艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~ (kasyopa)
しおりを挟む

第一章 私に出来る事を プロローグ

艦これ ~空を貫く月の光~ 始まります。

4/5 微修正・あとがき加筆
4/7 プロローグ2の文章が混じっていたので修正。
  矛盾すみませんでした。


私は今深海棲艦と戦っている。いわゆる遭遇戦で、不可抗力に近い物だ。

敵は駆逐艦三隻だけの小規模の艦隊だが、生憎こちらは私一人。

護衛艦は付けずに全速力で所属する予定の泊地へ場所へ向かっていれば、

敵に気付かれることなく切り抜けられるだろうと思った。

 

でも現実はそんなに甘い物ではない。

島の影からほぼ鉢合わせの様な状態で敵艦と交戦に入り、

何とか一隻沈めて残った二隻と未だに交戦状態だ。

泊地までもう少しだけれど振り切れる自信がない。そして倒し切れる自信も無い。

打電すれば傍受される可能性もあり、これ以上に不味い事にも発展しかねない。

 

消耗した砲身を引き抜き脚に付けてある替えの砲塔を差し込んだ時、全身に衝撃が走る。

後方からの砲撃か雷撃かは解らない。

思わず前のめりになるも倒れないように何とか前を足に出して体勢を立て直す。

何とかこれでと思った矢先、前に出した足のすぐ横に一つの雷跡が。

 

気付いた時にはもう遅くまた同じような衝撃が艤装を抉り、

段々と水が流れ込んで来る。

砲撃を再開しようとするも先程の雷撃によって砲身は折れ曲がり、

変えの砲身も全て損失していた。

そして敵駆逐艦の砲身は確実にこちらを狙っている。

 

終わった。

 

「そんな、こんな……所で……」

 

目を閉じる。

最後の光景が絶望で終わるのなら、そんな光景を、世界を見たくない。

だから私は目を閉じる。

 

「敵艦捕捉! 全主砲、薙ぎ払え!」

 

沈む意識の中、そんな声と爆音が響き渡った。

 

 

 

「ぅっ……」

 

目を覚ます。

視界に飛び込んできたのは細い丸太を組まれて作られた簡素な屋根。

その隙間から青い空が見え隠れしていた。

 

次に感じたのは体の芯まで届くジワリとした温かさ。

手を顔の前に持ってくると、少しだけすくわれたお湯が顔に掛かる。

私は今入渠しているらしい。

どうやらあの場所で沈んだ訳ではなくあの声の主に助けられたようだ。

 

「ん、起きたか」

 

声のした方を見ると、タオルを頭に巻いた赤い瞳の少女がこちらを向いていた。

 

「あの、ここは一体……そして私は……」

「記憶が混乱しているようだな。一つずつ話すから落ち着いて聞いてくれ」

 

私よりも若く見える彼女であったが、中身は私よりも大人びていた。

それに驚きながらも状況を理解するためにも彼女の話に耳を傾ける。

 

「ここはトラック泊地。対深海棲艦の為に前進基地として建造中だ。

 次に君の現状の説明だが私達が哨戒中に深海棲艦と交戦しているのを発見、

 間一髪の所で大和の超長距離砲撃が間に合って君は轟沈を免れたということだ」

 

つまりあの声と爆音はその大和という方の砲撃なのだろう。

別の意味でも意識を持っていかれそうになるような大きな音だったので、

忘れたくても忘れられない。

 

「そういえばまだ自己紹介をしていなかったな。

 私は陽炎型駆逐艦十二番艦、『磯風』だ」

「申し遅れました。私は秋月型駆逐艦の三番艦『涼月』です」

 

ある程度自己紹介を交わした所で彼女が何故入渠しているのかが気になった。

 

「磯風さん、私はともかく貴女は何故入渠を」

「ああ、君を連れて離脱しようとした時に大破していた駆逐艦に一矢報われてしまった。

 結果二人仲良く入渠と言うわけだ」

「そうだったんですか。すみません、私の為に」

「いや君が気にすることではない。名誉の負傷というやつだ」

 

誇るかのように笑みを浮かべる磯風さん。

この人には何かとても大きなものを感じる。

艦娘としての器の大きさというか、そう言うものが。

 

その後短い会話を交え私達は入渠を終えた。

恐らくボロボロであった服は丁寧に修繕されており、着るものに困らないことは嬉しい。

が、ここである物が無いことに気付く。

 

「磯風さん、私のペンネントを知りませんか? 第六十一驅逐隊と書かれた物なのですが」

「いや、見ていないな。君を入渠させたときには既に無かった」

「そう、ですか」

「大切な物なのか?」

「はい」

 

そのペンネントは私にとって覚悟や決意と同じ物。

大破した時に無くしてしまったのだろうか。

 

「……腹が減っただろう」

「えっ」

「腹が減っては戦は出来ぬ。先人達の偉大な教えだ」

 

 

 

彼女に引っ張られ、食堂に案内される。

内装はとても豪華で赤絨毯まで敷いてあり、机は奥へ続く長い造り。

その中央に等間隔で置かれたキャンドルスタンド。

 

そこでは銀髪で癖のある髪型をした少女が配膳を行っており、

奥の方で金髪の少女がステップを踏みながら可愛らしく踊っていた。

 

「舞風、こんな所で踊っては料理に埃が入ってしまうわ」

「えー! もうちょっと時間があるし野分も踊ろうよー! 楽しいよー」

「すまないな野分、当番を変わって貰って。この償いは必ずする」

「いえ、致し方ないことですから。そちらの方も入渠、済まされたのですね」

「それに舞風はもう少し落ち着かないか」

「あ、磯風! 入渠終わったんだ。それに黒髪の人も!」

 

恐らく金髪の人の名前は舞風、銀髪の人は野分と言うのだろう。

彼女達はそれぞれやっていたことを中断して私の前に並び、敬礼をした。

 

「陽炎型駆逐艦、十五番艦の『野分』と言います。よろしくお願いします」

「陽炎型駆逐艦の十八番艦!『舞風』でーす! よろしくね!」

「秋月型駆逐艦、三番艦『涼月』です。よろしくお願いします」

 

遅れながらも敬礼を返す。

すると舞風さんが不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。

私の顔に何かついているのだろうか。

 

「舞風さん、私の顔に何かついてますか?」

「んーん? さっきの戦闘で何か落とし物してないかなって」

「! もしかして、私のペンネントですか!」

「あ、やっぱり! 野分に聞いても違うって言ってたから、もしかしたら思って」

 

彼女が上着のポケットから取り出したのは『第六十一驅逐隊』と書かれたペンネント。

間違いない。私の物だ。

お礼を言って早速締める。これが無いと本当の意味で始まらない。

 

「落ち着いた所で食事にしよう」

「待ってください。間もなく大和さんがいらっしゃいますし、揃ってからにしましょう」

 

大和さん。磯風さんの話でも聞いた私を助けてくれた艦娘の名前だ。

舞風さんがもう少し時間があると言っていたのは彼女が此処に来るまでの事だろう。

 

立ち話も何だという事で、各自席に座る事にする。

私は磯風さんの隣に、舞風さんと野分さんは向かいに座った。

 

並んでいる料理は焼き魚にほうれん草のお浸し、出し巻き卵ときんぴらごぼう、

そして白いご飯に味噌汁と場の雰囲気に似つかない和食。

それでもおいしそうな匂いが私の空いたお腹に響いてきた。

そしてこの料理を作ったのは確か野分さんだったはず。

ここまでの料理を一人で用意したというのは驚きだ。

 

何とか空腹を紛らわそうと考えていると、扉が開き一人の女性が入って来た。

 

黒目の茶髪で、髪は後頭部で一括りにして流しており、

もみあげの部分も肩に掛かるほどにまで伸ばしている。

また髪には桜の髪飾りがあり、首元にある鉄の輪の様なものにも桜の紋が入っていた。

顔は極めて整っており、清楚な人なのだろう。

 

「珍しく遅かったじゃないか、大和」

「涼月さんの艤装の修理の話で少し時間を取ってしまいましてね。ごめんなさい」

「い、いや、責めているわけではない! ただ心配だっただけだ」

「ふふふ、解ってますよ。磯風さん」

 

言動からまさに大和撫子といったものを感じ取る。

だがその声質から私は、意識が沈む直前に聞いた彼女の声を思い出した。

磯風さんとの会話を終えた彼女は私に視線を合わせてくる。

 

「涼月さんですね」

「えっ……はい」

「初めまして。私は大和型戦艦、一番艦の『大和』です」

「あっ、秋月型駆逐艦、三番艦『涼月』です! よろしく、お願いします!!」

 

席を立って即座に敬礼。

強いられるような威圧感ではなく、言動や風格から見て取れる包容力。

そして微かに感じられる全てを従えるようなカリスマ性。

それらが合わさって体が反射的に動いたのだ。

 

そんな私を見て大和さんは少し笑みを浮かべた。

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

「そーそー。そんなことより早く食べようよー」

「舞風ったら……すみません大和さん、涼月さん」

「いえ、私の方こそすみません」

 

急にどうかしてしまったのだろうか。こんなことは初めて。

少し反省して再び席に着くと、その隣に大和さんが座った。

 

「では皆さん揃いましたし、頂きましょう」

「「「「いただきます」」」」

 

そのまま流れる様に始まった食事。

それはあの時見た冷たい絶望よりも、遥かに温かい物であった。

 

 

//////////////////////

 

 

食事を終えた私は大和さんに連れられ、工廠までやってきていた。

なんでも艤装の修理の事で話があるそうで。

 

扉が開かれ、鉄と油の臭いが漂う。

艤装を装着している身からすればこんな臭いは慣れた物なのだが、

想像をはるかに上回る濃さに少し鼻を摘まむ。

そこではある程度散乱した工作機と、複数の妖精さん達が忙しそうに駆け回っていた。

 

「あ、大和さん! 先程はすみません、お手数おかけして」

「構いませんよ、新しい仲間の為ですから。それはそうと差し入れを持ってきました」

「わぁ~、ありがとうございます! これで修理も捗ります!」

 

工廠の奥から姿を表したのは桃色の髪をした長髪の女性。

日本の鎧のような肩当をしていたり、白いハチマキを締めたりと特徴的な部分が多いが、

何よりも特徴的なのはその艤装。

艦娘の艤装は基本的には攻撃に特化し主砲や副砲、機銃や電探などを搭載している。

だが彼女はクレーンや工作機と呼ばれる機械が半分以上を占めていた。

一応25mm連装機銃などは装備しているようだが、実戦に向いているとは言い難い代物。

 

「工作艦『明石』です。この泊地では艤装の修理や兵装の開発を行ってます」

「秋月型駆逐艦、三番艦『涼月』です」

「上からの伝令で存じていますよ。ところで今お時間よろしいですか?」

「大丈夫ですよ。その為にも涼月さんを連れてきましたから」

 

何も言われずに連れてこられたが、何かあったのだろうか。

 

「涼月さん、艤装の修理の件でどうしてもお話が」

 

少し残念そうな、複雑な顔をする明石さんに付いて工廠の奥へ案内される。

そこではまだ修理されていない私の艤装と、修理が完了した長10cm砲が置かれていた。

 

「長10cm連装砲の修理は完了したんですが艤装の艦首部分が亡失していて、

 これだと最近新造した艦首を接合するしか手が無いんです。

 兵装と違い艤装は艦娘にとっても重要な部分ですので相性もありまして」

「故に私の同意が必須、ということですね」

「ご理解が早くて助かります。そして修理に用いる艦首なんですが」

 

そう言って彼女がどこからか取り出したのは艤装の艦首部分。

だがそれは今までの曲線状の艦首ではなく直線的な形状をしていた。

 

「以前とは別の物になってしまうんです。

 今まで通りとまでは行きませんが、極力違和感が無いようには仕上げますので」

「構いませんよ」

 

さらりと零した言葉に明石さんは驚愕し、少し後ろに居る大和さんも驚いていた。

私は何かおかしなことを言っただろうか。

 

「で、ですから相性などもありますからもうちょっと考えても……

 いや、修理するこちらとしては有りがたいんですけど!

 でもでも涼月さんのお体の事もありますし!」

「今それしか打つ手が無ければ、それに懸けるべきです。

 それに明石さんは仰いました。極力違和感が無いように仕上げると。

 なら私は明石さんを信頼します」

 

「それに私が入渠している短時間で長10cm砲をここまで丁寧に直して下さったんです。

 腕は相当な物だとお見受けします」

 

そう言って私は長10cmに触れる。

折れ曲がった砲身は綺麗に直っており、替えの砲身も用意してあった。

その近くには、ヘルメットをした妖精さん達が可愛らしく敬礼している。

私は笑みをこぼすと、静かにお礼を言った。

 

「……解りました。不肖明石、その信頼に応えてみせますよ!!」

「では、よろしくお願いします」

「明石さん、私からもよろしくお願いしますね」

「はい! 大和さんも差し入れもありがとうございました!」

 

大和さんに連れられて工廠を後にする。

その後、後ろから明石さんと思われる気合の入った声が聞こえた、様な気がした。

 

 

 

「そういえば大和さんは何故あの時私の名前を?」

 

泊地の案内を受けている時、食堂の時の事が気になってので聴いてみる。

 

「そういえば言っていませんでしたね。ここでは提督がいらっしゃらず、

 ここの指揮は私に一任されてましているんです。

 大本営からの伝令も任せされているので、どういった艦が配備されるのか等の情報も、

 いち早く知る事ができるのです」

「なるほど……」

「補佐は明石さんにお願いししています。その方が工廠との連携も出来ますからね」

 

確かに大和さんと明石さんであれば適任だろう。

 

しかし、彼女達もいわば艦娘。特に大和さんは戦艦だ。

指揮ばかりで出撃出来ないという事があるのではないだろうか。

今回私が彼女に助けに出たのも、緊急事態だからという理由だろう。

戦艦の持つ大口径主砲の長射程を利用した殲滅戦。そのお蔭で私は救われた。

 

「大和さんは指揮が忙しくて出撃できない事って、ありますか?」

「ええ。特に今は前進基地として建築中なだけもあって、

 今回の様な事がなければ出撃の許可は下りませんね。それに……」

 

少しだけ顔を赤らめる彼女。何か別の理由があるのだろうか。

 

「出撃すると、お腹が減ってしまって……実は先程の食事程度では全然足りなくて」

「えっ」

「明石さんの差し入れも、涼月さんが居なければ食べてしまうところでした」

「そんなに?!」

「ですから……」

 

腹の虫が泣く音がする。これは私ではない。

もしかして……

 

「この案内が終わったら、食事にしませんか?」

「は、はい」

 

少しばかり、自分の描く大和さんのイメージが崩れた気がした。

 

 

////////////////////////

 

 

私はここでうまくやって行けるのだろうか。

そうした漠然とした不安に呑まれて私は浜辺までやってきていた。

 

空に浮かぶ月に手を伸ばし、やめる。

私は涼月。秋の空に浮かぶ澄んだ月。

この空や海に比べればとても小さなもので、掴もうと手をかざせば隠れてしまう。

そんな小さな存在。

 

そんな私がここに居ていいのだろうか。

 

「月が綺麗ですね」

 

足音と聞きなれた人の声が聞こえる。

後ろを振り返るとそこには大和さんが和傘を差していた。

 

それにしても、月が綺麗ですか。……月が綺麗?!

 

「あ、あの、私は艦娘なのでそんな、急に言われても!!」

「え、あっ! そう言う意味で言ったわけでは!」

 

顔が熱い。彼女もそう言う意味で言ったわけではないのは、少しでも考えれば解る。

でも急に言われた事なのでそうとも捉えられはなく!

 

「す、すみません、変に解釈してしまって」

「いえ、私も語弊を生む言い方をしてしまってすみません」

 

私の隣にまで歩み寄る大和さん。

彼女は相当恥ずかしかったらしいのか、耳まで赤く染まっていた。

 

「とりあえず閑話休題という事で、涼月さんはどうしてこんなところに?」

「……不安なんです。私が、こんな素敵な人達のいる所に居ていいのか、と」

 

提督が居ない代わりにここの指揮を執っている大和さん。

その補佐を行い、艤装や兵装の修理を完璧に熟す明石さん。

駆逐艦とは思えぬ風格を持っている磯風さん。

礼儀正しくしっかりした性格の野分さん。

自分の名に恥じぬ踊り好きであり、ムードメーカーである舞風さん。

 

皆は私を歓迎していたが、私自身がそこに入って良いのか不安になる。

 

「私は、本来ならもっと別の所に配属されるはずなんです。

 こんな、いつか前進基地として機能するこの泊地などではなくて」

 

俯き、目を瞑る。目に移るのはあの時絶望した瞬間。

 

単艦で、全速力でたどり着くことが出来ればよい。

 

だがそれは大きな間違いで、敵と遭遇し轟沈寸前まで追い詰められた。

いつもは出撃していない大和さんが出撃してまで私を助けた。

私を助ける為に出ていた磯風さんも私を庇って被弾した。

 

言葉を並べれば並べる程、自分の未熟さが浮き彫りになっていく。

言葉を並べれば並べる程、自分自身が小さな存在になっていく。

そんな気がしても、私は口を閉じることは出来なかった。

 

「涼月さん」

 

そんな声がした時、私は大和さんに抱きしめられていた。

温かさが伝わってくる。でも、抱きしめて背中にある彼女の手は震えていた。

 

「解りますか? 私の手の震えが」

「……はい」

「私も、実を言えば怖かったんです。あの時涼月さんを誤射してしまっていたら、と」

 

震えを抑えるかのようにさらに強く抱きしめられる。

 

「それだけではありません。指揮を一任されているという事は、

 私が判断を間違えれば皆さんを轟沈させてしまうかも知れないという事」

 

「私は皆さんを生き残らせる為にここに居る。

 皆さんを戦場に送り出し、誰一人失わせることなく帰還させる為にここに居るんです。

 そう思うと日々の哨戒をお願いする時も怖くてたまらないんです」

 

彼女もまた、私とは違う不安を背負っている。

いや、私と比較ならない程の不安と恐怖を背負い、そして戦っている。

 

今日見てきた中で彼女はそんなそぶりを見せただろうか。

否、断じて否だ。

皆の前では清楚な大和撫子であり、

指揮艦とも言える存在感を放つ彼女の姿を私は知っている。

 

そんな彼女の本当の姿は、悩み苦しむありふれた一人の艦娘であった。

肩に手を回されて離される。上を向けば彼女は私の目を見ていた。

 

「ですから、共に強くなりましょう。心も、体も、私と共に」

 

その瞳は迷いのない瞳。手の震えは止まっていた。

私の告白も彼女の告白もをも共に分かち合い、生きようとせんその姿勢。

私の知る大和さん本人であった。

 

そんな彼女を見ていると自然と力が湧いてくる。

彼女の力をその手を通じて感じる。そうか。これが。

 

私は力強く頷き、口を開く。

 

「では、一つだけ約束して頂けませんか?」

「ええ。構いませんよ」

「共に強くなった時、大和さんの護衛艦として守らせて下さい」

 

驚いたかの様に彼女は表情を変えるも、すぐに笑顔になった。

 

「はい。もちろんです」

 

その言葉を聞いた私は決意した。

私の剣としてでなく、彼女の盾として強くなるのだと。




オリ主設定(スペック?)

名前:涼月

艦種:駆逐艦
型 :秋月型三番艦
排水量:3,470t(公試) 天龍型(3,500t級、公試3,900t)とほぼ同等
速力:33ノット(白露型とほぼ同等)
初期装備:長10cm連装砲+高射装置・61cm四連装酸素魚雷・25mm連装機銃
容姿:黒髪・サイドテール・ペンネント・黒の瞳


簡易的な自問自答コーナー

Q.なんで涼月を選んだのか?
A.最初は艦名も実在しない適当な秋月型にしようと思ったのですが、
 流石にそれは無理があったので、涼風に名前が似ていた涼月を選びました。
 その後Wikipediaでかなりの幸運艦と知り、様々な理由の元確定しました。

Q.なんで色々いなかった艦娘増えてるの?
A.「一人ぼっちは寂しい(ry」ご都合とは言えど無理があったので、
 護衛艦として駆逐艦を三人ほど配置しました。何故この三人かは今は伏せます。
 ある程度予想の付く人は艦これやりこんでるか純粋に史実知ってる人。

Q.明石さんって必要?
A.必須。むしろ夕張に全部任せたり、工廠に最初から武器が置いてあったとか、
 そんな摩訶不思議な事は避けたかったので。むしろ明石さん導入で逃げてる。
 配備した理由は『装備開発』と『大和の補佐』です。
 補佐に抜擢したのは史実で大和の修理していた関係もあります。
 今回涼月を修理したのも、秋月を修理したという記録に基づいています。
 (実際は呉ですけど)

Q.主は艦これやってるの?
 やってないとアニメ未登場キャラ出せないでしょ常考(ry
 なお鯖は呉鎮守府・司令部レベル102・初期艦『五月雨』です。
 『野分』『磯風』は持っていません(ぇ 大和はいます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ2

改稿された、涼月の追憶~妖精~ になります。


大和さんと約束をした翌日。

私は鳴り響くラッパの音によって起こされる。雰囲気からして敵襲じゃない、筈。

寝間着からいつもの制服に着替えて障子を開け放つ。

差し込んでくる太陽の光が朝の訪れを教えてくれた。

この状況に対して、頭の中に入っている知識を引き出し一つの言葉を思いつく。

 

「確か総員起こし、でしたっけ」

 

その言葉を言い終えた後、コンコンと扉をノックされる。

なんの疑いもなく扉を開けると、そこには既に制服に着替えた野分さんが居た。

 

「おはようございます。野分さん」

「はい。おはようございます。心配していましたが、その必要はありませんでしたね」

 

彼女は何かを心配して私の部屋までやってきたそうだが、

私の今着ている服を見て安心していた。

 

「あの、何か私にありましたか?」

「いえ、この泊地のルールをお教えしていなかったので」

 

確かにここに配属されたはいいものの、

先日は明石さんに艤装を直してもらったり、自己紹介を受けたり、

泊地の案内をしてもらったりでいっぱいいっぱいで。

この泊地でのルールや状況については一切教わることはなかった。

 

 

「とりあえず行きましょう。点呼は外で行われるので」

「はい!」

 

私は野分さんの後に続くのだった。

 

 

 

施設の外に出ると、既に私達以外の人達が揃っていた。

と言ってもたったの3人だけだが。

 

急ぎ足で舞風さんと磯風さんの後ろに並ぶ。

それを確認してクリップボードを持っていた大和さんが口を開いた。

 

「皆さんおはようございます。先日は涼月さんが無事この泊地に到着されました。

 改めていうことでもありませんが、皆さん仲良くしてあげてくださいね。

 では、本日の通達です」

 

昨日私が着任したからか、大きな連絡は無かった。

物資の配分については今までと変わり無く行くとか、そんなお話だった。

 

「何か意見がある方はいらっしゃいますか?」

 

あらかたの連絡が終わったからか、大和さんは皆に質問を飛ばす。

すると一人だけ、磯風さんが手を挙げた。

 

「はい、磯風さん」

「大和、物資については今まで通りで行くと言ったが、

 先日の涼月の艤装の修理と、お前が消費した分の食料分はどうなるんだ?」

 

それを聞いて私は先日大和さんが口にしていた言葉を思い出す。

 

『出撃すると、お腹が減ってしまって……実は先程の食事程度では全然足りなくて』

 

その後私は想像を絶する量をぺろりと平らげる大和さんを見て、

大和撫子としての、彼女のイメージが少し崩れてしまったのは記憶に新しい。

 

「そ、それは」

 

少し頬を赤らめながらも大和さんは視線を隣にいる明石さんへと移す。

明石さんと磯風さんが同時にため息をつく。

 

「確かに資源の方は涼月さんの艤装の修理で消費しました。

 しかし涼月さんも言わば駆逐艦なのでそこまで心配する事はありません、が!」

 

「大和さんは食べ過ぎです! 日々の食事の量を少し増やすとかで対処してください!」

「はい……申し訳ありません……」

 

この泊地で一番偉いはずの大和さんが明石さんの厳重注意を受けている。

そういった所を見ると、彼女も一人の艦娘なんだということを認識した。

 

「大和さんタジタジだねー」

「そ、そうね」

 

言ってみれば自業自得なのだけれど、彼女が出撃して居なければ私は沈んでいたわけで。

でも前進基地としては物資、それも食料がなくなるのは絶望的な事態なわけで。

 

「というわけで! 当面は調理担当から大和さんは抜けてもらいますからね!」

「はい、解りました……」

 

後から聞く話によれば大和さんの料理はおいしいうえに量もあるが、

その分多くの材料や調味料を使用してしまうとの事。

食事での贅沢は出来なくはなってしまうだろうが、

それでもそれ以外では不自由なく暮らせるということで、

問題なくお風呂にも入れるのでそれで許してほしいとの事。

 

「で、では改めて質問はありませんか?」

 

気を取り直して、と再び質問がないか尋ねる大和さん。

この雰囲気ではまたここのルールについて教えてもらえないかもしれない。

空気を換える意味でも、私は手を挙げた。

 

「はい、涼月さん」

「あの、この泊地でのルールについて教えて頂きたいのですが」

「あっ! そうですね。皆さん揃っていますし再確認もかねてお教えします」

 

大和さんは普段の明るさを取り戻したのか、この泊地のルールについて教えてくれた。

 

一つ。総員起こしと調理は日替わりの当番制で、各自が担当すること。

二つ。総員起こしが掛かるまでは自由行動だが、

   掛かった時は制服に着替えて基地の入り口に集合すること。

   天候が雨の時に限り食堂に集合。理由はこうやって毎朝通達を行う為。

三つ。午前中と午後に哨戒を行うが、基本的には駆逐艦2人で近海までに留める事。

四つ。体調不良などで出撃や当番が難しい場合は前日までに大和さんまで連絡すること。

   代役は大和さんが立てるので、心配はないそうだ。

五つ。明石さんの工廠には、明石さんが居る時限定で出入りが自由。

   基本的には総員起こしから消灯時間まで、食事の時間を除いて居るので、

   要件がある場合はその間にして欲しいとの事。

 

「以上です。これらで質問はありますか?」

「いえ、非常に解りやすかったです。ありがとうございます」

「解りました。では他に質問は……なさそうですね。では解散してください」

 

その言葉を聞いて皆が解散していく。私は特にこの後やることもない。

どうしたものかと悩んでいると。

 

「涼月、少し付き合って貰いたいがいいか?」

 

磯風さんが声をかけてきた。一体どうしたのだろうか。

特に断る理由もないので、二つ返事で彼女に連れられるのだった。

 

 

////////////////////

 

 

磯風さんに連れられてやってきた場所は意外にも工廠だった。

連日連れられてこの制服に油の匂いが付いてしまわないか気にしてしまう。

 

「明石、涼月の艤装の修理はどうなっている?」

「はい。昨日徹夜で仕上げたので問題ありませんよ!」

 

そこには既に私達よりも早く戻っていた明石さんの姿があった。

どうやら私の艤装の事を心配して連れてきてくれたらしい。

それが大和さんでないことに多少の違和感を感じるが、

この泊地にいる艦娘全員を呼び捨てにするほどの人だ。

私が考えるよりもずっと凄い人なんだろう。

 

「それはそうと、ご注文のアレはこの艤装のどこに装備するんです?」

「まぁ、普通に考えて魚雷を外すことになるだろう」

 

会話の様子を見ていると、何やら別の話題に切り替わった。

ご注文のアレとは何のことだろうか。

私の艤装に着けるのだから装備に代わりないのだろうけれど。

首を傾げているとそれに気づいた明石さんが口を開いた。

 

「磯風さん、涼月さんには話してなかったんですか?」

「ああ、でも困る事ではないだろう」

「いくら磯風さんでも人の装備について言わないでください!

 今回だけですからねまったく……」

「善処するよ」

 

どうやら資源やら装備に関しては明石さんが上の立場にあるらしい。

私も気を付けて接していかなければこの先怒られるかもしれない。

 

「はぁ、こういう所は大和さんにそっくりなんですから……

 あ、涼月さんすみません。折角来ていただいたのにいきなりこんなことになって」

「いえ、なんていうか、濃い人達だなぁと」

 

こういった様子を見ていると、昨日の夜に迷っていた自分が馬鹿馬鹿しくなる。

何をそんなに不安に思っているんだと、怒りに行きたくもなる。

 

その言葉に明石さんは苦笑を浮かべつつ、軽い咳払いをした。

 

「とにかく、涼月さんの艤装の修理は完了しました。

 後、磯風さんの独断で! 一つ装備を作ったので見てもらいたいんです」

 

磯風さんの独断、という所を露骨に強調して釘を刺しつつも、

彼女の後ろには一つの装備があった。

でもそれは砲や魚雷や対空火器といった装備ではなかった。

そこにあったのはただのマスト。しかし案外しっかりした作りをしている。

 

「あの、これは?」

 

装備と聞いて武器を想定していた私にとって、

これを装備と呼んでもいいのかどうか、とても戸惑いを覚える。

 

「やはりご存じありませんかー。これは熟練見張員用のマストです」

「熟練見張員、ですか?」

「はい。このマストに乗っている妖精さんが敵や雷跡を発見し、

 艦娘への危険を未然に予防するための装備となっています」

 

少し嬉しそうに装備の説明をする明石さんだったが、一つ疑問に思ったことを口にする。

 

「あの、明石さん」

「はい。なんでしょう」

「妖精さんはどこにいるんですか?」

「えっ? どこってそこに……」

 

彼女は振り返るも、そのマストの見張り台部分には妖精さんはいなかった。

 

「……磯風さん、どこに行ったか知りません?」

「私の専門外だな。だがここに来た時にはもういなかったぞ」

「あー、あの子達どこ行っちゃったのかなぁ」

「他の妖精さん、というわけにはいかないんですか?」

「それが出来れば苦労しませんよ」

 

明石さん曰く、妖精さんにも個人差があるらしくその得意不得意を見分けるのも、

彼女の重要な仕事だそうで。

特に見張員の妖精さんは特別な訓練を行っているので、

そう易々と代行が利く子達ではないそうだ。

 

「個人差、ですか」

「はい。特にあの子達は真面目でそれに才能もあったんですよ」

「才能、ですか?」

「それは、まぁこれを見て頂ければと思うのですが」

 

そういって彼女が渡してくれたのは切手程の大きさの小さな紙だった。

しかしその紙にはぎっしりと地図が描かれていた。

 

「これは……その妖精さんが書いた物、ってことですか?」

「その通りです。地形把握も結構大事なんですよ。なので期待してたんですが」

 

またも深いため息をつく明石さん。

その顔色と雰囲気から、本当に予想だにしない事だったようだ。

 

そんな真面目な子達が急にいなくなる。

妖精さんだから誘拐といった事はないだろうけれど、何か理由があっての行動だろう。

だから私は。

 

「私、探してきますね!」

「あ! 涼月さん!」

 

私はその髪を翻し工廠を飛び出した。

 

 

 

 

「説明も出来ないままに飛び出してしまいました……」

「まぁ、優しいんだろうな」

 

 

////////////////////////

 

 

工廠を飛び出したはいいが妖精さんのいる場所なんてよく解らない。

そういったことを聞かない内に飛び出してしまったのもある。

 

朝食がまだなこともあって食堂にいる可能性もある。

またどこかお昼寝している可能性も考えられる。

 

「とりあえず、当たってみますか」

 

まずは食堂から向かってみることにした。

 

 

 

食堂にやってくると、ほのかな鰹出汁の匂いが漂ってくる。

厨房に顔を覗くと舞風さんがノリノリで冷そうめんを作っていた。

 

「あれ? 涼月さっき工廠に行ってたんじゃ?」

「舞風さん、妖精さんを知りませんか?」

「妖精さん? 厨房に妖精さんならいるけど」

 

この位置から見えるように、お手伝いさんの妖精さんが忙しそうに動いていた。

 

「あ、いえ、熟練見張員っていう妖精さんなんですけど……」

「その様子だと工廠にいなかったのかな? んー、私は見てないなぁ」

「そうですか。ありがとうございます」

 

舞風さんに熟練見張員という言葉が通じてくれてよかったと思いつつ、

私は食堂の外へと向かう途中。

 

ガンッ!

 

「あづっ!?」

 

入口の近くにおいてある銀色の冷蔵庫の扉が独りでに開き、顔をぶつけてしまった。

 

「涼月大丈夫!?」

 

舞風さんが気付いたのか、厨房から飛び出してくる。

私の目の前がチカチカして視界が定まらない。

 

「うわぁ、鼻とおでこ真っ赤! 氷あるけど冷やす?」

「い、いえ大丈夫です」

 

半分目を回しながら心配させないと大丈夫と言う言葉を絞り出す。

するとひんやりとした何かがおでこに当てられた。

 

「ま、舞風さん? 先ほど大丈夫と」

「私じゃないよ?」

「え……?」

 

その冷たさのお陰で視界が定まり、顔の上に乗せられたものをとらえる。

それは細長いビン状のもので、ラベルには大和ラムネと書かれている。

それを二人の妖精さんが支えながら先ほどぶつけた所に当てていた。

二人の妖精さんからは工廠独特の濃い機械油の匂いがする。

 

「あっ、貴女達が私の見張員さんですか?」

「そうかもね。見張員の妖精さんって、その艦娘にそっくりっていうから」

「そっくり、ですか?」

「うん。私の見張員さんも踊るの好きだから!」

 

どうやらこの泊地にいる艦娘には、それぞれ専属の見張員の妖精さんがいるらしい。

私はもう大丈夫と二人の妖精さんに伝えて起き上がる。

 

「何はともあれ、見つかってよかったです」

「そうだねー。でも明石さん絶対怒ってるよー」

 

舞風さんが目の両端を指で釣り上げて怒っている様子を見せた。

それに私は苦笑しながらも、妖精さんを連れて工廠へ戻るのだった。

 

 

 

工廠に戻って明石さんに一連の出来事について話したところ、

舞風さんの言う通り二人の妖精さんを叱っていた。

 

「見つかって良かったですけど、勝手に行動しちゃダメですからね!

 特に涼月さんが心配されますし」

 

しかし磯風さんを叱ったよりもまだ優しい様子だった。

それでも彼女達は怖いのか食堂から持ってきたラムネの裏に隠れている。

 

「まぁ、何故居なくなったのはある程度察しましたから、これ以上言いません。

 これからは勝手な事をせずに事前に連絡してくださいね」

 

明石さんも見張員の妖精さんが、その装備する艦娘に似るという話は知っているようだ。

装備開発を担当している艦娘だから、知っていて当然なのかもしれないが。

 

明石さんのお叱りが終わったのか、

二人の妖精さんが私の方を向いてラムネを差し出してくる。

どうやらこの二人は私の為にこれを取ってこようと思っていたらしい。

ありがとう、とお礼を言って受け取る。

 

「そういえば磯風さんの見張員さんはどんな妖精さんなんですか?」

「そうだな。とても従順で雷跡の発見に優れている。哨戒では本当に役に立っているよ」

 

そう言う彼女に反応したのか、二人の妖精さんが磯風さんの元に歩み寄り、

私に向けてキリッと敬礼をした。

なるほど、同じ妖精さんでもここまで違ってくるのか。

 

「さて……気を取り直して説明しますよ。涼月さん」

「あ、はい。お願いします!」

 

私は明石さんから続きの説明を受けた。

 

熟練見張員の妖精さんは今や電探の普及により衰退しつつあるが、

この泊地では本土の鎮守府に比べて物資が少ないこと、

電探と違って雷跡を捉えることが出来ることもあって電探よりも使用されている。

因みにこの泊地で電探を装備しているのは大和さんだけだそうだ。

 

私用の熟練見張員が配備される事になったことと、そのマストを開発した理由だが、

こちらに到着して電探が装備されていない私の艤装を見た磯風さんが、

修理と同時に勝手に開発と配備を依頼していたそうだ。

 

欠点としては駆逐艦の小さい艤装では何かしらの装備を外す必要があり、

私の場合は位置的にも魚雷を外すことになってしまうらしい。

魚雷を外すということは、重巡クラス以上の深海棲艦が登場した時、

駆逐艦では太刀打ちするための武器がなくなるということもあって、

非常に危険な行為でもあった。といってもこの泊地近海で確認された試しはないらしい。

 

「まぁ、そんなこんなで運用が難しいと言えば難しい装備なんですよ」

「確かに決定打が失われるのはなかなかに辛いです。でも……」

 

「……この子達なら、もっと別の決定打になるんじゃないかって思うんです」

「別の決定打?」

「はい。この子達でしか出来ないような、そんな事です」

 

私は握手のつもりで小指を彼女達に差し出す。

最初は首を傾げていたが直ぐに理解したのか、

嬉しそうにその小さな手で掴んで上下に軽く振ってくれた。

それはまるで、よろしくねと言わんばかりの笑顔で。

 

「はい。よろしくお願いします」

 

その時の私の笑顔は、二人にそっくりの笑顔だったと思う。




自問自答本編

Q.磯風って態度でかくないですか?
A.第二章第五話で解りますが、大和よりも艦娘としては先輩です。
 後は彼女自体先輩後輩という概念よりも同僚という考えを持っており、
 そのことからトラックに所属する艦娘に対しては呼び捨てしています。
 ただし長門など、別鎮守府の秘書官などは別です。

Q.明石さんか大和さんどっちが偉い?
A.大和が司令ポジで明石が秘書艦ポジですが、以下の通りに役割が分かれています。
 大和:本部からの伝令通達や出撃、前進基地建築関係全般。
 明石:資源・食料・兵装の計算と管理、艤装・兵装の建造・開発・修理。

Q.舞風って料理できたの?
A.当然ですがこの小説のオリジナル設定です。
 キャラ設定で公開しているとおり、それが主食となるような料理を得意としてます。
 トラック泊地の艦娘で料理をさせると一番低コストで済む分、
 そういった食材(麺類・御飯)を多く使用していきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ3

・改稿された『涼月の追憶 ~初めての哨戒と交流~』です。


見張員の妖精さんと無事合流を果たし一緒に戦う約束をした私は、

磯風さんと一緒に遅めの朝食を食べていた。

メニューは先ほど厨房を覗いた時に見えた冷そうめん。

水の中に漂わせるタイプではなく、お皿の上に氷と一緒に盛るタイプだったので、

麺が伸びていることはなかった。

 

「ふむ、今日の当番は舞風だったか」

「やっぱり、当番の方が変わるとメニューも違うのですか?」

「ああ、まぁ明石は作れないがな」

「では磯風さんも」

「人並みには出来る。しっかり食事を取るのも体調管理には重要なことだからな」

「その通りですね」

 

音を立てないように静かに麺を啜る。

鰹出汁の麺つゆ独特の塩気と旨味が口の中いっぱいに広がる。

こういうものはあまり口にすることが少ない為、こういう味は新鮮にに感じる。

 

「そういえば午前中の哨戒に野分とお前の名前があったな」

「っ!? ゴホッ、ゴホッ!」

 

衝撃的な発言に思わずむせ返る。

その反応は予想済みだと言わんばかりに磯風さんは背中を摩ってくれる。

 

「あ、ありがとうございます。でも着任して早々に出撃だなんて」

「そういいたいのは解る。しかしこの泊地では午前中の方が接触する確率が低いんだ」

 

だからこそ戦闘に慣れていないうちは午前中の哨戒を担当し、

ある程度戦闘に慣れてきたら午前と午後をローテーション形式で回すとの事。

哨戒について聞かなかった私にも問題があるが、

流石に急な話過ぎて驚かざるを得なかった。

 

「ま、そういう訳でしっかり食え! 慣れない事をする時は万全を期して挑め」

「わ、解りました」

 

私はそうめんを掻き込み、お腹を十分に満たした後ドックへと急いだ。

 

 

/////////////////////

 

 

ドックについた時には既に野分さんが座り込んで艤装の手入れを行っていた。

 

「すみません遅れました!」

 

謝罪しながら駆け寄ると、驚いたように野分さんが反応する。

 

「い、いえ! 遅れていることはありませんよ。寧ろ早いくらいです」

「えっ……では野分さんはどうしてここに?」

「私は自分の装備の手入れをしているだけですよ」

 

野分さん曰く、装備は確かに明石さんが担当しているのだが、

自分の装備だけに自分の出来る事はやっておきたいそうで。

出撃前には必ず自分の艤装と装備を磨いているそうだ。

 

よく見れば野分さんの艤装にもマストが付いており、

膝の上には銀髪の妖精さんが二人、ところどころ機械油の付いた布を持っていた。

恐らくこの二人が野分さんの熟練見張員の妖精さんなんだろう。

見た所すごく律儀で礼儀正しそうだ。

じっと見つめているとこちらの視線に気づいたのか、

恥ずかしそうに野分さんの影に隠れた。

 

「どうしたの? 『ずっと見られてて恥ずかしい』?」

 

その様子に気付いたのか妖精さんを気に掛ける野分さん。

しかし少し気になることがあった。

 

「野分さんは妖精さんの言葉が解るのですか?」

「ええ、ちょっとだけぐらいなら。雰囲気で、だけれど」

「それは……ちょっと羨ましいです」

「涼月さんならすぐに解ると思いますよ」

 

私達艦娘にとって、妖精さんの存在はとても重要だ。

可愛らしい外見を持ちながらも、兵装の開発や艤装の整備、

それだけでなく料理や基地の掃除など、

私達の生活に関わる事全てを各妖精さんが担当している。

 

彼女達ともっと親睦を深められたら、もっと彼女達にお礼が出来たらと思う。

言葉を通じ合うことが出来れば、もっとそれが簡単になるだろう。

 

そんなことを考えていると、足元で動き回る影が見えた。

視線を下に向けると私の見張員の妖精さんが私の方を見上げている。

膝を曲げて彼女達を手のひらの上に乗せると、元気よく敬礼をしてきた。

まるで、「今日はよろしく」と言わんばかりに。

 

「はい。よろしくお願いします」

 

その様子を見て野分さんと二人の妖精さんが笑顔を浮かべていた。

 

 

 

会話を終え、野分さんと私は哨戒任務にあたっていた。

 

「いくら大和さんが居るとしても、

 駆逐艦四隻というのは防衛力に欠けるのではありませんか?」

 

私はどうしても気になることを聞いてみた。

 

「そうですね。だからこそ近海哨戒に限定しているんですよ」

「確かに明石さんも近海では重巡クラスの敵は出てこないと聞きました」

「それにこの島は大半の深海棲艦が本土に流れているので、

 そこまで強力な深海棲艦が現れる事はないんですよ」

 

それに加え、前進基地として建築中の場所に大規模な配備をするわけにもいかない為、

現在のような配備状況となっていた。

私はそれに納得し、野分さんの後をついていく。

 

暫くの間哨戒していた私達だが、

敵と遭遇することもなく、発見することも出来ないまま定刻を迎え帰還することにした。

そんな帰り道。

 

「そういえば涼月さんはどこの鎮守府からやってきたんですか?」

 

野分さんから思わぬ質問が飛んできた。

確かに前進基地として建築中とはいえど、こんな辺境にやってくる艦娘など、

かなり訳ありな可能性はある。

 

しかし。

 

「すみません。実は私、以前居た所の記憶が曖昧で覚えていないんです」

 

どこかの工廠で目覚め、直ぐに私はトラック泊地の座標を教えられ、

この地までやってきた。

 

「あっ……ごめんなさい!」

「いえ、そんな謝られることではありませんよ」

 

どうやら不味いことを聞いてしまったような反応をする野分さんに、

私は気にしていないことを伝える。

恐らくこちらに到着する直前に起きた遭遇戦で記憶が抜け落ちてしまったのだろう。

 

「野分さんはどこの鎮守府から来たんですか?」

「私は舞風と一緒に舞鶴鎮守府から来たの」

「舞鶴というと、確か京都府の鎮守府ですよね。日本海側にある」

「そう。秘書艦の阿武隈さんが配属先の資料の手違いを起こして、

 舞風と一緒にトラックに配置される事になりました」

 

秘書艦ともあろう人がよりにもよって配属先を間違えるなど、

許されることなのだろうか。

 

「それって、秘書艦としてどうなんですか?」

「色々ミスをやらかしてしまう人だったので、ある程度予想はできたと言いますか……

 でもむしろ良かったとも思っています」

「それは、どういう意味ですか?」

「ここは激戦区ではありませんが、やはり自分達の出来る事を見極めないと、

 他よりも簡単にやられてしまう。慢心は戦場ではやはり敵なんだということです」

 

慢心。自分なら出来るだろうという軽率な判断というのは戦場では命取りになる。

あの時の私は皆に助けられた。しかし、この広大な海でああいった事が起こるのは、

まさしく奇跡とも呼べる事。本来なら起こりえない事なのだ。

そういうことに釘を刺しているようで、私は少し俯いた。

 

「あの、すみません」

「えっ……あ! 涼月さんに言っているわけじゃないんですよ!?」

「でも慢心していたのは事実ですし」

「だから今こうやって出来る事をやっているわけじゃないですか!

 駆逐艦で戦艦は愚か重巡クラスも倒せない。

 その分哨戒の敵は素早く迅速に撃破することが出来る。それが駆逐艦としての……」

 

そこまで喋って野分さんはハッとする。

 

「ごめんなさい、説教みたいになってしまって」

「いえ。野分さんの御蔭で少し考え方が変わりました」

 

私達駆逐艦では出来ない事も多いが、

その小柄で高い運動性能をもってすれば戦艦や重巡とは違った活躍が可能だ。

そういったことを見極めれば、自然と慢心することなく結果を残せるのだと。

野分さんはそう言っているのだ。

 

「そ、そう? それなら良かったけど……」

「はい。だからありがとうございます」

 

野分さんは未だに納得できないのか首を傾げていたが、

私はそんな彼女に笑顔で答えるのだった。

 

 

////////////////////

 

 

哨戒任務を終えて基地に戻ってくると、厨房から香辛料のいい匂いがしてきた。

 

「今日のお昼の当番は誰でしたっけ?」

「舞風よ。日で変わるので、休みならゆっくりできますから」

 

二人で食堂に移動すると、そこには大皿に盛られた麻婆豆腐が中央に置かれていた。

 

「おお、来たか」

 

厨房から割烹着を来た磯風さんが出てくる。

髪の色も相まって案外その恰好は様になっていた。

 

「この麻婆豆腐、磯風さんが一人で作ったんですか?」

「いや、舞風が作ると言ってやまなかったから彼女に譲った。

 後、大和は平時でもかなり食べるからな。それなりの量がいるんだ」

 

なるほど。出撃後にあれだけ食べるということは、

普段もそれなりの量を食していると考えればおかしな話ではない。

 

香辛料の香りが食欲をそそられる。

一方で野分さんの顔には陰が掛かっていた。

まるで不味い物を目にしてしまったような、そんな感じだ。

しかし作った本人である舞風さんが居ないようだ。

 

「ごめんなさい磯風さん。私、舞風を呼んでくるわ」

「ん? そうだな。よろしく頼む」

 

野分さんはその場からそそくさと出て行ってしまう。

 

「では私は先に頂いてもよろしいですか?」

「ああ、初めての哨戒で腹も減ってるだろう。

 それに料理は熱いうちに食べるのがうまいからな」

 

私は軽くお礼を言って席に腰をかけ、

彼女から白ご飯を受け取って麻婆豆腐を頂くことにした。

 

唐辛子の辛みが口の中全体に広がるも、

それほど辛い訳ではなく食べやすい程よい辛さだった。

おそらく皆で食べる分のことを考えて辛さを抑えているのだろう。

それに加えてひき肉の油のうまみと、

絹ごし豆腐ののどごしの良さが相まって、ご飯が進む。

 

「これから暑くなるからな。辛いもので食欲増強という訳らしい」

「確かに、それは納得です」

 

確かに軽い食事だけで済ませていれば栄養が偏ってしまう。

暑い季節でもしっかりとした食事を取ることが健康には必要なことだ。

 

「あら、今日の昼食担当は磯風さんでしたか」

 

箸を進めていると、大和さんが食堂に顔をのぞかせた。

 

「いや作ったのは舞風だ、それにしても今日は早いな」

「涼月さんの転属の処理が思ったよりも早く終わったので、

 私も皆さんと一緒に昼食でもと思ったんですよ」

「大和さん、お先頂いてます」

 

笑顔を飛ばしながら私の隣に座る大和さん。

やっぱり改めて見ると彼女は素敵な人だ。

こうやって日常の彼女を見ると、どうしても昨日の夜のことを思い出す。

 

『共に強くなった時、大和さんの護衛艦として守らせて下さい』

 

思い返せばかなり出過ぎたことを言ったかもしれない。

でも大きい目標は簡単に達成できない故に、長い間自分の原動力となってくれる。

 

「頂きます」

 

どんぶりにこんもりと盛られた白ご飯を受け取り、

大和さんはさらさらと麻婆豆腐を口に運んでいく。

豪快ではなく上品に箸を進めていく彼女に思わず見とれ、自分の箸が止まってしまう。

 

「? 私の顔に何かついていますか?」

「い、いえ! なんでもないです」

 

私はその場を誤摩化すように白ご飯を?き込む。

そうすれば当然喉に詰まる訳で。

 

「んぐっ!?」

「「涼月(さん)!?」」

 

その異変に気づいた磯風さんは水を差し出してくれる。

 

水を飲みながら喉に詰まったそれを押し流し、肩で息をする。

大和さんはそれを労るように上から下に背中をさすってくれた。

それら二つが合わさり、どうにか落ち着くことができた。

 

「大丈夫ですか?」

「はい。お蔭様で」

「全く、焦って?き込む上に喉に詰まらせるから何事かと思ったぞ」

「面目無いです」

 

自業自得とはこのことかと思いながら、再び箸を進めていく。

すると今度は急いだ様子で舞風さんと野分さんが現れた。

 

「遅かったな。二人は先に食べているぞ」

 

二人はテーブルの上をまんべんなく見る。

しかしそこには舞風さんの作った麻婆豆腐と、私達の白ご飯しかない。

それを見て胸を撫で下ろす二人。

 

「舞風さんも野分さんも食べないのですか?」

「あー、私はもうちょっと後でかな。踊り疲れちゃったし」

「私も舞風と一緒に頂きます」

「そうか。珍しいな」

 

口ではそういっている物の、それだと先ほどの様子と辻褄が合わない。

急いで来たなら真っ先に料理を食べるのかと思いきや全くの逆。

 

ただ雰囲気からして何かを止めるような、

そんな様子だった気がするのだが。それに胸を撫で下ろす理由もわからない。

まるで追加の料理がないか探していたかのように。

 

「そうだ涼月、歓迎がてらお菓子を作ったんだ。折角だから味見してくれないか」

「あ、ありがとうございます」

 

そういって渡されたのはクッキーだった。

歓迎がてらながら味見させてもらえるのはちょっと複雑だけれど、

先に食べることができると考えればちょっとした幸せだ。

 

私はそれを頬張る。

程よい甘さが口の中に広がり、蓄積してた辛さを和らげてくれた。

 

「辛い物の後に甘い物は格別だろう」

「そうですね」

「「あっ……」」

 

その時、二人の口から言葉が漏れた。

 

「味はどうだ?」

「いえ、至って問題ないですよ? 美味しいです」

「そうか。それはよかった。

 どうした二人とも、そんな顔しなくても後でたくさん食えるぞ」

「い、いえ、遠慮しておきます」

「わ、私もちょっといいかなー、あはは」

「?」

 

その時の二人の笑顔は引きつっていた。

 

 

////////////////////

 

 

私は今、ベッドの上で猛烈な腹痛に襲われていた。

体を内側から引き裂くような、そんな痛みに。

脂汗がにじみ出るほどと言えば、その痛みの規模がわかるだろう。

 

「(どうして……朝は何ともなかったのに)」

 

朝は本当に何もなかった。

朝起きて、集合して、工廠に行って、妖精さんを探して、

朝食をとって、哨戒をして、昼食をとって、クッキーの味見をして。

それからしばらくして腹痛に襲われて。

トイレに一時間ほど籠った後も、この痛みが取れることは無かった。

 

昼食を食べ過ぎた訳ではない。

しかしあの過程でどこにお腹を壊す原因があったのだろうか。

もしかして哨戒中に敵の新兵器でも知らぬうちに貰ったのだろうか。

そう思うと恐ろしい。しかしその恐ろしいという感覚すら痛みが奪い去っていく。

 

「あづっ……ぐっ……!」

 

いっそのこと意識を手放したくなるほどの痛み。

私でも行き過ぎた表現かもしれないが、

この内蔵系の痛みには耐え辛かった。

それでもなんとか耐えようと握りしめた手からも脂汗が浮き上がっていた。

 

不意に扉がノックされる。

 

「は、はい……んづぅ!」

 

変な声が出る。

無理に声を出したので、それが内蔵に響いて更なる痛みを訴えた。

 

「あの、野分です。お薬貰って来たんですが……」

「野、分さん……?」

 

体を起こすと扉が開かれ、そこに居たのは野分さんだった。

その手には救急箱があり、薬を持って来たというのは間違いではないようだ。

彼女が救急箱から取り出したのは、小さな茶色の小瓶。

その蓋を取ると独特な刺激臭が鼻の奥を突いた。

 

「な、なんですかそれ!」

「この薬が一番効くので試してみてください」

 

その臭いに私は鼻を摘みながらも抗議の視線を送る。

しかし彼女は顔を顰めながらもその丸薬を進めて来た。

私は渋々それを受け取り、口の中に頬張る。すると強い刺激が口内に駆け巡った。

 

「んんっ!?」

「は、早くお水を!」

 

私は半分奪い取る形で野分さんから水を受け取り、

その刺激もろとも飲み込まん勢いで飲み干した。

 

するとほんの少しだが痛みが和らいだ気がした。

 

「薬を飲む行為自体が症状を和らげてくれることもありますから」

「それに、良薬口苦しとはよく言った物です」

 

会話が出来るまでに落ち着いた私は、再び横になる。

 

「でも、この痛みは何なんでしょうか」

「それは……涼月さん、さっきクッキー食べましたよね」

「はい」

「それです」

 

ズバリ言われるが、私はその答えに困惑してしまう。

だってあのクッキーは磯風さんが作ったもの。

焼き菓子だから食中毒ということはないだろうし、

彼女の言葉からして舞風さんが昼食を作って居るときに作ったのだろう。

だから何か悪い物が付いていた可能性は極めて低い。

 

でも、野分さんが冗談を言うような人には見えない。

それがさらに私を困惑させた。

 

「この話は大和さんにはご内密にして頂きたいんですが」

「は、はい」

「磯風さんの作る料理やお菓子を食べると何故か大変なことが起こるんです。

 大概腹痛ですが、度合いは完全に個人差があるので」

「それは、変な物を入れて、いる訳ではないんですか?」

 

その問いかけに彼女は首を横に振る。

 

「私達もそれを疑いましたが、

 そのような動作は一切見られなかったので恐らく」

「そう、ですか」

 

「でも、磯風さんが自身の料理を食べた時に気付く物じゃないんですか?」

「それが、磯風さん自身はまるで大丈夫なんですよ」

「あの、それフグかなにかですか?」

 

何にせよ、このことを大和さんは知らない。

もし彼女がこんな料理を口にしてしまったら、

少なくとも前進基地の建築に影響が出てしまう。

そんな恐怖に私は思わず身震いしてしまうのだった。




結構字数が多くなってしまいましたが、
個人的に書いておかなければ! というシーンを執筆しました。
(初めての哨戒での会話・磯風の料理)

今回は結構野分が登場しています。
委員長体質なだけにこういった事態収拾系についてます。

1話と2話でかなりトラックの艦娘の役回りが分かったかなーと思ってます。
第一章だとどうしても影が薄い部分があったので。
後涼月の空白の歴史を埋めておきたかった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ4

プロローグのみだと見栄えも非常に悪い上に、
即読み終わって『次はよ!』となる事態があるので早めの更新。
書き貯めはあるけどどこまで持つかどうか……

4/7 プロローグに紛れていた文章を移す修正を行いました。


ここ、トラック泊地は比較的平和で敵の襲来は少なく、

あったとしても軽巡や駆逐艦と言った編成らしい。

磯風さん曰く「本土の方に流れていってるのだろう」とのことらしい。

それでも哨戒中の遭遇戦などで交戦することもあるので、皆気を引き締めている。

極稀に敵偵察機と思われる艦載機が飛んでくる事もあるがそれは私が迎撃していた。

 

そんな不安定な平和を謳歌している泊地なのだ。

 

 

「実動演習をしよう」

 

磯風さんが唐突にそんなことを言い出す。

因みに今日の料理当番は大和さんでパンやコーンスープと言った洋朝食だった。

 

「どうしたんですか突然」

「いくら遭遇戦で実戦経験が豊富とは言えど、

 このままでは本土の艦娘達とは練度が段違いになってしまうからな。

 哨戒に加え艦娘同士で演習することで練度を高め合うんだ」

 

確かに道理には適っているが、突然言い出すのも一体どうかと思う。

まぁ、それが『彼女らしい』といえばらしいのだが。

 

「それはいい案ですね。私は賛成しますよ」

 

ぽんと手を叩き嬉しそうに賛同したのは意外にも大和さんだった。

 

「あの、流石に演習となると上層部の許可が必要なのでは」

「その点は私が掛け合いますから。

 私自身の練度向上の為にと言えば、案外すぐに通るかもしれませんよ」

「なら決まりだな。早速明石に演習用の弾頭の生産を依頼してこよう」

 

そして当事者である磯風さんは意気揚々と食堂を出ていき、

大和さんも上層部と掛け合うために食堂を出ていった。

 

「捕らぬ狸の皮算用の様な気がしますが、大丈夫なのでしょうか」

「大丈夫ですよ。大和さんが言っているように、

 彼女自身の練度向上はこの前進基地完成と同じぐらい最優先事項ですから」

 

野分さんが苦笑しながらそう言ってくる。

その言葉の意味が理解できず首を傾げた。

 

「このトラック泊地は、いつか発動される大規模反攻作戦に向けての前進基地で、

 その反攻作戦の戦闘の要となるのが、大和さんなの」

 

大和さんはそこまでにも重要な戦力であることに驚く。

そういえばここに配属されてからと言うもの、大和さんの艤装を見たことが無い。

助けてくれた時はしていただろうが、

私自身が意識を失っていたので見ることはできなかった。

 

「大和さんはそこまで凄い人なんですか?」

「はい。そもそも涼月さんもここに来るまでこちらの戦力について、

 一切教わらなかったと思います」

 

野分さんの言う通りで、泊地の詳細についてはこちらの方に教わるよう言われていた。

流石に追及は出来なかったが、少しばかり違和感を覚えたのは間違いない。

 

「多分こっちに配属されて最初から知ってたのは明石さんくらいじゃないかな」

「その理由は何よりも、大和さんが極秘に建造された艦娘である事にあります」

「待ってください、それだと何故舞風さんと野分さんはそれを」

「大和さんから聞いたの。『同じ場所で戦う仲間に嘘は付けない』って」

 

こちらに配属されて間もない頃に誘ってみた事があったが丁重に断られ、

その事を知った磯風さんからは軽く説教された。

 

大量の資源を消費するのは知っていた。しかし別にそう言った事情があったとは。

だから彼女は必要以上に哨戒任務に出ることが許されないのか。

 

「でも、それだと演習でさえ……」

「いつか来る未来を見据えて進歩的になるか、今の状態を保つ為に保守的になるか、

 そこを決めるのは上層部ですよ。私達が気にしていても仕方ありません」

 

野分さんの言葉に、完全論破されてしまったのだった。

 

 

///////////////////

 

 

「大和、砲雷撃戦、始めます!」

 

爆音が鳴り響く。

彼女の放った砲弾は標的に向かって飛んでいき、大きな水柱が上がった。

双眼鏡で確認するが直撃はしていないようだ。

 

「夾叉か……うん、次は直撃させます!」

 

再び放たれた砲弾は今度こそ標的を貫いた。

 

大本営が出した結論。それは大和の練度向上を優先による演習の許可であった。

今は配置された標的の砲撃を行っている。

そして大和さんが砲撃を行っている理由はもちろん砲撃の精度を上げるための物。

彼女が装備している46cm三連装砲は段違いの射程距離を誇っているが、

当然距離が離れれば僅かなズレも大きな反れに繋がってしまう。

 

彼女曰くあの時は『まぐれ当たり』らしく、自分でも驚いたらしい。

 

「皆さん、どうですか! 当たりましたよ!」

「ああ、見事だ。流石大和だな」

「さあ、どんどん行きますよ!!」

 

今、彼女は今まで以上に生き生きしている。

こんなに嬉しそうな彼女の顔は見たことが無い。

 

こういった射撃のみを行う演習だけでなく、敵艦の攻撃に対しての回避運動を行う演習、

私達艦娘同士で行う実戦を想定した実動演習も行われる。

こちらは実際の砲弾を使わず演習弾を使用したり、

雷撃に置いては推進力の低い様に改造された物を使用したりする。

 

「いやぁ、ここまで嬉しそうな大和さんは初めて見た。

 頑張って作った甲斐があったなぁ~」

 

そう感嘆の声を漏らすのは明石さん。

大急ぎで作業していたのか、服のところどころには鉄粉が付いたと思われる所があった。

この案を出した磯風さんもそうだがそれを可能にした砲弾や魚雷、

果てには標的も開発した明石さんの功績も非常に大きい。

 

「明石さん、この度は本当にありがとうございました。今度何かあったら仰って下さい」

「いやいや私の最高の報酬は、私の作った物を皆が使ってくれる事だから。

 その上ここまで嬉しそうにしてくれたり、ありがとうって言ってくれたなら、

 工作艦としてこれ以上の幸せはないよ」

 

「さて、私は工廠に戻るから、何かあったらまたお願いしますね」

「お疲れ様です。後で差し入れを持っていきます」

「そうだな。では私もお礼を兼ねて直々に」

「磯風さんのはいいです!!」

 

逃げる様に走り去っていた明石さん。理由はなんとなくわかる気がする。

 

「むぅ、私が料理の話題を出すと逃げるか止めるかのどちらかではないか」

「磯風さんはもう少し基本的な部分からですね……」

「そんなことは無い! 腹に入れば一緒だ! 皆鍛錬が足りんのだ!」

「流石に舞風でも、勘弁かなぁ~」

 

磯風さんの料理は一度だけ食べたことがある。

確か彼女がクッキーを焼いていた時に味見を頼まれたのだ。

 

その時は普通においしいと思ったのだが、問題はその後。

強烈な腹痛に襲われ一時間ほどトイレから出られなかったのを覚えている。

なお皆に調査したところ大和さんを除く全員が、

磯風さんの作った料理・お菓子を口にしているらしい。

 

いつも冷静な野分さんでも、いつも明るい舞風さんでもとは当時驚いたが、

思えば内蔵に対する直接攻撃に耐えられる艦娘はそう数はいないだろう。

 

「さてその話は置いておいて、実動演習と行きましょうか」

 

話題を切り替える為にも、演習の話を切り出す。

 

実戦を想定した艦娘同士の演習。こちらの演習は意外と難しい。

空砲に近い砲撃や必ず当たらない魚雷を使用する為、命中したかは判定で行われる。

とは言えど艦娘の判定だと戦闘に集中する関係で、判定が有耶無耶になる事も有りえる。

そこで「こんなこともあろうかと」と明石さんが用意した装備があった。

 

「さて、ではお願いしますよ。熟練見張員さん」

 

妖精さんが小さな双眼鏡を持ってマストに上り、こちらに敬礼を飛ばす。

それはマストを増設させ、見張りに徹した妖精さんを配備するという物。

因みに既にあるマストに見張台を設置する案もあったらしいが、

揺れを抑え重心を整えるためにもる為に、マスト自体の材質から見直すことになった。

これで私達は戦闘に集中することができ、判定は彼女達に任せる事が出来る。

とは言っても限界はあるので、砲撃・雷撃を数回行い命中判定は各自の妖精に委ねる。

判定は机上演習と似ているが、艦娘としてはこちらの方が感覚が掴みやすい。

それを何度も行う事で練度を高め合うのだ。

 

「では今回は私と舞風さん、磯風さんと野分さんのチームで行います」

 

大和さんは見学、というよりもこういったまだ早いという判断である。

それに先程砲撃演習を終えたばかりである。

 

「皆さん、自分の実力を過信せず頑張ってくださいね」

「ああ。解っている」「了解です」

「涼月もよろしくね」

「こちらこそ、舞風さん」

 

大和さんの言葉に笑顔で答え、舞風さんと挨拶を交わす。

親しき中にも礼儀ありというものだ。

 

ある程度距離を取ってから開始。

 

「砲雷撃戦、開始!」

 

舞風さんと共に砲撃を開始し、妖精さんが目を凝らす。

向こうの方でも砲撃しているのが見えた。

一定数の砲撃を行ってから雷撃。

私の装備である61cm四連装酸素魚雷は背中と連結しており発射の際は一度外し、

腰回りを覆っている艤装の内側を連結させて発射するのだ。

これは艦首部分を接合した時に明石さんがおまけで付けてくれていたもので、

発射するのが自分の視線の先なので命中精度も良くなった。

 

「ここで大きくジャンプ・アンド・ターン!」

 

後方で雷撃を行った舞風さんが突然波を使って飛び上がり、急転進。

先頭だとまず間違いなく衝突していた。

それを考えていたのかは解らないが、突然の事で混乱せざるを得なかった。

 

 

 

情報を統合した結果としては私の命中弾は1、雷撃は回避されていたらしい。

逆に被弾は2、被雷は1と割と散々な結果。

舞風さんは雷撃を含め命中3、被弾1、被雷は先程の事もあって0という結果だった。

 

遠くの方で野分さんが舞風さんを怒っている。

あんな無茶な事をすれば怒られるのは当たり前だ。

 

「演習とは言えあんなことをした舞風も舞風だが、野分は心配性だな。」

「磯風さんはいいんですか? 舞風さんの事」

「同じ姉妹艦と言えど、舞風の事は野分が見ていてくれている。逆も然りだ。

 私の出る幕ではない」

 

磯風さんも、野分さんも、舞風さんも同じ陽炎型の艦娘だ。

舞風さんと野分さんが仲良くしているのはよく見るが、磯風さんは一人でいる事が多い。

浮いているわけではない。合わないというわけでもない。

 

「磯風さんはどうして一人でいるんでしょうか」

 

慌てて口を閉じるも磯風さんがこちらを凝視していた。

覆水盆に返らずとはよく言ったもの。

 

「そうだな。元を辿れば涼月がこちらに来た時まで遡る」

「私、ですか」

「ああ、君のペンネントに書かれた字を見た時だ。

 私にも何か、駆逐隊と呼べるものに属していたような気がしてな」

 

「私だけではない。舞風も野分も、あれから今までより仲睦まじく交流している。

 以前の二人を知らない涼月からすれば、解らないだろうが」

 

私はそう言われておもむろにペンネントを外す。

やはりそこには『第六十一驅逐隊』と書いてある。

これが何かを意味するのかは解らない。ただ、これによって彼女達は変ってしまった。

 

「それが何を意味するのかは解らない……君自身もそれがなんなのか解らないようだな」

「申し訳ありません。ただ、これは私が艦娘となった時既に身に着けていた物。

 私の一部と言っても過言ではありません」

「なるほど、だからあの時あれほどまでに焦っていたのか」

 

納得したかのようにうなずく彼女。

ここにきて入渠し終えた時の話だ。私の事なのによく覚えていると感心してしまう。

これを私に初めて締めた人は、何を想い、何を託したのだろうか。

その答えを導き出すには、まだまだ時間がかかりそうだ。

 

考えようと少し俯くと、数人の妖精さんが何かの筒を持って走っている。

どこに行くのだろうと目を追っていると、大和さんの元で止まりその筒を渡した。

彼女は軽くお礼を言うとその中に入っていた手紙と思わしきものを読み始める。

その表情はどこか険しい物で、良くない知らせなのかもしれない。

 

「涼月さん」

「はい」

 

名を呼ばれ、神妙な空気の中手紙を渡される。

他の三人も何事かと集まってきた。

 

『本日をもって貴艦隊所属艦、【涼月】を呉鎮守府への転属を命ずる』

 

そう記されていた。

 

「涼月さんも知っての通り、大本営は大規模反攻作戦を計画しています。

 しかしその反攻作戦実行に向けての戦力強化は必要不可欠。

 そう言った意味での呉鎮守府への転属だと思われます」

「で、ですが何故私が!」

「呉は航空戦力に力を入れていると聞く。

 いち早く制空権確保する為にも、防空駆逐艦を配備するのは何らおかしい事ではない」

 

磯風さんが私の肩を叩く。

 

「本土に転属? おめでとう! 栄転祝いで一緒に踊ろうよ!」

「えっ、ちょっと!」

 

突然舞風さんが手を取り、身軽にステップを取る。

踊ったことは無いのだが彼女のエスコートが上手いのか自然と体が動く。

 

「うまいうまい! それ、ワン、ツー!」

「舞風さん、踊っている場合では……」

 

ただ変に止めようとするとバランスを崩しかねない。

三人とも止める気配はなく思い思いの表情を浮かべながら見ているだけだった。

そして視線を戻せば嬉しそうに踊る舞風さんの顔がある。

もう暫くだけこのままで居よう。そう思うのだった。

 

 

/////////////////////////

 

 

浜辺には泊地に所属する艦娘全員が揃っていた。

 

私の前には艤装を装着し和傘を差した大和さんと、艤装を装着した明石さんが立っている。

明石さんはまだ解るが大和さんが何故艤装を装着しているのかが解らない。

 

横には艤装を装備した磯風さん、舞風さん、野分さんが居る。

彼女達は護衛艦としてしっかり付いてきてくれるのだが、

大和さんと明石さんはここでお別れ。

 

「涼月さん。短い間でしたがお疲れ様でした。呉での吉報、期待していますね」

「はい。大和さんも練度向上、頑張ってください」

 

互いに笑顔で敬礼を交わす。

 

私も彼女も、共にやるべきことがある。

共に強くなるというのは共に居るという事ではない。

離れていても共に強くなることは出来るのだから。

 

「私からはこれ。向こうで落ち着いたら開けて下さいね」

 

細長い包みを渡される。重量からして相当な物が入ってそうだ。

 

「あの、これは」

「それは着いてからのお楽しみという事で。いってらっしゃい、涼月さん」

「はい。ありがとうございました!」

 

艤装に何とか乗る程度。航行速度に支障は無い。流石明石さんだ。

 

「さて、行こう。あまり時間が掛かっては上が五月蠅いからな」

「磯風さん、舞風さん、野分さん。よろしくお願いします」

「いいのいいの。ギリギリまで一緒に居られるんだから!」

「それに今生の別れと言うわけではありません。互いに強く生きていればまた会えます」

 

野分さんの言葉にはごもっともだ。

死別しない限り縁と言うものはは一生残り続ける。

 

「その通りですね。では、参りましょう!」

 

私達は本土を目指して抜錨するのであった。

 

 

Side 大和

 

 

「いいんですか? あんなにさっぱりした送り出し方で」

 

明石さんが隣で悪戯に笑う。それも何か知っているような目つきで。

大体の目星は付く。恐らく涼月さんが着任してままないころの夜の事だろう。

 

「いいんです。涼月さんは強い人ですから」

 

それに、本当の送り出しは今から始めるのですから。

 

私の艤装にこれでもかを言わんばかりの妖精さん達が集まる。

彼女達の手には大小様々な楽器が握られている。

 

「さあやるわ! 軍楽隊、用意!」

 

離れていく彼女の背中に届くように。そう願いを込めて息を吸い込んだ。

 

 

Side 涼月

 

 

現在呉鎮守府では正面海域が深海棲艦によって封鎖されている為、

大きく迂回して東シナ海へ向かい九州の佐世保から陸路で呉に向かう。

その為の海路を海図で確認している時だった。

 

後ろの方から力強い演奏と歌声が聞こえてくる。浜辺の方からだ。

振り返ると浜辺で高らかに歌う大和さんと、その妖精さん達が演奏している姿が見えた。

 

この歌は、なるほど。『軍艦行進曲』と言うわけですか。

 

「本当に、粋な事をするんですね……大和さんは……」

 

自然と涙があふれてくる。

 

本当なら大和さんと居たい。でもそれではいけない。

私も彼女も共に強くなる為に。私と彼女の交わした約束を果たす為に。

 

涙を拭いて大きく手を振る。

いつか必ず来る再会の日を願って。




涼月のトラック泊地でのプロローグはおしまいです。

次回からは呉鎮守府編(本編)が始まります。
ただしアニメ開始前からのスタートになるのでそこはご容赦の程を。

簡易的な自問自答コーナー

Q.なんで大和さん演習してるんですかね
A.初出撃(Lv.1)でMI作戦に投入して大活躍出来るわけないだろイイカゲンニ(ry
 今回の話でも言っていますが、練度向上の為としか言いようがありません。
 「夕立が改二になった後でも演習してたあの的は私が作った」 by明石

Q.磯風の料理の度合いをもうちょい詳しく教えて下さい
A.外見は普通で臭いも普通です。味もおいしいのですが、
 遅効性で一時間ぐらい腹痛に悩まされます。
 「どうしてメシマズなんだ! 言え!」時報ボイス聞いて下さい。

Q.大和さんに何で軍楽隊(の妖精さん)いるの?
A.これも史実ネタです(昼食時)。また、まるゆに関する史実ネタです。
 大和さんの生演奏と歌声で軍艦マーチ聞きたいという謎の願望。
 軍艦行進曲の著作権は消滅していますが、歌詞は書いておりません
(今後加筆の可能性有)

Q.涼月・・・佐世保・・・うっ頭が
A.それ以上いけない


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一話『秋に浮かぶ澄んだ月』

涼月着任編。

前回のあとがきでも書きましたがアニメ開始の時系列前になるので、
吹雪は暫く出てきません。初期艦『吹雪』提督様にはお詫び申し上げます。


目の前にそびえる扉を数回ノックし、返事を待ってから扉を開ける。

 

「失礼します。駆逐艦『涼月』、着任致しました」

 

右手で敬礼。目の前では白い海軍将校の軍服に身を包んだ男性が鎮座していた。

 

 

 

「失礼しました」

 

提督室を出て周りを見渡す。

 

提督曰く案内が居るらしいのだが、見渡しても誰もいない様子なので暫く待つことにする。

しかしただ待つというのも少し酷なものなので窓から見える景色を楽しむことにした。

 

いつまでも続いていると錯覚しそうになるほど立ち並ぶ建物の数々。

私が以前居たトラックよりもはるかに大きい。

 

「やはり、本土の鎮守府は驚かされますね」

「そうでしょう? 私もここに配属された時には驚いたわ」

「っ?!」

 

背後から突然声を掛けられて驚きながら振り返ると、

一人の女性が先程の私と同じように外の景色を見ていた。

 

橙色を主としたセーラー服を身に纏い、

腰部分では上着が水仙の花弁のように広がっていて、軽いフリルがあしらってある。

スカートは短く、腿の辺り程までしかない。

 

「ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったの」

 

そんな服を身にまとった女性は私の視線に気付くと苦笑しながら謝った。

もしかすると、彼女が提督の言っていた案内なのだろうか。

 

「トラック泊地から転属になり本日着任いたしました、駆逐艦『涼月』です」

「第三水雷戦隊旗艦を勤める、軽巡洋艦『神通』です。提督からお話は伺っています。

 鎮守府内の案内をするから、付いてきてくれるかしら」

「はい」

 

非常に大人びた人だ。フランクな人よりもこういった人の方が私としてはありがたい。

そう思いながら、私は彼女の後ろに付いていくのだった。

 

 

 

「ここが私達第三水雷戦隊の部屋よ。とは言っても貴女と私は別々の部屋なのだけれど」

「そうなんですか」

 

第三水雷戦隊と大きく書かれた看板が貼られた部屋。

その一つの扉の前に案内される。

 

「ここが貴女達の部屋」

「私達、ですか」

「そう。この部屋は3人で一部屋だから、ね?」

 

そう言って彼女は笑みを零しドアノブに手を掛けた。

 

開かれたドアの先。中に居た二人の視線が自ずと私に集中する。

 

「睦月さん、夕立さん。この子が提督の言っていた駆逐艦の『涼月』さんよ」

「ご紹介に預かりました、涼月です。よろしくお願いします」

「あっ……! 第三水雷戦隊に所属している『睦月』と言います! ほら夕立ちゃんも」

「し、白露型駆逐艦『夕立』です! よろしくお願いしますっぽい!」

 

神通さんに紹介されながらも挨拶だけは礼儀の一つなので、

後に続く形で自分でも名前を口にして敬礼。

すると机に向かって居た赤茶色で短髪の子や、

のんびり寝転がって本を読んでいたブロンド髪の子が慌てて自己紹介と敬礼を返した。

 

睦月と言った子はしっかりしていてそうだが、

夕立と言った子は少し抜けているようだ。

 

「そんなに畏まらなくてもいいのよ。今日から私達は同じ艦隊の仲間だから」

「申し訳ありません。ですが第一印象は大切なので」

「そう。では睦月さん、夕立さん。後の案内はお願いしますね」

 

そう言って神通さんは部屋を出ていってしまった。

この後何か用事でも入っていたのだろうか。

 

 

Side 睦月

 

 

「「「………」」」

 

扉が閉まった後、何とも言えない重い空気が流れていた。

確かに神通さんからもうすぐ新しい駆逐艦の人が来るという話を聞いていたけど……

 

身長は私達より頭一つ分ぐらい高くて神通さんや川内さんぐらいある。

駆逐艦と言われないと解らない程。

涼月っていう名前からして私と同じタイプの人なのかなとも思ったけど、

実際は制服も雰囲気もまるで違う人。それに額に鉢巻を締めている。

なんというか気合が入っているっていうか、長身もあって威圧感を覚えてしまう。

だ、だって最後に月って付くからもしかして同じでしょ!

って、私何に向かって言ってるんだろう……

 

「涼月ちゃんは睦月ちゃんとは違うっぽい?」

 

自分が悩んでいたことをあっさりと聞いてしまう夕立ちゃん。

マイペースなのか、この空気に耐えかねて絞り出したのかは私には解らなかったけど、

今の空気を打開出来るなら私も大いに乗っておこう。

ここぞとばかりに首を縦に振る。

 

「私は秋月型駆逐艦の三番艦であって、睦月型である睦月さん達とは違うんです」

「具体的にどう違うっぽい?」

「睦月型の皆さんの名前は暦の月。月日を表す月なんですが、

 私達秋月型は空に浮かぶ月。つまり時と衛星の違いですね」

「あっ、そうなんだ……」

 

ここまで解りやすくはっきり言ってくれるとは思わなかった。

理解して少しがっかりしてしまう。同型の人だったらそれで話題を広げられるかもって

思っていたけど……

 

「あの、そこまでがっかりしないでください睦月さん。神通さんも言ってましたが、

 今日から同じ艦隊の仲間なんですし」

「そ、そうだよね! ごめんね涼月ちゃん」

「いえ。私も少し硬すぎたかと思います。すみません」

 

互いに互いが頭を下げ、同時に上げる。

それが面白くて思わず笑みをこぼしてしまった。

涼月ちゃんも面白かったのか貰い笑いしていた。

 

「むー! 二人だけ楽しそうで夕立つまんないっぽい! 私も混ぜて!」

 

そんな中、我慢できなくなった夕立ちゃんが声を上げて、

二人で笑ってしまうのだった。

 

 

//////////////////

 

 

荷物を置いてもらってから、夕立ちゃんと二人で鎮守府の案内。

入渠ドッグや提督の部屋、食堂や出撃用の施設や工廠まで。

真剣な眼差しで聴いてくれるからかなり説明もしやすい。

ただメモを持って辺りを見ながら何かを書き込んでいたのが少し気になったけど。

そして今は案内と小休憩を兼ねて間宮さんの甘味所に向かっている。

 

「涼月ちゃん、何か気になる事でもあった?」

「いえ。流石は鎮守府と呼ばれるだけあって施設が充実しているなと」

「そうっぽいよねー。ほとんどの事この鎮守府でできちゃうっぽい」

 

ただひたすらにメモに何か書き込んでいる涼月ちゃん。

質問にしっかり答えているというのもあって完全に上の空ではないみたいだけど、

 

「あの、涼月ちゃん……?」

「はい」

 

答えてくれるんだけど、答えてくれるんだけど! そうじゃないの!

