横島の道 (赤紗)
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プロローグ①

…いつか将来、生まれてくるあんたの子供に愛情を注いでやれば

 

その言葉が横島を傷つけていた

 

確かに子供としてでも転生出来るのは嬉しい、そして希望だ

 

だが一体誰が産むというのだ

 

…恋人を産んでくれる女が

 

 

“魔神大戦” 

…最上級神魔のアシュタロスと美神玲子 個人の戦争に俺たちは巻き込まれ、ただ悲劇を押し付けられ、心に疵を背負わさた。

   

 

横島忠夫

 

高校生(17歳)

     

美神除霊事務所所属

見習いGS(ゴーストスーイパー)

GS免許ランク“E”

 

能力

 

サイキックソーサー

(霊気の盾、投擲し武器としても使用可能)

栄光の手

(霊気を手に収束した武器、また剣の状態になり、その時は霊波刀とも呼ばれる)

文珠

(霊気を収束し物質化した珠、漢字一文字のキーワードで霊気を解放し込められたイメージを発現する)

 

※アシュタロス戦中修得

太極文珠

(太極図の形の文殊、漢字二文字が入り応用性、出力がアップしている)

 

能力面から見れば彼のランクは低すぎる。だが欠点もあった。

それは彼の霊能力が目覚めて、一年という知識と経験不足などもある。

 

たが、なによりも評価されない原因は美神令子のもとで勤めてしまったことだろう。

色香に惑わされ荷物持ちとして勤める事になったが、一般人をろくに指導もせず危険な現場に強制的に荷物持ちとして連れて行かせるだけで、個人の経験、実績を積ませようとはしない方針だったからだ。

 

美神令子にとって将来商売敵になる弟子は論外、除霊現場に事前調査は金が掛かるのでNG

荷物をまとめて持ってくれる荷物持ちが欲しかったのだ。 

“煩悩魔人”と呼ばれるほどのセクハラ行為、ナンパ癖など人格面に問題が有った横島を

初めは都合のいい丁稚として採用。セクハラに対するお仕置きでストレス発散にもなっていた

やがて横島が成長しGS試験合格しても待遇は変わらず(自給250円)

見習いGSになっても令子は指導も教育もしなかった。それには自立して自分から離れてほしくないという面も有った。

 

美神令子は父親には物心つく前に距離を置かれ、母を亡くし、心のどこかで愛情を求めていた。

 

横島忠夫は優秀すぎる両親をもち自分に自信を持てず、誰かに愛されたい気持ちを心に秘めていた。

 

そんな歪ながらもお互いを求めあっていた中で、舞い込んできた魔性の者

 

かつて魔族メフィストが人間、高島を愛したように

 

その妹とも言える魔族ルシオラが高島の生まれ変わりの横島を愛するのは運命だったのかもしれない

愛されることを知り、愛することを知った横島は人間的に成長を始める。そんな横島を認められない

自分以外の存在が横に居るのを美神令子は認められなかった。

 

故に、ルシオラが亡くなった時、無意識に“ハッピーエンド”という言葉で終わらせたかったのだ

 

横島とすれば、その言葉は、口にして欲しくなかった。

 

貴女は何も失っていないどころか前世からの枷からも放解き放たれただけなのだから。

 

 

 

 

 

 




本当に世界観の説明で終わってしまった
次回はからは、横島の身の回りの状況を書きたいと思います。
宜しくお願いします。


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プロローグ②

 魔神大戦終結 一週間後 ~人間界~

 

今日は美神美智恵が過去へ帰還する日だ。横島は事務所の屋根裏部屋で土偶羅と話していた。

 

「なあ土偶羅(ドグラ)、やっぱり方法無いのかな…」

 

「霊破片が足りないからな。他から霊破片を持って来ても、それは別人になるだけだ」

 

無表情で語る横島を頭だけの土偶羅は静かに見ていた

 

「俺の中にはルシオラの霊体が山ほどあるのに……」

 

「お前は人間だからな… そうなんどもちぎったりくっつけたりは出来んのだ」

 

悔しそうに拳を握り締める横島を土偶羅は見ているしか出来ない

 

 

「そっか… いろいろありがとうな」

 

土偶羅はアシュタロスを討った横島やボディを破壊したルシオラを怨んいない

 

ルシオラ達姉妹は、生まれてから面倒をみてきており絶対本人達には言わないが娘のようにも思っている面もあるのだ。

 

そして横島に対しては、本人も不思議だが“ポチ”時代から気を許しており、別荘で潜伏していたさいに酒を飲みながら愚痴までこぼしている。

 

主であるアシュタロス様の真の望みが叶ったことは嬉しいことだが、この結末に対し素直に喜べない自分もいた。

 

 

 

 

 

 

「ごめんねー 令子!」

 

建物の影からひよっこり現れるこの時代の美智恵

 

平和な時間を生きたせいか、すっかり幸せそうな笑顔で、そのお腹には、新しい命が宿っていた。

令子は母親が生きている怒りと喜びでいっぱいだった。

そんな親子に注目が集まっていたため、誰も気がつかなかった

…横島の絶望した表情に

 

 

その日の深夜横島は東京タワーに来ていた。

 

彼の頭の中はグチャグチャで、何も考えたくなかったがふと、此処にきていたのだ。

 

太極文珠 気配 遮断 を使用し人々の目から隠れながら移動して

 

横島は人類の敵として有名になり以降、自分を見る人々の目が、殺気や嫌悪を持たれており、おちおち出歩けない状況なのだ

一応Gメンのスパイとして潜入していたと訂正されたが、未だに人類の裏切り者として見ている人は多い……

 

 

 

今日美智恵が姿を現した時の光景が頭を離れられない。

過去から来たということは、世界消滅の危機が迫っていることも知っていたはずで

…犠牲が出るということも

たとえ世界が救われると知っているとはいえ、そんななかで自分は、自分の夫とイチャついていた訳だ。

そして大戦の公式記録からはルシオラと横島の名前は削除された

未成年見習いのGSは記録されない。

魔族の少女は存在じたい無かったことにされた。

全て隠蔽された、恐らくは過去に戻っていった美神美智恵によって

娘の命を狙った魔神から娘を守る為に、世界を危機に陥れたなんて、事実は隠蔽しておかないと我が身どころか娘の身も危ないからだろう

 

 

 

「恋人を犠牲にするのか!? 寝覚めが悪いぞ!」

 

「今おまえを倒すには、これしかねえ……。どうせ後悔するなら、てめえがくばたってからだ、アシュタロス!!!」

 

 

 

…あの時の 決意 決断 後悔 すべてを侮辱された気分だった。

 

 

 

 




なかなか思うように書けない、文才ないですね

次回あたりから登場キャラ増えていきます。


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動きはじめたもの

…個人的に好きなテレサ復活させる為、カオスにも金が入ったことにしました。


 横島百合子

彼女は横島忠夫の母親であり『村枝の紅ユリ』として世界に名を馳せたスーパーOL

常識外の直感力と行動力を持ち、彼女が動くだけで株価にも影響するといわれる

出産を機に現役を退いたが、その手腕は衰える事を知らず未だ健在。夫の失敗を機にナルニアへと夫婦のみで飛んだのだが、ある意味それが彼女の失敗の第一手だったのかも知れない。

 

 

大戦中に息子が人類の敵と報道され事件の背景、忠夫の交流関係を調べさせ始めた時に起こった、世界規模の大霊障、そして終戦

報道では美神令子を筆頭に一部の民間GSとオカルトGメンが事件解決したとされ、忠夫は敵に入り込んだスパイだったと公表された。

 

この報道に不信に思い GS協会 オカルトGメン などにも調査の手を伸ばしていった。そして

…魔族による核ジャック事件…その隠された真実に愕然としていた。

 

 

 

 

美神玲子は事件後、未だに事務所を再開できずにいた。

理由は2つ 1つは、世界規模の大霊障により、妖怪や悪霊が一時的に沈静化してしまい仕事が入らないのだ。

もう1つは事故処理である。美智恵によりアシュタロスを最後に討ったとされる英雄に祭り上げられてしまい、被害各地に慰問に借り出されていた。

 

「…茶番よね。だいたいママが横島君の詳細を事件から抹消したせいで分担して各地に回れないなんて」

「…しかたないですよ」

直接戦闘で関わっていないおキヌは美神に付いてこれた

だが世界の裏切り者として報道された後では訂正しようが横島の周りの目は厳しいことは分かっている。

けれどそれは時間さえ経てば元に戻るものと思っている。

いつもの事務所に戻ると、信じているのだ。

 

 

 

…そんなおキヌもルシオラは終わった事として考えないようにしていた

 

横島がルシオラを選んだ現実を認めたくなかった

 

死者は舞台(ステージ)に戻れない

 

おキヌは心のどこかで安心していたのかもしれない

 

だが失念していた、かつて幽霊だった自分が生き返れたことも

…横島が決して、あきらめなかったことも

 

 

 

 

 ドクターカオス

彼はアシュタロス事件の功績を認められ一部だがアシュタロスの懸賞金を受け取っており

 

※アシュタロスは人界に侵攻したさい神魔が後付ながら懸賞金を賭けた。…大半が美神令子のもとに行っている。

 

現在、懸賞金のほぼ全てを使いマリアの妹と呼べるテレサを復活させようと忙しかった。

テレサはアシュタロス事件で蘇ったが、大事な場面で蘇らせたアシュタロスに攻撃を加え

魔神の怒らせ胴体を破壊され頭部は周囲に展開していた自爆するハニワ兵により破壊された。

しかしコスモプロセッサで復活した者は、コスモプロセッサが動いている限り、倒されても復活していたということが後の調査でわかり

調べてみると、テレサが半壊状態で復活していたのだ。

事件解決後にマリアがテレサを完全復活させてほしいと願い出て、普段命令されたこと意外積極的に動かないマリアの意思を尊重し修理に追われる日々だった。

  

…そんな中意外な訪問者が現れる

 

 

 

 

 

「カオスのおっさん頼みがある」

 

 

 




駄文お付き合いありがとうございます


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不安

タイトルを考えるのが難しいです


「……おぬしにその覚悟があるか?」

 

「かまわない。望みがあるのなら、俺はそれに賭けたい」

 

 

 

 

この場にいたマリアは自分でも理解できない衝動にみまわれていた

“横島を止めるべき”だという衝動に

 

 

 

 

 

 

 

 レストラン魔鈴

店の閉店後、集まるメンバーが居た

 

唐巣神父 ピート タイガー 小笠原エミ そして机妖怪の愛子だった

 

話は愛子とピートの相談だった

 

「話というのは学校でのことなんです。」

 

「最近なんですが私たち妖怪に対する目が変わってきているんです。」

 

 

大霊症後世間の妖怪に対する迫害、排斥運動が確実に増えてきていた。

家族を亡くした遺族はもちろん、目の当たりにした人達は恐怖を持つようになってしまったのだ。

 

「クラスメートや親交が有る方は、まだ理解があるんですがそれ以外の方達は…」

 

「…学年が違う人達の目は厳しいわね」

 

「僕はまだGS免許が有りますし、大戦のメンバーに入っていますから良いんですが、愛子さんは…」

 

「私はどうしても机が目立つし、前科もちだからね」

 

過去の事とはいえ愛子が問題を起こしてしまったことも周囲から忌避される原因になっていた

 

「…最近では横島さんも学校には来ていません。正直彼さえ居てくれたら学校の中だけでも見る目が違ったと思います」

 

この言葉に唐巣はふと学校に通い始めた頃のピートを思い出す

いろいろ問題行動の目立つ横島だったが、出会った当日からピートをバンパイアハーフとしてではなく一個人として見ており

見た目を嫉んだりモテるのを羨ましげに見つめたりはするが、バンパイアハーフとして避けることはしなかった

唐巣はその点を大きく評価していた

実は唐巣はわざわざ横島のクラスに転入と言う形で学校に通えるよう手配していたのだった

妖怪を恐れない横島が居る事でピートの心の負担を減らすことになると思い

そしてすんなり学校に馴染んでしまうピートをみて判断は正しかったと思っている。

だからこそピートは横島に期待してしまうのであろう。

 

しかし横島君は…

 

 

 

「それで愛子さんの事なんですが、神父かエミさんのどちらかに保護妖怪の身元保証人になって頂きたいんです」

 

「それはかまわないけど、それだと根本的な解決にはならないワケ」

 

「…一度付いてしまった世間のイメージは理屈での払拭は難しいですね」

魔鈴も同じように問題の解決にならないこを指摘する

 

 

 

 

話し合いが続く中、唐巣はこの問題がやがて、人と人外の戦争に発展しないことを神に祈っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神界

ここに小竜姫ならびヒャクメは神界最高指導者直々に呼び出されていた。

 

「楽にしてくださって結構」

 

「「はっ」」

 

「さて今回来ていただいたのは、ヒャクメ君の報告書の件で確認事項が出ましたので、お呼びしました」

 

「報告書S12項とK3項によりますと、小竜姫は人間、横島忠夫のバンダナに竜気での祝福」

 

「ヒャクメは平安京にて延命処置のため横島忠夫の霊体に融合」

 

「間違いありませんね」

 

「「はっ、相違ございません」」

 

「しかし、あのと」

 

「小竜姫今は事実確認をしているだけですよ」

 

「…申し訳ございませんでした」

 

「説明が遅れましたが、我々がこの件で彼をどうこうする気は有りません。」

 

「ただ確認しなければならない事を確認しているだけです」

 

「次の件ですが…」

 

 

…初めは私たちが問題行動を起こしたかと思ったが、どちらかといえば人間・横島忠夫を気にしている

小竜姫とヒャクメは嫌な予感が頭を離れなかった。

 

 

 

 

 魔界

こちらも魔界最高指導者が、魔界第二軍所属ワルキューレと魔界軍情報士官ジークフリートの二名も呼び出しを受けていた

「これから勅命をあたえる。…心して聞きや」

 

「「イエッサー」」

 

 

 

 

 

 

 

「…以上や、人員はまかせるが、べスパの嬢ちゃんは連れてってな」

 

 

 

 

 神界&魔界

「「人間横島忠夫の監視を命じます」」

 



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決意

      


「頼みというよりお願いが有って来たんだ。」      

 

「わしは今テレサの修理中で忙しいのじゃが」

 

「報酬も用意してきた。話だけでも聞いてほしい。」

 

「…なんじゃ」

 

「俺が対価で渡すものは“文珠”お願いしたいこととはコスモプロセッサを造ってほしい」

 

「なっ お主それは」

 

「大丈夫、カオスのおっさんが考えているようなことにはならないよ」

 

コスモプロセッサ。アシュタロスの最高傑作にして魔神の切り札。使いようによっては世界の創造すら可能にする

 

「俺の目的はルシオラの復活だ。だが文珠でルシオラの霊破片を増やしてもダメだ。いくら同じ霊破片を増やしても霊気構造が集まるわけじやあないから意味が無い」

 

だが横島には世界なんて世界創造に興味はなかった

 

「今此処に有るルシオラの霊破片だけでは復活できないけど俺の体内にある霊破片を使えば復活の可能性は高い。

問題は俺の魂が欠損がした状態で無理やり霊破片を別離してしまうと使えなくなる可能性がある事だ。そこで考えたのが文珠を核として、コスモプロセッサーをブースターとして使い、俺の肉体と魂を分離に耐えられるように作り変えれば希望はある」

 

単一の文珠ではおそらく不可能だったろうが二文字の文珠なら可能性はあると横島はみている。かすり傷とはいえアシュタロスに傷をつけるほどの出力を引き出せたのだ

 

「……それがどういう結果になるのか理解して言っておるのか?」

 

「…ああ俺はおそらく全ての霊能力を失うだろうな」

 

横島が魔族化すればルシオラの霊破片は横島に取り込まれるだろう

逆に神族化は魔族の力と反発しあい消滅するだろう

 

横島が損失した自分の魂を増幅するには文珠だけでは出力不足なのだ

ならばこの方法が一番安全にルシオラの復活の可能性が高いのだ…

代償に横島自身の霊的中枢がタダではすまないだろうし、最悪は命も危うい。

 

 

「…横島。貴様何故これほどの発想を思いついた?」

 

「どういう意味だ?」

 

「小僧が語ったこと霊気構造はおろか魂の理論を確立しないと思いつかぬ発想だ?何がお主を変えたのだ」

 

横島の脳裏に浮かぶのはかつて南極でアシュタロスを文殊で模倣したことだ。あの時アシュタロスの力だけでなく、知識も表面ながら読み脱出に成功したのだ。

アシュタロスが解除した時に力は失われたが、知識は多少脳に記憶されたらしい。もっとも不安定な感じであり、使いこなせるかは別であり他人に話す気はなかった

 

 

「…まぁよい。この方法なら確かに蛍の嬢ちゃんを復活できる可能性が高い。だが横島よ、いかに二文字の文珠を使いコスモプロセッサを起動できたとしても貴様の命はもって数日が限度じゃろう。」

 

コスモプロセッサの動力は魔族が人間と正式に契約して得た魂なのだ

 

「……おぬしにその覚悟があるか?」

 

「かまわない。望みがあるのなら、俺はそれに賭けたい」

 

 

 

 

テレサは一応意識があり会話も聞こえていたが横島が何故そんなことをするのか     

理解できなかった。

人間である横島が人間を捨ててまで魔族を復活させようとしていることが理解できないのだ。

 

 

 

 

      




…カオスのボケは何処にと書きながら思いました(笑)

次回は急展開


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それぞれの

 

「お主の願い承知した。 そのために用意して貰いたいものがある。」

 

「1つ目は文珠」

『肉体』『若返』『記憶』『容量』『増大』『補填』の計12個

「これにより肉体を若返らせ、記憶容量を増やす。で欠けた部分を補填する事が出来る」

 

 

「もう1つは『場所』」

「研究施設がないと実験すら出来ぬ」

 

「研究所か、探してみるよ」

 

「他の奴らには頼らんのか?」

 

「…ああ、迷惑をかけたくないから。」

「場所については発見しだい連絡を入れるよ。」

 

 

そう言いながら横島は帰って行った。

「あれは囚われて周りが見えておらんのう …いや見たくないのだろうな」

 

「イエス・ドクターカオス・今の横島さん危険」

マリアが危険という言葉を使うほど横島の危うさが解ったのだろう

横島に対し感情をみせたことを喜べばいいやら、横島の現状に悲しむべきか

 

…ともあれ今は横島の願いを叶えてやることが、小僧にとっての救い

ならこの老骨の身であろうともやれることをやるのみよ

 

 

 

 

 

 

「もう少しだけ待っていてくれよ。必ずお前を救ってみせる」

 

 

…自身の心の傷が癒えぬうちにルシオラを無かったことにする仲間

そして自分に向けられる周囲の冷たい視線

横島の精神は追い詰められていた。ルシオラ復活という希望だけが今の横島を支えていた。

それがなければ最悪後を追って逝った可能性のが高かったのだ

ルシオラ復活以外眼中になく、そのためなら自分を犠牲にする事も厭わない覚悟だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな横島を見つめる二つの視線

 

「「横島さん」」

 

 

2人の神族は今の横島を見て痛ましくなった。

 

彼はエッチでおバカだが他の人にはない魅力があった

 

彼は何者も差別せず、ありのままを見てくれた

それがどれだけ得難い心根であるのか…

 

人一倍痛がりで、人一倍臆病で、人一倍女好きで

そして、分かり難くい優しと分かり難くい勇気を持つ彼が…

 

そんな彼が何故こんな目に…

 

決まっている、神魔の問題を押し付けた自分達のせいだ。

 

 

魔神アシュタロスは、自らが悪という存在であることに耐えられないがゆえに反乱を起こした

だが彼を巻き込むきっかけは作ったのは神族側だ

美神令子の前世を調べるため美神の時間移動能力を強制的に発動

その結果、同じ魂をもつ美神令子と魔族メフィストが同じ時代に存在したことを不審に思った

魔神アシュタロスが介入してしまい、そして魔族メフィストと争いに発展し横島の前世高島は死亡

その後、魔神を時間移動で退けるも結晶はメフィストの体内に残り、生まれ変わりの美神令子に引き継がれることになる。

アシュタロスと美神令子の因縁、メフィストと高島の絆、これはらヒャクメの介入があったから起こったことでもある。

その後、アシュタロス一派のメドーサが起こした月の事件などは美神だけでなく横島も巻き込んでいる。

 

…そして事件が起こってしまい、対応にあたらなければいけない私達ができたのは結末の最後を見守ることだけ

 

事件以降、彼は笑わなくなった

 

そんな余裕はないのだろう

 

彼の笑顔はみんなを明るくさせてくれた

 

そんな彼の笑顔を奪ったのは私達だ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小笠原エミ除霊事務所

エミは結局ピートの頼みを無碍にできず、愛子を事務員として採用し身元保証人になっていた

そんな愛子だが、長く生きてるだけあって知識が豊富であり、最低限のマナーなどは熟知していた

無論GS事務所特有の細かな点は教えることは必要だったが、エミの予想よりも遥かに使える人材である

 

「まさか妖怪の私が除霊事務所で働くようになるなんてね……」

 

「難しく考える必要はないワケ。 普通に仕事してくれればいいのよ」

 

初めは愛子の言うように妖怪を事務所に働かせることに抵抗がないわけでなかったが

仕事ぶりを見て考えを改めていた

電話での受け答えや最低限の書類の作り方など基礎が出来ており、なにより本人のやる気と飲み込みの速さは評価に値していた。

 

「来客の対応にも問題ないワケ …本当に学校にしか居なかったワケ?」

 

「以前横島君のお手伝いをしたことがあるんです」

 

「横島? なんでアイツのお手伝いが関係あるワケ?」

 

「実は…」

 

愛子は以前美神が一時期オカルトGメンに出向した際に横島が事務所の指揮を執ったこと

そのさい自分を含む知人らを集めて陣頭指揮を執り、大幅な黒字を叩き出したことを話した。

ちみに美神がストレスでGメンを辞め事務所に戻ったが横島ほどの黒字は出なかった。

(復帰後、経営を横島に任せなかったのはプライドのためである)

 

「…無名の横島がGS事務所経営を成功させるなんて」

GSは信用商売である。そんな中で大規模な黒字を出したという横島の商才にエミは呆れながらも納得していた。

以前、令子への切り札と当てつけに引き抜いた横島だが、

エミは公安絡みの仕事も請け負っているため、人を雇う時は事前調査をするのが当然であり

横島も例外ではなく身辺調査はしていて、そのさい『村枝の紅百合』の息子であることも掴んでいたのだった。

最もその時には紅百合は引退しており、半ば都市伝説のようなあやふやな噂ばかりだったで、ほとんど信じていなかった。

だが今の愛子の話を聞いて横島の商才が親譲りのものだとしたら…

そして横島の才能が商才だけだったらと…

 

「そういえば横島まだ学校に来ていないの」

 

「…はい」

 

「…そう」

 

…横島の現状を思い、苦々しい思いになるエミだった。

 

 




遅くなりました。


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“太極図”

 

 魔界

「横島忠夫の監視を命じます」

 

「「なっ」」

 

「それはどういう事ですか」

 

「彼は戦友であり、三界の恩人であります…その彼を監視とは恩を仇で返せとおっしやられるのですか?」

 

 

 

(ワルキューレ性格変っとるやないか)

人間に対して嫌悪感や侮蔑を隠そうともしないが、任務は任務と割り切れる奴だったはず

間違っても命令に異を唱える奴じゃあなかったはず

 

それにジークもメチャメチャ怖い目で睨んどるし、コイツは人間に対して失望していなかったっけ?

