ポケットモンスター陰/陽 〜ポケットモンスターが幻想入り〜 (Mr.Pooh)
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第一章 異変の始まり
プロローグ〜第一話 黄色いネズミ


初投稿となります。

色々言いたいことは後書きにして、本編どうぞ。





ポケットモンスター。

 

縮めてポケモン。

 

この世界の、不思議な、不思議な生き物。

 

海に。

 

森に。

 

町に。

 

その種類は、100、200、300・・・いや、それ以上かもしれない。

 

さて、ここはポケモンとは縁も所縁も無い場所、幻想郷。

 

ここは外の世界と離れ、外の世界──外界で幻想となったものが流れ着く世界。

 

そしてそこでは、外の世界と幻想郷を隔てる結界、「博麗大結界」を守る役割を担う神社である「博麗神社」の巫女、博麗 霊夢と、魔法の森に住む魔法使い、霧雨 魔理沙が、幻想郷では「異変」と呼ばれる、幻想郷の様々な問題事を解決していた。

 

赤い霧が幻想郷を覆う。

 

冬が長く続き終わらない。

 

偽物の月が夜空を照らす。

 

突如とした異常気象。

 

間欠泉と共に地上に流れる悪霊。

 

謎の飛行物体。

 

そんな幻想郷の異変に、ポケモンが迷い込んだとしたら・・・?

 

これは、そんな物語である。

 

 

 

視点:霊夢

 

異変がない日は楽でいい。

 

昼を過ぎた午後のひと時は特にそう思う。

 

春、いたる所で咲き誇っていた多くの桜が散り、大地が生命力溢れる夏へと姿を変える準備を始めた間の季節、初夏。外で過ごすのに一番ちょうどいい陽気だ。青く茂る木の葉が今年最後の春風でかすかに揺れ、太陽はリハビリをするように大地を照りつける。暑くなく寒くなく、本当にちょうどいい気候だ。

 

・・・今だけは。

 

「はぁ・・・。」

 

思わず溜息をついてしまった。これからうだるような暑さが続く夏が始まると思うと億劫でしょうがない。

おまけに夏には博麗神社で宴会が開かれるのだ。宴会だけならいいが、主催が博麗神社だからたまったもんじゃない。おまけに去年は手伝いが萃香だけだった。今年もそうなるのだろうか・・・。

 

ああ、怪奇現象でも、何だったら異変でも良い。何か、この憂鬱を忘れさせるものは・・・。

 

 

 

 

 

何か・・・。

 

 

 

 

 

不意に、神社横の草むらから一つの影が飛び出した。

それは今まで見たことのない動物だった。シルエットは大きなネズミのようだが、全身が黄色い毛で覆われている。耳は細長く上を向いており、てっぺんだけ茶色い。体や尾も一部茶色く、何だか不思議な風貌だ。

 

その動物は私の姿を認めると、こっちに駆け寄ってきた。近くで見ると綺麗な目をしている。

 

かわいいじゃないの。

 

その動物を抱き抱えて膝に乗てみる。

 

やっぱり可愛い。

 

勢いに任せて頭を撫でてみる 。

 

「ピカァ〜♪」

 

その動物は気持ち良さそうに鳴き声を上げた。鳴き声も今まで聞いたことがなかった。

 

何の動物かは分からないけど、かわいくて癒される・・・。それこそ夏のこととか全部忘れさせてくれそうだわ。もうずっと撫でて・・・。

 

「ここかあぁぁぁぁぁぁぁーっ!」

 

突然飛び出すもう一つの影。

魔理沙だ。

動物は魔理沙を見るや否や、びっくりしたように逃げ出した。

 

「待て待て待て待て待て待て待て待てぇぇぇー!」

 

追う魔理沙。逃げる動物。呆然とする私。

 

「・・・魔理沙!?一体どうしたのよ!?」

 

「あっ霊夢!そいつを捕まえてくれ!」ホウキに乗った身体を翻しながら、魔理沙は叫んだ。

 

「えっ!?ちょ、ちょっと!」

動物が魔理沙のおまけ付きでこっちに向かって来ている!

 

「霊夢、止めろ!」

 

「そんなこと出来ないわよ!うわっ、ぶつかる!」

 

「うわわわわわわわ!」

 

刹那、動物は私の膝と頭を踏み台に、神社の屋根の上まで登った。

 

「くそっ、あいつ!」

 

魔理沙は急旋回して上に登る。同時にガラガラと何かが崩れ落ちるような音が響き、神社の天井の瓦が落下した。

 

「ちょっと魔理沙!何してくれてんの!」天井に向かいながら、どこにいるかも分からない魔理沙に向かって叫ぶ。

 

「ちょっと、待って、くれいっ!」魔理沙は答えながらあの黄色いネズミを追いかけているようで、相変わらず瓦の剥がれる音が鳴っている。

 

「待てじゃないわよ!動物なんて追いかけて何してんのよ!」

 

「だからちょっと待ってくれ・・・あっ!」

 

魔理沙が叫ぶと、あの黄色いネズミが再び地面に降り立ち、神社とは逆方向に駆け出すのが見えた。

 

速い・・・!

 

魔理沙が捕まえるのに苦労している理由も分かる気がする。

 

「いいかげん大人しくするんだぜ!」

 

魔理沙はネズミが下で駆け出したのを見ると、神社の屋根の上から猛スピードで追いかける。

 

ネズミは素早い魔理沙を物ともせず、ちょこまかと動き回って逃げながら撹乱させているように見えた。

 

・・・もしかして、逃げることに慣れているのかしら?

 

そんなことを考えていると、いつの間にかそのネズミが駆け寄ってきて、私の膝の上を陣取った。

 

・・・ゑ?

 

慌てて正面を見ると・・・案の定、魔理沙が正面から突っ切って来る。

 

「うおあっ!霊夢!」「まっ魔理沙!ストップ!」「ダメだ!止まれない!」「ええっ!さっき止まってたじゃないのよ!」「スピード出すぎてるんだぜ!早く避けろ!」「神社はどうなるのよーっ!」

 

私は叫びながら神社横の地面にダイビングした。

 

私は助かった。

 

だが案の定、魔理沙はそのままのスピードで神社を突き破った。




いかがでしたでしょうか?

今作は基本一人称で進めて行こうと思います。

読書の皆様の感想が僕の助けになります。感想や評価、指摘等、どしどしお送り下さい。

それでは、この作品をどうぞご贔屓に。


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第二話 巫女の知らない異変

投稿二回目です。

では本編どうぞ。





視点:霊夢

 

「どうしてくれんのよ・・・。」

 

「・・・ごめん霊夢・・・。」

 

お判りだろうが、魔理沙が衝突した衝撃で神社は破壊された。縁側の奥にぽっかりと穴が開いている。縁側に座っているだけで後ろの穴から流れる風で少しだけ肌寒い。

いつの間にか、あのネズミも姿を消していた。

 

「・・・何であんなに必死になって追いかけてたのよ。」

 

「何か、私に合ってる気がしてさ。」

 

「合ってる?ペットにでもするつもりなの?私にはそうは見えなかったけど。」

 

「ペット・・・まぁ、確かにそうかもな。」

 

「・・・?」

 

「お前・・・もしかして今朝から起こってる異変知らないのか?朝から大騒ぎだったんだぜ?」

 

「異変?なんで私の所に解決依頼が来てないのよ?」

 

「そこなんだよな・・・。誰か里の人が霊夢に依頼しに行ってもおかしくないんだがなぁ。」

 

「魔理沙はどうやってこの一件を知ったの?」

 

「言っただろ人里で大騒ぎになってるって。その騒ぎを嗅ぎつけたんだぜ。」

 

「あなたらしいわね・・・。それで?また紫がなにかやらかしたわけ?」

 

「それがよぉ霊夢。冬眠する時期でもないのに今朝から全然姿を見せないんだってさ。よく顔出す白玉楼にも今日は行ってないっていう話だ。」

 

「そんなのよくあることじゃないの。・・・まぁ、異変が起こってるっていう話だからどうせ裏があるんでしょうけど。それより異変よ。その今朝から起こってる異変について聞かせて貰おうじゃない。」

 

「おぉ、それでこそ博麗の巫女だぜ!まず話は今朝まで遡るんだが・・・。」

 

 

 

 

 

まず話は今朝まで遡るんだが、ようやく空が明るみがかった頃、阿求がたまたま早くに目が覚めて人里を散歩していたそうなんだ。その道中、阿求はおぼつかない光の中で何か動いているのを見つけた。見た所妖精よりも小さかったらしく、阿求は竹林かどこかから動物が迷い込んできたと思った。近付いて見てみると、果たしてそれは四つ足の動物だった。でも何年も幻想郷を見てきた阿求でさえ、その動物には見覚えがなかったそうだ。しかもそいつは左前足に怪我を負っていて、何とか歩いている状態だった。見かねた阿求はすぐにそいつを連れて帰って手当てした。ラッキーなことに、そいつには幻想郷に普通にいる動物と同じ薬が効いたし、リンゴとかナシとかの果物を普通に食べたからあっという間に元気になった。ついでに家の文献でその動物についての情報がないか探したそうだが、全く見つからなかったらしい。空が明るくなってから、阿求は慧音の所へそいつを連れて行ったけど、半獣の慧音でもそいつの正体は分からなかった。ついにどうしようもなくなった阿求はそいつが外来の動物であると予想して、そいつが載っているような外来の図鑑が必要になった訳だ。そうして色んな場所を阿求が巡ってるうち、その外来動物の話が広まったんだ。

 

 

 

 

 

「・・・ふぅん。外来の動物、ね。もしかして、さっきの動物はそいつなの?」

 

「いや、格好も全然違う全く別の動物だぜ。でもあいつも外界出身なのは間違いないな。」

 

「・・・なるほど。こっちに来た外界の動物は、それらの動物だけじゃないことが容易に想像つくわね。」

 

「話が早くて助かるぜ。それで・・・あっ!?おい霊夢!横!お前の隣!」

 

「へっ?」

 

私の隣の縁側では、いつの間にかあの黄色いネズミが日光浴に興じていた。

 

「・・・さっきの動物じゃない。また来てくれt」

 

「ちぇりゃああああああああ!!」

 

魔理沙は私が言い終わる前に動き出していた。

 

「今度は逃さないぜ!絶対捕まえてやる!」

 

「まだやる気なのアンタ!?また神社壊したらどうしてくれんのよ!」

 

「こいつを捕まえるまで止めるわけにはいかないんだぜ!」

 

「異変については!?まだ全然分かんないんだけど!?」

 

「あぁそうだ霊夢!香霖堂へ行ってくれ!霖之助なら大体分かるはずだ!」

 

「えぇ!?なんでそこで香霖堂が出てくるのよ!?」

 

「行けば分かるハズだぜ!それじゃあな霊夢!健闘を祈る!」

 

「ちょっと!丸投げ!?魔理沙!魔理沙ってば!」

 

私の全力を振り絞った叫びは、既に彼方にある魔理沙の影と共に虚空に消えた。




魔理沙の語りはもう少し何とかならなかったのだろうか・・・。

霊夢達がポケモンを持つにはまだ少々時間が掛かりそうです。

では。


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第三話 幻想商人と外来道具

霖之助登場。

では本編どうぞ。





視点:霊夢

 

「ポケモン?」

 

私は魔理沙の言った通り渋々香霖堂へ向かった。香霖堂とは魔法の森の入り口に立つ道具屋。その店主、森近 霖之助さんに事のあらましを話し、何か知っていることはないかと尋ねると、霖之助さんは、唐突に「君は『ポケモン』って知ってる?」と尋ねてきた。

 

「・・・さぁ、聞いたことがないわ。もしかして、私たちや阿求が遭遇した動物のことかしら?」

 

「相変わらず勘が良いな。全くその通りだよ。」霖之助さんはカウンターの奥で何かを探り始めながら言った。

 

・・・今日は珍しく用があって来たのに、何でそっぽを向いてるのかしら。

 

「でも外来の動物がこっちに迷い込んで来ても、本当に異変ほどの騒ぎになるのかしら?まとまった数でもあんなに小さい動物だったらあまり影響が無いように思えるわ。」

 

「また痛い所を突かれたね・・・。」

 

・・・何か知っている?

 

「・・・まさかあんたが騒ぎを広めたんじゃないでしょうね?」

 

「いやー・・・。そう・・・かな?」

 

「・・・えっ、本当に?」思わず声に出した。

 

「・・・。」

 

「・・・霖之助さん・・・。」

 

「・・・分かった分かった・・・全部話そう。じゃあまず・・・これを見てくれ。」霖之助さんはさっきから探っていた場所から一つの道具を取り出した。

 

「何これ・・・ボール?」

 

上が赤、下が白で塗られ、その境界に親指爪位の太さの黒い線が引かれている。さらに黒い線上の一点にまた小さな黒い円がありその真ん中は白く少し出っ張っていた。その出っ張りの逆側の赤い部分には黒い小窓。

 

「『モンスターボール』というものらしい。これがね・・・」霖之助さんは一度言葉を切って続けた。

 

 

 

 

 

 

「『ポケモン』を捕まえる為の道具なんだ。」

 

 

 

 

 

 

「捕まえる・・・ふぅん。こんなものがねぇ・・・。」

 

「おや、案外驚かないんだね。人里の人達と同じようにもっと驚くかと思ったんだけど。」

 

「外界のことなんて分からないわよ。・・・もしかして魔理沙にも売った?」

 

「うん。喜んで取っていったよ。魔理沙も欲しいポケモンがいたみたいだしね。」

 

霖之助さんはそれに「ああ、これは一人五個までサービスしてるんだけどね。」と付け加えた。

 

「それがあのでっかいネズミね・・・。全く神社壊した罪は大きなんてもんじゃないのに・・・。」

 

「それは災難だったね。」

 

霖之助さんは至極どうでもいい感じに受け答えた。少しは私の心配もしろっての。

 

「この小窓は?いつだったか、こんなのが付いたもの怖がってなかったっけ?」

 

「その画面にはそのボールで捕まえたポケモンの能力が詳細に表示される。そのポケモンの名前からレベルや使える技まで分かるよ。」

 

レベル?技?

 

「えーっと・・・分からない単語が多過ぎて分からなくなったわ。最初からお願い出来るかしら?」

 

「・・・じゃ、レベルについてから。」

 

またいつもの講義になってしまった。

 

「ポケモンは、そのポケモンの経験の分だけ強くなる。外界ではそれが数値化され、最低を1、最高を100とした『レベル』でその経験・強さが計られることになってるんだ。レベルが上がることを『レベルアップ』と言う。単純に言うと、レベル20のポケモンはレベル10のポケモンより強い、とそんな感覚。更に、ポケモンが使う『技』も、基本そのレベルによって左右される。」

 

霖之助さんはさらに次の題に話を進めた。

 

「技とはポケモンが一匹につき最大4つ覚えられる、文字通り技だ。相手を攻撃したり、身を守ったり、ポケモンと同じく色々種類がある。ポケモンが技を覚える過程で代表的なのは経験、つまりレベルの上昇だ。基本、レベルが高くなるごとに強力な技を覚える。他にも技を覚えさせる方法はあるらしいが・・・とにかく、このボールで捕まえられたポケモンは、このボールの効用で様子が詳しく分かる、とそう言うことだ。」

 

「なるほど、よく分かったわ。・・・それであんたは一体何しでかしたって言うのよ。さっきの様子だとあんたも何か知ってるんでしょ?」

 

「あぁ・・・。」霖之助さんは何か思い詰めた様子で続ける。「僕はこのボールを人里に配って広めたんだ。」

 

「何だ、そんなこと?あなたはこの香霖堂で商いしてるんだからそれくらい当然じゃないの。魔理沙信じて損したわ。」

 

「いや・・・多分、人里に行ってもらえれば僕の言葉の意味が分かると思うんだけど・・・。」

 

そんなに騒ぎが大きいのかしら?

 

興味が湧いてきた。

 

「・・・分かったわ。行ってみる。このボール、いくらか持って行って構わないかしら?」

 

「五個までならいくらでも構わないよ。それと霊夢にはこれも。」霖之助再びカウンターの奥を探り、新たな道具を取り出した。赤い手帳大の機械だ。

 

「また何か新しいものを・・・何なのこれ?今度は完全に機械ね。」

 

「それは『ポケモン図鑑』って言って、出会った『ポケモン』を記録する機械だ。翳すだけで記録してくれるから、自由に使って。」

 

「これが図鑑?あっちの世界は何でもハイテクね。・・・でもこれ、どうやって使うの?」

 

「その図鑑は画面操作式だから、まず画面を触って一覧を表示させてみて。」

 

珍しく霖之助さんの指示は明確だ。使ったことがあることが伺える。

 

「画面を触れば良いの?・・・あ、付いた。」

 

「あ、でもそれにはまだ・・・。」

 

霖之助さんが何か言った気もするが、とりあえず図鑑らしく索引を開いてみる。

 

「・・・えっ!?何これ!?動物の情報一つ出てこないじゃない!これが図鑑なの!?」

 

「いや、そりゃまあまだポケモンを一匹も登録してないから・・・。」

 

「登録って、自分が図鑑を作れって意味!?はーっ、外界の人間が考えることは分からないわ・・・。」

 

「ま、まぁ、とにかく持って行ってよ。役に立たないことはないと思うし。」

 

私にはそうは思えないけど。

まぁ、貰えるものは貰っておくのが正解ね。

 

「・・・そこまで言うなら持って行くわね。じゃあ、私は人里に行くわ。」

 

「うん、じゃあね。」

 

私はモンスターボール五個を受け取って、店を出た。

 

 

 

 

 

「本当にこれで良かったのかな・・・。」




幾つかの重要道具を登場させました。図鑑が息してない。

ボールに小窓=画面を付けました。ここからポケモンのステータスを見られる・・・と言う設定で。これでもポケモンのステータスを見られような設定を考えた結果・・・。

では。


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第四話 図鑑の謎

霊夢、人里に到着。語りばかりで駄文になってしまった・・・。

では、本編どうぞ。





視点:霊夢

 

・・・なんなの、これ。

 

「今だ!でんこうせっか!」

「避けてどくばりを打って!」

「ねんりきでトドメだ!」

「みきりで避けろ!」

「つばさでうつ!」

「ひのこを出せ!」

 

人里では、ポケモンらしい動物を使って大量の人が勝負に興じていた。

 

「あっちこっちで・・・霖之助さんが言ってたのはこれだったのね。」

 

見た限りでは、モンスターボールはポケモンを捕まえるだけでなく、使役させる能力も持っているようだ。それを使って勝負することも、恐らく外界では当たり前なのだろう。確かに異変と言えなくもない流行りっぷりだけど、今のところめぼしい事件も起こっていないみたいだし、あまり止める意味もないように思える。

 

・・・止めさせるべきなのかしら。

 

「あ、霊夢さん。こんにちは。」

 

考え事をしている矢先、後ろからの自分を呼ぶ声で振り返った。

 

視線の先には、小さい身体に和服を身につけた少女。

 

「阿求!」

 

転生により、一人間として古くから幻想郷を見てきた人物、稗田 阿求その人だ。

 

これはラッキー。

初めに話を聞こうと思ってたから好都合だ。

 

「どうしたんですかそんなに慌てて?」

 

「異変と思しきものの調査に。ちょうどあなたにも話を聞きたかったところだったのよ。」

 

「その異変らしき出来事ってやっぱり、あれですか?」言いながら、阿求は近くでやっているポケモン勝負を指差した。

 

「そうそう。全く、今さっき来たから驚いたと言うより呆れたわ。どうしてこう影響されやすいのかしら。」

 

「ここの人達はずっと妖怪に脅かされながら生活してますからね。自分が使役できる動物がいるだけで心強いものですよ。その動物を使って勝負までできるとなればなおさらです。」

 

「なるほどね・・・。」

 

これも、ただの流行りに過ぎない訳ではないらしい。

 

「・・・あの・・・それで私には何の用で?」

 

「・・・あぁ、ごめんなさい。」霊夢は一つ咳払いをして続ける。

 

「あなたも一匹助けたんでしょ?異変解決の第一歩だと思って、その子を見せてくれないかしら?」

 

「ええ、もちろん良いですが・・・何でまた私が?」

 

「魔理沙から、あなたはかなり朝早くからその子を見つけたって聞いたのよ。もしかしたらあなたがポケモンを見つけた一人目かもしれないって思って。」

 

「そういうことですか。じゃあ・・・。」阿求は懐を少し探って一つの道具を取り出した。

 

モンスターボールだ。

 

しかし、阿求のものはあの黒いはずの小窓がカラフルに光っていた。

 

「出てきて、ヤマト!」

 

阿求は叫んでボールを放り投げた。

 

するとボールの赤い部分と白い部分が開かれ、中から光が現れる。それは地面に立つ四つ足の動物の形を作り出し、そのまま動物へと姿を変えた。

 

「テリッ!」

 

「ヤマト」と呼ばれたそのポケモンは、全身が黄土色の逆立った毛に覆われていた。

 

「この子ね。・・・当たり前だけど、私も見たことがないわね。ヤマトっていうのはあなたが付けた名前?」

 

「ええ。かなり直感的に付けちゃいましたが。モンスターボールのおかげで名前は分かりましたが、やっぱり図鑑が無いと辛いですね・・・。」

 

「図鑑・・・あ。」

 

思い出してしまった。

 

「霊夢さん?何か気付きました?」

 

「いや、そうじゃないんだけど・・・霖之助さんからこれ貰ったのを忘れてたわ。・・・それとも、忘れていた方が良かったのかしらね・・・。」懐からあの機械を取り出しながら言った。

例の「図鑑」だ。

 

「・・・何の機械ですか?外来のもののように見えますが。」阿求は首を傾げる。

 

「まだ私も使ったことないんだけど、『ポケモン図鑑』っていう機械らしいわ。」

 

「図鑑!霊夢さん。その中にこの子の情報はありますか?」

 

「それがね、これ見てよ。」索引を開き、何もポケモンが登録されていない画面を見せつけた。

 

「・・・図鑑なのに、何も書かれていないんですか?」

 

「そうなのよ。霖之助さんによると、自分で登録して図鑑を作っていくらしいわ。」

 

「へぇー・・・。それはそれで便利そうじゃないですか。自分で図鑑を作るなんて面白そうです。」

 

「私には合いそうにないわ。こう見えてあんまり暇じゃないのよね。特に今みたいな異変のときには。」

 

「あっ、じゃあそれ私に譲って頂けませんか?大丈夫です。有効活用しますから!」

 

「嫌よ。タダで貰ったものは簡単に渡せないわ!」

 

「や、やっぱりですか・・・。」

 

阿求は苦笑しながらも、妙に納得した表情だった。

 

・・・何か腹立つわね。

 

「・・・まぁ、こう言ってしまった以上は使うしかないわね。確か・・・ポケモンに翳すんだったかしら?」

 

渋々、図鑑をキョトンとした顔をしているヤマトに翳すと、画面には一瞬でヤマトと同じポケモンの写真とそのポケモンについての情報が映された。

 

No.506 ヨーテリー こいぬポケモン

ノーマルタイプ

高さ0.4m 重さ4.1kg

強敵にも恐れない勇敢な性格で、立ちはだかる者には本気でぶつかるが、普段はレーダーの役割をする鼻で天敵を避けつつ餌を探す。トレーナーに忠実に行動するとも言われる。

 

「・・・へぇ。感心したわ。そこそこ詳しい情報が分かるのね。」

 

「大きさに体重まで・・・。かなり高い分析の能力があるみたいですね。・・・でもこの番号は何でしょうね?」阿求はポケモンの名前の横に書かれた番号を見て言った。

 

「さぁね。それぞれのポケモンに番号でも付けてるんじゃないかしら?」

 

「でもそれじゃあ、世界に何種類のポケモンがいるか、この図鑑は知っていることになります。最初この図鑑に何も記録されてないなら、この番号は形式上1番が妥当のはずです。」

 

阿求は疑問に感じた場所を羅列していく。

 

「だいたい、ポケモンに翳しただけで名前が付けられるのもおかしな話です。動物の名前は本来昔からその名前が伝承されているか、それらを専門にしている方達が話し合うかで普遍的に付けられるものです。もし個々のポケモン図鑑が自動的に名前が付けるとしたら、名前を付けるにあたって重要な普遍性がゼロになると言っていいでしょう。」

 

何だか小難しい話だ。

 

「えーと・・・つまりあなたは、この図鑑には元々全てのポケモンの情報が記録されていて、あえて隠してるっていうの?だったらなおさら私には合わないわね。」

 

「断言はできませんが、その可能性は高いでしょうね。」阿求は考え事をしているような仕草で続ける。「しかしそれなら、わざわざ図鑑を白紙にする目的がハッキリしません。この図鑑を商品と考えると、図鑑を販売する際は図鑑の情報が限界まで入っている方が売る側からも買う側からも得をするはずです。逆に最初白紙だとお互いにメリットがありません。何かウラがある気がしますね・・・。」

 

「裏、ね・・・。」

 

わざわざ登録されている情報を隠し、ひと工程加えないと情報が表示されない。

 

確かに何かありそうだけど、私の勘はあまり関係ないことと言ってるわね・・・。

 

 

 

 

 

 

「おい、そこのちっこい女の子!」

 

 

 

 

 

 

不意に後ろから声が飛んでくる。

 

「・・・へっ?私ですか?」自分のことだと気が付いた阿求は振り返る。釣られて霊夢も振り返った。

 

「そうだ。その子、お前のポケモンだろ!」見た所9歳か10歳辺りの少年は元気よく言い放った。

 

 

 

 

 

 

「俺とポケモン勝負しろよ!」




いよいよ、次回初バトル。

では。


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第五話 携帯獣決闘(ポケモンバトル)

阿求vs人里の少年。

最初のバトルからモブって・・・(自虐)

では、本編どうぞ。





視点:霊夢

 

ポケモン勝負。

 

本格的に見なければいけないとは思っていたが、自然な流れで観戦できそうだ。

 

「私、今一匹しか手持ちがいませんが・・・よろしいでしょうか?」

 

「うーん、ちょっと不公平かな・・・。じゃあ、僕も手持ちの中の一匹だけで勝負するよ!」

 

「分かりました。正々堂々、勝負しましょう!」

 

これがポケモン勝負が始まる風景なのね。でも、何が妙に小慣れているような・・・。

 

私は阿求に耳打ちする。「・・・ねぇ阿求。ポケモン勝負初めてじゃないの?」

 

「いえ、勝負も三回程経験があります。そうだ!霊夢さん、審判をして頂けないですか?」

 

「審判・・・ゑ!?私、審判どころかポケモン勝負すらしたことないんだけど!?」

 

「簡単ですよ。戦闘不能になったポケモンを宣言して勝ち負けを判断するだけです。あと、あまりないとは思いますがお互い卑怯な手を使わないように見ていて下さい。」

 

戦闘不能って・・・。

 

でも、あまり普段から阿求に振り回されてはいないし、今回位良いか・・・。

 

「分かったわよ・・・。じゃあ、二人とも準備して。」

 

阿求とその少年は私が審判を応じたのを気にする様子も無く、距離を取って向かい合った。

 

「じゃあ、ヤマト。お願いね。」

 

「リッ!」

 

ヤマトは阿求に声をかけられた後、勢いよく前に駆け出した。

 

「行けっ!チュンチュン!」

 

一方で少年はモンスターボールを空に投げた。

 

「キャアーッ!」

 

ボールから出てきたのは、小型の鳥のようなポケモンだった。

 

念のため、とそのポケモンにも図鑑を翳す。

 

No.021 オニスズメ ことりポケモン

ノーマル・ひこうタイプ

高さ0.3m 重さ2.0kg

群れを作って空を飛び、集団で生活する小型のとりポケモン。どこにでも巣を作り生き延びることができ、生命力は非常に高い。

 

さっきと同じように付けられた名前と通し番号。嫌でもさっき阿求がした話が思い出される。・・・いや、そんな嫌なもんでもないんだけど。

 

「霊夢さん、開始宣言を!」

 

「あぁ、ごめんなさい。」

 

図鑑を閉じ、正面に向き返る。

 

向かい合った二人と二匹。その瞳は全員、真剣だ。

 

私は叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「それでは、ヤマト対チュンチュン、戦闘開始!」

 

 

 

 

 

 

「チュンチュン、つつく!」

 

「クワワーッ!」

 

宣言が出された瞬間、少年は大声でポケモンに指示を出した。ポケモン一瞬で指示を行動に移し、ヤマトに向かってチュンチュンが急降下する。

 

「避けて!」

 

ヤマトは阿求の指示通り紙一重でクチバシを避ける。

 

「何の!チュンチュン、もう一周だ!」

 

チュンチュンは空中で折り返してまたも地面に向かって突進した。

 

ヤマトは再び避けようとしたが、チュンチュンの身体の一部がかすり、体勢が崩れる。少年はそのスキを見逃さなかった。

 

「今だ!つばさでうつ!」

 

チュンチュンは素早く身体を翻し、翼をヤマトに振りおろした。

 

「テリーッ!」

 

「ヤマト!」

 

ヤマトは弾き飛ばされたが、空中で体勢を立て直し、前足からスタッと着地した。

 

「いいぞチュンチュン!もう一回だ!」

 

「クエッ!」

 

チュンチュンは素早く第二の攻撃を放った。

 

「ヤマト、横に避けて!」

 

「テリッ!」

 

またもチュンチュンの攻撃は当たらない。しかも、ヤマトの動きは先程より機敏になっている。

 

「そのままたいあたり!」

 

ヤマトはチュンチュンを身体で突き飛ばした。

 

「チュンチュン!」

 

チュンチュンも怯まず、空中で体勢を立て直す。

 

「いい感じですよ、ヤマト!」

 

「負けるなチュンチュン!今度はかぜおこし!」

 

「クゥアーッ!」雄叫びと共に、チュンチュンは強く翼を羽ばたかせて強い風を起こす。

 

「テリ・・・ッ!」ヤマトは風に逆らい前に進もうとするが、立っているのが精一杯だった。

 

今のところ、どっちが勝ってもおかしくないイーブン状態。

 

・・・ここから、どう動いてくるかしら?

 

「今だ!もう一回、つつく!」

 

「クワッ!」

 

突然に少年の指示が飛んだ。同時に風が止んだかと思うと、チュンチュンは風で怯んでいたヤマトに向かって再びの突進を仕掛ける。

 

「危ない!ヤマト!」

 

叫びも空しく、チュンチュンのクチバシがヤマトを貫いた。

 

「よし、そのまま、みだれづき!」

 

チュンチュンのクチバシに捉えられてしまったヤマトは次々飛んでくる突きを防ぎ切れず、ダメージを重ねていく。

 

「! ヤマト、こらえる!」

 

堪える!?

そんな指示の仕方があるの!?

 

「マズイ!チュンチュン、離れろ!」

 

距離を取ろうとしてる・・・一体何を?

 

 

 

 

 

 

「今です!きしかいせい!」

 

 

 

 

 

 

「グッ・・・ヨォーッ!!」

 

チュンチュンが距離を取ろうとした瞬間、ヤマトは我慢の限界とでも言いたげにチュンチュンに突進した。

 

「クァーッ!」

 

「チュンチューン!」

 

突進はものの見事にチュンチュンに命中した。チュンチュンはそのまま地面に落とされ、倒れた。起き上がる様子もない。

 

 

 

 

 

 

「け、決着!チュンチュン、戦闘不能!勝者、ヤマト!」

 

 

 

 

 

 

「テリーッ!」

 

「やったーっ!やりましたね!ヤマト!」阿求は駆け寄ってきたヤマトを抱き抱え、ぴょんぴょん跳んで勝利を喜んだ。

 

「クェーッ・・・。」

 

「ってて・・・。大丈夫かぁ〜。チュンチュ〜ン。」少年は満身創痍のチュンチュンを抱えながら阿求の方に走って行くと、「負けちゃたけど、楽しかったよ!またやろうな!」と言って右手を突き出す。

 

「ええ、望むところです!」阿求は右手で少年が突き出した手を握った。

 

笑顔の二人と、固い握手。

 

これが、ポケモン勝負。

 

 

 

 

 

 

「・・・ポケモン、か・・・。」




驚いた方も多いと思いますが、この幻想入りしたポケモン達の技は結構凶悪なものが多いです。理由は・・・伏線、と言うことで。

伏線って自分で言っちまったよ・・・。

では。


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第六話 追いかけっこの果て

初の魔理沙視点。

では、本編どうぞ。





視点:魔理沙

 

「くそー・・・。見失っちまった・・・。」

 

いつの間にか、周りは森の風景。

 

あの電気ネズミ、ピカチュウを追いかけているうち、こんなところまで辿りついてしまった。

 

「森に逃れるなんて頭いいことしやがる・・・。」

 

四方どこを見ても木。

 

黄色い身体は目立つが、木々に阻まれていては意味がない。しかも、あちらこちらから動物の鳴き声が聞こえるのに、目的の動物の鳴き声は全く聞こえない。

 

・・・どうしたもんだろうか。

 

 

 

 

 

 

「おや、魔理沙じゃないか。調子はどうだい?」

 

 

 

 

 

 

「うわっ!・・・なーんだ、お前か・・・。」

 

後ろからの声の主は霖之助だ。

 

「なんだとは失礼じゃないのかい?」

 

「なんでわざわざ後ろから話しかけるんだ?暗殺者だって後ろには疎いんだぜ。暗殺者の後ろに立ったおかげで怪我を負った人の話とか聞いたことないのか?」

 

「流れだよ。流れ。」

 

「何だよ流れって。」

 

「それで?何をしてるんだい?」

 

「いやー、探してるポケモンが森に逃げちまって・・・あ、そうだ、霖之助。霊夢には会ったか?」

 

「うん、会ったよ。あっちからわざわざ来てくれて。・・・そういえば魔理沙がどうのって言ってたっけ。」

 

「あー・・・。やっぱ怒ってるか?勝手に喋っちゃって。」

 

霖之助は一瞬びくっとする。

 

「えっ?・・・なんでだい?確かにサービスでお金はもらわなかったけど、在庫は大量にあるし、宣伝効果もあるから逆に売れるよ。怒る要素は何もない。」

 

霖之助は早口でまくし立てた。言葉とは裏腹に、霖之助の声は若干震えているように聞こえる。

 

「なーんか怪しいな・・・。本当か?」

 

「今の言葉に嘘はないよ。何なら覚り妖怪でも呼んでくればいい。」

 

極端過ぎやしないか。

 

「分かった、分かったよ。落ち着いて。」魔理沙は少し焦っている霖之助を落ち着かせる。

 

「そういえば。」霖之助は話題を変えるように新しい話題を切り出した。「図鑑の調子はどうだい?ちゃんと動いてる?」

 

「ああ。ちゃんと登録されるぜ。まだ数は全然無いけどな。」言いながら図鑑を開いてみせる。

 

「良かった。・・・ん?何がピカチュウの項目だけ閲覧数がすごいね。そんなに執着してるんだ・・・。」

 

「その通りだぜ。あのポケモンを捕まえないと腹の虫が収まらねぇ。」

 

「・・・あれ、でももうポケモンが入ってるボールを持ってるみたいだけど?」

 

「ん?あぁ、こいつか。見たいか?」

 

「うん。ぜひ見せてくれ。」

 

「じゃあ・・・。」私はホウキに引っ掛けていた一つのモンスターボールをもぎ取って投げた。「行けっ、キノスケ!」

 

「キノ!」

 

ボールから出てきたのは、まだら模様の半球に顔が付いているような風貌をしたポケモンだ。

 

No.285 キノココ きのこポケモン

くさタイプ

高さ0.4m 重さ4.5kg

倒木や人間が森に捨てた新聞紙などの近くで群生する。胞子に催眠作用があるため、不用意に近付くと眠らされてしまう。

 

「キノココ・・・。なるほど。君らしいね。」

 

「あっ、私の図鑑!ったく、もう私のなんだから、勝手に使うなよ。」

 

「ははっ、ごめん。実は僕もう持ってないんだよ。ポケモン図鑑。使う機会なかったから真っ白だったけど。」

 

「えっ、そうなのか?確かお前、二つ持ってたような・・・。」

 

「うん。そうなんだけど、もう一つは霊夢にプレゼントしたよ。」

 

「 へっ?」魔理沙は素っ頓狂な声をあげた。「霊夢って、霊夢だよな?」

 

「うん。」

 

「あいつ、見た限りほとんどポケモンに興味無さそうだったのに。あくまで異変として捉えてた感じだったぜ。そんなに欲しがったのか?」

 

「・・・うん。」一瞬、言葉を詰まらせた。「異変の解決に必要だ、とか言ってたかな?」

 

「どうせ守銭奴の言い訳だろ。・・・ま、霊夢は霊夢でやってりゃいいか。それよりピカチュウだ。あいつを探さなきゃ!よしキノスケ、行くぞ・・・ゑ!?」

 

 

 

 

 

 

「ピカピカッ♪」

「キノキノ!」

 

 

 

 

 

 

ピカチュウが、足元のキノスケと戯れている。

 

「「・・・。」」

 

・・・どうすればいいのだ。

 

何か霖之助まで黙っちゃってるし。

 

あっ、そうだ。

 

「・・・おーい。キノスケ。聞こえるかー。」声を潜めキノスケに話しかける。

 

「キノッ?」

 

「・・・胞子、きのこのほうしだ。ピカチュウにきのこのほうしをかけるんだ。」

 

 

 

 

 

 

「!? ピカッ!」

 

 

 

 

 

 

「あっ!まずい!」

 

私がホウキと図鑑をひったくるのとほぼ同時に、ピカチュウが駆け出した。

 

「やべっ!キノスケ!乗れ!かっとばすぞ!」

 

「ノッコ!」

 

「じゃあな霖之助!また会えたら!」

 

待ってろピカチュウ、絶対捕まえてやる!

 

キノスケがホウキにしがみついたのを確認して、ホウキを発進させた。

 

もちろん、最大スピードで。

 

霖之助?知るかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

私は全速力で森を突き進んだ。しかしそのスピードでも、ピカチュウには簡単に追いつけるものではない。

 

あのネズミの素早さはハンパじゃない。それを十分承知の上で、私はこうして速さで勝負している。これは私にとっての一種のプライドだ。

 

「絶対に、絶対に追いつく!」

 

スピードをさらに上げて、ピカチュウに迫る。

 

視線の先にあるのはピカチュウ、ただ一匹。もはや木なんて無いも同然のように思えてきた。

 

既にピカチュウは私の目と鼻の先で走っている。ボールの射程圏内だ。

 

だけど私はここでボールを投げるようなアホじゃない。

 

「今だ!何でも良いからピカチュウに何かしろキノスケ!」

 

走りながら、必死に(足だけで)ホウキしがみついているキノスケに指示した。

 

「キノッ!?」

 

キノスケは変な声を上げて答えた。

 

「早く!ピカチュウ逃げちまうぜ!」

 

「キッ・・・キノォッ!」

 

一瞬躊躇ったものの、キノスケはピカチュウに向かって体当たりした。ホウキのスピードによるとんでもない勢いでピカチュウに向かって飛んでいく。

 

「ピカァッ!」

 

間一髪、ピカチュウは少し横に移動してキノスケの体当たりを避けた。

 

刹那、スピードがほんの少し遅くなる。

 

「かかったな!いっくぜえぇぇぇぇぇー!」

 

このタイミングしかない!

私はピカチュウに向かって突っ込んだ。

 

「ピカッ!?」

 

流石に予想外だったのか、ピカチュウのスピードが一瞬鈍る。

 

「いけえええええええええええ!」

 

そしてそのまま、至近距離でピカチュウにボールを叩きつけた。

 

モンスターボールが開き、ボールからの光がピカチュウを包み込んでボールの中に押し込まれる。

 

閉じたボールがカタカタと動く。

 

動く。

 

止まらず動く。

 

何者の音もしていないように感じられるほど、緊張した空間がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

どれほどの時が過ぎたか分からなくなってきたとき。

 

ボールからカチッと音がした。

 

そのままボールは動かなくなった。

 

ピカチュウがボールを突き破って出てくる様子もない。

 

「・・・やった・・・のか?」

 

おそるおそるボールを手に取ってみる。

 

微塵の震えも感じなかった。

 

しかしそこには、エネルギーが満ち溢れているように感じられた。

 

ボールを投げる。

 

ボールの中の光は、やがて大きな形になり、一匹のポケモンとなった。

 

 

 

 

 

 

「ピカチュウ!」




幻想郷の方々はポケモンにニックネーム付けるのが伝統になりそう。

魔理沙がピカチュウの前にキノココを捕まえたのは捕獲が楽になりそうだからと言う単純な理由ですが、ピカチュウと一緒にキノスケも活躍させる予定なのでお楽しみに。

では。


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第七話 竹林の元気狐

再び霊夢視点。

今回かなり駄文かと・・・。

では本編どうぞ。





視点:霊夢

 

右を見ると竹。

 

左を見ると妹紅の奥にやっぱり竹。

 

見渡す限りの竹。清々しい量の竹。

 

霊夢はうんざりしていた。竹林なんてこんなもんなのに、捜し物の途中だと気が滅入ってしまう。

 

「・・・おい霊夢。」

 

突然、妹紅が私に話しかけた。

 

妹紅は本名を藤原 妹紅と言い、この迷いの竹林で案内役を務める蓬莱人──老いることも死ぬこともない人間だ。実際私は飛べるから案内は必要ないと言えば必要ないのだが・・・今回は多少訳が違った。

 

「・・・何よ。」

 

「・・・飽きないのか?」

 

「・・・そんな訳ないじゃない。」

 

「・・・お前にしてはかなり執念深いんじゃないか?」

 

「・・・不覚よ。こんなに熱くなっちゃうなんて。」

 

「・・・そうだな。」

 

迷いの竹林を探し始めてそれなりの時間が経っていた。お互い、既に口数が少ない。空も若干赤みがかっている。

 

でも、全ては自分もポケモンを持つため。絶対に見つけてやる。

 

 

 

 

 

 

待ってなさい。フォッコ。

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分前、阿求のポケモン勝負の後の話だ。

 

「・・・ポケモン・・・か。」

私は二人の勝負に魅了され、ポケモン勝負に憧れを感じ始めていた。

 

「霊夢さん!いまの勝負どうでしたか?きしかいせい、綺麗に決まってました?」

 

少年と固い握手を交わし、再戦を約束した阿求は嬉しそうに私に駆け寄った。

 

「なかなかだったわね。ちゃんとポケモン勝負を見たのは初めてだったけど、面白そうじゃない。」

 

「じゃあ霊夢さんも始めましょうよ!」

 

「・・・どうしようかしらね。」

 

「?」

 

私にも考える所はあった。

 

ポケモンの異変を調べる身の自分が、ポケモンを持っていいのか。

 

もしこの世界からポケモンを消し去るようなことになったとき、厄介事にならないのか。

 

もしそうなってしまったら、私もこの異変の加担者だ。

 

しかし、目には目を、という言葉がある通りに、この先ポケモンを持っておいた方が動きやすいのだろう。

 

思わず顔を伏せて考え込んでしまった。

 

・・・気が付くと阿求が私の顔を覗き込んでいた。

おまけに何か目が潤んでる。

 

見た目はかわいいが、私には分かる。これは見た者を従わせる恐ろしい力を持った目だ。

 

だけど、湿っぽいこと考えてる時には癒される顔であることも、また事実な訳で・・・。

 

「・・・ねぇ阿求。里の人達はどうやってポケモンを手に入れているのかしら。」と含みを持たせて阿求に尋ねてみる。

 

「えっ?ええと・・・皆さん様々ですが、外に出てボールで捕まえるが主流でしょうか。」阿求は自分から誘惑した癖して、質問に困惑したように答えた。

 

「外にはどんなポケモンが?」

 

「それなら、慧音さんの所へ行けば分かるかと。寺子屋にポケモンの情報を集めてるんです。」

 

「ありがとう阿求。じゃあ、行ってくるわ。」

 

阿求は一瞬固まった後、ぱあっと顔を明るくして頷いた。

 

「私と戦える日を待ってなさい。」私はそれだけ言って、寺子屋へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

阿求の言葉通り、寺子屋では里の外で目撃されたポケモンについての張り紙やら写真やらで埋め尽くされていた。いつもとはかけ離れた光景だ。

 

「霧の湖では鯉や金魚によく似たポケモンが発生している」「妖怪の山の麓で岩のような姿のポケモンを発見」「普通の釣竿を使ってもポケモンを釣ることは可能な模様」「温泉近くで火を吹くポケモンを発見」「ヒマワリに擬態するポケモンが存在するらしい」「森の中で数種類の虫ポケモンを確認」・・・中にはポケモン捕獲のアドバイスも混ざっているようだった。

 

「おや、霊夢じゃないか。こんな時期に珍しいな。」奥から寺子屋の教師の慧音が顔を出した。どうやら今は授業時間外らしい。

 

上白沢 慧音はこの寺子屋の教師にして歴史喰いのワーハクタク・・・と言っても、むやみに歴史を喰ったりしないし、半獣だから満月の夜以外に獣のような姿を見せない。無論、今は人間体だ。

 

「霊夢もポケモンを捕まえに行くのか。」

 

「ええ。何かと便利そうだし。もしかしたら、異変解決の手がかりになるかもしれないわ。」

 

私は曖昧に答えておいた。色々と考えたことはあったが、あまり真意を伝えたくはない。

 

「異変・・・しかし、この異変を解決するとなると、どうすることなんだ?」

 

「・・・今はまだ分からないわ。幻想郷からポケモンを消滅させることなのか、ポケモンを幻想郷に定着させることなのか・・・。全てはポケモンがどんな目的でこっちに来たかが分かるまでね。」

 

「目的があるのか?あまり私には、ポケモン全体の意志がまとまっているようには見えんがな。」

 

「例え全体の統一した意志はなくとも、こっちにポケモンを連れてきた張本人には目的があるはずよ。そいつから聞けばいい話。」

 

「ふむ、張本人か。・・・しかしまぁ、幻想郷でこんなことする奴って言ったら・・・。」

 

「まぁ、そうなるわよね。」言わずとも、二人の頭には同じ顔があった。「今朝から紫が行方知らずらしいわ。そこからしてかなり怪しいけど。」

 

「確定的だな。しかし証拠がないんじゃなぁ・・・。」

 

「証拠なんていらないわ。ただ見つけて問い出せばいいのよ。まさかまさかのハズレでも、普段の行いが悪かったからで済ませられるもの。」

 

「そ・・・そうか・・・。なんと言うか・・・躊躇がないな。」

 

「当たり前よ。今まで何回あいつに困らされたか・・・。今度の今度はスキマに入れなくなる位に・・・ん?」

 

一組の張り紙と写真が目に留まった。

 

竹林の奥で小狐のようなポケモンを発見 写真:射命丸 文

 

隣の写真は新聞と同じように白黒だったが、十分にポケモンの姿を確認できた。

だからかは分からないが、図鑑も反応している。

 

No.653 フォッコ キツネポケモン

ほのおタイプ

高さ0.4m 重さ9.4kg

体内に発火する能力が備わっており、起こった炎は耳から吹き出す。小枝をおやつとして咥えて持ち歩く習性をもつ。

 

「気になるポケモンでも居たか?・・・ああ、こいつか。」

 

「竹林の奥って・・・。あの天狗、わざわざ探したとしか思えないわね。」

 

「そうなんだ。彼女、自分でポケモンを探してるそうなんだよ。捕まえるでもなく情報提供してくれるから助かってると言ったら助かってるがな。」

 

「どうせ新聞の宣伝でもしたいんでしょ・・・ほら。」指差した張り紙の下には「幻想郷全情報掌握 文々。新聞」と書かれている。

 

「せこい手使うでしょ。本当に掌握できてたらこの新聞の営業に出てあげてもいいんだけど。」

 

「確か文々。新聞って人里に貼ってある新聞だよな?こんな所でも宣伝しなきゃいけない位落ち込んでるのか?」

 

「記者の性格の問題ね。文は一起きたことを百くらいにして書く天才なのよ。」

 

「・・・話を戻そう。こいつは多分、お前みたいな度胸のあるやつじゃないと捕まえるのは無理だろうな。」

 

話を戻された。

まぁ、反応には困るわよね。

 

「そんなに手強いの?小さい癖にやるじゃないの。」

 

「いや・・・むしろ小さいからこそだ。空からじゃこいつの姿は見えずらい。」

 

「地上から攻めろってことね。」

 

相手にとって不足は無さそうだ。

 

「決めた、私の最初のポケモンはこいつよ。」

 

「よほど気に入ったらしいな。じゃあ、早めに頼まなければ・・・。」

 

「頼む?どういうことかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「こういうことだったのね・・・。」

 

寺子屋の一件の後、私は迷いの竹林の前で、妹紅と一緒に立っていた。言うまでもなく、妹紅は迷いの竹林の案内役として頼まれているのに違いなかった。しかし今回は普通の道案内とは訳が違う、捜し物だ。

 

「誰かと思ったら霊夢か。知り合いで助かったよ。」

 

「・・・そりゃあ、道案内ならともかく、度胸ない人が妹紅なんかと捜し物なんてなったらポケモン捜す所じゃなくなるわよねぇ・・・。竹林って時点で察するべきだったかしら。」

 

「・・・私じゃ悪いか?よく考えたらお前、迷っても空飛んで帰れるじゃないか。」

 

「いや、せっかく来てもらったんだし、一緒に来てもらうわよ。私の記念すべき一匹目を捕獲する所を見てなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今に至る。

 

周りを見ても竹ばかりで、目的のポケモンは一向に見つかりそうにない。

 

「「・・・。」 」

 

互いに無言のまま、時間は過ぎていく。

 

「・・・そういえばアンタ、ポケモンはもう持ってるの?」ふと気になって、質問してみる。

 

「・・・ああ。一匹だけだが。」懐からボールを出しながら言うと、妹紅はそのボールをそのまま放り投げた。

 

「ヤヤッ!」ボールから出てきたのは、赤と黒の毛を持った鳥ポケモンだった。

 

「コトリだ。まぁ、知っといてくれ。」

 

No.661 ヤヤコマ コマドリポケモン

ノーマル・ひこうタイプ

高さ0.3m 重さ1.7kg

小さい身体ですばしっこく動く。鳴き声が美しいことでも知られ、愛用するトレーナーは多い。

 

「ヤヤッ!ヤヤヤッ!」

 

「・・・美しいのかしら。この鳴き声。」

 

「・・・そんなこと感じた覚えはないな。」

 

「ヤヤヤッ!ヤヤーッ!」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「ヤヤヤッ!ヤヤヤッ!ヤーヤーッ!」

 

「あーもー!うるさいわね!さっさとしまってちょうだい!」

 

「ああ。うるさくてたまらん。特にこのイライラしてる時にはなぁ・・・。」妹紅がコトリにボールを向けようとした、その時だった。

 

 

 

 

 

 

「コー!」

 

 

 

 

 

 

聞いたことのないポケモンの鳴き声が響いた。

 

「・・・おい霊夢。今の聞こえた・・・よな?」

 

「ええ・・・近くにいるわね。」

 

コトリも驚いたのか鳴きながら飛び回るのを止め、妹紅の肩に停まっている。

 

鳴き声はだんだん自分の方に近付く。

 

一匹のポケモンの鳴き声だけが響く竹林の中、私たちは神経を尖らせて周りを見渡し、ポケモンが現れるのを待つ。

 

・・・どこから来る?