 

「えっと、熱心なのは解るけど少しはこっち向いてくれないかな……」

「あっ、すみません! 私としたことが」

 

我に返ったように顔を上げて手にしていた鉛筆の動きを止める涼月ちゃん。

流石にここまで熱心に何かをしていると気になる。

 

「ところで何書いてたの?」

「私も気になるっぽい!」

「はい。この鎮守府の簡単な地図を制作しようかと思いまして」

 

そう言ってメモの中を見せてくれる。

そこには案内した所の名前や場所はもちろんの事、

まだ案内していない場所の位置までしっかりとメモしてあった。

しかも別のページには部屋の見取り図まできちんと描いてある。

 

「どうしても性の様なものなので……お気に触ったならすぐに消しますし」

「「涼月ちゃんこれ凄いよ(っぽい)!」」

 

これだけの短時間で今まで案内したところ全てが正確にメモされた地図の制作。

その技量は図り切れない物だし、凄いことだと確信する。

 

「この地図完成したら、間宮さんの所までの近道探しとかにも使えるっぽい!」

「夕立ちゃんはそういう事ばっかり! でも凄いよね。

 鎮守府の地図ってしっかり見た事なかったから、新鮮味があって……」

「あの、あの……」

「「あっ」」

 

思わず見入ってしまうほどの完成度に色々言っていると、

不安そうな声を漏らす涼月ちゃん。

二人だけで盛り上がって描いた本人が置いてきぼりだった。

 

「ごめんね、なんだか舞い上がっちゃって」

「い、いえ。ここまで言っていただけるというのも作った甲斐があったといいますか」

「涼月ちゃん! これ私に頂戴!」

「駄目だよ夕立ちゃん! これは涼月ちゃんの描いた地図だから涼風ちゃんのだよ!」

「え~、でも夕立、涼月ちゃんの描いた地図が欲しいっぽい~」

「では夕立さんにはこれを模写した物を後日お渡しします。それでいいですか?」

「え、いいの? やったぁ!」

 

両手を上げて喜ぶ夕立ちゃん。少し羨ましいと思ってしまう。

 

「睦月さんも、宜しければ後日お渡ししますよ」

「え、良いんですか?」

「はい。私も地図を書く練習になりますので。それに、少しでもお近づきの印にとでも」

「あ、ありがとう!」

 

最初は生真面目でお堅い人なのかなと思ったけど、全然そんなことは無い。

ただ切り替えが上手いんだ。初めての場所で失礼が無いように振舞ってるだけで、

実際は他の人と解らない馴染みやすい人。

 

そんな事を思っていたら、間宮さんの甘味所が見えてきた。

 

「涼月ちゃん、ちょっとお腹空いてない?」

「そうですね。気を張っていたのもあって、少し」

「ならなら、すっごく良い所があるの! 付いてきて!」

 

彼女の手を引いて走り出す。新しく入って来た彼女を心の底から歓迎するように。

 

「夕立ちゃんに涼月ちゃんも、はりきって行きましょー!」




サブタイはまんま『涼月』の言葉の意味です。
日本語と漢字の組み合わせによる名前の多さには本当に圧巻。昔の賢者は凄かった。

更新ペースが一日ごとになっています。
現在は小説の方の話にして第10話目を執筆中。(プロローグ含めて12話目)
第五話ぐらいまでは連日投稿、それからは1週間のペースになると思います。

読んで頂いてる方々本当にありがとうございます。
誤字・脱字などご指摘があれば気軽にお願いします。


簡易的な自問自答コーナー

Q.秋月型って背が高いの?
A.排水量が軽巡洋艦クラス(プロローグのあとがきやWikipedia参照)なので、
 その関係上高いです。公式四コマ漫画71話の方でもそう書いて(描いて)ある。

Q.涼月が地図……?
A.史実ネタで最も有りえそうなキャラ設定。
 場合によっては四コマとかで秋雲との絡みが見れそうで楽しみです。
 (実装されたら白髪とかブロンド髪とかで全然髪型違うんだろうなぁ……
  後性格……(雪風と天津風と磯風と浜風を見ながら))
 
Q.何故第三水雷戦隊? 吹雪どうするのよ。
A.主人公は遅れてやってくる。後は言ってしまうとフラグ建築。

Q.提督喋らねぇ! 
A.アニメでも喋ってねぇ!(白目)

Q.川内と那珂はどうした!
A.次回登場予定


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話『因果の記憶』

第二話の文字数が一万文字に到達していたので、
主の基準である5000文字の範囲で小分けに。

今回はいわゆる交流編パート2。


どこまでも続く水平線を強い日差しが照らす。

それでも冷たい潮風が吹くこの鎮守府ではそんなに気にならない。

今目の前では艦娘達、特に駆逐艦に分類される艦娘達の個人演習が行われていた。

 

今日は平日で神通さんも睦月さんも夕立さんも授業があったのだが、

私が到着するまでお休みを貰っており神通さんがすぐ行ってしまったのも、

その後授業だったからだそうで。

 

軽い自己紹介を済ませながらも午後からの演習に途中から参加させてもらった。

 

「次! 駆逐艦『涼月』!」

「はい!」

「涼月ちゃん、頑張って」

 

利根さんに呼ばれて立ち上がると、隣に座っている睦月さんから応援される。

それに少し笑顔を零して艤装を装備し、海上に立った。

 

「ほう、これは中々のものじゃな……」

「「「おお~……」」」

 

後ろで見ている利根さんが言葉を漏らし、駆逐艦の人達はざわつく。

 

私の主砲は65口径10cm連装高角砲。

いわゆる長10cm高角連装砲を右手に持っている。

背中には61cm四連装酸素魚雷があるが、

発射する時には着脱して艦首部分と連結して発射する。

最後は艤装に装備されている25mm連装機銃。

 

私の装備は他の駆逐艦の人より武装が多く、対空に特化している。

排水量約3,500tは伊達ではない。

 

「では始め!」

「秋月型駆逐艦、三番艦『涼月』、参ります!」

 

最初は航行能力や回避運動に徹した物。

海上に浮かぶポールや丸太の間を縫うように航行し、その地帯を抜けていく。

これに似たことをトラックでもやっていたので慣れた物だ。

だが演習は魅せる為の物ではない。自分の実力を確かめるための物であったり、

それによって自分の練度を高める物。遊びではない。

 

指定された位置に立ち的へ向かって長10cm砲を構え放つ。

反動が全身に響き、放たれた砲弾は見事に的を打ち貫いた。

 

「(直撃……今まで通りで行けますか)」

 

他の的を撃つ為その場を離れ再びポールが浮かぶ地帯に入る。

間を縫い極力速度を維持して旋回、指定の位置に立ち再び砲撃。

爆音と反動。そして的の近くで水柱が立つ。至近弾、いわゆる夾叉。

微調整して次弾発射。今度は見事に的を貫いた。

 

短いながらもこれで私の番は終了。利根さんと筑摩さんにお辞儀をして港に戻る。

 

「ふむ……」

「あの、何か問題でもあったでしょうか」

「いや気にするでない。別の事じゃ」

「解りました」

 

戻る途中私を見て利根さんが複雑な表情をしていたので尋ねてみるも、

私には関係無い事の様で、それでも私はその向けらた視線の意味が気になった。

 

 

 

演習が終わって睦月さんと夕立さんで甘味処間宮にお邪魔する。

そこでは先程演習を終えた同じクラスの暁型の子達が既に山の様な餡蜜を食べていた。

 

「あら三人とも、さっきはありがとう」

 

間宮さんが笑顔で迎えてくれる。

実はを言えば先程もこの店にお邪魔させてもらって白玉善哉を頂いたのだ。

ほんのりとした甘さに程よい柔らかさの白玉が本当に美味で、

もう一度訪れた時は少し冒険してみようと思っていた。

それにしても大きい餡蜜だ。睦月さんに聞いてみよう。

 

「睦月さん、あの山の様な餡蜜は」

「あれはここの名物の特盛餡蜜だよ」

「皆演習終わりに必ず食べるぐらいの人気っぽい!」

「そうなんですか。では……」

 

後追いと言わんばかりに同じ物を頼む。山の様に盛られたクリームが特徴。

あれだけの量であっても、味は一級品だろう。そう確信できるところがあった。

 

「涼月ちゃんって実戦経験どれくらいなの?」

「あ、それ私も気になるっぽい!」

 

お手拭きで手を拭いている時、睦月さんと夕立さんが尋ねてきた。

 

「そうですね、数えてないから解らないとしか」

「「えぇっ?!」」

 

予想だにしない答えが返ってきたのか声を上げる二人。

その唐突な大声に耳を塞いでしまい、暁型の子達の視線が集中する。

幸い今いるのは暁型の子達だけ。

 

「ちょっと! 急に大声を上げるなんてレディとして失格よ!」

「すみません暁さん」

 

黒髪の少女、暁さんが思わず席を立って怒鳴り気味に声を上げる。

立つと流石に店に失礼なので軽く頭を下げる。

演習の時に利根さんが呼んでいた名前なので、

彼女自身が紹介した時に聞いた名前ではない。

 

視線を前に戻すも二人唖然としたまま帰ってこない。

私はそんなにおかしなことを言ったのだろうか。

哨戒任務もそれなりの数をこなし、遭遇戦もあった。

当然のことだが、数えるよりも守ることを優先している。

 

「はーいお待たせー」

 

首をかしげていると間宮さんがお盆に乗った3つの特盛餡蜜を持ってきた。

より近くで見るととても大きい。気を引き締めないと食べきれないかもしれない。

 

「ありがとうございます」

「じゃあごゆっくりどうぞ」

「……では睦月さん、夕立さん。頂きましょう」

「あっ、うん! そうだね!」

「ぽっ、ぽい!」

 

睦月さんと夕立さんの目を覚ましながら一口。

しつこすぎない脂っぽさと優しい甘みが口の中に広がる。

ここまで盛ると胃がもたれそうな気がしたけれど、これなら大丈夫。

頬が落ちるとはこの事か。ちょっとした冒険は悪くない。

 

「でもそれだけ実戦経験豊富だったら、演習の結果も頷けるっぽい」

「いえ、ここまで経験が積めたのも、やはり支えて頂いた方々のお蔭ですから」

「およよ~、この謙虚さは私も見習わなきゃ……」

「五航戦の翔鶴さんに似てるっぽい」

「あ、そうだよね。言われてみれば」

 

翔鶴、天翔ける鶴の意。何ともおめでたい名前の人だろう。

五航戦という名から察するに航空戦隊、つまりは空母の方。

知識としては疎いがこういう形で推測出来る。

 

「翔鶴さんですか。一度お会いしてみたいですね」

「翔鶴さんなら確か今日だと」

「放課後になら会えるかもっぽい」

「でしたら、案内をまたお願いします」

「睦月、お願いされました。えへへ」

 

嬉しそうに笑みを浮かべる睦月さんの顔を見て和む。

彼女は頼られるのが好きなようだ。

 

その後、無事特盛餡蜜を綺麗に食べ終えた私達は間宮を後にしたのだった。

 

「ありがとうございました~。またどうぞ~」

 

 

 

「秋月型駆逐艦、三番艦の『涼月』です。改めましてよろしくお願いします」

「涼月はトラック泊地で戦っていたのだが、この度の戦力強化で転属になった。

 皆、仲良くしてやってくれ」

 

授業の始まりに改めてしっかりと自己紹介を挟む。

担当の教官は那智さん。態々時間を取ってもらって有りがたい限りだ。

 

「では自己紹介と行こうか。如月の列から左の順番で頼むぞ」

「はい。睦月型駆逐艦、二番艦の如月よ。睦月ちゃんと同じ艦隊なんですってね。

 私の代わりに面倒を見てくれると嬉しいわ」

「如月ちゃん!」

「ふふふ♪」

 

なるほど、見かけどおりの大人びた人だ。

少し危険な匂いがするのは気のせいだろうか。妖美というのが合っていそうな……

でもしっかりしているのは良く解る。姉妹艦だけれどここまで違うのが逆に面白い。

 

「解りました。この涼月にお任せ下さい」

「涼月ちゃんも乗らないで~!」

「如月も涼月も冗談はそれくらいにして、次は睦月だな」

 

那智さんが埒が明かないとみて仲裁に入る。

たまにはこんな悪乗りするのも悪くない。

泊地ではよく大和さんに弄られていたけど、その理由が良く解った。

 

「は、はい! 睦月型駆逐艦、睦月です! 今後ともよろしくね」

「はい。改めてお願いします」

「夕立だよ! よろしくね!」

「はい。夕立さんもお願いします」

 

この二人はこれからも長い付き合いになるだろう。

軽い挨拶だったが、これから思い出を作っていけばいい。

 

「雷よ! 隣の電共々、よろしくね! 同じ三番艦同士仲良くしてくれると嬉しいわ」

「はい。よろしくお願いします」

 

暁型の子だったか、雷さんは三番艦らしい。それでもしっかりしているので、

一番艦かと思ってしまう。所謂偏見なのだけれど。

 

「暁よ。一人前のレディーを目指してるわ。よろしくね」

「はい。よろしくお願いします」

 

一人前のレディーとは一体何なのかそれは私にはよくわからないが、

後で聞いてみようかな……

 

「電なのです。暁型四番艦の末っ子ですけど、皆に負けないように頑張るのです!」

「はい。よろしくお願いします」

 

四番艦の末っ子である電さん。幼さが目立つが彼女も立派な艦娘。

どう彼女が成長していくのか、私には解らないけれどその気持ちがあれば大丈夫だろう。

 

「暁型二番艦、響だよ。よろしく」

「よろしくお願いします」

 

響さん。暁型の子達の中で唯一雰囲気が違う。

まるで幾多の戦場を渡り歩いてきたような。

磯風さんに似ている。なんとなく。

 

「島風型駆逐艦の島風です。こっちは私の友達の連装砲ちゃん。よろしくね」

「はい。お願いします。連装砲ちゃんもお願いしますね」

 

ブロンド髪の長髪で、頭には黒い大きなリボン。

白いセーラー服ながらもおへそを出していたりスカートがとてつもなく短かったりと、

露出が激しい服だった。

その子に抱かれているのは連装砲に顔が付いた子達。まるで妖精さんのようだ。

 

「自己紹介も終わったし、席はそうだな、如月の後ろの席が空いているな」

 

名前が呼ばれたからか如月さんが微笑みながら上品に手を振っていた。

それに思わず笑みがこぼれるのだった。

 

 

/////////////////

 

 

放課後。

私は睦月さんと夕立さんの案内の元、空母の演習場に足を運んだのだが……

 

「あの、本当に大丈夫なんですか? こんな所に勝手に」

「大丈夫だよ。ちょっとだけだから、ね」

「それにばれなきゃ大丈夫っぽい」

 

演習場の隅の所。綺麗に植えられた松の木に隠れながら、

演習を行っている二人を見つめる。

 

一人は白い長髪に赤い鉢巻をしており、大人びた雰囲気を出していた。

一人は濃い目の灰色の髪をしていて頭の両端で髪をくくっている。

後者は今まさに矢を放とうとしていた。

が、その矢は放たれることなく弓の構えを解き、こちらの方を向いて口を開く。

 

「ちょっとそこの駆逐艦と軽巡!」

「あ、気付かれちゃった」

「こういう時は逃げるっぽい!」

 

睦月さんと夕立さんは立ち去るものの、私は逃げることなくその場で立ち止る。

理由は二つ。まず一つは彼女達を見に来たのではなく知り合う為に来たという事。

こうして気付かれたとしても、それは一つのきっかけだ。

そしてもう一つは。

 

「許可なく入ってきて申し訳ありません。ですが私は駆逐艦です。

 お間違えないようお願いします」

「アンタみたいな駆逐艦が居るかって言ってるの。って、見ない顔ね」

「瑞鶴、いくら駆逐艦の人でもその言い方は失礼よ」

 

ズカズカと腰に手を当てて迫って来たのは先ほど矢を放とうとしていた人。

やたらと態度が大きいが、そう言う性格なのだろう。顔にも良く出ている。

 

「本日この鎮守府に配属されました、秋月型駆逐艦『涼月』です。

 以後よろしくお願いします」

「これはご丁寧に……翔鶴型正規空母『翔鶴』です」

 

互いに頭を下げる。一方のおさげの人はそのままで名乗らない。

 

「翔鶴さん、こちらの方は」

「私の妹の「翔鶴姉ぇ、言わなくっていいって!」」

「私の名前が気になるんだったら、自力で当ててみなさいよ」

 

流石に初対面でこれはないかと思ったが、ここは本土の鎮守府。

艦娘の数も多ければ様々な性格の艦娘も居るわけでこういった人もいるのだろう。

それに最初私自身が彼女に駆逐艦と言う時少し失礼だった。

それが彼女の気に障ったのかもしれない。

 

「解りました。当てて見せましょう」

「涼月さん、そんな乗らなくても大丈夫よ」

「翔鶴型正規空母、二番艦の『瑞鶴』さんですね」

「なっ?!」「まぁ」

 

私の発言に驚く二人。おそらく当たりなのだろう。

 

「あんた、どこかで私と会ったことある?」

「そうですね。恐らくは」

「あら、そうだったの? 瑞鶴」

「生憎私は覚えてないけどね。鳥頭でごめんなさいね」

「というのは真っ赤な嘘です」

「こんのぉ……!!」

 

ギリギリと歯ぎしりし拳に力を入れる瑞鶴さん。

流石にタチの悪いジョークは駄目だったか。

 

「じゃあどうやって瑞鶴の名前を?」

「翔鶴さんとほぼ同じ弓道着だったので、翔鶴型と言うのはほぼ確定。

 これは睦月さんと如月さん、暁型の子達の例があるので貴女方にも該当するかと。

 そして何よりも胸当ての左上に『ス』の文字がありましたので」

「一瞬でそこまで……」

「それに何よりも、翔鶴さんが『瑞鶴』さんの名を呼んでいましたからね」

 

そこまで言って遠くの方で睦月さんと夕立さんがこちらに手招きしているのを見つける。

恐らく遅くなってしまった私を心配して、逃げる為の道を教えてくれているのだろう。

だが二人の場所からだと建物が死角となって翔鶴さんと瑞鶴さんが見えていないようだ。

 

「では失礼いたします」

 

再度頭を下げてその方へ走り出すも、何かがひっかかりも足を止めて振り返る。

そこには笑顔で手を振る翔鶴さんと、そっぽを向いている瑞鶴さんが居た。

 

「(真っ赤な嘘、ですか。あながち嘘ではないのかもしれませんが)」

 

彼女を見た時、脳裏を何かが駆け抜けた気がしたのだ。

あたかも彼女を知っているかの様な。そんな中頭に浮かんだ言葉が『瑞鶴』であった。

その言葉をいかに自然に伝えるかを考えて、先ほどの御託を並べたに過ぎない。

 

そう思って私は二人の元に急ぐのであった。

 




川内と那珂は見送りになったのだ……すまぬ、すまぬ……
次回には確実に出ます。好きな人色々申し訳ない。

因みに一話だけ3000強なので一番文字数少ないです。さっくり読めますけど。


簡易的な自問自答コーナー

Q.装備の説明がしつこいのでは
A.実は第一話・第二話はプロット構築前に書かれたものなので、
 割とプロットから逸脱してます。
 一話・二話書く → 全体の構想をプロットにして明確化 → プロローグで補強
 → 一話・二話の修正。
 なので設定的な矛盾点がある場合この二つの話が多いと思われます。
 頑張って修正したけどまだあるかも。

Q.出撃時が「参ります」ってかっこつけてね?
A.大和さんの影響です。

Q.如月ィィィィィイイイイ!
A.懐かしいなぁ。私も見るのは久しぶりなんだ。(白目) by ルシフェル
 席順は前から詰める様に座らせた……のかは定かではない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話『花鳥風月』

川内・那珂「またせたな」

第三水雷戦隊、出撃回。そして……

アニメの出撃する場所の名前解らんぜよ。


第三話『花鳥風月』

 

翌日、私達は出撃の準備を整えていた。

任務の内容は鎮守府近海の哨戒。敵と遭遇した場合出来るなら撃滅すること。

 

「それにしても提督も着任の翌日に出撃なんて無茶言うっぽい」

「あはは……そうだよね」

「私は構いませんよ。ただ皆さんに迷惑を掛けないように出来るかどうか」

「そんなことないよ! 寧ろ私の方が足引っ張っちゃいそうで不安なんだから!」

「そうそう! 昨日の演習でも私達よりずっと腕前は上だったし!」

 

出撃の為カタパルトに移動しながらも話していると、

既に配置に着いた三人の艦娘の姿があった。

 

「遅いぞー三人とも」

「あ、川内さん、神通さん、那珂ちゃんも」

 

一番遠い所に神通さんの姿があり、その隣には瑞鶴さんと同じ髪型をした人が。

更にその隣にはお団子を二つ作った髪型の人が立っていた。

 

「初めまして。私は川内型軽巡洋艦の『川内』。よろしくね」

「よろしくお願いします。川内さん」

「私は、皆のアイドル『那珂』ちゃんだよ~! よっろしくぅ!」

「は、はい。よろしくお願いします」

 

前に進み出て手を差し出したのは川内さん。

なるほど、ネームシップという事は神通さんのお姉さんなのだろう。

差し出された手を取り、軽く頭を下げる。

そして那珂さん。軽快にウィンクを飛ばしてくるので、対応に困り苦笑い。

 

「それでは皆さん揃いましたね。第三水雷戦隊、出撃です!」

 

各自が進み出て、艤装を装着し勢いよく射出されていく。

 

「防空駆逐艦『涼月』、参ります!!」

 

最後に飛び出した私は艤装の装着後5人を追いかける様に速力を上げたが、

出たところで陣形を組むために速力を落として待ってくれていた。

 

「へぇ、それが秋月型の装備ね。中々カッコいいじゃん」

「長10cm連装高角砲です。高射装置も内蔵しているので対空防御であればお任せ下さい」

「うんうん。心強い子が入ってきて良かったよ」

 

陣形を組む前に私の装備に目を通して、ぽんぽんと肩を叩く川内さん。

彼女なりの緊張をほぐす為の思いやりなのだろうが、

哨戒任務とはいえ気が少し緩んでいないだろうかと心配になる。

 

「うわぁ、近くで見たけどやっぱり凄い装備っぽい!」

「ほんとだね。あ、魚雷四連装なんだ!」

「あの、夕立さん、睦月さん。艤装なら哨戒が後でも見せられますから」

「二人とも。今は哨戒任務の途中ですから集中して」

「「はーい」」

 

真新しいものが気になるのは解るが、今は哨戒任務中。敵との遭遇戦も考えられる。

辺りを見渡しながらも空にも気を配り敵艦載機や偵察機が居ないか探す。

こんな鎮守府近海で敵機が居たらそれこそ危ないどころの騒ぎじゃない。

本土空襲もあり得るから警戒しないと。

 

「12時の方向、敵艦発見! 駆逐艦3、軽巡1!」

「っ!」

 

神通さんの声で皆に緊張が走る。

 

「涼月さん、敵艦載機は大丈夫?」

「はい! 敵水上機、艦載機ともに確認できません!」

「解りました。皆さん単縦陣を取って、砲雷撃戦始めぇ!」

 

全員が深海棲艦に対して主砲を構え、砲弾を放つ。

砲弾は敵駆逐艦に直撃。続いて背部の魚雷を取り外し腰部の艤装と連結させ魚雷を放つ。

魚雷を放ち終わった後は発射管を再び背部に戻して砲撃。

昔は手間取っていたが今では慣れたものだ。

 

こちらの砲撃の合間を狙って敵艦も砲撃を行ってくる。

現在の陣形は単縦陣。敵の殲滅を優先した陣形故回避も難しい。

因みに私は最後尾に居る。

 

「きゃぁっ!」

「睦月さん!」

 

睦月さんの傍で水柱が立つ。もしかしたら魚雷かもしれない。

 

「大丈夫、至近弾だから」

 

至近弾という事は魚雷ではない。損傷も少ないようで胸を撫で下ろす。

そんな私を見て心配させまいと笑顔を作る睦月さん。その顔は少し引きつっていた。

いつも陸だと明るい彼女も怖いのだ。ここは生きるか死ぬかの瀬戸際なのだから。

 

「艦隊戦でも、守って見せます!」

 

こちらの気を引かせるように連装砲を連射させる。

その性能は多少と言えど睦月さんや夕立さんの装備する12.7cm砲よりも高い物。

敵深海棲艦はこちらを驚異に思ったのか徐々に砲撃を集中させてきた。

多くの水柱が上がるも先行する神通さんがうまく艦隊を誘導し、かわしていく。

 

「まだまだやれます、次発、てぇー!」

「涼月さん!」

「大丈夫です! 神通さん達は今のうちに魚雷を!」

 

最後尾である私に砲撃が集中すればその分他の人に余裕が出来る。

当然と言っては何だがこの10cm砲では決定打に欠ける。

駆逐艦や軽巡洋艦の決定打と成る兵装は魚雷なのだ。

 

敵軽巡を狙って更に砲撃。その放たれた弾丸は相手の艤装を抉る。

 

「今です!」

「ええ! 魚雷、今!」

 

五人の放った魚雷は隙だらけの軽巡洋艦と随伴艦である駆逐艦を狙い直撃。

弾着の水柱よりも大きな爆発を上げながら水底に沈んでいった。

再び空に注意を向け敵艦載機を探るも見当たらない。

辺りを見渡すも他の敵艦の影はなかった。

 

「今回も生き残れましたね。良かった……」

「涼月ちゃーん!!」

「うわぁっ?!」

 

本当の意味で胸を撫で下ろしていると、睦月さんがいきなり胸に飛び込んできた。

海上なので倒れるわけにはいかず、何とか足を引くことで体勢を立て直す。

何事かと思いそこには満面の笑みでこちらを見ていた。

 

「私やったよ! 初戦果だよー!」

 

初戦果。その言葉を聞いて理解する。睦月さんは実戦経験がほとんどないのだと。

その意味を噛み締めながら私は彼女の頭を優しく撫でる。随分と先輩である筈の彼女を。

 

「むー! 睦月ちゃんばっかりずるいっぽいー!!」

「きゃぁっ?!」

 

横から飛び込んで来る夕立さん。後一歩で倒れるところで踏ん張った。

長身であることに感謝しながらも、二人の体温を感じる。

ふと視線を前に戻すと微笑んでいる神通さん、やれやれと表情を浮かべる川内さん、

少し不機嫌そうな那珂さんの顔があった。

 

「さあ皆さん、母港に帰りましょうか」

「そうですね。睦月さんの初戦果のお祝いもありますし」

「何言ってんの」

 

川内さんの言葉に少しばかり気が緩み過ぎたかと反省する。

謝罪の言葉を述べる為に頭を下げようとすると、睦月さんがこちらを向いていた。

 

「涼月ちゃんの歓迎会、まだやってないもんね!」

「そうそう!」

 

再び顔上げる。今度は皆が私に向けて笑顔を飛ばしていた。

 

「……はい!」

 

ここでも同じように素敵な人達が居る。そして私もその中に居るのだと理解した。

 

 

 

「「「「「「カンパーイ!」」」」」」

 

甘味所間宮で、第三水雷戦隊の面々の声とコップ同士が鳴り響く。

私達以外には誰もおらず、いわゆる貸切状態だ。

そして私を含めた全員が食べているのはもちろん特盛餡蜜。

 

「改めまして呉鎮守府及び第三水雷戦隊にようこそ!

 那珂ちゃんから歓迎の歌を歌っちゃうよ!」

 

司会の様な役割を請け負っているのは那珂さん。

かなりテンションが上がっており、そう言う性格なのだろうと解釈する。

 

「ごめんなさい、妹が……」

「いえ。慣れてますから。泊地でもこんな人が一人いたので」

 

誰とは言いませんが。

 

「まぁ那珂はこういう子だから勘弁してやってよ」

 

川内さんが悪戯に笑顔を浮かべる。

横に視線を送ると割と乗っている夕立さんと、苦笑を浮かべる睦月さんがいた。

 

この艦隊ならうまくやっていけそうだ。

そう思ってグラスに口を付けた時、引き戸が開き誰かが入って来る。

 

長い綺麗な黒髪。長身で頭には電探と思わしき刺々しい装備。

肩出し、へそ出しと露出の激しい服装だが、どことなく大和さんの服装と似ていた。

 

「な、長門秘書艦!?」

 

彼女の姿を見た皆は空気が一変したかのように敬礼し、私も遅れながらも敬礼をする。

秘書艦。提督の側近である存在で提督からの言葉や作戦を伝達する、

重要な役割を持っている艦娘の事。

 

私達の泊地では提督は居らず大和さんが基本的な伝令を下しており、

明石さんがその補佐を行っていた為秘書艦は存在しない。

 

「すまないな、折角の歓迎会を邪魔してしまって」

「いえ。それより何かありましたか」

「ああ。言い辛い事なのだが……」

 

辺りを見渡してから謝罪を述べる彼女は、

神通さんと軽い会話をした後私に視線を合わせた。

 

「駆逐艦『涼月』だな」

「はい。秋月型駆逐艦、三番艦『涼月』です」

「転属の書類に誤りがあってな。提督曰く正確には『第二支援艦隊』だったそうだ」

「第二、支援艦隊ですか」

「今すぐにとは言わない。ただ出来るだけ早く移ってくれると助かる」

「待ってください!」

 

要件だけ伝えに来たのか立ち去ろうとする長門さんに睦月さんが制止の声をかける。

その目には涙が少し浮かんでいた。

 

「『ここ』じゃ駄目なんですか!? 今からでも間に合わないんですか!」

「……駄目だ」

「どうして! 提督に言えばまだ……!」

「それが提督の意思だ。第三水雷戦隊には既に新たな駆逐艦が配備予定になっている。

 涼月はそれまでに第二艦隊へ移って貰わないといけない」

「「「「「……………」」」」」

 

ぴしゃりと閉められた扉。

空気は先ほどとは打って変わって重苦しい物へと変質していた。

それを見かねた私は大きくため息を吐き、皆の注意を引く。

 

「皆さん何か勘違いしてませんか? 私は別の艦隊に行くだけ。

 特に睦月さんと夕立さんなら毎日の授業で当たり前のように会えるじゃないですか。

 それなのに今生の別れの様に事を重く捉えないでください」

 

「さぁ皆さん頂きましょう。私の『着任祝い』はまだ始まったばかりです」

「そ、そうだね! なんかごめんね。変なこと言っちゃって」

 

涙をぬぐい特盛餡蜜にがっつく睦月さん。

 

「アイドルはこんなことでめげない! しょげない! へこたれない!!

 続きいっくよー!」

 

再び鳴り響く那珂さんの歌声。なるほど、確かに舞風さんに似ている。

こうして私の歓迎会は晩御飯前まで続くのであった。

 

 

///////////////////

 

 

月明かりが眩しい夜。

私は眠れず部屋から抜け出し、港の端で月を眺める。

 

秋月型三番艦。

つまり私には少なくとも二人の姉が居て、

長女の名前はネームシップに当たる『秋月』姉さんなのだろう。

 

「第六十一驅逐隊……」

 

月明かりに照らされながら目を落とし、持ってきたペンネントの文字を読み上げた。

これが一体何を明確に意味しているかが未だに解らない。

ただ、解るとすればこれと同じ物をした艦娘がどこかに居るかもしれないという事。

そして私はこの艦隊の名を背負っているという事。

 

「(磯風さん。少しだけ解った気がします)」

 

両手で頬を叩きペンネントを締める。

私は強くならなければいけない。今よりもずっと。

あの時決めたんだ。私は強くなって大和さんの護衛艦として彼女を守ると。

 

「辛気臭い顔してると思ったら、急にかっこよくなっちゃって」

 

隣に気配と足音。

視線を上げるとそこには川内さんの姿があった。

 

「川内さん、トレーニングですか?」

「ま、そんな所かな。夜になるとテンション上がっちゃってさー!

 なんていうの? こう体の内から湧き上がってくる情熱みたいな?」

 

夜こそ私の生きる場所と言わんばかりの彼女の話に思わず笑いがこぼれてしまう。

しっかりしてる人かと思ったけど、こんな一面を見られるとは思ってもみなかった。

彼女は視線を落として私と目を合わせる。

 

「ねぇ、涼月はさ。夜って好き?」

「好きですよ。特に秋の夜は」

「それって、名前から来てるでしょ」

「まったくその通りです」

 

言葉を交わし笑い合う。

最初は抵抗を覚えたけど、こんな気軽に話せる人もいいかもしれない。

 

と、川内さんが月を見上げる。

私も座ったままでは失礼なので立ち上がることにした。

 

「一度だけ聞かれた事があってね。『どうしてそんなに夜が好きなんだ』って」

「……それで、どう答えたんですか?」

「好きな物は好きでいいじゃんって。

 好きなことに理由はいらないって言ってやったのさ」

 

予想外の回答にきょとんとする。

もしかしたら凄い答えが返ってくるのではないかと身構えてしまうほどだったのに。

 

「何鳩が豆鉄砲を食ったような顔してるの。

 あ、もしかしてもっと真剣な答えが返ってくるって思ったでしょ」

「ええ。まぁ、はい」

「ないないない! そう言うのは私の性に合わないし」

 

「でも実際の所、それが正しい答えだとも思ってない私が居るんだよね」

「………」

「ごめん、今の無し。忘れて」

 

じれったいかのように頭をかく川内さん。

なんというか、うまい答えを導き出せずにいるようなそんな様子。

私はそんな彼女に向かって口を開く。

 

「私は嫌いじゃありませんよ。好きな事に理由はいらないって」

「へぇ、意外。真面目なアンタなら嫌いだと思ったのに」

「楽しい事、好きな事、それらは考えるよりも感じる事の方が大事だと思います。

 その点では川内さんの回答は非常に的を射てるかと」

「嬉しい事言ってくれるじゃん」

 

嬉しそうに笑う彼女は、ふと思いついたように握り拳を出してきた。

 

「短い間だったけど、ありがとう。涼月のお蔭であの子達にも自信が付いただろうし」

「いえ。全てはそれまで支えてくれた皆さんのお蔭です。ありがとうございました」

 

拳同士を軽く当てる。

こうして第三水雷戦隊としての私の役目は終わりを告げ、

新たに第二支援艦隊として新たな一歩を踏み出すのであった。

 




アニメでは若干夜戦仮面してたけど、こちらではかっこいい川内さんが書きたかった。
そして那珂ちゃんはアイドル路線だったけど、アイドル気質からの明るさが書きたかった。

神通がしっかりと教え、陰で川内がカバーし、全体をムードメーカーである那珂が整える。
素晴らしい艦隊だと思いますよ、アニメの第三水雷戦隊。(第二話参照)

で、当の主人公、第二支援艦隊に異動。
誰が居なくなるかは……次の話で分かります。


簡易的な自問自答コーナー

Q.長10cm砲って12.7cm連装砲より性能高いの?
A.比較すると、ほとんどの性能が1.4倍という記録があるのですが、
 砲身の耐久が低く3分の1ほどしか持ちません。
 なので砲身自体を取り換え出来るわけです。

Q.魚雷って真面目に強いのです?
A.戦艦の主砲の作薬量普通に超えてる。当たれば強いとはまさにこれ。

Q.軽巡1に駆逐3? この編成って何?
A.ゲームをやると解るのですが、1-1(最初のステージ)のボスの最強編成です。
 単艦キラ付でこれが出ると割と萎えます。

Q.正直転属させるなら第三水雷戦隊に居る必要性ってある?
A.睦月と夕立の下地作りと、今後の展開に関わる部分ですので伏せます。

Q.誰とは言いませんが、って誰?
A.プロローグ・プロローグ2を読めば大体解りますが『舞風』さんです。

Q.アイエエ! 川内ダケッテナンデ!
A.他の人達は全員寝てます。アニメ第二話の導入部分な状態。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話『些細な契』

今回は第二支援艦隊交流会。
そして明石さんから渡された包みの真相が明らかに!!

あと金剛さんが結構英単語多いです。スペル間違ってたらすみません。


荷物と自作の地図を持って扉の前に立つ。

部屋割りが睦月さんや夕立さんの案内通りであればここのはずだが。

 

扉を数回ノックして開ける。

そこに居たのは響さんと暁さんの二人。

 

「あれ? 涼月じゃない。そんな大荷物を持ってどうしたの?」

「この度『第二支援艦隊』に転属になりました涼月です」

「ん……君は確か第三水雷戦隊に配属になったんじゃ」

「正式はこちらに配属される予定だったのですが実は書類に手違いがあったそうで」

「なるほど。災難だったね」

「書類を書き間違えるなんて、レディとしてなってないわ!」

「あ、あはは……」

「荷物はこっちに置くといい。

 後、隣の部屋にも同じ艦隊の人達がいるから挨拶も忘れないようにね」

「はい。ご丁寧にありがとうございます」

 

苦笑しながら空いている机に荷物を置く。

手早く荷物を纏めて挨拶を済ませよう。

第三水雷戦隊の時の様に出撃の直前で顔合わせなどという事態は避けたい。

 

「あれ? 何その風呂敷」

 

私の持っていた大きな風呂敷に向かって指を指す。

普通ではない大きさからか、興味があるようだ。

第三水雷戦隊の歓迎会が終わってから開けようと思っていたのだが、

歓迎会が終わり次第すぐ移る事になったので言われる今まで開ける機会を失っていた。

 

「随分大きな荷物だね。中身は何だい?」

「実は私もここに配属されて落ち着いてから開ける様にと釘を打たれていまして」

「だったら今ここで開けましょ! 流石にもう配属の間違いなんてないわ!」

 

目を輝かせながら暁さんが迫ってくる。

私としては明石さんから渡された物なので、

彼女の期待に答えられるものが入っているとは限らないと予想する。

それでもここまで期待されては開けないのも失礼なので、ついにその封を解いた。

 

「「おおー(!)」」

「これは……」

 

風呂敷に包まれていたのは増設用のマスト。

そしてころんと可愛らしく転がって出てきた一人の妖精さん。

どうやら風呂敷を背もたれにしていて、急に開けられ勢いそのままに後転したのだろう。

そのマストを覗き込むともう一人の妖精さんが眠っていた。

 

「これは……装備?」

「そうですね。私が泊地での演習で使っていた「この妖精さん可愛いー!」」

 

説明の途中で暁さんが転がり出てきた妖精さんを両手で捕まえる。

果てには頬ずりする始末。妖精さんは何が起こったのか解らず困惑している表情だ。

先程の大声でマストの中で眠っていた妖精さんも飛び起き、

勢い余って窓から飛び出し転げ落ちる。

机に落ちるギリギリで手を出して受け止めると目を回していた。

 

「暁さん、妖精さんが苦しそうですよ」

「はっ! べ、別に欲しいと思ってないし! ほんとよ!」

 

欲しいと言われても私の大切な妖精さんなので上げることは出来ない。

暁さんから妖精さんを返してもらって、目を回している子の目を覚まし、

二人が何故ここにいるのか事情を聞いてみた。

 

「なるほど、『演習でいっぱい使ってくれたのに離れ離れになるのは嫌だ』、と」

「解るの?!」

「なんとなくですよ。えっと『だから明石さんにお願いして付いてきた』んですか」

 

ある程度事情が分かったところで、この装備をどうするか考える。

装備と言っても主砲や魚雷などの火器で無ければ機関や電探と言った精密機器でもない。

マストは妖精さん達が高い所から見渡す為の物で、探すのはこの妖精さん二人。

大人しく呉の工廠に預けるという事も考えるが、

慣れない場所故に寂しがりやなこの二人は、きっと抜け出してここにやってくるだろう。

だからと行って無断でここに置くのも気が引ける。

 

「何を騒いでるのよ暁ちゃん。もうちょっと静かに……」

 

本格的に悩みだしたところで扉が開かれ、女の人が顔をのぞかせた。

千草色の髪で短髪。頭の後ろで深緑色のリボンで髪を一括りにしている。

注意する為に来たようだが私の机の上に立っているマストを凝視していた。

 

「あ、すみませんすぐに片付けますので「待って!」」

 

部屋に入って来た彼女はそのままマストをいろんな角度から観察し始める。

まるで私がこの鎮守府の地図を作成した時の様に。

掌の上に居る妖精さん達は怖くなったのか、服に向かって飛びついて肩までよじ登る。

私は大丈夫? という意味を込めて、人差し指で優しく二人の頭を撫でた。

 

「簡単そうに見えて頑丈な作り……ねぇ、これって貴女の装備?」

「は、はい。マストを増設して熟練度の高い見張りに特化した妖精さんを配備させる、

 『熟練見張員』です」

「まさかこんな懐かしい装備が見られるなんて思わなかったわ。

 それに中まで見せてもらったけど、このマスト随分丁寧に作られているのね」

「こちらでは普及していないのですか?」

「電探がある程度普及してからはあんまり見なくなっちゃったの。

 重心も三脚の角度もぴったり……ねぇ、これ貴女が開発したの?」

 

身長は私の方が少し低い程度なのだが、

目を輝かせながら近付いて訪ねてくる彼女に威圧され思わずたじろぐ。

誤解を招くのも悪いので首を横に振ることで違うという事だけ主張する。

 

ただ私が威圧されてしまったのもあって肩の上に乗っている子達は完全に怯えてしまい、

首の後ろの襟まで逃げてしまった。小さな手が首に触れているのでくすぐったい。

 

「あの、失礼とは思いますが、お名前を伺いたいのです」

「私は軽巡洋艦の『夕張』。貴女は?」

「第二支援艦隊に配属になった『涼月』です」

「貴方があの防空駆逐艦の……ねぇ、この装備、誰が作ったか教えてくれないかしら」

 

またも興味津々に聞いてくる『夕張』と名乗った彼女。

どうして彼女はここまで装備に興味があるのか。

 

「夕張さんは、兵装実験軽巡として有名だからね」

 

後ろで見ていた響さんがやっとのことで助け舟を出してくれる。

兵装実験軽巡。その名の通りなら確かに自然と装備に目が行くのも解る。

一方の暁さんはどうやら私の襟にしがみついている妖精さん達から目が離せないようだ。

足を滑らせてしまったらしく、頑張っている二人に手を伸ばして何とか助ける。

落ち着くも、まだ夕張さんの事が怖いらしく今度は袖の中まで逃げようとしていた。

 

「あの、一応落ち着きませんか? この子達が怯えてしまって」

「ああ! 驚かせるつもりは無かったの。ごめんね」

 

謝る彼女を見て二人はお互いに顔を見合わせて頷いた後、胸を張って敬礼する。

それを見た夕張さんは感心していた。

落ち着いたところで先程の質問に答えよう。

 

「この装備を開発してくれたのは、工作艦の『明石』さんなんです」

「工作艦?」

「はい。艤装の修理や兵装の開発に関する全てを担当している艦娘さんで、

 泊地ではとてもお世話になりました」

「兵装の開発に関する全て?!」

 

更に目の輝きを増させる彼女。これは那珂さんよりももっと特徴的な人かもしれない。

好きな物に対して熱心に取り組み回りが見えなくなるような。

そう言う意味では、明石さんにも似ているかもしれない。

 

 

 

その後も立て続けに質問攻めに遭い、今はどこに居るのか、

普段はどんなことをしているのか、趣味は何なのかなど、

そして最後には明石さんをいつか紹介してほしいという約束までしてしまった。

 

「(私は問題ないのですが、明石さんの都合を考えず引き受けてしまいました)」

 

その代わりに暁さんと響さんの合意の上で、

あのマストと二人の妖精さんを部屋に置いていいという事になった。

ただそれが秘書艦である長門さんに知られると何かと言われかねないらしく、

今まさに夕張さんが交渉しに走っている。

 

気分が重くなりながら隣の部屋へ。

暁さんと響さんの話によればこの鎮守府の主力である高速戦艦の二人とのこと。

 

気を引き締めて扉の前に立ち一度だけ深呼吸。

ノックをしようと手を上げた所で、扉が開かれる。

 

部屋の中から現れたのは茶髪で腰まで伸ばした髪で、

お団子とは違う、三つ編みにした髪を輪の様にまとめた髪型をした女性。

頭には金色の金具のような髪留めが。

 

服装は巫女服のような、でもミニスカートや肩や脇を見せる露出の多いデザインで、

平安貴族の和服の様に袖は横に長い。胸元には金色のしめ縄の様な物が。

 

暫く視線が合ったまま見つめ合っていたが、先に口を開いたのはその女性であった。

 

「Oh! 貴女が最近配属になったNew Faceデスカー」

「にゅ、にゅーふぇいす?」

「英語で【新顔】って意味デース! つまりは【新人】!

 welcome to the second support fleet!」

「う、うえるかむ……?」

「第二支援艦隊へようこそ! 私の名前は『金剛』! よろしくお願いしマース!」

 

先程した深呼吸がまるで意味を成さない。

いや、何をしたとて意味を成さないだろう。

 

それほどまでに、この『金剛』という女性はマイペースなのかもしれない。

マイペースという言葉自体合うのかは解らないが、

自分のペースで皆を引っ張っていくようなそんな女性。

とりあえず自己紹介されたのだから私も返さないと。

 

「秋月型駆逐艦、三番艦『涼月』です。こちらこそよろしくお願いします」

「榛名の様に礼儀正しい子デスカー。可愛いデスネー♪」

 

不意に抱きしめられる。痛くはなかったがあまりに突然の事なので言葉を失った。

大和さんの様に何かを教える為ではないのははっきりわかる。

ただこれは流石に堪える物があった。

 

「こ、金剛さん、急にだと苦しいです……」

「Oh! sorry. Physical intimacyのつもりだったのデスガ」

 

慌てて解放する金剛さん。何回かゆっくり呼吸をして整える。

 

「あの、金剛さんはご用事いいのですか?」

「What's? どうしてデース?」

「部屋から出たという事はどこかに用があるという意味では」

「Oh! 思い出しましタ! 歓迎partyの為のTeaが無くなっていましタ!」

 

そう言って彼女は風の様にいなくなった。

歓迎と言っていたので、歓迎会に必要な何かが足りないのだろう。

 

扉が開け放たれたままの部屋の中からは甘い香りが漂う。

大和さんが作る洋風のお菓子の香りに似ていた。

それに誘われるように部屋の中を覗いてみると、

金剛さんによく似た茶髪で短髪の人が忙しそうにお菓子を盛り付けていた。

服装や頭にしている髪留めは同じ物なので、姉妹艦の人なのだろう。

 

と、不意に視線が合い動きが止まる。

暫くじっとしていたが何も動きが無いので私の方から名乗り出る事にした。

 

「あの、この度第二支援艦隊に配属になりました、『涼月』と言います」

「ああ! あの提督が前仰っていた! 金剛型戦艦二番艦『比叡』です!」

 

慌てて敬礼をする比叡さんを見て思わず笑ってしまう。

なるほど、あの時大和さんが笑ったのが解る気がする。

 

「あの。何か私、おかしいことしました?」

「いえ、ただこの艦隊も素敵な人達がたくさんいるんだなって」

 

暁さん、響さん、夕張さん、金剛さん、比叡さん。この五人とこれから過ごしていく。

ただ一つ言えることは、退屈しない毎日が送れそうだ。




最上は犠牲になりました。
というかこの小説最上が空気どころか登場しません。
いわば最上のしていたであろう役回りを涼月がやっている感覚かもしれません。

この小説はアニメのストーリーとキャラ配置に乗った、
史実を織り交ぜつつゲームに近づけるという路線で書いております。

なのでチマチマですが、『ゲームにしかない台詞』を言ってたりします。
(例:大和「夾叉か……うん、次は直撃させます!」など)
アニメしか見てないよ! と言う人はゲームのWikiと照らし合わせながら見ると、
面白さが倍増するかもですよ!

また、ゲームをプレイしている事前提の文章になっていることが多いので、
自問自答コーナーにはゲームに関する要素も含めていきます。長文不可避なので注意。


簡易的な自問自答コーナー

Q.熟練見張要員って何ぞや
A.艦これの装備です。電探(レーダーっぽいやつ)より性能は低いですが、
 この小説では肉眼と言う利点を生かして演習などに使われています。
 マストを増設する必要がある理由は、装備なので1スロット分枠を圧迫するという事。
 駆逐艦でも涼月の基準となった秋月は3つ装備可能なので、
 主砲と魚雷、機銃と言う形になっています。これを装備する時は背後の魚雷を外します。

Q.金剛ってこんなに英語喋るっけ。
A.さらにキャラを濃くした感じだと思ってください。
 なおアニメよりゲームの方が英語そんなに使わないです(台詞の数もありますが)。
 Physical intimacyは日本で言う『スキンシップ』で、
 そのまま英語にすると、性的な意味が強くなるらしいです。和製英語らしいですね。

Q.今すぐ比叡から菓子の準備をやめさせろ!
A.出来上がったものを配膳しているだけなので、問題ありません。
 そもそも比叡は軍艦時代お召艦(天皇陛下を乗せた艦)として有名で、実は相当に飯が旨いらしい。
 問題は自衛隊のイージス艦で、そこはメシマズらしい。

Q.実際アニメ版のキャラクターってどう作られてるの?
A.大抵台詞からです。全く持って一概には言えないのですが。
 料理は時報ボイスと呼ばれる定刻になるというボイスに、
 お料理関係の物が含まれる場合、その発言によって決定される場合が多いです。
 ただし『吹雪』が憧れているのは『扶桑姉妹』(公式キャラ紹介)だったり、
 『赤城』が『大食い』なのは完全な『二次ネタ』で実は加賀が最も食ったり、
 『睦月』の台詞がもっと如月みたいに古参艦風で小悪魔的だったりと、
 結構改変が入っている場合があったりするので、
 ぶっちゃけアニメとゲームは別次元のお話として見てください。(逆輸入多数あり)
 後個人的には吹雪や赤城書いてる絵師さんの画の方がアニメより好きです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話『揺らぐ朧月』

※こんなサブタイですが朧は出てきません。

今回は第四話から少しだけ時間がたったお話。
クラスの人達との交流、そして遠くで吹雪く雪。

ここ辺りからアニメの時系列に改変が入りますのでご注意ください。


金剛さんや比叡さん、夕張さんと言った独特の特徴を持つ人達と同じ艦隊になり、

振り回されながらもなんとかしがみついていく感覚で艦隊に馴染んできた。

 

艦隊に馴染むだけでなく、演習の授業でもかなり良い結果を残せている。

これでこの鎮守府での生活にも慣れた、と言いたいところだがそうはいかない。

 

「………」

 

授業が始まったのは良い物の、言っている言葉の意味が良く解らない。

トラックでは哨戒・実戦・演習と言った物ばかりで、全ては感覚による物。

 

一応教科書と呼ばれる書物は配布されたが、生憎今日は忘れてしまった。

それも運が悪いことに授業が始まってしまってから気付く。

 

何とかこのまま乗り切るという事はほぼ不可能。

クラスの人が少ないだけあって万遍なく当てられる。それは私も例外ではなかった。

暁さんや響さん、睦月さんや夕立さんに借りようと思っても、

案外横の間隔が広いこの席の配置だとこっそり頼むという事も出来ない。

 

「ではここを涼月に読んでもらおう」

 

ついに自分の番が回ってくる。

仕方ない、正直に言おう。席を立つ。

 

「すみません那智さん。教科書を忘れてしまいました」

「む、そうか。だがそれをどうにかするのも大切な事だぞ」

「面目有りません」

「まぁ、無いなら仕方ないか……だれか別の者に」

「はい、那智先生」

 

罪悪感を残しつつ席に座ると、前に座っていた如月さんが手を上げた。

 

「私が涼月ちゃんに教科書を貸すというのはどうでしょうか」

 

独特の喋り方故にか、それとも存在感があるのか皆の視線が如月さんに集中する。

 

「む、それでもいいが如月はどうするんだ」

「睦月ちゃんに見せてもらいます。いいでしょ? 睦月ちゃん」

「え? あ、うん! いいよ!」

「という事だから……」

 

如月さんに教科書を渡してもらう。

しかも丁寧なことに教科書のどこから読むのか印が付けてあった。

 

「あ、ありがとうございます」

「いいのよ。同じクラスの仲間だもの。困ってる時はお互い様」

 

笑みをこぼして再び前を向く彼女。心から感謝してもしきれなかった。

 

 

////////////////

 

 

何とか授業を乗り越えて休み時間。

 

「如月さん、教科書ありがとうございました」

「あら、もういいの?」

「はい。この教科書だけ抜けてたみたいで」

「そうだったの……」

「このお礼は、間宮さんのメニューを一回奢るという事で代えさせてください」

 

このまま恩を売られたままでは後味が悪い。

自己満足の為かもしれないけれど、何らかの形で返したかった。

なので皆が良く行く人気の甘味所間宮で驕ろうと考えたのだ。

 

如月さんは少しだけ考えた後、少し悪戯に笑う。

その裏に何が潜んでいたか、それは到底私の解る範疇ではなかった。

 

 

 

甘味所間宮。

そこでは八つの特盛餡蜜が並んでいた。

 

「「「「「「「「涼月ちゃん(さん)、ご馳走になりまーす(!)」」」」」」」」

 

当然全て私の奢り。

どうしてこうなったかといえば、私の発言なのだが。

 

『一回奢る』

 

その言葉は如月さんの小悪魔的な何かを擽り、最初は睦月さんにこの話をしたらしい。

その時の彼女の解釈が、『一回だから、一緒に頼めば大丈夫よね』と言うもの。

 

そして本来ならばそこで止まる筈だった。でもそうはいかないのが現実。

睦月さんが嬉しさのあまり同じ部屋に居る夕立さんにその事を漏らしてしまい、

夕立さんが暁型の子達と島風さんにまでその話を広げてしまったのだ。

 

『一回』という言葉を自己解釈した如月さんは悪くない。

そのことを漏らしてしまった睦月さんも悪くない。

そのことを勘違いして皆に広げた夕立さんも悪くない。

夕立さんの広めた話に何の疑いも無く信じた暁型の子達や島風さんも悪くない。

 

そう。全ては私が生んだ『語弊』という悪魔が原因なのだ。

 

そして今に至る。

因みに席割りは私が壁際で隣が夕立さん、正面が睦月さんでその隣が如月さん。

別の席では暁さんと響さん、雷さん、電さんが座っていた。

そして別の席では島風さんと連装砲さん達が座っている。

 

「涼月ちゃんは食べないっぽい?」

「そんな……こんな、所で……うぅ……」

 

机に突っ伏してただただ袖を濡らす。懐が寂しい。

お財布と一緒に付いてきた見張員の妖精さんが慰める様に頭を撫でてくれる。

その同情が有りがたいのだがさらに虚しさを悪化させた。

 

皆がおいしそうに食べる中、私は何も食べていない。

皆おいしそうに食べるなぁ……

 

「ほら、涼月ちゃんも一緒に食べようよ! 皆で食べたほうがおいしいよ!」

「そ、そうそう! そう言うときこそ、特盛餡蜜っぽい!」

 

フォローするように二人が声をかけてくれるものの、

それだけの物を頼むだけの資金力が今の私には無い。

先程まで頭を撫でてくれていた見張員の子達も指をくわえて見ている。

 

「はーい。追加注文分の特盛餡蜜、お待たせ~」

 

間宮さんの声を聞いて反射的に起き上ると、私の目の前に特盛餡蜜が置かれた。

おかしい。私の分は頼んでいない。注文が終わって伝票も貰った。

でも私の前には確かに置いてある。伝票に訂正も入っていない。

不思議に思って周りを見ると、如月さんが軽くウィンクを飛ばしてきた。

私は妖精さんと特盛餡蜜を二度と味わえないという気持ちで味わい、完食した。

 

 

 

その帰り道、如月さんと二人で夕焼けに染まった道を歩く。

睦月さんや夕立さん、暁さんや響さん、雷さんや電さんには先に行ってもらった。

島風さんは特盛餡蜜をすぐに食べ終えてどこかに行ってしまった。

 

先を歩く如月さんの背中に向かって口を開く。

 

「今日は本当に」

 

そこまで言ったところで唇に人差し指を当てられた。

そしてその指はそのまま如月さんの口元へ。

 

「涼月ちゃんったらお礼を言ってばっかりで。むしろ私の方が言いたいくらいなのに」

 

逆光の中、悪戯気な笑みを浮かべる如月さん。

お礼を言いたい? 私は彼女に何かしただろうか。

思い当たる節はないか探ってみるも、一向に見つからない。

真剣に悩む私を見て彼女は笑っていた。

 

「何もお礼を言いたいのは、私の事だけじゃないのよ」

 

そう言って如月さんはまた歩き始めた。

見当もつかなかった私だが、その言葉を聞いてひとつだけ心当たりを思い出す。

 

『睦月ちゃんと同じ艦隊なんですってね。私の代わりに面倒を見てくれると嬉しいわ』

 

「もしかして、睦月さんの事ですか」

「ええ。ちゃんと覚えててくれたみたいで嬉しいわ」

 

如月さんの隣に駆け寄る。彼女の顔が良く見える様に。

 

「実は睦月ちゃん、貴女の歓迎会が終わってから私に貴女の事を話に来てね」

 

「初めて戦果を挙げた時の話をする、嬉しそうな自信にあふれた顔は今でも忘れないわ」

 

思い出すように空を見上げる彼女は、嬉しそうながらも儚げな表情をしていた。

彼女が私にお礼を言いたいのは解る。

でも儚げな表情を浮かべるという事は、未練や口惜しさ、悲しさがあるという事。

 

「ただ、『せっかく同じ艦隊にすぐ離れ離れになって寂しい』って言ってたわ」

「そうですか」

「それでも、私から言わせてほしいの。

 あんなに素敵に笑う睦月ちゃんは見たことが無かったから。

 それを作り上げたのは他でもない貴女だから」

 

「だから」

 

そこまで言いかけた如月さんの唇に人差し指で触れる。

そして同じようにその指を私の口元まで持っていった。

 

「まだそのお礼はお預け、という事でいいですか?」

「……どうして?」

「如月さんが睦月さんを支え、私が整えた。後は彼女を補ってあげるだけです。

 ですが残念な事に私がその補うべき穴を増やしたにも関わらず補う事が出来ません。

 この穴を補うには、睦月さんとそれ相応の関わりを持つ方でなければ補えません。

 さて、そんな都合のいいような方はいらっしゃるでしょうか」

 

彼女の前に躍り出て悪戯に笑みを浮かべる。今度は私が日を背にしていた。

それを見た如月さんは少しだけ笑いをこぼす。

 

「涼月ちゃんったら……もう、解ってるくせに」

「ふふふ。特盛餡蜜を奢ってくれたお礼は、これで返したという事でいいですか?」

「ええ♪」

 

彼女の笑顔は、どんな空よりも澄んだ笑顔だった。

 

 

/////////////////////

 

 

それからというもの授業や宿題で解らない事があると、

睦月さんと如月さんが率先して教えてくれた。

夕立さんに聞いてみたこともあったが、

彼女は勉強が苦手らしく一緒に勉強する事になる程だった。

 

「あうう~、解んないっぽい~」

「夕立さん頑張りましょう。これが終われば後はゆっくり出来るんですから」

「でもよりにもよって日曜日にこれはないっぽい~!」

 

日曜日という日であっても睦月さん達の部屋では勉強会がある。

と言っても私がお願いする形で開かれるのである日はかなりまちまちなのだが。

今日はあいにく如月さんは利根さんの走り込みに付き合っているので、

睦月さん一人に教えてもらっている。

夕立さんはかなりだれてしまっているが、肝心の宿題は出来ていない。

私はほとんど終わっているのだが夕立さんは何かと話題を切り替えて誤魔化している為、

ほとんど終わっていない。

 

「ねー睦月ちゃーん、お腹空いた~間宮さんの所行こうよ~」

「ダメって言ったらダメ! この宿題が終わってから!」

 

ずっとこんな調子で一向に進まないのだ。

机にひたすらへばりついたまま動こうともしない夕立ちゃんと、

それを必死に剥がそうとする睦月さん。それを遠くから眺める私。

 

私が三水戦に残っていれば、こんな光景が毎日続いたのかもしれない。

思わず感傷に浸ってしまうがそれは叶わない。

いずれこの三水戦にも新しい駆逐艦の人が配備されて、

本当の意味で三水戦の中に私の居場所は無くなってしまう。

そんな感情を振り払うように部屋を見渡す。今ある光景をしっかり目に焼き付ける為に。

 

睦月さんの机の前の壁には、以前私が書いていた鎮守府の地図が丁寧に張ってあった。

まだ大切にしてくれている様で嬉しい。

元々は私の机だった場所も綺麗に掃除してある。来る駆逐艦の人を歓迎するように。

 

「そう言えば新しく三水戦に配属される駆逐艦の人はいつ頃こちらに?」

「え? 確か日曜日のお昼過ぎぐらいだったかな?」

「って、日曜日って今日っぽい!?」

 

夕立さんの声で三人で同時に時計を見る。針は正午を回ったところ。

 

「ふえっ?! もうこんな時間!?」

「や、やばいっぽい! もう少しで来ちゃうっぽい!?」

「と、とにかく夕立ちゃんは部屋片付けておいて!

 涼月ちゃん、勉強会ここまででいいかな?!」

「は、はい! それより早く睦月さんは迎えに行ってあげてください!」

「ありがとう! 行ってくるね!」

 

そんなドタバタ騒ぎになりながらも今日の勉強会は終わったのだった。

 

 

/////////////////////

 

 

今日は勉強会で一日が潰れると思ったので、他に予定など入れているはずもなく。

演習しようにも利根さんは走り込みを行っているので許可を取りに行こうにも、

追いつける自信がない。

 

他に何か当てがあるというわけでもないので演習場の方を歩くことにしたのだが、

そこで思わぬ人を見つける。

濃い目の灰色の髪をしていて頭の両端で髪をくくっている独特の髪型。

弓道着の胸当てには片仮名で『ス』の文字が書いてある。間違いない瑞鶴さんだ。

彼女は艤装を装備してまで心配そうに遠くの水平線を見つめている。

方角的には最近深海棲艦の動きが活発な海域だったはずだ。何かあったのだろうか。

 

 

「瑞鶴さん」

「何……って確かアンタはあの時の」

「『涼月』です」

「解ってるわよ、あんな事があったんだもん。忘れたくても忘れられないわ」

 

言いたいことを言い終えたのか彼女は視線を戻す。

隣に立って何か見えないか見つめてみるも何も見えない。

 

「なんで隣に立ってんのよ」

「駄目ですか?」

「いや、駄目とは言ってないけど」

 

居てもいい許可も貰ったのでそろそろ本題に入ろう。

彼女が何故ここに居るのか。何故心配そうにあの水平線を見つめるのかを。

話を聞くことでその苦悩が少しでも軽く出来るのであればと思って。

 

「瑞鶴さんはここで何をしてるんですか」

「いいじゃない、私がどこで何してても」

「それに艤装を装備してまで、何が不安なんですか?」

「どうでもいいじゃない! アンタには関係ない事よ! しつこいと爆撃するわよ!」

 

爆撃。トラックでは経験したことは無い。

遭遇戦で稀に敵の偵察機を迎撃する程度で、攻撃機に対して戦闘を行ったことは無い。

 

すると瑞鶴さんは何か思いついたのか不敵な笑みを浮かべる。

 

「そういえばあんた、秋月型って言ってたわよね」

 

確かに二人に自己紹介した時、私は秋月型と口にした。

それが一体何か関係しているのだろうか。

 

「長門秘書艦から聞いたんだけど、

 防空駆逐艦って名前が付くぐらい対空に特化した駆逐艦なんでしょ?」

「ええ、はい」

 

どうやら雲行きが怪しくなってきた。

言動が荒いという事は彼女はあまり良い気分ではないという事。

私の長所の羅列、瑞鶴さんの挑戦的な姿勢。

そしてその話題を切り出してきたのは紛れもない正規空母である瑞鶴さん自身。

 

「だったらこの『五航戦』である私が『防空駆逐艦』の名前に相応しいかどうか、

 直々に判断してあげるわ!」

「お断りします」

 

勢いや情に任せた軽率な行動は隊と言う大きな組織の中では規律を乱す。

私が言えたことではないが、ただ瑞鶴さんは熱くなりすぎている。

一度の失敗でも止まることなく突き進むような、そんな雰囲気。

その失敗の規模にもよるが、その失敗自体が取り返しのつかない結果を生む事もある。

 

そう。私がトラック泊地まで単艦で向かっていた時の様に。

 

 

Side 瑞鶴

 

 

「それでは失礼します」

 

軽く頭を下げて私から離れていく涼月。

その後ろ姿が、あの一航戦の『加賀』さんに似ていて。

 

「へぇ、そう。あんたはそうやって逃げるのね。

 言いたいことだけ言って用が無くなったらいなくなる」

 

こいつは第三水雷戦隊に編入してすぐに戦果を挙げ、今は第二支援艦隊に居るらしい。

いわゆる『天才』。でもこのタイプはタチの悪いタイプの奴だ。

私達の様な才能のない者がどれだけ努力しても、素質で物を言わせ鼻で笑っている様な。

どれだけこちらが頑張っても、たった一言で一蹴する様な。

 

「自分の都合が悪くなった時もそう! 適当な理由を付けていつも逃げてばっかり!」

 

日頃の鬱憤を込めてぶちまける。

今言わないと、言えるタイミングを見失ってしまう。

なによりも私のプライドがそれを許さなかった。

 

いつの間にか足を止めている涼月。

言ってやった。この『才能を鼻にかけた天才』に全部。

 

「……わかりました」

 

ゆっくりと振り返る彼女。重なる視線。

 

「秋月型の本当の力、お見せしましょう」

 

駆逐艦である筈の彼女の眼光は、あの加賀さんを思わせた。




叢雲改二おめでとー!
4/10のアップデートで叢雲が改二になりました。
因みに私は割と関係ないのでスルーです。

初期艦叢雲提督の皆さんおめでとうございます!
……しかし、随分と面影無くなっちゃったなぁ……

今回は特に自問自答コーナーは有りませんが、この小説の路線について。

如月の誘いでテンション上がったり、夕立がその事を広めるというのは第二話基準。
瑞鶴の性格は主に第七話を基準にしてます。
また、吹雪がやってくる裏ではこんなことしてましたよー、って感じの描写入れてます。
夕立が勉強しないのはやはり第二話基準。

さて、次の話は意外な人物が現れます。
まだ書き貯めがあるので、アニメ第一話終了までの話は毎日投稿したいと思います。
こんな見切り発車ですが、今後ともよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話『幻獣達の宴』

瑞鶴との防空射撃演習回。戦闘描写難しすぎ(ry
「いつも平気でやってる事だろうが! 今更御託を並べるな!」


演習用の矢を番え、放つ。放たれた矢は炎を纏い艦戦へと姿を変える。

私の自慢の子達だ。防空駆逐艦と言えどそう簡単に撃墜するなんてことは出来ない。

 

とうの涼月は冷酷な目をしていた。怒っているわけでもないが優しさも感じ取れない。

ただ目に入った物を狩る獣のような眼。そして何かを背負っているようなその風格。

 

三機の艦戦が涼月の上を取る。普通なら射角の関係で急に狙いは付けられない。

そのままこちらが狙いを定めて打ち込めば!

機銃に撃たれ戸惑う涼月の姿が容易に想像できる。

 

でもそれは3つの爆音で打ち砕かれる。炎を上げて落ちていく艦戦達。

 

「なんで、あの角度から狙えるはずが……狙えても次発が間に合うわけ……」

「長10cm連装高角砲の射角と速射性」

 

「そして何よりも、回避運動もとろうともせず突っ込んで来る艦戦」

 

「これでは私の様な砲撃な回避はともかく、

 三式弾の様な空中で散布される特殊弾に対してどういった対処をするのですか」

「っ! 御託を並べるのも一流ってわけ!? いいわ、次!!」

 

次は艦爆。更に角度のきつい急降下爆撃があればこんなやつ!

しかしまたも撃墜されてしまう。それも急降下爆撃すら出来ないままに。

涼月自身がこちらの艦載機を捉えるのが早すぎる。こんなのじゃ攻撃なんてできない。

どうにかして一糸報わないと、それこそ私の正規空母としてのプライドが許さない。

 

艦戦を展開してまとわりつかせた。これなら狙いも一点に絞り辛いし気も引ける。

そこで艦攻を使う。不意を突いた遠距離からの魚雷で確実に当てる。

涼月はこちらの思惑通りにまとわりつく艦戦に混乱しながらも対空防御を展開していた。

どれだけ捕捉するのが早くても狙いが付けられなければ意味がない。

 

艦攻の矢を番え放つ。すぐに魚雷を切り離させてその場から退避。

こちらの損害を減らす為にも、気付かれない為にもすぐに着艦させた。

 

「出し惜しみは、不要です!!」

 

声に合わせて涼月独特の腰回りを覆う艤装から更に別の発火炎が見える。

あれは……機銃!? ちょっと、どれだけ防空火器揃ってるのあいつ!

高角砲の死角を丁度補うように張られる予想外の弾幕に、

まとわりつく様に飛んでいた艦戦達は火を上げる。

 

でもまだこちらには切り札がある。さっき放った魚雷が確実に彼女の背後を狙っていた。

いくら小回りの利く駆逐艦であっても、旋回してから気付いてももう遅い。

それに艦載機とは違ってこちらは水中。上にばかり気が向いているのに気付く訳がない。

 

「アウトレンジで、決めたいわね!」

 

勝利を確信する。

 

でもそれは叶わなかった。

まるで背中に目があるかのように大きく旋回し、全速力でその場から離脱。

しかもご丁寧に機銃が魚雷を全て打ち抜いて、大きな水柱を上げた。

 

「どうして……あの奇襲をどうやって……」

 

もしかしてさっき口から漏れた言葉を聞いて何かあると思ったのだろうか。

でもそれではその後の魚雷の処理を出来るわけがない。

 

負けた。完全に打ち負かされた。

五航戦なんて言っておきながら、新人の駆逐艦に機銃の一発も当てられずに負けた。

こんなんじゃ、私の方が名折れじゃない!!

 

「瑞鶴さん」

「何よ! 私を笑いに来たっていうの!」

 

その場で項垂れていると聞きたくもない涼月の声がする。

負けた私を見るだけじゃ飽きたらず、直々に笑いに来たのか。

 

「違います。顔を上げてください」

「だったらなんだって言うのよ!!」

 

顔を上げて睨みつける。余計に溜まった鬱憤と自分の未熟さを込めて。

そこにはここに居た私に話しかけてきた時の、いつもの涼月が居た。

それを見て余計に腹が立つ。いつもの『加賀』さんの様なその雰囲気に。

 

「アンタみたいな『天才』が、私は大っ嫌いなのよ!」

「私が天才、ですか」

「そうよ! 才能を持て余して、才能の無い私達を嘲笑うような天才がね!」

「私は天才ではありませんよ」

 

しゃがんで視線を合わせてくる。同情しているのだろう。

でも私にそんなうわべだけの同情はいらない。

 

「何? 天才じゃない? じゃあ一体何だって言うの!」

「ただの道化師です」

「……は?」

 

予想外の言葉に言葉を失う。

道化師? 滑稽なことでもするの?

でもあの帰国子女みたいな変な様子もないし、二航戦の人達みたいに愉快でも無い。

さっきまで思っていたように『加賀』さんの様なエースの風格をしている。

涼月は、そんな奴だ。

 

「私は皆の前ではお面をかぶり、さし当りのない関係を作る。

 でもその真意は中身が弱くて何かあるとすぐに引っ込んでしまう臆病者です」

 

こいつも、私と同じなんだ。

道化師なんて言ってるけどそうじゃない。そうだとしたら私だって道化師だ。

そう思うと急に親近感がわいてきた。

 

「ちょっと私の話、長くなるけど、聞いてくれないかしら?」

「はい。大丈夫ですよ」

 

涼月の同意を貰って、私は座り込んで話し始めた。

 

「私ね。『五航戦』なんて言ってるけど『一航戦』の人達にも『二航戦』の人達にも、

 随分練度が劣ってるのよ。だからここに配属になってからも自分なりの努力はしてた」

 

「でも結局は勝てなくて、前線には出してもらえなくて。

 一航戦の加賀って人には散々言われて。努力だけじゃどうにもならないって思って」

 

「だから何か教えてもらおうと思っても加賀さんにはぶつかっちゃうし、

 赤城さんに教えてもらおうにも結局加賀さんが付いてくるし」

 

「翔鶴姉ぇはいつも居てくれるけど、優しすぎて逆に言い出せないって言うか」

 

「そんな時にあんたが此処に配属されて、偶然あの時出会って、

 こいつも加賀さんみたいな嫌味な奴なんだなって思った」

 

「三水雷戦隊で戦果を挙げたって聞いて、すぐに第二支援艦隊に転属になって、

 噂じゃ期待の新型駆逐艦とか言われてて、それで無性に腹が立って仕方なかった」

 

「当然よね。私が努力してやっと『五航戦』になったのに実戦に使ってもらえなくて、

 突然入って来た駆逐艦がいきなり戦果を挙げて栄転だなんて、怒りたくもなるわ」

 

「皆の前ではいい顔して、裏では本当の事を言えない臆病者なのよ。私。

 あんたの言う、道化師と同じ」

 

「ねぇ、なんであんたはそんなに気軽なのよ。皆ではお面被るって言っておきながら」

 

どうしても不思議に思ってしまう。

ずっしりとした重圧を背負っているわけでもない。

そう見せ無い様にしている、というわけでもなさそうだった。

 

「そうですね。私の周りには素敵な人達がいて、お面を被る必要性が少なくなったから、

 とでも言うべきでしょうか」

「……それって、もう道化師卒業してるわよね」

「そうともいいますね」

「うがあああああ! アンタに話した私が馬鹿だった!」

 

私のバカバカバカ! なんでこんな奴に解ってもらえると勘違いして話したの!

でも言ってしまったものは仕方ないし!

 

そうだ! 話題を切り替えよう! そうすればとりあえず話をそらせることも出来るし!

こいつが魚雷をすんなり回避したみたいに自然に……これだ!

我ながら素晴らしい方向転換。私が疑問に思って聞けば絶対に応えてくれるはず!

まだ会話の主導権は私にある! 先手必勝!

 

「そ、そういえば! あの時なんで魚雷を避けられたのよ!」

「ああ、それは……それはこの子達のお蔭です」

 

内心話題をそらすことに成功して大喜びしていると、

涼月の艤装のマストから二人の妖精さんがこちらに向かって敬礼していた。

 

「妖精さんがこんなところで何を……」

「この子達が見張りをして、教えてくれたんです。

 泊地の方の演習では砲撃だけでなく雷撃の命中の判断もお願いしていて、

 その経験から背後の雷跡を発見して回避出来たんですよ」

 

つまりは泊地で演習をしていたから出来た芸当であって、天才でも何でもない。

 

「それに本格的な対空戦闘を行ったのも今回が初めてですし」

「え、じゃあ今回勝てたのも……」

「言った通りです。『回避運動もとろうともせず突っ込んで来る』からと」

「………」

 

結局私が負けたのは私の実力不足、ではなく変に熱くなっていたからであって、

冷静になっていれば普通に勝っていたかもしれない物だった。

 

 

Side 涼月

 

 

先程とは別の意味で項垂れる瑞鶴さん。どうやら熱が抜けたのだろう。

本当の意味で落ち着いたところで私は聞きそびれた事を聴くことにした。

 

「ところで瑞鶴さん、ここで何をしてたんですか?」

「まぁ、勝負には負けちゃったし言ってもいいかな。それは……」

 

瑞鶴さんが何か言いかけたところで、見張員の子達が指を指す。

その先には私の知らない別の艦隊の人達の姿が。

 

「あ! 翔鶴姉ぇ! おーい!!」

 

その中から瑞鶴さんは翔鶴さんの名前を呼ぶ。

遠くから見える人影の中に、一人だけその声に応え腕を振っていた。

なるほど、翔鶴さんは別艦隊で出撃していたのか。

それを瑞鶴さんは心配して、艤装を装備してまでここで待っていたのだ。

 

瑞鶴さんはその艦隊に向かって水上を駆ける。

私は先程の疲れもあって艤装を戻しにその場から離れるのだった。

 

 

 

「今回は貴方達がMVPですよ。ありがとうございます」

 

工廠で艤装を外してマストを外してあげる。妖精さんは相変わらず肩乗り状態だ。

トラックに居た時よりもこの子達の面倒をよく見ている気がする。

二人に聞いた話だが、トラックに居た時は明石さんが皆の面倒を見ていたらしい。

 

実を言えば艦戦・艦爆機共に発見して機動をよみ教えてくれたのはこの子達。

その角度に発射すると当たった、まぐれ当たりでしかない。機銃が命中したのも同じだ。

 

さて、程よく疲れたから間宮さんの所にでも行こう。

そう思って工廠から出ると、立ちはだかる様に二人の女性が待っていた。

 

一人は瑠璃色の髪を瑞鶴さんと同じように頭の両端で止めている髪型、

緑色の弓道着を着ていて胸当ては付けていない。

 

もう一人は茶髪のおかっぱの様な髪型だが前髪は揃えず流している。

橙色の弓道着を着ていて、同じように胸当ては付けていなかった

 

「見てたよ新兵さん。良い腕してるねぇ~」

「あの瑞鶴の奇襲を持っても一発も当たらないなんて、流石の私も関心しちゃうな~」

「あの、貴女方は」

 

思い思いの事を口にする彼女達であったが、私は生憎二人を知らない。

すると彼女達は待ってましたと言わんばかりに敬礼する。

 

「第一機動部隊所属、『二航戦』の『蒼龍』です」

「同じく第一機動部隊所属、『二航戦』の『飛龍』です」

「秋月型駆逐艦、三番艦『涼月』です」

 

『二航戦』。瑞鶴さんの言っていた航空部隊の名称だ。

そして瑞鶴さん自身が、自分よりも練度が高いとも言っていた。

蒼龍と名乗った女性がさっき言っていたことを思い出す。『見てたよ新兵さん』と。

つまりこの二人は先ほどの瑞鶴さんと私の演習を見ていたという事になる。

 

「全く被弾してないって言うのは凄いけど、

 見ててやっぱりちょっと危なっかしいかなぁって所があったんだよね」

「えっ、あの、私実は本格的な対空射撃をしたことが無くて……」

「なるほどね。それなら話が早いわ」

 

ぽんと肩に手を置かれる。突然の事で驚いてしまったが、悪い気はしない。

なんとなく舞風さんの様な、那珂さんの様な同じ雰囲気がしたから。

 

「ねぇ。もっと防空射撃演習の経験、積んでみたいと思わない?」

「今なら『二航戦』の私達が、その練度向上の為に付き合ってあげるわよ!」

 

笑顔で語りかけてくる二人。

防空射撃演習。おそらく私と瑞鶴さんがやっていたあの演習の名前だろう。

確かに私は防空駆逐艦と言う名前だが、そう言った経験がほとんどない。

 

『呉は航空戦力に力を入れていると聞く。

 いち早く制空権確保する為にも、防空駆逐艦を配備するのは何らおかしい事ではない』

 

磯風さんの言葉を思い出す。

制空権の確保は空母を含めた艦隊戦に置いて、ほぼ必須ともいえるもの。

敵空母が現れた時、必ず私は必要とされるだろう。

それは即ち、守る為に必要な事。大和さんを守る為にも必要な事。

 

「はい! 是非よろしくお願いします!」

「うん! いい返事!」

「それじゃあ工廠に居るんだし早速……」

 

その時、警報が鳴り響いた。

 




瑞鶴さんェ……そしてアニメではほとんど出番のなかった『二航戦』の登場。
割とこの人達日常で何してるか描かれてないので、フランクな性格を割と乱用。

今回のネタ解説(?)コーナー(自問自答コーナー代理)

瑞鶴の艦載機の回避運動に対しての涼月の台詞(そして何よりも ~ 対処をするのですか)
遠回しに瑞鶴の『七面鳥撃ち』を言ってる。VT信管なんて物ないので三式弾で代用。

瑞鶴「アウトレンジで、決めたいわね!」
ゲーム内の攻撃時の台詞です。割と有名。

蒼龍飛龍の対面時の台詞
主任「あははははは、見てたよルーキー! 中々やるじゃない?
   ちょっと時間かかったけどねぇ~。まぁ丁度いい腕かな。ゴミ虫の相手にはさぁ」
(CV:藤原啓治)
ACVの主任の台詞。そのままだと真面目にクズ路線にまっしぐらするのでやめました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話『空を征く矢』

更新が遅れて申し訳ないです。

第一話、後半戦開始。
長門さんの台詞の言い回しがアニメと違っていますが、
原作からの大幅引用を避けるために行っている処置です。
ご了承ください。



蒼龍さんと飛龍さんの約束はまた今度という事になり、私達は出撃場所に向かう。

そこでは既に第二支援艦隊の人達が待っていた。

 

「すみません遅くなりました!」

「まったく、こんな時に送れるなんてなってないわ!」

 

暁さんにしぐさで謝りながらも夕張さんの横に入る。

 

「何してたの?」

「少し二航戦の方々とお話を」

「へぇ、もうそんなに顔が広くなるなんてやるじゃない」

「たまたまですよ」

『主力の第一機動部隊。第二支援艦隊艦隊。第三水雷戦隊。

 稼働可能な全艦隊の出撃準備、完了です』

 

聴いたことのない声がここに揃っている艦隊を読み上げた。

それが今から大きな何かが始まるのだと、私の中で予感させる。

私が泊地に居た時とは比にならない程の、何かが。

 

『秘書艦の長門だ』

 

秘書艦である長門さん直々のお達しだ。どうやら本格的になってきた。

 

『第四艦隊が先程敵深海棲艦と交戦に入り、敵棲地を発見した。

 この鎮守府正面海域を制圧している深海棲艦の本拠地であるのは間違いない。

 これより此処を強襲する!』

 

強襲という言葉を聞いて周りがざわめく。

この鎮守府正面海域が制圧されていることは私自身も知っていた。

故に遠回りに陸路を使ってこちらに配属されたのだ。

しかし先程……本当に仕事が早い。優秀な秘書艦なのだと理解する。

 

「oh~! 鼻息が鳴るネェ!」

「お姉さま、それ使い方間違ってる……」

 

金剛さんの間違ったことわざに比叡さんが優しくフォローする。

正確には腕が鳴るであるのだが。

戦艦だけに、やはり艦隊戦では燃えるのだろうか。

 

『布陣は、一航戦、二航戦達を主力とした第一機動部隊によって、

 制空権の確保及び空からの強襲を行う。

 第二支援艦隊はその援護と殲滅。第三水雷戦隊はこれらの主力の前衛として

 先陣を切り道を作る。いいな?』

 

私達はあくまで第一機動部隊の援護。

空母を主力とした艦隊に掛かる負荷を少しでも軽くすることにある。

蒼龍さんと飛龍さんに視線を送ると、期待の眼差しで返された。

それを軽くうなずくことで返す。

 

『本作戦の目標は、深海棲艦の脅威を排除しこの鎮守府正面海域を解放することにある』

 

大和さんの言っていた『大規模反攻作戦』。

それを実行に移す為の下地作り、いや、もっと基本的な所という事だろう。

 

『各自、持てる力を存分に発揮して事に当たってほしい。慢心は、禁物だ』

「誰に行ってるのかしら」

「Хорошо」

『では、第三水雷戦隊! 主力に先行して進発! 暁の水平線に勝利を刻むのだ!』

 

長門秘書艦からのお達しはこれで終わり。

第三水雷戦隊が先行するためにエレベーターに乗り込んだ。

 

「涼月ちゃん、頑張ってね!」

 

不意に声を駆けられる。睦月さんの声だ。

 

「はい、第三水雷戦隊の皆さんも頑張って下さい!」

 

睦月さんだけじゃない。

以前戦った皆の意味を込めて、そして新しい駆逐艦の人も含めた意味を込めて、

私は応援するのだった。

 

 

 

第三水雷戦隊が出撃してからエレベーターに乗り込み、カタパルトまで降りる。

慣れない光景に思えばここに配属されて、まだ二回しか出撃をしていないことに気付く。

 

『第二支援艦隊、出撃してください』

「私達の出番ネ! Follow me! 皆さん、ついて来て下さいネー!」

 

威勢の良い金剛さんの声で気を引き締める。

何と言ってもこれから本格的な戦闘が始まるのだから。

 

「秋月型三番艦『涼月』。参ります!」

 

艤装を全て装備してカタパルトから射出される。

背後から鎖に繋がれた雷装が勢いよく背中の艤装のジョイントにはめ込まれ、

同じく鎖に繋がれた長10cm砲を右手でキャッチする。

 

陣形は単縦陣。夕張さんの後ろに付いていく。

 

「皆さんちゃんとついて来れてますカー?」

 

金剛さんが気にかけてくれる。

その心意気に感謝にしながらも周囲の警戒を行った。

今は魚雷を装備するために熟練見張員の増設されたマストを撤去している。

 

「お姉さま、水上電探に艦あり! 二時の方向です!」

 

比叡さんの声で二時の方向を見ると大量の駆逐艦が群れており、

遠くで見える第三水雷戦隊が既に交戦状態に入っていた。反射的に長10cm砲を構える。

 

「行きますよ皆サン! 全砲門! Fire!」

 

合図と共に轟音が響く。ここで出来る限り多くの敵を殲滅する事。

それがまず私達に与えられた任。

速射性能を生かし、敵駆逐艦の砲撃の間を縫うように撃破していく。

体勢を崩した相手には容赦なく魚雷を発射し、確実に沈めた。

 

「涼月危ない!」

 

夕張さんが声を張り上げる。

何事かと思った直後、敵の放った弾が艤装の右舷に掠り爆発する。

大きな波間に潜んでいて見つけられなかったらしい。

逆に言えばそのお蔭で狙いがそれたともとれる。

 

損害箇所の確認、右舷に被弾、損傷軽微ながらも右舷の機銃が使用不可。

先程狙ってきた駆逐艦にお返しと言わんばかりの砲撃と雷撃を叩き込んだ。

 

『第二支援艦隊、間もなく敵棲地です。十分警戒して下さい』

 

無線で敵棲地に近いことを教えられる。それを聞き消耗した砲身を入れ替えておく。

敵棲地は鈍色の雲で覆われており、辺り一面がまるで嵐の日の様に暗くなった。

 

「Burning Love!!」

「主砲、斉射、始め!」

「攻撃するからね!」

「さて、やりますか」

「さぁ!色々試してみても、いいかしら!」

 

皆が思い思いの言葉を口にしながら砲撃を行う。

金剛さんと比叡さんが重巡洋艦や戦艦を狙っており、私達は随伴艦の駆逐艦を殲滅する。

私には私の出来ることをする。それが駆逐艦としての私の役目。

 

「吹雪ちゃん!」

 

睦月さんの声叫びにも似た声が聞こえた。

その方を見ると新しく入って来た駆逐艦の人が、

今まさに敵駆逐艦に襲われようとしている所だった。

 

「っ!」

「待って! こんな距離から撃って誤射したらどうするの!」

 

長10cm砲を構えるも夕張さんに制止される。

確かに誤射の可能性もある。誤射すれば、それこそその後襲われて轟沈は確実。

 

『私も、実はを言えば怖かったんです。あの時涼月さんを誤射してしまっていたら、と』

 

脳裏に大和さんの声が過る。そうだ、彼女だって怖かった。

でも彼女は撃った。勇気を振り絞って。だから私も主砲を構える。守る為に。

 

敵駆逐艦が海上から飛び出し、空中へと身を投げ出す。

深海棲艦が身を投げ出したその上昇と下降の中間。勢いが最も弱くなる所。

その一瞬に全てを賭ける。

 

「今ぁ!」

 

私の長10cm砲が火を噴き、敵駆逐艦の右舷が爆発した。

体勢を崩しそのまま水面に浮かぶ。何が起こったのか解らない顔をする、駆逐艦の人。

こちらの存在に気づき、視線が合う。その顔を見た時守る事が出来たと確信した。

 

「吹雪ちゃん後ろ!」

 

今度は夕立さんの声。

助けた彼女の後ろで撃ち抜いた敵駆逐艦が軋みながらも動いていた。

一矢報わんとその大口が開かれ中から砲身が伸びる。

またも砲を向けるも今度は角度が悪く、彼女が壁になっていた。

駄目だ、ここからでは狙えない。諦めて砲を下ろす。

 

「まだ諦めてはいけません!!」

 

背後から声と共に艦載機が翔け抜ける。

たった一機の艦戦が私達を追い抜き、敵駆逐艦に対して機銃を掃射。

二度目の爆発と共に今度こそ敵駆逐艦は沈黙した。

 

独特の駆動音とプロペラの音。

何事かと思い空を見上げると多数の艦載機が編隊を組んで空を翔けていた。

 

「第三水雷戦隊、ご苦労様でした。……下がってください。

 ここからは第一航空戦隊が参ります!」

「ここは、譲れません」

 

その声は第一機動部隊の旗艦と思わしき女性と、その隣を行く女性のものであった。

第一航空戦隊。『一航戦』の二人と理解する。

 

彼女達は蒼龍さん、飛龍さんと共に矢を番え放つ。

その矢は炎を纏いて艦載機と成り敵へと襲い掛かった。

幾多の爆撃や機銃掃射による敵駆逐艦や重巡洋艦、戦艦までもが火の海に包まれる。

 

その中心にいるのは白い髪をなびかせ、単装砲と言えど大口径の主砲を持つ深海棲艦。

 

深海棲艦は異形の敵であったが重巡洋艦や戦艦ともなると人の姿を取り始める。

それでもまだ人間らしさと言うよりも、異形の敵と称した方が合っていた。

だが目の前に居る深海棲艦は、むしろ艦娘と錯覚するまでに人の姿を模している。

異形の深海棲艦しか見た事のない私は寧ろあの様な深海棲艦程、歪な物に見えた。

 

謎の深海棲艦はその大口径の主砲を動かし、空を覆う艦載機を迎撃し始める。

 

「主砲、斉射!」

「全砲門、Fireeee!!」

 

その隙をついて金剛さんと比叡さんが主砲を斉射。

大きな水柱と爆炎が上がるも、弾着する直前で一瞬光る障壁の様なものが見えた。

爆炎と煙が収まり、その中から姿を現したのは無傷のままの深海棲艦。

まとわりつく様に居る球の様なものの口が開き、機銃が弾幕を作る。

 

私はそれが酷く不気味に思えた。まるで艦娘の様な姿を取る『彼女』が。

そう思ったと同時に私は『彼女』に向かって魚雷を発射していた。

 

私の放った魚雷と背後からの艦攻が放った魚雷が命中し、障壁が砕け散る。

『彼女』の上空を翔ける艦爆が爆弾を投下され、巨大なキノコ雲を上げた。

その時吹いた一陣の風は一帯を覆っていた鈍色の雲を吹き飛ばし、太陽の光が差し込む。

彼女を守る様に展開していた深海棲艦達は水平線の彼方へと去っていった。

 

それが意味するのは、呉鎮守府の正面海域解放。

そして何よりも私達の勝利を意味していた。

 

「全艦健在。良かった……」

 

そう言えば『彼女』はどうなったのだろうか。

あれだけ大きな爆発をして、もう消滅してしまったのだろうか。

あれだけ歪に見えた『彼女』がどうしても気になって仕方が無かった。

 

『彼女』が居た小さな浮島。帰還をし始めた皆の目を盗んで近付く。

 

そこには蒼い血を流しながら体の左半分を失っている『彼女』の姿があった。

あの立派だった大口径の主砲も拉げてしまい、

機銃を放っていた丸い球の様なものは全て失われていた。

思わず嘔吐きかけるも必死に左手を口に当てて耐える。

どうしてこんな歪な敵にこんな感情を覚えるのか解らない。

 

彼女は右手をただひたすらに空へと伸ばす。掴めない物を掴もうとして。

 

「深海棲艦。水底へ帰りなさい」

 

長10cm砲を構える。これ以上苦しむ彼女は見たくない。

それならば、いっそこの手で。

 

『ワタシモ……』

「えっ」

 

誰の声か解らない。無線ではない。

 

『モドレルノカ?』

 

その言葉を聞いて、何かが拒絶する。本能的に耳を塞ぐ。これは聞いてはいけない。

それでも声が聞こえてくる。頭に直接聞こえてくる。

 

『アノアオイウミノウエニ……』

「う、うわああああああああああ!!!」

 

私は残っていた魚雷を全て叩き込む。幾度と上がる水柱。

 

その隙間から見えた『彼女』の顔は、笑顔だった。

 

 

////////////////////////////

 

 

何とか第二支援艦隊に合流し、鎮守府に帰って入渠する。

遅れた理由は「周囲を警戒していたら遅くなった」と言っておいた。

 

湯船に浸かると全身を温かさが包み込み心身共に癒してくれる。

そう、心身共に。

 

「心……」

 

深海棲艦にも心があるのだろうか。

 

『アノアオイウミノウエニ……』

 

彼女が最後に言った言葉。それは心が無ければ言えない言葉だと思う。

 

と、すぐそばに気配を感じる。

そこには湯船につかっていた響さんがゆっくり隣に移動してきた。

それも顔下半分を浸からせたままスムーズに近づいてきたので、

まるで深海棲艦の駆逐艦の様だった。

 

「艦隊に合流してから様子がおかしかったね。警備中に何かあったのかい」

「何もなかった、と言えば嘘になりますね。少しだけ気がかりなことがありまして」

「私で良ければ相談に乗るよ」

「ありがとうございます。では少しだけ」

 

私は誰にも聞こえないように響さんの耳元で囁くように口にする。

『深海棲艦に心はあるのだろうか』と。

 

「あるんじゃないかな」

 

至極当然の様に返される。

 

「そもそも互いの思惑が一致しなければ、艦隊を編成することすら出来ないと思うよ」

「……それもそうですね。深く考えすぎてしまいました」

「それにそれを知る為にも、私達は戦っているともいえる」

 

そう言って響さんは遠くの方でふて腐れている暁さんの所に戻って行った。

そうだ。解らないなら今は悩んでいても仕方がない。

このことに囚われて保守的になるよりも、未来を思って進歩的になった方がいい。

 

そう思って私は顔を上げ、引き締める様に頬を叩いたのであった。

 

 




攻撃時ボイスは大半ゲームから。
なお乱用すると今後のネタに困るという事を18話ぐらいで理解した模様。
(現在21話執筆中)

アニメのあのボスの名前は『泊地棲姫』という艦これの最初期イベントのラスボスだそうです。
アニメ設定上、彼女達の名前は知らない事を前提で進めるので、
ゲームをやってる人からするとじれったいかもしれませんがご了承ください。
(でも普通にヲ級とか言ってるんだよねどこで知ったんだか……(第七話参照))

次回からは第二話の話になるので更新が一週間おきにチェンジします。
書き貯めは真面目に大事。モチベが危機的状況になっても更新を止めない為の鉄則。

簡易的な自問自答コーナー

Q.赤城さんちょっと遅れてないです?
A.真のヒーローは遅れてやってくる。オリ主人公物なのでオリ展開は仕方ないです。
 吹雪が壁になってる状況でも駆逐艦攻撃できる時点で相当な腕だと思うけども。

Q.泊地棲姫の台詞ってなんぞ?
A.ゲームで初めて喋った敵として有名。その中でも沈む時? ぐらいのセリフです。
 CV:野水伊織。どっちかというと翔鶴さん。
 この作品にどうかかわるかは今後の展開次第。
 あともうちょっとスポット当ててもいいんじゃないかなと思った。

Q.この響何者。
A.多分悲しみ背負ってる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話『魂の拠り所』

大分書き貯めが出来上がってきた(時間的にはアニメ10話中半位まで)ので、
日付変更辺りでの更新になります。

第二話開始前のちょっと前のお話になります。
なので涼月メインはまだちょっと続くのじゃよ……


鎮守府正面海域が解放された翌日。月曜日なのでいつも通り教室に向かう。

 

「おはようございます」

「「「おはよう、涼月ちゃん」」」

 

睦月さん、夕立さん、如月さんが返してくれる。

暁さんと響さんは真っ先に奥にいる雷さんと電さんに挨拶をしていた。

 

「ねぇ涼月ちゃん、今日が何の日か知ってる?」

「え? 誰かの誕生日ですか?」

「残念! 不正解~」

 

妙に嬉しそうな睦月さんと夕立さん。

如月さんも嬉しそうにうっとりとしているのだが、

どちらかと言うと嬉しそうな睦月さんを眺めて嬉しそうにしている。

 

「ふぁ……」

 

不意にあくびをした如月さん。寝不足なのだろうか。

 

「あの、如月さん寝不足なんですか?」

「あらごめんなさい。私としたことが……」

 

心配しないでといつものように笑う彼女を見て、

睦月さんの出した問題に答える事にする。

眠そうにしている如月さんは関係ないだろう。ということは先の二人に関係のある事だ。

 

辺りを見渡すと夕立さんの席の後ろに名前が書かれた名札が立っていた。

 

「駆逐艦、吹雪」

「あー! 答えを見るなんてずるいっぽい!」

 

視線を遮るように立つ夕立さんだが、見えてしまった物は仕方ない。

 

「ばれてしまったなら仕方ないですねぇ。答えをこの睦月が教えてあげましょう!」

 

悪戯に笑みを浮かべる睦月さん。あまりの嬉しさに我を失っているのか、

これが本当の彼女なのか私にはわからない。

 

「実は先日この鎮守府に配属された吹雪ちゃんが、今日から早速転入してくるんだよ!」

 

目を輝かせながら語る睦月さん。

私がこのクラスに転入してくる時も、もしかしたらこんな様子だったのかもしれない。

 

「皆さん、席に座ってください」

 

今日の一限目の授業は羽黒さんの授業だ。でもその前に吹雪さんの事がある。

 

「今日は皆さんに新しい仲間を紹介します。入ってきてください」

 

そう言われて扉を開けて入って来たのは黒い短髪の少女。

もみあげはぎりぎり肩まで届くぐらい。平凡な顔つき。

でも私は覚えている。あの時一度だけ守ったこの人の顔を。

最終的に守ったのは私ではなく一航戦の人だったが、それでも守ったことに変わりない。

 

手と足が同時に出ている。緊張しているのだろう。

 

「そ、それでは自己紹介をお願いします」

「はい! 特型駆逐艦、『吹雪』であります! よろしくお願いします!」

 

敬礼する彼女。そこまで固くなる必要はないと思うのだけれど。

しかしそんなことよりその視線がずっと私の方を向いている事の方が気になった。

 

「吹雪さんは涼月さんと同じく戦力強化の為に配属された艦娘なんです。

 色々解らない事も多いだろうから、皆教えてあげてくださいね」

 

「では如月さんから自己紹介をお願いします」

 

如月さんの次は私の番だ。

何を言おうか考えてなかったので何を話そうか考える。

 

トラック泊地の事は言っても仕方がない。

第三水雷戦隊の事を言おうと思っても彼女自身が居る艦隊の話をしても仕方ない。

第二支援艦隊の話をしても昨日の助けたことぐらいしかなく、

そのまま言ってしまうと自己紹介という空気ではなくなってしまう。

 

「では次に涼月さんに……」

「あ、はい」

 

とりあえず思いついたことを言おう。差し当たらない程度の事を。

 

「秋月型駆逐艦、三番艦の『涼月』です。まだこちらに配属されて日が経ってないので、

 色々とご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします! あ、後!」

 

席につこうとした時、思い出したかのように吹雪さんが声を上げる。

 

「あの時はありがとうございました!」

「いえ。お礼を言われるほどの事はしていませんよ。私は私の出来る事をしただけです」

 

頭を下げる彼女。それを見て何か助言しておいた。

それで彼女の支えになるので有れば。

 

 

///////////////////

 

 

光陰矢の如しとはよく言ったものでもう放課後。

教科書をしまっていると睦月さんが声をかけてきた。

 

「ねぇ涼月ちゃん、今からクラスの皆で吹雪ちゃんの歓迎会するんだけどどうかな?」

「そうですね、今日は何も「涼月ー」」

 

何もないといいかけた時に教室の入り口で私の名前を呼ぶ声が。

そこから顔を覗かせたのは飛龍さんだった。

思わぬ来客に私だけでなくクラス全員が驚く。

 

「ひ、飛龍さん!?」

「飛龍さんってあの『二航戦』の!?」

「今涼月さんの名前を呼んだのです!」

 

私は全速力で教室から出て扉を閉める。

 

「どうしたんですか飛龍さん、突然こんなところまでやってくるなんて」

「ん? 何か不味い事でもあった?」

「いえ、私は問題ないんですけど……」

 

目を横にやると廊下側の教室の窓に張り付くようにこちらを見ている、

クラスの皆の顔があった。

その異様ともいえる光景に飛龍さんは思わず苦笑い。

 

「ああ~、なるほどね。次からは外で待ってるよ」

「そうして頂けるとありがたいです。で、何のお話ですか?」

「そうそう、今日何か予定入っている?」

 

恐らくこの前お願いして有耶無耶になってしまった演習の話だろう。

言ってしまえばこちらが先と言えば先。睦月さんには申し訳ないが、断ろう。

 

「すぐに向かいますので、先に行って頂けますか」

「解った。それじゃ待ってるね」

 

飛龍さんと別れて荷物を取りに教室に戻る。

扉を開けた直後、迫りくる皆の顔が有った。

 

「「「「涼月ちゃん!!」」」」

「は、はいっ!」

 

その後暫く飛龍さんとはどういう関係なのか、どうして知り合いなのか、

そもそもどこで知り合ったのか、何故そこまでの関係なのか等々、

夕張さんに明石さんの事を話した時の如き質問攻めに遭うのであった。

 

 

Side 吹雪

 

 

「「「「「「「「「かんぱーい(!)」」」」」」」」

 

甘味所間宮で皆と乾杯する。今日は貸し切りらしい。

涼月さんは何か用事が入ってたらしくて、今この場所には居ない。

 

少しだけ残念に思ってしまう。

だってまだほんの少ししかお礼を言えてないし、色々もっと聞きたいことがある。

何よりも、赤城先輩と同じくらいかっこよかったし!

