暴物語 (戦争中毒)
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一周年特別番外編 IS佰物語

どうも読者の皆さん、戦争中毒です。

今回は『暴物語』の一周年を迎えるにあたり、はじめまして番外編を書かせてもらいました。
原作を参考にせず、ノリと勢いに任せ好き勝手な設定で書いているので本編とも矛盾する点があるかもしれませんがそこは寛大な心でお願いします。


01:【入学試験】

 

一夏「せっかく志望校目指して勉強したのに無駄になった」

 

忍野「まあそうだよな。会場でそのまま身柄を拘束されそうになったし、警察に追われるし」

 

一夏「仮に試験を受けれたとしたら入学できてたのかな?」

 

忍野「さぁね。案外、お前の運命は否応なくIS学園行きだったのかもしれねぇな」

 

一夏「否定しきれない自分がイヤだ」

 

 

02:【合格発表】

 

箒「私は強制入学だったので発表通知などはなかったのだが、通常はどうだったのだ?」

 

セシリア「普通でしたわね。あまり変わった所はありませんでしたわよ? ただ・・・」

 

箒「ただ?」

 

セシリア「合格通知の書類が1枚で、同封されている各種書類が50枚を超えていたのには驚かされましたわ」

 

箒「その量は普通と言わない」

 

 

03:【入学式】

 

一夏「俺と忍野は別室で入学式の中継を観れただけで式に参加してないんですよね」

 

楯無「仕方がないわよ。参加させたら生徒が騒いで式どころじゃなくなるって織斑先生が学園長に具申したの」

 

一夏「そういえば楯無さん。生徒会長からの祝辞みたいなの、してなかったですよね?」

 

楯無「あ~、その、お姉さん国家代表でしょ? それで・・・国の方に呼ばれて、ね?」

 

一夏「・・・心中お察しします」

 

 

04:【制服】

 

一夏「みんな制服はカスタムデザインなんだよな?」

 

鈴「そうよ。世界中から入学してくる生徒がいるから敢えてデザインを統一しないでいるのよ。ところでどう? 私の制服」

 

一夏「う~ん。セシリアの制服(デザイン)の方がいいな」

 

鈴「はあ!? 何でよ!?」

 

一夏「だって冬でも暖かそうじゃん」

 

鈴「・・・ああ~、うん。そうよね」

 

 

 

05:【クラス分け】

 

鈴「何でアタシだけ2組なのよ!」

 

忍野「まぁクラスが違うから一夏の事が心配でならないのは分かったから」

 

鈴「そ、そんなんじゃないわよっ!!」

 

忍野「さて、可能性を言えば、癖のある生徒を一ヶ所に集めて監視しようって魂胆だろうな」

 

鈴「癖ってどういう事よ?」

 

忍野「俺と一夏は言わずもがな。箒はIS開発者の妹でセシリアは入学当初は女尊男卑派。シャルロットは男装でラウラは軍人。極めつけが世界最強の千冬」

 

鈴「うわぁー」

 

忍野「この個性が豊か過ぎるメンバーに混ざるかい?」

 

鈴「ワタシ、2組デ良カッタデス」

 

忍野「賢明な判断だ」

 

 

 

06:【週休二日】

 

一夏「IS学園も週休二日制。一応、専門学校だからてっきり週一だと思っていた」

 

シャルロット「それは僕も思った。でもこの二日って単に生徒に休みを与えてる訳じゃないんだよ?」

 

一夏「え? 日本の教育事情に合わせたんじゃないの?」

 

シャルロット「えっとね、設立当初は一日だったらしいけど故障した専用機を持って帰国してると一日じゃ足りないって事態があったんだって」

 

一夏「ああ確かに。地球の反対側まで帰らなきゃならない人も居るし、まさか郵送する訳にもいかないからな」

 

シャルロット「それである国が文句を言ってきたから二日制に変更になったんだ」

 

一夏「へぇ、そうなんだ」

 

シャルロット「世界の警察だって言ってるのに我が儘だよね」

 

一夏「名前を伏せた意味無ぇーッ!?」

 

 

 

07:【テスト】

 

簪「IS学園のテストは筆記と実技・・・」

 

忍野「当然と言っちゃぁ当然か。確か候補生は採点基準が違うんだよな?」

 

簪「うん。候補生は筆記4割、実技6割。知識より経験に重きをおいてる・・・」

 

忍野「国家代表にとるには頭だけじゃダメだからねぇ。ところで簪は筆記試験の方は大丈夫なのか?」

 

簪「入試に期末、全試験全科目オール満点」

 

忍野「マジかよ!?」

 

簪「ケアレスミスって、憧れる」

 

忍野「憧れることじゃねぇよ」

 

 

 

08:【パイロット科・整備科】

 

一夏「二年生になったら整備科って技術系の進路があるんだよなぁ」

 

ラウラ「いかにも。ISの研究、開発をするエンジニア育成のための学科だがお前も教官の弟として嫁と一緒にパイロット科に進み、ISの腕を磨くべきだ」

 

一夏「そういえば忍野は整備科の方がいいって言ってたな」

 

ラウラ「・・・私が戦い、嫁が私の機体を整備する。有りだなっ!」

 

一夏「あの戦闘狂ぷりじゃ整備科は無理だと思うぞ」

 

 

 

09:【国語】

 

一夏「IS学園って国語の授業がないよな」

 

箒「世界中からの入学者のいるIS学園ならではだな。国語の授業も、どちらかと言えば日本語慣らしのための意味合いが強い。日本文学に触れる機会が少ないのが残念だが・・・」

 

一夏「そういえば箒って古典は得意なのか?」

 

箒「得意だとは思う。家にあった古書を読むために一通りの読み方は教わっているからな」

 

一夏「へぇーすごいな」

 

箒「問題は古書の殆どが姉さんのらくがき帳になっていて、読めなかった事だ」

 

一夏「忍野が聞いたら発狂しそうなオチだな」

 

 

 

10:【数学】

 

一夏「セシリアって数学強そうだよな」

 

セシリア「ええ勿論。オルコット家当主として恥ずかしくないようあらゆる科目を勉強してまいりました。数学も然り、ですわ」

 

一夏「でもISの訓練まで公式で言われても普通は対応出来ないって」

 

セシリア「ですが箒さんや鈴さんのように感覚任せの方がナンセンスですわ。何事も計算と公式で組み立てれば必ず上達しますわ」

 

一夏「その持論は料理の時にお願いします」

 

 

 

11:【社会】

 

シャルロット「社会の授業って言っても政治経済がメインだよね」

 

一夏「経済学の歴史だったり各国の政治体制の仕組みだったり。昔の事は振り返らないみたいな感じだよな」

 

シャルロット「まあ、国の歴史には触れることが出来ないからね」

 

一夏「どういう事だ?」

 

シャルロット「えっとね一夏。例えば戦争の歴史はそれぞれの国で、都合の良いように改ざんされてることが多いから事実とは限らないんだよ。だから授業でどの国の視点で教えるかってなったら・・・」

 

一夏「・・・揉めそうだな」

 

シャルロット「触らぬ神に祟りなし、だね」

 

 

 

12:【英語】

 

一夏「英語って今じゃ名称として以外、使う機会ないよな」

 

簪「IS登場以降、日本語が世界の標準語になったから・・・。でも漢字で書いて英語読みなんて謎の文化が始まったのもこの頃・・・」

 

一夏「後付武装(イコライザ)瞬時加速(イグニッション・ブースト)形態移行(フォームシフト)拡張領域(バススロット)

 

簪「四字が英語読みされる傾向にある・・・」

 

一夏「それなら、篠ノ之 束(マッドサイエンティスト)とか唯我独尊(アイ・アム・キング)ってなるのかな?」

 

簪「・・・格好いいけど、中二病っぽい」

 

 

 

13:【理科】

 

一夏「IS学園の理科って普通じゃないよな」

 

箒「教科書に“爆発物として使われる物質”とか出て来た時には思わず目を疑ったが、最近ではないな」

 

一夏「慣れって凄いな。その代わり家にある洗剤とかを触るのが少し怖くなった」

 

箒「今なら家庭用品で爆弾を作れそうだ」

 

 

 

14:【体育】

 

鈴「ISを動かすにはまず基礎体力。素人スポーツ選手並みのトレーニングメニューをこなさないといけない」

 

簪「入学一ヵ月ほどは、授業の度に筋肉痛・・・」

 

鈴「・・・ところで誰が嫌い?」

 

簪「山田先生。凄く・・・揺れる」

 

鈴「横に並ぶなら?」

 

簪「ラウラ」

 

鈴「同士ッ!!」

 

 

 

15:【保健体育】

 

楯無「ふふふ。お姉さんが手取り足取り、保健体育を教えてあげるわよ♪」

 

忍野「痴女はお帰り下さい」

 

楯無「ちょっ! 私は痴女じゃないわよ!?」

 

忍野「ふぅ~ん。でも原作だと際どい恰好してたよな? 水着エプロンとか下着Yシャツ(一夏シャツ)とか(一夏)の背中を流す時に密着(水着あり)して胸を押し付けたりとか」

 

楯無「案外詳しいわね!? それとあなたが原作とか言っちゃダメでしょ!?」

 

忍野「ここはメタネタありなんで。まぁ誘惑しているのにいざ一夏のラッキースケベが発動したら過剰な反応を示すところ、口先だけのキャラ作りかな? 処女ビッチさん」

 

楯無「しょ、しょしょ処女ちゃうわっ!!?」

 

忍野「え? 経験あんだ。なら簪にそう行ってこようかなぁ?」

 

楯無「わぁーッ! 嘘嘘嘘、嘘だからそれだけはやめてぇっ! 処女です耳年増です年齢=彼氏いない歴のなんちゃって女ですよ!! うわーーんッ!!」

 

忍野「泣いちゃったよこの子。そこまで言えなんて言ってないのになんで自爆するんだよ」

 

 

 

16:【IS実習】

 

山田「ISの基礎操縦技術を学ぶもので、同時に現行のISが“危険なもの(兵器)”である事を学ぶ大切な授業ですっ」

 

千冬「最近のガキ共はISを自転車感覚で乗ろうとするからな。個人的には痛い目に遭って考えを改めてもらいたいが、教師としては言葉で理解してもらいたいな」

 

山田「そうですねっ。毎年一年生には数人、地面に突き刺さる子がいますからね。怪我をしなければ良いんですが・・・」

 

千冬「そう思うなら実習で緊張しない様にしろ。仮にも元代表候補生だろうが」

 

山田「すっ、すみませ~ん!」

 

 

 

17:【IS機学】

 

一夏「IS機学。つまりISの座学。IS学園の週の科目の四分の一近くを()める授業で、条約から基礎設計まで、ISの知識を学ぶ科目なんだな」

 

忍野「入学して真っ先にあったのもこの授業だったからなぁ。ISがどういうものか正しく理解してもらう為の時間だろう」

 

一夏「ISを正しく・・・。俺達って正しくISを使えているのか?」

 

忍野「正しいか正しくないかで言えば、正しくない、つまり間違いだな。宇宙を目指す翼で国同士の抑止力にしてるんだから仕方がないさ」

 

一夏「いつか本当の意味で正しく使われる日が来るのだろうか?」

 

 

 

18:【芸術】

 

ラウラ「IS学園では音楽や美術といった授業は一括して“芸術”と言う科目として行われている」

 

箒「五教科以外の授業は少ないからな。その分をIS関連にまわしている。そう言えば芸術の成績は候補生の内申に影響するのか?」

 

ラウラ「余程酷くない限りは問題ない。候補生に求められるのはIS操縦技術がなによりだから例え音痴で絵心がなくても何とかなる」

 

箒「そうなのか。ところでラウラは絵心はーーー」

 

ラウラ「訊くな」

 

箒「・・・歌の方は?」

 

ラウラ「下手ではない、と思うぞ」

 

箒「あ、そっちは答えるのか」

 

 

 

19:【家庭科】

 

セシリア「わたくしの出番ですわね!」

 

忍野「お呼びじゃねぇよ」

 

セシリア「何を仰いますの!? 家庭科と言えば料理! 料理と言えばこの、セシリア・オルコットを置いて他に居ませんわ!!」

 

忍野「そのセリフはまともな料理を作れるようになってから言え」

 

セシリア「でしたらこのクッキーを食べてみてくださいまし! 一夏さんのために作ってまいりましたクッキーですが、オルコット家当主として汚名返上のために、泣く泣く一枚お譲りするのですからしっかりと評価してください!」

 

忍野「とりあえず味見はしたか?」

 

セシリア「そんなもの必要ありませんわ。何と言ってもこちらのクッキー、イギリス高級菓子店の品の写真を参考に作りましたので味は折り紙付きですわ!!」

 

忍野「・・・随分と自信(無意識の殺意)があるなぁおい。俺にはこのクッキーを(危険過ぎて)食べれそうにないな」

 

 

 

20:【教師】

 

千冬「教師かぁ。学園創設当初のはヒドかった」

 

一夏「へ~ぇ、どういう風に?」

 

千冬「当時は学問を教える教師とISの知識を教える研究者という二人体制だったからな。互いの認識の違いでよく授業が中断したものだ」

 

一夏「なんで中断に?」

 

千冬「毎度のように取っ組み合いになってな、“学園神拳(アカデミーしんけん)”なる乱闘用の武術が生まれた程だ」

 

一夏「乱闘って、科学者と教育者だろ?」

 

千冬「束曰わく、『科学者ってのは基本的にお山の大将だから人の意見を聞かない。だから最後はガンつけ暴力で自分の意見を押し通す』なんだとさ。そしてそんな研究員に対抗して教師も神拳を学んだからかなり見応えのある乱闘だったぞ」

 

一夏「それで良いのか!?」

 

 

 

21:【登下校】

 

箒「中学時代は基本、政府の車で送迎されていたな」

 

セシリア「わたくしは自宅学習でしたので登下校自体がありませんでしたわ。そう言えば日本の登下校では熊が出ると聞きましたが本当ですの?」

 

箒「それは一部の山間の学校だけだ。街中の学校ではそれはない」

 

セシリア「熊より危険なものが出そうですけどね」

 

 

 

22:【クラブ活動】

 

ラウラ「嫁はどこかのクラブに入らないのか?」

 

忍野「俺や一夏が参加できるクラブってなると必然的に文化系になるんだが、あまり良いのが無くてな」

 

ラウラ「なっ、ならば私と一緒に茶道部に入らないか!?」

 

忍野「千冬が顧問だから遠慮するよ」

 

 

 

23:【放課後】

 

シャルロット「今日は僕が一夏とISの訓練をするよ!」

 

セシリア「何を仰いますのシャルロットさん!? ここはこのセシリア・オルコットの出番ですわ!!」

 

シャルロット「・・・・・・」

 

セシリア「・・・・・・」

 

シャルロット「リヴァイブ!!」

 

セシリア「ブルー・ティアーズ!!」

 

 

 

24:【私服】

 

シャルロット「忍野くんって私服を着てる所、あんまり見た事ないけどちゃんと持ってるの?」

 

忍野「君は俺を何だと思っているんだ? 俺だって少なからず持ってるさ」

 

シャルロット「一応訊くけどアロハ服じゃないよね?」

 

忍野「持ってるけど、どうかしたか?」

 

シャルロット「・・・髪、金髪にしないでね」

 

忍野「何のこっちゃ」

 

 

 

25:【友達】

 

シャルロット「ねえ、大分訊きにくい事なんだけど・・・、忍野くんって友達いるの?」

 

鈴「ん~、中学時代はアイツ学校に行ってないから少なくとも私達と同年代の友達は殆ど居ないかったわね。私と一夏の友達数人だけと交友はあったけど?」

 

シャルロット「数人って・・・」

 

鈴「あと一夏も友達は少ないわよ」

 

シャルロット「なんで一夏も?」

 

鈴「・・・女子にモテたから、男子とは、ね?」

 

シャルロット「・・・昔から一夏は一夏なんだね」

 

 

 

26:【携帯電話】

 

簪「携帯電話はスマートフォン型が主流・・・」

 

セシリア「確か、一度進化してから退化してますわよね。プッシュボタン型からスマートフォン型になって、空中投影型になってからスマートフォン型に」

 

簪「空中投影式だと端末本体が乾電池ほどの大きさしかなかったから無くす人が多かった・・・。それに、指に触れる感覚が無いから操作している気がしなかったのが、退化の原因・・・」

 

セシリア「結局、ある程度大きさがあり、操作している感覚を残すためスマートフォン型で落ち着きましたわね。現在は薄さなどはそのままに本体強度やバッテリー容量の競争が激化してますわよね」

 

簪「・・・もうみんな、電脳化しよ」

 

セシリア「その先にあるのは公安9課か仮想現実(マトリックス)ですのでノーセンキューですわ」

 

 

 

27:【メール】

 

鈴「忍野、あんたメール入力出来るの?」

 

忍野「い、今は出来るぞ!」

 

鈴「へぇー、出来るようになったのね。それにしてもあんた変な所でアナログよね」

 

忍野「悪ぅござんでしたねぇアナログで。このスマートフォン女」

 

鈴「おいコラどこを指し示している」

 

忍野「山田先生が揺れて、お前が微動だにしない部分だ」

 

鈴「よし殺そう」

 

 

 

28:【アルバイト】

 

弾「一夏、今年は土日のバイトしないのか?」

 

一夏「休みって言ってもISの訓練もあるし、そもそも外出届を出さないと学園から出れないんだよ。今年は無理そうかな?」

 

弾「マジかよ。お前が来てくれたら売り上げ倍増なのに」

 

一夏「倍増って、大げさな」

 

弾「本当だって。去年も(お前目当ての)クラスの奴とかが連日食べに来てたからかなり儲かったんだよ」

 

一夏「う~ん、お前な家にはお世話になってるからなあ。バイトは無理でも手伝い位には行けるようにするよ」

 

弾「頼むぜ!」

 

 

 

29:【テレビ】

 

箒「どこの部屋にも設置されているな」

 

シャルロット「うん。それに日本は勿論、各国の民放も見れる優れものだよね」

 

箒「だがそのせいでチャンネル数が普通じゃない。しかも各種専門チャンネルまで揃えてるときてる」

 

シャルロット「僕は料理番組」

 

箒「私は時代劇」

 

シャルロット「一夏は何を観てるんだろうね?」

 

 

 

30:【クラス対抗戦】

 

忍野「中止になっちゃったけどさ、結局あれってどんな展開になったんだ?」

 

楯無「多分、一夏くんが優勝していたわ。離れればビットとライフル、近づけばガン・カタ。近接戦闘の遣い手が操る遠距離機なんて普通じゃないもの」

 

一夏「まぁ言っちゃ悪いが機体性能の差もあるから並の奴じゃ無理か」

 

楯無「最も、その後に私がエキシビションマッチで彼のフリーパスを奪うけどね」

 

忍野「大人気ねぇ。勝てたかは別問題だがな」

 

 

 

31:【体操服】

 

箒「IS学園の体操服は、ブルマだな・・・」

 

鈴「今時ブルマって、一体どうなってるのよ」

 

箒「ISスーツも昔のスク水みたいなデザインだし、まさか姉さんの趣味か?」

 

鈴「実の姉なんて言いぐさなのよ。でも仮に束博士の趣味でブルマだったらどうする?」

 

箒「今すぐミサイルに絶縁状を貼り付けて姉さんの顔面目掛けて発射する」

 

鈴「わぉー、オバーキル」

 

 

 

32:【プール】

 

忍野「この話はパスしていいか?」

 

シャルロット「ダメだよ。と言うより泳げるようにならないとラウラや簪が悲しむよ?」

 

忍野「何で二人が出てくるんだ?」

 

シャルロット「何ででもいいの。とにかく泳げるようになりなさい」

 

忍野「無理難題な。大体みんなはどうやって水に浮いてるんだ? そこから理解に苦しむよ」

 

シャルロット「・・・浮き輪でもつける?」

 

 

 

33:【喧嘩】

 

箒「学園内での喧嘩と言ったら基本、忍野が鈴か織斑先生と繰り広げるアレだな」

 

セシリア「最近では賭事の対象になってますわよ。先日も“忍野さんが織斑先生から逃げ切れるか?”と食券を賭けていましたし」

 

箒「し、知らなかった」

 

セシリア「今度参加されてみれば如何ですか? 娯楽として楽しめますよ」

 

箒「確かに、ここは学園だからあまり娯楽が無いからな」

 

セシリア「『火事と喧嘩は江戸の華』と言う言葉の意味が何となく分かりましたわ」

 

 

 

34:【体育祭】

 

鈴「中学校の体育祭トロフィーに千冬さんと束博士の名前がたくさんあったけど、あの二人って何者?」

 

箒「う~ん、昔から姉さん達は異常なほどの身体能力が高かったからな。ちょうど今の忍野みたいな感じだ」

 

鈴「何か、化物じみた人が多くない?」

 

箒「確かに。もしかしたら今年からの体育祭は忍野の名前で埋まるかもな」

 

 

 

35:【ニックネーム】

 

のほほんさん「私の出番だね~、いえ~い」

 

簪「いつも思うけど・・・、どう言う風にニックネームを考えてるの?」

 

のほほんさん「ん~っとねえ~、パッと見てねえ~、ビビビッと来たのを言ってるの~」

 

簪「・・・つまり適当なの?」

 

のほほんさん「違うよ~? ネーミングの神さまからのお言葉だよ~」

 

簪「電波を受信してる・・・」

 

 

 

36:【更衣室】

 

忍野「この学園って更衣室っていくつあんだろ」

 

ラウラ「私も数えた事はないが、それなりの数はあるのではないか?」

 

忍野「各アリーナに二つから三つずつあって、各部活が約三つで一部屋管理してて・・・」

 

ラウラ「さらに教員用と予備の更衣室を合わせれば、40は越えるだろうな」

 

忍野「思った以上にあったな」

 

ラウラ「そうだ。私の副官が『更衣室』を『行為室』にすれば嫁との仲が深まるとーーー」

 

忍野「その副官をクビにしろ」

 

 

 

37:【身体測定】

 

一夏「俺達って測定する意味あるのか?」

 

忍野「無いだろうな。俺なんて録な食生活をしてないが検査の結果は正常値だしなぁ、まぁ暇つぶしだと思えばいいよ」

 

一夏「女子はそうでもないようだけど?」

 

忍野「教室中から腹の虫が鳴っていたなぁ」

 

一夏「朝ご飯抜いたからって1kgも変わらないだろうに」

 

忍野「だよなぁ」

 

 

 

38:【出欠】

 

忍野「この学園って皆勤賞とかってあるのか?」

 

千冬「確か粗品が貰える程度だったか? どっちにしても表彰されるようなほど大事にはならないな」

 

忍野「へぇー、ならサボってもいいか?」

 

千冬「許されると思うのか?」

 

忍野「俺が許す!」

 

千冬「それが遺言でいいか?」

 

 

 

39:【学級閉鎖】

 

一夏「IS学園で学級閉鎖って、ちょっと思い付かないんですけど、過去にあったんですか?」

 

楯無「それ位あるわよ。隔離された場所だからインフルエンザが蔓延したりしたらすぐよ? 逆に言えば外からは入ってこないんだけどね」

 

一夏「その場合、患者はどこに診察してもらいに行くんですか?」

 

楯無「保健室よ。過去最悪の事例だと教師を含めた学園内の七割が押しかけて、急遽町の病院から先生を派遣してもらったわ」

 

一夏「・・・今年はどうでしょう?」

 

楯無「怖いこと言わないで」

 

 

 

40:【保健室】

 

簪「IS学園の保健室は国立病院並の設備が整っている・・・」

 

ラウラ「人工島にある学園だから緊急時に本土の病院に搬送していたのでは間に合わないからな、学園内で治療を出来るようにしている」

 

簪「最新の再生医療技術まで、ある」

 

ラウラ「さすがに其処まで怪我をおうことはないだろうと思うがな」

 

簪「真っ先に使いそうな人・・・居るよ」

 

ラウラ「なに? 学園内でそんな危険な事があるのか!?」

 

簪「忍野くん。織斑先生の制裁で・・・」

 

ラウラ「なるほど。確かにそうだった」

 

 

 

41:【図書室】

 

シャルロット「僕は行ったことがないけど、ここの図書室って広いの?」

 

セシリア「そうですわね。学園の規模から考えれば狭いですが、それでも地方の図書館並の蔵書量を誇ってますわ」

 

シャルロット「そうなんだ。どんな本があるの?」

 

セシリア「さすがに其処までは・・・。もし気になるのでしたら忍野さんにお尋ねされては如何ですか?」

 

シャルロット「どうして忍野くんなの?」

 

セシリア「蔵書されている本すべてを読破したそうですわ」

 

シャルロット「地味に凄いね」

 

 

 

42:【夏休み】

 

一夏「この話はパスだ」

 

忍野「だろうな」

 

 

 

43:【冬休み】

 

忍野「ずっと寝てていいか?」

 

一夏「ダメだって。それにその台詞、毎年のように言ってるよな」

 

忍野「俺は狐だぞ? 狐は冬眠する生き物なんだから冬は寝てもいいだろ?」

 

一夏「その台詞も聞いた。でも冬眠したらいつ起きるつもりだ?」

 

忍野「休みが終わるまで」

 

一夏「もう少し有意義に休みを使えよ」

 

 

 

44:【春休み】

 

忍野「春休みってかなり短いけど何か意味あんの?」

 

千冬「あるに決まっているだろう。本来は教師生徒それぞれが進級に備えての準備期間だ。お前みたいに遊び呆けていると思うな」

 

忍野「まぁ大半の学生は遊び呆けるけどね」

 

 

 

45:【ゴールデンウィーク】

 

一夏「去年は毎日バイトしてたな」

 

シャルロット「そうなんだ。ところで一夏、ゴールデンウィークって業界用語だって知ってた?」

 

一夏「そんだったの!?」

 

シャルロット「うん。だからTVの国営放送なんかは大型連休って報道しているよ」

 

一夏「へ~、シャルロットは物知りだな」

 

シャルロット「うん。だからもっと僕を頼ってね?」

 

一夏「・・・言葉に含みを感じる気がする?」

 

 

 

46:【避難訓練】

 

箒「IS学園の避難訓練は襲撃を想定しての訓練をしているな」

 

忍野「数が限られているISを一番多く保管している場所だからねぇ。実際クラス対抗戦の時に襲撃犯(工作員)が居たから間違いではないな」

 

箒「襲撃犯(無人機)に避難経路を寸断されて無駄になったがな。そう言えば忍野。お前はあの時どこに居たんだ?」

 

忍野「・・・校舎裏で暇つぶし」

 

箒「一夏の応援をしろ」

 

 

 

47:【通知表】

 

一夏「昔は通知表を持って帰るのが怖かった」

 

シャルロット「なんで、ってそうか。一夏が通知表を見せる相手って織斑先生だからね。やっぱり厳しかったの?」

 

一夏「いや、厳しいって訳じゃないんだよ。特に説教とかもなかったし。ただ、前回の通知表と比べて下がってる科目があると家に居る間の威圧感が数割増しになった」

 

シャルロット「威圧感って・・・、胃が痛くなりそうだね」

 

一夏「寮ならその心配がないから気が楽だよ」

 

シャルロット「その代わり成績は筒抜けだけどね。と言うより通知表を書く側だし・・・」

 

 

 

48:【マラソン大会】

 

簪「私の中学は、みんな仲良く一等賞みたいな、のんびりとした大会だった・・・」

 

鈴「アタシや一夏の中学は凄く力を入れてたわ」

 

簪「みんな、速かったの?」

 

鈴「それが鬼ごっこ形式で、のんびり走っていると後ろから先生が走って来るのよ。もし捕まったら補習が決定するからみんなサボれもしないし、負の大会ね」

 

簪「補習って・・・」

 

鈴「転校出来て嬉しく感じた数少ない事の一つよ」

 

 

 

49:【文房具】

 

シャルロット「特にこれと言って変わったものはないね」

 

セシリア「シャープペンと消しゴムくらいしか使いませんわよね」

 

シャルロット「私は鉛筆派」

 

セシリア「わたくしはシャープペンですわ」

 

シャルロット「いつの時代も学校ではこの二つがしのぎを削っているね」

 

セシリア「そうですわね」

 

 

 

50:【髪型】

 

簪「忍野くん。その髪は・・・セットしているの?」

 

忍野「これか? くせっ毛だよ。濡らしても乾いたら跳ねてくるんだよなぁ」

 

簪「似合ってると思うよ」

 

忍野「ありがとうね。そう言えば簪は髪を弄ったりしないのかい?」

 

簪「その・・・、私、髪短いから・・・。忍野くんは、髪が長い方が、好き・・・なの?」

 

忍野「(すき)? あぁ、大昔のスコップのことか」

 

簪「そんなボケは求めてない」

 

 

 

51:【委員長】

 

一夏「クラス代表って言っても何にもしてない気がするんだが気のせいか?」

 

忍野「そりゃそうだろ。今のところ議題になるような事はないし、細々とした事は俺が片付けているからなぁ」

 

一夏「そう言えばお前は代表補佐だったな」

 

忍野「現状だけで言えばお前の方が仕事をしてないぞ。そんなところで仕事をしていない一夏、この書類の提出、お願いしていいか?」

 

一夏「性格悪い頼み方だな!?」

 

 

 

52:【不良】

 

鈴「アタシの居た中学って途中から不良が居なくなったわね」

 

簪「そうなの? どこの学校でも居そう・・・だけど?」

 

鈴「それが二度に渡って地元の不良が全滅したのよ。何年か前に目つきの鋭い一撃女(ワンパンウーマン)が、アタシ達が中学一年の秋頃に茶髪の一撃男(ワンパンマン)が不良をやっつけちゃって、それ以降、不良になる奴が居なくなったらしいのよ」

 

簪「脱力系ヒーロー?」

 

鈴「ヒーローって言うより喧嘩屋じゃないかしら? どっちしても正体不明よ」

 

 

 

53:【階段】

 

一夏「はっきり言って使いたくない」

 

忍野「階段を昇っていったら上に女子が居てスカートの中が見そうになっちまうんだよなぁ」

 

一夏「実際に見てなくても女尊男卑の奴だったら問答無用で警察送り。実際学園でも何回かあったよな?」

 

忍野「あぁあれか。スカートの中を覗いただの何だのって騒いでた女。確かあの後、千冬が取り調べをしたら俺達を陥れようとしたって白状したぜ」

 

一夏「うわぁー」

 

忍野「千冬が直々に取り調べをしたから改心してるかもね」

 

 

 

54:【怪談】

 

一夏「どこの学校にも七不思議とか言うのがあるけど、全然怖くないな」

 

忍野「だろうな。俺もお前も七不思議そのものみたいな者だからなぁ、怪談もクソも無ぇよ」

 

一夏「今なら花子さんとも友達になれそうだよ」

 

忍野「止めとけ、フラグを立てるオチが見えているから」

 

 

 

55:【青春】

 

箒「姉さん、青春ってなんですか?」

 

束「漠然としたテーマだね~。青春、それは箒ちゃん達自身のことなの。十代の貴重な一日一日が、すべて青春というドラマのワンシーンなんだよ」

 

箒「すごい、姉さんがまともな事を言っている」

 

束「あるいはエロい妄想のことだよ」

 

箒「台無しだ!!」

 

 

 

56:【屋上】

 

簪「IS学園の屋上って、開放されているけど・・・使われない所が多い」

 

忍野「そりゃ四方を海に囲まれてるんだ。潮風の弱い屋上に利用が集中するのは避けられない」

 

簪「よく、屋上に行くの・・・?」

 

忍野「内緒話をする時はね。風音で周囲に声が響かないから盗聴機が使い物にならないし、人の少ない所なら盗み聞きされる心配がないからなぁ」

 

簪「考え方が、違う」

 

忍野「どうだろうねぇ?」

 

 

 

57:【授業】

 

千冬「一般科目は私が担当して、IS機学などは山田先生に任せているな」

 

ラウラ「教k・・・織斑先生。失礼ながらお尋ねしますが教員免許を持っておられるのですか?」

 

千冬「一応持っているぞ。私は高卒なんだが国家代表になった時に特例で教員採用試験を受けさせてもらってな、ギリギリ合格した」

 

ラウラ「では元々教師になられるおつもりだったのですか?」

 

千冬「ISが出来る前からな。意外に楽しいぞ? 授業中、寝ている生徒やふざけている男子生徒に出席簿を振るうのは」

 

ラウラ「その楽しみが間違っているのは私にも分かります」

 

 

 

58:【席替え】

 

忍野「クラスで席替えしても俺と一夏って同じ場所なんだよなぁ」

 

一夏「そうそう。それにテンションの落胆さが激しいよな」

 

忍野「席替えする前はスポーツ観戦してるかのような熱気があるのに、終わった後、離れた席の方はお通夜みたいな感じだからなぁ。席替えって何処でもあんな感じなのか?」

 

一夏「多分、そうなんじゃないか」

 

忍野「席替えって怖ぇな」

 

 

 

59:【教科書】

 

一夏「ISの教科書って毎年のようにページが増えるですよね」

 

山田「よく知ってますねっ。そうですよ、去年に比べて今年の教科書は20ページほど増えています。ISは発展途上でブラックボックスの技術ですから日々の研究で分かった事や生まれた物を教本に載せているので、これからも増えていきますよっ」

 

一夏「先生も大変そうですよね」

 

山田「はいっ。先生ですからちゃんと教えれるように増えたページの分は毎年勉強しています」

 

一夏「お疲れさまです」

 

 

 

60:【ゲームセンター】

 

鈴「中学の頃は週一くらいで行ってたかな」

 

ラウラ「げーむせんたーとは何だ?」

 

鈴「えッ!? 知らないの!?」

 

ラウラ「私はずっと軍属だから世間の事は疎い。日本における知識も副官に教えてもらったからな」

 

鈴「それなら知らなくても当然よね。って、ん? 副官に教えてもらった?」

 

ラウラ「うむ。優秀で頼りになる、私の部隊の副隊長を勤めている者だ。彼女のOTAKUと呼ばれる知識にはいつも助けられている。そうだ、げーむせんたーについてもーーー」

 

鈴「アタシが実演付きで教えてあげるからその人を頼るのは止めなさいッ!!」

 

 

 

61:【バレンタインデー】

 

弾「誰か俺にチョコをくれぇぇぇ!!!」

 

忍野「何だよいきなり、ビックリするなぁ。突然、血の涙を流しながら何を叫んでるの?」

 

弾「だって一夏が山盛りのチョコを貰っているのに、俺には義理チョコ一つ無いんだぞ!? この気持ちが分かるか!?」

 

忍野「ごめん、どんな気持ちなのか分かんない」

 

弾「勝ち組かよチクショーッ!!」

 

忍野「何に勝っちゃったのか知らないけど、お前にも春が来ると思うぞ? 具体的には今年くらいに」

 

 

 

62:【移動教室】

 

一夏「入学当初はひどかった」

 

シャルロット「別段、一夏が苦労するような話じゃないと思うけど?」

 

一夏「それが移動教室で廊下に出るたびに、どこかの武家屋敷のように他のクラスに追い回されたんだ。しかもこっちが遅刻するのもお構いなし。そのせいで何回出席簿アタックを食らったことか」

 

シャルロット「アハハハ、ご愁傷様」

 

一夏「忍野の奴はちゃっかりクラスメートに紛れて移動してるし。散々だったよ」

 

 

 

63:【黒板】

 

鈴「黒板、黒板って言ってるけど実際には深緑色よね。何で“黒”って言うかしら?」

 

シャルロット「でも黒板って今でこそ技術の進歩で深緑色になってるけど、昔は本当に黒かったんだよ」

 

鈴「ええッ!?」

 

シャルロット「それに黒板は海外から伝えられた物で、当時はブラックボードって呼ばれていたんだよ。それが歴史の流れの中で直訳の黒板って呼ばれるようになったの」

 

鈴「随分と詳しいわね。何でそんなに詳しいのよ?」

 

シャルロット「黒板を始めて見た時に気になっちゃって、それで調べたの」

 

鈴「優等生ね」

 

 

 

64:【将来の夢】

 

束「箒ちゃんはさ、将来の夢とかあるの?」

 

箒「そうですね。せっかく姉さんが紅椿をくれたので国家代表を目指そうかと思ってますが・・・」

 

束「うん良いと思うよ。夢なんか見ないほうがいいけどね」

 

箒「それでも大人ですか。嘘でもいいから、夢の見れることを言ってください」

 

束「努力すれば夢はきっと叶う!」

 

箒「浅っ!」

 

束「努力した夢は踏みにじられる!」

 

箒「最悪な台詞ですね!?」

 

束「私は、そうだったから・・・」

 

箒「重ーいっ!」

 

 

 

65:【ラブレター】

 

弾「爆発しろよ!!」

 

鈴「うるさいわね。何か嫌な思い出でもあるの?」

 

弾「あるともさ! 中学の頃、月に一度は必ず一夏宛のラブレターの受け渡しを頼まれたんだぞ!? 自分で一夏に渡せば良いのによ、間に挟まれる俺の気持ちにもなれってんだ!! だから全部断ってやったぜザマァー見ろ!!」

 

鈴「後でジュースを奢るわ」

 

 

 

66:【修学旅行】

 

一夏「広島と大阪」

 

箒「広島と京都」

 

一夏「日本の中学校なら広島が必ず入るよな」

 

箒「戦争の悲惨さを忘れないようにと原爆ドームを見学しに行くのが通例だからな」

 

一夏「そう言えば、千冬姉達が修学旅行に行った時に束さんが原爆ドームに落書きをしようとしたって話、聞いた?」

 

箒「初耳だ。何をやってるのだ姉さんは」

 

 

 

67:【宿題】

 

束「宿題なんて滅びればいいんだっ!!」

 

一夏「一体どうしたんですかっ、藪から棒に!?」

 

束「いっくんは小学生の時に夏休みの宿題をいつやった?」

 

一夏「え? それは毎日少しずつやってましたけど?」

 

束「私はあんな簡単な宿題に時間を取られるの嫌だったから、貰ったその日の休憩時間に全部やって提出したの。そしたらーーー」

 

一夏「そしたら?」

 

束「先生とお母さんからムチャクチャ怒られて、もう一度宿題を出された~」

 

一夏「自業自得じゃないでしょうか?」

 

 

 

68:【お弁当】

 

箒「弁当か。学園には食堂があるから毎日は作らないな。ラウラは弁当を作るのか?」

 

ラウラ「弁当以前に、私は料理自体があまり得意とは言えないな。軍では戦時食のような物しか作った事がない」

 

箒「では忍野に弁当を作ってみればどうだ? 確か、男は女子の手料理を貰えると嬉しいらしいぞ?」

 

ラウラ「チャレンジしてみるか」

 

 

 

69:【受験勉強】

 

一夏「IS学園の受験ってどんな感じなんですか?」

 

山田「まずIS適性検査があって、そこでC+以上の数値が出ないと以降の試験を受けれないんですっ。その後は筆記と面接、そしてISの模擬戦という流れになります」

 

一夏「因みにどの位、人数が絞られるんですか?」

 

山田「そうですねっ。年によって違いますが、適性検査で平均六割近くの受験生が落とされて、筆記と面接で約千人までに減って、模擬戦で入学者が決定しますっ」

 

一夏「狭き門、ですね」

 

山田「倍率1万は伊達じゃありません」

 

 

 

70:【推薦入試】

 

一夏「では推薦はどうなんですか?」

 

山田「IS学園の推薦枠は整備科のみになります。そのためで受験生さんは基本、ISの技術系の進路を目指している方なので適性検査と模擬戦は免除されていますね。その代わり論文の提出があります」

 

一夏「論文って、さすが」

 

山田「この論文提出と面接で政府のコネや、親の七光りで推薦入学しようとした受験生さんはほぼ落とされます。さらに一年生の間は他の生徒さんと同じく授業を受けるので、実際に二年生からの整備科に上がってくるのは半数くらいに減ってしまいます」

 

一夏「それって大丈夫なんですか?」

 

山田「問題ありませんよ。やりたい事を目指すのは良いことですし、何より生徒さんが自分で決めたことですから先生が強要するわけにはいきませんよ」

 

 

 

71:【合唱会】

 

弾「合唱会って女子はノリノリだよな?」

 

一夏「先生~! 男子が声を出してませ~ん!(棒)」

 

弾「あるある!」

 

一夏「男子ちゃんとやってよ!(棒)」

 

弾「あるある!」

 

一夏「みんな声出し過ぎ! 男子の声が引き立たないでしょ!(棒)」

 

弾「ねぇよ! 何だよそれ!?」

 

一夏「・・・もしIS学園で合唱会があった待ち受けているかもしれない末路」

 

 

 

72:【肝試し】

 

八九寺「これ私が話してもいいんですかっ?」

 

箒「肝を試す以前に、お前は幽霊だからな。むしろ試すための障害扱いされる側だな」

 

八九寺「こんな可愛い幽霊で肝試しなんて、罰当たりも程がありますっ! 団子抗議しますっ!」

 

箒「餅米を練って作る日本の伝統菓子に抗議するな。それを言うなら断固抗議だ」

 

八九寺「失礼、噛みました」

 

箒「違う、わざとだ」

 

八九寺「噛みまみた」

 

箒「わざとじゃない!?」

 

八九寺「飲み込んだ」

 

箒「喉に詰まるだろ!?」

 

 

 

73:【休み時間】

 

箒「忍野の事が気になるなら休み時間に来ればいいのではないか?」

 

簪「そっ、そんな事・・・出来ない。声をかけて、教室中の目線が向くのが・・・怖い」

 

箒「そこまで怖いか?」

 

簪「なら、上級生のクラスに行って、先輩に声をかけてみたら分かる・・・よ?」

 

箒「・・・確かに怖い」

 

 

 

74:【出席番号】

 

箒「そう言えば山田先生は出席番号で私達を呼びませんよね?」

 

山田「それは、ちゃんと名前があるのに番号呼びするなんて生徒さんに失礼だと思いますしーーー」

 

箒「いい先生だ」

 

山田「ーーー教育委員会から怒られたくないですから」

 

箒「小心者だった」

 

 

 

75:【文化祭】

 

忍野「文化祭ねぇ。面倒くさいなぁ」

 

楯無「あら? せっかくの“祭”なんだから楽しまないと♪」

 

忍野「生憎こっちは()()と暇じゃねぇんでね」

 

楯無「・・・良からぬ事を考えているなら、容赦しないわよ?」

 

忍野「ハッハー、人の事を言えるんですかぁ、会長さんよぉ?」

 

 

 

76:【臨海学校】

 

忍野「この話もスルーだな」

 

一夏「語る程じゃないな」

 

 

 

77:【転入生】

 

一夏「考えたら転入生って普通はそんなに居ないよな?」

 

箒「お前と忍野がIS学園に入ったのを知ってから手続きをしたから入学に間に合わなかったのだろう」

 

一夏「鈴は早かったけど、シャルロットとラウラは遅かったよな。やっぱり国が近いとすぐに手続きが終わるんだな」

 

箒「そんな訳無いだろ。シャルロットは、まあ男装とかしていたからだし、ラウラも軍人だからすぐに国を離れられなかったのだと思うぞ?」

 

一夏「分かってるって。冗談のつもりだったんだよ」

 

 

 

78:【学問】

 

鈴「中学の頃はよく学校の勉強って役に立つのか考えたけど、実際のところ偏りがあるわね」

 

弾「使いどころあんのか!? 俺は全然ないぞ?」

 

鈴「それはあんたがバカだからでしょ。でも全部じゃないわよ? 多分、半分も活用してないわ」

 

弾「そう思うと全部が全部、“義務”で学ばないといけないのか分からなくなってきたぞ」

 

鈴「どっちにしても、高校生(アタシ達)には過ぎた事だから関係ないけどね」

 

 

 

 

79:【読書】

 

マヨイ「読書と言ったらこの人! 忍野さんお願いするんじゃよ!」

 

忍野「何で俺なんだ?」

 

マヨイ「ま~たまた、忍野さんの趣味が読書なのは調べがついてるんじゃよ~。さあ、四の五の言わずにナイス発言お願いするんじゃよ!」

 

忍野「小説は覚えなくていい、そうすれば何度でも楽しめる」

 

マヨイ「つまり馬鹿になれ?」

 

忍野「長生きすると馬鹿な方が楽なんだよ」

 

 

 

80:【衣替え】

 

鈴「衣替えって言っても千冬さんは変わり映えしないわよね。年中同じ様な服装だし」

 

忍野「スーツかジャージかの二択だからなぁ。色気の欠片もねぇ」

 

鈴「やっぱり社会人になったらオシャレをする機会ってないのかしら?」

 

忍野「さぁね。でも俺は冬でも太ももを露出してる女の子の正気を疑うよ」

 

鈴「あれはファッションだから良いの」

 

 

 

81:【体育館】

 

のほほんさん「いち~、に~い、さん~、」

 

簪「何を、数えてるの?」

 

のほほんさん「え~っとね~、天井に引っかかってるボールの数を数えてるの~」

 

簪「どこの学校も、よくバレーボールが・・・引っかかってるよね」

 

のほほんさん「違うよ~? バスケットボールだよ~?」

 

簪「この学校に・・・百合のエロ奴隷って居たっけ?」

 

 

 

82:【気象警報】

 

鈴「気象警報・・・台風・・・にへへ・・・」

 

忍野「何だよ?」

 

鈴「台風ってテンション上がらない!?」

 

忍野「上がんねぇよ、腹の底がざわついて不愉快だ」

 

鈴「あの空気中のビリビリとした感じがたまらないのに! こうゾクゾクすると言うか!」

 

忍野「理解不能だ」

 

鈴「忍野! 模擬戦すんわよっ!!」

 

忍野「お断りだ」

 

 

 

83:【掃除当番】

 

一夏「掃除か。最近はやってないな」

 

鈴「アンタまさかまだ忍野と当番制で掃除してたの」

 

一夏「だってそうだろ? 頑張って掃除しても数日で元通りにされたら心が折れるって」

 

鈴「でも忍野に任せっきりにすればいいじゃない」

 

一夏「あいつだってリスクを背負ってるぞ? もしバレたら殺されるだろうし」

 

鈴「そうよね。千冬さんの部屋に入ったってバレたら消されるわね」

 

一夏「あそこまで散らかす千冬姉が悪い気がするけどな」

 

 

 

84:【五月病】

 

忍野「憂鬱だ、死にてぇ」

 

シャルロット「うわっ!? 絵に描いたかのようにドヨーンってしてるけどどうしたの?」

 

忍野「それが湿気で保管していた古書が何冊もカビていてよぉ、読めなくなってたんだ」

 

シャルロット「たったそれだけの事で死にたがってるの!?」

 

忍野「それだけって言うけどなぁ、本が見付からないとかじゃなくて読めないんだぞ? 俺にとっては砂漠でオアシスを見つけたが柵で囲われているようなもんだ」

 

シャルロット「ちょっと僕にはその例えになる感性が分からないよ」

 

 

 

85:【球技大会】

 

忍野「なぁ、球技大会って何をやるんだ?」

 

箒「学校によって違うが基本はサッカー、野球、ドッチボールの三つだな。クラス対抗だったりチーム戦だったりと方式も多種ある」

 

忍野「へぇ~。ついでにもう一つ訊いていいか?」

 

箒「何を訊きたいのだ?」

 

忍野「ドッチボールって何?」

 

箒「お前の知識はどうなっているのだ!?」

 

 

 

86:【恋愛】

 

忍「我が主様に話す資格はない!!」

 

一夏「何でだ?」

 

 

 

87:【職員室】

 

簪「職員室って独特の威圧感があるよね」

 

忍野「だな。呼び出されても絶対ぇ行かねぇな」

 

簪「忍野くんって、真面目じゃないよね・・・」

 

 

 

88:【朝礼】

 

忍野「朝礼って地方の学校じゃやってねぇんだよなぁ」

 

セシリア「それは忍野さんの母校の話ですの?」

 

忍野「いいや、知ってるだけだよ。第一、俺には母校なんてもんはないし」

 

セシリア「・・・学校に通っていないですの?」

 

 

 

89:【学級会】

 

箒「ではこれより“織斑先生と忍野の暴挙を阻止する方法”の議論を始めます。意見のある者は挙手を」

 

ラウラ「そもそもあの二人を止めれるのか?」

 

箒「一言で終わってしまった」

 

 

 

90:【ボランティア】

 

箒「小学校の頃の一夏は千冬さんとよくボランティア活動に参加してたな」

 

シャルロット「一夏って好きそうだよね。人助けとかそう言うの」

 

箒「それもあったのだろうが、“普段近所の人にお世話になっているからその恩返し”と言っていた」

 

シャルロット「あっ、そんか・・・。一夏って・・・」

 

箒「うん。だから千冬さんも張り切っていた」

 

シャルロット「織斑先生って何でも出来そうだから鬼に金棒だね」

 

 

 

91:【持ち物検査】

 

千冬「今持ってる物を全部出せ」

 

忍野「なんだよ藪から棒に。元気いいなぁ、何かいいことでもあったか?」

 

千冬「イタズラ道具を没収すると言っているんだ」

 

忍野「さらばだ!!」

 

千冬「このッ! 逃げるな!!」

 

 

 

92:【テスト勉強】

 

忍野「テスト勉強かぁ。そういや一夏は受験の前は夜遅くまで勉強してたな」

 

ラウラ「私は前日に教科書とノートを読み直すだけだ。嫁は勉強をしないのか?」

 

忍野「ん~、これと言った事をしなくても赤点は回避出来るからねぇ。姿勢を正し改まっては勉強してないな」

 

ラウラ「それを羨ましいと思う者も居るだろうに。しかしそれなら勉強して高点数を狙わないのか?」

 

忍野「まぁそこは、餌は狩人を煽ってはいけないってね」

 

ラウラ「よく分からないぞ」

 

忍野「分からないようにしてるの」

 

 

 

93:【廊下】

 

鈴「廊下は走ってはいけないって言うけど、千冬さんと忍野ってガッツリ破ってるわよね」

 

ラウラ「二日に一回は走っている姿を見かけるな。初めて見た時は何かのトレーニングかと思った程だ」

 

鈴「最近じゃ壁や天井を走ってバレルロールをするぼどよ」

 

ラウラ「一体どんな身体能力をしているのだろうか?」

 

鈴「考えるだけ無駄よ」

 

 

 

94:【旅行】

 

千冬「そう言えば、一夏は中学の時に何度か旅行に行っていたな」

 

忍野「ん? あぁそうだな。えっと、五反田の兄妹って言えばわかるか? まぁとにかく、友人と日帰り旅行とかしてたぜ」

 

千冬「その旅費をどこから捻出していたんだ? 確かに一夏に実質的な一人暮らしをさせていたから多めに生活費を渡してはいたが、旅行が何度も出来るほどの余裕はないと思う。ましてやお前が住み着いてからはさらに余裕は無くなったはずだぞ」

 

忍野「それは至極簡単な理由だよ。千冬には家賃しか払ってなかっただろ? だから日々の生活費と迷惑料として毎月10万渡してたんだ。それを使って旅行に行っていたんだ」

 

千冬「10まッ!? 中学生に渡す額じゃないぞ!? 大体、お前はどこからその金を用意した!?

 

忍野「普通に貯金を切り崩してだが。まだ貯金は8桁くらいはあるぞ?」

 

千冬「・・・その金があればドイツから帰ってこれたんじゃないのか?」

 

忍野「田舎の地方銀行に預けた金をドイツで引き出せたなら、帰国していただろうね」

 

 

95:【提示板】

 

一夏「廊下に設置された提示板の張り紙見ると、IS学園ってイベント多いなと思うよな?」

 

シャルロット「確かにそうだよね。クラス対抗戦にタッグ・トーナメントと臨海学校、夏休み後には文化祭にキャノンボール・ファスト。普通の学校じゃあり得ない数だよ」

 

一夏「でも今のところ、どれ一つとして成功してないんだよなあ」

 

シャルロット「そのうちテロリストが攻めて来たりして」

 

一夏「あれ、おかしいな? 何か本当に起こりそうな気がする」

 

 

 

96:【買い食い】

 

鈴「中学時代はよく買い食とかしてたわね」

 

箒「部活帰りだとどうしても・・・な? 商店街を通した時のあの香りは最早暴力だ」

 

鈴「そうそう。それで気付いた時にはもう買っちゃったりして、ダメだダメだと思いつつ止められないのよ」

 

箒「そしてしっかりと(胸が)育ってしまう・・・」

 

鈴「ええ。(腹が)育っちゃうのよね」

 

箒「何度服を買い替えた事か」

 

鈴「・・・ねえ何か会話が噛み合ってない気がするんだけど?」

 

 

 

97:【整備室】

 

一夏「整備室ってどんな設備があるんだ?」

 

セシリア「どんな、と言われましても。ISの組み立てからオバーホールが出来る程の設備がある部屋から、検査機器と装甲用ワックスしか置いていない質素な部屋もありますのでどの部屋を参考にお教えすれば良いのか・・・。それよりも一夏さんは機体の整備はご自分でなさらないのですか?」

 

一夏「忍野に任せっきり。ガンダムは束さんのお手製だから一般的な方法じゃ点検すらままならないし、何より俺はガンダムの整備方法を教えてもらってない」

 

セシリア「そう言えば篠ノ之博士作の機体でしたわね」

 

一夏「セシリアは自分で整備するのか?」

 

セシリア「整備の心得がないので出来ません。しかし機体の微調整は同じ祖国(イギリス)の方の力を借りて時々行ってますわ」

 

一夏「やっぱり他国の子に自国の最新鋭機の中身を知られたらマズいからなあ」

 

セシリア「心苦しくもありますが、機密情報がありますのでこればかりどうしようにも・・・」

 

一夏「忍野は誰が居ても気にせずに作業してるらしいけど?」

 

セシリア「機密は何処へ行きましたのっ!?」

 

 

 

98:【告白】

 

忍野「告白ねぇ。女の子達なら嬉し恥ずかし、恋愛の告白を想像するんだろうけど俺達の場合は、なぁ?」

 

一夏「俺にふるなよ!? まあ確かに千冬姉に秘密にしていて心苦しくはあるけど、怪異なんて理解してもらえるとは到底思えないし。この告白はまだ先になるな」

 

忍野「その辺のタイミングはお前に任せるよ。互いに怪異を抱えている者として、説明の協力はしてやるぜ」

 

一夏「・・・悪いな」

 

忍野「気にするな」

 

 

 

99:【卒業式】

 

一夏「これで最後か。長かったけどこれで終わりか~」

 

忍野「感傷に浸っているところ悪いが、そこの数字よく見てみな」

 

一夏「あれか、ってよく見るたらこれ99話じゃん! 100話目はどこにやった!?」

 

忍野「俺に訊くな作者に訊け。大方、『暴物語』が完結していないのに合わせて未完にしたってところだろうなぁ」

 

一夏「つまりどう言う事?」

 

忍野「願掛け、ってやつかな?」

 

一夏「そうなんだ。ところで、この百物語はどうやって締めるんだ?」

 

忍野「俺達の闘いはこれからだ!(棒)」

 

一夏「ありきたりな台詞だ」

 

 

忍野・一夏「99話の間、お付き合いありがとうございました」

 

 




長々と毒にも薬にもならない話を読んでいただき、ありがとうございます。

本編は自分が考えている結末に向かえるように頑張っていきたいと思ってますので、もし宜しければこれからも暴物語を読んでくれると嬉しいです。

ご意見、ご感想をお待ちしております。


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暴物語 本編
プロローグ


『インフィニットストラトス』

 

宇宙進出を目的に天災 篠ノ之 束によって開発されたパワードスーツ。

空中を自由に飛翔し何もない所から道具をとりだし操縦士の身を守る見えない盾。

これだけ聞けばさぞ宇宙進出に活躍してるように思われるだろう。

だが実際は違う。

『白騎士事件』と呼ばれている事件でISは軍事兵器として世界から認識された。

単独で飛行し武器弾薬を隠し持ちあらゆる攻撃から操縦士を守るシールド。

どうだろう、性能の言い方を変えただけでどう考えても宇宙進出に使われてるようには聞こえなくなってしまった。

まぁとにかくそれまでの兵器ではISには対抗できないとなった。

しかしISは『女性にしか使えない』『ISのコアは篠ノ之 束にしか作れない』という問題点があった。

なにやってるんだよ束さん。

これにより世界は女性を優遇する世の中に、 篠ノ之 束がコアの製造を止めたためISは一応世界競技となった。

一応と言ったのはこれが表向きだからである。

各国で軍事兵器として研究と開発が行われていると噂され事実ニュースで報道されたりする。

結論、男には住みにくく各国は抑止力という名の最強兵器の開発にいそしんでます。

 

 

 

 

 

 

『怪異』

 

いわいる幽霊や妖怪、化物の総称である。

そこに存在するがそこにはいない。

何処にでもいるけれど何処にもいない。

生物とは違い世界と繋がってる。

世界の舞台裏。人間という表の裏。

生きていくうえで見る必要も目を背ける必要もない闇。

科学だけでは光をあてることが出来ない。

幽霊や妖怪に出遭ってしまう人間が後を絶たないように、照らせぬ闇が無くとも闇が無くなることはない。

 

 

 さて、長々と喋っていても物語は始まらない。そろそろ俺達、織斑一夏と忍野仁が繰り広げるISと怪異が、科学とオカルトが交錯する物語を始めようか。

 

 

 

 

 

 

 

001

 

 

 

 

ここはIS学園の教室。

入学式が終わりホームルームが始まろうかとしていた。

 

「全員揃ってますねー。それじゃあSHRはじめますよー」

 

黒板の前で副担任の山田真耶先生が若干涙目の笑みをうかべて立ってた。小柄な体にずり落ちそうな眼鏡と大 きめのサイズの服を着たこの女性は本当に 自分よりも年上なのかと思う。同年代だと 言われても信じてしまいそうな容姿だった。

 

「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」

「・・・・・・」

 

誰からも反応がない。

 

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと出席番号順でまずは、・・・

 

自己紹介がはじまったがみんなろくに聞かずに教室のある一点を見ていた

 

 

 

「(これは・・・・想像以上にキツい・・・)」

「(・・・落ち着かねー)」

 

二人の男子生徒がこれ以上ないくらい緊張していた。

それもそのはずクラスが二人を除いて全員女子なうえに何故か席が最前列の中央のためどうなるかと言えば

 

「「「ーーーーーーーーーーーー」」」

 

視線の集中砲火である

皆さん先生の事も気にかけてください。みんな無反応だから涙目ですよ。あ、今鼻すすってた。

 

 

 

さて二人の男子生徒は

 

「・・・忍野、視線がツラいがどうにかならない?」ヒソヒソ

「・・・無理だろうな、てか俺じゃなく忍と話せよ、俺は現実逃避で忙しいんだ」ヒソヒソ

「忍は寝てるよ、それより現実逃避するな! ちゃんと現実を見「もう無理、寝る」ごめん謝るから寝ないでください本当マジで止めて俺を一人にしないで」ヒソヒソ

 

目の前なのに気づいていなかった。

 

「・・・・・ックスン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~一夏サイド~

 

なんとか忍野が寝るのを止めた!

この状況で仲間が全員寝たら胃に穴が開きそうだ。まったく、忍は仕方がないにしても忍野は勘弁してくれよ。

 

だけど問題ない!忍野は起こしたから!!同性がいるから心細くない!と思ってちらりと隣に目をやると

 

「・・・zzz」

「(裏切り者オオオーーーー!!!)」

 

寝ていました。

マジで俺一人?忍野でも忍でもいいから起きてくれ!

と心の中で叫びながら窓の方を向くと視界に幼なじみの篠ノ乃箒が映った。映ったが・・・

何かすっげー睨んでるんだけど嫌われるような事したっけ?

 

「・・・くん。織斑一夏くんっ」

「は、はいっ!?」

 

先生に呼ばれたので返事をしたが突然だったのでおもわず声が裏返ってしまった。

いつの間にか自己紹介の順番がまわってきたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

~忍野サイド~

 

「・・・くん。織斑一夏くんっ」

「は、はい!?」

 

何やら一夏を呼ぶ声と笑いを誘う返事で目が覚めた。普通ならからかってやるんだが今は視線がつらいから無理だな。

 

ん~、このまま二度寝をしよう。

頑張れ一夏!君ならできる!俺の代わりに視線にさらされてくれ!

 

 

 

 

 

 

 

「「「「キャーーーーー!!!!」」」」

 

何の前触れもなく突如耳が爆撃された。

うるさいうるさいうるさい!

耳が痛い!マジ痛い!君たち何でそんなに元気いいの!?

 

「千冬様!? 本物の千冬様なの!」「夢? 夢じゃないよね!? もし、夢ならこのまま永眠してもいい!!」「ああ、千冬様!私もぶってください!」 「願わくばその御御足でふんずけてくださ い!」 「私を調教してぇー!!」

 

なんだか変態が混じってない?!大丈夫なのこの子達?!

 

「毎年毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるな。それとも私のクラスに集中させているのか?」

 

あれ?どっかで聞いたような声がぁ?

 

「きゃーっ!厳しく調教して下さい!でも たまには優しくして下さい!」「千冬様の調教ならウェルカムで すーっ!!」

 

ダメだ。変態のせいで考えがまとまらない。

この教室変態が何割なのか。

ん?千冬? 千冬って確か・・・

 

 

 

 

 

~一夏サイド~

 

「きゃーっ!厳しく調教して下さい!でも たまには優しくして下さい!」「千冬様の調教ならウェルカムで すーっ!!」

 

ヤバい、心折れそう。変態じみた思考の持ち主が多すぎる。

 

「まったく、いつまで立ってるつもりだ? 早く着席しろ」

 

パァン! また叩かれた。今度は軽目だが 痛いもんは痛い。

なんだか自己紹介をカットされたような気がしたし。もしかして俺叩かれ損?

でもなんで俺の実姉がここに?

 

「私が今年諸君の担任となる織斑千冬だ。 私の仕事は貴様等全員にこの半年でISのことを理解してもらい、使い物になるよう にすることだ。 判ったか!?判ったのなら返事をしろ、判らなくとも返事をしろ、はいとYES以外は受け付けない!」

 

どこの暴君だよ!? 忍でももう少しまともな言い方・・・しないな。どっちも似たようなもんだ。

 

「「「「キャーーーーー!!!!」」」」

 

みんなどれだけ声だしてるの?!窓が震えるよ?!忍野もよく寝ていられるな~。

あ、千冬姉が忍野の前に立った。

 

「ところでいつまで狸寝入りをしている?そこの男子生徒!」

 

パァン!

 

忍野も叩かれてる。て言うか狸寝入り?!

起きてたのかよ?!酷いだろ!

お、起き上がった。

 

「痛ってぇなぁ!このいきおくれ!」

 

バカ!何を言・・

 

「殺されたいか!!!」

 

ゴスン!!!

 

ゴスンって!?  

あー今度は出席簿じゃなく拳骨だよ。それになんか煙出てない?気のせいだろうか忍野の頭へこんでない?

まぁ死なないだろからいいけど。

 

 

皆さんはじめまして。

織斑一夏、高校生、元吸血鬼の人間です。

 

 

 

 

 

~忍野サイド~

 

冗談抜きで頭割れる!!少しは手加減してくれよ!普通なら頭蓋骨陥没だぞ!

 

「さっさと自己紹介をしろ」

 

どこの暴君だよこのいき「ナニヲカンガエテル」心を読むな。

 

さて、俺も挨拶しないとな。

 

「えーっと忍野仁 趣味は読書 なんかIS動かしちゃいました 以上」

 

どぉもーはじめまして

忍野仁、専門家、半妖でーす。




キャラ設定と機体設定だします
思いついたら


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キャラ設定

キャラ設定

 

織斑一夏:15歳

 

元吸血鬼

 

姉が世界最強という事以外はごく普通の中学生だった。

 

第二回モンド・グロッソの開催中に千冬の大会棄権を目論む者に誘拐された。

しかし政府が口止めをしたため何も知らない千冬は大会に出場、優勝。これに激情した犯人は一夏を射殺しその場から逃亡。

だが怒っていてろくに狙ってない犯人の弾丸は一夏の心臓をはずれたため重症ではあったが生きていた。

そしてその場所に吸血鬼ハンターから逃れ逃げ込んできた瀕死の吸血鬼

キスショト・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードと出会い自分の身を犠牲にして助けようとして、助けられて、悪夢を見せられ、悪夢を見せて。誘拐からはじまった地獄のような二週間を経て専門家、忍野仁と共に現地の警察に保護され、千冬のもとへ戻った。

 

その後吸血鬼の絞りかす、忍野忍と和解し今は良好な関係を築いてる。

忍野にたいしては恩を感じているが今は悪友のような関係のためそれほど深く考えないようにしてる。

 

今は自分の体質を姉に話すべきか悩んでいる。

 

 

能力

 

吸血鬼の後遺症により普通の人間より治癒速度が早いがそれ以外は基本的に人間。

ただし、忍に吸血をさせた直後はある程度人外のステータスになる。

 

剣道をやっていたがどこまでいっても千冬の模倣でしかなく誘拐事件で剣術が意味をなさないことを痛感し剣を捨て銃器の道へ。

だが近接銃術ばかり練習してたため狙撃はあまり得意ではない。

 

家事ができない千冬に代わって小さい頃よりやっていたため掃除・洗濯・炊事はその辺の主婦に負けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忍野 仁(おしの じん):年齢不明(外見年齢18歳前後)

 

容姿は《BLACK CAT》のトレイン・ハートネット

 

半妖

 

吸血鬼となっていた一夏と出会った怪異の専門家。

 

 

何百年か前に東洋最強の妖怪、九尾の狐の封印の器にされた。そのあと神社に封印されていたがとある専門家によって解放、人としての知識と専門家としての知識を教えられ専門家になった。

 

師と仰いだ専門家と共に旅行に行ったが修行して来いと現地に置いていかれた。

その結果、一夏と出会う。

 

日本の大きな祓い人の家系出身らしいが既に家系没落、文献も残ってないため本人以外、いつ器にされ何歳で封印されたか全く分からない。

 

自分が半妖であるため吸血鬼である自分に絶望していた一夏におもうところがあり力を貸した。その後一夏と共に帰国、現在は織斑家に居候中である。師のもとへはしばらく帰るつもりはない。

 

封印から解放された時、知識に関しては赤子同然だったため現代の常識もに馴染めた。

本人は気づいてないが言っている事とやっている事がよく矛盾するため周りの人が首を傾げている。具体的には面倒事が嫌いなのに面倒事をおこす。

 

一夏ははじめて出来た友達と思ってる。

忍とも友達みたいな関係を築いてる。

千冬はからかいやすい相手と見てる。

 

今は師をどうボコボコにしようか考えてる。

 

 

 

性格

 

面倒くさがりやでやる気がない。いつもふざけた感じで何を考えてるかわからない。戦闘になると狂暴化する。

 

 

外見

 

背丈は一夏より少し高い。乱雑に伸ばされた濃茶の髪で金色に輝く瞳の猫目。ただし髪と瞳の色は生来のものではない。

 

 

能力

 

師が良かったため専門家としての能力はかなり高い。九尾の狐の能力によって基本ステータスが人外。更に妖術の類も使える。しかし普段は抑えてるのでアスリートレベル。

性格的な問題で近接戦闘を得意とする。

 

家事能力は一夏に及ばずだが低くはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

忍野 忍(おしの しのぶ):598歳(基本外見年齢10歳前後)

 

吸血鬼の絞りかす

 

伝説の吸血鬼。怪異殺しの王。

 

熱血にして鉄血にして冷血の吸血鬼。

キスショト・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード・・・のなれの果て。

 

自殺志願でさ迷っていたところを吸血鬼ハンターに襲われ、重症を負い死ぬのが怖くなり逃げ延びて一夏と出会った。自分が瀕死なのに吸血鬼である自分を助けようとする一夏を助けようと吸血鬼にし、絶望した。

そして一夏と対立し闘って殺し合い、地獄の中で吸血鬼としての能力を失った。

 

その後しばらくは一夏を恨み、憎んだが互いに相手を許せないが歩み寄ってはいけない訳ではないとなり和解した。それからは一夏の影の中に住み一夏を主として従ってる。

 

『忍野忍』という名によって存在を縛ることにより吸血鬼の絞りかすである彼女が怪異として生きていられる。ちなみに名付け親は忍野仁である。

 

元は絶世の美女の外見だったが吸血鬼性を失い可愛い幼女な見た目になりそれにつられて言動や思考が馬鹿っぽくなったが本人は気づいてない。

ミスタードーナツが大好き。

忍野にたいしてはある程度の友好を築いてる。

 

 

能力

 

吸血鬼としてのスキルをほとんど失っており、そのうえ定期的に一夏から吸血をしないと消滅しまう。

しかし一夏同様に吸血直後はある程度力を取り戻す。吸血量により外見の操作が可能であるが変えるかどうかは本人の気分次第。

 

物質創造能力がありその時の力の範囲内なら何でも創造出来るがISは全盛期でも造れるかわからない。

彼女固有の能力ではないが大太刀を模した、切り傷一つで怪異を退治してしまう対怪異用最終兵器『妖刀 心渡(こころわたり)』を所有してる。

 

IS戦闘に関しては一夏のサポートAIの代わりとして共に戦っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

織斑千冬:24歳

 

人間

 

ISの世界大会で二連続優勝をした表の世界最強の女性

 

一夏の実姉で篠ノ乃束の友人。

 

大会中に一夏が誘拐された事を知らせてもらえず試合に参加、大会終了後にドイツ軍経由ではじめて事件を知った。

 

現場の血液が一夏の物であると確認されると結果的に弟より名誉を選んだ自分に嘆いた。

その後ドイツ軍で事件を知らせてくれた恩返しのためIS指導をしていたが現代の警察が一夏を保護したと聞き急いで駆けつけ泣いて謝罪をした。

 

怪異についてはなにも知らない。

 

一夏には二週間の間に何があったのか、それを教えてもらえずさらに剣道を辞め銃術を学びはじめた事に寂しさを感じている。

忍野には感謝してるが詳しい事は何も教えてくれないのでむかつてる。しかし憎からず思ってる。

忍は家の近所の子だと思ってる。

 

 

能力

 

人間ではあるが完全なオーバースペックな身体能力を持ち、車くらいなら素手で廃車にしかねない。

しかし掃除・洗濯・炊事、すべての家事がダメでその事をからかわれると怒る。

 

 

 

 

 

 

 

 

篠ノ乃束:24歳

 

人間

 

ISの生みの親。

 

天才にして天災にしてコミ症になったの科学者。

 

科学者としての夢は純粋でただ宇宙へ行きたくてISを開発し発表した。

しかし世界はそれを笑いやっとのことで認めてもらえたら兵器としか使ってもらえなかった。

それから束は狂いコミ症のマッドサイエンティストへと変わった。

自分の親しい者しか認識せず、それ以外の人間は有象無象として個人の識別をしない変わり者。

世界を引っ掻き回す異常者。

それでも狂いきれておらず親しい者とだけでいいから宇宙を飛びだいと願っている。

 

日本に帰国した一夏と忍野のもとに現れ一夏に助けに行けなかった事を謝罪した。その後二人がISを動かした事を知ると再び現れ専用機の開発を申し出た。

 

怪異を知らずオカルトを否定するが怪異に関わっている。

 

仁と忍の存在自体に違和感を感じているが個人として会話が成立する程度には信頼してる。

 

 

能力

 

その辺コンピューターがガラクタになるような頭脳を持ち千冬には劣るがオーバースペックな身体能力をもつ。

家事能力は千冬と違いやらないだけで出来ないわけではない。

 

 

 

 




どうもはじめまして戦争中毒です。
皆さんいかがでしょうか?
盛り過ぎですかね?
ご意見、感想お待ちしております。


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機体設定

織斑一夏専用機

 

『ケルディムガンダム』

第三世代型番外機の2号機

待機状態は深緑色の腕時計

 

深緑色をメインとした装甲で全身を包む、生身の露出部分が一切ない『全身装甲』

額のV字型アンテナが特徴的な、純近接武器を装備しない完全な射撃戦型IS。

GN粒子は緑色。

後付装備、非固定装備は無し。

『GNドライヴ』という動力炉により従来のISよりも高い基本性能をもつ。

製造者は篠ノ乃束。

一夏が攻撃と機体操作を、忍がビット制御と機体サポートを担当するある意味二人乗りの機体。

第三世代としての特殊装備は『ビット装備』である。

 

・武装

 

 

GNスナイパーライフル

 

長射程ビームライフル。銃身を折りたたむことで、取り回しと連射性能に 優れた3連バルカンモードに変形する。しかしライフルは一夏の戦闘スタイルには合わず、基本バルカンモードでしか使わない。

 

GNビームピストル

 

両太腿に外付けされたビームピストル。 敵機の格闘攻撃を受け止められるように耐ビー ムコーティングを施したブレイドが装備されている。グリップを可動させることでハンドアックスのような使い方もできる。一夏にとってこちらがメインウエポンである。

 

GNミサイルポッド

 

腰部フロントアーマーに内蔵されている。最大同時発射数は8発。遠隔操作で着弾前に爆発できる。

 

GNライフルビット

 

右肩に2機、臀部に4機装備されてる。

基本的に一夏によって遠隔操作されるオールレンシ兵器。現行のISのビットよりもエネルギー保有量が多く他の数倍の時間は攻撃しながら飛び回る。右肩のビットは装着したままでも使用可能。

忍が操作することもある。

 

GNシールドビット

 

両膝に1機ずつと左肩に7機、連結して大きな盾のような状態で装備されてる。

忍によって遠隔操作されるオールレンジ兵器。基本的には防御用の兵装だが、ビーム砲が内臓されているため攻撃にも使用可能。4基組み合わせるとアサルトモードとなり、より強力なビームを発射することができる。

 

・単一仕様能力

トランザムシステム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

忍野仁専用機

 

『アルケーガンダム』

第三世代型番外機の3号機

待機状態は深紅色のチョーカー

 

深紅色一色の機体でケルディム同様『全身装甲』だが共通が名前とそれ以外無いほど違う外見をしている。手足が長く額から大きく突き出たセンサーアイが特徴の、 禍々しさすら感じる近接戦闘型IS。

GN粒子は赤色。

後付装備、非固定装備は無し。

ケルディム同様『GNドライヴ』により高い基本性能を発揮する。

製造者は篠ノ乃束。

第三世代としての特殊装備は『ビット装備』と『簡易AIC』

 

・武装

 

 

GNバスターソード

 

IS装着状態で身の丈ほどある巨大な片刃の剣。GN粒子を供給することで実体剣とビーム剣の両方の特性を発揮する。刀身内部に『GNライフル』が装備されライフルモードは右腕にマウントされ使用する。

 

GNビームサーベル

 

両脚の爪先に固定装備されたビームサーベル。これを使った格闘技は変則的で初見での回避はほぼ不可能である。

 

GNファング

 

アルケーガンダムのビット装備。

両腰バインダー内に5機ずつ、計10機搭載されてる。 ビーム砲を1門内蔵しており、高速移動しつつ全方位から攻撃を仕掛ける。また、ビームサーベルを形成する事もでき、敵機に自ら突撃してダメージを与えるという使い方も可能。

 

GNシールド

 

左腕に固定装備された小型シールド。側面のパーツを開くことで『GNフィールド』を展開しビームシールドとして使用できる。

さらに『簡易AIC』が組み込まれており左腕に触れた者の動きを一時的に停止させる事ができる。しかし簡易型であるため相手を直接停止させることができず停止時間も短い。カウンター装備としては強力である。

 

・単一仕様能力

トランザムシステム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その他の設定

 

 

GNドライヴ

 

ケルディムとアルケーに搭載された動力炉。

重粒子を蒸発させること なく質量崩壊させ、陽電子と光子『GN粒子』発生させることにより、莫大なエネルギーを半永久的に得ることができる。

篠ノ乃束が落着した隕石から偶然採取できた特殊鉱石を使って製造したのでオリジナルは2機しかない。

鉱石の解析はできたためオリジナルは無理でも劣悪品の製作を考えてはいるが、彼女の技術でも数年がかりになるので先送りにしてる。

GN粒子については解析しきれてない。

アルケーに搭載された物は試験的に忍の物質創造能力で創られた鉱石を使用。そのためオリジナルより出力が低くくGN粒子が赤色になったがそれ以外のオリジナルとの違いはなかった。オリジナル以外の、赤色の粒子を放つ物は『GNドライヴ[T]』とよばれる。

ケルディムは臀部に1機

アルケーは胸部と両脚部の3機

 

 

 

GN粒子

 

GNドライヴから生成される変異ニュートリノ。その正体は光子の亜種。

機体の推進力や姿勢制御に使われ、周囲に散布することによって電波通信やレーダー機器を妨害する効果を発揮。 圧縮して射出することでビーム兵器として火器にも転用可能で、さらに特殊素材を介することで瞬時に熱変換を行うことができるため、実体剣の強化にも役立つ。この粒子を装甲に流すことで強度を高め、質量操作や衝撃軽減等にて防御にも使用。

これらの機能を番外機は搭載してるためシールドエネルギー消費原因は9割以上が大きなダメージによる物となり、高威力の兵器を持たないISでは無抵抗じゃないとほぼ倒せない機体になった。

 

 

 

番外機

 

GNドライヴを搭載したIS。

ここでいう『番外』は“登録されてないコア”ではなく“この先世代から外れる可能性がある”という意味で『番外』をつけられた。

現在は束の所有する実験用の1号機、ケルディム(2号機)、アルケー(3号機)の3機のみである。

 

 

 

トランザムシステム

 

機体内部に蓄積されていた高濃度圧縮粒子を全面開放することで、一定時間スペックを3倍以上に上げることができる。しかし使用後はGNドライヴの一時的な出力低下が発生し、GN粒子の供給量が減り機体性能が大幅に低下する諸刃の剣でもある。一応、拡張領域に粒子貯蔵タンクがあるがあくまでもGNドライヴの正常化まで凌ぐための緊急用、学園行事での使用は自重する。

トランザム中は赤く発光しGN粒子による残像が見える。

 

 

 

 

 

※武装に『Ⅱ』がつかないのはそもそもこの話の中では前段階の武装が存在しないためです。

 

 




いかがでしょうか?
専用機はほぼチート
GN関連は独自設定


ご意見、ご感想お待ちしております。




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二人だけの男子生徒
ほうきトーク


 

001

 

ホームルームが終わり授業の時間がきた。男子生徒が参加する記念すべき初ISの授業は、

 

「質問に答えろ」

 

静かに響く声から始まった。

 

相手の僅かな反抗心さえ赦さない、絶対零度の音。暗い独房の中で聞こえるかのような足音。

無意識に頭が下を向き、四肢の力がぬけ断頭台にのせられたらかのような錯覚に男は襲われていた。

否、その時周りの者には本当に断頭台が見えていた。そしてそれへの恐怖と畏怖の念が世界を侵略していく。

 

「YESかNOかの選択肢が、お前に残された唯一の自由だ。それ以外の言葉は何の意味もなさない」

 

この状況で男は笑っていた。その笑顔はすべてを諦めすべてを受け入れる、そんな顔で声の主を見据える。

 

「答えを聞こうか」

 

世界最強と謳われた女が、その手にした物をギロチン刃と彷彿させながら執行人のように最終宣告の言葉を紡ぐ。

 

「私の参考書を婚活雑誌にすり替えたのはお前だな、忍野」

 

「反省も後悔もしていない!」

 

ー死刑執行ー

 

 

 

 

ズダン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

002

 

 

 

 

一時間目が終了し、今は休み時間。けれどこの教室に限っては異様な雰囲気が包み込んでいる。

それもそのはず。この教室には織斑一夏と忍野仁という二人の男子がいるからだ。

 

女性というのは三人寄れば姦しいという言 葉があるように、今現在この教室の出入り口と廊下ではこの二人の人間の一挙一動で騒ぎが起きるような状態である。

しかしこのクラスの生徒は非常に物静かで男子生徒を見ていた。先ほど授業中に体験した惨劇が頭にチラつき騒げる気力が無いのだ。そんな状態でも全員が彼に声を掛けるか掛けられるかを、互いに互いを牽制できるのは女子ならではだろう。そしてそれに他の教室の生徒も参加してるためながら妙な熱気が教室中に立ち込めている。

 

早朝の入学式を終え、最初の授業が終わり、二人の男子生徒は一息ついていた。 今のところ授業に遅れることはなさそうだ。

参考書捨てなくて良かったね一夏くん。

 

「大分詣ってるみたいだな、一夏」

「この状況はさすがにな・・・。 でも、忍野は平気そうだな」

「・・・そう見えるかい?」

「ごめん。大丈夫じゃなさそうだな」

 

忍野仁は青ざめた顔してる。先ほどダメージから回復していないのか若干フラフラしている。

織斑一夏は気晴らしに自販機でお茶でも、っと思ったが10分間の休憩時間であの出入り口と廊下を通って戻るには遠すぎる不可能と判断し諦めた。

 

 

「ちょっといいか」

 

 

「箒?」

「ん?」

声がした方に視線を向けると、長い黒髪を ポニーテールにした女子生徒が居た。

篠ノ乃箒。織斑一夏の幼なじみである。

 

「ついてきてくれ、話がある」

「わかったよ。忍野、ちょっと行ってくる」

「あぁ、いってらっしゃい。勿論ついて行かないよ、俺は馬に蹴られたくないんでね」

 

篠ノ乃は忍野を怪訝な顔で見ていたがこの台詞で顔を真っ赤にしてしまった。一夏は理解してないようだが。篠ノ乃さん、わかりやす過ぎですよ。一夏くんは気づいてあげなさい。

 

「~~~///! 時間が無いから早くしろ!」

「ちょっ、まてよ箒」

 

箒は一夏を連れて教室を出て行った。

出入り口と廊下の女子は二人の動きに合わせて通路を空け、通過後再び集まって騒いでる。どこかの神話の1ページのようである。

 

 

 

~一夏サイド~

 

俺は今、幼なじみの箒に連れられて階段の踊場に来ている。教室で話しにくいのだろうか?

まさかカツアゲか!?入学初日に!?

こんなの、酷すぎま

 

「ひ、久しぶりだな、一夏」

 

・・・違っていた、良かった安心した。

何だか一角獣の人の台詞を言いそうになった気がするがとりあえず置いておこう。

 

「去年、剣道の全国大会で優勝したってな。おめでとう」

「・・・・・・」

 

いや~、新聞に幼なじみの名前があって驚いたよ。テレビじゃ報道してなかったからね~。やっぱり新聞は大事だな。

 

「なんでそんなこと知ってるんだ」

「なんでって、新聞で見たし・・・」

「な、なんで新聞なんかみてるんだ!」

 

・・・怒られてしまった。新聞くらい好きに読ませろよ。

ダメだ、このままじゃもっと怒られそうだから話題を変えよう。

 

「あー、あと」

「な、何だ!?」

「・・・・・・」

「あ、いや・・・」

 

そんな剣幕で顔を近ずけないで怖いから!自分で気づいたようだけど。

 

「久しぶり。六年ぶりだけど、箒ってすぐわかったぞ。」

「え・・・」

「ほら、髪型一緒だし」

 

最初から思ってた事を言った。髪型がポニーテールじゃなかったら気づかなかったな。

 

「よ、よくも覚えてるものだな・・・」

「いや忘れないだろ、幼なじみのことくらい」

「・・・・・・」

 

また睨まれた。悪口言ったわけじゃないのに。

おっと、チャイムが鳴った。教室に戻らないと。

 

「さ、先に戻っているぞ」

 

・・・置いて行かれた。

 

 

 

 

『かかっ、随分と気の強そうな娘じゃのぉ』

「・・・今起きたのか? 忍」

『いや、お前様の姉上があの狐の小僧を殴っておる音で目が覚めた』

 

自分の影から声が聞こえてきた。

忍野忍。吸血鬼のなれの果て。主にして従僕。背負い続けなければならない罪の証。

 

『そんなことよりも早く教室に戻ったほうがよいのではないか?』

「人が真面目な事を考えるのにそんな事とか言うな。つうか、何慌ててるんだ?」

『いや、儂には関係ないが次の授業、お前様の姉上じゃろ?』

「・・・」

 

現在、授業開始から4分経過。

教師が千冬姉であることを考えるとこの先にまちうけてるのは忍野と同じ末路だろう。

 

「・・・ふっ」

 

俺は小さな笑みを浮かべて窓の外を見た。

空は青いなぁ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズダン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ほうきトークとタイトルをつけていたけれど原作と同じことしか話してません。
タイトル詐欺です。すみません。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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ほんねコンタクト

001

 

 

さて一夏くんの居なくなった教室。

忍野くんは何をしてるかといえば、

 

「ねぇねぇ、おっし~の~」

「・・・・・・」

 

非常に困っていた。

教室に取り残された忍野の元に、一人の女子生徒が話かけてきた。背丈が非常に小柄であり、余りに余った制服の袖がとても印象的な少女。

 

 

 

~忍野サイド~

 

何なんだこの子?

俺は次の授業まで本でも読もうと思ってたらやって来た。それに合わせて周りの子が騒ぎはじめる。一体このクラスの子達は何がしたいんだろうか?

それにしてもなんだかすごーくのんびりした雰囲気の子だなぁ。

それより『おっし~の~』ってまさか、

 

「ねぇ~、おっし~の~ってば」

 

やっぱり俺のことなのかな、違うといってくれ。なんだか凡ミスを連発しそうな呼び名だよ?

 

「それは俺の事かな? えーっと」

「布仏本音だよ~、よろしく~」

「よろしく、ってそれより『おっし~の~』ってもしかして俺の事?」

「そうだよ~。忍野だからおっし~の~! わたしの自信作~!」

 

こりゃダメだ。この子の様子じゃ訂正しても無駄だな、もう何も言うまい。

それなら仕返しにピッタリな呼び名をつけてやろう!

 

「そうかい。それじゃあ俺は君を『のほほんさん』と呼ぼう」

「わぁ~い! ありがと~う!」

 

・・・喜ばれてしまった。嫌がられると思ってたんだが、まぁクラスで話のできる人ができて良かった。みんな牽制しあって誰も近づいて来ないからね。

 

あれ?

 

「そういえばのほほんさん、ご用件は?」

 

そうだよ、この子のは他の子達が互いに牽制しあてるなか、真っ先に話かけてきた。一夏の幼なじみとは違って初対面の俺に。

それに彼女が声をかけてくるまでに“誰もその行動に気付かなかった”のだ。通常では有り得ないが・・・思い過ごしか?

 

「ん~? 別にお話をしたいだけだよ~?」

 

言ってる事に違和感を感じる。なんだかこちらを探ろうとしてるような気配を感じて仕方がない。

カマをかけてみるか。

 

「ならお話をしよう。“何の答えが知りたいの”?」

「ッ!!」

 

簡単にぼろを出した、そんなんじゃスパイ行動には向いてないよ。この様子だと誰かに頼まれたんだろうな。

一応釘を刺しておくかな。

 

「“分からない問題の答えを解くため、調査をするのはいい事だ。けど、自分のためにならないから悪い事でもあるんだよ。人から頼まれた事なら尚更だ”」

「・・・・・・」

「だから普通のお話をしようか」

「・・・う、うん」

「それじゃあ・・・

 

この後授業が始まるまで世間話をしたがのほほんさんはバツの悪そうな顔をしていた。

指示した奴にあった後、この子に謝らないとな。

 

授業開始直前に篠ノ乃箒が戻って来た。何やら顔が赤いが、フラグメーカーにやられたんだろうな。

ちなみにフラグメーカーこと織斑一夏は遅刻し千冬の『ギロチン(主席簿)アタック』をうけた。アーメン。

 

 

 

 

 

~本音サイド~

 

たっちゃんひどいよ~。

 

『忍野仁くんについてちょっと探りを入れてみてね♡』

 

なんて~。それに私はかんちゃんの専属メイドなんだよ~。

でも、更識家17代当主として命令されたら断ることは出来ないし~、頑張ってみよ~かな?

 

 

 

 

ん~?

見た感じそんな怪しい人じゃないんだけどな~。なんでたっちゃんはこんな事お願いするんだろう?

織斑先生を怒らせて楽しんでるよ~に見えるのは異常だけど

 

 

 

 

 

おりむ~がどこかに行っちゃった。

これはチャ~ンス。

でもみんななんだか牽制~してるしな~。

よ~し!

 

「ねぇねぇ、おっし~の~」

 

誰にも気付かれず話かけてみたよ~。

ふっふーん、これでも対暗部用暗部“更識家”に遣えるメイドだからね~、これくらいできるのだ。

 

「・・・・・・」

 

あれ~? 返事ないよ~?

よし、もう一度。

 

「ねぇ~、おっし~の~ってば」

「それは俺の事かな? えーっと」

 

返事してくれた。たっちゃんの指示は仲良くなって情報を集めるんだっけ~?それならまずは自己紹介だ~。

 

「布仏本音だよ~、よろしく~」

「よろしく、ってそれより『おっし~の~』って 俺の事?」

「そうだよ~。忍野だからおっし~の~!」

 

ニックネーム! これは自信作なのだ~! お姉ちゃんやたっちゃんは何も言ってくれなかったけど。

 

「そうかい。それじゃあ俺は君を『のほほんさ ん』と呼ぼう」

「わぁ~い! ありがと~う!」

 

ニックネームをつけてもらえた! これだけ仲良くなれたら簡単に情報収集できそうだ。そしたらご褒美にケーキ欲しいな~。

 

「そういえばのほほんさん、ご用件は?」

 

このまま情報収集開始だ~。

 

「ん~? 別にお話をしたいだけだよ~?」

 

よーし、何から聞こうかな?まずは無難に誕生日とか聞いてそれから

 

「ならお話をしよう。“何の答えが知りたいの”?」

 

 

 

 

え?

 

彼は今なんて言った?

“何の答えが知りたいの?”

何を聞きたいのじゃなく“知りたいの”と、何の話じゃなく“答え”と聞いてきた。

 

 

「“分からない問題の答えを解くため、調査をする のはいい事だ。けど、自分のためにならないから 悪い事でもあるんだよ。人から頼まれた事なら尚更だ。”」

 

 

その時の彼からは殺気似た、しかしまったく違う異質な何かを感じた。この時私は悟った。

全て気づかれてることを。

そしてこれは警告

 

“他人の為に身を滅ぼしたいのか?”と

 

その後次の授業が始まるまで世間話をしてたけど何の話をしていたか覚えいない。此方の情報を話したわけでも、ましてや彼についての情報を手に入れたわけでもない。

本当に当たり障りのない世間話だった。

 

 

 

 

 

 

002

 

 

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

二時間目の休み時間。

一夏と忍野は先の授業の復習をしていた。遅刻の制裁をうけた一夏は暫く気絶していた為その間の授業内容の確認を行ってるのである。

するといきなり声をかけられた。

 

その相手は、金髪をロール状にした青い瞳の、高貴さを纏う女子だった。ちょっときつめにも思える、つりあがったその瞳でこちらを見下ろしていた。

 

「聴いてますの?お返事は?」

 

「聴いてる、どういう用件だ?」

「聞こえてるよ、どうしたんだい?」

 

一夏は彼女の方を向いて、忍野は教科書に目を落としたまま答えた。

二人の返事が気に入らなかったのか女子は一瞬だけ眉間にしわを寄せ、わざとらしさを隠さない口調で声を上げた。

 

「まあ!なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、相応の態度というのがあるんではなくて?」

 

面倒な手合いが来たもんだと二人して思った。世間はISの登場で、『女尊男卑』という形になり男は下等なものとする思考が当たり前になっていた。彼女もその一人だろう。

 

「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」

「俺もだよ、どちらさまですか?」

 

「私を知らない? このセシリア・オルコットを?イギリス代表候補生にして、入試主席のこの私を!?」

 

随分と高圧的な喋り方をする。しかし二人は千冬のおかげでそんな事をまったく気にせず

 

「へぇー、代表候補生か。すごいな」

「入試主席ねぇ~」

 

率直な感想をのべた。

 

「・・・二人して馬鹿にしてますの?」

 

何やら気にくわないらしく二人を睨みつけながらさらに高圧的な態度で話してきた。

 

「エリートなのはよく分かった。でもだからってそんな事言われる覚えはない」

「君がすごいのは分かるげど勉強の邪魔はダメじゃないかな?」

 

一夏は『代表候補生』が凄いのはわかるか姉が世界最強のためどうもリアクションが薄い。

忍野からすればもうじき授業がはじまるのにおさらいを邪魔する迷惑な子でしかない。しかしセシリアはそんな事気にもとめない。

 

「大体、あなた方ISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦できるときいてましたが、期待外れですわね。まぁ、多少、知識はあるようですがそれもどうだか・・・」

 

「俺に何かを期待されても困るんだが」

「知識に関して文句があるなら勉強の邪魔するのはおかしくない?」

 

 

「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、ISのことでわからないことがあれば・・・、泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくしは、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

セシリアは返事も聞かずに言葉を紡ぐが、

 

「あれ?俺も倒したぞ、教官」

「ああ、俺もだ」

 

 

「は・・・?」

 

二人の予想だにしない返答に思考が停止した。

そもそも二人はIS学園の入試が終わった後に入学が決まったため試験結果が知られていない。そのため彼女が、自分が唯一試験官を倒したと思っていた事も、二人が無様に負けたと想像したのも無理からぬことである。二人が言ったことがショックなのか、セシリアは驚きで目を見開いている。

そうこうしてるうちに3限目のチャイムが鳴った。

 

「っ・・・! また後で来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」

 

セシリアはそう言い残すと自分の席に戻っていった。

 

 

「何処へにげるんだよ」

『騒がしい娘じゃのう。』

「なんだか面倒なことになりそうだな」

 

一夏と忍野、そして影の中の忍はそれぞれ呆れながら3限目の授業にのぞむのだった。

 

 

 

 

 




のほほんさんの喋り方が安定しない。


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セシリアスピーチ

 

001

 

 

3限目の授業

今回は問題も起きずに授業が進行していたが織斑先生の

 

「おっと、そういえばクラス代表を決めなくてはいかんな」

 

この一言により授業は中断した。

山田先生、ドンマイ。

クラス代表、それは言葉通りクラスの代表の事だ。 それぞれクラス代表となる生徒同士で対戦をしたりするらしい。

代表としての会議に出席する。言わば学級委員、クラスのまとめ役。

しかし織斑先生、そういう事は最初にやりましょうね。

 

「自薦、他薦は問わない。誰か居ないか」

 

この言葉に生徒達は騒々しくなった。

誰を推薦するのか話してるのだ。

そして、

 

「は~い、織斑君がいいと思います!」

「俺!?」

 

一人の生徒が一夏を推薦、これに続くように

 

「忍野君に一票!」

「な、俺もかよ!?」

 

忍野も推薦され

 

「織斑君を「忍野君が「織斑君「忍野君「織斑「忍野ーーー

 

流石は女子高生、二人が反論する間もなくクラスの大半が一夏か忍野を推薦した。

 

「「織斑先生! 辞退します!」」

「他薦された側に拒否権は認められんぞ」

 

二人はすぐ千冬に辞退を申し出たが却下された。

そして千冬はクラスを見渡した後、

 

「ではクラス代表は織斑か忍野のどちらかが行うでい

「納得できませんわ!」

 

生徒に確認をしようとしたが邪魔された。不満そうな大声を出したのはセシリア・オルコットだった。

 

「何故イギリス代表候補生であるわたくし!セシリア・オルコットではなくそんなISを満足にも扱えない男を推薦するんですか!男がクラス代表だなんて恥さらしもいい所ですわよ!?私にそんな恥を一年間も耐えろだなんて屈辱ですわ!」

 

クラス全体の空気が一気に冷えていくのが感じられた。明らかに自分が推薦されると思っていたであろうその傲慢な態度により生徒が、教師の話の邪魔するという暴挙に織斑先生と山田先生が冷ややかな視線を向けてる。

しかしセシリアの演説は尚も続く。

 

「そもそも!実力から言えばこのわたくしがクラス代表となるのが必然! それを物珍しいからだなんて理由でクラス代表に極東のサルが就任だなんて困りますわ! わたくしがこの極東の島国に我慢してまで来ているのはISの訓練を行うためであり、サーカスをする為ではありませんわ! それに文化として後退的な国でのクラスことすら苦痛ですのにーーー」

 

男どころか日本まで侮辱する大演説はとどまることを知らずに続いてる。日本人は勿論、他の国の生徒たちもこの演説に怒りを感じていた。

さてこれだけ言われて二人の男子生徒は

 

「あの子、代表候補生だよね? あんな事言って良いのかな?」ヒソヒソ

「ISを作ったのも世界最強も日本人なのによくもまぁ・・・」ヒソヒソ

『お前様! 今すぐあの小娘を黙らせろ!ミスタードーナツがある日本を馬鹿にするのはこの儂が許さん!』

 

特に怒ってはいなかった。忍は激怒してるが。

ちなみに一夏と忍野以外には影の中にいる忍の声は聞こえていない。

 

 

 

「あら? あなた方は何も言い返せないみたいですわね」

 

さて、一通り文句を言い終えたのか、それとも自分に対して何も反論してこない男に気分をよくしたのか随分と満足そうな顔して一夏と忍野を見下してきた。

 

一夏と忍野は、

 

「ISも世界最強も周りの子も日本生まれなのによくそれだけの事を言えるな」

「君は代表候補生だろ? 今の発言、イギリスが日本を侮辱したと先生が報告したらどうなっちゃうだろうねぇ? そんな事になる前にクラスの皆には謝ったほうがいいよ」

 

それぞれ思っていた事をセシリアに言った。二人とも怒ってはいないが教師含め半数近くが日本人のクラスでこんな演説したら明日から彼女の居場所はない。それに気付かせようとしたのだ。

 

すると演説が終わってある程度冷静になり二人の言葉の意味を理解したのかセシリアは自信に溢れていた顔が一変、困惑した顔になってしまった。

しかし暫くすると今度は顔を赤くし憤怒の顔浮かべながら、

 

「よ、よくもわたくしに恥をかかせてくれましたね! 決闘ですわ!」

 

何やら的外れで理不尽な事を言い始めた。

 

「「自業自得だろ、なんでそうなるんだ!」」

「それでは、織斑と忍野とオルコットが勝負しクラス代表を決める。いいな?」

 

二人が抗議すると織斑先生がみんなに確認した。

千冬からすればオルコットと二人をぶつける事で他の生徒の怒りを静めようという魂胆なのだろう。

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い・・・いえ、奴隷にしますわよ」

 

クラスメイトを奴隷にする。何処まで自分の評価を下げるんだろうか、セシリア・オルコット。

 

「それでハンデはどのくらいつける?」

「あら、早速お願いかしら?」

 

意外にも乗り気な一夏はセシリアにハンデについて聞き、それを手加減のお願いと見たセシリアだが、

 

 

「いや、俺達がどのくらいハンデつけたらいいかなーと」

 

この言葉に彼女が、そして教師と忍野意外が爆笑し始めた。

隣のクラスに迷惑だから止めなさい。

 

「あなたのそのジョークセンスは認めましょう」

「織斑くん、それ本気で言ってるの?」

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

「男と女が戦争したら三日間と持たないんだから」

 

と笑い続けるが、

 

 

「ハッハー、みんな随分と元気いいねぇ」

 

突如響き渡った声に静まり返った。椅子に座っていた忍野がゆっくりと立ち上がり、

 

「何かいいことでもあったのかい?」

 

と聞いた。

 

「みんな何か勘違いしてるようだから一つ一つ訂正してあげよう。女が強いのはISがあるのが大前提だよ?同年齢の平均的な身体能力の男女が戦えば男が勝つ。それなのにISを使えるから強いと錯覚する。女が社会的に強いのは今の世の中がISが使えるから偉いと勘違いした人達によって変化したからだ。変化してるんだから男の立場が弱いのは当たり前。 男と女の戦争は成立しない。男女の戦争ってことは家族や恋人や友達と戦うんだ、男女ともに戦いたくないと戦闘の放棄や離反があって当然さ」

 

忍野の言葉はまだ続く。

 

「そもそも決闘って言うけど、代表候補生として年単位の訓練した子が三ヶ月かそこらの、大半がデータ収集のための起動しかしてない人に挑むのは決闘かい? 俺はそんな風には思えない、単なるイジメか八つ当たりだよ」

 

忍野の言葉を聞き、一人また一人とセシリアの事を見始めた。

実際、一夏と忍野は1月にISを起動させてから何十時間か乗っているが基本動作と戦闘訓練の練習時間は二時間にも満たない。

それに対して数年前からISに乗り、訓練を続けて代表候補生になった子。普通に予想される結末は決闘に名を借りた一方的な殺戮ゲームである。

 

“普通ならば”

 

互いに睨み合って何もしない二人、一夏は千冬に助けを求めるように視線をおくりそれを感じ取った千冬は事態の収拾のために動いた。

 

「それでは勝負は三日後の木曜。放課後、第3アリーナで行う。織斑と忍野とオルコットはそれぞれ用意をしておくように。それでは授業にもどる」

 

セシリアに冷ややかな視線が向けられるなか、授業は再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに千冬と山田先生の判断でセシリアには特別講義が決定した。

合掌。

 

 

 

 




専用機があるので三日後にしました。

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ほうきルーム

 

001

 

 

さて、放課後のIS学園。

一夏と忍野は教室で授業の復習をしていた。というのも放課後になり二年生と三年生も押しかけて通路を塞いでるため教室から出るに出られないのだ。ちなみに廊下を通ろうとした生徒もいたが諦めて他の道を通った。

 

「ああ、織斑くんと忍野くん。二人ともまだ教室にいたんですね。よかったです」

「「はい?」」

 

呼ばれて教科書から顔を上げると、山田先生が書類立束を抱えてっていた。

 

「えっとですね、お二人の寮の部屋が決まりました」

「「・・・え?」」

 

「俺達、確か一週間は自宅通学の筈ですけど?」

「リフォームは終わってませんよね?」

「そうなんですけど事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいんです」

 

IS学園は全寮制。そのため二人も寮生活になる筈だったのだがとある事情で一週間先になったのだ。

とある事情とは部屋のリフォームである。寮での生活は基本的に風呂は大浴場を使い洗濯は共同の洗濯室で洗う。しかし風呂も洗濯室も男である二人には使えない。時間交代での利用も考えられたがどうしても無理があるため部屋での風呂と洗濯をしてもらう事になった。

 

だが部屋の湯船は女子が使うサイズのため男には窮屈、しかも本来はない洗濯機を無理矢理設置するため洗濯機を視界に映しながら眠る圧迫感のある生活をおくる事になる。

 

それを日本政府が気遣い部屋のリフォームが行う事になった。具体的には湯船の大型化と部屋に洗濯場の増設だ。

優しいね、日本政府。

 

ところがその一週間の間、二人に何があるか分からないから寮に入れたらしい。曰わく、女性利権団体からの殺人予告があった。曰わく、遺伝子工学研究所から解剖と人体実験の依頼があった。そんな状況で自宅通学は危険過ぎるとなったのだろう。

 

「リフォームが終了次第そちらに移ってもらうので、しばらくは相部屋で我慢してください」

 

そう言って山田先生は2本の鍵を渡してきたが

 

「1025号」

「・・・寮監3号」

 

違う部屋、しかも忍野が受け取ったのは教員用の部屋だった

 

「「どうして違う部屋なんですか?」」

 

二人ともみたびハモって言った。普通なら女の部屋に男を入れないし生徒に寮監の部屋を与えない。

 

「空部屋は家具がなくてすぐに使えるのは二人部屋と予備の寮監室だけだったんです」

 

この寮は編入してくる生徒のため幾つかの空きがあるが、編入が決まってから使えるようにするため今は使えないらしい。寮監室も生徒が増えた場合の為。第二世代登場初期は各国から編入して来る生徒が増え、寮監一人では手が足りなくなったため作られたらしい。

 

「分かりました、それでは家に荷物を取り行きたいんですが・・・」

「なんだ、まだ教室にいたのか」

 

一夏がお願いをしようとしたところに千冬が入ってきた。

 

「お前達の荷物は手配してある。とりあえず着替えと携帯の充電器だけだが他に必要な物は明日取りに行ってこい」

 

そう言うとバッグを2つ投げてよこした。そして中身を確認してため息を吐いた。

 

「「千冬(姉ぇ)」」

「織斑先生だと何度いえ

「「これは夏服です」」

 

千冬が家から持ってきた着替えは夏服、しかもまだ4月上旬であるのにだ。

流石に夏服は早いよ千冬さん。

 

 

 

 

 

その後急いで冬服を持ってきてもらい今は寮に向かってる。忍野が千冬をからかって粛清されたのは割愛しよう。

そして1025号室、一夏が受け取った部屋だ。

 

 

 

 

 

 

002

 

 

 

~一夏サイド~

 

さて自分の部屋にきたが同室は女の子だ。どうしようか?

 

「んじゃ、俺は向こうなんでな。また明日な一夏」

「おう、明日なー」

 

そう言って自分の部屋に向かう忍野だがすぐに振り向いた。どうしたんだ?

 

「そうだそうだ、忘れるところだった。一夏、俺は同級生から性犯罪者や母親ができるのは勘弁だぞ」

「そんな事しねぇよ!思ってもしねぇよ!」

『安心せい、もしそのような事をしようとしたら腹に穴を開けてドーナツにしてやるわい』

「ドーナツ化現象!? 忍さんいくら何でも酷すぎでは!?」

 

さて、二人との会話である程度緊張がほぐれた俺は改めて部屋に入った。この時鍵が開いてた時点で気がついてればあんな事にならなかっただろうに・・・。

 

 

 

部屋に入るとまずキッチンが目にはいった。軽食を作るには十分な大きさでその横には冷蔵庫もついている。奥に進むと大きめのベッドが2つ並んでいた。しかしそれでもくつろぐ余裕がある部屋だ。女子校故にクローゼットも大きい、どれだけの服を収納できるのだろうか?

俺は荷物を床に置いてベッドに飛び込んだ。

 

「さすが国立の寮、いい布団だ」

『やっておることは子供じゃの』

「いいだろ別に、お前もやりたいのか?」

『やりたいかと聞かれればすごくやりたい』

すごくやりたいのか。忍だったら俺がやるより絵になりそうだな。

『しかしお前様は今すぐに部屋から出ねばならん』

「え?何でだよ、やっと落ち着けるのに」

『お前様は大事な事を忘れておる。部屋に入る時、鍵は掛かっておったか?』

「そういえば掛かってなかったな?」

『じゃろ?つまり同室の者が既に来ておるが姿が見えん。この部屋で隠れる場所は風呂しかなくおるのは当然「誰かいるのか?」・・・おなごじゃ』

 

時、既に遅し。

 

「ああ、同室になった者か。これから一年よろしくたのむぞ」

 

忍の言葉どうり風呂場から女子が出てきてた。

 

「こんな格好ですまないな。シャワーを使っていた。私は篠ノ乃・・・」

「・・・箒」

バスタオル一枚で出てきたのは再会を果たした幼なじみだった。

 

 

 

さて今俺は床に正座をしている。風呂から出てきた箒は木刀で攻撃、即座に俺は部屋から退室しその後着替え終わった箒の許可を得て再び入室。理由の説明をしたところだ。

 

「一時的になら仕方がないとはいえ千冬さんは何をやってるんだろうか」

 

箒は額に手をやり呆れるような言い方をしてるがなんだか笑ってるようにも見える。顔も若干赤いし、熱でもあるのか?

 

「では改めて、一週間だけだか同居人としてよろしく頼む」

 

しばらくして笑みを向けてそう言ってきた。その時の箒は、思わず見惚れてしまいそうな程のいい笑顔であった。

 

 

 

 

 

 

003

 

 

 

~忍野サイド~

 

一夏と別れた俺は自分の部屋に着いた。

部屋の中は普通だが寮監用であるためか大きな机が目を引く。下手な社長室の机より立派そうだ。

だが今はそんな事より、

 

「8つ目。これで全部かな?」

 

監視カメラと盗聴器の撤去作業である。

昼間ほほんさんに探りを入れられたため部屋の中にも命令した奴が何か仕掛けてるかと探してみたら、至る所からカメラやマイクが出てきた。風呂からも出てきた。覗き魔かよ。

 

とりあえずカメラには白黒の井戸の映像、マイクにはお経の音声を流しておこう。仕返しとしては優しいだろうか?

さて、今日は疲れたからもう寝よう。

 

 

その夜、女子の悲鳴がこだました事を次の日聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作を読んでいて思っていた編入組の部屋数の謎を勝手な解釈で解決しました。

リアルで忙しくなるので投稿のペースが落ちます。お気に入り登録された方には申し訳ありません。


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ほうきトレーニング

001

 

 

入学式翌日の朝。

一年生寮の食堂だ。一夏と箒そして忍野が同じ席で食事を取っていた。今朝忍野と合流した一夏が箒に紹介して友好を深めようと一緒に食事をしているのだが、

 

「なあ、忍野さん。それだけの食事で大丈夫なのか?」

 

忍野の食事に思わず箒は聞いていた。一夏は和食セット、箒は別の和食なのだが忍野はなぜかざるそば。普通は朝食のメニューではない。

 

「まぁ大丈夫かな?」

「箒、無駄だよ。忍野は朝食を少量しか食べないタイプだから」

 

本人と一夏に言われて納得はしたがそれでも見ていて不安になる食事である。

 

「お、織斑くん、相席いいかなっ?」

「忍野くんもいい?」

 

見ると朝食のトレーを持った女子が三人立っていた。この机は六人掛けだからまだ空いてるから一夏は承諾して三人とおしゃべりを始めてしまった。

 

「・・・一夏、私は先に行くぞ」

「ん? ああ。また後でな」

 

それを見ていて不機嫌になった箒は食事を済ますと行ってしまった。

 

「箒のやつ、一体どうしたんだ?」

「さぁーどうしたんだろうねぇ」

 

何で箒が不機嫌になったのか分かってない一夏とそれを見透かしたような笑みを浮かべて見ている忍野であった。

 

 

 

 

 

 

002

 

 

 

「おい、一夏。試合は大丈夫なのか? 相手は仮にも代表候補生なんだぞ」

 

その日の放課後、廊下に出た一夏を箒が 声を掛けて呼び止めた。忍野はまだ教室にいる。

 

「ん? ああ、大丈夫だ」

 

箒からの問いに至極普通に答える。

 

「そ、そうか・・・もし良ければ剣道場に来ないか? 私が稽古をだな・・・」

 

「悪いけど、気持ちだけ受け取っとく」

 

恥じらいがちに本題を切り出そうとする箒だったが、即座に一夏から断られる。

 

「な、何故だ!?」

 

一夏の返答に声を荒げる箒。 箒からしてみれば自分が思いを寄せる一夏と二人きりになるチャンスがふいになってしまうのは面白くないだろう。

 

「それに剣道場で何するんだ? ISに関係ないし、俺もう剣道やめてるからなぁ」

「な!? 剣道をやめただと!? どういう事 だ!?」

 

一夏の発言に箒は更に声を荒げて一夏の胸倉に掴かんだ。

 

「理由を言え! 何故剣道をやめた!?」

 

箒は噛み付かんばかりに問いただす。彼女にとって剣道は一夏との唯一の繋がりであったのだ。しかしその相手が剣道をやめたと聞き許せずはいれないのだろう。

 

「最初は俺も剣術を磨いてたよ。けどさ、それってどこまで行っても千冬姉の真似でしかなくてさ、それでやめたんだ」

 

箒の態度に多少理不尽さを感じながらも一夏は箒の手を払いのけながら淡々と戦闘スタイルを変えた理由を説明する。

 

「だがしかし、お前は剣道を

「箒だって何かを理由にやめたものが一つくらいあるだろ?俺だって飽きたからやめたりしたわけじゃない、自分で決めた事だ。それを否定するなら怒るよ?」

 

箒は説得をしようとしたが一夏の怒気を孕んだ言葉に何も言えなくなった。

 

「それじゃ、今から家に荷物を取りにいくから」

そう言うと一夏は箒を置いてその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

~箒サイド~

 

「一夏・・・」

 

私の呟きは消えそうほど弱々しいものだった。

姉である篠ノ乃束がISを開発してから私は重要人物保護プログラムにより一夏と離ればなれになってしまった。

手紙も電話も許されず剣道以外の繋がりはなくなってしまった。小学生低学年から共に励んだ剣道。当時の一夏は強かったので剣道さえ続けいればいずれ大会などで会う事ができると思っていた。

しかし現実は違った。

一夏は大会におらず私は優勝してもすぐさま転校させられた。寂しかった。IS学園にも篠ノ乃束の妹として強制的に入学させられた。

 

一夏がISを動かしてIS学園に入学すると知って嬉しかった。また一夏に会えると。

そして入学し一夏が私を覚えていてくれた事、一夏と同室になった事。すべてが嬉しかった。

だが変わりに唯一の繋がりだと思っていた剣道をすてていた。すごく悲しく、寂しくなった。私は『また転校させられたら本当に繋がりは無くなってしまう』と不安になった。そんな事は無いと分かってるのに、それでも不安にかられた。

それなら一夏にまた剣道をしてもらおうと思った。でも一夏は願いを聞き入れてくれなかった。

『自分で決めた事だ。否定するなら怒るよ?』

私はいったいどうすれはいいのだろうか?

 

 

 

「そんな所で何をしてるんだい? 篠ノ乃さん」

 

後ろから声を掛けられて振り向いて見るとそこには忍野さんがいた。今朝紹介された一夏の友達、千冬さんを怒らせて楽しんでる何を考えてるか分からない同年なのか怪しい変わり者。しかしそれでも今は聞かずにはいられなかった。

 

「お前のせいで一夏は剣道をやめたのか?」

 

私の問いに忍野さんは少し悩んだようなそぶりをしてから口をひらいた。

 

「それは違うよ。確か一夏が剣道をやめる原因には他人が関わってるけどそれを決めたのは一夏だ。それにしても突然そんな事を聞いてきて、何かあったのかい?」

 

 

 

 

 

 

 

私は彼に事の顛末と思っていた事を話した。今の私は誰かに話を聞いて欲しかったのだろう。

 

「一夏が剣道をやめて寂しいのは分かるけど無理強いは良くないよ?それに今は同じ学校なんだから他の繋がりを見つければいいさ。少なくとも幼なじみという繋がりがあるんだから」

 

すると忍野さんがそう言ってくれた。

確かそうだ。今は同じ学校なんだ、それに一夏は私の事を覚えていてくれたんだ。不安になる必要はどこにもないんだ!

 

 

 

私は一夏が帰って来たら謝ることにした。謝って新しい繋がりを見つける事にした。

 

「ありがとう、忍野さん。おかげで気分が晴れたよ」

「忍野でいいよ、同級生なんだし」

「なら私の事も箒と呼んでくれ」

「分かったよ箒」

彼は案外優しい人なのかもしれない。

「そうだ箒、一つ忠告」

「なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「繋がりを見つけるのはいいけど性的なのは駄目だぞ?」

「そんな事言われなくても分かっておるわぁぁぁぁあ!!!」

 

前言撤回、やっぱり何を考えてるかわからない人だ。

 

 

 

 

 




またやってしまったタイトル詐欺。
箒のアンチ回避をしたらトレーニング出来なかった。


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いちかファイト

 

001

 

 

あっという間に時間は過ぎて今日はクラス代表決定戦当日。

その間には一夏と箒が仲直りしたり忍野が千冬に追いかけまわされたり忍がドーナツをせがんだり。

 

ここは第三アリーナのAピット。

一夏と忍野、それに千冬と箒もいた。

 

「試合の順番だがまずは織斑とオルコット、その次がオルコットと忍野、最後が織斑と忍野だ。」

「初戦は俺かよ、緊張するな」

「一夏と俺は最後か。ま、楽しみは最後にってね」

 

試合の順番を聞いて緊張する一夏といつもどうりの忍野。しかし箒はそれよりも気になってる事があった。

 

「ちふ・・・織斑先生、ISが見当たらないのですが?」

 

箒の疑問は正しい。彼女や対戦相手のセシリア、他の生徒たちは一夏と忍野が訓練用のISで戦うものだと思っていた。

 

「安心しろ篠ノ乃、こいつらは専用機を持っている」

「せ、専用機!?」

 

そう言われ一夏は左手の深緑色の腕時計を見せ、忍野は首の深紅色のチョーカーを指で叩いた。千冬の言葉にあからさまに驚く箒。無理もない。ISのコアは467機しかないため専用機は代表候補生でも持っていないことがあるにこの二人はそれ持っているのだ。だがそんな事よりも

 

「そんな話、一度も聞いてないぞ一夏」

 

黙ってたことにご立腹のご様子だ。

 

「言いふらすことじゃないだろ、持ってない人だっているんだよ?」

「うぐっ」

 

忍野に正論を言われて言葉を無くす箒だった。

君達は仲が悪いのかい?

 

「時間だ。織斑、準備しろ」

「はい」

 

千冬に言われて一夏は一歩前に出て他は後ろへ下がった。

 

「来い、ケルディム!」

 

次の瞬間、左手の時計がひかると緑色の光が一夏を包んだ。

光の中から出てきたのは全身が装甲に覆われ肌の露出が一切ない、深緑色をメインとした白とのツートンカラーのボディー。右肩には盾にしては奇妙なパーツ。左肩には少し歪な形をした大きな盾。臀部には鳥の尾羽のようなパーツ。 フェイスマスクには緑色のツインアイ。額には中央に赤いセンサーのようものがあるV字アンテナ。非固定装備の無い機体だ。

 

全身装甲(フル・スキン)の機体?」

 

箒は機体を見て疑問を感じた。

『全身装甲』は第一世代の機体ではよくあった物だが第二世代以降にない旧式のデザインだからだ。『非固定装備』がないのも気になった。

が、今はそれよりも、

 

「一夏、勝ってこい」

 

この言葉をかけることにした。

 

「おう、任せておけ」

 

そう言うと一夏は移動して発進ゲートへ。カタパルトに載ってスタンバイにはいった。

 

「織斑一夏、ケルディムガンダム。発進する」

 

勢いよく発進し、緑色の光を放出しながらートを飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

002

 

 

空を飛んで見てみると観客席は超満員で立ち見の客で身動きをとることすら難しい。 一組でクラス代表の結果が知りたいもの。 単に世界初の男性操縦者と代表候補生という試合の物珍しさから見に来たもの。そして女尊男卑の考え方を持つ者。

様々な思惑の中、一夏はセシリア・オルコットの前に立つ。

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

余裕綽々の表情をしたIS『ブルー・ ティアーズ』を纏っているセシリア。

 

「わざわざ逃げる必要も無いんでね」

「ぬけぬけと間抜けに来たあなたに最後の チャンスをあげますわ。私が一方的な勝利 を得るのは当たり前のこと。自然の摂理。ですから惨めな姿を公衆に晒したくなけれ ば、今ここで謝りなさい。でしたら許してあげないこともなくってよ(全身装甲からして防御に特化した機体、なら私のブルーティアーズの敵ではありませんわ)」

 

 

《お前様、あやつのISは射撃体制にはいったぞ。初弾エネルギーを装填しておる》

《分かってるよ忍》

 

忍から警告を発せられる。

 

「そう言うのはチャンスとは言わないよ。それに、負けるつもりは無い」

 

試合開始のカウントが始まった。

3

 

「そうですか。なら、」

 

セシリアが右手に持ったレーザーライフル 『スターライトmkⅢ』を構え、一夏をロックする

 

2

 

一夏は自然体でセシリアをまっすぐ見つ める

 

1

 

「ここで、」 銃口を一夏に向け、エネルギーをチャージする

 

試合開始

 

「お別れですわね!」

 

スターライトmkⅢの引き金を引く。レー ザーがケルディムに迫るが一夏は難なく回避する。

 

「!? ま、まぐれにしてはよく避けましたわね」

「まぐれかどうかは確かめてみればいいだろ」

 

そう言うと右手のライフルを取り出して構え、更に左手はピストルを手に取った。

 

再度、セシリアは撃つ。 一夏は避け両手の武器を撃ちながらセシリアに接近をする。

 

「ビ、ビーム兵器!?」

 

セシリアは一夏の射撃武器に驚愕した。ビーム兵器は理論や技術は完成してるが素材とエネルギー問題でまだ実装されてないものが男のISに装備されてるのだから。

 

それを数回繰り返すとセシリアは一夏から一気に距離をとる。

そして 、非固定浮遊部位のフィンアーマーが切り離される。

 

「さあ、踊りなさい!セシリア・オルコットとブルーティアーズが奏でるワルツで!」

 

4機のフィンアーマーが飛翔し、レーザーが一夏に向かい撃ち出される。一夏はそれを見ながら回避していく。

 

「ビットかよ!?」

 

そう言ってる間にもフィンアーマーは一夏を取り囲むようにしながら攻撃をしてくる。

 

 

 

 

《お前様、気づいておるか?》

《何をだ?》

《あの娘、さっきから全く銃を撃っておらんぞ》

《それってつまり?》

《恐らくビットで攻撃しとる間はあやつ自身は攻撃できん》

 

攻撃を避けながら一夏は忍からセシリアの弱点と思われる点を聞いいていた。

 

 

 

一方セシリアは焦っていた。初弾を避けらビーム兵器を使い、自分の切り札であるビット兵器『ブルーティアーズ』の攻撃をも避け続けてる。織斑一夏に。

攻撃の手を止める事が出来ない。止めたら最後、確実に負けると。

 

 

 

 

003

 

 

 

「なぜ?なぜ当たらないんですの!?」

 

試合開始から25分経過。

会場は騒然としていた。一夏がセシリアの攻撃をすべて避けてるのだから。確かセシリアは最初は手抜きで、後半は集中力がきれてビットの動きが粗いがそれにしても異常だった。

 

「お前は俺の反応が一番遠い角度からしか攻撃してないから簡単だ。それにビット制御に意識を集中させてるからそれ以外の攻撃が出来ないんだろ?」

 

一夏は避けれる理由とセシリアの弱点を言った。

 

「ッ! それがどうしたと言うんですの!!」

 

セシリアはヒステリック気味に答えた。確かに彼女はビットを展開してから手に持ったライフルを1度も発射してない。何度か撃つチャンスがあったのにだ。

 

「別に、ただ自分だけがビットを使えると思うなよ!」

《シールドビット全機展開じゃ!》

 

すると左肩の盾がバラバラになり一夏を守るように周囲に展開された。

そしてセシリアのビットからの攻撃を防ぎ始めたのだ。

 

「防御用のビット?!そ、そんな物で!」

《かかっ、無駄じゃ!》

 

セシリアはそう自分を奮い立ったたせ自分に接近してくる一夏にさらなる攻撃を加えた。だか攻撃はすべて忍の操る防壁に阻まれ一夏の進行を止める事が出来ない。

そしてついに一夏はセシリアの直前にまで接近した。

 

「残念ですが、ブルーティアーズは四機だけじゃありませんわ!」

 

セシリアは両腰からミサイルビットの砲口を向けてミサイルを放つが、

 

《この儂が気づかんと思うておったか?》

「悪いけどこっちにもあるんだよ!」

 

一夏がそう言うと腰のフロントアーマーからミサイルが発射された。

双方のミサイルが衝突し爆発した。しかしセシリアの発射弾数は2発、それに対して一夏は8発。誘爆を逃れたミサイルがセシリアに着弾、爆発した。

そして一夏はその隙を逃すはずもなく両手にピストルを構えセシリアに弾丸と斬撃を加えた。

 

 

 

 

 

 

 

「あれはなんですか?!」

 

モニターを見ていた箒はそう千冬と忍野に聞いた。

今一夏は銃で相手を“殴ってる”のだからわけがわからない。

 

「あれは『ガン・カタ』って言われる戦法だよ」

「がん・かた?」

「銃を打撃武器として使う戦い方だよ。銃で殴って少しでも距離が開けば弾丸を喰らわすって物騒な。もっともあの銃は刃物もついてるから斬撃もプラスされるけどね」

 

忍野はそう淡々に答えた。

 

「あれがいち・・・織斑の戦い方だ」

 

織斑先生、別に『一夏』って言ってもいいんじゃない?

 

「あれが、一夏の・・・」

 

箒は再びモニターに釘付けになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで終わりだ!」

 

一夏の無数の打撃と斬撃と射撃でついにセシリアのシールドエネルギーが0になった。

 

 

 

 

『試合終了。勝者、織斑一夏』

 

アナウンスがなり試合は一夏の勝利で終わった。

観客席からは歓声が上がった。

 

 




戦闘の描写が難しいです。かなり手抜き感のあるものになってしまった・・・。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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おしのゲーム

 

001

 

 

試合を終えてAピットの発進ゲートに戻ってきた一夏。

 

箒はISを解除した一夏に駆け寄り目をキラキラさせながらさっきの戦いを聞いている。

 

「よくやったぞ一夏」

 

一夏を褒める千冬。だが、

 

「織斑先生~、『一夏』って呼んでるよ。もしかして心配してたのかな~?」

 

それをからかう気満々の忍野がいた。

 

「お前は少しくらい真面目に出来んのか!!」

 

そう言う千冬は立てかけてあった訓練機用の刀の峰を忍野にフルスイングで叩き込んだ。勿論、忍野は吹き飛んで数メートルほど宙を舞った。

 

「ち、千冬さん!? そんな事したら忍野が死んじゃいますよ!」

「織斑先生だ、それにこの程度では死なん」

「この程度って!?」

「酷いなぁ、ちょっとからかっただけなのに」

「なんで無傷なんだ!?」

 

千冬の行動に思わず声を出した箒だがいつの間にか戻ってきた無傷の忍野に更に声を上げた。

 

 

「次は貴様の番だ、さっさと逝ってこい」

「え~、もうちょっと可愛く言ってもバチは当たらないのになぁ」

「殺されたいか?」

「それは勘弁願うかな?」

 

と軽口を叩いてから忍野は発進ゲートに向かった。

 

「頑張ってこいよ」

「分かってるよ、頑張るつもりは無いけどね。お前は次に備えて準備してな」

 

戻ってきた一夏とすれ違いざまそう言うと忍野はカタパルトの前に出た。

 

 

「行くぞ、アルケー」

 

首のチョーカーがひかり、赤い光が忍野を包んだ。

光から出て来たのは一夏と同じ全身装甲、しかし全く違うデザインの機体だった。

全身が深紅色一色の機体。手足の装甲が異様に長く、両脚は横から見るとかなり大きくみえる。足の横にはスカートアーマーが展開されてる。 右腕には片刃の身の丈ほどの大剣がマウントされていて左手には小さい盾。胸部と両脚にクリスタル状のパーツがあり怪しく光っている。フェイスマスクは細長いツインアイ、額か大きく突き出たセンサーアイがありその横にはツノのようなアンテナ。機体の至る所に安定翼のような物が見える。

ケルディムが人型なのに対しアルケーは魔物を彷彿とさせる姿だった。

 

そのまま忍野はカタパルトに載った。

 

「忍野仁、アルケーガンダム。出撃するぞ」

 

一夏とは違い赤色の光を放出しながらゲートを飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 

002

 

 

 

忍野が発進するとセシリアがステージの中央で既に待機していた。

 

「先日のご無礼の数々、お許しください。本当に申し訳ありませんでした」

 

セシリアは開口一番、謝罪の言葉を言うと忍野に頭を下げる。一夏との戦いで何やら心境の変化があったのだろう。

 

(これはまたフラグを立てたね)

 

忍野は“残った理性”でそんな事を考えていた。

 

「別に怒ってないよ。でもね、俺は今ISに乗ってるから、」

 

言葉を区切り、そして、

 

 

 

 

 

 

 

試合開始のアナウンスが鳴り響き、

 

 

 

 

 

 

 

「とにかくテメーを切り刻みたいんだァよォ!」

 

荒々しく凶悪な、明らかにいつものふざけた様子ではない喋り方をした。殺意や悪意が観客席にも伝わったらしく悲鳴があがってる。

 

「ブ、ブルーティアーズ!!」

 

セシリアは今の忍野に恐怖しすぐにフィンアーマーを切り離し攻撃を開始した。先ほど一夏と戦った時よりも精度の高い動きをした、慢心せず本当の全力で飛ばしたのだ。

だが、

 

「いけよォファング!」

 

アルケーの両腰のスカートアーマーが開き三又のビットが赤い光の尾をひきながら3機ずつ射出された。

忍野の射出したビットはすぐさまセシリアのビットにビームを発射し破壊した。

 

「ブルーティアーズが!? くっ!」

 

ビットを破壊されたセシリアはすぐにスターライトmkⅢを構えて忍野を撃とうとしたが、

 

ガスンッ!

