ヤーナム専門狩猟学校 (城縫威)
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ヤーナム専門狩猟学校

ヤーナム専門学校、これが東京都内で新しく出来た専門学校、それもかなりクセモノな学校なのだ。何を専門にしているのか、それは狩りである。例えば機械の使い方を習い、工業系に行くとか、料理の技術を習い、料理人になるとか、そういったものではない、狩り、すなわち自然界に存在するありとあらゆる生物との死闘の果てにある狩猟を専門とした学校なのだ。都心集中が進む中、都心の中でも地方を好む少年少女は少なからずいる。だが彼等は自然の中で生きるすべを知らないのだ、故に、自然で暮らそうにもそれが出来ない、そんな少年少女を訓練し、例え不毛な砂漠地帯でもたくましく行きていけるようにするのがこのヤーナム専門学校なのだ。だが狩りを習うと行ってもただ一辺倒に獲物の殺し方を学ぶのではない、命を取り扱うのだ、それ故相当の命を対象とした学びを重視する。むやみにハントするなどもってのほか、いかにして命が生きているか、はたまた狩りの歴史は何時頃から有りどう進化していったか、世界のあらゆるところにいる生物たちの生態等々、狩りについて深く掘り下げすぎたと言っても過言でない。校長のゲールマンを始めとし、歴史のウィレーム、生物学の獣の男など、個性豊かな先生たちが学校の中を歩いている。とりわけ人気が高いのが、事務を努める人形、等身大の女性の人形なのだが、まるで生きているかのように喋り笑い、事務の仕事をこなしている。その美しさに男女問わずうっとりとしてしまうことが多々あるそうだ。しかし、座学だけではやはり収まりがつかない、狩りをこなし自然の中を駆ける事こそ生徒たちが望む事だ、それを受け持つ先生が、狩人ガスコイン、デュラの二人だ。この二人には、役割が振り分けられている。狩りの方法を教えるガスコイン、狩りにおいて覚えなければいけない掟を教えるデュラだ。ふたりとも老年のハンターであるにもかかわらず、その体の天辺から足先に至るまで何処をみても衰えている所は見受けられないのだ。そんな彼等はヤーナム専門学校でのあこがれなのである。けれども余談であるがこのヤーナム専門学校で、最も狩りが巧い物は校長のゲールマンらしい。かれがお付に人形連れて、車椅子を押されながらふらりと森の中に入ると、必ずゲールマンの身長よりも数倍大きい獣を狩って戻ってくる。にこやかな顔に少々の血がペトリ、付いているのを見ると、背筋にすぅと冷たいものが走るのを感じるのだ。

 

「おい皆!はやく席につけって!狼が来たぞ!」

 

狩りの先生の内、デュラが、国により以来を受けて狩りへ行っているので、狩りの授業がガスコインの執り行う座学へと変わった。このガスコインという人間はアダ名で狼と呼ばれている。なんでもずっと昔は相当の悪の一匹狼だったそうで、あちらこちらでガスコインの不良話が点在するのだ。

 

「……ちゃんと席に付いているようだな。」

 

教室の扉を開けてガスコインがやってくる。だがその顔は不満気だ。

 

「が、席につくのは俺が来る五分前には終わらしておけ。廊下を歩いてるとガタガタガタガタうるさい音鳴らしてピタリと止まりやがる。こういったことは俺に気づかれないようにやるんだ。なんなら五分前にやれとはいわん、音を立てずにやれ。音をたてず静かに行動することは狩りの基本だということを忘れるな、それは狩りの中だけでなく、日常でもだ。」

 

はい、と威勢よく教室全体から返事が返ってくる。それにガスコインは満足したようで、出席簿を開き、確認していく。彼は見た目こそ怖い男だが、やることなすことは、一応は良い先生なのだ。

 

「だけどよ、あの狼って言われたガスコインがあんなこといってもな。」

 

「そうだよな、なんだか取ってつけたみたいだよな。」

 

このように一度生徒が私語、かつ狼というアダ名を使うと。

 

「うぎゃっ。」

「ぐぅっ……。」

 

炸裂音と共に弾が飛び、私語をこそこそと喋っていた生徒二人に的確にあたる。

 

「あ"あ?」

 

くっきりと青筋を立てて、生徒に対して鉄拳制裁を与えるのだ。その姿に、勿論ガスコインが周りにいないことを確認してから、生徒たちはこう言うのだ。やっぱりガスコイン先生は狼だよな、何時も牙むき出しの一匹狼だ、と。

 

「おや、まーたガスコインが暴れたかな。」

 

「校長、お茶です。」

 

人形が校長の前に梅昆布茶を置く。

 

「うん、有難う。」

 

嘗て一匹狼のガスコインを拳だけで黙らせた男、ゲールマンはずずとお茶を飲んで一息ついた。

 

「一発殴って更正させるのも、私の役目かな。」

 

ニヤリとゲールマンは言う。その言葉が口から漏れた時、ガスコインの身体を悪寒が走ったのは、言わずもがなだ。



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