 

「折角なんだから涼月ちゃんも参加出来たら良かったのにね」

「でも二航戦の先輩さんのお誘いだから仕方ないっぽいよね~」

 

廊下で涼月さんと話していたのは赤城先輩達一航戦とはまた別の戦隊、

第二航空戦隊、通称『二航戦』と呼ばれる二人の先輩の内の一人、

正規空母の『飛龍』という人だった。

実力は『一航戦』の二人と負けず劣らずの実力を持った人だそうで、

赤城先輩達と同じぐらいこの鎮守府では有名らしい。私は知らなかったけど。

 

「でもあれだけ素敵な人だから、そう言う人達に引かれるのかなぁ」

「それは確かに言えているわ。涼月ちゃん、なんていうか雰囲気が違うもの」

 

席の正面。睦月ちゃんの隣で特盛餡蜜を食べていた如月ちゃんがそう口にする。

それは解る気がする。

自己紹介の時もおしとやかで礼儀正しくて謙虚だったけど、

あの時の戦いで見た彼女はまるで矢を射る時の赤城先輩にそっくりだった。

 

「ねぇ、涼月さんって一度は第三水雷戦隊にいたんでしょ?」

 

昨日寝る前に、睦月ちゃんの机の前に鎮守府の地図が貼ってあるのが見えた。

その地図をどうしたのか聞いてみたところ、

あの涼月さんが第三水雷戦隊に配属になった時にもらったものと言っていた。

つまり、今こそ違うけど確かにあの人は第三水雷戦隊に居たのだ。

 

「うん。昨日も言ったけど、この鎮守府に配属になった時は第三水雷戦隊にいたんだよ」

「その時からすっごく礼儀正しくてとってもかっこよかったっぽい」

「ねぇ、涼月さんの事もっと教えて! 意外な一面とか!」

「うん、いいよ!」

 

少しでも赤城先輩の護衛艦として立派な艦娘になる為に、

まずは涼月さんを目標にしてみよう。私はそう思うのだった。

 

 

Side 涼月

 

 

演習場で蒼龍さん、飛龍さんと防空射撃演習に励む私。

でもそれは想像を絶するほど過酷な物だった。

 

「っ!」

 

高角砲を構えて放つも紙一重の所でかわされる。

機銃を放ってもその羽にすら掠らず遠ざかる。いわゆる一撃離脱戦法だ。

決して深追いせず確実に仕留められるときに仕留める。

 

対する私は魚雷を外してマストを増設。

私と熟練見張員の子達、三人分の目が合っても追いつけない。

 

回避すればその先に艦戦。擦れ違いざまに弾を放つも当てる事が出来ない。

しかもそれを狙うのを知っているかのように、

他の方向から別の艦戦が急接近し機銃を掃射。その狙いは極めて正確でほぼ必中だ。

その機銃に怯むと止めと言わんばかりに艦爆の爆弾が上空からお見舞いされる。

それもまた精度の高いもので回避運動を取らなければ決して避けられるものではない。

 

長10cm砲の高い性能とは言えど、駆逐艦の一般的な12.7cm砲よりも僅かに高いだけ。

他者からすれば比較するまででもないと判断する物だ。

そしてその高い性能故に砲身の消耗が早い。

だからこそ付け替えられるのだが、こんな状況で付け替えている暇はない。

 

艦爆の落とした爆弾が至近弾となり、吹き飛ばされる。

海面に叩き付けられながらもなんとか止まった。

 

「うっ、ごほっ! ごほっ!」

 

海水を呑み込んだのかむせ返る。

 

「まだよ! まだまだ!」

「早く立って! そんなのじゃ、防空駆逐艦の名が泣くわよ!」

「は、はい!!」

 

二人は私を誘った時の様にフランクな雰囲気ではなく、戦う者の目をしていた。

その眼差しこそまさに『二航戦』に相応しいもの。

 

「見張員の二人も、お願いします!」

 

立て直し際に砲身を差し替え、再び突撃する。

私だけでなく、見張員の二人にも声をかけて気を引き締めた。

 

青一本の艦戦と艦爆が三機ずつ、青二本の艦戦と艦攻が三機ずつ。

先程まで艦攻の姿は見えなかったが、新たに発艦させたのだろう。

 

先程までで解ったことは、何も搭載していない艦戦が最も機動性に優れている。

続いて艦爆。当然投下型の爆弾を搭載しているので艦戦よりも速度は劣る。

瑞鶴さんと演習をした時もそうだった。

そして最後は恐らく艦攻。根拠としては私自身も魚雷を使う上に、

水中を進むための動力が必要となる。

炸薬量も授業で習ったが戦艦の砲弾と同等かそれ以上。ならば一番足が遅い筈だ。

 

艦戦はそれらを守る為の先陣を切るのが定石。

そして艦戦の構造上必ず機銃は前に付いている。一撃離脱戦法と言えど、

当てる為には必ずこちらを向く。それが私の正面だろうが背後だろうが関係ない。

 

吹雪さんを助けた時の事を思い出す。

上昇と下降の間の一瞬。その一瞬の希望に私は賭けて私は勝った。

今度は艦戦がこちらに向き、機銃を放つ前の一瞬を狙う。

 

そしてもう一つ。回避運動が非常に優れている彼女達の艦載機達。

馬鹿正直に撃ってもかわされるのは必然ともいえる。

なら正直に撃たなければいい。一発で仕留めようと思わなければいい。

 

私と見張員の内一人を艦戦に意識を集中。もう一人は艦爆、艦攻の警戒。

さて、賭けますか。もう一度。

 

「秋月型駆逐艦、三番艦『涼月』、参ります!!」

 

機関全速、一気に勝負を付ける。この集中が途切れない内に。

 

艦戦を追従しながらも砲撃。しかしわざと狙いを右に狙う。

当然艦戦はそれを回避するために左に動く。その左に動いた瞬間を狙う。

 

「機銃掃射!」

 

艤装を覆う連装機銃の放った弾丸は回避運動を取った艦戦を見事に落とす。

 

編隊を組んでいた他の艦戦は離脱するように速力を上げた。深追い厳禁。次へ移行。

見張員の妖精さんが左舷を指示する。

それを信じて左を向くと、ものの見事にこちらを向いている艦戦がそこに迫っていた。

 

機銃で弾幕を張り中央へ寄せつつ確実に主砲で落とす。

そこで近付きすぎないように急旋回する艦戦の背後を狙って更に撃ち落とした。

 

今度は艦爆と艦攻を警戒していた妖精さんから報告。

上空から急降下に入ろうとしているとのこと。

単縦陣になって精度の高い爆撃をしようとしていた。

砲塔を上げて下降した時を狙って発射、機銃もそこへ集中させる。

先行機が爆弾を切り離したのを見て旋回。

主砲を撃つのもやめて回避に専念しつつ、機銃はそのまま弾幕を張らせる。

爆撃を回避し付近に水柱が上がる。先行機と言えどこの精度。本当に只ならない。

次は必ず当ててくる。でもその分距離が近い。

 

「ここで大きくターン!」

 

舞風さんの使う手段をここで使う。

右足の機関を逆回転で後ろに、左足の機関は前へ。その場での急停止と急速旋回。

主砲を構え擦れ違いざまで艦爆を撃墜。残りの二機を機銃で落とす。

 

後方からの艦戦を捕捉し機銃の斉射を受ける。でもその程度で怯んでいられない。

もう一度大きく旋回し、主砲を先行して発射。

回避運動を見てから弾幕を張って逃げる前に全て叩き落とす。

 

その後続で潜むように低空飛行する艦攻が三機機。

雷跡を発見した妖精さんが警告。回避が間に合わない。

 

「まだぁ!」

 

先程換装して外した砲身を足のベルトから抜き取り全力で叩き付け、

主砲でもう一つの魚雷の先を砲撃し水柱を上げる。

演習用の信管無しの魚雷であっても、この急激な水流には耐えられない。

 

そして最後の艦戦を妖精さんが捉える。高速で退避する艦攻は無視。

機銃を集中させ真ん中に寄せる。

主砲を構え、放つ。その弾丸は艦戦の放った機銃と交差し、互いに命中する。

何とかその衝撃と爆風に耐えつつ、立て直した。

これで終わり。終わったはずだ。

 

そう気を抜いた時、艦爆と艦攻を見張っていた妖精さんが指を指す。

そこには、直下まで接近した魚雷の影があった。

直撃しそのまま吹き飛ばされて港に叩き付けられる。

何とか受け身を取って止まった。

何が起きたのか解らない。

 

「何が起きたのか解らないって顔してるよ、涼月」

 

私の顔を覗き込んできたのは飛龍さん。彼女が艦攻を放ったはずだ。

でも私はその魚雷を何とか迎撃した。砲身を投げつけて一本、主砲でもう一本。

艦攻は三機。後もう一本はどこかに外れた物だと思っていた。

まさか。

 

「飛龍ったら、艦戦が撃墜された時の煙に紛れて魚雷を仕込むんだから。

 これだから鬼教官は鬼畜よね」

「えー! だって艦攻の魚雷後一発残ってたんだもん。

 ここぞと言う時に打ち込まなきゃ!」

 

二人の言う通りだ。私は確かに艦攻を無視した。二つの魚雷を迎撃した。

もう一本はその時発射されたのではなく、

私が最後の艦戦を落とした時に煙に紛れて見えないように接近し魚雷を発射。

すぐに離脱していたのだ。

なんと凄いことを考える。そこで打ち切らずに次のチャンスにかけると言うその精神が。

 

「これぞ私の『最後の一機になっても叩いて見せる戦法』!」

「それ今即行で考えたでしょ、飛龍」

「あ、ばれた?」

「まぁ最後は直撃しちゃったけど、及第点かな」

「最後が無かったら合格だったんだけどね」

「その最後を撃った本人が言わない事」

 

蒼龍さんのその言葉を皮切りに三人で笑い合う。

やっぱりこの場所は凄い。こんなに素敵なで凄い人達が居るのだから。

 

 

 

三人で入渠ドッグに入って演習の疲れをいやす。

 

「蒼龍さんも飛龍さんも、本当にお強いですね」

「まぁ私達も鍛え上げられたからねー。鬼教官に」

「あれは凄かったもんね。私も流石に引いちゃったかな」

 

鬼教官。一体誰だろう。私はそんな訓練を行ったことは無い。

むしろ最初から戦えていたような、初めて目を覚ましたのは工廠だったような。

その頃の記憶一つ一つに霞がかかっているような状態だ。

 

「そういえば『人殺し』とか言われてたよね」

「ねー。そこまで言うことは無いと思ったけど、あながち間違ってないから怖いよね」

「あの、そんなに凄い方がいらっしゃったのですか?」

 

私がそう言うと二人は顔を見合わせる。

 

「え? あれ? 確か……」

「そもそもそんな経験あったっけ、蒼龍」

「さあ?」

 

これが矛盾と言うものなのか。

でも私自身もそんな状態なので何らおかしいとは思わなかった。

だから私は、川内さんの言っていた言葉を思い出し少し変えて口にした。

 

「強いなら強いでいいと思いますよ。今あるこの今を守る事が出来る強さがあるのなら」

「ま、そうだよね。今悩んでも仕方ないよ。ね? 飛龍」

「う、うん……」

 

蒼龍さんは考えるのをやめたけれど、飛龍さんはやめなかった。

どうやら彼女自身とその鬼教官と呼ばれる人物は、深いつながりがあるらしい。

 

そう思うと私は。いや、私達は何か大切なことを『都合よく』忘れているような、

そんな気がしたのだった。




蒼龍、飛龍さんが凄い。
アニメだと一航戦ばっかりで二航戦=良く解らんって状態になっていたので凄さをアピール。
史実だと真面目に肩並べるぐらい強い筈なんだがどうしてああなったのか……
赤城さんが吹雪の先輩的な役目果たしてるから仕方ないのかもしれない。

ここで何気に舞風さんの技が光るという謎事態。
そして魚雷を叩き落とすために艦娘ならではの武装破棄による無理やりな防衛。
艦娘(アニメ未登場)によっては近接武器も持っているので割と海戦が映えると思うんよ。
「飛行甲板は盾ではないのだが……」by日向


簡易的な自問自答コーナー

Q.吹雪が涼月を目指す理由ってあるの?
A.それはまぁ、同じ艦種であそこまでの事されたら目指すっきゃないでしょという。
 ただし元々の知識(赤城さん伝説の艦娘説)やアニメ第一話で先に出会った関係、
 最終的に助けてくれた関係で、 どうしても『涼月<赤城』ではあります。

Q.蒼龍と飛龍って強すぎじゃないの?
A.赤城や加賀と同じように命中率70%以上とか頭おかしいんで。
 なおこの作品では赤城・加賀・蒼龍・飛龍の練度(レベル)は同じ物としています。
 故に、この話だと涼月がアニメ第十話の吹雪並みにボコボコにされてます。
 流石二航戦は格が違った。

Q.青一本とか青二本って何?
A.各艦載機がどの空母に所属しているかを識別する為の塗装です。
 胴体帯と言ってアニメでも再現されています。(OP、第一話、第七話、第十話など)
 第七話の序盤で瑞鶴が加賀に得物を取られたのが解ったのもこれのお蔭。
 因みに各自がどうなっているかは以下の通りです。
 赤城:赤一本 加賀:赤二本 蒼龍:青一本 飛龍:青二本 翔鶴:白一本 瑞鶴:白二本
 大鳳は調べてみて、アニメも見ましたが記述はありませんでした。(つまりアニメだと無し)

Q.鬼教官……人殺し……うっ頭が
A.トゥ、トォ、ヘァー! モウヤメルンダ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話『雲に陰る秋の月』

前の話から時間が飛んで飛んで、第二話終了位~三話中盤まで時間が飛びます。
かなり強引ですみません。

今回は少しばかり不思議な話。


私は夢を見てる。

 

白黒の世界。硝煙の香りがする。私は薄明るい海を駆けていた。

私のほかに、私に似た艦娘や見た事のない駆逐艦の子や、

巻物を持ち巫女服を纏った紫髪の人、そして巫女服を纏った黒髪の人。

巻物を持った人は解らなかったけれど、黒髪の人の服は金剛型の人の……

 

思考を遮るかのように不意に雷跡が見えて、巻物を持った人の右舷に被弾する。

追従するように向かう雷跡が再び彼女を狙っていた。

その魚雷を、まるで庇うように前に出た駆逐艦の人が被弾する。

目に映ったのは被弾時に大きく上がる水柱と、その人達が体勢を崩す所だった。

 

 

**********

 

 

飛び起きる。不吉な夢を見た物だ。味方が被弾する夢を見るなんて。

胸が締め付けられる感覚。

外はまだ暗い。それが夢で見た光景にそっくりで、それが余計に私の胸を締め付けた。

気晴らしに散歩にでも行って来よう。そうすれば気分が晴れるだろう。

 

服を着替えてこっそり外に出る事にした。

 

 

 

朝の散歩と言っても特に行く当てもなく、ただふらふらと歩いていると演習場に出た。

何気にここには縁がある。日頃の授業だけでなく、

瑞鶴さんや蒼龍さん・飛龍さんとも対空射撃演習でお世話になった。

いや、蒼龍さんと飛龍さんはお世話になっているといった方がいい。

あの日から主に放課後、日は飛び飛びではあるが演習をさせてもらっている。

その事は皆には内緒にしているのだが、感づかれるのも時間の問題だろう。

 

そんなことを考えながら歩いていると、今回もまた見知った人を見つけた。

 

「如月さん」

「あら、涼月ちゃん。おはよ」

「はい。おはようございます」

 

潮風に髪をなびかせながら、優雅に日の昇る方向を見つめる彼女。

でもその顔は少し眠そうだった。

 

「早起きなんですね」

「そんなのじゃないわ。ただ早く目が覚めちゃっただけ」

「それなら私と同じですね」

 

互いに笑い合うと、彼女は視線を戻しどこか遠い目をしていた。

話しかけようとした時、山の間から太陽が顔を出す。

その光は新しい一日を意味していた。

 

「良かった。またこの日が迎えられて」

 

如月さんの口から言葉が溢れる。それはまるで、その光景が当たり前ではないような。

病に倒れ、死の瀬戸際に居るような人の様に弱弱しいものだった。

いつも明るく振舞う彼女がここまで気が参っているなんて思いもしなかった。

 

「……何かあったんですか」

 

自然と神妙な口調になる。

問いかけに如月さんは、ただ笑顔で応えるだけ。

その視線の先には吹雪さんと赤城さんが二人向かい合っていた。

 

 

Side 吹雪

 

 

私は朝早くから演習に励んでいた。

明日は大切な任務の日。そこでまた失敗しない様におさらいをしていた。

 

引き金を引いて的を撃つ。言葉で言うなら簡単な事なのかもしれないけど、

まだ未熟な私からすればまだまだ難しい事。だからこそ努力せざるを得ない。

 

私には大きな夢がある。赤城先輩の護衛艦としていつか出撃する事。

一人の大きな目標がいる。私を助けてくれた涼月さんが。

 

二人が居るから私は努力できる。応援してくれる三水戦の皆がいるから努力できる。

 

だから私は。

機関を停止させて的を狙う。

しかし急停止させたからか体が引っ張られて、思わずバランスを崩した。

後ろに倒れかけて、誰かに支えられる。

 

「頑張っていますね。吹雪さん」

「あ、あああ赤城先輩?! おはようございます!」

「はい、おはようございます」

 

そこに居たのは他の誰でもない、赤城先輩だった。

飛び跳ねる様にその場から離れて頭を下げる。

赤城先輩に支えてもらったことに、

嬉しさと申し訳なさが入り混じり、混沌とした気持ちになり口が動かなくなってしまう。

 

「朝から熱心に演習ですか?」

「あ、はい! もうすぐ作戦が始まるので、そのおさらいにと」

 

赤城先輩はそんな私に微笑んで、打ち損ねた的を見つめる。

 

「少し、見ていてください」

 

そう言った彼女は矢を一本取りだして静かに構え始めた。

その時の目はあの時と同じように一点に集中していて、とても素敵だった。

でも赤城先輩は放つ瞬間おもむろに目を閉じた。思わぬ行動に息を呑む。

 

その状態で放たれた矢は、まっすぐ的へと飛んでいき炎を纏って艦載機になり、

それから放たれた機銃が的の中心を砕いて飛んでいった。

 

「わぁ~……」

「『正射必中』、という言葉をご存知ですか?」

 

その光景に見とれていると、赤城先輩は再びこちらを向いて問いかけていた。

私は当然知らないので首を横に振る。

 

「正しい姿勢であれば、自然と矢は的を射る。弓道に伝わる言葉なのですが、

 私達の先輩である方はこうおっしゃいました」

 

「『正しい姿勢も日々の努力で身に付くもの。つまり努力すれば体が自然と形を成し、

 形を成した努力は必ず良い結果へと導いてくれる』と」

「正射必中、ですか」

 

赤城先輩のいう事は解らなくはない。

料理や習慣も行っていればいつか自然と体が覚えるという事。

それはこの戦いでも言えることなのだと赤城先輩は言っている。

 

「吹雪さんが自分でもう十分努力したと思うのなら、流れに身を任せてみてください。

 そうすれば自然と体が動いてくれるから」

「……はい!」

 

赤城先輩の教えが終わってひと段落すると、

どうして赤城さんがここに居るのかが気になった

 

「あの、赤城先輩はどうしてここに?」

 

その問いに対して彼女は微笑むと、港の方へと目を向ける。

その視線を追いかけた先には、睦月ちゃんが物陰に隠れていた。

 

 

Side 涼月

 

 

如月さんの真意を聞く事が出来ないまま部屋に戻った私は、

金剛さんと比叡さんに連れられて提督室にやってきていた。

 

ただ金剛さんに首根っこを掴まれたまま、

廊下を全速力でダッシュされて真面目に死ぬかと思った。

最後にはその勢いのまま提督室に突っ込み手を離されて私は投げ出され、

金剛さんは座っている提督にダイビング。

 

しかし金剛さんのダイビングは提督の机の前に仁王立ちしていた長門さんに、

顔面を片手で受け止められて制止。

投げ出された私は長門さんに似た茶髪の女性にキャッチされて事なきを得た。

そして今に至る。

 

「あの、一体何が……」

「まぁ初めて見る光景なら困惑するわよね」

 

そう言いながらゆっくりと下ろしてくれる、長門さんに似た女性。

 

「あ、ありがとうございます。私は秋月型「知ってるわ」」

「私は長門型戦艦二番艦『陸奥』よ。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

 

唇に人差し指を当てられて止められる。

まるで雰囲気も行動も、如月さんの様な人だ。

 

「む~! 長門ゥ、何故邪魔をするんデスカー!」

「あのままの勢いでお前が突っ込んで来たら、提督が耐えられないだろう」

「そんな事ないデース!

 テートクはいつも全力で私を受け止めてくれるに決まってマース!」

「お前の全力と提督の全力をよく考えてみろ」

 

額に人差し指を当てながら、やれやれと首を横に振る長門さん。

なるほど、こういう部下の人達を纏めるのも秘書艦の仕事なのだろう。

苦労していそうだ。というか現在進行形で苦労している。

まだ言い合っている長門さんと金剛さん、

金剛さんを落ち着かせる比叡さんという何とも面白い光景が広がっていた。

姉妹艦である陸奥さんはその光景を遠目で見て笑っている。

本当に如月さんみたいな人だ。如月さんが大人になるとこんな人になるのだろうか。

 

しかし、何故ここに呼ばれたのか解らない。

私は時計を見ながらもうすぐ授業が始まる事を気にしていた。

 

「大丈夫よ。授業はお休みするってもう伝えてあるわ」

「えっ、でも」

「涼月ちゃんにはそれより大切なお仕事があるから。 ね?」

 

それよりも大切なお仕事。確かに提督室に呼ばれたからにはただ事ではないのは解る。

そこまでに急を要する任務なのだろうか。

 

「提督! おはようございまーす!」

「提督、おはようございます」

「おはようございます、司令」

 

そんな元気のいい声で入って来たのは島風さんだった。

その後ろに続くのは金剛さん達と同じ服を来た人。

一番後ろにいるのは黒の短髪で眼鏡をかけている、見るからに知的な人。

そして真ん中に居るのは黒い長髪。おしとやかな雰囲気の女性……

 

そう。夢で見た人だ。

脳裏を何度もその人の後ろ姿が移る。

でも私は彼女を知らない。今こうして顔を合わせるのが初めてなのに。

彼女は金剛さん比叡さんと話をしているが、全くと言っていいほど耳に入らない。

あれだけ騒がしかった提督室が無音に思える。

そして私の視線は金縛りにあったかの様にその黒髪の女性から離せなかった。

私は彼女を知らないはずなのに、私は彼女を知っているような気がしてならなかった。

 

「榛名に何か御用ですか?」

 

榛名。彼女は榛名と言うのか。どおりでしっくりくる名前だ。

この様な感覚は依然感じたことがある。瑞鶴さんの名前を聞いた時だ。

でもあの時とは比べ物にならない程の物。これはあの不吉な夢のせいなのだろうか。

 

何も言わない私に違和感を覚えたのか顔を覗き込んで笑顔を作り、

彼女の手が私の頭に触れようとした。

 

「っ! 嫌っ!」

 

その手を払いのけて後退り。そのまま後ろに居た陸奥さんにぶつかってしまう。

その衝撃で正気に戻る。私のさっきしたことを理解して、急に悲しくなる。

 

「ご、ごめんなさい! 私失礼なことを……」

「こちらこそごめんなさい。髪の毛は女の子の命ですもんね」

「あ、いえ、そういう意味では……」

「いいんです。榛名が悪いのですから」

 

そう言って金剛さんたちの所に行く榛名さん。

 

「大丈夫? 体調が悪いんだったら」

「大丈夫です。……はい」

「ならいいけれど」

 

陸奥さんにも心配される。私はどうしてしまったのだろうか。

 

 

////////////////////////

 

 

私達は急遽編成された臨時の第二艦隊だそうで、

目的は資源が眠ると想定される南西諸島海域へ遠征として向かい、資源の量と敵を偵察。

交戦は極力避けて鎮守府へと戻るといったもの。

偵察なら艦載機を飛ばせば解決すると思いきや南西海域ではスコールが発生していて、

空母をはじめとした航空戦力だけでなく、水上機も飛ばせないそうだ。

 

そこで起用されたのが、私の地図作成能力。

敵の偵察は大型電探が搭載可能であり高速戦艦である金剛型四姉妹で入念に行い、

私と速力の高い島風さんで島を調査。私が地図を作成する。

その間無線を傍受される可能性があるので無線封鎖は徹底する事。

そして帰投中は無線封鎖を解除する事。

 

作戦決行は翌日とされ解散。授業は今日を含めて暫く休む方向らしく、

私は地図を渡された後、自室で休養をしっかりと取る様に言われるのだった。

 

自室に戻っても誰もいない。暁さんと響さんはまだ授業中だ。

ベッドにあおむけになってぼーっとする。

散歩しようにも休養を言いつけられてしまったので、

一部例外を除けば外出は許されないだろう。

 

少し寝ようかと思ったものの、眠てしまうとあの夢を見てしまうかもしれない。

そう思うと、目を閉じる事も躊躇してしまった。

 

お腹の方にちょっと重圧。それは胸元を伝って私の首元までやってきた。

こんなことが出来るのは見張員の子達しかいない。

 

目を動かして下を見ると予想通り良く知る妖精さんが二人心配そうにしていた。

私はその子達を手で優しく持つと体を起こし、膝の上に置く。

股の間に落ちそうになる子もいたけれど、太腿の上で安定する場所を見つけると、

再びこちらを心配そうに見つめる。

 

「大丈夫ですよ。貴女達を見ていると元気が出てきました」

 

笑って彼女達の頭を撫でる。私の最高の愛情表現だ。

嬉しそうにする彼女達だったけど、何かを口にしている。

 

「えっと……『次の出撃には必ず行きたい』? 次の出撃は資源の調査ですよ」

 

「『それでもいいから付いて行きたい』?

 でもスコールがきつくてずぶ濡れになってしまいますよ」

 

「『一緒に居てあげたい』……ですか。貴女達には敵いませんね」

 

でもそう聞いて私は自然と涙が出るほどに、嬉しかった。

どうして嬉しいのかも分からない。でも色々とこの子達にはお世話になった気がする。

私と一緒に幾多の戦場を渡り、戦ってきた戦友の様に。

 

「解りました。貴女達を連れて行きましょう」

 

後で新しい第二艦隊の人達を紹介してあげよう、そう思うのだった。

 

 

//////////////////////

 

 

それからと言うもの大きな事は無く次の日がやってきた。

この日私はあの夢を見ることは無くぐっすり眠る事も出来たので問題ない。

 

出撃の為に出撃場所へ向かうと、榛名さんが一人で待っていた。

金剛さん、榛名さん、霧島さん、島風さんの姿はない。

 

「おはようございます、榛名さん」

「おはようございます、涼月さん」

 

それだけかわして無言になる。初対面があんな事になってしまえば仕方ないことだ。

 

何かないかと思っているとマストから降りてきた妖精さんが、

いつの間にか私の肩に上っていた。そして耳元で『この人は誰?』と聞いている。

 

「この人は金剛型の戦艦さんで、『榛名』って言う人ですよ」

 

納得してくれる彼女達を見て落ち着く。

 

「妖精さんの言葉が解るのですね」

「いえ、この子達とは何かと付き合いが長いので自然と解るんですよ」

 

何やら羨ましそうに見つめる榛名さん。その時妖精さんがある事を口にした。

私は頷き二人の妖精さんを手に乗せて彼女に差し出してみる。

 

「この子達が『榛名さんと触れ合ってみたい』と言ってますよ」

「えっと、いいんですか?」

「はい」

 

手を震わせながらもその子を優しく包み込む榛名さん。

 

「可愛くて、温かいです」

「その子も嬉しそうにしてますよ」

 

妖精さん達は誰が見ても解るほどに楽しそうにしていた。

寂しがりやで怖がりな子達なのに初対面の人に対して進んで交流していくなんて。

最近やっと暁さんと響さんに触れあうようになった程度なのに。

 

榛名さん自身の性格から来るものなのか、それとももっと別の何かか。

それは気にしていても仕方ない。あの子達があんなに楽しそうにしているのだから。

 

「榛名~! ズッキー!」

 

遠くの方から金剛さんの声がした。何故か私はズッキーと呼ばれている。

『涼月』からどうすれば『ズッキー』になるのか。『ツッキー』だと被るからだろうか。

といってもこういう事こそ考えていても仕方ない。

 

榛名さんの後ろから金剛さん、比叡さん、霧島さん、そして島風さんがやってきた。

島風さん以外何故か髪や服に木の葉が付いている。

 

「お姉さま方に霧島! どうされたんですか!?」

「ああ~、実は島風ちゃんが鎮守府で一番高い木の上で寝ちゃってて……」

「何とか三人の力を合わせる事によって捕獲に成功したのです」

「これでやっと揃いましたネー」

 

島風さんは神出鬼没。そして早さを求める性格だという事は知っている。

私が私の分以外の全ての餡蜜を奢った時も、誰よりも早く平らげて行ってしまった。

 

「さて比叡、榛名、霧島、ズッキー、ゼカマシー、行きマスヨー。Weigh Anchor!!」

 

金剛さんの合図とともに、私達は出撃した。

 




第二艦隊遠征START! そして何気に島風が出てきてます。
島風は真面目にストライクウィッチーズのルッキーニみたいな立ち位置だと思うんだ。
猫。そうだ猫に間違いない!(うさ耳リボン? 知らんな)

長門さん=怪力的なイメージがなんとなくあったので(ビッグセブンパンチ等)、
そこら辺をアピールするためにも金剛が犠牲になったのだ……
提督は居ますが今回も喋ってませんね。これからずっと喋らないんじゃないかなこの人。
陸奥さんと涼月はここが初対面です。転属する時もやって来たのは長門さんだけなので。

肝油だ! 肝油を出せ!! と思った貴方は立派なエイラーニャ好きと見る。
ストライクウィッチーズ第一期第六話を良く覚えてるね。
(夜戦というより夜間哨戒の為に目にいい食べ物でブルーベリーが出てきた)

簡易的な自問自答コーナー

Q.吹雪と赤城さん、何かシチュエーション違わなくない?
A.もっと吹雪が赤城に近づけてもいいんじゃないかなーと思って、もうちょっと改変。

Q.時系列かなり違わない?
A.アニメでは『明日の作戦発表 → 翌日の明朝演習 → 赤城助言』ですが、
 こちらでは『明後日の作戦発表 → その翌日の明朝演習 → 赤城助言』になっています。
 つまり一日だけ間が空いており、その間の日がこの話の主軸になっています。

Q.もう一つ質問いいかな。この話の終わりが第三話の中盤だよね。
A.君のような勘のいいガキは嫌いだよ byショウ・タッカー


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話『風に揺らぐ彼岸花』

第三話 後半戦開始

『さて、やりますか』


南西諸島海域では言われた通りスコールと呼ばれる、

豪雨や雷雨と共に急激な風の変化が起こる現象が起こっていた。

 

戦艦である金剛さん達の電探を駆使し、敵がいない事を確認してから島へ上陸する。

 

「ズッキーとゼカマシーは島の調査をお願いしマース。good luck!」

「無線封鎖を徹底するので、そうですね。ここに一時間後集合するという方向で」

「さっすが霧島! あったまいい!」

「解りました。皆さん、ご武運を」

 

互いに敬礼をかわし、地図を濡れないようにしまって島風さんと共に島の奥へ進む。

今回はあくまで偵察だけ。あまり長居していては深海棲艦に遭遇する可能性も高い。

駆逐艦や軽巡だけによる足の早い編成だけで向かうと手もあったのに、

提督がこのような艦隊を組んだのは遭遇戦という事態を予想した物。

ここは鎮守府から遠く離れた南西諸島の海域。戦艦クラスとの遭遇戦も有りえる。

それでも戦艦四隻とは本当にやりすぎではないかとも思ってしまう。

重度の心配性なのか、はたまたある種の天才なのか。提督の意向は未だ理解できない。

 

「ねぇ涼月ちゃん」

「どうかしましたか島風さん」

「地図も見ずに歩いてるけど大丈夫なの?」

「地図ならもう目に焼き付けましたから覚えていますよ。因みにここをまっすぐです」

「ふーん。じゃあ走った方が速いよ。その方がいっぱい見つけられるし」

 

少し冷めた目で見られながらも、島風さんは走り出す。

それを追いかける様に私も駆けた。

 

ここは元々資源が豊富で昔から採掘が行われ本土へ輸送していたのだが、

その輸送ルートを全て深海棲艦に破壊し尽くされてしまい、破棄を余儀なくされた場所。

それを鎮守府正面海域が解放されたと同時に深海棲艦の活動も微弱ながらも弱まり、

この島の資源確保に踏み切ったということらしい。

 

「おっ、おー!」

 

島風さんが何かを見つけたのか遠くの方で手を振っている。

その周りでは連装砲ちゃんが跳ね回っていた。

本当に足が速い。私が全力で走っても追いつくどころかすぐに離されてしまう。

瑞鶴さんの言葉を借りるわけではないが、彼女が所謂『天才』と言う者なのだろう。

 

「涼月ちゃんおっそーい」

「す、すみません」

 

何とか追いついた先。そこは原油の採掘場と思わしきものだった。

物陰で暴風雨をしのぎながら地図に直接書き込んでいく。

 

「さ、次行くよ次!」

「えっ! ちょっと休んで「そんなゆっくりしてたら一時間じゃ終わらないよー!」」

 

無理やり手を引かれながら次の目的地を目指す。

足を頑張って動かして付いていくも、着いた頃にはフラフラだった。

 

「こ、ここは、鉄鉱石の鉱山の様ですね……メモして……」

「じゃあ次行くよ!」

「ちょ、ちょっと待「ダメダメ! 私は40ノット以上の快速なんだから!」」

 

ノットは授業で習ったけど、一時間あたりに何海里進むかの単位です!

 

そんなことを言わせてくれるはずもなく私は彼女の速度に振り回されながら、

島中を駆ける風となったのだった。

 

 

 

最後の採掘場のメモを終えた時、腰が抜けてその場にへたり込む。

 

「もう、だらしないなぁ~。あれくらいで伸びちゃうなんて」

「私は33ノットで相対速度は島風さんとは7ノットも違うんですよ……」

「そーたいそくど?」

「かけっこしてに他の人を抜かした時実際の速度とは裏腹に、

 ゆっくり抜かしているように見える、そんな感じです……」

「つまり島風が一番早いってことだよね!」

「……まぁ、そうなりますね」

 

軽度の過呼吸状態に陥っている為もう思考がぐちゃぐちゃで、

何を言っているのか解らない。

 

すると見張員の妖精さんが飛び出してきて私の前に立つと、

呼吸の手本のような物を見せた。それに合わせる様に息を吸い、ゆっくりと吐く。

もう一人の妖精さんは濡れた服を利用して背中にくっつきぽんぽんと叩いていた。

そのお蔭か、随分とマシになった。

 

「貴女達には本当に助けられてばかりですね」

 

背中から落ちそうになって慌てる子を助けて、二人ともにお礼をいう。

その様子を背後からじっと島風さんが見つめていた。

 

「なんだか私の連装砲ちゃんみたい」

「連装砲ちゃん、ですか」

 

確か島風さんにずっと付いて歩く、連装砲ちゃんと呼ばれる三基の連装砲の事だ。

確かに登校してから授業中も、演習の時も、今回の遠征の時も一緒だ。

兵装と言えばそうなんだけれど、それ以上の関係とも思える。

そもそも兵装に自我が宿っている事が凄いとも思える。

 

『そもそも互いの思惑が一致しなければ、艦隊を編成することすら出来ないと思うよ』

 

深海棲艦に心はあるのか、いう問いに対しての響さんの答えが頭をよぎる。

心……そういえばもっと身近に心を持った子達が居たじゃないか。

だから私は聞いてみた。連装砲ちゃんという子達を引き連れる、島風さんに。

 

「島風さんは連装砲ちゃん達に心が宿っているって、思ったことありませんか?」

「おっ? うーん」

 

考え込んでしまった。

でも彼女ならすぐに答えは出るだろう。早さを求める彼女なら。

 

「心とか難しくて良く解んないけど、連装砲ちゃんは大切な仲間だよ」

「仲間、ですか」

「うん。私、姉妹艦の子誰もいないの」

 

自己紹介の時のことを思い出す。確かに彼女は島風型駆逐艦としか言わず、

ネームシップでありながら一番艦という言葉を出さなかった。

そして始まった彼女の告白。打ち解けるのが早いのか、話すまでの過程が早いのか。

 

「でね、早いことが大好きで『好きこそものの上手なれ』って感じで突き進んでたら、

 回りに誰もいなくなってて」

 

「そんな時そばに居てくれたのが連装砲ちゃんだったの」

 

「だから私にとって連装砲ちゃんは大切な仲間なの」

 

島風さんの周りを囲むように居る大中小の連装砲ちゃん。

それはまるで彼女を守る仲間の様に見えて、でもすぐそばにいる友達の様にも見えた。

 

「でも少し寂しくて、今日初めて駆逐艦の人と遠征だったけど一緒の出撃で嬉しかった」

 

「最初の採掘場見つけた時に遠くに居た涼月ちゃんが走ってきてくれて、

 私すっごく嬉しかった。だから次は絶対離さないって。

 離したら私からどんどん離れていっちゃう気がして」

 

「涼月ちゃんは弱音を吐いてたけど、最後まで付いてきてくれた。

 だから解ったの。私が早くて皆遅いなら、私が皆を引っ張ればいいんだって」

 

「さっ、戻ろ。早くしないと時間になっちゃうよ!!」

 

その告白は、今日の任務で一緒になったという些細な理由で。

私が彼女の手に引かれて島中を駆け回ったという些細な理由で教えてくれたのだ。

でもそれは彼女にとってはとても大切なことで、とても大事な物なんだ。

 

『本土に転属? おめでとう! 栄転祝いで一緒に踊ろうよ!』

 

手を伸ばす島風さんが、ほんの少しだけ舞風さんに見えて。

私はその手を取るのだった。

 

 

/////////////////////////

 

 

集合場所の浜辺まで引っ張って行ってもらい、何とか約束の時間に間に合う。

そこには金剛さん達が揃っていた。

 

「皆さん、ご無事でなりよりです」

「お互い様。成果どうだった?」

「速きこと、島風の如し、ですっ!」

「「「「?」」」」

 

自慢げに胸を張る島風さんの言葉を理解できず、四人とも首をかしげた。

 

「ばっちり、地図に収めておきました!」

「Wow! congratulations! 比叡達は何かありましたカー?」

「先ほど電探で戦艦2、駆逐艦4を捕捉しました。

 こちらが発見される前に早く離脱しましょう」

「Oh! そうと決まれば長居は不用! 鎮守府へ帰るヨー!」

 

金剛さんが指揮をとって島から離れる。

戦艦と駆逐艦の部隊とはまた豪勢な部隊だ。いずれ迎撃用の部隊が編成されるだろう。

 

 

 

スコールを抜けて晴れ渡った海域に出る。

後は他の敵艦との遭遇に注意しながら帰るだけ。

そういえば作戦説明時に、撤退時には無線封鎖を解除するようにと言っていた。

 

「霧島さん! 無線封鎖を解除してはどうでしょうか!」

「そうね。お気遣いありがとう」

 

皆が忘れていてはいけないと思い意見を具申する。すると霧島さんの表情が一変した。

 

「鎮守府から緊急打電……W島の奇襲に失敗……至急救援へ向かわれたし!」

「お姉さま!」

「解ってマース! 全艦最大戦速デース!」

 

私達が遠征に出ている間に提督は、

別の艦隊を出撃させて別の所を攻略しようとしていた様だ。

しかし奇襲に失敗している為、現在は撤退中なのだろう。

 

救援に向かう途中でも、打電は続く。

敵の数は軽空母2、駆逐艦4、軽巡洋艦2。

既に第三水雷戦隊が軽空母二隻と交戦中であり、

第四水雷戦隊が後続の軽巡と駆逐と交戦中。

 

「榛名! 三式弾の装填をお願いネ!」

「はい、お姉さま!」

 

制空権の喪失。不吉な言葉が脳裏をよぎる。それがどういったものかは想像に難くない。

鎮守府正面海域の解放。その時空を覆った航空機の数々。それが全て敵だとしたら。

 

見張員の妖精さんが遠くで蠢く黒い影と第三水雷戦隊の皆を見つけた。

 

「金剛さん! 一時の方向に敵軽空母2! 第三水雷戦隊は健在です!」

「OK! 三式弾、Fire!」

 

金剛さんと榛名さんの三式弾が飛んでいき、空中で炸裂して敵機を焼き払った。

 

「比叡、霧島! 残存の敵空母の掃討お願いネ!」

「「了解ですお姉さま! 主砲、斉射!!」」

 

続いて残っている軽空母に比叡さんと霧島さんの砲弾が直撃し、大きな爆発を伴った。

やっぱりこの人達は凄い。鎮守府正面海域を解放した時の戦いでも。

そして妹艦である榛名さんも霧島さんも、凄い腕だ。

 

遠くの方で第四水雷戦隊と戦っていた残存艦もそれを見て撤退していく。

流石に相手も、分が悪いと見たのだろう。

 

「終わったみたいですね……って、どうかしましたか?」

 

安心している所に妖精さんが慌てふためいて指を指す。

その方角は第四水雷戦隊の居る方角だ。

 

「『上!』? 先ほど金剛さん達が……」

 

目を見開く。第四水雷戦隊の上空に、煙を上げながらも残っている敵艦載機が居た。

今は明後日の方向へ上っているが高度を上げている。

あのまま旋回すれば急降下爆撃も可能だ。

 

しかしここからの距離では私の速力では絶対に間に合わない。

でも見逃すわけにはいかない。守る為に。

 

「島風さん!!」

 

私は反射的にその名前を叫んでいた。

彼女は私の尋常じゃない様子に気づいたのかすぐについてきた。

 

『だから解ったの。私が早くて皆遅いなら、私が皆を引っ張ればいいんだって』

 

その言葉に私は賭ける。彼女のその速さに。

彼女は駆ける。一陣の風とも言えるその速さで。

 

「涼月ちゃん、一緒に行くよ!!」

 

その手を取り合い、私には出せない速度で海上を駆け抜ける。

そのまま片手で長10cm砲を構えた。

敵機はもう爆撃の体勢に入っている。そこ先に居るのは如月さんだった。

 

蒼龍さんと飛龍さんの演習を思い出す。

長10cm砲の高い性能とは言えど、駆逐艦の一般的な12.7cm砲よりも僅かに高いだけ。

他者からすれば比較するまででもないと判断する物なのかもしれない。

でも私はその僅かに高い性能を信じる。

 

私の為に一糸報われて傷ついた人が居る。

私の一撃が足りなくて、一矢報われそうになった人が居る。

 

「一撃が足りないなら! 何度だって!!」

 

機銃を全てその方向へ向けて斉射、長10cm砲も撃ち尽くす勢いで発射する。

40ノットという速さでバランスが取れず艤装が揺れて機銃の狙いが付けられない。

片腕という反動を殺しきれない状態での長10cm砲の砲撃。

幾多の弾が敵艦載機を掠るも勢いは衰えない。このままだと本当に間に合わない。

 

「島風さん! 私を投げて!」

「で、でも! 離したら「大丈夫!」」

「私は貴女のほんの少し前を行くだけ! 貴女の早さならすぐ追いつけるから!」

「……これ以上早くなっても知らないから!!」

 

島風さんは少しだけ考えた後、急旋回して遠心力も加えて私をほんの少し投げ飛ばす。

そのままの勢いで、何事かをこちらを向く如月さんに飛び込み抱きしめた。

 

彼女を抱きしめた直後、私の艤装に何かが擦れて爆発する。

その爆発に吹き飛ばされてながら海面に何度も叩き付けられ、やがて停止した。

 

「ごほっ! ごほっ! 痛っ!」

 

海水を呑み込んだのかあの時と同じようにむせ返り、右舷に痛みが走った。

思わず目を開けると私の上に覆いかぶさる如月さんの姿が。

その目にはいっぱいの涙が溜まっている。

 

「すみません。無茶してしまって。防空駆逐艦として情けないです」

「……もぅ、涼月ちゃんも好きなんだから」

 

そう言った彼女は、私に縋りついて静かに泣き始めた。

 

いくら睦月さんの面倒を見ていて、大人びていても、彼女はまだ幼い。

怖いのは百も承知でこの死と隣り合わせの戦場に居る。

あの大和さんだって怖い。私だって怖い。それは艦娘である私達全てに言える事。

 

彼女の気が済むまで泣かせてあげよう。

 

「って、あら? 何か焦げ臭くない?」

「えっ?」

 

私の艤装で煙が上がる。

艤装が炎上しているかと大慌てで確認してみると、

艤装の中に入れていた遠征で作成した地図が燃えていた。

 

「ああ! 妖精さん消火急いでください! 引火に気を付けて!」

 

それを見た如月さんを含む第四水雷戦隊の皆さんとすぐに追いついた島風さんは、

暫く慌てふためく私の姿を見て笑っている。

消火はすぐに終わって引火は免れたけれど、地図が全焼してしまうのだった。

 

 

/////////////////////

 

 

帰還してすぐに私は入渠して高速修復材を投入され、全焼した地図の制作を命じられた。

それを長門さん監視の元ですぐに完成させると、

私は第二艦隊での勝手な行動をした罰を免除された。

 

自分の地図に関する記憶力は本当に驚かざるを得ない。

因みに島の地図は予備があったのでそこに書き込むだけで済むのだけれど。

 

私は間宮で買ってきた小さ目の三色団子を妖精さんに渡す。

良く私が妖精さんを連れてきているのを見て、特別に作ってくれたものだ。

それを嬉しそうに食べる彼女達を見て和む。今回の真の意味でのMVPだ。

 

机の上に伏せながらその光景を眺めていると、瞼が自然と重くなる。

今日は本当に色々なことがあり過ぎた。少しくらい、お昼寝してもいいかな。

そう思い目を閉じると私はすぐに眠ってしまったのだった。

 

 

Side 睦月

 

 

私は涼月ちゃんの居る部屋に走る。長門さんに聞けば自室に戻ったらしい。

如月ちゃんにはもう伝えたいことはたくさん伝えた。

後は、涼月ちゃんにこの気持ちを伝えたい。そんな思いで胸が張り裂けそうだった。

 

私を守る為にわざと囮になって攻撃の機会作って、初戦果をあげさせてくれて、

深海棲艦に襲われそうになった吹雪ちゃんを助けてくれて、

大好きな如月ちゃんを身を挺してまで守ってくれて。

 

「涼月ちゃん!」

 

勢いよく扉をあけ放つ。

するとそこには机の上で眠っている涼月ちゃんの姿があった。

 

ちょっとの申し訳なさと残念な気持ちを感じながらも、

風邪を引いてはいけないと掛け布団を掛けてあげる。

 

「……ありがとう。大好きだよ」

 

私はそういって彼女の髪を撫でて部屋から出るのだった。

 




※今回長文注意

島風回。そして如月回。

お前に足りないものは、それは!
情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!
そしてなによりもォォォオオオオッ!!
速さが足りない!!

島風は早い速いとかなり掴みどころのないキャラクターでしたが、
全てが速いのであれば信頼するのも早いのでは? という自己解釈の元作成されました。
史実でもそうですが島風には姉妹艦はいません。
なので一人ぼっちで書かれることが多いのはその関係です。(天津風は陽炎型です)

そして第三話。今まで立ててきたフラグを全て消費する勢いでやった。
寧ろこの為に今までのフラグが存在したと言っても過言ではないと個人的には思う。
プロットを立ててるとフラグを立てて回収するのがやり易くていいです。

こういう風にフラグを立てて回収するスタイルは初めてなので、
かなり強引な出来になってると思います。すみません。
ただ、主人公チートで全て片付けて後々処理に困ったりとか、
アニメ第三話の様に急にフラグ乱立、終盤に回収だけは避けたかったので、
この様な処置を取りました。夜神月みたいに『計画通り』はまず無理です。

現在週一更新ではありません。かなり書き貯めが出来れば結構早めに更新したりします。
え? 今どこら辺書いてるか? 11話序盤です。総話数は25話超えました。
これだと週一で更新していると大変時間がかかるので、
不定期更新と言う言葉を乱用しています。
ただしこのペースで書けるのも今日までな気がする。
GW使って最終話までは確実に書き上げます。

では〆の自問自答コーナーです!

簡易的な自問自答コーナー

Q.島風ぇ……
A.キャラ崩壊したならごめんなさい。真面目に。

Q.牽引しててそんなに速度出る? あと投げ飛ばせる?
A.正直解らないです。後投げ飛ばす際は真面目に普通だと無理なので遠心力使ってる。
 それでも投げ飛ばせないとは思うけどこれしかなかったんや!!

Q.アキレスと亀……
A.やめろぉ!

Q.もうちょっと無双しても良かったんじゃないの?
A.オリ主はチートではありません。スポ魂系ストーリーってこういうのじゃないかな。
 後オリ主の力を持ってしても一瞬で天変地異が出来るというスタイルでもない。
 言ってしまえば良くも悪くも『駆逐艦』であるという事です。
 戦艦ル級とかとタイマンしたら余裕で負けます。

Q.地図が燃えるってなんで?
A.これも史実ネタです。方向音痴になったら真面目に泣く。
 この史実があるので涼月は地図に関して詳しいキャラになるんじゃないかな、と言う。

Q.まさかこの為の見張員……?
A.半分そうで半分違う、ですかね。涼月の熟練見張員の妖精さんは、
 基本ある事が無ければ涼月を最優先で心配します。
 なので前回気を落としていた涼月を見てそれで連れて行ってとお願いした、と言う形。
 蒼龍、飛龍の防空射撃演習に涼月と共に行っていた事で注意力が鍛えられて発見、
 結果として如月を救う結果にもなった。と言う形です。
 解説入れた時点でアウトな気もするけどそこは気にしたら負け。
 ちなみにプロローグ2でも記述してありますが熟練見張員の妖精は、
 トラック泊地に所属する艦娘分いますし、性格も違います。
 性格が違うというのはその艦娘に染まるというのが大きいです。

Q.如月を生存させた理由ってある?
A.原作で死んだキャラクターが生き残る展開は二次創作によくあります。
 この理由は次の話で分かります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話『まほろば浸りて過去を見ゆ』

アニメ第三話終了の翌日のお話。そしてそのまま第四話に突入します。
ここから基本的にアニメ1話につき2話スタイルがアニメ第七話まで続きます。
恐らく一番の安定期。

前半の実若干の百合、エロ要素を含む可能性があります。ご注意ください。


白黒の世界。薄明るい世界。魚雷を受けた空母の人と駆逐艦の人。

思えばこの海域は見たことがある。

私が泊地から移動してきた時に入港した、佐世保鎮守府だ。

 

そこで被弾した二人と別れて、

私と私に似た駆逐艦の人、そして『榛名』さんと共にどこかに向かう。

この方角は南。九州を大きく南から回り込んで呉へ向かっているのが自然と解った。

 

先程潜水艦の攻撃を受けたばかりなので、

他に潜んでいる潜水艦に気を付けながら行けない。

 

でも榛名さんはそんなことをお構いなしに全速力で突き進んでいく。

 

「榛名さん、先程襲撃を受けたばかりです。速度を落とした方が!」

 

思わず私は声をかけていた。

だがその声が彼女には届いていないのか、無視しているのか、

どちらにせよ彼女の返答はなかった。

 

 

**********

 

 

またあの夢。今度はもっと明確な感じがした。

それが榛名さんの名前を知ったからかは解らない。

 

体が痛い。窓の外を見ればまたも明け方だった。

どうやら机の上で眠ってしまってそのまま夜を明かしてしまったらしい。

 

「軽く入渠でもして、痛みを取るとしましょうか」

 

 

 

入渠ドックは、夜戦を想定して毎日好きな時間に入る事が出来る。

また、被弾していなくても自由意思で入ることが許されている為、

演習中や運動中の軽い打撲などは大浴場である方に浸かるとすぐに治す事が出来る。

 

逆に多くの時間を要する人達はその隣にある専用のドックでじっくり癒す。

どれほど時間がかかるのかは見たことが無いので解らないが、

完了までの時間を表示する事が出来る親切設計となっている。

しかしここは一人1ドック、4つまで数があるので最大4人までしか入渠が出来ない。

分かれていることもあって、好みの温度調整や特殊な機能も付いているんだとか。

蒼龍さん、飛龍さんと入渠する時、二人は必ずそちらの専用のドックを使っている。

二人が使う理由としては、その機能が長時間の入渠を飽きさせないのがいいらしい。

 

服を脱ぎペンネントを外して髪留めも外し、大きめのタオルを纏って中に入る。

するとこんな時間なのに珍しく先客が居た。

 

「あら、かわいい新人さん♪」

「冗談きついですよ、如月さん」

 

浴槽でゆったりと浸かっていたのは如月さんだった。

 

「ごめんなさい。いつも涼月ちゃん髪を縛ってるから、流してる所見たことなくて。

 一瞬誰かしらって思っちゃったわ」

「冗談、ですよね?」

「………」

「な、何か言ってください!」

「な~んちゃって♪」

 

完全に彼女のペースだ。

彼女とはそれなりの付きあいだけれど、今まで私が会話で主導権を握ったことは無い。

私が切り出しても、彼女が切り出しても結果は同じ。

私が彼女の持つ独特の話術、口調、雰囲気に呑まれてしまい主導権を握られる。

小さくため息を付いてシャワーを浴びる。

 

「でも珍しいですね、如月さんが朝風呂だなんて」

「別に珍しい事でもないわよ~。この髪、痛みやすいんだから」

「毎日のお手入れが欠かせないという事ですね」

「それに、涼月ちゃんにはもう一つお礼をしなきゃいけないから」

 

急に神妙な雰囲気で話し出す彼女。一体急にどうしたというのだろうか。

 

「私、最近寝不足だったじゃない?」

「そう、ですね。あの朝であったときも少し眠そうでしたし」

 

『良かった。またこの日が迎えられて』

 

そう言っていた彼女の顔を思い出す。その目に映る光景が当たり前ではないような。

病に倒れ、死の瀬戸際に居るような人の様に弱弱しいものだった。

 

「最近夢を見ていたの」

「夢、ですか」

「そう。それもとっても怖い夢。私が水底に沈んでしまう夢」

 

「この前の作戦で敵機の爆撃を受けて、沈んでしまう夢」

 

私はそれを聞いてぞっとする。私の夢と似ているのではないだろうかと。

それだと、あの夢の続きで誰かが沈んでしまうのではないか。

 

「でもね、貴女に助けられてからその夢は見なくなったの」

「えっ……」

「寝不足はお肌と髪の天敵なのよ。だ・か・ら」

 

背後に気配。耳元で囁かれるねっとりとした声。いつの間に移動してきたのか。

シャワーの出している音で浴槽から出る音が聞こえなかったからだろうか。

はたまた私が目を離した隙に上がっていて、シャワーの音で足音を誤魔化して。

 

「貴女もますます強く、美しく、ね?」

「ひゃあっ!?」

 

如月さんの指が私の首元から背筋を撫で下ろした。

その独特の触感に思わず体が震え、全身の力が抜ける。

なんとかしっかりしなくてはと力を入れようにも何故か入らない。

これがいわゆる骨抜きというものなのか。

 

「あらあら、涼月ちゃんはここが弱いのね……今、如月が楽にしてあげる♪」

 

そのように理解を深めている場合じゃないと思ってももう遅い。

石鹸を手に付けた如月さんの手が全身をくまなく洗っていく。

なんとか抵抗しようにも先程骨抜きにされた影響と、

現在進行形で続く彼女の手の動きが更に私の力を奪っていく。

 

「あんまり触っちゃ……あっ、そこはもっとダメぇ!」

「そんな、ダメですぅ!!」

 

引き戸が勢いよく開け放たれ、そこには顔を真っ赤にした吹雪さんがいた。

その声で如月さんの手は止まり、私は完全に骨抜きにされてその場に崩れ去る。

 

「ちょっとやりすぎちゃったかしら」

「き、如月ちゃんに涼月さん! 何やってるんですか!」

「およ? 如月ちゃん?」

 

吹雪さんの影から見えたのは睦月さん。良かった。これで何とか……なる、筈。

 

 

 

「ごめんなさい!」

 

脱衣所で着替えて牛乳を飲んでいると、吹雪さんが頭を下げる。

 

吹雪さんは朝のランニングの汗を流すために入渠ドックに来て、

睦月さんはたまたま朝風呂にしようかと思ってやって来たらしい。

 

睦月さんは依然私と同じような経験があるそうで何も言わなかったが、

吹雪さんは耳年増なのか顔を真っ赤にして突っ込んできたという形になったわけだ。

そして今、如何わしい想像をしてしまったという事で私に謝っているのだろう。

 

「気にしないでください。私も一度、そう言った経験はありますから」

「へぇ~、何かしら?」

 

思わず口が滑ってしまう。

泊地の事は口にしてはいいけれど、大和さんの事は最重要機密。

彼女に関する事は言ってはいけない。彼女の名前を出さないように注意しなければ。

でも、変に嘘を吐くとボロが出そうなのでそのまま素直に話そう。

 

「泊地に着任した時、少し不安になって外で月を見ていたんです。

 その時に『月が綺麗ですね』って、声をかけてくれたんですよ」

「「?」」

「あらあら……」

 

吹雪さんと睦月さんは首をかしげていたが、

如月さんは意味を知っているようでニコニコしながらこちらを見ていた。

 

「睦月ちゃん解る?」

「ううん。如月ちゃんは?」

「ふふふ、それこそ愛の告白よね~」

「へっ?!」

 

睦月さんの質問に何かを思い出したように如月さんが答える。

それを見て苦笑する吹雪さんと、

逆に予想外の答えが飛んで来たのか耳まで真っ赤にする睦月さん。

私は何のことかさっぱり解らず、首をかしげることしか出来なかった。

 

入渠ドックから出て食堂に向かっている途中に夕立さんと合流した。

 

「もう、皆夕立をのけ者にしてひどいっぽい!!」

「のけ者になんかしてないよー!」

 

4人ので何気ない会話を眺めながらも食堂に入って料理を受け取る。

今日は和朝食のようだ。

 

久々の大人数の食事で、思わずトラック泊地の事を思い出す。

私を含めた四人は全員駆逐艦だった事もあって、どうしても思ってしまった。

 

「それで、涼月ちゃんの脱衣所の話の続き聞きたいっぽい」

 

不意に夕立さんが私に話題を振ってくることで現実に引き戻される。

どうやらトラック泊地の思い出話をご所望のようだ。

とは言っても大和さんの事は口にしてはいけないという決まりなので困ってしまう。

まぁでも、名前を出さなければ問題はないだろう。

 

「そうですね。では少しだけ」

 

私は大和さんの事を彼女の名前を出さずに説明した。

彼女に励ましてもらったこと。彼女と共に強くなると誓ったこと。

 

「なので私がこうして努力できるのも、

 その人の護衛艦として彼女を守ると決めたからなのです」

「素敵な話ね~」

 

皆食事するのも忘れて私の話を聞くのに集中していた。

特に吹雪さんは食い入るように聞いている。

 

「なら吹雪ちゃんと同じだね」

「吹雪ちゃんは『赤城先輩の艦隊の護衛艦になる!』って言ってたっぽいー」

 

その言葉を聴いて食い入るように聞いていた理由が解った。

なるほど、彼女もまた私と同じような道を目指していたのか。

 

「でも涼月さんなら絶対その人の護衛艦になれますよ!」

 

席を立って勢いよくそう言う彼女。思わずテンションが上がってしまったのだろう。

それを隣で座っていた睦月ちゃんが何とか抑えて座らせた。

 

「ありがとうございます吹雪さん」

「で、その人はなんていう人っぽい?」

「それは秘密です」

 

回りからブーイングが飛び交ったけれど私は決して口にしなかったのだった。

 

 

 

朝食を終えた後、長門秘書艦に放送で呼ばれて提督室に移動する。

扉を開けると、ガチガチに緊張している吹雪さんがそこに居た。

 

「来たか。連日すまないな」

「いえ。こちらも先日はすみませんでした」

「気にするな。隊から誰一人損耗を出さずにW島を攻略出来たのも、

 紛れもない涼月の行動あってこそだ。だが次は無いと思えよ」

「はい。肝に銘じておきます」

 

長門さん曰く提督はどこかに出かけているらしく、その代りに別の艦娘の方が居た。

黒髪で腰のあたりまで伸ばした長髪。カチューシャと眼鏡をしている。

 

「初めまして、私は大淀型軽巡洋艦『大淀』です。鎮守府の通信関係を担っています」

「秋月型駆逐艦、三番艦『涼月』です。よろしくお願いします」

 

声は聴いたことがある。

鎮守府正面海域を解放した作戦の時に最初に艦隊名を読み上げていた人だ。

 

「あ、あの!」

 

突然吹雪さんが声を上げる。見るとこちらの方を向いていた。

酷く緊張している様子だが、大丈夫だろうか。

 

思えば私と吹雪さんは今回が初任務。

最近は遠征の兼ね合いもあって授業が休みがちだったので、

そこではまともに話したことは無い。

朝の脱衣所の会話も如月さんに話題を乗っ取られてしまったので、

結局は吹雪さんとの会話には発展しなかった。

でも今朝色々な話を交わせたのが何よりもうれしい事であった。

 

「涼月さんも、もしかして今回の任務に参加されるんですか!」

「そうですね。吹雪さんもですか?」

「はい! よろしくお願いします!」

「こちらこそ。W島での活躍は聞いています。共に頑張りましょう」

 

互いに敬礼をかわした時、彼女の目が輝いているかのように見えた。

 

「ところで長門さん、今回は昨日の」

「ああ。察しが早くて助かるが説明は皆が揃ってから行う。もうしばらく待っててくれ」

「はい」

 

という事は昨日の編成とほぼ同じになるだろう。

どうして吹雪さんなのかは解らないが、これも提督の決めた事なのだろう。

 

「あの、昨日の事って?」

「吹雪ちゃんは今回南西諸島海域に向かう、

 金剛を旗艦とした第二艦隊に一時的に編入されるの」

「だから涼月さんが……って、金剛さんも!?」

 

暫く吹雪さんはうっとりした表情をしていたが、我に返って私に聞いてくる。

 

「涼月さん、金剛さんってどんな人ですか?」

「そうですね。日常と戦闘での性格の差が激しい人……ですかね」

 

日常だとティータイムと称してお茶会を良く開いていたり、

良く英語交じりの言葉を喋っていて時たま意味が理解できない時もある。

またとてもフランクで誰にでも友好的な態度を取る。

特に提督に対しては長門さんが割と真面目に止めないといけなくなるほど。

 

戦闘だと非常に優秀な人で、特にW島の奇襲部隊の援護をした時は本当に的確だった。

鎮守府正面海域の解放に至っても同じ。

 

「後吹雪さん、提督室の扉の正面には立たない方がいいですよ」

「えっ? どうしてですか?」

「そうね、こればっかりは私も涼月ちゃんに同意かしら」

 

陸奥さんの同意を貰って吹雪さんを正面から大きく横に移動させる。

その直後、轟音と共に何かが近づいてきてきた。

 

「な、何!? 地震?!」

「大丈夫よ。落ち着いて吹雪ちゃん」

 

慌てる吹雪さんを陸奥さんが後ろから肩に手を置くことで落ち着かせる。

私はこれから起きる出来事を想定した。経験者として。

 

次の瞬間、提督室の扉が正面に立っていた長門さんに向かって飛んで行く。

どうやら何かあるごとに金剛さんが思いっきり開けているので、

留め具が緩んでいたのだろう。

 

長門さんはそれを何事もなく受け止めた。

 

「Wow……DoorがFryしてしまったデース」

「金剛、壊した扉の修理費は給料から天引きしておくぞ。いいな」

「……Yes,miss」

 

戦艦のお給料は私達とはどれほどの差があるか解らないが、

青菜に塩を掛けたように落ち込む金剛さんは初めて見た。

 

吹雪さんの方に視線を送ると、顔を真っ青にして震え切っている。

どうやら別の意味で守る事が出来たようだけれど、何か違う気がする。

一方の陸奥さんの方は必死に笑いをこらえていた。

 

 

//////////////////////////

 

 

その後比叡さんを始めとした金剛型戦艦の三人もやってきて、

私達は任務の説明を受けた後、金剛さん達が開催したお茶会に参加していた。

 

因みに任務内容は先日霧島さんが補足した戦艦2、駆逐艦4の深海棲艦の要撃。

現在もスコールは続いているのでこの様な編成になっている。

 

私が第二支援艦隊に配属された時も、歓迎会はこんなお茶会だったなと思い出す。

 

「では改めまして、金剛型二番艦の『比叡』です!」

「金剛型三番艦の『榛名』です! よろしくお願いします!」

「金剛型四番艦、『霧島』です。よろしくお願いしますね」

「は、はい! 特型駆逐艦の『吹雪』です! よろしくお願いします!」

 

任務説明の前は落ち込む金剛さんを三人が励ましていたため、

十分に吹雪さんに自己紹介が出来なかった事もあり、

お茶会を通して親睦を深めようとのことだった。

 

霧島さんがケーキスタンドに乗ったお菓子を取り分けて皆に配膳していく。

時間帯的には昼食と夕食の半ばあたりの時間なので大きさは比較的小さかった。

それでも少し小腹の空く頃に何か食べられるのは嬉しい。

霧島さんからお菓子を綺麗に並べられたお皿を貰って一口頂く。おいしい。

 

泊地でも大和さんがこんなお菓子を良く作ってくれていたな、と思い出す。

今彼女達は元気だろうか。こちらに来てから手紙も届いていないので不安になる。

実際彼女達の練度は相当な物だから執拗に心配する必要も無いのかもしれないが、

如月さんがあんな状況になったこともあって、少し心配になった。

 

「どうかしましたか?」

 

私を心配して声をかけてきたのは榛名さん。

その顔を見て再びあの夢が脳裏をよぎる。

 

「いえ、なんでもありません」

「そうなのですか……何か榛名に協力できることであれば言ってくださいね」

「はい、ありがとうございます」

 

あれはただの夢だ。夢であって現ではない。幻想であって現実ではない。

自分にそう言い聞かせる。それでも、それが信じられない私がいる。

 

夢とは、必ず知識として存在する物が現れるという事を知っていたから。




如月で立てたフラグはすべて回収。如月は魔性の女。
彼女のボイスにリバーブ掛けてお風呂仕様にした動画は犯罪的にエロイ。
何気に如月はボイス使いやすいので原作台詞大量投入。

第四話の編制でどうしも島風が抜けてしまうので、
前々回の遠征で島風を出したというパターン。人気高いから入れないと(使命感)である。

そして何より島風が抜けるので『進め!金剛型四姉妹』(あの時の曲名)の存在が消滅。
楽しみにしていた方すみません。(そもそも歌詞などは聞き取って書いても多分アウト)
のばし棒とか入れれば何とかなるかもしれないけど!

その分長門分補給。陸奥も追加。
後毎回あんな感じだと留め具取れるだろうという予想の元作成されました。
sirは男性に対して、ma'amは女性に対してですが、
長門は未婚女性などの理由でmissになってます。

簡易的な自問自答コーナー(雑談台本形式)

涼「と言うわけで、過去にも行っていた雑談・台本形式の質問コーナー」
主「どうしても見辛くなるけど、やりたいだけなんだ。後悔はしていない」
涼「『涼月』です。本編とは別人として捉えて頂けると幸いです」
主「まぁ、こういう系のキャラって崩壊前提だもんな」
涼「ですね。では行きましょう」

主「最初は入渠施設か……こいつはちょっと悩んだ」
涼「本文で私が説明している通りです。因みに入渠シーンが多いのは主さんの趣向です」
主「入浴中は癒されて心が開くというのがもっぱら有名だからな」
涼「流石に気分が高揚します」
主「それ加賀さんの台詞。それに近代化改修時と装備換装時の台詞だし」

涼「次は、『月が綺麗ですね』とは何なのか」
主「これはまぁ、『I Love you』です。なお返答は『私死んでもいいわ』らしい」
涼「結構有名ですけど、返答までしっかり知っている人は少ないのではないかと」
主「あと涼月ってこともあってそこら辺使ってます」
涼「なるほど、では次に行きましょう」

涼「『私達はお給料制でやっているのか』です。これは私が答えますね」
主「おう、よろしく」
涼「これは甘味所間宮のお品書きの下に値段らしき物が書いてあった事に由来します。
  なので自然と艦娘はお給料やお小遣いを貰っているという形になります。
  因みに金額は艦種によって様々で、基本的に大型艦になるとその分多額になります。
  一定額から戦果MVPなどでボーナスが発生し、金額に差が生まれる仕様です」
主「半分傭兵みたいな感じ、かねぇ」
涼「ですね。金剛さん達が紅茶セットなどを完備出来ていたのはそう言う理由です」
主「もちろん独自設定なので、アニメではどうかは解らないとしか言えんのです」

涼「最後ですね。『W島はどう読むのか』」
主「アニメでも言ってる通り『うとう』と読んで下さい。振り仮名は勝手を知らんのだ」

涼「以上になります。最後に主さん」
主「ん?」
涼「こういう場では最後に主さんを粉砕するのが定番と聞いたのですが」
主「いや、それは偏見だと思うが。俺が変態発言しなければ問題ない筈。
  後関係ないけれど涼月の下着の色は黒ドゴォ」
涼「そういう設定は言わなくていいです。本編にもありませんし」
主「基本この小説はそう言う路線でもありません。一例を除いて」
涼「その回の時は迷わず夜戦カットインで粉砕しますからね」
主「今更書き換えられないから回避不可能なんですがそれは」
涼「ではまた次回お会いしましょう。因みに艦娘の服は水に濡れても透けない仕様です」
主「気になる貴方はアニメ第十話の吹雪の入渠シーンでの睦月をチェックドゴォ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話『黄昏時の涼月』

第四話後半戦と第四話終わりの後日談的な物。

そして十二話にして初めてあの人が……

4/22 睦月と如月の名差しで改二だと……


荒れ狂う海とスコールの中を複縦陣で進む。

お茶会が終わり、私達は再び南西海域に向かっていた。

深海棲艦の編成は戦艦2、駆逐4。

スコールで視界が悪いことを考慮しつつ見張員の二人はお留守番だ。

 

「っ、凄い雨ですね、これじゃ見渡そうにも……」

「今回は見張員の妖精さんもお留守番です。

 あれを装備していると魚雷を装備できませんから」

「涼月さんの魚雷って背中にあるんですね。なんだか島風ちゃんみたい」

「島風さんと違って発射を行う時は着脱による艦首との接続に改造してありますがね」

 

吹雪さんの緊張をほぐす為にも軽い会話を挟んでおく。

こうやって意思疎通しておくのも時には必要なことだ。

 

『榛名さん、先程襲撃を受けたばかりです。速度を落とした方が!』

 

夢の中の自分の言葉が頭をよぎる。

彼女は返答せず行動で示すわけもなく、ただそのままの速度を維持したままだった。

今は私達が先頭に居る為彼女の後姿を見ることは当然できない。

 

『そう。それもとっても怖い夢。私が水底に沈んでしまう夢』

 

如月さんの話を思い出す。

ただ夢の話だというのにそれに似た光景を見ずに済んだという事に、

少しだけそれに安心感を覚えてしまう。

 

「戦艦は私達が引き付けマース。駆逐艦はブッキーとズッキーに任せるネ」

「涼月ちゃんは、吹雪ちゃんをしっかり見ててあげてね」

「解りました比叡さん」

 

間もなくあの島だ。それはつまり、戦闘がもうすぐ始まるという事。

私はペンネントを強く締めて気を引き締めた。

 

 

Side 吹雪

 

 

涼月さんが気を引き締める様にペンネントを強く締め直す。

もうすぐ戦闘が始まるのだろう。

それでも彼女がしっかりと見てくれるという事に、

言葉では言い表せない安心がそこにあった。

 

「電探に艦あり! 戦艦2、駆逐艦4です!」

 

前に禍々しい空気が立ち込める。

その空気の中現れたのは、2隻の戦艦とその後ろに続く4隻の駆逐艦。

 

「OK霧島! 比叡、切込みお願いネ!」

「もちろんですお姉さま!」

 

私のすぐ後ろに居る比叡さんが主砲を斉射して、戦艦と駆逐艦の隊に分断した。

 

「ではブッキー、ズッキー! さっき言った通りお願いネ!」

「「はい!」」

 

私達も分れた駆逐艦を撃破するために分れる。

 

「吹雪さん、一時的にとは言え数としてはこちらが不利です。

 こちらの機動力を生かして更に分断し各個撃破していきましょう」

「解りました!」

 

涼月さんがそれを言い終わるとほぼ同時に特殊な主砲を構えて発射する。

砲身が長くて私の主砲より長射程の様だった。

 

同じように複縦陣を取っていた駆逐艦の水柱が上がり、丁度左右に敵が分れる。

その分れた右側の駆逐艦をすぐに発射された弾が先頭の駆逐艦に直撃した。

 

「右側は私が相手をします。左側は吹雪さんに」

「は、はい!」

 

全く動じず鮮やかに深海棲艦を撃つ姿に思わず見とれていたけれど、これは戦闘だ。

私も、涼月さんの期待に応えないと!

 

「(大丈夫。私ならできる!)」

 

正面の駆逐艦を捉えて主砲を撃つ。初弾夾叉。次!

続けて放った弾は直撃。その隙を逃さず魚雷を発射する。

主砲の攻撃で怯んでいたのか、魚雷がそのまま直撃して沈んでいく。

 

後続の敵駆逐艦は一旦形勢を立て直そうとしたのか、旋回して離れようとしていた。

 

ここでもっと頑張れば皆が楽になる。

そして何より今まで失敗して助けられてばっかりの私じゃない事を、

尊敬する涼月さんに見せてあげたい。

 

「私が、やっつけちゃうんだから!」

 

追撃戦を敢行。相手は逃げ腰今攻撃して不意を突けば確実に落とせる!

