ブラック・ブレット 黒血の復讐者 (浮霧 劉牙)
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第001話――記憶

 東京近郊。
 少年は目の前で坦々と燃える炎を虚ろに見つめていた。
 その目には何も映っておらず、ただただ時間が過ぎていくだけだった。考えることを放棄し、空腹で「何か寄こせ!」と鳴り出す胃袋を無視し、靴の履いていない片方の足の裏が化膿した痛みをも気のせいだと思い込み、じんわりと臭う人の焼ける臭いに自分がいつ混ざれるのだろうと、それだけを考えていた。
 2週間前までは少年は幸せだった。優しい両親がいて、休日には毎週どこかへ出かけた。母親の作るサンドイッチは月一度に食べる高級店での食事よりも好物で、父親の趣味である様々なレジャーに付き合って山を登ったり、渓流で釣りをした思い出が今でも鮮明に思い出せる。
 しかし今では何日も来ている服の異臭には慣れ、死んだ人間の焼ける臭いや土から漏れ出す土葬された人間の腐敗した匂いに包まれ、数日に1回の配給と雑草を食べて過ごす日が続いていた。1人で歩いているのを一回り年齢の大きい青年らに囲まれ、配給札を奪われ、涙も出ないまま死んだように眠ることもあった。数日間何も口にしていないせいで、久しぶりの配給のおにぎりを胃袋が受け付けず、胃液とともに吐き出された吐物を口で精一杯受け止め()せながらも苦い米を必死に胃袋に押し込んだ記憶も真新しい。昨日なんか、朝に食べたよくわからないキノコや泥で汚れた雑草を食べたせいで下腹部に激痛が走り寝る寸前まで嘔吐と下痢を繰り返した。


 こんな状況を作り出しているのは、『ガストレア』のせいだ。
 ガストレアは今年2021年に突如現れ、瞬く間に人類の数を減らしていった。日本は人類活動領域が5つに分断され、大きな都市に人が集まってきては、毎日ゴミのように死んでいく。
 少年の父親と母親も、少年の目の前で無残に死んでいった。母親は自衛隊の戦闘機で上空から地面に叩き落された鳥型ガストレアに潰され肉塊になり、父親は虫型ガストレアから逃亡中、少年の手を引いたまま腕を残し捕食され死亡した。直後に自衛隊のロケットランチャーで木端微塵になり、爆風で十数m吹き飛ばれてたことよりも何故もっと早くガストレアを殺さなかったのかと自衛隊の男性に掴み掛り涙を流した。
 そのまま避難所で何日も動かないまま寝転がって生活していた。子どもを亡くしたという高齢の婦人に話しかけられ、少ない配給を分けてもらい、抱きしめられながら眠ったこともある。しかし、数日後その避難所がガストレアに襲撃されても奇跡的に生き残り、しばらくしても姿を見せない婦人を探しに行くと無残な姿で死体となり並べられているのを見て、膝から崩れ落ちたことは一生忘れられないだろう。そして、何故自分を両親の元へ連れて行ってくれないのかとガストレアに怒りを向けたこともある。


 もう嫌だ。こんな生活はたくさんだ!
 叫んだつもりであったが、衰弱した体はいきなり大きな声など出せず、虚しく瘡蓋(かさぶた)で治りかけだった口の端がぷつりと切れ、血を流すだけだった。
 そんな時であった。


