問題児たちが本気で缶蹴りをするようです。 (朧気だんぼーる@受験)
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神魔の遊戯~缶蹴り~

某手描き劇場に触発されて作ってみた。
反省はしている。


十六夜「ぷはー。やっぱ缶で飲む炭酸は違うわ」

 

耀「なんか……身体が熱くなってきたね」

 

白夜叉「ふふん、どうじゃ?今度その飲料を箱庭に流通させようと思うのだが……。売れるかの?」

 

飛鳥「いいんじゃないかしら。身体がポカポカする炭酸ドリンクなんて斬新だわ」

 

十六夜「ああ。悪くねえ。つか普通に美味い。炭酸自体久々に飲んだしな」

 

白夜叉「そうかそうか。なら大量生産するとしようかの」

 

十六夜「しっかしあれだな」

 

十六夜は缶を見つめたまま畳の上に寝転がる。

 

十六夜「俺の元いた世界ではよく缶蹴りが流行ってたっけね。もっとも俺が最強すぎてやる相手はいなかったが」

 

白夜叉「……何?」

 

飛鳥「あら、懐かしいわね。私も小さい頃缶や竹で何度かやったことあるわ」

 

耀「……え、缶蹴りって何?」

 

十六夜「ん?春日部は知らないのか?缶蹴りっつうのは……」

 

白夜叉「待て十六夜ッ!!」ガタッ

 

十六夜の言葉を遮り、白夜叉がその場から勢いよく立ち上がった。

突然の大声に十六夜は面食らって白夜叉の顔を見る。

 

十六夜「……いきなり何だよ、ちょっとびっくりしたじゃねえか」

 

白夜叉「おんし……今『缶蹴り』と……確かにそう言ったな……?」ギラリ

 

飛鳥&耀「っ……!?」ゾクッ

 

十六夜「?……ああ言ったが、それがどうした」

 

白夜叉「ふ……ふふ……そうか……。おんしらのいた世界ではこの“神魔の遊戯”が存在していたのか……」

 

十六夜「は?」

 

白夜叉「缶蹴り……!ああ、なんと甘美な響きであろうか……!!私としたことが気が昂ってきてしまったぞ……!!」

 

耀「ど、どうしたの……?白夜叉……」

 

飛鳥「この炭酸何か入っていたのかしら」

 

白夜叉「決めたぞッ!!1週間後に缶蹴りのギフトゲームを開催するッ!!」

 

十六夜「……おいおいどうしたマジで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時問題児たちには知るよしもなかった。

 

修羅神仏の集うこの箱庭の住民達の「缶蹴り」に対する異常な執着心を……!!

 

 

 

 

 

 

~ノーネーム~

 

黒ウサギ「缶蹴り……ですか……!あは、あは、あははははははははははははは!!!!そうですか!!缶蹴りをやるのですねッ!!絶対に勝ちますよッ!!」

 

ジン「FOOOOOOOOOOOOOッ!!!YESッ!!YEEEEEEEEEEEESッ!!!」

 

十六夜「」

 

耀「」

 

飛鳥「」

 

レティシア「何をぼーっとしているのだ主達……!!そんな慢心した状態でこの聖戦に臨めばあっという間に死ぬぞッ!!」

 

 

~ウィル・オ・ウィスプ~

 

アーシャ「聞きましたかジャックさん!!サウザンドアイズが主催するという缶蹴りの噂を!!」

 

ジャック「ヤホホ……ええ、もちろんですよサーシャ。このカボチャ頭が年甲斐もなくゾクゾクしてきてしまいました……!!

さあ、殺戮劇(ショウタイム)の始まりですよッ!!ヤホホホホホホホホホッ!!!」

 

ウィラ「征くよ、2人とも……!!」

 

 

~グリムグリモワール・ハーメルン~

 

ペスト「フッ……フフフ……!!そう、始まるのね。狂気の宴が……!!『缶蹴り』が……!!!

火龍誕生祭を狙うのはまた次の機会にしましょう!!

YES!!KANKERI!!」

 

ヴェーザー「ま、魔王としての初陣には缶蹴りの方がピッタリじゃないか?」

 

ラッテン「腕が鳴るわ……!!前のマスターにも見せてあげたかった……!!」

 

 

 

 

~ウロボロス~

 

リン「遂に……来たわね殿下」

 

殿下「ああ……まさか……生後3年であの『缶蹴り』が出来る瞬間(とき)が来るとは思わなかったぜ……」

 

混世魔王「ギャハハハハハハッ!!なんたる僥幸!!まさか……まさかまた『缶蹴り』が出来る日が来るとはな……!!」

 

 

~???~

 

蛟劉「クッ、クッハハハハハハハッ!!なんや姐さん……粋な事するやないか……!!

缶蹴りをするとなっちゃこの“枯れ木の流木”と揶揄された僕も本気出さないわけにはいかなくなったなあ……!!」

 

 

~煌焔の都、宮殿最下層・星海の間~

 

冥府の底を彷彿とさせる宮殿の地下深く。

光も届かないその場所でそれはふと、鎌首もたげた。

二百年にも及ぶ封印の中でただの一度も動かなかったそれは今、地上で起ころうとしている『缶蹴り』の気配を感じ取っている。

 

???『嗚呼──戦禍(カンケリ)の薫りがする……』

 

 

 

 

 

 

缶蹴りの噂は光速顔負けの速度で箱庭中を駆け巡った。

もう、誰も彼らを止めることは出来ない────!