 

「吹雪さん!!」

 

後ろから名前を叫ばれたと思えば、艤装に引かれて重心が移りバランスを崩す。

当然何度も海面に叩き付けられて思いっきり後ろに吹き飛ばされた。

体勢を何とか起こしつつも顔を拭うと、さっき私の居た場所には涼月さんが立っていた。

 

「涼月さん! 急に何するんですか!」

 

彼女はそれに答える事無く急旋回。その瞬間彼女の背後で大きな爆発が起きた。

 

「……えっ」

 

そのまま涼月さんは蹴られたボールの様に吹き飛ぶ。

涼月さんが居た場所の先には、戦艦ル級が笑っていた。

 

つまり、つまり、つまり、さっきの爆発は……ル級の……

 

跳ね返る様に転進して私は吹き飛ばされた涼月さんの元に駆けつける。

そこに居たのは海面で仰向けになりながらも、弱弱しく呼吸する涼月さんが居た。

生きている事に安心しながらも、どうしてこうなってしまったのか考える。

 

「吹雪、さん……」

「涼月さん! 喋っちゃ駄目です!」

 

体を起こそうと背中に手を添えるも、彼女が顔を歪めたのを見て慌ててやめる。

その背中にある筈の魚雷が既に無い。

手に生暖かい物がべったりと張り付く。赤い。それは、血。

 

「こんな、血が……」

「戦艦は……射程、長いんですよ」

 

こんな時だというのに、この人は私に教えてくれる。

私が追撃したのが原因で、いつの間にか戦艦の射程に入っていたようだ。

それを見た彼女は私の艤装を引っ張ってまでして、射程外にまで飛ばしてくれたんだ。

すぐに彼女も離脱しようとした。でもその途中に被弾した。

背中に付けていた魚雷発射管に直撃して魚雷に誘爆したんだ。

 

「吹雪……さん」

「だから喋っちゃ駄目って!」

「駆逐、艦……は、出来る事を、見極めて……」

 

そのままぐったりと何も言わなくなってしまう涼月さん。

 

「涼月さん! 涼月さん! 起きてください!」

「大丈夫。気を失っているだけですよ」

 

榛名さんが後ろから声をかけてくれる。確かに、涼月さんは息があった。

でも一時を争う事態であるのは変わりない。

 

「ブッキー! ズッキーの事は榛名に任せてブッキーは駆逐艦を!」

 

金剛さん、比叡さん、霧島さんはル級を必死に引き付けている。

でも残った一隻の駆逐艦がこちらに向かっていた。私の取り逃した一隻。

涼月さんは既に二隻落としていたようだ。

 

「今度こそ、守ってあげてください」

 

榛名さんが私の目を見てそう言ってくれる。

私が、涼月さんを守る?

出来るか出来ないか考えるも、現実は考える時間は与えてくれない。

私は前に出て迫りくる深海棲艦と対峙する。

 

12.7cm砲を発射するもそれを右に旋回されて回避される。

回避した駆逐艦に対して次発による偏差射撃。

それを想定していなかったのか、その艦首部分と言える場所に直撃した。

 

間髪入れずに魚雷を発射。でも魚雷は到達するまでに時間がかかる。

艦首のみの被弾だったからか敵駆逐艦は魚雷をよけようと速度を上げた。

このままだとかわされる。何か、確実に足止めできる物があれば。

 

不意に涼月さんの持っている主砲が目に移った。損傷はなく、まだ使える。

無我夢中でそれを左手で持って速度を上げる駆逐艦を狙う。

 

「私が皆を守るんだから!!」

 

発射したと同時に反動を殺しきれず後ろにバランスを崩すも榛名さんが支えてくれた。

放たれたその弾丸は駆逐艦の右舷に直撃しその衝撃で動きが止まる。

その直後先程放った魚雷が直撃し、駆逐艦は荒波に揉まれて水底へ消えていった。

 

「や、やりましたよ金剛さん! 榛名さん!」

「Good Jobブッキー! 後は私達に任せるネ!」

 

遠くに見える二隻の戦艦を、じりじりと内側へ寄せていく霧島さんと比叡さん。

そしてついにその二隻がぶつかり合い、バランスを崩した。

 

「「お姉さま、今です!」」

「OK,熱々のローストチキンにしてあげマース!!」

 

金剛さんの主砲が火を噴き二隻の戦艦に直撃。

敵戦艦は引火し合い大爆発を引き起こしてスコールを吹き飛ばし、私達の勝利を飾った。

 

「Heyブッキー! How you like me now?」

 

金剛さんの浮かべる満面の笑みとピースサインは、まさに金剛石の様に輝いていた。

 

「お姉さま、涼月ちゃんの為にも早く離脱しましょう!」

「OK、皆さん、最大戦速でこの海域から離脱しまショウ!」

 

榛名さんが気を失っている涼月さんを背負っている。

帰るまでが任務。そう痛感する私だった。

 

 

Side 涼月

 

 

全身に包み込むような温かさを感じる。こんな感覚を感じるのは久しぶりだ。

そう。初めてトラックで目覚めたのもこんな感じだった。

私は今入渠している。私は今生きている。

 

目を開けるとドーム状に膨れ上がった天井が目に映った。

 

「目が覚めたようね」

 

隣に居たのは短い短髪の女性。彼女は一人で何故か将棋をしていた。

彼女は確か、鎮守府正面海域の解放の時に第一機動部隊にいた……

 

「『加賀』よ。吹雪さんから話は聞いているわ。彼女を庇って大破したらしいわね」

「は、はい……」

「貴女の活躍は私達の耳にも入っているわ。もちろん『赤城』さんにも」

 

黙々と将棋をしながらも淡々と話す加賀さん。視線は常に盤上にあった。

赤城。第一機動部隊の旗艦にして『一航戦』の一人。加賀さんもその『一航戦』の一人。

そんな凄い人が何故ここに居るのだろうか。

というよりも、一人将棋が出来るほどの余裕があるのだろうか。

 

前に乗り出して加賀さんと私のの入渠時間を見比べてみる。

私は約3時間。大破した関係もあるだろうが少し時間を要する。

一方の加賀さんは約12時間。半日である。

何の為に高速修復材が必要なのか解った気がした。

 

「私の顔に、何か付いていて?」

「いえ、入渠時間が随分長いんだなと」

「そうね。艦種の関係もあるけど練度が高まればそれに応じて時間が伸びていく。

 練度が上がればその分腕も上がり、繊細な事が得意になっていく。

 それを元の状態にまで戻すとなると、自然と時間がかかる物よ」

「リハビリのようなものも兼ねている、と」

「まぁ、そうなるわ」

 

話題が無くなってしまう。

彼女は相変わらず将棋に集中しているけれど、私は特にこれといって暇を潰す物が無い。

そもそも大破したとはいえど3時間はかなり酷な時間であった。

 

「……暇そうね」

「……はい」

「駆逐艦でそれほどの時間を要するという事はむしろ誇るべき事よ。

 これが唯一と言っていいほどの練度の目安なのだから」

「とはいえ、この暇がマシになる物ではありません」

「……蒼龍と飛龍、この二人を知ってるわよね」

 

将棋が済んだのかこちらを向いてくる加賀さん。

初めて視線が合い、その釣り目に少しばかり威圧される。

 

「怒っているつもりはないのだけれど、質問に答えてくれないかしら」

「あっ、すみません。はい。日頃お世話になっています」

 

あの入渠から悩んでいたことはもう忘れたかのように振舞い、

都合に合わせてとは言えほぼ毎日防空射撃演習を行ってくれる二航戦の二人。

最近は行えていないものの、あの二人は何かと楽しんでいるような気もする。

新たな戦術を開発するかのように。まるで新たな訓練法を思いつく教官の様に。

 

蒼龍さんも飛龍さんも、日に日に何か怖さが増している気がする。

あの人達を鬼教官と言った方がいいのではないだろうか。

 

「あの二人が言っていたわ。『貴女のお蔭で私達も練度を高め合える』と」

「『二航戦』であるお二人が、ですか」

「『一航戦』も『二航戦』も、所詮は戦隊の名前に過ぎないわ。

 その点で言えば、貴女も私も、同じような物よ」

 

『当然よね。私が努力してやっと『五航戦』になったのに実戦に使ってもらえなくて、

 突然入って来た駆逐艦がいきなり戦果を挙げて栄転だなんて、怒りたくもなるわ』

 

それを聞いて瑞鶴さんが落ち込んでいた時の言葉を思い出す。

そして理解する。これが彼女と加賀さんの圧倒的な考えの違いだと。

でも彼女は『五航戦』でありながらも未熟であることは知っている。

 

「加賀さんは瑞鶴さんの事、どう思ってますか?」

「……そう言えば貴女はあの子にも関わりがあったわね」

 

見るからに嫌そうな顔をしている。

これは答えを待つまでも無いのかもしれない。

 

「そもそもあの子は色々となってないわ。

 技術、姿勢、構え、集中力、忍耐、精神。一度に上げればきりがない。

 教えようにも一々文句を付ける程度じゃ、とても空母として一緒にやっていけないわ」

 

私が目覚めてままない時の会話に比べて、彼女がここまで言葉を羅列させる事に驚く。

そこまで嫌われているのかと思うに至るまで。

 

「何かと熱くなりすぎるのも問題ね。

 何かと挑戦的なあの姿勢はどうにかしないといけないわ」

 

「そのくせ一つの事に執着しているのも問題ね。

 空母たるものもっと物事を大局的に捉えて、把握する力も必要だというのに」

 

『だったらこの『五航戦』である私が『防空駆逐艦』の名前に相応しいかどうか、

 直々に判断してあげるわ!』

 

彼女をフォローしてあげたいのだが、ごもっともで返す言葉が見つからない。

なので私は万能な切り札を使う事にした。

 

「加賀さん。『好き』の対義語はご存知ですか」

「……? 『嫌い』よ」

 

突然変な事を聞くのだなと、そう言いたげな顔をする彼女。

確かに普通であれば好きの反対は嫌いだ。これは誰もが答えるだろう。

その新鮮な表情で威圧感を覚える事が無くなり、私は言葉を続けた。

 

「大概はそうなのですが、私としては『無関心』だと思います」

「それはどうしてかしら」

「好きも嫌いも、人や物に対して抱く感情の一つです。つまり好きでも嫌いでも、

 共にその物や人に対して『関心』があるという事です」

 

「これを応用すると全ての感情は『関心』に繋がります。

 だからこそ対義語は『無関心』につながると思います」

「ではあなたは好きな料理と、食べれば体を壊しかねない料理、

 『好き』と『拒絶』を共に『興味がある』と言う言葉で片付けられるのかしら」

 

何も言い返せなくなる。言わずもがな、そういう料理を口にしたことがあるからだ。

そう言う点においては磯風さんは素敵な人だが同時に罪な人だと思う。

 

「つまりはそういう事よ。だから私はこう言うの。

 『五航戦の子なんかと一緒にしないで』と」

 

決別するかのように言う彼女であったが、

その目には少しの迷いが生じていたことを見逃さなかった。

 

 

///////////////////////

 

 

入渠ドックから出るとまたも吹雪さんに謝られた。

それでも私は『誰一人失うことなく帰ることが出来たことを喜ぶべきだ』と伝えて、

自分の部屋に戻った。

 

第二艦隊からは吹雪さんが外され、島風さんも遠征のみなのでいない。

夕張さんも第四水雷戦隊に配属されているのでいない。

榛名さんと霧島さんは基本的には金剛さんと比叡さんの部屋で、

寝泊まりするだけのスペースが確保してある為、実質的な一人部屋と化していた。

とは言っても、見張員の妖精さんが居るので寂しくはない。

 

だが、今日は違った。

 

「入渠、終わったんですね」

「榛名さん……」

 

榛名さんが一人部屋の中で待っていた。

隣の部屋が騒がしいのを考えると、金剛さん達三人は隣にいるようだ。

しかし何故彼女が居るのだろうか。何故、彼女なのだろうか。

 

「涼月ちゃんは、覚えてますか? 私と初めて会った時のことを」

「……あの時は、すみませんでした」

 

提督室で心配してくれたのに、跳ね除けてしまったこと。

その時の私は、本当の意味で気が滅入っていたと思う。

 

「むしろ謝るべきなのは榛名の方です。

 私、涼月ちゃんを見た時、初めて会った気がしなくて」

「えっ」

「だからずっと私を見ている貴女を見た時、

 貴女も私に似た感情があるのかなと思いまして」

 

「だから聞かせてほしいんです。この榛名を、貴女はどう思っているのかを」

「私、は……」

 

口を噤んでしまう。こんなことを言ってしまっていいのだろうか。

もしかしたら沈んでしまうかもしれない未来を。

それが私かもしれない。彼女かもしれない。私に似た誰かかもしれない。

既に二人が損傷を受けたあの場所を、敵が潜んでいるであろうあの場所を、

こちらの言葉を無視して全力で離脱し向かおうとする彼女の事を。

他の誰でもない彼女に、言ってしまっていいのだろうか。

 

不意に抱きしめられる。入渠の温もりとは違う温かさを感じる。

これは、大和さんの時に似ている。

 

「大丈夫です。榛名がついています。榛名も大丈夫です」

「いいんですか。もしかしたら、貴女が……」

「榛名も、涼月ちゃんが居るから、大丈夫なんです」

 

「『ですから、共に強くなりましょう。心も、体も、私と共に』」

 

言葉が重なる。その言葉に、言葉では言い表せない安心と、

今まで溜まっていたあの夢の感情があふれ出て来て。

 

気付けば私は彼女の胸の中で、ただひたすらに泣いていた。

 

 

 

ひとしきり泣いて落ち着いた後、その夢の事を話した。

 

「そうだったのですか……敵の潜水艦がそんなに本土の近くまで」

「はい。それで私は声をかけたのですが、榛名さんは応じてくれなくて」

「その後は、どうなったのですか?」

「夢は、そこで終わっています。無事につけたのかどうか、解りません」

 

榛名さんは少し考えるそぶりを見せた後、私に笑いかけた。

その一連の仕草が妙に可愛らしく見えて私は笑いをこぼす。

 

「榛名も、貴女も、その護衛艦の人も、大丈夫です」

「根拠は?」

「ありません」

 

満面の笑顔でそう答える彼女に呆気を取られてしまった。

その根拠のなさがむしろ夢の中の彼女と、今ここに居る彼女が同じだと思わせる。

少しだけ、実はそっくりさんの別人だという気がしたのだが、

今ここでそれが意外な形で裏切られた。

でも、それは悲しい事ではない。むしろ嬉しい事だった。

 

「不思議ですね。私も誰も沈まない気がしてきました」

「はい! その意気です!」

 

二人で笑い合う。この感情の根拠は解らない。

でも解らないままでもいいかもしれない。

だって、誰も沈まないと解っているのだから。

 

その日は一人ではなく、榛名さんの腕に抱かれて眠るのだった。

 

 

**********

 

 

夢。白黒の世界。薄明るい世界。夜明け前のようだ。

 

私達は何事もなかったかのようにその海域を抜けて、目的地である呉に着いた。

私を含めた三人は、何事も無かった事に安心して胸をなでおろしている。

 

私と、私に似たその人が話している。その顔にはノイズが走って誰かは解らなかった。

ただ、私と同じペンネントをしている。『第六十一驅逐隊』と書かれたペンネントを。

 

荒波に揉まれた疲れを癒す為に、そして榛名さんはどこかで受けた傷を癒す為に、

三人で仲良く入渠するのであった。

 

 

**********

 

 

目が覚めるといきなり柔らかい感触と温かさを感じる。

誰かに抱きしめられているようだ。

 

「榛名は……大丈夫です……むにゃ……」

 

声が聞こえて、そう言えば昨日は榛名さんと一緒のベッドで寝たことを思い出す。

どうやら榛名さん抱き付き癖があるらしい。

金剛さんの熱烈な歓迎を思い出しながらも、私はもう一寝入りすることにしたのだった。




涼月大破。金剛拳(ガノンの魔人拳的な)はないのです。
吹雪はまだ未熟。しかし憧れの人の前では……。良くあるパターンですね。
スポ魂風ストーリーと言えど、しっかりとした戦闘物なので、色々あります。
なんとなーく王道ストーリー書いてる気がしなくもない。でも王道は正義。

加賀さんとの接触。一人将棋とか寂しいとか言っちゃいかん。
彼女達も入渠の時間をつぶすのに精いっぱいなんです。
しかしこれで後接触していない正規空母は赤城さんだけ……。

そして悪夢からの解放。これも史実ネタです。
(因みに悪夢で出てきた軽空母は隼鷹さんだったりする)

次回から第五話に入ります。さて、涼月はどこの部隊に配属されるのか……
後、このキャラとオリ主の絡みが見たいという意見がございましたら、
活動報告のキャラ設定や、メッセージ送信などでお伝えください。
アニメ第六話の終わりぐらいにそう言う場を設けた外伝的な話を作りたいと思います。
なお、トラック泊地に居る子達とはストーリー上関われないのでそこはご了承ください。

簡易的な自問自答コーナー

Q.吹雪さんカッコイー!
A.吹雪の使った攻撃は、自分の脳内補正のかかった『主砲+魚雷カットイン』です。
 先行で魚雷を放ち、回避前に主砲を命中させて機関停止にして魚雷を差す。
 ゲーム内ではそこまで強くないんですが、こう考えると相当強そう。
 ゲームでは夜戦でしか使えないのですがこういう風にゲーム要素もいれたかったり。

Q.ローストチキンとか『How you like me now』って何ぞ?
A.『大 統 領 魂』   ……すみません真面目に解説します。
 まず訳としては『私の事を好きになってくれた?』です。
 これは『メタルウルフカオス』というフロムソフトウェアが出した、
 XBOX(初代)のみに対応した伝説のバ神ゲーです。
 副大統領の起こしたクーデターによって政権がひっくり返ったアメリカ合衆国を、
 パワードスーツを着込んだ大統領がほぼ単身で救いに向かうというストーリー。
 興味がわいた人は字幕実況動画がありますので是非ご覧ください。

Q.駆逐艦で3時間も入渠時間必要?
A.逆算すると涼月のレベルが見えてくる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話『築かれた石垣』

更新遅れて申し訳ないです。
たまにこういうことありますが、読者のみなさんお許しください!

アニメ第五話のお話前編。
ここから割とストーリーが進んでいきます(第六話を除いて)

再編制された部隊。涼月は一体いずこに……!


4/24 姉妹艦に対しての呼び方を修正しました。


それから暫く日が経った後、長門秘書艦から大々的に発表があった。

 

「全艦隊は本日をもって解散、新たな部隊を再編制する!」

 

その言葉は鎮守府中を駆け巡り、そして皆を震撼させた。

 

 

 

所属の書かれた紙を渡され、私は人目の付かない所で緊張しながらもそれを開く。

 

「わっ!」

「ひゃあ?!」

 

直後誰かに突然背後から声を掛けられて、飛び跳ねる様にその場から離れた。

そこに居たのは、予想以上の反応がおかしいのかお腹を抱えて笑う瑞鶴さんの姿が。

 

「あっはっはっは! いやー、予想以上の反応をしてくれて面白いのなんの……」

「瑞鶴さん! 私でも怒りますよ!」

「いーじゃない。私とアンタの仲なんだから! で、どこの部隊?」

「えっと……」

 

さっきは見損ねたので再び紙に目を落とす。

そこには『第一機動部隊』と明記されてあった。

 

「第一艦隊……翔鶴姉ぇの艦隊と同じじゃん!」

「瑞鶴さんはどこだったんですか?」

「第五遊撃部隊よ。あの新しく編制された」

 

提督もやっと私の力を認める気になったのね! と誇らしげに語る瑞鶴さん。

 

「この部隊で活躍して、あの『一航戦』の蒼い奴の鼻をへし折ってやるんだから」

「あの、加賀さんはそこまで天狗にはなっていないと思いますよ」

 

それに蒼い奴……これを加賀さんが聴いていたらどう思うだろうか。

 

「まぁアンタの実力と活躍ぶりじゃ第一艦隊は打倒かもね。

 翔鶴姉ぇの事、しっかり頼んだわよ」

「解りました。防空駆逐艦の名に恥じぬよう、努力します」

「うん。やっぱりアンタなら安心できるわ。それじゃあね!」

 

勢いよく走り去っていく瑞鶴さん。

あれから随分と憑き物が落ちたような人になったなと思いながらも、

私も急いで第一艦隊の部屋へ移動するのであった。

 

 

 

第一機動部隊。

扉を数回ノックして中から返事がしたことを確認し、部屋に入る。

 

「おお、涼月。久しぶり!」

「貴女もこの艦隊に配属されていたのね」

「川内さん、翔鶴さん。ご無沙汰しております」

 

畳に腰を掛けていたのは以前第三水雷戦隊で一緒だった川内さん。

そしてベッドに腰を掛けて弓の手入れをしていたのは翔鶴さんだった。

 

「今更畏まる事は無いよ。以前艦隊で一緒だったんだから」

「瑞鶴が随分お世話になったと聞いているわ。今後とも瑞鶴共々よろしくお願いします」

 

悪戯な笑みを浮かべる川内さんと深々と頭を下げる翔鶴さん。

本当二人とも優しい人達だ。

 

「他の方々はもういらっしゃるのですか?」

「ええ。隣の部屋に」

「では挨拶に行ってきますね」

 

荷物を置いてから隣の部屋に向かう。

川内さんと翔鶴さんが居るという事は、

少なからず知らない人がいないという事態は避けられたという事。

 

扉の前に立つ。

そういえば第二支援艦隊に居た時はこうやってノックしようとした時、

金剛さんが思いっきり扉をあけ放って出て来たなという事を思い出す。

二度もそんなことは起きないだろうと思って数回のノックをして扉を開けると、

そこにはまたも見知った方が二人いた。

 

「榛名さんに霧島さん。同じ艦隊だったんですね」

「涼月さん……なるほど、確かにあの活躍ぶりなら納得ですね」

「最近は遠征に出撃続きだったけど、涼月ちゃんはしっかりと結果を残しましたからね」

 

現時点の編制は戦艦2、空母1、軽巡1、駆逐1。なるほど主力に相応しい編制だ。

あと一人、誰が同じ艦隊になるのだろうか。

この部屋にも居ないようなのでまだ移動していないのだろう。

再編制は例え同じ艦隊であっても事前に報告されることは無い為、

事前に知るには、先程瑞鶴さんが私に配属を聴いたり話したりしない限り知りえない。

つまり普通に考えればここで初めて解るのだ。

 

「とりあえず、部屋割りの話もありますし一度どちらかの部屋に集合するというのは」

「そうですね。では榛名達がそちらの部屋に移りましょう」

「一応荷物はこちらの部屋に置いておきますね。

 そちらに持ち込んで部屋が圧迫されては大変ですし」

「解りました」

 

川内さんと翔鶴さんが待つ部屋に移動しようと振り返った所で、何か硬い物にぶつかる。

 

「っつ……」

「大丈夫? ごめんなさいね、振り返るとは思ってなくて」

 

鼻頭をぶつけたようで摩っていると心配した声を掛けられる。

今までに聞いたことがない声、ではない。ただあまり聞いたことが無いだけだ。

そう、確か鎮守府正面海域を解放した時の作戦で。

 

上を向くと、黒い胸当てに白の上衣に赤の下衣を着た女性が立っていた。

 

「貴女は確か『涼月』さん、でしたよね」

「はい。秋月型駆逐艦、三番艦『涼月』です」

「同じ部隊になれて嬉しいわ。『一航戦』『赤城』です」

 

そう。瑞鶴さんや加賀さんの話で出て来ていた『赤城』さんその人だった。

挨拶もほどほどに、私は部屋割りの事を伝えて部屋に戻る。

 

その時川内さんも翔鶴さんも、赤城さんが同じ艦隊だという事に驚いていた。

 

「とりあえず、部屋割りを決めましょう。

 希望される方がいらっしゃいましたら出来る限りそのように」

「では早速私からよろしいですか?」

 

私が仕切り真っ先に手を上げたのは赤城さん。

落ち着いた様子である彼女が真っ先に何かを言うのは意外に思える。

他の人は、先にどうぞと言った感じで順番を譲っていた。

 

「私は涼月さんと同じ部屋でお願いします」

 

それは私の予想だにしない指名だった。

 

「あ、それでしたら私も涼月さんと同じ部屋でお願いします」

 

続いて翔鶴さん。共に私を指名してきた。

 

『翔鶴姉ぇはいつも居てくれるけど、優しすぎて逆に言い出せないって言うか』

 

翔鶴さんならまだわかる。瑞鶴さんお墨付きの面倒見の良過ぎる人だからだ。

初めて出会った時も丁寧に自己紹介してくれたのもある。

瑞鶴さんと多少とはいえ関わりがあるので、そのことで話したいことがあるのだろう。

 

でもそれを踏まえても、赤城さんが私を指定する理由が解らなかった。

同じ部屋になるということは、つまり人が最も安心できる場所を共有するという事。

それも自分から率先してそう言うという事は、何かあるという事に変わりはない。

もしかすると、あの時加賀さんに失礼なことを言ってしまったのだろうか。

 

「空母二人に言われちゃ私も出る幕は無いね」

「私は榛名と同じ部屋であれば問題ないです」

「榛名もそれで問題ありません」

「で、では部屋割りも終わりましたし続いて旗艦を決定しましょう」

 

頼みの綱である三人が引いてしまったので、部屋割りは終了。

続いて旗艦の決定だ。

 

「涼月でいいんじゃないの?」

「私も賛成します。涼月ちゃんがここまで仕切ってくださってますし」

「そうね。私の分析によれば赤城さんも外しがたいのですが、

 この短期でここまでの信頼を築き上げた涼月さんに旗艦をお任せしたいです」

 

旗艦。その艦隊を纏める司令塔であり、皆の指揮を行う重要な役回り。

それなのに、何故か私を良く知っている人達は私を推薦してきた。

 

「そうですね、私も霧島さんの意見に同意です」

「……そうね。私も旗艦を勤めていたけれど、

 ここまで皆の信頼を勝ち取った人は他にない涼月さんですものね」

「あの、あの……」

 

翔鶴さんや赤城さんまで私に推薦してくる。

なんだろうか、この何とも言えないこの感情は。

このままでは私が本当に旗艦になってしまいそうな雰囲気だ。

まだ水雷戦隊などの戦力が少ない部隊ならまだ私も引き受けるのだが、

私達がいるのは第一機動部隊。第一艦隊である故鎮守府の主力陣が集まる部隊。

 

「私で良いんですか? 駆逐艦である私で」

「艦種は関係ないよ。結局は今までの積み重ね」

 

今までの積み重ね。私は、私の出来る事をしてきただけに過ぎない。

それでも、私の意図せぬところで何かが動いているのかもしれない。

そう。赤城さんが同じ部屋にしたいと言ったように。

 

 

/////////////////////

 

 

旗艦の件は私の意見も尊重するという事で一旦保留になり、

私は久しぶりの授業に出ていた。

 

「おはよう涼月ちゃん」

「おはようございます、如月さん」

 

如月さんと同じように、今では夢の事も榛名さんのお蔭で随分とマシになった。

でもやはりあの夢は意味があるもの。彼女を見るたびそう思い出す。

 

「あ、涼月ちゃん聞いて聞いて!」

 

鞄を置いていると何とも嬉しそうに睦月さんが話しかけてきた。

部隊の再編制で何か嬉しい事でもあったのだろうか。

 

「睦月の再編制された艦隊でね、如月ちゃんと同じ艦隊になったの!」

「如月さんとですか」

「そうなのよ~。それから睦月ちゃん舞い上がっちゃって、大変だったんだから」

「もう如月ちゃん! それは言わないでって約束したのに~」

 

ついにというか、やっとというのか、この二人は同じ艦隊になる事が出来た。

私はその嬉しそうな二人を見るだけでも、彼女を助けた甲斐があったと思える。

これはただの自己満足なのかもしれない。ただの傲慢なのかもしれない。

 

でも確かな結果なのだ。

大切なのはこれに浸りすぎることなく、

私はこれからも戦って行かなければならないということ。

まだ私は道半ば。大和さんの護衛艦として彼女の元に帰るまでは終われない。

 

「確かに姉妹艦の人と同じ艦隊になれるのは羨ましいっぽい」

 

珍しく夕立さんまで羨ましがっている。

まぁ、あそこまで仲睦まじい二人を見せつけられると解らなくはない。

 

そこまで思って脳裏に移るのはあの時の夢。

私と同じ『第六十一驅逐隊』というペンネントをしていたあの人。

あの人は私の妹なのだろうか。それとも姉なのだろうか。

私には解らない。でも今は解らなくていい。確かに居たという事が解れば。

 

「夕立さんにはここに所属している艦娘の方で姉妹艦の方はいらっしゃるんですか?」

「うん。一番艦の『白露』ちゃんに二番艦の『時雨』ちゃん、

 三番艦の『村雨』ちゃん、四番艦が私で、後は六番艦の『五月雨』ちゃんだよ」

「随分といらっしゃるんですね」

「でもクラスは別々でずっと遠征だからあんまり会えてないっぽい」

 

「それでも、吹雪ちゃん達が居るから平気っぽい!」

 

なるほど、強い人だ。

 

「いいないいなぁ~……!」

 

そんな中、吹雪さんが羨ましそうに机を叩いていた。

最近活躍している吹雪さんは一体どこの艦隊に移動したのか、

それが多少気になったので聞いてみる。

 

「吹雪さんはどこに配属されたのですか?」

「は、はい! 第五遊撃部隊です!」

 

話しかけるといきなり教員の人に話しかけられたかのように、

背筋を伸ばして敬礼する彼女。そこまでしなくてもと思うが、それが彼女なのだろう。

 

第五遊撃部隊。確か瑞鶴さんが配属されたと言っていたはず。

 

『第五遊撃部隊よ。あの新しく編制された』

 

あの時の自慢気な顔は忘れない。そしてその後言っていた言葉も忘れられない。

 

「瑞鶴さんと同じ艦隊なんですね」

「そうなんですよ! 瑞鶴さんと加賀さんが同じ部屋になっちゃって大変で……」

「あっ……」

 

ある意味言霊というものは恐ろしい。

彼女には悪いが反面教師として、私も色々と学んでいることが多いのかもしれない。

とにかく瑞鶴さんはご愁傷様である。

 

「そういえば涼月ちゃんはどこの艦隊っぽい?」

「私は第一艦隊ですよ」

「「「第一艦隊?!」」」

 

その時教室中にまるで電撃が走ったかのように皆が私の方を見る。

まるで飛龍さんがこちらにやってきた時のようだ。

あの時はすぐに廊下に出ることでなんとかその場しのぎをする事が出来たのだが、

今回は私の発言であり私の事でもある。逃げ場所が無いのは火を見るよりも明らか。

 

「あの、皆さんそんなに見ないでください……」

「第一艦隊って、他にどんな人がいるんですか!」

 

特に吹雪さんが詰め寄って聞いてくる。

まるで先手必勝と言わんばかりの食いつき具合だ。

 

「えっと、川内さんと翔鶴さん、榛名さんと霧島さんに……」

 

ここまで言いかけて夕立さんの言っていた事を思い出す。

 

『吹雪ちゃんは『赤城先輩の艦隊の護衛艦になる!』って言ってたっぽいー』

 

確かに今言われてみると彼女に憧れるというのは無理もないかもしれない。

大和さんにも似た、清楚な大和撫子である彼女に憧れるのは。

ただ同時にそれは今の会話では相当大きな地雷の様な気がした。

 

「後一人は誰っぽい?」

「赤城さんです」

 

しまった。夕立さんだからと油断してしまった。

その編成だと第一艦隊としては当たり前というような顔をしている人や、

凄い編成だとざわつく人もいた。ただ一人を除いて。

 

「いいな~いいな~! 赤城先輩と同じ艦隊なんていいなぁ~!」

 

暫く吹雪さんの駄々っ子の様に羨ましがるのをやめることは無かった。

 

 

//////////////////////

 

 

授業が終わってから、私は翔鶴さんに誘われて空母の演習場に来ていた。

そこはいつか睦月さんと夕立さんと訪れた、弓道場に似た場所。

一点に集中し迷いなく放たれるその矢は、

いつしか赤城さんが戦場で放っていたあの矢を思い出させた。

 

「私は、そこまで大きな物を積み上げていたのでしょうか」

「その一つ一つがたとえ小さな石だとしてもそれを絶え間なく積み上げれば、

 立派な山にもなります。ですが貴女は、その石を積み上げるだけに留まらなかった」

 

腰に拳を当てて開いた足を閉じ、静かに目を閉じてお辞儀をする翔鶴さんはそう言う。

 

「それだけに留まらなかった、とは」

「貴女は複数の石を積み上げるだけでなく固めていった。皆との信頼を強めていった。

 そして守っていった。多くの人が、貴女に感謝し、そして強く信頼している」

 

今までの事を振り返る。

ここに配属されて、睦月さんと夕立さんに出会った。

第三水雷戦隊として戦い、睦月さんや夕立さんに自信を付けさせ、

川内さんには感謝された。

 

第二支援艦隊に配属されて、暁さん達と出会い夕張さんと出会い、

金剛さん達とも出会った。

そんな中瑞鶴さんと演習をして、勝利することで彼女の心境が聴けた。

そしてその演習から、蒼龍さんと飛龍さんに出会い共に演習することで強くなった。

鎮守府正面海域を解放する時、実質的に吹雪さんを助ける事が出来た。

 

遠征では榛名さん達や島風さんと出会い、島風さんの心境を聞いた。

W島奇襲作戦が失敗し、救援に向かい、蒼龍さんと飛龍さんの演習、

そして島風さんの協力の元で如月さんを助ける事が出来た。

第二支援艦隊で同じ艦隊であった夕張さんに感謝されて、

如月さん自身もそれが結果として彼女を夢から救う形にもなったらしく、感謝された。

 

南西諸島に向かった時は吹雪さんを庇って大破したものの、

あの後の駆逐艦は吹雪さんが必死になって撃破したらしい。

金剛さん達は私を守る為に戦艦を粉砕することに成功したそうだ。

任務も成功させた後、榛名さんの相談の元私の夢を打ち明けて、

より一層彼女とは近い存在になれたと思う。

 

「それはまるで、城を支える石垣の様に」

 

「だから貴女が知らないところで、貴女を信頼している人も多いのよ」

 

思えば、翔鶴さんもそうだ。いくら瑞鶴さんと私が知り合っているとはいえど、

彼女自身がここまで信頼する事はない筈だ。

 

「翔鶴さんは、第一艦隊の旗艦が私でいいんですか」

「いいのよ。だって貴女は、瑞鶴にとって大切なことを再確認させてくれた人。

 それだけで十分なの」

 

「ごめんなさい。言葉では説明できないわ。でも、貴女になら賭けていいって思ってる。

 いつか何か、大きな物を変えるであろう貴女を」

 

強くまっすぐで、とても澄んだ瞳。

それはまるで、夜に浮かぶ満月の様だった。




「まぁ、そうなるな」

罪を犯した子供は、三途の川の石を積み……ではないです。
第五話に来るまでに十二話分の様々な事を積み重ねた結果。

そして遂に赤城さんの登場。
外堀から信頼を固めていくと、いつしか中央に届く、的な感じで書いていました。
それにしては加賀さん成分少ない気もするけど。
第一機動部隊ですが、完全にイメージです。
特にアニメに出てきていない艦娘と、主力を張れそうな人達を選出したらこうなった。
(最初は川内ポジが神通だったけど、口調被りによって川内に変えたのは内緒)

ゲームで睦月と如月が改二になって更にかっこよくなりました。好きよ。こういうの。
まだレベルが足りないのです。まだまだね。
そして睦月の艦隊。如月が生きていたらきっとあったであろう、最高の未来。
因みにアニメのタイミングで言うなら、3人ともが配属された部隊を公表した後に、
涼月が登校してきたって感じです。

今後、アニメ第七話まで(と言っても第六話は別)はずっとオリジナルっぽくなります。
ずっと第五遊撃部隊しかスポット当たらないんだもん……
ただし、裏側と言えど第一機動部隊なので、
やることはかなりしっかりやってる作りにはしています。(マグロ)ご期待下さい。

一部ゲームやアニメと比べると明らかにおかしい部分などがありましたら、
ドシドシ投げつけて頂ければ即座に修正を入れます。原因は主に御認知です。
独自設定がありますが原作に準じてこそのオリ主系二次創作。(例外は憑依系とか)
こちらもより違和感なく読める物を執筆できるよう極力努力していきますが、
今後とも皆さんご指導ご鞭撻よろしくお願いします。

日常系なので自問自答コーナーは無しですが、ゲーム関連で一つ。
艦種によって、好きな艦娘は居るのかというお話。
思い出話みたいなものにもなるので、気にしない方のみご覧下さい。
(アニメの性格による改変はスルーした場合のみ)



駆逐艦:五月雨  軽 巡:川 内  雷 巡:北 上  重 巡:古 鷹
軽空母:龍 驤  空 母:飛 龍  戦 艦:日 向  潜水艦:伊168
その他:明 石

です。初期艦という存在は大きいのだ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話『二人三脚』

アニメ第五話後半戦。
表で第五遊撃部隊が旗艦決めをしている後ろで、
第一機動部隊はどう動くのか……(完全な想像)




翔鶴さんの言葉を聴いたその日の夜。私は一人月を見上げる。

 

「何か、大きな物を変える……ですか」

 

私の中でも、ここにきて大きく変わった物がある。

いや、正確にはこの海域を解放した時、『彼女』を見てからだ。

彼女を見てから、彼女の言葉を聞いてから、それは現実の様な記憶の様な夢を見た。

 

でもそれは私だけではない。如月さんも、言ってしまえば榛名さんも同じだ。

似たような物で言えば、川内さんの『夜戦好き』と言うものも、

蒼龍さんや飛龍さんのいう『鬼教官』と言うのもある。

 

まるで速いのは当たり前と言わんばかりの才を持つ島風さんの様な者もいれば、

睦月さんの様に最初から艦娘に向いていないのではと思えるまでに弱弱しい者。

それでも練度を高めれば実力は確実に上がっていく。

 

私達は何を想い、何を願い、何を持ってして、艦娘になったのか。

 

自分で問いかけながらも、私には難しすぎる問いでもあった。

 

 

///////////////////////

 

 

第一艦隊旗艦として正式に認められた私は、

提督から与えられたある海域の攻略に当たっていた。

 

それはバシー島と呼ばれる島の付近に豊富なボーキサイトが見つかったらしく、

大規模反攻作戦に向けた航空戦力強化の為の資源を確保する物。

その為その付近の敵を掃討するのが私達の最初の任務となる。

 

敵艦隊には空母が確認されている上に、これが完了後の別任務遂行の為、

この様な大規模な編成になったとのこと。

 

「赤城さん、翔鶴さん、索敵機の発艦を。

 敵空母が確認されている以上、敵もどこから見ているか解りません」

「解りました」「ええ、解ったわ」

 

複縦陣を取りながらも注意して海域を進む。

因みに私の装備は魚雷発射管が破壊された影響で、

暫くは見張員の妖精さんにお世話になる。つまりは決定打に欠けるのだ。

 

「榛名さんと霧島さんは電探での索敵をお願いします」

「言われなくてもやっているわ。大丈夫よ」

「榛名達にお任せ下さい」

 

ここまで言ってくれるとは本当に心強い人達だ。

艦隊戦ではまたも彼女達に頼ることになるだろう。

私は対空と駆逐艦が役目。魚雷が無くとも変わらない。

 

「変ってないね、ホント」

「私の出来る事はこのくらいです。今度ばかりは戦闘でお役に立てないですから」

「ならその援護が私の役目だね」

 

川内さんは索敵を行えない物の、私の援護に徹してくれる。

確かに翔鶴さんの言っていた積み上げた信頼と言うのは、悪くないのかもしれない。

ただ一度崩れれば立て直しずらいのも解っていた。それをいかに保つか。

それが真の力量が試される物である。

 

「涼月さん、偵察機が敵艦隊を発見、編制は軽巡1、雷巡2、駆逐3です」

「了解です赤城さん。空母は含まれていない……別動隊ですか……」

「どうされますか」

「榛名さん、霧島さん、電探にそれらの反応はありますか?」

「いいえ、見当たりません。おそらく離れているのかと」

 

榛名さんも首を横に振る。ならば敵はかなり離れている可能性がある。

やり過ごすことは可能だが、何があるかは解らない。

 

「赤城さん、その偵察機さんを触接させて下さい。危険ですが……お願いできますか」

「……つまり、戦闘は回避すると」

「敵空母が発見された以上はこちらの制空権は確実な物ではありません。

 敵の動きを探りつつ敵機動部隊を発見、挟撃にならぬよう誘導しながら殲滅、

 そして反復出撃によって輸送ルートを確実化させたほうが良いと思います」

「念には念を入れよ。という事ですか」

「はい。W島奇襲の失敗も敵空母によるもの。

 そして連戦は出来る限り避けておきたいのです」

「解ったわ」

「翔鶴さんは引き続き索敵にて敵機動部隊の発見に努めてください」

 

翔鶴さんが首を縦に振るのを見て私は再び気を引き締める。

あちらもこちらと同じ空母、偵察は行っているはずだ。

どちらが先に見つかるか。見つける事が出来るか。

空母はその点では心強いが恐ろしいものでもあった。

 

「見張員の皆さんも、お願いしますね」

 

可愛らしく敬礼するこの子達も、電探とまではいかないが重要な役割を持っている。

視認することしか出来ない雷跡を発見したり、煙を発見したり。

そのお蔭で幾度となく助けられてきた。

それを考えるとこの前の南西諸島に出向いた時、

この子達を連れていかなくて本当に良かったとも思う。

 

「涼月さん! 偵察部隊が敵機動部隊を発見したわ! 編成は……っ!」

「翔鶴さん!?」

「大丈夫……ただ偵察機が落とされてしまったわ」

「了解です。赤城さん、敵水雷戦隊の様子は」

「この進路だと問題ありません。むしろ停滞している……」

「解りました。赤城さん、翔鶴さんは艦戦を集中させつつも先制を撃ってください。

 敵機動部隊との接触を優先、赤城さん、翔鶴さんを中心に輪形陣を!」

「「「「「了解!!」」」」」

 

偵察機が即撃墜されたという事は相手にこちらの存在も気付かれたという事。

航空戦は不可避である時点での制空権確保のための艦戦を集中発艦し、

向こう側の攻撃機が発艦している事態を想定しての輪形陣。

私が最前列に移動し、後ろに翔鶴さん、赤城さん、川内さん。

翔鶴さんと赤城さんを挟み込む形で榛名さんと霧島さんを置く。

 

「航空戦に突入、制空権の状況としてはこちら側が優勢ね」

「翔鶴さん、もしもに備えて直掩機をお願いします」

「えっ?」

「いくらすぐ出せるという状況であったとしても、敵襲に遭ってからでは遅すぎます。

 敵の直掩機は先程翔鶴さんの偵察機を撃墜しています。

 そのまま攻撃機としてこちらに向かっている可能性も、無い訳ではありません」

「……解ったわ」

 

艦戦を発艦させる翔鶴さん。

そして赤城さんは信じられないと言った顔でこちらを見ていた。

 

「榛名さんと霧島さんは艦隊戦を優先して徹甲弾を。

 川内さんは敵護衛艦との戦闘に備えてください」

「「「了解!」」」

 

三式弾を使うという手もあったがこれは航空戦。味方も巻き込まれる可能性がある。

やれることは全てやった。後は戦闘に備えるのみ。

見張員の妖精さん達が遠くで航空戦を繰り広げる方向を指さした。

 

「ありがとうございます。

 妖精さんは役割分担で攻撃機を探して下さい」

 

それを敬礼で返すと他の攻撃機を探してくれる。

私は航空戦をしている空に視線を向けた。

 

「涼月さん、直掩機から敵の編制が解りました。空母2、重巡1、軽巡1、駆逐2よ」

「解りました。皆さん、参ります!」

「さぁ榛名、行きますよ」

「主砲、砲撃開始!」

 

二人の砲弾は水平線の向こうへと飛んでいき、いくつかの敵を貫いて爆発した。

 

「敵軽巡が撃沈、重巡が中破!」

 

霧島さんの報告を聞く。やはり二人は相当な腕だ。

向こうがそれによってこちらの存在に気づき、駆逐艦がこちらに向かってくる。

そして敵空母がこちらに向けて艦載機を発艦させようとしていた。

 

「勝手は、榛名が、許しません!」「主砲、敵を追尾して、撃て!」

 

射程を行かした戦艦の砲撃戦が開始される。

 

「第一攻撃隊、発艦してください!」

 

赤城さんが弓を構えて放つ。その矢は艦攻となり海面の近くを飛んでいく。

艦爆を選ばず艦攻を選んだのは彼女の判断だ。

航空戦が行われている中で上空から爆弾を投下する形である艦爆を発艦させるのは危険。

交戦に入ったこの一瞬で艦攻を選ぶというのは彼女の経験の賜物なのだろう。

 

一方の翔鶴さんは直掩機と航空戦をしている艦戦に意識を集中させていた。

すると直掩機の一部が赤城さんの艦攻の直掩機となって援護に入る。

そして突撃してきた駆逐艦を残りの直掩機達が足止めしていた。

 

「さあ、砲雷撃戦よ!」

「艦隊戦でも、守って見せます!」

 

その足止めしている駆逐艦に対して川内さんが砲撃を開始する。

私も航空戦をしている方へ砲撃は届かないので駆逐艦を狙った。

 

駆逐艦の砲撃だけでも、決定打にはなりえないが駆逐艦や軽巡クラスは落とせる。

直掩機を含めた二人掛かりで無防備に突っ込んできた駆逐艦に損傷を負わせ、

航行に支障が出たところで川内さんの魚雷を突き刺す。

そうやって二隻の駆逐艦を落とすことに成功した。

駆逐艦の足止めを行っていた直掩機の艦戦は私達の周囲を再び巡回する。

 

敵との距離が近付いていき間もなく狙える距離。

主砲を構えた時に敵空母の近くで大きな水柱が立った。

その付近を飛んでいたのは赤一本の艦攻。翔鶴さんではなく赤城さんだ。

それを見た榛名さんと霧島さんが砲火を集中させて敵空母を一隻落とすにまで至る。

 

「私は制空権の完全な確保を目指します! 他の方々は残敵の掃討を!」

「「「「「はい!(了解!)」」」」」

 

まだしつこく航空戦をしている敵機を機銃や長10cm砲で撃ち落としていく。

私が攻撃を外しても赤城さんや翔鶴さんの艦戦が、

それを避けた隙を狙って落としてくれる。

 

「これで……終わりです!」

 

最後の一機も確実に撃墜、空には私達の艦載機が飛び回っていた。

 

「制空権完全確保です!」

「ありがとうございます涼月さん。第二次攻撃隊、全機発艦!」

 

赤城さんと翔鶴さんから放たれたのは艦爆。

上空からの攻撃も加えての回避を困難にさせるものだ。

 

中破していた重巡がその餌食となり、最後に残った空母も呆気なく爆沈していく。

 

「皆さん! 被弾箇所の報告を!」

「お蔭様で全員無被弾だよ」

 

川内さんが親指を立てる。他の皆も笑顔を浮かべていた。

 

「涼月さん。先ほどから触接させていた偵察機ですが、

 敵水雷戦隊は撤退していったそうですよ」

「ということは……」

「この海域の主力艦隊の撃滅に成功。海域解放、というわけです!」

 

霧島さんの言葉を聞いて、全身から緊張が抜けていく。

バランスを崩しそうになって何とか持ちこたえた。

 

「見張員の皆さんも大丈夫ですか?」

 

妖精さんは二人とも首を縦に振る。周囲に敵は見つからないようだ。

 

「皆さん、ありがとうございます。皆さんのお蔭でこの海域は無事解放されました」

「それだけではありませんよ」

 

赤城さんがこちらに面と向かって話しかけてくる。それによって再び体に緊張が戻った。

しかしその顔は優しい顔をしている。

 

「貴女が全ての起こりえる状況に対処し、最善の手を常に打っていたからこその結果。

 これは、貴女が旗艦であったからこその結果と言っても、差し支えないわ」

「ありがとうございます。それでも私は、私の指示に従ってくれた皆さんに感謝します」

 

「さあ帰りましょう。帰るまでが任務です」

「「「「「はい!」」」」」

 

その後解放されたバシー島に暁さんが率いる第六駆逐隊の皆が遠征に向かい、

大量のボーキサイトを持って帰って来てくれたのは、また別のお話。




今回はバシー島。ゲームで言う2-2攻略のお話でした。
敵空母が2体出てくる編制でしたが、赤城さんからの練度からして、
そこまで問題はない海域だと思われます。
ただしアニメの方面で完全勝利を取るには、
かなり大きく先手を取らないといけないんだなと思いつつ作成。

次回はアニメ第六話!

追記:艦これ二周年おめでとうございます! 
   特に祝えないけどボイスで癒しを貰います! うおおお五月雨涼風新ボイスだー!!

簡易的な自問自答コーナー

Q.何故バシー島?
A.W島やらMO作戦が南東の方角だったので、
 資源確保の為に南西諸島に引き続き出撃した感じに。
 アニメ第六話に向けたお話でもあります。

Q.輪形陣ってどんな形?
A.縦中央4隻、その間2隻を守る様に左右に1隻ずつ。
 旗艦と言えど空母防衛を優先して空母を中に入れています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話『秘書艦の憂鬱』

アニメ第六話Aパートになります。
癒し回でストーリー上関係ない話でしたが、何とか書き上げる事が出来た……

なお、ストーリーから大きく外れている関係上、かなりネタが濃い回になってます。



バシー島を攻略した私達は、予想以上の活躍との事で第一艦隊は休暇を与えられた。

そして今は、演習で溜まった疲労を抜く為に入渠をしている。

 

暫く出撃続きだったからか私の予想の上回る入渠時間が表示された為、

専用のドックを使って疲労を癒していた。

ほとんどの人達は先に上がっていったのだが、

唯一赤城さんだけがまだ時間を多く残していた。

 

空母であり、非常に高い練度と命中率を誇る彼女だからこそありえる時間なのだろう。

と言っても疲労回復の為に専用のドックで互いに一時間というのはどうかと思ったが。

 

「涼月さんは随分と時間がかかるんですね」

「はい。加賀さんから少しお話は伺っていたと思うのですが」

 

『駆逐艦でそれほどの時間を要するという事はむしろ誇るべき事よ。

 これが唯一と言っていいほどの練度の目安なのだから』

 

長く入渠するというのが誇りに思うべきことだというのに、あまり納得がいかない。

 

「そうね。駆逐艦であるあなたがそんなにも入渠に時間を要するのは、

 誇らしいことだと私も思うわ」

 

にっこりと微笑んでこちらを見る赤城さんを見て少し顔が熱くなる。

やっぱり、この人は大和さんに似ている。

もしも私が大和さんではなく彼女に会っていたら、恐らく護衛艦として……

そこまで思って思考が止まる。そこまで思えなかったからだ。

 

私はやはり大和さんの護衛艦であるべきだ。

そう決めたからだ。あの月の夜に。

 

そこまで心に改めて覚えさせて前を向く。

目に映るのは長い入渠時間。少しばかり憂鬱になってしまう。

 

「暇そうね」

「はい……」

「……そうだ」

 

ぽんと手を叩いて赤城さんは木で出来た背もたれに手を掛ける。

一体何をしようとしているか解らなかったが、次の瞬間それが引き出された。

水飛沫を上げながらも勢いよく開けられたそこにはいろいろな道具が入っている。

 

「全部防水性だから問題ないわ」

 

よく見ればこの間加賀さんがやっていたと思われる将棋なども入っている。

なるほど、蒼龍さん達が言っていたのはそう言う機能だったのか。

 

「海戦ゲームって知ってる?」

「えっ、はい。ルールだけなら」

「なら良かった」

 

その中を漁り、海戦ゲームの道具を出してくる赤城さん。

でも専用のドックは手すりで丁度遮られている。

海戦ゲーム用の道具は比較的大きく、手すりが邪魔になっていた。

それを横の壁にある小さなボタンを押すことで、

ゆっくりと手すりが下に下がって格納された。

 

「蒼龍達に聞いたことは無い? 長時間の退屈な入渠を楽しめる様にって」

「い、一応は」

「海戦ゲームは二人でしか出来ないからほとんど出来ないし、

 私達がゆっくりできる時間はほとんど入渠しかないから、

 実はを言えば入渠も一つの楽しみなのよ」

 

心底嬉しそうに準備する赤城さん。どうやら本当にするのが久しぶりのようだ。

 

「さ、始めましょう」

「負けませんよ」

 

 

 

結果は私の四戦全敗に終わった。やはり正規空母である彼女は格が違った。

 

「落ち込まないでください。そんな日もありますよ」

 

別の意味でつやつやしている彼女が言ってもあまりフォローにはならなかったが、

それでも赤城さんと交流を持てたのは嬉しい事だった。

脱衣所で一緒に牛乳を飲む。

その時少しだけ赤城さんの胸に目が行ったが即座に視線を戻した。

 

その視線を戻した先。カレーの書かれた大きなポスターが貼り出されているのに気付く。

 

「鎮守府カレー大会……ですか」

「カレー!?」

 

ものすごい早さで食い居てくる彼女。彼女もまたポスターを見た。

 

「なるほど、ついにこの日がやってきましたか」

「あの、鎮守府カレー大会とは一体」

 

週に一度、鎮守府では決まってカレーが出ているのは知っている。

それはトラック泊地に居た時も同じで、毎週私達が当番を交代しながら作っていた。

ただ磯風さんだけは例外で、野分さんに羽交い絞めにされてでも止められていた。

泊地に慣れた頃になると私も制止役に加わり、二人掛りで止めていた。

 

「この大会は、一年間分の鎮守府のカレーのレシピが決まる重要な大会なのよ」

「一年間分ですか。随分と長いのですね」

「それだけ名誉あるという事。当然、選ばれるのは優勝者のカレーよ」

「自身のカレーで優勝を目指す大会、ということですか」

「そうね。私としては、その後の試食会が楽しみなのだけど……」

 

「今回は加賀さんと共に、『一航戦』の名に恥じぬよう頂き、いえ、作ります!」

 

赤城さんは大志を抱いているようだが、どこか方向がずれているのは、

その緩み切った顔を見れば誰もが解る事であった。

 

 

 

「ごめんね。その日はカレー大会があるから演習してあげられないのよ」

「蒼龍さん達も参加されるんですか?」

「しないしない! ただ見るだけ。でも結構楽しいよ?」

 

日課の演習を終えて翌日の約束を取り付けようと思ったものの、

二人ともカレー大会の見学の為断られてしまった。

 

久しぶりに瑞鶴さんにでも頼んでみようか。

勝負事が好きな彼女であればきっと受けてくれることに違いない。

空母の演習場に行くと、加賀さんと瑞鶴さんが火花を散らしていた。

 

「五航戦、貴女達もカレーの腕を上げてきているというの?」

「ええそうよ! だから今度こそアンタにぎゃふんと言わせてやるんだから!」

「……そう、良いでしょう。見せて頂きます。大会で」

「望むところ!」

 

どうやら瑞鶴さんも大会に出る様子。

二人が言い合っている所は初めて見たが、

ここまで火花を散らすものなのかと思ってしまう。

 

恐らくこのままで行くと翔鶴さんも確実に、

瑞鶴さんと一緒にカレー大会に出る事になるだろう。

彼女の優しさと、何より一航戦である赤城さんと加賀さんが二人で出るのだから、

瑞鶴さんは五航戦という名を持つ二人で出たいと考えているのが打倒。

 

私は二人に気付かれぬ様に引き戸を締めてその場から離れる。

 

防空演習が出来ないなら仕方ない。明日は普通に標的を撃つ射撃演習を行おうか。

泊地に居た時も、ここに転属されてから最近は人と交流しながらも演習が出来た為、

微塵も寂しいと思ったことは無かった。それでも練度を高める為には必要な事。

私は演習の道具を借りる手続きをする為利根さんか長門さんを探すことにした。

 

利根さんは主に演習関係を担当する教官、長門さんは秘書艦である為、

使用許可は基本的にこの二人のうちどちらかに話を通せば問題ないだろう。

 

と、演習場に長門さんが居た。その様子はどこかせわしなく誰かを待っている様子。

道具を借りるにしても非常に都合が良かったので話しかける。

 

「長門さん」

「涼月か。すまない、少しいいか」

「えっ、あの私演習の用が「今日は休め!」」

 

私は彼女の威圧感に押されながらもある事を受けてしてしまうのだった。

 

 

///////////////////////////

 

 

「断れないのが、私自身の落ち度かもしれません」

 

長門さんに言われた事。

それは翌日行われるカレー大会の審査員として参加してほしいというものだった。

反対はしたものの、これだけ鎮守府で名を挙げた駆逐艦だからこそ参加してほしいと、

長門さんたってのお願いだったので断るわけにもいかず、引き受けてしまった。

 

明日の予定も色んな意味で決まってしまったため、

本格的にやることが無くなってしまった。

 

のんびり散歩でもしようかと思って歩いていると、

暁型の子達が大きな鍋を抱えてどこかへ向かっていた。

 

「暁さん達、どうかされたのですか」

「あ、涼月さんなのです!」

「Здравствуйте(ズドラーストヴィチェ)」

「ずとら……?」

「ロシア語で『こんにちは』と言う意味さ」

 

電さんと響さんが私に気付いて足を止める。

響さんの言った言葉の意味も発音も解らなかったが、

すぐに教えてくれたので問題なかった。

 

「暁達は明日のカレー大会の為にカレーの練習をしてるところよ!」

「貴女方も出場されるんですね」

「そうよ、金剛さんや足柄さんにはぜーったい負けないんだから!」

 

暁さんと雷さんが今聞こうとしたことを教えてくれる。

なるほど、という事はこの鍋にはカレーが……出来ていなかった。

 

寧ろルーすら入っていない。というか、沸騰すらしていない。

ジャガイモも人参も非常に硬そうで、玉ねぎに至っては透き通ってすらない。

こんな状態で一体彼女達は一体どこへ向かおうというのだろうか。

 

「あの、カレーは出来ていないようですが」

「まだ煮立ってないのよ。だから」

「工廠に向かっているのです!」

「と言うわけだから涼月さん、また後で!」

 

手を振り見送る。まだ煮立っていないことに自覚はあるようだ。

問題はその後の電さんの言葉。工廠に向かっていると言った。

カレーを煮立てるという事と工廠に向かうというのに何か関係があるのだろうか。

 

煮立てるにもじっくりと沸騰するまで待つことが大事。

小さい鍋ならともかく私達が作るカレーは大量なので業務用と呼ばれる、

大きな鍋を使用しなければならない場合が多い。

そうすると水の量は自然と多くなり、沸騰までの時間は長くなる。

その時間を短縮するためには、やはり単純に弱火や中火ではなく強火が良い。

 

そう言えばバシー島を解放した後のあの子達の遠征で、

大量のボーキサイトを持って帰ってきた中に高速建造材が含まれていたのを思い出す。

 

高速建造材は主に艦娘の艤装部分を溶接したり接合する時に使う、超高火力バーナー。

通常のアーク溶接とは話が違う為、建造時間を大幅に削減できる。

明石さんが私の艤装の艦首部分を修理した時に早く終わらせる為に使ったらしい。

 

煮立っていない料理、工廠へと向かう4人、超高火力の高速建造材。

 

「まさかっ!」

 

私は嫌な予感がしたので、全力で4人の後を追いかける事にした。

 

 

 

「それじゃあ、高速建造もとい高速クッキング、開始!」

 

工廠の扉を開けた時にはすでに遅く、大きな火柱が立っていた。

すぐさま火柱は収まったものの、その中から現れたのは溶けて酸化した鍋。

 

「遅かった……ようですね」

「「「「あ、涼月さん」」」」

 

暁さん達もこちらに気付いたようだがもう遅い。覆水盆に返らずとはこのこと。

 

「い、電がわるいのよ! 高速建造材を使おうなんて言うから!」

「それなら暁だって『まだ煮えないのかしら』って言ってたじゃない!」

「電はただ、もっと強い火力があればって思って……」

「それなら私にも非がある。すまない……」

 

暁さんが電さんを、雷さんが暁さんを、電さんは響さんは自分が悪いと思い、

責める者、責任を感じる者の二つに分かれていた。

それを見て私は仕切り直しの為に、パンっと手を叩く。

その音に驚きながらも4人の視線が私に集まった。

 

「皆さん、一度起きてしまったことは取り返しがつきません。

 問題はその後の対処。それが的確に行える女性こそ、

 暁さんの言う『レディ』というものではありませんか?」

「でも、鍋が無くなっちゃったわ」

「他のお鍋はもう皆が使っちゃってるのです」

「ボーキサイトはたっぷりあるよ」

「解りました。では少し心当たりがあるのでその方を探して「私をお探し?」」

 

その関係で頼りになりそうな人を探そうと後ろを向くと、

橙色の作業着を来て遮光面をした夕張さんが居た。

逆光でかつ遮光面をしているからか異様な不気味さがあったが、

後ろの髪を纏めているリボンとその独特な髪色ですぐ誰か解った。

一方で誰か解らない暁さん達は怯えている。

 

「ごめんごめん、遮光面外し忘れてた」

「ゆ、夕張さん」

「さっきまで隣の工廠で装備開発してたのよ。貴女達は?」

「それが……」

 

電さんが事細かに先程起こった事を説明する。

 

「なるほどね。だから涼月は私を探そうとしてた、ってこと」

「はい。装備に興味があるのでしたら、開発の方も携わっているのではと思いまして」

「見事な推理ね。ご名答。なら涼月と暁ちゃん達の期待に応えますか!」

 

『……解りました。不肖明石、その信頼に応えてみせますよ!!』

 

その時の夕張さんは、私の艤装を修理する時の明石さんにそっくりで。

少しだけトラックに居た日々が懐かしいと思ってしまうのだった。




つまり暁達が使った高速建造材はバシー島のルートがそれた時の物だったんだよ!(暴論)
言ってしまうと、
第六話冒頭の遠征どこに行かせよう → バシー島でいいや → バシー島で高速建造材が取れる
→ 第六話で建造材使ってたよな → 第五話で攻略するのバシー島にしよう

って感じになりました。プロットにもない謎の回収劇。

この小説では、妙高型重巡が勉学、利根型重巡が演習系の教官になってます。
なので演習関係の物は利根さんが管轄して居るという解釈。ほとんど出番ないけど……
全体は長門秘書艦が一番上に君臨しているので、許可は長門でもいい。
そして地味に強くなっている二航戦の二人……

金剛さんが英語成分濃い目なので響はロシア語成分濃い目。当然涼月には解らない。
バーナーで丸焦げにしたら建造が早く済むというのは流石に考えづらかったので、
自己解釈で溶接の高速化にしました。

次回はカレー大会(本番)編。
審査員として選ばれた涼月が選ぶカレーとは、そして選ぶ基準となるのは!?

簡易的な自問自答コーナー

Q.島風ェ……
A.割と考えていたのだけれど、もし作る側だと色々難しい所があったので今回島風は……
 今回の涼月は保護者役みたいなものです。

Q.加賀さんの台詞改変……
A.正直すまんかった。でもこの馴染む感じは何なんだ……

Q.正直難しかった?
A.相当難しかった。ストーリーから大きく外れる割には、
 主要キャラのほぼ全員が大会に参加したり観客として参加するので、
 裏側で人脈を築いていた涼月にも、多大な影響を及ぼしました。
 おのれディケイドォォォォォォォォ!!! それはカレー大会って奴のせいなんだ。

Q.一体何のネタか教えてちょうだい!
A.駄目だ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話『ボーキサイトは具材に入りますか?』

いいえ、入りません。
第六話後半戦です。あとがきは随時更新!


夕張さんがボーキサイトを奮発して作った鍋は、

非常に頑丈ながらも熱伝導率がいいという、私からしても羨ましくなる程の逸品だった。

 

そして今は、料理この鎮守府内で一番上手いとされる間宮さんの所に来ていた。

 

「ねぇ間宮さん、おいしいカレーの作り方ってない?」

「そうね、愛情をたっぷり注いだカレーなんて言うのはどうかしら?」

「あの、愛情は確かに必要ですが、そう言うのではないと思いますよ」

 

愛情は確かに必要。だけれども愛情だけでおいしくなることは必ずない。

磯風の料理がいい例である。

 

「そうね……なら、バシー島で発見されたっていう、幻のボーキサイトが」

「「「「幻のボーキサイト!?」」」」

 

間宮さんらしからぬ発言に私は驚きながらも、暁さん達はその話に食いついた。

遠征を主にしている身からすると、それはそれで興味のある話なのだろう。

 

……因みにボーキサイトはアルミの原料で、

水に溶け出し吸収されやすくなったアルミは少量ならまだしも、

大量に摂取すると神経毒となりえる危険な物質。

 

気が付けば暁さん達はその幻のボーキサイトを求めて、

再び遠征に出るということで話が纏まっており、

私はそれを阻止するためにも、随伴艦として遠征に出る事にしたのだった。

 

 

 

「電ー、そっちは見つかった?」

「見つからないのです」

「響ー! そっちはどう?」

「Нет(ニィエート)」

 

鉱山の一角で始まったボーキサイト探し。

私はどうにかしてでも彼女達より先に幻のボーキサイトを見つけ、

確保して見つからないようにしなければならない。

 

「妖精さん達、頼みますよ」

 

激しく首を縦に振る妖精さん達。彼女達も必死なのだ。

それもそのはず。彼女達も間宮さんの料理を食べておりお世話になっている。

でも料理の一つであるカレーのレシピに、

一年間も毒素が含まれた物を投入されるのは全力で回避したいのだろう。

正直に言えば私だってそうだ。おいしくなっても体に毒なら意味がない。

全力でトラック泊地まで逃げ戻りたくもなるが、それを食べるのは私だけではない。

文字通り呉鎮守府の命運がかかっている。

 

艦娘である私達は『もしかしたら』支障がないかもしれないが、

当然このカレーは提督も食べるので、

流石に普通の人間である提督に食べさせる訳にはいかない。

 

「あっち……? ありがとうございます!!」

 

4人に気付かれない様にこっそり抜け出し、妖精さんが見つけたと思う場所へと駆ける。

そこにはかなり純度の高いと思われるボーキサイトが大量にあった。

 

「流石です妖精さん」

 

マストから身を乗り出して撫でてとせがむ二人を優しく撫でてあげる。

 

「涼月さーん! そっちは見つかったー?」

「いいえ! そちらはどうですか!」

「まだー!」

 

これだけ質の高いボーキサイトがあれば、料理ではなく別の物に仕えるだろう。

 

その後なんとか4人には幻のボーキサイトが見つからずに済み、

アルミ鍋を作って無くなってしまったボーキサイトを補充するために、

いつも変らぬボーキサイトを輸送する遠征となった。

 

そこに私は解り辛い様に幻のボーキサイトを紛れ込ませ、

鎮守府に到着後そこから再度抜き取り、工廠とは別の場所に隠しておくのだった。

 

「もうやだやだやだ! カレー大会なんてやめるー!」

 

幻のボーキサイトを隠し終わって戻ってくると、

港に寝転がって駄々をこねる暁さんの姿が。

遠征に向かう時の気合はなく、まるで第五部隊に配属が決まった吹雪さんの様だった。

それを聞いて響さん達も気分が下を向いている。

 

「一度や二度の失敗で諦めるのですか? もっと努力をしないのですか?」

「だって、もう暁達に出来る事なんてないじゃない!」

 

瞳に涙を貯めながらこちらを向く暁さん。

皆も落ち込みながらも、どうしろというのだという視線を向けた。

 

「自分の出来る事を全てやり終えると、道が見えなくなるかもしれない。

 ですが周りを見て、他の人に頼る事が出来れば、新たな道が開ける。

 私はそうやって、第一機動部隊の旗艦になるまでに至ったのです」

「でも、それは努力してないんじゃ……」

「自分に出来る事を増やすために、日ごろの努力や鍛錬は必要なのです。

 努力は絶対に貴女達を裏切りません。『努力に憾み勿かりしか』です」

 

十分に努力したかと聞かれれば、私は首を横に振るだろう。

まだ足りない。彼女の護衛艦として、彼女を守る盾として、強くなるために。

 

「私の誓った事を成すまで、私は努力を惜しまない。

 貴女達は誓った事を成すために、努力を惜しまぬ覚悟がありますか?」

 

彼女達は目を見あって頷き合い、そして立ち上がる。

その姿からは、覚悟がひしひしが伝わってきた。

 

「涼月さん。暁達にカレーの作り方、教えてくれないかしら!」

「解りました。では早速調理室に向かいましょう」

 

私が教えられるのは至って普通のカレー。

でもそれをどこまでおいしくできるかは、彼女達第六駆逐隊の努力にかかっていた。

 

 

////////////////////////

 

 

翌日。

鎮守府内の校庭では特設ステージが設けられていた。

 

『マイクチェックワン、ツー。ワンツーワンツー、三、四ー!

 はーい皆さんお待ちかねの鎮守府カレー大会!

 実況は私金剛型戦艦四番艦、霧島と!』

『現場実況は! 艦隊のアイドル、那珂ちゃんでお送りしまーす!』

 

ノリノリの霧島さんと那珂さんが出場者を説明している中、

見物している人達の視線が私に集中している。

場違いな気がしてならず、絶えず冷汗が流れ出ていた。

 

「あらあら、そんなに緊張しちゃだめよ。長門が選んだ審査員なんだから」

「陸奥さんは審査されないんですか?」

「私はあくまで長門の補佐、審査は長門と貴女の仕事」

 

そうなのかと思いながらも、視線を前に戻す。

出演者は金剛さん・比叡さんチーム、翔鶴さんと瑞鶴さんの五航戦チーム、

赤城さんと加賀さんの一航戦チーム、島風さんと連装砲ちゃんチーム、

足柄さんと羽黒さんチーム、そして暁さん・響さん・雷さん・電さんのチーム。

これで計6チーム。

長門さん曰くこれ以外にも申請があったらしいが、

私の食べられる量を考慮して減らしたそうだ。

 

『そして審査員は『この国の危機は私が救う! 名立たる世界のビックセブン!』

 鎮守府の守護神『長門』さんと!』

『『この鎮守府でその名を知らぬ者はない! 私を誰だと思っている!!』

 防空駆逐艦『涼月』さんです!』

 

そんな事を言った覚えがないのだけれど……もしもアドリブなら凄い才能だ。

 

『では、お料理ナンバーワンの名誉を賭けて!』

『鎮守府カレー大会スタート!』

 

那珂さんの合図に合わせて号砲が鳴り響いた。

 

暫くしてところどころからカレーのいい匂いが漂ってくる。

その独特の香りが鼻の奥を擽り、食欲をわかせた。

と、足元から何かが上がってくる感触がしてみてみると、

見張員の妖精さんがカレーの匂いに誘われたのか私の脚を上っていた。

滑って辛そうだったので拾い上げる様にして机の上に置いてあげる。

 

「貴女達もカレーを食べたいのですか?」

 

コクリと首を縦に振る二人。私は構わないのだが、長門さんがどういうだろう。

 

「長門さ「構わん」あ、はい」

 

聴くまでも無いというか、即答だった。

長門さんは少なからず夕張さんの話を聞いているので、存在は知っているだろう。

この子達は長門さんにも興味があるのか、榛名さんの時と同じように近づいていく。

 

「この二人があの見張員の二人か」

「はい。折角ですから長門さんも遊んであげてください」

「……いいのか?」

「はい。この子達もそう思ってますから」

 

優しく掌を差し出す長門さんの上に乗る妖精さん達。

腕からそのまま肩の所まで昇ってしまった。

 

「なるほど、偶にはこういうのも悪くはない」

 

少しばかり不敵な笑みをこぼす彼女を見て、磯風さんを思い出した。

 

『あーっと! ここで第一の脱落者! お姉さま方が気絶してしまったぁ!!』

 

どうしたら気絶するのか解らなかったけども、

金剛さん達の鍋を見ると異様な色の煙が立ち込めていたので、即座に視線を外す。

一体何をどうすればあのようなことになるのか私にはわからない。

ただ即効性なだけまだましに思えてしまうのは気のせいだろうか。

 

その隣。五航戦の二人は何故か追いかけっこをしていた。

よく見ると翔鶴さんの下衣を瑞鶴さんが持っており、下着がほぼ丸出しの状態。

何があったのか解らないが、とりあえず何も見ないようにする。

……私の下衣も短すぎないだろうかと少し気になってしまった。

 

その横、一航戦の二人は一向にカレーが出来上がっていない。

それもそのはず。加賀さんが切った具材をそのまま口に運ぶ赤城さんの姿があった。

じゃがいもはたとえ芽の部分や緑色になった部分を取っていたとしても、

ゆでたり水に晒さないのは危険である。

一応加賀さんが皮をむいた後良く洗っているので大丈夫なのかもしれないが、

そもそもカレーを作る以前の問題なのでもう私は考えるのをやめた。

 

更にその隣、島風さんは何故かもういない。どこに行ったのか。

ただ食べ終えた食器の隣にレトルトと思われる銀色の袋が置いてあったので、

恐らく自分でレトルトを作り、すぐに自分で食べてどこかに行ってしまったのだろう。

 

そして残ったのはあと2チーム。

足柄さんと羽黒さんチーム、そして暁さん達のチームだ。

この2チームはしっかりとカレーを作っている。

 

そもそもお料理大会なのに脱落者が出るのは一体どうかとも思う。

翔鶴さんと瑞鶴さんのハプニングは、まぁ納得のいくところだが、

金剛さんと比叡さんの気絶する事態は普通に考えれば回避できる所。

赤城さんと加賀さんのチームはむしろ料理を作るに至っていないし、

島風さんは自己完結してしまう形で彼女の中の大会は終了している。

 

本土の人達は特徴的な人が多いと思った私も私だが、

このままでは自分もああなってしまう可能性を考えると妙な寒気に身を震わせた。

 

そんな中、暁さん達と足柄さんが何やら話しているようだ。

 

『何やら話しているようですね。現場の那珂ちゃん、音声をお願いします』

『了解です!』

 

こっそりとその間にマイクを差し込む那珂さんのお蔭で、

会場中にその会話の内容が明らかにされた。

 

『レシピに書いてあるだけでなく、今までの知識、経験、試行錯誤により調合された、

 究極のスパイス。そしてそれを生かす為の具材とトッピング、

 ご飯粒の硬さにまで拘ったこの精練し尽くされたこのカレー』

 

『そして何よりもそれを精練するだけの時間を生きてきた……

 でもそれだけの時間を費やしても、誰も付いては来なかった……

 だからこそ私には、お料理ナンバーワンの名誉が必要なの!

 これが私の覚悟、貴女達の覚悟とは、わけが違うのよ!!』

 

何だろう。この衝撃的告白とともに訪れる会場に漂い始めた重い空気は。

料理で一位になるのではなく、その一位になったという名が欲しい。

そしてその一位を目指すために今まで積み重ねてきた物を発揮する。

今までの時間が無駄でなかったという事の証明の為に。

 

あまりに現実的な話に、場の空気が完全に重くなる。

会場を見渡すと皆が引いている。

私はそもそも、何を求めているのか、その名誉が何の糧になるのかが解らない。

艦娘としての覚悟とはあさっての方向の覚悟の気がしたので、全く動じなかった。

 

『流石は飢えた狼と呼ばれる足柄さん!

 自らの現実を突きつける事で第六駆逐隊の覚悟を折る! 諸刃の剣です!』

『でもそれ会場の皆にも被害行き渡ってるよ!?』

 

マイペースな解説をする霧島さんに鮮やかなツッコミを入れる那珂さん。

それでもその場の空気が和むことはなく、

暁さん達は空気の重みに耐え兼ねてその場で崩れ落ちてしまう。

声を掛けようとすると、長門さんの手が前に出て制止をかけた。

その時の顔を見て、私は彼女に賭ける事にする。

 

「『不精に亘る勿かりしか』!」

 

立ち上がるとともに、その言葉を告げる。

その言葉は会場を駆け巡り暁さん達の耳元まで届いた。

 

「お前達は様々な者の力を借りながらも、十分に努力した。

 後は最後まで、満足の行くまでそれに取り組むかだ!

 それを果たした先に、勝利はある!!」

「「「「長門さん……!!」」」」

 

それに続いて私も立ち上がり口を開く。

 

「第六駆逐隊の皆さん、まだ終わってはいません。

 最後まで成し遂げる覚悟、私達に見せてください!」

「「「「涼月さん……!!」」」」

 

会場の周りからそれに続かんと声援が飛び交う。

見張員の妖精さんも旗を振って応援していた。

それを聞いて立ち上がる暁さん達。

 

「足柄さんの現実が立ちはだかっても!」

「皆の思いが、力になる!」

「どんなにつらいことだって!」

「4人一緒なら、乗り越えていけるのです!」

 

「「「「それが私達、第六駆逐隊!!」」」」

 

その姿から確かな覚悟が伝わってくる。

遠征から戻ってきてへこたれていた姿はもう微塵も見えない。

長門さんと頷き合って席に座る。さて、後は私達が厳正な審査をするだけだ。

当然、大局的に事を捉えた状態で。

 

調理終了の号砲が、会場に鳴り響いた。

 

 

 

盛り付けられたカレーが並ぶ。

足柄さんと羽黒さんチームのカレーはとんかつが乗っているカツカレー。

暁さん達のチームのカレーは至って普通のカレーのように見える。

 

『さて、全てのカレーが出そろったところでいよいよ審査のお時間です!』

『と言っても二つしかないんだけどね……』

「それでは、まずは足柄と羽黒の作ったカレーから」

「……いただきます」

 

スプーンですくって一口。辛い。凄く辛い。でもおいしい。

辛さが後味を引いてもう一回食べたくなるカレーだ。

これぞカレーの醍醐味であり神髄と言えるだろう。

 

「では、続いて第六駆逐隊のカレーを頂こう」

「……こちらも頂きますね」

 

一口。なるほど、私が教えただけあって味は似ているが随分と辛みが抑えられている。

具材も程よく柔らかく食べやすい。

 

「難しいですね」

「ああ、確かに甲乙つけがたい」

 

と、視線の端に見張員の妖精さんが足柄さんのカレーを舐めて、

舌を出しているのが見えた。彼女達からすると相当辛かったのだろう。

 

このカレーは確かにおいしい。でも一年間この鎮守府で出続けると考えると、

辛い物が苦手な人に対して非常に苦行な物となる。

程よい辛さならともかく、このカレーは辛い物が好きという人向けのカレーで、

決してこの広い鎮守府で出すであろう大衆向けのカレーとは少し路線がずれていた。

一方暁さん達のカレーは辛すぎず優しい味わい。水なしでも十分に食べられるカレーだ。

 

例えるなら足柄さんは本格派専門店の一級品カレーだが、

暁さん達のカレーは打って変わって大衆食堂で出るカレー。

 

長門さんに視線を送る。彼女もまた同じ考えのようだ。

 

「厳正な審議の結果、本年度の鎮守府カレー大会、優勝は」

 

「「第六駆逐隊のカレーだ(です)!」」

「「「「やったあああああ!!!」」」」

 

こうして鎮守府カレー大会は終わりを告げ、

私の審査員という役を見事に終えたのだった。

 

 

 

大会が終わり、私は長門さんと陸奥さんに呼び出されていた。

 

「すまなかったな。急な話で」

「いえ、私も今日は本来の予定が無くなってしまっていたので」

「でも長門はともかく、涼月ちゃんはどうして第六駆逐隊のカレーを選んだの?」

 

陸奥さんが首を傾げながら聞いてくる。

 

「それは、この子達のお蔭です」

 

見張員の妖精さんは、暁さん達から貰った小さなカレーをおいしそうに食べていた。

 

「それって、たしか夕張が話していたあの」

「この子達が足柄さんと羽黒さんのカレーを食べた時、辛すぎて舌を出していたんです。

 それを見て鎮守府の中でも辛いのが駄目な人が居ると辛いだろうな、と思って、

 暁さん達が作った甘口カレーを選んだんです」

 

そこまで言い終えて陸奥さんが必死に笑いを堪えていた。





かなり大会の内容がざっくりしてしまった。
後那珂ちゃんと霧島さんがしっかり司会実況してほしかったのもある。

全体的なネタの仕上がりが某熱血アニメ風になったけどギャグでしかない。
後長門さんの出番がかなり減ってしまったので色々と出番を補完しておきたかった。

次回は外伝を執筆中ですので、毎日更新から外れるかもしれません。
ちょっと変わったことしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六・五話『突撃!憧れ駆逐艦』

題名見ての通りで完全な外伝です。
ストーリーには(おそらく)組み込まれていないのでご注意ください。
後ネタが大量に含まれております。ご注意ください。


Side 吹雪

 

 

カレー大会が終わったその日の夜。私は薄明りに照らされた鎮守府の空き部屋に居た。

 

こんこんとノックをされ、のぞき穴から誰かをしっかり確認する。

そこに居たのは夕立ちゃん。

静かに鍵と扉を開けて中へと招き入れ、すぐに鍵を閉める。

 

「吹雪ちゃん、間宮さんの所からお菓子貰ってきたっぽい」

「ご苦労様、夕立ちゃん」

 

続いてノック。確認すると睦月ちゃんだった。鍵を開けて中へ。

 

「吹雪ちゃん! 駆逐艦睦月、只今参りました!」

「解りました。睦月ちゃん、態々ありがとう!」

 

これで全員。如月ちゃんは用事があるらしく来られない。

 

え? 何をしているかって? それは……

 

「これより、第一回『涼月さん徹底調査』を開始します!」

 

そう。涼月さんの徹底調査をするために結成された艦隊。

涼月さんは噂によれば駆逐艦にして私と同じく旗艦を務めているらしい。

それだけにとどまらず、昨日のカレー大会でも審査員を務める程。

目撃者である利根さんによれば、あの長門秘書艦が直々にお願いしていたらしい。

更にその後第六駆逐隊の子達の遠征に付きあい、

大量のボーキサイトを持って帰って来たという証言を目撃者である夕張さんから、

更に更に第六駆逐隊の子達にカレーの作り方を指南していたという証言を、

目撃者である島風ちゃんから聞いている。

 

私よりも早く着任したとはいえ、この鎮守府で主力である空母の方々全員と関わりを持ち、

それだけでなくとってもかっこよくて強い駆逐艦である涼月さんは私達の憧れの存在。

赤城先輩とはまた違うかっこよさを持った彼女を調べてみようと、

私が考案し、それに乗ってくれたのは睦月ちゃんと夕立ちゃん、そして如月ちゃんだった。

そして意外と鋭い涼月さんの目を逃れる為に、私達はこうして別の部屋で作業している。

 

「一体どうすればあんな駆逐艦になれるのか、

 その答えは涼月さんの日常生活にあると思います!」

「「賛成!!」」

「では明日の明朝から作戦を開始します!」

 

こうして私達は信じる道を歩き出した。もう誰にも止められないだろう。

 

 

 

翌日の明朝。私は二人を起こして部屋から出ていった涼月さんの後をこっそりついていく。

 

「うう~、眠いっぽい……」

「頑張って夕立ちゃん」

 

木陰やドラム缶の後ろに隠れながらも後を付けていくと、演習場まで来ていた。

こんな朝から演習でもするんだろうか?

でも艤装は付けていないし的があるわけでもない。

 

「そう言えば如月ちゃんから聞いたんだけど、

 涼月ちゃんって毎朝の日課に散歩してるんだって」

「トレーニングじゃなくて?」

「うん。ただ当てもなく歩いてるんだって」

 

少しだけ期待外れでがっくりする。私は毎日ランニングしているから、

涼月さんはもっともっと凄い事をしているのかと思っていた。

腕立て伏せとか、腹筋とか、スクワットとか。

 

いや逆に考えるんだ私! むしろ精神を鍛えているんだ!

早く起きているのも日の出を見つめながら頭と心の整理をして、

新しい一日を迎える準備をしているんだ! そうなんだよ! そうに決まってるよ!

