコーチの人を呼びに行ってる。生徒会室にいるんだって」

 

 

 流石に花帆ほどではないにしろ、慈と綴理からもどことなく楽しみにしていそうな雰囲気を感じる。

 俺はスクールアイドルじゃないから分からないけど、そんな気になるようなことなのかねぇ。まあこんな山奥の閉鎖空間に閉じ込められてるんだ、外部からの刺激ってのは麻薬のように効くのかもしれない。しかも相手は人気コーチだってことが秋葉から知らされているので、それを考えればテンションが上がる気持ちも何となく分かるか。

 

 

「コーチさんってどんな人かな? 美人さんかな??」

「めぐちゃんを指導するからには、超凄い実績を持ってないと許せないんだから!」

「ルリ的にはまず親しみやすいい人がいいな。変に気を遣って充電切れになる心配ないから」

「面白い人がいい」

「やはり無難に実力のある人、でしょうか。人気と言われているので心配ないと思いますけど」

 

 

 なんかすげぇハードル上げられてるぞ見知らぬコーチ。俺もスクールアイドルの指導経験はあるが、流石に本職に比べたら実力は劣ると思っている。そもそも俺は放任主義で、基本的に練習メニューもマネージャー業務も生徒に全部任せてたしな。

 だからこそ俺よりもレベルの低い指導を見せようものなら、短期間で俺の実力を思い知ったコイツらから見限られるぞ。そんな指導だったら神崎零でいいじゃんって思われないように気を付けて欲しいものだ。そう考えると、コイツらの指導のベースラインが俺になっているのって相当贅沢だな。ま、人気のコーチらしいからそこは大丈夫そうか。

 

 今日は俺の出る幕はないので、ゆったりするためにソファに深く腰を掛ける。最近は放課後も忙しかったから、たまにはこうして休ませてもらおう。

 

 

「零さん、そのくつろぎ方は人を迎える態度ではない気が……」

「っせーな。俺が指導されるわけじゃねぇんだし別にいいだろ。それに他にやることがあるから、お前らはお前らでみっちり練習してもらえ」

「零クン、日に日に態度が大きくなってるような……」

「れいって俺様? 王様?」

「本性出てきたね。元々そんな感じだったけど」

「あたしは好きだよ! 今の零くん」

「そりゃどうも」

「むぅ……」

 

 

 どうしてむくれる……。

 自分の態度が変わっているのは俺自身も気付いている。どうも自分が学生に戻ったことで精神も思春期時代に戻っているような、そんな感じ。今の俺はコイツらが同い年だから態度も過激になっているのかもしれない。μ'sの奴らと話している時と同じ感覚だ。逆にAqoursや虹ヶ先、Liellaとは俺の方が大人で立場が上のため、それ相応の大人の振る舞いってのを意識している。だからこそ対等な立場にいるコイツらに対しては余計に尊大になるのかもしれないな。

 

 そうやって自分自身の考察をしていると、梢が部室に入って来た。

 

 

「みんな揃ってるわね。コーチの方に来ていただいたわ」

「おおっ、遂に!」

「お待たせしました。どうぞお入りください」

 

 

 花帆の目が輝く。他の奴らも大なり小なり同じだ。

 梢が部屋の外で待たせているであろうコーチを呼ぶ。

 

 どんな奴なのか俺が見極めてやる。

 そして、話題のコーチが入って来る。黒髪を肩にかかるくらいまで降ろし、毛先に緑のグラデーションが入っている――――

 

 

「皆さんこんにちは! 今回指導を担当させてもらう、スクフェス事務局所属――――高咲侑です!」

 

 

「ぶぅうううううううううううううううううううううううううう!!」

 

 

「「「「「「えっ!?」」」」」」

 

 

 俺は噴き出すのと同時に近くにあったタオルで顔を隠した。花帆たちの目がこちらに向いているのは分かるが、ここで顔を晒すわけにはいかない。

 

 つうかどうして!! どうしてアイツがここにいる!?