『キョエェエエエエエエエエエエ!!!』


 人間にはとても出せないような声が上空かた鳴り響く。見ると戦闘機が空を翔けていた。周りの人はなんだなんだと一斉に空を見上げて怯えるような顔をしている。その中でも察しのいい人は既に駆け出していた。それを見て俺も私もと徐々に慌ただしくなっていく。そして空中で何かが爆発する。見ると花火があがったようにオレンジと赤の光、そして黒の煙が見えた。おそらく先ほどの戦闘機が爆発したのだろう。『ヒュンヒュン』と鈍く鋭い音が大きくなってきて横に目を逸らせば、戦闘機の翼が回りながら回転して落ちてきていた。そちらの方向では悲鳴が上がり逃げ惑う人でいっぱいだった。そして少年から200m程離れた場所に翼が地面にぶつかるとその衝撃で人々は宙を舞い、薙ぎ払われる。叫び声や鳴き声であたりが騒然となった。そして誰かが上空を指さして叫ぶ。「ガストレアだ!!!」。
 その方向を見るとここから少し遠い場所に蜻蛉(とんぼ)の複眼が何個もついた頭部に(セミ)やらカブト虫やら何かの鳥やら数種類の羽を持つ生物の羽を混ぜたような胴体のガストレアが戦闘機に攻撃されていた。距離があるとしても周りの人々は恐怖で我先にと逃げ始め、ここの交差点に常駐している自衛隊も戦車に乗り込み、ガストレアに向かっていった。数分も経てば先ほどの人の密集地とは思えないほどの閑散となっていた。
 その間、少年は一歩もあるどころか立ってすらいなかった。それどころか「どうかあのガストレアが自分のところに落ちてきて、潰してくれないか」と、思っていたほどだ。戦車の主砲が火を噴き、地響きを鳴らしながら発射された榴弾がガストレアの目の1つに命中し、一際大きな鳴き声が響く。吹き飛んだ肉塊が少年の近くに落下し、ベチャリと嫌な音を立てる。死を望んでいるのに、そんな音が鳴るたびに体は震え、両腕が膝を抱える強さは増していった。感じたくもない恐怖が心の底から湧き出てきて、顔を膝と胴の間に押し込み、両手で耳を塞ぎながら震える下半身をしっかりと肘で抑え込んだ。


 音が鳴り止んだのはそれからして10分ほど過ぎてからのことだ。
 聞こえるのは目の前でパチパチと鳴る燃えたている木材と、ズルっ、ズルっ、という巨大なモノが地面を引きずる音だった。震える体を必死に押さえながら頭を上げると、少年の10m先にガストレアがいた。
 何個もついていた複眼は一つだけになっており、翼も片方はもげ、満身創痍であることは確かだった。しかし、まだ生きている。ガストレアの再生速度は非常に強力で現存している兵器では頭や心臓を爆発で粉々に吹き飛ばすことでしか殺す方法はない。目の前のガストレアも欠損した部位の再生は微々たるものだが、確実に再生が始まっている。


 自分は喰われるのか。
 それともガストレアウィルスを注入され、自分もガストレアとして変貌させられ人々を襲うことになるのか。
 ガストレアはゆっくり、ゆっくりと少年に近づいていき………………、






























「………い!おい!起きろ七誌(ななし)!」


 はっ、と青年が顔をあげれば、頭部に強い衝撃。斜め前には腕を組んで仁王立ちする歴史担当の松井(まつい)。何も持っていないところを見ると衝撃の発生源はおそらく松井の拳骨だろう。歴史担当なのに体育担当の教師よりも体が大きい為、あだ名は“ゴツイ”と呼ばれ、その腕の筋肉と浮き出た骨から生じる痛みは地味に長引く。よく態度の悪い生徒や違反した生徒をしつこく拳骨で体罰しているが、良いことをすればそのゴツゴツとしたデカい手で頭を撫でることもあり、嫌う生徒はほとんどいない。


「あー、すいません。寝てました。以後気を付けます。」
「そのセリフ昨日も聞いたんだが。」
「気のせいですよきっと。」


 その青年――『七誌(ななし) 千景(ちかげ)』の言葉にクラスにクスクスという静かな笑い声が生まれる。“ゴツイ”はというと口をヒクヒクさせると、深いため息を吐いて笑顔を浮かべる。


「まぁ、今回はこれ以上叱るのは止めておこう。」


 珍しい、と思った。いつもならこの千景の返答のせいでもう1、2発は拳骨を貰うはずなのだが、今日は特に何もなく教卓に戻っていく。ラッキー、と思いながら首を回し、残りの授業を受ける体制をとる。
 しかしそんな千景の心とは裏腹に“ゴツイ”が何やらプリントを持って戻ってくる。