 

 

 

 

 

 

・・・カサッ。

 

 

 

 

 

 

「フォッコーッ!」

 

「おっと。」

 

一瞬の草むらの動きの後、右から飛び出したオレンジ色の影を妹紅が横に避けた。

 

そのままオレンジ色の影だったものは地面に叩きつけられる。

 

「あらら・・・大丈夫かしら?」

 

「! コッ!」

 

私の言葉に反応するように、それは倒れていた身体を翻して立ち上がった。

 

紛れもなく写真で見たポケモン、フォッコだ。

 

「そっちから顔を出してくれて嬉しいわ。さっ、さっさと私に捕まりなs」

 

「コーッ!」

 

「うわっ!」

 

フォッコは再び妹紅に向かって飛び上がったが、妹紅は同じようにかわす。しかし、今度は地面に激突することもなく着地した。

 

「ヴーッ・・・。」

 

「何か、こいつ私だけ狙ってるような・・・。」

 

「・・・いや、多分あなたじゃなくてその鳥のせいね。住処の近くでうるさくされたら私だって黙ってないもの。」

 

「あ、こいつか。よしっ、行ってやれ、コトリ。」

 

「ヤヤッ!」

 

コトリは妹紅につつかれると、フォッコに向かって行った。

 

「フォッ!」

 

フォッコは予想通り、コトリに向かって跳び回った。しかし飛んでいるコトリは空中でひらりとフォッコの攻撃をかわし続ける。

 

「フォッコーッ!」

 

激昂したフォッコはコトリへの攻撃の手を激しくするが、全くコトリに当たる気配はなかった。

 

「・・・あいつ、アホなの?」思わず口を開いてしまった。

 

「・・・思ったより判断力はないみたいだな。」苦笑しながら妹紅は言う。

 

そのうち動き疲れたフォッコが地面に倒れ込んでへたってしまった。

 

「フォッ・・・コーッ・・・。」

 

「スキだらけね・・・。本当にこいつが最初で良いのかしら。その赤い鳥の方が数段良さそうなんだけど。」

 

「ポケモンなんてボールさえあればいくらでも捕まえられるんだし、あまり気にする必要もないんじゃないか?」

 

「・・・そうね。」霊夢はフォッコに向かってボールを投げ、当てた。瞬く間にフォッコがボールの中に押し込まれる。

 

ボールはしばらく動いた後動かなくなった。捕獲に成功したのだろう。

 

「・・・これが初捕獲なんて、ロマンは私を嫌ってるに違いないわ。」

 

「ロマンがないと言うか・・・実感がないな。あるのは虚無感だけだ。」

 

「言えてるわね。・・・じゃあ、帰りましょうか。」

 

「・・・ああ。」




はい、と言う訳で霊夢のパートナーはフォッコです。

良い選択したんじゃないかな、と思ってますが・・・皆さんのイメージには合ってるでしょうか。

次回、新視点。

では。


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第八話 常識知らずの携帯獣使い

UA1500突破。ご愛顧ありがとうございます。

タイトルから予想付くと思いますが、あの方登場。

では、本編どうぞ。





視点:早苗

 

「もう夕方ですか・・・。」

 

夕焼けに照らされて思わず呟きました。

 

夕暮れの守矢神社も風情があります。秋だと特にそうですが、初夏でも緑の葉を付け始めた草花が紅光に照らされて輝く様は見事です。

 

申し遅れました。私、この守矢神社で巫女兼現人神をやっているような者で、東風谷 早苗と言います。今後ともお見知り置きを。

 

私は今、葉っぱ一枚落ちていない、守矢神社の境内をひたすら竹ボウキで履いています。

 

・・・こんなの何も知らない人が見たら「お前何やってんの」とか言われそうですが・・・これも理由があってのことなのです。

 

理由の一つ目は参拝客が少なかったことです。これはまぁ、この神社自体山奥にあるので普段も一日五、六度程なんですが、今日はそれ以上でした。参拝客の方々の対応が無かった分時間があり、その分の時間境内の掃除に時間を割くことができました。

 

そして二つ目。それは私が今日全く予定が無かったからです。人里への布教も今日は休みだし、かと言って神社内の家事は空いた時間で済ませたし。今日は非番って訳にも行かない訳で。

 

結果ずっと境内を掃除してました。もう本当に綺麗なんですけど。

 

・・・何だか、振り返ってみて今になって今日一日を無為に過ごしてしまったような気がしてきました。

 

・・・いえ、今はそのことを忘れましょう。掃除、掃除・・・。

 

 

 

 

 

 

「おーい!早苗!」

 

 

 

 

 

 

「うわっ!」

 

思わず肩が震えました。

 

遠くの辺りから私を呼ぶ声。

 

周りを見渡しましたが、誰の姿もありません。

 

一体誰が私の名前を・・・?

 

「早苗ー!こっちこっち!」

 

私を呼ぶ声がまだ聞こえてきます。

 

「どっちですか!」思わず声を上げてしまいました。

 

「あっはは、上だよ、上!」

 

「上!?・・・あっ!」

 

上空にホウキとそれに乗った少女が浮かんでいました。

 

白黒のエプロンのような服に同じく白黒の魔法使い帽。

 

ふわふわと降下したその魔法使いは、魔理沙さんその人です。

 

「魔理沙さんじゃないですか。ここまで来るなんて珍しいですね。」

 

「たまたま近くまで来たもんでな。様子を見に来たぜ。」

 

「たまたま近くに?山に用事でもあったんですか?」

 

「ああ。ちょいとこいつの特訓を。」魔理沙さんはあるボールを帽子から取り出して答えます。

 

上下が紅白に分けられた、カプセル状のボールです。

 

 

 

 

 

・・・私はそのボールに見覚えがありました。

 

 

 

 

 

 

「・・・えっ、それって・・・モンスターボール!?」

 

「おっ、知ってたか。人里にしか流行ってないと思ってたんだがな。」

 

「人里で流行ってるんですか!?」

 

「えっ?ああ、今朝からポケモンが幻想郷に現れたって人里では大騒ぎで・・・。」

 

ポケモンが・・・幻想郷に!?

 

「詳しく聞かせて下さい!」

 

「えっと、それなら今日の文々。新聞の号外を・・・。」

 

「かっ神奈子様!」

 

「あっおい早苗!」

 

掃除なんてするんじゃありませんでした。

 

少しでも人里に足を運んでいればもっと早く気が付けたのに・・・。

 

・・・いえ、過去のことを悔やんでも仕様がありません。今は早く新聞を確認しなければ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「かっ神奈子様!今日の新聞!新聞ありませんか!?」

 

「うわっ!?・・・何だ早苗かい。騒々しいねぇ。」神奈子様は自室で読書に耽っていました。

 

この守矢神社には私以外に二人の神がお住まいになっています。この方が守矢神社の神様その一、八坂 神奈子様です。

 

「新聞だって?文々。新聞なら珍しく諏訪子が持ち出してたけど・・・どうしたんだい?」

 

「諏訪子様ですね!ありがとうございます!」

 

「早苗!落ち着け!お前はいつも慌てすぎてるぞ!」足早に立ち去ろうとする私を神奈子様が呼び止めました。

 

・・・いけないです。また周りが見えなくなってしまっていました。

 

確かに慌てていましたが・・・しかし今は慌てなければならない気がするのです。

 

「・・・そんなに急ぎなのかい。邪魔して悪かったね。」神奈子は私が考えていたのを察したのか、少し同情したように言いました。「早く行きな。」

 

「はっ、はい!失礼しました!」

 

ドタドタと部屋を出て行く私の裏で、神奈子様が呟いていました。

 

 

 

「・・・あれは何か外の世界を思い出したような顔だったね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「諏訪子様!新聞!新聞を貸してください!」

 

「わわっ!・・・なーんだ早苗か。後ろから大声出されちゃびっくりするじゃないか。」諏訪子は前のめりになった帽子を直しながら言いました。

 

この方が守矢神社の神様その二、守矢 諏訪子様です。神奈子様と諏訪子様、このお二方は幻想郷に来る前からの付き合いで・・・あぁ、私も含め守矢神社の神様は全員外界出身です。経緯は・・・って、こんな場合じゃ無いんでした!

 

「新聞!新聞はありませんか!?」

 

「うん。見ての通り、今私が読んでる。ちょっと待ってくれる?」

 

「横から失礼します!」

 

「ええっ!?うわっ!?・・・もう・・・。早苗はスイッチ入るといつもこうだなぁ・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

次なる異変か 外来生物大量発生

 

今朝から幻想郷各地で外来のものと思われる生物が大量発生している。博麗神社の巫女、博麗 霊夢氏は異変の可能性が高いとして調査を進めている。

今回の大量発生は通常のものとは違い、非常に多種の生物で同時に発生している。草原や高原に現れた種もいれば、竹林の中で身を隠すように現れた種、空を飛ぶ種、湖の中を泳ぐ種、中には人里の建築物のでひっそりと息づいた種など様々である。さらにそれらの動物は総じて外界出身で、外界では総称して「ポケモン」と呼ばれていたことも明らかになっている。

また同時にポケモンを捕まえ使役する道具「モンスターボール」も幻想郷にもたらされた。これを使って使役したポケモンを戦わせる「ポケモンバトル」も今朝から人里では流行している。現在モンスターボールは魔法の森前の商店「香霖堂」で販売中。

ポケモンの大量発生やポケモンバトルの流行について昔から幻想郷を知る人物である稗田 阿求氏はこう語った。「きっかけが異変とはいえ、ポケモンバトルの流行で人里に活気が出てきたのは嬉しい。しかし、このポケモンが今後人里だけでなく幻想郷全体で問題を起こしかねないのも事実である。いくら活気付いていると言っても流行りは流行りで、いつか廃れてしまうだろうから、問題が起こる前にそうなることを期待する。」幻想郷全体で、今後どのようにポケモンが影響を及ぼすのか、今後も調査を続行することにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

視点:諏訪子

 

「早苗〜・・・。お〜い・・・。ダメだ、全然聞こえてない・・・。」

 

私が話しかけていることなど知らない様子で早苗は読み進めている。

 

・・・まぁ、無理も無いか。

 

外界の生き物が大量にこっちに流れて来たんだもん。おまけにその生き物がポケモンと来たら、そりゃあ慌てるよね。

 

・・・もう、私いなくて良いよね?

 

「・・・じゃあ早苗。私もう行くy」

 

バッ!

 

「うわっ!」

 

突然、早苗は顔を上げた。

 

その目は・・・これ以上無い位輝いていた。

 

この目に振り回されなかった記憶は祟り神として長いこと生きてきた私にも無い。早苗に限ったことでは無いが、早苗なら特に。

 

「・・・諏訪子様。」

 

「なっ・・・何だい?」

 

「私・・・行ってきます。」

 

「えーと・・・今日はもう夕方だし、どこへ行くにも止めておいた方が・・・。」

 

「大丈夫です!なるべく、すぐ戻ります!」

 

すごく輝かしい笑顔で振り向いた。ダメだ、こうなった早苗は止められない・・・。

 

「あー・・・うん。気を付けてね・・・。」

 

「じゃあ!すぐ戻ります!」言い終わるか言い終わらないかで早苗は慌ただしく部屋から出て行った。

 

「・・・新聞でも見たけど、何だか幻想郷が騒がしくなりそうだね・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

視点:魔理沙

 

早苗に新聞にポケモンのことが書いてあることを伝えると、早苗は神社の中に飛ぶように戻っていった。

 

相変わらずの騒がしさだ。・・・いや、今回はいつもより慌てていると言うか、驚いていたと言うか・・・。そんな気がした。

 

もしかして、外界でポケモンのことを知っていた?

 

ありえる。

 

って言うか他の理由が見当たらない。

 

早苗が外界でポケモンを扱っていたなら、私が見せたモンスターボールに驚くのも自然な反応だろう。

 

もしそうなら、後で早苗にポケモン捕獲のコツでも聞くとするか・・・。

 

「魔理沙さーん!」

 

「あっ早苗!お前、いつもに増しt」

 

「魔理沙さん、お願いです!香霖堂まで乗せて行って下さい!」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと待て!今から行く気か!?」

 

「もちろんです!モンスターボールがあると聞いては黙っていられません!」

 

色々聞きたいことがありすぎる。

 

遅くに出て行って神奈子と諏訪子は心配しないのか。守谷神社のおゆはんは大丈夫なのか。そして、早苗は本当に外界でポケモン使いだったのか・・・。

 

 

 

 

 

 

・・・ん?

 

 

 

 

 

 

早苗の手に赤い機械が握られている。確かさっきは持っていなかった。

 

 

 

 

 

もしかして、ポケモン図鑑か?

 

 

 

 

 

 

もしそうなら、早苗が外界でポケモン知っていた説は完全ビンゴだろう。わざわざこっちにいない動物の図鑑をこっちに持って来ている辺りは驚きだが。

 

質問する価値はありそうだ。かなり慌ててるから聞けるかどうかは分からないが・・・一緒にいるに越したことはないだろう。

 

「全く、常識外れにも程があるぜ・・・よし、乗ってけ。」

 

「ありがとうございます!全速力でお願いしますね!」

 

「・・・ゑ!?全速力!?」

 

「はい!少しでも早く手にしなければなりませんからね!」

 

「全速力って言ったら・・・かなり飛ばすから落ちたところで責任は取れんぞ?」

 

「大丈夫です!私、飛べますから!」

 

そうだこいつ飛べんじゃねーか!

 

要するに、普通に飛んで行くより私のホウキに乗った方が速いから、とそういう理由で私に頼んだのだろう。

 

「・・・重ねて言うが落ちても責任は取れん。つまりは落ちた時点でスルーして進んじまうぞ。それでも良いならさっさと掴まれ!」

 

「はいっ!」

 

実を言うと限界の速さ出してると後ろの様子が分からないだけだが、凄みを乗せてみた。それでも早苗の決意は変わらないらしい。

 

実際あまり気が乗らなかったのは事実だが、早苗が私を頼るなんて滅多に無いことだ。

 

・・・よし、いっちょやってやるぜ!

 

私はホウキを横にして跨ぐ。後ろで早苗は同じようにホウキに跨った。

 

「よしっ、行っくぜー!」

 

「はい・・・うわっ!」

 

二人の身体はあっという間に持ち上がり、瞬間、ものすごいスピードで直進する。

 

二人一緒に運ぶのは流石にキツイぜ・・・。

 

「ひゃあーっ!」

 

早苗はさながらジェットコースターのような感覚で声を出している。

 

こちとら必死なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

全力を出した甲斐あり、ものの四、五分で森の上空まで到着した。

 

ホウキのスピードを落としながら降下し、ちょうど香霖堂の前で停止。

 

運搬完了、だぜ。

 

「ありがとうございました!ちょっと待ってて下さい!」

 

早苗はホウキから降りるやいなや香霖堂に直行した。

 

「・・・もうあれは止めようとしたら撥ね飛ばされるレベルだな。ありゃ。流石常識に囚われない巫女だ。」

 

結局、質問は一つもできず終いになってしまった。腹も減ってきたし、そろそろ帰るとするか。帰りの便は予約入ってないし、大丈夫だろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

視点:早苗

 

魔理沙さんのホウキ。守矢神社から香霖堂まで約五分。流石です。

 

「霖之助さん!霖之助さん!」

 

「おっ、いらっしゃい・・・って早苗ちゃん!?」

 

霖之助さんは私の来店に驚かれているようでした。もう夕暮れ時だったかなのか、普段あまり行かない私が来たからなのか。

 

「霖之助さん、モンスターボールを譲って下さいませんか!?」

 

単刀直入に目的の品を言いました。

 

「えーっと・・・良いよ。持って行って。五個までなら代金はいらn」

 

「ありがとうございます!」

 

早くポケモンを捕まえに出かけなければ!

 

 

 

 

 

 

「待って!」

 

 

 

 

 

 

「へっ?」

 

霖之助さんがいきなり呼び止めてきました。心なしか真剣な表情に見えます。

 

「・・・早苗って、外界でポケモン知ってたのかい?」

 

真剣な表情で何を言うのかと思えばそんなことでしたか。まぁ、言っていなかったので気になるのも普通でしょうが。

 

「もちろんです!こっちに来る時は少し名残惜しかったですが、こう見えても結構たくさんのポケモンの面倒見てきたんですよ。たとえば・・・話した方が良いですか?」

 

「いや全く。それだけ聞ければ十分だ。それじゃあ、捕獲頑張って。」

 

「? ・・・ええ、頑張ります!霖之助さん、ありがとうございました!」

 

私の武勇伝を退けられました・・・いやいやそうじゃなくて。

 

霖之助さんの顔に少々引っかかる所はありましたが・・・今は詮索する暇もありません。

 

私は急いで香霖堂を後にしました。

 

 

 

 

 

 

「・・・これは少し好都合かな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

視点:神奈子

 

早苗が出て行った後の守矢神社。

 

諏訪子と私。部下的な存在のはずの早苗によく振り回されてはいるが、遅くの時間に出掛けたのは初めてだ。

 

この時間に出掛けられて一番困ることは他でもない、食事についてである。

 

「そろそろ夕飯なんだけど・・・早苗が居ないんじゃねえ・・・。」

 

守矢の食事は三柱揃ってが基本中の基本。幻想郷に来てから、そうしなかった日は思い浮かばない。

 

おまけに諏訪子や私は料理下手。いつもの食事当番は早苗なのだ。諏訪子に至ってはふりかけご飯すらまともに作れない。・・・粥しか作れない私が言えることではないのだが。

 

「お腹空いたぁ・・・。ねぇ神奈子ぉ・・・。早く晩ご飯食べたいよぉー・・・。」

 

「・・・うん、じゃあ先に作っといてやるか。早苗も帰った時は疲れてるだろうし、今日はあいつの手を借りないで作ろう。」

 

こんなことも一大決断な訳だ。

 

「じゃあお願いねー・・・。」

 

「・・・おい諏訪子、今日くらい手伝ったらどうなんだ?早苗も出ちゃったし、人数少ないんだぞ。」

 

「えぇ・・・。めんどくさいし、お腹空いたからあんまり動きたくない・・・。」

 

「全くお前は子供っぽいのかそうじゃないのか・・・。ったく、気が向いたら来いよ。」

 

「そうするー。」

 

立ち上がり、料理をするため台所に向かう。料理と言っても粥なのだが。

 

「なーんでああ都合の悪い時だけ子供っぽくなるかなぁ・・・。」

 

自然と愚痴が出てくる辺り結構カチンと来たらしい。少し諏訪子の飯の量を減らしてやるとするか・・・。

 

 

 

 

 

 

・・・!?

 

 

 

 

 

 

・・・その様子を見て、諏訪子への怒りが吹っ飛んだ・・・いや、吹っ飛ばされた。

 

倒されたカゴ。

 

乱雑に積まれた鍋。

 

そして・・・食い散らかされた野菜。

 

・・・台所がグチャグチャなのだ。

 

少しの食べ物も見当たらない。

 

「・・・な」

 

私は唖然として、

 

 

 

 

 

 

「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

幻想郷全体に響きそうな声で叫んだ。




視点変更の暴力。

駄文の癖して5000字越えだし多分まとってません。伏線とか伝わってるかどうか。

ウチの早苗は常識無いです。

さて、守矢神社の食べ物を荒らした犯人は・・・?

では。


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第九話 腹ペコ

タイトルからバレそうな異変主。

絶叫する神奈子。その頃霊夢は?

では、本編どうぞ。





視点:霊夢

 

「なんじゃこりゃぁぁぁ・・・。」

 

遠くで悲鳴?

 

何かあったのかしら。

 

・・・まっ、どうにしても暇してる魔理沙辺りが野次馬根性丸出しで行くんでしょうけど。

 

不完全燃焼に終わったフォッコの捕獲の後、私は博麗神社に戻って来た。

 

もう休みたい、と言うのもあるが、第一は食事だ。

 

今日起こったこの異変は、他の異変より圧倒的に時間がかかりそうだ。何せ今日一日で解決できなかったんだし。

 

そして何より疲れる。

 

理由は単純。

 

他の異変より動くからだ。

 

だからその分空腹が来るのは仕方ない。

 

さて、食事の準備をしましょうか・・・!?

 

 

 

 

 

 

・・・神社の食糧の貯えがすっからかんになっている。

 

 

 

 

 

 

野菜に魚に米。余す所無く全部。

 

しかも台所も相当荒らされている。

 

嘘でしょ・・・?

 

神社を出る前はちゃんとあったはずなのに、どうして・・・!?

 

・・・今日が異変も何も無い平和な一日だたらまだ良かった。

 

なぜなら、こんな危機的状況でも動けるような気力が使われずとっておかれているからだ。

 

しかし。

 

現実は甘くない。

 

今日はポケモンが大勢現れた異変で、いつもの異変以上に動き回っていた。あっちこっちに。

 

無論、気力はその時にフル稼動。

 

今になって、使われずに残っている気力もあるはずが無い。

 

疲れたフォッコのように、その場で前のめりになって倒れる。

 

何をする気も起きない。

 

と言うか、起こせない。

 

今からでは買える野菜も買えないだろう。

 

 

 

 

 

 

・・・私、このまま死ぬのかな・・・。

 

 

 

 

 

 

この世に未練は大ありだが、もう起き上がる気力もない。

 

自然に目が閉じられる。

 

いっそ、このまま楽に・・・。

 

 

 

 

 

 

「ゴーン!」

 

 

 

 

 

 

目の前が真っ暗になる直前、私はまたも聞き慣れない鳴き声を聞いた。

 

・・・何かいるのかしら。

 

瞼を開き、前を見てみる。

 

巨大な生き物が霊夢の視界を陣取っていた。似た動物を挙げるとしたら熊だろうか。全体が深緑の毛に覆われた二足歩行の動物だった。

 

「ゴ〜ン?」

 

その動物は心配からか、はたまたただの好奇心か、私の顔を覗き込んだり、頭をつついたりしている。

 

「・・・。」

 

・・・何だろう、こいつ。

 

 

 

 

 

 

キュルル。

 

 

 

 

 

 

突然、静寂に包まれていた神社に間の抜けた音が響いた。

 

紛れもなく、私の腹の音だ。

 

・・・誰もいなくて良かったわ。

 

変な安心をしていると、さっきまでとぼけた顏をしていた動物が何かを把握したような顔付きになり、懐を探り始めた。

 

見ていると、動物は懐から竹の葉で包まれた何かを取り出し、差し出した。

 

「ゴン!」

 

動物は、これ食えよ、とでも言いたげに笑顔で頷いている。

 

「・・・良いの?」

 

「ゴン!」

 

自信満々の顔。

 

「・・・じゃあ、頂くわね。」

 

私はそれを受け取ると、立ち上がって竹の葉を剥いだ。

 

中には、白米に黒い海苔のコントラストが美しい、おにぎりが入っていた。

 

 

 

 

 

 

食べ物だ。

 

 

 

 

 

 

私が求めていた食べ物だ。

 

 

 

 

 

 

思わず涎が出る。

 

・・・いや!

 

早まっちゃいけない。

 

獣の懐に入っていたようなものを不用意に食べる何てことは・・・。

 

「ゴ〜ン?」

 

動物は、どうした食べないのかと言うような目でこちらを見ている。

 

・・・ええい、どうにでもなれ!

 

一口、口に入れる。

 

美味い。

 

白いご飯は冷たいながらもふっくらしていて塩加減も絶妙だ。

 

もう一口齧ると、山菜の中身が姿を現した。具も私の好みどストライク。

 

食べ進めるうちに、あっという間におにぎりは腹に収まった。

 

「ふーっ、ごちそうさま。あんた、勝手にここまで入ってきたのには感心しないけど、意外にいいやつじゃないの。」

 

「ゴーン!」

 

動物は誇らしげに胸を叩いた。

 

よく見ると動物は私の膝より少し低い位の背丈だった。

 

多分、こいつもポケモンね。図鑑に登録しておこう。

 

No.446 ゴンベ おおぐいポケモン

ノーマルタイプ

高さ0.6m 重さ105.0kg

とにかく大量の食べ物を食べる。食べ物をどこかに隠すこともあるが、大抵はその場所を忘れて新しい食べ物を探す。食べ物が腐っていても問題なく食べる。

 

・・・図鑑には私にとって衝撃的なことが書かれていた。

 

恐ろしい程の大食漢。しかも体重105キロ。

 

「・・・まさかあんた・・・。」

 

「ゴン・・・?」

 

ゴンベと言うらしいポケモンは私を見ると、なぜかその場で後退りを始めた。

 

・・・大丈夫、あまり惨いことにはしないわ。

 

私は笑顔でゆっくりとゴンベに迫る。

 

焦った表情で下がるゴンベ。

 

そして・・・。

 

「ゴーンッ!」

 

ゴンベは一目散に逃げ出した。

 

しかし、そのスピードはお世辞にも速いとは言えない。歩きで追いつけるレベルだ。

 

「こらっ、待ちなさい!」

 

私のゴンベの襟首(脂肪が付いているおかげで掴みやすかった)を確実に捉えた。しかし、持ち上げようとしても持ち上がらない。それもそのはずで、こいつ体重105キロあるのだ。重くて簡単には持ち上がりそうになかった。その代わり、ゴンベは激しく暴れ回る。

 

「ゴンッ!ゴーンッ!」

 

「しっずかに、しなさい!あっ、そうだ!」

 

片手で袖を探って一つのモンスターボールを取り出し、「行けっ、フォッコ!」と叫んで真上にボールを投げた。中から飛び出した光は子狐の形を作り、一瞬でフォッコへと姿を変えた。

 

「フォッコッ!」

 

こんなに早くこいつを使う時が来るとは思わなかった。

 

私の最初のポケモン、フォッコ。

 

「よしっフォッコ、こいつに向かって攻撃しなさい!」

 

「コッ!」

 

フォッコはちゃんと私の指示通り、ゴンベに体当たりを仕掛けた。

 

しかしフォッコの突進はゴンベの脂肪を前にあえなく弾かれた。

 

何あれ、どんだけ柔らかいの!?

 

物理攻撃が弾かれるなんて・・・!

 

「ゴン、ゴーン!」

 

「っ!?しまった!」

 

ちょっと油断したスキに、ゴンベが私の手から離れてしまった。

 

「ゴーン!ゴーン!」

 

ゴンベはそのまま茂みに走る。

 

やばい、このままじゃ逃げられる!

 

こうなったら弾幕で・・・!

 

 

 

 

 

 

「フォッコーッ!」

 

 

 

 

 

 

突然、フォッコが一つ吠えたかと思うと、口に炎を溜めた。

 

そう言えばこいつ炎起こせるんだっけ・・・!

 

「コーッ!」

 

溜めは一秒もしないで終わったようで、フォッコは炎をそのままゴンベに発射した。大の字になった炎がゴンベに被さる。

 

何あの火力!?

 

って言うか大丈夫なのアレ!?

 

炎が晴れると、黒焦げのゴンベが立っていた。

 

「ゴ・・・ゴン・・・。」

 

情けない声でパタンと倒れるゴンベ。

 

・・・あの炎で黒焦げで済むなんて丈夫過ぎないのかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい!霊夢ー!」

 

遠くから声が聞こえたかと思うと、空から魔理沙のホウキが飛んでくるのが見えた。

 

「魔理沙!タイミング悪過ぎよ。もっと早く来てればこんなことにはならなかっt」

 

「霊夢!頼む!今夜何かメシを分けてくれ!・・・ってなんだこの状況!?」得意気にしている子狐と真っ黒の丸まった何かを目の前にして、魔理沙は声を荒げた。

 

魔理沙もご飯食べてないの?

 

「・・・まさか魔理沙も・・・。」

 

「・・・え?」

 

二人の間に静寂が流れる。

 

「えーと・・・念のため、状況を聞いておこうかしら。」

 

「状況も何も、家に帰ったら食べ物があらかた無くなってただけだぜ。早めに帰れたから良かったけど、もっと遅く帰ってたら間違いなく干からびたろうな。」

 

「やっぱりね・・・。私も同じよ。」

 

「同じ?どういうことだ?」

 

「そのままの意味よ。私も今食べ物を持ってないの。」

 

「霊夢も盗みか!幻想郷も狭いもんだな・・・。」魔理沙は腹を鳴らしながらしみじみと語った。

 

「・・・幻想郷が狭いことについては否定しないでおくけど、多分原因はそれじゃないわ。恐らくはこいつのせいよ。」言いながら倒れているゴンベを指差す。

 

「ん?どっちだ?その倒れてる何かか?黄色い狐か?」

 

「倒れてる方ね。これ見てくれる?」図鑑の索引からゴンベの情報を取り出し、魔理沙に見せつけた。

 

「・・・なるほど。こいつが全部食べちまった訳だな。」

 

魔理沙も納得した様子である。

 

「しかし霊夢・・・一つ聞いて良いか?」

 

「何?」

 

「・・・あんなに真っ黒に焼いて大丈夫なのか?」

 

「知らないわよそんなこと。私の神社を襲った奴には人であれ動物であれそれ相応の報復はあっても良いと私は思うけど・・・確かに命の問題とかになると話は別だけど、そうも見えないし。」

 

「・・・本気で恐ろしいな、金が関わった時のお前は。」

 

「正しい反応ね。この恐怖覚えておいて損は無いと思うわよ。」

 

「おうふ・・・。」

 

最後の言葉の意味は分からなかったが、多分あまり意味の無い、感動詞の類だろう。

 

「話を戻すわよ。多分、あなたの食べ物を平らげたのもこいつか、こいつと同じ種類のポケモンでしょうね。」

 

「ふんふん・・・ん?だとしたら、こいつと同じ種類のポケモンが、同時にこっちを襲ったのは偶然ってことにならないか?」

 

「いや、違うわね。私が聞いた限り、ポケモンがこっちに来たのは今日の早朝か、早くても昨日の深夜。だとしたら、今はポケモン達にとって幻想郷で初めてのディナータイムよ。図鑑を見る限り、こいつは普段の食事からかなり大量の食べ物が必要なみたいだから、自生している木の実とかだけでは飽き足らずにこうして食べ物を蓄えている場所が被害に遭う。同じ種類の動物は大体同じ生活リズムを持ってるでしょうから、こいつと同じ種類のポケモンはほとんど同時にディナータイムに入るはず。ならばこの被害が同時に起こるのは必然じゃないかしら。」

 

「ふんふん・・・えっ!?それなら・・・!」

 

「ええ・・・。ゴンベの数が十分に多いなら、恐らく幻想郷のほとんどの場所は被害に遭っているでしょうね。」

 

「おい・・・それってかなり大変なことなんじゃ・・・。」

 

「大変なんてもんじゃないわ。異変よこれは。それも別の異変に被さったね。」

 

「異変・・・。」

 

・・・異変。

 

私はそう言ってしまった。

できれば、ポケモンに関係する異変は起きて欲しくはなかったんだけど・・・。

 

「・・・ま、そういう訳だから、ちょっくら出かけてくるわ。帰るなり付いてくるなり好きにしなさい。」私はなるべくぶっきらぼうに続ける。

 

「好きにしろ?付いていかない訳ないだろ!」

 

キュルル。

 

魔理沙の腹の虫がまたも静寂を作り出した。

 

「・・・その前に何か食い物無いか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

視点:魔理沙

 

結局、霊夢は直接異変調査に向かい、私は軽く腹ごしらえしてから合流することとなった。

 

「キノ!」

 

「そっちか?・・・おっ!こんなにたくさん!」

 

キノスケが示した先には赤ベースに白い斑点が付いた色のカサをしたキノコが三つ四つ程まとまって生えていた。こいつは結構毒々しい見た目だが美味しくパワーも出る。

 

私は見つけたキノコをもぎ、帽子の中に入れた。キノコ狩りを始めたのはほんの数分前だったが、既に手持ちの帽子にはたっぷりとキノコが盛られている。

 

同族だからか、キノスケはキノコが生えてある場所が分かるらしい。これが速攻キノコ狩りに拍車をかけた。と言うかメインエンジンって言ってもいいだろう。もうこんなにあれば十分だ。

 

「よし、これ食って異変解決だぜ!」

 

「キノッコ!」

 

キノコを調理するため、意気揚々と自宅へ向かう。

 

こうして改めて森を見てみると、やっぱりポケモンが来たことで環境が変わってしまっていることが肌で分かった。

 

例えば虫ポケモン。こっちの虫は基本かなり小さいが、ポケモンとなるとピンキリだ。蜘蛛のポケモンのバチュルなんかはこっちの虫のサイズと似ているが、私が見た中ではコンパンとか言うバカでかい虫もいた。

 

・・・よく考えたらコンパンは何の虫なんだろうか。複眼があっただけだから予想つかないな。

 

ともかく、今はまだゴンベのことでしかボロが出ていないが、ポケモンの様子に幻想郷の環境が追いつかなければ必ず何か問題が起こる。全く、紫(多分)はなんでこんなことしたかなぁ・・・。

 

・・・おっ。

 

森を見回していると、遠くの暗がりに知った柄の服が見えた。

 

青っぽい浴衣。

 

香霖堂に足繁く通う私が見間違える訳が無い。顔こそよく見えないが、あれは霖之助の普段着だ。

 

私の覚えだと、霖之助はあまり外には出たがらない、しかもこんな夜だったら尚更な性格だったはず。何してるんだろうか。

 

暗い中で目を凝らして見てみる。

 

・・・姿勢を低くしてるようだ。何か小さいものを見ているのか?

 

視線の先が見えるように少し近付いてみる。

 

・・・!?

 

霖之助が見ていたのは・・・ゴンベ。ついさっき図鑑で見たアイツだ。

 

・・・本当に何やってんだ?あいつ・・・。

 

ゴンベと霖之助の様子を見ていると、ゴンベの方が先に動きを見せた。

 

懐から何かを取り出したのだ。青っぽい、掌より少し小さいものということは分かったが、細かい所まではよく分からない。

 

すると霖之助はそれに手を伸ばし、受け取った。何をするかと思えば、それをまじまじと見つめ、懐に仕舞うだけだった。

 

霖之助はそのままゴンベの頭を撫で、奥の方に立ち去って行った。ゴンベが手を振っている。

 

・・・何だったんだろうか。

 

一瞬の出来事だったが、妙に頭に残った。

 

もしかして、この異変、霖之助が何かしたのだろうか・・・。

 

・・・気になるが、手持ちのキノコを放っておく訳には行かない。

 

何より、腹が減った。

 

腹が減っては戦はできぬ、とはよく言ったもんだ。異変調査はその後でもできる。

 

まぁ、急ぐに越したことは無い。よしっ、行くぜ!




異変の犯人、ゴンベ登場。食べ物と言えばこいつ。

異変はもう少し続きますが、次回は早苗とアイツの回です。

では。


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第一○話 天狗記者と鴉の歌

ここでは全然テストの話しませんでしたが、今日テスト終わりました。その勢いで書き溜めしてます。

またサブタイで登場キャラネタバレしてますが、そこはご愛嬌と言うことで・・・。

ではどうぞ。





視点:早苗

 

人里やその他を望む高台にある、山の中の澄んだ池。

 

・・・なかなか良さげなポイントじゃないですか。

 

ここは妖怪の山のとある水場。現在、香霖堂へボールを頂きに行った帰り。まだまだ夜には遠い、夕方です。

 

もうそろそろ夕飯の準備時ではありますが、ポケモンの一匹も捕まえないままのうのうとは帰れません。

 

それに、早くこの手でポケモンを捕まえたい。

 

 

 

 

 

 

仮想ではなく、現実のポケモンを。

 

 

 

 

 

 

何しろ、外の世界で「ポケモン」と言ったら単にRPG、ロールプレイングゲームの一つでしかないのですから。仮想も良い所です。

 

私はゲームのジャンルとしての「ポケモン」のプレイヤーの一人に過ぎません。仮想のデータ上でポケモンと接して来ました。

 

だけど、全てを受け入れる幻想郷がそうさせたのか、紫さんが仮想と現実の境界を取っ払ったのか、何があったのかは分かりませんがこうして幻想郷の現実には姿を現した。

 

現実となったポケモンに早く会いたい、って言う感情は全く間違っていないと思うんです。それが迷惑を掛けてしまうか否かの違いだけで。神奈子様や諏訪子様も一応はポケモンをご存知ですから、きっと分かって頂けるはず。

 

・・・さて、遅くなるにしても、早めに帰るに越したことはありません。早く捕獲してしまいましょう。

 

みずタイプでもくさタイプでも、どんなポケモンが・・・。

 

 

 

 

 

 

「ケロッ!」

 

 

 

 

 

 

・・・!

 

今、確かにポケモンの鳴き声が聴こえました。

 

ケロッ、とそう言っていましたが、確かカエルのポケモンは結構数があったはず。気になります。少し覗いてみましょうか・・・。

 

私は木の陰に隠れて、池の様子を伺い始めます。

 

・・・しばらくして現れたポケモンに、私は驚きました。

 

 

 

 

 

 

ケロマツです。

 

 

 

 

水色に近い体色のカエルのようなポケモンなのですが、確かあのような「御三家」ポケモンは野生で出ないはずじゃあ・・・!?

 

・・・ん?

 

胸辺りに振動を感じました。

 

何でしょうか・・・って、図鑑!?

 

No.656 ケロマツ あわがえるポケモン

みずタイプ

高さ0.3m 重さ7.0kg

身体に泡を纏わせて身を守る。見た目よりも用心深い性格で、常に周囲に気を配っている。

 

こっちに来るときに持ち込んだこの図鑑、玩具のはずじゃあ・・・!

 

私達が生活していた、現実の外界ではポケモンは存在していませんでしたし、ポケモン図鑑も同じく存在していませんでした。

 

これはあくまでそれを模造した玩具のはず・・・何で普通に図鑑として動いているんですか!?

 

しかし、これは嬉しい誤算。泡が身体を守るなら、その泡が乾いて少なくなったときに攻めれば良い。図鑑はそうアドバイスしてくれているようです。

 

・・・分かりました、図鑑様の仰せのままに!

 

ケロマツは陸に上がって日光を浴びています。この夕方には珍しいと思いますが・・・昼間は混んでいたのでしょうか?

 

皮膚は段々と乾いてきているようです。

 

・・・よし、今だ!

 

「行けっ!モンスターボール!」

 

私は奇襲を仕掛けました。

 

皮膚が乾き始めて動きが鈍くなったケロマツをボールで捉えるのは容易なことです。

 

「ケロッ!?」

 

ケロマツは一瞬驚いた顔をこちらに向けましたが、すぐにボールの中に吸い込まれました。

 

まんま、ゲームのエフェクトを見ているようでした。

 

ケロマツが入り込んだボールは地面に付くとカタカタと動き始めました。まだ中で暴れていますね・・・。

 

この、ボールが動いているときの緊張感。

 

仮想の方で慣れなかったんだから、現実で見て平然として耐えられる訳がありません。

 

さぁ、どうか・・・。

 

 

 

 

 

 

・・・カチッ。

 

 

 

 

 

 

子気味の良い音と一緒に、私の目の前で、ボールは動かなくなりました。

 

捕獲、成功・・・!

 

私は思わずガッツポーズ。その後ボールを拾い上げて、その勢いでボールを投げました。

 

「行けっ、ケロマツ!」

 

ボールから出た光がポケモンを形作り、そして光が払われます。

 

「ケロッ!」

 

中から元気そうなケロマツが出てきました。・・・何故か皮膚が再び潤ってますが、気にしたら負けだと思って無視して再びケロマツをボールに戻しました。

 

良く見るとモンスターボールに画面が。そこにはまんまゲームのようにポケモンのデータが書かれています。なるほど、データってこう言う風に確認してたんですね。

 

いや、そんなことは置いておいて。

 

・・・まさか野生で、しかも初っ端から御三家のポケモンが出てくるとは。

 

御三家とはポケモンのゲーム内での主人公が最初に譲り受けるポケモンの総称で、基本的に野生では登場しません。

 

・・・そうだ、このポケモンのデータを詳しく見てみましょうか。

 

すなおな 性格。

20XX年X月X日

妖怪の山で

Lv6のときに

出会った。

とても きちょうめん。

 

妖怪の山で出会った・・・ちゃんと場所まで入るのがちょっと感動しました。

 

どれどれ、技は・・・?

 

 

 

 

 

 

・・・!?

 

 

 

 

 

 

この技・・・!

 

いや・・・なんでこんな技を・・・!?

 

 

 

 

 

 

「あやややややややや!早苗さーん!」

 

 

 

 

 

 

突然、またもどこからか名前を呼ばれ、現実に引き戻されました。

 

その声は・・・文さん!?

 

しかも妙に慌てているような・・・?

 

そう思っている暇もなく、文さんはいつかの魔法使いとは違って真っ先に私の目の前に降り立ちました。いつも通り素早いです。

 

この方があのポケモン記事を書いた鴉天狗の記者、射命丸 文さんです。

 

「ハァ・・・ハァ・・・探しましたよ、早苗さん!」

 

文さんは肩で息をしながら私を指差しました。

私を探していた?

 

「えっと・・・何の御用でしょうか・・・?」

 

「あややっ!?もしかして神奈子さんの悲鳴聞いてないんですかっ!?」

 

「聞こえ・・・えっ!?神奈子様の悲鳴!?」

 

「そうですよ!神奈子さん、神社の食べ物食い尽くされて干からびそうになってるんですよ!?」

 

「え・・・えぇぇぇぇぇぇっ!?一体何があったんですかあっ!?どどどどうすれば・・・。」

 

とりあえず守矢神社に・・・いや食べ物が無いとどうにもならないじゃないですか!食べ物を買って来なければ・・・でも今私お金持ってませんから一旦守矢神社に戻って・・・でも神社には戻れないし・・・あれ?何で神社まで戻れないんでしたっけ?あれ?

 

「さ、早苗さん!落ち着いて!」

 

えっと私は神奈子様と諏訪子様におゆはんを作らなければならなくて・・・でも作ってなくて・・・それで今は私は神社に戻ろうと・・・でもじゃあなんで戻っちゃダメなんだ・・・おゆはん?でも私も神奈子様を・・・おゆはんを・・・おゆはんって何でしたっけ?

 

「落ち着いて!落ち着いて下さい早苗さん!」

 

私?諏訪子様?神奈子様?あれ?あれ?私は・・・私は・・・。

 

「私はっ、何をすればいいんですかぁーっ!」

 

「せいっ!」

 

「きゃっ!?」

 

突然、強風が巻き起こりました。同時に私の頭が冷やされます。

 

「目が覚めました!?とりあえず、私の家でスパッと料理を作りましょう!話を聞くのは料理を振舞ってからです!」

 

「! はっ、はいっ!」

 

どうやら文さんが風を起こして目を覚まして下さったようでした。また我を忘れてうろたえてしまってたんですか・・・。

 

「さっ、急ぎましょう!お二人にもなるべく早く作るって言ってありますからね!」言いながら、文さんは飛び立ちました。

 

直後、

 

「あやっ!?」

 

木の枝が大きく揺れる音と一緒に文さんが落っこちて来ました。漫画だったらグルグル目になるような状態で。同時に大量木の葉も落下しました。

 

沈黙が流れます。

 

状況から考えますと・・・文さん、木の枝(それもいっちゃん太い部分)に頭をぶつけました?

 

「あの・・・文さん?大丈夫ですか?」

 

「あやややややや・・・。やってしまいましたね・・・。」

 

どうやら気は失っていなかったようで、頭を押さえながら文さんは受け答えてくれました。

 

「自らのスピードに慢心してしまうとは・・・。私もまだまだのようですね・・・。さて、今度こそ・・・ん?」

 

文さんは突然に青ざめました。目線はただ一点を向いています。

 

「・・・。」

 

おまけに黙ってしまいました。

 

・・・いつか、綺麗な水場の近くには鳥が巣を作りやすいと聞いたことがあります。

 

もう何が起こったかは予想付くと思いますが・・・。

 

文さんの視線の先にあるのは藁の束です。

 

しかし、もちろん普通の藁束ではありません。幾つか紺や白の羽が混じっていて、中に四、五個程の卵が入った藁束。

 

・・・鳥の巣です。

 

しかも中にある卵は・・・全滅していました。

 

これはやばい。

 

私にも分かりました。

 

「・・・文さん、面倒なことになる前に早くここを立ち去りましょう。」私はなるべく静かに、しかし必死の思いで文さんに伝えました。

 

が・・・。

 

「・・・いえ、既に手遅れのようですね・・・。」

 

・・・。

 

・・・上から鳥ポケモンの鳴き声がしてきました。

 

見たくない・・・。

 

いやしかし、見なければ・・・見なければ!