 

忍野のビットが“突き刺さって”ライフルを破壊されてしまった。

 

「そんな!?」

 

「そらそらァ!もっと俺を楽しませろよォ!」

 

忍野のビットが血に飢えた獣のようにセシリアに襲いかかりセシリアは必死に回避するが少しずつダメージを受けてる。それどころか決定打をあえて与えられず遊ばれてるようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「忍野のやつ、遊んでるなありゃ」

『まったくじゃ。さっさと終わらせれば良かろうものを』

 

ピットのモニターで試合を見ていた一夏は呑気な感想を述べていた。千冬も若干呆れ顔で見ていた。

 

「一夏!忍野はいったいどうしたのだ!? いつもとはまるで別人ではないか! それに何故ビットが刺さる!?」

 

箒は荒々しい喋り方をする忍野に戸惑い、一夏に質問していた。

 

「忍野は戦闘狂とかバトルジャンキーって言われるやつなんだ」

「バ、バトルジャンキー!?」

「あいつは戦いになると凶暴化して言動と行動が乱暴なものになる。私か入試で見た時もそうだった」

「刺さるのはあれが刺撃武器として作られた『ファング』って特殊なビットだからだ」

 

箒の問いに一夏と千冬が答えた。

 

「でも忍野のやつ、性格悪過ぎだろ。ファングだけで倒すつもりか?」

『ビットを使う相手に・・・悪意の塊じゃの』

 

 

 

 

 

 

試合開始から10分が経過し、

 

「きゃあぁぁぁ!」

 

セシリアの必死の回避行動虚しく遂にファングが刺さった。一機が刺さると他のファングも次々と突き刺さりスラスター、非固定装備、ミサイルビット発射管と破壊され空中で張り付け同然のようになってしまった。

 

「そォら、逝っちまいなァ!」

 

ゆっくりと近づいた忍野は右腕のバスターソードを手に持ち動けないセシリアに振り下ろした。

 

 

 

 

『試合終了。勝者、忍野仁』

 

試合が終わったが、一夏の時の半分も歓声は上がらなかった。

 

 

 




次はやっと一夏対忍野、ケルディム対アルケー戦になります。

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バトル

 

001

 

 

ピット戻った忍野、それを一夏は苦笑いして出迎えた。

 

「随分と酷いことするな」

『悪趣味じゃの』

 

一夏と忍にいろいろ言われながら忍野はアルケーを解除した。

 

「一応抑えたんだけどねぇ」

「『あれで抑えたのか』」

 

そう言いながら忍野は困ったような顔して椅子に座った。そこに箒と千冬がやってきた。

 

「お前は少しでも普通に戦えないのか?」

「コレばっかりはどうしようもないですね。どうしても戦いになると熱くなってしまう」

「熱くなるじゃなく悪になるだろ」

「悪役にしか見えなかったな」

「ハッハー、なら正義役は一夏かな?」

 

二人の小言にいつものふざけた返事を返した。

 

「さて忍野、シールドエネルギー補給ののちすぐに織斑との試合を開始しろ」

「え~?もうちょっと休憩くださいよ」

「既にちょっとの休憩は満喫しただろう?」

「休憩なしにするつもりだったの!?」

「ほらさっさと行け。第一、疲れてないだろ」

 

そう言うと千冬は蹴飛ばすように忍野を発進ゲートに押し込んだ。否、実際に蹴飛ばしてる。

 

 

 

002

 

 

 

一夏と忍野はピットから出撃し開始位置についた。観客は男性IS操縦士同士の試合が始まると興奮していたが問題の二人は至ってのんびりとした雰囲気を漂わせていた。

 

 

 

「そういえば一夏と勝負するのはあの時以来かな?」

「そうだっけ?」

「だって訓練で手合わせはしたけど勝負はしてないだろ」

「そう言えばそうだな、そんな時間なかったし」

《かかっ、二対一じゃがまぁ良かろう》

 

一夏はライフルとピストル、忍野は大剣を構えアナウンスを待った。そして

 

『試合開始!』

 

その時がきた。

 

 

 

「「勝つのは俺だ!」」

《いいや、儂らじゃ!》

 

 

二人は先程までとはうって代わって殺気をまとい戦闘を開始した。ケルディムはライフルを撃ちアルケーもバスターソードをライフルモードで反撃をおこなう。

互いに回避しながら射撃をするがバルカンモードによる連射性で勝るケルディムにアルケーは防戦になる。

 

「ちッ、いけよォファング!」

「やらせるか! ライフルビット!」

 

上方へ飛翔したアルケーからは10機のファングが、ケルディムからは右肩のパーツと臀部の尾羽のパーツが切り離され6機のビットが展開された。

互いにビットによる応酬。しかし一夏のビットは6機しかないため押され気味になった。一夏は降下しビットからの攻撃方向を絞る策に出た。

 

《敵がわが主様だけと思うな!》

 

忍の制御のもとシールドビットが展開され“射撃”を開始した。これで一夏側は15機のビットによる攻撃となり上空にいた忍野は再び劣勢に立たされた。

 

「テメェ!シールドビットまでに武器があんのかよォ!」

 

忍野はシールドや剣で攻撃を防ぎながら反撃の策を錬る。

 

 

双方全ビットでの戦闘は熾烈を極めたがお互いシールドエネルギーは殆ど減っていない。掠りはするが直撃は避けてるからだ。

 

「ビット戦じゃァ埒が明かねェ! だったら!」

「忍! ビット制御を頼む!」

 

 

「「接近戦で仕留める!」」

 

二人は同時に近接を仕掛けようと動いた。

 

《牽制をかけるぞ! シールドビット、アサルトモードじゃ!》

 

一夏の援護をするため忍はシールドビットの4機を四角に連結しビーム砲として攻撃行った。

 

「当たるかァ!」

 

忍野はビームの砲撃に添うように身を捻りながら急接近しバスターソードを振りかざした。

 

「この!」

 

一夏はピストルの銃剣で受け止めそのまま懐にはいりガン・カタ戦に持ち込もうとするが忍野はさせまいと足蹴りをする。一夏は避けようとしたが、

 

「甘ェんだよォ!」

 

つま先から出てきたビームサーベルに右手のライフルとフロントアーマーのミサイル発射管を破壊された。

 

「足癖が悪いな!お返しだ!」

 

一夏は反撃に左のピストルを接射しアルケーの装甲とシールドエネルギーを削った。

 

「いいねいいねェ、最高だなァ!」

 

ビットが飛び交うなか、忍野のバスターソードと一夏のピストルが再びぶつかった。

 

 

 

 

 

003

 

 

 

 

 

 

観客席にいた生徒と教師、そしてピットにいた箒と千冬、全員がこの試合を観入ってた。皆が男性IS操縦士同士の戦いとしか見ていなかったが目の前の試合は今まで見たことがないものだった。

いまだ開発段階のビーム兵器が使われて第三世代兵器としてやっと試験配備されたビット兵器が三種類も投入されているからだ。

さらに世界大会でも観られないような高度な戦闘が行われ女尊男卑の考え方を持つ者は悪夢を見るような顔していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ケルディムとアルケーは武器を構えたまま空中で制止していた。

双方のビットは稼動限界を迎えていたが互いに回収する時間を与えず、限界に達し地に墜ちていた。

一夏に残った武器は両手のピストル、忍野はライフルモードに変更出来なくなったバスターソードと両脚のビームサーベル。

互いのシールドエネルギーが残り3割になろうとしていた。

 

「さァて、そろそろ終わらせるかァ?」

「そうだな、そろそろキメるとするか」

《いつでもいけるぞお前様!》

 

 

 

 

「「《トランザム!!》」」

 

 

 

甲高い駆動音が鳴り響き、ケルディムとアルケーが赤く発光し始めた。

次の瞬間、二機は先ほどまでと比べ物にならない移動速度で動きステージ中を飛びながらぶつかった。

赤い残像を残しながら何度もぶつかり武器同士の音を響かせてるが観客には何をしているか分からない。速過ぎるのと発光のせいで手足の動きが見えず流星が衝突してるようにしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

幾重の衝突で互いのシールドエネルギーの残量は残り僅かだった。

 

「「《これで終わりだ!!》」」

 

最後の攻撃をしようとした。

 

 

 

 

 

 

しかしケルディムとアルケーが元の色に戻り駆動音止むと二人は武器を下ろし動くのを止めた。

 

「トランザムはここまでか」

「まとも動けないんじゃ話にならねェなァ」

 

そう言うと一夏は銃をホルスターに戻し忍野は大剣を右腕にマウントし互いに武器を収めた。

 

「「織斑先生、棄権します」」

 

 

 

こうして男性操縦士同士の闘いは決着をつけずに幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやいや、クラス代表とやらはどうなるのじゃ?』

 




サブタイトルが思い付かないうえにトランザム中の戦闘をかなり省略してしまった・・・。

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たてなしコンタクト

 

001

 

 

~セシリアサイド~

 

試合後、私は自室でシャワーを浴びながら今日の事を思い返していた。

 

男とは情けないモノだと幼い頃から思っていた、世界が女尊男卑に染まる前からの認識だった。

 

父がそういう人間だったから。

 

いつも母の顔色ばかり窺い威厳も何も無かった。だからこそ私はあの姿こそが男の本質だと認識していた、だから私は気に入らなかった。

女尊男卑の象徴であるISを学ぶ場所、女性の中でも優秀な人間が集まるIS学園に"男"が居る事が。

 

そして出会った。

 

織斑一夏

かのブリュンヒルデ、織斑千冬の弟。

 

最初の印象は父と同じ威厳の欠片も感じられない男だったが、今にして思えば最初の時から私に対する態度が変わっていなかった。

彼はへりくだる事は無く、私の愚かな発言を止めようとし対等な立場で話をしようとしてくれた。

そして彼と対峙した時、私は理解した。この人が私の思い描いた理想の男性だと・・・。

 

 

そしてもう一人。

忍野仁

彼の最初の印象はやる気のないふざけた態度の男だった。その姿は父以上に憎たらしく見えた。

だがクラスで男が女に勝てないとみんなが笑った時、それまでとは一変した雰囲気を纏っていた。事実のみを淡々と頭に響くような喋り方して反論しようがない、そして此方の警戒心をあおるような台詞。

 

私は知りたいと思った。

織斑一夏に対しては想い人として、忍野仁に対しては何者なのかと興味を持った。

 

 

 

 

002

 

 

 

忍野は試合後、屋上に来て電話をしていた。今は放課後、しかも試合を観に殆どの生徒がアリーナに居たため誰も居ない。

 

「それじゃ武装と修理部品の手配お願いしますね」

『いいよ~!その代わりちゃんとデータ送ってね』

「わかってるよ」

 

今日の試合で破損したケルディムとアルケーの部品を束に手配していたのだ。二機は特殊な機体のため他のIS部品では修理出来ず束に送ってもらうしかないのだ。

そして電話を切った忍野は植木の方を向きながら

 

「いい加減出てきたらどうだい?誰も居ないんだからお話をしよう」

 

と言うと植木の裏から一人の女子生徒がでてくる。水色の髪に真紅の瞳、口元に扇子をあてその扇子には『驚愕』と書かれている。

 

「どうして分かったのかしら?気配は完全に断っていたはずなんだけれど?」

「そこにいる生き物が気配を消すなんて無理だよ。本当に気配を消すなら生物としての条件を捨てないと」

 

そう言うと忍野はベンチに座り女子生徒と向き合った。彼女もそれを見て向かいのベンチに腰を下ろした。

 

「さて、君の名前は?名前が分からないと話づらいからね」

「私は更識楯無、この学園の生徒会長よ」

「おっと、会長さんでしたか。それでご用件は?」

「あら、冷たいわね~。まぁいいわ、本題に入りましょう」

 

すると楯無の纏う雰囲気が変わった。

 

「単刀直入に聞くわ、あなたは一体何者?」

「さて、何の事ですか?」

「あなたの事を調べたんだけど経歴が全く分からないのよ。戸籍も偽造みたいだし」

「・・・そんな事調べてどうするんだい?」

「わたしには学園を守る義務があるのよ、もしあなたがそれを脅かすというなら・・・最悪殺すわ」

 

楯無が殺気を放ちながら忍野を睨み、二人の間に静寂が満ちた。

 

「・・・ハハハハハッ!!」

 

静寂を破ったのは忍野だった。楯無は一瞬困惑した表情を浮かべたが再び問い詰めた。

 

「何が可笑しいのかしら?」

「ハハハッ、ごめんごめん。ただ君が勘違いをしてるから可笑しくてね」

「勘違い?」

「答えれる範囲内で言うなら俺がこの学園に来たのは本当に偶然さ。経歴が不詳で怪しいのはともかく、本来であればISと関わること事態なかった筈なんだ。だからこの学園に危害どころか思惑すら無いよ」

「あなたの経歴が無いのは?」

「それは答えられないけどヒントはあげよう。経歴は記録されるから残るんだ、記録してもらえないと経歴は存在しないんだよ」

「どういう意味かしら?」

「答えないよ、ヒントなんだから」

「あなた達の専用機、あれはなんなの?」

「それも答えれないけど悪の組織が作った新兵器とかじゃないよ、単に世界には早過ぎるってだけさ。機体に関してはいずれ教えるよ」

 

それだけ言うと忍野は部屋に戻るために立ち上がった。楯無は毒気を抜かれたのか特に何もない。

 

「あ、そうだ。のほほんさんの好きな物わかるかい?」

「のほほんさん? あぁ、ほんねのことね。なんでそんな事聞くのかしら? もしかして気があるの?」

 

階段を降りようとした忍野は立ち止まり楯無にそんな事を聞き、彼女はからかうつもりでそう返した。

 

「違うよ、君が指示したんだろ? 探りを入れるように。その件で彼女を怖がらせたみたいでね、謝罪をしたいからさ」

「それについては謝るわ、というよりしっかり仕返ししてるでしょ! むしろ謝ってよ! 凄く怖かったんだから!」

「いや、被害者は俺だよ?」

「そんな事は関係ない! 女の子を怖がらせて何がしたいの!?」

「そんな台詞を言うなら風呂場にカメラなんか仕掛けるなよ! そっちが怖いわ!」

 

くだらない文句の言い合いはしばらく続いた。

 

 

 

003

 

 

 

「それで、ほんねの好きな物ね? お菓子とか甘い物を持って行けば喜ぶわよ」

「ありがと。お菓子ねぇ、ドーナツでもいいかな?」

 

散々文句を言い合った後二人は比較的良好な間柄になっていた。相手をよく知るには喧嘩が一番とはよく言ったものだ。

 

「それじゃ、お礼にこれをあげよう」

 

忍野はそう言うとポケットからメモリーカードを取り出し手渡した。

 

「? これは?」

「俺と一夏の専用機の機体データだよ。細かい所は機密だから載ってないけど基本性能はわかるから上の人に報告できるでしょ? これで言い訳くらい出来るはずさ」

「!? ありがとう!! それじゃあね!」

 

楯無はメモリーカードを受け取ると大喜びで屋上を後にした。

 

 

「まったく・・・あれ?」

 

屋上に残された忍野は自分も戻ろうかとポケットに手を入れたところ何かが手に触れた。取り出して見ると先ほど渡したメモリーカードど同じ物があった。そこは問題ないが今自分の手の中にあるメモリーカードには『機体』と書いてあったのだ。そして渡したメモリーには、

 

「ヤベー、メモリー間違えた・・・」

 

『貞子耐久3時間』と書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、再び女子生徒の悲鳴が響きわたりその後寮監室の一室が襲撃される事件が起こった。

 




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いちかパーティー

 

001

 

 

翌日の朝のSHRだ。 一夏にとっては驚きのことが起きていた。

 

「では、1年1組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいいですね!」

 

山田先生は嬉々として喋り、周りも大いに盛り上がっている。

 

「先生、質問です」

「はい、織斑くん」

「俺は試合で一勝一引き分けなのになんでクラス代表になっているんですか? 」

 

その答えは山田先生が答えてくれるさ。

 

「それは、忍野くんが推薦したからですよ」

「えっ!?忍野!?」

 

一夏は驚き、忍野の方を振り向く。

 

「俺より一夏の方が観客の受けが良かっただろ?だから俺は辞退して一夏を推薦したんだよ」

「なるほど、それで本音は?」

「誰がやるか、面倒くさい」

「やっぱりかよチクショー!」

 

忍野の本音に叫びを上げる一夏、それを笑ってる忍野。

 

「大丈夫だよ一夏、俺はお前のサポート役としてクラス代表補佐になったから」

「なに!?変わってくれ忍野!」

『惨めったらしいぞお前様』

「やだよ、そのまえに君はサポートなんて出来ないだろ?諦めな」

 

 

ガタン、と音がした。 その音源は突如起立したセシリアだった。

 

「あの・・・非常に不躾ですが、発言の許可を頂けるでしょうか・・・?」

「許可しよう、なんだ?」

 

千冬に許しを得たセシリアは深呼吸を大きく一度二度し、直角に腰を曲げ

 

「私、セシリア・オルコットはイギリス代表候補生として、人間として。今日までの、無礼を謝罪をさせて下さい。国を、そして男性を侮辱した愚行。誠に申し訳ありませんでした」

 

真摯な謝罪だと一夏と忍野は思う。当然な話ではあるが、この謝罪を受け入れる人も居ればそうでない人も居る。こればかりはどうしようもない、人の心の問題だ。 相手を受け入れる心、受け入れず拒絶する心。 それはその心の持ち主以外にはどうすることもできない。 そして心の問題は時間の経過に任せるしかない。

 

「オルコットさんもこうやって謝罪していることだし、皆も受け入れてくれないか? 今後は自分の立ち振る舞いを改めると言っているんだし、この前のような事はもう発言したりしないさ」

 

一夏の言葉にみんな納得したのか誰も文句を言わずセシリアを許してくれた。

 

 

 

 

 

002

 

 

 

 

「織斑君、クラス代表就任記念パーティーの始まりーーー!!」

 

本日の授業が終了し、一夏達が食堂へ行くと一夏のクラス代表就任記念パーティーが開かれた。 当然、このパーティーに参加しようと他クラスの生徒達もいたが、一夏は一組の代表。参加権は一組のメンバーだけだった。

 

「「「織斑君! 代表就任おめでとう!! 」」」

「お、おう。ありがとう」

 

一斉に鳴らされたクラッカーの音を合図にパーティーが始まる。 パーティーの主役である一夏は嬉しいのだが、女子生徒の元気についていけず少々顔が引き攣り気味であった。

 

多種多様のお菓子やジュースが並べられ、各々がお菓子を食べながら話しをしているのだが、一夏へ寄ってくる女子が多い。と言うか、ほぼフルメンバーである。

なぜ一夏にみんなが寄っていくか?

 

理由は簡単、忍野が居ないからだ。

破損したケルディムとアルケーの部品が届いたのですぐに修理すると整備室に向かったのだ。連絡してから24時間もしないうちに荷物が届く、運送業でもやったらどうですか束さん?

 

「一夏、人気者だな」

 

隣に座る箒が少し捻くれて呟く。 想い人が祝われるのは嬉しいが周りには女子しかいないのでやはり妬いているのだろう。

 

「・・・ただ騒ぐ口実が欲しかっただけだろう」

『なんじゃい! 目の前にドーナツがあるのに食べれんとは新手の拷問か!』

 

すでに疲れ果てた一夏と出てくるわけにいかず影の中でドーナツを食べれず悔し涙をながす忍だった。

 

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君と忍野仁君に特別インタビューをしに来ました!」

 

そこにいきなりやってきた女子生徒。ネクタイの色は二年生を表している。

 

「はい。私は二年の黛薫子。よろしくね! 新聞部副部長をやってまーす。はいこれ名刺」

 

手慣れた様子で一夏に名刺を手渡す。 部活動で作ったわりには本格的にできている。

 

「あれ? 忍野君は?」

「忍野なら整備室ですよ」

「なら後で取材するとして、ではずばり織斑君! クラス代表になった感想を、どうぞ!」

「期待に応えれるように頑張ります?」

「なんで疑問系? もうちょっと面白いコメント ちょうだいよ。そんなありきたりなのじゃなく て。もっとこう、俺に触ると火傷するぜ! みたいな」

「んー、“全力で狙い撃つ!”とか?」

「まぁまぁかな? 細かいところは適当に捏造しておくからいいとして」

 

「「「『(それは新聞部としてどうなの?)』」」」

 

みんな同じことを思った。

 

「あぁセシリアちゃんもコメント頂戴」

「わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが仕方ないですわね」

「あ、じゃぁいいや。適当に捏造しておくから」

「ちょっと!?」

 

こんな感じで捏造と言う名の取材が続き最後に写真を撮ることになった。

 

「男性操縦士のツーショットが良かったんだけど仕方がないから一組の専用機持ちね」

 

そう言うと強引にセシリアと握手まで持って行く。セシリアは頬を染めてるが一夏が気づくはずもなく、

 

「・・・・・・」

「? なんだよ?」

「べ、別に何でもありませんわ」

 

何か用があるのかと勘違いして、

 

「・・・・・・」

「・・・なんだよ、箒」

「何でもない」

 

幼なじみがなぜ不機嫌そうにこちらを見てくるのかも分かってない。そんな事お構いなしに撮影は進められる。

 

「それじゃあ撮るよー。35×51÷24は~?」

「え? えっと・・・2?」

「ぶー、74.375でしたー」

 

そこは分かりやすいので行かないと、一夏くんがポカンとしてますよ。しかも撮影の瞬間にみんな集まりツーショットではなくクラス写真になってる。

 

「あ、あなたたちねっ!」

「まーまーまー」

「セシリアだけ抜け駆けはないでしょー」

 

ともあれ、このパーティーは十時過ぎまで続き織斑先生に怒られやっと終了した。

 

 

 

003

 

 

 

後日、今回の新聞が発行されたが見出しが、

 

『噂の男子生徒は何かに取り憑かれてる!?』

 

になっていた。一夏の背後から隣の子の持ってるドーナツを取ろうとする少女の手が写っていたらしい・・・。

 

 

 




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かんざしクラブ 其ノ壹

001

 

 

さて、一夏くんがパーティーの最中の忍野くん。現在、首に高周波カッターを突きつけられてる。

 

「う、動かないで。」

 

場所は整備室、忍野と女子生徒の二人だけである。目の前にいる女の子、水色の髪、赤い瞳に掛けた眼鏡、雰囲気がか弱さを滲み出ている。しかしやってることは危険過ぎる。

 

 

 

 

002

 

 

 

話は少し戻って授業後、忍野が一夏からケルディムを預かって整備室に来たところからだ。

 

~忍野サイド~

 

今、俺はケルディムとアルケーを修理を行ってる。

それにしてもやっぱりケルディムのフロントアーマーが一番酷いなぁ。ミサイル発射機構を付けてるから取り替えるだけじゃダメだから面倒くさい。

そもそもGNドライヴ搭載機は装甲にGN粒子供給コードが付いてるから取り替えること自体が凄く大変だ。一夏にも修理の仕方、教えようかなぁ?

 

だがそんな事より、さっきからチラチラとこっちを見てくる子がいる。水色の髪の子だが後ろ姿しかわからない。俺が作業してると視線を感じるが何度振り返っても後ろを向いてる。

 

第二世代型量産機の『打鉄』の発展機を整備・・・いやあの様子だとまだ製作段階かな?とにかくISを弄ってる。最初は俺達の機体の情報を狙ってるかと思ったがどうも俺がここに居るのがお気に召さないようだ。さっさと終わらせて部屋に戻ろう。

 

 

 

修理が済んで最終チェックが終わった俺は部屋に戻ろうと思ったがついでに水色の髪の子の作業を見ることにした。彼女は出入口のそばで作業してるから部屋に入った時から気になってたし、後学の為に見学していこう。

 

どうも今はスラスターの調整をしてるようで踏み台に乗ってノズルの裏の配線を弄ってる。にしても道具が散らかってるなぁ、足の踏み場もない有り様だ。踏み台の上にまで部品置いてるよ。ケガしなきゃいいけど。

そんな事思っていたら、

 

「あっ!」

 

足下に転がっていた部品を踏んづけて足を滑らしこちらに倒れてきた。

 

目の前に女の子が倒れてきたのでとっさに受け止めてしまった。本来であれば避けるより正しい判断であったがこの場合は間違いだったのかも知れない。

 

何故ならその子には、およそ体重と呼べるものが全くと言っていいほどなかったのだから。

 

 

 

 

 

003

 

 

 

 

そこからの彼女は早かった。

俺に受け止められたことに気づくとすぐにおりて、机に置いてあった高周波カッターを首に突きつけてきたのだ。

 

「う、動いたら、き、危険よ」

 

そんな事言うならやめてくれ。

てかすぐやめろ! 手が震えてるのにそんなもの突きつけるな!・・・なんて言える状況じゃないから何も言わず改めて目の前の女の子を見た。

水色の髪が内側に跳ねていて赤い瞳で眼鏡を掛けている。

 

(なんだか会長さんに似ているなぁ)

 

そう考えてると彼女は少し落ち着いたのか手の震えが止まり、ぞっとするくらいに冷えた視線で俺を見つめてきた。 

 

「・・・気付いているでしょ?」

 

目の前の子は剣呑な目つきのまま俺に問う。

 

「そう、私には・・・重さがない」

 

確かに、この子には体重がない。全くないわけではないようだったが、

 

「私くらいの身長の・・・平均体重は40キロ後半の筈・・・だけど私の体重は5キロ」

 

“5キロ”という重さが人間の体積に分散してると考えれば体重がないのも同然だ。

 

「“一匹の蟹に出会って”重さを・・・根こそぎ持っていかれた」

 

蟹? 蟹と言ったか?まさか・・・、

 

「別に理解しなくてもいい。かぎまわられたら・・・すごく迷惑だから喋った」

 

はぁ~、面倒だなぁ。“こっち側”の問題かぁ。

 

「わ、私は、あなたに私の秘密を黙っていてもらいたい。沈黙と無関心を・・・約束してほしい。約束してくれないなら・・・」

 

そう言うと手に力を籠めている。恐らく口封じのためなら殺すつもりなのだろうが、その覚悟がないのかまた手が震え始めてる。

こういうのは一夏の役割なんだけどなぁ、まぁ仕方がない。こんな子に殺しをさせるのは目覚めが悪いからねぇ。

 

「“おもし蟹”」

 

「? 何、言ってるの?」

 

彼女は怪訝そうな顔をしている。少なくとも話を聞くつもりくらいあるようだな。

 

「今の君の状態に関係してる“もの”の名前さ」

 

科学の最高峰であるIS学園に来てまで関わるとは思わなかったけど、まぁ久しぶりにお仕事をしますかな、

 

“専門家”として

 

 

 

「君が助かりたいなら力を貸すよ?」

 

 

 

 




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かんざしクラブ 其ノ貮

 

004

 

 

~忍野サイド~

 

 

「・・・わけの分からない事、言わないで」

 

まぁ普通は信じないな、でも怖いからその物騒なものを片付けて。

 

「まぁ話だけでも聞きな。もし口封じをするならそれからでも遅くはないだろ?」

「・・・話を聞くだけなら」

 

そう言うと彼女は高周波カッターを少し首から離してくれた。

 

「それじゃあ“おもし蟹”の説明をしよっか。

おもし蟹ってのは九州の山間あたりでの民間伝承なんだ。地域によっておもし蟹だったり、重いし蟹、重石蟹、おもいし神ってのもあるんだ。この場合は蟹と神がかかってるんだよ。

 

「まぁ細部はばらついているけど共通してるのは、人から“重み”を失わせるってところだ。

行き遭ってしまうと・・・下手な行き遭い方をしてしまうとその人間は存在感が希薄になる、存在感どころか存在が消えてしまうって物騒な例もあるんだ」

 

 

「存在が・・・」

 

何やら思い詰めるような顔している。そりゃそうだろうなぁ、もしかしたら自分の存在が消えてたかもしれないんだから。あ、カッターを下ろしてくれた。

 

「蟹って言ってるけど別に蟹じゃなくてもいいんだ、美しい女の人だって話もあるし。場所そのものにも意味がない、話自体は九州だけど現象は各地で発生してるからね。そういう“状況”があれば“そこに生じる”」

 

「私が遭ったのは、蟹」

「まぁ今回は蟹なんだろう、一般的だし。でも、それは本質的な問題じゃない。

 

「蟹じゃなくて元は神なんじゃないかってことなんだ。蟹がメインで神が後付けだと思われてるんだけど、おもいし神からおもし蟹へ派生した可能性もあるんだ」

 

「そんな事言われても・・・知らない」

 

「知らないってことはない。何せ遭っているんだから、そして今だってそこにいる」

 

「何か、見えるの」

「見えないよ、俺には何も」

「・・・無責任」

 

彼女は少し睨みつけてきた。そう怖い顔しないでよ。

 

「そう言うなよ。大体、魑魅魍魎の類は人には見えないのが普通だろ? 誰にも見えないし、どうやっても触れない。それが普通さ。でも君は運の悪い中じゃあ運のいい部類だ」

「? どういうこと」

「神様なんてのはどこにでもいるからさ。どこにでもいるし、どこにもいない。君がそうなる前から周りにはそれはあったし、あるいはなかったとも言える」

 

「禅問答?」

「神道ってやつだよ。修験道かな。

 

「あぁそれと勘違いするなよ。君は何かの所為でそうなったわけじゃない、相手は神様だ、物々交換だよ」

「物々交換? 何が言いたいの?」

 

「君が望んだからこうなったんだよ?」

「・・・・・・」

 

「それで、どうする? 体重を取り戻したいなら力を貸すよ?」

「助けて・・・くれるの?」

「助けない。君が一人で勝手に助かるだけだ、助かるかどうかは君次第だ」

 

彼女は何も言わずに俯いてしまった。さて、どうするかな?

 

「・・・おねがい、します」

「ん?」

 

「おねがい、します。力を、貸してください」

気弱そうに、しかし確固たる意志をもって俺にそう言ってきた。

 

「わかった、力に貸してあげる。それじゃあ君の名前を教えてくれるかな? 俺の名前は忍野仁だ」

 

「更識、簪」

 

・・・会長さんと同じ苗字?

 

 

 

 

 

 

005

 

 

 

現在、時刻は夜11時過ぎ。忍野は先ほどとは別の、今はまだ使われてない整備室にきている。簪には一度部屋に戻ってもらって身の清めと服を着替えてもらってる。

その間に“儀式”のための準備をしているのだ。

 

 

 

 

「・・・え、」

 

部屋から戻ってきた簪は扉の前で待つ忍野の服装に驚く。

忍野は白づくめの装束、浄衣に身を包んでいた。それなりに見えてしまう。

だが、忍野が和服だと違和感しかない。似合わないとは言わないがなんだか不自然さを感じる。

 

「忍野さんって・・・神職の方だったんですか?」

「いや? 違うよ?」

 

あっさり否定する忍野。

 

「この服装は、単純に身なりを整えただけだ。一応相手は神様なんだからちゃんとした格好をしただけだよ。それに同級生なんだからタメ口でいいよ」

「・・・わかった」

 

「それで、どうやって退治するの?」

「考え方が乱暴だなぁ、言ったろ? 相手は神様なんだ。そこにいるだけ、何もしていない。当たり前だから、そこにいるだけ。君が勝手に揺らいでるだけなんだよ。

だから退治するんじゃなくてお願いするんだ、下手に出てね」

「・・・それで返してもらえるの?」

「多分ね。切実な人間の頼みを断るほど彼らは頑なじゃないよ。でも神様は、特に日本のは大雑把で適当だからね、普通にやったら気付いてすらもらえないんだ」

「あの蟹は、今も私のそばにいるの?」

「うん。そこにいるし、どこにでもいる。ただし、ここに降りてきてもらうためには手順が必要なんだ」

 

整備室の中は見ると簪は驚いた。部屋全体に注連囲いが施され、四隅に設置された燈火に照らされて大型モニターの前に祭壇が設けられているのが見えたからのだから。もちろん供物もある。

 

「まぁ結界みたいなものだよ。よく言うところの神域ってやつだ。だからそんなに緊張しなくてもいいよ」

 

そう言いながら整備室の中に入った。

 

「さて、それじゃあ目を伏せて、頭を低くしてくれる?」

「? なんで?」

「神前だよ、ここはもう」

 

そして二人は祭壇の前に並んだ。

すると忍野は供物の内からお神酒を手にとって簪に手渡した。

 

「え・・・何?」

「お酒を飲むと神様との距離を縮めることができる・・・そうだ。酔う必要はないから口をつける程度でいいよ」

 

簪は受け取ったそれを一口飲み、簪から返還された杯を祭壇に返した。

そして正面を向いたまま、忍野は簪に話かけた。

 

「じゃあ、まず落ち着くことから始めよう」

「落ち着くこと・・・」

「そうだよ。大切なのは状況だ。場さえできれば作法は問題じゃない。最終的には君の気の持ちよう一つなんだから」

「リラックスして。頭を下げたまま目を閉じて数を数えよう」

 

一つ、二つ、三つ、と忍野はゆっくりと数えていった。

そして十まで数えた。

 

「落ち着いたかい?」

「・・・うん」

 

忍野は祭壇を、簪に背を向けたまま質問を始めた。

 

「なら今から質問に答えてみよう。君の名前は?」

「更識簪」

「通ってる学校は?」

「IS学園」

 

一見、意味のなさそうな質問と、それに対する回答が淡々と続きいくつ目かの

 

「今までの人生で一番辛かった思い出は?」

 

忍野の質問に、

 

「・・・・・・」

 

簪は、答に詰まった。

 

 

「どうしたの? 一番、辛かった思い出。記憶について訊いてるんだ」

「・・・お」

「お?」

 

「お姉ちゃんに、努力を・・・否定された」

 

そして簪は答えた。

 

「お姉ちゃんに『あなたは無能のままでいなさいな』と言われた。

 

「お姉ちゃんに憧れて、お姉ちゃんのようになろうと・・・頑張った。それをお姉ちゃんに・・・認めて欲しかった。それで、代表候補生にもなった。

でも、それを・・・否定された。

 

「だから、お姉ちゃんに認められようとするのを、諦めた。

 

「それでも考えるの。私のことをちゃんと見て、私の努力を認めてって」

 

 

忍野は変わらぬ姿勢のまま簪に話かけた。

 

「そう思うのか?」

「思う、思います」

「本当にそう思うのか?」

「・・・思います」

 

「だったらそれは“きみの思い”だ。

「“どんなに重かろうと”それは君の背負うもの、“他人任せ”にしちゃいけない。

「目を背けずに、目を開けて見てみよう」

 

そして忍野は目を開けた。

簪もそっと、目を開けた。

燈火の明かりが不自然に揺らいでる。

まるでそこに“何か”がいるかのように。

 

「あ、ああああっ!」

 

簪はかろうじて、頭は下げたままだが身体を震わせ、大声を上げた。

 

「何か見えるのか?」

「み、見える。あのときと同じ、大きな蟹が、蟹が、見える」

「そうか。俺には全く見えないけど」

 

忍野の問に取り乱しながら答える簪。忍野は振り返り、簪に向く。

 

「本当は蟹なんて見えて、いないんじゃない?」

「ち、違う、はっきりと、見える。私には」

「錯覚じゃない?」

「錯覚じゃない、本当」

 

忍野は簪の視線を追い、それから再び簪を見る。

 

「なら、言うべきことがあるんじゃないか?」

「言うべき、こと」

 

状況に、場に耐えられなくなった簪は、頭をあげてしまった。

その瞬間、“何か”が簪めがけて動いた。

 

 

 

 

 

「おっと」

 

そんな間の抜けたかけ声とともに忍野は簪の前方をつかんだ。まるで“何か”が簪に近づくのを止めるかのように。

 

「言うなら早くしてくれないかな? ずいぶんとせっかちな神のようだから抑えるのが大変なんだ」

 

「あ、あぁ」

 

何かに脅えながらか一歩さがる簪。

 

「もしお願いできないならこのまま退治しちゃうよ? それでも一応、“形だけ”なら解決できるし」

 

そう言うと忍野は何かのほうを向き、手に力を込めて何かを潰しにかかった。

 

 

 

「待って」

 

 

「待って、ください」

「待ってどうするんだい?」

 

忍野は簪のに問いながら視線を向けた。

 

「ちゃんと、できるから。自分で、できる」

「それじゃ、やって御覧」

 

そう言うと忍野は込めた力を抜き、しかし手を離さず簪に言った。

言われた簪は、足を正座に組み、手を床について、土下座をした。そして忍野の前の“何か”に対してゆっくりと、丁寧に頭を下げた。

 

「ごめんなさい。それから、ありがとうございました。

 

「でも、もういいです。私の気持ちで、私の思いで、私の記憶だから、私が、背負います。失くしちゃ、いけないものでした。

 

「お願いです。お願いします。どうか、私に、私の重みを、返してください。

 

 

「どうかお姉ちゃんを、私に返してください」

 

 

 

すると忍野は掴んでいた手を握り、拳を作った。

何かを握り潰したのではなく、掴んでいたものが消えてしまったかのように。

 

そして簪はそのまま立ち上がりもせずわんわんと声を上げて泣きじゃくり始めた。

 

 

 

 

006

 

 

 

 

 

「おもし蟹ってのはね、“おもいし神”ってことなんだよ」

 

ある程度落ち着いて、泣き止んだ簪の隣に座った忍野はさきほどしなかったおもし蟹の説明をした。

儀式の後片付けは済んでおり、何もない整備室に忍野の声は響いた。

 

「思いし神、思いとしがみ、しがらみってことでもあるんだ。人間の思いを代わりに支えてくれる神様ってことさ」

「思いと、しがらみ・・・」

「おもし蟹は、重みを奪い、思いを奪い、存在が奪う。けどそれは君が望んだから、むしろ与えたんだ。物々交換、重みを対価に辛い思いを預かってくれる」

 

そう言い終えて立ち上がった忍野は、まだ俯いてる簪の顔を覗き込んむようにして、

 

「でもこれで、自分の“思い”でお姉ちゃんと向き合うことができるんだ。お姉ちゃんに認めてもられるように頑張ってみようよ。俺も付き合うからさ」

 

微笑みながら簪にそう言った。

 

 

 

「ッ・・・!」

 

簪はボッと赤くなりそして、

 

「あ、ありがとう、忍野くん」

 

赤い顔のまま、笑顔でお礼をいった。

 

 

 

 




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しのぶルーム

 

001

 

 

クラス代表決定戦から4日。現在、二人の男子生徒はそれぞれ荷物をまとめている。

授業が終わった放課後、山田先生から

 

「織斑くん、忍野くん。お部屋のリフォームが終わりましたので本日からそちらにお引っ越ししてくださいね」

 

と言われ準備してるのだ。

けして夜逃げや退学ではありません。

 

 

 

 

「一夏、もし良ければ手伝おうか?」

「いや、いいよ。もともと一週間だけの予定だったからそんなに荷物を広げてないし」

「そ、そうか・・・」

 

一夏が荷物をまとめるのを見て何か手伝えないかと思った箒だが特に何もなかった。

彼女からしたらセシリアとの差を少しでも広げておきたいのだろうが、一夏の鈍感と自分の照れもあってこの一週間でそれ程距離が縮まったりはしなかった。

 

「それじゃ、また明日な」

「あ、あぁ、また明日」

 

荷物をまとめ終わった一夏は、自分の家に帰るかのような軽い別れを告げ、部屋を出た。

寝食供にした女の子にそれって・・・。

 

箒はふと部屋を見渡した。一夏の私物が無くなり少し広く見え、なんだか寂しさを感じる。そして一夏の使っていたベッドに目が止まった。

 

「一夏の寝ていたベッド・・・」

 

すると箒は、何か見えないものに引かれるようにゆっくりと一夏のベッドに近づい行き、ベッドに座った。そして抗いようのない力に倒されるように枕に顔をうずめた。

そして一呼吸、肺のいっぱいまで息を吸った。

 

「って、これではまるで変態ではないかぁぁぁあ!」

 

その後、引っ越しのようすを見に来た山田先生に見つかるまで箒は一夏のベッドで悶えていた。

 

 

 

 

002

 

 

 

 

さて、一夏は自分の新しい部屋に着いた。

ドアを開けて中を見たが、基本的な内装は他の部屋と同じなようで変わり映えしない。

だが一夏は部屋に入るなり、風呂場の扉を開けた。前の部屋ではユニットバスが目に映ったが、この部屋ではまず洗濯機が見え、その先にもう一つ扉が見える。もともとあったシャワールームを脱衣場兼洗濯場にしてその奥に新たに風呂場を作ったようだ。

脱衣場は広く、洗濯機があってもそれ程圧迫感を感じない。そして除湿機も設置されてるので洗濯物はここで干すことができる。

脱衣場を見終わった一夏は、改めて風呂場の扉を開いた。

風呂場は六畳ほどだが大きな湯船が目に映る。大人でも足を伸ばせるほどでゆったりできるデザイン。壁にはパネルがありどうやらブローバスなどの機能があるようだ。

 

「凄いな、風呂が楽しみになりそうだ」

 

ちなみに一夏は風呂好きである。爺くさいですね~。

今夜の風呂に想いを馳せながら荷物を片付けるために脱衣場を出た一夏。

すると、

 

「あれ、一夏はもう来てたのか」

 

忍野が荷物の入った鞄とドーナツ屋の大きな袋を持って部屋に入ってきた。

 

「ミスタードーナツを買いに行ってたのか?」

「ああ、ちょっと訳あってね。おっとそうだ」

 

すると忍野のは袋の中からドーナツの箱を一つ取り出した。

 

「ほい、一夏。おすそ分け」

「ありがとう。後で忍と食べるよ」

「んじゃ、俺は用事を済ませてくら」

 

そう言うとさっさと出て行く忍野。部屋に残された一夏はコーヒーを淹れてから影の中の忍に声をかけた。

入学してからは必ず人目があったため忍は出てこれなかったので、そのお詫びという意味を込めて一緒にドーナツを食べようと思ったのだ。

 

「お~い忍。ミスタードーナツがあるぞ~。ゴールデンチョコレートだぞ」

 

「ぱないの!」

 

可愛らしいかけ声とともに笑顔で一夏の影から登場した忍。幼女姿で白いワンピースを着た彼女はその光を放つような金髪と、透き通るような白い肌もあって現在離れした美しさで、そして人形のような可愛さもあった。

 

だが三分しか戦えないヒーローの巨大化シーンのようなポーズで出てきたため、

 

「ぐげっ!」

 

影を覗き込んでいた一夏の顔面に幼女の拳が突き刺さった。

 

「おぉー! よりどりみどりではないか!」

 

後ろで転げ回ってる一夏を完全無視してドーナツを頬張る忍。少しは気にしてあげなよ。

そうこうしてるうちに忍は一夏の分を含め、全部のドーナツを平らげてしまった。

あ、一夏くんが復活した。

 

「なにすんだよ忍!」

「お前様! 儂はこの一週間、影の中に缶詰めじゃったのじゃぞ! そのくらいのことで怒るでない」

「お前、この間人のドーナツ取ろうとしただろ!?」

「だって美味しそうだったもん!」

「だったもん、じゃない! それになんで俺の分まで喰ってるんだよ!?」

「? 何を言ってるの?」

「自覚なし!?」

 

高校生が幼女を説教してるように見えていいように振り回されてる、珍しい絵が完成した。

 

「それより、そろそろ“食事”をしないと」

 

そう言うと一夏は上着をはだける。

“食事”

吸血鬼にとっての食事はその名の通り“吸血”であるが、吸血鬼のなれの果てである忍にとっては少し違う。スキルを失った彼女は一夏以外の人間からは吸血できず、そして定期的に一夏から吸血しないと消滅してしまう。

忍にとって“吸血”は食事ではなく、輸血や栄養点滴と同意であり、欠かす事ができないのだ。

 

 

 

 

 

「いや、ドーナツを喰うた後にお前様の血は吸いとうない」

「お前、最悪だな!!」

 

・・・なのに今は嫌だと言う。

ドーナツを食べた舌を一夏の血で汚したくないようだ。一夏の血は不味いのかい?

結局、一夏が口直しとして食堂のドーナツを買ってきたら喜んで“食事”をした。

 

 

 

 

003

 

 

 

さて、時間を少し巻き戻して。

 

 

ドーナツの箱を持った忍野は、先日のお詫びをするためにのほほんさんの部屋に向かった。

え? 部屋の場所? 

クラスの子に聞きました。

 

部屋の前に着いた忍野はドアをノックした。

 

「は~いッ!?」

 

のんびりとした返事とともにキツネの格好をした本音が扉を開けたが、来客が忍野と気づくと声が詰まった。

 

「な、何か用かな~、おっし~の?」

「謝りに来たんだけど」

「へえ?」

 

「この間は怖がらせるような事を言って、ごめんなさい」

 

そう言いながら忍野のはしっかりと頭を下げ、お詫びの品としてドーナツの箱を差し出した。

 

「ちょ、ちょっと待って! 頭を上げて!」

 

突然やってきた忍野がいきなり謝ってきたので流石にパニクってるのか、本音が早口で喋っている。

するとルームメイトが心配したのか、部屋の奥から出てきた。

 

「どうしたの? 本音・・・忍野くん!?」

「あっ、かんちゃん」

「あれ? 更識さん?」

 

奥から姿を見せたのは更識簪だった。

 

 

 

 

004

 

 

 

 

とりあえず部屋に入れてもらった忍野は、改めて謝罪をした。本音も謝罪して互いに和解した。

 

「のほほんさんのルームメイトは更識さん だったんだ」

「そうだよ~。でもかんちゃんとおっし~が友達だとはね~」

「整備室が一緒だった・・・」

「二人はどういう関係なの?」

「幼なじみ・・・」

「わたしはね~、かんちゃんのメイドなの~。布仏家は代々、更識家のお手伝いさんなんだよ~」

「・・・更識さんって、いいところのお嬢さんだったんだ」

 

それからしばらく、三人はドーナツを食べながらおしゃべりをしてすごした。

そして日が沈み、夜になったころに忍野は帰ることにした。

 

「それじゃ、お休み。のほほんさん、更識さん」

「おやすみ~、おっし~の~」

「・・・・・・」

「あれ~? かんちゃん~?」

 

本音はすぐに返事を返したが簪は黙ったままだ。

 

「・・・名前」

 

「「え?」」

 

「更識って・・・呼ばないで、簪って・・・呼んで」

 

この言葉に一番驚いたのは本音だった。下の名前で呼ばせることは、更識家の女には重要な意味がある。

それなのに引っ込み思案な簪がそんな事を言うとは考えた事もない彼女は、思考が追いつかず完全に固まってしまった。

だがそんな事、知りもしない忍野は友好の証と捉えた。そして、

 

「あぁ、分かったよ。おやすみ、簪」

 

そう言うと忍野は部屋に戻って行った。

 

 

あとに残ったのは顔を真っ赤にした簪と、頭から煙を出しながら固まってるの本音だった。

 

 

 




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クラス対抗戦は忙しい
りんリユニオン


 

001

 

 

一夏が正式にクラス代表になってから早2週間が過ぎようとしていた。

朝、一夏と忍野が教室に入ると、クラスはとある噂話で持ちきりだった。

 

「織斑くん、忍野くん、おはよー。ねえ、 転校生の噂聞いた?」

 

「転校生?今の時期に?」

「変だな。今はまだ4月だよ?」

今はまだ四月、入学と言うには遅くて転入と言うには早過ぎるのだ。

 

「なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

「へぇー、中国の」

「代表候補生かぁ」

 

そんな事を言いながら一夏が席につくといつの間にかセシリアと箒まで来ていた。

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」

「どんなやつなんだろうな」

「む・・・気になるのか?」

「ん? ああ、少しは」

「ふん・・・」

「そんな事よりも一夏さん。クラス対抗戦に向けて、より実践的な訓練をしましょう。相手ならこのわたくし、セシリア・オルコットが務めさせていただきますわ」

 

一夏は箒とセシリアに挟まれて楽しくおしゃべりをしてるが忍野は何か考え事をしている。そこへ本音がやってきた。

「おっし~の~、どうしたの~?」

「ん? いや、中国に知り合いがいるんでなぁ、少し懐かしんでいるんだよ」

 

そしていつの間にか転校生の話からクラス対抗戦の話になった一夏のところでは、一夏に向けて激励が述べられている。

 

「織斑くん、がんばってねー」

「フリーパスのためにもね!」

「一夏さんには勝っていただきませんと!

「今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだから、余裕だよ」

「一夏、クラスみんなのために必ず勝て」

『お前様、負けることは許されんぞ』

 

クラス対抗戦は、クラス代表同士が戦うリーグマッチで一位のクラスには賞品として学食デザートの半年フリーパスが配られるのだ。

さすが女子、デザートフリーパスがもらえるとあってセシリアや箒まで燃えている。

 

一夏は若干たじろぎながら適当な返事をすると

 

 

「そぉは問屋が卸さないわよ」

 

突然、そんな声が響いた。

みんなが振り返るとそこに立っていたのはカスタマイズされたIS学園の制服を着て、髪をツインテールにし、腕を組んだ少女が立っていた。一夏と忍野、一組の女子たちは一組のドアの前に立っている少女に視線を向ける。

 

「2組のクラス代表も専機持ちになったの。 そう簡単には優勝できないわよ!」

 

少女は腰に手を置き、堂々と一組に宣言する。すると一夏は立ち上がった。

 

「お前、鈴か?」

「そうよ、中国代表候補生、凰鈴音! 今日は宣戦布告に来たんだから!!」

 

風鈴音、一夏の親友で忍野の友達。中学二年生まで一緒だった幼なじみだ。

 

「何格好つけてんだ? すげぇ似合わないぞ」

「んなっ! なんてこと言うのよ、アンタは!」

「そんなこと言ってやるなよ一夏、格好は様になってたじゃないか」

「そうでしょ忍野! これだけは練習してきたんだから!」

 

((((もっとちゃんと最後まで練習してこい))))

満場一致で口には出さないがツッコミがいれられた。

 

「「それはそうと鈴、避けろ!」」

「へ?  ッ!!」

 

二人の言葉に僅かに間の抜けたような顔をする鈴。だが次の瞬間には何かに気づき、それと同時に跳躍前転する。

 

「ちっ、避けるな凰。それと、もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

心底悔しそうな顔をしながら、主席簿を片手にそう言う千冬。いや、なんで悔しがるの?

 

「ち、千冬さん・・・」

「織斑先生と呼べ。あと、入口を塞ぐな。 邪魔だ」

「す、すみません・・・」

 

すごすご、とドアからどく鈴。

 

「また後で来るからね!逃げないでよ、一 夏!」

「・・・あれ? 俺は?」

 

ビシッ、と一夏に指差した後、鈴は急いで2組の教室に戻っていった。哀れ忍野。

 

「・・・一夏、今のは誰だ? えらく親しそうだったな?」

「い、一夏さん!? あの子とはどういう関係ですの!?」

 

一夏と親しげに話す鈴に危機感を感じた箒とセシリアすぐに一夏に問い詰め、他の生徒も質問攻撃を始めた。

だが皆は忘れていた。その鈴に、自分の教室に戻るよう命令した者の存在を・・・。

 

 

バシンバシンバシンバシン・・・

 

「席に着け、馬鹿者ども」

 

 

その日、クラスの8割近くが主席簿の餌食になった。

 

 

 

『これが学級崩壊というやつか・・・』

「みんな大丈夫かな?」

「加減してるはずさ、多分・・・」

 

 

 

002

 

 

 

 

「お前のせいだ!」

「あなたのせいですわ!」

「なんでだよ・・・」

 

昼休み、開口一番に箒とセシリアが文句を言ってきた。

授業中に考え事をしていて何度も注意されていたのだ。もちろん千冬にだ。

 

「まぁ、話なら飯食いながら聞くから。とりあえず学食行こうぜ」

「む・・・ま、まあ。一夏が言うのなら、 いいだろう」

「そ、そうですわね。行って差し上げないこともなくってよ」

 

二人のツンデレな台詞を聞き流した一夏はさっきから忍野を起こしてる。千冬をからかって授業中、気絶させられて今もそのままだからだ。

 

「起きろよ、忍野。飯に行こうぜ」

「・・・ぁあ、久々に強烈だったなぁ」

 

無事、起床(起動?)した忍野。若干、フラついてはいるが大丈夫そうだ。

 

「もう昼休みだ、飯に行こうぜ」

「あれ? もう昼休みなのかい? 時間が経つのは早いねぇ」

『おぬしは寝ておった・・・というより気絶しておったじゃろ』

 

「なんであそこまでして千冬さんをからかうのか理解できないな」

「まったくですわね」

 

 

 

 

 

 

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

食堂に到着した一夏達の前にドーン、と立ち塞がったのは鈴だった。

 

「まあ、とりあえずそこをどいてくれ。食券が出せないし、普通に通行の邪魔だぞ」

「う、うるさいわね。わかってるわよ」

 

ちなみにその手にはお盆を持っていて、 ラーメンが鎮座している。

 

「のびるぞ」

「わ、わかってるわよ!大体、アンタを待ってたんでしょうが!何で早く来ないの よ!」

 

何で早く来ないといけないんだよと一夏が思ってると忍野が悲しそうな顔をして鈴の肩に手をおいた。

 

「鈴、寂しかったんだな・・・。気付いてやれな くてゴメンな・・・」

「な、何言ってるよ?」

「クラスで浮いちゃってボッチになったから一夏を待ってたんだろ?」

「んな訳あるかーーー!!」

「違うのかい!?」

「私をなんだと思ってるのよ!!」

「ステータス変化のない残念なキャラ」

「おい、どこのこと言ってるこの野郎」

「胸」

「よし殺そう、今殺そう。表に出ろ、戦争だ」

 

一触即発な雰囲気が漂い始めた鈴と忍野に慌てる箒とセシリアだが、一夏は涼しい顔をしている。

 

「一夏! 止めなくていいのか!?」

「そうですわよ一夏さん!」

「鈴と忍野のは何時もあんな感じだから」

 

「「あれが何時も!?」」

 

「おーい、二人とも。そろそろ食べようぜ」

「わかってるわよ。ほら、行くわよ忍野」

「はいはい、ラーメン持ってやろうか?」

「大丈夫よ、アンタも早く取って来なさい」

「了解、席取りよろしく」

「任せなさい」

 

「「仲いいなおい!!」」

 

鈴と忍野の関係のアップダウンについて行けず箒とセシリアは疲弊してしまった。ツッコミ役は大変だね~。

 

 

 

003

 

 

 

「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年ぶりになるのか。元気にしてたか?」

「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよ」

「どういう希望だよ、そりゃ・・・」

「それにしても忍野、アンタは入院しなさいよ」

「酷いこと言うねぇ。傷ついちゃうよ」

「ごめん、間違えた。アンタは死になさい」

「より酷くなってるぞ。その様子なら向こうでも元気にしてたみたいだな」

「それよりいつ日本に帰ってきたんだ?」

「アンタこそ、なにIS使ってるのよ。忍野ならともかく、ニュースで見たときびっくりしたじゃない」

 

食事後、鈴と一夏と忍野は三人でひさびさの再会を分かち合っていたが、疎外感を感じてか箒とセシリアが参加してきた。

 

「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」

「そうですわ! 一夏さん、こちらの方と付き合ってらっしゃいますの!?」

 

「べ、べべ、別に私は付き合ってる訳じゃ・・・」

「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼なじみだよ」

「・・・・・・」

「? なんで睨むんだ?」

「なんでもないわよっ!」

 

一夏は今日も通常運転。

鈍感を通り越して無感なのかと心配しそうだよ。

 

「幼なじみ・・・?」

 

箒が怪訝そうな顔して一夏に聞き返した。

 

「えーっと、時期的には箒が転校して行った直後に転校してきたんだ。その後去年、つまり中二の終わりまで一緒だったんだ。だから幼なじみなんだ」

「そんな事よりも君達、いい加減自己紹介くらいしたらどうなんだい」

 

忍野の言葉に、自分がまだ名前すら聞いてないことに気づいた女子たちは改めて名のることにした。

 

「わたくしはイギリス所属の国家代表候補生のセシリア・オルコットですわ」

「篠ノ之 箒だ」

「中国代表候補生、凰鈴音よ。“鈴”ってよんで」

 

一夏は気づいてないが女子三人は互いにライバルと感じ、そして友人になってお昼休みはすぎていった・・・。

 

 

 

 

 

 




なぜか入力した文字が消えるスマホって・・・。
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それぞれの放課後

 

001

 

 

~一夏サイド~

 

その日の放課後、場所は第三アリーナ。

今日はセシリアとIS戦闘の訓練をする予定だったのだが、

「近接格闘戦の訓練が足りてないだろうと思ってな」

と言って箒が訓練機の『打鉄』を装着してやってきたのだ。

今日は射撃をメインにやりたかったんだけど・・・。

 

「では一夏、はじめるとしよう。刀を抜け」

「いや、刀なんて装備してないぞ」

「・・・。では一夏、はじめるとしよう。銃を抜け」

「何くわぬ顔でリテイクすんな!」

「そうですわ! それに一夏さんのお相手をするのはこのわたくし、セシリア・オルコットでしてよ!」

「ええい、邪魔な!」

「お邪魔なのはそちらでしょうに!」

 

 

・・・なんか、箒とセシリアの雰囲気が悪くなっていくんだけど。

忍野がこの場にいたら、なんかいい案を出してくれるんだろうけど今は居ない。誰かの手伝いに整備室に行っちゃったからなー。

本当にどうしよう?

 

《忍、なんかいい案ない?》

《あるぞ、後ろから狙い撃つのじゃ》

《撃ってどうするだよ!?》

《狙撃の的にするんじゃよ》

《それなら普通に訓練用の的を使おうよ》

 

とりあえず箒とセシリアの話し合いが終わるまで狙撃の練習をするために一度、ピットに戻ろうとした。

すると、二人して俺の方を向いた。

 

「あ、話終わった? 俺は向こうで

「どこへ逃げますの?」

「その根性、叩き直してやる」

 ってあれ!? ちょっとまって!」

 

なぜか逃げようとしたと思われたらしく、二人掛かりで襲ってきた。ちょっと、危ないって!

 

《のぶえもん~! 助けてよ!》

《・・・ZZZ》

《寝るなよ!?》

 

「敵に背を向けるとは何事だ! そこに直れ、成敗してくれる!」

「騎士たる者、逃げることは許されませんわよ!」

 

結局、ビット戦に持ち込んでなんとか勝ちました。

忍は手伝ってくれませんでした。

 

 

 

 

 

その後、アリーナの使用時間がきたのでピットに戻るとそこには鈴がいた。

 

「おつかれ、一夏。はい、タオルとスポーツドリンク」

「サンキュ。あー、生き返るー」

「それにしても、アンタ凄いわね。二対一で勝つなんて」

「おかげでこっちはヘロヘロだよ」

「・・・なんか忍野に似てきてない?」

 

そう言いながら鈴は呆れ顔をみせる。

失礼なことを言うな。

 

「一夏さぁ、やっぱ私がいないと寂しかった?」

「まあ、遊び相手が減るのは大なり小なり寂しいだろ」

「そうじゃなくてさぁ」

 

なんだか凄くにこにこしている。

もしかして・・・

 

「鈴」

「ん? なになに?」

「何も買わないぞ」

 

ガクンと、鈴が姿勢を崩した。

あれ? いつもは何かを売りつけてくるから今回もてっきりそうだと思ったんだけどな?

 

「アンタねぇ・・・まぁいいわ。それより一夏、約束覚えてる」

「? どの約束だ?」

「え、えっと、り、料理の、約束」

 

料理の約束? 何だったかなぁ、小学校の頃にあったような・・・ってもしかしてあれの事か?

 

「あぁ、あれか。たしか、鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を・・・

「そ、そうっ。それ!」

・・・奢ってくれるってやつか?」

 

よく覚えてたな、俺。千冬姉にあれだけ殴られても忘れてないって凄いな。

 

「・・・今、なんて言ったの?」

 

鈴がそんな事を聞いてきた。

聞き逃したのかな?

 

「だから、鈴が料理出来るようになったら、俺にメシをご馳走してくれるって約束だろ?」

 

 

パアンッ!

 

 

「・・・へ?」

 

いきなり頬ひっぱたかれた。

見ると鈴は肩を小刻みに震わせ、怒りに満ちながら涙を浮かべた眼差しで俺を睨んでる。

 

「あ、あの、だな、鈴・・・」

「最っっっ低! 女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて、男の風上にも置けない奴! 犬に噛まれて死ね!」

 

それだけ言うと鈴は、ピットを飛び出して寮の方へ走って行った。

何を間違えたのか、俺は叩かれた頬に手をあててそんな事を考えていた。

 

 

 

 

002

 

 

 

ところと時間が変わって忍野の出来事。

 

放課後、一夏の誘いを断った忍野は本音と一緒に簪のもとに来ている。

目的は、簪の専用機の組み立ての手伝いだ。

蟹の件以降、簪は一人でやっていた組み立 てを本音と忍野に協力を頼み、姉に認められようと頑張っている。

 

「やっぱり今のペースじゃ対抗戦に間に合わないな」

「そんな~、かんちゃんどうする~?」

「どうしよう・・・」

 

簪の専用機『打鉄弐式』はこの間まで、ほぼ簪一人で作ってたためまだ組み立てが済んでおらず、武装は手付かずなのだ。稼働データどころか試験稼働すらおこなえない、実戦に出すにはほど遠い状態なのである。

 

「このままじゃ・・・」

「おっし~の、何とかならない~?」

「何とかって言われてもなぁ」

 

“マルチロックオンシステムによる高性能誘導ミサイルで敵を撃破”と言うのがこの機体のうりなのだが、問題のシステムが完成してない。

 

「こうなったら武装は諦めるか」

「「え?」」

 

忍野の発言に二人は驚いた。

特に簪は今にも泣きだしそうな顔をしている。

 

「とりあえず機体を実戦に出せる状態にして稼働データを取って、次のイベントの時には武装を完成させた姿で出場するんだよ。だから泣きそうな顔をしないでくれないか?」

「・・・そんな顔してない」

 

忍野に指摘された簪は顔を真っ赤にして否定した。

 

「いやいや、かんちゃ~ん。泣きそうな顔していモゲッ!?」

「本音・・・黙って」

 

簪をからかおうとした本音は、口を塞がれてしまった。忍野からは見えないが怖い顔をしている。

 

「それじゃ、とりあえず俺とのほほんさんで機体を組み立てて、簪はシステムのプログラム作成をやるってのでどうだ?」

「・・・わかった」

 

忍野の提案に簪は少し不機嫌そうな顔をしたがそんなこと気づきもしない忍野は早速作業を始めようとしてる。

すると本音が止めた。

 

「ちょ、ちょっとまってよ~、おっし~の~」

「ん? 早く始めようよ」

「三人より四人~。助っ人を呼ぶんだよ~」

「・・・助っ人?」

 

本音は携帯電話を取り出すと誰かに連絡をしている。そして電話をきって数分後、

 

「呼ばれてやって来たんじゃよ!」

 

現れたのは簪と同じくらいの背丈で白衣を着ており、 前髪は長いぱっつんで顔が半分隠れており、頭の左右に大きなボール型の髪飾りをつけている、イタズラ好きな雰囲気を感じる女子生徒だ。

 

「よく来てくれたね~、マヨちゃん~」

「本音さんの頼みなら、例え火の中水の中お菓子の中なんじゃよ」

 

現れた女子生徒は本音と手を組んでるが状況についていけない忍野と簪はポカンとしている。

 

「えーっと・・・」

「・・・誰?」

 

すると女子生徒とは二人の方を向いて名乗った。

 

「一年三組、片瀬真宵、整備科なんじゃよ!」

 

 

なんだか人の名前を噛みそうな名前でした。

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラ紹介

片瀬 真宵

かたせ まよい

『あっちこっち』のメインキャラで、科学娘のトラブルメーカー
この話でのキャラ設定はまたいずれ

“真宵”違いのキャラを出しました。
八九寺真宵ファンの方々、ごめんなさい。

サブタイトルが思い付きませんでした。
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まよいファクトリー

 

001

 

 

「一年三組、片瀬真宵、整備科なんじゃよ!」

 

本音が呼んだ助っ人は忍野と簪に向けてそう名乗った。だか二人には気になることがあった。

 

「・・・一年生?」

「整備科って二年生からじゃなかった?」

 

本来、整備科は二年生になってからで一年生にはないのだ。だから真宵が“一年生”で“整備科”と名乗ったのを簪と忍野は疑問に思った。

 

「だから自称じゃよ?」

 

((自称かよ))

あっけらかんと言う真宵に二人して思わずツッコミたくなったが、とりあえず協力してくれるようなので心の中に留めた。

 

 

 

「それで何を手伝えばいいんじゃ?」

「あのね~、かんちゃんの機体の組み立て~」

「よかろう!」

 

本音に教えてもらうとすぐに作業に取りかかる真宵。

すると彼女は信じられない速度で機体の組み立てを始めた。スラスターの取り付け、ケーブルの接続、駆動系の調整と凄い勢いで組み立ていった。本音と忍野も出来る範囲で作業を手伝った。

手伝ったと言うより・・・

 

「ついでに改造しちゃダメ?」

「「絶対ダメ」」

「大丈夫にゃ、最高速度を三倍にするだけじゃよ」

「「どこが大丈夫なの!?」」

 

 

「ちょっとまて、何を付けようとしてる?」

「伸縮式の隠し槍じゃよ! これを相手に突き刺して高圧電流を流すにゃ」

「どこのバスターマシンですか。イナズマキックでもやれと?」

 

 

「まよちゃ~ん、何を付けてようとしてるの~?」

「ガトリングガンにゃ!」

「ビットを使う四枚羽じゃないんだから~、や~め~て~!」

 

暴走しそうになる真宵のブレーキ役になってた。真宵が魔改造プランを口にするたびに向こうで作業してる簪が顔を青くしてる。

 

 

作業開始からたった二時間ほどで脚部の組み立てが終わりあとは最終調整と装甲の取り付けだけとなった。他の部分はまた明日だ。

 

「それじゃあ、簪さん。ちょっと乗ってみてにゃ」

「わ、わかった」

 

 

「俺達、ISの組み立てしてないよな?」

「そんなことないと思うよ~、多分・・・」

 

真宵の作業速度は早いが暴走しそうになるのでそれを止めてばかりだったのだ。1割が作業、9割が暴走阻止。

本音もこんな事になるとは思ってなかったようでかなり疲れてる。

そんな二人をよそに、真宵は簪に合わせて駆動系の微調整をしていく。

 

「簪さん、違和感とかない?」

「よくわからないけど・・・たぶん、ない」

「まあ、あとは飛ばしてみてからじゃね」

 

そして、調整が終わった簪はISを待機状態に戻し今後の作業予定を話そうとすると、

 

「そんな事より簪さん! 私の作ったIS用の武器を装備して欲しいんじゃよ!」

 

そう言うと真宵は三人に見えるようにいくつかの設計図を空中投影ディスプレイに表示した。

 

「まずはこれじゃ!」

「・・・ハンマー?」

 

最初に見せられた画像はハンマー状の武器だが片面には突入ボルトのようなものがある。

 

「フッフッフッ、ただのハンマーじゃと思ったら大間違いなんじゃよ。このハンマーは相手を殴った瞬間にこの後ろにある圧力ボルトが突入して衝撃波をあたえるにゃ」

「「「それ使って大丈夫なの!?」」」

 

 

 

「続いてこちらにゃ!」

「薙刀か?」

 

次は見た目は普通の薙刀だ。長い持ち手に短刀くらいの刃がついている、変わってるところはない。

 

「この薙刀は光学迷彩を使っていて刃が短く見えるんじゃよ。実際の長さはこの六倍くらいにゃ」

「「「卑怯だろ!」」」

 

 

 

「今度はこれじゃ!」

「スピーカーに見えるよ~?」

 

両肩に取り付ける装備のようだが大砲とかじゃなくどう見てもスピーカーなのだ。

 

「これは音響兵器にゃ。黒板引っ掻き音とガラス瓶をナイフで切る音と歯医者のドリル音を混ぜたものを響かすんじゃよ!」

「「「絶対にやめて!!」」」

 

 

 

このあと真宵博士のユニーク武装発表会は一時間も続いた。

 

 

 

002

 

 

片づけが終わった忍野は一夏を迎えにアリーナへ向かっている。簪に夕食を誘そわれたため一夏を紹介しようと思ったのだ。

 

そしてアリーナへの通路を曲がると

 

「あれ? 鈴?」

「・・・忍野」

 

前から歩いてきたのはいつもの元気がない、目を赤くしてる鈴がいた。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどねぇ、だからあんな顔してたのか」

「うっさいわねー、誰かに言ったら怒るわよ」

「俺はそこまで無神経じゃないぞ?」

「・・・そうだったわね」

 

あの後、鈴は忍野を引きずって休憩所までくると何があったのか話した。口止めのつもりが愚痴を全部言ってしまい多少はいつもの調子に戻ったがまだ元気がない、弱気な姿でベンチに座ってる。

 

「それで? どうするんだい?」

「あいつが気づくまで許さない」

「それじゃあ、ずっとこのままだな」

「・・・そうよね、あの鈍感なら」

 

 

「ならクラス対抗戦で賭をすればいいんじゃないか?」

「賭?」

「そっ、勝った方の言う事を負けた奴が一つ聞くんだ。一夏の性格を考えれば、あいつは勝った時、なんで鈴が怒ったのか聞いてくる」

 

すると鈴は少し考える素振りをする。

 

「あいつなら確かにありそうだけど・・・。それで、その後は?」

「そしたら“約束の言葉”の意味を教えればいい、鈴が勝ったらデートにでも行って告ればいい。どっちに転んでも悪くないだろ?」

「・・・そう上手くいくかしら?」

 

そう言って鈴はうつむいてしまった。

 

「さあ? 黙っていじけるよりはよっぽど前向きだと思うが?」

「いじけてなんかいないわよ。でも、そうね」

 

 

そして鈴は突然立ち上がり、

 

「一夏を負かす! そして謝らせるわ!」

 

そう宣言した。

 

 

「デートに誘うとかじゃないんだな」

「だ、だって、さすがにそれは、恥ずかしい、と言うか・・・」

「はいはい、わかったから飯に行くぞ」

「絶対にバカにしてるでしょ!? なんか奢んなさいよ?」

「あぁ、好きな物を注文しな。奢ってやる」

 

そう言いながら忍野と鈴は食堂に向かった。

その時の鈴の顔は、いつもの元気いっぱいの笑顔だった。

 

 

なお、食堂についた忍野に簪が詰め寄って一緒に来た鈴のことを問いただしたとだけ述べておこう。

 

 

 

 

 




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クラス対抗戦 其ノ壱

 

001

 

 

あっと言う間に対抗戦当日

 

あの後、忍野が提案した“賭”を鈴は一夏に持ちかけた。一夏が二つ返事で賭にのったことに、あまりにも簡単に思惑通りになったことに鈴は少し呆れてしまった。

 

簪の専用機も機体だけは無事完成し(真宵の魔改造は全員で止めました)、武装は訓練機の物を使い出場することになった。

 

 

アリーナの客席は満席で各国の高官も観戦しに来ており、異様な熱気に包まれながら試合が始まるのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

「忍野くん」

「どうしたんだい、会長さん?」

 

廊下を歩いていた忍野は後ろから声をかけられた。振り向くとそこには更識楯無が立っていた。

 

「何処へ行くつもりかしら? お姉さん、気になるな」

「別に、ちょっと用事があってねぇ」

「試合がもうすぐ始まるのにやらないといけないような事なの?」

「ハッハー、人のプライベートにまで詮索するのかい? 趣味が悪いねぇ」

「・・・侵入者」

 

忍野のはすぐに返答しなかった。

楯無は忍野の横を通り越し、通路を塞ぐように立った。

 

「やっぱり、いったい何をするつもり?」

「ん? 普通に話して、お帰りいただくだけだよ?」

「そんなこと出来るわけないでしょ」

「なら手荒くお帰りいただくよ」

「専用機もないのに?」

「はぁあ!?」

 

そう言われて忍野は慌てて自分の首に手をやった。待機状態のチョーカーが無くなっていた。

楯無を見るとその手には探しているチョーカーがあった。

 

「いつの間に・・・」

「あとはお姉さんに任せなさい。あなたは織斑くんの応援でもしてればいいのよ?」

「そうはいかないよ、これは俺達の問題だ。会長さんこそ会場に戻りなよ」

「生徒会長として生徒であるあなたを守る義務があるのよ」

 

楯無は真剣な眼差しで忍野を見つめた。しばらく互いに無言が続き、そして忍野がため息をはいた。

 

「・・・わかったよ、降参だ。会場に戻るよ」

「わかれば宜しい、お姉さんは嬉しいわ」

「それじゃあこれを持って行ってください」

 

忍野はポケットから紙を巻いて作ったピンポン玉のような物を楯無に投げて渡した。

 

「? これは何かしら?」

「それは・・・」

 

 

 

閃光弾です

 

 

 

楯無はすぐに投げ捨てようとしたが閃光弾が炸裂した。視界が白く染まる直前、楯無は忍野が笑っているのを見た。

 

しばらくして視界が回復した楯無の手にはチョーカーが残っていた。

 

 

 

 

002

 

 

 

 

第二アリーナ第一試合。

組み合わせは鈴と一夏だ。

 

外部から来ている観客には最も気になると言える試合が始まろうとしている。

 

 

 

黒をメインに深い赤色のカラーリング、両肩にはスパイクアーマーの非固定浮遊部位を持つ中国第三世代型IS“甲龍”を身に纏った鈴とケルディムを纏った一夏は試合開始位置で合図を待っていた。

 

「ISの絶対防御は完璧じゃない。その事はちゃんと理解してるわよね?」

「勿論だ」

 

ISの絶対防御は衝撃を殺しきることが出来ず、そしてあまりにも高火力な武器だと防御を突き破って操縦者にケガを負わせてしまうのだ。

 

「全力で来い」

「もちろんよ!」

 

『これより、風鈴音、織斑一夏による第一試合を開始する』

 

 

 

『いざ尋常に、始め!!』

 

千冬の号令と共にブザーが鳴り響く

動き始めたのは両者同じタイミングだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まったな」

 

忍野は試合が行われてるアリーナから遠く離れた校舎裏に来ている。遠くから聞こえてくる歓声を聴きながら試合を見れないことを残念に思い、忍野は“人払い”をすると、

 

「そろそろ出てきたらどうだい? ISを置いてきて一人になってやったんだ、挨拶くらいしなよ」

 

忍野がそう言うとあちらこちらから武装した黒ずくめの人が出てきた。数は30人、半数近くがサイレンサー付きのアサルトライフルの銃口を忍野に向ける。

 

「忍野仁だな?」

「わざわざ確認が必要なのかい? 特殊部隊さん?」

 

リーダーらしき人物が忍野に話しかけたがその声は女性だった。忍野はそのことに頭を悩ませながらふざけた口調で答えた。

 

「我々と一緒に来てもらおう。大人しく従うなら手荒な真似はしない」

「お断りするよ。ホルマリン漬けになるつもりはないからねぇ」

 

一夏と忍野は女尊男卑の団体からは疎まれてるが他の団体や組織からは喉から手が出るほど欲しい人材なのだ。二人がISを使える秘密を解明できるなら生きたままでも平然と解剖するだろうが。

 

「もう一度言う。抵抗は無意味だ、おとなしく投降しろ」

「つまらないなぁ、もう少し面白いこと言ってくれないか?」

「・・・頭は狙うなよ」

 

そう言うとリーダーは手上げ、隊員は銃を構えた。忍野を銃撃するつもりのようだが当の本人は薄笑いを浮かべてる。

 

 

「さぁて、戦争をしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

003

 

 

 

 

 

一方、試合会場

 

 

 

「逃がさないわよ!」

 

一夏は鈴の攻撃におされていた。

ガン・カタを仕掛けようと接近したところまでは良かったが、鈴が手にした青竜刀のような両刃の武器で斬り込んできたのだ。自身を回転させながら振られる刀は凄まじく、一回防いだだけで手が痺れてた。

 

十数回攻撃を回避してると鈴が回転を加えずに刀を振りかざしてきたので、一夏はピストルを連射して刀の軌道をズラしそのまま自分の間合いに持ち込もうとした。

 

「もらった!」

「甘いわよ一夏!! “龍咆”!」

 

接近した一夏の目の前にあった肩のアーマーがスライドして開き、中心の球体が光った瞬間、一夏は何かに“殴り”とばされた。

 

《お前様!》

《大丈夫だ、それより今のは?》

《わからん、じゃが気圧センサーに反応があった》

《気圧に? 空気砲か何か?》

《もう少しデータがあればわかるのじゃが》

 

 

「今のはジャブだからね」

 

鈴はにやりと不適な笑みを浮かべながら、再びその見えない“何か”で一夏を攻撃した。

 

 

 

 

 

「なんだあれは・・・?」

 

観客席で試合を見ていた箒がセシリアに質問した。一組の生徒は全員が同じ場所に集まり、代表候補生であるセシリアに試合解説をしてもらいながら観戦してる。

勉強熱心だね~。

 

「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成し、その余剰で生まれる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す・・・第三世代型兵器ですわ」

 

 

 

「一夏! なんでビット使わないのよ!」

「飛ばしてもその見えない攻撃で速攻落とすだろ!」

「当たり前じゃない! そこッ!!」

「ガッ!」

 

一夏は懸命に避けるが攻撃が見えないため少しずつ、しかし確実にダメージをうけていた。

 

一方、鈴は焦っていた。

訓練機ならとっくにシールドエネルギーが底をつくほど攻撃を当ててるのに表示されるエネルギー残量はまだ半分も減ってない。さらに、

 

(なんであんなに撃ったり飛んだりしてるのにエネルギーが減らないの!?)

 

ダメージだけなら“装甲の強度”だとまだ説明できるがスラスターやビームで消費するエネルギーがないのは説明ができないのだ。

 

 

そんな間に忍による『衝撃砲』の解析が終わってしまった。

 

《お前様、あやつの武装のタネが割れたぞ》

《やっとか、一体あれは何だ?》

《あれは空間圧縮によるエネルギー衝撃波じゃ。気圧センサーに反応があったのは圧縮の影響じゃな》

《衝撃波か、防げるか?》

《儂を誰だと思うておる?》

《なら、しかけるぞ》

 

一夏はスラスターを一気に吹かして、鈴と距離をとった。

 

「そろそろ俺の番だ!」

《シールドビット展開じゃ》

 

セシリア戦同様、展開されたシールドビットが一夏を守り初めた。

鈴は突然のことに驚き、攻撃の手が止まるがクラス代表になった時にクラスメイトから聞いた情報を思い出しすぐに再開した。

 

「そのビットが噂の防御用ね!」

 

鈴はビット同士の間を狙って砲撃するがすべて防がれる。すでに忍に衝撃砲の仕掛けがバレてるため発射のタイミングも弾道軌道も読まれてしまってるからだ。

 

「悪いが、狙い撃たせてもらうぜ」

 

そう言うと一夏のライフルが上下に割れたかと思ったら下のパーツが先端部分を支点に90度、縦に回転してライフルの先に連結した。

その形は・・・

 

「「「ス、スナイパーライフル!?」」」

 

一夏の手にした武器を見た全員が驚いた。

一番驚いたのはセシリアだ。自分との試合の時も、牽制にしか使ってなかったバルカンが実は狙撃武器だったのだから。

 

「キャアッ!」

 

武器の形が変わったことに驚いて止まってしまった鈴は、一夏の射撃をうけて後ろに吹き飛ばされた。

なんとか姿勢を戻してシールドエネルギーの残量を確認して三度驚愕した。

 

「なんで一撃でこんなに減ってるのよ!?」

 

たった一撃でシールドエネルギーが三割近くも削られたからである。いくら油断して直撃をもらったにしても普通ここまで減りはしない。

 

「だって俺のIS、本来は狙撃機だぞ? このくらいの火力はあるさ」

 

一夏は忍野のISの火力を比較対象に、さも当然のように答えたが・・・

 

 

 

「「「ないよ!? ってか狙撃機で接近戦してたの!?」」」

 

 

試合を見ていた全員がツッコミをいれていた。

どうやら一夏くんは常識をその辺に捨てたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだやるのかい? 元気いいなぁ」

 

木の枝に座りながら忍野はそう呟いた。

目の前に残っているのは第二世代の量産IS『リヴァイヴ』を纏ったリーダーだけである。他の隊員たちはすでに全滅、少し離れた場所に転がっている。勿論、殺してはいない。

 

「いい加減諦めなよ。別に帰ってくれれば何も言わないからさぁ」

「ふざけるな! 男の癖に!」

「その男に、ISを使っても勝てないのに何を言ってるんだい?」

 

そうだ、今現在忍野はISを使わずに侵入者を撃退している。彼女以外はISを持っていなかったが(と言うより今回の為に男性だけの部隊にISを持った彼女を入れたようだ)、それでもろくに銃を撃つ間もなく全滅。彼女も慌ててISを起動させて攻撃したが殺すどころか怪我すら与えてない。

 

「このぉ、バケモノがぁぁぁ!!」

 

逆上した彼女はブレードを展開して斬りつけようとしたが・・・

 

「まだやるのかい? ショートカット、“八九式十五糎加農”」

 

突然目の前に現れたカノン砲の砲撃に直撃。爆風の中からISを強制解除された彼女が出てきた。

 

 

 

「これは君の国に返しとくから安心しな、って聞いてないか」

 

忍野は解除された待機状態のISを拾いながら横で気絶してる彼女にそう言った。

ふと上空を見上げるとISのようなものが飛んでるのが見えた。もっとも“普通なら見えない”くらいの高度だが。

 

「まったく、今日は千客万来だな」

 

そう言うと忍野は“人払い”を解くとアリーナの方へ走った。

 

 

 




八九式十五糎加農砲

口径は約149mm、砲身は6m近くなる日本軍が開発した第二次世界大戦中のカノン砲。沖縄戦で奮戦した。



ショートカット

『夜桜四重奏』に登場する能力の使い方。
言葉を具現化する能力、『言葉使い』が使用する。具現化するには対象を正しく言わないといけないので複雑になればなるほどすぐに具現化できない(『刀』ならすぐに具現化できるが『銃』だと内部構造から言なければならない)
そのため『ショートカット』にしていつでも使えるようにしている(スマホで使用頻度の高いアプリをホーム画面に置いとく感じ)




忍野の能力に『夜桜四重奏』から言霊使いを出しました。カノン砲は先日見ていたテレビの影響です、すいません。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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クラス対抗戦 其ノ弐

 

004

 

 

一夏はスナイパーライフルを構えて鈴を狙い、鈴は青龍刀を構えて衝撃砲の狙いを一夏に向けた。

 

「これで終わりだ!!」

「やらせないわよ一夏!!」

 

互いに攻撃をしようとした瞬間、

 

 

 

ドガアァァァァァァンッッッ!!!!

 

 

 

何かがアリーナを覆うシールドを貫き、飛び込んできた。 互いに武器を引き、轟音が響いた方向に視線を向ける。

 

いきなりの大爆発ともくもくと立ち上がる黒煙。突然の事態にアリーナ内の観客達はパニックに見舞われた。アリーナのシールドが何者かに破壊されたのだ、

すると爆発で起こった炎と黒煙の中から高出力ビームキャノンが一夏と鈴へ放たれた。

 

「忍!!」

《わかっておるわ!》

 

シールドビットで防御をするが、あまりの火力にビットが数機、破壊されてしまった。

 

「一夏! なんで防いだの!?」

「もし避けたら客席に当たってたんだよ!」

 

ビームは一夏ではなく、まるで客席を狙ったかのように発射されたのだ。

アリーナのシールドバリアーを破るようなビームだ、客席に命中すれば観客に被害が出ていただろう。

徐々に黒煙が晴れ、中から姿を現したのは異形のISだった。

深い灰色のカラーリングで巨体、手が異様に長くて巨大、そして首がない。姿勢制御用と思われるスラスター口が全身に見え本来首がついてる場所には剥き出しのセンサーレンズ。腕には先ほど使用したと思われる砲口がこちらを向いてる。

 

「とりあえず、客席を狙われないようにあいつを引きつけるぞ!」

「わ、わかったわ!」

 

 

 

 

005

 

 

~楯無サイド~

 

「試合中止!! 織斑! 凰! 直ちにピッ トへ避難しろ!!」

 

織斑先生は無線機を使って試合中だった織斑君と凰さんに退避命令を下す。まだ敵が何者なのか判断出来ない以上、避難させるのは当然の事だ。

 

「山田先生! 大至急、観客席に居る生徒の避難誘導員の派遣と教師部隊に突入命令! 更識、お前も突入隊に加われ!」

「「はい!!」」

 

織斑先生の命令を聞くとすぐに山田先生は手元のコンソールをタイピングし教師陣の非戦闘員に避難誘導の命令を下した。私も準備のために管制室を出ようとした。

警報が鳴り響き、避難命令が出された所で

 

「なっ!?」

 

織斑先生が目を見開いた。 見ると突如モニターに映しだされていたアリーナの観客席の通路が轟音と共に鋼鉄の壁に次々と塞がれたのだ。 さらにアリーナのシールドが肉眼でも認識できるほどに出力が上がっていた。

それが何なのか、教師である真耶や千冬はよく知っていた。

 

「っ!? 学園のシステムにハッキングされてます! アリーナの遮断シールドがレベル4に設定! 此方からの命令を一切受け付けません!!」

 

緊迫する山田先生の声。生徒を守るためのシステムは、アリーナを覆い尽くし生徒たちの逃げ道を無くした。

 

「観客席からの避難は!?」

「駄目です! 誘導員が着く前に防護扉を締め切られてしまいました! 観客席には生徒が残ったままです!!」

「あのISの仕業ですね」

「そのようだ・・・完全に隔離されたというわけか」

 

「簪ちゃん・・・」

 

私は無意識のうちに、観客席に取り残されてるであろう妹の名前を呟いていた。

 

 

 

 

 

「くそ、また外れた!」

「もー! 何なのよあれ!」

 

謎のISはデタラメな動きで鈴と一夏を翻弄する。

射撃をしても全身のスラスターによる立体機動で予測がつかず、掠めはするが一発も当たらない。

鈴も接近戦を仕掛けるが、その豪腕による反撃にパワー負けして思うようなダメージを与えられない。

そんな時に忍からとんでもない情報がもたらされた。

 

《お前様、あやつ人が乗っておらんぞ》

《どういうことだよ!?》

《知らん。じゃが人の匂いがせんし、センサーにも反応がない。見てみい》

 

忍が表示したセンサーのデータには生命反応が一切ない、人間の反応があるはずの場所には動力源らしきエネルギー反応しかなかった。

 

「鈴、あれ人が乗ってないぞ!」

「何言ってるのよ、“ISは人が乗らないと動かない”。そういうものだもの」

 

無人のISは世界各国が研究、開発を試みてるがいまだに糸口すら見つかっていない・・・とされている。本当のところは不可能かどうかすら分かっていないのだ。

 

「でもこっちのセンサーには生命反応がないんだよ」

「どんだけ凄いのよ、そのIS・・・」

 

第三世代のISのセンサーをもってしても敵のジャミングが酷く、生命反応どころか攻撃の直前までエネルギー反応を感知できない状態なのだ。

デタラメ過ぎるセンサーだ。

 

「でも無人機なら・・・一夏! 援護してちょうだい!」

「何をするつもりだ!?」

「あいつをぶっ潰す!」

「ダメだ! 下手に壊したらさっきのビームが暴発するかもしれないんだぞ!」

 

一夏の言うとおり。ビームが砲口から発射されるのであれば回避や防御ができるが、もし破壊して砲口以外からビームのエネルギーが放出された場合、客席に被害がでるかもしれなのだ。

 

「ならどうすんのよ!?」

「あいつの“コア”を破壊する!」

「どうやって!? コアの場所もわからないのに!?」

「奥の手を使うんだよ! いくぜ!」

 

 

「《トランザム!!》」

 

 

甲高い駆動音が鳴り響き、ケルディムが赤く発光し始めた。初見の鈴はその現象に驚いた。

ケルディムの額のガンカメラが開かれ、フォロスクリーンが展開された。

 

《忍、あいつのコアの位置を探してくれ!》

《まかせよ!》

 

「鈴! コアの場所を見つけるまで時間を稼いでくれ!」

「わ、わかったわよ一夏!」

 

鈴は衝撃砲を撃ちながら接近し、一夏はライフルビットを展開して鈴の援護しながら忍の解析を待った。

 

 

 

 

006

 

 

「二人共!? 無茶は駄目です!!」

 

真耶の叫びはスルーされ、一夏と鈴はフォ ローし合いながらISを引きつけている。

 

「現状、あいつ等に任せるしかだろう」

「お、織斑先生! 何を暢気な事を言ってるんですか!?」

「落ち着け。コーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラするんだ」

 

困惑した表情で問い詰める真耶に千冬は表情を微塵も変えずに、傍に置かれていたカップにインスタントコーヒーの粉とお湯 を注ぐ。 サラサラと近くにある小瓶から粉を入れてスプーンでかき混ぜていると

 

「あの、織斑先生・・・? それ、塩ですけど?」

「・・・・・・」

 

千冬の持つ小瓶には大きく塩と書かれている。ふと目線を横にズラすと楯無に一瞬、目があったが即座に顔を逸らされた。

 

「・・・何故、ここに塩があるんだ?」

「さ、さぁ? でも、大きく塩と書いてあ りますし・・・」

 

千冬のボヤきに律儀に答える真耶。

 

ガタン

 

すると後ろから物音がして三人が振り返って見ると砂糖の小瓶を持った忍野が椅子に座っていた。

千冬はカップを机に置くと、

 

「なるほど。貴様の仕業か、忍野!!」

「ちょ、そんな怒んなくても」

「知らん! 私自らの手で今度こそ殺してやる」

「ギャアァァァ!」

 

どこから取り出したのか、訓練機のブレードで忍野に切りかかる。忍野はそれを必死に避ける。

真耶と楯無は唖然としているが今の状況を思いだし、すぐに止めに入った。

 

「織斑先生! 落ち着いてください!」

「そうですよ織斑先生! まず生徒たちの避難を!」

「えぇい、離せ二人とも! こいつはストレスを生み出す根源だ!」

 

二人掛かりで必死に千冬を抑えるが、忍野はのんきに千冬の作ったコーヒーを一口啜り、顔をしかめてから一言。

 

「大変ですねぇ、山田先生、会長さん」

「「あなたがそれを言わない!」」

 

楯無は千冬を抑えるのを真耶に任せて忍野に質問した。

 

「それで、何をしに来たの?」

「会長さんに預けてた物を返して貰いに」

「預けてた物?」

「専用機ですよ」

「! あなたまさか・・・」

 

この時、楯無は気づいた。自分が隙をついて専用機を没収したつもりだったが最初からそれが狙いだったのだと。

そんな事を考えながらポケットから忍野のチョーカー取り出し、手渡した。

 

「どうもありがとう。それじゃ、とりあえず生徒の避難を手伝いますかな」

「あまり壊すなよ」

「出来る限り、ね」

 

忍野は千冬の忠告に軽い返事をすると管制室を出て行った。

と、言うより、

 

「山田先生、どうやって織斑先生を正気に戻したんですか?」

 

そうだ、千冬は数分前まで怒り狂っていたのに今はいつもの、冷静沈着な雰囲気を醸し出している。

 

「織斑先生の淹れたコーヒーを飲ませたら・・・」

 

どうやらソルトコーヒーを飲んで、そのあまりの味に冷静さを取り戻したようだ。

 

「すまなかった、真耶、更識」

「そうですか・・・あれ? さっきあのコーヒー、忍野くん飲んでませんでした?」

「は?」

「へ? それじゃ、織斑先生と忍野くんが、関節キスを?」

「・・・・・・」

 

イヤな沈黙だ。真耶はまずいことを言ってしまったと気づき、話を逸らそうと試みる。

 

「あ、あのですねっ・・・」

「山田先生、事がすんだら、組み手の相手になってください」

「え? で、でも」

「なってくれますね?」

「は、はいぃ」

 

先輩である千冬の目力に瞬殺された真耶、まさにライオンに睨まれた子犬といった所だろう。

楯無は心の中で合掌してから忍野を追って部屋を出た。

 

 

 




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クラス対抗戦 其ノ参

 

007

 

 

「簪、今なにをしてる?」

 

管制室を出た忍野はすぐに首にチョーカーを着けて、ISのプライベート・チャンネルを使って簪を呼び出した。

 

『忍野くん!? 今、一組の専用機持ちの・・・人と一緒に、防護扉を破ろうと・・・してる』

 

アリーナの中で事故があった時のために防護扉は異常なまでに頑丈だ。内部からでは第三世代の兵器でも破るには火力不足なのだ。

 

「なるほど、場所は?」

『えっと・・・Dブロックの、第二扉』

「わかった、今すぐそっちに向かうよ」

 

忍野は通信をきるとDブロックを目指した。

 

 

 

 

~簪サイド~

 

「簪さん、どうしたにゃ!?」

「更識さん、攻撃の手が止まってますわよ!」

 

どうやら通信してる間、私は引き金を引いてなかったようだ。真宵さんとオルコットさんに言われて再びアサルトライフルを撃ち始めた。

 

フィールドと客席を隔てるバリアーは向こう側が見えないほどの出力の物になっていて、いつこちらに被害がくるかわからない。私達は自力で脱出するために防護扉の破壊を試みてるがうまくいかない、硬すぎるのだ。

オルコットさんがライフルとビット、ミサイルと次々と撃ってるけどヒビすら入ってない。私の武装は訓練機用のアサルトライフルだから手伝いにすらなっていないかも。

真宵さんは何人かと離れた場所で扉の制御システムにハッキングをして開けようとしてるけどそちらも効果がないみたい。

 

「くっ! そろそろミサイルの弾数が!」

「こっちも・・・あと少し、しか」

「にゃー! 何なんじゃよこれ、いくら何でも処理が追いつかないんじゃよ!」

 

・・・うん、いくら事故に備えてるからって、限度があるよね? なんで扉が集中放火をうけても壊れないの!? 中での事故なら客席の扉は普通で良いじゃない!!

 

 

カチンッ

 

 

「あっ・・・」

 

気がつくと私のライフルは弾切れになって、撃鉄の虚しい音が響いた。

隣を見るとオルコットさんもライフルとビットしか撃ってない。ミサイルが無くなったようだ。

 

「更識さん!? 攻撃は!?」

「ごめんなさい、もう・・・弾が無い」

「そんな・・・、こうなったらわたくしが意地でもこの扉を破りますわ!」

「・・・ごめんなさい」

 

私はオルコットさんに謝ってから真宵さんの手伝いに向かった。

 

「そっちはどう?」

「簪さん! 力を貸して欲しいにゃ!」

「わかった、何をすればいい?」

「『打鉄弐式』をこのパソコンに繋いで処理能力を上げて、もう一度ハッキングを仕掛けるんじゃよ!」

「それなら、私も手伝う」

 

さっそく真宵さんのパソコンと『打鉄弐式』を繋いでハッキングをする。私も打鉄のキーボードを展開して処理作業に入った。

 

「私にも手伝えることはないか?」

 

そう言ってやってきたのはポニーテールの女の子だ。協力してくれるのはありがたい。

 

「そこの配線を、こっちのと・・・繋いで」

「わかった。この配線でいいか?」

「うん」

「そう言えば簪さん、さっき何をしてたにゃ?」

「通信、忍野君が・・・来てくれるって」

「忍野? 忍野の友達なのか? えっと・・・」

 

ポニーテールの女の子がそう聞いてきた。知り合いなのかな? その前に名乗らないと。

 

「四組、更識簪」

「私は一組の篠ノ之箒」

 

・・・クラスメイトだった。

 

 

「にゃー!? また失敗したー!!」

 

 

・・・ハッキングも失敗に終わったらしい。

すると通信が入った。

 

『簪さん、到着したから扉の前から避難してもらえる?』

「ちょっと待って!」

 

思ったより早く到着したことに私は驚いたが、すぐにオルコットさんを避難させようとした。なんだかほっといたら危なそう予感がした。“どいて”じゃなくて“避難”って、何をするつもりなの?

 

「今すぐ、そこから離れて!」

「更識さん!? 何を言ってますの!?」

「救助が来たから、離れて」

「! わかりましたわ」

 

そう言って彼女が下がり、他に人がいないのを確認してから再び通信をした。

 

「みんな避難した・・・」

『了解。それじゃあ、貫けェファング!!』

 

“ガスンッ”と言う音と共に扉の四隅と四辺から何か突き出したと思ったら次の瞬間、扉が大きく凹み客席側に跳ばされた。

開いた扉の方を見ると、大きな剣を突き出した紅いISがいた。

 

「ほら、サッサと避難しな」

 

 

「わたくし達の努力は一体・・・」

「酷いんじゃよ」

「それは・・・同感」

 

 

 

 

 

008

 

 

 

 

 

「まだなの一夏!? エネルギーが保たないわよ!」

「もう少し持ちこたえてくれ!」

 

一夏がトランザムを開始してから数分、未だコアの場所は判明していない。鈴も頑張ってくれてるがエネルギー残量が残り僅かになり、一夏に催促をした。

一夏もトランザムの限界時間が迫り、焦っている。

 

「(トランザム終了まであと一分、どうする!?)」

 

トランザムが終了すれば機体性能低下が起こる、そうなればもう打つ手がない。

 

 

《お前様! コアの場所がわかったぞ!》

《待ってました! どこだ!?》

《胸の少し下、機体の中心じゃ! スクリーンに表示する》

 

フォロスクリーンに表示された場所は人間で言うみぞおち、急所に当たる位置になっている。

だがいくらトランザム状態でも普通に撃ってば確実に避けられる、一夏は賭けにでることにした。

 

「鈴! あいつを狙って砲撃してくれ!」

「撃っても避けられるわよ!?」

「いいから撃て!」

「もう、どうなっても知らないからね!」

 

鈴は一夏を信じ、残りのエネルギー全てを使い最大出力で衝撃砲を発射した。一夏も砲撃に合わせて“左右へ”とライフルビットで射撃による攻撃を行った。

 

そして敵は攻撃を回避するために“上へ”と飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、一夏の罠だ。

 

 

 

 

「貰った!!」

 

 

一夏のスナイパーライフルから発射されたビームは無人機の中心を撃ち抜いた。

 

撃ち抜かれた無人機はポッカリ空いた穴の中で何度かスパークをさせてから落下。地面に落ちてから機体のあちこちで小さな爆発を起こして、完全に停止した。

 

 

 

 

こうしてクラス対抗戦襲撃事件は幕を下ろした。

 

 

 




かなりの駄文になってしまいましたがいかがでしょうか?
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おしのエクスプレイン

001

 

 

クラス対抗戦から三時間ほど経過した。

 

専用機持ちは全員取り調べ室に集められ、それぞれ報告をしていた。

一通りの報告と事情聴取が終わった千冬は全員を部屋に帰そうとしたが楯無が挙手をした。

 

「織斑先生、ちょっと待ってもらえますか?」

「なんだ更識?」

 

そう言われた楯無は一夏と忍野の方を向いた。

 

「織斑くん、忍野くん。あなた達に聞きたい事があるのよ」

 

 

 

「忍野くん、あなたは襲撃時に“掃除”をしてたけど襲撃を知っていたからわざわざ引き受けたの?」

「知ってたら救助活動なんかしないさ」

「織斑くんは無人機のコアを破壊したけど、それは証拠隠滅のため?」

「違う!」

「犯人に心当たりは無いかしら?」

「特に思いつかないなぁ」

「今回の件、本当に関わってないのね?」

「なんでそんなに疑うんだよ!?」

 

 

 

「あなた達の機体のせいよ」

 

 

楯無はそう言った。

 

「あのISもあなた達と同じく、ビーム兵器を使っていたのよ? 疑って当然でしょ?」

「ちょっと! なんでそんな事で二人を疑うのよ!」

「そうですわ! いくら何でも酷すぎますわよ!」

 

楯無の言葉に鈴とセシリアが反論した。簪も口には出さないが楯無を睨んでいる。

しかし襲撃してきたISと同じく、未だ実装されてないビーム兵器を装備した機体を持つ二人を疑う余地がないかと聞かれれば答えはNOなのだ。

 

「更識、その辺に・・・」

 

千冬が楯無を咎めようとしたが、忍野がそれを手で制した。

 

「いいだろう、答えてやるよ。疑われたままってのもイヤだからね」

 

すると機体の事を喋ろうとする忍野に一夏が話し掛けた。

 

「いいのか忍野?」

「話さないと帰してくれないよ、会長さんは。あ、お前は黙ってな」

「ひどっ!?」

「機体の説明、できる?」

「黙ってます」

 

 

 

002

 

 

「さて、俺達の専用機だが・・・あの無人機とはまったく関係ない。そもそもビーム兵器の構造自体が違う。

 

「俺達の機体には“GNドライヴ”って動力炉を搭載してるんだ。俺達の使うビームはGNドライヴによって生成される“GN粒子”を圧縮して射出する、“粒子ビーム”って方式なんだ」

「「「じーえぬどらいう゛?」」」

 

「GNドライヴってのは莫大なエネルギーを得ることができる半永久機関なんだ」

「「「永久機関!?」」」

 

「そしてこの機関から生み出されるのがGN粒子。こいつは汎用性は非常に高くてな、攻撃、防御、航行と全てに使用できるんだ。射出すればビーム、噴射させればスラスター、放出して電波妨害、 装甲に流して硬化。他にも使い方は自由自在さ。

 

「今説明したGN粒子運用技術を俺達の機体は採用してるからシールドエネルギーが減らないんだ。鈴は覚えがあるだろ?」

 

その言葉に、鈴は先の試合を思い出した。

エネルギー消費が多い兵器を使い、それなりの威力をもつ攻撃を喰らってもまるでエネルギーが減らない一夏の専用機。正直、戦いたくないと思った。

 

 

「機体が赤く発光する、あれは何?」

「あれは単一仕様能力、“トランザムシステム”だ。発動すると機体内部に蓄積されていた高濃度に圧縮したGN粒子を全面開放するこで一定時間、機体性能を3倍以上に上げることができるんだ」

「換装も無しに3倍以上って凄いわね」

 

楯無が思わず関心した。今のISは装備を換装することによって機体の能力を上げるが、1,5倍くらいが限度である。しかしそれを大きく上回るほどの能力アップをするのだから驚くのも仕方がない。

 

「勿論リスクもあるさ。使用後はGNドライヴの一時的な出力低下が発生し、GN粒子の供給量が減るんだ。そうなると能力の全てをGN粒子に頼ってるから機体性能が大幅に低下、まさに諸刃の剣なのさ」

「それでも・・・凄い」

「なぜそれほどの物を世界に公表しないんですの?」

 

忍野の話を初めて聞いていた者全員が思った。半永久的にエネルギーを生み出す動力炉が普及すれば今あるエネルギー問題の大半が解決する、そんなものを公表しない理由がわからなかった。

 

「GNドライヴの量産は不可能なんだ。あれは特殊な鉱石を核に製造してるからね、その鉱石の採掘ができない以上作ることはできないさ」

 

それに、 と忍野は一旦言葉を句切り一拍おいてから再び話し始めた。

 

「今の世界に永久機関は早過ぎるんだよ。ISだって兵器としか利用されてないんだ、公表しても軍事利用されるのがオチさ」

 

この言葉に、みんな黙ってしまった。

ISも元は宇宙で作業するためのパワードスーツとして開発された。しかし、軍事兵器として利用され宇宙どころか人命救助にすら滅多に使われない有り様だ。

 

「それで、納得してくれたかい?」

「えぇ、疑ってごめんなさいね」

 

楯無はまだ何か思うところがあるような顔をしていたが今、この場で追求する気にもなれず結局謝ったあと黙ってしまった。

 

「それでは全員、部屋に戻りゆっくり休め」

 

千冬の労いを聞いてからそれぞれ、自分の部屋へと戻った。

 

 

 

 

 

003

 

 

「一夏、頼みたい事があるんだ」

「どうしたんだよ忍野、頼みたい事って?」

 

部屋に戻った直後、忍野が一夏にそう話を切り出した。

 

「一夏・・・というより忍にかな?」

 

そう言って一夏の影を見る忍野、すると影の中から忍が出てきた。

 

「なんじゃい小僧、儂に頼みとは? 多量のドーナツを用意するなら聞いてやらんこともないぞ?」

「ドーナツ30個でどうだ?」

「よし、何でも言え」

 

 

「小さいのでいいからGN鉱石を作って欲しい」

 

「なにぃ?」

「忍野、一体何を考えてる?」

 

忍は明らかに疑いをもった返事をし一夏も警戒心を向けている。

“GN鉱石”は篠ノ之束が命名したGNドライヴの核となる特殊鉱石のことだ。それを、つい先程量産できないと言ったものを生み出せと言ってるのだ、疑うのは仕方ないことだ。

 

目をつむり、黙っている忍野。

何時間にも思える沈黙がながれた後、再び口を開いた。

 

「1号機を復活させる」

 

忍野の口から発せられた言葉に、一夏と忍は息をのんだ。

 

 

 

 

 




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それぞれの後語り

001

 

 

学園の地下50メートル。

 

機能停止した無人ISが運び込まれ、解析が行われてる。

千冬は何度も一夏と無人機の戦闘映像を繰り返し見ていた。

 

「織斑先生」

 

真耶がブック型端末を持ってやってきた。

 

「あのISの解析が終了しました」

 

そう言うと端末の画面を千冬に見せながら解析結果の要点を報告していった。

 

「武器やセンサーなどの解析はできましたが、中枢部分は全損してました。おそらく情報漏洩を防ぐための自己崩壊機能があったものと思われます」

「解析は無理か・・・、コアどうだった?」

「かろうじて残っていた残骸の部品番号などから登録されてないコアだと思われます」

 

確証はありませんが、 と真耶は言った。

端末を見るとコアだったと思われる、溶けた金属片が写しだされていた。

 

「そうか、やはりな」

「・・・何か心当たりがあるんですか?」

 

真耶や始めから予想していたかのような返事をする千冬に怪訝そうな顔を向け、質問した。

 

「いや、ない。今はまだ・・・な」

 

(やはりお前なのか、束・・・)

 

千冬はISを作ることができる友人の事を思い出しながら再び戦闘映像を見始めた。

 

 

 

 

 

 

002

 

 

コン コン

 

 

忍野が用事がある、と部屋から出ていって一夏がくつろいでいるとしばらくして誰かがやってきた。

 

「鍵は掛けてないから、入っていいよ」

 

一夏が来客を招き入れると扉を開けたのは・・・

 

「一夏・・・」

「鈴?」

 

少し元気のない鈴だった。

 

 

 

 

 

 

~一夏サイド~

 

「あー、そういえば試合、無効だってな」

「そうなのよ。はぁ~、頑張ったのに・・・」

 

どうやら鈴の元気がなかったのは、試合が無効になったからのようだ。絶対勝つって意気込んでいたからよほど残念なんだろう。

 

「あ」

「な、なに?」

「賭の結果ってどうする? 次の再試合って決まってないんだよな?」

「そのことなら、別にもういいわよ」

「え? なんで?」

「い、いいからいいのよ!」

 

ん~、いいというなら従うけど、やっぱり謝らないといけないよな?

 

「鈴」

「なによ」

「その、悪かったよ。ごめん」

 

俺は素直に頭を下げた。理由はまだわからないが鈴を怒らしたのは事実だ、謝らないでいることはできない。

そんな俺を見て、鈴は少し気まずそうな顔をした。

 

「あたしも、叩いた事を謝るわ、ごめんなさい。・・・そもそも一夏がああいう約束を覚えてるわけなかったんだから」

 

謝ってもらったけど、最後の方何って言ったの? 

追求してもはぐらかされそうだし話を変えよう。

 

「こっちに戻ってきたってことは、またお店やるのか? 鈴の親父さんの料理、また食べたいぜ」

 

中学の頃は、よく鈴の家の中華料理屋に足を運んだものだ。あの料理、また食べれるのかな?

 

「お店は・・・しないんだ」

「え? なんで?」

「あたしの両親、離婚しちゃったから」

 

・・・一気に場の空気が重くなった。

思いっきり地雷踏んじゃった!!

 

「あ、別に両親の仲が悪かったわけじゃないのよ? 詐欺にあって、借金を抱えて、お父さんはあたしとお母さんに迷惑かけないって言って、離婚して一人で借金返済をしてるの」

 

詐欺、か・・・。

たしかあの頃、町のあっちこっちで詐欺事件があったな。小さい店が沢山潰れたっけ?

 

「お父さんとは一年会ってないけど、手紙で元気だって言ってるわ」

「そっか・・・」

 

明るく言ってるけどやっぱり元気がないな。

どうすれば・・・! そうだ!

 

「なぁ鈴」

「ん、なに?」

「今度どっか遊びに行くか?」

「え!? それって、デー

「五反田と忍野も呼ぼうぜ。久しぶりに四人で集まるか」

・・・トって訳ないか」

 

ん? なんでそんな呆れ顔するんだ?

 

「ま、偶にはいいかもね、それならあの子も誘ってよ」

「あの子って?」

「ほら、あんたの家に遊びに来てた忍ちゃんよ」

「あ、ああ。一応誘ってみるよ」

 

・・・そうだった。千冬姉や鈴とか他の友達は、忍の事を俺に懐いてる近所の子供だと思ってるんだ。

忍よ・・・、お前はまた、着せかえ人形にされるようだぞ・・・。

 

 

 

 

003

 

 

 

屋上に来た忍野は今回の事件の報告をしていた。

なんで毎回屋上なの?

 

「あぁ、さっき“ショートカット”にしたから俺も作れるようになった」

『それなら大丈夫だよ! あのGNドライヴは“ミカガミ”で使ってるからね~、これで1号機を起こせるよ!』

「・・・今度の件、千冬に言っておかなくていいのか? “私の作ったISじゃない”って」

『・・・“偽物”を捕まえてから打ち明ける』

「そうかい、なら次の休日にでもそっちに行くとするよ」

『くーちゃんと一緒に待ってるからね! お土産よろしく!!』

 

そう言って束は電話をきった。

 

「・・・偽物ねぇ」

 

 

『そこに本物になろうという意志があるだけ、偽物のほうが本物より本物だ』

 

 

 

「チッ 嫌な奴思い出しちまった」

 

舌打ちをして忌々しそうに呟いてから忍野は屋上をあとにした。

 




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二人の休日

 

001

 

 

6月上旬、日曜日。

 

一夏たちは久々に五反田の家に 遊びに来ていた。たちと言っても一夏と忍だけ、鈴と忍野は都合が合わなかったのだ。

 

「で?」

「で?って、何がだよ?」

 

格ゲー対戦中にいきなりな会話フリだ。

 

「だから、女の園の話だよ。いい思いして んだろ?」

「してねえよ。むしろ災難続きだっつの」

 

何回説明すれば納得するんだ、と一夏はため息を吐いた。

彼の名前は五反田 弾。一夏の中学からの友達で三年間鈴と揃って同じクラスだから中学時代はよくつるんでいた 。

 

「嘘をつくな嘘を。お前のメールを見てる だけでも楽園じゃねえか。何そのヘヴン。 招待券ねえの?」

「ねえよ・・・。ってか楽園っていうけどそんなにいいものじゃねえぞ」

「はあ? 何でだよ?」

「毎日、視線地獄に耐えられるか? まるで動物園の檻にいれられた動物の気分を味わえるぞ」

「うげ・・・」

 

具体的な例を出すと弾は嫌そうに呻いた。

 

「迂闊に学園の女子に手を出せば、その女 子の国に連れられてモルモットにされてし まうぞ」

「うっ・・・。そ、それは嫌だな・・・」

「まあ、鈴が帰って来た事は驚いたよ。あ いつ中国の代表候補生になったんだぜ」

「へえ〜。あの鈴がね〜」

 

と弾はニヤニヤとニコニコの中間みたいな顔をしていた。

 

「喰らえ! ミサイルランチャー!」

「「なっ!? 卑怯だぞ忍(ちゃん)!!」」

 

話に盛り上がっていた二人は忍の攻撃をもろに喰らって撃墜されてしまった。

今やっているゲームはISを題材にしたゲームだ。乱闘やチーム戦などの対戦がメインだが、千人組手やサバイバルなどやり込み要素もあり大人から子供まで楽しめる作品だ。

ちなみに収録されてる機体は第二回IS世界大会モンド・グロッソを元にしてるので『我が国の機体はこんなに弱くない!』と各国から抗議され、能力調整をした『御国版』が各国で発売された。

千冬はチートと言われて収録されなかった。

一人だけ仲間外れになっちゃったね。

 

 

「お兄!さっきからお昼出来たって言ってんじゃん!さっさと食べに・・・」

 

ドカンとドアを蹴り開けて入って来たのは弾の妹、五反田蘭。一個下の中三で有名私立女子校に通っている優等生だ。

 

「蘭か?久しぶりだな」

「いっ、一夏さん!? と忍ちゃん!!?」

 

次の瞬間、蘭は一瞬で移動して忍を抱き締めていた。

 

「忍ちゃんが来てたなら言いなさいよ、お兄! もー、忍ちゃん可愛い! キャー!」

 

その光景に弾と一夏はため息を吐いた。

蘭と鈴は忍のことが大好きで、会うたびにこのように抱き締めている。弾としては蘭の好きの度合いが一夏より忍になってるのでその点は嬉しいが、妹の先行きが不安になっている。

 

「忍ちゃん! 私の部屋に可愛い服あるから着てみて!」

「い、いやじゃー!」

「ほ~ら、わがまま言わない」

 

必死の抵抗虚しく、忍は蘭に連れていかれた。怪異の王が今では中学生の着せかえ人形。

なんとも言えないね~。

 

「・・・あいつ、この間服を買ってきたんだけど」

「買ってきたけど?」

「全部幼女服だったんだよ・・・、忍ちゃんくらいが着る」

「・・・・・・」

 

蘭の将来が本格的に心配になった二人だった。

 

 

 

 

 

002

 

 

 

現在、忍野は港に来ていた。

別に彼は釣りに来たわけではない。人と会う約束をしているからだ。

 

「あった、あれだな」

 

そこに停泊していたのは一隻のクルーザーだ。外観は白で6人乗りくらいの大きさ、船尾に船内への扉がある見た目普通の船だ。

乗り込むとそこにいた女の子がお辞儀をした。

 

「お待ちしておりました。忍野さま」

「やぁ、久しぶりだね。クロエ」

 

彼女の名前はクロエ・クロニクル。背が低くい華奢。流れるような銀色の髪を腰まである三つ編みが目を引く。

そして、目は“閉じられた”ままだ。

 

「どうぞ、こちらへ」

 

そう言うとクロエは忍野を船内に招いた。船内は中央に机があり左右にソファーがある。船用のものなので固定されており、ソファーは内装と一体化、シートベルトも付いている。

机の向こうには操舵室らしい部屋がある。

 

「それではしばらくお待ちください」

「うん、わかったよ。それと・・・はい、お土産」

「! ありがとうございます」

 

忍野を持っていた大きな袋の中から袋を取り出してクロエに渡した。

丁寧に両手で受け取ったクロエは、ほんの少し微笑みながらお辞儀をして奥の部屋に入っていった。

 

「それでは出港いたします」

 

普通に比べたら静かなエンジン音を響かせながら船は港を出た。

 

 

 

 

港を出てから30分くらいになるだろうか、忍野が外で風に当たってたいると船外スピーカーからクロエの声が聞こえてきた。

 

『そろそろ“潜行”しますので船内にお戻りください』

「え、潜行? 潜るの?」

 

忍野は慌てるように船内に戻り、扉を閉めた。すると扉の向こうで金属製の扉が閉まる音とそれがロックされる音がした。窓を見ると、窓枠の上からシャッターが下りてきて窓を塞いだ。

潜行する準備が済んだようだ。

 

『潜行開始します』

 

注水音が響き、その音が止むと波の音も聞こえなくなった。

 

海に潜ったのだ。船外が見えないのは残念だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコンッ

ガシャンッ

 

潜ってから5分ほどすると、何かにぶつかった音と何かが閉じるような音が船内に響いた。そしてその直後、大きな排水音が聞こえた。

しばらくして排水音が止むと奥からクロエが出てきた。

 

「到着しました、それではご案内します」

 

船の扉が開き外に出ると、そこは鋼鉄の部屋だった。一面が塗装された金属製で、明るい色の部屋に足音がこだました。

 

クロエと一緒に乗ってきたクルーザーを降りて部屋の出入り口へ向かうと

 

「ようこそ! 束さんの“水鏡”へ!」

 

まるで童話の中から出てきたかのようなワンピースにメカメカしい兎の耳のカチューシャを付けた女性が出迎えた。

 

篠ノ之束、ISの生み出した天災だった。

 

 

 

 

003

 

 

 

~一夏サイド~

 

 

「お前様! なぜ儂を見捨てた!?」

 

やっと蘭から解放された忍は弾の家を出た直後、俺に文句を言った。時刻は午後三時になろうとしている。

よく考えたら忍は二時間以上捕まってたのか・・・。

 

「お前様に儂の恐怖がわかるか!? 部屋に連れ込まれた直後、服を脱がされたのじゃぞ!? しかもその後、タンスから多量の服を取り出してカメラ片手に近寄って来るんじゃ! ヨダレを垂らしながら!」

「・・・・・・」

 

弾、蘭はもうダメかもしれないぞ。

そのうちやってくるかもしれない忍の貞操の危機に頭を悩ませながら俺は忍を肩車して学園への帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前様、あの店に立ち寄れ」

 

もうじき駅に着こうかとした時、忍がそんなことを言ってきた。指差す方を見るとそこには全国チェーンのドーナツ屋、ミスタードーナツがあった。あ、100円セール中だ。

 

「ダメだ、今日はもう帰るんだ」

「儂はあの娘に捕まって昼食を食うておらんのじゃぞ? そのくらい良かろう?」

「お前、さっきお腹空いてないって言ってたよな?」

「なら今はおやつの時間じゃ、うってつけではないか?」

「“なら”じゃねーよ、それにあんまりお金持ってないんだからダメだ」

「・・・・・・」

 

おや? 静かになった。諦めたのかな?

 

「もしドーナツを買わぬと言うなら泣くぞ? 大声で泣くぞ? この男に誘拐されたと言うぞ? それでもいいかの、我が主様よ?」ボソボソ

「俺とお前は一蓮托生だ、もし俺が逮捕されたら二度とドーナツを食べれなくなるぞ?」ボソボソ

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 

 

結局、見捨てたお詫びとして野口さん二人が犠牲になりました。

 

 

 

 

004

 

 

 

~忍野サイド~

 

 

「思ってたより小さいな」

 

束が何か準備するとどこかに行ってしまったので、俺はクロエに案内されて機関室に見学に来ている。

この“水鏡”はなんと潜水艦らしい。まぁ海に潜って世界中逃げていたら誰にも見つけられないな。

そして目の前にはそんな潜水艦の心臓部。車くらいの大きさの動力炉がある。

 

「これが永久機関なのか?」

「はい。対消滅エンジンです」

 

“対消滅エンジン”

物質と反物質が接触して起きる化学反応、対消滅を利用した機関だ。

質量とエネルギーは等価であるがその変換効率は非常に悪く、効率がいい化学反応“核融合”でさえ質量のうち1000分の1程度をエネルギーに変えているだけという変換効率である。それに対して、対消滅反応を起こすと質量の90%以上がエネルギーに変わる。それによって得られるエネルギー量は凄まじく、爆弾にすると1円玉サイズの対消滅で原爆の倍以上の破壊力をもつ・・・と聞いている。

 

「にしてもとんでもない物を作るなぁ」

「そうですね、それは同感です」

 

GNドライブに続いて対消滅エンジン、二つも半永久機関を作り出す束の頭はどうなってんだ?

 

「それで、あれが1号機の・・・」

「GNドライブですね」

 

対消滅エンジンの前に、両方の壁から伸びた支柱に固定されて今も光続けているGNドライブがあった。生成されたGN粒子は支柱を通って粒子タンクに貯蔵されてるようだ。モニターに沢山のタンクメーターがある。

 

しばらく物色していると束がやってきた。

 

「いや~、待たせたね! 準備できたからこっちに来て」

 

束に連れられて通路を歩き、研究室の前にきた。部屋に入るといくつかの発明品らしきものがあるが、それ以上に目を引くものがあった。

 

「ガンダム・・・」

 

そこに鎮座していたのは白い全身装甲にGNドライブがあった穴、額にV字アンテナがついているIS、ケルディムやアルケーと同じ番外機“ガンダム”であった。

・・・と言っても頭と胸しか見えない。コードや固定器具のせいで隠れている。それにしても頭部のコードが多いな?

 

「それじゃお願いね!」

 

おっといけない。今日はGN鉱石を“創り”に来たんだ。

 

「はいはい、了解したよ」

「“はい”は十回!」

「多いわ!」

「束様、そこは普通“一回”です」

 

クロエにツッコミ属性なんてあったっけ?

まぁいいか、そんな事よりサッサと終わらせよう。

 

 

 

「ショートカット! GN鉱石!!」

 

大きな光が生まれて、それが収縮していき光が消えるとそこにはサッカーボールくらいの大きさの石があった。

GN鉱石、GNドライブの核となる特殊鉱石だ。

 

「うん、何度見ても不思議だねー! 物理法則どころかいろんな法則を無視してどうやって作ってるのかな? 分解して調べたいな!」

「ハァハァ、か、勘弁してくれ・・・ゴホッ」

 

鉱石を回収しながら恐ろしい事を言う束だが、俺はツッコミを入れるのすら辛い有り様だ。

 

“ショートカット”

俺の持つ能力、言葉を具現化することができる能力を使い易くしたものだ。

どんな物でも具現化できる能力だが複雑な物になるとすぐに具現化できなくなる。この能力は具現化する物を言葉で“説明”しないといけないので複雑になればなる程“説明”が長くなり時間が掛かるのだ。

しかし、ショートカットにしたものはどれだけ複雑だろうと“一言”で具現化できるようなる。

 

だが、この能力は凄まじく疲れるのだ。簡単なものなら平気だが複雑なものになると疲労が大きい。一言で具現化できるようになってもそれは同じなのだ。

 

それゆえ極めて複雑なGN鉱石を具現化した俺は床に手をついて肩で息をしている。

 

「それじゃ二つ目いってみよ! 水鏡で使うには出力が低いからあと四つは欲しいね~」

「よろしくお願いします、忍野さま」

「ゴホッ、ちょ、ゴホッ、ちょと待って、ハァハァ、休憩、させて、ハァハァ」

 

 

 

なんとか五つのGN鉱石を具現化したが次の日寝込みました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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日常 其ノ壱

本編とあまり関係のない、割とどうでもいい話。

 

 

 

『千冬クッキング』

 

 

「ん~」

 

現在、千冬は困っていた。

場所は寮監室、手に持っているのは“冷凍肉”

旅行に行ってきた先生から貰ったお土産なのだが調理をしないと食べらんないのだ。

これをつまみに一杯やろうと思っていたのだが箱を開けたら塊で、電子レンジで加熱しただけでは食べらんないのは明らか。

 

「・・・料理するか」

 

そんなことを言ってキッチンにたつ千冬。

 

“解凍”

 

まずは解凍だな。 めんどうだな、熱湯の中にいれるか? それとも直火で溶かすか? 

 

“下拵え”

 

とりあえず溶けたな。えーっと?『食べやすい大きさに切ってください』 ・・・ぶつ切りでいいのか?

 

よし切り終わった。それにしてもまな板が割れてしまった、新しいのを買わないといけないな。

 

次は、『お好みのスパイスで味付けをしてください』?  スパイスってなんだ? 塩コショウと違うのか? クローブ?シナモン? いったいどれがスパイスなのだ?

 

“加熱”

 

アニスと言うスパイスを味付けに使ってみた。 えーっと、『フライパンに少量の油をひいて中火でじっくりと焼いてください』 ・・・少量ってどのくらいだ? このくらいか? ドボドボ  中火でじっくり? 強火ですばやくでいいだろう。

 

“完成”

 

「・・・・・・」

 

千冬の目の前には真っ黒の塊できあがった。食べれそうなところがまったくない。とりあえず中心は食べれないか? と切ってみたが完全に真っ黒だ。肉汁らしきものまで真っ黒だ。

 

 

「・・・つまみ買ってこよ」

 

謎の物体をゴミ箱に捨て、千冬は購買につまみを買いに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まよいフラグ』

 

 

やっと簪の専用機の組み立てが終わった忍野たち。今はみんなで後片付けをしているが、真宵が部屋の隅で何かやっている。

 

「ね~、まよちゃ~ん。何してるの~?」

「ジャジャーン、まよいフラグじゃよ!」

 

真宵が何をしてるのか気になった本音。

見せてくれたのは、ヘルメットにバネ仕掛けの旗がついてる変な物だ。手元にはスイッチがあるし。

 

「それISに必要なのか?」

「単なる暇つぶしじゃよ?」

「暇つぶしかよ!」

「片付け、しよ?」

 

忍野と簪のツッコミをスルーして、真宵はヘルメットをかぶり説明を始めた。

 

「私の好感度が上がると立つんじゃよ」

 

キコン! 手元のスイッチを押すと旗の支柱が立った。ご丁寧に効果音まである。

あ、また倒れた。

 

「忍野さん? 私の好感度上げなくていいのかにゃ?」

「くだらないこと言ってないで片付け手伝え」

「ちぇー」

 

そう言って片付けを始める真宵だが、

 

キコン! キコン! キコン!

 

ずっとスイッチを押してるようで旗が立って倒れてを繰り返してる。さすがにうるさいので、むこうを向いてた忍野は振り返ってツッコんだ。

 

「静かに片付けれないのか!?」

 

だがタイミング悪く、

 

キコバキッ

 

「「「え?」」」

 

動かした拍子に支柱が折れた旗がバネの力で飛んでいき、

 

ガン!!

 

「ッアーー!?」

 

忍野の額に命中した。

 

「だ、大丈夫!?」

「大丈夫かにゃ忍野さん!?」

「まよいフラグが吹っ飛んだね~」

「本音さん!? その表現はやめて!」

 

 

その後、真宵は忍野に追い回されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『部活は?』

 

 

とある日の放課後

 

「一夏、部活はどこなの?」

 

鈴は一夏にそんなことを聞いた。

ちなみに、差し入れで好感度アップとか誰もいない部室で18禁展開とかを考える。

まさに捕らぬ狸の皮算用である。

 

「入ってないぞ?」

「男である俺たちが、女子校のIS学園でいったいどの部活に入るんだい?」

「そ、それならあたしと一緒に、新しい部活作る? あと忍野もついでに」

 

頬を少し染めながら一夏に提案する鈴。だが忍野に対しては真顔である。

 

「部活は五人いるだろ? 忍野を入れても三人しかいないじゃん」

「そもそも男に部費や部室をやるなって文句を言う奴がいるだろうから何もできないだろうな。それともう少しオブラートに包め、ついですぎるだろ」

「一夏しか友達がいなそうなあんたを人数合わせの為だけに入れてあげるわ」

「誰が心を抉れと言った?」

「あんたに心なんて無いでしょ」

「・・・まな板」

「あぁん?」

 

いつもどうり、喧嘩腰で話すふたりと一夏。そんな調子で部活の話が続いたが、忍野がふと思い出した。

 

「そういえば千冬も何かの顧問やってるよな?」

「文化部の顧問やってるぞ」

「千冬さん、何の顧問やってるの?」

 

「茶道部」

 

「「アハハハハァ!!」」

 

一夏の口から語られたまさかの答えに大笑いする鈴と忍野。

 

「千冬が茶道部? ありえねーってw」

「千冬さんなら剣道とかでしょw」

「それで『稽古してやる、全員でかかってこい』とか言ってw」

「そうそう、それも本気で返り討ちにするのよw」

「そもそも、千冬が茶をたてれるのかw? あの家事能力ゼロがw」

「『茶なんてどれも同じだろ』っとか言ってそうw」

 

 

「ずいぶんと楽しそうな話をしているな」

 

「「え?」」

 

鈴と忍野が振り向くと、そこには笑顔だが目が笑ってない千冬がいた。

 

「お前たちが私をどう思ってるのかよくわかった。どうだ、今から仮入部するか?」

「「え、遠慮します」」

「そう言うな。特別に部活体験をさせてやろう・・・私の指導とともにな」

 

「「い、嫌だー!!」」

 

千冬に引きずられ連れていかれる鈴と忍野。

 

「鈴はともかく、なんで忍野は千冬姉に気づかないんだ?」

『絶対、ワザとじゃの』

 

 

ギャーーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゲーム対決』

 

 

寮の部屋で一夏が勉強をしていた時、

 

「お前様、ゲームで勝負じゃ」

 

影から出てくるや否や何の脈絡もなくゲーム対決をする忍。

忍野は不在である。

 

「いいけど何のソフトで対決するんだ?」

「コレじゃ」

 

忍が取り出したゲームソフトは、

 

「『人生ゲーム IS学園編』 ?」

 

それはつい先日発売されたものでどう見ても対決向きのゲームじゃなかった。と言うより忍がせがんだので買ったがまだ一度もプレイしてなかった。

 

「それでは、開始じゃ」

 

 

 

 

“入学”

 

IS学園に無事入学 +5000 ・・・忍

入学失敗、裏口入学 -10000 ・・・一夏

 

 

 

“授業”

 

しっかりと予習してたので完璧 +500 ・・・忍

授業がわからず補習決定 -1000 ・・・一夏

 

 

 

“訓練”

 

ISの操縦を褒められた +500 ・・・忍

着地に失敗、地面に大穴を空けた 1回休み ・・・一夏

 

 

“トーナメント戦”

 

1で入賞 +1000 2~6はなし

忍/1 一夏/4

 

 

“訓練2”

 

訓練機を壊して修理代を払う -10000 ・・・忍

ISの操縦を褒められた +500 ・・・一夏

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

“卒業式”

 

なぜかブリュンヒルデと対決 全額失う ・・・忍

普通に卒業 +10000 ・・・一夏

 

 

 

“結果発表”

 

順列一位・忍 二位・一夏

総額一位・忍(0) 二位・一夏(-20500) 

 

 

 

「「何このクソゲー」」

 

もっともな意見である。

 

「いきなり裏口人学かよ」

「なぜ訓練機の修理代を生徒が払うのじゃ?」

「なんで学生なのにマイナスが発生するんだよ」

「最後に全額奪うとかありなのか? しかもこれ、一位でゴールしたら絶対にお金を失うではないか」

 

その後しばらくゲームの酷評は続けられた。

後日、このゲームソフトを古本屋に売った一夏と忍であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『忍野ミサイル』

 

 

潜水艦“水鏡”の艦内

 

「もう、無理・・・疲れた」

 

GN鉱石を創り、疲れきった忍野。

呼吸は落ち着いたが立ち上がる元気もなく床にうつ伏せでぶっ倒れてる。

 

「それじゃあ港まで束さんが送ってあげよう!」

 

忍野の足を掴みながら束が港への送りを名乗り出た。

なぜ足を?

 

「くーちゃん、飛行爆雷をIS弾頭で用意してね」

「分かりました束さま」

 

束の指示を受けたクロエはお辞儀をしてサッサと部屋から出てってしまった。

 

「ちょっと待てかなり不穏なセリフが聞こえたぞ!?」

「心配せずに束さんに任せなさい!」

 

ツッコミは入れれるが、ろくに動けない忍野を引きずってどこかに向かう束。

顔が引きずられるよー。

 

そして到着したのは“弾薬庫”と書かれた札の付いた部屋だ。

部屋に入った忍野の目の前にあるのは巨大なドラム缶みたいな物体だ。高さ4メートルくらいの円筒形で下にはロケットノズルがある。そして忍野を不安にさせたのはその物体に“人間が入れる程”の扉が付いてることだ。

IS弾頭って・・・。

 

「まさか、送るって、これでか?」

「そーだよー?」

 

すぐに束は弾頭の中に、乱暴に忍野を放り込んだ。

 

「それじゃあまたねー! あ、そうそう。これ、IS展開してないと死んじゃうかもしれないから気をつけてね?」

 

そう言うと忍野の返事を聞きもせず、扉を閉めてロックした。

 

「くーちゃん、発射していいよ!」

『了解しました。IS弾頭、発射』

 

束が通信機で指示をだすと部屋のスピーカーから無慈悲なクロエの声が聞こえた。

 

 

 

忍野の入ったIS弾頭は発射管に装填されて、水鏡から発射された。

 

 

 

なんとか無事に港ついた忍野は、どんなに疲れてても次からは自力で艦から降りようと、そう誓ったのだった。

 




次で水鏡の設定
その後、新章に入りたいと思います。

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潜水艦設定

万能潜水艦  水鏡 (ミカガミ)

 

外見:『ふしぎの海のナディア』のノーチラス号

 

篠ノ之束の移動式ラボ。150mクラスの潜水艦で窓やエンジン付きの翼があるのが特徴。実際は束の作った宇宙船の試作品のため従来の潜水艦とは逸脱した能力があり、ある程度の自給自足が可能。そのためもう何ヶ月も浮上してない。

浮上の際は監視衛星や偵察機対策のために光学迷彩で艦上部に周囲の風景を映してカモフラージュしている。

主機関に常温対消滅エンジン、補機にGNドライヴを採用してるため潜水艦でありながら100ノット以上の速力をもちトランザムも可能。

艦尾に大型格納庫があり電車の車両くらいのサイズなら格納できるが現在は空である。

 

 

 

武装

 

飛行爆雷発射管 8基

 

前甲板に装備された爆雷。対艦、対潜、対地、対空と全てに使える。対潜で使用した場合、甲板から垂直に発射され弾頭は海上に出て放物線を描きながら敵の上空まで飛行、再び潜って命中する。

ほぼVLSミサイルである。

なお特殊弾頭でISの射出も可能。

 

 

対潜誘導弾発射管 32基

 

両翼に16基ずつ装備された魚雷。通常時は隠されてるが使用時にはハッチがスライドして解放される。翼の上下に8基ずつ並んでおり、各基の発射タイミングを少しずらした連射式発射を行う。

なお艦首方向にしか装備されてないため他の方向には使用不可。

 

 

対雷撃防御システム ホムガード  14基

 

両翼の付け根部分に7基ずつ装備された防御兵装。主に魚雷などからの防御に使用。発射された弾頭は敵の魚雷の前方で炸裂、内部の小型機雷をバラまき魚雷を破壊する。

水上でなら対空にも使用できる。

 

 

 

主機関

 

常温対消滅エンジン

 

水素と反水素を対消滅させてその質量の94%をエネルギーに変えるもう一つの半永久機関。車くらいの大きさでこれ以上小型化できないため艦船にしか搭載できない。

 

 

補機

 

GNドライヴ

 

元は1号機に搭載されていたものを使用。

粒子散布による電波妨害やトランザムによる加速、船を動かすためではなくGN粒子を使用するため搭載された。IS用のサイズのため出力が足りず、単機ではトランザムを使用しない限り船を航行させることができない。

現在、GNドライヴ[T]との取り替えをおこなっている。

 

 

 

搭載機

 

潜水球

 

艦底の格納庫に搭載された水中作業ポッド。主に資材採掘のために使用されてる。

 

 

小型潜水艇

 

買い出しなどのために使用される潜水艇。見た目は普通のクルーザーだが潜行能力があるので水鏡が潜ったままでも発着可能。

『ノーチラス号』のように外部の協力者がいないため生鮮食品などの補給用にこの話では搭載した。

 

 

 

 

 

 

 

その他設定

 

 

船長室は展望室に変更。

 

 

ブリッジ内部は各部門席は無く、『宇宙戦艦ヤマト』の艦長席のような制御席が一つだけ。基本的には自動航行のため無人だが浮上や戦闘、細かい操舵が必要な時はクロエが座る。

 

 

艦内の4割近くが格納庫や研究室になっている。

 

 

メインブロックの脱出機能は排除しその分艦内スペースを増やした。

 

 

小型潜水艇格納庫は『ふしぎの海のナディア』で漂流していた主人公たちを救助に使った艦首格納庫を使用。

 

 

“水鏡”の名の由来は浮上した時、艦上部に周囲の海(水)を映すことからつけました。

 

 

“潜水艦”となってるが軍所属の船ではないため本来は民間のものなどを差す“潜水艇”と言うのが正しい。しかしこれだけの火力を持ちながら民間船を言い張るのは無理があるため挺ではなく艦に固定。




次回から新章に入りたいと思います。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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軍人と貴公子
引っ越と転入生


 

001

 

 

「織斑くん、忍野くん。お引っ越しです」

 

「「はい?」」

 

一夏と忍野は部屋にやってきた山田先生の言葉に耳を疑った。

 

「え、えっと、あのですね、明日転入生が寮に入りますのでお二人のうちどちらかにお引っ越ししてもらう事になったんですよ。ごめんなさい」

「別にいいですけど、転入生が入るからってなんで俺たちなんですか?」

「転入生って言っても女でしょ?」

 

ふたりの質問に何やら考える山田先生。

すると内緒話をするかのように顔を近づけてきた。

 

「ここだけの話なんですが、転入生は二人いて一人が“男性”なんだそうです」

 

「男!?」

「へぇー、男ねぇ」

『お主らの他にもおったのか』

 

一夏は驚いたが忍野と忍は全然驚いてない。

リアクション薄いぞ。

 

「あ、絶対しゃべっちゃダメですよ! でないと私、織斑先生に怒られちゃいますから!」

 

山田先生は慌てて口止めに走った。確かに、こんな情報を流したら女子生徒がどんな反応をするか、そしてそれがバレたらどんな目にあうか想像したのだろう。

若干、顔が青くなっている。

 

「それで忍野、どうする?」

「じゃんけんでもするか?」

「それでいいぞ」

「負けた方が部屋を代わる」

「望むところだ!」

 

「「じゃんけん、ポン!」」

 

 

 

「それではこれが新しい部屋の鍵です。荷物の準備ができたら移動してくださいね」

 

負けた忍野は鍵を受け取り、一夏と山田先生に手伝ってもらい部屋の片付けを済ませると部屋を出た。

 

 

 

002

 

 

~一夏サイド~

 

忍野が山田先生と部屋から出ていくと忍が影から出てきた。

 

「どんな奴が転入してくるんだろうな?」

「我が主様は気楽じゃの。じゃがそんな事よりせねばならんことがあるぞ」

「え? 何か忘れてたっけ?」

「お前様、同居人が変わるのじゃぞ? 儂これからいつ影から出るのじゃ?」

「あ・・・」

 

そうだった。同居人が忍野だから好き勝手に影から出てこれたけど他の人の前で出てくる訳にはいかない。そうなれば学園にいる間、休みで学園から外出しない限りずっと影の中に居ないといけない。

 

「考えておらんかったようじゃの。我が主様が忘れておることは・・・儂への謝罪じゃろ?」

 

黙って土下座しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず忍に許してもらって寝る準備をしていると、

 

コンコン

『一夏、今いいか?』

 

箒がやってきた。

 

「今開けるよ」

 

忍が影に入ったのを確認してから扉を開けた。

 

「どうしたんだ箒? まあ、とりあえず部屋入れよ」

「いや、ここでいい」

「そうか」

「そうだ」

 

何が言いたいんだよ!?

 

「・・・箒、用がないなら俺は寝るぞ」

「よ、用ならある!」

 

声が大きいぞー。鬼寮監がやってくるぞー。

 

「ら、月末の、学年別個人トーナメントだが・・・」

 

どんどん顔が赤くなってく。風邪か? 大丈夫だろうか?

 

「わ、私が優勝したら、つ、付き合ってもらう!」

 

それだけ言いきると箒は走り出した。

 

「あ! おい!」

 

慌てて部屋から出て箒を呼び止めようとしたけどもう見えない。足速いな!

 

「優勝したら付き合って、って買い物くらいいつでも付き合うのに」

『鈍感じゃのう』

 

鈍感ってなにがだ?

 

 

 

003

 

 

 

~忍野サイド~

 

 

以前使用した予備の寮監室に来た。

山田先生は部屋の前まで荷物を運ぶのを手伝ってくれたが用事があると申し訳なさそうな顔をして行ってしまった。

さて、部屋に運び込みますかな。

 

 

「あれ? 忍野くん」

 

声をかけられて振り返ると、そこには手に小さいダンボール箱を持った簪がいた。

 

「どうしたんだい?」

「荷物、取りに・・・忍野くんは?」

「訳あってお引っ越し、この部屋になったんだ」

「ここ、寮監室」

「すぐに使える部屋がここだけだったらしいよ」

「ここが・・・忍野くんの」

 

あれ? 黙っちゃった。

すると扉の前に置いてある荷物を見ている、どうしたんだ?

 

「片付け、手伝う」

「これくらい大丈夫だよ」

「いつも、手伝ってくれてるから」

「いや、でも・・・」

「手伝う」

 

・・・強い眼差しを上目遣いで向けてくる。

そんな顔されたら断れないよ! てか断ったら罪悪感わきそう!

 

「それじゃ、お願いするよ」

「うん!」

 

ん?

なんだか嬉しそうに、そして元気よく簪が返事をした。

 

 

 

その後、簪に手伝ってもらって予定より早く片付けが終わった。

簪が俺の私物を興味深々で見ていたような気がするが気のせいだろう。

 

 

 

 

004

 

 

 

「私はやっぱりハヅキ社製が良いかな」

 

朝、食堂で合流した一夏と忍野が教室に着くとそんな言葉が聞こえた。

 

「ハヅキってデザインだけっぽいじゃん」

「デザインが私は気に入ってるの」

 

どうやらISスーツの話らしい。 スーツに関しては生徒の中でも、デザイン重視派だとか機能性重視派だとか色んな派閥があるらしい。

 

「私は・・・ミューレイかな~」

「でもミューレイって高いんだよね~」

 

値段に関しても企業や国によって差が大きく、学生の懐には厳しい品だ。

しかしこの学園の一般生徒が着用するスーツは、入学時に制服と共に学園デザインの物が用意される。 その後、生徒たちが学園スーツを使うか、希望のスーツを注文することになってる。

費用の9割以上が学園持ちだからって安いものではないが・・・

すると、

 

「織斑くんと忍野くんのISスーツって、何処の企業のものなの?  見た事が無いんだけど」

 

と聞いてくる生徒がいた。

 

「俺達のは特注品だよ。今までは男性用のスーツなんて必要なかったからな。確か、元は宇宙服の試作品だって聞いてるよ?」

 

一夏は思い出しながら答えた。

女子のは水着のようなデザインだが、二人のISスーツは全身タイプのウェットスーツのようなもので、黒ベースに専用機のカラーリングがされて、露出部分は頭だけという物だ。ISスーツ基本的機能の他に、対G制御とバイタルチェック機能などがついている。そして従来のスーツよりも防弾能力が高い。

一夏のスーツは深緑色の、忍野のスーツは赤色のツートンカラーである。

 

 

「宇宙服か~、そんなのも有るんだ~」

「特注品だからねぇ、男性用って事も含めて二つと存在しないよ。余程の事じゃない限り、他の企業じゃ作ってもらえないよ(もっとも、束にしか作れないだろうが)」

 

忍野もスーツの話に交ざる。

一夏たちがそんな風に話をしていると、山田先生がISスーツの事をスラスラと説明しながら入ってくる。

 

その後、千冬もやってきてHRが始まり、その内容としてはIS実戦訓練の開始と、ISスーツの注文だとかに関してだ。

 

「スーツを忘れた者は代わりに学園指定の水着を着用、それも無いものは・・・そうだな、下着で構わんだろう」

 

((何言ってんだよ!?))