「明日までにこれやってこい。それで許してやる。」
「ちょ!待ってくださいよ!俺より酷い奴いるじゃないですか!」


 と窓際の後ろの席を指す。
 そこには無造作ヘアーで机に突っ伏して寝る『里見(さとみ)連太郎(れんたろう)』がいた。彼は毎日ほぼ全ての授業を寝て過ごし、たまに無断で早退したり、クラスメイトとの関わりも皆無と言っていいほど浮いた存在だ。誰もが何故高校に通っているのかと疑問を持ったことはあるだろう。しかも幼女を家で飼ってるなどの噂が流れてたりしていて、クラスメイトからの視線はいいものではない。
 それも含め、全ての原因は千景は知っているのだが、おそらくこの学校で原因を知るものは千景を除いては片手で数えるくらいしかいないだろう。


「……そいつはもう諦めた。」
「諦めたぁ!?」
「あぁ。だがな七誌。お前はまだ頑張れる!そう信じているぞ!」


 いいのかそれで、と突っ込みたくなった千景だったが、“ゴツイ”は体育会系みたいに目をメラメラさせ(ているかのように千景は感じた)、両手でバン、と千景の肩を叩くと再び授業へと戻っていく姿を見て、溜息しかつけなかった。
 ……ちなみその間、連太郎は一度も起きなかった。




はい。始まりました。

書きたくて書きたくて溜まった妄想を小説にしました。

取り敢えずアニメでやったところまでは書くつもりです。
その後は小説を買うか、オリジナルストーリーを挟むかはまだ考え中です。


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第002話――七誌千景という男

 キーンコーンカーンコーン。


 6時限目の授業が終わり、千景は大きな欠伸をする。周りでは部活に行くものや、掃除の準備を始めるものなどと既に和気藹々(わきあいあい)としており、教室から出ていくものも少なくない。その中に里見連太郎もいたのだが、彼は誰に関わるわけでもなくのらりくらりと気配を消してさっさと教室を去ってしまった。
 千景が帰る準備をし終わり、教室を出ていく頃には委員長が「里見はまた帰ったのかー!?」とヒステリックになっており、掃除当番の面子がまたか、とため息をついている。ご愁傷様委員長。そして明日の連太郎。そう頭の片隅で思い、千景は教室から離脱した。


 学校を去った千景を日光が照らし続ける。周りはコンクリート壁やアスファルトに囲まれ、視界の先に視える巨大なモノリスが熱気により歪んで見える。6月だというのにこの暑さにヒートアイランド現象による地球の被害を思い浮かべるが、10年前の出来事を思い出し歯の奥がギリッと鳴る。
 10年前、突如現れたガストレアに人類の9割を殺戮されてから、人類はここまでよくやったと思う。生活状況は10年前とほぼ変わらぬものとなっており、視界に映るモノリスさえなければ、誰もがあの惨劇を思い出すことは無いだろう。両親をガストレアに殺された千景も、よくここまで生きてきたなぁ、と立ち止まってモノリスの先を見上げ、しみじみと思ってしまう。そんな自分に「爺じゃあるまいし」と言い聞かせ、再び歩き出す。


 再び歩き出した千景はこの後どうしようか、なんて考えていると後ろから車の音が近づいてくる。その音を出していた黒のリムジンが自分を追い越してすぐに止まる。まず見ることがない車に、見ればどうやってこの細い路地曲がってんだよ、といちいちツッコミをしたくなるの我慢してリムジンをジッと見つめる。降りてきた運転手の方が後ろのドアを開け、「どうそ七誌様。」と自分に話しかける。やはり自分に用だったか、と相手を考えるが、自分に用があって黒塗りのリムジンに乗っている人など1人しか思い浮かばない。
 ゆっくりと近づきリムジンに乗ると、向かいには着物をきた大和撫子と呼べるような美人の女性がいた。長く腰まである黒髪は艶があり、手入れのことを考えると億劫になるほど綺麗だと言わざるをえない。折れそうな細い腕には扇を持っており、その口を隠し、妖艶な雰囲気を醸し出していた。そしてこちらを見る目は肉食動物のようにジッとこちらを捉えていて、少し怒りを感じるような気がする。


「……よう、未織。」


 この妖艶な女性は司馬(しば)未織(みおり)。千景が通っている勾玉(まがた)高校の生徒会長にして、民警や自衛隊などに数多くの武器、及び装備品を提供している巨大兵器会社『司馬重工』の社長令嬢だ。


