輪廻の輪を外れたからもう一度生きる (佐波 大和)
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1話

目を覚ますととても不思議な空間にいた。

 

何色でもあり何色でもない。

 

見えているのに何も見えない。

 

動いているのに動いていない。

 

何かの流れから外れてしまったような感覚だ。

 

……ここはどこ、いや、何だ(・・ )

……いまいち状況が理解できない。何なんだこの状況? 夢、にしては自分の意識がはっきりしている。

まず自分の状態もおかしい。……体が無いんだ。

頭がおかしくなったかと思うかもしれないが俺も何が何だか全く分からない。

 

そんなふうに俺が現状を把握しようと考えている時だった。

 

「やあ、元気かい?」

 

ッ!?人の声だと!?こんな空間に他に誰かいるのか!?

 

「やだな、人と一緒にしてほしくないよ」

 

俺は声のする方に目を向ける。まあ目なんて今は無いから意識を向けると言った方が正しいのかもしれない。

 

………………は?何だ(・・ )これ?

 

そこには人の形をした煙のような何かがあった。

 

「この私が何かなんてそんなことはどうでもいい。とりあえず用件だけ伝えようか……」

 

待て、ここは何なんだよ、俺はどうしt……俺は話してないよな……なのに今話が通じたよな?

 

「話してない、じゃなくて話せないの間違いでしょ。君は今体が無いんだからね。……まあ分かっているようだけど」

 

そんな事言ってんじゃねえ!俺が言ってるのは……まただ……

 

「分かってるって、何故考えていることが分かったかって?それはさっきも言ったけど君の体がない。いわば魂だけの状態だから魂を読み取っただけさ」

 

読み取る……そんなことできるのか?ていうかまず魂なんてあったのか?

 

「できるよ。肉体が無いならね。あと魂はあるよ」

 

…………いろいろと言いたい事はあるがそれは良い……今の状況を説明してくれ。

 

「君は話が早くていいね。それじゃあ君が今どんな状態なのか簡単に説明をするとだね、輪廻の輪を外れているんだよ」

 

輪廻の輪?あの仏教とかで考えられているやつか?

 

「うん、その認識で間違いないよ。」

 

それで、どういうことだ?

 

「魂のある生物は死後魂を一度真っ白にして記憶をなくし転生するんだけど、100年に一回くらい外れちゃうことがあるんだ」

 

…………待て、俺は死んだのか?

 

「うん、そうだよ。君は死んでしまったんだ。だけどよかったね……」

 

ふっ、……ふざけんじゃねえ!! そんな事信じられるか!!

嘘に決まっている……っ!

 

「嘘じゃないさ」

 

てめえ!! そんな訳あるかよ!

 

「君も心の何処かでは理解しているんだろ?だって君は今魂だけの状態だ。君は今余計な思考をしないでしょ?いつもの君ならもっと取り乱しているはずだよ。故に自分がどういう状態か理解しているはずだよ。君は死んだことを受け入れられないだけだよ」

 

…………ッ……本当……なのか……?

 

「本当だとも。君は死んだ」

 

ッ!……今肉体があったら歯を食いしばり拳を思いっきり握っていたと思う。

いきなり死んだと言われてもそんな訳ないと思う。だってこうやって意識があるのだし……でも、でもわかってしまう。……自分が死んだって。

水に浸かっているのが分かるように、物に触っているのが分かるように自分がどういう状態かってわかってしまう。

俺はそれを必死に否定していたけどこの存在の一言で否定することをやめた。

 

「まあ安心しなよ、君には輪廻の輪に戻ってもらわないといけないからもう一回生きてそこで死んで輪廻の輪に戻ってもらうよ……つまりもう一回人生を送ってもらうから」

 

ッ!俺が生き返るって事か?

 

「いや、君が生きていた世界での君の運命と言った物は終わってしまっている。だから別の世界にいってもらうよ」

 

ッ!クッ!……クソが!!