 

サタンは内心の動揺を表面に出さず

 

「お前ら、勘違いするなよ…横島忠夫に対する監視じゃあないで」

 

「今回の事件で横島忠夫は神魔で名を知らぬ者がいないほど有名になった。」

 

ソロモン七十二柱の魔神の一柱にして爵位は大公爵のアシュタロスが人間界に侵攻しただけでも大事件だが、あろうことかアシュタロスは世界中にある108の冥界のチャンネルを破壊し、妨害霊波で塞いだため主神クラスの神族や他の魔王たちは人間界に来ることができなかった

また人間界に駐留している神族や魔族たちも多数いたが、冥界のチャンネルが破壊されたことで神界や魔界から人間界で存在を維持するために必要なエネルギーの供給が絶たれ、すぐに活動が不能になってしまい、本来人間を助けるはずの神々が来れなかった。

絶望的な状況の元で人間たちが戦うしかなかった。

そんな中で横島は美神と同期合体したとはいえ、その魔神の一柱を討ち取り、世界を救ったのだ

神話の時代も含めても類を見ない大英雄として名を残したのだ

 

「だが有名になるのは良いことだけじゃあないで …敵も多くなる」

「今、横島忠夫が討たれることはデタントにも影響が大きすぎるんや 反デタントの過激神魔は勿論の事、真実を知って危険視する人間にもな」

「それら全てを監視するより本人を監視した方が安全に対処できるんや ほな頼んだで」

そう言って2人を下がらせた。

 

 

だが2人には伝えていないこともある

横島忠夫がアシュタロスとの対決のさいに目覚めたという“太極文珠”

これは大仙人・太上老君秘蔵の宝貝“太極図”とあまりに似通っているのだ

“太極図”は仙力を込めて開放すると「森羅万象すべてを自在にする」

…簡素に言えば、展開した空間を支配して自由に弄り回すというものである

一方“太極文珠”は“文珠”の発展系であり、文珠とは霊力を物質化しキーワードで開放するイメージを実現化させると言われている

だがその詳細はエネルギーの方向指示作用能力であり根本的に同系統のものなのだ

その文珠の発展型の太極文珠はアシュタロス戦以降のデータがなく未知数だが、太極図のように森羅万象すべてを自在にする事も不可能ではないと思われる。

 

 

そもそも、大仙人・太上老君とは、中国の思想家であり道教の基礎となった【老荘思想】の開祖である老子の尊称であり、彼を"伝説の仙人"として神格化した存在。

とくに有名なのは『西遊記』と『封神演义』(ほうしんえんぎ)で、あの金角・銀角兄弟の師匠として名前が挙がっている。また猪八戒の武器も彼の作品とされる。

『封神演义』では羌子牙(太公望)たちのサポーターとして太極図などの宝貝を貸し与えている。

そして斉天大聖老子こと猿神は『西遊記』の孫悟空であり太上老君の仙丹を盗み食いした挙句、捕まって太上老君の八卦炉に押し込められるも、炉をぶちこわして大暴れしたエピソードが有名である

その猿神が自ら妙神山における最難関の修行を人間の横島に施したのである。その成果が文珠というのは猿神が一番驚いていたが…

 

ともかく横島忠夫は下手をすれば仙骨(整体で言う仙骨とは別物)を生やしてしまい、仙人になる可能性も否定出来ないのだ

 

もっとも位が高い存在は「天仙(てんせん)」肉体を持ったまま天へと昇った存在であり

神々すら凌駕するだけの力があると言われている。

その次は「地仙(ちせん)」こちらは、天仙を目指して修行をしている、不老不死の肉体を持った存在であり、天界には行かず、深い山奥などで修行を重ねている者達。

最後が「尸解仙(しかいせん)」。自分が死んだ後で肉体を消滅させて仙人になった存在

 

「もし横島が仙人になるため神格化したら」

 

ただでさえ今の神魔バランスが崩れているのに“天仙”とかになったら収集は不可能や

 

「…頭の痛い問題やな この忙しいのに目が離せんとはな」

 

色んな意味で横島忠夫は神魔それぞれの注目を浴びているので無視が出来ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間界

横島はカオスの研究所の場所探しに苦戦していた。

コスモプロセッサー復活は神魔に要らぬ警戒を与えるため話せず、人間も同様だ

もっとも人間に対する不信感が原因という事も関係しているのだが

「どうするかなぁ~ 放置された除霊現場を探したほうが速いかな」

と危険なことを考えていると

 

 

「「横島さん」」

 

 

…つい先日会ったばかりなのに、ひどく懐かしい声がした。

 




作中の封神演义(ほうしんえんぎ)中国の明代に成立した神怪小説で史実の商周易姓革命を背景に、仙人や道士、妖怪が人界と仙界を二分して大戦争を繰り広げるスケールの大きい作品である。

集英社の封神演義『週刊少年ジャンプ』とは類似点がありますが別物です


 西遊記に孫悟空の犯罪ファイル

・竜宮へ行き、如意棒はじめ鎧一式をたかりとる。
・寿命が尽きて幽冥界へ連れて行かれると、暴れたあげく鬼籍から自分と郎党の名前を消して逃走。
・天上界へ就職するも、役不足として出奔。「斉天大聖」にしなければ天界へ攻め上ると脅迫。
・金星のとりなしで「斉天大聖」にしてもらうが、桃園の番を任されると、九千年に一度実るという超貴重な仙桃を盗み食い(猿に桃の番をさせるのもどうかと思うが…)。
・ついでに西王母主催の蟠桃会のごちそうも食い荒らす。
・さらについでに太上老君の仙丹を盗み食い。
・これはやばいと仙酒を盗んで下界に出奔。
・攻めてきた天上界の軍勢相手に大暴れ。
・遂に捕まって太上老君の八卦炉に押し込められるも、炉をぶちこわして大暴れ。
・玉帝の位を譲れとまで言い出したので、ついに釈迦如来に取り押さえられる。

というわけで、五行山の下で三蔵法師の来るのを500年待つことになるのであった。


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変わらないもの

 

 

「ねえカオス、あの人間に何があったの?」

 

「前に人質に捕まえた時とは印象が違いすぎるんだけど」

 

カオスにより修復されるなか、テレサが興味を覚えたのは横島だった。

前に会った時と別人のように霊力が上昇していたのだ

おまけに、会話を聞くと魔族の為に人間を辞めようとしているのだ、どう考えても意味が解らない行為なのだ。

 

「ふむ、そうじゃの横島は変わったかもしれん」

 

「…じゃがその本質は変わっておらんよ …だからこそワシは手を貸すのじゃがな」

 

「何よそれ、はぐらかさないでよ。」

 

「ワシがどう答えようとお前の中で納得せねば意味がなかろうて」

 

「興味があるのなら自分の目で確かめることだのう」

 

カオスはテレサが興味を持つ事が嬉しかった。それはプログラムなどではないテレサ自身の意思であるからだ。

そして願わくば、テレサが自らの学習能力を以って自分で成長してほしいものだ。

横島ならば、かつてのマリアと若き日のシャーロック・ホームズのような結末にはなるまい

マリア自らが笑顔のプログラムを削除するような事には…

 

「テレサ修理が終わったら横島の元へ行ってみないか?」

 

「何それ命令なわけ?私に何のメリットもないじゃない。」

 

「メリットは先ほど言った自分の目で確かめる事じゃな」

 

「お前さんの人格プログラムはわしらに反抗した時とまったく変わっていない。」

 

「ワシは正直、三原則ぐらい組み込もうかと思ったが、それをやるともはや前のテレサとは違う者になると。マリアがそれに反対しての」

 

「姉さんが!!」

 

「…考える時間はある、ゆっくり考えて自分で決めてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

「「横島さん」」

 

 

「ピートに ……ま、魔鈴さん?」

 

「なぜ2人がこんな時間に一緒なんですか?」

 

「ピートさんには今、レストランの従業員として働いて貰っているんですよ」

 

「僕の所も今、働き口が厳しいのでアルバイトさせて貰っているんですよ」

 

「良ければ横島さんもご一緒に働きませんか? 調理担当がまだ人手不足なんですよ。」

 

「いえ、俺は料理なんかやったことないですし…」

 

「最初から出来る人は居ませんよ、それに横島さんは手先が器用そうですからすぐに覚えられますよ」

 

「…でも俺が手伝えば」

 

 

「横島さん …私ごときが生意気をいうようですが、逃げていても解決しませんよ。」

 

「っぅ」

 

 

「…失ったのは貴方だけではありません。」

 

「そしてルシオラさんが命を捨ててまで護りたかったものを、もう一度考えてみてください」

 

「…私が話せるのは此処までです。失礼します」

 

 

そう話すと魔鈴は立ち去り、ピートも慌てて会釈して追って行った

 

 

…立ち尽くす横島だけが後に残された

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あれで良かったんですか?」

 

 

「…解りません、私はその場に居ませんでしたし、最後の究極の魔体を破壊する場にさえ、足手まといで途中退場でしたから」

 

「そんな私が慰めや説得の言葉をかけてもきっと横島さんには届かないでしょう」

 

「…けど今の横島さんを見たいが為に、ルシオラさんが命を賭してまで救ったわけでは無いはずです」

 

「横島さんに生きて欲しい、幸せになって欲しい、そういう気持ちがなければ自分の命を捨ててまで護れませんよ」

 

「…それくらい分かります、私も『女』ですから」

 

「…魔鈴さん」

 

そう語った魔鈴の表情は悲しそうだった。

 

 

 

 

 

 

一方取り残された横島は、かつてルシオラが言った

 

「私、お前が好きよ だから…お前の住む世界、守りたいの」

 

という言葉が頭の中を繰り返されていた。

 

「俺は一体どうすれば …どうしたいんだよ」

 

 




遅くなりました。
駄文ですが宜しくお願いします
また感想を書いてくれると喜びます。


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雪之丞

雪之丞初登場です。
小竜姫が初めて横島の才能を見出し
雪之丞が初めて横島を認めたんだと想思います。

次回は六道家を出したいかな


 

 

 

「俺は一体どうすれば …どうしたいんだよ」

 

「何グチグチ悩んでんだよ。」

その声とともに右頬に痛みが走り、気がつくと夜空が目に入ってきた。

 

「…雪之丞!!」

 

「よう? あまりにも情けない面していたから、思わず殴っちまった。」

 

「情けない?」

 

「ああ、いじけてるガキにしか見えないぜ!!」

 

「…イヤ違うな、悲劇の主人公ぶっているナルシストか?」

 

「ふざけんなー!!」

そう言いながら、先ほどやられたように右頬を殴り返す。

しかし雪之丞は倒れない。ガードもせずに直撃を受けたにも、かかわらず倒れなかった。

 

「効かねえよ、そんな軽い攻撃じゃあな!!」

 

逆に殴り飛ばされてしまった。魔装術も使っていない状態で!!

 

 

「急に現れて勝手なことばかり言いやがって 何がしたいんだよお前は!?」

 

「今のお前が気にいらねえだけだ!!」

 

そう言いながら今度は蹴りまでとんできた

(意味が解らねえ コイツ何がしたいんだよ?)

 

 

 

「なんで溜め込むんだ!! 何故話さない?」

 

「お前はそんなに仲間が…ダチが信用出来ないのかよー」

 

「そ、そんな事は」

 

「お前の行動はそういうことだっ言ってんだよ」

 

話しながらも雪之丞は手を緩めない。殴って蹴っての応酬。

そして抵抗がなくなった横島の襟を掴み持ち上げて

 

「俺たちはそんなに頼れないのかよ!!」

雪之丞は悔しそうに涙を流しながら語った。

「…雪之丞?」

 

 

雪之丞は横島の優しすぎる性格も心配していた

横島は優しすぎる…故に自分の中に全て抱え込んでしまう。

そして中途半端な同情が横島を救えないのを、雪之丞は理解していた

横島を救うには、本気の想いをぶつけるしかないのだ。

雪之丞は、かつて横島と出会い戦って、光の道に戻れた

横島に出会わなければ、勘九朗と同じ道を歩んでいたかもしれない…

そしてあの戦いで、横島が一番苦しんだ時、全く力になってやれなかった

あの時ほど自分の無力感に悔いた事はない。

かつての、過去の自分のように横島が今苦しんでいるなら、力になろう!!

 

 

 

「…ゴメン」

 

「俺、馬鹿で自分勝手で周りの事なんか見えていなかったんだ。」

 

「…横島何があったんだ ルシオラ穣ちゃんの件以外か?」

 

 

「俺さ、許せないんだ… 」

 

「勝手に全てを終わらせて、ハッピーエンドだと言った美神さん。」

 

「時間移動で歴史を変えてまで美神さんを助けた癖に、ルシオラは見捨てた美智恵さんも許せない」

 

戦後、美智恵の行動を思い返すと不審な点が多すぎた。

初めての干渉は中世に行く前の夢だ。美智恵はここで始めて横島に接触し令子に対して警告をしている。

夢とはいえ霊能力者なら他人の夢に干渉は可能で、以前パイパー事件で美神令子も横島の夢に干渉できている。令子に出来て美智恵に出来ないわけがないのだ

 

他にもいろいろ有るが決定的なのは『逆天号』対 USS空母インクレータブル戦の時だ

あの時、美智恵は逆天号の時間軸をずらして撃沈させるつもりだった。…横島がスパイで乗艦しているのを承知の上で!!

その後、美智恵から横島の潜入中の安全確保のための作戦だったと聞かされたが

戦後に全てを考え直した横島は、その言葉は嘘だったことに気が付いていた。

時間軸のズレを利用した攻撃は空母の莫大な電力を使うた微細なコントロールが不可能だし

断末魔砲の威力や逆天号の防御力を詳しく知らない美智恵が、横島の安全を死守出来るはずがないのだ。

結局、娘の令子を守ることしか考えていなかったのだ、

そして現代に戻った美智恵はこれ以上の干渉は令子を守るマイナス要素として行わなかった。

…ルシオラの死がわかっていながら見殺しにしたのだ。

 

 

 

「…けど一番許せないのは …ルシオラを犠牲にするしか出来なかった自分が許せないんだ。」

 

 

「…横島」

簡単に割り切れるはずはないのは解っていた。自身もかつて最愛の母親を亡くして苦しんだ経験があったのだから…

ましてコイツは目の前で失って、力があれば助けられた可能性があるのだから…

 

 

 

「…俺、今ルシオラ蘇生の方法を考えて、カオスに協力してもらっているんだ」

 

「っ!! 生き返れるのか?」

 

「…ああ、けど周りには言えなかった。 …成功しても俺は人間じゃあなくなるから」

 

「何?」

 

「足りない霊体を補うには、やっぱり俺の中の霊破片を使うのが一番成功率が高いんだ」

 

「…ただ人間の状態では分離する時に破損する可能性が高いから出来ないだけで、俺が人間の限界値を超えて耐えられるようになれば…」

 

「……カオス以外には話したのか?」

 

「イヤ、カオスとマリア以外にはまだ…」

 

「…俺も協力させろ」

 

「雪之丞!?」

 

「…イヤ、俺達に協力させてくれ」

 

「あの結末に後悔しているのは、お前だけじゃないんだ!!」

 

雪之丞は、あの時の後悔を忘れない。何も出来なかった自分自身

そしてその後悔は自分だけでない事にも気が付いていた。

 

「グチャグチャと文句はなしだ 今度こそハッピーエンドで終わらせてやる!!」

 

 

その言葉に横島は涙が出るほど嬉しかった。

 

 



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横島百合子

 

 

「グチャグチャと文句はなしだ 今度こそハッピーエンドで終わらせてやる!!」

 

「だからお前も信用してる奴には最低限誠意をみせろよ!!」

 

「…話すって事か」

 

「そうだ、さっきも言ったがお前を心配している奴らは、お前が考えるよりも多いんだから」

 

「…分かった」

 

そう言って2人は話すべき人達を集めることに

 

 

 

 

 

  六道家

 

「面倒になったわね~」

 

独特の喋りかたで緊張感がないが、その眼光は険しい六道女史 冥子の母親であり

第四十八代六道家・当主であるその人だ。

六道女史はアシュタロス戦後の美神親子の英雄化に頭を悩ませていた。

一般人からの高い人気に支えられた美神親子は、オカルト業界で存在感と発言権が急速に高まっていたのだ

女史は急激な英雄化の裏には美智恵の影がちらついていることも気が付いており

その狙いが六道家からの離脱なのも分かっていた。

(美神美智恵は過去、女史と唐巣神父双方の弟子でもある)

美智恵野心家である。

オカルトGメンでは対アシュタロス戦の地盤を固める為に勤め始めたが、それも実績が欲しいからであり、アシュタロス事件解決以降GSに復帰しないのは明らかにオカルトGメン内での地位や権力を欲しての事なのだ。それは六道家の傘下からの離脱を意味している。

 

 

「…そして問題はこの子ね  美智恵ちゃんはどうするつもりなのかしら?」

 

ふと手にした書類、それは大戦の真実が記載された極秘資料であり当然、横島やルシオラなどの詳細も書かれている、そして現在の横島の様子も…

Gメンで一応撤回報道がされているが、それはおざなりとしか言えないものだった

それより美神親子が世界を救ったという報道ばかりが繰り返されているのだ。

 

 

「美神家に取り込むつもりなのか、危険分子と判断して排除するのか? …判断が難しいね~」

 

 

「…ウチが先に捕まえるべきかしら~」

 

 

 

コンコン

 

「奥様、お客様です  …横島、…いえ紅井百合子様がお見えになりました。」

 

「えっ!?」

 

紅井百合子といえば横島の母親であると同時に村枝の紅ユリでもある

以前、横島を百合子がニューヨークに連れて行こうとし送別会を開いたが、この送別会に百合子を見たく女史自ら出向いたのだ

今は知る人は少ないが、村枝の紅ユリとは六道家でも無視できない影響力を持つ人物なのだから

 

「フミさん、すぐにお通しして」

 

 

 

 

 

「お久しぶりね~。 百合子さん~ 送別会騒動以来ね~」

 

「お久しぶりです。 六道さん」

 

「急にどうしたの~?」

 

「…今日は息子のことで来ました!!」

 

百合子は淡々と話すが、女史は一瞬ピクリと止まる

 

「息子ちゃんのこと~?」 

 

「忠夫の身に起こった事、その元凶」

 

「化かし合いをする気はありません。 …美神美智恵の事です」

 

「何のことかしらね~ 私は知らないわ~」

 

「…美神美智恵 六道家は彼女の死亡偽装を知っていましたね?」

 

「いえ、むしろ匿っていましたね …事件当時彼女の葬式を取り仕切っていたのは六道家でしたから死体が偽者かどうかは気が付くはず!!」

 

「……」

 

「六道家に、どのような意図があり美神美智恵を匿っていたのかは知りませんが…」

 

「結果、私の息子とその嫁になったであろう女性が犠牲になったんです。」

 

「…待って下さい、美神美智恵を匿っていたのは事実ですが大戦の詳細は私も知りませんでした」

 

あまりの殺気に背筋が凍る思いだった、六道家当主を威圧出来る人間など、何年もあったことは無い。

 

「六道家が知っていた事は、美神令子が魔族に狙われている事と世界的規模の大霊症が起こる事ぐらいです」

 

「魔神が人間界に侵攻する事も息子さんが関わる事も知りませんでした!!」

 

それは本当の事だ、美神美智恵から時間移動のさい掴んだとされる情報の中でアシュタロスが侵攻する事、その狙いが令子の魂にある結晶だという事

また横島忠夫とルシオラの悲劇などは一切聞いていないのだ。

 

「…わかりました。 でしたら今後、忠夫とその周辺には手を出さないで下さい。ちょっかいを出した場合は、徹底的に戦います」

 

「…肝に命じます」

 

百合子はそう話して帰って行った…

 

「美智恵ちゃんも大変な人物を敵に回しちゃったわね~。 もう終わりかしらね~?」

 

女史自身、親であるからこそ解った、百合子の怒りを…

百合子が現役の時、関係が深かった政財界の人物はみんな出世して大物になっている。

そんな百合子が心底怒りを出して潰しにかかるのだ、美智恵とて、ただですまないだろう。

まぁ増長している美智恵を潰すぶんには六道として問題はない。

オカルト業界として考えれば美智恵の失脚などが起これば大変な損失だが、六道家には損失では無いのだから

 

 

 

 

 

 

百合子は六道家からの帰り道、ホッとしている。さすがに六道家を敵に回すのは避けたかったのだ

実は百合子は六道家が大戦の情報を詳しく持っていないことは推測済みだった。

もし掴んでいるのであれば、娘の冥子を前もって遠ざけていた筈なのだ、当主が娘に甘いことなどは有名なのだし、それでも強気に出たのは主導権を取る為と警告であった

 

「六道家には、これで美智恵も頼れない。 …美神美智恵 アンタだけは …許さんで」

 

 

未成年であり護られるべきだった、息子をスパイに仕立て上げて、あまつさえ人類の敵などという消せない烙印を押したのだ。

例え戦いの後に一応撤回されたが、追い詰められていた時の人類に敵と認識された後では敵愾心を拭えるものではない…

どれほどの事情が在ろうと、どれだけの理由があろうと、親として赦せる訳がない。

 

そして過去から戻ってきた美智恵の行動も調べており、現在妊娠している事も掴んでいる

…恋人が自分の代わりに死に、世界を背負わされ、自身の手で恋人に止めを刺す。

そんな境遇になる事を知っていながら、あの女は、ウチの息子に手を差し伸べる訳でもなく、自分の夫とイチャついていた訳だ。 

 

 ――――ふざけるな

 

子供一人、魔族の女一人。 『その程度の犠牲』など等と言わせない。

 

人一倍痛がりで、人一倍臆病で、人一倍女好きで、分かり難く優しい息子は、まだまだ半人前の子供だ

その子供に、人では抗う事も許されないであろう圧倒的な存在に相対させた

正真正銘のバケモノとの戦いに最前線で、稀有な才能を持つ存在だからという理由で…

 

 ――――ふざけるな

 

大戦後に美神家の活躍で世界の危機を未然に防いだなどという、報道が流される。

そこには忠夫やルシオラの事は削除され、決戦には関わっていないようにされている。

…すべて美神家の功績にされている。結末を知りながらも身の保身のみに走っている

 

 ――――ふざけるな

 

 

全て赦せない、何もかも納得できない

…美神美智恵、最大の過ちは、同じ人の親である横島夫妻を甘く見ていたことである

我が子を想う気持ちは夫妻とて負けていないのだから…




百合子母ぶちギレ …大樹父も怒ってキレてます

次回は短編『愛子編』予定






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短編・愛子

 

 

いつからだろう、彼を横目で追うようになったのは

 

 

いつからだろう、彼の不器用な優しさに気が付けたのは

 

 

いつからだろう、この気持ちが恋に変わったのは

 

 

 

———————————————————————————————————

 

 

 

 

 

 

エミさんの仕事場で働かせてもらい、もう一週間

 

私は幸せな日々を過ごしている。…だからだろう、彼の事を考える余裕が出来たのは

 

『横島忠夫』 『人間』 『クラスのムードメーカ』

 

私が出会った頃の彼の印象はこんな感じだ。おバカでスケベで騒がしい奴

 

…正直あまり良い印象ではなかった。

 

…だが女子にセクハラまがいの事をしていても実は彼、一線を引いていたのだ。彼は心から嫌がる女子や、 明らかに自分より弱い相手、自分を抑えきれない女子には飛び掛らないのだ。

 

だからだろうか?女子の評価は芳しくないが、けして嫌われてはいなかった。

ピートの差し入れお弁当も横島がタンパク質と言って横取りをしていた為、彼にお弁当を直接渡せない女子がピート君に差し入れているのを私は気が付いていた。

 

私は興味を持ち、横島忠夫を観察し始めた。

 

横島忠夫、彼はバカである、しかしバカでも彼には裏表がない。

 

場を盛り上げる為にふざける事が多いが、人が傷つく事などはやらない、言わない。

 

そして区別をしない。普段は美女の味方と公言しているが、困ったら男女関係なく出来る限り助けようとする

 

…そしてそれは私達、妖怪もだ。彼は人間も妖怪も区別なく友人として付き合ってくれた。

否、彼には区別する意味が解らないのだろう、そんな彼が居たからこそ私達はクラスに溶け込めたのだろう!!

