ふと思いついた(ry外伝 TIT~トッキーが良いとこなしで退場したと言われたので~ (ふふん)
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ふと思いついた(ry外伝 TIT~トッキーが良いとこなしで退場したと言われたので~

トッキー大勝利
アーチャー座敷童

本編のif的な話にしよう、として失敗した作品です
もっとネタフルにしようとして、全面で中途半端になってしまいました


 1992年某日。聖杯戦争もいよいよ直前に迫った日の事だ。

 万全の体調に魔力、そして媒介。呼び出される英霊は、この世で最も偉大なる王。そして、監督者、もう一人の参加者と密かに手を結ぶという、万全の体勢。

 此度の聖杯戦争に勝てない要素は何一つ無い。憂いなどあろう筈も無く、絶対の自信を持って召喚に望んだのだった。

 

 唐突だが、英霊召喚には一つの矛盾点がある。そう、媒介の存在だ。

 聖杯戦争に呼び出される英霊は、前提として聖杯を求める者である、というものがある。奇跡を求めるからこそ、聖杯を求める事になるのだ。逆に言ってしまえば、叶えたい願いなどない者が、聖杯の呼び声に答える筈が無い。ついでに言うと、英霊は召喚者に近い性質を持った者が呼び出されるのだが。これはまあ余談だ。

 とまれ。

 聖杯を求める者を呼び、奇跡を勝ち取ろうと言うのに。媒介で呼び出す英霊を指定してどうなるのか、とは誰もが思うだろう。

 召喚は失敗する。媒介縁の者の、次点が呼び出される。目的の英霊呼び出しに成功する。可能性としては、この三つであろう。

 結論から言ってしまえば。目的の英霊を召喚する事自体は成功した。圧倒的な存在感と、この世の全てを一点に集中したよな威厳。彼の者がこの世で最も偉大な王、ギルガメッシュ王で無ければ何だと言うのだ。

 早速頭を垂れて、家臣の礼を取る。偉大なる王に対して失礼があってはいけないと考えての事なのだが。

 はっきり言って、アーチャーとして召喚されたギルガメッシュ王には全くやる気が感じられなかった。明らかに意気込みとか意欲とは、あとは未練と言うのも感じられない。どう見ても、聖杯に対して、くれると言うなら貰ってやってもいい、という程度の欲求しか無かった。

 その点に関しては仕方が無いだろう。元々、ギルガメッシュ王の意思確認をせずに(しようもないのだが)召喚したのは私なのだ。最悪の事態は、ギルガメッシュ王以外が召喚される事だった。それに比べれば、遙かにマシである。これくらいは覚悟していた。

 でも、一瞥した後部屋を見回して、もう一度私を見て「え? 何? 誰こいつ?」みたいな顔をするのはやめて欲しい。かなり本気でへこんだ。

 こうして、予想外の事はあったものおの、おおむね許容範囲内で収まり。私の聖杯戦争は始まったのだ。

 

 王とは、基本的に暴君である。

 これは王の像や帝王学というものではなく、むしろ一般人の教訓だろう。方針の決定までに介入する意思が少なければ少ないほど、運営は容易く暴力的になる。会社をイメージすれば分かりやすいかもしれない。一般社員が社の方針に口出しできない会社は、簡単に舵取りに失敗、もしくは社員搾取体勢に移行すると。民主主義国家が最悪と言われながらも採用されている理由がそこにある。運営方法としては最低でも、国家として最悪になる前に、ブレーキを踏めるチャンスがあるのだ。

 つまり、王は己以外の全てに対して権力で殴りつける者である。ましてや最古にして最初の王。これが暴君でない筈が無い……筈なのだが。

 ギルガメッシュ王の私生活というものが、どれほど苛烈かと恐々としてたいたのだが。予想外にも、普通であった。

 何かを命じられる事も無く、意見を聞き届けてもらえる程に懐が広い。アーチャーという、自立性の高いクラスであった事に不安を感じていたが、その心配は杞憂であったと言えるほどだ。あとは、ふらふらと出歩く癖さえなければ。しかし、これは高望みというものだろう。

 とは言え。やはり王は王。普通とは言い難く、一般人に魔術の深淵を理解しえないように、また魔術師も王たる存在を理解しきれる筈も無く。そういう時に人に出来る事は、泣きわめくかすぐに諦めるかくらいだ。はっきり言ってしまえば、私はそのような行為は嫌いだ。それこそが優雅たる、つまりは自律という言葉から最も遠いのだから。だが、やはりどうしようもないのなら、諦めるしかない。そういう事は世の中にたくさんある。