 



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十六夜「どうしてこうなった」

微妙に書き溜めしてたのでもうひとつ投下。


~箱庭六一五〇七九外門移住区画・缶蹴り特設会場~

 

ギフトゲーム開始まであと一刻……。

 

十六夜「……………………」

 

飛鳥「……………………」

 

耀「……………………」

 

白夜叉「どうしたんじゃおんしら?妙に落ち着き払っているが……」

 

十六夜「……いやなんつうか……。流石の俺も話の展開にちょっとついていけねえ」

 

飛鳥「同上」

 

耀「右に同じく」

 

十六夜達のいた世界には確かに缶蹴りという遊びはあった。

だが所詮子供の遊びなのだ。

何気無くぼやいた発言がまさか箱庭全土を動かすほどの事態にまで発展するとは流石の十六夜も想像だにしなかったに違いない。

 

そんな様子に気付く様子も無い白夜叉はやたらテンションが低い問題児達をたしなめるように眉をひそめる。

 

白夜叉「おんしららしくないのお。箱庭史に残るレベルの超大規模なギフトゲームなのだぞ?もっとワクワクドキドキして然るべきじゃ」

 

十六夜「そりゃあな。目先に控えていた火龍誕生祭を延期にするレベルの超ビッグなゲームだもんな」

 

白夜叉「しがない龍の一族の継承式如きがなんだって?そんなもんより缶蹴りの方が優先に決まっておろうが」

 

耀(火龍誕生祭をそんなもん呼ばわり)

 

十六夜「つーかさ、この3日間ずっと予選だったじゃねえか予選」

 

白夜叉「そうだの」

 

十六夜「……あれただの戦いだったよな。負傷者何千人出たよ。単純な戦闘能力だけを見て参加者を振るいにかけるのはどうかと思うが」

 

白夜叉「何を抜かしておる。あの程度の修羅場を潜り抜けられぬ輩は缶蹴りの舞台では決して生き残れん。下手すれば命さえも落としかねんからな」

 

耀(缶蹴りってそんなに危ない遊びだったんだ)

 

飛鳥「……何故皆あそこまで本気になっていたのかしら?……缶蹴りなんてただの遊びでしょう?」

 

白夜叉「ただの遊び?やれやれ……おんしらは何も分かっていないようじゃな……」

 

白夜叉「1つおんしらに教えてやろう。これから始まるギフトゲーム……気を抜いて慢心している戯け者はまず間違いなく──」

 

 

 

 

 

 

 

白夜叉「死ぬ」ギラッ

 

 

 

 

 

 

問題児たち「────ッ!?」ゾクッ

 

白夜叉「……今回のギフトゲームでは参加資格に制限が無い。つまり、魔王が参戦する可能性だって十分にあるわけじゃ」

 

十六夜「……魔王が……?」

 

白夜叉「そう。おんしらも予選を突破してしまった以上、もう後戻りはできん。気を引き締めよ」

 

問題児たち「…………」ゴクリ

 

 

シリアスな空気に包まれつつある中、缶蹴り会場の中心から十六夜達の同士の陽気な声が聞こえてきた。

 

黒ウサギ「皆さん長らくお待たせしました!!これより、第一次缶蹴り大戦の開幕ですっ!!」

 

観客「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

黒ウサギの開幕宣言と共に、空から大量の契約書類が降り始めた。

 

十六夜がその1枚を掴み取り、飛鳥と耀が十六夜の手元を覗き込む。

 

十六夜「え~どれどれ?」

 

 

 

 

『ギフトゲーム名~Kick the can crew~

 

参加者

・先日行われた予選を通過した者(ただし、参加者は死の恐れ在り)

 

勝利条件

・缶蹴りの勝利条件を満たす

 

敗北条件

・勝利条件が満たせない場合(死亡も敗北と同様)

 

ルール概要

・ゲーム開始前にランダムに攻守を分ける。

・守備陣営一人につき、攻撃陣営は二人まで。

・ゲーム終了まで攻守の入れ替えは認めない。

・同士討ちを禁ずる。

・競技範囲はランダムに変化する。

 

守備&攻撃陣営概要

・今回特別に支給される鎖を攻撃陣営のプレイヤーに巻き付け、缶を踏みながら鎖を巻き付けた者の名前を言うことで、その者をリタイアさせることができる。

・攻撃陣営全員をリタイアさせれば守備陣営の勝利。

・缶は移動させても良い。ただし、手に持つ、抱えるなどは禁止。 足でずらしたり滑らしたりすることで移動させる。 恩恵を使用した移動も可。

・缶を蹴られたとしても地上に落とさなければ敗北にはならない。

・缶を不可視にする恩恵の使用は10秒までとする。

・いかなる方法を用いて缶を倒しても可。

・またゲーム中は各プレイヤーの恩恵には二次的な補正がかかる場合がある。

 

宣誓

上記を尊重し誇りと御旗の下、“サウザンドアイズ”はギフトゲームを開催します。

 

“サウザンドアイズ”印』

 

 

 

 

飛鳥「……あら?箱庭の缶蹴りは別に缶を蹴られても即座に負けにはならないようだし、守備陣営の勝利条件も私が知っているものとは違うわね」

 

十六夜「そうだな」

 

十六夜(恩恵に二次的な補正が入る……?どういう事だ)

 

 

 

 

黒ウサギ「まずは第一回戦です!!プレイヤーの人数をルーレットで決めます!!」

 

黒ウサギがそう告げると、突如黒ウサギの目先にグルグルと回転したルーレットが現れた。

 

黒ウサギがえい!とダーツを投げると、バスッと2の番号に命中する。

 

黒ウサギ「守備陣営は2人です!プレイヤー人数は6人ですね!では今度はくじ引き出場プレイヤーを決めたいと思います!!」

 

今度は黒ウサギの目の前に穴の空いた箱が現れる。

黒ウサギはゴソゴソと中身をまさぐり、6枚のカードを取り出した。

 

黒ウサギ「……はい、出ました!一回戦目のプレイヤーを発表します!