別の世界があるとかどうとかは気になるが関係ない。今重要なのは俺が生き返るわけではない。つまりもう俺の家族には会えないってことだ

 

「別に良いじゃないかそんな事、君が今まで生きてきた世界ではないけど人生やり直せるんだよ」

 

確かにお前から見たらそうなんだろうな、でもな、俺にとって家族っつう物は大切な物なんだよ……

 

俺は中学生の頃かなり荒れていた。……DQNって奴だ。まあいろいろあったんだよ。

それでそんな俺にかまってくれる奴は居なくなるわけで、俺は1人になった。だけどそんな俺に唯一かまってくれる人が居た。それが俺の家族だった。

そんな感じで俺はそれの大切さに気付いた時家族に恩返しをしようと頑張った。

それで良い高校行こうと必死に勉強して無事受かり、そして恩返しがこれからだって時にこれだ。

現実逃避の一つもしたくなるもんだ……俺が死んだことはどうでもいい。家族に恩返しができないことが悔しいのだ。

 

「へえ、それはそれは。……でも生き返るのは無理でーす!」プークスクス

 

………………最低だなコイツ……何なんだ?悪魔とかなのか?

 

「悪魔とかって失礼だな君、そんなのと一緒にするなよな。まあ教えないけど」

 

顔とかが無いのにニヤニヤしているのが分かる。正直うざい

 

…………もういい、一応心の整理がついた。で、どうするんだ?

 

正確には心の整理がつかされたと言った方が良いのかもしれない。

さっきこの存在が言ったように魂だけの状態だからか妙に冷静、余計な思考はしないらしい。

だから徐々に悲しみが自分の中で自己完結して薄れていくのだ。

 

「もういいのかい?それじゃあ今から君を他の世界に送るとしようかな」

 

………一応聞いておくが他の世界ってどういう物だ?たくさんあるのか?

 

「あれだよあれ、君も知っているだろ?パラレルワールド、IFの世界って奴だよ。たくさんなんてものじゃないよ。世界ってのは無限にあるからね」

 

……そうかい。それで?送るってどういうことだ?

 

「君の魂をその世界にある肉体に送るっていう事」

 

それってまさか他人の肉体を乗っ取るって事じゃないだろうな?

 

俺は一応更正?してから他人にあまり迷惑をかけることはしない主義になったんだんだ。

……まあ迷惑っていう次元じゃ無いけどな……

 

「……いや、君の体は新しく作るから人の人生を奪うとかはないから安心してよ」

 

そうか、ならいい。……それにしても新しい体か……どんなんだ?

 

「それは向こうでのお楽しみだ。あっ、そうそう、名前は魂の形を表すものだから今までのは使っちゃだめだから気をつけてね」

 

は?……わかったよ。

今までの名前を使っちゃダメか……つい言っちゃいそうだな……

 

「それじゃあ今度こそいくよ」

 

ああ、頼む。

 

俺は今までの世界に別れを告げて、今から行く別の世界に期待した。

 

「うん、何かあったらこちらから伝えるよ」

 

そしたら視界が暗転して何かに引っ張られるような感覚がした後、意識がなくなった



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2話

海の波に流されている感じで暗闇の中を流されていく。

しばらく流されていると光が見えてきた。その光は徐々に徐々に近付いてくる。

 

……新しい世界、か。……母さん、父さん、海波(かいは)……俺は今から新しい世界に旅立つよ。……親不孝者でごめんな……海波、兄としてまともな事をお前にしてやれなかったな……許してくれ……じゃあな……

……よし!! さあ、新しい世界はどんな世界なんだ?

 

もう光は目前だ。元の世界に未練たらたらだったけど割り切ってしまえば意外とワクワクしてくる。

 

……嫌だったのにこう割り切ってしまえるのは俺が冷たいからか?