 

ピート君の容姿を妬む事はあっても決して見下さず、対等に付き合っている

 

私が彼を飲み込んだ次の日には、恐怖もなかったかのように友達としてみてくれている

 

それも無意識に、彼にとってはそれが当たり前なのだろう。

 

それがどれほど難しいことか、彼やクラスメートは気が付いていない。

 

そしてどれほど私達が救われているか気が付いていない。

 

…妖怪として退治されるなら …私は横島君に退治されたい! 彼ならきっと私という存在を忘れないでいてくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

バレンタイン

初めて異性に渡せた。 …出来心と普段の感謝を込めて横島君のロッカーに入れておいたのだが、横島君にチョコがということで騒ぎになり名乗れなかったのは残念だ。

 

 

おキヌ事件

おキヌが食事を作りに来ている時、その事を邪推したクラスの面々が横島のアパートへ大挙して押し寄せた際には、愛子も内心焦り、血相を変えて同行した。

おキヌが当時幽霊だった為、問題なしとされたが…内心、愛子は不安になった

 

 

 

中間試験の勉強会

横島君の家で、ピート君、タイガー君を加えて皆でお勉強会をやった

…彼の家で散らかっているところも目立つが、炊事場は整理されていて、どこか女の匂いが感じられた。

 

 

 

 

 

魔族事件

横島君が人類の敵としてメディアに報道されたが、クラスの皆はGSの仕事だと深く考えていなかった

(冗談で机に落書きなどは一部の男子が面白がってやっていたが)

 

 

事件解決後、横島君は戻って登校してきてくれた。

 

…その日、校門の前で一人の女性が横島君を待っていた。

横島君は慌てて早退して彼女のもとへと行ってしまった。

 

 

 

…それだけで私は悟ってしまった

 

 

 

 

――――ああ、そうなのか。

 

…彼の心を掴んだのは彼女なんだということに

 

(…本当に綺麗な人 清楚系じゃん …てっきりラスボスは美神さんだと思っていたけど…)

 

 

彼と彼女に何が有ったのかは解らないけど…

 

彼女はきっと出会えたのだろう。自分にとって最も愛してくれて、愛するひとに…

 

それが横島君なら大概物好きだとは思うけど…

 

 

…彼を選んだ彼女の目は決して節穴なんかじゃあないのだから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さん? …愛子さん」

 

「ピート君?」

 

「…珍しいですね。ボーっとしてましたけど…」

 

「…ちょっとね 横島君の事考えてたわ~」

 

「えっ」

 

「…ねぇ、ピート君 …横島君と前に学校に来た、横島君の彼女は元気かなぁ?」

 

「2人とも怪我が無ければ良いなぁ」

 

私達の学校では、幸い死者は出なかったが、校長を始め重傷者や怪我人が多くでた。

…横島君は大丈夫だと思うけど彼女は大丈夫だろうか?

 

 

「……」

 

何故かピート君は顔を真っ青にして口を噤んでしまった。

 



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愚か者

連続投稿になりますが
短編とは繋がってません。


 

美神美智恵

 

彼女は現在焦っていた。横島を確保できずにいた為に…

現在、彼を捕える為に複数の国家が動いてしまっている。 彼の能力故に…

“人界唯一の文珠使い” …今まではこの情報は裏で過去から戻ってきた美智恵が隠匿していたのだがアシュタロス戦では逆に、令子暗殺を防ぐ手段として世界GS協会やICPО本部にも情報を流していた。

そのため文珠の有用性が証明されており、様々な注目を集めてしまっていた

文珠単体でもマズイのだが、同期合体などは現在人類の手段では対抗不可能で有り

仮に文珠を解析されて量産などされれば国家バランスが崩れる可能性もあり危険なのだ

此方も彼を確保する為に既に、小鳩、おキヌ、等には監視をつけている。…最悪人質にする為に(愛子だけはエミが保護してしまい手が出せないのだが)

ところが肝心の横島が身を隠しており、自身も大戦後の後始末が予想以上に追われ後手に回ってしまっていたのだ。

また出産まじかな為、自身で霊探査ができないのも痛かった(部下では事が事だけに使えない)

そして、文珠の解析も問題だが、それより横島から大戦の真実が発覚するのを恐れている

出来れば幽閉し美智恵も文珠の研究解析をしたいのだが、真実が洩れる前に横島を秘密裏に抹殺しておきたいのが美智恵の本音なのだ。

 

「それにしてもGS協会が思っていたよりコッチを警戒してるわね。 …戦果は出しているというのに」

 

アシュタロス戦ではGS協会に対しても美智恵は無理を押し通してきたが、戦果さえ出せばそれで済むと思っていた。

だが現状は監視されているといっても過言ではない。 …粗探しに必死になっており美智恵も動きにくなっている。

 

 

「忌々しいわね まるで仕組まれたかのような対応 …何かがおかしい?」

 

彼女はまだ気が付かついていない、

大戦の功績を美神家が独占という形に持っていかれ、周りの者が良い顔するわけが無いことも

強引なやり口で、責任に弱い日本政府を脅した結果でるあることも

すべて自業自得なのだが…

 

 

…それらを先導して美神美智恵の行動に制限を掛けている者がいることには。

 

「…少しは大人しくしていて欲しいのね。 …貴方のせいで世界は再び混乱してるのというのに」

普段なら見せない怒りをあらわにした“ヒャクメ”

 

「…始末しちゃあ駄目なのか? ポチには害にしか成らないだろ!!」

横島に複雑な感情を持ちながらも、美智恵の行動に嫌悪する“べスパ”

 

この2柱は人間界で美神美智恵など横島に対して悪意を持つものを監視しているのだ

 

「今は、まだ駄目なのね ご両親の策に気が付かれるのを避けたいですし。」

 

「…ポチの両親か …子が子なら、親も非常識だな」

 

そう、この2人は横島夫妻の指示で動いているのだ。

元々は夫妻のみで動いていたのだが、探知網に2人の神魔が引っかかり、目的が同じである事を知り協力関係を結んだのだ

(人間が神魔を見つけられるのも凄いが横島の両親と納得している)

調査探査のプロ“ヒャクメ”と戦闘力と広範囲な眷属を操られる“べスパ”に地の利を持つ横島夫妻

…美神美智恵と横島忠夫を実験体にしようとする国家はこの時点で詰んでいるといえるだろう

 




お気に入りユーザーが100人超えていた!!

これからも頑張ります。

感想をお待ちしてます。


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人間界

 

「……本当によろしいのですか?」

「アンさんだけの責任じゃないいんやで!? …妙神山かて、どないするんや?」

「既に決めたこと …アヤツも委細承知しております!」

「…決意は変わらんか」

「…分かりました、では斉天大聖老師・猿神」

「「神魔最高指導者両名の承認のもと貴神に『永遠の眠り』についてもらいます」」

「承りました」

「妙神山の引継ぎ、そして彼との時間の為に2週間後と致します。」

「感謝いたします」

「まぁ後悔せんときや!?」

「…後悔は十分してきましたよ」

 

そう言いながら猿神は部屋を退室した。彼にも思う事が有るのだろう

 

「人間界も騒がしくなってきとるみたいやな」

「…美神美智恵ですね!? 困りましたね、功績者の一人が人間界を混乱させようとしているのですから」

「何がしたいんやろうな? 大戦後も、まだ様々な妖怪捕獲に手を出してるし…例のグループとも接触が確認されてるわけだから今後も動く気やろうな」

「最悪、人間対妖怪に発展しかねません!? …この流れを食い止めなければ」

 

神魔最高指導者達が問題視しているのは美神美智恵の霊破シュミレートの運用だった

令子達には、記録された魔物や妖怪の霊破動を再現してシュミレートすると言っていたが、現実には霊破片が採取できないのは捕獲を繰り返し行って解剖してデータを撮っていたのだ

(固有でしか居ない、ブラトーやフェンリルなどの一部を除く)

ただ、これだけの技術力を武官の彼女単体では用意でず、そのため魔族と取引して運営が危うかった南武グループに目を付け取引したのだ。

 

「南武グループと繋がりが大戦以降も続いているということは、これを使い心霊兵器の導入に入ったとう事」

「…対価というか手土産は、横島君の文珠か …遺体のどちらかやろうな」

 

魔族因子を身に持ちながらも魔族化せずにいる横島は死体でも研究価値は高い。

そんなことを許せばデタント側の神魔族も黙ってはいまい、

…本当に世界が混乱の渦に巻き込まれていくと思うと神魔最高指導者達は頭痛を堪えきれなかった

 

 

 

 

———————————————————————————————————

 

 

 

 

 

 

その頃、横島は雪之丞と共に信頼の出来る仲間を集めていた

 

レストラン「魔鈴」

 

集まったメンバーは

「ピート」「タイガー」「エミ」「魔鈴」「愛子」「神父」「カオス」「マリア」

…そして復活した「テレサ」も同席していた

 

横島は大戦の真実、空母で切り捨てられ殺されそうになった事

ルシオラの死後、令子の無責任な言葉

ルシオラが犠牲になるのを承知の上で、誘導していた未来の美智恵、そして、当人の妊娠

それら全てが横島の心を傷つけたこと、失望したこと

考えに考えて残ったのはルシオラが何故死ななければ成らなかったのかということだった。

 

 

…ここまで話を聞いたメンバーは酷く暗い顔していた。

現状横島が世間でどのような扱いなのかはみな知っている。

ただ大戦の詳細を詳しく知るものは少なく、またその後に起きた事は全員知らないことだった

 

「それで俺は…コスモプロセッサーをルシオラ復活限定で作り直そうとしているんです!!」

「「「「「「えっ!?」」」」」」

「それが一番確実なんです!!」

 

横島は自分の体の現状とコスモプロセッサーを作り直すメリットを話した

 

「…それでもコスモプロセッサーは今、神魔にとって敏感なワケ …私は反対よ」

「…そうだね時期が悪すぎる。だが時間が掛かりすぎると霊破片が変質し魔族化の危険も高い」

 

エミと神父は気まずそうに反対意見を出し、それ以外も真剣に話し合いをしてくれていた。

そんな中、急に高い霊圧が現れたのだ!!

 

『お待ち下さい。コスモプロセッサー以外でルシオラさんを復活させる方法が見つかりました!!』

 

そう言って現れたのは小竜姫であり、彼女は決意の篭った眼差しで

 

『横島さん 皆さん妙神山へ一度お越し下さい』

 

一同を妙神山へ招待したのだ。

 

 

 




美智恵さん南武グループと繋がってました
(魔界正規軍に監視されているのはこの為です)

お気に入り六百件を超えた

嬉しいです、次回も頑張ります


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決意と覚悟

『お待ち下さい。コスモプロセッサー以外でルシオラさんを復活させる方法が見つかりました!!』

 

そう言って突如現れた小竜姫に対し、真っ先に動いたのはエミだった。

コスモプロセッサーは神魔にとって見過ごせるモノではない。それが例え小竜姫としてもだ

ゆえに反射的に横島の前に出て精霊石でカバーしようとして

 

 

――――いつの間にか背後に居たワルキューレに無言でその手を掴まれてしまった。

 

 

『横島さん 皆さん妙神山へ一度お越し下さい』

 

そう言いながら何故か横島に対しその場へ即座に片跪いて頭を垂れた。まるで、王に対する臣下のごとく礼をとる小竜姫に一同は絶句した。

友好的とはいえ神族である小竜姫の、この対応は異常であり、その目は決意に満ちていたのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———————————————————————————————————

 

 

 

 

猿神が最高指導者謁見する前日

 

 

 

「小竜姫、ワシは明日上層部に例の件を申告しに行く」

「…本当にそれしか無いのですか?」

「今や神魔の霊力バランスが崩れ、このままでは神族の過激派による暴走がおきかねん。 …最悪の場合、聖書崩壊(ハルマゲドン)に一直線となろう」

「ですが老師が責任を…」

「小竜姫!! 責任は有る アシュタロスの策に嵌められとはいえ、ワシは身動きとれずに妙神山も落ちてしまったのだ」

「……」

「責任者は責任を取らねばならぬ!」

「ならばその責私にも…」

「…小竜姫よ お主には為さねばならぬ事があろうて!?」

「!?」

「小竜姫よ、主には二つ道が残されている 一つは妙神山を正式に引き継ぐ事 そしてもう一つは……お主の心のままに生きる道じゃ!!」

「どういうことですか?」

「小僧の事に罪悪感を持って悔やんでいることにワシが気が付かぬと思うたか?」

「……」

「小僧…いや、横島はコスモプロセッサーでルシオラを復活させる気じゃ!」

「そ、それは!!」

「無論、今の情勢でソレは認められん …様々な所を刺激し、目を付けられるだろう。」

「…それ以外に手は無いのでしょうか?」

「…ある。」

「そ、それは…」

「それが先に言ったお主の心のままに生きる道であり、ルシオラを復活させる唯一の方法でもある …“眷属化”じゃ」

「眷属化?」

「ルシオラの霊破片を摘出するには横島の霊体を強化せねば不可能じゃ …お主が眷属になり横島の霊質と反発せぬようになれば、竜化した、お主の子宮で横島の霊体自体の強化が可能じゃ」

 

子宮を使う、これは小竜姫の本性である竜の姿にならねばならない、末席とはいえ龍王家につならる小竜姫。彼らは竜神族は自身が神としての誇りが有り竜化は最も忌むべき行為でもある。だがそれよりも…

 

「それは私が横島さんの …人としての生を …殺すということですね!」

「そうじゃ …人の霊質のままの神魔化、一種の転生といえよう!!」

「…私は …私には」

「そしてリスクもある、最悪お前に魔族因子が入り込めば……その身の堕天を意味する!!」

 

堕天……それは魂と肉体を同時に犯されることに等しい。神として、そして女として……それは死ぬよりも辛いこと。どうしたって、その恐怖は拭えない。…だが、それでも…

 

「……師匠。管理人の任返上させていただきます」

 

あの戦争で何も出来なかった自分

ヒャクメの記録映像で観た横島さんの慟哭

笑わなくなった横島さん

 

「私は、横島さん…いえ忠夫様のお心を晴らす剣となりましょう。不肖の我が身なれど、あの御方と共に歩ませて頂きます…」

 

ルシオラさん、貴方は横島さんの命を救って心を殺してしまいした。 

私は横島さんの人としての生を殺し心を救います。…たとえ貴方に怨まれようとも…

 




ヒャクメは大戦後、報告の為に関係者から事件の記憶を見て記録映像を作成しています。(横島くんの慟哭も)


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死闘VS猿神

 

 

 

 妙神山

伝説の修行場にて竜神“小竜姫”が管理人を勤める霊山である

小竜姫とワルキューレの転移にて一同、山門前に立っていた

 

「…私は此処に来ても良かったんでしょうか?」

 

神族の拠点であり神族のテリトリーなのだ。そこに妖怪である愛子が来て大丈夫なのか、今更ながら不安になってしまったのだ。

 

「大丈夫ですよ。此処はデタントのテストケースとして魔族も在住してますし、今回お呼びしたのは私達の方ですので御気になさらずに」

 

そう言われても場違いな気がする愛子だが他の人は気にしていない。

 

「雪之丞は此処に来た事があると聞いたが…」

「ああ、俺と横島は此処で修行して“魔装術の極み”と“文珠”を修得したんだ」

 

そんな中で、ピートと雪之丞の会話に驚く愛子、そしてテレサ。

その話題の横島は門に付いている鬼と気軽に話しているが、どうみてもそんな事をする人間に見えない。横島=修行と結びつかないのだ。

 

「「話は聞き及んでおる、入られるが良い。ようこそ妙神山へ。その方らの来訪を心より歓迎する!!」」

 

そう言って重厚な扉が開いていった。

 

「……此処が伝説の修行場?」

 

門を抜け中に入った私の視界に入ってきたのは …何故か銭湯の門構えだった。

 

 

 

———————————————————————————————————

 

 

 

「横島さんは、お着替えください。他の方々はそのままで結構です」

「俺もそのままか?」

「雪之丞さんも今回は見学していてください。」

「…わかった」

 

そう言われて素通りした脱衣所の先には果てしなく続き地平線が見えるような広大な白い世界に所々、岩が存在する異空間だった。

 

「久しぶりだな」

「此処で修行したのか?」

「イヤ此処では腕試しだな! 40秒ぐらいで終わらせたが」

「ふむ。それはどのような相手だったのか聞いてもいいかな?」

「俺の相手は一つ目の巨人みたいな奴で横島の相手は全身刃物の蜘蛛みたいな奴だったな」

「“剛練武”と“禍刀羅守”かね? 彼ら相手に40秒で!?」

 

若い頃、同じ相手に苦戦した唐巣は驚いていた、過去の自分は一体倒すのに30分以上掛かっていたのだから…

彼らの才能に正直、嫉妬がなかったと言えば嘘になるだろう。唐巣はS級の資格を持つGSだが、戦闘力においては、もはや彼らの足元にも及ぶまい。

そしてGSは実力主義な面も確かに存在する。極端な話、実力があればこそ令子のあのような高給取りになれるのだ。

(ちなみにS級GSは国内では“唐巣神父”“美神美智恵”“六道女史”の3名だったが美智恵は死亡偽装のさい失効 六道女史は当主就任と共に現場を引退して返却 現在は唐巣神父のみ)

 

「…先生?」

「彼らのような若者が出できたということは世代が変わるのだろうな…」

「先生も、まだまだ現役でいないと困りますよ? 貴方にはまだ救いを求める人達が待っていますよ」

「ピート君 …ああその通りだね」

「はい、僕もお手伝い致しますよ」

 

そんな中で、ようやく横島の着替えが終わり出てきた。

 

「スイマセン、お待たせました。」

と彼が来るといきなり――――

 

『小竜姫、小僧以外を結界の外に避難させよ ……小僧、今からワシと死合てもらうぞ!!』

 

そう言いながら姿を現す“猿神” …しかも大猿状態で臨戦態勢だ

 

「皆さん此方から避難してください。 様子は見れますので!!」

 

別の入り口を開き、避難誘導をする小竜姫だが、彼女だけはこの展開が読めていた。

 

『ではいくぞ!!』

「ちょっとまっ――」

 

如意棒の一振りで有無を言わさずに吹き飛ばされる。

 

「グハッ!!」

『ほう、とっさに霊気の盾でダメージを軽減したか …じゃが』

 

  “ゴキッ”

 

まさに神速の突きで盾ごと右腕が砕けた

 

「ウガアアアァー!!」

『…言ったはずだぞ、死合いだとな!』

 

激痛の中でも左手から霊破刀を出して距離をとるが

 

『遅い!』

「なっ!?」

 

気が付くと目の前に如意棒の一撃が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと横島を殺す気なワケ? シャレじゃ済まないわよ!!」

 

慌てて止めようとする エミ、唐巣、雪之丞、ピート

沈黙を保つのは魔鈴、カオス達、そして顔面蒼白になって動けない愛子、タイガー

 

「お待ちなさい! この勝負手出しは無用です!!」

「ですが小竜姫様このままでは、本当に横島君が…」

「…大丈夫です。横島さんを信じて下さい。」

 

 

 

 

 

 

 

『小僧その程度か? アシュタロスを討った実力は…』

 

数度の攻防で横島の傷は全身に及んでおり最早、虫の息であった。

 

『…事件の詳細はワシも知っておる アヤツが生み出した造魔の娘のこともな』

「…何が言いたい」

『なに、憐れだと思おてな』

「何っ!?」

『出来もしない希望を持たせた挙句に死なせて… 今も彼女の想いを理解しておらぬ、お主の姿を見れば、その娘を憐れと言わずなんと言う!?』

 

「黙れ――」

 

怒りのあまり、霊破刀でガムシャラに斬りかかるが如意棒でたやすく防がれてしまう

 

「…俺は…アイツを見殺しちまった。 …救えたはずだったのに …だから今度こそ助けたいんだ今度こそ命をかけてでも!!」

『この …たわけ者が!!』

 

その言葉に猿神は如意棒ではなく自らの拳で殴り飛ばした。

 

「ゲホッ…」

『彼女が願ったことは何じゃ? 自身の幸福か?命か? …違うであろうが!?』

 

(アイツが願っていたこと…わかってるさ…)

 

「けど俺は…誓ったんだ …今度こそアイツを護る!! …アイツと共に生きていくって」

『・・・口だけでは何も護れぬぞ。護るにはそれに見合った力が必要じゃ。それが無ければ何も、誰も護ることなんて出来わせぬ!!』

 

“ザクッ”

 

猿神の一撃で霊破刀ごと左腕が切断された…

(勝てない…また俺は何も出来ずに終わるのか?)

出血多量で意識が朦朧とする中で

 

 

 

 

 

――――死なせない、どんなことをしてもよ…!!

 

 

――――生きてヨコシマ…!!