 

まずは攻撃陣営です!

 

“ウロボロス”から

混与魔王様!

“サラマンドラ”から

サンドラ=ドルドレイク様!

“グリムグリモワール・ハーメルン”から

黒死斑の魔王ペスト様!

“ノーネーム”から

レティシア=ドラクレア様!

 

続いて守備陣営は!

 

“サウザンドアイズ”から

白夜叉様!

“ノーネーム”から

逆廻十六夜様!

 

呼ばれた以上の6名は競技場にお集まりください!!」

 

 

 

飛鳥「……カオスね」

 

耀「なんか魔王っぽいのもナチュラルに混じってるし」

 

十六夜「……いきなり俺か。つうか白夜叉今回プレイヤー側なのかよ」

 

白夜叉「呵々!私も驚いた!これは嬉しい誤算だの!!往くぞ十六夜!!愉しい缶蹴りにしようじゃないか!!」

 

十六夜「……ああ、そうだな」

 

レティシア「主よ。今回ばかりは無礼講だ。手加減はしないからな」

 

十六夜「そいつはこっちの台詞だぜレティシア。リボン取って全力でかかって来やがれ!」

 

 

 

 

 

────缶蹴りin箱庭。いよいよ試合開始!!




ここまで茶番





ここからも茶番


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最強タッグ出撃!

書く意欲があるうちに終わらせたい。

この話までは某手書き劇場と似たような展開ですね。
次回から徐々にオリ展開に路線変更していきます。


~1回戦目競技場『森林』~

 

・天候:曇り

・競技範囲:半径600m

・競技場概要:競技範囲内の中心半径100mは木々が生えていない草原。森林は草原を囲むようにドーナツ状に広がっている。

 

出場選手一覧

攻撃陣営:

サンドラ=ドルドレイク

混世魔王

ペスト

レティシア=ドラクレア

 

守備陣営:

白夜叉

逆廻十六夜

 

選抜された6人が草原の中心に集まる。

 

黒ウサギ「では守備陣営の方はこの『封印の鎖』を受け取ってください」

 

黒ウサギがギフトカードから50cm程の鎖を数本取りだし、十六夜と白夜叉に手渡した。

 

黒ウサギ「契約書類にも記載されていましたが、この鎖を攻撃陣営全員に巻き付けられれば守備陣営の勝利でございます。鎖の数は御二方にそれぞれ4本ずつ。鎖の数には十分気を遣ってくださいね」

 

十六夜「ああ」

 

白夜叉「分かっとるよ」

 

黒ウサギ「それでは十六夜さん!攻撃陣営代表に缶を渡してください!!

缶蹴りのルールに則り、攻撃陣営代表が缶を蹴ってから10分後に試合開始したいと思います!!」

 

 

黒ウサギの指示を受け、レティシアがリボンを取って大人の姿に変化する。

 

十六夜(何か成長した)

 

レティシア「……主殿」

 

十六夜「ん?」

 

レティシア「改めて宣言するぞ。この戦い、本気で勝たせてもらう。……箱庭の騎士の名に懸けてね」

 

レティシアは不敵な笑みを浮かべて十六夜の前に手を差し出した。

 

十六夜「ハッ、大きく出たじゃねえかレティシア。その強気がどこまで持つかじっくりと見させてもらうぜ」

 

十六夜は半ば叩きつけるようにレティシアの手に缶を押し付け、獰猛に笑う。

 

缶を受け取ったレティシアは屈んで缶を地面に

置き、森林に向かって勢いよく蹴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

─────Kick the can crew、いよいよ開会!!

 

 

 

 

 

 

白夜叉「とゆーわけで缶を探してきてくれ十六夜君♥」

 

完璧な笑顔で白夜叉が十六夜の肩を叩く。

 

十六夜「……テメエ」

 

白夜叉の壮絶に神経を逆撫でする物言いに青筋を浮かべる十六夜だったが、どちらにしろどちらかが缶を探しにいかなくてはいけないのだ。

白夜叉の「私が缶を探す気なんてさらさら無いんだから!」という表情を汲み取った十六夜は壮大な舌打ちをして渋々森林へと向かう。

 

が、レティシアの尋常外の脚力で蹴られた缶は音の壁さえも突き破る速度で森林に飛ばされ、既にいくらかの細いの木がひしゃげている。

あれだけ大きな痕跡が残っていれば探すのは意外と苦では無いかと見えた。

 

十六夜「……あ、あったわ」

 

森林に入って20m程のところで巨木に缶が突き刺さっているのを見つけ、手間が省けたと十六夜は胸を撫で下ろす。

砲弾並の威力で缶が飛ばされてきたにも拘わらず被害がこれだけに収まっているということは、森林の木々1本1本にある程度の自衛の恩恵が施されていると考えていいだろう。

十六夜はそそくさと缶を引っこ抜いて草原へと戻る。

 

十六夜(しかし丈夫だなこの缶……。レティシアに蹴られて凹むどころか傷一つついてやしねえ)

 

白夜叉「お?早かったのお!流石小僧仕事が早い」

 

十六夜「うっせえロリババア」

 

こん、と十六夜は缶を地面に置く。

辺りを見回すと、既に攻撃陣営の連中の姿はなくなっていた。

今頃作戦会議でもしているのだろう。

 

十六夜(だがまあ、どんなに策を捏ねてきたところで所詮は缶を寄り付く連中を片っ端からぶっ飛ばせば済む話だ。

俺一人でも十分だろうがだめ押しのごとくこちらには白夜叉もいる。

攻撃陣営には不運な対戦カードだったな)

 

白夜叉「……おい小僧。まさかとは思うが……慢心してはおるまいな?」

 

