どう考えても俺の司令部はおかしい (BBBs)
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ここが地獄

なんやかんやで転生して、なんやかんやで提督になって、なんやかんやで艦娘がおかしいことに気がついて、なんやかんやで深海棲艦の襲撃にさらされるオリ主提督。


 木製の床に敷かれた青いカーペット、壁には薄茶色の壁紙が貼られ。

 青のクロスが敷かれた執務机、その上には書類やペン立て、電気スタンドが置いてある。

 外のドックが見える大窓には濃い青のカーテン、壁掛けの時計や本が詰まった書斎棚が置いてあるシンプルな提督室。

 その室内で椅子に座っているのはこの司令部最上位の、紺色の軍服を着用した提督。

 

 その提督の右隣には大和型戦艦1番艦『大和』、左隣には大和型戦艦2番艦『武蔵』。

 机を挟んだ向こう側には金剛型戦艦1番艦『金剛』、2番艦『比叡』、3番艦『榛名』。

 他には扶桑型戦艦2番艦『山城』、伊勢型戦艦1番艦『伊勢』、長門型戦艦2番艦『陸奥』。

 Bismarck級戦艦1番艦『ビスマルク』も堂々と部屋の中央で立っている。

 艤装を装備せず、他の艦娘の視線を遮らない位置から提督こと俺を見ていた。

 

「………」

 

 いや、なんで毎回出撃のたびに出れなかった戦艦たちが集まってくるの?

 ……わかってるよ、わかってるんだけどしょうがないじゃん。

 出撃したいって言いたいんでしょ? 賄える資材無いんだから出撃させたくても出撃させられないの!

 皆だってわかってるんでしょ? 口には出さないけど目が訴えてきてるよ!

 金剛とか紋章が光ってて丸分かりだし……、と言うか戦艦出しても全然釣り合わないんだから仕方ない。

 

 今回全員出撃出来そう! とか期待したんだろうけど超オーバーキルでめちゃくちゃ足が出るんだから我慢してくれ。

 今出撃してる数だって相当悩んだんだぞ? 本当は戦力と資材消費量的に軽巡と駆逐でも十分だと思ってるんだから。

 しかし皆を撃沈の危険性に晒したくないし、無駄に戦闘長引かせたくないし、ここは押しつぶしたほうが結果的に安全で安く済む。

 そこら辺はわかってくれるよね? と室内を見渡すように視線を向けておく。

 特に妹が肩を借して立たせた金剛を見ておく、……毎日掃除してるとはいえ床に転がるから服が汚れてんじゃないか。

 

「提督、稼働全艦隊の出撃準備が整いました」

 

 オペレーターを務める大淀が、空中に表示されている実体のないモニターであるサインフレームから視線を逸らして俺を見る。

 慣れてしまったあり得ない光景、それに頷くと隣の大和が見えない何かを操作するように右手を動かす。

 そうすると更に大きなサインフレームが執務机の上に表示され、映像はドックで艤装を装着する前の少女たちが映し出されている。

 

「……稼働全艦艇に通達、主目的は進行して来る敵深海棲艦の殲滅。 一隻足りとも逃さず、完全に殲滅せよ」

 

 静かに、呟くように言うがしっかりと聞き取って全員が了解の点滅サインと言葉を返してくる。

 

「その後、出撃した全艦艇は一隻足りとも欠けること無く帰投せよ」

 

 続いた言葉に数秒置いて、音量も了解の言葉もばらばらに声が返ってきた。

 

「……静粛に、提督のお言葉はまだ続いています」

 

 統率の取れないそれをビタリと止めて制するのは大和、当司令部の艦娘ヒエラルキートップの一言は提督である俺の次に発言力がある。

 その代わり滅多に口出ししてくることはない、大半の艦娘は影響力が云々と考えがちだが実際には恥ずかしやがりな気質のために口を出そうと思っても出せないことが大半だったりするが。

 ……とりあえず喧しいのが大和のお陰で治まったので、サインフレームに出撃する艦艇を艦隊別に一覧表示。

 戦艦二隻と重巡洋艦四隻で構成された第一艦隊と第二艦隊、空母四隻とその直衛の防空艦で構成された航空艦隊、潜水艦のみで構成された潜水艦隊。

 その四つの艦隊の中の第一艦隊と第二艦隊から二隻ずつ、計四隻の重巡洋艦をリストアップ。

 