いや、自分で言うのはあれだが俺は家族のことを諦められるほど冷たかったわけじゃあないと思う。

……これはあの存在がなんかしたのか?……違うな、魂だけの状態になったから、か。

うん、たぶんそうだと思う。……これは困る。やめてほしいわ。

……まあ言っても無駄か、……もうなるようになれだわ。

 

お?もう光の中に入った。

そんな事を思ったと同時に何かに引っ張られる。

 

お、お、おおおおおおおおおおお!?

 

今の状況を例えるなら渦の中に入って吸い込まれていくみたいな感じだ。

 

そして一気に俺の魂が何かに入った。

 

 

 

 

「おぎゃあ、……おぎゃ?」

 

体がある、……は?

 

……………おぎゃあ?

 

「おぎゃああああああああ!?」

なんだこりゃああああああ!?

 

意味が解らない。え?何?もう一度生きるって赤ん坊から?

 

「おぎゃあ……」

 

まじかよ……

 

「先生!、この子泣き方が変です!?大丈夫なんでしょうか!?」

 

「ああ、落ち着いて下さい。この子はあれですよ、きっと泣こうとしたけど疲れてしまったんですよ。……一応頑張っているみたいですよ」

 

「そうなんですか?産まれてから頑張る……グスッ海人さん、きっといい子に育つわ」

 

「ああそうだな鈴、君に似ていい子になってくれるといいな。グスッ」

 

………………え?何言ってんだこの人達?

ふざけているようにしか思えないんだけどこの会話。

 

「ほらこっち見てますよ、きっと親だと認識しているんでしょう」

 

「ほんとう!?ほらママでちゅよー」

 

「マジでか!?パパだよー」

 

「おぎゃあおぎゃあ!?」

 

アンタ達こそマジでか!?

……いや、違うな、この世界の俺の両親だと思う人たちはガチだ。本当の天然だ。

でも医者、アンタ確信犯だろ? クールな顔してたって肩が震えてるぞおい。

 

「……すいませんがもうそろそろ赤ちゃんの方は新生児室に行くので……」

 

「あ、はい。分かりました」

 

そうして俺は母と思われる人の腕からこの医者にわたった。

 

「いろいろありがとうございました桔梗先生」

 

「いえいえ、仕事ですから」

 

アンタさっきふざけてただろうが……

 

「でわでわ、安静にしていてください」

 

……本当に赤ん坊からか……はあ、マジでか……

 

俺を抱いた医者は部屋から出て、歩く。さっき言ってた新生児室に行くのだろう。

 

「…………ふう、面白いなあの夫婦……フッ、ククククク」

 

「おぎゃあ、おぎゃあおぎゃあ」

 

おい、笑ってんの聞こえてるぞ。

 

「……何かこの赤ん坊変だな?まだ俺の経験が足りないから知らないだけかもしれ無いけど……」

 

確かにあんな泣き方されたらおかしいと思うわな、でもどうしろと?

俺赤ん坊みたいに永遠と違和感もたれずにやっていられる自信ねえぞ。

 

「………………ボソッ」

 

んん?今なんて言った?ナンチャラ使いってだけは聞き取れたんだが……いや聞き取れてないけど……

 

「なわけないか……ま、どうでもいいか」

 

「おぎゃあ!?」

 

適当!? あんた医者だろ!?

 

……なるほどね、魂だけの状態のせいの感情薄化について大体わかってきた。

これはある一定以上のものすごく激しい感情は抱けない、もしくは抱きにくいがそれ以下は抱ける、と。

でもその感情が高いとどんどん小さくなっていくらしい。

まあこれだけわかれば十分か、全く感情が高まらなかったらどうしようかと思ってたが一応大丈夫だな。

 

「じゃ、ゆっくりしておくんだよ」

 

そんなことを考えているといつの間にか俺は部屋のベットみたいなところに寝かされていた。

それにつれてどんどん睡魔が襲ってくる。

赤ん坊の肉体はそれを拒むことができず、俺の意識は闇に落ちた。

 

次の日、目が覚めたら

 

「おぎゃあおぎゃあああ!!」

 

ぐおおおおおおおおおお!!