十六夜「!?」

 

余裕が顔に出ていたのだろう。

十六夜がはっと表情を真顔に戻すと、白夜叉が十六夜に厳しい声音で語りかけた。

 

白夜叉「そんな甘い考えはこの缶蹴りにおいては命取り以外の何物でもない。

私でさえ油断は出来ないのだ。こちらも作戦を考えねば負けるのは自明の理じゃぞ」

 

十六夜「……そうだな、悪い。このままやっても正直負ける気はしねえが、確かに本気で挑んでくる相手をいい加減な心持ちで迎え撃つのは冒涜行為だな。軽率だったよ」

 

白夜叉「……よろしい。じゃあまず最初にこの缶をどこに置いて本拠を構えるかだが……おんしならどこに置く?」

 

十六夜「……」

 

突然質問を吹っ掛けられ、十六夜は顎に手を当てて考え始める。

 

十六夜「……まあ、この場所だろうな」

 

やがて十六夜が地面を指差すと、白夜叉がほう?と薄笑いを浮かべた。

 

白夜叉「して、その心は?」

 

十六夜「今回の競技範囲は大部分を森林が占める直径1200mのステージだ。視界の悪い森林の中で1人1人を探し出すなんざ時間の無駄でしかねえし、死角から奇襲でもされたら流石に目も当てられねえ。

最善の手は見晴らしのよいこの草原の中心で攻撃陣営の連中を待ち構えて返り討ちにすることだろうからな。よって缶はここに置くべきだ」

 

白夜叉「……その通りじゃ。分かっておるではないか小僧」

 

十六夜「ハッ、舐めんな」

 

 

 

※※※

 

 

 

数分後

 

黒ウサギ「10分経ちました!缶蹴りを開始してください!!」

 

黒ウサギがマイクを手に試合開始の合図をすると、ドーンと空に大きな花火があがった。

森林を囲む観客席から割れるような歓声が鳴り響く。

 

 

────缶蹴り第1回戦、試合開始!!

 

 

 

十六夜(……やっと始まったか。さあ、どう出るレティシア……!!)

白夜叉が十六夜の背中を見つめ、扇子で口元を隠して小さく笑う。

 

白夜叉「……ふっ、おんしでも緊張はするようじゃな」

 

十六夜「何?俺が?まさか」

 

白夜叉「じゃあその足はなんじゃ小僧?」

 

白夜叉が扇子で十六夜の足元を指す。

つられて十六夜は自分の足元を確認し、思わず眼を剥いた。

 

十六夜(ッ!?)

 

無意識のうちに缶を踏んでいたのだ。

反射的に飛び退くようにして缶から離れる十六夜。

 

白夜叉「うむうむ。万が一それで缶を倒されたらたまったものではないからの」

 

白夜叉が愉しそうに笑う中、十六夜は背中に流れる原因不明の冷や汗に苛立ちを募らせて大きく舌打ちをした。

 

十六夜(……チッ、どうしたってんだクソッタレ……。たかが缶蹴りだろ?何を緊張してやがる)

 

十六夜(観客が自分達に注目しているから?いやいや、そんなわけねえだろ。馬鹿げてる。そんなのはプレッシャーのうちに入らねえ)

 

十六夜(落ち着け……焦ったら勝てる勝負も勝てなくなる。落ち着いて周りを警戒しろ!!)

 

そこまで考えて十六夜はようやく悟る。

十六夜(…………ああ、そうか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────これが『缶蹴り』か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

にわかに落ち着きを取り戻し始めた十六夜を横目に白夜叉は朗らかに笑った。

 

白夜叉「……ようやく気づいたようだの。そう、これが缶蹴りじゃ小僧」

 

十六夜「……」

 

白夜叉「確かにおんしらの最初の反応を見るに、おんしらの世界では缶蹴りはただの幼子の戯れに過ぎなかったのかもしれん」

 

白夜叉「しかしおんしは今まさに感じているはずじゃ。

抗いようのない『不安』を。

拭いきれない『焦燥』を。

そして……身体に纏わりつくような『恐怖』を」

 

十六夜「…………」

 

十六夜「……ああ、そうだな。納得した。どおりで箱庭の住民が虜になるわけだ」

 

十六夜「──これは『愉しい』」

 

白夜叉「よし、その意気じゃ!敵はどこでいつ攻撃を仕掛けてくるか分からない、気を引き締めてかかれよ小僧!!」

 

十六夜「当然だ誰に物言ってやがるロリババア」

 

 

 

※※※

 

 

~南の森林の中~

 

ペスト(……あの守備陣営の2人、何を話しているのかしら?)

 

サンドラ(……もう始めていいですか?ペストさん)

 

ペスト(ええ、先制攻撃なのだから思い切りやりなさい)

 

サンドラ(了解です!)

 

サンドラは小さく頷くと、胸一杯に空気を吸い込み始めた。

 

 

 

※※※

 

 

 

 

~草原~

 

白夜叉「……!」ピクッ

 

十六夜(……ん?大気中の温度が上がった……?)

 

十六夜が耳を澄ませて辺りへの警戒をよりいっそう強めると、白夜叉が突然声を上げた。

 

白夜叉「──後ろじゃ小僧ッ!!」

 

十六夜「分かってる!!」

 

異変に気付いた十六夜が背後を振り返る。

刹那、木々の隙間から炎の熱線が迸り、十六夜達めがけて放出された。

 

十六夜「──ハッ、しゃらくせえッ!!」

 

十六夜は接近してくる炎に真っ直ぐ向き直ると、拳を握り締めて熱線を殴り付けた。

熱線は火炎弾となって辺りに飛び散り、草原にあちこちに大きな火柱をあげて燃え上がる。

 

続いて、草原を囲む全包囲から無数の影の刃が空き缶めがけて接近してきた。

 

十六夜「なッ…全包囲!?」

十六夜はすかさず目についた影の刃を片っ端から手刀で撃ち落とすが、流石に全包囲から飛んでくるのでは数が多すぎる。

 

これはまずいと十六夜は急いで缶の元へ駆けようとするが、今度は背後から吹き荒ぶ黒い風に絡め取られ、十六夜の身体は宙に舞ってしまった。

 

十六夜(やべっ!!)