 虹ヶ先スクールアイドルのマネージャーをやっていた高咲侑。実は今年で社会人1年目であり、ピカピカの新卒だ。元μ'sの絵里や希と同じくスクールアイドル公式の会社に入社したことは知っていたけど、まさかコーチ制度の一員だってことは知らなかった。

 

 そしてこの瞬間に全てを悟った。

 秋葉の奴、絶対に愉しんでるだろこの状況……。昨日の朝のあの不敵な笑みはこのことだったのかよ。

 

 俺の身体が薬で小さくなっているのは見ての通りだが、薬の副作用で自分の正体が誰かにバレるとこの身体が溶けだすというとんでもないデメリットがある。

 でもこの学校は山の中の閉鎖空間。当然俺のことを知る奴はいないので、よほどのことがない限り正体が露見することはない。

 

 しかし、秋葉の奴がその『よほど』をぶち込んできやがった。

 俺のことを知る奴だと話は別。特に侑は俺と付き合いが長いので、例え子供の姿であっても正体を悟られる危険性が高い。だから取るべき作戦は最初から顔を見られないようにすること。タオルで顔を隠したのもその意図があったからだ。

 

 

「侑さん……美人さん系、というより美少女系だぁ!」

「花帆さん、いきなり容姿で褒めるのはセクハラに近いわよ……。こほん、改めまして乙宗梢です。本日はよろしくお願いいたします」

「す、すみません! 日野下花帆ですっ! よろしくお願いします!」

「村野さやかです。よろしくお願いします」

「夕霧綴理だよ~。よろしく~」

「大沢瑠璃乃でっす! よろよろ~!」

「藤島慈です。めぐちゃんって呼んでください♪」

 

 

 今日こそは平穏に過ごせると思ったのに、どうも俺の日常は騒がしくないと気が済まないらしい。

 てか、どうすんだよこの状況。顔を見られる前にここを退散するしかないか。練習くらいコイツらだけでもなんとかなるだろうし、俺がいる必要もないしな。

 

 

「よろしくねみんな。とは言っても、みんなのことは配信で見て知ってるけどね」

「そうなんですね! あっ、実はもう1人部員がいるんです!」

「6人じゃなかったんだ。もしかしてソファで顔を隠しているあの子……? えっ、でもズボンを履いてるってことは男の子? この学校って女子高じゃなかったっけ?」

「あの子は特別編入で訳アリなんです。ほら、そんなところで蹲ってないでこっちに来なさい」

 

 

 こっそり逃げようと思ったら早速目を付けられた。

 たださっきまで尊大な態度を取っていた奴が急におとなしくなったためか、花帆たちは不思議そうな顔でこちらを見つめている。

 

 

「い、いや、俺は帰るから。急に具合悪くなった……」

「えっ、いきなりどうしたの? 借りてきた猫以上に丸くなってんじゃん」

「知るかよ。後は任せたぞ梢」

「ちょっと待って。本当に何かあったの……?」

 

 

 そりゃ簡単に逃げられねぇよな……。

 みんながこちらに近寄ってきたせいで余計に退路を断たれてしまう。未だに顔を覆ったタオルは外していないが、そんな隠密行動をとれば取るほどコイツらの疑いを更に加速させるだけだ。

 

 

「はは~ん。分かった、あんた一目惚れしたんでしょ。侑コーチにさ」

「は?」

「えぇっ!? ホント!?」

「確かに零さんのこんな女々しい姿、今まで見たことないですもんね……」

「顔、赤くなってるよ。タオルの隙間から見えてる」

「ちげぇよ!! 誰がそんな奴!!」

「なんか凄く失礼なことを言われた気がする。まるでお兄さん(あのひと)みたいな……」

 

 

 侑の奴が変に悟ったじゃねぇか。どうして顔を隠してんのにバレそうになってんだよオイ……。

 

 

「えぇいもうじれったい! るりちゃんタオル取り上げるよ! そっち引っ張って!」

「ラジャー! 申し訳ないけど必要な犠牲なんだ。恨むなよ~!」

「何が犠牲だ! つうか引っ張るな! オイ!!」

 

 

 慈と瑠璃乃がタオルを引っ張って俺から引っぺがす。

 そして、遂に俺の素顔が侑の眼前に晒された。ガキの姿になっているのですぐにいつもの俺とは結び付かないだろうが、正体バレのシグナルは赤く点灯して大きな音を立てている。

 

 侑は目の前の少年(おれ)がどんな顔をしているのかワクワクした様子で見つめていたが、俺の顔を少し眺めた後に目を丸くした。

 