 などという事を、三十路も近くなってやっと悟った。山のような財宝と権利書を前にして、頭を抱えながら。

 道ばたを歩いていたら献上された、などと言うものをどう処理せよと仰るのですか、王よ。ここは法治国家なのです。ルールは人の手に届かない場所で制定されているのです。

 

 恐ろしい事実が発覚した。なんと、王には令呪が通用しないのである。

 これが発覚したのは、王自身からその話題を切り出してきたからだ。持っている宝具を使えば、無力化までは出来なくとも、問題ないレベルまで軽減できる。という言葉と共に、釘を刺すような視線を貰う。

 まずい、内心を見透かされている。もしかしたら、聖杯のカラクリその物を知っている可能性すらある。早急に方針の転換が必要になった。そうしなければ、私の人生最後の日は近い。

 せっかく最高の条件で聖杯戦争を始められるのだ。これくらいで躓けない。

 

 ついにと言うべきかもうと言うべきか、聖杯戦争が始まった。

 幸いな事に、意外とギルガメッシュ王がやる気である。ただで負けるのが気に入らない、という事もあるのだろうが。それ以上に、この時代が気に入ったようだ。毎日出歩いては、子供と遊ぶわゲームセンターに通うわと、現代を満喫している。その姿たるや、実はこの時代の人間だと言われた方がしっくりくる程である。

 緒戦はやはりと言うか、正面決戦の得意なランサーとセイバーの戦いだった。戦い方や獲物を見るに、ランサーはディルムッド・オディナ。セイバーはアーサー王で間違いあるまい。

 なぜそんな事を知っているかと言うと、ギルガメッシュ王が調べたからだ。サーヴァントのスペック、スキル、宝具。全てが乗っている。本人曰く、金と宝具。

 この時点で、アサシンの中でも諜報専門と言える能力ちの群体に、弟子と一緒に胡乱な視線を向けても仕方が無いだろう。いくらギルガメッシュ王の情報収集能力が桁違いだと言っても、これではアサシンを召喚した甲斐が無い。明らかに入らない子である。必死に自分の有用性を主張するアサシンが、ちょっと痛々しかった。

 ちなみに、ギルガメッシュ王によるアサシン抹殺も、初期案より大分筋が変わっている。またしても「こんな三文芝居にどこのバカが騙されるんだ」という王の辛辣な言葉を貰って撃沈された私。実戦経験が最も豊富な、言峰綺礼監修による八百長を展開。結果的により上手く偽れてさらにへこんだ。

 ランサーがセイバーを上手く上回り、左手に癒えぬ傷を負わせる。素人目から見ても、かなりの駆け引き上手だ。これで、サーヴァント打倒の順番は決定した。セイバーより先にランサーを倒して、万全にしてやる理由がある筈も無く。

 途中、ライダーことイスカンダルが乱入し、戦闘を収めていた。そのまま続行させて、どちらか脱落させればいいものも。余計な事をする。さらに、他のサーヴァントを挑発して姿を表させようとした所には、ひやりとさせられた。もしかしたら、王がそれに乗ってしまうかもと考えたのだ。とは言え、王がそんな面倒そうな事に乗るわけが無く。なんとかなって一安心だが。

 その後にバーサーカーが乱入し、セイバーを攻撃するというアクシデントはあったものの、セイバーの左腕以外には大したダメージもなく終わった。あのライダー、セイバーとランサーが戦い勝ち残った方と戦う等と言っていた。威厳に見せかけて漁夫の利を狙うとは、小ずるい真似をしてくれる。

 これで、大方の陣営の手札が出そろい、こちらの事は誰も知らない。また一つ、優位が出来たわけだ。

 満足行く結果に笑っている所を、また王に胡乱なものを見る目で見られた。かなりへこむ。

 

 どうやらギルガメッシュ王は、キャスターが大層気に入らないらしい。投入可能なアサシンを全て投入して、探索をさせている。

 私としても、それは同意だった。無軌道かつ隠蔽工作も無い拉致行為は、神秘の漏洩につながる。魔術師として、絶対に許せることでは無い。

 しかし、これはチャンスでもあった。キャスターを聖杯戦争の続行を妨害する行為と見なし、令呪を景品にすれば切り札を一つ多く得られるのだ。利用しない手はない。

 だが、それを王に具申してみたものの。思い切り頭をひっぱたかれ「そういう事じゃないだろ」と言われた。しかも、視線も胡散臭いものを見る目からゴミを見る目にランクダウンされた。何故だ。