十六夜が宙を舞っている間にも影の刃は音速を超えた速度で缶に近付いている。

 

十六夜(こうなったら俺のギフトで…………ッ!!?)

 

十六夜が光の柱を行使しようと力むが、何故か右手に光が現れない。

 

十六夜(……しまった!!二次的な補正ってこの事かッ!!)

 

白夜叉「やれやれ」

 

十六夜の様子を見ながら缶の側で仁王立ちしていた白夜叉はしょうがないとばかりにそっと空に手をかざした。

 

すると、無数の影の刃は突然白夜叉の手のひらへと方向転換し、黒い球体となって収束していく。

 

やがて秒を跨がぬ間に全ての刃が収束すると、白夜叉は黒い球体を握り潰して完全に霧散させてしまった。

 

十六夜「!?」

 

レティシア「!?」

 

白夜叉「……ふむ、全包囲からの遠距離攻撃とは中々悪くない不意打ちだったがの」

 

おっほっほと扇子を扇ぐ白夜叉。

十六夜は呆れた様子でヤハハと笑った。

 

十六夜「……やっぱチートだわお前」

 

白夜叉「そうでもないぞ?だいぶ補正がかけられていてだいぶ動きにくい。

今の小僧の動揺ぶりを見るに、おんしにも少し補正が掛けられているようだの」

 

十六夜「……ああ。そうみてえだな。チッ、割とハンデでかいじゃねえかクソが。補正どころかギフト自体を封じられるなんて聞いてねえぞ」

 

白夜叉「ここには逃げ場も無い。だからずっと敵の攻撃を凌ぎ続けなきゃいけないわけだが……。どうやら攻めはともかく守りは不得手なようだの?小僧」

 

十六夜「ああ、全く難儀なもんだぜ。困った困った」

 

白夜叉「……だがおんし、そうは言いながらもまだ全然切羽詰まってないように見えるが?」

 

十六夜「とぼけんな、お前もだろ白夜叉。確かに敵は視界の外から好き勝手攻撃できて有利そうに見えるが、それは逆に敵陣営もこちらに大胆なアプローチが出来ないという事を示唆している。攻めあぐねてるのはお互い様ってことだろ」

 

白夜叉「呵々。そう、そういう事だの。今の攻撃は確かにレティシアとサンドラのもの。そして小僧を妨害したのは恐らくペストとかいう小娘の仕業であろう。まだ混世魔王とかいう輩が尻尾を見せていないのが気になるが、今ので一旦攻撃が止んだところをみると……」

 

十六夜「割と本気で開幕から決着を付けに来たが俺達には通用しなかった。……まあ早い話が」

 

 

 

※※※

 

 

~北西の森林の中~

 

レティシア「こんな程度の攻撃ではビクともしないというのは今のでよく分かった。

……ふむ、しかし改めて凄まじい敵と当たってしまったよ。

まさか主殿と白夜叉のコンビとはなあ。小手先だけじゃまるで歯が立たない」

 

混世魔王「ガハハハッ!!冗談言っちゃいけねえよ姉ちゃん、今ので終わっちまったら興醒めもいいところだ」

 

レティシア「そりゃそうさ。めげてる暇はない。さっそく次の作戦と行こうじゃないか。混世殿」

混世魔王「応よ、いよいよ俺様の出番だな……!」




ちなみに時系列はグリムクリモワールの連中が生存している時点で察しですが、1巻と2巻の狭間程度です


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陽動作戦開始

~草原~

 

十六夜(一番最初の奇襲攻撃の位置から推測してサンドラと黒い風を操る斑ロリの居場所は南方向の森林に違いない)

 

十六夜(まだ遠くには動いていないだろうから、早いとこあいつらが隠れてる茂みに特効してまとめて殴り飛ばすのもアリか……?)

 

十六夜(かなり癪だが……今の攻防を見るに缶の防衛に関しては白夜叉さえいれば俺は必要無い。

白夜叉のあの謎ギフトがあれば遠距離攻撃で缶が倒されることはまず無いはずだ。

だったら今俺にできる事はズバリ『攻め』!)

 

十六夜(よし、そうと決まったら……)

 

十六夜「……白夜叉。缶の護衛を頼めるか。俺は今からサンドラとペストをぶっ飛ばしに行きたいんだが」

 

白夜叉「彼女らをぶっ飛ばすのは構わんが鎖で縛るの忘れないようにの」

 

十六夜「分かってる分かってる」

 

十六夜は腰を屈めて最初に熱線が放出された方向に頭を向ける。

 

 

※※※

 

~北西の森林の中~

 

レティシア(計画通り)ニヤリ

 

レティシア(混世殿の能力を確かめずに安易な行動に走ったのが仇になったな主殿!!)