 

 

 

 

―――――――ドクンッ

 

 

 

 

 

横島の脳裏に彼女の顔が浮かびあがり、その姿が消えていった…

 

「ウガアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!!」

 

その瞬間、横島の体内の“霊気”と“魔力”がうねりをあげて高まりだし、耐え難い激痛に襲われる中で彼の瞳は真紅に染まり輝きをはなち始めていた。

 

 

 

 




小竜姫の契約まで行きませんでした。
次回は行きます。
また、小竜姫の真名を、活動報告の場にて募集中
此方も宜しくお願いします。


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契約

すいません、遅れました。
内容を修正しながら書いてました。


 

『……目覚めたか?』

 

荒れ狂う魔力の中で猿神は覚悟を決めていた。

この策に失敗し魔族化して理性を失い闘争本能で生きる獣になった場合は自らの手で討つ覚悟を…

だが彼女を救うには横島の魂と融合している彼女を覚醒せねばならないのだ

…それをルシオラが望まないとしても

 

 

 

 

「ウガアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!!」

 

激しい痛みの中で横島は、懐かしい魂の波動を感じていた。

(お前なのか? ルシオラ!!)

だが、次の瞬間に内側から

 

コロセ!!  コロセ!! コロセ!! コロセ!! コロセ!! コロセ!! コロセ!!

 

コロセ!!  コロセ!! コロセ!! コロセ!! コロセ!! コロセ!! コロセ!!

 

コロセ!!  コロセ!! コロセ!! コロセ!! コロセ!! コロセ!! コロセ!!

 

そこには最愛の彼女ではなく、自分自身の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

『…皆さんは疑問に思いませんでしたか?』

 

小竜姫の声で一同彼女に注目する。変わっていく横島に目が離せないでいたのだ。

 

「疑問ってなんだよ? アイツの今の状態と関係あるのかよ!」

『雪之丞さん、貴方が一番理解できるはずですよ、横島さんの肉体が侵食もされずに魔族化すらしていないという事が異常だということに…』

「っぅ!? …そういうことかよ!」

 

雪之丞の使う魔装術は特殊な魔法陣の上で契約する魔族の血を受け取るという儀式を持って行われた。そのさいに僅か一滴の血でも鎌田勘九朗、伊達雪之丞、陰念 この三名以外の儀式を受けた白龍寺の門下生は魔族の血に耐え切れずに肉体が自滅してその場で魔物になりそこない、メドーサによって始末されてしまったのだから

正真証明、上級魔族であるルシオラが譲歩したとはいえ霊其構造を人間の横島に与えて肉体に変化がないのはよくよく考えるとおかしいのだ

 

『考えられる理由は一つ …ルシオラさんの意思が横島さんを護り続けているのでしょう …たとえ死んだとしても横島さんを護る意思だけは彼女の霊其構造に刻まれているのでしょうね』

 

二人を知っているメンバーの 雪之丞 カオス マリア 魔鈴 エミ ピート タイガー 唐巣は驚きながらも納得していた。ルシオラが横島の命を救う為に自らを犠牲にしてまで護りたかった想いはヒャクメの映像越しとはいえ観ているからだ。

 

 

一方ルシオラを知らない 愛子 テレサは困惑していた。特にテレサは横島の事もよく知らない為に理解できなかったというのが本音だった

(自分より弱い人間を助ける為に命を捨てるなんて… あの人間、横島忠夫にそこまでの価値があるというの?)

ただ以前と違い横島に興味を持ち、ひそかに観察しているのだが、テレサは自覚していなかった。以前なら人間自体を見下していたため興味を持つことすらしなかったであろうことには

 

 

「ですが小竜姫様、この戦いに何の意味があるのですか? このままでは横島君が…」

『意味は有ります。…横島さんが命の危機に陥れば彼女の魂が目覚める可能性が有りました。そして今、彼女の護りは横島さんを人間のままでという想いより、生きて欲しいという想いが優先され、魔族に変えないという想いを上回っているのです。』

「待ってください! 横島さんを魔族にするつもりですか?」

『違いますよピートさん、あくまで目的は横島さんの中のルシオラさんを覚醒させることです。 どのような形であろうとも彼女は横島さんを護り続けていますから、ですから目覚めさせる方法はこれしか…』

「小竜姫様…ですがこのままでは?」

『大丈夫です。そのために私と老師がおりますので!』

 

そう言うと小竜姫は横島と猿神のもとへと歩きだしていた。その背中には決意と覚悟が感じられ誰も何も言えず、黙って見ていく事しか出来ずにいた。

 

 

 

 

 

 

横島は満身創意の中で自身から湧き上がる殺戮と破壊の衝動を必死に抑えていた。

(マズい、血を流し過ぎて意識が…)

 

『…許せよ! 乾・坎・艮・震・巽・離・坤・兌 “八卦封印”・禁!!』

 

猿神がそう呟くと八方向から炎の鞭が横島を貫き意識を奪っていた。

 

 

 

 

『…覚悟は決まったか小竜姫?』

「はい!!」

『一方的ではあるが、今の状態の小僧に契約でラインを繋ぎ、お主の霊質と反発せぬ状態になれば竜化した、お主の子宮にて横島を人間の霊質のまま神魔の域まで霊体を作り変えられる。そうなれば2人の分離は可能だ。 じゃが――』

「解っております老師。そうなれば私が妙神山に括られる存在から忠夫様の括られる眷属となります。そして多種族を産む行為により私は竜神族を追放されるでしょう。…ですが私は何処までも付いていこうと決めましたから!!」

 

古来より竜種は生命力に優れその血を飲むと不老不死になれるとまで言われている。

勿論そこまでの効能は無いが純血の血液は寿命を数百年から千年のばすと言われ古来より争いの原因となってきたのだった。

故に血を外に分ける異種婚は竜種にとって禁忌されてきていた。

竜神族も、おもに血統を重視しており王家などは近親婚が未だに主流なのだ。

 

横島を子宮に受け入れ、霊体を再構成して産むのは生命力が強く最適だが、この行為も多種族を産む行為には変わりなく禁忌とされるだろう

 

だがそんな些細なことより小竜姫が気を重くしているのが忠夫様に黙って眷属の儀式を行い、その後は私の子宮にて彼の霊体を再構成してしまうことだ。

これは人間の肉体を事実上、殺して新たに私の子宮で降誕されるのだ、こうなれば忠夫様は 人間 魔族 神族 いずれの勢力にも属さない異端者となるだろう。

人間の霊力のまま肉体を捨てて神魔化するのであり、神族にも魔族にも属さないと言うことは、神魔両界の助けも無いと言うことなのだから …だがら有事の際に自分が横島の護り手であり、剣になると誓ったのだ。

 

 

「横島忠夫様 貴方の人としての生を奪う、この私を怨んでくれてかまいません。なれど御身のお側にて守護させて頂きたいという、この想いだけは引けぬのです!! お許し下さいませ!」

 

そう言うと何時の間にか ちぎれた腕を拾っており、小竜姫は灼熱の鞭に捕えられ気絶している横島のもとへ行き …横島の目の前でソレを …かじりつき血を啜りだしていた

 

(…やはり忠夫様の血は霊濃度が高いですね。これなら!!)

 

「我、妙神山管理人・小竜姫 この血を契約に使い人間横島忠夫の眷属を願う」

 

その後ろにはいつの間にか来ていた魔族ワルキューレと斉天大聖猿神老師がそれぞれ

 

「我、神族斉天大聖… ここに小竜姫の眷属の転身を承認する」

 

「魔族ワルキューレ… 人間横島忠夫に対する小竜姫の眷属転身を見届ける」

 

 

横島との血の契約に、神族の承認、魔族の確認、それらが言霊になって小竜姫を縛っていた妙神山の括りが消え、横島との間に契約のラインが確かに繋がったのだ。

 

「忠夫様、初めてお会いした時に手加減したとはいえ私の剣を避けましたよね。サイキックソーサーも私が与えた心眼が授けて、栄光の手や文珠の時にも私はお側におりました。…それなのに私は貴方を指導することをしませんでした。…貴方の成長を誰より認め嬉しく思っていたのに……そのせいで事件の中で力不足に陥り最愛の人を失わせてしまいました。」

 

事件後ヒャクメの映像を観て小竜姫が後悔したことは数あれど、一番の後悔は横島の才能と実力を認めておきながらも何もしなかったことだ。

勿論 一神族の小竜姫が直接指導しに行くのは問題だが、美神に言って妙神山に呼ぶことや出来る手段は有ったはずなのだ!

それを怠り結果論かも知れないが彼の恋人が死んだ。それは武を教えるべき武神の小竜姫がやってはならない事だ。

彼の爆発力が安定していればあるいは… そんなIFを思ってしまうのだ。

 

「貴方は“小竜姫様のせいじゃないっすよ”とでも言うのでしょうか?」

(ですがこれは私の罪 そしてこれから行うのも私のエゴで有り罪)

 

横島に近づき炎に身を焼かれるのも気にせず、耳元で囁くように

 

「我、竜神族・真名は小蘭(シャオラン) この真名と共に貴方に忠誠を誓います!!」

 

そう言うと黄金の神気を纏った美しい竜になっていった。

 

 




八卦封印はナルトと関係ありません。
太上老君の八卦炉を再現した術です。


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真実

 

 

 「アンギャオォォォーーーーーーーッ!!」

 

竜化した小竜姫は耳をつんざかんばかりの叫び声を上げ、口から黄金の炎を吐き猿神の八卦封印の炎を散らして横島と自身の周囲を炎の結界で覆った。

 

『それに触るでないぞワルキューレ! すぐに避難するのじゃ!!』

「はっ!」

 

2人はカオス達の居る空間に慌てて避難した。黄金の炎(神炎)は猿神でもダメージを受けるが、その真価は物理法則さえも無視し、目的対象以外には一切の影響を与えない炎なのだ。故に横島にはダメージは無い。

 

「老師あれは?」

『竜神族は出産時には気性が荒くなり、つがいの雄ですら不用意に近づけば食い殺すというが。 …今の小竜姫は正にその状態じゃ』

「なるほど… ではこの場所は出産が終わるまで封印した方がよろしいですね」

『うむ、後でワシがやっておこう。先にアヤツらに話をする方がよかろう』

 

そう言うと客人達に目を向けるが一同あまりの光景に絶句していた。ある程度落ち着いているのはカオスと魔鈴のみで、実戦経験豊富なエミですら唖然としていたのだった。

 

「ふむ、では我々を呼んだ理由をお話して頂けるとういことですかな?」

 

そんな中でカオスの言葉に一同が我に帰る。

 

「横島を転生させるだけならワシらは必要なかろうて、理由があるから呼んだのだろう? …しかも転生を先にしたからには、横島には聞かせたくない話とみえる!」

『さすがはかの“ヨーロッパの魔王”と称されるほどの高名かつ優秀な錬金術師であるドクター・カオス殿ですな。ならば回りくどい話ではなく直球でお話させて頂く!』

「うむ。お願いいたします。」

『ではまずはワシの私室へどうぞ。…全てをお話いたします!』

 

一同、猿神に連れられて部屋へと向かうがマリアだけが拒否した。

 

「ドクター・カオス・マリア此処に居たい」

「此処では暫く何もおきんぞ!」

「マリア・横島さんの傍に居たい」

「…解った、好きにすると良い!」

「イエス・ドクター・カオス!」

 

以前には見られなかった行動なだけにカオスは嬉しさと寂しさが同居した複雑な気分に見舞われた。だが普段自分から言い出す事がないマリアが自らの意思を訴える行動に出たため、その意思を尊重することにした。

 

 

 

 

『さて、単刀直入に話すとしよう。今現在何がおきておるのか? そしてお主達にどう関係があるのかを…』

「まず私の方から、現在魔界では遺憾ながら過激派魔族が美神と横島をを狙っている動きがある」

 

ワルキューレがどこか忌々しそうに話していた。

 

「人間界では美神令子がアシュタロスを討ったことになっているが、神魔界では真実が伝わっている。故に魔神アシュタロスを直接討った横島は勿論、人間界でアシュタロスを討ったとされる美神令子に対しても我慢が出来ない連中は多いんだ… 」

「我慢ができない?」

「連中は人間が魔族に勝つのが無理だと証明したいのさ… ましてや美神令子は英雄として人間界で目立ちすぎているから過激派魔族には頭にくるのだろう“偽者の英雄”としてな」

「令子に関しては自業自得なワケ… で私達にどう関係あるワケ?」

「あくまでこの2人が死んだ後だが、大戦時に居たメンバーも狙われる可能性がある」

「上等だ! 返り討ちにしてやるぜ!!」

「雪之丞君! 熱くなりすぎては駄目だ! …魔界では止められないのですか?」

 

唐巣は頭に昇った雪之丞を落ち着かせるように話しながらワルキューレに聞く、ハッキリ言って過激派がどの程度の規模か分からないが仮に上級神魔クラスが複数出て来たら終わりである。

 

「デタントの名目で横島と諸君達には正規軍が護衛に付くが、美神令子に関しては…」

『そこから先はワシから話そう』

 

こちらもどこか忌々しそうに猿神が話し始めた。

 

『御主らは“霊破シュミレート”の存在を知っているか?』

「何ですかそれは?」

 

一同は霊破シュミレートの存在を知らなかった。知っていたのは令子、おキヌ、横島、西条、ヒャクメだけであり、もしカオスや魔鈴などが見れば気が付いていた恐れが有るため美智恵は隠していたのだ。

 

『表向きは、記録された魔物や妖怪の霊破動を再現してシュミレートする霊動実験室とされて物じゃが実態は違う! …あれは妖怪の捕獲を繰り返し行って解剖して霊破片を採取してその力を再現する心霊兵器実験所じゃ!!』

「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」

『アシュタロスの核騒動で全世界的に核は禁忌の兵器になった。 …おそらく美智恵は知っていたのであろう。その為に核に変わる戦略扱兵器が人々が求める事をな』

 

猿神とワルキューレはお互いの顔が歪むのを自覚しながらも話す事にした。

 

『その妖怪捕獲を先導して行っているのが“南武グループ”という組織であり“美神美智恵”も噛んでおる …そして裏で“横島忠夫抹殺”を指示しているのが美神美智恵じゃ!!』

 

驚愕の真実に一同は凍りついた。

 




今回は短めです。あと少しでタマモ登場しますが原作どうりではないです。


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“横島忠夫”抹殺指令

『“横島忠夫抹殺”を指示しているのが美神美智恵じゃ!!』

 

この一言に一同は凍りついた。

横島忠夫はアシュタロス戦において真の功労者であり美神美智恵にとっても娘に対する恩人といえる。彼なくしてあの戦いに勝利はなく、娘の美神令子もコスモプロセッサーから復活できなかったであろう。

 

「…どういう事ですか? なぜ美智恵君が横島君の抹殺を!? …何かの間違いではありませんか?」

 

「残念ながら間違いではない。 …自己保身と自らの地位の為にな」

 

唐巣神父の問いに答える猿神は嫌悪感を隠そうともしなかった。

 

「美神美智恵は文珠の事をアシュタロス事件までは隠匿していたが、事件の際には積極的かつ大々的に情報を公開している。 …娘の暗殺を食い止める手段の一つとしてな。その結果、権力を持つクズ共は横島の文珠に興味を惹かれ、文珠の量産、兵器利用する事を考え密かに横島忠夫捕獲命令を出した。 表向きは『魔族』として指名手配されている」

 

「ちょっと待つワケ。私はそんな情報聞いた事がないわ」

 

「お前達には秘匿されたのだろう、横島と関わりが強いGSからな…」

 

「……」

 

これはヒャクメが調べ上げ分かった結果である。横島忠夫捕獲命令は正式な政府の命令によって下されたことであり、、GS協会、オカルトGメンの両方が関わっていること。

そして捕獲対象が魔族としてであるということ。

捕獲後の実験内容は横島忠夫の洗脳、及び人工的文珠の生産機への転換。

彼らは文珠が狙いであり彼を文珠を作る機械に仕立て上げようとしていた。

この事実を知ったヒャクメは激怒した。文官である彼女ですら自ら神罰を下そうとしに行こうとした所を老師に止められたのだ。膿は出し切らないと意味がないからと。

 

「この状況は美神美智恵にも都合が悪いのだろう。 …万が一にも他が人工的文珠の生産に成功すれば、英雄の指揮者として無理を押し通し疎まれている彼女の秘密が露見する場合も有りえなくは無いからな」

 

「そ、そんな理由で… 殺そうとしているんですか」

 

ピートは全身から妖気が漂っていた。怒りのあまり制御ができなくなっているのだ。

雪乃丞とエミの目には殺気が満ちており、愛子とタイガーは怒りより気持ちの悪さで顔色が悪くなっていた。

カオスと魔鈴は見た目は冷静だが内心、不快感を覚えていた。

 

「無論そんな事を許すつもりは無い!」

 

デタント推進派の神魔にとって横島忠夫という人物は、恩人にして英雄ですらある。故にその安否は最重要視されている。

そんな中で人間側の抹殺指令と捕獲命令は見過ごせるものではなく、神魔合同部隊で横島に護衛監視が付けられていたのだ。当初は神魔過激派から護るための措置だったが最高指導者達はこの事態も予想しており人間達にも注意を欠かさなかった。

 

「そして美神美智恵も野放しには出来ぬ。すでに天界の逮捕リストに入っておる。アヤツを放置すれば人間と妖怪の戦争に発展するであろうからな。それだけは避けねばならん! 今は監視させておるが、関係者全員を拘束する!!」

 

本来、神族は基本的に人界に介入しない。だが無差別に大量の妖怪や魔物を乱獲し両者の間に溝をつくり広げている南武グループや美神美智恵は摘発の対象となった。

魔族側も美智恵の思想と行動を危険視しており協力体制をとる事が決定。

 

妙神山に来るまではワルキューレを筆頭に魔界正規軍が影で護衛していた。横島は出歩く際に文珠で隠密に動いていたが不足と考え、正規軍も横島の周囲に対し認識阻害の術で万が一にも見つからないようにしていた

 

この対応は魔族側にしてみても神界同様、あの惨事はデタント派の魔族にてみれば恥以外の何者でもない事件の功労者である横島だからこそである。

実力社会の魔界では横島忠夫は純粋に実力者と恩義のある人物と評価されており、加えて彼を優遇しているワルキューレは正規軍内でも有数の実力者であり、その彼女が人間の横島に対し“戦士”と言わせていることからも横島の軍内部で評価が高くなっている。

 

「ただし、この件は横島には内密にだ! これ以上奴に負担を掛ける必要は無いからな。」

 

ワルキューレは彼女は自身が軍人であるが故に感謝も恩義も感じられない猥雑な美智恵を憎悪、侮蔑していた。彼女の信念とは真っ向から対立する行為“裏切り”だったからだ。

“仲間(同族)は裏切っても戦友は裏切るな” 魔族、とりわけ軍人は“戦友”を裏切らない。何故なら戦友は背中を任せる相手であり、任せられる相手だからだ。そんな相手を魔族は蔑にはしない。

 

「御主達にも黙っていようか考えたのじゃが、…そこに居る机妖怪の愛子殿やダンピールのピート殿は無関係では無いし、特に愛子殿には美智恵の手の者の監視がエミ殿の事務所に行くまで付いていたからのう」

 

「「えっ?」」

 

「奴らは妖怪を捕獲している。そこの半吸血鬼や机妖怪も狙われる可能性が有る。…最も机妖怪の方は横島に対する人質の可能性も否めんがな」

 

その話に真っ青になる2人、共に妖怪で有るこの身を忘れたわけではないが、狙われると聞けばまた違う。特に愛子は監視まで付いていたのだからなおさらだ。

 

「愛子、安心しなさい! ウチの事務所に来た以上、オタクは私の身内なワケ。何処の誰であれ手出しなんかさせないワケ!!」

 

「ワシもおるケン。まかしてくんシャイ!!」

 

「エミさん、タイガー君」

 

その言葉に不安だった愛子は涙が溢れて止まらなかった。仲間として扱ってもらえる事が何より嬉しかった。

 

 

「…先ほど話した美神令子の護衛だが正規軍の護衛は事実上不可能なのだ」

 

若干、気まずそうに話すのはワルキューレである。だがこの話もまた重要事項であるからだ。

 

「先の抹殺命令が出る間際に姿を消した者がいる。それが美神令子と氷室キヌの2名だ!」

 

「令子達が!?」

 

「軍内部でも調査を続けているが、今は横島の周囲が最優先な為結果は芳しくない。…最悪、美神美智恵と共謀で動いている可能性も否定できぬ!」

 

「イヤ、しかし幾らなんでも…」

 

「なら何故このタイミングで姿を消す必要が? 我々は万に一つも許されないのだ!」

 

「ヒャクメ様は何と?」

 

「直接的な繋がりは見えなかったそうだが、美神令子は横島の文珠を所持している可能性が高く隠匿は簡単だ。」

 

その言葉に一同は再び暗くなるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、地方の人里離れた谷山で銃声が鳴り響き、少女と少年は死に物狂いで逃げていた。

 

 

「はあ…、はあ…、はあ…」

 

「ケイ、もうちょっと頑張って! …この先に谷があるわ! …私達なら獣化したら降りられるわ」

 

「うん!」

 

道なき道、獣道をあえて進みながらも、少女は肩を撃たれ周囲に血が付き、追跡者を道案内をしているようなものであった

 

「いたぞ囲め!!」

 

そんな中、遂に二人を追っていた連中が周囲を取り囲んでいく。

 

「ケイ、私が囮になるからアンタは逃げなさい!! お母さんの分まで何がなんでも生きるのよ」

 

周囲には自分達を追う複数の人の気配を獣の感知能力で気が付くと少女は少年の為に自らを囮にして逃がすことを決意。

幸いにも少年は無傷であり自分が時間を稼げば少年が逃げれる確率はあがる

 

「ね、姉ちゃん? イヤだよ おいらも戦う!」

 

少年の母は目の前で2人をかばい、捕えられた。銃で撃たれているので生死すら不明な状況だ。そんな中で家族になった、この姉を見捨てて逃げ出すことは出来なかった

 

「貴方は生きなければいけないのよ。美衣母さんの為にも、私の為にも! お願いよ生きて!!」

 

少女は殺生石から復活したばかりで弱っていた処をこの親子に助けられ、家族として迎え入れてくれた美衣やケイに深い恩義を感じていた。力及ばずに美衣を助けられなかったが、せめて息子のケイだけは守らねば、あの世で会う顔すらない

 

 

 

 

「イヤだよ―― タマモ姉ちゃん!!」

 

 

 




タマモ登場。原作無視した展開に!


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短編・タマモ

 

 

那須高原。此処にかつて人間に追われていた『金毛白面九尾の妖狐のタマモ』が殺生石に封印されていた。

タマモはしばらく前から意識があり、殺生石の中でも付近の様子は見えていた為、その為、最近何者かに監視されていることに気が付いていた。

 

(何者だ…? 悪意に満ちている。…私を捕える気か?)

 

タマモは殺生石の中で動けないが殺生石もまた移動させる事は不可能であり、無理をすれば殺生石自体が破壊されタマモもまた無事には済まないだろう。

監視のみに済ませている事から、考えて自分の復活を待ち、弱っているところを捕えるつもりなのだろう。

 

(冗談ではない! ようやく自由になれるというのに人間なんぞに邪魔されてたまるか!)

 

前世の記憶は既に消えてしまっているが、余程強い想いだったのだろう、たった一つだけ憶えている事が有る。

 

……人間を決して信じるな!!