 

・・・見上げました。

 

「スバッ!」「スバーッ!」「スバッ!」「スバーッ!」

 

黒い雲のようなものが、そこにあります。

 

雨雲ではなく・・・鳥ポケモンであるスバメ、オオスバメ入り混じった大群です。

 

遠くからでも見える瞳には明確な殺意が見て取れました。

 

スバメ・・・鳥ポケモンらしくかなり素早いポケモンだったはず。

 

ああ、これは・・・神奈子様達の所に向かうのが遅くなってしまいそうですね。あはは。

 

 

 

 

 

 

「くっ、行きなさい!クロスケ!」

 

 

 

 

 

 

私はまたも文さんの言葉で我に帰りました。

 

ハッとした時には既に、そのポケモンは文さんのボールから姿を現していました。黒い鳥の姿をしたそれは・・・ヤミカラスです。

 

No.198 ヤミカラス くらやみポケモン

あく・ひこうタイプ

高さ0.5m 重さ2.1kg

不幸の象徴として知られる。光るものを集める習性があり、集めたものを巡ってニャースと対立することもしばしば。

 

「ケァーッ!」

 

文さんもポケモン持ちでしたか!

 

カラスという点では共通していますが何か合ってないような気も・・・って、そんなこと考えてる暇はありません!

 

「文さん!私も加勢します!」

 

「いえ、少し待って下さい!」

 

「えっ!?」

 

文さんは私の加勢に待ったをかけました。

 

「スバーッ!」

 

恐らくリーダー格であろう、一際身体の大きなオオスバメが一度鳴いたのがきっかけに、スバメとオオスバメ達はこっちに突進してきました。これ、まずいのでは・・・!?

 

 

 

 

 

 

「クロスケ、ほろびのうた!」

 

 

 

 

 

 

ほろびのうた!?

 

「ケァッ・・・ケァッ・・・!」

 

クロスケと呼ばれたそのヤミカラスは、大量の他の鳥ポケモンを目の前に、文さんの一声で歌を歌い始めました。

 

しかしそれは、お世辞にも美しいとは言い難い、自前でエコーさせているような不安になるメロディーです。

 

さらに歌っているクロスケの口元からは超音波のような黒い波が絶え間なく流れ続けており、ただならない気配を放っています。

 

まるで呪いのような。

 

「ケァッ・・・ケァッ・・・!」

 

さらに、異変はクロスケにまで。歌っているだけなのに尋常じゃなく消耗しているのです。

 

「お願いです、少し我慢して下さいね、クロスケ・・・!」

 

どうやらそれは文さんも承知のようです。一度でも使ったことのある技なのでしょう。

 

「スバ・・・ッ?」

 

相手の鳥ポケモン達は、クロスケが必死に歌っているのを見て尻込みしたのか、行動を止めて様子を見ています。

 

「クァッ・・・ケァ・・・ッ!」

 

この技がゲームと同じ特性なら、次に取るべき行動は・・・。

 

「よし、もう十分です!早苗さん!さっきのポケモンを繰り出せますか!?」

 

やはり、そういうことでしたか!

 

「分かりました!」

 

「よしっ、戻って!クロスケ!」

 

「行けっ!ケロマツ!」

 

私は歌を歌っていたクロスケと入れ違いに、先程捕まえたばかりのボールを投げました。

 

ボールが光を放ち、少し大きめのカエルを形成。そして光が払われます。

 

「ケロッ!」

 

私の一番手、ケロマツ。

 

ケロマツは出てくると早々に一声鳴きました。まだニックネーム──名前も付けていませんが、その凛々しさは一級品です。

 

「スバーッ!」

 

群れの中の一匹が、さっきのクロスケの時のように襲いかかって来ました。

 

でも大丈夫。あちらがクロスケに気を取られていた時間を考えると・・・。

 

「・・・バッ!?」

 

こちらに向かって来ていたスバメが急にブレーキを掛けて空中で止まりました。

 

「スバッ・・・!スバッ・・・!」

 

そして、突然ジタバタと苦しみ始めました。

 

・・・どうやら、ほろびのカウントが0になったようです。

 

「スバ・・・ッ・・・。」

 

間も無く、スバメは空気が抜けるようにフラフラと降下し、そのまま羽根を広げて倒れました。

 

これは・・・実際に見てみると中々のホラーですね。

 

「スバッ・・・!」「スバッ・・・!」

 

倒れたスバメから目を離し、再び前を向くと、前方の鳥ポケモン全てが苦しそうに身悶えています。

 

「スバ・・・。」

 

一匹が倒れました。

 

「スバァ・・・。」

 

また一匹。

 

「スバッ・・・。」

 

また一匹。

 

それからは途切れ無く、ドサドサと。

 

そして気が付くと・・・一匹も空中を飛んでいませんでした。

 

地面には蹲るスバメやオオスバメ。・・・マイルドな地獄絵図ですよ、これ。

 

「ふぅ・・・ありがとうございました早苗さん。手持ちのもう一匹が動ければ助けを受けずに済んだのですが・・・助かりました。」

 

「いえいえ。文さんの新聞のお陰でポケモンに気が付けたので、そのお返しと思っておいて下さい。・・・それにしても凄い技ですね。ほろびのうた。」

 

文さんも最初にそう指示していましたが、この怪奇現象のような技はほろびのうた。呪いの篭った歌を歌い、歌ったポケモン含め聴いた者全てをしばらく後に戦闘不能にする技です。

 

文さんはこの技の特徴を踏まえ、上手い使い方をしていました。

 

この技の一番の特徴であり同時に長所かつ短所なのは、技を繰り出したタイミングと効果が表れるタイミングが大きくズレていることです。

 

さらに、歌を聞いてから効果が表れるまでにボールに仕舞う等して呪いの範疇から出しておけば、この技の影響を受けることはありません。それは歌った本人でも例外無く適応されます。

 

つまりさっきの場合、クロスケがほろびのうたを使い、クロスケとスバメ達両方に呪いが掛けられたのですが、クロスケだけがその範疇から逃れ、スバメ達だけが呪いを受け戦闘不能になった・・・と言う訳です。

 

「あやや、初めてご覧になりましたか?」

 

「えっと、初めてと言えば初めてだし、違うって言えば違うし・・・。」

 

「?」

 

ゲームでは見たけど実際に見たのは初めてと言うことなのですが、説明が難しいので曖昧にしておきました。

 

「まぁ良いです。ささっ、早く神奈子さんと諏訪子さんにごはんを作ってあげましょう!足止め食らって遅くなってしまいましたしね!」

 

「ああっ!そうでした!急ぎましょう!」

 

私が言っている間に、文さんは飛び出しました。今度は枝に頭をぶつけること無くスムーズです。

 

私もケロマツをボールに仕舞って、飛び出しました。

 

・・・少しクロスケについて気になることがありましたが、今は気にしないようにしましょうか。




特に営業してない文はハーメルンではそれなりに珍しいんじゃなかろうか。

早苗がゲーム出身を暴露。さらにしれっとパートナーゲット。蛙の御三家、ケロマツです。ニックネームはお楽しみに。

さて、早苗の気になる所とは・・・?

では。


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第一一話 妖精と木の実

また新視点。ついにあの妖精が行動開始しまっせ!

では、本編どうぞ。





視点:チルノ

 

「わーっはっはっは!どうだ!アタイの雪ん子!強いだろー!」

 

「バニッ!」

 

「あぁっ、僕のイモムシまでぇ・・・。」

 

南か北か忘れたけど、どっちかの方向に太陽が沈む夕暮れの霧の湖。水面にオレンジ色の太陽が映って眩しいけど、こんな光位アタイ達が遊びを止める理由にはならない。

 

今アタイ達がしている遊びはポケモン勝負。

 

今朝から現れた外界の生き物、ポケモンを道具を使って捕まえて、そのポケモンを出し合って戦う、幻想郷に新しくできた勝負だ。

 

アタイ達ができる勝負には別に弾幕ごっこがあるけど、それとは大きく違って自分自身では戦わない。ポケモンに指示を出して戦う。

 

だから、弾幕ごっことは全然違う力が要るし、楽しさも違う。

 

アタイが使っているポケモンは雪ん子。水色と白の身体で頭が少しとんがってて、空中に浮いている。アタイと同じで氷を使えるポケモンだ。

 

もちろんどんな勝負でも、勝つのはこのアタイ、チルノ!アタイが勝つのは当たり前よね。だってさいきょーだもの!

 

「これで五連勝!アタイったらさいきょーね!」

 

「チルノちゃんが勝てたのはその雪ん子ちゃんが強かっただけなんじゃ・・・。」

 

「いやいや大ちゃん。アタイは雪ん子の強〜い力を使いこなしてるの。だからアタイもさいきょーなんだよ!」

 

大ちゃんはアタイの一番の友達で、アタイとはいつも一緒。本当は大妖精って言うみたいだけど、言いにくいからアタイ達は大ちゃんって呼んでる。

 

「使いこなしてるのかー?」

 

「僕もチルノちゃんはただ技の名前を叫んでるようにしか・・・。」

 

横で文句を言ってるのは闇を使える妖怪のルーミアと虫を使える妖怪のリグル。後ろに「のかー」を付けるのがルーミアで、男の子みたいな格好してる方がリグルね。

 

今はこの二人に大ちゃんと私の四人で勝負している。

 

・・・って言っても、さいきょーのアタイに誰も勝てなくて、アタイばっかり戦ってるんだけど。リグルとルーミアはそれに文句を言っているみたい。

 

「何よ!?アタイの的確な判断が気に食わないって言うの!?」

 

「だってチルノちゃん、ふぶきふぶきって声出してただけじゃないか。しかもそれ一回で相手のポケモン倒しちゃうし・・・。」

 

「ぐぬぬ・・・。じゃ、じゃあ、もう一回勝負よ!これで勝ったらアタイの強さを認めろー!」

 

「チルノちゃん、もう夕方だし、そろそろ帰らないと・・・。」

 

「大丈夫大丈夫!これ一回で終わりにするから!さあ!次の相手は!?どっからでもかかってこーい!」

 

「じゃあ私が二匹目出すのかー。」

 

前に出たのはルーミア。

 

「次はルーミア?さっきのいぶくろみたいにならなきゃ良いわね。」

 

いぶくろは一回目の時にルーミアが出した緑色のポケモンだ。すぐ倒したけど。

 

「行くのだー!」

 

ルーミアの投げたボールは空中で開いて、中から出た光がポケモンとなった。

 

「ヨマ・・・。」

 

中から出たのは、ドクロに灰色の布を被せたものが浮いたようなポケモンだ。

 

オバケとか、そういうものを想像させた。

 

「・・・ちょっと怖いけど、アタイの敵じゃないわ!雪ん子!ふぶきよ!」

 

「やっぱり・・・。」

「やっぱりね・・・。」

「やっぱりなのかー。」

 

アタイがさいきょーの技を繰り出す様子を三人はやれやれと言った様子で見ている。だけど・・・。

 

「・・・あれ?」

 

雪ん子はふぶきを出さなかった。

 

いや、出せなかったのかな?

 

「バニッ・・・!」

 

雪ん子は頑張って出そうとはしてる感じだけど、出てこない。

 

「あれ・・・どうしたんだろう。吹雪出ないね。」

 

「チルノちゃん・・・?雪ん子ちゃん・・・?」

 

「むむ・・・もう一回よ!雪ん子!」

 

「バニィ・・・!」

 

うんともすんとも言わない。

 

「チャンスなのかー!ドクロ君、シャドーボールなのだー!」

 

「ヨマ・・・ッ!」

 

「えっ!?」

 

慌てて前を見ると、ドクロ君が出した黒い玉がこっちに向かって来ている!

 

「バニィー!」

 

「雪ん子っ!」

 

その黒い玉は雪ん子にクリーンヒット。そのまま倒れた。

 

「勝ったのだー!」

 

「あっちゃあ・・・。大丈夫?雪ん子。」

 

「バニ。」

 

雪ん子はアタイに抱かれながら答えてくれた。でもまあ、満身創痍ね。

 

「わはははははは!どーなのだー!」

 

「ヨマ・・・。」

 

ルーミアはドクロ君と自慢気に胸を張っている。

 

「ちょっとルーミア!強い技一発で勝負終わらせるなんてどんな根性してるのよ!」

 

「チルノには言われたくないのだー。」

 

「むきーっ!覚えときなさいよ!」

 

外側で大ちゃんとリグルが笑ってる。くっそー・・・。

 

「もう一回よ!もう一回!」

 

二人の笑いに耐え切れなかったアタイは、服のポケットから「アレ」を取り出した。

 

「えっ、あれで終わりじゃ無かったの?」

 

大ちゃんはキョトンとして聴いてきた。

 

「アタイが負けたまま終われないよ!アタイがさいきょーなんだから!」

 

「ワガママなのだー!」

 

「問答無用!」

 

ルーミアの一言は聞かずに、アタイは「アレ」をアタイの片腕の中で倒れている雪ん子の上に置いた。

 

すると「アレ」は雪ん子の身体の上で溶けるように広がって、傷付いた身体に染みた。

 

「さぁ雪ん子!もう一回やるわよ!」

 

「バニッ!」

 

アタイが一喝入れると、雪ん子はまた空中を漂い始めた。

 

・・・でも、アタイが雪ん子を復活させたのは決して良いことじゃ無かった。

 

「チルノちゃん・・・約束は守ろうよ。あれが最後だったんでしょ?」

 

「うっ・・・。」

 

「約束は守らなきゃダメなのだー!」

 

「ルーミアも!?」

 

「そ・・・そうだよチルノちゃん!約束は守らないと!」

 

「大ちゃんまで・・・。」

 

三人に睨まれて、もう謝るしか無くなってしまった。

 

「・・・分かったわよ。今回はアタイの負けってことにしておくわよルーミア。その代わり、この一戦絶対忘れるんじゃないわよ。」

 

「分かれば良いのだ。」

 

ルーミアは相変わらず偉そうに受け答えた。

 

「ゴン!」

 

雪ん子もアタイを励ましてくれているみたい。

 

 

 

 

 

 

・・・ん?

 

何だか鳴き声が違うような・・・?

 

 

 

 

 

 

アタイは反射的に横を向いた。

 

「ゴ〜ン!」

 

隣にあったのは、見たことも無いポケモン。深緑色の身体でアタイ達より少し小さい。

 

「・・・誰!?」

 

アタイは遅れてびっくりしてしまった。

 

「ゴンゴン!」

 

ポケモンはアタイの反応も気にせず、胸をポンポン叩いて鳴いた。

 

多分、こっちに攻撃する気は無い、って言いたいんだろう。

 

とりあえずアタイは三人の方に向き直って「この子、誰のポケモン?」って聞いてみたけど、三人は同時に首を横に振った。

 

いつの間にアタイの隣に・・・。

 

するとそのポケモンは、こっちこっちと手招きを始めた。

 

「・・・へっ?アタイ?」

 

一応聞いてみたけど、ポケモンは頷いた。間違い無いみたい。

 

確認していたら、ポケモンは森の中に歩いて入って行った。走ってる割には遅いけど、そんなこと気にしている場合じゃない。

 

「どうするの?」

 

リグルが聞いてきた。

 

「当たり前よ。あのポケモンに付いて行くわ!」

 

「・・・やっぱり?」

 

「行かないなら置いて行くわよ。大ちゃん、ルーミア、行こう!」

 

アタイはそのポケモンの後ろに付いて、森に入る。

 

「あっ、チルノちゃん!待って!」

 

大ちゃんがアタイの後ろに付いた。

 

「大丈夫なのかー?」

 

ルーミアがその後ろに。

 

「・・・良いのかなぁ・・・。」

 

最後にリグル。結局付いて来るみたいだ。

 

アタイ達はポケモンを先頭にして、森の中を進み始めた。

 

いつの間に太陽が沈んだのか、もう明るく無かった。森の中だから辺りはもっと薄暗い。だけど友達も付いてるし、全然怖くは無い。

 

ただ、暗いだけでいつも見ている風景とは全然違うものになっているから、少し不思議だ。

 

「暗いのかー。」

 

「わっ、回らないでよルーミア。この暗がりじゃ危ないよ。」

 

ちょっとルーミアが楽しそうにしてるみたいだ。そう言えば闇を操る妖怪だったわね。

 

ポケモンは森の深くまでどんどん進む。アタイ達もその後ろに付いて一緒に進む。

 

「これ、どこまで行くんだろう・・・。」

 

大ちゃんが不安気な声を漏らした。

 

「大丈夫だよ大ちゃん。さいきょーのアタイが付いてるから!」

 

アタイはそれを元気付けた。大ちゃんは結構こうなりやすいから、励ますのは慣れている。

 

「ゴン!」

 

ポケモンも右から励ました。こう言うのは人数が多ければ多い程良い。

 

 

 

 

 

 

・・・右から?

 

 

 

 

 

 

前を見ると、やっぱりポケモンは前をノロノロ歩いてる。

 

右を見てみる。

 

同じような深緑色の身体が同じようにノロノロ歩いてた。

 

「・・・増えた?」

 

二回目だったから驚きもしないで、隣にいきなり現れたポケモンを受け入れた。

 

「何でこんなに同じポケモンが・・・。」

 

リグルが呟いた。

 

「何か問題あるのかー?」

 

「同じポケモンが集まるのって、大体は群れている時だけだと思うんだけど、そう見えないんだよ。」

 

「・・・ん?どゆこと?」

 

「ホラ、ポケモンに限らないで動物ってさ、自分の身を守る為に、仲間と集まるでしょ?でもこのポケモンはそうは見えない。なのに何で一緒になったのかな、って思ったんだ。」

 

「う〜ん・・・う〜ん?」

 

全然分からない。

 

「チルノちゃん・・・無理しないで・・・。」

 

「とっ、とりあえず、不思議ってことなのね!」

 

「・・・すごーく大雑把に言うとそうだね。」

 

後ろから聞こえるリグルの声は少し呆れているようにも感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくは、誰かが話しかけるのも無く、新しくポケモンが現れるも無く、ずんずん進んだ。

 

鈴虫の声と、風で葉っぱが揺れる音と、アタイ達の足音だけが聴こえる。

 

アタイも、不安じゃ無いけど、いつになったらポケモンが連れて行ってくれる場所に着くのか少し不思議に思ってきた。

 

足も疲れてきたし。

 

「フワァ〜・・・。」

 

ルーミアが欠伸したみたいだ。

 

・・・確かにアタイも少し眠くなって来た。

 

目を閉じたらそのまま・・・。

 

 

 

 

 

 

「ゴ〜ン!」

 

 

 

 

 

 

唐突にポケモンが鳴いた。

 

「えっ!?」「うわっ!?」「のかっ!?」「えっ!?」

 

大ちゃんとリグルもアタイやルーミアと同じようにボーッとしていたみたいで、ポケモンの声にビクッとした。

 

慌てて前を見てみる。

 

「「「「・・・!?」」」」

 

・・・アタイ達四人、全員声も出せない位ビックリした。

 

アタイの前をと右を歩いていたポケモンが走って行った先に、とんでもないものがあった。

 

・・・アタイ達の目の前に現れたのは、大量の木の実の山。

 

アタイの何倍もある高さに木の実が積まれていた。

 

しかも、たくさん。

 

アタイ達の丁度目の前にあるものだけじゃ無くて、その山の後ろにもいくつも積まれている。

 

・・・いや、木の実の量だけじゃない。

 

青いオレンジに水色のイチゴ、ピンク色のバナナ。他にもタケノコみたいな形のとか、イガイガしたトマトとか、ハテナマークが付いた奴とか・・・他にも色々。

 

・・・こんな木の実見たこと無い。

 

ビックリしたのはそれだけじゃ無くて、ポケモンも。

 

アタイの前と後ろを歩いていたポケモンと同じポケモンが、辺りに何匹もいる。

 

ポケモンはその山に群がって木の実を食べている。アタイ達と一緒だった二匹もそれに参加した。

 

「木の実なのだーっ!」

 

そしてルーミアも。

 

「ちょっ、ルーミア!?」

 

ルーミアはポケモン達に混ざって、得体の知れない木の実に手を伸ばした。

 

ルーミアが手に取ったのは周りに深い毛が生えた緑色の木の実。

 

ルーミアはそれに齧り付く。

 

そして一秒で叫んだ。

 

「美味しいのだー!」

 

「ほ・・・本当なんでしょうね!?」

 

釣られて同じ種類の木の実を山の中から取り出して、食べてみた。

 

「・・・うぇっ!?苦っ!?・・・でも美味しいかも!」

 

苦くて少し酸っぱいのに、なぜか美味しい。

 

「じゃ、じゃあ私も・・・。」

 

大ちゃんが手に取ったのは実が半回転カールしているピンクの木の実。

 

「・・・甘くて美味しい!」

 

一口齧って好きになったみたいで、残りはすぐに大ちゃんの口に消えた。

 

「・・・ぶっ!?」

 

一瞬、変な声が聞こえたかと思ったら、リグルがオレンジ色の木の実を齧ったまま固まっている。

 

「どうしたのだー?」

 

二種類目の木の実も食べてご機嫌のルーミアが駆け寄った。

 

「かっ・・・かっ・・・。」

 

「かー?」

 

「からぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「うわわわわわ!?リグルが!リグルが壊れたのかぁーっ!?」

 

リグルが絶叫した。ついでにルーミアは混乱した。

 

「辛い!?木の実が!?」

 

「ええっ、どうしよう!?」

 

アタイと大ちゃんも揃って混乱。

 

「かっ・・・かはいはふ!」

 

「何て言ってるの〜!?」

 

「大ちゃんに分からないならアタイに分かる訳無いじゃん!」

 

「はふいはふへい!」

 

「どうすれば良いのかぁーっ!?」

 

「あわわわわ・・・。」

 

もう何が何だか分からない。

 

「ゴ〜ン!」

 

場違いに呑気な鳴き声に横を向くと、さっきアタイ達を案内してくれたポケモン・・・かどうかは分からないけど、少なくともそれと同じ種類のポケモンが何かを差し出している。

 

「・・・桃?」

 

桃。少し小さい気もするけど、確かに桃。

 

「はひはほっ!」

 

リグルは何か言って、桃をすぐ受け取って食べた。

 

「・・・ふぃ〜っ。助かった。」

 

しばらくして桃を飲み込んだリグルは、舌を引っ込めて、いつもの状態に戻った。

 

「大丈夫?リグル君。」

 

大ちゃんが不安気に話しかける。

 

「ごめんね慌てさせちゃって。でももう大丈夫。甘い桃を食べたら辛さが引いたよ。」

 

「良かったのだー。」

 

「本当よ!」

 

「・・・木の実の中には辛いものもあるんだ・・・。気を付けないと。」

 

「でも、ここにある木の実って美味しいものが多くない?さっきの毛が生えた木の実も苦かったけど美味しかったし。」

 

「そーなのだー!」

 

アタイの言葉にはルーミアが一番反応した。ルーミアがさっきの辛い木の実食べても平気そうね・・・。

 

「もしかしてこのポケモン達って、僕達にケンカを止めて欲しいからここに案内したのかもね。」

 

「またリグルが難しいことを・・・。アタイ達、ケンカ何かしてないのに。」

 

「いや、単純だよ。あのポケモンは単に僕達がケンカしているように見えただけ。チルノちゃん一人を責めちゃったし。」

 

「うーん・・・やっぱりリグルの言うことは難しくて分からないや。」

 

 

 

 

 

 

「あら、誰かと思ったら、アンタ達だったの。」

 

 

 

 

 

 

「うわっ!」

 

突然、隣から三人以外の話し声がした。

 

よく聞いたことがある声。

 

横を見てみる。

 

紅白の巫女服に頭のリボン。

 

「・・・霊夢?」




木の実の要素初登場。残念ながらバトルでの使用はしてませんが。

木の実、人間が食べても大丈夫なら妖精も大丈夫です・・・よね?

後半に登場した四つの木の実、種類は分かりましたか?オレンジ色の奴だけ候補が色々ありそうですが、それ以外は簡単かな?

では。


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第一二話 闇夜の決闘

某北海道大学まで学校祭に行って来ました。

そこで色々キャラをモチーフにしたノンアルカクテルを出しながらひたすらニコニコ動画を流すBARがありまして、楽しかったです。本当に。

チルノ美味かったぜ!←これが言いたかっただけ

さてこっちでもチルノのターン。

それでは、本編どうぞ。





視点:霊夢

 

「うわっ!」

 

隣から聞こえた声の主は・・・チルノだ。いつも一緒にいる大妖精に加え、リグルとルーミアも一緒のようだ。

 

「・・・霊夢?なんであんたがここに!?」

 

それはこっちのセリフなのだが。

 

「あんた達こそ四人揃ってなんでここにいるのよ?あんたらも因縁持ち?」

 

「いんねん?何それ?」

 

チルノには難しい言葉だったようだ。

 

「つまりはゴンベに何かされたのか、ってことよ。」

 

「ごんべ?」

 

「あら、知らなかったかしら?ゴンベはあのポケモンのことよ。」

 

隣でベーゴマのような木の実を千切って食べているポケモンを指差して言う。例の深緑の熊だ。

 

「なるほど。あのポケモン、ゴンベって言うのね。アタイもまた一つ賢くなったわ!」

 

「名前一つで大袈裟ね・・・。その様子じゃ、何にも無いみたいだけど。」

 

「いやいや、あのポケモンはアタイ達をこの木の実がたくさんある場所に連れて行ってくれたのよ!」

 

「連れて行ってくれた?」

 

「うん。ガンボ、アタイ達をここまで案内してくれたの。二匹で。」

 

「ガンボじゃ無くてゴンベよ。どうやったら短時間でそうなるのよ。・・・そう言うことならこんな夜遅くにあんたらが固まってたのも納得出来るわね。」

 

多分、こいつらは最初霧の湖辺りで遊んでた。そこから紆余曲折あってゴンベに目を付けられて、ここまで案内された、と。その間に時間が経ったんだろう。

 

「そう言えば、あんたらはどうやってポケモンを知ったの?人里でポケモン勝負でも見た?」

 

「人里でも見たけど、その前にあの人が教えてくれたの。えーと・・・魔法の森の近くに住んでる・・・えーと・・・りん・・・何だっけ?」

 

「・・・霖之助さん?」

 

「あっ、そうそう、そんな名前だったわね!」

 

「こんな大人数で香霖堂まで押し掛けて邪魔にされなかったの?」

 

言った後、香霖堂の閑古鳥の鳴きっぷりだったら大丈夫か、とも思ったが、帰って来たのは予想の斜め上だった。

 

「ん?アタイ、お店までは行ってないよ?」

 

「・・・えっ?」

 

「霖之助が霧の湖まで来て、モンスターボールとかをアタイ達にくれたんだよ!」

 

「霖之助さんが?」

 

「うん!」

 

・・・信用して良いのだろうか。

 

「・・・あんたらはその時一緒だったの?」

 

残りの三人に振ってみた。

 

「えっと、はい。私もその時にモンスターボール貰いました。」

 

「僕も。」

 

「なのだー。」

 

・・・信用して良いみたいだ。

 

「そう・・・霖之助さんがねぇ・・・。」

 

あのインドア派の霖之助さんがわざわざ営業に出るなんて・・・普通じゃない。それこそ異変じゃないのか。

 

「じゃあそう言う霊夢は何しに来たのよ?」

 

色々考えたい所ではあるが、今はこいつらの相手をしなければならないようだ。

 

「私?私は異変調査の一端よ。こいつが行く所行く所食べ物盗み歩いてたから、妖怪と同じように退治しに来たんだけど・・・その必要も無くなったみたいね。」

 

目の前にある大量の見たことが無い木の実の山。これもポケモンと同じように外界出身、それにゴンベが一心不乱に食べているのを見るとゴンベの好物だけを集めているのかも知れない。

 

ここに来る途中でもそれなりの数を見かけた。ゴンベがどれだけの木の実を一日に消費するかは分からないが、ゴンベの鋼腹でも少なくとも三、四ヶ月は持ちそうだ。

 

解決の方法も経緯も違和感しか無いが、一応これで異変は解決したことになる。しかし、異変が解決されてしまったからこそ、その調査を続けなければならないパラドックス。誰かは知らないけど、面倒なことをしてくれたもんね。

 

「・・・さて、ここからは私の仕事よ。あまり遅くまで残ってちゃ私の面目が持たないわ。早い所帰りなさい。」

 

「そーなのかー。」

 

「うん、その方が良いみたいだね。皆、帰ろう。」

 

ルーミアとリグルには分かって貰えたようだ。しかし・・・。

 

「待って!」

 

急に発せられた言葉に、辺りに静寂が走る。

 

発言者は見なくても分かる。チルノだ。

 

「ここをちょーさする何てこと、アタイが許さないから!」

 

「・・・やっぱり噛み付いて来たか。」

 

この通り、チルノは何にでも首を突っ込みたがる。それだけならまだ良いにしても、身体より先に動く頭が無い・・・って言うかそもそも頭が無いから扱いにくいことこの上無い。だからいつもチルノだけには異変を嗅ぎ付かれないように注意を払っているのだが・・・今回は失敗。

 

こうなったらいつものように実力行使で・・・。

 

「・・・チルノちゃん、どうして霊夢さんの邪魔になるようなことしようとするの・・・?」

 

おっ?良いぞ大妖精。流石のチルノも大親友の大ちゃんにこの言われようじゃ堪んないんじゃないかしら?

 

「だって大ちゃん、このままじゃ霊夢にゴンベが何されるか分からないよ?」

 

「どう言うこと・・・?」

 

「アタイ知ってるもん。霊夢は異変解決のためだったら何でもするってこと!ゴンベだって追い払うかも知れないよ!?」

 

「えっ・・・!?そっ、そうなんですか!?霊夢さん!?」

 

「ええっ!?えぇーっと・・・それは・・・。」

 

・・・完全に否定できないのが悔しい。

 

実際、状況によればゴンベを追い払うことも考えたので、いいえと言えば嘘になる可能性があった。

 

「ほらっ!霊夢はきっと無理に解決するつもりなんだ!アタイ達に木の実を食べさせてくれたゴンベを、アタイは守る!」

 

だがチルノは多少過敏に反応しているようだ。飽くまでゴンベを取り除くのは最後の手段。

 

・・・元気があるのは良いことがだが、聞き分けが悪いとなると話は別だ。

 

私は解決者として、この異変を調査する義務がある。それがゴンベの平和を多少脅かすようなことがあっても、私的なことを優先する訳には行かない。

 

それでも頭から反抗するなら、やるべきことは一つ。

 

「・・・そんなに言うのなら、私とスペr」

 

 

 

 

 

 

「待ていっ!」

 

 

 

 

 

 

・・・またあの魔法使いが場を荒らしにやって来たか。やれやれ。

 

その魔法使い──魔理沙は颯爽と夜の森に降り立った。

 

手にはモンスターボール。中に入っているのは恐らく今日の昼神社を荒らしやがったあいつだろう。

 

「よう霊夢!調子どうだ?」

 

「あんたが来たおかげでたった今絶不調になったわ。早く引き取ってもらえないかしら?」

 

「・・・ちょっと前から遠くから見てたんだが、トラブルになってるみたいだな?」

 

ガン無視・・・?

 

「・・・話が分からないなんて、もしかしてあんたもその妖精と同族になったの?話が面倒臭くなる前に帰って欲しいんだけど。」

 

「むむむ・・・⑨妖精にだけは一緒にされたくないz」

 

「おい魔理沙ぁっ!⑨って言うなーっ!」

 

いきなり横からチルノが飛び出したが、魔理沙はそれを片手であしらった・・・と言うか掴んだ。

 

「言うなって言ったって・・・本当に⑨の奴が言っても効き目無いと思うぜ?」

 

「離せぇ〜っ!」

 

魔理沙はチルノを離さないまま、 やれやれとした様子で続ける。

 

「とにかく霊夢、お前はこのいざこざを弾幕勝負でケリ付けようとしてないだろうな?」

 

「愚問ね。当たり前じゃないの。他に何も無いわ。」

 

「・・・全く、お前は異変解決者としての自覚がさらさら無いな。こう言うポケモンが原因で起こった問題は・・・。」

 

「──ポケモン勝負でケリを付けろ、って言いたいんでしょ?」

 

「おう!理解が早くて助かr」

 

「駄目よ駄目。スペルカードルールを粗末にしちゃ、それこそ博麗の巫女の名折れだわ。」

 

「かぁ〜っ!頭固過ぎるぜ霊夢!何のためにポケモン持ったんだっての!ってか私の話を遮るな!」

 

「・・・ねぇ霊夢。霊夢もポケモン持ってるの?」

 

「持ってるわよ。まだ一匹だけだけど。」

 

「そうなの!?じゃあアタイも霊夢とポケモンで戦いたい!それで霊夢を倒す!」

 

「・・・チルノ。私がポケモンを持ったのはポケモンでの勝負に興味が出たから。それは認めるわ。でも幻想郷のトラブルは弾幕ごっこで解決するのが決まりごとなのよ。私はトラブル解決のためにポケモンを持ったんじゃないのよ。」

 

「ふーん・・・。」

 

「そういう訳だから。そこの魔法使い。帰りなさい。」

 

「いきなりかよっ!?ぐぬぬ・・・。だいたいよぉ、お前が妖精と弾幕勝負したって勝負になるのか!?」

 

「え゛っ!?ええ〜っと、それは・・・。」

 

・・・変な所で鋭い、この魔法使いは。

 

「おっ?何だ?言い返せないか?・・・はっはーん、お前ひょっとして、理屈云々じゃなくただ勝てるから弾幕勝負を推してるんじゃないのか?」

 

「ばっ!違うわよ!」

 

「えっ、霊夢そうなの!?」

 

「違うってば!」

 

「ほらほらぁ、声が荒くなってるぜぇ?図星かなぁ〜?」

 

「違うったら!私はただ巫女としての誇りを持ちたいだけなのよ!勘違いも程々にして欲しいわね!あんたは魔法使いの自覚無いわけ!?」

 

「人形使いだって幻想郷にいるんだから、魔法使いだって動物を使役して戦ってもおかしくないぜ!それこそ、負ける要素がない勝負で賭けをしてる方が人格疑うってもんだ!」

 

「ぐぎぎ・・・。」

 

ここまで言われてどうやって引けば良いのか・・・諦めるしか無いか。

 

「・・・分かったわよ!やればいいんでしょ!やれば!」

 

「ようやく言ったか・・・骨が折れるぜ・・・。」

 

「全く誰が引っ掻き回したせいかと思ってるんだか・・・。」

 

「えっと・・・ポケモン勝負するってことで良いの?」

 

「そうよ。チルノも早いとこ準備しなさい。」

 

遠くでリグルが「何だこの茶番・・・。」とか言ってたが、聞かなかったことにしよう。

 

「・・・それでチルノは何匹持ってるのかしら?」

 

そういえば未だにチルノは魔理沙の手の中だ。

 

「一匹!それだけで十分!」

 

「そう。じゃあ一対一ね。」

 

よく考えれば、対人戦はこれが初めてだ。・・・相手がチルノで良かった。弾幕ごっこじゃないにしても、こいつだったら勝ち濃厚だろう。

 

「頑張って、チルノちゃん!」

「そうだ!頑張れ!」

「なのだー!」

 

隣で大妖精達が応援している。本当に仲が良いんだな。あの子達。

 

「でも、ふぶきを使えなかった雪ん子で大丈夫なのかー?」

 

思い出したようにルーミアが呟いた。

 

「何かあったのか?」

 

「実はさっき四人で対決してたんですけど、チルノちゃんのポケモンの使ってた技が突然出なくなったんです・・・そういえば、大丈夫なのかな・・・。」

 

リグルにも不安が伝染した。

 

「・・・。」

 

案の定と言うか、大妖精が一瞬で暗く、不安に支配されているような表情になって応援を止めてしまった。

 

「だっ、大丈夫だよ大ちゃん!もし出なかったとしても、他の技だって強いんだから!」

 

「でも・・・!」

 

「大丈夫だって!心配しないで大ちゃん!」

 

「・・・。」

 

大妖精はまだ不安気に顔を伏せている。

 

・・・大妖精は間違い無くチルノを一番知っている人物だ。手を出すことも難しいこの状況では不安になるしかないのだろう。

 

 

 

 

 

 

「不安なら一緒に戦えば良いんじゃないのかー?」

 

 

 

 

 

 

「「「「「・・・!?」」」」」

 

ルーミアの言葉は全員を硬直させた。

 

今まで(今朝からだが)ではポケモン勝負は一対一が常識。

 

しかしルーミアはそれを無視した提案をしたのだ。固まるのも当たり前だろう。

 

「・・・それ、面白そうじゃないか!」

最初に食い付いたのは部外者であるはずの魔理沙だ。全く、とことん場を荒らす・・・。

 

「・・・そうか・・・一人で敵わなそうなら二人でやればいいんだ!」

 

次いでチルノに元気を与えた。

 

・・・嫌な予感がする。

 

「・・・チルノ?もしかしt」

 

「大ちゃん!手伝ってくれる!?」

 

「ちょっと!話聞きなさい!」

 

「うっ・・・うん!」

 

「大妖精まで!?常識あると思ってたのに!?」

 

「・・・私、チルノちゃんを守りたいから・・・!」

 

そうだ・・・この子、チルノの為なら何でもする子だったんだ・・・!

 

「でっでも、流石に一対二は卑怯なんじゃないの!?」

 

「じゃあ・・・二対二だったらフェアなのか?」

 

魔理沙が片手のモンスターボールを見せびらかした。

 

「・・・もしかして、私はあんたと組めって言ってるの?」

 

「もっちろんだぜ!」

 

もう、これは。

 

動けない。

 

「分かったわよ・・・。幸か不幸かか、魔理沙と組むのは慣れてるしね。」

 

もうどうにでもなれ。チルノだろうと大妖精だろうとまとめて蹴散らしてやるわ。

 

魔理沙はようやく手に持っていたチルノを放して、空いた手の方にボールを持ち替える。チルノも私達の真正面で大妖精と並んだ。

 

「お互い、使うポケモンは一人一匹ずつ!そして、それらのポケモンを同時に出して戦う!それで良いかしら?」

 

「おうっ!」「うんっ!」「はいっ!」

 

私達は、それぞれ思い思いのボールを手にする。

 

私と魔理沙。

 

チルノと大妖精。

 

どちらが勝つのか、これは本当に分からないかも・・・。

 

いや。

 

私の誇りにかけても、

 

これは負けられない。

 

私達は、まずパートナーを。そして次に相手を見てからボールを投げた。

 

「行けっ!フォッコ!」

「出番だピカチュウ!」

 

「行っけーっ!雪ん子!」

「頑張って、ヒラちゃん!」

 

四人がそれぞれ投げたモンスターボールは空中で同時に炸裂した。

 

「フォッコッ!」

「ピカチュウ!」

 

「バニプッ!」

「シュシュッ!」

 

放たれた四匹のポケモンもまた、パートナーと相手の顔を見た。

 

No.582 バニプッチ しんせつポケモン

こおりタイプ

高さ0.4m 重さ5.8kg

朝日を浴びた氷柱から生まれたとされるポケモン。吐く息は-50℃にもなる。

 

No.682 シュシュプ こうすいポケモン

フェアリータイプ

高さ0.2m 重さ0.5kg

いつも身体全体から香水のような香りが漂っている。食べるものによって香りを操作することができる。

 

「ってあんたも図鑑持ってたのね。いつから?」

 

「あれ?言ってなかったか?今朝からだぜ。」

 

「おーいっ!始めるよー!」

 

「おっと、開戦のようだぜ。」

 

私達は正面を向き返り、二人と二匹を見据えた。

 

 

 

 

 

 

しばし、沈黙。

 

 

 

 

 

 

「じゃあリグル!お願い!」

 

リグルは手を軽く挙げてチルノに応えると、真剣な顔で宣言した。

 

 

 

 

 

 

「それでは、フォッコ・ピカチュウ対雪ん子・ヒラちゃん、戦闘開始!」

 

 

 

 

 

 

「行っけーっ、ふぶき!」

 

宣言が出されるや否や、チルノは雪ん子に技を指示した。

 

ふぶき・・・かなり危なそうな響きね・・・!どうなるか・・・!

 

 

 

 

 

 

「「「「「「・・・。」」」」」」

 

 

 

 

 

 

・・・出てきたのはチルノの叫びのエコーだけだった。

 

「・・・あっ、忘れてた。この技出せないんだっけ。」

 

私を含む全員、盛大にずっこけた。

 

「・・・おいおい、技が出ないから二対二にしたのに、忘れるってあるのか?油断してるようなら、こっちから行くぜ!10まんボルト!」

 

「ピカ・・・チューッ!」

 

魔理沙のピカチュウはミス何ぞ無かったように雪ん子に向かってかなり威力の強そうな電撃を放った。

 

「あっ!避けて雪ん子!」

 

「パニプッ!」

 

雪ん子はふわっと電撃を避ける。電撃を受けた地面は黒く焦げた。

 

「うわっ!すっごい強い電気だねそれ!」

 

「ふふん、ポケモンはパワーだぜ☆」

 

「あんたは何でもパワーね・・・。」

 

「こっちからも行くよ!雪ん子!れいとうビーム!」

 

「パニィ!」

 

雪ん子の口から氷の光線が放たれる。

 

「この程度のスピード、フォッコが避けるには造作もないわ!」

 

「同じくだぜ!」

 

言葉通り、フォッコもピカチュウもれいとうビームを避け切った。

 

よしよし、ちゃんと戦えてるわねフォッコ!

 

「むっ、もう一回!」

 

「パニィー!」

 

雪ん子はれいとうビームを連発した。しかし相手がこっちより遅かったのも手助けして、避け続ける私達のポケモンを捉えることはできなかったようだ。

 

よし、このまま行けば、勝てる!

 

しかし。

 

 

 

 

 

 

「ヒラちゃん、トリックルーム!」

 

 

 

 

 

 

今まで蚊帳の外だった大妖精が唐突に技を指示した。

 

「シュシューッ!」

 

そしてヒラちゃんから波動が拡散したかと思うと・・・。

 

「「・・・!?」」

 

いきなりフォッコとピカチュウの動きが鈍った。

 

「ピカッ!?」

 

今までヒラヒラ避けてたビームが避けられずに、ピカチュウが少しビームを受けてしまった。ピカチュウの肌が少し凍りつく。

 

「なっ!?」

 

流石に魔理沙も驚きが隠せない。

 

私もだ。

 

それに・・・。

 

「大ちゃん凄い!相手も遅くなってるし、こっちは素早くなってる!」

 

そうだ。

 

今まで素早かった私達が遅くなり、遅かった相手が素早くなっている。

 

 

 

 

 

 

まるで、素早さが逆転しているような・・・。

 

 

 

 

 

 

正面を見ると、微笑を浮かべた大妖精。まさか、トリックルームって・・・!

 

「ヒラちゃん、ムーンフォース!」

 

「シュシュプーッ!」

 

「!?」

 

私が思案したその瞬間、ヒラちゃんは技を放った。月のような黄金色の光がフォッコを襲う。

 

「避けてっ!」

 

しかし、私の叫びは届かず、と言うか鈍くなったフォッコの動きが間に合わず、

 

「コーッ!」

 

フォッコはムーンフォースをモロに食らった。

 

「フォッコ!」

 

だが私のフォッコは一撃で倒れる位ヤワじゃない。攻撃を受けた直後も、空中で態勢を変えて地面に着地する。

 

危なかった・・・考え過ぎたせいで前が見えなくなっていた。

 

そして・・・未だに素早さが逆転する現象──トリックルームが解けていない。

 

「こっちの動きをノロくした所で、またピカチュウにそのビームを当てられるか?」

 

「駄目!油断しないで魔理沙!これは多分、元々素早ければ素早い程不利になると思うわ!」

 

「むっ・・・なら相手の動きを止めるまでだ!ピカチュウ、でんじは!」

 

「ピカッ!」

 

雪ん子のれいとうビームを避けつつ、ピカチュウは細かいでんじはを放った。

 

「パニッ!?」

 

素早く放たれたでんじはは雪ん子にうまくヒットし、動きを止めた。よく見ると身体が小刻みに震えている。

 

「よっし、上手いことまひしてくれたみたいだな。」

 

「雪ん子!大丈夫!?」

 

「よし今だ!ピカチュウ、10まんボルト!」

 

動かない雪ん子に向かって稲妻が輝いた。

 

これで一匹仕留めたか・・・!?

 

「危ない!雪ん子!みがわり!」

 

「バ・・・バニッ!」

 

稲妻が雪ん子を貫く瞬間、チルノが技を宣言した。すると一瞬で雪ん子の目の前に獣人形のようなものが現れ、稲妻を受け止めた。

 

「またか!次は何だぜ!?」

 

稲妻を受けた人形はそのまま消滅。

 

「なるほどー!みがわりはこう使うんだね!」

 

「ちょっ、初めて使ったのその技!?」

 

「ん?そうだよ。今までふぶきしか使ってなかったし。」

 

「あいつ・・・何でこの時に限って⑨じゃないのよ!?」

 

「⑨って言うなーっ!雪ん子!れいとうビーム!」

 

「バ・・・ニ・・・。」

 

雪ん子は動けない。

 

「あれっ!?どうしたの雪ん子!?」

 

「ふふっ、さっきこそ動かれちまったが、でんじはでまひすると動きが鈍り、ひどい時には止まる!これで私達のチャンスだぜ!」

 

「何ぃーっ!?がっ、頑張れ雪ん子!」

 

「ふふん、応援した所で痺れを取らないとどうにもならないわよ!よしっ、次は私g」

 

「ヒラちゃん!アロマセラピー!」

 

「だから被るなったら!」

 

大妖精が私を遮ってまで出した技も見たことがない技だ。

 

「シュシュシュシーッ!」

 

ヒラちゃんが振り撒いた霧が雪ん子を包む。そして・・・。

 

「バニプッチッ!」

 

霧を元気良く払った雪ん子の痺れは完全に無くなっていた。

 

アロマセラピーは回復技か・・・。

 

「う・・・まさかまひを突破するとは・・・。」

 

魔理沙も心底驚いている。

 

しかし私は、不利な戦況を目の当たりにしながら先程の大妖精の言葉を思い出していた。

 

──私、チルノちゃんを守りたいから・・・!

 

大妖精は言葉通り、自らのポケモンの技を完全に把握し、最初からひたすらチルノのサポートに回っているのだ。

 

これも、チルノへの大妖精の「想い」なのだろうか。

 

残念ながら、魔理沙への私の「想い」なんて持ち合わせていない。そんなのまっぴら御免だ。しかし・・・。

 

「へっ・・・面白くなってきたじゃないか。これだけ壁が大きくなきゃ、私達の力は出せない・・・なぁ?霊夢?」

 

「・・・そうね。ようやく七割位の力を出せそうだわ。私達、でね。」

 

想いは無くとも縁はある。そしてそれを使って異変を解決してきた。それが私達だ。

 

「おおーっ、霊夢も魔理沙もカッコいい!でも、勝ちはアタイ達が貰うよ!雪ん子、れいとうビーム!」

 

「バニッ!」

 

雪ん子は再びれいとうビームの攻撃を開始した。フォッコとピカチュウの二匹はもはや言わずともビームを避ける。まだトリックルームの影響が残っているが、しかし・・・。

 

「コッ!」

「ピカッ!」

 

空間が少し震えたかと思うと二匹のスピードが突然元に戻った。よし、トリックルームが解けた!

