ハイスクールD×D ~ 堕ちた疾風迅雷と深淵を司る龍 ~ (Mr.凸凹)
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キャラ設定

 

 

 

 

 

名前:姫島 綾人(あやと)

 

神様がうっかりと魂の蝋燭の灯りを消してしまったばかりに神様転生する事になった元アラフォーの素人童貞のオタクな汚っさん

魂を祝福されており、天寿を全うした後は神様の部下になる予定

転生先は一応ランダムで朱乃の弟になった

 

性別:♂

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)戦車(ルーク)変異の駒(ミューテーション・ピース)

 

容姿:魔法先生ネギま!のネギ・スプリングフィールドを黒髪と褐色肌にしたもの

 

性格:お臍フェチと太股フェチの眼鏡インテリ系で二枚目半

  

転生特典:限界無しの鍛えれば鍛えるほど強く成長していく心技体

 

     ネギま!のネギ・スプリングフィールドの魔力と魔法と技、それらを十全に操れる知識

     始動キー『ハイティ・マイティ・ウェンディ』

 

     オリジナル神滅具(ロンギヌス) 淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)

 

     能力 神器(セイクリッド・ギア)で防御した力を吸収無効化する【absorb】

        吸収した力を自分の物にし、常時最大レベルを維持出来る

        吸収限界は所有者の力量次第

        吸収限界を超えた力は漏れ出してダメージを負う

 

 

        矛盾の檻(パラドックス・ケージ)

 

        対象をエネルギーシールドで包み込んで守ったり拘束したり出来る

        包み込まれた対象はその場から移動出来ない

        エネルギーシールドは攻撃を吸収無効化して更に強固になる

        吸収限界値を超えればエネルギーシールドは破壊されてしまう

 

 

        神器(セイクリッド・ギア)で吸収した対象の能力を???してストックする

        そのストックした能力を一時的に???【???】

        ストックは一度使用すると消えて、再び使用するには新たに補充する必要がある

        ストックは重複して行える

 

 

     禁手(バランスブレイカー) 淵龍王の喰種鎧(アブゾーブ・グール・メイル)

 

     通常能力 防御だけでなく攻撃でも対象の力を吸収して奪う

          触れていた時間や手数に応じて吸収率が変化する

 

     亜種化能力 弱らせた対象から奪った血肉を因子に変化させて吸収する【drain】

           吸収した因子で対象の能力を複製して身に付ける

           吸収した因子で己の力の限界値を引き上げる

           所有者の力量に寄って吸収限界値が上がる

 

 

 

 

 

     淵龍王(アビス・ドラゴン) ナラカ

 

     深淵の闇から生まれ落ちたドラゴン

     基本的に争いは好まないが己の知己を守るために力を振るう事は躊躇わなかった

     三大勢力を巻き込んだ二天龍の争いで知己であったバラキエル達を守るために戦った

     二天龍に引けを取らず守るためなら十二分に力を発揮した

     最後は二天龍と相討ちとなり、二天龍と共に神器(セイクリットギア)に封じられた

     今代でバラキエルの息子に宿った事は天命と受け止めて嬉しく思っている

     実は綾人を転生させた神様の分霊(端末)

     その原初の記憶を取り戻して、より一層綾人と調和する事が出来る様になった

 

 

 

 

 

 

名前:稲田 明日菜

 

綾人を転生させてくれた神様の分霊(端末)にて、日本神話勢力所属の黄昏の姫御子

 

性別:♀

 

容姿:魔法先生ネギま!の神楽坂 明日菜

 

 

 

 

名前:ヴァーリ・ルシファー

 

戦闘狂(バトルマニア)両刀使い(バイセクシュアル)の俺っ娘

 

性別:♀

 

容姿:銀髪(シルバー・ブロンズ)のFate/Apocryphaのモードレッド(赤のセイバー)

 

性格:普段は男勝りだが、ふとした瞬間に乙女心を漏らす

   強い者も好きだが、可愛い者はもっと大好き

 

 

 

 

 

名前:兵藤 一誠

 

原作通りにおっぱいスキーな残念美少女

 

性別:♀

 

容姿:絶対可憐チルドレンの赤石 薫を少しくせっ毛にした天然パーマ

 

性格:生まれるまで男の子だと思われていた

   そのために男の名前しか考えておらず、そのまま命名された

   その影響からか、幼い頃から男勝りで育ってきた

   幼い頃はよく男の子と間違われていた

   基本的に女の子のおっぱいが大好きな残念美少女である

   若干腐女子の傾向がある

   綾人に一目惚れして自他共に認めるほど積極的にアタックしている

   だがその方法は専らセクハラ紛いの行動である

 

 

 

 

 

名前:木場 祐美(ゆみ)

 

木場 祐斗が神様の策略(?)でTS化した僕っ娘

 

性別:♀

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)騎士(ナイト)

 

容姿:ポニーテールの中性的な顔立ち

 

 

 

 

 

名前:ギャスパー・ヴラディ

 

神様の策略(?)でTS化した僕っ娘

 

性別:♀

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)僧侶(ビショップ)変異の駒(ミューテーション・ピース)

 

 

容姿:原作のギャスパーが眼鏡を掛けたもの

 

 

 

 

 

名前:アーシア・アルジェント

 

魔女として烙印を押されて破門される前に出会っていたとある人物達の影響で活発的になっている

取敢えずお話を聞くためにはそれ相応の実力を伴っていないと聞き入れてもらえないと教えを受けている

そのためには殺生をせずに相手を無力化して、多少の傷は癒せば問題ないと教授されている

 

曰く、その手は神に祈りを捧げて癒しを与えるためのモノである

曰く、その足は力無き者達を守るために振るう説法のためモノである

 

性別:♀

 

容姿:金髪をシニヨンで纏めた活動的なミニスカシスター服

 

 

 

 

 

 

名前:フリージア・D・セルゼン(フリード) 

 

姉同然の女性がある時を境に行方不明となっても特に疑問を抱かずに教会の闇の仕事に従事していた

ある時はぐれ悪魔討伐に向かった際に姉同然だった再会を果たすも変わり果てた姿に衝撃を受けてしまう

辛くもはぐれ悪魔討伐に成功するも一度芽生えてしまった疑問が日に日に大きくなり出奔してしまう

 

性別:♀

 

容姿:白髪をポニーテールに纏めて神父服を身に纏った男装の麗人

 

 

 

 



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プロローグ

 

 

 

 

 

「ここはどこだ? 確か俺は……」

 

 気が付くと俺は一面眼を覆いたくなる様な光に満ち溢れた真っ白な空間に佇んでいた。

 

「ごっ、ごめんなさいぃ~!!」

「うぉ!!? 何事だっ!!?」

 

 背後から聞こえてきた声に慌てて振り返った。

 そこには神々しい気配(オーラ)を纏った少女が土下座していた。

 

 俺は未だにここに居る理由が理解出来なくて、更にいきなり土下座で謝れても困惑してしまう。

 

「えっと……取り敢えず顔を上げてくれるかな?」

「はっ、は~い……重ね重ねごめんなさい」

 

 深々と床に頭を擦り付けていた少女が顔を上げると俺は思わず息を飲んだ。

 少女はあどけなさが滲み出ているものの絶世の美少女と呼ぶに相応しい美貌の持ち主だった。

 

「あはっ♪ 絶世の美少女なんて……照れますよ」

 

 少女は両手で真っ赤に染まった頬を抑えながら顔を振り乱している。

 

 あれ? 俺、声に出していたかな?

 ……えっ!!? もしかして!!?

 この真っ白い空間に見惚れる程の美少女。

 それに多分、俺の思考を読んだって事は彼女はまさかっ!!?

 

「はい、正解です。一応これでも私は神様の端くれをしてます」

 

 神様は小さい胸を張りながらどこか自慢気に微笑んでいる。

 

 うん、可愛らしい。

 実に俺好みの美少女だ。

 思わずお持ち帰りして愛でたい。

 

 俺は思い浮かんだ現実を否定するかの様に眼の前の神様を見て和んでいる。

 

「あの~現実を受け止めるのは辛いと思いますけれども……貴方は死にました」

 

 神様は俺の現実逃避を断ち切る様に淡々と語ってきた。

 

 やっぱりか。

 段々と思い出してきた。

 確か本屋の帰り道で快晴だった空が一変して突然の悪天候に見舞われて、それで……

 

「はい、貴方は暴風雨に巻き込まれて雷に打たれて死んでしまいました。私がうっかりと貴方の魂の蝋燭の灯りを消してしまったばかりに……本当にごめんなさい」

 

 神様は泣きそうな表情を隠す様に俯いてしまった。

 

「泣かないで、俺も悲しくなる……って、待たんかいっ!!」

 

 神様の表情に思わず同情してしまったが、今確かに聞き捨てならない事を言ったよね!!?

 

「はぅ!!? ごっ、ごめんなさいぃ~!!」

 

 神様は涙目で震えている。

 

 うん、可愛らしい。

 思わず嗜虐心がそそられるな。

 だが、ムカつくものはムカつく。

 

「それじゃあ、何か!!? 俺はアンタのぽかミスで死んだってことかっ!!?」

「はぅ~!!? ごっ、ごめんなさいぃ~!! お詫びに貴方の好きな世界に転生させるから許してぇ~!!」

 

 ふむ。テンプレ乙。

 少しはムカツキが治まる話だな。

 まあ、今更騒いだところで仕方ないし、日々変わらない人生に少し飽き飽きしていたところだったから渡りに船か。

 それに彼女いない歴=年齢の上にぼっちな素人童貞だったからな。

 畜生!! 眼から汗が零れ落ちるぜ!!

 

「あの~元気出してね。無茶なものは無理だけど、大抵の転生特典なら叶えられるからね」

 

 俺が眼から汗を拭っていると、神様はハンカチを差し出しながら話しかけてきた。

 ハンカチからはこの世のものとは思えないぐらい良い香りが漂っていた。

 この香りは神様からも微かに匂っている。

 俺はハンカチを受け取ると顔を覆う様にしながら眼からの汗を拭った。

 序でに深く深呼吸をした。

 いや、別に他意はないよ。

 ほっ、本当だよ!

 

「良し! 転生先はハイスクールD×Dの世界で、転生特典は俺が考えた神滅具(ロンギヌス)と、魔法先生ネギま!のネギの魔力と魔法や技にそれらを十全に扱える知識、それと限界無しの鍛えれば鍛えるほど強く成長していく心技体をくれ!」

 

 丁度ハイスクールD×Dの最新刊を買って帰っていたところだったしな。

 ハイスクールD×Dも所謂ところのハーレムモノで、魔法先生ネギま!もぶっちゃけハーレムモノっぽくて好きだからな。

 ネギの魔法や技はハイスクールD×Dの世界でも重宝しそうだしな。

 神滅具(ロンギヌス)は以前から考えていたものがあるからな。

 いい年した汚っさんな俺だが、所謂ところのオタクだからそんな事を考えるのが好きだったからね。

 まあ、ある意味チートだが問題ないのかな?

 

「はい! それくらいならお安い御用です!」

 

 神様はモバイル端末を操作しながら人懐っこそうな表情を浮かべている。

 

「ところで前世の記憶は引き継ぎますか?」

 

 思い出した様に首を傾げて顎に指を当てながら尋ねてくる神様。

 

 うん。愛らしい。

 思わず抱きしめたくなるが、我慢だ。

 粗相をしたら臍でも曲げられて、折角の転生話がお流れになっても困るからな。

 

「そうだな……人格と精神年齢を引き継げれば、問題ないだろうけどね。でも、原作知識があった方が無難かな。よし! 記憶は引き継ぐよ」

 

 俺と言うイレギュラーが交じる事で多少は変化しそうだが、大まかな流れは変わらないだろうから原作知識はあれば大体は対処出来るか。

 どうせなら新しい浮世を楽しみたいもんな。

 変える事の出来る運命(描写)は変えていってハッピーエンドを目指したいよな。

 それにミッテルトたんの事が三本の指に入るくらい大好きだからな。

 どうせなら使い魔にでもして救いたい。

 後は小猫たんとレイヴェルたんにもお近づきになりたいよな。

 べっ、別にロリコンじゃないぞ!!

 ただ単に好きになったのが幼気なキャラばっかりだっただけだからな!!

 いや、嘘吐きました。

 ちっぱいと白板(パ○パン)は好きです。

 ぽっこりとしたお腹に栄えるお臍と、ほっそりとした太股は大好物です!!

 

「分かりました! では、その様に取り計らいますね。他に希望はありますか?」

「そうだな。出来れば原作に深く関わっていきたいから、リアスの眷属に成れる様にしてくれ。ロスヴァイセには悪いが戦車(ルーク)の駒を貰えるかな?」

 

 俺が尋ねると神様は少し眉を顰めた。

 

「う~ん……先程伺った転生特典の内容では、普通の戦車(ルーク)の駒では悪魔に転生するには足りなさそうですね。それならサービスで変異の駒(ミューテーション・ピース)を用意したら問題なしですかね」

 

 怖いくらい至れり尽くせりだな。

 後でペナルティとかないよな?

 

 俺は思わず浮かんだ思考に固まってしまった。

 

「ああ、大丈夫ですよ。但し、天寿を全うしたら私の部下になってもらうと嬉しいですね」

 

 にっこりと微笑みながら俺の魂の予約をする神様。

 

「えっと……一応話の展開的に俺は悪魔になってる訳だけど、それでも良いならその話お受けするよ」

「ありがとうございます。今、天界(ここ)もグローバル化が進んでいて神魔混合が進んでますからね。悪魔でも強い者は重宝されてます」

 

 ふむ。天界も柔軟になってるんだな。

 まあ、天界もそうしないと維持出来ないって事なのかな。

 

「さすがにこれで転生特典は打ち止めですね……すいませんが転生先はランダムで決まります。ご了承下さい」

 

 ぺこりと頭を下げる神様。

 

「ここまで願いを叶えてくれれば十分だよ。それじゃあ、名残惜しいけど……」

「はい、お別れですね……あっ!!? 忘れるところでした!」

 

 神様は何やら悪戯っぽい笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。

 

「すみません、少し屈んでくれますか」

 

 俺を見上げる様に少し潤んだ眼で、上目遣いで頼んでくる神様。

 

「ああ……これでいいかな?」

 

 俺は深く考えないで神様の顔を覗き込む様に屈んだ。

 

「ありがとうございます。では、貴方の魂に幸があらん事を……チュ♡」

 

 唇に柔らかい感触が触れている。

 

 えっ!!? キスされてるのっ!!?

 何でっ!!? どうしてっ!!?

 

 俺の混乱を他所に神様の舌が蹂躙する様に俺の口内へと侵入してくる。

 

「はむ……クチュクチュ……ごくん……ぷはぁ~御馳走様でした。これで貴方の魂は予約されました。逃がしませんからね♪」

 

 あどけなさと妖艶さが混じった表情で俺を見つめてくる神様。

 

「では、転生を開始します。新たな浮世を楽しんできて下さいね」

 

 未だに呆然としている俺ににこやかに手を振っている神様。

 俺は熱に魘された様に固まって唇に指を当てながらその姿を見詰めている。

 

 眩しい光が辺り一面を覆い尽くしていく。

 眼が開けられないくらいの光量になると俺の意識は薄れていった。

 俺は足元から落ちていく感覚に身を委ねながら眠る様に意識を閉ざした。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 俺は無意識に大きく息を吸った。

 肺に新鮮な空気が満たされる。

 

「おぎゃーおぎゃー!」

 

 やっぱり赤ん坊だからまだ言葉は発せられないか。

 

「おおっ!!? 生まれたのか、朱璃!?」

 

 父親らしい人物が扉を蹴破る勢いで入ってきた。

 その胸には少女が抱き抱えられている。

 

「はい、貴方……元気な男の子です。朱乃、貴女の弟よ」

 

 母親は俺に微笑みかけてから父親と少女に話しかけている。

 

「そうか、男の子か!! 朱乃、今日からお前はお姉ちゃんだぞ!!」

 

 俺の目の前に少女が差し出される。

 少女は不思議そうに俺の頬に触れている。

 

「よお、バラキエル! おめでとうさん。かぁ~羨ましいね。これで二児の父親か! じゃんじゃん扱き使ってやるからな、この幸せ者がっ!」

 

 新たに入ってきた男性が父親の肩を叩きながら祝福の言葉を送っている。

 

「いっ、痛いよ……ありがとう、アザザル」

 

 父親は嬉しそうに微笑んでいる。

 

 良かった。優しそうな人達だ。

 転生先はランダムに選ばれるって事だったから、少し心配していた。

 それにしても、母親が朱璃に、父親がバラキエル、それに姉が朱乃か。

 それにアザゼルか。

 どうやら俺は堕天使と人間の間に生まれたらしいな。

 そして朱乃の弟か。

 原作に関わる良いポジションってところだな。

 朱乃は見たところ一歳ってところかな?

 それなら俺は一誠と同級生な訳だ。

 

「ところで、貴方? この子の名前は考えてきてくれましたか?」

 

 母親が俺を胸に抱えなら父親に訊ねている。

 

「ああ! 男なら綾人(あやと)だ! えっと……どうかな、朱璃?」

 

 父親は照れくさそうに母親に聞き返している。

 

「ええ、いい名前ね。これからよろしくね、綾人。私の愛しい子」

 

 母親は俺の頬に口付けをしながら微笑みかけてきた。

 

 綾人か。

 それが俺の新しい名前か。

 うん、悪くないな。気に入ったよ。

 

「あら? 綾人が笑いましたよ。名前が気に入ったのかしら?」

「ああ、それならば父親冥利に尽きるな」

 

 両親が愛おしそうに俺を見詰めている。

 

(ほぉ~今代の宿主は面白そうな奴だな。しかも、バラキエルの息子か)

 

 何だ、今の声は?

 俺の精神()から聞こえてきた気がする。

 

 俺は目を瞑るようにして精神世界へと意識を沈めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 精神世界に潜ると眼の前に漆黒の龍が佇んでいた。

 

『ふむ……生まれたばかりなのに色付き形作られた精神(世界)か。貴様、何者だ?』

 

 龍は辺りを見回しながらも俺に警戒の色を向けている。

 

「初めまして……えっと、俺は今日から姫島 綾人だ。それとぶっちゃけると前世の記憶を引き継いでいる」

 

 信頼を得るには真実を伝える必要があるからな。

 まあ、さすがに原作知識の事は黙っているがね。

 

『なる程、それが生まれたばかりで既に精神が成熟している理由か……魂の色は濁ってなさそうだから問題はないか』

 

 龍は俺を隅々まで見定める様に見詰めてきている。

 

「ところで君は……」

 

 俺は龍の正体に気がついているが敢えて質問をした。

 

『私か? 私は深淵の龍(アビス・ドラゴン)のナラカという者さ。神器(セイクリッド・ギア)神滅具(ロンギヌス)淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)に封じられた龍だ』

神器(セイクリッド・ギア)神滅具(ロンギヌス)?」

 

 俺は更に呆けた振りをして聞き返した。

 一応俺が考えたから知ってはいるが、傍から見たらそれは可笑しい事だからな。

 襤褸が出る前に聞いておかないとな。

 

神器(セイクリッド・ギア)とは聖書の神が作ったシステムで不思議な能力を所持者へ与える物の事だ。そして、神滅具(ロンギヌス)とは神器(セイクリッド・ギア)の中でも、神すら滅ぼす事が可能な力を持つと言われる特殊な神器(セイクリッド・ギア)の総称だ』

「へぇ~それが俺に宿ってるって事か…‥ ところで淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)の能力って何なのかな?」

 

 俺は更に踏み込んで聞いていく。

 これも勿論知ってはいるけどね。

 

淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)の能力は神器(セイクリッド・ギア)で防御した力を吸収無効化する事だ。吸収した力を自分の物にし、常時最大レベルを維持出来る。だが、吸収限界は所持者の力量次第だ。それに、吸収限界を超えた力は漏れ出してダメージを負う』

「なる程、つまりは俺自身が強くならないと宝の持ち腐れって訳だな」

 

 俺は腕を組みながらうんうんと頷いている。

 

『まあ、禁手化(バランスブレイク)すれば、防御だけでなく攻撃でも対象の力を吸収して奪う事が出来る。奪う力は触れていた時間や手数に応じて吸収率が変化する』

「それは凄いな! ……ところで、禁手化(バランスブレイク)って何かな?」

 

 これも忘れず聞いておかないとな。

 

禁手化(バランスブレイク)とは神器(セイクリッド・ギア)の力を高め、ある領域に至った者が発揮する力の形の事だ。基本的には元の力のスケールアップだが、使い手の認識によって別物に化ける事もあるから精々精進する事だな』

 

 そうなんだよな。

 一応禁手化(バランスブレイク)は亜種化を思いついていたからな。

 ナラカの知らない能力も身に付く予定なんだよな。

 まあ、要努力の必要があるけどな。

 

『さてと……他に質問はあるか、宿主よ?』

 

 あっと、そうだ!

 これも一応聞いておかないと拙いか。

 

「えっと……俺の父親のバラキエル? 彼の事を知っているみたいだけれど……」

『ああ、バラキエルとは旧知の仲だ。神器に封じられる前からの付き合いだ。彼の息子のお前に宿った事は、まさに天命で嬉しく思うぞ』

 

 ナラカは本当に嬉しそうに微笑んでいる様に見える。

 

「改めてよろしく、ナラカ」

『おう、綾人。こちらこそよろしくだ』

 

 ナラカが前足を差し出してきたので俺は利き手で握手する様に掴んだ。

 

 さあ、ここから俺の新しい浮世が始まる。

 果たして輝かしい未来が待っているのか、はたまた絶望の未来が待っているのかはまだ分からない。

 俺の行動次第でどちらにでも転ぶだろう。

 今は赤ん坊だから現実世界では鍛えられないが、精神世界(ここ)では違う。

 さあ、早速始めようとしようか!

 待っていてくれ、ミッテルトたん!!

 それに小猫たんとレイヴェルたん!!

 君達に相応しい漢になって、君達を幸せにするよ!!

 

 

 

 

 




主人公の綾人の容姿は魔法先生ネギま!のネギを黒髪と褐色肌にした感じです。
将来はお臍フェチで太股フェチの眼鏡インテリ系で二枚目半な感じです。


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DX (番外編)
『~ヴァレンタイン狂想曲~』


投稿が一年以上空いてしまい、大変申し訳ございません。

今回は唐突に思いついた番外編をお送り致します。

一応は【第一章】の旧校舎のディアボロスの時系列の番外編のつもりですが、季節的にヴァレンタインは合わないかもしれないのは大目に見て頂きたいです。

拙い内容で恐縮ですが、オイラから皆様へのささやかなヴァレンタインのプレゼントになってくれれば御の字ですね。

よろしければご意見やご感想を頂けたら幸いです。


 

 

 

 

 

「さあ、今日は以前から告知していた持ち物検査を実施しますからね」

 

 雪もちらついている寒空の下で、俺は一人だけで裏門で風紀委員の仕事をこなしている。

 正門や通用門の方は明日菜さんを筆頭に、風紀委員所属の女傑とも言える方々が担当してくれているので心配していないんだよね。

 歴代の風紀委員な方々は凄まじいの一言だったけれど、今の世代の方々も中々侮れないんだよね。

 

 それにしても、何気に俺の制服は風紀委員会仕様の特注品で、白い詰襟学ランで目立つ事請け合いんだよね。

 何せ駒王学園史上初の男子風紀委員との事で、歴代の風紀委員長を初め数多くの先輩方のキモ入りなのは色んな意味で涙を禁じえないよね。

 

 当初の予定では半ズボン仕様だったのを、俺が断腸の思いで恥を捨てて潤んだ眼で上目遣いおねだりをして阻止したのは黒歴史に認定したいぐらいだよね。

 まあ、殆どの先輩方が鼻血を吹いて倒れ伏していたのはある意味において壮観だったかな。

 

 それ以降の活動では、油断していると逆セクハラ紛いのスキンシップが日常茶飯事になりうるのは勘弁願いたいんだけれどね。

 

 プライベートでも姉ちゃんや白音ちゃんとかに逆セクハラどころか、日常茶飯事的に逆レ〇プ紛いの睦言(スキンシップ)で疲弊しているから癒しが欲しいんだよね。

 

 イッセーちゃんはまだ直接的な睦言(スキンシップ)は皆無だけれれども、二人っきりになって油断していると人気のない暗がりへと引きずり込まれそうになるから注意が必要なんだよね。

 

 ミッテルトちゃんもダブルスパイをお願いしているから会う機会が少ない分、短い時間でも濃厚に睦言(スキンシップ)を求めてくるから肉体的にも精神的にもキツいんだよね。

 毎回種が尽きるかと思うぐらいに愚息が酷使されているのは勘弁願いたいよね。

 

 ヴァーリも普通の手合わせだけでなく、最近は照れ隠し(スキンシップ)の回数が多くなってきているしね。

 つまり、ヴァーリはそれだけ無意識に俺の尻をまさぐっているって事だからね。

 押し倒されるのも時間の問題かもしれないね。

 

 ああ、祐美ちゃんのお手製のケーキの試食をしながらゆっくりとお茶をしたり、ギャスパーちゃんとネットサーフィンしたりオンラインゲームに興じたいよ。

 

 はっ!!?

 ダメだっ!!?

 思考が無意識にアンチスパイラル陥りかけてたよっ!!?

 

 さあ、気持ちを切り替えて職務を全うするとしようかな。

 別に逃げてないからね?

 本当だからね?

 

 それにしても、さすがに俺は風紀委員会所属の唯一の男子なので、女生徒さん達は嫌がるかと思っていたらきちんと列を作って鞄の中身を自ら差し出して検めさせてくれるのはありがたいよね。

 しかも、全ての女生徒さんはお菓子……特にチョコレートやクッキー等を直接俺に手渡してきているしね。

 普段ならばそんなに目くじらを立てて没取するまではいかないが、今日は事前に告知していたので遠慮する事なく回収している。

 既に用意していた紙袋が1ダースを超えてきている量である。

 勿論忘れずに鞄の中身も確認させてもらっている。

 

 中には乙女な秘密なグッツとかもあったけれど、BLが題材の薄い本が出てきた時は赤面どころか顔色が消失してしまったのは仕方ないよね?

 うん、俺は()()も見なかったよ。

 本当だよ?

 登場キャラが毎朝鏡で見ている姿と瓜二つだったのは、気のせいだよね?

 

 

 

 

 

 

 しかし、普段なら殆どの女生徒さん達は正門を使用しているのに、今日に限って大半の人達が裏門から登校しているのだろうか?

 

 俺が疑問に首を傾げていると、最後に嫌と言う程見知った一人の女生徒さんが眼の前に佇んでいた。

 相変わらず黙っていれば掛け値なしの美少女の部類なのだが、その表情や瞳に宿っている隠しきれない()を感じさせる気配(オーラ)が台無しにしているよね。

 

 しかも、事ある毎に俺の思考を読んでいる節が見受けられるんだよね。

 俺はある意味単純(純粋)だから読みやすいとか何とかって言っていたしね。

 

 しかし、相変わらず神出鬼没な娘だよね。

 今も眼の前に現れるまで、一切の気配を感じ取る事が出来なかったよ。

 俺の感知能力は戦闘系に偏ってはいるものの、一般生徒さん程度ならば絶対に見逃す筈はないんだけれどね。

 

「お勤めご苦労さんです♪ どう? 職務に託つけてうら若い乙女の秘密を暴けて、さぞ嬉しいんじゃないの?」

 

 他の女生徒さん達と違って桐生は奇策……じゃなかった、気さくに俺に肩に手を置きながら話しかけてきている。

 

「本当に、お前ってば……」

 

 俺はため息混じりにさらなる追撃を避けた。

 油断しているとこのまま全身を余すことなくまさぐられる可能性があるからね。

 

「ああ~ん♪ いけずぅ~♪」

 

 桐生は態とらしく泣き真似をしながらも、その手は俺を求める様にわきわきと蠢いている。

 

「ほら、早く検査しないと遅刻するよ? さっさと、見せてよ」

 

 俺がため息混じりに手を差し出すと、桐生は悪戯を思いついた子猫の様に眼を輝かせた。

 

 ヤバいっ!!?

 コレは下手すると俺が社会的に抹殺されるぅ~!!?

 

 幸い裏門の付近に人気はないが、校舎の一角からは丸見えなので油断は出来ない。

 

 俺が慄いていると桐生は焦らす様にスカートをたくしあげていく。

 俺は眼を晒したり瞑ったりしたいが、今そんな事をしたら更に自身の首を絞める結果になると、本能が警告を発している。

 

 桐生の手がショーツが見えるか見えないかで動きが止まって、俺は安堵の溜息を吐いて緊張に凝り固まっていた四肢を脱力させながらも警戒を解かずに佇んでいる。

 

 ふと桐生の足を覆っているストッキングを吊っているアダルチックなガータベルトに眼に入った。

 そこには小さなラッピングされた箱が挟まっていた。

 

「はい♪ ヴァレンタインのチョコレートよ♪ ホワイトデーには三倍返しでよろしくね♥」

 

 ウィンクをしながら投げキスをして足早に校舎に向かっていく桐生の背中を、俺は乾いた笑みを浮かべながら見送るしか出来なかった。

 

《キンコーン、カンコーン♫》

 

 思い出した様に鳴り響いた予鈴のチャイムの音で我に帰った俺は、今更ながら山積みされているお菓子が俺へのヴァレンタインの贈り物と気付いて途方に暮れていた。

 中には本命とも取れる気合の入ったハート型のモノもあるんだよね。

 

 流石にコレは全部俺が食べないとダメだよね?

 程度の差はあれども女生徒さん達が俺にくれたモノだから、きちんと残さず食べないとバチが当たる気がするんだよね。

 

 毎日の修行でのカロリー消費で太りはしないだろうけれど、虫歯にならない様に気を付けないといけないよね。

 まあ、歯磨きは欠かさずしているし大丈夫だろうけれどね。

 

 キスする時に口臭のするのはエチケット(マナー)以前の問題だと姉ちゃんに嗜められているからね。

 

 うん、相変わらず俺は姉ちゃんを筆頭に女性陣の尻に敷かれているのは気にしない方向で行こう。

 今更どう足掻いても、魂魄にまで刻まれてしまったM気質(カルマ)はどうしようもないからね。

 円満かどうかはちょっぴり……いや、かなり疑問だけれど、どうせならば気持ち良く過ごせる時は色な意味で楽しまないと損だからね。

 いや、まあ、ある意味甘くてほろ苦い生き地獄には違いないけれどね。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 お菓子を大量に抱えながら教室に辿り着いた時は一騒動どころじゃなかったんだけれどね。

 元浜と松田は嫉妬からか殴りかかろうとしてきたけれど、俺に体当たり気味に突進してきたイッセーちゃんに突き飛ばされていったのは思わず心の中で合掌してしまった。

 

 そのイッセーちゃんは口移しでチョコレートを渡そうとしてきたしね。

 俺は両手が塞がっていたので危うくクラスメートの眼の前で唇を奪われるところだったんだけれど、騒ぎを聞きつけた祐美ちゃんがやんわりとフォローしてくれて助かったんだよね。

 その際に祐美ちゃんが耳打ちしてきて、放課後にオカルト研究部の部室でガトーショコラをご馳走してくれるって事であった。

 直ぐに照れた表情を浮かべながら去っていってのは、普段のクールな表情と違って周囲から感嘆のため息が漏れていた程だったよ。

 

 これだけで今日はハッピーだよね♪

 祐美ちゃんのお手製のお菓子、しかも俺だけへのヴァレンタインのプレゼントだからね。

 ホワイトデーのお返しは何が良いのか、しっかりと熟考しないとダメだよね。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、今は昼休みなって逃げ場所を求める様に気が付いたら生徒会室へと足を運んできたんだよね。

 風紀委員会の執務室も今日のこの日は何時も以上に、ある意味飢えた女傑が居る魔窟となっていそうなので無意識に避けてきたのは仕方ないよね。

 

 普段の昼休みは大抵オカルト研究部の部室でお弁当を食べているけれど、今日は姉ちゃんや白音ちゃんが虎視眈々と待ち構えている気がしたので逃げてきたのはここだけの秘密だけれどね。

 まあ、放課後には祐美ちゃんとの約束もあるから絶対に顔を出さないといけないので、当面の時間稼ぎにしかならないだろうけれどね。

 

「すいません、真羅さん。突然お邪魔した上に紅茶までご馳走になってしまって……」

「いえ、お気になさらずに……」

 

 相変わらず真羅さんは俺と二人っきりだと眼を合わせようとしてくれないんだよね。

 話しかければ言葉数は少ないもののきちんと応えてくれるし、こうやってお茶も出してくれるから嫌われてはいないと思うんだけれどね。

 

 気不味い。

 俺はハート型のチョコレートを齧りながら、この微妙な空気に冷や汗が流れる心境になっているんだよね。

 

「あら? 綾人くん。来ていたんですか」

 

 俺がどうしようかと思案していると救いの女神ならぬ救いの悪魔がやって来た。

 

「ソーナさん、お邪魔しています」 

「座ったままで構いませんよ」

 

 俺が立ち上がって会釈しようとすると、ソーナさんはやんわりと押し留めてきた。

 

「椿姫、私にも紅茶をお願いします」

「分かりました、会長」

 

 真羅さんはどこかホッとした様な表情で紅茶の用意を始めた。

 

 やっぱり男子の俺と二人っきりだと緊張していたんだろうか?

 修行の弊害で発育が若干……いや、かなり遅れていると言えども俺も生物学的には紛うことなきなき牡だからね。

 しかも〇S(ショタ)の様な体躯でもしっかりと精通していて、複数の女性と関係を持っているんだから警戒されて当たり前だよね。

 

「それにしても凄いお菓子の量ですね。やっぱり綾人くんは人気がありますよね……ほら、唇にチョコレートが付いていますよ」

 

 ソーナさんは俺の唇をハンカチで拭いながら苦笑を浮かべている。

 

「ありがとうございます……」

 

 俺は気恥ずかしくなって思わず俯いてしまった。

 

 ハンカチから漂うソーナさんと一緒の匂いが、より一層俺の心を掻き乱している。

 

「これでは私からのチョコレートは迷惑でしょうか?」

 

 俺はソーナさんからの死刑宣告に近い台詞に反射的に引きつった笑みを浮かべてしまった。

 幸い俯いたままだったので、ソーナさんには悟られていないと思うんだけれどね。

 

 まさか助け舟は泥船だったってオチはさすがに予想出来なかったよね。

 

「いっ、いえ……ありがたく頂戴します」

 

 俺はにっこりと笑顔を浮かべながらチョコレートを受け取った。

 何気に『魔法少女マジカル✩レヴィアたん』のレギュラー出演で培われた演技力が役に立ったよね。

 若干うっすらと額に流れる冷や汗は勘弁願いたいけれどね。

 

 真羅さんも気の毒そうな表情で俺を見守っている。

 思わず助けてと視線だけを向けると、すごい勢いで顔を逸らされてしまった。

 

「良かった……綾人くんには普段から公私に渡って色々とお世話になっていますから、感謝の気持ちを込めてみました。勿論、親愛の情もたっぷりと練り込んでますよ♪」

 

 ソーナさんの屈託のない笑みを見ていると心が洗われる様に感じられるが、受け取ったチョコレートから発せられている禍々しくもある気配は少しも揺るぎない。

 

 何でもそつなくこなす感じのソーナさんも、お菓子作りだけは壊滅的にポンコツなんだよね。

 しかもこの事を指摘しようにも、ソーナさん自身がショックを受けるだろうし、俺に対してでもセラフォール様が怒り狂う気がするんだよね。

 幾ら俺がセラフォール様のお気に入りランキングで上位と言えども、さすがに実の妹たるソーナさんを泣かせてただで済む筈がないんだよね。

 

 俺が思考の海にダイヴしている間も、ソーナさんは期待の眼を俺に向けてきている。

 

 はぁ……コレは覚悟を決めて食べるしかないよね。

 文字通り腹を括って食すとしますか。

 

「では、頂きます……」

 

 俺はチョコレートを一つ手に取って一気に口に放り込んだ。

 幸いトリフチョコレート風で一口サイズなので問題なく口内へと収まった。

 俺はチョコレートが口に入った瞬間、意を決して噛み付いた。

 

 ひぎぃっ!!?