千冬の発言に、心の中でツッコミをいれる男子二人。

男の前でそんな事させようとするなよ。

連絡事項を言い終えた千冬は山田先生にホームルームを引き継いた。

 

「ええとですね、今日はなんと転入生を紹介します。しかもふたりです!」

 

「「「ええええぇぇぇっ!」」」

 

予想通り、女子たちはざわつく。それも仕方がないだろう。転入生の噂などは基本的にすぐ流れる(鈴がいい例だ) しかし今回は事前情報がまったくなかったのにふたりも現れたから驚きもする。

教室内がざわつくなか、教室の扉が開いた。

 

「失礼します」

「・・・・・・」

 

教室に入ってきたふたりの転入生を見て、女子たちは静かになった。

転入生のひとりが、“男子”だったのだから。

 

 




ご意見、ご感想お待ちしております。


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まやファイト

 

001

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから 来ました。皆さんよろしくお願いします」

 

挨拶する“貴公子”といった感じをした転校生、その姿に皆のざわめきが無くなった。

 

「お、男?」

 

誰かが呟いた。 シャルルと名乗る転入生は一夏たちと同じ男子の制服に身を包んでいる。

中性的に整った顔立ちで華奢な体型。濃い金髪を後ろで束ねている。

 

「あ、はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いたので本国から転入を・・・」

 

「「「「「・・・きゃあああああああああ あッ!!」」」」」

 

途中で覚醒した皆が叫ぶ。 その音で窓にヒビが入りそうになるがギリギリ耐え切ったようだ。

 

「男子よ!! 男子!! 三人目の!! しかもうちのクラスに金髪って!!』

「三人ともウチのクラスに集まるなんて、ここ天国!? それとも夢!?」

「織斑君や忍野君とは違って明るいプリンス!! それも守ってあげたくなるタイプ!!」

 

 

「うるさい! 静かにしろ!!」

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

織斑先生と山田先生に言われて静かになった教室、皆の視線はもう一人の転入生に集まった。

 

女子の平均よりも低い背に腰近くまでのばした銀髪。そしてなにより目を引いたのは左目の黒眼帯。

いかにも“軍人”といった印象を放っている。

 

「・・・挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

 

ラウラと呼ばれた子は織斑先生に向けて敬礼をしている。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

「了解しました」

 

軍人らしさを感じる、ピシッとした立ち方をしてみんなの方を向いた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「「「・・・・・・」」」

 

皆、続く言葉に期待したが、名前以外なにも言わないつもりのようだ。

 

「あ、あの、以上・・・ですか?」

「以上だ」

 

山田先生の質問に素っ気ない返事をして一夏と忍野を交互に見ている。そして一夏とラウラの目があった。

 

「お前が織斑一夏か?」

「そうだけどなにか?」

 

すると彼女は正座をし(?)、制服の上着を脱ぎ(??)、何処からかナイフを取り出し(!?)お腹に突き立てるようにして、

 

「覚悟はできてる、介錯を頼む」

 

 

「「「「待て待てちょっと待てー!」」」」

 

クラス全員でストップをかける。山田先生はオロオロとしてパニクってる・・・いや、一部を除いたクラス全員がパニクってる。だって今転入してきた子がいきなり切腹しようとしてるのだから仕方がない。

 

「いきなり何をしようとしてるのかな!?」

 

ラウラの持っているナイフを没収しながら忍野が尋ねると、

 

「? 日本では相手に誠心誠意謝罪する時、HARAKIRIをすると聞いたぞ」

 

「「「「誰がそんな事教えた!!?」」」」

 

さも当然のように切腹をすると答えた。

織斑先生が頭に手をやってる、どうやら間違った知識を教えた犯人に心当たりがあるようだ。

 

「・・・では、HRを終わる。今日はこの後ISの 稼働実習の日なので、各自はこの後着替えて第二グラウンドに集合だ。織斑はデュノアの面倒を見てやれ同じ男児同士だろう。ボーデヴィッヒと忍野は私のところに来い」

 

 

 

 

002

 

 

 

 

~忍野サイド~

 

千冬について行き、教室から離れた階段に来た。

もう少し場所を選べよ千冬・・・。

 

「ボーデヴィッヒ、何故あんな事をした?」

「は! 織斑一夏に対しドイツとして謝罪ため、HARAKIRIを!」

「残念ながら切腹は武士がするものなんだ、IS乗りの謝罪のしかたじゃないよ?」

「そうなのか!?」

「・・・いったい誰がそんな事教えたんだい?」

「私の部隊の副官だ」

「・・・クラリッサの奴」

 

千冬が誰かの名前を呟いた、やっぱり知り合いなのか?

 

「謝罪は言葉でしろ。わかったら行け、授業に遅れるなよ」

「は! それでは失礼します」

 

そう言うとボーデヴィッヒはグラウンドの方へと向かった。しゃべり方だけじゃなく動きまで堅苦しいね~。

 

 

「千冬、あの子が言ってた謝罪って?」

「織斑先生だ。あいつが言っていた謝罪とはドイツでの事だろう、ラウラは軍人だ」

 

やっぱり軍の人間だったんだ。

 

「ドイツでの大会中に一夏は誘拐されて、軍が捜索しても一夏を見つけれなかった事に何か思っていたんだろう」

 

さすがに切腹しようとするとは思わなかったが、と千冬は言った。

ドイツで開催された第二回モンド・グロッソ。その決勝戦で一夏は誘拐されて表向き、二週間の消息不明になっていたっけ?

 

「へぇ~、ドイツのねぇ」

「そうだ、お前と一夏が語ってくれない、ドイツでの二週間の出来事に対してだ。・・・いい加減話してはくれないか?」

 

千冬にしては随分と下手に出た頼み方だが、被害者面した言い方が気に入らないな。

 

無関係の第三者のくせに

 

「ハッハー、それは何度も言ってるが無理だ。一夏が語らない事を俺が言うわけにはいかないよ」

「一夏は・・・何も話してくれない」

「ならあんたは知らなくていいって事だ。知ったところで何かが変えれるわけじゃない、既に過去の出来事、余計な詮索はしない事だな」

 

俺はそれだけ言ってからボーデヴィッヒのあとを追うようにグラウンドへ向かった。

 

 

千冬、あんたは知らなくていいんだ。表で、舞台の上で輝かしく活躍してる奴が、舞台裏である俺達を見る必要は何処にもない、関わらなくていいんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

003

 

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

「「「「はい!」」」」

 

一組と二組の合同実習が始まったが、

 

「人の頭を何だと思って・・・」

「一夏のせい一夏のせい・・・」

 

セシリアと鈴は頭をおさえて涙目になっていた。

授業が始まってるのにラウラの事を話してたのが原因だ、織斑先生の主席簿アタック発動。

さすがに“一夏が介錯を頼まれた”となれば気になって仕方がないが・・・。

 

 

「鈴~、背縮んでないか~?」ボソボソ

「うっさいわね忍野! 縮むわけないでしょ!」ボソボソ

「でも千冬だし」ボソボソ

「一夏のせい一夏のせい・・・」グスン

 

忍野の追い討ちで余計に涙目になった鈴。

背丈気にしてたんだね。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。―――凰!オルコット!」

「・・・チビのあたしになにか~?」グスン

「わたくしもですか・・・」

 

指名されたふたりだがモチベーションが低い。鈴は低いと言うより心が荒んでる。

 

「専用機持ちはすぐに始められるからな」

「はぁ・・・」

「そうですけど・・・」

 

そんな時、織斑先生が二人に耳打ちした。

 

「お前ら少しはやる気を出せ。・・・アイツにいいところを見せられるぞ?」

「「っ!?」」

 

「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわ ね!」

「まぁ、実力の違いを見せるいい機会よね! 専用機持ちの!」

 

織斑先生の一言でやる気全開だ。

恋する乙女、単純過ぎる。

 

「それで、相手はどちらに?  わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」

「ふふん、こっちの台詞。返り討ちよ」

「慌てるなバカども。対戦相手は・・・」

 

キィィィン・・・

 

・・・上から何か聞こえてくるのでみんなで上を向いたらISが落下して来ていた・・・

 

「ああああーっ! ど、どいてください ~!」

「っ!?」

 

ものすごいスピードで一夏たちのところに突っ込んでくる山田先生が見えた。

 

「本日の天気はIS学園で山田先生が降るでしょ~。では、現場の織斑さ~ん」

「のんき過ぎるだろ!? ったく!」

 

一夏はすぐにケルディムを展開した。

 

《忍~、しゅくよろ~》

《我が主様も大概じゃの、あ~ぁ、なんでこんな事のために・・・》

 

忍はシールドビットを山田先生の進路上に展開した。

 

直後、

 

「ギャフン!」

 

山田先生は顔面からビットに衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「山田先生はドジだが元代表候補生だ、対戦相手には不足はないぞ」

「お、織斑先生~、トゲがあるんですけど・・・」

 

生徒の前に着地した山田先生。ぶつかったおかげでISの制御を取り戻したようだ。

だがみんなから若干呆れ気味の雰囲気が漂ってる。

 

「さて小娘どもいつまで呆れてる。さっさとはじめるぞ」

「え? あの2対1で・・・?」

「いや、さすがにそれは・・・」

「安心しろ。今のお前らならすぐに負け る」

「「なっ!?」」

 

織斑先生に負ける、と断言されて2人の闘志に火が付いたみたいだ。

ISの制御に失敗する人に負けると言われたら気に障るだろうな。

 

「では、始め!」

 

3人はゆっくりと飛翔し、構える。

 

「手加減はしませんわ!」

「先生だからって容赦しない!」

「い、行きます!」

 

3人の戦闘が開始された。

 

「さて、今の間に・・・デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」

「あっ、はい」

 

 

「山田先生の使用されているISは『ラファール・リヴァイブ』です。第二世代ですが、そのスペックは第三世代型にも劣らず安定した性能と高い汎用性、豊富な後付 武装が特徴の機体です。特筆すべきはその操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばないことと多様性役割切り替え(ロールチェンジ)を両立しています。装備によって格闘・射撃・防御といった全タイプに切り替えが可能で、参加サードパーティーが多いことでも知られて・・・」

「ああ、いったんそこまででいい。・・・終わるぞ」

 

「「きゃああああああ!!!」」

 

ドコーン!

 

大きな音をたてて二機のISが落下してきた。鈴とセシリアは呆気なくやられたみたいだ。

クレーターができてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあと実習が始まり訓練機への搭乗をやってるが一部のグループを除いて滞りなく進んだ。

 

問題の一部とは・・・

 

「・・・・・・」

「・・・あ、あの~、ボーデヴィッヒ、さん?」

 

鉄壁城塞、終始無言のラウラ・ボーデヴィッヒと・・・

 

「忍野くん、掘り出そうか?」

「ごめん、お願いするね」

 

いつものパターンで織斑先生に埋められた忍野のグループだった・・・。

 

 

そんな感じで実習は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、またやりましたタイトル詐欺
ごめんなさい。

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セシリアランチ

 

001

 

 

「・・・どういうことだ」

「どうしたんだ、箒?」

 

現在はお昼休み。集まったメンバーが屋上で昼飯にしようとしている。いつもなら人で賑わっているが今日は誰もいない、みんなシャルル目当てで食堂に向かったからである。

シャルルはここに居るんだけどね。

 

ちなみにメンバーは箒と鈴、セシリアとシャルル、それと一夏である。

忍野はどっか行きました。

 

「せっかくの昼飯だし、大勢で食った方がうまいだろ。それにシャルルは転校してきたばっかりで右も左もわからないだろうし」

「そ、それはそうだが・・・(せっかく一夏と二人きりでお昼を食べれると思ってたのに)」

 

実習の後、一夏をお昼飯に誘った箒。

一夏と二人きりの食事だと思っていたが鈍感唐変木の一夏が気づくはずもなく、シャルルだけならともかく彼に好意をもつ鈴とセシリアまでも勝手に誘っていたのだ。

箒ちゃんかわいそ~。

 

「ええと、本当に僕が同席してよかったのかな?」

 

箒の反応を見ていたシャルルがそんなことを言う。

 

「いやいや、男子同士仲良くしようぜ。・・・それより、手、大丈夫か?」

 

一夏は初めて見た時から思っていたことを聞いた。シャルルの左手の甲には包帯が巻かれていて時折、左手を庇うようなしぐさをしていたのだ。

 

「だ、大丈夫だよ。ちょ、ちょっと痛むだけだから」

「そうか、それならいいけど」

 

シャルルの慌てたような返事に、多少気にかかる一夏だがそれ以上言及しなかった。

 

 

「い、一夏! 弁当だ!」

 

箒は先手をうつため、二人より先に作った弁当を一夏に差し出した。

 

「はい一夏! アンタの分」

「一夏さん、よろしければおひとつどうぞ!」

 

鈴とセシリアも負けじと料理の入った容器を差し出す。鈴は酢豚の入ったタッパー、セシリアはBLTサンドイッチの入ったバスケットだ。

 

「お、おう。あとでもらうよ」

 

セシリアのバスケットを受け取った一夏の顔が引きつっており、箒と鈴は思わず声を出しそうになった。

 

「? どうかしまして?」

「いや! どうもしていない!」

((はっきり言えばいいのに・・・))

(もしかして・・・)

 

箒と鈴は心の中で思い、三人の反応を見たシャルルが気がついた。

 

イギリス代表候補生セシリア・オルコットは料理がダメなのだ。見た目は料理本に載ってそうなほど美しいが味がとにかく酷い、不味すぎるのだ。

どれほど酷いかと言えば食べたその日の夜、忍が慌てて吸血をした。一夏の分を摘み食(横取り)した忍野がその日1日、千冬をからかったりせず真面目に授業をうけたほどだ。

 

 

「これはすごいな! どれも手が込んでそうだ」

「そ、そうだろう」

 

箒のお弁当は唐揚げやゴマ和えなど日本人らしい、これぞ日本のお弁当っといったものになっている。

 

「じゃあまあ、いただきます」

 

一夏はまず唐揚げに箸をのばした。

 

「おお、うまい!」

 

衣がパリッとしていて味付けは冷めていることを計算している。こんにゃくとゴボウの唐辛子炒めは素朴ながらしっかりとした味わいがある。

 

「いやでも、本当にうまいな。」

「まあ、その・・・、おいしかったのならいい」ボソボソ

 

一夏のコメントに顔を真っ赤にした箒。返事がほとんど聞こえないが、一夏は気づかすそのままお弁当をたべている。

 

 

「次はあたしね!」

 

鈴の酢豚は色鮮やかで食欲をそそる香りが嗅覚を刺激する。

 

「うん、うまい。・・・って、鈴。なんでお前の酢豚は温かいんだ?」

「ご飯を買ってきたときに電子レンジで温めなおしたからよ」

 

なんで俺の分は温めてくれなかった、っと一夏は思った。しかし冷めていても美味しいからいいと考えてそのまま何も言わずに食べた。

 

 

「こほん。では、わたくしの手作りサンドイッチもどうぞ」

 

セシリアのBLTサンドイッチは、まるで料理本の中から取り出したかのように見た目は美しい。見た目は。

 

「うっ・・・。い、いただきます」

 

一夏はサンドイッチを手に取った。チラッと見ると笑顔のセシリア、そしてその後ろで敬礼をしてる箒と鈴が見えた。

 

『忍、これ大丈夫かな?』

『もし危なくなったら儂が吸血すればよかろう。そうすれば一命は取り留めれるはずじゃ』

『・・・腹を括るか』

 

忍に救命の約束をしてもらった一夏はサンドイッチを一口ほおばった。

 

「! ・・・!?」

 

サンドイッチを咀嚼するが、

 

『大丈夫か? お前様・・・』

『ぐあああっ! 甘い甘い甘い甘い、無茶苦茶甘い、甘過ぎる! いったい何を入れたんだよ!? 血糖値が一気に跳ね上がりそうなほど甘い! BLTサンドじゃないのかよ!?』

『・・・一応吸血をせんでも大丈夫そうじゃの』

 

内心転げ回っていた。

因みに“BLTサンド”とは一般的にベーコン、レタス、トマトを挟んだサンドイッチだ。BLTは頭文字からきている。

 

 

 

「どうかしら?」

「あ、ああ、いいんじゃないかな・・・。お、俺は嫌いじゃないよ」

 

セシリアに問われた一夏はハッキリと答えたかったが、女子の料理をまずいって言える勇気もなく比較的優しい言い方をしてしまった。

 

「そうですか! では、残りもどうぞ!」

 

セシリアは嬉しそうにバスケットごと一夏に薦めた。他三人は苦笑いをしている。

 

その後、一夏は“これはデザートだ”と自分に言い聞かせながらサンドイッチを完食。ブラックコーヒーを買いに走ったそうだ。

 

 

 

 

 

002

 

 

 

一夏が血糖値を上げていたころ、中庭で寝っ転がって本を読んでいる忍野がいた。

傍らにはブロック栄養食の箱が転がっている。

 

すると忍野の近いていく人物がいた。

更識楯無だ。

 

「忍野くん、お姉さんとおしゃべりしない?」

「どうかしたんですか? 会長さん」

「もう少しリアクションしてくれないとつまらないわね」

 

そう言うと楯無は忍野の隣に座った。

 

「もしかして、デュノア“さん”のことかな?」

「・・・やっぱり気づいてたのね」

「骨格や動作はどう見ても“女の子”だからねぇ」

 

ま、一夏は気づいてないみたいだけどね。と忍野は言う。

それには楯無も同意した。遠目に見ても一夏が気づいてるようには見えなかったからである。

 

「狙いはあなたたち二人・・・」

「男性操縦士の生体データとその専用機」

「クラス対抗戦以降、専用機の情報開示を求める声が各国からあるのよ」

「やっぱGNドライブ目当てか、何処も彼処も意地汚いねぇ」

 

楯無の言うように二人の専用機について、各国から情報開示を迫られてるのは事実だ。一夏と忍野に個人宛で要望書が届き、酷い物では恫喝紛いの命令書だ。

しかし二人の機体についての説明を聞いた学園長は各国からの要望と言う名の命令を一切拒否、学園への干渉を許さない国際規約を盾に応戦してる。

 

「それで? 会長さんはあの子を学園を害する者として排除するのかい?」

「まだわからないわ、情報が少ないもの」

 

シャルル・デュノアは性別を偽っているだけで現時点では学園を害する存在ではない。データを盗みに来たという保証もない。

 

「それならいいさ、こっちも気になることがあるし。会長さんと敵対する結果にはしたくないからねぇ」

「あら、あの子を助けるの?」

「俺は人助けなんてしない、力を貸すだけ。人は一人で勝手に助かるだけだよ?」

「・・・ひねくれ者ね」

「それは君もだろ? 妹ちゃんと仲直りする方法は見つかったのかな?」

 

忍野の指摘に楯無は俯いた。

 

「・・・お姉さんをイジメて楽しい?」

「楽しんでるつもりはないし、君が歩み寄るだけで解決できそうなものだけどね」

「・・・簪ちゃん、楽しそうね。私の知らない間に、何かの病気を治して、いろんな友達に囲まれて、専用機作って・・・。私は簪ちゃんに嫌われてるから・・・歩み寄れないのよ」

 

それだけ言うと楯無は校舎へと戻っていった。

 

残された忍野は呆れ半分な顔でその姿を見送った。

 

 

 

 

 




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かんざしファイト

 

001

 

 

「じゃあ、改めてよろしくな」

「うん。よろしく、一夏」

 

夕食後、一夏とシャルルは部屋に戻ってきた。食堂では二人目の男子転校生という事で相変わらずの女子達の質問攻めにあい、延々と続きそうなそれを適度な頃合いで切り上げてきたのだ。

 

今は食後の休憩をかねて部屋でシャルルと日本茶を飲んでいる。

 

「紅茶とはずいぶんと違うんだね。不思議な感じ。でもおいしいよ」

「気に入ってもらえたようで何よりだ。今度機会があったら抹茶でもどうだ」

 

ちなみにセシリアは日本茶が苦手らしくほとんど飲まない。どうも色が引っかかっているんだそうだ。まあ、緑色の飲み物は外国では見ないから。

 

「抹茶ってあの畳の上で飲むやつだよね? 特別な技能がいるって聞いたことがあるけ ど、一夏はいれれるの?」

「抹茶は『たてる』って言うんだよ。俺は略式しか飲んだことがないな。今は駅前に抹茶カフェっていうのがあるんだよ。コー ヒーみたいな感覚で飲めるのがあるぞ」

「ふうん。そうなんだ。じゃあ今度誘って よ。一度飲んでみたかったんだ」

「ああ、それから案内もいるか?まあ、あたりに詳しい人も知っているから一緒に行動すると楽しいぞ。シャルルはそれでいいか?」

「本当?嬉しいなあ。ありがとう、一夏」

 

柔らかな笑みを浮かべるシャルルに、一夏は全体的に違和感を感じたが中性的な印象がそうさせているのだと思って心の中にしまった。

 

「まあ、出かけるなら人数が多い方が楽し いし。シャルルならすぐに友達になれるかもな」

「ふふっ、ありがとう」

 

一夏とシャルルはそのまま一時間くらい話してから就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~???サイド~

 

「痛ッ!」

 

今日もまたこの出来物を潰した。

同居人が寝たのを確認してからシャワー室にこもって、持っていたハサミの刃を突き刺した。

傷口から血が出て、その痛みに泣いた。

 

「痛い、痛いよ・・・、お母さん」

 

毎日毎晩何度潰してもこの出来物は消えない。それどころか伝わってくる痛みがより強くなってくる。

いったい何なのだろう、この“目”のような出来物は・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

002

 

 

 

日付変わって数日後

 

忍野は簪の専用機の武装が完成したのでその試験のために簪たちと第三アリーナに来ている。

 

『準備、できた』

「いつでもOKじゃよ」

 

簪は上空で打鉄弐式を展開しており本音と真宵はデータ収集のためにタブレット端末などを持って待機している。

 

「それじゃ、試験開始!」

 

忍野の合図で専用の武器を装備した状態の打鉄弐式の能力試験が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一通りの武器の試験が終了し、後は実戦での稼動試験を残すのみとなった。

今はエネルギー補給とデータチェックのため休憩中である。

 

「それで、武装の技術的問題は?」

「まったくの問題ないにゃ」

「“春雷”も“山嵐”も正常だよ~。武器としては十分~」

「あとは簪さんの戦い方に合うかどうかなんじゃよ」

 

それぞれ収集したデータを見ながら準備に入った。

打鉄弐式の武装は速射荷電粒子砲『春雷』と高性能誘導ミサイルポット『山嵐』、そして近接武器に超振動薙刀『夢現』を装備してる。

どれも先の試験では問題なく稼動した。しかし実戦となればどうなるかわからない。荷電粒子砲の連射速度やミサイルの発射時間、それが実戦の中で使用したとき機体制御や攻撃の支障になるか確認しなければならなかった。

本当は訓練用のターゲットドローンを使用しても良かったが、簪のたっての希望により忍野との模擬戦をすることになった。

 

三人が簪の方を見ると水分補給をしながら試験データの見直しをしていた。

 

 

 

 

003

 

 

 

「準備できたんじゃよ!」

「かんちゃ~ん! 頑張って~!」

 

簪は二人の声援を受けながら模擬戦開始位置についた。互いに火器を模擬戦出力に変更して簪はミサイルから炸薬を抜いてある。

忍野もアルケーを展開して開始位置についたが、いつものように凶暴化、簪と真宵が若干引いていた。

 

「おっパじめんぞ! 先手はくれてやらァ!」

「行くよ・・・、打鉄弐式!」

 

簪は背中に装備されている荷電粒子砲の砲口を脇の下をくぐらせて正面に向けた。

左右計二門の砲口からエネルギー弾が発射されアルケーを襲う。

 

「オラオラオラァ!」

 

忍野は簪の攻撃をシールドで防ぎながらバスターソードをライフルモードにして簪を攻撃する。

簪もちゃんと回避をして応戦する。

 

「ンじゃあァ次だァ! 行けよォファング!」

 

両腰のスカートアマーが開き、8機のファングが展開した。

 

ファングは簪を取り囲んで射撃を始めた。

簪はその攻撃を冷静に回避し、ファングの位置とアルケーの位置を確認して次の武装を起動させた。

すると肩部ウィング・スラスターの発射管が開き八連装ミサイルが六ヶ所、計48発が顔を出した。

 

「マルチロックオンシステム起動、当たって、山嵐!」

 

すさまじい音を立てて、ミサイルが一斉に発射された。

発射されたミサイルは各ファングに三発ずつ飛んで行き、残りはアルケーを狙って飛んだ。

 

「当たれェ!」

 

忍野はファングとライフルで迎撃をしようとしたが命中率が低い、ミサイルが攻撃を“避けて”飛んで来るのだ。

 

打鉄弐式に搭載された火器システム『マルチロックオンシステム』

多数の目標にミサイルで同時攻撃するための物だったが真宵と忍野によって魔改造され、ある程度目標からの迎撃を回避することができるようになったのだ。

 

 

「チッ! ファングがァ!」

 

忍野が自分の所に飛んで来るミサイルに気をとられてる間に展開していたファングが破壊判定がされていた。

 

「ッ! ぐああァ!」

 

地に落ちたファングを見ていたアルケーにエネルギー弾が多数命中した。見るとミサイルから逃げるアルケーを追うように打鉄弐式が飛んでおり、忍野が一瞬よそ見をした隙を簪は見逃さず、春雷を撃ってきたのだ。

 

忍野はすぐに姿勢を戻し反撃に移ろうとしたが後ろからミサイルが接近していたので再び逃げ始めた。

 

「ファング!」

 

ミサイルと荷電粒子砲から逃げながら残っていたファングを射出した忍野、狙いは簪である。

 

「! このっ!」

 

接近してくる二機のファングに、簪は夢現で迎え打った。

薙刀でファングを弾き、破壊しようとしたが大きさが小さいので苦戦し、

 

「あっ!」

 

片方を破壊判定にした瞬間、もう一つのファングの攻撃が当たり春雷が破壊判定にされてしまった。

 

「やぁぁっ!」

 

すぐにファングを破壊判定にしたが簪は内心かなり困った。

 

(春雷が破壊された・・・。忍野くんの機体に春雷なしでの接近戦は不利になるから、ミサイル攻撃しかない)

 

簪はいまだにミサイルから逃げてる忍野の方を向き、迎撃された分のミサイルを忍野の正面に向けて射した。

 

「ッ! しまったァ!」

 

簪の再射したミサイルは忍野の回避ルートを塞ぐように広がっていた。後方からミサイル、前方からもミサイル。

逃げ場のない攻撃が忍野を取り囲んだ。

 

(回避ルートなし、勝った!)

 

簪は勝利を確信したが、

 

「なァんてなァ!」

「!?」

 

忍野は機体をコマのように回転させながら右手のバスターソードと両脚のビームサーベルでミサイルを切り刻んで迎撃した。そして簪目掛けて突撃してきた。

 

「や、山嵐!」

 

簪は接近してくるアルケーにミサイルで対処しようとしたが避けられ、シールドで防がれ当たらない。

 

あっという間に剣の間わいに近づかれてしまい忍野はバスターソードを振り上げた。

簪は諦めずに振り下ろされる大剣を夢現で防ごうとしたが武器の質量差に負けて弾かれてしまい、

 

「これでお陀仏だァ」

 

横一閃に斬られ撃破判定にされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

004

 

 

 

「大丈夫だった?」

「うん、ありがとう・・・」

 

ISを解除して簪に駆け寄り手を伸ばす忍野。簪は少し紅くなりながらその手をとり立ち上がった。

 

「もー、忍野さん。女の子に対してあんまりなんじゃよ!」

「おっし~の、イジメっ子~」

「酷くないか!?」

 

遅れてやってきた真宵と本音に非難される忍野。

確かにイジメっ子ぽかったね。

 

 

「それで、実戦で使ってみてどうだった?」

「いくつか、変更したいところがある。それと、微調整も、何ヶ所か・・・」

 

休憩後、データチェックをしてから三人で簪から変更部分と調整箇所を書き出し、今後の作業予定を組む。

 

そんな感じて作業をしていると真宵が、

 

「あれ? 誰か来るにゃ」

 

と言う。みんなで振り返って見るとこちらへ近づいくる小さい人影。

 

「忍野仁、貴様も専用機を持っているのだろ? 果たし合いを所望する」

 

やってきたのは何だかハツラツとした顔をしたラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

 

なんで果たし合い?

 

 

 

 




ただの模擬戦で装備を壊されたら製造元が困ると思ったので、勝手な模擬戦設定を追加しました。

・武器の火力を下げて使用、実弾は炸薬を抜いて使用する。

・攻撃を受けた場合、武器本来のダメージ分のSEが“センサー上”減少する。(つまり実際にはそんなにSEは減っていない)

・模擬戦中の武器のダメージ量はカタログスペックを参考にする。

・攻撃があたった所が『破壊判定』となり装備に制限がかかる。(武器なら使用不可、スラスターなら速力低下など)




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ラウラコンタクト

 

001

 

 

「忍野仁、貴様も専用機を持っているのだろ?  果たし合いを所望する」

 

腕を組み、仁王立ちで言ってくるラウラ。

 

 

忍野は簪たちと一旦顔を合わせてアイコンタクトで相談。とりあえず話を聞くことになった。

 

「何で俺と果たし合いしろなんて頼むんだ?」

 

忍野がどうしようかと考えながら質問すると、

 

「織斑一夏が『忍野なら対戦してくれるよ』と言ってたからだ」

 

背後にドーンっと擬音がつきそうなほど堂々と言うラウラ。

 

 

 

 

 

002

 

 

 

ここからラウラの話を聞いた忍野たちの想像による回想

 

第二アリーナ

 

 

「命中率100%・・・すごいね一夏」

「止まってる相手なら、な」

 

そういいながらGNスナパーライフルを下ろす一夏。

 

現在一夏はシャルルと訓練用ターゲットドローンを使って狙撃の練習をしている。

ケルディムの本来の戦闘スタイルは狙撃戦なのだが一夏は狙撃が苦手だ。止まってる物は百発百中だが動いていると命中率が一気に下がるのだ。一夏の動体目標への狙撃命中率は58%、10発撃ったら半分近くはずす計算になる。

同じく狙撃機を持つセシリアに一度教えてもらったのだがわからなかったのだ。

 

「一夏は焦り過ぎなんだよ。静止目標は全弾命中なんだから」

「焦り過ぎか、頭でわかってるんだけどな」

「あはは・・・」

 

そんな風に練習をしていると、

 

「ねえ、ちょっとアレ・・・」

「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど・・・」

 

急にアリーナ内がざわつきはじめだした。一夏とシャルルも何事かと注目の的に視線を移した。

 

「・・・・・・」

 

そこにISを展開していたのはもう一人の転入生、ドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒだった。転校初日以来、クラスの誰ともつるもうとしないどころか会話さえしない孤高の女子だ。

 

「おい」

 

ISのオープン・チャネルで声が飛んでくる。初対面があれだったのだから、その声は忘れもしない。ラウラ本人の声だ。

 

「何か用か?」

 

気が進まないが無視してまた切腹しようとされても困るから要件を聞く。言葉を続けながらラウラがふわりと飛翔してきた。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。果たし合いを所望する」

「断る。何で果たし合いなんだ?」

「日本では対戦の事を『果たし合い』と言うと聞いた」

 

「「・・・・・・」」

 

一夏とシャルルは思わず頭を抱えそうになった。

決闘と果たし合いは同意だが果たし合いだと相手の命まで取るものように聞こえるから不思議だ。

 

《どうする?》

《狐の小僧に押しつければ良かろう》

《おぉ、その手があった!》

 

一夏は忍の意見を採用することにした。

 

 

「ん~、俺としてもボーデヴィッヒさんと果たし合いをしたいけど、今シャルルに指導してもらってるからな~。あ~、そうだ。今第三アリーナに忍野が居るはずだ。あいつも専用機持ってるから忍野にお願いしてみてくれないかな~? 忍野なら対戦してくれるよ~」

 

なんともいい加減な言い方である。

 

「い、一夏! いくらなんでもバレバレだよ!?」ボソボソ

「え、嘘!?」ボソボソ

《お前様はバカか?》

 

シャルルや聞いていた周りの生徒も一夏が忍野にラウラを押しつけているのがわかった。

だが、

 

「指導中だったのか、手間をとらせてすまない。では忍野仁に果たし合いを所望するとしよう」

 

((((え、信じちゃった!?))))

 

 

ラウラは地上に降り、ISを解除してから第三アリーナの方へと走っていった。

 

 

 

 

 

以上、回想終了

 

 

003

 

 

(あの野郎、こっちに押しつけやがったな)

 

忍野は心の中で一夏に苛立ちながらラウラを見た。

勝負の承諾をしてもらえる時を今か今かと、心待ちしているようでずっと忍野の方を向いている。

 

「ごめんよ、俺も君とは勝負したいけど今は無理なんだ」

 

これぞ絶望といった顔して明らかに落ち込むラウラ。この姿を見た全員が垂れた犬耳の幻覚を見て、そして忍野を非難する目を向ける。

 

向けられてる本人はというと、

 

(なんでそんなに落ち込むの!? え、これ俺が悪い!? てか簪たちもかよ!?)

 

パニクっていた。

さすがに目の前で落ち込む女の子、そして友達のはずの簪たちからまで非難の視線を向けられたらいつものふざけた様子がなくなってる。

 

「そ、そうだ! 今度のタッグトーナメントで勝負してあげるから落ち込まないで! ほら、アメあげるから!」

 

ポケットからアメ玉を取り出してラウラに見せる忍野。

 

((((子供じゃないんだから・・・))))

 

アメで釣ろうとする忍野に呆れる他生徒たち。

 

「アメだと! くれるのか!?」

「あ、あぁ」

((((子供だった!!))))

 

アメと聞いて元気になったラウラを見て驚く忍野と他の生徒。

 

ラウラは貰ったアメ玉を口に放り込んでから忍野に指差し、

 

「ほれへは、はっくほーなへんとほはほひみにひへいるほ」

※ それでは、タッグトーナメントを楽しみにしているぞ

 

そういって帰っていった。

ちょっとそこの生徒たち、なんでそんなに慈愛に満ちた顔で見送ってるんだい?

 

「どうするにゃ? 忍野さん」

「どうもしないよ、なるようになれ」

「大変そう・・・」

「そう思うなら早く完成させるぞ」

 

再び作業に戻る簪と真宵と忍野。そこへ、

 

「おっし~の、私にもアメちょうだい~」

 

両手をだしてアメをせがむ本音だが・・・、

 

「悪い、あれ最後の一個」

 

 

 

今度はのほほんさんが落ち込む番であった。

 




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シャルルアイ 其ノ壱

 

001

 

 

練習を終えて部屋に戻ってきた一夏とシャルル。

だが、部屋の前に人影があった。そこに居たのは箒とセシリアだ。二人は一夏たちに気がつくと駆け寄って来て、

 

「「一夏(さん)、一緒に夕食などいかがですか?(に行くぞ!)」」

 

一夏を夕食に誘ってきた。

 

「ちょっと箒さん! わたくしが先に一夏さんをお誘いしたんですよ!?」

「いいや! 私が先に一夏を誘ったんだ!」

 

本人そっちのけで言い争いを始める二人。一夏もシャルルも止めようかどうしようか悩んでる。

 

「さあ一夏さん、参りましょう」

 

そう言うとセシリアは先手をとり一夏の腕を取る。それを見た箒は、

 

「なっ、何をやっている!?」

「今から夕食に行くんですのよ?」

「それと腕を組むのとどう関係がある!?」

「あら、殿方がレディをエスコートするのは当然のことです」

「な、ならば!」

 

反対の腕を取る。セシリアはそれをジト目で見る。

 

「・・・箒さん、何をしてらっしゃるのかしら?」

「男がレディをエスコートするのが当然なのだろう?」

 

二人に両腕をとられた一夏。

困った一夏はシャルルも誘うが、

 

「そ、そうだ! シャルルも一緒に!」

「僕、食欲ないから先に部屋に戻ってるね」

 

残念ながらシャルルは夕食に行かないらしい。それを聞いた二人は一夏を連れ食堂へ向かう。

 

「行くぞ一夏!」

「行きますわよ一夏さん!」

「え、ちょっと」

 

箒とセシリアに連れてかれる一夏。

両手に花だね、リア充爆発しな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏が戻ってくる前に潰しとこ・・・」

 

そんな一夏を見送ってから、シャルルは部屋に入った。

 

 

 

002

 

 

食事を終えて部屋に戻る一夏。

 

「それにしてもなんで鈴は怒ってたんだ?」

『それを儂に聞くのか?』

 

あの後二人と腕を組んだまま食堂に行った一夏だが、到着直後、先に食堂にいた鈴にものすごく怒られたのだ。それに対して箒とセシリアは満足げな態度でいたが、鈴が明日の夕食を誘うと慌てて止めに入ってきた。

 

一夏はそんな三人を置いて食事を済ましたのだ。

最低だね。

 

「夕食くらいみんなで食べればいいのに」

『もう儂は何も言わんぞ』

「? 何か知ってるのか忍?」

『知っておるが我が主様には言うだけ無駄じゃ』

「・・・なんか酷くない?」

 

そんな感じで部屋の前に戻ってきた一夏。その手にはサンドイッチの入った袋を持っている。

シャルルは食欲がないと言っていたが何も食べないのは身体に悪いと思って買ってきたのだ。

 

 

「シャルル、サンドイッチ持ってきた・・・けど、」

「い、一夏!?」

 

自分たちの部屋だからとノックもせず扉を開ける一夏。

だが目の前の光景を見て、サンドイッチを勧める言葉を発することが出来なくなった。

 

 

部屋のキッチンで右手に血の付いたはさみを持っているシャルル。だがそんなことよりも目を引いたのは包帯の解かれた左手。

その左手の甲には血を流している“目”があっのだ。

 

「え、えっと、あの、

「見せてみろ!!」

 

シャルルは何か言い訳をしようとしたが一夏はそれが怪異だと気づき、確認をしようと手を伸ばした。

自分の手にいる怪異をはさみで潰そうとしている姿は、“専門家”ではない一夏から見ても異様に映ったのだ。

だが、

 

「痛ッ!」

「!?」

 

一夏が左腕に触れるとシャルルは痛がった。腕を掴んだわけでもない、“目“に触れてもいない、本当に触れただけなのに傷口を触られたかのような反応をする。“目”は手の甲だけじゃ・・・。

一夏は悪い予感がした。

 

「もしかして・・・」

「・・・・・・」

 

シャルルは何も答えなかった。

一夏はシャルルの服の袖をゆっくりとまくった。そこには左腕全体におびただしい数の“目”が広がっていた。

 

「目? 何の怪異だ?」

「怪異?」

「・・・俺もとりたてて詳しいわけじゃないんだ。そういう経験をすることがあって、そういうのに詳しい奴がいるから・・・理解はできる」

 

確かに一夏は驚きはしたがそれだけ、わからないけど理解はできない訳ではない。

 

「そうなんだ・・・これ“怪異”って言うんだ」

 

俯いてしまったシャルル。しかし、それでもはっきりと、言った。

 

「僕、こんなの腕、嫌だ」

「・・・シャルル」

「嫌だよ・・・助けてよ、一夏」

 

シャルルは涙混じりの声で、そう言った。

 




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シャルルアイ 其ノ弐

 

003

 

 

~一夏サイド~

 

 

「よぉ一夏、遅かったな。待ちくたびれたぞ」

 

あの後シャルルを落ち着かせた俺と忍は忍野の部屋を訪ねたが、開口一番にそんなこと言われた。

いろいろ言いたかったけどとりあえずシャルルの出来物のことを話した。

 

 

 

 

 

 

 

「“百々目鬼”」

 

「とどめき?」

「なんじゃそれは?」

 

忍野の口にした名前を俺と忍は聞き返した。

 

「憑きものの類さ。“目”のような出来物で潰しても消えないならまず間違いない」

「その百々目鬼ってどういう怪異なんだ?」

 

俺が話を促すと忍野はため息をはいてから話し始めた。

 

「百々目鬼は、鳥山石燕作の『今昔画図続百鬼』に記されてる妖怪なんだ。

 

「解説文を要約すると『盗癖のある女性の腕に、盗んだ鳥目の精が鳥の目となって無数に現れたのでこれを百々目鬼と呼んだ』との意味だ。要は、盗人が憑かれて妖怪化したんだ。『鳥目』っていうのは昔のお金の異名で、銅銭は中央の穴が鳥の目を髣髴させるためにそう呼ばれてたんだ」

 

忍野はそう言ったが信じられなかった。

盗人? シャルルが?

 

「『百目鬼』『百目貫』『百目木』などと書いて『どどめき』『どうめき』と読む地名が日本各地にあることから、百々目鬼はこの銅銭と地名から石燕が連想した創作妖怪と解釈されているんだけどそうでもないんだ」

「それはいったいどういうことじゃ」

 

忍が質問した。創作された妖怪じゃないならいったいなんなんだ?

 

「『百目鬼伝説』って言うのがあって平安時代中期、百の目を持つ鬼がいたんだ。その鬼は他の伝説同様、悪役らしく、鬼退治に来た人の弓で最も力のあった急所の目を貫かれてしまったんだ。鬼は山に逃げてそして動けなくなったんだけど体から炎を噴き、裂けた口から毒気を吐いて苦しんだため、退治人も手がつけられなくなってその日は帰ったんだ。

 

「翌朝、退治人が鬼の倒れていた場所に行ったが、黒こげた地面が残るばかりで鬼の姿は消えていたから死んだものと思われた。これで鬼退治伝説は終わったとされた。

 

「それから400年の時が経って、室町幕府の時代、寺の住職が怪我をして寺が燃やされる事件が続いた。そこで智徳上人という徳深い僧が問題の寺の住職となると、その説教に必ず姿を見せる歳若い娘がいた。

 

実はこの娘こそ400年前に退治されたと思われた鬼の仮の姿で、娘の姿に身を変えては寺の付近を訪れて、邪気を取り戻そうとしていたんだ。寺の住職は邪魔であったため襲って怪我を負わせたり、寺に火をつけては追い出していたという。

 

「智徳上人はそれを見破り、鬼は終に正体を現した。鬼は智徳上人の度重なる説教に心を改め、二度と悪さをしないと上人に誓ったのであったとさ。おしまい」

 

鬼の伝説を話し終わった忍野、でも何が言いたいのかわからない。

 

「その伝説とどう関係あるんだ?」

 

忍野は首を傾げながら再び話し始めた。

 

「俺はこの『百目鬼伝説』の鬼が盗みをする人に憑いて百々目鬼にしてしまうんだと思ってるんだ。盗人を懲らしめるために妖怪にする、神ならざる鬼がやってるとしたらその不可解さも説明できるからね。あくまでも私見だけどね」

「不可解さ?」

「言い方は悪いけどたかが盗み程度で怪異化するのは罪としては重すぎるからだ。神はいい加減だけどその辺のバランスは守っているよ」

 

バランス、か・・・。

 

「それで、どうすれば退治することができる?」

 

そう聞くと忍野はため息をはきながら俯いた。

なんでそんな呆れたみたいなリアクションするんだよ!?

 

「やれやれ、ずいぶんと乱暴だな。なんかいいことでもあったか?」

 

顔を上げた忍野は心底どうでもいいみたいな顔をしながら教えてくれた。

 

 

 

「はっきり言おう。百々目鬼は退治するまでもない怪異だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

004

 

 

「あ、おかえり、一夏」

「ただいま」

 

部屋に戻ってきた一夏は気分が重かった。今から“お前は盗人なのか?”と聞くようなことを言わなければならないのだから。

だけど意を決して言うことにした。

 

「それは、その“目”は“百々目鬼”っていう怪異なんだ。盗みをする人に、憑くらしい」

「盗みを・・・」

「シャルル、この怪異を退治する方法は“盗人がその罪を告白する”ことなんだ。だから、話してくれないか?」

「・・・・・・」

 

忍野曰わく、“罪を告白することで消えるもんだからわざわざ退治なんて乱暴なことする必要がない”らしい。

 

 

 

 

 

 

「・・・一夏、少しだけ後ろを向いてて」

「・・・わかった」

 

シャルルに言われて後ろを向く一夏。

衣擦れの音だけが部屋の中に響き、少しの時間が流れた。

 

「もういいよ」

 

もういいと言われたので向き直った一夏は言葉を失った。先ほどと服装は変わっていないが、目の前にいるシャルルには男にはないばずの胸の膨らみがあった。それはまるで“女の子”のような・・・。

 

 

「僕の本当の名前は、シャルロット・デュノア。見ての通り女なんだ」




毎度のように裸を見れると思うなよ一夏。

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シャルルアイ 其ノ参

 

005

 

 

「僕の本当の名前は、シャルロット・デュノア。見ての通り女なんだ」

 

 

「・・・なんで、男のフリなんかしたんだ?」

「それは・・・・・実家の方からそうしろって・・・」

「実家って?」

「僕の父がデュノア社の社長で、その人からの直接の命令なんだよ」

 

デュノア社はISの世界シェア第三位の企業で、学園で使ってる訓練機『リヴァイブ』もこの会社のISだ。一夏にはそんな会社がこんな事をする訳がわからなかった。

 

 

「僕はね、一夏。愛人の子なんだよ」

「っ!?」

 

シャルル・・・改めて、シャルロットは淡々と語り始めた。

 

「引き取られたのが2年前。ちょうどお母さんが亡くなった時にね、父の部下がやってきたの。それで色々と検査をする過程で IS適応が高いことがわかって、非公式ではあったけどデュノア社のテストパイロットをやることになってね」

 

シャルロットは言いたくなかっただろう話を健気に話してくれた。 一夏もそれに応えるように黙って、 話を聞いていた。

 

「父に会ったのは2回くらい。会話は数回かな。普段は別邸で生活しているんだけど、1度だけ本邸に呼ばれてね。あの時は酷かったなぁ。本妻の人に殴られたよ。『泥棒猫が!』ってね。参るよね。母さんもちょっとくらい教えてくれてたら、戸惑わなかったのにね。

 

「それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ったの。

 

「原因は第三世代型の開発の遅れ。今は第三世代開発期。第二世代のリヴァイブの製造で天狗になってたデュノア社はその開発競争に乗り遅れた。

 

「そんな時“二人の男性操縦士”と“他国の第三世代と同じ技術を持つ謎の機体”が報道されたの。

 

「一夏と忍野くんの機体は現在発表されてる各国の第三世代と比較しても圧倒的能力があった。そしてイギリスが開発中の装備も持ってた。もしそのデータが手に入れば状況の打開ができると思ったみたい。

 

「僕がなぜ男装していたかというと一夏や忍野くんの専用機のデータを奪取、可能であれば二人の殺害が目的だったんだ」

 

もっとも、忍野くんには避けられてたみたいだけどね。シャルロットは乾いた笑みを浮かべながら言った。

実際、シャルロットは一夏がいる時以外には忍野を見かけたことすらないのだ。一夏に用がある時のついで程度にしか話したこともない。

 

黙って話を聞いていた一夏だが殺害命令を出されてたことに流石に口を開いた。

 

「なんで俺たちの殺害を?」

「本妻である社長夫人が女尊男卑主義でISを使える男が許せなかったみたい。最初は日本に行って二人を殺してこいって命令してきたから。その後社長からIS学園に転入して専用機のデータ奪取、可能であれば二人の殺害に命令が変更されたんだ」

「・・・よく変更されたな」

「社長である父が夫人に意見したみたい、『専用機のデータがあれば経営回復できる』って。夫人は男を見下しているけどお金になる話に関しては誰の話でも聞くんだ」

「・・・・・・」

 

一通り話し終わったらしくシャルロットは黙ってしまい。一夏も黙ってしまったがある変化に気づいた。

 

「シャル・・・ロット、それ」

「ん? あ、」

 

見るとシャルロットの左手に広がっていた“目”が次々と消えていった。一つ一つ、まるで霞のように消えていき、数分後には完全に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

006

 

 

 

シャルロットは百々目鬼の消えた左手を胸に抱くようにしながら涙をうかべている。

 

「これからどうするんだ?」

 

一夏はシャルロットに質問した。女であることや目的を明かした以上、命令の遂行は不可能だ。

 

「どうって・・・時間の問題じゃないかな。フランス政府もことの真相を知ったら黙っていないだろうし、僕は代表候補生をおろされて、よくて投獄されるんじゃないかな」

「それでいいのか?」

「良いも悪いもないよ。僕には選ぶ権利がないから、仕方がないよ」

 

シャルロットは笑みを向けるがその顔はすべてを諦めている、そんな顔だった。

 

そんな顔を見た一夏は、この学園の特記事項を思い出した。

 

「・・・だったら、ここにいろ」

「え?」

「『IS学園特記事項第21、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』つまり、この学園にいれば、すくなくとも三年間は大丈夫だろ? その間に何か、シャルロットが自由になれる方法を探せはいい!」

 

シャルロットは最初、一夏が何を言ってるのかわからなかった。だけどすぐに自分を助けてくれようとしていることに気づいた。

 

「・・・ここにいていいの? 一夏を殺そうとしてたんだよ?」

「それはシャルロットの意識じゃないんだ、だからここにいていいんだ」

 

シャルロットはしばらく黙っていたけれど一夏にお礼を言った。

その時、シャルロットが浮かべた笑みは、

 

「ありがとう、一夏」

 

先ほどの諦めた顔ではない、十代の女の子らしい、屈託が無いとても柔らかい笑みだった。

 

 

 

 

 

007

 

 

「へぇ~、それが事の顛末か」

「ああ、シャルロットは学園に残るらしい」

 

夜、シャルロットが寝てから一夏は忍野に今回の事をしにきた。

 

「いいお父さんを持ってるじゃないか」

「どこがだ? 政府までグルなんだぞ」

「はぁ~、わからないならいいよ」

「?」

 

一夏は忍野が何のことを言ってるのかわからなかった。しかし忍野は語ろうとせず、はぐらかすようにする。

 

「でも一夏にしては上出来だ。学園の規則を利用してあの子の身の安全の確保。てっきりそこまで俺に聞いてくると思っていたぜ」

「忍野。もしかしてお前は気づいてたのか? “シャルル”が本当は女の子だったことに」

「さぁ、どうだろうねぇ」

 

相変わらず何を考えているのかわからない、含みのある笑い方をしている忍野。

 

 

時計を見ると日付が変わろうとしていたので一夏は部屋をあとにしようとした。その時ふと思い出したことを言った。

 

「それにしても忍野。百々目鬼って盗人だけじゃなくて“盗みをしようとしてる人”にも憑くんだな」

「そんなはずないよ? あれは盗人限定だ、未遂は含まれないぞ?」

 

「でもシャルロットの話を聞いてたけど何かを盗んだって話は無かったぞ」

 

「ちょっと待て。何も盗んでいない? 間違いないのか?」

「ん? ああ、そうだ。実際“目”も消えたから間違いないだろう?」

 

 

「・・・そうだった、忘れてたよ。いや~ごめんごめん。俺のミスだ。悪いね、引き止めちゃって」

 

忍野は頭を掻きながら謝り、一夏はそれを笑う。

 

「うっかりしてるなぁ。ま、いいか、解決したし。それじゃあ、また明日」

「おやすみ一夏」

 

そうして一夏は部屋に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「盗んでいないのに憑かれたってことは・・・」

 

一夏の去った部屋で何かを考えている忍野。その時の忍野はいつものふざけた様子はなく、

 

「調べてみる必要がありそうだな」

 

真剣な顔していた。




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逃走中?

 

001

 

 

「そ、それは本当ですの!?」

「う、ウソついてないでしょうね!?」

 

次の日、教室に向かっていた一夏とシャルルは廊下まで聞こえる声に首を傾げた。

 

「朝からなに騒いでるんだろう」

「さあ?」

 

因みにシャルロットはしばらくの間“シャルル”として学園に通うらしい。

 

「本当だってば! この噂、学園中で持ちきりなのよ? 月末の学園別トーナメントで優勝したら織斑君たちの誰かと交際でき・・・

 

「俺がなんだよ?」

 

「「「きゃあああっ!?」」」

 

一夏は教室に入って普通に声をかけたのだが、返ってきたのは取り乱した悲鳴だった。

 

「俺の名前が聞こえたが、何の話だ?」

「う、うん? そうだっけ?」

「さ、さあ、どうだったかしら?」

 

鈴とセシリアは愛想笑いをしながら、誤魔化す。

 

「じゃ、じゃああたし自分のクラスに戻るから!」

「そ、そうですわね!わたくしも自分の席につきませんと!」

 

二人が一夏の元から離れるのを期に、他の女子たちも離れていく。

 

忍野は面倒くさそうな顔してその様子を見ていた。

 

 

 

 

 

002

 

 

 

放課後、一夏とシャルルはアリーナへの廊下を歩いてる時

 

「ちょっと待ってくれるかな?」

 

誰かに呼び止められた。

声の主は忍野。しかし二人は辺りを見回したけど忍野の姿は何処にもない。

 

「こっちだよ」

「「わッ!!」」

 

やっと姿を見せたと思ったらなんと忍野は窓から現れたのだ。ちなみにここは二階、窓の外には足場はない。

落ちたら危ないよ~。

 

「なんでそんな所に居るんだよ!?」

「ちょっと訳ありかな? すくにお前も理解できるから」

「? 何のことだ?」

「何でもないよ。それよりデュノアさんに聞きたいことがあるんだ」

「え!? 僕に!?」

 

シャルルからしたら驚きしかない。今まで忍野が話かけてきたことは一度もなかったのだから動揺もしても仕方がない。

 

「そう気を張らなくてもいいよ。俺が聞きたいのは百々目鬼のことだ」

「ッ! なんでそのことを!?」

「だって一夏に解決法を教えたのは俺だぞ?」

「え、本当なの一夏!?」

「うん本当だぞ」

「あぁ~~」

 

シャルルは緊張したの馬鹿らしくなってしまった。

 

「それで、いつ頃から現れたんだい?」

「えっと・・・、日本に来る数日前、学園に入学の書類を提供した次の日だった」

「ならその日の前日、誰かと接触した?」

「殆ど軟禁状態だったから誰とも合ってないよ? ただ変なものは見たけど」

「変なもの?」

「うん。社長から届いた書類の中に一枚関係ないものが混じってたんだ。見たら異国の文字が円を描くように書かれてたんだ」

「異国の文字か・・・」

「それが百々目鬼と関係あるの?」

「さぁ、どうだろね」

 

はぐらかすようにする忍野。

一夏とシャルルは問い詰めようと思ったがそれは出来なかった。

 

 

003

 

 

突如、廊下に響き渡る轟音。その音の正体は三人のもとへと走ってくる女子生徒達の足音だった。

 

三人は逃げる間もなくあっという間に包囲されてしまった。そして全員が手にしてる紙を差し出してきた。

 

「「「「わたしと出場してください!!!」」」」

 

みんなが手にしてるのはタッグトーナメントのタッグ申込書である。

 

タッグトーナメントでは、生徒の実力がちゃんと発揮されるように、事前に出場するペアを申し込むことになっている。。なお、ペアが出来なかっ た者は抽選により選ぶことになるが発表されるのが、少し遅れるので連携プレーなどの練習期間が短くなってしまう。

 

 

さて、女子生徒達からの申し込まれた三人。

一夏は忍野が窓から登場した理由をなんとなく理解しつつ、

 

「わ、悪い! 俺はシャルルと組むから」

 

女子生徒達に戸惑いながらもそう答えた。

一夏が気にしたのはシャルルだ。もし自分か忍野以外の生徒と組んだらシャルルが女の子だとバレてしまう可能性があると考えたようだ。

優しいね~。

 

一夏がシャルルと組むと知り、落胆する女子生徒達。

だが一人の女子生徒があることに気がついた。

 

「あれ? ってことは忍野くんはフリー?」

 

その瞬間、その場に居た全員がまるで獲物に狙いを定めたかのように忍野を見た。

 

「・・・あ、用事思い出したから失礼するよ」

 

忍野はすぐさま窓から飛び下りた。

 

 

「「「「追えー! 逃がすなー!!」」」」

 

みんな飛び下りた忍野を追うために一階へと走っていった。再び轟音を響かせながら女子生徒の軍団は立ち去っていった。

 

一夏とシャルルが唖然としていると、

 

「やれやれ、騒々しいなぁ」

 

窓から這い上がってきた忍野。どうやら飛び下りた振りをして隠れてたようだ。

 

「で、誰とタッグを組むんだ?」

「ん? 特に決めてないよ。面倒くさいからねぇ~。それじゃ、あの子達に見つかる前に隠れるとしますかな」

 

そう言って忍野は立ち去ろうとするが、

 

「あ、あの、忍野くん」

「ん?」

 

誰かに呼び止められ、振り返るとそこには簪がいた。

どうやらさっきの集団について行けず、遅れてきたようだ。

今回はそれが吉とでたようだが。

 

「あれ? 簪、なんでここに?」

「あの、こ、これ!」

 

簪が差し出してきたのは先ほどの女子達と同じくタッグの申込書だ。

 

「い、一緒に、出場して」

「うん、いいよ?」

「「軽ッ!!」」

 

思わずツッコミを入れる一夏とシャルル。

 

「忍野!? なんでそんな簡単に決めるんだよ!?」

「そ、そうだよ! そんな簡単に決めるならさっきの子たちでも良かったんじゃないの!?」

 

「理由はあるさ。おっと、その前に紹介しよう。こちら、四組のクラス代表、更識簪さん」

「ど、ども」

「それで簪、こっちが三人目の男性操縦士(笑)、シャルル・デュノアさんと一組のクラス代表」

「何か余計なものがついてなかった!?」

「俺の紹介適当過ぎるだろ!?」

「え~と、それで簪と組む理由だけど」

「「スルーした!?」」

 

一夏とシャルルのツッコミを無視して説明をする忍野。

 

「理由は簪の専用機さ。公式戦での使用は初めてだから制作に協力した身としては気になるんだよ」

「へぇ~、そうなのか」

「うん、だから引き受けたのさ。本当は当日サボろうと思ってたんだけどねぇ~」

 

((絶対織斑先生(千冬姉)に怒られるって))

 

「んじゃ、他の子に見つかる前に受付を済ませるとするかな。行こ、簪」

「う、うん」

 

内心呆れてる二人をよそに、忍野は簪を連れて行ってしまった。

 

「俺たちも受付しに行くか?」

「そうだね、他の子たちが来る前に済ませよ」

 

 

 

 

 

 

このあと箒、セシリア、鈴が一夏にタッグの申込みをしてきたが、既に受付を済ませていたと知り落ち込んでいたと述べておこう。

 

 

 

 

 

 

004

 

 

 

 

何日か経過して、タッグトーナメント当日。

 

今回のイベントも各国からの来賓などで観客席は一杯だ。生徒達の間では、新聞部が元締めとなり観客席の販売と優勝ペアの賭が行われていたが、織斑先生に発覚して鎮圧された。

 

前回、忍野が侵入者をボコボコにしたためだろうか、今回は何もおきていない。どこの国も特殊部隊を素手で壊滅される奴を捕まえようとは思わないようだ。

 

 

 

試合開始まであと1時間。試合の組み合わせが発表された。

一夏とシャルルは後半の試合だが忍野と簪は、

 

 

トーナメント第1回戦 第1試合

忍野仁&更識簪  VS

ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ乃箒

 

 

 

いきなりの初っ端、一番手である。

 

 

発表された組み合わせを見た二人は、

 

(アメを貰ってたあの子?)

(面倒くさそうな試合になりそうだなぁ)

 

簪は先日の事を思い出し、忍野は試合の組み合わせに人為的悪意を感じていた。

 

 

 




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タッグトーナメント 其ノ壱

001

 

 

「いやぁ~、一番手になるとは思ってなかったよ」

 

それぞれの試合開始位置についた忍野たち。向こうに見えるのは訓練機の『打鉄』を纏った箒と、専用機を纏ったラウラがいる。

ラウラの専用機は漆黒で右の非固定装備についている大きなカノン砲らしき物が目立つ。だが観客席の生徒達が見ているのはラウラの頭のセンサーだ。その機体デザインとドヤ顔で“高圧的な軍人”に見えるがその頭にある、うさぎの耳にも見えるセンサーのせいで“これからお遊戯会をする子供”に見えてる。

観客席から慈愛の雰囲気が漂っている。

 

「一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたというものだ」

「そんなに楽しみにしてたのかい?」

 

ちなみに試合開始までまだ時間があるため、忍野はアルケーの頭部を部分解除している。その横で簪は緊張しているのか青ざめた顔で黙ったままだ。

 

「この時を楽しみにしていたのだから一戦目でも満足だ! 貴様に勝利して、織斑一夏とも果たし合いをするのだ!」

「元気がいいねぇ、でも貴様呼びはやめてくれるかな?」

「うむ、なら何と呼べばいいのだ?」

「普通に“忍野”でいいよ」

 

「では忍野、果たし合いを所望する!」

「いいぜ、相手になってやる」

 

試合開始前にラウラのテンションは最高潮をむかえようとしている。

忍野はそんなラウラをよそに、さっきから黙ってる簪が気になったが先にラウラの隣で黙ってる箒に話し掛けた。

 

「それはそうと箒はボーデヴィッヒさんにタッグを申し込んだのかい?」

 

何気なく箒にそう質問したら、ズーンっと効果音がつきそうなほど暗い雰囲気を纏い始めた。

 

「・・・ペアが決まらず・・・抽選になってしまった」

「・・・その、ごめん」

 

箒は友達が居ないわけではないが不器用なので友達にペアのお願いができなかったようだ。

 

箒が答えた瞬間、観客席に嫌な沈黙が流れた。来賓もステージを見づに隣の来賓と話をしようとしてる。

忍野は気まずくなったのか簪に話し掛けた。

 

「え~っと、簪、大丈夫?」

「だ、大丈夫・・・打鉄弐式も万全」

「やれるか?」

「頑張る」

 

いささか場の雰囲気が回復したと思ったら、

 

「無視スルナ~!」

 

何やら黒いオーラを放出しながら箒が訴えてきた。ラウラも若干引いている。

忍野は箒はトラウマスイッチを押したようだ。

 

 

 

002

 

 

 

 

『こ、これより、忍野仁&更識簪ペア対、ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒による第一試合を開始します』

 

アナウンスの山田先生の声がキョドっている。どうやら箒のオーラにビビってるようだ。

 

しかしステージに居る者はそれぞれ武器を構え、忍野は頭部の装甲を戻した。

 

 

 

『試合開始!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「簪! 箒を任せたぞォ!!」

 

忍野は箒を簪に任せると一直線にラウラへと突進していった。

 

それを追うように続く箒だがその前に簪が立ちはだかる。

 

「どけ! 更識さんに用はない!!」

「あなたの相手は私・・・」

 

すると箒は剣を構えて、

 

「私は、私は、ボッチじゃなぁぁぁい!!」

 

簪の胸にも突き刺さる言葉とともに箒は簪に突っ込んでいった。

気のせいだろうか、箒の目尻には光ものが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦いってのはやっぱ白兵戦だよなァ!」

「肯定はしないが否定もしない!」

 

こちらは忍野とラウラ。

先ほどからバスターソードとプラズマ手刀が激しくぶつかり合っている。ラウラと戦闘を行っている忍野は荒々しい凶悪な笑顔を装甲の下に隠しながら戦いを楽しんでいるようだ。

 

「そろそろ体も暖まってきたし準備運動はこのくらいにするかなァ!」

「こちらは暖機も終わってないぞ?」

「ほざけよ小娘ェ!」

 

何合目かの鍔迫り合い。お互いの刃が火花とスパークを撒き散らしながら激しくぶつかる。

忍野はバスターソードを力任せに振り切り、ラウラはパワー負けして後ろへ飛ばされたがダメージはない。

 

距離が開いたのでラウラは砲撃をしようとしたが忍野が先に動いた。

アルケーのサイドアーマーのハッチが開き、

 

「いけよォファング!」

 

六機の“狼”が放たれラウラに襲いかかる。

 

「そんな攻撃、このシュヴァルツェア・レーゲンには効かん!」

 

展開したワイヤーブレードとプラズマ手刀でファングを弾き飛ばしレールカノンの砲撃で破壊していった。

 

「チッ ならこれならどうだァ!」

 

忍野はライフルモードにして射撃戦に持ち込む。

レールカノンは連射ができない以上射撃戦は不利なるがそんな事をものともしないラウラ。一発一発確実に回避しながら忍野に肉薄せんと接近する。

 

「うまいもんだなァ、ならコイツは避けられるかなァ?」

 

そう言うとアルケーが突然落下を始める。そして今までその陰に隠れていた、

 

 

多量のミサイルが飛来した。

 

「いい連携だ! だが甘い!!」

 

ラウラは驚きはしたがすぐに簪の攻撃を見抜き回避と迎撃を行おうとしたが、

 

「がぁ!」

 

迎撃をかいくぐり回避ルートを予測していたかのように次々とミサイルが命中する。

 

「おもしれェだろ? このミサイルはひと味違うぜェ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なんだこのミサイルは!?」

 

箒も簪の放ったミサイルに苦戦を強いられていた。どれだけ避けても追尾してくるのだから無理もない。

 

「(そろそろかな?) もう少し山嵐のミサイルを味わって欲しいけど、全ミサイル、自爆」

 

簪はミサイルの制御システムを起動させラウラと箒に纏わりつくミサイルを“自爆”させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだ突然!?」

 

自分の目前に迫っていたミサイルが突然爆発して驚くラウラ。

 

「その大砲、いただくぜェ!」

 

ミサイルの爆煙に隠れるようにラウラの至近距離まで接近した忍野はバスターソードを腰に構えて斬りかかった。

 

「無駄だ!!」

 

ラウラが何かを掴むかのように片手を伸ばすと、

 

 

 

 

突然、忍野のアルケーが動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

~一夏サイド~

 

試合を見ていたけど突然アルケーが動きを止めたぞ? 何遊んでるんだ、あいつ。

 

「忍野の奴なにやってんだ?」

「多分AICだと思うよ」

「アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略でドイツが開発してる第三世代の兵器のはずよ」

「ISに搭載されてるPICを発展させたもので対象の動きを任意で停止されることができるはずですわ」

 

・・・シャルルはわかるけど何で鈴とセシリアまで居るわけ?

それにしてもAICか、厄介だな。

 

『あの小僧、割と難儀しとるようじゃの』

「そうか? ふざけてるようにしか見えないぞ?」ボソボソ

『またあやつの悪い癖かの?』

「だろうな」

 

「? どうしたの一夏?」

「別に何でもないよ?」

 

やり過ぎなければいいけど・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コイツ、動けッてェんだよォ!」

「どうだ? この停止結界の前では手も足も出まい」

 

必死にラウラの停止結界から逃れようと忍野。しかしアルケーは全く動かない。忍野は諦めたかのように動くのを止めた。

 

「どうした? もう終わりか?」

「そうだなァ、そりじゃあァ“牙”を突き立てるとしますかなァ!」

 

「撃ち抜けェファング!!」

 

「!?」

 

背後からラウラを襲った衝撃。その正体は先ほど破壊したと思ってたファングの一機だ。

 

(残骸の中に紛れ込ませていたのか!?)

 

攻撃のせいで集中力が乱れてAICを維持できなくなってしまったラウラ。追撃があると身構えたが忍野は剣先をラウラに向けてるだけで何もしない。

すると忍野はオープンチャンネルでラウラに話かけた。

 

「おい、そろそろ本気出せよォ」

「!? 気づいていたのか!?」

 

「おォよ! 攻撃の詰めが甘ェし、さっきから左側の攻撃が浅ェんだよォ」

 

 

ラウラは小さく笑うと眼帯を外し閉じられていた左目を開いた。

 

「いいだろう。この“ヴォーダン・オージュ”を使う以上、必ず勝たせてもらう!!」

 

その左目は金色の輝きを放ち忍野の動きを見抜かんとしている。

 

「やっぱ戦いは本気じゃねェとつまらねェだろオイ!」

「そうだな・・・。そうだったな! 本気じゃないとな!」

 

すると忍野とラウラは武器を構え直すと、

 

「さァて、仕切り直しだァ!」

「いざ尋常に勝負!!」

 

己が勝利のために衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり無理だったか・・・」

 

簪と箒の戦いに決着がついたようだ。

シールドエネルギー残量が0になった箒は地面に下りて悔しそうにしている。

 

「あなたは強い、私も危なかった」

 

簪の打鉄弐式もエネルギー残量が二割になっており箒の奮戦が伺える。

 

「忍野の援護に行かないのか?」

「・・・邪魔するなって怒られそう」

「確かに・・・」

 

今目の前で行われてる戦闘を見て率直な感想を述べる。

さっきから激しい音ともに黒い影と紅い影がぶつかり合っている。

・・・ここに居たら巻き込まれそうな気がした二人は冷や汗を流しながら健闘を祈りつつアリーナの隅へと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上に下りて戦う二人。

アルケーはその機動力を生かして攻めたて、レーゲンはその攻撃をさばいてカウンターで押し返す。

 

ラウラはワイヤーブレードで忍野の左手を絡め取ろうと伸ばすが右手に持った大剣で切り落とす。しかしその動作を見逃さずラウラはカノン砲を発射。

レールカノンの砲弾は忍野の手からバスターソードを弾き飛ばした。

 

「しまったァ!?」

 

しかしその直後、残っていたファングの1機がレールカノンの砲口に入り、轟音とともに爆散した。

 

「だがこれでビットはもう無い! 終わりだ!」

 

 

ラウラはプラズマ手刀で斬りかかり、忍野はシールドで防ごうと左手を前に出した。

 

「はぁぁぁ! (そんな盾、切り裂いてやる!)」

 

ラウラはまず盾を破壊しようと、シールドに触れた瞬間、

 

 

ラウラの動きが止まった。

 

 

「なぁッ!! これは!?」

「悪ィなァ、AICはこっちにもあるんだァよォ!!」

 

身動きのとれないラウラに忍野は

 

「チョイサァ!!」

 

右脚のビームサーベルで斬りつけその勢いのまま身体を回転させ左脚でアリーナの外壁に蹴り飛ばした。

 

表示されてるレーゲンのシールドエネルギー残量は一桁になっている。

 

 

 

 

 

003

 

 

~ラウラサイド~

 

(こんなところで終わってしまうのか?)

 

私は薄れゆく意識のなかでそんな事を思っていた。

 

(私は負けられない! 負けるわけにはいかない!・・・)

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ。それが私という個体の識別上の記号。

 

“遺伝子強化試験体”

 

人工合成された遺伝子から作られ、兵器として鉄の子宮から生まれた。教えられたのは製造者の命令を理解するための言語と闘いの知識、それを使う戦略だけだった。

 

戦いのためだけに作られたが同時に実験動物として利用された。私と同様に生みだされた者たちが兵器として訓練をしていたが一人、また一人と実験のために消えていった。

 

“ヴォーダン・オージュ”

 

“越界の瞳”とも呼ばれるそれが私たち遺伝子強化試験体を使った最終実験だった。疑似ハイパーセンサーとも呼ぶべきそれは、脳への視覚信号伝達の爆発的な速度向上と、超高速戦闘状況下における動体反射の強化を目的とした、肉眼へのナノマシン移植処理。

製造者たちはこの実験が成功して初めて“実験体”から“兵器”になると言っていた。

 

しかし結果は失敗だ。

 

ヴォーダン・オージュは一般兵での適合は問題なかったが、遺伝子強化試験体である我々とは相性が悪く次々と不適合になり、処分されていった。

 

最後には私と姉だけが残った。

姉は私と同型の遺伝子を使用しているらしく外見が似ており、そして自我を持っていた。当時、明確な自我を持っていなかった私を気遣ってくれた人だった。今の私ならそれが優しさだと理解できる。

 

しかしその人も居なくなり、遂に私の番がきた。だが私は製造者達の妥協で生き残った。

 

『両目が無理なら一般兵同様に片目だけにしよう』

 

結果は同じく、本来なら使用時のみ起動させるはずのそれが、制御不能となり常時稼働状態になった失敗作になった。

 

製造者達は私と言う“出来損ないの成功例”を残して逮捕され、研究所は閉鎖された。

 

その後、軍はIS部隊に私を“他部隊からの転属”という形で入隊させた。処分されるはずだったが兵器として使えると判断されたらしい。

 

(こんなところで敗北するわけにはいかない! 私を生かしてくれた方のために、そして姉達の無念を晴らすために!!)

 

そうだ、私を正規兵にしてくれた人の為に、兵士になれなかった姉達の為に勝ち続けなければならない。それが私の恩返しであり弔いだ。

 

この戦いは楽しい、でも勝たなければならない。そのためには、

 

(力が、欲しい)

 

 

 

『願うか?』

 

 

誰だ? 

 

『ーーー願うか・・・? 汝、自らの変革を望むか・・・? より強い力を欲するか・・・?』

 

この際誰だっていい。

 

言うまでもない。

比類無き最強を、唯一無二の絶対をーーー私によこせ!

 

『ーーー願い、聞きとどけたり・・・』

 

 

≪Vallkyrie Trace System≫

 

 

そして、私は意識を手離した。

 

 

 

 




戦闘描写の執筆に大分時間がかかりました。
バトル以外はそれなりに思いつくのに戦闘になると全然ダメです。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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タッグトーナメント 其ノ弐

 

004

 

 

「あああああっ!」

 

突然、ラウラが身を裂かんばかりの絶叫を発する。見るとシュヴァルツェア・レーゲンが“溶けて”いた。

 

纏っている機体に紫電が走り装甲が黒くドロドロした泥のようになりラウラの身体を飲み込み始めたのだ。

 

「ありゃなんだァ?」

 

粘土なのかスライムなのか分からない状態になったそれは徐々に人型へと成形されていく。

 

成形が終わったその姿は黒い全身装甲のISに似た、しかし先日の襲撃者とはまるで違う“何か”だった。赤い光を放つラインアイ・センサーのフルフェイス。ボディーラインはラウラのそれをそのまま表面化した少女であり、腕と脚には最低限のアーマーついている。武器は右手に持った刀だけのようだ。

 

(あの姿どっかで見たような・・・)

 

忍野の思考はここまでだった。

 

刹那、黒いISが忍野の懐に飛び込んでくる。居合いに似た構えから放たれるのは必中の間合いでの必殺の一閃。

 

「ッ!?」

 

ギリギリのところで気づいた忍野はシールドで防ぐが右へと弾かれてしまう。

 

(この太刀筋、ってヤバい!!)

 

黒いISはそのまま刀を上段のに構えると縦一直線の鋭い斬撃が襲いかかる。

盾そのものでの防御が間に合わないと思った忍野はシールド側面のパーツを開きGNフィールドを展開し防御しようとしたが、

 

 

GNフィールドが“切り裂かれた”。

 

 

「なァ!?」

 

初段で弾かれ体を右へ捻ったような体勢になっていたアルケーは左側の肩と腕、そしてサイドアーマーを切り裂かれた。

肩とサイドアーマーが破損し破片をバラまき、腕の傷からは血が流れ出る。絶対防御が“貫通”していたのだ。

 

忍野は粒子を一気に噴射して後ろへと下がり相手との距離をとった。

黒いISはゆっくりとした動作で振り下ろした刀を再び構えようとしている。

 

「クソッ! 何がどうなってやがる!」

 

忍野も追撃に備えて再び構えようとしたが、

 

 

突然、アルケーが膝をついた。

 

 

 

見ると粒子残量が異常なほど低下していた。だがそれ以上に忍野が驚いたのは自分の状態だ、まるで体力や気力を根こそぎ奪われたようなけだるさが襲ったのだ。

忍野はその現象に覚えがあった。

 

「エナジードレインだとォ!?」

 

 

“エナジードレイン”

生きているものから何らかの形で生気を奪う、吸血鬼などの一部の“怪異”が有する能力だ。

 

(野郎ォ、GN粒子やエネルギー、俺の体力も全部“喰ってる”のかよ。だかそれで解けたぜ、なんでAICが発動しないのか)

 

粒子残量と今起こったことを確認しながら立ち上がる忍野。

 

アルケーのAICはレーゲンに搭載されていたものとは違い、非常に狭い条件でしか使用できない。その条件は“GNシールドに触れる”こと。相手が触らないと発動しないので攻撃装備としては使用できないがカウンター装備としては絶大な効果を発揮する。

さらに条件を絞ったため通常のAICほどの集中力を必要としないので常時発動可能だ。

しかし所詮はエネルギー装備。エネルギーを奪う力相手では無力でしかなかった。

 

AIC発動しなかった理由と自分の体力を喰われたことに苛立ちを覚えながらも、忍野は相手の次の攻撃に備えようとした。

 

 

 

 

「忍野くん!!」

 

忍野の前に舞い降りた打鉄弐式。

シールドエネルギーが残っていた簪は忍野を助けようと戻ってきたのだ。

 

「簪!? 邪魔すんなァ!!」

「ダメ! 怪我してる、手当てしないと!」

「そんな事どうでもいいだろォ!? エネルギーが無いンだから引っ込んでろォ!」

「私だって、戦える!」

「だァァ、もう面倒くせェー!」

 

一歩も引こうとしない簪。

このままじゃ危ないと感じた忍野は簪に近づいて耳打ちする。

 

「今のあれはISじゃない、怪異だ!」ボソボソ

「か、怪異!?」ボソボソ

「そうだ。だから下がってろ」ボソボソ

「・・・わかった」

 

しぶしぶ納得した簪はすぐにピットへと避難した。

 

簪が避難したのを確認してから、忍野は退治するヒントがないかと黒いISの動きを注視した。

 

「にしても、あの姿は・・・」

 

改めて見て、その姿を思い出す。忍野は写真で見ただけだがあれは第二回モンド・グロッソに出場した織斑千冬を模倣したものだ。

動きは普段からあれだけ見てるから知っている。

 

(厄介だな、エナジードレインを使う世界最強ってどこのチートだ?)

 

動きは世界最強、攻撃は掠るだけでもアウト。無理ゲーや糞ゲーに認定されそうな敵だ。

 

 

『非常事態発令! トーナメントの全試合は中止! 状況をレベルDと認定、鎮圧のために教師部隊を送り込む! 来賓、生徒は速やかに避難すること! 繰り返す!』

 

アリーナに響くアナウンス。

しかし忍野の顔は険しいままだ。

 

(怪異が融合してる以上、通常兵器じゃ無理だ。そうなると・・・!)

 

何かを思いついた忍野は一夏へと通信を繋いだ。

 

「一夏! 聞こえるかァ!?」

『聞こえてるよ! 何なんだよあれ!? あれじゃあまるで・・・』

「んな事どうでもいいんだよォ! “心渡”を持ってこい!」

『何で心渡がいるんだよ!?』

「理屈は知らねェがありゃ怪異が混じってる!」

『怪異!? どういうことだ!?』

「エナジードレインを使って俺の体力を喰いやがったんだよォ!」

『わかった! すぐに持っていく!』

 

 

「さァて、紛い物とはいえ世界最強。一夏が来るまで持つかなァ」

 

忍野は通信を切ると先ほど弾き飛ばされたバスターソードを回収し、向き直った。

自信のないセリフ、しかし仮面に隠された顔は狂気にも似たものに満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

005

 

 

~一夏サイド~

 

俺はすぐにアリーナのピットへと走り出した。

そこからなら忍に出してもらった“これ”を投げ渡せる。千冬姉の偽物は許せないけど俺にはどうする事もできない、忍野に任せるしかないんだ。

 

そんなことを考えながらピットへと入ろうとした時、

 

「どこへ行く織斑!」

「千冬姉・・・」

 

呼び止められ、その声の人物の名を呟いた。

今一番会いたくない人と会ってしまった。

 

「教師の鎮圧部隊が突入する。お前は下がっていろ」

「無理だ。あれは普通のISじゃないんだ、悪戯に被害を増やすだけだ」

「なぜそんな事がわかる?」

 

「・・・忍野が言ってきたんだ。“体力を喰われた”って」

 

「一体どういうことだ!? 喰われたとは!?」

「言葉の通りだと思う。なあ千冬姉、絶対防御を貫通して操縦士の体力を吸う武器を持つあれが普通だと思うの? 鎮圧部隊に任せて大丈夫だと思う?」

「・・・その点はわかった。だがそれはお前も同じだろ?」

 

それに、 と千冬姉は俺が手に持っている物を見る。

 

「どこから持ってきたかは知らんがそんな物が何の役に立つ?」

 

確かにISが相手なら“これ”は武器にすらならない。無用の長物だ。

ISが相手なら、ね。

 

「相手はISじゃないんだ、使う武器だってIS用とは違うさ」

「まて、ISじゃない? 何か知ってるのか?」

 

「俺は知らないし千冬姉には関係ない」

 

「あの二週間と何か関係あるのか?」

「・・・・・・」

 

やっぱり鋭い。どうしてここまで感が働くんだ? 我が姉は。

 

「関係あるんだな・・・。私達は姉弟だろ? なぜそこまで秘密にするんだ?」

 

「・・・今話す事じゃない。でも今“これ”がないと忍野が死んじまう」

「・・・ことが済んだら“それ”を調べさせてもらうからな?」

「わかってる」

 

俺は千冬姉に背を向けてピットへ入った。

 

・・・いつかは話さないといけないのかもしれない。でもそんな事を話していいのだろうか?

実際に経験しないと信じられない、そんなオカルトな話をして、自分の弟が化物だと知って千冬姉は今までどうりに接してくれるだろうか?

 

だが今はあの黒いIS退治が先だ。

くたばってないだろうな、忍野!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァ、そろそろヤベェな」

 

呼吸が乱れて肩で息をしている忍野。

アルケーは傷だらけでバスターソードも刃こぼれでボロボロ。GN粒子を喰われるのでバスターソードや装甲は通常時の強度を発揮できずただの鉄板同然だったのだ。

なんとか攻撃できないかと奮戦したがファングの尽きた今、飛道具のビームは無効化されるので一方的に切り刻まれていた。

今は装甲を斬られても肉体に刃が届く前に避けるので精一杯になっている。

 

「おっとォ!?」

 

ガァン!

 

再び黒いISの攻撃。空気を斬る音と放たれる下段から上段への抉るような斬撃、なんとかバスターソードで防ぐがその攻撃は凄まじく重い。

本来、斬り上げは体の回転と遠心力からくる刀の勢いによる攻撃なので上段から叩き潰すように防げば簡単に止めれる技だ。だか黒いISの一撃は止まるどころかこのまま弾き飛ばさんとするほどの力が込められている。

粒子を奪われ、さらに強度の下がったバスターソードからは悲鳴のような音が聞こえる。 

 

「こォのォ、オラァァァ!!」

 

忍野はなんとか力任せに相手の刀を弾いて後退する。見るとバスターソードには小さい亀裂がいくつも発生していた。

 

「クソが、今の粒子量じゃトランザムも使えやしねェ」

 

黒いISの度重なる攻撃で粒子残量は機体性能を維持できる限界値ギリギリまで減少、奥の手であるトランザムは使えなくなってしまっていた。

 

(こっちも怪異化して戦うか? いや、それはマズいな)

 

最悪の手段を使うことを考えていた時、

 

 

 

「忍野ぉぉぉお!!」

 

突然響く忍野を呼ぶ声。声の元を見ると何かを振りかぶってる一夏が見えた。

 

「受け取れぇぇぇえ!!」

 

一夏はそのまま手に持っていた物を力いっぱい投げた。一夏が投げた物は真っ直ぐと忍野へと飛んで行き、

 

「遅せェんだよ一夏ァ!!」

 

忍野は持っていたバスターソードを捨て、代わりに投げられた物を掴んだ。

 

投げ渡されたのは一振の刀だった。

刀身が日本刀の倍近くの長さがあり、鍔や柄がつけられていない異質な刀だ。

そして日の光に照らされながらも妖艶な輝きを放っている。

 

黒いISは忍野が手に持った刀に何かを感じたのか、警戒心に似た気配を発している。しかしそれでも一歩も退かなかったのはさすが世界最強の模造品といったところだろう。

 

「今度はこっちの番だァ、ってあれ?」

 

反撃に移ろうとした忍野に、緊張感をぶち壊すかのように通信がきた。

 

「通信? こんな時に誰だァ?」

 

黒いISに警戒しながら忍野は回線を開くと、

 

『忍野さま!!』

「のわっ!?」

 

通信をしてきたのはクロエだった。

よっぽど慌ててるのかいつものクールさが微塵も感じられない。

 

「クロエかァ? 何のようだ!?」

『お願いします! 妹を、ラウラを助けて下さい!』

「妹ォ!? どういうことだ!?」

『ラウラ・ボーデヴィッヒは私の妹なんです! だから妹を助けて下さい!』

「いや、まず説明を!」

『助けて下さい!』

「だから説明・・・」

『助けてくれますよね? ね!?』

「・・・はい、わかりました」

 

鬼気迫るクロエの頼みを断りきれず承諾する忍野。通信を切ると改めて黒いISと向き合う。

 

「助けて、か。俺は人を助けないんだけど頼まれた以上仕方がないか」

 

 

黒いISはクロエとの通信が終わるのを待っていたかのように刀を構え直した。

武器を構えてない者を攻撃しない、いかにも千冬がやりそうなことだ。

 

 

 

「いくぜ最強の人形、ラウラを返してもらうぜ!」

 

 

忍野は刀を腰に添え、居合いの構えをとると黒いISへと一気に踏み込む。

数メートルあった距離は一瞬で縮まり互いの間わいに入った。

迎え討つように剣を振り下ろす黒いIS。千冬と同じ、速く鋭い袈裟斬り。

だが、

 

「テメェは偽物だ!」

 

ギンッ!

 

刃のぶつかる鋭い音が響き、横一閃に相手の刀を弾いた忍野。そしてすくさま頭上に構え、縦に真っ直ぐ相手を断ち斬った。

 

奇しくも忍野が使った技は千冬が得意としていた『一閃二断の構え』と同じ技だった。

 

「ぎ、ぎ・・・ガ・・・」

 

黒いISが真っ二つに割れる。そして中から力を失って崩れるラウラを受け止め忍野。

忍野には一瞬、黒いISから出てきてたラウラが弱々しい、捨てられた子犬のような眼差しで自分を見ていたような気がした。




ご意見、ご感想お待ちしております。


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後語り

 

001

 

 

~ラウラサイド~

 

「ラウラ、強さとは何だと思う?」

 

教官にそう問われた時、私は迷わず“戦闘力”と答えた。しかし不正解だと言われた。

私には何が間違っているのか分からなかった。

 

 

けれど、その答えの一つに、強烈に出会ってしまった。

 

『強さって言うのは戦う力じゃない、意志 の強さだ』

 

・・・そう、なのか?

 

『そうさ。他人を口実にして自分の意志を すり替えてる奴はどれだけ戦う力があって も張りぼて同然、偽物だ』

 

・・・私は、偽物なのか?

 

『本物になりたいなら遠慮や我慢なんかせ ずに自分を貫き通せばいい。本当の意味で 自分の意志を持てばそれは本物だ』

 

・・・お前は強いな。

 

『強くない。俺は何もできなかった弱者だ』

 

『けど、もし今の俺が強いっていうなら、 それはーーー』

 

それは・・・?

 

『強くあろうとしているからだ』

 

強く、あろうと・・・。

 

『誰かの為に、何かの為に、そして何よりも自分の為に』

 

自分の為に・・・。

 

『守りたいんだ。全てを守れないのは分かってる。でも自分の手の届く所にいる人だけでも守りたいんだ』

 

誰かを、守る強さか・・・。

 

『だから、君も守ってみせるよ。ラウラ・ ボーデヴィッヒ』

 

言われて、私の胸は初めての衝撃に強く揺さぶれる。

早鐘を打つ心臓が教えてくれる。

ああ、そうか。これが・・・そうなのか。

 

ーーー忍野、仁。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、ときめいてしまったのだな。

 

 

 

 

002

 

 

 

「う、ぁ・・・」

 

ぼやっとした光が天井から降りているのを感じて、ラウラは目を覚ました。

消毒液の匂いから医務室なのだろうと感じた。

 

「気がついたか」

 

ラウラは声のした方に顔を向けるとそこには千冬が足を組んで座っていた。

 

「私・・・は・・・?」

「全身に無理な負荷がかかったことで筋肉痛と打撲がある。しばらくは動けんだろう。無理をするな」

 

ラウラは自分の記憶の途切れに気づき、千冬に問いかけた。

 

「何が・・・起きたのですか・・・?」

 

全身に走る痛みにその顔を歪めながら、ラウラは無理をして上半身を起こす。

金と赤の瞳が真実を知りたいと千冬に問いかける。

 

「ふう・・・。一応、重要案件である上に機密事項だからな」

 

暗に口外するなと念を押し、千冬はゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「VTシステムは知ってるな?」

「はい・・・。正式名称、ヴァルキリー・トレース・システム・・・。過去のモンド・グロッソの部門受賞者、“ヴァルキリー”の動きをトレースするシステムですが、あれは・・・」

「そう、IS条約で現在どの国家・組織・企業におしても研究・開発・使用の一切が禁止されている。それがお前のISに積まれていた」

「・・・・・・」

「巧妙に隠されてはいたがな。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意志・・・いや、願望か。それらが揃うと発動するようになっていたらしい。現在学園はドイツ軍に問い合わせている。近く、委員会からの強制捜査が入るだろう」

 

千冬の言葉を聞き、ラウラは俯いてしまった。

 

「私が・・・望んだからですね」

 

千冬はラウラが何を言わんとしたのか分かった。いや、あの姿を見たら何になろうとしていたのか理解できる。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

「は、はいっ!」

 

いきなり名前を呼ばれ、ラウラは驚きも合わせて顔を上げる。身体の痛みも忘れて背筋を伸ばしているが大丈夫か?

 

「お前は誰だ?」

「わ、私は・・・、」

 

その言葉の続きが出てこない。しかしラウラは何かを思い出し、続きを答えた。

 

「今の私は誰でもありません、これからラウラ・ボーデヴィッヒになります!」

 

ラウラの言葉が予想外だったのか、千冬は一瞬、呆けた顔してから優しい笑みを浮かべた。

 

「そうか。それならたっぷり悩めよ、小娘」

 

そうラウラに言い残してから、千冬は医務室を出た。

 

 

 

003

 

 

 

 

 

「織斑先生」

 

医務室から出た千冬を廊下で待っていた人物。そこにはいつものタブレット型端末を持った山田先生がいた。

 

「VTシステムを撃退したあの刀の解析が終わりました」

「山田先生、それで何かわかりましたか?」

 

山田先生は端末に記録した解析データを読み上げた。

 

「刀のサイズと鍛え方からして鎌倉時代ごろに産まれた『野太刀』と呼ばれる種類の刀だそうです。しかし構造も使われてる素材もいたって普通の刀です。ISを斬っただなんて実際に観てなかったら信じられません。ただ・・・」

「ただ?」

「あの刀、変なんです。刀工の名が掘られていないしどれだけ調べてもいつ作られた物なのかわからないんです」

「どういうことですか?」

「柄も鞘も無いのにキレイ過ぎるんですよ。そんな状態で保管してたらどれだけ手入れしても傷やサビが出来るはずなんですが、解析機を使っても今回の戦闘で出来たらしい傷しか見つからないんです」

 

まるで使う直前に作られたかのように。

 

 

山田先生の報告を聞き終えた千冬は黙ってしまい、様々な事が頭を過ぎった。

 

なぜ自分の弟がそんな物を持っていたのか?

 

そもそも今までどこに置いていたのか?

 

どうして黒いISにはあの刀が有効だと断言できたのか?

 

(一夏に忍野、いったい何を隠しているんだ)

 

 

「織斑先生、どうされました?」

「・・・いや、なんでもない。そのデータは機密情報として保管、閲覧規制をかけておいてください」

 

千冬はそれだけ言ってから自分の部屋に戻った。

 

 

 

004

 

 

 

 

機械の部品や電子機器が至る所にちりばめられた、音を発するものがない静かな部屋。部屋中にある空中投影ディスプレイが光り、照明のついてない部屋の中を照らしている。

 

そんな部屋の中に一人、作業をしている人物がいる。童話の中から飛び出したかのようなワンピース姿にメカメカしい白ウサギの耳。

そう、彼女は篠ノ之束。そしてここは水鏡の一室である。

 

 

突然、部屋中に鳴り響く音。音源は一台の携帯電話だ。

 

「こ、この着信音はぁ!」

 

束はすぐに携帯電話をとり、耳に当てた。

 

「も、もすもす? 終日?」

『ブツッ! ツー、ツー、ツー』

 

一言も言わずに切れてしまった。

 

「わー、待って待って!」

 

束の願いが通じたのか、再度携帯電話が鳴り響いた。

 

「はーい、みんなのアイドル・篠ノ之束ここにーーー待って待って! ちーちゃん!」

『その名で呼ぶな』

「おっけぃ、ちーちゃん」

『・・・はぁ。まあいい。今日は聞きたいことがある』

「何かしらん?」

『今回の一件、お前が噛んでいるのか?』

「今回、今回・・・はて?」

『VTシステムだ』

「ちがうよ~? 私はあんな無粋な物は作らないよ。誰かを猿真似するシステムなんて作るはずないでしょ? あ、それとねあれを作った研究所、もうこの世にはないよ?」

『そうか。では、邪魔をしたな』

「いやいや、邪魔なんてとんでもない。ちーちゃんとお話できて頭スッキリ、作業効率がアップだよ!」

『・・・では、またな』

 

再び切れる電話。もう一度かかってくることはなく、再び静寂が部屋を包んだ。

 

すると千冬との通話が終わるのを待っていたかのようにクロエから通信が部屋のスピーカーから流れた。

 

『束様、研究所を破壊した無人機を補足しました』

「なら壊しちゃっていいよ。無人機ってだけならまだしも、人殺しをしてる子には消えてもらわないと」

『わかりました。“ヴァーチェ”、目標を殲滅します』

「早く帰ってきてね! 束さんお腹ペコペコだよぉ~」

 

それだけ言って彼女は通信を終えた。

 

 

「さぁてと、これはいったい何なんだろうね?」

 

誰かに問い掛けるように呟く束。彼女が見ているのはとあるカメラの拡大映像である。

 

そこには一人の男子が手ぶらで走っているが建物の柱の裏を通過した瞬間、その手には長い刀が握られていた。

一秒にも満たないその瞬間を捉えた映像が永遠と繰り返し流れている。

 

「いっくんは手品師にでもなったのかな?」

 

心にもない仮説を立てながら彼女は映像を見続けた。

 

己が知識を持ってしても理解出来ない謎を解くために。




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思いの変化

 

001

 

 

『タッグトーナメントは事故により中止となりました。ただし、今後の個人データ指標と関係するため、全ての一回戦は行います。場所と日時の変更は各自個人端末で確認の上ーーー』

 

学食のテレビはトーナメントの中止の報道が流れているなか、学食はたくさんの生徒たちが夕食のために訪れ賑わっています。

 

「ふむ。シャルルの予想通りになったな」

「そうだねぇ。あ、一夏、七味取って」

「はいよ」

「ありがと」

 

一夏とシャルルは特にすることがなかったのでのんびり夕食を食べている。

 

しかし学食の一部はひどく重い空気が漂っていた。そこにいる女子一同が落胆しているのが原因だ。

 

「・・・優勝・・・チャンス・・・消え・・・」

「交際・・・無効・・・」

「・・・うわああああんっ!」

 

何人かが走って学食を出て行くが何が理由なのか知らない一夏とシャルルは首を傾げるばかりだ。

 

「どうしたんだろうね?」

「さあ・・・?」

 

それよりも、とシャルルは視線を移す。

 

「忍野くん、何でここにいるの?」

「ん?」

 

そこには医務室に居るはずの忍野が、さも当然のように食事をしていた。メニューはたこ焼きである。

・・・それは食事か?

 

「医務室に居なくてよかったの?」

「だぁれがあんな薬品臭いところにいるか」

「でも忍野、よく出てこれたな。二日くらいは医務室に缶詰めだと思ってたぞ」

「そうなるだろうから抜け出してきた」

 

((抜け出してきたのかよ))

 

忍野が抜け出してきたことに飽きれる二人。

そんな二人を無視して忍野はたこ焼きを口に放り込む。

 

「大体、腕が斬り落とされた訳でもないのに大げさなんだよ」

「いや、十分大怪我だよね?」

 

現在忍野は包帯だらけの左腕を首から吊って、体中を湿布と包帯などで覆っている。

見て分かるのは左腕と左頬のデカい絆創膏だけだが。

 

 

「あれ~? おっし~のだ」

「忍野さん、もう動いて大丈夫なのかにゃ?」

 

そこへやってきたのは本音と真宵、その後ろに隠れるような簪だった。

 

「やぁ、お昼ぶり。今から晩飯かい?」

「そうだよ~」

「忍野さんのお見舞に医務室に行ったんじゃが入室禁止なってて戻ってきたところなんじゃよ」

 

すると真宵と本音の後ろにいた簪がゆっくり近寄ってきて忍野の右手を握ってきた。

簪がなんでそんなことをするのか分からない忍野はたじろいでいる。

 

「え、あの、簪、さん?」

 

「・・・心配、したんだから」

 

消えてしまいそうな弱々しい声で訴えてくる簪に気まずくなったのか、忍野は天井に視線を向けている。

本音と真宵はそれを見てニヨニヨしている。

 

 

 

 

 

 

そんな忍野達から視線を移した一夏は俯いている箒を見つける。

なんだか色彩が薄く見えるが多分気のせいだ。

 

「よう、箒。あの約束なんだがーーー」

 

「(ピクッ)」

 

少し反応したのか、垂れている髪が微かに揺れた。

 

「付き合ってもいいぜ」

「・・・・・・なに?」

「だから、付き合ってもいいって・・・お わっ!?」

 

突然、勢いよく一夏に詰め寄る箒。 その目がランランと輝いていた。

 

「ほ、ほ、本当、か? 本当に、本当だな!?」

「あ、ああ、そうだっつてんだろ!」

「コ、コホン。な、なぜだ? り、理由を聞こうではないか・・・」

 

腕組みしながら、一夏に尋ねる箒。 その頬は赤みかかっている。

なぜかこっちを見ている忍野は一夏がどんな返答するのかわかってるような顔してその様子を見ている。

 

「そりゃ幼馴染の頼みだからな。断る理由がねえ」

「そ、そうか!」

「買い物くらい、いつだって付き合うぜ?」

 

「・・・・・そんなことだろうと・・・」

 

箒は俯き、身体を震わせ、

 

「思ったわっ!!!」

 

「ぐはぁっ!?」

 

腰のひねりを加えた正拳を一夏に叩き込んだ。彼女の怒りの籠もった一撃に、一夏はその場にくずおれる。

けして“クズ折れる”ではありません。

 

「一夏って、わざとやってるんじゃないかって思うときがあるよね」

「な、なに? どういう、意味だ、それ?」

「さあね」

 

シャルルはぷいっと視線を逸らしてしまう。

 

「ハッハー、一夏は鈍感だな痛い! 簪さんや、なぜ抓るんですか!?」

「イラッとしたから」

「なんで!?」

 

一夏の鈍感っぷりを笑う忍野だが簪に抓られてしまう。忍野には簪がなぜ抓るのか本当に分からなかった。

 

 

「おりむーもだけどおっし~のも鈍感だね」

「じゃね」

 

 

 

“人の振り見て我が振り直せ”と言うことわざがあるが鈍感朴念仁に関しては当てはまらないようだ。彼らの場合は、

 

“人の振り見ても我が振り気づかず”

 

 

 

 

 

002

 

 

 

簪たちと別れて寮に戻ってきた忍野。サッサと寝ようと部屋へ行くと扉の前に佇んでいる千冬が見えた。

 

「どうしたんだ千冬? 人の部屋の前で」

「勝手に医務室を出るな」

「嫌だね。それに大した怪我じゃないから別にいいだろ?」

「かなりの出血だっただろうが、安静にしてろ」

「ハッハー、心配でもしてくれてるのかい?」

「だとしたらどうする?」

 

まさか千冬が自分の事を心配してるなんて思ってもいなかったので呆けた顔をする忍野。

 

「驚いた。まさかあんたに心配してもらえるなんて嬉しいねぇ」

「嬉しいなら医務室に戻れ」

「そのセリフは教師としてですか? それとも一夏の姉としてですか?」

「・・・・・・」

「まぁ、心配しなくても大丈夫ですよ。いつもあんたをからかって制裁を受けてるんだ。そこらの奴よりはよっぽど丈夫だよ」

 

そう言って部屋に入ろうとして千冬の横を通ろうとしたら右腕を掴まれた。

 

「・・・・とう」ボソ

「ん?」

「その、ラウラを助けてくれて、ありがとう」

 

ラウラの事にお礼を言ってくる千冬。

見ると顔を紅くしそっぽを向いている。

 

「助けてない。あの子が勝手に助かっただけさ」

「・・・ひねくれ者」

「よく言われるよ」

 

そう言って忍野は部屋に入っていた。

 

千冬は若干言いたり無い顔をしてから自分の部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

003

 

 

~一夏サイド~

 

翌日、朝のHRだが、クラスの中にシャルルはいなかった。

 

『先に行ってて』と言ったきり、会ってないな。

 

そんな思考の中、ようやく山田先生が現れた。

けど、なぜか疲れた様子を見せている。

 

「み、みなさん、おはようございま す・・・」

 

朝になにかあったのか?

貧血とか有り得そうだよな。山田先生、苦労人だし。

 

「今日は、ですね・・・・・。みなさんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといいます か・・・・・。見た方が早いですね。どうぞ、お入りください」

 

また転校生か。しかし、この短期間で来すぎじゃねえか?

 

 

 

「失礼します」

 

ん?この声はーーー

 

聞き覚えがある声が聞こえた。

入ってきた転校生は女子生徒だがその顔を見たクラスメイトは固まってしまった。

って言うか俺もだ。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、 改めまして、よろしくお願いします」

 

 

「「「「「え?」」」」」

 

「デュノア君はデュノアさんでした・・・。はあぁ・・・また寮の割り当てを組み立て直す作業が・・・・・」

 

・・・お疲れ様です、山田先生。

シャルルはシャルロットとして無事編入できたのか、良かった良かった。

・・・って待てよ?

 

「え? デュノア君って女・・・?」

「おかしいと思った! 美少年じゃなくて、美少女だったわけね」

「って、織斑君、同室だから知らないってことはーーー」

 

ザワッとクラス中が騒ぎ出す。

 

その瞬間、俺の勘が働いたーーー嫌な予感がした。

 

「一夏ぁ!!」

 

教室のドアが勢いよく開き、ISを纏った鈴がその場に現れた。

 

 

「死ね!!!」

 

間髪入れず、衝撃砲が火を噴いた。

 

俺はとっさに隣にいた忍野を引っ張って身代わりにした。

 

「口寄せ、人間防壁!」

「まじかよ!?」

 

 

ドゴォンッ!!!

 

 

「ふーっ、ふーっ、ふーっ!」

 

鈴が呼吸を整えてるようだ。一方、俺には何も衝撃が来てなかった。

忍野、お前の犠牲は無駄にしない。

 

そう思って目を開いたら、忍野と鈴の間にISを展開した、ボーデヴィッヒさんがいた。 ・・・てか、なんで?

 

 

 

 

~忍野サイド~

 

 

「あれ? ボーデヴィッヒ、さん?」

「大丈夫か?」

 

その体にはシュヴァルツェア・レーゲンらしきISを纏っている。だが部分的に違うな、カノン砲もない。

 

 

「お前のISもう直ったのか? 壊しておしてなんだけど」

「・・・コアはかろうじて無事だったからな。予備パーツで組み直した」

「そうか。そいつはよーーーむぐっ!?」

 

チュ

 

はて? 何でボーデヴィッヒの顔が目の前にあるんだ? それになんか顔が紅いし。

あれ? 唇になんか柔らかいものが・・・。

 

 

そうか、ボーデヴィッヒが俺に口づけ、キスをしてきたのか。

ハッハー、なぁんだそういうことか。

 

 

 

 

はぁぁぁぁぁっ!?

 

 

 

 

 

 

 

意味がわからん!  展開が早すぎて、頭が追い付いていねえ!

え、何、どうゆう事!?

 

「お、お前は私の嫁にする! 決定事項だ! 異論は認めん!」

「拒否権くらいくれ! ってか嫁!? 俺は男だから普通は婿だろ!?」

「日本では気に入った相手を“嫁にする”というのが一般的な習わしだと聞いた。故に、お前を嫁にする」

 

「全然、違ぁぁぁう!」

 

誰だよそんなデタラメ教えたやつ! 日本を舐めてんのかよ!? 

 

「そんな事より何故“ラウラ”と呼んでくれないのだ? 夫婦だろ?」

「そんな事でもないし夫婦でもないだろうが!」

「試合の時は呼んでくれたではないか!?」

「それはそれ! これはこれだ!」

 

ダメだ、まったく話が進まねぇ。

だがとりあえず、

 

「一夏テメェ、人を盾にすんな!」

「いいじゃん、女の子とキス出来たんだし」

「ケルディムで防げよ!?」

「あ、その手があった」

「気づけよバカ! お前には罰を受けてもらうぞ!」

「罰?」

 

 

 

 

「一夏ぁぁぁ!」

 

俺の陰から飛び出した鈴は再び、一夏を捉え衝撃砲から火を噴こうしている。

って言うか俺を誤射したことを少しは気にしろよ。

 

ビシュンッ!

 

「うおおっ!?」

 

おっと、逃げようとした一夏の目の前をレーザーが通過したぞ。

危ねぇな。

 

「ああら、一夏さん?どこに行かれるのですか? 私、実はどうしてもお話したいこととがありますのよ? ホホホ・・・・・」

 

「セ、セシリア・・・」

 

おやおや、ISを展開したセシリアが“スター ライトMkⅢ”の銃口を一夏に向けているぞ。

ご立腹だね~。

 

「私もだ。一夏、何があったか説明してもらおうか」

 

「ほ、箒・・・」

後ろを振り向いた一夏が見たのは絶対零度の視線を向けながら木刀を構えた箒の姿だ。

これは怖いな。

 

 

さて、ざまぁーねぇな一夏! と思っていたら、

 

ガシッ!

 

肩を掴まれた。しかもこのまま肩を砕かんとしているのかと疑うほどの握力だ。

恐る恐る振り返るとそこには笑顔ではあるが明らかに怒っている千冬がいた。

俺まだ何もしてないぞ!?

 

「忍野、私もお前に話があるんだが?」

「え、えっと、何のご用で?」

「なぜ私の前でキスをしているんだ? 見せつけか?」

「俺は被害者側じゃないかってあれ?」

 

天の助けか携帯電話にメールが受信された。

このまま話を逸らして逃げよっと。

 

「え、えっと、メール見ていいですか?」

「・・・・・・」コクコク

 

無言で頷くな、怖ぇよ。

にしても誰からだ?

 

『From:クロエ

本文:忍野さま? なに人の妹に手を出してるんですか? ラウラを助けてとはお願いしましたがそこまで許した覚えはありませんよ?

すぐにでも水鏡にいらして下さい、お話をしましょう。

 

PS,逃げても無駄ですよ』

 

怖ぇよ! どっから見てんだよクロエ! しかも俺が手を出したわけじゃないだろうが!

 

「さて、最後のメールは見終わったな? 話を聞こうか?」

「最後!? なんでそんなに怒ってるわけ!?」

「んん? 私は怒ってはいない。お前が、例え、どんな、女と、キスを、しても、怒りは、しない!」

「痛い痛い痛い痛い痛い! 俺の痛い肩を痛い万力のように痛い潰す痛いつもり痛いですか痛い痛い!」

 

肩からメキメキって音が聞こえてくるぞ!?

なんで怒ってるんだよ!? 訳分かんねぇぞ!?

 

 

「「「「さて、覚悟はいいか?(いいですわね?)(いい?)」」」」

 

「「ギャーーー!!!!?」」

 

 

その日のホームルームは男二人の悲鳴と制裁の音で終了した。

 

 

 

 

 

 

「あ、僕はシャルロット・デュノア。改めてよろしくね、ラウラさん」

「さん付けはしなくていい。“ラウラ”でいいぞ」

「なら僕のことも“シャルロット”でいいよ」

 

おいそこの二人、無視するな。




評価や感想、よろしくお願いします。


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ニュース

 

001

 

 

~シャルロットサイド~

 

シャルル、改めて、シャルロット・デュノアとして学園に入ってから早3日。

 

男と偽ってた事にみんながどう思っているのか最初は不安だったけどみんな快く迎えてくれた。曰わく、そんなこと気にしてたら織斑先生と忍野くんの騒動を傍観できないらしい。

・・・この学園、大丈夫かな?

 

一夏と一緒に朝ご飯を食べていたら学食のTVのニュースが耳に入ってきた。

 

『本日、フランスの大手IS企業、デュノア社の社長夫妻の裁判離婚が弁護事務所を通して発表されました。妻側は会社の全権を失っており、これに対して夫の全財産の譲渡を訴えてーーー』

 

一夏がこっちを見てるけど僕だって知らないよ?

・・・なに、このニュース?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「忍野! これはどうゆう事だよ!?」

 

一夏に連れられて忍野くんの部屋を訪れました。と言っても一夏との共同部屋だけど。

 

「遅せぇぞ一夏。待ちくたびれたぞ」

「そんな事よりデュノア社の離婚騒動、お前がやったのか!?」

 

忍野くんは無理矢理叩き起こされたかの如く眠そうな、その上とてつもなく不機嫌そうな様子だ。目の焦点が合ってないし寝癖が酷い。

そして部屋中にカビ臭そうな、そして貴重そうな古書が散らばっている。

 

「さぁね。何でも俺に聞かないでくれ」

 

今から話すのは可能性だからね、っと唸るように低い声で、前置きをしてから忍野くんは話し始めた。

低血圧なのかな?

 

 

 

 

002

 

 

「今回の離婚騒動。恐らく、デュノアさんのお父さんは最初から計画してたんじゃないかな」

 

計画? 計画って何?

 

「社長の奥さん、つまり本妻はあまり誉められた人じゃないんだよ。知り合い曰わく、会社の金をかなり横領しているから是非ともカモにしたいってさ。それ以外にも黒い噂がちらほらと」

「「どんな知り合い!?」」

 

・・・忍野くんの方が黒い噂、たくさんありそうな気がするのは僕だけ?

 

「まずデュノアさんが見たって言う異国の文字の書かれた書類、そりゃ多分呪術の陣だったんだと思う。

 

「人為的に怪異を遣わすものさ。有名な所で悪魔の召喚に使われるあれだ。それを使って意図して百々目鬼を憑けたんだと思う」

 

あんな物を憑けるのになんの意味があるっていうのさ!

 

「百々目鬼を解決するには他人に秘密を話さなければならない。必然的に女ってことがバレるから学園に残るか、去るかしないといけない。お父さんは君が学園に残ることに賭けてたんだと思うよ」

 

でも、そんな事に何の意味が・・・。

 

「お父さんは、君の事を想ってくれてたんだよ」

 

「そう考えたら穴だらけの計画の説明がつく。政府と結託ではなく保護を依頼していたのなら簡単に、そして安全にIS学園に入学できる。男と言い張るくせにそれらしく見えるのはしゃべり方だけ。暗殺が目的じゃないなら暗殺術の一つも教えてないのが説明できる。そして何より専用機を与えた事。最悪、IS一機を手みやげに亡命させるつもりだったのかもね」

 

・・・言われてみたら、穴だらけだ。

これに気づかなかった僕って・・・。

 

「デュノアさんはお父さんに酷い扱いを受けたかもしれない」

 

・・・・・・。

 

「それでも、とりあえずお父さんと話をしてみたらいいかもね?」

 

 

それだけ言うと忍野くんは一夏を引きずって部屋を出て行こうとする。

 

「オラ、行くぞ一夏」

「な、何処へ行くんだよ!?」

「部屋から出るんだよ。これだから一夏は」

「わかった! わかったから引きずるな!」

 

 

 

 

二人が出ていき僕だけが残された。

 

 

お父さんが僕の事を想っていてくれた?

そんな訳ない、絶対ないよ。そんな事あるわけがない。

 

確かに暗殺の命令をしたのは本妻だけどお父さんだって僕に・・・って、あれ?

思い返してみたら特にこれと言って何かされた覚えがない? いやいやいや、そんな事ないはず!

僕を軟禁状態にしてたし会ってもくれない、そして何よりお母さんのお葬式にも出てくれなかった。

 

 

・・・でも、もし忍野くんが言った通りなら。

 

僕は携帯電話を取り出した。

確認のために、そして真実を知るために。

“正体がバレた時にのみ使用しろ”って渡されたお父さんの携帯番号。前はなんでプライベートの番号なんだろう、と不思議に思ったけど今はそれが淡い期待を膨らませる。

 

 

トゥルル、トゥルル

 

 

もし、本当に、僕のことを道具としてではなく、娘として想っていてくれたのなら。

 

 

カチャ

 

『誰だ? 取材ならお断りだぞ!』

 

 

 

 

「も、もしもし、お、お父さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

003

 

 

「忍野、お前嘘をついてたんだな」

 

部屋を出た一夏は真っ先に忍野にそう問いかけた。嘘とは勿論、百々目鬼の条件の事だ。

 

「そう言わないでくれないか? こっちとしても予想外だったんだからさ」

「予想外?」

「まさか人為的に百々目鬼を憑ける方法があったなんて知らなかったからね、余計な不安を与えたくなかったのさ」

 

忍野はふざけたりせず、真面目な口調で一夏に答える。

 

「シャルロットはこれで助かったのか?」

「多分ね、残った問題は第三者が介入できない些細なものさ。個人的には一つ気になる事があるけどね」

「気になる事?」

 

「誰がデュノアさんにそんな術式を使ったかだ」

 

「特定できないのか?」

「大昔に廃れた技術だからねぇ、使える術者を見つけること自体、ほぼ不可能だな。術式の現品があれば多少の可能性はあるが」

「廃れた技術?」

「ああ。調べたら古い文献に辛うじてその存在が記されてるだけ、術自体の記録はなし。今じゃ使える奴どころか、存在を知ってる奴自体いない有り様だ」

「でもなんで廃れたんだ?」

 

忍野は唸りながら頭を掻き、話を続けた。

 

「ん~、理由は多分2つ。まず術者がいなくなったんだろうな。祓い人や陰陽師は減少の一途だからねぇ。それに術の需要かな? 人を殺す術ならともかく、自白させる術ならもっと簡単なのがあるから必要性に欠けるからさ」

 

へぇ~、っと一夏はあまり興味のなさそうな返事をする。実際一夏は忍野みたいに専門家になりたいなんて思ってもないし、誰かを呪いたいとも思っていないからどうでもいい事なのだろう。

 

「そう言えば本妻の事を教えてくれた知り合いって誰だ?」

 

「・・・悪人で不吉で専門家。俺が嫌いな人間の1人さ」

「お前がハッキリと嫌いって言うのは珍しいな」

 

すると忍野はあからさまに顔をしかめた。その顔は思い出すのも嫌だと言わんばかりである。

 

「あいつは別さ。仕事の都合で情報を買っても半分しか提供しないしくせに大金をふんだくる。何かあれば“金を払え”ってばかり言う。あいつにどれだけ金を取られた事か! 衝突する事はあっても協力する事は絶対にない奴だ! 絶対に!!」

「そ、そうか」

 

忍野の説明は徐々に力強くなり、それとも共に敵意も強くなる。

興味本意で聞いたが藪蛇だったかと一夏はたじろいでしまう。普段、明確な嫌悪感を示さない忍野がこれだけ毛嫌いする相手とはいったいどんな奴なのか、っと気になるのと同時に絶対会いたくないと思う一夏であった。

 

 

 

 

 

004

 

 

しばらくして部屋から出て来たシャルロット。

その目は少し赤みを帯びていて涙を流していたことを物語っている。

それを見た一夏は恐る恐る、シャルロットに声をかけた。

 

「ど、どうだった? シャルロット」

「・・・お父さんは、ちゃんと僕の事を考えていてくれた」

 

「本妻だった人が僕に危害を加えないように、僕を酷い扱い方をしてたんだって。涙声で謝ってくれた」

 

「デュノア社の経営悪化の原因は、全て本妻だった人が悪かったみたい。好き勝手に会社のお金を使って政府役員と贅沢三昧、開発の遅れもその人が開発費を横領してたのが理由みたい」

「政府役員が関わってたってこと言うことは、フランスの第三世代開発は・・・」

「うん、このままデュノア社が請け負うんだって」

 

普通ならデュノア社はIS開発許可の剥奪があっただろうが、第三世代開発の遅れてる原因に政府の人間が関わってたとなればそうもいかない。

とりあえず、会社が無事なことに一安心する一夏。

 

「ありがとう、忍野くん。おかげで、お父さんとやり直せそうだよ」

 

シャルロットに笑顔を向けられるも、いつもどうり、何を考えているのかわからない笑みを返す忍野。

 

「俺にお礼を言うのは間違ってるが、とりあえず解決しておめでとう」

「なあ、一つ聞いていいか?」

 

しかし何かを思い出した一夏は爆弾を落とした。

 

「俺達の専用機のデータを盗めってやつは?」

 

一夏は開発が遅れてるのは事実だからこれだけは利益のために命令したんじゃないかと思った。

 

しかし言った瞬間、ピシッと背景にヒビがはいったかのようにシャルロットが笑顔のまま固まる。

 

「・・・お前がそんな事出来るわけ無いじゃんって、笑ってた」

「へ?」

「あぁーもー! 思い出したら腹が立ってきた! 最初から僕がデータを盗めるなんて思ってもいないって、バカにしてるの!? 確かにどうやってデータを取り出すか方法を考えたけどそれを笑うって! こっちは本気だったのに!」

 

どうやらまた藪を突いて蛇を出した一夏。

忍野は巻き込まれまいと、さっさと退散する。

 

「んじゃ、あとはよろしくな~」

「あ、待てよ忍野!」

 

ガシッ

 

「どこ行くの一夏。話はまだ終わってないよ?」

「あ、あはは」

 

 

 

結局、一夏は一時間以上シャルロットの愚痴を聞かされることになるが、途中からは自慢話を聞かされていた。自分のことを想っていて憎まれ役を演じた父親のことを・・・。

 




八九寺登場の話を考えてたら投稿するの忘れてました。
駄文で申し訳ありません。


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買い物と迷子
日曜日の朝


 

001

 

 

さて、本日は日曜日。

全国的に学校は休みになり、学生たちは一週間のストレスを発散して、翌日から始まる授業に備えて鋭気を養う日である。

 

IS学園もその例に漏れず、日曜日は学園に居る学生たちの人数が半数以下に減ってるように見える。

実際は惰眠を貪っていて、部屋から出てこないのが理由だが・・・。

 

 

 

 

「はぁ~、またか・・・」

 

目が覚めてからいきなりため息を吐き、布団に潜り込んでいる人物を掛け布団越しに確認する忍野。

潜り込んでいたのは、ラウラ・ボーデヴィッヒ、しかも一糸纏わぬ姿ーーーつまり全裸だ。

 

先日の“嫁”宣言をしてから毎日のように、布団に潜り込むようになり忍野、そして同室の一夏の悩みの種となっている。

一度、“なんで裸で、俺の布団に潜り込むんだ!?”っと問うと、

 

『夫婦とは包み隠さぬものだと聞いたぞ?』

 

っと、真顔で言われてしまい、思わず頭を壁に打ちつけていた。

 

ちなみに先日、注意と嫌がらせの意味を兼ねて寝ているラウラを、同じく寝ている一夏の布団に放り込んだのだがまったく効果なし。それどころか、目を覚ましたラウラは一夏を『私を嫁(忍野)から寝取ろうとした変態』として攻撃。さらに一夏の悲鳴を聞いて駆けつけた一夏love達の加勢により手が着けられない状況になってしまった事がある。

 

 

「やれやれ、日曜日くらいゆっくり寝ていたかったんだけどねぇ」

 

とりあえずいつものように、ラウラを掛け布団で簀巻きにして彼女の部屋の前に置きに行く忍野。これはすでに日課のようになってしまってる。

ラウラが布団に潜り込む→朝、忍野が起きてラウラに気づく→ラウラを布団で簀巻きにする→部屋の前に戻す→同室の者がラウラを回収→着替えの済んだラウラが布団を返しに来る。

・・・嫌な日課だ。

 

ぐっすりと幸せそうな顔で寝ているラウラを部屋の前に置いてきた忍野。

すっかり目が覚めてしまったので、二度寝する気分にもなれず、さらに一夏はすでに外出して居ない。何をしようかと考えていた時、

 

 

コンコン

 

『忍野さん? 起きてるかにゃ?』

 

来客があった。声の主は真宵のようだ。

 

 

「鍵はかけてないから入っていいよ」

 

部屋に入ってくる真宵。いつもどうり白衣だが、今日はさらに風邪の時に使うマスクまで装備している。この子が“マスクを着けてる”と言うとガスマスクを連想してしまうのは日頃の行いのせいだろう。

しかしこうして見ると、いよいよ危ない人に見えるな。

 

「今日はお願いがあって来たんじゃよ!」

「お願い?」

「今日は簪さんとお買い物に行く予定だったんだけど風邪をひいてしまって、そこで忍野さん! 代わりに行ってくれない?」

「中止にすればいいだろ? 簪なら病身のお前をせめたりしないと思うぞ?」

「それが、すでに簪さんは待ち合わせ場所に向かってしまわれて、私の携帯が壊れてるから連絡できないんじゃよ!」

 

都合が良すぎる上に、非常に元気がいい。

 

「・・・本当に風邪かい? その割には元気そうだが?」

「そそ、そんな事ないんじゃよ、ゴホゴホ、ほら、咳も出てるし」

 

なんともワザとらしいが、それに気づかない忍野。

バカなのかな?

 

「・・・まあ、予定もないしいいよ? それで待ち合わせ場所は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~簪サイド~

 

 

(真宵・・・遅いな・・・)

 

今わたしは、IS学園からほど近い大型ショッピングモール『レゾナンス』の前で本を読んでいる。今日は真宵と買い物をする予定なのに、待ち合わせ時間になっても現れない。

・・・誘った癖に、遅れてくるなんて、どうしてくれよう?

 

 

「ねぇそこの君、暇なら一緒に買い物に行かない?」

 

またナンパかな? こういうのは顔を合わせない方がいいよね。このまま本を読んでいよう。 

 

「人を待ってます、他を当たって下さい」

 

顔を見ない、合わせない。

 

「そんな事言わないでさぁ」

「行きません」

 

無視、無視。

 

「ハッハー、簪はつれないなぁ」

「え!? なんで名前をって・・・」

 

名前を呼ばれたので驚いて顔を上げるとそこにいたのは、

 

「よっ、簪」

 

想い人である忍野くんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

002

 

 

~一夏サイド~

 

 

今日は朝からミスタードーナツを食べている。もちろん忍の希望だけど

テナントとして入っているお店だと朝9時とか辺りから営業する。しかし忍が珍しく早起きしたので開店まで待てないと駄々をこねた。なのでわざわざ少し離れた所にある、朝7時から営業しているお店に来ている。

 

「しっかし朝食にドーナツって」

「何を言っておるお前様。ドーナツとはアメリカ軍では正式なレーション、つまり野戦食として採用されておるのじゃぞ。それにミスタードーナツには朝セットとして、朝からドーナツを食べるためのセットがあるんじゃ。それを否定するのはこの儂が許さぬぞ」

「いや、否定とかはしないけど・・・」

 

とは言うものの、朝はお米が食べたい。あとでコンビニに寄って、おにぎりでも買おうかな?

 

「それにしても・・・」

 

さっきから、他の客や店員がこっちをチラチラ見てくるんだよなあ。こっち、と言うか、忍をだけど。

ただでさえ金髪美少女ということで、注目を浴びてるのに、古風な言葉遣いがそれを加速させている。今はもう慣れたけど、初めの頃は胃が痛くなりそうだったのが懐かしい。

 

「お前様、おかわりのコーヒーを持ってまいれ」

 

飲み終わったコーヒーカップを渡してくる忍。確かにミスタードーナツの朝セットはコーヒーのおかわりが出来る。しかし幼女がコーヒーを嗜むという画は、見ていてなかなか壮絶だ。

でも、

 

「人を顎で使ってんじゃねーよ」

 

そういうのは自分で貰ってこい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミスタードーナツを出たあと、腹ごなしがてら散歩をしています。この辺りは普段来ない所だからなあ、目新しく感じる。

忍はお持ち帰りのドーナツを持って影の中に戻ったからそろそろコンビニにでもと思っていたら、

 

「彼処にいるのは箒か?」

 

箒が一人で歩いていた。

こんな所で何をしてるんだろう、って人の事言えないか。

 

「何してるんだ箒?」

 

 




あと2話くらいで八九寺を登場させます。

感想、評価、お待ちしております。


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おしのショッピング 其ノ壹

 

001

 

 

「つまり真宵が風邪をひいて・・・代わりに忍野くんが?」

「そういう事。もしかして迷惑だったかい?」

「そそそ、そんな事ない! ないないない! ハッ!」

 

申し訳なさそうにする忍野を見て、ものすごい勢いで否定する簪。言ってから気づいたらしく顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

「~~~////」

「ハッハー、元気がいいねぇ。それじゃ行こうか。折角の日曜日だ、有効に活用しないと」

 

忍野はそう言うと手を差し出し、簪は若干オドオドした様子で手を取り、二人は店の中に入って行く。

 

(こ、こ、こ、これって、デ、デート、みたい、って何を考えてるの///!?)

 

簪は軽いパニック状態になっていたが・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

レゾナンスに入って行く忍野と簪。その姿を物陰から見つめるふたつの影があった。

そこに居たのは買い物袋を持った鈴とセシリア。どうやら彼女たちは買い物の帰りのようだ。

 

「・・・あのさ」

「・・・なんですの?」

「・・・あれ、手ぇ握ってない?」

「・・・握ってますわね」

 

百人が見たら百人ともそう返すであろう言葉を発して、セシリアと鈴はあくどい笑みを浮かべる。

 

「ふふふ、チャーンス。これをネタに忍野を弄ってみる?」

「いいですわね。あの方がたじろぐ姿を見てみたいですわ」

 

普段あれだけふざけているが、忍野がたじろいだり弄られるというのは殆どない。けしてない訳ではないのだが二人は見たことがない。

 

いつも弄られてる鈴は仕返しに、セシリアは好奇心から忍野と簪を追ってみる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

002

 

 

 

~忍野サイド~

 

 

「えーっと、水着を買いに来たのか?」

「・・・うん///」

「・・・・・・」

 

今、水着売り場の前に来ています。水着を買いに来るんだったら断れば良かったかもしれない・・・。

海か~、嫌だな~。当日サボろうかな?

 

「そ、その、忍野・・・くん、わ、私のみ、みみみ、水着を、選んで・・・くれない?///」

 

水着か・・・。頼まれた以上、選ばなきゃいけないけど、

 

「俺、あんまりセンスないけど?」

「いい、選んで・・・」

 

いいんだ。なら選んであげなきゃな。ならまずは新作デザインから見てみるかな?

 

 

 

 

~簪サイド~

 

 

「これは、どう?」

「ん~、どうもパッとしないな。よし、次」

「それなら、これなら?」

「少し地味すぎるかな? 合ってないと思う」

「なら、こ、これは?///」

「ほとんど紐だから却下。っていうかそんなの選んだっけ?」

 

あれから忍野くんと店中を回って、何十着かの候補を選んで、更に候補を絞っている。新作デザインから定番のデザインまで色々見て回ったけど、まさかこんなに候補がでるなんて。

・・・冗談で紐みたいなのを選んだりしちゃったけど忍野くん、私のこと変態とか思ってないよね?

 

 

「やっぱりこの2つの内のどっちかかな?」

 

残った候補の中から二着の水着を見せてくれた。

 

一方は肌の露出の控えめなタンキニタイプの水着。白ベースのワンピースで所々小さな水色の花びらが入ったデザイン。

 

もう一方は胸元を強調するようなホルターネックタイプの水着。黒をベースに白のラインの入ったフリルがあしらわれて、胸元と腰にリボンがついているデザイン。

 

「どっちが、いい?////」

 

二着の水着を交互に体に当てて見てみる。忍野くんは真剣に選んでるのか、一切視線をそらさず私を見てくる。

見られるのは恥ずかしい///

 

「ん~、白い方は大人しさを演出するし、黒い方は大胆さを醸し出してるからね。どちらも簪に似合うと思うよ?」

 

似合うって///

大胆さ、それならこっちの黒い水着を選ぼう。これを着たらちょっとくらい私を意識してくれるかな?

 

 

 

 

 

 

~忍野サイド~

 

「こ、こっちにする」

 

ようやく決まったか。やっぱり女の子の衣服を選ぶのは自信ないな。簪も思うところがあるのか、顔を少し赤くしてるし。怒られないだけましか。

 

「それじゃあ会計してくるよ。そこで待っていてね」

「え、でもお金・・・」

「ん? ああ、奢るよ。水着のセンスとかあんまり自信ないからねぇ、まぁ迷惑料だと思ってよ」 

 

迷惑料ってのは本心であるが、女の子と一緒に買い物に来てるんだ、これくらいはしないと男が廃るってね。

・・・キャラじゃないな、うん。

 

簪から水着を受け取るとサッサと会計を済ませるためにレジへと向かおう。途中、男物のコーナーにあった水着を適当にひっつかんでいく。さすがに水着を持たずに臨海学校に行くのは不自然だからね、せめて形だけでも取り繕わなきゃな。

 

そうしているとポケットに入っている携帯電話が震える。

 

「ん? 着信?」

 

取り出して見ると電話を着信している。

発信者は、一夏か。

 

ピッ

 

「はいよー、どうした一夏? また女の子の裸でも見たのかい? 全く、ご同慶の至りだよ」

『“また”ってなんだよ!? 人をそんな変態的なキャラ設定にするな!?』

「そうだっけ? まぁいいや、それで何の用だ?」

 

すると、一夏がかなり歯切れの悪く喋り始めた。

 

『それが・・・、ーーーーーーなんだけど』

 

はぁ~、また“怪異”か。これで何度目だよ一夏、いい加減にしてくれよ。

でもまぁ、力を貸してやるかな。

 

「・・・やれやれ、全く。まさか電話で用件を済まされるとはな。さて、詳しく状況を教えてくれ」

『実はーーー』

 

・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーにしてる感じなんだ」

 

今回は行き遭ったのは一夏じゃないからな。こりゃ面倒だ、下手したら町自体を消されかねないからなぁ。さてどうするか。

 

そう思いながら会計を済ませようと電話片手にレジに立つと、

 

「アンタ、これも買いなさい」

 

突然、レジに割り込んできて、俺の買い物籠に自分の持っていた商品を放り込む女。

買い物籠に入れられたのは、多種多様な服に水着。 簪のものではない。 ましてや俺の水着でもない。

忙しいのに、面倒くさいな。

 

「知らないよ、自分で買いな」

「は? 男の分際で女の私に文句を言うの?」

 

だから何だと言うんだ。サッサと電話の続きをしたいんだけどなぁ。

 

「常識的な話だろうが。そもそもアンタとは初対面だ。 他人に奢らせるほどアンタはそこまで偉い人間でもないだろう? さっさと消えろ。それに電話中だ、邪魔すんな」

 

それ以上接するのも面倒だった。 この女が入れてきた衣服を、別の買い物籠に放り込んで返してやった。

なんだ? おもしろいほど顔を赤くしているぞ?

 

「警備員に突き出されたいの!?」

「どうぞご勝手に。あぁそれでなんだっけ?」

 

なんか好き勝手吠えてるけどわず電話に意識を向ける。

まったく、どこまで話してたか忘れちゃったよ。

 

「警備員! こっちに来なさいよ!」

 

女の金切り声に、付近をうろついていたであろう警備員が駆け寄ってくる。 会計は終わっていたが、警備員に囲まれてしまった。

 

『随分と騒がしいけど何かあったのか?』

「大した事じゃないよ。だけどもうちょっと待ってね」

 

電話の向こうにも聞こえてるのか、まったくもって面倒くさい。

 

「こちらの女性が乱暴をされたと言っていますが、本当ですか?」

「寝言は寝てないと妄言だぞ。せめて電話が終わるまで待てよ」

 

監視カメラとかの確認をしろよ、バカかよ。

 

「警察を呼びますよ?」

「呼ぶなら呼べよ。俺は電話を優先させるぜ」

 

もうどうでもいいな。こんな奴ら無視して電話の続きしよ。えーっと、何処まで話したかな?

ああ、思い出した。

 

「ああ、それで話の続きだけどーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

003

 

 

「ーーーそれじゃ、また後で」

 

ピッ

 

電話を終えて辺りを見回してみたら人集りが出来ていた。婦警さんと警備員、その後ろにバカ女と野次馬が集まっている。皆さんお暇ですねぇ~。

あ、簪もいる。

 

「電話は終わったか? それじゃあ逮捕するぞ」

 

電話が終わるまで待っていたのか、律義な婦警だな。あ、今は女性警察官って名称だっけ。まあどっちでもいいか、意味は同じだし。

しかしいきなり逮捕とは、世も末だねぇ。

 

「おいおい、ちょっと待て。俺が何したって言うんだい?」

「こちらの女性に乱暴を働いたんだから暴行罪だ。男風情がいい気になるなよ?」

 

前言撤回、この婦警ダメじゃん。男を軽視する発言を警察が公の場でするなんて、懲戒免職になっても知らないぞ?

あ、今の世の中じゃ女だから許されるんだ。嫌だねー。

さて、仕返しでもしてやろっかな?

