Infinite Stratos Also sprach Zarathustra -Re:boot- (ゆき)
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第一巻
Act 0: Der Aufzug geht auf


Act0: Der Aufzug geht auf

 

 

IS

 

正式名称 Infinite Stratos(インフィニット・ストラトス)

今から10年前の2021年に篠ノ之束によって開発された

宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツのことである。

 

『二十世紀から指摘され始めた人口問題、資源の枯渇、環境破壊による地球汚染問題。

それらを解決するのは人口を減らす?今ある技術を停滞させる?否。否だよ諸君。

我らの頭上には広大な宇宙が広がっている。今こそ地球から飛び出し宇宙に進出するべきだ』

 

とても夢のある話だろう。

人口問題、資源の枯渇、環境破壊はどの国家でも問題視されてきており、

その対応にも追われている。

人類は地球を飛び出して宇宙へ行くべきだという考えの科学者も少なくない。

ただ今の技術では大多数の人間を宇宙に進出する術はない。

 

故に世界は「ただの小娘の妄想」と切り捨てた。

 

***

 

ISが発表されてから1ヶ月。

ニュースや新聞に取り上げられることも減り、市民からISという存在が

次第に忘れされそうになっていた時期に事件は起こった。

日本を射程距離内とするミサイルの配備されたすべての軍事基地のコンピュータが

一斉にハッキングされ、2000発以上のミサイルが日本へ向けて発射されたのだ。

当然日本国民はパニック状態、各国も対応を追われ、日本政府もパニックから迎撃の対応が

できかねていたその時。

 

白い騎士が現れた。

その名の通り白い騎士のような外観の全身装甲型のISが日本の上空に突如出現した。

その白い騎士は日本に発射されたミサイル全てを単騎で迎撃したのだ。

各国はそんな白い騎士を恐れ、大量の戦闘機や戦闘艦などの軍事兵器を日本に向けて

出撃させたが、その大半が無力化さた。後に「白騎士事件」と称され語り継がれることになる。

「白騎士事件」以降、従来の兵器を凌駕する圧倒的な性能が世界中に知れ渡ることとなり、

篠ノ之束の目的である宇宙進出よりも飛行パワード・スーツとして軍事転用が始まり、

各国の抑止力の要がISに移っていった。

 

『あっ、言い忘れたけどISって女性しか扱えないんだよね!』

 

「白騎士事件」後に篠ノ之束は世界中にそう発表した。

既存の兵器を超えるISは女性しか扱えないという事実は世界中のあり方の根底を覆した。

男女の社会的な立場が完全に一変、女尊男卑が当たり前の時代になっていた。

 

篠ノ之束はその後、ISのコアとIS開発のノウハウを日本を含めた主要な国家に分配し、

雲隠れをしてしまった。篠ノ之束が日本人ということもあり、各国は日本に責任問題を追求。

軍事転用が可能になったISの取引などを規制すると同時に、

ISの技術を独占的に保有していた日本への情報開示とその共有を定めた協定である「IS運用協定」の締結。

また「IS運用協定」に則り日本にIS操縦者、専門のメカニックなど、ISに関連する人材を育成する

「IS学園」が設立された。

 

***

 

「白騎士事件」から10年後。

日本政府は第1回IS世界大会(モンド・グロッソ)総合優勝および格闘部門優勝者であり

ブリュンヒルデという二つ名を持つ織斑 千冬の実の弟である織斑 一夏がIS学園試験会場の

受験者用ISを男性でありながら起動させたと発表した。

その特異性と本人の保護という名目で織斑 一夏は男性でありながらIS学園へ入学することが

決定。

 

その会見から数時間後。

雲隠れしていた篠ノ之束が全世界同時にインターネット回線をハッキングし突如として会見を開いたのである。

 

『全世界の凡人諸君やっはろ~。天災科学者の篠ノ之束だよ~。

今日はみんなに1つ発表があるんだ~。実はさぁ、世界で唯一ISを扱える男子は

1人じゃないんだよねーー』

 

束の爆弾発言に世界中の人間は絶句をする。

ISを操縦できるのは女性だけ。これは束が公式に発表した内容であり、

各国が様々な実験を行っても男性がISの起動は一度として行えていないのだ。

それにも関わらず2人目の男性IS操縦者!?

 

だがそんな状況を尻目に束は「おいでおいで」束が手招きをすると束の背後から1人の少年が

カメラの前に姿を出す。白髪で薄青色の瞳の少年で、どこか柔和な雰囲気を醸し出していた。

 

『彼の名前はロートス・アトラシア君。

いっく...織斑一夏君と同様にISを扱える男子だよ。IS学園に入学させる予定だから

よろしくねちーちゃん!それじゃ!』

 

言いたいことだけ言って束は映像をシャットアウト。

今回の件は世界中でニュースとなり日本政府、IS学園は今回の一連の騒動に頭を抱えることとなる。

 




2012年から書き始めていたInfinite Stratos Also sprach Zarathustraですが
設定の変更、物語を最初から書き直しています。
ブランクが大分あるので思い出しながら文章を書いていく予定です。

オーバーラップ文庫移籍前の設定を使用しているため
原作のISに関する設定の相違、キャラ、ISが登場しなかったりキャラ改変
が入ることもありますのであしからず。

では、今後共よろしくお願いいたします。



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Act 1: 出会いそして再開

Act 1: 出会いそして再開

 

2030年4月6日。

季節は春、気温は程よい温かさ。桜は花を咲かせ踊るように舞い落ちている。

まさに高校の入学式に相応しい天候だ。

新しい世界の幕開け、新しい出会いが待っていることだろう。

だが一夏はそんな記念すべき1日だというのに、心の中に深々とため息を付いていた。

それはクラスに男が俺ともう1人しかいないという点と同級生、先輩方は全て女子、

教師も女性のみ。

それに寮制度のために女子達と同じ屋根の下で生活を3年間を共にするというのは

思春期の男子にこれほど辛いものはないだろう。

 

「織斑一夏君っ」

 

「はい!?」

 

真耶の声が耳に入ったのか一夏は奇声を挙げて勢いよく顔を上げる。

それと同時に周りからは案の定クスクスという笑い声が上がる。

 

「あっ、ごめんね。怒っているわけじゃないんだよ?

ただ、自己紹介してほしいかなって...ごめんね、駄目かな?」

 

「いえ、大丈夫です。そんなに謝らないでください」

 

一夏が色々と考えている間に自己紹介タイムが始まり、一夏の番になっていたようだ。

一夏は深呼吸をし息を整えるとスッと立ち上がる。

すると釣られるようにクラスメイトの女子達は一夏に注目する。

 

「えっと、織斑一夏です。よろしくおねがいします」

 

一夏は頭を深々と下げて、上げる。

一瞬空気が固まって一拍おいてまばらな拍手が起きた。

周りからはそれで終わりなのかという落胆の声や不満げな視線を向けられる。

 

「以上です」

 

ガタガタッと音を立てて数人の女子が席から転がり落ちていく。

自己紹介にすらなっていないので真耶もどこか不満げな表情である。

 

「あっ、やっぱり短いですかねーー」

 

「当たり前だ馬鹿者」

 

次の瞬間、一夏は背後から出席簿でいきなり叩かれた。

 

「ーー!?」

 

恐る恐る振り向くと

鋭い吊り目に、黒いスーツと黒いストッキングの似合う長身とボディライン。

組んだ腕。

 

「千冬姉!?」

 

再び一夏は叩かれた。

あまりにも音が大きいため数人のクラスメイトは若干引いていた。

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

 

「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 

一夏を叩いたときの低い声はどこにいったのかと思えるほど優しい声だった。

真耶は副担任ですからとどこか誇らしげである。

 

「それでお前は、自己紹介もまともに出来んのか?