 

 アクセントとなるクラッシュドナッツが口の中で弾ける様に暴れている。

 胃が凭れそうな程の脂肪分に感じられるクーベルチュール・チョコレートが舌を蹂躙している。

 咀嚼していって中のガナッシュに到達すると更なる刺激が脳天を突き抜けた。

 

「おっ、美味しいですぅ……」

 

 俺は油断すると気絶しそうな程の衝撃を表情に出さずに微笑んだ。

 背中には大量の脂汗が流れている上に、若干喉が震えて変に上擦った声になったのは無理もないんだけれどね。

 

「良かった……ちょっと、失敗したかもって心配だったんですよ」

 

 ソーナさんは屈託のない年相応の笑みを浮かべて喜んでいる。

 

 辛くもミッションコンプリートした俺は、直ぐ様他のチョコレートを頬張った。

 

 口に入れてから気が付いたが、コレは桐生からもらったチョコレートだよね。

 ウィスキーボンボンみたいで、チョコレートを噛み砕くと砂糖製の殻と独特などろりとしたリキュールが口一杯に広がったよ。

 

 味は洋酒系じゃなくて、日本酒系っぽいかな。

 

 喉を通る際にも感じた熱が、胃の中に入って直ぐに身体中がぽかぽかして来た気がするよね。

 毛穴と言うか汗腺が一気に広がった感じだね。

 汗臭さを抑えるために姉ちゃんに勧められて振りかけているコロンも、一気に台無しになりそうな勢いで吹き出してきたよ。

 

 アレ?

 転生してからは飲酒は殆どした事はなかったけれども、こんなにアルコールに耐性がなかったか疑問に感じる程の熱量だよね。

 多分、ソーナさんのチョコレートと反応してアルコールの効能が高まったのかな?

 

 疑問を浮かべながら首を傾げていたので、ソーナさんだけでなく真羅さんまで俺に潤んだ瞳を向けていた事に気付くのが遅れたんだよね。

 二人共、頬どころが顔全体が紅色をしていているし、息も何だか荒いみたいなんだよね。

 

 しかも、眼が危険な色を孕んだ熱を帯びている様に感じられるんだよね。

 

 そして、俺と眼が合うと二人共に揃ってチロリと舌舐りをした。

 

 二人から隠すことなく漂う、丸で発情期の牝の様な特有の色香の気配に嫌な予感が稲妻となって俺の背中を走り抜けた。

 

 この雰囲気は嫌って程に何度も体感しているよね。

 

 そうだ!

 何時も姉ちゃんや白音ちゃんに押し倒される前に感じ取っている気配と全く同じだっ!!

 

 ヤバいっ!!

 

 俺は本能的に習得中の技能を発動した。

 何度も失敗を繰り返しながら反復練習の様に回数を重ねていたお陰で、今回は割とスムーズに発動させる事が出来た。

 

 後ろで纏めて縛っている髪が解けて稲妻状に毛羽立った。

 

 それと殆ど同時に飛び掛ってきた二人の動きに、俺は自身の肉体を操作する事で超高速の初動を可能して避けていく。

 

 この技能は『HUNTER×HUNTER』の登場人物の一人である『キルア・ゾルディック』の『神速(カンムル)』を魔法技能的にアレンジした技能なんだけれどね。

 

 さすがに咄嗟の場合は闇の魔法(マギア・エレベア)の術式兵装を展開させる詠唱のタイムラグは、文字通り一分一秒を争う戦闘行為中は死活問題だか死ぬ気で習得中なんだよね。

 

 転生特典で『ネギ・スプリングフィールド』の魔法関連の知識は持ち合わせていても開発力の才能に乏しい愚鈍な俺ではまだまだ改良の余地あって、十全に扱い切るのは難航しているんだけれどね。

 

 こちらも不完全ながら習得中のマルチタスクを使用しながら、二人の動きをそれぞれ具に観察しながら、更に逃走ルートを幾つかピックアップしていく。

 最短の逃走ルートを選ぶと、甘美な地獄へと一気に堕とされる事請け合いだろうからね。

 

 未だに巧みにマルチタスクを使いこなせていないので偏頭痛が少ししている。

 

「どうして逃げるんですか? 私の愛を余す事なく受けて取って下さい」

「綾人きゅん……何時も恥ずかしくて眼を逸らしてごめんなさい……でも、嫌いじゃないのっ! 寧ろ大好きなのっ!」

 

 明らかに正気を失ったハイライトの消えかけた眼で俺への愛を語る生徒会長と副会長。

 漏れ出した魔力が陽炎の様に揺らめいている。

 

 コレが普段の二人からの愛の告白ならば、嬉しい悲鳴をあげていただろうね。 

 好意を向けられる事は嬉しいけれど、さすがにこの状況じゃ素直に喜べないよね。

 

 幾ら実の姉と爛れた性活を送っている俺でも、最低限の倫理観は持ち合わせているのである。

 こんな酩酊状態で致されたら、色んな意味で失敗(後悔)しそうだしね。

 

 幸い二人共に正気じゃないので、今のところ逃げ出せる可能性は高いよね。

 普段のソーナさんなら罠の可能性を捨てきれないけれど、今のソーナさんならそこまでの戦術眼は働いていないだろうしね。

 

 でもグズグズしていたら、逃げられる確率が一気に低くなるだろうしね。

 今も秒単位でストックしている電力が消費されていて、何時神速(カンムル)擬きが解けてしまうか分からないんだよね。

 

「さあ、一緒にぽかぽかしましょう」

「綾人きゅん! 抱きしめさせてっ!」

 

 生徒会室の広さでは距離を取りづらくて、直ぐ様追いつかれてしまった。

 

 さすがに緊急事態とも言えなくはないけれども、風紀を司る者の一員として校内での魔法の使用は極力最小限に留めておかないとね。

 

 でも、この程度の魔法ならば始末書一枚で済みそうかな。

 

「ハイティ・マイティ・ウェンディ! 大気よ 水よ(アーエール・エト・アクア) 白霧となれ(ファクティ・ネブラ) 彼の者等に(フィク・ソンヌム) 一時の安息を(ブレウェム) 眠りの霧(ネブラ・ヒュプノーテエイカ)

 

 俺の魔法で生じた霧がソーナさんと真羅さんを包み込んだ。

 

 ほっと一息吐こうとした束の間、次の瞬間には霧が文字通り霧散してしまった。

 

「ちぃっ!! そうだったよね……」

 

 俺は自分の失態に思わず顔を顰めながら舌打ちした。

 

 ソーナさんは水の魔力を得意としているんだったよね。

 霧は水蒸気、つまりは水が形状変化したものだから無効化(レジスト)されてしまったようだね。

 

 ソーナさんは才能溢れる上級悪魔としては珍しく努力をするタイプだからね。

 リアスさんも俺の影響で努力する様になったけれど、俺と出会う前から血が滲む様な努力してきたソーナさん方がまだまだ一枚上手かな。

 

 ……って、感心している場合じゃないんだよねっ!

 

 さすがに完全には無効化(レジスト)しきれなかったみたいだから、今の内に逃げないと後で後悔する事になるよね。

 

 俺は窓を開ける手間を惜しんで、蹴破って生徒会室から脱兎の如く脱出した。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 人目を避けて来たのが裏目に出たのは、今更後悔しても後の祭りだろうね。

 まあ、俺を追いかけているメンバーの中に一般の女生徒さん達が混じっていないのは不幸中の幸いって言えるかな?

 

 俺は最早秘匿義務をほっぽり出して、持ちうる全ての技能を駆使して全力で逃走しているんだよね。

 

 振り向くのが怖いのできちんとは確認していないけれど、俺を追いかけているのは何時の間にか二人だけではないみたいなんだよね。

 しかも、時間が経つ毎に背後から感じられる気配が一人二人と増えて行っている上に、段々と狂気のレベルが上がってきている様なんだよね。

 まあ、狂気が上がっていくと反比例的に理性も吹き飛んでいっている様で本能的に追いかけてきているみたいだから、俺は紙一重だけれど未だに捕まっていないんだけれどね。

 

 捕まったが最後、文字通り精も根も尽き果てるまで搾り取られるだろうからね。

 さすがに死にはしないと思いたいけれど、学園の風紀を司る者の一員である俺が校内で淫行を行なったとなれば大問題だからね。

 例え俺の方が被害者でも、そうなったら確実に社会的に死ねるよね。

 

 まあ、揉み消しは可能だろうけれど、俺の心情的にもソレは避けたいよね。

 徒でさえ、俺は堕天使の血を引く混血児(ハーフ)からの転生悪魔で、表立っては皆無とも言えるけれど裏では虎視眈々とグレモリー家やシトリー家、更にはサーゼクス・ルシファー様やセラフォルー・レヴィアタン様を蹴落とそうとチャンスを伺っている輩は少なくないからね。

 

 こんな事で迷惑を掛けるわけにはいかないんだよね。

 

 既に出しまっている周囲の被害については、まあ……うん、割り切るしかなさそうだけれどね。

 未だに死傷者が出ていないは、ギリギリのラインで追っ手の人達の理性が残っていると信じたいよね。

 

 ネギ・スプリングフィールドの魔力を転生特典でもらって、更に修行で鍛え抜いていてもさすがに魔力が底を尽きかけてきている。

 体力と気力もそろそろヤバそうなんだよね。

 

 それに何故だかナラカの反応もなくて、淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)は展開出来ていても十全にその機能が発揮出来ていないので、迫り来る魔法等の吸収無効化が上手く出来ていないのも文字通り痛手だよね。

 

 もうダメかと諦めかけていると、曲がり角を曲がった際に暗がりへと引き込まれてしまった。

 

 既に振り解けるだけの力も殆ど残っていない俺は眼を瞑って覚悟を決めた。

 直ぐ様、口が塞がれて相手の舌が俺の口内を蹂躙してくる。

 たどたどしくも情熱的な舌使いに、疲れきっていた俺はすっかりと腰が抜けてしまった。

 

 暫くしてから離れた顔を見ると、見慣れた一人の女生徒さんが耳まで真っ赤になって佇んでした。

 

「……どっ、どうですか、綾人くん? 私の異能(スキル)で効果は消え……きれてないですね」

 

 明日菜さんは自身の唇をなぞりながら、頬を朱色に染めながら潤んだ瞳で困った様に苦笑していた。

 

 俺は思わず生唾を飲み込みながら、その姿に見惚れてしまっていた。

 

「幸い効果が薄れて皆さん正気に戻りかけている様子なので、今の内に隠れてしまいましょう」

 

 俺は手を引かれるまま、明日菜さんに導かれていった。

 

 この時、俺にしっかりとした思考力が残っていたらこの後の出来事はなかったのかも知れない。

 俺は疲労困憊な上に憧れの一人でもある現風紀委員長の明日菜さんからの接吻で、思考力が蕩けて皆無だったのは言い訳にもならないかも知れないけれど、弁明の余地は残されていると信じたい心境に陥ったんだよね。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「少し埃っぽいですが、どうぞ寛いでね」

 

 無造作に飾られている古今東西の武具が見守る中で、俺は勧められるまま畳の上に敷かれた座布団に胡座をかいて座った。

 

 対する明日菜さんはきちんと正座しながら緑茶を啜っている。

 

 俺も五月蝿い程に鼓動している自身の心臓を落ち着ける為に湯呑を傾けた。

 口に広がる仄かな苦味が、俺の高ぶっている精神を落ち着かせてくれる気がする。

 

 ここには始めて入ったが、確か口伝でのみ語られている歴代の風紀委員長さん達の鍛錬場だろうね。

 

 俺がここに居る資格は、果たしてあるんだろうか?

 

 俺が自身の価値に疑問を抱いていると、明日菜さんが意を決した様に話しかけたきた。

 

「あっ、綾人くんっ!!」

「ひゃっ、ひゃい!!」

「…………」

「…………」

 

 明日菜さんは緊張した様子で二の句を継げない様子である。

 俺は背筋を正しながら次の言葉を待つことしか出来なかった。

 

「あはは♪ 女性経験が豊富な綾人くんでも、私と二人っきりでそんなに緊張してくれるなんて嬉しいかな?」

 

 そんな俺の様子に明日菜さんは吹き出した様に笑いながら、緊張が解きほぐれたみたいである。

 

 明日菜さんの表情は一見すると花も綻ぶ笑顔だけれど、俺は本能的に尻込みしていた。

 綺麗な花には棘があるって言うけれど、コレってもしかしなくても……

 

 一瞬の思考の隙に明日菜さんは俺を押し倒してきた。

 俺は抵抗することなくされるがままに組み敷かれている。

 

「綾人くん……」

「はい……」

 

 俺は何処か他人事の様に自分の置かれている状況を確認しながらも、これからの展開に期待に胸が高鳴っていた。

 

「摂取した魔法薬……いえ、()()は君の体質と幾つかの要素が折り重なった混沌とも言える状態で、私の異能(スキル)でも簡単に解呪出来なくなっています。今は一時的に効果が薄まっていますが、時間が経つと元通りになるでしょうね」

 

 俺の耳元で囁く様に紡がれている明日菜さんの声色は、俺を更なる深淵へと堕としていく様に感じられる。

 

「はむ……♪ くちゅくちゅ……♥」

 

 再び重ねられた唇は先程とは比べ物にならないぐらいの熱を帯びている様に感じられた。

 

 俺の舌は絡め取られてしまって息も絶え絶えになってしまい、完全に思考力まで奪われてしまった。

 

 その先の展開は詳しくは語る気は、今のところないよ。

 

 ただ、無造作に脱ぎ捨てられたお互いの制服や下着等と、畳の上に出来た赤い染みや部屋に充満している()()()()で察して欲しいとだけ言っておくけれどね。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 疲労から何時の間にか寝転けていた俺の耳に明日菜さんの言葉が染み込む様に聞こえてきた。

 察するにスマフォ越しに誰かと通話しているみたいである。

 

「今回の件の弁明はありますか? 幾ら貴女が裏御三家の直系の血筋だと言っても、()()でもある貴女の立場を悪くするだけ……」

「----」

「えっ……? 私が綾人くんの楔に……?」

「----」

「理解出来ますが、納得は出来ませんね。そうなると貴女の気持ちは……」

「----」

「ごめんなさい……私も少し気が動転している様ですね……はい、では、また……今度はゆっくりと一緒にお茶でもしましょうね」

「----」

 

 通話が終わった明日菜さんは俺と眼が合うと、頬を朱色に染めながらも嬉しそうに微笑んできてくれた。

 

「起こしてしまいましたね。もう少し眠っていても構いませんよ?」

「どうせなら、膝枕をお願いしても良いですか?」

 

 俺の提案に明日菜さんは一瞬眼を丸くしたけれども、にっこりと微笑んで膝の上に俺の頭をゆっくりと乗せて髪を梳く様に撫でてくれている。

 

「暫し安らいでね……起きたら色々と問題が山済みでしょうからね」

 

 俺は直ぐ様、微睡みへと堕ちていった。

 脳裏に姉ちゃんと白音ちゃんやリアスさん達への言い訳が掠めたが、今は眠気に誘われるままに堕ちていこう。

 

 現から夢へと堕ちる際に、何故だか()()を司る(モノ)だけでなく()()を司る(モノ)が出てきそうな予感がしたのは、俺の勘違いだと思いたいけれど強烈な存在感が否とは言わせてくれそうにないんだよね。

 

 コレは夢の中でも安らぐのは難しいかな?

 多分コレは肉体言語で言い訳しないと、下手すると無限ループな夢の狭間へと堕ちうるよね。

 

 件の龍達は俺との交流で人間臭さが垣間見れる様になってきたと言っても、己の感情を正しく理解して行動出来るまでは情操が育っていないだろうからね。

 まあ、乙女心は複雑怪奇なので、受身が主体の男の子な俺には本当の意味では理解出来ないだろうけれどね。

 

 さてと、俺は今回はどれだけ持ち堪える事が出来るだろうか?

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?

一応、二次創作における原作キャラの魔改造的なモノを仄かに漂わせているのはご容赦願いたいです。

それと以前感想で頂いていたシトリー眷属の王と女王が綾人のヒロイン入りのフラグが建ちました。

序でに無限だけでなく夢幻もヒロイン化するかも知れませんが、予定は未定ですね。

その他、未だ登場していない原作キャラ(TS化含む)もヒロイン入りする予定ですので、楽しみにお待ち頂けたら幸いです。

※この番外編は次の話が書き終えましたら、プロローグの後にでも移動させる予定です。
 もしも、他の番外編も書く機会があったらそちらで纏めていった方が見やすいですよね。

それでは、皆様『ハッピーヴァレンタイン♥』





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【序章】 未来への咆哮
第01話


 

 

 

 

 

 転生してから早幾年。

 今日も今日とて鍛錬している。

 当初は三日坊主にならないか心配だった。

 何せ、前世では熱しやすく冷めやすい性格だったので何事も長続きしなかった。

 だが転生特典で鍛えれば鍛えるほど強くなる心技体をもらったので、最初は牛歩の歩みだったが着実に強くなっている。

 

 現実世界では主に八極拳の型や八卦掌の歩法や技法を中心に身体を鍛えている。

 まだ、身体が出来上がっていないからか、最初は筋肉痛や骨が軋んで痛みが酷かった。

 あまりの痛みにのたうち回るので、母さんや姉ちゃんに心配されたりこっ酷く怒られたりもした。

 だが、母さんは俺の熱心に型を反芻する姿にその内小言を言う事を諦めて救急箱を用意して見守ってくれている。

 その際、「やっぱり、あの人の息子ね」と背筋が寒くなる様な声色で、恍惚笑みを浮かべながら俺をまるで獲物を見詰める様な眼で見ていたのは気のせいだと思いたい。

 

 いえ、あの、その、母さん?

 俺は多分Mじゃないですよ?

 身体を虐め抜くのは快感を得るためではなくて、己を鍛えるためだからね。

 近頃は姉ちゃんまで同じ様な眼で俺を見詰めてきている。

 あれ? もしかして俺ってば無自覚に地雷を思いっきり踏み抜いているのかな?

 うん。深く考えないでおこう。

 考えたら負けだ。

 逃げても負けな様な気がしないでもないけどね。 

 

 精神世界では肉体的疲労は無いし、精神力の続く限り己を虐め抜ける。

 同じく転生特典で得た知識を活かして魔法を重点的に習得していった。

 最初は全く手応えがなく歯軋りをよくしたものだったが、徐々に物になっていく事は嬉しかった。

 何故だかネギま!の魔法を使える歴代淵龍王も居たので、その人に手取り足取り教わった。

 神様が気を利かせてくれたんだろうか?

 まあ、多分淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)自体が俺の考えたオリジナルの神滅具(ロンギヌス)だから、逆説的に転生特典で得た知識が流れ込んだ結果なんだろうけどな。

 まあ、これで俺が魔法を扱える理由を聞かれても誤魔化せるな。

 並行してナラカから淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)の使い方を習っていった。

 只管炎のブレスを吐いてくるナラカの攻撃を淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)で防いでいった。

 最初の頃は直ぐにリミットオーバーしてしまい、全身大火傷を負った。

 ここは精神世界だから心が折れない限り死にはしないが、何度諦めかけた事か。

 その度にまだ見ぬミッテルトたんや小猫たんとレイヴェルたんに逢う為に心を奮い立たせて頑張った。

 そしてある程度実戦に耐えうるレベルになると、歴代の淵龍王を相手に実戦形式の組手を行っていった。

 殆どが狂気に侵された者達の中で比較的真面な性格の方々が相手とは言え、少しでも気を抜けばまだまだひよっこレベルの俺は淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)以外を攻撃されて瞬殺されてしまう。

 戦いを重ねていく内に戦術も学んで行き、この頃は少しは善戦出来るレベルになってきた。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 蒸し暑い日。

 今日は迎えの者を縁側で待っている。

 今まで成るべく淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)の事はバレない様に振舞っていたのだが、先日出掛け先でエクソシストと交戦する事になり思い掛けず使用する事になった。

 相手は一人で、子供相手だと油断していたから何とか撃退できた。

 まだまだ修練不足だと実感した出来事だった。

 

 そんな事があって神の子を見張る者(グリゴリ)の総督のアザゼルさんの耳に入り、この度研究のために神の子を見張る者(グリゴリ)本部へと足を運ぶことになった。

 俺はアザゼルさんの部下の息子だからと、こちらから伺うと筋を通した形だ。

 一応部下の息子なのだから無茶な事はしてこないと思いたいが、あの自他共に認める神器マニアのアザゼルさんが暴走せずにいられるのだろうか?

 まあ、案ずるより産むが易しっていうから、考えすぎないでおこう。

 

 

 

 

 

 約束の時間が近づいて来ると、遠くからゴスロリ姿の少女がやって来た。

 

 あっ、あの姿はまさかっ!!?

 

 俺は少女の姿を眼に留めてから期待に胸が高鳴った。

 

「こんにちわっす。アンタがバラキエル様の息子の綾人っすね?」

 

 画面越しか見た事がなかった憧れの少女は少し仏頂面で俺を見詰めている。

 

「はっ、はい! 俺が綾人です! あっ、あの~お姉ちゃんのお名前は……」

 

 俺は搾り出す様に訊ねた。

 

「うちっすか? うちはミッテルトっす。しがない下っ端堕天使っすよ」

 

 ミッテルトたんは肩を竦めて自己紹介をしながら漆黒に染まった羽を広げた。 

 

 あっと……さすがにミッテルトたんは拙いか。

 ここは無難にお姉ちゃんがいいかな?

 

「よろしくお願いします、ミッテルトお姉ちゃん」

 

 俺は照れながらも何とか頭を下げて挨拶を行った。

 

「お姉ちゃんはこそばゆいから止めてくれると嬉しいっす。それと敬語も必要ないっす」

「じゃあ……ミッテルトちゃんでいいかな?」

 

 俺は頬を染めながら上目遣いに訊ねた。

 

「それで良いっすよ……全くいくら命令とはいえ、子守りなんて貧乏籤引いたっすね」

 

 ミッテルトちゃんはあからさまにため息を吐いている。

 

 やっぱりまだ子供だから相手にはしてくれないか。

 だが、しかし!!

 ここで諦めたら男が廃る!!

 ニコポやナデポは装備してないけど少しでもミッテルトちゃんにアピールするぞ。

 

「じゃあ、行くっすよ」

 

 ミッテルトちゃんは面倒臭そうに手を差し出してきた。

 

「うん♪」

 

 俺はちゃっかりと恋人繋ぎでミッテルトちゃんの手を握った。

 

 はわぁ~柔らかし、すべすべだぁ~♪

 それに良い匂いがするよぉ~♪

 

「マセガキっすね……」

 

 ミッテルトちゃんは一瞬驚いた表情をしたが、直ぐに苦笑しながら俺の頭をデコピンしてきた。

 

 やっぱり子供扱いされてるよね。

 だけど、手を振り解かないのは少しは心を許してくれているのかな?

 千里の道も一歩からって言うし、ミッテルトちゃんの牙城を少しづつ攻め落としていこう。

 

 

 

 

 

 魔法陣を通って冥界にある神の子を見張る者(グリゴリ)本部へとたどり着いた。

 ミッテルトちゃんに連れられて徐々に奥へと足を運んでいく。

 どうやら父親のバラキエルは不在らしい。

 嫌いではないのだが母親の朱璃とSMプレイに興じているのを目撃して以来どう接していいのか分からないんだよな。

 幸い姉ちゃんの朱乃にはバレていないようだが時間の問題だろう。

 今でも姉ちゃんはSの性癖を微かに醸し出しているのに、知ってしまったら一気に開花してしまいそうで怖い。

 そして、その毒牙の標的は十中八九の確率で俺となるだろう。

 

 俺は内面では色々と考えていたが、ミッテルトちゃんに手を引かれているから上機嫌だ。

 だが、至福の時間は突然終わりを告げた。

 ミッテルトちゃんは仰々しい扉の前に立つと手を離して徐にノックをした。

 

「失礼するっす、アザゼル様。バラキエル様の息子の綾人をお連れしたっす」

 

 ミッテルトちゃんは緊張の面持ちで扉越しに報告を行っている。

 さすがに下っ端堕天使のミッテルトちゃんが総督のアザゼルさんにお目通りするのは厳しいみたいだな。

 おれも幹部の父さんの息子なだけだから、普通なら中々会えないだろう。

 しかし、俺は神滅具(ロンギヌス)淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)を宿している。

 堕天使の血を引く俺が所有者なので、アザゼルさんには興味の対象であるんだろうな。

 

「ご苦労さん……鍵は開いてるから入ってこいよ、綾人」

 

 俺は捨てられた子犬の様な表情でミッテルトちゃんを見詰めている。

 ミッテルトちゃんは苦笑しながら手を振っている。

 俺が目尻に涙を溜めながら上目遣いにミッテルトちゃんを更に見詰めると、ミッテルトちゃんは思い掛けず生唾を飲み込む様な表情をした様だ。

 これって脈アリかな?

 よし! 先ずは一歩前進だな!

 

「失礼します……」

 

 俺は意を決して扉を開けて部屋の中へと入っていった。

 

「よう! わざわざ足を運んでもらって悪いな……早速だが神器(セイクリッド・ギア)を見せてくれるか?」

  

 眼をキラキラさせて子供の様に微笑んでいるアザゼルさんが促してくる。

 

「分かりました。いくぞ、ナラカ! 淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)!」

 

 俺は右手を胸の前に掲げて意識を集中させた。

 一瞬の間もなく淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)が右腕の下膊に展開される。

 

「おおっ!!? マジで神滅具(ロンギヌス)淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)だな!! ナラカの名を呼んでいたが既に覚醒しているのか?」

  

 一瞬で間合いを詰めて淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)に触れながら尋ねてくるアザゼルさん。

 俺の眼には残像しか映らなかった。

 やっぱり幼い俺とアザゼルさんとでは埋められない差が壁となってが存在しているようだ。

 

 今は無理でも何時かはその高みへと登ってやるぞ!

 

「ええ……ナラカ? 積もる話もあるだろうし、語り合うといいよ」

 

 俺が話し掛けると盾の中央に収められている宝玉が明暗しながら声を発した。

 

『久しいな、アザゼル……私が神器(セイクリッド・ギア)に封じられてからは初めてだな』

「ああ……改めて礼を言わせてくれ、ナラカ。二天龍の衝突の際は俺達を守ってくれてありがとう」

 

 アザゼルさんは深々と頭を下げている。

 

『気にするな。お前達は俺に良くしてくれていたからな。知己の友を助けるのは当たり前だ』

 

 どこか照れ臭そうな声色のナラカ。

 

 暫く過去の話に花を咲かせてアザゼルさんとナラカは楽しそうに語り合っていた。

 

 

 

 

 

 出された紅茶を飲み干して茶菓子を食べきる頃にはアザゼルさんとナラカの積もる話も終わったようだ。

 

「そう言えばバラキエルが心配して愚痴っていたぞ、綾人。お前、我武者羅に鍛えているみたいだな。何故だ?」

 

 アザゼルさんが俺の真意を確かめる様に眼を覗き込んできながら訊ねてきた。

 

「色々と理由があるけど、先ずは強くなりたいから……俺や姉ちゃんは堕天使の血を引いているって理由で姫島家の本家から煙たがられている。今は静観されているけど何時襲撃されるか分からないですからね。それに龍、深淵の龍(アビス・ドラゴン)神滅具(ロンギヌス)を宿しているから否応にも力を呼び寄せて戦いに巻き込まれるらしいですからね」

 

 俺はアザゼルさんの眼をしっかりと見つめ返して一気に語った。

 

「お前、本当に早熟過ぎるな。本当は幾つなんだか……たまには肩の力を抜いて遊んでも罰は当たらんと思うぞ?」

 

 アザゼルさんは自身の頭を掻きながら嘆息している。

 

「俺だけが襲われるならいいです……でも、母さんや姉ちゃんが襲われるなら全力で贖ってやりますよ。男なら大切な者達を守れるくらい強くないと駄目です」

 

 そうだ。原作通りに進めば母さんは殺されてしまう。

 最初は物語の登場人物というフィルターを通して見ていて、どこか他人行儀に接していた。

 だが母さんは無償の愛を俺と姉ちゃんに注いでくれた。

 何時しか俺は心の底から母さんを好きになっていた。

 出来ることなら母さんには天寿を全うしてほしい。

 俺や姉ちゃんの子供を抱かせてやりたい。

 母さんが生き残れば姉ちゃんと俺が悪魔に転生する理由がなくなるかもしれないが構わない。

 母さんが死んで姉ちゃんが悲しむなら違う方法を模索するだけだ。

 

「そうか……お前も一端の男、いや漢なんだな。分かった、俺も協力させてもらおう。自己鍛錬だけでは自ずと壁にぶち当たるだろうからな。それに一人だと限界を見極められずにオーバーワークしているだろうしな」

 

 アザゼルさんは俺を愛おしそうに見詰めながら頭を撫でてきた。

 俺は眼を瞑りされるがままに、大きな手の感触を感じている。

 アザゼルさんは親戚の小父さんの様に感じられた。

 

 

 

 

 

「遅かったっすね」

 

 部屋から出るとミッテルトちゃんが壁を背にして佇んでいた。

 

「待っててくれたの?」

 

 僕は思わず頬を緩めながら訊ねた。

 

「一応、アンタの子守りを命じられているっすからね。最後まで面倒みるっすよ。べっ、別にアンタのためじゃんないっすよ! 命令だから仕方なしにっすからね!」 

 

 ミッテルトちゃんは若干頬を染めながら眼を逸らして捲し立てる様に言い放った。

 ツンデレ乙。

 

 はわぁ~♪ きゃわええ!!

 なにこの萌えっ娘はっ!!

 このご褒美があれば俺はまだまだ頑張れるよ!!

 

「じゃあ、帰るっすか?」

 

 眼を逸らしながら手を差し出してくるミッテルトちゃん。

 

「うん。今日のところは帰るよ。でも、これからちょくちょくとトレーニングしにここに来るから、また一緒に来てくれると嬉しいな」

 

 俺はミッテルトちゃんの手を両手で握り締めながら上目遣いで微笑みかけた。

 

「えっ!!? アンタも物好きっすね。自分から改造手術を受けたいなんて……」

 

 ミッテルトちゃんは眼を見開きながら驚いている。

 

 転生してから幾年が経って、原作知識の大まかな流れは何とか覚えているが、細かいところは大部分曖昧になっていて忘れていた。

 そう言えば、そんな描写もあったかな。

 いや、まあ、俺は幹部のバラキエル(父さん)の息子だからさすがに改造手術はしないんじゃないだろうか?

 ないよね?

 

「えっと……さすがに改造手術は遠慮したいかな」

 

 俺は冷や汗を流しながら乾いた笑みを浮かべていた。

 

「まあ、骨は拾ってやるっすから精々頑張るといいっすよ」

 

 ミッテルトちゃんは同情の混じった眼で俺を見詰めている。

 

 俺は不安を抱えたまま家へと帰っていった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 それから神の子を見張る者(グリゴリ)本部へと通う日々が続いた。

 一応一人でも魔法陣を通って通えるが、毎回ミッテルトちゃんが迎えに来てくれた。

 ミッテルトちゃんにその気はないだろうが丸でデートみたいで嬉しかった。

 

 トレーニングは専ら巨大な鉄球クレーンの一撃を受けていた。

 しかも淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)で防ぐ事は禁止されている。

 

 いや、これで本当に強くなれるのかな?

 肉体的には耐久力が上がっている気はするんだけれどね。

 最初の頃は痛みで気絶しそうになったが気合で乗り越えた。

 気絶すると治療と称して改造手術されそうになるから気が抜けない。

 

 唯一の癒しはミッテルトたんが付きっ切りでマネジャーの真似事をしてくれていた事である。

 臍出しタンクトップとスッパツ姿で甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれるから堪らない。

 しかもオーバーワーク気味になると膝枕で癒してくれる。

 良い匂いのすべすべむちむちな太股が堪りません。

 転生してから未だ精通していないから勃起する事がないのが幸いか。

 さすがに軽蔑の眼で見られてしまうと新たな扉を開けそうで怖いんだよな。

 

 

 

 

 

 ある程度鉄球に耐えられる様になってくると実戦訓練が行われる事になった。

 最初は鷹だか鷲だかのデザインされた全身タイツを着込んだ者達、所謂戦闘員達との多対一だった。

 囲まれない様に八卦掌の歩法や技法を駆使して攻撃を避けたり、淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)で防いだりしていく。

 そして隙を見つけて魔法を放って迎撃していった。

 全て無傷で倒しきると拍手が聞こえてきた。

 

《パチパチパチ》

 

 拍手の方に眼を向けると銀髪の見た目同年代の子が佇んでいた。

 

「雑魚が相手とは言え、無傷で倒しきるなんて凄いな。君が今代の淵龍王か。確かバラキエルの息子の綾人だったかな? どうだい、俺と一戦交えてみないか?」 

 

 その子は楽しげな笑みを浮かべながら提案してきた。

 

「いいけど、君は?」

 

 俺は予想が付いていたが敢えて訊ねた。

 

「これは失礼した。俺はアザゼルの養子のヴァーリだ。今代の白龍皇さ」

 

 ヴァーリは仰々しく会釈をしながら答えた。

 

『久しいな、アルビオン。中々良い宿主に出会えた様だな』

『ああ、ナラカ。貴様こそ宿主には恵まれたようだな』

 

 二体の龍はお互いの宿主を褒め合ってはいるが、その言葉の端には刺が感じられる。

 丸で自分の宿主の方が優れていると暗に言い合っている様だ。

 

「ほぉ~面白い組み合わせだな。どれ、俺が見届け人をしてやろう」

 

 狡猾そうな笑みを浮かべた堕天使がやって来て言い放った。

 

「コカビエル様!!? あっ、あの……そっ、その……差し出がましいでしょうが、一応アザゼル様の許可を取った方が良いと思われますっす」

 

 見学していたミッテルトちゃんが震えながらも俺を庇う様に進言している。

 

「下級堕天使が俺に意見するのか?」

「ひぃっ!!? もっ、申し訳ないっす……」

 

 コカビエルがひと睨みするとミッテルトちゃんは腰が抜けた様に座り込んでしまった。

 

「ありがとう、ミッテルトちゃん。俺なら大丈夫だからね。向こうで応援していてね」

 

 俺は座り込んでいるミッテルトちゃんを背負ってガラス越しの廊下へと運んでいった。

 

「待たせたね、ヴァーリ。それじゃあ、対戦方法はどうする?」

「そうだな。折角お互いに神滅具(ロンギヌス)を宿しているから使わない手はないだろう。それに君の魔法にも興味がある。遠慮しないで使ってくれていいさ」

 

 俺の質問に戦闘狂(バトルジャンキー)な笑みを浮かべながら提案してくるヴァーリ。

 

「分かった……手加減して出し惜しみなんか出来ないだろうしね」

 

 俺も無意識にヴァーリと戦える事を喜んでいる自分に気がついた。

 

「双方、準備はいいか?」

「「ああ、問題ない」」

 

 俺とヴァーリはお互いに神滅具(ロンギヌス)を展開しながら向き合って、コカビエルに頷き返した。

 

 さあ、俺がどれだけ強くなったか試す絶好の機会だ。

 俺の今持ちうる全てを出し切ってこの戦いを楽しもう。

 

 

 

 

 

 




活動報告にてヴァーリの性別についてのアンケートがあります。
ご意見お要望お待ちしています。(終了しました)


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第02話

※少しヴァーリの羞恥心の描写を変更しました。


 

 

 

 

 

「では、お互いに死力を尽くして戦え……始めろ!」

 

 コカビエルが開始の合図を言い放った瞬間に、俺は瞬動術のバックステップでヴァーリから距離を取りつつ、詠唱破棄の魔法を解き放った。

 

連弾(セリエス)光の37矢(ルーキス)!」

 

 魔力と堕天使の光力を混ぜて込めた光属性の魔法の矢がヴァーリへと降り注いでいく。

 

「へぇ~面白いね、綾人の魔法……でも、君の本来の戦法とちょっと違うんじゃないのかい?」

 

 ヴァーリは涼しげな顔をしながら魔法の矢を、俺に近づきながら危なげなく避けていく。

 

 やっぱり予想通りにこの程度じゃあ牽制にもならないか。

 

 俺の基本戦法は相手の攻撃を捌いたり、右腕の下膊に装備されている淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)で防ぎながら戦うのが基本である。

 だが、ヴァーリの攻撃は極力受ける訳にはいかない。

 ヴァーリに触れてしまえば、白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)の能力の発動条件が成立して十秒毎に力を半減されてしまう。

 淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)は攻撃を防ぐ毎に対象の力を吸収無効化して奪う事が出来るが、今の俺の力量では吸収限界値が然程高くない上に、力を奪うには防御に回るしかなくどうしても後手に回ってしまう。

 

 俺は次の手を打つために手を伸ばしながら詠唱破棄の魔法を解き放った。

 

風塵乱舞(サルタティオ・ブルウェレア)!!」

 

 炎を消せる程の強風を放ち、ヴァーリの足を強制的に止めて更にヴァーリを中心にトレーニングルームに張られた結界の縁をギリギリに回りながら呪文を唱える時間を稼ぐ。

 そして最も得意とする呪文を魔力をしっかりと練って始動キーから一言一句逃さずに詠唱していく。

 

「ハイティ・マイティ・ウェンディ! 来たれ雷精(ウェニアント・スピーリトゥス)風の精(アエリアーレス・フルグリエンテース)雷を纏いて(クム・フルグラティオーニ)吹きすさべ(フレット・テンペスタース)南洋の風(アウストリーナ)雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!」

 

 呪文が完成するとヴァーリを中心に強力な旋風と堕天使の光力を込めた稲妻が発生して飲み込んだ。

 

 俺は警戒を解かずに見えなくなったヴァーリの居た場所を注視している。

 

「……今のは中々効いたよ、綾人」

 

 旋風と堕天使の光力を込めた稲妻の嵐が消え去ると、口から血を流しながら服が焦げ落ちて肌が露出して所々が焦げているヴァーリが佇んでいた。

 若干だがヴァーリの足が震えている。

 さすがに悪魔と人間の混血児(ハーフ)のヴァーリには堕天使の光力を込めた稲妻は効果覿面だった様だ。

 

「さてと……ここまで痛めつけられたから、もう出し惜しみは無しだ。良いよな、アルビオン?」

『本気か、ヴァーリ? 未だ目覚めたばかりで碌に制御しきれていないんだぞ。下手をすれば自滅しかねんぞ?』

 

 にやりと笑ったヴァーリの言葉にアルビオンは淡々とまるで言い聞かせる様に語っている。

 

神器(セイクリッド・ギア)は所有者の想いに応えて成長するんだろう? こんな楽しい手合わせなんだ、俺は頗る気分が良い。これなら失敗せずに制御仕切ってみせるさ」

『……分かった。お前は歴代最高の白龍皇だ。信じよう、ヴァーリ。未だに目覚めきれていない淵龍王の小僧に負けるはずがないからな』

 

 会話が終わるとヴァーリは不敵な笑みを浮かべながら俺を一瞥した。

 

 俺はその笑顔に悪寒が走り無意識に一歩引いてしまった。

 

「さあ、いくぞ綾人……禁手化(バランスブレイク)!!」

『Vanishing Dragon Immature Divide!!』

 

 俺の眼の前で絶望が具現化した。

 ヴァーリは白銀の全身鎧に包まれた白龍皇(ディバイン・ディバイディング・)の鎧(スケイルメイル)の姿で佇んでいる。

 

「なん……だとっ……!!? 既に禁手(バランス・ブレイカー)に至っているだとっ!!?」

 

 俺はあまりの絶望感に打ち拉がれ掛かって思わず棒立ちになってしまいそうになった。

 

「まあ、最近至ったばかりでまだまだ未完成だけどね」

 

 ヴァーリは肩を竦めながらもどこか自慢気だった。

 

 生まれ変わった時から淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)を発現させて修行してきた俺でも未だに禁手(バランス・ブレイカー)にまでは至っていない。

 一応愚鈍なりに一生懸命に修行に打ち込んで心技体を鍛えてきたつもりだ。

 だが、覚悟や想いが足りないのか禁手(バランス・ブレイカー)の切っ掛けさえ掴めていない。

 ヴァーリは俺と同年代だが、俺より早く禁手(バランス・ブレイカー)に目覚めていたと言う事か。

 しかも俺より早く神器(セイクリッド・ギア)に目覚めたと言う事はないだろうから、俺より短期間の内に禁手(バランス・ブレイカー)へと至ったと言う事だろう。

 

 くそ!! これが真の天才と言う奴か!!