 

この想いは目覚めてからも忘れなかった。むしろ気が付くと、この想いに支配されたと言っていいだろう。

 

 

そして今日、周囲の人間が様子を見に近づいてきた。私の復活が間際なのに気が付いたのだろう。

ならば好都合というもの。

 

 

(一か八かの策ではあるが…やってやる!)

 

タマモは復活をギリギリまで遅らせ妖力を蓄えている。己が力を信じてただ時を待っていた。

 

 

 

――――まだ

 

 

―――――まだ

 

 

―――――――『今だ!!』

 

 

射程に入った瞬間に殺生石の中から“広域幻術”を掛ける。そして効果を確認する前に私は殺生石から復活した。なけなしの妖力で広範囲に幻術を使ったた為、私には妖力がほとんど残っていない。

だが此処を離れなければ、いずれまた追っ手が来るだろう。復活したばかりでまだ足がおぼつかないが、それでも私は走り出した。…自由を求めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――― はぁっ

 

―――――――――― はぁっ

 

――――――――――――― はぁっ

 

 

 

……気が付くと私は倒れ体も満足に動かせずに死を待つだけの状態になっていた。

復活間際に膨大な力を使ったため、体力と妖力は尽きており気力のみで動いてきたが、それも限界らしい。

後悔はあれど私は自分の意思で動いてこれた。人間なんかに捕まるよりは幸せであろう。…例え此処で朽ち果てようと私は己が意志で生きたといえよう。

目が重くなってきていた。 …少し眠ろう。意識が遠のいてきた…

 

故に気が付かなかった。

そこから少し離れた場所にに美しく妖艶な獣が妖弧を見つめていた事に。

 

 

 

———————————————————————————————————

 

 

(私は生きているのか? 体が重い。 …でも何でか安心する。)

 

「――――さん、 狐さん、起きて下さい。此処はとりあえず安全ですよ。」

 

その言葉で意識がぼんやりと覚醒する。

 

「此処は? 私は生きているの?」

「ええ、貴方は生きていますよ」

「貴方は…何者? 私を助けるなんて…貴方も人ではないみたいだけど…。何のつもり?」

「私は猫又の美衣と申します。貴方を助けたのに理由なんてありませんよ。」

「理由がない? ふざけないで! 見ず知らずの私を助けて何の得が…」

「救える命を助けようとしただけですよ!」

 

かつて一人の人間の青年が立場を越えてまで自分達親子を逃がそうとしてくれた。

彼は私達を恐がるとかは一切しなかった。人間からすれば私達は化け物、まして退魔士(GS)の彼からすると私達親子は排除する敵だというのに青年は自分の上司に敵対してまで私達を守ってくれた。

美衣は忘れない、救える命を助ける為なら種族を関係なく助けようとした青年の背中を…

彼に救われた命。せめて彼に恥じないように生きていこう。ならば自分はこの幼き妖狐を助けるのに理由は必要ない。

 

「…あなた」

「まだ妖力が回復していないでしょう? 今夕食をお持ちしますので待っていて下さい」

 

タマモは困惑していた、美衣もそれを悟ったのだろう。夕食を持つと言い場を離れたのは考える時間を作らせるためだ。

 

(信用はまだ出来ないが少なくとも弱っている今の私には対抗する手段がない)

 

記憶が無い私は復活したというより生誕したといえる。しかし人間に対する負の感情は健在であり、そんな中で妖怪である美衣の存在は人間よりは警戒が少なかった。

これが人間であれば話も聞かずに逃げ出したであろうから

妖怪の中でも最高位の一つ、『金毛白面九尾の妖狐』を利用してきたのは人間だけなのだから…

 

「……で、そこに隠れているアンタは私に何か用?」

 

ビクッ!?

 

「お姉ちゃん。大丈夫?」

「…怪我をしている訳じゃないから休めば平気よ。貴方は息子さん?」

「うん。おいらはケイ。母ちゃんと2人で住んでいるんだ。」

「お父さんは?」

「…居ない」

「…ごめんなさい」

「平気だよ。母ちゃんが居てくれるから。お姉ちゃんは?」

「私には家族なんて居ないわ」

 

殺生石から復活したタマモには家族は居ない。そもそも家族というものを正確には知らない。

 

「なら、おいらが家族になってあげる!! 一人は寂しいよ。」

「……はい?」

 

タマモは意味が解らなかった。ついさっき会ったばかりの異種の妖怪と何故家族になろうと言い出したのか。そして一人は寂しとは、どういう意味だろう?

 

「一人は寂しいよ。あいらは兄ちゃんと居てそれを実感したんだ!」

「に、兄ちゃん? まだ家族が居るのか?」

「兄ちゃんは家族じゃあないけど家族を助けてくれた、おいらのヒーローだよ!」

「……ヒーロー?」

 

ヒーローというケイの目には憧れが映っていたが、実際に助けられたみたいだ。

この親子同様なおせっかいな妖怪が他にもいたのだろう。

タマモは気づく事が出来なかった。ケイのヒーローが人間だったということには…

 

 

 

 

 

美衣が戻ると息子のケイとタマモが談笑しており、結果論だが息子を連れてきておいて良かった。タマモも幾分警戒を解いている。

 

「さあ、2人とも食事にしましょう。」

 

この先、この幼い妖狐がせめて自分で生きていけるまで美衣は自分で育てるつもりだ。その為にまずは…

 

「狐さん、貴方のお名前は?」

「…タマモ、私は『金毛白面九尾の妖狐のタマモ』」

「じゃあタマモ姉ちゃんだ!」

「それじゃあ私はタマモちゃんで良いかしら?」

「あんた達ね、私は『金毛白面九尾の妖狐』なのよ? 恐くないの?」

「恐くないよ。だってタマモ姉ちゃんはタマモ姉ちゃんじゃあないか」

「えっ」

「会ったばっかりだけど、タマモ姉ちゃんは悪い妖怪には見えないよ」

「そうね。私もそう思うわ。」

 

美衣はタマモが人間に追われるさいに幻術で昏倒している人間にとどめを刺さなかったのを目撃しており、故に隠れ家の一つに連れてきたのだ。

人間に対し憎しみを抱いているのに気が付いていたが、根が悪い妖怪ではない。

そう思い息子の居る隠れ家に連れてきたのだ。お互いが刺激しあえば二人にとって良い影響を受けるだろう。

 

「さあ難しい話は後で、食事が冷めますよ」

「貴方ねぇ …いいわ。頂きます」

「「いただきます」」

 

何を言っても無駄と悟り、せっかくの食事が冷めるのは作ってくれた美衣に失礼だろうと考え素直に頂くことにした。

 

「おいしい」

 

決して豪勢な料理ではないが、美衣の料理には暖かみがあり消耗したタマモの為にか消化に良さそうな品でまとまっており美味しかった。

タマモは若干恥ずかしそうに、おかわりを要求して美衣は嬉しそうにタマモの分をついであげていた。そこには先ほどと違い家族の光景があった

 

…この後タマモは親子と時間を掛けて信頼を築いていくのだった。

『金毛白面九尾の妖狐』と『猫又の親子』両者は今ようやく平穏な時間を手にしていた。

そしてタマモは、長い時を超えてやっと手に入れた幸せをくれたこの親子と家族になる道を選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――悲劇の足音が迫っているとも知らずに




次回は本編に戻ります。


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邂逅

 

 

 妙神山

 

猿神の話を聞き終えた一同は横島が目覚めるまで妙神山に待機することにした。

 

またこの機会に、大戦の詳細を知らなかったテレサはマリアの記憶データ共有を要求し、同じく大戦の詳細を知らない愛子も何が有ったのかを知りたく、結局は双方観れるように内臓スクリーンでの上映会となった。

 

一方で事情を知るもの達はそれぞれの気心が知れるもの達と行動していた。

 

魔鈴、エミ 唐巣神父は年長者として ピート、タイガー、雪之丞は横島の友人として カオスは猿神とそれぞれ話をしていた。

 

 

「…気に入らないワケ」

「エミ君」

「何もかもが気に入らないわ!  横島は実力はともかく精神的に未熟だった。それを都合よく利用して犠牲にしていた美神美智恵。…事件後に切り捨てたGS教会やオカルトGメン。…そして横島を一番に支えなければいけなかった令子」

 

全てが気に入らなかった。しかしそれはエミ自身も含まれていた。世界中のGSやオカルトGメンでさえアシュタロスとは戦わない道を選び逃げ腰だった。

そんな戦いを未成年の横島に全て負わせてしまった。GSの先輩として年長者として自分達はあまりにも無力だった。しかし大戦後に傷ついた彼を擁護することは出来たはずだ。

 

「小笠原さん」

「……挙句に魔族として指名手配? 抹殺指令? ふざけんじゃない!! アイツがどれだけ苦しんで戦ったか、どんだけ苦しい想いで選択したか…」

 

激情のあまり言葉に詰まるエミを唐巣と魔鈴は以外な眼差しで見つめていた。

小笠原エミは裏家業の人間であり、そこに私情を挟むことはないと言える。仲間に対しても一線を引いている印象が強いのだ。

だが実際はエミ自身否定するだろうが彼女は姉御肌なところが有り、かつて令子が死んだとされる折には冥子と横島を叱責して立ち直らせてもいる。

 

「エミ君、ならば今度こそ彼を支えねばいけないね。私ももう後悔はしたくない。令子君を信じて傍観していたが事態は最悪の方向に向かってしまったようだ」

「そうですね、…彼がこれ以上傷つき戦う必要は無いはずです。 彼1人に背負わせてしまった私達は彼に対して借りがあります。」

 

唐巣は正直、横島の傷を理解していながらも美神令子を信じて者傍観の姿勢を保っていた。弟子の事は師匠に任せるべきとの考えから任せていたが、彼の心理状態を見る限りろくにメンタルケアすらされていないのは明白だ。

そして美神美智恵の裏切り行為。もはや者傍観でいることなど出来ない。弟子の不始末は師の責任である。美神美智恵は一時とはいえ唐巣の元で教えを受けたのだ、ならば責任は自分にある。

これ以上横島に負担を強いる気も、世界の犠牲にするような真似は、唐巣は勿論エミも魔鈴も御免であり、自分達に何が出来るのかを考えて三人それぞれが覚悟を決めていた。

 

 

 

一方の友人組みの雪之丞、ピート、タイガーは

 

「ふざけやがって!」

 

此方も雪之丞が激昂していた。だがエミとは違い雪之丞は連中のやり口に最も腹を立てている。大戦時には手をこまねいていたくせに、都合の悪くなったからと横島を実験動物扱いや、まして始末しようなどと言い出した連中には殺意を覚えるぼどに

憤る雪之丞は直接殴りこみに行こうとしていた所をピートに止められていた。

 

「待て、雪之丞。今僕達が手を出せば状況が悪化するだけだ!」

「なら…お前はこのまま何もせずに傍観していろって言うのかよ!! 俺は…」

「何もしないとは言っていない!! 手を出すなと言っているんだ!」

 

ピートとて横島を魔族として捕縛に動いているGS教会やオカルトGメンには業腹ものだ。

だが今、直接手を出せば自分達はただのテロリストになり逆に連中に口実を与えることになる。そうなれば意味がないのだ。

 

「やり方を考えろ! 大儀を無くせば連中の思う壺だ」

「けど…」

「単純な暴力では駄目なんだ。」

「ちきしょー」

「…ピートさん、ではどうすれば良いジャー?」

「それは…僕にも解らない。」

 

ピートにとっての横島は親友と言える。人間達から迫害される経験の多かったピートは、それでも人間を嫌う事ができずに人間達の中に身を置いてきた。

そんな中で横島はピートを”美形”だからだとハッキリ口に出して嫌っていた。

そんな理由で嫌われたのは初めてであり、ピートに対して嫉んだりはするが決して見下したりはしなかった。妖怪を本当の意味で対等に見てる横島はピートの中で一番の親友になったのだ。

故に判断が難しいのだ。人間全体を敵に回すのがどれほど危険であるのかを理解しており、避けねばならないのだから…

 

「…そちらは我々に任せてくれないか?」

「先生、魔鈴さん?」

「GS協会は私が、オカルトGメンには魔鈴君が伝手が有る。我々は今から下山して向かうよ。」

「先生ならば僕も…」

「イヤ、戦闘をしに行くのではないから私達だけで大丈夫だよ。」

 

 

悩んでいる三人の所へ唐巣神父と魔鈴が来ていた。自分達に出来ることを伝える為に

そしてエミも自分に出来ることをするべく猿神の元へと

 

『話とは何かな? 呪術師殿』

「猿神殿にお願いがございます。私に『ウルトラスペシャルデンジャラス&ハード修行コース』を受けさせて下さい。」

『御主は生長期をすぎておる。…危険度は上がるうえに能力的にもそれほどの成果は望めぬかもしれぬぞ』

「承知の上です。ですが私は正直、直接戦闘のタイプでは有りません。このままでは私は必ず足手纏いになります。」

『何ゆえ力を求める? …小僧のためか?』

「違います! 私自身のためです。私は、…私自身の矜持の為に力を求めます」

『よかろう許可する。奥の間にて行う』

「宜しくお願いします」

 

 

 

エミは万が一にも横島や他の仲間を利用する行動に出た者に対して、自分に何が出来るのかを考えた上で力を求めた。

美智恵の方は神魔にまかせれば良い、だがあの女だけは同じ弟子を持つ身として自分が決着を付けねばなるまい。その為には自身の力不足を自覚しており行動に出たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――俺は…

 

――――――――死んだのか?

 

 

意識が定まらない。何も考えられない。

 

「…逢いたかったな、一目だけでも」

 

 

 

『随分と女々しい事を言っているね。こんな奴にアタシは2回も不覚を取ったっていうのか。』

 

 

―――えっ

 

…この声は

 

意識が急速に覚醒する。

 

まさか、イヤありえない。彼女は文珠『滅』で死んだはず。

 

 

『…………久しぶりだね横島…そして今度こそ…終わりにするよ!!』

 

――――何故彼女が!?

 

「何故お前が生きているんだ! 『メドーサ』!!」

 

 




遅くなりました。仕事が忙しくて…
大体ですが二週間に一度ぐらいの更新になります


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メドーサ

 

 

 

『…………久しぶりだね横島…そして今度こそ…終わりにするよ!!』

 

――――何故彼女が!?

 

「何故お前が生きているんだ! 『メドーサ』!!」

 

『さーね、けど… 横島アッ!! アンタだけは私の手で殺す!!』

 

手に持った刺又槍を振りかぶって襲いかかってくる!

文珠を生成―――??

 

バジィィィ!!!

 

とっさに霊破刀を出して何とか鍔迫り合いに

 

『あんたには、2回もやられてるんだ…この借り返させてもらうよ!』

 

ドゴォォォォォォ!!!……

 

至近距離からの魔力砲で吹き飛ばされたてしまった。

メドーサは最後に出会ったコギャル状態ではなく、全盛期の魔力を持つ大人状態であった。

 

「ぐふっ!?」

 

サイキックソーサーで直撃は避けたが衝撃は殺しきれなかった。

 

『まだまだ、喰らいなぁ!!!』

 

連続砲撃によりサイキックソーサーでは受けきれない。

 

ドガァァァァァァンン!!

 

 

『…相変わらず機転が利くね。受け止めきれないとみると弾くとは…しかもその数。いい、いいわ!! それでこそ横島だ』

 

メドーサは何故か嬉しそうに話しているがコッチは綱渡状態だ。単発のサイキックソーサーでは受けきれないと判断して瞬間的にサイキックソーサーを複数展開。強度は落ちるが面積をカバー、傾斜を調整して受け流していたのだ。

威力がもう少し強かったらサイキックソーサーが破壊され終わっていたはずだ。そして今のメドーサはそれが出来るだけの魔力を感じる。

 

『さあ、存分に殺しあいましょう。』

 

 

 

 

 

 

 

…何故だ? 横島は疑問に溢れていた

 

何故、切断された腕が何も無かったようにそこに在るのか?

 

何故、現在自分の霊圧が上がっているのか、そして何故、文珠が使えなくなっているのか?

 

何故、メドーサが生きているのか?

 

…そして何故自分はメドーサと戦っているのに無事なのか?

相対して改めて解る、相手は戦闘のプロだ。正攻法で勝てる相手ではない

 

『甘いよ!! 集中しな、…でないと死ぬぞ』

 

何故直に殺さない? 殺ろうと思えば一瞬だろう。文珠が作れない以上『超加速』には対抗できないのだから…

 

 ギイン! ガキッ! カン! キィーン! バキャッ!

 

激しく己の武器を打ち合わせるメドーサと横島。今使える霊能力は栄光の手(霊破刀)とサイキックソーサーのみ。対してメドーサが使ってくるのは刺又槍と魔力砲だけ

条件だけ見れば互角だが実戦経験の差が違いすぎる。互角なワケが無い。なのに…

 

『どうした!あんたの実力はこんなモンじゃないだろぅ?……全力をだしな。横島!』

 

 

何故、お前は…

 

 

―――そんなに悲しそうな目で俺を見るんだ

 

 

 

 

 

 

———————————————————————————————————

 

 

 

 妙神山

 

『修行の前に言っておく事が有る』

 

そう切り出した猿神はエミに告げる。この修行の本質を

 

『この修行は仮想空間にて魂を繋げ過負荷を掛ける。そして解放された時に御主の魂は一時的に出力を増す。その時に潜在能力を引き出せるかじゃ。…出来ねば死ぬ』

「はい、聞き及んでおります。」

『この修行に正式に成功したのは人間では2人だけだ。横島忠夫、伊達雪之丞だけじゃ!』

「えっ、令子は?」

『アヤツは正式には達成しておらぬ。魔族の襲撃があり最後のワシとの戦いを待たずに飛び出してしもうたからな』

「…なぜ死ななかったのですか?」

『潜在能力を引き出す事には魔族との戦いで一応成功した。…じゃがそれは本来の10分の1にも満たぬ。イヤ、真面目に修行すればいずれ自分で辿りつけた領域じゃ』

「……」

『そもそも美神令子は純粋に戦う力に関しては才能に甘えておる。なまじ才能で出来てしまうために修行など必要としなかったのであるうな。強靭な精神力と手段を選ばない非常識な発想で対応できてしまったから才能に胡坐を掻いていた。』

 

そもそも横島の文珠や雪之丞の魔装術の極意を会得した2人に比べ美神令子は単純に霊力マイトが上昇しただけで、結果として神通棍が出力負けして鞭状態になったのだ。到底潜在能力を全て引き出せたとはいえないのだ

 

『御主もその兆候がみられる。付け焼刃の修行では無く長い年月をかけて修行に望めば芽は必ず出る。…それでもこの修行を受けるか?』

「はい、失ってからでは遅いんです。お願いいたします」

『…解った、最早何も言うまい。では其処の椅子に座り気を落ち着け、その後加速空間に入る』

 

 

 

 妙神山門番前

「先生、魔鈴さん、お気をつけて」

「では行って来るよ。私は協会の後、六道家にも行くよ。当主とは知らない仲ではないからね。」

「行ってきます」

 

2人は下山してそれぞれが持つ人脈を使い何とか横島の捕獲命令を取り消そうとしていた。

 

そして下山し分かれ道に差し掛かろうとしたときに神父が

 

「…魔鈴君、あの場では言えなかったがオカルトGメンは敵地だ。正直危険で行くべきではないと思う。」

「神父、…それは神父も同じでは? ですが引けぬのでしょう、私も同じです。そして私は西条先輩が何を考えているのかも知りたいんです」

「魔鈴君、無粋な事を言ってしまったね。だがくれぐれも気をつけて!」

「はい、神父もお気をつけて!」

 

そう言って2人はそれぞれの目的地へと向かうのであった。

 

 

 

 

 




二週間に一度とか言いながら早めに投稿できました。
戦闘シーンは苦手です。


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予想外

今回から話のアンチが強くなりますのでご了承下さい


GS協会とはGSの登録管理、免許手続きだけではなく一般の霊症相談にも応じるし、GSとの間に入って料金などの相談もする警察に近いものである。

よって唐巣は異常にすぐに気が付き戦闘態勢に入った。…人の気配が全く無いうえに監視しているであろう神魔の気配すら無いのだから

 

「これは認識阻害の結界?」

 

聖なる結界を身に纏い認識阻害を無効にして慎重に入るものの外からと同様やはり気配は無い

 

 

「……こ、これは?」

 

 

その内部にて唐巣は地獄を見ることになる。

 

 

 

 

———————————————————————————————————

 

 

 

西条は出勤前に東京タワーを訪れていた。ある人物に呼び出されたのだ。

 

「お呼びだてして申し訳ありません。先輩」

 

そこには魔鈴が待っていた。彼女はオカルトGメンの人間に接触するリスクを理解していてながらも西条を信じていた。だからどうしても直接本人に問い質したかったのだ

その上で出来れば此方に協力して欲しかった

 

「魔鈴君。こんな朝早くにどうしたんだい? …聞くまでも無いな。横島君の事だろう?」

 

「はい、先輩は何故あんな報道を許したのですか?」

 

魔鈴はまず大戦後の報道が気になっていた。あの報道では美神親子とオカルトGメンの西条が全ての作戦指揮を執り、他にも日本GS界のトップクラスが全員協力している中で、美神令子がアシュタロスを倒した事になっている。

一方で横島は戦争初期に人類の敵として報道され世界中の憎悪を一身に受けていた。後日スパイとして敵方に潜入していた一報が入るが記事自体が小さく、おまけに直後のアシュタロスを倒した報道で陰に隠れている。

その後は報道に一切名前が出なかった事で未だに横島は人類の敵として認識されている。

 

「何故、真実を公表しなかったのですか? 美神令子さんの為ですか?」

 

「……違うとは言い切れない。真相が明るみに出れば令子ちゃんは生きてはいけまい。…だが信じて欲しい! 僕は彼を見捨てる気なんてなかった。」

 

「……」

 

「彼がスパイとして潜入していた事、僕は何度もマスコミに流すように指示していたし彼を世間から匿う準備もあった。もっとも彼は僕を頼らずに雲隠れしてしてしまったがね」

 

西条は横島を大戦の犠牲にするつもりなど全く無かったし、望んでもいなかった。価値観や考えの違いが大きいが、西条なりに横島を認めていたしその身を案じていたのだ。

 

「……では今回の捕獲命令は?」

 

「先生は横島君の魔族因子が暴走して魔族となったと言っているが僕は……」

 

 ズンッ!!

 

「…先輩?」

 

突如、西条の表情が虚ろになり目の焦点が定まらなくなった。あまりの事態に数瞬、思考が止まってしまい、それが魔鈴の命取りとなってしまった。

 

ドン! ドン!

 

「魔鈴めぐみ、横島忠夫は何処に居る」

 

「せ…先輩…何を…?」

 

「答えぬのであれば君を犯人蔵匿の罪で拘束する!」

 

問答無用に放たれた凶弾により魔鈴は重傷を負おい捕らわれてしまう。人が変わったかのような行動に薄れゆく意識の中で真実を悟りながらもどうすることも出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はあぁぁぁぁああ!!!!!」」

 

 ガキーンッ!!  キイーン!