 

「本当に、俺を、逮捕するんですか?」

 

そう聞いてから、俺はポケットから取り出した物を婦警にだけ見えるように見せた。

取り出したのはIS学園の生徒手帳だ。

 

それを見た瞬間、婦警は固まり冷や汗を流し始めた。俺がISを動かせる男と理解できたようだな。ふむ、屁理屈や言い訳をする前に畳み掛けるとしよう。

 

「俺は“ISを動かせる男”って事で、IS委員会からある程度の権限を貰っているぞ? アンタをクビにできる程度にはな。俺を逮捕するどころか、アンタが牢獄行きになってもいいのかな?」

 

婦警だけがわかるように小声で、聞いてるだけで冷静さを奪うように喋る。

 

権限とかは勿論、嘘だ。

IS学園の生徒はその学園としての性質上、多少は警察などに顔がきくが、ただそれだけで公務に口出しはできない。俺と一夏は男ではあるが、だからと言って特別に何らかの権利を与えられてはいない。

だが、そうとは知らない婦警は顔が青ざめて今にも倒れそうになっている。

次で止めだな。

 

「そこの女を逮捕するなら、アンタの事は不問にするけど、もし、俺を逮捕するって言うなら・・・明日には無職だな」

 

「わ、わかりましたからそれだけは・・・」

 

チョロいw。

 

「いやー、誤解が解けて良かったよ。悪いのはあそこにいる嘘つきだからねぇ。ちゃんと逮捕してあげてね」

 

わざと周りの野次馬にも聞こえるように言うと辺りはざわめきだした。バカ女は目を見開いて、何を言ってるのか理解できてないような顔をしていだが、すぐに吠え始めた。

 

「何言ってるの!? お巡りさん、その男が嘘つきよ! 逮捕しなさい!!」

 

しかし既に遅し、婦警はすぐにバカ女に手錠をかけた。

 

「ちょっと!? なんで女である私を逮捕するのよ!?」

「うるさいわよ! アンタのせいで・・・、アンタのせいで!!」

 

バカ女はうるさいが、婦警さんお怒りだねぇ。まぁ、プライドが高そうだから男に下手にでた事がよっぽど屈辱だったんだろうな。

そうこうしてるうちに、婦警とバカ女は互いに罵りながらこの場をあとにした。

・・・警官を罵るってやっぱりバカだな。

 

バカ女が捕まっていなくなると、野次馬たちも去っていき、数分後には何事もなかったようになっている。

 

さーて、簪はどこに・・・居た。人影に隠れててわかんなかったよ。

ってあれ? 後ろを指差しながら簪が何か言っている。

 

「忍野くん、後ろ!」

 

へ? 後ろって?

 

「痛ってッ!?」

 

振り向こうとした矢先、誰かに頭部を殴られた。

すげー痛い! でも何か慣れた痛みのような?

 

「何をしているんだ、お前は?」

 

振り向いた先に居たのは、山田先生を引き連れた千冬がいた。

 




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ほうきマイマイ

今回は完全に箒視点の話です。
では、本編。どうぞ。



 

001

 

 

~箒サイド~

 

学校が休みの今日、私は親族に管理してもらっている実家に帰ろうとした。

 

した、と言うことは家には帰っていない。帰れないほど遠くではない、IS学園から電車で一時間もしないうちに最寄り駅に到着する距離。

しかしそれでも私は家に帰らない。

帰るための決心がつかないでいるのだ。

 

実家である篠ノ之神社、私の家であるが、同時にあの人の家でもある。

 

“篠ノ之束”

 

世間ではISを作った天才としてもてはやされてるが、私はあの人を天才だとは思わない、思いたくない。

私はあの人が嫌いだ。

 

いや、それだと少し語弊がある。正しくは嫌いになった、である。

あの人がISを作ったせいで、私は家族と離れ離れになってしまったのだから。IS自体は否定しない、けれどもそれが大元で、私と両親は別々に全国を転々とさせられたのだ。互いに会うことができず、連絡も政府が取り決めた日の数分の電話だけ。友達を作れず、出来てもすぐに引っ越しで、その後の接触を禁止された。初めの頃は偽名を使わされた事もあった。そんな生活をしいられて、その原因を作ったあの人を、好きでいられる筈がない。

 

だから私は、あの人が好きだった頃を思い出したくないから、家に帰りたくない。

 

 

結局のところ、そんな幼稚とも思えることを理由に、帰路の途中で目に映ったこの公園にきている。日曜日の朝、すでに日は見上げる位置にまで登っているが、公園には誰もいない。

 

・・・いや、一人だけいた。

公園の隅っこに設置してある案内板、そこにあるこの辺りの住宅地図と睨めっこをしている、小学生が一人。

 

大きなリュックサックとツインテイルが印象的だった。しかしその子も、何かを思い出したかのように公園から去っていった。

 

また一人だけ。

・・・・・・。

べ、別にボッチではない! だからこういう一人っきりという状況に戸惑ってるだけだ! 本当だぞ!?

 

 

 

 

 

 

002

 

 

 

実家に帰る気になれなかった私は、そろそろ学園に戻ろうか・・・。

と、そう思っていると視界の端に大きなリュックサックが映った。見るとさっきと同じように住宅地図に向かっている小学生がいた。

 

ふむ、迷子という奴か。

 

「どうした? 道にでも迷ったのか?」

 

女の子は振り向いた。ツインテイルの、前髪の短い、眉を出した髪型。利発そうな顔立ちの女の子だった。

女の子はじっと私を、まるで吟味するように見てから口を開いた。

 

「話しかけないで下さい。あなたのことが嫌いです」

「・・・・・・」

 

ゾンビのような足取りでベンチに戻る。

嫌いって。初対面で、しかも小学生から言われるとここまで傷つくとは・・・。

し、しかしだ、迷子をほっとくわけにはいかないだろ!?

私は意を決して、もう一度話しかけてみた。

 

「おい、お前」

「・・・・・・」

「迷子なのだろ? どこに行きたいんだ?」

「・・・・・・」

「そのメモ、ちょっと見せてみろ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

再びゾンビのような足取りでベンチに戻る。

無視された・・・。

小学生にシカトされるのは、意外と堪えるな。

ええ~い、こうなったら!

 

「ワァ!!」

「ひゃっ!」

 

後ろで大声を出してみるとやっと振り返ってくれた。

 

「な、なんですかいきなりっ!」

「いや、大声を出したのは悪かった」

 

振り向いたのはいいが凄く睨まれている。

 

「ただ、お前、なんか困ってるみたいだったから、力になれるかなと思ってさ」

「いきなり小学生を驚かして楽しんでるような人に、なってもらうような力なんてこの世界にはありませんっ! 全くもって皆無ですっ!」

 

凄く警戒されていた。

 

「えっと、私の名前は、篠ノ之箒だ」

「箒ですか。掃除用具みたいな名前ですね」

「・・・・・・」

 

ため口・・・。

しかも人が気にしてる事を平然と言う。

 

「埃臭いですっ! 近寄らないでくださいっ!」

 

酷いことを言う。しかしここで怒ってはいけない、我慢しなければ。

 

「それで、お前はなんて名前なんだ?」

「わたしは、です。わたしは八九寺真宵(はちくじまよい)といいます。お父さんとお母さんがくれた、大切なお名前です」

 

八九寺か、初めて聞く苗字だな。

 

「とにかく、話しかけないでくださいっ! わたし、あなたのことが嫌いですっ!」

「そんな警戒しなくてもいい。私はお前に危害を加えたりしないぞ」

「わかりました、警戒のレベルは下げましょう」

「それは良かった」

「では、掃除用具さん」

「掃除用具さん!? 誰のことだ、それは!?」

 

つい怒鳴ってしまった。

しかし怒鳴ってもいいだろう!? いくらなんでも失礼過ぎるだろ!?

 

「怒鳴られましたっ! 怖いですっ!」

「いや、怒鳴ったのは悪かったけれど、でも、掃除用具さんは酷いだろ!」

「では、何とお呼びしましょう」

「それは、普通に呼べばいいのでは」

「ならば、篠ノ之さんで」

「ああ、普通でいいな」

「わたし、篠ノ之さんのことが嫌いです」

 

何一つ改善されていなかった。

 

「臭いですっ! 近寄らないでくださいっ!」

「埃臭いより酷いぞ!?」

「む・・・確かに、いくらなんでもただ臭いとは、女性に対して酷い形容だったかもしれません。訂正しましょう」

「ああ、是非ともそうしてくれ」

「水臭いですっ! 近寄らないでくださいっ!」

「意味が前後で支離滅裂だぞ!」

「なんでも構いませんっ! 迅速にどっか行っちゃってくださいっ!」

「いや・・・、だから、お前、迷子なのだろ?」

「この程度の事態、わたしは全く平気ですっ! この程度の困りごとには、慣れっこなんですっ! わたしにとってはとっても普通のことですっ! わたし、トラベルメイカーですからっ!」

「旅行代理店勤務か、凄いな」

 

それなら本当なら、迷子になんてなるわけないたろうが。

 

「迷子を見過ごすことは出来ないな、ほら」

「あ、ちょっとっ!」

 

八九寺からメモを奪って書かれてる住所を見る。

ふむ、割と近くだな。

 

「では・・・行くぞ、八九寺」

「え・・・どこへですか?」

「だから、このメモの住所だ。近くだから案内するぞ」

「・・・はあ。案内、ですか」

「んん? お前、迷子なんじゃないのか?」

「いえ、迷子です」

 

はっきりと、それを肯定した、八九寺。

 

「蝸牛の、迷子です」

「は? カタツムリ?」

「いえ、わたしーーー」

 

何か言おうとして首を振る。

 

「わたし、なんでもありません」

「それでは行くぞ、八九寺」

 

動こうとしない八九寺の手を強引につかんで、引っ張るような感じで公園を後にした。

 

 

 

 

 

 

003

 

 

八九寺と手をつないでメモに書かれている住所を目指して歩いている。

すると突然、声をかけられた。

 

「何してるんだ箒?」

「いい一夏!? なんでここに!?」

 

驚いて顔を上げると、そこには一夏がいた。

どうやらメモを見ていて一夏が近づいて来たのに気付かなかったようだ。

 

「なんでって、まあ散歩かな? そういう箒は?」

「迷子の案内をしているところだ」

「迷子って?」

 

そう言うと一夏は辺りを見回す。ここに居るというのに、全く。

私は思わず笑みを浮かべながら、私の後ろに隠れてる八九寺を一夏から見えるように体をずらす。

 

「この子だ。名前は八九寺真宵と言うらしい」

「え? ・・・迷子の案内なんて優しいな、箒は」

「と、当然のことをしてるまでだ!」

 

一夏の様子が少し変だったが、割とよくあることだから特に気にしない。

六年の歳月経て再会した幼馴染みは、時々奇行にはしるようになっていた。自分の影に向かって何かしていたり、独り言を話していたり。部屋を訪ねた時には、一夏しか居ないのに、なぜか飲みかけのカップが二つあったりした。

・・・悪い病気なら治ってほしい。

 

 

「・・・箒、俺もついて行っていいか?」

「別に構わないぞ。そうだろ八九寺?」

「え、ええ。わたしは特に・・・」

 

同意を求めるように八九寺に話をふるが、どうも歯切れが悪い。一体どうしたと言うんだ?

 

 

数分後、高校生二人と小学生一人の珍道中が始まった。一夏と八九寺は互いに話もしないが・・・。

他人から見たらどう見えてるのだろうか?

 

「それで箒」

「なんだ一夏?」

「その住所には何があるんだ?」

「そう言えばそうだ。八九寺、この場所には、一体何があるんだ?」

 

道案内をする立場として、それは聞いておきたい。ましてや小学生女子の一人旅ともなれば、尚更だ。

 

「ふーんだっ。話しませんっ。黙秘権を行使しますっ」

「・・・・・・」

 

生意気な迷子だな、おい。

子供が純真無垢だなんて、誰が言ったのだろうか。

 

「教えないなら連れて行ってやらないぞ?」

「別に頼んでませんっ。一人で行けますっ」

「でもお前、迷子だろ?」

「だったら、なんですかっ」

「いや、八九寺、あのな、後学のために教えてあげるけど、そういうときは、誰かを頼ればいいんだぞ」

「自分に自信が持てない篠ノ之さん辺りはそうすればいいですっ。気の済むまで他人を頼ってくださいっ。でも、わたしはそんなことをする必要がないんですっ。わたしにとってはこの程度、日常自販機なんですからっ!」

「定価販売するな!」

 

変な相槌だった。

人の手なんて借りる必要はないと、他人に助けてもらう必要なんて皆無だと、そう確信してるようだ。

 

「・・・うむ」

 

ポケットからお菓子を取り出す。

 

「八九寺、お菓子をあげよう」

「きゃっほーっ! なんでも話しますっ!」

 

馬鹿な子供だった。

・・・この子、そのうち誘拐されるのではないだろうか?

 

「その住所には、綱手さんという方が住んでいます」

「綱手? それは、苗字か?」

「立派な苗字ですっ!」

 

なにやらご立腹のようだ。気に障るようなことは言ってないはずだが。

 

「どういう知り合いなんだ?」

「親戚です」

「親戚ね」

 

つまり、日曜日を利用して、親戚の家に遊びに行く途中なのか。休日の一人旅という小学生の冒険も、迷子によって中途破綻ということらしい。

 

「そういえば、篠ノノ之さんはーーー」

「ノが一個多いぞ!?」

「失礼。噛みました」

「気分の悪い噛み方をするな・・・」

「仕方がありません。誰だって言い間違いをすることくらいあります。それとも篠ノ之さんは生まれてから一度も噛んだことがないというのですか?」

「ないとは言わないが、少なくとも人の名前を噛んだりはしない」

「では、“バスガス爆発”と三回言ってください」

「それ、人の名前ではないだろう」

「いえ、人の名前です。知り合いに三人ほどいます。ですからむしろ、かなり一般的な名前であると思われます」

 

子供の嘘って、こんな透け透けなのだな。

 

「バスガス爆発、バスガス爆発、バスガス爆発」

 

言えてしまった。

 

「夢を食べる動物は?」

 

間髪いれず、八九寺が言う。

いつの間にか十回クイズになっていた。

 

「・・・バク?」

「ぶぶー。外れです」

 

したり顔で言う八九寺。

 

「夢を食べる動物。それは・・・」

 

そしてにやりと不敵に笑って。

 

「・・・人間ですよ」

「うまいこと言うな!」

 

この子は本当に小学生なのか?

そうしていると一夏が立ち止まる。

 

「ところで箒。いったい何処まで行くんだ?」

「えーっとだなーーー」

 

私は八九寺から預かったメモを読み上げる。すると一夏は近くにあった、古びた町内の案内板を見る。

 

「それって行き過ぎてない?」

「なに?」

 

私も案内板に描かれた地図を見てみる。

 

「ほら、今ここだろ? 目的地はこっちじゃん」

「ほ、本当だ」

 

錆び付いて所々わからなくなっているが、おおよその現在地と目的地は分かった。どうやら本当に行き過ぎてしまったようだ。

 

 

もう一度住所の場所を目指して歩きだす私達。一夏はそうだが、八九寺も黙ったままだ。

八九寺に至っては、俯いたまま、私の手に引かれてる。

 

「・・・箒。悪いけどもう一度住所を教えてくれないか?」

「仕方のないやつだな」

 

私は再びメモの住所を読み上げる。

 

「・・・また、行き過ぎてる」

「え?」

 

行き過ぎてるって、住所を?

そんな馬鹿な事が・・・、

 

「見て見ろよ」

 

一夏が指差す先には、再び古びた住宅地図の看板があった。そこに記されていたこの場所の住所は、目的地を通り過ぎていた。

 

しかし二回目?

知らない土地なのは仕方がない。それにしても、地図を見た上で、それでも間違えるのは。

地図・・・?

 

「そうか。区画整理で地図が役に立たなくなっていたのだな。だから土地勘のない私達はーーー」

「いや。そういうことじゃない」

 

私の言葉を否定する一夏。

その様子は、いつもの一夏ではなく、どこか忍野に似た雰囲気を纏っていた。

 

「道が増えたり、家がなくなったりあるいは新しくできたりはしてるけど、昔の、地図に書かれている昔の道が完全になくなっているわけじゃないから・・・構造的に迷うのはおかしい」

 

言われてみればそうだ。なぜ迷うのだ?

 

 

「何度行っても、辿り着けないんですから」

 

私の疑問に答えるように、八九寺は。

 

「わたしは、いつまでも、辿り着けないんです」

 

八九寺は、繰り返した。

 

「お母さんのところにはーーー辿り着けません」

 

さながら壊れたレコードのように。

壊れてない、レコードのように。

 

「わたしはーーー蝸牛の迷子ですから」

 

 

 

 

 

 

004

 

 

 

『“迷い牛”』

 

「うし? 牛じゃなくてカタツムリなんだって」

『カタツムリを漢字で書きゃ牛って入ってるだろーが。渦巻きの渦の、さんずいを虫偏に変えて、それで牛。蝸牛だよ。

 

『人を迷わせる類の怪異は、そりゃあ数え切れないくらいにいっぱいいるけれど、そのタイプで蝸牛だって言うなら、迷い牛で間違いないな』

 

 

 

私、篠ノ之箒と織斑一夏、八九寺真宵の三人は、法律間近の近道も気が遠くなるほどの遠回りも、しかし結果から言うとそれらは全て、見事なまでの徒労に終わった。

最後の手段で一夏の専用機で現在地と地形データをリンクしようとしたが、

 

エラーが発生してリンクが切断された。

 

私は交番に八九寺を任せようとしたが、その交番にすらたどり着くことが出来なかった。

 

どうしようかと途方に暮れていると、何かを思い付いた一夏は誰かに電話をかけた。電話の相手としばらく説明なりツッコミ(?)なりしてから携帯を、私にも会話ができるようにハンズフリーにした。

一夏が電話をかけた相手は忍野だった。

 

 

「ちょっと待て、その怪異とはなんだ?」

『あれ? 一夏から聞いてない?』

「何も聞いていないぞ」

『はぁ~、一夏。全部俺にまる投げかい? ずいぶんと酷いな』

 

電話の向こうでどんな顔をしているか手に取るようにとわかるようなため息を吐く忍野。

そんなことより怪異とはなんだ?

 

『それじゃあ箒、簡単に説明するけど怪異って言うのは神様や妖怪、所謂オカルトの類の総称だ。幽霊とか神隠しも含まれる。まぁ無理に理解しろとは言わないよ、急にこんな事を言われたら混乱するからねぇ。でも頭の隅にでも入れといてね、怪異の意味がわからないんじゃ話が進まないから』

 

いろいろ口を挟みたいところがあったが、とりあえず黙って聞くことにした。

一夏も知ってることなのか、何ら顔色を変えずに話を聞いている。

 

『さて、迷い牛の説明に戻ろう。怪異としての種類は、魑魅魍魎とか怪奇現象とかより、幽霊とか、そっちの類。

 

『マイナーだし名前はまちまちだけど、まあ、それは元が蝸牛だから仕方がないさ。その子の名前、八九寺真宵って言うんだろ?。

 

『八九寺っていうのは、これはそもそも、竹林の中にあるお寺のことを、指し示す言葉だったんだ。正しくは、『八九』ではなく『淡い』『竹』で、淡竹という。淡竹寺。竹って言えば、まず孟宗竹と淡竹の二種類だろう? また、淡竹は、『破竹の勢い』の『破竹』ともかかっているんだ。読みは同じだからねぇ。

 

『この場合はあんまり関係ないんだけれど、それを十中八九の『八九』と置き換えたのは、言ってしまえば単なる言葉遊びなんだよ。一夏はともかく、箒は知ってるかな? 四国八十八箇所とか、西国三十三箇所とか」

 

「ああ・・・まあ、一夏と違うからそれくらいなら」

「ちょっと待て、なんで俺が知らない事を前提に話をするんだ!?」

 

「『だって一夏だし』」

 

「二人でハモるなぁぁぁ!」

 

そんなことを言われても、一夏はそういった文化を知らないだろ?

前に“神社と宮の違いってなんだ?”って聞いてきたのを忘れたとは言わせないぞ。

 

『そういうのって、有名無名を区別しなければ結構あるわけだ。八九寺ってのも、言わばその一種でね、八十九個のお寺がそのリストの中に収められているのさ。勿論、八十九というのは言ったように『淡竹』とかかっているんだけれど、後づけの意味じゃ、四国八十八箇所よりもひとつ多い数ってところもあるだよ。

 

『選ばれた八十九のお寺は、大概が関西圏のお寺だからなぁ、その意味じゃ、四国八十八箇所よりは西国三十三箇所の方がイメージに近いかな。ただ、ここからがこの話の肝でさあ、悲劇の始まりというわけなんだよ。

 

『ほらさー、八九って『やく』、つまり『厄』に通じちゃうところがあるだろ? そういうのって、寺院の頭に冠しちゃったら、否定の接頭語になっちまうからな、よくなかったんだよ。

 

『そういう解釈が広がっちまって、八九寺という括りは、その内に廃れたのさ。八十九の内に指定されていたお寺も、ほとんどは廃仏毀釈のときに潰れて、今現在の現存数は四分の一以下になってる。しかも、八九寺に選ばれていたことは、ほとんどひた隠しにしている感じなんだ』

 

何だか嘘なのか本当なのかわからない説明だ。

しかし話は続かなかった。

 

『ーーーーーー!?』

『ーーーーーー?』

 

なんだか電話の向こうが騒がしい。

警備員? 

いったい忍野は何をやっているのだ?

 

『ああそれでなんだっけ?』

「随分と騒がしいけど何かあったのか?」

『大した事じゃないよ、だけどもうちょっと待ってね』

 

すると、向こうで何か言い争いをしているか、時折ヒステリックな声は聞こえてくる。

しばらくして一旦静かになると再び忍野が話始めた。

・・・なんでそのまま話始めれるんだ?

 

『ああ、それで話の続きだけど、さっき話した経緯ーーー歴史を理解した上で、改めて八九寺真宵って名前を見ると、どうだろう、妙に意味ありげで困っちゃうよね、普通は。上下が繋がっていて、さ。大宅 世継とか夏山 繁樹みたいなもんだ。『大鏡』くらいは授業で習っただろうから一夏だって覚えてるだろ? けれど、下の名前がマヨイっていうのはどうなんだろうなあ? それこそ安易で、安易。ネーミングセンスを疑うよ』

 

確かに寺にマヨイ、意味ありげではあるけれどくだらない感じだ。

 

「でもこの子が、八九寺って苗字になったのは、つい最近なんだ。それ以前は、綱手だったって」

『綱手? へえ、綱手かよ・・・よりにもよって。よりにもよって、糸がよれ過ぎだな。完全にほつれちまってる。因縁にしたって、そりゃさすがに出来過ぎだなあ。八九寺に綱手・・・なるほど、それで真宵か。むしろ本命はそっちか。真の宵夜ね』

 

何か一人だけで納得しているが、私の訊いてたことの説明がまったくされていない。

 

「それで、どうすれば、こいつを目的地まで連れて行くことができるんだ?」

『・・・・・・』

 

私が問うと黙ってしまう忍野。一夏にも何か言ってもらおうとそちらを向くが、何かを言いかねてるような、そんな顔してこちらを見てくる。

なんだというのだ?

 

『迷い牛という怪異は、目的地に向かうのに迷う怪異ではなくて、目的地から帰るのに迷う怪異なんだ』

「か、帰るのに?」

『そ、往路じゃなくて復路を封じる』

「え、でも、それがどうしたというのだ? 八九寺は家に帰ろうとしているわけじゃない。あくまで、綱手家っていう目的地に向かっているのであってーーー」

 

「ごめん箒。俺はてっきり、“俺が”間違っているんだと思ってたんだ」

 

突然口を開く一夏。

何を言っているのだ? 一夏は何も間違っていないだろ?

 

 

「俺には」

 

一夏は八九寺を指した。

けれどもそれは、全然違う、あさっての方向だった。

 

「八九寺さんの姿が見えないんだ」

 

 

 

 

 

005

 

 

「ほんの十年ほど前の話です。あるところで、一組の夫婦が、その関係に終焉を迎えました。かつては周囲の誰もが羨み、周囲の誰もが、幸せになると信じて疑わなかった、そんな二人ではありましたが、婚姻関係にあった期間は十年にも満たない、短いものでした。

 

「その夫婦に幼い一人娘がいましたが、その子は、父親に引き取られることになりました。母親は父親から、二度と一人娘とは会わないことを、誓わされました。そして一人娘も、二度と母親とは会わないことを誓わされました。

 

「時が過ぎ、9歳から11歳になった一人娘。一人娘は、自分の母親の顔が思い出せなく・・・いえ、思い出せてもそれが自分の母親の顔なのか、確信が持てなくなっていました。時間が、思いや記憶を風化させていたのです。どんな物も、形ない物ですら、劣化していきます。

 

「だから、一人娘は母親に会いに行くことにしました。勿論父親にはそんなこと言えるはずもありませんし、母親にあらかじめ連絡を入れるようなこともできません。母親が今がどんな状態にあるのか、一人娘は全く知らないのですから。それに、嫌われていたら、迷惑がられたら、忘れられていたら。とても、ショックだから。

 

「だから、いつでも踵を返して家に帰れるように、一人娘は、誰にも何も言わず、親しい友達にさえ内緒で・・・母親を訪れました。訪れようとしました。

 

「髪を自分で丁寧に結って、お気に入りのリュックサックに、母親が喜んでくれるだろう、そう信じたい、昔の思い出を、いっぱい詰めて。道に迷わないよう、住所を書いたメモを、手に握り締めて。

 

「けれど、一人娘は、辿り着けませんでした。どうしてでしょう。どうしてでしょう。本当に、どうしてなんでしょう。目の前に、火を噴く鉄の柱さえ落ちてこなければーーー。

 

 

「その一人娘というのが、わたしです」

 

八九寺真宵は、告白した。

いや、それは懺悔だったのかもしれない。今にも泣き崩れてしまいそうな表情をみていると、そうとしか思えないくらいだった。

 

八九寺の懺悔が終わったのを見計らったかのように、忍野は説明を再開した。

 

『迷い牛っていうのは素人でも分かりやすい言い方をすると、目的地に辿り着けなかった者が、他者の帰り道を阻害するってやつさ。行きの道、それに帰り道ーーー往路と復路。巡り巡る巡礼。つまり八九寺だ。

 

『マヨイとは元来、縦糸と横糸がほつれて寄ってしまうことを言うんだ。だから糸偏で紕とも書き、それは成仏の妨げとなる、死んだ者の妄執をも意味する。それに宵という字は、それ単体では夕刻辺り、即ち黄昏刻、言うなれば逢う魔が刻を意味する。これに真の字を冠するとそれは例外的に否定の接頭語となり、真宵、つまり真夜中、午前二時を指す古語となる。そう、オカルトに疎い人間でも知っている、丑三つ刻を意味する。

 

『これだけ言えばもう分かっただろ? そこに居る、居るであろう八九寺真宵こそが蝸牛、迷い牛の正体。死後、蝸牛に成る。いわば地縛霊の一種さ』

 

 

「違う・・・」

 

『ん?』

 

「私が訊きたかったのは、八九寺を、お母さんのところに一体どうやったら連れて行ってやれるかって、それだけだった。そんな、知ったところで何の意味も持たない知識なんて、どうでもいい」

 

「お、おい箒ーーー」

『君は自分が何を言ってるのか分かっているのかい? その子、そこにはいないぞ。そこにはいないし、どこにもいない。八九寺真宵・・・彼女は死人、幽霊。怪異そのものでーーー』

「それがどうした!」

 

怒鳴ってしまった。助けを求めておいて筋違いなのかも知れないが、それでも怒鳴らずにはいられなかった。

 

「し、篠ノ之さん、痛いです」

 

私の手を離そうともがく。

八九寺の手を強く握り締め過ぎて、痛いらしい。

そして言う。

 

「あ、あの、篠ノ之さん。電話の、忍野さんの、言う通りです。わたし、わたしは」

「黙っていろ!」

 

何を喋っても、私にしか届かない。

けれど、八九寺は、私にしか聞こえない声で、自分の正体を、精一杯告げていた。

 

「こいつは、一言目からいきなり、とんでもないことを言ったんだぞ!?」

 

ーーー話しかけないでください。あなたのことが嫌いです。ーーー

 

「わかるのか? ついてきて欲しくないからって、遭う人間全員に、そんな台詞を言わなくてはならない八九寺の気持ちが、貴様に、貴様たちにわかるのか!?」

 

一夏と電話の向こうの忍野にむけて怒鳴ってしまう。誰かを頼ることも出来ず、おかしいのが自分だとも言えない、ただ永遠と迷い続けなければならない。そんな八九寺を見捨てることを私には出来ない。

 

気がつけばいつの間にか、私は涙をながしていた。その涙が八九寺の手に落ちるが、それすら一夏には見えていない、そう思うと涙はとめどなく溢れてくる。

 

すると、

 

『ハッハー、優しいな箒は。そう言う甘ちょろいことを言うのは一夏だと思ってたんだけどねぇ。それじゃあその迷子を、目的地に送り届けることが出来る今回に限り使えるだろう裏技を一つ伝授しよう』

 

軽薄な変わり者が手を貸してくれた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

006

 

 

そして一時間後、八九寺が十年間目指し続けていた場所、あのメモに書かれていた場所に辿り着いた。

だが、私には達成感はなかった。

 

八九寺の母親の家、綱手家は、更地になっていたのだった。

フェンスで囲まれて、立ち入り禁止の看板が立っていた。雑草は伸び放題で、看板の変色具合から見て随分と昔から、この形になっていたであろうことがうかがえた。

 

区画整理。宅地開発。

新しい道を通っていた時点で、考えるべき可能性だったのだろうけど、完全に失念していた。

 

「・・・こんなことが、あっていいのか」

 

私のつぶやきに一夏は何も答えない。

 

忍野が教えてくれた、今回に限り使えるだろう裏技というのは、迷い牛の怪異としての属性が、幽霊であるがゆえの弱点をついた方法ーーーらしい。

 

“幽霊は、本質的な情報的記憶が蓄積しない”

 

この手の怪異は、基本は存在しないのが当たり前だそうだ。見る者がいなければ、そこにはいない。

曰わく、私が案内図に目を遣ったその瞬間に、そこに現れ、その時点から存在し始めたーーーらしい。継続的な存在ではなく、目撃された瞬間的な現れ。見えてるときしかその場にいない。

 

だが観測者、見ている者がいるときにしか存在しないから蓄積しないものがある。

情報的記憶、知識だ。

 

私のように土地勘のない者は勿論、ただその付き合いで、八九寺が見えていない一夏でさえ迷わせることができる。

 

しかし、知らないことは知らないのだ。

八九寺自身の記憶としては知っていても、対応できない。

十年どころか二十年以上前からある、GPSみたいな位置情報を取得する手段。八九寺が“知識”として知っていたので、ISのリンクを遮断できたーーーらしい。

 

だから彼女の知識にないものを使う。たとえば、区画整理。

私も一夏も知らないが、十年前に較べて変わってしまった町並み。近道でも遠回りでもない、勿論まっすぐでもない“新しく作られた道ばかりを選択したルートを使えば”、迷い牛くらいの怪異では対応できない。彼女がどれだけ最新の地図を見て、新しい道を“記憶”として覚えても、それは“知識”とし反映されない。

だから今回に限り、区画整理で新しい道があった今回だけ可能な方法だ。

 

結果から言えば、これは成功だった。

最近作られたであろう、アスファルトが黒々しい道だけを選び、古い道や舗装し直しただけの道をできるだけ避けて、一時間。

本来ならば、あの公園から徒歩で十分もかからないような距離を、一時間もかけて。

 

「う、うあ」

 

隣から、八九寺の嗚咽が聞こえた。

やっとのことで辿り着いた目的地が、十年もかけて目指した場所がなくなっていたのだ。どう慰めようかと、私はそちらを振り向く。

見ると八九寺は泣いていた。

けれども俯いてではなく、前を向いて、家があったであろう、その方向を見ている。

 

「う、うあ、あ、あーーー」

 

そして。

タッ、と、八九寺は、私の脇を抜けて、駆けた。

 

 

「ただいまっ、帰りましたっ」

 

 

更地へと駆けた八九寺の姿は、すぐにぼやけて、まばたきをした次の瞬間には、私の視界から消えてしまった。

いなくなってしまった。

 

 

 

 

 

007

 

 

「お疲れ様、箒」

「一夏・・・」

 

八九寺を送り届けた私に労いの言葉をかける一夏。いつもなら嬉しいが、今の私は胸の内にあった疑問をぶつけた。

 

「なあ一夏。お前たち二人は、普段こんな経験をしているのか? 自分にだけ見えて、他人には見えない、そんなものを経験をし続けているのか?」

 

自分が正しいのか、それとも他人が正しいのか、第三者からしか正しい判断ができない。いや、判断できるかもからないようなものと関わり続けているのだろうか?

 

だとしたら、そんなの、悲し過ぎる。

 

「・・・いつかは、答える」

「・・・そうか」

 

・・・やはり一夏は優しいのだな。

“答えない”と言う選択があっただろうに、それを選ばない。怪異と言うものに行き遭った私に対して何か思っているのか、それとも他の思惑があるのか。

どちらにしても今は待つだけだ。一夏が話してくれる、その日まで。

 

夏休みになったら、実家に帰ってみよう。

今度こそ。迷ったり寄り道したりせず。

 

自分の家に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょう?
ほぼ原作と同じ展開でがっかりでしたか?
もしそうだったらごめんなさい。

ご意見、ご感想をぜひともお願いします。


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おしのショッピング 其ノ貮

 

004

 

 

~忍野サイド~

 

「全く、お前は騒動しか起こさないのか?」

「今回ばっかりは悪いの俺じゃないだろ」

 

千冬に正座させられながら説教されている。事の顛末を説明したのに、これって理不尽じゃね?

俺悪くないだろ? 簪、山田先生、止めてくださいよ。

 

 

「で、そこに居る二人、いい加減出て来い」

 

千冬に呼ばれて物陰から出てきたのは鈴とセシリアだった。

何やってるんだよお前ら。そして簪はなんで二人を見た途端、顔を真っ赤にしてるんだ。

簪まで風邪か?

 

「「ど、どうも。織斑先生(千冬さん)」」

「っていうか。お二人さん、何やってんの?」

 

買い物袋を持ってるってことはもう買い物終わってるんじゃないのか?

 

「え、えーっと、買い忘れた物がありまして、それを買いに」

「そ、そうよ! なんか悪い!?」

「お前は口が悪い」

 

まったく、この二人は何をしてるんだ。

 

「それにしても、お前たちは変わり映えしないな」

 

千冬に言われて、改めて自分とみんなの服装を観てみる。

 

俺:学生服によく似た私服

簪、鈴、セシリア:学生服

 

・・・確かに変わり映えしない。

まぁ俺はともかく、IS学園の生徒はナンパ除けとかのために外出時も制服って割と普通だからね。

簪たちもそんな感じかな?

 

「そういうあんたもいつものスーツじゃないか」

「ふん、私はこれが自然体だ」

「・・・色気のかけらもねぇな」

「余計なお世話だ」

 

そんなんだから今だに彼氏すら「全身の関節を逆に曲げるぞ?」・・・地味に恐ろしいこと言うな。ってかなんで考えてる事がわかる。

 

「あ、あー。私ちょっと買い忘れがあったので行ってきます。えーと、場所がわからないので凰さんとオルコットさん、ついてきてください。それに更識さんも」

 

山田先生は何かひらめいたような顔をした後、有無を言わせず生徒三人を連れて向こうへ行ってしまう。

 

俺と千冬だけがその場に残された。

すると、

 

「そうだ忍野。私の水着も選んでくれるか?」

「え、嫌だよ」

「・・・フンッ!」

 

ゴスンッ!

 

「是非とも選ばせてください」

 

殴られた。しかもいつもの数倍は痛い。

こうして俺は、千冬の水着も選ぶことになった。

 

頭痛い。

 

 

 

005

 

 

しばらくして戻って来た山田先生たちと合流した忍野と千冬。

これからどうするかとなり、お昼ご飯にすることにしてレゾナントのレストランへと向かう。

 

すると忍野は正面から歩いてくる、IS学園の制服を着た二人組に気がついた。

 

「あれ? ケイシー先輩と交通事故先輩?」

「ん? よう忍野。お前も買い物か?」

「ちょっと忍野!? 先輩への敬意はどうしたッスか!?」

 

忍野の声に反応してこちらに気づいた二人は、それぞれ返事を返した。

 

「そんなものあるかよ、このIS暴走族が」

「いくらなんでも酷いッスよ!」

「なら、何て呼べばいいんだ?」

「普通に名前で呼んで欲しいッス」

「では、murder先輩」

「殺人じゃないッスか!?」

 

どこかで見たようなやりとりを傍観している先生たち。ケイシーと呼ばれた先輩にいたっては大笑いしている。

なにが面白いのか・・・。

 

 

「・・・忍野くん、この人たちは?」

「先輩って言ってたけど?」

 

忍野ともう一人の先輩の会話が終わったのを見計らって簪と鈴は誰なのか質問する。

質問された忍野はすぐに紹介をすることにした。

 

「こちら三年生のダリル・ケイシー先輩」

「はじめまして、ダリル・ケイシーだ。アメリカの代表候補生をやっている」

 

背は千冬より少し高く、ベージュに近い色の髪でツインテールに犬耳のようなくせっ毛、日焼けのような褐色肌。立ち姿は見ていて“姉御”という言葉がしっくりくる。

 

「そしてこっちが二年生のフォルテ・サファイアこと、ひき逃げ犯だ」

「ちょ、逆ッスよ!? それじゃあ名前が“ひき逃げ犯”みたいじゃないッスか!?」

 

千冬と同じくらいの背丈。明るい茶髪のショートアップに健康的な白い肌。おてんば娘のような雰囲気。

しかしどうもしゃべり方のせいで小者臭というか、下っ端のような感じがしてならないが。

 

「事実だろ? ケイシー先輩を怒らせて逃げてる途中、俺のこと跳ね飛ばしただろうが。しかもISで。そのあと見向きもせずに立ち去った人をひき逃げ犯と呼ばず、なんて言うんですか?」

「それに関しては謝ったじゃないッスか!」

「フォルテ、いいから自己紹介をしろ。他の子達が困ってるぞ」

「・・・フォルテ・サファイア、カナダ代表候補生ッス」

「はいはい、先輩よくできましたねぇ~」

「バカにしてるッスか!? そうッスよね!? 絶対バカにしてるッスよね!?」

「ところでケイシー先輩は何をしに?」

「無視しないで欲しいッスよ!!」

 

 

((先輩に対してもこれなのか・・・))

 

鈴とセシリアは先輩を片手間で小馬鹿にする忍野を見て、“敬意”という言葉を知っているのか疑問に思いつつ呆れてしまった。少しでも色っぽい話を期待した自分たちがアホらしくなったのだ。

 

すると黙っていた千冬は“ISを使って跳ねた”というところに反応して、校内でのISの無断使用の有無を確認する。

 

「サファイア、もしや校内でISを使っていたのか?」

 

ここにきてやっと千冬に気づいたサファイアは大慌てで否認をする。

 

「おおお織斑先生!? なんでここに!? って、使っていないッスよ!? いや、使ってないです!! 私はしっかり校則を守ってるッス・・・守ってます!!」

「そうか。ところでケイシー、真相は?」

「寮の廊下で使っていて忍野を跳ねてます」

「ちょっと!?」

 

否認をするも、先輩に告発されてしまうサファイア。

有罪確定。

 

「サファイア、学園に戻ったら生徒指導室に来るように」

「そ、そんな・・・わかりました。ごめんなさいッス、だから拳を振り上げないで欲しいッス!!」

「わかればよろしい」

 

拳を納める千冬を見て心底助かったような顔をするサファイア。さすが先輩。千冬の制裁がどれほどのものか、正しく理解してるようだ。

一年生には千冬を盲信するあまり、その制裁を是非とも受けてみたいという自殺志願者があとを断たない。一度受けた者は目を覚ますが・・・。

 

 

「先生たちもこれからお昼ですか?」

「ええそうですよ。よかったらケイシーさんとサファイアさんもどうです?」

「いえ、私みたいな上級生がいたら一年生たちが・・・」

「そんなの気にするような子達じゃありませんよ」

「そうですか? それならご一緒させていただきます」

「やったー! 先生たちの奢りッスよね!?」

「い、いえ。先生として本当は奢ってあげたいのは山々なんですが、あまり持ち合わせがないので奢りはちょっと、いえ決して給料が安いわけではーーー」

「山田先生、わかりましたからその辺で。フォルテ、相手は先生だぞ? お前はもう少し礼儀というものをだな・・・」

 

サファイアの奔放な振る舞いに説教をするケイシー。しかしサファイアには寝耳に水、馬の耳に念仏。

 

そんな二人をよそに悩む先生二人。

 

「さて、結構な大所帯になってしまっているからどうするか」

「この人数だと、お昼の混雑時に入れるお店は限られてしまいますからね」

 

教師二人に生徒が六人。

八人も掛ける席はこんな時間に空いてない。

かといって誘った以上、別々に食事をするなんていうのは大人として示しがつかない。

 

すると千冬が何かを思いついた。

 

「なら知り合いが経営してるファミレスに行くぞ」

 

 

 

 

 

 

006

 

 

 

千冬に連れられてレゾナントを出る七人。

 

五分ほど歩いたところでとあるファミリーレストランについた。見たところ、ここも混んでいるようだが。

 

店に入ると店員さんが出迎えてくれたのだが、

 

「いらっしゃいませ! ワグナリアへようこそ!」

 

ポニーテールで小学生のような店員さんだった。




キャラ紹介

ダリル・ケイシー
(本作での外見イメージ:艦これの武蔵)

フォルテ・サファイア
(本作での外見イメージ:蒼き鋼アルペジオのキリシマ)

原作七巻に登場。二人とも専用機を持っていて、ダリルの方が褐色肌ということ以外、容姿描写すらないキャラ。
本作では上記の外見で専用機の名前から所属国家を決定。

ダリルの専用機
『ヘル・ハウンド・ver2.5』
ヘル・ハウンドはイギリス全土にある伝承、不吉な黒い犬の姿をした妖精ブラックドッグの別名。
この理由からイギリスに対して敵対心のある国、そしてフォルテの機体とコンビを組むことから、アメリカ所属にしました。

フォルテの専用機
『コールド・ブラッド』
コールド・ブラッドという名前の、アメリカの映画で製作国はカナダの作品がある。このことからカナダ所属にしました。


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おしのショッピング 其ノ参

最近になってやっと多機能フォームの使い方を知った作者です。こんなんでこの先大丈夫なのだろうか・・・?

それでは本編、どうぞ


 

007

 

 

「いらっしゃいませ! ワグナリアへようこそ!」

「久しぶりだな種島」

 

「「「・・・・・・」」」

 

絶句。

入店して普通に店員と話している千冬を尻目に絶句している他七人。

 

それもそうだろう。出迎えくれたのはどう見ても小学生だからだ。

 

「なんで小学生が?」ヒソヒソ

「い、家のお手伝いでは?」ヒソヒソ

「ここ家族経営ではないですわよ」ヒソヒソ

「まさかあれで中学以上ッスか?」ヒソヒソ

「ということなんだろうな」ヒソヒソ

「胸、大きいじゃない」ボソッ

「・・・別に、悔しく、ない」ボソッ

 

二人ほど店員の胸のほうが気になるようだが。

 

「ごめんなさい千冬さん。今、杏子さん居ないんですよ」

「いや、今日は生徒たちと食事をしに来ただけだ」

「そうですか。ではお席にご案内します」

 

 

 

 

 

「それでは、ご注文がお決まりになりましたらボタンを押してお呼びください」

 

一礼をしてから店の奥に消えてく小さな店員さん。

千冬御一行が案内されたのは窓際の一角で、四人掛けの席と六人掛けの席に別れて座っている。

 

四人掛けの席に千冬と山田先生とケイシーと鈴、六人掛けの席にサファイアとセシリアと忍野と簪が座っている。

 

 

「「「織斑先生! あの子は!?」」」

 

みんながまず聞いたのは種島と呼ばれた小さな店員さんの事だ。

 

「ああ、あの子は種島ぽぷら。近くの高校の生徒で、確か二年生の筈だ」

「「ブホォ!!」」

「「「年上!?」」」

「あれでタメッスか!?」

「高校生だったんですね~」

 

まさか小学生にしか見えない店員が高校二年生だと聞き、驚愕していた。

水を飲んでいた忍野とケイシーは、思わず吹き出してしまい咳き込んでいる。

 

「ケホッケホッ、あれでフォルテと同い年なんですか!?」

「そうだ。私も初めて会った時は驚いたさ。どうだ? サファイアよりしっかりしていそうだろ?」

「はい!」

「ちょっと!? 先輩も織斑先生も酷くないッスか!?」

「「そう言われたくないなら最も落ち着いた行動をしろ」」

「あ、あはは・・・」

「山田先生!? 笑ってないでフォローしてくださいッスよ!」

 

先生と先輩から味方なしの攻撃に晒されているサファイア。

 

「なぁ、あの子、ラウラより小さいよな?」

「ええ、恐らく・・・いえ、間違いなく」

「・・・高校二年生だと絶望的だな」

「お可哀想に、あの方の背丈はもう・・・」

 

自分たちの知り合いで最も背の低いラウラを思い出してる忍野とセシリア。セシリアはハンカチを目にあてながら、この先の種島の成長に涙した。

 

「・・・年上」

「まだ、希望がある・・・」

 

さっきからずっと自分たちの胸に手をあてている簪と鈴。

・・・そんなに気にしてたのかい?

 

 

「そんことより、千冬。あれはなんだ?」

 

忍野が指差す先には、席の片付けをしている店員がいた。いたのだが、

 

その腰には日本刀を下げていた。

 

「せ、先輩! 私サムライソードって初めて見たッス!」

「私だって初めてだ! ということ彼女はサムライか?」

「日本のレストランはユニークですわね」

 

日本の文化に疎い三人は呑気な感想を述べるが、

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

正しい日本文化を知っている四人は絶句だった。

 

「これ、あたし達が異常?」

「凰さん、私たちは正常ですよ」

「・・・刀」

「千冬、説明してくんない?」

 

忍野が千冬に聞くが、

 

「お前ら、早く注文を決めろ」

 

((((あ、逃げた))))

 

答えてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

とりあえず注文を済ませ、注文した品がくるまでドリンクバーのドリンクを飲みながら談笑をしてる八人。

千冬と山田先生が席に置いてあるアルコールの広告をチラチラと見ているが、生徒の手前、酒を飲めないので炭酸飲料ばかり飲んでいる。

 

 

「ところで忍野」

 

話の途中で忍野に話かけるケイシー。

 

「ん? なんですか?」

「あれはお前の知り合いか?」

 

忍野の後ろのガラスを指差すケイシー。

振り向いた先にいたのは、ガラスに張り付くようにしてこちらを見ているラウラだった。

 

 

 

 

008

 

 

 

~セシリアサイド~

 

「嫁よ、なぜ私を置いて堂々と浮気か?」

「浮気以前に嫁じゃないって」

「あはは・・・」

 

あの後、お店に入って来られたらラウラさん。

先程は気づきませんでしたけれども、シャルロットさんもご一緒だったのですね。

 

「簪、そこをどいてもらおうか」

「断る、ここは譲れない」

 

ラウラさんは簪さんに席の交代を迫っている。

 

忍野さんは首を傾げていますが何故、お二人が睨み合っているのかはよく分かります。

 

あれは恋敵に対する牽制ですわね。忍野さんが端の椅子に座っているので隣の席は一つしかありませんからね。

 

 

「あれあれ~? 忍野は浮気者ッスか? いけないッスね~、最低ッスよ~?」

「ここぞとばかりに優位に立とうとすんな」

 

サファイア先輩は先ほどの仕返しでしょうか? 忍野さんをからかおうとしているようですわね。

 

「ハッハッハッ、もう何を言っても無駄ッスよ! 今までの恨み、ここで晴らーーー

「先輩?」ガシッ

「私の嫁に何をするつもりだ?」ガシッ

 

サファイア先輩がなにかおっしゃろうとしましたけれど、簪さんとラウラさんに口を塞がれてしまいましたわ。いえ本当、こう、口元をガシッ! と掴まれてます。気のせいかサファイア先輩の顔の輪郭が歪んでるように伺えます。

 

しかも簪さんとラウラさん、お二人は先輩の口を塞ぎながらも、睨み合っておりますわね。

お二方、先輩への敬意はいずこに。

 

「ラウラ、忍野は“あなたの”嫁じゃない」メキッ

「日本では気に入った相手を嫁と呼ぶが普通だと聞いたぞ?」メキッ

「それは間違い。正しい日本文化を覚えて・・・」メキメキ

「そんな事どうでもいい。“嫁”は私のだ」メキメキ

「・・・私は“彼と”専用機を組み立てた」ミシッ

「私は“嫁の”布団で寝てるぞ」ミシッ

 

・・・あー、サファイア先輩がもがいてらっしゃいますわ。痛いんでしょね、先程から変な音が聞こえてきますし、顔も真っ赤になってますわね。酸欠でしょうか?

 

「ね、ねーラウラと簪さん、そろそろ手を放さないと先輩が死んじゃうよ?」

 

あら、シャルロットさんが止めてくださいましたわ。

 

「「え?」」

 

二人して先輩の口を塞いでたことを忘れてたようですわね。シャルロットさんに言われて、自分たちの手の先で先輩が顔を青くしているのに気がつきましたわ。

 

二人の手から解放された先輩は、テーブルに突っ伏しながら息継ぎをされてます。本当に危なかったようですわね。

 

「ゲホッゲホッ、ハァハァ、死ぬかと思ったッスよ」

「ハッハー、お気の毒さま」

「ちょっとあんたら! 先輩は敬うものッスよ! それを輪郭が変わるかのような力で潰しにかかるなんて酷くないッスか!?」

「「す、すみません!」」

「まったく。顔が歪んで嫁の貰い手がなくなったらどうするつもりッスか?」

「大丈夫ですよ。もし貰い手がなかったら、」

「えっ/// お、忍野、もしかしてーーー」

 

先輩いけませんわよ、そんな期待をしても・・・、

 

「仕事に生きてください」

「リアルアドバイス!?」

「大丈夫、先輩のツイッターにフォローだけはしますから。ブログにも匿名でコメント書きますよ」

「“だけ”ってなんッスか!? 匿名はやめて欲しいッス! それにこういう場合の男の台詞は、普通“俺が嫁に貰ってやる”ッスよね!?」

「いえ、先輩は・・・ちょっと」

「断り方が生々しいッス!!」

 

・・・こうなりますから。

一夏さんもそうですけど、どうして女性に期待させるような物言いをなさるのでしょう?

男性がISを動かすには“鈍感”や“唐変木”が必須スキルなのでしょうか?

 

「そんな事より、お店の中で騒ぐのはどうかと思いますよ?」

「誰のせいだと思ってるッスか!!!」

「まあまあ、興奮しないで。ほら、この“特濃ハバネロジュース”、奢りますからこれでも飲んで落ち着いてください」

「いらないッス!! そんな物を飲んだら余計に興奮するッスよ!!」

「先輩、女性が白昼夢堂々と“興奮する”とか言っちゃダメでしょ。もしかして変態ですか?」

「誰が変態ッスか!! いい加減にして欲しいッスよー!!!」

 

「いい加減にするのはお前らだ!!」

 

ゴスンッ!!

 

鈍い打撃音と共に、忍野さんとサファイア先輩の頭に織斑先生の鉄槌がくだされ、二人は殴られたところから煙を出しながらテーブルに倒れました。

動かないところを見ると、気絶されたようですわね。

それにしても、一撃で人の意識を奪う拳、まったくもって織斑先生は恐ろしいですわね。

 

「オルコット、何か失礼なことを考えてないか?」

「いえ、そのような事は何も考えてませんわ」

 

・・・読心術まで習得なさってるのでしょうか?

 

 

「お待たせしました」

 

あら、注文していたメニューが届きましたわね。

それにしてもこの店員さん、サムライソードを持っているのになぜサムライの格好をしてないのでしょう?

 

そうして全ての品が揃った所で、

 

「か、簪! これはなんだ!?」

 

歓声にも似た声を上げるラウラさん。

ラウラさんの目の先には忍野さんが注文なさった特大パフェがありました。

 

「ワグナリア特製ジャンボパフェ。忍野くんの、でも起きない」

 

簪さんが頬を軽く叩いても、肩を揺すっても起きない忍野さん。白目が怖いですわ。

・・・頭蓋骨、割れてませんわよね?

 

「ふむ、では簪。溶ける前に一緒に食べようではないか」

「え、でもそれは、忍野くんの・・・」

「気絶しているのが悪い。それにあんな告白するかのような言い方をしたのだ、ゆえに私たちに食べられたとしても、それは当然の報いだ」

「! ・・・イチゴは譲れない」

「なら私は板チョコだ」

 

あらあら、お二人で仲良くパフェを食べてますわ。忍野さんが起きたらどんな顔をするか、楽しみですわね。

 

「ところでシャルロットさん、お二人はどうしてここに?」

「レゾナントに行った帰りで、ラウラが“嫁がいる!”っとか言って走り出しちゃて、ついて行ったらここに」

 

・・・第六感ですか?




あと一話の後、臨海学校編へと突入したいと思います。
感想や評価をよろしくお願いします。


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休みの終わり

 

001

 

 

あの後、復活した忍野。簪とラウラに注文していたパフェを食べられていてたことに涙しながら(実際は涙の“な”の字すらない)ワグナリアを後にし、IS学園への帰路についた。

・・・なぜが女の子の店員に殴られそうになったが。

 

 

「あぁー、飯食いそこねた」

「お腹すいたッス~」

 

千冬に殴られたダメージが原因なのか、それとも空腹が原因なのか分からないが忍野とサファイアやフラフラしながら歩いている。

 

「自業自得じゃない」

「忍野さん、貴方はパフェしか注文されてないでしょ?」

 

ごもっともな意見だ。

 

「腹が膨れりゃそれは食事だよ」

「あんた栄養とか考えないと病気で死ぬわよ?」

「そうだぞ嫁。いい兵士はまずバランスのよい食事からだぞ」

「いや、俺の職業《兵士》じゃないから」

「でも、食事は、ちゃんと採らないと・・・」

「と言うより、忍野くんはまともな食事してるの?」

 

とんでもない自論を言っている忍野だが、他の人には理解されないようだ。

当たり前ではあるが。

 

「先輩~、何か奢って欲しいッス~」

「騒いでた罰だ、我慢しろ」

「そんな~」

 

ケイシーに食べ物をねだるサファイアだが、奢ってもらう事が前提の言い方なので冷たくあしらわれてる。

 

「たく、そんなに腹が減ってるならサッサと帰るぞ」

 

千冬がお腹を空かせた忍野が可哀想になったのか、優しい目でそんな事を言うが、

 

「へぇー。それで本音は?」

「帰って酒を飲みたい」

「ガッカリだよ!」

 

単なる口実だったようだ。

 

そんな様子を見て苦笑いする簪たち。ラウラだけは千冬が酒を飲むことに驚いているのか、目を見開いたまま固まってしまってる。

そんな驚くことかい?

 

そうこうしてるうちに学園へと続く、モノレールの駅に到着。

楽しかったのか面白かったのか分からない時間を過ごし、臨海学校(先輩二人以外)に思いをはせながら学園へと帰っていく八人だった。

 

 

 

 

 

 

 

002

 

 

学園に帰った忍野。荷物を置きに寮に戻ると、先に戻っていた一夏が居たので、電話で話した件について詳しく聞いていた。

 

一通り事情を聞き終えた忍野。すると一夏はずっと気になってた事を聞いた。

 

「なぁ忍野、なんで俺に八九寺、迷い牛が見えなかったんだ?」

 

一夏が気になっていたのは、“吸血鬼性を帯びている自分が、なぜ迷い牛が見えなかった”のかだ。

以前、単なる幽霊に遭った時はちゃんと見えていたのに、今回は見えなかった理由が知りたいらしい。

 

「ああそれか。お前、最後に忍に“食事”させたのいつだ?」

「えーっと、10日ほど前だったかな?」

「だからだよ。いくら低級とは言っても条件固定の怪異、吸血鬼性が薄れている上に条件を満たしてないお前には見えなくて当然さ。俺だって準備してなかったら見えないし」

「そういうもんなのか?」

「そういうもんさ。多分、“食事”から2日~3日くらいなら見えてたと思うぞ? まぁ、わざわざ見る必要はないだろうけどな」

 

一夏は忍野が“見る必要がない”と言った事に、僅かながら怒りを覚え、それをぶつけた。

 

「忍野。お前は可哀想だとは思わないのか? 目的地にたどり着けず、迷い続けていた八九寺をーーー」

「馬鹿かお前?」

 

一夏の言葉を最後まで聞かずに罵倒する忍野。その目は、呆れと憐れみの色に染まっていた。

 

「今回は区画整理で目的地まで続く新しい道があったから解決したんだ。むしろ今回の解決方法は異例中の異例、他の場所じゃ通用しない方法さ」

 

そう、今回の方法が当たり前ではなく例外。

だからもし、八九寺の生前に存在した道しかなかった場合、一夏と箒は八九寺を見捨てて帰って来るしかなかったのだ。

 

「それとも何か? お前は迷い牛を一人残らず目的地に送り届けようってのか? 可哀想だからって」

 

そんなこと出来るわけがない。

“迷い牛”という伝承がある限り迷い牛になるものは後を絶たない。そんなものを全て解決するなんて吟味するまでもなく答えが出る。

 

「一夏。言いたくはないが、何回か怪異を、“自分の望む形”で解決して調子に乗ってないか? もしそうなら思い出せ。望みとは違う形で解決した忍との出逢いを」

 

“忍との出逢い”

一夏はいきなり冷水でも被ったかのような錯覚と共に、自分の最初の怪異体験を思い出した。

誰一人として望み通りにならなかった解決方法。

 

「思い出したなら分かるだろ? わざわざ自分から足を踏み入れようとするな。必ずしも、自分の望む形で物事が解決するとは限らないんだから」

 

忍野のもっともな忠告に、何も言い返すことが出来ない一夏。

 

「その、悪かった」

「いや、こっちも言い過ぎた」

 

互いに謝る二人。

そして一夏は一つの確認をする。

 

「なあ、八九寺は、成仏したのか?」

「さぁね。そればかりは直に見ていてないからなんとも言えないさ。専門家としては、成仏してることを祈るよ」

 

部屋から出て行こうとする忍野。

しかし扉を開けたところで立ち止まり、一夏に声をかけた。

 

「・・・飯に行こうぜ。言い過ぎた詫びだ、奢ってやる」

「・・・なら俺は好き勝手言った詫びでお前の分を奢ってやる」

 

「「ククッ、アッハッハッハッハッハッ!!!」」

 

堪えきれず、腹を抱えて大声で笑う二人。

 

「「このお人好し!」」

 

散々笑った後の二人は、いつもの陽気な雰囲気だった。

 

 

 

 

003

 

 

 

箒は部屋に戻ってから、昼間の不思議な体験のことをずっと考えていた。

怪異、迷い牛となって迷い続けていた八九寺真宵という少女。そしてそんなものを知っていた一夏と忍野の事を。

 

(あれは夢だったのだろうか? いや、八九寺は確かに居た。やっと目的地に着いたのだ、それでいいのだ。でも・・・もう少しだけ、仲良くなれたら、話が出来れば、良かったかもしれないな)

 

もっと話を出来れば、もっと仲良くなれたら、そんな後悔にも似たことばかり考えていた。

 

(それにしても、一夏たちはいったい、どんな経験をしていたのだろうか)

 

考えてるうちに眠気が出てきた箒は携帯電話を机に置き、ベットに入った。

 

 

 

 

 

 

 

その日の深夜、誰も触れてない箒の携帯が、不自然な表示をしていた。

 

 

ピッ ピピッ

 

《ERROR》 《ERROR》 《ERROR》

 

《ERROR》 《ERROR》 《ERROR》

 

ピッ 

 

Is a system upgraded?(システムをアップデートしますか?)

 

《▶YES/NO》ピッ

 

 

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『しまりましたっ!』

 

画面にはデフォルトした蝸牛(カタツムリ)の影が写っていた。




評価やコメント、お待ちしております。


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キャラ紹介

ここまでのおおざっぱなキャラ紹介です。


 

 

 

《IS学園一年生》

 

 

篠ノ之 箒(しののの ほうき)

 

蝸牛と迷った少女

 

基本的に原作と同じ。

小学生のときから一夏に惚れている。

 

休みの日、公園にいたときに迷子の少女、八九寺 真宵(はちくじ まよい)と出逢う。その後、八九寺の正体が“迷い牛”だと知り、一夏と忍野に協力してもらい迷い牛を解決する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリア・オルコット

 

基本的に原作と同じ。

クラス代表戦のとき、一夏に恋心を抱く。

 

ヒロインズの中では怪異に出逢う確率が一番低い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凰 鈴音(ふぁん りんいん)

 

基本的に原作と同じ。

中学生のときから一夏に惚れている。

 

忍野とは悪友関係。

両親は詐欺が原因でできた借金返済のため離婚、母親と暮らしている。夫婦仲は離婚後も良好。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルロット・デュノア

 

鬼に睨まれた少女

 

原作同様、父親の命令に従って男装してIS学園に来た。

 

百々目鬼(とどめき)”に憑かれていて、それを物理的に潰していたところを一夏に見つかる。その後、忍野から助言を受けた一夏によって百々目鬼を退治した。

そのさいに一夏の人柄に触れて恋心を抱くようになる。

 

タッグ・トーナメント戦後、父親とは和解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

原作とは違い、入学当初から性格は軟化した状態。千冬がモンド・グロッソを二連覇してるので一夏に対しての敵対心はない。

さらに千冬の盲信からではなく、自分と同じくデザインベイビーとして産まれ、失敗作として死んでいった姉達のために強さと勝利を望んでいた。

 

タッグ・トーナメント戦でISが暴走、VTシステムに取り込まれたところを忍野に助けられる。

そのときに強さの在り方を教えられ、同時に恋心を抱くようになる。

 

彼女自身は直接怪異に関わってないが、VTシステムに何らかの怪異が憑いていたため、今後怪異に惹かれる可能性がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

更識 簪(さらしき かんざし)

 

蟹に行き遭った少女。

 

原作と違い、『白式』による専用機開発凍結を受けてないので、一夏に敵対心を持ってない。

姉である楯無に対して、それ程強い劣等感を持っていない。しかし過去に楯無が言った一言が原因で姉妹仲は悪いのは同じ。

 

一人で専用機を開発していたときに転倒、それを助けた忍野に“おもし蟹”のことを知られてしまう。その後、忍野の力を貸りておもし蟹を祓い、解決する。

その時に忍野に助けてもらったことから恋心を抱く。

 

ヒロインズの中で今後、怪異に惹かれる可能性が一番高い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

片瀬 真宵(かたせ まよい)

 

制服の上から白衣で、顔が半分隠れる前髪パッツンに頭の左右に大きなボール型の髪飾りをつけているのが特徴。語尾が「~じゃよ」などハカセ口調。

 

“面白ければそれでいい”という性格の持ち主で、他人の迷惑を顧みない暴挙を繰り返す。しかし、ある程度の常識はあるので他人がケガをしたり、命の危険になるような事はしない。

 

一年生でありながら“整備科”を自称している。(整備科は二年生から)

そのため技術者としての腕は高い。ただし、上記の性格のため暴走しがち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《IS学園二年生》

 

 

フォルテ・サファイア

 

原作十巻の発売前、明確な外見描写がないうちに登場したため、原作とは違う外見になってしまったキャラクター。

 

本作での外見は、背は千冬と同じくらいで、明るい茶髪のショートアップがトレードマーク。「~ッス」など下っ端口調。

(外見イメージ:蒼き鋼のアルペジオ『キリシマ』)

 

お調子者で楽観主義。基本、軽いノリで生きてる。

 

基本的には忍野に弄られるギャグ要員。

 

ガチ百合ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更識 楯無(さらしき たてなし)

 

基本的には原作と同じ。

しかし忍野が相手だと自分のペースにのせれないので比較的、大人しい描写になっている。

 

妹である簪との距離感を図れず、距離を置いている。仲直りしたいがどうすればいいか分からずにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《IS学園三年生》

 

 

ダリル・ケイシー

 

フォルテ同様、外見描写が定かではないうちに登場したので原作とは違う姿になったキャラクター。

 

本作での外見は、背は千冬より少し高く、褐色の肌に、ツインテールと犬耳のようなくせっ毛のある髪型が特徴。

(外見イメージ:艦これ『武蔵』)

 

真面目だがおおざっぱ。基本的には常識人。姉御系のキャラ。

フォルテのブレーキ役。

 

どこかの組織のスパイと言う事もなく、普通の代表候補生。

 

 

 

 

 

 

 

《学外》

 

 

クロエ・クロニクル

 

原作同様、束に拾われた。

 

ドイツの生み出したデザインベイビーで、ラウラが死んだと思っている姉達の生き残り。

 

物静かで大人しい性格。しかしシスコン。ラウラを溺愛しており、プライバシーに差し支えない範囲で、監視衛星や防犯カメラを使って見守っている。いつか画面越しではなく、直接会える時を楽しみにしている。

 

束の移動式ラボ『水鏡』の操舵、研究の手伝い、食事の世話など、幅広く束をサポートしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八九寺 真宵(はちくじ まよい)

 

蝸牛に迷った少女。

 

小学五年生。

長いツインテールに八重歯、自分より大きなリュックサックが特徴。

 

人見知りで言葉遣いは丁寧だが、礼儀正しい性格という訳ではなくかなり慇懃無礼。

 

正体は幽霊で“迷い牛”そのもの。

母の家に行く途中、事故に遭い死亡。目的地にたどり着けなかった事に未練が残り、道に憑く地縛霊となり他人の帰路を阻害する。

 

箒の希望により生前たどり着けなかった目的地に着き、未練が解消されて消えた。

成仏したと思われるが・・・。



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海と暴走
臨海学校 1日目 其ノ壹


どうも、戦争中毒です。
みなさん、如何お過ごしでしょう?

私は軽い熱中症で寝込んでましたw。
・・・笑えないですね。

皆さんも熱中症などには十分注意してください。

それでは本編、どうぞ。


 

 

001

 

 

「海だぁ! 海が見えたぁ!」

 

IS学園から出発してから数時間、トンネルを抜け一バスの中でクラスの女子が声を上げる。一面に広がる海が視界に映る。

 

一夏と忍野は隣同士で座っていたが、海が見えてきたら一夏のテンションがアップした。

 

「忍野! 海だぞ海!」

「んなこと分かってるよ。それより俺は旅館の温泉が楽しみだ」

『お前様、温泉には儂も入れるじゃろうな?』

「どこの世界に温泉に入る吸血鬼がいるんだよ」

『ここに居るではないか』

「ハッハー、頑張れよ一夏」

 

テンション高めの男子と低めの男子、あと幼女は違いこそあるが通常運転だった。

 

 

 

 

 

 

 

携帯端末で音楽を聞いていたセシリア。周りが海が見えたと騒ぎだしたので釣られて窓を見るが、

 

「箒さん、どうかなさいましたか?」

 

海より先に、隣の窓側の席で携帯電話とにらめっこをしている箒が目に映った。

 

「いや、どうも携帯の調子が悪くてな。動作が遅いのだ」

「データの詰め過ぎでは?」

「そんなに情報を入れた覚えはないのだが・・・」

「そんな事よりも箒さん。今日は海を満喫しませんと」

「それもそうだな」

 

箒は携帯を消し、セシリアと一緒に海を眺めた。だが一瞬、画面が消える直前、デフォルトした蝸牛が映ったのには気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

002

 

 

旅館に到着したIS学園御一行。旅館の方に挨拶を済ませた後、各自の部屋へと向かう。

因みに男子二人の部屋は教員用だった。

 

荷物を置いて、何事もなく早々と更衣室へと向かい、着替えを済ませる一夏。更衣室を出た所で先に浜辺に居た女子達と出会う。

 

「あ、織斑君だ!」

「う、うそっ! わ、私の水着変じゃないよね!? 大丈夫だよね!?」

「わ、わ〜。体かっこい〜。鍛えてるね〜」

「織斑くーん、後でビーチバレーしようよ〜」

「いい体だわ~。あとは忍野くんの体をこの目に焼き付けて、帰ったら早速原稿に上げましょう。一夏×仁か仁×一夏か。今年は熱くなるわ!」

「鍛えてるから織斑くんが攻め?」

「バカね。ここは受けでしょ!」

 

一人が気付けばみんなが気付く。

あっという間に人集りが出来てしまった。一組の生徒は勿論、ここで距離を縮めようとする他クラスの子達もいる。

・・・一部、腐食系女子もいるが。

 

 

 

 

なんとか女子の包囲網を脱出した一夏だが、

 

「一夏さん、サンオイルを塗ってください!」

 

海に入ろうとしたところでセシリアからとんでもないお願いをされてしまった。

彼女は鮮やかなブルーのビキニで、腰に巻かれたパレオが優雅で格好いいが、今はそんな事より、

 

「私サンオイル取ってくる!」

「私はシートを!」

「私はパラソルを!」

「じゃあ私はサンオイル落としてくる!」

「オイルを塗る一夏がそのまま仁を攻める。いいわ!」

 

一夏が止める間もなく海や更衣室へ走っていく女子生徒たち。

 

そんな中、セシリアは持っていたパラソルとシートを準備し、パレオを脱ぎ、首の後ろで結んでいたブラの紐を解くと、水着を上から胸を押さえてシートに寝そべった。

 

「さ、さあ、どうぞ?」

 

“もう準備は整ってます”とこちらを見てくるセシリア。しかし一夏は、

 

(どうぞって言われてもサンオイルなんて塗ったことないぞ。忍に聞いても無駄だろうし、どうしよう)

 

かなり困っていた。

 

しかしそんな、どうしようかと考えいた一夏に救いの手が差し伸べられた。

 

「一夏、何をしているの?」

 

やってきたのは、セパレートとワンピースの中間のようなデザインで、鮮やかなイエローの水着に身を包んだシャルロットだ。

 

「見ての通りだよシャル。サンオイルを塗ろうとしてるんだけど?」

 

シャルロットは一夏とセシリアを交互に見たあと、少し目を細めながら頷いた。

 

「ふぅ~ん。ねえ一夏、僕が変わりにやろうか?」

「シャルロットさん!?」

「ありがとうシャル! セシリアも男の俺がやるより同性のシャルが塗る方がいいだろうからな」

「一夏さん!?」

「あとは僕がやっておくから、一夏は泳いできなよ」

「ああ、それじゃあお先に」

 

一夏はオイルのボトルをシャルロットに渡してサッサと海に行ってしまった。

 

「ちょ、一夏さん!?」

「はーい、動かない。水着が落ちちゃうよ」

「シャルロットさん! 何故邪魔をなさるんですの!?」

「別に邪魔するつもりはなかったよ? でもね、水着だけならともかく、サンオイルを塗らせて一夏を誘惑するのは流石にズルいかなーって」

「ししシャルロットさん!? 目が怖いですわよ!? ハイライトがお仕事をしてませんわよ!!」

「えぇー。そんな事、ナイヨ」

「ちょーー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

イヤーーーー!!

 

 

「悲鳴が聞こえたような・・・、気のせいか」

 

泳ごうとしていた一夏の耳に、セシリアの叫びは届かなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

003

 

 

 

ビーチパラソルの下でジュース片手に読書にふける忍野。

下は黒い短パンタイプの水着だが上には赤いパーカーを羽織っており、どうやら泳ぐつもりはないようだ。

 

「お、忍野くん・・・」

「ん?」

 

そんな忍野に声をかける人物。

 

振り向いた先に居たのは水着姿の簪。

決して小さくない胸元を強調するような黒の水着。フリルとリボンが可愛さを演出している。

 

「そ、その・・・どう、かな?」

 

少し恥ずかしそうに、お腹の辺りで手をモジモシさせながら忍野に感想を求める。

 

「うん、とっても似合ってるよ簪」

 

忍野は純粋な笑顔で簪の水着姿を褒めるが、

 

ボンッ!

 

「う~~~///」

 

言われた当人は顔を真っ赤にして後ろを向いてしまった。

しかし、そんな姿を見ても忍野は、

 

(あれ? 後ろを向いちゃった。その水着は嫌だったの? まいったな、やっぱり試着した時に見せてもらってないからなぁ。気に入らない所があったのだろうか?)

 

まったく見当違いな事を考えてた。

 

 

「隣、座っても・・・いい?」

「いいよ。でも泳いでこないでいいの?」

「あの、えっと、その・・・」

 

深呼吸をし、呼吸を整えてから、

 

「お、忍野くん。い、一緒に泳ーーー

「忍野さぁん! 一緒に泳ぐんじゃよ!」

「向こうのブイまで競争するわよ!」

 

簪が何か言おうとした瞬間、真宵と鈴がやってきて忍野に水泳勝負をしかける。

遮られてしまった簪は、頬を膨らませてそっぽを向くがそれに気づかない忍野。

 

鈴の水着は、オレンジと白のストライプのタンキニタイプ。真宵はチェックのビキニだ。

いつも白衣なのと、隣に立っているのが鈴なので真宵のスタイルの良さが際立つ。どこがとは言わないが。

 

「お~、似合ってるねお二人さん。それで、何だって?」

「ちゃんと聞いてなさいよ! ブイの所まで競争すんのよ!」

「ふぅ~ん。俺はパス。みんなで泳いできなよ」

「せっかくの海じゃよ? 泳がないと損にゃよ!」

「いいよ、俺はこのまま読書をしてたいんだ。そういうのは一夏に頼みな」

「一夏が居ないからあんたを誘ってるんじゃない!」

「・・・二番手扱いありがとう。とにかく俺は泳がない」

「にぇーにぇー、そんな事言わずにー」

「えぇい、引っ付くな!」

「忍野ぉ~」

「なんだよ?」

 

ガシッと忍野の肩を掴む鈴。

 

「そんな事言わずにさぁ~」

「ちょっ! 鈴、何すんだ!?」

 

何を思ったか、甲龍を部分展開した鈴はそのまま忍野を持ち上げる。そして彼女が向いてる方向は海。

 

「お、おい。鈴、待て待てやめろ! マジでやめーーー」

「泳いでらっしゃい!!」

「ぎゃあぁぁぁーーー!!!」

 

嫌がる忍野を、彼女はとても良い顔で海へとブン投げた。

数十メーターの生身による空の旅をしたあと、忍野は大きな水柱をたてて、水中に没した。

 

 

「鈴! 何やってんだよ!?」

 

悲鳴を聞きつけてやってきた一夏。

 

「一夏!? どこ行ってたのよ!?」

「そんな事より忍野は!?」

「忍野なら海に放り込んでやったわよ」

「マジかよ!? あいつ、大丈夫か!?」

「織斑さんは何を慌ててるんにゃ?」

 

「忍野のやつ・・・()()()()んだよ」

 

「「「はいぃ?」」」

 

その場にいた全員が、なんともマヌケな返事をしてしまった。

 

「泳げないって・・・あいつカナズチだったの?」

「泳げない、と言うかより泳ぎ方を知らないらしい」

「それって・・・」

「かなりマズいんじゃよ・・・」

 

徐々に顔を青くする四人。

すでに三十秒以上経過しているが、いっこうに浮いてこない忍野。四人の顔は蒼白そのものになっていた。

 

「た、助けに行かないと!」

「先生呼んでくるんじゃ、にょわー!?」

「え!? キャアッ!」

「な、何だ!?」

 

四人が助けに行こうとした矢先、真宵を跳ね飛ばして一夏たちの目の前を砂埃をたてながら海目掛けて疾走していく白い影。

その姿は、足以外がタオルで隠されて顔などは一切わからない、しかしその背丈と頭部と思わしき所からはみ出ている美しい銀髪が正体を明かしていた。

 

「「「ら、ラウラ!?」」」

 

「よぉぉぉめぇぇぇーーー!!!」

 

全力疾走のラウラは波打ち際ギリギリで、脱皮するかのようにタオルだけをその場に残し、海へと飛び込む。

 

 

 

 

 

数分後、ラウラに覆い被さるような形で背負われながら砂浜に戻って来た忍野。

 

「忍野!」

「お、忍野くん、大丈夫?」

 

すぐに駆け寄る一夏と簪。

 

「か、簪さん、私も心配して欲しいんじゃよ」

 

その後をボロボロになっている真宵がついて来た。

 

 

「・・・ああ、なんとか大丈夫だよ・・・」

 

いつもより弱っているが、ある意味いつもどうりの忍野。

 

ふと、自分より二周りほどの大きさのある忍野を、引きずりながらも海から救助したラウラの方を見る。

ラウラはレースをふんだんにあしらった黒の水着に、いつもは飾り気のない伸ばしたままの髪を左右一対のアップテールにしている。

 

そんなラウラの姿を見た忍野は、救助してくれたお礼も兼ねて、なんとなく、

 

「ありがとう・・・、ラウラ。水着、似合ってるよ」ナデナデ

 

笑みを浮かべ、素直な感想を言いながら、彼女の頭を撫でるが、

 

「あああ頭を、な、撫でるなあー////!!」

「グヘッ!?」

 

ラウラはそのまま背負っていた忍野を一本背負いで地面に叩きつけ、顔を真っ赤にして走り去ってしまった。

 

「忍野さん、大丈夫かにゃ?」

「一応大丈夫。ところで簪さん? なんでそんな目で俺を見てるの」

「・・・自分で考えて」

 

自分とラウラとの反応の違いに簪は、とても冷ややかな目で忍野を見つめていた。

 

そんな所に、

 

「織斑くんと忍野くん! 一緒にビーチバレーやろうよ!」

「わー、おりむーと対戦~。ばきゅんばきゅーん!」

 

のほほんさんを含んだ数人の女子達が手を振りながら一夏と忍野のもとにやってきた。

どうやら腐食系女子はいないようだ。

 

「いいぜ。忍野、お前はどうする?」

「つい今、溺れてた奴にスポーツをやれと? 悪いが俺は観客だ」

「私はやるんじゃよ!」

「私は、見物・・・」

 

こうしてビーチバレーをすることになり、その場にいたみんなでコートの準備を始めた。

 

 

 

 

 

004

 

 

支柱を立て終わり、ネットを張っている途中の一夏。

 

「織斑先生。一緒にビーチバレーをしませんか?」

「ふむ、では私も参加するとしよう」

「あ、千冬ね・・・え・・・・」

 

姉の声が聞こえたので作業の手を止め、振り向く。

一夏が振り向いた先にいた千冬は、スポーティーでありながらメッシュ状にクロスした部分がセクシーな黒水着を身に纏い、そのスタイルのいい鍛えられた体を惜しげもなく陽光にさらしていた。

 

その姿を見た瞬間、一夏の雰囲気が変わった。

 

「・・・忍野。あれはお前の趣味か?」

「まさか、千冬の趣味だよ。だからそう殺気立つな。元気いいな、なんか良いことでもあったか?」

 

腰に手を当てている千冬の姿は色っぽく、そして同時にモデルのような格好良さも兼ね備えていた。そんな姿だとおかしな男たちが寄って来そうで、姉思いの一夏はそんな水着を選んだであろう忍野にご立腹のようだ。

しかし選んだのは千冬だと聞き、一夏は仕方がなさそうな顔をしながら殺気を収めた。

 

 

コートに入る千冬。すると、

 

「何をしている忍野、お前はアッチだ」

「えぇー、俺は観戦してたいんだけど?」

 

千冬が指差す先はネットの反対側、つまり対戦相手の立つ場所だ。

忍野は用意した得点板に寄りかかり、どこからか取り出したかき氷を頬張って、完全に観戦モードだ。

・・・どっからかき氷を用意した?

 

「お前と勝負をしたいのさ」

「本気かよ?」

「本気だ。断ると言うならそうだな、お前の部屋の私物を処分するぞ」

「なッ! 汚ねぇぞ千冬!」

「家主は私だ。さて、どうする居候?」

「あぁいいじゃん! やってやろうじゃん!!」

 

こうして千冬VS忍野のビーチバレー対決の火ぶたが切っておとされた。

後に試合を見ていた生徒はこう語る。

 

“ビーチバレーの絵じゃなかった”

 

 




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臨海学校 1日目 其ノ貮

10日ぶりの投稿。
なんだか最近、全く執筆が出来ません。
頑張って週1投稿を目指します。

それでは本編、どうぞ。


 

005

 

 

臨海学校初日の夜。

 

机には所狭しとお膳が並べられ、生徒たちは料理に舌鼓をうっていた。

え? 先生達は? 先生方はお酒がないので物足りない顔をしています。

 

~忍野サイド~

 

 

昼間、簪とラウラに約束させられて一緒にテーブル席で夕食を取っている。

 

にしても、金かけ過ぎだろ。

刺身と小鍋、山菜の和え物に赤だし味噌汁とお新香。これだけで万近くかかってそうだな。

 

さて、三人でのんびり食事をしていたらラウラが後ろの方を向いた。

何やってんだ?

 

「ラウラ。食事中は前を向かないと、ダメ」

「シャルロットは何を悶えてるのだろうか?」

 

簪は注意するが、ラウラが指差す先を見る。

俺もつられて見ると、一夏の隣で鼻の付け根を抑えながら涙目になって震えているシャルロットが見えた。

 

「さあね。大方、わさびの分量でも間違えたんじゃないのかな?」

「わさびとはなんだ?」

「刺身の横にある緑のやつだよ」

 

ラウラはまだ小鍋にしか手を付けてないので刺身の皿のわさびは食べてないようだ。避けてるのではなく、単純に食べるのが遅いだけなんだろうが。

 

「ふむ。では私も食べてみよう」

 

言うやいなや、あろう事かわさびの山を丸ごと摘み口へと運ぶ。

 

「「よせラウラ!!」」

 

それに気がついた俺と簪は止めようとしたが、既に遅く、

 

「ぎにゃーーーー!!!??」

 

可愛らしい悲鳴と共に、鼻を押さえながらイスから転げ落ちるラウラだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

006

 

 

夕食後の自由時間。そろそろ消灯時間が気になる頃合いだが、二人だけの男子生徒(+鬼教師)の部屋の前で蠢く三つの影があった。

 

篠ノ之 箒、凰 鈴音、セシリア・オルコットの三人。

彼女達は想い人である一夏と夜を過ごそうと訪ねようとしたが、部屋から聞こえてきた声にそれをはばかられた。

 

『千冬姉、久しぶりだからちょっと緊張してる?』

『そんな訳あるか、馬鹿者。ーーーんっ! す、少しは加減をしろ』

『はいはい。んじゃあ、ここは・・・と』

『くあっ! そ、そこは・・・やめっ、つぅっ!!』

『すぐ良くなるって。だいぶ溜まってたみたいだし、ね』

『あぁぁっ!』

 

まさか姉弟で!?

一夏、千冬さんと!?

禁断の愛!?

 

まあ、いい感じでパニクっていたが、そこは高校一年生。やっぱりお年頃故に、そっち方面のネタは気になるようで、三人とも扉にピタッと耳を押し付けて部屋の様子に聴き入ってる。

 

そうしていると、

 

「みんなして何やってんの?」

「「「きゃっ!?」」」

メキメキーーーバタンッ!

 

突然、後ろ声をかけられて驚く三人。その拍子にバランスを崩し、扉を押し倒して部屋になだれ込んでしまった。

 

そこで彼女達が見たのは、

布団にうつ伏せで寝っ転がる千冬に跨がる一夏。多少着崩れてはいるが二人とも浴衣を羽織っており、一夏は拳・・・と言うより親指を千冬の腰に突き立てるようにしている。

所謂、指圧マッサージだ。

 

「たっだいま~。頼まれたジュース買ってきたぞー」

「ご苦労。冷蔵庫にしまっておしてくれ」

 

自分達の事なんか気にもせずに部屋に入っていく驚かした犯人、忍野。

 

やっと状況が飲み込めた三人。先ほどの声の正体はマッサージによるもだったのだと気がついた。

そして同時に、ピンク色全開お年頃の想像をしていた事が恥ずかしくなり、全員が顔を真っ赤にしてしまった。

 

「ん? どうしたんだそいつらは?」

「ああ、部屋の前で聞き耳立ててたみたいだけど」

「そうか。なら立ってるついでだ、更識とボーデヴィッヒとデュノアを呼んでこい」

「人使い荒いなぁ。そんじゃ、行ってくらぁ」

 

そう言い残して再び部屋を出て行く忍野。

 

「は、はは、では・・・」

「わたくし達はこの辺で・・・」

「さ・・・さようなら、織斑先生!!」

 

忍野の後を追うように、一緒に部屋を出て行こうとする三人だがすぐに捕まった。

 

「盗み聞きとは感心しないが、ちょうどいい。ゆっくりしてけ」

「「「え?」」」

 

 

 

 

 

 

007

 

 

数分後、簪とラウラとシャルロットを連れて戻ってきた忍野。

千冬は三人を部屋に招き入れると一夏を追い出し、

 

「織斑、忍野。二人で風呂に行ってこい。部屋が汗臭くなってはたまらんからな」

 

そう言って男子二人を追い払った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、男子が居なくなった部屋の中で、どうしたらいいのかわからない女子が六人、言われたまま座ったところで止まってしまっている。

 

「それで? お前らアイツらのどこがいいんだ?」

 

その言葉に全員が固まった。

 

「アイツらと言って分からんお前らではあるまい」

 

 

「わ、私は別に・・・剣を捨てたことが腹立たしいだけですので」

「あたしはただ腐れ縁なだけだし・・・」

「わ、わたくしはクラス代表として相応しい様に・・・」

「ふむ、そうか。では一夏にはそう伝えよう」

「「「伝えないでください!!」」」

「次、デュノア」

「「「ちょっと!?」」」

 

箒と鈴とセシリアの話を聞き終るとシャルルを指差し言う。

 

「僕は・・・優しい所、です」

「そうか。だが一夏は誰にでも優しいぞ」

「そこは少し悔しいかな・・・アハハ」

 

照れ笑いをしながら熱くなった頬を煽ぐ シャルロット。

 

すると、千冬は簪とラウラの方を向き、それに二人はビクッと反応する。

 

「お前たちは忍野の方だな。まずは、更識妹」

「わ、私は、困っていたとき、助けてくれたからで」

「忍野は絶対認めないだろうがな。アイツは“助ける”という表現を嫌う」

「助けない・・・、君が、ひとりで勝手に助かるだけ、ですか?」

「なんだ、やっぱり言われたか。アイツはいつもそう言って人を助けるからたちが悪い」

 

簪の話を聞いた後、首だけをラウラの方に向ける。何気に他の五人もラウラの方を向いてるのでかなりのプレッシャーだろうが。

 

「で、ラウラ。お前は?」

「つ、強いところが、でしょうか・・・」

「強い、か。確かにあいつは強いな。あの戦闘狂さえなければいいやつなんだがな」

「そ、そうなんでしょうか?」

「まぁ、アイツらと付き合える女は得だぞ? 見てくれはまあまあだし、二人とも家事全般できる。一夏はマッサージが上手い。どうだ、欲しいか?」

 

「「「「「「く、くれるんですか?」」」」」」

 

「やるかバカ」

 

ええ~、と心の中で突っ込む女子一同。

 

「私に聞くな、奪う気持ちで行け」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく雑談をしてから、時間も遅いので生徒たちを部屋に帰らそうとする千冬。

 

すると最後とばかりに鈴が質問した。

 

「ちふ・・・織斑先生。先生は忍野をどう思っているんですか?」

 

その質問に全員が、特に簪とラウラが反応した。

普段、あれだけ自分をからかってふざけている男の事をどう思っているのか気になったのだ。

 

「アイツか? 私からしたらアイツは・・・、

 

愛すべき悪友(居候)だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

008

 

 

 

 

「ヘェッ、クシュン!!」

「汚いのう」

「うるせえ。くぁ~~~。それにしても、温泉はいいねぇ」

「まったくじゃな」

 

露天風呂に浸かって伸びきってる忍野と忍。

忍はその髪に月明かりを映し、髪全体が輝いてるようにも見える。

 

「何をしておるお前様?」

「そうだぞ一夏。早く入ってこいよ」

 

一夏は風呂に入らず、腰にタオルを巻いたまま湯船のそばで突っ立っている。

 

「なんで、なんで忍がさも当然そうに一緒に入ってるんだよ!??」

 

ここは男湯。忍は女(と言うより幼女)

誰かに見つかろうものなら大問題に発展する。

 

「何を今更。儂とお前様は影で繋がっておるのじゃ。たかが風呂くらいで恥ずかしがる事もなかろうに」

「そうじゃなくて! バレたらどうすんだよ!?」

「バレたらって誰にだよ? この旅館、他に客いないから誰かが入ってくる心配はないぞ?」

「くッ! だけどな、仮にも女の子と一緒に風呂なって・・・」

「女の子って言っても500歳以上だぞ? 見た目は幼女、中身は老婆だ」

「誰が老婆じゃ! ぶっ殺すぞ!!」

 

忍は老婆と言われ、忍野に殴りかかろうとするが頭を手で押さえられて拳が届かず、可愛らしく空をきるだけだった。

少しして、殴ろうとするのを止めた忍はまた一夏を誘う。

 

「良いではないか、我が主様よ。お前様が旅行に行っても儂はずっと影の中じゃったのだから、たまには一緒に温泉も良かろうに。幸いにも、ここには儂ら以外誰もおらぬ」

 

忍の言葉に、どこか寂しげな雰囲気を感じた一夏。

中学時代、友達と旅行には何度か行ったが常に誰かが一緒に居たので忍は、一度として出てこれた事がなかった。温泉も観光地も、影で一緒に居たのに一人だけ仲間外れ。

もしかしたら、忍に寂しい思いをさせていたのかもしれない。

 

「はぁ、今回だけだぞ」

 

結局、一夏も一緒に湯に浸かることにし、川の字に並んだ。

もう夏とは言え、裸で突っ立っていたから冷えていたのだろうか。お湯が少し熱く感じ汗が滲み出る一夏。

 

「飲むかい?」

 

そう言うと、忍野はそばに置いてあった桶の中から牛乳瓶を取り出した。見ると桶の中は氷水で満たされ、牛乳瓶が何本か冷やされていた。

どこから用意したんだ?

 

「・・・普通、風呂上がりに飲むもんだろ」

「難いこと言うなよ。それに酒じゃないだけ良心的だろ?」

「どうだろな。一本くれ」

「儂にも寄越さんか」

「ほいよ、落とすなよ?」

 

全員が一本ずつ牛乳瓶を持つ。

一夏は瓶の中身に口を付けようとしたところで夜空に浮かぶ月が目に映った。

満月・・・ではないが大きく、そして美しく輝いている。月の片隅にかかるほんの少しの雲がまた風情があり、まるで名画の一枚を観賞している気分になった。

 

「なあ、乾杯でもするか?」

「何に乾杯するんだ一夏?」

「ん~、この月夜に?」

「在り来たりじゃのう。まあ良かろう」

 

そう言うと忍は両手で持った牛乳瓶を掲げ、一夏と忍野は同じ高さに瓶を掲げた。

 

 

「月夜に」

 

「「月夜に!」」

 

 

 

 

静かな風呂場に小さなガラスの音が響いた。




ご意見、ご感想お待ちしております。


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臨海学校 2日目

まるで執筆の進まないダメ作者、戦争中毒です。
周に一回くらい投稿できるように頑張ってますが全然ダメですね。はぁ~。

あ、本編どうぞ




001

 

 

ビーチにいる一同は昨日と違い、全員がISスーツや学園指定のジャージを着て整列している。

 

IS学園臨海学校二日目は、朝から夜まで丸一日、ISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる。

一般生徒は数人でやるのでまだ良いが、一部を除いて専用機持ちは皆、コンテナ数個分の装備が送られて来ているから大変だ。

 

因みにその一部は、一夏と忍野、それと簪。

男子は機体の出所と特性ゆえに。簪の専用機は自作なので今のところ他の装備が送られてくる事はない。

 

「各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え。解散」

 

千冬の指示のもと、各自が自分の担当場所へと移動し始める。

そんな中、千冬は箒を呼び止める。

 

「あ、篠ノ之はここに残れ」

「何でしょうか、織斑先生?」

「あー、その・・・だな、」

「?」

 

千冬は歯切れが悪そうにしながら呼び止めた理由を、

 

「今日はお前の誕生日だからあーーー

「ちーちゃ~~~~~ん!!!」

ーーーいつが来た」

 

・・・言いきる前に原因がやってきた。

 

 

 

砂煙を上げながら砂浜を陸上選手もビックリなスピードで走ってくる人影。童話の中から出てきたような服にメカメカしい兎耳。

篠ノ之 束、その人である。

 

両手を広げ、最高の笑顔で千冬に飛びかかっていく束。

 

「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さあ、ハグハグしよう! 愛を確かめーーーぶへっ」

 

しかし千冬のアイアンクローが発動。

まるで飛んできたボールをキャッチするかのように、束の顔面を鷲掴みした。

 

「束、サッサと要件を言え。そうすれば手心くらい加えてやらんこともないぞ?」

「言う! 言うから離して! このままじゃ束さんの頭が“パァーンッ!”ってなっちゃうよ!? 破れた水風船になっちゃうー!」

「チッ」

 

舌打ちとともに束を捨てる千冬。

いや本当、ただ手を離して解放すればいいのにまるでゴミを捨てるかのように、放り投げたのだ。見ていた全員が“あ、捨てた”と思った。

 

「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒たちが困ってる」

「えー、めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ、はろー。終わり」

 

ぽかんとしていた一同も、やっと騒ぎだした。

と、言うより目の前でいつも学校で見てる気がするようなバカをやってるのがISの生みの親、篠ノ之 束だと思いたくなかったようだ。

 

聞こえてくる評価は、“割と普通”とか“忍野くんと同じ事やってる”とか“年考えようよ”など、親しみやすさを感じるものから失礼極まりないものまである。

一夏も額に手をあて溜め息をついている。

 

「それで、用件はなんだ束」

「おお~っとそうだった! けどその前に・・・」

 

すると束はポケットから、さながら四次元ポケットのように大きさを無視して黒電話を取り出した。今ではテレビでも見かけなくなった回転ダイヤル式電話機。海外組の生徒はそれが何なのか分からず首を傾げてる。

 

そんな生徒たち眼中にない束は早速ダイヤルを回してどこかに電話をかけはじめた。

 

「あ、くーちゃん? 浮上して」

 

 

すると突如として轟音と共に海に発生する大きな水柱とその中から現れた人工物。

観ようによっては鯨が跳ねたようにも見え、その巨大な構造物は重力に従って徐々に傾き、多量の海水を押しのけて海上に鎮座した。

 

銀色に輝く船体。旅客機のエンジンにも見える推進器。亀の甲羅のように丸みを帯びた船尾の構造物。既存の物とはまるで違う姿をしていたが、それが何なのか全員に分かった。

 

「「「「せ、潜水艦!?」」」」

「あ、そんな事どうでもいいから」

((((ええーーー!???))))

 

突然現れた潜水艦に驚く生徒一同。

しかし束は折角のリアクションを冷たい一言で済ますと箒のそばへ駆け寄る。

 

「やあ! 箒ちゃん!」

「・・・どうも」

「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」

「・・・そうですね。篠ノ之さん」

「苗字呼び!? それにさん付け!?」

「あっ、特に用件がないのであればこれで失礼させてもらっても宜しいですか?」

「他人行儀!? 殴ってもいいから束さんを捨てないでー!!」

 

箒の足元にすがって、よよよ~っと涙を流す束。

最初は照れくさそうな顔をしていた箒だが、数年ぶりの対面でいきなりセクハラが出てきた途端、無表情になりゴミを見るかのような絶対零度の視線を束に向けた。

暴力をふるわないだけマシか?

 

「はぁ~。それで、どうしたんですか姉さん」

「こほん、箒ちゃんの誕生日プレゼントを持ってきたんだよ」

「プレゼント、ですか?」

「そうだよ! とくとご覧あれなんだよ!!」

 

束が右手をあげると、潜水艦から何か白煙を上げながら射出され生徒たちの目の前に落着した。飛んできたのは、機械の箱。その箱は駆動音を立てて開いていき、一機のISがその姿を現した。

 

「これが、箒ちゃんのため第三世代型IS・・・『紅椿』だよ」

 

 

 

 

 

002

 

 

「わ、私のIS・・・」

「おい、束!」

 

千冬が声を張り上げる。

 

それはそうだ。一応、代表候補生に登録されてる箒だが、いきなり専用機を持つことになるんだ。教師としては見過ごすことはできないだろうし、例え第一世代のISだったとしても束が作ったとなれば政府が横槍を入れてくるのが目に見えてる。

 

「第三世代って・・・」

「篠ノ之さんがそれを貰えるってこと?」

「大した努力もしてないのに・・・」

「肉親だからって、なんか不公平じゃない?」

 

生徒たちの間に、箒が専用機を受け取ることに対する不満が広がっている。

 

しかしその空気を一変させる声が響いた。

 

「不公平じゃないよ」

 

束は作業を中断して不満を漏らしていた生徒に詰め寄ると、周りの生徒にも聞こえるように言う。

 

「箒ちゃんは“束さんの妹”として命を狙われるかもしれない。なのに今まで専用機(身を守る術)がなかったこと事態がおかしいんだよ~?」

 

ISの産みの親である篠ノ之 束。そして束の技術を悪用しようとする奴らが人質として真っ先に狙うのは、妹である箒である。

表沙汰にはなっていないが、IS登場初期の頃は誘拐未遂が何度もあったのだ。犯人が箒に接触する前に政府か束によって潰されたが・・・。

 

そんな彼女が、万が一の時のためのISを持っていないのは、政府的思惑があったのだろう。

 

「国がほうきちゃんに専用機を持たせないから束さんがプレゼントするんだよ? どこが不公平なの? ねえ!?」

 

詰め寄られている生徒は涙目になり声にならない悲鳴を上げた。

 

「その辺にしてあげなよ。それより早く箒に専用機を渡してあげれば?」

 

見かねた忍野が束の注意を逸らす。

興味がある相手との話の途中であれば、束の注意を逸らすことは出来ないが、

 

「お~っと、そうだった! ちょっと待っててね、箒ちゃん! あ、これいっくんたちの新装備の資料ね!」

 

言いたい事を言ってすでに目の前の生徒に興味がないのか、最適化がやりかけなのを思い出し、装備品の書類を忍野と一夏に渡してから作業に戻った。

 

「あれ本当に第三世代だと思うか?」ヒソヒソ

『どうじゃろうな。あの兎娘は何をしでかすかわからん』

「GNドライヴさえ搭載してないならなんでもいいさ」ヒソヒソ

 

束から受け取った資料に目を通しながら紅椿に対する率直な意見を言う一夏と忍野。一夏からすれば、あの束さんが第三世代なんて他の人も作ってる世代を作るとは考え難い。忍野はGNドライブみたいに襲撃の対象になるものがないなら気にしないらしい。

 

 

箒に紅椿を纏わせ、最適化と微調整をしていた束は、作業の手を止め空中投影の通信画面を開いて応援を呼んだ。

どうやら作業がはかどっていないらしい。

 

「くーちゃんも降りてきて手伝って~!」

『わかりました』

 

顔は分からなかったが女性の声が聞こえた。

・・・さっきの黒電話は何だったんだ?

 

すると停泊している潜水艦の船尾にあるドーム状の構造物が、ゆっくりと、まるで怪獣が口を開けるかのように上へと開いていき、一体のISが飛び出してきた。

 

その機影を見た瞬間、全員が驚いた。

 

通常のISよりも一周り以上も大きい全身装甲(フル・スキン)の機体。ごつごつとしたフォルムと白と黒のカラーリング。いかにも頑強そうでかなりの重量がありそうに見える。磨き上げられたその装甲は眩しいほどに太陽の光を反射している。

その額には黄色のV字アンテナ。そしてその背中から緑色(・・・)に輝く粒子を放出していた。

 

「あの緑の光って・・・」

「もしかして織斑くんと忍野くんの専用機って・・・」

「きっとそうよ! 篠ノ之博士がーーー」

 

女子生徒たちは現れたISに驚嘆の声をあげている。機影こそ違うが、二人の男子が使用するISと

同型と思われる機体。一部の生徒は“新たな男性操縦士が乗ってるのでは?”っと騒いでる。

 

だが一夏と忍野だけは違う反応だった。

 

「・・・忍野、あのガンダムって?」ヒソヒソ

「俺も知らないよ。新型か?」ヒソヒソ

 

彼らの知るガンダムと呼ばれる機体は、自分達が持つ物を除いて一機だけ。しかし目の前に現れたガンダムは記憶にある機体とは全くの別物だった。

リメイクしたのか、新型機か、それとも・・・。

 

「束さん。あの機体はなんですか?」

「ふふふ、あれぞGNドライヴ搭載ISの4号機。『ガンダムヴァーチェ』だよ!!」

((1号機どこいった!?))

 

思い切ってガンダムタイプのISを訪ねる一夏。

返ってきたまさかの解答に、声に出さず忍野と二人で同じツッコミを入れた。

 

そうこうしてる内に、みんなが見守る中ヴァーチェと呼ばれたISは忍野の頭上(?)までゆっくり移動し、

 

「って、ちょっと待てよ!?」

 

全身装甲のISは忍野目掛けて降下した。

 

 

ズシン!

 

 

重低音を響かせながら砂浜に着地するIS。その重量ゆえか、脚部が足首辺りまで砂に埋没している。

その脚の横ですっ転んでる忍野。ギリギリで避けたようだ。

 

「危ないだろクロエ! 俺を潰す気か!!」

『ええ潰す気でしたのに、なぜ避けたのですか?』

「訊くなよ!? 寧ろこっちは理由を訊きたいよ!!」

『え? だって忍野さま、昨日ラウラがわさびを食べるのを止めず、泣かせたでしょ?』

「理不尽過ぎる!!」

『それに先日、私は“水鏡にいらして下さい”と申しましたのに、一向に現れないではありませんか。ですからその意趣返しです』

「俺にはあのメールから“ボコボコにしてやるからサッサと来い”って感じがしたんだが」

『なんと! 私の思いはあのメールでしっかりと伝わっていたのですね!』

「喜ぶな!! って、ちょっと待て。やっぱりボコボコにするつもりだったのか!?」

『ええそうです。人様の妹の唇を奪うようなアンチクショウにはお仕置きをしないと。では忍野さま、歯を食いしばらないで下さい』

「歯を食いしばらないで殴られると顎が逝っちまうだろ!! それより拳を下ろせ!!」

 

一同はフリーズしている。全身装甲のISから発せられたのは自分たちと同い年くらいの、若い女の声で、男かと期待していた生徒は落胆きている。

・・・みんな、丸太のような腕で人間を殴ろうとしているISを止めようよ?

 

 

「貴様! それ以上嫁を好き勝手にはさせんぞ!!」

 

やっとフリーズから回復したラウラ。忍野を襲うISに対してプラズマ手刀を突きつけ威嚇する。

 

それを見てゆっくり拳を下ろし、彼女に向き直るIS。

 

『“クロエ”になってからは、はじめましてですね、ラウラ』

 

「え?」

 

自分の名を呼ばれて呆けた顔するラウラ。

そんな彼女の目の前で巨大なISは展開解除の光を放ち、その中から現れた人物を見た瞬間、ラウラは目を疑った。

整った顔立ちに長い銀髪。自分に向けられたその微笑みは、もう二度と見ることがないと思っていたものだったのだから。

 

「ね、姉・・・さん、ですか?」

 

恐る恐る、そして希望に縋るように訊ねる。

 

「はい。久しぶりですね、ラウラ」

「あああ・・・姉さん!!」

 

走り出したラウラは一直線にクロエの胸に飛び込み、大粒の涙を流した。

 

「生きて、生きていたんですね!! 夢ではないのですね!?」

「ええそうですよ。私は生きてますよ」

 

姉妹の再会に、状況がわからない生徒たちも涙し、拍手が巻き起こした。

山田先生は号泣し、千冬も目を潤ませている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、くーちゃん。再会もいいけど手伝ってよ~」

「俺が変わりに手伝うよ」

 

コミ障兎(空気を読まない奴)不良生徒(空気に馴染めない奴)を除いて。

 

 

 




ヴァーチェや紅椿の世代に関しては後の話で説明します。

評価や感想や感想をお待ちしております。
最近ダメ出しすらないので・・・。


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暴走した軍用機

読者の皆さん、お久しぶりです。
『週1』目指してるくせに『十日1』の作者、戦争中毒です。

やっとのことで福音の作戦会議までたどり着きました。このペースだとアニメ一期分が終わるのは10月になりそうかな?

それでは本編スタート


001

 

 

「それじゃ、ちーちゃん。束さんはお腹がすいたから船に戻るから、用があったら連絡してね!」

 

一通りの作業を終えた束。

箒から御礼の言葉を受け取った途端に帰り支度を始める。

 

「行ってしまうんですか、姉さん?」

「はい。お別れですね」

「嫌です! 行かないでください!!」

「大丈夫ですよラウラ。先ほど私のISへの連絡コードをあなたのISに転送しておきました」

「で、では!?」

「はい。何時でもそこから連絡して下さい。すぐに会いに行きますよ」

「ね、姉さん。ありがとうございます!」

「また会いましょうね、ラウラ」

 

ラウラとの別れを惜しみながらも済ませたクロエは、ヴァーチェを展開して束を抱えると、千冬に一礼してから潜水艦へと飛翔して帰って行った。

 

 

 

 

「なんか・・・、嵐みたいな人だったわね」

「・・・疲労感MAX」

 

互いの背に寄りかかり地面に座り込む鈴と簪。周りを見ると何人もの生徒が座り込んでいて、中には倒れてる生徒も見受けられる。

 

束の、そのあまりにも強い個性に呑まれ、一緒に居ただけでみんな疲弊したのだ。

・・・エナジードレインよりたちが悪い。

 

 

「たっ、た、大変です! お、おお、織斑先生っ!!」

 

まるで束と入れ違いになるかのように大慌てで旅館の方から走ってくる山田先生。各装備の書類整理の為に戻っていたのにどうしたのだろうか?

 

コラコラそこの二人。山田先生のスイカを睨むな。

 

「どうした?」

「こ、こっ、これをっ!」

 

山田先生が手渡した小型端末を見た途端、千冬の顔が険しくなるのが見えた。

 

生徒達は不思議そうに見ているが、離れていたのと出来るだけ小声で喋っているので一部を除き、二人が何を喋っているのかは分からない。

 

 

 

 

「忍野、軍用ISだってさ」

『ふんっ! つまらん』

「面倒なことになりそうだな」

 

“口の動きだけ”で会話を読み取った者達の目の前で事態は次の段階へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

002

 

 

「では、現状を説明する」

 

旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷、通信機器やディスプレイが用意され今は仮設の作戦本部になっている。

何の作戦本部か? 今から千冬が説明します。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった。その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2㎞先の空域を通過することがわかった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」

 

淡々と続ける千冬。その説明を全員が厳しい顔つきになって話を聞いてる。

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

(学生にやらせるような事かよ)

 

一夏は内心呆れていた。

軍事利用が禁止されてるISが暴走、その尻拭いを学生にやらせる。『教育って何だっけ~?』っと軽い現実逃避の真っ最中。

 

「それでは作戦会議をはじめる。意見があるものは挙手するように」

「はい」

 

早速手を上げたのはセシリアだった。

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

「わかった。ただし、二ヵ国の最重要軍事機密だ。決して口外はするな。漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる」

「了解しました」

 

開示されたデータを元に相談をはじめる。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型・・・わたくしのブルー・ティアーズや一夏さん達のガンダムと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

「攻撃と機動の両方に特化した機体ね。厄介だわ。しかも、スペック上ではあたしの甲龍を上回ってるから、向こうの方が有利・・・」

「この特殊武装が曲者って感じだね。リヴァイヴの防御パッケージじゃ連続の防御は難しそうだね」

「打鉄弐式の武装じゃ、真っ向勝負は・・・無理」

 

セシリア、鈴、シャルロット、簪はデータから自分の専用機との脳内シミュレーションをして率直な感想を述べる。

 

「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルもわからん。偵察は行えないのですか?」

 

ラウラの疑問に千冬が答える。

 

「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だろう」

「一回きりのチャンス・・・ということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体であたるしかありませんね」

 

山田先生の言葉に、全員が忍野を見る。

どんな攻撃を仕掛けられても対処できる技量を持ち、この場に居る専用機持ちの中で最も攻撃力が高いのはアルケーガンダムによる接近戦だ。

一夏のケルディムによる狙撃もあるが、その場合は必ず前衛が必要になる。どうやっても忍野が選ばれるのは必然だった。

 

「・・・忍野、やれるか?」

「まぁ乗り気じゃないけど、専用機を持つ者の義務としてならやってやるよ」

 

頭を掻きながら、至極どうでもよさそうに答えた忍野。データを見るその目は一切の感情を写してなかった。

 

千冬は内心、生徒にこんな事をやらせる自分を不甲斐なく思い、しかしだからといって自ら出撃出来ない事を腹立だし感じていた。

しかしそんな事を考えてる合間にも作戦目標は接近し続けている。すぐに気持ちを切り換えて、作戦の決定を急ぐ。

 

「よし。それでは作戦の具体的な内容に入る。現在この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られて来てますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」

「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」

「二十時間です」

「ふむ・・・。それならば適任ーーー

「お断りだ」

 

異を唱えたのは忍野だ。

 

「セシリア、その高機動パッケージでの戦闘経験はあるのか?」

「あ、ありません。しかしわたーーー」

 

「笑わせるな」

 

セシリアの言葉を遮り、明らかに不機嫌そうに言う忍野。

その雰囲気に呑まれ全員が黙り込んだ。

 

「今回はいつものお遊戯とは違う、命賭けの闘いだ。パッケージ換装するといつもとは機体の癖が変わるんだぞ? 癖の把握もできてない装備で能力値不明の相手に挑むのは自殺行為だ。それにな、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国が俺達に望んでいるのは“失敗”だ」

 

 

 

「どういう事だ!?」

 

失敗を求められてると言った忍野に食いかかる箒。口には出さないが他のみんなも今の発言に内心穏やかではない様子だ。

だが周りから快く思われなくても気にも止めないのが目の前の男。

 

「元気がいいなぁ。なにかいいことでもあったか?」

 

いつもと同じ台詞。しかしいつもとは違い嘲るかのような態度だった。

その違いに気がついた一夏と簪とラウラは、背中を冷たい物が流れたような気がした。

 

「多分、俺達が失敗することによって『ただの専用機では軍用機には勝てない、なら国土防衛には軍用機は不可欠』って言うデモンストレーションにして軍用機開発の公式化をするかもな。昔の核兵器みたいに」

 

核兵器は国際条約で規制されるまで各国で開発が進められていた兵器の一つである。一発で都市を壊滅させる兵器。被害を受けず、その兵器の威力だけを知った国々は既存の兵器で他国を牽制するより、圧倒的な力で抑えつけるほうが自国の為になると考え、国を挙げて開発競争にのぞんだものだ。

 

しかしISは核兵器と違い、登場してすぐに規制されたので軍用兵器としての開発が出来ない(ドイツのIS部隊も機体自体は競技用ISより少し良い程度)。ISを兵器としてしか見ていない者にとって、現状は我慢ならない。ならば兵器開発に踏み切れるだけの理由を作ればいい、という思惑が見え隠れしている。

 

「何を根拠にーーー」

「ちふ、織斑先生。まだ大事な事を聞いてません」

「・・・なんだ織斑」

「暴走したISの“搭乗者”の生死については?」

「「「!?」」」

 

搭乗者の存在をここにきてやっと気付いたかのような反応をする一同。

ISは人が乗らないと動かない。なら暴走したISに人が乗っているのは当然だ。なのにその搭乗者に関する説明がされないのはおかしい。

だとすると忍野が言った“デモンストレーション”の話も推測ではないのかもしれない。

 

「ハァ・・・送られてきたデータには搭乗者に関する事は何一つ書かれていない」

「やっぱり」

 

千冬は観念したかのように溜め息を一つ吐いてからそう答えた。

 

「大方、作戦が成功しても搭乗者に怪我や死亡させた罪で難癖をつけてくるつもりだったのだろう。だがこの点は大丈夫だ」

「へぇ、なんで大丈夫なんだ?」

 

まるで値踏みするかのような目つきで千冬を睨む忍野。狭い部屋の中は言いようのない緊張感に包まれていた。

 

「データが送られてきた時点で学園から搭乗者に関する情報を集めるとの連絡があった。とりあえず死なせなければ何とかなる。それにお前なら怪我をさせても殺さずに止めれるだろ?」

 

してやったり。

かなりの難題を言いながら不敵な笑みを忍野に向ける千冬。

 

「上等だ、福音は確実に落とす! 束が持って来た装備を使うぞ」

 

そう言うと、忍野は手に持っていたタブレット端末をみんなに見えるよう机の上に置いた。

 

そこに表示されていたの二種類の機体。奇妙な形をしており戦闘機から翼やコクピットを外してコンテナや大砲の砲身を取り付けたような機体だった。

 

「“GNアームズ”と“オーキス” 束が作ったIS用の強化支援ユニットだ。こいつはISにドッキングして使う装備だから破損してパージしたとしても、ISの基本性能に影響がない」

「そのようだな。それで、作戦は?」

「GNアームズ・・・、ドッキング形態だとGNアーマーって名前が変わるが、とにかくこいつ装備したケルディムとアルケー、つまり一夏と俺の二人で仕掛ける」

 

一通り資料に目を通す千冬。その目は真剣で、一字たりとも見逃さまいとしている。

すると機体サイズの数値に目を止め、こんな疑問を投げかけた。

 

「確かに性能はいい。だがこのデカ物でどうやって仕掛けるんだ? 相手は超音速飛行をしてるぞ?」

 

千冬の言う通り、GNアームズなる装備は一般的なワンボックスカーと同クラスの大きさがあり、オーキスに至ってはバス並でIS装備としては破格のサイズだ。

虎が猫と瞬発力で勝負しても勝てない。

物体のサイズが大きくなればなる程、瞬間的な素早い行動・旋回が出来なくなるのが世の常識である。いくら火力があっても追いつけなければ意味がない。

 

「その辺の心配は無用だ。GNアーマーはGNドライヴ搭載IS用に設計されてるからトランザムが使える。あ、オーキスは違うぞ?」

 

それを聞いて納得する千冬。と、同時にこのデカ物がトランザムで素早く動くのはチートじゃないかと考えた。

千冬さん、あなたが一番チートですよ?

 

「他の専用機持ちは戦闘空域と旅館との中間地点で待機。目標が俺達を突破したり、増援が必要になった時すぐに対応出来るようにな」

 

暴走したISを止める作戦としては、二段構えの策は理にかなっている。

本当は忍野と一夏の思惑があるのだが・・・。

 

「その際、簪にはこのオーキス・・・ってこいつもドッキングしたら名称が変わるんだったな。えぇっと、デンドロビウムを装備してもらう。今こいつの武装は拠点防衛戦の物だからミサイルばっかりなんだ。味方が多い状況でミサイルみたいな誘導兵器を使うってなると、適任者は簪しかいない」

「わ、私!?」

 

突然、白羽の矢が立つ簪。

しかしこの中でミサイルのような誘導火器を使いこなせるのは彼女しかいない。

 

千冬もこの件には納得したように頷く。

 

「確かに更識が適任のようだな。しかしなんだこの武装は? まるで動く爆薬庫だぞ」

 

資料にはオーキスの上部コンテナの中にミサイル等の爆発物が多量に収めている事が表示されている。その量から予測される火力は想像するだけで冷や汗もので、千冬以外の全員が開いた口が塞がらないっと言った様子だ。

 

「今時、拠点を防衛するにはミサイルは欠かせないだろ?」

「・・・それもそうだな。では作戦内容の確認をする」

 

一拍おき、一同を見渡してから千冬は作戦の内容を頭に叩き込むかのように言った。

 

「織斑、忍野の両名が福音迎撃にあたり、他の専用機持ちは戦闘空域と当館の中間地点で待機。両名の指示の元、援護や追撃に備える。いいな?」

「「「「はいっ!!」」」」

 

 

「さぁてと、行くぞ一夏」

「ほいよっと、行きますかな」

「待て忍野、織斑。どこへ行く?」

 

作戦が決まった途端、部屋から出て行こうとする忍野と一夏。

千冬がそれを咎めると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「トイレだよ」」

 

場の空気をぶち壊す答えに、全員が思わず転びそうになった。

 

 

 

 

003

 

 

さて、男性トイレの前にまで来た忍野と一夏。

仲良く連れション・・・ではない。

二人はトイレを素通りし、廊下の隅にある人目につかない小さな部屋へと入った。

 

「一夏、念の為に忍に血を吸わせとけ」

「やっぱりか。忍」

 

一夏の呼びかけに応えるように音もなく影の中から現れる忍。

 

「忍。話は聞いていたよな?」

「うむ。しかしそれほど危険かのう?」

「まぁ保険だと思ってくれればいいよ」

 

床に胡座をかいて座り込んだ一夏、忍は抱き合うようにして一夏の首筋に、

 

「あ、量は加減しろよ? あんまり吸血鬼寄りになるとISがついてこれないからな」

「そんなもの気にせんでも良かろうに」

「俺達はISで目標を潰すんだ。神でもない怪異が必要以上に人間のゴタゴタに干渉するのは良くないだろ?」

 

忍は何も答えずに改めて一夏の首筋に噛み付く。

 

血を吸い終わりそっと牙を外す忍。その歳に零れた血液を、ぺろりと綺麗に舌で舐めとってから影に沈んでいった。

 

「・・・と、と」

 

立ち上がろうとしてフラつく一夏。

 

(吸われた直後は、貧血にも似た症状が現れるな・・・)

 

当たり前なのだが、いつまで経ってもそれに慣れない一夏は血を馴染ませるかのように首筋を揉む。

 

「忍野、お前はいいのか?」

「ご心配なく。もう“リミッター”は緩めてあるさ」

 

そう言って拳の関節を鳴らす忍野。

 

 

「さて、吸血鬼の天敵みたいな名前のISを落としに行きますかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

004

 

 

そこは全てが鋼鉄で作られた場所。壁や天井には窓がなく、時計がなければ今が何時なのかも分からない。

 

歩くたびに硬質な音が響き渡り、それが部屋の温度を何度も下げているように感じられた。

 

それなりに広い部屋のはずなのに、部屋の中央に鎮座する物によって非常に狭く感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なーんて堅苦しい表現をしたが、特に変わった所に居る訳ではない。

 

場所は水鏡の船尾にあるドーム状の格納庫の中。

部屋の中央に鎮座しているのは、GNアームズとオーキスだ。

 

「すまない束。こんなことを頼むことになって」

 

隣に居る束に謝る千冬。その目の前では専用機持ち達が山田先生と協力して作業にあたっていた。

ちなみにクロエは格納庫の操作や、福音迎撃の為にやって来るであろう軍への警戒の為にブリッジに籠もっている。

 

「別にいいよ! もともと後でGNアーマーとデンドロビウムの御披露目をするつもりだったからね。でもちーちゃんはいいの? いっくん達が危ない目に遭うのをーーー」

「言うな。どういうものであれ、私は一夏の意識を尊重したい」

「ふ~んっ。それじゃ、束さんは暴走したISを遠隔操作で止めれないかやってみるよ!」

 

何やら不穏な台詞を言い残し、束は格納庫を出て行った。

 

何故みんなが水鏡に乗っているのか。それはあの後、忍野と一夏が束に支援機の使用を頼むと彼女は、

 

『なら水鏡においでよ! そしたらここから直接出撃すればいいし、降ろす手間が省けるってもんだよ!』

 

と言い、専用機持ちと千冬と山田先生の十人の乗船が許可されたのだ。

 

 

 

 

一夏はケルディムとGNアーマーのドッキングを完了し、システムチェックに勤しんでる。忍野はGNアーマーの上に立ち、何やらケーブルをアルケーのボディに繋げている。

二人は作業の邪魔になるのか、頭部の装甲を解除している。

 

「拡張領域内の粒子貯蔵タンクとのケーブル接続完了。一夏、供給されてるか?」

「GN粒子残量増加を確認。ちゃんと供給されてる。でもいいのか? ここでタンクを使ったらトランザム後が・・・」

 

忍野がGNアーマーに接続しているのは粒子貯蔵タンク。

ケルディムやアルケーの単一仕様能力『トランザム』。その弱点はトランザム終了後、一時的なGNドライヴの出力低下が起こることだ。トランザムによって内蔵粒子を使い果たし、新たな粒子生産が低下した状態だと、GN粒子に機体性能を依存しているガンダムタイプは攻撃・防御・移動のすべてが平均以下なる。その弱点をカバーするための粒子補給に使うのがこのタンクだ。

それを今使うという事は、トランザム終了後のアルケーはただの的になることを意味する。

 

「どうせ死にはしねぇんだ。それにGNアーマーの武装は多量のGN粒子を消費するんだ。粒子は少しでも多い方がいい」

「・・・それもそうだな」

 

 

 

 

オーキスの方ではまだ各種システムチェックの最中だ。

何しろオーキスはGNアーマー以上の巨体なうえ、その上部にあるコンテナはミサイルが満載され爆薬庫と化している。

 

簪もドッキングした打鉄弐式の火器管制システムとのリンクに大忙しのようだ。

 

「更識、デンドロビウムの準備は?」

「あと5分はください」

「織斑先生。これ以上、出撃が遅れれば福音が上陸する恐れが・・・」

 

すでに当初の出撃予定時刻を過ぎている。オーキスの準備を待っていたら福音が上陸し、本土の上空で戦闘になる。そうなると海上とは違い人的被害が出る恐れがあった。

 

 

「・・・仕方がない。GNアームズを先に出撃させ、準備が整い次第オーキスを発進させる。山田先生、出撃準備を」

「はいっ!」

 

山田先生はすぐに格納庫の隅にあるコンソールへと走り、GNアームズの発進準備に係る。

しかし狭い格納庫。GNアームズのすぐ後ろにはオーキスがあるので下手に推進器を吹かせれない。そこでドッキングして動けない簪と火器チェック中のシャルロットの為にラウラや箒は、補修材らしき鉄板を持ってきて即席の防炎壁(ブラスト・ディフレクター)にし、鈴とセシリア急いで発進の邪魔になるものを片付けた。

 

全員の協力によりたった2分で発進の用意ができた。

 

「出撃準備完了。織斑くん、忍野くん、いつでも発進してくださいっ!」

 

山田先生から発進許可を受けた瞬間、二人は頭部の装甲を展開した。

 

「オーライ。ケルディムガンダム、目標を狙い撃つ!」

「アルケーガンダム。いくぜェ!」

 

二機のガンダムのセンサーアイが光り、それに呼応するように水鏡から発艦するGNアーマー。

千冬達の見守る中、機体を赤く発光させて戦闘空域へと加速させて行った。




次回にGNアームズとオーキスの設定を出します。

ご意見やご感想をお待ちしております。


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支援機設定

束が製作したIS用大型作業用パーツを戦闘用にアレンジしたもの。その巨体ゆえに隠密性や被弾率の問題があるが、火力・防御力・機動力の大幅アップが可能。

 

開発コンセプトは“能力強化と装備換装による汎用性”となっており、装備の変更でさまざまな戦闘に対応できる。

 

 

 

 

『GNアームズ』

 

GNドライヴ搭載IS専用の支援機

 

ISに不足していた火力と機動力の強化装備ユニット。GNドライヴ搭載機専用を前提に製造されており、火器や推進器にGN粒子を使用する。そのため比較的小型にできた。

動力はIS本体のGNドライヴとアームズ内に貯蔵されたGN粒子。

ドッキング形態では名称が『GNアーマー』になる。

 

GN粒子の重量制御により戦闘機並の機動力でありながら非常に細かい機動ができる。

 

ドッキングは直立したISの後ろから包み込むような形に装着され腰と脚部で固定する。多少の稼動制限はあるが、IS本体の上半身は自由に使える。

 

標準装備は両脚部GNクローと2門のGNキャノン、およびGNフィールド。

両アームの武装は換装できる。

 

 

 

・武装

 

GNクロー

 

両脚部の先に装備されたクロー。

 

武装ではなく作業用の物で、資材や物資を掴むためにある。そのため小さく、可動範囲も狭い。

しかし作業用なので見た目以上のパワーがあり、補給物資の輸送や敵を掴むのに使用できる。

 

 

 

GNキャノン

 

左右に装備された砲身が短いエネルギー砲。

 

本機の主兵装。GNスナイパーライフル以上の火力を持ちながら比較的早い連射が可能な武装。アーマー形態になるとISの肩の位置にくる。

 

 

 

GNフィールド

 

GN粒子を使用した全方位シールド。

 

アルケーのGNシールドに装備されていたシステムを標準装備。全方位型なので防御方向を気にする必要がない。実体火器・エネルギー火器問わず防御出来る。

ただし高火力や連続攻撃を受けると粒子圧が低下してフィールドが脆くなり、攻撃が貫通してダメージを受けることがある。

 

 

 

右アーム:GNツインライフル

 

上下に砲身が並んだ大型のエネルギー砲。

 

折り畳んだ砲身を連結させることによりロングライフルとして長距離砲撃が可能。射程はドッキングしているISのセンサーに左右されるがその火力は圧倒的で、ケルディムの全エネルギー火器を合わせでもって同列に並ぶことが出来ない。

ただしその火力ゆえエネルギーチャージと冷却に時間が掛かるので連射はできない。

 

 

 

左アーム:超大型GNミサイルポッド

 

破格の装弾数を誇るミサイルポッド。

 

コンテナが左右にスライドし、上面と下面にできる隙間から多量のGNミサイルが発射される。

コンテナ自体もかなりの強度があるのでそのまま打撃による攻撃ができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オーキス』

 

通常型ISに対応した支援機

 

こちらもISの火力と機動力の強化装備ユニット。しかしこちらは通常のISをドッキング出来るようにしてるため、動力源が別に必要になりGNアームズより大型化してしまった。

動力は水素エンジン。

ISとドッキング時の名称は『デンドロビウム』

 

6基の推進器による加速はGNアームズ以上だが、その分小回りが効かない。

 

ドッキングはISの下半身から腹部まで取り込むように装着される。そのためGNアームズに較べるとIS本体の自由は少ないが、本体への被弾率は低く済む。

 

標準装備はクロー・アーム。

機体上部と両舷の装備は換装できる。

 

 

 

・武装

 

クロー・アーム

 

機体下部に内蔵されたアーム。

 

本機の格闘装備で同時に作業装備でもある。アームのパワーは凄まじく、IS用の装甲を簡単に握り潰すことが出来る。

アームの先には大型ビームサーベルを装備しており、これは実体剣に換装可能。

 

 

 

メガ・ビーム砲

 

機体の全長と同サイズの砲身をもつエネルギー砲。

 

GNドライブを持たないIS用火器としては最高クラスの威力をもつ。目標を狙って撃つ“発射”と、複数の目標を凪払う“照射”の二種類の射撃方法がある。

砲身の制御はセンサーによる自動ロックオンではなく直接腕で操作するマニュアル制御の為、命中精度はパイロットの腕に左右される。

エネルギーチャージと冷却の都合上、連射はできない。

 

 

 

Eシールド発生装置

 

エネルギーシールドを機体全体に展開する装置。

 

ISにある絶対防御システムをベースに開発された装置で、常時展開型のエネルギーシールドを発生させることができる。これにより実体火器・エネルギー火器問わず多少の攻撃では機体へのダメージはない。

ただし防御限界があり高火力や連続攻撃によってシールドが破損、シールドのダメージ箇所に瞬間的な穴が空き、攻撃が突破してくることがある。

問題点は装置が外付けなので戦闘中に破壊、使用不可にされる危険性がある。

 

 

 

武器コンテナ

 

オーキスの機首上部に搭載される巨大な箱状の武器コンテナ。

 

武器コンテナは規格化された8つのウェポンスロットを持ち、スロット内部にはユニット化された多数のミサイルが搭載される。

使い切ったコンテナはパージしてデッドウェイトになるのを防ぐ。

 

 




オーキスの本来の動力源は危険過ぎるので「OO」での一般な動力炉である水素エンジンにしました。


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いちかイボルブ 其ノ壹

 

 

001

 

 

 

~千冬サイド~

 

 

デンドロビウムが発進してから、私と麻耶は束に提供してもらった臨時の作戦司令室に移動した。

 

壁のモニターに全員のISの現在地などが表示され、福音の予測現在地も映されている。

すると束が申し訳なさそうな顔をして部屋に入ってきた。

 

「やっぱりダメだったよちーちゃん。コアネットワークから切り離されていて呼びかけることも出来なかったよぉ~」

「そうか。後はあいつらに託すしかないか」

 

しかし私の内心は、言葉ほど穏やかではない。

嘗てこれほどまで世界最強(ブリュンヒルデ)の称号を恨めしく思った事はあっただろうか?

・・・いや、あったな。

 

「いっくんたちが心配?」

「当然だろう」

 

軍用に調整されたIS。今まであいつらが経験したことのない闘いとなるだろう。全員が、無事に帰ってきてくれればいいのだが・・・。

 

「織斑先生っ! 織斑くんと忍野くんの反応が消えましたっ!!」

「・・・なんだと!!?」

 

 

 

 

 

 

002

 

 

 

さて、水鏡の船内で大騒ぎしてる頃。

 

一夏と忍野はピンピンしていた。

 

「これ絶対後で怒られるよな?」

「でもセンサーが生きてたら下手に被弾できねェぞ?」

 

二人の反応が消えたのはバイタルチェックなどの外部から確認出来る操縦者のセンサーを全て切ったからだ。これで水鏡や中間地点に残った者にはISが動いているかどうか以外、二人の状態を確認する手段がなくなったのだ。

 

「もし死んだのに()()()()()どォ説明ェすんだ?」

「普通に誤作動でしたでいいんじゃね?」

「心電図や脳波が点滅したら山田先生ェがスッ転ぶだろうなァ」

「それは見てみたいかもしれない」

《お主らは緊張感がないのう。ほれ、見えたぞ》

 

 

忍に促されて正面方向に意識を向ける二人。

そこには銀色に輝く一機のISが飛翔していた。

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』は軍用ゆえか全身装甲(フル・スキン)に近く、その殆どが銀色の装甲で覆われている。

何より異質なのが、頭部から生えた一対の巨大な翼だ。本体同様銀色に輝くそれは、大型スラスターと広域射撃武器を融合させた新型システムだった。

 

 

「魔を祓うは銀の使者ってかァ?」

《儂らからしたら目の毒じゃな》

「いや、今は関係なくね?」

 

 

「有効射程に入った。先制攻撃を仕掛ける!」

 

折り畳んだ砲身を連結させロングライフルを発射した。

ロングライフルから発せられた光は真っ直ぐに目標を射抜かんと鋭く進んだが、

 

「クソッ! 掠っただけかよ!?」

 

福音は予想外の急加速をし、粒子ビームは翼の端を掠めただけに留まった。

どうやら軍用故に、多方向推進装置(マルチスラスター)の能力も一般に比べるとデタラメのようだ。

 

「まぁこれで決まるようならとっくに捕獲されてらァ」

《トランザム終了、GNドライヴの出力が落ち始めたぞ》

 

GNアーマーの光が消え、駆動系の回転数が落ちていく音が響く。

 

 

「一夏ァ! 手筈通りに行くぞォ!!」

「忍! シールドビットで援護だ!」

 

忍野は乗っていたGNアーマーを蹴って福音に肉薄せんと飛翔し、忍はシールドビットを指揮し援護と防御のためにアルケーの下へ飛ばした。

 

(今のうちに粒子の補給だ!)

 

一夏と忍野が考えた作戦は、GNアーマーを中核にし、その火力にものを言わせた戦術とも呼べるか怪しい野蛮なものだった。

 

まずはGNアーマーで遠距離からの先制攻撃。トランザム後の弱体化が始まったらアルケーガンダムが接近戦を仕掛け、その間に粒子貯蔵タンクから粒子を補給し、GNドライヴが正常化を待つ。

出力が回復してきたら再びGNアーマーの火力で圧倒する。

相手が軍用でなければ確実にオーバーキルな作戦だ。

 

 

 

 

 

「がら空きだァ!」

 

アルケーは機体を捻りながら急加速で福音に接近、体の回転を加えた大質量の大剣を福音の頭上に叩き付ける。

だが福音その攻撃を紙一重で避ける。わずか数ミリ、かなり難度の高い操縦だ。

 

「お上手ゥ、ッてなァッ!」

 

すぐに刃の向きを変え体を反らすように切り上げ、その反動を利用して片脚で蹴り、もう片方の脚からビームサーベルを展開して追撃の蹴り。

だがその全てをひらりひらり、それはまるで泳いでるかのような、踊っているかのような、そんな動きで回避してみせる福音。

そこから忍野は三つの刃で一気に攻め立て、忍はビットによる射撃を行ったが福音は一切防御をせず、回避だけで被弾を避ける。

 

(おかしいィ。近接装備を一向に出しやがらねェ)

 

忍野は攻撃を回避されたことより、この距離で何故格闘戦を仕掛けてこないのが気になった。

 

既に数十の斬撃を放つが一太刀すら当たらない。完全に忍野を翻弄していた。

 

(誘ってみるしかァねェな・・・)

 

格闘戦をしないなら“させればいい”。

 

忍野は意図的に、両手持ちしたバスターソードを大振りの一太刀で浴びせようとした。

剣を大きく振るとどうしても隙が出来る。この距離ならその隙を突いて格闘を仕掛けて来る、と忍野は踏んでいた。

 

 

 

思惑通り、福音はその隙を見逃さなかったーーー、だがそこからが違った。

 

 

 

福音は思惑とは外れ接近をせずに距離をとり、その銀色の翼を前へと迫り出し、装甲の一部が開いた。

 

「La・・・♪」

 

福音から発せられた甲高いマシンボイス。

 

「ッ!?」

 

忍野が咄嗟にシールドを正面に向けGNフィールドを展開した直後、

 

 

 

幾重もの光のエネルギー弾がアルケーに降り注いだ。

 

 

息をつかせる暇も与えない光の雨。

忍はシールドビットを忍野の元へ飛ばそうとしたが弾幕はそれすらも飲み込み、そのまま押し流さんと次々と襲いかかる上に、光弾は着弾すると爆発を起こし、その衝撃が更に忍野の自由を奪った。

 

(なんてェ火力だ! 近づけねェじゃねェか!)