「1週間ぶりくらいやなぁ、七誌ちゃん。」
「(あ、怒ってるわこれ。)」


 その言葉からは静かな怒りを含んでおり、その眼は千景を刺すように睨んでいる。千景が思わず目を反らすと、更にその眼光は凄まじいものになり、ひしひしと刺さるような視線が千景を襲う。


「七誌ちゃん……。今日、何の日か覚えてはる?」
「き、今日か……?もしかして未織の誕生日、だったりして……。」
「残念。ウチの誕生日は3月3日や。」
「じゃあ、社長の誕生日とか!?」
「七誌ちゃん……、いい加減せんと怒るで。」
「あ、はい。シミュレーターでの性能テスト……でしたね。」
「正解や。……で、七誌ちゃん今何しようとしてたん?」
「ゲーセンにでも行こうかと。」
「はぁ、呆れてモノも言えんわ。」
「いやぁ、スマンスマン。まぁ捕まったが最後、ちゃんと受けてやるって。」


 未織はため息を着くと扇を閉じ、千景の顔にビシッと向けて睨む。実はこの扇は鉄製で、いわゆる鉄扇、と言うものだ。何故、司馬重工の令嬢が鉄扇など持っているのか、と誰でも疑問を持つが、このお嬢様、なんと司馬流戦闘術という数百年も続いている流派の免許皆伝者で、戦闘となると鉄扇と片手銃の二刀流で闘う。なお、その場面は本来使用される場所ではない所での披露になるのだが、今は割愛しておこう。


「ウチもそうしたいとこなんやけど、緊急でガストレア関係の依頼が入ってな。七誌ちゃんにはそれに行ってもらいたいねん。」
「ガストレア?分かった。俺が行ってやる。」


 ふざけていた千景も『ガストレア』という単語を聞き、真面目になる。
 実は千景は未織の父親が経営する司馬民間警備会社に所属する社員である。民間警備会社――略して民警、とは、ガストレア関連の事件の際に警察とは別に対応にあたる組織だ。その為、千景も度々会社から――と言っても、ほとんどが未織を通してだが――依頼を受けることがあり、ガストレア駆除にあたっている。本来なら学校にも通わず、民警としての仕事のみで生きていくつもりだったが、何の縁か未織に大層気に入られ、戦闘に使用する装備の提供や()()()()()()を無償で受ける代わりにと、未織の通う勾玉高校へと通わされているのだ。


「ふふ……。七誌ちゃんのそうゆうとこ、嫌いじゃないで?」
「ありがとよ。で?今現場に向かってるのか?」
「いいや。場所的にウチの会社通るからなぁ。前に頼まれてた()()が完成したことやし、試運転も兼ねて乗って貰おうと思うてな。」
「アレ?そうか、ようやっと出来たか!」


 と、リムジンが停車する。ドアが開き外を見るとどうやら司馬邸に着いたようだ。
 車の付近にはシートで隠された物体があり、周りでは何人かの作業員が最終チェックなどをしていたのか、工具やら紙やらを持ってうろついている。


「七誌ちゃん。これがウチの会社の総力を持って作り上げた最高傑作や!」


 いつの間にか降りていた未織がシートを取ると、そこには黒とシルバーに輝く大型のバイクが存在していた。


「おぉ!」
「司馬重工の最先端技術で騒音も限りなく抑え、最高速度も400km/h超え!耐久性もステージⅠのガストレアくらいの一撃なら耐えれるくらいの強度に改造!装備品のヘルメットにはウチからの直通の通信が出来るインカムを搭載!盗聴や割り込みが出来ないようなセキュリティも万全や!荷物の搭載も多く可能で、小物からアタッシュケースまで対応!勿論、七誌ちゃんから頼まれたモノも収納できるようになっとるで?」
「すげぇことになってるぞ……?というか、その耐久度はいるのか……?」
「もしものことがあるやん?」
「そもそもバイクなんだから俺生身なんだが。」
「七誌ちゃんはガストレアに殺されても死なないから大丈夫やろ。」
「大丈夫じゃねぇよ!!!」


 千景がヘルメットを被り、跨るとそのハンドルの感触を確かめるように握り締める。準備が出来るとエンジンを掛けるが、『ブォオン!』という騒音と共にバイクが唸り始める。周りの作業員達もその音に「おぉ!」と興奮しており、目を輝かせている。ちなみに、本来18歳未満は大型バイクの免許など取得できないのだが、司馬家の力と民警という立場を用いて、特別に取得している。