なるほどそう考えるとただ朝日を見つめながら、

潮風を感じている涼月さんがかっこよく見えてきた。元々かっこいいんだけど。

 

「強くなるためには精神の鍛練も必要、と」

 

私は持ってきたメモ帳にメモしておく。さながらスクープを狙う記者みたいだ。

でもスクープを狙っているわけじゃない。涼月さんを更に知る為の物だ。

 

ふと何かに気付いたのか涼月さんがこちらを向いて来たので咄嗟に隠れた。

暫くして顔を覗かせると視線を水平線の方へ向けていたので、気付かれていないみたいだ。

 

「危なかった……」

「涼月ちゃんは超鋭いっぽいー……」

「鋭さは長門秘書艦並みにゃぁ……」

 

三人で胸を撫で下ろしていると、総員起こしのラッパが鎮守府中に鳴り響く。

もうすぐ朝ご飯だ。一旦調査はやめて朝食を食べてこよう。

 

 

//////////////////////

 

 

朝食を食べ終わって私達は授業に出席していた。けど。

 

「夕立~? この足柄の授業で居眠りなんて、良い度胸してるわねぇ~?」

 

私の前の席。朝が早かったからか、

夕立ちゃんは机に腕を組んでその中で静かに吐息を立てている。

私は必死に定規を取り出して脇腹を突いているも、全く起きる気配がない。

隣の涼月さんは何か声を掛けているけれど、それでも起きる気配がない。

最前列の睦月ちゃんと如月ちゃんはその吐息が可愛らしくて笑いを堪えている。

 

最初の挨拶の時にすでに眠そうで、席についてまだ五分と経っていないのにこのありさま。

 

そしてそれを見た足柄さんのこめかみがピクピクと動いている。

おもむろにチョークを取り出し、その先を夕立ちゃんに向けた時、

既にそのチョークは飛んでいた。

 

「っぽいぃ?!」

 

脳天に直撃してそのまま反動で後ろに倒れる。

そのまま目を回していたけど、仰向けに倒れたのも相まってそのまま眠ってしまった。

変なところで神経太いなぁ夕立ちゃん……

 

「そこまで眠りたかったら今眠るといいわ。後でたっぷり復習してもらうけど」

 

ふふふふと不気味な笑みを浮かべる足柄さん。夕立ちゃんの未来は真っ暗闇だ。

でも、仕方ないといえば仕方ないよね。

 

「……くしゅん」

 

夕立ちゃんが後ろに倒れたからか埃が舞い上がり、

すぐ隣だった涼月さんがくしゃみをした。随分、可愛いくしゃみだなぁ……

いつもかっこいい涼月さんだったけれど、その瞬間だけは私達と何ら変わらない駆逐艦に見えた。

 

 

 

一日の授業は終わり、涼月さんは急ぎ足で教室から出ていってしまった。

 

「早く追いかけよう!」

「うん!」「っぽい!」

「ちょっと夕立~? どこに行こうというのかしら~?」

 

私達が涼月さんを追いかけようとしたところで、

足柄さんががっしりとその肩を掴んでいた。

 

「あ、足柄さん……どうしましたかっぽい……?」

「貴女、今日の授業態度、忘れたとは言わせないわよ~?」

 

カレー大会と同じ、負のオーラに似た黒いオーラが足柄さんの背後から湧き出ている。

あれから眠ってしまった夕立ちゃんはそのまま無視されてそのまま授業が始まった。

 

「今日は予定があって……明日受けても復習になるっぽい!」

「その明日がいつの明日になるのかしら~?」

「っぽ、っぽい……」

 

私達まで巻き込まれそうな雰囲気。

睦月ちゃんと目と目で会話をして頷き合って、夕立ちゃんの肩に手を置く。

 

「吹雪ちゃん、睦月ちゃん、助けてくれるっぽい!?」

「「ご愁傷様、夕立ちゃん」」

 

そう言って私達は涼月さんの後を追いかけた。

 

「うう~、吹雪ちゃん達の薄情者~!」

 

後ろから夕立ちゃんの悲しそうな声が聞こえたけど、

気にしないように振り払って睦月ちゃんと二人で涼月さんを追う。

ちょっとだけ罪悪感を感じるけど、昨日事前に言っておいたからまだ私に非はない、筈。

でもまあ、後で間宮さんの所で何か食べさせてあげよう。

 

校舎を出て涼月さんの後ろを追いかけていると、

一人の軽巡洋艦の人と何か話しているようだった。

 

「あ、夕張さん」

「知ってるの睦月ちゃん?」

「うん。W島攻略作戦の時に第四水雷艦隊で旗艦をしてた人だよ。

 今だと第三艦隊の旗艦だったかなぁ」

 

こうして確認してみると、私はつくづく顔の狭い艦娘だなぁと思ってしまう。

それに比べれば涼月さんはその夕張さんと楽しそうに喋っている。

強い艦娘というのは、こういった人脈の面でも強くないといけないのだろうか。

とりあえずメモしておこう。頼れる人が増えるのはいいことだし。

 

何やら涼月さんは頭を下げたりして感謝している様子だったけれど、

夕張さんは苦笑しながらも両手を前に出して振っていた。

 

涼月さんはかっこよくも強くて、さらには謙虚で慢心とは無縁の人だ。

強さと謙虚さが合わさって更にかっこよく見えるけど、

逆に私が謙虚になると顔から火が噴きでそうになって思考が止まるだろう。

 

「凄いなぁ~、憧れちゃうなぁ~」

「(吹雪ちゃん、徹底調査する内に涼月ちゃんに対して赤城先輩と同じ目で見てる……)」

 

夕張さんと涼月さんはそのまま工廠に入っていった。

一体なんだろうと思ったけど、流石に工廠は狭いから中を見ることは叶わない。

でも何を話しているか聞くことは出来る。

 

私達はこっそり近づいて耳をすませた。

一応入口だと誰かに見つかる可能性があったから念のために横から。

 

中からは少しの話し声の後、金鎚で金属を叩くような音が聞こえてきた。

 

「ふ、吹雪ちゃん、この音なんだか……」

「ぞわぞわするね……」

 

長く聞いていると意識が完全に遠のきそうな気がして、

私達は遠くから涼月さんが出てくるのを待つことにする。

 

暫くして工廠の扉が開かれて、夕張さんと涼月さんが出てきた。

夕張さんの手の中には丸い砲身の付いていない主砲のようなものがあった。

 

「新開発の装備かなぁ?」

「だよね。夕張さんもすっごく嬉しそうだし、開発は成功みたいだけど……」

 

涼月さんと夕張さんは軽い会話をした後に分かれてどこかに行ってしまった。

強くなるためには装備開発の知識も必要……メモメモ……

 

「って、吹雪ちゃん! 速く追いかけようよ!」

「あ、そうだった!」

 

メモするのに集中していて追いかける事を忘れていた。

私達は遅れながらも涼月さんの後を追った。

 

 

//////////////////////////

 

 

……いけない。完全に見失ってしまった。

確かにこっちの方向に来た筈なんだけど。

 

「あらあら、睦月ちゃんに吹雪ちゃん、誰か探してるの?」

「あ、如月ちゃん!」

 

涼月さんが向かったであろう方向からやって来たのは如月ちゃん。

何か知っているかもしれないし聞いてみよう

 

「如月ちゃん、涼月ちゃん見なかった?」

「涼月ちゃんなら図書室に向かったわよ。なあに? 追っかけ?」

「違っ……わないよね? 吹雪ちゃん」

「う、うん」

 

追っかけと言う言葉の意味が解らなかったけど、少なからず睦月ちゃんには解るらしい。

後で聞いてみようかな。

 

「あらあら、長門秘書艦にでも知れたら懲罰物よ?」

「で、でも涼月さんの強さの秘密が解るかもしれないし!」

 

私は懲罰という言葉に怯みかけるも、自分がしている理由を思い出して反論する。

そう言うと如月ちゃんはやれやれと目を瞑って静かにある方向を指さした。

その先にあるのは入渠ドック。

 

「あっちよ。涼月ちゃんにあんまり迷惑かけないであげてね」

「「ありがとう如月ちゃん!」」

 

いつもははぐらかす如月ちゃんだったけど、今日は案外早く教えてくれた。

それに感謝しながらも、私達は入渠ドッグに入る。

 

脱衣所を覗いてみても涼月さんの姿はなく、中からお湯を流す音が聞こえてきた。

多分工廠で汚れたかでその汚れを落としているんだろう。

 

「どうする吹雪ちゃん、涼月ちゃん入渠してるみたいだよ?」

「んー……流石に工廠と同じだし、戻ろっか」

「そうだね。じゃあ部屋に戻って……」

 

そう言って振り返ると、天井から頭の上に何かが降ってきた。

何事かと思って上を見てみると髪の毛が引っ張られる感覚。

虫とかじゃない。じゃあなんだろう……

 

「吹雪ちゃん! 妖精さん付いてる!」

「えっ?! どこどこ?!」

 

睦月ちゃんが私の後ろで束ねている髪に手を添える。

すると引っ張られている感触と独特の重さが無くなった。

そのまま私の前に持ってこられた掌の上には、二人の妖精さんが目を回している。

 

「えへへ、可愛い」

「工廠の妖精さんかなぁ?」

 

と、入渠ドックの引き戸が勢いよく開かれた。その中から出てきたのは勿論涼月さん。

タオルも付けていなくて、色々見えていたけど、

そんなことよりも見つかってしまった事に気が行ってしまいむしろ気にならなかった。

そ、そもそもタオルをお湯につけたがらない性格なのかもしれないし!

そうだよきっと! きっとそうなんだよ! あ、でも胸私より大きい……じゃなくて!

 

「どうしたんですかお二人とも、そんなに脱衣所で騒いで」

「そんなことより涼月ちゃん! タオルして!」

「あの、タオルを浴槽に付けるのもどうかと思うのですが……」

 

そう言いつつ近くのバスタオルを羽織る涼月さん。

涼月さんの視線は睦月ちゃんの掌の上に移動していた。

 

「……やっぱり、貴女方だったんですね」

 

溜息をついて、目を回している妖精さんを優しく包み込んだ。

すると妖精さんはその刺激からか、入渠中だったことで温かかったのか目を覚ます。

 

「あの、涼月さん。その妖精さんは」

「この子達は私の見張員の妖精さんです。朝から何やら視線を感じると思ったので、

 工廠から態々見守ってもらっていたんですが、まさか吹雪さんと睦月さんだったなんて」

「い、いや、そう言う意味じゃなくて、ね!」

「うんうん! ただ涼月さんがどんなことしてるのか気になって」

「……それって完全に犯罪行為ですよ。追っかけです」

 

如月ちゃんの言っていた言葉と同じ言葉を放つ涼月さん。

自然とジト目になって私達を怪しんでいる。

 

「ねぇ睦月ちゃん、追っかけって何?」

「追っかけはそのままストーカー行為の事だよ! この歴史的「……お二人とも」」

「「ひゃぃ!?」」

 

誰が見ても解るくらい怒気を放つ涼月さん。

それはまるでカレー大会で暁ちゃん達を威圧する足柄さんみたいで、

私達は思わず舌を噛んだ。

 

「とりあえず、厠で用をたして、神様にお祈りして、

 ガタガタ震えながら命乞いをする準備をしてはどうですかね」

 

その時私達は、涼月さんが一瞬だけ死神の様に見えた。

 

 

 

その後私達は必死に謝り何とか誤解を解いて一緒に入渠していた。

原因は涼月さん渾身のデコピン。

かなりの練度になれば身体的な機能も上がるらしく、

それに私達と同じ引き金を引くタイプの主砲だから指の力がとんでもなく、

私達は一発大破してしまった。

 

私と睦月ちゃんは入渠時間が表示される個別の所。

一方の涼月さんは皆で入れるお風呂の所に浸かっていた。

 

「すみません。ですが、もう少しやり方があったと思いますよ」

「うう……ごめんなさい……」

 

涼月さんは頭にタオルを巻いて髪を付けないようにしていた。

いつも結っている長い髪をどうやってそのタオルの中にしまったのか不思議だったけど、

それよりも髪の毛のボリュームで大きく見えていた体格が小さく見えた。

それでも体にバスタオルは纏っていない。

これがほんとの頭隠して尻隠さず? 詰めが甘いってことかな?

いやでも浴槽にタオルを付けないのがルールな場所もあるから……

そもそもタオルが肌に付くのが嫌いなのかもしれない。

だからいつも島風ちゃんみたいにあんな露出の多い服装してってそれは関係ない!

人の服装に否応言う気はないけど流石にあれは恥ずかしい……じゃなくて!

 

「どうしたんですか吹雪さん、一人で葛藤なんか起こして」

「あ、いえ! 何でもないです! はい!」

 

当分涼月さんの強さの秘密も、考えていることも解りそうにはなかったのでした。




突撃隣の晩(ry。
今は結構晩年状態なので数日で一話書き上げる感じになってます。(これも土日月使ったお話)
最終話に差し掛かるとテンションが下がるのはまどマギから同じか……

とりあえず全力を尽くすだけ。更新を止めるわけにはいかんのだよ!!
現在は11話の中間部分です。……本腰入れて、MI作戦に向かうか……
そして明日からもっぱら大規模イベント。
数日は様子見するので、開始から暫くはこちらに打ち込みます。

次回は第七話前半戦ですが、内容的にはもっと前になります。





なんか入れたかったけど入れられなかった超ネタおまけ(台本形式)

霧島「ベクターキャノンモードヘ移行」
榛名「エネルギーライン、全段直結」
比叡「ランディングギア、アイゼン、ロック」
金剛「Inner chamber pressure rising normally」
陸奥「ライフリング回転開始」

長門「撃てる!!」

こうして、泊地棲姫は爆発四散。ナムサン!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七話『空の母』

アニメのストーリーも大きく動き出す、ターニングポイントとなる第七話。
第七話前半……よりも更に前のお話。厳密には一日前。
アニメを振り返って頂ければ、事前と予想は付くかもしれませんが……

今回は6000字越えなので結構長いです。


休暇も特に大きな出来事もなく終わりを告げて、長門秘書艦から教えられた任務。

それは大規模反攻作戦の為の別輸送ルートの安全確保。

その為にオリョール海に反復出撃し敵の通商破壊を阻止すると共に、

その海域を奪回すると言うもの。

 

戦艦や空母の混在した編制が確認されており、

またそれ以外の深海棲艦も多く確認されているのもあって、連戦は逃れられないそうだ。

それならばこの戦艦2、空母2、軽巡1、駆逐2という編制はうなずける。

 

そして今敵深海棲艦と交戦状態に入り、赤城さんと翔鶴さんの先制爆撃によって、

駆逐艦は二隻沈める事に成功、残敵を掃討する為に単縦陣を取って、

砲撃戦を繰り広げていた。

私はまだ魚雷が届いていないので、暫くは見張台の妖精さんが頑張る。

 

「っ! 貰った!」

 

私の砲撃が敵重巡の顔面に命中し、

川内さんがここぞとばかりに魚雷を打ち込んで沈める。これで最後のはずだ。

 

「それにしてもここは島が多いですね……電探が使い物になりません」

「諸島ですからね。赤城さん、翔鶴さん、索敵機の発艦をお願いします」

「「了解しました」」

 

二人は別々の方向に偵察機を出す。

島が多く電探がその真価を発揮できない以上、偵察機による目が大事だ。

 

「涼月さん、直掩機を出してもいいかしら」

「赤城さん、ではお願いします」

 

何度か出撃を重ねていても、この海域の突破は出来ない。

いつも補給艦が含まれた艦隊を発見し、撃滅しているがそれが本丸ではないらしい。

しかしその反復出撃が、皆が私の指示を予見して自分の意思で動くようになった。

基礎を徹底している為、自然と皆がそれを覚えるのにも時間はかからず、

何より私に不可を掛けないようにという気遣いが見受けられた。

 

「! 偵察機5番機が敵艦隊を発見!」

「数は!」

「空母3、戦艦1、補給艦2よ」

 

またも補給艦を含んだ艦隊。でも空母が3、戦艦1という数だ。

無視していると補給路に大きな支障が出るかもしれない。

 

「!……その艦隊の反応、電探でも掴みました!」

「見張員さん、敵艦載機は?」

「大丈夫よ涼月さん。直掩機からの報告はないわ」

「……翔鶴さんと赤城さんは先制に徹して下さい。皆さん、複縦陣で対砲撃戦を。

 先手を打って敵空母を撃滅後、敵戦艦と補給艦を叩きます!」

「「「「「了解!」」」」」

 

艦爆を中心に発艦させる赤城さんと翔鶴さん。

電探でも捉えられる距離にあって、直掩機も発見できていないという事は、

敵の直掩機は出ていない。ならば発艦前を狙って一気に落とす。

 

「敵艦捕えました!」

「皆さん、砲雷撃戦用意! てぇー!」

 

爆撃を受けている空母群に向かって戦艦である二人の砲弾が飛んでいく。

敵空母の薄い装甲を貫いて爆沈し、その中で回避した相手も爆撃される。

戦艦が盾になる様に空母の前に出た。

 

「戦艦の相手は榛名達にお任せ下さい!」

「解りました! お願いします! 川内さん、私と共に赤城さんと翔鶴さんの護衛を!」

「解ったよ!」

 

大きく旋回しながらも複縦陣を維持して敵艦隊の横側に付く。

この距離なら届く!

 

主砲が火を噴き、残った最後の一隻の空母が炎を上げた。

 

「やっぱりいい腕してる! 先輩として負けてられない、ねっ!」

 

川内さんも砲撃の援護に徹してくれた。

後ろからは赤城さんと翔鶴さんが、艦戦と艦攻を織り交ぜながらも援護してくれる。

またその空母だけでなく、戦艦の左舷にも艦攻が容赦なく襲い掛かった。

補給艦は武器を搭載していないからか、基本的には無視が出来る。

実質的な戦力さは明らかで制空権を完全に失っていた深海棲艦は、

あれだけの編制だったにも関わらず呆気なく水底に沈んでいった。

 

「解ってはいるんだけどさ、やっぱり楽だよね。涼月が旗艦だと」

「いえ、皆さんが自らの役に徹して頂けるからこそですよ」

 

榛名さん、霧島さんと合流する。流石にこれで二連戦、勝利しても弾薬や燃料は減る。

 

「皆さん、一旦鎮守府へ戻りましょう。もちろん厳重に注意して」

「涼月さん」

 

赤城さんが神妙な顔つきで話しかけてくる。

一体どうしたのだろうか。

 

「……いえ、なんでもないわ。鎮守府に戻ったら少し話たいことがあっただけ」

「解りました」

 

カレー大会の時はあんなに幸せそうだったのに、今ではそれを忘れさせるかのような顔。

何か悩みか抱えていることがあるのだろうか。

でも鎮守府に戻れば聞く事が出来る。そういい出す事が出来た彼女は、強い。

 

先程までの偵察機が戻って来たのか、直掩機と共に随時着艦させる二人。

 

その時、見張員の妖精さんが空を指さした。

 

「一時の方向に敵攻撃機隊……!」

「なんですって!?」

「直掩機を戻したのが裏目に出たわね」

「でも、電探には何も!」

「皆さん落ち着いて! 対空戦闘、輪形陣!」

 

陣形を変更し、空母の二人を守る。

電探に艦隊の反応が無く、直掩機の目をかいくぐってこちらを見つけ、

攻撃隊を発艦させる。そんな事が出来るのは……

 

空を見上げる。空は気温が高い南西諸島の海域だからか多くの雲があった。

雲の影に隠れて直掩機の目を欺いたということですか……

 

「赤城さん、翔鶴さん! 直掩機の発艦を最優先! 榛名さんと霧島さんは三式弾準備!

 川内さん、対空射撃を!」

 

まだ完全に制空権を取られたわけではない。こちらの直掩機で守りを固め、

攻撃隊を三式弾で叩き、残敵を私達で迎撃する!

 

「榛名、全力で参ります!」「狙い良し! 主砲、斉射!」

 

三式弾が空中で炸裂。

しかしその位置が悪く、後ろの方の攻撃機隊の迎撃しかできなかった。

三式弾は前方に放射状に炸裂する砲弾だ。

敵の中で炸裂し全方向に飛び散るような勝手の利くものではない。

 

「霧島さん! もう一発だけお願いします!」

「し、しかし三式弾だと飛距離が……」

「何とかしてみせます!」

 

これから更に距離を詰められるともっと厄介なことになる。

なら無理やりにでも敵を落とした方がいい。

 

「なるほど、解りました。タイミング合わせてくださいね!」

 

霧島さんの発射するタイミングから弾道予測をしながらの主砲斉射。

そして保険の為の機銃も全てそちらに向ける。

放たれた三式弾に掠り、爆発。その衝撃で内部信管が作動したのか、

散弾が敵攻撃機隊を迎撃した。

 

それでもまだ敵機は残っている。

川内さんと先程発艦された直掩機と協力しながら迎撃に当たった。

 

「涼月ちゃん! 一時の方向に敵! 編制は……空母1、戦艦1、重巡1、雷巡2、軽巡1!」

「まさか帰投中に襲われるなんてね!」

「ですが、遭遇戦にしてはかなり念の入った編制、です!」

 

でも対空戦闘をしている中で考えている暇はない。

主砲も機銃も全て使って迎撃に当たる。

一機ずつ落としていき、何とか制空権を確保するも正面には主力艦隊ともいえる艦隊が。

私は肩で息をしながらも、その艦隊と向き直す。

 

「涼月さん!」

 

敵を捕らえたと思うと突然赤城さんが私の前に躍り出た。

その直後、水柱が上がる。この攻撃はおそらく魚雷。

あの雷巡が対空戦闘を行っているこちらの目を盗んで、発射していたのだろう。

 

「赤城さん!」

「大丈夫、飛行甲板がやられてしまったけれど、中破で済んだわ」

 

そう言いながらも肩で息をする赤城さん。

飛行甲板はボロボロ、弓は弦が切れてしまっている。

胸当ては先ほどの衝撃でひび割れ、角が欠けていた。

 

「皆さん、撤退を優先します! これ以上の連戦はこちらが不利です!」

「では榛名が殿を務めます。涼月ちゃんは赤城さんを!」

「私、霧島も殿の援護しますよ!」

「では私は直掩機を付けますね。榛名さん、霧島さん、ご武運を」

 

榛名さんと霧島さんが敵を引き付け、

そこに翔鶴さんが先ほど発艦させていた直掩機を付ける

私が赤城さんを曳航をするも思った様に速度が上がらない。

 

「私も手伝うよ」

「川内さん、ありがとうございます」

「殿って柄じゃないしね私。赤城さん、大丈夫?」

「ありがとう川内さん……ええ、被弾箇所は選べたから」

「なら良かった」

 

こうして私達は何とか鎮守府に帰投しすぐに赤城さんを入渠させた。

遅れて到着した榛名さんと霧島さんは軽い損傷で済み、

殿としての役目をしっかり果たしてくれた。

ただ自分が魚雷に気付かなかったから、赤城さんは庇って被弾した。

私はその事実だけが、心に突き刺さった。

 

 

/////////////////////////

 

 

提督に被害を報告し、翔鶴さんと共に部屋に戻る。

 

「そんなに落ち込んでいてはだめよ。貴女は良くやっているわ」

「ですが、赤城さんを中破させてしまったのは事実です」

 

まだ中破だけという事実なら立ち直れたかもしれない。

ただ長門さんから言われた現状は、高速修復材が無いという事。

南西諸島まで足を伸ばし勢力圏が広がっているものの補給線も同時に伸び、

そして度重なる他の艦隊の出撃もあって無くなってしまったらしい。

 

私達の海域の攻略は、そう言った現状を打開するための任務である為、

他でもない第一機動部隊である私達に掛かる上からの期待は大きいそうだ。

 

そんな期待がかかる中で赤城さんを中破させてしまった。

出撃できない状態が続けば他の作戦に影響を及ぼす。

私は第一機動部隊の旗艦の荷の重さを改めて感じた。

 

 

Side 翔鶴

 

 

「あれだけの主力艦隊と交戦して、中破した艦が一隻だけ。

 貴女は第一機動部隊旗艦として皆を守ってくれている」

「でも、その中破は私が……」

 

様々な励ましの言葉を贈るもかなり気が滅入っているらしく、

何一つとして届いていないようだ。

 

私では彼女を励ますのは難しい。かと言って赤城さんは入渠しているし、

瑞鶴は別部隊で出撃している。

彼女を良く知る二航戦の方々でも、難しい所はあるだろう。

 

ずっと、もっと、彼女の心に響く言葉を寄り添える人が居れば。

母親の様に、優しい存在が居れば。

 

「……そうだ」

 

そんな人が、一人居る。

今は前線を退いて、ひっそりとこの鎮守府の一角でお店を営むあの人が。

私は涼月さんを引っ張って、そのお店に向かうのだった。

 

 

 

甘味所間宮の裏側。丁度死角になるところに一つの小さなお店がある。

まだ提灯に明かりはついていなかったが、営業はしているようだ。

中は甘味所間宮と違い、こちらはカウンター席のみが並ぶ和風の作り。

そのカウンターでは一人の女性が湯呑を拭いていた。

 

「いらっしゃい。今日はお早いですね」

「ええ、それに少し紹介したい子が居まして」

「本当なら駆逐艦の子は入店禁止なんですが……構いませんよ」

 

灰色の瞳に同じ色の長い髪を後ろで一括りにして、

前髪は七三分けににしたおっとりとした女性。

服装は薄い赤色の和服をタスキで縛り、紺色の袴をはいている。

 

「……あの、あの、ここはどこですか?」

「ふふっ、いらっしゃい、可愛いお客さん」

 

空いている席に座らせてもらう。

涼月さんは初めて見るその女性に目を合わせられて戸惑っていた。

 

「えっ、と、秋月型駆逐艦三番艦の涼月です」

「航空母艦、『鳳翔』です。『居酒屋鳳翔』へようこそ」

「居酒屋……あの、私お酒飲めないですよ」

「大丈夫です。鳳翔さん、日本酒と烏龍茶をお願いします」

「解りました」

 

初めて見る店の雰囲気に戸惑っているのか、辺りを見渡している。

するとメニューが目に入ったのか、何があるのかゆっくりと黙読していた。

しかしその顔はまだ戸惑いが消えておらず、

何かしらで気を紛らわせようとしているのがすぐに解ってしまう。

 

こんな彼女を見たのは初めてだ。

 

「こちら、突き出しになります」

 

鳳翔さんが店の奥から持ってきた今日の突き出しは、

塩ゆでした枝豆・玉子豆腐・ひじきの煮物。

 

「居酒屋では突き出しと言って、お酒を頼むと出てくる一品料理があるんですよ。

 席代、とも取れますね」

「あの、でも私今持ち合わせが……」

「大丈夫です。今日は私が奢りますので」

「そんな! 悪いです!」

「私が勝手に連れてきただけなんだから、気にしないで」

 

突然何も頼んでいない物が出てきて戸惑う涼月さんであったが、丁寧に説明する。

私が奢るというと悪いと思って焦る彼女であったが、

この場の空気に戸惑う彼女を言いくるめるのはとても簡単な事だった。

 

「こちら、日本酒と烏龍茶になりますね」

 

グラスに入った日本酒と烏龍茶を受け取り、烏龍茶を彼女に渡す。

 

「乾杯」

「乾杯」

 

コツンと優しく乾杯して一口。うん。やっぱりこの場所で飲むお酒は格別だ。

 

「って、翔鶴さん晩御飯前に……」

「いいんですよ。飲み過ぎないようにすれば」

 

今日はこんなにも可愛い連れが居るのだから。

 

 

Side 涼月

 

 

私は突然翔鶴さんに引っ張られ、間宮さんのお店の奥にある居酒屋鳳翔に来ていた。

鳳翔と名乗った彼女からは何か他の空母の人には無い、大きな何かを感じた。

 

誰よりも優しい顔でこちらを見つめ、誰よりも優しい雰囲気で包み込んでくれるような。

そう。子供を見つめる母親の様な、そんな雰囲気だった。

 

「鳳翔さんは艦娘、なんですか?」

 

私は思わずそんな言葉が零れていた。

 

「ええ。元だけれど」

「元……?」

「私は航空母艦として設計されて、最初の頃は深海棲艦と戦っていたこともあります。

 ですが肉体的の負荷が大きいのと戦闘の激化に伴って段々と出撃も減り、

 今では新たな航空母艦の子達と交代する形で、私はここにいます」

 

元艦娘。そんな人が此処には居たのだ。

こうやって鎮守府の一角で居酒屋を営んでいる彼女が。

 

でも彼女には一切の悲しみも悔やみも、何も感じられない。

むしろ生き生きしていて、ここが私の生きる場所だと言わんばかりの風格。

その小さな体からどうしてそんなにも大きな物を感じられるのだろうか。

 

「元、という事はもう戦えないのですか?」

「そうですね。もう弓を持つことも叶いませんし」

「そんな……」

「ですが私の技や心得は、しっかりと受け継いでいる子達が居ますから」

 

思い出すように目をつぶる彼女。それは少し懐かしさに浸っているような。

でも悲しそうではない。満足げな顔をしている。

この人は私が出会ってきた多くの人達よりも、はるかに格が上な気がした。

でも、全てを赦すような寛大な心がそれを思わせない風格を作り出している。

 

「私はもう、第一の自分として出来る事をやり終え、

 今は第二の自分として出来る事をしています」

「第二の自分、とは」

「地位も、名誉も、全て捨てた後に残る、本当の私です」

 

そうだ。彼女から威圧感を感じないのは、そこに彼女と言う存在がいるだけだからだ。

艦娘でもなく、何かを教える教官でもない。そこに居るのは鳳翔さんその人。

 

「何もない私に、提督はこんなにも素敵な場所を与えてくれました。

 その時私は思ったんです。ここから艦娘としてではなく、私の人生が始まるのだと」

 

「私の教え子達が訪れて来てくれて、何気ない話をしてくれるだけで、

 とても幸せなんです。あの日々に戻れなくても、

 あの子達が今はこんなにも立派に育ってくれているんだと、知る事が出来るだけで」

 

「自分の築き上げた物の偉大さに気付くのは、案外築かれた後なんですよ。

 どれだけ素晴らしい過程があっても、どれだけ醜い過程があっても、

 完成してみてからでないとその過程が良い物か悪い物かは解らない」

 

過程。

私もまだ道半ば。でも、その中で大きな失敗をしてしまった。

私は、その大きな失敗に囚われている。その過程というものに。

それに、押しつぶされそうになっていたのかもしれない。

 

「涼月さんはまだ築いている途中で、大きな事故があったのでしょう」

 

「それでもその事故をも自らの礎にして、努力を惜しまずやり遂げれば、

 必ず素晴らしい物が築けますよ」

 

彼女は本当の自分として再び歩み出したこの居酒屋鳳翔という処で、

第一の自分と言うものが積み上げた、素晴らしい物を見ている。

その積み上げる過程であったであろう、素晴らしい出来事も、大きな困難も一緒に。

それでも、全てが素晴らしい物に見えている。

素晴らしい出来事も、大きな困難も、全てが一つの築き上げた素晴らしい物の一つだと。

 

今の私に必要なのは、この失敗を礎にするという強い心。

 

『皆さん、一度起きてしまったことは取り返しがつきません。

 問題はその後の対処。それが的確に行える女性こそ、

 暁さんの言う『レディ』というものではありませんか?』

 

なんだ、自分自身でも言えていたではないか。

一度起きたことは取り返しがつかないのだと。

 

赤城さんが中破し、作戦に遅れが生じる。その作戦には大きな期待がかかっている。

無駄に第一機動部隊の旗艦という肩書きを自分で重い枷にしていたようだ。

 

この目の前に居る鳳翔さんの様に地位や名誉に囚われず、

本当の自分が出来る事を見出し、その失敗を礎にすることが大事なのだ。

 

「もう大丈夫のようですね」

「はい! ありがとうございますお母さん!」

「「あら……」」

「あっ……」

 

その時の私は、今までにない程にまで顔が熱かった。

 




赤城の中破。自分の居る地位と責任に押し潰させそうになる涼月。
翔鶴さんの本気。そして新艦娘の『鳳翔』の登場。
アニメでは第六話に一応観客として間宮さんの隣に居ます。

当初は出す予定はなかったのだけれど、ストーリーに肉付けしまくってたら、
いつの間にかパテ盛りしてるレベルである。でもこの人がほんと『お艦』なんだよなぁ……

次回は涼月が……ご期待下さい?

追記:ぼーっとしてたらいつの間にか評価が5人達成により反映されてるー!?
   高評価ありがとうございます! お気に入り登録も40を越えて、
   プロローグ1のUAも1000を突破。本当にありがとうございます!
   これからもこれらを励みにして行きます!

簡易的な自問自答コーナー

Q.オリョール海で中破とかこの面子ならでありえなくない?
A.アニメ戦闘は割と練度無視のダメージ系が多いような気がします。
 第七話の加賀ガードなど。実際リアル戦闘系だとゲームシステムは働きませんので、
 一発轟沈も有りえる状態になっています。

Q.連戦は確定? 燃料と弾薬は?
A.ゲームでのオリョール海は確定で2戦発生します。なので最初は弱い水雷戦隊ですが、
 ルートが反れても反れなくてもそれなりに空母の居る艦隊とぶつかります。
 ただし、燃料や弾薬は第六話の様にその海域に遠征を出さないと持ち帰れません。
 出撃部隊と遠征部隊は全くの別物ということです。

Q.居酒屋鳳翔って何?
A.その鳳翔さんのオカンの素晴らしさを見出した提督が作り上げた二次創作ネタ。
 結構初期のネタだが根強く残っている。因みに鳳翔ボイスにもそれっぽいのがある。
 因みに『突き出し』は関東で言う『お通し』です。呉は広島、関西なので。
 お通しと言うのは本文中で翔鶴さんが説明する通り、
 席代や注文した料理が出来上がるまでアテの様なものです。実際三品も出ない。
 (しかし孤独のグルメは真面目に居酒屋の参考になるなぁ)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話『私に出来る事』

某空戦アニメ的なサブタイになってしまったけどこれでいいのだ……
アニメ第七話開始直前の回ですが、そのまま第七話は終わります。
そして遂にあの人が……


私は長門さんに一枚の海図を貰って自室へと籠った。

 

私は今私の出来る事をする。第一機動部隊の旗艦ではなく、涼月として出来る事を。

 

二人の妖精さんを呼び、オリョール海で起きたことを事細かに海図に記していく。

私達の航路、敵の配置、敵の編制、そして帰投中に狙ったかのように現れた主力艦隊。

 

いくら何でも、出来過ぎていた。

雲海に隠れて通信し、攻撃機隊がこちらに向かってくるのは解るが、

それが一時の方向から。ほぼ真正面だ。迎撃に当たり、そして現れる敵艦隊。

恐らく島の影に隠れて電探から逃れていたのだろう。

だがそれも一時の方向。

 

『まさか帰投中に襲われるなんてね!』

『ですが、遭遇戦にしてはかなり念の入った編制、です!』

 

そう。あの時は遭遇戦だと思っていた。

でもかなり出来過ぎている。あの編制には補給艦が居ない。

反復出撃しても奥地に敵主力艦隊は見当たらなかった。

主力艦隊が発見されたとされる奥地でも主力艦隊が見つからず、

むしろその付近に居た艦隊が偵察機に発見され遭遇戦を行っているような物。

 

当然多くの深海棲艦が発見されている海域なので通常の遭遇戦もあるが、

それは戦艦すらいない水雷戦隊の様な編制。

 

連戦を終えて帰投中に一時の方向に現れる敵主力艦隊。

敵陣にうまく誘い込んで、気が抜けた帰投中に正面から叩き潰す。

それも一回目で叩いて来たわけではない。

反復出撃をするのを知っているような突然の現れ方。

 

……知っている? 深海棲艦が? こちらの作戦を? どうやって?

 

心当たりがない訳ではない。

W島の奇襲に失敗した時も、その海域に居ないはずの空母が現れた。それも二隻。

その作戦に当たっていたのは第三水雷戦隊と第四水雷戦隊。

制空権を取るなど容易く、重巡すらいないこの編制を殲滅するにも十分だ。

 

それと同時に行われていた遠征での敵の補足した艦隊は戦艦二隻に駆逐艦四隻。

金剛さん達の様な大型電探を搭載した艦を配備していなければ、

スコールと言う悪天候の中で敵艦を捕捉できず一方的に倒されていたかもしれない。

 

「……提督に報告しなければ!」

 

嫌な胸騒ぎがする。これが本当でないことを祈ろう。

 

部屋を飛び出して提督室に駆けこむ。そこには提督は居らず大淀さんが居るだけだった。

 

「提督室に入る時はノックをしてください」

「す、すみません! 提督はいらっしゃいますか!」

「今提督は席を外されています。長門秘書艦も同行されているので、

 今ここには居らっしゃいません。何か御用であれば伝達しますが」

 

確か大淀さんは通信関係の事を担っていると言っていたはず。なら彼女にも関係がある。

 

「大淀さん、これを見てください」

 

私は提督室の扉を締め、机上にオリョール海の地図を広げた。

 

「これは、現在第一艦隊が任務を受けているオリョール海の海図ですね」

「上からの任務で私達は反復出撃による敵の殲滅と、海域の解放を命じられました」

「それは既に存じています。その点で何か御不満でもありましたか?」

「いえ、では今回帰投中に敵の奇襲に遭ったという話は」

「……聞いていません。もう少し詳しくお願いします」

 

私は、あくまで机上の空論でしかないものの、

これまで起きた出来事を出来るだけ繋げて大淀さんに事細かに話す。

 

「つまり敵深海棲艦はこちらの無線を傍受している可能性が高いと」

「はい。ここまでの『偶然』、『偶然』とは思えません」

「……無線には当然ながら平文ではなく暗号で行われています。

 ですが、ここまでとなると流石に気になりますね。解りました。

 この事は提督に私から伝えておきます。そしてこの事は指揮に関わる事なので内密に。

 涼月さん、ご協力感謝致します」

「ありがとうございます。その海図はそちらで管理して下さい。失礼しました」

 

大淀さんに話が通ってよかった。

提督室を出ると、見える景色はもう夜で建物の明かりが点々と見える。

どうやら海図を纏めているうちに日が落ちてしまったようだ。

 

自室に戻ると、翔鶴さんがベッドに座りながら一人でせわしなくしていた。

 

「どうされたんですか翔鶴さん」

「あ、涼月さんどこに行っていたんですか~」

 

その顔は仄かに赤く、酒気を帯びているようだ。

もしかして今まで飲んでいたというのだろうか。

彼女の隣に座るとかなりお酒臭い。

 

「ねぇ涼月、どうして私ばっかり被弾するのかしら~」

「えっ、えっ?!」

「やっぱり瑞鶴に比べて胸が大きいから……」

 

そう言って翔鶴さんは自分の寝巻をはだけさせようとしたのでそれを全力で阻止する。

 

「だ、だらしないですよ翔鶴さん!」

「あら……ごめんなさい……」

 

そう言った彼女は、そのまま私に体重を預けてくる。

当然成人女性ほどである彼女を支えることなど出来ず、

そのまま二人でベッドに倒れ込んだ。

 

「瑞鶴……あまり提督の邪魔をしちゃ……だめよ……」

 

そのまま抱き付かれて離されることは無く、私は彼女の胸の中に沈む。

温かく柔らかい。そう思ってしまう自分に不甲斐なさを感じながら、

私はそのまま眠ってしまうのだった。

 

 

/////////////////////

 

 

翌日、私は提督室に呼び出されていた。

理由は敵が暗号を解読し、こちらの行動を呼んでいるという私の見解について。

 

「では、提督も以前からそのように……」

「ああ。確証はつかめなかったが、

 涼月の持って来てくれた証拠と証言の数々で確信に近づけた」

「ですが、それが本当だとすれば……」

「今上層部が考案し発動しているMO作戦にも、支障が出るやもしれん。

 だが、打てるべき手は打つ。それが私のやり方だ」

 

肘をついて手を顔の前で組み、溜息をつく提督。

提督は、提督としてしっかりしていると思う。

 

「ありがとう涼月、君をこの鎮守府へ呼んでよかったと思っている」

「……恐悦至極でございます」

「そんなに硬い言い方をしなくてもいい。

 君は引き続き、オリョール海攻略に当たってほしい」

 

そこまで提督が行ったところでノックをされる。

 

「なんだ! 取り込み中だぞ!」

 

このピリピリした状態を隠せずに長門さんの言動が荒くなる。

しかし入って来たのは陸奥さんであった。

 

「鎮守府沖に出ていた第五遊撃部隊から緊急の打電です。

 正規空母加賀が、同伴艦の瑞鶴を庇い大破したとのこと」

「加賀が!? 提督、申し訳ありません。失礼します」

 

頭を下げて出ていく長門さんと陸奥さん。おそらく港へ向かったのだろう。

 

「……涼月は行かないのか」

「はい。一つ要件が増えたので」

 

加賀さんが瑞鶴さんを庇って大破した。

それは加賀さんも大変なことだが、瑞鶴さんの方も心配だった。

瑞鶴さんと加賀さんはああ見えてやはり相性がいい。

そして互いにこのままではいけないと思っている。

 

『だから何か教えてもらおうと思っても加賀さんにはぶつかっちゃうし、

 赤城さんに教えてもらおうにも結局加賀さんが付いてくるし』

 

『つまりはそういう事よ。だから私はこう言うの。

 『五航戦の子なんかと一緒にしないで』と』

 

そう言う彼女の顔を見たことを私は忘れていない。

互いに理解し合いたいけれど、ぶつかってしまうという二人を。

私は一つ浮かんだ事を提督に進言することにした。

 

「提督、翔鶴さんを第五遊撃部隊に移動させてあげてください」

 

その発言に驚く提督。

今、おそらく彼女の心は脆く崩れそうになっているであろう。

勝負事が大好きでいつも張り合うのに、心はとても弱い。

その張り合う相手が居なくなるとすぐに倒れてしまいそうで、私はそれが怖かった。

 

「だが、それでは機動部隊の空母が空いてしまうぞ」

「ですので、二航戦の方々にお願いして頂きたいのです」

「それは第一機動部隊旗艦としてのお願いかな」

「いえ。これは翔鶴さんと瑞鶴さん、二人の友人としての私自身のお願いです」

 

一本取られたと言わんばかりに笑う提督。

 

「……いいだろう。涼月、君の好きなようにやってみろ」

「ありがとうございます」

 

頭を下げて扉の前でもう一度頭を下げる。

 

「ああそうだ。涼月」

 

出ていく寸前で引き留められる。

そこには立ち上がって煙草を吸っている提督の姿が。

 

「君は、秘書艦に興味はないかい?」

「生憎、煙草を吸う人に興味ありません」

「そうか」

 

私は返事を聞いてその場から走り去るのであった。

 

 

 

私が港に着くと、野次馬と思われる艦娘達と長門秘書艦に陸奥さん、

利根さんと翔鶴さんが第五遊撃部隊の皆と話している所だった。

 

「でもどうする? MO攻略本隊は既に出発しているだろうし、

 加賀もこの様子じゃ修復は間に合わないわ」

 

翔鶴さんが迷っている様子で、おそらく私達の事を考えているのだろう

 

「翔鶴さん、構いませんよ」

 

私の言葉を聞いて皆が振り返る。

 

「提督には既に許可を取ってあります。

 後は翔鶴さん自身の判断、と思っていましたが丁度良かったです」

「涼月さん……でも私が抜けたら第一艦隊は」

「二航戦のお二人にお願いします。まだ話はしていませんが、何とかして見せます」

「ちょっと涼月! 何適当に進めてるのよ!」

 

冗談じゃないといった様子でずかずかと間に入る瑞鶴さん。

その目はいつにも増して怒っていた。

 

「なんでもあんたの思い通りになるなんて思わないでよね!」

「これはただの私のお節介です。貴女の意思は関係ありません」

「関係あるわ! 私だって第五遊撃部隊の一員なんだから、

 それを決める権限位あるに決まってるでしょ!」

「……そうですか。では存分にお悩みください。

 ですが翔鶴さんは一度、第一艦隊から外れて頂きます。よろしいですか」

「ええ。こちらからお願いしようとしたところだもの。喜んで受け取るわ」

 

一方の翔鶴さんは迷いのない目をしていた。

私は彼女の信頼に応えるためにも、こうやって立ち上がる事が出来た恩を返す為にも、

出来る限りのことはしたいと思っている。

傲慢でもいい。我儘でもいい。それでも彼女の為に何かしてあげたいのだ。

 

「翔鶴姉ぇ! なんでこいつの肩ばっかり!」

「瑞鶴、涼月さんは私達を思って言ってくれているのよ」

「……っ! 涼月なんて大っ嫌い!!」

 

去り際に放たれた瑞鶴さんの言葉の矢は私の心を掠め、傷をつけたのだった。

 

 

//////////////////////////

 

 

「あ、涼月じゃない。久しぶり」

「ご無沙汰してます、蒼龍さん、飛龍さん」

 

空母の演習場では、二航戦の二人が練度向上に励んでいた。

ただ少し様子が違う。何故か二人ともハチマキをしていた。

 

「提督から話は聞いてるよ。第一機動部隊の空母が足りなくなったからお願いしに来た、

 でしょ?」

「はい。オリョール海攻略の為に、お二人の力を貸して頂きたいのです」

「何硬くなってるの。私達と涼月の仲じゃない!」

「そうそう! 涼月たってのお願いだからね!」

 

二人とも笑顔で引き受けてくれる。そのことに胸を撫で下ろした。

一旦落ち着いたところで、二人のハチマキについて聞いてみる事にしよう。

 

「ところでそのハチマキは……」

「あ、これ? いいでしょ、鳳翔さんお手製のハチマキ!」

「涼月のペンネントかっこいいから、鳳翔さんに作ってもらったんだよねー」

 

灰色の生地にで白い横線が二本入っており、中央には日の丸。

 

そこまでこった造りであるというのに、付ける理由はかっこいいから。

二人らしいというか、なんというか。

 

「そ、それだけですか」

「そうそれだけ」

「それ以上を求めても私達からは何も出ないよー」

 

そんなこんなで二人の了解を取って、私達はオリョール海へ向かう事にするのだった。

 

 

//////////////////////

 

 

「涼月の人脈にはほんと驚かされるねー」

 

敵海域に突入する前、川内さんがそう呟く。

 

「そうね、鎮守府カレー大会で審査員を務めたのも、

 その顔の広さが買われたと言われていますし」

「流石、『この鎮守府でその名を知らぬ者はない!』ですね」

「あの時は笑っちゃったなぁ、確かにその通りなんだもん」

「『私を誰だと思っている!』っていうのもセンスあるよねー」

 

空母の二人が蒼龍さんと飛龍さんに変わるだけで、艦隊全体の雰囲気が一転した。

二人とも非常にフランクな性格だけあって、不穏な空気を忘れさせてくれる程に。

それでも、敵はこちらが攻めてくる事を知っている。

それもあって気楽ではいられない。それでも彼女達の振る舞いは変わらなかった。

 

「蒼龍さん、飛龍さん、偵察機の発艦をお願いできますか?」

「ん、解った。この前奇襲に遭ったんだもんね」

「索敵は大切に、空母戦は先手必勝、慢心は駄目絶対! これ信条!」

 

彼女達は、赤城さん達よりも何かもっと索敵を大切にしているような気がする。

それは、そう。まるで過去にそのような事態に怠った様な。

 

「二段索敵でいい?」

「はい。二段索敵でお願いします。後、出来る事なら低空飛行による島の影も念入りに」

「でもそんなことしちゃ見つかっちゃうよ?」

「空母戦は先手必勝、なんですよね」

「あらら、言い返されちゃった」

 

そう言いながらも偵察機を発艦させる二人。その目は先程と違って鋭かった。

 

「でも、提督の話を信じるなら……索敵も念入りにねっ!」

 

飛龍さんが直掩機を出して、その一部を気になったのか大きな島の影へと向かせた。

 

「飛龍がそっちをやるなら私はこっち。対空見張りも厳として。よろしくねっ!」

 

蒼龍さんは飛龍さんの出した反対側へ偵察機を出して、遅れる様に直掩機を出した。

 

「さーて、やれることはやったわ。どこからでも掛かってきなさい!」

「そうね。飛龍の言う通り」

「あの、そこまで発艦させて大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ。私達の妖精さんの練度、知ってるでしょ?」

 

通常の二段索敵に加えて島の影を探る為の別の偵察機を連続発艦。

それに直掩機も発艦させている。

ここまで密にして頭が回るのだろうかと思い声を掛けたが、心配ないと返された。

 

防空演習を重ねれば重ねる程にめきめきと育っていく彼女達の艦載機。

あの時の様に良い勝負が出来る事は少なくなり、最近ではほぼ勝てない状況だった。

 

「っと、一番機より入電、編制は……重巡2、軽巡2、駆逐2」

「距離はどうですか?」

「随分と離れてるみたい。こっちに来てるみたいだけどね」

「解りました。皆さん交戦準備、単縦陣を取って一気に殲滅。

 蒼龍さんと飛龍さんは先手を!」

「「「「「了解!」」」」」

 

「攻撃隊、発艦始め!」「第一次攻撃隊、発艦!」

 

無数の艦爆と艦攻が空を舞い、敵の居る方向へと翔け抜けていく。

制空権の問題はない。後は最初でどれだけ叩けるかが問題だ。

 

「艦爆隊、艦攻隊からの入電……敵艦隊全滅!」

「どうよ!」

 

そう言えば割と多めの艦爆や艦攻を発艦させていたなと思う。

それでも、全滅とは。敵に空母や戦艦が無いとはいえ、

重巡二隻を含めた艦隊を航空戦だけで全滅させるなんて相当な命中率だ。

 

「っ! 十時の方向の島影に敵主力艦隊と思わしき艦隊を発見!」

 

その時、蒼龍さんが声を上げた。

 

「編制は!」

「空母2、戦艦1、重巡2、駆逐1!」

「蒼龍さんと飛龍さんは先ほどの残った艦爆と艦攻をそのままそちらの攻撃に。

 私達は砲撃戦重視で複縦陣を!」

 

飛龍さん達を一番後ろに、榛名さんと霧島さんを前へ。

私と川内さんは中央に移動する。

 

「涼月! 私達の艦戦を相手の正面にぶつけるから、進路はそのままで!」

「艦載機との挟撃、と言うわけですか」

「ご名答!」

 

何と柔軟な人達だろうか。練度が高いだけでなくここまで柔軟な発想が出来るとは。

飛龍さんは別方向に向かっていた艦戦を更に分断し、

呼び戻して十時の方向へと向かわせる。

 

「私の艦戦は交戦状態! 直掩機を出せるものなら出してみなさい!」

「私の艦戦も忘れないでね!」

 

島の向こう側で激しい戦闘音がする。

艦載機が飛び回る音、対空砲火の為の砲撃音。機銃を連射する音。

 

高速機動を行かしての島からの裏回り。

そしてついに主力艦隊の背後を捉えた。

 

背後からの二人の戦艦による砲撃は、

旋回するのに時間がかかっていた戦艦を見事に貫き爆沈させる。

そしてこちらに飛びついてくる駆逐艦を私が狙い撃ち、

川内さんが追従する砲撃で確実に沈めた。

完全な奇襲と挟撃。残った空母と重巡は何とか島から離れようとしていたが、

敵にとってもう一つの悪夢が襲い掛かった。

 

「そろそろ到着する頃ね」

 

蒼龍さんが空を見上げると、

先ほど発艦させていた蒼龍さんと飛龍さんの艦爆と艦攻が合流し始めていた。

 

「さて、赤城さんの分の落とし前、付けてもらおうじゃない!」

 

三方向ならぬ立体的な四方向からの攻撃により、敵主力艦隊は悉く殲滅されていく。

最後には座礁した敵空母を蒼龍さんの艦爆が容赦なく投下を繰り返し、焼き払われた。

 

「四番機より入電、敵が撤退しているらしいよ」

「ということは……」

「海域解放だね。お疲れ様」

 

こうしてオリョール海は解放され、

輸送路が確保されて少量ながらも高速修復材が鎮守府に届いたのだった。




キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!
アニメ版提督 CV:三木眞一郎 が一番似合うと思う。
長い間喋らない路線で進行していたのですが、
流石にここまで来ると提督が喋らない方がおかしいという状況になった為、
真面目にあえなく喋らせることに。今後も提督の出番アニメでかなり(?)増えますし。

無理がある者をひたすらに無理があるまま突っ走るのは不可能です。
そこまであのアニメは無理をしていたのか。いや、まだアニメは絵があるから、まだ誤魔化せる。
影だしたり、足音だけとか、提督視点とか。
ですが文章だけの小説で、存在するのに無理やり隠蔽されてる人物を語るのは相当難しい。
だからこそ登場はするけど自分の身分などを明かさないキャラが多いのだと思います。
(ちょっと偏見入ってるけど)

新生第一機動部隊の編制。
アニメ第五話の話(この小説だと十三話に該当)で違和感に思ったと思いますが、
こういう形で編入させたと思って頂ければ。
恐らくアニメ版では翔鶴さんはどこの部隊にも出ていなかったのだとと思います。
(でもそれだと翔鶴の疲労度の問題でちょっと疑問が残る)

次回はついにアニメ第八話……そして舞台が移る時。
その場所は、涼月にとってどんな変化をもたらすか。
「この瞬間を待っていたんだぁー!!」

簡易的な自問自答コーナー

Q.まさかこのための海図制作能力?
A.史実ネタと小説の第一話、第十話を大胆にフラグにしてみました。
 史実ネタから派生させて色々任務や趣味を差せていたら思わぬ回収に。
 プロット先生流石です。

Q.何故今更提督が喋ったの?
A.アニメ第七話で吹雪に提督が伝えるシーンがあるので、そこで限界を感じました。
 というか長門に全部涼月に対するお礼を伝達した場合、完全に『糞提督』になっちゃうので。
 一度たりとも人に直接お礼を言わない提督なんて人間的にどうよ……とも思える。
 それに提督が喋った方が色々と提督の意思を伝えやすいのもあります。
 今回の涼月と提督だけの会話と、秘書艦として誘った件はそこです。

Q.蒼龍と飛龍がハチマキ!?
A.思った人は多いと思いますが、まだあの状態ではありません。
 ただ単純に鳳翔さんお手製ハチマキを付けた蒼龍と飛龍です。
 かなりストーリーの根幹に位置するので、これ以上は言えません。

Q.オリョール海で高速修復材取れないけど?
A.こちらは物資の輸出入のルートが確保されたスタイル。
 なので結構少量になってたりします。
 後、第八話で何故吹雪達よりも早く赤城達が着いてるんだ! という疑問解消の為。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九話『歪みし光夢を突く』

アニメ第八話前半戦。トラック泊地編開始です。
ここから一話を二話構成にするパターンが崩れます。(重要なパートなので)


オリョール海を解放し帰還した私達を待っていたのは利根さんだった。

 

「良くやったの。そんなお主らにもう一つ朗報じゃ!」

 

それは珊瑚諸島海域にて第五遊撃部隊の方々が、

敵空母を一隻撃沈、一隻大破させたという知らせだった。

無論轟沈は無く、被害報告は翔鶴さんが中破したという事。

 

「翔鶴さん、大丈夫でしょうか」

「大丈夫じゃ。第五遊撃部隊にはトラック泊地へ直接向かうように言っておる」

「トラック泊地!」

 

思わぬ名を聞いて思わず声を上げる。

 

「そういえば涼月はトラックから来たんじゃったな。

 そう焦るでない。お主らも赤城と加賀の修復が済み次第即時向かってもらう」

「はい! ありがとうございます!」

 

トラック泊地に向かうという事は、前進基地として完成されたのだろう。

大和さん達にまた会える。

しかしそれは大規模反攻作戦の火蓋が切られたも同じで、大きな戦いを予見させていた。

 

「良かったね。またトラックの仲間に会えるじゃん」

 

後ろから川内さんが肩に手を置く。

彼女の言う通りだ。今は彼女達に会える。それを喜ぼう。

 

その後私達は高速修復材が届いた関係で、

入渠がすぐ終わった一航戦の二人を連れて、

そして秘密裏に採取していたボーキサイトを船に乗せて牽引しながら、

トラック泊地へ向かうのだった。

 

途中赤城さん達に激しく追及されたが『お土産』と言い張って中身は見せなかった。

 

 

/////////////////////

 

 

トラック島に着いた私達を迎えたのは、熱帯植物が生い茂った森。

その一角にある浜辺に辿り着いた私達。

 

「ほんとにここが前進基地……?」

「変わってませんね、まったく」

 

皆が不安な表情を浮かべるが、私は至って落ち着いていた。

 

「さあ皆さん、私が案内しますね」

 

この中で唯一この島を知っている私が先導しなければ意味がない。

このまま浜辺に居ては夏の日差しで参ってしまう可能性もあった。

 

「あら、いい匂いね」

「これは……牛肉の匂いでしょうか」

 

赤城さんと加賀さんはお腹が減っているのか鼻が敏感になっていた。

誰かが昼食の準備をしているのだろう。

私には土と植物の香りでその匂いが本当にするかどうか解らなかったが、

二人が言うのならば間違いはない。

 

森を抜けるとコンクリート製の大きな建物が立っていた。

私が居た時よりも更に広くなっている。

それが前進基地として完成されたことを物語っていた。

 

「うわっ、大きい~」

「大規模反攻作戦の為の、前進基地と言うだけはあるわね」

 

と、その建物の中から一人の少女が姿を現す。

金髪の髪に黒い制服。間違いない。『舞風』さんだ。

 

「あっ! 涼月! 久しぶりー!」

「お久しぶりですね。舞風さん」

 

彼女は私の姿を見るや否や私の手を取り踊り出す。

だが私の後ろに居る人達と目があった時、急に踊るのをやめてしまった。

 

今自分のしている事に気付いてはっとしたのかと思ったが、どうやら違うようだ。

その視線の先に居るのは赤城さん。そしてその赤城さんも同じ目をしていた。

まるで信じられないようなものを見た目。

 

「あっ……と、陽炎型駆逐艦、『舞風』ですぅ! 暗い雰囲気は、苦手です!」

 

その言葉を聞いて皆が舞風さんと挨拶をかわしていく。

ただ、赤城さんに対しては非常にそっけない、彼女らしからぬ態度をとっていた。

 

「航空母艦、『赤城』です。……よろしくね、舞風さん」

「あっ……はい……」

 

いつも明るく、楽し気な彼女の姿はそこにはなかった。

 

「とりあえず、補給、ですよね! 食堂はこっちになりまーす!」

 

明るく振舞おうにも空回りしているようで。

私が、あの現実味の帯びた夢に縛られている時の様に。

そう。彼女は何かに縛られた人形の様にも見えてしまった。

 

 

 

私は手早く食事を終わらせて、舞風さんを元々私の部屋だった場所に呼び出した。

 

「何、涼月? 怖いよ?」

「舞風さん、赤城さんと何かあったのですか?」

 

その名を聞いて動揺する彼女。

必死に目をそらしならがもその瞳には戸惑いと動揺が映っている。

 

「えと、野分、呼んで来ていいかな」

「逃げないのでしたら、いいですよ」

「に、逃げないって! ただ……私だけだと怖いから」

 

怖い。何が怖いというのだろうか。

やはり、彼女も私と同じような状態にあるのだろうか。

 

そもそも私は何故姉妹艦といえど、野分さんと舞風さんは常に一緒に居る。

それが何故かはわからない。ただ私のペンネイトを見てなおの事仲良くなったらしいが、

それは磯風さんから教えてもらった事で私には解らない。

 

「だから、だから、ね。野分、呼んできて、良いかな」

 

彼女は今にも泣きそうな目をしている。

私は静かに首を縦に振ると彼女は飛び出すように部屋から出ていった。

 

一人取り残された私は、夢の事を思い出す。

私でも、あの夢は怖かった。でも誰も沈まなかった。

途中で被弾した二人も佐世保に戻ったし、私達は呉に無事に辿り着いた。

私の夢はそこで終わり、その悪夢だったのかよく解らない夢を見ることは無い。

 

それも他ならぬ榛名さんのお蔭で、その夢から解放された。

 

そして如月さんの見ていた夢。

それは自分が轟沈するという夢。まるで予知夢の様に。

その夢は私が助けたその日から見なくなったという彼女。

つまりその出来事を乗り越えたから見なくなったのだ。

どちらの運命を辿ったとて、夢を見なくなるのには変わりないのだが、

彼女はあそこで沈んではいけなかった。睦月さんの為にも。

 

そこまで考えたところで、舞風さんと野分さんが入ってくる。

 

「ちゃんと来てくれましたね」

「……涼月さん、貴女にこの話をして、信じてもらえるなどとは思いません。

 ただ、聞いてもらうだけで十分です。それが、私達の願いです」

「いいえ、信じます。貴女達は、私の大切な先輩であり親友なのですから」

 

そして彼女達は絞り出すように話し始めた。

 

「大規模反攻作戦、それが発令された時から少しずつ、夢を見るのです」

「私ね、最初は普通の夢って思ってたの。でも、朝起きたら必ずその事を覚えてて」

「それが何かは解りません。どこかは解りません。

 誰かも知らない……いや、知らなかった」

 

知らなかった。つまり、今は知っているという事。

私もそうだった。ただ一人、榛名さんに会うまでは。

 

「制空権を失った空の下、貴女が引き連れてきたほとんどの人達が空襲に晒される。

 赤城、加賀、蒼龍、飛龍、榛名、霧島……どうして……」

 

「そして、ほとんどの方々、特に赤城、加賀、蒼龍という方の損傷が激しかった。

 それも、自力航行不能になるまでに」

「そこで、赤城さんがこういうの。『雷撃処分、して下さい』って」

「私達は彼女達の随伴艦として、その作戦に参加していたのだと思います」

「それで……私……私達……」

 

そこで舞風さんが泣き出してしまう。

野分さんはそれを静かにあやすが、彼女自身の目にも涙が映っていた。

 

「随伴艦として、介錯するのが、私達の役目……」

「そんなの、嫌だよぉ……」

 

舞風さんは声を上げて泣き、野分さんの頬には涙が伝う。

 

「おかしい事だとは解っています。こんなこと、起きるはずがないと。

 でも、今日貴女が連れたあの方々を見て、舞風と話したんです。

 すると互いが互いに同じ夢を見ていて、更に不安になって」

 

「私達は、何故こんな夢を見るのだろう。何故知っているのだろう、と」

 

私は、そんな二人を抱きしめる。そんな私の突然の行動に二人は驚いた。

大きい体は、こういう時に便利だと思う。

 

「……少し話をしましょうか」

 

私は語る。呉で起きた不思議な夢の話を。

最初こそ彼女達は泣いていたがいつしか私の話を聴くことで泣くことも忘れ、

涙が頬を伝うことは無くなった。

 

 

 

「つまり、それを超える事が出来れば夢は見なくなる、と」

「恐らく舞風さんと野分さんの見た夢は、如月さんの見た夢と同じなのでしょう。

 確信を得たのは、私と同じようですが」

「なら赤城さんと……でも……」

 

舞風さんが赤城さんと和解すれば、と言いかけたのだろう。

しかしそこまで言う事が出来ずに尻すぼみになってしまった。

 

「ですがその晴れぬ思いを持ったまま作戦が実行に移れば、

 そうなる可能性も高くなります」

「でも、でも……」

 

野分さんに答えを求める様に舞風さんは視線を送ったが、野分さんが首を横に振る。

彼女もうまい言葉や手段が見つからないのだろう。

 

「ですから私が、二人のお手伝いをさせてください」

「涼月さんが?」

「私の夢も、榛名さんが手を差し伸べてくれたから無事に終わりを迎えました。

 ですから今度は私の大切な貴女達の手を取り、導きたいと思います」

 

今まで抱きしめていたことを思い出して二人を解放し、

視線を合わせてその手を取る。

 

「駆逐艦として私達に出来る事。それは彼女達を介錯するのではなく、

 護衛艦として最後まで守り抜く事。

 その為に貴女達は、ここで頑張って来たのではありませんか?」

「その通りだ」

 

扉を静かに開けて入って来たのは磯風さん。

 

「磯風さん、いつからそこに?」

「そうだな、舞風が野分を連れてお前の部屋に入る時からか」

「最初からですね」

「まぁ、そうなるな」

 

野分さんのツッコミを軽く流す彼女は、強い目をしていた。

長門さんの様に勇ましく、覚悟を持っている。

 

「磯風さん、まさか貴女……」

「生憎、私はそう言う夢は数えきれんほど見てきたのでな。

 ならばそれを繰り返さぬように鍛錬を積み、この世を生きるだけだ」

 

鍛錬と言うものを何よりも重要視していた彼女は、既にある境地へと至っている。

どうやら、磯風さんの方がこの事については一枚も二枚も上手だったようだ。

私が二人に口出しするまでもなかったのかもしれない。

……いや、彼女も悩んでいたことがあったのだろう。初めから強い人などいない。

彼女は、そのきっかけが多かった。それ故に鍛錬に励んだのだろう。

 

『実動演習をしよう』

 

『いくら遭遇戦で実戦経験が豊富とは言えど、

 このままでは本土の艦娘達とは練度が段違いになってしまうからな。

 哨戒に加え艦娘同士で演習することで練度を高め合うんだ』

 

鍛錬と言うものに貪欲ともいえる彼女の真相は、私達と同じ夢にあったのだ。

 

「さあ、そうと決まれば哨戒任務だ!

 本土の艦娘にひと時の平和を謳歌させる為にも、私達が努力しなくてどうする!!」

「ええー! 私涼月ちゃんともっと踊りたいなぁ」

「つべこべ言わずに行くぞ!」

 

 

////////////////////////

 

 

艤装を装備した私達はトラック島の周辺の哨戒を行う。

その間、私は三人に大和さんの事について聞いてみる事にした。

食事の時には大和さんは居らず、話を聞けば別の艦隊の人を迎えに行っていたらしく、

まだ会えていない。

 

 

「大和さんは最近どうされてますか?」

「大和か……少し芳しくないな」

「最近は大規模反攻作戦に向けて上層部も保守的になり、

 大和さん自身の演習の参加も出来なくなってしまったのです」

「演習すらも、ですか」

「そうなんだよね。それで、最近は『ホテル』って言葉に敏感になっちゃって……」

「『ホテル』?」

 

大和さんとホテルという言葉に何の関係があるのだろうか。

確かに大和さんの料理は一級品で前進基地も基地として建てられた割には、

居住性がはっきり言えば呉より段違いに良い。

ホテルと言っても差支えないかもしれない。

 

「士気の低下を避けるために居住性を重視した造りにしたのは大和の意向なんだ。

 料理が彼女だけ段違いに上手いのもそこに準ずる……が、それ以外にあるかもしれん」

「それ以外、ですか」

「涼月の言っていた、夢に似た何かだ」

 

大和さんも、そう言ったことがあるのだろうか。

いや、でも、二航戦の二人もそう言う事があった。

 

『そういえば『人殺し』とか言われてたよね』

『ねー。そこまで言うことは無いと思ったけど、あながち間違ってないから怖いよね』

 

覚えていない筈の事を覚えている。知らないはずの事を知っている。

最初からある分野での才を持っている者もいれば、ない者もいる。

 

「それこそ、私達が何故艦娘と呼ばれるのか。その真相に至れば解るかもしれないが」

 

数々の『夢』を乗り越えた彼女は、いつしか真相へと向かっている。

その『夢』も『才』も、全ての『解』は『艦娘』というものにあると言わんばかりに。

 

「とにかく、大和は少し参っている。会ってないのであれば早く会ってほしい」

 

「昔の涼月に似た『お節介』が紛れ込んだようからな。

 彼女の舵が狂わぬように、お前が取ってやれ」

「解りました」

 

そのお節介が誰かは解らない。

ただ、大和さんの舵を狂わすのであれば私はその人とぶつかる。そう新たに決意した。





大和出てない……けど仕方ないのや……

今回は舞風と野分のお話。歪みし光=陽炎ですね。
彼女らもまた、同じような目にも合っているのです。
悩んでいるのは涼月だけではないのですよ。

そして磯風。彼女は一体何を見て、何を思ったのか。
彼女の史実は色々と壮絶です。

次回は第八話中盤のお話。ついにあの戦艦が……?
そして少しずつ大規模反攻作戦に向けた動きが起こります。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十話『その手を取って』

更新が遅れて申し訳ないです。
今回はアニメ第八話中盤のお話。
お節介とは誰なのか。そして涼月に少しばかりの変化が……?


その翌日、私は鎮守府から持ってきたボーキサイトを工廠に持っていった。

昨日はかなり忙しかったため港の一角に隠し、落ち着いた明朝に移動させている。

工廠の扉をゆっくりと開けると、明石さんが頭を抱えていた。

 

「明石さん、ご無沙汰しています」

「あっ! 涼月さん、戻ってたんですか!」

 

私の姿を見るなり飛び上がってこちらにかけてくる明石さん。

そんな彼女を見るとここに初めて来た時のことを思い出す。

 

「熟練見張員の妖精さん達は元気にしてますか?」

「はい。お蔭様で色々と助かりました」

「良かった~。で、どうしたんです? 艤装の修理ですか?」

「いえ、今日はあの時のお礼も兼ねてちょっと資源を持ってきたんです」

 

そう言って持ってきたボーキサイトを見せる。

それを見ると彼女の顔はみるみる明るい物へと変わっていった。

 

「わぁ~! このボーキサイトどうしたんです!?」

「呉に居た時に間宮さんから教えて貰ったんですよ。

 その時の遠征に出た時に見つけた物です」

 

一つずつボーキサイトを手に取って眺める彼女は、まるで宝石を眺めるようであった。

しかしここまで喜ばれるとは思っていなかった。

 

「渡りに舟とはまさにこの事ですねぇ」

「何かあったんですか?」

「それが上層部からFS作戦遂行の為の航空戦力の増強を依頼されまして、

 追加の航空戦力は何とか用意出来たんですけど、新鋭機の開発まで依頼されて……

 頑張りはしてみたんですけど、やっぱり普通のボーキサイトだと出来ない訳で」

 

なるほど、それなら納得できる。

私は装備開発に関わったことは無いので詳しいことは解らないが、

工作艦である彼女が言うのであれば間違いはないのだろう。

 

「ではこのお礼も兼ねて少し涼月さんにお話があるんですが、よろしいですか?」

 

 

Side 野分

 

 

鈍色の雲が空を覆う、白黒の世界。

その空は敵艦載機で埋め尽くされ、完全に制空権を失っている事が手に取る様に解った。

私と舞風が機銃を空に向けてもただそれはかわされるだけで、

この程度の力では到底奪回など出来るものでもない。

 

遠くで赤城さんが加賀さんを牽引しているのが見えた。

 

これはあの夢。知らない何かをまるで知っているような夢。

目覚めた後も頭にべったりと張り付く悪夢。

一つだけ違うとすれば……これが、明晰夢であるという事。夢を夢だと解っている夢。

だからこそ私はその後の展開を私は知っていた。

 

「赤城さん! 直上!」

 

考えるよりも先に口が動く。

でもその声は届いていないのか、それとも変えられないのか、

敵艦載機は加賀さんを牽引を続ける赤城さんに急降下爆撃をして、大きな爆発が起きた。

 

彼女の飛行甲板が炎上し、いつしか航行できなくなっていた。

こうなってはあの言葉を口にするだろう。

 

「ごめんなさい……雷撃処分、して下さい……」

 

自分の落ち度故のこの失態。そして自らも航行不能になるほどの損傷を受けた。

沈むにも沈めないこの状態で、赤城さんは艦娘の手を借りてまで沈もうと思っている。

死んで償おうと思っている。だから私は。

 

「自らの涙は! 自分で拭きなさい!!」

 

言い放った。

相手が正規空母だろうが呉と言う激戦地からやってきた艦娘だろうが関係ない。

そんな絶望した彼女に介錯する気はない。

あの時は流されるままに魚雷を撃っていたけど、今は違う。これは明晰夢。

夢だと解る夢ならば、抗うことだってできるはずだ。

 

「私達は駆逐艦! 赤城さんを介錯するのが役目じゃない!

 護衛艦として最後まで守り抜く事!」

 

舞風が涼月さんの言葉をそのまま赤城さんに言い放つ。

そうだ。私達は赤城さんを守る為にここに居る。

今航行不能に陥っていたとしても、彼女が生き残る可能性が零ではない。

 

私達は赤城さんの傍に駆け寄り、空に砲火を向ける。

守り抜く。それが私達に与えられた役目なのだから。

 

 

**********

 

 

「っ! ………」

 

目覚める。天井が目に映る。私達は最後の最後まで抗い続けた。そして勝ったのだ。

あの夢に。現実味のある『悪夢』に。

 

「舞風! 舞風!」

「後五分……」

「もう、何言ってるの!」

 

私はまだ眠っている彼女を起こす。急かすように。

 

「あれ……野分? なんで私のベッドに居るの?」

「昨日一緒に寝ようと言ったのは舞風じゃない」

「あー、えっと……ま、いっかー」

 

目を開けるもまた再び眠ろうとする彼女を頑張って起こす。

もしかしたら、あの夢は舞風と繋がっている気がするから。

だから早く伝えたい。私の大切な人に。

 

「舞風! 今日の夢、どうだった?」

「夢……魚雷……そうだ!」

 

勢いよく起き上がる舞風は辺りを激しく見回して私と視線を合わせた。

 

「野分! 夢、どうだった!? 魚雷、撃たなかったよね!」

「舞風も!?」

「うん! ならやっぱり!」

「繋がってる……!」

 

私達は確信した。一人や二人では難しいけれど、皆の力を借りればいいと。

どんなに小さなことでもいい。小さなことから始めればいいのだと。

後で涼月さんにお礼を言わなくては。そう思い私達は着替えて部屋を出た。

 

 

 

呉からこちらに移動してきた人達の朝食を作る為に、すぐに厨房へと向かう。

一方の舞風は朝の独学のダンスをするために外へと駆り出していった。

 

厨房からは既にいい匂いが漂っている。

恐らく誰かが既に朝食を作る為に準備しているのだろう。

 

「おはようございます!」

「おはようございます。野分さん」

 

急いで厨房に入ると同時に挨拶するとそこに居たのは大和さんだった。

洋朝食を作っている。しかし今日の当番は私のはず。一体何故。

 

「あの、大和さん。今日は私の当番の日では」

「先日から呉の方々がいらっしゃってるので、当分は私が全て担当しますよ」

「ですが……」

「そうですね、もうすぐで朝食が出来ますから総員起こしをお願いできますか?」

 

見ると既にバイキング形式で多くの料理が出来上がっており、

今から私がどうこうできる問題ではなかった。

ホテルというものを嫌っていて、何故そうあろうとするのか。

やはり磯風さんの言っている、『夢に似た何か』が関係あるのだろうか。

 

「解りました。野分、総員起こしをかけさせていただきます」

 

私は部屋に戻ってラッパを取り出し、基地の屋上で高らかに吹き鳴らした。

今までより少しだけ騒がしい日々か、始まる。

 

 

///////////////////

 

 

朝食の前に鎮守府の皆さんが集められ、私達はその前に立っていた。

 

「鎮守府からの移動ご苦労だった。既にいくらか知っている者がいると思うが、

 ここでこの泊地に所属している艦娘を紹介する」

 

それを指揮するのは呉鎮守府で秘書艦をしているという長門さん。

どことなく磯風さんに似ている。

 

「大和型戦艦一番艦、『大和』と申します。皆さん、よろしくお願いしますね」

「陽炎型駆逐艦十二番艦、『磯風』。……大丈夫、私が守ってあげる」

「陽炎型駆逐艦『野分』、参上しました。よろしくお願いします」

「こんにちはー! 陽炎型駆逐艦『舞風』です! 暗い雰囲気は苦手ですっ!」

 

涼月さんは元々こちらの所属であったが、今は呉の所属である為紹介は無し。

 

「今後FS作戦には彼女達も参加してもらう。

 いずれ同じ海で戦う者同士、今のうちに親睦を深めておいてほしい」

「「「はい!!」」」

 

駆逐艦と思われる子達が特に大きな返事をする。

そんな中で涼月さんを探すも見つからない。

この子達よりも、私達よりも長身の人なのですぐに見つかると思ったのだが……

総員起こしをかけたので眠っていることは無いだろう。

特にトラックでは全員……といっても磯風さん以外料理当番になるので、

それが体に染みついて早起きするという事も有りえる。

 

「長門秘書艦、涼月が見当たらないのだが」

「ああ、彼女は今工廠に行っている。そうか後は彼女も居たな」

 

長門さんに対して私の思った質問を飛ばす磯風さん。

舞風も同じタイミングで彼女を見たので同じことを考えていたのだろう。

それを聞いて思い出したように口を開いた。

 

「今此処には居ないが工廠で艤装の修理や装備開発を担当している、

 工作艦の『明石』がいる。暇のある者は顔を合わせておくように」

 

そう言えば明石さんもいない。という事は明石さんに用事でもあったのだろう。

 

ここで私達の紹介は終わり皆は朝食を食べに行く。

私達は朝食が出来たことを伝える名目で、涼月さんを探す為工廠へ向かうのだった。

 

 

 

工廠では明石さんと艤装を装備した涼月さんが二人で何かを話し合っていた。

 

「皆さん、ちょうどいい所に」

「「「?」」」

 

待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべる二人に私達は首を傾げる。

明石さんが涼月さんの艤装指していた。

自然と視線が移ると、彼女の艤装が大幅に変更されていることに気付く。

 

元々彼女の艤装は主砲を手に持ち、艦首が半分に割られた艤装には機銃が付いていた。

だが今はその艤装に主砲が二基装備されており、その後ろに三連装機銃が付いている。

そしてサイドテールの髪留めには電探が取り付けられており、

背後の魚雷は撤去されて増築用のマストと妖精さん達が彼女の頭から顔を覗かせていた。

これは一体どういうことなのだろうか。

 

「かっこいいねぇ!」

「なるほど、改装か」

 

二人が口々に意見を述べる。磯風さんの言葉でやっと理解できた。

これは近代化改装。主砲の増設や装甲の強化などを行う物だ。

涼月さんの艤装はかなり変わっていたが、

特に変わった様子も無いのでそこは明石さんの腕が良い証拠だろう。

 

「それで、丁度いいという事は」

「皆の練度もかなり上だから、上層部がFS作戦に向けての近代化改装を許可してね。

 対空戦闘用の電探もそれなりに送られてきてるから、それの増設かな」

「なるほど」

 

中々に悪い話でない。むしろ推奨されることなのだろう。

 

「涼月さん、気分はどうですか?」

「主砲の位置と勝手がかなり変わってしまったのでそこぐらいでしょうか」

 

確かに手に持つスタイルから艤装から直接発射する形では感覚も変わるだろう。

そこは彼女の事だから演習を重ねてすぐに慣れるかもしれないが。

 

「涼月さんはここまで大規模な改装になりましたが、

 皆さんは対空電探の増設と各主砲の強化になりますから、そこまで変りませんよ」

「では、随時お願いしてもいいか」

 

磯風さんが率先して前に出る。

確かに現在の装備である12.7cm連装砲では対空戦闘は難しい。

何せ一発撃つごとに砲身を水平に戻してから装填、

再度砲身を上げて発射という非常に手間のかかる構造であるから対空戦闘力は皆無。

涼月さんがこちらに居た時の敵偵察機の撃墜をお願いしていたのもそれがあるのだ。

 

「私もお願いします」

「私も!」

「決まりましたね。では皆さんの改装が終わり次第、大和さんを呼んできてください」

「大和さんも、ですか」

「はい。今回FS作戦では空母同士の航空戦が予想されているので、

 彼女もまた艦隊決戦用ではなく、対空戦闘用に大規模な改装が予定されています」

 

演習で見ていた彼女の艤装は大きいだけでなく、大量の副砲でも覆われていた。

副砲と言えど対空火器というわけではないので、防空能力は低いだろう。

しかし大和さんがそこまで練度を上げているとは思えない。

演習には率先して参加していたものの、今では固く禁止されている。

 

「大和もまた、演習だけとは言えど練度を上げているという事か」

「演習での好成績が、彼女の更なる練度向上に役立っているという事かもしれません。

 モチベーションと言うものも、練度に大きくかかわってくるようですね」

「私も解る気がするなー。実動演習で好成績! もーっと強くなれた! なんてね」

 

体で感じる事を優先する舞風が言うならそれは確かな事なのだろう。

私も演習で好成績だと気分が高揚するし、いつもより更に強くなれる気もする。

 

「そう言えば野分さん達はどうしてここに?」

「そうでした、朝食が出来たのでお二人とも呼びに……」

 

そう言うと涼月さんが何か思い出したようにはっとする。

何か不味い事でもあったのだろうか。

 

「いえ、ただちょっと嫌な予感がしただけです」

「しばらくは大和さんが作られるそうです」

「そうなのですか」

「……涼月、私を何だと思っているのだ」

 

涼月さんには、まだ磯風さんの料理の記憶がしみついているようだった。

 

 

 

私達が食堂に着いた時には既に大和さんとその妖精さんが食器を片付けに入っていた。

あれだけあったバイキング形式の料理は綺麗に無くなっている。

 

「あら皆さん、朝食はまだでしたか?」

「えっと、大和さん……これは一体」

「呉の空母の方々は非常によく食べる方なので、この通りですよ」

 

私の問いに苦笑いで答える彼女。

それでもあれだけの料理を全て食べる艦娘なんて、大和さんぐらいしか考えられない。

呉にはそれほどの健啖家が居るということなのだろうか。

 

「ご無沙汰してます、大和さん」

「涼月さん。お久しぶりです。昨日の夕食はどうされたのですか?」

「昨日は哨戒後に野分さんのおにぎりを頂きました」

「そうだったのですか。すみません、折角戻ってきていただいたというのに」

 

どことなくギクシャクしている二人。すれ違っているような、そんな雰囲気。

恐らく涼月さんは昨日磯風さんに言われた事を気にしているのだろう。

『ホテル』という言葉を気にかけている彼女を。

でも差支えない言葉を選んでいるので、おそらく上手い言葉が見つからないのだろう。

 

以前の涼月さんなら色々と突っ込んで、磯風さんにお説教されたり、

私から代理で説明したり、舞風さんに誤魔化されたりしていたのに、

今では随分と大人になっていた。

それでも、独特の重い空気がその場に溜まってしまっている。

 

「大和、明石が少しばかり話があるそうだ」

「明石さんが、ですか?」

「何用かは自分の耳で聞いてくれ。ただ私からは良い話とだけ言っておこう」

「では、朝食の片付けが終わって「大和さん!」」

 

大和さんの言葉に割り込むように、後ろから誰かの声がした。

振り返ると朝の紹介の時に駆逐艦の最前列に居た、一本結びをした一人の少女の姿が。

服装はセーラー服からスクール水着に変わっていたので、

おそらく海水浴に行っているのだろう。

 

「良かったら私と海に行きませんか!」

「えっ、あの、私は」

「部屋の中ばっかりだと気分が暗くなるだけですよ! さっ早く!」

 

何かを言おうとする大和さんの背中を押し、私達には頭を軽く下げるだけの会釈をして、

食堂から出ていってしまう。

なるほど。磯風さんの言っていた『お節介』と言うのが少しばかり解った気がする。

 

「涼月、彼女だ」

「なるほど、吹雪さんですか」

「吹雪?」

 

聞きなれぬ名前に少しばかり動揺を覚える。

私達陽炎型とは違うのだろうか。艦名が違うので別だというのは解るが。

 

「私が呉に転属されて暫くして配属された方です。

 非常に努力家で、私と同じく別艦隊の旗艦を任されています」

「駆逐艦で、ですか」

 

涼月さんならまだ少し解る気もするのだが、彼女はそうには見えない。

いたって平凡な駆逐艦の艦娘にしか見えない。

もしかすると戦闘になると性格が変わるような艦娘なのだろうか。

 

「だが、まだ初々しさは残っているな」

「それはこれから解消される事でしょう。しかし、今のは流石に」

「後片付けは私達が行います。涼月さんは行ってあげてください」

「解りました」

 

涼月さんは頭を下げて、大和さんと吹雪さんを追い始めた。

私達はその背中を見送る。

 

「ねぇ野分、誰が私達のご飯作るの?」

「仕方ない、私が直々に「私が作ります!」」

 

大和さんが呉の方々に出す全ての料理を担当してくれるという事に、

少しばかり安心感を覚える私であった。




ちょっと悪夢の部分が雑だったので加筆してました。
だが定期更新を裏切ったのは許されないぃぃぃぃ!

今回は野分メインのお話でした。
駆逐艦目線の変わった悪夢。変えた悪夢。これが何へと繋がるか。
総員起こしはラッパみたいです。吹雪とかの時報ボイスから総員起こしと言うものを、
学習しました。

そして涼月が改になりました。
これでしっかりとした秋月の様な艤装スタイルになりました。
手を持つ形から艤装連結式に変わったので、脳波コントロール出来る!(ぇ
後髪留めが電探なのは磯風改のイラストを参考に。
こちらの考える電探システム的に頭部に近い方が都合がいいので。

次回は……まだ第八話の中盤です! 引っ張りますが結構分厚い内容になってるなぁ。

Q.ボーキサイトっていつの?
A.第六話をストーリーに中半無理やりにでも組み込むスタイル!

Q.追加の航空戦力ってまさか!?
A.まぁ、そうなるな。

Q.磯風ェ……
A.まぁ、そうなるな。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十一話『あなたと私』

第八話中盤。
吹雪が大和にもたらす物と、涼月が大和にもたらした物。
そして大和がもたらす物とは。

ここらあたりからオリ主物でのオリジナル展開が見えるかも……


Side 涼月

 

 

私は大和さんと吹雪さんを追いかけていた。

しかし途中から追いかけたので当然当てもなく迷走している。

 

水着を着ていたので海に行ったのはほぼ間違いない。

しかし小さな島なので浜辺はかなりの数が存在する。

ただ感で動いても意味がないのは火を見るよりも明らかであった。

 

「(何か手掛かりでもあるといいのですが……)」

「げっ……」

「あら、涼月さん」

 

何か手がかりがないかと思いながら浜辺に出ると、声を掛けられた。

それは翔鶴さんと瑞鶴さんだった。二人とも水着に着替えて海水浴を楽しんでいる様子。

翔鶴さんはニコニコしていたが、瑞鶴さんはばつが悪そうな顔をしている。

どうやら二人の邪魔をしてしまったようだ。

 

「すみませんお二人とも。吹雪さんを知りませんか?」

「吹雪さんなら見てないわ。瑞鶴は?」

「知らないわよ」

 

辺りを見ても誰で居ない様子。二人も知らないとなればここに居る意味はない。

 

「そうですか。ありがとうございます」

「あ、ちょっと待ちなさいよ!」

 

頭を下げて走り去ろうとした時、不意にスカートを掴まれる。

その状態で引っ張られるという事は当然バランスを崩して、

そのまま仰向けに砂浜へ飛び込む。

日に焼かれた白い砂は随分と熱く、私は飛び起きた。

 

「何するんですか瑞鶴さん!」

 

抗議の視線を送るも、そんな彼女の視線は私の下半身に向けられている。

それも瑞鶴さんだけでなく翔鶴さんの視線も私の下半身に向けられている。

それに心なしか潮風の涼しさが身に染みているのも気になる。

自然とそれに誘われるように私の視線も下に向いた。

 

「「「………」」」

 

そこにはスカートが無く下着が露わになっているあられもない状態であった。

そしてそのスカートは瑞鶴さんの手の内にある。

 

「瑞鶴さん、何かいう事は」

「わ、わざとじゃないの! 止めようとして掴んだらそれがスカートだっただけで」

「言い訳なんて甚だしいですから、早く返してください」

「ごめんなさい」

 

彼女からスカートを返してもらってボタンが外れていないか確認。

どうやら問題ないようだ。

このままでは夏場とは言えど良くないのですぐに穿く。

 

しかし彼女が私を止めてでも言いたいことはあるのだろうか。

 

「ところで、瑞鶴さんはどうして引き留めたのですか?」

「ほら、あれよ。翔鶴姉ぇの事……ありがとね」

 

頬を赤く染めながらも視線を外し、恥ずかしいのか人差し指で頬を掻いていた。

 

「そのことでしたか。いいんです、お二人は私の大切な人。

 少なくとも恩返しはしたいと思っていたので」

「人からお礼を言われたら素直に受け取る物なの!