 

アルケーガンダムはファングによるオールレンジ攻撃が可能ではあるが、基本は格闘機なので接近を許さない攻撃で攻められるとどうしても不利になってしまう。

 

 

 

 

「交代だ、忍野!」

 

粒子補給の完了した一夏は、GNフィールドを展開して福音からの攻撃を完全に防いでいる。

 

「一夏ァ! あいつは武器のリミッターが外れてやがるぞォ! 一発でも致命傷になりかねねェから気ィつけろォ!!」

「わかってるよ!」

 

緑色のフィールドに包まれた状態で忍野の前に出る一夏。

両肩にある砲門に光が灯り、左アームのコンテナが左右にスライドし、その隙間にぎっしりとミサイルが整列してるのが見える。

GNアーマーの攻撃準備が整った。

 

「狙撃で落とせないなら・・・、圧倒させてもらう!!」

 

2門のGNキャノンが火を吹き、左のコンテナから濁流と見紛うほどのミサイルが発射された。それだけにとどまらず、ケルディム本体はGNバルカンを撃ち右肩のライフルビットを装着したまま発射させた。

忍野もアルケーのバスターソードをマウントし、ライフルモードで射撃を行った。

 

互いに弾幕の応酬。

福音はその機動力で避け、ケルディムとアルケーはGNフィールドで防ぎ、互いに応戦する。

 

何百発もの攻撃が飛び交う中、粒子ビームの一発が福音の装甲を掠めた。

装甲の表面を焦がす程度のダメージ、しかしその一発で福音の動きが怯んだ。

 

「やれェよ一夏ァ!」

「終わりだ!」

 

一夏は怯んだ隙を見逃さずロングライフルを撃ち込もうとした。

 

 

 

 

 

しかし次の瞬間、目に飛び込んできたのは大型ライフルが爆発する光景だった。

 

 

「「《何!?》」」

 

三人とも思わずそう声を上げながら一夏はロングライフルをパージする。 爆発の仕方からして、明らかに整備不良だ とかそういったたぐいで引き起こされる不具合からの物ではない。

敵からのビーム攻撃によるものだ。

 

《GNフィールド発生装置に異常発生! フィールド展開不能じゃ!》

「ちっ!!」

 

ライフル発射のためにフィールドを解除したのが仇となった。

防御手段を失ったGNアーマーに次々と飛来し突き刺さるレーザー。

なんとか回避を行うも、何発も当たってしまいGNアーマーは満身創痍となっていた。それでもケルディム本体に被弾がないのは奇跡とも思えた。

 

ケルディムのレーダーには、ビームやレーザーが放たれた方角から「UNKNOWN(未確認)」と表示された機影が接近していた。

 

「福音と未確認の敵にGNミサイルを有りったけバラまけ!!」

 

GNアーマーは最後の一仕事とばかりに、その左のコンテナから夥しい量のミサイルを発射した。

 

しかし福音はその機動力で避け、謎の敵はビームとレーザーで迎撃し、ひとつとして命中する事がなかった。

 

ミサイルを撃ち終わった直後、GNアーマーは次々と小さな爆発が起こし機体の至る所から煙が上がり始めた。

 

《お前様、そろそろアーマーが限界じゃ》

「仕方がない、GNアーマーを捨てる!」

 

新たに爆発が発生したところで一夏はGNアーマーをパージした。

その直後、GNアームズは大爆発。その基部が崩壊し、それぞれのパーツがバラバラになって落ちていった。

 

 

「あ~あ、勿体ない・・・」

《そんなこと言っておる場合か! 来るぞ!》

 

正体不明の敵は福音への接近を阻止するようで、それでいて攪乱するような不規則な動きで周囲を飛び回り、その姿を捉えさせない。

だが微かに解る機影から自分達を襲撃した者が分かった。

 

「こいつァ!?」

「無人機の発展型か!?」

 

クラス対抗戦の時に学園を襲った無人型IS。色や形状が少し違うことからその発展型だろうと推測ができた。

 

一夏と忍野は背会わせに追い詰められ、それを無人機が取り囲んだ。

 

「おいおい、冗談キツいぞ・・・」

「ハッハー、ヤベェなァ・・・」

 

本当に冗談であって欲しかった。

自分達を取り囲む無人機は全部で四機。改めてその姿を見ると、以前に比べてスマートな印象を受ける。

非固定装備は円柱型で大きな推進ノズルがあり、ミサイルに似た形状をしている。どうやら高速戦闘用に調整されてるようだ。

砲門が大小二種類あり、大きいものはビームを、小さいものはレーザーを放つ。

頭部や胴体は人に近くなっていたが、しかしその両腕は細くはなっていたがより武器として、人の命を奪う兵器として精錬しているように感じられた。

 

《で、どうするんじゃ? 白旗でも振るかの》

「それで見逃してくれるような相手にァ見えねェな。一夏はどうするよォ?」

「ぶっちゃけ撃つ気満々だ」

《かかっ、血気盛んじゃのう》

 

一夏と忍野がまず恐れたのは福音からの攻撃だった。

しかし無人機を巻き込みかねないその広域射撃武器を撃ってこない。本当に暴走しているのか疑わしく感じた。

 

 

束の間の静寂。

 

 

一夏にはその静寂が重く、そして苦しく感じた。

もう何時間もこの状態だったのではないか、と錯覚する。

 

 

静寂を破ったのは無人機だった。

 

四機すべてがビーム砲を構えた瞬間、一夏と忍野は一気にスラスターを吹かして別々の方向へ離脱、包囲網を突破した。

 

すぐに無人機はレーザーを連射しながら二人を追撃しようとするがそう簡単には当たらない。

 

「目くらましだ、GNミサイル発射!」

 

ケルディムのフロントアーマからGNミサイルが発射され無人機へと飛翔。無人機は迎撃しようとしたがその眼前でミサイルが自爆、単なる機械には何が起こったのか理解できず爆炎から離れるように、二人とは反対の方向へと距離をとった。

 

 

「福音はどこに行った!?」

「知らねェよ!!

 

無人機を一旦振り払い二人が合流すると、

 

 

「La・・・♪」

「「《!?》」」

 

再び響いたマシンボイス。

無人機に気をとられていた二人の頭上には銀翼を広げた福音がいた。

 

すぐに攻撃範囲から逃れようとしたが、モニターに表示された情報を見た忍野と一夏は驚いた。

 

「生体反応!?」

《どういうことじゃ!?》

 

突然、反応を示したセンサー。

操縦者が乗っている福音からの反応なら驚きはしない。

 

問題はその反応が“下”からしたことだ。

 

「密漁船か!?」

 

海面にいたのは旧式の漁船だった。

軍事機密に関わる問題だから海域封鎖の理由を発表しなかったのが原因だろう。でなければ自殺志願者でもない限り、戦闘中の海域へ密漁には来ない。

 

見ると密漁船は慌てて回頭、この場から逃げようとしている。

 

だが無情にも、光の弾は放たれた。

 

 

「シールドビット展開! あの船を守れ!!」

《了解じゃ!!》

 

一夏と忍はケルディムを攻撃範囲から離脱させつつ、すぐさま左肩と両膝のシールドビットが光弾の斜線に滑り込み、その攻撃を防いでいく。

だが攻撃の質も量もシールドビットの許容量を越えており、何発も防御を通り抜け、攻撃に耐えきれず次々とビットが爆発した。

 

 

 

弾幕が終わり、船の様子を確認する一夏。

シールドビットで防ぎきれなかった光弾は密漁船に命中したようだが、轟沈は免れたようだ。

 

(良かった・・・。損傷はしたようだけど船員はーーー)

 

だがISのハイパーセンサーは捉えてしまった。

 

 

 

海面に浮かぶボロボロになった船、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その甲板に落ちてる肉片と、船内から生体反応が消えたことを。

 

“福音が人を殺したことを”

 

そして福音は、まるで人を殺して満足したかのように翼を戻し、空域からの離脱を始めた。

それを守るかのように集まってきた無人機。

 

 

「・・・忍野。無人機を四機の相手をしてくれ」

「はァァッ? 何言ってんだよォ!?」

「福音は俺が落とす!」

 

一夏は怒りに身を任せ、スラスターから粒子を吹かして福音に突っ込んで行く。

 

突然加速して接近してきたケルディムに、無人機は回避を選択したが、福音の追跡を許してしまった。それを妨害するために一機がすぐにケルディムを追って飛翔し、それに続いて残りの三機も追おうとしたが、

 

「行かせねェよォ、ファング!!」

 

真っ赤な尾を引く“狼”が三機の追撃を妨害した。

 

「せめて三機は何とかしてやらァ」

 

十機の“狼”とその主は人形の前に立ちふさがり、その刃を抜いた。

 

「いくぜェ、トランザム!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この空域から逃げていく福音。しかしそれを許さない、と追尾するケルディム。

 

一夏は必死にスナイパーライフルで狙いを付けようとしたが敵の動きは素早く、狙いが上手くつけれない。

そうこうしている内に、忍野が捕り逃した無人機が追いついてきて発砲。レーザーが装甲を掠めた。

 

「(忍野の野郎、一機逃したな!?)邪魔すんじゃねぇ!! 忍、ライフルビット!」

 

臀部から切り離されたライフルビットは複雑な動きはせず、空を切りながら一直線に進み、無人機に()()()()()()

 

だがライフルビットにはファングのような刺撃武器としての機能はない。

理屈は簡単だ。ライフルビットが敵に衝突する直前で射撃をさせれば、敵の装甲に穴が空き、その穴に真っ直ぐ突進したビットが納まるというものだ。

ビットを使い潰すのを承知の戦術ではあるが・・・。

 

忍が突き刺さったビットに攻撃指示を出した次の瞬間、火ぶくれのような内部からの爆発痕が出現、無人機は一瞬でアップルパイのような有り様になった。そして突き刺さっていたライフルビットが吹き飛び、そこから余剰エネルギーが吹き出したのきっかけに崩壊、爆発。焼けただれた鉄屑となって海へと消えていった。

 

「次はお前だ!!」

 

無人機を破壊した勢いのまま、福音に向けて残った右肩のビットによる射撃で牽制を仕掛けながら接近しようとする。

 

「貴様だけは許さねぇ!!」

《冷静になれお前様! 訊いておるのかお前様!?》

 

忍の静止の声をかけるも一夏は聞く耳を持たない。余程、人を殺したことが許せないのか、取り憑かれたかのように福音だけを睨みつつ突き進む。

だが福音はそれをあざ笑うかのように光弾を振り撒く。

 

「ぐぁぁぁっ!!」

 

頭に血が上り、冷静さを欠いた一夏は反応が遅れてしまい、光弾の直撃を受けてしまった。エネルギー弾は絶対防御を貫き、ケルディムの右足を太もも部分から、“中身”ごと吹き飛ばした。

 

片足を失い、装甲の下で苦悶の表情を浮かべる一夏。傷口からは血で流れ出ている。

 

(()()()()()()()()()()()()・・・)

 

すると一夏の傷口が“再生”を始めた。

まるでビデオの巻戻しかのように、ゆっくりと、しかし確実に傷が元に戻ろうとしている。

 

“人間”では有り得ない現象。

一夏本人には見慣れてしまった、しかし常識では有り得ない事。

 

(全く、自分がいかに踏み外した存在なのか、思い知らされるよ・・・)

 

一瞬、暗い気分を思い出す一夏だが、それを振り払い傷の回復も待たず福音へと迫る。

今失った足が再生しても、その足を守る装甲が無ければ再び苦痛を受ける為の物にしかならない。空中で使い道のない足だったら回復を待つ必要がないと判断したのだった。

 

しかしだからといって戦況が大きく変わりはしない。福音の攻撃手段を奪うには一撃で翼をむしり取ることが絶対なのだが、止むことのない段幕で最大火力であるスナイパーライフルでの狙撃を出来ない。

一瞬でいい、動きが止まる瞬間が欲しかった。

 

(直撃して足が千切れる程度なら・・・、!!)

 

何かを思いついた一夏は回避するのを止めて、バルカンを撃ちながら真っ直ぐ進む。

 

福音は真正面から突っ込んでくるケルディムに銀翼の砲門すべてを向けると、

 

「La・・・♪」

 

一斉射撃を行った。

だが一夏は真っ直ぐ進んで行き、光弾を直撃を受けた爆炎に呑まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漂う黒煙。

ケルディムを撃破した福音はこの場から離脱するために背を向け、

 

「どこを向いているんだ!!」

「!?」

 

その背後の爆炎を突破して現れたケルディム。

 

機体の装甲はボロボロで肩のライフルビットも腰のミサイル発射管もない。だがそれ以上に酷いのは左腕だ。その左手は肘の先から欠損しており、肉と骨が見えて血を流している。

 

一夏は左手を盾にする事でその広域射撃を防ぎ、福音の懐に入り込んだのだ。

 

「貰った!!」

 

格闘をするには少し届かず、翼の武器を使うには近すぎる距離でスナイパーライフルを構えた。

福音はその距離に対応出来きなかったようでろくに回避を出来ず、放たれた粒子ビームはその左翼を食いちぎった。

 

だが福音は一瞬の硬直が解けた途端、すぐ距離を詰め、手を突き出しケルディムの頭部を抉り、スナイパーライフルをも同時に破壊した。

辛うじて顔面への直撃は回避した一夏だが、顔の右半分を抉られ、眉辺りから唇付近までが血を噴き出す穴と化していた。

 

「痛ッッッ!! デフォだったら死んでるっつうの」

 

手足同様、ゆっくりと再生を始める傷口。

しかし手足に受けたダメージが回復していないのが原因か、頭部の回復速度は遅く、右目が潰れたままだ。

 

「忍、トランザムは!?」

《1セコンドだけなら可能じゃ!》

「上等!」

 

一夏は残った唯一の武器を手に取り構える。すると福音はそれに応じるかのように反応し、一直線に突進してくる。

 

ケルディムはGNピストルで、福音はその鋭く尖った爪で、互いに交錯する一瞬に相手へ攻撃を叩き込んで、離れた。

 

敗れたのは、一夏の方だった。

 

福音の攻撃によって右の脇腹を抉られていた。

 

「ゴハァッ!!」

《お前様!?》

 

こみ上げてきたものを抑えきれず、血反吐を吐く一夏。

ケルディムの装甲を貫いた爪は、骨を砕き内臓を焼き、一夏の体内を一瞬で蹂躙し、通常なら致命傷になりかねないダメージを与えた。

しかし福音は待ってくれない。急転し、弾丸のような速度でケルディムへ襲いくる。

 

だがそれは一夏にとって僥倖(ぎょうこう)だった。今のケルディムも一夏自身も満身創痍、追撃が行えるほど動けるわけではないのだし、敵に近づいてきてもらうしかないのだから。

 

(チャンスは一度。ミスるなよ俺!)

 

自分に言い聞かせながら敵を見据える。

やっと見えるまでに回復した右目を開け、両目の動体視力でタイミングを計り、それを実行した。

 

「トランザム!!」

 

銀色の爪が頭上に振り下ろされたと同時にたった一秒間のトランザムを発動させ、急激に跳ね上がった機動力をもっての後背に回り込み、残っていた最後の武器である右手に握っていたGNピストルを福音の胴体に押し付ける。

 

トランザム後の出力低下が起こるが最早関係ない。

 

思いっ切り福音の装甲へぶつけた銃口は、その頑強な装甲に亀裂を発生させていた。あとは引き金を引くだけ。

 

躊躇わず引き金は引かれた。

 

次々と撃ち込まれた光弾は、福音の装甲を貫き、内部で暴れ回り、システムを蹂躙した。それが限界に達したとき、各部から小さな光球が生じはじめ、それが結合しあって巨大な光芒へと膨れあがった。

 

一夏は爆発から逃れるように距離を取ろうとしたが、最後の手段であるトランザムを使用したあとでは十分とはいかなかった。

爆発にあおられ、巻き込まれ、吹っ飛ばされて落ちていく。

 

一夏は残った力を振りしぼって、煙を上げながら金属片と共に墜落していく福音を確認した。

 

「言っただろ・・・、貴様だけは・・・許さ、ない・・・って」

 

そこで一夏は意識を手放した。

 

 

 




ご感想や評価をお待ちしております。


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いちかイボルブ 其ノ貮

 
久しぶりの投稿になる戦争中毒です。

先に書いておきます。
今回のバトル描写はネタにはしってます。


003

 

 

「まったく。あの二人はなぜ通信回線閉じているのだろうか」

「何らかの理由があったのかもしれない。簪、周囲の索敵を頼む」

「わかった。索敵開始」

 

 

一夏と忍野の反応が消えた空域までやってきた一同。

ちなみにエネルギーロスを最小限にするために、全員が簪の纏うデンドロビウムに掴まってここまでやってきた。

 

「確かにこの辺りですわよね!?」

「一夏ー! 居たら返事しなさーい!」

「二人とも落ち着いて」

 

セシリアと鈴は冷静さを欠いているようで、声を張り上げて一夏を捜している。シャルロットが窘めようとするがあまり効果がない。

 

 

「!? 2時方向に熱源多数!」

 

簪の報告を聞き、全員が指定された方角を拡大望遠して見ると、そこには三機のISが戦闘中だった。

 

「あれは!?」

 

片方は見慣れた紅い機体。

だが相対する機体はまったく憶えのないものだった。いや、『憶えのない』では語弊がある。鈴をはじめ、この場にいる半数以上が、その機体に心当たりがあった。

忘れもしない、入学初の学園イベントに乱入し、全校生徒に何らかの被害をもたらした災悪。

 

「何であれがここに居んのよ!!」

「わたくしが知るわけありませんわよ!?」

 

「皆、あの敵について知っているの?」

 

シャルロットは疑問を投げかけたが、それは無理からぬ事だ。

無人機による襲撃事件はラウラとシャルロットが学園に来る以前に起こった出来事。情報規制で学園外には詳しい事が明かされていないので、目の前の敵が分からなくても仕方がないのだ。

 

「無人IS。以前、学園を襲撃した敵・・・」

「無人のISだと!? そんなバカな」

「ISは人が乗らないと動かないのが常識だよ!?」

「それが常識だけどあれはそれを覆す存在よ、シャルロット」

「以前学園を襲撃した無人機ですと、一夏さん達以外で初めてビーム兵器を装備し、学園のシステムをハッキングするほどの電子戦能力がある機体でしたわ」

「すぐに援護に向かうぞ!」

 

 

肉眼で確認できる距離にまで接近して改めて驚いた。

どれだけ戦闘が続いているのか、双方の機体はボロボロだった。

 

無人機の内、片方が右腕と両脚を失い、もう片方も頭部にファングが刺さったままで右腕が千切れかかっている。その姿は人間が乗っているISではまず有り得ないダメージ量だ。

一方、アルケーガンダムは五体満足ではあったが、全身にあった安定翼の大半と、右肩の突出部分を失っている。右のバインダーもひしゃげており、既に使い物にならなくなっているのは明白だった。

 

 

 

 

すぐに箒は有視界通信を繋いだ。

 

「福音はどこに!? 一夏は無事なのか!?」

 

『!? てめェらどうしてここに居んだァ!?』

 

どうやら戦闘に集中していたらしく、通信がきてはじめまして気がついたような反応だった。

 

「アンタ達が生体センサーを切るから心配になって来たのよ!」

「教官からの罰則を覚悟しておけ! 嫁よ、現状を教えてくれ!」

『福音は一夏が落とした。けどよォ相討ちになっちまって一夏も海に落ちやがった!』

 

「「「なッ!?」」」

 

箒をはじめとした数人が思わず声をあげた。

作戦目標は達成したようだが、その為に仲間であり想い人である一夏が撃墜されたのだ。取り乱さないだけマシな方である。

 

『作戦中に襲撃して来やがった! 数は4で、俺と一夏で一機ずつは潰したが、ファングは品切れ、トランザムも切れてシールドすら貼れねェ状況だ』

 

「分かった! ラウラ! セシリア!」

「「任せろ(任せて下さいませ)!」」

 

すぐに長射程を誇る武器を持つラウラとセシリアは武器を構える。

 

「くっ! 近すぎる!」

「狙いが定まりませんわ!」

 

しかし三機は乱戦状態で、砲撃や狙撃による援護をする事が出来ない。

 

「そうだ! 更識さんのミサイルなら!」

「!! 分かった」

 

デンドロビウムの上部コンテナが開き、一本の三角柱が射出された。

その三角柱の側面はまるで魚の卵のように、夥しい数のミサイルの弾頭がギッシリと敷き詰められていた。

 

「マイクロミサイル、発射」

 

簪が手元で柱の制御をすると、三角柱の側面から敷き詰められていた小型ミサイルが一斉に発射される。

その数は福音の弾幕にけして見劣りするような物ではなく、アルケーだけを避けて飛翔するミサイルに、二機の無人機は大慌てで逃走を図ろうとした。

 

 

たが、

 

「一夏の邪魔をした罰だ!」

 

頭部にファングが刺さった無人機はセンサーがやられていたのだろうか、マイクロミサイルに紛れていたシャルロットに気付けなかった。

ゼロ距離にまで接近したシャルロットの専用機『ラファール・リヴァイヴ・カスタムII』その盾に隠された必殺の武器、灰色の鱗殻(グレー・スケール)のバンカーが撃ち込まれ、無人機はその反動で大きく吹き飛ばされる。

 

だがそれで終わらない。

 

「あの時の!」

 

スラスターを吹かし、二振りの刀を握って肉薄する箒。

姿勢制御を出来ず、吹き飛ばされた勢いそのままの無人機と併行しながら、その全身を斬りつける。一太刀一太刀、まるで素人が魚の鱗を剥がすかのように、均等ではなくデタラメで乱暴。しかし装甲はズタボロになっていく。

 

 

「借りは今ここで!」

 

青竜刀を両手で持ち、待ち構えている鈴。

クラス対抗戦での雪辱を胸に、目の前に飛んでくる無人機めがけ力一杯、フルスイングでその胴体に叩き込んだ。よほど頑丈なのか、装甲は砕かれたが真っ二つにはならなかった無人機。しかしまるで人間が血を吐くかのように頭部などから潤滑油らしき液体を撒き散らしながら、再び吹き飛ばされる。

 

「返させて頂きますわ!」

 

セシリアの元から放たれた青い猟犬。

次々と放たれるレザーは、無人機を空中に縫い付けるかのように全て命中。四機のレザービットは、あっという間に無人機を蜂の巣に変えてしまった。

 

 

灰燼(かいじん)()せ!」

 

止めとばかりに大口径レールカノンを発射したラウラ。

満身創痍をとっくの前に通り過ぎた無人機にその一撃を防ぐ手段はなく、砲弾は寸分違わずド真ん中へと命中。

胴体に風穴を開けて、無人機は爆散した。

 

 

「もう一機は!?」

「向こうだァ!」

 

そこには全速力でここから逃げようとしている無人機がいた。

すぐに全員が射撃兵装を向けるが、

 

「クッ! 射程圏外に逃げられました!」

「こっちもだ!」

「追うわよ!」

 

既に射程外。ならば届く距離まで近付こうとした。

 

「待って!」

 

すると簪がそれを止めた。

シャルロットや箒は止めた理由を聞こうとしたが、すぐに理解できた。

 

「私がやる」

 

デンドロビウム最大の武器。右舷に装備されたIS最強クラスの射撃武器、メガ・ビーム砲を無人機へと向ける。

 

「そこにいても、ビーム砲なら!」

 

エネルギーチャージが完了したのを確認し、狙いを定め砲身の微調整を行う。今尚、逃げていく敵へのロックオンの表示が出たのと同時に、簪はその引き金を引く。

 

一瞬のエネルギー収束の後、巨大なビームが発射された。

ビームは砲口から出た瞬間に拡大し、通常のISを丸々呑み込む程の大きさへと膨れ上がった。放たれた奔流は無人機を追う。

 

接近してくるビームに気づいた無人機はギリギリで避ける。が、そのビームはかなりの熱量を持っており、そばを通り過ぎただけで無人機の装甲が発火した。

これが有人機であれば絶対防御が発動して中破、あるいはエネルギーの大半を消費するで済んだのだろうが、無人機にはそんなものはない。

発火するとそこから連鎖的にダメージが広がり、それが臨界に達したところで無人機は爆発。

 

現れた全ての無人機が撃墜されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

004

 

 

 

 

 

「よし! すぐに一夏を!?」

 

箒が何かを言おうとしたところで、海面が爆せる。

 

ぽっかり海に開いた穴。その中心には球状のエネルギーと青い雷を纏った『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が自らを抱くかのようにうずくまっている。

 

「一体なんですの!?」

「!? まずい! あれは『第二形態移行(セカンド・シフト)』だ!」

 

ラウラが叫んだ瞬間、まるでその声に反応したかのように福音が顔を向ける。

 

『キアアアアアア・・・・・・!!』

 

まるで獸の咆哮のような声を発し、天を仰ぐように両手を広げる。

そして頭部に残っていた片翼が消え、新たにエネルギーの両翼が生えた。

 

 

その翼が一瞬発光したと思うと、夥しいエネルギー弾が放たれる。

 

 

その狙いは、箒の紅椿だった。

 

箒は突然の出来事に放心状態なのか、回避どころか防御姿勢すらとっていない。

経験の浅さが招いた結果だ。

 

「チィッ!!」

 

忍野は粒子を限界まで吹かし射線上に滑り込み、バスターソードを盾にその攻撃を遮る。

しかし戦闘で疲弊した剣に、今の福音の光弾は強過ぎた。

次々と着弾するエネルギー弾に、大剣は悲鳴のような音を上げひび割れが生じ砕け散り、

 

「グァァァァッ!!」

 

紅い機体へと吸い込まれるように命中した。

 

爆発音を聞いて我に返った箒はすぐに動くが、アルケーは黒煙に包まれたまま、下方へと落ちていった。

 

「忍野っ!」

 

真っ先に鈴が、墜落していく忍野を助けようと手を伸ばす。

しかしそれを阻むかのように降り注ぐ光弾。

 

「こんな時ーーー

「貴様ぁぁぁぁぁ!!」

ーーーラウラ!?」

 

仕方がなく回避運動をとり、悪態をつく鈴の横を弾丸のようなスピードで進んでいくラウラ。

 

「鈴さん、何を呆けてますの!?」

「ラウラを援護するぞ!」

 

セシリア、箒がラウラの後を追う。

止めようと声をかけようとしたとこで、

 

「そこ退いて・・・」

「えぇぇぇぇぇ!?」

 

まるで鈴を押しのけるかのように、簪はデンドロビウムの進路を福音に向けて飛んでいった。

 

呆けてる鈴にシャルロットは心配になって近づいて見たが、その顔はまさに“ぽか~ん”と言った表情だ。

 

「鈴、どうしたの? そんな『え、コイツら何やっての? バカじゃねぇの?』みたいな顔して」

「そんな顔してないわよ。それとシャルロット、あんたちょくちょく言葉使いが汚くなってるわよ」

「気のせいだよ。それでどうしたの?」

「何でみんな一夏たちの救助をしないのよ!?」

「でもさ、福音を落とさないと救助に行けないよ? 絶対邪魔されるよ?」

「・・・それもそうね」

 

シャルロットに言われて頷く鈴。先ほど邪魔されたのを思い出したのだろう。

すぐにみんなの後に続いた。

 

「忍野! アンタの仇はとってあげるわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにこの時、誰1人として迎撃班と救助班に別れるという発想がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

005

 

 

 

「はっ!」

 

なんだかすげー悪い夢を見ていたような気がする。

あれ? なんで寝てたんだっけ?

 

「確か福音を落として、その時爆風に飲まれてそれから・・・」

 

直前の出来事を思い出した。

 

そして改めて辺りを見回して見る。

 

空は夜空。人工的な灯りがある街中ではまずお目にかかる事の出来ないほどの星が輝いていた。足元は波一つない水面で、触れているのに特に温度を感じない。それに水面に映っているものがおかしい。空は間違いなく星空、にも関わらず水面には青空が映っていた。

 

少なくとも俺は、星空と青空が水面を境に共存する場所を知らない。と言うか、そんな場所は世界のどこにもなかったはずだ。

 

「忍、ここが何処だかわかるか?」

 

怪異的な世界なら忍なら分かるかもしれない。そう思って影に向かって声をかける。

だが、

 

「・・・? 忍? 忍! おい忍っ!」

 

影に潜んでるはずの忍に呼びかけるが返事がない。

何でだ!?

 

 

・・・、!!

ああそうか。俺、死んだのか。

ならこの不可解な場所も、忍が返事をしないのも説明がつく。

 

ここはあの世だな。

 

ケルディムはボロボロだったし、かなりの高度から墜落した筈だからな。墜落死か海に落ちて溺死のどっちかだな。

俺が死んだって事は、現世で忍は全盛期の力を取り戻してるんだろうな。

・・・忍野の事を殺してないと良いが。

 

それにしても、

 

「あの世って随分変わったところなんだな」

『いえ、あの世ではないですよ』

「!?」

 

ふと漏らした呟きに、背後から返事があった。

慌てて振り向くとそこには一人の女性が立っていた。

 

見た目の年齢は千冬姉と同じくらいで、薄菫色の髪に赤い瞳をもっていて、深緑色を基調としたパンツルックの見たことのない美人さんだった。

その人は優しげな笑みを浮かべている。

 

「えっと、すみませんがあなたは?」

『あら? 相手に名を訪ねるなら、まず自分から名乗るのがマナーではないでしょうか?』

 

確かにそうだけど・・・。

まあ、良いか。

 

「俺は織斑ーーー

『織斑 一夏、9月27日生まれで年齢は15歳。身長172cm。両親はおらず姉との二人暮らし。世界で二人だけの男性IS操縦士にして世界最強(ブリュンヒルデ)の弟。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして“元吸血鬼”』

 

その瞬間、俺の中の警報が鳴り響いた。

俺が吸血鬼だった事を知っている人間は、両手の指の数もいない。なのに目の前の人はそれを知っていた。

そうなると専門家かヴァンパイアハンターか。この人の外見的には後者だとは思うが・・・。

 

「あなたはいったい?」

 

一字一句聞き逃すわけにはいかない。この人の返答次第で逃げるか、逃亡するか、戦略的撤退をするかが決まる。

・・・結局、全部同じだけどな。

 

『私はオリジナルセブン、コアナンバー006です』

 

思いっきりスッ転びそうになった。

オ、オリジナル、セブン? コアナンバーって?

絶対に嘘だ! 偽名どころかまるでコードネームじゃんか! そんな名前の人が居てたまるか!

 

見ると口元を隠してクスクス笑っているし。

 

『ふふふっ。ごめんなさい、これだけじゃ分からないですよね』

 

どうも目の前の人の意図が読めない。

忍野みたいにはぐらかしたり言わないわけではないようだし、からかわれてるのか?

 

『では改めてまして。第三世代型番外機2号機、ケルディムガンダムよ』

 

・・・・・・は?

 

「けけけ、ケルディム!? え、でも、あなたは人間じゃ!?」

『ここは、言わばISの精神世界。ISは人格があり心があるんです。ですから私は自分の心に従った姿をしてます』

 

(・・・なんで最初からそうだと言ってくれないんだよ。大体、オリジナルセブンってなんだよ」

『あの~、途中から声に出てますよ?』

 

おっと、いけない。

思わず声が出てしまった。

 

『では質問にお答えしましょう。オリジナルセブンはコアナンバー000、一番最初のISコアを雛型に作られた7つコアの総称なんです。まあ、最初に量産されたコアだと思ってくれればいいわ』

「はあ。それで、その・・・ご用件は?」

『そうでしたね。では本題に入りましょう』

 

一つ咳払いをすると、ケルディムは先程までと打って変わって、真剣な眼差しになり此方を見つめてくる。

変わったのは表情だけ。しかしそれだけで場の雰囲気まで一転させてしまた。

 

『あなたは力を欲しますか?』

 

はい?

 

『もう一度問います。あなたは力を欲しますか?』

 

あ、答えないといけないのか。

 

「暴力じゃない力なら欲しいな」

『ではその力を何のために使いますか?』

 

何のために?

そんなの決まっている。

 

「友達をーーーいや、仲間を守るためにだ。不条理で道理のない暴力に溢れたこの世界で、そういうのからできるだけ仲間を助けるために使いたいと思う。この世界で一緒に戦うーーー仲間を」

 

忍と遭った時とは違う、理想に溢れた使い方とは言えないかもしれない。忍野には軽く流されるような事かもしれない。

けれどこれは、俺自身で決めた、俺の在り方だ。

 

『では行きましょう』

 

そう言ってケルディムを名のる女性は俺の手を取る。

すると意識が暗転するのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

006

 

 

 

 

福音との戦闘が行われてる空域の海上。

 

その海域は数十年前に起きた大地震と海底火山の影響で何十という数の、メーター単位で計るような大きさの島で構成された諸島となっていた。

 

そしてその中の一つ。半径10メートルほどしかない島の砂浜に出来た不自然なクレーター。

 

 

「勝手に殺すなァァァ!」

 

そんな怒号とともに砂の中から姿を表した紅い機体。

運良く島に墜落したアルケーガンダムだった。

 

攻撃の発射位置が離れていて弾幕の密度が薄かったのと、最初に剣である程度防いだお陰か、装甲が砕けてはいるが外見は五体満足だ。

 

()()は。

 

(右手が千切れてるなこりゃ。それに内臓破裂が4、いや5ヶ所かな? あ、首の骨も逝ってる)

 

装甲で覆われているので見えないが、忍野の身体は間違っても無事と言えるような状態ではなかった。

装甲の下で身体は千切れ、そして破れ、壊れてしまってる。普通の人間ならその痛みで苦しみ、死を待つばかりとなっていただろう。

 

最も、人間であればの話ではあるが。

 

(とりあえず首と右手だな)

 

そう思いながら傷に意識を向けると赤い稲妻らしきものを発しながら修復されていく。

千切れた飛んだ右手は灰となり、傷口から稲妻と共に生えてくる。関節の外れた首は赤く腫れていたが、稲妻が発した後は綺麗に元通りになっていた。

 

5%(・・)だと致命傷以外の修復をしないのが難点だなぁ。さてと、」

 

頭上を見上げると皆が福音と交戦中なのが見えた。

忍野はすぐに飛び立とうとアルケーを動かしたが一向に飛ばない。

調べてみると、

 

「PICがイカレやがったか・・・」

 

ISの慣性制御システムにエラーが発生していた。おかげで今のアルケーは浮遊することすら出来ない、インフィニット・ストラトス(無限の成層圏)が訊いて呆れる。

 

今のアルケーガンダムは射撃武器でもあったバスターソードは砕かれファングもない。

援護するための武器がない以上、飛べないISは的にしかならない。さてどうしたものかと途方に暮れているとあるものが目に映りこんだ。

 

そこに落ちていたのはGNアームズの残骸の一部。先ほど撃墜された物も偶然この島に落ちていたようだ。焼け焦げた鉄板に千切れたケーブル、元の形を知らなければ何なのか分からない状態だった。

だが忍野が注目した“それ”は、表面に焦げ目や擦り傷こそあるが壊れてはいないようで、まだ使えそうだった。

 

(GNドライヴが全基無事で、“あれ”が使えるなら・・・)

 

思わず口角がつり上がる。

 

「覚悟しろよ福音。化物とのケンカ代は高くつくぞ」

 

忍野の瞳は、闘志に輝いていた。

 




 
・・・各ヒロインファンの方々、当作品でどこかの戦隊ものみたいな連携プレーをさせてしまい、すみませんでした。


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いちかイボルブ 其ノ参

 


007

 

 

ラウラはプラズマ手刀とワイヤーブレード、箒は二振りの刀、『雨月(あまづき)』と『空裂(からわれ)』を構えて接近戦を仕掛ける。

福音はエネルギーを纏わせた両腕の爪で二人の攻撃に応戦。遠距離攻撃をしないのは箒にとっては僥倖だったが、軍属のラウラは言いようのない不気味さを感じていた。

 

二人の前衛の援護のためにシャルロットはアサルトライフルで、セシリアは二人の攻撃の合間にビットで援護射撃をする。ビット制御は入学時より洗練された鋭い動きで、攻撃タイミングも素晴らしいものだ。

しかし、四人がいくら攻撃しても一撃すら入れる事ができない。刃による攻撃は爪で弾くか避けている。ライフルの弾丸はエネルギー翼に阻まれる。セシリアの狙撃はあろう事か、爪を揃えて盾のようにしてレーザーを弾いてしまう。

完全に手詰まりだった。

 

 

鈴と簪は何時でも参加できるように少し距離を置いて待機している。

二人の現在の武装では援護は難しく、直接戦闘に参加できないのだ。鈴は接近戦をする手もあるが、ここで彼女が参戦するとセシリアやシャルロットによる援護のバランスを崩してしまう。

つまるところ、見ている事しか出来ないのだ。

 

(こんなんだったら銃の練習しとくんだったあ!!)

 

因みに鈴は、銃の腕前が最悪である。

 

 

 

しばらくそんな戦闘が続いたが、いい加減に鬱陶しくなったのか、福音は二人のうちどちらかを捕まえようとするかのように両手を伸ばす。ラウラの左目(越界の瞳)が捉えたのはほんの僅かに箒の方を向く福音の頭部。

咄嗟の判断で、ラウラは箒を突き飛ばす。

しかし変わりにラウラは脚を掴まれてしまった。

 

「ラウラを離せぇっ!」

 

シャルロットはすぐさま武装を切り替えて近接ブレードによる突撃を行う。

けれど、その刃は空いた方の手で受け止められて止まった。

 

シャルロットは迷う事もなく掴まれたブレードを手放し、ショットガンを呼び出して福音の顔面へと銃口を押しつけた。

だが引き金を引くよりも早く福音の胸部、腹部、背中から小型のエネルギー翼が生えてくる。

 

「「ッ!?」」

 

掴まれていたラウラと、銃口を押しつけるような距離まで接近していたシャルロットはそれによるエネルギー弾の直撃を受け、吹き飛ばされて堕ちた。

 

ラウラのおかげで光弾の直撃を逃れた箒は多少のダメージはあったが、すぐに刀を構え直し斬りかかろうとしたが、

 

「貴様ぁ!」

「ダメです箒さん! 接近戦は不利になります!」

「ぐっ・・・ううっ」

「いいからコッチと合流しなさい!」

「・・・分かったっ」

 

セシリアと鈴の制止の声に思いとどまり、急いで三人の元まで下がった。

 

福音は何を考えているのだろうか、品定めでもしてるかのように四人の方を向いたまま動かない。

小型のエネルギー翼は常時維持するものではないのか、二人を攻撃した直後にはなくなっていた。

 

「来ないならこっちから仕掛ける、集束ミサイル」

 

簪はデンドロビウムのコンテナから4本の三角柱を射出した。三角柱は先程使用した物とは違い、三発のミサイルを束ねた物で小さな破裂音の後に分離。4本の柱は十二発の(ミサイル)へ。

無人機に使用した物とは比べ物にならない程の炸薬を搭載したミサイルは福音へと加速する。

 

けれども、福音はつまらないものを見せられたかのような怠慢な動きでエネルギー翼を向け、迎撃のための光弾を放つ。

光弾はいとも簡単にミサイル命中。ミサイルに積まれた多量の炸薬によって、福音との間に大きな炎の壁を作り出した。

 

『・・・!?』

 

その光芒を飛び越えるようにして福音へと肉薄する鈴。

 

ミサイルの爆炎が一時的にセンサーを鈍らせていたようで、福音はやっと驚きのような反応を示した。

そこへ鈴は両手に分離させて握った青龍刀『双天牙月(そうてんがげつ)』を容赦なく振り下ろす。

突然の出来事に福音はエネルギー翼ではなく、その二つの刃を両手で掴み、斬撃を止める。刀は両手に固定されてピクリとも動かせない。

だが鈴は最初から斬撃は期待しておらず、本命の衝撃砲による弾雨を降らせる。

 

至近距離での連続砲撃。小型のエネルギー翼が生える前に、撃墜は無理でも多少のダメージを、と期待してた。

しかし、

 

「嘘・・・、この距離でもダメなの!?」

 

何発撃ち込んでも目に見えるようなダメージがない。

今の福音にとってそよ風に程度なのか、衝撃砲を食らいながらも青龍刀を砕き、鈴が逃げる間も許さずエネルギー翼で(いだ)く。

刹那、あのエネルギー弾雨をゼロ距離で食らった鈴は、全身をズタズタにされて堕ちていく。

 

 

「な、何ですの!? この性能・・・軍用とはいえ、あまりに異常なーーー」

 

鈴の堕ちていく様を見て恐怖に支配されたセシリア。気づいた時はすでに眼前まで福音が迫っていた。

 

「くっ!?」

 

長大な武器は総じて接近されると弱い。距離を置いて銃口を上げようとするが、その銃身を真横に蹴られてしまう。

足掻(あが)きとばかりに、蹴られた勢い利用して体を回転させてスナイパーライフルで福音を殴打する。

だがそんな物を気に留めないかのように、福音は両翼からの一斉射撃。セシリアは蒼海へと沈められた。

 

「このっ!」

 

セシリアが被弾した時の爆煙の向こう側に居る福音を狙い、簪はメガ・ビーム砲を発射する。

だが福音は煙で見えない死角からの攻撃も、大きく上昇して難なく回避。紅椿とデンドロビウムを沈める為に全身からエネルギー翼を広げた。

 

「間に合わない・・・、下に隠れて!」

「すまないっ!」

 

離脱が間に合わないと判断した簪は、箒にデンドロビウムの下に隠れるように指示する。

 

「Eシールド、上部に最大展開!」

 

シールド発生装置が甲高い駆動音を鳴らし、本来は全方位に展開するシールドを最大出力で上面のみ展開させる。

現在のデンドロビウムの持ちえる全力の防御だ。

 

「クッ! 重い・・・!!」

 

放たれた光の雨。

Eシールドに次々と着弾する高密度のエネルギー弾雨により機体が大きく揺れる。徐々に攻撃範囲が狭められ、降り注ぐ光弾の数が増えていく。

 

『キアアアア・・・・・・!!!』

「ッ!? シールド、臨界出力!」

 

福音の咆哮に危機感を感じた簪は、シールド発生装置を破損覚悟の臨界運転をさせて出力を上げる。

だが臨界出力のエネルギーを全て上面に回してるにも関わらず、『パキッ!パキッ!』っと嫌な音が響き、シールドに亀裂が生じはじめる。

 

「シールドが!?」

 

ついに限界を迎えシールドを破られ、右のコンテナと推進器が被弾してしまう。

 

「あうっ! ・・・コンテナ、パージ!」

 

中に積載されたミサイルに誘爆する前に、簪はコンテナを切り離した。直後、コンテナは激しい轟音を響かせ大きな火球となり消えた。

シールド発生装置は先ほどの臨界運転の影響で黒煙と焼け焦げた臭いを放っている。使用できるような状態ではなさそうだ。

 

「簪! すぐに海に降りるんだ!」

「ごめんなさい・・・」

 

簪は黒い尾を引きながら海へと降りていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

008

 

 

 

~箒サイド~

 

 

一人になった私は、すぐさま逃走する。急上昇急降下を繰り返し、雲の中を突っ切ったりしなが福音から逃げる。

 

それを追撃する福音は両肩に生やした小型エネルギー翼からバルカンのように光弾を撒き散らす。さながら戦闘機のドッグファイトのような光景だろう。

 

「もうエネルギーが・・・」

 

度重なる被弾で絶対防御が発動し、紅椿のエネルギーは枯渇寸前だった。

両手に握っていた刀も具現維持限界(リミット・ダウン)を避けるために片方だけにしている。

 

(もう少し、もう少しだけ近づいてくれば!)

 

しかしただ逃げ回っているわけではない。

1対多における剣術ではあえて逃亡を図り、追い付いて来た者から倒すというものがある。今まで逃げていた相手が突然向かって来ると反応が遅れ、不用意に近づいてしまったり、逆に懐に入られてしまったりするからだ。

今の福音は遊んでいるかのように、遠距離からの高威力攻撃ではなく低威力攻撃による中距離。それなら、最接近した時に此方から一気に接近できれば攻撃に転じれるはずだ。

 

残存エネルギーは危険域一歩手前。

最後の攻撃チャンスを作るために急降下をした所から急上昇をする。

エネルギーの少ない紅椿は上昇速度が上がらず、福音との距離が徐々に狭まる。

 

あと少し、あと少しだけ・・・

 

そうしていると、遂に福音との距離が60mを切る。IS同士の戦いなら近接戦闘の距離。

私は急制動をかけ一気に福音へと迫る。

 

「貰ったあっ!!」

 

両手で刀をしっかりと構え、その刃を福音の頭上へと振り下ろした。

 

ギィンッ!

 

 

 

甲高い音を響かせ、私の刃は福音を斬りつけた。しかし刀傷の場所は頭部ではなく、腕部についていた。

防がれたのだ。

 

二太刀目を入れようとしたが、すでに福音は全身からエネルギー翼を生やして照準を此方に向けている。

今の一撃に怒ったのだろう。エネルギー切れ寸前の機体で、この距離での一斉射撃を受ければ良くて大ケガ、悪ければ死だな。

 

(避けられない・・・)

 

そう諦めて目をつむりそうになった瞬間。

突然、視界がブレる程の急加速をし、弾幕から逃れた。

 

(今のは・・・瞬間加速(イグニッション・ブースト)?)

 

瞬間加速(イグニッション・ブースト)”はISの操作技術の一つで、圧縮したエネルギーを一方向に放出し爆発的に加速する高等技術、だと授業で習った。

 

だから分からない。

私は瞬間加速を技術として習得していない。そして偶然や無意識での発動が出来るような技術でないはずな上に私は諦めて一切の機体操作をしていない。

にも関わらず瞬間加速が発動した。

 

紅椿が私の意識に反して動いたのだ。

 

 

「一体なにが・・・」

《いや~、危ないところでしたね》

 

突然通信機から聞こえてきた幼い声。

それはもう二度と聞くことのないと思っていた、居なくなったはずの少女の声。

 

「その声は・・・八九寺!?」

《はいっ、お久しぶりですね篠山羊さんっ》

「人を届いた手紙を読まずに食べる白いヤギみたいに呼ぶな! 私の名前は篠ノ之だ!」

《失礼、噛みました》

「違うわざとだ」

《手紙見た?》

「だから私はヤギではない!」

 

モニターに映し出されたのはツインテールに大きなリュックを背負っている少女の姿。

この姿といい、先ほどの遣り取りいい、間違いなく八九寺 真宵(はちくじ  まよい)だった。

 

「お前っ、成仏したのではなかったのか!?」

 

確かにあの時、八九寺は母親の家にたどり着き、迷い牛から解放され成仏して消えた筈だった。

 

《実は成仏し損ねて行く所がなく、つい昨日まで篠ノ之さんの携帯電話に取り憑いていたんですよ。ですがあまり居住性に優れておらず窮屈な思いをしていたのです。そんな時にこの紅椿がやって来たのでお引っ越して現在に至るわけです》

「サラッと恐ろしい事を言うな! 取り憑いていた!? ここ最近、携帯電話の調子がおかしかったのはお前の仕業か!?」

 

道に憑いていた地縛霊が、成仏し損ねて浮遊霊になったのだろうか?

一夏に訊けばわかるのかもしれないが、今は取りあえず置いておこう。

深く考えたら頭痛になる。

 

それより、

 

「話す事が出来たのなら何故もっと早く声をかけてくれなかったのだ!?」

《いえですから普通に声をかけるんじゃつまらないじゃないですか。そんなのはこの、八九時Pが黙ってませんっ! 悲しい別れ方をしたらカッコ良く再会、これが王道っ! という訳で篠ノ之さんがピンチになるのを待っておりました。所謂スタンガンモードですっ》

「どんな極悪プロデューサーだ! ピンチになるまで待っているな! それとスタンバイモードだ!」

 

私の感動を返せ!!

スタンガンモードってなんだ。護身用具をモード扱いするな。

 

『キーーー!!!』

「《!?》」

 

再び照準をこちらに定めて接近してくる福音。

 

《来ますよ篠ノ之さんっ!!》

「血気盛んなのはいいが、紅椿にはもうエネルギーが・・・」

《えっ? ああっエネルギーですか。ちょっと待って下さいねっ。今、とっておきの物を出しますので》

 

とっておきとは何だと訊こうとした所で機体に変化が現れた。

紅椿の装甲の隙間から赤い光と黄金の粒子が溢れ出す。ハイパーセンサーからの情報で、機体のエネルギーが急激に回復していくのがわかる。

 

「エネルギーが回復している・・・。これは一体っ!?」

《紅椿の単一仕様能力、『絢爛舞踏(けんらんぶとう)』ですっ。これでエネルギーの心配はないでしょう》

「まだ、戦えるのだな?」

《お供しますよ篠ノ之さんっ!》

「ならば、行くぞ! 八九寺!」

 

拡張領域に仕舞っていたもう一振りの刀を取り出し、二刀流で福音へと駆ける。

 

1対1の戦い。先程は四人掛かりでもダメージを与えれなかったが、今は違う。

私の攻撃を捌く福音の動きには、先程は感じなかった『焦り』のようなものを感じる。

 

(パワーが上がっている?)

 

どうやら紅椿の出力が上がっているらしく、刃と爪が衝突する音が重く、そして力強い。だとするなこのまま押し切れば私達の勝ちだ。

 

しかし福音は私の間合いから加速して飛去る。

獲物を見失った私の刀は空を切り、大きな隙が生まれてしまう。

 

そこへ迫るエネルギー弾の雨。

しかも今度はかなりの広範囲に光弾が広げ、回避の困難な攻撃の仕方だ。

 

「広がり過ぎだ!」

《篠ノ之さんっ、刀を大きく振ってくださいっ!》

「何故だ!?」

《いいから早くっ!》

「ええいっ、この!」

 

言われるがまま、刀を交差させるように振ると、帯状のエネルギー斬撃が放たれた。

放たれた斬撃は、福音のエネルギー弾の弾雨にぶつかると巨大化、いや、エネルギー弾を喰らって大きくなり福音へと襲いかかる。

 

『!?!?』

 

混乱したような挙動をした福音。斬撃はその左のエネルギー翼を喰らい、さらに巨大になって空の彼方へ過ぎ去っていった。

 

・・・なんだこれは?

 

「ははは八九寺!? な、何だ今の!?」

《対集団仕様の攻撃ですっ。リミッターがついてたんですが、外しちゃいました》

「それは大丈夫なのかあっ!??」

 

あの姉さんがリミッターをつけるような機能のロックを外した!?

絶対危ないだろ!? え、これ大丈夫なのか?

ちょっとした操作ミスで町一つ消えたりしないだろうな!?

 

《前見て下さいっ!!》

「前?」

 

いつの間にか接近していた福音による攻撃で両手から刀を弾き飛ばされてしまった。

 

「しまっーーーぐあっ!」

 

福音は右腕で私の首を掴んで締め上げる。絶対防御が発動して呼吸はできるが非常に息苦しい。しかしいくらもがこうと銀の腕は決して緩まない。

そして、福音はゆっくりとその翼で私を包み込んでいく。

 

《篠ノ之さんっ!!》

 

八九寺の声がハッキリ聞き取れたがもう無理だ。

さらに輝きを増す翼に、私は覚悟を決めてまぶたを閉じた。

 

 

 

ィーーーンッ!!

 

 

突然、甲高い風切り音が響き首の圧迫感が消える。

瞳を開けた時に見えたのは桜色をしたビームによる狙撃を受けて吹き飛ぶ福音の姿だった。

 

私は知っている・・・。

あのビームを放つ機体を纏う人物を、私は知っている!

 

「俺の仲間は、誰一人としてやらせねえ!」

 

 

「あ・・・あ、あっ・・・」

 

目尻に涙が浮かぶのを感じた。

 

そこには、光の粒子を放ちながら飛ぶ深緑色の機体が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

009

 

 

「一夏っ、一夏なのだな!? 無事だったのだな!?」

「おう。待たせたな」

 

聞こえてくる声は間違いなく一夏のもの。

だがその機体は大きく変化していた。

 

ケルディム同様、深緑を基調としてはいるがその姿はまるで違っていた。白の基礎にまるでブロック状の装甲を取り付けたかのようなゴテゴテした姿で、ケルディムがスマートなフォルムだったのに対し、今の姿はずんぐりムックリな印象を受ける。

外付けの装備は腰から伸びたアームに左右5ずつ、縦長のコンテナのような物が接続されているだけだ。

 

「一夏、その姿は・・・」

 

「こいつは“ガンダムサバーニャ”、俺の新しい力だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~シャルロットサイド~

 

 

 

「大丈夫ですかっ、鈴さん! シャルロットさん!」

「え、ええ・・・、何とか」

「ハハハ・・・、ごめんね」

「いいから手を伸ばしてください!」

 

撃墜組みは着水していたデンドロビウムの上に集まった。

ラウラやセシリアの機体は何とか自立飛行が可能だったみたいだけど、僕と鈴の機体はボロボロ。海に投げ出されて浮かんでる状態だった。

 

セシリアの手を掴んでデンドロビウムに引き揚げられ、少し飲んでいた海水を吐き出し肩で呼吸を整える。

 

「大丈夫か、シャルロット」

「ハァハァ、それより、戦況は?」

 

僕の問いに簪が答えてくれた。

・・・ごめん、上に乗っちゃて。

 

「ついさっきまで・・・“紅椿”と“福音”による交戦が続いてた。でもが捕まったところで、所属不明の機体が乱入」

「所属不明って?」

「あの機体だ」

 

ラウラに促されて上空に視線を向ける。

攻撃目標である銀色の機体。そして友達(ライバル)の紅い機体。

そしてもう一機、そこには緑色に輝く粒子を放って浮かんでいる、深緑色の全身装甲の機体が見えた。

 

「あの機体は・・・」

「あれってもしかして・・・」

「ええ。わたくしもそう思いますわ」

 

 

無事だったんだね、一夏・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

010

 

 

 

 

「箒、下がっていてくれ」

「分かった。勝つのだぞっ、一夏」

「オーライ」

 

箒を後退させて福音と対峙する一夏。

すると、忍が話し掛けてきた。

 

《随分と寝ておったようじゃのうお前様。しかし何じゃ、この姿は?》

《まあ、いろいろあったんだよ》

《ふんっ。それで、これからどうするのじゃ?》

《そんなの、借りを倍にして返してやるに決まってるじゃん!》

 

決着をつけるために、一夏は左右にあるコンテナから一丁ずつピストルを引き抜いた。

両手に握られたGNピストルは以前の物より大きくなっており、下部に取り付けられた刃もそれに比例してより刀身の長い物へと変化していた。

 

「ピストルビット展開!」

 

すると、左右に接続された縦長のコンテナからハンドガンが出てきた。コンテナに収めるためか、センサーとグリップは折りたたまれているが一夏が手にしているのと同じ物。そのピストルは8機、周囲に展開された。

その全ての銃口が福音を向き、同時に両肩の装甲がスライドし、大型のガンカメラも姿を現した。

 

「乱れ撃つぜぇ!!」

 

二丁拳銃を構え、8機の猟犬を解き放つ。

自由自在、縦横無尽に飛び回るピストルビット。

凄まじい連射速度で福音の翼とエネルギーを削り取っていく。

福音はピストルビットの包囲網から逃れようとするが、常に二方向以上からの攻撃にさらされ、身動きが出来ない。全身から小型のエネルギー翼を生やして反撃するも、一つたりともビットには命中しない。

 

ビットを破壊できないと判断した福音は、即座に狙いを深緑色の機体に定める。

 

瞬間加速で包囲網を強行突破、すぐさま両翼を大きく広げ攻撃体制をとりエネルギーを貯める。

先程墜とし損ねたのを覚えているかのように、ピンポイントで一夏だけを狙ってエネルギー弾を放たれた。

 

さながらパイプを流れる水のごとく、一定の範囲以上には広がらず飛翔する弾幕は、遠目には一つの柱のように映り神々しい光を放っている。そして美しくも凶悪な力をもつその光の束は一夏へと迫る。

 

 

だが一夏は、なんと直立不動に構え両手の銃口を福音へと向け、展開していたピストルビットを自分の周囲へ呼び戻し、真っ正面から迎え撃つ姿勢をとった。

 

「撃ち合いなら負けねえぞ!!」

《GNミサイル発射!》

 

額のセンサーカバーが上へと開放。中からケルディム同様のガンカメラが現れ、両膝の側面からガンカメラがせり出した。それに呼応して両腕、両膝、両脚、胸部、フロントアーマーの装甲が可動し、ミサイルの発射管が出現。ピストルビットと同時に攻撃を開始する。

 

絶え間なく放たれるビームとミサイルは福音の放つ光弾を次々と撃ち抜き、爆撃し、5つの目は一発たりとも見逃さず、光弾の全てを一夏に着弾する前に迎撃していく。

 

双方の攻撃の衝突は拮抗し、二機の間には凄まじい連続した爆発の光芒が生まれている。

 

 

 

 

 

その光芒は海上からも見えていた。

 

「凄い・・・」

「だが拮抗しているだけで、こちらが有利になったわけではない」

 

ラウラの言う通り。

互いの攻撃が完全に相殺しあっているだけ、どちらかがダメージを与えているわけではない。寧ろミサイルと言う消耗品を使っている一夏の方が不利と言えるだろう。

 

 

 

先に拮抗を破ったのは福音だった。

 

攻撃を止め一気に上昇。ビットを手元に戻している一夏にはその動きを阻止する術がなく、上空さらの広範囲攻撃を許してしまう。

一夏の回避を阻止するように放たれた攻撃。その攻撃範囲には箒と海上にいる者達も含まれていた。

 

「ちっ! シールドビット展開!」

《ホルスタービットじゃ!》

 

腰のアームに接続されていたコンテナが外れ、10機の盾としてみんなを守るために展開された。

 

「これって・・・」

「シールドビットの発展型!?」

 

箒達の眼前に強固な盾。

ホルスタービットは第二移行で強化された光弾を受けながらも微動だにせず、その表面には傷一つ出来ていない。

 

 

一夏は自分に迫る光弾をビットとミサイルで迎撃する。しかし、弾雨に気をとられて福音を見失ってしまった。

 

「福音は何処へ行った!?」

《お前様がバカスカ撃ちまくるから分からんくなるんじゃ! 未だどのような力を持っているか分からん機体で無理をするな!》

「うぐっ。それを言われると痛いけど・・・」

《待てっ、後ろじゃ!!》

 

振り向くと背後から両手を大きく広げ、その両爪で襲いかかろうとしている福音の姿。

 

手に持ったピストルの刃で攻撃を防ごうとした。

その刹那、二機の間を血のような色をした巨大な粒子ビームが立ちはだかった。

 

「遅いぞ忍野!」

『贅沢言ってんじゃねェよ一夏ァ』

 

海上に見える島の一つ。

そこには破壊されたGNアームズのGNキャノンを腰だめに構えているアルケーガンダムの姿があった。

 

「にしても外すなよ!」

『無茶言うな! こちとら突貫工事でGNキャノンを無理やり繋いでんだ! テメェみたいに機体ダメージが回復した奴と同じ働きが出来っか!!』

 

通信越しに一夏を怒鳴りつける忍野。

 

アルケーガンダムの胸部と右脚部のGNドライブにはケーブルが繋がれ、そのケーブルは右脇に抱えられたGNキャノンにと繋がっている。

 

だがそれは誰の目から見ても有り合わせで使えるようにしているのは明白だった。

キャノンは本来装甲で覆われているはずの精密部分を剥き出しにしており、配電盤らしき物がまる見え。アルケー本体もそのゴツい脚部の装甲を外し、ケーブルが繋がれている。

 

「それでもやるのがお前だろ!」

『あんま期待されても困るってェの!』

「それで、あと何発撃てる!?」

『知らねェよ! 無理やり繋いでっから出力が安定しねェし、見ての通り砲台だ! 出たとこ勝負っ、サッサと決めろ!』

「上等! 支援よろしく!」

 

そう言うと一夏はホルスタービットを呼び戻し、追撃戦を仕掛ける。

今までは向かってくる相手には接近戦で対応していた福音。しかし現状を不利と判断したらしく、向かってくる一夏から逃げ始める。

 

 

「逃がすもんか! ライフルビット展開!!」

 

ホルスタービットから新たなビットが射出される。しかしそのビットは武器としては随分と奇妙な形をしており、銃口らしき物があるにも関わらず一切攻撃をしない。

だがそのビットは展開されているピストルビットの先端、銃口に装着され初めてその力を発揮した。

 

「さっきまで同じだと思うなよ!」

 

再び福音を追うビット群。距離が離れているにも関わらず、次々とビームが命中する。

 

先程のように包囲されまえと、複雑な軌道をとりながら福音は必死にビームを避けようとするが、一発避けも二発が命中。それに気を取られれば次のビームが命中。

威力も先ほどまでの物より上がっており、ダメージ量は増える一方だ。

 

福音は逃げ切れないと考えたのだろうか、ライフルビットからの攻撃でダメージを受けながらも一夏を撃破しようと無理やり翼を広げた。

 

「一夏っ、危ない!!」

『もォ一丁ォ!』

 

箒の叫びに応えるかのように再び地上から放たれた粒子ビームが福音の妨害をする。

出鼻を挫かれた福音の攻撃はまるで見当違いな方向へと飛去り、サバーニャの進行を阻止する物は無くなった。

 

 

「ナイス忍野!」

《粒子チャージ量は十分! 行くぞお前様!》

 

 

「《トランザム!!》」

 

GNドライブが甲高い唸りを上げ、それに同調するようにサバーニャの機体が赤く発光し始める。

推進スラスターから多量の粒子を噴射し、残像を残しながら福音へと急接近する。

 

福音はエネルギーを纏わせた爪で突撃してくるサバーニャの首を抉らんと振りかざす。

だが一夏は危なげもなく右手の銃で弾き返すと、間髪入れずに左手に握った銃を叩きつけ一発を福音の胴に見舞う。

 

予想外の攻撃に怯んだ福音。

銃で殴られたと思ったらそのままエネルギー弾を撃ち込まれ、空中でありながらよろけるような動きをしたが、一夏の攻撃は終わらない。

 

右の銃で中段を斬り払う。間を空けず左の銃を突き付けトリガーを引く。右、左、また右。腕がもげそうになるような速度で一夏は銃を振るい続ける。斬撃と打撃と銃撃の連続攻撃は福音の反撃を一切許さず、シールドエネルギーを削っていく。

一夏は攻撃のトドメとばかりに、力一杯回し蹴りを喰らわした。

 

一気に吹き飛ばされた福音。

だが福音は未だ健在で、蹴り飛ばされた状態から何とか姿勢制御を取り戻そうと、翼を大きく広げ空中で制止した。

 

しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

福音を取り囲むように浮かぶ銃。

一秒にも満たない制止した瞬間にGNライフルビットはゼロ距離まで接近。その銃口を突き付けていた。

 

「終わりだ・・・」

 

ゼロ距離でビームの乱れ撃ちを受けた福音は遂に力尽き、動きを停止した。

 

 

 

 

 

 

 




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暴走の終焉

001

 

 

福音を撃破した一夏。

しかしISが解除されたパイロットは海へ真っ逆さま。結局、唯一機体が無事だった箒が空中で受け止めて事なき終えた。

 

 

「ハッハー、あれだけ見栄をはったのに最後を箒に持ってかれるとはねぇ」

「うるさいぞ忍野。お前こそボロボロになって飛べもしないのに偉そうだぞ!」

 

ラウラに抱えられながらも一夏を笑う忍野。

 

帰路に就いたとき、誰が誰を連れて帰るか話し合い、忍野をラウラが運ぶことになった。因みに他は、セシリアが福音のパイロット、箒がシャルロット、簪が鈴という組み合わせ。

一夏が手ぶらなのは、それが一番揉めないと忍野が勝手に決めたからだ。

 

空は茜色に染まり、遠くの空には星が見えた。

 

「それよりも忍野、あんた大事な事忘れてない?」

「一夏もだよ?」

「「忘れてる事?」」

「「「「織斑先生(教官)(千冬さん)のお説教」」」」

 

「「あっ・・・」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰るなり正座させられる一夏とその真っ正面で目をつむり、仁王立ちしている千冬。

他の者はその横に一列で立っているが、千冬から伝わってくる怒気だけで冷や汗が流れる。

箒と鈴は何かトラウマを思い出したのか、涙目になって、ただひたすら「ごめんない」と呟き始める始末だ。

大丈夫か? この二人・・・。

 

 

 

「この、バカ者がぁぁぁあ!!!!」

 

ゴンッ!!

 

千冬の目がカッと開いた瞬間、拳骨が一夏の頭に叩き込まれた。

 

「勝手に生態端末を切りおって!! 貴様達の身勝手な行動がどれだけーーー」

「お、織斑先生。一夏さん気絶、されてますわよ?」

 

一夏の目は白目になっており意識があるように見えない。

 

「「「・・・・・・」」」

「・・・・・・」

 

ゴンッ!!

 

「起きんかバカ者!!」

 

再び拳骨。しかし一夏の意識は回復した。

 

「痛ってぇぇぇえ!!」

「説教中に寝るな愚か者!」

 

(((いや、先生が気絶させたんでしょうが)))

 

その後もガミガミと怒られる一夏。

しかし正座して頭を下げてる彼には見えてないが、説教をしている千冬の顔は、僅かに安堵の色をしていた。

 

「あの位で済んで良かったよね」ヒソヒソ

「あれに比べましたら、ね?」ヒソヒソ

 

それにつられて部屋の隅に視線を向ける六人。

 

 

 

 

「何回剣を壊せば気が済むのかなぁ? くーちゃん、追加しちゃって」

「喜んで」

「いや、本当・・・すみませんから勘弁して下さい!」

 

そこでは忍野が束とクロエに説教と言う名を借りた拷問を受けていた。

手を後ろで縛ったまま三角形の木を並べた所に正座させられ、その膝の上に二枚の重石が乗せられている。そこへ笑顔で重石を追加するクロエ。

所謂『石抱』と言われる江戸時代から続く拷問だ。

 

「・・・止めなくていいの?」

「姉さんのする事に間違いはない」

 

シャルロットはやめさせなくていいのかラウラに訊ねるが、彼女は姉さんがする事が正しいと信じ込んでおり、簪に至ってはどうしようかと視線がオロオロさ迷っている。

 

「もうアルケー(この子)、オーバーホールしないとダメだから束さんがしばらく預かるよ。それとくーちゃん、さらに追加して」

「無理無理無理無理!! やめてくれ!!」

「さあ、お覚悟」

 

 

ギャアーーー!!

 

 

「・・・本当に止めなくて良かった?」

「・・・少し、自信がなくなってきた」

 

 

 

「あ、あの、織斑先生。もうそろそろそのへんで・・・。け、けが人もいますし、ね?」

「・・・織斑以外は山田先生と別室で検査、その後自室で休むように。解散!」

 

怒り心頭の千冬は一夏だけを残し、女子陣を山田先生に任した。

まだ怒り足りないようだ。

 

「じゃ、じゃあ、診断しましょうか。その後、皆さんの専用機の破損状況を報告してくださいね」

 

ラウラや簪は忍野の心配をしたが、止めれる気配でもなかったのでみんなと一緒に部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

その時、忍野の髪の一部が白髪(しらが)になっているのには、気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

002

 

 

 

~箒サイド~

 

 

『良かったですねっ。皆さん大きなケガもなくて』

「それはそうだな」

 

今、私は旅館の中庭で月を見ながら心を鎮めている。

診断の結果、私は軽度の鞭打ち。高機動で動きまわったのが原因だろうと言われた。機体が大破していた鈴とシャルロットも、軽い打撲と擦り傷、海に浸かったことによる体温低下だけで済んでいた。

 

『それにしても、さっきの怯えて方は尋常ではありませんでしたねっ。いったい何を思い出したのですか?』

「・・・今それを忘れる為にここに居るのだから静かにしてくれ」

 

千冬さんの放った怒気にあてられた瞬間、過去に千冬さんに怒られたのを思い出した。

失礼なのは重々承知ではあるが、昔受けた説教はトラウマになってしまってる。それを思い出したせいであんな醜態を晒してしまった。

 

「ハア~」

 

「どうしたんだ? ため息なんてはいて」

「い、一夏!?」

 

いつの間にか後ろからやってくる一夏。

どうやらボーっとしていて足音に気付かなかったようだ。

 

「かっ、考えごとをしていただけだ」

「そっか。でも捜したぜ、部屋にいないしみんなに聞いても知らないって言われたし」

「捜した? 私を?」

「そうだけど?」

「そ、そうか。それで、いっ、いったい何の用だ?」

 

すると、一夏は手に持っていた小さな袋を差し出してきた。

手のひらサイズの大きさで綺麗なデザインの袋だ。贈り物などに使うような物なのだろうけれども、なぜ私に?

 

「これ。誕生日プレゼント」

 

え・・・?

 

「こういう時、何を贈ればいいのか分からなかったからリボンにしたんだ」

「あっ、あっ・・・」

 

言葉が出てこない。

礼を言うだけではないか! 何をしているのだ私は!?

 

「そ、その、ありーーー

「おーい、一夏ぁ!」「ん? 何だ忍野!」

 

しまった!

忍野に先を越されてしまった! なんで今っ、二階から声をかけてきた!? ワザとか!?

そんな事より、ええっと、そうだお礼だ。お礼お礼・・・ああ、ダメだ! 頭が回らない!

 

「箒?」

「な、なんだっ!!?」

「忍野たちがトランプでもしようって呼んでるけど箒はどうする?」

「も、もう少しだけ・・・、夜風にあたっている」

「なら俺は行ってくる。風邪引かない内に戻れよ」

 

そう言い残し、一夏は室内へと戻っていった。

もう少し一緒に居たい気持ちもあったが今の私の顔をとても一夏に見せられない。目頭が熱くなって涙が流れているのがわかるし、頬が緩むのを抑えられない。きっと凄い顔をしているだろう。

 

私の誕生日を覚えていてくれた・・・、それが堪らなく嬉しいのだ。

きっと一夏の事だ、幼馴染みだからと言う理由で済ましてしまうのだろうけれども、私にとってはそれだけで特別な意味を持つ。

 

私は丁寧に袋を開き、中のリボンを取り出す。そして髪を(ほど)き、貰ったリボンで結び直す。

 

「よしっ!」

 

気持ちを落ち着かせるように小さくガッツポーズをし、この喜びを噛み締め、そして自分なりにこれからも努力するための気合いをいれる。

 

いつか一夏に、幼馴染みや友人としてではなく、一人の“異性”として祝ってもらえるように。

そういう関係になれるように・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『篠ノ之さんはあの男性の事が好きなのですかっ!?』

「今は黙っていろぉぉぉ!!」

 

八九寺、頼むからこのタイミングでそれを追求しないでもらいたい。

 

結局、室内に戻ったのは一時間後だった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

003

 

 

 

旅館のそばには雑木林・・・いや、雑木林と呼ぶにはあまりにも範囲が大きく、森と呼ぶ方がこの場合適切であるだろう。

そんな森の先には比較的小さな岬があり、極たまに地元の人間だけがお月見などで訪れる場所となっている。

 

そんな場所で月に照らされた一つの人影。

 

「紅椿稼働率は絢爛舞踏を含めて32%かぁ。何でこんなに上がっちゃったのかな?」

 

空中投影のディスプレイに浮かび上がった各種パラメータを眺めながら、どこまでも無邪気な微笑みを浮かべる女性。

篠ノ之 束その人だ。

 

鼻歌を奏でながら、別のディスプレイを呼び出す。そこではケルディムの第二形態、サバーニャの戦闘映像が流れていた。

もっとも、写角から見て紅椿視点から撮影された物のようだが。

 

それを眺めながら、束は岬の岩に腰掛けた状態でぶらぶらと足を揺らす。

 

「は~。それにしてもいっくんには驚くなぁ。渡してから半年もしないうちに第二形態移行するなんて、まるでーーー」

「ーーーまるで、『白騎士』のようだな。コアナンバー001にして、実戦投入()()()()()機体。お前の夢を壊した機体に、な」

 

森から音もなく千冬が姿を現す。

 

「やあ、ちーちゃん」

「おう」

 

ふたりは互いの方を向かない。背中を向けたまま、束は脚をぶらつかせ、千冬はその身を木に預ける。

 

「紅椿は本当に第三世代のISか?」

「まっさかぁ。紅椿は展開装甲による即時万能対応機(リアルタイム・マルチロール・アクトレス)として作られた第四世代型IS。もっともリミッターとプロテクトで第三世代クラスの性能しか発揮できない・・・はずだけどね」

「今の間はなんだ?」

「なんでもないよぉ」

「ふん。・・・使用しているコアは、“オリジナルセブン”ではないだろうな?」

「それはないよ。あの子達は乗せる相手を選ぶからねぇ。今でも持ち主(主人)が決まってない子が半分近く。紅椿に使っているのは研究用に手元に残していた普通のコアだよぉ」

「確か、ナンバー登録された467機のコアの内の8機だったか? お前の個人所有用としてIS委員会が認可したのは」

「うん。でもこれでセブンのコアしか残ってないんだよ。全くあの子達は、嫁の貰い手がない娘の親ってこんな気持ちなのかなぁ」

 

ハンカチを目に当てすすり泣くフリをする束。

貰い手がないのはお前だろ、と千冬は言いそうになるが、言えば亜音速で自分に跳ね返ってくるので口を閉ざす。

 

「・・・そうだ。一つ例え話をしてやろう」

「へえ、ちーちゃんが。珍しいねぇ」

「例えば、とある天才が一人の男子の高校受験場所を意図的に間違わせることができるとする。そこで使われるISを、その時だけ動けるようにする。そうすると、()()()()使()()()()()()()IS()()使()()()、ということになるな」

「ん~? でも、それだと断続的に動かないよねぇ」

「そうだな。お前はそこまで長い間同じものに手を加えることはしないからな」

「えへへ。飽きるからね」

「・・・で、どうなんだ? とある天才」

「どうなんだろうねー。うふふ、実のところ、何で二人がISを動かせるのか、私にもわからないんだよねぇ」

「ふん・・・。まあいい。次の例え話だ」

「多いねぇ」

「嬉しいだろう?」

 

違いないね、と返して束は千冬の話に耳を傾ける。

 

「とある天才が、大事な妹を晴れ舞台でデビューさせたいと考える。そこで用意するのは専用機と、そしてどこかのISの暴走事件だ」

 

束は答えない。そして、千冬も言葉を続ける。

 

「暴走事件に際して、新型機を作戦に加える。そこで天才の妹は華々しく専用機持ちとしてデビューというわけだ」

「・・・ちーちゃんが何を思っているのか知らないけど、束さんがしたのは箒ちゃんに紅椿をあげた所まで。それ以外は知らないよ」

「・・・だろうな。あの時もそうだった。かつて、十二ヵ国の軍事コンピューターが同時にハッキングされたのちの『白騎士事件』の時も、お前は純粋にISのデータ取りしていただけだからな」

 

束は答えない。千冬も、もう言葉は続けない。

 

「ねえ、ちーちゃん。今の世界は楽しい?」

「そこそこにな」

「そうなんだ」

 

岬に吹き上げる風が、強くうなりを上げた。

 

「ーーーーーーーーー」

 

その風の中、束は何かをつぶやいて岬から・・・飛び降りた。

当たり前のように。至極当然のように。

海面に船を停泊させていたのかも知れないし、ISを使ったのかも知れない。どちらにせよ千冬は彼女の心配などはとうの昔にするのを止めていた。

 

 

「・・・隠れてないで出てきたらどうだ?」

 

森の闇の中から姿を現した忍野。

あまりにも闇に溶け込んでいることに、千冬は一瞬恐怖心にも似たものを感じる。

 

「別に隠れてるつもりはなかったんだけどなぁ」

「よく言う。束が消えた途端、気配を表した癖に」

 

よいしょ、年寄りくさいかけ声を出してから千冬が背を預けている木の反対側に座る。

夜、男女が一本の木を間に背会わせしているのはシュールに見えるだろう。

 

「束の言った事は真実だと思うか?」

「さぁてね。昼間の演説を本物だとするなら事実だろうし、世間から見たあの(ひと)の行動からすると嘘になるだろう。あんたが一番分かるんじゃねぇの?」

「分かれば苦労しないさ」

「・・・恐らくだが、今回の一件は関係ないと思うぜ」

「ほお。そう言える確証は?」

「まぁ“(じゃ)の道は(ヘビ)”ってね」

「くだらん秘密主義か」

「そう言うなよ。それにしても『今の世界は楽しい?』か、随分と難解な問いをするねぇ」

「お前はどうなんだ? 世界は楽しいのか?」

「・・・・・・」

 

千冬の質問に忍野は答えない。

一分なのか一時間なのか分からない無言の時間が過ぎたところでようやく口を開いた。

 

「・・・世界はともかく、今の生活は楽しいかな」

「お前も大概だな」

 

呆れたように漏れる声。しかし彼女はほんの僅かに、優しげな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

004

 

 

~一夏サイド~

 

 

「ふぁあ~~」

 

あ~眠い。

早朝に学園から旅館に持ち込んだIS(訓練機)の撤収を(罰則として)手伝っていたからまったく疲れがとれてない。

せっかく温泉に入ったのに帰る時の方が疲れてるってなんかヤダな。

 

それにしても千冬姉と忍野の奴遅いなあ。もうみんなバスに乗り込んでるのにまだ来ない。他のクラスのバスは先に出発しちゃったから山田先生がオロオロしてる。

 

あれ? なんか知らない人が乗り込んできた。 

 

「ねえ、織斑一夏くんっているかしら?」

「あ、はい。俺ですけど」

 

少なくとも俺たちよりは年上で、鮮やかな金髪。千冬姉に負けず劣らずのスタイルでカジュアルスーツを着こなしている。

 

「君がそうなんだ。へぇ」

 

女性はそう言うと、俺を興味深そうに眺める。

見せ物じゃないんですけど・・・。

 

「あ、あの、あなたは・・・?」

「私はナターシャ・ファイルス。『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の操縦者よ」

「えーーー」

 

俺が何か言うより先に、ナターシャさんは頬に軽い口づけをしてきた。

 

「これはお礼。ありがとう、日本のガンマンさん」

「え、あ、う・・・?」

「じゃあ、またね。バーイ」

「は、はぁ・・・」

 

バスから降りていくナターシャさんを見送る。

束さんとは違うタイプで嵐みたいな人だったな。

 

すると、ゾクッと背筋に冷たいものが走る。

恐る恐る振り返ると、何やら目が笑っていないシャルロットにセシリア、そして箒の顔が映った。

 

「一夏ってモテるねえ」

「本当に、行く先々で幸せいっぱいのようですわね」

「はっはっはっ」

『儂の目の前で接吻とは良い度胸じゃの』

 

影の中からも忍の怒気を孕んだ声が聞こえた。

 

何がモテるのか、そして幸せいっぱいとは何のことか分からないがこの時、俺はただ一言、

 

(あ、これ詰んだな)

 

そう考えてここ数ヶ月の走馬灯を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

005

 

 

 

「・・・・・・」

 

バスから降りたナターシャは、目的の人物を見つけてそちらへと向かう。

 

「おいおい、余計な火種を残してくれるなよ。ガキの相手は大変なんだ」

 

そう言ってきたのは、千冬だった。

 

「思っていたよりもずっと素敵な男性だったから、つい。それで其方がーーー」

 

千冬に引きずられてやってきた忍野を見る。表情はともかく、頭に出来たタンコブがどうにも気になり、人間性を読みとれない。

 

「どうも、“二人目”です」

「じゃあ、あなたにもお礼をしないとね」

 

するとナターシャは頬に口づけをしようと顔を近づける。

が、忍野はそれを手で遮る。

 

「おっと、それは遠慮するよ。それより身体は大丈夫なのかい?」

「まるで年下に接するような言い方をするのね。身体の方は問題なく。私は、あの子に守られたから」

「それは良かった・・・とは言えない様子だねぇ?」

「そうね、良かったとは言えないわ。あの子は私を守るために、望まぬ戦いへと身を投じた。強引なセカンド・シフト、それにコア・ネットワークの切断・・・あの子は私のために、自分の世界を捨てた」

 

福音はコアこそ無事であったが、暴走の原因が解明されるまでの凍結処理が決定された。しかし暴走原因はISコアにあると思われ、事実上の無期限の使用停止処分を受けたのだ。

 

「・・・何よりも飛ぶことが好きだったあの子が、翼を奪われた。相手が何であろうと、私は許しはしない」

「あまり無茶なことはするなよ。この後も、査問委員会があるんだろ? しばらくはおとなしくしておいたほうがいい」

「それは忠告ですか、ブリュンヒルデ」

「アドバイスさ。ただのな」

「そうですか。それでは、おとなしくしていましょう。・・・しばらくは、ね」

 

それだけ言い残し、ナターシャは帰路に就いた。

ナターシャの後ろ姿を見送ってから、千冬はこれから起こるであろう出来事にため息を一つ吐き、バスへと乗り込んだ。

 

「? 早く乗れ。置いて行くぞ」

「・・・ああ」

 

旅館の方を眺め、黄昏ていた忍野は千冬に促されてバスへと乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、見送りが済んだかのように、一羽の(カラス)も旅館の屋根から舞い上がり、青空へと消えていった。




ご意見、ご感想お待ちしております。


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織斑 一夏専用機:二次形態

ケルディムガンダム二次形態

 

『ガンダムサバーニャ』

 

白をベースに深緑色をしたブロック状の装甲で覆われた全身装甲。額に黄色のV字アンテナを装備したガンダムタイプの射撃戦闘型IS。

 

ケルディムの二次移行した姿。

ケルディムが“狙撃”を主体とした機体だったのに対し、サバーニャは“早撃ち”を主体とした機体へと進化。

 

面制圧や火力支援を得意とする射撃に特化した機体ではあるが、一夏が“ガン・カタ”の使い手な事とそれぞれがビットとして遠隔操作出来る事により全距離対応戦闘が可能となっている。

 

装備は腰部から伸びるアームユニットに、シールドとしての機能を有するGNホルスタービットを有し、更にこれに格納されているGNライフルビットⅡと、全身に搭載されたGNマイクロミサイルを備える。

 

マルチロックオンシステムを搭載。額と、新たに追加された両肩と両膝側面に収納したガンセンサーを起動させることで100以上の同時ロックオンを360°で可能としている。

 

 

 

・武装

 

 

GNピストルビット

 

サバーニャの主兵装。数は10機。

手持ち武器兼ビット兵器。GNビームピストルの派生型。 GNビームピストル同様、下部には近接戦闘に対応する為のブレードが搭載されている。

ビットとして使用でき、ケルディムのライフルビット以上の連射性を持つ。

収納されているセンサーとグリップを引き出す事で手持ち火器として使える。

先端部にアタッチメントを装備する事で、GNライフルビットⅡとして機能する。

 

 

 

GNライフルビットⅡ

 

手持ち武器兼ビット兵器。

ピストルビットに専用のアタッチメントを装備した状態。ピストルモードに比べると連射性に劣るが火力強化と射程距離が延長され、狙撃戦に適した性能を有する。 こちらも収納されているセンサーとグリップを引き出す事で手持ち火器として使用可能となる。

 

 

 

GNマイクロミサイルポッド

 

爆薬と推進にGN粒子を用いたミサイル。ケルディムは腰部のフロントアーマーにのみ装備されていたが、サバーニャは全身にミサイルポッドを装備している。

 

 

 

GNホルスタービット

 

腰のアームユニットに連結した状態で両側に装備されている。数は10機。

シールドビットの発展型でGNライフルビットⅡ、GNピストルビットを収納出来る「ホルスター」としての機能を有する遠隔操作装備。大きさが以前の倍以上になっているので守備能力が向上している。

単体では武器としての能力は無いが、ライフルビットとの連携により粒子ビームを拡散・収束させる事が可能。

 

 

 

・単一仕様能力

 

トランザムシステム

 

 

 

 

 

その他設定

 

 

GNドライヴの能力強化

 

GNドライヴの出力が向上し、今までの二割増しで粒子生成が行われるようになった。これにより火器やスラスターの能力アップが実現。

そして弱点であったトランザム終了後の出力低下がなくなり弱体化することがなくなった。

 

 

 

マルチロックオンシステム

 

物としては更識 簪の専用機『打鉄弐式』に搭載されている物と似たり寄ったりだが、サバーニャの場合は収納されたガンセンサーを起動させないと使用できない。

強度的に脆いセンサーを露出させないと使用できないシステム(サバーニャ)と、機体変化なく使用できる上に迎撃を回避するミサイルへと変貌させるシステム(打鉄弐式)を比べると、運用の上での物の質としては打鉄弐式に軍配が上がる。



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夏の始まり
りんランプ


001

 

 

IS学園から電車を乗り継いで約1時間。

 

山奥にある階段ーーー

いや、草木がぼうぼうで、木の根の成長に押し上げられて、あらかじめ言われていなければこれが階段であるとは、とても気付けそうもない。

 

そんな獣道のような所を登る四人の男女。

 

「三人とも大丈夫かい?」

「ん、訓練に比べれば造作もない」

「俺も平気だけど・・・」

「ハァハァ、ちょっと、待ってよぉ」

 

涼しい顔をして平然と登って行く忍野。

多少汗を流しながらもそれに続くラウラ。

割と平気そうな一夏。

そして最後尾でおぼつかない足取りでついて来る鈴。

 

「どこまで、登ればいいのよぉ」

「とりあえず頂上まで?」

「何で疑問系なのよ!?」

 

さて、なぜ彼らが古びた石階段を登ぼるのか。

それは数日前に遡る。

 

 

 

 

 

 

002

 

 

 

数日前ーーー。

 

臨海学校から数日後。期末テストも終了し、夏休みまで二週間を切ったある日。

 

「仕事?」

「ああ。今度の休みにでも行く予定さ」

「じゃから物々しい準備をしておるのか」

 

部屋でくつろぐ一夏と忍を尻目に、仕事道具を用意している忍野。

分厚い本や縦長の冊子、数珠や紙玉などを変わったウエストバックへと収めていく。

 

「あれ? でもしばらくは休業するって言ってなかった?」

「お前、銃ぶっ壊しただろ? あれの修理代の代わりにって事で仕事の依頼がきたんだ」

「直ったのか!?」

「おお、良かったのうお前様」

 

一夏はIS学園入学以前、大型の二丁拳銃を持っていたのだがある事件で破損してしまったのだ。修理に出したはいいが、その銃は構造や素材の都合上、修理には半年ほどかかると言われていた。

 

「みたいだね。仕事を終わらしたら配達するってさ」

「ヨッシャアァァッ!!」

「うるさいのう」

「元気がいいねぇ。そんなに待ち焦がれていたのかい?」

「そりゃそうだろ! 半年だぞ半年! 家電でもそんなにかからないんだからな」

「その分、修理代も高値だけどねぇ?」

「・・・いくら位?」

「仕事の内容からしてザッと400万くらいかな?」

「四ひゃッ!?」

「それは高いのか? 安いのか?」

 

驚くのも無理はないだろう。400万の銃などもはや装飾品など以外では有り得ないレベルだ。日本で銃を手に入れるのよりも遥かに金がかかっている。

 

「そうだねぇ、ミスタードーナツのお店の品を全部買ってもおつりがくるかな?」

「なんじゃと!? お前様っ、なぜ銃を壊したのじゃ!? それだけ有ればどれだけのドーナツが食べれたと思うのじゃ!?」

「変わり身早っ!? って忍野! あれ在庫処分で売ってただろ!? なんで2万で買った銃の修理代が400万なんだよ!?」

「一夏、勘違いしてないか? あれが在庫処分だったのは単に使う奴が居なかったから。物としてはかなりの業物なんだから相応の修理代がついて当然だろ?」

「でも400万なんて・・・」

「今の俺らなら簡単だぞ? 血を外国の研究所に高値でーーー」

「売るわけねぇーだろぉ!! だから忍も注射器を出すな!」

「なんじゃつまらん」

「元気いいなぁ、軽い冗談だからそんなに吠えるなよ」

「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ。それにしても学生に払える値段じゃないな」

「まぁだからアイツもわざわざ仕事を対価に求めてきたんだよ」

 

修理の対価のために専門家業(仕事)を用意してもらえるのはある意味良心的だが、仕事内容が釣り合うかは疑問である。

 

「で、仕事ってどんなのだ? また怪異退治か?」

「いや、そんな物騒なのじゃないよ。力場の調整。こっから近くの山に怪異とかのよくないものが集まり易くなっている所があるんだ。だからそれを解決するって仕事」

「へぇ~」

「へぇ~、ってお前も行くんだよ」

「あ、やっぱり?」

「お前の私物なんだから当たり前だろ? これだから一夏は・・・」

「まったく、お前様は・・・」

「あー、今からでも部屋変えてもらえるかなぁ」

「お前様の元におった事が儂の人生最大の間違いじゃったかもな」

「ちょっとふざけただけじゃん! なんで二人してそんな哀れんだ目でフルボッコにしてくるんだよ!? もう俺のライフは0だぞ!?」

「「なんでって、暇つぶし?」」

 

「お前ら最悪だなあ!!?」

 

 

 

 

 

003

 

 

~一夏サイド~

 

 

「それじゃあちょっと買い物に行ってくるよ」

「ついでじゃ。ドーナツを買ってこい」

「へいへ~い」

 

部屋を出て行く忍野

それにしても400万か・・・。仕事を紹介してもらえなかった払えない額だったな。

って言うか、忍。忍野をパシるなよ・・・。

 

そんな事に思いふけっていると、

 

「一夏ぁ、今度の休みヒマ?」

 

入れ違いになるようにノックもせず部屋に入ってくる鈴。

危うく忍が見つかるところだったが間一髪、影に滑り込んだ。

 

「え、えっと、忍野とハイキングしに行く予定が・・・」

 

まさかバカ正直に言うわけにもいかず、適当な、それでいて的を得てるようにも感じれなくもない理由をつけた。

サーチ&デストロイの妖怪退治旅行じゃないから間違ってないよな?

 

「なら私も行くわ」

「え″っ?」

「え″ってなによ」

「いや、別に何でもないけど・・・」

「なら問題ないわよね」

「いやそれは、ちょっと・・・」

「何よ焦れったいわねっ! なんかやましい事でもあるわけ!?」

「ええっと・・・」

 

ここで皆様には学んでもらいたい事がある。

手元に辞書があるなら是非とも調べてもらいたいが、“頼む”と言うのは希望通りに物事がはこぶように他人に願い求める事を指し示す。

願い、そして求める。

言い方に差違あれど自分は下手となり、相手の自発的な合意があって初めて成立する。

 

何が言いたいかと言うと、

 

「良いわよね?」

「・・・はい」

 

ISの腕部を部分展開して合意を強要するのは、世間一般的には“脅迫”だと、目の前の幼馴染みに教えてたいという。ただそれだけの事だ。

 

 

 

 

 

004

 

 

そして当日。

 

「何でラウラもいるの?」

「むしろなんで鈴が居るんだい?」

 

朝、学園の門前に遅れてやってきた鈴。

忍野と言う名のお邪魔虫がいるが、一夏と一緒に出掛けれるとウキウキ気分でついてみると、何故かそこにはラウラの姿もあった。

 

「私は嫁が出かけるというのでな、とりあえずついて行くのだ」

「だから嫁じゃねぇよ」

「悪いな忍野。鈴がついて行くって言ってきかなくてな」

「別について来るのは良いけどさぁ・・・」

 

忍野はそこで言葉を区切り、鈴を頭からつま先まで見る。

その視線を感じとった鈴は胸を隠すようにして忍野を睨みつける。

隠すほどもない癖に・・・。

 

「な、なによ」

「ついて来るなら着替えてこい」

「はあ? なんでよ」

 

「今から行くのは山だぞ?」

 

「え?」

 

オシャレをするのはいいですが、山へ行くときは夏でも最低限、長ズボンは履きましょう。

 

 

 

 

005

 

 

以上、回想終了。

 

 

その後、鈴は長ズボンに履き替えて合流、結局ついて来たのだ。

ちなみに忍野とラウラは制服姿。

一夏は黒のTシャツに青のジーパン。

 

「忍野、休憩にしようぜ」

「もう疲れたのかい? 根性がないねぇ一夏」

「俺じゃなくて、な?」

 

同意を求めながら、一夏は後ろを登ってくる鈴を見る。

彼女の脚は、まるで生まれたての小鹿のようにガクガクと小刻みに震え、腕をだらーんっとしている。

 

「ついて来なけりゃ良かったのに・・・」

「うっさい、わよ・・・忍野」

「罵倒の一つもないとは限界だな。ラウラ、休憩にするよ」

「わかった」

 

比較的開けた場所にシートを広げ、各々が水分補給をする。

 

「鈴、大丈夫か?」

「うぅ、暑い・・・疲れた・・・」

 

額に濡らしたタオルを乗せて大の字になって寝ている鈴。すでに疲労困憊、いつもの彼女からしたらかなり弱っているようだが、多少回復したらしく、持って来たアイスを咥えてる。

どこにアイスをしまっていたか? ISの拡張領域です。

 

「それにしても普通、ISの拡張領域を冷凍庫代わりに使うか?」

「いいでしょ別に、専用機持ちの特権よ特権」

「まあ便利といえば便利だな」

 

拡張領域には温度の概念がない。

これを利用して、鈴はアイスを炎天下の中持ち歩いていたのだ。

 

「便利だと思うなら一夏もやればいいでしょ」

「使う機会があればね」

「俺は使ってるぞ?」

「嫁よ、その白いのはなんだ?」

「大福だけど、食べるかい?」

「食べる!」

 

貰った大福を両手で持って頬張るラウラ。珍しく、忍野が優しい笑みを浮かべているのを鈴は見逃さなかった。

 

「へぇー、あんたもそんな顔する時があんのね」

「ん? いや何、ちょっと昔を思い出してねぇ」

「昔ねえ。家族のことでも思い出したのかしら?」

「どうだろう。何を思い出したのか忘れちゃったよ」

 

そう言って出掛かった言葉を流し込むようにお茶を飲み干した。

 

「さてと、出発するぞ。もう少しで頂上のはずだからサッサと行くぞ」

「もう少しってどのくらい?」

「あとぉ・・・あぁ、三分の一?」

「ええ!?」

 

 

 

 

006

 

 

それから30分ほど登り続けて頂上に到着。

 

「や、やっと着いたぁ~」

「下りもあるぞ?」

 

苦行から解放されたことを喜ぶ鈴と、彼女にとって非情な現実をつきつけるラウラ。

 

そんな二人を尻目に、男達は眼前にひろがる光景に、思わず唖然としてしまった。

 

「忍野・・・」

「いや・・・、これは俺も想定外だ」

 

ある程度は予想してはいたが、神社は階段以上、想定以上に荒れ果てた様相を呈していた。

境内は雑草と枯れ葉の腐敗した物で埋め尽くされ、石畳が全体の4割ほどしか見えない。

建物の方は、地震か何かで崩壊したらしく屋根だけが形を残し、押しつぶしされたように潰れている。足元には錆び付いた 鰐口(わにぐち)(参拝の時に鳴らす鈴)らしき物が転がっていた。

 

「なるほどねぇ。これじゃあ()()になるわけだ」

 

それは一夏にも理解できた。

明らかにこの神社に、神様はいない。自惚れた言い方ではあるが、自分が神様ならこんな所よりもっと優良物件を探す。

そして神様がいないのであれば、人間もこんな場所には長居したくないというのが、普通の考え方だろう。

 

神様(怪異)も人もいない。

だからこそどちらにも属さない、具体性に欠け、怪異と言えるような段階でもない、()()()()()()が集まる。

 

「嫁よ、いったい何の話をしているのだ」

「男同士の内緒話だよ。それより鈴と一緒にお弁当の準備をしておいてくれるかな?」

「そうか。では向こうで準備している」

 

そう言ってラウラは駆けて行き、それを確認してから一夏は忍野は疑問に思っていた事を訊いた。

 

「なあ。結局何で此処は集まりやくすなってんだ?」

「確か数年前の地震が原因だったかな? 何でも地震の影響で龍脈、所謂霊的エネルギーの流れに歪みが生じて、その歪みの余剰エネルギーが此処で()()()()()()として集まってるらしい。詳しくは知らないがな。さてどうしたもんか・・・」

「どうしたんだ?」

「いや、()()()()()()を散らす御札を本殿の中に貼りたかったんだけど・・・」

「・・・どう見ても無理だろ」

 

本殿は完全に潰れており、入る以前に開ける扉すらない有り様だ。

 

「仕方がない」

 

すると忍野は手に持っていた御札をしまい、封筒を取り出して中から違う御札を引き抜き、崩れた屋根の下に入って、雨に濡れない位置に御札を貼った。

 

「そんないい加減でいいのか?」

「いいんだよ。正しい場所に貼ってない分、状態を大きく変化させない。だから当初の予定よりも自然な形で正常化するはずさ」

 

それに、と言葉を続ける忍野。

 

「こいつはさっき貼ろうとした札より数段強力だからこれくらいで丁度いいんだ。もしこの札を本殿の中に貼ろうものなら、ここら一帯の力場のパワーバランスが崩れて妖怪大戦争が起こっちまうよ」

「恐ろしいなぁおい」

「ハッハー、でもこれで騒動の種が潰れてよかったよ」

 

これで仕事が終わったと思った一夏。

 

しかし忍野の予想を外れ、既に騒動の種は芽吹いていた。

 

 

 

 

007

 

 

「お、準備が出来てるっぽいな」

 

敷物を敷いて、弁当の入った容器と水筒が中央に鎮座。その横にラウラが座っていた。

 

だが様子がおかしい。何かを捜すかのように辺りを見回している。

すると、こちらに気が付いたラウラは血相を変えて忍野の胸に飛び込んできた。

 

「何かあったのかい?」

「鈴がっ、鈴が見当たらない!!」

 

何事かと思ったが、そこまで焦るような事じゃないと楽観視した二人。だがそれに気づいたラウラは声を上げる。

 

「本当にっ、居ないのだ!!」

「その辺をぶらついてるんじゃないの?」

「それは有り得ない! 見ろ!」

 

ラウラが指差す先には一組のスニーカーが残されていた。そこに偶然落ちていたような物ではない、間違いなく鈴が履いていた靴だ。

 

「・・・捜した方が良さそうだな」

 

すぐに三人は境内の別々の場所から鈴の名を呼んだ。

 

「鈴ー! 居たら返事しろ!!」

「鈴! どこに居るんだ!?」

 

しかし声を張り上げて辺りに呼びかけるが返事はなく、聞こえてくるのは木々のざわめきだけだ。

 

「忍野、携帯は!?」

「ダメだ。圏外になってやがる」

 

やはり山の中では電話は使えなかった。こればかりは技術が進歩してもなかなか改善されないようだ。

 

「サバーニャの通信回線ならどうだ?」

「ISのは何処でも使えるが、後で始末書もんだぞ?」

「そんな事を気にしている場合じゃないからな、始末書くらい、いくらでも書いてやる」

 

そう啖呵を切ると、一夏はサバーニャの通信回線を開き、鈴に呼びかける。

するとすぐに応答があった。

 

『一夏!!』

「鈴? 大丈夫か?」

 

一夏は通信を忍野達にも聞こえるようにし、二人は鈴の声を聞いて胸をなで下ろした。

一人の人間から男女二人の声が聞こえてくるのは、知らない人間には不気味に見えているだろうが・・・。

 

「今どこか分かるか?」

『分からない・・・分からないのよ』

 

通信越しに聞こえてくる鈴の声はいつもの様な元気がない、今にも泣き出しそうな弱々しい声だ。

 

『さっきまでラウラと一緒に座っていたはず、なのに、気が付いたら竹林の中で、グスッ、どこにも道がなくて・・・』

「まずは落ち着け。発煙筒はあるか?」

『「ラウラ、そんな物持ってきてないから」』

「え~っと、鈴。何か目印になるものはあるか?」

『何にもない。どこを見ても竹しかないわよ!!』

「そんな・・・」

『助けてよ一夏ぁ』

 

もはや悲痛な叫び。

高校生になっていようと、専用機を持っていようと、まだ彼女は10代の少女なのだ。

仲間から外れ、誰も居ない所で1人で迷い、連絡すら出来ない。こんな状況になれば年相応に心の弱さが見えるようだった。

 

『ーーーいーーねぇーー?ーッーーー!?』

 

音声にノイズが走り始め、徐々に鈴の声が聞こえなくなってきた。

なんとか通信状況の回復を試みようしたがどうにもならず、遂には通信が途絶してしまった。

 

「・・・切れた」

「馬鹿な・・・、ISの通信が切れる事などありえないはず」

「ありえないって事はないさ、現実に起こってる。それは紛れもない事実だ」

「竹林は確か少し降りた所にあったな」

「ならばすぐに探しに行くぞ!」

 

ラウラを先頭にすぐに階段を駆け下りる。

だが一夏と忍野は嫌な予想があった。

 

「鈴だって馬鹿じゃない。専用機持ちなんだからこの程度の山で遭難はしないはずだ」

「って事はやっぱり・・・」

「十中八九、怪異絡みだ。既に状況は開始されているって事だな。完全に後手に回っちまった」

 

苦虫を噛み潰したような顔して吐き捨てるかのように言葉を紡ぐ忍野。

 

数分と掛からない間に階段の踊場だったであろう開けた場所に降り立つ三人。

その視線の先には森の一角を支配するかのように存在する竹林。決して陽当たりが良いとは言えず、周りの木々との生存競争におされ気味のようではあるが、それでも貪欲に養分を集め、成長した丸太の竹が目に映った。

 

「鈴ッ!!」

「あ、おい!」

 

忍野が止める間もなく、ラウラは竹林へと入っていき、あっという間に姿が見えなくなった。

 

だが、

 

「む?」

「「あれ?」」

 

すぐに竹林から出て来るラウラ。

その表情は困惑に染まり、何が起こっているのかわからないと言った顔をしている。

 

「どうなっているんだ!?」

「引き返してきたんじゃないのかい?」

「違う、私はまっすぐ進んだはずだ。なのに・・・」

「引き返してきたと」

 

二人はラウラの言わんとしてる事を理解し、そしてその現象に覚えがあった。

 

「忍野・・・これって、」

「結界だな」

 

一夏は過去に同じような現象を目の当たりしていたので答えを求めるかのように忍野(専門家)の方を向く。するとその意図を汲み取るかのように、忍野は何も持っていない手を上げると、

 

「“紐”」

 

自分の有する能力を使ってその手の中に紐をうみだした。

初めてその現象を目の当たりにしたラウラは若干興奮気味で忍野に聞く。

 

「その紐はどこから出したのだ!?」

「あぁ~、あれだ、マジックだよ」

「流石は嫁だ!」

((あ、信じた))

 

何の疑いもなく嘘を信じた彼女に対して罪悪感を禁じ得なかった。

だがそんな事に心苦しさを感じてる様子もなく、忍野は黙々と作業を進める。

 

「ーーーーーーーーー」

 

右手に紐を持ったまま、目を閉じて祈りを込めるかのように、早口で詠唱(えいしょう)のようなものを唱える。発声方法からして違うのか、一夏とラウラには言葉の断片すら聞き取る事ができなかった。

 

「ほい。ラウラはこっちを持っていて」

「う、うむ」

 

詠唱の終えた紐の端をラウラに握らせると、もう片方を一夏の胴体に紐を結びつけ始めた。

 

「何をする気だ?」

「なぁに、昔からある捜索術を使うんだよ」

 

結び終わった忍野は御札の束を取り出し手渡した。

 

「この札を貼りながら竹林の中を進んでくれ」

「竹一本一本にか?」

「そこまでじゃなくていい。前に貼った札が見える距離で新たに貼ればいいよ」

 

そう言うやいなや、忍野は二人に背を向け歩み出す。

 

「俺は竹林の外を回る。そうすれば目当ての物が見つかるはずさ」

「目当ての物?」

 

竹林と森の境目へと消えていく彼は、振り向きもせず、ただ端的に答えた。

 

「犯人だ」

 

 

 

 

 

008

 

 

~一夏サイド~

 

なんだよこれ・・・。

竹林に入ったはいいが、本当に右も左もわからない。

貼って来た札と、腰に繋がれた紐がなければ自分がどこから歩いて来たのかすら解らなくなっていただろう。

 

それに気分が悪い。頭痛と吐き気が酷く目眩までしてきた。

最初はちょっとした違和感程度だったが、奥に進むにつれ、歩を進めるごとに、症状が酷くなっていく。

こんな時に限って忍は寝てるし。

 

「これで、えっと何枚目だ?」

 

受け取っていた札を次々と貼って前へと進むが、依然として先が見えない。

 

「今何時だ・・・」

 

腕に巻かれた時計を確認すると、針は鈴が消えてから二回目の頂点(12)を通り過ぎていた。

既に1時間以上も歩いているのに竹林から出れないのは異常過ぎる。改めて事の重大さを思い知らされるようだ。

 

 

 

 

それからも進み続けてようやく終わりが見えてきた。

やっとの思いで竹林を抜けた先に居たのは、

 

「よぉ一夏。遅かったなぁ、待ちくたびれたよ」

 

少し汚れた姿になっていた忍野だった。

足元は泥だらけで服の袖が破けていて、頭には枯れ葉が引っ掛かっている。

浮浪者にしか見えない。

 

「さて一夏、残っている札をくれ」

「ほいよっと」

 

随分と軽くなった御札の束を手渡すと、忍野はすぐに一枚剥ぎ取り、左手の人差し指と中指で札を挟むと顔の前にもってくる。

 

(はつ)

 

そう唱えると持っていた札に描かれた文字が妖しげな輝きを放ち、それに呼応するように竹林の中からも同じ光がポツリ、またポツリと浮かび上がってくる。

恐らく此処まで来る途中で貼ってきたあの札なのだろう。

 

「見ぃつけた」

 

何かを見つけたように顔を上げた忍野。

犯人とやらが見つかったのだろうか?

 

「あっちだな」

 

何を見つけたのかわからないが、俺は黙って忍野の後ろをついて行った。

 

 

 

 

 

009

 

 

「こいつが犯人だ」

「これが?」

 

そこにあったのは隙間の空いたカゴの下に持ち手のような物が付いた、一夏にとっては摩訶不思議な物が、雑草に埋もれ、ボロボロな姿で無造作に落ちていた。

 

「“昼行灯(ひるあんどん)”」

「あんどん?」

「言葉としての意味合いは“ぼんやりしている人”や“役に立たない人”だが、怪異としては付喪神(つくもがみ)の一種で割とメジャーな奴だ」

「付喪神ってあの?」

 

一夏もその名前だけは知っているほど有名な存在。百年使われた道具に魂が宿るという日本古来から伝わる怪異談。

 

「そっ。“付喪神”というは室町時代の絵巻物、『付喪神絵巻』により漢字表記と怪異としての属性を確立され、以後それに通ずるモノの総称として使われている。怪異としては異質で、ベースが何かによって発生する異変が変わってくるんだ」

「ベースってどういう事だ?」

「例をあげるなら、鏡がベースだと人をコピーしたりする怪異に、カメラがベースだと魂を抜き取る怪異になるって感じかな? 怪異化する前にどの様な使われ方、存在のあり方によって、それに関連した異変を起こす」

「じゃあこれはなんだ?」

「今回のこいつは手持ちの行灯。夜道で人を導く灯りとして使われ、中にロウソクなどの火を入れていてた。それが付喪神化したことで基礎部分が変化、昼間に人を迷わす永久(とこしえ)の灯りへとなった」

「百年使われた行灯か」

「いや、百年も使われてない」

 

まさかの否定。

付喪神は百年使われるのが条件ではなかったのか、昔からの怪異談を否定した忍野に思わず目を見開いてしまった。

 

しかし忍野は憎ったらしい笑みを浮かべ、明らかに一夏のリアクションを楽しんでる。

 

「百年うんぬんって話は戦国時代、つまり安土・桃山時代に付け加えられた偽談さ」

「偽談って事は嘘なのか?」

「半分正解。本当は付喪神の発生を抑えるための安全弁だ」

「安全弁?」

「付喪神ってのは怪異的な物の影響を受けたものなんで、良いものを言えば神や聖霊、悪いものなら妖怪や悪霊。そんな存在の影響を受けたものなんて言ったら腐るほどあるから百年説を追加して“百年経ってない道具は付喪神にならない”っていうふうにしたんだ」

「そんな簡単なのか?」

「知ってるだろ? 怪異は観測の仕方によって変わる、観測する側に偏見を加えればある程度の操作が出来る」

 

今の時代じゃあ無理だろうけどね、と昔を懐かしむように呟く。

 

「偏見か。それにしてもそんなに強力な怪異なのか?」

「今回は場所が悪かったんだよ。本来の昼行灯は少し迷わす程度だから素人でも簡単に脱出できる。けど今回はよくないものが集まって昼行灯の力が上がっているうえに、ここは見ての通り竹林。ただでさえ迷い易い場所で迷わす怪異、最強の組み合わせだから普通の人間には対処できないレベルになってたんだ」

 

竹は樹木以上の密度で群生し、枝の位置などでの個の判別が難しい植物。山菜採りのために竹林に入った人が迷うというのはよく聞く話だ。

 

「さて、そろそろ終わりにするかな」

 

バキッ

 

怠慢な動きで膝を上げた忍野はそこから一気に踵を下ろし、行灯を踏み砕く。

 

 

 

 

010

 

 

次の瞬間、場の空気が変わったのを、正常化したのを一夏は肌で感じた。

 

「それにしても、初めてだな。お前が進んで人助けするのは」

「そりゃあそうだろう。腐っても専門家、なのに目の前で鈴が怪異の被害に逢うのを阻止できなかったんだ。迂闊というそしりを免れないよ。それに、」

「それに?」

「今回の鈴は完全な被害者さ。シャルロットのように嘘を言っていた訳でもない、箒のようについて行った訳でもない。ただ其処に居たから被害に逢ったという完全な被害者だ。そんな子はーーー」

 

ーーーちゃんと助けないと。

 

「ほら、突っ立ってないで行ってこい! この色男!」

「わあっ!」

 

忍野に突き飛ばされて再び竹林に入った一夏。

先ほどのような言いようのない不可解な雰囲気はなく、どこの山でも有りそうな心地の良い、笹の擦れる音が聞こえてくる。

 

それに紛れて聞こえてくる少女のすすり泣く声。

声の元へと急ぐと、膝を抱え、泥だらけの靴下を履いた少女が居た。

 

「鈴?」

 

一夏が確認をするかのように訪ねると少女はピクリと反応し、ゆっくりと頭を上げた。

目を真っ赤にし、涙と鼻水で本人からしたらとても人様に見せれないような顔になっていたが、間違いなくその少女は鈴だった。

 

「・・・一夏?」

「おう。待たせたな」

「一夏ぁ!!」

 

鈴は立ち上がって駆け出し、一夏の胸に飛び込むと、大声で泣きだしてしまった。

 

「怖かったっ、怖かったよぉ」

 

なんと慰めればいいのか分からなかった一夏は、ただ“大丈夫だよ”と囁きながら彼女が泣き止むまで頭を撫でていた。

 

 

 

 

 

「やれやれ、想定外に札を使っちまった、ん?」

 

ラウラを迎えに行ってから二人の近くまで戻ってきた忍野。

事が落ち着くまでこのまま傍観していようと思ったが、不意に服の裾を引かれたので視線を落としてみると、少し膨れっ面で忍野を見るラウラがいた。

 

「嫁よ、私も頑張ったぞ」

「・・・そうかい、お疲れ様」

 

ずっと一人で三人の帰還を待ち続けていた彼女に対し、忍野はそう労って頭を撫でてやると目を細めて満足そうな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

011

 

 

~一夏サイド~

 

後日談、と言うか今回のオチ。

 

無事に学園に帰った次の日のお昼時間。

 

「ゴォラァァ忍野ォッ!!」

「鬼さん此方ってねぇ!」

 

廊下を鬼のような形相で釘バットを片手に走る鈴と、それに追いかけられながらもヘラヘラと笑いながら逃げる忍野。

 

なんだ、この状況。

と思い、二人の後を追うようにトッコトッコ歩いて来たラウラに事情を訊くと、

 

「嫁がみんなに鈴が泣いたことを話したのだ」

 

そんな事であんなに怒ってるのか、と思わず呆れてしまいそうになった。

 

「まったく、千冬姉に怒られたいのかよ。ちなみに何処まで話してたんだ?」

「鈴が迷子になって、捜したら鼻水でグチャグチャの泣きっ面で見つかったって言っていた。それでは先を急ぐのでな」

 

・・・ヒドい良いようだな。

ってか日本語おかしくない?

 

俺と忍野は、二人にはあの時、何が起こっていたのか、真実と呼ばれるものを語っていない。

 

“熱中症にでもなって、ボーッとしていた時に竹林に迷い込んでしまったのだろう”

 

これが二人に教えた事の顛末。忍野の判断で怪異に関わらすのは避けようとなり、いくつもの矛盾を抱えた内容ではあるが仕方なしで教えた。

 

もし鈴が、何故いきなり竹林の中に移動した事に疑問を感じたら。

 

もしラウラが、ISの通信が切れた事を追求したら。

 

そうなったら俺たちは、この二人まで引きずり込んでしまうのかも知れない。

世界の闇とも言える、命を狙われるのよりも危険な道に・・・。

 

「そうならない為におちょくってるんだよ」

「うおっ!? いつの間に!?」

 

いつの間にか後ろに居た忍野。

鈴をまいて来たらしい、ってちょっと待て。

 

「俺、考えを口に出してないぞ?」

「お前の考えてる事なんざお見通しなんだよ」

 

・・・さいですか。

 

「で、おちょくって怒らしている理由は?」

「ここで鈴を怒らせてから逃げ切れば、以後今回の事を思い出しても俺への怒りで矛盾点になんざ気づかねぇさ」

 

なるほど。

思い出すたびに馬鹿にされた事を蒸し返えされて疑問より怒りが先行するわけか。

 

「ひねくれたやり方だな」

「俺はひねくれ者だぜ? ひねくれ者はひねくれ者らしく、正論じゃなく奇策を使うさ」

 

ニヤリと笑う忍野の横顔は、いつもながら真面目なのかふざけているか読み取れなかった。

 

「見つけたわよ忍野!!」

 

再び現れた鈴。

・・・何か、背後に虎のオーラが見えるんだが目の錯覚か!?

 

「おっと、見つかったからひとっ走り逃げてくるよ」

 

また駆け出した忍野を追いかけて走り去っていく鈴。

 

ひねくれ者は正論じゃなく奇策、か。

 

お前がそれでいいなら良いけど、もう少し自分に優しい、他人から憎悪を受けない道を選んでも(バチ)は当たらないんじゃないのか?

そんな事を思いながら、俺は二人のやり取りが済むまで見届けることにした。

 

毒にも薬にもなりそうのない不毛な逃走劇を。

 

 

 

 

 

 

 

「泣き虫りんにゃん此処までおいで♪」

「殺ス殺ス殺ス殺ス!!!」

 

・・・程ほどにしとけよ?





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いちかガンマン

001

 

 

山登りから数日後。

 

期末試験の赤点補習者が決まり、終業式まで半日授業となったある日。

無事に期末試験をクリアした一夏は昼以降の補習授業には出席する必要がなく、暇を持て余しており、食堂で少し遅めの昼食をとっていた。

 

「御馳走様でしたっと」

 

暑い季節にピッタリの涼味溢れる品を完食し、食休みのように緑茶を飲んでいると、

 

「あ、おかえり。千冬姉、箒」

「織斑先、いやどうでもいいか・・・」

「久しぶりに一夏を見た気がする・・・」

 

ここしばらく学園を不在にしていた二人に出会った。

 

二人とも元気がなく、いつもなら“千冬姉”と呼んだ事に対し主席簿アタックと共にお説教を受けるはずなのだが、今回に限ってそれがない。

出張でよっぽどお疲れのようだ。

 

さて、何故ここまで千冬と箒がお疲れなのかはその出張の内容が原因だ。

 

「あのクソババア共、いつまでもネチネチと同じ事ばかり繰り返しやがって、コアの所有権は日本に譲渡されてるのにーーー」ブツブツ

 

出張の用件は篠ノ之束が妹である箒に譲渡した専用機、紅椿を巡ってだ。

 

ISの生みの親直々に開発された専用機。

機体性能や使用技術が未知数の機体とあり、各国は何だかんだ理由をつけて自国の物にしようと揉めに揉めた。そのため日本政府とIS学園長の発案により、IS委員会立ち会いの元での一週間に及ぶ公開性能試験が行われた。

要は試験と称して、紅椿の性能と技術を全部公開して争いの種を潰そうって魂胆なのだ。

 

しかしこれが千冬の苦労の始まり。

元々、箒に付き添いの『教師』として赴いたのだが、各国の著名な技術者が集まっていると言う理由で『警備責任者』を押し付けられ、さらに各国技術者の護衛として来ていた専用機持ち達から戦闘指導を頼まれて『教官』をするはめなった上に、学園長が体調を崩してしまったので『IS学園代表代理』として一時的に会議に出席することになってしまったのだ。

明らかにオーバーワーク過ぎる。

 

箒はと言うと、件の機体の所有者として朝から晩までひたすら紅椿で指定された制御を行い続けさせられたが、その間は八九寺のサポートは一切なく、終始機体性能に振り回される事になった。

 

そして結果から言えば、紅椿の公開性能試験は吉と出た。まず性能は現行の第三世代よりは高い基本性能を持っていたが、八九寺がリミッターをかけ直したために単一仕様能力は表向きには存在せず、基本装備は刀だけ。これがパイロット達の興味を削いだ。

技術面は現行の物よりもコンパクトになっているエネルギージェネレーターや、少量のエネルギーで高出力運転をするスラスターはあったものの、コレと言うほどの目新しい技術は見つけれなかった。これで技術者達も研究対象として見なくなった。

(最もこれに関しては、彼らよりも遥かに高い技術力を持つ束の技術偽装術が優れているだけの話である)

 

結局、最後に揉めたのは『紅椿』ではなくそのコアの所有権。

そこは高度な政治外交により何とかなったが、千冬はその時の抗論を思い出し、怒りが蒸し返されているようだ。

 

「えっと、お疲れ様?」

「クソ、何故こういう時に限ってアイツが居ない」

「いや、生徒をストレス発散の道具にしちゃダメだよね」

「一夏、私にもお茶を貰えるか?」

 

辺りを見回しながらとある生徒を捜す千冬。アイツとは勿論、忍野仁である。

少々呆れながら席に着き、お茶を啜る一夏と箒。するとそこへ山田先生がやってきた。

 

「あっ、織斑先生っ、おかえりなさい。織斑くんっ! 忍野くんを知りませか?」

「はい?」

 

てっきり千冬を捜しに来たと思っていた一夏は、まさか自分に話をふられるとは思ってもおらず、聞き返すような返事をしてしまった。

 

「あのですねっ、さっき校内放送で呼んだですけど来てくれなかったんですよ」

「忍野なら第二アリーナの整備室のはずですけど、呼んできましょうか?」

 

先ほど聞き流していた放送で彼が呼ばれていたのは一夏も知っているが、まさかボイコットしているとは思わなかった。

 

「ほう。教師の呼び出しを無視するとはいい度胸。教育的指導だな」

「で、では皆で行きましょう」

 

どこからともなく主席簿を手に取ると、生き生きと、それでいて悪い笑みを浮かべた千冬。

山田先生は一夏と箒に対して、暗に“織斑先生を一緒に止めて下さいね?”と訴えてきたが、二人は全く同じ答えを内心唱える。

 

((絶対に無理です))

 

しかしする事のない二人は暇つぶしのつもりで一緒に忍野を呼びに行く事にした。

 

 

 

 

 

002

 

 

第二アリーナの整備室。発進カタパルトのすぐ横の作られた部屋で、本来なら機体の微調整や応急修理に使われるが今は違う。

その部屋を占拠するように鎮座し、まっ黒に焦げた痕や高温で溶かされた穴が戦いの中に身を投じてきた事を物語っている、空の火薬庫があった。

 

オーキス。通称デンドロビウム。

 

IS用の支援装備ではあったが福音事件で中破に追い込まれ、破損したままIS学園に運び込まれてこの部屋に格納されたのだ。

 

デンドロビウムは大小6基ある推進器の2基を破壊され、上部にあった右コンテナを失った。防御の要であるEシールド発生装置も臨界運転で故障、それら以外にも小さなダメージがちらほらと見える。

か細い着地用の脚で鎮座する姿は戦いの退いたモノの姿そのものだったが、忍野はこれを最低限、飛ばせる程度には修理をしようとしていたのだ。

 

そのため、部屋に入った一同を出迎えたのは思わず耳を塞ぐほどの工具の作業音だ。防音処理された部屋だからいいが、もし他の部屋でやろうものなら苦情殺到間違いナシなほどうるさい。

 

「一体何の音だ!!?」

「わかりませーんっ!!?」

「うるさ過ぎる!!!」

「おーい、忍野ーッ!!」

 

あまりにも五月蝿いのでサッサと用件を済ませようと、一夏は大声で忍野の名を呼ぶが、騒音にかき消されてた。

すると千冬は一歩前へ出ると、

 

「スゥー 忍野ぉぉッ!! 出て来いッ!!」

 

力いっぱい怒鳴りつけるように呼びかけた。腹から出された作業音に負けないほどの大声に驚いて、山田先生と箒が尻餅をついていると、デンドロビウムの陰からラウラが出てきた。

どうやら手伝いにでも来ていた様子だ。

 

「ーーーーーー!」

「おい、忍野はどこにいる!!?」

「?」

「だから忍野はどこだ!!?」

「??」

「忍野だ、お・し・のッ!!」

「! ーーーーー!!」

「理解してくれたようだが何を言ってるかサッパリわからん!!」

 

ラウラと千冬は互いに会話をしようとするが、騒音にかき消されて意思疎通すら難しく、身振り手振りでやっとこちらの言葉を理解してもらえた様子だが、返事が聞き取れないのでそれすら怪しい。

 

「ーーー? ーーー!」

 

だがラウラは千冬の言葉をちゃんと理解したようで、デンドロビウムの方を向くと、なにやら喋りかける。

 

すると唐突に騒音が止み、機材を押しのけるようにして忍野が出て来た。

 

「いったい何のーーー

「「「「何故だ(なんで)!?」」」」

ーーー用の前に、それはヒドくない?」

 

「・・・どうしたの?」

 

ラウラが忍野を呼ぶ時に出した声は明らかに会話レベルだ。なのに聞き取れたに一同は不思議でならない、というより納得いかない様子。

そして、今部屋に機材を持って入ってきた簪は何が起こっているのか分からなかった。

 

「ごめんね、雑用任せちゃって」

「いい・・・別に。それで・・・何があったの?」

「それがーーー

「何で俺や千冬姉が呼んで出て来かったのにラウラに呼ばれて出て来るんだ!?」

「あれか、無視をしていたのか!?」

「教師を無視するとは何事だ!!」

「忍野くんっ、酷いですっ!」

ーーーらしいよ」

「・・・なるほど分かった」

 

それぞれ思い思いに文句を言う一同と、それを聞いて何となく状況を理解した簪。

 

「別に無視していたわけじゃないんだけど・・・と、言うかよく見ろ、嘔頭マイク着けてるだろうが」

「あっ、そうですね」

「山田先生、嘔頭マイクって何ですか?」

「えっとですねっ、嘔頭マイクと言うのはーーー」

 

山田先生と箒はサッサと怒りを静めたが、

 

「「ギギギ・・・」」

 

結果だけ言えば大声を出したのに無視された二人(千冬と一夏)は、理由がちゃんとしているので怒るに怒れず、引きつった顔をしている。

 

「それでみんなしてどうしたんですか?」

「あっ、そうでしたね。ちょっと職員室までにてもらえますか?」

「忍野くん宛に不審な荷物が届いているんですが、確認してもらいたいんです」

「不審な荷物?」

 

世界でたった二人の男性IS操縦士である織斑一夏と忍野仁には、日々世界中の女尊男卑団体から爆弾だったり、動物の死骸だったり、首を落とされた男の人形が送られてくる。

しかし二人はIS学園の寮で生活している以上、外部から届く荷物は必ず学園の受付を通るのでそういった類の荷物は全て処分されているのだ。

 

にも関わらず、わざわざ確認してもらう必要があるという事は教員側では判断に困るような品が届いたのだろう。

 

「いいですよ。ちょうど修理も一段落つきましたし、一旦片付けをしたら行きます。あ、それ貰うよ」

「ありがとう・・・」

「嫁よ、これはどこに置けばいい?」

「だから嫁じゃない、そこのモニターの下にお願い」

「では私も手伝いますっ! 先生ですからっ!」

 

三人+教師一人の力で片付けはあっという間に完了し、ラウラと簪を引き連れて忍野は山田先生のお供?に就いた。

・・・あともう一回、生徒や教師がついてくるイベントが発生したら、山田先生が主人公のRPGゲームだっただろう。

 

ここまでのぼうけんをセーブしますか?

▶はい/いいえ

 

ってやかましいわ!!

 

 

 

 

003

 

 

「これがそうです」

 

職員室に到着し、山田先生が一同が囲む机に置いて見せたのは、何の変哲もない何処にでもありそうな銀色のアタッシュケースだ。

 

「危険物反応はないんですが見るからに怪しいので一応確認を、という事になったので呼んだのですっ」

「まぁ確かに怪しいですよね」

 

ダンボールとかならいざ知らず、高校生宛にアタッシュケースが送られてくるなんて不自然極まりない。

 

「何か心当たりはありますか?」

「ええ。ありますよ?」

「一応、安全確認の為に中身をあらためないといけないんですが・・・」

「その必要はないですよ。信用できる相手からの荷物ですし、俺が頼んでいた品でーーー」

 

忍野は躊躇いもなくロックを解除してケースを開くと、一夏の方へと滑らせた。

 

「こいつはお前の得物だ」

 

アタッシュケースに収められていたのは黒光りする二丁の大型拳銃。

見たところオートマチック拳銃のようだがその大きさとデザインが異質だ。

通常の拳銃よりも銃身部分が長く、短機関銃の見間違うほどの大きく見え、一瞬IS用の拳銃なのではないかと思えてしまう。

そしてそれ以上に目を引くのは、銃全体に及ぶ十字架の装飾だ。片方は白銀の十字架、もう片方は紅の十字架。

(しん)と魔を彷彿とさせている。

 

「なっ!?」

「バケモノ銃!?」

 

箒やラウラはその銃に驚くが、それ以上に驚く事が起こった。

 

何の警戒もなく一夏は二丁の拳銃に手を取り、まるで曲芸のように銃を振り回して見せる。その動きは流れるような動作であまりにも自然体で、明らかに使い馴れている事がうかがえた。

 

「おっ、織斑くんっ、その銃は!?」

 

ついに山田先生が皆を代表するかのように忍野に問い詰めた。

 

「一夏の愛用の骨董品、大型二丁拳銃『阿吽(あうん)』です」

 

トリガーの引き具合など、一通りのチェックを終えた様子の一夏。その表情は心なしか喜々としていた。

 

「よし、忍野、勝負しないか?」

「元気がいいねぇ。山田先生、第二アリーナって今使えますか?」

「えっ、あ、はいっ。今日のこの時間は使用申請がないので使えますよ」

「じゃあ俺達使います」

「なら部屋から“ウルスラグナ”取ってくるから先に行っててく」

 

そう言い残し忍野は職員室を後にし、

 

「俺も行こっと」

「あ、私もっ!」

「行こう、簪」

「うん」

 

一夏と観客もアリーナへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ聞いた?」

「うん聞いちゃった。すぐにみんなに教えてあげよ」

 

彼らとは別に職員室に来ていた来ていた生徒を残して・・・。

 

 

 

 

 

 

004

 

 

一時間ほど経過してやっと第二アリーナの出撃ピットに姿を現した忍野。

激励をするつもりで待っていたが、待ちぼうけをくらってしまったラウラと簪は若干ご立腹のようすだった。

 

「まだ準備を済ませてないのか?」

「今来たばっかりなんだから」

「織斑くん・・・、待ってるよ?」

「だから慌てているんだよ」

 

言うほど慌てた様子のない忍野は持っていた縦長の木製ケースを置き、中から納められていた得物と、専用のホルスターを取り出す。

 

「それは?」

「大筒『ウルスラグナ』」

 

ウルスラグナと言われた銃。

大口径の散弾銃のような外観で、大きな銃身にグリップ、銃床が一直線に並んでおり、銃身の付け根付近に引き金が付いている。

銀色の銃身に金で装飾が施された漆黒の銃床。それを見た瞬間、ラウラと簪は驚いた。

一夏の持っていた二丁拳銃のように見たことないような代物ではないが、どう考えても1対1の対人戦に使うような武器ではない。

 

「グレネードランチャー?」

 

そう。忍野が手にしているのはどう見ても中折れ式のグレネードランチャー。

本来は銃身を折って、その後部から榴弾(りゅうだん)などを一発装填して撃つ武器で、攻撃力がある分、連射能力がない、面制圧用の兵器だ。連射能力の高いオートマチック拳銃相手には手数が圧倒的に不足している。

 

「そんな銃で勝負するつもりか?」

「そんなとは失礼だな、これでも俺の相棒だぜ?」

「実弾じゃ、ないよね?」

「・・・俺を何だと思ってるの?」

「「バーサーカー?」」

「ア、ソッスカ」

 

受け答えをしながらもホルスターを背に結びつけ、気の抜けるような音を響かせ初弾の装填が済んだ銃を背にしまう。

 

「よしっ! 行きますかな」

「「頑張って!!」」

「おうよっ!」

 

久々の生身での勝負とあり心踊るものがあるのだろうか、いつもより機嫌の良さそうな顔してアリーナへの階段を下りて行った。

 

 

 

 

005

 

 

一夏と忍野の対決の話はすぐに広まり、第二アリーナの観客席には何人もの生徒が、男性操縦士同士の戦いを見物にやって来ていた。もっとも、“ISを使わない”と言うのも広がっているのか、観客の人数はクラス代表決定戦に比べて10分の1ほどであったが・・・。

 

千冬や山田先生は、一応念のためにアリーナを一望出来る管制室で勝負を見守る事にした。

そして箒と簪、ラウラの三人も管制室から観戦する事にして仲良く座っている。

 

「意外に集まっているな」

「皆さん刺激に飢えているんでしょうね、つい先日まで期末試験でしたから」

「まったく、お前達もだろ?」

 

「おもしろそうなお話が聞こえてきましたので」

 

突然後ろにいる人物に話かける千冬。

其処にはたった今、管制室に入ってきた楯無、そして彼女に連れられて鈴とセシリアとシャルロットもやってきた。

先頭に立つ楯無の手には達筆で“風の噂”と書かれた扇子が広げられていた。

 

「お前も気になるか?」

「ISを使わないのにアリーナを使う模擬戦。興味をそそるには十分だと思われますよ」

「それはお前個人か? それとも()()としてか?」

「ふふ、どうですかね?」

 

一年生同士が集まって談笑を始めたところで千冬は楯無に、その思惑を訊ねるように話かけるが楯無は扇子で口元を隠して笑っているだけ。

 

「まあいい。だがあの二人に手を出すならそれなりに覚悟しておけよ」

「それは、織斑千冬が敵にまわる、と言う意味でしょうか?」

「違うな」

 

危惧した事をあっさり否定されてしまう楯無だが、それ以上に気分を害すものを見てしまった。

 

「アイツらは生身でも強いぞ」

 

二人を自慢するようにニヤリと笑う千冬の姿は、妹のそばにいる男によく似ていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

先にアリーナに来ていた一夏はストレッチをしたりして時間を潰していたが、忍野の姿が見えるとすぐに文句を言った。

 

「遅いぞ忍野!」

「いやぁ悪いね。久しぶりなんでどこにマガジンを片付けたのか分かんなくてぇ」

「はぁ~、だからあれほどお前のと一緒にしとけって言っただろ?」

「文句は後で聞くよ。ほら、マガジンだ。ゴム弾を装填済みだぜ」

「って投げるなっていつも言ってんだろ!?」

 

投げ渡された四つの弾倉を怒りながら、危なげな手つきでキャッチする一夏。すぐに二つを銃に詰め、スライド部分を引いて発射準備を整える。

 

「試合時間は?」

「10分」

「攻撃は?」

「何でもあり」

「ダメージ判定は?」

「鼻血、打撲まで可」

 

通過儀礼のように試合の確認問答を消化していく二人。その問答はまるでカウントダウンの進めてられ観客の緊張は高まっていくが、当の二人に目立った動きはない。

 

しかし、両手の銃をしっかり握り、自然体を繕ってはいるがいつでも攻撃が出来るように構える一夏。

背に武器を担ぎポケットに手を突っ込んだまま、余裕の姿勢ではあるが獰猛な双眸で相手を見据える忍野。

 

二人の戦闘準備は完了していた。

 

「それじゃあ、先手は貰うぜ!」

 

先に動いた一夏は忍野目掛けて一気に駆け出す。

接近戦を仕掛けようと走り、十数mの距離はあっという間に縮まったが突然、一夏は急ブレーキを掛けて大きく後ろに跳ねた。

 

 

すると先ほど立っていた場所に轟音を響かせて()()が衝突、それはそのまま跳ねて一夏の横を過ぎ去っていった。

 

「避けるな!」

「そんなデカい砲口を向けられたら誰だって避けるっての!」

 

地面に衝突していった物の正体は、一瞬のうちに忍野の手に握られた銃から放たれたゴム弾だ。

 

忍野は銃身を折り、空薬莢を捨てると腕を大きく振り、袖から次の弾を滑り出した。

だが装填をのんびり待っている一夏ではない。阿吽の銃口を向けると引き金を絞る。

 

「チッ!」

 

忍野は爆転をしながら一夏の放つゴム弾を避け、砂煙を上げながら着地。装填を済ませた銃を向けた。

 

「遅い!」

「ッ!?」

 

その引き金を引くのよりも早く、攻撃を潰しにきた一夏。

阿吽をクロスに構え振り抜くが、忍野は左右から近づく銃身を、伏せて回避、脚払いをし、肘鉄を打ち込もうとする。

 

「がら空きだァ!」

「やらせるか!!」

 

ガァン

 

思わず耳を塞ぎたくなるような音を響かせて、一夏は銃身で忍野の肘鉄を防いだ。

 

「痛ッてぇぇっ!!」

 

さすがに肘鉄を鋼鉄に打ち込んだのは痛かったようだ。若干涙目になっており、観客である千冬達も無意識に自分の肘に手を当てている。

 

一夏は忍野が痛みに怯んでいるところにガン・カタによる連続攻撃を繰り出す。

左右から変幻自在に叩き込まれる連続攻撃。右で殴れば左で撃ち、右で撃てば左で突き上げる。残像すら生み出す連撃は、その衝撃で忍野の体を宙に浮かした。

 

「これで (とど)めだ!」

 

未だに宙に浮いている忍野に二つの銃口を突きつけ、引き金を引こうとした。

 

「甘ェよ!」

 

だが忍野はウルスラグナの銃身でアッパーカットを決め、怯んだ隙に着地、一夏の間合いから離脱する。

鋼鉄の銃身で空中コンボのたこ殴りにされていたにも関わらず、忍野は平然としていた。

 

「今度はこっちの番だ!!」

 

相棒を背に戻しながら駆け出した忍野は、前転するかのように跳躍すると両の手のひらで着地。逆立ちの姿勢になると脚を一直線に開き、あたかも竹とんぼのよう回転して蹴り技を繰り出す。

一発一発が重く、銃で防いでいる一夏は弾かれないよう握る手に力が込もる。

 

「相変わらず脚癖悪いな!」

「悪いのは脚だけじゃねェよ!」

「グハッ!?」

 

突然、一夏の腹部を襲う衝撃。見ると逆立ちの忍野は片手で自重を支えながら蹴り技を放ち、もう片方の手でグレネードランチャーを放っていたのだ。

まるで軽業そのものだ。

 

腹部への攻撃で動き止まった一夏に、起き上がった忍野は続けざまに、脚を鞭のようにしならせて攻撃を加える。

 

「チョイサァ!」

「ぐッ!!」

 

辛うじて防御の取れた一夏だが、今の一撃の痺れが全身を駆け抜け、もし直撃を受けていたら、と冷や汗が流れる。

 

「喰らえ!!」

 

いつの間にか装填を終え、次射を放ってくる忍野。

しかし一夏は慌てず、しっかりとその両目で攻撃を見据えると、

 

「狙い撃つッ!!」

 

ウルスラグナのゴム弾を()()した。

 

「流石だなァ、ならこういうのはどォだ!!」

 

すると、一夏の走り方とは違う、変幻自在の足運びで一夏の周りを駆け回る忍野。

直接攻撃に向かうのではなく、牽制とも違う、縦横無尽に走り回る。

 

「確かに俺は動く的に当てるは下手だけどな、そんな動きですべての弾丸を避けきれると思うな!」

 

阿吽を構え直す一夏。

銃口はまっすぐ相手に向き、乾いた炸薬音が連続して響いて忍野へと弾丸が撃ち込まれる。

 

「な!?」

 

しかし、驚愕の声をあげたのは忍野ではなく、一夏の方だった。

数十発の弾丸を撃ち込んだ直後、忍野が一夏のすぐ直前にまで、懐に這入り込んできたからだ。

 

「ハッ!!」

 

阿吽の射程内の更に内、超近距離。

忍野は拳ではなく手のひらを打ち込む、所謂“掌底(しょうてい)”と呼ばれる技を腹に叩き込み、そのまま吹き飛ばす。

咄嗟に腹に力を込めてダメージを軽減させた一夏だが、内臓に伝わった衝撃までは殺せず、肺の空気を吐き出してしまい少し咳き込んでいる。

 

「ケホッケホッ、デタラメだな、全部避けたのか?」

「避けた? 違ェよ、()()()()()()()()ぜ?」

「! そう言う事か」

 

“半分ほど食らった”、この言葉で一夏は目の前の人物が何をしたのか理解した。

ただ忍野は、発射される弾丸を散らさしたのだ。

動き回る忍野に対し避けられないように、投網のように面攻撃を一夏はしたつもりだったがその攻撃が仇となり、一点辺りの弾幕密度が薄くなった。

その薄くなった点を、忍野は最低限の被弾で突っ切ったのだ。

かつて、福音戦の際に自分も同じような事をしたにも関わらずすっかり忘れていた一夏は、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「さァて、そろそろ時間もいいから決めるかァ?」

「もうそんな時間か。なら、次で最後だ」

 

言うやいなや、腰を落とし、まるで抜き身の刀を持つかのように阿吽を構える一夏。

忍野もまた、それに応じるかのように三度(みたび)ウルスラグナを背に戻し、両手の指を広げ、獣が爪を立てるよう指を起こして構える。

 

断罪円(だんざいえん)!」

散魂鉄爪(さんこんてっそう)!」

 

一瞬で互いの間合いにまで接近する織斑一夏と忍野仁。

接近戦、そして接戦。見ようによってはふたりで演舞を行っているように、しかし間違ってもそんな美しいものではない確実に相手を“狩り”にいく攻撃。

骨を砕く銃身と、肉を抉る爪の衝突は互いに一歩も譲らず、お互いを封殺しあい、完全なまでに拮抗している。“肉を斬らして骨を断つ”と言う言葉があるが、互いに大人しく肉を斬らせも骨を折らせもしない。相手の攻撃に自分の攻撃をぶつけて潰す、その繰り返し。

響いてくる音は金属音なのか打撃音か判別できないほどだった。

 

そして、

 

ピーピーピー

 

突如なり響いた小さな電子音。

 

「時間切れだな」

「また決着がつかなかった」

 

電子音の正体は一夏の腕時計のタイマー。その合図を聞き、二人は戦意を消し、それぞれの武器を下ろした。

 

勝者の決まらないあまりにも呆気ない幕引きは、クラス代表決定戦の焼き直しのようだった。

 

 

 

 

006

 

 

「凄い・・・」

「なかなかの腕前ですね」

「わたくし・・・、今とっても入学時の自分を殴りたい気分ですわ。機体以前に根本的実力からして負けてましたのね」

「うん。僕も一夏に銃の指導をしてたのが無性に申し訳なく思えてきた」

 

管制室から観戦していた者たちはそれぞれ思い思いの感想を述べ、二人の実力を改めて認識し直した。

 

「どうだ? 強いだろ」

「見た限り、では強いですね」

「負けず嫌いだな」

「そうでないと生徒会長の職務を二人のどちらかに譲らないといけないので。それでは失礼します」

 

千冬に挨拶を済ませ、にこやかに部屋を後にする楯無だったが、

 

(あっれー、予想よりも大分織斑くんが強いんだけど。虚ちゃん、作戦変更しないといけないかも・・・)

 

何やら思惑が外れ、計画の練り直しをするはめになっていた。




武器&技の紹介


◆大型二丁拳銃『阿吽』

イメージは『ガングレイブ』に登場する主人公、ビヨンド・ザ・グレイブの愛銃ライトヘッドとレフトヘッド。

一夏が所有する武器で、全長が約40cmにもなり非常に重い、十字架の装飾が施された拳銃。オートマチック拳銃の形をしていながらマガジンは銃身下部に装填する。
装填数は30発。
十字架が赤色の銃は右手用で『阿形(あぎょう)
十字架が白銀の銃は左手用で『吽形(うんぎょう)


◆大筒『ウルスラグナ』

イメージはM79グレネードランチャー、映画『ターミネーター2』で有名な武器。

忍野が所有する武器で、外見は装飾の施されたグレネードランチャー。単発式ではあるが銃の構造が簡易なため余程の事がない限り故障しない。
異常な強度を誇り防具の代わりとして使えるが、銃自体が比較的軽いのでガン・カタのような打撃武器として使うのには向かない。


◆断罪円

『刀語』に登場する真庭鳳凰(まにわほうおう)が使用する技。
手刀で行う接近戦攻撃の技だが明確な描写がなく、アニメ化された類似する技から推測するに“手刀による高速斬殺術”だと思われる。


◆散魂鉄爪

『犬夜叉』に登場する主人公、犬夜叉が使用する技。
敵陣に爪で突撃する技で、悪く言えばただのひっかき攻撃。しかし鉄骨を突き破るほどの威力がある。


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セシリアホームズ

001

 

忍野との生身での試合から一夜明けた次の日。

 

一夏は朝食をとるために食堂に着くと何やら騒がしことに顔をしかめた。

 

「いったい何があったんだ?」

 

女子が三人集まれば姦しいと昔から言うが、今の雰囲気はどう考えてもキャッキャウフフみたいな明るい感じではない。もっと暗く、疑心感のようなものが蠢いてるような、そんな感じの空気が食堂を覆っていた。

 

すると、一夏に気が付いたセシリアが近づいてきた。

 

「おはようセシリア。いったい何があったの?」

「箒さんの部屋で盗難事件が発生したらしいですわよ」

「盗難事件? 何が盗まれたんだ?」

「ケーキですわ」

「へ?」

「ですからケーキですわ」

「いや分かっているから」

 

若干の頭痛と共に、ふと視線を向けると騒ぎの中心にいる人物が目に映る。

 

 

「だから誰か他の人だって!」

 

そこで声を荒げていたのは鷹月 静寐(たかつき しずね)

箒のルームメイトで、ショートカットに両側ヘアピン。生真面目な少女。

彼女は犯人捜しに躍起になっている様子だ。

 

「でも~、それって変じゃない~?」

「鷹月さん落ち着いて」

「一度冷静になって!」

 

のほほんさんこと、本音をはじめとした数人が否定するが熱くなっていく一方だ。同室である箒も困った様子だ。

 

 

「お待ちなさい!!」

 

部屋に響き渡る声。その声に気圧されて静まり返った一同が見たのは、

 

「この事件! わたくし、セシリア・オルコットが見事解決してみせますわ!!」

 

鹿撃ち帽にインバネスコート、手にはパイプと虫眼鏡、まさに探偵のイメージを体言するかのような恰好である。

この学園の生徒はどこからそんな小道具を用意してるんだ?