 

「あっ、解けちゃった!ヒラちゃん、もう一度・・・!」

 

「待ちなさい!今度は私が、おにび!」

 

「フォッコッ!」

 

フォッコは私の指示通り、戻った素早さでスキを見出しておにびを放った。

 

「パッ!?」

 

れいとうビームの雨が止む。

 

「あっ、雪ん子!」

 

雪ん子にヒットしたおにびは着火部に赤い傷を残した。

 

「フォッコのおにびは火量こそ少なかれ高温よ。当たったらやけど必至でしょうね!」

 

そして私は魔理沙とアイコンタクトを交わす。

 

「やけどっ!?いけない!ヒラちゃん!アロマセラピー!」

 

「シュシュシューッ!」

 

さっきと同じように、ヒラちゃんから出た霧が雪ん子を包む。

 

霧が晴れたら、雪ん子のやけどは全快していた。

 

 

 

 

 

 

計画通り。

 

 

 

 

 

 

「かかったな!ピカチュウ、アンコール!」

 

「「アンコール!?」」

 

二人の声がシンクロした。そしてヒラちゃんの前に出たピカチュウは・・・。

 

「ピーカッ!チュッ!ピーカッ!チュッ!ピーカッ!チュッ!」

 

・・・文字通りアンコールを始めた。具体的にはコールをしながらの手拍子だ。

 

「「・・・。」」

 

チルノと大妖精はあんぐりしている。しかし気を取り直したのか、

 

「・・・ヒラちゃん、トリックルーム!」

 

大妖精が技を指示した。

 

しかし。

 

 

 

 

 

 

「「・・・。」」

 

 

 

 

 

 

チルノが出せなかったと言う技を出そうとした時のデジャヴのように、流れたのは静寂だけ。

 

さらに。

 

「シュシュ・・・ッ。」

 

ヒラちゃんは何だか頬を染めてもじもじしている。言うなれば、照れている感じに。

 

私と魔理沙は互いをちらっと見た。

 

さっきも見た、その目つき。

 

 

 

 

 

 

やっぱり成功していた。

 

 

 

 

 

 

そして、

 

「シュシュシューッ!」

 

・・・ヒラちゃんが出した技は、

 

トリックルームではなく、

 

アロマセラピー。

 

行き場を失った霧が空中に消える。

 

理由は簡単。ヒラちゃんがピカチュウのアンコールに応えたのだ。

 

「・・・ええっ!?ど、どうしてっ!?」

 

一拍子置いて、まず驚き声を出したのはチルノ。それに魔理沙が答える。

 

「へっへーん!アンコールを受けたポケモンは直前に使った技しか使えなくなるんだぜ!」

 

「なぁっ、何ぃーっ!?」

 

「行くぞピカチュウ!10まんボルト!」

「フォッコも、だいもんじ!」

 

「ピカ・・・チューッ!」

「フォッコーッ!」

 

二匹は同時に大技を放つ。

 

その二つの大技を、突然の事態とやけどが相まってオロオロしていた雪ん子となぜか恍惚な表情をしていたヒラちゃんの二匹がトリックルーム状態ではない時に避けられる訳も無い。

 

まず稲妻が二匹を襲い、その上に大の字の火炎が被さった。

 

「バニィーッ!」

「シュプーッ!」

 

後に残ったのは、黒焦げのグルグル目で倒れ込む雪ん子とヒラちゃんだけ。

 

「決着!雪ん子・ヒラちゃん、戦闘不能!勝者、フォッコ・ピカチュウ!」

 

「「私達こそ、人生の勝利者よ(だぜ)!」」




SS内初マルチバトル、レイマリ対大チルでした。大ちゃんは健気にチルノを護る良い子です。

後々気が付いたことですが、バニプッチとシュシュプの図鑑番号は丁度100違い。ベストタッグじゃ無かろうか?

因みに霊夢はまだ「状態異常」の概念を正確には知っていません。最後のアンコール固めが成功した決め手は勘。

では。


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第一三話 異変を読み解く

整理回。異変の謎に迫ります。

それでは、本編どうぞ。





視点:霊夢

 

「絶対、ゴンベを虐めるようなことしないでね!」

 

「はいはい、分かってるわよ。ほら、もたもたしてると友達に置いてかれるわよ?」

 

「・・・絶対だよ!」

 

チルノは名残惜しそうにゴンベを見た後、先に帰って行った大妖精達の後を追って飛び立った。

 

「・・・ふぅ。やっと帰ってくれたわね。」

 

「意外と面倒見良いんだよな、霊夢って。」

 

さっきから私がチルノ達に手を焼いている様子を、助けるも無く見ていた魔理沙。問題源が飛び立ったタイミングで話しかけて来た。

 

アンタも手伝いなさいよ、と一言言いたい所だが、ここはぐっと我慢して。

 

「そうかしら?私はただ最低限の所まで放っていないだけよ。」

 

「だったら霊夢の中の最低ラインが高いってことだ。腐っても巫女なことはある。」

 

「腐っても・・・か。的確に言ってくれるわね?」

 

「ん?私は半分ふざけて言ったんだが・・・新手の自虐か?」

 

「自虐じゃ無くて事実よ。第一、私巫女の仕事とかほとんどしてないもの。」

 

「へっ?・・・確かに、霊夢の仕事って言ったら異変解決だが・・・まさか本当に全然仕事してないのか!?」

 

「ええ。誰にも頼まれないから。だからいつも賽銭箱が空なのよ。」

 

「お前それでよく生活できてるな・・・。」

 

「それ、私自身不思議でたまらないのよね。収入がほとんど貰い物なのは自分でもどうかと思うわ。」

 

「収入のほとんどが貰い物って・・・想像難し過ぎて何とも言えないぜ。」

 

どうやら私の謎が増えてしまったようだが、閑話休題。

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前の木の実の山が、私達に異変の到来を告げる。

 

もちろん、木の実の山、という表現は何の比喩でも無い。実際に木の実が山状に積まれている。

 

幅は私が手を広げてだいたい三人分。高さは・・・私の身長より少しある程度だろうか?

 

何の前触れも無く森に現れた、謎だらけの存在。

 

量も種類も無駄に豊富で、しかし一つとして見覚えが無い。おまけに山の数も相当。木の実の総数は想像も付かない。

 

恐らくは、全て外界出身。幻想郷に元々無い木の実と言うことなんだろう。

 

ただ、私達がよく知っている、幻想郷で普通に食べられている果物と良く似たものも少し混ざっているのだ。

 

例えば空色のイチゴ。普通のイチゴは熟れる前にしろ後にしろどう頑張っても空色にはなり得ない。もちろん、塗料を使っているような様子も無い。外界の別種のようだ。

 

全部が全部似てはいないのだが、青いミカンとか、黄色いカブとか、一部のそんな木の実のせいで全体で毒々しい印象を受ける。

 

「一応聞いておくけど魔理沙。こんな木の実は見たことある?」

 

「一応答えるが霊夢。無いぜ。」

 

「だよねぇ。やっぱりこれらって、外界産かしら?」

 

「それっぽいな。美味いのかな?」

 

確かに木の実だし、この発想が来るのは必然か。

 

「・・・食べるの?」

 

「一つ位毒味した所でバチは当たらんだろう。ど・れ・に・し・よ・う・か・な・・・。」

 

魔理沙は一つ一つ指差して木の実の選考を始めた。

 

「・・・鉄・砲・打っ・て、バン・バン・バン!っと、これか。」

 

魔理沙が厳正な審査の結果手に取ったのは、丸く整ったピンク色で小さなヘタが付いた木の実。あまり大きくは無かった。

 

「どれどれ、味は如何程か・・・ん?」

 

ヘタの部分を持って食べる気満々だった魔理沙だが、何かに気が付いたのか、ポケットから図鑑を取り出した。

 

「あら・・・私もだわ。」

 

魔理沙が取り出し、初めて私の図鑑も反応していることに気が付いた。

 

「こいつポケモンなのか!?」

 

「そうなのかしら・・・。」

 

図鑑を開いてみる。

 

No.23 ゴスのみ

うっとりする甘さの奥で微かに感じる大人の苦さ。ポケモンも大満足の味。

 

図鑑には、目の前と同じようなピンクで丸い木の実とそのデータが表示されていた。ポケモンの書き方とは相違点が多い。

 

目を引いたのは正六角形の形のグラフ。六つの頂点にそれぞれ甘みや渋み等味の種が書かれ、六角形の中心から伸びるものの長さでそれぞれの味の強さを表しているようだ。この木の実は甘みと苦みに大きく振られている。

 

木の実まで正確に分離できるとは、外界の道具はますますハイテクで多機能だ。

 

「ポケモンの書き方とは違うみたいだな。ポケモンって訳じゃ無さそうで安心したぜ。・・・よし、本当に甘くて苦いかどうか、本当に食べるとするか。」

 

魔理沙は改めて木の実のヘタの部分を持ち、果肉の部分を一口で齧り取った。

 

しばらく魔理沙が木の実を咀嚼するだけの空間が広がった。

 

「・・・うん、若干苦いが、甘さが強くて美味いな。」

 

「データの通りね。これでハッキリした、この木の実は外界出身。もう言い逃れようが無いわ。」

 

「そうみたいだな。これでこの現象が異変だってこともハッキリしたってことだ。」

 

魔理沙は一度うんうんと頷いてから続けた。

 

「それにしても・・・今日だけで異変起こり過ぎじゃないか?私の知る内では、これで三回目だぞ?」

 

「私の認識でもそうね。それも、全部裏では繋がってる。」

 

「こんなに複雑なのも初めてだな。・・・よし、整理しようじゃないか。」

 

「何をよ?」

 

「だから、三つの異変をだよ。目の前に絡み合った紐があって解かない奴がいるか?」

 

「残念だけど、私が頭の中じゃ三本纏めてもう真っ直ぐに並んでるわ。それに、今話すべきなのはその内の一本だけ。それなら絡まってても何とか分からないものかしら?」

 

「一理あるが、その紐に捻れでもあったらどうするつもりだ?」

 

「捻れ・・・何の比喩かしら?」

 

「おいおい、皮肉か?捻れは捻れだ。認識の捻れ、意見の捻れ、色々あるだろ?」

 

「む・・・。」

 

なるほど確かに。上手く言い返す言葉も見つからない。

 

「・・・分かったわ。もう一度最初から見直して行きましょうか。」

 

「よっしゃ、そう来なくちゃな!」

 

魔理沙は嬉しそうに手を一回叩き、その後右手の人差し指だけを立てた。

 

「まず一本目の紐だな。」

 

「最初の異変、『ポケモンが大量に幻想入りした異変』ね。便宜上、『異変①』とでもしておきましょうか。」

 

軽く纏めると、昨日の深夜あるいは今日の早朝から、元々幻想郷にいなかったと思われる動物が、恐らく外界から幻想郷に大量に来た。その動物達の種類は様々だったが、外界で全部引っ括めてポケモンと呼ばれているらしく、その呼び方が定着した。

 

・・・纏めてみると曖昧過ぎる。良く考えれば殆ど憶測じゃないか。

 

まぁ、この動物が外界でどう呼ばれていようと最早私達にはどうしようも無いのだが。

 

「じゃあそれに則って言うぜ。異変①は言わば大元の異変だ。異変①が無きゃ、後の二つの異変は起こり得なかった訳だからな。」

 

「そうね。もっと言うなら、多分幻想郷に一番影響を与えたものでもあるんでしょうね。」

 

今まで数々異変を経験して来たが、人里の人間がここまで異変に動かされる例は他に無い。

 

「ああ。命綱クラスの太さだぜ、この紐は。」

 

「紐はもう良いのよ。・・・問題は異変主の足が全然掴めないことよ。大体見当は付いてるんだけど。」

 

「紫だな?結局今日一日中顔を見せなかったな。」

 

「そう。冬時でも無いのにね。誰の目の前にも現れないのはそれだけで自分が犯人だって言ってるようなもんなんだけど、現れないせいで聞き出すこともできないからもどかしいのよねぇ・・・。」

 

紫は毎年冬場になると冬眠しているらしい。私自身その現場を見たことは無いので完全に本人談だが、実際紫は冬場には姿を見せない。

 

良く考えると、そこそこ頻繁に顔を合わせていた私でさえ紫が普段どこで生活しているのか分からない。どうやったら足取りを掴めるんだろうか・・・。

 

「まぁとりあえず、紫の件は置いておこう。今ここにいない奴の話をした所で意義は無いしな。重要なことは、今何が起こってるか、だぜ。」

 

魔理沙の言葉はもっともだが、何だか引っ掛かる・・・考えないようにしようか。

 

「異変①のせいで起こったことって言ったら・・・ポケモン勝負が大流行したわね。これに尽きるわ。」

 

「そりゃもうな。人里に午前中に道具を広めた霖之助も大したもんだよ。」

 

「道具・・・あぁ、ボールか。確かにね。」

 

霖之助さんはポケモンを捕まえる為の道具、モンスターボールを配っていた。一応商人としてだが、一人五個までタダ。

 

今日の午後の魔理沙の話によると、人里の人間は昼頃辺りには既にポケモン勝負が始まっていた。それより前に人里にボールを広めたのだから大したものだ。

 

「・・・そう言えば、チルノ達はわざわざ出向いて来た霖之助さんにボールを貰ったとか言ってたっけ。」

 

「おっ、それ私知らなかったぞ。捻れ第一号、発見だな。」

 

「そんな鬼の首を取ったように言わなくても良くない?」

 

「まぁまぁ。それは置いといて。今までの話を踏まえると、霖之助は人里まで営業に出てたみたいだな。珍しいことだ。」

 

「私もそう思う。と言うか、私はもっと大袈裟に──霖之助さんがそんなことするか?って考えてたわ。」

 

「・・・確かに、霖之助相手だとそれも大袈裟じゃ無い気もする。だが今日はポケモンが幻想入りした大変な日で、それもそれを捕まえられる道具を霖之助は持ってた。今日外に出て普段以上に道具を配れば、当然その日以外にも買いに来る人も増えるだろう。こう考えると自然な感じもまたあると思うんだ。」

 

「・・・。」

 

魔理沙の言葉・・・さっきと同じような違和感がする。勘が働いているの・・・?

 

「・・・霖之助さんってこんなに利益重視で動く人だったっけ?」

 

これだ。私はこれが気になってた。

 

霖之助さんはあまり利益を気にする性格じゃ無かったはずだ。

 

「・・・なるほど、そうか。確かに売れそうだからって店から出ようとしたとは思えないな。」

 

「何か他の理由があったのかしらね。」

 

自分から疑問を言って何だが、今の情報で判断が難しいものはスルーする他無い。

 

「もう他には論点は無いか?じゃあ、異変②だ。」

 

魔理沙は右手で二本指を作って二つ目の異変を示した。

 

「大量の食べ物が消失した異変。いかにも幻想郷らしい響きね。」

 

「響きだけはな。消失って言い方が誤解を生んでるぜ。何かの能力で消え去ったみたいじゃないか。」

 

「その通りじゃない?一匹で家一つの蓄えを食い尽くすって、普通はできることじゃ無いんだし。」

 

「言えてるな!・・・なぁ、ゴンベ。」

 

「ゴン?」

 

魔理沙は勢いで隣で木の実を食べていたゴンベを抱き上げようとした。

 

が、結果は言わずもがな。

 

「うぬ・・・ふんむ・・・ふんぬぬぬぬぬぬぬ!・・・重過ぎないかこいつ!?」

 

「食う子も寝る子と同じ位育つのよ。諦めなさい。」

 

「ぐっ・・・こいつも良く食べるなぁ。流石は異変主って所か。」

 

清々しい位堂々とした話題のすり替えで笑いそうになった。

 

異変②の概要をちゃちゃっと説明すると、幻想郷の一部の場所で食べ物が忽然と消えた。・・・これだけだが、ことの重大さは十分だろう。

 

そしてその犯人はポケモンのゴンベ。今木の実を一心不乱に食らっているのに代表して、とにかく大量に食べる食べる。そのせいで体重もメガ級。魔理沙が持ち上げられないのは相当だ。

 

一度に大量のゴンベが食事に入ったせいで、一部のゴンベが飯にありつこうと家まで進入して食べ物を漁った。その結果がこの異変。

 

「この異変も、ゴンベがいなきゃ起きなかったんだよな。」

 

「正確には、ポケモンがいなきゃ──異変①が起きなきゃだけどね。」

 

異変主が無ければ異変は起きない。異変②はそれがポケモンだっただけ。単純な話だ。

 

ポケモンが幻想入りして、一番最後に起こった幻想郷の不具合が異変②だった、とも捉えられるだろう。

 

「霊夢はあの後どうしてたんだよ?」

 

魔理沙が言う「あの後」は、今日の夕方博麗神社がゴンベに襲われた後。

 

「とりあえず人里に向かったわ。だけど誰も被害に遭って無かったのよ。」

 

「ふむ。理由の見当は付いてるのか?」

 

「ええ。博麗神社とかアンタの家の周りは自然だらけだけど、人里は違うから。自分が生活してる近くから攻めてたんだとと思うわ。」

 

「・・・ってことは、人里以外は殆ど被害に・・・。」

 

「まだ話すことある?無いわよね?」

 

「えっ、あ、おう。無いぜ。」

 

「そう良かった。さっさと三つ目に行きましょう。これが今一番大切なんだから。」

 

一瞬タブーが見えたが、すぐに影を潜めてくれたようで良かった。

 

魔理沙を真似て、親指、人差し指、中指の三本を立ててみる。

 

「異変③、森の中に突然、外来産らしい大量の木の実が現れた異変。やっとここまで来たわね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず状況整理と行きましょうか。」

 

目の前で起こっている異変に、辺りに若干緊張した空気が走る。

 

「とりあえず、チルノ達から聞いたことから話すわ。・・・今日の夕方頃、霧の湖近くで遊んでいると、ゴンベが一匹現れて手招きした。それに付いて行くと、木の実の山が乱立する場所まで辿り着いた。・・・正確に木の実が現れた時間は分からないけど、少なくともこの時間にはあったみたいね。」

 

「色々腑に落ちない点はあるな。・・・まず、ゴンベはどうして木の実の山がある場所が分かってたんだ?」

 

「一度行ったことがあったか、食べ物に対する五感が異様に鋭かったかどっちかね。・・・一緒に行ったゴンベも木の実食べてたらしいから、一つ目は無さそうだけど。」

 

「匂いを辿ったってか!それはもう驚きを越した呆れを越して頭が下がるぜ。」

 

「ゴンベがここまで貪欲なのは実際被害に遭った私達が一番知った事実じゃないの。今更言うことじゃ無いわ。」

 

「まぁ・・・それには何も言い返せないぜ。ゴンベだったらありそうだ。そんじゃ次の疑問だが、目的は何だ?いかにもゴンベの食糧被害を食い止めるように置かれてるが、それが目的か?」

 

「そうなんでしょうね。こんなひっそりした森の中に置いてもそれ位しか効果が望めないもの。木の実の数を見ても明らかよ。」

 

乱立している山の数は二十を軽く超え、木の実の総数は本当に多い。しかし、多過ぎる程の食糧が無いとゴンベの腹が文句を言うからこれ位が適量なのかも知れない。

 

「そうよなぁ。異変を解決するのに異変を起こすって、頭が良いのか悪いのかイマイチ分からんぜ。」

 

「解決するならするで一言言えば良いのにねぇ。それとも犯人には異変じゃ無きゃいけない事情でもあるのかしら?」

 

「そりゃおかしいぜ。自分がやりたいことが異変だった、ってのはよくある話だが、自分がしたことをわざと異変何かにした日にゃ腋出した巫女に八つ裂きにされるからな。」

 

「そうするつもりだけど、いかんせん足が掴めないから主に会うことも難しいわ。余計にストレス溜めさせるだけなのが分からないのかしら。」

 

「主の安否が思い遣られるぜ。八つ裂きがもっと惨い仕打ちに進化する前に解決するのを願うしか無いな。くわばらくわばら・・・。」

 

魔理沙は合掌しながら手をスリスリして呟いた。

 

「・・・まぁ、冗談はさておいて。真剣に犯人を探るわよ。」

 

「さっきの霊夢の殺気が冗談だとは思えないが・・・まぁ良いや。」

 

さらっと酷いことを言われたような気もするが、とりあえず魔理沙は顔を上げた。

 

「異変主って言っても候補は一人だ。そうだよな?」

 

「そう。アイツ一人。名前出す?」

 

「いや、要らないぜ。こうなると様式美だな、こりゃ。」

 

言うまでも無いが私達が疑っているのは紫だ。

 

「やっぱり、自分がしたことの責任でも取るつもりでやったのかしらね?」

 

紫が異変①の主犯とすると、異変②が起きたのも紫の所為だ。その後始末を取るのに異変③を起こした、と考えると筋が通る。

 

「それが今の所一番自然だな。責任を取り切れてるかどうかは別にして。」

 

本当に責任を取りたいなら被害に遭った家を探ってそこに木の実を送る位すると思うのだが。

 

「異変って少なからず誰かには迷惑を掛けるようなことなのに、紫はそれを食い止めようとした・・・大元の異変①を止めさせなく無かったのか?」

 

「そうなるのかしらね。・・・もしかして、わざわざ異変って言う形を取る理由って自分の身を隠すため?」

 

「なるほど、八つ裂きにされそうでも隠れてれば大丈夫と。」

 

「いや、そうじゃ無くて・・・異変①の目的を達成するために姿を消したならその目的が解消されるまでは姿を見せられないから、姿を見せないで異変②を解決する、異変③を起こす方法を選んだってこと。」

 

「紫にとってポケモンは自分の身以上に大切ってことか。何か裏がありそうだが・・・。」

 

紫が幻想郷にポケモンを呼び込んで得られるメリット・・・思い付かない。

 

「もう情報は無いかしら?無いならこの辺の手掛かり探すけど。」

 

「おう、分かっ・・・待て、何か忘れてる気がする・・・。」

 

まだ情報を持ってるのかしら?

 

「忘れてるって何がよ?」

 

「それが分かったら苦労しないっての。・・・主犯に当てはまりそうだって憶えておいたはずの奴が一人いたような気がするんだが・・・。」

 

「えっ、紫以外に候補なんてあるの?」

 

「ああ、怪しい所を見たんだよ。確か・・・ゴンベと・・・。」

 

魔理沙は何かぶつぶつと呟きながら虚空を見て歩き回り始めた。

 

変な妄想してなきゃ良いけど・・・。

 

「・・・ああ!思い出したぞ!霖之助だ!」

 

心配していると、魔理沙は手を叩き顔を上げた。

 

霖之助さんか・・・。

 

既に一回出た名前だけに、少しは説得力がありそうだ。

 

「・・・確かに多少怪しいとは思ってたけど、何を見たの?そんなに決定的?」

 

「ああ。私がお前と別れた後、森にキノコ採りに行ったんだが、その森で見たんだ。」

 

一呼吸置いて続ける。

 

「──ゴンベから何かを受け取ってるのを!」

 

「・・・ふむ。」

 

正直言って、あまり決定的ではない気がする、と私は思った。多分外見にも出ている。

 

「おい、何だよその反応。私のお陰で新しい容疑者が増えたんだぜ?もっと褒めても良いんじゃないのか?」

 

「いや・・・容疑者が増えたら普通面倒臭くなるからあんまり喜ばれないわよ。それに何を受け取ってたのか分からないの?」

 

「暗がりだったからな。青かったことは覚えてるんだが・・・。」

 

目を逸らして頭を掻く魔理沙。

 

しかし、木の実の山の方を見た瞬間、手の動きを止めた。

 

そして山の方を指差し、

 

「・・・あぁぁーっ!これだ!」

 

と叫んだかと思うと、山から真っ青なミカンを一つ引っ張り出した。

 

「これだよこれ!まんまこれだった!」

 

No.07 オレンのみ

自然の恵みが一つになって口の中で色々な味が広がる不思議な美味しさ。

 

・・・つまり、霖之助さんは異変③が起こる前にゴンベから木の実を受け取ってた?

 

前言撤回。魔理沙はかなり決定的な場面を目撃していた。

 

「・・・確かに、これは重要ね。木の実が撒かれる前に霖之助さんが木の実を受け取ってたとしたら、何かしら関連してる可能性は大いにあるわ。」

 

「はーっ、思い出して良かったぜ。霖之助が犯人なら話は早いじゃないか。」

 

「まだ決まった訳じゃ無いわよ。紫も十分怪しいんだし。」

 

・・・くそう、このまま容疑者が一人だけだったら楽に事が進んだものを。魔理沙は色んな意味で場を荒らすから困る。

 

「って言うか、さっきも言ったけどこれでかなり話が面倒臭くなったわよ。異変①と③の容疑者が一人しかいなかったのが二人に増えたってことは、それぞれの異変の犯人が違う可能性だってあるんだから。」

 

「確かに、霖之助はボール配布で異変①にも関係してるな・・・。」

 

「・・・どうにしても目的が分からないわね。霖之助さんってあんまり変化を求めるタイプでも無いし・・・。」

 

「まっ、そろそろ考えるより動こうぜ。この山の中に名札でも紛れてたら解決だ。」

 

「幻想郷でも受け入れられないドジねそれは・・・。」

 

私が愚痴ってる間に魔理沙が木の実の山を漁り始めたので、私も別の山でそうすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴンベが群がる辺りを避けて、無心木の実を掻き分ける。

 

無心。

 

心があるとしたら手掛かり発見への熱望だけだ。

 

避けてる理由は二つ。単に重くて邪魔なのと、近くでもしゃもしゃと食べられると鬱陶しいからだ。

 

・・・決して、お腹が空いてきた訳では無い。

 

絶対に。

 

いくら晩御飯がおにぎり一つとて、外界の木の実に屈服するのは嫌だ。

 

変なプライドだが私にとっては信条だ。

 

・・・そうだ、魔理沙は?

 

ふと、魔理沙の探っている山を覗いてみる。

 

「・・・。」

 

魔理沙も同じく無言だったが、決定的に違う点があった。

 

・・・木の実食べてる。

 

作業はしているが、片手にバナナっぽい木の実を掴んでたまに食べたりしてる。

 

 

 

 

 

 

・・・美味しそう。

 

 

 

 

 

 

「・・・おっ、霊夢か。何か見つかったか?」

 

魔理沙が私に気が付いた。

 

「いや、真面目にやってるか見に来ただけ。」

 

「何だよ。私はこの通り、真面目にやってるぜ。成果はゼロだがな。」

 

「・・・そう。」

 

「何か元気無いなぁ。腹減ってんなら、ほれ。」

 

魔理沙は私に例の木の実を差し出した。齧りかけだが。

 

 

 

 

 

 

・・・美味しそう。

 

 

 

 

 

 

私は憑き動かされるかのように木の実を受け取った。

 

一口食べてみる。

 

「・・・美味しいこれ。」

 

「だろ?私意外と木の実を見る目あるよな?」

 

「・・・。」

 

「・・・へっ?無視か?おーい?霊夢ー?」

 

何だか色々声を掛けられた気もするが、とりあえず木の実を完食した。

 

「・・・そんなに腹減ってたか霊夢。何で木の実食べなかったんだ?」

 

魔理沙は不思議そうだ。これが食ってる方の見解か。

 

「・・・私も今はもう分かんないわ。」

 

「自分の欲に正直になるのも重要なんだぜ。特に食欲はな。」

 

「ええ。木の実大好きなゴンベの心境が分かった気がするわ・・・ん?」

 

「ん?今度は何だ?」

 

「ゴンベの心境・・・。ポケモンの心・・・。ポケモンの・・・閃いた!」




纏まってた、と願いたい。

異変を紐に例えたのは個人的にしっくり来たから。

動物・・・心・・・次に霊夢が向かう場所、分かりますよね?

では。


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第一四話 外界視点

いつの間にかUAが3000突破してた。毎度ご愛顧ありがとうございます。

しかしまだまだ満足できる数じゃありません。更なる人気に向けて、頑張ります!

今回は早苗のターン。では、本編どうぞ。





視点:早苗

 

今日はまた一段と疲れました。

 

文さんと一緒に神奈子様と諏訪子様に食事を作り、自室のに戻った私。

 

勉強机に突っ伏して一息吐きます。

 

今日だけで何キロ走って飛んだことか。

 

それに体力的な面だけじゃ無くて、良い意味でですが精神も疲弊しています。

 

良い意味と言うのは・・・喜び過ぎた、とでも言えば良いのでしょうか。後は驚きとか。

 

その原因はただ一つ、今日起こった「ポケモンが幻想入りする異変」です。

 

仮想の存在であるポケモンが、幻想郷で私の目の前に現れたことで私は度を超えてハッスルしてしまい、その結果がこの疲弊です。・・・まぁ、分かって頂けますよね。

 

・・・それにしても。

 

私は顔を上げます。

 

外界で「ポケモン」をしていた身からすると、この異変で幻想入りしたポケモン達は普通とは少し違う点があるようです。

 

今の所、私が異常を認めたのは二匹。

 

・・・外界出身を代表して、少し考えなければならない気がします。

 

そうですね・・・じゃあ文さんの使っていたクロスケから紐解くとしましょうか。

 

夕方の頃、文さんが繰り出したヤミカラスのクロスケ。聴いた者を全滅させる技、ほろびのうたでスバメとオオスバメの群れを一網打尽にしました。

 

私が気になったのは、その技──ほろびのうたです。

 

恐らくこのことを知る人は私一人でしょうが、ほろびのうたは、本来クロスケが覚えることの出来ない技です。

 

ポケモンがレベルアップによって覚える技は最初から決められています。

 

カラスのような見た目で、ヤミカラス自体も不幸を象徴するポケモンですので勘違いし易いですが、どれだけ経験を積んだ所で普通「ヤミカラス」と言う種類のポケモン自体「ほろびのうた」を覚えることはありません。

 

ポケモンに人為的に技を覚えさせる道具──「わざマシン」のことも考えましたが、ほろびのうたを覚えさせられるわざマシンは存在しなかったと記憶しています。

 

しかし、ヤミカラスがほろびのうたを覚える方法が一つだけあるのです。

 

技の遺伝です。

 

ここから先は、ゲームのポケモンの知識が幻想郷でも成り立つ・・・と仮定させて下さい。

 

ポケモンとは不思議な生き物で、ある条件を満たせば、別種同士でも交配ができます。そしてそうした場合、交配したオスメスの内メスの種が誕生することになっています。

 

そんな中で、オスの持っていた技が子のポケモンに受け継がれていることがあるのです。

 

それが遺伝技。別名、タマゴ技とも言います。

 

この場合だと、メスのヤミカラスとオスで「ある条件」を満たし、ほろびのうたを覚えたポケモンで交配させてほろびのうたを覚えたヤミカラスを誕生させた・・・と言う訳なのです。

 

しかし・・・ゲームの中で考えると別種のポケモンが勝手に交配することはありえません。そうなるとこっちに来てから産まれたと考えられるのですが・・・いかんせん時間が少ない。何せ、ポケモンが幻想郷に来てからまだ一日なんですから。

 

そこで私が疑っているのは、クロスケが所謂「厳選余り」であることです。

 

外界で「ポケモン」のゲームは本当に人気があり、登場した当初のターゲットである子供の枠を超え、今や様々な年代に愛されるゲームとなっています。

 

ここまで大きなゲームに成長した理由はいくつかあると思いますが、その中でも私は「手軽に勝負ができるようになったこと」と「自分でポケモンを育てられること」が大きいと思っています。

 

ミュウの都市伝説やポリゴンショックもありますがそれは置いておいて・・・。

 

自分が育てたポケモンで、友達とバトルできるのは当時画期的でした。自分の育てた、愛着のあるポケモンで戦えるなら尚更です。

 

そんな中で人を問わず生まれるのが、「もっとポケモンバトルで勝ちたい」と言う願望です。

 

そしてプレイヤーはその願望を叶えるため、勝つための努力をします。

 

その一つが、厳選と呼ばれる「作業」です。

 

ポケモンバトルに勝つためには、そのポケモンを能力が高くなくては話になりません。ここでの説明は省きますが、ポケモンの能力を構成する要素は幾つもあり、一度ポケモンを捕まえる、あるいはタマゴから孵させるだけではその要素が揃うことは滅多にありません。

 

ですから、「厳選」するのです。

 

完全に強くなる要素を満たした、最高のポケモンを。

 

当然、激戦されなかった、厳選落ちしたポケモンはその人にとって不要な代物です。

 

そのようなポケモンがどうなるかと言うと、手放されます。

 

そりゃそうです。不要なんですから。

 

このように厳選で落ちて不要になったポケモンを、私達ポケモンプレイヤーは「厳選余り」と呼んでいます。

 

勿論、これはデータ上で繰り広げられるゲーム「ポケモン」の中の出来事ですから、動物虐待その他には断じて引っ掛かりませんし、その逃がしたポケモンがゲームに影響を与えることは絶対にありません。

 

でも、厳選余りの逃がされたポケモンがゲームから見えない所で残っていて、それが幻想入りしたとしたらクロスケが遺伝技を覚えていることにも説明が付きます。

 

元々タマゴで孵されて逃がされたポケモンですから、遺伝技を持っていても何もおかしくありません。

 

そして、明らかに厳選余りだと分かるポケモンがもう一匹。それこそ私が異常を認めた二匹の内のもう片方です。

 

そのポケモンとは、何を隠そう私がその時捕まえたケロマツ、すわさまです。

 

因みに命名私。

 

例によって私が目を付けた理由は技です。

 

懐からすわさまの入ったモンスターボールを取り出し、技を確認してみます。

 

ハイドロポンプ、

れいとうビーム、

まきびし、

めざめるパワー。

 

これが、まだレベル10にも満たないすわさまの持っている四つの技です。

 

・・・こんなに戦略的で強力な技を持つケロマツは厳選余りしかあり得ません。

 

例えばハイドロポンプやまきびしはケロマツがレベルアップによって覚える技ですが、レベル10では当然覚えられません。しかし、遺伝でなら可能性があります。

 

そして重要なのは、これらの技が非常に戦略的に選ばれていることです。

 

単に威力のある技だけで攻めるのでは無くて、自分のポケモンに戦略的な意味を持たせ戦うのが外界でのポケモンバトルの常識。すわさまのような技編成はその「戦略的な意味」を色濃く残しているのです。

 

・・・そうだ、まだすわさまに技を使わせてあげて無かったです。折角ボールを出したんですから、少し外で使ってみましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すわさま!ハイドロポンプ!」

 

「ケロマーッ!」

 

すわさまの口から放たれた激流が野生のホーホーを襲います。

 

「ホーッ!」

 

そのままそのホーホーは倒れました。

 

この、みずでっぽうの三倍はあろう勢いの水流。・・・やっぱりこれは、ハイドロポンプ。

 

今までこの技だけで野生ポケモンを五連続で沈めました。

 

そして次に近場の木に向かってもう一発。

 

「すわさま、ハイドロポンプ!」

 

「ケロッ・・・!」

 

・・・あれ?出せない。

 

あっ、そうか。PPが無くなったんですね。

 

ポケモンの技には、個別に回数制限があります。その回数制限も数値化されて、外界ではPPと呼ばれています。ハイドロポンプのPPは5。回復しない限りハイドロポンプは五回までしか使うことが出来ません。

 

つまり、ハイドロポンプを五回出した時点で使えなくなったこと、これもやっぱりこの技がハイドロポンプだと言う動かぬ証拠です。

 

やっぱりデータは嘘をつきませんね。

 

・・・今起こってることに悩むのも何だか虚しいですね。これはこういうものとして割り切ることにしましょうか。

 

さて、今日はもう遅いですし、さっさと寝ましょう。恐らく、すわさまも寝て休めばPPやHPも回復するでしょうし。

 

と思って神社の方に振り向くと、

 

「早苗ぇ・・・うるさいよぉ・・・。」

 

寝ぼけ眼の諏訪子様がこっちを見ていました。目をこすっているのが寝巻き姿と相まって、完全に見た目子供です。

 

「諏訪子様。まだ起きていらっしゃいましたか。」

 

「早苗がずっと騒いでるからじゃないか・・・ふわぁ・・・。」

 

どうやら遅い時間にハイドロポンプを乱射していたのに文句を言いに来たようでした。・・・半分寝ていますが。

 

「申し訳ありません、諏訪子様。では、私も中に入りますね。」

 

「ねぇ・・・。早苗・・・。」

 

「? はい、何ですか?」

 

「私と神奈子・・・外界ではゲームできなかったから・・・ポケモン持ってなかったけど・・・幻想郷だったら・・・私達にも・・・ふわぁ・・・。」

 

そう言うと、諏訪子様はパタリと横に倒れました。

 

「・・・!? 諏訪子様!?」

 

すぐに諏訪子様に駆け寄ります。

 

「・・・すー。・・・すー。」

 

倒れた諏訪子様は安らかに寝息を立てていました。ただ、寝てしまっただけのようです。

 

「・・・安心しました、諏訪子様・・・。」

 

こんな所で寝てしまっては風邪を引きます。お部屋に案内しましょうか。

 

私は諏訪子様の軽い身体を持ち上げて、部屋まで運びます。

 

部屋入ってみると、既に布団が敷かれていました。まさに寝ようとした所で私の元に来たのでしょう。

 

単なる寝言だったのかも分かりませんが、諏訪子様はポケモンに興味を持たれたようでした。

 

・・・全てを受け入れる幻想郷では祟り神もポケモントレーナーになり得る。

 

諏訪子様や神奈子様がトレーナーになるとしたら、どんなポケモンが手持ちに入るのでしょうか・・・。

 

「神のポケモン・・・とか?」

 

「どうだろうな?」

 

「ひゃっ!?」

 

突然の後ろからの声。後ろに立っているのは・・・神奈子様でした。

 

「なっ、なーんだ・・・。神奈子様でしたか・・・。」

 

「なんだとは何だ・・・。今ので少し傷付いたぞ・・・。」

 

「もっ申し訳ありません!」

 

「シーッ!諏訪子がもう寝てるんだ。静かにな。」

 

「あっ、ごめんなさい・・・じゃなくて、どうして私の考えていることがお分かりになったんですか・・・。」

 

「ん?何のことだ?」

 

「何のことって・・・神奈子様、私が考えてたことに返答したじゃないですか。」

 

「実際に声に出していたと思うが?」

 

「えっ、あ、そうだったんですか・・・。」

 

「ああ。・・・それで?神のポケモンって何なんだ?」

 

「そうですね・・・例えば、時間や空間を操るポケモンとか、地球に陸と海を造ったポケモンとか・・・古来からそれが存在するとして信仰されて来たポケモン、とでも言いましょうか・・・。」

 

「ふむ・・・ポケモンとは言えども私達と同じように信仰を集めているのか。」

 

「そうですね。でも・・・これは私の予想ですが、ポケモンの神様は神奈子様や諏訪子様と違って信仰を集める必要があるタイプじゃない、違う種類の神様だと思います。」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「神奈子様や諏訪子様は神様として信仰を集めなければ存在できませんし、力を持てません。逆に信仰が強いと多くの力を発揮します。つまりで言うと存在する為に信仰されている。しかしポケモンの神様は時間や空間を操れたり、陸や海を司ったり、人が存在しない原初から力を持っていて、その力を以って人に信じられているんですよ。それにその力は信仰に左右されない。つまり、存在するから信仰されているんです。」

 

「ふむ、そんな形を取っている神もいるのか・・・。」

 

「頑張れー早苗・・・むにゃ・・・。」

 

・・・今のは諏訪子様の寝言でしょうか。ハッキリ言って相当可愛いその姿に神奈子様も顔が綻びます。

 

「・・・ほら、明日も頑張らなきゃいけないんだろ?早めに寝る寝る。」

 

「そうですね。おやすみなさい、神奈子様、諏訪子様。」

 

「ああ、おやすみ、早苗。」

 

・・・ここでへばっちゃいられない。

 

今ある謎もいつか解けることでしょう。その時の為にも、今は休息です。

 

おやすみなさい。




・・・どうでした、ケロマツの技編成。

完全に対人用のソレ。特にめざパ。

早苗も勘付いていましたが、あんな技編成なのは厳選余りだから。今回幻想入りしたポケモンは軒並みあんな感じです。

異変一日目が終了。次回から新章に突入しますのでお楽しみに。

では。


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第二章 幻想郷のバトル&ゲット
第一五話 ポケモンセンター


新章突入。ここからバトルの頻度も多めになります。

では、本編どうぞ。





視点:霊夢

 

「フォッコ、サイコキネシス!」

 

「コーッ!」

 

フォッコが出した、霊力とも魔力ともつかない力が相手のポケモンを襲う。

 

「コラーッ!」

 

「モクザイ!」

 

モクザイと呼ばれたそのポケモンはあっけなく地に伏せた。周りが少し騒めき、しばらくすると拍手が起こった。

 

ポケモンの三連異変が巻き起こった翌日の午前。私は目的地に向かう前にまた人里に出向いていた。

 

そこで目に付いたのはやはりポケモン勝負の風景だ。人里ではまだ昼前にも関わらず多くのポケモン使いが勝負をしていた。

 

そう言えば、ポケモンは鍛えた方が強くなるとか霖之助さんが言ってたな、と思い出し、フォッコを鍛えておこうか、と思った矢先、人里の一角で何人かが寄ってたかってバトルをしている所を目撃した。

 

これは好都合。

 

と言う訳で、すぐに乱入して勝負に参加した。結果、現在三連勝中。好調な滑り出しだ。

 

「私の勝ちね。次、私と戦いたい人はいるかしら?」

 

言ってはみたが、前に出る者はおろか、手を挙げる者さえおらず騒つくばかりである。私が来たばかりの時は威勢の良い奴らが我先にと群がって来たと言うのに・・・根性が無いと言うか、意気地無しと言うか。

 

と思っていたら。

 

 

 

 

 

 

「はいはいっ!霊夢さん!一戦お願いします!」

 

 

 

 

 

 

突然の声に騒つきも止み、声がした方に視線が向けられる。

 

奥から姿を現したのは・・・。

 

「霊夢さん、お久し振りです!」

 

守矢の巫女、早苗だ。

 

案外久々に見る顔である。

 

「あら早苗。久方振りね。」

 

「はい!たまには弾幕ごっこじゃ無い勝負でもしましょうよ!」

 

やたらと威勢が良い早苗。外界での経験者かしら?

 

「こんな観客の中でいきなり入ってきて挑戦するなんて度胸あるわねぇ・・・。まぁ、受けて立つわ。」

 

「そりゃあ勝つ自信がありますからね。絶対に霊夢さんを打ち負かしますよ!」

 

私を力強く指差す早苗に沸き立つ観客。・・・人の目を引く作法は布教の賜物か。

 

「そんなこと言ってて良いの?私、今三連勝中で絶好調なのよ。勝てるかしら?」

 

「奇遇ですね。私もそこら辺の男三人軽く片付けてから来たんですよ。」

 

ドヤ顔で言い放つ早苗。本当かどうかは分からないが、確実に今は場を沸かせている。

 

「大口叩いちゃって。どうなっても知らないわよ。さっさとポケモン出しなさい。」

 

「ふふっ、負けませんよ!行けっ!すわさま!」

 

早苗のボールから出てきたのは青い、と言うか水色のカエルのようなポケモンだ。

 

「ケロッ!」

 

No.656 ケロマツ あわがえるポケモン

みずタイプ

高さ0.3m 重さ7.0kg

身体に泡を纏わせて身を守る。見た目よりも用心深い性格で、常に周囲に気を配っている。

 

泡か・・・フォッコの炎が消されないか少し不安ね。

 

いつの間にか、誰とも知らない人が審判役に駆り出されていた。本当に必要なのかしらね。これ。

 

目の前にはかなりキリッとした顔のすわさまと未だに自信満々な顔をしている早苗。周りにはそれなりの観客。

 

 

 

 

 

 

しばし、沈黙。

 

 

 

 

 

 

「それでは、フォッコ対すわさま、戦闘開始!」

 

 

 

 

 

 

「「・・・。」」

 

審判役が宣言を出しても、しばらくは私も早苗も動かなかった。相手も私と同じように後手を狙っているらしい。

 

「・・・では、私から。すわさま!ハイドロポンプ!」

 

結局最初に動いたのは相手だ。すわさまは指示を受けると跳び上がり、

 

「ケロ・・・マーッ!」

 

明らかに速い水流を発射した。

 

「避けて!」

 

フォッコは激流を横に避ける。

 

「もう一回!」

 

「ケロッ!ケロッ!」

 

フォッコは水流の間を縫って得意のステップ。その間にもスキを伺う。

 

「くさむすび!」

 

「コッ!」

 

ハイドロポンプ勢いで跳び上がったすわさまの足に、フォッコは例の「力」で植物を巻き付け、思い切り引っ張った。

 

「!?」

 

「ケロッ!?・・・ケローッ!」

 

すわさまはそのまま地面に叩きつけられた。

 

「くさむすびとは・・・予想外ですね。相手に不足無し、って感じでしょうか。」

 

「まだ大口叩いていられるのね。その鼻、今にへし折ってやるわ!フォッコ、だいもんじ!」

 

「フォッコーッ!」

 

大の字の火炎がすわさまを襲う。

 

「すわさまっ、耐えて!」

 

(耐えて!?)

 

早苗が指示したのは回避ではなく防御、変な所で意表を突かれた。

 

「ケロ・・・ッ!」

 

しかも、すわさまはフォッコの火炎をしっかりと受け止めた。

 

「水ポケモンは炎技に強い!常識です!」

 

「えっ!?どう言う理屈なのそれ!?」

 

「タイプの相性もご存知ありませんでしたか!この勝負、頂きです!」

 

技を振り切ったすわさまは指示も無くこちらへ素早く接近して、

 

「すわさま、まきびし!」

 

どこからともなく取り出した尖った石をフォッコの足元にばら撒いた。

 

「スキだらけですよ、霊夢さん!」

 

「はんっ、こんなの踏まなきゃ良い話よ!」

 

「そうさせないとでもお思いですか?すわさま、れいとうビーム!」

 

すわさまは早苗の指示で、フォッコがまきびしが撒かれた地面から移動する前にれいとうビームを浴びせる。

 

「気合で回避よ!」

 

「コッ!」

 

フォッコはれいとうビームの雨の中、まきびしが撒かれた地面を慎重に、しかし素早くステップして回避する。フォッコの気合も十分らしい。

 

(やばいわね・・・まだ当たりはしてないにしろ、確実にまきびしのせいで回避に精彩を欠いてる。これじゃあ攻撃も出来ないわ。)

 

「今です!横から!」

 

「!?」

 

「ケロッ!」

 

すわさまは突然俊敏に移動して、ビームの始点の場所を変える。

 

不意打ちに回避が追いつかなかったフォッコはビームを食らってしまい、四肢が凍らされて行く。

 

「フォッコ!」

 

叫ぶも後の祭り。フォッコは全身を固められ完全に動きを止められてしまった。

 

「完全に凍ってくれましたか!私の勝ちです!すわさま!ハイドロポンプ充水!」

 

凍らされたフォッコを目の前に、すわさまはゆっくり時間を掛け小さい身体に水を溜めていく。

 

「こらフォッコ!早く動きなさい!避けられないわよ!」

 

フォッコの身体はピクリとも動かない。

 

万事休すか・・・!?

 

「・・・いや、まだ行ける!だいもんじで中から氷を溶かしなさい!」

 

指示後、すぐにフォッコを纏っていた氷が口元を中心にみるみる溶けだす。

 

少しずつ、

 

少しずつ。

 

そして、

 

「コーッ!」

 

溶けた氷を突き破ったフォッコは仕返しとばかりにだいもんじを繰り出す。

 

しかし。

 

「もう手遅れです!すわさま、放水!」

 

「ケロォーッ!」

 

すわさまはさっきから溜めに溜めていたハイドロポンプを解放する。

 

その、さっきの何十倍もあろう水流はかなりの火力のはずのだいもんじを簡単に鎮火し、なおも勢いを保ってフォッコに迫る。

 

(当たらなければ意味は無い!)