「おい。騒音抑えたんじゃねぇのかよ。」
「いやぁ、実はな。音無くしてしもうたらバイクの意味がない、っていう声があってな?騒音ON、OFF出来るようにしたんよ。」
「無駄な技術だなぁ!?」
「まぁ、ええやないの。それより早く行かんと他の同業者に先越されるで?」
「ちっ、分かったよ……。」


 千景は騒音をOFFにすると、バイクのアクセルをかける。今度は音は鳴らず、静かな体への振動だけが響く。


「じゃ、いってくる。」
「ええ報告待ってるでぇ~?」


 そして千景はガストレア駆除の仕事に向かう為に司馬邸から出発した。















『あ、七誌ちゃん。依頼の場所は○○だからそっちは遠回りやで?』
「先に言えよ!!!」
『聞く前に出た七誌ちゃんが悪いやん。』


 しまらない出動となった。



説明と伏線がたくさんありすぎてゴチャゴチャに……。

3話以降のプロット書いてる途中でも修正何回かしたのですが、多分一番時間かかった話……。


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第003話――同業者・里見連太郎

「あぁん?お前が俺たちの応援に駆けつけた民警だぁ?馬鹿も休み休みに言え。まだガキじゃねぇか!」


 千景が依頼で指定された場所に着いてバイクを停めた時のことであった。マンションの入り口から渋い怒鳴り声が聞こえてくた。


「んなこと言われても仕方ねぇだろ。俺が応援に来た民警だよ。拳銃も持ってるしライセンスだってある。ウチの社長に言われたから仕方なく来てやってんだ。疑うなら帰るぜ?」


 怒鳴り声の後にはまだ若い声でため息混じりの声が聞こえる。千景はこの声に聞き覚えがあった。マンションの入り口に向かうとそこには体も顔もゴツい刑事と千景と同じ制服を身にまとう細い男子高校生がいた。


「帰るなら帰れ。俺が引き継ぐ。」
「「あぁん?」」


 千景が声をあげると2人仲良く不快な顔を向けてくる。


「なんだアンタ?お前も民警か?悪いな。俺が先に来てんだ。早いもん勝ちだ。」
「帰るんだろ?なら問題ない。」
「それは言葉の綾というか……。」


 千景と同じ制服を着ている男――里見蓮太郎は、千景と同じ民警である。千景とは違う会社に勤める民警だが、蓮太郎は千景と同じく未織に気に入られており、勾玉高校への通学やテスターなどを請け負っている為、よく未織から話を聞くことがある。なお、蓮太郎からしてみれば高校など興味は無く、授業はいつも寝ていてクラスメイトにも無関心な為、千景のことは知らないようだが。


 それにしても同じ制服を着ているのにそこに突っ込まないのは分かっているのかそれともただの馬鹿なのか……、千景が考え込もうとした時に刑事から声がかかる。­


「なんだ、テメェもガキじゃねぇか!しかも同じ制服ということはお友達同士で仲良く民警ごっこかぁ?」
「ごっこじゃねぇ。この事件でごっこなんてできねぇのはお前らが一番分かってるだろ?」
「ちっ、……許可証(ライセンス)だせ。」


 千景は胸ポケットから速やかに許可証を差し出す。刑事から制服のツッコミがあった為に「同じ高校!?そういえば見たことあるような……。」と考えていた蓮太郎も千景が軽く肘打ちすると、慌てて許可証を出した。


「おっ、お前さんは司馬民間警備会社のモンか。ならある程度は信用はできるな。」
「……!!未織んとこの……。」


 蓮太郎は驚いた顔をするが無視。千景は「俺は多田島だ。」と軽く自己紹介をしてきた刑事から許可証を受け取る。多田島刑事は千景に対してはある程度の信用はしたのかニヤッと笑い、先程までの無礼を侘びるような態度であったが、蓮太郎の許可証を見た瞬間、その顔は不審なものに変わる。


「対してお前は『天道民間警備会社』ねぇ、聞かない名前だな。」
「売れてねぇからな。」


 多田島刑事の態度が癇に障ったのかぶっきらぼうな顔で許可証をひったくる蓮太郎。かくいう千景もその会社の名前はほとんど聞かない。未織のお気に入りである蓮太郎が所属している為にいろいろ話は聞いているものの、千景自身が仕事を通じて警察やら他の同業者から聞いたことは一度も無い。