 と、ここで思い出す。ギルガメッシュ王は子供好きであったと。同時に、王に似合わず人情的でもあった。ここで不興を買うのは非常に宜しくなく、頭を下げた。

 それでもまだ目つきの鋭かった王は、一つの宝具を出した。どうやら、それで遠くのものが映し出されるらしい。

 それに写されたのは、養子に出した桜だった。しかし、私はしばらくそれが誰だか分からなかった。そこにいる桜は、虫に嬲られて、まるで人間の加虐性を満たすための道具のように扱われている。私が望んだような、魔術師としての教育とはほど遠い。まるで、人間で魔術礼装を作ろうとしているかのような、意思を無視したものだった。

 私は王にくってかかった。これは何だと。王は、間桐桜を写しただけだと言う。ならば、これが現実だと言うのか。頭から一瞬で血の気が引いた。

「桜は助けてやる。だが、その前にこれと同じ目に遭っている子供だ。分かったら速く動け」

 自分の失策を思い知らされて、引き下がるしかなかった。

 桜、無事でいてくれ。

 

 キャスターの討伐は手早く終わった。

 町中を知り尽くしているかのように動くキャスターを、さすがのアサシンも捕らえきれなかった。元々元帥であっただけだって、その手の能力が高く、口惜しかったが。しかし、セイバーを狙っていると分かってしまえば、探す場所は限られる。

 意識の無い子供を連れて山間部を歩くキャスターに襲撃をしかける。戦闘開始直前に、アサシンを使って子供を待避させてしまえば。ギルガメッシュ王に勝てるサーヴァントなど存在しないのだ。

 討伐時には当然私も同席し、そのまま彼らのアジトへも行った。……はっきり言って、行かなければ良かったとすら思ってしまった。

 凄惨。そこを表現するのであれば、その一言に過ぎる。人の尊厳など存在せず、正に、ただ享楽の為に消費されるだけの子供達がいた。魔術師が、全てを承知した上で一般人を犠牲にするのとは、話が違う。

 ……いや、言い訳だ。犠牲にされる人間に、目的が何かなど関係ないのだから。被害者に残るのは、死という結果のみ。理由を求めるのは、いつだって加害者だ。私たちは、私たちに都合が良い名目をつけて、それから見て見ぬふりをしているだけだ。

 事後処理をするのは、酷く疲れた。まず数が圧倒的に多い。キャスターは本当に無軌道に犯行に及んでいたらしく、また数も多い。とにかく対処しなければならない案件が多かったのだ。さすがにこれを、言峰親子に任せきりにするわけにも行かず、私も可能な限り力を貸す。少なくとも丸一日は聖杯戦争に戻れないだろう。

 事件の収束に関わっている間は、ずっと胸が痛かった。居なくなった子供一人一人を確認するのは、自分が今まで何をしてきたかを知るに等しい行為だ。ここまで露骨では無いにしても、自分を尊い存在だと定義し、魔術師以外を安く見ていたのは事実。

 はっきり言おう。もう心が折れそうだった。だから、私は王に相談したのだ。この世で最も多くの人を見てきた王であれば、心を軽くしてもらえるかも知れない。

「お前は魔術師としては正しいだろう。だが人間としては、完全に脱落だ。そして、凛は必ずそういう『人でなし』になり、桜は人でなしの餌食だな」

 しかし、飛ばされた言葉は決して優しいものではなく。ただ現状と、確実に訪れるであろう未来を述べられただけだった。

 私はどうすればいいのです?

「まず家族を『魔術師として』以外の見方で見れるようにしろよ。それができないなら、お前は何も変われない」

 魔術師としてではなく。その言葉は、生まれてからずっと魔術師たらんとして生きてきた私に、妙に新鮮に聞こえた。

 葵をただ妻として愛せば良かった。凛も桜も、魔術師なんて関係ない。ただ、ありのまま自分の娘として愛せば良かったのだ。

 なぜこんな簡単な事が、今まで分からなかったのだろう。いつの間にか、私の瞳からは涙が出ていた。

 王よ、お願いがあります。どうか……桜を。

「俺は、桜を助けたら、信用のおける適当な人間に預けた方がいいと思っていた。少なくとも、お前に返すよりは。一つ効きたい――お前は魔術師か?」

 ……いいえ。私は父親です。どこにでもいる、何も特別なところなど無い、ただの父親。過去の間違いを、これから一生掛けて償います。だから、お願いです。力を貸して下さい。