 

「避けなさい!」

 

フォッコは横ステップで素早く避けようとした。

 

 

 

 

 

 

──足元を見ずに。

 

 

 

 

 

 

「・・・フォッ!?」

 

「えっ!?」

 

一瞬、何が何だか分からなくなるも、すぐに状況が分かった。

 

そうだ。

 

忘れていた。

 

早苗は、罠を張っていたんだった。

 

フォッコは、崩したことの無かったステップを崩してしまった。

 

 

 

 

 

 

・・・足元の、「まきびし」のせいで。

 

 

 

 

 

 

「コーッ!」

 

ハイドロポンプの桁外れな水流に、バランスを崩されたフォッコはなす術も無く吹き飛んだ。

 

「フォッコ!?」

 

吹き飛ばされたフォッコが遠くで地面に叩きつけられるのが見えた。

 

すぐにフォッコの元に駆け寄って様子を見る。

 

・・・ずぶ濡れで、完全に戦闘不能だった。

 

 

 

 

 

 

「決着!フォッコ、戦闘不能!勝者、すわさま!」

 

 

 

 

 

 

「やったーっ!」

「ケロ!ケロマ!」

 

審判が勝者を宣言した瞬間、早苗とすわさまはもちろん、観客達も歓声を上げる。

 

「あっちゃあ、大丈夫?フォッコ。」

 

「フォッコー・・・。」

 

「よく頑張ったわ。少し休みなさいな。」

 

私はフォッコをボールに仕舞った。

 

ふと、目の前を見ると、早苗が私に右手を差し出していた。

 

「良い勝負でした。今回は私が一枚上手でしたね。」

 

「・・・今回は、ね。」

 

私は立ち上がり、改めて向き直って私が初めて見たポケモン勝負と同じように、早苗と握手した。

 

・・・今度はこっちの立場か。

 

予想通り、楽しいものね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜スッキリしました!まさか霊夢さんを打ち負かせられたとは・・・。」

 

勝負の後、早苗と人里を並んで歩きながら身体を休ませる。

 

「流石にあんたが外界でやってたことには勘でも勝てなかったわね。」

 

「でも、霊夢さんに勝つことだって私は初めてですし、それどころか私初めて霊夢さんが負ける所見た気がします。」

 

「そうねぇ・・・。確かに最近は弾幕ごっこでも無敗だし、何でも大抵勘で何とかなってたし。負けたの久しぶりだわ。」

 

「私が霊夢さんの連勝記録を打ち止めたんですね!何だか誇らしいです!」

 

「・・・ここまで喜ばれると清々しいわ。」

 

何だかこいついっつも目を輝かしてる気がする。

 

「しかし、弱りましたねぇ・・・。こっちにはポケモンセンターが無いことすっかり忘れてました。これじゃあ、ポケモンの回復に時間がかかっちゃいます。」

 

「ぽけもんせんたー?まだ外界の道具があるの?」

 

「へっ?・・・あぁっ、そうですね。霊夢さんが知ってる訳ありませんよね。すいません。」

 

「・・・今少し馬鹿にした?」

 

「いえ?気のせいでは?」

 

「あぁ、そう・・・。」馬鹿にしたのに気のせいもあるんだろうか。無意識という事なんだろうが。

 

「ポケモンセンターは、ポケモンを瞬時に傷付いた状態から回復する施設です。外界ではいたる所にあるんですよ。」

 

「ふぅん。」

 

ポケモンセンター・・・。

 

ふと、横の街並みを見てみる。

 

 

 

 

 

 

・・・ん?

 

 

 

 

 

 

「センターが無いなら仕方ないですね。フォッコには完全に傷が癒えるまで休んで頂きましょうか。」

 

「・・・早苗。」

 

「? はい、何ですか霊夢さん。」

 

「・・・あれ。」

 

私は早苗の後ろにある「あれ」を指差して言った。

 

「ん?あれ?」

 

「・・・だから、あれよ。」

 

「何があるんでs・・・!?」

 

早苗も「あれ」を見た瞬間、まず固まった。

 

そして、叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

「・・・えええぇええぇえぇぇええええぇええっ!?」

 

 

 

 

 

 

普通の街並みに、周りの風景と同じような家が一軒。黒い瓦の屋根に淡い黄色の土壁。それに玄関には障子。ほとんど、何の変哲も無い建物がそこにあった。

 

唯一違う所を挙げるとすれば・・・通りに面した側の屋根に、デカデカと「ぽけもんせんたー」と(平仮名で)書かれた看板が乗っかっていることだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有無をも言わなそうな顔付きで「ぽけもんせんたー」に突入した早苗の後ろに付く私。入ってみると内装も一部を除いては至って普通の建物の和風家屋だった。中に入ってまず目に付いたのは入り口の真正面にあるカウンター。さらにその奥には場違いな大型の機械(ここが至って普通ではない所である)。そして右手側に本棚やちょっとした椅子、左手側にもう少し部屋がある、と言った具合だった。

 

驚いたのは、カウンター意外な人物が立っていたことだ。

 

「ようこそ!ポケモンセンターへ・・・って、なんだあなた達k」

 

「鈴仙さん!あなたがジョーイさんやってるんですか!?と言うかなぜポケモンセンターが幻想郷に!?それから・・・!?」

 

「えっ!?ちょ、ちょっ、止めキャーッ!」

 

「落ち着きなさい早苗。幻想郷は全てを受け入れるの。分かってるでしょ?後、鈴仙の顔を両手で挟んで質問攻めするのは止めなさい。」

 

「しっしかし・・・!」

 

「おいういえ!おいういえくあはい!」

 

「ほら、鈴仙も言ってるでしょ?落ち着けって。」

 

鈴仙は不自由な頭を上下に振って肯定した。

 

「なんで分かるんですかっ!?」

 

「勘よ。」

 

「また!?・・・いやいやそれより、何でこっちにポケモンセンターがあるんですか鈴仙さん!」

 

「は・・・はあいへ・・・。」

 

「まず放してやりなさいってば。」

 

「あっ、ごめんなさい。」早苗はすぐに手を戻した。

 

鈴仙・優曇華院・イナバ。彼女は普段竹林の奥にある永遠亭で永琳と言う医者に師事し薬や医療について学んでいる月兎だ。

 

「ぷはっ・・・落ち着いて早苗。私は店番頼まれただけだからほとんど何も知らないの。」

 

「誰にですか!?」

 

「師匠よ。よく分からない機械の説明とかも受けて、今日からてゐと交代でここの店番することになっちゃったのよ。」

 

「永琳が?・・・何であいつがこんな機械を?」

 

「さぁ。私は永遠亭でも見たこと無かったわ。」

 

「もしかしてその機械って、外界のポケモンセンターってので使われてるのと同じ奴?」気になって早苗に聞いてみる。

 

「はい!間違いありません!丁度、休ませて欲しいポケモンが二匹程いるので、頼めますか?」

 

「えぇ、もちろん。・・・早苗さん。外界のと使い方間違えてたら言ってくれる?」

 

「あっ、はい。」

 

私と早苗はモンスターボールを一つずつ鈴仙に渡した。言うまでもなく中にフォッコとすわさまが入っているものだ。

 

さっきからカウンターの奥で異質な存在感を発していた例の機械。完全な四角ではないが、横幅は手を広げた位、高さは胸あたりまである鉄の箱だ。丸い窪みが六つ付いている。丁度、モンスターボール辺りがスッポリ入りそうな・・・。

 

と思っていたら鈴仙がその通りのことをした。そして機械に何かすると、

 

テンテンテレレン♪

 

・・・謎の音楽が流れた。

 

「よし、これでポケモン達は皆元気になったわよ。」

 

「・・・えっ、もう終わり!?」

 

「うん。・・・それで早苗さん、使い方間違えてなかった?」

 

「はい!バッチリです!」

 

「これで外界と同じなの!?」

 

「そうですよ。外界のポケモンセンターでも短い音楽が一回流れるだけで回復が終わるんです。」

 

「外界の技術はどこまで行ってるのかしら・・・。」

 

「まぁまぁ、えーとこっちが霊夢でこっちが早苗さんね。」

 

「ありがとうございます♪」

 

「あぁ、ありがとう・・・どれ、試しにボールから出してみるか。出てフォッコ。」

 

「フォッコッ!」

 

ボールから出てきたフォッコは元気がある声を出した。傷だらけだった身体も癒え、確かに回復している。

 

「あっそうだ。霊夢さん、そのボール貸して頂けませんか?」

 

「別に良いけど・・・どうしたの?」

 

「少し霊夢さんのポケモンについて気になることがあったので、データを調べたいのです。」

 

「はいはい、ご自由に。」早苗にフォッコが入っていないボールを差し出した。例の如くボールには外界の技術によって画面にポケモンの様子が映し出されている。

 

「・・・やっぱりですね・・・。」

 

珍しく早苗は真剣な表情だ。何と言うか・・・状況が厳しいことを再確認した、ような。

 

「・・・あっ、ごめんなさい。これ返します。ありがとうございました。」

 

「どういたしまして。・・・ついでに聞いても良い?」

 

「ええ、ポケモンのことなら何でも!」

 

「この、『タイプ』って何なの?さっきの勝負で『相性がある』って言ってたような気がするんだけど。」

 

「そういえば・・・ご存知無いのでしたね。タイプと言うのは・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

少女説明中・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・と、ポケモンの能力値は以上六つです。お分りですか?」

 

「とりあえず現段階の全部の疑問は解決されたわ・・・でも流石に飛躍し過ぎじゃないかしら・・・。」

 

私はポケモンのタイプの相性について質問した気でいたのだが、まず技の種類についての話に移り、次に状態異常(これについては勘で上手く使えていたらしい)の話に移り、さらにはポケモンの能力値のことまで教わってしまった。

 

「まぁまぁ、良いじゃないですか。知っていて損ではありませんよ?」

 

「確かにそうだけど・・・。」

 

何と言うか・・・早苗がここまでポケモンに博識だったのに唖然としている。

 

「・・・さて、私はそろそろ出るわよ。あまり長居してもしゃあないし。」

 

「霊夢さんが出るなら私もそうしますが・・・どこか行く当てはあるんですか?」

 

「地霊殿よ。」

 

「えっ、地霊殿?また何で?」

 

「動物の言いたいことが分かるのはあそこの覚り妖怪だけだから。ポケモンがどうやってこっち来たのか分かるかも、ってことよ。」

 

「あっ、なるほど。確かに。鈴仙さん、地霊殿からのお客さんは?」

 

「えーっと・・・いや、まだ来てないわよ。まだここ開いて数時間しか経ってないし、信憑性無いけど・・・。」

 

「未知の部分がまだ多そうね。・・・早苗。あんたも付いて来るんでしょ?」

 

「・・・いえ、私には別に行きたい所があるので。」

 

「えっ・・・あらそう。勝負の後自然に付いて来たからてっきり私と行動するつもりなのかと・・・まぁ良いわ。どこ行く気なの?」

 

「白玉楼と彼岸周辺です。」

 

「彼岸・・・流石に死ぬ気じゃないんでしょうけど、そこ、異変と関係ある場所なの?」

 

「ポケモンがこっちに来て、霊魂がどうなっているか気になって。もしかしたらここから解決の糸口が見つかるかも知れません。」

 

「「・・・?」」

 

私とついでに鈴仙は前半早苗が言っていたことが理解できなかった。

 

「霊魂がポケモンにどう関係あるって言うのよ?」先に口を挟んだのは鈴仙。

 

「お二方はご存知ありませんか・・・ゴーストタイプの存在を・・・。」

 

早苗は後ろ髪を前に引っ張り出して掌を垂らし、典型的な幽霊のモノマネをした。

 

「・・・あぁ、タイプ相性表の中にあったわね。ゴーストタイプ。もしかして幽霊のタイプなの?」

 

「話が早いですね霊夢さん。ゴーストタイプのポケモンの一部は外界で幽霊と言われてました。こっちの霊魂がゴーストタイプポケモンに変わっている可能性は無きにしも非ず。私はそちらに行ってみます。」

 

さっきの幽霊早苗とは打って変わって、早苗はノーマルに戻って言った。

 

「分かったわ。・・・長い異変になりそうだけど、いっちょ骨を折りましょうか。」

 

「はいっ!解決者の名にかけて!・・・じゃあ鈴仙さん、また来ますね。」

 

「またお越し下さいませ〜。」

 

手を振る鈴仙を尻目に、私達はポケモンセンターを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

私達は、ポケモンセンターを背に向け一言交わす。

 

「・・・じゃあ、成果期待してますね!」

 

「そっちも。何の実りも無く帰って来たらそっちの信仰少し寄越しなさいよ。」

 

「え゛っ・・・まっ、まぁ、そんなことは無いと信じたいですが・・・。」

 

「冗談よ。・・・じゃ、後でね。」

 

「は、はいっ!行ってきます!」

 

・・・こうして、私達はそれぞれの目的地に向かう。

 

・・・振り返る度に、早苗の背中が小さくなって行く。

 

ふと、懐のモンスターボールを取り出してみた。

 

ただ触っただけでは、機械特有のひんやりした触り心地しかない。

 

だが。

 

その中にはフォッコがいる。

 

そう思うと温かい。

 

ように感じる。

 

・・・きっと、外界でポケモンを持ち始めた人も同じようなことを思うのだろう。

 

今回の異変は珍しく一日で終わるような奴じゃない。恐らく週単位で時間がかかることだろう。少なくともその分だけは、こいつと過ごすことになる。

 

ここから先、どうこいつと向き合うことになるか・・・。

 

・・・今考えていても仕方ない。

 

自分にできることをするだけ。それが異変解決者だ。解決されない異変は受け入れるしかない。

 

そうならないように、今後もっとこいつのことを知らなきゃいけない。早苗よりも・・・と言うか、早苗とは違うベクトルで。

 

色んな意味でこれからだ。

 

いざ、地霊殿へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば魔理沙・・・。」




まさかの霊夢敗北。経験が違うから仕方無いね。

霊夢は地霊殿へ。早苗は白玉楼へ。魔理沙は・・・?

では。


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第一六話 木の枝メイド

巫女二人は後にして、まずは魔理沙の視点をお楽しみ下さい。

お相手はメイド。では、本編どうぞ。





視点:魔理沙

 

数年前の話だが、どこかの紅白巫女が、異変はどんなものであれ解決すべきと言っていた。

 

まぁ、普通に考えりゃそうだ。例えば紅い霧で太陽の光が遮られたりしたら困るし、春が来なくても困る。困るから解決するのだ。

 

じゃあ、誰も困らない、平和な異変ならどうだ。

 

それこそ ・・・今みたいな。

 

解決する理由がどこにあろうか。

 

そりゃあ多少主犯をとっちめるだろうが、幻想郷を元に戻す理由はどこにも無い。雨降って地固まることだってあるだろう。地霊が湧いて出た時同じくして温泉が湧いたことが良い例だ。

 

異変を起こす側にも目的があるのだ。それがこっちにも良い結果をもたらしたらハッピーハッピーじゃないか。

 

・・・これが幻想郷を大事に思っているか否かの違いなのかもな。

 

結論。

 

私はいつもの私のように振る舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつも通りお邪魔するぜー。」

 

前置きはさておき、私は至極いつも通りにホウキに乗ったままスピードを付け、適当に見つけた窓をぶち破って例の館の中に進入する。

 

「ちょっ、また魔理沙さん!?」「うわわ、窓がぁ〜・・・。」「またかぁ・・・。」

 

かなり激しい音を立ててガラスが崩れ、周りにいた妖精メイドが慌てるのを通り越して呆れている。すごーく、いつも通り。

 

例の館──紅魔館は霧の湖の中心に建つ、内装も外装も呆れ返るほど真っ赤に染められた洋風の屋敷だ。

 

私がここに来る目的は大抵一つで、この紅魔館の地下にある大図書館。魔道書や召喚書に始まり、評論や物語、戯曲にあらゆる週刊誌、果てには漫画や薄っぺらい謎の本まで外界のあらゆる書籍が揃う。出処は全く不明だが。

 

あんだけ本があるんだから少し位借りてもいいだろ、と言うのが私の意見である。って言うか、紅魔館の住人は約一人除いて全員人間じゃないし私より世紀単位で長生きなんだから私が死ぬまで借りててもあっちの体感じゃ短いもんだろ?だから・・・。

 

「・・・何も咎められないとでも思っておいでで?」

 

何もないはずの空間に突如、メイド服とその中身が姿を現した。おまけに私の心の中の質問の回答付きで。

 

「思ってるさ。実際そうじゃないか。」

 

「あんたが毎日毎日普通にガラスぶち破るから普通になっちゃってるんじゃないの。」

 

「変わることも良いことだが、変わらないことも同じ位良いことなんだぜ?」

 

と、私はそれだけ言って(ホウキに乗りながら)大図書館へ歩を進める。

 

地下に続く廊下に差しがかったとき、またしても突然目の前にメイド服がパッと姿を現した。

 

「おっと!」

 

仕方無く、急ブレーキをがかけて止まる。

 

メイド服の彼女は真っ赤な廊下に似合う鋭い目つきでこちらを睨んでいた。

 

「残念だけど、私は変化を求める革新派なのよ。・・・あなたの対応に関しても、異変に関しても。」

 

そう言ってメイド服は胸のポケットから紅白の玉を取り出す。

 

言うまでもなく、モンスターボール。

 

「おぉ、流石革新派だな。この間まで私のレンタルを黙認してたのに。・・・いっちょやるか、咲夜。」

 

十六夜 咲夜──彼女こそが紅魔館で唯一の人間にして革新派(らしい)メイド長。ついでに言うなら時間を止めることができる厄介なナイフ使い。さっきから瞬間移動しているように見えるのは単にその力を使っているだけである。

 

私もついさっき聞いたことだが、こいつは変化が好きらしい。その証拠に彼女が持つモンスターボール。どうやらこいつは霊夢と違ってポケモン勝負でケリを付ける気だ。私の保守的な姿勢を通す為にも、負けられないぜ。

 

私も自前のモンスターボールを用意する。手元にあるのはまだ二つ。

 

・・・よし、今回はこいつで行ってみるか。

 

「ブランチ、出番よ。」「行けっ、キノスケ!」

 

咲夜と同時にボールを投げた。

 

「キモキモッ!」「キノッ!」

 

私が出したのはピカチュウじゃなくキノスケ。何気に対人戦では初めて起用する。

 

相手のポケモンは緑色の身軽そうな身体で深緑の尻尾を持っていた。イメージとしては、小枝を咥えたトカゲ。

 

No.252 キモリ もりトカゲポケモン

くさタイプ

高さ0.5m 重さ5.0kg

足裏に生えた小さなトゲとバランスを取るための尻尾を使い壁や天井を移動する。非常に太い尻尾は攻撃にも利用する。

 

・・・屋内で動きやすいポケモンを選んできたか。厄介だぜ。

 

「一対一で構わないかしら?」

 

「ああ。私も急いでんだ。さっさと始めようぜ。」

 

 

 

 

 

 

しばし、沈黙。

 

 

 

 

 

 

「それではキノスケ対ブランチ、戦闘開始!」

 

・・・えっ!?

 

誰が審判に出てきたんだ!?

 

「ブランチ、りゅうのいぶき!」

 

「キモッ!」

 

私がしょうもないことに気を取られているスキに、ブランチは技を繰り出してきた。

 

「あっ、やべっ!避けろ!」

 

「キモーッ!」

 

私が叫ぶと同時に、ブランチが口から蒼い風のようなものを吐き出す。

 

「キノキノッ!」

 

キノスケはバックジャンプで風をひらりと避ける。

 

「お前なぁ!いきなり審判されたら流石に驚くだろうが!先に言え!つかどっから湧いたんだこの妖精メイド!」

 

「あなたは戦闘開始の宣言も聞かずに殴りかかって来るつもりだったのね。相変わらずで感心するわ。流石保守派。」

 

「鼻に付く言い方しやがってぇ・・・私は先に言えって言ったんだ!お望み通り殴ってやるぜ!キノスケ、ドレインパンチ!」

 

「キノッコ!」

 

キノスケは頭に橙色のオーラを纏わせ、ブランチに突進した。

 

・・・いや、私も疑問なんだぜ?これがパンチって名前付けられてるの。でもボールの言うことなら仕方ないだろ。

 

「それがパンチ?色んな意味でどうなのそれ?」

 

相手も同じようなこと考えていたようだ。

 

「減らず口は避けてから言ったらどうだ!」

 

「そうね。ブランチ!」

 

「キモ。」

 

ブランチは翻すだけでキノスケの突進を避けた。

 

攻撃が空を切ったキノスケはそのまま紅魔館の廊下を粉砕する。

 

「もう一回!キノスケ!」

 

「キノッ!」

 

キノスケは私の指示通り、瓦礫の中から再び頭を光らせてブランチに向かう。

 

「相変わらず攻撃自体は単調ね。当たったら痛いんでしょうけど。」

 

咲夜が言いながら、またもブランチがキノスケの突進を軽く避けた。キノスケはそのまままた廊下を破壊。

 

くっそあいつ、絶対当たんなきゃ怖くないって暗に言ってやがる・・・!

 

「ブランチ、りゅうのいぶき!」

 

「キモッ!」

 

ブランチは跳び上がって、蒼い風をキノスケが突っ込んだ瓦礫に浴びせた。

 

やばい・・・避けられるか・・・?

 

・・・いや!

 

「キノスケ!攻撃継続!ドレインパンチ!」

 

「キノーッ!」

 

キノスケは前の二回と同じように頭に橙色を集め、ブランチに向かって頭突き。

 

りゅうのいぶきがキノスケを襲うが・・よし!弾いてる!

 

「なっ!?」

 

「キモッ!?キモーッ!」

 

ブランチも流石に避け切れずにパンチらしきものを食らう。

 

「ブランチ!」

 

しかしやはり完全で瀟洒なメイドのポケモンだ。これでへばるはずも無く壁に足を付けた。そうだそうだ、こいつ壁歩けるんだ。

 

「くっ・・・いわなだれ!」

 

咲夜が新しい技を指示すると、ブランチはキノスケが立つ逆側の壁に移り、

 

「キッ、モ!」

 

あろうことか尻尾で壁を思い切り叩き、壁を破壊した!

 

「キノッ!?」

 

「なっ!?」

 

派手な音を立てて壁が倒壊する。

 

やばい、このままじゃ瓦礫はキノスケに!

 

「キノスケっ!」

 

「ノコーッ!」

 

一瞬で逃げることも叶わず、あっという間にいわなだれがキノスケを巻き込んで、大量の土煙が舞う。

 

土煙が晴れると、目の前にはただ瓦礫だけが積まれていた。天井にはブランチ。

 

「ふぅ・・・本当はあまり廊下を破壊したくはなかったけど・・・これで勝負あったわね。」

 

咲夜は勝ちを確信しているようだが・・・。

 

「・・・おいおい、そっちの妖精メイドだってそんな早とちりしないぜ?」

 

「あら・・・言ってくれるじゃない。あなたの負け惜しみ、私は嫌いじゃないわよ?」

 

「そりゃありがとさん。私も言わせてもらうと、お前の油断しやすい性格、嫌いじゃないぜ。

 

 

 

 

 

 

キノスケ、タネばくだん!」

 

 

 

 

 

 

瞬間、轟音と共に瓦礫がまたも崩れ、中から何かが飛び出してブランチに向かう。

 

「キモッ!?」

 

飛び出したのは、頭一つ分程の大きさで、おまけにかなり硬い、

 

種。

 

キノコは種子植物じゃ無い何て気にしちゃいけない。

 

爆発こそしないが、巨大なそれは名実共に「タネばくだん」そのものだ。

 

「ブランチっ!回避っ!」

 

咲夜が慌てて指示する。

 

「キッ、キモーッ!」

 

しかし、あまりに急でブランチには届かなかったようで、巨大な種は天井でブランチと衝突。さらに落下に巻き込んでそのまま地面に叩きつける。

 

「今だっ!キノスケ!ドレインパンチ!」

 

「キノッ!」

 

瓦礫を突き破り、キノスケは何事も無かったように頭を光らせて再びブランチに頭突きをかます。

 

「キモォーッ!」

 

「ブランチっ!」

 

地面に落ちて身軽さを失っていたブランチを捉えるのは子供の手を捻るより簡単。

 

これで本当に勝負ありだ。

 

 

 

 

 

 

「決着!ブランチ、戦闘不能!勝者、キノスケ!」

 

 

 

 

 

 

妖精メイドの審判も私の勝ちを認めたようだ。

 

「まっ、ざっとこんなもんだぜ!」

「ノッコ!」

 

ガッツポーズを決める私を横目にして、咲夜は倒れて目を回してるブランチをボールに仕舞う。

 

「・・・よくあの瓦礫の中で無事だったわね。」

 

「ポケモンって案外丈夫だぞ。この位の技食らっとける位頑丈じゃないとこの先やってけないぜ。」

 

「そうかもね。魔理沙のポケモンだから尚更だったんでしょうけど。」

 

・・・負けた後も一言多いぜ、咲夜。

 

「・・・ま、勝負は勝負。負けた私に発言権は無い。これで失礼するわね。」

 

と、それだけ言って一礼すると、文字通り私の前から姿を消した。時間止めて自分だけ戻りやがったか。

 

・・・さて、気を取り直して大図書館に向かうとしよう。この方がゆっくり本が読めそうだしな。

 

大図書館の大量の蔵書の中にはきっとポケモンに関する書もあるはず。

 

そもそも今回の本狩りの標的はポケモンに関する本だ。私や、恐らく幻想郷の他の人々は今あまりにポケモンの知識が少ない。昨日まではあまり広い範囲にポケモンが伝わっていなかったから、紅魔館の人物がポケモンを知らないとタカをくくっていたのだが・・・紅魔館にまでポケモンの存在が伝わっていたのは予想外だった。これじゃあ、他の人々も大図書館で情報収集している可能性が高い。

 

まぁ、そうなっていたらまたポケモン勝負してで奪うまでだ。あまり案ずる必要ないだろう。

 

もっと強くなれるなら、何だって吸収するぜ。本からも、人からもな。




キノスケの初バトル。覚えてましたかキノスケ。

キノココとキノガッサみたいな進化前後で差があるポケモンだとちょっと遺伝技がイメージと違うものになったり。

次は大図書館へ。どんなポケモンがいるのか・・・予想してみます?

では。


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第一七話 七曜の進化石

がっこうぐらしが怖過ぎる。全然関係無いけど。

平常運転の魔理沙が大図書館で見たものは・・・。

では、本編どうぞ。





視点:魔理沙

 

「ブイ!」「ブイブイ!」「イブー!」「ブイッ!」

 

・・・。

 

「イブッ!」「ブイ!」「イーブ!」「ブイブーイ!」

 

えーと・・・。

 

私は・・・確かポケモンの本を探すために紅魔館まで来て・・・。

 

「ブイ!」「イブー!」

 

襲ってきた咲夜を撃退して・・・。

 

「ブイッ!」「ブイブイ!」

 

それで大図書館に向かって・・・。

 

「ブイ!」「イブーッ!」

 

じゃあ・・・やっぱここって大図書館だよな・・・?

 

じゃあ・・・。

 

 

 

 

 

 

なんでこんなに大量の、しかも同種のポケモンが放し飼いに・・・?

 

 

 

 

 

 

「ブイッ!」

 

・・・ん?一匹がこっち来たな・・・ゑ!?

 

「ブイブイ!」「ブイブイ!」「ブイブイブイーッ!」

 

・・・目の前に茶色の波。それも、とんでもないスピードでこっち来てる。

 

「ちょっ・・・待って、待ってって!待って待って待っtうぎゃー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら・・・魔理沙。いつの間に来てたの?」

 

どれ位時間が経ったのか分からないが、しばらくして奥から紫色のゆったりした服を着た人物が片手に本を抱えて現れた。

 

「パチュリー・・・。たっ、助け、て・・・。」

 

私の様子は酷いものだったと思う。十匹位もいる茶色い犬みたいなポケモンに、左右の手や顔を舐められ、上に乗っかられ、脚に絡まれ・・・とにかく大変なことになっていた。

 

「あなただって動物好きでしょ?この子達人懐っこいし、わんぱくだし、相手するの大変なのよ。ちょっと相手しててくれる?」

 

「とりあ、えず、私を起こして、くれっ!」

 

「その必要ある?この子達も楽しそうだしこのままの方が良くない?」

 

「ゑ!?お前私を見殺しにする気kフゴッ!?」

 

「ブイ!」

 

一匹が倒れてる私の顔の真上を陣取った。

 

やばいこれ。真面目に息するのが難しい。

 

「んー!んー!」

 

私は必死に命の危機を訴える。

 

「はぁ・・・仕方ないわね。後でたっぷり遊んでもらうわよ。ほらみんな、おやつ食べなさい。」

 

とっ、届いた・・・。

 

どこからともなく両手に大きな皿を用意するパチュリー。中には何か茶色いカリカリしてそうなものがタップリ盛られている。

 

「ブイッ!」「ブイブイッ!」「ブイブイーッ!」

 

パチュリーがそれを地面に置くと、私に群がっていた全員が皿に向かった。

 

「ふぃ〜。助かったぜパチュリー。」

 

パチュリー・ノーレッジ。ずっと紅魔館(主に大図書館)に篭って生活している、あまり健康的とは言えない魔女。一部でもやしとか言われてるとか何とか。

 

「しっかし何なんだこのポケモンは?同じ種類ばっかりよく集めたもんだ。」

 

「集めたんじゃなくて集まったのよ。私の能力のせいで。」

 

「能力・・・確かお前のは『火水木金土日月を操る程度の能力』だったか?このポケモンとは関係ないような気がするんだが・・・。」

 

この「程度の能力」は幻想に身を置く存在なら(強い弱いはあるが)必ず持っている能力だ。因みに私は「魔法を使う程度の能力」。実は人間では珍しい方だったりする。

 

「無理も無いわね。この姿じゃ。」パチュリーは沢山のそいつの中から一匹選んで抱き上げた。

 

「ふぅん・・・。」とりあえず私は図鑑を翳してみる。

 

No.133 イーブイ しんかポケモン

ノーマルタイプ

高さ0.3m 重さ6.5kg

不安定な遺伝子配列によって自らの生物的特徴を変えて進化することで様々な周環境に適応できる。

 

「なんじゃこりゃ?難しいこと書いてあるな。」

 

遺伝子とか進化とかあまり私が触れない単語ばかりが並んでいた。

 

「・・・そうね。この子達の最大の特徴は進化のし方にあるわ。」

 

図鑑を見ながら言う。

 

「進化か・・・そりゃあ長い目なこった。」

 

「あら、あなたポケモンの進化についてよく知らないようね。ちょっと意外だわ。」

 

「ん?ポケモンの進化?・・・進化ってつまり、動物でも植物でも生き物が環境に適応するために長い年月を掛けて自分の生き物としての特徴を変えること、だって認識してるんだが・・・ポケモンにとってそれは間違いだってのか?」

 

「そうね・・・実際に見る方が早いかしら?」

 

そう言って抱えていたイーブイを床に逃がし、上着(?)のポケットを探るパチュリー。何する気だ・・・?

 

出てきたのは・・・掌より小さい位の普通の石ころだ。色も何も無い、そんじょそこらにある石・・・いや、普通にあるものよりは少々大きいか。

 

「何だそれ?普通の石じゃないのか?」

 

「そうね。今は普通の石よ。これに少し細工するの。」

 

「細工?」

 

片手で石を持つ。もう一方の片手に取った、と言うか発生させたのは火だ。「火水木金土日月を操る程度の能力」の内の「火」。

 

「火か。お得意だな。」

 

私の言葉も気にせず、パチュリーは片手に石を持ち、片手に火を宿し、目を閉じて集中している。

 

段々と火の勢いが強まっている気がする。

 

そしてパチュリーは、

 

両手を合わせた。

 

「うおっ!?」

 

石が火を纏った瞬間、火力が急に上がった。

 

掌と掌の間でメラメラ燃える火・・・いや炎と言った方が良いかも知れない。

 

パチュリーは依然として目を瞑り精神統一している。燃える炎の光と相まって神秘的な感じだ。

 

しばらくして、炎が止んだ。

 

パチュリーは目と手を同時に開く。手の中には・・・。

 

「・・・何だこれ?」

 

パチュリーがポケットから取り出した、無機質で冷たそうだった石はそこに無かった。

 

驚いたことに、その石は透明になっていた。しかし色が付いていない訳では無く、基本オレンジ色で中心が黄色に近いの水晶のようになっている。炎と反応させた影響か心なしか温かみがあるように感じた。

 

「・・・ほのおのいし、ね。」

 

唐突にパチュリーが口を開いた。少々の疲れが見えるな。

 

名前や儀式の様子を見る限り、火、もとい炎の力を石の中に閉じ込めたのだろう。

 

「安直なネーミングだな・・・。」

 

「この名前も一応この図書館にあった学書の内容に準じているんだけど。言いたいなら外界の学者に言って。」

 

「そりゃあ悪かったな。・・・それで、それが何だって?」

 

「まぁ、見てなさい。」

 

パチュリーはしゃがみながらついさっき床に逃がしたイーブイを呼び戻した。何やら含んだ笑みを見せている。

 

何をするのかと思えば、パチュリーはそのイーブイにその石を近付けただけだった。

 

 

 

 

 

 

・・・それで十分だったらしい。

 

 

 

 

 

 

何の前触れも無く、石とイーブイの両方が光に包まれた。

 

「うぉあっ!?何だ!?」

 

驚きを隠せない私とは対照的に、パチュリーは若干笑顔だった。

 

しかもそれで終わりじゃない。私を置いて行って、光に包まれたイーブイのシルエットは徐々に変化しているように見えた。

 

・・・いや、実際そうなっている。大きく、また少し丸っこく変化している。

 

「・・・。」

 

私はこの状況で開けるような口を持っていなかった。

 

光が払われる。

 

「ブァッ!」

 

イーブイの頃と比べて数段鋭い目付きと突き出た耳。豊富な毛で覆われた身体は炎を思わせる暖色系の色に変わっている。

 

・・・イーブイの面影こそあれど、そのポケモンはその何倍もの強さを兼ねている。

 

私は一番最初にそう感じた。

 

「ふふっ、どう?驚いた?」

 

パチュリーは座っているそいつを撫でながら言った。とてもじゃないがもうパチュリーが抱き上げられるようにない大きさだ。

 

No.136 ブースター ほのおポケモン

ほのおタイプ

高さ0.9m 重さ2.5kg

体内に炎を溜める器官が備わっており、その影響で体温が非常に高く炎を最大限に溜めているときの体温は900℃にもなる。

 

図鑑には、パチュリーが石に閉じ込めた炎の力でイーブイがブースターに進化したと思われるようなことが書いてあった。

 

「すごいなこれ・・・ポケモンの進化ってほぼ一瞬でこんなに姿が変わるのか。」

 

「そうね。それにイーブイの場合は・・・。」

 

言いながらパチュリーは両手でポケットで探り始めた。次は何が出てくるんだ・・・。

 

・・・出てきたのは普通のモンスターボール。一気に五つだ。

 

「皆、出てきて。」

 

パチュリーはそれらを一気に空中に放り投げる。

 

それぞれが開かれて中身のポケモンが姿を現わす・・・ん?

 

「ブァーッ!」

 

内一つに入っていたのはさっき目の前で進化した種類と同じ、ブースターだ。

 

もちろん、それだけじゃない。

 

「シャアー!」

 

「エーフ・・・。」

 

「ブラック・・・!」

 

「リッフィー!」

 

それぞれのボールからそれぞれのポケモンが飛び出す。

 

・・・これまた驚いたことに、出てきたポケモン全てにイーブイの面影が残っていた。

 

No.134 シャワーズ あわはきポケモン

みずタイプ

高さ1.0m 重さ25.0kg

水中に適応するように進化した結果、水中を動き回るためのヒレや水分子に近い身体の構造を得た。水中で溶けるように見えることもある。

 

No.196 エーフィ たいようポケモン

エスパータイプ

高さ0.9m 重さ26.5kg

頭が良いことで知られるポケモンで、非常に繊細な毛並みで空気の流れを感じ取り、相手の行動の予測を立てることができる。

 

No.197 ブラッキー げっこうポケモン

あくタイプ

高さ1.0m 重さ27.0kg

月の光に反応してイーブイが進化した姿。身体にある黄色いリングは深夜に光るが、獲物を追うときには消している。

 

No.470 リーフィア しんりょくポケモン

くさタイプ

高さ1.0m 重さ25.5kg

植物が進化に影響を及ぼした結果、リーフィア自体の体細胞にも葉緑体に近い成分が発現した。光合成により自分からエネルギーを作ることができる。

 

「おい・・・こいつらまさか・・・。」

 

「分かった?・・・そう、全部イーブイが進化したポケモンなのよ。」

 

全身水色で身体全体にヒレが付き魚のような容姿になったシャワーズは水。

 

神秘的に光る目と額に嵌め込まれた小さい宝石がミステリアスなオーラを放つエーフィは日。

 

闇夜を思わせる漆黒に月の光のような眩い黄色の輪を身体に持つブラッキーは月。

 

物腰柔らかそうな風貌や全身から出る植物のような毛並みが安心感を与えるリーフィアは木。

 

なるほど全てパチュリーの能力が進化の元になっている。

 

「つまり、さっきパチュリーが言ってた『能力のせいで集まった』ってのは・・・。」

 

「イーブイの遺伝子は不安定で、常に進化を求めている・・・ってとある本から読んだわ。その進化の鍵の多くが私の能力だったから、イーブイ達は本能的にここに集まって来た・・・と考えるのが自然ね。」

 

「ははあ・・・。」

 

私は感心して思わず声を出した。

 

能力と進化。生まれも育ちも全く違うが、こんな所で繋がることもあるんだな。

 

「まあでも・・・そもそもこんな風にポケモンの外的環境が進化に影響を及ぼす例は珍しいらしいわ。」

 

「む・・・そうなのか。例えばつまりその属性石が私のポケモンを進化させるとは限らない、と。」

 

「そう。ポケモンの進化要因として明らかに一番多いのは成長や経験だわ。・・・これも本の情報だけど。」

 

「私のポケモンはどうなんだ?」

 

「本に書いてある種かどうかは分からないけど・・・ちょっと見せてみなさい。」

 

おっ、興味を示してきたか。ちょっくら自慢もかねて見せてやるとしよう。

 

「ああ。これが私のポケモンだぜっ!」

 

私もパチュリーに倣って二つのボールを一気に投げる。

 

「ピカッ!」

 

「キノッ!」

 

ピカチュウとキノスケ。私のポケモン二号と一号だ。

 

「・・・!」

 

「どうだ!こいつらが私のポケモンだ!あっ、こっちのキノスケはついさっき咲夜のブランチって奴を余裕でやっつけたんだぜ!それでもまだピンピンしt」

 

「お願い!その子、ちょっと調べさせて!」

 

「・・・へ?」

 

・・・いきなりだ。

 

あの、ドライなパチュリーが必死な顔で私に迫った。

 

指まで差して興奮した様子だ。

 

しかも、パチュリーが指差したのは、一頻り自慢したキノスケじゃない。

 

・・・ピカチュウだ。

 

「ピカッ?」

 

ピカチュウが一声上げる。

 

「あっ・・・。」

 

それで我に帰ったのか、パチュリーは小さく呟いた後沈黙した。バトル前でもないのに、しばらく沈黙が続く。

 

「・・・オホン。ご・・・ごめんなさい。いきなりで驚いたわよね。」

 

わざとらしく咳払いを一つした後、またボソボソと喋り始めた。よく見ると若干顔が赤い。

 

・・・どこから質問しようか。

 

「えっと・・・どういう事情なんだ一体。何でピカチュウを研究に?」

 

ここらが一番ベタだろう。

 

「・・・イーブイの進化の為よ。」

 

「・・・へ?」

 

本日二回目の「へ?」。

 

「イーブイの進化って・・・あれが全部じゃない・・・ってことか?」

 

「そう・・・私の持たない属性を持って進化した種がいるのよ。」

 

あれが全部じゃないのか・・・多過ぎだぜ・・・。

 

「それがピカチュウの属性・・・電気だってのか?」

 

ピカチュウの得意技は10まんボルト。これは霖之助からの受け売りだが、ボルトは電圧とやらの強さ・・・平たく言えば電気の強さを現わす単位らしいからな。

 

「そうなの・・・イーブイは、炎、水、日、月、木の五種の他に、氷、妖精、そして雷──電気を自らの属性とした進化種があるらしいの。」

 

合計八種・・・そんなに同時に可愛がれるのだろうか。

 

「でも私はこれら三つの属性を持つ魔術が操れない。それにピカチュウは・・・。」

 

「・・・ピカチュウは?」

 

「・・・イーブイと同じように雷の属性的影響で進化するのよ。」

 

「む、それって・・・石で進化するってことなのか?」

 

「そう。ピカチュウは『かみなりのいし』で別のポケモンに進化する・・・もちろん、ピカチュウが傷付いたり不快に思うようなことはしないわ。だから・・・聞き入れてくれないかしら・・・?」

 

未だに赤い顔で、俯き気味に言うパチュリー。

 

・・・まさか、今私は、よく図書館に通う者すら知らず、この紅魔館に住む有象無象ですらめったに見ることがないパチュリーのお願い──いやおねだりを聞いているのか・・・?

 

こんなの断れる訳無いじゃないか!

 

「ま、まぁ・・・そんなに言うならどうとでもしてくれ。ただし、くれぐれも怪我とかさせんなよ。」

 

「あっ、ありがとう、魔理沙!」

 

照明が付くかの如く表情が変わった。なんだこれ可愛過ぎる。今日は進化とか凄い嬉しそうなパチュリーとか珍しいもの多いな。

 

「よしピカチュウ。ちょっとパチュリーに協力してやってくれ。良いか?」

 

「ピカピカッ!」

 

ピカチュウも了承してくれた。

 

「ピカチュウもありがとう。じゃあ、こっち来て。」

 

「ピカ!」

 

パチュリーがピカチュウを連れて図書館の奥の方に消えていった。

 

・・・さて。

 

ここに来た理由を忘れちゃたまらん。

 

図書館のヌシのパチュリーも今は黙ってる。

 

念のため辺りを見回すが、本の整理をしている小悪魔も姿を見せない。

 

今は誰もいないな?

 

よし・・・今の内にポケモン関連の本を存分に狩るとしよう。ヒヒヒ。

 

「ほれ、キノスケ。頭にのれ。」

 

「キノッ?」

 

とぼけた顔して言う通りにするキノスケ。

 

「よし。キノスケ、私のレンタル術、とくと見てるんだぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく本棚を漁って、何冊かポケモンの関連本を見つけた。成果は上々だ。・・・キノスケは終始反応を示さなかったが。

 

しかし、まだピカチュウがパチュリーの研究に付き合わされている。置いて帰る訳にもいかないし・・・仕方ない。ここで一冊読むこととしよう。

 

さて、どの本にしようか。どれも目を引くタイトルばかりだったが・・・とりあえず、ぱっと見で分かりやすそうだった「各地のポケモン伝説」にしてみようか。

 

ちらっと見た限りではその名の通りの内容。伝説と名を売っているのであればきっと伝説級に強かったポケモンやポケモン使いについても書いてあるはずだ。

 

よし、それじゃあ掴みに適当に目に付くページを・・・。

 

よし、ここだ!

 

ページを開いて飛び込んで来たのは写真が見開き二ページ分まるまる使って描かれているページだ。

 

それは石碑だった。古めかしく、かなり昔に描かれたらしいものだが、それにしてはかなり綺麗に残っているようだった。まるでボロボロの石碑が元々の姿に戻ったような感覚。

 

その古さと美しさにも目を惹かれたが、最も私を魅入らせたのは碑の中の描かれ方だ。上中下とそれぞれ印象的なものが描かれている。

 

下にあるのは跪いた幾つもの人間の姿。ある人は深々と頭を下げ、ある人は頭をもたげ前を見据え、またある人は手を合わせて祈っているような仕草をしている。一人一人、細かく描写されている。

 

上にあるのは光り輝く石だ。空中に浮いているように見え、一瞬太陽か何かかとも思ったが、不思議とそのような感覚はしない。太陽以上に何かの力を感じる。

 

そして・・・その光を受けているのは、中心に佇む、緑色の蛇のような姿の何か──恐らくポケモンだ。空中でとぐろを巻き、下の人間達を上から睨んでいるようにも、また見守っているようにも見える。

 

そして石碑の絵全体に、幾つも右上から左下に線が引かれていた。左下が若干膨らんでいるので、何かが落ちているのを表現しているのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

・・・何なのだろう、この石碑は。

 

 

 

 

 

 

私は自分で理由も分からずに、時間を忘れその碑をぼうっと見続ける。

 

この石碑に描かれている緑色のポケモン・・・絵で描かれているだけなのに、こいつにはピカチュウやキノスケ、さっきのイーブイ達とは全く格の違う強さを感じる。

 

しかも、このポケモンの見た目、まるで・・・。

 

「お待たせしたわね。魔理沙。」

 

「ピッカチュウ!」

 

「ん?・・・あぁ、パチュリーにピカチュウか。戻って来たんだな。」

 

前触れも無くパチュリー達が帰って来た。パチュリーはあまり浮かない顔をしている。そんな顔してるってことは・・・。

 

「・・・一応聞くが、実験はどうだったんだぜ?」

 

「ハァ・・・全然駄目。全く進展無しよ。」

 

溜息の深さから実験の様子が窺い知れるようだ。

 

「ピカチュウの持つ電気のエネルギーはかなりだったんだけど・・・石にそのエネルギーを閉じ込めるともなると難しいわね。やっぱり自分自身が簡単に操れるものじゃないと。」

 

パチュリーは何か愚痴っている。

 

チャンスだ。

 

「そうか・・・まっ、私はピカチュウを駆り出してやったんだ。ちょっと位見返りがあっても良いんじゃないか?」

 

「見返りって・・・何よ?」

 

「何、そんな特別なことじゃない。いつも通りのことをしてくれれば良いことだぜ。」

 

ホウキを持ち、ピカチュウを肩に乗せて、集めた本が置かれている机の近くに寄って準備万端。忘れ物も無し、と。

 

「えっ、いつも通りって・・・まさか!」

 

「よっ!」

 

パチュリーが察した。私は集めた本を帽子の中に入れ、手早くホウキに飛び乗る。

 

「これらの本、死ぬまで借りてくぜー!」

 

いつものセリフを言って、入るときに割った窓に向かってホウキを走らせる。

 

「あぁっ!ちょっと魔理沙!」

 

パチュリーは叫んだが、もう私は図書館の中を突っ切っている。もちろん止めることなんて不可能。

 

「持ってかないでぇー!」

 

図書館の出口辺りに差し掛かったとき、後ろからパチュリーの悲痛な叫びが聞こえてきたが気にしない。

 

大丈夫だ。いつか必ず返すぜ。死んだらな。




パチェのポケモンは「ブイズ」。水巫女がエーフィとブラッキーを予想していましたが、一部正解です。惜しかったッスな。

サンダースとグレイシアとニンフィアの登場はもうしばらくお待ち下さい。パチェがまた何か閃いてくれるはず。

後半の本に書いてあったポケモン・・・分かりますよね?