 

横島とメドーサの戦いはどちらも決め手が無く膠着状態に陥っていた。

 

『見事だ……。見事だよ横島! 今のアタシを相手にこうまで…』

 

メドーサは素直に横島を称賛した。今の自分は全盛期の魔力と実践で鍛えあげられた槍術の技を持っており、それでも互角の戦いに持ち込めている横島を改めて認めたのだ。

それは横島が格上の相手であるメドーサとの戦いの中で成長し始めていたからこそなのだが

 

(だが、まだだ! まだこの程度じゃダメなんだよ横島!)

 

一方、横島は接近戦には対応でき始めたが距離を離されると未だに不利な状況だった。

遠距離攻撃がサイキックソーサーだけであり、投擲モーションが必要不可欠なのだが、隙が大きすぎる為にメドーサ相手では使い物にならないのだ。

 

「……1つ聞かせろメドーサ お前何で俺と戦う?」

 

『はん、何を言い出すかと思えば…理由ならアタシのプライドを傷つけたことさ!』

 

シュッ!バジィィッ!!

 

繰り出される突きを霊破刀から瞬時に栄光の手に変化させ掴みとる。

 

『なっ!?』

 

「……嘘だな。以前のような殺気も俺に対する怨念や憎しみが感じられない」

 

『ふざけるんじゃない!!』

 

 カッ!! 

 

「しまっ……!!」

 

ドガアァァァァァッッ!!!

 

瞬間的に魔力を高め己の周囲を爆破させる。かつて香港で美神、エミ、冥子の式神を吹き飛ばした技である。

 

 

「…くそ!……痛ぇ…」

 

至近距離でまともに食らったためダメージも大きいが動けないほどではない。問題は吹き飛ばされ距離を開けられてしまったこどだ。

 

『今度は盾ごど砕いてやる!! 喰らいなぁ!!!』

 

先ほどより威力の高い連続魔力砲が体制の崩れた横島に向かってきた。

 

 

 

 

 

 

 

     

 

 

 

 

 妙神山

 

「はぁ、はぁ、はぁっ」

 

そこには疲労困憊のエミが何とか猿神に相対していた。

 

『…それが主の眠りし才能よ。…やれやれ本当に手加減がこの歳になるとキツいわい!』

 

猿神が老人の姿に戻った瞬間、エミはその場に崩れ落ちた。体力、気力共に限界だったのだ。    

 

『…解っていると思うが忘れるな! その力は諸刃の剣であり体の負担も大きい。ましてや完全解放すれば御主は確実に死ぬ!』

 

「解っております。ご助言ご指導、有難う御座いました」

 

そう言いながらエミは頭を下げた。猿神は本当にギリギリまで手加減をしてくれたのだ。

加速空間も独りで作っており言葉すら喋れなかったときは困ったが、いかにこの修行が猿神に負担になったか解らない。エミは感謝をこめて強くなる事を改めて決意し修行に励み、見事乗り切ったのだ。

 

 

(…老師、唐巣殿が帰還されました)

 

そこに猿神に鬼門から念話が届いた

 

(早いな、何かあったか?)

 

(…それが)

 

(何じゃ? はよう申せ)

 

(…ヒャクメ様が、……戦死されました)

 



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親友

 

GS協会内部にて唐巣は異常をその身に感じとっていた。聖職者である神父からみても此処は聖域のように清められてるのだ。

 

「…やはり気配は無いか。しかしだとすれば一体何が…」

 

 ヴォン!!

 

その時一台のデスクトップパソコンが突如起動したのだ。驚きそちらを見ると画面が光を放ち一人の人物が現れた。

 

「ヒ、ヒャクメ様!?」

 

そこに居たのは全身血に染まった、百の目を持つ神が倒れていたのだった

 

『…し、神父 …逃げるのね。連中が …戻ってくる前に』

 

慌てて駆け寄った唐巣にヒャクメは辛うじて告げる。危険を…

 

「一体何が有ったのですか? いや、そんな事より先に応援と治療を呼びます」

 

『ダメなのね。…それよりも、…コレを 妙神山に』

 

そう言ってヒャクメが差し出したのは自身の額中央に位置する眼球だった。

 

『それに …全ての情報が …急いで、…手遅れになる前に』

 

「しかし貴方様を置いて行くことは…」

 

『いいのね。…私はもう助からない。…行って下さい』

 

「しかし…」

 

『…お願いなのね』

 

確かに自分には治療する術はなくどうすることも出来ない。此処が敵地であるならば自分は一刻も速くに情報を持ち帰るべきだ。

本当は一目見た瞬間にもう分かっていた。…彼女がもう助からない事など

ただ感情が認めたくなかっただけなのだ。

 

『行って、…私を犬死にはさせないで』

 

そう言うヒャクメは口からヒュー、ヒューという異音と共に呼吸が乱れて弱まっていた。

 

「仇は、…仇は必ず!!」

 

そう言うと唐巣はその場を後に妙神山に向かうしかなかった。

 

 

 

彼の行く背中を目にしたヒャクメは嬉しそうに微笑んでいた。

連中に殺されかけた時、とっさに瞬間移動で逃げたように見せたが、そこまでの力は既に残されておらずパソコンに潜み機会を窺っていたのだ。

そんな中で神父が来たのはまさに僥倖だった。もはや動くことも満足に出来ない状態の中、敵が居ないタイミングで来てくれたのだ。

 

 

ヒャクメの脳裏に走馬灯が過ぎる。

決して恵まれた人生では無かった。妖怪出身のヒャクメは能力を買われて神族として迎え入れられという経歴だ。その為、認められようと彼女は調査官としての仕事を真面目に努力して成果を上げ昇進した。

けれども昇進出来たことが結果として自身の能力を広めてしまい、その能力故に他の神族に疎まれてしまった。

力を発揮すればするほど彼女は周囲から忌避された。それだけ彼女の心を読み取るという能力が高いということを示したからだ。

そんな中で、心が見える私を受け入れてくれるのが小竜姫ぐらいであり、彼女は良くも悪くも裏表がない。心を覗かれたとしても、何ら恥ずべきところはないということがあってこそだろう。

他の神族は後ろめたいことや、隠しておきたいことの一つや二つは有り人間と変わらないのだ。

そんな中で小竜姫の存在は救いであり彼女と過ごす時間は大切で、かけがえのない大切なひと時となった。

 

 

――そして、人間の男性で初めて出来た親友

 

彼は考えた事を端から口にするような人間であり初対面から「文珠の中から美少女を出したんだから俺の所有物ッ!!」と言いながら抱きついてくるような非常識人だがヒャクメはあまり気にしない。何故なら男はみんな心の中は同じであり、人も神も魔も建前があろうが考えている事は一緒であるのだ。

下手に欲望を隠して偽善的な者達に比べると横島は、まだマシでヒャクメからすれば付き合いやすかった。

平安京の事件以降も横島に興味を持ったヒャクメは、持ち前の好奇心から仕事の合間に覗きをしていたのだ。

 

余談ではあるが、この覗きは月の事件の際に横島とコンタクトを取るのに役に立っている。

その後も会いに行きたかったが仕事が忙しく時間が取れなかったのだ。

 

そして南米でアシュタロス逮捕に向かう神魔合同チーム選ばれたヒャクメはその任務中に逆天号の性能もありチームが全滅しヒャクメ自身も捕虜(ペット)になる。

そんな中で横島が捕まり、一緒に捕虜になったさいには、おもわず抱きついている。その後で美神に気が付くも正直横島が来て安心したのだ。

だから内部からの破壊工作にも手を貸したのだ。戦闘要員でも無いヒャクメが…

もっとも、やりすぎて横島は逆天号の中に取り残されてしまったのだが

 

逆天号とUSS空母インクレータブル戦の時に美神美智恵が横島を本気で切り捨てて敵を抹殺しようとしているのをヒャクメは見ていた。

西条は「横島君の信用度は上がった。潜入中の彼の安全を確保するのが目的だったんですね。」などと言っていたが美智恵は本気で横島ごと始末しようとしていたのだ。

この件以降ヒャクメは内心密かに美智恵を警戒していた。

 

―――そして

 

横島が帰還して美神令子、おキヌ、ヒャクメと再会した時

 

「――ただいま」

 

―――彼の笑顔は何時も覗いて見ていた

 

――――それでも、…この笑顔にヒャクメは心惹かれたのだ

 

――――それは、きっと、恋と呼べるものではないのだけれど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺には女のコを好きになる資格なんかなかった……!! なのに、あいつそんな俺のために……!! うわああああああッ……!!」

 

――――絶叫、慟哭

 

事件の調査と報告の為に各人の記憶を覗いた。…あの時ほど自分の役目を呪ったことはない。

……私は何の力にもなれなかった、何の手助けも出来なかった。

 

 

 

悲恋と絶望の物語であり救いは無く行き着く先に始まった彼の後悔の日々

引き裂かれんばかりの虚無と絶望が彼を蝕み

その後に発覚した美神美智恵の真実に怒りと悲しみで彼が壊れていく

 

そんな中で発覚した美神美智恵の“横島忠夫抹殺”という恥知らずな思惑。

そして文珠の情報を公開したせいによってGS協会、オカルトGメンの横島忠夫捕獲命令

…人間としてでは無く魔族としての捕獲命令、…洗脳、及び人工的文珠の生産機への転換が目的であり人権すら無く処理されようとしている

 

――――ふざけるな何だそれは!

 

ヒャクメは自ら神罰を下しに行こうとしたが

 

『まて! 此度の件は一神族だけで動く事は許されぬ。御主はその能力を使いどの人間が関わっているのか調べ監視せよ! …動くときは神魔合同での逮捕となる。』

 

老師に言われた私は直ぐに調査チームに志願して任につけた。

 

 

そして――――

 

 

チームは全滅。対人間を想定していた為、ある意味で此方に油断があった。本部に連絡前に奇襲を受けてしまい情報を届けられぬままであり、私はまた役に立たず終わるところだった

だが情報は届けられた。私も最低限の役目を果たせたのだろう

 

 

 

 

―――意識が遠のく

 

 

 

思い浮かぶのは横島の、あの時の笑顔

 

 

 

――――ヒャクメの体が粒子となり崩れていく

 

 

 

……ああ、そうか私は彼の笑顔がもう一度見たかったんだ。

 

愛することを知った男の表情ながらも笑顔は親しいものにだけ向ける親愛の笑顔

 

心が見える私を受け入れてくれる横島さんが向けてくれた、あの笑顔にヒャクメは心惹かれたのだ。たとえ自分だけに向けられたものじゃないと解っていながらも

 

『…小竜姫 後は …頼むのね』

 

彼に笑顔を取り戻させたい。だが自分ではもう無理だ。ならばこの想いもう一人の親友に託そう、彼女なら大丈夫だ彼女ならきっと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恵まれた人生では無かった

 

後悔が無かったわけでもない

 

でも、……私は幸せだった 小竜姫と横島に出会い私の人生は変わった

 

願わくば2人のこれからに多くの幸せが訪れん事を…

 

 

 

 

――――ヒャクメは光となり消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―同時刻妙神山―

 

神炎の中で眠りし竜が突如目覚め、人間界 …ヒャクメが消滅した場所を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

―人間界―

唐巣は妙神山に向かいながらヒャクメの彼女の死を悟った。湧き上がる激情を抑えながらも妙神山へ一刻も速く向かうしか出来なかった。




更新遅れました。
今回はヒャクメの話ですが、此処から物語りは動き出します。
美神美智恵や西条なども事件とどう関わるのか?
そしてメドーサの目的などなど
次回もご期待下さい。


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試練

『今度は盾ごど砕いてやる!! 喰らいなぁ!!!』

 

メドーサの連続魔力砲が体制の崩れた横島に向かってきていた。

 

 

 

 

 

―――マズいアレをまともに受けては……

 

そう思った次の瞬間、横島の感覚に変化が起きた。

 

 

 

「…これは、…まさか?」

 

『超加速さ!!』

 

同じく超加速に入ったメドーサが答えてくれた。

 

「超加速?」

 

『アンタは経験しているだろう?』

 

「…経験? 月での件か!?」

 

『いいや、アンタが無意識に使ったのはもっと前さね!』

 

「えっ?」

 

『アンタはシャドーで誰にも教わらずに超加速を使ったのさ! それがどれだけ異常か小竜姫すら気づかないとはね…』

 

「なっ? …何故お前がそれを!」

 

『集中力を切らすんじゃあない!! 今、超加速が解ければアンタは私が撃った魔力砲の直撃で死ねぞ!!』

 

「!?」

 

言われてみるとメドーサの放った魔力砲は此方に向かっていた。

 

「くっ!」

 

『超加速前に撃ったとはいえアタシの魔力砲のスピードは並じゃない

よ!』

 

確かに超加速状態なのに魔力砲はゆっくりと迫ってきている。だが…

 

「遅い!!」

 

片腕に集中した霊破刀で全て斬り捨てた。

 

「んなっ?」

 

驚いたのは横島だった。横島自身は霊破刀を伸ばして斬るつもりだったのに、出来た霊破刀はかつて「狼王フェンリル」に対し「女神アルテミス」の力を宿したシロが使った時に匹敵する巨大な霊破刀だった

 

「なんでこんな…」

 

自分がやったことも無い巨大な霊破刀が出来てしまったのだ 本人が驚くのも無理は無かった。

 

『そりゃあアンタの霊圧が上昇しらからさね。込める力が大きければ当然の結果さ』

 

「…メドーサお前は一体何を考えている?」

 

『…さぁね。次のを耐えられたらげたら教えてやるよ!』

 

そう言いながら手に持った刺又槍に禍々しい程の魔力を籠めて横島に向けた。

 

『私の切り札の一つさ …耐えきりなよ!』

 

横島はおもわずに一歩下がっていた。本能が全力で警報を鳴らしている

アレは…

 

『……私がこの技を使った時に生き残ったヤツは居ない。…だから、もしお前が耐えきれたら“ルシオラ”に逢わせてやるよ!』

 

「!? …ルシオラ!!」

 

『いくよ! 竜牙閃!!!!』

 

メドーサが槍を突き出すと同時に全身の魔力から生み出だされ、解き放なたれたのは壮絶な破壊力を有する“真紅の魔龍”

その魔龍は横島を食い殺さんと牙を向けてきた。

 

「サイキック…シールド!!」

 

サイキックソーサーの応用技で自身を中心に球状状態でシールドを作成したのだった。だが…

 

 ピキッ …ピキッ

 

魔竜の牙はサイキックシールドを容易く突き破ろうとしていた。

 

「おおおおおおおおああッ!!」

 

衝撃のあまりの強さにシールドを構成する手が震え膝が笑う。身体が後ろへと運ばれて余波の衝撃であたり一面を粉砕し、地を削った。

諦めが心を支配しかけ。だが、叱咤は意外すぎる所から飛んできた。

 

「どうした、横島! お前の意地はそんなもんか!?」

 

メドーサだ。あろうことか攻撃を行っている本人から、横島への叱咤が入った。

 

「はっ! そんな程度で私の技を耐えようなんざ笑わせるな!」

 

「ぐ、ううう…ッ!」

 

「おらどうした? 目を瞑るな、敵を見ろ! 腰に力を入れて踏ん張ってみせろ!」

 

「…ぐ…!」

 

メドーサは勝利を確信したような笑みを張り付け、髪までかき上げる余裕ぶりだ。

 

「それでもアシュ様を倒した英雄か?! 随分だらしねえ英雄様だな!」

 

「……れは……ッ!」

 

「好きな女一人守れないでまた見殺しかい?! そんなんで逢いたいだ!! 寝言は寝てから言うんだな!」

 

「おれ……は…ッ!!」

 

 

 

 ―――ヨコシマ 

 

 

脳裏に彼女の笑顔が浮かぶ。

 

 

足に力を入れて踏みとどまる。途切れそうな意識を叱咤して持ち直す。

彼女の前で無様は晒せない。

 

 

「うおおおおおおおおおおーーーッ!!!」

 

 

搾り出せ。己の内にある力の全て、己の中に眠っている可能性の全てを

 

 

「おおおお……おおおおおおッ!!」

 

もう、二度と戦えなくなっても構わない。一生動けなくてもいい。今この瞬間が全てだ。この戦いに勝たなければルシオラとの未来は訪れない。故に…

 

 

 

―――全ての霊力を解放し大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

———————————————————————————————————

 

 

 

 

ヒャクメを含む監視部隊67名の戦死 この事実に神魔合同調査本部は激震が走った

情報部で編成されているとはいえ神魔混合部隊。人間相手にに遅れをとらないはずだった…

 

ところが…結果として全滅、何が起きたのかさえ掴めていない状況だった。

 

そんな中で唐巣が妙神山にヒャクメの心眼を持ち帰り猿神の術で情報を抜きワルキューレが本部に情報を持ち帰ると話どころか事態は一変した。

そこには神魔だけではなく人間をも皆殺しにしている映像が記録されていたのだった。

 

 

 

 

―――その実行犯は純白の翼をはためかせる、過激派の神族、天使であった。




本当に遅くなりました。
仕事とか、仕事とか、仕事とかで(泣)
帰るのもこの時間ぐらいに

次回はもう少し速めに書きます。


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決意

 

「うおおおおおおおおおおーーーッ!!!」

 

横島の咆哮とともに魂の質が変化し始めるのをメドーサは感じていた。

そして人間では出すことが不可能な霊圧で魔竜の顎ごと食い破ろうとしている。この技はメドーサの切り札であり、攻撃力では手持ちの中で最強の技なのだ。

 

(…いよいよか。見せてみな!! お前の真価を、可能性を!!)

 

「おおおお……おおおおおおッ!!」

 

そして魔竜がついに弾け大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―妙神山―

 

マリアは一人考えていた。

事情は聞いて理解している。だが…

 

「考え事か?」

 

「ドクター・カオス」

 

「小僧のことを考えているのじゃろう」

 

「…イエス・ドクター・カオス …マリア子供産めません。」

 

「…マリア?」

 

「マリア・子供を産めれば ……横島さん人間のままでいられました。」

 

「マリアそれは…」

 

「マリア・子供を、…ミス・ルシオラを産めれば横島さん人間のままで幸せに生きていけた。」

 

「…マリアよ 横島が本当にそれを望むと思うか?」

 

「…いいえ。横島さん・望む可能性0%です。」

 

「何故望まぬのか解るか?」

 

「ノー・マリア理解不能です。 マリア機械です。 …マリアが子供を産めれば一番横島さん・後腐れなく済みます。」

 

「何故そう思う?」

 

「マリアは機械です。横島さんも気にせずに済みます。」

 

「本当にそう思うか? あの男が機械だからとお前を今まで差別してきたのか?」

 

「ですが…」

 

「マリアよ お前には『心』がちゃんと在る。…そして横島は機械だとかは気にしないでそのままのお前を見ておる。」

 

「……」

 

「仮にお前に子供を産む機能が有ったとして、あの男は周囲の者と同じように頼まんだろうよ。」

 

「何故ですか?」

 

「お前だけではなく全ての者に言えるが、女に対し『子を産む機械』にはしたくないのだろうよ …ましてや自分の恋人を産んでくれなどな…」

 

「…」

 

「横島の幸せを願うことが出来たお前になら何時か理解できる日が来よう」

 

「…イエス・ドクター・カオス マリア・心を持っているか解りません。ですがマリア・心を理解したい。」

 

 

 

 

 

 

(姉さん、貴女はもう心を持っているわよ。 人間の役に立ちたいと言っていた貴女だけどあの人間に対してはその身を案じている。 それはプログラムには出来ないことよ! …なぜならば機械は悩まない。0と1で構成された私達の矛盾なきロジックに『悩む』という揺らぎが発生する――それはつまり自我が芽生えはじめていることを意味するから)

 

会話を聞いていたテレサはわずかな羨望を抱きながら思う。

 

 

 

 

 

 

 

「…まったく手間をかけさせるわ!」

 

「雪之丞達は?」

 

「言って聞くような奴じゃないから、面倒だしちょっと呪ってやったわ。脳筋馬鹿にはからめ手の方が効くワケ!」

 

ヒャクメの戦死報告をきいた雪之丞はすぐさま現場に行こうとしたのをエミが問答不要で黙らせた。神魔の調査部隊が動いているはずだし今動いても情報は得られないだろう。

ちなみにタイガーも泣いて煩いため同様に呪い黙らせていた。

 

 

「エミさん …貴女はその」

 

ピートはエミの肌を見て悟ってしまう。彼女の肌に刻まれているのは何時もの化粧では無い。アレは… 思わず口にしかけるが

 

「!?」

 

エミは微笑とともに人差し指でピートの口を塞いだ。

 

「……」

 

ピートはエミの表情に何も聞けなくなってしまう。何時もの笑みではなく見るものを魅了する、そんな笑みだった。

 

 

(エミさん変わりましたね。)

 

うまくは言えないが最近のエミは変わったとピートは感じている。

以前は仲間うちでも一定の距離を置いていたが最近はその壁が無くなって来ている気がするのだ。

 

 

キイイィィ----ン!

 

「「!!」」

 

「なに? この強力な霊破動は!?」

 

「この感じは…横島さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

横島は魔竜を吹き飛ばした後も霊圧の上昇が止まらなかった。

 

(頑張れ! 頑張りなよ横島!!)

 

自らの技が破られた中でメドーサは横島を信じていた。

 

―今のアイツなら大丈夫 きっと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――諦めるものか! 諦めてたまるかっ!! ……あの時のように。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

横島「動くなッ!!」

 

アシュタロス『悪い冗談だな。そいつを壊せば困るのは私だけではないぞ。ルシオラを…見捨てるのかね?』

 

ルシオラ『壊して、ヨコシマ!!もうそれしかないわ!!』

 

アシュタロス『今すぐ返せば君とルシオラは生かしておいてやろうじゃないか。新世界のアダムとイヴにしてやろう。彼女は君のためにすべてを失ったのだろう?このまま死なせるのはひどすぎると思わんかね?』

 

ルシオラ『耳をかしちゃダメよ!!ウソに決まってるじゃない!!ヨコシマ!!』

 

アシュタロス『それをよこしたまえ! ルシオラを死なせたくはあるまい!?』

 

ルシオラ『破壊して、ヨコシマ!!渡してはダメよ!!』

 

二つの声にどう対応すればいいかわからない俺。そして、動きが止まったところへ一言

 

アシュ『いいか?ゆっくりそっちを向くからな。妙なマネはするなよ』

 

横島「動くなって言ってんだろ!」

 

アシュタロス『……!だが、永久にこのままというわけにもいかんだろう。決めろ!それを壊して何もかも台無しにするか―――ルシオラを助けるか……!』

 

令子「横島クン……!」

 

ルシオラ『何を迷ってるの!?結晶を破壊すればアシュ様は一気に追いつめられるのよ!!神魔族は復活し、アシュ様は力の大半を失う!!』

 

横島「しかし―――!!俺の手で……お前にトドメをさすことになるじゃねーか……!!そんなこと―――!!」

 

ルシオラ『ヨコシマ…!私一人のために仲間と世界…すべてを犠牲になんかできないでしょ!?』

 

横島「しかし―――!!」

 

その迷いに対してアシュタロスはにやりと笑う。

 

令子「もういい…!まかせるわ。横島クン次第よ。ここまでやれたのは横島クンのおかげだしね。ほかの全部をひきかえにしても守りたいものがあるなら…私はもう何も言えないわ!正しいと思うことをしなさい、横島クン!」

 

横島「美神さん…!! ウソつけ――!!本当は壊せと思ってるクセにっ!!」

 

令子「当たり前でしょ!?でないと私は世界と一緒に消えてなくなるのよっ!?でも…だからってルシオラを犠牲になんて―――私の口からあんたに言えると思うのっ!?」

 

―――正しいと思うことを

 

 

横島「………なんで……!!何で俺がやらなきゃダメなんスか……!!」

 

ルシオラ『約束したじゃない、アシュ様を倒すって…!それとも―――誰かほかの人にそれをやらせるつもり!?自分の手を汚したくないから―――』

 

アシュタロス『恋人を見殺しにするのか!?寝覚めが悪いぞ!』

 

横島「…今、お前を倒すにはこれしかねぇ……!どうせ後悔するなら―――」

 

横島「テメェがくたばってからだ!!アシュタロス――――――!!」

 

そういって『俺』は「破」と入った文珠を結晶に当てる!