「古鷹、足柄、衣笠、三隈」

 

 名前を呼ぶ毎に一人ずつ返事が返ってきて、サインフレームは画面内で四分割されて四人の顔が映し出される。

 

「『海を割る』、出撃後敵艦隊正面70キロまでに態勢を整えておけ」

 

 その命令を聞いた全員が黙った、意味を理解しようと頭の中で反芻しているんだろう。

 それもそのはずでモーゼの奇跡……、ではなく当司令部における隠語の一つ。

 正式名称は決して口に出してはならない、また文字等視認できる状態でも決して出してはならないと規律を定めた。

 どうしても口に出す、媒体として出すのであれば『海を割る』と普通では絶対できない意味で記す。

 そしてそれはどのような状況でも滅多に口に出すことはない、特に俺は規律を定めた時以降一度も口にしていない。

 

 さらには海を割れる艦娘たちに一度も使わせたことはない、あんなくっそ消費デカそうなのバンバン使わせるとかありえねーし。

 正直俺だって使いたくない、だが使って安全が保たれるなら使わざるを得ない。

 そんな頑なに使おうとしなかったものをいきなり使おうと言い出した俺に、全ての艦娘の視線が集中する。

 誰も彼も何も言わず俺を見つめる、命令なんだし四人とも返事してくんねぇかなぁ……。

 そう思いながらチラリと左の武蔵を見る、その視線に気がついた武蔵が頷いて少し息を吸い。

 

「古鷹! 足柄! 衣笠! 三隈! 提督の命令だ! 復唱せんか!!」

 

 ひえー! おっと、人の持ちネタぱくっちゃ駄目だな。

 武蔵の一喝に慌てて敬礼しながら四人が命令を復唱する、流石艦娘ヒエラルキー二位の武蔵だ! バルンバルンして目のやりどころに困るZE!

 

「て、提督ぅ~、本当に……」

 

 何故か涙目の金剛がよろよろと生まれたての子鹿みたいな足取りで近寄ってくる。

 まあ大奮発だよな……、今まで演習ばっかりで一度も出撃させたことのない戦艦たちに、一度も使ったこと無い兵装の使用。

 推定消費資材は二十万前後との概算らしい、これで安全が買えるなら安い安い……安いんだ、そうに決まっている。

 ……ところで皆陰口で俺のことケチ提督とか言ってねぇだろうな? 妖精さんで資材無限湧きでもすぐに貯まる訳じゃないんだからな!?

 今の資材備蓄量にするまでどれだけ大変だったか思い出して内心ため息を吐きつつ、椅子から立ち上がりサインフレームに向かって脇を締めて敬礼。

 

「海色に溶ける事なかれ、武運長久を祈る。 全艦隊、出撃せよ」

 

 サインフレームが細かく分割されて、出撃する艦娘全員の答礼している姿を映し出す。

 この場にいる戦艦たちも、震えていた金剛でさえも背筋を伸ばして敬礼をしていた。

 金剛は普段紅茶と出撃のことばっか言ってないで、今みたいにキリッとしてりゃいいのに……。

 

『第一艦隊旗艦長門、出撃する!』

 

 椅子に座り直すと長門型戦艦1番艦の長門がドックから艤装を装着して出撃、続いて扶桑型戦艦1番艦の扶桑が同じように艤装を装着して海面を滑っていく。

 それから順番に重巡洋艦も出撃、同様に第二艦隊、航空艦隊、潜水艦隊が出撃して敵艦隊へ向かって進んでいく。

 ……いっつも思うが海中に艤装を収納しといて錆ないのか? いつもの妖精さんが不思議パゥワーで何とかしてるんだろうけど。

 

「出撃している者を除く、全艦娘に通達」

 

 サインフレームが切り替わり、この司令部に所属する全艦娘の名前一覧が表示されて瞬く間に名前欄が赤から緑へと切り替わっていく。

 それはオフラインからオンラインへ、俺の言葉を聞くために繋いでくる。

 だが数名赤のまま、寝てたりすると気付かない事もあるから反応がない艦娘の近くに居る艦娘に呼びかけてもらうように言う。

 それから一分と経たずに全部緑へと変わる、大事な事だから全員に聞いてもらわないとな。

 

「これより全艦第一戦域データリンクに接続、戦況の把握のみに務めたし」

 