 

「えっ、まさか……えぇっ!?」

「この子が7人目の部員の、神崎零くんですっ!」

「神崎、零!? えっ、ウソ!? 顔も似てる上に同姓同名!?」

「「「「「「???」」」」」」

 

 

 当然だが花帆たちは侑が何故驚いているのか分かっていない。だから何が起こっているのかと俺と侑の顔を交互に見ているが、そんな周りの反応関係なく侑は唖然とした表情で俺をじっと見つめていた。

 

 どうすんだよマジでこれ。コイツらと違って侑と俺の付き合いは長くて深い。同じ名前だってことがバレ、顔すらも似ているとなれば確信寄りの疑いを持つのも必至。絶望的な状況だけど何とか誤魔化さないといけない。事情を話したいが話すとその時点でデッドエンドなので、多少無理矢理でも別人を装うしかないか……。

 

 

「なんだよその顔、俺の顔に何かついてんのか?」

「ち、違うけど、似てるんだよ知り合いに。写真でしか見たことないけどその人の若い頃に……」

「さっき同姓同名と仰っていましたけど、まさかその知り合いの方も……?」

「うん。神崎零って名前なんだ。でもその人は社会人だから、この子と顔つきはちょっと違うけどね」

「これが噂に聞くドッペルゲンガー!? もしかしてルリたちすげー現場を目撃してる?」

「世の中には自分に似ている人が3人いると言われているものね」

 

 

 あぶねぇ、コイツらが少し話題を逸らしてくれたおかげでいきなりバレることは避けられた。まあ普通に考えて今の俺を見て同一人物なんて考えねぇよな……。

 ただ侑はそれでも俺から目を離さない。疑っていると言うよりかは驚きがまだ消えてないと言った方がいいだろうか。

 俺がいきなり消えたことは秋葉から女の子たちに通達がなされており、以後はみんなに心配をさせぬよう定期的に連絡を取り合って俺自身の生存報告はしていた。そんな中でいきなり消えた奴がよく似た子供の姿で目の前に現れたこの状況、そりゃ思考停止するのも無理はない。身の保全のために今どこにいるのかは伏せていたため、こんな山奥の学校で再開するのは思いがけない出来事だ。コイツにとってこの出会いは凄まじいイベントだろう。

 

 でも、俺にとってはチャンスだ。コイツの思考がバグっている間にさっさと練習に行かせる。それで俺から目を逸らさせることができるし、花帆たちの指導をしている間はこっちに意識も向かないだろう。

 

 

「おい、お前の目的はコイツらのコーチだろ。だったら油売ってないで早く準備したらどうだ」

「ちょっ、ちょっと!」

「いてて! なにすんだ梢!?」

「コーチの方になんて言葉遣いを……!!」

 

 

 梢に頭を鷲掴みにされ、5本の指で脳をかち割られそうなくらいの指圧を受ける。大賀美との初対面時にもこの攻撃を受けた気がする……。

 

 

「大丈夫だよ梢ちゃん。口の悪い言葉は普段から受け慣れてるから、その知り合いの人にね」

「そ、そうですか……」

「とりあえず、早速練習に行こうか。秋葉さんから事前にみんなの練習メニューは教えてもらっていて、ライブの配信も隅から隅まで観たから今日の練習メニューはもうバッチリだよ!」

「えっ、あたしたちのライブ観てくださったんですか!?」

「うん。花帆ちゃんが入学時に1週間毎日ライブをしているあの時から遡って、ね♪」

「えぇっ!? それは観ないでくださいよぉ~!? あの頃は未熟も未熟で……!!」

「あははっ。じゃあ今日の練習で成長した実力を見せてもらおっかな」

「の、望むところですっ!」

 

 

 よし、とりあえず一難は去った感じだな。このまま練習に集中してくれれば問題はない。そもそも俺が練習に付き合う義理もないし、隙を見て抜け出してやる。そしてその足で秋葉を問い詰める。そうしないと腹の虫が収まらねぇ……。

 

 みんなで外へ向かおうと部室を出ようとした際に、こっそり集団から抜けようとする。

 だが、高身長の壁に目の前を阻まれた。

 

 