「行こう。桜はきっと、泣く事もできずにいる」

 ああ――私は王がどういう存在なのか、今まで全く理解していなかった。百万の言葉でも表現しきれない。これが、王なのだ。

 私の最大の幸運は、ギルガメッシュ王に出会えた事だろう。

 桜を蟲蔵から取り返すのは、とても簡単だった。王が力を発揮すれば、優れた魔術師の攻防攻略が、これほど簡単だとは。ちなみにこの作戦、教会の協力も取り付けたので、間桐臓硯は浄化済みである。近い将来確実に死徒となり、そうでなくとも現役の人食い吸血種。聖堂教会が動くには十分な相手だった。

 ……余談だが、間桐の魔術師関する品々は確保済みだ。まあ、聖杯に関する一族なのだからただ滅ばれるのは迷惑だし、長い年月を掛けて集めた魔術品を無為にするのももったいないし、人として生きる決意をしたが別に魔術師やめる訳でも無いし。王もそこら辺、別に何も言わなかったのでありがたく頂戴する。この行為は、桜を助けるのとこれから聖杯を維持するのに必要な行為である事を、強調しなくてはならない。火事場泥棒とかではないのだ。

 

 桜はやはり、話しかけても全く反応を見せなかった。腕の良い人形師が作った絡繰、そう言われて信じてしまいそうな程に。

 幾度となく桜の反応を期待し、そして裏切られ。一体何度王の協力が欲しいと思ったことか。しかし、それを理性を総動員して自制する。これは、父親である自分の役割なのだと。

 本当ならば安全な場所に待避させたかったが、聖杯戦争の関係者に、ぎりぎり含まれてしまった今では、サーヴァントの近くにいるのが一番安全だ。幸い、王は子供好きであるし、アサシンも複数いる。面倒を見る人員には事欠かなかった。

 間桐の遺産は後回し。疲れた体を癒やしつつ、なんとか桜とコミュニケーションを取ろうと奮闘。言わば、聖杯戦争の隙間にある小休止みたいなものだ。精神的にはともかく、肉体的には。

 などと思っていたのだが、王から連絡が入った。なんでも、町中で凛を確保したとか。

 王を迎え入れると、その腕の中でじたばた暴れている凛。そう言えば、凛はギルガメッシュ王と合ったことはなかった。凛に私のサーヴァントである事を説明すると、大人しくなってくれた。ただし、王に蹴りを入れて、そのお返しとしてげんこつを貰い、涙目になっていたが。

 その後、凛には桜と合って貰った。

 一瞬魔が差し、桜の事を隠そうかとも思ってしまったが。それは、自分の罪を隠すだけの意味しか無く、なにより『父親』のする事では無い。全ての事情を打ち明け、そして桜の反応が無い事を確認した凛は、その場で泣きだしてしまった。

 どれほど罵られても構わない。それだけの事を、私はしてしまったのだ。覚悟をして、凛の言葉を待った。

 しかし、凛の反応は予想外であり。こんな真似をしてくれた間桐を滅ぼしてやる、と空に向かって吠えていた。

 当たり前だが、間桐は既に滅んでいる。今間桐の人間として残っているのは、名目だけの当主と、急造のマスターのみ。前者は既に逃亡済みであり、後者は聖杯戦争を続行しているものの、経歴を見れば被害者と言えるだろう。つまり、仇はもう討った後である。

 と言うことを説明しても、微妙に理解してもらえず。相変わらず凛は憤慨は憤慨したままだ。何か、記憶の中にある凛との間にギャップが出てくる。私は良き父親ではなかった、という点を抜いても、ちょっと思い込みが激しすぎやしないだろうか。何か、一つの事に集中するととたんに他が見えなくなっている気がする。

 ちなみに、憤りを発散するために、凛は王に絡み始めた。と言っても、大抵は撃退されて半泣きで逃げてくるのだが。

 王に遊ばれている凛を尻目に、私は禅城に電話を入れる。凛を発見した事と、こちらで預かるという事を。王と凛が接触したのを、誰か聖杯戦争関係者に見られていないとも限らない。最悪の場合、人質にされる事も考慮しなければならないのだ。ならば、サーヴァントの近くにいた方がまだ安全だ。私の工房は当てにしていない。つい先日、サーヴァントに工房は無力であると、知らされたばかりなのだから。

 凛と共に桜の相手をしながら、心が安らぐのを感じる。そうか、魔術師としてでは無い、これが父として必要な時間だったのだ。

 聖杯戦争を終えたら、もっとこういう時間を取らなければ。その為には、必ず生きて帰る。

 