 通常同じ任務に付いて艦隊を組んでいる艦娘以外に戦域データリンクに接続することは出来ない。

 機密と言ったことではなく、下手に入り込むと意識がそちらに向いてしまうことがあるからだ。

 つまり戦場でよそ見をしてしまいかねないため、その出撃艦隊に所属していない者は基本接続を許可しない。

 だが今回は許可する、一人や二人ではなく全員に。

 

「……全艦のデータリンク接続を確立、確認しました」

 

 大淀の報告に頷き、何故今回接続を許可したのかを説明する。

 

「今回の迎撃戦に置いて、古鷹、足柄、衣笠、三隈の重巡洋艦四隻の砲撃を主力とし、残る艦隊は全てこの四隻の支援とす」

 

 異例、火力で上回る戦艦も出撃しているのに重巡洋艦を打撃の要にすることに疑問の声が上がるが。

 

「重巡洋艦四隻には海を割ってもらう、その為の支援であり、その為の全艦データリンク接続である」

 

 そう言えばやっぱり皆沈黙、何のために今まで使わなかったか説明でもあるからね。

 

「長らく疑問を抱いていた者も居るだろう、何故戦艦及び重巡洋艦を出撃させなかったのかと」

 

 使うと資材がマッハだから! と言えれば楽なんだがそうは行かないのが上官の辛い所。

 

「その答えはこの艦隊戦にある、この結果を見た上で疑問が残る者は問答の時間を作ろう」

 

 まずは見てから! 聞きたいことがあるならその後で!

 そう言ったら色々声が返ってくる、「絶対聞かせてもらう」とか「言質を取ったわ!」とか。

 戦艦や重巡から言われるかと思ったが、駆逐艦の気が強い子たちの方が多いと言う。

 ……出撃しても無傷で深海棲艦ボコって帰ってくるのが言うことか!

 やっぱわかってない感じがするな、標的艦とかで戦艦や重巡を相手にさせていたが……、手加減状態じゃ無理か。

 

「どんな答えが返ってくるのか楽しみね」

 

 駆逐艦たちの状態をちょっと思案してたら、帽子のつばをいじりながらビスマルクが微笑を浮かべて言った。

 ……口にしなかっただけで、やっぱり不満たらたらだよなぁ。

 その大口径高火力の艦砲射撃と生半可な砲撃を跳ね返す堅牢な防御力を持って、敵艦を撃滅する艦隊の華が鎮守府周辺で演習だけしかしないとか不満に思わない方がおかしい。

 まあそろそろストレス解消と言うか、現実と言うものを見せておかないと納得できず爆発しそうではあったし、艦娘を動かす資材のことがあるが今回の深海棲艦は良い機会と考えなければ……。

 

「………」

 

 チラリと見るだけで答えず、すぐにサインフレームへと視線を戻す。

 へへっ、結果を見せてすぐにそんな口を叩けなくしてやるぜ。

 ……いやまじ、そんな口叩かないでくださいお願いします、ほんとヤバイんで。

 そんな内心恐々してて反応を返さなかったことが不満だったのか、微笑を消してむっとしたような表情になるビスマルク。

 その際唇を尖らせた辺りが可愛らしさを演出する、本当に可愛らしいから俺のマイサンがスタンダップしてMP=サンにスタァァップ! される恐れがあるから無視する。

 

「今回の迎撃戦、概要は単純である。 重巡洋艦による最大火力を撃ち込み、敵残存艦隊を殲滅する」

 

 直撃すれば消滅し、その余波でも大破に至る。

 まさに決戦兵器、使えば勝利確実な代物。

 だが使用の際にちょっとした隙が出来るので、その隙を突かれないよう戦艦たちに守らせるという作戦。

 重巡の護衛に戦艦、贅沢ではあるが作戦における重要度の違いって奴だから間違っては……、座学やったけど簡単な戦術ぐらいしかわかんねーし!