「綴理……?」

「れい……」

「え゛っ……?」

 

 

 綴理は俺と同じ目線になるまで腰を折ると、自分のおでこを俺のでこに引っ付けた。

 あまりの唐突な行動に俺も固まるが、それは花帆たちも同じだ。綴理も綴理で頬を少し赤くしており、一体何を考えてのこの行動なのか全く読めない。他の奴らもコイツのいきなりの行動に目を丸くし、口を情けなく開けていた。コイツがいつも突拍子もない行動をするのはみんな知っているが、今回は男にいきなり密着するという異常行動に目を見張るものがあるようだ。

 

 少し間が空き、綴理が俺から離れる。

 

 

「熱はないみたいだね」

「あ、あぁ、そりゃな……」

「具合が悪いって言ってたけど、大丈夫そう?」

「まぁな……」

 

 

 今更あのウソを拾ったのかよ。時間差だから何の目的で密着してきたのか分からなかった。

 そして無駄に心配をかけさせた申し訳なさがあるせいか、ここから逃げるに逃げられなくなってしまう。流れで大丈夫とも言っちまったし、こんなことで思考が鈍るなんて俺もまだまだだな。でも美少女にいきなりでこを擦り付けられたら男なら誰でもビビるって。

 

 

「綴理先輩! いきなりそんなことしたらダメですよ!」

「ん? どうして?」

「どうしても何も、男性にいきなりそんな近づくなんて……」

「無神経だからね綴理は。まあ私もちょっとは心配してたけど……」

「あたしもやりたかったなぁ……」

 

 

 案の定みんなに注意されやがった。俺だったからまだ良かったけど、思春期真っ盛りの中学生があんなことをされたら間違いなく惚れただろうな。それくらい大胆な行動だ。

 

 

 そんな中、みんなの様子を見ていた侑は――――

 

 

「花帆ちゃんたち、もしかして……」

 

 

 何かを悟っていた。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 結局逃げるタイミングを失って練習に参加することになった。とは言っても今日は侑がコーチをする都合上、俺は見ているだけなので下手にボロを出す危険性は少ない。また会話の中でタイムパラドックスが起こらぬよう、あまりこの姿で侑と話をしない方がいいかもな。

 

 そんな心配をよそに練習自体は問題なく進行していた。やはり虹ヶ先のマネージャーをしていた経験、大学時代に様々なグループのコーチをしていた経験、そして社会人になって本格的な指導術を学んだこともあり、アイツのコーチ力は既にプロ級だ。事前に花帆たちの練習メニューとライブの動画から、本日の指導に最適なメニューを組んでいる。アイツらもかなりやりやすそうだ。高校生のガキだったアイツがここまで成長するなんて感慨深い。

 

 ちなみに最初に侑を見た時にも言ったが、今は髪を下ろしている。流石に社会人にもなってツインテールは媚び過ぎて子供っぽいから、という理由だろうか。彼女のトレードマーク的な髪型だっただけにパっと見で誰か分からなくなりそうだが、そのおかげでガキ時代の美少女さよりも圧倒的に美人さが勝っている。その容姿の整い具合は高校時代にずっと『スクールアイドルやらないの?』と言われるくらいだったからな。

 

 そんなこんなで休憩時間。花帆たちが俺の隣に置いてあるスポーツドリンクを飲みに戻って来た。

 

 

「零くん見てくれた? やっぱり4月の頃のあたしより、今のあたしの方が断然レベルアップしてるよね!」

「その時のお前は知らねぇけど、どれだけトラウマ抱いてんだよ……。まあ今の方がそれなりになったんじゃねぇの」

「やっぱりそうだよね! 今のあたしをもっと零くんに見せてあげるから楽しみにしててね!」

「俺だけかよ。見せるのはファンだろ……」

「それはそうだけど、やっぱり零くんにも見て欲しいから……」

 

「零さんに以前アドバイスをいただいたさっきの動き、侑コーチにも褒められました」

「だろ? まあアイツの指導力は俺が鍛えたものだけど……」

「えっ、何か言いましたか?」

「いや別に。ま、せっかくコーチが来たんだ、たっぷり学ばせてもらえ」

「はい」

 