 凛を保護して一晩明けた昼。来客がある。ライダーだ。もう一度言う、聖杯戦争の敵陣営であるライダーが訪ねてきた。全く意味が分からない。なぜ昼に、しかも普通に訪ねてくるのだ。

 昼に戦争をすれば、さすがに隠しきるのは難しい。幸いに王も居たし、ライダーの目的はそちらだったので大人しく迎え入れた。

 凛がやたら興奮して、ライダーに絡んでいる。前は気がつかなかったが、凛は元々こういう気質なようだ。こんな事にも気付かなかったのを恥じるばかり。

 席に着いたライダーは意外にも大人しく、王と話し始めた。私も、サーヴァントの事以外はデータの少ないライダー陣営を知るべく、マスターと舌戦を繰り広げる……つもりではあった。

 マスターであるウェイバーは、やたら怯えまくって殆ど話しにならなかった。まあ、それは仕方が無い。元々三流マスターな上に、場所は私の工房。それを考えると、哀れにすら思えてくる。魔術を仕込んでみようにも、これだけ警戒されていては、上手くいく保証もない。

 結局、ライダーはさんざん飲み食いして帰って行った。何が目的で来たのか、最後まで分からない。

「ああいうものだと思って、理解は諦めろ。俺は諦めた」王曰く、そういう事らしい。

 世の中色んな人(?)がいるものだ。

 

 夜になり。戦争の時間がやってきた。

 ランサー陣営は、どうやらセイバー陣営の拠点、城に乗り込むらしい。これに乗じて、私も仕掛ける事に決めた。狙いはただ一人、唯一私と同等に魔術師として力を持つ、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ。

 これを正面より屈服させて、勝ちを奪う。そう王に話したら「本当にすんの?」と何度も、すごく微妙そうな表情で確認された。何故だろうか。

 途中まで王の宝具で送っていただき、森の丁度半ばあたりでロード・エルメロイに接触。挑戦状を叩き付けた。ランサーはセイバーとの戦闘に忙しく、またロード・エルメロイも手を出すなと言ったので、容易く決闘の形になった。

 第三者の横槍は、心配いらない。王に何とかすると言っていただけた。まあ、この場に王が居ないだけで、それを警戒して手は出せまい。

 ロード・エルメロイは若くして教授になっただけあり、圧倒的な実力であった。恐らく、素質だけであれば私を上回る。その差を埋めたのは、私の魔術がより戦闘向けだった事、そして実践経験者からアドバイスをもらえたという事だろう。どちらが勝ってもおかしくない戦いを制したのは、私だった。

 ステッキを喉につきつけて、勝利宣言を行う。敗北したものの、尋常な魔術師の決闘であったからか、ロード・エルメロイの表情は満足げであり。それは私も同じだった。

 深々と心臓に突き刺さる剣。対して槍は脇腹であり、勝敗は一目瞭然だ。

 剣を振るい、済まなそうにしながらも満足げなランサーを見送って。しかし申し訳なさそうな顔で、私たちに剣を向けてきた。令呪で、我々の殺害を命じられたのだ。

 恥知らずなマスターめ! 内心で罵りながらも、ロード・エルメロイとどう逃げ切るかを考え……る必要はなかった。空からセイバーに対して強襲する王。能力差が圧倒的なのに加えて、セイバーは疲弊しきっている。抵抗する間もなく、ランサーの後を追うことになっていた。

 唖然とする私とロード・エルメロイ。その前に降り立った王が一言。

「この方が楽だろ」

 その通りである。あるが、それでは我々の立つ瀬がないのです……。

 これで、ランサーとセイバーが脱落。もうアインツベルンに用はなく、そのまま帰って行った。

 ちなみに、ロード・エルメロイも一緒である。勝者の情けとして、婚約者共々一晩泊めて、教会に送り届けた。時計塔現役教授との話し合いは非常に有意義だったと記しておく。

 

 残るサーヴァントはアサシン、バーサーカー、ライダー、そしてアーチャー。アサシンが実質的に脱落していると考えると、聖杯戦争は終盤にさしかかったと言ってもいい。

 ここは、アサシンを使い潰しても一度ライダーの宝具を見ておく必要があるだろう。情報としては、王に調べていただいたものがあるのだが。固有結界で連続サーヴァント召喚など、想像できる範疇を超えている。加えて、評価規格外の宝具なのだ。バーサーカーも確かに驚異だが、理性がない分出来る事にも限界があり、宝具性能も比較的素直。