 とりあえず大和に戦略図を表示させて、敵深海棲艦の艦隊陣形……、もう艦隊を一単位としてそれが百以上集まって巨大な陣形を成している。

 

 あれに突っ込むのは考えなしの馬鹿しかいない、遠く遠くの精鋭しか居ないとか言われる横須賀の提督たちが組んで迎え撃つレベルだろう。

 それほどまでの規模、それを迎撃させる俺は馬鹿か阿呆か。

 しかし現実は深海棲艦にとって悪夢でしかないだろう、僅か四艦隊二四隻の艦娘によって殲滅されるのだから。

 俺ならそんな大打撃を被ったら偵察とかしまくって何が起こったのか確かめるし、手元に戦力が残ってたら威力偵察位はするだろうし。

 まあ喋れる深海棲艦も居るらしいし、戦術や戦略を考えられる指揮官、人間側からすれば提督に相当する存在も居るはずだろう。

 そいつからすれば長らく平穏だった海域から大艦隊による電撃的強襲で本土を目指し、重要拠点等を潰す気でいたかもしれん。

 

 もしかすると付近の鎮守府はもうやられてるかも、だってここらへんにある鎮守府は戦うためのもんじゃねーし。

 この平和な海域一帯にある鎮守府、資材確保のためのお飾りだし。

 妖精さんが何処からか持ってくる資材を貯蔵し、定期的に前線や本土に輸送するためだけの資材調達用鎮守府であり、期待なんて全くされてない三流提督の島流し場でもある。

 なので戦力として全く期待できない鎮守府と司令部ばっかりのはず、一応戦力として艦娘配置されてたり建造してるんだろうけど資材使う出撃とか演習させてねーだろうしなぁ……。

 そんな鎮守府を潰してきてここまでは順調、このまま進行して目的を達することも出来ただろう……、頭おかしい鎮守府があるここに向かってこなければ……儚い作戦だった。

 

「提督、作戦開始予定時間経過、全艦隊敵深海棲艦を有効射程圏内に捉えました」

「……所定の重巡洋艦は起動シーケンス開始、同艦隊の戦艦は誘導弾発射後対空防御及び援護防御に入れ。 残る重巡洋艦は誘導弾発射後砲撃準備、敵艦隊の頭を抑えることに専念。 航空艦隊は攻撃機発艦、敵艦載機による制空権確保の妨害に努めよ。 潜水艦隊は雷撃による敵潜水艦の撃沈に務め、決して魚雷を第一と第二艦隊に向けさせるな」

 

 大淀の報告を聞いてとりあえず考えておいた命令を出す、申し訳ないがパーティーの華は重巡四隻だから他の艦は引き立て役になってもらう。

 起動シーケンスに入っている重巡洋艦の守る盾となるため、長門型1番艦『長門』が衣笠の、扶桑型1番艦『扶桑』が三隈の前に出る。

 第二艦隊は金剛型4番艦『霧島』が足柄の、伊勢型2番艦『日向』が古鷹の前に出る。

 密接する戦艦と重巡の二組から少し離れて砲身を動かし照準をつけるのは残る重巡、第一艦隊のAdmiral Hipper級重巡洋艦3番艦『プリンツ・オイゲン』と高雄型重巡洋艦1番艦『高雄』が。

 第二艦隊の妙高型重巡洋艦4番艦『羽黒』と利根型重巡洋艦2番艦『筑摩』が砲塔を回頭し、敵艦隊が居る方向へと砲身を向ける。

 

 同時に艦娘が装着する艤装の甲板上に規則的に並ぶ幾つもの蓋が高速かつ順番に開き、煙と光を発しながら上方へと飛翔体が飛び出して敵艦隊へと向きを変更しながら極超音速で向かっていく。

 四隻の戦艦たちは重巡洋艦が発射する誘導弾とは違い、眩い線条が真上に放たれて弧を描きながら敵艦隊へと飛んで行く。

 艦隊から放たれた計百を超える小さな噴射光と明るい光線が、艦隊の左右に分かれてあっと言う間に景色の彼方へと飛んで行く。

 その間にも艦隊は前進し、誘導弾と誘導光線が目標に命中の結果を聞きながら艦隊戦の準備を行う。

 しかし砲撃戦を行うにはまだまだ遠い、だがそれ以外の攻撃方法はある。

 その一つが空母から飛び立っていく戦闘機たちである。

 

 空母艦隊の空母、赤城、加賀、翔鶴、瑞鶴の四隻が弓に矢を番えて順次艦載機を発艦させていく。

 艦載機編成は格闘戦を主軸としているが、データリンクシステムを持ち総合的な戦闘能力から『F-22(熟練)』を全てのスロットに載せる。

 そのうち最大搭載スロットには『エース』を入れた。

 赤城には『F-22(メビウス隊)』、加賀には『F-22(ラーズグリーズ隊)』、翔鶴には『F-22(ガルム隊)』、瑞鶴には『F-22(ガルーダ隊)』を。

 スーパーエースを大奮発、合計300機以上のジェット戦闘機が大空に羽ばたいていく。

 