「侑コーチ、流石は虹ヶ先のマネージャーをしていたこともあって教え方が上手いわ。ダンスの技術だけではなく(わたくし)自身の指導スキルも伸びそうなくらいにね」

「楽しそうだったもんなお前。柄にもなくはしゃぎそうなくらい昂ってたぞ」

「そ、そうかしら? はしたない姿を見せてしまったわね」

「いいんじゃねぇの。楽しいんだろ?」

「ふふっ、そうね」

 

「なんか、みんなとの一体感が増した気がする」

「アイツはそういう奴だからな。みんなを1つに繋げるのが上手い。誰に似たんだか……」

「そこまであの人のことを見抜いてるんだ、れいの得意技だね」

「んなもの、指導の仕方をちょっと見れば分かるよ。その指導を受けてる奴が愉しんでるかどうかもな。今のお前の気持ちもお見通しだ」

「本当に面白いね、れいは」

 

「侑コーチってパリピ感はあるけど親しみやすくて、これだと練習中に充電切れになることなくて良きかな良きかな!」

「そりゃ僥倖なことで」

「しかもルリが気遣いし過ぎる性格だってことも分かってるみたいだし、練習もみんなに合わせて的確で、人を見る目高すぎ!」

「そうだな。ま、俺ならお前の充電をすぐ満タンに出来るけど」

「あっ、あれは忘れてくれぇ~!!」

 

「侑コーチってば、私に個人配信まで見てくれてたんだって」

「スクールアイドル大好き……っぽいもんなアイツ」

「可愛いとも言ってくれたし、めぐちゃんは褒められて伸びるタイプだからツボをしっかり押さえられてるって感じ」

「俺がそうではないと言いたげな感じだな。別に俺だって褒めてやってもいいんだぞ」

「やめろやめろ! あんたからそう言われるのは恥ずかしいし、言うなら本心で言って欲しいからね」

 

 

 休憩中なのに休むどころか俺と会話をする各々。幽霊騒動から2日経っただけだが、日常会話も含めコイツらと喋ることが増えた気がする。以前は俺を警戒していた梢や慈、一歩距離を置いていたさやかや瑠璃乃とも距離が近くなったので、俺たちの関係性の変化が見られるいい例だ。

 実はこうして女の子と対等に話すのは久しぶりだから俺も楽しかったりする。俺はいつも対等なつもりなんだけど、教師をやってると生徒の方は下手に出ることが多いからな。子供になって唯一喜べることかもしれない。

 

 ただ、そんな中で侑がまたこちらをじっと見ているので再び危険信号だ。今の会話でも少しボロが出そうになったが、流石に疑われるようなことはないはず。せっかくさっき部室で大人の俺=子供の俺という認識をシャットアウトできたので、それをぶり返させるわけにはいかない。

 

 しかし、嫌な予感は的中するもの。

 みんなが休憩のストレッチをしたり談笑をする中、1人残された俺のもとに侑がやってきて隣に腰を下ろした。

 

 花帆たちは盛り上がっているのに、俺たちの間だけ妙な静寂が支配する。何を考えて俺の隣に座ったのか。下手にこちらから話を切り出すと矛盾の隙を晒しそうなのでコイツの反応を待つことにする。

 

 

「みんなとの信頼関係が凄いね。あの子たち、多分キミのこと……」

 

 

 侑は花帆たちを眺めながら呟く。

 そして、そこで言葉を切ってこちらに目を向ける。

 

 

「キミ、いやあなたって――――お兄さん」

「…………」

「じゃない、ですよね……?」

 

 

 ギリギリ表情も態度も平静を装えたが、えげつないほど心臓の鼓動が早くなった。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 感想でも普通に予想されていましたが、その通り高咲侑のゲスト回です!
 時系列的に彼女も社会人1年目となり、いつの間にやら人気コーチと言われるくらいに成長していました。今回の花帆たちと比べるとやはりお姉さんになったって感じがします。髪も下ろしましたし(笑)


 次回は零君の正体が遂にバレてしまうのか。バレて身体が溶け主人公不在となり『新日常』の物語がこれで終わってしまうのか。来週をお待ちください!
 ていうか、零君もバレたくなかったらその特徴的な汚い口調を治した方がいいのでは……というのは内緒。




 いつもの好感度一覧は後編の後書きにて更新します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 10~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。