 

レティシアが草原から十六夜の姿が無くなったのを確認して背後を振り向くと、さっきまでペストと一緒にいたサンドラを連れた混世魔王の姿があった。

 

レティシア「うまくいったようだな混世殿」

 

混世魔王「おいおい俺は神隠しが専門だぜ?甘く見てもらっちゃ困る」

 

サンドラ「今のところ作戦通りですね!」

 

レティシア(そう、ゲーム開始時の配置はまずペストとサンドラ、私と混世殿の二手に分かれて遠距離攻撃で缶の狙撃を試みた)

 

レティシア(私は全包囲から攻撃をすることで自身の居場所をカモフラージュし、サンドラとペストには敢えて主殿に居場所が割れさせるように仕向けたのだ)

 

レティシア(主殿の性格からして居場所さえ分かれば攻撃を仕掛けてくるのは分かっていた。そこで姿を消す恩恵を持つ混世殿にサンドラをここまで拉致ってもらった)

 

レティシア(つまりあそこで主殿を待ち構えているのは神霊ペストのみ!いやはや魔王とはいえど神霊が味方なのは実に心強い)

 

レティシア(そして、ペストに時間を稼いでもらっているうちに3人がかりで白夜叉殿を叩く!)

 

レティシア(完璧だ。これぞ名付けて『陽動作戦』!!)

 

 

 

※※※

 

 

 

~草原~

 

足場を炸裂させ、十六夜が森林へと跳躍する。

 

ペスト(来た!)

 

十六夜「隠れてねえでお兄さんと遊ぼうぜロリ共ッ!!」

 

ドガンと大木をクッションにして跳躍の勢いを殺し、十六夜がペストの目の前に現れた。

 

十六夜「……あれ、お前1人か?」

 

ペスト「ええ、そうよ。私の役目は時間稼ぎ。他の人達には缶を攻めに行って貰ったわ」

 

十六夜「“攻めに行った”?……てことは遠距離攻撃が通用しないと踏んで残りの3人は直々に缶を殴りに行ったってことだよな。だったらてめえは後回しだ。じゃあな」

 

ペスト「行かせないわ、言ったでしょう?私の役目はあなたの足止めなのよ」

 

ペストがぶんっと片手を振るうと、たちまち十六夜は黒い風に呑み込まれ、数多の木々を薙ぎ倒しながら森林の奥へと吹き飛ばされた。

 

十六夜「…………テメェ」

 

学ランに付着した土埃を払いながら十六夜は立ち上がり、ペストを睨む。

 

ペスト「あら、貴方の身体結構丈夫なのね。缶蹴りをやっていなければ私の駒にしてあげたのに」

 

十六夜「面白ぇ、即効で縛り上げてやっからそこに直れクソ斑ロリ────!!」

 

十六夜はポケットから封印の鎖を1本取り出し、白黒斑の少女目掛けて駆け出した。

 

 

 

※※※

 

 

 

~草原~

 

一方レティシア、サンドラ、混世魔王の3人は一気に缶へと特効を仕掛けるべく森林から飛び出していた。

 

レティシア「白夜叉殿覚悟ッ!!」

 

白夜叉「おやおや、雁首揃えて大きく出たなおんしら。神格を持たず、力も補正されている今の私になら3人でかかれば何とかなるという算段か?」

 

白夜叉は特に臆する様子もなく、雅に扇子を開いた。

 

サンドラ「いくら白夜叉様とはいえ、缶を庇いながらでは上手く動けないはず!!──はっ!!」

 

混世魔王「覚悟するんだなァッ!!おりゃあ!!」

 

サンドラは炎の熱線を、混世魔王は絶対零度の吹雪を白夜叉に向けて発射した。

 

白夜叉「やれやれ、この白夜王も随分と舐められたものだの」

 

白夜叉は足元の缶を踏んで倒れないように固定すると、扇子を振って2人の攻撃を容易く霧散させる。

 

白夜叉相手に並大抵の飛び道具ではまるで歯が立たないというのは先ほどの立合いで分かっているはず。

なら何故真っ正面から遠距離攻撃を仕掛けてきたのか。

 

白夜叉「──まあ、概ね死角からの奇襲を成功させるためのブラフじゃろうなぁ。吸血鬼?」クルリ

 

レティシア「ッ!?」

 

首だけ後ろを向いて白夜叉が笑う。

強襲を狙い、背後から槍を構えて接近していたレティシアはゾクリと冷たい汗を流すが、構わず突進した。

 

レティシア「────ハッ!」

 

白夜叉「ぐは。やられた」

 

ドスッと白夜叉の背中に槍が直撃する。

避けるか受け止めると読んでいたレティシアの瞳が驚愕に揺れた。

 

レティシア「なっ!?どうして避けずに……!!」

 

白夜叉「なんちゃって」

 

レティシア「え」

 

白夜叉「こんな生っちょろいの避けるまでも無い。殺す気で来なければ私の相手は務まらんぞレティシア」

 

槍を受けたまま白夜叉が苦笑する。

よく見たら槍の先は白夜叉の着物を貫通しただけに留まっていた。

 

レティシア「……はは、それは手厳しい。結構本気でやったのですがね」

 

これにはレティシアも苦笑で返すしかない。

音速を超える速度で刺突したにも拘わらず、白夜叉は全くの無傷どころか踏んだままの缶を倒してすらいないのだ。

改めて目の前の敵の強大さにレティシアは舌を巻く。

白夜叉はその隙を見逃さなかった。

背中に突き付けられた槍を引っ張ってレティシアを手繰り寄せ、胸元を掴み上げる。

 

レティシア「うっ!?」

 

白夜叉「つかまえたぞ♪」

 

白夜叉は笑いながら懐から1本の鎖を取り出した。

レティシアは慌てて白夜叉の腕を引き離そうとするが、まるで微動だにしない。

 

レティシア(何て馬鹿力……!)