 所詮凡才は敵わないと言う事か!!

 

「どうした? 隙だらけだぞ。初めて他人に白龍皇(ディバイン・ディバイディング・)の鎧(スケイルメイル)を晒したんだ。簡単に倒れてくれるなよ、綾人?」

 

 一瞬の嫉妬混じりの思考に埋没している間にヴァーリに間合いを詰められていた。

 俺は半ば無意識に打ち込まれる攻撃を淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)で防ぐ事が出来た。

 

『absorb!』

 

 防御した攻撃を自動的に吸収無効化してヴァーリの力を奪った。

 だが俺の力量不足で、防御だけでは攻撃に込められた分の力しか奪えず、根刮ぎ奪う事は今の段階では出来ない。

 

「ふむ……さすがだ、綾人。まさか、不意打ち気味の手加減抜きの攻撃を防がれるとは思ってもみなかった。だが、俺に触れたな。奪われた力を返してもらおうか」

『Divide! Divide! Divide!』

 

 一瞬にして奪い去った力以上に俺の力を複数回半減させられて奪われた。

 

 俺は足の力が抜けて立っていられなくなって、片膝を付きながら項垂れかかった。

 だが未だに闘志は燻り消えていない。

 

「なんだ、もう降参か? 期待はず……」

魔法の射手(サギタ・マギカ)雷の九矢(セリエス・フルグラーリス)!! 雷華崩拳!!」

 

 打ち込んだ魔法を込めた拳は白龍皇(ディバイン・ディバイディング・)の鎧(スケイルメイル)に罅を僅かに入れたが決定打には程遠かった。

 

「力を殆ど奪われて置いてこの白龍皇(ディバイン・ディバイディング・)の鎧(スケイルメイル)に僅かにでも罅を入れるか……嬉しいよ、綾人。君ともっと戦いたい」

 

 声色に喜びの感情を込めながら連打を浴びせてくるヴァーリ。

 俺は動きの鈍い身体に鞭打って、攻撃を捌いたり淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)で防いだりしていく。

 

『absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb!』

「やるな、綾人! だが、直ぐに返してもらおう!」

『Divide! Divide! Divide! Divide! Divide!』

 

 お互いに一歩も引かず攻防を重ねていく。

 ヴァーリが俺に対して攻撃を止めて逃げに転じていないから今は綱渡り状態だが何とか均衡を保っている。

 だが俺の吸収無効化より、ヴァーリの半減の方が奪う力が強く、その天秤もやがては傾いてしまうだろう。

 

 

 

 

 

 

 暫く続いた一進一退の攻防もヴァーリに軍配が上がり、俺は荒い息を吐きながら床に手を付いて動けなくなりつつある。

 

「何だ……もうへばったのかい、綾人? こっちは禁手(バランス・ブレイカー)の継続時間がもうちょっと続きそうなんだけどね」

 

 俺を見下ろしながらどこか不貞腐れた声色のヴァーリ。

 

「仕方ない……君が火事場の糞力を出せる様にあの下級堕天使を殺してみせようか? なら、君も怒りで奮い立つだろう?」

 

 ヴァーリは結界越しにミッテルトちゃんを一瞥して、丸で気軽に買い物でも行くかの様に訊ねてきた。

 

「ほぉ~それは余興しては面白いな。これで折角の神滅具(ロンギヌス)同士の手合わせが終わるのもつまらんからな…‥こい、小娘」

 

 コカビエルが張っていた結界を解除してミッテルトちゃんに手を伸ばしていく。

 

「ひっ、ひぃ!!? いっ、いやっすよ!! だっ、誰か助けてっ!!」

 

 ミッテルトちゃんは腰を抜かしてしまって這う様に後ずさっていっている。

 

「ふっ、巫山戯るな!! 俺の大切なミッテルトちゃんに指一本も触れるんじゃねぇ~!!」

 

 俺は有らん限りの力を振り絞り、震える足を奮い立たせてミッテルトちゃんを守る様に心の底から叫んだ。

 

『これは……綾人! 新たな能力が使用可能だ!』

『Dragon Absorption!!』

 

 俺の想いに応えて淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)が第二形態覚醒へと至った様だ。

 丸かった淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)の上下左右に龍の爪の如き突起が新たに加わった。

 これでやっと俺が前世で考えていた能力の一つが開放された訳だ。

 

矛盾の檻(パラドックス・ケージ)!』

 

 ミッテルトちゃんを守る様に球状のエネルギーシールドが包み込んだ。

 

「何だ、これは?」

 

 コカビエルが手を伸ばすと紫電が走った。

 

「ふん……生意気にも俺の手を傷つけるか。ならばこれでどうだ!!?」

 

 コカビエルは光の槍を具現化してエネルギーシールドに叩きつけた。

 

『absorb!』 

 

 エネルギーシールドは光の槍を吸収して更に強固な守りとなった。

 

「ちっ!! それなら、更に力を込めて……」

「何をしている、コカビエル?」

 

 コカビエルの更なる暴挙を止める様に廊下の奥から声が掛かった。

 

「アザゼルか……いや何、綾人とヴァーリの模擬戦の見届け人をしているのさ」

 

 どこか面白くなさそうにアザゼルさんに答えるコカビエル。

 

「なら、ミッテルトは関係ないな? ほら、さっさと続きを始めさせろ。俺も見学させてもらうからな」

 

 アザゼルさんはミッテルトちゃんを庇う様に立ち塞がっている。 

 

「ああ……分かった」

 

 コカビエルは一瞬悔しそうに顔を歪ませてから結界を張り直した。

 

「……って、あれは白龍皇(ディバイン・ディバイディング・)の鎧(スケイルメイル)か!!? ヴァーリの奴、もう禁手(バランス・ブレイカー)に至ったのか!!」

 

 ヴァーリの姿に気が付いたアザゼルさんは真面目な表情を崩して、丸で玩具を与えられた子供の様な表情を浮かべて燥いでいる。

 

 

 

 

 

 俺は安堵のため息を吐きながら矛盾の檻(パラドックス・ケージ)を解除して、そして己の不甲斐なさに俯いている。

 

 新たな能力に覚醒したとはいえ、アザゼルさんが来なければミッテルトちゃんは殺されていたかもしれない。

 矛盾の檻(パラドックス・ケージ)も吸収限界値を超える攻撃を叩き込まれれば簡単に崩壊してしまう。

 

 耐え難い怒りを感じる。

 ヴァーリやコカビエルに対してではない。

 自分自身の呆れる程の馬鹿さ加減に腹が立つ。

 

 自分の力量不足を言い訳にして、何処かで無意識に諦めていた自分に気が付いて嫌気が差した。

 

 この世界は最早唯の小説に書かれた世界じゃない。

 俺は一読者ではなくここの生きる一人の登場人物として過ごしている。

 俺の想いや行動自体で変えられる事は少ないだろうが皆無ではない。

 

 力が要る!! 大切な者を守れる力が要る!!

 それも今直ぐに!!

 ここで力を示しておかないと絶対に後悔する!!

 

「ナラカ……」

『どうした、綾人?』

 

 俺の言葉に何かを感じ取ったのか、ナラカが緊張した声色で聞き返してきた。

 

「俺が未だ淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)禁手化(バランスブレイク)に出来ないのは覚悟や想いが足りないからだよな?」 

『まさか、綾人!!?』

 

 俺の考えに思い至ったのか驚愕の声を上がるナラカ。

 

「ああ、そのまさかさ……俺の右腕一本くれてやる!! だから力を寄越せ!! 俺に大切な者を守れる力をくれ!!」

『……本当に後悔しないんだな、綾人?』

 

 俺の想いの深さを探る様に尋ねてくるナラカ。

 

「ああ……それで俺の大切な者が守れる力が手に入るなら安いもんだ」

 

 俺は怒りで眉間に寄っていた皺を解き解す様に微かに微笑んだ。

 

「……待たせたな、ヴァーリ。第二ラウンドと洒落込もうか!! 禁手化(バランスブレイク)!!」

 

 俺は淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)が装備された右手を高く掲げて力の限り叫んだ。

 

『Abyss Dragon Multiplication Assimilate!!』

 

 俺の全身を深淵の闇の如き漆黒の鎧が包み込んでいく。

 そのフォルムは龍だけでなく全てを飲み込む深淵の底を思い浮かばせる程真っ暗だが、何故だか不思議と恐怖の感情は一切浮かばない。

 

 一応禁手(バランス・ブレイカー)には未完成ながら至った。

 俺の考えていた亜種化の真の能力は未だに開放されていないだろうが今はこれで十分だ。

 これで戦術の幅が広がった。

 今までが防御の際に攻撃を吸収無効化して力を奪うだけだったが、この禁手(バランス・ブレイカー)では攻撃でも相手の力を奪って自分の力にする事が出来る。

 それに吸収率が眼に見えて上がった様だ。

 まあ、吸収限界値を超えると漏れ出してダメージを負うから見極めないといけない。

 吸収限界値は俺の力量次第で上がるからまだまだ修行が必要だ。

 

「あはははは♪ 良いよ! 良いよ、綾人!! さすがは二天龍に匹敵する深淵の龍(アビス・ドラゴン)の力を宿した淵龍王だよ!! しかも堕天使の幹部の血を引いているなんて最高の好敵手(ライバル)だよ!!」

 

 ヴァーリは狂った様に笑いながら間合いを詰めて攻撃を繰り出してくる。

 俺は敢えて避けずに受けながら、こちらも攻撃していく。

 

『absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb!absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb!』

『Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide!』

 

 ヴァーリもこちらの攻撃を捌きながら半減を行いつつ攻撃を繰り出していく。

 

 第二ラウンドは恰も泥仕合の様になっていった。

 

 

 

 

 

 

 暫くお互いの神滅具(ロンギヌス)の能力を駆使しながら殴り合いを続けていたが、殆ど同時に禁手(バランス・ブレイカー)が解けた。

 

『Burst』

『Burst』

 

 やっぱり禁手化(バランスブレイク)したばかりで持続力に問題がある。

 まあ、白龍皇(ディバイン・ディバイディング・)の鎧(スケイルメイル)も殆ど同時に禁手(バランス・ブレイカー)が解けたのは不幸中の幸いだった。

 これでお互いに自分の持てる力のみで勝負する必要が出てきた。

 

「良いね。楽しいね、綾人!! さあ、もっと君の事を感じさせてくれ!!」

「ふん……この戦闘狂(バトルジャンキー)がっ!!」

 

 お互いに攻撃を捌きながら殴り合っていく俺とヴァーリ。

 だが技量は殆ど横這いでどちらも決定力に欠けていた。

 俺は呪文を唱えて発動する事が出来れば一発形勢有利に持ち込めるのだが、ヴァーリはそんな隙は見せてくれない。

 

 冷静になれ、姫島 綾人。

 蜘蛛の糸程の勝機を引き寄せる為に焦りは禁物だ。

 一つの油断が敗北へと繋がっていく。

 

 俺は身体は熱く、しかし思考は水の様に冷静に保った。

 

 だが、均衡はふとした瞬間に崩れてしまう。

 敢えてヴァーリの蹴りを防御して、その力を利用して間合いを離した瞬間に俺は無性に鼻がむずむずして嚔を我慢出来ずに盛大に解き放った。

 しかも、無意識に魔力を込めて嚔をした。

 

「ふぇっくしょん!!」

 

 途端に風花武装解除が込められた突風が巻き起こった。

 

「きゃあっ!!?」

 

 ヴァーリが乙女チックな悲鳴を上げながら、既にボロボロになっていた衣服が消し飛んで真っ裸になった。

 

 俺の眼にはしっかりとヴァーリの裸体が焼き付いた。

 

 アレ? ない? 付いてない? ナニがって、ナニがだよ。

 えっ!!? うっ、嘘ぉ~!!? もっ、もしかしてヴァーリって女の子なのっ!!?

 

 混乱していた俺の視線がヴァーリに股間に吸い込まれるかの様に注がれている隙に、若干頬を染めて目尻に涙を溜めながらもちっとも隠そうともしないヴァーリの回し蹴りが炸裂した。

 

 俺は膨らみかけの胸と無毛の白板で芸術的な程美しいヴァーリの裸体をガン見して頭に血が昇っており、そこに強烈な一撃を喰らって為す術なく意識を刈り取られていた。

 

「ぐふっ!!? ……ごっ、ごめん……ヴァーリ」

 

 俺は気を失う寸前に見たヴァーリの表情を見て、無意識に搾り出す様に謝罪の言葉を口にした。

 

 もう意識を保てない。

 何だろう、このえも言われぬ美しい芸術品を観賞かの様な気持ちは……

 あっ、駄目だ。堕ちる。

 

 俺は眠る様に意識を閉ざしていった。

 意識が堕ちていく瞬間、脳裏に浮かび上がったのは先程眼に焼き付けたヴァーリの白く美しい裸体だった。

 

 

 

 

 




綾人の始動キーは診断メーカーの【ネギま!】呪文ったーを利用させて頂きました。
⇒http://shindanmaker.com/68582

ありがとうございました。


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第03話

 

 

 

 

 

 夢を観ていた。

 その内容は朧気ではっきりと覚えていないが、先程眼に焼き付いたヴァーリの幼いながらも引き締まった芸術的な裸体を見た影響だろうか、淫夢の類だった気がする。

 画面越しにではなく己の眼で見た穢れのない幼いながらも引き締まった異性の肢体。

 未だ未成熟の愚息に血液が集まっている様に感じられるのは、前世からの精神年齢の高さからなんだろうか?

 まあ、未成熟な身体でも精神年齢の高さからか性欲が間違えなくあるからだろうな。

 前世なら間違えなく夢精してしまっていただろう。

 

 夢見心地から段々と覚醒していくと、自分が拘束されている事に気が付いた。

 手足や首元と腰にベルトが巻かれている。

 どうやら手術台に固定されている様だ。

 

「これは……?」

「よぉ、目が覚めたか? ……さてと、一応懺悔の時間はくれてやる。精々、己の罪深さを悔いるといいさ」

 

 声に視線を横に向けると仏頂面なアザゼルさんが佇んでいた。

 

「あっ、あのぉ~アザゼルさん? 聞くまでもない事ですけど、不可抗力とはいえヴァーリをひん剥いた事に怒ってます?」

 

 俺が尋ねるとアザゼルさんは蟀谷をひくつかせながら睨む様に見下してきている。

 

「嫁入り前の可愛い義理の娘を辱められたんだ……父親として断固としてお前を糾弾する!!」

 

 アザゼルさんって、こんな親馬鹿キャラっだったのかっ!!?

 拙い! 非常に拙い!!

 俺は血の気が引いた様に感じられる身体に魔力を流して身体強化を行おうとする。

 だが何故か小源(オド)を上手く錬れない。

 

「無駄だ。その拘束具はありとあらゆる力を阻害する。勿論、神器(セイクリッド・ギア)も例外じゃない」

 

 怒りに満ちながらもどこか自慢気なアザゼルさん。

 

「さあ、先ずはヴァーリに不埒な真似が出来ない様に去勢してやる!!」

 

 メスと注射器を手に持ちながら躙り寄ってくるアザゼルさん。

 その眼には狂気が宿っていた。

 

 じょっ、冗談じゃない!!

 犬猫じゃあるまいし、性交も経験しないまま終われるかぁ~!!

 

 焦る思考を無理矢理押さえ込んで、呼気を整えて全身の筋肉に力を入れていく。

 だが、やはり拘束具はびくともしない。

 

 徐々に距離が詰まってくる恐怖に思わず眼を瞑ってしまう。

 

 正に首筋に注射器の針が宛てがわれた瞬間、部屋の扉が蹴破られる様に開け放たれた。

 

「アザゼル、何をしているんだ?」

 

 聞き覚えのある声に眼を開けると、どこか呆れと安堵の表情が入り混じったヴァーリが仁王立ちしていた。

 

「いっ、いや……こっ、これは……そっ、その……」

 

 一転して狼狽えた様子のアザゼルさん。

 

 助かった。もう少しで物理的にお婿に行けない身体にされるところだった。

 

「やっぱり言えないか。仕方ない……()()()()()()()()!!」

 

 侮蔑の表情で一言一句吐き捨てる様に言い放ったヴァーリ。

 

「はぅ!!?」

 

 アザゼルさんはショックに打ち拉がれて気絶して倒れ込んでしまった様だ。

 そのアザゼルさんを無視するかの様に俺に歩み寄ってくるヴァーリ。

 

「大丈夫か、綾人? 今、拘束を解いてやるからな」

 

 頬を僅かに朱色に染めながら俺と目線を合わさない様にベルトを外していくヴァーリ。

 

 暫く続いた無言の空気に俺も思わずヴァーリから視線を逸らしてしまっていた。

 

 

 

 

 

 顔を合わせようとしないヴァーリに手を引かれて長い廊下をお互いに無言で歩いていく。

 

 暫く歩いているとヴァーリの私室らしい部屋の前にたどり着いた。

 扉には意外と乙女チックなネームプレートが付けられていた。

 

「小汚い部屋だけど、上がってくれ」

「ああ……お邪魔します」

 

 誘われるままヴァーリの私室へと入っていった。

 その部屋は殺風景とまではいかないものの、必要最低限の家具しか置かれていなかった。

 

 ヴァーリはベッドに腰掛けて、無言で隣を叩いて俺に座る様に促している。

 

 俺は生唾を飲み込みながら、ヴァーリから少し離れて腰を下ろした。

 

「「……あっ、あの!! そっ、そっちからどうぞ」」

 

 お互いに同時に振り向いて眼が合い、譲り合う俺とヴァーリ。

 

「…………」

「…………」

 

《コンコンコン》

 

 気まずさと恥ずかしさで黙り込んでしまった空気を払拭する様にノックが響き渡った。

 

「失礼するっす。飲み物をお持ちしたっすよ」

 

 扉越しにミッテルトちゃんの声が掛けられた。

 

「ありがとう、鍵は掛かってないから入ってきてくれ」

 

 ホッとした様な表情を浮かべながら促すヴァーリ。

 

「お邪魔するっすよ」

 

 お盆を片手に掲げて扉を開けて入ってきたミッテルトちゃんは若干怯えた様子で部屋に入ってきた。

 俺と眼が合うと安堵のため息を小さく吐いた。

 そして、俺とヴァーリの距離感を見て、嫉妬からか若干眉を顰めた気がした。

 

 

 

 

 

 

 ミッテルトちゃんが持ってきてくれたジュースを飲み干して一息吐くと、緊張も少しは和らいだようだ。

 それはヴァーリも同じな様で、中性的な笑みを浮かべながらミッテルトちゃんを後ろから抱きしめながら、向き合った俺を見詰めてきている。

 

「ああ……やっぱり女の子は良いね。暖かい上に柔らかいし、良い匂いで落ち着くよ」

 

 ミッテルトちゃんの首元に鼻を近づけながら恍惚の表情で匂いを嗅いでいるヴァーリ。

 そしてされるがまま、緊張で凝り固まっているミッテルトちゃん。

 

 俺は助けを求めてきているミッテルトちゃんの視線に、多少苦笑しながら頷き返した。

 

「ヴァーリ……ミッテルトちゃんが困っているから離してあげてくれないか?」

「嫉妬かい、綾人? もうちょっと堪能したいけど仕方ないか」

 

 俺の言葉に渋々といった表情でミッテルトちゃんを開放したヴァーリ。

 ミッテルトちゃんは直ぐ様ヴァーリから離れると、俺の背に隠れる様に凭れ掛かって肩越しにヴァーリの様子を伺っている。

 

「おや、羨ましい……まあ、あんな事を言って嫌われてしまったかな?」

 

 ヴァーリはおどける様に肩を竦めながら眼は楽しそうに笑っている。

 だが直ぐに真剣な表情をして身を正した。

 

「俺としては可愛い女の子とは仲良くしていきたいんだ……綾人を焚きつける為とは言え、君を出汁にして悪かった。本当にごめん」

 

 ヴァーリはしっかりと頭を下げながらミッテルトちゃんに謝ってきている。

 

「頭をあげて欲しいっす。確かに驚いたっすけどね……不甲斐ない綾人が悪かったって事で手打ちにするっすよ」

 

 ミッテルトちゃんは手を差し出しながら、若干ぎこちなさが残るものの笑みを浮かべている。

 

「ありがとう……」

 

 ヴァーリは嬉しそうな笑みを浮かべてミッテルトちゃんの手を握り返した。

 

 

 

 

 

「さてと……次は綾人の弾劾裁判を開廷するっすよ」

 

 暫く俺をほっといてヴァーリと談笑していたミッテルトちゃんが徐に俺に指を突きつけながら言い放ってきた。

 ヴァーリは一瞬きょとんとした表情を浮かべたものの、思い当たったのか若干頬を染めながら俺を上目遣いに見詰めてきている。

 

「罪状、被告人姫島 綾人……幼気なる少女をあろう事か無理矢理ひん剥いた罪は万死に値するっすよ!! 被害者ヴァーリ。被告人にどんな刑を執行するっすか?」

「えっと……確かに裸を見られたのはちょっと恥ずかしかったけど……まあ、悪気があった訳じゃなそうだし……」

 

 ヴァーリは俺をちらちらと盗み見る様に見てきている。

 

「甘い! 甘いっすよ、ヴァーリ!! 乙女の柔肌を晒してあろう事か眼を背けずに凝視したんっすよ!! せめて慰謝料をふんだくる事ぐらいはしないと駄目っすよ!!」

 

 腰に手を当てながらヴァーリに詰め寄るミッテルトちゃん。

 

「えっと……じゃあ、これからも俺と手合わせを欠かさずするって事で……」

 

 ヴァーリはミッテルトちゃんの勢いに押されながらも自分の意見を述べた。

 

「本当にそれだけでいいっすか? 何なら責任を取らせて婚約って事にしてもいいっすよ?」

 

 どこか面白そうにヴァーリに訊ねているミッテルトちゃん。

 

「あっ、それはいいさ……やっぱり結婚するとなると俺より強い奴じゃないとな。綾人は及第点はやれるが、まだまだ負ける気はしない」

 

 好戦的な笑みを浮かべながら俺を見下す様に見詰めてくるヴァーリ。

 

「確かに最終的には負けたさ……だが直ぐに追い抜いてやるよ、ヴァーリ!」

 

 俺は若干むっとしながらヴァーリをしっかりと見返して答えた。

 

「楽しみだ。俺を失望させてくれるなよ」

 

 何処か嬉しそうに微笑んでいるヴァーリ。

 俺はその笑みが戦いに飢えている獣の様に感じられたが、ミッテルトちゃんはどうやら違う意味で捉えていた様で、微笑ましい者を見る様に俺達を見詰めていた。

 

「さてと……じゃあ、これでお開きにするっすかね。送っていくっすよ、綾人」

 

 時計を一瞥して俺に手を差し出してくるミッテルトちゃん。

 俺はヴァーリに見られていて、何時もより照れながらもしっかりと手を握り返した。

 

「じゃあ、また明日な」

「ああ……待っているよ」

 

 俺とヴァーリはお互いに再戦の約束を言外に行いながら微笑みあった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 右腕を犠牲に支払い禁手(バランス・ブレイカー)に至った代償はやはり小さいものではなかった。

 気を抜けば右腕はドラゴンそのものとなって日常生活に支障を来す。

 まあ、家庭の事情で学校に碌に通っていない俺には些細な問題かな。

 だが姉ちゃんはそんな俺を何時も心配そうに眺めていた。

 幼い頃から自分を虐め抜いていき修行に明け暮れていて日頃から満身創痍な俺に何処か近寄りがたいものを感じていただろうに、姉ちゃんは最近は意を決して話しかけてきてくれている。

 まあ、眠っている性癖でそんな俺に熱を帯びた様な視線を向けているのはご愛嬌か。

 未だに覚醒してないのに仄かにSの気質を匂い立たせている。

 

「お帰りなさい、綾人……今日もお疲れ様」

 

 ドラゴンの氣に因って異形の腕になっている右手を愛おしそうに抱きしめながらほほ笑みかけてくる姉ちゃん。

 

「さあ、儀式の準備が出来ているよ。行こう」

 

 姉ちゃんは俺の腕を抱きしめながら引っ張る様に歩いていく。

 

 そうなのだ。

 高位の悪魔なら簡単にドラゴンの氣を散らせる様に、五代宗家の一つである姫島家にもその様な秘術が伝わっていた様だ。

 最初は母さんだけが儀式を行っていたが、最近は幼いながらも姉ちゃんがサポートに回って一緒になって術を行ってくれている。

 幼いながらもあどけなさと妖艶さが入り混じった表情で俺の指を舐めしゃぶる姿を見ていると、何故だが背筋が痺れていって何時しかそれが快感へと変わるのに時間は掛からなかった。

 今日もあの快感に抗わなければならないと思うと、嬉しい半面気が重くなる。

 我ながらシスコンの気があったのか、俺のために幼い姉ちゃんが危険と隣り合わせの儀式をしてくれる姿に感謝以外の感情も感じている。

 まあ、面と向かって姉ちゃんに好意を向けるのは気恥ずかしく、ついつい素っ気ない態度を取ってしまうのは前世から続く男の意地みたいなものかな。

 

 

 

 

 

 今日の儀式も一応無事終わった。

 包帯替わりの防水加工済みの護符が丸で俺を厨二病患者の様な風体に仕立て上げている。

 姉ちゃんが若干潤んだ眼で俺を見詰めていたので逃げる様に慌てず素早く母屋へとやってきた。

 今日も今日とてヴァーリとの模擬戦でかいた汗を流すために夕食前に風呂へと向かう。

 脱衣所で徐に服を脱ぎ捨てて、姿見の前で自分の身体を客観的に観察する。

 

 ふむ。年齢の割に筋肉が付いてきて引き締まっているかな。

 まだまだ鍛えていく余地は残っているので、亀の行進の様に緩やかだがじっくりと鍛えていこう。

 千里の道も一歩からと言うしな。

 努力で鍛えた身体は俺の想いを裏切らないからな。

 鍛えていって少しでも強くなっていく事は楽しい。

 まあ、生傷が絶えないのは俺の実力不足だから仕方がない。

 あまり血を流しすぎると成長にも悪影響を与えるから気を付けないとな。

 

 

 

 

 

 頭と顔を洗い終わって身体を洗うために手拭に石鹸を擦りつけて泡立てていると、脱衣所の方から見知った気配が感じられた。

 思わず振り返ると、扉越しに衣擦れの音が聞こえてきた。

 

 ちょっ!!? まっ、まさかっ!!?

 

 今まではそこまで過剰なスキンシップを取ってこないから油断していた。

 

 俺がパニックを起こして固まっていると、徐に扉が開け放たれて一糸纏わぬ姉ちゃんが入ってきた。

 

 引き締まったヴァーリとは違ったぽっこりとしたイカ腹や膨らみかけの胸と無毛の縦筋が丸で白い陶磁器の様な身体を形作っている。

 

 俺は思わず生唾を飲み込みながら姉ちゃんの肢体に魅入っている。

 

「あはぁ♪ そんなに見詰められると照れるの」

 

 僅かに朱色に染まった頬に手を添えながら、俺を愛おしそうに見詰めている姉ちゃん。

 

 俺は頭を振りかぶって煩悩を払い除けた。

 

「ねっ、姉ちゃん!!? 今、俺が入っているから後で……」

 

 俺は自分の股間を手拭で隠しながら姉ちゃんに背を向けながら縮こまっている。

 

「何を恥ずかしがっているの? 昔は一緒に入っていたのに……」

「幾つの時の話だよ! ……ってか、出て行ってよ!!」

 

 俺は思わず叫ぶ様に言い放った。

 

「酷いの、綾人……お姉ちゃんの事嫌いなの?」

 

 目尻に涙を溜めながら俺の背中に抱きついてきて、肩越しに俺の顔を見詰めてきている姉ちゃん。

 その手は抱きしめるかの様に俺の胸板に伸ばされている。

 

 はぅわぁ!!?

 小振りながらもしっかりと自己主張している胸が俺の背中に当たっている。

 いかん!!

 意識すると余計に胸や柔肌の感触や女の子特有のミルクの様な甘い香りが如実に感じられる。

 

「べっ、別に嫌いじゃない……」

 

 俺は心の中で般若心経を唱えながらぽつりと零す様に言った。

 

「良かった♪ じゃあ、お背中流すね」

 

 姉ちゃんは満面の笑みを浮かべながら股間の手拭へと、その細い指を伸ばしてきた。

 小振りな胸が更に背中に押し付けれれる。

 

「ちょっ!!? 手渡すから背中から離れてっ!!?」

 

 俺は身を捩りながら文字通り姉ちゃんの魔の手から少しでも逃れようとした。

 

 俺の抵抗が実ったのか、姉ちゃんは渋々といった感じで背中から離れてくれた。

 

 危なかった。

 今股間に触れられるとさすがに理性を保っていられる自信がない。

 いや、まあ、未だ勃起するほど身体は成長してないんだけれどね。

 精神は前世で既にアラフォーに近い年齢だった影響か、転生してから未だに二次性徴まで到てないのに性欲は既に溢れんばかりだしね。

 これで思春期を迎えたら一誠の事が悪く言えないぐらいエロい少年にならないだろうか。

 まあ、今から考えていても仕方がない。

 今はこの辛く嬉しい甘美な時間を乗り切る事に集中しよう。

 

「はい、姉ちゃん。よろしくお願いします」

 

 俺は成る可く振り向かない様にしながら、姉ちゃんに手拭を手渡した。

 

「はい、お任せあれだよ♪」

 

 姉ちゃんは鼻歌交じりに俺の背中を擦っていく。

 

 弱すぎず強すぎず心地いい感触。

 思わず感嘆のため息が吐いて出る。

 

「うふふふ♪ 気持ちよさそうで、良かったの。さあ、前も洗ってあげようか?」

 

 耳元で囁く様に尋ねてくる姉ちゃん。

 

「まっ、前は自分でするよ!!」

 

 俺は引っ手繰る様に手拭を受け取って胸やお腹、それと股間を洗っていく。

 そして足も忘れない様に洗っていった。

 

「はい、じっとしてね」

 

 洗い終わると姉ちゃんが湯桶でお湯を汲んで泡を洗い流してくれた。

 

 泡と共に湧き出た煩悩も流れていくんなら良かったのにな。

 

 俺はそっとため息を吐いた。

 

 

 

 

 

「じゃあ、今度は私の番だね。綾人、先ず髪を洗うのを手伝ってくれる?」

 

 俺は無言で頷いて、絹の様な姉ちゃんの髪を梳く様に洗っていく。

 俺の髪とは違って滑らかな手触りで思わず頬擦りしたり匂いを嗅いだりしたくなってしまう。

 まあ、さすがにそんな変態チックな性癖は持ち合わせてないので自重する。

 

 しなやかでボリュームのある姉ちゃんの髪を洗うのは一苦労だった。

 

 湯桶を持って姉ちゃんの頭からお湯を何度も被せて泡を洗い流していく。

 

「ふぅ……さっぱりしたの。次は背中をお願いするの」

 

 姉ちゃんは髪を結い上げて背中を露にする。

 

 俺は姉ちゃんの背中を傷付けない様に、そっと撫でる様に洗っていく。

 

「あん♪ 擽ったいよ。もっと、力を入れてもいいの」

 

 肩越しに振り向きながら力加減の要望を行ってくる姉ちゃん。

 

「分かった……」

 

 俺は成るべく無心になりながら力加減を調整していく。

 

「うん。これぐらいが丁度いいの」

 

 姉ちゃんは嬉しそうに微笑みながらゆっくりと感嘆のため息を吐いている。

 

「前も洗いたい、綾人?」

 

 背中を洗い終わり手拭を手渡そうとすると、あどけなさと妖艶さが入り混じった表情で尋ねてくる姉ちゃん。

 

 俺は逃げる様に湯船に浸かって顔を逸らした。

 

「残念……お姉ちゃんも直ぐに入るから待ってね♪」

 

 姉ちゃんは心なしか若干手早く身体を洗っていっている気がする。

 

 

 

 

 

 さすがに百を数えきる前に湯船から上がるわけにもいかず煩悩を振り切る様に一心不乱に数を数えていると、姉ちゃんが身体を流し終わって湯船に浸かってきた。

 母さんと姉ちゃんと俺とが一緒に入っても若干余裕が有る筈なのに、姉ちゃんは寄り添うようにぴったりと引っ付いて俺の肩に頭を預けながらご機嫌そうに鼻歌を歌っている。

 

 結局上がるタイミングを見失い、母さんが声を掛けてくるまで姉弟で湯中りしそうなぐらい湯船に浸かっていた。

 

 

 

 

 

 この日から姉ちゃんが風呂に乱入してくるのが日課となった。

 そして一緒の布団で寝る様になった。

 

 多分だが姉ちゃんは俺の話に出てくるミッテルトちゃんやヴァーリに嫉妬していたんだと思う。

 いや、俺自身にも嫉妬は向けられていたのかもしれない。

 弟の俺が友達、しかも女の子と過ごしているのに、姉ちゃん自身は外との交流が全く皆無と言っていい程だ。

 まあ、堕天使の血を引く俺と姉ちゃんが一般人と相容れないのは自明の理だ。

 姉ちゃんにとっては俺が唯一同年代の遊び相手となる筈なのに、俺は日中修行に明け暮れていて遊ぶ事は殆どない。

 自惚れるなら少しでも俺と居る時間を共有したい姉ちゃんは家に居る時間は成るべく一緒に過ごしたいのだろう。

 最初は恥ずかしがっていた俺も何時しか折れて、時間の許す限りは姉ちゃんと過ごすようになっていった。

 そんな俺と姉ちゃんの様子を母さんは微笑ましいものを見る様に見守ってくれていた。

 少し気恥ずかしいが心から安らげる時間は何時までも続いて欲しいものだと真摯に願っていたが、運命はそれを許さなかった。

 そうなのだ。

 原作準拠の姫島本家から襲撃の時は、俺の願いを打ち砕くかの様に着々と迫って来ていたのだった。

 

 

 

 

 




執筆している内に当初の予定よりヴァーリの乙女度が若干上がった気がします。
拙作のヴァーリ(♀)は戦闘狂なところは原作準拠ですが、両刀使い(バイセクシュアル)の気があります。
強い者も好きですが、可愛い者はもっと大好きです。
因みに髪型と普段着はFate/Apocryphaのモードレッド(赤のセイバー)をイメージしてます。
臍出しルックでホットパンツからすらりと伸びた太股(おみ足)は大好物です(*´﹃`*)

朱乃は小学生相当と言う事で口調を変えてみました。
一応数少ない原作の描写を参考にしましたが、今一しっくりときませんでした。
こちらも執筆している内にブラコン度がかなり上昇しました。
このまま原作開始時まで行くと、依存レベルまでブラコンが昇華しそうです。
一応朱乃は一誠ヒロインの予定ですが、原作並に一誠惚れる描写が書ききれるか少し心配になりました。
ですが紳士の皆様のご意見を参考しして朱乃も綾人(オリ主)のヒロインに大抜擢されました。
朱乃と綾人(オリ主)は一応血の繋がった姉弟です。
うん、背徳的ですな。


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第04話

 

 

 

 

 

 雨が降りしきる黄昏時。

 俺の今の心情を表すかの様な大粒の雨模様だ。

 今日はミッテルトちゃんは用事があったらしく会えていない。

 それで何処か上の空で、手合わせ中にヴァーリに身が入っていないと怒れれてしまった。

 俺は己の不甲斐なさに思わずため息を吐いてしまう。

 

 少し歩きたい気分なので家から離れた場所に魔法陣で転移した。

 傘も差さずに雨に濡れて歩いていく。

 

 家の側まで帰ってくると違和感を感じた。

 敷地の中から複数人の気配が感じられる。

 しかもご丁寧に殺気や怒気まで感じられる。

 

 まっ、まさかっ!!?