「ところでお前は帰らねぇのか?」
「ちっ、悪かったよ。」
「冗談だ。……仕事の話をしてくれ。」


 千景達のやり取りに苦笑いしていた刑事は渋い顔のまま今の状況を説明し始める。


「場所は二〇二号室。上の階から血の雨漏りがするっていうんで、一〇二号室の奴が悲鳴を上げながら電話してきた。情報を総合すると間違いなくガストレアだ。まぁ、いい、とっとと入ろう。やれやれ、やっとだな。」


 多田島刑事がため息をつきながらマンションの中に入る。千景もすぐ続くが、蓮太郎はなにやらマンションの入り口前で少し立ち止まったようだが、2人がそそくさと入っていく様子を見て駆け足で続く。


「なんだ。びびったのか?」
「ちげぇよ!……なんでもねぇ。」


 こいつはこれから弄れるな、と思いながら蓮太郎と並ぶ千景。先に歩く多田島刑事は2階へと続く階段を昇り始めたところで急に立ち止まると、振り返り千景達に顔を近づける。


「お前ら。相棒の『イニシエーター』はどうした?お前等民警の戦闘員は二人一組で戦うのが基本なんだろ?」


 やはりその質問が来たか、と千景は思った。この質問はどの現場でも言われる質問だ。千景も依頼の数はこなしているが、司馬民間警備会社、という大きい名前に隠れて、千景の名前は余り広がっていない。蓮太郎に関しては全く知らないが。ちなみに階段の上から顔を近づけている為、影とそのゴツさから地味に威圧感がある。こいつはあのゴツイ先生にも負けないくらいのゴツさだな、心の中で思ってしまう。


「あ、あいつの手を借りるまでもないと思ってな!」


 蓮太郎は冷や汗を掻き、明後日の方向を向きながらそう答える。途中自分の方を睨んだのは何故だろうか、と考えながら千景も答える。


「俺のイニシエーターは来ない。俺はソロで活動してる。」
「「何!?」」
「なんだお前ら仲いいな。」
「「誰がこんな奴と!」」


 顔を引き攣らせながら睨みあう2人であったが、すぐに千景を見て不審な顔をする。そして多田島刑事は前を向き、再び歩き始めながら話しかけてくる。


「イニシエーターがいない?本当なのか?」
「いないんじゃなくて来ないんだ。」
「どうゆうことだ?」
「説明する義務はないな。」
「ちっ、気取りやがって……。」
「これは俺達の問題だし、個人的にも法的にも刑事に知らせる道義はない。IISOにも許可は貰っている。戦闘でも俺だけでも戦えるから問題はない。」
「ふん。ずいぶん自信ありげだな。おら、ここだ。」


 そこには既に武装した大量の警官隊がドアの前に待機していた。何故か何人かは青い顔をしていたり、焦っているような落ち着きのない雰囲気があり、千景は嫌な予感を感じる。


「なにか変化は?」


 多田島刑事の言葉に青い顔をしていた警官隊の1人が振り返った。


「す、すいません!たったいまポイントマンが2人、懸垂降下にて窓から突入。その後、連絡が途絶えました……。」
「馬鹿野郎!どうして民警の到着を待たなかった!?」
「我が物顔で現場を荒らすあいつ等に手柄を横取りされたくなかったんですよ!主任だって気持ち、わかるでしょう!?」


 その言葉に千景は失望する。民警がガストレア関連の事件に同伴しているのは決して金や名誉の為だけではない。民警のシステムが出来るまでに発生した(おびただ)しい数の警察の死亡者を減らす為だ。それなのに、この警官隊の用に民警を快く受け入れるどころか嫌悪する者が絶えない為、警察と民警との溝は広がる一方だ。


「よかったな。」
「な……に……?」


 後ろで舌打ちして、拳銃を準備している連太郎も目を見開く。


「今までもこんなことを繰り返していたのか?いや、分かっているなら普通こんなことしないよな。俺達民警が警察(お前ら)の任務に同行している理由はなんだ?みたとこ若い奴らもいるが、お前らが警察になる前の警察の死亡者数とその理由、知らない訳はないよな。……おいお前。」