 

 

 

混世魔王「ったく世話が焼けるぜ姉ちゃん」

 

今にもレティシアが鎖に捕らわれそうなのを見かねた混世魔王は背中の“混”の一文字を靡かせ、麻布のローブから巻物とおぼしき紙を取り出す。

結びを解かれた巻物から“虚度光陰”の文字が顕現する。

 

途端、緑豊かなステージは白黒のモノクロームによって色が奪われた。

さらに自分以外の動きも全て制止してしまった。

 

混世魔王「よし時が止まった。さっさとやんねえと……」

 

二次的な補正による影響か、時間を止めてから早くも術を維持するのが辛くなってきた。

恐らく5秒持たないだろう。

混世魔王は急いで爪でレティシアの胸元を裂き、抱き抱えるとすぐにその場から離れて虚度光陰の術を解除した。

 

白夜叉「!?消えた!?」

 

混世魔王「はあ……はあ……クソッ、マジで疲れた……」

 

レティシア「!?……た、助かったぞ混世殿……」

 

混世魔王「礼なんざどうでもいい。これで白夜叉の奴にこっちの種がバレたわけだ……どうするか……」

 

 

 

※※※

 

 

~南の森のなか~

 

十六夜「……何だったんだ今のは……」

 

ペスト「ッ!!?」

 

呆然とあたりを見回す十六夜の側で、ペストは声にならない悲鳴をあげた。

 

無理もないだろう。

気がついたら自分の身体が鎖に捕らわれていたのだ。

 

ペスト「これは……!貴方一体何を……!?」

 

十六夜「こっちが聞きてえよ。いきなり辺りの景色の色が消えたと思ったら時間が止まったみてえにお前の動きが制止したんだ。だからその隙に捕縛した」

 

ペスト「は……?」

 

混世魔王が虚度光陰を展開している間、他人のギフトの効力を受けない十六夜だけは体感時間停止の対象から外されていた。

そういうわけでものの数秒ではあったが、十六夜の辺りの景色からは色が消失し、十六夜以外の動作はその時全て制止していたのだ。

前提としてギフトゲームは能力不足、知識不足を不備としない。

「空を飛べ」「不死を殺せ」と書いてあろうが、飛べぬ方が悪く、殺せぬ方が悪い。

つまり体感時間を止められても動けぬ方が悪いのだ。

それを踏まえて時間が止まっている間に十六夜がペストを捕らえたのは至極全うなものであった。あったのだが。

 

 

 

──自ら快楽主義を謳う十六夜はそんなつまらない幕切れを良しとはしなかった。

 

 

十六夜「……」

 

十六夜はペストの背後に回ると、カチャカチャとペストの鎖をほどき始める。

まさか助けられるとは想像だにしていなかったペストは若干目を見開いて十六夜の顔を見つめた。

 

ペスト「……どういうつもり」

 

十六夜「なに、俺はこんな勝ち方をしたくなかっただけだ。せっかくこうして魔王様に相手してもらってるってのにこんなグダった終わりかたじゃお互い絶対悔いが残るだろうからな」

 

ペスト「……ふん。かっこつけちゃって。二度とこんなチャンスは来ないわよ」

 

十六夜「チャンス?笑わせんなよクソ斑。俺は真っ正面からてめえを縛って悔しそうに唇を噛むお前の顔を見てどや顔したいだけだ。ただ捕まえるだけなら10秒かからねえよ」

 

ペスト「あら、ならやってみるといいわ。ヘッドホンの人」

 

十六夜「上等だ2秒待ってやっから逃げられるもんなら逃げてみろ魔王様────!!」



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白夜叉無双劇

~草原~

 

白夜叉「ふむ、体感時間を停止させる恩恵よのお。呵々!そいつは一本取られたな!」

 

白夜叉は無防備に空を仰いで哄笑を上げるが、対峙する3人はそのまま不用意に手を出すということはしなかった。

この中で最も身体能力に長けるレティシアが不意打ちを仕掛けてもなお歯が立たなかったのだ。

今飛び掛かっても返り討ちにされるのが関の山だろう。

 

 

混世魔王「さてどうするよ姉ちゃん」

 

レティシア「むぅ……」

 

サンドラ「……私はこのまま次の作戦を強行しても大丈夫だと思いますけど……。白夜叉様とはいえど時間を止められれば対策の打ちようが無いと思いますし……」

 

混世魔王「……まあ、奴との距離は10mといったところだ。缶を蹴るだけなら出来なくはねえ」

 

レティシアは目を瞑り、しばしの間思案に耽った。

 

レティシア「…………」

 

レティシア「……分かった。作戦を強行する」

 

混世魔王「了解」

 

混世魔王は再び巻物を広げ、“虚度光陰”の術を唱えた。

再び世界から色が消え、森林にいる十六夜と混世魔王を除く全てが動作を停止する。

 

 

 

混世魔王(さて、制限時間は5秒程度……!なに、このまま走って奴の足元の缶を蹴り飛ばすだけなら2秒もいらん。さっさと済ませるぜ)

 

混世魔王が白夜叉の足元にある缶を蹴るべく足を踏み出した瞬間。

 

 

 

 

────突如、星の殺意が混世魔王の五体を貫いた。

 

 

 

 

混世魔王「ッッッッッッッッ!!!?」

 

 

体感時間を止められたようにぴしりと混世魔王が硬直する。

 

混世魔王(な、何だ……この突き刺さるような殺気は……)

 

──殺される。

 

真っ先に浮かんだ感想がそれだった。

ここは俺様だけの世界。

何者にも干渉されるはずがないのに。

 

理屈では分かっていても、その圧倒的な脅威を前に混世魔王の身体は他人事のように動かなくなった。

思考の全てが恐怖一色に染め上がる。

理性よりも先に本能が混世魔王の身体を突き動かそうともがき始める。

逃げなければ、今すぐ逃げなければ殺されると、五感の全てが狂濤の如く警鐘を鳴らし始める。

 

しかしそんな意志に反し、竦み上がった足は無機物のように硬直している。全身の細胞が余すことなく震え上がっている。

呼吸ができない。動悸が止まらない。

苦しさのあまり目尻に涙が浮かび、視界がぼやける。

華奢な見た目とはあまりにも釣り合わない強大な存在感を前に、吹けば散るか弱き小動物はただただ怯え縮こまるしかない。

 

混世魔王(あ、ありえねェ……!ありえねェありえねェありえねェありえねェありえねェッ!!!)