 と言うわけで、綺礼にアサシンを向かわせて貰ったのだが、ここで問題が起きた。どこで何を間違えたのか、接触したのがライダーではなくバーサーカーだったのだ。

 合体し直す間もなく、みるみる減らされるアサシン。令呪を使用し凌がせているが、それも時間の問題だろう。そもそも一番薄いアサシンは、マスターにさえ負けかねない弱さ。分裂したままにしたのは、あくまでライダーに宝具を発動させるためにである。バーサーカーにはすこぶる相性が悪い。

 厄介な。これでは、ライダーの性能を確認できないではないか。

 とにかく現状を確認するために、現場近くまで行ってみた。そこでいきなり、私を呼び止める声。誰であろうか、と振り返ってみると、壁に寄りかかりながら苦しそうな男がいた。

 いや、よく見れば見知らぬ者ではない。確か、間桐雁夜。聖杯戦争の参加者であり、バーサーカーのマスターだ。

 これはピンチでもあり、チャンスでもある。ここで彼を倒せば、バーサーカーを止められる。

 急いでいたために、碌な魔術礼装を持ってこれなかった。対して、彼自身は三流でも、ここが戦場だと分かっていれば準備のしようがある。どんなことがあっても、冷静に対処すべく意識を集中した。そうすれば、私が負ける理由などない。

 と、ここまで意気込んでおいて恥ずかしいのだが。戦闘にはならなかった。直後、間桐雁夜が倒れたためだ。

 冗談のようには見えない。おそるおそる近づいていっても、やはり反応はなかった。体を仰向けにし、瞳孔が開いているのを確認。どうやら魔力の吸われすぎで自滅したらしい。なんとも締まらない結末だが、バーサーカーのマスターは代々自滅だ。ある意味、予定調和なのかもしれない。

 ちなみに、時既に遅く、アサシンは全滅していた。全くの無駄死にである。

 やはり私に策略は向かないのかもしれない。

 

 残るサーヴァントはあと二体。アインツベルンから、聖杯降臨は市民会館で行うという告知があった。

 宝具でその場に連れられ、すわライダーとの最終決戦が始まると思った時。聖杯から、黒い何かが少しずつだがあふれ出した。明らかにまともでないそれの存在により、戦闘は中止。聖杯への対処に切り替わる事になった。

 王より聖杯を破壊すると宣告されたが、それに待ったをかける。脱落したサーヴァントは5体、まだ僅かにだが余裕はあるのだ。

 とりあえず聖杯の進行を止めて、現状維持。しかしこれも、どれほど持つかが分からない。とっとと何とかしなければ、いよいよ王に破壊していただかなくてはならなくなる。せっかく遠坂の勝利で終わりそうな聖杯戦争を、そんな形で幕引きにはしたくない。それに、次回以降も聖杯がまともであるという保証がない。これはいつかやらなければならない事だ。

 私と、あとあまり好ましくないがロード・エルメロイと、何の役に立つかは分からないがベルベット・ウェイバーの協力を得て。昼夜も無く、聖杯の解析に奔走した。

 かなり速い段階で、原因の除去方法まで発覚する。その理由は協力者よりも、むしろ王から借りられた宝具の数々のおかげだろう。普通は不可能である解析や魔術行使を、容易く行えたのだ。これで失敗したら、自分が魔術師を名乗っていることを恥じなければならなかった。

 聖杯戦争は、これで終わった。冗談でも何でもない。本当にライダーと決着もつけず、この時点で終わってしまった。

 王二人の願いは、共に受肉であった。聖杯で願う奇跡にしては、あまりにも小さな願望。願いがもっと大規模なものであれば、話は違ったのだろう。しかし、時既に遅し。現段階でも叶えられる願いに、聖杯がそれを叶えてしまったのだ。

 元々魔力が足りなかったのと、以上の除去時にロスした分、そして奇跡の対価。残った魔力は2割程度であり。とてもではないが、私の願いを叶える余地はなかった。

 私は勝利できた。できたが、手元に望んだものは残らなかった。

 

 聖杯戦争終了から数日、街は日常に帰りつつある。

 時計塔出身組は、既に帰って行った。なにやら険悪な関係であった両者らしいが、ライダーの仲介(と言うか横暴)に少しだけマシになったらしい。ライダーはあの気性だから、時計塔でも次々に問題を起こしていると噂で聞いた。その様子がありありと想像できる。この時ばかりは時計塔にいなくて良かったと、本気で考えた。