 

アシュタロス『!!や…やめろ――――!!』

 

俺が結晶を破壊したと同時に眩しい光が走り、コスモプロセッサが音を立てて崩れ始める。

 

 

―――俺は …後悔するのが解っていて結晶を破壊した。……自分の手でルシオラを見殺しに

……否、彼女にとどめをさしたんだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――振り返えってみると俺は、…俺自身が情けなかった! 情けなくて…腹が立って…そして…そして…泣いた。

 

それでも僅かにでも彼女が蘇る可能性があるならアイツに生きてもらいたい。その為なら何だって受け入れる。自らの手も汚そう!!

 

――彼女ともう一度逢えるというのなら、……俺は …何もいらない!!



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蘇り

―――おまえは何の為にアシュタロスと戦ったんだ。世界を守る為か?

 

世界なんて考えられなかった。ただアイツを助けたかった。

 

―――なら何故おまえは彼女を選択しなかった?

 

……アイツが悲しむから …アシュタロスを倒すことを誓ったから

 

―――何の為に誓った

 

アイツやぺスパ、パピリオに自由を与えたかった。それが傲慢だとしても…

 

―――矛盾だな。

 

……解っている。それでも俺は――

 

 彼女ともう一度逢いたい!  ……たとえ

 

 

 

 

 「ダメ―――――ー!!」

 

 

 

 

――意識が闇に沈みかけていたとき、目の前に一条の光明がさした。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

学校の校門で

 

『――ヨコシマ!』

 

「ルシオラ!? 何で学校に?」

 

『いいの? 終わるまで待っているつもりだったのに…』

 

「そ、そんなことより ――どうしたの!?」

 

『なんか…まだ居場所がなくて… ね。』

 

 

『私達、こないだまで人間なんかなんとも思っちゃあいなかったのよ。

今だって……表面上は愛想良くしているけど、まだ直ぐにはなじまないわ。』

 

 

東京タワーで

 

『ばっかね~~~!! いやなわけないでしょ、ぜんぜん!!』

(ヨコシマが相手なんだからね)

 

 

病院で

 

『ヨコシマ、この病院食ってけっこうおいしいね♪ はい、あ~ん♪』

(一緒に同じものが食べられるってだけで私は幸せなんだ)

 

 

 

 

――ルシオラが笑っている。その傍にいるのは…

 

……あぁ、そういう事か。

 

俺は何をしてたんだろうな お前が笑うのにはべスパやパピリオだけじゃなく …俺も必要なんじゃないか。

アイツと共に生きていくなんて口にだしていても、本心はアイツが助かれば俺はどうなってもかまわないと考えてしまっていた。彼女に今の俺と同じ苦しみを与えてしまう。それは…駄目だ!!

 

光に手を伸ばす。…何故だか掴まないと先に進めない。そう思い手を伸ばす。

目の前にあるはずなのに、それなのに届かない。

すぐ傍にあるようで遠い光を掴みたくて手を伸ばす 手を伸ばす 手を伸ばす。 

……届かないというのなら

 

 

「伸びろーーー“栄光の手”!!」

 

その手は以前より洗練されて姿を変える。

 

かつて自ら栄光を掴む為の手と称して栄光の手と名づけたが…

 

本当に欲しかったのは栄光ではなかった。

 

それは…己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

メドーサは信じて見守っていた。

魔竜の顎を食い破り横島の霊破が黒い球体になっていたが、メドーサは動かなかった。彼の記憶(・・・)を持つが故に結末は解りきっていた。

 

 

 

 

「伸びろーーー“栄光の手”!!」

 

 

その声と共に黒い球体に霊破刀の光で球体に穴が開く。

 

パリ・・・・・・パリパリパリパリパリッ!

 

それは、まるで卵から孵化するように…球体が剥がれていった。

 

その光景を見ながらメドーサは心から安堵する表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

――俺は一体…?

 

 パチパチ パチパチ

 

振り返るとそこにはメドーサが立っていた。

 

「いい面構えになったじゃないか。答えは見つかったようだねえ」

 

「答え?」

 

「覚悟と言った方がいいのかい?」

 

「多分そうなんだろうな。彼女を助けたい…幸せにしてやりたい。その想いは今も変わらないよ。 …でも俺はもう見失わないよ!」

 

――今の自分と同じ絶望を彼女に味合わせたくはない。

 

「あ~。アンタって奴はまったくとことん馬鹿さね。まぁ私からすればアンタが魔族じゃなかったのが残念だよ。」

 

「……魔族?」

 

「なんだい自覚がなかったのかい? アンタは今、堕ちかけていたのさ!」

 

「…えっ!? って、そういえばここ何処だ! ルシオラは? 俺は死んだのか!?」

 

「落ちつきな。すぐに…」

 

その瞬間、横島の体が淡い光に包まれた。

 

「ーっ!?」

 

「お迎えが来たみたいだね!」

 

「な、何だ?」

 

「話は当事者に聞くんだね」

 

「どういう――」

 

言葉が言い切る前に横島の体の光が輝きを増して、その場には何も残らなかった。

 

 

 

 

 

『行ったかね』

 

横島が強制転移されるのを見計らってから、メドーサの背後に長き髪と二本の角のような形状が見える影が現れる。

 

「えぇ、ですが宜しかったのですか? 彼にも娘にも会わないで…」

 

メドーサは振り返らず、驚くこともせずに会話をする。

 

『……終わってみれば事件の最大の被害者は小僧だったな。

本体が消滅し魂の牢獄からも抜け出す事ができたのだからデットコピーの私の視点からすれば小僧に感謝しているよ。だが彼は私を、…本体の私を憎んでいるはずだ。所詮、私と彼は被害者と加害者の関係であり私に出来ることが有るとしたら、私が彼に怨まれ続ける事だけだろう』

 

(本来の計画では、私を討つ役割は、メフィストの生まれ変わりである美神令子だったのだが…。宇宙意思の選択で横島が選ばれたとでもいうのか?)

 

『それとルシオラは自分の道を歩み始めたのだ。何もしてやれなかった私が今更出る幕ではないな。……置き土産だけ残してきたよ』

 

その後暫しの間、二人の間を沈黙が支配する。そして沈黙を破ったのは影の方であった。

 

『君は彼を憎んでいないのか? 月戦において、君の死因は彼だろうに』

 

「……憎んでいなかったと言うのは嘘になりますね。あの時、死の間際の攻防にて殺しておくべき真の敵が横島だった事に気が付いてから私は…」

 

―――貴方様の脅威になるかもしれない存在。故に確実に殺さなければ…

 

「ですが今は…憎んでも怨んでもいません。逆に感謝すらしています」

 

―――貴方様を救ってくれたばかりか、私に最盛期の肉体と魔力を取り戻してくれたのだから

 

『…すまなかった。結果的に私では君の望みを叶えてやれなかった』

 

「それは違います! 貴方は堕天して行き場の無い私に生きる場所と目的を与えてくれました。そんな貴方だからこそ私は忠誠を近い、貴方のため戦えることを誇りとして生きてこれたのです」

 

『メドーサ!?』

 

「私の望みはとうに叶っていたのです!」

 

『そうか…。』

 

影の男の姿は陽炎のように揺らめき、少しずつ闇に呑まれるかの如く消えていく。

 

「……逝くのですか?」

 

『あぁ、未練は数多くあれど後悔はない!! …私には後を任せられる者が居る。十分だよ! …ただメドーサよ、願わくば小僧と娘達の行く末を暫し見守って欲しい。私の消滅は、我が半身の目覚めを意味する。アレのは復活は間違いなく災厄となろう。…我が最後の願いを聞いてくれまいか!?』

 

(消え逝く魔神が最後に、我が娘達を含めて、彼の幸多き事を願って想うか… それもまた一興か)

 

「……詳細は分かりませんが、出来る限りの事を!!」

 

『……ありがとう』

 

その言葉を最後に影の男は霧散する。後には何も残らずに…

 

「……どうぞ、どうぞ安らかにお眠りくださいませ。 …アシュ様」

 

出会った当初からアシュタロスの望みをうっすらとではあるが理解していたのはメドーサでありその恩人の長年の願いがようやく叶えられたのだ。

頬からポタポタと雫が流れ落ちるのを止めるすべを彼女は持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここは?」

 

横島気が付くとあたり一面がただ真っ黒な世界だった。上下左右、見回しても真っ黒であるのに自分の手足などは、ハッキリと見える。

 

「メドーサのヤツ、一体なにを…」

 

『…ここは貴方の、…ヨコシマの内面世界。その最深部よ』

 

 ドックン

 

「え…っ…」

 

『この場所に呼んだのは私よ。久しぶりね ……ヨコシマ!!!』

 

何度夢を見るもそれが夢だと知ると絶望して…

 

何度声を聞くもそれが幻聴と分かり絶望して…

 

「…ル、ル…シオラ…なのか?」

 

だが目の前の女性は幻などではない……

彼がかつて自分と引き換えにしてでも守りたかったのに守れなかった存在

横島が求めてやまない女性、ルシオラが目の前に現れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー妙神山・銭湯番台-

 

横島の霊圧を感じたエミとピートの2人は真っ先に出所の場所に来ていたが、猿神の結界に阻まれ中に入れずに居た。

 

「くそーっ! 開かない。斉天大聖様は、まだですか?」

 

「落ち着くワケ! 老師もこの霊圧は感じられてるでしょうから直ぐに来るわ!」

 

先ほどまで急上昇していた横島の霊圧が突如、弾けて感じられなくなってしい焦っていたのだ。

ガムシャラにこじ開けようとするピートに対してエミは封印した老師を待つように諭していた。

 

その時だった。

 

 ビシッ パリッ パキパキッ 

 

「なっ、…誰かが内側から空間をこじ開けている?」

 

 パキィイーン

 

「あ、アンタは…」

 

厳重に封印された空間をあっさり、こじ開けて出てきたのは……

 

『ふぅ~。思ったよりしんどかったわね』

 

ボブカットの髪に特徴的な触覚が2本生えており、体には黒いプロテクトスーツみたいな物に身を包んだ “横島の一番大切な存在” 

その彼女は、全裸の横島と小竜姫をその両手に抱えていた。その彼女が此方に気が付くと

 

『初対面じゃあ無いけれども自己紹介が必要そうね… 我が名はルシオラ!! ヨコシマと永遠に共に生きることを誓った存在よ』

 

 

 

 

 

 

―同時刻・魔界とある場所―

 

 

「うぐ… ふっ…ふふふ。あははっははは!!」

 

(今頃になって復活するだなんて …だが所詮お前は私の分身!! 本物(ルシオラ)はこの私!!)

 

「せいぜい今を楽しむがいいわ。 ……お前だけはヨコシマの前で私が殺してやる!!」

 

 

 

 




お久しぶりです

三月中に仕上げるつもりでしたが、大幅に遅れました。
すみません。次回はもう少し早く書き上げたいと思います。


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想い

「……報告は以上になります」

 

『ご苦労やった。下がってええで』

 

「はっ! 失礼します」

 

『…申し開きはあるんかいなキーやん?』

 

『弁明のしようもありませんね。彼らが直接介入するとは私も思っていませんでしたので』

 

『今回の一件は魔界最高指導者として抗議する』

 

アシュタロス戦以降で神魔の緊張感は高まっており、その中で神族が神魔の混成軍を相手に戦死者を出てしまったのだ。これにより神魔の関係は一気に悪化してしまった。

 

『……犯人達(天使)を処罰したいのですが今は難しいですね』

 

 

天使族

神界において最も強力な戦力を保有しており、彼らの住まう場所は天界と呼ばれる

現在天界の実権は四大熾天使が握っており、現神界最高指導者(・・・・・・・・)ですら彼らの“主”ではないのだ

 

 

『…情けないなお互いに』

 

『美神美智恵とその娘の美神令子は現在も行方不明なままです。こちらの調査は魔界の方でお願いいたします』

 

『まかしとき! そっちは神界で治療中の2人とその男に憑いていたチューブラー・ベル《霊体癌》を頼むで』

 

『承りました。ですがよろしいのですか? 男の方は?』

 

『かまへんよ! 自業自得や!!』

 

『分かりました。後、妙神山に報告並びに彼の監視をする者を合わせて行かせたいのですが、此方の者では面識の無いものが多くって…』

 

『アイツの監視か。…ならワイが引き抜いた新入り共に行かせるわ。本人と面識も有るしアッチの事情も報告して貰いやすい相手だからな』

 

パンパンパン

 

『はっ! お呼びでしょうか?』

 

『すまへんが最近入った新入りの二等兵を連れてきてくれ』

 

「了解いたしました!」

 

『彼ですか? 確かに最適な人材ですね』

 

『そやろ。アイツとは確執も無いだろうし、何より元人間やから人間界での諜報活動には使えるんや』

 

 

 暫しの間が経つと

 

 

「お呼でしょうか魔界最高指導者様?」

 

『わざわざ来てもろうてスマンな。仕事を頼みたい』

 

「…何の仕事でしょうか?」

 

『簡単な仕事や! 気軽に頼むで~。』

 

「はっ!!」

 

『お前さんの仕事は妙神山に行き猿神にこの書類と任命書を届けて欲しい』

 

「妙神山、…神族の拠点にですか?」

 

『なんや?不満か!?』

 

「いえ、そういうわけでは…。ただ…」

 

ブアァッ!

 

その瞬間、魔界最高指導者が有無をいわさずに圧倒的な魔力を解放した

 

「ひぃっ!?」

 

『不満は無いな!!』

 

「りっ、了解しました!」

 

『ほなあんじょうきばってな』

 

「失礼します」

 

 

 

『宜しかったのですか? 彼女の詳細…資料も持っていかせてしまって』

 

『隠すメリットが無いやろう! 神魔が関わったのならともかく彼女は―――同族の人間に殺されたんやから…。神魔は動けへんよ!』

 

『しかし…』

 

『事実は事実や。どないせいゆーんじゃ!!』

 

『……』

 

『この件はアシュタロスが起こした霊症とも関係が無い。…ワイらが干渉する事は出来へん』

 

『…彼がそれで納得しますかね?』

 

『アイツが納得するかなんてどうでもええ。 神も魔も決して全知全能やない。出来る事しか出来へんのや!!』

 

『ですが万が一彼が暴走してしまえば状勢にも影響…』

 

『キーやん!!』

 

『……失言許されよ! 魔界最高指導者殿』

 

『真の英雄が道を間違わんことを祈るしかないな』

 

 

“キーやん”は言えなかった。すでに神界で龍神族に不穏な動きが出始めていること

それに横島忠夫が関係している可能性が高いことを

 

だが“キーやん”も知らなかった。龍神族の不穏な動きは横島のせいなどではなく、小竜姫がもたらした結果だという事を…

 

 

 

 

 

 

ー妙神山ー

 

 

騒ぎを聞きつけ集まった一同の空気は重かった

 

上級魔族ルシオラ

 

彼女の復活は喜ばしい事である。少なくとも此処に居るメンバーは横島を心配していたのだから…

横島が唯一愛し愛された女性であり、彼が始めて己の意志で戦う決意を持たせた人物でもある

そんな彼女の復活は以前に美神令子が言っていた『ハッピーエンド』の結末になったはずであったのだが…

 

 

「…言いたい事はそれだけ!?」

 

「はい。ヨコシマの中に居た私が目覚めたのは小竜姫様のおかげです」

 

険悪な表情で迎えているのはエミだった

 

一同が集まった時に小竜姫と横島は全裸で意識も無かった為に、小竜姫は彼女の私室にマリアが付き添い、横島は客間にカオスとテレサが付き添った。両名が席を外すとエミのルシオラに対する質問…否、尋問が開始されていた

 

「…そう。そうしてオタクは蘇った。でも小竜姫様が復活に手を貸さなければオタクは蘇らなかったワケ」

 

「……何が言いたいんですか!?」

 

「そうね…。横島の心に傷をつけて救いの道すら閉ざしたのも結局はオタクだったって話なワケ」

 

「なっ!!」

 

そう、それは事実。だからこそヨコシマの心はあんなにも…

 

「自分を犠牲にして恋人を助ける? はっ! 一見すると美談だわね。

けど、そのことにアイツは耐えられないわ。優しすぎる横島の心は絶対に耐えられない!! そしてその心は押しつぶされていくでしょう。横島を想っていたなら容易に想像が出来たでしょうに」

 

「小笠原さん」

 

「あの時オタクは諦めたワケ。生きることを…あっさりと」

 

「それは、…そうです」

 

「本当に相手を想うのならどうやっても横島を一人にしないように策を練れ!!

時間も余裕もなかっただろうが絶対に自分から諦めるな!!

潔さはGSの世界にとっては美徳じゃない、往生際の悪さこそが美徳だ!!

自己犠牲の精神なんてただの自己満足で結局残された者には心に深い傷を負うワケ。…一生消えないかもしれない傷をね」

 

「……」

 

「さっきオタクは『ヨコシマと永遠に共に生きることを誓った』なんて言っていたわよね?」

 

「ええ。誓いました」

 

「アンタそれがどういう事か本当に理解しているワケ?」

 

「それは…」

 

「……もういい。テメェは歯ーっ、食いしばれぇ!!」

 

「っく…」

 

エミは霊力の篭った拳を呆けているルシオラの顔面に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

ー猿神私室ー

 

当初、意識のない横島を客間に運ぶはず役を請け負ったテレサだったが、カオスが指示したのは何故か猿神の私室であった。

 

そして…

 

 

「何でコイツの意識が戻るまで待てないの?」

 

「小僧はまだ霊気構造が安定しきっておらん。故に安定し定着する前に移植をせねばならん。…早い段階の方が拒絶反応が少なくてすむしのぅ」

 

気に入らない

 

「だからってコイツの意思は? そもそも何故最初から本人に聞かないのよ!?」

 

「テレサ?」

 

気に入らない。あぁ気に入らない! 何故自分がこんな風に思うのか理解不能だ。だが…

 

「あんた達全員身勝手よ!」

 

『小僧の意思が重要なのでは無い』

 

「っ!? …どういう意味よ?」

 

『重要なのは、こやつの想いの方よ。ワシは横島の意思よりも、こやつの想い …いや願いの方を優先する!』

 

そういう猿神の手には証拠として一度は魔界正規軍に押収さてしまった証拠品だが、再びこの手に帰ってきた

 

 

 

 

 




個人的ですが最終戦でルシオラにも非は有ったと思います。
そこをエミなら指摘するだろうと思い書いてみました。
次回もどうかよろしくお願いします


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覚悟

 バキッ!!

 

「…っく」

 

突如激昂したエミにルシオラは殴り飛ばされる。

 

だが――

 

「アンタ!?」

 

「これが私の覚悟の …答えです!!」

 

バチバチッ

 

その瞬間ルシオラの身体からスパークが走った。

 

「ルシオラ君…きみは」

 

この場で気が付いたのは殴ったエミと唐巣のみだった。

 

「一体どういうことですか?」

 

「文珠ね。…その身体は文珠で具現化した偽者ってワケ?」

 

気が付かなかったピートは傍にいたエミに問いかける。

 

「えっ…それは」

 

「私も触ってから気が付いたわ。アレは偽りの身体で本体は別の場所に居る。そうなんでしょう!?」

 

「えぇ、そうです。そしてコレが私の覚悟!!」

 

「どういう意味かしら?」

 

「この姿はエミさんの言うとおり文珠の力で顕現したあくまでも仮の身体!! …そして本体ともいえる私の魂は既にヨコシマの魂と融合したわ」

 

「なっ…融合!? そんな事をすれば…」

 

「分離はもう不可能です。そしてヨコシマが死ぬ時は私も共に」 

 

 

 

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 『魔族には生まれ変わりは別れじゃないのよ』

 

 ……大丈夫、私のかわりは居る。千年もあきらめずに待った人が居る

 だから大丈夫だ。―――たとえ私が消えても彼は大丈夫…だ 

 

 『今回は千年も待ってたひとに譲ってあげる、パパ』 

 

 ……もう未練はいはずだ。あの時、千年待ったあの人に譲った時に 

 

 今の私にはもう彼を抱き締めてやることができない。 ―――抱きしめたい

 

 彼と口付けを交わすこともできない。        ―――キスをしたい

 

 自分の温もりを彼に感じさせてあげることもできない。―――肌を重ねたい

 

 『私たち、何もなくしていないわ』       ―――違う、嘘だ

 

 さようならヨコシマ。私の一番愛し人。大好きだった人。

 

 

 

 

 

――――本当に、これで良かったのですか?

 

「何者? …私を覚醒させたのは貴方?」

 

――――この結末で本当に良かったのですか?

 

「コレは私と彼が選んだ道よ。他人にどうこう言われたくはないわ」

 

――――なら貴女は彼を地獄のような現世に一人ぼっちにするのですね

 

「一人ぼっち? …そんな事には」

 

――――ならない? 本当に? 

 

「何が言いたいんですか!」

 

――――貴女は自らの罪を自覚せねばなりません

 

 

 

 

その言葉をきっかけに世界が切り替わる。それは大戦後の横島の現状と彼の心の悲鳴だった…

 

 

 

 

 

ヨコシマの絶望を知った

 

何故気が付かなかったんだろう

 

あの優柔不断で優しすぎる男が傷つかない筈ないのに

 

彼がどんなに凄くっても心は普通の10代の少年だったんだ…

 

そんな彼に私という恋人と世界を天秤に乗せ選択をさせてしまった

 

否、強要させてしまったのだ“世界をえらべ”“恋人を見捨てろ”と…

 

 

 

 

なのに…世界は …人は優しくはなかった

 

周囲の冷たい眼差し。…なんだコレは 

 

敵意を持った人々。…なんだコレは

 

腫れ物を扱うような、おキヌさん。フォローもせずに彼を避けている美神さん

 

…なんだコレは?