同じ男子だ。アトラシア手本を見せてやれ」

 

「はいっ」

 

千冬の指名にロートスは立ち上がり、

クラスメイトの方に視線を移す。

 

「皆さんはじめまして、ロートス・アトラシアといいます。

織斑一夏君と同様に男性ですがISの起動と操縦が行えます。

皆さんより知識や経験量は少ないと思いますのでご指導ご鞭撻をいただけると嬉しいです。

あとは甘いものが好きですね。以上、よろしくおねがいします」

 

ロートスは深々と頭を下げる。

一夏の挨拶はまばらな拍手だったが、今回はクラスメイト全員から歓迎の拍手が起こる。

ロートスは再度会釈すると再び椅子にかけた。

 

「織斑、これが自己紹介というものだ。わかったら席につけ」

 

「はい...」

 

これ以上なにか言っても叩かれるだけだと自覚した一夏は黙って席に着いた

すると千冬は教壇の前に立つ。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。まずは入学おめでとう。

これから一年間、君達が使い物になるように指導するのが私の仕事だ。いいな」

 

学校の教師というよりも軍隊の鬼軍曹を連想させる挨拶だったが、

困惑のざわめきではなく黄色い声援が響いた。

 

「...何故、毎年毎年これだけ馬鹿者が集まるのだ?

私のクラスに集中させられているのかと真剣に考えさせられてしまうな」

 

千冬はポーズではなく心から嫌そうな表情を浮かべる。

生徒の前にそういった表情を浮かべても人気が衰えないのが

「ブリュンヒルデ」 織斑千冬なのだ。

 

「SHRはこれで終わりだ。

諸君らにはISの基礎知識の振り返ってもらう。その後は基本動作と実習に入る。

いいな!」

 

再び、黄色い声援が響いた。

状況を飲み込めていない一夏は深々とため息を付いたのだった。

 

***

 

「ちょっといいか?」

 

「ん?」

 

1時間目のISの基礎知識理論授業が終わって現在お昼休み。

まず声をかけたのは一夏だった。

 

「俺は織斑一夏。よろしくな。

いやぁ、しかし俺以外の男子がいて本当に助かったぜ」

 

「僕はロートス・アトラシア。よろしくね。

確かにこの状態だと1人だったら辛かったと思うよ。うん」

 

現在廊下には他のクラスの女子、2、3年生の先輩達が詰めかけていた。

まるで動物園に飼われている動物のような気分になるのはそうおかしいことではない。

羨望の眼差し、男のくせにと見下す眼差しと三者三様で昼休みなのに全くといって落ち着かないのである。

 

「少し、いいか?」

 

「ん?」

 

「おっ?」

 

周囲の女子がロートスと一夏を遠巻きから見てヒソヒソ話をしている中、

1人の女子が声をかけてきた。

 

「...やっぱり箒か?」

 

「......」

 

少女の名前は篠ノ之箒。

6年ぶりの再開となる一夏の幼馴染だった。

篠ノ之神社の巫女兼篠ノ之流剣術道場の娘である。

髪型は小学生の頃から変わらず長い黒髪でポニーテールにしており、どこか侍のようで凜としていた。

 

「一夏君、知り合いかい?」

 

「幼馴染ってやつだよ。なっ、箒」

 

「あぁ、幼馴染だ。会うのは6年ぶりくらいになるか。

しかし私だとよくわかったな」

 

「ん?だって去年の剣道の全国大会で優勝してただろう?

ネットニュースになってたし、そのとき写真乗ってたしな」

 

箒は一夏の言葉を聞くなり、顔をいちごのように赤らめた。

 

「な、何故ネットニュースなんか見てるんだっ」

 

「えぇ...ネットニュースくらい好きに読ませてくれよ。

でもまぁ、箒だってすぐにわかったぜ。髪型小学生の時のままなんだな」

 

一夏は箒の髪に指をさす。

 

「よく、そのような昔のことを...」

 

箒は一夏に悪態をつくが、どこか嬉しげで長いポニーテールをいじった。

すると昼休み終了のチャイムが丁度鳴り始める。

ロートス達を遠巻きから見ていた他のクラスの女子、2、3年生の先輩達は蜘蛛の子を散らすように去っていった。

クラスメイトも出席簿で叩かれた一夏を見ていたためか足早に席に戻り2時間目の準備を始めている。

 

「次の授業の準備しないと。一夏君...また叩かれても知らないよ?」

 

「いや、それは勘弁してください...」

 

一夏も叩かれるのは御免だと言いながら足早に自分の席に戻っていった。

 

***

 

「ーーということになります」

 

スラスラと手元のタブレットを見ながら真耶は授業を進めていた。

千冬がISの基礎知識の振り返ってもらうという発言通り、

内容は総復習で事前にISに関する学習を行っていた生徒たちからすれば

これとって難しい内容ではない。ないのだが、この授業についていけてない生徒が1人いた。

 

そう織斑一夏である。

IS学園に来る前に入学前の参考書をもらったがあの短時間で全て読破するなど不可能。

それどころかバタバタしており一切読んでいないのだ。

 

「織斑君、どこかわからないところがありますか?」

 

頭を抱えている一夏に気がついたのか、真耶は優しく訪ねてきた。

 

「えっと...」

 

「わからないことがあったら是非、言ってくださいね!

ISの基礎知識について見落としがないかの確認の時間ですので!」

 

真耶は誇らしげにドヤ顔する。

 

「先生!」

 

「はい、織斑君!」

 

「全部わかりません!!!」

 

ISの基礎知識が一切わからないのは事実であり、

知識の知ったかぶりは後々に悪い影響を及ぶすのは明らか。

千冬と比較すると真耶は優しい教師であると踏んだ一夏は素直に現状の自分を吐露した。

 

「えっ、全部...全部ですか?」

 

先程までのドヤ顔はどこへ言ったのか、困惑を通り越して顔を引きつらせている。

ロートスを含めた他のクラスメイトはは面食らったように目をぱちくりとさせた。

 

「えっと、入学前に配られた参考書は読みましたか?」

 

「IS起動させた後はバタバタしていて...すみません」

 

「だ、だ大丈夫ですよ!これから覚えていけばいいんですから!

アトラシア君は...大丈夫ですか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

ロートスは自信ありげに即答する。

 

「では現在、ISの装甲に使われている素材はわかりますか?」

 

「はい、Eカーボンです。

文字通り炭素系素材で、高い強度と加工のしやすさから主にISの装甲として使用されています。

一部の重要施設の障壁にも使用されていますが、加工代が非常に高価なため

貴重なIS関連に優先的に回されているが現状です」

 

「ではEカーボンのEはなんの略でしょうか」

 

「ラテン語で「優れた」を意味するExcelsiorの頭文字を取っています」

 

「素晴らしい。アトラシア君は大丈夫そうですね」

 

問題は一夏である。

IS学園に入学する前に配られた参考書はあくまで自分が身につけた知識が誤っていないか、

忘れている部分はないか再確認するものである。

ISを操縦する上では参考書に書いてある基礎知識を全て把握しているのが絶対条件。

知識がない人間にISを操縦させて事故でもが起きれば責任問題で教師の首が切られかねない。

 

「山田先生」

 

ロートスが挙手をする。

 

「はい、アトラシア君」

 

「僕が可能な限り一夏君にISをの基礎知識を教えるのは駄目ですか?