 いいからさっさと吹雪を探してきなさい」

「ありがとうございます。それでは」

 

私は吹雪さんを探す為に再び駆けだした。

 

 

 

砂浜を走っていればいつか見つかるだろうという、

とてつもなく初歩的な考えに到った私は島を一周する感覚で走っていた。

この島はそこまで大きい訳ではないのでその気になれば一周することは容易い。

何も根拠がない訳ではないのだが他に何か手がかりがあるわけでもないので、

致し方なくと言ったところか。

 

探し始めて流石に日差しに参りかけたところで、

水着姿の吹雪さんと睦月さん、如月さん、夕立さんに大和さんが居るところを見つける。

 

「艤装を付けて、おもいっきり沖まで出てみませんか!」

 

吹雪さんは明るい表情で大和さんにそう話しかけていた。

話しかけられている大和さんは、戸惑っている。

 

「それはいけませんよ」

 

息を荒げながらもその間に割り込むのだった。

 

 

Side 吹雪

 

 

私は昨日の夜赤城さんに言われた事、そして大和さんの言った事を気にしていた。

 

『あくまで噂なのですが、秘密兵器として建造された彼女は実戦に出ることはおろか、

 他の艦娘と出撃したこともないそうです』

 

この泊地には、涼月さんを含めると大和さん以外に四人の艦娘が居る。

でもそれなのに一度も実戦に出たこともなく、出撃したことも無いなんて。

 

私も呉鎮守府に来る前は、砲撃も航行もろくにできなかった関係で、

全然出撃することは許されなかった。

実戦を経験してきた今になれば解る。それは私を沈めない為。

前の提督は知っていた。私があんな状態で出撃すれば、轟沈は免れないと。

腕前も未熟で考えも甘いあの時の私なら、確実に。

 

今の私になるまでも、涼月さんや赤城さん、金剛さんが助けてくれた。

特に同じ駆逐艦でありながら、今では第一艦隊の旗艦を勤める涼月さんは、

赤城さんの護衛艦になる為に必要な事を、そのまま行動で映しているような人。

 

でも今は違う。第五部隊の旗艦を勤めて、提督も一目置いてくれている。

MO攻略の時に暗号が解読されているという事も教えてくれたおかげで、

私は第五艦隊の旗艦として少しだけでも貢献できたと思う。

そしてあの胸のざわめきが、翔鶴さんと瑞鶴さんを救ったのだと思うと、

あの虫の知らせともいえる直感にも感謝しないといけない。

 

だから今度は、私が大和さんの背中を押してあげたいと思った。

艦娘として生まれたのに、海に出る素晴らしさを知らない。

それが昔の私を見ているようで、凄く辛かった。

だからこうして今も大和さんの背中を押して水着を着せて、浜辺まで来ていた。

 

ここまで来たんだから、あと一押しで海に出られる。

私はその意味を込めてこう大和さんに言った。

 

「艤装を付けて、おもいっきり沖まで出てみませんか!」

 

大和さんは戸惑っている。後一言、後一言あればきっと!

 

「それはいけませんよ」

 

その考えを打ち破る様に声を掛けたのは、まぎれもない涼月さんだった。

肩で息をしている。今までこの暑い中を走っていた様子。

 

彼女は確かあの時食堂に居たはず。それで私が大和さんを連れ出して別れた。

でもここに居るという事は、大和さんを探しに来たのか。

それに、いけないってどういう事?

 

「海水浴程度であれば問題ありませんが、艤装を付けて沖に出る事は許されません」

「どうしてですか涼月さん。大和さん、海に出た事はないんですよ!」

「上層部からの伝達事項の一つです」

 

上層部……どうしてそんなことを涼月さんが知っているのだろう。

第一艦隊の旗艦だから長門秘書艦から教えてもらったのだろうか。

 

「すみません吹雪ちゃん。涼月さんの言う通りなんです」

 

大和さんも申し訳なさそうに頭を下げている。

 

「私が出撃出来ないのは上層部からの何よりも優先すべき事項。

 なので私は出撃できない、という事で納得していただけないでしょうか」

「大和さんがそういうなら……」

 

大和さんはもう一度頭を下げると戻って行ってしまった。

 

あともうちょっとの所だったけど、涼月さんの乱入で失敗に終わった。

でも涼月さんも少し悲しそうな眼をしている。

どうして上の人達は大和さんを出撃させたくないのだろうか。

もっと他に理由があるのかな? だったら何?

 

「涼月さん、教えてください! 大和さんはどうして出撃できないんですか!」

「貴女には言えません」

「どうして!」

「貴女に教えたとしても、貴女はこうやって彼女に出撃を促すでしょう」

 

「ですがそれが彼女の決意を揺るがす毒にもなるという事を、理解しておいて下さい」

 

その時の彼女の眼は長門さんの様に厳しかった。

 

 

////////////////////////////////

 

 

その日の夜。睦月ちゃんと夕立ちゃん、如月ちゃんが寝静まった後、

私は上手い答えを見つけ出す事が出来ないまま、外を眺めていた。

 

『ですがそれが彼女の決意を揺るがす毒にもなるという事を、理解しておいて下さい』

 

私が彼女の決意を揺るがせている?

ならそんな環境に置いているのは他でもないこの泊地に住む他の人達じゃないだろうか。

 

「まだ起きてるの?」

「如月ちゃん……うん」

 

カーテンを開けていて月光が眩しかったのか、唯一如月ちゃんが起き出してしまった。

彼女はちょっと考えた後、私の隣まで歩いてくる。

 

「大和さんの事が心配?」

「うん。同じ艦娘なのに、どうして海に出られないんだろうって」

「上からの命令って言われても、理不尽よねぇ」

「そうなんだよ! 大和さんも私達と同じ艦娘で、ホテルの管理人さんじゃ」

 

そこまで言って、如月ちゃんが人差し指を口に当てて『静かに』のサインをしていた。

慌てて声のトーンを下げて、睦月ちゃんと夕立ちゃんが起きていないのを確認する。

 

「……そういう時は、本心を聴くのが一番じゃないかしら」

「えっ?」

 

そういう如月ちゃんの目線を辿っていくと、夜道を一人で歩く大和さんの姿があった。

 

「それに何か知っている涼月ちゃんよりも何も知らない吹雪ちゃんの方が、

 何か聞き出せることもあるのよ?」

「それってどういう事?」

「それは聞いてみてからのお楽しみ」

 

笑顔を浮かべる如月ちゃんに困惑しながらも、私は大和さんを追いかける事にする。

本当に如月ちゃんの言う、大和さんを知らない私にしか聞けないことがあると信じて。

 

 

 

林を抜けた先で、大和さんが一人満月と海を見ていた。

だから私は、その背中を押すように声を掛けた。

 

「海、出てみたいって思わないんですか?」

「吹雪さん……」

 

振り返ると悲しげな眼をしている大和さん。

やっぱり、海に出てみたいと思っているはずだ。

でも、上からの命令で出られない。ジレンマというもの。

 

「……いえ、そういうわけではないんです」

「えっ?」

 

しかし大和さんの口にした言葉は私の予想とは全然違うものだった。

大和さんは海に出たいわけではない。でも、じゃあ、なんでここに……

 

「そっか、少し勘違いしていました。吹雪さんは知らないんですね」

「何をですか?」

「まだここにきてすぐの涼月さんの事です」

 

確かに涼月さんは呉鎮守府に来る前はトラック泊地に居たという話は聞いたことがある。

でもその時涼月さんが何をしていたのか、

どういう艦娘の人と会っていたかは教えてくれなかった。

 

「もしかして、涼月さんから聞いてますか?」

「いえ、聞いたことないですね」

「そうですか……なら、少しだけ思い出話をしましょうか」

 

如月ちゃんの言った通り私は何も知らない。でもだからこそ聞ける話があった。

大和さんの思い出話。それは涼月さんがここに居た時の話。

 

まだこの場所が前進基地として完成しておらず、その時の指揮を任されていたこと。

涼月さんが此処に向かっている時に深海棲艦と遭遇して、轟沈寸前になったこと。

それを知って放った46cm砲が、偶然敵に当たって何とか助けた事。

この場所で、涼月さんと大和さんが約束した時の事。

磯風さんが演習を提案して大和さんも演習に励んでいた事。

初めて演習で的に当たって嬉しかった時の事。

そして涼月さんが呉鎮守府に召集をかけられた事。

 

いつの日か涼月さんが話した食堂での護衛艦の話。それは大和さんの事だったのだ。

あんなに強くてもそれでも努力を惜しまない涼月さんは、彼女の為に努力していたのだ。

こんな素敵な戦艦の人の護衛艦を目指すなんて、やっぱり涼月さんは凄い。

 

「素敵な思い出ですね」

「でも……」

 

大和さんの顔が暗くなる。何かを思い出したかのように。

 

「涼月さんが居なくなってから暫くして、演習を止められてしまいました」

「どうして?」

「私は46cm三連装砲という巨大な砲を使う、いわば大艦巨砲主義の鑑です。

 それ故に、補給だけでも多くの資源を使ってしまうんですよ」

 

多くの資源を使うと聞いて、真っ先に浮かんだのは赤城先輩の食べる姿。

あの時の幸せそうな顔は、何にも代え難い魅力がある。

幸せそうに食べる女の人っていいよね……

 

「あの、吹雪さん?」

「はっ! なんでもないですよ! なんでも!」

 

首を左右に振って考えるのをやめる。

いけない。顔にも出てしまっていたみたいだ。

 

「大丈夫ですよ! 呉にも沢山食べる人いらっしゃいますし!

 大和さんも見ましたよね! 赤城先輩、あんなに食べるんですよ!」

 

特に今日の朝ご飯はバイキング形式だったからはりきってたみたいで、

山盛りにしたスパゲッティを一気に平らげたりもしていた。

その時は料理を用意してくれていた大和さんも居たので、絶対に知っているはず。

 

「いえ、あの、実は赤城さんより食べるんですよ。私」

「え?」

 

これだけスタイルが良いのにあの赤城先輩より食べる……?

信じられないけれど実際それは赤城先輩にも言える事だから、

あながち嘘ではないのかもしれない。

人は見かけによらないという言葉はこういう時に使うんだろう。多分。

でも赤城先輩より食べるとなると確かに資源の関係で出撃できないのも解る。

 

「少し話がそれてしまいましたね。本題に戻しましょう」

「はい。すみません」

「演習が出来なくなって、当然ながら私の練度は上がりません。

 そんな中涼月さんの活躍はこちらでも知られるようになりました」

 

「そこで私は思ったんです。彼女は努力し強くなっている。私との約束を果たすために。

 ですが私は演習することも出来ず、ただただ皆さんの生活を支えるばかり」

 

「そんな中、私の中で何かが囁いたんです。『大和ホテル』と。

 そして皆さんがホテルと言った時、私は無意識に叫んでしまいました。

 『ホテルじゃありません』と」

 

私達が泊地に着いた時に出迎えてくれたのは紛れもない大和さんで、

補給の為に至れり尽くせりだった。その状態を見て私は思わずホテルと言ってしまった。

それが大和さんの琴線に触れてしまったんだろう。

 

「そう言った時、私は心までも弱くなっていることを悟りました」

 

「おかしいですよね。心も体も私と共に強くなろうと誓ったのに、

 いつの間にか私は涼月さんより弱くなってしまった」

 

「だから申し訳なくて、解らないんです。

 こんな弱い私ではどんな顔をして会えばいいのか」

 

ここにきてやっと、どうしてここで悲しげな眼ををしていた理由が解った。

大和さんは涼月さんと約束をしたこの場所で、どうすればいいのか考えていたんだ。

でも答えが出なくて、むしろその思い出が大和さんの重圧になっている。

だからあんな悲しげな眼をしていたんだ。

 

何かかけられる言葉はないか。いままで私が学んで来た事を。

 

『私は私の出来る事をしただけです』

 

『駆逐、艦……は、出来る事を、見極めて……』

 

涼月さんが口癖のように言っている、出来る事をする。出来る事を見極める。

いつもそんな事を私に言っていた気がする。

 

「……今は、大和さんの出来る事をするというのはどうでしょう?」

「えっ?」

「涼月さん、良く私に言ってくれたんです。

 『出来る事を見極めろ、出来る事をしろ』って。

 それはできないことを無理にやらず、今出来る事をするってことだと思うんです」

「ですが、今の私にできるのは……」

「大丈夫です。演習で出来る様に努力してたんですから。

 無理に動いて今までの努力を無駄にする方が、もっと辛いじゃないですか」

 

私も初出撃、金剛さん達の任務で、自分に出来る事がはっきりと解っていなかった。

だからあの時は危なかった。両方とも助けてくれたけど轟沈の可能性があった。

出来ない事をしようとして、取り返しのつかない事になってしまう。

だから私はそれから自分に出来る事をしっかりやってきた。

すると今までの努力と共に結果が付いてきた。

 

「だから今はちょっとだけお休みして、出来る事をした方がいいんですよ」

「私の出来る事……」

「涼月さんを助けた時も、大和さんは大和さんの出来る事をしたんじゃないですか?」

 

その時の状況を良く知らないけれど、きっと大和さんも必死だっただろう。

でも出来ると解っていたから、それをして結果が付いてきた。

 

「そうですね……私は、少しだけ我儘になっていたみたいです」

「いえ、いいんです。私も何も知らずに沖まで出てみませんかっていっちゃったので」

 

私も今考えると大和さんの事を良く考えずにあんな事を言っていたと後悔する。

つまりそれを知っていたからこそ涼月さんはそれを『毒』と言っていたんだ。

 

「涼月さんも強くなりましたね。そんなことが言えるようになるなんて」

「私も涼月さんの意外な一面を知れて嬉しかったです」

 

涼月さんも、私と同じように決意していたんだ。大和さんの護衛艦になると。

決意した時から多分解っていたんだと思う。

戦艦である大和さんと、駆逐艦である涼月さんの、『出来る事』の違いを。




些細な約束も、時を経れば大きな楔と成りえるのか。

ふんわりと誘導する如月。流石は睦月のお姉さん的な立場と言った所でしょうか。
こっそり明かされる涼月の過去、それを知る吹雪。
そして大和を説得する吹雪。無理はいけませんね、やはり。
なのはの空白期的なことになっては色々と取り返しが付きませんから。

仲の良い相手には言えない事と言うのも、よくある事です。
解ってくれると知りながら、心配させたくないという見栄を張る。そんな感じです。


おまけ

涼「………」
主「………」
涼「何か言い残すことはありますか」
主「イヤーナンノコトヤラサッパリ」

涼「これを知らない方は第十一話のあとがきを見て頂けると解ります」
主「夜戦カットインとか言っていた気がするけど知らないなー」
涼「よく覚えていらっしゃるようで。では……」
主「でも秋月型って雷装値低いからそこまでダメージ出ないよね」
涼「北上さんと大井さんの魚雷カットインがありますので、そこに転送させていただきます」
主「えっ」
涼「何も私が夜戦カットインするとは言っていないので。ではまた次回お会いしましょう」
主「オタッシャデー!(critical!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十二話『鳳凰の軌跡』

サブタイの艦娘が出てきます。
まだまだ続くよ第八話。トラック島もプロローグから変わったなぁ…


Side 大和

 

 

私は今の私に出来る事をしよう。

吹雪さんと別れて、私は明日の朝食の下準備をしていた。

私がこの基地の居住性を高めたのも、私がおいしい料理を振舞うのも

『ホテル』と呼ばれるためじゃない。

 

大規模反攻作戦であるFS作戦を成功に導く為の、士気向上、維持のためだ。

だからこそ私はこの思考と腕を持って『艦娘』として生まれてきた。

そう思えるようになっていた。

 

「変わったな、大和」

「磯風さん」

 

寝巻に着替えた磯風さんが話しかけてくる。

眠そうにしているので、恐らく途中でトイレにでも行っていたのだろう。

元々このトラックに居るメンバーの中で、

私の事を一番気にかけていると言ってもいいのが彼女。

 

「吹雪と言う子に何か言われたのか?」

「そうですね。正確には涼月さんの教えですが」

「なるほど」

 

それ以上は何も言わない。彼女のモットーの様なものだ。

口が多いと何かに感付かれると言わんばかりの態度。

それでも何も言わないので何か知っている態度。

そんな彼女が居てくれると不思議と心地よさを感じる。

彼女もまた同じような状況にあるのだろう。私を呼び捨てにするくらいなのだから。

 

「朝にも言っていたが、明石の所には出向いたのか?」

「いえ、今日は何かとありましたので」

 

吹雪さんに連れられたりお昼や夕食の準備、日課の散歩。

呉から長門さんが移ってきてくれたおかげで、

指揮関係は彼女と彼女の補佐である陸奥さん、そして無線は大淀さんに任せている。

 

「そうか……大和の晴れ姿を拝めると思ったのだが」

「? 私の晴れ姿?」

「いや、なんでもない」

 

照れ隠しの様にそそくさと去っていく彼女。

晴れ姿と言うのは恐らく彼女の比喩表現だろう。

なら艦娘の晴れ姿とは一体……。

その意味が解るまで、そこまで時間を要さなかった。

 

 

Side 涼月

 

 

私達は昼食を終えた後、皆で揃って明石さんの工廠までやってきていた。

午前中は後片付けや島の食糧調達で時間が潰れてしまったので、

大和さん自身にも暇がなかったのだ。

 

「「涼月さん、ありがとうございます(!)」」

 

大和さんが工廠で改装を受けている時、私は舞風さんと野分さんに頭を下げられた。

あの夢の話だろうか。それでも私の憶測にすぎない為彼女達に聞いてみる事にする。

 

「夢のお話ですか?」

「そうなの! 私達、赤城さんに魚雷発射しなかったんだよ」

「そしてそのまま夢は覚めました。些細な変化ですが大きな変化だと思います」

 

そんな笑顔を浮かべる彼女達を見て、本当に感心する。

私はあの夢は自分の夢でありながら、抗うことなくそのままに流されていった。

結果は誰も沈まなかったが、それがそう言う結果だったからに過ぎない。

 

しかし彼女達は自らの意志で望まぬ結果を捻じ曲げたのだ。

赤城さんの雷撃処分。その結果を彼女達の出来る範囲で変える。

でも、それで十分だと思う。自分達に出来る事を一つずつ増やしていけばいいのだから。

 

「皆さん、大和さんの改装が終わりましたよー」

 

明石さんが工廠から顔を覗かせた。

その声に誘われるように私達は中へと進んでいく。

 

工廠には、いつか演習で見た巨大な艤装を装備した大和さんの姿が。

私は久しぶりに見る彼女の艤装を装備した姿に見とれていた。

 

「あの、あんまり見つめられると恥ずかしいです……」

 

大和さんが照れくさそうに頬を赤く染めている。

 

そんなことを言われてもかなり無理がある話である。

私達よりも大規模な改装を受けた彼女は、艤装の艦首部分についていた副砲を外し、

25mm三連装機銃をこれでもかと言うほどにまで集中配備していた。

 

「いやー大和さんの艤装はやっぱり改造し甲斐があるね」

 

明石さんが遮光面を外しながら汗をぬぐう。

大和さんの艤装を改造する時も見ていたのだが、

これでもかと言うほどの鋼材と弾薬を使用していた。

それこそ私達四人分の鋼材と弾薬を越えている。

 

明石さん曰く、大和さんの艤装を作り上げるのにも大型建造という特殊な建造方法で、

通常の戦艦の艤装を建造するよりも十倍ほどの資源量が必要らしい。

つまり改装するにもそれに見合うほどの鋼材や弾薬が必要となるそうだ。

 

「つまり私の演習が禁じられていたのは……」

「第一には航空戦力の強化の為の大型建造による新鋭空母建造と、

 大和さんを含む艦娘の改装、そしてMO作戦実行の為の呉からの戦力の移動です」

 

大型建造と私達の大規模な改装、そして戦力の増加に伴う資源消費を視野に置いての、

上層部からの命令だったらしい。

ここまで手際がいいともう何も言えなくなってしまう。

 

「しかし上も大和の改装の件を黙っていなくても良かったものを」

「多分上層部の御茶目なジョークだよ! 大和さん綺麗だから」

「舞風! すみません大和さん」

「いえいえ、いいんです。今まで努力していた事が、

 こんな形で実を結ぶとは思っていませんでしたから」

 

改装と言ってもここまで大規模な改装となると相当な練度が必要となるだろう。

練度が必要な理由は大きく武装が変わったり、艤装に変更が入る場合があるので、

低練度である場合艤装の操作や兵装の操作に体が追い付かないとの事。

また高練度であれば余裕も出てくるため、自ずと追加武装も可能になる。

そう言った意味合いの改装も存在するが、その例で言えば舞風さん達だ。

 

「後は、もう一つの大規模改装と言うものが存在するんですよ」

「もう一つ?」

「艦娘そのものの姿に影響するものです」

 

明石さんが説明したのは、にわかに信じがたいもの。

艦娘の姿に影響する物。そんな大規模な改装が存在するのだろうか。

しかし長く工廠で働く彼女が言うのだから間違いはないのだろう。

 

「とはいう私も、本部からの通達のみでしか聞いたことがないんですけどね!」

 

頭の後ろに手をやりながらも大きく笑う明石さん。

それを見て磯風さん以外は私を含めて苦笑しか出来ず、

磯風さんはやれやれと首を横に振っていた。

 

「そういえば、その大型建造とやらで出来た艤装を装備する艦娘は居るのか?」

 

磯風さんが話題を変える様に切り出す。

確かに艤装が存在したとしても、それを装備する為の艦娘がいなければ意味がない。

 

「それなら私が存じてますよ。

 今は呉の方々に見つからないようにしていらっしゃいますが」

「何故見つからないようにする必要がある」

「彼女もまた極秘建造された身なので、あまり公表したくないみたいです」

 

上層部の考えは良く解らない。

これも舞風さんの言う、御茶目なジョークと言うやつだろうか。

 

 

 

大和さんの改装も終わって私達は自由解散していた。

舞風さんは野分さんと泳ぎに出て、私は磯風さんに誘われて哨戒任務を行っている。

それに改装されて武装が変わったから、それを馴染ませるための出撃も兼ねている。

 

「哨戒任務は怠らないんですね」

「皆が平和に過ごす裏では、こうやって代わりに戦っている者もいるということだ」

 

そう言葉を続ける彼女。

彼女の改装は私よりも簡素な物であったが、

それでもインカムの様な対空電探を付けていたり、主砲が高角砲に変わっていたりと、

使い勝手で見ると非常に大きく変わっていた。

 

私の主砲は自分で直接狙う形から、

機銃の様に自らの意志で砲塔を回転させ発射する形になっている。

それに主砲の数が多くなったので両腿に替えの砲身を装備していた。

電探とは変わった物で明石さんの説明曰く、

反応があると何らかの形で数と方向を教えてくれるらしい。

 

「電探とは面白い物だな。目で見ずとも敵の位置を知らせてくれるとは」

「見張台の妖精さんと同化しているみたいですね」

「全く持って同感だ。だが、目で見て初めて意味がある。特に私の場合はな」

 

装備が変わっても自分で狙う事は変わらない。特に彼女の砲は拳銃の様な形である。

彼女の様にひたすらに戦い続ける彼女は戦いやすさを求めるのかと思ったが、

そうではなくただ装備を更新しただけに過ぎなかった。

 

「磯風さんはどうして私の様な改装をされなかったのですか?」

「そうだな……守る為の重みを知る為、か」

「重みを、ですか」

「敵を討つ重みは剣が最も感じられる。だが私達は艦娘だ。

 ならばせめて引き金の重みを知りたい。何、慈悲があるわけではないさ。

 ただ私は守る為には知らなければならない。戦いの重みと言うものを、な」

 

それを語る彼女の瞳は何かを捉えているようで、何かを知っているようでもあった。

 

『ワタシモ……』

 

『モドレルノカ?』

 

『アノアオイウミノウエニ……』

 

……もしかして彼女なら『彼女』の事を知っているのかもしれない。

もしかすれば、だが。

私が口を開こうとした時脳裏に何かが映る。それと同時に背後の妖精さんが空を指した。

 

「敵機観測、三時の方向、数4!」

「捉えたか。流石は秋月型だ」

 

その方向へ向けて主砲を構え……手に主砲が無い事を思い出す。

急いで艤装に付いている主砲を向けようとするが既にその角度を向いていた。

 

「対空射撃! てぇー!」

 

発射するも発射するが届かない。

磯風さんも発射しているが届いていない。

 

「っ! 届かないか」

「泊地に打電しましょうか!」

「……いや、待て!」

 

打電しようとしたところで、再び電探に何かが映る。

トラック泊地から新たな機影。数は六。

空を見上げると艦戦と思わしき艦載機が一瞬で敵の艦載機を全て撃墜した。

 

赤城さん達かと思ったが、艦載機を判別するための胴体帯が存在していなかった。

演習や任務で全員分の胴体帯は見ている為、誰の物でもない事を理解した。

 

「あれは……」

「なるほど、彼女が明石の言っていた新鋭空母と言うわけか」

 

磯風さんは艦載機が飛んで来たと思われる方向に視線を送っていた。

発艦させた時点で電探で探知、そしてその地点を見て特定したのだろう。

視線を追うとその先にあった崖の端で一人の女性が先程の艦戦を着艦させていた。

 

「行くぞ涼月。見張員達に彼女を追わせてくれ。礼を言うためにな」

「解りました」

 

電探では肉眼で劣る事もある。だからこそこの子達を連れているのだ。

だがまさかこんなところで役に立つとは思いにもよらない事で。

私達は最寄りの浜辺に上がり、彼女の居る崖へと駆けだした。

 

 

 

「今日もいい風ね……」

 

崖の端では先程の艦娘が風を感じていた。まるで誰かを待っているかのように。

 

茶髪で短めの髪ではあるがもみあげが肩に掛かるほどの長さで、

耳の上には電探とも思われる羽のようなものが付いていた。

服装は私に似ていてスカートの色は赤、腹部は装甲でおおわれている。

上衣は白の薄着であったが、脇の下は大きく露出していた。

 

そして何より特徴的だったのがその艤装。

腰に付けられた艦艇を模した飛行甲板、そしてその右手には弩を持っている。

 

「先ほどはありがとう。君のお蔭で助かった」

「いえ、当然の事をしただけです」

 

胸の前に拳を置いて、静かに目を閉じる彼女。

その姿は非常に小柄ではあったが、その風格は確かに空母そのもの。

名乗らないと失礼にもあたるので名乗り出る事にしよう。

 

「秋月型駆逐艦三番艦、涼月です」

「私は陽炎型駆逐艦十二番艦、磯風だ。君の名前を伺いたい」

「大鳳型一番艦、装甲空母『大鳳』です」

 

装甲空母という彼女はどういうものなのかは解らない。

通常の空母とどれほどの差があるのだろうか。

それでも彼女自身の実力は相当な物だと先ほどの航空戦で解った。

 

「そうか、大鳳か……」

 

一方の磯風さんは何か思う事があるのか、その名前を呟いていた。

 

「また守る者が増えてしまったな」

 

『生憎、私はそう言う夢は数えきれんほど見てきたのでな。

 ならばそれを繰り返さぬように鍛錬を積み、この世を生きるだけだ』

 

不敵な笑みを浮かべる彼女の顔を見て、私は以前言っていたことを思い出す。

つまり大鳳というこの人は彼女の夢に出てきたのだろうか。

 

「……? 私は貴女達を守る為にここに配属されたのですが」

「いや聞き流してくれ。ただの独り言だ」

 

彼女の不敵な笑みから図れる物など私からすれば僅かな物でしかないが、

それでも彼女の何かを知る為には必要なのかもしれない。

 




大和の改造と大鳳さんが登場。

こちらの世界の設定では、艤装は装備しない限り展開できないという設定なので、
どうしてもあの部分で大和さんが咄嗟に装備して迎撃、と言うのが不可能になりました。

大鳳に胴体帯がないのはアニメ基準。調べても出なかったのもありますが。
涼月自身は赤城・加賀・蒼龍・飛龍・翔鶴・瑞鶴の胴体帯を全て見たことがあるので、
判別が不能だったという事です。

因みに大鳳さんがクロスボウなのはそれなりの理由があるらしいのですが、
アニメだと普通に空母の上位互換チートにしか見えたなかったのはなぜ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十三話『誇りを食らう悪魔』

Dust devil=???


その日の夜。私は赤城さんに呼び出されていた。

 

『……いえ、なんでもないわ。鎮守府に戻ったら少し話したいことがあっただけ』

 

オリョール海を攻略している時に赤城さんが言った言葉。今回の要件はそれだろう。

あれから彼女は被弾してしまい長期の入渠、トラックへの移動、

到着後も食事や慰安で時間を追われ私自身も改装や哨戒で忙しかった。

 

ここ最近忙しかったのでろくに呉の人達と関わる事が出来なかったのは、

何も赤城さんだけではない。

二航戦の二人とも演習は出来ていなかったし、

吹雪さん達と顔を合わせたのもあの浜辺の時だけ。

 

港の一角で私は彼女と向き合っている。

その時の彼女の顔は戦場で矢を射る時と同じ凛とした表情。

 

「涼月さん、貴女はこれまで様々な艦娘の方々と大きな信頼を築いてきましたね」

「私は私の出来る事をしているだけ。皆さんが歩み寄って来てくれるのです」

「例えそうだとしても、貴女がこうして皆の信頼を勝ち取っているのは事実です」

 

私の思っていることを言おうとも、それがまるで私の才と言わんばかりの赤城さん。

 

「そして、貴女が皆さんの『何か』を変えているのだと」

「『何か』ですか」

 

確かに変わったといえば変わった。

如月さんを助けて彼女を夢から解放したり、

蒼龍さんや飛龍さんの『何か』を呼び覚ましたり。

 

「私はその『何か』を、『定めの軛』と呼んでいます」

 

軛。馬や牛などの大型の家畜を馬車や牛車などにつなぐために使う道具の事だ。

しかしここで気になる事がある。

私達の感じている『何か』を彼女は『定めの軛』と呼んでいるという事。

それは即ち本人がその『何か』を感じたことがあるという事だった。

 

「赤城さんはその『何か』を、『定めの軛』を知っているのですか?」

 

そう尋ねると彼女は悲しそうな表情で首を横に振った。

長く呉で戦っているはずの彼女ですら知らない事。いや、恐らく初めてなのだろう。

この様な『定めの軛』を感じること自体が。

 

「私は、それが何なのかを知りたい。『定めの軛』に抗い続けた他でもない貴女に」

 

あいにく私も、その『定めの軛』が何なのかははっきりとは解らない。

私自身が感じたのも瑞鶴さんと榛名さんを見て、何故か知っていると思った事。

そして白黒の世界で知っているはずのない夢を何故か見た事。

でもそれが、赤城さんの言う『定めの軛』とは別の物かもしれない。

何せ私の経験の中で赤城さんは登場していないのだから。

だから私の経験した中では彼女の求める答えは導き出せそうになかった。

 

『そうなの! 私達、赤城さんに魚雷発射しなかったんだよ』

『そしてそのまま夢は覚めました。些細な変化ですが大きな変化だと思います』

 

舞風さんと野分さんの言った言葉を思い出す。彼女達はその意志で捻じ曲げた。

私達という事は二人ともという事で、彼女達の夢は繋がっていたという事。

……もしかして赤城さんの『定めの軛』は。

 

「赤城さん、貴女の最後に見た『定めの軛』は、

 雷撃処分ではなかったのではありませんか」

「っ! どうしてそれを!?」

 

それを聞いて表情を一変させる赤城さん。

やはり赤城さんの『定めの軛』と、舞風さんや野分さんの『定めの軛』と同じ。

 

ならば舞風さんが赤城さんを見た時、妙な雰囲気になってしまったのも頷ける。

私と榛名さんが初めて出会った時と同じ状態なのだ。それも互いにそれを思っている。

私の時よりもはるかに厳しい物であるのは解る。介錯する者とされる者の出会い。

それを平然とやり過ごすことなど、普通ならば不可能だろう。

 

「恐らく大規模反攻作戦発令時から、赤城さんはその『定めの軛』を感じていたはずです」

「貴女は、一体何を知っているというの?」

 

彼女は信じられないといった目で私を見つめる。

それは当然だ。自分しか知りえないことを知っているのだから。

それを悉く的中させているのだから。

 

「貴女と同じような『定めの軛』に囚われる、私と仲の良い艦娘。

 聡い赤城さんなら解る筈です。既に貴女も彼女と会っているのですから」

 

少しだけ考えてハッとする彼女。どうやら答えに行きついたようだ。

 

「なるほど、あの子達だったのですね……」

「舞風さんも野分さんも、自分の出来る範囲でその『定めの軛』に抗いました」

 

「本当の自分がやりたい事を、彼女達は『定めの軛』の中で成し遂げました。

 今度は、赤城さんの番ですよ」

 

 

Side 赤城

 

 

静かに笑う涼月さんの表情に懐かしさを覚える。

そうだ。この表情はあの鳳翔さんの笑顔だ。

 

最近は第一機動部隊として忙しくて、めっきりあのお店に行っていない。

そんな私はいつしか、本当に大切なことを忘れていたのかもしれない。

 

私達に必要な技術と心得である『正射必中』を説いた艦娘であり、

今では居酒屋を持ち私達の数少ない憩いの場を提供してくれている。

 

「私達は艦娘としてこの世に生を受けましたが、私達には意志があります。

 それを『定めの軛』と呼ばれる物で左右されては、勿体ないじゃないですか」

「そうね。その通りね」

 

私達は艦娘。生まれながらにして戦う事を宿命付けられた存在。

その意志さえ揺るがす『定めの軛』はそれ程強い物だと知った。

それでも私達は、その『定めの軛』に抗う事が出来る意志を持っている。

 

「涼月さん、一度鎮守府に戻った時にご紹介したい人がいるのですが、宜しいですか?」

「……あいにくながら、そのお誘いは受ける事が出来ません」

 

意外な言葉を返される。

第一機動部隊の旗艦という立場であり、

今回の作戦の裏方として大成を成した彼女が断ったのだ。

こんな簡単な誘いを断る。いや、受ける事が出来ないと言ったのだ。

つまり彼女は……

 

「私はこの泊地に残ります」

「どうして? 貴女ならもっと活躍する事が出来るわ」

 

「今も、そしてこれからも第一機動部隊の旗艦として皆の為に」

 

そんな言葉を並べても彼女は首を横に振るだけで考えを曲げなかった。

 

「私には大和さんの護衛艦として彼女を守るという『意志』がありますから」

 

迷いのないまっすぐな瞳。その信念は誰にも曲げることは出来ないだろう。

多くの人を見ていた私だからこそ解る。しかしそれを見て私は悲しかった。

その迷いのない理由が、『定めの軛』によるものの様な気がしたから。

だから私は思わず口走っていた。

 

「貴女のその『意志』が『定めの軛』によるものだとしたら!」

「……それでもいいんです。私は『定めの軛』を悪い物とは思っていません」

 

「『定めの軛』を受け入れた、強い人を知っていますから」

 

そんな強い人が居るのだろうか。

艦娘として生まれ、『定めの軛』という激流に揉まれながらも、それを受け入れる。

出来る事であれば私も出会ってみたい。そんな人がいるのだとしたら。

 

背を向けて去っていく彼女に声を掛けようとして、息がつまる。

その『定めの軛』を受け入れたいと思っても、頭の中で何かが囁いた。

『そんなことが出来るわけがない』『それこそが慢心に過ぎない』と。

そんなことを無いと否定しても絶え間なく響く声が、私を苦しめた。

 

彼女が見えなくなった時、必死に声を押し殺して私はその場で蹲る。

 

私は弱い。私は脆い。

一航戦の誇りなんてものはない。

慢心。全てがこの言葉に塗りつぶされ、食い尽くされる。

私の頭の中には、そんな悪魔が潜んでいる。

 

そう思って絶望しかけた時、後ろから誰かに抱き付かれた。

 

私は急に抱きしめられて、反射的に後ろを見る。

その後ろには抱き付いたままの舞風さんと、近くで見つめる野分さんの姿があった。

 

野分さんは腰を低くして、私と視線の高さを合わせる。

舞風さんは私を離すものかと必死になって抱き付いている。

 

「赤城さん、素直になりましょう。少しだけでもいいんです」

「私達もね、怖かったの。だから必死に誤魔化してた。でも今は違うから!」

 

「「だから、今は泣いていいんです!」」

 

二人は涙を流しながらも笑っていた。その表現は違っていたけれど、想いは同じ。

私は、私の中にある汚泥の様に溜まった感情を全て吐き出した。

今は泣いていい。その言葉に縋らせてもらおう。

そして笑おう。強い私になる為に。

 

 

///////////////////////

 

 

私達はひとしきり泣いた後、互いを見つめ合って笑いあった。

 

「でもどうして二人がここに?」

「貴女をずっと見ていた人が、教えてくれたんですよ」

 

野分さんが後ろを向いた視線の先。

そこでは涙を拭いながらも苦笑いする吹雪さんの姿があった。

 

「吹雪ちゃんが、赤城さんの様子がおかしいって言って私達を連れて来てくれたの」

「そうしたら赤城さんがその場で泣き崩れていて……舞風が飛び出して」

「でもその後野分だって追いかけて来てくれたでしょ?」

「そうですが、もう少しやり方があったんじゃ」

 

夫婦漫才に似た口論が面白くて思わず笑ってしまう。

私は立ち上がり、吹雪さんの元へと歩みを進めた。

 

「吹雪さん」

「あ、あの、赤城先輩……」

「ありがとう。貴女のお蔭で私は救われた」

「そんな! 私はただ赤城先輩が辛そうだったから」

 

謙遜する吹雪さんを見て、少しばかり未熟な涼月さんに見えてしまう。

彼女もまた、第五遊撃部隊の旗艦として大きな事を成してきた一人。

敵攻撃隊の奇襲に対して冷静に対処し、ヲ級を大破に撃沈させた艦娘。

彼女もまた、多大な努力の元で大きく事を動かし『定めの軛』に抗ってきた少女。

私に光を与えてくれた、大切な存在。

 

「吹雪さん、一つお願いして頂けますか?」

「は、はい!」

「いつか来る大規模反攻作戦に私の随伴艦として、参加してもらえないかしら」

「随伴艦、ですか?」

「ええ」

 

その言葉を聞いて、みるみる顔が明るくなっていく吹雪さん。

彼女が私に憧れているのは、今までの態度を見てなんとなくわかっていた。

でもそれだけでは認められない。彼女の今までの努力と功績を認めての言葉。

あの頃の彼女とは違う。今のこの子であれば、きっと十分に戦ってくれる。

 

「はい! 是非受けさせてください!!」

 

元気よく返事をする彼女に対して、優しい笑みで返す。

あの時鳳翔さんがしてくれた、母親の様な優しさで。

 

 

 

私が部屋に戻ると、加賀さんが心配そうな目をしていた。

 

「赤城さん、その顔は」

「時には感情を露わにするというのも、大切なことですよ加賀さん」

 

いつも無表情で無口な彼女にだからこそ言える事。

その人の出来る中で感情を露わにして人にぶつけるのがいいのではないかと思う。

 

「それより加賀さん、二航戦の二人を呼んできてくれませんか?」

 

伝えなければいけない。いつか起こるであろう大きな戦いについて。

恐らく感じているであろう全員に、思いを共有するためにも。

 

私はいつにもなく真剣にそう口にしたのだった。





と言うわけで、結構シリアス回(?)だったかなと思います。

サブタイは舞風=英語でDust devil(埃の悪魔)。
健啖家という事で喰らうという形にして、埃を誇りに変換したものです。
たまーにこういう風にサブタイで本気を出す事があります。

実家の関係上筆が進まない……といいつつ書き貯め10話分ある。
「駄目だよこんなの! 絶対おかしいよ!」
MI作戦発動前に別の話が2話分入るってなんぞや。

イベント絶賛攻略中。E-4突破してE-5に鈴谷熊野固定ルートで突っ走ってます。
E-4で野分が出るのでそこも確保しないとまずい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十四話『狂犬乱舞』

更新が遅くなって申し訳ない……(予約投稿しないからこうなる!)

今回は第九話前半になります。つまりぽいぽいがメイン……?
この小説夕立の立場がほぼ皆無状態と言うか悲しい状態になってませんかね。


Side 磯風

 

 

朝方。

私は今、砂浜の見回りとゴミ拾いを兼ねて艤装を装備した状態で散歩をしている。

呉鎮守府からやってきた艦娘達を疑う気はないが、

悪戯に泊地を荒らされでもすれば後処理が大変だ。

 

それに足場が不安定な砂浜を歩くだけでもかなりの運動になる。

見回りの理由の大半がそれを占めているのは言うまでもない。

それでも確実にゴミを見つける為、艤装を付けて熟練見張員にも手伝ってもらっている。

 

「こんなものか」

 

島を一周し終える頃にはゴミもそれなりの量になっていた。

大半がこの島の物ではなく流れ着いた物だろうが、それも拾っていくとこうなった。

 

「どうした見張員、またゴミでも見つけたか?」

 

浜辺の向こう、見張員の妖精の指す先には呉からやってきた駆逐艦達が集まっていた。

何やら面白い物でも見つけたのだろうか。時間からするともうすぐ朝食。

赤城や加賀達によって食い尽くされるという事が無い様に、教えておこう。

 

「もしかしたら、爆発するかもしれないわ!」

「何を馬鹿な事を言っている」

 

駆逐艦の集会の外側から声を掛けると、道を開ける様に左右へ避けていく。

私は威圧しているわけではないのだが……

その中心には確か夕立と言ったか、ロングのブロンド髪の駆逐艦が光り輝いていた。

 

「確か、磯風さんなのです」

「ああ、磯風だ」

「そんな艤装付けてどうされたんですか?」

「ゴミ拾い兼見回り兼トレーニングだ」

 

電、吹雪の問いにさらりと答え私は再び夕立を見据えた。

特に彼女自身に違和感はなさそうなので自覚症状はないと見る。

変に周りが騒いでいるだけなので、大事ではない。

だが何が起きているのかは解らない。こういう時は明石が一番詳しいだろう。

 

「艦娘の事なら明石が一番良く知っているだろう。夕立、行くぞ」

「は、はい!」

 

異常事態だったとしても冷静に対処しなければ全体の士気や規律に関わる。

だからこそ迅速な対処が求められるのだ。

 

 

 

明石曰く、これがもう一つの『大規模改装』だそうだ。

艦娘そのものの姿に関係あるもの。

こうなると大きく艤装を改造しなければならず、新たな装備開発も必要らしい。

そこで今朝こちらにやってきたという兵装実験軽巡『夕張』の力を借りて、

新装備の開発に勤しんていた。

 

一方の私は夕立と以前同じ艦隊であった吹雪・睦月・涼月を呼んで、

別の工廠にやってきていた。

明石の工廠と違うのはどちらかというと休養施設のような場所で、

明石の艤装の修理が終わるまでの待機部屋の様な役割を果たしている。

 

少なくともトラックに元々居る面子であれば必ず利用したことがある。

 

「夕立さんが大規模改装ですか」

「意外か? 涼月」

「はい」

「人は見かけによらんということだ」

 

私は明石に渡された夕立のデータをまとめた資料を涼月に渡す。

以前トラックで同じだったのだ。騒ぎ立てるわけでもないから見せても問題ないだろう。

資料に目を落とす涼月は驚きの表情を浮かべていた。

 

「なるほど。組織にすら影響を及ぼす大規模な改装、ですか」

「これなら明石が知らぬわけだ。因みにそれは秘書艦である長門が見る資料だ。

 汚さぬようにな」

「あらかた目を通しましたし、お返ししますね」

 

受け取ってから先頭を歩き、夕立が居る場所のカーテンを開け放つ。

そこには上下とも下着姿の一風変わった夕立が立っていた。

 

「「ご、ごめんなさい!」」

 

後ろに居た吹雪と睦月は顔を赤くして手で視界を遮っていた。

涼月は彼女の変わりように驚いている。

 

「早く服を着ろ。ここは温かいが暑い訳ではないんだ」

「ぽい~。磯風さんは長門秘書艦っぽい」

 

しぶしぶ服を着る彼女。

後ろに立つ吹雪と睦月は着替えが終わった彼女を見つめていた。

 

「ほんとに、夕立ちゃん?」

「夕立は夕立っぽいよー」

「しかし、大規模改装はこのような物だったのですね」

「らしいな。明石の話だと性格にも影響が出る場合もあるらしい」

 

そんなことを話していると、野次馬である他の駆逐艦達がやってきたのだった。

 

 

 

ある程度夕立のお披露目会が終わった後、私は彼女の火力テストに付きあっていた。

それは様々な素材や分厚さで出来た的に砲撃を行うと言ったもの。

時間はかかるが正確性には長けていた。

 

「成果はどうですか?」

 

涼月がおにぎりを持ってやってくる。彼女お手製なのだろう。

断りを入れて一つ頂くことにした。仄かな塩味が丁度良い。

 

「そうだな。今丁度駆逐艦の火力のボーダーを越えたところか」

「火力……対艦ですか」

「ああ。彼女の装備は12.7cm連装砲B型改二だからな。対空だとお前の主砲に敵わんさ」

 

砲撃音が響き渡り的が砕け散る。

これで駆逐艦で駆逐越えという矛盾染みた火力は本物へと昇華した。

 

実質今は涼月と二人きりのような状態だ。

ならば少しばかり聞いてみるとしよう。

 

「涼月、お前はこれからどうするんだ」

「トラック泊地に残りますよ。私の夢の為にも」

 

我儘かは解らないが、彼女のまっすぐな目は信じるに値した。

 

 

Side 涼月

 

 

その後夕立さんの火力テストが終了し、共に長門さんに呼び出されていた。

 

「まず夕立。明日から第一機動部隊への転属を命ずる」

 

最初に伝えられたのは夕立さんが第一機動部隊に転属されるという話。

確かに改二になった彼女なら適任だろう。それにそれ以外でも彼女に託せる物があった。

 

「涼月ちゃん、私第一艦隊になっちゃったっぽい!」

「おめでとうございます。これから頑張ってくださいね」

「頑張ってください……?」

 

私の言った言葉に違和感を覚えたのか首を傾げる彼女。

 

「続いて涼月の件だがこれは赤城から聞いている。曲げる気はないんだな?」

「はい。私は私の道を曲げるつもりはありません」

「ま、待って待って! 話が見えないっぽい!」

 

重くなりかけた空気に制止を掛けるように声を掛けてくる。

確かにこちらだけで解っている話をされても戸惑うだけだ。

赤城さんが事前に話をしてくれていたらしく、話そうと思っていたが手間が省けた。

実際私自身も無理に通すつもりではあったのだが、ここまですんなり通ると驚きである。

 

「では、駆逐艦涼月は現時点を持って第一機動部隊から脱退。

 だがこのFS作戦遂行の為の支援戦力として大和達とトラックに残ってもらう。いいな」

「はい」

「ええ!? 涼月ちゃん第一艦隊やめちゃうっぽい?!」

 

そのことを初めて知った夕立さんは戸惑い私の方を見ている。

私はその視線に対して首を縦に振る事で答えた。

 

 

Side 長門

 

 

二人が部屋を立ち去った後、残されたのは私と陸奥の二人だけだった。

私はそっと目を閉じて涼月の言葉を思い出していた。

 

『はい。私は私の道を曲げるつもりはありません』

 

あの時の目は何かを決断する提督の目にも似ていた。

あれを変えられる者は、おそらく誰もいないだろう。

 

「ねぇ、本当に良かったの? 涼月ちゃんを艦隊から外して」

「提督の意思は確認済みだ。いずれこうなるだろうと提督自身も予測していたらしい」

 

涼月は提督に翔鶴の転属願いを申請した後、短い会話を交わしたそうだ。

その時の言葉によって、提督自身もある種確信に近い何かを得たそうだ。

 

私としても彼女が外れるのは艦隊の、如いては鎮守府の指揮に関わるかもしれない。

それはカレー大会の審査員に抜擢した時も解っていた。

だがいつかこうなるという事をいつまでも先延ばしにしていては彼女自身に関わる。

それが原因で彼女が参ってしまい、戦闘に支障が出てからでは全てが遅いのだ。

FS作戦という大規模反攻作戦の本格始動を目前にしているこの現状では特に。

 

「それにしても、涼月ちゃんは変わってるわね」

「何がだ」

「この深海棲艦と戦っている艦娘の中で、自由に動いていると思わない?」

 

確かに言われてみればその通りだ。

第三水雷戦隊ではまだ未熟だった睦月と夕立の自信が急に付いたのは、

彼女が此処にやってきてすぐの頃。神通が言っていたが全ては彼女の行動のお蔭らしい。

 

第二支援艦隊に配属されてからは着々と顔を広くしていき、

遠征任務が終わってからと言うもの、表情に影があった島風も何かが吹っ切れており、

何よりも涼月と島風の勝手な行動が結果として、如月の轟沈と言う事態を免れた。

 

第一機動部隊の旗艦としてオリョール海を奪回する時は、

自らの長所を生かして敵の動きをまとめ上げ、

『深海棲艦が暗号を解読している』という懸念を私達に伝えた。

それが結果として吹雪達第五遊撃部隊の空母撃沈と大破という結果を生んだ。

 

それら全てがこの自由の為の物だとすれば、とんでもない策士である。

 

「……自由か」

 

意志を持つ者として、私達の自由とは何か。私にもそれは解らなかった。

 

 

Side 涼月

 

 

「涼月ちゃんは水臭いっぽい」

 

一緒に部屋へ戻る私に対して夕立さんが開口一番に放った言葉はそれだった。

 

「折角頑張って追いついたと思ったら、すぐ遠くに行っちゃうんだもん」

「戦乱の世など、そう言うものですよ」

 

私が笑って答えるも夕立さんは頬を膨らませていた。

その詫びと彼女の転属祝いを兼ねて、私は夜食を作る事を約束し二人で食堂に向かった。

 

 

 

食堂に入ると大和さんが一人明日の朝食の下準備をしていた。

 

「涼月さん、夕立さん、お疲れ様です」

「あれ? 大和さん?」

「私は明日の朝食の準備ですよ。お二人はどうされたんですか?」

 

なるほどと頷く夕立さん。私は大和さんに夜食を作りに来たと説明する。

彼女が作ると言ってくれたが、

夕立さんへのお詫びを兼ねていると説明すると譲ってくれた。

 

「夕立さんは何か食べたいものはありますか?」

「ん~、間宮さんの餡蜜!」

「無茶言わないでください」

 

そもそも私も食べるだけなので餡蜜の作り方など知りもしない。

様々な果物に餡子、クリームにアイスクリームなどが乗っているのは覚えている。

そこまでは解るが、実際に作ったことも無いのでトッピングの方法など知らない。

 

「……お手伝いしましょうか?」

「お願いします……」

 

これだけは流石に大和さんの手を借りなければ作れない品だった。

 

 

 

「お待たせしました。大和特製餡蜜ですよ」

「わぁ~……」

 

目を輝かせながら夕立さんはそれを眺めている。

サイズは少し小さいがそれでも十分のボリュームだ。

 

作る時はほとんど大和さんがしてくれて、私はほとんど果物を切るだけだった。

料理器具や食材のある場所は大和さんが全て把握していたし、

何より無いと思われていたアイスクリームを彼女がすぐに自作したことも驚きだ。

ラムネだけでなくアイスクリームまで作れてしまう彼女には尊敬の意を表したい。

 

「大和さん、態々ありがとうございました」

「いいんです。トッピングのアイスクリームは私の得意分野ですから」

 

彼女はにっこりと微笑んだ。影のあった表情は今ではその面影を感じさせない。

何か吹っ切れたような顔をしている。

 

「涼月ちゃんも食べようっぽい!」

「しかしそれでは夕立さんの分が減ってしまいますよ」

「いいの。トラックに残るんだったらそれまでに思い出を作るんだから!」

 

無理やり席に座らされ、餡蜜を救った匙を差し出される。

 

「自分で食べられますって」

「思い出作り!」

 

そう言って無理やり口の中に押し込められる。

優しい甘さが広がって、間宮さんの餡蜜とは違った美味しさがあった。

 

こんな甘い日々も悪くないと少しばかり思うのだった。





夕立改二。長門型駆逐艦とまで言われる磯風さん視点の物語でした。
呉の面々とトラックの面々の交流が少ないのは、
トラックの面々(特に駆逐艦)がいつもと同じように自分のペースを貫いているので、
接触することが少ないといった形です。
なお、本編(アニメ)終了後はそう言った外伝的な話を設けようと思ってます。
(まだMI作戦発動直前のドッグ部分だけどね)

涼月の正式な呉からの脱退が承認。
提督は提督で、既に勘付いていたようです。
作者的にもここまで優秀な艦なら真面目に秘書艦にしていたいです。

大和特製餡蜜は、第一話の部分が少しだけもじってあります。
大和さんは艦内でアイスも作れるのでそこから色々取っています。
夕立のキャラ立ちは基本不真面目だけどやる時はやる子。
ストパンでいうハルトマンみたいな感じだと思っていただければ。
吹雪は完全に芳佳ポジですねぇ……睦月はリーネ? 涼月は……誰でしょうね?

次回から少しばかり大きくうねりを見せるかも……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十五話『自分を信じる』

さて、アニメ第九話中盤および後半です。
大きなうねりが姿を見せるのは、いつになる事やら……




Side 涼月

 

 

「MO攻略作戦が中止!?」

 

私と大和さん、そして秘書艦である長門さんにその補佐の陸奥さん、

無線担当の大淀さんと、装備開発担当の明石さんでMO攻略に対して、

図上演習が行われている時だった。

私が居る理由は、元第一機動部隊をほぼ無傷のままで二つの海域を突破した功績から、

私自身の考えられる事態を想定してほしいと言われたのだ。

 

「はい。先程提督からの緊急入電で『MO攻略作戦は中止し、直ちに全艦鎮守府へ戻れ』、

 とのことです」

 

ここに居る私を含めた全員がその一報に戸惑いを覚える。

間もなく図上演習も終わり、本格的に作戦が指導し始めようとした矢先である。

 

しかもこの図上演習はこの島に集結した呉の戦力と、

トラックに居る高練度かつ即戦力になる艦娘、

もちろん大和さんを含めた連合艦隊で行われていた。

そしてこちら側の大勝で結果が付こうとしていた矢先の出来事。

 

そんな状態で作戦中止の命が下ったのだ。

 

「提督に伝えてくれ。現在の戦力であればMO攻略は確実だと」

 

そう答える長門さんに、そこに居る誰しもが頷いた。

ただ私は少しだけ気になる。何故今になって提督は作戦中止を言い渡したのか。

MO攻略の為にここに戦力を集中させたのも提督の判断。

それを撤回するような事態が発生したのだろうか。

 

『今上層部が考案し発動しているMO作戦にも、支障が出るやもしれん。

 だが、打てるべき手は打つ。それが私のやり方だ』

 

彼は打つべき手を打ってしてここまで艦隊を、呉という鎮守府を大きな物にしていった。

打つべき手。私はあのW島攻略作戦と並行して行われていた遠征の事を思い出す。

 

遠征であれば軽装かつ高速な水雷戦隊で行けばいい物を、

彼は態々金剛型を全艦出撃させるという暴挙ともいえる事態に出た。

しかしそれが逆に敵戦艦をこちらが観測、接触せずに突破することが出来た。

そして帰投途中にもW島の奇襲に失敗し、制空権を失っていた三水戦の援護が出来た。

それが結果として私と島風さんが如月さんを救う結果に到ったのだ。

 

全てを見透かしているような冴えた判断。最悪のケースを想定して動く彼。

ならばこの作戦中止にも何か意味がある。

 

「待ってください!」

 

その答えが導かれるよりも先に私は声に出していた。

 

「どうした涼月」

「待ってください。あの提督なら、あの提督なら何か考えがある筈なんです!

 だから、後少しだけ、少しだけ待ってください!」

 

私は考える。上層部の考えたMO攻略作戦を中止にしてまで避けなければいけない事態を。

失敗を想定する? ならばこの島にこれだけの戦力を集中させる必要はない。

あの提督の事だ。確実に成功させるためにこの場所にこれだけの艦隊を集めたのだ。

ならなんだ。この図上演習だけでは解らない事態とは何だ。

もっと大局的に物を考えろ。全てを見据える様に。

 

そう言えばあの時泊地上空を通過しようとした敵機は何だったのか。

全て大鳳さんが撃墜したが、あれは一体何なのか。

 

「長門さん! 一昨日の敵機、何か知っていますか!」

「一昨日か。あれは鎮守府の第二艦隊が全機撃墜出来なかったと聞いているが……」

 

結果としては全機撃墜できたのだが、何か頭に引っかかる。

全機撃墜出来なかった。図上演習の海図に目を落とす。

大半の空母、戦艦はこのトラック島に移動して来ている。

ならば射程が届かず全機撃墜できなくてもおかしくはない。

 

バシー島攻略の時のことを思い出す。

あの時は敵主力艦隊を翔鶴さんの偵察機が発見したが即撃墜されてしまった。

だがしっかりと敵の編成を教えてくれたので、こちらは無傷で勝利を収められたのだ。

 

頭に引っかかっていたものが取れる。

そうだ。撃墜されようともその前に打電してしまえば編制を知る事が出来る。

こちらが敵を空母・戦艦と識別できるように、向こうもこちらを識別することは出来る。

無線を傍受し、暗号を解読するだけの能力があるなら、そんな事容易い。

 

もし向こうが暗号を解読しているのだとすれば、

大規模な反攻作戦の為にこの島に戦力が集中されていることも知っているはず。

こんな状態で手薄になった鎮守府に対して向こう側が大規模な作戦を実行した場合、

結果は火を見るよりも明らかだ。

 

「本土への奇襲攻撃」

「何……?」

「暗号を解読しこちらの作戦を知っているのなら、この事態も知っているはず。

 ならば手薄になった本陣を攻撃し一気に陥落させれば」

「だが、そんな事深海棲艦と言えど簡単に出来るとは思えんぞ」

「なら私が深海棲艦側だった場合の策を一つ提示させていただきます」

 

そんな言葉に皆が驚く。当然だ。私が深海棲艦側だった場合の話をしているのだから。

 

「まず暗号を解読し、このトラック島に戦力が集中している事を知ります。

 これは結果として鎮守府の戦力が低下しているとも取れます。

 本来ならばそれが解り次第攻撃、と行きたいですが……」

 

そこまで説明して大淀さんに頼んで鎮守府近海の海図と、

オリョール海の海図を出してきてもらう。それは勿論私が書き込んだものだ。

先にオリョール海の海図を広げる。

 

「オリョール海の反復出撃による解放の時、主力艦隊は姿を見せなかった。

 深海棲艦の思考が軟弱であれば、一度目の攻略の帰投時に狙うはずです。

 しかし深海棲艦は奇襲を行わなかった。それは暗号を完全に解読し、

 反復出撃することを既に知っていたからです」

「そこまで……」

「信じがたい話ですが、これは事実でもあります。

 反復出撃は疲労も溜まりこちらの砲撃の精度や回避に影響が出ます。

 そして数回にわたる出撃の中突然奇襲してきた様に見せかけたんです」

「でも、それがその想定している奇襲攻撃に何の関係があるの?」

 

陸奥さんは事態が呑み込めないのか首をかしげていた。

他の皆は真剣に話を聞いている。

私はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに鎮守府近海の海図を広げた。

 

「通常なら奇襲は早い方が成功しやすいです。

 ですが深海棲艦は万全を期す為に、一回目は偵察を行います」

「それがあの取り逃がした敵機と言うわけか」

「はい。偵察を行うのはまだ鎮守府側が、何か隠してないか炙り出す為だと思います。

 しかし取り逃がしたと言う事は、鎮守府にはそれまでの防空能力がないという事。

 ならば空母を中心とした機動部隊を編成し、鎮守府に攻撃をかける。結果として……」

「本土空襲……!!」

 

ここに居る全員が青ざめる。

提督はそれを想定して、作戦中止という判断を下したのだ。

 

「呉から移動してきている艦娘全員に伝えろ!

 第一機動部隊から随時トラックを進発、鎮守府に戻る!」

「「「「「はい!!」」」」」

 

この泊地には放送という便利な物までは完備されていない。

私達は司令室から弾き出されるように長門さんの合図で飛び出した。

 

 

////////////////////

 

 

呉の皆と別れを告げる為にも私達は港に来ていた。

 

「まさかとは思ったけど、本当にお別れなんてね」

「第三水雷戦隊の時にも言ったじゃないですか。今生の別れではない、と」

「ははは、そうだね。ま、しっかりやりなよ!」

 

川内さんの次は榛名さんと霧島さん。

 

「涼月ちゃん、トラックでも頑張ってくださいね」

「私の計算によれば、涼月さんならどこへでも上手くやっていけますよ!」

「榛名さん、霧島さんありがとうございます。ご縁があればまたお願いしますね」

「「はい!」」

 

続いて翔鶴さん。

 

「涼月さん、今までありがとうございます。

私達も基本を忘れずこれからも戦っていきますね」

「はい。翔鶴さん、瑞鶴さんをお願いします」

「ふふふ、解りました」

 

そして赤城さん。

 

「涼月さん、ありがとうございました。私達がこうして強くなれたのも、

 貴女のお蔭ですよ」

「いえ、皆さんのお蔭で私も強くなれました。赤城さんも頑張ってください」

「ええ。涼月さんも」

 

最後に夕立さん。

 

「じゃあね涼月ちゃん。また会ったら最高にステキなパーティしましょ!」

「そうですね。また近いうちに」

「じゃあね!」

 

そう言って第一機動部隊は進発していった。私は手を振って皆を送る。

 

「すーずっつき!」

「うわわ!」

 

背中を叩かれて思わず海に落ちそうになる。

何事かと思って後ろを振り返るとそこに居たのは蒼龍さんと飛龍さんだった。

 

「落ちたらどうするんですか!」

「水臭い事したんだから別に落ちてもいいじゃない」

「まぁ涼月だから色々突然なのは仕方ないと思うけどさ、もうちょっとやり方あるよね」

「すみません。お二人には振り回して申し訳ないです」

「この分はまた今度返してもらうから、覚えておきなさいよ」

「はい。その時はよろしくお願いしますね」

 

互いに敬礼を交わして別れを告げる。

 

「涼月ちゃん」

 

この元気のいい声は睦月さんだ。

声のかけられた方向を向くと、そこには睦月さんと如月さんが居た。

 

「ありがとね涼月ちゃん。やっぱり感謝してもしきれないよ」

「いいんです。ですが今度は睦月さんが守ってあげてくださいね」

「睦月、お願いされました。えへへ」

「涼月ちゃん。短い間だったけれどありがとう。睦月ちゃんも、私も守ってくれて」

「今度からはお互いがお互いを助け合って行ってくださいね」

「ふふふ♪ は~い」

 

二人とハイタッチを交わして別れる。

私はこんなにも多くの人と信頼を築いていたのだ。

それこそ駆逐艦と言う枠組みを超えた信頼を。

そもそも駆逐艦という枠など、自分で決めた物でしかないのだろう。

ただの思い込みの一つに過ぎなくて、その枠を設けているのは自分だけ。

 

「涼月さん!」

 

不意に声を掛けられて振り返ると、そこには吹雪さんが居た。

彼女も駆逐艦にして一部隊の旗艦。そんな彼女が私に何の用だというのだろうか。

 

「今までありがとうございました」

「いえ、お礼を言われるほどの事はしていませんよ。私は私の出来る事をしただけです」

「それでも、私は涼月さんのお蔭でここまで来る事が出来ました」

 

いつも謝ってばかりだった彼女がこんなにも立派になったのだ。

そこにあるのは後悔の眼差しでも尊敬の眼差しでもない。感謝という二文字。

 

「初出撃の時も、南西諸島海域の時も、MO作戦の空母だって!

 私は、涼月さんが居たからここまで成長できたんです!

 だから、言わせてください。ありがとうございます!」

 

彼女の太陽の様な笑顔。それが私には眩しく見える。

それでも目を背いてはいけない。しっかりと見てあげよう。

これが本当の彼女なのだから。だから私は伝えよう。彼女に。

 

「貴女が成長できたのは、確かに私が居たからかもしれません。

 ですが忘れないでください。貴女は私を含めた皆が居たからこそそこまで成長できた。

 貴女の内にある本当の貴女が成長したいと望んだから、そこまで成長できたのです」

「………」

「それを忘れないで居てください」

「はい!」

 

互いに敬礼をかわす。私も彼女も、共に笑顔だった。

 

 

////////////////////

 

 

皆が呉に撤退し、私達は昼食をとっていた。

しかしそこに唯一舞風さんの姿はなかった。

 

「野分さん。舞風さんはどうされたのですか?」

「舞風? 確かまだ部屋に」

 

野分さんがそう言いかけた時、食堂の扉が勢いよく開かれた。

そこに居たのは舞風さん。

汗を流し息を切らしている。こんな彼女は見たことが無い。

 

「舞風!? どうしたの!」

「……来る」

「えっ?」

「来るの! 敵が! 空から!!」

 

敵? 空? 彼女は一体何を言っているのだろうか。

その直後、この泊地全体に爆音が鳴り響いた。

 




涼月の本気回。今まで得てきた可能性と結果を統合した結果。
真面目に今まで積み上げてきた物をここまで出来ると昇華させたかった。
後アニメ提督が無能ではないというのを前面に押し出してます。
あそこまで頑張ってる人が無能なわけないんや……

本土空襲の危機を感じる長門。撤退する呉の艦娘達。
第一艦隊の人達との別れを描きたかったけどかなり難しかった。
アニメとか漫画とかだったら大分やりやすいけど、
生憎私には画力と言うものを持ち合わせていないのだ……

そしてトラックを駆け巡る戦慄の音。
深海棲艦の矢は何故トラックへと向けられたのか。
次回、艦隊これくしょん -艦これ- ~空を貫く月の光~
第二十六話『絶望の空、倦怠の海』。暁の水平線に見るのは、勝利だけなのか。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

お気に入り登録100件越え&UA一万越えありがとうございます!
評価もつけていただき、一層励みになっています。
誤字脱字のご指摘や番外編のネタなどこっそり募集しているので、
感想やメッセージ等を飛ばしていただければと思います。

後、涼月を自分の小説でも使いたい!
という(物好きな)作者さんがいらっしゃいましたら、メッセージでお伝えください。
詳細設定の文章と諸注意をお送りした上で許可いたします。
配役は悪役でも善人でも神でも何でもいいです。

ただし今後のゲームのアプデによる『涼月』実装の危険性があるのでご注意ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十六話『絶望の空、倦怠の海』

――― 一人の駆逐艦が見るのは、希望の海か、絶望の海か ―――

秋月型駆逐艦、涼月。抜錨。


「なんだ! 敵襲か!」

 

磯風さんが勢いよく立ち上がり、野分さんは反射的に舞風さんの元に駆ける。

 

「落ち着いて! 対空電探……敵機の数は9……いや、まだ!」

 

大和さんが対空電探に意識を向け、数を伝える。

彼女の形相がみるみる険しくなっていき、それはここに居た皆が事態の悪化を予測した。

目を見開いた彼女は、私達が居る事を見渡して確認する。

 

「皆さん、私に付いてきて下さい」

「付いて来いって、どこに行くんだ!」

「明石さんの所です」

 

磯風さんの反論を言いくるめ彼女は食堂を飛び出し、

私達を引き連れて明石さんの工廠へと向かった。

 

 

 

工廠では明石さんが妖精さんに指揮を出し、慌ただしくなっている。

 

「大和さん! 皆さん! 無事でしたか!」

 

明石さんはこちらに気付いて駆け寄ってくる。

彼女の工廠も無事であったが、ここもいずれ爆撃されてしまうだろう。

今でも絶え間なく爆音が聞こえてくる。

独特の噴出音のようなものも聞こえるので恐らく敵空母による爆撃。

 

「明石の工廠に何があるというんだ、大和」

「爆撃に備えた地下シェルターです」

 

明石さんがそう言って指した先。そこには地下へと続く大きな鉄扉が開いていた。

 

「どうしてこんなものが……」

「今はそんなことより早く!」

 

私達は妖精さん達に先導されてシェルターの中に入っていく。

その時舞風さんと野分さんは何かに恐れる様に震えていた。

全員が入った後に明石さんと妖精さん達が入って来て、内部から大きな鉄の門を閉める。

 

中の電気が付けられると、ホテルの内容であったトラックとは打って変わって、

必要最低限の物しか置いてなかった。

贅沢は言えないが今までの差が激しく、流石の私でも戸惑いを覚えた。

 

「兵装などの爆発物は別のシェルターに入っています。艤装は流石にここにありますが」

 

明石さんの説明を聞きながら、私はどうしてこうなったかを推理する。

呉の人達が帰っていった途端、狙ったかのように現れた敵艦載機の部隊。

 

大和さんと目を合わせると、彼女は首を横に振った。

それは言わない方がいいという意味か、解らないという意味なのか、私には解らない。

恐らく前者であろうが。

 

私は私の言ったことを整理する。

 

相手は完全にこちらの暗号を解読している。となれば本土への空襲を選ぶはず。

いや、もしも敵が今朝の提督の中止命令、そして撤退命令を察知したなら。

本土への空襲は断念し、逆に手薄になったこちらへ転進して空襲を行ったとしたら。

そうだとすれば私達には打つ手立てがない。

例えそれを想定して戦力を残したとて、本土が手薄になりいずれ本土空襲の危険がある。

 

「……そういえば大鳳が居ないようだが」

 

辺りを見渡していた磯風さんが大鳳さんの名を口にする。

 

「そういえば……先程こちらで待つように言ったんですけど」

 

明石さんも見渡してみるも彼女はいない様子。

私は私達の艤装が置いてあるところを見てみる。

だがそこに大鳳さんの艤装は無かった。

彼女は空母であって戦艦でも駆逐艦でもない。なければすぐに解る。

 

「明石、その鉄の門以外に出入り口はあるか」

「い、一応ありますけど、今出ると空襲に晒されますよ!」

「そんなことはどうでもいい! どこにあるかと聞いている!」

 

磯風さんの威圧感に押され、明石さんは艤装のすぐそばにある細い通路を指した。

緊急用の出入り口だろう。

磯風さんはそれを見るやいなや、艤装を持ってその通路へと走った。

 

「待ってください! 磯風さんが行ってどうにかなる状態では」

「なら大和は大鳳を見殺しにしろと言うのか」

「そうは言ってません! でも磯風さんが……」

「……私に戦い以外の事を期待されてもそれには応えられない。不器用なのでな」

 

そうとだけ言い残して彼女は通路へと消えた。

私はそれを見て増設用のマストを外して、妖精さんにはごめんとだけ謝る。

 

「涼月さん!」

 

艤装と魚雷を持ち、そこで制止の声をかけられる。

振りむけば大和さんが今にも泣きそうな目をしていた。

 

「磯風さんと大鳳さんを連れ戻してきます」

「………」

「大丈夫です。私は貴女を守るまで死ねませんから」

 

不安そうな顔をする大和さんに笑顔で答えると、私はその場を駆けた。

 

 

 

何枚もの重厚な扉を越えた先、私は崖の一角に出てきた。

どうやら大鳳さんと初めて出会った崖の下らしい。

空を見上げると黒い敵艦載機が飛び回っていた。

 

私はその場で艤装を装着して海を駆ける。

辺りを見渡すと磯風さんの長い黒髪が風に靡いているのが見えた。

 

「磯風さん!」

 

最大船速で彼女に何とか追いつくと、彼女は私の姿を見て驚く。

 

「涼月、お前は大和と共に居ろ」

「それでも貴女と大鳳さんを見捨てられません!」

「……勝手にするといい。ここまで来たのだからな」

「感謝します」

 

言い合っていても仕方ないと判断したのだろう。

私は彼女に感謝しながらも二人で大鳳さんを探すことにした。

 

今でも対空電探が敵の数と位置を教えてくる。

少しばかり五月蠅い気もするが、これが生きるためには必要な事。

電探で敵艦載機の位置を探りながら目となる部分をすり抜ける様に航行する。

 

「磯風さん、何か頼りはあるんですか?」

「大鳳は空母だ。空が賑やかになっている場所を探せば解る」

 

至極単純ではあったが、航空戦が繰り広げられているのであればそれは当然の事だった。

耳をすませて電探も駆使して航空戦が繰り広げられている場所を探す。

 

「そこですか……」

 

いくつもの機影が入り乱れながらも、一方的に落とされている場所がある。

 

「見つけたか。流石だな」

 

私達はその場所へ向かって再び最大戦速でその場所へ向かった。

 

 

 

大鳳さんは無数の敵機から攻撃を受けていた。

しかしあまり時間が経っていないからから、又は彼女自身の練度の高さからか、

被弾はそこまでしていない様子。

 

「この程度、この大鳳はびくともしないわ!」

「大鳳!」

「! 磯風さんに涼月さん!」

 

私は対空電探に映った敵艦載機を片っ端から撃ち落としていく。

意識は空へ向ける。二人を大和さんの元へ連れて帰る為にも。

それで切り開いた道をまっすぐに駆ける磯風さん。

 

「下がれ大鳳。お前の勇姿は買うが今は引く時だ」

「ですが今下がれば泊地が!」

「お前を喪う事に比べれば何でもない!」

 

一瞬だけ見えた彼女の顔には一筋の涙があった。

いつも不敵な笑みをこぼすか、いつもの冷静な彼女であったが、今は違った。

 

「お前を失えば悲しむ艦娘だっている。それを理解してくれ……」

 

大鳳さんの胸元で泣く彼女の姿に驚きつつも、

その考えを振り払い私はせめてもの時間稼ぎに長10cm砲を連射する。

自分の今まで鍛えてきた感覚を信じて。

しかし青い光を放つ非常に素早い攻撃機が入り混じり、撃墜に難色を示していた。

 

「解りました、今は引きましょう。涼月さんも早く!」

「私は殿を務めます! お二人は早くシェルターに!」

 

防空駆逐艦として、そして二人の親友として、彼女達を生きて返さなければならない。

勿論私自身死ぬ気も無い。磯風さんがさっき言った。私も死ねば悲しむ人がいる。

だから私も帰らなければならない。

 

敵を引き付ける為に機銃と主砲を乱射し撃ち落としながらも、二人から離れる。

今は大鳳さんの放った艦戦もほぼすべて撃墜されてしまっている為、

私が引き付けるしか手はなかった。

 

二人が先行して先程の出入り口に向かったのを見て、私は再び空へと意識を向ける。

後もう少し。後もう少しだけ時間を稼ぐ事が出来れば!

 

連射の影響で熱くなっている砲身を火傷しながらも無我夢中で交換し、

再び空へと砲火を放つ。

電探に意識を向けると、まだ複数の敵艦載機がこちらに向かっているようだった。

だがこれ以上引き付けていても埒が明かない。

 

「この程度でいいでしょう!」

 

私は転進し乙字運動を繰り返して爆撃を紙一重の所で避ける。

蒼龍さんの爆撃で慣れてはいるが、こんなにも多くの艦載機を相手にしたことは無い。

更に狙いを付けさせないためにも主砲と機銃は対空に徹していた。

 

何とか崖下が見えた。後はそこに向かうだけ。それでも乙字運動はやめない。

二人の姿は無い為恐らくもう入っているのだろう。

 

そう思った矢先、後方から低空でかつ高速で向かってくる敵機を電探が捕捉する。

振り返ると、歯の生えた白く丸い物体がこちらに向かって魚雷を投下していた。

私は咄嗟に旋回しその魚雷を紙一重の所でかわす。

 

が、その魚雷は崖の元にある出入り口に飛んでいきそのまま爆発。

その衝撃で崖は崩れてしまい、出入り口は埋まってしまった。

 

「っ! 面妖な、機体が!」

 

白い物体はあざ笑うように、ガチガチとその歯を鳴らしながら飛んでいく。

その速度はあの青い光を帯びた敵機よりも早く、狙うも即座に離脱されてしまった。

直後対空電探が鳴り響く。位置は……直上!?

空を見上げるとそこには複数の白く丸い物体が、同時に急降下爆撃の態勢に入っていた。

 

大きく回避すれば間に合う。

そう思って大きく旋回しようとした時、

遠方から飛んで来た砲弾が私の近くで水柱を上げた。

何事かと思ってその方向に視線を送ると、

六隻の深海棲艦が輪形陣を取りひしめいているのが見える。

 

先頭を進むのは黄色い瘴気を纏った戦艦。

その後ろと最後方に居るのは黄色い瘴気を纏った空母。

その両隣には守る様に駆逐艦が二隻。

そして中央には隻眼の空母が、その禍々しい紺碧の瘴気を纏っていた。

 

その禍々しさに恐怖の念すら抱いていると、

上空から一斉に急降下爆撃してきた白い物体の爆弾が艤装に衝突し爆発。

私はそのまま吹き飛ばされ、瓦礫に思い切り叩き付けられた。

 

「がっ、ごほっ!」

 

反射的に前かがみになって口から吐き出されたのは血。

何とか頭と四肢の痛みに耐えながらも立ち上がった。

その場から離脱しようとしても敵戦艦の正確な砲撃が私の回避行動を制限する。

それだけではない。急降下爆撃を終えた白い物体が口から機銃を放つ。

その弾丸は艤装と服をえぐり取り、体に多大な傷を負わせた。

後方に下がろうとしても崩れた崖が私の退路を断っている。

 

この状況を良く知っていた。私が以前オリョール海で皆と使ったあの挟撃だ。

私達は敵に対してこんなことをしていたのだ。

身動きのできない敵に、こんなにも酷いことをしていたのだ。

 

戦いとは非情なもので、情けなどいらない。

深海棲艦に『復讐』と言う言葉があるのかは知らない。

でもこれが罰なのだ。いままで散々勝手に動き、勝手に動かしてきた私への報い。

 

空を仰げば絶望。海を見つめれば倦怠。後方は閉ざされている。

鎮守府正面海域での彼女もこのような状況で戦い、そして散っていった。

 

空に浮かぶ白い物体が崖際だというのに、

再びこちらに向けて急降下爆撃を敢行しようとしていた。

 

ここまでか。

そう思って私はその場に座り込み目を閉じた。

 

 

 

「『まだ諦めてはいけません!!』」

 

そんな声と共に爆音が響き渡り、誰かが私の前に躍り出る。

目を見開くと急降下爆撃を敢行していた白い物体が全て爆発していた。

 

私はその言葉を聞いたことがある。

でも、その言葉を放ったのは私の前に躍り出た一人の少女。

 

特型駆逐艦一番艦、『吹雪』であった。

 

「大丈夫ですか涼月さん!」

 

声を掛ける彼女に対して私は無意識に首を縦に振る。

だが空にはまだ無数の敵機が残っていた。

 

「吹雪さん!」

「大丈夫です!」

 

水平線の向こうから飛んで来た弾丸が炸裂してほとんどの敵機を叩き落とし、

残敵を赤二本の胴体帯の艦戦と白二本の胴体帯の艦戦が叩き落とす。

なるほど、これは……

 

『Hey! ズッキー! 無茶しちゃ駄目ネー!』

『金剛さん、無線封鎖を徹底するようにと吹雪さんから言われましたよね』

『そういうアンタだってしてないじゃない!』

『これはただの雑談です』

 

無線から金剛さんと加賀さん、瑞鶴さんの声が聞こえてくる。

 

『全く、早く呉に戻って北上さんと久々の間宮さんの所に行きたかったのに』

『まーまー、旗艦様の吹雪ちゃんのいう事だし、何かあるのは解ってたけどねー』

 

聞いたことのない二人の声がする。誰だろうか。

そんなことを思っていると大量の雷跡が輪形陣を取っている敵の右舷に直撃し、

駆逐艦と最後方の空母が爆発した。

 

「凄い数の魚雷ですね」

『そりゃ、重雷装巡洋艦だからねー。あ、あたしは『北上』。よろしくー』

『同じく重雷装巡洋艦の『大井』よ。この貸し、百万倍にして返してもらうんだからね』

 

重雷装巡洋艦。聞いたことがある。

駆逐艦や巡洋艦の切り札である魚雷を大量に装備した、対艦に特化した巡洋艦。

 

右の海から現れたのは、第五遊撃部隊のメンバーだった。

 

「どうして貴女達がこんなところに……」

「なんだか胸騒ぎがしたんです。そう、MO攻略の時と同じ」

「胸騒ぎ、ですか」

 

それは一体どういったものなのかは解らない。

でもそれで私は助かったのだから今は追及しないでおこう。

残った敵は空母2、駆逐1、戦艦1。

残った空母はまだ艦載機を発進させようとし、戦艦はその砲をこちらに向けていた。

 

しかし耳を貫く砲撃音と共に先頭を走る戦艦と、

隻眼の空母の先を行く空母に砲弾が左舷に突き刺さり瞬く間に爆沈する。

この轟音にも似た砲撃音。忘れたくても忘れられない。いや、忘れるわけがない。

あの時も『彼女』は、こうやって助けてくれた。だから私は今度こそ名前を呼ぶ。

 

「大和さん!!」

 

左の海から現れたのは大和さんだけでなく、舞風さん・野分さん・磯風さん・大鳳さんと、

トラック島の面々が揃い踏みであった。

 

『さあ、華麗に踊りましょう!』

『やってやります! てーっ!』

『撃って撃って撃ちまくれ!』

 

駆逐艦である三人は魚雷を同時発射し、隻眼の空母の左舷に居る駆逐艦を撃沈した。

 

「舞風さん! 大丈夫ですか!」

 

私はシェルターの中で怯えていた舞風さんの事が気になって、

思わず戦いを忘れ声を掛ける。

 

『大丈夫! 野分が居てくれるって、教えてくれたから!』

『彼女は私が守ります。今度こそ、絶対に!』

 

どうやら別の思いは吹っ切れたようだ。ならば問題ない。

 

『そうね。この際、徹底的に撃滅しましょう!』

 

大鳳さんの声と共に彼女は弩の引き金を引き、

艦戦を発艦させて隻眼の空母が発艦させる直掩機を撃墜していた。

 

残すはあの隻眼の空母だけ。

しかしその隻眼の空母は負けじと青い光を纏った精鋭機を発艦させ、

次々と三人の艦載機を叩き落としていく。徐々に制空権は失われつつあった。

 

 

Side 吹雪

 

 

「貴女は皆を照らす太陽……ですね」

 

そう言いながら艤装は大破し、体の所々から出血している涼月さんが立ち上がる。

 

「そんな! 駄目です!」

 

私は思わず制止させる為に触れそうになるも、南西諸島海域の事を思い出してやめる。

そして解っていた。この人は進み続ける。この人はそういう人だ。

 

「提督が吹雪さんに何の光を見たのか、解る気がします」

 

腿の所にあるベルトに付いた砲身を指の間に挟んで引き抜き、

折れ曲がった砲身を別の指の間で挟んで引き抜きながらも新品の砲身に付け替える。

 

「なら、その光を導く道を作りましょうか」

 

付け替え終わり砲身と視線を空へと向ける涼月さんは、最大戦速で隻眼のヲ級に突っ込んだ。

その異常事態に気付いたのか、涼月さんが大破していたからか。

敵の艦載機がここぞとばかりに襲い掛かる。

 

「甘いっ!!」

 

その言葉と共に涼月さんの主砲が途端に火を噴く。

その一発一発が空を再び覆わんとしていた敵の艦載機を正確に打ち抜き、撃墜していく。

既に回避運動を取っていたものも、攻撃を行おうとしたものも、全て。

まるでそれは敵の艦載機が、涼月さんの放った砲弾に当たりに行っているように見えた。

 

そして全ての艦載機を撃墜した後、止めとばかりに二つの長10㎝砲が、

隻眼のヲ級の帽子の部分を吹き飛ばす。

 

「吹雪さん!」

「はいっ!!」

 

涼月さんは私の名前を呼んで、すぐ横に転進した。

彼女は本当に道を作ってくれた。私の通る道を。

制空権は既にこちらが確保していたし、後はこの隻眼のヲ級だけ。

 

砲を構えて放つ。

それは夾叉となってヲ級の四方に水柱が立ち、身動きできない状態になった。

それを見た直後に魚雷を構えて発射する。三連装魚雷が二基。計六本。

放たれた六発の魚雷は隻眼のヲ級に直撃し、炎に焼かれて水底へと消えていく。

 

「私、やりました! 涼月さんのお蔭です!」

 

そう言って涼月さんの方を見ると、彼女はその場に座り込んでいる。

そんな彼女は、艦首部分からゆっくりと沈んでいた。

 

「涼月さん!」

 

私は思わず駆け寄って傷のない場所に触れる。

 

「……今は少しだけ、休ませてください」

 

目を閉じて俯く彼女が消えていくような気がして、私は必死になって崖際まで牽引した。

第五遊撃部隊の皆も、大和さん達も何事かと集まってくる。

 

崖際にもたれ掛らせた時には彼女は更にぐったりとしていて、

まるで死んでいるようだった。

 

私は恐る恐る涼月さんの手に触れてみる。冷たい。

手首に触れて脈があるかを確かめる。非常に弱弱しい。

 

生きている事に少しだけ安堵を覚える。

でも、事態が一刻を争う事は変わりない。

 

私達は涼月さんを入渠ドックに運び込み、入渠をさせた。

しかし傷が癒えても、入渠の時間が過ぎても、彼女の意識が戻ることなかった。




敵編制
空母ヲ級改flagship・空母ヲ級flagship(新型艦載機)・空母ヲ級flagship(新型艦載機)
戦艦タ級flagship・駆逐イ級後期型・駆逐イ級後期型

つまり過去イベント『迎撃!トラック泊地強襲』のE-2、難易度:甲の最終形態編制です。
制空権優勢で対空値が405、確保する為に810もの莫大な対空値が必要で一躍有名になりました。
そしてタコ焼き艦載機である艦攻のアヴェンジャー。つまり『復讐』。
涼月があの戦いで攻撃を受けたのもこの敵機によるものです。
(なお執筆中は全く意図せずタコ焼き艦攻置いてたのは秘密)

吹雪の直感と大和達の救援。
轟沈という悲劇は避けられたものの、守る事は出来なかった。

涼月が『道』を作る為に放った対空砲火こそ、『対空カットイン』です。
対空カットインと言うものが存在するゲームと、涼月が秋月型という事を見て、
これを使うと思った人はあながち間違いではありません。
アニメではヲ級の帽子部分から発艦させているので、そこを吹き飛ばせば中破としてます。
因みにこの話では『隻眼のヲ級=如月』という見解を真っ向からぶち破ってます。
そもそも如月沈んでないし!