 第一艦隊と第二艦隊の上空にはけたたましい轟音を立てて、亜音速で敵艦隊へと向かっていく。

 同時に戦闘機から小さな光を発した後、白い煙の尾を引いて極超音速で突っ込んでいく飛翔体。

 一分近く経って水平線の向こう側で爆発が起きる、戦闘機も誘導弾を追いかけて数分後には標的を目視できる距離。

 そのまま戦闘機は敵機へ向かって接近、格闘戦へと移行して全力で殴りあう。

 空での熾烈な制空権争いの中、海面を進む艦隊は砲撃戦へと入る。

 

「……航空均衡! 敵航空機の抑制に成功!」

 

 大淀の報告を聞いて頷く、なんで5倍以上の敵戦闘機数に対して航空均衡に持っていけるんですかねぇ……。

 いくら性能差が有るとはいえ、5倍だぞ5倍!

 ……理不尽なそれを現実のものにしているのは『エース』だからか、それこそ個にして戦術級の戦闘能力を持つ空の怪物たち。

 

「……艦載機の撃墜数カウントを」

「出します」

 

 サインフレーム右端に各隊の敵機撃墜数が表示され、数分と経っていないのにどの隊も撃墜数50を超えている。

 ……それでもだ。

 

「敵機、なおも増援!」

 

 一度減り始めた敵機の数が増えていく、ミサイルやらで減らして1300代まで落ち込んだのが今では1600に増えている。

 それとは対照にこちらの戦闘機の数は着実に減っている、発艦時には316機居たF-22は250機まで減っていた。

 空を支配するべき戦闘機が性能の低い数によって潰されていく、パイロットの妖精さんたちからすれば『空が狭い』と思うだろう。

 格闘戦に移行してから上下左右前後の360度敵だらけ、単純計算で1機に付き5機以上を相手取らなければならない。

 いかにハイスペックとは言え、全方向から弾が飛んでくれば回避に専念せざるを得ない事もあり苦戦を強いられる。

 

 それでもなお数の暴力で殲滅されていないのは熟練の腕前と機体性能差のおかげだろう、……一部のF-22は完全に腕前だけで敵たこ焼きを叩き落としてるが。

 そうやって敵航空機を抑えている間に、艦隊の距離はどんどん縮まってくる。

 艦娘たちはとうに再装填の済んだミサイルを再度光を瞬かせ、煙の尾を引きながら敵艦隊へと襲いかからせる。

 一度目と同じく深海棲艦の対空射撃は功を奏さない、海面ぎりぎりと言うあまりにも低空で、かつ超高速の対艦ミサイルを迎撃できない。

 敵大艦隊の中央をすり抜けながら重要目標の敵正規空母級、通称ヲ級へと向かって突き刺さった。

 

「敵空母に命中! 轟沈を確認しました!」

 

 ですよねー、防空システム持ってない艦艇にマッハ5以上で飛んでくる対艦ミサイルを撃ち落とせとか無理な話だ。

 それが何度も繰り返される、ただ真っ直ぐ空母級に突っ込むなら幾つかは迎撃されているだろうが、残念なことにこの対艦ミサイルは超音速で回避行動を取りやがる。

 迎撃の弾幕の隙間や防空ミサイルに対しての回避行動でカクカクと空中で曲がるのだ、しかもそれは艦娘たちが制御しているのではなく全て自動で最適化して突っ込んでいる。

 発射すれば視認も難しい超高速で、命中率を上げる行動を自律的に行い、戦艦でも真っ二つにする大型魚雷もかくやの威力と言う三点を揃えた対艦ミサイル。

 こんなん無理やろ、と思うんだけど撃ち落とせる艦娘がうちに居るから色々と困る。

 

 そんなこんなで遠距離から打撃を加えつつ接近すれば敵深海棲艦の艦隊から砲撃、大質量の砲弾が超音速で飛んでくる。

 進路上に敵がいれば攻撃を加えない理由はない、距離にして20キロメートルほどから飛んでくるために精度は低いが数が多い。

 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとも言う、一発二発で当たらないなら十発二十発、そんな数の暴力で訴えかける砲撃の雨。