あとは放課後に山田先生に聞きにくとか...」

 

「それ!それいいですね!いかがですか、織斑君!」

 

「えっと...」

 

一夏にとってそれは願ったりかなったりである。

 

「お願いします...」

 

徹夜で勉強しないとな。

前途多難な一夏であった。




そういえばISって来月の5月で10週年なんですね。
アニメ1期なんてもう8年前と聞いてビックリしました。





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Act 2: 手袋を受け取る度胸はあって?

Act 2: 手袋を受け取る度胸はあって?

 

「少しよろしいでしょうか?」

 

「ん?」

 

「お?」

 

2時間目の休み時間。

一夏は授業で分からなかった点をロートスに聞いている時にいきなり声をかけられた。

話しかけてきた少女は縦ロールにととのえた長い金髪に透き通った碧眼が特徴の美少女だ。

ドレス風に改造された制服も相まって、どこか気品があり高貴な出で立ちをしている。

 

「聞いてます?お返事は?」

 

「あ、あぁ。聞いているけど要件はなんだよ?」

 

少女はジッと一夏の手元をジロジロ見ると深い溜め息をつき、

やれやれと真は首を振った。

 

「あの「ブリュンヒルデ」の織斑先生で弟と聞いて期待していたのですが...がっかりですわね」

 

「いや勝手に期待されても困るんだけが...というか誰?」

 

「ええええええーーーっ!?!?」

 

話を聞いていた女子達は驚きの声をあげ、金髪の少女はこめかみに青筋をたてていた。

自己紹介は途中で切り上げられてしまったので目の前の少女の名前を一夏は知らないのである。

 

「えっ、なんでみんなそんな驚いてるんだ?」

 

「織斑君...ISの基礎知識を知らないのはわかるけど、セシリアさんを知らないのはちょっと...」

 

「なぁ、ロートス。もしかして有名人だったりするのか?」

 

「英国貴族オルコット家の現当主にして国から専用機を与えられている英国の国家代表候補生の

セシリア・オルコットさん。メディアへの露出も多いから結構な有名人だよ」

 

「ほー。というか詳しいな」

 

いやそれくらい常識だよという視線が向けられるが、

実際に一夏は知らないので見栄をはらず開き直るという選択肢をとる。

 

「ようはエリートってことだよな?」

 

「まぁ、一言でまとめるとそんな感じかな...放課後そのへんについても説明するね?」

 

「おっ、助かるぜ!」

 

「私を差し置いて話を進めないでくれます?」

 

セシリアは机をバンと叩く。

その様子はどこか親にかまってほしい子供のようにも思えた。

 

「色々と言いたいことはあるんだろうけど、後にしてくれないか?

次の授業は千...織斑先生だぜ?このまま会話を続けてもいいけど、出席簿で頭を叩かれて脳細胞

減らしたくないだろ?」

 

「...それもそうですわね。またあとで来ますわ」

 

出席簿で叩かれた姿を見ているセシリアはすんなりと引き下がった。

わざわざ自主的に叩かれたいほどMではないということである。

 

***

 

2時限目とは打って変わって教壇の前には千冬が立っている。

真耶はその後ろに立ち、タブレットに文字を打ち込んでいた。

 

「授業を始める前に再来週行われるクラス対抗戦(リーグマッチ)に出る代表者を

決めないといけないな」

 

クラス代表者とはクラス対抗戦(クラスリーグマッチ)の参加、会議や委員会への出席といった

学級委員長のようなものである。

クラス対抗戦(クラスリーグマッチ)は文字通りクラス代表同士によるリーグマッチのことを指す。

本格的なIS学習が始まる前の、スタート時点での実力指標を図る目的がある。

 

「自薦他薦は問わない。クラス代表者は1年間変更がないので慎重に決めろ」

 

「はいっ!アトラシア君を推薦します!」

 

「私は織斑君を推薦します!」

 

「お、俺っ!?ISの知識もまともに持ってないのにか!?」

 

一夏が狼狽するのも無理はなかった。

ISに関する知識は身についておらず、ISの起動もたった1回だけなのである。

今の状態でクラス対抗戦(クラスリーグマッチ)なんかに出ても1-Aに迷惑をかけるだけだ。

 

「ーー待ってください。そのような選出は認められません」

 

セシリアはその事に対し異議を唱える。

 

「ISの知識すらまともに備わっていない人間をクラス代表者にするなどいい恥さらしですわ。

物珍しいからという理由でクラス代表者にするなど言語道断。私達はサーカスを披露するわけではないんですのよ?」

 

一夏は静かに立ち上がり、セシリアに視線を移す。

その表情はどこか苛立っていた。

 

「さっきの昼休みといいやけに突っかかってくるけどなんなんだよ」

 

「気に入らないからに決まっているでしょう」

 

冷えた声でセシリアが言った。

今までに見せたことのないような冷たい表情で一夏は思わずたじろいでしまった。

 

「あなた、IS学園に入学することがどれだけ大変なことか分かっていますの?」

 

「それは...」

 

「私を含め、IS学園に所属している生徒たちは血の滲むような努力をして高い倍率を乗り越えこの場に立っているのです。

それなのに貴方はISに関する知識もなく「世界で唯一ISを使える男」という理由だけでここに立てているド素人がクラス代表者なんて、私にとって屈辱でしかありませんの...

笑わせないでくれます?」

 

セシリアの指摘はまさにその通りで、一夏も推薦したクラスメイトもぐうの音も出ない。

セシリアは一夏とロートスの足元めがけて手袋を投げつける。

 

「...どういうつもり?」

 

「あぁは言いましたけど、あなた方を推薦した人間がいたのは事実です。

私としては納得がいきませんが、彼女達の希望も無碍にはできません。なので決闘を行い、その勝者がクラス代表者というのはいかがです?」

 

「へぇ、シンプルでいいじゃないか。ロートスやろうぜ」

 

「うん」

 

ロートスと一夏はセシリアの手袋を拾い上げる。

相手が手袋を拾い上げれ行為はすなわ決闘の申込みに対して受諾したことを意味する。

 

「言っておきますけど、もしわざと負けるようなことがあればーー分かっていますわね?」

 

「真剣勝負で手を抜くほど腐ってはいないつもりだよ」

 

「あぁ、相手が国家代表候補生だろうが関係ない。全力で叩き潰す」

 

「話がまとまったようだな。

決闘は1週間後の月曜日放課後、第3アリーナで行う。準備は怠るなよ」

 

「承知いたしましたわ」

 

「はい」

 

「おう...ん?」

 

一夏はとあることに気がついてハッとした。

 

「どうしたの一夏君」

 

「そういえば俺、IS持ってない」

 

セシリア、ロートス、クラスメイトたちはコントのようにずるっと足を滑すべらせて転びかけた。

セシリアは一夏に駆け寄り。

 

「あ、あ、貴方ね!代表操縦者、代表候補生でもない人間が専用ISを持っているわけ無いでしょう!?」

 

「そ、そうなの?」

 

「呆れて物もいえませんわ...。となるとお二人とも訓練機で決闘になるのでしょうか?