 

滴るほどの冷や汗を垂れ流す混世魔王の顔に、もはや魔王としての威厳は一寸たりとも残されてはいない。

軽薄に笑っていた顔は恐怖に歪み、血液すら凍えかねない寒気に全身の毛が逆立ってしまった。

 

 

 

 

気がつけば世界に色が戻り始める。

虚度光陰の世界は綻び崩れ、止まっていた時間が動き始める。

無理もない。こんな精神状態で術を展開し続けられるはずがない。

 

すると突然白夜叉の放つ殺気が霧散し、混世魔王が我に返る。

頭を振り、目の焦点が合った頃に混世魔王が次に目にした物は

 

 

 

 

────第三宇宙速度で接近する白夜叉の膝だった。

 

 

 

混世魔王「……は」

 

完全に不覚を取られ、絶句する混世魔王の顔に白夜叉の膝がしたたかにめり込む。

これだけの速度で跳躍したにもかかわらず、足場にした缶は僅かに傾いただけだ。

常識を超越した神業である。

 

きりもみしながら地面と平行に吹き飛び、数多の木々を巻き込みながら混世魔王は土に埋もれて沈黙する。

白目を剥いて失神する混世魔王の首には『沈黙の鎖』が巻き付けられていた。

 

そんな混世魔王を見届け、白夜叉は軽やかに地面に着地してニヤリと笑う。

 

白夜叉(ふ、少し本気を出しすぎたかの?)

 

白夜叉(にしても浅はかな奴らよ。おんしらのコソコソ話が私の耳に届かないとでも思っていたのか。おかげで混世の小僧が再び時間停止の恩恵を使用してくる事はおろか行使するタイミングまで把握できた。本来なら格下の猿芸など効かないだろうが今は力の二次補正でどうやら体感時間停止は防げないらしい)

 

白夜叉(とすると私にできることは奴が巻物を開くタイミングに合わせて殺気に満ちた領域を展開する罠を仕掛けるくらいだ。あの程度の小僧なら殺意を向けるだけでもイチコロだろうからの)

 

静止した世界でもなお他を圧倒する白夜王の尋常外の殺意。

白夜叉だからこそ出来た理不尽なパワープレイである。

 

白夜叉(さて、缶を踏んで奴の名前を)

 

白夜叉がレティシアとサンドラを視界の端に留めてから缶に振り返った瞬間、

 

 

 

レティシアが犬歯を剥いて笑みを浮かべた。

 

 

 

 

レティシア(──この時を待っていたッ!!)

 

 

 

 

 

突然地中から影の刃が飛び出し、瞬く間に缶を空へと弾き飛ばしたのだ。

 

白夜叉「何じゃとッ!?」

 

ここに来て初めて白夜叉が明確な驚きの声をあげる。

 

一体誰が予想できただろうか。

唯一白夜叉に対抗できると思われていた混世魔王の体感時間停止能力が

────ただの陽動に過ぎなかったというのだから。

 

 

 

 

レティシア(白夜叉殿……。貴女程のお方ならば必ず混世殿の虚度光陰は何らかの方法で攻略してくるだろうとは思っていたよ)

 

レティシア(そして貴女は私達の切り札が虚度光陰だろうと高を括っていたに違いない。唇を読まれる可能性も考えず、しかもさほど遠くもない距離で私達が作戦会議を始めたことにはさぞかし呆れたはずだ。『浅はかだ』と)

 

レティシア(私達はそこに漬け込ませてもらった。あえて私達は貴女に浅はかだと思わせるように振る舞っていたという事に気付かずまんまと私達を見下し、缶の側から離れるという貴女の達観、驕りをッ!!)

 

 

 

 

 

白夜叉(……ハッ、この私がこうも策に踊らされるとは……)

 

白夜叉(地中からの影の刃は私に拘束されている時に仕掛けたと見える。仮にそこまで計算されていたとのだとしたら大したものじゃ。おんしの評価を改めねばいけないようだのレティシア)

 

白夜叉「じゃが缶が地につくまで勝負は終わらない。私があの缶を再び捕らえれば済む話よ。…… ってあれ、小僧?」

 

飛んで行く缶を止めようと白夜叉が扇子を仕舞って跳躍しようと空を見上げた時、既に空には十六夜の姿があった。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

~南の森林~

 

遂に捕まったペストは十六夜の腕に抱かれ、『封印の鎖』で拘束されている最中だった。

 

十六夜「手こずらせやがってこの白黒斑」

 

ペスト「くっ……」

 

鎖を巻き終えると、ペストをぽいっと地面に放る。

 

十六夜「さて、白夜叉の方はどうか……え、オイ。缶飛ばされてんじゃねえかあの駄神野郎」

 

まさに草原に戻ろうと十六夜が草原を振り返った時、視界の上方にあったのは縦回転しながら空を駆る缶であった。

 

十六夜「チッ、落とさなきゃセーフだったな」

 

十六夜は壮大な舌打ちを打ち、缶に向かって跳躍する。

 

 

 

 

 

ペストはそんな十六夜の背中を見届けると、懐から1枚の黒い契約書類を取り出した。




独自解釈も甚だしいすね。
でも白夜叉が活躍する話とかはもっと見てみたい。


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