 艦隊の周囲には着弾による水柱が数十と上がるが。

 

「やらせません!」

 

 衣笠の前に居る霧島が左手を上方に突き出す、その動作にわずかに遅れて砲弾が迫る。

 当たればただでは済まない超高速の戦艦級主砲の一撃が当たる直前、霧島の手前で青い膜が発生して触れると同時に急激に減速し爆発、爆風も大きく弱まるも霧島に襲いかかるが更に内側に半透明の六角形が並んだ防御力場に阻まれる。

 質量弾に対して高重力場にて急減速を掛ける『防御重力場』、対象攻撃ではないので発動していないが光線弾を散らす『電磁防壁』、そして実弾と光線の両方に対して作用する『クラインフィールド』。

 その三層の防御力場によって鉄壁と言う言葉さえ温い防御力を発揮する戦艦たち。

 

 それらに守られながら爆炎の後黒煙に包まれるも次々と砲弾が降り注ぎ、完全に第一艦隊と第二艦隊の姿をかき消す。

 その光景を見て誰かが叫んだ、飽和攻撃により防御力場は臨界を迎えて崩壊、轟沈どころかバラバラに吹き飛んでもおかしくはない。

 砲弾の雨が数十秒たっぷりと、進路上の艦隊は消し飛んだと判断した深海棲艦はそのまま進行し。

 

「殴り合いも良いが……、守るのも悪くはない!」

 

 立ち上る海面の黒煙を突き抜けて現れたのは並走する第一艦隊と第二艦隊、その先頭は重巡の盾になった四隻の戦艦。

 周囲が水柱と黒煙で姿が全く見えなくなるほどの砲撃を受けてなお、髪の毛一本ほどの傷も見当たらない無傷の姿を見せる。

 

「第一艦隊、この長門に続け! 全主砲、斉射!」

 

 火力と言う言葉を体現したような戦艦の主砲が暴威を表す、放たれて超高速で飛翔するのは実体弾……ではなく光の弾。

 主砲から放たれた自ら発光する光が短く尾を引きながら遥か彼方の深海棲艦先頭の戦艦級に直進、一瞬光の膜が戦艦級の周囲に発生するが何もなかったかのように貫いて大きな爆発を起こす。

 だが足りない、敵の艦数は十倍を超える、一度撃つたびに数倍の砲弾が返ってくるのだ。

 数十と轟く轟音と燃え上がる爆炎、吹き上がる黒煙の後は海面に浮かぶのは砕けた艤装の破片だけ……、であるのが当然だが。

 

「装甲にはそれなりの自信はあるが……、これはちょっとなぁ……」

 

 砲撃着弾の後の黒煙を払いながら現れるのは、変わらず無傷の第一艦隊と第二艦隊。

 

「なんだか此方ばかりに攻撃が集中してません? いえ、問題無いですけど……」

 

 攻撃が加えられるその都度無傷の艦隊、深海棲艦の有り余る火力に対しての堅牢を超えた防御能力。

 艦娘としてありえない性能、そしてそれは『彼女たち』を示す一欠片でしか無かった。

 

「提督、重巡洋艦四隻の起動シーケンス完了確認!」

 

 大淀の報告からの情報転送、執務机上のサインフレームに四隻の名前とその下に進展を示すプログレスバーが表示されていた。

 プログレスバーは全て塗りつぶされ、『一〇〇%』と起動シーケンス完了の文字。

 すぐにそれをサインフレームの端に寄せ、ほぼリアルタイムで反映されている戦略図に指を乗せる。

 画面上半分の夥しい数の赤い逆三角形、対して下のたった二十四の緑の点。

 数えるのが馬鹿馬鹿しくなる赤い逆三角形と、二十四の内四つの緑の点を一つずつ指でなぞって緑と赤をグラデーションの掛かった線で繋ぐ。

 

「提督より目標指定! 各艦確認せよ!」

 

 四本の線は端の一点の艦娘艦隊から末広がりになり、所謂扇型になる。

 図として見れば深海棲艦の中を通り抜ける形の、超広域殲滅攻撃。

 

「機関、最大。 重砲撃形態、起動」

 