そうでしたらハンデ等をお付けしますがーー」

 

「その心配は不要だ」

 

セシリアの言葉を遮ったのは千冬だった。

 

「織斑には倉持技研から専用機が与えられる予定だ」

 

「俺の分だけなのか?ロートスはどうなるんだ?」

 

「僕は篠ノ之博士から事前に専用機もらってるから大丈夫だよ」

 

「篠ノ之博士が直々に制作した専用機と戦えるとは...。

英国代表候補生のこの私、セシリア・オルコットの実力を各国に示すまたのない機会ですわね」

 

「少々時間を押してしてしまったがこれから授業を始める。アトラシア、織斑、オルコット。席につけ」

 

千冬がぱんっと手をたたくと話を締める。

束が直々に開発した専用機とはなにか、身内以外の人間嫌いな束が何故そこまでするのか。

聞きたいことは山ほどあるが一夏はもやもやした感情をいだきながら席についた。

 

 




セシリアの日本軽視発言は丸々カットしました。
このシーンって作品によって展開が異なるので面白いですよね。



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Act 3: マーリン

急いで作成したので粗があると思いますがよろしくおねがいします。


Act 3: マーリン

 

 

放課後。

 

「アトラシア、織斑、オルコット。話があるから来い」

 

授業が終わり生徒たちが教室が出ていく中、

ロートル、一夏、セシリアは千冬に呼び止められていた。

 

「1週間後の決闘だが、トーナメント方式でやってもらう」

 

「トーナメント方式ということはオルコットさんと僕と一夏のどちらかが決闘。

勝ったほうがもう1人と戦うってことですか?」

 

「そうだ。最初は2対1も考えたが素人2人がコンビを組んで代表候補生相手にするのは

流石に勝負が見えすぎてるからな。それに1周間でコンビネーションが身につくとは思えん」

 

「私はそれで構いません。連戦でも勝ってみせるのが代表候補生ですもの。

ではお二人とも、まともに踊れるように練習してくださいまし」

 

セシリアはロートスと一夏に挑発的な視線を投げかけて教室から出て行った。

 

「・・・何にせよこの一週間は死に物狂いで努力することだな」

 

そう告げると千冬も教室から出ていこうとするが、何かを思い出したのかロートス達のもとに引き返してきた。

 

「お前達の寮の部屋割りだが、山田君が伝えにくるはずなので教室で待機していろ。いいな」

 

「わかりました」

 

「おう・・・あっ、わかりました」

 

千冬は今度こそ1-Aの教室から出ていった。

一夏は千冬が教室から出ていったのを確認すると席に身を沈める。

 

「あと1週間でISの基礎知識を頭に叩き込むのと操縦を同時に行わないといけないんだよな」

 

「織斑先生が言ってたように死に物狂いでやらないとスタート地点にも立てないからね。

今の状況ってスポーツ未経験の素人がオリンピック選手候補生でスポーツで勝負するレベルだから」

 

「その例えはわかりやすいな」

 

「アトラシア君、織斑君!お、お待たせしました!」

 

真耶は急いで来たのかぜいぜいと息を切らしていた。

 

「山田先生大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫です!お二人ともを待たせるわけには行きませんので!

ではこちらが部屋番号とキーになります」

 

はいどうぞと真耶は部屋番号の描いたメモと入室に必要なカードキーをロートスと一夏に渡す。

IS学園は生徒はセキュリティー上の観点から全員寮で生活することを義務付けられている。

もちろんロートスと一夏も例外ではない。

 

「俺は1025だな。ロートスは?」

 

「僕は旧寮長部屋だね・・・ん?僕と一夏君って同室じゃないんですか?」

 

「はい。アトラシア君は1人部屋で織斑君は相部屋になります」

 

「えっ!?」

 

一夏はあまりのことに驚き、素っ頓狂な声を上げる。

 

「ロートスが1人部屋なのに俺は女子と相部屋なんですか?

ロートスと俺を相部屋にして女子はロートスの部屋に移動してもらえればいいんじゃないですか?」

 

一夏の発言はごもっともな意見だった。

一夏もIS学園に所属する女子生徒たちも思春期まっただ中、異性や性に関してはどうしても意識してしまう。そんな空間で生活をするのは苦痛でしかない。

 

「それなんですけど「上」からの指示なので私はなんとも...。

1ヶ月後くらいで個室が用意できると思うのでそれまでは我慢をお願いします。

夕食は1年生用の食堂で6時~7時の間でとってください。お風呂に関しては大浴場とシャワーがありますが、お二人は当面はシャワーでお願いします」

 

真耶はこれからまた会議なので失礼しますといい頭を下げて足早に教室から出ていった。

一夏はどこか不満げでバツの悪そうな表情である。

 

「まぁまぁ、1ヶ月っていう期間限定だから頑張ろうよ」

 

「ロートス、お前まじで言ってるのか・・・」

 

ロートスはうん?と首を傾げる。

真耶のいう「上」とはIS学園のトップもしくは日本政府のことで、それらが決めたことなのだろう。文句を言ったところで覆るわけもない。ならば1ヶ月耐えきってみせると誓う一夏であった。

 

***

 

1年生の校舎から寮まで50メートルもないため早々と自室前に到着した。

 

「あとで食堂見に行こうか」

 

「だな、じゃあ6時に部屋の前集合な」

 

「うん」

 

ロートスは一夏に手を振ると自室に入っていく。

 

「うわぁ、広いな」

 

旧寮長部屋と聞いていただけに期待していたがその予想を大きく超えていた。

15畳の部屋に大きなベッドと大容量のクローゼット。最新鋭の机にデュアルモニター。

冷蔵庫も完備しておりいたせりつくせりの空間であった。

 

「さてと...」

 

ロートスはベッドに座ると、足元に置いてあるトランクに手を伸ばす。

 

「篠ノ之博士から渡されたものだけどこの中にISが入っているのかな」

 

トランクは指紋認証と網膜スキャンの複数認証を採用した最新鋭のものである。

ロートスは指紋認証と網膜スキャンをクリアするとガチャと音と共にトランクが空いていく。

すると中には縁が角ばったアンダーリムのメガネが1つ入っていた。

 

「め、メガネ?」

 

ISは普段は待機形態と呼ばれる形で持ち運びされている。

待機形態は体に身につけるアクセサリーの形状になることが多いが、待機形態は作り手の趣味が出ることもある。

ロートスのISの場合は待機形態がメガネだったということだ。

 

「見るかぎり普通のメガネだけど・・・うわっ!」

 

次の瞬間メガネのフレームから光線が投射された。

部屋の中央に投射された光線はホログラム映像で、そこには流れるような黒いロングヘアの美少女が写っていた。

 

『問おう』

 

「えっ?」

 

『お前が私のマスターか?』

 

「・・・」

 

『・・・』

 

トランクを開けたら中から待機形態がメガネのISだと思ったら、その眼鏡からホログラム映像が投射されて、

挙句の果てに自分に話しかけてきたのだ。ロートスとしては頭を抱えるしかない。

 

『おい、聞いているのか』

 

「えっ、あっ・・・うん、聞こえてる。もしかして録画ではなくてリアルタイムに話してるの?」

 

ロートスの問に少女は小馬鹿こばかにするような、鼻で笑うように声をたてた。

 

『あぁ、そういえば挨拶がまだだったなマスター。私はマーリン。

第3世代型IS「ローエングリンR2」に搭載されているAI型電子解析システムだ。

しかしこの程度で驚くようでは先が思いやられるな』

 