では。


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第一八話 縦穴バトル

書き溜めが順調に減ってる。やばい。書かねば。

今回もバトルします。特殊な状況下で。

では、本編どうぞ。





視点:霊夢

 

空の上から見る幻想郷は今日も平和に見える。

 

見えると言うのは、とどのつまり平和ではない、つまり現在進行形で異変が起こっているということである。

 

一番問題なのはそこなのだ。私達が知らない間に徐々に異変が影響を及ぼす異変はそもそもで気付きにくいし手が打ちづらい。実際、私はこの異変を自力で見つけることはできなかった。

 

そして私は今、異変を解決するとはどのようなことか、と言うレベルで手をこまねいている状態だ。・・・まぁ、どうであっても動かなければならないらのは変わらないのだが。

 

と、言う訳で、私は今、ポケモンが大量発生した異変を解決するため、空を飛んで温泉がある方面に向かっている。

 

もちろん、温泉に入ろうだとは思っていない。目的はその近くの縦穴を使っての地下への進入、そして地霊殿の訪問。

 

地霊殿とは、幻想郷の土の下にある、幻想郷では他に類を見ない動物屋敷だ。

 

地霊殿には人や動物の心が読める、とある妖怪が暮らしている。そいつの力を借りてポケモン達に事情を聞くのが今回のメインイベント。ついでに地下のポケモンの様子も見られれば尚良い。

 

この空の旅で、新しいポケモンも一匹手に入った。昨日の夜の件もあるが、地下の輩がポケモン勝負で喧嘩をふっかけてくるかも分からない。備えあれば憂い無しだろう。

 

・・・と、地下にポケモンが生息している前提で考えてしまっている自分が恐ろしい。

 

スペルカードルールを使わないで勝敗付けるなんて、私の役目的にどうなんだろ・・・。

 

だがしかし、幻想郷は全てを受け入れる、という言葉もあるのだ。私の意志よりは、幻想郷の住民の意志を優先するべきなのだろう。

 

・・・こうでも思わないと、これから私の身が持ちそうにないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

色々考える内に、いつの間にか縦穴の前まで来ていた。温度良さげな温泉が私を誘惑するが、初めてじゃないから振り切るのは簡単。

 

縦穴の前に看板が一つ。「ここから先への地上の妖怪の立ち入りを禁ず」・・・こう言いながら穴を塞ぐでもなく、ただ看板が建っているだけ。毎回目には入るが、この禁止令を律儀に守る妖怪何ぞいないと断言できる。

 

紫にでも言えば撤去してくれるのかしら・・・いや、紫は今行方不明だったか。

 

縦穴は特段変わっている訳でも無く、天空に向かって口を開いている。

 

こんな大穴の中でポケモン勝負なんて挑まれたらどうしろってのよ。

 

・・・考えたくはないけど、ありえなくはないから用心しないと。

 

さて、と。

 

いっちょ行きますか。

 

一度身体を伸ばして、穴の縁に立つ。

 

穴の中は・・・うん、ちゃんと燭台付いてるわね。

 

この燭台は地底の妖怪達が自主的に設置したものらしい。地上のことを考えてなのか、それとも地下の妖怪だけを考えてのことなのかは分からないが。

 

フッと息を吐いて、頭から穴に突入。

 

丁度穴の深くを覗くような体勢で落下をスタートさせた。

 

私の全身を、通り過ぎる風が切る。

 

やっぱり地下に向かうならこの降り方が一番速い。

 

穴の中には日の光が入らず、燭台こそ辺りを照らしているが、燭台同士の間隔が広く見通しはあまり良く無い。

 

かと言って不安になるような暗さでも無くて、私は無心で穴の底へ突き進む。

 

今の所、妖怪が現れる様子も、ポケモンが現れる様子も無い。このまま誰にも会わずに済めば良いが・・・。

 

「あっ、霊夢!」

 

・・・そうは行かないわよねぇ。

 

穴の上の方に蜘蛛の糸を引っ付けてぶら下がっていたそいつは、私を見るなり一緒のスピードで降り始めた。

 

「ヤマメ?何の用かしら?」

 

私を見事に捕まえやがったのは、土蜘蛛の黒谷 ヤマメ。地底の妖怪にしては社交的で、私みたいな知り合いはもちろん他人にもよく話し掛ける。地底のアイドルと呼ばれる所以はこれか。

 

「地下に用事なんて珍しいね。やっぱりポケモンのこと?」

 

「そうよ。ポケモンの心を読んで貰いたくてね。」

 

やっぱり地下にもポケモンは伝わってたみたいだ。

 

とりあえず振り切るためにスピードを出すが、ヤマメは全く劣らずにくっついて来る。

 

「じゃあ、やっぱり霊夢もポケモン持ってるの?」

 

「持ってるけど、それがどうかした?」

 

「もーっ、ノリ悪いなぁ。ポケモンを持ち寄ってすることって一つなのに。」

 

・・・嫌な予感がして来た。

 

「ポケモン勝負だよ、ポケモン勝負!知らないとは言わせないよ!」

 

そら来た・・・。

 

面倒だが、断るともっと面倒なことになりそうだ。ここは腕試しも兼ねて受けて立つとしよう。

 

「・・・分かったわ。じゃあさっさと下に降りましょう。」

 

「え?どうして?ここでやろうよ!」

 

「はいは・・・ヴェッ!?」

 

おいこいつ・・・今「ここで」って言ったか!?

 

「えっと・・・ここって?」

 

「だから、ここ!」

 

言ってヤマメはこの辺りを指差した。

 

つまり・・・この穴の中でやれと?

 

「ちょっと!?自分がどんだけ無茶言ってるのか分からないの!?」

 

「別に無茶じゃ無いよ?出てきてミドマル!」

 

これが証拠だと言わんばかりにボールを放り投げて、ポケモンを繰り出すヤマメ。

 

「シィーッ!」

 

出てきたのは緑色の蜘蛛ポケモン。ヤマメと同じように、出した糸を穴の上の方にくっ付けている。

 

No.167 イトマル いとはきポケモン

むし・どくタイプ

高さ0.5m 重さ8.5kg

丈夫な糸で罠を張り、引っ掛かった獲物を捕食する。夜の内に巣を作るため、夜行性。

 

ヤマメが繰り出したポケモンは確かに空中に静止してはいるが、それも蜘蛛の糸があるからだ。糸を使ってスラスラ動き回るような術をこいつが持っているとは思えない。

 

「それで戦えるの?」堪らず私はヤマメに聞いた。

 

「うん、全然大丈夫だよ!見てみたらきっと分かって貰えるんだけど。」

 

疑わしいが、本人がそう言うのならそうなのかも知れない。

 

・・・やるしか無いか。

 

こんな穴の中じゃフォッコは全然動けない。だが、私はついさっきこの状況でも自在に戦えるポケモンを捕まえた。完全に偶然だが。

 

いきなりデビュー戦か・・・まぁ、大丈夫だろう。

 

「行けっ、ムックル!」

 

私もヤマメを真似るようにしてボールを放り投げた。

 

「ムックー!」

 

威嚇とばかりにミドマルに向かい一鳴きするそいつ。こいつこそ、私が捕まえた二匹目のポケモン、ムックル。鳥ポケモンだ。

 

No.396 ムックル むくどりポケモン

ノーマル・ひこうタイプ

高さ0.3m 重さ2.6kg

群れを形成して互いをカバーし合って生活する。鳴き声がかなり喧しい。

 

白黒の顔に丸みを帯びた鼠色の身体、更に目立つ蜜柑色のクチバシで見た目は十分。穴の中を自由に飛び回る元気もある。

 

こいつは私がここに入る前、何をするも無く無防備に空を飛んでいた。図鑑を見ると、どうやら群れを作る習性があるらしいことが分かったのだがこいつは一匹で、群れからはぐれたらしかったので保護や戦力拡大の意味で捕獲した、と言った経緯だ。

 

捕まえる際にフォッコで攻撃しなかった為か、飛び回ることができる位には元気が有り余っている。

 

「鳥のポケモンかー。確かにこれなら穴の中も動きやすいね。」

 

感心したように感想を漏らすヤマメ。

 

「糸を引っ付けてる蜘蛛がいつまで持つかしらね?」

 

「ふふん、どうかな?」

 

何か奥の手がありそうだが・・・しかし。

 

早苗から教えて貰ったばっかりのタイプ相性的には明らかにこっちが有利だ。

 

相手のミドマルはむしタイプを持つに対して、こっちのムックルはひこうタイプ。ひこうタイプの技はむしタイプに二倍、むしタイプの技はひこうタイプに半分の威力しか出ないらしいから恐らく相当楽だ。

 

それでも私のムックルを突破したとしたら、それはもはや快挙のレベルだろう。大丈夫、そんなことは起こらない。

 

互いが互いのポケモンを引き寄せて、睨み合う。

 

審判は・・・流石にいないか。

 

 

 

 

 

 

しばし、沈黙。

 

 

 

 

 

 

「悪いけど、さっさと決着付けさせて貰うわよ。ムックル、ブレイブバード!」

 

「ムック!」

 

私の指示で、ムックルは上半身に勢いを付けて突進を始めた。

 

対象はもちろんミドマル。しかし・・・。

 

「・・・。」

 

ヤマメが何も指示しない。・・・当たる気?

 

ムックルがぐんぐんミドマルとの距離を縮める。

 

もう避けるにも近過ぎる距離になった。まさかこれで終わり・・・?

 

「こうそくいどう!」

 

後少しでミドマルに当たろうと言う所で、ヤマメが指示を飛ばした。

 

・・・と思ったら、ミドマルは既にムックルの目の前から姿を消していた。

 

「ムクッ!?」

 

慌てて旋回するムックル。

 

「ムックル、後ろ!」

 

ミドマルは攻撃が当たるか当たらないかの一瞬で、ムックルの背後にまで糸を付けて移動したのだ。

 

「もう遅いよ!ミドマル、かなしばり!」

 

「キシッ!」

 

指示を受けたミドマルは、振り向いたムックルの方に向き直ると、

 

クワッ!

 

とムックルを睨んだ。

 

睨まれたムックルは動きを一瞬硬直させられた。すぐに元に戻ったが・・・。

 

「・・・なるほど、これでブレイブバードを封じたのね。だから最初動かなかったと。」

 

「意外と頭良いことするでしょ?」

 

状況を考えて、恐らくかなしばりは使った技を封印する技。ムックルの主武器を封印するために最初動かずに技を誘発させたらしい。

 

見事に引っ掛かってしまったか・・・。

 

「戦略は良いけど・・・何度もこの作戦が通用するとは思わない方が良いと思うわよ。」

 

「どうかな?霊夢がいくら用心してもミドマルの技の組み合わせは健在だよ。少しでも隙があればミドマルはこうそくいどうで避けられるんだから。」

 

「そうね。でも避けた後がちゃんとして無きゃ成功じゃ無いわ。ムックル、すてみタックル!」

 

「ムックー!」

 

ムックルは再びミドマルに身体を向かわせる。

 

「血迷った?これじゃあさっきと同じだよ?」余裕をかますヤマメ。

 

「・・・どうかしら?」

 

「さぁね。ミドマル、こうそくいどう!」

 

「キシッ!」

 

こちらも再びムックルの目の前から姿を消すミドマル。

 

・・・さっきと同じじゃ無いのはこれからよ。

 

「ムックル!そのまま壁に向かって!」

 

「ムクッ!」

 

「えっ!?」

 

ムックルはミドマルに回り込まれても振り向かずに、そのまま壁にすてみタックルを叩き込む。

 

ガラガラと壁が崩れる音がして、辺りに土煙が広がる。これで・・・。

 

「これじゃあ睨めない!かなしばりできないじゃん!」

 

「そうしたのよ?」

 

「分かってるよ!」

 

土煙を起こして撹乱するのは手軽で実用的。戦闘ではよく使われる手法だ。

 

「危ないミドマル!早く離れて!これじゃあどこから来るか分かんない!」

 

「ふっ、隙も何もありゃしないわね。もう一度すてみタックルよ!」

 

「ムクーッ!」

 

ムックルは完全に狼狽えているミドマルに向かい、砂煙を巻き上げてそのまま突進。

 

「キシーッ!」

 

突進をモロに受け、ミドマルは大きく上に飛ばされた。

 

「もう一発!すてみタックル!」

 

「ムクーッ!」

 

ムックルはさらに上を向き、三度ミドマルに向かい突進。

 

よし、行けたか・・・!?

 

「まだまだぁ!メガホーン!」

 

ミドマルも負けていなかった。下に向き直って額に生えた角でムックルを指す。

 

全身凶器のムックルと一点凶器のミドマルが対峙し、ぶつかり合った。

 

ギリギリと鍔迫り合いが繰り広げられる。

 

「ムックル!まだ行けるわよ!」

 

「頑張ってミドマル!押し返せ!」

 

互いに声援を掛け合う中、競り勝ったのは・・・。

 

・・・ミドマルだ!

 

ミドマルは光らせた角を一振りして、ムックルを下の方へと薙ぎ払った。

 

「ムックル!」

 

空中で何とか態勢を立て直すムックルだが、捨て身の攻撃を繰り返したせいで既に身体は限界が近い。早苗の言葉を借りるなら、HPが残り少ない・・・と言った所か。

 

「ムックル、もうヘロヘロじゃないの?大丈夫?」

 

ヤマメにもそれは勘付かれている。

 

「ええ、ヘロヘロよ。それがどうかした?」

 

「決まってるよ。私の勝利が近いってこと!最後のメガホーン!」

 

ミドマルは角を特大に光らせて下のムックルに迫る。

 

「・・・確かに、『最後』のメガホーンね。」

 

「どうせ、私のミドマルが倒れるから最後だとでも言いたいんでしょ?空気で分かるよ。」

 

「あら、勘が良いわね。・・・私程じゃ無いけど。

 

 

 

 

 

 

ムックル、がむしゃら!」

 

 

 

 

 

 

私が今まで全く使ったことの無かったこの技を選んだのは、全て勘を頼りにしてだ。

 

言い換えるなら、この技が何とかしてくれると思ったからである。

 

そして、実際そうなるのだ。

 

「ムクゥーッ!」

 

ムックルは指示を聞くと、その場でミドマルの方へ向いた。

 

さながら、最後の力を貯めているようにも見える。

 

「キシシシッ!」

 

上から落下して来るミドマルの大角を、ムックルはどうしたか。

 

「ムックウウウウウウ!」

 

受け止めたのだ。

 

ほとんど力が残っていないはずなのに。

 

「受け止めた!?」

 

ヤマメも驚愕している。

 

それでも終わらない。

 

「ムックウウウウウウウウウウウウウウウ!」

 

さらにムックルは角を両手翼で受け止めて、あろうことか上へ投げ返したのである。

 

がむしゃらに。

 

「ムックー!」

 

投げ上げたミドマルはメガホーンが解かれ、空中で数回転。

 

その間に、ムックルが高速でミドマルへと接近し、「最後」の攻撃を繰り出した。

 

「キシャアァッ!」

 

身体を貫かれたミドマルは空中を更に回り、

 

「ミドマルっ!」

 

駆け寄ったヤマメの手に収められた。

 

「キィ・・・。」

 

目を回して伸びているミドマル。

 

「・・・よし。これで勝負ありかしら?」

 

「ムック・・・ッ!」

 

私達の勝利が確定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

勝利が決まってからしばらくして、私は地底の地面に足を付けた。

 

「負けちゃったよ霊夢・・・悔しい!」

 

ヤマメも一緒だ。

 

勝負の結果は私の辛勝。すてみタックルを使い過ぎて自滅する所だったが、何とか勝ちを修めた。

 

「でも、最後のムックル凄かったねぇ・・・火事場の馬鹿力って感じだったけど、あれどんな技なの?」

 

「調べてみたら、自分が相手より傷付いていればいる程威力が上がる技だったみたい。正にがむしゃらね。」

 

すてみタックルやブレイブバードの反動で傷付いた身体を利用できる技を兼ね備えていたとは・・・このムックルやりおる。

 

「あぁ〜。それならあんな威力にもなるね。・・・そう言えば霊夢。旧地獄まで行くんだったら、気を付けといた方が良いよ。」

 

「ん?どうして?」

 

旧地獄とは、元々地獄の一部だった地底の地域の総称で、地霊殿もその中には入る。因みに地霊殿はかつての責め具である灼熱地獄に蓋をするように建っている。

 

「最近、異様に暑いんだってさ。旧地獄街道の人達は灼熱地獄に何かあったって噂してるんだけど・・・私は地霊殿まで行く用事無かったからあんまり知らないんだけどね。」

 

「ふーん・・・。」

 

また新しい異変か否か。どうせまたポケモンが何かしたんだろうが。

 

「あっ、そうそう。何か今日はパルスィがいつもに増して不機嫌そうだったよ。何かあったかも。」

 

「あれより不機嫌なの?また面倒なことになりそうね・・・。」

 

このようにヤマメは地霊殿周辺とのネットワークが強いので良い情報源になるのだ。

 

「それじゃあ私はこの辺で。バイバーイ。」

 

元気良く手を振ったので、軽く振り返しながら遠くに行くヤマメを見る。

 

・・・このギリギリ今回の勝負が、今回の地霊殿訪問を予言するような感覚がしてならない。理由は勘。

 

私の勘は良かろうが悪かろうが恐ろしい位当たる。と言うことは・・・やっぱり、そうなのかしら。




縦穴でバトルするって発想は褒められて良いと思う。

トレーナーが普通に空を飛べる幻想郷ならではのバトルですが、あれ若干スカイバトル意識しました。イトマルはスカイ対応じゃありませんが、それはそれで面白いかと。

さて・・・始まりました地霊殿編。この先どうなることやら。

では。


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第一九話 地底道中小景

旧都前でのお話。若干場繋ぎ感があるかも知れませんが、結構詰め込んだ回なのでご注意を。

では、本編どうぞ。





視点:霊夢

 

洞窟の中は薄暗い。

 

遠くまで見渡せる眩しさじゃ無いのは分かるが、真の闇でも無いのだ。

 

日の光が無いのに。

 

まぁ・・・旧地獄街道では冬に雪が降るらしいから、それに比べちゃ不思議でも何でも無いのだが。

 

それに明るみがあるならそれに越したことは無い。周りの様子が分かるだけでも安心するものだ。

 

さてその周りの様子だが・・・やはり異変前とは様変わりしている。具体的にはポケモンが現れた。

 

まず一つ、灼熱地獄の熱にでも釣られたのか、マグマのようなポケモンがそこでかしこでぬらぬら動いていた。

 

少し近付いてみたが、四歩も五歩も離れた場所でもかなりの熱を感じたので体温は相当高いのだろう。

 

岩場だからまだ良いのだが、こいつが地上の草むらやらの上を動き回るとどうなるか想像に難く無い。外界の環境はどうなってんだ。・・・このおかげで洞窟が余計に明るくなったのかも知れないって考えたら感謝しなければならないのだが。

 

そうそう。足元の石を蹴ったかと思ったらそいつがポケモンだったこともあった。怒って歯向かって来たが、一発弾幕を入れたら大人しくなったからあまり強くは無かったのだろう。

 

他にも石や岩に似た、いわタイプのポケモンが多くいる。さっきのマグマのポケモン然り、その場の環境によく合ったポケモンが暮らしているようだ。その辺りよく考えられているのだろうか。

 

数々ポケモンはいるが、襲って来たのはさっきの石もどきのポケモンも含めて三、四匹だけ。それもわざわざポケモン同士で戦わせることも無く弾幕で大人しくなったからあまり手は焼いていない。面倒なポケモンが現れなくて良かった・・・。

 

 

 

 

 

 

・・・つーっ。

 

 

 

 

 

 

「ひゃんっ!?」

 

突然、背中になぞられるような感覚が走った。

 

慌てて振り向くが・・・何の姿も無い。

 

何かしら・・・?

 

 

 

 

 

 

・・・フーッ。

 

 

 

 

 

 

「ひゃいぃっ!?」

 

今度は首元に息を吹かれた。確実に。

 

「ヤーミヤミー!ヤーミヤミー!」

 

後ろから嬉しそうな鳴き声がした。振り向くと、宝石をそのまま嵌め込んだような目をした小柄なポケモンが一匹、ぴょんぴょん跳んでいる。

 

間違い無い。こいつが犯人だ。

 

そいつは私が振り向くとすぐに奥に駆け出した。

 

私と追いかけっこか・・・自殺願望でもあるポケモンなのかしら?

 

・・・まぁ、あるにしても無いにしても、どっち道未来は無いんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

少女惨殺中・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

私が数分の間、具体的に何をしていたかは覚えていない。

 

ただ、気が付くと目の前の地面には紫色の肉片・・・とまで行かないが、無惨にボロボロになった紫色の身体があった。

 

うつ伏せで大の字に倒れていて、ピクリとも動かない。

 

あっちゃあ・・・これ、やり過ぎたか?

 

死んじゃいないんだろうが、かなりの深手なのは間違い無い。

 

・・・とりあえず、図鑑を見てから決めることにしようか。

 

No.302 ヤミラミ くらやみポケモン

あく・ゴーストタイプ

高さ0.5m 重さ11.0kg

洞窟の中に生息し、石や岩を主食とする。食した岩石類に含まれる鉱物成分が体表に析出する。

 

ふぅん・・・だから目と腹に宝石が嵌め込んであったのね。

 

図鑑を見て改めて確認したが、こいつは小柄で、タフさの欠片も無さそうだ。放っておけばどうなるか分からない。さて、どうしたもんか・・・。

 

・・・そうだ、今はボールに入れといて、諸々は後から考えるとしよう。

 

私は通算三つ目の空モンスターボールを取り出して、倒れているヤミラミに投げつけた。

 

ヤミラミの身体がボールに押し込まれ、何の緊張感も無くボールが動きを止める。

 

まず捕獲には成功したようだ。

 

ボールを拾い上げて、ポケモンの情報を見てみる。

 

HPは既に0だが、やはりまだ死んではいなかった。このままポケモンセンターにでも連れて行けば完治するだろう。

 

まだ地底での用事が済んでいないが、地上に戻った後に行っても遅く無さそうだ。一旦こいつのことは忘れておこう。

 

私はボールを懐に入れ、再び歩みを進め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

洞窟を進み、もう間も無くで旧都に差し掛かろうとする所まで来た。

 

そろそろ洞窟と街道を繋ぐ橋が見えてくるはず。

 

厳密な話をすると、ここはまだ元々地獄だった場所では無い。向こうにある橋を渡って旧都、その先の地霊殿を通り、さらに地下に降りて初めて旧地獄が始まる。

 

ところでここの橋と言えば、橋姫だ。

 

水橋 パルスィ。妬む才能世界一、と褒めても妬んでくる位嫉妬深い性格で、橋姫の名の通りその橋の袂に家を構えて妖怪や人間の出入りを監視しているらしい、地底の妖怪。

 

私個人の印象としてはもはや妬むことが本業になりかけているのだが、飽くまで仕事は監視でそれはちゃんとしているとのこと。

 

ヤマメが言っていた「パルスィ」はこいつのこと。四六時中妬んでいるので基本いつも不機嫌なのだが、楽観的なヤマメでさえもそんなパルスィがいつも以上の不機嫌に見えたと言っていたのは気になる。

 

私は恐らく、何かポケモンの異変で仕事が増えて妬ましさが出血サービスしてるんだろうと思っている。

 

詳しい経緯は幾つか予想が付く。

 

一つ、地霊殿の輩にでも頼まれてポケモンの監視もすることになった。

 

これは私の中では本命の予想である。一番現実味があるし、かつ面倒臭い。

 

二つ、ポケモン勝負によく付き合わせられるようになった。

 

これもありそうだが、相手が分からない。パルスィの交友は意外にも広めなのだが、よくポケモン勝負をするような間柄になりそうなのは一人だけ。そいつも根っからバトルマニアだからわざわざパルスィまで頼むようなことは無さそうだ。もちろん気に入られたとか他の理由が無いとは言えないので予想としては次点。

 

後は大穴の予想もあるが・・・いや、これは流石に無いか。

 

とにかく、経緯がどうであれ何か面白いことを掴んでそうだ。旧地獄街道へ向かう前にパルスィの家を訪ねてみよう・・・っと、橋が見えて来た。

 

当たるのは本命か次点か。賭けた所で何か出る訳じゃ無いけど。

 

袂に建つ家に向けさらに歩を進める。

 

・・・ん?

 

私はある程度近付くと違和感を感じた。

 

まだまだ遠くだからよく分からないのだが、外観が何か変わっている気がする。

 

私は気になって、家に向かう足を一層早めた。

 

段々と違和感の正体が姿を現して行く。

 

・・・屋根だ。

 

屋根の上に何か乗っている。

 

えっ、これって・・・。

 

もはや駆け足となって接近。

 

家の目の前まで来て、再び屋根の方に目をやる。

 

「・・・うっそお・・・。」

 

屋根の上に平仮名で書かれた看板が一つ。

 

書かれているのは私が今日既に一度見た言葉だ。

 

「ぽけもんせんたーって・・・。」

 

・・・くそう、大穴に何か賭けときゃ良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぽけもんせんたー」の中に入ると同時に肌に伝わる独特の重苦しさ。

 

多分その発生源は部屋の隅っこに佇む例の機械とパルスィ。その他はいつもと変わらないが、そこから何か湿っぽいものが頒布されているように感じる。

 

私の見解だと、あの湿ったものの主成分はパルスィの十八番、嫉妬心だ。だが、嫉妬だけじゃこんな独特な湿りにはならない。口で言うには難しいが・・・世の理不尽に対する失望のようなものを感じる。

 

・・・何と話しかけにくいのだろうか。

 

このまま黙って機械を使って帰ることもできそうだが・・・それはそれで後から嫉妬されそうだし・・・当たり障りの無いレベルで話を合わせるとするか。

 

「パルスィ〜・・・?」

 

丸い背中に向かって名前を呼んでみると、すぐに壁を向いていた顔が振り向いた。緑色の眼がいつもに増して鈍い光を湛えている。

 

「あら・・・霊夢。能天気な面して妬ましいわね。」

 

・・・一言目から妬まれた。

 

いくらパルスィが嫉妬妖怪とて一言目からってのは飛ばし過ぎじゃ・・・?

 

「そんな顔してた?」

 

いや皮肉言うなよ私。思いっ切り火に油注いじゃったし。習性って怖い。

 

「能天気以外の何物でも無かったわよ・・・ちっ、お前の顔見たらまたあのスキマ妖怪のこと思い出してきたわ。」

 

おっ・・・スキマ妖怪?

 

「スキマ妖怪って・・・紫よね?会ったの?」

 

「会えないから妬んでるのよ。あの厚い顔が妬ましい・・・。」

 

こいつ・・・何か紫に押し付けられているようだ。後ろの機械のお陰で予想は大体付くが、ここは聞いておくべきと見た。

 

「詳しく聞かせて。紫が何したの?」

 

「ハァ・・・分かったわよ。全部話して嫉妬ぶちまけることにするわ。」

 

パルスィは重そうな腰をようやく上げて会話の体勢を取る。

 

「昨日の朝、起きたらこんなどでかい機械が置いてあって・・・同じようにこんな書き置きが。」

 

言ってパルスィは機械のすぐ横の壁を指差した。そこには張り紙が何枚か。その中に、紫の字らしい手紙が一つあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「拝啓、水橋 パルスィ様

お元気?いきなりで悪いんだけど、今日から頼みたいことがあるのよ。聞いて下さるかしら?

面倒だから色々説明は省くけど、今日からあなたの家を地底のポケモンセンターにして欲しいの。旧地獄街道の方はどこも受け入れられそうな所が無くて、消去法であなたの所になっちゃったんだけど・・・ごめんね。

出来れば受付もして欲しいけど、別にそこまで強要はしないわ。面倒なら機械の使い方だけ分かるようにしてくれればいつも通り過ごしてくれて構わないわよ。

と言う訳で、ポケモンを回復させる機械とその説明書の要約だけあなたの家に置いておきます。後、勝手だけど家の屋根に看板も建てました。迷惑だとは思うし、姿も見せないで失礼だとも思うけど、何も考えないで受け入れてくれると助かるわ。どうか宜しくね。敬具

八雲 紫」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・。」

 

正直に言って、入る情報が多過ぎて率直な感想が浮かばなかった。

 

まず驚いたのはしっかり便箋を使ってちゃんと手紙が認められていることだ。書き置きとかそう言うレベルじゃ無い。

 

字も確かに紫のものだが、普段の字より丁寧に書かれている気がする。

 

だが・・・ここまで誠意があるならなぜパルスィの家まで訪問しなかったのか。

 

確かに今は異変中だが、自前の能力で訪問すればどこから来たのか知られずに済むはず。でも紫は手紙を残した。何か訳があるのか、それともタダの気紛れか・・・。

 

いや、難しく考えても意味があるかどうかは分からない。今は放っておくが吉か。

 

疑問を振り払うつもりでその横を見てみると、同じように紙が二枚貼られていた。一つは紫の手紙でも言及されていた機械の使用法が手描きされている紙。もう一つは雑に「ご自由にお使い下さい」と書かれた紙。

 

そりゃそうよね。パルスィが甲斐甲斐しく受付何てしてたら衝撃でぶっ倒れるわよ。

 

「・・・こんな訳よ。私の妬みを少しでも感じてくれたら嬉しいんだけど。」

 

当の本人はそれとは間逆に、負の感情が溜まりに溜まった目で恐ろしいことを言った。

 

「いや・・・あんたに同情はするけど、流石に嫉妬はしないわよ。第一誰に嫉妬しろと。」

 

「そんなの嫉妬するあんたの勝手よ。私が決めることじゃ無い。」

 

「無茶苦茶言うわねあんたも。・・・まぁとりあえず、私にはどうしようも無いことは分かったわ。」

 

「でしょうね・・・。」

 

パルスィは落胆したように再びそっぽを向いて体育座りを決め込んだ。

 

「妬ましい、妬ましい、妬ましい・・・。」

 

さながら呪いのように(実際そうかも知れないが)連続して呟くパルスィ。

 

怖い。

 

もうこれ以上情報は出ないだろうし、さっさとお暇するとしよう。

 

・・・あ、ちょっと待った。

 

ここはポケモンセンターだ。

 

ポケモンセンターってのは・・・ポケモンを回復する施設。なら、ついでにポケモンの回復しといた方が良いか。

 

「パルスィ。機械使わせてもらうわよ。」

 

「勝手にどうぞ。」

 

確か使い方は、この窪みにボールを嵌めて、ボタンを押す、だったか。

 

手持ちのポケモン入りボールは三つ。一つはもちろんフォッコ。二つはさっき頑張ってくれたムックルで、もう一つは・・・あいつか。

 

まずこれらを嵌めて、後は地上で鈴仙がやっていたようなことをすれば・・・。

 

テンテンテレレン♪

 

何やらしていると、聴いたことのある音楽が流れた。・・・どうやら成功したようだ。

 

・・・のだろうか?

 

地上でもその様を見たはずなのだが、やっぱり慣れない。

 

ボールから出そう。ついでだからヤミラミを本格的に仲間に引き入れたい。

 

ボールを持ち直して、今度は家の空きスペースに向かって投げた。

 

「フォッコッ!」

「ムックー!」

 

活躍済みの二匹はボールから出るとお約束とばかりに一回鳴いて、こちらを見た。

 

同時にパルスィも訝し気にこちらを見たが、また呆れたような表情になって元に戻ったので良しとする。

 

地上のポケモンセンターで出してから触っていないフォッコはもとより、ムックルもしっかり元気になっていた。

 

しかし問題のヤミラミは・・・。

 

全然動かない。

 

出てきたときから捕まえたときと同じ体勢で倒れたまま動かないのだ。

 

傷は綺麗さっぱり消えているのだが・・・やっぱり死んでる?

 

「・・・おーい、起きなさい。」

 

とりあえず身体を片手で揺すってみた。

 

「・・・ヤミ?」

 

あ、目覚ました。

 

まだ寝呆けているのか、キョロキョロ室内を見回す。

 

「・・・ヤミッ!?」

 

ヤミラミは私の姿が目に入るや物凄い速さで部屋の逆側の壁まで後ずさった。

 

壁にぴったり張り付き、冷や汗を浮かばせて震えている。

 

めちゃくちゃ怖がれてるわね・・・。

 

お互いに自業自得だけど、近付く努力しないと。

 

「・・・ほら、もう怒ってないから、こっち来なさい。」

 

「ミ゛ッ!?」

 

・・・え?

 

ヤミラミは私が口を開いた途端に身体の震えを強めた。

 

私の動きに何の恐ろしさを感じたのかしら・・・?

 

「ちょ、ヤミr」

 

「ヤ゛ミ゛!ヤ゛ミ゛!ヤ゛ミ゛!」

 

「・・・ちょ」

 

「ヤ゛ミ゛!ヤ゛ミ゛ィ゛!」

 

「・・・。」

 

ヤミラミは私の一挙一動に反応して戦慄している。

 

こうなるまで痛め付けた覚えは無いのだが・・・これじゃあ話すこともままならない。

 

どうしよう・・・。

 

「コッ!」

 

「?」

 

途方に暮れていた私に声を掛けたのはフォッコである。

 

「どうしたのフォッコ?」

 

「フォッ、コッ!」

 

フォッコは私の目を見て、何かを訴えかけた。その様子はやけに自信満々だ。

 

・・・言いたいことは大体分かる。

 

「話を付けてくれるの?」

 

「コッ!」

 

フォッコは鳴いて頷くと、ヤミラミに向かって駆けた。

 

「・・・ミッ?」

 

「フォッコッ!コッ!フォッコッ!」

 

「ミ・・・ミイッ?」

 

「コォッ。フォッコッ!」

 

「ヤッ、ヤミィッ!」

 

「コッ、コッ、コッ!」

 

「ヤ・・・ヤミ!ヤミィッ!」

 

「コォッ!フォッコッ!」

 

「ヤミ・・・ヤミ。」

 

お互い自分の鳴き声を発し、どうやら会話を始めたようだ。あれで通じ合っているのは驚きだが。

 

と、突然ヤミラミがこちらに向かって歩いて来た。

 

最初何をしても震えていたのに・・・凄い差だ。

 

「・・・ヤミ。」

 

ヤミラミはおずおずと右手を差し出して来た。

 

そこまで説得したのか・・・フォッコは私が聖人とでも言ったのか。

 

あ、でも私一応巫女だし聖職者ではあるか。

 

とか余計なことを考えつつではあるが、私もその手を握り返してやった。相変わらずプルプル震えてはいるが、私と握手を交わしたのだ。

 

「・・・私もあそこまであんたを攻撃したのは謝る。だからそんなに怖がんないで。」

 

「ヤ・・・ヤミッ!」

 

「あ、私にイタズラしたのは謝って欲しいけど・・・。」

 

「ミ゛イ゛ッ゛!?」

 

手を引っ込めた。怖がんないでって言ったのに怖がり過ぎでしょ・・・。

 

「あっいや、取って食うとかはしないから。安心して。」

 

「ヤミ・・・?」

 

今こいつと仲良くなっとかないと危ないような気がするのだ。上手く話を付けなければ。

 

「その代わりって言っちゃ難だけど、私のポケモンとして精一杯戦って貰うわよ。」

 

「ヤ・・・ヤミッ!」

 

ヤミラミは良い声で返事をした。声色は若干高いが。

 

半ば脅しになってしまったような気がしなくも無いが、とりあえずヤミラミは私と話して、私と一緒に戦う約束をしてくれた。

 

貴重な戦力だ。ポケモンの数と信頼感はあり過ぎて困ることは無いだろう・・・。

 

「妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい・・・。」

 

「・・・!?」

 

いきなり部屋の中で声がして飛び上がりそうになった。

 

何かと思ったが、暗い声色と呟いている内容ですぐ分かった。パルスィだ。多分私とヤミラミの間に芽生えた友情か何かに反応したんだろう。

 

そこそこ驚いた私に対して、ヤミラミは驚くような様子は無かった。逆にかなりキョトンとした表情でパルスィを見ている。

 

「妬ましい妬ましい妬ましい・・・。」

 

・・・あぁ、そうか。ヤミラミにとってはパルスィも初対面か。こんなに妬んでたらキョトンとするのも当然だ。

 

これ何?とでも言いたげにこちらをチラチラ見つつパルスィを観察するヤミラミ。

「・・・放っときなさい。わざわざあんたが首を突っ込む必要は無いわよ。」

 

「・・・ヤミ!」

 

返事をしたヤミラミは笑顔になっていた。・・・なぜだ?

 

まさかパルスィがヤミラミを笑顔にしてくれるとは思いも寄らなかったが、とりあえず結果オーライだ。

 

まだ完全に心を開いていない感じではあるが・・・それはこの先育むってことで問題無い。

 

・・・っと、ヤミラミも引き込めたんだし、用事は終わった。今度こそここから出よう。

 

「よし、ヤミラミ。そろそろ出るわよ。」

 

「ヤミ?」

 

「私は用あってこの地底まで来たの。あんたにも手伝って貰うわよ。」




二話連続で霊夢パーティに新メンバー。守銭奴には宝石ってことでヤミラミです。今まで御三家、序盤鳥と主人公らしい(コメントで初めてそう思いましたが)メンバーでしたが、敢えてのヤミラミ。

出会いも「少々」衝撃的と言うか、ノンスタンダードにしてみました。ヤミラミがどれだけやられたかはご想像にお任せします。

パルスィが嫉妬を加速させていた理由は「ポケモンセンターの仕事を押し付けられたから」。流石にこれは予想できませんでしたでしょう。

逆に言ったら無理矢理な展開ですが・・・。

パルスィのポケモンはまだ非公開ですが、何故かパルスィのポケモンについては考察が活発ですので感想欄に正解ポケモンが一匹います。二話程間が空いて登場ですので、お楽しみに。

では。


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第二○話 猛暑

全然筆が進まない。

この話を投稿する週は二二話を執筆しているのですが、まぁ進まないったら。コミケだからですかね?関係無いか。

今回はキャラ紹介が主になります。では本編どうぞ。





視点:霊夢

 

目の前に広がるのは古風な和風景。夜のように薄暗く、家々の屋根にぶら下げられた提灯が光をもたらしている。さっきまでの岩場よりずっと目に良い景色だ。

 

この景色から見るに、ようやく私達は旧都に入ることができたようだ。ここまで長かった。

 

穴に潜ってからどれ位経ったのかからない。太陽が見えないので体内時計が狂いまくっている。

 

ただ一つ分かるのは、いつもより時間が掛かったと言うこと。穴に潜る時点から常時誰か彼かに足止めされ続けられたんだからこうなるのも当然か。

 

まぁ、そのお陰でヤミラミを仲間に引き込めたから逆にお釣りが来る位だとは思うが。

 

ポケモンで溢れていた岩場とは違って、街並みの外観は異変前と変わっていないようだ。元々妖怪が溢れているせいで入る隙間が無かったんだろう。

 

しかし。

 

この辺り一帯は大きく変わってしまったと言える。

 

外観が変わっていないことを差し引いてもだ。

 

何がって・・・。

 

 

 

 

 

 

暑い。

 

とにかく暑いのだ。

 

 

 

 

 

 

元々ここは灼熱地獄に近いので地上に比べると温暖であるのだが、明らかに気温が上がっている。

 

今は季節的には初夏で、本来はまだまだ暑くない頃のはず。なのに今は夏真っ盛りより暑い。その位差があるのだ。

 

そんなことをここの妖怪も感じているのだろう。外に出ている妖怪は全員薄着。打ち水をしている家も目立つ。

 

ヤミラミの件ですっかり忘れていたが、そう言えばヤマメも「旧地獄街道が暑くなった」と、そんなことを言っていた。その時はあまり重く考えてはいなかったのだが、まさかここまでとは・・・。

 

時期的に考えて、ポケモンが関わっている可能性は高い。他に原因も見当たらないし、その線で見て間違い無いだろう。

 

このままでは灼熱地獄も調べる羽目になりそうだが・・・しかし。

 

私はこの件を異変と認めた訳でも無いし、灼熱地獄には灼熱地獄を管理している者もいる。それに私がこっちに来た目的も灼熱地獄とは何ら関係無い。無理に首を突っ込む必要は無いし、私個人としてもそうしたくは無い。

 

もっと噛み砕いて言うなら、関わりたく無い。だって面倒だし。

 

誰かに頼まれたなら渋々にでもやろうが、幸い今の所それも無い。私は私の目的を達してサッサと帰ろう・・・。

 

「おーい!霊夢ー!」

 

げえっ!?

 

私を呼ぶ幼声に悪寒が走った。

 

その声はもしかしなくても・・・。

 

「来てくれてたのかい!いやー嬉しいよ!」

 

「・・・萃香。あのね・・・。」

 

「まぁまぁ。皆まで言うな!ここらの皆解決者に期待してるから、頑張ってくれよっ!」

 

「・・・。」

 

あぁもう。やっぱり巻き込まれた。

 

伊吹 萃香。幻想郷に古くからいる鬼だ。見た目はかなり小さく幼いが、鬼らしく力持ちで、酒好きである。そのせいか、こんな豪快なおっさんみたいな性格なのである。

 

・・・萃香は誤解をしてしまっているようだ。まずそこから話を付けなければなるまい。

 

「いやー大変だったよ。昨日から急に暑くなるもんだからさ。地上に帰ろうかって悩みもしたけど・・・。」

 

「萃香?良いかしら?」

 

「暑い中の冷たいもんはやっぱり格別だったから残ったんだよ。冷酒が進むの何のって・・・。」

 

「・・・萃香ー?」

 

「でも二日も経つと流石にうんざりしてきてさ。あんまり酒も進まないんだよ。だからさ霊夢。今回ばっかりは私も・・・。」

 

「ちょっと!聞いてんの萃香!?」

 

「ヴェイッ!?」

 

やっと萃香のマシンガントークが途切れた。いくら何でも強引過ぎる。

 

「あのね。私は今回暑いのを解消すんのにこっち来たんじゃ無いの。期待乗せられても困んのよ。」

 

「ええっ!?この異変解決する為に来たんじゃ無いの!?」

 

「そうよ。こっちに来て初めてここが暑いのに気が付いたのよ。だから強引に話進めないで。」

 

「なぁんだ・・・。」

 

萃香はしゅんとしてしまった。罪悪感はあるが問題は無い。

 

解決を依頼されない限りは・・・。

 

「・・・あっ、じゃあさ!私から頼むよ!この暑さ、何とかしてくれ!」

 

うわ、来たか・・・。

 

どう断ろうか・・・他の用件出しても聞かなそうだし、だからって嘘を吐くのも・・・。

 

「あたしからも頼むわ、霊夢。」

 

・・・!?

 

「勇儀!」

 

あちゃ・・・二人目の鬼来ちゃったよ・・・ 。

 

現れたのは星熊 勇儀。萃香と同じように鬼だが、萃香みたいにちんまく無い。むしろ私よりあらゆるものが大きい。竹を割ったような性格で肝も座っている姉御肌だ。

 

「この暑さのせいで、ここらの知り合い全員夏バテしてんだよ。こんなんじゃこの先が不安だ。頼む、何とかしてくれ!」

 

「ほらぁ!勇儀だって言ってるじゃんか!頼むよぉ!」

 

目の前の大小二人の鬼は私に向かって手を合わせた。

 

・・・この二人からここまで頼まれて断ったらどう料理されるのか想像できない。折れておくのが懸命だろう。

 

「分かった分かったから、顔上げて。」

 

「本当!?霊夢!?」

 

「えぇ、本当よ。」不本意だけど。

 

「ありがとう霊夢!これでまた涼しくなる!」

 

萃香は私の周りを飛んで跳ねて喜びを表した。

 

「私も礼を言うぞ霊夢。ありがとう。」

 

感謝されたのは良いが、関わりたく無いものに関わりハメになってしまったのはつくづく運が悪い。

 

「お礼と言っちゃ何だが、今度また、どうだ?」

 

言いながら勇儀は杯を口元に傾ける仕草をした。本当にこいつらは好きね。

 

「そうね、考えとくわ。異変もあるから間が空くかは分かんないけど。」

 

「へっ?異変?」

 

あっ、しまった。余計なこと言った。

 

「そう言えば霊夢ってなんで地下に・・・。」

 

これまた時間喰われるオチじゃ・・・。

 

「無理に聞くのは止めとけ萃香。霊夢にも霊夢の時間があるんだ。」

 

勇儀が萃香を制した。

 

助かったぁ!ナイス勇儀!

 

「どうせアレだろ?ポケモンだが何だかって奴。あたし達も捕まえたけど、その話はまた今度、な?」

 

「・・・あんたは何でも肴にするつもりなのね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・やっぱりか。」

 

地霊殿へ向け一歩進む度、汗ばみが加速する。

 

周りを見てみると、道行く妖怪も段々と生気を失っているように見える。

 

つまり、暑くなっているのだ。体感的にも間違い無い。

 

地霊殿は灼熱地獄の真上にある建物だ。つまり、灼熱地獄が近付く度に暑さが増していることになる。

 

そこから導き出される結論は・・・。

 

「やっぱり、この暑さには灼熱地獄が絡んでるみたいね・・・。」

 

収まらない暑さに独り言も漏れる。

 

灼熱地獄に暑さの原因がある、と語られていた噂は当たっていたことになろう。

 

しかしここまで暑いと、地霊殿に住む妖怪とペットはどうなっているのか。蒸し焼きになっていてもおかしくない暑さだし、相当参っているんじゃないか・・・?