ここまで来るとオリ展開所か原作ブレイクしてそうで怖いのですが、
まぁ、そんなこともあるよね……(byスーパー北上様)って感じです。
正直求めていない人には真面目申し訳ないです。



「故郷を愛することも人を好きになることも、
 お腹がすけばパンを食べるようにごく自然な要求なのだ。
 それを尊いことだと勘違いするから世の中の悲劇の半分はうまれる。
 残りの半分は偶然と想像力の欠如だ」

パワプロクンポケット10、神条紫杏より。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十七話『朔』

更新遅れましたあああああ!?
第九話後半のお話です。
ところで吹雪が招集されていないことに気付いた人はいるのだろうか……
そんなことより涼月の容体だ!


Side 吹雪

 

 

入渠ドックから緊急で泊地のある一室に運ばれた涼月さんは、

明石さんと妖精さんによる原因調査が行われていた。

 

そして私達は予備のドックでその報告を待っていた。

理由は食堂は爆撃によって破壊されて、

人が纏まって集まれる場所はここしかないとの事。

 

「涼月さん、大丈夫かな……」

「大丈夫に決まってるわ! あいつの事だしすぐに出てくるわよ!」

 

瑞鶴さんが励ましてくれる。

根拠のない自信ではあったけど、涼月さんと瑞鶴さんには見えない縁がある。

何があったのか解らないけど、いいライバルみたいな関係。

 

一方の加賀さんは深刻な表情を浮かべている。

何か言うわけでもなく、ただひたすらに待ち続けているような、祈っているような。

隣で金剛さんもいつもとは違う険しい表情になっている。

二人が浮かべるその表情は、戦場に立っている時その物だった。

 

更にその隣では大井さんが何かをぶつぶつぼやいていた。

あのまま死んだら許さないとか、なんだか不吉な言葉まで聞こえてくる。

それを北上さんがいつものマイペースで落ちつけていた。

 

トラック泊地の人達も全員ここに集まっている。

一人だけ見慣れない人がいたけれど、その人が一番落ち込んでいる為声は掛けなかった。

 

カーテンが開かれて明石さんが入ってくる。

その顔は金剛さんの様に険しい表情で、事態が深刻であることを物語っていた。

 

「明石さん、涼月さんは」

「なんとか一命はとりとめましたが……正直、良くありません」

 

大和さんの問いに首を横に振って答える明石さん。

一命は取り留めたという事に安堵を覚えるも、

良くないという言葉にその感情は止められる。

 

「後頭部の重度の打撲による脳挫傷。これが意識不明に繋がっていると思います」

 

脳挫傷? 初めて聞く言葉。でも脳という事は頭に何か原因があるという事は解る。

この場に居る皆が頭を傾げていたり、理解に困っていた。

私達はそこまで医学に詳しくはない。

そもそも入渠のお蔭でそういう場面に直面することは無いからだ。

 

「簡単に言いますと、頭部の強打によって内部の脳が衝撃を受けて損傷することです。

 涼月さんの場合、それが広範囲に及んでいる為相当危険な状態にあります」

 

脳の広範囲に損傷。脳について良く解らない私でも解る。

脳は内蔵の中でも本当に大事なところだと。

 

「脳内出血、頭蓋骨骨折共に無いのが幸いで、手術の必要はありません。

 ただ……」

 

そこで口ごもってしまう明石さん。何か気がかりなことがあるのかもしれない。

 

「その後の復帰も見込めない、と」

 

加賀さんの発言に皆の視線が集中する。

その後の復帰も見込めない? 手術の必要がないなら、

時間をかけて治せば大丈夫なんじゃ……

 

「その通りです。先ほども言いましたが涼月さんの場合広範囲に及んでいるので、

 もし意識を取り戻しても、戦闘はおろか今までの様に生活することは難しいでしょう」

 

その明石さんの言葉に、その場の空気が更に重い物になったのは言うまでも無かった。

 

 

Out side

 

 

涼月が意識不明の重体であるという事実は第五遊撃部隊と、

トラック島に所属する艦娘達によって厳重に隠蔽される事になる。

彼女は妖精達の必死の看病が続いていた。

 

広報しなかった理由として、

大規模反攻作戦の指揮に多大なる支障が及ぶからである。

ただし涼月と元々一緒であったトラック泊地の面々には、

どうしてこのような事になったのかを大和の口から知らされた。

 

上層部からは深海棲艦の大規模な敵機動部隊を叩いたことにより、

大和の出撃の件はお咎め無しとなった。

トラック島の僅かな被害状況を引き換えに敵の機動部隊を殲滅したという功績を、

大本営は高く評価していたが彼女達の納得を得られるものではない。

 

しかしこの結果によって脅威であった深海棲艦の機動戦力は大きく低下し、

これを機に近々大規模反攻作戦の核となるMI作戦の実行へと動き出していた。

 

 

 

第五遊撃部隊が呉に戻った後の泊地では重い空気が漂っている。

以前にも増して静まり返った泊地に、雨粒の地面を叩く音だけが木霊していた。

 

被害は城の様に建てられていた建物は半壊しただけで、

食糧庫や工廠は無事であった。

ただし食堂や艦娘達の部屋が破壊されてしまったため、

別の工廠でトラックにいる艦娘達は寝食を共にしている。

妖精さんによる復興作業が続いていたが、

ひどい雨のせいで工事に遅延が発生していた。

 

「雨、止みませんね」

 

野分がひとり呟いて空を見上げる。

その空はまるで皆の心を映しているようだった。

 

「そう簡単には止むまい。そういう季節なんだ」

 

磯風は至極当然とそれを返す。

いつも威勢に満ちた彼女ではあったが、その表情には影が映っていた。

 

「………」

 

舞風は野分の隣でただ何も言わず空を見上げている。

日課の踊りもここしばらくは休んでいるようだ。

 

明石は工廠で未だ装備開発に打ち込んでいるので、ここにはいない。

 

「皆さん。甘味が出来ましたよ」

 

落ち込んでしまっている彼女達を励ますように、大和が餡蜜を持ってくる。

甘味である理由は、呉で甘味所が人気だという話を夕立から聞いていたから。

彼女曰くどんな時でも甘いものがあれば頑張れる、だそうで。

 

「ありがとうございます」

「ありがとー、大和さん」

「いらんいらん。余計なバルジが増えてしまう」

 

野分と舞風は受け取ってたものの、磯風は断る。

餡蜜は寒天を使っている為比較的低カロリーではあるが、

最後の仕上げとばかりにかける蜜のカロリーが高い為、

そこまで低いというわけではない。

 

「そうですか……なら私が二ついただきますね」

 

それぞれがそれぞれの言葉を述べながらも一口。

しかし、舞風と野分は首をかしげた。

 

「あれ、これ……」

「あんまり甘くないね」

 

黒蜜がたっぷりかかった餡蜜ではあったが、それでもあまり甘くはなかった。

 

「今は物資の不足も考えていますからね。お砂糖は少なめです」

 

そうはいう大和であったが、二人はその餡蜜を眺める。

きれいな黒光りを放つ黒蜜を見ても、砂糖の量が少ないとは思えなかったのだ。

味覚がおかしくなってしまったのかともう一口食べるも、

やはりその舌は確かであまり甘くない。むしろ微かな塩辛さが感じられた。

 

「大和さん、これやっぱり甘くないよ」

「そうですか……流石に砂糖の量を減らしすぎましたかね」

「いえ、そうではないと思うんです。塩辛さもありますし」

「餡蜜の甘味を増させるために、お塩を少しだけ入れてみました」

 

それでもおいしそうに食べる大和を見て、舞風と野分は匙を動かすのをやめた。

 

「いらないんですか?」

「……はい。すみません。食べかけですけど」

「いいんですよ。でももったいないなぁ。こんなにおいしいのに」

 

二人は大和に餡蜜を返す。食べかけであったが躊躇はしなかった。

それを笑顔で受け取った大和はおいしそうに、ゆっくりと味わって食べている。

しかし二人はその表情が無理をしているものに見えたのだ。

 

おいしいおいしいと言って食べる大和の瞳から涙がこぼれる。

その涙はそのまま彼女の食べていた餡蜜に落ちた。

 

それを見てハッとする二人。

そこまで甘くないのにおいしいと言って食べる彼女。

料理に慣れた彼女が塩と砂糖の分量と間違えるわけがない。

 

あの塩辛さは甘さを増させる為のものではない。彼女の涙が流れ落ちたもの。

それが積み重なって、甘さを抑えていたのだ。

 

「大和さん……」

 

いつも以上に明るくふるまう彼女は、やはり何かに縛られている。

それに気付いた二人は無意識に哀れみのこもった視線を送っていた。

 

「そんな目しないでください。私は大丈夫ですよ」

「大丈夫なわけがあるか!」

 

横槍を刺すように磯風が声を荒げ、それに驚く三人。

 

「大和、お前も辛いんだろう。涼月の事が」

「………」

 

その問いかけに彼女は黙り込む。

既に食べ終えた餡蜜の容器に、一滴、また一滴と涙が零れ落ちていく。

 

「だって、仕方ないじゃないですか」

 

「あの人は退路を断たれてもなお果敢に戦ったんですから」

 

「彼女が敵を引き付けてくれたお蔭で、この基地は無事だったんですから」

 

「だから……私達は、あの人の為にもいずれ発動されるAF作戦を、

 必ず成功させなければいけません」

 

そう言う大和の顔には未だに憂いの表情が潜んでいた。

それを見た磯風は立ち上がり、その場を去っていく。

 

「磯風さんどこ行くの?」

「野暮用だ」

 

 

Side 大鳳

 

 

私が勝手に動かなければ。私が私の実力を過信していなければ。

最新鋭の装甲空母という事を持て余していなければ。

私が私自身の慢心に気付いていれば。

 

雨が降る中、私は演習場で戦っていた。

ただひたすらに艦戦を飛ばし、標的である的をひたすらに撃ち抜く。

 

得物であるボウガンを強引に振り回し、カートリッジにある矢を発射して。

放たれた矢は炎を纏いて艦戦となって更に的を撃ち抜く。

目に映る標的が目障りで、全てを破壊してしまいたいと思う。

 

「………」

 

あの日、私はあの崖の上で磯風さんと涼月さんに出会った。

私からすれば短い自己紹介を交わしただけの関係に過ぎなかった。

私にとってはそれだけで、彼女がどういった存在なのかは知らなかった。

 

でも今なら解る。涼月さんがどれだけ偉大な人だったか。

私を助けに来てくれた時、殿を務めて私と磯風さんを守ってくれた。

駆逐艦でありながらも果敢に深海棲艦に立ち向かっていった彼女。

その結果彼女は意識不明の重体に陥ったがトラックの被害が軽微に抑えられた。

 

でも、彼女はそうなってはいけない存在だった。

彼女はこうなるべき存在ではなかった。

何故私はあの時明石さんのいう事を聞いて待っていなかったのだろう。

そのままあの場所で大人しくしていれば、彼女はああなる事は無かったのだろう。

 

どれだけ空論を述べても変らない。

だから私は彼女の代わりに強くなる。彼女の代わりになれるように。

私は引き金を引く。強くなるために。敵を討つために。

 

不意に足音がして、無意識にその方向へボウガンを向け引き金を引く。

 

「精が出るな」

 

見知った艦娘。ボウガンは彼女の眉間へと向けられていて。

我に返って力を緩めるも、無意識と弾みの中にあるその指は止まらない。

 

カチリと空を切る引き金の音がその場に木霊した。

 

「……流石に肝が冷えるぞ」

 

朦朧としていた視界がはっきりして、しかと彼女を捉える。

そこに居たのはずぶ濡れの磯風さんだった。

 

「磯風さん! どうしてここに……それにどうしてずぶ濡れなんですか!」

「なに、私だって雨に濡れたい時もある」

 

その意味が良くは解らなかったけれど、それでは風邪をひいてしまう。

私が言える事ではなかったが、それでも気になってしまった。

 

「とりあえず、このままでは話も出来ない。ゆっくり風呂にでも入ろう」

「お風呂、ですか」

「ああ。爆撃の影響は少なかったからな。入渠施設はまだ残っている」

 

そう言って濡れた髪を翻す彼女の後を付いていくも、

初めて会った時とは違いその背中はとても小さなものに見えた。

 

 

 

温かいお湯が五臓六腑に沁み渡る。雨水で冷え切った体には丁度いい。

 

隣には頭にタオルを巻いて別人のようになった磯風さんが居る。

私はそもそも髪が短いのでそういうことをしなくてもいい。

今まで一人で入居は済ましてしたので、ある種新鮮な感覚を味わえた。

 

しかしあれだけ長い髪をうまく纏めてタオルの中にしまっているので、

磯風さんがいつもよりもはるかに小柄に、そして可愛らしく見えてしまう。

 

「私の髪が気になるのか?」

「あっ! いえ、そういうつもりではなくて」

 

いつの間にか凝視していたのだろうか。

磯風さんはこちらを向いて訊ねてくるも、私は首を横に振った。

 

「まぁ、私自身抜け毛であってもそのままの髪でも、

 湯船に髪が浮くのは好きではないからな」

「な、なるほど」

 

大雑把な性格なのかと思っていたが、意外とそういうことは気にするらしい。

私も一応もみあげが長いのでそこらへんは気にしたほうがいいのだろうか。

 

雨はまだ降り止んでいない。

呉の艦娘さん達が来ていたときはあんなにもいい天気だったのに、

涼月さんが意識を失ってからずっと雨続きだ。

 

私がもっと強くなれば、この雨雲を払う事ができるだろうか。

私が彼女の代わりに強くなれば、皆の心を晴らすことはできるだろうか。

 

「私が……もっと強ければ」

 

声が漏れる。自分の無力さ、不甲斐なさが露骨に表れている。

 

「悔やんでも、悲しんでも、結果が変わることは無い。

 過去に縛られるのは、よくないことだ」

 

磯風さんがそう答える。

それは彼女が薄情に見えて私は悲しみと怒りが少しだけあふれた。

 

「では、磯風さんは悲しくないんですか?

 大和さんも、舞風さんも、野分さんも、第五遊撃部隊の皆さんだって、

 あんなにも悲しんでいるのに、貴女は悲しくないというんですか!」

「悲しいに決まっているだろう!!」

 

彼女の一喝ともいえる声がドックに響き渡り、私はそれに驚き我に返る。

見ると彼女の瞳から涙があふれ、一筋の光となっていた。

磯風さんが泣いている。あんなにも強い人が、今ここで泣いている。

そして私と同じように後悔している。

 

「あの時私が殿を務めていれば、あの時私が涼月を無理矢理にでも連れていれば!

 あの時私が早く大和達を引き連れていれば!

 涼月はあんなことにならなかったかもしれない!」

 

涼月さんがあの出入口からの退去が不可能になった時、

彼女は真っ先に大和さん達の元へと駆けた。

そして彼女達を引き連れて真っ先に戦場に向かったのも彼女だ。

 

それでも救えなかった。守れなかった。

少し考えればわかる。この人が後悔していないわけがない。

 

「だが彼女が死の淵を彷徨っているという現実は変わらない。

 だから私達は進むしかないんだ。前にただひたすらに」

 

涙をぬぐった彼女の赤い瞳には、戸惑う私の顔が写っていた。




悲しみに暮れる者、自暴自棄になる者。
偉大な人は多くの物を残すが、それは良いものだけではない。
それだけ偉大ゆえに、人の心を惑わす存在にもなりえる。

というわけで涼月の居ない(厳密には生きてるけど)トラック泊地。
後は涼月が実質再起不能になっているので、全員の落ち込み具合は増させています。
Another思想なら完璧に死んでいた。
恐らくと言うか絶対に大和さんが一番精神的ダメージを受けてる。
執筆しててもその内部的な心情などは創造の範疇なので、
捉え方によっては色々変わりますし、明確な定義もしておりません。

今回の甘くない餡蜜ネタは、あの『少林サッカー』の一節より。
覚えてる人は俺と握手!(ぇ
真面目にWikiで調べましたが涙はそこまで汚い物ではない様子。
なおカロリーの話は本当です。磯風の時報ボイスを入れたかったのもあります。

大鳳も主人公ポジだと個人的に思ってます。
(フミカネ絵故に芳佳ポジになってるMMDがあったりする)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十八話『今を生ける英雄』

時間帯はまばらであれど、不定期更新とは一体……うごご。
投稿遅れて申し訳ないです。
「予約投稿? 知らない子ですね」
「早くしろー! 間に合わなくなっても知らんぞー!!」

アニメ第十話前半戦になります。
ここから原作とかなり離れていますので、そのあたりご注意して頂ければと思います。


Out side

 

 

所変ってこちらは夜の呉鎮守府。

第五遊撃部隊の旗艦である吹雪は提督室に提督と二人きりで居た。

長門は別室で陸奥と大淀と共に、大規模反攻作戦へ向けた図上演習を行っている。

 

「……そうか、あの涼月がか」

 

帰還後の戦果報告では隠蔽していたのだが、

せめて提督だけにでもと伝えに来ていたのだ。

何かの手違いかで提督の耳に入るといけない。

それに提督なら早々公表しないと思ったのだ。

 

「はい。すみません提督……でも」

「吹雪が気に病むことではない。寧ろ轟沈が一人も無く、トラック島の損害は軽微。

 寧ろよくやってくれたと言いたいところだ」

 

「ただ、賢明な判断だ。こんな時にその事態を公表すれば混乱は免れない」

「ありがとうございます」

 

涼月が意識不明の重体である事を知っているのは第五遊撃部隊の皆のみ。

その影響が特に大きかったのは何を隠そう吹雪自身であった。

 

「とにかく今日はもう遅い。近々MI作戦が発令されるだろう」

「MI……?」

「ああ。本部が特定した敵棲地の名前だ。その攻略作戦だからMI作戦、とのことだ」

「なるほど……」

「さぁ、明日も早いからもう寝たほうがいい」

「解りました。失礼します」

 

敬礼をして吹雪は提督室を出ていき、提督室では一人提督が残される。

一服しようと煙草を手に取り、火を付けようとしたところでやめた。

 

『生憎、煙草を吸う人に興味ありません』

 

涼月にそう言われたのもあるが、最近の吹雪が涼月に似てきたというのもある。

いずれ共に同じ道を歩むことになるかもしれない艦娘。

そうなる前に嫌われては元も子もない。

 

「別の一服をするとしよう」

 

提督は戻ってくるであろう長門の為に書置きをして、提督室を後にした。

 

 

Side 提督

 

 

一人提督が向かった場所。そこは小さなお店。

提灯がほんのりと夜の闇を赤く照らしていた。

引き戸がカラカラを音を立てる。

 

「いらっしゃい。あら、提督。ご無沙汰しています」

「ご無沙汰しているのはこっちの方ですよ。鳳翔さん」

 

落ち着いた雰囲気の店内と、柔らかな笑みを返す鳳翔さん。

居酒屋鳳翔、ここに来るのも久しぶりだ。

鎮守府正面海域を突破するまで忙しく、突破できたと思えば、

他の鎮守府との共同作戦が実行に移り航空戦力が充実している呉故に、

こちらの機動部隊が駆り出され再び激務に追われる。

 

前ここに来たのはここに着任して安定した頃ぐらいか。

着任後の荷物が詰まったダンボールがようやく片付いた時ぐらいか。

良くは覚えていないが、この店の雰囲気に随分癒されたのを覚えている。

 

「「提督、お疲れ様です」」

 

店の角、二人の女性がそこに居た。

我が鎮守府を誇る航空部隊の主力艦、赤城と加賀である。

彼女は珍しくも日本酒と突き出し、それに少量の小料理だけであった。

赤城は数本の焼き鳥。加賀はだし巻き卵。

 

「二人にしては少食だな」

「このお店と食堂では流石に住み分けてますよ」

「……そもそも、鳳翔さんのお店ですし」

 

確かにここは甘味所間宮と違い、多種にわたる料理を小出しする。

それもまたこの店の味となっていて、非常に良い雰囲気を作っていた。

因みに下戸でも通えるように清涼飲料も揃えてあるが、

基本的には一見の客や駆逐艦を始めとした子達はお断りとなっている。

それ故、鳳翔さんの後輩でもある赤城を始めとする空母がこぞって集まっているのだ。

 

席に座って日本酒を注文し、突き出しを出してもらう。

今日の突き出しはイカの塩辛、オクラと鰹節の和え物、冷奴だ。

 

「そう言えば鳳翔さんが仰っていましたよ。このお店に涼月さんがいらしたとか」

「涼月が……」

「勿論翔鶴さんとでしたよ」

 

一見で駆逐艦である彼女が此処に入るというのはかなり不可解な事ではあるのだが、

第一機動部隊で共に居た翔鶴が連れてきたのなら納得だ。

ただ鳳翔さんも良く認めた物だと思う。

 

「鳳翔さんが駆逐艦である涼月を認めるなんて珍しいですね」

「涼月さんの事は、瑞鶴さんや二航戦、翔鶴さんからも聴いていましたから、

 一度お会いしてみたかったのもありますね。

 それにあの時は非常に落ち込んでいましたが、直ぐに立ち直りましたよ」

「若い内は傷の治りも早い。今のうちに上手い転び方を覚えておけ、ですか」

「その通りです。赤城達もそうやって育っていきましたから」

「鳳翔さん……昔の話はちょっと……」

 

少しだけ顔を紅く染めている加賀。酔いによるものではなく恥ずかしいのだろう。

 

「しかし、鳳翔さんの『正射必中』の教えは本当に助けになりました」

 

赤城が思いついたように話題を切り替える。

『正射必中』。正しい姿勢て矢をいればおのずと矢は当たる。

弓道や空母道に通ずる言葉だが、決して一般的な言葉ではない。

 

「『正しい姿勢も日々の努力で身に付くもの。つまり努力すれば体が自然と形を成し、

 形を成した努力は必ず良い結果へと導いてくれる』。ですね」

「なるほど、鳳翔さんらしい教えですね」

 

正しい姿勢も、生まれながらにして出来る物ではない。

教わり自ら鍛練を重ねて初めて身に付くもの。

『努力に憾み勿かりしか』という言葉を兼ねた、良い教えだ。

 

「赤城も加賀も、昔は良く弱音を上げていたんですよ」

「あの二人が……」

「鳳翔さん!」「………」

 

赤城が耐えられなくなって声を上げて、加賀においては目線をそらした。

昔話はあまり好きではないらしい。個人的には興味のある話だ。

 

「個人的には気になるな」

「そうですね。では少しだけ」

 

こうして、鳳翔さんによる赤城と加賀の昔話が始まった。

 

 

Out side

 

 

空母道場で鍛練を重ねる二人の少女。少女と言っても中学生程の身長であるが。

矢を放ち、炎を纏いて艦戦となるもその機銃は的を反れた。

二人が互いに矢を放つも、一向にその的を撃ち抜くことは出来ない。

 

「空母の演習は、簡単にはいきませんね」

「………」

 

そんな中一人の空母が音を上げ、隣に居た空母は何を言うでもなく静かに弓を置く。

二人が身に纏うのは白の上衣に赤の下衣の弓道着と白の上衣に蒼の下衣の弓道着。

それは幼いころの赤城と加賀。

 

そもそも二人は空母として建造されたわけではない。

彼女らの艤装は戦艦として建造予定だったのだが、

当初敵深海棲艦に空母型の種が多く確認され始めた事により、

艦娘による航空戦力の増強も必要となり、

そこで建造途中であったのをいいことに赤城と加賀は急遽変更されたのだ。

 

「……赤城さん、諦めては駄目」

「そういう加賀さんだって、弓置いてるじゃないですか」

「でも……今日は新しい人が来ますし……」

 

赤城は活発な少女であったが、加賀は対照的に無口で無愛想な少女である。

赤城がある一つの所に全力で頑張るタイプであれば、

加賀は日々の努力を積み重ねるタイプである。

 

そんな二人でもこの空母の訓練はその身に堪えていた。

空母への改装。そこには彼女達の意思は存在しない為、

その独特な訓練に戸惑い音を上げる事が多かった。

 

上層部も新たな航空戦力として二人には期待しているのだが、

そういった現状で一向に練度が上がらないのは悩みの種であった。

その為二人の元には特別な教官が送られるという話になったのだ。

 

二人は教官が来ることによって、より一層この訓練が厳しい物になると想定する。

そんな中考え出したのはそれまでに上手くなって、

その教官を見返してやろうという物だった。

そうなれば教官などいなくともやっていけるという証明になり、

何よりもその教官が証人になってくれると赤城が睨んだのだ。

 

その為に今彼女達は空母道場におり自主訓練を行っているのだが、

だがそんな急に上手くなるわけは無かった。

逆に訓練に対する不満が積もるばかりで、今は投げ出すまでに至る。

 

「……教官って、どんな人でしょうか」

「スパルタ教育、かもしれませんね」

 

加賀の思考を遮るように声を上げる赤城。

幼い二人でも上層部の頭が固いことは知っている。

自分達の意思も関係なしに空母に改装を決めた上層部から送られてくるのだから、

どうせ頭の固い厳しい人が来るのだと赤城は決めつけていた。

 

そんな中、空母道場の扉が開かれ誰かが入ってくる。

二人は教官の人が来たのかと思い勢いよく振り返った。

 

「航空母艦、『鳳翔』です。不束者ですが、宜しくお願い致します」

 

しかしそこに居たのは温かな雰囲気を醸し出す、一人の女性。

 

「……お母さん?」

 

赤城がその雰囲気から感じ取った物をそのまま口にする。

加賀も思わず同じ事を口にしようとしたが、赤城に先を言われてしまい口を噤んだ。

そのお母さんという言葉が、鳳翔という艦娘の雰囲気を正確に射ている。

 

「お母さん、ですか。確かに私達は艦載機達にとってお母さんの様な存在ですね」

「そ、そうそう!」

 

赤城の言葉をうまく取り入れながらも、深く追求しない鳳翔。

赤城自身はその助け舟に乗りながらも同意し、加賀も激しく首を縦に振る。

二人を見てにっこりとほほ笑む鳳翔は空を見上げた。

空では二人の放った艦戦達が上手く編隊を組めずに飛んでいる。

 

「お二人の名前を聞かせて頂けませんか?」

 

鳳翔は二人に再び視線を合わせ、優しく問いかける。

すると二人は緊張したように敬礼した。

 

「こ、航空母艦、赤城です!」

「こ、航空母艦、加賀です……」

 

なるほどと鳳翔は頷く。

これが二人の少女と、一人の航空母艦の出会いであった。

 

 

Side 提督

 

 

「今日の昔話はおしまいです」

 

そこまで話した鳳翔は顔を真っ赤にする一航戦の二人を見て話をやめる。

流石に二人が居る前で聞くというのも酷な物だっただろうか。

 

彼女もそうだが、誰しも自分の隠したい過去はあるもの。

それが彼女の訓練していた時期なのだろう。

私としても、初めてここに着任した頃の話はあまりしてほしくない。

 

「そういえば、『吹雪』さんは元気にしていますか?」

「吹雪は……そうだな、少し参っているよ」

 

鳳翔さんの言葉に加賀が反応する。彼女も第五遊撃部隊の一人だ。

となれば涼月の話は既に知っている。寧ろ目の当たりにしている。

 

鳳翔さんにも、新しく入って来た艦娘の話はその人脈を駆使して情報は入ってくる。

彼女が吹雪を知っていたも何らおかしい事ではない。

 

「参っている、ですか?」

 

私の言葉に反応する赤城。彼女はまだ涼月の事を知らない。

疑問に思うのも無理はない。彼女は先輩として吹雪の事を気にかけているからだ。

 

「赤城、加賀。またあのような事が起きない為にも、

 吹雪の為にも、彼女を鍛えてやってほしい」

 

頭を下げる。二人は頭を下げた私に驚いている様子であったが、私は構わない。

私は彼女の為に尽くしてきたと言っても過言ではない。

これでまでも、そして今も。だからこそこの二人に頼みたいのだ。

 

「提督、頭を上げてください」

 

赤城の言葉を聞いて頭を上げる。そこには私に対して微笑む三人の空母達が居た。

 

「吹雪さんは彼女自身を守る為の力も、身に着けて貰わなければいけませんから」

「そうですね。それが吹雪さんの為になりますから」

「皆、すまない。これも私の我儘だ」

 

加賀と鳳翔さんの言葉に感謝する。

 

「吹雪さんには、また私と同じ海に立ってもらう約束がありますから」

「……そうだな」

 

赤城の言葉に私は頷く。彼女にはまだまだやって貰わなければいけない事がある。

だから彼女には加賀の言うように、自分の身を守るだけの力を付けなければいけない。

それが結果として鳳翔さんの言うように、吹雪の為になる。

そして赤城の言った、また同じ海に立つ為に。

 

「そこで、吹雪が強くなった暁には渡してやってほしい装備があるんだ」

「装備、ですか?」

「ああ。正規空母である二人も良く知っているあの主砲をな」

 

これを持つという意味は、彼女にとって特に大きな物になるだろう。

その見本となってきた一人の艦娘がいるのだから。




と言うわけでまさかの提督回&回想でした。
アニメでは色々と作戦が先走りしていましたがこちらでは大分スローペースになっています。

ほとんどの人が察していたと思いますが、
この小説での『正射必中』は鳳翔さんによる教えです。(アニメでは恐らく赤城さんの自己解釈)

簡易的な自問自答コーナー

Q.居酒屋鳳翔って一見さんお断りのお店だけどどうしたら入れるの?
A.一見さんお断り、つまり初めて見るようなお客さんはお断り、というお店は、
 所謂顔パス状態です。その店と『ご縁』を持つ感じになります。
 で、初めての人が入る為にはその店に通う人と一緒に行く必要があります。
 店側としては『この人が連れてきた人だから大丈夫』というような認識になります。
 無論連れてきた人に何かあった場合その人に全ての責任等が降りかかるのでご注意を。
 つまり、常連であった翔鶴に連れてこられたからこそ、
 涼月は居酒屋鳳翔に入る事が出来たわけです。

Q.提督は良く利用しているの?
A.一服の一つの選択肢にあるぐらいなので、割と利用しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十九話『もう一回』

更新が遅れ続ける悲劇。

転がり続ける少女の努力。
第十話の後半戦になります。

果たして吹雪は改二に成れるのか。


Side 吹雪

 

 

私が提督に涼月さんの事を伝えた翌日。

 

私は今、今朝の走り込みをしている。

次の作戦がどれだけ大規模な物になるかは解らない。

それでも私は赤城先輩との約束を果たす為にも、今はいない涼月さんの為にも、

もっともっと強くならなければいけない。

 

『いつか来る大規模反攻作戦に私の随伴艦として、参加してもらえないかしら』

 

『貴女が成長できたのは、確かに私が居たからかもしれません。

 ですが忘れないでください。貴女は私を含めた皆が居たからこそそこまで成長できた。

 貴女の内にある本当の貴女が成長したいと望んだから、そこまで成長できたのです』

 

私は皆のお蔭で強くなった。ならその皆を守れるためにもっと強くなりたい。

私はそう望んでいる。だから私は強くなる。

 

「よーし、後一周!!」

 

私は更に気合をいれて、トレーニングに励むのだった。

 

 

///////////////////////

 

 

朝練を終えて食事を終えれば授業が始まる。

 

「おはよう睦月ちゃん、夕立ちゃん、如月ちゃん」

「「おはよう吹雪ちゃん」」「おはようー」

 

挨拶をするも皆あんまり元気がない。

ふと如月ちゃんの後ろの席、涼月ちゃんの席だったところには名札が倒してあった。

 

「なんだかまだ信じられないね。涼月ちゃんが居ないっていうの」

「ずっと一緒だったっぽいもんねー。私ももっともっと頑張らなきゃ!」

「まぁまぁ、それだけ涼月ちゃんが凄い駆逐艦だったってことよ」

 

思い思いの事を口にしている三人。

トラック島が空襲されたことは知っているし、損害は軽微という事は知っている。

でも、涼月さんがあんなことになったという事は言っていない。

知らない方が……いいこともあるから。

 

「吹雪ちゃん? 大丈夫?」

 

睦月ちゃんが顔を覗き込んで来る。

それに大丈夫とだけ言って私は自分の席に座った。

 

こっちに戻ってきてからは無線傍受を恐れて交信はあまりしていない。

だから向こうに何かあったとしても、一大事でない限りは連絡は来ない。

トラックに居る大和さん達も涼月さんの事は隠しているから、

涼月さんが今どうなっているのかは私も知らない。

 

ただ知っているのは、涼月さんが意識不明の重体に陥っているという事。

生死を彷徨っているという事。

頭、つまり脳までは入渠では治せないのでこればかりは医療に懸けるしかないと、

明石さんが真剣な口調で言っていたのを思い出す。

 

南西諸島海域の時はあれだけの重傷だったけれど頭は何とか大丈夫だったそうで、

傷を塞いでからの入渠ですぐに復帰できた。

でも今回は違う。今回は頭がやられてしまったからどうしようもない。

一応医療に詳しい妖精さんが居る為何とかなるかもしれないけど、

呉みたいに本土と陸続きではない為、お医者さんを連れていくことも出来ない。

 

「さぁ授業始めるわよー」

 

教官である足柄さんが入ってきて、私は現実に引き戻されるのだった。

 

「と、その前に。長門秘書艦からの放送があるから聞いて頂戴」

 

授業が始まると思いきや、長門秘書艦からの放送があるらしい。

何だろうと思っていると、短くブザーが鳴った。

 

『秘書艦の長門だ。皆そのままで聞いてほしい』

 

いつになく真剣な口調だ。何か大きな事が起こるのだろう。

不意に昨日の夜提督が言っていたことを思い出す。

 

『とにかく今日はもう遅い。近々MI作戦が発令されるだろう』

 

つまりこの放送は。

 

『近々予定されていた大規模反攻作戦だが、本部の調査により敵棲地はMIと断定された。

 これにより大規模反攻作戦は、MI作戦と名称を変更する』

 

その名前を聞いて皆がざわつき始める。

やっぱり、ついにその作戦が発令されるんだ……

 

『まだ編制は固まっていないが、この作戦の発令は明後日となる。

 急な話で済まないと思っている。編制の発表は明日行う。

 皆は五省の元万全を整え、備えていてほしい。以上だ』

 

大本営の人達も焦っているんだろうか。

トラック島が空襲され敵艦隊を殲滅してから、

そこまでとは言っても時間が経っていることに。

 

 

////////////////////////

 

 

一日の授業が終わる。でも、何をやったかはまるで頭に入っていなかった。

 

「吹雪ちゃん、本当にどうしたの?」

「トラックから戻ってきてからずっとこんな調子っぽいよ?」

「もしかしてトラックで何かあったのかしら……」

 

三人が思い思いの言葉で心配してくれるけど私は大丈夫の一点張りを通し続けて、

授業終わりのトレーニングに向かった。

 

夕焼けに染まる鎮守府をランニング。

朝と違ってほんのりと赤く染まっている光景は新しくて、新鮮な気持ちになった。

落ち込んだ私の心を少しだけ明るくする。

 

港まで走っていくと三機の艦載機が編隊を組んで空を飛んでいるのが見えた。

胴体帯は赤一本。赤城先輩の艦載機。

私はその光景を見てこの鎮守府に来た時の事を思い出す。

 

あの時はこの鎮守府に赤城先輩達一航戦の二人が居るとは思いにもよらなかった。

睦月ちゃんと夕立ちゃんとでこっそりと演習する様子を見に行って、

結局は加賀さんに見つかって、睦月ちゃん達と逃げようとしたけど松の枝にぶつかって、

その時赤城先輩に私の名前を呼ばれた。そして言ってくれたんだ。

 

『いつか、同じ艦隊で戦いましょう』

 

だから頑張ろうって思った。でも、現実は違う。

あの時私は鎮守府正面海域の攻略作戦で、いままで全く海に出ていないのもあって、

まともに航行することすらできなかった。

それだけじゃない。私は戦うのが怖かった。至近弾ですら怯えてしまうぐらいに。

そんなおっかなびっくり戦う私だからこそ、あの時深海棲艦は私を狙ったんだ。

孤立したところを狙われて私は負けじと撃ちはするも、

タイミング悪く飛び上がったものだから当たらない。

私はその時本当に轟沈するんじゃないかって思った。

 

そんな時私を助けてくれたのが、ポニーテールをした黒髪の艦娘。

背が高くて、艤装も大きくて、一瞬軽巡洋艦の艦娘かなと思ったけど、

その手にあったのは私の主砲によく似た小口径の主砲。私と同じ駆逐艦の艦娘。

その人が涼月さんだった。

そしてまだ一矢報おうとした深海棲艦に止めを差したのは赤城先輩の艦載機。

二人に救われて、私は生き延びる事が出来た。

 

だからもっと頑張ろうって思った。涼月さんと赤城さんみたいに戦えたらって思って。

それでも私が無力なのは変わりなくて、私は悲しかった。

今の自分じゃ絶対に届かない。あの二人と同じ海に立つわけがないって思った。

 

そんな時、司令官が声を掛けてくれたんだ。

 

 

**********

 

 

鎮守府の一角の崖の上。

私は一人で西の水平線に沈む夕日を眺めていた。

そんな中で一人の足音がして不意に振り返る。

 

「し、司令官!?」

「奇遇だな、こんなところで会うなんて」

 

司令官は肩で息をしている。それを必死に隠そうとしていたけど、私には解った。

司令官は私を探しに来てくれたんだ。

誰かが落ち込んでいるのを知って司令官に言ってくれたんだ。

 

そこまで必死な司令官に、私は疑問を覚えた。

航行すらままならない私を第三水雷戦隊に配属して、出撃させたんだろうか。

どうして私に、『問題ない、出来る』って言ってくれたのだろうか。

どうして司令官は、こんな戦えない私をこんな激戦区である呉に呼んだのだろうか。

 

「どうして、司令官は私をここに呼んだんですか?」

 

だから私は司令官に尋ねた。尋ねないわけがなかった。

すると司令官は何かを考えている。そんな中絞り出されるように言った言葉。

 

「……そうだな、夢で見たと言えばいいか」

「夢?」

 

夢……司令官の夢?

 

「特にこれと言った意味はない。ただ夢の中で見た吹雪に、何かを感じたんだ」

「……司令官も、結構オカルト的な事を信じるんですね」

「まぁ、そう思ってもらえるとありがたいかな」

 

あまりにも些細な理由。でも提督にとっては確かな理由なのかもしれない。

 

「今は解らないかもしれない。ただ、解らないならここから再び始めればいい。

 だから私は、ここで再び吹雪と始めようと思うんだ。

 前の鎮守府では出来なかったこと一つ一つを、ここで始めればいい」

 

私の隣にまで移動してきて、司令官は夕日を見つめる。

大きな掌が伸びて来て思わず怯んだ。しかしその掌は私の頭を包み込み優しく撫でる。

 

「だから吹雪も始めてみようとは思わないか。ここから再び、な」

「司令官……」

 

ほのぼのと黄昏る司令官の横顔は少しだけお父さんの様にも見えて、

私は自然と悲しみが消えていくのが解った。

だから私は、感謝とこれから始めて行く為にもこう口にした。

 

「ありがとうございます。もっと頑張りますね!」

 

 

**********

 

 

いつの間にか思い出に浸っていて、足が止まっていた。

 

そんな私を支えてくれる人が居たから、私はここまで来る事が出来た。

だから私はもっと強くならなければいけない。

もっともっと強くなって、もっともっと多くの人を守る為に。

 

「吹雪さん? どうかされましたか?」

 

声を掛けられて顔を上げる。そこには赤城先輩は心配そうに私を見つめていた。

 

「あ、赤城先輩!? お疲れ様です!」

「お疲れ様、今日もトレーニング?」

「は、はい! もっともっと強くなって、皆を守りたいんです!」

 

それを聞いて驚く赤城先輩。私は何か変な事を言ったのだろうか。

少し不安になっていると赤城先輩はいつもの笑顔に戻る。

 

「良い心がけですね。では、そのお手伝いをさせて頂けませんか?」

「赤城先輩が、ですか?」

「ええ。付いてきてくれるかしら」

「はい!」

 

二つ返事で返したのはいいけれど、一体何をするのだろうか。

そもそも艦種の違う私と赤城先輩で、何か赤城さんが手伝えることがあるのだろうか。

でも『正射必中』を教えてくれたのは紛れも無い赤城先輩。

考えあってこその行動なのだろうと予想して私は後を付いていく。

 

 

 

艤装を装備して演習場まで案内されると、そこで一人の良く知った女性が待っていた。

 

「加賀さん!」

 

同じ部隊、同じ部屋の正規空母。加賀さん。

加賀さんが待っていたという事は『一航戦』の二人が私のお手伝いを……?

 

「赤城さん、連れて来たのね」

「ええ。丁度良かったわ」

「あの、お二人とも何を始めるんですか?」

 

『一航戦』である二人からの直々のお手伝い。

それは私からすれば何が始まるのか解らない。

私の為にとは言っても少々大げさすぎる気もした。

 

赤城さんは加賀さんの隣で私と向き直り、二人の視線が私に集まる。

 

「吹雪さんには、これから防空射撃演習を行ってもらいます」

「防空射撃演習……?」

 

聞いたことのない名前だ。利根さんのする演習のメニューにもそんな名前は無い。

 

「涼月さんが以前この鎮守府でやっていたことよ」

「涼月さんが!?」

「この演習は対空射撃に対する練度を上げる為の演習です。

 それ故に涼月さんも非常に熱心に行っていたと聞きましたよ」

 

そう言えば涼月さんが二航戦の飛龍と言う人に誘われているのを見た。

あの時はどうしてか解らなかったけど、今なら解る。

涼月さんは対空射撃の練度を上げる為に、二航戦の人達と防空射撃演習を行っていたんだ。

 

加賀さんがMO作戦の直前で大破して翔鶴さんを移してくれたときも、

欠けた航空戦力を二航戦の二人に頼んでみると言っていたのも、

その防空射撃演習で涼月さんが培っていたからなのかもしれない

 

「吹雪さん。貴女に涼月さんの様に成れとは言いません。

 ですがこの先、W島の攻略に失敗した時の様に対空戦闘を強いられることもあります。

 だからこそ貴女は、貴女を守るだけの力を付けてほしい」

 

真剣な赤城さんの瞳が私を捉えて離さない。

私自身も離そうとは思わないけれど、その覚悟は言葉では表現できない物だった。

 

私が、私を守るだけの力。私にはその言葉の本当の意味が解らない。

きっと何かのカギになるだろうという言葉だけれど、皆目見当もつかない。

でも、解らないなら解らないなりに始めればいい。ここから、また。

 

「解りました。駆逐艦『吹雪』、頑張ります!」

 

そしてあの時約束した、赤城さんと同じ場所に堂々と立てるように。

私は、力強く頷いた。

 

 

 

必死になって食らいついても離される。

W島攻略作戦に失敗して、その時対空戦闘を行った時の比じゃない。

それよりももっともっと速くて、攻撃の合間をぬった正確な機銃掃射や爆撃が襲い掛かる。

 

まるでこちらに体当たりしてくるんじゃないかとまでに近付いての爆撃に、

私はあの時みたいに怯えてしまっていた。

 

「その程度で怯えていては駄目よ。もう一度!」

「はい!」

 

半分自暴自棄になっているのかもしれない。

それでも私は強くなりたい。皆の為に。

 

放たれた艦戦を狙い撃ち、迎撃。機銃の攻撃を小刻みに乙字運動でかわす。

しかしその旋回するタイミングで背後からの機銃掃射が私に当たる。

 

輪形陣なら私の背中を皆が守ってくれる安心感があった。

でも今は違う。今は私だけ。孤軍奮闘。これだとどこから狙われるかは解らない。

背後だってそうだし、右舷左舷どちらからも攻撃される可能性がある。

 

「もう一回お願いします!」

 

一度でも被弾すればやり直し。

一度の被弾はこちらの隙を晒してしまう事になり、そのまま追撃に移行されてしまう。

それが爆撃だろうが機銃だろうが関係はない。

 

再び赤城先輩と加賀さんが艦載機を発艦させる。艦爆が三機、艦戦が三機。

援護する為の直掩機は艦戦だという事は知っている。

MO作戦の時翔鶴さんと瑞鶴さんが発艦させた直掩機も艦戦だ。

 

それに艦戦は爆弾や魚雷を切り離す必要がないからすぐに攻撃に移る事が出来る。

 

こんな状況で、涼月さんはどうしたのだろうか。何を見たのだろうか。

いや、こんな状況なんて比じゃない。私は、私達はもっと絶望的な状況にあった。

その時涼月さんは、道を作ってくれた。私の為に。私達の為に。

 

纏わり付く艦戦を狙って砲撃。正確に狙えば当たる。全く当たらないわけじゃない。

今までだってそうだった。あと一息、そんな所だったんだ。

 

『『正しい姿勢も日々の努力で身に付くもの。つまり努力すれば体が自然と形を成し、

 形を成した努力は必ず良い結果へと導いてくれる』と』

 

『吹雪さんが自分でもう十分努力したと思うのなら、流れに身を任せてみてください。

 そうすれば自然と体が動いてくれるから』

 

『正射必中』。赤城先輩が教えてくれた事だ。

 

私は自分の感覚を信じて、今まで努力してきた私を信じて、引き金を引く。

それは周囲を飛び回っていた艦戦を叩き落とした。

 

上空から負けじと機銃が飛んでくるけど、避けられないわけではない。

それだけ狙いが正確なら、ちょっとだけの回避でも避けられる!

私はその場で股を開いて姿勢を低くし、頭を下げて機銃をかわす。

重心を低くして逆に姿勢が安定して狙いも安定する。

擦れ違いざまに残った艦戦を撃墜した。残りは艦爆だけ。

 

『だから吹雪も始めてみようとは思わないか。ここから再び、な』

 

「駄目だったら何度だって始めればいい! 私達は、ここに居るんだから!!」

 

単縦陣で急降下爆撃の体勢に入っている艦爆を、重心を落としたままの体勢で狙う。

先陣を切っている艦爆を打ち落とすと、後続の艦爆が既に爆弾を投下していた。

命中率が高いなら、偏差の計算が上手いんだ。なら予想外の行動をすればいい!

 

錨を持って後ろに思いっきり投げつけ、そのまま旋回。

海底に錨が突き刺さり、そのまま体が引っ張られる。

だけどその錨を軸にして大きく回転。私の背後で大きな水柱が上がる。

そのまま回り、離脱しようとする艦爆の背後を取る。

 

「私が、皆を守るんだから!」

 

その声と共に放った砲弾は、正確にその艦載機を打ち貫いた。

 

「……私、やりました! 赤城先輩達のお蔭です!」

 

私は満面の笑顔で二人の方を向く。

すると体の奥から何か解らない力が湧き上がってくるのが感じられた。

 

「……上々ね。加賀さん」

「……ええ。やりました」

 

赤城先輩と加賀さんは、そんな私を見てにっこりとほほ笑むのだった




と言うわけでサブタイトルは某電子の歌姫の回転少女を若干意識。
史実をベースにした艦娘の坂を転がり続けながら消えていく艦娘のMAD無いかな。

そして涼月の今までやっていた努力を知る吹雪。何気に即興の外伝がフラグっぽかった。

今回は生きていれば何度だってやり直せる。というのがテーマになってたり。
提督の言葉でうまいのが思いつかなかった。(実は色々案があったけど全て没にした)
こういうパッとしない性格だからこそCV:三木眞一郎が似合うのではないかなーと。

そして吹雪の防空射撃演習。吹雪の分析は第八話の涼月の分析の正反対を意識しています。
何故反対なのかは後々解るかも。
後戦艦ドリフトならぬ駆逐艦ドリフト。艦娘なので軸回りの回転風味です。

吹雪を出撃・大破させなかった理由として、大本営によって棲地MIが定まっていたこと、
涼月の影響(特に第十二話)で無理をすることが無くなったという事です。
恐らく出撃していたとしても絶対に大破しなかった。

吹雪覚醒のフラグ系列に彼女のMVP台詞が使われいるのは意図的。

次回は第十話の終盤のお話と小話的なお話。あのお店が大活躍します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十話『南雲機動部隊』

第十話終盤と後日談。

サブタイトルがとんでもない事になってますが、
そこまで気を引き締めなくても大丈夫だと思います。

暫くは呉鎮守府視点が続きます。(本来の主人公が吹雪ですしお寿司)


Side 吹雪

 

 

私はそのまま二人に工廠まで連れて来られていた。

 

「あの、赤城先輩。加賀さん。これは一体……」

「「大規模改装ですよ」」

 

大規模改装。その言葉を聞いてハッとする。

夕立ちゃんがトラック泊地で大規模改装を受けた事。

涼月さんのあの時の装備が変わっていたこと。

 

信じられなかった。私はそこまで頑張っていたのかと。

私が大規模改装を受けていいのかと。

私は涼月さん程強くもない。夕立ちゃんみたいに頑張ったわけでもない。

ただ、皆を守りたいだけだった。

 

「おそらく貴女の言った言葉。その決意が、大規模改装への道を開いたのだと思います」

 

決意。私の意思……

 

『貴女の内にある本当の貴女が成長したいと望んだから、そこまで成長できたのです』

 

涼月さんの言葉を思い出す。

私が強くなりたいと上辺だけで願ったからじゃない。

本心からそう思い、決意したからこそ強くなれた。成長できたと。

あの言葉は、この事を見透かしていた言葉だったんだ。

 

「受け入れなさい。貴女の覚悟、その決意。それが貴女の力となるのだから」

 

加賀さんが強くそう言う。これが私の覚悟、私の決意。

 

未だに体の奥から溢れんとするこの力。

私は目を閉じる。この力は決して悪い物じゃない。元々私に有った本当の私。

それを受け入れて私は強くなる。そしてそれから始めるんだ。

本当の私として、ここから。皆を守る為に。

 

溢れんとしたその力はその気持ちに応える様に、私の体を包み込んでいく。

心地いい。初めて入渠した時なんか比じゃないくらいに。

温かいけどその中に確かに強い力を感じる。

 

受け入れて目を見開く。

私を包み込んでいた力はしっかりと体に馴染んで、

生まれ変わったみたいな清々しい気分が全身を駆け抜ける。

 

「体の方に変化はないようね。じゃあ吹雪さんが改二になった時の装備を持ってくるわ」

「では私は提督を呼びに行ってきます」

 

赤城さんは工廠の奥へ、加賀さんは走って工廠から出ていく。

私は近くに有った大きな鏡に自分を映してみていた。

至ってどこにも変化がない。

夕立ちゃんみたいに髪型や目の色が変わったわけじゃないし、

胸も大きくなったわけじゃない。

 

「(羨ましかったんだけどなぁ……)」

 

しょんぼりしていると、赤城さんが戻ってきた。

 

「はい、吹雪さん」

 

そう言って渡されたのは私の艤装。特に変化らしい変化はない。

 

「これだけ、ですか?」

「装備は提督が渡してほしいと言っていたのだけれど、

 この際だから提督から直々に渡してもらった方がいいと思って」

 

ちょっとだけ悪戯な笑みを浮かべる赤城さんを見て、私は首を傾げる。

 

「吹雪!!」

 

工廠の扉が勢いよく開かれて、白い服に身を包んだ男性が入ってくる。

間違いない、司令官だ。初めてあの場所で出会った時よりも息を荒げている。

それを見て思わず笑いがこぼれてしまう。

 

だって、この鎮守府で一番偉い人が私一人の事でここまで必死になっているんだ。

失礼かもしれないけど、申し訳なさや違和感を通り越して笑いがこぼれた。

人はどうしようもなくなった時笑うというけれど、本当かもしれない。

 

「赤城、それに加賀。本当にありがとう」

「いえ、私は私のするべきことをしただけです」

「提督……いえ、なんでもないわ」

 

二人に頭を下げる司令官もまたおかしくて、笑いがこぼれてしまう。

本当にまっすぐで、私達の事を思ってくれている人なんだなぁ、って思う。

 

「提督、そんなことよりも早く装備を渡してあげてください」

「渡していなかったのか?」

「赤城先輩が、折角だから提督から渡した方がって言ってくれたんです」

 

一本取られたとばかりに提督が笑う。

不思議な人だ。こんなにも感情的な司令官は見たことがない。

 

「そうだな。ではこれを」

 

工廠の奥から提督が取り出したのは、

12.7cm連装砲よりも砲身が少し長くて、口径が少しだけ小さい主砲。

 

「長10cm連装高角砲ですか!?」

 

長10cm連装高角砲。それは私も、誰しもが知っているであろう小口径の主砲。

あの涼月さんが最初からずっと使い続けていた物と同型の物だった。

でもちょっとだけ古いような、新品じゃないような気がした。

使い古されているような、そんな感じの光り方。

 

「涼月が近代化改修を受けた時、元々彼女の使っていた長10cm砲が不用になってな。

 明石に折り入って相談して、改修したものを譲ってもらったんだ」

 

つまり、この長10cm砲は涼月さんがこれまで多くの人を救ってきた物。

彼女の意思が染み付いた物。その装備を受け取る。

今まで使ってきた12.7cm砲と違った重み。

そして今まで涼月さんが使っていたという重み。

 

でも今の私ならその重みを受け止められる。私なら背負って行ける。

 

「この装備……これなら、もっと頑張れます!」

 

だから私は、ここに居る三人の期待に応えるのだった。

 

 

Side 赤城

 

 

吹雪さんの改装が終わり私と加賀さんは外に出る。

すっかり日は落ち込み蒼い月が夜空を照らしていた。

 

「赤城さん、まさかこれを見越して吹雪さんを護衛艦に?」

 

加賀さんが私に恐る恐る尋ねてくる。

その問いに対して私は首を横に振った。

 

「例え大規模改装が施されなくとも、私は吹雪さんを護衛艦にするつもりでしたよ」

「ですがそれでは……!」

「それでは彼女は私を守れない。ですか?」

 

見越した私の発言で加賀さんは口を噤み、静かに首を縦に振る。

彼女も解っているのだ。私が喪われるという怖さを。

 

私はこの今の地位に慢心しているわけではない。

ただ今の鎮守府の様子を見ると自ずと見えてくる。

以前そこに居た偉大なあの子はもうここには居ない。

一瞬にして築き上げた地位を捨て去ってまで、あの子は自らの意志を貫いた。

 

仲の良い者同士別れの言葉を交わしたが、

今まで当たり前にあった光景が失われるのは皆にとって少し寂しい物でもあった。

もう二度と会えないわけではないのに、この空気の変わり様。

だからこそもしも誰かが轟沈した場合、これよりもっと酷いことになるのは解っていた。

 

それは先人である私達も同じ事。でも私達は空母。

小回りが利くわけでもなければ、対艦同士の戦闘になれば一方的に敗北してしまう。

だからこそその私達を守る護衛艦も、しっかりと選んでほしいというのが加賀さんの思い。

決して安直ではなく、しっかりと選定してほしいのだ。

 

「加賀さんは不満でしたか?」

「……いえ。ただ私は赤城さんにもしもの事があったらと」

「私からすれば、加賀さんに吹雪さんを取られたらと少し不安だったんですよ?」

「そんなことは!」

 

顔を赤く染めて否定する加賀さん。昔から生真面目過ぎるのは変わっていない。

いつしか私を友以上に思ってくれる大切な人になっていた。

私はそんな加賀さんを見ていると、信頼の証として少しからかいたくなるのだ。

 

「少しお腹が空きましたね。鳳翔さんの所にでも行きましょうか」

「……はい」

 

 

 

甘味所間宮の後ろ。赤提灯がその店の雰囲気を出している。

引き戸がカラカラと音を立てて、私達を一風変わった場所へと誘う。

 

「いらっしゃい」

「お、赤城さんに加賀さん!」

「先にやってるよー」

 

そこでは蒼龍さんと飛龍さん、翔鶴さんと瑞鶴さんが居た。

 

「げっ……」

「五航戦……」

 

引き戸の音は自然と人の視線を集める。

それによって瑞鶴さんと加賀さんの視線が合った。その間を流れる不穏な空気。

突き出しを食べ勧めていた蒼龍さんと飛龍さんの箸が自然と止まっている。

翔鶴さんは止めるわけでもなく、その光景を微笑んで見ていた。

 

「加賀さん、瑞鶴さん。他のお客さんの事も考えてくださいね」

 

にっこりとほほ笑む鳳翔さんの背後から、

深海棲艦とは違った何か黒い覇気が立ち込めているのが見える。

私達には向けられていないが体が震えあがる。

それが直接向けられている二人は岩の様に固まっていた。

瑞鶴さんは半泣きになっている。

加賀さんに至っては何かが終わったと思っているのだろう。

 

鳳翔さんも変わっていない。私達の教官として訓練所に来た時から今に至るまで。

その優しい笑顔も、その怖さも。

このまま立っていては私にもこの覇気が向けられかねない。

私は加賀さんを引っ張って蒼龍さんと飛龍さんの傍に座る。

 

「ご注文は何にしますか?」

「冷や酒を二つお願いします」

「解りました」

 

冷や酒というのは燗酒、つまり熱するお酒とは違って温めないお酒の事だ。

季節は夏。だからと言って冷酒ばかり飲んでいては体に響く。

 

飛龍さんと翔鶴さん、瑞鶴さんも日本酒であったが一人だけ異形の光景が広がっていた。

蒼龍さんの前に置かれた、氷の詰まった鉄の小さなバケツに小さ目のボトルが差さっている。

ガラス製の支柱の様なものの先に付いているグラス部分に、赤黒い液体が注がれていた。

仄かな香りが漂ってくる。この香りは……ぶどう?

 

「蒼龍さん、それはなんですか?」

「ん? ワインですよー」

「ワイン……? ぶどうジュースとは違うのですか?」

「ジュースじゃないですよ! ブドウ酒っていう歴としたお酒なんです!」

 

蒼龍さんが冗談きついなーと笑っている。

基本私達は幼少期も訓練ばかりで、呉に配属されてからもこの鎮守府が広いから、

この鎮守府からでなくとも生活に困ることは無かった。

ただ、今露呈した問題があるとすれば、

この深海棲艦に関する情報以外が入ってこないという事。

それでも雑誌など外から取り寄せた物を読めばいいのだが、

あいにく私達はそう言うものにも縁がない。

そう言った娯楽に関する情報面では、蒼龍さんが一番詳しいのではないだろうか。

 

「本日の突き出しと冷や酒になります」

 

鳳翔さんがいつもの三品を出してくれる。

今日はポテトサラダ、キュウリの漬物、鮪の刺身だった。

 

「「乾杯」」

 

軽く乾杯を交わして、一口。

 

「鳳翔さん、だし巻き卵下さい!」

 

威勢よく頼むのは瑞鶴さん。その言葉に加賀さんの眉間がピクリと動く。

確かだし巻き卵は加賀さんがこの店に来ると必ず頼んでいるものだ。

食べる量を控える時であっても必ず頼む一品。

 

「瑞鶴ったら、ここに来たら絶対にだし巻き卵を頼むんですよ」

 

翔鶴さんがにこにこと私に話しかけてくる。

その言葉を聞いて更に眉間にしわを寄せる加賀さん。

 

「加賀さん、凄い形相になってるよ……」

 

異変に気付いたのか飛龍さんが口をこぼす。

蒼龍さん、飛龍さんは私と加賀さんでこのお店に紹介して何度か連れてきているので、

加賀さんが必ずだし巻き卵を頼むことは既に知っている。

そして当然加賀さんと瑞鶴さんの仲が悪いことも知っている。

 

五航戦の子達は二航戦の二人が紹介したんだろう。

そして一人で通えるようになり、翔鶴さんが涼月さんを連れて来た。

私も、吹雪さんを連れてこようか。彼女なら気に入ってくれるだろう。

 

「鳳翔さん……いつものをお願いします」

「ふふ、解りました」

 

加賀さんは何とか道を切り開いて、何とか突破した様だ。

いや、まだ突破したとは言えない。メニューが出て来てからが本番だ。

 

「あ、鳳翔さん。私は御造りをお願いします」

「はーい」

 

私も思わず流されて頼み損ねるところだった。

 

しかし、こんな大人数でこの居酒屋にやってきたことは無かった。

ここまで繁盛しているというのが目に見えて解る。

やっぱり鳳翔さんは凄い人だと再確認。

私もいつかこの人の様に、皆に慕われる存在になってみたいものだ。

 

「お待ちどおさま、瑞鶴さん」

「ありがとうございます!」

 

瑞鶴さんは本当に元気がいい。店員として雇えば活気のある店になるだろう。

でもこのお店には合わない様に思える。

だからと言って加賀さんがこの店で働けば、重苦しい空気になってしまうだろう。

翔鶴さんだと逆に至れり尽くせりで落ち着かないかもしれない。

蒼龍さんはこのお店で洋酒を飲む程にマイペースなので、この店の雰囲気を殺しかねない。

飛龍さんはマイペースでもあり威勢もいいので別の路線に走ってしまいそうだ。

私は……そもそも料理をする前に食べてしまいそうだ。この手の仕事は向かない。

 

だとすると、瑞鶴さんはお寿司屋さん、加賀さんは大人な喫茶店、

翔鶴さんは大衆食堂、蒼龍さんはお蕎麦屋さん、飛龍さんは鉄板焼きといった所か。

当然私はお客として……ですけど。

カレー大会でもそうだったけれど、私はつくづく料理の出来ない女と思う。

 

「加賀さん。出来ましたよ」

「ありがとうございます」

 

態々加賀さんの前に直接置いてくれる。嬉しい気遣いだ。

ただ、それだけでは隠しきれない。

 

「へぇ、加賀さんも私と同じの頼むんだ(私のと同じの頼んでんじゃないわよ!)」

 

瑞鶴さんが覗き込んで来る。ただしその口調はいつもの挑戦的な物ではない。

なによりも鳳翔さんの目があるからだ。

ただし、その視線が何かを言わんと火花を散らしている。

 

「ええ。ここのだし巻き卵はおいしいもの(貴女と一緒にしないでください)」

「そうよね! これならいくらでも行けちゃうわ!(それはこっちの台詞よ!)」

「そうですね。流石に気分が高揚します(この店では私の方が常連よ。黙っていなさい)」

「………(常連とか関係ないでしょ! どれだけこの味を解ってるかが真の客よ!)」

「お二人とも、いい加減にしないと今後入店禁止にしますよ?」

 

その異様な空気を即座に察知するのはやはり鳳翔さん。

心なしか入店した時よりも覇気が強い気がする。

二人は表情が凍り付いて、汗がダラダラと噴き出していた。

共に思う事は同じ。『終わった』と。

 

「鳳翔さん! 握りください!」

 

飛龍さんがその空気に耐えかねて注文する。

握りとはまた凄い所を行くんだなと思いつつ、

鳳翔さんが簡単に済ますことのできない料理を注文したあたり、

流石正規空母の判断力と言った所か。

 

「解りました。お任せでいいですか?」

「はい。鳳翔さんのお任せで!」

 

それに応じて鳳翔さんの覇気が消える。

握り寿司は人の手が絡む。つまり人の心の状態が味に直結するといえる。

そこまで見越した注文。流石は飛龍さんだ。同じ空母ながら天晴。

飛龍さんに目線で感謝しながらも、気にしないでと返された。

 

「赤城さんのあの時の話に比べたら、大したことないですよ」

「そうそう。でも驚いちゃったなぁ、急にあんなこと言い出すんだもん」

 

私のあの時の話。

トラック泊地で涼月さんと話し、舞風さんと野分さんに励まされ、

吹雪さんに心配をかけた後の話。

 

涼月さんが言ったように、私と舞風さん達の定めの軛が繋がっているのであれば、

私と加賀さん、蒼龍さんや飛龍さんにも繋がりがあると見たのだ。

 

それは案の定的中し、彼女達も見えないところで苦しんでいた。

私が雷撃処分を受けた後も、悲劇は続く事を知った。

加賀さんが敵の急降下爆撃爆撃によって大破。続いて蒼龍さん、そして私が大破する。

最後に残るのは飛龍さんで、敵空母を大破させるも後一歩のところでやられてしまう。

その作戦によって私達は結果的に雷撃処分などで轟沈。正規空母四人を喪う大敗退に終わる。

……私は、私達は、そんな悪夢に苦しんでいた。

だからこそ私はその恐ろしい結果を免れたいと思った。

あの時の私はそれを理解できず、ひたすらに抗い続けていた。

『定めの軛』が何なのか解らないのに、ただひたすらに。

 

『……それでもいいんです。私は『定めの軛』を悪い物とは思っていません』

 

『『定めの軛』を受け入れた、強い人を知っていますから』

 

涼月さんが言っていたのは、こういう事なのかもしれない。

『定めの軛』を受け入れるとは、こういう事なのかもしれない。

逃げるわけでもなく、ひたすらに抗い続けるわけでもなく、面と向かって向き合い、

理解し、受け入れて、初めて貫ける『定めの軛』。

 

大丈夫。私達なら越えられる。私達は『南雲機動部隊』なのだから。




改二システムの自己解釈。
吹雪はそこまで容姿が変わらないので、案外さっぱりしています。
まぁ、及ぼす物は色々と大きいんですけどね……

装備更新。吹雪改二の装備は以下の通りになります。

長10cm連装高角砲+高射装置(94式高射装置)・三連装酸素魚雷×2

ゲームと少し違うけど、アニメ次元ですから……
というわけで涼月の装備をそのまま受け継ぐ形になった吹雪。
第十二話でも使っていたけど、咄嗟の事ゆえに彼女もうまくその性能を理解していない。

Side赤城で赤城自身が涼月の現状を知らないという描写。
そして南雲機動部隊による宴会の様な何か。
蒼龍がワインを飲んでいるのは、ゲーム内のバーカウンターでワインが置かれるから。
海路が断たれてのにどうやって手に入れたんだというと、ぶっちゃけ国産ワイン。

赤城さんも加賀さんも結構戦闘特化型な気がするので、
そういう娯楽に関しての知識が薄いという独自設定を設けています。
アニメ第一話の睦月の台詞のちょっとした応用。
後加賀さんと瑞鶴で何気に共通点を持たせたかった。
鳳翔さんを怒らせると一航戦でも失禁するかもしれない。アイエエエ。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十一話『新月』

第十一話前半。部隊編成のお話です。

改二となった吹雪は、正式にMI攻略作戦の部隊に入る事が出来るのか。


Side 提督

 

 

明朝。

提督室では長門と陸奥と共にMI作戦の為の艦隊を最終確認していた。

 

「……私の決断ですべてが決まる、か」

「ええ。その通りです提督」

 

編制は大規模な連合艦隊。それも空母を主軸とした空母機動部隊であった。

ここまで空母を投入するというのにもしっかりとした理由がある。

トラック泊地を襲った敵機動部隊の殲滅。

特に新種と思われる隻眼のヲ級を始めとする、

精鋭機と思わしき機を搭載した敵空母を三隻も沈めたのが大きかった。

それにより大本営は敵の航空戦力は不足していると見て、

一気に制空権を確保、制圧するという戦術を取ったのだ。

 

「しかし安直すぎるとは思わないか」

 

私はその事に少しばかり懸念を抱いている。

 

「私はそうとは思いませんが……」

 

ここに涼月が居ればどういうだろうか。

元はと言えば彼女のお蔭でこの鎮守府は救われたといえる。

 

彼女自身も涼月に対しては感謝していた。

『彼女が居なければMO攻略の優先を具申し、我々が鎮守府に戻る事はなかったでしょう』と

ただし今回ばかりは彼女の読みも裏目になり、

トラック泊地空襲という悲劇を生んでしまった。

それでもMO攻略の準備中にあんなに狭い島で大規模な空襲に遭っては、

こちらの艦隊も無事では済まなかっただろう。

結局のところ、その面でも彼女に救われたことになる。

 

第一機動部隊旗艦を駆逐艦の身でありながら務め、

バシー島、オリョール海を一瞬にして制圧。

こちらの損害もその二つの海域を合わせてみても、赤城の中破のみに抑えた。

そのお蔭でこの鎮守府に不足していた高速修復材の輸送ルートを確保し潤った。

 

今後の彼女の活躍を見越して秘書艦に誘ってみたものの、

彼女は煙草が嫌いという理由で断られてしまった。

実際彼女には何か別の動機があるのだろうと思っていたが、

案の定大和の護衛艦になるという意志があったからだ。

 

だか彼女は意識不明の重体に陥った。

そこまで大成を上げた艦ゆえに、私としても大きな衝撃を与えた。

全ての艦娘は、入渠で時間をかけるか高速修復材を使えば即座に修復できると思っていた。

しかし、未だに謎の多い彼女達の全てを私は知らない。

 

最終編制案には、しっかりと彼女の名前が刻まれていた。

現在トラックだけでなく全域に到るまでの無線封鎖を徹底している。

その為彼女が今どういった状況なのかは私達が知る由もない。

 

話を戻して、確かに敵機動部隊は彼女らの手によって殲滅された。

敵精鋭機を満載した敵空母を二隻、新型空母ともいえる隻眼のヲ級を一隻。

これらが水底に沈んだのは事実。

 

しかし、それが敵空母が不足するという形には直結しない。

だからと言って空母を欠けば敵に制空権を奪われかねない。

ならばこの航空機動部隊の編制で寧ろ制圧ではなく制空権を取りに回った方がいい。

制空権の有り無しは特に戦況を左右する。

立体的な機動が行える攻撃機を組み合わせた艦隊戦は非常に有効。

だからこその鎮守府正面海域の制圧に成功したのだ。

 

だが私の中の不安は拭えない。

例えこちらが万全を期しても、全てがまるで盤面返しの様にひっくり返されかねないからだ。

涼月の判断力をもってしても打開できなかったあの状況を、どう打破するのか。

 

数回ノックされ、入室を許可する。入って来たのは赤城であった。

 

「航空母艦赤城です。提督にMI作戦の編制について、

 少し進言したいことがあり参りました」

「解った、聞こう」

 

赤城は歩を進め、私は彼女に最終編制案を書いた紙を見せる。

その編制案に彼女は顔を厳しくさせた。

 

「提督、長門秘書艦。この編制で行かれるのですか?」

「提督も私も今悩んでいる所だ。赤城からも何か良い案はないか」

 

彼女は鎮守府正面海域を解放する時、第一機動部隊の旗艦として活躍した。

戦場に多く立った者の視点から、何か解ることは無いだろうか。

 

「……吹雪さんを、私の護衛艦として編制するというのはどうでしょうか」

「吹雪をか」

 

彼女は第五艦隊の旗艦として多くの事を成してきた一人。

その彼女を配属しようというのだ。

 

「赤城、だが彼女は……」

「……なるほど、その手があったか」

 

彼女はその時の直感でMO作戦の奇襲部隊を発見しそれを撃滅、

翔鶴が中破しながらも空母一隻を大破まで追い込んだ。

 

更にそれだけに留まらず彼女はトラック泊地の空襲まで直感で察知し、

進路を変えて援護に向かい、トラック泊地の損害を更に抑えた。

言っては何だが、一駆逐艦の大破のみで済んだのだ。

 

「彼女は直感的でありながらも二つの敵の奇襲に対して大成を上げた。

 だからこそ、私は彼女の直感に信じたい。そう言う事か」

「はい。その通りです」

 

彼女はそう言った事をあまり信用しないタチだが、今は吹雪を信じている。

それこそこの様に自然に提案してきたが、元々そのつもりだったのだろう。

赤城自身が吹雪を護衛艦として傍に付けるという事を。

 

迷いのない赤城の目。

その目はあの時涼月が友人としての願いを私に言った時の様だった。

こうなっては誰が何と言おうが曲げられない。それは長門も知ったことであった。

 

「長門、吹雪を機動部隊に配備してくれ」

「提督も、オカルト的な事を好まれるんですね」

「良く言われる。が、人はどうしようもなくなった時神頼みをする。

 何らおかしい事ではないさ」

「……解りました。ではそのように」

 

そう言って長門は頭を下げて出ていく。

 

今回ばかりは絶対的な自信はない。隊から損耗を出すかもしれない。

それでも、私は私なりに出来る事をするだけ。

後は賭けるしかないのだ。彼女達『艦娘の可能性』に。

 

「提督、ありがとうございます」

「何、気にするな。以前そんな『お願い』をした艦娘が居てね」

「涼月さん、ですか?」

「ああ」

 

私はそう言って煙草を手にして火をつける。

 

「提督、御煙草は体に毒ですよ」

「量を控えればいいだけさ」

「……では、私は失礼しますね」

 

少しだけ顔をしかめた彼女は、早急に出ていった。

彼女も煙草は嫌いらしい。

 

そう言えばあの時もこういう状況だったなと、私は思い出にふけるのであった。

 

 

Side 吹雪

 

 

私は睦月ちゃんと夕立ちゃん、如月ちゃんと一緒に食堂に来ていた。

明日は大規模反攻作戦であるMI作戦の開始日。

その為授業は全てお休みになって、今日と言う日は万全に備えるための日になった。

 

「でもやっぱり吹雪ちゃんには敵わないわね」

 

口調が変わった夕立ちゃんが私を見てしみじみと口にする。

 

「そう? 私としては夕立ちゃんの方が凄いよ!」

「吹雪ちゃんの方が凄い!」

「まぁまぁ二人とも、言い合っても仕方ないよ。一緒にご飯食べよ?」

「そうよ。明日は大事な日なんだから」

 

睦月ちゃんと如月ちゃんに落ち着かされながらも、私達は食堂に着いた。

今日は朝から第六駆逐隊の子達のカレーライス。四人で同じ席に座って食べ始める。

 

「艦隊の編制発表って今日だよね?」

「うん。昨日長門秘書艦が放送で言ってたから間違いないよ」

 

明日は大切な作戦発動日。その編制発表が今日。

私は赤城先輩の護衛艦としてお願いされたけど、提督はどう思っているのだろうか。

もしかしたら外されているかもしれない。でも提督なら入れてくれているかもしれない。

でも長門秘書艦の進言で外されてたら……でもでも赤城先輩の進言で入ってるかも!

 

「吹雪ちゃん、大丈夫?」

「なんだか変態さんっぽい」

「吹雪ちゃん、逝っちゃったのかしら」

 

睦月ちゃん達のいたいけな視線を向けられる。

それに気付いて我に返りながらも、誤魔化すように大盛りのカレーを食べた。

 

あれ? これってこんなにおいしかったっけ……

あの時の大会で食べた時よりも何倍もおいしい気がする。

自然と匙が動くのが早くなり、あっという間になくなった。

おかわりは自由だから問題ないけど、何か隠し味でもあるのかな。

 

この鎮守府のカレーはあの大会で優勝したレシピが採用される。

そこから改変が加えられることは無いはず。

だからこそ、急激な味の向上は普通だと考えられない。

一晩寝かしたカレーはおいしいと聞いたことがあるけど、そこは良く解らない。

とにかくおかわりしてこよっと。

 

 

 

結局私は大盛りカレーを二回もおかわりして、最後の締めに一杯の牛乳を飲み干した。

 

「吹雪ちゃん、ほんとによく食べるわね~」

「これも大規模改装の賜物なのかな?」

「でも私はそこまで増えなかったし、個人差っぽい」

 

三人がそれぞれ口にしているけれど、私は気にならなかった。

これが大規模改装の結果なのだとしたら、赤城先輩と食堂で一緒に食事する時間が増える。

戦闘以外でもちょっとした楽しみが増えて、私は少し嬉しかった。

 

「でもやっぱり、大規模改装したんだし涼月ちゃんにも見せてあげたいよね」

「あ、うん……そうだね」

 

確かに涼月さんに見せてあげたいけど、それは叶わないのかもしれない。

今回の作戦に必ず入っているだろうけど、多分それは長門さんが知らないからで。

提督も多分言ってはいないだろう。

 

放送が始まる合図のサイレンが鳴り響く。

今の気持ちを振り払って放送に注意を向けた。

 

『秘書艦の長門だ。皆そのまま聞いてほしい。

 これから、明日決行されるMI作戦の編制を発表する。

 まず、作戦の要となる機動部隊からだ』

 

機動部隊……赤城さん達が入るであろう艦隊だ。私が入っているかは、解らない。

 

『正規空母『赤城』『加賀』『蒼龍』『飛龍』をはじめとした機動部隊に、

 護衛として戦艦『金剛』『比叡』、重巡『利根』『筑摩』、雷巡『北上』

 そして駆逐艦『夕立』、『吹雪』となる』

 

良かった。何とか入っていた。ほっとする私を見て三人が微笑んでいる。

 

「良かったね、吹雪ちゃん」

「赤城先輩の護衛艦、叶ったわね」

「おめでとう!」

「ありがとう、皆」

 

皆のお蔭で強くなれたし、私もそうなりたいと思えたのも皆のお蔭。

だから私は、その意味を込めてお礼を言う。

 

『そして今回は大規模な作戦である為、戦艦『榛名』『霧島』、雷巡『大井』、

 正規空母『翔鶴』『瑞鶴』と、

 トラック泊地から戦艦『大和』、駆逐艦『涼月』『磯風』『舞風』『野分』、

 装甲空母『大鳳』を含めた、連合艦隊が合流する形になる』

 

大和さんが出撃する。あれだけ海に出たがっていた大和さん。

そして、涼月さん。もしかしたら治っているのかもしれない。

いや、でも頭部の重傷……治っているとも思いずらい。

 

『他の艦娘は鎮守府に残って警備を頼む。以上だ』

 

それを持って放送は終了した。

 

 

/////////////////////

 

 

私は一人、港で夕日を眺めていた。

 

今日の発表で、私は夢であった赤城先輩の護衛艦になることが出来た。

この作戦で、私は私の夢が、涼月さんは涼月さんの夢が叶う筈だった。

 

『もし意識を取り戻しても、戦闘はおろか今までの様に生活することは難しいでしょう』

 

明石さんの言葉が胸に響く。

轟沈したわけでも喪ったわけでもない。

でも時間を掛ければ大丈夫と言うわけではない。

彼女がもし目を覚ましても一緒に戦う事は叶わない。

 

もう少し私が気付いていればと思ってしまう。

私がもっと早く気付いていれば、辿り着けていれば、あんなことには成らなかった筈。

 

『なので私がこうして努力できるのも、

 その人の護衛艦として彼女を守ると決めたからなのです』

 

そして何よりも今まで大和さんの護衛艦になる為に誰よりも努力していた涼月さんが、

こんな形で夢を断たれるとは思ってもみなかった。

護衛艦に相応しいのは、涼月さんのはずなのに。

 

「吹雪さん」

 

後ろから声を掛けられる。

私の後ろに立っていたのは、赤城先輩ではなく加賀さんだった。

 

「加賀さん」

「涼月さんのことを忘れろとは言わない。でも気にかけていても現実は変わらないわ」

 

加賀さんは私の横にまで歩を進める。

その視線は夕日を見つめていた。

 

「加賀さんは強いんですね。私なんかより、ずっと」

「慣れていますから」

 

彼女は苦笑しながらも、そう答える。

慣れているという事は、

涼月さん以外にもこんなことになった人を知っているということ。

私の知らないところで加賀さんも同じ経験があったのだ。

 

『その後の復帰も見込めない、と』

 

加賀さんがトラックで明石さんの代わりに放った言葉を思い出す。

あの時は何故知っているのか疑問に思ったけど、

以前同じようなことがあったのなら納得することができる。

 

「少し、昔話をしましょうか」

 

そう言って加賀さんは語りだした。

一人の空母の、昔話を。




トラウマ、不審、疑惑。
覚悟を決めたというのに、大きな存在が毒の様に思考を蝕み、苦しめる。
月を見る度思い出せ的な何か。
一度大きな絶望をした後に立ち直るのなら傷の癒えは速いのですが、
何か関連付けた出来事が起こるたび落ち込むといった所謂『トラウマ』状態は真面目に厄介です。

正直この話が一番難しかった。
改二は終わらせてるし、赤城さんは前回で色々終わらせてるし、
だからと言って外せない部分もあるし……でもその部分の大半全て終わってるし。
展開を早めた結果がこれである。
あ、後AL作戦は実行されません。はい。

加賀さんがあの時何故あんなことを言ったのか。その秘密が解るかも。
これから暫く加賀の回想になります。(と言っても2話分だけ)必要かというと割と必要。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十二話『天立つ城』

更新遅れてるでござる……
さて何のひねりも無いサブタイトル。
と言うわけでかなり過去のお話の始まり。


Out side

 

 

それは赤城と加賀が空母になる為の訓練を始めるよりも前の話。

 

「加賀型戦艦一番艦『加賀』です。貴方が私の提督なの?」

 

提督室で、巫女服の様な服に身を包んだ加賀が敬礼している。

髪は短髪でどこも結んでいない。まだその姿は幼く、外見で見れば中学生程度。

 

「ああ、君が噂の艦娘か。我が鎮守府は君を歓迎するよ」

 

白い軍服に身を包んだ貫禄のある一人の男性がゆっくりと口を開く。

それなりの歳のようで、ここに居るのも長いのだろうと加賀は予測する。

 

「早速で悪いが、君には現状を話しておきたい」

「現状、ですか」

「古の艦の記憶を持つ艦娘と言えど君の知識は一般人だ。

 これから戦う身として知っておかなければならないこともある」

 

突如出現した深海棲艦によって、

海路は完全に寸断され、輸出入が出来ない状況にあるとのこと。

それによって島国である日本は非常に切羽詰まった状況に置かれていた。

 

その深海棲艦に対して反攻作戦が実施されたものの、

人の様に小さく小回りが利く深海棲艦を沈めるのは容易ではなく、

こちら側の兵装がほとんど効果がない。

 

そんな中突如古の記憶を持った少女達が現れる。

自我が芽生えた時から与えられた名ではなく『古の艦の名』を名乗り、

深海棲艦と戦う事を宿命づけられた少女。

 

しかし艦娘という存在は、何もない平凡な日常から突如出現した様な存在であり、

そんな少女達が武器を装備し、深海棲艦に対して打撃を与えている事が確認された。

隠蔽しようにも深海棲艦と同じく日本だけに留まらず世界中でも確認されて居た為、

その存在は瞬く間に広がっており、その存在を知らぬ者はいなかった。

 

しかし艦娘に最も適した武器――艤装の開発に後れを取っていた日本は、

イギリスに艤装を発注し完成させるに到った。

イギリスが完成させたその艤装を装備しているのが、金剛型一番艦『金剛』。

その際技術者達をその建造に立ち会わせ、設計図と共に帰国することで、

晴れて日本は艤装の建造に取り掛かる事が出来、大きな戦力増強になった。

 

金剛に続いて、比叡、榛名、霧島といった戦艦型の艤装が開発されて行き、

その設計図や技術を流用することで日本は戦艦の建造に力を入れていた。

 

それによって艤装が装備できる艦娘の特定が急がれ、

見つけ次第海上自衛隊に保護されるようになった。

 

また艦娘として生を受けた者は皆顔が整っており、

『古の艦の名』によって社会的にも浮いた存在になってしまう為、

双方で何か問題を起こす前に保護をするという目的も存在した。

 

「以上だ。質問はあるか?」

「いえ。大丈夫です」

「では鎮守府の案内は手配してあるから、その者に他の事は聞くといい」

「解りました。失礼します」

 

加賀は敬礼をして提督室から出ていく。

彼女はある程度の事も彼女は把握していたが、

そこまでに考えられた収集だとは思ってもみなかった。

そこまで艦娘と言う存在がこの国にとって、重要な戦力という事も。

 

提督室から出た加賀は外で待っていた一人の艦娘と目が合う。

加賀の巫女服によく似た物であったが、下衣は赤色。

身長は同じぐらいで、肩ほどまで伸びた黒髪が特徴的だった。

 

「始めまして。天城型戦艦二番艦『赤城』です」

「こちらこそ。加賀型戦艦一番艦『加賀』です」

 

互いに敬礼を交わす。これが、赤城と加賀の出会いであった。

 

 

 

鎮守府を回り、赤城は最後に自室を案内する。

 

「ここが私達の自室です。個室じゃなくてごめんなさい」

「構いません。状況が状況ですから」

 

艦娘という存在は数が少なく、深海棲艦との戦闘に対する切り札となっていた。

その為鎮守府にはむしろ艦娘以外の自衛隊員や技術者が多く所属し、

部屋も個室と言うわけにはいかなかったのだ。

 

しかし海自に管理されているとはいえ、彼女達も一人の女性。

流石にプライベートまでは侵食されてはいない。

 

扉が開かれ、十二畳ほどの部屋に一人の艦娘が待っていた。

 

「天城姉さん、加賀さんを連れてきました」

「ふふふ、新しい子ね。いらっしゃい」

 

腰辺りまで伸びた長い黒髪と青いゴム留めされた長いサイドテールが特徴的な髪型。

身長は赤城達と変わらないが、口調は少し大人びている。

 

「あの、貴女は……」

「私は天城型戦艦一番艦『天城』。これからよろしくお願いしますね」

「宜しく、お願いします」

 

全てを包み込まんとするその優しい笑顔に戸惑う加賀。

一番艦として生まれたからか、それとも別の理由かは本人にも解らない。

 

 

////////////////////

 

 

加賀が配属されてから二か月もの歳月が経った。

 

天城、赤城、加賀の三人は戦艦として招集された艦娘であったが、

資源難によって艤装の建造には遅れが生じており、まだ完成してはいなかった。

 

それでも座学で戦艦としての知識を付ける事は必要となる。

弾着に関する計算や戦術など、覚えることは多かった。

着任して間々ない頃は加賀は置いて行かれる事も多かったが、

計算などが得意だったので日を重ねるごとに知識を付けていき、

いつしか成績が赤城を超える様になっていた。

しかし一方で勉強家であった天城を超えることは出来なかった。

 

「加賀さーん、勉強教えてよー」

「赤城さん、昨日勉強しようと言って、

 中々食堂から帰ってこなかったのは貴女の方ではありませんか」

「だって私達戦艦だよ? いっぱい食べなきゃ強くなれないわ」

 

赤城は物を食べるのが好きなのか、人よりも食事の量も時間も多く掛けていた。

それをこうやって『強くなる為』と纏められている為、加賀には口の出し様がなかった。

 

「赤城。確かに食事は大事だけれど、勉学を疎かにしては駄目よ」

「……はーい」

 

天城の発言に渋々返答する赤城。

天城は赤城とは対照的に小食であった。

ただゆっくりと食べるので要する時間は赤城とあまり変わらなかった。

 

「天城さんと赤城さんは、姉妹艦ですが似ていませんね」

「姉妹艦だからって似てるのは間違いだよ加賀さん」

「確かに全国から招集されている身からすれば、似ている方がおかしいとも言えるわね」

 

天城の言う通りだと加賀は口を噤む。艦娘の姉妹艦と言えど全国から招集された身。

赤の他人と何ら変わらない。しかし初めてあった気がしない。

それが艦娘の不思議なところであった。

 

今まで発見された艦娘も姿形は全く似つかぬ者達であったが、

一部の者達は一瞬にして打ち解け合い共に海で戦っているという。

その関係が『姉妹艦』として過去に建造された物だという事が解っていた。

 

「でも、私からすれば加賀も妹の様な存在よ」

 

天城はそう言って加賀の頭を撫でる。

彼女は最初こそ驚いたものの、その温かさに羞恥心が静かに抑えられたのか抵抗はしなかった。

 

『天城型戦艦一番艦娘『天城』及び二番艦娘『赤城』。加賀型戦艦一番艦娘『加賀』。

 以上三名は至急提督室まで出頭してください』

 

その温かさと心地よさを断ち切る様に放送が鳴り響く。

三人は何事かと提督室に早足で急いだ。

 

急ぎながらも礼は忘れない。

数回ノックして返事を待ち、名を名乗ってから提督室に入る。

そこにはいつも通り席に座った一人の提督が待っていた。

 

「三人ともご苦労。早速だが用件を話す」

 

間髪入れずに提督は口を開く。面倒事が嫌いな性格なのだろう。

 

「最近、新型の敵深海棲艦が確認された」

「新型、ですか」

 

その言葉に天城と加賀の視線がきつくなる。

一方の赤城は何が起きているのか解らない様子だった。

 

「その通りだ。その新型は艦載機を放つ空母型という報告が入っている」

「空母……!」

 

今まで深海棲艦は駆逐艦、雷巡、重巡、戦艦のみの構成であった。

その理由は謎ではあったがそれだけでも人類側の戦力は大きく削がれ、

制海権を失ったのは事実。

だが制空権は失われてはいなかった為内陸の被害は少なかった。

なので対空砲が届かない高度まで上げた航空機による空輸が主になっていた。

 

「なのでこちらも制空権奪回の為に空母を建造することにした、が。

 そこまでこの国に資源があるわけではない」

「ですが提督、空母を建造しなければ制空権の奪回はおろか、この国の存続にかかわります!」

 

最初から艦娘の艤装を開発すればよいというわけではない。

深海棲艦よりも艦娘の登場は遅く、

それ故に艦娘の艤装ではなくイージス艦などに搭載する対深海棲艦兵装が開発されていた。

それが結果として後に登場した艦娘の艤装建造の為の資源が枯渇してしまっていた。

 

しかし空母型の深海棲艦の出現は同時に制空権の喪失も意味しており、 

内陸間での空輸はともかく、島国である日本に対しては絶望的な状況であった。

その点を最も早く理解し、提督に進言したのは天城。

 

「……だからこそだ。単刀直入に言おう」

 

提督の眼光が二人の艦娘に向けられる。その先に居るのは天城と赤城。

 

「『天城』、『赤城』。お前達は改装空母になって貰いたい」

 

改装空母。元々空母出はない者を改装して空母にするという事。

戦艦としての艤装を空母に改装することで資源の消費を抑えようと言うものだった。

 

「そして『加賀』。お前は上層部の命令により『廃艦処分』となる」

 

その発言にその場に居た皆が息を呑む。

勿論最も驚いているのは加賀本人ではあるのだが。

 

「どうしてですか提督! 加賀さんが『廃艦処分』だなんて!」

 

真っ先に声を上げたのは赤城。

 

「これも苦渋の決断だ。加賀には悪いと思っている」

「じゃあどうして加賀さんも改装空母にしないんですか!」

「赤城」

 

熱くなる赤城の肩に手を置く天城。

彼女は黙って赤城の目を見ながら首を横に振った。

 

「提督。妹の無礼、申し訳ありません」

「いや、いいんだ。それより加賀自身には早急にこの鎮守府から出ていってもらいたい」

「……その理由を伺っても宜しいですか、提督」

「制空権を失った以上、重要拠点である鎮守府が狙われる可能性が高い。

 危険な場所に、これ以上一般人である君を巻き込みたくはない」

 

席を立ち、窓から空を眺める提督はそう言った。

艦娘である加賀は、廃艦と決まった瞬間から一般人と何ら変わらない存在となったのだ。

 

「加賀さんは一般人じゃない! 加賀さんは立派な艦娘です!」

「赤城!! ……すみません提督。失礼致します」

 

赤城の声を遮るように一喝を入れる天城は、頭を下げて提督室から出ていく。

それに続いて赤城が乱暴に頭を下げ出ていき、最後に加賀が付いていくように出ていくのであった。

 

 

 

「どうして止めるの天城姉さん! 加賀さん、このままだと本当に廃艦処分されるんだよ!?」

 

自室に着いた三人の内、赤城だけが頭に血を上らせていた。

一方の天城と加賀は怒るわけでもなく、落ち込むわけでもなくただ静かに座っている。

 

「なのに、どうしてそんな涼しい顔が出来るの……」

 

感情が高ぶり、ついには涙をこぼし始める赤城。

この二か月間三人はいつも一緒で、共に歩んでいた。

また艦娘として同じ海に出る事を待ち望んでもいた。

赤城はそれを誰よりも心待ちにしていたし、それ故に加賀の廃艦処分が気に入らなかったのだ。

 

「赤城、提督も最初に仰いました。そこまでこの国に資源があるわけではない、と」

「でも、でも改装空母がそんなに資源は使わないからこそ私達が……」

「加賀さんを廃艦処分にするのは、加賀さんの艤装を解体して私達の改装に充てる予定だからでしょう。

 ですからそこまでこの国は切羽詰まった状況だということです」

「だったら、私の方が成績悪いし加賀さんの方が空母向いてるって!」

「私達が天城型戦艦という姉妹艦だからでしょう。

 その方が、艦娘同士の関係による摩擦も少ないと上層部が判断したのでしょう」

「そんな……加賀さんはどうなんですか!」

 

赤城は埒が明かないと思って加賀に矛先を向ける。

廃艦処分になる加賀本人であれば、何か思う事があると思ったのだろう。

 

「私は命令に抗うことは出来ません。私達は艦娘であり兵器。上からの命令は絶対です」

「でも、でも!」

「……しかし、私の代わりに泣いてくれる人が居るというのは、悪くないですね」

 

加賀はそう言って苦笑いを浮かべる。

その笑顔を見て、赤城は加賀の腕の中に飛び込み声を荒げて泣くのだった。

 

 

/////////////////////////

 

 

巡洋戦艦から空母への改装は決して簡単な物ではなかった。

水上を駆ける脚部の艤装はそのまま流用できるのだが、

飛行甲板や艦載機となりえる矢の開発と、非常に多くの資源を使っていた。

天城や赤城の一部艤装は解体され、その開発資源に充てられている。

 

艦娘として生まれた彼女らにとって深海棲艦と互角に戦う事の出来る彼女らにとって、

廃艦は国民や自衛隊員からの受ける期待と、

自らの戦う意志を踏み躙られるのも同意であった。

 

荷物を纏め終わり、鎮守府で過ごす最後の夜。

皆が寝静まった頃に加賀は一人部屋を抜け出して港に居た。

 

「……私は、艦娘、なのに」

 

加賀の心を悔しさと名残惜しさが支配する。

艦娘と生まれ天城や赤城と共に深海棲艦と戦う事を決めていた加賀は、

表面に出さなかったものの、幾多の現実を突きつけられて意気消沈していた。

 

「加賀さん」

 

そんな時背後から声を掛けたのは天城であった。

 

「天城さん、寝ていたのでは……」

「可愛い私の妹が悩んでいるんだもの。放っておくなんて水臭い事しないわ」

 

横に並ぶ二人。空には小さな満月が夜の鎮守府を照らしている。

 

「私は加賀型戦艦としてこの鎮守府に呼ばれました。貴女は私の姉ではありません」

「でも、私からすれば加賀も妹の様な存在よ」

「ですが、それも明日になれば無くなります」

 

加賀の口からは、自分に突き付けられた幾多もの現実しか出てこない。

それは彼女がそれだけ心を現実に支配されているかを表していた。

 

「加賀」

 

天城の真剣な眼差しが加賀に向けられる。

別れの言葉を言うのだろうか。私を叱るのだろうか。

加賀はそんなことが頭に過り、失礼の無い様にその瞳を見つめた。

 

「……私にもしもの事があったら、赤城を宜しくお願いします」

「えっ」

 

しかしそれは予想とは違うもの。とても優しい目で加賀を見つめている。

あまりにも予想外だったことによって、今まで考えていた事が全て頭から抜ける加賀。

囚われていた現実も、彼女の口にするであろう言葉も、全て。

 

それだけ言いたかったのか、天城はそのまま立ち去って行ってしまう。

ただその後ろ姿は、その時の加賀にとってとても大きなものに見えたという。




天城型戦艦、天城。天城型戦艦、赤城。加賀型戦艦、加賀。

成績的には天城>加賀>赤城です。
恐らく幼少期であればそう言う感じになるのかなと。
そして世界的な何かが大きく見える。過去の話程世界を語るのに良い材料はない。

そして不吉な予感を臭わせながらも立ち去る天城。
その言葉の意味とは……待て次回!