他の人間に同じことを行っても帰ってくる反応は変わらないと心の中で思うロートスだったが、

話が進まないと思ったため、あえて心に秘めていることにした。

 

「えっと、マーリンは篠ノ之博士に作られたってことでいいのかな?」

 

『あぁ、このローエングリンR2は常人では扱いきれないISだからな。

その補助のために開発されたのがこの私だ』

 

「なるほど...そのへん詳しく聞きたいんだけーー」

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

ロートスの声をかき消すほどの一夏の叫ぶ声と共に壁にぶつかる音がした。

内容までは聞き取れなかったが箒らしき声も聞こえてる。

ロートスは勢いよく自室のドアを開けると、そこには一夏が廊下に倒れ込んでいた。

 

「一夏君ごめん。一夏君は相部屋だから入る時気を付けるんだよって言い忘れたよ・・・」

 

「いや、いいんだ。俺が悪いからな・・・というよりよく躱せたな俺」

 

「篠ノ之さんの声も聞こえてるけど何かあったの?」

 

「部屋に入った俺、シャワー浴びて出てきた箒と鉢合わせ、木刀で突きをくらう。以上」

 

「えぇ・・・」

 

何故手元に木刀があるのだろうかというツッコミを入れたいところだが、

その前にロートスは一夏に手を差し出す。

 

「流石に廊下で倒れ込んだままなのはまずいよ。

防音対策が完璧な部屋にさっきの声聞こえてたから多分、人が集まってくると思う」

 

「それはまずいな・・・」

 

一夏は1025室の扉を数回ノックをすると、頭の上で合掌して頭を下げる。

 

「箒、まずは声をかけずに入って申し訳なかった。頼むから部屋に入れてほしい」

 

「・・・・・・」

 

ドアから返ってきたのは沈黙だった。

しばらく間があったが、ガチャと音が鳴りドアロックが解錠されたのがわかった。

 

「・・・一夏、今後のことで話がある。早く入れ」

 

「あぁ・・・ロートス。また後でな」

 

そういうと一夏は自室に戻っていった。

 

「今の音なに?」

 

「あれ、アトラシア君だ」

 

「何やってるの?」

 

騒ぎを聞きつけてそれぞれの部屋から女子達ぞろぞろと出てきた。

一夏が箒のタオル姿を見て木刀で突きをされたなど言えるわけもなく。

 

「・・・一夏君がベッドの上で跳ねて遊んでたら着地失敗して地面に激突したらしいよ」

 

「織斑君ってなにげに子供っぽい所もあるんだ~」

 

「男の子っぽい感じしたんだけど意外と可愛い所もあるのね!」

 

女子たちはロートスの言ったことに納得するとまたぞろぞろと自室に戻っていった。

一夏の評価が男子!というものから子供っぽいという評価になったがラッキースケベ扱いされるよりマシだろう。我ながら頑張ったなとロートスも自室へ戻っていった。




1ヶ月とはいえ女子と同じ部屋で生活するって羨ましいですけど
絶対苦痛ですよね...。




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Act 4: 作戦会議

Act 4: 作戦会議

 

あれから時間が経ち、現在午後6時半。

ロートス、一夏、箒の3人は1年寮の食堂にやってきていた。

 

「鮭の切り身に味噌汁…やっぱこの組み合わせが王道だよなぁ」

 

「年寄りみたいな事を言うな」

 

「箒だってほぼ同じ組み合わせじゃん」

 

IS学園の食堂はバイキング形式を取っている。

というのもIS学園の生徒は海外からの留学生も多く所属しているからだ。

 

「ところでよ、ロートス」

 

「んー?」

 

「ロートスと束さんってどういう関係なんだ?」

 

ロートスは箸で掴んだ肉を口に入れようとした際に一夏から唐突な質問をされて

呆気にとられた表情をする。

 

「…一夏君、ちょっと唐突すぎない?」

 

「実はずっと気になっててな。箒だってそうだろう?」

 

「そうだな」

 

それもそうか。とロートスは心の中で思った。

ロートスは手に持っていた箸を箸置きに置き、お茶を少々飲むと口を開く。

 

「篠ノ之博士は僕にとって保護者っていえばいいのかな?」

 

「えっ」

 

「なんだと?」

 

普段あまり表情を崩さない箒でさえ呆気に取られていた。

彼女を知る人間の間では箒、千冬、一夏、家族以外の人間には一切の興味を持たない

「人間嫌い」として有名である。

他人など道端に落ちている石ころと変わらない。というのが本人の弁だ。

そんな人間が血の繋がっていない人間の保護者であり専用のISを渡すなど、箒からすればどう考えてもありえない。

 

「あの他人に興味を持たない束さんがな…もしかして丸くなったとか?」

 

「あの人は私が小学生の頃からあぁだったぞ。それが数年で変わるとは思えん」

 

「だよなぁ…ロートスは束さんとどこで出会ったんだ?」

 

ロートスは一夏の問にはしばらく沈黙した後、首を傾げて。

 

「それがね、分からないんだ」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

予想外の返答に一夏と箒はお互いの顔を合わせた。

 

「篠ノ之博士に拾われて1年になるけど、実はそれより前の記憶は一切ないんだ。

覚えているのはロートス・アトラシアって名前だけ」

 

「そうだったのか…すまん!無神経な質問しちゃったよな」

 

いいや。とロートスは首を横に振る。

 

「気にしていないから大丈夫だよ。記憶に関しては気長に待つさ。

せっかく3年間色々な人と接することができるんだもん。いい刺激を受けてもしかしたら記憶が戻るかもしれないし」

 

確信はない。

だが、現状はそう思うしかない。下手に焦っても碌なことにはならないだろう。

 

「…ところでさ、篠ノ之さんのこと下の名前で呼んでいい?」

 

一夏は少々負い目を感じて引きずっているように見えたため、ロートスは話題を変えたほうがよさそうだと感じて唐突に話題を変える。

 

「と、唐突だな」

 

「ほら、篠ノ之博士と篠ノ之さんってなんかこう被っちゃうでしょ?」

それに仲良くなるために名前で呼び合うのがいいって、前になんかの書籍で読んだことがあってさ」

 

「そ、そうか…なら私のことは箒と呼んでくれ。私もロートスと呼ぼう」

 

「あっ!ずるいぞ箒。ロートスも俺のこと呼び捨てで呼んでくれよ!」

 

「お安い御用さ。改めてよろしくね。一夏に箒…それじゃあ今後について話そうか。

決闘は1週間後だからそれまでにISの基礎知識を叩き込むことと操縦が可能になること…。

一夏、専用機はどんな感じなの?」

 

「千冬姉に聞きに行ったけど、正確な日程まではわからないそうだ」

 

「となると倉持技研が開発しているわけだし打鉄を借りるのもありなんじゃないかな。

流石に決闘までに1回もISに乗らないというのは流石にまずいし」

 

「なぁ、ロートス。打鉄ってなんだ?」

 

「ニュースは見ているのに、そんなことも知らんのか…」

 

「うっ…」

 

呆れる箒に一夏は痛いところを疲れたのかうっと声をあげた。

そんな一夏を尻目に箒は手元にあるデバイスを操作し、打鉄の資料を読み上げる。

 

「打鉄は日本純国産の第2世代型IS。性能が安定しており使いやすいのが特徴。

近接用ブレード「葵」とアサルトライフル「焔備」を標準装備しており、

その操作性からIS学園の訓練用とされている」

 