 くそ!! 選りに選って今日が襲撃日かっ!!?

 

 俺は焦る気持ちを抑えられずに走り出した。

 

「待っていたぞ、穢れた異形の血を宿し者の片割れよ! 今ここで疾く果てよ!!」

 

 リーダー格の男が言い放つと周りの男達が呪符を散蒔く。

 すると呪符から護鬼達が魑魅魍魎の如く湧き出してきた。

 その様は正に百鬼夜行と呼ぶに相応しい光景だった。

 

 俺は一度深呼吸をしてから焦る気持ちを無理矢理落ち着かせた。

 

 落ち着け、姫島 綾人。

 まだ最悪の状態じゃない。

 焦って時間を取られるより、冷静に対処して最短時間で母さんや姉ちゃんを助けに行く。

 

『Count Down!』

 

 一応努力はしているがまだまだ修行不足と言えるので禁手化(バランスブレイク)するには少しばかり時間が掛かる。

 しかもその間は吸収無効化は使用できない。

 魔法や体術のみで敵を往なす必要がある。

 

 こんな時こそ闇の魔法(マギア・エレベア)が完全に習得できていればいいのだが、俺の前世は平凡なアラフォーの汚っさんだったので心の闇なんてご大層なものは持ち合わせていないし、全てを受け入れられる気概も持ち合わせていない。

 何とか形にするだけは出来ているが、殆ど見掛け倒しで使い物にならないどころか心身共に蝕まれてしまう。

 幾ら転生特典で使用出来る土台と十全に操るための知識を持っていてもこれでは宝の持ち腐れである。

 

 だが、今は無い物強請りはしても仕方が無い。

 俺の敗北は自身の死だけでなく、母さんや姉ちゃんの死へも直結するだろう。

 原作通りなら姉ちゃんだけは助かるかもしれないが、原作知識が役立つかどうかは甚だ疑問だ。

 参考程度ならいいが、原作知識を当てにしすぎると手痛いしっぺ返しを受けるだろう。

 何せ、男な筈のヴァーリが俺っ娘だったしね。

 まあ、ヴァーリはアレで俺にとって良い変更点と言えるけどね。

 

 思考に半ば埋没していると周囲を囲む様に護鬼達が跋扈してきている。

 術者達は俺の瞬動術の間合いの外から弓矢を構えている。

 

 護鬼達が一斉に襲いかかってきて、合間を縫う様に呪禁を込められた矢が打ち込まれてきた。

 

 直ぐ様、思考を戦闘モードへと切り替えていく。

 護鬼達の攻撃は如何せんヴァーリの攻撃に比べると練度が低くて魔法障壁を手に集中させた風楯(デフレクシオ)で簡単に防げる。

 俺はカウンター主体で桜華崩拳を打ち込んでいき、護鬼達を核となっている呪符ごと破壊して送還していく。

 呪禁を込めた矢は当たれば驚異だが、問題なく対処出来ている。

 問題があるとすれば、俺がここで足止めされている内に別働隊が母さんや姉ちゃんを害する事である。

 

 護鬼達は一撃で倒す事が出来るが、次から次へと新たに投入された呪符から召喚されていって限がない。

 

 ここは一つ大技で術者ごと倒す必要がある。

 俺に相手を殺す覚悟が持てなくて、生かしたまま無力化するの難しいと頭では分かっている。

 俺にそこまでの技量があるとも思えない。

 母さんと姉ちゃんの安全と俺が手を汚す事を天秤に掛けて思わず悩んでしまう。

 

 悩むな! 姫島 綾人!!

 殺らなくて手間取って母さんや姉ちゃんが害されるより、殺って直ぐ様に助けに行って母さんや姉ちゃんが明日も笑って生きられるなら、後者を選ぶべきだ!!

 

 神様。折角祝福をくれて魂を予約してくれたが、俺は修羅道へと堕ちるかもしれない。

 それでも見捨てないなら、蛮勇でも構わない。俺に一握りの勇気をくれ!!

 

「ナラカ……」

『ああ……私は綾人を否定はしない。罪は私も一緒に背負おう』

 

 生まれ変わった時から連れ添った相棒(ナラカ)が一緒なら、俺の心は荒まず壊れずにすむだろうか。

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)!! 連弾(セリエス)光の97矢(ルーキス)!!」

 

 俺は詠唱破棄で光の矢を散蒔いて派手に攻撃して煙幕を張って自身の姿を隠した。

 そして堕天使の羽を背中から四枚出して上空へと一気に駆け上がった。

 俺は半ば罪悪感を押し殺して、炉端の石を見詰める様に眼前の敵を見下ろした。

 

 烏天狗等の羽を持った護鬼達が慌てた様子で俺に迫ってきている。

 弓矢も射程距離外だ。

 十分な間合いを持って呪文を唱える時間が稼げた。

 

「ハイティ・マイティ・ウェンディ! 契約により我に従え(ト・シュンポライオン・ディアコネートー)高殿(モイ・バシレク・)の王(ウーラニオーノーン)来れ巨神を滅ぼす(エピゲネーテートー・アイタルース)燃ゆる立つ(ケラウネ・ホス・ティテーナス・)雷霆(フテイレイン)遠隔補助(ヤクトゥム・エクステンデンテース)魔法陣展開(キルクリ・エクシスタント)第一から第十(カプテント・オブイェクタ・アー)目標捕捉(プリームム・アド・デキムム)範囲固定(アーレア・コンステット)域内(イントゥス・セー・)精霊圧力(プレ マント・スピリトゥス)臨界まで(アド・プレッスーラム・)加圧(クリティカーレム)(トリプス)……(ドゥオーブス)……臨界圧(モド)拘束(カプトゥラム・)解除(ディスユンゲンス)(オムネース・)(スピリトゥス・)(フルグラノレース)全力(フォルティッシメー・)解放(エーミッタム)!! 百重千重と(ヘカトンタキス・カイ)重なりて(キーリアキス)走れよ(アストラ)稲妻(プサトー)!! 千の(キーリプル・)(アストラペー)!!!!」

 

 堕天使の光力を混ぜ込んだ稲妻が敵全体を蹂躙する様に飲み込んだ。

 

 激しい爆音と稲光が収まると護鬼達は消え失せて、術者達は黒焦げで煙を吐きながら倒れ臥している。

 

 俺は一瞬眉を顰めたが、無表情でその光景を眼に焼き付けた。

 意識すると罪悪感が沸き起こり、嘔吐いてしまいそうだ。

 

『綾人、気にするなとは言わん。だが、あまり気に病むなよ……それと禁手化(バランスブレイク)の用意が出来た。何があるか分からんからな。禁手化(バランスブレイク)しておけ』

「ああ……禁手化(バランスブレイク)!!」

 

 俺は己の想いを込めて不安を吹き飛ばす様に叫んだ。

 

『Abyss Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)が一度漆黒の闇の如きオーラへと変化して全身を覆った。

 オーラは全身を隈無く包み込んで漆黒の鎧へと変化した。

 未完成時と違って胸元から腹に掛けて牙が噛み合った大きな顎門がデザインされている。

 

 禁手(バランスブレイカー)は亜種化しており、銘は淵龍王の喰種鎧(アブゾーブ・グール・メイル)である。

 通常能力は防御だけでなく攻撃でも対象の力を吸収して奪う。

 奪う力は触れていた時間や手数に応じて吸収率が変化する。

 更に亜種化の能力は弱らせた対象から奪った血肉を因子に変化させて吸収する事である。

 そして吸収した因子で対象の能力を複製して身に付ける事が出来る。

 その上、吸収した因子で己の力の限界値を引き上げられる。

 こちらも所有者の力量に寄って吸収限界値が上がる。

 

 俺は焼け焦げた術者達に手を触れた。

 

『drain!』

 

 姫島家所属の術者達の因子を吸収する。

 倒した相手を無駄にせずに文字通り己の糧し、その命を奪った罪諸共飲み込んでいく。

 

 短く黙祷を捧げた。

 そして気持ちを切り替えて母屋へと駆け出していった。

 

 その際、走りながら呪文を詠唱しておいて魔法を貯めておいた。

 

 

 

 

 

 母屋へと駆け込んだ俺が眼にしたのは血塗れの母さんを抱きしめながら泣いている姉ちゃんの姿であった。

 母さんは肩で荒く息をしていて瀕死の状態だ。

 痛々しい傷口から血を流して巫女装束を真っ赤に染めている。

 

 その傍らには血のこびりついた刀を持った男が佇んでいた。

 

 遅かったのかっ!!?

 くそ!! 俺は何の為に力を欲したんだ!!?

 何のためにこの手を血で汚したんだ!!?

 

 心に闇が巣食っていく感覚に陥っていきそうになる。

 俺は眼の前の現実に膝を折りそうになった。

 

 だがそれでも諦める訳にはいかない!

 まだ、母さんは死んでいない!

 だが、早く治療しないと命に関わる。

 

 俺は瞬動術を使って一気に母さんと姉ちゃんを庇う様に男の対峙した。

 

「あっ、綾人なのっ!? 母さまが私を庇って……!!」

 

 姉ちゃんが半狂乱になりながら母さんに縋っている。

 

「遅れてごめん、姉ちゃん……直ぐにこいつを倒すから母さんをお願いするよ」

 

 俺は男から視線を外さず睨みつけながら、姉ちゃんを落ち着かせる様に成るべく優しい声色で語りかけた。

 

 一応巻き込まない様に母さんと姉ちゃんを矛盾の檻(パラドックス・ケージ)で包み込んだ。

 

「その姿は……なる程、神器(セイクリッド・ギア)か。しかも、その年齢で既に禁手化(バランスブレイク)しているのか。末恐ろしいな。やはり驚異の芽は絶たねばなるまい」

 

 男は一瞬驚きに眼を見開いたが、直ぐに刀を中段に構えて隙のなくじりじりと間合いを測っている。

 

「悪いけど時間がないから手加減出来ないよ……開放(エーミッタム)魔法の射手(サギタ・マギカ)!! 連弾(セリエス)光の1001矢(ルーキス)!! 桜華乱舞!!」

 

 俺は予め貯めておいた魔法をオリジナルの乱打と共に開放した。

 

『absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb!absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb!』

 

 相手も霊力の篭った刀で防御するも乱打が当たる度に霊力を吸収していき、遂には罅が入って砕け散った。

 驚愕の表情に歪んだ男の身体に乱打を浴びせて更に霊力を吸収していった。

 

「がっはぁっ!!?」

 

 男は全身骨折を負いながら吹き飛んで気を失った。

 

『Limit Over!』

 

 相手の霊力が高かったせいか、吸収限界値を超えた霊力が刃となって俺の身体を傷つけた。

 俺は全身傷だらけになり血を流しながら膝をついた。

 さすがに禁手(バランスブレイカー)を維持出来なくなり淵龍王の喰種鎧(アブゾーブ・グール・メイル)は霧散する様に解けてしまった。

 母さんと姉ちゃんを包んでいた矛盾の檻(パラドックス・ケージ)も解けてしまっている。

 

「あっ、綾人!! 大丈夫っ!!?」

 

 母さんを抱き抱えたまま姉ちゃんが目尻に涙を溜めながら訊ねてきた。

 

「うん……なんとかね。俺の事より母さんだ!」

 

 俺は母さんの脈と呼吸を確認した。

 微弱だがまだ持ち堪えていた。

 だが残された時間は少ない。

 あまりにも血を流しすぎている。

 

「姉ちゃん……酷だけど、立てるかい? 母さんを病院に連れて行かないといけない。救急車を呼んでくれ」

 

 血を流している影響で俺も気を失いかねない。

 俺は術者から力を奪った際に序でに手に入れていた治療符で、母さんと俺自身を応急手当しながら頼んだ。

 

「うっ、うん! 分かったの!!」

 

 姉ちゃんは慌てた様子で駆け出していった。

 

 俺はその様子を見ながら余談を許さない状況に歯軋りをしていた。

 

 くそ!!

 詳しい時期は分かっていなかったが襲撃がある事は理解出来ていた。

 それなのに未然に防ぐ事は出来なかった。

 やはり、一人では出切る事が限られている。

 これからも襲撃はあるだろう。

 誰かに頼る勇気も必要か。

 だが、堕天使の血を引く俺や姉ちゃんが頼れる人物は限られている。

 神の子を見張る者(グリゴリ)に頼るのも手だが、それでは原作とあまりに乖離してしまう。

 俺のエゴだが折角転生したのだから成るべく原作の流れは踏襲したい気持ちも確かにある。

 まあ、俺だけで思い悩まずに姉ちゃんに相談しよう。

 問題は原作知識を説明せずに姉ちゃんを説得出来るかだよな。

 

 俺は思わず深い溜息を吐いていた。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと母さんは何とか一命を取り留めた。

 だが血を流しすぎていて意識が戻らなかった。

 

 俺は幸い流した血の量が少なかったからか輸血すると直ぐに動けた。

 だが心はどこか軋んでいて、憔悴した表情の姉ちゃんの手を握りながら一緒に母さんの側にいた。

 

「ねえ、綾人……?」

 

 姉ちゃんは憔悴から目尻に隈を作っていた。

 その表情は思い悩んでいる様で固かった。

 

「何、姉ちゃん?」

 

 俺は姉ちゃんを安心させるために抱きしめながら耳元で囁く様に聞き返した。

 

「姫島家の本家の人達が襲ってきたのは、私が堕天使の血を引いているからだよね?」

「うん……多分、間違いなくそうだろうね。姫島家の人達からしたら汚点……母さんは堕天使に奪われて手篭めにされて、俺と姉ちゃんは産み落とされた忌み子として認知されているだろうね」

 

 巫山戯るなよな!!

 母さん父さんは心の底から愛し合っていた。

 その愛の結晶が姉ちゃんと俺なんだ。

 まあ、お互いの愛情表現は世間一般から離れているけどね。

 

「私達って生まれてきちゃ駄目っだったのかな?」

 

 姉ちゃんは涙を流しながら呟くように訊ねてきた。

 

「そんな事はないよ、姉ちゃん……例え、姫島家の本家が俺達を否定しても、母さんが俺達を心の底から愛してくれているのは間違えじゃないんだから!」

 

 俺は力強く姉ちゃんを抱きしめながら答えた。

 

「そうだよね……母さまは愛してくれているんだよね。でも、私が堕天使の血を引いているから母さまは……」

 

 姉ちゃんはどんどん不安になって悪い方向へと精神が陥っていっている。

 

「姉ちゃんは俺の事嫌い?」

 

 俺は鬱に成りかけている姉ちゃんに酷なようだが訊ねた。

 

「綾人は大切で大好きな弟だよ!!」

 

 姉ちゃんは涙を流しながらもしっかりと俺の眼を見つめて力強く言った。

 

「うん。俺も大好きだよ、姉ちゃん。だから自分の事を嫌いにならないでね」

 

 俺は精一杯の笑みを浮かべて姉ちゃんの眼を見つめ返した。

 

 姉ちゃんはぎこちないながらも微笑み返してくれた。

 

 

 

 

 

 病院側の好意で今日は母さんの病室に泊まる事が出来た。

 簡易ベッドを二つ並べて姉ちゃんと寄り添うように横になる。

 さすがに病院には襲撃は来ないだろう。

 一応警戒はしておくに越した事はないが、休める時はしっかりと休息を取っておこう。

 

「ねえ、綾人? やっぱり母さまとは一緒に居れないよね。私達が一緒に居れば今度こそ母さまは死んじゃうかもしれない」

 

 姉ちゃんは俺の手を取り、幼いながらも瞳に決意を宿しながら訊ねてきた。

 

「そうだね。俺たちだけじゃそうかもしれない。でも、母さんは然るべき所……例えば、神の子を見張る者(グリゴリ)の施設に預けて、俺達も保護してもらうのが一番理想的だと思う」

 

 俺は自身も迷いながら姉ちゃんに意見の提案をした。

 

「確かにそれがいいのかもしれないね……でも、私の我儘かもしれないけど父には、堕天使には頼りたくない! 母さまや私が襲われているのに父は助けに来てくれなかった!! 助けに来てくれたのは綾人だけだった!! それに私が憎悪を向けれらたのは父の、堕天使の血を引いているせいなんだよ!!」

 

 姉ちゃんは己の心を守る様に胸中を吐露してぶちまける様に言い放った。

 

「落ち着いて、姉ちゃん……確かに俺達に流れている堕天使の血のせいで襲われたかもしれない。でも、俺が姉ちゃんを守れたのは堕天使の血を引き、神の子を見張る者(グリゴリ)で鍛えられたからだよ」

 

 まあ、それもあるが転生特典に因るところが大きい気もするけどね。

 

 俺は姉ちゃんを抱き寄せて頭を撫でている。

 

「でも……でも……」

 

 姉ちゃんは己の恐怖心と俺の言葉に板挟みになって混乱している。

 これ以上は姉ちゃんの精神が壊れるかもしれない。

 幼い心に負った傷は簡単には癒せない。

 

「安心して、俺は姉ちゃんの味方だから……絶対に守るからね。姉ちゃんが望むなら二人で生きていこう」

 

 俺は姉ちゃんを安心させる様にゆっくりと耳元で囁いた。

 

「ありがとう……ごめんね。ごめんね、綾人」

 

 姉ちゃんは涙を流しながら俺の胸元で蹲る様にしている。

 暫く無言で姉ちゃんの頭を撫でていると寝息が聞こえてきた。

 

「おやすみ、姉ちゃん……」

 

 俺も姉ちゃんを抱きしめたまま微睡んでいく。

 

 幼い俺達が放浪しながら生活するのは厳しいだろう。

 しかも堕天使から距離をおくと言う事はミッテルトちゃんやヴァーリと離れ離れになると言う事だ。

 心に傷を負った姉ちゃんを一人には出来ないから仕方ないか。

 俺が一緒にいないと姉ちゃんは本当に壊れてしまうだろう。

 少しの辛抱だ。

 リアスに出会って眷属となり、心が許せる仲間が増えれば姉ちゃんも弟離れしてくれるだろう。

 そうすれば、時間も取れてなんとかなるだろう。

 

 この時、俺は姉ちゃんと自分の気持ちを天秤に掛けて、迷いもあったが姉ちゃんを選んだ。

 後悔はなかったが、果たしてこの答えが正解なのかは今はまだ分からない。

 願わくば、姉ちゃんが心の底から笑える日々が再び来ると信じよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




http://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=69744&uid=1327

活動報告に朱乃をヒロイン化するかどうかのアンケートがあります。
ご意見お待ちしています。(終了しました)


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第05話

アンケートの結果朱乃も綾人(オリ主)のヒロインになる事が決定しました。
うん。皆さんの紳士っぷりにオイラも感銘しました。
意外と同好の士がいて嬉しい限りです。


 

 

 

 

 

 姉ちゃんと二人で各地を放浪して早一年半程の月日が流れた。

 やはり二人で生きていくには様々な苦労が待ち受けていた。

 幼い二人だけではまともな宿舎に泊まる事も出来ず、路銀の持ち合わせも心許なかった。

 何事にもお金が要る。

 世知辛い事だが仕方ない。

 

 さすがに幼い俺や姉ちゃんを雇ってくれる奇特な人物はいなかった。

 俺と姉ちゃんは路銀を稼ぐために原作通りに潜りの拝み屋していく事となっていった。

 姉ちゃんは持ち前の優しさから幽霊達の話を聞いてもっぱら成仏出来るように導いている。

 鈴を鳴らしながら神楽を舞って浄霊を行う際の姉ちゃんは神秘的で魅力的だ。

 思わず見惚れてしまう。

 話が通じない程理性が摩耗している悪霊は俺が力尽くで除霊していった。

 以前姫島家の術者から複製した霊能関係の技が役に立った。

 

 除霊の依頼者達とはそれっきりの関係が殆どだったが、中には俺と姉ちゃんの境遇を聞いて引き取りたいと申し出る人達もいた。

 まあ、大概は下心全開で怪しい眼付きと荒い息で言い寄ってくる奴らだった。

 さすがに貞操を売り渡すわけにはいかなかったので、()()にお断りをした。

 極少数だが善意で俺と姉ちゃんに接してくれる人も中には居たが、堕天使との混血児(ハーフ)と言う事実を知ると大概の人が手の平を返してきた。

 その際、まず間違えなく教会の関係者にしれてしまい、命を狙われもした。

 俺は無条件に討伐されるつもりはないので、その都度に返り討ちにしていった。

 まあ、大概は管轄外まで逃げ切ればそれ以上追っては来ないので、痛めつける程度ですんだ。

 

 だが、姫島家からの追っ手達は痛めつければいい程甘くはなかった。

 俺と姉ちゃんの命を狙って執拗に襲ってくる。

 回数を重ねる毎に手強くなっていく刺客達。

 俺は弥が上にも再び手を血で染めていく事しか出来なかった。

 俺が血で手を染め上げる度に募っていく罪悪感は、何時しか闇となって少しずつ泥の様に心の底に積もっていった。

 姉ちゃんが居なければ、俺はとっくに心が闇に飲み込まれて心身共に化物になっていたかもしれない。

 

 

 

 

 

 はぐれ悪魔のテリトリーに侵入した事も何度かあった。

 寝床を探して偶然に出会った事もあれば、除霊の延長として依頼された事もあった。

 まあ、既に主の悪魔から離反したはぐれ悪魔を倒すだけなら戦争の引き金にはならないだろう。

 既にそこいらのはぐれ悪魔程度なら苦戦せずに倒せるから問題はなかった。

 問題があったとすれば、力を欲して倒したはぐれ悪魔の因子を吸収していった事である。

 数体程度なら問題なかっただろうが、倒す度に吸収していたのは拙かった。

 何時しか俺は堕天使の羽だけではなく悪魔の羽まで背中から生やしていた。

 俺の背中からは四対の堕天使の羽と悪魔の羽、計八枚の羽を生やしていた。

 最早俺は悪魔の駒(イーヴィル・ピース)で転生するまでもなく悪魔の血も宿していた。

 

 俺は狼狽えた。

 姉ちゃんと共に転生悪魔となるなら問題はなかった。

 姉ちゃんは未だ堕天使と人間の混血児(ハーフ)のままで、俺は既に別物へと成り果てていた。

 

 俺は姉ちゃんに罵倒される覚悟をしたが、逆に抱きしめられて困惑した。

 姉ちゃん曰く、俺はどんな姿になっても愛しい弟だとの事だった。

 俺が姉ちゃんに嫌われるのが怖くて無意識に避けていたのが辛かったと泣かれてしまい、自分の馬鹿さ加減に嫌気がさした。

 

 

 

 

 

 日に日にお互いに依存し合っていく俺と姉ちゃん。

 俺の方が姉ちゃんより幼い事は事実だが、俺は前世を覚えていて精神年齢も高くて、事実を知らなくても姉ちゃんにとっては頼り甲斐があったのはある意味誤算だったと言えるかもしれない。

 四六時中一緒に行動しないと姉ちゃんは不安で情緒不安定となってしまう程に俺に依存していった。

 幼いながらも何時しかそれは姉弟の愛情と言うより男女間のソレに近いものに変化していったと知った時には既に遅かった。

 姉ちゃんは俺に過剰なまでのスキンシップを求めてきて、俺も最初は抵抗していたが姉ちゃんの涙には勝てずに何時しか流される様にそれを受け入れていった。

 まあ、最後の一線は死守しているが時間の問題かもしれない。

 俺の初体験は血の繋がった姉からの逆レ○プなんて、前世では二次元の話としては大好物な部類だった。

 だが、いざ当事者になると洒落にならない。

 

 誰か姉ちゃんを止めてくれ!!

 ああ……ミッテルトちゃん、ヴァーリ。こんな事なら君達と経験しておくべきだったよ。

 まあ、俺が童貞を捨てても姉ちゃんは諦めてくれないだろうけどね。

 

 助けて、神様!!

 

 俺が転生させてくれた神様に祈ると、にこやかに笑いながらビデオカメラ片手に手を振っているイメージが脳裏に浮かんだ。

 

 ジーザス!!

 神様なのに俗世に染まりすぎだろう!!

 

 この世界の聖書の神に祈ろうにも既に死んでいるし、他の勢力の神にも知り合いはいない。

 

 俺が胃痛で倒れるのが先か、はたまた姉ちゃんに喰われるのが先か、俺自身にも分からない。

 まだ、姉ちゃんは俺が心底嫌がる事をしないから何とか紙一重で貞操は守られている。

 だが、欲望が倫理観を超えればどうなるか分からない。

 俺の貞操は風前の灯火と言えよう。

 転生した理由も神様がうっかりと俺の魂の蝋燭の灯りを消してしまった事だったし、直ぐに吹き消えるイメージしか浮かばない。

 少しでも時間を稼ぐために姉ちゃんと二人っきりの現状を打破しないといけない。

 さすがに姉ちゃんも周囲の眼があれば自重するよね?

 そうだよね?

 誰か、そうだと言ってよ!!

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 そして、待ちに待っていた運命の時がやって来た。

 T県のとある町で、悪魔と契約を交わして一時的に幽霊と話せる様になった人間と接触した。

 その人間も最初は好奇心から始まった事だろう。

 だが、己の力量を鑑みずに悪霊に話しかけたのは頂けない。

 

 優しい姉ちゃんは案の定見て見ぬ振りは出来ずに悪霊をその人間から引き剥がして、俺が悪霊を現界を保てないぐらい痛めつけて除霊した。

 

 大分衰弱していたが、その人間はお礼がしたいと申し出てきた。

 だが、堕天使の血を引く姉ちゃんは首を縦に振らず、逃げる様に去っていった。

 まあ、現実的に考えれば、悪魔の契約者とは相容れないからね。

 俺もここで進んでグレモリー眷属の悪魔と接触するのはおかしいと思って姉ちゃんと共に去っていった。

 

 

 

 

 

 町の打ち捨てられた寺で姉弟肩を寄せ合って雨露を凌いで行く。

 

「ごめんね、綾人……堕天使の血を引く私が悪魔と事を構える訳にはいかないよね」

 

 姉ちゃんは俺にもたれ掛かりながら謝ってきた。

 

「気にする事ないよ、姉ちゃん……姉ちゃんはあの人間を救ったんだ。胸を張ってもいいさ」

 

 俺は姉ちゃんを抱きしめながら耳元で囁いた。

 

「ありがとう、綾人……ねえ、接吻(キス)していい?」

 

 姉ちゃんは潤んだ瞳で見上げる様に俺の瞳を覗き込みながら訊ねてきた。

 俺は無言で頷いて眼を瞑った。

 

「はむ……クチュ……チュバチュバ…‥」

 

 俺を押し倒して口内を蹂躙する様に姉ちゃんの舌が侵入してくる。

 

 静かな寺に深いディープキスの水音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 寺に潜って数日が数日が経った頃、寺に近づく悪魔の気配に気が付いた。

 隠しきれない程の潜在能力が感じられる気配。

 俺は畏怖しながら知らず知らずの内に生唾を飲み込んでいた。

 寺の戸から息を殺しながら外の気配に眼を向けると美しい紅が映り込んだ。

 

 今は俺以下の力しか発揮出来ていないかもしれない。

 だが、幼いながらも彼女からは従うに値する気品や気配(オーラ)が感じられた。

 

 姉ちゃんが俺を袖を引っ張る感覚に我に返った。

 俺は無言で頷いて姉ちゃんの手を取って、足音と気配を殺して雑木林の陰に身を潜めた。

 

 紅髪の少女(リアス・グレモリー)は大きく息を吸い込んで辺りに響き渡る様に声を張り上げた。

 

「もしここにいるならば、出てきてちょだい。私のお父様の眷属のテリトリーに侵入した事についてきちんと説明してくれるなら、咎める事なんてしないわ」

 

 気高い気配(オーラ)を発しながら俺達を説得しようとしているのに、優しい笑顔を浮かべている。

 悪魔の貴族としては甘いのだろうが好感が持てた。

 見る限り少しの打算が見て取れるが、下心らしきものは一切感じられない。

 

 俺は姉ちゃんに頷いて一人で彼女の前に現れようとすると、姉ちゃんは瞳に強い意志を宿しながら俺の手を握って離さなかった。

 俺は溜息を吐きながらも、姉ちゃんに微笑みかけながら一緒に立ち上がって彼女の前に現れた。

 

 敵意がない事を示すために両手を頭の上に掲げながら歩いて行った。

 

「よかった……出てきてくれてありがとう。私は七十二柱が一柱のグレモリー家のリアスと言うわ。堕天使の血を引くと見受けられる貴方達の名前を尋ねてもいいかしら?」

 

 名乗られたからにはこちらも答えなければならない。

 俺は姉ちゃんに眼をやると、姉ちゃんは頷き返してきた。

 

「お初にお目にかかります、リアス姫……俺は姫島 綾人と申します。こちらは姉の朱乃……共に堕天使幹部のバラキエルの血を宿す者です」

 

 俺の答えに一瞬眼を見開いたリアスさん。

 だが、直ぐに納得したように頷いていた。

 

「なる程……だからあの修験者達は血眼になって貴方達を探しているのね……事情を聞いてもいいかしら? それで取引しましょう。悪魔に取って契約は絶対だから悪いようにはしないわ」

 

 リアスさんは右手を差し出しながら微笑みかけてきた。

 

 俺と姉ちゃんは一瞬見詰合ってからその手を握り返した。

 

 

 

 

 

 

 寺の境内に不似合いのテーブルセットが用意されて、執事風の悪魔が甲斐甲斐しく給仕をしている。

 紅茶で喉を潤しながら俺はリアスに全ての事情を話した。

 無論、神滅具(ロンギヌス)淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)の事だけでなく、俺自身がはぐれ悪魔の因子を吸収して悪魔の血を宿している事も包み隠さずに話した。

 その際、論より証拠とばかりに背中から羽を出しながら説明を行った。

 まあ、転生者云々の事は黙っておいたけどね。

 

「まさか、堕天使の血を引く者が神滅具(ロンギヌス)を宿しているなんてね。しかもその年齢で既に亜種の禁手(バランスブレイカー)に目覚めているなんて……」

 

 頬杖をつきながら興味深そうに俺を見詰めてきているリアス。

 行儀悪いと執事の悪魔に窘められて、バツが悪そうに姿勢を正した。

 

「しかも変則的とは言え、悪魔の血をも宿しているなんて……姉の朱乃だけじゃなくて貴方も私の眷属にしたいぐらいだわ♪」

 

 リアスさんは眼をキラキラと輝かせながら俺の手を取りながら微笑んでいる。

 

「おほん! ……一つ聞いていいかな?」

 

 姉ちゃんは一見にっこり微笑みながら俺とリアスさんを交互に見ながら訊ねている。

 まあ、眼がちっとも笑ってなく背に怒りの気配(オーラ)を背負っているのはご愛嬌かな?

 

「なっ、何かしら?」

 

 リアスさんは少し身を引きながら訊ね返した。

 その際、リアスさんが俺の手を離した事で姉ちゃんの気配(オーラ)は鳴りをひそめた。

 

「……何故、私達を眷属に迎え入れたいのかしら? 私達が堕天使の血をひいているから?」

「質問を返すようで悪いけど、貴方は悪霊に取り憑かれた人間を助けたでしょう? それはどうしてかしら?」

「……助けてって、言われたから、つい」

 

 リアスさんは姉ちゃんの答えに大きく頷いて微笑んでいる。

 

「そう、それ! 優しい堕天使! 絶対に眷属にしたいと思ったわ!」

 

 その台詞に呆気に取られている姉ちゃん。

 だが、その表情は直ぐに笑顔へと変わった。

 

「うふふ♪」

 

 姉ちゃんの笑い声に怪訝な表情で首を傾げているリアス。

 助けを求める様に俺に視線を向けてきた。

 

「私……へっ、変な事いったかしら?」

「ええ、まあ……いくら今は三大勢力が疲弊していて三竦みの状態で事実上停戦状態でも、敵対勢力の堕天使の血を引く者を眷属に迎え入れるには大きなリスクを伴います。一悪魔の貴女の判断で戦争の引き金を再び引くつもりですか?」

 

 俺は原作を読んでから常々疑問に思っていた事を真剣な表情で訊ねた。

 

「確かに、私の一存では決められない事かもしれない……でも、私が見捨てれば貴方達は姫島家の本家の者達に殺されてしまうかもしれない。そんなの出来ないわ!!」

 

 一瞬たじろいだリアスさんは瞳に決意を宿して言った。

 

「それに貴方達が襲われているのにちっとも手助けしてない神の子を見張る者(グリゴリ)に文句を言う筋合いはないと思うのよ」

 

 極論だが一理あるか。

 まあ、陰ではアザゼルさんが窮地を救ってくれているらしいけどね。

 実際にその事を目の当たりにしていないから何とも言えない。

 

 納得しきれないが、あまり警戒しすぎるのも馬鹿らしい。

 原作でもそれ程問題にはならなかったから抜け道があるんだろう。

 

 俺は溜息を吐きながらも姉ちゃんを訊ねる様に見詰めた。

 

「私は綾人と同じ存在になれるなら眷属になってもいいよ……綾人はどうするの?」

 

 姉ちゃんは俺を抱きしめながら覗き込む様に見詰めてきている。

 リアスさんは俺の答えを息を飲んで待っている。

 

「リアス姫……悪魔の貴女と契約を交わします。俺と姉ちゃんを貴方達、グレモリー家の縁者として迎え入れて下さい。そして俺達の出生を丸ごと迎え入れた事を姫島家に伝えて下さい。俺達が姫島家に狙われなくなったら、喜んで貴女の眷属悪魔になりましょう」

「契約成立ね! 改めてよろしく、朱乃、綾人。今日から貴方達は私の家族よ!」

 

 リアスさんは嬉しそうに俺と姉ちゃんを抱きしめながら小躍りをしている。

 姉ちゃんも嬉しそうにそれを受け入れている。

 俺も苦笑と言えるが笑みを浮かべながら受け入れた。

 

 

 

 

 

 原作通りに姫島家が二つの条件を出してきて、俺と姉ちゃんの身柄をグレモリー家預かりと認めて手を出さなくなった。

 

 そして俺と姉ちゃんはリアスさんに連れられて冥界の煌びやかで豪華絢爛なお城のグレモリー家に特別待遇で迎え入れられた。

 そこからは各地を放浪していた約一年半程の苦労が立ち消えるほど、再び暖かい愛に包まれて生活していけた。

 

 懸念していた悪魔と堕天使の戦争の引き金も引かれる事はなかった。

 特に暫く顔を出していなかったが俺の身柄は一応神の子を見張る者(グリゴリ)所属の神滅具(ロンギヌス)使いだったので心配していた。

 リアスさんの実兄で魔王であるサーゼクス様がアザゼルさんと裏で交渉を行ってくれたようだ。

 旧魔王家の血を引くヴァーリの事を俺が漏らしてしまったために、表向きは人質交換の体を取ったらしい。

 それだけでなく俺と姉ちゃんの身柄を引き受けるために莫大な移籍金と将来リアスが受け継ぐ領地の一部が、神の子を見張る者(グリゴリ)に譲渡された事は後から知った。

 

 後は定期的に、ヴァーリの懇願として非公式にだが手合わせを再開する事も義務付けられた。

 お互いに堕天使や悪魔の上位の者達の監視の元だが再開出来た事は素直に嬉しかった。

 ヴァーリの付き添いにはミッテルトちゃんもやって来ていた。

 ミッテルトちゃんは俺が悪魔所属になった事は複雑な気持ちだった上に、ツンデレを遺憾無く発揮して素直じゃなかった。

 だが、以前よりは仲が深まった気がしている。

 まあ、姉ちゃんがミッテルトちゃんやヴァーリと意気投合したのは嬉しい誤算だったかな?