P.S. 土佐さんの存在を完全に忘れている頃の執筆。
   出来る事なら出してあげたい……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十三話『存在を分かつ』

加賀の回想第二回。
大きなうねりもなく進む現実で、天城と赤城、加賀は何を見るのか。
そして大きな謀略の影が、獲物を食らわんと牙を砥ぐ。

いい加減にしないとあれなので予約投稿使用なのじゃ。



2018/07/06 サブタイトル被りによる変更修正。


Side 加賀

 

 

私が廃艦処分となって鎮守府を去る日。

私が起きた頃には天城と赤城の姿はなかった。

ただ机の上に置手紙があり、『工廠に行ってきます』とだけ書いてあった。

 

寝巻を脱いだ時、着るものに困ってしまった。

艦娘であればあの巫女服の様なものを着ればいいのだが、今の私は艦娘ではない。

厳密にいえば艦娘なのだが、戦うわけでもないのにあの服を着るというのはおかしい。

しかし替えがあるとはいえその服しかない為着るものに困ってしまうのだ。

 

艦娘と言うものはいささか不便だなと思いながらも、

これも最後だという事を噛み締めながら仕方なく巫女服の様な服に袖を通す。

 

その直後、鎮守府全体に警報が鳴り響く。

 

それは、空襲警報によるものだった。

そして間もなく鎮守府の所々から爆発音が聞こえてきた。

 

そんな荒業が出来るのは深海棲艦だけ。それも新型の空母による攻撃だ。

私はそんな中、工廠にいると置手紙を残した二人の事が不意に頭に過り、

工廠へと全力で走ったのだった。

 

 

 

悪い予感が当たったのか、深海棲艦の攻撃が的確だったからか、

工廠は既に爆撃によって一部が吹き飛び、それによって崩落している。

 

回りの自衛隊員達は既に退避を初めており、誰も救助しようとはしていない。

もしかしたら、天城と赤城は生き埋めになってしまったのかもしれない。

私の悪い予感は自分を駆り立て、瓦礫の山となった工廠へ駆け寄る。

 

「おい君! 何をやっている!」

 

怒声を飛ばしたのは退避する自衛隊員を誘導していた自衛隊員。

そんな声に構わず細い腕に力を込めて瓦礫をどけていた。

 

「おい! 何をやっていると聞いている!」

「この中に天城さんと赤城さんが居るかもしれないんです!!」

「二人は艦娘だ! そんなことで死にはしない!」

 

その言葉を聞いて、後ろから肩に手を伸ばそうとしていた自衛隊員を殴りつける。

 

「艦娘だから死なない?! 貴方は私達を何だと思ってるんですか!」

「だ、だがそうでなくとも今は逃げないと君も死ぬぞ!」

 

空では黒い物体が空を覆っている。恐らく深海棲艦の艦載機だろう。

対空砲やトマホークミサイルが飛び交っているが、撃墜できる気配は一向にない。

爆撃は先ほどより抑制されてはいたが、根本的な解決にはなっていなかった。

 

「だから早く君も逃げろ!」

「それが逃げる理由にはならない!」

 

私は必死で瓦礫を掘り進める。彼女にとってこの際どうでもよかったのだ。

廃艦となって艦娘でなくなるのであれば、ここで二人を助けて私は死のうとまで思った。

その分二人は生きて戦ってくれる。ならば最後ぐらい自分も戦おう。艦娘として。

そう思っていたのだ。

 

瓦礫で手が汚れても、指を切っても、腕が震えても、加賀は動かし続けた。

ただ必死に、二人を助けたい一心で。

 

加賀の鼓膜に響くのは敵の艦載機の駆動音、高射砲の発砲音。

そして投下された爆弾が空を切る音。その音が近い事に気付き、不意に空に目を向ける。

艦娘としての性質か空からこの場所に向かって、

一つの黒い塊が落ちてきているのを目で捉える。

避けられない。避ける気はない。ただ、この瓦礫の下には二人が居るかもしれない。

深海棲艦は、私の最後の一仕事すら果たせてくれないのか。

 

そう思い、無力さを思い知って目を閉じた。

 

「諦めるな!」

 

そんな声を掛けられ目を開ける。

目の前を一人の女性が遮り、その黒い塊を鷲掴みにした。

いや、女性と言うにはまだ若い。私達と同じほどだ。

 

首元まで伸ばした黒髪に露出の激しい白い衣服であったが、

大型の艤装を纏ったその背中から感じられる威厳は秤しえない。

 

「貴女は……」

「名乗る前に、一仕事させてもらおう」

 

大きく振りかぶり、野球投手の如きオーバースローで水平線の彼方に投げ飛ばす。

鷲掴みにしても爆発しなかったから不発弾だと思ったが、

とんでもない速度で投げられた爆弾は遠くの黒い物体に衝突し大爆発を起こした。

恐らくあの黒い物体は深海棲艦だろう。しかし空では艦載機がまだ残っている。

またいつ攻撃されてもおかしくはない。

 

「瑞雲とかって、どうかな? いける?」

 

そんな声と共に空に上がったのは水上機。だが性能が違い過ぎる。

あんなもので対空戦闘が出来るわけがない。

 

「航空戦艦の真の力、思い知れ!」

 

しかしその予想はいい意味で裏切られる。

別のもう一つの声がした時、その水上機を狙っていた艦載機を無数の弾丸が打ち貫き、

ロケット弾が直撃して爆発。

この連射力は機銃と連装墳進砲。一体どうやってそんな物を……

 

その方向に視線を送れば、二人の艦娘が大型の艤装を見に纏って砲火を空へと向けていた。

 

「彼女達を連れてきて良かった。対空防御は私だけではどうにもならんからな」

「……! そんなことよりも天城さん達が!」

「天城……天城型戦艦の天城か!」

 

その名を知っているのか、先ほど爆弾を投げ飛ばした女性が血相を変える。

私は先程までの事を手短に話す。

 

「なら、その二人がこの下に」

「ええ……」

「それなら私に任せろ!」

 

次の瞬間、その女性は人ではまるで動かせないような瓦礫を両手で持ち上げ除けていく。

これが艦娘の力と言うものなのだろうか。

しかも大型の工具と違って直接人の手である為、一つ一つ丁寧に片付ける事が出来るのも事実。

二人の対空防御を行ってくれている艦娘に心で感謝しながらも、私は瓦礫の山を崩していく。

 

 

 

それから三十分ほど経っただろうか。

敵艦載機も二人の艦娘によって全機撃墜され、空からの攻撃の心配がなくなった頃。

 

「! 居たぞ!」

 

その手伝っていた女性が声を上げる。

目にしたのは、天城さんが赤城さんを庇っていたという事。

下に居る赤城さんは気を失っていたもののそこまで傷は見当たらなかったが、

天城さんの背中には無数の傷があり、血を流している。

そんな状況だというのに、赤城さんに体重を掛けないように何とか踏ん張り、

その服は血と汗で染まっていた。

 

「加賀……さん」

「天城さん!」

 

絞り出すような彼女の声が耳に響き、私は思わずそこに駆け寄った。

その口からは内臓がやられたのか、血の筋が何本も出来ている。

それを必死に抑え込むように、しかし何かを伝える為に声を絞り出した。

 

「喋らないでください! 傷口が……」

「いいんです。……私は、そう長くは持ちません、よ」

「だったら猶更!」

「だから、こそ。加賀さん、に……伝えたい事が……ゴホッ」

 

何とか赤城さんを避ける様に血を吐き出す天城さん。

私は天城さんをそのまま赤城さんから何とか離して仰向けに寝かせた。

工廠が崩れたその瞬間から赤城さんの盾としてずっとこのままだったんだ。

彼女はおそらく、もう……

 

「……加賀、さん」

 

天城さんは髪を結っているゴムを渡して、私の目を見つめる。

なら、私は彼女の言葉を聞こう。

彼女の伝えたい事を、彼女の覚悟を、無駄にするわけにはいかない。

 

「私の、代わりに……赤城……を」

 

声がだんだんと遠くなる。天城さんの腕が伸び私の頬に触れる。

ああ、この人はこんなことになっても赤城さんの事を思っているんだ。

本当の妹の様に可愛がっていた彼女を、こんなにも。

 

「お願い……」

「はい! 必ず守って見せます! 艦娘として! 必ず!」

 

涙が頬を伝い天城さんの頬に落ちる。

 

「ああ、私は……幸せ者です」

 

天城さんが笑顔になって、私の頬の感触を確かめる様に撫でる。

その手は背中から伝っていた真っ赤な血で染まっていた。

ああ、駄目だ。彼女が逝ってしまう。

 

「こんな……素敵な、妹が……二人も……」

「天城さん……」

 

彼女が逝かない様に名前を呼びかける。

でも、それでも彼女の未練の無いその笑顔はとても綺麗で、思わず見とれそうになる。

 

「居る……の……だか、ら……」

 

そう言って天城さんは目を閉じ、私の頬を撫でていた手は崩れ落ちた。

そして彼女はこと切れたように動かなくなる。

 

「天城さん……天城さん!」

 

彼女は応えてくれない。その問いかけに応えてくれない。

答えて欲しい。名前を呼んでいるのに。

いつも私達を包み込んでくれるような温かさと、その笑顔で応えて欲しい。

 

「私は、まだ……貴女を……」

 

姉と呼んでいないのに。

私は悔しさを押さえつける様に自分の拳に力を込める。

そこには天城さんの髪留めが握られていた。

 

 

Side ???

 

 

「アーア、ツマンナイナァ」

 

ただただ、黒煙を上げる施設を見ていた。

私の隣にはさっきあの施設から飛んで来た爆弾によって爆発した、

軽空母だったものが浮かんでいる。

 

「出来レバ二隻位欲シカッタケド所詮ハ我楽多カー」

 

実験的に投入されたといえどこんなにもあっけなく倒されるとは思わなかった。

それも自分の投下したはずの爆弾を掴み投げ返されて航行不能になるなんて、

ここまで来ると本来のお土産のほかに滑稽な土産話が一個増えたようなもんだ。

 

「マァ、アッチモ頑張ッテルミタイダシ? 私ハ私ノヤル事スルダケダシ?」

 

向こうはこちらの存在に気付いていないらしい。

別にそれで構わない。私の目的はおおむね達成できたのだから。

 

 

Side 加賀

 

 

その日の夜、天城さんの葬式が簡易的ながらも行われた。

 

赤城さんは天城さんが亡くなったショックで部屋に閉じこもっている。

仕方のないことと言えば仕方のない事。しかし実の姉を亡くしたのも同意。

 

話によれば天城さんと赤城さんは空襲警報が鳴り響いた時、

工廠に居た全員を優先的に逃がしていたそうだ。

だがそれが逆に二人が逃げ遅れる原因となってしまい、あのような結果になった。

 

天城さんが死んだことによって、天城さんの改修される艤装は解体。

代わりに私が改装空母として戦力に組み込まれることになり、廃艦処分は無しとなった。

 

当たり前の様にあったあの人の居た日々はもう戻れない。

私は幸せだった。天城さんが居てくれたから。赤城さんが居てくれたから。

いつまでも、この傷は癒えることは無いだろう。

言えなかった言葉を伝えられる事は無いだろう。

 

天城さんはあの日の夜もう既にあの時からこの事を予見していたのだろうか。

天城さんは私達の事を考えていた。

私が提督から突き付けられた現実を、事細かに説明してくれたのも天城さんだ。

そうして私の理由なき廃艦に意味を持たせて少しでも緩和してくれようとしていたんだ。

 

彼女が私に見えたのは大きな背中。覚悟を背負ったものだ。

 

『……私にもしもの事があったら、赤城を宜しくお願いします』

 

あの日の天城さんの言葉。それがそのままの意味だとしたら……

託したんだ。あの覚悟は、託す覚悟。そして受け取った。あの時に。

でなければ私の言葉を聞いて、未練の無いあんな素敵な笑顔が出来るわけがない。

 

天城さんは私に想いを託して、私は受け取った。赤城さんの未来を。

自分の掌の中にはまだ天城さんの髪留めが残っている。

 

「……赤城さん。私は必ず守ってみせます」

 

私はその決意を忘れぬよう、自分の髪を結い海面に自分の顔を映す。

私の髪は天城さんよりもずっと短く、不格好な物であった。

でもそれでいい。これが私の覚悟なのだから。

 

 

 

部屋に戻ると赤城さんが部屋の隅で三角座りとしていた。

膝に顔をうずめて、決して泣き顔が見えない様に。

 

「赤城さん」

「……放っておいてください」

 

冷酷な口調で告げられる。こんな赤城さんを見たことがない。

 

「赤城さん」

「私が生き残る必要はなかったんです。天城姉さんが生き残ればよかったんです」

 

聞く耳を持たないのか、ぶつぶつと不吉なことを呟く。

 

「そうです。私があの時盾になっていれば天城姉さんは死なずに済んだ。

 私が死ねば、天城姉さんは死ななかった」

 

このままではいけない。

自分を責めて、自分で傷つき再起不能になってしまうだろう。

ただ泣くことも無く、絶望した表情を浮かべる赤城さんは、狂った笑顔を浮かべていた。

人はどうしようもなくなった時笑うという話を聞いたことがある。

つまり、そこまで彼女の精神は追い詰められていたという事。

 

「赤城さん!」

「……なんですか加賀さん。その髪型は。天城姉さんに対する侮辱ですか。

 ああ、そうでした。加賀さんには姉も妹も居ませんでしたね。

 でしたら私の気持ちも天城姉さんの気持ちも解るわけがっ!」

 

そこまで聞いて私は赤城さんの頬を全力ではたく。軽い音が部屋に木霊する。

はたかれてバランスを崩し、こちらを睨む赤城さん。

この人は自分が絶望するだけでは飽き足らず、周りの人間まで巻き込んでいくのか。

そんなことは絶対にさせない。それは何よりも、赤城さんの為に。

 

「どうしてはたくんです? 私が何を言っても加賀さんには関係のない事でしょう。

 なのにどうしてそこまで必死になれるんですか。一人きりの貴女が」

 

「とにかくその髪型をやめてください。それにその髪留めは天城姉さんの物ですね。

 返してください。それは天城姉さんの物です」

 

髪留めに対して手を伸ばす赤城さんの手を払う。

 

「なんなんですか。そこまで必死になる理由などない筈です。だから返して」

 

まるで生に縋る亡者の様に手を伸ばしてくる彼女。死んだ魚の様に目から光は失われている。

あまりに醜い。こんな人の為にこの髪型をやめる意味も無ければ髪留めを渡す意味も無い。

渡して今の彼女が元に戻るのであれば喜んで渡そう。

しかし今の彼女に渡しても何の意味もない。むしろ事態が悪化するだけ。

 

伸ばしてきた手を再度払い除けると、目を血走らせながらも両手で襲い掛かってきた。

そこまで必死なのだろう。そこまで私が酷い存在に見えるのだろう。だから私は。

 

「っ!」

 

全力でその顔面を殴り抜ける。

全力とはいえど非力な私だ。それに自分の手はボロボロで力も入らない。

吹き飛ばすことも出来なければ、対した威力もない。

しかしその殴られたというショックと衝撃で、彼女は体勢を崩し尻餅をついていた。

 

「目は覚めましたか?」

「加賀さん! 何するんですか!」

 

抗議の視線を送ってくる赤城さんであったが、その目には光が宿っていた。

 

「え、あっ……私、加賀さんになんてこと言って……」

 

彼女は顔を青ざめはじめた。今まで私に対して言っていたを理解したのだろう。

その目からは涙が溢れる。私はその溢れる涙を拭った。

 

「赤城さんに涙は似合いませんよ」

「加賀さん……」

 

しばらく見つめ合っていたいが、そう言うわけにもいかない。

私には伝えるべきことがある。天城さんの事を。

赤城さんはあの時気絶していてそのことを知らない。

だからこそ説明しなければならないのだ。

 

「でも加賀さん。どうして天城姉さんの髪留めを……?」

「天城さんが言ってくれました。彼女に何かあった時、貴女をよろしく頼むと。

 彼女が貴女を守った時に委ねられた物です」

「じゃあ、それは天城姉さんが……」

「そしてこの髪型は私の覚悟です。何があっても貴女を守る。その為のあの人と同じ髪型です」

 

それを聞いて目を閉じて不敵な笑みを浮かべる赤城さん。

私は何かおかしなことを言っただろうか? もしかして信じられないのだろうか。

そう思うと急に不安になり、慌てる。

 

「あの、赤城さん、私は」

「解っているわ。加賀さんが本気だという事」

 

目を開けた赤城さんは相変わらず笑みを浮かべている。

ただそれは何かを知って、すっきりした様なまっすぐな笑み。

 

「なら私は天城姉さんの様に髪を伸ばしてみようかな」

「えっ?」

「だって加賀さんだけで天城姉さんになってしまったら、

 妹としての私の面子が丸潰れじゃないですか」

 

「だからその髪型は加賀さんが。あの素敵な黒髪は私が。

 二人で天城姉さんの歩めなかった未来を、歩もうじゃありませんか」

 

そう言ってにっこり笑う赤城さんの顔は、天城さんにそっくりだった。

 

 

Side ???

 

 

「生キノイイママ埋メルナンテ、粋ナ事シテクレルジャン。生キダケニ」

 

月明かりも星明かりも無い闇夜に潜んで、一人墓を掘り起し棺桶の中身を確認する。

そこにはまるで人形のように眠る一人の艦娘だったものがあった。

 

どうせ施設の再建で焼却炉辺りに持っていく時間も無かったから、

明日にでも持っていこうと思ったんだろう。こっちからすれば有難いけど。

 

「後ハ適当ニ他ノ死体ヲ拝借シテー、棺桶ニ詰メレバー」

 

これで良し。長居は無用。さっさと持ち帰ろう。

闇夜に潜むにはこの黒い服と小柄な体が、何かを運ぶにはこの強靭な体が役に立つ。

垂れる血は防水性の高い艦娘の服のお蔭で、服のつなぎ目からしか漏れない。

そこだけなんとかすれば何も問題はない。そのまま海に出れば底を気にする必要もなくなる。

 

「サーテ、面白イ事ニナルゾー」

 

私の口角は自然とつり上がっていた。




まず初めに、加賀サイドと謎サイドは全く視点なので、別サイドでの出来事を加賀は知りません。
回想なのに知らないことがあるってどういうことやと思うかもしれませんが、
いわゆるナレーション視点の「時はさかのぼり……」的な奴です。

天城、死す。史実では関東大震災の被災によって竜骨が折れてますが、
流石に大震災だと色々と不味かったので(特に舞台が違う)、
前回の話で盛大にフラグめいた何かがかっさらって行きました。
そして応援に辿り着いた3人の艦娘。一人はともかくあの二人は一体誰なんだ……(ぇ
(因みにあの二人は既に改状態です)
この話は何気に第二十五話に絡んでたりします。どのように絡んでいるかはきっと解る筈。

天城の遺志を継ぐ赤城と加賀。髪は女性の命の次に大事という話がある。
果たして彼女達は立派な空母になれるのか。答えは第二十八話の鳳翔さんの昔話に続く。

謎の影が潜む。人の言葉を話す『ソレ』は何をもたらすのか……

次回から時系列が戻ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十四話『日輪』

毎日更新はしているから一応定期にはなるのかもしれない。
不定期更新とは一体。うごご。定時更新ではない……。


明かされた加賀と赤城の過去。それを聞いた吹雪はどう思うのか。
そして皆の決意を待たずして、MI作戦が発動されようとしていた。
アニメ第十二話、突入です。


Side 吹雪

 

 

「少し長くなってしまいましたね」

 

加賀さんが現実に引き戻すかのように呟く。

聞き入っていた私はいつしか加賀さん達の過去に引き込まれてしまっていた。

 

赤城先輩も加賀さんも私と同じ、いやもっとつらい思いをしている。

大切な人を喪うという、取り返しのつかない事を。

 

「彼女からの覚悟を私達は受け取りました。

 吹雪さんも涼月さんから覚悟を受け取ったのではないですか?」

 

涼月さんが隻眼のヲ級に突っ込んでいくときに行っていた言葉を思い出す。

 

『だから私は、貴女を導く光となりましょう』

 

涼月さんが何を思ってあの時無理をしたのか。

私に彼女の生き様を見せる為? 私達を守る為? ただ勝つ為?

いや違う。あれが彼女の覚悟なんだ。

 

再び絶望に覆われそうになったあの空を。

日が沈み光が失われた闇夜を照らす月の様に。

私達を導く光と成ろうとした涼月さんの覚悟だ。

 

「私は皆を照らす太陽……かぁ」

 

涼月さんが残した言葉を呟く。私が皆を照らす太陽と言うのが解らない。

何を見てそう涼月さんはそう思い、何を知ったのか。

 

「どちらかというなら、涼月さんが太陽なんだけど……」

「そうかしら?」

 

加賀さんが割り込むように声を掛けてきた。

 

「あの子はどちらかと影の功労者の様な気がするわ」

「影、ですか?」

「鎮守府正面海域を解放する時も私達の為に道を作り、貴女を助けた。

 鎮守府への輸送ルートや資源を確保して、鎮守府をうまく機能させた。

 深海棲艦が暗号を解読しているという疑念を抱いたのも、

 あの子が今までの敵の動きを分析して考察した結果だと、蒼龍と飛龍が言っていたわ」

 

言われてみればそうだ。

あの人は私とは違って後ろから私達を育んでくれた。

如月ちゃんを島風ちゃんと一緒に間一髪の所で助けてくれたり、

翔鶴さんを第一艦隊から第五遊撃部隊に移動させるために提督の承諾を取り付けたり、

提督を通して深海棲艦が暗号を解読しているという事を教えてくれたり。

 

資源などのルートを確保して鎮守府の為に走り回っていたのもあの人だ。

それが結果として、大きな失敗と言うものを犯すことなく戦う事が出来た。

考えてみれば誰でも出来る事じゃない。

 

「貴女は今まで努力を重ね、様々な作戦を成功させてきました。

 あの人の出来なかった事を成してきたのは、まぎれもない吹雪さん、貴女よ」

 

涼月さんは、私達の後ろ盾としてずっと守ってくれていた。

その安心感があって私達は精一杯出来る事を頑張る事が出来た。

結果としてMO攻略作戦でも大きな失敗も無く動く事が出来たし、

それが結果として加賀さんと瑞鶴さんの仲が少しは良くなった……と思う。

 

「だからこそあの時の吹雪さんは、涼月さんの光と成れたのかもしれないわ」

「それに、私の光とも成った」

 

後ろから不意に声が聞こえて振り返る。

そこには潮風にその黒髪をなびかせている赤城先輩の姿があった。

 

「あ、赤城先輩!?」

「そうよね? 吹雪さん」

 

にっこりとほほ笑む赤城さんを見て、トラック泊地で約束した時の事を思い出す。

 

「赤城さん……いつからそこにいらしたんですか?」

「吹雪さんが太陽、と呟いたところからかしら?」

 

案外さっきの事で安心する。

もしも涼月さんの事で勘付かれたら、明日の作戦に支障が出るかもしれないからだ。

加賀さんも内心安心しているみたい。

天城さんの話を聞かれていたらどうしよう、とでも思っているのかもしれない。

 

「涼月さんも、かなり粋な事を言うのね」

 

そんなことを言いながらも、私の隣に立って夕日を見つめる赤城先輩。

 

「吹雪さん、加賀さん。私達は明日の作戦に向けて今まで練成してきました。

 きっと大丈夫、勝てますよ」

 

長い黒髪を翻し私達を見つめる。

その目は大きな覚悟とほんの少しの温もりが感じられた。

 

 

////////////////////////

 

 

翌日、私達はドッグに集まっていた。

この鎮守府に来てからの何度目かの出撃。

第三水雷戦隊、第五遊撃部隊、そして今は第一機動部隊としてここに立っている。

赤城先輩の護衛艦と同じ場所に立っている。

 

旗艦である赤城先輩も加賀さんもいつものように温かい雰囲気じゃなくて、

あの時見た凛々しい雰囲気に包まれていて。

二航戦の飛龍さんも、あの時教室で顔を覗かせた時みたいにフランクじゃなく、

真剣な眼差しとそのハチマキがその人の覚悟を表していた。

 

「(これが……第一機動部隊)」

 

涼月さんの所属が赤城先輩と同じ艦隊と聞いた時は、涼月さんを羨ましがっていたけど、

今ここに立ってみて初めて解る。ここは今まで私の居た艦隊と全く違う場所。

主力艦隊だという事に大きな責任と緊張を覚える。自然と手汗が酷くなっている。

隣に居る夕立ちゃんも少し震えていて緊張しているみたいだ。

何か声を掛けようと思ったけど、私自身が緊張しているからか掛ける言葉が見つからない。

 

「吹雪ちゃん! 夕立ちゃん!」

 

そんな中、良く知った声が遠くから聞こえてくる。

その方向を向くと肩で息をする睦月ちゃんと如月ちゃんの姿が。

 

「睦月ちゃん! 如月ちゃん!」

 

緊張から解き放たれる様に私達は二人に駆け寄る。

すると何を思ったのか急に私と夕立ちゃんの手を取る睦月ちゃん。

 

「……解るよ。吹雪ちゃん、夕立ちゃん。こんなに緊張してるんだね」

 

私達の手汗の量や体の震えから緊張しているのに気付いたのか、心配してくれる。

その温かさが掌から伝わってくる。どんな言葉よりも確かな物。

 

「睦月ちゃん……」

「大丈夫。この鎮守府は必ず私達が守るから」

 

掌を力強く握られる。睦月ちゃんの目は今までに見たことが無い位真剣そのものだった。

隣に居る如月ちゃんも同じ目をしている。如月ちゃんは手を添える事はしていない。

でもあのトラック泊地の時の様に、私の背中を押してくれたように、

睦月ちゃんの背中を押したんだろう。

 

「だから吹雪ちゃんも、夕立ちゃんも、後ろは気にせず思いっきり戦ってきてね!」

 

そして満面の笑顔を浮かべる睦月ちゃん。

それが決め手になったのか、自然と体を縛っていた緊張が解れていた。

 

「吹雪ちゃん、夕立ちゃん。睦月ちゃんは私が必ず守るわ。

 だから皆で勝ちましょう? この鎮守府の皆で」

 

緊張から解かれた私達を更に如月ちゃんの言葉が後押ししてくれる。

それによって大きな自信が自分の中から湧いてくる。

これは改二になった時のそれに似ている。

でもこれは今までの私が努力と一緒に皆で積み上げてきた物。

 

「「ありがとう。睦月ちゃん、如月ちゃん。行ってくるね」」

 

意図せず夕立ちゃんと言葉が重なる。それも一言一句違わず。

それで私は確信した。今の夕立ちゃんも私と同じ気持ちなんだって。

 

 

Side 大和

 

 

ところ変わってこちらはトラック泊地。

今なお修復が続けられる拠点の一室に私はいた。

 

「……涼月さん。遂にMI作戦が発動されましたよ」

 

目覚めぬ駆逐艦の手を取り静かに語りかける。

 

「この作戦で、私は正式に出撃するんですよ?」

 

ゆっくりと噛み締める様に伝えても、この人は目覚めない。

 

「このトラック泊地と呉の皆さんを含めた連合艦隊の旗艦として、出撃するんです」

 

解っていてもこの言葉を伝えないわけにはいかない。

意識を失っていても必ずこの言葉は伝わっているはずだから。

 

「これも皆、涼月さんのお蔭です。ありがとうございます」

 

自然と握る手に力が入る。緊張しているのだろうか。

 

「……そして、ごめんなさい」

 

あの月の下での約束は、守れなかった。

こうしてようやく出撃出来るのに、そこにこの人はいない。

それはおそらくこれからもずっと。

 

「幸せとは本来すぐそばにある物。ですがそれに初めて気付くのは失った時。

 幸せに気付くというのは……不幸な事です」

「大和、出撃だ」

 

悲しみに押し潰されそうになった時、磯風さんが扉の向こうから声を掛けられる。

私はその悲しみを振り払って涼月さんの手を置く。

 

「行ってきます。涼月さん」

 

静かに扉を締めいつもの私に戻る。

磯風さんに連れられながらも出撃用のドッグへと向かった。

 

そこには舞風さん、野分さん、磯風さん、大鳳さんが揃っている。

各自の真剣な目は全て私へと向けられていた。

 

「参りましょう。私達の勝利を刻むためにも」

「「「「はい!」」」」

 

歩みを進め、カタパルトへと踏み出し、艤装が足を、腰を、全身を覆う。

私の艤装は46cm砲を装備しているだけあって相当大きく、

駆逐艦の子達の様な派手な装着は不可能だ。

 

でもこの重みが艦娘として生まれたという事を本当の意味で教えてくれる。

やはり料理を作っている時よりも、提督が居ない代わりに指揮を取るよりも、

この時が一番幸せだ。

 

ふと視線が横に移る。そこには四人の仲間の姿が映った。そこに勿論涼月さんは居ない。

 

「……一番の幸せ、ですか」

 

私には何が嬉しいのか、何が幸せなのか、見いだせなくなりそうだった。

 

 

 

トラック泊地から少しばかり進んだ先。私達は呉から派遣された別艦隊を待っていた。

 

「大和、合流する部隊の編制はどうなっている?」

「戦艦『榛名』『霧島』、雷巡『大井』、正規空母『翔鶴』『瑞鶴』ですね。

 こちらがあちらの機動部隊と合流することでMI作戦攻略本隊となります」

「……その情報が深海棲艦に読まれている可能性は?」

「今回は別の暗号によるやり取りを行っています。その点は問題ありませんよ」

 

磯風さんが心配して尋ねてくるも、私は問題ないと告げる。

あれから無線封鎖は徹底され、緊急時の別暗号を無線では使用していた。

こういった事態を予測している上層部も上層部と思うのだが、

こればかりには感謝せざるを得ない。

 

「赤城さん達は別の艦隊なのかな?」

「そうですね。こちらに向かってきている艦隊とは別の機動部隊に含まれているようです」

「そうなんだ……」

 

舞風さんが露骨にしょんぼりしている。

赤城さんが居ないと何か不味い事でもあったのだろうか。

そんな落ち込む舞風さんを野分さんが励ましている。

 

「………」

 

そんな中、大鳳さんが一人何かを思い悩んでいた。

 

 

Side 大鳳

 

 

呉から派遣された艦隊との合流を待つ中、

私はこの泊地が空襲に遭った事を思い出していた。

 

何故深海棲艦はこの島を爆撃したのか。

このトラックには以前呉の戦力も集結した状態であったのにも関わらず、だ。

まるで入れ違いの様に恐れわれたのは、単なる偶然なのだろうか。

 

涼月さんと磯風さんに出会った時に私が落とした敵機は、

撃墜するまでの一瞬でこの島の戦力を割り出す事が出来たのだろうか。

いくら艦娘達が海水浴をしていたとはいえ、少なくとも屋内で開発などをしていた艦娘も居るし、

長門秘書艦をはじめとして司令的な艦娘もいる。深海棲艦と言えどそれは不可能だろう。

 

それに、作戦の中止命令が出たといって呉の艦娘達が必ず撤退するとは限らない。

なのにそれをまるで知っていたかのように深海棲艦はこちらに機動部隊を差し向けてきた。

あまりにも出来過ぎている。暗号解読以外に、何か決定打があるのかもしれない。

でも日の朝はちゃんと島に偵察機を出していたから、

先行して発艦していたかもしれない敵偵察機は見つからなかった。

なら他に敵の動きを監視し、味方に伝えられる手段は……

 

「大和さん。トラックが空襲されたのは敵の完全な無線傍受と解読によるもの、

 と説明していましたよね」

「……はい。その故今は別の暗号が使用されています」

「でも、その中止命令が下ったからと言って、撤退しないという選択肢もあったと思うんです」

「ですが呉の皆さんは撤退する道を選んだんです。結果として涼月さんが……」

「大鳳、何が言いたいんだ?」

 

大和さんとの会話に割り込んで来る磯風さん。

寧ろ割り込んできてくれる方がありがたい。話を本筋に移せるからだ。

 

「もしも、敵が偵察機や暗号解読以外でこちらの動きを知っていたら、

 その大和さんの言う偶然が、『必然』になるかもしれないんです」

「でも大鳳さん、そんな都合のいい偵察方法なんてあるの?」

「電探……にしては距離が離れすぎていると思います。それも除いた場合で、

 なおかつ味方にそれを伝えるとなるとそう言った施設を持つ大きさも必要です」

 

舞風さんと野分さんが痛い所を突いてくる。

そう。そんなこちら側からしても夢の様な物は敵にも存在しない筈なのだ。

 

「偵察機も駄目、電探も駄目となると……」

「潜水艦か」

 

磯風さんの発言にここに居る全員の視線が集中する。もちろん私も含めて。

その磯風さんの発言に全身に鳥肌が立つ。潜水艦という物自体に恐怖しているように。

案外答えはすぐそこにあったのかもしれない。でも何かがそれを回避しようとしていた。

頭の中でそれだけは思いつくなと、思考を無理やりせき止められていたような。

 

「ですが大鳳さん、それでは今までの私達の行動は筒抜け……

 いや、もしかすれば現状でさえも!」

「生憎だが大和、そのようだ!」

 

磯風さんが大和さんの前に躍り出て、左手にある三連装機銃の引き金を引いた。

その放たれた弾幕は海面に幾多の水柱を上げ、二本の大きな水柱が上がる。

 

「ば、爆発!?」

 

水柱に恐怖を覚える。いや、覚えるんじゃない。知っているんだ。

この悪魔の様な爆発を。

 

「大鳳、お前の推理は確かのようだ」

 

回りには敵艦の姿が見えない。なのに魚雷が飛んで来たという事は、

この海域に潜水艦がいるという事だ。

 

「舞風、野分。お前達は二人を頼む」

「磯風はどうするの?」

「私は潜水艦を討つ!」

 

艤装の下から現れたのは大量の爆雷。それを海面に向けていくつか射出する。

その方向は先ほど魚雷が発射されたであろう方向。

爆雷は水中へと消え先程よりも大きな水柱を上げた。

 

「悪くない。この重みも、この感覚も。私はこの瞬間を待っていた」

 

その水飛沫を浴びながら彼女は不敵に笑みをこぼす。

狂乱や快楽ではない。悲願を叶えた者の顔。心底嬉しそうだった。

何故かはわからないけれど、彼女なら渡しを守ってくれるという安心感が体を包む。

その安心感が私の恐怖を拭い去ったのだった。





後悔という毒が効いていたのはは吹雪だけではなかった。溜め拭えぬ涙は誰の為。

やはり、涼月の近い存在である大和さんのショックは吹雪より大きい。
大戦艦といえど艦娘であるということを意識させたような感じになっています。

そしてトラック島空襲の真の理由が明らかに。
一度たりとも対潜哨戒を行っていない結果がこれだよ!
トラック島イベのE-1を意識してます。

ぼちぼち、最終回が見えてきました。
なおこちらは(この小説の)最終話部分を手掛けています。
何とか毎日更新のペースを崩さず最終話まで行けそうです。(途中に一回一週間開けたけど)
のんびりと待っていただけると幸いです。それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十五話『一心同体』

アニメ第十二話inトラック泊地戦。
彼女らは無事に呉の艦隊と合流できるのか……


Side 大鳳

 

 

私も加勢しようと思っても、潜水艦相手に有効な攻撃手段を持っていない。

ここは彼女に任せるしかなかった。

 

「大鳳さんは偵察機による周囲を警戒していてください。

 他の敵艦隊が来る可能性があります」

「解ったわ」

 

野分さんが私の前に出て警戒してくれる。私はその言葉に従って彗星を発艦させる。

炎を纏って高速で飛んでいく彗星。これが精鋭機の性能なのか。

でも慢心してはいけない。それがあの時の様な悲劇を生むのだから。

 

野分さんが私の前に、舞風さんが大和さんの前に出て、魚雷に対する警戒を強めている。

その二人は熟練見張員の妖精さんを駆使して雷跡を発見しては機銃で迎撃し、

間髪入れず磯風さんがその方向へ向かって爆雷を投射することで撃破していた。

 

「そこだ!」

 

三回目になる魚雷の迎撃と敵潜水艦の撃破。これで計三隻もの潜水艦を撃破。

そのせいか磯風さんの爆雷は底をついていた。

しかしここまで潜水艦を撃破したのだ。

深海棲艦もこれ以上潜水艦の投入はしていないだろう。

それでも磯風さんは周囲への警戒を怠らない。

 

「磯風さん、そこまで警戒しなくてもいいのでは……」

「そう言うわけにはいかん。

 お得意のアウトレンジ戦法であろうと、敵がどこに潜んでいるかは解らないからな」

 

「大和、先程の攻撃による損傷はないか?」

「お蔭様で助かりました。ありがとうございます、磯風さん」

「なに、他愛ないことだ」

 

その目は先ほどの様に笑ってはいない。むしろ決意した目をしている。

私と出会って笑みをこぼした後の様な、決意と覚悟に満ちた顔。

そして彼女の発言には確証こそなかったものの、信じるに値する物だった。

アウトレンジ戦法と言う言葉も初めて聞いたけれど、初めてという気がしない。

潜んでいるという言葉にも頷ける。

私と彼女はいつかどこかでそんな言葉を聞いたことがあるような、そんな気がした。

 

彩雲各機から連絡。味方の艦隊を発見。こちらに向かってきているらしい。

燃料と妖精さんの為にも、こちらに帰艦することを命じた。

 

「皆さん、呉からの部隊が間もなく合流するそうですよ」

「あ、みんな見て!」

 

舞風さんが十二時の方向を指す。そこには複数の艦影があった。

空には彗星が複数機護衛として空を翔けていた。無事合流で来たという事に安堵を覚える。

 

が、そうは問屋がおろさない。

その合流する艦隊に向けて、四発の雷跡が浮かび上がったのだ。

突然の事で野分さんも舞風さんも、磯風さんでさえ不意を突かれる。

それもそのはず。こちらを狙っていた潜水艦が突然目標を変更したのだから。

急ぎ引き金を引く彼女らであったが、完全に迎撃できずに残った二本が合流部隊へと飛んでいく。

 

無線封鎖をしている為にこちらの声は向こうには届かない。

だからと言って迎撃しないと向こうに被害が出る。しかしこちらには打つ手がない。

磯風さん達は全速力でその魚雷を追いかけていたが追いつける筈がない。

向こうは回避運動を取ろうともしていない。

水柱には気付いただろうが、それが何によるものなのかは解らないのだろう。

 

「翔鶴さん!!」

 

私は必死になって名を叫んでいた。何故翔鶴さんなのかは解らない。

ただ、ただ何故か彼女に命中するのではないかという不安がそうさせたのだ。

もちろんその声が届くはずもない。そのまま雷跡は水平線の向こうへ消えていく。

 

ああ、また『大丈夫だろう』という気持ち、『慢心』によって味方が被弾するのか。

あれだけ演習したのにも関わらず、また守れないのか。

私はその場で蹲る。自分の無力さを噛み締める。涙が海に落ちて水面の中に消えていく。

 

『まだ私達が残ってるよ!』

 

そんな中、私の頭の中に声が響いて顔を上げる。

そこには偵察機替わりに発艦させ彼女達の護衛に付いている二機の彗星が、

海面に向かって特攻している所だった。

 

私はその姿を見て確信する。さっきの声は彗星に乗る妖精さんの声。

私の妖精さんの声。名前は知らない。でも少なくとも意思疎通は出来ていた。

彼女達が何をしたいのか。彼女達がどんな気持ちなのか。今なら手に取る様に解る。

 

『大鳳の無念! 晴らさせて貰うよ!』

「彗星さん!!」

 

駄目だ。このままでは彼女達は死んでしまう。

妖精さんと言うものは私自身も解っていない。

でも彼女らとて永遠と言うものは存在しない。その事実だけが理解できた。

 

『これは大鳳の! トラックの皆の! 私達の! 魂の叫びだああああああ!!』

 

そんな雄たけびにも似た言葉と共に、海中へ消える彗星。

次の瞬間、大きな二本の水柱が上がった。

 

茫然とその光景を見つめる私達。

しかしそれによって先程の魚雷は全て迎撃されたのだった。

 

 

Side 瑞鶴

 

 

合流しようとした直前に起きた一つの出来事。

微かに聞こえた大鳳の翔鶴姉ぇを呼ぶ声。そして護衛機の特攻による魚雷の迎撃。

それを見ていた私の中で沸々と怒りがこみあげていた。

 

海中に消える一瞬。その時見えた迷いの無い妖精さんの目は、

MO作戦発動直前に私の代わりに魚雷で被弾した加賀さんの目と同じだった。

私の不注意でまた狙われた。それも私の一番大切な、翔鶴姉ぇを。

それを守った代わりに今度こそ失った。大切な仲間を。

妖精さんと言う私達にとって大切な子達を。

 

『そして何よりも、回避運動もとろうともせず突っ込んで来る艦戦』

 

『これでは私の様な砲撃な回避はともかく、

 三式弾の様な空中で散布される特殊弾に対してどういった対処をするのですか』

 

でもどうしても、涼月のあの言葉が突き刺さる。

私の記憶を抉るように。はたまた、私を蝕む毒の様に。

MO作戦の時も一矢報おうと矢を放ったけど全機叩き落とされた。

さっきの艦爆の妖精さんのように一瞬の判断を下すことなど出来はしない。

 

頭の中で何かが囁く。それこそ『ターキー・ショット』。『七面鳥撃ち』。

そう。私の妖精さんは弱い。回避行動もとらないただの撃ち落とされるだけの的。

 

その頭の中で囁くそれが、私にとって全ての不快の原因だった。

だから私はそれを振り払うように今まで訓練してきた。

五航空と呼ばれてもなお、努力し続けていた。

私が私の納得のいく結果を掴むまでは終われない。

 

「七面鳥ですって!? 冗談じゃないわ!」

 

前方に躍り出て矢を番え、怒りに任せて引き絞る。

相手は見えないけど、絶対どこかに居る。必ず沈めてやる。

私を馬鹿にするような敵は全部叩き潰して沈めてやるんだ。

 

「瑞鶴」

 

優しい声と共に私の肩に手を置かれる。そこには翔鶴姉ぇの顔があった。

 

「翔鶴姉ぇ止めないで! 私が、私がやらなきゃいけないの!」

「いいえ、止めて見せるわ」

 

そのまま矢を番える手を持たれ、ゆっくりと解く様に矢をしまう翔鶴姉ぇ。

一連の流れに見入ってしまいそうだったけど、私の熱は冷めなかった。

 

「翔鶴姉ぇ! なんで、なんで毎回止めるの! 加賀さんと同じ部屋になった時も、

 涼月が翔鶴姉ぇを転属させた時も!」

「私が貴女の姉だもの」

「理由になってない!」

「それで十分なの。貴女は私の大切な妹。

 だから私は相手と瑞鶴の間に入って全部を受け止める」

 

「瑞鶴の相手に対する暴言も、行き場のない矢も、敵からの攻撃も、全部私が受け止める。

 それが、『被害担当艦』と言われた私の役目」

 

私を見つめる瞳から強い意志が伝わってくる。

『被害担当艦』という言葉をどこかで聞いたことがある気がする。

翔鶴姉ぇはずっとそう呼ばれて、不幸だと言われていた気がする。

でもそれは私のせいで翔鶴姉ぇは悪くない。むしろ私が悪いんだ。

 

「だから、自分で自分を傷つけないで瑞鶴。『幸運艦』の名が泣くわよ?」

 

私は『幸運艦』じゃない。翔鶴姉ぇのお蔭で被害が少なく済んだだけだ。

その自分の不甲斐なさに自分が腹を立てていただけだ。なら自ずと出てくる答えは一つ。

 

「ありがとう翔鶴姉ぇ」

「瑞鶴?」

「お蔭で目が覚めた」

 

いつの間にか頭の中で囁いていた声は消えてなくなっていて、

私の思考を遮るものは何もなかった。

その影響かとても視界は澄んでいて、広く物事を見る事が出来る気がした。

それこそ今の戦況だけでなく、私の想い描く未来まで。

 

「私はね、ずっと守られた。でもこれからは皆を守る為の私になりたい」

 

庇われて、庇われて。ずっと私は『そのままでいい』と言われているような気がした。

まるでガラスケースの中の人形のように。

でもそれではいけない。私は、私を守ってくれた人に恩返しがしたい。

それが私の本当の願い。

 

海面を見つめる。さっきの魚雷は味方の誤射と言うわけではないだろう。

でないと向こうの護衛機が特攻してまで守ろうとしない。

ということはこの海域に敵が潜んでいる。

でも姿が見えないし、艦攻によるものでもなかった。ならほぼ潜水艦。

深海棲艦も随分と念を入れてくるんだなと思いながらも、私は艦爆の矢を射る。

さっき魚雷が発射された場所から憶測して、艦爆を発艦し投下。爆雷替わりにはなる。

そのまま即座に着艦させて矢に戻す。確実なヒットアンドアウェイ戦法。

 

暫くして、いくつかの水柱が上がって海上に深海棲艦が現れる。

その姿は今までに見たことが無いぐらい不気味な物で、

黄色い瘴気と水に濡れ顔に纏わりついている長い髪がその不気味さを増させていた。

浮上してきたのはさっきの爆撃で損傷して潜行が不能になったんだろう。

 

もう一度艦爆を発艦させようとしたところで、前に誰かが躍り出る。

それは前進に大量に魚雷発射管を装備した重雷装艦、大井だった。

 

「あんた! 横取りするつもり!?」

「そんなんじゃないわ。ただ潜水艦にはちょっとばかり嫌な思い出があるだけよ」

 

そう言いつつ魚雷発射管を真上に向ける彼女。

そのまま弾幕の様に魚雷を発射しようというのか。

 

「そんなに大量の魚雷撃たなくてもいいわよ! 私が決めるわ!」

「私もただ無意味に魚雷を撃つだけの、馬鹿じゃないんで」

 

そのまま射出された一発の魚雷は真上に少しだけ飛び、それを右手で掴む大井。

こんな荒業をして信管が作動しないか不安になったけど、

平然とそれを行う様子を見て大丈夫の様だった。

 

「落とし前を付けたかったら勝手にしなさい。

 ただ私自身も落とし前を付けたいってことだけは、忘れないで」

「……解ったわよ」

 

今までの私ならさらに反発していただろう。でも彼女にも何かあるんだ。

潜水艦に対して抱いている特別な感情と言うやつが。

 

「タイミング合わせなさいよ」

「解ってます」

 

矢を番え放つ。炎を纏って艦爆に成った矢はそのまま身動きできない潜水艦に向けて、

いくつもの爆弾を降らせた。

一方の大井は、オーバースローで投げ飛ばした魚雷を突き差し、単装砲で潜水艦を狙う。

 

「「さぁ、沈みなさい!」」

 

弾着した直後、大井の放った砲弾が彼女の突き刺した魚雷に命中し大爆発を起こした。

魚雷と爆撃。二つの爆発の影響だろう。

敵潜水艦は跡形も無く吹き飛び、もう見る影もなかった。

 

こうして私達はトラック島近海に出現していた潜水艦を叩くことに成功した。

 

でも、大鳳の失われた妖精さんは帰ってこない。

合流するも、大鳳は悲しんでいるのかその場から全く動こうとしなかった。

 

 

Side 大鳳

 

 

二人の妖精さんと彗星のお蔭で、主力艦隊の皆さんは救われた。

 

合流して残った彗星が着艦する。そこから妖精さん達が私の肩までよじ登ってきた。

落ち込まないでと励ましているのだろうか。泣かないでと慰めているのだろうか。

あの一瞬で手に取る様に解ったこの子達の感情が今では解らない。

 

彼女達は何を想い、何を知って私達と共にいるのだろうか。

 

『これは大鳳の! トラックの皆の! 私達の! 魂の叫びだああああああ!!』

 

あの子達が海中に消える直前まで叫んでいたこの言葉。

あの子達は魂と呼んでいた。あの子達の覚悟を、私と、トラックの皆の魂と称していた。

私の無念を晴らすために散っていった覚悟を、魂と称していた。

 

「あの子達は私の魂……」

 

そう言って差し支えない存在と言うのも解る。

だってあの子達は常に私と共に居た。だからこそ共に生きているといっても過言じゃない。

 

「私の魂は、あの子達と共にある?」

 

だから私の救いたいという気持ちを悟って、あの子達はあんなことをしたのだろうか。

私の悲願の為に、自分の身を挺してまであの子達は叶えたというのか。

記憶も想いも魂も分かち合い共有する。それが妖精……?

 

「なるほど……あの子達の覚悟と意志は私と共に……」

 

そう思うと、あの子達の意志が私に伝わってくるのを感じる。

内から力を感じる。これがあの子達と私の魂の力なのか。

自然と体が火照ってきたが悪い気持ちではない。寧ろ心地いい。

 

「大鳳さん、体が……」

 

大和さんが驚いた様子で声を掛けてくれる。自分の手を見ると、淡い光を発していた。

 

「これは一体……」

「改、か」

 

磯風さんの発言に私は思い当たる節があった。

この島にやってきていた夕立と言う子が、この島を出る時には姿が一変していたこと。

それを明石さん曰く改二と言うらしいが、

その時聞いた症状と私の今の状況はよく似ていた。

 

この状況で戦っては目立って仕方がない。一旦明石さんの所まで戻ろう。

しかし私で時間を取られては機動部隊の合流に時間がかかってしまう。

 

「すみません皆さん。私はトラックに戻って改装を受けてきます。

 皆さんは先に機動部隊の方々と合流してください」

「だが、大鳳はどうするんだ。このままでは機動部隊の不足が懸念されるぞ」

「私は後から合流します。ですから皆さんは先に棲地MIに向かってください」

 

特に先程の戦闘でいつもより遅れているのだ。

ならば私一人の為にさらに遅れるというのは、流石に作戦の遂行に支障をきたす。

場合によっては機動部隊が被害を受ける可能性もある。

 

「私だけの為に、皆を殺したくはありません。たとえそれが必要な犠牲だったとしても、

 それは犠牲を正当化する為だけの先人達の思考にすぎませんから」

 

犠牲を正当化するのは、いつの時代だって許されない。

犠牲となった人々は帰ってこないのだから。

 

「……解った。必ず追い付け、大鳳」

「磯風さん達も、お気を付けて」

 

私は転進してトラックへと向かう。

新たな力を、私の内にある真の覚悟と向き合うためにも。

 

 

Side 大和

 

 

大鳳さんの後姿を見つめながらも、私達は戦場へと向かう決意をする。

合流で来たものの、先ほどの潜水艦による攻撃などで時間を取られてしまったからだ。

 

「さて皆さん、合流地点に急ぎましょう」

「待ってください」

 

私はそのまま合流地点に向かうために進路を向けたのだが、

一人がそれを阻む。そこの言葉は榛名さんによるものだった。

 

「涼月さんの姿が見当たらないみたいですけど……何かあったのですか?」

 

その言葉を聞いて私達は視線をそらす。その異常に真っ先に気付いたのは、

この呉からの主力艦隊の中であの場所に唯一いた瑞鶴さん。

 

「あいつ……まだ……」

「そうだ。まだ涼月は改装の影響で本調子ではないんだ」

 

私達の気が落ち込んでいるのを見て、話題を変えようとしたのだろう。

磯風さんは真剣な目で榛名さんを見ていた。

瑞鶴さんの漏らした言葉をうまく使った言葉。

私に視線を送ってくる。うまくごまかせという事だろうか。

 

「そうなんです。涼月さんは大規模改装を受けたので、

 艤装の調整などで時間がどうしてもかかってしまうのです。

 終わり次第こちらと合流しますよ」

 

そこまで行って、榛名さんは納得したように首を縦に振って何も言わなくなる。

しかしその自分の言葉はその場しのぎでしかないという事。

そして自分自身に涼月さんが此処に居ない現実を突きつけるものだった。




敵艦隊:潜水ソ級flagship、潜水カ級elite、潜水カ級elite、潜水カ級
(トラック泊地強襲E-1甲最終ボス編制)

潜水艦死すべし、慈悲はない。
と言うわけで何かとこの部隊の面子はかなり潜水艦とご縁がある模様。
流石に同一潜水艦と言うわけではないのですが……

明確に意志を伝える妖精さん。そして何気に初の犠牲なのかもしれない。
空母の妖精さんは艦載機乗りですから結構色々あるのかもしれません。
ここらあたりは翔鶴・瑞鶴・大鳳の史実に沿って作られてます。
翔鶴、大鳳の最後は壮絶の一言に尽きます。

そして大鳳の離脱と呉艦隊との合流、疑問に思う榛名と、
涼月が艦隊に居ない現実を再び突きつけられる大和。
嘘は方便なれど、やがて身を滅ぼす錆となる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十六話『定めの軛』

時間はさかのぼり、第十一話の呉視点のお話です。
定めの軛に対して何かを見出した赤城達は無事MI作戦を遂行する事が出来るのか。




Side 赤城

 

 

私達はトラック泊地へ向かった主力艦隊と分れ、先に合流地点にて待機していた。

事前に偵察機は飛ばしておいたものの敵を発見出来ていないどころか、

味方の主力艦隊すら見つけられていなかった。

 

「加賀さん、どう?」

「いえ、こちらには何も。蒼龍さん、飛龍さんは?」

「こっちも駄目みたいです」

「この天気だと流石に厳しいのかな……」

 

鈍色の雲が覆う敵の勢力圏で、刻々と時間だけが過ぎていく。

金剛さんも水上電探に意識を向けているが、

見つけられないのかあまり良い表情ではなかった。

 

「来ませんね、大和さん達」

「既に予定時刻を過ぎておる。何かあったのではないか?」

 

利根さんが懐中時計を見ながらも時間を気にしていた。

 

「無線封鎖が徹底されている以上、向こうの動きも解らないですもんね」

 

筑摩さんの発言が今のもどかしさの原因を付いていた。

予定時刻を過ぎても現れない主力艦隊、何かあったのではと思ってしまうも、

無線封鎖の徹底によって互いの連絡手段は意図的に断たれている。

この状況でどう動く? 旗艦として私は何をしなければならない?

考えるんだ。今まで私達が行ってきた事を、まとめ上げて、未来に繋ぐ為に。

 

「進みましょう、赤城さん」

 

そんな中加賀さんが私に進言する。

 

「ここは敵の勢力圏内。このまま敵に見つかっては一網打尽になりかねません。

 なのでここに数人残した状態で私達は索敵を続けたまま進撃するのがいいかと」

 

加賀さんの言う通り此処は敵の勢力圏。

敵機動部隊が少ないとはいえ相手も偵察を行っている筈。

制空権、制海権共に喪失していなければ確保もしていない。

 

故にこの場所に留まり続けても、いつ敵がどこから襲ってくるのか解らない。

だからと言って全員で動けば大和さん達主力艦隊と合流出来ない可能性が高まる。

その為に数人ここに残し合流させ、私達が先行して制空権、制海権を確保する。

なるほど、それならば……

 

「吹雪さん、金剛さん」

「は、はい!」

「貴女達はここに残って大和さん達を含む主力艦隊と合流後、

 私達の後を全速力で追いついて下さい」

「で、ですが今動けば敵に発見される可能性も……」

「そのために私達機動部隊が先行するのです。

 制空権、制海権、共にどちらへ傾くか解らないこの現状で、共に失っては元も子もない。

 吹雪さん。待つのも一つの任務だという事を、理解していただけませんか」

 

不必要に動けば敵に見つかる可能性もある。

が、ここで立ち止まることが出来ない以上、偵察を行っている私達が先行した方が、

安全性も必然的に高くなる。

二人を残してもこちらには一航戦・二航戦以外に戦艦である比叡さん、

重巡である利根さんと筑摩さん、重雷装艦である北上さん、駆逐艦である夕立さんが居る。

 

吹雪さんだけを残しては敵に発見された場合の轟沈というリスクは高くなる。

なので大型電探を保有し戦艦である金剛さんにも残ってもらうのだ。

その点では比叡さんも同じなのだが、

第五遊撃部隊で長い時間を共にしているというのが決定打となった。

 

「……はい!」

 

吹雪さんの返事を聞いて私は首を縦に振り、先行するのだった。

 

 

/////////////////////

 

 

先行して暫く経つも、偵察機は相変わらず敵機も敵艦隊も見つけられていない。

間もなく敵棲地だというのに、敵は何をしているのだろうか。

 

「そろそろ棲地MIが、こちらの攻撃機の圏内に入りますよ」

 

加賀さんの発言に私を含めた皆の気が引き締まる。

MI作戦。棲地MI。この言葉が決意した私の心の隙間に入り込む。

でもあの悪夢に対して、私達は共に分かち合い気持ちを共有した。

大敗。それが私の慢心によるものなのだとしたら。

 

と、ここで水上機が戻ってくる。利根さんのカタパルトは不調だった為、

筑摩さんの物だろう。着水させ拾い上げる彼女。

 

「なんですって!?」

「どうしたのじゃ筑摩よ」

 

報告を受けたのか筑摩さんが驚愕する。

その異常に対して真っ先に気にかけた利根さんが声を掛けた。

 

「棲地MIに、中間棲姫が!」

 

中間棲姫。その名前からして泊地棲姫と同じような相手。

あそこまで大規模な攻撃をしてやっと倒せた相手だ。

それは深海棲艦も本気だという事が理解できた。

 

こちらの水上機による偵察は成功、帰艦して情報を伝えてくれた。

そして私達の偵察機は敵を見つけられていない。この状態ならおそらく奇襲は成功する!

そして何より、中間棲姫の撃破による制空権の確保。

これだけは先行した私達機動部隊が行わなければいけない。ならば私の決断は……

 

「第一機動部隊、一航戦、二航戦は、艦爆を随時発艦させてください!」

「「「はい!」」」

 

「攻撃隊、発艦はじめ!」

「第一次攻撃隊、発艦!」

「ここは譲れません」

「第一次攻撃隊、発艦してください!」

 

それぞれが思い思いの言葉を口にしながら、空に矢を放つ。

無数の艦爆機が空を覆い敵へと向かう。鎮守府正面海域を奪回した時と同じ光景だ。

その光景に、少しだけ安心感すら覚えてしまう。

制空権と言うものがどれだけ戦況を左右するのかという事に。

だからこそ先制を打ち相手の発艦能力を失わせる。その為の艦爆の発艦だ。

 

「第一次攻撃隊から入電! 奇襲に成功! 中間棲姫は被害甚大!」

 

蒼龍さんが喜びの声を上げる。

その声と共に私の艦載機達からも喜びの入電が入ってきていた。

そして、更なる入電。『カワカワカワ』。第二次攻撃隊の発艦の要請だ。

 

「流石に敵基地となると、一筋縄では行きませんね」

「そうね……」

 

こちらの損害はいたって少なく、更に向こうの発艦した攻撃機の数は少ない。

最初から直掩機は出ていない。なら攻めるのは今。

こちらも直掩機は出ていないが、いつでも出せる状況にある。

 

『いくらすぐ出せるという状況であったとしても、敵襲に遭ってからでは遅すぎます』

 

不意に、涼月さんの言葉が脳裏をよぎる。

バシー島を攻略した時の翔鶴さんへ向けての発言だ。

 

私はその発言を聞いて、私自身の何かに気付いた。

そして再び出撃したあのオリョール海で、話そうと決意したんだ。

 

オリョール海の奪回の時もそうだった。

敵主力部隊が居るであろう場所では主力部隊が見つからなかった。

むしろ帰還する後方からまるで初めから知っていたかのように現れた。

 

中間棲姫がいるという事は敵の主力であることはほぼ確定。

なら何故護衛艦が居ない? 何故中間棲姫だけが此処に居る?

今の状況は、あの時のオリョール海の状況と酷似している。

否、もっと厄介な状況だ。何故主力である中間棲姫を置き去りにしてまで……!

 

「中間棲姫は囮……?」

 

中間棲姫は基地ゆえに動けない。

だからこそ堂々と棲地MIに配備して囮にし、それを狩る私達を食らう。

私達はそこに中間棲姫しか居ないという事を好機と取り、第一次攻撃隊を発艦させた。

何の疑いも無く、ただ敵を殲滅するという事だけに固着していた。

これが、『定めの軛』なのか。私達を無意識にその方向へと向ける、何か。

 

でも今気づけた。私自身の『慢心』に!

 

「皆さん! 直掩機を!」

「赤城さん?」

「すぐ出せるという状況であったとしても、敵襲に遭ってからでは遅すぎます!」

 

私の言葉に威圧されたからか、それとも何かに気付いたのか。

皆がそれに応える様に直掩機を発艦させる。

 

直掩機達が周囲を巡回し始めた直後、緊急の入電が入る。

 

「敵偵察機を確認……!?」

 

私は焦っていた。このまま第二次攻撃隊を発艦させていたら。

あのまま慢心という、定めの軛に流されていたらどうなっていただろうか。

偵察機を発見できないまま、私達は……

遠くの空で爆発が起こる。恐らく偵察機を撃墜したのだろう。

でも敵も敵で打電している筈だ。

 

「護衛艦である皆さんは対空を重視! 第三警戒航行序列を!」

 

これだけの直掩機と連合艦隊による輪形陣。後は敵の奇襲に備えるだけ。

 

「! 水上電探に艦有り!」

「数は!」

「戦艦1、重巡2、軽巡1、駆逐艦2!」

 

少数による構成であったが、それは護衛するには持って来いの編制でもあった。

でもそれだけでは済まなかった。

 

「直掩機より入電、六時の方向から敵攻撃機隊が接近しています!」

「っ!」

 

恐らく先程の偵察機の情報を受けた敵機動部隊によるものだろう。

ある種間一髪と言った所か。少しだけ安堵しながらも空を見上げる。

 

「私達機動部隊は制空権の確保を目指します! 比叡さん達は戦艦を含む敵艦隊の撃滅を!」

「了解しました!」

 

直掩機が出ているからか、更なる護衛機を発艦させる余裕が出来る。

涼月さんはこういった事態を予測してあのような発言をしたのだ。

制空権がどちらかに傾くか解らない今に似た状況で、私達を守ってくれた。

その教えは私の中で生きている。慢心を打ち消す特効薬として。

 

中間棲姫は被害甚大、あちらの制空権は第一次攻撃隊の艦爆が確保している。

追加の発艦の可能性はあったが、滑走路がやられては思うように発艦は出来ないだろう。

更なる直掩機を発艦させ航空戦に参加させる。

それは加賀さんや蒼龍さん、飛龍さんも同じだった。

 

鈍色の空に紛れた黒い敵機と、私達の艦戦達が激しい航空戦を繰り広げる。

向こう側では敵主力の護衛艦と思われる艦隊と、比叡さん達が交戦していた。

 

常に意識は空にあり、対空防御に徹する。制空権の確保が私達の役目。

そして主力艦隊が合流するまでの間、生き残る事が私達の役目。

それが先行するという道を選んだ私達の使命だ。

 

 

Side 夕立

 

 

「さぁ! 素敵なパーティしましょ!」

 

私の主砲が火を噴いて敵の駆逐艦を吹き飛ばす。

トラックで嫌と言うほど火力テストをしていたから自分の火力が本物だってことは、

自分自身でも十分に理解していた。

 

「夕立ちゃん! 戦艦は私が相手するから、駆逐艦をお願い!」

「了解したっぽい!」

 

残った駆逐艦は一隻。でも敵には戦艦に重巡洋艦と火力面では侮れない存在が居る。

でもそれならこっちも同じ。

戦艦は比叡さんが居るし、重巡なら教官の利根さんと筑摩さんが居る。

重雷装艦で北上さんがいるし、駆逐艦なら私が居る。

 

「均衡した状況だねー。じゃ、私は軽巡でも狙わせてもらおっかな」

「ならば敵重巡の相手は吾輩等じゃな。ゆくぞ筑摩よ」

「はい、姉さん」

 

各自が持ち場に付き一斉に砲撃を開始して、敵の分断に成功する。

それからは各個撃破するだけだ。

 

駆逐艦との同航戦による砲撃戦が行われる。でも私自身も負けられない。

機動力が高いかわりに装甲の薄い駆逐艦。条件は共に同じ。でも違う事があるとすれば。

 

「努力の差よね!」

 

機関を逆回転させ急速停止、その事態に敵駆逐艦は偏差射撃を行っていたからか、

私よりももっと先の所で水柱が上がっていた。

 

「ソロモンの悪夢、見せてあげる!」

 

その言葉と一緒に四連装酸素魚雷を一斉発射。扇状に、かつ偏差を狙った雷撃は、

急旋回してこちらに向かってきた駆逐艦に直撃して、水底に消えていった。

 

「やるねー夕立ちゃん、私も負けられないかな」

 

北上さんが主砲で敵軽巡の動きを制限しながら、ここぞという時に魚雷を発射する。

その数発の魚雷が見事に命中、大きな水柱と共に沈んでいく。

向こうの方では利根さんや筑摩さんが敵重巡を、比叡さんが敵戦艦を沈めていた。

あっという間に制海権を確保する。

 

でもさらに遠方に別艦隊を発見する。

黄色いオーラを纏った空母ヲ級が3隻、赤いオーラを纏った重巡リ級が1隻、

駆逐艦イ級の後期型が2隻。

 

恐らくあれが奇襲部隊の本隊。私達は連戦になるも戦闘を挑むのだった。

 

 

Side 吹雪

 

 

私は胸の奥に感じるざわめきを感じながらも、大和さんを待っていた。

 

大和さん達が遅れているという事は目に見えて解っていた。

けれど一体なぜという事は私達の知る由もない。

もしかして敵の別働隊と接触して戦闘してるんじゃ……

そんな不安が私を支配すると同時に、

言葉では言い表せない漠然とした何かが私を駆り立てていた。

 

MO作戦で翔鶴さんと瑞鶴さんが襲われた時よりもずっと大きい。

トラック泊地が襲撃を受けた時に感じた物と同じような。ならこの何かは何だろうか。

あの違和感を感じて第五遊撃部隊を態々トラック泊地に転進させたんだ。

このざわめきが向かう方向に。

 

「ブッキー、またあの『何か』デスカー?」

 

金剛さんが私を心配してくれる。

実際金剛さんとは南西諸島海域の時からお世話になりっぱなしで、

私の事を気にかけてくれる数少ない先輩であり、

そして、第五遊撃部隊に成った今でも私を心配してくれる心優しい先輩でもあった。

 

「……ブッキー、そんなに気になるなら向かうといいヨ」

「でも、私が外れたら金剛さんが」

「確かに単艦での待機など危ないのは百も承知の事デース。

 でもそのせいでブッキーのSoulをThroughすることは出来ないヨ!」

 

元気よくサムズアップを飛ばしてくる金剛さん。

私はその金剛さんの表情が光り輝く金剛石のように見えた。

 

「金剛さん……」

「こっちも大和達と合流で来たら全速力で追いかけるネ!」

 

私は胸のざわめきを信じて赤城さん達の向かった方向へと全速力で向かった。

 




鈍色の雲の下中間棲姫が佇み、赤城らが討たんと奮闘する。
分断した理由は赤城さんなりの制空権の先生確保のためと思ってもらえれば。

第一攻撃隊の攻撃が成功し追加の攻撃隊の発艦要請。
しかし涼月の言葉を思い出し、流れるように同化していた軛に気付く。
バシー島、オリョール海共に割とこの為にあったと言っても過言ではない。

飛行場姫が居ない理由としては、『MI作戦だから』という理由です。
そもそも飛行場姫はAL/MI作戦であるイベントで登場していません。
なので今回は早急に退場して頂きました。

ここまで成してもまだ消えぬ吹雪の不安。
金剛さんは良き姉的存在だと意識しています。
でないとあの三人を纏められんでしょうし……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十七話『受け入れる者、背負う者』

敵の強襲を何とか凌いだ赤城達。そして一縷の不安がよぎる吹雪。

第十一話から第十二話にかけてのお話。
ぼちぼち最後が見え始めてきた。


Side 赤城

 

 

ただひたすらに、ただひたすらに敵機を撃ち落とす。

しかし敵の機動部隊は絶え間なく現れており、激しい航空戦は未だに続いていた。

 

あれからどれほどの敵艦載機を撃墜しただろうか。

そんな事も忘れてしまう程戦いは長期化していた。

そこまで時間を費やしても制空権を確保する前に敵の増援が到着してしまう。

 

こちら側では既に損傷した艦が出てきている。

特に皆の盾となって前線を張る比叡さんが特に大きな損傷を受けていた。

良くて小破悪くて中破と言った所だが、

それは彼女の練度による洗礼された回避の賜物であって普通ならば大破しているであろう。

利根さんや筑摩さん、北上さんや夕立さんには損傷が見られなかったが、

疲労が蓄積しておりいつ被弾するか解らない。

 

撤退しようにも敵の攻撃が激しく、思うように動けないのも事実。

そしてなにより中間棲姫の周囲を飛び回っている艦戦からの伝達によると、

中間棲姫が強引にも艦載機を発艦させようとしている所であるという事。

暫くはその上空の制空権を取っている艦載機によってこちらに被害が出る事は無いだろう。

しかしそれも時間の問題でしかなく最悪増援の敵機動部隊によって、

そこら一帯を一掃される可能性も十分にあり得る状況であった。

 

何とか艦爆を発艦させて中間棲姫に追加の一撃を与える事が出来れば、

状況が変わるかもしれない。だが敵はそれを許してはくれない。

その必死さから、深海棲艦も相当本気であるという事を体で感じ取る事が出来た。

 

敵の一番槍は防ぐことが出来たものの、

第二第三と続く波状攻撃が段々とこちらの戦力を削っていき、

こちらの艦戦の矢は残りわずかとなっていた。

それはつまり戦況は私達にとって不利な状況へと傾いていると同意であった。

 

「赤城さん! 直上!」

 

そんな中加賀さんが叫ぶ。

空を見ればこちらの艦戦の間を縫って、敵の艦爆が今まさに爆弾を切り離したところであった。

あまりに突然の事で体が追いつかない。

被弾してしまうと思った矢先、私は一つの衝撃を覚えて前へと押し出された。

 

爆発。バランスを崩しつつもその場から反れた私は爆撃を避ける事が出来た。

しかし私を押し出した人が被弾するのは必然。

黒煙を上げながらもその中から姿を現したのは加賀さんだった。

 

「加賀さん!」

 

彼女の服も胸当てもボロボロで、飛行甲板も大穴があいている。

自力で航行は可能な状態であったものの、発着艦は不可能であることが見て取れる。

 

「赤城さん、貴女を残して……沈むわけにはいかないわ」

 

肩で息をしながらも微笑む彼女は中破しており戦えそうにない。

それどころか後一発でも貰えば轟沈の可能性もあり得る瀬戸際だった。

酷く動揺しそうになったけれど、

ここで取り乱しては加賀さんにも私達機動部隊にも危険が及ぶ。

オリョール海での突然の敵襲来で涼月さんを庇った時も、彼女は的確に指示をしていた。

 

「皆さん、一旦落ち着いて陣形を組み直しましょう! 第三警戒航行序列で!」

「はい!」

 

現在比叡さんが率いる艦隊と私達空母四人はある程度離れてしまっている。

このまま分断され各個撃破されては元も子もない。

合流して陣形を組み直す。これならある程度背中は任せる事が出来る上に、

加賀さんを中心に置くことで敵艦隊からの被害は抑えられるだろう。

 

「赤城さん! 中間棲姫が!」

 

飛龍さんが声を上げると共に、中間棲姫の上空を飛んでいる艦戦達から緊急の入電。

それは中間棲姫が新型の戦闘機を発進させ、撃墜に失敗したというもの。

その新型は私達の艦戦を無視してこちらに攻撃しようと向かってきているらしい。

 

鈍色の雲に覆われた空の向こうから白い点々とした何かと、蒼い瘴気を纏った敵機が飛んでくる。

あれがおそらく新型の戦闘機だろう。

 

「あの敵機は……!」

 

それを捉えた加賀さんの表情が一変し、無理やりにでも艦載機を発艦させようとする。

思わぬ彼女の行動に蒼龍さんが抑え込んだ。

 

「駄目ですよ加賀さん! そんな状態で発艦させたら!」

 

確かに弓を使えば発艦は出来る。

しかし着艦させるためには私達空母が持っている飛行甲板の艤装が必要なのだ。

それにただそれを装備しておけばいいという問題でもない。

今の加賀さんの飛行甲板に穴が開いている様に、損傷が激しければ着艦は不可能。

 

「未帰還機でも構わないわ……あれは、落とさなければならない。涼月さんの為にも」

 

いつもと違う様子の彼女に、私は何かあったのだろうと思う。

しかしあの敵機は私も見たことが無い。

それに、加賀さんの呟いた涼月さんの名前。

 

加賀さんは第五遊撃部隊、涼月さんは第一機動部隊。

泊地に戻ってからは旗艦を止めて泊地の艦隊に所属している。

そんな彼女と加賀さんが共に戦う戦闘、それもあの様な敵機を含む大規模な航空戦など、

私の知る範囲では存在しなかった。そう。それは私の知る範囲での話だ。

私が知らなくても彼女と涼月さんが共に戦ったことは一度だけある。

 

トラック島空襲。結果は敵機動部隊の全滅、

トラック島への損害は非常に軽微に済んだと聞いている。

それは嘘ではないというのが解る。でも、何か裏がある気がした。

最近の第五遊撃部隊の皆の様子。特に加賀さんや瑞鶴さん、吹雪さんの様子がおかしかった。

そして今その加賀さんがあの敵機を見て、

自らが中破しているというのに『未帰還機でも構わない』と発艦させようとしている。

 

トラック島への損害は軽微。しかし艦娘への損害は知らされていない。

ならば自ずと導き出される答えは一つだ。

 

「加賀さん。トラック島空襲の時、涼月さんに何かあったのですか?」

「!」

 

必死に発艦させようとした加賀さんの構えが崩れる。相当動揺しているようだ。

やはり涼月さんに何かあったのだろう。

それ以上口を開かない加賀さんであったが、沈黙は同意を意味する。

そしてその事実は私を含めたここに居る全員が理解した。

 

艦娘の傷は全て入渠によって治す事が出来る為、

例え重症でも最悪長時間入渠していれば完治させる事が出来る。

四肢の一部が失っても、手術によって接合し取り戻すことも可能と言えば可能だ。

 

しかし彼女の先程の必死さも戸惑いも、そのどちらにも当てはまらない物。

敵討ちに近いような必死さと、轟沈した時の戸惑い。

二度と取り戻せない者に対して抱く感情にそっくりだった。

私なら解る。それに似た感情を抱いたことがあるからだ。

 

「涼月ちゃん、もしかして轟沈しちゃ「轟沈はしていません!」」

 

夕立さんの発言を遮るように声を荒げる加賀さん。

その一言には轟沈していないという事実と、

轟沈と同じような何かがあったのだという事を、皆に知らせる事になる。

 

「涼月さんは生きています。ただ、今は眠っているだけで……」

「まさか、植物人間状態とか……」

 

飛龍さんの発言に首を縦に振る彼女。

同じ艦隊であった北上さんも自然と視線を逸らしていた。

 

直後、付近に水柱が上がる。

 

涼月さんの一大事。

それは今まさに戦闘中という事を忘れさせるほどに衝撃的な物で、

結果として私達は莫大な隙を晒してしまっていた。

遠くに見えていた正体不明の敵機はもうすぐそこにまで接近しており、

その中でも特に速い蒼い瘴気を纏った敵機が、こちらの直掩機を次々に撃墜している。

練度の高い私達の艦載機を叩き落とす敵機が語るのは、圧倒的な性能の違い。

練度を上げても機体が古ければ頭打ちも必ずある。故に深海棲艦は新型を作り上げたの