「一夏の専用機は打鉄をベースにしている可能性が高いから

打鉄を元に練習するのは有りだと思うよ。

今回の件を話せば優先的に貸してもらえるかもしれない」

 

「そうだな!ロートスはどうするんだ?ロートスは専用機を事前にもらっているんだろ?」

 

「そうだね。僕か一夏がオルコットさんを倒した場合、必然的に僕と一夏の決闘になるわけだから

流石にお互い手の内を明かすようなことは避けたほうがいいと思うんだ。もちろん、ISの基礎知識の勉強は手伝うよ」

 

「おう、俺の方でも基礎知識の勉強はしておくから。箒もよろしく頼む」

 

「あぁ、任せろ…ビシバシいくから覚悟しておけ」

 

 

***

 

1周間の予定の話し合いが終わると、ロートスは自室に戻っていた。

内ポケットに入れたメガネを机の上に置くと机の上にあるモニターの電源をつける。

それと同時にマーリンが姿を現す。

 

「マーリン。オルコットさんの専用機ブルー・ティアーズに関する情報は見つかったかい?」

 

『イグニッション・プランに参加しているというだけあって結構情報は見つかったよ。

ただし、静止画のみだがな』

 

欧州連合IS開発計画「イグニッション・プラン」

対米国の対策として欧州連合に所属している各国の企業に第3世代型の開発・研究用に資金提供を行っており英国、ドイツが現在の筆頭国である。

 

「英国は確か「イグニッション・プラン」の筆頭国だからね。

他国への牽制とアピールを兼ねて公開している可能性が高いと踏んでいたが、どうやら正解だったようだ」

 

『遠隔無線誘導型兵器のブルー・ティアーズ。相手の死角からの全方位オールレンジ攻撃が可能とし、英国はブルー・ティアーズの頭文字を取ってBT兵器と命名した』

 

「なるほど、これは中々」

 

『厄介だろう?この兵器を十全に使いこなせる操縦者ならばーー』

 

近づくことすらできず一方的にやられてしまうだろうね。とロートスはボソっとつぶやいた。

 

『英国はビーム兵器の開発に成功しているからな。それも同時に搭載している可能性は高い』

 

「つまり、今回の決闘は世界中に対するアピールに繋がるわけだね」

 

マーリンは不敵な笑みを浮かべ、髪を弄る。

 

『だがこのローエングリンR2は負けないさ。スペック、武装に関してはブルー・ティアーズなど敵ではない』

 

「確かにスペックだけ見たらローエングリンR2は既存のISに遅れを取らないだろうね。

だけど僕とオルコットさんには経験という差がある。この1週間でその差を可能な限り埋めるつもりさ」

 

 



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Act 5: ロートスVSセシリア

Act 5: ロートスVSセシリア

 

そして翌週の月曜日放課後、1-Aのクラス代表者決定戦当日。

第3アリーナには授業を終えた生徒達が観客席に詰めていた。あまりにも人数が多く入場規制が

かけられ、決闘の様子は食堂等でライブビューイングすることが決定した。

その様子を第3アリーナのAピットからロートス、一夏、箒、セシリア、千冬が眺めていた。

そんな光景を見て一夏は顔が驚愕に引きつっている。

 

「授業終わってまだ1時間も経っていないのにもう満席かよ…」

 

「当たり前でしょう。英国代表候補生である私と貴方達との決闘ですわよ。

それに最新鋭のISが見れる機会でしょうし」

 

英国の専用機、束が開発したIS、初の男性用ISを一目見ようとアリーナに詰めているのだ。

それは好奇心からではなく。

 

「多くは視察だろうね。動いている最新鋭機を見る絶好の機会なわけだし」

 

「あっ、そういうことか…って、俺のISまだ来てないんだがどうなってんだ?」

 

一夏はこの1週間、自主的にロートスとISの基礎知識の勉強を1~2時間行い、箒と剣術の練習と筋トレを2時間超。1時間ほどISの操縦に慣れる訓練を自主的に行っていた。

だが、一向に専用ISは手元に来る気配がなく、真耶に聞きに行ってもごたついているため分からないという回答しか帰ってこなった。

 

「お、織斑君!織斑君!」

 

その時第3アリーナのAピットに息を切らしながら真耶が駆け足でやってきた。

どこか転びそうで見ている方がハラハラしてしまうほどの足取りである。

 

「もしかして俺のISが来ましたか?」

 

「はい!ただ、まだ調整が終わっていないので先にアトラシア君とオルコットさんで

対戦していただきます」

 

「ということだ。アトラシアとオルコットはすぐに試合が開始できるようにスタンバイをしておけ。オルコットはBピット、アトラシアはここでスタンバイだ。いいな」

 

「はい!」

 

「わかりましたわ。それではまた後ほど」

 

セシリアは優雅に両手でスカートの裾持ち頭を下げると、頭を下げてBピットに移動していった。

 

「アトラシアも準備を始めろ。フォーマットとフィッティングは終わっているな?」

 

「はい、この1周間ですでに終わらせてあります」

 

ロートスは深い深呼吸を行うと胸ポケットからメガネを取り出し、装着する。

 

「ーーローエングリンR2起動」

 

ロートスの声に応じ、メガネのフレームが兜に変形。

ロートスの全身に光が覆い、それが形をなしていく。

 

「す、すげぇ…」

 

「これはまさにーー」

 

ローエングリンの名を冠するにふさわしく全体的に白色。部分的に金色と青色が使用され、

全身装甲型(フルスキン)を採用し他のISに比べると全体的に細く、甲冑を纏った騎士のような外観をしたISだった。

 

「フロートウィング展開」

 

ローエングリンの背中に搭載された6枚の翼の羽先が青色に点灯。

ローエングリンを纏ったロートスが文字通り浮遊する。

 

「よし、そろそろ試合開始の時間だ。カタパルトに足を固定しろ」

 

「はい」

 

千冬からの指示通りロートスはカタパルトに足を固定し発進準備に移る。

一夏と箒はロートスに近づき。

 

「…ロートス勝てよ」

 

ロートスは一夏と箒に視線を移す。

 

「うん」

 

激励を受けたロートスは笑みで返すと、そのまま正面に視線を戻す。

 

「ローエングリンR2発進!」

 

発進の言葉に続いてカタパルトが射出。

白い騎士が今、飛び立った。

 

***

 

「あら、来ましたのね」

 

腰に手を当てており、セシリアの容姿もあってか様になっていた。

鮮やかな蒼色の機体ブルー・ティアーズ。その外見は特徴的なフィン・アーマーを4枚背に従え、騎士のような毛高さを感じる。そして何より手に持っている長い銃器。

 

『ーー69口径特殊ビームスナイパーライフル、スターライトMk-Ⅲか。どうやら奴は遠距離型のようだな』

 

「そのようだね」

 

となれば背中に搭載している4枚のフィン・アーマーこそが、

遠隔無線誘導型兵器のブルー・ティアーズ。

 

「ーーそれが、あの篠ノ之博士が開発されたISですの?