 

なんなんだコレは? 私はそんな世界にヨコシマを独りに

 

ごめんなさいヨコシマ。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい

 

あぁ…っ、ヨコシマの心が凍りついている ――否、ヨコシマの心が死んでいく 

 

 

「ダメ―――――ー!!」 

 

 

それだけは駄目!! 何があってもそれだけは…… 

 

 

―――彼を救いたいですか?

 

「貴方何者!? いい加減に姿を現しなさい!!」

 

―――もう一度聞きます。彼を救いたいですか?

 

「救いたいに、…決まってるじゃない!!」

 

 

その場にすさまじい神霊力が溢れて人影があらわになる

 

 

「我が名は小竜姫!!」

 

「小竜姫って…、まさか音に聞こえし『神剣の使い手』!?」

 

「こうして顔を見合わせるのは初めてですね。改めて自己紹介をしましょう。私は貴女達に妙神山を落とされた無能者の元管理人です」

 

私は息を飲んだ。妙神山…人界にある108しかない神魔族の霊的拠点の一つ。…その妙神山は逆天号の断末魔砲で私達が落としたのだ。

そして管理人の小竜姫とは魔族にも名が通っている実力者。

 

 

「…それで何の用かしら? 私に対する復讐でもしに来たの?」

 

「いいえ。貴女も本当は解っているはずです」

 

「…ヨコシマ?」

 

あの映像を見せる意味は、それ以外考えられない。だが…

 

「彼の心は今、闇に囚われています。故に貴女を蘇らせます」

 

「なっ…無理よ。私はもう…」

 

私の霊的質量はすでに維持できないはずだ、現状もヨコシマの中で眠っている残りカス。

美神さんが言った転生すらおそらく不可能。彼に希望を持って欲しかったから黙っていたが。

 

「彼が人間であるうちは魂の分離は不可能でしょう。ですが…」

 

「まさか魔族化? …言っておくけど不可能よ。ヨコシマ側に取り込まれ吸収されて消滅する。そして神族化はそもそも相反する因子。拒絶されて消滅するだけよ」

 

「そうですね。ですが彼の霊体をそのまま増幅し分離に耐えられるようになれば話しは違います」

 

「霊体を増幅?」

 

「人の肉体を捨て霊体を強化し、神魔と同じ霊的生命体。神族でも魔族でもない人の霊体のまま神魔の域になれば…」

 

「ちっ…ちょっと」

 

「貴女の霊質に影響を与えずに分離が可能でしょう」 

 

「待ちなさい!!」

 

「……」

 

「貴女、自分が何を言っているのか分かっているの!? 人間の魂を管理、導くのが神族の役割。 その人間を神魔の域まで高めるなんて真似は明確なルール違反よ …神界を追放されかねないわ」

 

ルシオラは寒気を覚えた。

小竜姫は神族として、あまりに常軌を逸した考え方であった。

 

「だから何ですか?」

 

「だから…!?」

 

「私は神族として横島さんを救いたいと言っているんじゃありません。

 あくまで私個人の意思で彼を救いたいと言っているんです」

 

「……その意思でヨコシマを殺すの? 肉体の神魔化なんかとは違い、その方法ではヨコシマの…肉体は」

 

「はい消滅するでしょうね。人としての生。 …彼が生きる筈だった人の幸せは私が殺します。」

 

「あ…貴女ねぇ!?」

 

「彼の心が救えるのであればその罪その咎、喜んで受けましょう!」

 

「……貴女…狂っているわ」

 

「それは貴女も同じでしょう? 愛に狂った魔族なのですから」

 

「……そうね。でもコレだけは答えて? 何故そこまでしてヨコシマを?」

 

「それは今話すべき事ではありません。」

 

「…」

 

「私がこの場に来たのは貴女に聞きたい事があったからです

 貴女が蘇ったとして、また同じようになら無いといえますか?」

 

「それは…」

 

「回答しだいでは貴女の蘇生はしません。いえ…このまま滅します。たとえ横島さんに怨まれようとも…」

 

小竜姫から殺気が出ていた。その殺気におもわず怯むが

 

「私は彼を愛している!!」

 

「回答になっていませんよ」

 

緊迫した空気の中、ルシオラが口を開く。確認するかのように。

 

「私は彼と出会い、彼に恋をした。道具でしかなかった私達に温もりを与えてくれた」

 

彼と生きていたい。――本気でそう思った。

そんな事を考える必要なんて今まで無かった、何故なら私達は道具だったから…

でも違った。“私達にも意思がある”それを教えてくれたのは彼だった。

 

「……」

 

「彼の優しさに惹かれた。彼の弱さに救われた。彼のおかげで希望が持てた」

 

「それで…」

 

「私は……彼と共に生きていく為なら躊躇わない!! 例えそれがヨコシマの望んだ形に成らないとしても」

 

「……それが貴女の答えですか?」

 

「えぇ。そうよ」

 

「いいでしょう。では私は見届けると致します。貴女の覚悟を!!」

 

 

そしてまた景色が変わる。今度は一面が真っ黒な世界だった。

 

 

「此処は?」

 

「横島さんの内面世界、その最深部です。そして絶望が内包された結果です」

 

そう言う小竜姫の姿は見えない。どうやら誘導されたらしい。

 

「こんな景色……あいつには似合わないわ」

 

「後は貴女しだいです」

 

その言葉を最後に気配すら消え去って行った。

 

「…ヨコシマ!!」

 

 

彼女は願う、ヨコシマに逢いたいと真摯に純粋に――

 

あぁ認めよう確かに私は狂っている。

生命を持つものとしての自身の生存本能すら否定して挙句には愛する彼に普通の幸せすら願えずにいる。…だがそれでも

 

 

 

「メドーサのヤツ、一体なにを…」

 

「…ここは貴方の、…ヨコシマの内面世界。その最深部よ」

 

「え…っ…」

 

「この場所に呼んだのは私よ。久しぶりね ……ヨコシマ!!!」

 

 

 

 

―――この再会に後悔は無いのだから

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

「あっ…アンタ まさか!?」

 

「私は…二度とヨコシマにあんな想いを味あわせたくない!!

 もう二度とヨコシマを置いて逝かない!! …そして置いて逝かれたくもない!!」

 

 だから迷わない。死が2人を別けるというのなら一緒に終わろう。

 どちらかが欠けても片方に傷が残り、やがて壊れるだろう…

 

「これが私のヨコシマと共に生きる覚悟。その為になら魔族の肉体すら不要よ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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変わりゆく未来

「パピリオ殿 どこですかパピリオ殿」

 

広い宮廷内に男の叫び声が反響していた。

 

(マズイ。うたた寝しちまうなんてとんだ不覚。また職務怠慢で追放なんてなったら殿下の顔に泥を塗っちまう)

 

男は焦っていた。お目付け兼監視役を任されていた少女とお茶を飲んでいたときに急に眠気が襲い、気が付いたら少女は居なくなっていたのだ。

 

「お願いですから出てきて下さい。パピリオ殿ーー。」

 

当然ながらそんなに大声を出して周囲に気づかれない訳がなく間違いなく、後に竜神王の耳にも入る結果になるのだが男はそんな事にも気が回らないほどパニックになっていた。

 

 

 

イームが探している少女パピリオは敷地内のとある湖に居た。自分を監視しているイームに対して燐粉で少々眠って貰ったがさすがに脱走する気は無かった。

 

それに――

 

「ここに居たのか、母屋に居ないので皆が心配しておったぞ」

 

この男の監視の目を出し抜くのはパピリオには無理と理解していた。

 

「そうでゅね。パピは一応人質でしたから勝手に監視の目を潜り逃げてしまってはアンタの立場が悪くなるでちゅ」

 

「今日はいつになく毒舌だな…」

 

「ルシオラちゃんが蘇ったでちゅ」

 

「…そうか今日であったか」

 

アシュタロスによって産み出された自分達三姉妹は魂の深い所で繋がっている。

だからこそ、その繋がりが突然途絶えたルシオラの危機にもパピリオだけが気が付けたのだ。

故に復活したらどれほど離れていようが姉妹には感じることは出来る。

 

「アンタ達、神族はあの2人をどうするつもりでちゅか? …これ以上あの2人に要らぬちょっかいを出すようならこっちも考えがあるでちゅ!」

 

パピリオは目の前の青年を睨みつけながら忠告する。

 

「何、悪いようにはせん。アヤツも一応余が初めてとった家来なのじゃからな」

 

 

 

 

 

ヴァチカン宮殿

 

カトリック総本山のヴァチカンはローマ法王を元首とする独立国家である

一般には極秘扱いになっているが宮殿の地下には人類が出会った様々な災厄が封印されている。

その扉の前に国家元首であるローマ法王と宮殿管理最高責任者でもある枢機卿、そして褐色肌に銀髪の女性がいた。

 

「この場所は我々が考えうる限りの最強の結界を施しております。人類には破壊不可能な魔具や除霊不能な悪魔が封印されています故に」

 

「問題ありません枢機卿。懐の通信機も不要です」

 

「わかりました。100年間の予言を書かせる法王の日記は後日で構いませんのでお願いします」

 

「では開けてください」

 

重厚な扉が開くと同時に瘴気があたりを覆うが女は気にも留めずに進んで行く。中には様々な悪魔や魔獣が檻に閉じこまれていたが誰しもが女と目を合わさない。

ある者は震えており、またある物は死を覚悟したのか身動きすらとらずにいた。

 

「人界で最も不浄な場所の一つだな」

 

そんな中で彼女の来訪を歓迎する者もいた。

ガラス張りのような部屋で閉じ込められながらも彼は笑いながら出迎えた。

 

「キミが来るとは …くっくっくっ。面白いね」

 

「戯言を、貴方なら私が来る未来も予知していたのでしょうに悪魔ラプラス」

 

悪魔ラプラス。別名 “全知魔” 完全な予知で未来を見通す悪魔

 

「…さて何用かね? 分霊とはいえキミが来るとは日記を書かせに来ただけではなかろうに」

 

「聞きたい事があります。貴方の予知で見えたという状況と現在の状況。この誤差はどう説明しますか、薄汚い悪魔」

 

「大筋では変わっていないはずだがね? アシュタロスは予知したとおりの結末になったし」

 

「ならアレはどういうことですか?」

 

「アレとは」

 

「とぼけないで下さい。貴方は予知していたのでしょうアレの復活を …そして今現在の魔界勢力図も」

 

「ほう、魔界側で何か有ったのかね?」

 

「貴様っ! まだとっー」

 

「私は本当に知らないのだよ。そもそも私の予知では今日キミは来ていなかった」

 

「っ!?」

 

「100年前の予知では今日此処に来るのは外部のGSだったのだよ」

 

「馬鹿なっ!! この任務に外部のGSが任されるわけがない」

 

法王の日記

それは100年単位でプラスに占いをさせて未来の危機を回避させる為の物。ただし事前に知っていたとて回避できるとは限らずに前回予知してあった二回の世界大戦は阻止できずに終わっている。

だが人間には回避不可能でも未来を知るという事には大きな意味がある。

…特にここカトリック教会総本山のヴァチカンでは。

 

「任されていたよ。今日ここに来るはずだったのは美神令子だったからね」

 

「なんですって?」

 

「干渉して呼んだのは私なんだがね。くっくっくっ。」

 

悪魔は嗤いながら告げる。可笑しそうに、嬉しそうに、楽しそうに。

 

「なんという事を」

 

「だが呼べなかった。それがキミ達のせいかとも思っていたが違うようだ」

 

(遊べなかったのは残念だがそれ以上に嬉しくもあるものだな)

 

ラプラスが100年前に予知した時にはこの場にいたのはGS美神事務所のメンバーだった。

それはラプラス自身が干渉しようがしまいが関係なく来るはずだった。今回来させようと干渉したのは、あくまで暇つぶしだった。自身が干渉した方が面白く遊べると踏んだからだ。

 

その為、ローマ法王に自身が指定した人物でなければ占わないと告げてS級のGS美神令子を召喚状のもとに強制召還させようと目論んだ。

法的にも社会的宗教的にも、とんでもない権力を持つ法王の勅命書である。依頼額からも彼女に断るという選択肢は存在せずに今日来るハズだった…

 

そして彼女が来るのなら横島忠夫も付いてくる。この二人をそろえれば彼らの日常のドタバタをデバガメし遊ぶ気満々のラプラスだった。

例え監獄の中でも敷地内ならリアルタイムで予知できるので、二人の騒動を近くで観賞するつもりだったのだが。

 

「美神令子の失踪。聞かされたとき私は歓喜したね」

 

ところが法王から聞かされた結果は不可能の一言。

なにがどう変化したのか美神令子はS級などに昇格されておらずそれどころか現在は行方不明。

 

「これは私が見た未来ではないのだから」

 

ラプラスは観測した時点での未来を予知するが、あくまで観測した時点。本来ある数多の未来、その何処にも美神令子の失踪などない事態だった

 

「それは貴方の予知を超えた存在が居るということですか? 全知魔ラプラスの未来予知でも見えなかった可能性の一つとして!?」

 

女性の目に始めて驚愕の色が浮んだ。

 

「あぁその通りだよ。そしてキミがそんな表情をしたのも驚きだね。くっくっくっ。」

 

「何が可笑しい!!」

 

女性の怒気で地下牢全体に神気が発生、すぐ傍にいたラプラスは後ろの壁側まで吹き飛ばされ押し潰れそうになっていた。

 

神魔族の肉体は霊体に近く、人間界の物質をすり抜けようとすれば可能なため牢獄の壁側には逃走防止の結界が幾重にも貼られており、その威力は悪魔にとって脅威だ。肉体は焼けただれ霊気構造にも影響が出ていた。

 

――だが

 

「くっくっくっ。面白いさ、不測の事態ほど心躍るものはない」

 

「ちっ!」

 

自身の肉が焦げる臭気の中ラプラスは気にも留めずに笑っていた。

女性は険しい表情を隠せなかったが神気は収めた。

 

「用事は終わったので失礼します」

 

「日記はいいのかね? 建前とはいえ必要だろう」

 

「……外れた予知に価値などありませんよ。もう二度と会うことは無いでしょう。さらばです“全知魔ラプラス” 貴方と過ごした時は有意義であり無意義でした」

 

「いいやキミとは必ず再会するよ。全知魔ラプラスの名にかけてね。また会おう“神の左に座す者”よ。今宵は楽しい一時だったよ」

 

 

女性はきびすを返してもと来た道を帰るも悪魔の嗤い声が耳から離れなかった。

 

 

 




お久しぶりです
ようやく話がまとまり投稿できました。
そろそろ美神やおキヌちゃんの話も書きたいと考えています
次回もどうぞよろしくお願いします。


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再会

  

 

「ル…ルシ…オラなのか?」

 

「…ヨコシマ。また逢えた」

 

「夢なのか?いやそもそも俺はサルに…殺された…のか。じゃあ此処は死後の世界なのか?」

 

「違うわ。落ち着いてヨコシマは生きているわ」

 

これが私の罪なのか。ヨコシマの顔には死んだかもしれないと言いながらもどこか嬉しそうな表情を浮かべている

 

「大丈夫よ。私はもう何処にもいかないわ。」

 

私はもう貴方と離れない。だから…お願いだからそんな顔しないで!!

 

「ヨコシマ!!!」

 

気がつけば私は彼を抱きしめていた

 

 

 

 

 

何時からだろう。現実の時間がどこか曖昧になったのは

寝ても起きても目が覚めない夢の中にいるように感じられ始めたのは

だからこそ――

 

「ル…ルシ…オラなのか?」

 

最愛の彼女が現れても現実味が感じられないのは

 

「…ヨコシマ。また逢えた」

 

彼女が喋った。声が聞こえた。ああそうか、俺は

 

「夢なのか?いやそもそも俺はサルに…殺された…のか。じゃあ此処は死後の世界なのか?」

 

そうか俺は妙神山のサルと戦って死んだんだな…

なんでメドーサが出てきたのか分からないが、アイツ実は髑髏の死神で俺がメドーサに見えていただけなのかもしれないな。…どうでもいい。死んだとしてもルシオラに逢えたんだから

 

「ヨコシマ!!!」

 

呼ばれたような気がすると彼女に抱きしめられていた

 

ルシオラの体温が、鼓動が、息遣いが、涙が…。そして俺の頬にも涙が流れていた

 

 

「俺は…お前を死なせちまった…俺は…お前に…何も…」

 

「そんな事は無いよ。ヨコシマは頑張ったわ。」

 

「でもお前を…」

 

「それにヨコシマも私も死んでなんかいないわよ」

 

「えっ…だって」

 

「生きているわ。貴方も私も」

 

抱きしめられたているからこそ伝わるトクンという心臓の鼓動

 

生きて・・・いる ルシオラが生きている!

 

「生きている!?」

 

「そうよ。私たちは何も失ってない。失っていないのよ」

 

「あぅっ…あああっ…」

 

「大丈夫!! 今度は護るから。私が貴方の心も体も …もう貴方を独りになんてさせないから」

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「体が重い、妙神山から供給がなくなっている。…成功したのね」

 

神界で生まれた神族。そして魔界で生まれた魔族はそれぞれ人間界に来るにあたり神魔界との間にチャンネルを作り力の供給を受けている。神界なら神気を魔界なら瘴気を、それぞれ吸収し生命エネルギーとして活動している

しかし人間界とは物質界と呼ばれ、神魔界のように霊子で構成されている霊界とは違う理の世界。故に人間界ではチャンネルが閉じてしまえば供給のない世界でありアシュタロスが利用したのもこの点である

 

「目覚めたようじゃな」

 

「老師」

 

「まだ無理をするでない。」

 

「2人は」

 

「小僧がまだ目覚めてはおらぬ。ヌシも暫し休め」

 

「ですが…」

 

「小竜姫よ、今のヌシは妙神山とのパスは切れておる。小僧との契約すら不完全、そんな状態では霊力も消耗するだけよ。せめてヤツが起きて契約するまでおとなしくしておれ」

 

契約とは本来は双方の意思が伴わなければ成立しないもの。それを私は、彼の生き血をすすって一方的にラインを繋いだだけの云わば仮契約

当然ながら供給があるわけもなく、蓄積された霊力が尽きれば私は活動できずに以前と同じく休眠状態となるだろう。そして横島様が契約をしてくだされなければ…私はいずれ消滅するだろう

 

「覚悟の上です。それよりも老師、魔の気配が近かづいてますね」

 

「うむ、近況を報せると新入りの正規兵士を寄越すと一報が入っている。名は確か…」

 

「横島様の敵ですか?」

 

「なに?」

 

「魔族の正規兵であれ神族であれ横島様の敵なら斬ります。見て参ります」

 

そういうと私は超加速を刹那の間、発動して門へと向かう

 

 

 

 

 

 

「あの未熟者めが。視野の狭さが悪化しておるの…」

 

制止する間もなく飛び出して行った小竜姫におもわず溜息が出てしまう

敵かどうかを自身の眼で見て判断するというのは現状間違いではない。が何故消耗の激しい身で超加速などを使ってまで焦るのか?

以前からであるが小竜姫には固定概念ともいえる己の正義をもっており、それが自身の視野を狭さに繋がっていた

 

「正義とは極論、自分視点での義でり概念である。そして強すぎる概念はときに悪とも呼ばれる。…理解するには若すぎるか」

 

理想と正義感が溢れる姿は若さゆえか。猿神は小竜姫の頭の固さとともに、その姿勢はかつての自分にも思い当たるところがあった

 

「…未熟者めが」

 

それ故にこれ以上指導できぬことが口惜しく歯がゆかった

 

 

 

 

 

 

「ここが日本にある世界でも有数の霊山、妙神山。人であった時に来たかったわね …ところで何時までそうしているつもり? 門番さん!?」

 

「気が付いていたか」

 

「何用だ魔族よ!? ここは神族の拠点。許可なきものを通すことは出来ぬ!!」

 

「一応許可証は持っているけど、やっぱりここは戦うのがセオリーかしらね。右の鬼門さん、左の鬼門さん!?」

 

「「 貴様何故我らの名を? 一体何者だ!? 」」

 

「あら? 気が付いていなかったの? つれないわね、香港で会っているじゃない」

 

「香港だと?」

 

「…貴様まさか!?」

 

「ならこの姿なら分かって貰えるかしら?」

 

そう言うと男の顔は般若のようになり体も一回り巨大化した

 

「生きていたのか?」

 

「てっきり死んだものと思っていたのだが…」

 

「…貴方達だって似たようなものでしょ? お互い死にぞこなったわね。

さぁお喋りは終わりにして始めましょう。伝説の修行場の門番さん、その真価みせてもらうわ!!」

 

「よかろう!! 我らは門を守護する鬼。この“右の鬼門”」

 

「そしてこの“左の鬼門”」

 

門の左右にそびえるクビなしの石造が門前に移動した

 

「「 妙神山守護鬼神の誇りにかけて貴様を倒す!! 覚悟せよ鎌田勘九郎 」」

 

「あらいいじゃない。そういうノリ好きよ♡」

 

「何事ですか、騒々しい」

 

その言葉と共に門が内側から開けられ中から小竜姫が姿を現した。

 

「小竜姫様、敵にてございます。どうぞ我らに任せてお下がりください」

 

「…貴方は確か」

 

「小竜姫!? なら先に貴方の首からもらっ…」

 

門から出てきた小竜姫に勘九郎が狙いを変えて襲い掛かろうとするも

 

「ぐふッ」

 

いつの間にか手にしていた彼女愛用の神剣。その柄頭が勘九郎の鳩尾にめり込んでいた。

一瞬呼吸が止まり、意識すらも途切れそうななかで反射的に後ろへ飛んだ。

その刹那の間、小竜姫から意識がそれてしまう。だがその隙は致命的だった

 

「何処を見ているんですか?」

 

鞘から抜かれた剣が自身の首にあてがわれていた。

 

「私相手に余所見とは随分と舐められたものですね。その愚考死をもって償いなさい」

 

「まっ…」

 

剣から迸る神気のみで魔族である勘九郎は滅られようとしてた。

そこには圧倒的なまでの格の差があった。

 

「…っと本来は言いたいのですが残念ながら連絡が来ています。鎌田勘九郎。任務で来ているのでしょうから今回だけは特別に不問しておきます。」

 

その言葉とともに瞬時に剣から神気が散っていき鞘に刃を収めた

 

「ですが今度おふざけが過ぎるようでしたら解っていますね?」

 

「…はい。申し訳ありませんでした。それと此方が渡された許可書になります。」

 

「よろしい。ではこれより妙神山の敷居を跨ぐことを許可します。改めて貴方を歓迎します」

 

侮っていたわけでも油断していたわけでもない。

以前の上司と共に敵対していた当時の時点で敵わないと理解していた

だがそれでもいずれは倒せる、届く範囲程度の神族だと思っていた

今では当時より強くなっている自負もあり、多少なら敵わないまでも相手になると考えていた

 

…だが今の彼女は

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ、何でもありません。短い間ですがお世話になります」

 

 

 

 

決定的に以前とナニかが違っていた

 

 

 

 

 

 

 



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