 その命令にパーティーの主役、古鷹、足柄、衣笠、三隈の四隻が動いた。

 右腕の艤装が、両肩と腰の艤装が、両手と背中の艤装が、腰の艤装が重低音を立てて割れた。

 それぞれ内部構造を晒しながら内側から現れたのは一つの窪みがある黒色の物体が二つ、まるで流線で出来た駒のような重力子指向制御装置。

 その重力子指向制御装置は自然にはあり得ない色の電撃を迸らせながら、窪んだ面を目標へと向けつつそれぞれの斜め上に滞空して静止する。

 

「友軍は射程範囲より直ちに退避せよ! 繰り返す! 友軍は射程範囲より直ちに退避せよ!」

 

 空で戦っていた戦闘機たちも速度に任せた無理やりな離脱を行って射程範囲内から抜け出していく。

 雷光が強くなり重力子指向制御装置も光を放ち始め、重力子指向制御装置の中間から前方に眩い光が灯り始める。

 サインフレーム内には『全箇所異常なし、安全確認完了、安全装置解除』の表示。

 

「四艦とも重砲撃形態への移行確認! 撃てます!」

 

 戦略図には四隻の砲撃射程範囲が表示され、その範囲内から上空の戦闘機や戦艦たちが退避して全ての準備が整う。

 そうして号令を下す、破壊のみを齎す光を作り出せと。

 

「超重力砲、発射」

『発射』

 

 一言の復唱と共に一際の大きな発光の後、四色の太い光柱が深海棲艦の大艦隊を横断した。

 一瞬だ、まばたきした時には指定した目標もぶちぬいてかなり遠くの方で大爆発。

 海面の上を通ったから衝撃で海が割れている、それこそ幅と深さは直径百メートルは軽くあるだろう。

 直撃した深海棲艦は超高重力波によって原子結合を解かれ、物体とは言えないバラバラの分子と成り果てた。

 また直撃せずとも超高重力波による空間歪曲からの復元作用における空間超振動と衝撃波が射線周囲に襲いかかる。

 要するに戦艦主砲が可愛く見えるレベルの見えない何かに思いっきりぶん殴られたり、凄まじい速さで揺さぶられるようなもの。

 

 結果は効果作用範囲内で一番被害が少ない深海棲艦でも大破、光柱から至近距離だったものは分子にこそならなかったものの衝撃で轟沈を超えて粉々に吹き飛んだ。

 俺が見ている戦略図の赤い三角形の八割ぐらいが消えて、なんだかスッキリしている感じ。

 

「………」

 

 あまりの破壊力に誰もが唖然として言葉を発しない、超重力砲と言う重巡洋艦最大火力は伊達ではない。

 海中に居た潜水艦級も海が割れた衝撃で残念な事になっただろうし、残っていてもまともに戦えないだろう。

 

「全艦隊、深海棲艦の掃討に入れ」

 

 もう勝利は決まった、万全の状態で戦艦の防御力場を突破できなかった以上、こちらが慢心していても重度の損傷を受けた状態で打破できる筈もない。

 

「……なるほどな、これでは無理もない、か」

 

 長門が主砲を微調整しながら撃つ、浮いているだけの的になってしまった深海棲艦が次々と沈んでいく。

 後方からも戦闘機がミサイルを飛ばし、海面下には魚雷が小さすぎる雷跡を残して、爆炎と水柱を上げさせた。

 それから程なくして、深海棲艦の大艦隊は全て海色に溶けることになった。

 

 

 

 

 

「全艦隊、帰投しました」

 

 はー、終わった終わった。

 もう二度と使わねぇ、使わせねぇ。

 いや、パフォーマンスで艦隊戦もやらせたけど最初っから使ったほうが良かったかもしれない。

 そんくらいの超兵器、これからずっと普通の艦娘で居てもらおうそうしよう。

 

「………」

 

 これから後処理でデスマーチが待っている、連合艦隊を組んだのも初めてだし……、燃料鋼材弾薬ボーキサイト……、一体どれだけ消費されたか確認するのが怖い!