ローエングリン…白鳥の騎士でしょうか。全身装甲型(フルスキン)とは珍しいですわね」

 

いや、珍しいのは全身装甲型(フルスキン)だけではない。

手足が異常に細く、背中のカスタムウィングも小さすぎる。

 

「篠ノ之博士が直々に開発されたISであれば手心は不要ですわね」

 

セシリアは手に持っているスターライトMk-Ⅲの銃口をロートスに向ける。

 

「それでは第1戦目ロートス・アトラシアVSセシリア・オルコットーー開始!」

 

開始のアナウンスと同時にセシリアは引き金を引く。

独特な音と同時に青い閃光が、ロートスに向かって放たれた。

とっさの判断で一夏は体をひねり直撃を避けたが、左肩の装甲をビームが掠る。

 

『――バリアー貫通、シールドエネルギー減、ダメージレベル低』

 

ISを使用した模擬戦はシールドエネルギーを0にした方が勝ちと言うシンプルなルールを採用している。直撃せずとも、撃沈せずともシールドエネルギーが0になったほうが負けとなるが故に、

高い威力のビーム兵器は掠るだけでも不利になる。

 

「今の攻撃を避けるとは中々やりますわね。

ですがそうでなくては張り合いがありません。さぁ、踊りなさい。

私、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞(ワルツ)で!」

 

再び、セシリアはロートスに向けて正確にビームを放つ。

ロートスは左肘を曲げ。

 

「マーリン!ロイヒテントブレイズを最大展開」

 

『了解!』

 

左腕から六角形の青色のエネルギーシールドが展開されてビームを全て防いでいく。

 

「なっ!スターライトMk-Ⅲのビームを弾くですって!?69口径のビームですのに」

 

『ハッハッハッ、このローエングリンをその他のISと一緒にしてもらっては困るな。

だがこれからどうするつもりなのだマスター。このままではジリ貧だぞ?』

 

「射撃の正確さ、スターライトMk-Ⅲの射程距離を考えれば接近戦をしかける!」

 

ロートスはロイヒテントブレイズを展開したままセシリアに向かって超加速を行う。

 

「接近戦をしかけるおつもりでしょうが…!」

 

セシリアはロートスに向けてビームを何度も放つが、全てロイヒテントブレイズで弾かれてしまう。

このままでは接近を許してしまう。セシリアは一呼吸置くと手に持っている

スターライトMk-Ⅲを量子変換し、ロートスに向けて指をさす。

 

「行きなさい!ブルー・ティアーズ」

 

背中に搭載している4枚のフィン・アーマーのうち2枚が背中から射出され、ロートスに向かっていく。

 

『マスター、あれが…』

 

「来る!」

 

ロートスの上下に回ったブルー・ティアーズが同時にビームを発射する。

両腕のロイヒテントブレイズで防ぐが。

 

「正面ががら空きですわよ?」

 

セシリアは再度スターライトMk-Ⅲを手に取り、ロートスに向けてビームを放つ。

 

『やらせるか!』

 

マーリンがとっさに避けようとするが、脇腹部分に被弾をしてしまう。

そして獲物を狙う猟犬のごとく2基のブルー・ティアーズが態勢を崩したロートスに襲いかかる。

 

「獲りましたわ!」

 

「いいや、まだだよ!シュナイデンハーケン!」

 

両手首からワイヤー式のアンカー「シュナイデンハーケン」をブルー・ティアーズに向けて射出。

2基のブルー・ティアーズを貫き、爆散させる。

 

「ブルー・ティアーズを…!」

 

「いまだ!」

 

ロートスは右足の脛に搭載されたロイヒテントブレイズを展開すると、体を回転し。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!!」

 

セシリアめがけて空中回転蹴りを浴びせる。

 

「ぐっ…!」

 

もろに空中回転蹴りを食らったセシリアは後方に勢いよく吹き飛ばされるが、一回転をして体勢を立て直し、すかさずセシリアは残りの2基のブルー・ティアーズを展開する。

 

***

 

「はぁぁ、アトラシア君すごいですねぇ。オルコットさんをあそこまで追い込んでますよ」

 

「…確かにな」

 

ISの初起動を行ってから1周間しか経っていないにしては健闘している方だろう。

普段辛口な千冬もこの点は認めざる負えなかった。

 

「……」

 

専用機の調整を終えた一夏もモニターでロートスとセシリアの戦いを見ていたが、

うーんと腕組みをして、黙り込んでいた。

 

「どうした一夏」

 

「いや、少し気になることがあってな」

 

「気になること?」

 

あぁ。と一夏は言い、2基のブルー・ティアーズを指差す。

 

「オルコットはブルー・ティアーズを射出。オールレンジ攻撃で相手を翻弄し、手元のスナイパーで相手を撃ち抜く戦法を採用していることはわかったけどさ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「一夏も気がついていたのか?」

 

「まぁな」

 

ほう。と千冬はニヤリと笑う。

 

「どうしてそう思ったか言ってみろ」

 

「おう。あっ、はい。ブルー・ティアーズでオールレンジ攻撃をしてロートスを翻弄している間にオルコット自体が動き回って狙撃したほうがよくないですか?

両腕のビームシールドでブルー・ティアーズとオルコットの狙撃を防ぐのは難しそうだし…それをやらないならブルー・ティアーズ展開中はISを自由に動かせないんじゃないかなと…」

 

***

 

『恐らく、オルコットはブルー・ティアーズを射出して攻撃している間は移動ができないと見ていい』

 

一夏と同じ結論にマーリンとロートスも至っていた。

つまり、ブルー・ティアーズ展開中にセシリアに攻撃を放っても即座に避けることはできないということになる。

 

「マーリン。ローエンカノーネを発射用意。ブルー・ティアーズごとオルコットさんを撃墜する」

 

『了解!』

 

ローエングリンの両肩に装備されている砲身が開く。

すると獣のような唸り声を上げ、黒い光を纏った青い極太の閃光が放たれた。

 

「まさか粒子ビーム兵器!?このままでは!」

 

セシリアはブルー・ティアーズを呼び戻すのではなく、量子変換することを選択する。

しかしその判断は遅く、ブルー・ティアーズはローエンカノーネに飲み込まれて爆散した。

ブルー・ティアーズが消滅したことでセシリアは自由に動けるようになったが、

 

「避けられない!」

 

避けられるはずもなくローエンカノーネに飲み込まれてしまう。

 

「きゃああああああああっ!!!」

 

直撃をしたブルー・ティアーズはカスタムウィングが消滅、機体各所の装甲も大きく破損。

そのままアリーナの地面に勢いよく叩きつけられた。

 

『ーーバリア貫通。シールドエネルギー残量50。実体ダメージのレベル高。危険域です』

 

ロートスはセシリアを追うようにアリーナの地面に降り立つ。

 

「フロートウィング停止。ランラート起動」

 

青色に点灯していた6枚の翼の羽先の点灯が消え、

両足の足首に搭載されている高速移動用のホイール「ランラート」を展開。

墜落したセシリアのもとに向けて地面を滑走する。

 

「地面を滑走するローラー付きとは奇妙奇天烈なISですわね…」

 

セシリアはスターライトMk-Ⅲではなく接近戦用のショートブレードのインターセプターを手に取る。それはいまだにセシリアが戦意失ってはいないことを意味している。

 

「でもこの戦い…」

 

「オルコットさんの負けよねぇ…」

 

観客の多くはセシリアの負けを予感していた。

ブルー・ティアーズはカスタムウィングが消滅、機体各所の装甲も大きく破損して

まともに飛ぶことさえできない。

それに加え粒子ビーム兵器であるローエンカノーネの威力と範囲を間近で見ればそういった予感もあながち的外れというわけではない。

 

「確かにこの戦いで私の勝てる可能性は限りなく低いでしょう…」

 