 

「お~、せっしーがまるでホームズみたい何だよ~!」

 

何やらのほほんさんが感激といった様子で目をキラキラさせながら喜んでいる。

 

「ホームズってシャーロック・ホームズの事?」

「そうだよ~。小説家アーサー・コナン・ドイルが19世紀から20世紀に出版した推理小説の『シャーロック・ホームズ』シリーズの主人公。言わずと知れた名探偵でフルネームはウィリアム・シャーロック・ホームズなんだよ~?

名探偵の代名詞とされていてーーー」

「もういいですよく分かりましたもうお腹いっぱいです!」

 

いつもと同じ間の抜けた喋り方ではあるが、ホームズを熱く語りだす彼女。

どうやらのほほんさんはシャーロック・ホームズのファンだったようだ。

 

「で、では一夏さんは助手として是非ともワトソン役に!!」

「分かった分かったから!!」

「本当ですか!?」

 

こうして小さな事件の捜査劇が幕を上げた。

 

 

 

 

002

 

 

~一夏サイド~

 

「捜査の第一段階は現場検証! 犯人へと繋がる痕跡を捜し出すのが基本です!」

 

セシリアは部屋の中を虫眼鏡で探索を始める。

しかしいきなり窓際を念入りに調べ始めて、問題の冷蔵庫には見向きもしない。

 

あ、もしかして“任せたよワトソン君”的な流れだったのか?

 

ならやるとしますかな。

冷蔵庫は各部屋に備えつけの物で、上下2ドア式の中型サイズ。俺達の部屋のと違う点と言ったら、扉にはマグネットでメモが貼り付けられてるのと、身嗜みをチェックするためと思われる鏡が上の扉に付けられている点だけ。

どちらも事件には関係なさそうだ。

 

「冷蔵庫の中身は触ったり位置を変えたりした?」

「いや、中身は触ってないがケーキの箱だけは動かした」

 

冷蔵庫を開けた瞬間に思った感想は、この部屋での私生活が伺えるようだった。

 

扉部分には飲みかけのコーラとミネラルウォーターのペットボトル、牛乳瓶。梅干しの入ったタッパに謎の缶と・・・乾電池?

棚の方には上から薄紫色の包みに卵。ケーキの箱に野菜類とハム。

 

(これが件の品か・・・)

 

騒動の原因となった箱を手に取って中を覗くと、無惨に食べられたケーキの跡が残されていた。

僅かにスポンジの欠片が残されている下紙。生クリームが付着したフィルム。そして、それらに包まれてたであろうケーキを食すのに使われたと思われる、どこの店でも貰えそうなプラスチック製のフォーク。

 

「それでケーキの箱は最初からこの位置にあったのか?」

「いいえ、それは確認の為に取り出した時にそこに置いたの」

「それじゃあ最初はどこに?」

「えっとねーーー」

 

鷹月さんの指示に従って本来あったと思われる場所に納められるケーキの箱。

一番下の棚の奥にしまわれた小さな蓋。こうして見ると箒、鷹月さんの背丈では随分と見難い位置になる、170以上ある俺だと尚更だ。鈴なら、いやもっと背の低い奴じゃないと目視は無理だな。

そうなるとこの高さでケーキの箱をだけを取り出したって事は、最初からケーキがどこにあるか知っている奴じゃないと犯行は無理だな。

 

証拠らしい証拠はこのフォークだけ。DNA鑑定が出来そうだが、たかがケーキでそんな事は出来ない。残念ながら使えないな。

 

他に手掛かりがないか物色してみるが何にも見つからない。

だけど薄紫色の包みを動かした時、甘い香りがした。

 

「この包みは何?」

「私のだ。昨日買ってきたおはぎだ」

「おはぎか。季節的には水羊羹じゃないか?」

「い、いいだろ別に///!」

 

どうやら箒はおはぎが食べたかったようだ。

しかし水羊羹に比べておはぎのカロリーはいかほどのものか? おはぎの方が高いと思われるが彼女の体重などは大丈夫なのだろうか?

 

「何か失礼な事を考えてないか?」

「いや別に何にも」

 

忍野もそうだけど何でみんなして人の考えていることが分かるんだ?

まあともかく、包みの中が分かった以上、冷蔵庫の中に手掛かりになる物はもうないな。

 

「一夏さん、いったい・・・、何をなさって、ますの?」

 

あ、セシリアがやって来た。部屋の調査は終わったのかな?

なんて思っていると、彼女の表情が見る見るうちに悲しげなそれへと変わっていき、涙腺が決壊しかかっているかようだった、ってなんでだ!?

 

「わたくしが・・・、最後に調べようと、思ってましたのに、ヒドいですわ!!」

 

(((ええ~~~~!?)))

 

涙ぐんで訴えるセシリアに思わず唖然とする。

まさか任せたから冷蔵庫を調べなかったのではなく、メインディッシュとして最後に調べるつもりだったらしい。

 

「ほっ、ほら、探偵の仕事と言えば推理だろ? だからセシリアの名推理を是非とも拝聴したいなっ!!」

 

何としても話を逸らさねば。もしここで泣かせようものなら在らぬ噂が立ちかねない。

 

「ですが、グスン、まだ事情聴取をしてませんわよ?」

「ならすぐにしよう今すぐしよう!!」

 

「・・・わかりました。お二方、今から事情聴取をしますわよ!!」

「「あ、はい」」

 

一応成功したのかな?

 

 

 

003

 

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます。さて、警察よろしく事情聴取を開始しましょう。まずは鷹月さん、お願いしますわ」

 

一夏から淹れたての紅茶を受け取り、セシリアは一口飲んでから取り調べを始める。

取り調べ室として提供されたのは男子部屋、つまり一夏と忍野の部屋。箒はともかく、セシリアや鷹月は異性の部屋に入るのに免疫がないのか、落ち着かない様子でキョロキョロとしている。

 

「はい。昨日の夕方、私はケーキを買って部屋の冷蔵庫にしまいました。しかし次の日、今日の朝冷蔵庫を開けてみると・・・」

「ケーキが無くなっていたと?」

「はい・・・」

「ふむ。それでケーキを最後に確認したのはいつ頃ですの?」

「ええっと、ドラマを見た後だから・・・22時頃かな?」

「それで朝に確認したのは何時ですの?」

「起きてすぐなので6時です」

 

頷きながらメモを撮っていく。

 

「それでは箒さん、その間のアリバイをお願いします」

「と言われても同室なんだが・・・、えっと昨日の夜は寝たのは10時半ごろだったはずだ。それで起きたのは5時だ」

「5時? 早起きですわね」

「朝の鍛練のためだ。鷹月さんも私が部屋を出る前には目を覚ましていたぞ」

「本当ですの、鷹月さん?」

「本当です。篠ノ之さんが部屋を出てくのを見送ってます。でもその後二度寝しちゃって」

 

照れくさいそうに頭を掻きながら箒の証言の裏付けをする鷹月。

 

「つまり犯行時刻は昨日の夜11時以降から今朝5時までに絞られますわね」

「約6時間、誰にでも犯行は可能だな」

「しかし二人部屋で鍵が掛かっていた以上、外部犯の可能性は極めて低いですわね。けれどもお二人共、食べてないと申されますし・・・」

「どちらかが嘘をついていたとしたら不自然だしな」

 

一夏の言うとおり、不自然である。

仮に鷹月さんが嘘をついているとしたらその理由は? 自分でケーキを食べて、それを箒のせいにしようとしているのなら分かる。しかし盗難事件として大騒ぎしてまで擦り付ける理由がない上に、彼女は始めるから外部犯説を唱えているため嘘としては不自然。

 

箒が嘘をついてしらを切ろうとしているならケーキを食べた理由は? 彼女は自分が食べる用におはぎを購入し、同じ冷蔵庫の中に入れていた。にも関わらずケーキに手を出すのは不自然だ。

 

 

 

セシリアはすでに冷たくなってしまった紅茶を喉に通し、現時点で集まったピースを揃えるように目を閉じて長考に入る。

その姿は彼女の容姿も相まって、まさにイギリスの名探偵に見えた。誰もが不足しているピースを補った名推理が出てくると期待した。

そして、

 

「犯人はこの中に居ます!!」

((((あ、ダメだこのヘッポコ迷探偵))))

 

自信満々に堂々と宣言するセシリアだが、やっぱり素人には名推理は出来なかった。

 

「せめてカメラでもあれば・・・」

「そんな都合のいい物あるわけーーー

「そうですわ! 紅椿の記録映像に何か残っているかもしれませんわ!」

ーーーあったね」

 

突然立ち上がるセシリア。

 

「専用機には常時撮影型の記録システムがありますの。不正運用など防止のために一方向ではありますが、待機状態でも常にカメラが起動してますわ」

「つまりその記録を確認出来れば・・・」

「自ずと犯人が分かると?」

「そう言う事ですわ!!」

 

ついに事件解決の決定的な証拠の目処がついた。

しかし、

 

((((そんな方法があったならもっと早く思い出してよ))))

 

悦に浸っているセシリアだが、彼女にはもう二度と探偵役を任せまいと、その場にいた全員が誓ったのであった。

 

 

 

 

004

 

 

早速一同はISの記録システムにアクセスする専用の機材を借りてきてパソコンに繋ぐ。

 

「これでいいのか?」

「説明書通りならこれでOKのはず」

「この線はいったいどこに繋ぎますの?」

「オルコットさん、それどこから持ってきたの?」

 

一部不安な所もあったが、一応接続が完了し、一夏はすぐに記録の引き出しに掛かる。

 

「えっと、昨日の日付でにして・・・っと、時間は・・・どうする?」

「手首から外した所からに出来るか?」

「出来ると思うけどなんで?」

「一夏さん? 女性のプライベートを覗き見するようなご趣味があって?」

「うわぁ織斑不潔~」

「誤解だっ!!」

 

心に傷を負いながらも作業を進める一夏。

 

映像の引き出しが完了したのですぐに再生を始めると箒の希望通り、待機状態の紅椿を手首から外し、サイドテーブルに置いて照明が消えた所からスタートした。

 

置き方が悪かったのか映像には箒の姿は映っておらず、鷹月の寝顔が映し出されている。

その顔は緩みきった笑顔を浮かべており、普段の彼女の表情とはすぐに一致させる事が出来ない。

 

「や、ちょっと、織斑くん見ちゃダメ////!!」

 

まさか自分の寝顔がアップで出てくるとは思ってもいなかった鷹月さんは、慌てて一夏の視界を塞ぎにかかる。

 

「可愛い寝顔だな」

「かかか、可愛い////!!!?」

 

しかしそこは鈍感朴念仁織斑一夏。

自分が思った率直な感想をストレートに言ってしまったため、

 

「ふんっ!」

「おっとッ!」

 

箒の肘鉄が脇腹にクリティカルヒットし、セシリアが足を捻りながらくい込むように踏みつける。

 

「悪いな一夏。厄介な虫が居たからつい肘が出てしまった」

「あらごめんあそばせ一夏さん。悪い虫が居たものでつい踏んでしまいましたの」

 

一夏に謝る二人だが、その視線は非常に冷たく、そして怒りの炎を宿したもので見る者によっては思わず土下座をくり出してしまう、そんなレベルのものだ。

 

「えっと、何を怒っているのでしょうか?」

 

当然その恐怖はひしひしと伝わったようだが、肝心な部分が伝わらない一夏はオドオドした態度で質問するが二人は答えてはくれなかった。

 

「待って、何か光ってる!」

 

突然の声に慌てて画面を確認すると、映像の背後、箒のベッドのある方で光が発生している。眩いばかりの閃光は画面を白く染め、その後には何事もなかったかのように暗闇に戻った。

 

「何の光だろ?」

「携帯・・・?」

「それにしては強すぎる」

 

すると映像に変化が起きた。

突然画面が動き始め、ベットから離れていく。どうやら紅椿を持って移動しているようだ。

 

「これで犯人は箒さんで間違いありませんわね」

「そんな・・・、私が・・・ケーキを?」

 

自分の知らぬ事とは言え、友の物を奪い、そして嘘をついていた自分に絶望し、膝をつく箒。

いやいや、たかがケーキだよ?

 

「待って。この映像、何か変よ」

 

そこへ異を唱える鷹月。

すぐに画面を一時停止して辺りを見回す。

 

「篠ノ之さんは手首に紅椿を着けてるよね?」

「ああ、そうだが?」

「なら何でこんなに映像の位置が高いの?」

 

「「「え?」」」

 

「篠ノ之さん、そこで起立!」

「は、はい!」

 

突然起立を指示されて驚きながらも従う箒。すぐにみんなが集まり映像に映っている物と、箒の手首の位置から見える物を比較してみる。

すると、

 

「やっぱり」

「何と!?」

 

目測数十cm近くの誤差があった。

見えていた物が見えない、見えなかったの物が見る。天井が遠くなり床が近くになる。

 

見間違いや気のせいでは片付けられない程の違いだ。

 

「待てよ、映像のブレ方も変だ」

 

一つの不自然な点に引かれるように、一夏も映像にあった違和感に気が付いた。

 

多少の動きはあるが、画面からは人が歩く時のような腕の動きは感じられない。普通なら前後に大きくブレる筈だがまるでお盆に載せられているかのように水平な動きだ。

 

「と言う事は・・・」

「犯人は他に?」

「しかしそれではこの映像自体に不審な点が残りますわ!?」

 

ここまでの映像の内容をまとめると、犯人はケーキの場所を知っていて、二人の部屋に侵入し映像に映らないようにて紅椿を入手したと言うことになる。

 

世界のパワーバランスを担うIS。それを入手までしたにも関わらず置いていき、さらには今後の警備体制が厳しくなると分かっている筈なのに“ケーキを食べる”という侵入した痕跡を残した説明が、この場にいる誰にも仮説すらたてる事が出来なかった。

 

「あ、冷蔵庫の前に立ったわ」

 

先ほどの現場検証のときに、冷蔵庫に鏡が設置されているのは確認していた。

 

“もしかしたら犯人の顔がわかるかもしれない”

 

誰にも気づかれずに犯行をこなしている犯人がそんなミスをするとはあまり思えなかったが、全員が食い入るように画面を見つめ、その時を待った。

 

そして、冷蔵庫が開き、中の光に犯人が照らされ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八九寺ーーーーっ!!!!!」

 

 

箒が吠えた。

 

鏡に映った人物。

 

それは箒でも鷹月でもなく、ツインテールと八重歯が印象的な少女の姿だった。

 

 

 

005

 

 

「つまりカメラに映っていたのは紅椿のサポートAIですの?」

「・・・そうなるな」

 

犯人が分かったところで状況整理に移ったが、全員が頭痛に悩まされた。

まさか犯人が小学生、しかも紅椿の中に居た存在だったなんて夢にも思っていなかったのだから仕方のない事だ。

 

因みに、馬鹿正直に“紅椿に取り憑いていた幽霊だ”なんて言うわけにもいかないので悩んだ結果、箒はサポートAIと答えた。(実際にサポートしているので間違いではない)

 

「ISが人の姿になるなんて前代未聞ですわ」

「だがそうとしか言いようがない」

「私、ISが何なのか分からなくなってきた」

「それは大変ですねっ」

「「「ハァ~、んん?」」」

 

愚痴をもらしたところで聞き覚えのない声が聞こえてくる。驚いて声の先を向くと、

 

「は、八九寺!?」

 

そこに当たり前のように、箒の横に居たのは八九寺真宵、その子だった。

 

「こうしてお会いするのはお久しぶりですねっ、篠ノヶ原さんっ」

「人を口の中にホッチキスを突っ込む毒舌キャラみたいに呼ぶな。私の名前は篠ノ之だ」

「失礼、噛みました」

「違う、わざとだ」

「噛みまみた」

「わざとじゃない!?」

「蟹をみた?」

「私は蟹に遭ってない!!」

 

夫婦漫才のようにツッコミ続ける箒の姿に、セシリアや鷹月は唖然としていたが、やっとの思いで声をあげた。

 

「「あのっ!!」」

「ッ! ちょっと失礼!!」

 

だが箒は何か訊かれる前に八九寺をひっつかむと部屋の隅まで移動する。

女と言えど、高校生である箒に小学生の八九寺が抗えるわけがなく、引っ張られていく。

 

「お前、何で身体があるんだ!? と言うよりいつから出てこれるようになった!?」

 

箒は隅までくると、矢継ぎ早に質問していく。

 

「何でと言われましても、私には理解しかねますよ篠ノ之さん。小学生五年生に物理法則を答えろと言っても無理な話ですっ。それに私は紅椿の機能を使えても、そのシステムまで理解していないのですから最初から説明できません」

「それなのに出てきたのか?」

「はいっ。せっかく身体を手に入れたのですから失った青春を取り戻そうと思いまして」

「重ーーーーいっ!!」

「あっ、出てこれるようになったのは昨夜ですよっ」

「何でケーキを食べた!?」

「復活祝いにいただきました」

「人の物を食べるな!?」

「失礼ですよ篠ノ之さんっ!! その件に関しては断固抗議します! 私はちゃんと鷹月さんの承諾を得て食べたましたよっ!!」

「どんな風にだ?」

「私は小さな声で真摯にお願いして、鷹月さんが頷くのをお手伝いさせていただいて、承諾を得たんですっ!」

「それはつまり気づかれないよう頼んで無理やり頷かせたという事だよな!?」

「そうとも言いますね」

「やっぱりか!!」

 

八九寺の暴挙に対するツッコミで疲弊していく箒だが、さらに困らせる声が聞こえてくる。

 

「ねぇねぇっ! 篠ノ之さん、いい加減に紹介してよ!」

 

八九寺の姿を見た鷹月さんが紹介しろと催促し、その周りには他の生徒たちの姿が見えた。

どうにか隠せないかと考えたが、

 

「篠ノ之さんっ、私は青春を謳歌したい、今を楽しみたいのですっ。ですから一緒に居させて下さいっ!」

「ッ・・・ハア、迷惑は御免だぞ」

「はいっ! これからも宜しくお願いしますねっ、篠ノ之さんっ」

 

友達として、パートナーとして、二人は手を繋いだ。

 

 

 

006

 

 

「それが事の概要ってわけか?」

「そうなるな」

 

その夜、食堂に来た忍野が八九寺に気が付き、一夏に状況を聞いている所だった。

 

ふと向こうを見ると、無邪気に笑っている八九寺と、呆れながらも笑みを浮かべている箒の姿、それを囲む多数の生徒たち。

顔立ちや印象はまるで違うのに、並んでおはぎを食べている姿は束が嫉妬しそうなほどに姉妹に見えた。

 

「それにしてもあの八九寺って子、“迷い牛”の子だよね? 何でまだ現世に居るんだ?」

「分からない。本人曰わく、成仏し損ねてISに取り憑いたらしい」

 

「はいぃ?」

 

呆れてるのか驚いているのか分からな返事をする忍野。

しかし本気で驚いているようで、表情は驚愕の一言に尽きる。が、すぐにいつものやる気のない顔になり一夏を見据える。

 

「ISが絡むと俺の常識が通用しないなぁ」

「お前に常識なんてあったか?」

「酷いなぁ。それで、学園側は何だって?」

「“ISの自己進化により擬体を得た”って事にして委員会に報告する事にしたらしい」

「だよなぁ、もう技術公開をしちまったから元々あった機能なんて言えねぇし」

 

結果から言えば学園は再び騒動の種になりかねない荷物を背負わされた事になる。自ら行動する為の身体を持つIS、そのシステムが解明出来れば難航している無人機開発に大きく貢献する事は間違いない。

もし悪用されれば・・・、

 

「そんな事させるものか」

「よう千冬。お疲れさん」

 

いつの間にか後ろにやってきて、人の腹の内を理解していたかのように否定の宣言をする千冬。

 

「あの子が何であれ、子供を争いの道具として利用する奴らに渡すものか」

 

八九寺を中心に集まった生徒を見守る彼女。その姿は美しく、そして凛々しく、見る者すべてを魅了してやまないものだった。

 

「格好いいなぁ。一夏の姉じゃなけりゃ惚れていたかもな」

「今からでも遅くはないぞ?」

「冗談言うな。俺とアンタはそんな関係じゃねぇだろ、正義の味方(ブリュンヒルデ)さん?」

「分かっているさ、悪の敵(ひねくれ者)

 

互いに認め合いながらも同時に相容れない二人は壮絶に、獰猛で、猟奇的な笑みを浮かべ牙を研ぐ。

 

 

 

 

「箒や八九寺を狙った奴ら、殺されるな間違いなく」

『あの小僧とお前様の姉上を敵にしようものなら虐殺もいいところじゃの』

 

・・・周囲に居た者に恐怖を与えながら。




はい、八九寺を復活させました!
今後、一夏や忍野、その他のキャラクターとのイベントが発生して箒の胃が荒れるかも知れない・・・。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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夏休みの一幕 其ノ壹

新年明けましておめでとうございます。

・・・って、ずいぶんと遅くなりました戦争中毒です。
本来なら長々と新年のご挨拶や、今年の抱負などを述べる方がいいのでしょうが、そう言った生真面目さがないので一言だけで済ませていただきます。








傷物語の続編が夏って前編忘れちゃうだろ!!?

・・・こほん、本編どうぞ。




001

 

八月。クソ暑いったらありゃしない。昔から、この国の夏は嫌いだ。

ビキニの上にホットパンツ、エアコンを入れていてもまだ暑い。これで何本目のアイスになるだろうか、と考えながらも次のアイスを咥える。

 

「あっつぅ・・・」

 

八月、IS学園は遅めの夏休みに入った。そのせいで、世界中からやってきた学園生は現在ほぼ帰省中でセシリアも同じく。

あたしも本当は国に帰って両親に会おうかと思ったんだけどーーー

 

「無理ね・・・」

 

でも、やめた。

両親は離婚してからたまにしか会えないが、その分昔以上にラブラブになって、娘であるわたしですら砂糖を吐きそうに桃色全開である。

こんな暑い時期にそんな空間に一緒にいたら間違いなく死んでしまう。

 

 

 

コンコン

 

「はぁ~い、誰~?」

『あの、私・・・』

 

聞こえてきたのは簪の声ね。

別にこのまんまでもいいかな。

 

「ああ、簪? いいよ入って」

 

「お願いがあるの」

「お願いって?」

「その、忍野くんの好みとか、趣味を教えて欲しい・・・」

 

なるほど。

確か簪とラウラで忍野を取り合っているんだったけ。もの好きと言うか、血迷ったと言うか、とにかくラウラと差を付けておきたいわけか。

 

「報酬は払う」

「報酬?」

「今月できたウォーターワールドのプレミアムチケット。勿論ペア」

「何でも訊いて頂戴!!」

 

昨日発売された雑誌のデートスポットランキング一位を飾った場所のチケット。

これをみすみす逃すてはない。

 

「と言ったいいけどもあんまり知らないのよね~」

 

そもそも忍野ってあんまり自分の事を話さないから分からないし。

 

「分かる範囲でいい・・・」

「そう? えっとアイツは読書と古書を集める趣味があるわね」

「読書は分かるけど古書って?」

「博物館に展示されてそうなほど古い、カビ臭そうな本よ。昔天日干ししてるの見たけどリアルで教科書に載ってそうなやつだったわ」

 

一夏の家に行った時にリビングで干してたからよく覚えてるわ。最初はゴミかと思ったほどだ。

 

「あと馬鹿ね」

「馬鹿?」

「そうよ。昔の話なんだけど忍野の奴、ガラケーを“これなに?”って訊いてきたのよ」

「タッチ画面の前の?」

「そうそう、それを真顔で訊いてきたから大爆笑したからよく覚えているわ。それ以外にも知識の偏りが多いの」

 

そう言えばアイツ、最近の物は知ってるけど古い物は知らないのよね。今じゃ当たり前の電気自動車は知っていてもそれより前のガソリン車は知らなかったし、どんな生活してたのかしら?

 

「なら、好きな食べ物とか?」

「ん~、甘い物じゃないかな?」

「意外・・・でもないね」

 

昔もそうだったけど、まともな食事をしている所を見た事がない。いっつも軽食か甘味しか口にしてない。

そのうち病気で死ぬかもしんないわね。

 

「それで、えっと・・・」

 

なんか次の質問に移ろうとしてるけど、顔を赤くしてモジモジしながら

何この可愛い生き物。

 

「その、お、忍野くんの、好みの異性はっ!?」

 

ストレートに訊いてきたわね。この子の雰囲気なら奥手だと思っていたけど、意外に積極的。

 

ああ、良いわねぇ。

好きになった相手が違うから両手を挙げて応援できるわ。中学時代、どれだけクラスメートから一夏の事を訊かれた事か。

恋敵に塩を送るような事はしたくなかったけど秘密にしてたら罪悪感も湧いて、けど自分は一夏の事を知っているって優越感もあって、黒歴史な事しちゃったのよねぇ。

 

・・・やめよ、考えるの。

 

「忍野の好み、好み? ええ~っとぉ・・・」

 

ん~、一夏もだけどアイツも好みのタイプが分かんない。確か忍野曰わく、一夏の“意識し易いタイプ”が年上って事は覚えてるけど、忍野に関しちゃ“し易い”どころか異性に興味があるかも分かんないわね。(一夏に関しては“し易い”じゃなくストライクゾーンを聞きたかった)

 

! 悪いこと思いついちゃった。

 

「簪、あのねッ!」

「な、何?」

「あのね、忍野はね」

「忍野は!?」

 

「ホモよ」

 

「・・・え?」

「だからホモよホモ! BL、ゲイ、薔薇!」

「そ、んな、事って・・・」

 

ニヒヒ、うまく引っ掛かったわね。

ちょっとしたイジワルだけここまで効果テキメンだと逆に凄いわね。あとはドッキリ大成功の看板があったらカンペキね。

 

「ってあれ?」

 

ちょっと、簪の様子が変よ!

なんか目のハイライトが消えてオーラらしきものが出ちゃってるんだけど!?

 

「生産性なしーーーラウラと一緒ーーー教育ーーー」ブツブツ

「じょ、冗談だから落ち着いて!!」

 

怖い怖い怖い!

所々聞き取れなかった部分は精神衛生上、知らない方がいいんでしょうけど絶対不穏なこと言ってる!

 

「・・・冗、談?」

「そう冗談! だから落ち着いて、ね?、ね!」

「嘘つかないで」

「ごめんって。でも忍野の好みに関しては何も分かんないのよ」

 

ふう~、ひと安心。

けどこの子、一歩間違えたらヤンデレになるんじゃないかしら?

 

 

 

 

それから情報交換(恋愛相談)をしている時、ふと報酬のことが気になった。

 

「それにしてもどうやって手に入れたのよ。前売り券が完売するほど人気なのにその上をいくプレミアムチケットなんてほぼ入手不可能じゃない」

「えっと、実家が投資してて、それで・・・」

 

・・・別に金持ち嫌いってわけじゃないけど何だか何とも言えない気分になっちゃった。

あの不吉な男の被害に遭わなければいいけど。

 

 

 

 

002

 

~箒サイド~

 

夏休みのIS学園図書室。

窓の外ではセミが暑苦しいほど鳴いているが、空調の効いたこの部屋では汗一つ流れない。

だが私は汗・・・と言うより脂汗を流していた。

 

「ぬ~、頭が痛い」

 

私は第三世代ISに関する知識が乏しい。

たしかに代表候補生ではあるが、専用機を持つなんて、ましてや第三世代の機体を持つなんて夢にも思っていなかったからテスト範囲しか勉強していなかった。

 

ところが姉からの誕生日祝いに『紅椿』を貰ってしまったためさあ大変、大慌てで知識を詰め込む。二学期までの約一ヵ月間に他の第三世代持ち達に追い付かなければ、と教科書に向かう。

 

向かうが・・・、

 

「ダメだ、全く進まない」

 

まるで頭に入ってこないし、入ってきても理解出来ていない。

 

そして、私の勉強を妨げる奴らがいる。

それは・・・

 

J(ジャック)のツーカードだ」

「パスなんじゃよ」

「あ、私出せるよ~。はいK(キング)~」

「甘いですよのほほんさんっ、A(エース)ですっ!」

「「「やっぱりか!」」」

 

机を挟んだ反対側で、呑気にトランプで大富豪に興じる四人、忍野に三組の片瀬真宵さん、のほほんさんに八九寺だ。

 

忍野やのほほんさんは分かる。いや分かりたくはないが、納得出来る、出来てしまう自分がいる。悪名高き片瀬真宵さんも噂通りだから分かる。

だが八九寺、お前は一応私の専用機なんだからちょっとは気を使ってくれてもいいんじゃないのかあ!?

 

「おい箒もやらないか?」

「忍野は私の邪魔をしたいのか!?」

「そうだが、それがどうかしたか?」

「確信犯か! 少しは困っている学友に教鞭をとろうとは思わないのか!?」

「いやだよ」

「少しは悩め!! 断るにしても一瞬で返事をするな!!」

 

断るまでの間がコンマ単位などあってたまるか!!

 

そう思いながら再び机に向かうと、忍野は私の開いている教科書を覗き込んできた。

 

「へぇ、“脳量子波の利用と応用法”か」

「分かるのか!?」

「あぁ一応な。専門じゃないから基礎程度だがな」

 

はっきり言って意外だった。

授業態度はお世辞にもいいとは言えず、期末テストでも赤点だけは回避したと言っていた彼が、まさか上級知識である脳量子波について知っているとは。

出任せじゃないだろうな?

 

「ISの第三世代特有のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵装に深く密接しているのが“脳量子波”だ。こいつの特殊な脳波を持つ者は空間認識能力・攻撃回避能力・反射能力に高い数値を示し、それに比例して高い戦闘を発揮するとさせるんだとさ。その数値の最終点に到着した奴は千里眼と言われる程の空間把握に予知能力に匹敵する回避を持てるらしい」

 

本当のようだ。

それにご丁寧にも説明まで始めた。

千里眼に予知能力、人間の限界を越えてる・・・って割と近くにいたな、千冬さん(人外ステータス)が。

 

「脳量子波の運用だがセシリアのビットがいい例だ。あれは脳量子波による思考の送受信で直接制御している。だからこそイギリスのは使い難いんだけどねぇ」

「何故だ?」

「う~ん、悪い表現になっちまうけどシステムが簡単なのに複雑なんだ。解るかな? 簡単に言えば攻撃のスイッチ、右旋回のスイッチ、左旋回のスイッチ、加速のスイッチ、減速のスイッチってな感じでそれぞれ決まったスイッチがあるとするだろ? 操作はスイッチを押すだけで簡単だが数が多すぎて複雑。細かい制御をする分ならいいが大きく動かすには不向き、いらない所に思考を使ってしまうから多量の集中力を必要としてしまう。必然的に脳量子波の強い奴が必要になるって寸法さ」

「なるほど・・・」

 

確かに使い難い。そんなにスイッチがあったら私には使いこなせないな。

と言う事は・・・。

 

「ではお前や一夏はセシリアよりも脳量子波の数値が高いのか?」

 

二人はセシリアよりも多くのビット兵器を、自分が動きながら自由自在に操っていた。だとすると数値はセシリアを上回っているはずだ。

 

「さぁどうだろうね。持っている人物の探し方が確立してないから優劣がつけられない。それと、俺や一夏が多量のビットを操れるのは思考の無駄遣いを避けるために多少のAIによるサポートを受けているのさ。分かりやすく言えば、ラジコンコントローラーで動かしている感じかな?」

 

なるほど分かりやすい。

確かにそれなら他の事も出来るし、それ一つに集中する必要がないな。

 

「そう言えば脳量子波の発現に条件はあるのか?」

「あのねぇ、持ってる人間を見つける方法が定まってないのに発現条件が分かるわけないだろ? 人為的に発現させた“超兵(ちょうへい)”って奴らは失敗作らしいし」

「ちょっと待て! 超兵とはなんだ!?」

 

何やら聞き捨てならない単語が聞こえた。

“人為的”“超兵”“失敗作”、どれをとっても明らかに平和的ではない単語ばかりだ。なのに言った本人は少しも表情を変えていない。

 

「ん? ああ、あそっか、こりゃ完全な失言だったね。悪い忘れてくれ」

「忘れてくれって、ふざけーーー」

「ふざけないよ。それに教えている時間がない」

「それはどう言うーーー」

 

私が忍野を問い詰めるのを邪魔するかのように突如、轟音を響かせて開かれる図書室の扉。そこには明らかに憤怒の表情を浮かべた阿修羅(千冬さん)がいた。

八九寺を含め、周囲の全員が怯えきっている。

 

「見つけたぞ忍野ぉぉおッ!!」

「元気いいなぁ、何かいいことでもあったのか?」

「ふざけるな! 人の机をビックリ箱にしただろうが!!」

「あれ、そうだっけ? 覚えがないなぁ」

「とぼけるな! 机を開けたらロケットパンチが飛来してそのまま天井に突き刺さったぞ!!」

 

そんな危ない物を仕掛けるな!

そしてよく無事でしたね!

ん? 片瀬さんが青ざめている、と言うか冷や汗を流しているが大丈夫か? 確かに千冬さんは怖いが私達には被害があるわけじゃーーー、

 

「まさか忍野さん、私の作ったあれを・・・」ボソ

 

先生、共犯がここに居ますよ!!

 

「今日こそ、その頭をかち割ってやるッ!!」

「やれるもんならやってみなってね!」

 

言うや否や、忍野は窓から飛び降りて、千冬さんはどこから取り出したのかIS用ブレードを構えて同じく飛び降りて行った。

・・・ここ四階ですよ?

 

 

結局その日、私は忍野に超兵の事を訊くことが出来なかった。

そして次の日、校舎の壁に貼り付けになっている人物を見掛けたが夢だと思って無視した。

 

 

 

 

003

 

 

~ラウラサイド~

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。階級は少尉。現在はISの試験操縦士」

 

薄暗い部屋。不快な湿度と空調とは関係のない冷気が、ここが地下であることを物語っている。

私の記憶の中でも特別暗い部分。軍隊の訓練、その中でも一二を争う負の訓練『尋問に対する耐性訓練』

その訓練場所でもあり、数年前まで実際に尋問・・・いや、拷問にも使われていた場所。

水滴の音。時折落ちてくるそれが、無性に苛立ちを駆り立てる。

 

「気分はいかがかな? ふふ、顔色が良くないね」

 

このおぞましき部屋の主であろう女は、しかし顔が見えない。こちらからは逆光になる位置で立ち、腰の後ろで手をくんでいる。

 

「さて、三日間の不眠と断食はいかがだったかな、ラウラくん。ん?」

 

答えるのも嫌だ。体力を使う。

 

「これはねえ、典型的な尋問なんだよ。大昔から使われている手段だ。時間の概念が停止した部屋で眠らせず、食べさせず、そして延々と水滴の音だけを聞かせる」

 

カツカツと、硬質のかかとを鳴らして女が歩く。ヒールだと? こいつ軍人なのか?

 

「かけさせてもらうよ?」

 

勝手にしろ、と心の中で呟いて現状把握に勤める。

 

まず自分。体力、気力を消耗している。緩く拘束されているのか、腕や脚の動きが鈍い。だが指の自由はある。

 

そして目の前の女。口調や声質からいつもの訓練官ではない事はわかる。軍服を着ていないから軍人どうか怪しい。

 

(そうだな、まずはーーー)

「まずは、拘束を抜け出して機会を窺うーーーというのは、難しいだろうからおすすめしないな」

(!? な、なぜーーー)

「なぜ考えていることがわかった、かい? それはねぇ」

 

逆光の中で辛うじて見える口元。

美人と思われる彼女の唇が、ゆっくりと言葉を刻む。

 

「     」

 

読唇術を習得している私にとって、たとえ無音であっても言葉は理解できる。

しかし、なぜか今回ばかりは言葉を言語化することができなかった。

 

(ああ・・・、なるほどな)

 

だが、ひどく納得がいってしまう。

それならば仕方がないかと、思ってしまう“何か”があった。

 

「さて、それじゃあ尋問を始めようかな。ラウラくん、愛国心はあるかな?」

「ああ」

「ふふ、簡単に嘘をつくんだね、君は。愛国心なんて、かけらも持ち合わせてはいないだろう」

「そんなことはない」

 

まあそれはいいんだよ、とどうでもよさげに言ってから、女はなにやら手帳を取り出して開く。

・・・どうでもいいなら訊くな。

 

「さて、仲間はどこにいる? 規模は? 装備のレベル、それにバックアップは?」

「言うはずがないだろう」

「そうだね。では、こういうのはどうかな」

 

にやり、女の口元が笑みに歪む。

気に入らない表情だが気にしてはいけない。今はどうやって目の前の相手を制圧するべきか・・・。

 

「好きな人はできた?」

 

・・・・・・・・・。

 

「なに?」

「名前は忍野じーーー」

「なっ!? ば、馬鹿! 言うっ、言うなぁっ!」

「あははっ! 顔を真っ赤にしちゃって、可愛いねえ」

「こ、こっ、殺す! 殺してやるっ!」

 

疲労も脱力も吹き飛ばして、私は女の喉笛に噛みつくために飛びかかった。

 

そしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あのー・・・ラウラ?」

「う・・・?」

 

ラウラの目に映ったのは、自分に押し倒されているルームメイトのシャルロットだった。

場所はIS学園一年生寮の自室。

 

「えーと、あのね? ラウラがうなされていたから声をかけようかなーと思ってたんだけどね」

()そう(ほう)・・・()

 

ラウラは寝汗をびっしょりとかいており、彼女を包んでいる物は洗濯しないと駄目なほど湿っていた。

 

「・・・で、いつまで僕の袖を咥えてるのかな?」

「・・・すまない」

 

噛み付いていた袖から口を離し、そのままシャルロットの上から転がり落ちる。

何故ラウラが“噛み”ついて、“転がり落ちた”のか?

ラウラは今現在、布団で簀巻きにされているからだ。随分と犯罪的な単語だが、別に拉致されていたとかそう言う訳ではない。

理由は『買い物と迷子“日曜日の朝”』を参照。

 

「ん、別にいいよ。気にしてないから」

「そうか。助かる」

 

そう言ってラウラはもぞもぞと、何とか起き上がろうとするが床を転がるだけで徒労に終わる。

これを見ていたシャルロットはある計画を実行に移すことにした。

 

「ところでさあ、ラウラ?」

「なんだ?」

「今度、一緒に買い物に行こ。それでパジャマを買おうよ」

「必要ない。余計な寝間着(装備)で寝ると、いざという時に動けないからな」

 

芋虫状態で何を言ってるのやら。

すると、シャルロットとは今までの可憐な笑顔とは打って変わって、意地悪げな悪どい笑みを浮かべ始めた。

 

「ふう~ん、ラウラはそんな事を言うんだあ」

「な、なんだ?」

「ラウラは今、と言うかいつも誰の布団にくるまれて寝ているのかな?」

「何を今更、忍野()の布団だ」

「そうだよねえ。いつも忍野くんの布団に“簀巻き”にされているよねえ」

「それがどうしたと言うのだ?」

「その布団、ラウラは自分で(ほど)けるのかなあ?」

「無理だからいつもシャルロットにーーーッ!?」

 

ここまで余裕な態度を示していたラウラの表情が凍る。シャルロットが交渉の材料に用意したものがたった今、理解出来てしまったからだ。

 

「ま、まさか・・・」

「うん♪ 一緒に買い物に行ってくれないと、()どいてあげないからね?」

 

ラウラに選択の余地は無かった。

 

 

 

 

004

 

 

~セシリアサイド~

 

「やはりこの白のレースの方が・・・」ブツブツ

 

夏休みを利用してイギリスの自宅へと帰省したわたくし。

オルコット家での溜まった職務、国家代表候補生としての報告、専用機のオーバーホール。それ以外にもバイオリンのコンサート参加、オペラ鑑賞、旧友との親交と、慌ただしいながらも充実した休暇を過ごしています。

 

そんな中、わたくしは自室のパソコンでとある通販サイトで品定めをしております。

 

「ふふふっ、あとはこれで・・・」

 

二時間も再考を繰り返し、選び抜いた至極の品の会計を済ませる。

はあ~、この下着(最終兵器)で一夏さんの鈍感(要塞)を突破して魅せますわよ!

 

『お嬢様』

 

ーーーっ!?

扉の方から聞こえてきた声に、私は慌てて別のサイトを開いてパソコン画面をカモフラージュする。

 

「ど、どうぞ」

「失礼したします。紅茶をお持ちしました」

 

部屋に入って来たのは幼なじみであり専属メイドのチェルシー。

18歳とは思えない落ち着いた雰囲気を身に纏っていて、幼なじみと言うよりはお姉さんのような人。

 

そんな人に先ほど購入した品の事を気取られてはならない。わたくしは多少乱れはしたものの、平静を装った。

 

「落ち着かないご様子ですが、どうかなさいましたか?」

 

・・・ダメでした。

あっさりと平常心じゃない事を看破されてしましました。

 

「い、いえ。そ、それにしても、困った事になりましたわね」

 

偶然開いていたサイトはイギリスのニュースサイト。そこに記されていた見出しは“弾薬コンテナは発見されず”。

数日前、軍の補給物資を輸送していた輸送艦が転覆、沈没は免れたものの弾薬などの爆発物を収めたコンテナが海に転落したと言う事件。中身の危険性から辺りは封鎖され、必死の回収作業が行われている、と言うもの。

 

しかしこれは表向き。

 

コンテナの中身は研究所から搬送中だったイギリス最新作の第三世代型IS『サイレント・ゼフィウス』。

わたくしのブルー・ティアーズの基礎データと稼動データを元に作られた二号機。

完全な上位互換機で一夏さんの物とは別方式のシールドビットを装備されており、開発主任曰わく“操縦士の実力が同レベルでの対決なら、一号機ではいいところ相討ち”と言わしめるほど。

 

(ISコアを未搭載時に起こったのが不幸中の幸いですわね)

 

イギリスIS管理局でコアを受領するための輸送中に起きた事故。

研究所のコア=機体のコアではなく、開発用に使用するコアと配備する機体に使用するコアを別々にしていたため、事故当時のサイレント・ゼフィウスは空っぽ、つまりコアがない状態。もし何者かの手に渡ってもすぐに悪用されることは回避されました。

 

(単なる事故であるならそれでよし、しかし何者かによる強奪事件だとしたら・・・)

 

「失礼ながらお嬢様、眉間に皺がよっております」

「あら?」

 

平静になるために振った話だったはずが、思いのほか感情移入してしまったようですわね。

まあどうしても、自分の愛機以上の性能がある機体の行方が分からないと言うのは快く有りませんわね。せめて演習でもよいので一度手合わせをしたいものでしたわね。

 

「難しくお考えになるのはお止め下さい。お嬢様は学生、学業を優先して下さいませ」

「そうですわね。まだ一学期が終わった所ですし、まだまだこれからですわね」

「くすっ、新学期が楽しみですわね。それはそうとお嬢様。先日お電話いただいたお料理の件ですがーーー

「それなら問題ありませんわ。一夏さんはわたくしのケーキを美味しいそうに食してくださいましたわ」

ーーー失礼、今なんと?」

 

なぜ驚愕と恐怖が入り混じったような表情をなさいますの?

 

「ですから、一夏さんはわたくしが作ったケーキを一人で完食してくださいましたの。よっぽど美味しかったのか他の方の分にまでフォークを伸ばされて、一夏さんだけに食べていただくことが出来ましたわ!」

 

ガシャンッ!!

 

今度は持っていたお盆を落としてよろけますわ。本当に一体どうしたのでしょうか?

 

「お嬢様、申し訳ありませんが今から同じケーキを作っていただけませんでしょうか」

「何故ですの?」

「失礼ながら申し上げますが、お嬢様の料理は独創性に優れており万人受けする物ではありません。ですからわたくしめが確認をさせて頂きたくーーー

「何を言いますの!? 一夏さんは何度も美味しいとわたくしの手料理を食べて下さっていますのよ!? それを今更、確認する必要はありませんわ!!」

 

想い人の評価に酔いしれていたわたくしは、そこまで言ってから後悔をしました。

 

今まで優しげな笑みを浮かべて頭を下げ、丁寧な言葉使いをしていたチェルシーがゆっくりと頭を上げ、マフィア顔負けのメンチを切って、

 

「いいから作れって言ってんだよこの汚染物質製造機が!」

 

・・・完全に忘れていました。

チェルシーは学生時代、マフィアが道を譲り警察が逃げ出すほど恐れられて街最恐の“不良娘”だった事を・・・。

 

 

 

 

イヤーーーーー!!




チェルシーの不良化ですが、

主を守るにはどうする?
⇨力(物理)を手に入れる。
そのためにはどうすればいい?
⇨とりあえずその辺の不良をぶっ潰す。
それより強い相手が来たら?
⇨とりあえずぶっ潰す。

と、まぁこんな忠誠心の暴走で最終的に不良の頂点になってしまったという感じにしました。
よく考えたら専用機持ちのお嬢様の専属メイドが、家事をこなすだけのメイドで収まる訳がない!

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夏休みの一幕 其ノ貳

005

 

 

IS学園の道場のひと部屋。

他には誰もいないそこには、鋭い目つきで竹刀を振る篠ノ之 箒がいた。

 

相手を射抜くような視線のまま、一閃の斬撃を放ち、構え直してまた一閃。その繰り返し。

しかし何度竹刀を振ってもその表情は苦虫を噛んだかのように険しいままだった。

 

(駄目だ。こんなものでは彼らには届かない)

 

彼女が仮想の比較対象にしているのは忍野、VTシステムの偽千冬、そして福音。

ISでの戦闘スタイルが近接の彼女は、夏休み期間中に知識同様に高めようと思いたち、自分が超えようとしてその三者を仮想の敵として稽古に励んだ。

けれどもその三者に届くような、自分が納得できる程の一閃が放てないでいたのだ。

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

しばらくして竹刀を置いて正座し、タオルで汗を拭いてひと息つく。

顔の汗を拭き終わった所で不意に、箒はタオルを置いて胴着の懐を覗き込む。そのには同性が羨むほどの大きな女性の象徴が下着に包まれているが、彼女自身にとってはあまり嬉しいものではない。

 

(少しキツいな、そろそろ新調した方がいいのか?)

 

比較的早いペースで胸が育っていくので半年前の服が、酷い時には先月まで着ていた服が窮屈になってしまうのだ。育ち盛りにもほどがある。

そして当然のように下着も上だけがキツくなってしまい新調するのだが、そこは花も恥じらう10代の乙女。可愛いデザインの物を探すが自分が気に入った物は十中八九サイズが合わず、サイズもデザインもピッタリの物は値段が数割増し。

私服と下着を合わせて新調するとなると、学生には厳しい買い物だ。

 

(はあ~、小さくならないものか・・・)

 

万が一に、いや億が一に言葉にしようものなら胸部が慎ましい女性全員を敵に回すような事を考えてしまっている箒。

しかし彼女の姉のサイズを考えるとまだまだ育つことになるだろう。

 

 

贅沢な悩みで若干憂鬱な気分になっていると道場の扉が開く音が聞こえ、そちらに目を向けると同じように胴着姿の簪が入口に立っていた。

彼女は一礼をしてから入ってきたが、箒が居ることに気がつくと一瞬ビクついた反応をする。

どうやら気づいてなかったようだ。

 

「あっ、お邪魔・・・だった?」

「いや大丈夫だ。むしろひとりで道場を使っていて心苦しかったからちょうどいい」

「それなら、良かった」

 

簪は休憩中の箒を尻目に、用具置き場から木製の薙刀を持ってくると素振りを始める。

仮想の敵を相手にしているその動きは、実戦的ではあるが見る者を惹きつける。流水のように流れるような動作で相手の攻撃をはね退け、そこから一気に砲弾のように力強い突き、風を起こすかのような素早い払い。

 

箒はじっとその姿を眺めていたが、自分の心が呼応するようなものを感じた。

剣道が専門ではあるが簪の薙刀の扱いには目を見張るものがあり、実力者であることが強く感じられる。事実、タッグ・トーナメント戦では彼女の薙刀術を打ち破る事が出来ず敗北した苦い思い出がある。

 

薙刀は刀よりも間合いを大きく取れる事と、振った時の遠心力により筋肉で出せる以上の威力を発揮できるため、江戸時代では武家の女性が扱う武器として広く普及した。

しかし薙刀は長大であるが故に刃よりも内に近づかれると攻撃出来ないため、実戦経験が少なく、着物のため足運びが限定される女性たちは結局力任せに振り回すだけだったとされている。

 

けれども簪の闘い方は違う。

実戦経験から接近されないようにするための振り方をしっかりと把握しており、それは対刀剣戦で十分に発揮される。

 

 

 

006

 

 

「どうぞ」

「ありがとう・・・」

 

しばらくして箒と同じように休憩をとる簪。

受け取ったスポーツ飲料で喉を潤し、失った水分を補給する。

二人の間に暫しの沈黙が流れるが、簪がか細い声で話かける。

 

「あの・・・、一つ訊いていい?」

「なんだ? 言ってみろ」

「優秀な姉に・・・自分の努力を否定さたら、あなたはどうする?」

 

この質問は、箒と初めて会ってから一度はしてみたいと思っていた。

互いに優秀な姉を持つ者同士、何か自分が得るものがあるかと希望しつつ、彼女の心を傷つける結果になるかもしれない。

そんな不安を抱えた質問だったが、

 

「怒るだろうな」

 

箒は即答した。

僅かな迷いもなく、確かな信念を持って答える。

 

「私は自分の努力を否定する事ができるのは自分だけだと思う。努力しているのは自分なのだからそれを他人に評価される謂われはない」

 

「努力しているは自分・・・」

 

簪は噛み締めるように呟く。

 

 

「と言ってもこれは母の言葉だがな」

 

思わず転びそうになり姿勢を崩してしまう簪。

それを見ながら、箒は自分がこの言葉を聞いた時の事を思い返す。

 

「姉さんはIS以前からいろいろ発明していたんだ。よく両親や私に嬉しそうに説明しながら作った物を披露してくれた。たまに失敗作もあったがな」

 

あの時は酷い目にあった、と苦笑いをしながら思い出を語る箒。

 

「ある時、家に帰ると姉さんが泣きながら両親に何かを訴えている所を見た。後で聞いた話だと学会で発表した発明品を否定されたらしくてな、いつも明るい姉さんが泣いているところを初めて見た気がする」

 

今から思えばISの発表をした時なのだろう、と語る。

 

「その時、母が姉さんを慰めながら言った言葉が

“あなたの努力を否定できるのはあなただけよ。努力しているのはあなたなのだから、それを他の人に評価される必要はないわ”

というものだった」

「・・・すごい事を言うお母さん」

 

普通の親が言うような言葉ではない。

 

「あの頃すでに姉さんの作る発明は両親の理解の範疇を脱していたのでな、“私達は分かっているから”みたいな台詞を言えなかったのだろう」

 

“分かっている”

努力を否定された直後に理解すら出来ない人からの、上辺だけにしか聞こえないこの台詞はどれだけ心を抉るか想像を絶する。

だからこそ、箒と束の母は努力を自分の物とする言葉を言ったのだろう。

 

「姉さんとの能力差に苛立ちを覚えていた時に聞いた母の言葉は、そういったものを全部汲み取ってくれた。確かに努力だけでは埋まらないものはあるかも知れないが、自らが納得できるだけの努力をするのは間違いではない。そう言い聞かされた気がしたよ」

 

要は“自分が納得できればそれで良し”と言う我が道を行く答え。使う意味をはき違えれば他者を傷付け、道を外れれば自分が自分じゃなくなる、紙一重の道。

 

そんな、学生が扱うには危うい道を踏み外すことなく歩み続ける箒。

それは簪にとって何かのキッカケになったらしく、話を聴き終えた彼女の表情には、強い意識が宿っていた。

 

「そうだ。私からも一ついいか?」

「何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「忍野のどこがいいんだ?」

「ブフッ!?」

 

が、箒の質問であっさりと何時も弱気な表情に戻ってしまう。

 

彼女が自分の悩みと対峙するのはまだ先になりそうだ。

 




ご意見、ご感想お待ちしております。


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夏休みの一幕 其ノ参

007

 

「ラウラ、聞いてる?」

「ん? ああ、すまない。聞いてなかった」

 

物思いに耽っていてシャルロットの話が上の空だったラウラ。

今は二人で買い物に来ており、洋服を購入してから昼食にカフェでランチをとっていた。

 

「だから、せっかくだからそのまま着てれば良かったのにって言ってたんだよ」

「い、いや、その、なんだ。汚れては困る」

 

元々、シャルロットはラウラに寝間着、つまりパジャマを着させるために今日は来たのだが、入ったお店の店員が寝間着そっちのけでコーディネート、シャルロットも一緒になって物色して服一式を購入したのだ。

 

「ふうん? あ、もしかして、お披露目は忍野くんに取っておきたいとか?」

「なっ!? ち、違う! だ、だだ、断じて違うぞ!」

 

確信しながらも知らないフリをしてラウラの取り乱しっぷりを微笑ましく見ているシャルロット。

心境的には自分の子供の、バレないと思っている恋心を眺めているような感じだった。

 

「ご、午後はどうする?」

「生活雑貨を見て回ろうよ。僕は腕時計見に行きたいなあ。日本製の時計って、ちょっと憧れだったし」

「腕時計が欲しいのか?」

「うん、せっかくだからね。ラウラはそう言うのってないの? 日本製の欲しいもの」

「日本刀だな」

「・・・女の子的なものは?」

「ないな」

 

せっかく可愛い服を買ったんだからそれに合わせて小物の一つでも買えばいいのに。シャルロットはそんな事を考えてながら視線を逸らすと隣のテーブルの女性に気がつく。

 

「・・・どうすればいいのよ、まったく・・・」

 

かっちりとしたスーツを着ているのに机に突っ伏し、頭を打ちつけていて、机に残っている空のカップがカチャカチャと鳴っている。

 

「ねえ、ラウラ」

「お節介はほどほどに・・・と言いたいがあれは見捨てれないな」

「そうだよね」

 

ラウラの目から見ても放置するのは気が引けるようだ。周りを見回しても彼女に気づいた人々は声をかけるべきかどうか手をこまねいているように見える。

そんな人々を代表するように、シャルロットが声をかけた。

 

「あの、どうかされましたか?」

「え? ーーーーーー!?」

 

ラウラとシャルロットを見るなり、ガタンッ! と椅子を倒す勢いで女性が立ち上がる。そしてそのまま、シャルロットの手を握った。

 

「あ、あなたたち!」

「は、はい?」

「バイトしない!?」

「「え?」」

 

 

008

 

 

「というわけでね、いきなりふたり辞めちゃったのよ。辞めたっていうか、駆け落ちしたんだけどね。ははは・・・」

「はあ」

「ふむ」

「でもね、今日は超重要な日なのよ! 本社から視察の人間も来るし、だからお願い! あなたたちふたりに今日だけアルバイトをしてほしいの!」

 

女性のお店は所謂メイド喫茶に分類されるお店だった。女は使用人、男は執事の格好で接客する・・・のだが。

 

「それはいいんですが・・・」

 

着替え終わったシャルロットはやや控えめに訊く。

 

「なぜ僕は執事の格好なんでしょうか・・・?」

「だってほら! 似合うもの! そこいらの男なんかより、ずっとキレイで格好いいもの!」

「そうですか・・・」

 

誉められたというのに、あまり嬉しくなさそうにシャルロットはため息を漏らす。

ラウラのメイド服姿は可愛いく見え、自分もメイド服を着てみたいと思い、自分の着ている執事服を見下ろす。

もっとも、編入時のように胸を潰していないので女の子というのは一目でわかる。むしろ女の子とわかるので“王子様のような女の子”として男女問わず人気を博しそうだ。

 

「店長~、早くお店手伝って~」

 

フロアリーダーがヘルプを求める声を聞き、店長は最後の身だしなみをして売り場へ出て行こうとする。

 

「あ、あのっ、もう一つだけ」

「ん?」

「このお店、なんていう名前なんですか?」

 

シャルロットの質問に、店長は笑みを浮かべお辞儀をしながら応えた。

 

「お客様、@(アット)クルーズへようこそ」

 

 

009

 

 

「デュノア君、4番テーブルに紅茶とコーヒーお願い」

「わかりました」

「ボーデヴィッヒさん、9番テーブルのサンドイッチあがったよ」

「了解した」

 

初めてのアルバイトだというのに、ふたりとも物怖じせずにしっかりと仕事をさばいていく。ミステリアス銀髪メイドと貴公子系男装執事は好評を博し、指名と追加注文の嵐が巻き起こる。

いつの間にか通常時の五割り増しの忙しさになっていたが、店長の手腕により滞りなくお客をさばいていく。

 

「デュノア君、カウンターテーブルの注文お願いね」

「はい、わかりました」

 

店長の指示でシャルロットが窓際のカウンターに行くと、ひとりの童女が椅子に座っていた。

 

ぱっと見ぬいぐるみにしか見えない帽子。派手な髪色で短いツインテール。オレンジ色のドロストブラウスを上着に、可愛らしいティアードスカート。

そして何よりも、彼女の顔は、無表情なのだ。

比喩的表現ではなく、過剰表現でもなく、まるでその形が当たり前であるかのように、無機質な無表情。

 

「僕の注文を訊いてくれるかな、鬼のお姉ちゃん。僕はキメ顔でそう言った」

「・・・あっ、はい。ご注文をどうぞ」

 

一瞬呆けながらもすぐに立ち直り、注文を受けるシャルロット。

自分の何を指して“鬼”と称するのかは分からないがいきなり初対面の子供に鬼と言われればそれなりに堪えるものがあるらしく、今日は厄日だとばかりに心の中でため息を吐いた。

 

そして台詞の割に眉ひとつ動かさないこの無表情な子供はメニューを手に取ると、すでに決めていたであろう品々に指を向ける。

 

「@カフェオレのアイスをお願いするよ。僕はキメ顔でそう言った」

((((・・・どの辺かキメ顔なの?))))

 

どんな相手だろうとちゃんと仕事をこなすが、内心は彼女の台詞が聞こえた周りのお客同様に疑問符が浮かんでいた。

キメ顔どころか微表情すらない。

 

 

シャルロットが自称キメ顔の童女に品を届け、ラウラがしつこい男性客に飽き飽きしていた頃、その事件は起こった。

 

「全員、動くんじゃねえ!」

 

シャルロットが無表情少女に品を届けた直後、ドアを蹴り空けて雪崩れ込んでくる三人の男。

覆面姿に紙幣のはみ出たバック、その手には銃。三人は強盗で、襲撃後の逃走中なのは見るからに明らかだ。

 

絹を裂くような悲鳴が上がるが、銃声が発されると皆静かになった。

普通に生活していれば、自分たちに向けられる銃は恐怖の対象にしかならない。犯人の言うことを聞かないわけにはいかない。

 

『あ~、犯人一味に告ぐ。君たちはすでに包囲されている。大人しく投降しなさい。繰り返すーーー』

『隊長! そんな悠長な事を言っとらず発砲許可をーーー』

『太田さん、落ち着いて!!』

 

気がつくと窓の外はパトカーと機動隊の警官たちによって包囲網が作られており、店内の人々はまずは一安心をする。

・・・ただ周りの警官に取り押さえられている、拳銃を片手に暴れている警官がそこはかとなく不安を煽るが。

 

「ど、どうしましょう兄貴! このままじゃ、俺たち全員ーーー」

「うろたえるんじゃねえっ! 大体お前が駐車違反をしてレッカー移動されるのが悪いんだろうがっ!」

((((こいつらよく強盗できたな・・・))))

 

何ともしょうもない理由で逃走車を無くしたらしい。

 

「大人しくしてな! 俺たちの言うことを聞けば殺しはしねえよ。わかったか?」

 

もう首を縦に振るしかない。

 

「おい、今すぐブラインドを下ろせ! その後、監視カメラの電源切ってこい!」

「分かったッス!」

 

リーダーらしき男は手下に指示を出し、ブラインドを下ろさせる。

これで外からは店内の様子を窺うことが出来ず、また犯人が警戒するのは入口のみに限定された。人質がどこに居るのか分からないので警察は下手に突入が出来ず、強盗との睨み合いの続く。

 

「おし、聞こえるか警官ども! 人質を安全に解放したかったら車を用意しろ! もちろん、追跡車や発信機なんかつけるんじゃねえぞ!」

 

威勢良くそう言って、自分たちが本気であることを示すように警官隊に向かって発砲する。

それだけで集まっていた野次馬はパニック状態へとなり、我先にと避難を始めた。

 

そして同時に、店の外から『俺にも撃たせろ!』とか『誰か太田さんから銃を取り上げて!』と言う店の中に居る全員をとてつもなく不安にさせる怒号が聞こえてくるが。

 

 

 

(一人はショットガン、一人はサブマシンガン、そしてリーダーがハンドガン。服の膨らみから見て何か隠し持っていそうだけど、とりあえずはーーー)

 

犯人から見えづらい位置でしゃがんだシャルロットは状況を冷静に分析していく。

そうして視線を動かしていくと、強盗とは別に店内で立っている人物が居る。

 

「・・・・・・」

(ラウラ、何してるの!?)

 

ムスッとした表情のまま、仁王立ちで店の真ん中に居るラウラ。日本と言う国ではただでさえ目立つ彼女の容姿。

 

「なんだ、お前。大人しくしてろって言うのが聞こえなかったのか?」

 

すぐに強盗のリーダーが気がつき、銃を突きつけて威圧する。

しかし彼女は銃を一瞥(いちべつ)するだけで身じろぎ一つしない。

 

「おい、聞こえないのか!?」

「まあまあ兄貴、いいじゃないッスか! 時間はたっぷりあるんスから、この子に接客してもらいましょうよ!」

「あぁ? 何言ってるんだ、お前」

「だって、ホラ! すっげー可愛いッスよ!」

「お、俺も賛成っ。せっかくメイド喫茶に入ったんだし・・・」

 

リーダーは頭痛がするかのように眉間に手をあてるが、ラウラのメイド姿を見直すと窓の近くにあるソファに腰を下ろす。

 

「ふん。車が用意されるまで時間があるだろうし。おい、メニューを持ってこい」

 

ラウラは黙ってカウンターの中に消え、持ってきたのは氷が満載されたグラスだった。山盛りの氷に対し、水は一割も入ってない。

 

「・・・なんだ、これは?」

「水だ」

「いや、あの、メニューを欲しいんスけど・・・」

「黙れ。飲め。ーーー飲めるものならな」

 

ラウラは突然トレーをひっくり返し、当然のように宙に舞っていた氷を掴んみ、弾き出した。

 

「痛ってええっ!? な、なっ、何しやがっ!?」

 

氷の指弾はまず目の前に居た強盗の、引き金から離れていた人差し指と瞼に、他の二人にも眉間と喉にそれぞれ命中する。

そして初弾を喰らった強盗が怒号を上げるのよりも早く膝蹴りを叩き込むと男はそのまま後ろへと倒れた。

 

「ッざけやがって! このガキ!」

 

いち早く痛みから復帰したリーダーが発砲する。

しかしラウラは、店内のあらゆる物を遮蔽物にして駆けていく。

 

「あ、兄貴っ!? こ、こいつ早いッス!」

「えぇい、ちょこまかと!! ガキ一人だ、慌てずにーーー」

「お生憎(あいにく)、一人じゃないんだよねぇ、残念ながら」

 

マガジンを交換したリーダーの背後に迫っていたシャルロット。

銃声に紛れて近付いていたのでリーダーは彼女が声を出すまで気付かず、慌てて銃口を向けようとした所で、

 

「あ、執事服でよかったかな。うん。思いっきり足上げても平気だし」

 

拳銃を手ごと蹴り上げられてしまう。

が、彼女の脚はそれで止まらず、勢いそのままでリーダーの顎までも蹴り抜く。

手と顎からはパキッと枝が折れるような音がしたが所詮は強盗、シャルロットは構わずに持っていたトレーを手裏剣のように投げ、最後の強盗が持っていたショットガンを弾く。

 

「ナイスだシャルロット」

 

シャルロットに武器を弾かれた強盗に迫ったラウラは脚払いで体制を崩し、倒れてきた所に顔面目掛けてかかと落としを喰らわす。

 

「目標2、制圧完了。シャルロット」

「問題ないよ」

 

ラウラは自分の足元に居る男が気絶している事を確認するとシャルロットの様子を訊く。

見ると彼女の足元でリーダーが動こうとしているが顎を蹴られた衝撃で軽い脳震盪気味なのだろう、起き上がるどころか予備のハンドガンすら掴めない様子だ。

 

「はい没収。目標1、制圧完了」

 

リーダーがやっとの事で取り出したハンドガンを簡単に奪い、その銃底で頭を殴って気絶させたシャルロット。

 

しばらくの間、しーんと静まりかえる店内。

あまりにも静かなのでゆっくりと頭を上げたお客とスタッフは、危機を脱したことは分かるものの現状を上手く把握できない様子だ。

 

「お、俺たち助かったんだ!」

「やった! あ、ありがとう! メイドさんに執事さん、ありがとう!」

 

程なくして助かった事を自覚して歓喜を上げる一同。わっと騒がしくなったことで外の警官隊も動き出した。

 

「ラウラ、まずいってば! 僕たちって代表候補生で専用機持ちなんだから、公になるのは避けないと!」

「それもそうだな。警官隊が突入してくる前に失敬するとしよう」

 

二人は無関係を装って他の人達と一緒に店を出る方法を模索しようとした。

しかし事態は再び一変する。

 

「つ、捕まるくらいなら、全部吹き飛ばしてやるっ!!」

 

突然響く怒声。

ラウラが最初に沈黙させた男が起き上がり発したものだ。

台詞や服の上からでも分かる膨らみから自爆しようとしているのは明白。

 

ラウラとシャルロットが油断していたわけではない。

しかし男は死角に倒れてから今まで起き上がらず、他二人の反撃もあって気絶しているかどうかの確認が後回しになっていた。

 

そして手下であるこの男だけが爆発物を持っているとは考え難い。気絶している他の二人も自爆用の爆発物を持っているとすると、誘爆すれば最低でもこの店が更地になり、数十人規模で死傷者が出るだろう。

ISを展開してでも爆発を止めようと二人が動こうとした瞬間、

 

「『例外のほうが多い規則(アンリミテッド・ルールブック)』対人版ーーー僕はキメ顔でそう言った」

 

かろうじて聞き取れた無機質な声。

 

そして次の瞬間には店内にある物を押しのけながら水平に跳び、アクションマンガのような蜘蛛の巣状の亀裂を壁に作りながら衝突した強盗が目に映った。

強盗は完全に意識を失って白目をむき、その手足は糸の切れた人形のようにダラリとしている。

 

「今のは・・・」

 

二人はすぐに男が射出された方向に視線を戻すが、そこには誰も居ない。

残っていたのは空になったカップと、その下敷きになっている千円札だけだった。

 

 

 

010

 

 

何とか野次馬に紛れて店を離れ、最寄り駅に着いたラウラとシャルロット。

警察は強盗を撃退した者を表彰しなければと大騒ぎで捜しているが、そんな事を夢にも思わずにベンチで休憩している。

 

ジュースを片手にひと息つく二人だが、ラウラは飲料に口を付けようとしない。

いや、何やら考えている様子で自分がジュース缶を持っていることにすら気づいてないようにも見える。

 

「どうしたのラウラ?」

「いや、一体誰が最後の一人を倒したのかと思ってな」

「う~ん・・・」

 

シャルロットには心当たりがあった。

男が吹き飛ぶ直前に聞こえた感情を一切感じさせない無機質な声、そして表情と矛盾し続ける語尾。

それは、彼女を鬼と称した童女のもの。

しかし子供の細腕で成人男性を吹き飛ばすなんて不可能だ。

 

(まさかあの子もISを? なんてね、有るわけないか)

 

“偶然”あの店に自分を含め、三人もの専用機持ちが居たなんて有り得ない。有るはずがない。

そう思ったシャルロットは童女のことは言わず、そっと自分の胸にしまった。

 

もう二度と逢うことないだろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいコラ余接(よつぎ)。お前今まで何処行ってた?」

「何って、らーちゃんのくれた自由時間を満喫していたのさ。僕はキメ顔でそう言った」

「確かにオレは自由時間をやったが、誰が半日も自由にしろなんて言った?」

「ふう、心が狭いよねらーちゃんは。お姉ちゃんなら一週間遊び呆けていても気にも止めないのに。そんなんだからこんな下っ端みたいな仕事をさせられるんだと僕は思うんだよ。僕はキメ顔でそう言った」

「OK余接、そこを動くな。今すぐ爆破してやる。影縫(かげぬい)さんや親父に怒られるだろうが今すぐ消し炭にしてやる」

「らーちゃん。僕はすぐに爆弾を出すのはいけないと思うし、周辺被害が出るから自重した方がいいとも思うよ? 僕はキメ顔でそう言った」

「ここぞとばかりにキビキビと答えんじゃねえぞ式神(しきがみ)

「棒読みだけどね」

 

二人が休憩していた駅の裏で、無表情な童女とスーツ姿の女性が口論を繰り広げていたとは知る由もないが・・・。




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夏休みの一幕 其ノ肆

 

011

 

~セシリアサイド~

 

本国での予定を終え、日本に戻ってきたわたくしはIS学園から少し離れた町に来ております。

いつもとは違う所でお買い物をしていたのですが、ちょっと買い過ぎてしまいましたわね。

まだ気になるお店が軒を連ねてますのに。

 

「困りましたわね。郵便局がどこにあるか分かりませんし」

 

いつものショッピングモール『レゾナンス』でしたら購入した物は学園に郵送しているのですが、知らない場所なのでそれは出来ませんわね。

えっ? この位は普通ではありませんの?

コンビニ? それは何ですの?

 

「仕方がありませんね。また後日にーーー」

「あれ? セシリアじゃないか。何してるんだ?」

「一夏さん!?」

 

諦めて学園に戻ろうかと考えていると、一夏さんが声をかけて下さいました。

こんな見知らぬ(土地)で想い人と巡り会うことか出来るなんて、これは最早運命ですわ!

 

「い、いえ・・・わたくしは買い物の途中でして・・・あ、」

「どうかした?」

「あの一夏さん。この辺りに郵便局はございませんか?」

「郵便局?」

「はい。荷物が多くなり過ぎてしまいまして・・・」

「そうなんだ。あっ、それなら俺でよかったら荷物持とうか?」

「えっ?」

「今日この後予定もないし。あ、でも一人でじっくり回りたいとかあればーーー」

「いっ・・・いいえ! 一夏さんさえよろしければ是非お願いします!」

「よし。じゃあ行くか」

「はっ、はい!」

 

こ、こっ、これはデートと言うものでは!?

 

 

 

012

 

桃色妄想全開のセシリアだったが、買い物中の一夏との会話は盛り上がりはするが彼女が望むような流れにはならず、結局いつものつかず離れずなままだった。

せっかくのデート(一夏にとっては荷物持ち)を有効活用しようと、セシリアは次から次へと店を転々とし、その店で一夏の趣向を調べようとする。

具体的には服を二着見せ選ばせたり、陳列されている品々の中からどれを真っ先に手に取るのかを盗み見たりなど。彼女の頭の中では模擬戦並みに作戦が練られ続けていた。

 

「セシリア、そんなに急いで買い物しなくても・・・」

「いいえ、時間は有限! チャンスはしっかり活かさないといけませんわ!!」

「お、おう」

 

そして次の店に入ろうと入り口に近づいた時、中から出て来た女性とぶつかってしまう。

 

「し、失礼しました! って?」

「いえ、こちらの不注意でも、あった?」

 

お互いに相手の顔を見て初めて顔見知りである事に気がついた。

 

「確か、イギリス代表候補の・・・」

「セシリア・オルコットです。お久しぶりです、ケイシー先輩」

 

英国貴族らしい美しいお辞儀をするセシリア。

その姿にぽかんとしている一夏だが、相手の女性は一夏の存在に気がつくと少しだけ眉を上げる。

 

「セシリア、この人は?」

「この方はーーー」

 

セシリアが紹介をしようとしたところで彼女は手を前に出し、自分でするという意識表示をする。

そして一夏の方を向き、姿勢を正す。女性にしては長身の彼女の立ち姿は男勝りとは言わないまでも、どこかカッコ良さがある。

 

「IS学園三年生、アメリカ代表候補生のダリル・ケイシーだ。先日はファイルス先輩を助けてくれて感謝する」

「ファイルス先輩?」

 

が、本人の名前以外に出てきたもう一つの名前に戸惑い、そして訊きなおす一夏。

 

「ナターシャ・ファイルスさんは私の先輩なんだ。機密に触れるからと詳しくは教えてもらえなかったが、臨海学校の時に助けてくれたんだろ?」

(ナターシャ・ファイルス? 臨海学校?)

 

何かあったかと記憶を掘り起こす一夏。

一つ一つ思い出していくと、

 

「って福音のパイロットの!?」

 

やっと何の事なのか分かった。

条約違反の軍用機が暴走した事件、普通なら忘れる事のないような出来事・・・なのだが彼にとってはそれ程の事でもないようだ。

 

「やっと分かったのか。一体何があったんだ?」

「別に、お礼を言われるほどの事でも・・・。それに、ナターシャさんがひとりで助かっただけですから」

 

ここまで一夏が言ったところで、

 

「プッ、ハハハハッ!!」

 

お腹を抱えて笑い出すダリル。豪快な笑い声は周囲から注目を集めるが本人は気にした様子もなく笑う。

 

「え~っと、先輩? 何がそんなに可笑しいんですか?」

「いや悪い悪い。忍野と同じようなことを言ったのが可笑しっくてな」

「同じって・・・」

「忍野の奴にも礼を言ったんだがな、『彼女が一人で勝手に助かっただけだぜ』って言われてな~。まさかもう一人にまでそんな事言われるとは思ってもいなくて可笑しかったんだ」

「・・・・・・」

 

一夏は愛想笑いをしているが、セシリアは苦笑いを浮かべるしかない。一夏が忍野と似ているのがあまり気分の良いものではないようだ。

最もそれは、一夏の性格形成に忍野が関わっているからであるが彼女は知る由もない。

 

 

 

013

 

「先輩~~~ッ!! お待たせしたッス!!」

 

ほんの少し雑談をしていると、近くの店から先ほどのセシリアと同じように、両手いっぱいに買い物袋をさげた、これまた一夏の知らない茶髪の女性が走ってきた。

 

「遅いぞ。早くお前も自己紹介しろ」

「事故紹介? そんな頻繁に人をはねてないッスよ?」

「古典的なボケをかますな」

「イテッ」

 

頭を小突かれた茶髪の女性は、叩かれた所をさすりながら一夏の方に向き直る。

 

「私はフォルテ・サファイア、二年生ッス! 頭が高いッスよ後輩ッ!!」

 

上から目線の言い方をしようとしているのだろうが、小者臭を拭えない何ともちぐはぐな喋り方だ。

 

「私は“先輩”ッスからね! “先輩”には敬意をはらうように。そこんとこ分かってるッスか“後輩”!」

「はあ~」

 

先輩だの後輩だのを強調する演説はあまり経験がないのでため息にしか聞こえない返事しか返せない一夏。しかしフォルテはそのまま喋り続ける。

 

「何でこの人、年の差を強調するんだ?」ヒソヒソ

「それが、忍野さんがサファイア先輩に対して全く敬意をはらっていませんので・・・」ヒソヒソ

「なるほど。ちゃんと先輩扱いしてほしいのか」ヒソヒソ

 

二人が小声で話していると、フォルテは一夏のことを興味深そうにジロジロと眺める。

 

「質問~! 二人は恋仲ッスか~?」

「な、なななっ、何をおっしゃいますのっ!?」

「止めて下さいよ。俺なんかがセシリアに釣り合うわけないでしょ?」

「・・・・・・」

 

フォルテの投下した爆弾(質問)に笑顔ではあるが、狼狽しながら答えるセシリア。他人から見たら彼氏彼女の関係に見えると言う嬉しさの反面、まだ想いを告げてないのにこんな形で一夏(想い人)に恋心を知られてしまうのではないかという危惧で顔を真っ赤にしていた。

 

しかし普通なら“気があるのでは?”と勘ぐられる程に取り乱していても、そこはキング・オブ・唐変木、織斑 一夏。

笑いながら、あまりにも綺麗に冗談として受け流したのでセシリアの笑顔は氷点下まで冷えこむ。

 

「先輩、あれってもしかして・・・」

「ああ、間違いないだろうな」

 

(一夏)の気づかないほんの微かな表情変化を感じ取ったフォルテとダリルは、一夏が鈍感であることも一瞬で感づく。

 

「そう言えば忍野も()()でしたッスね」

「何て報告する?」

 

二人はそれぞれ、国から男性操縦士の()()に関する情報を可能な限り集めるよう指示されている。理由は他の国の生徒がハニートラップなどで二人の生体情報の入手を察知できるようにするためだ。

もし発覚すればそれを理由に他国のISを没収、さらにIS学園の保護能力を非難して男性操縦士を“自国での保護”という名目で入手する算段をしている。

事が起こるまでは無関心を装い、有事の時には自分たちは正義だとして主張して優位に立とうとする。偽善その物だ。

 

「一夏さん。こちらのお店に入りますわよ、その次はこちらに」

「せ、セシリア、これ以上は持てないんだが・・・」

「口で咥えればまだ持てますわ」

「ええー!?」

 

「「・・・・・・」」

 

お怒りのセシリアに連れてかれる一夏を見送ったダリルとフォルテ。

彼女たちは互いの顔を見合わせてから報告書の内容を簡潔に思いついた。

 

「とりあえず“ハニトラは効果薄”って報告しよっか・・・」

「いや、“修羅場の可能性あり”の方がいいと思うッスよ?」

 

後日、この報告を受け取ったそれぞれの国の上官は何かの暗号と頭を悩ませたそうな・・・。

 




ご意見、ご感想をお待ちしております。


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夏休みの一幕 其ノ伍

014

 

 

太平洋のド真ん中。

その海中を行く一隻の潜水艦がいた。

ISの生みの親であり天災とまで言われた稀代の天才科学者、篠ノ之 束が建造した万能潜水艦『水鏡』。

 

しかしその艦内で、彼女は自らの頭脳を持ってしても分からない謎と向き合っていた。

 

「う~ん、やっぱり分からないなあ」

 

無数の空中ウィンドを展開しながら独自のキー配置がされたオリジナルの投影キーボードを叩き続け、様々な思考を廻らせている束。

新たなウィンドが展開されたと思うと3秒と経たずに消え、次のウィンドが現れる。そんな高速作業がすでに半日以上続いているが、彼女には疲れた様子はなく、絶好調と言った様子だ。

 

そこへ食事の載ったトレーを持ったクロエが入って来た。

 

「束様。昼食をお持ちしました」

「ありがとう! そこに置いといて~」

「昨日から新型推進器の制作をほっぽりだしていったい何をされてるのですか?」

「う~ん? いっくんのサバーニャなんだけど見てよこれ」

 

束がクロエの方へと飛ばした空中ウィンド。

そこに表示されていたのは福音事件の直後に回収したサバーニャのパーソナルデータ。

ISの全てが詰まったデータでそれさえ見れば機体情報はもちろん、インストールしたプログラムや過去に装備した物まで知る事が出来る・・・のだが。

 

「何ですかこれは?」

 

ずらっと並んだ詳細な情報。ビットのエネルギー数値からミサイルの制御プログラム、はてや一夏の攻撃の癖まであらゆる情報が表示されている。

けれどもそこには一角だけ、データには解析不能になっている場所が存在した。

 

「ここはね、他の(IS)なら単一使用能力に関係した情報が存在する場所なの。それがぽっかりと抜け落ちてるから調べようとしてるんだけどね」

 

こんな事は始めてだよ、と好奇心に満ちた顔をしながら束は言う。

さながら、新しいおもちゃを手に入れた子供のような、無邪気で純粋な顔。

 

しかしクロエがある事を思い出した。

 

「ですが束様。サバーニャには既にトランザムシステムと言う単一使用能力が登録されてますよ? 現に他のGNドライヴ搭載機にはそのように登録されてますが・・・」

 

そう。

サバーニャには二次移行以前のケルディム時代からトランザムが単一使用能力としてあった。

そのデータが無くなっていたとしたら不自然極まりない。

それにアルケーなどにはトランザムが単一使用として登録されているのである。

 

 

この問に対し、束はあっけらかんと、

 

「本来、トランザムは単一使用能力とは言えないんだよ」

 

こう宣言した。

さすがにこの答えにはクロエも驚き、普段は堅く閉じている瞼が開いてしまってる。

 

「単一使用能力はISが二次移行した時にそれまでのISの経験値から独自に進化して発生する能力なの。でもトランザムはGNドライヴを搭載して、それに対応した機体設計をすればどの(IS)でも使えるシステム。これを単一(ワンオフ)と呼ぶには変でしょ?」

「・・・言われてみればそうですね」

「そして、あの子もそう」

 

二人の視線の先。たけのこの様な円錐形の機器と一緒に部屋の一角に設置された整備ハンガーに吊り下げられている紅い魔物(アルケーガンダム)

修理と分解点検を終え、何時でも最高のパフォーマンスを出来る状態へと仕上がったその機体は、持ち主の下へと届けろと催促しているかのように二人の方を向いている。

 

「この子も二次移行こそしてないけど、データ上には謎の領域があるの。恐らく、将来的にはサバーニャと同じように単一使用能力が変わるのかも知れない」

「それでは、お二方のガンダムはトランザムを失うのですか?」

「それについては答えがあったよ、ほら見て!」

 

束が指差す場所。そこには機体の基本システムとして“TRANSーAS(トランザム)”の名が刻まれている。

 

「ねえ? これは多分、GNドライヴを搭載した事によって本来出現する筈だった単一使用能力に何らかのトラブルが生じたんだと思うのッ! 進化に失敗したのか遅れているのか、二次移行をした初のGNドライヴを持った子だから比較対象もなく、情報も不足しているから予測すら建てられない! 未知は科学者にとっては三度のパフェよりも好きなものなんだよッ!!」

 

すっかり興奮してしまった束。

科学者というのは違いはあれど、未知の探求を欲して止まないものだが、天災とまで称される彼女には未知と呼べるものがあまりにも少ない。

勿論、彼女自身が興味を示さない分野はまだまだ未知で溢れているが、彼女が専門としているISと宇宙工学にはそれがない。

ISに関しては開発者であるので未知でも何でもないし、宇宙工学も宇宙(そら)に上がれない現状では自分で調べることが出来ないので手を付けられない。

 

だからこそ、束は未知に飢え、サバーニャの謎に夢中になった。

それが良いことなのか、それとも悪いことなのかは別として・・・。

 

 

 

015

 

 

しばらくして束がようやく食事のトレーを手に取った時、クロエの表情が変化する。

 

「束様。センサーに未確認航行物を感知しました。ブリッジに上がります」

「行ってらっしゃ~い」

 

部屋を出たクロエは小走りに通路を駆け、居住区にあるキッチンの一角に設置された無骨な椅子に腰掛ける。

するとその椅子は付け根の金属タイルごとゆっくり上昇を始めた。そして天井が椅子の設置された金属タイルと同じサイズで開き、まるで煙突の中のような縦トンネルが現れ、クロエが乗ったその椅子はその中を昇る。

 

上昇を続けた椅子は狭い部屋に到着した。

薄暗く、暖かみのない部屋。クロエの前にあるコの字型に配置された巨大なデスクと、無数にある小さな窓以外に光源のないその部屋は水鏡の艦橋(ブリッジ)

水鏡の全てを司る所だ。

 

HARO(ハロ)システム起動。両舷停止、急制動」

「了解! 了解!」

 

デスクに固定された球体状のAIがクロエの言葉に反応し、両目のLEDを点滅させる。

 

ハロとは水鏡の自立型支援AIでその姿はバレーボールくらいの大きさをした球体で外装は明るい黄緑色。目にあたる部分は赤いLED、耳や口と思われる部分には曲線で描かれたスリットが入ってる、どこか憎めない顔立ち(?)をしたクロエの相棒だ。

(クロエと束の関係は“相棒”には当てはまらない)

 

ハロに艦の制御を任せるとモニターを注視する。音響センサーに表示されている情報には12時方向の水中に2つ、5時から8時方向かけて水上に3つの反応がある。

 

(挟まれてますね。しかしどうやって捕捉されたのでしょう?)

 

万能を謳うGN粒子でも水中ではジャミング能力がない。水中ではレーダー波以外に音波でも索敵するからごまかせないのだ。

しかしだからと言って簡単に発見されるようなステルス性能ではない。推進器は海流音に紛れるように設計されているし、艦内は防音加工が施されているので艦外に音が漏れる事はない。

普通ではこちらに気付かれずに発見するのは無理だ。

 

何か可能性を思い出したのか、クロエは空中ウィンドを開いてネット検索を始める。

次々と表示される情報は明らかに一般的なものではなく、どこかにハッキングを仕掛けているは明らかだがここにはそれを咎める者は居ない。

そして目的の情報に辿り着く。

 

「これですね。アメリカ太平洋艦隊の演習」

 

見つけたのはアメリカ海軍の演習計画書。

内容は太平洋艦隊所属のイージス艦三隻と潜水艦ニ隻による海上演習だ。

ISの登場以降、軍縮が進むアメリカ軍だが演習はだけは規模が小さくなろうとしっかり行っている。最も、予算が少ないのでこのように10隻以下の少数でしか実施出来ないようだが・・・。

そして、今回の演習海域が現在の水鏡の位置とピッタリ重なる。

どうやら海軍は此方を捕捉しているわけではなさそうだ。

 

知らぬ事とは言っても演習中の海域に侵入した以上、攻撃されたとしても文句は言えない。

気づかれる前にクロエは海域を離れようと、近代的なデザインの舵に手をかけた。

 

だが無慈悲で甲高い音が艦体を叩いた。

 

「ッ! 急速潜行、両舷第一戦速!」

 

表情を強張れせたクロエは舵を目一杯押し込み、艦の深度を下げる。

艦首と両翼のスクリュウーが高速で回転を始め、艦上に乱海流を発生させながら船を海底へと近づけ、艦尾の大きな推進器が艦に僅かな振動を起こしながら船を力強く押す。

 

今の音の正体、アクティブソナーのピンガー音。

アクティブソナーは、深海に潜む潜水艦を探す際に用いられる装置でピンガーと呼ばれる音波を発し、それが敵艦から跳ね返ってきた音で距離や方位を計る。

 

つまりたった今、アメリカ海軍に水鏡の現在地を知られてしまった事になる。

内心慌てながら操舵をしていると内線から束の声が響く。

 

『おおっと!? くーちゃんどうしたの? 床が傾いているよ?』

「申し訳ありません。アメリカ海軍に捕捉されまいた」

『あれー? 何で見つかっちゃたの?』

「それが、自動航法にしてましたので知らぬ間に演習海域に侵入してしまったようです」

『アチャー、それは仕方ないね。じゃあ頑張って逃げてね!』

「かしこまりました」

 

通信を終えたクロエはすぐに逃走しようと艦の角度を水平に戻す。

 

「ハロ、この海域の地形データと海流データの算出をお願いします」

「任セロ! 任セロ!」

 

ハロにデータ収集を任せたクロエはセンサーを睨みながら舵をとる。

センサーを見る限り、海軍は予想外の潜水艦を攻撃目標にしたのかゆっくりと回頭を始めている。

 

(まずいですね。この辺りは水深が浅いので潜って逃げるのは難しいですし・・・)

 

潜水艦は何処からでも魚雷で攻撃出来ると思われがちだが実際には攻撃可能深度というものがあり、その範囲でしか攻撃できないのだ。

あまりに深いと水圧で発射装置が故障し、仮に発射できても魚雷自体が圧解してしまう。

 

つまり攻撃可能深度よりも深く潜れば捕捉されても魚雷は届かないので逃げる事ができる。

だが運悪く、水鏡がいる海域は大深度でも攻撃可能深度なのだ。

 

「攻撃来タ! 攻撃来タ!」

「雷撃防御!」

 

海軍は悩む暇すら与えてくれず、魚雷を放ってきた。

 

クロエはすぐに制御パネルを叩いて魚雷の迎撃にとりかかる。

水鏡の翼の付け根にある発射管が開き、ジュース缶のような丸太の短魚雷が発射されると海軍からの魚雷へと向かう。

双方が衝突コースにのり直前に迫ったところで水鏡の魚雷はバラバラに崩壊し、内部から無数の小型機雷をバラ撒いた。

 

次の瞬間、海軍の魚雷が次々と機雷に衝突して大爆発。水を震わして双方にその衝撃波と爆発音が響く。艦体からは軋むような音が響き、水鏡の性能を信じていても不安を感じて止まない。

 

「今度はこちらの番です。飛行爆雷発射用意。弾頭は粒子撹乱と音響を1発ずつ装填ッ!」

「分カッタ! 分カッタ!」

 

ブリッジの眼前の前甲板の一部が持ち上がり、L字状に開く。

そこには人間が両手を広げて余裕がある程の大きな穴があり、またその穴には隙間なくスッポリ納まる金属の塊があった。

 

「撃てッ!」

 

クロエの指示の下、それぞれの座標を指示された飛行爆雷は轟音と共に水鏡から放たれ、海上へと消えた。

 

しかしそれだけでは終わらない。

 

「サイドキック! 反転180°、両舷第三戦速!」

 

艦首の側面にある水中用スラスターに火が灯り、通常では有り得ない速さで水鏡は進路を変える。そして後方に居た艦隊の方へと向くと、先ほどよりも大きな唸り声をあげてエンジンを吹かす。

 

艦隊は自分たちへと向かって来る所属不明艦にも慌てず、次の攻撃の為に潜水艦は魚雷の装填を終え、イージス艦は対潜ミサイルの発射管を開いていた。

しかしそれでもクロエは進路を変えない。

 

「アクティブソナーカット、GNフィールド展開」

 

そして音響センサーのスイッチをOFFにし、水鏡の周り赤色をした光の粒子が広げながら前進し続ける。

これ以上接近されては危険と判断した二隻の潜水艦が攻撃しようとした時、

 

ギィィィィィィィィィィ!!!

 

先ほど海上に出て行った筈の飛行爆雷の1発が二隻の間に墜ちてき、ガラスを釘で引っ掻くような耳障りで甲高い音を海中に轟かす。

 

アクティブソナーで海中の音を拾っていた潜水艦乗組員は鼓膜が破れそうな音に悶絶し、発射寸前の魚雷のソナーは狂ってしまう。

それと時を同じくして、海上ではGN粒子を満載した爆雷が空中で炸裂し、イージス艦のセンサーにジャミングをかけて無力化していた。

 

「今です。両舷最大!」

 

艦隊の目と耳を奪ったクロエは水鏡を一気に加速させ、潜水艦とすれ違いそのまま後ろへと通り抜ける。

 

いち早く復帰したのは潜水艦だったが、水鏡の音は既にはるか彼方にあり追撃することを諦め、残されたのは未だイージス艦を無力化しているGN粒子だけだった。

 

 

 

 

 

016

 

 

水鏡が海軍とひと悶着あった頃。

 

IS学園の第三アリーナの発進カタパルトで一人掃除をしている忍野の姿があった。

彼は千冬から「デンドロビウムで整備室をひと部屋占拠しているんだから学園内の掃除くらい喜んで引き受けるよな?」と、暗に“部屋代を払え”と仕事をさせられているのだ。

 

彼にしては、真面目に掃除をしている時に事件が起こった。

 

 

ガンッ

 

突然、背後から響く硬質な金属音。

それも一つではない、少なくとも3つ分の音が聞こえた。それは自分の足下にもある金属製の床に、金属の脚を持つ“何か”がおりた音だ。

 

この学園において音の正体が何なのか、そんなこと考えるまでもなく分かっている。

 

(今日は会長さんと千冬が不在。仕掛けてくるとは思ってたが、まさか生身相手にISとはなぁ)

 

今は夏休み。生徒の数は減り、お目付役である楯無と千冬はそれぞれ私用で学園にはいない。

そして現在、忍野の専用機であるアルケーガンダムは修理のため手元にはない。

暗殺や襲撃をする為には絶好の日。

 

男性操縦士である一夏と忍野を狙うのは、何も学園の外だけではない。学園内にも二人が居ることを快く思わず、殺そうとしたり、追い出そうと画策している者達がいる。

だが二人の内、片方(一夏)は世界最強、織斑 千冬(ブリュンヒルデ)の肉親。襲撃しようものなら自分達が消されるのは目に見えてる。

 

だからこそ、そういったことを考えている連中は忍野を狙う。

 

(さて、どう出る?)

 

気づいていない風を装いつつ、後ろの様子を探る。

ISが一機であるならば彼は様子見などせずにクラス対抗戦の時のように、挑発を繰り返して相手のペースを崩して冷静さを奪い、油断した所を高火力の一撃で撃破している。

しかし複数機となれは話は別だ。

一人でも冷静沈着な奴が居れば自分のペースに乗せ辛くなりスキが無くなる。油断しても他の奴がカバーすれば手を出せない。

彼は戦術の構築を急ピッチで行い状況変化を待った。

 

すると、鼻腔に突き刺さるような臭いがする。それは学園の訓練機に搭載される標準兵器に染み付いた()()の臭い。

 

「警告なしかよ!?」

 

慌てて飛び退いた忍野。それとほぼ同時にIS用アサルトライフルの炸裂音が鳴り響き、鉛の豪雨が降り注ぐ。

機材などを遮蔽物にするがライフルの弾幕に削られて、防壁としての機能を失うのは時間の問題だ。残された時間で脱出経路を探すが、部屋には襲撃者の後ろにある扉と、自分の後ろにあるアリーナへの発進口しか見つからない。

意を決し、ほんの少しではあるが、弾幕が薄くなった瞬間にアリーナへと飛び出す。

 

しかしそこは地上15mの発進口。ISの無い忍野は重力に従って真っ逆さまに地面へと吸い寄せられていく。

 

(チッ! リミッター強制開放!!)

 

自分の怪異としてのリミッターを緩め人外の力を開放した直後、そのまま地面に衝突し大きな土煙が上がった。

 

 

 

 

「転落死決定!!」

 

発進口から降下してきた一機のIS。操縦士の顔はバイザーに隠され表情は分からないが、その声は随分と明るく、それが底知れない恐ろしさを感じさせる。

 

彼女は忍野が死んだと思っており、土煙のすぐそばまで接近していた。それも当然だ。飛び降りたのはビルの5階に相当する高さで、しかも頭から地面に落ちたのだ。普通なら潰れたトマトになっている。

 

だが、

 

「散魂鉄爪!」

「!?」

 

土煙を飛び出して両手の指を突き立てるように襲いかかる忍野。油断していた襲撃者は突然の反撃に反応できず、棒立ちだった。

しかし忍野の反撃は呆気なく他のISに蹴り飛ばされ、防がれてしまった。

 

「ガハッ!?」

 

受け身もとれず、何度かバウンドして地面に転がされる。よっぽどのパワーで蹴られたのか、口からは見過ごせないレベルで血を吐き出した。

 

「油断してんなよ」

「ゴッメ~ン、まさか素手で挑んでくるとは思わなくて」

「本当、男は野蛮ねえ」

 

武器を構えたまま降りてくる二人。1人はガサツな雰囲気を漂わす女、もう1人はセシリアとは違うタイプのお嬢様のようだ。

二人は先の者同様、バイザーで顔を隠している。

 

「ゲホッ、野蛮で結構。大した理由もなしに襲撃してくるテメェらよりはマシだ」

「ああ? ゴミが喋んな」

「それに襲撃とは人聞きの悪い。わたくし達はゴミ掃除をしているだけですのよ?」

「そうか、よォッ!!」

 

忍野は言葉が通じないと判断して地面に指を刺すと、畳をぶん投げるかのように地面を引っ剥がし三人の視界を遮った。

 

「ショートカット“八九式十五糎加農”!!」

 

そして瞬時にカノン砲を呼び出し、宙に浮いてる土畳の背後から砲撃を行う。砲弾は土畳をぶち抜いて一機のISに向かうが盾で防がれてしまった。

カノン砲が現れた事に多少なりと表情(と言っても口元だけだが)を変える三人。しかしISではないので自分達の勝利を確信しきっている。

 

「そんな大砲(鉄くず)が効くと思いで?」

「思わねェよ!」

 

言いきるや否や、反撃される前に逃亡する忍野。狙われないようにジグザグに走るがそのスピードは明らかに人間のそれではない。

しかしそんな事に気づきもしない襲撃犯は、二機がアサルトライフルを撃ちながら追いかけてくる。だが狙いを定めれず、弾は一発も当たらない。アリーナの出入口が目と鼻の先にまで迫る。

 

(あともう少し!)

 

このまま逃げ切ろうと思った忍野は、さらに加速しようと脚に力を込めた。

だが、一発の乾いた炸裂音がそれを阻んだ。

 

「ッ!? ガアァァァッ!!」

「ヨッシャ命中!!」

 

あと少しといった所で左脚を撃たれてしまう。弾は貫通したがIS用の武器だ。肉は千切れ、骨は砕かれてしまい、体重を支えれなくなった忍野は抵抗なく倒れ、地面を転がる。

 

見ると後方で追撃に加わらなかった一機がスナイパーライフルをこちらに構えていた。銃口から硝煙が立ち上っている以上、撃ち抜いたのは他の二機ではなくこいつの仕業だろう。

 

「痛ッ! この、クソ餓鬼がァ!」

 

悪態はつくが、脚の傷が回復するまでは走るどころか立ち上がることすら出来ない。しかし襲撃者が待ってくれるわけがない。

全員がアサルトライフルを構えてくる。

 

「ショートカット“装甲板”!!」

 

引き金が引かれるのとほぼ同時に。

忍野と襲撃者の間に現れたのは、ISとほぼ同サイズの防護壁。何枚もの合金板を重ねて作られたそれは、ライフルの弾丸をものともせず弾いていく。

 

(今のうちに回復を・・・)

 

そう思った矢先、防壁が破れないと判断した様子の襲撃者のひとりが、ライフルを片付けて新たな武器を展開した。

長方形のコンテナ状の物にグリップ、後ろにある排煙口を見た忍野の表情が青ざめる。

 

(ミサイルランチャー!? いくら何でもオーバーキルだろ!?)

 

どう考えても人間一人殺すのに使う武器ではない。恐らく殺した後、遺体を処分するために持ってきた物だろうが今は関係ない。

 

「さあ、カーニバルだよ!!」

 

理解に苦しむかけ声と共に、次々とミサイルが放たれる。

ライフルの連射には耐えれても、ミサイルの連射には耐えれず、装甲板は爆発音と共に削れ、徐々に薄く、そして脆くなっていく。

 

「仕方が無ェ!」

 

何かを決心した様子の忍野。

ポケットからピンポン玉サイズの紙玉を三つ取り出すと、腕を大きく振りかぶって地面に叩きつけた。

紙玉は地面にぶつかった瞬間、凄まじい量の白煙を吐き出して忍野を包み、その姿を覆い隠す。

 

「煙幕? 小癪な!!」

「逃げ場はないわ!!」

「男はおとなしく死になさい!!」

 

最初は煙幕に紛れて逃走するかと警戒したが、ハイパーセンサーで確認すると忍野がまだ煙の中にいることが見て取れる。

襲撃者たちはありったけの弾丸とミサイルを白煙に撃ち込む。例えどれだけ早かろうと、防壁が堅かろうと煙幕の中に逃げ場はない。

 

炸裂音と爆裂音がアリーナから消えたのはそれから2分も経った後。

 

「さて、まだ生きてましたら首でも斬り落としましょうかね」

「お、いいねえ。なら私は○○(ピーー!)を斬りたい!」

「・・・下品よ」

 

IS用ブレードを手に持ち、物騒な事を言いながら笑う襲撃者。しかし誰ひとりとして本気にしていない。

総量から考えればイージス艦を沈めれるだけの火力に匹敵する攻撃。安否どころか遺体が確認できるサイズで残っているかも怪しいレベルだ。

だからこのブレードは使う事がない、そう彼女達は思っていた。

 

 

 

017

 

 

ほどなくして爆発と煙幕で生じた煙が晴れていき、そこに居たものに、襲撃者は驚愕した。

そこにあったのは蜂の巣になった死体でも、細切れになった肉片でもなく、赤黒い装甲の魔物だった。

 

「どうなってるのよ!?」

「何で、あいつ専用機は無いはずじゃ!?」

 

姿形は間違いなく寸分違わずアルケーガンダム、しかしその装甲は闇を吸い込んだかのように黒みを増していた。

額に手をやり頭を振る仕草は怒りなのか呆れなのかは分からない、しかし隠しようないほど殺気が溢れ出ている。

 

「本当にまァ、やってくれちゃったよなァこの小娘共。そしてーーー」

 

悪魔のツインアイが赤く輝き、ISを纏った襲撃者たちをその眼に捉える。

 

「敵を前にしてお喋りたァ随分と余裕だなァッ!!」

 

黒いアルケーは右手に握った大剣を引き摺るように、前傾姿勢で一気に()()寄る。

想定外の専用機に反応が遅れた1人がすぐさま大剣の餌食となった。

逆袈裟斬りで吹き飛ばされアリーナの外壁に衝突して動かなくなってしまった。

 

「まず1人!!」

 

一人を潰した忍野はすぐに次の相手に狙いをつけ、地面を抉りながら強引に向きを変える。

 

「このッ!」

 

狙われた彼女はすぐにブレードで忍野に斬りかかる。が、技量差から簡単に弾かれてそのまま胴体に回し蹴りを喰らい、地面に倒された。

 

「死ねよオラ!!」

 

そんな怒声が聞こえた方を見ると、狙撃で脚を撃ち抜いてきた襲撃者が味方がすぐそばに居るにも関わらず、ミサイルランチャーを構えている。

よほど頭に血が昇っているのか、それとも最初から仲間ではなかったのか。

どちらにしても、

 

「奇襲すンなら声出してンじゃねェよ!!」

 

忍野は飛来したミサイルを剣の側面でぶん殴り、無理矢理その軌道を変える荒技をやってのける。

 

「ち、畜生ッ!」

 

それを見て勝てないと判断したのだろうか、ミサイルを撃ってきた襲撃者はそれまでの強気な態度を一変させ、自分だけ逃げようと発進口へと後退しようとしていた。

 

「逃がしゃァしねェよォッ!!」

 

忍野は最初のひとりが落としたIS用ブレードを拾うと、

 

「ソォラァッ!!」

 

背を向けている狙撃犯に投げつける。

空気を切り裂いて亜音速で飛翔するブレードは、一瞬で訓練機に突き刺さり、そのままアリーナの遮蔽シールドに訓練機を叩きつけた。

衝突のショックで気絶でもしたのか、それともシールドエネルギーが全損したのか、墜落した女は訓練機に吐き捨てられたかのように機体から落とされた。

 

僅か1分足らずで形勢逆転。

 

「さァ、あとはテメェだけだァ」

「ちょ、ちょっと落ち着いて、話し合おうよ、ねえ!」

 

両手を挙げて戦意がない事を示そうとする、蹴り倒されていた女。

バイザーの下から涙が流れ、唇は恐怖からか小刻みに震えている、よっぽど恐ろしいのだろう。

 

「ごめんなさい、先輩たちに脅されて、だから私は・・・」

「・・・・・・」

 

女が語る懇願ともとれる謝罪の言葉を、忍野は値踏みするような表情で話を訊き、切りの良いところで突きつけていた大剣を肩に担ぐと女に対して背を向ける。

 

「許して、くれるの?」

「あぁ許してやるから俺の気の変わらねェうちにサッサと消えな」

 

ぶっきらぼうな言い方ではあるが本当に許すつもりならしく、その声色は比較的穏やかになっており、殺気も納めていた。

 

「あ、ありがとう・・・」

 

震える声で俯きながらISを立ち上がらせると、

 

「甘いよ!!」

 

口元を劣悪に歪め、訓練機用のパイルバンカーを展開する。

シャルロットの専用機に搭載された物とは違い、単発式ではあるがそれでも高クラスの威力を持つ武器。

 

炸薬の白煙を上げてバンカーが放たれた。

手応えあり、と女は横倒しの三日月のように口を歪める。この距離で一発とは言えど、直撃を受けたのでは専用機でもただでは済まない。

 

しかし、

 

「え?」

 

バンカーの先端はアルケーには当たらず何かに防がれており、女は唖然と言った声を出してしまった。

 

 

攻撃を防いでいたのは剣でもなければ盾でもない。

 

エネルギー体のような、しかしISの装備では絶対に有り得ない禍々しい巨大な“手”のような物が、バンカーを掴み防いでいた。

 

「何、それ?」

「ガキが知る必要はねェよ。それに言っただろ?」

 

巨大な手は掴んでいたバンカーをそのまま握り潰して破壊し、

 

「俺の気の変わらねェうちに消えなって」

 

その言葉と共に握った巨大な拳を目の前の敵にぶつけた。

 

 

 

018

 

 

「これで終わったようだな」

 

辺りを見回して敵の姿を、いや気配を探る忍野。けれども攻撃して来ようとするような気配は感じられず、ひと安心する。

 

「やっと釣れたと思ったら小物だしよぉ、こいつらじゃ海老(エサ)になんねぇし。あぁあ、いつになったら(本命)は釣れるのやら。とりあえず記憶を喰っとくか」

 

気を失って地面にのびている三人を一ヵ所に集めると、それぞれの頭に数秒ずつ触れる。

 

それが終わると役目を終えたかのようにアルケーの装甲が透け始め、オーラのような不定形のエネルギー体に変化。それは忍野の身体に吸い取られるように消えていった。通常のISとは思えない解除方法だが、それに異を唱える人物はそこにはいない。

 

装甲が消えた後に残った忍野。撃たれた脚は完治していたが、髪の一割ほどが“白く”なっていた。

 

「はぁ、また白髪になっちゃったよ」

 

自分の白く色落ちした髪を弄りまわしてため息を吐く忍野。普通、自分の髪が突然白くなれば慌てるはずたが、彼はそれが分かっていて、そして避けようがないことだと理解していると言わんばかり軽いリアクションだった。

それから自分が飛び降りたのとは別の、対角にある誰も居ない()()の発進口に向き直る。

 

その瞳は月のように明るい金色ではなく、夕焼け空のような(オレンジ)色に輝いていた。

 

「随分と元気のいいなぁ。何かいいことでもあったか?」

 

しかし返事はない。

聞こえてくるのは風の音だけだ。

 

(だんま)りか。まぁいいや、俺は何も知らないからこの子たちを片付けておけよ」

 

忍野は地面に転がっている訓練機と、そこから放り出された女子生徒を捕まえるそぶりもなく、アリーナを立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ」

 

誰も居ない()()の発進口で舌打ちを漏らし、自分を睨み付ける人影を残して・・・。

 

 




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らんスネイク 其ノ壹

001

 

~一夏サイド~

 

IS学園第二アリーナ。

 

日はすでに紅く傾き、反対の空はすでに夜へとなっている。夏休み中というのもあり元々利用者が少なかったアリーナは、現在は一組の男女だけが利用していた。

 

「ちょっ、ちょっと待てって!?」

 

サバーニャを纏って空中を逃げ回る俺。

それを追い回す甲龍。それを纏っている鈴は鬼気迫る表情だ。

 

「ぜらぁあっ!」

 

手に握ったGNピストルのブレードと、鈴の青龍刀で鍔迫り合いになり、刃の間から火花が生じている。

 

「止めろ鈴!!」

「良いから黙って気絶しなさいッ!!」

「出来ない相談だよ! ピストルビット!」

 

展開されていたビットの砲口が自分に向くと、鈴はすぐに距離を置いて砲撃体制にはいった。手数の上で不利なのは百も承知、だったらその手から壊せばいいという短絡的で確実な方法だ。

 

「シールドビット展開!」

 

腰のアームユニットから10枚の“動く盾”が分離され、甲龍に体当たりを仕掛けていく。

 

 

さて、何故こんな物騒な事になっているのか。

 

 

002

 

 

その日、俺は自宅に帰っていた。

家と言うものは外装はともかく、内装は生きているのだ。長期間人が居なくて締め切った状態が続くとホコリが積もり、空気が腐ってよどみ、内装をダメにしてしまう。

そうならないように、定期的に掃除と換気をしに来ていた。

 

「お前様、二階の廊下掃除は終わったぞ」

「おう、サンキュー」

「なに礼には及ばぬよ。報酬にミスタードーナツをたらふく食べさせてくれるとあらば、雑用の一つや二つ、どうと言うことない」

「ちょっと待て、“たらふく”なんて言ってないぞ。報酬の値上げをするな」

 

掃除を手伝ってもらってる手前、あんまり強く言えないがサラリと自分に都合のいいようにすんのやめろよ。油断も隙もあったもんじゃない。

・・・にしても怪異の王といわれた伝説の吸血鬼が、今じゃドーナツ目当てに掃除を手伝う幼女って。

世の中わからないものだな。

 

「しかし今回は“食事”のタイミングが良かったよ。おかげで大助かりだ」

 

忍は俺の影に封じられているので影の出来る範囲でしか行動できない。ペアリングによって縛られ、影より外に出れないのだ。

 

しかし例外もある。

食事、つまり吸血直後はある程度までは影から出て行動できる。イメージとしては充電式の電子機器だ。普段は有線で、コンセントから電気を使ってるが充電後はバッテリーの電気を使うのでコンセントから離れても動く。

そして吸血の量によって差はあるが、いつもの“食事”であれば50m前後は自由に出歩けるので普通の一軒家なら何処へでも行ける。

以前、弾の家に遊びに行ったときに蘭が忍を、俺の居る部屋から連れ去れたのはこれが理由だ。

今回はそれを利用して忍には床の掃除をしてもらってるだ。

 

・・・と言うより、今の忍はいつもと変わらない幼女姿なので棚の上や、キッチンなどには手が届かない。スペックも子供なので重い物を運ばせることは出来ないし、なれの果てとは言え吸血鬼、庭の草むしりなんてもってのほか。

結局、安心して任せれるのが床掃除くらいしか無かった。

 

何でこんな時に限って千冬姉に捕まってんだよ、忍野の奴。

 

「それはあの小僧がアリーナをメチャクチャにしたからであろう」

「確か、三組の片瀬さんが開発した新兵器の実験で大失敗をしたって言ってたっけ。どうも胡散臭いけどな」

「まあ嘘じゃろう。アリーナだけならともかく、発進口までボロボロだったそうじゃからな」

「だとすると何があったのか」

「それこそ本人に訊けばよかろ?」

「本人かあ・・・。忍野、生きて帰ってくるかな?」

「それは・・・、お前様の姉上のみが知る、じゃな」

「・・・・・・」

 

後で骨を拾ってやるか。

 

 

003

 

そんなこんなで掃除が終わった。

 

最後に戸締まりを確認した後、学園に帰ろうと(自宅に帰ってきてるというのに『帰ろう』という表現は変な話だが)玄関から外に出たのだが。

すると、車がすれ違えない程の道の向こう側に、何をするでもなく立っている男がいた。

最初はどこかで見たような男だと思った。

しかし、知り合いにこんな男はいない。

葬式の帰りのような喪服のごとき漆黒のスーツに色の濃い黒いネクタイを締めた、壮年の男だった。見るからに怪しいというか、とても不吉な男が。

 

「ああ、すまない。名乗り忘れたな。見ず知らずの人間に対するその警戒は酷く正しい、大切にするがいい。俺は貝木(かいき)という」

「カイキ?」

「そう。貝塚の貝に、枯れ木の木だ」

 

喪服の男、貝木は、表情を変えることなく、しかし不機嫌そうな態度で、俺のほうを横目で見るのだった。

 

やはり、どこかで見たような男だ。

誰かと似ているのか。だとすれば、誰と似ているのだろう。

 

「・・・俺は織斑です」

 

名乗られてしまっては仕方ない、黙っていては礼儀知らずになってしまう。

 

「漢字はーーー」

「そこまで説明しなくていい。それはそこの表札に書いてある名だ」

 

確かに。

そうでなくても千冬姉が世界最強になっているから漢字を読めない外国人ですら、“織斑”を読めるほどに有名になってる。

知らない方が珍しいくらいだ。

 

「あの、(ウチ)に何かご用意ですか?」

「ふむ。お前は最近の若者にしては礼儀正しいが少しばかり軽率だな。俺が悪事を働こうとしていたとしたら、お前の外出を確認していたとも考えられるはずだ。ただし、それは俺が悪事を考えていたとしたらだ。この家にも特に用があったというわけではない」

 

ただし、と。

貝木は上がり下がりのない重い口調のまま続ける。

 

土御門(つちみかど)の飼い犬がここで暮らしているという話を聞いてしまったのでな。小銭稼ぎのために様子を見てみようと思っただけだ」

 

土御門の飼い犬?

一体誰のことを差して飼い犬と呼んでいるのか。俺は違う。

千冬姉のイメージなら、狼だろうし。

忍野なら、狂犬。

誰も当てはまらない。だとしたら両親か?

 

「しかし無駄足だったな。どうやら長期不在のようだ。残念ながら、金にならん。今回の件から俺が得るべき教訓は“金は搾れる時に搾れ”ということだ」

 

そして貝木は、用済みだとばかりに(きびす)を返してすたすたと、早足でこの場を去っていった。

 

「えっと・・・」

 

貝木の姿が見えなくなって、俺は思い出した、というより過去に僅かながらも同じような雰囲気を放った者を連想した。

 

忍野 仁を、連想した。

怪異の専門家、忍野仁。

 

「いや、あのだらしない忍野とじゃ、全然違うんだけどな。それよりはーーー」

 

それよりはむしろ、と忍野の他のもう一人脳裏に浮かんだ人物。

忍野よりも貝木というあの男から連想したあの狂信者。

 

「ギロチンカッター・・・」

 

それは思い出したくもない名前で、忘れてはならない名前。

 

「・・・まあ、忍野とギロチンカッターも全然違うタイプだけど・・・」

 

共通点などほとんど皆無だ。

貝木を含めてもそうである。

こうなってしまうと、逆にどうして貝木から忍野とギロチンカッター、あのふたりを連想してしまったのか、不思議なくらいだった。

 

「追うか」

 

そう思ったが、俺は真っ直ぐに学園への帰路に就いた。直感だが、何だかあの男と関わるのはまずい気がする。縁起の悪い、辛気臭い喪服。

しかしそれは、そんなレベルではなく、ただ不吉なのである。

 

不吉。

 

それは凶という意味だ。

 

 

004

 

 

「・・・鈴、それ真面目にやってるの?」

「至って真面目よ」

 

学園に戻って来た俺は、以前から鈴に頼まれていた射撃訓練をしている。ISに標準搭載されている射撃管制システムをオフにして手動照準で的を撃つ練習だ。

結果は見るも無惨、頭を抱えたくなるほどだった。

 

因みに使っているのは手持ち形態にしたGNピストルビット。エネルギー火器は実弾火器と違って発砲の反動が少ないく、重力や空気抵抗を受けないから練習にはちょうどいいと考えたからだ。

しかし、どう見てもいらぬ気遣いだったようだ。

 

「当たったのが10発中2発で、掠っただけって・・・」

「じゅ、銃が悪いのよ!」

「よくそれで砲弾の見えない大砲を撃てるよな」

 

的は動いておらず、ISのサポートで手ブレによる撃ち損じはないにも関わらずこの有り様。壊滅的、もはや呪いのレベルだ。

そもそも鈴は銃を撃つ時に的を狙っていない。いや、的の方向は見ているが、攻撃目標を狙ってない。

カメラで例えるなら鈴の狙い方は、的にピントを合わせずに的を含めた風景にピントを合わせている。

 

(確かにこれなら大砲をバカスカ撃つ分には問題ないが・・・)

 

表情には出さないが、呆れ顔をしてしまいそうになる、鈴の大雑把な性格が極端に出ている結果だった。

よくこれで軍事訓練があると言われる専用機持ちになれたと感心する。

 

「これなら(だん)の方が上手いぞ」

「そんなに酷い?」

「小学生の射的(しゃてき)の方がまだ命中率がいいな」

「グハッ!」

 

打ちひしがれる鈴。

さすがに可哀想なので何か別の話をしよう。

 

俺はここで大きなミスを犯した。

 

「そういえば今日帰ってくる途中で変な奴を見かけたんだ」

「何? 忍野がホームレスでもやってたの?」

 

いくら印象深かったからと、インパクトがあったからと言って、あんな奴の話をするべきではなかったのかもしれない。

 

「変な奴っつーか、不吉な奴なんだけど」

「不吉?」

 

不吉は不幸を喚ぶ。

ただ会話をしていただけなのに、あの男の話をしていたら不幸(向こう)からやってきた。

“不吉”と言ったところから鈴の雰囲気が変わった事に気づけなかった俺も悪いのかもしれないが、それを含めて不幸だ。

 

「名前は確か、貝木って言ってたっけ?」

 

次の瞬間。

俺が見たのは眼前に迫った甲龍の拳だった。

 

 

005

 

そして冒頭へと戻る。

 

すでに甲龍の衝撃砲は破壊判定により使用できなくなっているが、鈴の猛攻は、いや突進は止まらない。

周囲を飛び回るピストルビットからの射撃を回避か、青龍刀の側面を盾にしてダメージを減らして向かって来る。

 

近くに居たシールドビット(正式名称はホルスタービットだけど、もう癖でシールドと呼んでしまう)から、GNピストルビットのアタッチメントを呼び、今握っているピストルビットの先端に取り付ける。

 

「狙い撃つッ!」

「ッ!? このぉッ!」

 

ライフルビットによる狙撃で甲龍の腕部を破壊判定にして青龍刀を弾き飛ばす。しかし鈴は止まらず徒手で襲いかかってきた。

けど、

 

「よそ見をし過ぎだ!」

「きゃあっ!?」

 

上空からシールドビットを積み木のように組んで襲わせ、地面へと甲龍の動きを抑え込む。

流石の甲龍のパワーでも、軍用機の攻撃に耐えうるビットの檻に捕まっては身動きがとれず、地面に強制着陸させられた。

 

「貝木って男」

 

一夏は慎重に、鈴の表情を伺いながら、暴れだした理由になったであろう貝木の事を訊く。

 

「鈴の知り合いなのか?」

 

バツの悪いような、不機嫌そうな表情をしてそっぽを向く鈴。答えたくないのか、それとも言葉を選んでいるのか彼女の目はせわしなく動き続けていた。

しかし諦めたかのようにため息を吐いてから言葉を紡いだ。

 

「貝木 泥舟(でいしゅう)。その男の名前よ。貝木なんてそうある名前じゃないし、それに不吉だっていうなら間違いないわ。あれほど不吉という言葉が似合う男を、あたしは他に知らない」

「・・・・・・」

「ごめんなさい、いきなり攻撃したりして。でも一夏にはあの男に関わって欲しくないの」

「どういう奴なんだ? あんなオッサンとの接点が分からないんだが」

「貝木は、詐欺師よ」

 

吐き捨てるように、口にするのも忌々しく思うかのように言う鈴。

その詐欺師とどんな関係なのだろうか?

 

「前に言ったわよね。両親が離婚した理由が詐欺にあったって。貝木がその時の詐欺師よ」

 

なるほど。

貝木と鈴の接点はそれか。詐欺師とその被害者、鈴の荒れようも分からなくはない。

分からなくはないが、俺を気絶させようとするのは酷くないか?

 

「・・・もしも貝木があの町に引っ越して来たんだったら?」

「そのときは・・・」

 

少し考えるような表情をする鈴。

考えてなかったのかよ。

 

「一夏は自宅に帰らず一生学園で過ごす」

「ちょっと待て中国娘」

「それか、貝木を殺すか」

「いやそれダメだろ」

 

短絡的過ぎる!

生かすか殺すかの二択、って俺を学園に閉じ込める気だったのか!?

 

「そうよね。じゃあ、貝木をパチンとするか」

「パチンって! 可愛い擬音で表現しても駄目、駄目なものは駄目!!」

 

考え方が物騒だよ!

 

「大体、貝木って男はどんなーーー」

 

通信が入った。

サバーニャにリンクさせていた携帯電話からの着信で、モニターに表示するとそこには“五反田 弾”と出ていた。

 

『おう一夏。今大丈夫か?』

「ああ、大丈夫だけど・・・。何かあったのか?」

 

てっきり遊びの誘いかと気楽に思っていたが、聞こえてくる弾の声は怒気を孕んでおり、何やら切迫した様子だった。

 

『鈴が今どこに居るか知らねえか? あいつ電源を切ってるぽいから電話が通じねえんだ』

「鈴なら目の前に居るけど・・・」

『ならすぐに変わってくれ、今すぐにだ!』

「お、おう。すぐ変わる」

 

一旦、通話を保留にしてから通信回線を切り換えて甲龍に繋いだ。回線を繋がれてた事が気に入らないのか、それとも今捕獲されてる事が気に食わないのか、鈴は不平不満がありますって言った顔をしている。

不平不満を言いたいのはこっちだ。

 

「・・・人のISに電話回線を繋ぐの止めなさいよ」

「ごめん。でも弾から電話だ、それも緊急っぽい」

「・・・・・・」

 

仕方がなしに、嫌々といった様子で電話に出る鈴。

この時、弾からの電話はサバーニャを経由する形で甲龍に繋がれており二人の会話は筒抜けだったのだが、今回だけは人の電話を盗み聞きできて良かったかもしれない。

 

「もしもし? 今忙しいから後にーーー」

『鈴ッ!! テメー、人の妹に何を教えたッ!?』

 

聞こえて来たのはいきなり威圧するように怒鳴りつける弾の声。

電話越しで友達を、ましてや女の子を威圧するほどにまで彼を怒らせたのは何かと。勝手とは言え内容を聞いていた以上、弾を落ち着かせようと思った。

 

けれども彼が激怒している理由が聞こえた時、俺と鈴は顔が真っ青になった。

 

『テメーのせいで、蘭が倒れたんだぞ!!』

 

 

 

006

 

あの後、蘭が倒れたと聞いた俺と鈴は、すぐにアリーナを出て外泊届(時間的に門限までに戻れないから)を提出して二人で五反田食堂に向かった。

なおこの時、俺達が外出するのを見ていた生徒がデートに出掛けたと噂して大騒ぎになったらしいが、この際どうでもいい。

 

到着早々、出迎えた弾は今にも掴みかかり

うな表情だったがさすがに手を出さず、家に入れてくれた。

 

「弾。蘭の様子はどうなんだ?」

「お袋が看病しているよ。今も熱にうなされているよ、誰かさんのせいでな!」

「・・・・・・」

「と、とりあえずお前の部屋で話そうぜ。な?」

「チッ、早くしろ」

 

重苦しい雰囲気のまま、弾の部屋に通される。しかし部屋に着いてから鈴は俯いたまま、弾は鈴を射殺(いころ)すかのように睨みつけたまま、一向に声を発さない。

 

「それで、いったい何があったんだ?」

 

話が進まないうえに、プレッシャーに耐えきれなくなった俺はどちらも刺激しないように、可能な限り穏やかな声色で双方に(たず)ねる。

 

「一夏。今、中学生の間で何が流行っているか知ってるか?」

「流行りなんて、今回の件に関係あるのか?」

「それが大いに関係あるんだ。しかも表立って流行するヤツじゃなく、イジメみたいに裏で流行るヤツだ」

 

訊くからに不穏な内容だ。

しかし裏で流行っているものってなんだ?

カツアゲなら古今東西関係ないし、不幸の手紙なんて古い。そして今上げた例は中学生に限定されない。

 

「勿体ぶらず教えてくれ」

「それがな~、どうも信じられないんだが、“おまじない”・・・なんだとさ」

「おまじない?」

 

おまじないって、“何々すれば良いことがある”とか言うあのおまじない?