 私も日常に戻れたかと言うとは、それは怪しい。三人だった家族、それが元の四人を通り越して、五人になったのだ。

 まず、帰ってきた葵と私は二人だけで話し合った。桜の現状と、私はいい家人で無かった事を。やはり、葵は不満があれど、を口に出していないだけだった。それでも黙って付いてきてくれた妻に、感謝してもしたり無い。これからは、良き家人で在るようにすると心に誓う。

 王の方は、以前のような主従関係ではなく、もう少し身近になった。と言っても、やはり頭が上がらないのは変わらない。

 桜について。少しずつ、反応を取り戻している。まだまだケアには時間がかかるが、それでも嬉しい事だ。

 

 言峰さんから相談がった。息子をどうすればいいか、という事らしい。

 私から見れば、ずいぶんと出来た子供であると思うのだが。どうやらそれだけではない様だ。

 綺礼はずっと自分の性に悩んでいたらしく、それにギルガメッシュが乗ったらしい。会話の内容までは詳しく知らないが、その時言われた言葉が「お前に足りないのは趣味だ。真面目にやるんじゃない。広く浅く娯楽を漁って、自分に合うもので楽しめ」と行ったとか。

 確かに綺礼は真面目すぎる。悪いアドバイスではないと思うのだが、それのどこが問題なのだろう。

 しかし、言峰さんは静かに首を振った。

 彼の目覚めた趣味、それが問題なのだった。何でも、漫画やアニメーションを買いあさっているとか。世間的に「オタク」と言われるものだとか。

 いや、まあ。ショックなのは分かる。今まで真面目一徹だった息子が、サブカルチャーの暗黒面に落ちてしまったのはさぞかしショックであろう。だが、趣味など所詮は趣味だ。寛容に認めてやったらどうだろう。

 と言ったら、言峰さんは泣きだしてしまった。さすがにこれ以上干渉はできない。あとは親子の話である。……決して逃げたわけではない。

 ちなみに、それをギルガメッシュに行った所、そこまで責任持てるかとありがたい言葉を貰った。全く持ってその通りだ。その通りだが自重して下さい。

 

 王がどれほど現代に馴染んだとしても、やはり王である。それを嫌と言うほど味わった。

 ある日、ギルガメッシュから家を改装すると言われた。特に反対する理由が無いので、同意する。工房のある地下さえ触れられなければ、大きな問題は出てこない。つまり軽いのりで言ったのだ。そして後悔する。

 始まる大規模な工事。所々壊される家の壁。そして、三倍くらいに増える家の体積。これは改装とは言わない、増築とか立て直しとか言うのだ。

 無邪気に喜ぶ凛と葵。それに比べ私の胃は、常に胃薬を要求している。

 遠坂家は、実はギルガメッシュが言い始めると大抵の意見は通るのだ。私は頭が上がらない。葵は基本的に、反対をしない。凛はギルガメッシュに対抗意識を持っているが、派手好きという趣味が合っている。桜は私より、むしろギルガメッシュになついているくらいだ。

 そして、面倒は大抵私に投げられる。これからしばらく、改装の皮を被った増築に関する書類を捌く日々が始まのだ……。

 

 家督を凛に継いでしばらく経った頃。いつの間にか、遠坂が財閥と化してた。いや、意味が分からない。本気で。

 事の始まりは、当然ギルガメッシュ。彼は勝手にわき出る資金(表現に酷い矛盾があるが、彼に限って言えば正解である)で、適当なものを買いあさっているのだ。例えばレジャー施設であったり、会社の株であったり、とにかく節操がない。そして、何を買っても絶対に儲けるのだから恐ろしい。

 ギルガメッシュの買ったもので、一番伸びしろがあったのはIT関連企業だった。今や欠かすことの出来なくなっている(らしい)ネットワーク事業。需要も技術も、年々跳ね上がり続けているのだ。科学技術を最も忌避する魔術師が、最先端技術で財閥化したというのは、もうシュールギャグの領域ではなかろうか。

 ここで一つ。ギルガメッシュはいつも、面倒だという理由で遠坂時臣名義で買い物をするのだ。そして、青田買いを続け、需要の増大に合わせて投資を繰り返す。これであっという間に、シェアの大部分を占めるようになったのだ。それらを合わせてしまうと、確かに財閥にくらいは簡単になるだろう。

 今、どれくらいの金が動いているのか。それを聞いて、私は半ばで理解を諦めた。

 遠坂の魔術は、とても金がかかる。だから、私も金遣いが荒い方だと思ってはいたのに。いま名目は私のものである財閥では、桁が軽く三つは上の金が、ぽんぽんと取引されていた。元より個人で企業の金に及ぶとは思っていなかった。いなかったが、それでも桁三つ違いは予想外である。これが経済大国と言われる国で動く金だという事なのだろうか。いや、どう考えても異常なのはギルガメッシュだ。