ヤバい、赤ん坊の肉体マジでヤバい。

何がヤバいのかっつうとお腹の空き具合がヤバい。

すぐにお腹が空いて激しい空腹感に蝕まれる。

ごめん、他の赤ん坊たちよ。すぐに泣いてうるさいとか思っていてすまんかった。これはきつい。

 

「おや?お腹が空いているのかな?ちょうどいい、君の母親の所に行こうか」

 

「おぎゃあおぎゃあ」

 

ナイスだ、医者さん

 

そしてそのまま俺を担いだ医者は昨日来た道を戻り、俺の母親であろう人の所に行く。

 

「こんにちは志熊さん、体調はどうですか?」

 

「はい、先生のおかげでぴんぴんしています」

 

「それは良かったですね、赤ん坊がお腹を空かしているみたいなので」

 

「おぎゃあおぎゃあああああ!!」

 

「分かりました。ほーら連ちゃん」

 

今はホント母乳でも何でもいいので下さい。

……でもできれば母乳は遠慮したいなあ、なんて……無理ですよね

 

「おっぱいですよー」

 

「おぎゃあおぎゃあ!」

 

健全な思春期の俺には刺激が強いんだよ!

ッ!?おい!やめろ!いややめて!やめてください!!

 

「一杯飲んで元気に育ってねー」

 

「おぎゃああああああああ!!」

 

うわあああああああああ!!

 

…………これからしばらくはこんなことが続くのか……?

…………悪夢だ、なんで赤ん坊からなんだ……

 

____________________________________

 

「本当にありがとうございました」

 

「お世話になりました先生」

 

「いえいえ、仕事ですから。錬君の事をちゃんと育ててあげてくださいね」

 

大体俺が産まれてから一週間ちょい経って俺たちは退院することとなった。

ああ、それと俺のこの世界での名前は志熊錬(しぐまれん )と言うらしい。

……なるほど、しっくり来るな……名前なんて単に親が付けただけのものかと思っていたがそうでもないらしい。

名は魂をを表すもの、か。うまいこと言ったもんだ。

 

「それでは、ありがとうございました」

 

おっと、いつの間にか話が終わったらしい。

病院を背に歩き出した俺の……両親は近くに止めてあった車に乗り込んだ。

新しい両親、ね……そんないきなり言われてもそんなふうに思うことはできないけどこの人たちからすれば俺は自分達の子どもだ。

俺の勝手な考えでその気持ちを壊すことはできない。

……少しずつだけど大切に思えるように努力しよう。前ではまともな家族との触れ合いができなかったんだ。……前の世界の家族には悪いけど俺は家族の触れ合いってものを感じていたいんだ。

俺はきっと最低……まではいかないかもしれないけどダメ人間だ。

自分の勝手な考えで迷惑をかけたあげくまともな恩返しもできないのに勝手に死んで新しい世界に行き新しい家族との触れ合いを求めているなんてな……

合わせる顔がねえや……俺はこうしてもう会えなくなってしまったけど、父さん、母さん、海波、幸せになってくれ。

許されないかもしれないけど俺は新たな人生を楽しみたいと思う。

……これで決別だ、自分でも冷たいと思うがしょうがない……魂だけの状態になったからとか言い訳は言わない。

新しい人生に過去は不要なんだ……俺は今からを見て行こうと思う。

じゃあ、バイバイみんな。幸せを願ってるよ。

 

「錬ちゃーん?お腹空いてななあい?」

 

ふっ、………………

お腹空いてないこともないけど嫌です。

あ、っちょ、体が勝手に……

 

「おぎゃああああああ!!」

 

やめて!お腹空いてないから!空いてないから!

 

「ほーらママのおっぱいでちゅよー」

 

「おぎゃあああああああ!!」

 

やめろおおおおおおおお!!

俺にッ!、俺のそばに近寄るなーーー!!!

 

ちゅうううううう

 

…………ああ、おいしい……



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