その位なら大して問題にはならないだろうけど。

 

「ああ。何でもその“おまじない”が流行ったのが原因で人間関係が悪化してるらしいんだ。誰が誰のことを好きか、誰が誰のことを嫌いか、誰が誰のことをどう思っているか、誰が誰のことをどうしたいか。そう言った個人情報どころか、心の内に秘めるはずの情報が際限なく広がったらしい」

 

自分が他者をどう思っているのか、また他者が自分をどう思っているのか。そんな事が知られれば、人間関係が悪化するのは必然だ。

そして、そう言った悪意や負の感情に関係する話は信じられない速度で広まる。

 

「でだ、蘭の奴は自分が生徒会長だからって言ってな、正義感から“おまじない”の撲滅をはかろうとしたんだ」

「要点はわかったけど、それが蘭が倒れるのとどう関係があるんだ? まさか過労ってわけじゃないだろうし」

 

色々と考えを巡らせばていると、

 

「あたしのせいよ・・・」

 

それまで沈黙を続けていた鈴が口を開く。その声は責任を感じているような、彼女にしては有り得ないほど、消えそうな静かなものだった。

 

「蘭に頼まれて、“おまじない”の調査に協力したの・・・」

「調べたところで“おまじない”の撲滅なんて出来るわけないだろ。所詮、噂の類なんだから自然に収まるのを待つしかない」

「そうでもないのよ。調べていくと流行っているのは悪意系の“おまじない”ばかりで、明らかに偏向が、人為的作意があったのよ。噂の鎮静化をしようとした私達は結果的に犯人の尻尾を掴む手掛かりを手に入れたのよ」

 

鈴が一枚噛んでいる事に少しだけ驚いたが、あの二人はよく一緒に居たのでそれほど不思議ではなかった。

 

「で。蘭が突き止めたその“犯人”に直談判(じかだんぱん)して、()()()()()ってわけか?」

 

弾の責めるような口調にうなだれる鈴。

どれだけ憎まれ口を言われようと、弾は兄として、家族として、蘭のことを大切に思っている。だからこそ、今回のことにここまで怒りを露わにしてるのだろう。

 

「あたしは止めたわよ・・・、情報を渡した時に。“絶対に一人で行っちゃダメよ。日を改めて、人数を集めてからじゃないと負ける”ってね。その時は渋々頷いてたけど、勝手に動いたなんて・・・」

「・・・・・・」

「弾。今の話を聞く限りここで鈴を責めるのは酷じゃないか」

「・・・そう、だな」

「それで鈴、“犯人”はどんな奴なんだ?」

 

弾の怒りの矛先を鈴から完全に外すために、犯人の名を訊ねた。

そして語られた犯人の名は、

 

「・・・貝木 泥舟。不吉な詐欺師よ」

 

007

 

しばらくは五反田 蘭の話。

と言っても、俺が弾の話を聞いた上で想像した場面回想なので、実際とは少し違うのかもしれない。

 

俺が家の掃除をしている頃、五反田 蘭は自らの通う私立女子校、聖マリアンヌ女学院の近くにあるカラオケボックスを訪れていた。

中学生の間に流布(るふ)する“おまじない”の発端であるらしい“犯人”を、鈴の協力を得てついに突き止めた。

しかしこの時、犯人の存在の情報を受けた蘭は鈴の警告の言葉を無視し、ひとりで対峙していたのだ。

 

「絶対に弾と一緒に行きなさいよ!!」

 

と忠告され、それを聞いてはいたが、弾の予定を待っていられるほど彼女は我慢強くなかった。

 

「ようこそ、お嬢さん。俺は貝木。貝塚の貝に、枯木の木だ。お前の名前を聞こうか」

「五反田 蘭です」

 

カラオケボックスの個室で待ち構えてした、喪服のようなスーツ姿の男に対して、蘭は正々堂々と名乗りをあげた。

 

「数字の五、離反の反と田んぼの田、蘭です」

「いい名だな。親に感謝しておけ」

 

特に感情を感じさせない、重い口調。

蘭は一瞬気後れしそうになったが、しかしすぐに気を引き締める。

 

「それで、お前はどちらだ。“おまじない”を教えて欲しいのか、それとも“おまじない”を解いて欲しいのか。前者なら一万、後者なら二万だ」

「どちらでも無いです。私は貴方を警察に突き出しに来ました」

 

この時、蘭は自分がひとりで来たことが間違いであることに気づいていなかった。

自分は武器を持っているし、個人的には嫌だが世間は女尊男卑であるから中学生の自分が通報してもイタズラ扱いされない。

だから貝木に必ず勝てると信じていた。

 

「警察。ほう、つまりは俺を嘘のメールで呼び出し、罠に嵌めたというわけか。なるほど見事な手際だ。最もお前だけの手柄とは思えないな」

「・・・ええ」

「ならば誰の手柄か教えーーーてくれはしないだろうな。そうはいない筈なんだ。こうして、俺と対面できるところまで到着するなど、やや常軌を逸している。こちらからではなくそちらから届くなど。少なくとも中学生の器でない」

 

器。

実際に貝木に到達した鈴は中学生ではなく高校生なのだ。代表候補生として使えるあらゆるものを使って調べてた結果と言える。

蘭は今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。眼前の人物があまりにも気味が悪いのだ。

 

「貴方がやっている事は最低の事です。説明しなくてもわかってくれますよね?」

「何が最低だ。俺はお前達が望んだものを売り渡しているだけだぞ。その後は自己責任だろう」

「自己責任?」

 

蘭は嫌悪感を覚え、唇を歪める。

 

「自己責任ですって・・・ふざけないでください! 人間関係を引っ掻き回すような事ばかりして! どういうつもりなんですか!」

「どういうつもり、か。なかなか深い問いだな」

 

貝木は静かに頷く。

 

「しかし残念な事に、俺は深い問いに対して浅い答えを返す事になる。それは勿論、金のためだ」

「・・・か、金?」

「そう、俺の目的は日本銀行券だ。それ以外にはない。世の中というのは金が全てだからな。お前 はどうやら、くだらん正義感でここに来たようだが、惜しい事をしたものだ。その行為、依頼人から十万は取れる」

 

貝木は当然のように、そう値踏みする。

蘭の行動を鑑定する。

 

「今回の件からお前が得るべき教訓は“ただ働きは割に合わない”だ」

「依頼人なんていません! 私は誰かに頼まれてこんな事をしているわけじゃない!」

「そうか。誰かに頼まれておくべきだったな」

「頼まれたとしても、お金なんていらない」

「若いな。決して羨ましいとは思わないが」

 

不吉さはまるで消えない。

カラオケボックスの個室は、この密閉された空間に、不吉が満ちていく。

 

「五反田よ。お前は俺の目的を訊いたな。そして俺は曲がりなりにもそれに応えた。今度はお前の番だ。お前の目的は何なんだ?」

「もう言ったでしょ。貴方を警察に突き出します」

「具体的な方法は?」

「今すぐに通報して逮捕してもらいます」

「国家権力か。俺がその前に逃亡を図れば?」

「その時は、貴方には手荒く眠ってもらってから警察に引き渡します」

「暴力か」

「武力です! そして私は貴方のしている事を止めさせる! 中学生相手にアコギな商売して何考えてるんですか! それでも大人ですか!?」

「これでも大人だ。それにアコギな商売になるのは当たり前だーーー」

 

貝木は誇るように言う。

 

「ーーー俺は詐欺師だからな」

 

「・・・中学生相手に、恥ずかしく無いの!?」

「別に。子供が相手だから騙しやすい、それだけのことだ。しかし五反田よ、俺のやっていることをやめさせたければ、抗議も粛清はとりあえずは無駄だがな。それより金を持ってくる方が手っ取り早い。この件に関する俺の目標額は三百万だ。根を張るまで二ヶ月以上かけている、最低でもそれくらいは儲けがないと割りに合わない」

「・・・貴方、それでも人間?」

「生憎だが、これでも人間だよ。大切なものを命を賭して守りたいと思う、ただの人間だ。お前は善行を積むことで心を満たし、俺は悪行を積むことで貯金通帳を満たす。そこにどれだけの違いがある?」

「ち、違いってーーー」

「そう、違いなどない。お前はお前の行為によって誰かを幸せにするのかもしれない。しかしそれは、俺が稼いだ金で浪費して、資本主義経済を潤すのと何ら変わりがないのだ。今回の件からお前が得るべき教訓は“正義で解決しないことが無いように、金で解決しないことも無い”ということだ」

「・・・・・・ッ」

「俺の“被害”に遭った連中にしてもそうだろ う。連中は俺に金を支払った。それは取引の対価として金を認めたということだ。お前だってそうだろう、五反田。それともお前は、そのバンダナを買うとき、金を払わなかったのか?」

 

蘭は自分の中の激情を抑えきることが出来ず、護身用のスタンガンを取り出す。元は貝木を()()() 眠らせる為に持ってきていたのだが、痛い目に逢わせなければ、この男を痛めつけないと気が済まなくなっていたのだ。

しかし目の前の男はそれを見ても眉一つ動かさない。

 

「いいから結論を出して。あたしに気絶させられるか、それともーーー」

「気絶させられたくない。痛いのは嫌いだ。だからーーー」

 

貝木は不意に動いた。

向かっくるような動きではなく、自然に部屋から出ていくような、日常の当たり前の動作のような動き。

蘭はそれにまったく反応できなかった。

 

「お前には蛇をプレゼントしよう」

 

とん、と。

貝木は左手の、軽く曲げた人差し指と中指の二本で一刺し、蘭の額を

軽く突いたのだった。

 

「・・・・・・・・・ッ!」

 

その場で膝を突くほどの急激な嘔吐感。

疲労感、倦怠(けんたい)感。

 

そして何より、

 

身体が、火照る。

 

熱い、燃えるように、火のように熱い。

 

「がっ・・・あ、ああ?」

効果覿面(こうかてきめん)だな。随分と思い込みの激しいタイプと見える」

 

蘭を見下しながら平然と言う貝木。

 

「今回の件からお前が得るべき教訓は“人を見たら詐欺師と思え”ということだ。人を疑うということを少しは憶えるのだな。俺が許しを請うとでも思ったのか? だとすれば愚かだ。俺を改心させたくば金を積め。一千万円から議論してやろう」

「な・・・何を、した」

 

何をされた。

手には何も持ってなかった。

痛みもなかった。

 

「あたしに、何をした?」

「悪いことだよ。勿論有料だ、金をもらう」

 

貝木は、身動きの取れない蘭の服のポケットから、彼女の財布を抜き取る。

 

「四千円か・・・まあいいだろう。さっきの話の分はサービスしておく。電車代として小銭くらいは残しておいて、ん? なんだ、定期券があるのか。ならば小銭も不要だな」

 

ジャラジャラと、財布をひっくり返して手のひらに小銭を落としていく。

 

「プラス627円・・・そんなところか。無記名のポイントカードも貰っておいてやろう」

 

貝木は数枚のカード類を残して空になった財布を放り捨てる。それから、

 

「少しすれば毒が定着し、動けるようにはなる。携帯を使って助けを呼ぶことを勧めるよ。俺はその間にとんずらするとしよう。勿論、商売は続けさせてもらうが。しかし、直接顧客と会うのは、これからは避けたほうがよさそうだな。いい教訓になった。ではさらばだ」

 

そう言い残して出て行った。

 




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らんスネイク 其ノ貮

008

 

「蛇か・・・」

 

爬虫鋼有鱗目蛇亜目(はちゅうこうゆうりんもくへびあもく)の爬虫類の総称。

円筒形の細長い身体と、その身体を覆う鱗が特徴。

 

そして、毒を持つ種が多い生物。

 

「毒蛇にでも噛まれたって言いたいわけ?」

「いや。貝木が蛇って言っただけで蘭はそんなものは見てないんだと。それらしい傷もなかったし」

「じゃあなんだって言うのよ!?」

「それが分からないからお前に恨み言を言ってから話そうと一夏に連絡したんだよ。俺、忍野さんの連絡先知らない」

「何でそこで忍野が出てくるのよ? しかも“さん”付けで」

「・・・あの人、幽霊とかそういうオカルトに詳しいから、見えない蛇なんてモロにオカルトじゃん?」

「まあ、そうだな。とりあえず電話してみるか」

 

そう思い、普段はあまり使わない番号へと繋ぐ。

しかしいつまで経ってもコールが終わらず、最後にはお留守番サービスへと繋がってしまった。

千冬姉、もしかして()っちゃった?

 

「仕方がない。勝手に調べるか」

「調べるって、心当たりがあるの?」

 

「・・・忍野の部屋」

 

009

 

「いったい何をするのよ。貝木をとっちめればいいじゃない!」

「その貝木って野郎がどこに居るのか分かれば苦労しないだろ!」

「喧嘩するなよ!? 何にしてもまずはその“見えない蛇”の解決だろ!?」

 

何度も言い争いをする鈴と弾を叱りつけること数十回、俺の喉が枯れかかった所で自宅に到着。

数時間前に掃除したばかりの家に上がり、忍野の部屋のドアノブに手を掛ける。

 

「よ、よし開けるぞ?」

「「いや、何で緊張してんの?」」

 

緊張もするだろ。

もし開けて、千冬姉みたいに腐海(ゴミだらけ)にしてたら怖いじゃん!? そうなってたら蛇退治どころか最悪の場合、(ゴキ○リ)退治の幕開けだぞ!?

でもそれならまだいい。最もヤバいのは開けた瞬間、トラップが発動してドッカァーンッだ。それだけは無いとは思いたいが、確信をもって無いとは言いきれない。

 

千冬姉の部屋に勝手に入る(過去にそれをやってボコられた熊のぬいぐるみと酷似した姿にされた)の以上に緊張しながらゆっくりと扉を開ける。

・・・トラップはないようだ。

 

何も仕掛けがなかったことにひと安心してから部屋の中を見て、不気味だと、端的に一言だけ思い浮かんだ。

 

部屋には埃除けのカバーに入れられた布団が一組、そして小さなテーブル。この2つだけなら“不”気味ではなく“無”気味なのだろうが、それ以外の物が異常なのだ。

部屋に張られた糸にはまるで洗濯物を干すかのように何枚もの御札が干されおり、風がないはずなのに微かに揺れている。テーブル付近の床にはいつの時代の物かわからない長方形の木箱が転がっていて、それと一緒に白い粘土の人形も落ちている。

そして俺が目当ての本棚も、やっぱり不気味だ。

棚自体は今時の物だが納められている本が、背表紙がない物や木で出来てる物、果てや巻物までが突っ込んであり、納まりきらない分は床に積まれている。それも無造作に。

 

・・・正直な話、調べようとは思ったがいざ現物を前にするとバカげた事を考えていたと思ってしまう。怪異と関わった今、これらの物がどんな意味合いを持つのか分かってしまうので触るのが恐ろしい。

これらの物が呪われているとは言わないが、何だかこう、言いようのない恐怖がある。

端的に言うなら未知に対する恐怖だ。

 

しかしそんな事を言ってる場合じゃないので勇気を振り絞り、手近にあった一冊を開く。

 

「ここにある“蛇”に関する本をとにかく探すんだ」

「ウゲッ、全部古文かよ」

 

手近にあった一冊を手にとり、ペラペラっと中身を見た弾は、まるで大学の教本を見たかのように嫌そうな顔をする。

無理もない。古文は授業で習ったからと言って読めるようになる代物ではない。そもそも“字”が読み取れないものが多く、内容を知る以前の問題だ。

結局、携帯アプリの古文解読ソフトを使ってタイトルを一つ一つ、虱潰(しらみつぶ)しで読み解くしかなかった。

携帯電話さまさまだよ。

 

万物百科(ばんぶつひゃっか)? 絶対違うな」

「ええっと、図彙百鬼夜行(ずいひゃっきやこう)ってこれマジもん!?」

「こっちには解体新書(かいたいしんしょ)があったわよ」

「いや、蛇の文献を探せよ」

 

「これ何て書いてあるんだ?」

「漢字も読めないの、って英語?」

「ロシア語だな。とりあえず後回し」

 

「これは? 法華経(ほけきょう)

「お経を持ってきてどうすんだ」

「見ろよ、機功図彙(からくりずい)だぜ」

「からくりなんて探してないよ」

「これは・・・、六道阿頼耶呪書(りくどうあらやじゅっしょ)?」

「呪って書いてあるよな? あきらかに危ないやつだよな!?」

「何々? 淀鯉出世滝徳(よどこいしゅつせのたきのぼり)?」

「それは人形劇の演目!」

 

~30分後~

 

「蛇はあったか~?」

「ねえよ、ぶっ飛ばすぞ」

「そんな元気ないくせに」

 

死屍累々。

みんな疲れ果て、諦めモードになっていた。だっていくら探してもそれらしい物がないんだから。

 

「えっと次は、っわッ!」

「何してくれてんのよ!?」

「ああ、めちゃくちゃだ」

 

新たな書籍を取ろうとした弾が、せっかく調べ終わった書物の山を崩してしまった。

なんてこった。どこまで見たから分からなくなっちまった。

 

と、思ったら散らばってページが開いている一冊に蛇らしき物の絵が描かれている。とりあえず手に取り表紙をみると、

 

東方乱図鑑(とうほうみだれずかん)

 

となっていて、開かれていた所から数ページ捲ると“蛇”の文字が書かれているページがいくつもあった。

 

「ビンゴだぜ!」

「見つかったの!?」

 

ようやく見つけた蛇の文献。

そこから“見えない蛇”と“高熱”という条件にヒットするページを探して数分、目的の怪異のページへとたどり着いた。

 

柄蛇(ひじゃく)

 

解説の内容としてはこうだ。

 

安土・桃山時代の怪異。

度重なる戦乱で夫や息子を亡くした女達の怨念が怪異化したもの。刀や槍の(つか)などの円筒形の物が見えない蛇となって持ち主を襲い、噛まれた者は高熱にうなされ続ける。

そして最後には、死に至る。

 

 

「そんな・・・」

「ざけんなよッ!」

「最悪だな」

 

説明を読んで最初に思ったのは、蘭のことよりも、怪異の存在。これまでの俺が経験してきた怪異(って言っても片手で足りる程度だけど)とは全く違っていた。

 

鬼は、自らの意志で人を襲う。

狐は、自他全てを()かす。

猿は、近づく人から掠め取る。

蝸牛は、人が近寄ることで迷わす。

行灯は、領域(テリトリー)に入った人を隠す。

 

だけど今回の蛇はどうだ?

本来、蛇は臆病な生き物で狩り以外では他の生物を襲わない、と、何かの本で読んだことがある。

その事と“怨念”という点で考えられるのは、この怪異が、人為的な悪意によって遣わされる呪術的な類だという事だ。

これまでの経験がまるで役にたたない。

 

こんな事を言ってたら、忍野に呆れられるんだろうけど・・・。

 

「ねえ一夏! 蘭を助ける方法はないの!?」

「そ、そうだぜ! 何か手はないのか!?」

「そう()かされても、って!? あったぞ!」

「「本当!?」」

「解毒じゃなくて症状の悪化を抑える方法だが書いてあるぜ。えっと、毒された者の髪を使った藁人形(わらにんぎょう)を土に埋める。って藁人形!?」

 

マジかよ、って思ったが説明が書いてあった。

昔からある民間伝承で、蟲や植物の毒に侵された時は身体を土に埋め、その毒を大地に流して浄化するという治療法があるそうだ。

怪異の毒に対しては毒された本人ではなく身代わりとして人形を埋めることで同じ効果を得られるそうだ。

 

医療技術の進歩した現代では迷信のされる解毒法だが、迷信の中から産まれる怪異の毒には効くようだ。

 

「思いっきり呪いのアイテムじゃない!!」

「藁人形だな? すぐに作ってくるぜ!」

「「行動はやッ!?」」

 

いつもの弾にしてはまず有り得ない速さで部屋を出て行った。妹である蘭のことが心配なのはよく分かる。

分かるが・・・。

 

「ここに藁も作り方の冊子もあるんだけど」

「そもそもこの辺りで藁って穫れた?」

 

もう少し周りを見ようぜ。

 

 

010

 

 

結果から言えば、柄蛇の毒を完全に取り除くことは出来なかった。

上がり続ける高熱は下がりこそはしたけど未だ高いままで完治とはほど遠い状態だ。それでも40度越えの熱が38度台に落ち着いたことで、待ち受けていたであろう最悪の結末は、辛うじて回避できた。

 

このまま貝木の捜査にのりだそうと鈴はごねたが、辺りはすっかり暗くなっている上に、手掛かりがないので今すぐに動いても無駄骨になるという結論になり、弾は家に一旦帰っていった。

 

鈴は学園に戻ろうとしたけど既に終電になっていたので、“ウチに泊まるか?”と訊いたら凄くキョドった後にビジネスホテルに泊まると逃げていった。なんでだろうか?

 

そして俺は一人で自宅に戻り、荒らしてしまった忍野の部屋の片付けをすることにした。

その途中であることを忍に質問する。

 

「忍、あの柄蛇って怪異の毒。お前に喰えるか?」

『残念ながら。あの高熱はただの結果じゃからのう、蛇そのものは美味しく食えても、蛇に噛まれた結果なぞ食えんよ』

「やっぱりな」

 

熱がひいただけで解毒が完全でない以上、いつぶり返すか分からないので出来れば忍に毒を食ってほしかった。しかし影からの返答はある程度予想していたもので、完治させるのは無理そうだ。

だが毒の件が片づくと、最初から気になってはいた案件が浮上してくる。

 

「でも貝木って奴は何者なんだろう? ただの詐欺師が、怪異を(つかさど)るなんてどう考えてもマトモじゃないし」

『かかっ。マトモじゃないのは確かじゃな。マトモではない、つまり人を外れた半人前、これはまっこと愉快じゃ』

「愉快でも誘拐でもないだろうに。あれ?」

 

忍のくだらない言葉あそびに相づちをうっていると、持っていた古書の一冊から一枚の紙がすべり落ちた。

どうやらしおりのように挟まれていたようで、拾って裏返してみると、それは古ぼけた写真であった。

 

そこには忍野が軽薄な笑い方をして立っており、その他にも人が映っている。

まずは一方的に忍野と肩を組んでいるように見える金髪にグラサン、無精ひげを生やしたアロハ姿のチャラそうなオッサン。

そして濃藍(こいあい)の長い髪を束ねた、少したれ目ぎみのメイド服の女性。

三人に囲まれている薄い茶髪に赤みの強いつり目の、勝ち気そうな笑顔を向けて忍野と手を繋ぐ女の子。

 

民家を背景に女の子を中心にして撮影した記念写真、と思われるその一枚。

何か引っかかりを覚えたがその正体が分からず、俺は写真を本のページに戻した。

 

この写真が、今後なにを意味するのかも知らずに。

 

 



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らんスネイク 其ノ参

011

 

「貝木に会いに行くわ」

 

翌日、蘭の見舞いに行った後。

織斑家での昼食中、鈴がとんでもない爆弾発言を放り込んできた。弾なんか驚きのあまり鼻からカップラーメンの麺がはみ出してちゃってるよ。

 

「見つかったのか!?」

「ええ。今日の夕方に町外れの公園で会う約束を取り付けたの。それより鼻、何とかしなさい」

「・・・ッ!」ズズズ

 

弾は速効で食い終わると鈴に向き直る。

 

「俺も連れてけ!」

「正気なの? 相手は呪いなんてオカルトを遣う詐欺師よ」

「妹が被害に遭ったんだぞ。兄貴として落とし前つけなきゃならないんだ!」

 

怪異を知らない二人からすれば、貝木はまさに化物にでも見えているのだろう。

けれどあいつは人間だ。だからこそ危険だ。

 

「貝木と話をつけるなら、俺も一緒に行く」

「駄目よ」

 

案の定、鈴は俺が行こうとするのを拒否する。

だけど退くわけにはいかない。

 

「あいつには一度会って確かめないとならないことがある。それにお前も、蘭も被害に遭ってる。知らないふりなんて出来ない」

「言ったでしょ。貝木には関わってほしくないって」

「もう関わってる。それにお前、貝木を殺さずにいれるのか?」

「・・・さあ、どうかしら?」

 

無理だ。

鈴は俺が貝木に会った事を知った時、過剰なまでの対応策として監禁することを考えた。もともと気の早い彼女が、恨みの対象である貝木と対峙して冷静でいられるとはとても思えない。

武力(IS)がある以上、余計にだ。

 

「俺はお前に犯罪を犯してほしくないんだ」

「罪を犯すつもりはないわよ。罰を与えるだけ」

「現代社会においてそれは同じことだ」

 

忍野や忍の時代ならそれは英雄的に語られる行動だろうけど、現代では許されない。それだけは避けなければならない。

 

「鈴。友達が、仮に俺が人を殺そうとしていたら黙って見過ごすか? 俺はそんな事は絶対にしたくない」

「・・・・・・」

 

客観的に自分の状況を言われて理由はできるが、納得はしたくないといった様子だ。けれども彼女は誰かのために怒れる心優しい女の子。

正義感があるのであれば、俺の言い分を無視できない。

 

「ああ~、鈴? 俺は一夏の同行に賛成だ。ISなんか使われたら止めようがない」

「賛成2の反対1だ。どうする?」

 

弾の援護のおかげか、鈴は表情を二転三転してから呆れたようにため息をはいた。

 

「はあ、分かったわよ。三人で互いに守りながら行きましょ」

 

・・・貝木に会うのってそんな魔王ダンジョンに挑むような感じなのか?

 

 

 

012

 

貝木との面会場所は、高台にある公園。

蘭が返り討ちにあったので密室や人気(ひとけ)のない所は危険、だからと言ってどこかの茶店で話せるような案件でもない。なので人気がある程度ありながら会話が聴かれるほど近くには居ない所のチョイスしたらしい。

 

そして俺達が到着すると、昨日と同じように辛気くさい喪服のようなスーツ姿の貝木が居た。

 

「織斑は昨日ぶりだな。そこのお前は初見だがその髪の色。なるほど、妹の意趣返しか。今時随分と珍しい、男気のある子供だ」

 

重い口調で弾に向けて言い、凰のほうを見て、

 

「久しぶりだな、凰。随分と大きく、いやあまり成長はしていないようだ」

 

そう言い放った。

うわ、忍野と同じ煽り方だよ。

 

「アンタには二度とどころか一度たりとも会いたくなかったわ。でも今だけはこう言ってあげるわ。

会いたかったわよ、貝木さん」

「俺は会いたくなかった。しかし周到に、獰猛かつ沈着に、罠のように網を張って俺の行動範囲を狭め、避けようのないこの面会をセッティングした。まともな人間にできる事ではないな」

「まともじゃない奴に協力してもらったのよ」

 

おそらく、と言うか十中八九、忍野だな。

あいつの事だからこの町に何らかの網を張っていてもおかしくない。どんな奴を探しだせる。

 

「協力か。しかしあの娘は他人任せにして失敗していたな。凰、お前だろ。あの娘を断崖絶壁へと突き落としたのは」

 

一歩踏み出し、鈴が貝木との距離を詰める。

臨戦態勢に入るつもりか、いや、この場合はとっくに臨戦態勢に入っていた鈴が思いとどまったのが正しい。今すぐに貝木をぶちのめしたい激情を、一歩踏み出すことで妥協し、抑えたのだ。

 

「よせ、話し合おう」

 

貝木は、そんな鈴を制す。

 

「俺は話を聞く、そのために来た。お前達も話をしに来たのだろう。違うか?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

ここで俺達は貝木に対し、罵詈雑言と要求をぶつけた。

最初は要求9:罵倒1の割合で話が進んでいたがいつの間にか3:7、5:5になっていき、最後には1:9になってしまってまるで話が前進しない。せめて要求を言い終わってから罵倒してくれよ、お二人さん。

 

「よろしい、わかった。もう中学生を誑かすのはやめよう。これ以上のおまじないを広げることはもうしない。あの元気のいいお嬢さん、あの娘の事なら心配することはない織斑。あれは瞬間催眠というやつだな。崩れている体調も、三日もすれば治る。それから凰。お前の両親の店のことについては、正式に謝罪しよう。巻き上げた金銭に関しても、出来るかぎりの返却に勤めよう」

 

肩透かしだった。

貝木の口から出てきたのはあっさりしていて、しかし俺達が最も望んでいた、得られるとは思っていなかった回答。

 

「・・・随分と潔いわね」

 

鈴は歯軋りするように唇を歪め、あきらかにイラついているのが分かる。確かに蘭が被害に遭った時の状況を考えるとあまりにも潔過(いさぎよす)ぎる。

 

「そんな言葉を、信じられると思う? アタシにはあんたが反省しているようには見えないとても見えないわ!」

「そうか。そう言えば謝罪の言葉をまだ口にしていなかったな。それに命乞いの言葉もだ。悪かったな、実にすまない、お前達。とても反省している、悔いるばかりだ」

「そんな感情のない薄っぺらい謝罪の言葉を、信じろって言うの。あんたの言うことなんて、全部嘘じゃない。今すぐにでも八つ裂きにしたいのを我慢してるんだからイライラさせないでよ」

「そのようだな。そしてそのあたりは成長したようだな。昔のお前なら飢えた獣のように、絶対に我慢などしなかった」

「今更お金を返して欲しいとは思わない。アタシの家は、両親がこの町で築き上げたものは、そんなことでは戻らない」

「そうか。それは助かる。俺は金遣いが荒くてな、蓄えなどほとんどない。お前に金を返すため、新たな詐欺を働かなくてはならないところだった」

「・・・この(まち)から出てって。すぐに」

「わかった」

 

やはり、あっさりと要求を呑む貝木。

気持ち悪いほど従順だ。

 

「どうした織斑? なぜ俺をそんな目で見る。お前は俺に友人を傷められている、もっと怨みに満ちた視線をこそ俺に向けるべきではないのか?」

 

貝木は、多少なりと興味をもったかのように俺に訊いてくる。そして、俺の思っていた事を代弁するように弾が答えた。

 

「あれは蘭の自業自得だと思ってる。あんたみたいな人間に関わるのが、そもそもいけない」

「それは違う。あの娘のミスは、ひとりで俺に逢いに来たことだ。俺を吊し上げたかったのなら、今お前達がそうしているように複数名で来るべきだった。

それ以外の点において、あの娘は概ね正しい。それとも五反田。お前はあの娘を愚かだと断定し、あの娘を愚かだと否定するのか」

「正しいとは思う。けど、」

「強くはない、と。確かに強くはない。だがあの娘の優しさは否定すべきではなかろう。それにーーー」

 

ここで初めて。不吉に、さながらカラスのように、貝木が笑ったように見えた。

 

「それにああいう娘が居ないと、詐欺師としては、商売上がったりだ」

「・・・その詐欺師が、どうして俺達みたいなガキの言いなりになっているんだ。口八丁で言いくるめればいいんじゃないのか?」

「織斑、お前は誤解しているな。いや誤解ではなく、むしろ過大評価と言うべきか。お前達が相対するこの俺は、ただの冴えない中年だよ。詐欺師としても至極小物の侘びしい人間だ。それともお前には俺が化物にでも見えたか?」

「まさか。あんたはただの人だ」

「そう、その通り。俺はただの人だ。そして大した人間ではない、そしてお前も大した人間ではない。俺は劇的ではなく、お前も劇的ではない」

 

劇的ではない。

貝木は諭すように、そう繰り返した。

 

「織斑よ、お前はどうなのかな。俺はお前に質問してみたい。お前の人生は劇的か? 悲劇的か? 喜劇的か? 歌劇的か? お前の影からはどうも、嫌な気配を感じるのだが。そしてその腕時計にも、なぜか嫌悪感を感じてならない」

 

・・・何だろ。最後のだけは前世的なメタ発言のような気がする。ロックオン何とかって名乗っていそうな。

それよりも問題なのは、この男はやっぱり・・・。

 

「あんたは・・・一体、どっちなんだ?」

「? どっち、とは」

「偽物だっていうわりに、蘭をあんな目に遭わせてる。お前は怪異を、()()()()()()()?」

「ふん。これは思いのほかくだらん質問が来たな。興が削がれるな。織斑、たとえばお前は、幽霊を信じるか」

 

貝木は呆れているかのようで、乗り気ではないといった様子で、どうでもよさそうに語る。

 

「幽霊を信じはしないが幽霊を怖がるという人間の心理はわかるだろう。俺も似たようなものだ。オカルトを信じるつもりはないが、しかしオカルトは金になる」

「・・・・・・」

「だからお前の質問にはこう答えよう。怪異など俺は知らない。しかし、怪異を知る者を知っている。それだけの事だ。正確には、怪異を知ると思い込んでいる者を知っているだけのだがな」

 

貝木はまたもや笑った。

見間違いであれば良かったかもと思う、烏のような笑みを俺達に向ける。

 

「柄蛇」

 

そして突然に、知らないとする怪異の名を言った。

 

「柄蛇のことを、お前は知っているか」

「・・・戦国時代たが何だかの怪異だろ。刀や槍が持ち主に襲いかかる、死の呪い」

「正解だ。ただし間違っている。江戸時代に(あらわ)された文献『東方乱図鑑』の六段に記載されている怪異(たん)だ。しかし根本的な話、そんな呪いが桃山時代に流行っていたという事実はない」

「え?」

「そんな呪いがあったのなら、複数の怪異書に記載されてしかるべきだろう。だが柄蛇は『東方乱図鑑』以外には載っていない。つまり『武器が持ち主を殺す呪い』は最初から存在していなかったのだ」

「・・・ってことはつまり、」

「そう。偽史(ぎし)という奴だ。その作者の書いたでたらめを、愚かにも後の世の人間が信じてしまったのだよ」

 

なるほど。

原因も、結果も、経過も存在しない。

全てが嘘の、偽物の怪異。

 

「・・・妹のこと」

「ん?」

「だからその・・・柄蛇ってのに噛まれた俺の妹のことだ。何もしなくとま治るっていうのは本当か?」

「当然だ、柄蛇など存在しない。怪異など存在しない、ならばその被害も存在してはならない。お前達があると思うから、そこにある気がしているだけだ。はっきり言おう。お前達の思い込みに俺をつき合わせるな、迷惑だ」

 

弾の質問にぬけぬけと返答する貝木。

 

こいつは偽物だ。

本人が言う通り、劣等感と一生向き合うことを決めている、誇り高き偽物だ。

 

 

「・・・携帯電話」

 

鈴は手を出して、それが当然であるかのように言う。

 

「携帯電話をよこしなさい」

「ふむ」

 

言われるがままに、スーツから取り出した黒い携帯電話を鈴の手の上に置く貝木。

鈴はそれを、部分展開した甲龍の握力で握りつぶし、破壊してしまった。そして見せつけるかのように、床に捨てた残骸を踏みにじる。

・・・部分展開ってアウトだろ。

 

「酷いことをする。これでは中学生の子ども達に対するケアも出来ないな、顧客の連絡先が分からなくなってしまったのだから」

「被害者のケアなんて、アンタはそんなこと出来ないでしょ。やったとしても、もっとえげつなく騙すだけ」

「騙すだろうな。俺は詐欺師だ、償いだって嘘でする。お前らは理解したくないだろうがな、俺にとって金儲けとは損得ではないのだ」

「損得じゃないなら真っ当に生きてみなさいよ」

「ならば金を払え。五千万から考慮くらいはしてやる」

「死ね」

 

鈴は毒づいて、貝木に対して背を向けた。

もう話は終わったから顔も見たくないといった様子。現に此方の望んだ回答は得られたわけだし、蘭の身の安全も保証されたわけだからいつまでもこの男に関わる必要はない。

目を背けるのは、早く消えろと言う意思表示だった。

弾もこれ以上、この男と話をするのは危険だと感じているのだろうか。鈴が貝木を見逃すのを黙っている。

 

「この県からは黙って消えよう。二度と立ち入らない。明日には俺はもういない。それでいいだろう、凰」

「いいから早く消えなさい」

「では、さらばだ」

 

貝木は鈴の意図を理解していながら、念のためとばかりに確認をし、何の感情のこもっていない言葉を叩きつけるように言って、立ち去った。

 

 

013

 

後日談、と言うか今回のオチ。

 

一週間後。

弾の部屋に集まった俺達三人は、ゲームに興じながら今回の最終報告のようなものを行った。

 

蘭の体調不良は二日とせずに回復、一週間も経った今では全快以上に元気だそうだ。

鈴の話では確かに貝木はこの町を去ったらしい。やっぱり手を貸したのは忍野だった。

そしてあまり関係ない事だが、何故か俺と鈴が“大人の階段を登った”的な噂がIS学園に広まり、箒とシャルが妙に攻撃的になった。セシリアからは真夜中に質問責めの電話がかかってきた、イギリスとの時差を忘れていたようだ。

 

けど中学生の間で流行った“おまじない”だけはどうにもならなかった。

噂を流して操作していた者が居なくなって鎮静化に向かうか、はたまた尾ひれが付いてひとりでに広まり続けるかは分からない。もしかしたら貝木に噂の歯止めを掛けさせなかったのは俺達のミスかもしれない。

けど現時点では判断できないのだから黙って観ているしかない。

 

「なあ、俺達は貝木に勝ったんだよな?」

「そうに決まってるでしょ。そうだと思ってなさい」

「だけど、何かモヤモヤするんだよ」

「こっちだって一緒よッ!」

 

貝木は、自分が負ける前に適当な謝罪をして俺達に怒りの矛を収めざるおえなくした。だから二人は貝木を倒した、勝ったと思えずしこりのようなものが残った。

詐欺の中断とこの県への立ち入り禁止は受けたが無傷で去っていった。望んでいた結果にはなったが求めていた結末にならかった。

 

俺達はまんまと貝木に逃げられたのだ。

此方の要求に従っているようで、良いように誘導して最も自分に都合のいい流れにしてたのかもしれない。

 

「本当の悪党と言うのは、負ける前に適当な謝罪をする奴じゃよ」

 

隣でコントローラーを握る忍が唐突に呟いた。と言うか忍はあの時、俺の影に居たんだから何か思ったのかもしれない。

 

「お前様の目的は詐欺師をブッ飛ばすことではなかったのじゃろ? 故に、お前様たちは謝罪の言葉に惑わされ、のらりくらりと交わされたんじゃよ」

「踊らされたってわけか」

 

何とも世間ズレした生き方だ。

 

「それにしてもアンタもなんだかんだ言って、蘭のことを可愛いがってるじゃない」

「そう言えばそうだな。いつも蹴られるか睨まれているのに」

 

鈴と俺の言葉に、弾はふてくされるような顔をして言った。

 

「当然だろ。可愛い妹だ」

 

ここから普段は仲の悪い妹に対する、誰も望んでいない兄のデレトークが始まるかと思われた。

 

思われた、と言うことは、

 

「ゲハッ!?」

 

実際には始まらない。

何かを言おうとした所で、突如として扉をブチ開けて飛来した脚に後頭部を蹴られ、弾は前のめり突っ伏した。

 

「ちょっとお兄! 忍ちゃんが来てるなら何で教えないのよ!?」

 

犯人は当然のように五反田 蘭。

蘭は追い討ちにもう一蹴り加えてから、忍の了承を訊かずに抱きかかえるとさも当然のように部屋から出て行く。

 

「さあ~忍ちゃん♥ お着替えをしまちょ~ね~♥」

「い、いやじゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

赤ちゃん言葉と忍の悲鳴と共に。

 

 

 

「・・・なあ二人共。前言撤回していいよな?」

「好きなだけしなさい」

「俺、知ーらない」

 

 

「ふっ、

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり妹は可愛くないッ!!!!」

 




ご意見、ご感想、ダメ出しお待ちしております。


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六重奏と不協和音

どうも戦争中毒です。

どの話から書けばいいのか悩んでたらすっかり遅くなってしまいました。やっぱり物語シリーズみたいに時系列を入り乱すのは難しいですね。

それでは本編、どうぞ。



001

 

「・・・・・・」

 

“織斑”と書かれたそれを、シャルロットは何度も読み返しながら、深呼吸をした。

シャルロットがいるのはIS学園の廊下ではなく路上、つまり今目の前にある表札は織斑“家”の物。

 

「あれ、シャルか? どうした」

「ふえっ!?」

 

いきなり後ろから声をかけられたシャルロットが振り向くと、買い物袋を下げた一夏がいた。

 

「あ、あっ、あのっ! ほ、本日はお日柄も良くっ、じゃなくて!」

「?」

「え、えっと、ええっと・・・きっ」

「き?」

「来ちゃった♪」

 

えへ、と笑みを添えているが、脳内ではもっと良い言葉はなかったのかと後悔。

 

「そっか。じゃあ、上がって行けよ。あんまり盛大なもてなしはできないけどな」

「う、うんっ? 上がっていいの!?」

「そりゃいいだろ。追い返す理由もないし。あ、これから予定があったか?」

「う、ううんっ! ない! 全然ッ! まったく、微塵もないよ!」

 

家にあがるかと誘われ嬉しさのあまり予定のない事を猛アピールするが、一夏が若干たじろいでいるのに気づき、シャルロットは恥ずかしくなってうつむいた。

 

「な、ない・・・です」

「はは。変なヤツだな~。まあ入れよ。今鍵開けるから」

「う、うん」

 

変なヤツと言われた事に羞恥心でいっぱいだったが、一夏の家にあがり、ソファーに腰かけた頃には感動でいっぱいになっていた。

 

「外暑かっただろ。ほい麦茶、ちょっと薄いかもしれないけど」

「う、うん。ありがとうっ」

 

出された麦茶を一口飲むが薄いかどうかもわからない。

 

(い、一夏とふたりきり、一夏とふたりきりーーー)

 

学園と違って邪魔されることのない貴重なチャンス。シャルロットは一夏との距離を縮めたい、とは思っていたが実際にふたりきりになった今、緊張して何を話せばいいのか考えが纏まらず、困り果てていた。

自分のことなのに困るなよ。

 

ピンポーン

 

「誰か来たのか? ちょっと出てくる」

「う、うん」

 

一夏が部屋から出ていたところでシャルロットは深呼吸をした。そして少し冷静になったところで一夏との話題を考えた。

 

 

 

002

 

 

携帯電話のナビを利用して織斑宅を訪れたセシリア。

クラスの情報網で一夏が自宅に帰っていることを知った彼女は、シャルロット同様に一夏との関係に進展を望んでやってきたのだ。

もちろん、一夏は在宅などを含めた行動情報がクラスに流れているのは知らない。

 

喉の調子を確認の後、意を決してインターホンを押すセシリア。

 

「はーい。・・・お? セシリアだ」

「ど、どうも。ご機嫌いかがかしら、一夏さん。ちょうど近くを通りかかったので、少し様子を見に来ましたの」

「通りかかった? ここ大通りから外れてるから通りかかるって珍しいーーー」

「ああっとッ!! おいしいと話題のデザート専門店のケーキですわ! 一緒に食べませんこと!?」

「あ、ああ。じゃあ上がっていくか?」

「ええ、ぜひ!」

 

下手な勘ぐりをされる前に勢いで流すセシリア。

実に楽しそうな様子で家に上がっていくが、玄関にあった女性物の靴を見逃してしまった。

 

この十数秒後、彼女は先にお邪魔していたシャルロットと鉢合わせし、互いに抜け駆けしようとしていたのがバレて気まずくなってしまった。

 

「うふふ(シャルロットさん、まさか抜け駆けを!)」

 

じゃあアナタは何をしに来たんですか、セシリアさん?

 

「あはは(せっかくの二人っきりが・・・)」

 

君の場合は運が悪いんじゃないのかな?

 

「待たせたな。ケーキ、どれにする?」

 

キッチンから戻ってきた一夏がアイスティーと一緒に持ってきたセシリアのおみやげのケーキ。

苺のショートケーキはシャルロット、レアチーズケーキは一夏、洋なしのタルトはセシリアが選択。

 

その美味しさに舌鼓をうつ三人。

すると一夏はふと思ったことを口にする。

 

「なあ、せっかくだしちょっとずつ交換しようぜ。セシリアとシャルも、どうせなら三つとも食べれた方が嬉しいだろ?」

「えっ? そ、それは、その・・・」

「た、食べさせ合いっこ・・・みたいな?」

 

そんなまさか、でももしかして、と探るように訊いてみるセシリアとシャルロット。

 

「おう」

「「・・・!!」」

 

ぱぁっと二人の表情が輝く。

冷静になりやっぱり止めようとする一夏を一瞬のアイコンタクトで結んだ共同戦線で阻止し、一夏の手で食べさてもらえるように取りはからう。

 

エサを待つ小鳥のように、しかし多少の恥じらいと乙女の躊躇いゆえにわずかな開口。

頬を染めたその姿はよからぬことを考えてしまいそうになるが、そこは唐変木・オブ・唐変木ズの一夏。特に考えもなくフォークを動かしケーキを一切れ、セシリアの口へと運ぶ。

 

「じゃ、セシリアからな。あーん」

「ぁ、む・・・」

 

口に運ばれたケーキ。

しかしセシリアは高鳴る胸が苦しく味の詳細などわからない。

 

「どうだ?」

「お、おいしい、ですわね・・・? ふふっ♪」

 

行動自体が嬉しく、苦労して織斑家を訪ねたかいがあったとセシリアは最上級の喜びを噛みしめる。

 

「つ、次、僕だよね」

「おう、悪い悪い。ほら、あーん」

「ん・・・」

 

運ばれたレアチーズケーキを舌の上に滑らせ、シャルロットとは瞼を閉じてその感覚を楽しむ。

彼女もまた味は二の次で、一夏に食べさせてもらったことに小躍りしたいほど内心舞い上がっていた。

 

「お、おいしいね。うん、僕これ好きだなぁ」

 

二人は今の幸せに酔いしれる。

 

「じゃあ、そっちのも一切れもらうぞ」

 

だが一夏が自分でケーキを食べようとしているのに気づいて現状復帰。

 

「お待ちになって!」

「ここは礼儀的に見ても僕たちがお返しに食べさせないとダメだと思うんだよね、うん」

「そ、そうなのか?」

 

「だからーーー 「ですからーーー

「「あーん」」

 

二人同時に自分のケーキを一切れ、一夏の口元へ運ぶ。

 

 

ピンポーン

 

しかし邪魔をするかのように再び鳴ったインターホン。

一夏は再び出迎えのために席を立った。

 

 

003

 

 

「結局、こうなるわけね」

 

リビングに集まった一同を見た鈴は、ため息と共にこう呟く。

 

あのインターホンを鳴らして招かれたのは、箒に鈴、ラウラと簪。

いつもの一年生専用機持ち達がそれぞれが似たような思惑や期待を持って織斑家を訪れ、ばったり出くわしてしまっていたのだ。

合計8機の専用機。世界で一番危険な民家の完成だ。

 

箒と鈴は先に家に上がっていたシャルロットとセシリアを僅かばかり睨むが、当の二人はどこ吹く風。まるで吹けない口笛を吹いているかように顔を逸らして非難の視線を避けている。

 

そんな彼女達の攻防に気づかない一夏は、来客用のコップにお茶を注いで出していく。

すると、ラウラがあることを訪ねる。

 

「嫁がどこに居るか知らないか?」

 

織斑家に居候している忍野が一夏の帰省について行くように学園を離れたという情報は入手済み。

ラウラが織斑家を訪れた目的は忍野であり、簪も彼を捜しているようで先ほどからキョロキョロとしている。

訊かれた一夏はニヤリと笑う。

 

「忍野なら縁側に居るからそーっと覗いてみな。面白いものが見れるぜ」

「面白いもの?」

 

忍野のように少々悪い顔をして笑う一夏は窓の右半分を覆っているカーテンを指差す。一同は若干の疑念があったものの好奇心が勝り、外に居るであろう忍野に気づかれないようにそっと、カーテンを捲ってみる。

 

そこから見えたのはウッドデッキで胡座をかいて座っている忍野。どうやら覗かれてることに気づいていない様子だ。

その膝には三毛猫が丸まっており、彼の周囲にはその子供と思われる6匹の子猫がじゃれている。彼の背中を登ろうとする(子猫)や指に噛みついている者、他の者と転げ回る者。

 

だがそんな事よりも彼女たちの言葉に詰まるものがあった。

猫をかまっている忍野の顔はいつもの皮肉めいた笑みではなく、頬が緩みきった、だらしないとさえ言えるような満面の笑顔を浮かべながら子猫と遊んでいた。

 

((((うわぁ~・・・))))

 

まさに唖然。

よくマンガで不良が捨て猫を拾うと言う展開はあるが、そんな不良たちもここまで弛んだりはしないだろうと万人が言えるほど。それどころか、これが“癒やし”を初めて知る生物だと後世に語り継がれそうな彼の表情に、誰もが開いた口が塞がらないと言った様子だった。

 

すると、そんな彼女たちに興味を示したのか、1匹の子猫が近寄って来る。

 

そして、

 

「ん? どうしッ///!?」

 

子猫の向かおうとしている先に、自分を見ている者達が居ることにようやく気づいた忍野の顔は、一瞬で茹でタコのように真っ赤になった。

 

 

 

004

 

 

「随分と人懐っこい猫だな」

「あはっ、可愛い!」

「そんなに爪をたてないで下さいまし!?」

 

子猫達は好奇心が強いようで、初めて会う箒達にも臆するどころか遊んで遊んでとすり寄っており、彼女達も嬉しそうに可愛がっている。

セシリアだけは、せっかくの勝負服を爪で穴だらけにされそうになって子猫を引き剥がすのに必死になっているが。

 

「これが猫と言うものか・・・」

「見たこと、ないの?」

「実物を見るのは初めてだ。しかしここまで愛くるしい生き物とは・・・」

 

目をキラキラとさせながらラウラが子猫と戯れる姿を見たシャルロットは、鼻から熱いものが垂れそうになるのを必死にこらえていた。

 

だがそんな彼女たちの横で、

 

「殺してくれ・・・」

 

俯いて暗い雰囲気を放ち続ける忍野。

あの後、必死に何かの弁解をしようと彼は口を開いたが出てくる言葉は単語としてすら成立しておらず、何も伝わらない。

そのうろたえっ振りもいつもの彼らしからぬほど。

 

そしてこれを好機とみた鈴が普段の仕返しのつもりで軽~く、

 

“へえ~、猫が好きなんだ~?”

 

という本人からしたら軽いジャブのつもりで放った見た感想(留めの一撃)の直後から、恥ずかしさの余りか鬱状態になってしまったのだ。

頭に子猫が乗っているのが笑いを誘うが・・・。

 

「だからゴメンって。そんな恥ずかしがらなくてもいいじゃない」

「だってよぉ、どう観られても俺のキャラじゃねぇだろ? 戦闘狂が猫好きって・・・」

「いや、でもアンタ気まぐれのイタズラ好きで、猫みたいでしょ。“外の人”的にも」

「メタ発言禁止。それとこれは違うだろ。あぁ~、鈴に辱めを受けたよぉ」

「人聞きの悪い言い方しないでよ!?」

「こうなったら鈴の写真に洗濯板とまな板を合成したのをバラまいてやる」

「ブッ殺すわよッ!!」

「いや待てよ、艦○れの龍驤(りゅうじょう)の方がいいのか? あれもツインテだし背が低いし、何よりフルフラットだし」ブツブツ

「フ、フルフラット? 何のこと?」

「胸が滑走路」

「少しは丘があるわよッ!!」

「丘ねぇ。一夏の周りを見てから言いなよ」

「分かってるわよチクショーッ!!」

 

いつもの喧嘩腰の会話をする二人の様子を見ていたシャルロットは、ラウラにこっそり耳打ちする。

 

「良かったね~、ラウラ♪」ヒソヒソ

「な、何のことだ?」ヒソヒソ

「忍野くん、猫が好きみたいだからラウラの猫耳パジャマ姿を見せればーーー」ヒソヒソ

「あの姿を晒せと言うのか!? む、無理だ!」

「ええ~、喜ぶと思うよ?」

 

「・・・・・・///」

 

ラウラはあの様な恰好は恥ずかしいと嫌がり、それが聞こえていた簪は自分も猫の恰好をすれば忍野が可愛がってくれるのかなと、ちょっぴり桃色気味の想像をして赤くなっている。

 

 

しばらくの間、皆で猫と戯れていたが親猫が出て行くと子猫も後を追って帰っていく。

多少名残惜しくはあったが、少女達の目的は鈍感二人との進展なので笑って見送る。

 

さて、猫が居なくなり何をしようかと皆に問う一夏。

外へ行こうと提案する彼だが、全員が家の方が良いと言う。そして何をするかと悩む。

 

「良いものがあるよ」

 

そう言うと、鈴は持ってきた多数のボードゲームを机に広げた。

 

皆が懐かしさや物珍しさと共に物色していると、忍野もとあるゲームを手に取った。

 

「何だ? このゲーム」

「え? ああそっか。アンタ(忍野)はやった事なかったわね」

「へえー、懐かしいな。最後にやったのいつだっけ?」

「中学の初め頃じゃなかったかしら。じゃあこれをやりましょ!」

 

 

005

 

 

『バルバロッサ』

 

ドイツ発祥のボードゲームでプレイ人数は3人以上。互いの作った粘土細工の正体を当てるクイズゲームの一種。

 

要点だけを纏めると、

スゴロクのようなイベントのある“マス”を進んで行き、誰かがゴールに辿り着くか粘土細工の正体が出揃うまでに点数を稼ぐという物だ。

最大の特徴は粘土による造形。プレーヤーがゲーム開始時に作った粘土細工を互いに何を模したのか正体を当てて点数を稼ぐ。因みに不正解での減点はない。

粘土細工は最初や最後に正解されると作ったプレーヤーは減点されてしまうが、中盤に正解されると作った方にも点数が加算されるので程よく何を模した分からなくするのが点数を稼ぐコツ。

“マス”には質問のできるものがあり、ここで相手に否定の回答をされるまでいくつでも質問可能。

正式なルールには粘土細工の文字を教えて貰うマスもある。

 

ゲーム経験者である鈴と一夏が説明役になってお試しゲームが始まる。今回は文字マスがなく、正解を口頭で言う。

正式ルールでは、正解は紙に書いて相手に渡し、正解であれば粘土細工に目印をつけます。

 

順調に進み、最初の質問イベントが始まる。

質問マスに着いたのは箒だ。

 

「よし、ではラウラの粘土に質問するぞ」

「受けて立とう」

 

ここで箒はラウラの粘土に質問をすることにした。理由として一番形が単純で答えを見つけやすいと思ったのだろう。何たって他の三人とは違い、単なる円錐状(えんすいじょう)の物体で殆ど細工をしていない。

代わりに“ゴゴゴ・・・”と表すような威圧感があるが。

 

因みにそれぞれの粘土はシャルロットのは馬。

箒のはロウソクのようにも見える何か。

セシリアのは名状し難い何か。

簪のはどこかで見たような三又の何かである。

一人だけ答えをがハッキリしてる? どの程度ボカせばいいのか分からなかったのでしょう。

 

「それは地上にあるものか?」

「うむ」

「よし・・・。では、それは人間より大きいか?」

「そうだ」

「それは都会にあるものか?」

「どちらともいえないな。あると言えばあるが、ないと言えばない」

 

ゲーム参加者全員混乱。

単純の円錐形で人より大きく、都会に存在する場合もあるもの。質問することでより混乱を招く事態になってしまった。

 

結局この後すぐに質問は終了。

箒は“油田”と解いたが不正解に終わった。そして全員が“なぜ油田?”と内心ツッコミを入れる。

 

次にシャルロットの粘土だがすぐに答えが出てしまい作り手の得点にならず、簪の粘土もラウラが“アルケーのファング”とすぐに答えてしまったので点数が低かった。

逆に箒の粘土は難しくはあったがシャルロットの巧みな質問により“井戸”と言い当てられ、ゲーム中盤だったので箒にも作り手の点数が加算された。

 

尚、ファングの正解が出た時に二人(簪とラウラ)は忍野に自分達が意識していることをアピールしようとしたが、当の本人は説明書とにらめっこをしておりゲームが始まってる事にすら気付いない様子だった。

鈍感通り越して最低だね。

 

ゲームは終盤、正体が分からないのはラウラとセシリアの粘土細工。

あまりにも分からず一夏と鈴も質問するが迷走するばかり。皆の思考が停滞してきた。

 

「忍野、アンタにはあれ何だか分かる?」

「セシリアのは分かるが・・・、俺は参加してないからノーコメントで」

「なら今から参加しなさいよ」

「今から? 何も作ってないぞ?」

「すぐ作んなさい」

「しゃーねぇなぁ」

 

鈴は忍野を引っ張りこんで正体を暴きにかかる。

今まで観客を決め込んでいた忍野は机にあった粘土を片手で掴み取ると、柔らかくするように捏ねる。そこからどのような物を作るのかと、皆が作業に取り掛かるのを待っていると、

 

「ほいよっと」

 

その片手が開かれ“鳥”を(かたど)った粘土が姿を表した。

二本足で立ち翼を広げた鳥はデフォルトされてはいるが無駄がなく、目にあたる部分には虚ろな穴まで開いていた。

 

「って、ちょっと待ちなさいよ!? どうやって片手で作ってるのよ!?」

「これハッキリと鳥だって分かるよ!? なんでここまで作り込めるの!?」

「簪。すでに答えが分かったが嫁に点数は入るのか?」

「ゲーム開始前だから・・・0点?」

「でもゲームは中盤だから作り手の点数が貰えるんじゃ」

「・・・ずるい」

 

まさか捏ね終わった時にすでに作品が完成していた事に驚く。そして点数が加算されるのが分かっていたかのように分かり易い造形、点数差を埋める為の策と呼べばいいのか、はたまた確実に勝ちにいく為の卑怯な点数稼ぎなのかは微妙な所である。

 

「一体何だよ、その無駄な技術は?」

「ん~? 昔、粘土細工が得意な奴に教えてもらったんだよ。片手でやるから暇つぶしにはちょうど良さそうだったんでねぇ」

 

「さてと、」と忍野の言葉を区切りサイコロを振る。そして進んだ駒がたどり着いたマスは質問マス。

 

「セシリアのは大凡の検討がついてるから先にラウラのを解こうか」

「どこからでも来い」

 

今出ている大まかなヒントは、

・地上にある

・ビルより大きい

・都会にある場合もある

・人工物ではない

 

「それじゃあ質問するよ。ラウラのそれは、世界中にあるのかい?」

「ある。大抵の国には存在する」

「IS学園より大きいかい?」

「大きい。学園より小さいものはない」

「ならそれは、必ずしも円錐形かな?」

「違う。この形とは限らない」

 

ここで質問終了。

追加されたヒントは聞いた感じ、それほど宛てになるとは思えない。

だが、

 

「山だな」

「正解だ。さすがは私の嫁だ」

「モデルはエベレストか? 難易度高すぎるぞ」

「しかしエベレスト以外にも尖った山はある」

 

(((((山かよッ!?)))))

 

予想外の回答。

正解を導き出したことよりも、これが山だと言うラウラに内心ツッコミを端的に、そして大声で言う。

そりゃあ先の尖った円錐形を“山”と言われても納得はいかない。しかしラウラの言う通り、尖った山はあるので納得せざる終えず、言いたい文句も忍野に取られてしまったので声に出せなかった。

 

 

「それで、セシリアの粘土は何だって言うの?」

「セシリアのは十中八九、」

 

そう言って忍野がみんなに見せたのは、世界巡りをするスゴロクゲームの箱。何の事かと言いかけたところで彼が指を差す所を見て全員が納得した。

 

イギリス本土。

 

言葉の枕に「我がイギリスではーーー」と付きそうな程に愛国心のある彼女ならある程度予想は出来たかも知れないが、この時は誰もが思った。

 

(((((普通作らないだろ)))))

 

セシリアさん、大抵の人は自国の形くらいしか覚えていませんよ。

 

 

006

 

 

その後、全員が参加して本格的にゲームがスタート。

非常に盛り上がり昼食も済ましてからも続き、数回目のゲームをしている最中、玄関の開く音が聞こえる。

帰ってきたのは一夏の姉である織斑 千冬。その人であった。

 

「なんだ、騒がしいと思ったらお前たちか」

「お、お邪魔しています・・・」

 

あれだけ騒がしかった一同が、彼女ひとりの登場で静まり辺りはピシッと張りつめた雰囲気になった。

女子達のうち、ある意味いつも通りのラウラ以外は若干の冷や汗すら伺える。

 

「あ、おかえり千冬姉」

 

だが、この雰囲気の中で一夏だけは違った。

一夏はまるで帰宅した旦那を迎える妻のようにささっと千冬に近づくと持っていた鞄を受け取る。

 

「暑かったろ? お茶、ぬるいのと冷たいのとあるけど、どうする?」

「そうだな、では冷たいのを貰おうか」

 

帰宅した千冬をかいがいしくもてなす一夏。

 

「・・・・・・」

 

想像以上の一夏の良妻ぶりに、鈴と忍野を除いた全員が言葉が出ない。

しかし鈴と忍野の表情はそれぞれ違い、鈴は見慣れているのか呆れ顔。忍野はそこに何か疑問を見つけようとしているかのような思案顔をしていた。

 

「今日のメシはどうする?」

 

千冬さんは一瞬考えた様子を見せたが、その後すぐに「いや」と返す。

 

「いい。外で食べる」

「え? もう出てくのかよ?」

「ああ。お前たちと違って、教師は夏休みでも忙しいんだ。お前たちもゆっくりしていけ。・・・泊まりはダメだがな」

 

千冬は女子陣の方を見て家主として言っておきたいことを言う。

 

リビングを後にしようとしたところで「ああ、最後に」と忍野の背後で立ち止まった。

 

「こいつの粘土は学園の校章だ」

「なッ!? 千冬てめぇ!!」

 

まさかの妨害発言をした千冬はしてやったりとサッサと出て行ってしまった。

 

「なるほど、言われてみればそうだな」

「一番難しそうなのが分かったわね」

「・・・上手」

 

「だあぁぁ、もう止めだ。あのいきおくれが、答えを言うってありかよ」

「アンタそんな事言ってたらまた千冬さんに(シメ)られるわよ」

「ハッハー、知らーーー」パキン

 

忍野が手を伸ばした先にあったコップが、独りでに、唐突に真っ二つに割れた。

中身は残ってなかったようで中身がこぼれたりはしなかったが、その現象は十分に不吉だった。

 

「「「・・・・・・」」」ガクガク

「ーーーねぇかどうかはともかくスンマセン!」

 

強気な態度を一変、土下座しそうな勢いで忍野は謝った。

織斑教官loveのラウラやシスコン(本人否定)の一夏ですら、その現象に恐怖しおののいた。

やっぱり一番怖いのは千冬だね。

 

「気分転換がてらに新しいコップ買ってくる」

「あ、ならついでに明日の朝食の材料をーーー」

 

出掛ける忍野におつかいを頼む一夏だが、最後まで言う前に目の前の客人達に訊ねる。

 

「そういやみんな何時までいる? 夜までいるんなら、夕食の食材を買ってきてもらわないと」

 

その一夏の言葉を聞いて、女子達の目が光る。

 

“ここは手料理を振る舞うチャンス”

 

学園では食堂があるので自炊することは少なく、仮に作っても何と言って渡せばいいのか、その理由付けが難しい。

しかし今回は、お昼に簡単ながら手料理(と言ってもそうめんだが)をご馳走になっているのでそのお返しだと十分な建前がある。

 

こうして織斑家の夕食は乙女による晩餐に決まった。

 

 

007

 

 

買い出し終了後、ワイワイと騒がしいキッチンから追い出された一夏と忍野。曰わく、何を作るか出来るまでのお楽しみらしい。

リビングでくつろぐ二人だが、そこには簪の姿もあった。

 

「簪は参加しなくて良かったのかい?」

 

何故か料理に参加しなかった簪。

忍野が訊ねると、モジモジとしていた彼女は意を決したように鞄から綺麗な紙袋を取り出す。

 

「その、カップケーキ、作ってきた・・・」

 

紙袋には個別に包装された抹茶のカップケーキが入っていた。

袋を一つ取り、リボンを解くと砂糖の焼けた甘い匂いと抹茶の芳醇な香りが広がる。

 

忍野は興味深そうにあらゆる方向から眺めてから、一口頬張る。

 

「ど、どうっ?」

「うん。美味しいよ」

「・・・・どう美味しい?」

 

簪はもう少しコメントがないのかと彼を見続けている。

率直な感想ではダメだった事には気がついた忍野だが、評論家でもないので何がどう美味しいのかうまく表現出来きず、何を思ったのか簪の頭に手を乗せ、そのまま自然の動作で撫で初める。

コメントの放棄という逃げともとれる行動。しかし簪は頭に手を乗せられたところでキャパオバーし、今なにが起きてる分からなくなっていた。

 

 

「俺にも一つくれ」

 

そう一夏が手を伸ばそうとする。

 

「イテッ」

 

だが忍野がその手をピシッとひっぱたく。

 

「なにすんだよ!?」

「お前は食うな」

「いいじゃん一つくらい!」

「ダメだ。なんかムカつく」

「理不尽!?」

「そもそも簪が俺にくれたんだからお前にやったら失礼だろうが」

「うっ、それは・・・」

「大体お前はーーー」

 

ネチネチと一夏を正論と文句でまくしたてる忍野。

 

「ちょっ、止めっ///」ワシワシ

 

うっかりして忘れているのか、彼は話の間ずっと簪の頭を撫で回している。乱暴ではないが、よそ見をしていて力強い手つきなので少し髪型が乱れているが、とても優しいものなのと彼に頭を撫でられて心地良いのか、多少嫌がるも簪は赤くなりながら少し嬉しそうにしていた。

もっとも忍野には制止の声は聞こえてないようすだが。

 

けれどもそれを羨望してそうに眺めている者が居た。

それはキッチンで大根を切っていたラウラだ。

 

「・・・・・・」

 

作業の途中でふと眺めてみれば彼に頭を撫でられているライバル。おもしろくないラウラは、無意識の嫉妬で包丁を握る手に力が籠もる。

そしてモヤモヤのまま包丁を振り下ろしてしまったものだから物凄い音が鳴ってしまい、全員が驚いた様子で彼女に注目する。忍野も何事かとキッチンにやってくる。

ご機嫌斜めのラウラは先ほどと同じように包丁を振り下ろそうとしたが、忍野はストップを出した。

 

「ラウラ、その切り方じゃ怪我するぜ」

「む、そうか。刃物の扱いには慣れているつもりだが」

「(何か不機嫌?)刃物と言ってもナイフと(トマホーク)は違うだろ?」

 

そう言うと忍野はゆったりとした歩みでラウラの背後に回りこみ、後ろから包丁を握る彼女の手にそっと触れ、少し首を傾げるようにして手元を見る。二人の身長差の都合上、流石に顔が隣同士にはならなかったがそれでもかなり近い位置にあるので簪は気が気でなく、他の四人は“同じ事を一夏にして欲しい”といった表情で羨ましいそう眺めていた。

当の一夏はそんな事を考えているなんて想像したことすらないご様子。

 

「まず、さっきみたいに力任せに振り下ろす必要はないぜ。包丁ってのは上下じゃなく前後の動作で切るんだから」

 

ラウラに正しい包丁の使い方を教えようとする忍野だが、その腕の中に居るラウラの軽いパニック状態になっている。

副官から教えてもらった間違った知識、抱きしめる一歩手前のこの体勢と密着。その他を含めた要因が重なり、自分の心が幸福感に満たされているであろうこと以外分からなくなっていた。

当然、先ほどまでの心を占めていた嫉妬心など跡形もなく消え去っている。

 

「いいか? 左手の方は食材を固定するけどこの時、指を切らないように手は丸めてーーー」

「こここ、こうか」

「そうそう、それで刃を滑らすように切っていくんだ」

 

リンゴのように紅くなったラウラの動揺にも気づかず、忍野は彼女の手に添えた自分の手を動かしてゆっくりと大根を切っていく。

 

大根を切り終えた所でようやく手を離した忍野。

 

「それじゃ、あとは頑張りなよ」

「あ・・・」

 

ラウラは少し名残惜しそうな声をあげたがその先の言葉を言えず、しかし緩んだ表情のまま調理の続きを始めた。

 

「ん? 何だよ、その非難するような目つきは」

「べつに。ただアンタも人の事言えないわよ」

「なんのこっちゃ」

 

キッチンから出て行く忍野に鈴は諭すように文句を言うが、立て板に水。全く理解していない様子なので、彼女はもう二度と忍野には恋愛関係の相談はしないと誓うのであった。

 

 

008

 

 

リビングに戻ってきた忍野がソファーに座ると、一夏は深刻な顔して彼の肩を掴む。

簪は“どうしたのだろうか?”と言った様子で一夏の表情を観察していた。

 

「・・・なあ忍野。どうだった?」

「わざわざ訊くような事かい?」

「聞くと聞かないとじゃ覚悟の質が違ってくるんだ」

「正気の沙汰(さた)とは思えないねぇ。俺なら絶対に目と耳を塞ぐぜ」

「いいから答えろよ! 俺達は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は、セシリアに何を喰わされるんだッ!?」

 

一夏が心配しているのはセシリアの料理だ。

彼女の料理が控え目に言ってもマズいのは分かっている。問題なのは今回、その調理過程が部分的に明るみになったことが、二人の精神をガリガリと削っているのだ。

 

先ほどから聞こえてるのは「赤色が足りません」だとか「後半で巻き返しますので」など、普通に聞けば料理中とは絶対に思えないセリフばかり。

だからこそ、忍野はラウラの様子を見るついでにセシリアの使っている食材などの確認をした。恐怖から確認してしまったのだ。

 

「まぁあえて言うとすれば・・・」

「言うとすれば!?」

「喰うのは俺じゃないから知ぃらない」

「そんな呑気な!!」

「ん~、なら一つ良い事を教えてやろう。時間の良いところは必ず過ぎていくこと。そして悪いところはーーー

 

「キャアァァァ!!」ドカーン!

 

ーーー必ず訪れることだ。今回は違ったようだがな」

 

キッチンから響く爆発音。

セシリアの料理が不思議な化学反応を起こして爆発したのかと思った三人だが、現実はもっと酷かった。

 

「いくらなんでもレーザーで加熱するのは無茶だよ」

「失敗は成功の母。今度こそ成功させてみせますわ! セシリア・オルコットのIS料理!」

「わ、私のおでんがぁ!! セシリア貴様!」

「落ち着けラウラ!!」

「ああっもう! いい加減にしなさいよアンタたちッ!!」

 

まさかのレーザーを使って加熱する大馬鹿者(セシリア)と、その被害をモロに受け料理を台無しにされた被害者(ラウラ)が殴りかかろうとするのを止める箒とシャルロット。

あまりの混沌に嘆く鈴。

 

キッチンとは思えない惨劇に、忍野は背を向け耳を塞ぐ。簪は顔を覆い見るのを止める。

一夏だけは、キッチンが戦場(物理)になるまえに彼女達の元へと駆けいった。

 

彼がその後、戦場から帰ってきたのかは神のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや勝手に我が主様を殺すな。ちゅうか儂の出番、これだけか? 最近儂の扱いが雑になっておるような気がするのじゃがーーー』

 

前言撤回。

帰ってきたのかは忍野 忍のみぞ知る。




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侵入者

 


001

 

~楯無サイド~

 

 

生徒会応接室。

 

生徒会の隣に設置されたこの部屋が、私はあまり好きじゃない。

ここで応対する来客というのは学園長が直接対応しなくていい、する必要がない禄でもない大人ばかり。地位と金の亡者たちが学園に横暴な要求をしてきた際など、正論と邪道を使って追い返すための部屋なのだから、居て心地がいいわけない。

 

今日も私の前には学生相手に傲慢な態度で一方的な要求を押し付けて早く承認しろとばかりに睨みつけてくる意地汚い政治屋。

 

これでも社会の醜いところは散々見てきたけどやっぱり慣れないわね。自分達の金になると思って手を伸ばしてきて、それを咎めれば自分の地位や利権をちらつかせ釣り合いの取れない報復をする、プライドだけが肥え太った愚か者。

尤もそんなプライドをへし折るのは楽しいけどね♪

 

「こちらがあなた方の主張する、“忍野 仁の経歴”に対する矛盾と相違に関する調査結果です。何かご不明な点でも?」

 

血税を無駄遣いした高級なスーツに身を包む政府高官の女性は、顔を真っ赤にして手渡した書類に目を通していってる。

どれだけ探そうとも不備や抜け穴はないわよ♪

 

「さて、まだ彼を自国の民と主張されますか?」

「ッ・・・!! 失礼させてもらいますわッ!!」

 

どうぞ、失礼でも何でもいいので早く帰ってね。

 

織斑くんと違って忍野くんには織斑先生(ブリュンヒルデ)と言う後ろ盾もなければ正確な経歴もない。

各国はそこに目を付け、彼を自国の国民だと主張してIS学園からの帰還を迫っている。それぞれの国が、辻褄(つじつま)が合うように彼の経歴を偽造してそれを証拠とのたまり学園に踏み込んでくる様は、最近では呆れを通り越して感動すら覚えるようになってしまっていた。

 

両親と旅行中に事故に・・・、日本のヤクザに誘拐されて・・・、ホームステイ時の手違いで・・・。彼が日本に居た理由のこじつけを読むのを楽しいとさえ思える。

本来であれば疑う余地さえない完璧な(経歴)になっているんだけど、生憎とそれが全て嘘であると言う事を証明する情報があるので思わず笑ってしまう。

 

「お疲れ様です、会長」

「ありがとう虚ちゃん」

 

政治家と入れ違いで入室して来たのは布仏 虚(のほとけ うつほ)、三年生で同じ生徒会のメンバー、そして私の付き人(メイド)

 

虚ちゃんは持って来たティーセットを机に置くと、手早く準備をして紅茶を淹れてくれた。やっぱり彼女に淹れてもらった紅茶が一番美味しいわ。

 

「ここまで完璧な偽造経歴を作って来るなんて、お国柄を考えれば流石と言わざる負えないですけどそれに国税が使われてると思うと無駄遣いもいいところですね」

「本当よね。しかも今回のはご丁寧に両親の写真まで付けてるわ」

「これは・・・。裏が取れてなければ信用できるレベルですね」

 

虚ちゃんが手に取った資料には彼の両親を名乗る人物の写真があるはずだからその完成度に驚いているようね。

だって、あ~確かにこんな顔かも、って思えるほど彼と似た顔立ちをしていたから本当にこれが偽物なのか疑ったもん。

 

「本当、腹が立つほど完璧ね・・・」

 

無意識の内に力を込めすぎたことで、書類に皺が走った。

 

 

002

 

話は数日前に遡る。

 

 

 

(さぁてと、もう少し頑張ろうかしら?)

 

実家である更識家に帰っていた私は、夕食を済ませてから屋敷の地下にある、“裏”の資料庫に向かっていた。

そこには“暗部”の更識に所属する諜報員や密偵によって集められた、さまざまな資料が保管されている。

 

そしてその部屋の一角に臨時で用意された、現在調査中の資料置き場には、書類の山が出来上がっていた。

その殆どが男性IS操縦士『忍野 仁』の調査資料だった。

 

すでにIS学園に入学してから四ヶ月、ISが動かせる事が知られてからは半年以上経つのに彼の経歴に関する正しい情報が上がってこない。

だから仕事が一向に片付かない。

 

(ん?)

 

部屋へと続く廊下に立つと、真っ暗なはずの廊下の奥に僅かな光が見えた。

この先にある資料庫の灯りなのは間違いないが、(・・)が居るのかだ。この時間に家の者が訪れることはまず有り得ず、灯りの消し忘れということもない。

 

だとすると・・・。

 

(どこの誰だか知らないけど、好き勝手は許さないわよ♪)

 

襲撃などに備えて壁に隠してある刀(この屋敷には至る所にある)を取り出してから、気配を殺しながら静かに部屋に入る。するとやはり部屋の奥にある机の前で何かをしている、家の者ではない人物が居たのでその背後へと忍び寄る。

思ったよりも背が低いわね、本音と同じくらいかしら?

 

そして、

 

「人様の家で何をやってるのかしら?」

 

抜き身の刃を突き付けて訊ねる。

 

『あら? 気づかれちゃった?』

 

返ってきたのは変声機によって歪められた声。

けれど職業柄、この位なら解析機がなくてもある程度は分かる。

 

(女の、まだ20代の声・・・)

 

そんな女性一人がどうやって侵入してきたのか気になったけど、まずは拘束しないと。

 

「とりあえず両手を上げて此方を向いてくれるかしら? もちろんゆっくりよ」

 

振り返った彼女は一切の露出のない黒ずくめ、顔には真っ白で目の部分につり上がった黒いレンズが光る仮面を付けていた。

そして膨らんだ胸部とくびれた腰つきが女性であることを裏付けている。

 

しかしまるで人の気配を、存在感を感じられない。目の前にこうして居るはずなのにまるで人形と向き合っているようにさえ思う。

 

「いったい何をしてるのかしら?」

『そうね。プレゼントを届けに来た、とだけ言っておくわ』

「サンタクロースにしては来るのが四ヶ月ほど早いんじゃないかしら♪」

『そう? だったら赤い服を着てくれば歓迎されたかしら?』

「隠密には向かない色合いね」

『そうよね。それにあれって炭酸飲料メーカーが経営戦略のために黒服を赤服にしたのが始まりって言われてるから、やっぱり黒い服の方がいいわね』

「どっちにしても、あなたはサンタクロースじゃないわよね。いったい何者かしら♪」

『ただの情報提供者よ』

 

肩を落とすように気楽に応える彼女。

一応、話は訊いた方が良さそうね。

 

「どんな情報を持ってきてくれたのかしら?」

『忍野 仁に関する経歴の一部、と言えば信じてくれる?』

「・・・どういう事?」

『え~っと、どこだったかしら? まぁ何処でもいいんだけど彼を自国の人間だって主張する傲慢な国から政府高官が来日する予定があるでしょ? その時に向こうが開示する経歴が偽造である事を証明したいだけよ』

「表立って公開すれば良いだけなのに、何でわざわざ、ウチに侵入してまでそんな情報を持ってきたのかしら?」

『あなたに警告をするためよ』

 

すると、彼女からやっと人間らしい、禍々しい程の殺気が放たれる。

あまりの殺気に呑まれまいと気を強くたもつけど、まるで底が知れない。これだけの殺気を放っていながら彼女が戦闘体勢を取ろうとしない所を見ると、私を敵として見ていないのかもしれない。

まるで、道端に居る虫を悪意をもって踏み潰すかのように、殺そうと思ってもわざわざ武器を構える必要がない。そんな感じがする。

 

『忍野 仁を調べるな。アレは戦略核兵器並みに危険な奴よ、下手に手を出せば身を滅ぼすことになるわ』

「大げさじゃないかしら? 確かに彼は織斑 一夏と並んで不確定要素ではあるけど単体ではそこまでの危険性はないはずよ」

 

ISを動かせる男性の出現で世界は緊迫した状態で危険ではあるけれど、それはあくまでも彼らを取り巻く情勢であって、彼ら自身は男と高性能なISを所持している点以外は普通の専用機持ち。どんな評価をしても彼ら自身が最終兵器と同列に並ぶ要素がない。

 

警告というのはそれだけなのか、殺気は収めてくれたわね。正直あんなに殺気をまき散らされたらこっちの身が保たないからちょうど良いけど。

 

『お嬢ちゃんがそう思いたいのならそれでいいわ。私は彼を他国へ連れ出されないために情報を置きに来ただけだから、そろそろお(いとま)させてもらうわ』

 

見ると彼女の後ろにある机には見覚えのないファイルが置かれているのが見えた。ここにある資料は全てナンバーの振られたファイルに収める決まりになっているけど、あれにはナンバーがない。

 

(このタイミングで持ってきたと言うことは、中身は本物そうね・・・)

 

しかしだからと言って彼女を帰すわけにはいかない。

 

「そんな事言わずにお茶でもして行かない♪ 来客(侵入者)もてなす(尋問する)のはどこも一緒でしょ?」

『それじゃ押し通るわ』

 

そう言って臨戦態勢をとるかと思ったけど、彼女は右手の人差し指を私に向けただけ。

 

(でもあの殺気は尋常じゃない。先手必勝!)

 

彼女と真っ向勝負するのは危ないと感じた私は、態勢を低くくして刀を地面と平行にする、所謂『牙突』と呼ばれる構えを取った。

元は簪ちゃんが読んでいた漫画の技だけど、使ってみたら思いのほか実用性があったのよね♪

特にこの部屋みたいな刀や人の動きが制限される場所なら、下手に振るよりも回避の難しい技の方が有効になる。

 

そして全力で踏み込み刀で突いた。

けれど刀がまるで見えない糸(・ ・ ・ ・ ・)によって操られたかのように、私の牙突に合わせるように彼女が振り下ろした右手に従っているかのように、私の意に反して不自然に軌道がズレて床に突き刺さった。

 

「えッ!?」

『驚いている暇はないわよ』

 

突然起こった目の前の不可思議に驚いて身体が硬直している間に、彼女は左手を私の額に伸ばして中指を親指にかけ、力を溜めてから一気に指を弾く、

 

デコピンを放った。

 

けれどそれはデコピンなんて呼べるほど可愛いらしいものではなく、まるでISの戦闘中に弾丸が直撃した時ような衝撃が私の脳髄を襲った。

あっ、織斑先生の出席簿アタックと同じくらいかも・・・。

 

「いっ、痛いわね! お返しよ!」

 

そう言って歯を食いしばり反撃しようとしたところで、糸が切れた操り人間のように私の身体が床に倒れた。

必死に動こうとするけれど手足が痺れて上手く動かせない。

 

『無理よ。今ので脳が揺れたからしばらくはまともに動けない筈よ。尤も、あなたなら5分としない内に動けるでしょうけどね。それと、これは返すわ』

 

床に転がり、自分を睨む事しか出来ない私を嘲笑う・・・もとい、見下(みお)ろすようにしている彼女。そしてその手から私の目の前に投げ捨てられたのは、私の専用機の待機状態の扇子だった。

っていつの間に取ったのよ!?

 

『それじゃ、縁があったらまた逢いましょ』

「ちょ、待ちなさい、ッ!」

 

そう思っても指一つ意志通りに動かせない。ほんの数㎝先にある待機状態の扇子にすら届かず、ISを展開することが出来ない。

 

ちょっとだけ悔しくて泣きたくなってきた。

IS乗りとして国家代表にまで登りつめ、暗部の当主としても努力を怠ったつもりはないのに、まるで子供の相手をされていたように呆気なく惨敗したことが堪らなく悔しい。

 

『あ、そうそう。お詫びとして一つ教えてあげるわ』

「何を、教えてくれるのかしら?」

『彼は純然たる日本人よ。両親、生まれ、育ち、どの観点から見ても日本人で、他の国の人物であることは有り得ない。そして同時に、日本人とは呼べない』

「それはどういうーーー

『じゃあね』

 

有無を言わさず彼女は廊下の闇へと消えていった。

 

 

 

003

 

それから程なくして回復した私はすぐに彼女を追いかけようとしたけど屋敷を出た形跡すら見つけれず、私の完全なる惨敗が確定した。

 

そして彼女が持ってきたファイルを確認した所、確かに偽造経歴であることを証明する情報は書かれていたけど、肝心の彼に関する情報は何一つ書かれていなかった。

 

結局、彼に関する調査はふりだしに戻る。

本人に直接問い詰めた方がまだ早いかも知れない。

 

(そう言えば簪ちゃんや一年の専用機を持ってる子達、みんなお祭りに行ってるのよね)

 

窓から見える夕焼けに何か言い表しようのない虚無感を感じながら呟く。

 

「私もお祭り、行きたかったなあ・・・」

「そんな時間は有りません。この後も稽古が控えてます」

「分かってるって。でも今の感じならきっと勝てるわ」

「頑張って下さいね。お嬢様の計画ではまず彼に勝てないと頓挫してしまいます。そうなると一から練り直しになり次のイベントにはーーー」

「ちゃんと勝ってみせるから安心しなさい♪」

 

直に私個人は殆ど休めなかった夏休みは終わり、新学期が始まる。休んでる暇がなかったことに一言二言あるけれど、これでやっと計画が実行できるわね。

 

この時私は自分のシナリオに根本的な間違いがあることを知らぬまま、ほくそ笑んでいた。

 

 

 

 

004

 

所変わって北アメリカ大陸の西部。

 

そこは国民には知らされず、都市伝説としてのみ世間で語られる極秘軍事施設、通称『地図にない基地(イレイズド)』のひとつ。第十六国防戦略拠点。

 

その施設は今現在、かつてない緊張に包まれていた。鋼鉄とコンクリートで出来た冷たい通路には警報が鳴り響き、侵入者の存在を告げる放送が流れ続けていた。基地の守備兵は血眼になりながら捜索を行い、施設内を駆けずり回る。

 

しかしそんな緊迫した施設にありなが不相応にも優雅に歩く少女が居た。

 

『いい? あなたの身体には監視用ナノマシンが注入されてるわ。命令に従いつつ、殺さずにミッションを遂行しなさい』

「言われなくても分かっている」

 

耳元で念を押すように聞こえてくる女性の言葉にうんざりしつつ、しかし上司としての心配だと思いながらも少女は聞き流す。

 

「!! 居たぞッ!」

 

通路の交差点にやってきた数人の兵士は少女を見つけるとすぐさまアサルトライフルを発砲する。

 

「用もないのに殺すほどーーー」

 

しかし少女は地面を蹴ると通路を縦横無尽に駆けまわり、兵士達を翻弄しながらハンドガンで反撃する。

兵士達は鉛玉の雨を浴びせるが少女には掠りもせず、逆に彼女からの弾丸で一人、また一人と仲間が倒されていく。飛来する弾に当たらないように走り続け、致命傷にせず確実に無力化できる箇所に一発たりとも外さないその射撃の腕、無事な兵士は戦慄すら覚えた。

そして一人の兵士が仲間が居るにも関わらず、スタングレネードを投げようとした。自分達よりも強い少女を無力化するには道ずれにするしかないと思ったのだろう。

 

私達(・ ・)は暇じゃない」

 

けれども少女は兵士の手を撃ち、それを阻止した。

当然投げそこねたスタングレネードは彼らの足下に落下。逃げる間もなく炸裂し、自滅してしまった。

 

「・・・・・・」

 

こいつら馬鹿か、と言った様子で若干呆れてしまう少女だが、すぐに気を引き締める。

 

通路の奥から数機のISが出てきたからだ。

第二世代型IS『ラファール・リヴァイヴ』の米軍仕様カスタム。カスタムと言っても外観が少し異なるだけで基本性能的にはあまり変わらないが、少女ひとりに対しては過剰過ぎる戦力だ。

 

「目的はなんだッ!?」

「この基地に封印されているIS、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』をいただく」

「な、なにッ!?」

「来い」

 

少女が光を纏うと薄紫の蝶を連想させるISが現れた。

それはつい先日イギリスが国連に警戒対象として報告した、強奪されたと述べた新型のIS。そしてその組織名も判明していた。

 

「まさか、亡国機業(ファントム・タスク)!?」

 

IS兵の動揺を嘲笑うように、少女は展開した長大なライフルの引き金をひく。

 

「サイレント・ゼフィルス、迎撃行動に入る」

 

 

 

 

 

 

数時間後。

米軍は銀の福音を守り抜くことには成功したが、防衛に参加したリヴァイヴの1機を強奪されたと国連へと報告した。

 




ご意見、ご感想などお待ちしております。


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特別コラボ編
渡物語 上


どうも戦争中毒です。

今回は魔女っ子アルト姫さんの作品、
『IS×OO もう一人のマイスター』とのコラボになります。
魔女っ子アルト姫さん、ありがとうございます。

時期的には夏休みの後半になります。


いちかゴースト

 

 

001

 

~一夏サイド~

 

夏休みのとある日。

俺は曲者(くせもの)に出逢ってしまった。

 

自分を選ばれた人間だと語ってさして立派でもない自らの欲望のために動き、道徳なんて物はとうの昔に捨て心が捻曲がったその様は、映画の悪役よりも醜悪で、昔習った『性悪説』を体現するようだった。

 

“人は生まれながらにして悪性を持つ”

 

なるほど、こう言う奴のことなのか。

会って半日もしない短い間でそう納得できるほどに、彼はこの世界に侵入した“曲者”だった。

 

これは曲がりに曲がったその傲慢と強欲で、自らの居る場所さえ曲げてはじき出された、

 

織斑 秋久の話だ。

 

 

 

 

002

 

 

「これでよしっと」

 

その日、俺は山の中に居た。

晴天に恵まれ、蒼一色の空には白い絵の具で線をひくように現在進行形で飛行機雲が伸びていく。海は海水浴に来た人が多過ぎて芋煮状態で、テレビでは熱中症予防の特集が放送されていた。

 

そんな日に俺は、銃術の練習にするために山の中にある岩場に来ていた。

そんなの学園でやれよ、と思うかも知れないがそれが出来ないから山の中でやってるのだ。学園だとみんながすぐにISの訓練をしようと誘ってくるし、そもそもISの訓練以外ではアリーナの使用申請がなかなかおりない。

 

だから中学の時に練習するのに来ていた自宅から近くにある山に来ていた。ちなみに箒の実家のである篠ノ之神社がある山とは別の山だ。

 

的として木板を枝にぶら下げてから少し離れた場所に移動して、大型二丁拳銃『阿吽』を構える。

 

「忍、弾着の確認を頼むぞ」

「お~、任されよ~」

 

生返事をしながら自分の能力で作ったビーチチェアに座って寛ぐ忍。

本当に大丈夫か?

 

一度、目を閉じて深呼吸をし、意識を自分の指にあるトリガーと周辺感知に集中する。

 

「ッ!!」

 

カッ、と目を見開き、弾丸を十発放つ。

銃口は一発撃つたびに向きを変えるが、それらは必ず木板を外れ、()()()()な方向を向けているが今回はこれでいい。

 

十発撃ち終え、忍の方に視線を向けるが、

 

「一発だけかろうじて命中・・・。まだまだじゃな」

 

その成績はとても酷かった。

 

今練習しているのは跳弾による攻撃だ。

元はゴム弾が跳ね返してきて自分の命中した、と言う何とも間抜けな出来事がきっかけだが、それを意図的に敵に向けて放てないかと思い練習している。

しかしこれがなかなか難しい。

跳弾せずにメリ込んで終わりだったり、跳弾してもあらぬ方向へと跳ねたり。近頃やっと的のある方向へは跳ぶようになったが命中率は未だ、一桁を超えなかった。

 

「やっぱり難しいな」

「お前様の姉上なら出来そうな気がしてならんのじゃが」

「確かに否定できないけど、千冬姉なら弾丸を放つくらいなら斬撃を飛ばしそうだけどな」

「怪異じみとるの」

「ISを使ったら斬撃どころか亜光速で剣を投げれそうで怖いよ。投げる=相手が死ぬの方式が完成する」

「それ人間を辞めておらぬか?」

 

頭の中にソニックブームを発生させながら持っていた刀を投擲する千冬姉をイメージした。うん、絶対に貫通どころか当たった途端に相手は爆散するな。

 

「何か千冬姉との差に絶望しそう」

「そもそも世界最強と比べておる時点でおこがましいと儂は思うんじゃが」

 

まあ確かに忍の言う通りなのだろう。

だけどやっぱり、男である以上はせめて家族である姉を守れるくらいにはなりたいと思って止まないのは無理からぬとは思わないだろうか

どっちにしてもちょっとやそっとじゃ越えられない壁なんだろうけどな。

 

そう結論付け、今は地道に練習あるのみと意気込みよく練習を再開し、阿吽の引き金を引くと。

 

 

ドッカァァァァァ!!!

 

唐突に響いてきた爆音と地響き。

一瞬、何がヤバい物でも撃ったかとビビったけど音源は遠くだったので内心ホッと安心した。

 

「爆発音?」

 

日本の人里からさして遠くない山中で、爆発が起きることは普通ではありえない。

 

「行くぞ忍!」

「待て! 先に儂を助けんか!」

「助けるって何から、って何やってんの?」

 

意気込みよく走り出そうとして忍に止められ、振り返ると彼女はビーチチェアやパラソルの下敷きになっていた。多分、揺れた時に椅子がひっくり返って運悪くパラソルまで倒れてきたんだろう。

涙目になって這い出そうとしているけど、正直なところ少し可愛いと思った。

 

「いつまで見ておるんじゃ! 手を貸さぬか!」

 

そして怪異の王の威厳が無いとも思った。

 

 

003

 

 

土埃の発生源に着くと、そこはかなり不自然な荒れかたをしていた。まるで隕石が落ちたかのような円形に、外側へと木々がなぎ倒され地面が抉れているが、中心部はそんな様子が一切見られない。中央には周囲の状態を存ぜぬといった様子で数本の木がそびえている。

 

明らかに異質で異常な現場。

何事かと忍に話し掛けようとした時、残された中央のに倒れている人影が見えた。

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

安否を確認するために近寄って見ると、同い年くらいの青年でどこかで見たような顔をしていた。

その青年は目をうっすらと開き、こちらを見る。

 

「織斑・・・一夏?」

 

そして俺の名前を言うや否や、気を失ってしまった。

 

 

 

とりあえず近くの休憩所にまで背負っていき、そこにあったベンチに謎の青年を寝かせる。

屋根と湧き水の水飲み場、ベンチが二脚しかない簡素な休憩所だが、こんな山の中にあるという点で見ればそれなりに整ったものだ。

 

倒れていた青年の額に水で濡らしたタオルを乗せる。

看たところ目立った外傷はないし、熱や発汗なども普通なので軽い熱中症だと思うからしばらくすれば起きるだろう。

と言うか真夏にコートなんか着てるのが悪い。

 

「それにしてもよく似ておるのう」

「自分の顔だからピンとこないぞ?」

 

どこかで見たような顔だと思ったが、俺とよく似ているのだ。雰囲気とかじゃなく顔立ちからして似ているように思える。

忍が言うには目つきとかそのくらいしか違いを見つけれないそうだ。

間違い探しを見ているような気分になるな。

 

「でもさっきの現場、いったい何をどうしたらあんな風になるんだ?」

 

もしあの現場を科学的に証明するとしたら、指向性対人地雷であるクレイモア地雷(埋めるタイプじゃなくてただ地面に置くだけの弁当箱みたいやつ)を中心から外側向きに円を描くように配置して起爆したってことになると思う。

だけどそれらしい破片がないし、そもそもそんな事をする意味がない。

謎は深まるばかりだ。

 

「ん・・・う~ん・・・」

 

おっと、彼が目を覚ましそうだ。

 

「忍、いつも通り頼む」

「仕方がないのう」

 

そう恩着せがましい言い方をして、忍は“阿吽”を両手で抱えたまま影へと潜った。

巨大な拳銃なので隠し持つことが出来ない。だからと言って剥き出しで持ち歩いていたら直ぐにお巡りさんに逮捕されるだろうから、忍に影の中で管理してもらってるのだ。

 

青年は身じろぎを少ししてから、うっすらと瞼を開ける。

 

「気がついたか?」

「ッ!? お前死んだはずじゃッ!?」

「初対面でいきなり酷いな!」

 

起きたと思ったら人の顔を見るなり上半身を跳ね上げ警戒心を露わにする青年。ってか勝手に殺さないでほしい。

 

「初対面? 俺が、分からないのか?」

「え? どこかで会った事あるのか?」

 

だとしたら困った。一生懸命に記憶の中を探すが思い当たる人物がない。

同級生? 町内の人? 生き別れの兄弟?

そもそもここまで顔が似てる人物に会ったことがない。生き別れの兄弟という線は捨てきれないが、千冬姉からそんな話は聞いてないし、うろ覚えだが織斑家は両親含めて四人暮らしだったはず・・・だと思う、気がする。

 

だとしたら・・・両親の隠し子?

それも無いな。この青年は俺と会ったことがあるような口振りだ。そんなインパクトのあるエピソードを忘れるほど馬鹿じゃないつもりだ。

 

「・・・どうなっているんだ?」ボソボソ

 

何だか訳ありっぽいな。

 

「それにしても、どうしてこんな山の中に居たんだ? それもそんなコート姿で?」

「そ、それがよく分からないんだ。気がついたらこんな所に居て・・・」

 

もしかして何らかの怪異現象に巻き込まれたのか?

でも忍野が居ないと俺は手が出せないし、八九寺の一件で釘を刺されたばかりだからな、正直頼みづらい。

 

「その、おま・・・君は何でこんな山中に?」

「俺は、まあ、散歩の途中かな?」

 

まさか銃をブッ放していたなんて言えないからな。

あ、そういえば。

 

「ところで名前は?」

「織、ッ」

「おり?」

「おり、織、原。そう、織原 秋久だ。よろしく」

 

なんか詰まっていたような気がするけど、まあ良いか。

 

「よろしくな、秋久」

「ああよろしくな一夏」

「あれ? 俺、名乗ったーーー」

「そ、そうだッ! 織斑って言ったらあのISを動かした男だよな!?」

「まあ一応、そうだけど・・・」

「スゲーな! やっぱり女子校だからハーレムなのか?」

「まさか、周りに女の子しか居ないから居苦しいよ。それにハーレムって。俺、モテないし」

「えっと、ああそうだ! ほら専用機を持ってる代表候補生の女の子とかさ!?」

「? 仲のいい友達だけど?」

「原作通りだ」ボソボソ

「どうした?」

「いや、なんでもないぜ。おととっ」

 

立ち上がろうとした秋久はバランスを崩してベンチに再び座った。一応元気はあるようだけどまだ足がおぼつかないようだ。

やっぱり病院に連れて行った方がいいかな?

 

「(とりあえず山を下りるか・・・)歩けそうか? 手貸すぜ」

「悪いな、一夏」

「困った時にはお互い様だって」

 

俺は秋久に肩を貸し、ゆっくりながらも下山し始める。

道中の会話は、まあ何の変哲もない普通の会話だった。好きな週刊誌とか、どこのIS企業が凄いかとか。あと兄弟の話もあったな。

いろいろ質問責めにあったけど男同士だと話易いな。うん、気楽でいい。

 

そうしているうちに、山道を抜け舗装されたアスファルトの道に行き当たる。

左には2㎞ほどで村が、右には最寄りのバス停。家に帰るなら右へ行くんだけど、秋久を公的機関に連れて行くなら左方向だ。

秋久はもう一人で歩けるまでに回復してはいるがどうするべきか。

 

「ここをまっすぐ行ったら交番があるけど、一人で大丈夫か? もし良かったら付き添うけど」

「平気だって。そういえば一つ訊き忘れていた」

「まだあるのかよ!?」

「これ最後だって!」

「たく、それで。何を忘れてたんだ?」

「男で、ISを動かせる教師は居るのか?」

 

男の教師?

IS学園には用務員のおじさん以外、大人はいない。忍野も実年齢はともかく肉体年齢的には未成年だし、そもそも教師じゃない。

 

「いや、居ないぜ?」

「そうか。なら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前を殺せばいいんだな」

 

 

 

004

 

 

「お前が殺せばいいんだな」

「は?」

 

秋久の発言が理解できずに呆けてしまう一夏。

そして突然と殺害を宣言した秋久は、どこからか緋色の大剣を出現させ握り締め、そんな彼の胸を射抜くように狙いを定めて突進してくる。

 

《勝手は許さぬぞ!》

 

忍の判断によって緊急展開された二機のホルスタービットがひとつの盾として立ちはだかり、秋久の突撃を防ぐ。主を護らんとする防壁、それを火花を散らせながら突き破らんとする大剣は互いに一歩も譲らない。

ここで漸く秋久が本当に自分を殺そうとしていることに気がつく一夏だが、彼の瞳には攻撃されたこと以上に驚く物が映し出されていた。

 

今し方、自分の命を奪おうと振りかざされた紅色の片刃の大剣。その大剣の形状が自分の知っている物と同一で、しかも今、この場にいない人物の装備品だった。

 

(アルケーガンダムのGNバスターソード!?)

 

「何だよ、その装備! 『白式(びゃくしき)』じゃないのかよ!」

「白式? 何の話だ!?」

 

GNピストルビットを左手に呼び出し、ホルスタービットの陰から秋久に向けて引き金を引く。

秋久は一夏が銃を向けてきたことに驚いた表情をしたが、すぐに動き、大きく後ろにジャンプし離れる。

 

(人間の脚力じゃないぞ!?)

 

バスターソードなんてヘビー級の重武装を持っているのにも関わらず、秋久は助走もなく後ろ向きで10m以上も飛んで離れたのだ。

 

すぐにサバーニャを完全展開した一夏は全身からGNミサイルを放ち、秋久はそれをバスターソードの側面を盾として構えた。

次々と命中するミサイルの爆発と爆煙は、秋久の姿をあっという間に隠してしまう。

 

「やったのか?」

《いや・・・まだじゃ》

 

粉塵が晴れた先に居たのは紅い機体。

全身装甲で手足が長い。胸部と両脚部のクリスタル状の部分が怪しく輝き、血のような真っ赤な粒子を放出していた。

 

「あ、アルケーガンダムだと!?」

 

秋久が纏ったISは、どう見てもアルケーガンダムだった。サイズ、装甲の彩色、放出している粒子の色、どれをとっても同じ機体。

違うのはそれを纏う人物だけ。

 

「その機体をどこで・・・忍野はどうした!?」

「今から死ぬ奴がそんな事を知ってどうするんだ? それに、お前の機体を見てるとイラつくんだよ」

 

バスターソードを構えるアルケーガンダム。

 

「イチカって糞教師が使ってたISに似ているから目障りなんだよおッ!!」

 

剣を大きく振りかぶってくる明久。

一夏は握ったピストルビットのブレードでその攻撃を防ぎ、二人の間で鍔迫り合いの火花が光る。

 

《お前様!》

《大丈夫だ! だけどこんな所じゃ戦えないぞ!?》

《ひとまず山の中へ逃げるのじゃ!》

 

今この場で戦闘を行えば近くの民家に被害がでるかもしれない。一夏は森に入って木々を縫うように逃げる。それを追う秋久は邪魔になる木を切り倒し、一直線に追撃する。

 

一夏が山火事を恐れてピストルビットを撃たないことを良いことに、秋久は距離を縮めて遂には追いつき、その大剣を振るう。

辺り構わず、一夏だけを狙う太刀筋はデタラメで子供のチャンバラそのもの。しかし一夏は苦戦する。

相手が見知った機体(アルケーガンダム)であるため無意識の内に忍野の動きと重ねてしまい、動き読み損ねてしまう。アイツならこう動く、そういう先入観のせいで回避が遅くなったり、反撃のタイミングを逃したりしている。

 

(忍野よりも動きが荒いが次の動きが読めねえ! けどよ!)

 

動きが読めなくても闘えないわけじゃない。

やっと森の開けた場所にたどり着いた一夏は、常に片方の銃を盾として使う守備型のガン・カタ戦で反撃を開始する。忍野の高機動パワーファイトとは違い、秋久の戦い方はスピードこそあるが一撃が軽いので片腕で十分防ぎきれるから出来る戦法だ。

尤も普通なら武器の質量に圧倒されてしまってただろう。

 

「大人しく死ね! ファング!!」

 

痺れを切らした様子でアルケーから放たれた6機の槍頭(ファング)の群れは一度散開し、それぞれが死角から一夏に襲いかかる。

 

だが一夏には心強い相棒がいた。

 

《ビットは儂に任せよ!》

 

ホルスタービットがファングの前に飛翔、その鼻先に体当たりをかまして弾き飛ばし、その進行を阻止する。そしてピストルビットの対空砲火がファングを追い払う。

 

《お前様、あれをやるぞ?》

《1対1であれをか? 何をするつもりだ?》

《弾幕を張ってファングごと奴のシールドエネルギーを掃討するのじゃ》

《その案採用!》

 

一夏は一度距離を取ると全ビットを手元に集め、ホルスタービットを前面に配置し、その隙間からライフルビットを覗かせると、

 

「乱れ撃つぜ!!」

 

一斉射撃を開始する。

ファングからのビームはホルスタービットで防がれ、その直後にはライフルビットの餌食となり紅い花を咲かす。

計10門のライフルから放たれる光の豪雨は次々とアルケーガンダムに命中し、シールドエネルギーを削っていく。

 

だが、

 

「死ねええええッ!!!」

「ゲッ!?」

 

ビームを喰らいながらも突き進み、剣を振りかざす秋久。

一夏はビットを散開させつつ離脱するが、逃げ遅れた2機のライフルビットが叩き壊された。

 

「オラオラ! サッサと殺されろ!!」

「やれるもんならやってみな!」

《人間風情が図に乗るでない!!》

 

モスグリーンと緋色の機体が交錯する。

 

 

005

 

二人の戦闘が始まってから数十分が経過していたが、未だ決着はついてなかった。

 

「そろそろミサイルが・・・」

 

度重なる攻撃でホルスタービットは数こそ減らしてはいないがその表面は傷だらけ。サバーニャ本体も無傷ではなく、装甲の一部に大きな斬り傷を作っている。

一夏自身の体力もかなり消費してしまっている。

 

一方、目の前のアルケーガンダムにはダメージらしき物が一切見受けられない上に、秋久からは疲れというのが一切感じられない。

無論、一夏が攻撃をしなかったからではない。

ビットやミサイルの攻撃が命中しているはずなのにそれが見受けられないのだ。

 

《お前様!!》

「ッ!?」

 

疲労から判断の遅れた一夏は、振り降ろされたバスターソードをギリギリのところで両手に握ったピストルビットを交差させて受け止める。

激しい衝撃と振動。

 

「いい加減に死ねよ!」

「お断り、だ!」

 

なんとか力任せに弾き、銃撃しながら距離をとる。

無数の光条はアルケーガンダムのシールドエネルギーを削り続けるが、それでも止まらな。

学園での模擬戦ならすでに危険域に達しているのにも関わらずだ。

 

(これ以上攻撃したら絶対防御を貫通しちまう。けどアッチは止まるつもりもないようだし・・・)

 

どうしようかと考えあぐねて集中力が散漫となった一瞬の隙をつき、背後に回り込んでいたファングが一夏の背中を襲う。

 

「うがッ!」

 

装甲を貫き、その鋭い衝撃が身体を蝕む。

絶対防御が発動したので物理的ダメージは機体装甲のみだが、この戦いが、互いの命の奪い合いだということを容赦なく突きつける。

そして、一夏の堪忍袋の緒が切れた。

 

「こうなりゃ正当防衛だ! 手足の2,3本は恨むなよ!」

 

そう言うや否や、再びビットを正面に集め、手に握っていた片方のライフルビットも一緒に集結させる。

そしてライフルビットを角に、ホルスタービットを辺とした菱形に二つ形成すると、

 

《忍! 粒子をケチるな!!》

《わかっておる!》

 

ほんの一瞬、稲妻を発してから高出力ビームの束が照射された。

二つの巨大なビームは進路に浮遊していた秋久のファングを飲み込み、爆発する間もなく蒸発させながらまっすぐに秋久へと向かう。

緋色の機体は粒子ビームから逃れようと機体をずらしたが逃れきれず、下半身を呑み込まれ、火花を散らして爆発した。

 

《あれだけの火力じゃ。ただでは済まんじゃろう》

《だといいが、死んでないよな?》

《生体反応が残っておるから大丈夫じゃろ》

《そうか。煙が晴れてきたぞ》

 

爆発によって発生した黒煙が晴れていき、緋色の装甲が見えくる。

上半身は焼け焦げただけだったが、直撃を受けた下半身は焼失して消し飛んでいた。一夏の予測を上回るほどにシールドエネルギーを消費していたアルケーは、その絶対防御を十分に発揮できず、秋久は致命傷を負ってしまっていたのだ。

 

「あの傷、すぐに病院にッ!?」

《どういう事じゃ!?》

 

慌てた一夏と忍だが、次の光景を見た瞬間、息をのんだ。

 

消し飛んだ下半身。

しかし残された上半身から新たに下半身が()()()きた。骨、筋肉、皮膚の順に中身が再生し、それに僅かに遅れながら装甲も再生される。

つま先まで再生し、完全に復活するのには30秒と要しなかった。

 

《再生能力!? 人間じゃないのかよ!》

《分からん。少なくとも純正の人間ではない事は確かじゃの》

 

明らかに致命傷だった傷が再生するその様は、もはや見慣れてしまい、馴染んでしまった不死身の特性だった。

 

「ハハハッ、見ろ!! これが選ばれた人間の、主人公の証だ! 俺は不死身を手に入れたんだ!」

 

愉悦(ゆえつ)の色を浮かべて高笑いする秋久の台詞に、一夏は眉間に深くしわを寄せぎりぎりと歯噛みして、笑い続けるアルケーガンダムを睨みつける。

 

「選ばれた人間? ふざけるな! そんな奴は主人公とは・・・ましてや人間とも呼ばねえ!」

「ああん!?」

「『化物』って呼ぶんだよ!!」

「違うな! 最強の主人公(秋久様)って呼ぶんだ!」

 

「ふざけるなぁぁぁッ!!」

 

一夏は憤怒し、両手のピストルビットで斬りつける。

が、秋久も負けじとそれを大剣で弾く。

 

「不死身の何が最強だ!! そんな奴を誰が人と認めてくれるって言うんだッ!!」

「俺がお前より強ければみんなが認めるさ! 何たって俺は特別なんだ!!」

「そう言うのは特別じゃなく特異って言うんだ! 人を外れて普通に生きていけると思ってるのか!?」

「当たり前だ! だから俺の計画(ストーリー)にお前は邪魔になるんだよ! 分かったら死ね!!」

「てめぇだけは絶対許さねえッ!!」

 

二人が咆哮をあげながら再び衝突しようと武器を振ろうとした。

 

だが突如として邪魔が入る

血のような真っ赤なビームと10機ファングが二人の間に割り込み、ビームが鼻先を掠めそうになった一夏が、常に二方向から襲いかかるファングに秋久が、互いに戦っていた相手から離れて戦闘を中断した。

 

「なっ!? 粒子ビーム!?」

「俺のファングじゃない!? 誰だ!!」

 

秋久にまとわりついていたファングは妨害だけが目的だったらしく、二人が戦闘中断をさせた直後に、(きびす)を返して去っていく。

そしてそれは、此方へと飛んでくる飼い主の下へと戻る。

 

紅よりも赤く返り血を浴びたような機体は、双方に衝撃をもたらした。

 

「「アルケーがもう一体!?」」

「退け一夏! こいつは俺の獲物だァ!!」

 

新たに参戦し、二人からちょうど中間点になる位置を陣取ったアルケーから忍野の声が響く。

 

「忍野!? お前今までどこに行ってたんだ!? それとその機体も!?」

「えぇい質問が多いぞ! 細かい説明は後にすッけど、野郎ォは俺が始末する!!」

「始末って、何でだよ?」

「仕事に決まってンだろォが」

 

いきなり登場してろくな説明をしない忍野を問い詰める一夏。それをいい加減で適当な返事で乗り切ろうとする忍野。

戦闘中だと言うのに緊張感に欠ける二人。

 

「お前ら二人を殺して、今度こそ主人公になるんだ!!」

 

案の定、秋久は一夏よりも先に自分に背を向けている忍野に狙いを定めて突進し、両手で掴んだバスターソードを力いっぱい振り下ろしたが、

 

ガシッ

 

「へ?」

 

振り返った忍野は間合いを詰め、左手で秋久の手を掴み取り、その大剣を振り抜かれるのを阻止した。

そして、秋久からは機体の影になって見えなかった右手で、

 

貴様(テメェ)だけは容赦しねェ! アルケーは2体もいらねェんだ!!」

 

自分の大剣を振るい相手の両脚を削ぎ落とした。そしてそのまま両つま先に仕込んだビームサーベルを、曲芸じみた素早い動きで軌跡を描かせて秋久の身体に多数の致命傷を与える。

 

ーーーこんな奴、原作に居ないぞ!?

なんだよ、なんなんだよ!?

 

「何なんだ、お前は!?」

「俺は俺だァ!!」

 

最後に大剣で殴り飛ばされてやっと連撃から離脱させてもらえた秋久。

ボロボロになった身体はすぐに再生を始めるが、自分の使っているのと同じ機体でここまでいたぶられたと言う現実からは回復できていない。

 

対して忍野は、何を思ったのか手に握っていたバスターソードを手放すと、拡張領域に片付けてしまう。

そして、嘲るようにしながら言い放つ。

 

「確かテメェは暴力が好きだったよなァ? 自分より弱くて抵抗できない奴を虐めるのが好きだったそうじゃねェか。だったら同じことをしてやんよォ!!」

 

するとその直後、忍野の纏う装甲の隙間から紅い光が漏れ出す。

 

秋久は始め、GN粒子が漏れているのだと思っていたがすぐにそれは誤りだと気づく。

粒子であるなら無造作に放出すればただ浮遊しているだけなのだが目の前の()()は明らかに違う。紅い光を放つ()()はスライスのような、そして見る人によればオーラと言われるエネルギー体のようにも見える。

 

そして()()は、泥のように装甲にへばりついたまま侵食を始め、機体を覆い尽くすとそのまま獣のような形へと変化する。

 

頭部アンテナの位置からは後ろへと伸びる尖った耳のように、

 

両手のオーラは本来の手の倍近くのサイズに、

 

バックパックから伸びている長い安定翼を包むソレは太い尾へと変化する。

 

その姿は正しく、

 

“化物”

 

それと相対する秋久は動く事が出来ないでいた。

なまじ透けて中身(本体)が見えているのが彼にとっては恐怖そのもの。

殺気を具現化したように目に映るそれは、その姿が“自分を殺した者(闘志を纏った者)”と重なって見えたからだ。

 

身じろぎ一つ出来ない。

ほぼ自我を失った後の出来事だったが骨身に染み込んだ経験から震えが止まらない。

 

「テメェは地獄に堕ちたのに刑罰を受けてねェだろォが! 堕ちるだけじゃァ足りねェんだよッ!!」

 

ーーーくそっ、動けってんだよ!

俺は転生者だぞ!?

神に選ばれた特別な存在である俺がなんでこんな目に遭わなくちゃならないんだ!?

 

その傲慢な意識で動こうとする秋久だが、身体は目の前の圧倒的な悪意に蝕まれ指先一つ満足に動かせない。

 

地獄(刑罰)のツケを払え! テメェの命でなァ!!」

 

傲然と言い放ち突進してくる化物。

 

ここに来てようやく恐怖心に打ち勝ち、身体の自由を取り戻した秋久は距離を取るように後退させつつ、大剣に仕込まれた銃で牽制のビームを放った。

しかし、化物は意に介さないように次々とビームを避け、その巨大な手でビームそのものを凪払う。

 

「ふ、ファング!」

 

一切の牽制を受け付けない化物に対し、秋久は残っていた槍頭(ファング)を向かわせる。

 

「目障りだァッ!!」

 

縦横無尽に宙を駆けるファング。

けれども化物は鬱陶しい羽虫を払うかのように、平然とその尾で(はた)き落とす。

 

「このぉぉぉぉぉおッ!!!」

 

相手の意識が逸れたと感じた秋久は形勢を覆そうと突撃。バスターソードを上段に構え、袈裟切りに剣を振るが化物はと言うと、

 

「動きが見えんだよォ!!」

 

速度を緩めぬまま螺旋を描くように紙一重で避け、そのまま秋久の後ろに回り込むと、

 

「バカが!!」

 

その巨大な手で秋久の纏うアルケーガンダムのボディーを鷲掴みにして、ISのパワーアシストを無視するほどの力で地面目掛けてぶん投げる。

しかしそれで終わらず、化物は空を蹴り、一気に加速すると墜落中の秋久に追い付いて追撃を仕掛ける。その両手から生えたビームサーベルのような爪で装甲と中身を斬り裂く連撃。

 

「止めッ、止めろッ、止めてくれぇぇえ!!」

 

凶刃(10本の爪)でズタズタに裂かれる秋久。けれども再生能力があるため傷が治り、再び斬り刻まれる。破壊と回復を繰り返されるその光景は蹂躙そのもの。

 

そして化物は、その手に一振りの剣を生み出すと弓のように身体を仰け反らせ、限界まで溜めた力で思いっきり射出した。

 

「そォら、逝ッちまいなァ!」

 

飛来してくる剣を防ごうと無意識で右腕を出すが、剣はその腕を引きちぎり秋久の身体に突き刺さると地面へと隕石のよう衝突した。

 

「グハッ!?」

 

装甲を貫き、秋久を地面に縫い付けていたのは中国の両刃剣によく似た剣で、刀身には北斗七星の装飾が施されている。

淡い光を放ち続けるそれは神々しさがあり、禍々しいアルケーには不相応な武器だ。

 

「ヘッ、へへへ、今の俺は剣なんかじゃ死なーーーッ!?」

 

そこまで言った所で、秋久は言葉を失った。

自分の不死性をアピールするつもりで掲げた右腕。ところが切り落とされた腕が再生せず、それどころか傷口から徐々に残った部分が消え始めているのだ。

まるで初めからなかったかのように。

ゆっくりではあるが、しかし数秒で変化に気づけるほどのスピードで消えていく。

 

「何で、何で傷が治らないんだよ!?」

 

何が起こっているのか分からないと言った様子だった。

 

「こいつは七星剣(しちせいけん)ッてなァ、死者をあの世に強制送還するてェ代物だ」

「死者、だと?」

 

その言葉の意味を、秋久は理解出来なかった。

 

ーーー死者? 誰が?

自分は転生して生き返ったんじゃ?

 

「テメェは生き返ったんじゃねェ、あの世から逃げ出して来たんだ。だからコッチとしちゃァそんなイレギュラーを見逃せねェだ」

 

そうしている間にも身体の消滅は進み、すでに四肢は殆ど残っておらず、あと5分と保たないうちに消え去るであろうと一夏は思った。

秋久の胸のGNドライヴは、彼の灯火を表すかのように徐々に光を失っていく。

 

「嫌だ、死にたくない! 俺はまだやりたい事があるんだ!! 頼む! 助けて、下さい!! そ、そうだっ、仲直りしてやるから!! 土下座でも何でもするから!!」

 

一夏は、彼が救いようがない存在と感じた。

ついさっきまで己が欲望のために他人を殺そうとしていた癖に、いざ我が身の危機となると助けてを請う。

そして彼の懇願はあまりにも身勝手なもの。他人の同情を引くには値しないほどレベルの低いものだった。

 

散々泣き喚く秋久だが、ついに年貢の納め時がやって来る。

忍野は七星剣の柄を掴み、一言だけ呟いてから秋久の身体を左右に両断した。二つに別れた事で消滅速度が加速するとあっという間に消え去る。

消え去る直前に頭部の装甲が外れ、その下にあった表情が現れたが、一夏と忍野は見向きもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「被害者面が気に食わねぇんだよ」

 

それが、秋久が認識出来た最後の言葉だった。

 

 

 

 

006

 

~一夏サイド~

 

剣を地面から引き抜いた忍野は、紅いオーラ共々身体に吸収するように片付け、ISも解除して自分の足で地面に立つ。

それを見てから俺もサバーニャを解除した。

 

「忍野。その秋久っていったい何者だったんだ?」

「あぁ、こいつは地獄からの脱獄犯だ」

「脱獄犯!?」

 

まさかの回答。

監獄どころか地獄から脱走するやつが居るなんて信じられなかった。地獄の鬼や閻魔様は仕事をサボっているのか?

 

「アイツはいくつもある平行世界、所謂パラレルワールドのどこかで死亡。その後、地獄の最下層に堕ちる途中でこの世界に迷い込んだんだ。

平行世界同士の境界はハッキリと区切られてるんだが、地獄やあの世での境界が曖昧でなぁ、何かの拍子に生前とはまるで違う世界に移動しちまうんだ。つまり転生ってやつだ。

人為ならぬ神為的に行われる場合が多いんだが今回はちょっと事情が違ってな、それで俺が出張ってきたんだ」

 

相手が“死人”って時点で専門家の仕事に含まれるのは俺にだってわかる。だけどスケールが俺の理解できる範疇を越えてしまっている。

平行世界? 転生? 何のこっちゃ。 

 

「そう言えば何で不死身だったんだ?」

「アイツが墜されたのは等活地獄(とうかつじごく)、別名“殺戮地獄”。殺されると体が回復して、また殺される。そうやって永遠と死を体験し続ける地獄だ」

 

ここにきて再生能力の説明がついた。

何度も死ぬための地獄から抜け出してきたのだから幽霊でありながら生きた肉体を持ち、そして再生能力が備わっていたのか。

 

「 でも幽霊なら忍かお前が()()()あんな派手に闘わなくても済んだんじゃないのか?」

「確かにそうだ。でも喰ったらアイツは罪をつぐなわないだろ? 本人の反省云々はともかく、罰はちゃと与えないと。それに、」

「それに?」

 

「あんな奴を喰ったら、腹壊しそうだ」

 

「怪異を喰う奴のセリフじゃないだろ」

「そうかもな。んじゃ、後始末よろしくなぁ」

「あっ、おい!」

 

忍野は俺の返事も聞かず、走り去ってしまった。

そして俺は、戦闘の爪痕で荒れ果てた周囲を見回す。

 

後始末ってまさかこの惨状を片付けろって言ってんのか?

あ、遠くからサイレンが聞こえてきた。

 

「・・・よし、逃げよう」

 

この時、俺はこれまでの人生でトップ3に入るほどの走りでその場から立ち去った。

 

 

 

007

 

 

「これで依頼遂行だな」

 

そこは真っ暗闇の通路。

一切の光源がないにも関わらず、自分の身体と足の下にある獣道一歩手前のような地面が剥き出しの舗装されていない道だけはハッキリと見える摩訶不思議な空間。そんな道を行列を成して歩く老若男女。彼らには一切の表情はなく、ただ能動的に前を歩く人に続く。

空も地平線も路肩も、全てが黒く塗りつぶされそこには聞こえてくる会話もなく、足音しか存在しないある種の静寂な世界。

 

ここは地獄へと堕とされた者が歩かされる地獄への一本道。彼らは生前の愚かさによって地獄行きになった咎人の列。

 

そんな道の脇をしめしめと絵に描いたような守銭奴面で逆走しながら歩く忍野。片手に明細書を持ち、振り込まれるであろう報酬に胸を踊らせているのだろうか、鼻歌混じりでご機嫌な様子である。

ISの修理費に始まり、アリーナの賠償金、デンドロビウムの部品代、千冬への迷惑料、クロエのご機嫌取り。

・・・後半は少しおかしいが、とにかく出費が重なり彼の財布は秋の終わり状態。冬になってないだけ辛うじてマシになっていたのだ。

そこに今回の、専門家としての臨時収入。多額の報酬に喜びを押され切れなくても仕方がない。

 

 

明細書を読み終わり、歩く以外にすることがなかった忍野は横を流れていく地獄への列を何気なく眺めているとその中を歩く一人の男に目が止まる。

 

イギリス圏の顔立ちでブルーの瞳の左目にくせっ毛の茶髪、どこか飄々とした雰囲気の男性。それを払拭する程の異彩を放つ右目の眼帯。

 

だが忍野はそんな事よりも引っ掛かりを覚える点があった。

 

それは男が着ているダイバースーツのような衣服。

 

そのデザインと色合いが一夏のISスーツと、偶然で片付けるには無理があるほど酷似していたのだ。見た目が似ていると言うより、設計思想から似通っているように感じ、双方の違いが“新旧の差”程度にしか思えなかった。

 

(まぁ、()()()所を歩いている以上、咎人なんだろうけど・・・)

 

先も述べたように、ここは地獄への一本道。

そこを逆走している忍野がすれ違うのは、地獄へと堕ちた者と決まっている。極めて稀に、極々一部の専門家が来ることがあるが、目の前の男はそう言った気配をまるで感じない。

だから何故、彼が視界にとまったのか分からない。いやきっと一夏のISスーツに似ていたからだ。そうに決まっている。

 

そう自分に言い聞かせながら歩き、二人の距離が近くと、

 

「おっと」

「すまない」

 

()()互いの肩がぶつかる。

大して痛くもなく身体が揺れる程度の、触れたと表現する方が正しい思えるが確かにぶつかった。

けれども気にする程の事でもない、と忍野は一言謝罪を述べるだけで止まらずに道を逆走していった。

 

「・・・・・・」

 

男は黙ったまま忍野の後ろ姿を見送り、その姿が後ろの列の影で見えなくなってから悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべ一言呟く。

 

「悪いなイチカ。人を貧乏クジの化身みたいに言った恨み、晴らさせてもらったぜ」

 

それだけ言うと、男は忍野が歩いて来た(地獄)へ再び歩きだす。

 

紛争根絶のため、自分が奪ってきた名も知らぬ人々の命の償いを、咎を受けるために。




いかがでしたでしょうか?
近いうちに後編も投稿できるように頑張ります。

ご意見、ご感想がありましたらよろしくお願いします。


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トラブルだらけの秋
学園祭 其ノ壹


001

 

「皆さんおはようございます。朝礼をはじめますねっ」

 

暦の上では夏が終わり、秋が始まった日。

山田先生の挨拶で、二学期最初の朝礼が始まる。

彼女の前にある席は全て埋まっており、誰ひとり欠けることなく新学期が迎えられた事を内心喜んでいた。

 

しかしそんな彼女の真ん前で。

 

「・・・・・・」ZZZ

「おい。いい加減起きろって」ヒソヒソ

 

忍野は爆睡していた。

まるで入学式当日の朝礼のようだ。

 

「ええ~っと、連絡事項ですが、まずこの後全校集会があるので体育館へ移動して下さいね。それから今日の放課後は学園祭での出し物を決めるのでみなさん案を考えておいて下さいっ」

「「「は~いっ!!」」」

 

さすがトラブルだらけの一学期を過ごした山田先生と生徒達。

忍野が寝ていても多少気にしながらもスルーしてしっかりと朝礼を進行し、クラスメイトの全員が先生にちゃんと返事をした。

 

おいっ、ガチでいい加減に起きろよ。

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

さて、それからほどなくして忍野も起床(強制起動)し、全校集会のために体育館へ移動する。

 

体育館にはすでに数クラスが所定の位置に整列しており、一組も素早く列に加わる。

 

(イベント多いな。さすが金持ち学校)

(はぁ、めんどくせぇ)

 

毎月のように学年、もしくは全校単位での学園イベントがやってくるIS学園。

しかし今年だけは、“イベント=IS事件発生”の方程式が完成しつつあり、完全なフラグになってしまっていた。すでにクラス対抗戦とタッグマッチ、臨海学校ではISに関係した事件が起こっている。

二度あることは三度ある。ならばその先は?

 

“三度あったらもう絶対”でいいと思います。

 

 

「それでは、生徒会長から説明をさせていただきます」

 

進行役の紹介をうけて更識 楯無が登壇し、マイクの前に立つ。

すると騒がしいを通り越して姦しいほどだったのがすぐに静まり、楯無の言葉に耳を傾ける。

 

「では、今月の一大イベント学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容というのは、」

 

(あっ、これゼッテーめんどくせぇ流れだ)

 

忍野の予感は的中する。

彼女は自分のトレードマークとも言える扇子を取り出し、横へスライドさせる。それに応じて巨大な空間投影ディスプレイが浮かび上がり、

 

「名付けて、『各部対抗男子生徒(織斑一夏・忍野仁)争奪戦』!」

 

二人の写真がデカデカと映し出された。

 

その瞬間、割れんばかりの叫び声がホールを震わした。震度計があれば間違いなく反応するほどだ。

 

「静かに。学園祭では毎年各部活動ごとの催し物を出し、それに対して投票を行って、上位組は部費に特別助成金が出る仕組みでした。しかし、今回はそれではつまらないと思い、織斑一夏と忍野仁を、一位の部活動に強制入部させる事に決定しました!

さらに! クラスで一位になった場合は、上級生なら実習の授業に参加。一年生ならそのクラスへ編入させます!!」

 

再度、雄叫びが上がる。

 

「うおおおおおっ!」

「素晴らしいわ会長!」

「会長を称えよ!!」

「秋季大会? ほっとけ、あんなん!」

「今日の放課後から集会するわよ! 意見の出し合いで多数決取るから!」

「何が何でも一位をとるわよ!!」

 

ブレーキの壊れたF1カーのように加速を続けるテンションのゲージ。限界値がないかのか先ほどから一切安定しない、沈静化など夢のまた夢だ。

 

(あぁあ、余計なことしてくれちゃってまぁ)

 

忍野は顔に手をあて、その呆れ顔を隠す。そうでもしなければこの言いようのない脱力感に抗えず、立っているのすら怠くになっていた。

 

(楯無先輩、俺たちの意識は?)

 

一夏は現状もっとも捨て置かれる考えをわざわざ拾ってきて内心問いかける。彼自身、今回の件がほぼ強制の事後承諾であり、今自分が考えてることが現実逃避だと十分理解してはいた。

けれども一言だけ、後で絶対言おうと心に誓った。

 

(賛否関係なく、せめて本人には声がけして下さい)

 

 

 

002

 

同日の放課後、各クラスでは出し物を決めるために集会が行われた。

一年一組でも同じ。

 

「えーっと・・・」

 

クラス代表として教卓の前に立ち集会の進行を行う一夏だが、彼にしては珍しく、人前であからさまな頭痛に悩まされるポーズをとる。

さすがの忍野も力無く苦笑いしか浮かべれない様子だ。

原因はここまでに挙がった出し物の内容。

例を挙げるなら、

 

『男子生徒とポッキー遊び』

『男子生徒と王様ゲーム』

『男子生徒と夜の補習』

 

一つ方向性の違うものが混じっているが、基本的には“男子生徒と○○”といった二人を商品にするような企画ばかりたった。

 

「「却下」」

 

男二人は却下するがクラス中から大ブーイング。

 

「誰が嬉しいんだ、こんなもん!!」

 

「私は嬉しいわね!」

「男子は共有財産である!」

「他のクラスにはないステータスを使わなければ!!」

「そ、そのまま押し倒して既成事実・・・」

「ここにヤバいのが居るー!?」

 

一夏は助けを求めて視線を動かすも、千冬はおらず、山田先生は顔に手をあてクネクネしてる。

・・・え~っと、こう妄想がピンク過ぎて赤面してるようにしか見えない。

この企画に関して訊いたら絶対に地雷だ。

 

(忍野~!! サッサとアイデア出せ!!)

(無茶言うな! 俺のアイデアは縁日の屋台レベルだ!)

(この骨董野郎ッ!)

(ンだとォこの乱射魔ッ!)

(なら俺達がネタにされない方法考えてくれ!

(今考えてる! ・・・あっ思いついた)

(早ッ!?)

 

「あのねぇ、君たち少しは人の苦労を考えようよ。俺達は二人しか居ないんだぜ? 二人でこの企画を実行したんじゃ一位なんて絶対に無理だよ。もし実行したいって言うのなら、君たちは一時の楽しみのためにクラスメイトを売り飛ばすって事になるけどいいのかなぁ?」

 

忍野の一言に、教室は、静寂に包まれる。

先ほどまで吹き荒れていたブーイングの嵐が一瞬で収まったところを見ると、クラスメイト皆、指摘されて事の重大さに気がついたようだ。

今あがっている企画は全て一夏か忍野が1対1での接客物ばかり。だとすると開催時刻から閉めまでフルに対応しても捌ける人数は限られてしまい、一位を穫れるとは到底思えない。

どこかの部活が一位になるのならまだいい。もし他のクラス、それも同じ一年生のクラスが一位になればそこへ編入してしまう。そうなれば彼女達の言う“男子と同じクラス”というステータスが失われる。

 

「もし負ければ男子が居なくなる!!」

「まさか、ここにきて共有財産の危機?」

「天は私を見捨てたかッ!」

「まだだッ! 他のクラスが一位を穫らなければッ!」

「だからそれが危ないのよ!!」

 

今度は阿鼻叫喚(あびきょうかん)の嵐。

すぐにマトモなアイデアを出そうとするが、つい直前まで欲望丸出しの案しか出してこなかった彼女達には、それは難しい要求だった。

 

地獄絵図のような集会がしばらく続いた。

もうダメだ、と忍野が諦めかけていた時。

 

「喫茶店はどうだ」

 

やっとマトモな意見が出てきた。

それを言ったのが、いつもはズレている(原因の九割以上が彼女の副官)ラウラだったのでクラスメイト全員が黙ってしまう。

だけれどそこからすぐに全員が賛同。男子二人は内心大喜び、女子達は盲点だったとばかりにトントン拍子で可決された。

・・・君達どれだけ自分の欲望に従っていたんだい?

 

 

003

 

~忍野サイド~

 

どんな衣装がいいか。メニューは何を出すか。男子には何を着せようか。セシリアは厨房に立つなと白熱し、しかし最終的には無難なサンドイッチなどの軽食を出すメイド喫茶に着地した。

個人的にはメイド服を着ているからとわざわざ店の呼称をメイド喫茶とするのがよくわからない。喫茶店とメイド喫茶の違いって服以外は何だろうか?

現代文化は相変わらずよくわからん。

 

とりあえず完成した大まかな計画書を提出するために俺と一夏は職員室へと持っていく。山田先生が持って行ってくれりゃ楽だったんだが、まぁ文句を言っても仕方がないな。

 

だがそんな事よりも。

 

「なぁ一夏、お前箒となんかあったのか?」

「い、いや、別に・・・何も」

 

ふむ。何かあったな。

学級会の最中、一夏は何度となく箒のことをチラ見しては慌てて視線をズラしていた。

それ以外にも新学期に入ってから一夏は箒に対してだけやや過敏に反応している。それは異性を意識している時のものと酷似するが、問題なのはそれが鈍感で名高い織斑 一夏が行っている点だ。

 

「まぁあんまり詮索するつもりはないが、女の子を意図的に避けるのはどうかと思うぜ」

 

観てたら箒は一夏に避けられて哀しげな顔をしていて居たたまれなくなってしまう。あの様子だと彼女が行動した結果とは思えないし、だとすると原因が一夏の心境の変化だというのは明白。

 

「忍は何か知ってるのかい?」

『思い当たる節はあるのじゃが、儂もよう分からん。そもそもこやつが異性を意識するなど怪奇にしか見えん』

「酷い言われ方だな・・・」

 

ツッコミにもキレがない。

だからと言ってあまり踏み込むべきものではない。悪意でない人間関係の歪みは当事者のみで解決する方が自然な形で治まるんだから俺は黙っておこう。

 

そう考えていると職員室の前に到着したので手に持っている計画書に不備がないことを確認し、扉を開けると、

 

「おいでやす♪」

 

なぜが京都弁で会長さんが出迎えてくれた。

 

「「おはようございますこんにちはさようなら」」

「適当に挨拶を並べない」

「「さいならさいならさいなら」」

「別れの挨拶をしないの。それと、なんで三回言うの?」

 

どうやらネタが伝わらなかったようだ。

 

「それで楯無先輩。なにかご用意ですか?」

「ちょっとそこまで付き合ってくれないかしら? 勿論、忍野くんもよ」

 

まじかよ。勘弁してくれぇ。

会長さんは俺の事を探ってるようだし、関わりたくないんだよなぁ。

 

「って言われても千冬に計画書(これ)を提出しに来たんだけど・・・。一夏、先に話訊いといてもらえるか?」

「分かった。ちゃんと提出しといてくれよ」

「それじゃあ生徒会室で待ってるわ。女の子をあまり待たせないようにね♪」

「へいへい」

 

楯無は一夏を連れて廊下に出て行った。

・・・待てよ。生徒会室って“ちょっと”って言うほど近くなかったよな? まぁいいか、行かないと騒がしいし。

 

 

その後すぐに千冬に計画書を提出。その経緯を含めて大ざっぱに説明することにした。

 

「ってなわけで一組は喫茶店になったぜ」

「また無難なものを選んだな。と言いたいところだが、どうせ何か企んでるんだろう?」

「何だっけか? 仮装じゃなくええっとあれだ。コスプレ喫茶とか言うのになった。女子はメイド、俺と一夏は執事だとよ」

「立案は誰だ? まあ田島か、それともリアーデか? まあ、あの辺の騒ぎたい連中だろう?」

「ラウラだよ」

 

きょとんと固まる千冬。

だがゆっくりと言葉を理解したのかそれから盛大にため息を吐いた。

 

「・・・クラリッサの奴、また何か吹き込んだな」ボソボソ

「まぁ今回ばかりは助かったがな」

 

どうやら今回も心当たりがあったようだな。

と言うか、そのクラリッサって奴は何者だよ。軍属のくせに自分の上官に次々と嘘八百、とは言わないが間違った知識を植え付けてるとか。

ここまで来ると実際に会ってみたい、と思ったがすぐに四散させた。下手に考えるとフラグになりそうだ。

 

「まあいい、確かに受け取った。それにしても、ククク」

「どうした?」

「お前が、執事の恰好をして、接客を、ハハハ!」

「笑うんじゃねぇよ」

 

おい、笑いを堪えきれてないぞ。

見ろよ、あんたが珍しい声に出して笑っているから何事かと職員室中から視線が刺さってるぞ。

 

「ケッ、確かに提出したからな」

「あっ、そうだ。忍野、学園祭は生徒一人につき入場チケットが一枚ずつ配られるから渡す相手を考えておけよ」

 

適当に手を振ってから職員室を後にする。

チケットねぇ、誰に渡すとするかな?

 

 

 

004

 

~一夏サイド~

 

職員室から出た後、楯無先輩を狙った襲撃の数々を交わして生徒会室に到着した。

話に訊くと、IS学園の生徒会長は学園最強が就任するそうだ。それで投票決戦を不利だと感じた部活や先輩方が楯無先輩を倒して自分たちが会長になり、自分たちの部活に俺と忍野を入部させようとしたらしい。

しかし楯無先輩は一撃どころかかすりも受けることなく華麗に撃退してみせた。学園最強ってスゲー。

 

生徒会室に入ると忍野命名のほほんさんこと、布仏 本音さんがいた。あんまり話した事ないんだよなあ。それとのほほんさんのお姉さんの布仏 虚(のほとけ うつほ)が自己紹介してくれた。

ふたり一緒だと凸凹姉妹といった感じなのかな?

 

それから忍野が来るまでお茶会が始まった。

あ、紅茶がうまい。素人には真似できない味だな。

 

「うええっ、いたぁ・・・」

「本音、まだ叩かれたい? ・・・そう、仕方ないわね」

 

布仏先輩がケーキのフィルムを舐めるのほほんさんにお説教のため拳骨。第二射が装填完了していると、のほほんさんに助けてがきた。

 

「失礼しまぁす」

 

脱力感全開で入室してきた忍野。

するとのほほんさんが忍野のもとへ走って行く。

とっても遅い。

 

「うわ~ん、助けておっし~の~」

「俺は助けない、のほほんさんが勝手に助かるだけだよ。って言うか何でここに居るの?」

 

うん、ドラえもんに助けを求めるのび太くんみたいなセリフだ。そして混乱をきたす忍野。

来客に泣きつく妹により怒りを募らせているご様子の布仏先輩。

来るのは良いけど間が悪い奴だな。

 

「とりあえず話は聞くけど、何で泣いてるの?」

「あのね~、あのお姉ちゃんがグーで叩いたあ~」

「はいはい分かったから。それでそこのいじめっ子の眼鏡お嬢ちゃんの言い分は?」

「いじめ・・・、お嬢、ちゃん?」ボソッ

 

目の錯覚か?

布仏先輩の眼鏡がやりてのOLが部下のミスを見つけた時のように光った気がした。

 

「私は布仏 虚(のほとけ うつほ)。本音の姉で、三年生です。以後お見知りおきを」

「おっと会長さんより上か、これは悪かったね。自己紹介はいるかな?」

「結構ですッ!」

 

なんかこめかみをヒクヒクさせながら三年生って所を強調していた、年下扱いされるたのが気に触ったのだろうか。尤も忍野の実年齢ならここの生徒会室に居る全員(忍を除いた)の歳を合計しても足りないだろうけど。

そして何故か言葉を交わしてより怒りが増している気がする。先輩は忍野が嫌いなのだろうか?