セシリアは深呼吸を行うと高らかに宣言をする。

 

「私は次期オルコット家当主、英国代表候補生のセシリア・オルコット。最後まで戦います!!」

 

セシリアは残りのエネルギーを振り絞り、ロートスめがけて特攻を仕掛ける。

 

『どうするんだマスター。ローエンカノーネで薙ぎ払えば終わりだが』

 

「いや、僕はセシリアさんに応えるよ」

 

するとロートスの両手に刀身が2つに割れている剣を展開、

2つに割れていた刀身が合わさり、赤く発光する。

 

「いざ、参る!」

 

「いきますわよ!!!!」

 

セシリアはインターセプターで切り下ろす。

ロートスは手に持つ剣で防ぐがインターセプターの刃をバターのように切断した。

 

「なっ…」

 

「これがメーザー・バイブレーション・シュヴェルト…MVSか。なんという切れ味だ…」

 

「なるほど、高周波振動を利用したブレードですか。なら、ただのショートブレードでは敵わないですわね」

 

セシリアは自嘲気味に呟いた。

この時点でセシリアの負けは決定したが、ロートスはとどめを刺すべくもう片方に持っていたMVSでセシリアを切り伏せた。

 

『試合終了。勝者、ロートス・アトラシア』

 

ロートス勝利のアナウンスと同時にアリーナ上どころかIS学園中に大歓声が響き渡る。

誰もが予想しなかった英国代表候補生に男子が勝利するという結果となった。

 

 

 




ローエングリンのシステムや武装は、
Re:boot前と変わらずコードギアスに登場するランスロットとガウェインを採用しています。

ロートスと一夏の訓練描写は省きましたが行っている設定です。
原作の一夏はセシリアに啖呵切っておこながら自発的に動かず箒に頼りきりな印象だったので一部変更しました。

うーん、やっぱ戦闘描写って難しいですね。


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Act 6: セシリア

「その…大丈夫かい?」

 

地面に座り込んで動かないセシリアを見てロートスは心配になったのか声をかけた。

声をかけられたセシリアは一瞬呆気に取られた表情を浮かべるが、すぐにふふと笑う。

 

「えぇ、大丈夫ですわ。ご心配をおかけいたしましたわね」

 

セシリアはブルー・ティアーズを量子変換すると、お尻を軽くはたいて立ち上がる。

今まで見せていた尊大な性格や表情はなく、どこかしおらしいように感じた。

 

「今回は私の負けですが次は負けませんわ」

 

セシリアはスッと右手をロートスに差し出す。

ロートスはうん。とセシリアに右手を差し出し、2人は握手を交わす。その光景を見た観客から再度拍手や歓声があがった。

拍手や歓声がまばらになると千冬はマイクを手に取る。

 

『…コホン。アトラシアの疲労を考慮して第2試合は15分後に行うものとする。

織斑、アトラシアはその間にコンディションを整えること。いいな』

 

「はい!」

 

「おぉ!」

 

両者ともに気持ちのいい返答をする。

千冬はよし。と良いマイクの電源を切った。

 

「それではアトラシアさん。私はこれで」

 

「うん」

 

「…私に勝ったんですから、絶対に勝ってくださいね?」

 

「勿論」

 

セシリアはそういうと控室へと戻っていった。

 

***

 

セシリアはBピットの控室に戻った後、併設してあるシャワールームでシャワーを浴びていた。

壁に寄りかかりながらシャワーを全身に浴び物思いにふけっている姿は様になっており、まめかしく、どこか美しかった。

 

「負けてしまった。英国代表候補生であるこの私が…」

 

敗北した。

BT兵器のデータをサンプリングするために開発された実験・試作機であるブル

ー・ティアーズを預かる英国代表候補生としてはあってはならないことだ。

相手が篠ノ之束が直々に開発したいISだから。相手がビーム兵器を搭載したISだから。

そんな言い訳はできないし、するつもりもセシリアには無かった。

負けて悔しいと言う気持ちは勿論あるがそれ以上にセシリアの心に残っている物が合った。

 

「ーーロートス・アトラシア」

 

自分と戦ったロートスのことを思い出す。

篠ノ之束が直々に開発した専用機を使用しているとは言えISに関しては素人同然。

代表候補生に選ばれたセシリアと相対するなど、よほどの自信家か無謀な人間であろう。

だが女性の地位が向上した今の世にそんな無謀な行動を取れる男がどれだけいることか。

不意にセシリアは父親と母親の会話を思い出した。

 

『ルパート。どうして貴方は昔から私の顔を伺うの!男ならもっと堂々とすればいいじゃない!」

 

『エ、エマ。そんな事を言っても僕は婿養子だから…」

 

「父は、母の顔を伺う人だった…」

 

セシリアは幼少の頃からこのようなやりとりを何度も見てきた。

父は母とは幼馴染の関係で、大学生でついに交際をスタートし、大学卒業後に結婚したとセシリアは母から聞いていた。

父はオルコット家とは釣り合わない家柄出身だからこそ自分に引け目を持っているのだろうと考え、仕方のないことだと思っていった。

しかし、ISが発表されてから父の態度はますます弱くなっていった。

 

「…母は強い人だった」

 

セシリアの母はISが登場する以前。男尊女卑だった社会から名門オルコット家の当主になり、あらゆる経営を成功させてきた。

優しくも厳しく、セシリアにとってはあこがれの存在だったと言える。

そう、"だった”。セシリアの両親は3年前に事故で他界したのだ。

一度は陰謀論が囁かれたが鉄道の横転事故で乗客は全て死亡。乗客は100人を超える大規模なものだったためすぐさま否定された。

残されたセシリアは絶望した。血の繋がった実の両親を失い、天涯孤独の身になったのだから。

手元には豪華な屋敷、莫大な遺産、母が経営した会社が残った。

当時12歳のセシリアに金の亡者達は手を伸ばしてきた。お抱えの執事やメイド達がセシリアを守ってきたが、12歳の少女に権力も権威もなく、オルコット家は窮地に立たされる。

セシリアは金の亡者達からオルコット家を守るためにあらゆる勉強を行ってきた。

その一環でISの勉強もしており、政府公認の上級試験に合格しIS適正A+を叩き出したのである。

そのことが英国政府に認められ、オルコット家の保護を条件に英国代表候補生に選出、

第3世代装備ブルー・ティアーズの第1次運用試験者に抜擢された。

 

「ブルー・ティアーズの可動・戦闘データを取るために日本にやってきた…」

 

そこでロートス、一夏に出会った。

初めは2人のことは気に入らなかった。

英国代表候補生の座。最新鋭の専用機を扱う権利。高い倍率を誇るIS学園の入学。

家を守るために血の滲むような努力をしてようやく勝ち取ったものだった。

なのにロートス、一夏は男というだけでIS学園に入学。一夏に関しては事前に学ぶ努力すらしない怠慢っぷり。絶対に絶対に認めない。そう思っていたが。

 

「あれは機体性能だけではなく…」

 

ロートスの勝因は機体性能や武器の特性だけではなく、

ブルー・ティアーズに冠する研究とISを動かす努力をこの1周間で行ってきたからだろうと

セシリアは考えていた。

 

「見極めなければなりませんわね」

 

父のように弱い瞳ではなく、強い瞳をした男なのかどうか見極めなければならない。

セシリアはシャワーを止めた。




セシリアはロートスや一夏のヒロインにはならない予定です。


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