 でも姉ちゃんが事有る毎に俺に過激なスキンシップを取るのに触発されたのか、ミッテルトちゃんとヴァーリが俺に今まで以上に過激なスキンシップと言える程のセクハラをしてくる様になったのは勘弁して欲しい。

 俺だって健全な男の子だ。

 好意を抱いている相手にそんな事をされては、理性を保てる自信がない。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 リアスさんがジュニアハイスクールに入学した頃、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を父上のグレモリー卿から授かった。

 リアスさんが悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を授かると、僧侶(ビショップ)の駒と戦車(ルーク)の駒が一つずつ変異の駒(ミューテーション・ピース)へと変化した。

 これは異例中の異例と言える事で、四大魔王の一柱であるアジュカ様も大変興味を持ったようだ。

 まあ、僧侶(ビショップ)の駒は原作通りだが、戦車(ルーク)の駒が変異の駒(ミューテーション・ピース)に変化したのは俺の転生特典だからリアスさんをいくら調べても答えは出ないだろうけどね。

 

 姉ちゃんは原作通りに女王(クィーン)の駒を授かって転生悪魔へとなった。

 僧侶(ビショップ)の駒の特性とは相性が良い様だが、戦車(ルーク)の駒の特性は苦手の様だ。

 これでは駄目だと姉ちゃんは俺から魔法を習って防御の魔法を中心に習得していく事になった。

 そして、未だに堕天使の血の事は毛嫌いしているが、俺が光力を惜しげもなく使っている事に影響されてか光力も徐々に扱える様になっていっている。

 願わくばこの事が一日でも早い父さんとの和解の切っ掛けとなる様に祈ろう。

 

 俺は勿論戦車(ルーク)の駒の変異の駒(ミューテーション・ピース)を授かった。

 劇的に上がった力と防御力に最初は振り回されていたが、直ぐに慣れていった。

 誤算があるとすればランダムで俺が堕天使の血を引くことになって、魔法に無意識に光力が自然と混ざり込めてしまう事だ。

 闇の魔法(マギア・エレベア)は魔法を己を肉体に取り込む技法である。

 悪魔となった俺に取っては光力は弱点となり、闇の魔法(マギア・エレベア)は諸刃の剣と言えよう。

 対策は思いついてはいるが、暫くは実行は難しいだろう。

 これは暫く闇の魔法(マギア・エレベア)は封印しておくしかないのだろうか?

 まあ、一応色々あって以前よりは心に闇が巣食っていると言えるから、制御出来る可能性は出て来ているので無理に行使しなくてもいいか。

 

 今は持てる力を少しでも効率よく使用できる様に修行を重ねて行こう。

 幸いにも姉ちゃんに魔法を教えていく事になって、一から魔法の事を考え直す機会が出来た。

 いくら転生位特典で十全に操れる知識を有していても研鑽していかなければ宝の持ち腐れだ。

 

 この世界のパワーインフレは甚だしい。

 自身の能力の向上や、仲間達のパワーアップも必須である。

 今一度、心に深く刻んで今生をより良いものに出来るように努力を重ねていこう。

 いくら原作知識を有しているからと言っても思い通りなるとは限らない。

 意志を貫くには力が要る。

 それも唯の力ではなく心の底から湧き出した意思が篭ったものが必要だ。

 しかも、自分一人の力で変えられるものは少ない。

 驕らず仲間を頼ってこれからの困難に立ち向かって行こう。

 

 

 

 

 

 



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第06話

 

 

 

 

 

 広大なグレモリ家の敷地。

 紫色の空が見える庭の一角で、俺と姉ちゃんが転生悪魔となってから欠かさず続けている日課となっている魔法講座を開設する。

 まあ、まだ転生悪魔となって日が浅いから数えるくらいしか行っていないけれどね。

 

「じゃあ、姉ちゃん。先ずはお浚い……この杖に魔法で炎を灯してね」

 

 俺は星を象った初心者用の杖を姉ちゃんに手渡しながら微笑んだ。

 姉ちゃんは魔法を習い始めた当初は苦戦していたが、一度俺が自身の魔力を姉ちゃんの身体に流して実践するとコツを直ぐに掴んだようだ。

 

「分かりましたわ……プラクテ ビギ・ナル 火よ灯れ(アールデスカット)!」

 

 姉ちゃんの呪文(カオス・ワード)に因って魔力が変換されて杖の先に火が灯った。

 始動キーも今は初心者用の簡易なもので普通はライター程の小さな火が灯る筈なのに、杖からはガスバーナーの様に勢いよく火が立ち上っている。

 しかも俺の腕からドラゴンの力を吸い続けた結果、魔力が変質した様で小さいながらも龍を形作っている。

 これで魔力を更に効率的に運用するために姉ちゃん専用の始動キーを韻等を踏んで決めるとどうなるのか。

 まあ、普通はそんなに変化は無い筈だが、インスピレーション次第では更に化けるだろう。

 我が姉ながら末恐ろしいよな。

 

「うん。魔力運用のコツは完全に掴めたみたいだね」

 

 俺が満足した様に頷いていると、姉ちゃんは眼を輝かせながら丸で子犬の様に何かを期待している。

 

 仕方ないな。人参(ご褒美)をぶら下げてやる気を促すか。

 飴と鞭は重要だ。

 まあ、鞭はどちらかと言うと姉ちゃんが振るう方が多い気がするけどね。

 

「今日中に始動キーを決めて、更に一つだけでも防御呪文の発動に成功すれば、俺に出来る範囲で一つ願いを叶えてあげるよ」

「っ!!? ほっ、本当ですの!! 約束ですわよ!!」

 

 丸で雷に打たれた様に一瞬固まった姉ちゃんは、直ぐに嬉々して魔法を実践するために集中していった。

 

 姉ちゃんの集中力の凄まじさに触発されて、俺自身も魔法と八極拳の型や八卦掌の歩法と技法の特訓を行っていく。

 千里の道も一歩からと言うし、日々の反復訓練を欠かすことは出来ない。

 一日サボれば取り戻すのに三日掛かるって言うしね。

 

 俺は転生特典で得た魔法や技と知識の持ち主であるネギ・スプリングフィールドとは違い、所詮所謂ところのどこにでも居る凡才である。

 一を知り十を成す事など到底出来ない。

 出来る事と言えば牛歩の歩みだが、一歩一歩着実に歩みを積み重ねていく事しか出来ない。

 だが転生特典で得た鍛えれば鍛えるほど強くなる心技体を持っているので、愚鈍なりにも努力した事は己を裏切らずに力となっていっている。

 

 

 

 

 

 俺が姉ちゃんの邪魔にならない様に少し離れた場所で修行していると、視界の端に時折思い出したかの様に表情を崩して含み笑いする姉ちゃんが映った。

 

 うん。ちょっと早まったかもしれない。

 姉ちゃんは俺と違ってどちらかというと天才肌なところがある。

 今日中に出した課題を軽々とこなしてしまいそうだ。

 これは下手すると、とんでもない事を要求されるかもしれないな。

 俺は自身の修行を行いながら、額に冷や汗を一筋流したいた。

 

 いや、まあ、心の片隅ではどこか期待してしまっている自分に気がついているんだけれどね。

 二次性徴が始まって思春期を向かえて以来、色々と溜まったものの処理に困っているのは確かなんだ。

 四六時中、姉ちゃんがべったりとスキンシップを取ってきていて自家発電もままならない。

 実際に寝る時も入浴する時も一緒である。

 唯一、一人になれるのはトイレの時ぐらいだ。

 それも一緒に入ろうとする姉ちゃんを押し留めるのは一苦労している。 

 

 理性と欲望の狭間で揺れ動く俺の心を揺さぶる様に誘惑してくる姉ちゃん。

 今のところ鋼の精神で耐えているけど、陥落するのは時間の問題かもしれない。

 

『どうした、綾人? 上の空だぞ』

「あっ……なっ、なんでもない」

 

 ナラカの指摘に頭を振って邪念を追い出して、修行に身を入れていく。

 一度、思考を修行に向ければ長年の習慣からか邪な気持ちは生まれにくい。

 あるのは強さへの渇望、己の護るべき者を取り零さない様にするエゴだけである。

 全く我ながら度し難い。

 己の手で守れる者などそんなに多くない。

 それなのに目に映る全てを守りたいと思ってしまう。

 前世ではこんな事思った事もなかったのにな。

 やっぱり母さんを守りきれなかった事が、精神的外傷(トラウマ)となって脅迫概念に似たものとなって俺の精神に楔を打ち込んでいる様だ。

 実際に姉ちゃんが居なければ、既に俺は壊れていたかもしれない。

 いや、既に壊れいるんだろう。

 何せ、血の繋がった姉ちゃんを依存レベルで求めている自身の心を見て見ない振りをしているぐらいだ。

 今は倫理観が働いているから未だ安心できる。

 だが、一度精神の堤防が決壊すればどうなるかは分からない。

 願わくば、姉ちゃんと末永く幸せに過ごしていける様に心掛けよう。

 

 

 

 

 

「出来ましたわ~♪」

 

 修行が一段落すると、姉ちゃんが嬉しそうに俺に抱きついてきた。

 俺は既にこの程度のスキンシップは日常茶飯事のために傍から見るとは平常心を保っている様に見えるだろう。

 まあ、実際は姉ちゃんの成長途中の肢体の柔らかさと香り立つ乙女の甘い匂いにドキドキしているんだけれどね。

 俺の固い身体と汗臭い臭いとは全く違う。

 性別が違うと言っても同じ血が流れているのにこんなに違うなんて不思議だよな。

 

「じゃあ、姉ちゃん……俺の攻撃を防いでね」

 

 俺はやんわりと姉ちゃんを引き離しながら距離を取った。

 姉ちゃんの温もりが離れて行く際、心の片隅で残念に思っている自分がいた。

 我ながらシスコンだよな。

 

「うふふ……お手柔らかにお願いしますわ♪」

 

 姉ちゃんは頬に手を当てながら微笑んでいる。

 よく見るとチロリと舌舐りをしながら、丸で獲物を見る様な眼で俺を見詰めている。

 

 うわぁ……姉ちゃんのドSな性癖に火が付いてるよ。

 何を要求されるんだろうか。

 畜生! ドキドキなんかしてないからな!!

 

 俺は頭を振って気持ちを切り替える。

 

「行くよ! 連弾(セリエス)光の37矢(ルーキス)! 桜華崩拳!」

「ラプ・チャプ・ラ・チャップ・ラグプウル! 風花(フランス)風障壁(パリエース・アエリアーレス)!」

 

 俺の魔法を込めた攻撃に一瞬遅れて姉ちゃんが始動キーから呪文(カオス・ワード)を唱える。

 一瞬で発生した風の障壁が俺の攻撃の衝撃を無効化した。

 

「うん。成功だね…‥ゆくゆくは風障壁(パリエース・アエリアーレス)を常駐化出来る様に要修行だね」

「あらあら、手厳しいですわね。頑張りますわ♪ところでご褒美ですが……」

 

 俺が姉ちゃんの頭を撫でながら微笑んでいると、姉ちゃんは妖艶な笑みを浮かべながら俺の手を引いて歩いていく。

 俺は期待と不安が入り混じった表情を浮かべながらされるがまま姉ちゃんについて行った。

 

 くぅ!!? 治まれ、俺の心臓!!

 

 俺は姉ちゃんに引っ張れれている間、ドキドキし過ぎて倒れるかと思った。

 

 

 

 

 

 結論から言うと姉ちゃんのお願い事は俺の自尊心(プライド)を少なからず傷つけた。

 一緒に風呂に入るのは毎回の事だが、今回の姉ちゃんは手拭を使わずに俺の全身を隈無く自身の素肌を泡だらけにして洗ってきた。

 何時もより激しいスキンシップで背中だけでなく下半身も責め立てられて、俺の愚息は痛いぐらい大きくなって直ぐに耐え切れなくなって敢え無く決壊した。

 前世で一応マットプレイは経験があったが、血の繋がった姉ちゃんにされる背徳感で想像以上に感じきってしまい大量に解き放っていた。

 背筋を痺れさせながら姉ちゃんの顔を呆然と眺めていると、徐に俺の愚息が放った粘液を美味しそうに舐めとる姉ちゃん。

 その様子を見て徐々に力を取り戻していく愚息に気が付いた姉ちゃんは嬉しそうに眼を細めながら俺に接吻(キス)をしてきた。

 姉ちゃんの唾液と俺の愚息が解き放った生臭い粘液が口内に流し込まれる。

 絡み取られた舌が甘く痺れていき、頭どころか全身も痺れさせられていった。

 興奮した姉ちゃんは更に俺を押したおして本番をしようとしてきた。

 隙を見て姉ちゃんの首筋に魔力を込めた衝撃を与えて気絶させなければ俺の貞操は無理矢理に奪われていただろう。

 もうお婿に行けないかもしれない。

 でも、心の片隅で興奮している自分に気が付いた。

 ああ、俺ってば根っからのM気質なんだと気が付いた瞬間だった。

 一度気が付けばどんどんと泥沼に嵌っていく様に堕ちていく。

 俺の性癖は前世からの生粋のものだろう。

 もう自身の心は偽れそうもない。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 シトリー領の一角。

 静かな大自然に囲まれた病院。

 ここに母さんは現在入院している。

 俺と姉ちゃんが転生悪魔となった際に、特例として人間の母さんの治療が認められた。

 あのまま人間界の病院で治療を続けても眼が覚めなかっただろう。

 特例を認めてくれた魔王様達には頭が上がらない。

 その際に神の子を見張る者(グリゴリ)と一悶着あったらしいが、外交担当のセラフォルー様が尽力してくれたらしい。

 

 まあ、見返りとしてセラフォルー様主演の特撮番組『魔法少女マジカル✩レヴィアたん』に俺が出演する事になったのはご愛嬌かな。

 何でも俺の魔法拳士っぷりを人伝に聞いていたセラフォルー様が興味を持たれたとの事だった。

 

 俺がゲストキャラでレヴィアたんのライバルの龍魔法拳士として出演した放送回は意外と冥界のお子様達に人気が出たらしく、俺のレギュラー化も検討されているとの事だ。

 セラフォルー様も絶賛していた。

 まあ、十中八九本決まりとなるだろうとの事だ。

 既に俺の禁手(バランスブレイカー)淵龍王の喰種鎧(アブゾーブ・グール・メイル)姿のフィギュア等のグッズの販売も視野に入れているらしい。

 一応売上の一部は特許(パテント)料としていくらかは俺に還元されるらしい。

 嬉しそうに俺の手を握りしめながら報告してきたセラフォルー様が印象的だった。

 まあ、その際に強かにリアスさんに俺のトレードを打診していた。

 でもいくら四大魔王様の一柱とは言え、俺は戦車(ルーク)変異の駒(ミューテーション・ピース)なので釣り合いの取れる悪魔の駒(イーヴィル・ピース)がなくて断られていた。

 さすがにリアスさんが断った理由はそれだけではないと信じておきたい。

 セラフォルー様は他にも色々な好条件をつけてきていたが、お目付け役で一緒に来ていたソーナさんに窘められてしぶしぶ帰っていった。

 

 姉ちゃんが終始不機嫌だったので、セラフォルー様達が帰った後でご機嫌を取るのが大変だった。

 リアスさんはそんな俺達の様子を微笑ましそうに眺めたいた。

 

 

 

 

 

 姉ちゃんと未だ目覚めない母さんの見舞いにやってきた。

 今日はリアスさんも一緒である。

 

「すみません、リアスさん。わざわざ御足労頂いて……」

「謝る必要はないわ。眷属の家族は私にとっても家族だからね……それに謝るよりお礼を言われた方が私も気が楽だわ」

 

 俺が頭を下げるとリアスさんは微笑みながら俺に語りかけてくる。

 

「ありがとうございます」

「ありがとうですわ、リアス」

 

 俺がお礼を言うと姉ちゃんも一緒にリアスさんにお礼を言った。

 

「どういたしまして……あら? あれは……」

 

 リアスさんは照れた様に顔を逸らした。

 その視線の先に一人の少年がベンチに座ってどこか黄昏ていた。

 

「久し振りね、サイラオーグ」

「リアスか……ああ、久しいな」

 

 微笑みかけるリアスさんに顔を上げた少年はどことなくぎこちない笑みを返した。

 

「元気なさそうね。やっぱり、ミスラさまは未だ……」

「ああ、目覚める兆候が全くない。それもこれも俺が不甲斐ないばかりに……っと、すまない。気を悪くさせてしまったな。これでは母上に怒られるな、諦めなければいつか必ず勝てるからと……ところでリアス。後ろの二人は眷属か?」

「ええ……紹介するわね。私の女王(クィーン)で姫島 朱乃と戦車(ルーク)の姫島 綾人。二人は姉弟なのよ……朱乃、綾人。こっちは私の従兄弟のサイラオーグよ」

 

 リアスさんの紹介に俺と姉ちゃんは一歩前に出て会釈した。

 

「初めまして、サイラオーグ殿。ご紹介に預かりました、姫島 綾人です」

「姫島 朱乃ですわ。お見知り置きを……」

「ああ、サイラオーグだ……ふむ。おまえも格闘技をしているのか?」

 

 俺が差し出した手を握り返しながら尋ねてくるサイラオーグ殿。

 

「ええ、まあ……一応は八極拳と八卦掌を少々囓ってます」

「そう言えば聞いたことがある。リアスの戦車(ルーク)……それも変異の駒(ミューテーション・ピース)を宿した者がレヴィアタン様のお気に入りの魔法拳士だとか。そうか、おまえが今代の淵龍王か」

 

 一瞬眼を丸くして俺をしげしげと見詰めてくるサイラオーグ殿。

 

「無理を承知で頼みたい、淵龍王!! 俺と手合わせしてくれまいか!!」

 

 深々と頭を下げながら懇願してくるサイラオーグ殿。

 俺が訊ねる様にリアスさんに視線を向けるとゆっくりと頷き返してきた。

 

「頭を上げてください、サイラオーグ殿。貴殿の迷いを断ち切れるか分かりませんが……不肖ながら姫島 綾人、お相手させて頂きます」

「恩に着る、淵龍王……いや、姫島 綾人。未だに未熟な身だが全力で立ち向かわせてもらおう」

 

 瞳に強い闘志を宿して俺を見詰返してくるサイラオーグ殿。

 俺も負けじと眼に闘志を宿していく。

 

 聞いた話では未だにサイラオーグ殿はバアル家の次期当主候補ではないらしい。

 一応修行して己を高めていっているらしいが、自己流だけでは満足に成果が出せずに大きな壁にぶち当たっているのだろう。

 魔力を殆ど宿さずに闘気を操るサイラオーグ殿との手合わせは、闘気を操る術を未だ持たない俺にも良い刺激となるだろう。

 これから先、転生特典で得た魔法や技のみでは太刀打ち出来ない事柄も出てくるかも知れない。

 ならば、大切な者達を取り零さない様に愚鈍なりに貪欲に強さを求めていこう。

 幸いにも、転生特典で限界の無い鍛えれば鍛えるほど強く成長する心技体をもらっている。

 転生特典で得た知識にない力でも努力次第ではモノに出来るだろう。

 そう考えるとサイラオーグ殿よりは恵まれているな。

 

 

 

 

 

 非公式ながら急遽取り組まれた俺とサイラオーグ殿との手合わせ。

 これが吉と出るか、凶と出るかは未だ分からない。

 

 さて、サイラオーグ殿は獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)を持たず身一つで俺と対峙している。

 未だにネメアの獅子を眷属にしていないのかは分からない。

 

 どうする? 俺も淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)や魔法を使わないで肉弾戦だけで戦うべきだろうか?

 

 そんな俺の迷いを断ち切るように声が掛けられた。

 

「無手の俺に遠慮して持てる力を出し切らない事だけはしてくれるなよ。それは侮辱だぞ」

 

 サイラオーグ殿は好戦的な笑みを浮かべながらも鋭い視線を闘気混じりで俺に叩きつけてきている。

 

「失礼しました……では、放っから全力で行かせてもらいます」

 

 俺は意を決して自身に言い聞かせる様に頷いた。

 

「双方、準備はよろしいですね。それでは始め!!」

 

 見届け役のグレイフィアさんが開始の合図を行った。

 

『Count Down!』

 

 合図と同時に禁手(バランスブレイカー)の使用するための準備に取り掛かった。

 

 本当の意味で出し惜しみをしないためには闇の魔法(マギア・エレベア)をも使用しないといけない。

 だが未だ光力の対策が整っていなく、魔法を固定(スタグネット)して掌握(コンプレクシオー)するのは諸刃の剣で自殺行為だ。

 傷つくだけなら未だしも、肉体が消滅する恐れがある。

 今回の手合わせで闘気を操る術を吸収してでも得て、何れは聖オーラや光力から闘気で身を守って消滅しない様に精進していく必要がある。

 

「時間を掛ければこちらが不利か……では、行くぞ!!」

 

 俺の力量を推し量るようにサイラオーグ殿の闘気を込めた拳が振るわれる。

 あれをまともに喰らえば、俺の魔法障壁は紙の様に崩されるだろう。

 

 俺は焦らず相手の攻撃の勢いを利用して直撃を避けていなした。

 直撃を避けてなお拳圧で痺れる。

 痺れを半ば無視してカウンター気味にこちらも魔法を込めた拳を放った。

 だが、バックステップで紙一重で避けられたしまった。

 

 初撃はお互いに不発に終わったものの、俺は若干腕が痺れていて不利だ。

 

 面白い!

 さすがは将来若手ナンバーワンに輝く異端児!

 さあ、もっと俺を楽しませてくれ!!

 

 それはサイラオーグ殿も同じ気持ちの様で、お互いに戦闘狂(バトルジャンキー)を浮かべていた。

 

 

 

 

 




一応綾人(オリ主)と朱乃の絡みはお茶を濁しましたが、これくらいの描写なら十五禁の範囲内ですかね?
ご意見ご感想をお待ちしています。


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第07話

 

 

 

 

 

 紫の空が広がる荒野の一角で対峙している俺とサイラオーグ殿。

 

 少し離れた場所では見届け役のグレイフィアさんが結界を張りながら佇んでいる。

 その傍には見学の姉ちゃんも俺の事を見守る様に佇んでいる。

 これだけ距離が離れていれば、巻き込むこともないだろう。

 遠慮なく全力を出せそうだ。

 

「ハハハハハハハハ! これ程心躍るとはな! 感謝するぞ、姫島 綾人!」

「アハハハハハハハ! それはこちらの台詞です、サイラオーグ殿!」

 

 お互いの攻撃を捌いたり防御したりしながら俺とサイラオーグ殿は笑みを浮かべている。

 確かにサイラオーグ殿との手合わせは己を限界以上に引き上げてくれる。

 それは努力フェチとまでいかないものの、ある意味向上心の塊と言えるぐらいに染まった俺の心を擽る。

 

 だが、心躍る激しい攻防の裏腹に俺は焦っていた。

 一見一進一退で互角に見えるが天秤は俺の不利に傾いている。

 サイラオーグ殿は闘気を集中した拳や脚をタイムラグなしに放ってくる。

 サイラオーグ殿の闘気を込めた攻撃は俺の魔法障壁を容易く、それこそ薄氷の如く打ち砕いてくる。

 片や俺の魔法を込めた攻撃もサイラオーグ殿の闘気の防御の壁を超える事が出来るものの、どうしても威力を出すためには詠唱が必要となる。

 そのためにどうしてもインファイトでは不利だ。

 普通なら距離を取って呪文を詠唱する時間を稼がないといけない。

 そんな俺をあざ笑うかの様にサイラオーグ殿は執拗に足捌きを巧みに使って常に距離を詰めてくる。

 

 俺はどちらかと言うと相手の攻撃を防御したり捌いて反撃の糸口を掴んでいくスタイルで積極的に攻めるタイプではない上に、サイラオーグ殿の攻撃は一撃一撃が重くて捌くだけでも手足に痺れが蓄積していく。

 しかもサイラオーグ殿の闘気を操るセンスは手合わせの中でも磨かれていっており、攻撃の回数が増す毎に攻撃に込められた闘気の総量が徐々にだが上がっていっている。

 

 禁手化(バランスブレイク)すれば天秤の傾きは変わるだろうが、そこに至るまでの二分間が気の遠くなる程の時間に感じられる。

 

「どうした、姫島 綾人? 焦りは隙を生み出すぞ。そらっ!!」

 

 俺の思考の隙を付いてガードした腕で視界が隠れたために一瞬生まれた死角から顎へと鋭い一撃が放たれた。

 

 しまった!!?

 

 刹那の瞬間の中で倒されてしまう後悔よりも、もっと闘いたいという願望が湧き出してくる。

 

 負けられない!!

 ここで負けるようならば、俺は誰も守れないだろう!!

 それだけは駄目だ!!

 

 俺の心の叫びに応える様に淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)が時を告げた。

 

『Count Zero!』

 

 直ぐ様俺は意識を集中する。

 

『Abyss Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 刹那の瞬間に展開された淵龍王の喰種鎧(アブゾーブ・グール・メイル)にサイラオーグ殿の拳は阻まれた。

 

『absorb!』

 

 半自動的にサイラオーグ殿の闘気を吸収無効化する。

 そして吸収された力は自身の力へと変化される。

 これまでの攻防で減っていた魔力や体力が回復した。

 未だに未熟なので攻撃に込められた闘気の分しか吸収出来ないので最大レベルまで回復するとはいかなかった。

 だが、約半分は回復できた。

 否応なしにサイラオーグ殿の攻撃に込められた闘気の凄まじさを感じられた。

 

「まさか、俺の今出来うる最大限の闘気を込めた攻撃が吸収無効化されるとはな……だが、確かその鎧は吸収限界を超えるダメージは漏れ出すと聞いた事がある。ならば!!」

 

 サイラオーグ殿は人体急所一角である顎に当てた攻撃が吸収無効化された事に一瞬眼を丸くして驚いていたが、直ぐ様に気を取り直して息を付かせぬ連打を浴びせいてきた。

 

『absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb! absorb!』

 

 今までより重く素早い連撃の大半を捌いていなしたが、数発喰らってしまった。

 やはり格闘センスはサイラオーグ殿の方が数枚上手の様だ。

 

 俺の吸収限界がリミットオーバーするのが先か、はたまたサイラオーグ殿の闘気が尽きるのが先か。

 悠長に構えていられない。

 

 俺は意識を集中させて比較的に詠唱の短い魔法を込めた拳をカウンターで放った。

 

「ハイティ・マイティ・ウェンディ! 魔法の射手(サギタ・マギカ)!! 連弾(セリエス)光の9矢(ルーキス)!! 桜華崩拳!!」

 

 普段ならこの程度の魔法ではサイラオーグ殿の闘気の防御の壁は越えられないだろうが、吸収した力で威力が上がっている。

 だが、サイラオーグ殿の鳩尾に吸い込まれる様に叩き込んだ拳はそれ程手応えを感じ取れなかった。

 サイラオーグ殿は手合わせを始めた頃には出来ていなかった巧みな操作で腹に闘気を集中させて防いでみせた様だ。

 

 はいっ!!? それって、どんな凝擬きですか!!?

 

 だが、一瞬サイラオーグ殿の動きを止める事には成功した。

 俺はその隙に瞬動術で一気に間合いを離した。

 

 そして覚悟を決めた。

 このままでは負けはしないだろうが勝ちも拾えない。

 因子を吸収して複製しないと凡才の俺では闘気を操る術を手に入れる事は困難だろう。

 そのためにはサイラオーグ殿に致命傷を与えて、血肉を変換した因子を吸収する必要がある。

 

 まだ闘気操る術を会得していないが、上手く制御出来れば大ダメージを負うだろうが消滅まではいかないだろう。

 闇の魔法(マギア・エレベア)を装填した際の魔法に込められた光力での肉体への負荷を軽減するために闘気を操る術がいる。

 その闘気を操る術を得るために自爆覚悟で闇の魔法(マギア・エレベア)を使用しなければならない矛盾。

 分の悪い賭けだが決して負けが決まっている訳ではない。

 

 セラフォルー様からコネで頂いたフェニックスの涙も俺とサイラオーグ殿が使用する分は確保しているから、死ななければ回復出来るだろう。

 見届け役のグレイフィアさんに預けてあるからやばくなる前に使用してくれるだろう。

 

 これだけお膳立てがあるんだ。

 さあ、姫島 綾人! 漢なら覚悟を決めろ!!

 

 

「ハイティ・マイティ・ウェンディ! 来たれ雷精(ウェニアント・スピーリトゥス)風の精(アエリアーレス・フルグリエンテース)雷を纏いて(クム・フルグラティオーニ)吹きすさべ(フレット・テンペスタース)南洋の風(アウストリーナ)雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!! 」

 

 サイラオーグ殿は俺が呪文詠唱している隙に間合いを詰めてくる。

 その全身は丸で堅の様に闘気が満ちて纏われてる。

 また一つサイラオーグ殿が闘気を操る術を戦いの中で会得した様だ。

 

 今までなら呪文が唱え終わったところで遠距離から魔法を開放して攻撃していただろう。

 だが、それだけでは今も進化し続けているサイラオーグ殿に致命傷は与えられないだろう。

 

 ここから更に一歩踏み込む!!

 魔法を己の肉体へと装填して闇の魔法(マギア・エレベア)の術式兵装を展開させる!!

 

固定(スタグネット)!! 掌握(コンプレクシオー) 魔力充填(スプレーメントゥム・プロ) 術式兵装(アルマティオーネ) 疾風迅雷(アギリタース・フルミニス)!!!」

 

 両手に集中的に固定させた雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)を握り潰す様に己の肉体へと取り込んだ。

 瞬間的に一気に力が跳ね上がり、俺自身が光力を帯びた雷の化身の如き姿へと変化した。

 

 ぐふっ!!? やはり転生悪魔となったこの身には光力は相容れず丸で猛毒の様だ。

 これは一気に決めないと本当に自爆行為だな。

 

「ほぉ!! そんな隠し球をまだ持っていたか。これは俺も覚悟を決めないといけないな……はぁっ!! 八門遁甲、第一門……開門!!」

 

 サイラオーグ殿が経絡系の一つである開門を開く、つまり脳の抑制を外して筋力を限界点まで引き出した。

 

「嬉しい誤算だ、姫島 綾人……まさか、古文書を紐解いて会得した八門遁甲を第一門だけとは言え開く羽目になるとはな」

 

 アイエェエェエェ~!!?

 ちょっと待って!!?

 八門遁甲ですとっ!!?

 それってNARUTOのアレですか!!?

 先程のHunter×Hunterの念の応用技の凝擬きや堅の様なものといい、何てチート!!

 まあ、人の事をとやかく言う資格は俺にはないけどね。

 

 もしかして俺が転生特典で選んだオリジナル神滅具(ロンギヌス)淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)の歴代使用者の影響で俺の知識が漏れ出して若干歴史が交わってるって事かな?

 

 俺は驚愕を頭を振って追い出して気持ちを切り替える。

 

「……俺もですよ。まさか、諸刃の剣となる闇の魔法(マギア・エレベア)を使用する事になるなんてね」

 

 俺達はお互いににんまりと微笑み合いながら間合いを計りつつ、お互いの隙を伺っている。

 だが、お互いに肉体の限界を超えた力を使用している影響であまり時間は掛けられない。

 

 お互いの魔力と闘気が鬩ぎ合って辺りの空間を軋ませている。

 耐え切れなくなった地面が罅割れて、生えていた木が轟音と共に崩れ落ちた。

 その瞬間、お互いに示し合わせたかの様に間合いを零とする。

 

 サイラオーグ殿が俺の懐に詰め寄って足を掬い上げる様に蹴りを放ってきた。

 

 これは表蓮華か!!?

 

 俺は殆ど無意識に反射的に紙一重でその蹴りを避けた。

 何気にヴァーリとの手合わせで染み付いた反射神経が役に立った。

 俺はカウンター気味に光力が籠った電撃を帯びた拳をサイラオーグ殿の無防備な蟀谷に力一杯に叩き込んだ。

 

「がはっ!!?」

 

 光力の籠った雷撃に焼かれて脳震盪を起こして口から血反吐を吐いて目を回したサイラオーグ殿。

 俺は空かさず地面に倒れ伏したサイラオーグ殿に再度触れた。

 

『drain!』

 

 サイラオーグ殿の因子を吸収して闘気操る術を複製して会得した。

 

 まあ、十全に操るためには要修行だけれどね。

 一刻も早く闘気に慣れて置かないとな。

 

「ごふっ!!?」

 

 当初の目的を果たして安心した瞬間、取り込んでいた光力を込めた魔法が体内を暴れまわって蝕んだ。

 

 俺はあまりの激痛に意識を失うも、直ぐに激痛で意識が強制的に覚醒した。

 気絶と覚醒を繰り返す俺の精神力はガリガリと削られていく。

 だが、本当に精神力が底をつくと待っているのは絶対なる死である。

 

 俺が歯を食いしばって激痛に耐えていると駆けつけてきたグレイフィアさんがフェニックスの涙を使用してくれた。

 

 直ぐ様痛みが引いていき、俺は安堵しながら身体から力を抜いて眼を瞑った。

 

 瞼には心配そうに駆け寄ってくる姉ちゃんの表情が焼きついていた。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「知らない天井だ……」

 

 目覚めた俺の眼に映ったのは多分病室の天井だろう。

 幸い全身に意識を向けると後遺症は見当たらない。

 

 まあ、若干力が入らないのは仕方ないか。

 

 顔を横にして眼を向けると心配そうに俺の手を握り締めた涙目の姉ちゃんと眼があった。

 

「お早う、姉ちゃん……」

 

 俺が微笑みかけると姉ちゃんは感極まった様に俺に抱きついてきた。

 

「心配しましたわ、綾人!!」

「ごめんね、姉ちゃん……でも安心して、俺は大丈夫だよ」

 

 俺は姉ちゃんの背中に手を回してゆっくりと安心させる様に軽く撫で摩った。

 

「綾人、もう無茶しないで……貴方が居なくなったら私はどうすればいいか分かりませんわ」

 

 姉ちゃん涙を流しながらもしっかりと俺の眼を見据えてくる。

 

「愛しい姉ちゃんを一人置いて逝かないさ……」

 

 俺がおでこをくっつけながら微笑むと姉ちゃんも釣られて笑顔を浮かべた。

 そして、徐に姉ちゃんは眼を瞑って唇を差し出してきた。

 俺も眼を瞑って受け入れる。

 

「はむ……くちゅ……ちゅば……ちろちろ……ぷはぁ~♥」

 

 姉ちゃんは先程とは違う理由で頬を朱色に染めながら眼を潤ませていた。

 

 あっ!! やばい!!

 もしかして姉ちゃんのスイッチが入ちゃってるっ!!?