 あと他の鎮守府がどうなってるのかも確認しないと……、あんなのが攻めてきたんだから逃げてるか立ち向かって全滅したかの二択だろうが。

 

「提督、これからどうする?」

 

 口角を釣り上げて武蔵が言う、あんなのを見た艦娘から文句一つ出なかった。

 実際には超重力砲は戦艦や重巡洋艦を出さない理由じゃないけど、あんなくっそヤバイ代物を持ってるから簡単には出さないよ? って感じ。

 戦艦と重巡の艦娘たちからすれば超重力砲とか自分の意志では撃てないようになってるから気が付くとは思うけど、騙す相手はそれらを装備していない駆逐艦や軽巡洋艦たちだから問題ない。

 

「……帰投した全艦隊は全て入渠せよ、特に海を割った四隻はどのような些細な異常でも僅かにでも感じたのなら必ず報告。 また、予定調整があるため質問がある者は事前に申請せよ」

 

 バケツも辞さない覚悟! 初使用だからどんな問題が起こるかわからんしね。

 あと質疑応答の時間も作るって言ったからな、やっぱ問答しませーん! とか言ったらマジギレされるだろうし。

 

「悪いが潜水艦隊にはもう一働きしてもらう、入渠後フタフタマルマルにドックに集合。 他の出撃した艦娘はこの後翌日一日自由時間とする、以上」

 

 潜水艦から文句が上る前にサインフレームを閉じる、俺は仕事! 君たちも仕事! Win-Winだ!

 鎮守府周辺に偵察の潜水艦が来るかもしれないから、そいつらも叩いておかないと。

 潜水艦隊もスーパーキャビテーションの誘導魚雷で敵潜水艦をしこたま叩いたから、あと何度かぶっ放しても問題ないやろ。

 

 それと面倒臭いがやることやっとかないと上の人がマジうるさいからなぁ、あと救助に行かないと罵倒されかねないし……。

 消費した分の資材もなんとか補填しないといかん……。

 ・・・・のせても いいんだぜ! なつかしい ドラムかんをよ!

 

「……解散だ」

 

 今後の行動考えて、ふと頭を上げたらまだ居る戦艦たち。

 

「提督よ、皆馬鹿ではない」

 

 馬鹿なら皆沈んでるわ!! いや、カッチカチに堅いから沈まないか。

 

「……何を聞きたい?」

 

 俺超能力者じゃないので皆の心読めないから、目で訴えかけられても分からないの。

 

「私はAdmiralの口から聞ければそれでいいわ」

 

 その口で直接納得させろ、そんな風に言いたげなビスマルク。

 なので仕方なく、本当に渋々戦艦たちが求めている言葉を吐く。

 

「……今後はお前たちにも出撃してもらうことになる」

 

 それを聞いてうるさいくらいに声を上げて跳ねるのは……。

 

「提督ぅー! 今夜は寝かせないネー!」

 

 トラップカード発動! 『不沈艦武蔵』!

 

 このトラップカードは相手艦娘の攻撃宣言時に、その攻撃艦娘1体を対象として発動できる。 その攻撃を無効にする。

 

 飛び掛ってくる金剛、それをカットするために武蔵が前に出てその豊かな胸部装甲に顔を埋める金剛。

 

「oh、提督の胸はとても柔らかいネー……」

「金剛よ、いい加減学んだらどうだ?」

 

 ぱふんぱふんぼいんぼいーん、そんな感じで金剛が武蔵と戯れる姿を余所目に現実逃避のお時間に入る。

 上がってきた今回の出撃で使った補充資材量は……ごうけいにじゅうさんまんはっせんかー、すごいなー。

 ……冗談じゃねぇ、通しの総使用量じゃなくて一回でこれかよ!

 保有資材の七割も吹っ飛んだぞ! やっぱ止めときゃよかった!

 もう緊急事態以外で絶対通常兵装使わせねぇ! まじハゲるぞこれ! と言うかハゲた!

 

 ああ、俺の提督人生に安らぎはないのか……。

 今後もあり続ける色んな危険に、俺は肩を落とした。




作中艦娘コンプリート済み、ACE戦闘機(主人公機)もコンプ済み。
超艦娘TUEEEEしか出来ないので続かない、いちゃこらしてTUEEEEしないなら普通の艦これでいいからね(真理)

作中の出撃艦隊

第一艦隊
 長門
 扶桑
 衣笠
 三隈
 プリンツ・オイゲン
 高雄

第二艦隊
 霧島
 日向
 足柄
 古鷹
 羽黒
 筑摩

航空艦隊
 赤城
 加賀
 翔鶴
 瑞鶴
 秋月
 摩耶

潜水艦隊
 伊168
 伊8
 伊19
 伊58
 U-511

なお、全艦潜水可能&ミサイルが海空両用で構成を気にする必要なし
潜水艦以外は潜水時速力が二割ほどダウン、だが戦艦でも100ノットは出る糞仕様


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