 

地霊殿には大抵一人の妖怪と無数のペットが常駐している。その内二匹が重役で、私達と関わる機会も多い。

 

妖怪の名は古明地 さとり。地霊殿の主で人や動物の心を読み取る、覚り妖怪の一人だ。そもそも私がこっちに来た目的もこいつにポケモンの心を読んでもらうことなのだが・・・いつの間に暑さの解消が目的みたいになってしまったのか。

 

重役ペットの一匹、火焔猫 燐、通称お燐は黒猫の火車引き。未だに旧地獄に残る怨霊を処理する仕事をしている。因みに趣味も死体を運ぶこととか何とか。

 

もう一匹の重役は霊烏路 空。こちらのあだ名はお空。こいつこそ灼熱地獄の管理を任されたペットなのだが、いかんせん鳥なので頭が良くないらしくあまり仕事に信用は無い。今回だって単にこいつの不祥事の可能性もある。

 

改めて見てみるとペットは大丈夫そうだが、さとりの方が不安だ。さとりが倒れてたりしてたとして、ペット同士の統率は取れているのか。そうなっていなかった時、果たしてどうなっているのか・・・。

 

何かまた面倒なことになりそうな匂いがするが、気にしたくないし気にしないようにしよう。

 

さて・・・見えてきた、地霊殿。

 

ここ一、二時間程の話ではあるが、いよいよ真相が見えるとなると若干感慨深い。原因が何であっても、私はこの現象を解決すると約束してしまったのだ。仕方無い、最後まで付き合うとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・んぅ?誰かそこにいるのかい・・・?」

 

地霊殿の庭にぐでっと伸びた人型の黒猫が一匹、私の気配を感じた。

 

「燐・・・やっぱり暑さにやられてるわね。」

 

言わずもがな黒猫の正体は燐だ。

 

「あぁ、その声は・・・霊夢かい。この暑いのによく来たね。」

 

首だけ私の方を向いて私を見る。

 

「ええ、大変だったわよここまで来るのに。それで・・・。」

 

「あぁ・・・この暑さのことだったらさとり様に言ってよ。」

 

「えっ・・・燐?」

 

「ゔ〜・・・。」

 

首の向きが戻った。

 

「・・・。」

 

動かなくなってしまった。

 

まぁ、こうなるのは予想が付いてた。しかし・・・この暑さにずっと外に出てたのだろうか。全身汗で濡れている。

 

「あんたも寝るのも良いけど、水分が無くならないようにだけはするのよ。」

 

とりあえずそれっぽいことを言っておいたが、反応は無かった。

 

いざ地霊殿の前に来てみると、建物を見ているだけなのに幾分か生命力が失われているように感じる。何と言うか・・・雰囲気が。

 

燐も倒れてるし、解決にはやっぱり実際に見てみるしか無さそうだ。燐はさとりに聞けと言ったが・・・本当は灼熱地獄絡みじゃ無いのか、単に事情を知っていると思われる上司に押し付けただけなのか。

 

「入るわよー。」

 

疑問は残しつつ、正面門を開いて地霊殿にお邪魔する。

 

「・・・。」

 

入ってすぐ、西洋由来なのか東洋由来なのかよく分からない大広間が目に飛び込んだ。

 

いつもは通りがかる動物の一匹や二匹は見かけるのだが、今日は何者の姿も見えない。重ねて言うなら何の音も無い。

 

皆働いてないのかしらね・・・。

 

私は扉を開いた勢いそのままに、主の部屋に向かった。

 

無数に伸びる廊下の一つに入ってすぐ、脇に白い何かを発見。

 

何だと思って近付いて見てみると・・・。

 

「・・・猫?」

 

それは白猫だった。大の字に近い体勢でぐったりしている。

 

「・・・ちょっと、大丈夫?」

 

「ん゛な゛ぁ゛〜・・・。」

 

ビックリする位のバリトンボイスだったが、その猫は一応反応した。その後はピクリとも動かなかったが。

 

また少し奥に進むと、またも動物が目の前に現れた。もちろん寝た状態で。

 

短い足、広い鼻でヒントは十分だろう。正体は小さめの豚だ。横向きに身体を寝せて暑がっていた。

 

「ブ?」

 

豚は珍しいことに私が呼ばずとも私の姿を見れたらしく、私の方に視線を向けた。

 

が・・・。

 

「・・・。」

 

見た瞬間につまらなそうな顔に変わって顔を戻しやがった。・・・食ってやろうか。

 

他にも、リスやハムスターとかの小動物や、果ては熊まで見たが、漏れ無く元気な動物はいなかった。この暑さじゃ無理も無いだろう。

 

そう言えば、ポケモンがこっちに来ても、元からここで生活してた動物は消えていないようだ。これは安心するべき点だろう。共存が可能かは別にしても。

 

このペットが死屍累々を体現してる時に主人はどうしているのか・・・っと、ここか。主人の部屋は。

 

事前準備として少し聞き耳を立ててみたが、目新しい音は無かった。こいつも倒れてるんじゃ無かろうな。

 

コンコンとノックを送ると、少し遅れて「・・・どうぞ。」と帰って来たので、扉を開いた。

 

「よくいらっしゃいましたね。」

 

予想に反して、ペットの主人──さとりは特段ぐったりしている様子も無く、小さい体型には不釣り合いの大きめのデスクに座っていた。

 

「久々ねさとり。調子どう?」

 

「二日前までは悪くありませんでしたが・・・最近はめっぽうです。」

 

こめかみを押さえて言ったが、そこ関係あるのだろうか。

 

「そうでしょうね。それで・・・。」

 

「あぁ、大丈夫ですよ。」私を制したさとりはデスク椅子から飛び降りると、私のすぐ目の前まで移動してまた話し始めた。

 

「この暑さ、何とかしてくれるんですね。ありがとうございます。」

 

「えっ・・・あぁ、そうよ。」

 

私が言う前にお礼言われた・・・。

 

さとりは、自身の身体にまとわり付いている臙脂色のサードアイで相手の心を見る。

 

さとりの目の前に立ったが最後、言いたいことも言いたくないことも全部筒抜けにされるのだ。今回はそれが「この暑さを解決してあげますよ」と言う私の慈愛の心だった。

 

「・・・慈愛の心なんですか?」

 

・・・この通り。ちらと考えたことでさえサードアイは見逃さない。

 

「ちょっとした冗談よ。談してないけど。」

 

「・・・なるほど、萃香さんと勇儀さんに頼まれちゃ断れませんよね。お疲れ様です。」

 

「黙らっしゃい。人の考えはともかく記憶まで見るんじゃないわよ。」

 

「じゃあ今度からは声に出さないようにします。」

 

私はそもそも心を見られたくないのだが・・・それは無理な相談なのか。

 

「んで?何だってこんなに暑いのよ?原因は?」

 

「お分かりのようですが・・・ポケモンです。」

 

「やっぱり?」

 

「はい。灼熱地獄のせいってのも正解ですよ。今お空が頑張っている所です。それから・・・。」

 

「ちょ、ストップ!」

 

「? 何ですか?」

 

「あんたは心読んでるから良いかも知れないけど、私のペースもあるんだから。私の心の疑問じゃ無くて私が聞いたことについて答えてちょうだい。」

 

「あっ、はい。」

 

ふぅ。危うく調子を持ってかれる所だった。

 

「よし。とりあえずこの一件は、ポケモンが灼熱地獄で暴てれるから起こってる、って認識で良いのね?」

 

「えっと・・・暴れてる、ってのは少々行き過ぎている部分があるかも知れませんが、大方その認識で大丈夫です。」

 

「うん。そのポケモンは?」

 

「名前は良く分かりませんが・・・小さい身体で、その何倍もの炎を自在に操っていました。」

 

ほのおタイプか。しかも小柄、と。

 

少なくとも私が会ったことのあるポケモンでは無さそうだ。

 

「お空が昨日からずっとその子の相手をしているんです。」

 

「ほう。そいつずっと動いてんの?丸一日も?」

 

「いえ。休み休みです。流石にお空も休んでいる相手を襲う程野暮では無いので。」

 

「ふぅん・・・。」

 

旧地獄の妖怪が暑さに困惑している中でそんなポリシー掲げてて大丈夫なのだろうか・・・。

 

「ポリシーは大切ですよ?」

 

「心読むなってば。」

 

「すいません。・・・まぁ、実際に見てみるのが手っ取り早いでしょう。とりあえず灼熱地獄に向かってはいかがですか?」

 

「いかがって・・・暗に行けって言ってるわよねそれ?」

 

「ええ。結構な死活問題ですし。」

 

「ポリシーよりは大切じゃ無いのに?」

 

「・・・言ってくれますね。」

 

「ん?あんたがその気じゃ無いならこのまま帰っても良いのよ?」

 

「すいませんでした。」

 

「分かれば良いのよ。」

 

 

 

 

 

 

さとりと喧嘩手前にまで発展する件はあったが、あの後無事に和解して、今は灼熱地獄に向かっている。

 

と言っても、行き方は簡単。地霊殿の前庭にある天窓から更に下に潜るだけだ。

 

その前庭に戻ると、燐が相変わらず寝ていた。呑気なもんだ。

 

とにかく蓋が被さっている穴を開いて、中を覗く。

 

・・・ヴェッ!?暑っつ!

 

これ半端じゃ無い。夏とか関係無い。蒸し焼きにされている感覚だ。いや実際常時そうなのだが。

 

しかし入らねば・・・私もここから出たら燐みたいになりそうだ。

 

さとりから詳しいポケモンの情報を聞いていない分、今はどう戦うべきか分からないが、どんな手でも良いように動きやすい状態で向かうに越したことは無い。

 

ふう、と溜息を一つ。

 

それじゃ、やりますか。




次回、例のポケモン登場。

では。


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第二一話 灼熱弾幕ごっこ

推薦の効果って凄いっすな・・・。

一日600UAとか、未だに信じられません。いやはや、沢山の方が僕のSSを読んで下さいまして、嬉しい限りです。

推薦文を書いて下さったN.S様にはこの場を借りてもう一度感謝申し上げます。

さて、今回は灼熱地獄で一回丸々バトルです。では、本編どうぞ。





視点:霊夢

 

No.494 ビクティニ しょうりポケモン

エスパー・ほのおタイプ

高さ0.4m 重さ4.0kg

勝利をもたらすと伝われるポケモン。ビクティニを連れたトレーナーはいかなる勝負にも勝てると言われる。

 

「・・・嘘でしょ?」

 

目の前には、額に橙色のV字が目立つが、フォッコと身体の大きさが大して変わらないようなポケモン。

 

こいつが今回の騒動の原因?

 

「油断しないで霊夢。コイツすっごい強いよ。」

 

隣の鴉が珍しく釘を刺した。

 

いつもならお前だけには言われたくないと言ってる所だが、今ばっかりはその言葉に重みを感じる。

 

こいつは──空は相当このポケモンに手こずっているのだろう。

 

四方八方、どの方向を向いても火の海、灼熱地獄。

 

流石は元々地獄、それも責め具だった場所。ここにいるだけで生きた心地がしない。

 

目立つ足場は天井から吊り下げられた金網だけ。それ以外はひたすら炎が紅蓮を放っている。

 

しかもこの火力だ。とてもご隠居とは思えない・・・いや、恐らく現役時代以上の業火。この火炎が旧地獄周辺の猛暑を生み出しているのだろう。

 

そして、その火炎の原因となっているのがこの小さいポケモン、ビクティニと言うことか。

 

そいつは今、襲うも暴れるも無く私達の目の前でフワフワ浮きながらこちらを見ている。どこからでもかかって来い的な、余裕のある佇まいだ。

 

一方の私も、向かい合って同じように浮いている。この灼熱地獄の管理を任され、ビクティニの処理も一任されていたさとりのペット、空も隣で静止中だ。

 

しかしまぁ・・・俄かに信じ難い。ずっとこいつの相手をしていた空が言うんだから間違い無いとは思うのだが・・・。

 

そう言えば、周りを見ても空のポケモンが出ていない。今はボールの中か?

 

「あんたのポケモンは?」

 

「へ?今私はポケモン持ってないよ?」

 

「・・・はっ!?」

 

「? どうかしたの霊夢?」

 

「・・・いや、何でもないわ。」こいつ最初からポケモン持ってなかったのか・・・。

 

「つまりそれって弾幕で対抗してるってことよね?」

 

「そう。そうなんだけど・・・。」

 

「だったら話は早いわ。とっとと片付けるわよ!」

 

「あっ、ちょっと待って・・・。」

 

空が弾幕ごっこでやり合ってたなら、私もそうすることにしよう。ルールは曖昧になりそうだが、大した問題じゃない。

 

「さぁ、そこのポケモン!かかって来なさい!」

 

「ティニー!」

 

ビクティニは私の一声で、一気に私と距離を取った。同時に、額のV字を光らせる。

 

「霊夢、あのね・・・。」

 

「ほーう?相手もやる気満々ね。じゃあこっちも、ぼちぼちやりましょうかね!」

 

久々に触る弾幕用のお札を構えて、こっちも準備は万端だ。

 

だが空は何故かオロオロしている・・・何してるんだ?

 

「ティーッ!」

 

ビクティニが攻撃を開始した。V字から無数の炎の弾幕が放たれ、高速でこっちに向かってくる。

 

私にはしっかり弾幕になってるのが意外だった。この二日で技が適応して変化したのか、元々そんな技なのか。

 

どうにしろ、元々弾幕では無かったものを避けるのは屁の河童だ。

 

弾数もあまり多くなかったので大きく旋回して弾幕自体の回避もできたが、私はあえて火炎の中に突入した。

 

直線状に進む弾を、上下左右に動きながら前進してグレイズ。したのだが・・・。

 

「うおっ、熱っつ!」

 

弾が本物の炎だった。掠っただけで肌は若干焼けるわ、服に燃え移るわで大変なことになった。

 

弾幕は難無く抜けたが、チリ火を揉み消すのに手間取り、すぐさま第二波が飛んで来る。

 

「ティティー!」

 

ビクティニは挑発のつもりか、空中を移動しながらこちらに向かって吠えた。

 

「こりゃもう少し本腰入れて避けなきゃ駄目か・・・。」

 

もう一度お札を構え直して弾幕に突入。今度は真っ直ぐじゃ無く、ビクティニに接近するように。

 

一度炎が燃え移る危険性が分かれば、防止は簡単。全く当たらなければ良い話だ。

 

抜けたか抜けないかの所で、ようやく私は弾幕の第一波、便利なホーミング付きお札を放った。

 

「ティッ!?」

 

ビクティニは驚きを隠せない表示を見せたが、それも一瞬だった。

 

何とまあ、驚いたことに、ビクティニは驚異の回避を見せたのだ。ヒラヒラお札を避け、ホーミング機能でUの字転換したお札同士をぶつけて相殺。

 

・・・そうか。こいつ小柄で身体が軽いから大きく動いても負担が少ないし、ホーミング範囲が狭いから弾がぶつかりやすいのだ。

 

意外な強敵だぞ、こいつ。

 

私は火の玉を避けつつ更なるお札を用意する。

 

避けられて当たらないなら当たるようにするまで。弾の密度を上げるだけだ。

 

ビクティニに向かい、両手で二倍量のお札を放った。

 

ホーミングは的確。大きく下に移動たビクティニだが、なおお札は追撃を緩めない。

 

流石のビクティニも密度二倍の弾幕には手を焼いているようで、さっきみたいな勢いのある避けっぷりにはならなかったがしかし。まだビクティニは被弾していない。

 

ならもう一発。今度は光弾だ。

 

背後で文字通り光の弾を作り、ビクティニに三重目となる弾幕を放った。

 

「! ティニッ!」

 

ビクティニは新手に面食らい、目の前のお札を避け切れずに被弾。ペースを乱して更に二、三発連続で被弾した。

 

よし、このまま押し切ろう。

 

せっかくならトドメは派手に決めたい。ならば・・・。

 

私は手元に一枚カードを取り寄せた。

 

もちろん、スペルカードだ。

 

「霊符『夢想封印』!」

 

私の切り込みスペル、夢想封印。

 

カードを掲げて宣言し、霊力を込めたお札と光弾を召喚する。

 

お札、お札、光弾、お札、光弾、光弾・・・赤一色の雨のようなスペル弾幕がビクティニに降り注ぐ。

 

「ティ・・・ティーッ!」

 

そのままビクティニは呆気なく弾幕の波に巻き込まれた。

 

一丁上がり、っと。

 

ポケモンなので恒例の撃墜音は出なかったが、代わりにビクティニは炎が燃える灼熱地獄の床まで落ちて行った。ほのおタイプのポケモンだし、問題無いだろう。

 

・・・と、思っていたが。

 

「霊夢ー!油断しないでー!」

 

遠くからすっかり忘れてた奴の声がした。

 

「どうしたの空?ビクティニはもう・・・。」

 

 

 

 

 

 

「ビクティニーッ!」

 

 

 

 

 

 

言ってる途中に、下からさっきまで聞いていた声が聞こえた。

 

「・・・え?」

 

私を置いてけぼりにして、炎の中から一つ、橙色のものが飛び出した。

 

「あっ、ほら!やっぱり復活しちゃったよ!」

 

空が叫んだ。やっぱり復活したって言うと・・・いやもう何見なくても分かるけどさ。

 

弾幕をたっぷり浴びせたはずのビクティニが、一瞬で復活してまた私の目の前に現れた。

 

「嘘でしょ・・・?」

 

ビクティニが炎まで落ちたとき、確かにそいつは傷付いていた。しかし今のビクティニは健康そのものだ。

 

いくら何でも回復が早過ぎる。炎がそうさせたのか・・・?

 

「この子、元々こうやって復活するの。だから強いんだよ。」

 

「じゃあ早く言いなさいよ!」

 

「霊夢がさっさと戦うから言えなかったんだよー!」

 

空は私を非難した。確かに私はさっさと終わらせることだけを考えて動いていたな・・・。

 

倒しても倒しても復活する・・・空が苦戦していた理由がようやく分かった。

 

「でも、じゃあこいつを倒すって・・・。」

 

「倒せないならやることは一つだよ!捕まえるの!」

 

「やっぱりか・・・。」

 

確かにそうでもしないとこいつの処理は難しそうだ。だが・・・。

 

「でもそれって相当難しいわよね?」

 

「だから一日中戦ってたんだよ〜・・・。」

 

弾幕すら避けられるのだ。球速の遅いモンスターボールは避けられて当然。弱らせればどうか分からないが、そうなったら炎に飛び込んでまた回復するだろう。

 

これは・・・難しい。どうやれば捕まえられるのか・・・。

 

「ビクティー!」

 

色々考えている内に、再びビクティニが動き出した。さっきと同じ炎の弾幕を放ち、再び距離を取る。

 

「うおっ!?」

「うわっ!」

 

私と空は互いに別方向に逃げ、戦闘態勢を取った。

 

「もうっ、どうすりゃ良いのよ!」

 

炎の弾幕に翻弄され私はそれだけ叫んだが、あの鴉が作戦を考えられる能を持っている訳も無く答えは帰って来ない。

 

あいつの動きを止められればチャンスがある。だがあいつに被弾させた所で少し怯むだけ。決定打にはなり得ない。

 

「爆符『ギガフレア』!」

 

空は何の脈絡も無いままに放射性のスペカを放っている。これが異常火力の原因じゃ無かろうな!?

 

しかもビクティニは涼しい顔してスペカ弾幕をグレイズしている。あれはスペルの弾幕配置を覚えた顔だ。そりゃ一日避けてたらああなるわよ。

 

くそう、固定型のスペカの一つでも出てこい!

 

降り注ぐ炎の弾幕に襲われながら、必死に持ち物を探る。

 

しかし言っても避けながらだ。視線は前。手の先は見る暇が無い。

 

指先に何か硬いものを触った感覚があった。取り出すとそれはモンスターボール。中身はヤミラミ。

 

こいつの技なら何とかなるか?・・・いやしかしあんなに私を怖がってたのにこんな場所で出したら新手の拷問かと思われるのでは・・・。

 

「うおっ!?」

 

私の顔のすぐ横を火の玉が掠った。やばいやばい、いつの間にか視線がボールに行っていた。

 

このままどうも動かないでビクティニに振り回されるのは御免だ。だが・・・あぁもう、どうにでもなれ!

 

「行けっ、ヤミラミ!」

 

私は炎が通過しないスキを見計らって、真上にボールを投げた。

 

「ヤミッ!」

 

空中でボールから飛び出たヤミラミ。

 

「・・・ミッ!?」

 

もちろん下に落ちる。

 

「ミ゛ィ゛ーッ!」

 

だがボール自体真上に投げたので問題無い。

 

「・・・ミッ?」

 

ヤミラミは無事に私の頭の上に収まった。

 

「行くわよ!」

 

ヤミラミにそれだけ言って、再びビクティニに接近する。

 

もちろん道中の炎弾幕は全部グレイズだ。

 

「振り落とされないように掴まって!後弾幕は自己責任で!」

 

「ヤミィ!?」

 

声は情けないが、ヤミラミ私の頭の上で器用に身体をくねらせて全弾回避した。

 

「良い避けっぷりね。親玉は目の前よ!」

 

「ヤミッ!」

 

ビクティニは継続中の空のスペルを未だに避け続けていた。余裕の表情は少しも変わっていない。

 

「ティニッ!」

 

ビクティニが一回鳴くと同時に空がスペルブレイク。弾幕が切れるタイミングも完全に掴んでいる。

 

よし。加勢するなら油断している今だ!

 

「夢符『封魔陣』!」

 

私の二枚目のスペルを宣言した。今度もお札と光弾のダブルアタック。

 

「ティニッ!?」

 

野生の勘か何かで私の攻撃を感じ取ったビクティニは、素早く仕切り直って私のスペルの回避を始めた。初見のスペルだからか、さっきの空のスペルの時の顔より何倍も真剣だ。

 

「ティッ、ティーッ!」

 

放射状に広がる光弾と散らばるお札。ビクティニは避けるのに必死で自分の弾幕も出していない。かなり切羽詰まっているようだ。

 

「空!こっち!」

 

そのスキに、私は離れていた空を呼び付ける。が、いかんせんスペル中なので接近は難しい。

 

「霊夢!」

 

ある程度は離れた場所ではあるが、空は反応してくれた。

 

「良い!?一回しか言わないからよく聞くのよ!まず・・・。」

 

私は弾幕を出しながら作戦について空に伝えた。いくら鳥頭でも流石に言われたことについては実行してくれるだろう。

 

「ティッ・・・!」

 

そうこうしている内に、ビクティニが一回被弾した。

 

「分かった!?」

 

「うん!大丈夫だよ霊夢!言う通りにする!」

 

何とか空は私の作戦を理解してくれた。

 

同時に封魔陣がスペルブレイク。ビクティニの被弾回数は三回を超えているが、まだ倒れるまででは無いように見える。丁度良いダメージを与えた。

 

「ティ・・・ティニィ!」

 

予想通りだ。ビクティニはまた大きく私と距離を取った。また炎に飛び込んで回復する気だろう。

 

対策は考えた。そうならない為の作戦だ。

 

私は本気のスピードでビクティニを追う。とにかく、目の前に立たなければ!

 

全力の空中追いかけっこ。

 

「ティニ〜!」

 

ビクティニも本気だ。

 

「そこまでして負けたくないかぁ!」

 

思わず絶叫した。やばい。もうすぐ炎に突入する。

 

「負けるかァァァァァァ!」

 

全力で叫びながら更にスピードを出して追跡。一気に差を詰める。

 

「・・・ティニッ!?」

 

よっし、追い付いた!

 

通せんぼするようにビクティニの目の前を陣取る。

 

作戦開始だ!

 

 

 

 

 

 

「ヤミラミ、くろいまなざし!」

 

 

 

 

 

 

さっきから頭に乗せていたヤミラミに指示をした。

 

「ヤミィ・・・!」

 

ビクティニに宝石の目を向けたヤミラミは、その目に闇を宿らせてビクティニを見つめる。

 

「・・・!?」

 

文字通りの黒い眼差しと通じたビクティニは、身体を硬直させた。だがすぐに再び炎に向かい動こうとする。

 

「ティッ・・・ティニ!?」

 

しかし・・・それはできなかった。

 

右にも左にも、上にも下にも動けない。正確には、顔が動かない。

 

要するに、ビクティニはヤミラミから目を逸らすことができなくなっていた。

 

おぉ・・・説明に偽り無しな効果だな、くろいまなざし。

 

くろいまなざしを見てしまった相手はそこから目が逸らせなくなり、逃げることが不可能になる、とモンスターボールにあった。目の前では全くその通りのことが起こっている。

 

こうなれば、炎に飛び込んで回復するのも不可能になる、とそう言う寸法だ。

 

よし、作戦は成功。後は空がボールを投げてくれれば・・・。

 

「ディィィィィィィィ!」

 

「・・・ゑ?」

 

本気で怒った表情のビクティニが向かって来た。・・・あれこれピンチ?

 

「ちょ、ヤミラミ!避けて!」

 

「ヤミッ!?」

 

超スピードで迫るビクティニ。Vの字が徐々に炎を帯びて行く。

 

「ディニィィィィィィィ!」

 

今にも特大の炎が放たれんばかりに光が強まる。

 

どうする・・・クソっ、何も思い付かない!

 

 

 

 

 

 

「ヤミィッ!」

 

 

 

 

 

 

刹那、ヤミラミが一声鳴いて、私の頭から飛び上がると、真っ直ぐビクティニに近付き、V字を手で押さえた。

 

すると。

 

一瞬で赤みが増していたV字が元の色に戻り、同時にビクティニが遠くに吹っ飛ばされた。

 

「ティニー!」

 

・・・今どうなった?

 

ヤミラミがビクティニの攻撃を奪ったように見えたが・・・どんなイカサマを使ったらああなるのか。

 

・・・あっ、やべっ!このままじゃビクティニもヤミラミも炎に落ちる!

 

ヤミラミ助けなきゃ!

 

「ヤミィィィィィィィ・・・。」

 

自由落下するヤミラミ。

 

小さい身体に向かって、必死に手を伸ばす。

 

ぐっ・・・もっと伸びろ!私の手!

 

念じた所で手は伸びない。ヤミラミを掴む道は、もっとスピードを上げることだけだ!

 

私とヤミラミの間の距離は確実に狭まっている。だが、ヤミラミと炎の間の距離はそれよりもっと早く狭まっている。

 

このままでは・・・私がヤミラミを掴む前にヤミラミが炎に触れてしまう!

 

駄目だ。

 

それだけは駄目だ。

 

ヤミラミは、最初の最初に私に殺されかけたのに、私に笑顔を見せてくれた。

 

普通、成り行きでも何でも生死に関わる傷を負わされた相手には笑顔なんて見せない。

 

なのに、こいつはポケモンセンターで私に笑った。愛想でも何でもない、ただ純粋な笑顔。

 

それはきっと・・・心を許したからだ。一緒に戦う仲間として。

 

私は信頼されている。一緒に戦う仲間として、ヤミラミから。

 

私は・・・その信頼を踏みにじりたくなんて無い!

 

ヤミラミが炎に触れてしまうまで、もう少しも無い。なのに、私とヤミラミの距離がまだある。

 

もう既に手は限界以上に伸びていた。それでも届かない。

 

だが。

 

届かせなければならない。

 

仲間として。

 

右腕を伸ばす。

 

届け。

 

ヤミラミに。

 

届け。

 

届け!

 

届け!

 

届けぇぇぇぇぇぇ!

 

 

 

 

 

 

「・・・ヤミッ!?」

 

 

 

 

 

 

気の抜けた、しかし安心できる声が聞こえる。

 

私の右手には、紫色の細い腕が握られている。

 

もちろん、ヤミラミのものだ。

 

左足が炎に付くか付かないか・・・つまり、スレスレ。

 

助かった。

 

本当に良かった。仲間を失わずに済んで。

 

「無茶するわねアンタも。助かったけど、ヒヤヒヤするからあんまり危ないことは控えなさいね。」

 

とりあえずヤミラミを持ち上げ、両手で抱いてやった。

 

「・・・ヤミッ!」

 

ヤミラミは笑顔で答えてくれた。

 

これで少しは最初の印象が解消されたかしらね。

 

「おーい!霊夢ー!」

 

遠くで空の声がした。私を探しているようだ。

 

ヤミラミを抱きなから、今度は私の方から空の方に向かう。

 

「あっ霊夢!無事で良かったよ!」

 

キョロキョロと落ち着きが無かった空だが、私を見るなり嬉しそうに抱きついてきた。

 

「私がそんなにヤワだと思った?」

 

「ううん、霊夢すっごい強いもん!」

 

「ふふっ、そうね。・・・ビクティニはどうしたの?」

 

「まぁまぁ、落ち着いて。」

 

空は懐から一つモンスターボールを取り出した。

 

真上に投げた。

 

中身は見ていなくて見たようなものだ。

 

「ビクティニー!」

 

橙のV字に小さな翼。

 

捕獲、成功。

 

ようやく終わってくれたか、この仕事。

 

空が右手を挙げたから、付き合いで私もその手を叩いた。

 

ハイタッチ。中々達成感あるわね。




今回はバトルと言うか、弾幕ごっこにポケモン要素をちょっとぶっ込んだと言うか、そんな感じでした。

ビクティニですが、禁止級初登場ながら禁止級で初パーティー入り。空に捕まえさせた理由はお察し下さいませ。

次の次辺りから他地霊殿組のポケモンも登場予定です。

では。


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第二二話 追憶

今回は色々謝るべきことがありますね・・・。

まず前回、感想返信出来なかったこと。

最近色々忙しくて・・・って言うかまだ二三話書けてない。どうしよう。

二つ目、昨日投稿出来なかったこと。

投稿は試みたのですが、何故かそれが受理されず・・・。

心配をお掛けして申し訳ありませんでした。誓って失踪はしませんぜ。

では、本編どうぞ。





視点:霊夢

 

「お疲れ様です。霊夢さん、お空。」

 

灼熱地獄にて無事ビクティニを捕獲した私達は、地霊殿のさとりの部屋まで戻っていた。

 

「ええ、今回は中々骨が折れたわね。もっと労いなさい。」

 

「私も頑張ったよー!」

 

全然素の笑顔を崩さない空。

 

私はまだ良いが、空は一日以上掛かった仕事がようやく終わったのだ。ここまで嬉しがるのも頷ける。

 

「あれで解決で良いのよね?火の勢い弱まってるの?」

 

「ええ恐らく。こっちでは段々と涼しくなりつつあります。」

 

良かった。これで鬼の二人に顔向けできる。

 

「それで、その子がその原因になっていたポケモンですか?」

 

「ティニー!」

 

原因だったポケモン、ビクティニはさとりの質問に自分で答えた。

 

灼熱地獄を荒らしていたビクティニでも、今はもう空のポケモンだ。

 

「名前どうするの?」

 

「名前かぁ・・・。霊夢ならどうする?」

 

「そうねぇ・・・あんまり名前は付けない趣味だけど、付けるとしたらそのV字に絡ませるかしら。」

 

「V字って何?」

 

「そっからか。ビクティニのおでこ、アルファベットのVみたいでしょ?ブイ、ダブリュー・・・。」

 

「あっ、じゃあ『だぶりゅー』にする!」

 

「「そこから!?」」

 

さとりとユニゾンした。

 

「だってぶいよりだぶりゅーの方がかっこいいじゃん!」

 

「ま、まぁ、それは否定しないけど・・・本人の意見はどうなのよ?」

 

「ティニ・・・!」

 

「「まんざらでも無さそう!?」」

 

さとりとユニゾンした。二回目。

 

と言う訳で、ビクティニの名前は空の謎のチョイスによりだぶりゅーに決定した。

 

「オホン。・・・話を戻しましょう。霊夢さん、お空、だぶりゅー。」

 

「あっ、はい。」

 

一瞬、間の抜けたムードになってしまったが、さとりがそれを一蹴した。

 

「それで、一つ気になったことがあるのですが、聞いても良いですか?」

 

「ええ。何かしら?」

 

「だぶりゅーって、戦って捕まえたんですよね?」

 

「そうよ。どうかした?」

 

「その割にはあんまり傷付いていないような気が・・・。」

 

「あぁそれは、こいつ回復がめちゃくちゃ早いからよ。理由は知らないけど。」

 

「はぁ・・・回復が早い・・・。」

 

さとりは腑に落ちない表情だ。

 

そうよね・・・実物を見ないと信じられないわよ。私の場合は見ても一瞬分かんなかったんだし。

 

一体こいつの身体はどうなっているのか。できるならこいつの記憶を掘り下げてでもその理由を・・・。

 

「って、ああ!」

 

「「うわっ!?」」

 

思わず叫んでしまった私に空もさとりもたじろいだ。

 

いやはや、ずっと旅の目的を忘れないとか思っていたのに、いざ面倒事を片付けた後にはすっかり忘れていたとは、我ながら恥ずかしいことをした。

 

「すっかり忘れてたわ。さとり、私はあんたに用があってわざわざ地下まで来たのよ。」

 

「あっ、ああ。確かに疑問だったんです。なんで霊夢さんが地下に来たのか。私に用でしたか。」

 

「ええ。って言っても簡単な頼みごとなんだけどね。」

 

「・・・なるほど、ポケモンの心を読んでポケモンのルーツを知りたいと。」

 

「また先読みして・・・まぁ良いか。って訳で、私のポケモンとついでにだぶりゅーも頼むわ。」

 

「分かりました。じゃあとりあえずだぶりゅー。こっち来なさい。」

 

「ティー!」

 

だぶりゅーは元気に右手を挙げて返事すると、さとりの目の前まで移動した。

 

「飽くまで私は心を透かす妖怪ですから、相手がその記憶について思い返さないと記憶が読めません。ですので、知りたいことを質問する形式で構いませんか?」

 

「分かったわ。・・・じゃあいきなり本題に入るけど、どうやってここまで来たの?」

 

「ティニ。」

 

だぶりゅーは笑顔で私に一回頷いて、さとりの方を見た。さとりのサードアイが光る。

 

束の間、さとりとだぶりゅーが見つめ合うだけの緩い時間が流れる。

 

しかし。

 

再びさとりが口を開くのと同時に、その空気は途端に張り詰めた。

 

「・・・どうやらこの子は、連れ歩いていると勝負に必ず勝てると言い伝えられていたようです。その能力を求めた人間はその欲の深さから互いに争い・・・だぶりゅーはその争いが起こらないよう長い間地下に幽閉されていたようですね。」

 

「・・・。」

 

予想外に辛い一言。

 

思わず無言になる。

 

さとりの話から察するに、だぶりゅーは生まれながらにどんな勝負にも勝つことができる、言わば「能力」を持っていた。

しかしそれは裏を返せば自分が生きるには絶対に逃げられない「呪い」のようにも取れる。その「呪い」が実際に表れたのが人間同士の争いだった。

 

争いの原因は確かにだぶりゅーにあった。しかし、そこにだぶりゅー自身の意志は微塵も無い。あるのは人間の独り善がりな欲だけ。

 

だぶりゅーは逃れられない「呪い」に人間を通して狂わされて、自分も知らない内に幽閉されたってことか。・・・理不尽な話だ。

 

だぶりゅー自身、さっきまであんなに元気そうに振舞っていたのに俯き気味の暗い表情になっていた。自分の辛い過去に触れているのだから暗くなるのももっともだ。

 

いや、待てよ。

 

今だぶりゅーに過去を想起させているのは誰だ?

 

 

 

 

 

 

・・・私じゃないか!

 

 

 

 

 

 

私がだぶりゅーを苦しめている!止めよう、こんなこと!

 

「さとり!もう良いわ!これ以上だぶりゅーに負担を掛けるのは・・・!」

 

 

 

 

 

 

「ティニッ!」

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

私を止めたのは、他の誰でもなく、だぶりゅー。

 

鋭い瞳二つをこっちを向け、何かを私に訴える。

 

その瞳は、決意に満ちていた。

 

なるほどね。

 

「・・・分かったわ。あなたも仲間を信頼したいのね。・・・私みたいに。」

 

「ビクティニ♪」

 

だぶりゅーは元の笑顔に戻って返事した。

 

人間に監禁された過去があるみたいなのに、まだ人を信頼できる心を持っているんだな、こいつは。

 

呆れるけど、良いことだと思う。

 

もし私が裏切られなんてされたら・・・。

 

「霊夢さん?続き、良いですか?」

 

さとりの一声で考えが途切れる。

 

「あっ、あぁ、ごめん。」

 

今は自分のことは別に良い。大事なのはだぶりゅーがどうやって幻想入りしたかだ。

 

私が復帰したのを確認して、再びさとりが話し始めた。

 

「だぶりゅーが隠されたことによって奪い合いは自然風化し、だぶりゅーの存在は世間から一旦消えました。ですが、長い時間──恐らく何百年も後、どこから噂が漏れたのか大きな組織がだぶりゅーの存在を知り、解放を試みたのです。」

 

「解放・・・ねぇ。」

 

どうせ、ただ解放するだけじゃ無くてだぶりゅーの能力を良いように使う気だったんだろう。それも組織がやったことだ。人間の汚点は直るどころか悪化している。

 

「でも、その様子じゃその組織には捕まらなかったんだよね?」

 

「ティニ!」

 

空が聞くと、だぶりゅーは元気良く答えた。

 

「ええ。しかしだぶりゅー一匹の力じゃ無いようですよ。」

 

さとりも補足しながら肯定を示す。

 

「ん?だぶりゅーの他にも何か?」

 

「ええ。だぶりゅーが解放されかけた時、その噂を聞いたポケモン使いが一人駆け付けて、その組織のメンバーを粗方追い払ったそうです。」

 

「あ、そう言うこと。」

 

組織ごと片付けるとは、そのポケモン使いも相当腕がありそうだ。

 

だが・・・少しそのポケモン使いに正体が分からない違和感を感じる。何だろうか・・・。

 

「でも、そのポケモン使いが、その、えーっと、そしき?をやっつけたんだったら、やっぱりそのポケモン使いがだぶりゅーを捕まえたかったんじゃ・・・。」

 

「あっ、確かに!」

 

空の着眼点に舌を巻いた。違和感の正体はこれか。

 

しかし帰ってきたのは予想外の答え。

 

「いいえ、そのポケモン使いはだぶりゅーを捕まえようとは思っていなかったようですよ。」

 

「「へっ?」」

 

「ティー!」

 

私と空は変な声が出て、だぶりゅーは元気に頷いた。

 

「じゃあどうしたのよそのポケモン使いは。普通に見逃したの?」

 

「それも不正解です。ポケモン使いはもっとだぶりゅーにとって良い選択をしたんですよ。」

 

「ん〜・・・?」

 

さとりの意味深なヒントで、ますます私は頭を捻った。

 

普通に自由になるより良い選択・・・駄目だ、思い付かない。

 

「降参。答えを教えて頂戴。」

 

両手を挙げながら降参。

 

「うぅ〜・・・。私もぉ・・・。」

 

空も言わずもがなだ。組織も知らない鳥頭がクイズの答えを考えること自体間違ってる。

 

「流石に分かりませんかね。私も予想外でしたから。」

 

さとりは少し言うと、私と空を順番に見てから、挑戦的に微笑む。

 

 

 

 

 

 

「勝負ですよ。」

 

 

 

 

 

 

「・・・勝負?」

 

あまりに単純な答えに、自分でもよく分からない聞き返しをしてしまった。

 

「そう、勝負です。ポケモン使いは、自分のポケモンでだぶりゅーと勝負したんですよ。それも一回や二回じゃ無くて、何回も。」

 

「閉じ込められて出来なかったことを一気にってこと?」

 

「ですね。ポケモン使いも、使うポケモンを変えたりして手を変え品を変えだぶりゅーに挑んだようです。」

 

「確かに理には叶ってると思うけど・・・。」

 

「でもそれって、だぶりゅーにとっては本当に楽しかったんじゃないかな?」

 

空が食い付いた。

 

「ん?どうして?」

 

「だって、そのポケモン使いさんがやったのは、勝っても負けても何も無いただの勝負だったんだよね?だぶりゅーって閉じ込められる前はずっと自分の身を守るために戦ってたみたいだから、そういう勝負に憧れてたんじゃないかな?」

 

「あっ、なるほど!」

 

「ティニー!」

 

確かにそう考えると何より良い選択だ。普通にだぶりゅーを逃すより、ずっとだぶりゅーに親身になっている。

 

「結局だぶりゅーは解放された後も監禁されていた部屋に残り、度々来るポケモン使いと勝負したようですね。」

 

「自由に動けたのに、そうしなかったの?」

 

「ええ。少し外に出ることはあったようですが、元の場所から大きくは離れずにいつもポケモン使いを待っていたと。そうですよね?」

 

「ティニ!」

 

「へぇー。それだけ勝負が楽しかったんだね。」

 

折角の自由を棒に振るようなことをしてるんだし、空の疑問ももっともだ。

 

「さて、前置きが長くなってしまいましたが、本題に入りましょうか。」

 

「えっ、本題?何だっけ?」

 

空はさっきの鋭さをどこかに置いてきたのか、惚けたようなことを言った。

 

「忘れた?私がだぶりゅーに質問したのはどうやって幻想入りしたかだから、まだこれは話の前振りよ。」

 

「あっ、そうだった!」

 

「まぁ、こいつの場合はそもそも生き様が特殊だったし、だぶりゅー自体それを話しておきたかったみたいだから、忘れるのもちょっとは分かるけど。」

 

私も少し忘れそうだったし、とは言わないでおいた。

 

「って言っても、内容は簡単ですよ。」

 

部屋の中の注目が再びさとりに集まる。

 

「だぶりゅーが部屋でトレーナーを待っているとき、突然に空間に裂け目が現れてだぶりゅーを吸い込みました。そして気付いた時には灼熱地獄。これでおしまいです。」

 

単純極まりない答え。さっきのだぶりゅーの話の重さも相まって余計に拍子抜けに聞こえた。

 

「因みに、その裂け目の中はどんな感じ?」

 

「だぶりゅーの記憶によると、中に無数の目玉が。」

 

「やっぱりスキマか。紫が直々に幻想入りさせたので間違い無いわね。」

 

紫のことだからもっと複雑なことをしてたと思っていたが、これまた拍子抜けでただスキマを通しただけだった。

 

「うーん、ここまで単純に終わっちゃったからちょっと申し訳無いんだけど、私がだぶりゅー聞きたいことはこれだけなのよね。協力してくれてありがとう、だぶりゅー。」

 

「ティー、ティニ!」

 

お礼を言うと、だぶりゅーも笑顔を返してくれた。

 

「じゃあ戻って!だぶりゅー!」

 

空はモンスターボールの中にだぶりゅーを戻す。やっぱり空のポケモンなんだなだぶりゅーって。

 

「じゃあ次は、こいつらにも同じようにどう来たか聞いてもらって良いかしら?」

 

入れ違いになるように、私の三つのボールを放り投げる。

 

「フォッコッ!」

「ムックーッ!」

「ヤミラッ!」

 

ボールの中から、フォッコ、ムックル、ヤミラミの三匹が登場。私のポケモン達である。

 

「そう言えば霊夢さんのポケモンを見るのは初めてでしたね。狐と鳥と・・・トカゲ?」

 

「・・・ミッ? 」

 

さとりのトカゲ認定が自分のことと分からなかったヤミラミは頭にハテナマークを浮かべたような顔をした。

 

「それ言ったらだぶりゅーってどうなのよ?」

 

本人に悪気は無かろうが、ちょっと小馬鹿にされたような気がしたので反論してみる。

 

「あっ・・・ごめんなさい、何か。」

 

「あっいや、良いのよ。何かごめん。」

 

「「?」」

 

二人で謝り合う中で、当のヤミラミは困惑していた。ついでに空も。

 

「えーと、じゃあ、三匹一緒に読んじゃうことにします。三匹とも、どうやって幻想郷まで来たか、教えて頂けますか?」

 

「コー♪」「ムクッ!」「ヤミ!」

 

三匹一緒に頷いて、さとりの方を見つめた。

 

「うーん・・・あまり幼い頃からの記憶は無いみたいですね。」

 

「必要無いだろうし、別に良いでしょ。今元気なんだから、きっと良い親御さんに恵まれたんじゃない?」

 

「それなら良いのですが。」

 

「不安になる言い方はよしなさいな。さっさと本題に入りなさい。」

 

「ええ。じゃあ、スパッと言ってしまいましょう・・・ん?」

 

結論から言う気満々だったさとりだが、ある一点を見るなり口を噤んだ。

 

その方向はと言うと、ヤミラミの方向である。

 

サードアイはヤミラミを凝視し、瞳を小さくしたり大きくしたりしている。

 

「ヤミラミがどうかしたの?」

 

躊躇無く空が質問した。

 

「えぇーっと・・・じゃあ最初から話しましょう。」

 

何だか簡単ではない話のようで、さとりが話す態勢を取る。

 

「まず、ここにいるフォッコとムックル、それからだぶりゅーもですが、この子達は空間に開いた裂け目から幻想入りしました。」

 

「スキマよね。紫のせいだわ。」

 

「ええ。この子達は共通してスキマの中を通っていますから、目玉だらけの空間が記憶にある訳ですが・・・。」

 

一旦話を切った。なるほど、話が読めてきたぞ。

 

「ヤミラミにはその記憶が無いんです。何かに飛び込んだような記憶はあったのですが・・・死角で何かも見えず、しかも目玉だらけの空間も無く一瞬で幻想郷に視界が移っているんですよ。」

 

やっぱりか。大体察した通りだ。

 

「なるほど。それじゃあ紫が幻想入りさせたとは限らないってことね・・・。」

 

「限らないどころか、これはほぼほぼ違いますよ。スキマ空間が見えないんですから。記憶もはっきりしてるみたいですし、記憶違いも無いと思います。」

 

むっ、そうか・・・。じゃあ完全に紫以外がしたことになるのか。

 

「・・・どういうこと?」

 

空もかなり参った顔をしている。ベクトルは違うが。

 

「・・・コッ?」

 

急に深刻な顔になった私達を心配したのか、フォッコが代表して声を掛けてくれた。

 

「あっ、ありがとうフォッコ。大丈夫よ。命が関わるようなことじゃ無いから。安心して。」

 

言葉と一緒に頭を撫でてあげた。

 

「コ・・・フォッコ!」

 

安心してくれたのか、笑ってくれたフォッコ。さとりも微笑みを見せたが、すぐにまた真面目な話に。

 

「ヤミラミ一匹だけが特殊に幻想入りしたとは考えにくいですし、ポケモン全体が二種類以上の方法で幻想入りしたと考えるのが普通でしょうね。」

 

「でも、紫以外に幻想郷でこんなことできる人って・・・いる?」

 

「私も存じ上げませんね。取り敢えず、ヤミラミが何に入ったのか分かれば進展するのですが・・・。」

 

「そうなら他のポケモンを虱潰しに探るしか無いかしら。どこかに大量のポケモンが集まってるならあるいは・・・。」

 

話している間に、扉の方から乾いた音がする。

 

ノック音だ。

 

「どうぞ。」

 

さとりが返事して、部屋のドアが開く。

 

「失礼しますさとり様・・・おっ、霊夢にお空?なんでここに?」

 

入ってきたのは燐だ。庭に寝ていた黒猫。

 

「お燐!あのね、灼熱地獄でだぶりゅーがね・・・。」

 

「おっと、皆まで言うな。その話は後でゆっくり聞くよ。」

 

流石お空の親友、お燐だ。空の扱い方を完全に心得ている。

 

「それで、さとり様。少し小耳に入れたいことが。」

 

「何?今立て込んでるから、少し手短にお願いね。」

 

「はいはい。実は今、暑さが和らいだお祝い的に旧都の方で鬼が宴会を起こしたようなのです。一応、ウチが原因だったみたいですし、顔は出しておいた方が良いかと思いますので、連絡しました。」

 

「分かった。こっちもさっさと用事を終わらせることにするわ。」

 

「それでは・・・あ、そうだ、さとり様って、もうポケモンは持ってました?」

 

「持っていないけど・・・どうしたの?」

 

「持ってないのなら良いのですが。ポケモンを持っている宴会の参加者が多いらしくって、そこにかしこでポケモン勝負が起こっているんですよ。さとり様がポケモンをお持ちでしたら勝負を挑まれる可能性があったので、一応確認した次第です。」

 

「ふむ、ポケモン勝負がそこにかしこで・・・。」

 

 

 

 

 

「「あぁっ!」」

 

 

 

 

 

 

さとりとユニゾンした。三回目。

 

「ありましたね。」

「あったわね。」

 

「「大量のポケモンが集まる場所!」」

 

「えっ・・・ええっ?」

 

「何してるのさとり様?」

 

うろたえる燐と空を前に、私とさとりは互いにガッツポーズを決めた。




だぶりゅーはリバティガーデンとう出身です。回復が早かったのはつまりそういうこと。

次回は宴会です。では。


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第二三話 酒席とポケモン

また遅れたァァァァァァ!