 

とりあえず楯無先輩が間に入って双方、と言うか布仏先輩をたしなめてから忍野もソファーに座り、ようやく今回呼ばれた本題に入る。

 

「一応、最初から説明するわね。一夏くんが部活動に入らないことで色々苦情がよせられていてね。生徒会はキミをどこかに入部させないとまずいことになっちゃったのよ」

「それで学園祭の投票決戦ですか・・・」

「はた迷惑な話だねぇ」

 

と言うか入部するにしても文化部しかないでしょ。運動部に行っても公式戦には参加できないし、マネージャーって柄でもない。

 

「でね、交換条件としてこれから学園祭の間まで私が特別に鍛えてあげましょう。ISも、生身もね」

 

「大体、どうして指導してくれるんですか?」

「ん? それは簡単。キミが弱いからだよ」

「・・・それなりには弱くないつもりですが?」

「ううん、弱いよ。だから、ちょっとでもマシになるように私が鍛えてあげようというお話」

 

さすがにムカッときた。

地獄のような冬休みを経験して、夏休みにも時空旅行先で地獄を見てきたんだ。おおっぴらに言うことも、ましてや誇る事も許されないが、それでも弱いなんて言われない位には強くあろうとしてるつもりだ。

 

だから売り言葉に買い言葉で言い返そうとした所で、

 

「ハッハー、会長さんは元気がいいねぇ。何か良いことでもあったか?」

 

いつもの道化のように、しかし楯無先輩を見下すように、忍野が嘲る。

 

「そんな恩着せがましい建前なんていらないから、腹を割って話そうじゃないか。それにねぇ、俺は中身のわからない善意は受け取りたくないんだよ」

「何が言いたいのかしら?」

「偽善者面が気に食わねぇつってんだよ」

 

唐突に辛辣な言葉を忍野は放った。

そして、そう指摘された楯無先輩は笑顔のまま黙る。にこやかに表情は作っているけれど、その目は凍えるほど冷たい。

この場合、忍野は何を指して、楯無先輩を偽善者と称したのか分からない。もしかして指導の話に裏があるのか?

 

「俺達は会長さんの勝手な計画ですでに迷惑してんだ。迷惑料として正直に話すほうが、俺個人としてはいいと思うぜ?」

「お、おい。楯無先輩は何を隠しているって言うんだよ?」

「思い返してみろよ。入学してから遭遇したISの事件には必ず俺かお前が巻き込まれている。意図したかどうかはともかく、周辺での事件発生率が高い以上、学園側も何らかの対策を取らなきゃならない。

そんな時に近づく学園祭。そしてこのタイミングでの指導の申し入れ。それが意味するところはーーー」

「!? 俺達の監視と護衛、ってことか」

 

以前、忍野から聴いた話では学園と臨海学校に現れた無人機は束さんが設計・製造したものではなく、また束さんが調べても出所どころか所属すら分かっていないそうだ。それ以外にもVTシステムや軍用ISの暴走など不穏な流れがある。

だが共通点として俺達のどちらがその場にいた。

 

俺達の居るところに敵の襲撃や事件が起きるのなら話は早い。最初から監視をしていれば予防策として十分に役割をなし、もし起こっても護衛としてその場に居合わせていれば素早く解決出来るからだろう。

 

「・・・確かに護衛というのは正解よ」

 

ようやく沈黙を保っていた楯無先輩が、諦めたように口を開いた。

 

「織斑先生は非常時の対策司令としての権限は持ってはいるけれど、必ずしも適切な指示を出せるとは限らない。クラス対抗戦の際にはシステムの制御を奪われて何も出来ない状態に陥ってしまっていたの。

ならばと軟禁同然で護衛を付けたら今度は学園の防衛能力に支障が出ちゃうのよ。それにあなた達は専用機、ガンダムがあるから戦力として見ると動かせなくなるのは学園にとって痛手になるのは目に見えている。

さっきは弱いって言っちゃったけれど、本当のところはそんな事思っていないわ。だからこそ、あなた達には織斑先生が指示を出せない状況でも身の安全と学園を守るため戦力としての独立した指揮系統が必要なの」

 

言ってる事は分かるけど、生徒だけの独立した指揮系統って・・・。

一歩間違えたら愚連隊じゃん。

 

だけど忍野はその説明で納得したのか、いつものやる気のない気配に戻っていた。

 

「まぁ俺たちに損はないからその建前に従った方がいいだろうからな、と言うわけで一夏。会長さんと勝負してきな」

「ちょっと待て!? 今の話の流れなら勝負する必要ないだろ!?」

「でもなぁ、会長さんは弱くないって言ってくれたが実際、お前の対人戦()弱い部類だろうからなぁ」

「じゃあお前はどうなんだよ!?」

「俺はパワーごり押しで戦うから指導するだけ無駄なんだよ。それによく話を思いだしな。会長さんはお前に指導するとは言ってるが、俺の名前は出してないぜ」

 

・・・あっ、本当だ。

それどころか忍野は、俺は交換条件という支払いが提示されたけど、あいつは投票決戦に巻き込まれ損をしてる。だから迷惑料って言ってたのか。

 

「それじゃあ交渉成立ね♡」

 

楯無先輩が広げた扇子には“結果オーライ”と達筆で書かれていた。

・・・その扇子ってどこに売ってるんですか?

 

 

005

 

一夏と楯無はそれぞれ白胴着に紺袴の、古来からの武芸者の姿に着替え、畳道場で向かい合う。

審判として忍野はいるが、他には誰もいない。

 

「さて勝負の方法だが、先に相手を三回床に倒す、または続行不能にしたら勝ちでいいな?」

「いいわよ?」

「いいけど、三回って微妙な回数だな」

「長々とやっても意味がないだろ? こういうのはパパッと終わらせるのが一番いいんだよ」

 

(でもなあ、お前みたいに殴るわけにはいかないしなあ・・・)

 

彼はISでの戦いならともかく、素手で女性と戦うことに抵抗があった。古き風習とも言える人間社会での昔からのイメージである“男は女を守るもの”と言うのが根強いからだ。

(因みに忍野は敵対するなら男女平等)

でもだからと言って戦わない訳にはいかないので悩んだ末、一夏は中学の授業で習った柔道技で戦うことにした。

うろ覚えではあるが・・・。

 

「お二人さん準備はいいかい?」

「いつでもいいわよ」

「同じく」

 

確認をしたあと忍野は右手を上げ、

 

「んじゃ、始めッ!!」

 

振り下ろし試合開始の合図を出す。

 

 

「行きます!」

 

一夏は先手必勝とばかりに一気に掴みにかかる。

が、

楯無は彼の手を難なく掴み取るとそのまま流れるような動作で手を捻り、一夏はその場で縦に一回転させられてしまった。

なんとか畳に落ちる前に受け身を取ってそこから楯無との距離を置く一夏だが、予想外の反撃に驚いていた。避けられたり背負い投げをされてしまうパターンは考えていたがスッ転ばされるとは思ってもみなかったようだ。

 

「合気道ですか?」

「半分正解。私が使うのは柔道や空手、合気道などの日本武術を中心とした総合格闘術よ」

 

つまり殴る蹴る投げる絞める何でもありと言う事だ。

 

「今度はおねーさんの番!」

 

楯無は鋭い拳が空気を裂いて迫る。

対する一夏は数発は手で軌道を逸らしたり払いのけ、当たると思ったものは身を捩り体の前に拳を避ける。

けど避け方を間違えた。

 

「つっかまえた♪」

 

捻った時に伸びてきた楯無の手が体の正面に来ると、固く握られていた拳が突然開いて一夏の胴着の胸倉をひっつかむ。そして有無を言わさず脚払いをして一夏の背中を畳に叩きつける。

 

「まだダウンするには早いわよ」

 

え? っと彼女の方を見た一夏に迫るのは袴の裾から伸びる色白で綺麗な脚の甲。血色のいい肌艶で爪も綺麗に整っており光沢を持っている。

だがそれは決して遅くない速度で加速しながら襲ってきた。

 

「シュート!!」

「危なッ!?」

 

エースストライカーになれそうな綺麗な蹴りが、慌てて逃げた一夏が先ほどまで居た場所を通過する。

忍野の蹴りに比べれば劣るが顔面を狙っているあたり質が悪い。

 

「顔面狙いってありですか!?」

「文句を言う暇があるなら一撃でも入れてみなさいな!」

 

再び始まる拳と手刀による連続攻撃。

防戦一方になる一夏だが、攻撃の中に僅かな隙があることに気がついた。彼女ほど実力がある者にしては若干の違和感が拭えないが、彼が反撃するための糸口はそれしか見つからなかった。

 

(正攻法でいくしかない!)

 

虎穴に入らずんば虎子を得ず。

一夏はタイミングを計り、楯無の隙が生まれた瞬間に前に踏み込む。そして驚愕と思われる表情を浮かべる楯無の胴着を掴む。

 

ここまでは良かった。

 

当然、彼はそこから投げ技へと派生させようとした。

 

「いやん♡」

「あり?」

 

だが不自然なほどに胴着が緩み、掴み掛かった彼の手に引かれるがままに胴着は両肩からずり落ちて楯無の上半身が露わになる。

綺麗な肌に美しい曲線を描くスタイル。引き締まってはいるが女性らしい柔らかそうな腹筋や二の腕、ブラに包まれた豊満なバスト。

状況次第なら生唾ものの光景が一夏の目の前に広がってはいるが、そんな状況ではない。

どうやらあの隙は罠だった様子だ。

 

「一夏くんのえっち」

「なぁっ!?」

 

いくら一夏が鈍感や朴念仁などと言われようと男子。女性の下着姿を、しかも自分が脱がす形で目の当たりすれば動揺もするし隙だらけになる。

そして楯無は笑顔のまま彼の手を払い、そのまま流れるように宙に浮かし、空中コンボを決める。

 

「おねーさんの下着姿は高いわよ?」

『そんなに乳がいいか!?』

「まっ、自業自得かな」

 

薄れゆく意識の中、三者三様のコメントを頂いた一夏であった。

 

 

 

006

 

 

「やり方がセコいねぇ」

「あら? 何のことかしら?」

 

楯無ははだけた胴着を着直しながら惚けた口調で忍野の呟きに答える。

ちなみに一夏は畳の上にボロ雑巾のように打ち捨てられていた。彼にしては珍しい敗北の姿だろう。

 

「その胴着、ちゃんと着てなかっただろ? 掴まれたら簡単に脱げるようにして相手の動揺を誘う、青春真っ盛りの男子高校生には禁じ手もいいところだぜ」

「本当は使いたくなかったけどね。一夏くんと素手の真っ向勝負は分が悪いからおねーさんは策を講じてみました♪」

 

反則にはならないが姑息と言われて仕方がない策だ。

 

「んじゃ、一夏を保健室に放り込んでくるから後お願いしますね」

「おねーさんが手伝ってあげようか?」

「自分との体格差考えな。会長さんの背丈でこいつを運ぶのは骨が折れるますよ」

「会長権限、ISによる負傷者の搬送♪」

「・・・それじゃあ千冬を呼ぶとするか」

「待ってそれはやめて。さすがに怒られちゃうから!!」

「ご自慢の会長権限はどうした?」

「織斑先生にそんなもの通用しないからね!? ルール違反したらすぐお仕置きされるのよ!?」

「なら強権発動させようとすんなよ」

 

その一言を言った瞬間、楯無は“かかった”とばかりに、にっこりと笑う。

 

「それじゃあ強権を使わずに一つ聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」

 

忍野は返答しないが、ジェスチャーで“答える”と返事をする。表情から読み取るに、どんな質問をされるか分からないから断りたいが答えないと後々面倒になるから仕方がなしに、と言った感じだろうか。

 

「何で誰もあなたの名前を呼ばないの?」

「ずいぶんと変な事を訊くねぇ。俺は寧ろ名前でしか呼ばれないぜ?」

「苗字でね。少し調べさせてもらったけど、誰か強要した訳でもないのに学園内で、あなたは苗字でしか呼ばれない。これはどうしてかしら?」

 

フム、と悩んでるような表情をする忍野。

けれども彼に何らかの“裏”があると睨んでいる楯無には、それは彼にとって拙いことを指摘されたのだと見た。

 

「単に字面の響きが原因なんじゃないかな? 俺の名は最後が『ん』だから無意識にそこで一旦言葉を区切ってしまうから言いにくいんだろうよ。それに比べりゃ『忍野』は発音し易くなってるからねぇ」

「・・・それもそうね」

 

楯無は一応は納得してそれ以上の追求をしなかった。しかし話の中にあった違和感には気づき、目の前の彼が何を隠そうとしているのか、これから自らの観察眼をフルに発揮して調べなければならないと内心の計画リストに加えた。




ご感想や誤字報告、お待ちしております。


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学園祭 其ノ貳

新年あけましておめでとうございます。

相変わらず更新の遅い戦争中毒です。
もうじき初投稿から二年になるのにまだ学園祭、書く時間と文章力が足りない。

下手な話ですが今年も読んでいただければ幸いです。


007

 

一夏を医務室に預け、看病を楯無に任せた忍野は特にする事がなかったため寮へと帰路につく。

するとその途中で簪と出会い、彼女もこの後の予定がないそうなので一緒に放課後を過ごす事になった。この時彼女は頬を朱に染めながらとても嬉しそうにしていたが、忍野は特に気づいた様子はなかった。

 

「忍野くん、大丈夫? その、お姉ちゃんが勝手なことをして・・・ごめんね」

「簪が謝ることはないよ」

「でも・・・」

「気にするっていうのは気を病むってことだ。他人のことにまで病んでいたら、身が持たないよ」

「うん・・・、分かった」

「そう言えば簪のクラスの出し物は決まったの?」

「まだ会議中。忍野くんのクラスは?」

「よく分かんないけどメイド喫茶ださ。あっ、俺は執事服を着るからな?」

 

女装はしないぞ、と強く主張するように自分が執事服を着る事を言う。ところが彼女には宣伝のように聞こえてしまったらしく。

 

「見に行っても・・・いい?」

「っ い、いいよ」

 

来店の許可申請をしてきた。

本当は千冬に笑われたのでよほど似合ってないのだろうと自己解釈し、断りたいと思っていた彼だが、簪に上目遣いで目をキラキラさせながら訊ねられたら断れなかった。

と言うより断ることで彼女を傷つけるのが忍びなかった。

 

「そんなに面白いとは思わないぜ? 千ふ・・・織斑先生に笑われたし」

「そうなんだ」クスクス

「しかし発案者はラウラ」

「・・・意外。彼女(ラウラ)って、そう言うのに興味あるの?」

「どうもアイツの副官が変な入れ知恵をしてるらしくてなぁ。まぁ今回はお陰で回避出来たからよかったけどね」

「回避って・・・?」

「他の皆はな、俺や一夏にポッキーゲームだのホストだのやらせたかったらしい。俺に口説き文句を囁けって言うのかってんだ」

「ホスト・・・。 いい///」ボソッ

「ん? 何か言った?」

「なっななんでもないよ///!」

「そうか」

「そ、そう言えば・・・、デンドロビウムの修理はほっといていいの?」

「・・・・・・」

 

夏休み前、忍野と簪とラウラの三人はデンドロビウムの修理を行っていたのだが、三人とも整備士ではないのでどうにも出来ないところが多々見つかった。

そんな時に助っ人として整備科志望の天才技術屋、片瀬 真宵が参加した。・・・のだが、彼女は世界に出回ってない装備を修理(弄れる)ことに興奮してしまい、一人でやると言って三人を部屋から追い出してしまったのだ。

打鉄弐式の組立の時にあれだけ魔改造を施そうとしていた彼女が、誰にも邪魔されずに装備を弄るとなると、どうなることか・・・。

 

「まぁ大丈夫だろ。秘匿性が低いとは言っても篠ノ之 束の技術だ。片瀬 真宵が天才でも天災には太刀打ち出来ないさ」

「・・・本音は?」

「何も考えたくない」

「現実逃避をしちゃ、ダメ」

「そう言う簪はどうなんだ。会長さん、楯無さんにちゃんと努力を認めてもらえるようになったのかい?」

 

忍野の質問に簪は浮かない表情をして目線を落とし、静かに首を左右に振る。

 

「いくつか考えたけど、やっぱり私は、IS乗りとして認めて欲しい・・・。だから、」

「やっぱり戦争かぁ。本来は言葉を交わすだけで解決するはずなのに、姉妹揃って不器用な性分のようだねぇ」

「それは分かっている。だけど、私は一度、お姉ちゃんに認められることを逃げ出して他人任せにしていた・・・。だからもう、逃げたくない。言葉で伝えられなくても分かって欲しいッ」

 

(まぁ昔っから相手をより理解するには殴り合いをするのが手っ取り早いって言われるからなぁ。一方的な暴力でない殴り合いなら、それは話し合いと同義だしそれも良しだ。

尤もそれも遺恨を残さない竹を割ったようなサッパリさあってこその話なんだけどな。と言っても今回の場合は、誤解とも取れる姉妹のすれ違いから起こったわだかまりだから心配する必要はないか)

 

「簪が頑張るって言うなら応援するけれど、勝算はあるのかい?」

「今対策中・・・」

「だよねぇ。あんな傍若無人な会長さんでも国家代表。策を持たずに挑むのは無理があるか」

「今持っている専用機は、今年になってから新調した物だから過去のデータが役に立たない・・・」

「まずは情報収集か」

「う、うん。それで今度、町で作戦会議をしーーー」

「ごめん、電話だ」ピッ

 

運悪し簪。

せっかく一緒に出かける口実があったのに生かすことが出来なかった。

 

「ちょっと呼ばれたから行ってくる」

「誰に呼ばれたの?」

「ラウラだ。なんか学園祭の事で用があるんだとさ」

「・・・・・・」ムスー

 

呼ばれたから、と言って席を立とうとする忍野だが、簪が若干ご機嫌斜めな事に気づいていない。

 

「待って」

「なんだい?」

「今夜、一緒に夕食を食べに行ってくれる?」

「いいよ」

「それじゃ、食堂で待ってるっ」

「うん。それじゃあまた後でね」

 

夕食の約束を出来たことに内心ガッツポーズ。

 

 

008

 

~忍野サイド~

 

医務室に呼ばれてやってきた。

しっかしこの学園は部屋が多すぎて困る。一言“医務室”と言っても各アリーナに学園と合わせて6つ程あったはずだ。足りなくて困るよりはマシだが不便としか言いようがない。

 

「お~い、ラウラ?」

「遅いぞ。嫁としての自覚が欠けていないか」

「だから嫁じゃないし。それでどうしたんだい? わざわざ医務室に何か呼びつけて」

「うむ。さっそくだが、脱げ」

「は?」

「安心しろ。悪いようにはしない。だから脱げ」

「いや何をするつもりだよ!?」

 

ちっとも安心出来やしないよ!?

 

「執事服を借りるのに採寸をしなければならない」

 

そう言ってメジャーを引っ張って見せてきた。

ああ、そういえばレンタルするとか言っていたなぁ。

 

「お前は見た目以上に身体が引き締まっているからな。背丈に合わせると既製品ではフィットしないそうだ。だからこうして採寸をしにきた」

 

俺と一夏は体質、と言うか怪異の種族的な特質のせいで体格の変化が殆どなく、常に最高のコンディションを保ち続けている。だから意図して鍛えなくても筋肉がついており、どれだけ怠惰に暮らしても細マッチョ状態なのだ。

 

「上だけでいいかい?」

「ああ。頼む」

 

制服の上着を脱いでからインナーを捲る。

すると、

 

「おお~」

 

ラウラが声をあげる。

どうしたのかと思って目をやると、彼女は俺の身体を凝視している様子だった。

何か可笑しなところでもあったかと、自分の身体を見下ろすが不自然や不可思議な所は何もない。では何を見ているんだ?

 

「かなり引き締まっているな」

 

なるほど筋肉を見ていたのか。

しかしこれは怪異的な体質によるものだから誉められても特にこれと言って嬉しいとは思わないんだよなぁ。

 

「その、さ、触ってもいいか///?」

「・・・まぁ、そのくらいなら別に」

 

ラウラはゆっくりと手を伸ばし、お腹に触れた。

優しい手つきで俺の腹筋を撫で、筋肉の割れ目をなぞるように、なまめかしく指を動かす。すごくくすぐったい。

 

「・・・///」ペタペタ

「あのさぁ、そろそろ・・・」

「・・・///」サスサス

「・・・ラウラ?」

「な、なんだッ///!?」

「なんだって、採寸するんじゃなかったのかい?」

「!! そ、そうだったな。すぐにやろう!」

「顔赤いけど大丈夫かい?」

「気のせいだ、問題ない///!!」

 

気のせいって。

君は日本人に比べて肌が白いんだから朱に染まってるのが一目瞭然で誤魔化してもすぐに分かるぞ。って言うか本当に透き通るほど白いな、でも病的なものではない健康的で自然な白さだから羨ましいよ。

あれ、昔の自分を思い出して目から汗が流れそう。

 

「終わったぞ」

 

気がついたらすでに計測は終了し、メールを誰かに送信している。

・・・悪用しようがないが、これって個人情報ってやつじゃないのかな? まぁいいか。

 

「終わったんだったら一緒に夕食に行くかい?」

「いいのか!?」

「悪いなんてことはないさ。で、どうする?」

「もちろん行く!」

 

この後、食堂について簪とラウラは顔を合わせた途端、思いっきり俺の足を踏んできた。

なんで?

 

 

 

009

 

 

さて、楯無との一騎打ちに敗れた一夏はそれから毎日、放課後はISの修練をつむことになった。

楯無指導のもと、まず始まったのはセシリアとシャルロットが実演者となり、射撃型ISでの基本動作と一般的な機動を学ぶ所からである。

 

すぐに高度な技術の指導をしようと思っていた三人だが、開始前に彼に説明をしたら話が通じず、原因を探ると彼女達が当たり前だと思っている戦闘動作に関する知識がなかったのだ。これは一夏の勉強不足と言うわけではなく、彼が我流の戦闘動作で事が済んでいたいうのがあり、先の楯無達と同じようにあれだけの射撃をこなしていながらまさか基礎を知らないなどと誰も夢にも思わなかったのもある。

 

因みに、箒と鈴は専用機に銃器を搭載していないので二人は声をかけてもらえなかった。

 

 

~楯無サイド~

 

まさか基礎をすっ飛ばして代表候補生を同等クラスなんて予想外だったわ。おかげでちょっとトレーニングメニューを変更しないといけなくなっちゃった♪

忍野くんもそうだけど一夏くんは機体性能を抜きにして、半年ほど前からISに乗り始めたとは思えないほど強い。お姉さんである織斑先生が世界最強になったことを考えると、もしかしたら織斑家にはISに対する天賦の才があるのかもしれない。

 

でもそれだけじゃない・・・。

彼はその才能を裏打ちするだけの努力を怠っていない。それはこの間の組み手や忍野くんとの生身での試合を観ていれば一目瞭然。

 

だけどその戦い方はあまりにも不可解。

彼の戦い方は我流ではあるがスキがなく、一つ一つの技は型として明確になっていて、ある種の流派としてはかなりの完成度を誇っている。

それに攻撃の際に恐怖心がないかのような踏み込みをする勇気、・・・とは違うと思うけど相手の反撃を恐れない度胸。素人がちょっとやそっとでは修得できない。

 

だからその境地に到るまでの過程が分からない。

今ある武芸に存在する技や型と呼ばれるものは過去の偉人達が世代を越えながら長い時間を賭けて考案し、磨き上げて完成させている。だけど一夏くんにはそれがない。

小学生時代に剣道をしていた事はハッキリしているから“ガン・カタ”を鍛え始めた時期は早くても中学に入ってから。師範が居るのならともかく我流であれだけ鍛えるのは3年では絶対に足りないはず。

 

それに日本は銃砲刀剣類所持等取締法(所謂“銃刀法”)という法律で許可なく武器を所持する事が禁じられている。今は持っていた大型二丁拳銃は自衛用として特別に所持が許可されているけれど、入学前は法律違反をしていた事になる。未成年だから実刑は無いにしてもいったい何が、彼をそんな人生を棒に振るようなリスクを負いながらも銃を使って強くさせたんだろう・・・。

 

 

010

 

 

~???サイド~

 

『ごめんなさいね。こんなミッションをさせることになって・・・』

「それは言わない約束だろ? オレが好きで引き受けたんだ。それにこの組織に居る以上は拒否権はないさ」

『そうね・・・。ミッションの成功を祈ってるわ』

「祈るより上等なワインを用意して待っていてくれ」

 

そう言ってからオレは電話をきる。

祈ってもらえるのは嬉しいが、日本の神はいい加減だから気休めにもならねえな。まあそれでもやらなきゃならないんだ。

 

「これでやっと、計画の第一段階が始まる」

 

あの野郎のせいで予定より半年も遅れっちまったが、結果的に短縮できたから良しとするか。

壁のコルクボードにはメモの他に二枚の写真が貼ってあり、それには別々の男が写っている。オレは片方に狙いを定め、手元にあったナイフが投げた。

 

「せいぜい学園祭を楽しめよ。オレに壊されるまではなあ」

 

ナイフが刺さり皺の走った写真の顔は憎たらしくオレを見続ける。

そんなに見つめられなくったって、すぐに直接遭いに行ってやるよ。

 





ご意見や誤字報告など、よろしくお願いします。


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学園祭 其ノ参

どうも戦争中毒です。
いつもに比べて遅い投稿なうえに駄文になっていると思います。恋愛的な甘い展開を全く書けないダメ作者ですみません。

それでは本編どうぞ。


011

 

あっという間に学園祭当日。

学生の親族やOG、政府役員に企業など他では見られないほど幅広い人種と職種が来客として訪れ、学生はもてなしつつ祭を謳歌していた。

金持ち学校故に、教室内の装飾や並べられた調度品は一流・・・とはいかないがそれでも一般的な学園祭で学生が用意するものとは比較にならないレベルになっている。

 

一年一組は『ご奉仕喫茶』と名を掲げ開店。

男子生徒という最大の目玉があるので朝から盛況。

また執事やメイドとのゲームに勝つとツーショット写真を撮影してもらえるのも人気の1つで、目当ての店員に勝つために何度も来店する女子生徒も居る。

(執事とのゲーム権は入店時の抽選制)

 

 

「いらっしゃいませ、お嬢様」

「いらっしゃい。席に案内するよ」

 

来店したお客様を席へと案内する一夏。

彼は燕尾服をピシッと着こなし、中学時代にバイト(五反田食堂)である程度接客の基本が身についているので真面目な素人執事として人気を博している。

逆に忍野はネクタイを緩めボタンを外し、だらしない恰好をしてはいるが、不慣れながらも真面目に接客しているので来客の生徒からは不良執事などとよく分からない理由でリピーターが多い。

 

しかし二人は二大看板ではあるがそれだけではお店は廻らない。他にもお客が来る理由があるのだ。

レジには最早1組のマスコットとしての地位を盤石のものとした八九寺 真宵。接客にはシャルロットを筆頭とした専用機持ち主の面々。

 

そんなメイド服に身を包んだシャルロットがティーカップの載ったトレーを片手に注文の席へと急ぐと。

 

「すみません。ゲームしてもらえないですか?」

「あ、はい。かしこまりました♪」

 

ゲームを挑まれる。

彼女を始めとしたこのクラスの代表候補生たちはその肩書きもあってゲームの指名率が高い。元々候補生は本国では一種のアイドル的な存在なので当然とも言える。

ちなみに現在のランキングはラウラ、シャルロット、箒、セシリアの順。メディアでの報道が少ない分、ラウラとシャルロットの人気は高い。

 

 

 

「またのお越し待ってるよぉ」

 

微笑みを浮かべ軽く手を振りながらお客の見送った忍野はゲームに使った小道具を持って厨房に下がる。

 

「5番テーブル今終わったよぉ」

「分かった! それじゃあ少し休ーーー

 

「忍野くーん! ご指名だよ!」

 

ーーー憩してる暇はないね」

「はぁ、大忙しだねぇ」

「忍野くんって何でそんな他人事のように喋るの。忙しいの君だよ?」

 

厨房班の子のもっともなツッコミをスルーしつつ、再び店に出る。

 

「お待たせしました。って簪か、いらっしゃい」

「お、お邪魔します」

「ちょっと無視してんじゃないわよこの不良執事!!」

 

無視されたことに悪態をつく鈴。彼女はスカートタイプの真っ赤なチャイナドレス姿で様になっている。そして彼女の後ろに隠れるようにしている制服姿の簪。何かあったのかその表情は恥ずかしさが見て取れる。

 

「二名様ご案内でいいのか?」

「簪だけよ。アタシは一夏の順番待ち」

「り、鈴も一緒にっ!」

「何言ってのよ。ほら案内しなさい」

「んじゃご案内しますよ、簪お嬢様」

「お、おじょっ///!?」

「そんな驚かないでくれよ。一応執事だし、簪はのほほんさんに言われ慣れてるだろ?」

「本音のは、何か違う・・・」

「それじゃあかんちゃんで」

「~っ///! お、お嬢様でいい///」

「ではご案内~」

 

 

「あれ? 凰さん忍野君を指名してなかった?」

「恥ずかしがり屋の代わりに言ってあげただけよ」

「??」

 

 

 

 

012

 

~一夏サイド~

 

学園祭ってここまで忙しいものだっけ?

テーブルを片づけてから次のお客様の出迎えへ急ぐけど、そろそろ休憩に行かせて欲しい。

忍野も更識さんのテーブルの対面でぐったりしてるし。

 

受付に行くと、そこに居たのは明るい茶髪でレディース姿を着こなすOL風の女性だった。

 

「いらっしゃいませ、お嬢様?」

「あの、自信がないなら普通に“お客様”にしてもらえないでしょうか? 疑問系にしないで下さい」

「す、すみませんそんなつもりじゃ」

「そんなに慌てなくてもいいわよ」

「改めてまして、お嬢様。席にご案内いたします」

「お願いします」

 

別にこの人が大人だからお嬢様と呼ばなかったわけじゃない。初対面のはずだけど既視感がある。

それに彼女を見た時にあの狂信者と共に居た傭兵、エピソードが脳裏に浮かんだのも理由だ。共通点はどこにも、欠片ほども存在しないはずなのに何故彼を思い出したのかまるで分からない。

 

「ご注文は何にいたしましょうか?」

「その前にこちらを」

 

席に案内をすると注文より先に名刺を取り出して渡してきた。

 

「えっと・・・IS装備開発企業“みつるぎ”巻紙 礼子(まきがみ れいこ)さん?」

「はい。織斑さんにぜひ我が社の装備を使っていただけないかなと思いまして」

 

またか、とうんざりしてしまう。俺や忍野のガンダムに装備提供を名乗り出てくる企業は後を絶たない。世界に二人しかいない男性操縦士が使ってるとなれば俺達なんかが想像できない程の宣伝になるそうだ。

だけど今の装備に不満はないし、忍野は企業が装備品を通して機体データを盗むだろうから付けない方がいいって言ってるからこう言った申し出は断る事にしてるんだよな。

 

「せっかくですがそう言った話はまた後日お願いします」

「そう言わずに! 私も上司に契約取って来いって言われてるんです!!」

 

そんな泣き言を言われても知りませんよ!!

 

「お願いします! 追加装甲1枚でもいいですから契約してください! ほらっ、これなんか学生さんのバイト代でも(分割で)買えますよ!」

 

いい大人が泣きつかないで下さい!

パンフレットをこれでもかと広げられ、すがりつくように腕を掴まれてしまい席を離れることも出来ない。どうすればいいんだ!?

 

「そう言うのはお断りしてるんだよねぇ」

「「!?」」

 

いつの間にか巻紙さんの背後に立っていた忍野。

彼は言うや否や、席に座っていた巻紙さんのスーツの襟を掴んで持ち上げる。180cm近くの彼が持ち上げると巻紙さんの身体は宙に浮いてしまい、ヒールを履いた脚をばたつかせていた。

その姿はずいぶんと慣れており、可笑しさ満載なのに不自然さを感じられなかった。

なんでだろう?

 

「お、降ろして下さい!」

「はいはい、煩いから静かにしようねぇお嬢ちゃん」

「ンだとこの、」

「ああ”ん?」

「ご、ごめんなさい」

 

ギャアギャア騒ぎながら忍野に運ばれて行く巻紙さん。ってか一瞬ふたりとも性格変わってなかったか?

 

「鷹月さん、この人強制退場」

「分かったよ。お一人様出口へご案内~」

 

出入り口で受付を担当していた子に巻紙さんを押し付けてから戻って来た。

 

「優柔不断だねぇ。いらないんだからサッサと断りなよ」

「面目ない」

「まぁそれはいいけど。そろそろ五反田くんが来てる頃なんじゃないか?」

「ヤッベエッ! 忘れてたあ!」

 

弾のやつ絶対怒ってるよな。

 

 

013

 

友人の五反田 弾を迎えに行った一夏だが、ここでは割愛するとしよう。

起こった事を羅列するなら、弾くん上級生に一目惚れ、テンション上がったため高校生にもなって転んで怪我、その上級生に連れられ保健室GO。

一夏は弾の春を応援すると言い訳し、彼の友人だと思われるのがちょっぴり恥ずかしくなって教室に戻ったのだ。

 

「あっ一夏くんおかえりー」

「・・・何でここに楯無さんが?」

 

出迎えてくれたのは、更識 楯無。

 

「ときに一夏くん。特訓に付き合ってあげているんだから生徒会の出し物にも協力しなさい」

「その言い方、忍野が絶対小言を言うフレーズでしょ」

「あら? 今回彼は快く承諾してくれたわよ」

「本当ですか?」

 

一夏が怪訝そうに尋ねると、タイミング良く厨房から出てきた忍野。いつもの制服姿に着替えており、執事の真似事を終わったことを告げていた。

 

「いやぁ青春っぽくってちょっくらい良いかなぁって思ってねぇ」

「ほらね?」

「ほらね、じゃありませんよ!」

 

とりあえず一喝。

しかし抵抗して無駄だとここ数日の経験で分かってしまった一夏は、肩をガクンと落とし諦めモードで話を訊く。

 

「で、出し物は?」

「そんな疲れた反応しないの。出し物は演劇よ」

「演劇?」

「それも観客参加型演劇」

「は!?」

 

観客参加型と言う初耳の演劇に素っ頓狂な声をあげる一夏だが、彼が何に声をあげているのか分からない忍野はスルーしている。

 

「シンデレラよ」

 

堂々と告げる楯無の広げた扇子には“灰被り姫”の文字が書かれていた。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

第四アリーナに連れてこられた男二人。

生徒会の演劇は、演目の名前だけなら普通の演劇と思われるがそのセットは大掛かりで、なんとアリーナ1つを貸し切って城を建ててしまったのだ。生徒会の金と権力が伺いしれるようなものだ。

 

そして王子様の衣装に着替えさせられた二人はセットへと移動する。楯無には基本アドリブでOKと言われたが何を意味するのやら。

 

「なぁ一夏。シンデレラってどんな話なんだ?」

「知らないのか?」

「女の子が主人公の昔話って程度だ」

「フワッとなんてレベルじゃないな」

 

二人がセットの中に入ると辺りは暗くなり、楯無のナレーションが流れてくる。

 

「むかしむかしあるところに、シンデレラという少女がいました」

 

普通の出だしだと安心する一夏だが、すぐに表情を曇らせる。

 

「否、それはもはや名前ではない。幾多の舞踏会を抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、灰燼(かいじん)を纏うことさえいとわぬ地上最強の兵士たち。彼女らを呼ぶにふさわしい称号、それが“灰被り姫(シンデレラ)”!!」

 

何やら雲行きが怪しくなってきている。

 

「今宵もまた、血に飢えたシンデレラたちの夜が始まる。王子の冠に隠された隣国の軍事機密を狙い、舞踏会という名の死地に少女たちが舞い踊る!」

 

楯無が言い切ると同時に照明は元の明るさに戻り、演劇のスタートを告げた。

 

「随分と物騒だねぇ。あまり子供向けとは思えないなぁ」

「と言うか全く別物だあーッ!!」

 

なるほど。

これなら脚本や台本は何の役にも立たない。

 

「はあぁぁぁ!」

 

まず叫び声とともに現れたのは、シンデレラ・ドレスを身に纏った鈴だった。自らの専用機の装備を彷彿とさせる青龍刀での二刀流で襲いかかる。

 

「よこしなさいよ!」

 

二人が危なげなく避けると鈴は忍野を一睨みし、狙いを一夏に定めて片方の刀を投げる。それだけに止まらず、中国の手裏剣こと飛刀も追加で投げる。

 

『忍ッ!!』

『ほら、受け取るが良かろう』

 

忍から大型二丁拳銃『阿吽』を受け取った一夏は銃身を盾にして飛刀を防ぐ。

 

「どこから出したのよそのデカ物!」

「そんな事より危ないだろ!?」

「大丈夫よ。死なない程度に殺すから!」

「とてつもなく危ないって!!」

 

鈴の意味不明な殺人宣言に一夏は近寄らせたらまずいと立て続けに発砲して距離を置く。もちろん非殺傷のゴム弾だが手裏剣や刀での対抗は難しく、鈴はセットの中にあるものを遮蔽物にしながら接近しようとする。

 

 

パァンッ!

 

銃声かと一夏が振り向くと、何かを叩き落としたように左手を振りかぶった姿勢の忍野が突っ立っていた。そして左手の指す先の床には弾痕。

 

「お~痛ぇ、これ貸し1な」

「今のぁっ!?」

 

何があったのか一夏が直感で理解して言葉にしようとした瞬間、自分に赤い光線が向けられたのに気づいて避ける。すると光線の先の床が弾けた。

 

(スナイパーライフル!? セシリアか!)

 

立て続けに撃ち込まれる弾。彼女の狙撃銃はサイレンサーを装備しているようで、一夏には発砲音とマズルフラッシュがわからない。

だが狙撃に気を取られれば眼前のツインテール殺人鬼が襲ってくる。既に投げた青龍刀は回収済みらしく遮蔽物の向こうからチラチラと白刃が顔を見せていた。

 

「忍野、セシリアを頼む!」

 

頼まれた彼はたっぷりと間を置いてから。

 

「知らん。自分で頑張りなよ」

「あ、おい逃げるな! 薄情者ーッ!!」

 

狙われてるのが一夏だけなのに気がついたのでわざわざ自分から首を突っ込む必要はないと、一夏を置き去りにしてその場をあとにする。

薄情としか言いようがないが忍野も狙われる側。いつ自分に矛先が向けられるか分からないなら矛の届かない所へ行くのは定石なのだろう。

 

一夏の悲鳴が聞こえても気にしてはいけない。

 

 

~セシリアサイド~

 

「まだこちらの位置を特定されてませんわね」

 

本来であれば確実に不意を突けたはずの初弾。

にもかかわらず忍野さんはそれに気づき、物を盾にして弾避けにするならまだしも、あろう事か素手で飛来する弾丸を叩き落としてしまいました。手で弾道を曲げることは物理学的に出来ないことはないのですが、普通の人の反応速度とパワーでは遅く弱過ぎるうえに、仮に成功しても手に大怪我をするのは明白。使ったのは硬質ゴム弾ですが骨折しておかしくありません。

しかし様子を見る限りあの方は“少し痛かった”程度でそれをやってのけた。

 

(忍野さんが関わりますと常識を見失いそうになりますわね)

 

ですがあの方は既に一夏さんのそばにはいらっしゃらない。これは絶好のチャンス。

鈴さんには申し訳ないですが当初の予定通り、このまま王冠を撃ち落とさせてもらいます。王冠を手に入れるのはこのわたくし、セシリア・オルコットです。

 

「狙い撃つぜ、ですわ」

 

一夏さんの口調を真似しながらわたくしの勝利のために再び引き金に指をかける。

ちょっとおふざけが過ぎますかしら?

 

 

 

014

 

一夏を置き去りにした忍野。

途中、セットに置かれた本物の高角砲を見つけるが砲身が通路の邪魔になっていたので強引に向きを変えてしまったが、さして問題にはならないだろう。

楯無のトラップが使えなくなるだけだし。

 

そう思っていると、物陰からラウラが飛びかかってきた。

衣装はもちろんシンデレラドレス。彼女はその容姿も相まって現実離れした存在とも見える可憐さがある。しかしやってる事がモロ現実重視。

 

忍野に体格で劣る彼女は不意打ちで、しかもぶつかればかなりの高確率でバランスを崩しやすい上半身目掛けて全力タックルをくり出す。

 

「貰ったあッ!!」

 

彼女の目論見通り、忍野は背後からのタックルを避けれずぶつかり、前のめりに姿勢を崩してしまう。

このまま押し倒してしまえば忍野の動きは止まる。そうなれば王冠はラウラの物になっただろう。

 

「なんの!」

「なッ!?」

 

しかし上手く身体を捻りラウラを抱きかかえるとそのままバレーのワンシーンの如き回転を見せてからしっかりと立っていた。

失敗した事に悔しがろうとしたラウラだが、自分が今どの様な状況なのか分かると頬が朱くなる。

 

今の彼女はお姫様だっこ、しかも忍野の顔が数センチ先にある。

 

「ふ~危ない危ない。今のはいいタイミングだったねぇ」

「え、えっと、その///」

「よっと、んじゃ俺は逃げる」

「ま、待ッ!」

 

ロクに返事を返せないままラウラは下ろされてしまい、もう少しお姫様だっこを堪能したかったと内心ガッカリしながらも当初の目的を果たそうとする。

けど忍野はサッサと逃げ去ってしまい、床に座り込んで虚空に手を伸ばすラウラだけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

さて、こちらはセシリアと鈴から逃げ切った一夏。

忍野に置いてきぼりにされ追い詰められた彼の前に颯爽と現れ救い出したのはシールド片手にグレネードガンを装備したシンデレラ姿のシャルロット。狙撃と飛刀を盾で防ぎ、スモーク弾を発射して鈴とセシリアの視界を奪い、一夏を連れて逃げてきたのだ。

もっとも彼女としては逆のシュチュエーションの方が良かったご様子だが・・・。

 

そんな二人はどうやら城の外に来ているらしい。

 

「ここまで来れば大丈夫だよ」

「ありがとうな、シャル」

「どういたしまして。ところで一夏、忍野くんは?」

「あいつなら一人で逃げやがったよ」

「あ、あはは(ラウラは上手くやってるかな?)」

「はぁ~、疲れた」

 

安心しきっている一夏は疲れたのか床に座り込む。それを優しい見ていたシャルロットだが、黄金に輝く王冠が目に映り表情が変わる。

一夏が座ったことで必然的に王冠の位置も低くなり、今王冠はまるで貰ってくださいと言ってるかの如くシャルロットの目の前で輝いている。策や武器はいらない、ただ机に置いてある物を取るのと同じく手を伸ばせばいいだけ。

 

(取っても、いいよね? 争奪戦なんだし、疲れたからって休んでる一夏が悪いんだから。

ああでもこれってつまり一夏が僕のことを信頼してるから休んでるんだよね。ここで取ったらそれを裏切っちゃうから嫌われちゃうんじゃ・・・。もしそうなったらせっかく同室になっても意味ないよお。

でも誰かが取るまで終わらないならここで終わらせてゆっくり休ませた方が・・・。でもでも恩着せがましく思われたら嫌だし・・・)

 

だが当のシャルロットは取るべきか取らざるべきか葛藤の渦に意識がのまれ、指が動くだけで手は伸ばせない。

そしてそんな彼女を邪魔するように地響きが起きる。

 

そちらに目をやると坂の上から巨大な球体がゴロゴロと転がってくる。よく考えればここは学園の中なので岩や鉄製ではないはずなのだが二人には関係ない。

 

「まずいぞシャル!」

「早く逃げないと!」

 

だがどこに?

今自分たちはこの坂を登ってきた所。逃げ道はどこにもないかと思われたが、すぐそこの外壁に上へ行くための梯がかけられているのを見つける。

しかし二人ともが登っている時間はない。

 

「シャルは早く登れ!」

「一夏はどうするの!?」

「走る!」

「あっ、待ってよ一夏!」

 

シャルロットさん、今ここで“待って”と言うことは“あれに轢かれなさい”と言ってるようなものですよ?

当然一夏は待つことはなく、巨大な玉に追われ坂を猛スピードで駆け下りていき、すぐにシャルロットからは見えなくなってしまった。

 

「誰だよ!? こんなトラップ作動させたのは!?」

 

涙目になった彼女の怒りを、ナレーション席の楯無は楽しそうに眺めていた。

 

 

 

015

 

一方、その頃の忍野はと言うと。

 

「何だってんだよ、まったく」

 

城壁のセットに寄りかかりひと休みしていた。

疲弊ではなく呆れの見えるその表情は、彼女らが何故あれほど本気になるのか分からないからだ。

もう辞めだ辞めだ、と忍野は演劇を放棄して王冠を外そうと頭に手を掛ける。

 

が、

 

「アババババババ!?!?!?!?」

 

王冠が頭を離れた瞬間、電流が身体を駆け抜けて彼は奇妙な悲鳴をあげながら倒れてしまう。起き上がろうとするが手足がカクカクと小刻み震え所々から煙が上がっており、相当な電圧だったことが伺える。

 

突然自らを襲った現象に彼が困惑していると、ナレーション役である楯無のアナウンスが聞こえた。

 

「王子様にとって国とは全て。その重要機密が隠された王冠を失うと、自責の念によって電流が流れます」

「遅ぇよ!! そして自責の念ってレベルか!?」

 

楯無の説明不足もその電流の強さに対するツッコミを入れるため、忍野は動かない身体に鞭を入れ起き上がる。

 

「はぁ、めんどくせぇなぁッと!」

 

言葉の途中でイナバウアーをするように身体を反らした忍野。

その上を野球のボール位の直径をした棒状の物体が通過し、背後にあった壁に衝突して白濁の粘液が飛び出す。

 

「とりもち、いや接着剤か?」

 

運悪く巻き込まれた木の枝がくっ付いたままな事と鼻につく化学薬品の臭いで彼はそう予想する。非殺傷で爆発武器を再現しようとした結果とも言えるが、元から捕獲用だったのかもしれない。

 

だが今気にするべきは、誰が撃ったかだ。

忍野は疲れた様子で発射方向を見ると、堂々たる立ち姿のフォルテ・サファイアがそこに居た。

 

「サファイア先輩も参加したんですか?」

 

今まで皆が着ていた衣装は足が隠れるほど長く広がった中世デザインのドレスだったのに対し、サファイアが着ている物は現代的な丈の短いパーティードレス。どちらもドレスであることに変わりないが、後者は原作シンデレラの時代背景から見ればミスマッチと言える。

尤もベルトで肩かけにしてアサルトライフルを二丁持ち、太股と足首にはサイズの異なるハンドガン納めたホルスターが計4つ、腰に巻いたベルトにはサブマシンガンに予備弾倉とスタングレネード。極めつけは背中に背負ったバズーカ(最初の攻撃はこれだろう)。

どこのターミネーターかと訊きたくなるほどの重装備をしている彼女がどの様なドレスを身につけようと些末な問題にしかならない。

 

「先輩も王冠の景品目当てですか?」

「どうしてそう思うッスか!?」

「どうも皆の狙い方がキツいんでねぇ、あの会長さんのことだから何かオマケを付けてるでしょ?」

「知りたいなら日頃の私に対する無礼を詫びるッス!!」

「お断りしまぁす」

「ならここでくたばるッスよ!!」

 

両手のライフルを腰だめに構え、銃撃を開始する。

忍野はセットにあるもの全てを遮蔽物にして駆け抜けるが思案顔して困っていた。

 

(ISでもそうだけど俺って弾幕に弱いなぁ)

 

自分の弱点を改めて突きつけられてしまったが、今はそれより逃げる手段を考える。けれども一夏は見捨てて来てしまったので援護をしてもらうことは出来ず、反撃しようにも1発撃つ間に100発は弾が飛んでくるような勢いなのでどうしようもない。

 

すると雨のような弾幕が突如として止む。恐る恐る遮蔽物から顔を覗かせるとどうやら弾切れのようだ。あれだけ撃てば当然とも言える。けれども片方の弾倉交換はすでに済んでおり逃げるには時間が足りなさそうだ。

 

「先輩は何が目的でそんな頑張るんですか?」

「それは勿論その王冠を手に入れて、」

「手に入れて?」

 

すると片方のライフルから手を放し、指をピンと伸ばした手のひら上に向けて親指と人差し指で円を作って見せる。

そのジェスチャーがこの日本で意味するものは一つしかない。

 

「景品を転売するッスよ!!」

「うわぁゲスいよこの人」

 

古典的な¥目の幻覚が見えそうな守銭奴面でにっこり笑うサファイア。

と言うより欧米では“OK”でも通じるが“能無し”と捉える地域もあり、日本以外では通じないジェスチャーの一つだ。

どうやらフォルテ・サファイアは日本文化に染まり過ぎてるご様子です。ちなみに蛇足だが、このジェスチャーはギリシャやアフリカなどでは性行為を意味したり“Fuckyou”などの侮辱的な意味を持ちます。

 

「って言うか仮にも代表候補生なんだから金に困ってないでしょ?」

「分かってないッスねえ。お金って言うのはどれだけ楽しく稼げたかでその価値が違ってくるんスよ。同じ金額でも道楽で稼いだ方が嬉しいに決まってるッス!!」

「あ、お金に関する講釈はどうでもいいです。知り合いに金にがめつい奴が居るんでお引き取り下さい。と言うか逃げた方がいいですよ」

「ハッ、お前こそ逃げなくてもいいんスか?」

「まぁ先輩があれに轢かれても平気なら構いませんよ」

 

あれとは何だ?

フォルテは一応ハッタリだと思いながらも忍野の指差す自分の背後に顔を向ける。

するとセットの木々をなぎ倒しレンガ造りの路面を砕きながら近づいてくる巨大な球体。それは彼らの知らない所で一夏を追い回していた楯無のトラップ。

 

「さあ存分に轢かれください!! ショートカット“ワイヤー”」

「死ぬッス!! あ、コラ自分だけ逃げるなッス!!」

 

忍野は自分だけワイヤーを伝って城壁を登り逃げ、置いてきぼりにされたサファイアは迫り来る球体から逃げるため全力で走り出す。せっかくの重装備が仇となってしまった。

 

「やれやれだぜ」

 

その後、断末魔の叫びが聞こえたような気がしたが、彼は自業自得だと知らぬふりをしてその場を後にした。

 

 

 

 

 

「何だったんだ?」

『あれは人の悲鳴じゃ。大方、狐の小僧に返り討ちにでもあったのじゃろう』

「無難だよな」

 

まさかそれが自分を追い回していた罠が原因だと知るよしもなかった。

 

「一夏」

 

気の抜けていた所を突然呼び止められ、とっさに身構える一夏だが、相手を見て銃を下ろす。

彼を呼んだのはシンデレラドレスを身に纏った篠ノ之 箒。

 

もともと女性では高めの身長と整った顔立ちで大抵の衣装を着こなす彼女だが、同性が羨むそのプロポーションもあって一夏は息をするのを忘れてしまいそうになるほど見惚れてしまう。頭のどこかで箒=和装という固定概念があった彼は“ギャップ萌え”と呼ばれる物を体感していたのかもしれない。

腰にさげた日本刀に気がついて光速よりも早くその感覚を手放したが・・・。

 

「その、笑いたければ笑え」

 

どうやら自分にドレスは似合わないと思っているのだろう。いつもは堂々としている彼女は珍しいことに落ち着かない様子でソワソワ、と言うよりオドオドとしている。

 

「プッ、はっはっはっー」

「本当に笑う奴が居るか!? ええい、着替えて来る!!」

 

怒って帰ろうとする。

 

「確かに箒は和装ってイメージだけど、そのドレスだって似合ってるじゃないか」

「そ、そうか///?」

「ああ。いいと思うぜ」

『あ~あ、また始めおったわこのフラグ建築士は』

 

忍が呆れるのも無理はない。

影に居る以上、四六時中一夏の行動を見ているのだから彼の無自覚なフラグ建築に対しアドバイスどころか2つ3つ小言を言わなければやってられないのだろう。

 

そんな時に彼の背後から近づく小さな影。

その影の持ち主は、若干イライラしていた忍が居る一夏の影を踏んでしまい、

 

「ぎやああっ!?」

 

八つ当たりのターゲットにされ転ばされてしまった。

 

「八九寺! 隠れていろと言っただろ!」

「ですがノノ之アさん。あのままでは何時まで経っても私の出番がないじゃないですかっ! せっかくこの八九寺Pが囮作戦を立案したのに、あ~あ、ガッカリですっ」

「悪かったなあガッカリで!! それと人を魚人島編から隻眼になった三刀流の毬藻のように言うな! 私の名前は篠ノ之だ」

「失礼、噛みました」

「違う、わざとだ」

蟹穫り(ガザミとり)ました」

「怖ッ!?」

 

そのまま口喧嘩にも思える文句の言い合いを始める箒と八九寺。本人達からは分からないが第三者から見れば束が嫉妬しそうなほど姉妹っぽく見える。

 

「忍、これどういうこと?」ボソボソ

『大方、お前様の幼馴染みの侍娘が注意を引き、迷子娘が王冠を取る作戦じゃったのじゃろう』

「逃げた方がいい?」ボソボソ

『電流を流されてもいいのなら留まるがよかろう』

「それじゃ逃げる」

 

そろーりそろりと気取られないよう静かにその場を離れる一夏。

二人の口論はまだまだ終わらない。

 

 

016

 

 

サファイアを生贄に大玉トラップを逃れた忍野は城内を散策、ではなく逃げていた。技術と金の無駄遣いを感じる城内に入った時から誰かにつけられていると感じた彼は、追い立てられるように城の奥へと進まされる。

 

(嫌な予感しかしないねぇ)

 

到着したのは大広間と思われる部屋のセット。

 

ここが終着か、と思っていると奇妙なドローン群が現れる。

 

青みかかった金属特有の光沢を持つボディー。

日本で古来から使われている平底釜を逆さまにしたような台形で、下部には飛行用のローターが埋め込まれており、今はヘリコプターの如く高速回転している。左右には短い三本爪のマニュピレーターを持つアーム。

そして正面と思われる箇所にはピノキオのように伸びた鼻と、赤い二つのセンサーアイが忍野へと向く。

 

彼は知らないが、その飛行ドローンは電気ネズミで有名なポケットに入れるモンスターに登場するモンスターに酷似していた。

 

その数はザッと30。ゆっくりと旋回行動を取りながら困惑している忍野を包囲する。

そして物陰からドローンの主が姿を見せる。

 

「やっぱり簪か。よくこれだけドローンを用意したなぁ」

「メイドイン真宵」

「あのマッドサイエンティストが」

 

これまた綺麗なドレス姿をした簪は、ドローンを空中パネルで操作しつつ忍野の賞賛に小さなVサインで返事をする。

王冠を手に入れるために彼女は刃物や銃をとらず“手”を増やして奪取しに来たのだ。多方向からの同時攻撃、しかも王冠だけを狙えば他の誰よりも成功率の高い戦略である。

 

「一応訊くけど、今回の刀剣類以外の武器って・・・」

「片瀬工房」

「武器商人かよ。それで、簪の要求はやっぱり同じかな?」

「うん。王冠を、ちょうだい」

「まぁ俺としちゃぁこんな茶番はサッサと終わらせたいんだが、自分じゃ外せないし、景品が分からない以上ヘタに渡せないんだよねぇ」

「なら・・・」

「そう実力行使。いつでもおいで」

「行って、メタング!!」

 

忍野は七転八倒しながら逃げ回る。

ドローンの動きはISのビットに比べればお粗末だが、今は怪異的な強化をしてない肉体なうえに数が多い。ISを使えないから空中へ逃げる事も叶わず、地面を跳ね回るしかなかった。

 

(やっぱり速い・・・)

 

対して簪は、眼鏡には次々とドローンから送られてくる情報と忍野の回避予測データが表示されるそれを吟味しつつ、目にも留まらぬ速さでパネルを叩いて冷静に操作をする。

 

徐々にしかし確実に包囲網を狭くしていくと忍野の表情に焦りが見え始める。するとポケットに手を入れ、すぐに出して手を振り上げた。

 

(閃光弾は使わせないっ!)

 

忍野が学園内で追い回された時に閃光弾を使うのを知っていた簪は、その動作を合図とばかりに劇開始時から準備していたコマンドを入力する。

 

彼の振り下ろした手からは予想通り、紙玉が現れて地面へと加速するが、簪のコマンドで制御され横から地面スレスレを飛んできたメタングは、かっ攫うように紙玉をキャッチしていき見事落下を防いだ。

 

それを見ていた忍野は驚愕と唖然を合わせたような表情をして、それからゆっくり簪の方を向く。

二人の視線が合い、簪が追い打ちのVサインを見せると。

 

「何てことしてくれてんだよ!!」

 

嘆きのように叫び声をあげながら背を向けダッシュで逃げていく。

 

 

 

 

 

 

 

城の中庭にあたる場所へと逃げてきた忍野。

するとちょうど正面方向から一夏が走ってきた。

 

「おーいッ! 忍野ー!!」

「いーちーかー!!」

 

無事に合流した二人。

 

「「早く逃げるぞって、え?」」

 

二人して同じ台詞を言い、互いに呆けてしまうが、直後には二人を正気に戻すように少女達の声が周囲から聞こえてきた。

 

「一夏さん!」

「逃げ場はないよ一夏!」

「神妙にしろ」

「逃がしはしない」

「王冠を渡しなさい!」

「諦めて・・・」

「勢揃いッスねえ!」

 

専用機持ちが勢揃い。四面楚歌。

中庭を模した場所なので四方は城壁に囲まれており、4つある出入り口の3つにはそれぞれ武器を構えた少女が門番のごとく立ちふさがる。

残る1つには鉄格子。

 

「なあ忍野っ、何とか逃げる手はないか!?」ボソボソ

「無理」ボソ

『使えぬのう。人を騙すのが狐の十八番じゃというのに』

「なら君は何か出来るのかな?」ボソボソ

『ぐー』

「「寝るな!」」

『Zzzz』

「「より深く寝るな!!」」

 

完全に追い詰められた男子二人だが、ここで女神ならぬ小悪魔の仮面を被ったイタズラ者が、偽善の手を差し伸べる。

 

「さあ! ただいまからフリーエントリー組の参加です! みなさん、王子様の王冠目指してがんばってください!」

「「「「なんて事をするんだっ!!」」」」

 

鉄格子がされていた門を含め、セットに幾つもあった城門全てが開くと女子生徒が一斉に雪崩れ込む。数十単位で人が走っているためセットを崩壊させるが如き地響きが発生している。

 

一夏と忍野にとって、今この専用機持ちの彼女達による包囲網が決壊すると考えれば善なのだが、追う者が増えることはやっぱり彼らにとって大迷惑。

逆にせっかく追い詰めた彼女達からすれば、チャンスが不意になり、自分の王冠の獲得成功率が大幅に減少して大迷惑。

どちら側から観てもロクな事をしない更識 楯無であった。

 

人の濁流で包囲網はアッサリ崩壊し、再びステージに解き放たれた男子二人。だが先ほどまでとは桁違いの人数に、アリーナという限られた空間で追われる鬼ごっこは持久戦にもつれ込み、二人が捕まるのは時間の問題だった。

 

「どうすんだよこれっ!?」

「俺が知るわけないじゃん。捕まりたくなけりゃ黙って走った方がいいと思うぜ?」

「いつになったら終わるんだうわッ!?」

「どうした?」

 

突如一夏が発した奇声。

忍野は振り返るが、そこについ数秒前まで併走していたはずの一夏の姿はなかった。

 

「あの馬鹿が・・・」

 

不自然にズレた床板が、平和?な学園祭の終わりを告げていた・・・。

 

 



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学園祭 其ノ肆

017

 

~一夏サイド~

 

「着きましたよ」

「ハァハァ、ど、どうも・・・」

 

誘導されるがまま、セットを脱出して更衣室へとやってきた。

 

「えっと・・・」

 

ここまで誰に連れられて来たのか分からなかったが改めて見ると、熱心に武装のパンフを押し付けてきて忍野に追い出された巻紙 礼子(まきがみ れいこ)さんだった。

 

「あ、あれ? どうして巻紙さんが・・・」

「はい。この機会にガンダムをいただきたいと思いまして」

「は?」

「いいからとっととよこしやがれよ、ガキ」

 

先ほどまでの人当たりの良い優しげな表情が一変、人を見下し悪意が満ちた顔になり、身を翻すのと同時に回し蹴りを喰らわされ、その衝撃でロッカーに叩き付けられてしまう。

彼女の蹴りは異常な威力をしていて、痛みを堪えようとするが脂汗が垂れ下がり蹴られた箇所は焼け石を乗せたかのごとく熱を帯びているような錯覚がある。なんでこんな威力の蹴りを、と彼女の足を見るがそこにあったのはヒールを履いた女性の足ではなく、鉤詰めの付いた鋼鉄製の金属の足。

ISの部分展開だ。

 

「おら、いつまで平和ボケした面してんだよ」

 

安い挑発を売ってくる巻紙。

明らかに女尊男卑主義者が“男がIS持つな”と取り上げようとしているのとは違う、純然たる悪意による強奪。

まったく、なんで渡せと言われた時点で警戒しなかったんだ、俺は。

 

「くっ・・・『サバーニャ』!」

 

生身での強奪ならともかくISを持っているのならISで立ち向かうしかない。こんな狭い場所での屋内戦は初めてだが、四の五の言ってる場合じゃない。

 

「待ってたぜ、それを使うのをよぉ」

 

そう言うと彼女も自分の機体を完全展開する。

 

その機体は黄色と黒が目立つ配色の機体で、頭部にはフルフェイスのヘッドギア。下半身には彼女本来の脚とは別に、細長く形状が異なる脚が8本。腰には他のISでは見られない大型コンテナらしき物体。

上半身は人、下半身は昆虫を模したと思われる機体。

その姿は・・・。

 

「アラクネだよ。こいつの毒はキツいぜ?」

 

アラクネ。

たしか蜘蛛の額に女性が生えた姿をしたモンスターだったよな? 忍野なら“怪異”としてのアラクネに関する講釈の一つや二つ述べるだろうけど、今はそんな時じゃない。

 

「そぉらよぉ!!」

 

アラクネの脚先がこちらに向き、一斉に火を噴く。

装甲脚にはアサルトライフルと同性能の内蔵火器が搭載されているようで、軽視できない威力で絶え間なく発砲が繰り返される。

サバーニャを横滑りぎみで回避しながらライフルビットを1丁手に取り、残りのビットを展開する。

 

「ピストルビット、展開!」

《防御は引き受けた。シールドビット展開じゃ!!》

 

銃と盾を4機ずつ、蜘蛛のIS目掛けて飛翔させる。

巻紙と名乗っていた女(もう巻紙でいいや)はビットが展開されるのを見ても動揺した素振りすらなく、それどころか嘲笑うかの如く言い放つ。

 

「へッ! 噂のビットか、だがてめぇは大馬鹿だなあ!!」

 

最初は何の事なのか分からずハッタリだと決めつけたが、その意味はすぐに分かり始めた。

 

展開したビットが次々と被弾したのだ。

ピストルビットは回避させることも出来ず悉く破壊され、シールドビットも鋼鉄の雨に煽られまともに動かせない。

 

(くそ、ルートが読まれてる!)

 

何とか背後を突こうするが、柱の隣接し天井の低い屋内ではビットの動きが制限されてしまい、軍用機をも翻弄したビットがいとも簡単に封じられる。

 

ビットを展開するには、ここは狭すぎたのだ。

 

「どうしたよおい! 機体は良くてもお前の腕はイマイチのようだなあッ!!」

「くっ! まだだあっ!!」

 

持っていたライフルビットからアタッチメントを外し、両手にピストルビットを構えてスラスターを吹かして一気に肉薄する。

 

「別に無傷で手に入れようなんて思ってねえ。そっちから来るんなら、切り刻むだけだッ!!」

 

そう言って彼女は刃渡り1m程の、ISの武器としては短刀にあたる近接ブレードを両手に展開して突進して来る。

二度三度と刃が火花を散らし、鍔迫り合いになると互いに押し切ろうと力相撲となり硬直する。

 

「アンタは一体何なんだ!?」

「テロリストだよ!! それとなあ、スナイパーは遠くからコソコソ撃つのがお似合いなんだよ!」

 

ここで俺はまたミスを犯していた事を知る。

アラクネの装甲脚は俺のピストルビットと同じ、近接戦闘が可能な複合装備になっており、脚先にはIS用ナイフと同サイズもある鋭い爪が備わっていたのだ。

“見た目に騙されてはいけない”とはよく聞く言葉だが、その“見た目”から予想される攻撃に警戒しないのは大きな間違い。

 

彼女の両手ばかりに気を取られていると左右から装甲脚が襲いかかって来た。

咄嗟に後ろへと飛ぶが、持っていたピストルビットの銃身部分を破壊されてしまう。すぐに捨てると次のピストルを手に取る。

 

「何丁持ってやがるんだ」

 

彼女は悪態をつくがその手(いや脚か?)は止まることなく繰り出され乱舞が襲いかかってくる。両手の短刀は俺のブレードを防ぐのに専念し、8本の脚は死角や回避し辛い所を執拗に狙らわれ、変幻自在にの攻撃に防戦一方になる。

 

「そぉ~ら、喰らえ!!」

 

苦戦していたところに突如アラクネの手から放たれた捕獲ワイヤー。

気づいた時には既に遅く、忍がシールドビットを展開して防いでくれようとはしたが、ワイヤーはシールドの直前で巨大な網となり、シールドごとサバーニャに取り付きそのまま壁に叩きつけられる。

ワイヤーは本物の蜘蛛の糸さながら、高い粘着性を帯びていて壁にぶつかった姿勢のまま機体が張り付いて動けなくなってしまった。

 

「くッ! 外せよッ!!」

「クク、やっぱガキだなぁ。んじゃあ、そろそろ終いとしよおぜ」

 

笑いながら、敢えて精神的にいたぶる為かゆっくり歩いて迫ってくるアラクネ。

焦りを感じながらサバーニャを動かそうとするが、四肢と胴体はひっ付いたワイヤーで殆ど身動きがとれない。ビットも機体から分離できずアラクネの接近に何の反抗も出来なかった。

 

眼前へとたどり着いたアラクネの指が、サバーニャのヘッドパーツにのびた。

 

「もったいないからその機体、オレによこせよ」

 

ヘッドパーツが掴まれ、引き剥がされるように軋む音を立てる。モニターに映る警告メッセージが恐怖心を煽り、神経がすり減る。

 

《なんて握力だよ!?》

《このままでは顔を剥がされるより先にお前様の首がもがれるぞ!》

《分かってる! ミサイルは!?》

《蓋が押さえられておる!》

 

発射管が開かなければミサイルは使えない。

ビットも展開できず、先ほど捨てたビットも動かない。万策尽きたと諦めそうになった時。

 

「おいたはそこまでにしてもらえるかしら」

 

場にそぐわぬ楽しげな声。

頭を鷲掴みにされているのでその表情までは見えないが、部屋の真ん中を威風堂々と歩いてくる楯無さんが見えた。

 

「お前は・・・確か更識 楯無か、どこから入った? まあ見られたからには殺すが」

 

サバーニャの頭から手を離し、楯無さんへと向き直る巻紙。だが楯無さんは一切の構えをとらず、それどころかISも展開せずにいる。

 

「いいのかい? ISも展開させず近いて。気でも狂ったか?」

「私はこの学園の生徒達、その長。ゆえに、このように振る舞うのよ」

「その心構えは評価するがーーー」

 

アラクネの片腕が目にも留まらぬ速さで楯無さんの胸を貫いた。

 

「ーーー死んだら元も子もないぜ?」

 

 

 

018

 

「楯無さん!! てめぇ、よく・・・も?」

「・・・・・・」

 

アラクネの脚に腹を貫かれた楯無さん。けれども彼女の背中に生えた装甲脚には一滴たりとも血が付着していなかった。

 

「なんだ、手応えがない・・・?」

「うふふ」

 

にっこりと巻紙に微笑みかける楯無。そして次の瞬間には彼女は見慣れた液体になって崩壊した。

それは水だった。

 

「ッ!? 水分身か!?」

「ご名答。水で作った偽物よ」

 

傍観者視点だった俺すら気がつかない間にアラクネの背後でランスを構えていた楯無さん。必中の間合いで強力な突きを放ったが、巻紙はそれを紙一重で回避した。

 

「くッ!!」

「あら、今のを避けるなんて、なかなかの腕前ね」

「ガキに誉められても嬉しかねぇよ!! にしてそれがてめぇのISか!?」

「この(IS)は『霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)』、覚えておいてね♪」

 

楯無のISは今まで見てきたどの機体とも異なる、幻想的に映る機体だった。

アーマーは面積が狭く、小さな高機動デザイン。それをカバーするように透明な液状のフィールドが、まるで水のドレスのように形成させている。

非固定装備のクリスタルパーツからはマントのような水のヴェールが展開されていて、手に持つ大型ランスにはドリルのように水の螺旋が表面を流れていた。

 

「けっ! じきに動けなくしてやる。オレのアラクネでなぁ!!」

「うふふ。なんていう悪役発言かしら」

 

そのまま交戦状態に陥る二人。

 

だけど俺は何か違和感を感じた。

原因は分かっている、楯無さんの突きを避けたあの動きだ。

 

《お前様よ、今のどう見る?》

《驚いていた割にその後の回避がスムーズだと思った。忍は?》

《儂も同意見じゃ。テロリストと言えど戦いのプロと言うことかのう》

 

本当にプロの一言でいいのだろうか?

背後から不意打ちで必中の間合いだったのに、それをまぐれや偶然じゃなく見切ったうえで避けれるだろうか? 

 

でも今は人の事より自分の心配だ。

 

《さっき捨てたピストルビットは動かせそうか?》

《待っておれ。 儂からの制御はまだ生きておるようじゃ》

《それじゃあこの網を切ってくれ》

 

忍に頼んで脱出の算段はついた。

 

再び二人の戦いに意識を戻す。

アラクネはと言うと、両手に握った短刀で切りかかり装甲脚は射撃と格闘に役割分担して援護をする。

楯無さんはランスをバトンのように回して襲いかかる刃物に凌ぎ、飛来する弾丸は水のヴェールが全て受け止める。

弾は水に触れた途端勢いが衰え、貫通する前に完全停止してそのままヴェールの中を下へと沈み、足下に投棄されていった。

 

「あらあら、水すらやぶれないのね」

「ただの水じゃねぇだろうがっ!」

 

巻紙は自分の攻撃を全て潰され次第に苛立ちを露わにしていき、対照的に楯無は涼しげな表情のまま。

だがその手数(脚数?)にものを言わせた押し潰すような攻撃に、次第にだが楯無さんが押されはじめる。

 

「楯無さん!」

「一夏くんは休んでなさいな。ここはおねーさんにお任せ」

「余裕ぶるんじゃねぇよ!!」

 

左手に持っていた短刀を投擲し、同時に一気に距離を詰めるために跳んだアラクネ。楯無さんはアラクネの動きにも慌てずに対処すべく、まずは飛来する短刀を弾いた。

 

「あらら?」

 

だが短刀には俺を捕まえた捕獲ワイヤーが繋がっており、短刀を弾いたランスと右手にはしっかりとワイヤーが引っ付いてしまう。

 

「くらえ!」

 

そしてそれは次の攻撃のための布石。

突進するアラクネはその腕力で捕獲ワイヤーを引っ張り、機体をさらに加速させて跳び蹴りを喰らわせた。

その衝撃でミステリアス・レイディの水のウェールは弾け飛び、楯無さんも壁に蹴り飛ばされた。

 

「コホ、普通女の子のお腹を蹴る?」

「ああ”ん? お遊戯やってんじゃねぇんだぞ。今から死ぬのに将来の心配か?」

「いいえ。私は死なないわ。あなたが負けるのだから」

「良いねぇその自信。グチャグチャにしたくなるぜ」

「・・・ねえ、この部屋暑くない?」

「あぁ?」

「温度ってわけじゃなくてね、人間の体感温度が」

「何言ってやがる?」

「不快指数っていうのは、湿度に依存するのよ。ねぇ、この部屋って湿()()()()()()()?」

「!?」

 

巻紙と俺はハッとすると部屋一面に漂う霧に気がつく。水源もないのに発生している霧は、アラクネに纏わりつくように濃くなっている。

いや、水源もそれを操作している人物が目の前に居る。

 

「この機体はね、水を自在に操るのよ。エネルギーを伝達するナノマシンによって、ね」

「し、しまっーーー」

「遅いわ」

 

楯無さんが指をならす。

するとアラクネの機体各部で小規模な爆発を次々と起こし、それが連鎖反応の末、機体を丸ごと飲み込む爆発へとなった。

 

「霧を構成するナノマシンが加熱しておこる水蒸気爆発『清き熱情(クリア・パッション)』。お味はいかが?」

 

その問いに巻紙の声は聞こえない。終わったのか?

 

俺が何とかワイヤーよ拘束から抜け出すとちょうど爆煙とミステリアス・レイディの霧が晴れてくる。そこには懸命に立ち上がろうとするボロボロのアラクネの姿が。

しかし装甲の隙間に入り込んだ霧が爆発したことにより、見た目のダメージ上回る大ダメージを受けたようで、至る所からスパークや部品の落下が発生している。

 

「ぐ・・・がはっ・・・。まだ・・・まだだ!」

 

勇猛果敢に吠えるが、楯無さんはランスを振り抜き、

 

「チェックメイトよ。大人しく投降しなさい」

 

右側にある装甲脚の付け根を突き刺した。

ミステリアス・レイディの力が凄いのか楯無さんの技量が凄いのか、ランスは巻紙の身体を傷つけずに機体を貫き、その矛先は地面にまで達している。

 

「まだ続けるのかしら♪」

 

機体はボロボロ、何か武器を展開するにしてもそれより先に楯無さんの反撃がくるのは明白。ランスで縫い付けられているから逃げることも出来ない。

 

だが巻紙は、予想外の、そして想像しえなかった行動を実行した。

 

彼女は自分の手と装甲脚で機体に深々と突き刺されたランスとミステリアス・レイディの脚を掴む。バイザーの向こうに見える巻紙の唇が、その両端がニヤリとつり上がり、

 

「チェックメイトなのはてめぇだ!!」

 

そう叫ぶと彼女の姿が変化する。

機体を含む全身が部分的に不規則な膨張が起こり、身体が膨らみ始めたのだ。まるでポップコーンの調理過程の様に、袋に入れたコーンが弾けてボコボコと膨らんでいってる風にも見える。

 

楯無さんは何がおきているのか分からずに、ランスを引き抜こうとするがアラクネの腕はピクリとも動かない。

 

不可解な現象が現在進行形で進んでいるのに、脳裏には何故か唐突に、忍野と出逢った時の事を思い出していた。

場違いにもほどがあると頭を振り、アラクネを注視するが“ポップコーンの調理過程”と思えたあの膨張の終点がどんな現象なのかなど容易に想像がつく。

急いで二人のもとへ飛んで、

 

「楯無さん!!」

「えっ、ちょっと////!?」

 

楯無さんの後ろから抱きしめる。

そしてアラクネから引き剥がすように楯無さんを抱いたまま後ろに跳び、背をアラクネに向け自分が盾になるようにする。さらにその上にホルスタービットが重なるようにして集まりきったのと同時に。

 

ーーー喝!!

 

強烈な閃光とともに巻紙の身体が破裂して大爆発、その火球は周囲にある物全てを吹き飛ばし、二人もその爆発炎に巻き込まれていった。

 

 

019

 

 

「楯無さんッ! 大丈夫ですか!?」

「えっ、ええ、大丈夫よ。その、ありがとう////」

 

爆発から守るためとはいえ、サバーニャの装甲越しとはいえ、男性に抱き留められたことに鼓動が早くなる楯無。その表情は恥ずかしいのか嬉しいのか判断し辛いもので、やや赤みを帯びていた顔のまま放心状態になっていた。

 

そんな彼女に目もくれず、一夏は辺りを見回す。

部屋には爆煙と塵が蔓延して視界が悪く、爆心地の天井には大穴が開いて瓦礫が散乱し、そばにあった支柱も根元からなぎ倒され爆発の威力を物語っていた。ロッカーやベンチなどは潰れたアルミ缶のように吹き飛ばされ、物によっては壁や他ロッカーに突き刺さっていたりしている。

アラクネに刺したまま捨てたランスも原形を留めていなかった。

 

「高性能火薬・・・じゃないな」

《あれは・・・何じゃったかのお。ああここまで出掛かっておるのじゃが》

 

授業で習った爆発の仕方とは違っていたことを思い出す。忍には何か心当たりがある以上、マトモな爆発物ではないだろうし、そもそも人間が膨張して肉片一つなく自爆する兵器など、()()では存在しない。

 

「怪異・・・」ボソッ

「よく分かったな。さすが、()()()()()()()()()()()()()()なだけはあるぜ」

 

破壊されていない支柱の影から姿を現したボロボロのISを身に纏う女性、それは先ほど爆散したはずの巻紙だった。

だが格好をつけて現れた途端、アラクネの装甲脚が煙とスパークを発して動かなくなった。『清き熱情』のダメージと先ほどの偽物の自爆が原因なのであろう。

 

「もうイカレたのかよ・・・。関節脆過ぎんだろ」

 

愚痴りながら彼女はISから降りるが、一夏はそんな声が聞こえない程に、彼女の一言が頭の中で繰り返し再生される。

 

“ハートアンダーブレードの眷属”

 

彼にとってそれは聞き捨てならない言葉。今まで隠してきた自分の正体を知る人物である事を示し、自分(怪異)を狩る側である事を名乗るに等しい台詞。

 

自分は“専門家”であると。

 

「そう殺気立つなよ。てめぇとの勝負(殺し合い)はまた今度だ!」

 

そう吐き捨てると巻紙は偽物が自爆した時に崩落した天井の穴から、ISから抜き取ったコアを片手に逃げようとした。

まずは目の前の女をとっ捕まえなければならない、と頭より先に身体は動きだす。逃がしてはいけないと本能的に理解していたのだ。

 

「ほら駄賃だ! 受け取んなガキ!」

 

彼女はそれを嘲笑うかのように、手に持った何かを一夏目掛けて投げる。

 

その何かはボンっと白煙を纏った直後、煙の中から羽ばたかせ燕となり飛来する。しかしそれは白一色で無機質な姿をしており、まるで粘土で作った人形に見える。

その人形はホルスタービットの隙間をかいくぐり、サバーニャ本体に最接近したところで。

 

「喝ッ!」

 

巻紙の声に反応して爆発する。

撒き散らされる爆炎は手榴弾クラスでバーニャへのダメージは軽微だったが爆風に煽られ転んでしまう。

 

「一夏くんッ!?」

 

爆発音にようやく現実に戻って来た楯無は一夏に駆け寄り、その無事に安堵するが、当の一夏は冷静さを欠いていた。

 

《絶対逃がさねえぞ!!》

《しかしお前様。追撃しようにもあやつの方が上手じゃ。見てみい》

《うん?》

 

忍に促されて顔を起こして見ると、追跡を阻むように、蜂を模した粘土細工が網のように点在していた。

大きさは先ほどの鳥に比べれば小さく、その場でホバーリングしているだけだが数が多い上に、人の通り抜ける隙間がないように配置されている。

 

(ビットだけなら何とか抜けれそうだが・・・)

 

これ全てが爆発するのであれば、下手に近づけない。最悪、巻紙が残した蜘蛛のような機体も自爆するかもしれない。

 

一夏と楯無の二人は、彼女が逃げていくのを黙って見ている事しか出来なかった。

 

 

020

 

 

~セシリアサイド~

 

「ラウラさん!」

「分かっている! 本部、これより爆発地点へ急行します」

『敵の増援があるかもしれん、全周警戒を怠るなよ』

「「了解!!」」

 

学園の上空で待機していたわたくしとラウラさんは、ハイパーセンサーが爆発を検知しました。

 

すぐさま煙の上がっている地点へ向かうと、アリーナ横の地下施設が爆発されたようでそこには大きな穴が開いています。綺麗に整えられていた並木道は見るも無惨に破壊されいました。

 

(あそこには更衣室があっただけの筈ですが・・・?)

 

破壊工作が目的なら学園の中枢などを狙うはず。しかしあそこは学園本館からは遠く離れて壊したところで何のメリットもないはず。

 

!! しかし離れていると言うことは人目につかない場所で、誰かを襲撃するのには持ってこいの場所。今連絡が取れていない専用機持ちの方は一夏さんに忍野さん、そして生徒会長の更識 楯無さんのお三方のみ。

 

誰かが襲われているのならすぐに助けに行かないと。そう思い立ち崩落した穴を拡大投影すると、そこから明らかに学生や学園関係者とは思えない女性が這い出してきました。

 

(あの方が襲撃者ですわね!)

 

この非常時に爆発現場から出てくる不審者となれば、それは犯人であることはほぼ確定で、そうでなくとも重要参考人と見なされるのは当然の判断。逃げられる前に拘束しようと降下すると。

 

「セシリア!!」

 

ラウラさんの声と、高熱源を感知したセンサーのアラートがわたくしの耳に飛び込んできました。

 

身を翻して接近する熱源のコースを回避すると、通過したのは高出力の収束レーザー。

敵襲!? すぐに向き直ると、蝶を彷彿とさせるデザインのISが接近してきていました。しかしそれは、わたくしの良く知る機体で、ここに来てほしくなかったIS。

 

「サイレント・ゼフィルス!?」

 

先日起こった輸送中の事故以来、行方知れずになっていたブルー・ティアーズの後継機にあたるBT(ブルー・ティアーズ)二号機。エネルギーシールドを展開するシールド・ビットを試験的ながら実用可能なレベルで搭載したイギリスの最新鋭機。

強奪されたとも囁かれながらそんな事はないと願っていましたが、ここに現れるとは・・・。

 

ですが今は襲撃者として対象しなければ。

 

すぐさまレーザーライフルで狙撃を試みましたが、まるで狙っている場所が分かっているかのようにシールド・ビットで防がれて命中しません。

ラウラさんのレールカノンはさすがにビットでは防ぎませんでしたがやはり命中はしません。

 

ならばと射撃ビットを射出しましたが、ゼフィルスの持つレーザーマシンガンの餌食となり全滅。逆に4機の射撃ビットを射出されて一気に窮地に立たされてしまいました。

わたくしを上回るビット6機の同時制御をしながらもその動きは滑らかで隙がなく、狙撃やラウラさんの砲撃は壊すことが叶いません。

 

「それなら!」

 

現状を打破しようとミサイル・ビットを発射し、大きく迂回させて本体であるサイレント・ゼフィルスの死角から突進させました。

しかしビットから放たれたレーザーが孤を描いて()()()、砲口よりも後方にあったミサイルが撃ち落とされました。

 

(これはっ・・・偏光制御射撃!?)

 

BT兵器の高稼働時に可能となる発射したレーザーの弾道制御。しかしそれには高数値の脳量子波とBT適性が必要とされ、現在はわたくしが最高値のはず。

それが、どうして!?

 

 

「貧乏クジを引いたのはイギリスとドイツの餓鬼か」

 

ゼフィルスの横に並ぶように飛んできた容疑者の女性。

 

先ほどまで地上に居た彼女は、巨大な白い鳥らしき何かの背に立っていました。ですが現実に人が乗れるほど大きな鳥は存在しませんし、何よりその鳥は彫刻か人形のように無機質で生気を感じられません。

 

「IS・・・ではなさそうですが、何でしょうか?」

 

鳥を模した飛行装置が開発されたなんて聞いたこともありませんし、あれだけの巨体が何故先ほどまでその姿が目視できなかったのか気になります。

しかし彼女を捕まえるには迎えに来たと思われるサイレント・ゼフィルスに勝利しなければならず、今のわたくし達二人にはほぼ不可能な条件。

 

サイレント・ゼフィルスが再びわたくし達に

レーザーマシンガンの照準を向ける。

負けたくない。ブルー・ティアーズ(この子)の妹も呼べる機体を奪い、あまつさえそれを悪事に利用する彼女には負けたくない。そんな気持ちばかり先走るが、何も出来ないまま互いの睨み合いが続く。

 

いざとなればオルコット家の威信を賭けて、差し違えてでも・・・。

そう覚悟を決めようとした時。

 

「ッ! まずッ!」

 

鳥の女性が突然慌てだし、手を突き出して体を捻るように引き戻すと、サイレント・ゼフィルスは見えない糸で繋がったその手に引っ張られたとしか思えない、跳ねるような動きで後ろへと大きく下がった。

 

その刹那。

紅く禍々しい巨大な光の束がわたくし達と襲撃者を分断するように伸び、ゼフィルスの手にあったマシンガンを飲み込みそのまま雲を貫く巨大な柱と君臨しました。

 

その膨大な熱量で発生した暴風の乱気流がゼフィルスの展開していたビットが全て吹き飛ばし、かと思えばわたくし達の機体は姿勢制御に勤めなければ引き込まれるほどの引力。

 

「何ですのこれはッ!?」

「引き込まれたら終わりだぞ!!」

 

最初は忍野さんの援護かと思いましたが、すぐにわたくしはそれが誤りだと気づきました。

確かにあの方の使われるビームは紅い色。けれどもこれほどまでの高出力火器は装備されていなかったはずですし、今目の前を通過しているビームとおぼしき光線は赤黒く、そして悪意を凝縮した気配のようなものを撒き散らしています。

 

僅か数秒、しかし体感では何分も経過してから光は弱く収束していき、最後は束としての形を失って霧散しました。

光が消え発射点が確認出来るようになると、わたくし達は戦慄しました。そこには学園の天井が見えていましたがそこには内側から破壊されたとわかる大穴がポッカリ口を開いており、辺りには瓦礫が散乱、穴の断面は高温に晒されマグマの如く、赤くドロリと溶けているのが見て取れます。

 

「下手くそな砲撃だな。退くぞ」

「・・・離脱する」

 

声を耳にして視線を正面に戻しますと、鳥の女性とサイレント・ゼフィルスは離脱を始めており加速していました。

 

「待ちなさい! ブルーテーーー

「追うなセシリア!」

ーーー分かってます! 分かってますが、それでもッ!!」

 

逃走する二人を追いかけたいのは山々でした。しかし先ほどの砲撃と思われるビームが、はたしてどちらを狙ったものか分からない以上、最悪の場合挟み撃ちにされる危険性がありました。

 

だからラウラさんはわたくしを行かせまいとしてくれたのは分かっています。

けれどもあの機体は、わたくしの愛機を否定する物で、それがテロリストの手に渡ったなど許せません。

 

敵が目視困難なほどに飛去った後、漸く先生方の機体が上がって来ましたが、わたくしはずっと雲の向こうを睨み付けたままでした。

 

 

 




ダラダラと下手くそな話を書きはじめてもう二年目。いつも読んでくださっている方々に感謝しつつ、これからも読んでいただけるように頑張らせてもらいます。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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学園祭 其ノ伍

 

021

 

敵が撤退してから約1時間後。

学園長室には各学年主任と整備科主任、生徒会長が緊急招集され、事件の報告を行っていた。

今回は過去のクラス対抗戦やタッグトーナメント戦の事件とは異なり、テロリストが明確な目的をもって襲撃してきたのだ。出席している全員の表情が険しくなってもしかたがない。

 

そんな会議を取り仕切っているのは轡木 十蔵(くつわぎ じゅうぞう)

普段はIS学園の用務員として働いている温厚で壮年の男性だが、その実態はIS学園の実務関係を取り仕切る事実上の運営者だ。ある種の独立国もどきのIS学園を運営してるだけにその手腕は高く、各国政府とも独自のパイプを持つ切れ者。

もっともISという女尊男卑主義を維持するものを扱う学園のため表向きは妻がIS学園の学園長となっているので彼の尽力は一部の者にしか居られていない。

 

「ーーー以上が現在把握できている被害状況です。負傷者は全員医務室で診断を受けています」

「ありがとうございます。死者が出なかった事とISが奪われなかった事は不幸中の幸いでした。それで襲撃組織の情報は?」

「組織名は判明しています。『亡国機業(ファントムタスク)』、数年前より活動が目立つようになってきたテロ組織です」

「組織に関する情報は?」

「中東の内戦で武器の売買を行っているそうなのですが、活動目的は不明で組織思想も判明していません。ですがISの強奪と運用を可能としていることからかなりの規模の組織だと思われます」

 

厄介な事になった、教師陣は頭を悩ませる。

 

日本は世界から見れば平和な国とされ、何か事件が起こり報道されても国民は画面の向こうの話と楽観視する。これはこれで良いことなのだがこの国の悪い点はいざ事件が身近で発生した時には大混乱に陥ることだ。平和過ぎるが故の、贅沢過ぎる問題。

さてそんな国がIS学園の防衛にまともな協力をしてくれるだろうか? 答えはNOだ。

事実臨海学校の際、暴走したISが本土に接近するという非常事態が発生し、防衛のためにすぐさま自衛隊が出撃するはずだった。だが実際は政府などの上層部が混乱して出撃許可が下りず、やっとのことで下りた時にはもう間に合わない状況になってしまっていた。

国外から侵入して来るISにすら手を焼いた国が、国内で起こるIS学園襲撃の防衛に役に立つとは到底思えない。

 

そのためIS学園はほぼ独力でテロリストとの対峙を余儀なくされた。

 

「更識、お前の交戦した敵に関しては? その“動く人形の爆弾”の正体もだ」

「残された機体は国際IS委員会に該当する機体、もしくはその開発計画がないか調査を依頼していますからまだしばらく掛かります。内部データはコアが抜かれたことで破損して閲覧不可能になってます。一応、整備科の先生方数人でデータの復元を試みてもらっていますがあまり期待は出来ないそうです。人形爆弾に関してはまだ残骸すら見つかってません」

「結局収穫はなしか。まあテロリストでもそこまで愚図ではないか」

「そうか・・・」

 

敵の規模は分からず、国はアテにならず、敵の戦力は分からない。室内は重苦しい静寂に支配されていく。

 

今はこれ以上議論を交わしても良い結論は出ないと判断した轡木は会議を終了させる。

 

 

 

 

 

 

 

「織斑先生」

 

学園長室から出た千冬を呼び止めたのは更識 楯無。

楯無の表情と纏っている雰囲気が“IS学園生徒会長”ではなく“暗部”に変わっているのをすぐに見抜く。

 

「どうした?」

「少しお話があります」

「・・・分かった。場所を変えよう」

 

 

閑話休題

 

 

生徒指導室にやってきた楯無と千冬。

人目を気にするように辺りを確認してから静かに入室した。

 

「ここなら人に聞かれる心配はない。それで、私に何を訊きたい?」

「はい。ハートアンダーブレードと言う単語に心当たりはありませんか?」

 

楯無は単刀直入にそうきり出す。

 

「敵が織斑くんに言った言葉です。恥ずかしながら、その前後の言葉は聞き逃してしまったのですが・・・」

「ほう、お前が人の話を聞き逃すとは。うちの弟に何かされたか?」

「い、いえ/// 別にそんなことは」

「紅くなってますます怪しいな。ここしばらくよく一緒に居るようだしもしかして・・・」

「からかわないで下さい/// コホン、それで何か知りませんか?」

「悪いが私は知らないな。それよりもそのハートアンダーブレードと言うのは何の名前なんだ、武器か何かか?」

「剣か何かじゃないでしょうか」

 

暗部などと裏家業をこなす10代の少女を気づかうつもりで茶化すように受け答えをする千冬だが、その頭の中では自分の記憶にローラー作戦で検索をかけた。

記憶力は並以上はあると自負していた彼女は記憶を探るが、名称に“ブレード”と含まれていることから刀剣のような刃物と想像できても思い当たるものはなかなか出てこない。

・・・刀剣。刀?

 

「まて、一つだけあった」

「何ですか!?」

「タッグトーナメント戦の時だ。お前は留守だったから印象に残らないし、私自身うっかりしていた。ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンに違法搭載されたVTシステムが暴走したんだが、忍野が暴走したレーゲンを斬るのに刀が使ったのは知っているだろ?」

「報告では聞きおよッ! まさかそれが!」

「確証はない。そもそもあれは日本刀だから英語名で呼ばれるとは考えにくいし、検査の上では何の変哲もない刀。だがあれを持っていたのは一夏だ」

「ISを斬ることのできる刀、強奪目標として十分に考えられますね。今も一夏くんが?」

「まだ学園預かりになっている」

「・・・国連の方に秘密裏に報告しましょう。そうすれば“織斑 一夏”個人が狙われる理由が一つ減るかもしれませんし」

 

楯無の提案に千冬は悩む。

確かに例の刀が狙いならば学園所有だと明確にすることで一夏が襲われることはなくなる。だが次は学園が狙われることになり、専用機を持たない一般生徒にも被害が及ぶ事を怖れた。

家族を守りたいという自分の身勝手な我が儘で学園を危険に晒していいものかと・・・。

 

「・・・前向きに検討しておこう」

「分かりました」

「ところで忍野の容態は? 傷は酷いのか?」

 

IS学園に侵入していたのは何も巻紙と名乗った女だけではない。忍野も何者かの襲撃を受けていたのだ。

会議が始まる前に、担任である千冬には忍野が負傷したという一報は届いていたが、具体的な怪我の度合いなどは教えてもらえなかった。なので自分よりも後に来た楯無なら何か知らないかと訊ねたのだ。

 

「あ~、それなんですが、ちょっと・・・私の口からは・・・」

 

バツが悪そうに顔を背けてたうえで随分と歯切れが悪い返答に、千冬はサーッと血の気が引いたような気がした。

そして射ても立ってもいられなくなった彼女は、自分の目で確かめなければと楯無の手をひっつかみ医務室へと駆ける。

 

 

 

022

 

 

「随分と遅かったなぁ、待ちくたびれたよ」

 

医務室に到着した千冬に飛んできたのはそんな軽口だった。

 

ベッドに腰掛けながらも持ち込んだと思われるおむすびを頬張る忍野の姿に、思わずズッコケそうになるが、その容姿に息をのむ。

 

忍野は頭から足まで包帯だらけになっており、ミイラ男が少し包帯を外したと言った方が早いほどグルグル巻きになっている。床には血染めの脱脂綿と血溜まりが処理されず残されており、その量が彼の怪我の度合いを物語っていた。

しかしその軽口や瞳には弱々しさはまったく見受けられず、それどころか機嫌がいいようにも思えた。

・・・さすがにそれは錯覚か、そう振り払うが想像したよりもずっと元気そうだったので安堵すると共に、こいつは弱ることがあるのかと千冬は呆れかえる。

 

「ご覧になった通り、どう見ても重傷なはずなんですが本人があまりにもケロッとしていて・・・」

「ああ見ればわかるもう分かった」

 

確かに怪我だけで言えば酷いのだろうがこの余裕綽々の姿を見ていればそうでもないのだろうと思えてしまう。内心で私の心配を返せと毒づきながらも教師として、友人としては彼の無事は喜ばしいかぎりだ。

 

「いやぁ手酷くやられちゃったよ」

「まったくだ。ISを使わなかったのか?」

「まぁね。アルケーは屋内戦が出来る機体じゃないから素手だよ。まぁそれでこの様だから自業自得かな」

「まったく、お前という奴は無茶をするなあ」

「でもさぁ自業自得って自己責任の単語としてよく使われるけど、文書にして考えると[“自”分の仕“業”で“自”分が“得”る]ってなるんだよね。

でも俺としては苦言を呈したい。今回は襲われた身うえにISでは戦い辛い状況だったんだから、自業と言うのは酷くないか? それに怪我は身を削って出来る物だから自得と言うのも可笑しな話だ。

そこで千冬。今の俺を示す言葉は?」

「他業自損か?」

「それも正解。子供でも思いつくし他人のせいで損をするってのはままある話だからね。だけど俺は根本に、ISを動かしたという“自業”があるから自業自損が正しいかな?

そしてより上位の言葉として新たに“自業地獄”と言う言葉を提案するよ。[“自”分の仕“業”で“地獄”を見る]ってね」

「そのこころは?」

「無くすばかりで得るものなし」

「面白くもなんともないしまったく上手いことを言えていないぞ」

「そりゃそぉさ、適当に言葉を並べただけだからね。むしろ意味を探されても困るよ」

「ほ~、教師に対して随分と舐めた態度をとるな。それに新単語作成は副音声の仕事だったはずだが?」ゴゴゴ

「え、ちょ、元気だってアピールのつもりなんだが、怒ってるの?」

「自業地獄だったか? では地獄を見せてやろう」

「か、会長さんって居ないし!? ってか誰も居なくなってる!?」

「さあ、地獄を見ろ!!」

 

「ぎゃあああぁぁぁ!!!!」

 

 

閑話休題

 

 

「失礼します!」

 

口から魂らしきモノを出してる忍野の横で千冬がやり遂げた顔をしていると入口のほうが少し騒がしくなり其方を向く。

するとラウラを先頭に箒とシャルロット、少し遅れて簪と鈴も入室してきた。全員が今回最大の負傷者である忍野を心配してやってきたのだろう。

 

「なんだ、お前達も来たのか」

「はい」

「教官、忍野の容態は?」

「命に別状はなさそうだぞ。今も飯を食べていたからな」

「怪我人・・・なんですよね? なのに飲食して大丈夫なんですか?」

「アイツを人間の常識で計るな篠ノ之。ある意味、束と同種の人間だ」

 

(一夏は来てないのか? 真っ先に来そうなものだが・・・。オルコットも居ないな)

 

二人が居ないことを不審に思いながらも、担任として忍野の容態を医師に訊くためにその場をあとにしようとする。生徒が集まった所に教師が居ては水を差すことになるからという大人らしい気遣いでもある。

 

「相手は一応は怪我人だからほどほどにしろよ」

「「「「「はーいっ」」」」」

 

返事だけはいいな。

彼女は思わず笑みがこぼれるが、すぐに絶望が知らされる。

 

 

 

 

 

 

「それで、怪我の容態はどうなってますか?」

「左前腕部に負った重度の火傷。右肩の脱臼それに伴う炎症による腫れ。裂傷や擦過傷は大小含めて少なくない数が全身に負っています。それと左目も負傷していまして・・・」

「目をッ!? 視力は大丈夫なのか!?」

 

忍野が左目にダメージを受けた言われ、狼狽しながら医師につめ寄るように問う。

しかし医師の表情は暗く、口ごもる。

 

「残念ながら視力以前の問題です。彼の左目なのですが、眼球を欠損、つまり目をえぐり取られています」

 

ただ単に視力を失うというだけなら世界的に見ればそれほど珍しくはなく、眼球を失うことも事故死などではない話ではない。

だが生きたまま眼球を失うというのは古今東西、拷問以外ではまず有り得ないほど異常な怪我だ。しかも奪われたのは複数の無人IS相手に大立ち回りするほど実力があったはずの男。

 

(あの狂戦士を押さえ込むほどの実力者が居たということなのか?)

 

もしそうなら状況はより厳しいものになる。おふざけや遊びなしで戦えば学園トップクラスの実力者が戦力低下し、敵にはそれよりも強い相手が残る。

また殲滅や破壊が目的ならともかく、強奪だけのために最大戦力を投入する組織は普通ではありえないと考えると、敵には更に強大な戦力が温存されていると想像がつく。

 

彼なしでも学園を守れるのか?

 

「・・・再生治療で、治せないんですか?」

「時間は要しますが治療できます。ただ彼自身がそれを拒否していますので私達にはどうすることも出来ません」

「そうですか・・・」

 

再生治療を用いれば例え半身を失っていても完治出来るので千冬としてはすぐにでも治療ポッドに放り込みたかった。しかし彼が望まない以上、裁判でもしないかぎりそれは許されない行為。

 

千冬はそれを聞かされた時、ある決意をした。

 

眠ぼすけの相棒を起こす決意を。

 

そして今度は私が学園を守ると・・・。

 

 



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学園祭 其ノ陸

023

 

消灯時間が過ぎ暗闇と静寂に満ちた病棟。数日前の昼間は学園祭事件の影響で多くの怪我人やその見舞い人でごった返していたが、今は同じ建物とは思えないほど静まり返っている。

そんな病室の一室で、忍野は横になっていた。

 

そう、横になってるだけ。

何かしているわけでもなく、何かを考えるわけでもない。ただボーッと時間を浪費している。

しかし仮に第三者がそれを見れば誰かを待ってるようにも見え、

 

「待ちくたびれたぜ」

『あら、起きていたのね』

「なぁそれは嫌みか? 嫌みだよな?」

 

そして待ち人はやってくる。

ベットの横にある見舞い人が座る簡素な椅子に腰掛けていたのは更識の屋敷に現れた仮面の女だった。一切音がせずいつから其処に居たのかは常人には分かり得ないが、そんな彼女に、忍野は何の警戒も示さない。

 

『予想通り、来月のキャノンボール・ファストは中止になったわ。明日には正式に学園から発表があるはずよ』

「まぁそりゃそうなるな。立て続けに起こった事件でIS学園の警備に対する信頼は地の底。そんな状況で市街地の上空を飛行するレースはあまりにリスキーだからねぇ。国としても一般人を巻き込む可能性は排除したいだろうなぁ」

 

キャノンボール・ファイトはISによる高機動レースで、内容もその通り戦闘ではなく如何に早くゴールするかを競い合うスピード勝負。

しかし加速距離や高機動中の旋回などの問題で学園アリーナどころか学園島全域でも狭く、なんと隣接する市街地の上空までもをコースに組み込むことで解決したのだ。もちろん市街地上空は戦闘禁止エリアに指定されているのでただ高速で通過だけなのだが、万が一の時に周辺被害が最も大きくなりやすいイベントなのだ。

学園の警備すらままならないのにそれよりも広大な範囲を警備するのはほぼ不可能だろう。

 

「俺達が入学したせいでこの学園は政治的かつ物理的にも危うい立ち位置になってしまっている。世界中から情報開示や生体データ、ものによっては所有権を求められ圧力をかけられている。そして明らかに俺達を狙って発生するIS事件。

仕方がないとは言え関係各所には頭が下がるよ」

『・・・でもここが巻き込まれたのってあなたがISなんか動かしたのが悪いんでしょう?』

「ウグッ それを言われると痛いねぇ。まぁ動く()()は分かったから対策はいくらでも有るさ。だけど問題はーーー」

『織斑一夏ね』

「ああ。今は俺の縄張りってことになってるから学園に侵入して襲ってくる奴は居ないが、あいつ1人だとどうなるか」

『そんなに心配ならいっそのこと()()()に引き入れればどう? 少し仕込めば上級以上にはなるわよ』

 

そうしたいのは山々なんだけどねぇ、と言って忍野は頭を掻く。

 

「あいつを入れると計画も予想も全部フッ飛んじまうんだよなぁ。

一夏は人殺しは許さないが、人を喰らう吸血鬼は助けた。そしてその吸血鬼を殺すのが嫌で今の半端者になった。

ようは困っている人を後先考えず誰でも助けてしまう奴なんだよ。人としては満点解答だが、俺達みたいに平然と人を殺す人種とは相容れないし、そんな奴が居れば遅かれ早かれ足手まといになる」

『確かに・・・』

「だから今回の件に関してはあいつ自身に決めさせるさ。俺はあくまでも表立っては行動しないつもりさ」

 

まぁもう遅いんだが。

忍野はあっけらかんと笑う。

 

「賽は投げられたんだ、後はぶっ潰すまで道化に徹していればいいのさ。一夏の件はそれからでも遅くはない」

『相変わらず甘いわね。一人で戦争を潰す気?』

「それが出来てればISになんか乗ってねぇよ」

『まあ、あなたならそれでも良いんでしょうけど。そうしたら最後に、今あの子はどこに居るの?』

「日本海を北上中の潜水艦の中だ」

『やっぱり北へ向かったのね。分かったわ』

 

仮面の女は立ち上がると現れた時同様、まるで蜃気楼だったかのように膝が伸びきる前には消えていた。

忍野は彼女の居た場所を少しだけ名残惜しいそう、ではなく恨めしく見てから、

 

「はぁあ、今日も徹夜だなぁ」

 

再び怠惰に時間を浪費することに意識を費やすのであった。

 

「作戦は奇を持って良しとすべし、なんってのは(しょう)に合わないねぇ」

 

 

 

024

 

 

~ラウラサイド~

 

学園祭が中断されてから早三日。

まだ事件の調査などで授業は再開されておらず学園は休校状態が続いていた。しかし殆どの生徒は普段の休日のように平和に過ごした。

殆どは。

あの事件で一部の代表候補生や企業代表生は自主訓練に勤しむようになると言う良い方向へと変化した生徒もいれば、学園が怖いと怯える生徒も居た。そして一番変化があったのは敵と直接相対した私と更識 楯無を除く三人、織斑 一夏、セシリア・オルコット、忍野 仁の様子が可笑しくなってしまった。

 

織斑 一夏は部屋に閉じこもったままでほぼ誰とも会おうとしていない。鈴は連れ出そうと一度部屋を訪ねたそうだが入れてもらえただけで、一夏は部屋から出なかったそうだ。その表情は重大な悩みを抱えているように伺えたらしいが鈴は、

『あんな思いつめた顔は見たことがない』

と言っていた。

授業が始まれば出てくるのだろうか?

 

 

セシリアは普段通りに振る舞ってはいたが、その表情が酷く冷たいものになっていた。この国の表現では“心ここに有らず”と言うのが正しいのか、笑顔を繕ってはいるが彼女の意識はどこか遠い所へ向いているようにしか感じられない。

自国の最新鋭機がテロリストの手に堕ちていたことがよほどショックなのだろう・・・。

 

 

そして忍野もそうだ。

雰囲気にこそあまり変わりはないが、何度病室を訪ねてもすぐに眠ってしまいろくに会話ができない。それは簪も同じのようでいつも出迎えてはくれるのに5分と保たず寝てしまう。

もっと話したいことがいっぱいあると言うのに、全くもって嫁としての自覚に欠けている。

 

・・・もしかして落ち込んでいるのだろうか?

強いとは言っても一般人。強者に敗北し左目を奪われたことでプライドを傷つけられ、その精神的ダメージが過度な睡眠に繋がっているのかもしれない。

 

ならばここは夫として元気づけなければなるまい。だがどうすればいいか・・・。

 

悩んだ私はすぐにドイツに居る副官のクラリッサ・ハルフォーフに通信を繋ぐ。

鈴やシャルロットには日本知識に関して頼るなと忠告されてはいたが・・・まあ良いだろう。

 

『ーーー受諾。クラリッサ・ハルフォーフ大尉です』

「ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ」

『お久しぶりです隊長。プライベート・チャンネルでの連絡とは、なにか問題が起きたのですか?』

「実はーーー」

 

~~~大まかな経緯の説明中~~~

 

「そこで嫁を元気づけるために何かプレゼントをしたいのだが、何を贈ればいいか分からない。情報を求む」

 

説明と要望を言うとすぐに意見がきた。

 

『でした我が“黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)”のエンブレムとも言える眼帯を贈られるのが良いでしょう』

「この眼帯をか?」

 

左目を覆う眼帯に手を添える。

 

元々は部隊創設の際、隊長になった私が眼帯をしていたことから黒ウサギ隊の部隊章(エンブレム)は黒兎が銃と眼帯を装備した物が作られ、他の隊員も平時の“越界の瞳”保護のためなどを理由にいつしか私と同じ眼帯を装着するようになった。

 

それがいつの間にか本来の部隊章の役割を乗っ取り、今ドイツ軍では“眼帯の女性=黒ウサギ隊”と言わしめるほどで、国内のIS乗りにとって特別な品だと聞いたことがある。

特別な品という物が贈り物に最適だという事はクラリッサの助言やシャルロットの話からすでに把握している。

 

・・・しかしだ。

 

「しかしそれは不謹慎じゃないのか?」

 

嫁は襲撃の犠牲になり左目を奪われた。

なのにそれをわざわざ意識させる品を贈るのは良くないのではないだろうか? 

 

『ですから未来の伴侶となる隊長が敵に対する警告として想い人に贈るのです! 彼に敵対するならばシュヴァルツェ・ハーゼが黙ってないと大概的にアピールでき、抑止力となります』

「一理あるな」

『それに目を欠損したとなれば今後は眼帯が必需品となりますでしょうからタイミング的には寧ろ好都合なくらいです。さらにお二人が同じ物を身につけるともう一つメリットがあります』

「それは何だ?」

『現在学園に隊長以外の隊員は居ないため必然的にこの眼帯を装着するのは隊長たち二人だけになります。これはペアルックと呼ばれるもので男女の深い仲を象徴するものです』

「それは本当か!?」

『私が様々な資料(サブカルチャー)から得た確定情報です』

 

男女の深い仲・・・。

 

「よし、ならばすぐに用意してくれ」

『了解しました。隊長、ご武運を!』

「吉報を待て。通信終わる」

 

フフフ。

さすがはクラリッサ、頼りになる!!

深い仲となれば嫁も恥ずかしがって“嫁じゃない”と言わなくなるだろう。

 

私は上機嫌のままベットに潜り眠りについた。

 

まさか彼女の知識が大きな偏見と間違いだらけで後に“バカリッサ”と私自らが命名し、呼称するようになるとは、この時の私は知る由もなかった。

 

 

 

025

 

~一夏サイド~

 

 

ハートアンダーブレードの眷属。

 

そう呼ばれる日が再び訪れることは、避けられないと分かってはいたけれどやっぱり堪えるものがある。

 

巻紙 礼子。

俺を殺しに来たテロリスト。

専門家だったから既視感があったんだろう。なぜテロリストの彼女を見て、傭兵であるエピソードが思い出したのかはいくら考えても分からないが・・・。

 

また今度と言っていた以上、再び現れることは分かってる。

 

「でも殺しはしたくない・・・」

 

ドラマツルギは使役された吸血鬼で、力の差を前に身の安全を優先してひいた。

 

エピソードは傭兵で、敗北したことで契約が破綻したかの様に去った。

 

ギロチンカッターは宗教家で、自分の信念のために戦って死んだ。殺された。

 

そして忍野は、用がなければ戦いすらしなかった。

 

彼女はどの専門家なのだろうか。

もしギロチンカッターの様に、俺のような人ならざぬ者の存在を抹殺せよと粉骨砕身で働く人なら死ぬまで何度でも、例え五感を失い四肢を千切られたとしても殺されるまで俺の前にやってくる。死んでからも祟りや呪いとして俺を抹殺しようとしても何ら不思議はない。

 

『エ”ェェイ”ィメン”ッッ!!』とか言いながら剣で戦う眼鏡牧師みたいなのは流石にないとは思うけど・・・。二丁拳銃は使う吸血鬼だけどあれの相手役は絶対無理・・・。

 

とにかく、彼女は出来るだけ交戦しないようにしないと。

 

「お前様が()らぬのなら儂が()るぞ?」

 

影から音もなく、背後に出てきた忍は、こちらの考えを見透かした・・・いや、彼女とはペアリングによって精神状態などが共有されているからこの場合、俺が望まない事を分かったうえで提案してきた。

短絡的で物事を解決する下策。

 

対立する一方の排除。

 

「・・・命令だ。人を殺すな」

「鬼は大抵人を殺すぞ?」

「今のお前は吸血“鬼”とは言えないんだから関係ないだろ」

「たわけ、それとこれとは別じゃ」

 

まるで俺の意思を曲げようとするかのように、忍は腰掛ける形で俺の背に寄りかかってくる。

でもこれだけは曲げられない。曲げれるようなら今頃俺は彼女を殺して人間に戻っていただろうし、もしかするとあの倉庫で瀕死の吸血鬼を見殺しにして人のまま息絶えていたかもしれない。

そう出来なかったから俺は半端な存在として此処にいる。

 

「儂らの無害認定は狐の小僧の派閥とその影響下にある者に対してだけじゃ。そしてお前様はISを動かせるが故に人間社会からも狙われておる。

いつまでも無殺を気取ることは出来ぬぞ?」

「だけど、人を殺すのはダメだ・・・」

「かかっ、儂らのペアリングはどちらが死ねばもう片方は本来の状態に戻り、互いの強権も無効となる。この言葉の意味を忘れるでないぞ」

 

忍はその名の通り、心に刃のごとく突き刺さる言葉を残して影へと消えた。俺の気分が優れないから忍も気分が悪い。

今日はもう出てこないだろう。

 

“被害者面をしてんじゃねェよ”

 

巻紙さんは、あの人は専門家で、“人間”の正義だ。テロリストで社会の悪党だけど、化物を退治する存在は正義の味方。

そして俺は見方によっては世界に危機をもたらした一人のテロリストであり、人であろうとしてるだけの人間もどき。正義がどちらにあるかは怪異を知っている人間から観れば一目瞭然なのだろう。

 

だけど自分の責任をとる為にも負けるわけにはいかない。

もし俺が殺されたら、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼が復活する。そうなれば町の人間が、世界の人間が、そして千冬姉もが、彼女の餌になる。そうならない為に俺は彼女と不幸のどん底に落ちたんだ。

自分がやったことの責任をとる為、俺は死ぬまで生きなければならない。寿命以外の死因は全て責任逃れになる。

 

もっと強くならないといけない。

みんなを守るために、忍を伝説の吸血鬼に戻さないためにも・・・。

 

 

コンコン

 

決意を固めるように粋がっていると軽いリズムでドアをノックする音が聞こえた。

誰だろうか?

 

「はぁい♪」

「・・・何の用ですか楯無さん」

 

ドアの前にいたのは楯無さん。

相変わらずニコニコと人当たりのいい雰囲気だが、今は彼女のような明るい人とは会いたくないな。惨めとは言わないけど日陰者の自分が嫌になりそうになる。

 

「落ち込んでいる後輩を心配して様子を見にきたのよ」

「そうですか。でも俺は元気なので大丈夫です、お帰りください」

「邪険にしないでよ。ところで、これなーんだ?」

 

そう言って指で回していたのは学園祭で被っていた王冠だった。

そういえば更衣室での戦闘で無くしたんだったけ? 見たところかなり傷が目立つけど・・・、まさか高いから弁償とか言われないよな。

 

「この間の王冠ですね」

「うん。そう。これをゲットした人が被っていた男子と同じ部屋に暮らせるっていう、素敵アイテム」

「はぁ!? ま、まさか、それであんなに女子が必死に!?」

「うん」

「・・・何考えてるんですか。ではどーぞ、忍野と仲良く暮らしてください」

「え? 何を言っている?」

 

何をって訊こうとするより先に楯無さんは王冠の内側を見せてくる。被る時は暗くて気づかなかったが、そこには達筆な漢字とローマ字でそれぞれ俺の名前が彫られていた。

 

「言ったでしょ? ()()()()()()()って。そして君の王冠をゲットしたのは、わ・た・し」

 

嫌な予感がする。いや、もう遅い。

予感だと思うのは現実逃避しようとしてるからだろう。俺の脳が彼女の背後に詰まれた箱を認識しないようにしてるのもそのためだ。

 

「当分の間、よろしくね。一夏くん♪」

 

ああ、忍が唯一自由に出てこれる空間が・・・。

今後の忍との関係に大きな障害になる。そうなると困るので楯無さんに文句を言いたかったが彼女の笑顔に何も言えず(たぶん言っても無駄)、俺は崩れるように跪いて王冠を忘れていた我が身を呪った。

 

 

あっ、もう吸血鬼だから呪われていたか。

 

 




これで学園祭編は完結し、物語シリーズで言うところの『傾物語』に当たる別章を挟んでから再び秋の章に戻る予定です。

ご意見やご感想、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。


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悟物語
ほうきゴーレム 其ノ壹


エアコンを使って眠りたい、戦争中毒です。連日の猛暑。皆さんどうお過ごしでしょうか?

今回は夏休み中の話で一夏目線での話になります。


001

 

夏休み以降、俺は彼女とどう接すればいいのか分からなくなってしまった。

どちらかが何かをしたという事はない。ただ彼女と直接のキッカケはなかったが、酷く遠回しな、そして可能性程度のキッカケが原因だ。

 

篠ノ之 箒。

 

姉同士が友人で、同じよう友人関係。

幼少期は同じ道場で剣道を学び、同じ小学校に通った。互いに自宅に遊びに行きあうくらいには仲が良かった。

小学校の途中で転校し、入学させられたIS学園で再会した幼馴染み。

俺にとっては大切な友達。

 

俺が思いつく彼女との大まかな関係はこのくらい。

しかし、もしかすると彼女が思う関係には、ここにもう一つ言葉があるのかもしれない。

 

そう考えると、あの夏の大冒険を思い出す。

 

8月16日。

何か特別の記念日という事もないごく普通の1日が、酷く些細なきっかけから始まり、しかし果ては現実の全てを巻き込んまんばかりに大きな話になってしまった。

そんな愚かな物語を思い出す。

 

 

002

 

 

事の発端は8月16日の夕方。

休みの課題で必要な事を調べるために自宅に戻った事から始まった。

夏真っ盛りのため連日猛暑が続き、その日も温度計から目を背けたくなるほどの暑い日。そんな炎天下の中を短時間、家に帰るだけに出歩くのは吸血鬼だろうが人間だろうが嫌になる。

だから少しでも涼しい時間帯をと考えて夕方になった。

 

家に入ると通過儀礼とばかりに郵便受けを確認すると一枚のチラシが入っていたのだ。新聞などは寮に入る前に解約したのでこのチラシは広告を出してる店が配った物だろう、と推測する。

しかしそこに書かれている内容を確認した途端、自分の表情が一変したのを感じた。

 

「全商品80%OFFッ!?」

 

それはとあるスーパーの閉店セールの広告で、店内全て、一部の例外もなく全てが8割引で販売されるといった内容だった。

かつては商店街を廃れさせたスーパーは、さらに大型のスーパーとネット通販の普及で今度は廃れる側にまわったようだ。ISが登場した頃はどうだったんだろうか?

 

「洗剤類はまず絶対だな。衣類用防虫剤も少なくなってたから買わないといけないし、あとカップ麺も買っておこうか。いや、そんな物より調味料をーーー」ブツブツ

 

主婦顔負けな、高校生にしては可笑しな表情で取り出したメモ帳に備蓄品の購入リストを書き上げていく。この時には課題なんて後回し。今やるべきは買い物になっていた。

普通の男子高校生のする事じゃない?

世界最強の姉が居て、元吸血鬼で、世界に二人しかいない男のIS操縦士。これだけ盛られた個性で今更だ。 

 

だがそこで重要なことに気がついた。

 

「・・・閉店時間、午後4時」

 

そして背後の壁に掛けられた時計を確認すると、短針は『6』を差していた。

 

「もう終わってんじゃんかっ!!!」

 

 

閑話休題

 

「忍。タイムマシンを出してくれえ」

「出せるか」

 

俺は忍にすがりつくように懇願する。

だって80%オフだぜ!? いくら寮生活だからって家で生活する日がないわけじゃ無いんだから日用品の備蓄は必要だ。千冬姉や忍野はそのへんルーズだから余計に必要だ。

 

「しかしまあ、時間移動がしたいというのならば、協力せんでもないぞ」

「え?」

「昨日に戻りたいんじゃろう?」

 

そして振り返ると、凄惨に笑い、至極気軽にゲーム感覚で言った。

 

「やっちゃお」

 

 

003

 

 

夏休み中に訪れた、名も知らない荒れ果てた神社の境内にいた。すでに時刻は午後9時をまわり、町外れの山頂であるため辺りは闇と静寂に満ちている。

そこは大地の気の流れが乱れ、怪異の発生源とも言えるよくないものが集まっている吹き溜まり。そんな風にも言っていたか。

 

実は今に至ってなお、俺にはよく分かっていないんだけど、とにかく怪異的によくない場所ということだけは確かだ。

 

「なんで時間移動するのにわざわざこんな所に来るんだよ。いい加減に説明してくれ」

「究極的なことを言えばここじゃなくてもいいのじゃが、馴染みのある場所のほうがお前様にとってよいじゃろうということでな。それに・・・」

「それに?」

「それに今の儂ではエネルギー量が足りるか怪しくての、じゃからこの場のエネルギーを使ってより確実にタイムワープをしようと思っとる」

「そうは言っても、大体タイムワープって、そんな簡単にできるもんなのか?」

「アホかお前様は。怪異があるなら時間移動もあるじゃろ」

「・・・・・・」

 

まあ、怪異よりはよっぽど現実的だとは思うけどやっぱり半信半疑だな。

束さんがタイムマシンを作ったって言う方がよっぽど信憑性があるぜ

 

「よし。まあこの鳥居でよかろう」

 

よかろうって言っても、別にさっきと変わらず、何か仕掛けた様子もない。

 

「で、この鳥居がーーー」

「混沌を支配する赤き闇よ! 時の流れを(もてあそ)ぶ球体をいざ招かん! 巡りに巡る終末の灯火をただ繰り返し、溢れ出す雷で空を満たせ! 黒を歩む者、灰を泳ぐ者! 罪深きその忌み名をもって自らを運び屋とせよ!」

「呪文の詠唱だと!?」

 

素でびっくりした!

タイムワープなんてSFな事をやろうとして魔術みたいな詠唱するなんて思ってもみなかったぞ!?

 

なんて驚愕していると。

鳥居の内側。

今にも朽ち果てそうなただの四角形が、向こうが見えないのっぺりとした黒い壁のように変化していた。

 

鳥居の反対側に回り込んでみると、階段の方からは忍が立っている境内と、その奥にある本殿が見えた。

もう一度、鳥居のほうに戻ると階段は見えず、そこにあるのは暗闇。

マジックミラーのようだ。

 

「・・・異次元にでも繋がってんのかよ、これ」

「まあそうじゃが」

 

あっさりと肯定する忍。

これが過去に繋がってるという自信に溢れている。

 

「初めてやってみたが、うまくいくもんじゃのう。幼女になり、力をほとんど失ったとは言っても、さすが儂じゃわい」

「・・・異次元を生じさせる奴を、力を失ったって言わないんじゃないのか?」

 

核のエネルギーですら時空間を歪めることが出来ないのに、それをやってのけた忍の有する力とは果たしてどれだけの規模になるのだろうか。

 

「ちゅーか急いだほうがよいぞ。このゲート、もう一度はたぶん開けん。あと1分もすれば閉じてしまうぞい」

「ぞいって・・・」

 

言うや否や、早く行こうと俺の背中(身長差の都合で実際は腰)を押す忍。

 

「ちょっと待ってくれよ、まだ心の準備が出来てない」

「準備などいらん。普通に飛び込めばよい」

「そんな簡単でいいのか?」

「そう身構えることではないのじゃ。たかが時間移動じゃろうが」

「・・・・・・」

 

少し悩むが、かの有名な青いネコ型ロボットに縋る眼鏡の少年も、ドライブ感覚でタイムマシンに乗り込んでいたことを思い出し、俺は9割ほど納得する。

残り1割はこの穴が過去以外に通じている可能性からくる不安。

 

「おっけー、じゃあ行くか!」

「おう! しゅっぱーつ!」

 

案外ノリノリだ。

初めてやった、って言っていたから何だかんだで遠足前の子供のように内心わくわくしているのかもしれない。

過去なんて遠足で行くような所じゃないけど。

 

「あ、そうじゃ、お前様。その腕時計ちょっと貸せい」

「え? なんで時計を?」

「いいから」

 

そう言って手を差し出してくる。

さて、素直に渡していいのか少し悩む。

この腕時計は見た目は少しゴツいだけの時計だが、実態はガンダムサバーニャの待機形態。今の忍だと謎のドジっ子キャラを発動させて落としかねない。

仕方がない。

 

「それじゃ、巻いてやるよ」

「そ、そうか。良きにはからうぞ!」

 

俺は膝をついて忍の腕に時計を巻く。まるで貴族の娘が手の甲にキスをさせる姿勢のようで、映画のワンシーンみたいだ。そして忍は気分を良くしたのか満足げに笑っている。

・・・言えない。無くしそうだから落とさないようキツめに巻きつける意図があったなんて、あの顔の前で言えない。

 

そして忍はもう一度手を差し出し、俺の手をとる。

 

「では先に飛び込め。儂は時間の概念が薄いので、お前様のコーナリングに付き添っていくしかないのじゃ」

「あ、そうなんだ」

 

いいぜ、連れていってやるぜ、忍!

待ってろよ特売品!

 

俺は鳥居の内側、黒い壁に向かって大きく飛び込んだ。

 

 

 

004

 

 

「ーーーおい、お前様よ。起きろ。この程度のショックで気絶するな」

「・・・・・・」

 

身体を揺り動かされて目を覚ました。

“目を覚ました”、つまり寝ていたと言う事は・・・。

 

「・・・なんだ、夢だったのか」

「ちゃうわ」

 

蹴られた。

何の迷いもなく頭を蹴りやがったよ、この幼女。

 

「ったく、痛いな。それにしても知らない天じょ・・・」

 

眼前にあるのは天井ではなく青空が広がっていた。

・・・青空?

 

「あれ? いつの間に朝になったんだ?」

「この時間に来てからじゃ。ちなみに十時じゃぞ」

 

しっかりと巻かれた腕時計を見ながら忍は言う。

よし、落としてないな!

 

「やはり、時間移動には多少のズレが生じるようじゃのう。なかなか、ぴったりズレなく十二時間前とはいかんか」

「・・・・・・」

 

周囲を見回すと、山の中にひっくり返っていた。

神社の境内に居たはずなのに、どうして背中に階段の感覚が?

と言うより痛い。

 

「そりゃ、あの勢いで鳥居から外に飛び出せば、階段落ちに繋がるのは必至じゃろうが」

 

なるほど。

黒い壁に馬鹿正直に飛び込んだったから、階段飛びになったのか。

・・・自殺行為じゃねーかよ!

 

「儂もびっくりした。まさかあの角度の階段にアイキャンフライをかますとは・・・。言っておくが、儂も被害者じゃぞ。一緒にごろごろ転がり落ちてしまったんじゃからのう」

 

ほれ、と忍はワンピースのすそをまくった。

膝頭はかさぶたになった擦過傷があった。

 

「しかしこのくらいの傷、さらっと治せないのか? 力を失ってるとは言っても、お前、一応怪異なんだから」

「治そうと思えば治せるが、これを理由にお前様にたかろうかと思うてな」

「それ、言ったら意味ないだろ」

「あ・・・」

「謝って損した気分だ」

 

やることがセコいな。

そう思いながら自分の身体を見ると、俺もあっちこっち擦り剥いてした。前回の“食事”をしてからそれなりの時間が経つから吸血鬼性がほぼゼロだ。これはすぐには治らないな。

 

「で、本当に時間移動に成功したのか?」

「成功したに決まっておろうが」

 

忍は、俺の疑念に対して、不本意そうにこちらを睨む。

 

「儂は生まれてこの方、失敗したことがない」

「お前なあ、大言壮語(たいげんそうご)もはなはだしいぞ」

 

その自信はどこから来るんだ。

そもそも、幼女化して俺みたいな高校生の影に封じられてる今この時だけを切り取っても、伝説の吸血鬼として取り返しのつかない大失敗だろ。

 

「しかしな・・・、どうなんだ。本当に今朝なのか? 普通に階段から落ちて、十二時間気絶してただけじゃねーのか?」

 

改めて見ると、すごい段数を転げ落ちている。

死んでいてもおかしくないぞ。

 

「なあ忍」

「なんじゃ?」

「帰りも、あの鳥居から帰るのか?」

 

また気絶するような痛みを味わないといけないのかと、腰が引けてしまう。

 

「ん? うんうん。まあ、そんな感じじゃ」

「なんで返事が曖昧なんだ怖ぇよ!?」

「いやぁ・・・、そういえばあんまり帰りのことを考えてなかったのじゃがぁ・・・」

 

そういえば、タイムワープするゲートとやらをこじ開けるためには、忍自身の力ではなく、神社という吹き溜まり、場の力を利用したと言っていたが・・・、

 

「その力を消費してしまった以上、ひょっとし て、もうそのゲートとやらを開くことはでき ないんじゃないのか?」

「はっ! ・・・えーっと」

 

俺の懸念を鼻で笑う忍だが、その後が続かない。反射的に見栄を張るんだよ。

 

「おい、ちょっと待て忍。まさか、今朝の世界から元の世界へと帰れないなんて事態に陥ってんじゃないだろうな?」

「いやぁ、大丈夫じゃ大丈夫じゃ。我が主様、何 の心配もいらぬ。

ほれ、考えてもみい。ここは今朝の世界じゃぞ? 儂が神社に溜まる怪異の素を利用してタイムトンネルを開いたのは、つまり、今から見れば今夜ということになろう。じゃから現時点では、まだ、その霊的エネル ギーは使用されておらんということじゃから、ゲートは開ける」

 

タイムトンネルに霊的エネルギーとか、ますます胡散臭い。

 

「あれ? それってタイムパラドックス生じてねぇか?  今日、もし俺達がそのエネルギーを使ってしまえば、夜の俺達が朝に戻ってこられないじゃないか」

「・・・・・・」

 

あ、黙った。

とても不安になる沈黙が5分ほど過ぎると、彼女は自分の見解を述べた。

 

「えーっとなあ、そうじゃあ! 思い出したあ! そうそう! 未来へ戻るのは、過去に戻るよりも使うエネルギーが少ないのじゃ、流れに逆らわん分だけな。

じゃから、帰り道にあたっては、そこまでエネルギーを消費せず、儂達がここに来る分くらいのエネルギーは、残っておるということじゃ!」

「ふうん。結構厳しいけど、今はその説明でいいか」

 

たかが半日未来へ戻るためにタイムワープなんてしなくても最悪なんとかなるか。

今朝の俺が居なかった場所で時間を潰せばいいんだから。

 

「だいたい、このタイムワープってどういうタイプなんだ?」

「タイプ?  どういう意味じゃ?」

「ほら、漫画とかだとタイムワープって大きく分けて2種類あるじゃん? つまり、本人がいるタイプと本人がいないタイプ」

「なんじゃ? お前様の男性交友みたいなもんか?」

「いつだっているよ!」

 

確かに少ないけど男友達だっているよ!

いたりいなかったりしない!

 

「つまりだ!  俺が学園に帰れば、今朝の俺が居るのか。それとも、ここにいる俺が既に今朝の俺なのかって話だ」

「グー」

「寝るな!」

「ZZZ」

「より深く寝るな!」

「ふむ。よくわからんが」

 

男の癖に細かいんだよ、と文字通り目で訴える忍だけど全然細かくねえぞ? 作品によっては過去の自分と出逢うと消滅してしまうって展開もあるんだからな。

 

「そんなことはじかに見て確認すればよかろう。学園に帰って、自分の部屋を見て、そこに自分がいるかいないかでどちらのタイプなのかは判明するじゃろう」

「今朝、ってもう10時だから昼か。その頃なにしてたかな?」

 

今日の自分の行動を記憶から引き出そうとしてある事に気づいた。忍は今が10時だと言っていた。

だけど。

 

「でも忍、何でお前、今の時間がわかるんだ?」

「ん?」

「だって、お前の巻いているその時計は、未来から来たものなんだから、この時代の正しい時間を示しているわけじゃないだろ?」

「いやいや、さっきアジャストしたのじゃ。太陽の位置で時間を推測しての。時間がわからんと困るで、じゃからお前様にこの時計を外させ、借りたのじゃよ」

「ふうん」

 

しかしそれだと、その時計はアテにならない。

今知りたいのはタイムワープが成功した確証が得られる、俺達にとっての“現代”の現在時刻だ。

 

そうだ、携帯電話にも時計がある。という事を思い出した俺はポケットから携帯電話を取り出す。画面に表示されている時刻は日付が変わり、『AM00:15』となっている。

これが現代、今から見て未来時間ってわけだ。そしてこの青空で午前0時ってのはありえない。

 

だとすると、

 

「忍。お前、俺の携帯いじって壊した?」

「うわあああんっ!」

 

声をあげて大泣きした。

しかもマジ泣きだ。

 

「もういいわい! お前様なんかだいっ嫌い! 好きにすればっ!?」

「拗ね方が本当に子供だし」

 

駆け出そうとした忍だが、すぐにスッ転ぶ。

“食事”からしばらく経つので今の忍は俺の影から一歩も離れることが出来ないことを忘れていたようだ。まるで脚だけが縫い付けられたようにビタッと影の縁で止まり、そのまま母なる大地にヘッドバッド。

下が草むらで良かったな。

 

「急に走るとケガするぞ。ん?」

 

改めて画面を注視すると、隅に表示されるアンテナマークが消えてることに気づいた。

 

「あれ? ここって圏外だったか?」

 

以前訪れた際に圏外になったのは後に怪異現象だと判明したが、結局この山中で携帯電話が使えるのかは不明なままだ。

しかし登って来る際に見た時は1本か2本、アンテナマークがあった気がしてならない。ひょっとしたら見間違いや、“マークがあるのが当たり前”と思い込んでるだけかもしれないけど、もしマークがあったのなら、何故いまは圏外になっているんだ?

 

「圏外とはなんじゃ?」

「なんでビットを制御したり、タイムワープが出来る奴が圏外を知らないんだよ」

「儂は携帯を持たぬゆえ携帯用語はわからん。むしろ儂にも一台買って欲しいものじゃわい」

「買って欲しいって、そんな駄菓子感覚で買える物じゃないだろうが」

「買ぁって! 買って買って買って! みんな持っているのに儂だけ仲間外れなんて嫌じゃ!!」

「小学生か!!」

 

まさかの手足を振り回す駄々っ子交渉術。

伝説の吸血鬼が小学校低学年レベルのわがままにイラッとくるよりも情けなさと目眩がくる。確かに今は幼稚園児でも携帯電話を持っている時代だけど、俺の影に居る時点で携帯電話の必要性を感じないんだけど。

俺に話すなら口頭のほうが早いし、忍の交友は俺の交友の中にあるから彼女が電話する必要性がないと思う。

 

「儂は月額500円で使い放題の子供用すまーとふぉんがあることを知っておるぞ!」

「そのCMは俺も観た」

 

ってかスマートフォンの表記がひらがなになってないか? 大丈夫かよ。

 

「は~、分かった分かった。全部が丸く収まったら買ってやるよ。月500円だし」

「約束じゃぞ!? 鬼との約束を(たが)えると末代まで・・・いや、お前様じゃと今代で刺されて終わりそうじゃな」

 

なんだよそれ!?

俺には刺殺される兆しか心当たりがあるのか!? あるなら教えてくれよ! 

 

「まぁとりあえず、家に帰ってみるか」

「あ、じゃあじゃあじゃあ、肩車肩車ぁ!」

「どこまで幼女化するんだ、お前」

 

でも断る理由もないし、肩車をする。

そしてここが過去であると仮定して、当初の目的である特売セールに行くため山をくだる。のぼりと合わせて三回目ともなれば荒れた石段も慣れたものですぐに下山できた。

 

そして町への道を歩いていると、向こう側から道の真ん中を歩いてくる3人の女子中学生と出会った。

 

出会ったと言っても俺がナンパみたいに話しかけたわけではなく、

 

「やだ何可愛い!」

「お人形さんみたい!」

「髪の毛なんかふわっふわだあ!」

 

こんな感じで忍に興味を示した彼女達から関わってきた。恐れを知らないとはこの事か?

しかしちょうどいい。

 

「ねぇ君たち、ちょっと教えてほしいんだけど 今日って8月16日の月曜日だったよね?」

「ええっ? 全然違いますよー」

 

あっさりと答えてはくれたが、全然?

この青空と携帯電話の時計を鑑みれば時間移動自体は成功しているに、全然違う?

・・・そういえばIS学園同様に夏休み中である中学生と、なんで()()姿()で出会うんだ?

 

「じゃあ、今日って何月何日だい?」

 

俺は動揺を抑えつつ訊いた。

 

「何ですかお兄さん? まるで未来から来た人み たいなことを」

 

なかなか鋭いことを言いつつ、彼女は、

 

「5月14日ですよ」

 

と、答えた。

半日戻るはずが、月だけで三ヶ月もズレが生じていた事実と、未だに圏外のままの携帯電話。

嫌な予感が脳裏を走る。

 

「今、西暦で言えば・・・何年?」

「えっと、」

 

女子中学生は答えた。

今から、あるいは未来から、10年前の西暦を。

 





章名の『悟物語(さとりものがたり)』は一夏が何か“知る・理解”という意味で、『知』と『悟』を比べ、語呂のいいこちらをつけました。

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