 いぐすりが、たりない。

 

 最近悟ってきた。ギルガメッシュが無限に金を増やそうが何だろうが、問題ないではないかと。

 金があるというのは素晴らしい。もう宝石の枯渇と、それに伴う金欠に苦しむ必要がないのだ。遠坂の家が建って以来苦しめられてきた呪い、その一つが消えてくれたと思えばいい。

 少なくとも、これから遠坂が金欠に悩まされることはあるまい。既に好きなだけ宝石を買っても、総資産を考えれば微々たるもの、というレベルになっているのだ。宝石買い放題、研究し放題だと思えば、全くもっていい話だ。幸い、聖杯戦争により残った魔力はまだあるのだ。それを使えば、何度でも宝石剣へ挑戦できる。そんな事をすれば、別の意味で終わりそうなのでしないが。

 家庭内も順風満帆である。……なぜか私の評価が、なさけないお父さんになっているのだが。凛と桜にしらけた目で見られて、涙し葵に慰められる事もしばしば。

 凛と桜は、良きライバルである。桜も魔術を習得しており、実力的には凛に匹敵する。ただし、魔術刻印がない分だけ劣るのだが。それは本人も諦めているらしく、無茶な嫉妬などはない様なのでなにより。将来的には、自分で家を興すことになるだろう。その分、という訳ではないだろうが、我が家で一番ギルガメッシュを慕っていると言うか、近いのは桜だ。

 こんな話があった。私がパソコンの使い方が分からずにいると、桜が代わりに操作をしてくれる。「使い方を覚えましょうよ」という一言に反論したときの返答が、

「自分が機械音痴な事の言い訳を魔術師にしないで下さい」

 という言葉を、笑顔で言われた。父の威厳台無しである。かなりへこんだ。

 凛も同じような事があり、同じように言い負かされて半泣きになっていた事がある。悔しそうに地団駄を踏む凛に、とても血のつながりを感じた。桜はどちらかと言えば、葵寄りである。葵があれほど強い性格でなくて、本当に良かった。

 桜は自分から、そちらに関する勉強をしている。今、関連の仕事ができるのはギルガメッシュだけなので、その手伝いができればと思っているらしい。その末は財閥総帥なのだが、そこまで理解しているかは疑問である。

 まあ、このように。少なくとも金銭的には不自由なく暮らせるようになったのだ。それは、魔術師にとって大きなプラスである。

 だから、ギルガメッシュの無茶な行動も……。

 ごめん、やっぱ無理。もう少し自重して下さい。

 

 こうして、あっという間に十年の時が経った。

 凛と桜はより魔術の腕に磨きを掛け、同時に人としての器も、私などより遙かに大きい。葵は相変わらず私を支えてくれるし、ギルガメッシュも好き勝手しながら、なんだかんだ言って私を助けてくれる。綺礼は今までの反動か、オタクの世界にどっぷりはまり、それを見る言峰さんが頭を抱える。それもまあ、得難い日常だ。

 私がサーヴァントとして王を召喚し、それから人生が変わったのだろう。あの時に感じた印象、そして家庭を人間として顧みるきっかけになった言葉。それは、友人のような関係になった今でも、はっきりと思い出せる。

 凛の才覚であれば、彼女の代で魔法に手が届くかもしれない。それが無理でも、魔術的にも経済的にも、次代に残せるものがたくさんあるのだ。

 その半分も、やはりギルガメッシュが用意したものだと気づき。私の人生の周りには、常に彼がいたのだと改めて確認し、苦笑する。

 こんな事を思うなど、ずいぶん年老いたものだ。いや、当たり前か。あの小さかった子供達が、今や女性と呼べるまでに成長しているのだから。

 多分、私はあと数十年経っても、こうして同じような事を思っているのだろう。

 まだ魔術の深淵は見えてこない。当然魔法など、夢のまた夢だ。しかし、確実にそれに向かって進んでいるのも分かる。娘達も、私のような間違いを犯さずに、人としても魔術師としても、真っ直ぐに進んでいる。

 しかし、これで満足してはいけない。当主を引退したとは言え、私もまだまだ魔術師なのだ。これからも、凛を立てるべく魔術師として(社会人としてはもう諦めている。どうやってもギルガメッシュと桜に勝てない……)より一層力を力を入れなくては。

 遠坂の魔術道はまだまだこれからだ!



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