 

 俺が身を捩って半ば強引に引き離そうとするも巧みに抱きついてきている姉ちゃん。

 そして、俺の耳元で囁く様に妖艶な声が発せられた。

 

「ねえ、綾人……私の純潔を上げるから綾人の童貞下さいな♪」

「…………」

 

 俺は無言でナースコールを押した。

 

 直ぐ様駆け付けてくれた看護師さんのお陰で事なきを得た。

 

 はぁ~姉ちゃんってば血の繋がった実の弟に積極的になりすぎだよね。

 段々と理性のブレーキが外れてきている様だ。

 

 いや、まあ、俺も別に嫌ではないどころか望むところだよ。

 でも、さすがにまだ踏ん切りがつかない。

 こんな中途半端な気持ちで姉ちゃんを抱いたら後悔するだろう。

 

 一夜限りの戯れならこんなに悩まない。

 姉ちゃんとは一生縁が切れずに死が二人を分かつまで添い遂げる事になるだろう。

 

 それにミッテルトちゃんや、まだ見ぬ小猫ちゃんとレイヴェルちゃんの事も頭にチラつく。

 俺が思わずため息を吐いていると、更に俺っ娘で好敵手(ライバル)なヴァーリの好戦的な笑みが脳裏に鮮明に思い浮かんだ。

 

 何だ。やっぱり俺ってばヴァーリの事を憎からず思ってるんだと気が付いた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 姉ちゃんの誘惑をのらりくらりと躱しながら病室で過ごしていると、他の病室で休んでいる筈のサイラオーグ殿がやってきた。

 

「お楽しみのところ、邪魔するぞ」

 

 ノックもそこそこに入ってくるサイラオーグ殿。

 

「あらあら♪ いっらしゃいませ」

 

 姉ちゃんは俺から離れて表面上はにっこりと微笑んでいる。

 だが眼は笑っておらず、僅かに嫉妬の感情を滲ませながらサイラオーグ殿を見詰めている。

 

 サイラオーグ殿は敢えてその視線を無視して、ベッドに腰掛けて俺の顔を覗き込む様に微笑んでいる。

 

「手合わせ、感謝する。充実した一時だった……お陰で俺はまた一歩前進出来た」

「いえ、こちらこそありがとうございます。俺も憂いを一つ断ち切る事が出来ました。これで更に修行に身が入ります」

 

 俺とサイラオーグ殿は満面の笑みを浮かべながら力強く握手を交わした。

 

「ところで、サイラオーグ殿がよろしければこれからも時々手合わせを行いませんか?」

「ふむ。それはこちらからお願いしたいぐらいだ……頼めるか?」

 

 俺の提案に一層嬉しそうに微笑みを浮かべるサイラオーグ殿。

 

「ええ、承りました……それと魔王様や大王様達の許可が必要不可欠でしょうが、よろしければ今代の白龍皇との手合わせも打診してみましょうか?」

「何とっ!!? それは是非とも!!」

 

 サイラオーグ殿は一瞬驚きに眼を見開きながらも、直ぐに少年の様に眼を輝かせた。

 即断即決するぐらい嬉しい様だ。

 

「では、こちらも承りました……魔王様への根回しはお任せ下さい。大王様の方はお願いできますか?」

「ああ……難しいかもしれんが、何とか説得してみよう」

 

 サイラオーグ殿は頬を掻きながら苦笑を浮かべながらも眼には強い決意を宿していた。

 

 さて、問題は俺の方もあるよな。

 徒でさえ、三大勢力が和平を結ぶ前で、冷戦状態で一足即発の空気を孕んでいる事は事実だ。

 元堕天使勢力の神の子を見張る者(グリゴリ)の所属だった俺が、四大魔王の一柱のサーゼクス・ルシファー様の身内のリアスさんの眷属である転生悪魔になった事で否応なしに緊張は高まった。

 それでも俺とヴァーリの意志を汲み取って監視の元とは言え、手合わせを非公式で許可してくれている事はある意味奇跡と言えよう。

 そこに滅びの魔力を宿していないとは言え、大王のバアル家の血筋を引くサイラオーグを加われば新たな火種となりうるかもしれない。

 だが、強くなって己の居場所を求めているサイラオーグ殿を見す見す放置する事は出来ない。

 俺も自身の居場所、つまり大切な者達を守るために力を欲している。

 ある意味、俺とサイラオーグ殿は似た者同士である。

 

 

 

 

 

 結論から言うと、今代の白龍皇のヴァーリとサイラオーグ殿の手合わせは実現した。

 代わりに俺とサイラオーグ殿は殆ど無償ではぐれ悪魔を断罪する任務を与えれれた。

 それはむしろ望むところだ。

 実戦に勝る鍛錬はない。

 

 他にも何気に気に入られている外交担当のセラフォルー様との交換条件が俺の羞恥心を煽る事になった。

 徒でさえ『魔法少女マジカル✩レヴィアたん』のレギュラー化が決まったのにレヴィアたんの恋人兼好敵手(ライバル)の役回りって何なのっ!!?

 何気に外堀を埋めに来ている魔王少女様。

 何でこんなに好かれているのか、甚だ疑問である。

 いや、まあ、可愛らしい年上の女性に好意を寄せられているのは嬉しいよ。

 でも、人目を憚らずに過激なスキンシップを取るのは勘弁して下さい。

 ありもしない恋愛関連で一面の見出しを飾るのはもうお腹一杯です。

 その度に嫉妬に静かに燃え上がる姉ちゃんを宥めるのに胃が軋む思いです。

 これって贅沢な悩みなのかな?

 

 

 

 

 




Why?
確かにサイラオーグを強化する事は当初から決まっていましたが、気が付けば魔改造に片足を突っ込んでました。

それとレヴィアたん様が綾人(オリ主)に好意を寄せることは微塵も予定になかったんですが、執筆している内にそうなってしまいました。
何気にオイラもレヴィアたん様の事が好きだったんでしょうかね?

ご意見ご感想、評価等お待ちしています。

活動報告にアーシアのヒロイン化についてのアンケートがあります。
こちらもご意見お待ちしています。(終了しました)


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第08話

 

 

 

 

 

 はぐれ悪魔を断罪していく事、早数十体。

 中には政治的に処罰する必要のある者も居たが、大概は俺の手で処罰を与える事が大半だった。

 当初は同じ転生悪魔が殆どという事で多少の同情もあったが、数をこなしていく内に心を鋼に変えていった。

 無感動で処理していき己の糧へと血肉を因子に変換して吸収していく。

 何時しか俺はコンビを組んでいるサイラオーグ殿と共にはぐれ悪魔達から恐れられる者となっていた。

 

 だが、俺は『魔法少女マジカル✩レヴィアたん』にレギュラー出演している影響からか一部、特に子供達からは人気がある。

 一度子供を人質にとったはぐれ悪魔が居たが、冷静に処理して子供を無傷で助け出すと更に加速的に人気が鰻登りとなった。

 まあ、人気が出るのも考えものだが悪い気はしない。

 でも、眼をキラキラと輝かせてありもしないレヴィアたんとの赤裸々な関係を訊ねてくるのは勘弁して欲しい。

 徒でさえ公私共に猛烈アタックしてくるセラフォルー様に若干疲弊しているのだからね。

 

 いや、セラフォルー様の事は嫌いじゃないんだよ。

 どちらかと言うと好ましい感情を抱いている。

 問題はそれがLoveではなくてLike止まりだと言う事だ。

 そんな俺の気持ちを知っていても、悪魔の寿命は長いので何時しか俺も心変わりをするかもしれないとセラフォルー様は強かに攻勢を仕掛けてきている。

 その都度、姉ちゃんの機嫌が悪くなっていくのは勘弁して欲しい。

 徒でさえ姉ちゃんの誘惑をのらりくらりと躱していっているので、姉ちゃんも躍起になって日に日に攻勢が厳しくなってきているのだ。

 

 ああ、癒しが欲しい。

 心から安らげる時間が欲しい。

 美少女な姉ちゃんに迫られて何て贅沢なと言われるかもしれないが、僅かに残った良心の呵責に縛られて心労が半端ない。

 転生悪魔だからと欲望に忠実になれたらどれだけ楽になれるだろうか?

 こればかりは転生特典で鍛えれば鍛えるほど強くなる心をもらっていても難しい問題だ。

 

 俺は重い足取りで指定された謁見の間に足を運んでいった。

 

 

 

 

 

「やっほぉ~✩ 貴方のレヴィアたんから愛のメッセージだよ♪」

 

 何やら頬を染めつつ丸でラブレターの様に今回のターゲットの書かれた指令書を胸元で挟んで差し出してくるセラフォルー様。

 だが悪戯っぽい笑顔で舌をチロリと出していて若干あざとくも感じる。

 

 何時もはグレイフィアさんが持ってくるのだがどういう風の吹き回しなんだろうか?

 しかも何気に四大魔王の内のニ柱がそろい踏みしている。

 

 俺が訝しげに指令書を受け取るとセラフォルー様の様子を苦笑して見ていたサーゼクス様が真剣な表情を浮かべた。

 釣られてセラフォルー様も真剣な表情を浮かべた。

 その眼には若干の不安の色が見て取れた。

 

「拝見します……」 

 

 俺が指令書を開くと魔法陣が展開されて立体的に今回のターゲットの情報が浮かび上がった。

 

 こっ、これはっ!!?

 そうか、とうとう来たか。

 

 そこには主殺しの罪ではぐれ悪魔となった黒歌さんの姿が浮かび上がっていた。

 

「今回のターゲットは些か君でも荷が重いかもしれない……最上級悪魔に匹敵するSSランク評価のある転生悪魔だ」

「でも今回は討伐と言うよりその妹ちゃんの保護が最優先、って感じかな……主を殺した転生悪魔の身内だから同じように危険だって言う頭の固いおじさま達が居るから先に保護しないとダメなの」

 

 指令書には小猫ちゃん……いや、まだ白音ちゃんか。

 彼女の情報も浮かび上がってきた。

 

 原作時より儚い印象を受ける華奢な肢体。

 抱きしめると折れてしまいそうだ。

 この娘を心身共に守る事は俺に出来るのだろうか?

 

 

「了解しました……手段は一任させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 俺は確認する様にサーゼクス様の眼を見詰返した。

 

 出来れば白音ちゃんに手荒な真似はしたくないし、黒歌さんとの禍根も残したくない。

 禍根を残せば後々の行動に支障を来すだろう。

 

「ああ、構わないよ。君の思うとおりにするといいさ……」

 

 言質は取った。

 これで気兼ね無しに行動出来る。

 出来る限りに最善を目指して頑張りますか。

 

 それにしても今回は表向きはサイラオーグ殿は都合が付かずに実質単独任務か。

 滅びの魔力を受け継いでいないとは言えサイラオーグ殿は大王の血族で、俺は神滅具を宿しているとは言え換えの効く転生悪魔だ。

 下手をすれば死ぬ確率が高い任務だから仕方ないか。

 まあ、好都合かな。

 

 さてと、先遣隊に遅れない様にしないとな。

 あまり手間取っているとそれだけ白音ちゃんの生存率が下がるだろう。

 それだけは避けなければならない。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 黒歌さんの足取りはそれ程苦労する事なく掴めた。

 一人だけならまだしも、悪く言えば足手纏いの白音ちゃんを連れているために強行軍に踏み切れていないのが幸いした。

 

 先遣隊が息絶えて倒れ臥している先に連れ添って歩いている猫魈の姉妹が眼に入った。

 俺は何時しか龍の羽が四枚加わって悪魔の羽四枚と堕天使の羽四枚とを合わせた計十二枚の翼をはためかせて加速していって彼女達の眼の前へと降り立った。

 

「誰にゃ!!?」

 

 空かさず白音ちゃんを背後に庇って、俺を威嚇してくる黒歌さん。

 白音ちゃんは怯えた眼で俺を見詰めている。

 

 俺は敢えて悪魔の羽と堕天使の羽、更には龍の羽が入り混じった翼を晒したまま会釈した。

 

「お初にお目に掛かります、黒歌さん……俺はサーゼクス様の妹君のリアス姫の眷属が一人、戦車(ルーク)の駒を授かった姫島 綾人と申します」

 

 俺は顔を上げてしっかりと黒歌さんの眼を見詰返して、両手を挙げて敵意がない事を示しながらにっこりと微笑んだ。

 

「その翼……それにリアス・グレモリーの戦車(ルーク)って……まっ、まさかっ!!? 噂の淵龍王かにゃ!!?」

 

 驚愕の表情を浮かべながらこちらを更に警戒した視線で射抜いてくる黒歌さん。

 対照的に白音ちゃんは恐怖が薄らいで興味深そうに俺の事を見詰めている。

 

「はい。未だ理には至っていない若輩者ですが、一応今代の淵龍王を務めさせてもらってます……今回は黒歌さんと白音ちゃんに契約を持ちかけに来ました」

 

 俺は敵意のないままにこちらの要件を簡潔に伝えた。

 

「契約? 巫山戯るな!! 悪魔の契約ほど信じられない物はない!!」

 

 隠しきれない怒りを顕にして、俺を敵みたいに睨んでくる黒歌さん。

 

 俺はその怒りを流さず受け止めて、更に口を開いた。

 

「口頭契約で済ませる気はありません……契約書をしっかりと交わして行います。それに契約違反には俺の命を差し上げます」

「…………」

 

 俺の言葉を飲み込む様に思案していて黙り込む黒歌さん。

 その表情には凄まじい葛藤が入り混じっていた。

 

「姉さま……あの屑主と違って彼は信じられると思います」

 

 白音ちゃんは黒歌さんの裾を引っ張りながら上目遣いに見詰めている。

 

 なるほど、もしかして白音ちゃんってば黒歌さんが主を殺した原因を既に知っているのかな?

 この事は好都合なのかな?

 

「はぁ~……白音? あんた、彼がテレビで見ているキャラと同じだと思っていると痛い目みるかもしれないにゃ……」

 

 ため息混じりに白音ちゃんに諭す様に言い聞かせる黒歌さん。

 

「それはそうかもしれませんが……女性や子供の味方である彼はテレビ外でも私達の味方みたいですよ」

 

 何だ。『魔法少女マジカル✩レヴィアたん』に出演していた事も強ち無駄じゃなかったみたいだな。

 

 俺が苦笑していると肩の力を抜いた黒歌さんがこちらを一瞥してきた。

 

「確かに私が疲弊している上に白音を連れていてこっちが不利なのに一向に仕掛けてこないにゃ……良いにゃ、話ぐらいは聞いてあげる」

 

 微かに警戒の色を残したままだが譲歩してくれた黒歌さん。

 

「感謝します……では、契約書に眼を通して頂けますか?」

 

 俺は懐から契約書を取り出して黒歌さんに手渡した。

 既に契約書には俺の血判とサインを施してある。

 

 無言で受け取って熟読していく黒歌さん。

 白音ちゃんはその黒歌さんの傍でそわそわと俺の方をちらちらと見ている。

 俺は眼が合う度に白音ちゃんに笑顔で手を振った。

 するとぎこちなく白音ちゃんは控えめに手を振り返してくれた。

 

 はぅっ!!?

 きゃわええ~っすよ!!

 お持ち帰りしたい!!

 その太ももに頬をスリスリしたい!!

 

 俺は表面上はにこやかに微笑みながら、内面は白音ちゃんに萌えて悶えていた。

 

 

 

 

 

「最初に確認しておくけど……この契約におけるあんたのメリットって何にゃ?」

 

 契約書をぴらぴらと振りながら訊ねてくる黒歌さん。

 

「先ず建前として眷属仲間に強力な猫魈の血を引く白音ちゃんが手に入ります……」

 

 俺の言葉に眉を僅かに釣り上げる黒歌さん。

 

「それで本音は……?」

 

 俺の本心を見透かす様に眼を細めながら訊ねてくる黒歌さん。

 

「恥ずかしながら、俺は白音ちゃんに一目惚れしていまして……白音ちゃんと一緒に悠久の時を過ごしたいと思ってます」

 

 俺は僅かに朱色に染めた頬を掻きながらも臆面もなしに答えた。

 

「はぁ!!?」

「っ!!?」

 

 俺の答えに眼を丸くして固まる黒歌さんと頬を真っ赤に染めて固まる白音ちゃん。

 

「あんた、本気?」

 

 俺をしげしげと見詰めながら訊ねてくる黒歌さん。

 

「勿論、本気です!」

 

 そう、俺は前世から白音ちゃんに一目惚れしていてずっと想ってきたんだ。

 この心に偽りはない。

 実際に目の当たりにしてその気持ちは更に膨れ上がったぐらいだよ。

 

「白音……あんたはどうしたいにゃ? 確かにこのまま一緒に行動していても手詰まりだよ」

 

 黒歌さんは白音ちゃんの眼を覗き込む様に訊ねている。

 

「姉さまと離れ離れになるのは辛いです。でも、姉さまの負担になっている今の自分は嫌いです。それに……」

 

 頬どころか首まで真っ赤にして俯いている白音ちゃん。

 

「それに、何にゃ?」

 

 面白そうに続きを促している黒歌さん。

 白音ちゃんは益々真っ赤になって縮こまっている。

 

 いや~あの~、確かに俺は恥ずかしい事を臆面もなしに言ったけど、そこまで恐縮しなくてもいい様な気がするよ。

 もしかして、自意識過剰じゃなかったら白音ちゃんも少しは俺の事を想ってくれているのかな?

 

 俺が固唾を飲んで見守っていると白音ちゃんは顔を上げて、黒歌さんの耳元で囁く様に答えていた。

 それを聞いて頷いている黒歌さん。

 

「うん、分かったにゃ。寂しいけど、ここで一旦お別れだね。白音……」

「はい、姉さま。どうぞ、息災で……姉さまの嫌疑は私が晴らします」

 

 お互いに抱きしめ合いながら別れを惜しんでいる猫魈の姉妹。

 その様子は侵しがたい神聖なものの様に感じられた。

 

「よしと! 淵龍王ちん、君と正式に契約を交わすにゃ。 白音を泣かせたら末代まで祟るぞぉ♪」

 

 白音ちゃんを開放して俺の意味深な笑みを浮かべてくる黒歌さん。

 

「はい。確約はできませんが、できる限り努力します」

 

 俺の答えに満足そうに頷きながら契約書にサインしていく黒歌さん。

 そして指を傷つけて血判を押した。

 

 続いて白音ちゃんも契約書にサインして血判を押した。

 

 契約書が光を放って魔法陣を浮かび上がらせる。

 三人を魔法陣が足元から通過して契約が正式に交わされた。

 

 

 

 

 

「さてと、これで私は身軽になって逃亡しやすくなった訳だけれど……見逃していいのかにゃ?」

 

 確かめる様に俺に訊ねてくる黒歌さん。

 

「ええ、構いません。今回の任務はあくまで白音ちゃんの保護が最優先ですから……それに、実際に話してみて貴女の為人が掴めましたからね。私欲で主を害する者とは違うと感じました」

 

 俺がにっこりと微笑みながら言うと溜息を吐く黒歌さん。

 

「信じるのは勝手だけれど……まあ、それで白音の安全が買えたなら安いもんか……白音、この子はお人好しみたいだからしっかりと轡を握ってなきゃ駄目にゃ♪」

「はい、姉さま。お気をつけて……」

 

 少し寂しそうにお別れを言う白音ちゃん。

 

「うん、白音もね……名残惜しいけどさようならにゃ」

 

 黒歌さんは何度も後ろを振り返って大きく手を振って去っていった。

 

 白音ちゃんも黒歌さんの姿が見えなくなるまで手を振り返していた。

 

「行っちゃたね、白音ちゃん……俺では黒歌さんの代わりにはなれないだろうけど、一緒にいるよ」

 

 俺が白音ちゃんの頭を撫でながら言うと、少し頬を染めながら見上げてくる。

 

「はい。よろしくお願いします、綾人兄さま」

「……にっ、兄さま?」

 

 俺は白音ちゃんの呼称に思わず聞き返した。

 

「駄目でしょうか?」

 

 目尻に涙を溜めながら上目遣いに訴えてくる白音ちゃん。

 

 うぐっ!!?

 こっ、コレはっ!!?

 贖う事ができそうにないな。

 

「えっと……駄目じゃないよ、好きに呼んでくれ」

 

 俺はにっこりと微笑みかけた。

 すると、白音ちゃんは頬の赤みを隠す様に俺の胸元に顔を埋めてきた。

 

 うぉっ!!?

 コレって、既にフラグが建ってるっ!!?

 もしかして『魔法少女マジカル✩レヴィアたん』の出演の効果かな?

 それなら嬉しい誤算だな。

 

 俺はそっと白音ちゃんを抱きしめた。

 

「さてと、未だリアス・グレモリー眷属じゃない白音ちゃんは魔法陣で転移出来ないから空を飛んでいく事になるけれど……」

「はい……私は飛べませんのでエスコートをよろしくお願いします」

 

 白音ちゃんは俺の胸元に顔を埋めたまま腰に手を回している。

 

「ああ、しっかりと掴まっていてね」

 

 俺は白音ちゃんをそっと抱きしめ返して翼を羽ばたかせて空へと飛び上がった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 白音ちゃんを引き連れてサーゼクス様に謁見を申し出た。

 幸いな事にセラフォルー様は既に居なかった。

 あれでも多忙な四大魔王の一柱だからね。

 その割に頻繁に俺にアタックしてくる気がするけれどね。

 

「任務ご苦労、淵龍王。一先ず、労を労おう」

「勿体無きお言葉……感謝致します」

 

 俺は王座にて座っているサーゼクス様の前で臣下の礼を取っている。

 普段は人当たりの良い方でも、そこは四大魔王の一柱。

 公私の区別をつけて接する必要がある。

 まあ、一度魔王の仮面を外したら唯のドシスコンなんだけれどね。

 

「君が白音か。君の安全は我が魔王サーゼクスの名に置いて保証しよう」

「ありがとうございます、サーゼクス様」

 

 白音ちゃんは顔を上げてサーゼクス様に答えている。

 その身体は微かに震えていた。

 

 やっぱり黒歌さんの主殺しの嫌疑を晴らそうと申し立てをするつもりだろう。

 ここで俺が出しゃばる訳にはいかない。

 俺は原作知識で事情を知ってはいるが当事者ではない。

 まあ、手は打っておいているけれどね。

 

「君の身柄は我が妹のリアス・グレモリー預りとなる。問題ないかな?」

「はい……ですが、一つお願いがあります」

 

 白音ちゃんは震える体を奮い立たせる様に言った。

 

「何かな? 出来る限りは叶えよう」

 

 サーゼクス様は優し気な笑みを浮かべながら続きを促した。

 

「姉さま……黒歌姉さまの主殺しの一件を詳しく調査して欲しいんです。何故、姉さまが主を殺したのか。先に裏切ったのはどちらなのか」

 

 一瞬眉を顰めたサーゼクス様。

 

「ふむ……黒歌の主殺害は私利私欲ではなく理由があると言う事かな? いいだろう、魔王サーゼクスの名に置いて調査を行う事を約束しよう」

 

 良かった。

 事前に黒歌さんの元主の黒い噂をサーゼクス様の耳に入れて置いた事は無駄にはならなかった。

 

「ありがとうございます」

 

 白音ちゃんは安堵の表情を浮かべながら頭を深々と下げている。

 

 

 

 

 

 サーゼクス様との謁見が終わってリアスさんと姉ちゃんに白音ちゃんを引き合わせる事になった。

 

 白音ちゃんは俺の服の裾を掴みながら不安そうにしている。

 

「初めまして、白音。私がリアス・グレモリー。貴女の身元引受人ってところね。出来れば貴女にも私の眷属になって欲しいところだけれど……」

 

 にっこりと微笑みながら手を差し出している我が主(リアス姫)

 

「綾人兄さまと居れるなら構いません……」

 

 その手をゆっくりと、しかししっかりと握り返している白音ちゃん。

 まあ、俺の服の裾を掴んだままなのはご愛嬌か。

 

「あらあら♪ 綾人ってば、また女の子を堕としましたのね。本当に罪作りな子ですわね」

 

 頬に手を当てながら微笑んでいる姉ちゃん。

 その眼は白音ちゃんを値踏みする様に輝いている。

 その視線を受けて白音ちゃんが息苦しそうに身を捩っている。

 

「姉ちゃん……自己紹介がまだだよ」

 

 俺がため息混じりに指摘すると探るような視線は止まった。

 

「あら? そうでしたわね。私は姫島 朱乃ですわ。お察しのとおり、綾人の実姉ですわ」

「よろしくお願いします、朱乃さん」

 

 お互いに笑顔なんだが俺を挟んで丸で睨み合っている様だ。

 

 俺の背に思わず冷や汗が流れ落ちていく。

 

「朱乃ってば、相変わらずのブラコンよね」

 

 その様子をため息混じりに眺めているリアスさん。

 

 唯のブラコン程度なら俺も困りませんよ。

 でも俺を異性としてしっかりと認識しているんだから質が悪い。

 まあ、そんな姉ちゃんを俺も少しばかりとは言え、しっかりと異性と意識しているからね。

 我ながら度し難い。

 

 姉ちゃんと白音ちゃんには出来れば仲良くいて欲しいけれど、それって贅沢な悩みなのかな?

 

 

 

 

 




何だか執筆している内に思ったんですけど、これって白音ちゃんが名前を小猫ちゃんに変える必要ないですよね?
既に黒歌さんの主殺しの真相を知っているし、これなら仙術も忌み嫌う必要がないですよね。

リアス眷属は軒並み強化予定ですので最初から仙術を使用させる事にしていたらこんな展開になりました。
他にも他作品から技のパロディーをするつもりですがね。

そして、何故か綾人(オリ主)を兄さま呼びする事になってしまいました。
まあ、朱乃(実の姉)の行動に一喜一憂しているシスコンな綾人(オリ主)ですので、義理と言えども有効な呼び方ですかね。

ご意見ご感想をお待ちしています。

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※何故か一誠TS化の派閥が台頭してきてます。
 いや、まあ、TS化は嫌いじゃないですよ。
 既にヴァーリをTS化してますしね。


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第09話

 

 

 

 

 

 リアスさんが正式に駒王町を領土として治める事になって月日が流れた。

 俺も今年から昼間は駒王学園中等部に通って、夜間は悪魔の契約を本格的に取っていく事になった。

 今まで以上に充足するも忙しい生活を送る事となるだろう。

 まあ、暫くはチラシ配りに精を出さないといけないよな。

 俺の愛車である改造マウンテンバイクで夜の駒王町を駆け回る事になる。

 悪魔となっている影響でお仕事中は警察官や他の人間に認識されずに行動出来るのはありがたい。

 夜中に外で行動していると呼び止められてしまうだろう。

 愚鈍なりに鍛えていても俺の見た目は年相応以下の幼い少年である。

 一応腹筋は割れていて胸板も厚いのは密かな自慢ではある。

 まあ、サイラオーグ殿と比べると脆弱なのが玉に瑕ではある。

 

 他にも空いた時間を利用して白音ちゃんの戦車(ルーク)の駒の特性である怪力を十全に生かすために、俺は八極拳の型や八卦掌の歩法や技法を手取り足取りしっかりと教え込んでいる。

 命を狙われていたとは言え、原作とは違って白音ちゃんは黒歌さんと仲違いしてないからか人見知りをする事がないので、俺が教える事を嫌な顔を一つせずに学習して吸収していっている。

 

 それにしても、やっぱり好きな娘と過ごす時間は何物にも代え難い。

 しかも、白音ちゃんも俺の事を憎からず想ってくれている様で、俺の一挙一動にはにかんだ笑顔で応えてくれる事が愛らしい。

 自惚れではないのならこんな時間が何時までも続くと嬉しい。

 

 まあ、時折触り方がエロっぽくなってしまう事があって、頬を朱色に染めた白音ちゃんに毒舌を吐かれる事もあるが概ね順調に修練を重ねて行っている。

 頬を朱色に染めつつも毒舌を吐く白音ちゃんの姿は背筋に電気が走るぐらいご褒美です。

 お陰で愚息も痛いぐらいに元気になります。

 うん。骨の髄まで俺はM気質なんだと改めて自覚する事が出来た。

 是非とも白音ちゃんには罵倒しながら俺を押し倒してほしいくらいである。

 

 俺の性癖は一旦横に置いといて、何気に武術関係の弟子は初めてなので試行錯誤を繰り返しながら教えていっている。

 俺も拙い教えながら弟子を育てると言う貴重な経験を得て、己の武術を一つ一つ見つめ直す機会に恵まれた。

 やはり客観的に己の武術を捉えられると言う事は少なからず良い経験となった。

 

 更に他にもサイラオーグ殿共に一ヶ月に2~3回のペースでヴァーリを含めて手合わせしたり、魔法関係の弟子である姉ちゃんと実戦形式の修練をしたりもしている。

 何気に一人で修練を積んでいた時より効率が遥かに良い。

 まあ、俺自身は凡才なので皆の成長に置いていかれない様に必死に修練をしている。

 

 他の空いた時間は休息出来るかといえばそうでもない。

 相も変わらず、はぐれ悪魔討伐の依頼が舞い込んできているからだ。

 まあ、修練して得た技や技法を実戦で試せる機会は有難い事である。

 

 

 

 

 

 そんな日々を一ヶ月程過ごした。

 桜も散って新緑が眼に染みる季節となった。

 今日は何時もの己を虐め抜く程の修練ではなく、軽く身体を動かして解すだけで終了となった。

 何故なら今日は俺や白音ちゃんの初契約の日なのだ。

 今日まで散々と駒王町を所狭しと改造マウンテンバイクで駆けずり回った。

 まあ、召喚用のチラシは一回の使用限りなので、人間の欲望が尽きない限りは配り続ける必要がある。

 新人悪魔は自らの手で配る必要があるが、本来ならチラシ配りは使い魔の仕事である。

 まあ、俺は未だに使い魔を持ってないからこれからも自ら配る必要がある。

 いや、まあ、未だに使い魔とは言い切れない扱いのミッテルトちゃんが居るには居るけど、さすがに三大勢力が敵対している現状では正式には使役契約は交わせていない。

 それに今はとある事に備えてダブルスパイ紛いの事をしてもらう必要があるからね。

 本格的に契約を結ぶのは未だ先の話である。

 今は対等にお互いの利益を優先して協力し合う関係である。

 

 

 

 

 黄昏時が過ぎた時間帯。

 徐々に夜の帳に包まれてくる。

 今からは俺達悪魔の時間である。

 

 白音ちゃんは最近のもっぱらの定位置である俺の膝の上で寛いでいるのだが、少なからず初契約に緊張している様で微かに震えている。

 俺も若干緊張していたが白音ちゃんを落ち着かせるために頭を撫でている内に解れてきた。

 

「ありがとうございます、綾人兄さま」

 

 緊張が和らいだ表情で俺に微笑みかける白音ちゃん。

 

「どういたしまして、お役に立てたなら幸いだよ」

 

 俺も白音ちゃんに微笑み返した。

 

「二人共準備が出来ましたわ。順番に魔法陣の傍に来てください。先ずは綾人からいらっしゃい」

 

 俺と白音ちゃんとの甘い空気を払拭する様に姉ちゃんから声が掛かった。

 最近は俺と白音ちゃんとのスキンシップに目くじらを立てる事が無くなってはきたが、それでも姉ちゃんは未だ少しは嫉妬している様だ。

 俺は少し残念そうな表情の白音ちゃんから渋々と離れた。

 

 そう言えば自前で転移した事は多々あったが、グレモリー家の魔法陣で転移するのはこれが初めてか。

 

 俺が魔法陣の傍に佇んでいると姉ちゃんは呪文を詠唱して、俺の刻印を魔法陣に読み込ませている。

 既に俺の身体の彼方此方に書き込まれているグレモリー家の魔法陣と共鳴して淡く青白い光を発している。

 

 暫くすると詠唱が終わって姉ちゃんが魔法陣の中央から身を引いた。

 今度は俺が代わりに魔法陣の中央に佇んだ。

 すると更に魔法陣が光り輝きだした。

 

「さあ、魔法陣が依頼者に反応しているわ。まあ、初めてだからレベルの低い契約内容からだけれど、きっちりと契約を取ってくるのよ」

 

 満面の笑みを浮かべながら手を振っているリアスさん。

 

「イエス、我が姫君(マイ・ロード)

 

 俺は大げさに芝居掛かった会釈を返した。

 

 魔法陣が最大級に光を放って独特の浮遊感が全身に感じられると、一気に転移して空気が変わったのが感じられた。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 眩い光に包まれて俺は依頼主の持つチラシの魔法陣から召喚された。

 

「リアス・グレモリー眷属が一柱、戦車(ルーク)の駒を拝命した淵龍王……召喚に応じて馳せ参じました」

 

 俺は堂々としながらも柔らかい笑みを浮かべながら召喚者に挨拶をした。

 

「いらっしゃいにょ、悪魔さん」

 

 俺の挨拶に応えたのはどこらからどう見ても世紀末覇者にしか見えない漢女だった。

 それは圧倒的な巨体だった。しかも、とてつもない存在感を放っている。

 鍛え抜かれた筋骨隆々な漢が、ゴスロリ衣装を身に纏っている。

 サイズが合っていない衣装は今にもボタンが弾け飛んで破れそうだ。

 双眸から凄まじい程の殺気が感じられるが、同時にその瞳は純粋無垢な輝きを放っていた。

 

 えっと……アレ? この御仁は……

 えっ!!? もしかして、ミルたんですかっ!!?

 ちょっ!!? 初っ端からコレは幾らなんでもレベルが高過ぎるんじゃないですかっ!!?

 

 俺は思わず生唾を飲み込みながら戦慄していた。

 

「どうしたにょ、悪魔さん?」

 

 俺の様子に小首を傾げるミルたん。

 見た目に反して何故かその様子に違和感を感じられない。

 

「いっ、いえ……ごほん! それでは願いを聞きましょう」

 

 俺は表面上はしっかりと取り繕って契約を取る事を優先した。

 まあ、内面は未だに激しく動揺しているんだけれどね。

 こんなに緊張したのは何時以来だろうか?

 だって、漢女だよ!

 やっぱり、そこに佇んでいるだけで威圧感が半端ないです。

 

「ミルたんを魔法少女にしてほしいにょ」

 

 何故か何処かで見た事のある決めポーズをしながら願いを述べるミルたん。

 手にした魔法ステッキと相まって見た目は異様だが何気に様になっていた。

 

 アレ?

 何かそのポーズに既視感を覚えて嫌な予感が背中を走った。

 『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティヴ』の決めポーズと極めて酷似しているが所々アレンジされている。

 まあ、横ピースがあざとく感じられるが、むしろソレがインパクトになっている。

 これって間違いなく何処かで見た事ある様な気がするんだけれどね?

 

「……無理です。異世界にでも転移してください」

 

 俺は端末を操作しながら淡々と応えた。

 嫌な予感は無理やり押さえ込んでいて無表情で言い放った。

 

「それはもう試したにょ」

 

 うん。知ってます。

 この世紀末な漢女は最早悪魔の常識でも縛れないんだよね。

 でも何だろう、この歯に物が挟まった様な感覚は……ミルたんを見ていると何か重要な事を見落としている感覚に襲われる。

 

「でも無理だったにょ。ミルたんに魔法の力をくれるものはなかったにょ」

 

 しょんぼりと乙女の様に俯くミルたん。

 だが直ぐに勢い良く顔を上げて力強い瞳で俺を射抜いてくる。

 その瞳には強い闘志が漲っていた。

 

「もう、こうなったら宿敵の悪魔さんに頼むしかないにょ!」

 

 いや、あの、宿敵扱いされても困ります。

 俺如き愚鈍な凡才では世紀末な漢女のミルたんに勝てる気がしません。

 俺は表面上は取り繕っているものの、内心では白旗を掲げて土下座して平伏している気分になっている。

 

「悪魔さんッッ!」

 

 ミルたんの発する声で部屋全体が激しく揺れ動いている。

 

 うぉっ!!?

 これは音声魔術かっ!!?

 いや、闘気は感じられるが魔力は込められていない。

 

「ミルたんにファンタジーなパワーをくださいにょぉぉぉぉっ!!」

「いや、まあ、その……魔法()()は無理だけれど、魔法だけなら教える事は出来ますよ」

 

 俺は頬を掻きながら視線を逸らして応えた。

 

 そうなのだ。俺が操る魔法体系はよほどの事が無い限り万人が操る事が出来る。

 刃物と一緒で扱う人物に因って危険かどうか判断が分かれるから、おいそれと教えられないんだけれどね。

 まあ、ミルたんなら心配ないと俺の本能が訴えている。

 それに魔力なら俺と契約を交わす事でクリア出来るしね。

 

「本当かにょ!? それでも良いにょ! お願いします、悪魔さん!」

 

 俺の手を両手で掴んで懇願してくるミルたん。

 夜間で増している悪魔の身体能力を更に魔法で強化しているのに手が砕かれるかと思った。

 

 うん。ミルたん、マジパネェっす。

 

「では、契約といきましょう。えっと、対価は……」

 

 俺は痛みに顔を顰めそうになるもポーカーフェイスで手を振り解いて端末を操作していく。

 情報を余すことなく入力して、必要な対価を算出していく。

 

「ミルたんの寿命の一部と魔法を取得した事に因って得られる成果全般の還元……っと、こんなところですね」

 

 予想より対価が低いのは多分ミルたんが俺より格上なのが原因かな?