本当すいません。おまけに今回果てしなく難産だったので駄文です。

宴会に来た霊夢達は何を見るのか。

では、本編どうぞ。




視点:霊夢

 

「おお、やってるやってる。」

 

私と空の活躍ですっかり涼しくなった旧都。

 

地霊殿からそこへ戻ってみると、人混み、もとい妖怪の群れが通りを文字通り埋め尽くしていた。

 

その妖怪達が何をしているのかと言うと、 大まかに三つ。

 

一つ、料理を食べる。

 

二つ、お酒を飲む。

 

三つ、談笑する。

 

談笑と言っても内容は「涼しくなって良かった」とか「最近の客が」とか「姉ちゃん酒注いで」とか他愛も無いことばかり。ただ騒いでいるだけと表現を変えた方が適切かも知れない。って最後何なのよ。

 

しかし妖怪達が騒いでくれているお陰で、元々はもっと暗い雰囲気のはずの旧都が今は明るい活気に満ちている。

 

そう。

 

それが宴会。

 

皆明るく、食べて飲んで時にはバカやって楽しくやるのが宴会だ。

 

幻想郷では何かあるとすぐ宴会が起こる。きっかけは様々だが、特に異変が解決された後の発生率は十割。今回もそれに当てはまるだろう。

 

更に幻想郷の宴会の特徴の一つとして、参加者が全く縛られない。人間と妖怪はもちろん、吸血鬼、亡霊、仙人、果ては神様と誰が来るか分かったもんじゃないのだ。今回の場合は・・・。

 

「ポケモンも多いわねー。」

 

そう、ポケモンである。

 

私達の言葉こそ使うことはできないようだが、何しろ神様まで宴会に参加するのだ。今更驚くようなことでは無い。むしろ、今の私達の状況では有難かったり・・・。

 

「わぁ〜!ねぇお燐!あのポケモンは!?すっごい大きい!」

 

後ろ空が指差したのは、岩が蛇みたいに連なったポケモン。家一軒はありそうだ。確かにでかい。

 

「おぉー。ありゃでかいな。霊夢、分かるか?」

 

話を振られた燐は次に私にパス。幸い私は図鑑を持っているので次にパスする必要も無い。

 

「ちょっと待って、図鑑図鑑図鑑・・・っと、あったあった。」

 

No.095 イワーク いわへびポケモン

いわ・じめんタイプ

高さ8.8m 重さ210.0kg

時速80kmで地中を掘りながら進み、岩石や砂を捕食する。地中深くで生まれたイワークは身体の岩石成分が変異し青白い体色となることがある。

 

「イワークって言うんだ。・・・岩食うから?」

 

横から飛んできた燐の駄洒落は故意なのか天然なのか分からなかったが、とりあえず無視した。

 

「見えないよー!私にも見せて!」

 

「うぐっ!?かっ、被さんな!」

 

空が突然後ろから襲撃した。乗っかられて凄い重い。

 

「あの・・・宴会に参加した目的分かってます?」

 

私達が遊んでいるようにでも見えたのか、辺りを見ていたさとりがこっちに向かって要らない釘を刺した。

 

「忘れてないから大丈夫よ。それに私が遊んでるわけじゃ無いから。」

 

「うにゅ?」

 

「お空は分かってないみたいですが・・・まぁ仕方無いですね。」

 

さとりは再び辺りを見始めた。主にすら見捨てられた空・・・哀れなり。

 

さて、確認だが、私達がこの宴会に参加した理由は二つ。

 

一つは近所付き合いとしてだが、ハッキリ言うとこれはオマケ。

 

重要なのは二つ目。宴会に出ているポケモンの心をさとりに読んでもらうためだ。

 

もちろん、ただ心を覗きたいからではない。こちとら深い事情があるのだ。

 

地霊殿でさとりに私のポケモンの心を読んでもらった時、私のポケモンの一匹、ヤミラミがスキマとは違う方法で幻想入りしたらしいことが判明した。しかしヤミラミの記憶だけではその方法の正体が掴めなかったので、他のポケモンの心も読ませてもらってその方法を探る・・・と、懇切丁寧に説明するならこんな所か。

 

そんな訳で、さとりも宴会に同席している。ペットの燐と空は・・・まぁ、ついでだ。

 

さとりはさっきから例のでかいいわへびポケモンをしきりに見ている。どうやら心を読んでいるようだが、あまり顔は浮かないので恐らくハズレだろう。

 

しかしまぁ、予想以上のポケモンの数だ。五、六匹混ざってれば良い方かと勝手に思っていたのだが、蓋を開けてみるとざっと二十匹はいる。

 

それぞれが違うことをして過ごしているのも興味深い。妖怪と一緒に宴会料理を食べているのが大多数ではあるが、他にも遠めに人混みを見ていたり、ポケモン同士でじゃれ合っていたりと様々である。

 

だがいくら目の前にポケモンがいても、心を読めない私にはどうしようもない。精々撫でて可愛がるのが限度。

 

「お燐ー!あっち!あっちに凄いポケモンいるよー!」

 

「あっ、ちょっとお空!待てったら!」

 

仲良しペット二人も人混みを掻き分けて違う場所に行ってしまった。

 

・・・どうしよう。完全に暇になってしまった。

 

ううむ、これからさとりの調査が終わるまで目の前を通るポケモンをひたすら図鑑に登録するだけの時間が過ぎるのか。

 

虚し過ぎる。

 

それに周りは宴会中。皆好きに飲んだり食べたり・・・あ、あの焼き鳥美味しそう。

 

一応まだ仕事中だからお酒を飲む訳にはいかないけど・・・料理を頂く位なら良いわよね?

 

よし、それじゃあ焼き鳥頂いちゃいますか・・・。

 

 

 

 

 

 

「ヘラクロォ!」

 

 

 

 

 

 

「ヴェッ!?」

 

突然、やたら気合の入った声が私の耳に入った。

 

それと同時に視界が影に隠れたように暗くなる。

 

・・・いや、この色の濃さは間違い無く影だ。今、私は何かの影に隠れた。

 

私は焼き鳥を取ろうとした時から動いていない・・・つまりそういうことは・・・。

 

恐る恐る、後ろを覗き込んでみる。

 

・・・目の前に、ギョロッと光る二つの光。

 

それが二つの瞳と分かるまで、それなりの時間が掛かってしまった。

 

「・・・うぎゃー!」

 

数秒の沈黙の後、私は思わず後ろに尻餅をついた。

 

真後ろ、本当の真後ろに、ガタイの良いポケモンが立っていた。しかもこっちを見てる。

 

「なっななな何こいつ!?」

 

動転して舌も思うように回らない中で出たのは腰抜けな声だけだった。

 

「あっははは!面白い驚き方だな霊夢は!」

 

「ふぇっ?」

 

ポケモンの巨体の後ろから憶えのある声が聞こえた。

 

「なっ・・・なーんだ。勇儀のポケモンだったのか・・・。」

 

同時にポケモンの影から現れたのは勇儀。地霊殿に入る前に会った鬼のでかい方だ。円錐を曲げたような赤い角を額から一本生やした姿は堂々としていて、豪快さが感じられた。

 

「いやぁ、ちょっと驚かしてやろうって思っただけなのに、まさか尻餅つくとは・・・。」

 

「うっ、うるさいわね!びっくりするわよそりゃ!」

 

私は大声で恥ずかしさを紛らわせつつ、立ち上がってお尻に着いた砂を払う。

 

多分勇儀はモンスターボールからこのでかいポケモンを取り出して、直接私の真後ろに置いたんだろう。だからいきなり影が現れた。

 

何故私が驚かされたのか気になったが、どうせ突発的な思い付きで深い意味な無いんだろう。それより気になるのは勇儀のポケモンについてである。

 

「何なのよそのポケモンは。カブトムシっぽいけど何か違うような・・・?」

 

「ヘラクロッ?」

 

さっきは本当に私の真後ろにいたから分からなかったが、勇儀のポケモンを改めて離れて見てみると、カブトムシのようでカブトムシではないように見える。・・・いや、これでは伝わらないか。

 

言い方を変えよう。そのポケモンは立派な角・身体を覆う殻とカブトムシっぽい要素が一通り揃ってはいるのだ。

 

が、体長がカブトムシ離れして大きい(私よりちょっと大きい位はある)上に二足歩行までしている。更に言えば足も四本しか無い。だからどこかちぐはぐに見えるのだ。

 

No.214 ヘラクロス 1ぽんヅノポケモン

むし・かくとうタイプ

高さ1.5m 重さ54.0kg

力が非常に強く、自分の100倍の重さのものを軽々持ち上げる。樹液が好物。

 

図鑑を見ると、特徴も何処と無くカブトムシっぽい。

 

「やっぱカブトムシだよなこいつ。一本角同士、良いんじゃないかって思ってさ。な?コジロウ。」

 

「ヘラクロッ!」

 

勇儀はコジロウの角に手を乗せながら言った。

 

「いや、一本角は一本角だけど、コジロウ?とあんたの角じゃ・・・。」

 

「おー!勇儀のポケモンはコジロウって言うのかぁ!」

 

陽気な声が耳に入ってきた。酒気を帯びているのか若干呂律が回っていないのに、かなり幼い声。

 

当てはまる声の主はただ一人。

 

「おぉ萃香。そういや私のポケモン見んの初めてか。」

 

千鳥足で近づいて来たのは予想通り、萃香。勇儀が一本角なら萃香は二本角の鬼である。

 

こいつは見た目かなり幼いが、かなり酒豪でどれだけ呑んでも酔いはするが悪酔いはしないと有名らしい。

 

今こそフラフラしているが、その実意外にしっかりしていたりする。実際に何度か杯を交わした私が言うのだから間違い無い。

 

「もうすっかり出来上がってるなぁ。どんだけ呑んだんだ?」

 

「ふぇ?いつも通りだよぉ?」

 

「そりゃまあ、あんたはいっつもそんなになるまで呑むけどさ・・・そういやどこ行ってたんだお前?確か、宴会起こすーって人萃め始めた後見失ったんだが・・・。」

 

「んぁ。その後お酒飲んでそれで・・・。」

 

「あっ、居た居た!」

 

またも会話に割り込む声があった。同時にこちらに向かって来る人影が二つ・・・うん?二つ?

 

・・・確かに二つだ。しかももう見慣れた人物の。

 

「もうっ、勝手に行くから探したよ!」

 

「あんたの方から一緒に来いとか言ったのに・・・私達は何なのよ。」

 

人影の正体はヤマメとパルスィ。何の偶然か、どちらも今日私と会って何やかんやした妖怪である。

 

「なんであんたらが萃香を?」質問したのは私。

 

「こいつね、一緒に呑め呑めって絡んできたんだけど知らない内にどっか行っちゃって・・・仕方無いから探してたの。」

 

「あー、うん。そうそう。ヤマメとパルスィ誘ったんだけど、色んな所で呑んでたら見失ったんだよね。あはは、ごめん。」

 

怨みったらしいパルスィの発言を萃香が明るく返した。

 

「そんな軽く言うんじゃないわよ妬ましいわね。」

 

が、火に油を注いで終わったようだ。

 

「まぁまぁ。パルスィだって色々ポケモンとか見れて楽しかったでしょ?それでおあいこだよ。」

 

ヤマメが火消しに努める。健気だな。

 

「まっ、まぁそれは確かに・・・。」

 

嫉妬の妖怪も動物には弱いのか、火の勢いも弱まってきた。

 

しかし。

 

「そうだそうだぁ!私を許す心位は持っとれ!」

 

「「「「・・・。」」」」

 

火を起こした本人が油追加。徳用サイズの。

 

「・・・あんたアホなの!?」

 

「そりゃ無いよ萃香・・・。」

 

「無いな・・・ 。」

 

「・・・。」

 

私、ヤマメ、勇儀の順で萃香を避難。私達は言うだけまだマシで、パルスィは無言で負のオーラを放っている。めちゃくちゃ怖い。

 

「・・・ん?私何かおかしなこと言った?」

 

そしてその空気でも素晴らしく動じない態度で答える萃香。

 

こりゃもうダメだ。色んな意味で。

 

「まっ・・・まぁ、良いんじゃない、かな?折角の宴会なんだし。あんまり気張っても楽しくないよ。ね?」

 

遂にヤマメが萃香をフォローするのを諦めて別方面で場を落ち着かせ始めた。うん、誰が見ても正しい選択だわ。

 

「あっ、それよりさぁ・・・。」

 

挙げ句の果てに話題を変える始末。場を散々荒らした結果、いつの間にか萃香は話の主導権を握っていた。

 

「勇儀のポケモン、凄い強そうだよねー。何て言うの?」

 

「ヘラクロッ?」

 

萃香が話題に挙げたのは勇儀のポケモン。本人が不意を突かれたように身体を揺らした。

 

「こいつか?こいつはコジロウって言ってな・・・って、お前さっき自分でコジロウって言ってなかったか?」

 

「そーだっけ?」

 

言ってわね、と心の中で相槌を打つ。

 

「まぁ良いや。それよりどうだこいつ?なかなか強そうだろ。」

 

「ヘラクロッ!」

 

勇儀はコジロウの頭に手を置いて自慢気に言った。本人も腰に手を当てて誇らしくしている。

 

「確かに、私達と比べたら身体もごつくて大きいね。力もありそう。」

 

ヤマメはコジロウの身体を覗き込みながら言う。コジロウはその視線に合わせてマッスルポーズを・・・何やってんだこいつら。

 

「こんな奴よく捕まえられたわね。私が生身で行ったら多分返り討ちよ・・・。」

 

それを遠目に眺めながら呟くパルスィ。萃香に出していた黒いオーラは既に消えている。

 

「そうさなぁ。力じゃ負けるかも分からないけど、手数は少ないからな。弾幕をちょちょいと出してやれば捕獲も簡単よ。」

 

勇儀は右手に力瘤を作って答えた・・・って、ちょっと待て?勇儀な力で負ける?

 

「勇儀が力で負けるってことあるの?」

 

私は思ったことそのまま口に出した。

 

「ん?あぁ、実際には競り勝ったんだが、結構歯応えあったからパルスィには無理だろって話だ。パルスィ細っこいから。」

 

「いや、あんたと力で競って勝負になる方がおかしいと思うんだけど・・・。」

 

勇儀は鬼の中でも相当力持ちで、その怪力っぷりは足踏みだけで家屋を崩れさせる、と聞いたことがあった。

 

「確かに・・・良く考えりゃ、コジロウってなかなか怪力だったんだな。あたしにぴったりって所だ。」

 

私の素朴な疑問をコジロウの評価と捉えた勇儀は、気を良くしたのかコジロウの頭をぐりぐり掻き回した。撫でているつもりなんだろうか。

 

「ヘラクロ。」

 

しかしやられている本人はさほど嫌そうにしていない。寧ろ顔を緩めて喜んでいるようにも見受けられる。

 

凄く幸せそうな笑顔で撫でられているコジロウ。

 

微笑ましい光景に、私も笑顔になりそうになる。

 

が、突然隣から呪詛の念を感じ、その気が醒める。

 

またあいつか・・・。

 

「ケッ・・・あの虫、妬ましいわ・・・。」

 

右隣を見ると、予想通りパルスィが嫉妬を露わにしていた。歯を強く噛んでいるらしく、口元からギリギリ聴こえてくる。どうやら相当コジロウに妬んでいるようだ。

 

「もう何と言うか・・・流石ねあんたは・・・。」

 

私は勇儀に聞こえないよう、小声で割と本心に近いことを言った。するとひたすらコジロウを睨んでいた顔がこちらに向く。

 

「・・・よく言われるわ。けど愛情を知らないで育ったってのはこんなもんよ。」

 

パルスィは昔を思い起こすような影のある表情で言い放った。

 

「愛を知らない・・・ねぇ。どうせ昔の話なんだし、今はポケモンとでも仲良くなれば愛情も注いで貰えるんじゃないの?コジロウみたいに。」

 

「逆じゃなくて?」

 

「ええ。コジロウだって勇儀が好きじゃなきゃあんな顔しないもの。逆ってよりは、双方からって言った方が良いかしらね。」

 

「あっ、そうだ。」

 

突然、何か思い出したように勇儀が声を上げた。同時にコジロウを撫でていた手が止まる。

 

「でかいポケモンって言ったら、あいつ誰のポケモンなんだ?野生か?」

 

止まった手は親指で後ろ側を指差した。

 

何かの鳥ポケモンのことかと思って後ろを覗き込んだが、何の姿も見えない。見えるのは後ろの宴会の様子と岩の塊だけ・・・あっ、ん?

 

そうかそうか。さっきから話題にも出なかったからすっかり背景として見ていたが、イワークがいたのを忘れていた。大きい身体が私達の方に相応の大きさの影を作って・・・。

 

「って、近っ!?」

 

さっきまで程良く距離を取っていたイワークが、いつの間にか勇儀のすぐ後ろまで迫っていた。

 

丁度こっちを上から見下ろす感じで目を光らせている。近くで見て初めて、かなりの強面なのが分かった。

 

だがイワークは飽くまでこちらを見ているだけで、襲い掛かって来るような様子はまだ見受けられない。

 

「あの・・・勇儀、後ろ・・・。」

 

私は今度はイワークに聞こえないよう、勇儀に囁いた。

 

だが帰ってきたのは至極単純な答え。

 

「ん?知ってるぞ?知ってるから指差したんだが。」

 

「えっ?・・・後ろ向いてないのに?」

 

「ああ。鬼たるもの、こんなの感覚で掴めるようじゃないとな。」

 

当たり前のことのように言う勇儀。・・・私だけびっくりしてたのか。恥ずかしい。

 

「って言うか霊夢。お前は見える場所なのに分かんなかったのか?」

 

「えっ!?・・・そ、そんな訳無いじゃない。」

 

一人恥じている所に勇儀の痛い質問が飛んできて、突然私は窮地に立たされた。

 

「わっ私は勇儀が気付いてないから脅かそうかとか思ってただけで・・・ホラ、私勇儀に驚かされたから。ね?」

 

必死に弁解するが、私が口を開く度、反比例的に勇儀の目は白くなっていった。

 

後ろを見るとヤマメとパルスィと萃香も同じく。変わっていないのはコジロウだけである。

 

やばい。相当墓穴掘ってる。

 

斯くなる上は話題転換だ。

 

「いやー、しかしなんでこっち来たのかしらね?私達に用でもあるのかしら?それとも何か別の・・・。」

 

 

 

 

 

 

「・・・の指示。」

 

 

 

 

 

 

「・・・へっ?」

 

どこからか私に答える声がした。

 

きっと喧しかった私の話し方と違って、放っておいたら消えそうな声で。

 

「・・・今の声は?」

 

何だかちょっと怖くなって、周りに質問してみる。

 

「え?声?声なんてしてないと思うけど・・・。」

 

が、ヤマメはその存在を否定した。

 

まさかと思って他の三人も見てみるが、揃って首を振った。

 

「えっ、じゃぁやっぱり気のせい・・・?」

 

確かに小さい声ではあったけど、気のせいじゃないような気がしてならないのだが・・・。

 

 

 

 

 

 

「気のせいじゃ無いよぉ・・・?」

 

 

 

 

 

 

がこん、と。

 

何かが地面に落とされるような鈍い音がしたかと思うと。

 

目の前にはただ顔だけがあった。

 

「・・・ぎゃあぁっ!?」

 

私は反射的に尻餅をつきながら後ずさる。

 

そして離れて見て、ようやくさっきまでの声が知った声だったことが分かった。

 

「キッ・・・キスメかぁ。」

 

震えた声でそれだけ絞り出した。

 

少し大きめの桶に入った少女。こいつも地底に住む私の友人の一人、キスメだ。

 

桶ごと私の目の前に落ちたことで驚かせたって訳らしい。

 

安心して溜息を一つすると、周りからくすくすと笑い声が漏れているのが分かった。

 

「・・・なんで笑ってるのよあんたらは!?」

 

見渡すと、四人全員で腹を抱えて笑っていた。

 

「あんたらまさか・・・!?」

 

「ふふっ、そうっふ、そうだよ!私達は知ってたっはははは!」

 

大笑いしながら喋る萃香。

 

「いっ、いつから!?」

 

「くふっ、霊夢が慌てて話し始めてからかな・・・くふふっ。」

 

「あ、あんたらぁぁぁぁぁ!」

 

私は怒りとか羞恥とか混乱とか色々引っ括めて叫んだ。




やっとのことでキスメ登場。他も地霊殿組のポケモンがちょびちょびっと。

次回も宴会。他の地霊殿組のポケモンも登場です。

では。


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第二四話 宴会バトル

もう既に7分ルールが崩壊してる。どうしてこうなった。

今回は宴会の続き。一万字超えです。では、本編どうぞ。




視点:霊夢

 

周りの笑いが収まり落ち着いた頃、私はキスメに事の次第を問い詰めることにした。

 

「・・・っくくく。」

 

未だに思い出し笑いしてる鬼は一人いるが、そいつは除外してだ。

 

「まず確認だけど、あんたはなんで私を驚かせようとしたのよ?」

 

「えーっと・・・それは・・・その場の流れで・・・。」

 

遠慮がちに結構ひどいことを言うキスメ。

 

が、状況的にやりやすかったのも事実だし、構ってても先に進まないのでとりあえず今はスルー。

 

「えーっと、じゃあ次に、あんたはどっから降りてきた訳?」

 

キスメは確かに上から落下してきた。が、今見ても分かるが上で待機できるようなスペースは無い。一体キスメはどこから・・・。

 

「あっ、それは、へびの頭に乗って・・・。」

 

「へび?」

 

「この子の名前・・・。」

 

キスメは桶から手を出して、イワークの岩肌を撫でた。

 

「ヴィワー!」

 

ここで初めていわへびポケモンの口が開いた。鳴き声・・・と言うよりは咆哮に近いような気がする。

 

キスメの話を要約すると・・・イワークの名前がへびで、キスメはその頭の上から落ちてきた、と。

 

なるほど。確かにイワーク──もといへびの頭は私達の真上にあった。これなら私の真上から落ちることも・・・ん?

 

「・・・あんたこいつに名前付けてるってことは・・・。」

 

「えっ?・・・うん。へびは私が捕まえたポケモンだよ。」

 

「やっぱりか。」

 

最初からイワークはキスメのポケモンだったようだ。

 

「でも凄いギャップだよね。ちっちゃいキスメがこんなに大きいポケモン捕まえたなんて。」

 

ヤマメが感心そうに言った。ヤマメはキスメと仲が良いからそれだけ意外だったんだろう。

 

「ねぇ、へびってやっぱり強いの?」

 

一方で萃香は、へび自体の強さが気になっているようだった。まだ酔いも醒めてないようなのに・・・萃香らしいと言うべきか。

 

「うーん・・・戦わせたこと無いから分かんないかな・・・。技は強そうだけど。」

 

「ふーん・・・じゃあさ。」

 

萃香の目が光った。

 

全員がこの後の展開を察したのか、一瞬辺りが静まる。

 

「このまま初対決と洒落込まないかい?」

 

あぁ、やっぱりか。

 

予想できた答えだが、とりあえず内心驚いたような表情を出しておく。

 

全員私と同じ予想だったようで、キスメと萃香以外私と同じ表情をしていた。何と言うか・・・驚いてはいそうなんだけど、あぁ、やっぱりな、とでも言いだけな顔と言うか。そのままだが。

 

「えっ、勝負・・・?ここで・・・?」

 

だが当人のキスメは明らかに狼狽えていた。予想ができなかった訳では無かろうが、自分のことで驚いているんだろう。

 

だが萃香はそんなキスメの心境など露知らず、ボールを突き出して高らかに叫ぶ。

 

「私のポケモンとキスメのポケモン、どっちが強いか勝負だぁ!行けぇ!ムサシ!」

 

同時にボールを投げて自らのポケモンを召喚する。

 

「グァーィアァ!」

 

No.127 カイロス くわがたポケモン

むしタイプ

高さ1.5m 重さ55.0kg

二本の角は非常に力が強く、自分の二倍の重さを持ち上げてそのまま切断する。

 

ボールから飛び出したのはクワガタ・・・には似ても似付かないポケモンだった。

 

二足歩行なのはまだ良いが、ベージュの身体は甲虫からはかけ離れている。さらに、頭から生えているそれは大顎でも何でもない。

 

角だ。

 

確かにクワガタに似ていなくも無いが、ヘラクロスと比べても十分酷い。

 

だが、この際そんなのどうでも良い。

 

萃香のカイロス──ムサシは大きさで言って大体勇儀のコジロウより少し小さい位だ。へびとはいくら何でも体格差があり過ぎる。

 

「ねぇ、それって無茶なんじゃ・・・!」

 

「ふふん、見てなさぁい、私の強さぁ!」

 

キスメが萃香に忠告するが、萃香は聞く耳を持たない。おまけに酔いを露わにしている。

 

私は確信した。

 

多分、ここで萃香は絶対負ける。

 

それで酔っ払いが静かになってくれれば万々歳だし、止める必要も無いかしらね・・・。

 

「行くぞぉ、ムサシ!あばれろぉ!」

 

「グァィィィ!」

 

悪巧みをしている間に萃香側が動き始めた。腕を振るいながらへびに向かって一直線。

 

あばれろ、と。何て単純な技なんだろうか。

 

「うわっ、よっ、避けてへび!」

 

準備が整っていなかったらしいキスメは慌てた様子で指示した。

 

へびは本物の蛇のように俊敏に横に避けた。

 

「うわっ!?」

 

その影響をモロに受けたのは私達である。へびの巨体に薙ぎ払われるように四方八方に散る私に勇儀、ヤマメ、パルスィ。飛んで避けるコジロウ。

 

薙ぎ払われたのは人に限らず、焼き鳥に酒瓶に徳利にお猪口・・・。

 

「ちょっ、忘れてた!ここ宴会中じゃないの!?」

 

へびが回避にちょっと動くだけで宴会料理が大量に台無しになる。被害は甚大だ。

 

やばいやばいやばい!あれは私の焼き鳥なのに!

 

「萃香!頑張りなさい!あんたなら行けるわよ絶対!」

 

私は一転して全力で萃香の応援をすることにした。私からしたらこの上無い掌返しだが、口には出してないからバレまい。

 

「任せろぉ!霊夢!」

 

萃香はご丁寧にこっちを向いてガッツポーズしながら言った。

 

「ばっか、早く攻撃しなさいよ!」

 

「えっ?何ー?」

 

「だからぁっ・・・!」

 

「うっ・・・へび、ラスターカノン!」

 

私と無駄話をしている間に体勢を整えたキスメは、へびに強そうな技を指示した。

 

もちろん余所見をしている萃香は気付くはずも無く・・・。

 

「ヴァァァァク!」

 

へびは口に灰色の球体を作り、回転させながらムサシに向かって放った。

 

言わんこっちゃない!

 

・・・と、思ったら。

 

「ムサシ!跳び上がって!」

 

「グァイィ!」

 

萃香は視線を私の方に固定しながら遠くのムサシまで指示を飛ばした。ムサシは言う通りにしてラスターカノンを回避。

 

「「!?」」

 

私もキスメも意外なことにはっとする。

 

似たような顔が増える中、勇儀だけは感心したような顔を見せていた。

 

そのまま萃香は腕を組み、目を閉じて余裕を見せる。

 

「ふふふ。鬼なんだから、こんなの感覚で掴めないとね。酔ってても。」

 

──鬼たるもの、こんなの感覚で掴めるようじゃないとな・・・。

 

萃香の自信の一言が勇儀の言葉に重なった。萃香も意図的に重ねたんだろう。

 

恐らく、萃香は目を閉じたまま勝負の様子を手に取るように知覚している。

 

「さて、そろそろ終わりにしようかぁ。・・・ムサシ、インファイトォ!」

 

萃香は戦いの場に改めて目を向け、ムサシに指差して技の指示を出した。

 

「グァー・・・!」

 

飛び上がったままの体勢で腕に力を込めるムサシ。

 

更にムサシはそのままへびの胴体に目掛け直滑降。それも、へびが反応できないスピードで。

 

「へびっ!」

 

キスメが叫ぶも、もうムサシの攻撃からは逃れられないのは確実だ。

 

「イロォォオ!」

 

気合の込めて鳴きながら、ムサシは光る拳を振り下ろした。

 

「ヴァァー!」

 

拳がへびの岩肌に当たり、持ち上がっていたへびの上半身がその勢いで地面に叩きつけられた。

 

轟音と共に宴会料理が潰され、皿の破片やらが飛び散る。

 

しばらく、轟音だけが響く時間が続いた。

 

「へびっ!?」

 

音が止んだ後、慌ててキスメが駆け寄る。

 

が、跡に残っていたのは、腕をへびに打ち付けたまま動かないムサシと、目を回したへびだけ。

 

戦闘不能。

 

ムサシの勝利だ。

 

「私の勝ちだぁ!」

 

無邪気に笑いながら、少し遠くからムサシの元へ駆け寄る萃香。ムサシもようやくへびの上から飛び降りて萃香を迎える。

 

「よく頑張ったね、へび。ゆっくり休んで・・・。」

 

「イワ・・・。」

 

敗北したキスメはへびに慰労の言葉を掛け、二、三回撫でた後に桶からボールを取り出し、へびに翳した。

 

へびの身体は瞬く間に赤く包まれ、手のひら大のボールに収まった。

 

(家一軒分の大きさでもちゃんと仕舞えるのね・・・。)

 

と、余計なことに少し感動していると、周りからぱらぱら手を叩く音が聞こえてきた。

 

見てみると、手を叩いていたのは勇儀やパルスィじゃ無く、見覚えの無い普通の妖怪だった。それも一人や二人に収まらないで、かなりの数。

 

やがてぱらぱらとした拍手は数を増やし、最後にはどっとした拍手になった。

 

どうやらキスメと萃香のポケモン勝負は、単なる身内の対決に収まらず、宴会客の目の保養になっていたようだ。その代わり料理やお酒は失われたようだが。

 

「ははっ、ありがとーっ!」

 

その様子を見た萃香は、ムサシに片手で持ち上げられながら前に後ろに手を振った。嬉しそうだ。

 

一方キスメは拍手の雨に恥ずかしそうに桶に身を隠したが、元気に手を振る萃香に感化されたか、桶の中で小さく手を振っていた。

 

しかし、本当にあのでかいへびを打ち負かすとは・・・ムサシが見た目以上の強さだったのか、へびが見掛け倒しだったのか。観客が沸いたのも頷ける。

 

ともかく、料理の被害が最小限になって良かった。この後別の場所でゆっくり宴会料理を食べることができそうだ。何を食べようか、今から涎が・・・。

 

「さぁ〜て・・・次の相手はお前だぁ!」

 

・・・ん?次の相手?

 

妄想と涎を振り払って前を見ると、未だにムサシに持ち上げられたままの萃香がどこかを指差しながら叫んでいた。

 

指先を目で追う。

 

対象物は・・・勇儀?

 

いや、違う。

 

・・・コジロウだ。

 

「・・・まっ、いつか挑まれるだろうとは思ってたよ。そっちは二本角でこっちは一本角。あたし達と同じだからね。」

 

「ヘラクロッ!」

 

売り言葉に買い言葉で、勇儀が答えた。同時にコジロウが鳴く。

 

その声が起爆剤となったのか、観客達はおぉっと声を上げた。

 

・・・あれ、これってもしかしたらまだ続くの?

 

「コジロウ、まず一発、ストーンエッジだ!」

 

私が唖然としている間に、勇儀がコジロウに技を指示した。

 

勇儀もやる気満々。観客もいるし、戦いは避けられなさそうだ。

 

「ヘラ、クロォォッ!」

 

コジロウは技の指示を受けると同時にどこからともなく発生させた青白い光輪で自分を包む。

 

そして同じように目を青白く光らせると、光輪から無数の尖った岩が正面に向かって飛び出した。もちろん、岩の進行方向にはムサシがいる。

 

豪快な技に歓声が漏れた。

 

「横!そのまま前に出ろぉ!」

 

萃香達も負けてない。ムサシは飛んでくる岩を素早く横に避け、その勢いで前に加速。身体の重さを跳ね除け、とんでもないスピードでコジロウと距離を詰める。

 

走るムサシがコジロウを捉え、待つコジロウがムサシを睨む。

 

ポケモン使いの二人の鬼も同時に笑みを作り、互いが互いを見据る。

 

そして、

 

「「インファイトオォ!」」

 

全く同時に、全く同じ名前の技を宣言した。

 

「ガァイロォォォ!」

 

「ヘラックロォォォ!」

 

互いに叫びながら拳を光らせて、二匹が激突。そして、文字通り拳を交えた。

 

ドォンと派手な音がして、衝撃風が辺りのものをあらかた吹き飛ばした。少し近くに立っていた私も衝撃風に吹き飛ばされそうになる。

 

衝撃風を足に力を入れて耐え忍び、再び戦いの舞台へ目を向けた。

 

二匹は自らが生み出した衝撃風を諸共せず、拳同士をぶつけた状態で静止していた。

 

実力伯仲。

 

「やるねぇ〜勇儀・・・こりゃ面白くなりそうだぁ。」

 

「そりゃそうだよ。あたしのポケモンなんだから。そっちこそ、面白い勝負にしてくれよ?」

 

「上等!」

 

萃香が言うのと同時に二匹が互いを弾き飛ばし、拳が身体ごと離れた。

 

お互い、力で力をねじ伏せるスタイルだ。小細工無しに自らの力だけで相手を潰しにかかっている。

 

流石鬼。戦い方からして豪快だ。

 

双方の力量は互角。つまり、どっちが先に倒れるかの勝負になる。だが二匹の体力もどっこいどっこいだ。これは本当に結果の予想が難しいぞ・・・。

 

「ねぇ、お姉ちゃん。」

 

白熱した勝負に魅入られている中、急に声を掛けられて腰を折られた。

 

見ると、話しかけたのは古和風な暗い色の着物を着た見知らぬ少女。人間の見た目で七歳か八歳位だが、ここが地底である以上は妖怪だろう。

 

「・・・なぁに?私に何か用かしら?」

 

とりあえず私は人間の幼児用の、物腰柔らかな受け答えをした。こういう見た目幼い妖怪は精神年齢も相応であることが多い。

 

「あのね、お姉ちゃんは・・・。」

 

どうやら答え方は正解だったようだ。さて要件は・・・。

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんは戦わないの?」

 

 

 

 

 

 

「・・・は?」

 

素で「は?」が出た。

 

幼児相手に。

 

・・・いやだってそれ位質問の意味が分からない。

 

「えと・・・私が戦うって?」

 

しどろもどろになりながら、真意を聞いてみる。

 

「うん。だって、あのお姉ちゃん方がやってるから・・・。」

 

少女は指差す。そうか、萃香と勇儀が戦ってるからそれで・・・。

 

と、思ったら。

 

指はムサシとコジロウの方を向いていなかった。

 

その方向ではムサシ達よりもっと小さい二匹のポケモンが戦っていたのだ。

 

おまけに、その内一匹は緑色をした蜘蛛のポケモン。

 

かなり見覚えがある。と言うか、このポケモンを使役する妖怪に憶えが・・・。

 

「っえええぇぇぇ!?」

 

考えが巡る前に声が出た。

 

軽い身のこなしで戦っているあの蜘蛛のポケモンは間違い無くイトマル、いや、ミドマルだ。理由は近くでヤマメが指示を出してるから。

 

そしてもう一つ判明した。相手の、灰色の楕円体から緑の棘をいくつも生やしたようなポケモン。そいつの使役者はキスメだ。理由はやはり近くで指示を出してるから。つまり、今あっちではヤマメとキスメが戦っている、って訳か。

 

No.597 テッシード とげのみポケモン

くさ・はがねタイプ

高さ0.6m 重さ18.8kg

主に洞窟に生息。全身に生えた棘で岩壁に張り付き、鉄の成分だけを吸収して硬い身体を作る。

 

キスメに「たね」と名付けられたらしいテッシードは、素早いミドマルの攻撃を跳ね転げて回避している。

 

「避けてばっかじゃ勝てないよ。もっと攻めて良いんだよ?」

 

「・・・攻めてるだけでも勝てないよ。特にこうワンパターンだと。」

 

キスメの言う通り、たねはただ攻撃の回避をしている訳じゃ無く反撃のタイミングを伺っているように見える・・・って、そうじゃ無くて。

 

いつの間にこいつらはポケモン勝負を始めたんだ。確かにまぁ、萃香達のアレ見たら誰だってやりたくなるだろうけど、行動に移す早さが尋常じゃない。

 

「あのお姉ちゃん達は凄い楽しそうにしてるのに、お姉ちゃんは仲間外れだったから心配で・・・。」

 

目の前の少女はさっき私があいつらと一緒にいたのを見ていたのか、どうやら私が仲間外れに見えていたようだった。そして、顔を赤くしながらも、そのことを私に伝えてくれた。

 

何て健気だ。

 

見知らぬ人、しかも年上(に見える人)に勇気を持って話しかけられる人はなかなかいない。立派なもんだ。流石に私の場合は疎外感とかは無かったが、私自身が自然に笑顔になれた。

 

「心配してくれてありがとう。大丈夫、私は仲間外れじゃ無いから。安心して。」

 

例え勘違いと言えども、この子の厚意を無駄にはしたくない。

 

「本当?」

 

「ええ、本当よ。」

 

「じゃあ、お姉ちゃんのお友達とお姉ちゃんの勝負見せてよ!」

 

おっ、そう来たか。

 

少女はキラキラした目で、私の勝負を期待しているようでもあった。わざわざ私を心配してくれたんだし、勝負を見せる位ならいくらでもやってやろう。

 

「分かったわ。私の勝負強さ、目に焼き付けなさい!」

 

私は最初の幼児用口調も忘れて、なるべく力強く言った。

 

さて、勝負するとなれば相手を・・・っと、早速見つけた、緑の眼。

 

「パルスィ!」

 

「ひゃあっ!?」

 

後ろから声を掛けたからか、パルスィは変な声で驚きながら振り返った。ぼうっとしていたらしい。さっきへびに吹っ飛ばされてから見ていなかったが、どうやらこっちは何もしていなかったようだ。

 

「あっ、あぁ・・・霊夢だったの・・・。びっくりした・・・。」

 

「・・・何もそんなに驚くことも無かろうに。」

 

「だって死角から話しかけてくるから・・・で、何の用よ?」

 

「今ここで、あんたにポケモン勝負を申し込むわ。」

 

「あぁ、ポケモン勝負ね・・・はっ!?」

 

パルスィはまたもやオーバーリアクションを取った。

 

「なっ、何でまた急に・・・あんたもヤマメみたいに鬼達に感化された訳?」

 

やっぱりヤマメは萃香達がやってるのを見てやり始めたのか。それが嫌だったパルスィは遠慮したと。ならばそこの誤解は解かねばなるまい。

 

「いや、そう言う訳じゃ無いの。頼まれたのよ。勝負して見せてくれって。」

 

「誰に?」

 

「あの子。」

 

私はさっきの少女の方を人差し指で指した。少女も手を振って答える。

 

「・・・!」

 

少女と目が合ったパルスィは、何故か驚いたように目を見開く。

 

おまけに、黙ってしまった。

 

もしかして何か気に触った・・・?

 

「あの・・・パルs」

 

「やろう!さっさと!」

 

パルスィは右手にグーを作って私に向き直り、嫉妬の欠片も感じない瞳で私に言った。

 

「えっ、あ、うん。」

 

パルスィの豹変に面食らった。子供の力って凄い。

 

「行けっ、ヘル!」

 

私の返答が終わるか終わらないかのスピードでパルスィがボールを投げた。

 

「デゥッ!」

 

No.228 デルビル ダークポケモン

あく・ほのおタイプ

高さ0.6m 重さ10.8kg

遠吠えで自らの縄張りをアピールする。群れで行動し、鳴き声を使い分けてコミュニケーションを行う。

 

口元と腹は暗い赤、頭と背中は同じく暗い白で、後は全身黒。ダークポケモンに相応しく、地獄の番犬を思わせる風貌である。

 

ほのおタイプか・・・なら、こっちが繰り出すポケモンは決まってる。

 

「行けっ、フォッコ!」

 

同じくほのおタイプのフォッコ。相性が良い訳では無いが、魅せる勝負をするなら丁度良い。

 

「フォッコッ!」

 

フォッコは勢いを付けてボールから飛び出し、ヘルに啖呵を切った。

 

どうやら私達にも注目が集まっているらしく、観客な集まって来ている。

 

・・・楽しくなってきた。

 

パルスィもやる気なのか、まっすぐこっちを見てくる。

 

良い勝負にしなさいよ。

 

相手と一緒に技を宣言。

 

「ヘル!オーバーヒート!」

 

「フォッコ!だいもんじ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それがこのザマですか・・・。」

 

さとりが呆れたように言った。

 

「いや本当・・・やり過ぎたわ。ごめん。」

 

「ええ・・・。」

 

私もパルスィも項垂れるしか無くて。

 

その理由は、今この状況が私達によるものだから。

 

「しかし、派手にやりましたね・・・。」

 

さとりは改めて辺りを見回し、溜息に近い言葉を吐いた。呆れに感心が少し混ざったような、そんな声色。

 

呆れているのに感心している、と少し矛盾しているような感じになっているが、それもこの状況を見れば納得するだろう。

 

と言うのも、辺り一面真っ黒焦げなのだ。地面から何から全部。

 

もちろん比喩では無く実際に。

 

そしてその原因が、私のフォッコとパルスィのヘル、と言う訳である。

 

どちらともほのおタイプのヘルとフォッコの勝負となると、当然炎の撃ち合いになる。そしてその勝負がエキサイトするとなるとどうなるか。

 

飛び火するのである。

 

あっちこっちに飛び散った火は燃え移り続け、いつの間にか周りが火事に近い状態になったのだ。さとりが止めに入ってくれたおかげであまり被害が出なかったから良かったが、そうならなかったらどうなっていたのか、考えたくない。

 

もっと言うと炎を起こした張本人であるヘルとフォッコは今私達の腕の中だ。なぜかって、勝負でお互いクタクタになって火事になる時には動けなくなっていたから。

 

よって今は色んな意味でどうにもならない状態になっているのだ。

 

「だけど、いっつも落ち着いてるパルスィがポケモン勝負で周りが見られなくなるとは・・・意外ですね。」

 

「うっ・・・それは・・・私もそう思うわ。」

 

私も。パルスィの勝負中の様子はいつもじゃ考えられない位だった。日頃の鬱憤でも晴らしてんじゃないかって思うレベルで。

 

そう言えば、私やパルスィを勝負に走らせた少女はいつの間にやら消えていた。この火事なら当たり前だが。

 

「それじゃあ、霊夢さん。」

 

さとりは早々にその話を切り上げ、私を名指しで呼んだ。

 

そうか。この宴会に出たのもこのためだった。

 

ここでうっかりしてはいられない。

 

さとりの妙に真剣な顔が緊張感を走らせる。

 

そして、さとりの口が開いた。

 

「例の話でs」

 

「あっ、ここだったのか!」

 

さとりを遮って二つの人影が押し込んできた。その方を見てみる。

 

「霊夢にさとり様に・・・パルスィ?珍しい組み合わせだなぁ。で、何で真っ黒焦げなの?」

 

「さとりさまー!」

 

「ティニ!」

 

鬼の二人かと思ったが、正体は私と一緒に宴会に来た三匹、燐と空とだぶりゅーだった。だぶりゅーはボールから出てきたらしい。

 

「うっ!?お空、あんまりのしかからないで・・・。」

 

小柄なさとりの上から被さる空は相対的に大きく見える。実際、他の人と比べても大柄なのだが。

 

空をようやく振り払い、一度咳払いをしてさとりが続ける。

 

「さて、遮られてしまいましたが、続きとしましょうか、霊夢さn」

 

「おぉう、みんなお揃いで、楽しそうだねぇ〜。」

 

さとりの話は再び遮られた。主は酔った声である。

 

「おい大丈夫か萃香。さっきまであんなに勝負で盛り上がってたのに。」

 

大体予想は付いていたが、主はやはり鬼二人、萃香と勇儀だ。勇儀は良いが、萃香は幼女体型でムサシを担いでとんでもないルックスになっている。そしてそれに誰も突っ込まない。これが地底の常識なのか?

 

「何やってたんだい?」

 

「ちょっと霊夢さんと話をする所だったのですが、ちょっとした邪魔が入りましてね。」

 

「あぁ、ごめんごめん。邪魔したか?」

 

イヤミが込められたさとりの発言は勇儀により爽やかに返された。

 

「・・・もう誰も来ませんよね?」

 

横入りされたことがよほど気に触ったのか、四方を見渡して確認を取るさとり。

 

そう言えばここにいる中ではまだ見ない奴がいるが・・・まぁ、大丈夫だろ。

 

「よし、じゃあ今話しちゃいまs」

 

「おっ、やっぱり皆集まってた!」

 

「ヤマメですか!」

 

「えっ!?」

 

急に現れたばっかりに暴言を浴びたのはヤマメである。

 

「・・・?」

 

後ろからしずしずとキスメも付いていた。

 

「もうっ、何で誰から誰まで私の邪魔するんですか!」

 

理不尽なお預けに遂にさとりは怒りを露わにした。流石の三連続。

 

「ま、まぁ、もうこの宴会に知り合いいないし、多分もう大丈夫よ。」

 

私は慌ててさとりをフォローした。このまま結局話をしなかったとかになってしまったら骨折り損だ。

 

「・・・本当ですね?」

 

「ええ。本当よ。多分。」

 

多分とは言え、私に萃香、キスメ、ヤマメ、パルスィ、勇儀、さとり、燐、空、だぶりゅーと知り合いが一同に会しているのは事実だ。もう割り込まれる心配は恐らく無いだろう。

 

「・・・分かりました。じゃあ言いますね。」

 

さとりも立ち直った。どこまで考えてなのは分からないが。

 

「とりあえず、私はこの宴会にいたポケモンのほぼ全員の心を読みました。」

 

「えっ、そんなことしてたの?」

 

ヤマメが驚いたように声を上げた。キスメとパルスィと萃香と勇儀に燐も同じような顔をしている。

 

「あっ、そうか。あんたらは事情知らなかったんだったわね。って言うか部外者の方が多いし。」

 

別にいても構わないが、ここは話を面倒にしないためにもいなくなって貰った方が嬉しい。

 

「悪いけど、一旦席を外して貰えるかしら?」

 

「駄目です!」

 

さとりがまた声を荒げた。

 

全員、硬直。

 

「えっと・・・何で?」

 

一応の当事者として聞いてみる。

 

「また割り込まれたら困りますから!」

 

そんな理由で!?

 

全員、呆然。

 

「ま、まぁ、分かったわ。そうしましょう。」

 

下らない位間抜けた答えだったが、断る理由も無いし、語り部の意見は尊重したい。

 

「ありがとうございます。では続きを。」

 

本人は大真面目なのがまた下らなさを誘う。

 

「心を読んだ結果ですが、スキマでは無い幻想入りの正体が一応分かりました。」

 

「本当!?」

 

「ええ。しかし一応です。正体は分かりましたが、それが何によるものなのかは分かりませんでした。」

 

「それでも構わないわ。後はこっちの仕事だし。」

 

方法さえ分かれば突き止められる確率はグンと上がる。

 

「分かりました。では、一息に。・・・光輪です。」

 

光輪。

 

正体は意外にあっけなく明かされた。もう少し勿体ぶってもいい気がするが、それはそれで冗長だ。この方が私には合ってる。

 

「光輪・・・ねぇ。どんな風だったの?」

 

「光輪、つまりリングが地面に突然現れ、その中に入ってしまうと別世界。スキマより単純ですよ。」

 

「ふむ、そんな能力聞いたこと無いわね・・・。」

 

リングで瞬間移動する人物は聞いたこと無い。そもそも光輪って位光るリングをって見たことあっただろうか。

 

「皆に聞き覚えは?」

 

周りの橋姫や鬼にも聞いてみたが、首は縦には動かなかった。

 

「ふうむ・・・でも、こりゃあ好都合かも。」

 

「なんでです?」

 

さとりが不思議そうに言った。

 

「特徴的なシンボルがあるから。光輪がね。ちょっとでも見たら記憶に残るでしょ?」

 

「あぁ、なるほど。確かに。」

 

よし、情報が手に入ったならここにいる必要は無い。

 

「ここからはとにかく情報集めね。さとり、ありがとう。このまま行ってくるわ。」

 

「そうですか。こちらこそ色々とありがとうございました。」

 

「ティニー!」

 

さとりとだぶりゅーから別れを受けた。だぶりゅーにも一言言っておくか。

 

「だぶりゅー、また今度、勝負する?」

 

「ティーッ!」

 

周りを飛び回りながら返事した。やっぱりちんまいのって可愛いな。

 

「ふふっ、じゃ、また今度ね。」

 

最後にだぶりゅーに挨拶して、私は地底の出口目指して飛び立った。




後半少し無理矢理だったかしら。

今回まで地霊殿組のポケモン紹介しましたが、手持ちが出てない人物はまだポケモンを持っていません。それがどう関わってくるのか必見。

では。


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