 突然の千景の言葉に驚いている警官隊の中で、先程多田島刑事に状況を報告した警官睨みつける。


「な、なんだよ……。」
「突入した警官はお前のなんだ?友人か?先輩か?後輩か?……それともただの道具か?」
「仲間だ!道具なんかじゃない!」


 必死に千景の言葉を否定する警官。その警官にゆっくり歩いて近づき、見下すように睨みつける千景。身長は同じくらいだが、顔の近さとその眼光で怯え、座り込んでしまうほどの恐ろしさを警官は感じた。


「そうか。仲間か。いい答えだな。」
「……え?」
「……だが。俺らに手柄を取られたくない、というくだらないプライドのせいで、2人が死んだ。まぁ、まだ100%そう決まったわけではないが、俺らが関与しているという時点でその可能性は限りなく高い。だからよかったな。大事な仲間の命2人分で、これから一生タメになる勉強ができたぞ。」
「あ……。」


 涙を流した警官を見て、連太郎の方を向く千景。


「準備はもう出来てるか?」
「あぁ。……でもそこまで言うことは無かったんじゃないのか。」
「そうかもしれないな。でも必要なことだ。」


 千景はこちらに目を向けている多田島刑事に目配せをする。多田島刑事はハッとすると扉破壊用散弾銃(ドアブリーチャー)を構えていた警官隊2人に顎をしゃくって命令する。命令されたと警官隊が、ドアの蝶番に銃口を当てると同時に、千景と連太郎もドアの前に立って突入の準備をする。


「言っておくが、俺らが許可するまで現場には入るなよ。手柄も罪滅ぼしも考えるな。分かったな。」


 誰が呟いたのかも分からない小さな声を聞き、千景は目を瞑り深呼吸をする。長く、長く息を吐き再び息を吸うと、目を見開く。その目には殺気が篭っており、その集中力が目にとれる。その真剣な顔を見て連太郎も気を引き締める。頬を冷や汗が垂れるが、これは先程の千景の説教とこの殺気のどちらから来ているのか、と考えてしまう。先程の説教はいくらなんでも言い過ぎだ。確かに被害を少なくする為にはあのようなことも必要なのかもしれないが。蓮太郎はこの千景という青年に興味を持った。この仕事を通して、もっと――


「カウント、3(スリー)。」


 千景の発した言葉で現実に戻された。今度は先程とは逆の頬に冷や汗が垂れる。軽く千景の顔を見るが、汗1つかいていない。


2(ツー)。」


 拳銃をを握り直し、腰を落とす。千景も制服の中から拳銃(ベレッタM92)を取り出しスライドを引く。


1(ワン)。」


 ――。


「GO!」


 千景は言葉と同時にドアを蹴り破った。隣の連太郎も同じくドアを蹴破り、その2つの蹴りがドアに当たった瞬間にショットガンも火を吹く。ドアが吹き飛ぶと同時に2人は中へ駆け出す。廊下を真っ直ぐ駆け抜けた部屋に入った瞬間にそれぞれ違う方向へ拳銃を向ける。


 夕焼けで紅く染まった部屋。しかしその部屋の赤は夕焼けのせいだけではなかった。夕陽の色よりも赤いものがリビングにぶちまけられていた。そして生臭い、血の臭い。連太郎が拳銃を向けている方向の壁に2人の警官隊が叩きつけられて絶命していた。千景の方向には何もおらず、即座に連太郎と同じ方向へ構えなおす。


 そこには、高身長で細い肢体の男が立っていた。しかもその恰好は紅い燕尾服にシルクハット、さらに舞踏会用の仮面をつけた奇抜なものだ。


「民警くん。遅かったじゃないか。」
「なんだ……?アンタ、同業者か?」


 連太郎は不審に思いながらも問いをかける。しかし、千景はその仮面の下にもっと恐ろしいモノを感じていた。


『バンッ!』


 千景の持っていた拳銃から弾丸が飛び出す。燕尾服の男は素早くかがみ、弾丸を避けると床を蹴り、千景に肉迫する。


「お前っ!何を!」


 連太郎が叫ぶが、既に千景と燕尾服の男は戦闘に入っていた。
 燕尾服の男の掌底を右腕で払い、すぐさま左手の拳銃で2発発砲。だが燕尾服の男は新体操のような柔軟な体を曲げ回避。そのまま手をつき回し蹴りを放つ。千景は腕を交差して防御するが、壁まで叩きつけられる。