 

 俺が端末から顔を上がると涙目のミルたんのドアップがあった。

 俺は思わず仰け反って一歩後退りをした。

 

「さすがはこのDVDの出演者の一人だにょ! この作品の魔法はフィクションじゃないって宣伝文句は嘘じゃなかったにょ!!」

 

 嬉しそうにDVDを掲げて小躍りしているミルたん。

 

 ちょっ!!?

 冥界でしか流通していないはずの『魔法少女マジカル✩レヴィアたん』のDVDがなんでここにあるのっ!!?

 あっ!! さっきの決めポーズはレヴィアたんのモノかっ!!

 道理で見覚えがあったはずだよ。

 散々公私に渡って見せ付けれれているからね。

 

「あっ、あの……ミルたん? そのDVDは何処で手に入れたんですかね?」

 

 恐る恐る訊ねる俺にミルたんは満面を笑みを浮かべながら応えた。

 

「これは『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティヴ』のファンの集まりのオフ会でお友達になった娘からもらったにょ……後で気がついたんだけれどその娘、この作品の主演女優さんだったにょ。まさか、悪魔関連の娘とは思わなかったにょ」

 

 ぶふぉっ!!?

 セラフォルー様っ!!?

 四大魔王の一柱が気軽にお忍びで人間界に遊びに来ないでください!!

 これが公になれば大問題ですよ!!

 徒でさえ三大勢力は冷戦状態で少しの事でも火種になるのに!!

 それに他の神話体系にも気を使ってください!!

 四面楚歌になっても知りませんよ!!

 仮にも貴女は外交担当の魔王様でしょう!!

 

「それでその娘に魔法を使いたければこの『魔法少女魔法少女マジカル✩レヴィアたん』の出演者の一人で、主人公のレヴィアたんの好敵手(ライバル)兼恋人の魔法拳士役……グレモリー眷属の淵龍王を召喚すれば良いってアドバイスされたにょ」

 

 はぁ~セラフォルー様……貴女はどこまで行っても俺を弄ぶんですね。

 良いでしょう。そっちがその気なら俺は貴女の予想以上の成果を上げてみせましょう!!

 

「では、ミルたん……この契約書にサインと血判をお願いします」

 

 端末を操作して契約書を作成してに繋いだプリンターで印刷をした。

 悪魔の世界もデジタル化が進んで便利になったものである。

 

「分かったにょ……」

 

 契約書を熟読していくミルたん。

 ふむ。悪魔との契約の重さを理解出来ている様で感心が持てる。

 

 

 

 

 

 

 結果から言うと俺の初契約は大成功だった。

 アンケート結果でもミルたんは大絶賛していた。

 まあ、定期的に召喚されてミルたんに魔法を教えていくことになったので、お得意様を一人ゲット出来たことは幸先が良い。

 問題があるとすればミルたんが更に過剰過ぎる戦略核並といえるぐらいになったので、その矛先が悪魔陣営に向かないか心配ではある。

 だが、余程契約を無視して人間を搾取する様な事をしなければソレも杞憂に終わるだろう。

 

 ミルたんは俺の事を師匠(マスター)と呼び慕ってくれており、貪欲なまでに魔法をモノにしていっている。

 ミルたんは直ぐ様初歩魔法を覚えていった。

 直ぐに俺なんか追い抜いて行きそうなスピードである。

 ミルたんのスタイルは俺と一緒で魔法拳士タイプの様だ。

 ミルたんを眷属悪魔に欲しがる輩は沢山出てきそうだが、魔王クラスでもミルたんを転生させる事は難しいかも知れない。

 うん。チートキャラが更にバグキャラへと進化したわけだ。

 

 この世界は俺と言う異物が混ざった影響で更にパワーインフレがおかしくなっていきそうだ。

 俺もその流れに置いていかれる訳にはいかない。

 更に修練を積んでいこう。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 俺は結跏趺坐(けっかふざ)の座禅を組みながら静かに瞑想している。

 今から挑戦する技法は己の精神を無にする必要がある。

 これは転生特典では得ていない技法だが理論的には知っている。

 初めは上手くいかないだろうが挑戦する事は無駄にはならないだろう。

 その技法とは咸卦法、氣と魔力の合一(シュンタクシス・アンティケイメノイン)である。

 これを操れれば俺の戦術幅は大きく飛躍するだろう。

 引き出しは多いに越した事はない。

 千里の道も一歩からと言うが、この技法を習得する事は途方もなく険しい道程になるだろう。

 何せ俺は周りの天才達に比べれば愚鈍な凡才なのだからね。

 闇の魔法(マギア・エレベア)も確かに優れた技法だが、それだけでは太刀打ち出来ない事柄も出てくるだろう。

 何事も貪欲に求めていく。

 その事は悪魔に転生してから更に強くなっていった。

 

「右手に氣、左手に魔力……合成!!」

 

 両手に反発するが等しく我が身から発生する力を同時に展開して胸元で混ぜ合わせ様とする。

 

《パン!》

 

 だがやはり、相反する力を合成するのは一筋縄では行かなくて小さな破裂音だけが鳴り響いただけに終わった。

 両手に集めた氣と魔力は霧散してしまった。

 

 まあ、これくらい想定内だ。

 後はなぜ失敗したかを突き詰めて、回数を重ねる毎に微調整を行っていく必要がある。

 幸い原作開始時と言える高校二年生までたっぷりとはいかないが時間はある。

 まあ、魔法や武術の修練と皆との手合わせや弟子達との修練も並行して行う必要があるから大変だ。

 更に実戦紛いのはぐれ悪魔を狩る仕事もある。

 だが何時しか努力フェチに近い精神構造になっている俺にはそれさえもご馳走である。

 

 問おう、姫島 綾人!!

 先の見えない道程だが恐れずに歩む覚悟はあるか?

 勿論、是である。

 さあ、己を虐め抜いて更なる高みを目指そう!!

 

 

 

 

 

 

 




http://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=71117&uid=1327

引き続き活動報告にてアーシアのヒロイン化と言うか、何時の間にか一誠のTS化が主流となったアンケートのご意見を募集しています。(終了しました)

もしも、一誠をTS化するなら木場きゅんもTS化する方が無難でしょうか?
一応木場きゅんの初登場は次回を予定していますので、出来れば来週の頭(2015/05/25)頃までにご意見頂けると幸いです。

さて、今回は綾人(オリ主)の初契約のお話でしたが、ミルたんの魔改造な事になってしまいました。
まあ、これはこの話を思いついた当初から頭に浮かんでいた事ですがね。
『魔法先生ネギま!』の魔法体系は一般人でも呪文が唱えられない体質でもなければ操れますからね。
でもミルたんはあくまでモブに毛が生えた程度の登場頻度の予定です。
原作でも手に負えない感じなのに更に魔改造してしまって頻繁に登場したら収拾がつかなくなってしまいますものね。
全国のミルたんファンの皆様にはこの場を借りて陳謝します。
誠に申し訳ございません。

よろしければご意見ご感想、批評や評価を募集しています。


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第10話

 

 

 

 

 

 駒王町での生活に大分慣れ親しんできた今日この頃、リアスさんが新たな眷属である騎士(ナイト)の眷属を拾ってきた。

 そう文字通り拾ってきたのだ。

 フィーリングが大事とは言え、録に知らない者を気軽に眷属にするのは控えてほしい。

 まあ、引きが強くてハズレくじを引かないから問題はないと言えるのかな?

 

 

 

 

 

 俺の眼の前でベッドに横たわっている中性的な顔立ちの少女は俺と同年代の年頃の様だ。

 

 この娘は多分間違えなくイザイヤと呼ばれていた者だろう。

 

 うん、そうなのだ。木場きゅんもTS化している。

 ヴァーリに続いて木場きゅんまでとなると俺の原作知識が本当に役立つか甚だ疑問である。

 まあ、多分大まかな流れは変わらないだろうが、何故か釈然としない気持ちに襲われる。

 いや、まあ、この娘が悪いわけじゃないが、神様は俺にどうして欲しいのだろうか?

 

 イザイヤちゃんは荒い息をしており、辛い記憶を夢で追体験している様だ。

 俺は悪いと思ったが、リアスさんの指示もあってその夢の内容を魔法で覗き込んだ。

 

「ハイティ・マイティ・ウェンディ! 夢の妖精(ニュンファ・ソムニー)女王メイヴよ(レーギーナ・メイヴ)扉を開けて(ポルターム・アペリエンス)夢へと(アド・セー・ノース)いざなえ(アリキアット)……」

 

 俺の意識はイザイヤちゃんの夢へと侵入してその内容を具に観察していく。

 

 

 

 

 

 神を信仰していた少年少女達。

 自分達の関わっている実験が何時しか神に選ばれて特別な存在になれるためのものだと教え込まれていたから、辛い事ばかりでも恐怖心は抱かなかった様だ。

 

 だがある日突然にその理が破られた。

 突如、彼女らは処分されることになった。

 一箇所に集められて、ガスが撒かれた。

 手が痺れていき、足も動かなくなり、全身の神経がズタズタに裂かれた様な激痛が全身を襲っている。

 涙や血と言ったあらゆる体液が身体から溢れ出して、ただただ苦しみが全身を支配している様だ。

 そして次第に意識も薄れていき、死に至っていく。

 彼女の目の前で苦楽を共に過ごしてきた同志達が何人ももがき苦しみながら死んでいった。

 

 俺はその様子を既に終わっている過去の記憶だと理解出来ていても、何も出来ない自分に歯軋りをしている。

 俺はこの事を原作知識で知っていた。

 既に起こった過去の記憶とは言えど、実際に目の当たりにすると己の無力さに苛まれる。

 全知全能と言えないちっぽけな俺では全てを救うなんてただの傲慢に過ぎない事を痛い程理解している。

 だが、せめて俺の手が届く範囲では救いの手を伸ばそうと改めて心に深く刻み込んだ。

 

 遂に彼女達の番となり部屋の中央に他の同志達共に集められている。

 防護服を着た研究者達が震えている彼女らにガスを散布をし始めた。

 彼女らは必死に息を止めているものの直ぐに限界が来て、微量のガスを吸い込んでいき、そして呼吸のために徐々に身体へと取り込まれていっている。

 途端に全身が痙攣を起こして、視線が定まらなくなっていっている。

 彼女が床に膝をついて身体中に走っている痛みを緩和させる様に手で摩っていると、一人の同志が激痛に耐えながらも研究者を突き飛ばした。

 扉を強引に開け放ち、中でも一番状態の軽かった彼女に向けてその同志は叫んだ。

 

「逃げて! あなただけでも!」

 

 彼女はその言葉を聞いて、直ぐ様立ち上がって部屋を脱出した。

 

 研究者達は彼女の突然行為に隙をつかれてしまって脱出を許してしまっている。

 恐らくは敬虔なる信者だった彼女達に対して研究者達は最後まで我々を信じて逃げる者などいないだろうと高をくくっていたのが幸いしたんだろう。

 わずかな隙をついて彼女は研究所からの脱出に成功した。

 

「待て!」

「逃がすな!」

 

 しかし、追っ手は彼女を執拗に追い回している。

 山の森で雪が降りしきる中、彼女はひたすら逃げ続けている。

 

 その表情は段々と復讐心に染まっていっている様に見えた。

 

 だが、死に必死に抗っているものの体力も意識も限界の底に来て、彼女は森の中で静かに倒れ込んだ。

 

 そこへ鮮やかな紅髪を持つ我が姫君()のリアス・グレモリーが現れた。

 彼女は顔を上げてその微笑みを虚ろな眼で見詰めている。

 

「あなたは何を望むの?」

 

 死にゆく彼女を抱き抱えながら問うリアスさん。

 

 そこで記憶()は途切れた。

 

 

 

 

 

 眼を開けるとベッドに横たわているイザイヤちゃんの姿が眼に入った。

 幾分か呼吸は安定しているものの全身から汗を流してぐったりとしている。

 魘されている内に寝返りを何度も打って掛け布団が捲れ上がってしまっている。

 不謹慎も彼女の艶姿に眼を奪われていた。

 すらりとした生足に思わず生唾を飲み込んだ。

 

 我ながら節操なしで困る。

 

 俺は頭を振って邪な気持ちを追い出した。

 そして彼女の記憶の報告にいくために部屋を後にした。

 

 

 

 

 

「ご苦労様、綾人……それで彼女はやっぱり教会関係者かしら?」

 

 報告に訪れた俺に労いの言葉を掛けながら訊ねてくるリアスさん。

 

「はい、その様です。彼の地で行わていると噂されていた、聖剣エクスカリバーを人工的に使える様にする研究の被験者の一人でしょう。彼女を始め、多くの被験者達は因子が足らずに適応できなかったために、不良品の烙印を押し付けられて処分されていった様です」

 

 俺は感情を浮かべずに淡々と事実を報告した。

 

「そう……やっぱり、悪魔よりも人間の悪意こそがこの世で一番の邪悪だと思えるわね」

 

 リアスさんは俺の報告に眉を顰めながら溜息を吐いている。

 

「それと彼女の心の内には聖剣エクスカリバーに対する復讐心が渦巻いているでしょうね」

「それは仕方ないでしょうね。信じていた信仰に裏切られた上に殺されたのだから……」

 

 悲しげに眼を伏せているリアスさん。

 

《コンコンコン》

 

 暗くなった空気を払拭する様にノックが響きわたった。

 

「どうぞ、入ってきていいわよ」

 

 扉越しに声を掛けるリアスさん。

 一拍の時間の後に扉がゆっくりと開け放たれた。

 

「お話中お邪魔しますわ。彼女が眼を覚ましたようですわ」

 

 おっとりした口調で報告する姉ちゃん。

 その包み込む様な包容力は彼女にも果たして届くのだろうか?

 

「分かったわ……さあ、新たな眷属に挨拶しないとね」

 

 リアスさんは決意を新たに手を握り締めている。

 若干緊張で震えているのはご愛嬌か。

 

 

 

 

 

 

 リビングに行くと洗面器を持った白音ちゃんと大きめのワイシャツだけを身につけたイザイヤちゃんが佇んでいた。

 イザイヤちゃんの服装が変わっているのは、白音ちゃんが汗を拭いて着替えさせたからだろう。

 

「ご苦労さま、白音ちゃん」

 

 俺は白音ちゃんに近づいて後ろから抱き締める様に頭を撫でた。

 眼を細めて気持ち良さそうに受け入れている白音ちゃん。

 

 そんな俺達を警戒を顕にして睨んできているイザイヤちゃん。

 

「……ここはどこだ? なぜ、僕がこんなところにいる!? あんた達は誰だ!!?」

 

 イザイヤちゃんはテーブルに置かれていた鋏を手に取って、俺達に向けてきている。

 一応危険はないと思うがリアス・グレモリー眷属の戦車(ルーク)にして唯一の男として矢面に立って、彼女との話し合いの先陣を切る。

 

「ここは日本だよ。分かるかい? 極東の島国で八百万の神々が収めている世界でも有数の平和な国と言われているところさ」

「あなたが日本人に近い顔立ちをしていたから、ここに連れてきたの。ここは日本での私達の仮住まいよ」

 

 俺の言葉に続けて補足するリアスさん。

 

「さてと、先ずは自己紹介が必要だね……俺の名は姫島 綾人。お察しの通り悪魔だよ」

 

 俺は背に翼を展開させながら微笑んだ。

 そんな俺に訝しげな表情を浮かべているイザイヤちゃん。

 まあ、悪魔の羽に堕天使の羽と龍の羽があるから多少混乱しているんだろうけどね。

 

「この羽かい? まあ、俺は転生前は人間と堕天使の混血児(ハーフ)で今代の淵龍王だからね」

 

 俺の説明に更に眼を丸くしたイザイヤちゃん。

 まあ、教会で悪魔と堕天使は敵同士だと教育を受けていただろうから混乱する事も仕方ないよな。

 

「それでこの娘が塔城 白音ちゃんだよ。元猫魈の転生悪魔だよ」

「よろしくお願いします」

 

 俺の横に立って小さく頭を下げる白音ちゃん。

 彼女の猫耳と尻尾、そして悪魔の羽がが彼女の感情を表すかの様に揺れ動いている。

 

「それでこの黒髪が俺の姉ちゃんの姫島 朱乃だよ」

「うふふ♪ よろしくですわ」

 

 何時の間にか俺と白音ちゃんの肩に手を置いている姉ちゃんは悪魔と堕天使の一対の羽を展開している。

 色々あったが自らに流れる血の因縁は克服出来た様だ。

 まあ、三大勢力が敵対している最中で父さんとの仲直りは未だに難しくて、姉ちゃんも素直になりきれないところがあるみたいだけれどね。

 

「そして彼女が我らが姫君()の……」

「私はリアス・グレモリー。上級悪魔グレモリー家の次期当主よ。そしてあなたも……」

 

 背に悪魔の羽を展開しながら微笑んでいるリアスさん。

 リアスさんがイザイヤちゃんの背に指差すと、俺達の悪魔のオーラに触発されてイザイヤちゃんの背中からも悪魔の羽が展開された。

 自分の背中から何かが飛び出した感覚に背後に眼を向けるイザイヤちゃん。

 その表情は驚愕に彩られていた。

 

「あなたは一度死んだの。だから、私が悪魔として転生させたのよ」

 

 眼を瞬かせて思案に耽ているイザイヤちゃんは言われた意味を理解するのに時間が掛かっている様だった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 イザイヤちゃんが眷属に加わって約一ヶ月が過ぎた。

 今日もリアスさんはイザイヤちゃんと一緒に食事をしようと部屋へと繁く足を運んでいたが不発に終わったようだ。

 

「はぁ~何時になったら心を開いてくれるのかしら?」

 

 溜息混じりに俯いているリアスさん。

 

「まあ、気長に行きましょう。こちらが心を開いて歩み寄っていけば自ずと解決すると思いますよ」

 

 俺も色々と手は尽くしている。

 少しでも彼女の敵愾心を晴らす手伝いをしたいものだ。

 でも俺ではイザイヤちゃんの戦闘スタイルとは違いすぎて、戦う術を教える事は出来ない。

 だが未だ信頼を勝ち取れていない現状でも心の闇を晴らすとはいかなくても逸らすぐらいはしてあげたいと根気よく話し掛けはしている。

 まあ、殆ど馬の耳に念仏状態なんだけれどね。

 

 今は白音ちゃんを膝に乗せながらのんびりと読書をしている。

 この癒しの至福の時も俺のやる気を促すためには必要な事だ。

 さすがにイザイヤちゃんに話しかけて全敗しているので心がささくれているからね。

 

 白音ちゃんは俺の膝の上で美味しそうに羊羹を口に運んでいる。

 

「綾人兄さま。はい、あ~ん♥」

 

 白音ちゃんは思い出したかの様に羊羹を俺の口元に差し出してくる。

 

「はむっ……うん、美味しいね」

 

 俺は白音ちゃんににっこりと微笑み返した。

 

「こっちはこっちで仲が良すぎるし……いいの、朱乃? あなたの愛しい綾人()が白音に盗られちゃうわよ?」

「大丈夫ですわ、リアス。私と綾人とは切っても切れない縁で結ばれていますもの……それに綾人を束縛して独り占めしよう物なら嫌われてしまいますし、私一人では綾人を満足させきる事は難しいですわ」

 

 最近は以前と比べて姉ちゃんの俺に対する独占欲が消えたのは、()()を経験したからなんだろうか?

 うん。色々と凄かったとだけ言っておこう。

 ナニがとは詳しくは聞かないで欲しい。

 まあ、俺は情けない事に受身一辺倒だった。

 それでも、一応肉体年齢的に思春期真っ盛りの男の子には色々と刺激が強すぎたよ。

 まあ、精神年齢はすでに汚っさんなんだけれどね。

 でも前世では殆ど経験しなかった事だから動揺もあって録に動けなかった。

 

 俺が乾いた笑みを浮かべべていると突如リビングの一角に魔法陣が浮かび上がった。

 このグレモリー家にの物に似て非なる紋様はサーゼクス様の眷属か。

 

 俺は膝から白音ちゃんを下ろして一応失礼の無い様に身成を整えた。

 俺に倣って白音ちゃんも髪や服装の乱れを整えている。

 

 魔法陣が消えると一人の侍が佇んでいた。

 成程、彼がサーゼクス様の唯一の騎士(ナイト)である沖田 総司か。

 

「お久しぶりです、姫。新たに騎士(ナイト)の眷属を得たとの事で参上しました」

 

 笑みを絶やさず佇んでいる沖田殿。

 その背中からは彼の実力が伺い知れる程のオーラが漂っている。

 

 俺が生唾をに飲み込んでいると、こちらを向いて値踏みする様な視線が一瞬感じられた。

 

 俺は気押される事なく手を差し出した。

 

「実際に眼に掛かるのは初めてですね、沖田殿。俺はリアス姫の戦車(ルーク)を務めている姫島 綾人です」

「同じく戦車(ルーク)の塔城 白音です」

 

 俺と白音ちゃんの握手に応えてくれる沖田殿。

 

「はい、よろしくお願いします。ご存知の通り、私がサーゼクス様の騎士(ナイト)の沖田 総司です」

 

 その手は力強くしなやかさを兼ね備えていて暖かだった。

 

「ふむ。今代の淵龍王が姫の眷属に加わったのは嬉しく思っていますよ」

「ありがとうございます、沖田殿。リアス姫の眷属の名に恥じない様に精進致します」

 

 俺はしっかりと瞳に意志を乗せて応えた。

 その眼を覗き込む様に見詰めて来ている沖田殿。

 

「あらあら♪ 男の人同士で見つめ合うなんて妬けますわ……初めまして、沖田様。私がリアスの女王(クィーン)の姫島 朱乃ですわ」

「よろしくお願いします」

 

 俺から手を離して姉ちゃんと向き合う沖田殿。

 その表情は相も変わらず笑顔だった。 

 

 

 

 

 

 俺達との挨拶もそこそこにリアスさんに連れられてイザイヤちゃんと面会した沖田殿は、彼女を心身共に鍛えるために連れて行った。

 そこは原作通りなのだが、やはり俺達では彼女の心を解きほぐす事まで出来なかったのは悔しい。

 願わくば彼女が心から笑える様になる事を祈ろう。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 イザイヤちゃんが沖田殿に鍛えられる様になってから、リアスさんは何度も彼女に面会しようと足を運んだ。

 だが会う事は叶わなかったようだ。

 面会を拒否されたと肩を竦めながら苦笑するリアスさんを慰めるのは何故か毎回とも俺の役割だった。

 

 今日はリアスさんと連れ立って俺はイザイヤちゃんの面会へと向かった。

 何度も面会を拒否されていて、今回も拒否されるかもしれないと弱気になっているリアスさんを元気づけながらやって来た。

 

 小屋には彼女の姿はなく、どうやら山中へと足を運んでいるようだ。

 

「どうします、リアスさん?」

「このまま帰るわけにはいかないわ。行きましょう、綾人」

 

 意を決して歩き出すリアスさん。

 俺も遅れず後を歩いていく。

 

 

 

 

 

 山中へと歩を進めていると微かな揺れと戦闘の気配が漂ってきた。

 

「っ!!? これはっ!!?」

「どうやら彼女が戦っているようですね。相手は気配から察するに沖田殿ではないでしょう」

 

 俺の言葉を聞き終わるより早く駆け出すリアスさん。

 

 やれやれ。慈愛深いグレモリーの姫君とは言え、少しは躊躇っても罰は当たらないでしょうにね。

 

 俺は苦笑しながらもリアスさんに遅れず、だが先走らない様に並んで駆けていった。

 

 暫くすると視界が開けると、イザイヤちゃんが地に伏していて虎の獣人に捕らえられ様としていた場面に出くわした。

 

「それ以上その子に近寄らないでちょうだい」

 

 リアスさんの静かだが森に響きわたる様な声は威厳の様なものに満ちていた。

 

「よくもその子を痛めつけてくれたわね。あなた、『はぐれ』ね? よくこの山に入ってこられたものだわ。無知って怖いものね」

 

 自分よりも何倍もの体格を有する者を相手にしてまったく動じない我が姫君()の豪胆さには頭が下がる思いだ。

 臣下としては苦言の一つも述べたいところだが、折角の展開に水を差すわけにもいかないだろう。

 俺に出来る事と言えば、あの獣人がこれ以上暴挙を働かない様に睨みを利かす事だ。

 

『……紅い髪、グレモリーか? ほう、ではこのガキはグレモリーの眷属ということになるな。おもしれぇ。グレモリー眷属のガキならさらに高値がつきそうだ』

 

 獣人の言い草に怒りのオーラで髪が揺れ動いているリアスさん。

 

 怒りは思考を鈍らせますよ。

 心は熱くとも思考は涼やかに水の如く清ましていないといけない。

 これは精神鍛錬の時間を増やす必要がありそうだね。

 

「高値? 私のかわいい眷属で売買をするつもりなの? 許せないわ。万死に値する!」

 

 リアスさんに同調する様に獣人を睨みつけているイザイヤちゃん。

 

「……僕が誰とか……売るとか、どうとか……それは今どうでもいい……ッ!」

 

 イザイヤちゃんは激痛に耐える様に笑ってる膝を奮い立たせて獣人に言い放った。

 彼女の感情に比例する様に魔力が徐々に高まっていっている。

 

「おまえなんかに負けていられないんだァァァァ---ッ! 僕は、生きるために強くなるんだァァァァ---ッッ!」

 

 イザイヤちゃんの絶叫と共に膨大な魔力の奔流が立ち上り周囲に広がっていく。

 俺はリアスさんを庇う様に移動した。

 

 次の瞬間、地面から多種多様な形状の剣が次々と出現している。

 魔剣創造(ソード・バース)に因る剣の花は炎や氷を纏って咲き乱れている。

 

 イザイヤちゃんは一振りの闇に支配されている魔剣を握った。

 そして、獣人に向けて一直線に駆け出した。

 途中で炎の魔剣を引き抜いて獣人に投げつけた。

 

『くっ!』

 

 虎の獣人はそれを勢い良く拳で弾いた。

 その隙に上空へと飛び上がったイザイヤちゃんは闇の魔剣を振り下ろそうとしていた。

 獣人はそれにも反応して魔剣をつかもうとするが、イザイヤちゃんは足の先に氷の魔剣を生み出していた。

 

 闇の魔剣を手で封じられたと同時に獣人の顔面に氷の魔剣が鋭く蹴り込まれた。

 居を突かれた獣人の左目に氷の魔剣が突き刺さっていく。

 

『ぬがぁぁあああああああああっ!』

 

 片目を魔剣で抉られて、獣人は盛大に叫んで激痛にもがいている。

 

「……パワーばかりじゃダメなんじゃないかな。『騎士(ナイト)』なら、剣を使うものなら、テクニックだと思うけどね」

 

 皮肉げな笑みを浮かべながら言い放つイザイヤちゃん。

 だが、どうやら体力を使い果たした様で録に動けそうもない。

 

 仕方ないな。お節介を焼きますか。

 

 そこでこちらを伺っている沖田殿も俺に期待している様だしね。

 

『もうてめぇなんぞどうでもいいぃぃぃっ! ぶっ殺し決定だぁぁぁっ!』

 

 獣人は両手の爪を鋭く伸ばしてイザイヤちゃんに振り下ろした。

 

矛盾の檻(パラドックス・ケージ)!』

 

 イザイヤちゃんを守る様に球状のエネルギーシールドが包み込んだ。

 

『absorb!』

 

 エネルギーシールドは獣人の攻撃を易々と防いだ。

 

『なっ、なんだぁ! これはっ!?』

 

 獣人は手に走った激痛に耐えられずに後ずさった。

 

『Abyss Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 俺はリスクもカウントもなく淵龍王の喰種鎧(アブゾーブ・グール・メイル)を展開して身に纏った。

 獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすように、龍も虎を狩るために全力を尽くそう。

 

「たかが『はぐれ』如きが俺の仲間を殺そうなどとは片腹痛いな……」

 

 おれはゆっくりと一歩一歩踏み締める様に獣人に歩み寄っていった。

 

「てめえの仕業かっ!? 舐めた真似しやが……っ!!? そっ、その羽と姿はっ!!? ……まっ、まさか!!? てめえが淵龍王かっ!!?」 

 

 眼に見えて怯えている獣人。

 

「ご明察通りさ……さてと、辞世の句は読めたかな?」

 

 俺がにっこりとほほ笑みかけながら訊ねると獣人は恐怖を紛らわすかの様に叫んだ。

 

「こっ、こんなガキが淵龍王だとっ!!? へっ!! 噂も大概に大げさだな!! こいつを殺せば一気に名が上がるっ!!」

 

 俺に向かって我武者羅に突進してくる獣人。

 

 俺は振り下ろされた欠けた爪を紙一重で避けて、獣人に乱打を打ち込んだ。

 

開放(エーミッタム)魔法の射手(サギタ・マギカ)!! 連弾(セリエス)光の1001矢(ルーキス)!! 桜華乱舞!!」

 

『ぷげらぁぁぁ!!?』

 

 光力の込められた魔法を宿した乱打に耐え切れず、獣人は全身を真っ黒に焦がして息絶えた。

 

『drain!』

 

 倒した相手に敬意を評してその血肉を因子に変換して吸収する。

 これで俺は更に力を身に付けていく代わりに徐々に肉体が変化していくだろう。

 一回毎では微量でも、回数を重ねる毎に俺は異形へと変化していくだろう。

 行き着く先は合成獣(キメラ)かもしれない。

 だが凡才の俺が守るための力を身に付ける代償だと思えば苦でもない。

 

 

 

 

 

 墓標を修理し終わって山道を歩いていく。

 あの戦闘の後で合流した沖田殿が思い出した様に訊ねた。

 

「ところで、姫。少女の名前は決まったのですか?」

「ええ、この子が気に入ってくれるといいのだけれど……」

 

 イザイヤちゃんを優しげに見つめるリアスさん。

 

「木場、祐美。かなり、フィーリングで考えてしまったのだけれど、どうかしら?」

 

 リアスさんの提案に笑みをこぼして頷くイザイヤ、じゃなかったね。

 これからは祐美ちゃんだよね。

 

「はい、十分にいい名前だと思います」

 

 祐美ちゃんの反応を見て微笑んでいるリアスさんと沖田殿。

 

「よろしく祐美ちゃん。グレモリー眷属として共に歩んでいこう」

 

 俺はにっこりと微笑みながら手を差し出した。

 

「うん。改めよろしく、綾人くん。さっきは助けてくれてありがとう」

 

 憑き物が落ちた様に微笑む祐美ちゃん。

 これで本当の意味での仲間になれた気がした。

 

 

 

 

 




アンケート結果、リアス眷属の男性陣はTS化させる事に決定しました。
これで綾人のハーレムが増大しそうです。

いや、まあ、TS化は嫌いどころか大好きなんですが、オイラに書き切れますかね?

よろしければご意見ご感想、批評や評価を募集しています。


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第11話

 

 

 

 

 

 満月が叢雲の隙間から淡い光放っている。

 俺達の新しい眷属仲間を丸で祝福するかの様に照らし出している。

 そう、今回は吸血鬼(ヴァンパイア)混血(ハーフ)であるギャスパー・ヴラディである。

 また偶然か必然かは分からないがリアスさんは寸分違わず原作通りの眷属を引き当ててきた。

 今は吸血鬼の狩人(バンパイア・ハンター)に殺されたのを転生させて間もないためベッドで眠っている。

 リアスさんは詳しい生い立ちを未だに把握出来ていない上に、僧侶(ビショップ)変異の駒(ミューテーション・ピース)でしか転生できなかった事を踏まえて俺に調査を命じた。

 万が一のため、部屋には俺しかいない。

 

 調査するのは問題ないが何か違和感を拭えない。

 具に観察していくとその違和感の正体に薄々と気が付いた。

 幾ら思春期で成長期だからと言っても喉仏が出ていない。

 しかも着衣の上からは確認しにくいが、骨格が女性っぽいのだ。

 そう、男の娘(ギャーくん)ではなく、女の子(ギャーちゃん)の可能性がある。

 

 いや、まあ、別に男の娘でも十分守備範囲なんだよね。

 でも、同性だと非生産的だから女の子の方がお得かな?

 

 俺は生唾を飲み込みながら確かめるために股間を覆っている下着に恐る恐る手を掛けた。

 するりと下着を股間から膝下まで下ろした。

 目に映った無毛の股間にはやはりあるべき物がなく一本筋の陰裂があった。

 

 俺は眼を奪われそうになるのを頭を振って追い出して下着を元に戻した。

 

 眼を瞑って大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。

 

 心を落ち着かせて眼を開くと、ゆっくりと眼を開いているギャスパーちゃんが目に映った。

 

「こっ、ここは?……っ!!? あっ、あなたはっ!!? いっ、いやぁあぁあぁ~!!?」

 

 頭を上げたギャスパーちゃんは俺に気が付くと悲鳴を上げて眼を見開いた。

 俺は反射的に淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)を瞬時に展開させて構えた。

 次の瞬間、周りの空気がまとわりつく様に停止する。

 

『absorb!』

 

 原作知識で知っていたから時間停止を俺への攻撃と認識させて吸収無効化させる事に成功した。

 神器(セイクリッド・ギア)は想いに応えて進化する。

 概念に近い時間停止にも効果が出て一安心だ。

 これで懸念材料が一つ減ったよ。

 まあ、今のギャスパーちゃんとの実力差を鑑みるに吸収無効化しなくても時間停止は効かなかったかもしれないけどね。

 

「……なっ、何で止まってないんですかっ!!?」

 

 俺を震える指でさしながら驚いているギャスパーちゃん。

 

「成程……君の瞳は時間停止の神器(セイクリッド・ギア)を宿しているんだね」

「はぅ!!? ごっ、ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 にっこりと微笑んで手を伸ばした俺に、ギャスパーちゃんはぎゅっと眼を瞑りながら誤っている。

 俺は苦笑しながらギャスパーちゃんの頭を撫でた。

 

「あっ……」

 

 驚いたギャスパーちゃんは恐る恐る眼を開いてちらちらと俺の表情を伺う様に見てくる。

 

「大丈夫……ここに君を傷つける者はいないよ」

 

 目尻に涙を溜めながら上目遣いに俺を見詰めてくるギャスパーちゃん。

 

「さてと……先ずは自己紹介といこうかな。俺は姫島 綾人。我が姫君()であるリアス・グレモリーから戦車(ルーク)の駒を授かった転生悪魔だよ。そして、君も僧侶(ビショップ)の駒を授かって転生悪魔になったんだよ」

 

 俺の言葉に眼を丸く見開いて驚いているギャスパーちゃん。

 

「俺の名前を教えたよね。次は君の名前を教えてくれ。お互いの名前を呼んだら、俺と君はもう友達だよ」

 

 俺は某高町理論を展開しながら微笑みかけた。

 

「あっ、あの……そっ、その……ギャスパー・ヴラディです。よろしくお願いします、姫島先輩?」

「綾人でいいよ、ギャスパーちゃん」

 

 俺はにっこりと微笑みながら手を差し出した。

 

「わっ、分かりました……綾人先輩」

 

 ぎこちないながらもしっかりと俺の手を握り返してくれるギャスパーちゃん。

 

 それからギャスパーちゃんの身の上話に親身になって耳を傾けた。

 その内容は原作知識と殆ど変わらなかった。

 

 純血を重んじる吸血鬼に徒でさえ混血(ハーフ)なのに神器(セイクリッド・ギア)まで宿していて疎まれて迫害されていた事や、そんな中でも幼馴染のヴァレリーには着せ替え人形の様に扱われながらも心身共に救われていた事などを聞いた。

 まあ、彼女自身未だ認識していないだろう裏人格とも言える闇ギャスパー(ギャスパー・バロール)の話は出てこなかったけれどね。

 

 

 

 

 

 ギャスパーちゃんをリアスさん達に紹介する際に懸念材料だった停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)の対策として、伊達眼鏡をギャスパーちゃんにプレゼントした。

 この伊達眼鏡は俺の淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)をアザゼルさんが解析して作った人工神器の一つである。

 効果は所有者の意志を伴わない 神器(セイクリッド・ギア)の暴走を吸収無効化して抑える効果がある。

 まあ、吸収限界値があるが使用者の力量でその数値は上がっていく。

 特に停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)は眼を媒介とする神器(セイクリッド・ギア)なので相性はいいだろう。

 だが、ギャスパーちゃんの才能が凄まじく無意識のうちに神器(セイクリッド・ギア)の力が高まって日に日に能力が増していくので、完全に暴走を抑えるには停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)を解析して微調整する必要があるだろう。

 

 そうこうしている内にリビングへとたどり着いた。

 

 ギャスパーちゃんは俺の服の裾を掴んで微かに震えている。

 

「大丈夫だよ、ギャスパーちゃん。皆、気の良い娘ばかりだからね」

「はっ、はい……」

 

 ギャスパーちゃんは自分の掌に人という字を三回書いて飲み込んでいる。

 早速俺が教えた緊張を紛らわすお呪いを実践している様だ。

 極度の人見知りとは言えど俺が停止しなかった影響からか、少しは積極的に人と関わろうとしてくれている様だ。

 

「失礼します、新たな眷属のギャスパー・ヴラディをお連れしました」

 

 俺はしっかりとギャスパーちゃんと手を繋いでリビングへと入っていった。

 

「おっ、お邪魔します……」

 

 ギャスパーちゃんはおっかなびっくりとしながら俺についてくる。

 

「歓迎するわ、ギャスパー。私があなたの主のリアス・グレモリー。一応上級悪魔のグレモリー家の次期当主よ」

「あらあら♪ 初めまして、ギャスパーちゃん。私は姫島 朱乃。リアスの女王(クィーン)の駒を授かっていますわ」

 

 お姉様お二方は優し気な笑みを浮かべながら自己紹介をしている。

 

「こんにちわ、ギャーちゃん……塔城 白音です。綾人兄さまと同じ戦車(ルーク)の駒を授かってます」

 

 どこか無表情に見えながらも微かに微笑んでいる白音ちゃん。

 

「初めまして、ギャスパーちゃん。僕は木場 祐美だよ。一応騎士(ナイト)の駒を授かっているよ」

 

 にっこりと人当たりの良い笑みを浮かべている祐美ちゃん。

 

「はっ、初めまして……ギャスパー・ヴラディですぅ~」

 

 俺の手を握ったまま、勢い良く頭を下げて挨拶しているギャスパーちゃん。

 

 

 取り敢えず眷属の初顔合わせは何とか滞りなく行えた。

 

 まあ、周りの視線に耐えられなくなったギャスパーちゃんがソファーに座っている俺の背中にしがみつく様に隠れたり、それに対抗して白音ちゃんが俺の膝に乗ったりしたけどね。

 姉ちゃんも然りげ無く俺に腕を絡めてきた。

 その様子を苦笑して見ているリアスさんと祐美ちゃん。

 

 話がギャスパーちゃんの身の上話になると、皆親身になりながら聞いていた。

 

 まあ、吸血鬼の血を引いていると聞いた白音ちゃんがニンニク食べれば元気になれると追い掛け回していたけどね。

 それを涙目で逃げ惑うギャスパーちゃん。

 それを嗜めるでもなく微笑ましそうに眺めているリアスさんと姉ちゃん。

 それを苦笑して見ている祐美ちゃん。

 

 賑やかでいて穏やかな空気は慈愛に満ちているグレモリー眷属だからだろうか?