「ふむ。なかなかやるね。……そこの民警くん。先ほどの問いに答えよう。確かに私も感染源ガストレアを追っていた。しかし同業者ではない。なぜならね、この警官隊を殺したのは――私だ。」


 既に口元が上がって笑っているような表情の仮面をしているのに、そのしたで更に燕尾服の男の口元が上がるような感じがした。男の言葉が終わると同時に千景は左足で踏み込み、お返しとばかりに回し蹴りを放つ。同時に蓮太郎も間を詰め、拳を放つ。燕尾服の男は右手で連太郎の拳を掴み、左手で千景右足を掴む。と、同時に連太郎を千景へ向かい投げつける。


「ちぃ!」
「ぐあっ!」


 千景は舌打ちをすると、燕尾服の男に掴まれたままの右足を利用し、蓮太郎を避けるかのように左足で男の顔を蹴りつける。蓮太郎は千景の背後の壁にぶつかり、倒れこんだ。千景の蹴りは仮面をわずかに掠るが、男にダメージは無い。その空中の不安定な態勢のまま投げつけられ、警官隊の死体と並ぶように壁が凹んだ。


 ――強い。
 千景も連太郎もそう思った。2人が再び、構え突撃しようとした時だった。


『ピリリリリリ』


 男の燕尾服の中から携帯の着信音が鳴り響く。千景達が攻撃してこないのを確認すると、静かに携帯を取り出し、電話に出る。電話に出たと同時に2人に背を向け、ベランダに体を向けたのは余裕の現れだろうか。


「小比奈か……あぁ、うん。そうか、分かった。これからそっちに合流する。」


 隙がない――。千景は自分に背を向け、電話をしている男に一撃を与えるビジョンを作ることが出来なかった。いや、()()()を使えば……。千景は目を強く瞑り、葛藤する。


 しかしその時、蓮太郎が飛び出す。


「『隠禅(いんぜん)黒天風(こくてんふう)』ッ!」


 連太郎の強く踏みしめた回し蹴りは首の動きだけで躱された。やはり届かないか……、と千景は思った。しかし、連太郎は素早く足を踏み替え、ハイキックを繰り出す。


隠禅(いんぜん)玄明窩(げんめいか)ッ!!」


 まさかっ……!蓮太郎の一撃が仮面を捉える。燕尾服の男の首は180度回転し確実に仕留めた、と蓮太郎は心の中でやった、と叫ぶ。
 

 しかし――。


 そのまま衝撃で倒れると思われた燕尾服の男は携帯の持っていない左手で自身の首を力任せに回転させる。回転した首は怪音と共に元通りになり、すぐさま態勢を立て直した。そして、何事も無かったかのように通話に戻る。


「いや、なんでもない。ちょっと立て込んでてね。すぐそっちへ行く。」


 なんだ、こいつは。千景は男を驚愕の目で見る。連太郎も同じだった。男は携帯電話をとじると、蓮太郎のことをジッと見つめる。何秒経ったか、男は仮面に手を当て、キキキ、と不快な笑いを漏らす。


「いやはやお見事。油断してたとはいえまさか一撃をもらうとは思わなかった。ここで殺したいのは山々だが、今ちょっとやることがあってね。」


 腕を広げ、蓮太郎に賞賛の言葉を送る。


「ところで君たち、名前は?」
「……里見、連太郎。」
「七誌、千景だ。」
「サトミ君にナナシ君……ね。キキッ。」


 その言葉が終わると、千景達に背中を向け、ベランダへ出て手すりに足をかける。


「またどこかで会おう、里見くんに七誌くん。」
「アンタ、何者だ。」
「私は世界を滅ぼす者。誰にも私を止めることは出来ない。」


 男はそう一言言うと、ベランダから飛び降りて姿を消した。



初の戦闘シーン。
上手く書けてるか不安。

でも原作準拠なのでオリジナルの展開には期待しない方がいいです←


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