 他の眷属ではこうはいかないかも知れないな。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 新たに眷属仲間に加わったギャスパーちゃんの報告を悪魔上層部に告げると、今のリアスさんでは御しきれずに封印した方が良いのではないかと懸念の声が上がった。

 確かにギャスパーちゃんは未だ停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)を己の意思で制御しきれていないが、人工神器である伊達眼鏡のお陰で暴走する危険性は極めて低い。

 更に制御をより確実なものにするためにアザゼルさんに詳しい検査を依頼したいと打診したが色好い返事がもらえなかった。

 まあ、未だ三大勢力が冷戦状態では情報の一つも出し惜しみしたくなるのは納得しきれないものの概ね理解出来る。

 だがしかし、手を拱いていては自らの首を絞める結果となるだろう。

 

 俺は今まで培ってきたコネと人脈を使って粘り強く交渉した。

 俺の人脈といっても主なものはセラフォルー様に交渉に加わって欲しいとお願いしたぐらいだ。

 元々リアスさんの眷属のギャスパーちゃんの事なのでサーゼクス様の参加は確定していたが、セラフォルー様が加わった事で交渉はスムーズとまではいかないもののこちらの思惑通りに進められた。

 また一つセラフォルー様に借りが出来て、ますます頭が上がらなくなってしまった。

 うん。ナニをお願いされるかと思うと微かに震えが来る。

 まあ、無茶な事はお願いされないだろうが多少は無理をしないといけないかも知れない。

 

 

 

 

 

 さすがにギャスパーちゃんを連れて神の子を見張る者(グリゴリ)の本部どころか関連施設にも出向くことは出来ない。

 ヴァーリとの手合わせも悪魔と堕天使両陣営の監視付きで中立地帯で行われているぐらいだ。

 ここは日本、八百万の神々がいる国であるからどこかしらを借りる際も日本神話勢の許可が要るけれどね。

 今のところ毎回とも交渉材料は必要だが問題なく中立地帯を借りられている。

 だが今回はそこを借りる訳には行かないだろう。

 まあ、今回は手合わせと言う荒事ではないのでお誂え向きな場所がある。

 

 俺とギャスパーちゃんは駒王町外れにある神社へとやってきた。

 普通なら悪魔である俺達は鳥居を超えるとダメージを受ける。

 だがここは先代の神主が亡くなって無人となった神社を裏で特別な約定が交わされて悪魔でも立ち入る事が出来る。

 その約定を交わす際に日本神話勢と一つの取り決めが交わされているけれどね。

 まあ、要するに淵龍王である俺の力を有事の際は貸してほしいとの事だ。

 それくらいならお安い御用だと引き受けている。

 

 石段を上っていくと見慣れた顔が既に待っていた。

 

「よお! 綾人、遅かったな」

 

 白い歯を覗かせながら豪快に笑っているアザゼルさん。

 

「アザゼルさんが早く着き過ぎなだけですよ。まだ、約束の時間の一時間も前ですよ」

 

 俺は苦笑しながら応えた。

 

「まあ、楽しみだったからな。それでそっちが例の停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)の所有者の吸血鬼(ヴァンパイア)か」

 

 興味深そうにギャスパーちゃんを見詰めているアザゼルさん。

 

「ひぅっ!!?」

 

 ギャスパーちゃんは怯えた様に震えながら俺の背中へと隠れてしまった。

 

「アザゼルさん。ギャスパーちゃんはちょっと人見知りなところがあるので……」

 

 俺はギャスパーちゃんを庇う様にしながらアザゼルさんを促した。

 

「ああ、そうだな。早速検査するとしよう」

 

 俺達は連れ立って鳥居を潜って本殿へと足を運んだ。

 そこには既に様々な計測器が運び込まれていた。

 

「さあ、そこに横になってくれ」

 

 アザゼルさんに促されてギャスパーちゃんが恐る恐る計測台に横になった。

 

 俺は少しでも緊張が薄れる様にギャスパーちゃんの手を握って微笑みかけた。

 するとギャスパーちゃんは若干震えていたが、にっこりと微笑み返してくれた。

 

 

 

 

 

 

 暫く計測が続いていたが、小刻みに動いていた機械が止まった。

 

「よし! 計測完了だ。この結果を踏まえて新しい魔眼殺しを制作するからな。すまんが二~三日時間をくれ」

 

 アザゼルさんは嬉しそうに計測結果を早速吟味している様だ。

 

「お疲れ様、ギャスパーちゃん」

「はぅ~肩が凝りました」

 

 ギャスパーちゃんは肩を叩きながら安堵の溜息を吐いている。

 

「あっと、そうだ。神器(セイクリッド・ギア)の上達で一番てっとり早いのは、赤龍帝を宿した者の血を飲むことだ。まあ、今代の赤龍帝は未だ未発見だから代わりに綾人の血を飲ませるといいと思うぞ。淵龍王を宿した綾人の血でも十分効果があると思うぞ……それじゃあな」

 

 アザゼルさんはこちらの返事を待たずに急ぎ足で出て行った。

 

「帰ろうか、ギャスパーちゃん」

「そうですね……」

 

 俺とギャスパーちゃんはどちらともなしに手を繋いだ。

 

 すっかりと日の暮れ始めた境内を歩いていく。

 

 ふと、誰かがこちらを見詰めている気配に気が付いて振り返るもそこには誰も居なかった。

 

「綾人先輩? どうしました?」

「いや、何でもないよ」

 

 俺は頭を振って歩き出した。

 俺に手を引かれてギャスパーちゃんも歩き出した。

 

 俺達の影が境内から消えると木陰が揺らめいていた。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 グレモリー眷属の一員となったギャスパーちゃんを鍛えいるために何故か俺がコーチとして抜擢された。

 まあ、ギャスパーちゃんに魔法を教えるつもりだったから渡りに船である。

 

 取り敢えず先ずは以前から疑問に思っていた吸血鬼としての弱点の克服に力を入れよう。

 

「さてと、ギャスパーちゃん?」

「はっ、はいぃ~!」

 

 俺の言葉に背筋を伸ばすギャスパーちゃん。

 つるぺたな体型にブルマが良く映えている。

 うん。オイラの大好きな太股が悩ましくて思わず頬擦りしたくなるぐらいだ。

 短めの体操着の裾からお臍がちらちらと見え隠れしているのもポイントが高い。

 

「俺が聞いた伝承だと吸血鬼はニンニクの臭いが苦手だとされているが、正確には食べる部分の根茎ではなくて花の方が苦手だった筈だ。まあ、でもこれだけ間違った知識が蔓延していると、言霊の力でそれが真実になってそうだけれどね」

「えっ、えっと……つまり、もしかして……?」

 

 俺の話を真面目に聞いていたギャスパーちゃんの顔がみるみる青ざめていく。

 

「その、まさかさ……先ずは俺の血液にニンニクを溶いたものからいってみようか?」

「いっ、いやぁっ!!? 血、嫌いですぅぅぅぅ! 生臭いのダメェェェェェェ! ニンニクも嫌いですぅぅぅ!」

 

 にっこりと微笑む俺から後ずさる様に離れていくギャスパーちゃん。

 

「ふむ。先に血嫌いから克服しないと駄目か……混血(ハーフ)とは言え、吸血鬼が血液を嫌いなんて話にならないからな。それっと♪」

 

 俺は笑顔のまま瞬動術で一気に間合いを詰めてギャスパーちゃんを抱きしめた。

 ギャスパーちゃんは必死に口を閉じて血液を飲ませられない様にしている。

 

「そんなに嫌がられると罪悪感が沸くけど……まあ、これも修行の内ってね♪」

 

 俺は眼を瞑って頭を振り乱しているギャスパーちゃんの顎を抑えた。

 そして、徐に唇を噛み切って血液を滴らせてギャスパーちゃんの唇を奪った。

 

「はむ……くちゅくちゅ……じゅるじゅる……」

「んん~!!?」

 

 眼をを見開いて驚いているギャスパーちゃんの口内へと舌を捩じ込んで血液の混じった唾液を流し込んでいく。

 

 そう言えば、俺から接吻(キス)したのは何気に始めてかな。

 何時もは姉ちゃん、最近は白音ちゃんもだけれど俺がされる方だからな。

 

「ぷはぁ~ご馳走様……どうだった?」

「はふぅ~ちょっと雑味があって癖がありますけど美味しかったですぅ~」

 

 とろんとした眼で唇を抑えながら頬を上気させて女の子座りをしているギャスパーちゃん。

 

「良かった……赤龍帝の血液と比べても問題ないって話だったけれど、口に合って良かったよ」

 

 まあ、雑味があるのは色んな因子を吸収しているからかな?

 

「さてと……次はこれに挑戦してみよう!」

 

 先程のニンニクを極小量溶いた俺の血液が入った小皿を差し出した。

 

「…………」

 

 暫く眼が踊っていたギャスパーちゃんだったが鼻を抑えながら一気に煽った。

 

「ひぎゃぁ~!!? しっ、舌が痺れますぅ~!!」

 

 口元を抑えながらのたうち回っているギャスパーちゃん。

 

 俺は空かさず再び唇を奪って唾液混じりの血液をギャスパーちゃんの口内へと流し込んだ。

 

 今度はギャスパーちゃんからも求める様に舌を絡めてきた。

 俺も負けじと更に舌使いを激しくしていく。

 

 お互いに息をするのも忘れて接吻(キス)に夢中になっていた。

 そして息苦しくなって同時に唇を離した。

 

「はぁはぁ……」

「ごほん……」

 

 眼鏡が曇るぐらい接吻(キス)をしていた事に気がついてお互いに顔を合わせ辛い。

 

「ナニをしているんですか?」

 

 桃色の空気を払拭する様に絶対零度に近い声が響き渡った。

 

 錆び付いた様に首を声の方に向けると、仁王立ちしている白音ちゃんが眼に映った。

 

 俺は丸で浮気現場を抑えられた亭主の様に固まってしまっていた。

 

 この後、姉ちゃんも加わって俺の尊厳を削り取る様な激しいスキンシップ(3P)が待ち受けていた。

 いや、まあ、俺も男の子だから女の子とのスキンシップ(3P)はむしろご褒美とも言える。

 でも何時も俺はする方ではなくされる方なのだ。

 酷い時には俺は縛り上げられて身動き一つできない状態で致される。

 一応きちんと避妊はしているとは言え、羞恥心と快楽の狭間で弄ばれるのは勘弁して欲しい。

 

 その様子をギャスパーちゃんは眼をぐるぐると回しながら顔どころか全身真っ赤にして眺めていた。

 出来れば助けてほしいところだけれど、下手に声を掛けるとギャスパーちゃんまで参加させられかねないから黙っていた。

 

 結局、様子を見に来たリアスさんが来るまで狂乱の宴は続いた。

 俺は何回吐き出したか分からない。

 疲労で腰どころか全身気怠くて指一本動かす気力も残っていなかった。

 幸いにもギャスパーちゃんは見学のみで参加しなかった。

 

 それからギャスパーちゃんは俺の顔を見ると真っ赤になって俯いてしまっていた。

 一応修練には逃げずに参加してくれているが、気不味い空気が暫く続いた。

 

 

 

 

 




アンケートの結果、男の娘(ギャーくん)ではなく女の子(ギャーちゃん)になりました。
オイラとしては男の娘(ギャーくん)でも問題なしどころかストライクゾーン内なんですけどね。
まあ、男の娘(ギャーくん)では非生産的だから女の子(ギャーちゃん)の方が良いですかね。

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第12話

大変お待たせいたしまして申し訳ありません。
このところ、休日は用事がないと寝て過ごしてしまい、執筆の時間が取れませんでした。
いやはや、もう既にアラフォーの汚っさんなので疲れが溜まりやすくなっているんでしょうかね?


 

 

 

 

 桜吹雪が舞う新生活が始まる季節。

 晴れて俺は駒王学園高等部に入学と相成った。

 

 一応文武両道を心掛けているので、気がついたら新入生代表と言う大役に祭り上げられていた。

 鍛えれば鍛える程成長する心技体の副産物で発生した努力フェチとまではいかないものの向上心の塊と言えるぐらい染まった精神で、勉学にも全力で取り組んだ結果入試で一位を取ったとは言えど気恥ずかしいものがある。

 

 

 

 

 

 差し障りのない俺の宣誓を新入生や在校生と校長を始めとした先生方が聞いている。

 

 ふと俺に向けられている視線の中で他のものと僅かに違いのある視線に気が付いた。

 不自然にならない程度にその視線の出処に眼を向けると、俺は思わず息を飲んだ。

 そこに居たのは俺を転生させた神様と似通った気配(オーラ)を身に纏った一人の女生徒だった。

 何処となく神様の面影がある様にも見えるその姿は、朧げになってきた前世の記憶に照らし合わせると魔法先生ネギま!のキャラである神楽坂 明日菜に酷似している様だ。

 

 彼女は俺の視線に気が付くとにっこりと微笑んでウィンクをしてきた。

 俺は思わず頬を僅かに染めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 その後、どこか上の空で参加していた入学式が滞りなく終わった。

 俺は人込みを掻き分けて目的の人物へと向かっていく。

 彼女を後を付ける様に進んでいくと、俺は徐々に人気の少ない校舎裏へと足を向けていた。

 何処か近寄りがたい雰囲気の一本の桜の樹の下で彼女はゆっくりと振り返って微笑んだ。

 

「初めまして、姫島 綾人くん。私は駒王学園(ここ)の風紀委員会に所属している稲田 明日菜よ。後、一応日本神話勢力所属でもあるわね」

 

 俺は差し出された手を握り返しながら殆ど反射的に自己紹介をした。

 

「初めまして……ご存知でしょうが、悪魔勢力のリアス・グレモリー眷属の姫島 綾人です。一応今代の淵龍王です。そして……」

 

 俺が自身の転生の事まで話そうとすると彼女は俺の唇に人差し指を当てていた。

 

「そこからの説明は不要だよ。君が薄々お察しの通り、私はあの()()分霊(端末)でもあるわ。君の手助けが定められた私の宿命よ」

 

 明日菜さんは見惚れる程の笑みを浮かべている。

 

「さてと……ちょっと良いかしら、深淵龍(アビス・ドラゴン)ナラカ? いえ、我が()()よ」

 

 明日菜さんが俺の右腕に言い聞かせる様に話しかけると右腕の下肢に宝玉が浮かび上がった。

 

『何だ、娘よ? それに同胞とはどういう意味だ?』

 

 ナラカは少し警戒した声色で訊ねている。

 

「貴方も元は異世界の女神様がその魂魄の一部から生み出した分霊(端末)……それを理解する事が綾人くんとの調和をより深めるの。何せ綾人くんはその女神様に祝福された存在ですものね」

 

 明日菜さんは真剣なそれでいて慈愛に満ちた眼をして宝玉に触れている。

 

『……こっ、これはっ!!? 私の知らない……いや、忘れていた原初の記憶かっ!!?』

 

 俺の意志とは無関係に淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)が展開された。

 そして、真円の盾の形が一度不定形に崩れて太極図を象った。

 その上、上下左右に付いていた龍の爪の如き四本の突起が更に増えて倍の計八本となった。

 

『Dragon Absorption second Liberation!!!!』

 

 ナラカが原初の記憶を取り戻した事で淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)は更に進化した様だ。

 

 脳裏に吸収無効化に続く新たな能力の詳細が浮かび上がった。

 

 俺も前世の記憶が薄れてきていて忘れかけていたが、この能力も思いついていたんだよな。

 確かに神滅具(ロンギヌス)神器(セイクリッド・ギア)の能力は二つ以上だもんな。

 drainは亜種化能力だし、それ以外に基本能力としてabsorb以外にも考えていたんだよな。

 しかし、我ながらちょっとチート過ぎる気もしないでもない。

 うん、これは正に成人しても厨二病を患っていた証拠だよな。

 

 俺は思わず乾いた笑みを浮かべてしまっていた。

 

『どうした、綾人?』

「いや、まあ…‥我ながら無茶な能力を思いついていたんだなって少し呆れていた」

『確かに我が能力の一旦だが、その能力も綾人の前世の空想の産物だと思うと何やら感慨深いものがあるな。つまり私は深淵から生まれたのではなく、かの女神様が母親で綾人の前世が父親の様なものか』

「…………」

 

 ナラカの物言いに俺は無言で頬を掻いている。

 

 いや、まあ、確かにそうとも取れるけれどさ。

 女神様と夫婦なんて恐れ多い。

 

「うふふ♪ かの女神様は綾人くんの事を大層気に入っていますからね。勿論、女神様の分霊(端末)である私も綾人くんの事を好いていますよ」

 

 明日菜さんは何時の間にか俺の左腕を抱きしめて胸を押し付けるようにしている。

 

「この感情は植えつけられたものではなく、一種の憧れから湧き出たもの……これから綾人くんの為人を確かめて育んでいきたいわね」

 

 明日菜さんは俺の耳元で丸で自分自身に言い聞かせる様に囁いていた。

 

 

 

 

 

 駒王学園の旧校舎にあるオカルト研究部。

 そこに招かれざる客と言える明日菜さんを伴って俺はやって来た。

 部室には部長のリアスさんと副部長の姉ちゃんが待っていた。

 同じ高等部新入生の祐美ちゃんは剣道部の方へと見学に行っているとの事で不在である。

 中等部所属の白音ちゃんとギャスパーちゃんも今は不在の様だ。

 

「どうぞ、粗茶ですが……」

 

 姉ちゃんが笑顔で明日菜さんに湯気の立ち上ったカップ&ソーサーを差し出している。

 まあ、顔は満面の笑みだが眼がちっとも笑っていない。

 ちゃっかりと俺の横に寄り添う様に座っている明日菜さんの事をあまり良く思っていない様だ。

 

「ありがとう」

 

 明日菜さんは優雅にカップを傾けて紅茶に口を付けている。

 

「あら、美味しい」

「お口に合ってなによりですわ」

 

 姉ちゃんは一礼をしてからリアスさんの傍らに控えた。

 

「それで今日のご要件は何かしら、“黄昏の姫御子”殿?」

 

 リアスさんは探る様な眼差しで訊ねている。

 

「単刀直入に申します。淵龍王たる綾人くんを風紀委員会に所属させる許可が欲しいのです」

 

 明日菜さんは姿勢を正して眼に胆力を込めて淡々と要件を述べた。

 

「……ふぅ。それは私達悪魔の牽制ないし取締のためかしら?」

 

 溜息を吐きながら話の真相を探る様に訊ねるリアスさん。

 

「確かにそれも若干否めませんけれどね……歴史の転換期に幾度となく調停者として現れていた淵龍王の歴代達同様、綾人くんにもその使命の重圧が重く伸し掛る事が考えられます。これは悪魔勢力を始め三大勢力内だけとは言えますが、我ら日本神話勢力も淵龍王たる綾人くんに微力ながら協力したいと考えています。そのために中立的立場で取り締まる風紀委員会に所属して欲しいのよ。駒王学園は悪魔主体とは言え、我ら日本神話勢力も少なからず所属しているからね」

 

 明日菜さんは真剣な眼差しでリアスさんを見詰める様に一気に語った。

 

「成程ね。確かに伝承だと歴代の淵龍王達の大半は調停者の様な役割を担っていたわね。私も綾人の主と言ってもいち上級悪魔にしかすぎないから決定権はないに等しいわね。お兄様……魔王サーゼクス様を始め四大魔王様達に打診する必要があるから即諾は出来ないけれど、私としては一つ条件を飲んでくれれば問題ないわ」

「えっと……その条件とは何でしょうか?」

 

 明日菜さんは顎に小指を当てながら小首を傾げている。

 

「綾人……委員会は風紀委員で構わないけれど、部活はオカルト研究部に所属して頂戴。それが条件よ」

 

 リアスさんは俺にほほ笑みかけながらお願いをしてきた。

 

「はい、それは勿論……俺もリアス・グレモリー眷属の一員ですからね」

 

 俺はゆっくりと頷きながら答えた。

 

「よかったわ。断られたらどうしようかと思ったわ……例えば、綾人の隠し持っているエッチな本をジャンル分けして机の上に並べてしまったかも知れないわね♪」

 

 リアスさんが冗談交じりの死刑宣告に等しい脅し文句を言ってきた。

 姉ちゃんも頬に手を当てながら獲物を見るような眼で俺を見詰めている。

 

 アレは洒落にならない。

 一度姉ちゃんが俺の部屋を掃除した後にされた事がある。

 猫耳と尻尾装備のコスプレモノや比較的幼気な外見のゴスロリモノにボーイッシュな感じのグラビアに混じって、俺が他の物より厳重に封印並みに隠していた姉弟モノの近親相姦な小説が中心のグラビアが整然と並べられていて死にたくなった。

 まあ、その後に自慰するくらいならと性的に襲われたけれどね。

 途中から白音ちゃんも混じっていたし、腹上死するかと思った出来事だった。

 

「アハハ……」

 

 俺は乾いた笑みを浮かべながら外方を向いた。

 その視線の先には頬を若干染めながらも興味深そうに俺を見詰めている明日菜さんの姿があった。

 

 おっ、おぅ!!?

 正に四面楚歌とはこの事かっ!!?

 このままだと俺の性癖暴露大会になりかねない!!

 なっ、何か話題を変えて話を逸らさないとっ!!

 うん? 何か甘い香りがするな。

 よし!これだっ!!

 

「とっ、ところで先程から良い匂いしてますけれど……」

 

 俺は鼻をヒクヒクさせながら訊ねた。

 

「あっと、そうだったわね……綾人と祐美の入学祝いにケーキを焼いたのよ」

 

 リアスさんが両手を合掌の様に揃えてにっこりと微笑んでいる。

 

「へぇ~リアスさんのケーキーですか。俺、好きですよ」

 

 俺は安堵の溜息を飲み込みながら頷いた。

 

「取り敢えず皆揃ってから食べましょう。よかったら明日菜さんも食べていって頂戴」

「では、お相伴にあずかります」

 

 リアスさんの提案に嬉しそうに頷く明日菜さん。

 

 その表情は年頃の女子高生そのもので、先程の真剣な眼差しの明日菜さんと同一人物とは思えない。

 まあ、好感がもてる事は間違いないけれどね。

 明日菜さんが俺の為人を確かめるように、俺も明日菜さんの為人を確かめていこう。

 出来れば仲良くしていきたいもんな。

 

 

 

 

 

 その後、他の眷属達が集まってちょっとしたお茶会が開催された。

 

 相変わらず俺の膝の上には白音ちゃんが鎮座していて、俺の両隣を姉ちゃんと明日菜さんが固めていた。

 それを苦笑交じりに眺めているリアスさんと祐美ちゃん。

 ギャスパーちゃんは羨ましそうにこちらをチラチラと眺めていた。

 

 ケーキは確かに美味しかった。

 姉ちゃん程ではないが俺の好みを擽ぐる味付けやアクセントになるフルーツがトッピングされていた。

 しかも、砂糖を殆ど使用せず果汁で甘味をつけていてカロリー控えめな上に、栄養バランスにまで気を使っているのは脱帽する思いである。

 まあ、俺が普段から健康な心身を形作るのは見た目も然る事ながら美味しいだけでなく栄養のバランスが取れた料理であると、洗n(ry……ごほん、口を酸っぱく言っていたからだろう。

 医食同源とまでは言わないものの、食事は大切なものである。

 美味しく食べれて健康になれれば言う事なしである。

 

 うん、現実逃避と言えるけれどね。

 然りげ無くポーカーフェースをしているものの、内心はテンパってます。

 何度か経験していても女の子特有の甘い香りと体温は俺の理性を奪うには十分過ぎるんだよな。

 彼女らにその気はなく、ただ俺に甘える様に触れ合っているだけだと理性では理解出来ている。

 幾ら前世がアラフォーだったので精神年齢が高いとは言え、肉体に精神が引っ張られて思春期特有の異性に対する興味は高い。

 周りが美少女だらけだから我慢するのも大変である。

 

 今まで以上に誘惑が増えそうだが、転生悪魔とは言えども欲望のままに行動する訳にもいかない。

 原作が開始されるまでに後一年ちょっとしかない。

 今までも不覚的要素が多いために、今後原作知識が常に役立つとは限らない。

 既に原作と乖離している事柄が大きすぎる。

 大まかな流れは世界の修正力が働いており変わらないだろうが、逆に細かな点は俺の行動次第で変わってくるだろう。

 つまり、俺が努力を怠れば不幸は具現化して襲って来るだろう。

 出来ればハッピーエンドを迎えるために精進していく必要がある。

 まあ、適度な息抜きは必要である。

 あまり張り詰めていると破裂してしまう。

 

 せめて俺の手の届く範囲だけでも笑顔が溢れる様にしていきたい。

 そうなのだ。自己満足だけではいけない。

 きちんと相手の事を想って行動する事が肝要である。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 駒王学園高等部の入学式が終わって数日後、ほっと一息吐きたい気分だったがそうは問屋が卸さなかった。

 俺や眷属仲間達をサーゼクス様とグレイフィアさんがお忍も同然で訪ねてきた。

 

「いや、済まないね。出来れば驚かせたくて、アポイントなしで訪ねてきてしまった」

 

 魔王としての仮面を脱ぎ捨ててフランクに話してくるサーゼクス様。

 グレイフィアさんがメイド服姿で控えているから完全にオフでは無い様だ。

 いくら駒王町がリアスさんの管理地とはいえ、四大魔王の一角であるルシファーの称号を持つサーゼクス様が気軽に来訪しないでもらいたい。

 和平を結ぶ前の今の段階ではちょっとした事も争いの火種になる事を考慮して欲しい。

 

「まあ、楽にしてくれたまえ」

 

 臣下の礼を取っていた俺達に頭を上げる様に促すサーゼクス様。

 

 立ち上がった俺達を代表してリアスさんが訊ねた。

 

「それで、お兄様? ……今日、わざわざお越しになられた理由をお聞かせ下さい」

 

 あっ!!?

 冷静に見えてリアスさんの蟀谷がひくついている。

 まあ、今のところ大きな問題も発生してないのに気軽に人間界に来たサーゼクス様に怒りたくなる気持ちもわかる。

 リアスさんは俺の影響で原作以上にリアリストな考えのところがあるからね。

 サーゼクス様が気軽に人間界に来るリスクを考えて頭痛がしているんだろうな。

 

「先ずは姫島 綾人くん、並びに木場 祐美くん、両名の駒王学園高等部入学に対して祝辞をおくらせてもらおう。おめでとう、二人共」

 

 人好きのする笑みを浮かべているサーゼクス様。

 

「もったいないお言葉……」

「ありがとうございます」

 

 俺と祐美ちゃんは再び頭を下げた。

 

「それで、本題はなんでしょうか、お兄様?」

「うっ!!? 何か、気に障ることしたかな、リーアたん?」

 

 リアスさんの冷たい対応に、冷や汗を流しながら狼狽えているサーゼクス様。

 

「いえ……何でもありません。お話を続けて下さい」

 

 不機嫌な表情を隠そうともせずに、少し苛立ちげに先を促すリアスさん。

 

 サーゼクス様は目元を潤ませながら固まっている。

 

「サーゼクス様……」

「はっ!!? すっ、済まない……」

 

 グレイフィアさんに声を掛けられて再起動を果たすかの様にサーゼクス様の瞳に生気が戻った。

 

 生粋のシスコンなサーゼクス様には先程のリアスさんの態度は大ダメージだった様だ。

 

 サーゼクス様は気を取り直して魔王としての威厳(オーラ)を僅かに滲ませた。

 

「当代の淵龍王たる姫島 綾人くん。君に昇格の推薦がある。私を含めた四大魔王と上層部の決定のもとに、中級悪魔の昇格試験を受けてもらいたい」

 

 はい?

 俺が中級悪魔?

 えっ!!?

 幾ら何でも話が早すぎないんじゃないですかっ!!?

 

 俺が眼を丸くしていると更に衝撃の事実が打ち明けられた。

 

「昇格なのだが、本当は一気に中級を飛び越えて、上級悪魔相当が実力的に妥当だと思う。けれど、昇格のシステム上の理由と功績がまだはぐれ悪魔討伐が殆どだからね。先ずは中級悪魔試験を受けてもらいたい」

 

 話を聞いて俺は冷静に自分の立場を客観的に考えた。

 この話には裏がありそうだ。

 

「謹んでお受けしますと言いたいところですが……一つ、確認させてもらっても良いでしょうか?」

 

 俺の真剣な表情にサーゼクス様は頷いた。

 

「ああ、構わないよ。綾人くんが思っている事を遠慮なく訊ねてくれ」

「では……今回の昇格の件ですが、些か先走りすぎな事を否めません。俺が歴代の淵龍王達と同様に三大勢力の調停者となる事を前提として、悪魔勢力の一角にしっかりと基盤を固めさせる狙いがありますよね?」

 

 俺が訝し気に訊ねると肩を竦めながらサーゼクス様が苦笑している。

 

「その通りだよ……徒でさえ悪魔勢力は疲弊しきっている。そこに堕天使の血を引く混血(ハーフ)で淵龍王の所有者たる君が我が妹の眷属の転生悪魔となった。これは一つの転機だ。しかし、日本神話勢力も淵龍王たる綾人くんに協力したいと申し出ている。そんな綾人くんを下級悪魔のままにしておく事は無謀とも言える。下手すると引き抜かれてしまう恐れがあるからね」

 

 そうなのだ。

 日本神話勢力(神道)は八百万の神々が収める。

 その神々は自然現象などの信仰や畏怖の対象でもある。

 また、荒神も祀り上げられている。

 祟りを与えるのも神々の側面であるとの考えである。

 堕天使の血を引く上に転生悪魔となった俺でも、下手をすると祀り上げる事は可能だろう。

 実に恐ろしきは狂信的に信仰が抗えない程集まると、俺の意思とは無縁に祀り上げられる可能性があるだろう事である。

 聖書の神の教えは一神教でその辺は正反対とも言える。

 聖書の神にその様な思惑はなかったとしても他の多神教の神や土着の信仰の対象であった神霊達をも堕とした狂信的な信仰も怖いが、勝手に神の一柱に祭り上げられる日本神話勢力(神道)の信仰も怖い。

 そうならない為にも己の悪魔としての基盤をしっかりと構築する事は肝要であるのは理解出来る。

 

 まあ、和平を結ぶ前に引き抜かれたらそれこそ戦争の火種となりそうだ。

 今の悪魔勢力に戦争に耐えられる程の余力は無いに等しいから、下手をすると日本神話勢力に一方的に滅ぼされる可能性が大きい。

 俺自身としても、調停者たる淵龍王としても、それは避けなければいけない事案だ。

 

 前世で妄想して愉悦に浸っていた頃の自分に少し戻りたくなった。

 現世の俺は無責任に行動する訳にはいかない。

 俺の行動一つで下手をすると悪魔勢力が滅ぶかもしれないと思うと気が重い。

 それは愛着のある冥界のみならず、親しく愛しい者達にも害が及ぶという事だ。

 

「その表情を見るに最悪のシナリオまで想像したようだね……だが、手を拱いているとそれは現実となってしまう恐れがある。そうならない為にも綾人くんには今回の昇格を受けてもらいたい」

 

 サーゼクス様は一切の愁いを断ち切る様に懇願する様に頭を下げた。

 

 グレイフィアさんを除く皆は息を飲んでいる。

 それ程魔王であるサーゼクス様がいち悪魔である俺に頭を下げる意味合いは重いのである。

 

「リアス姫が眷属の一角の『戦車(ルーク)』として今回の昇格、謹んでお受け致します」

 

 俺は臣下の礼を取ってサーゼクス様の思いに応えた。

 

 

 

 

 

 

 その後、暗い雰囲気を払拭してちょっとしたお祝いムードとなった。

 俺を肴に燥ぐサーゼクス様はグレイフィアさんにハリセンで突っ込まれるまで楽しんでいた様だ。

 相変わらず公私のギャップが凄まじい。

 リアスさんも恥ずかし気に顔を顰めていた。

 でも、悪い気はしない。

 願わくばこんな明るく楽しい一時が続く様に、何時までも皆と一緒に笑っていたい。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 試験当日。

 俺はセラフォルー様が用意した服装で試験会場にやって来た。

 この服装は昇格の応援を込めてセラフォルーからプレゼントされた物である。

 一応は燕尾服を基調とした戦闘も熟せる優れた物で随所にセラフォルー様のデザインが施されている。

 グレモリー眷属のいち悪魔に過ぎない俺に四大魔王の一柱でレヴィアタンの称号を持つセラフォルー様が肩入れしているのは傍から見れば異常な事であるが、何でも早く俺が上級悪魔になってお婿さんに来て欲しいとのお達しだった。

 四大魔王の一角に求婚される事は栄誉のことだろうが、如何せん普段の芝居掛かったセラフォルー様の態度を見ていると気後れする。

 いや、嫌いではないんだよ。

 問題はその感情はLoveじゃなくてLike止まりのところだろう。

 相も変わらず愛の囁きでは済まない攻勢に若干疲弊している事は否めない。

 

 俺が溜息を吐いているとあちらこちらからヒソヒソと話し声が聞こえてくる。

 

「……アレって確かグレモリー眷属の?」

「ああ、淵龍王だろう」

「けっ!! あんな堕天使崩れの野郎のどこが良いんだか!! 俺の方がレヴィアたん様の相手に相応しいさ!!」

 

 あまり好意的ではない視線も向けられている。

 

 まあ、仕方ないか。

 俺は堕天使の血を引く混血(ハーフ)からの転生悪魔だ。

 三大勢力が和平を結ぶ前だから尚更に、四大魔王様達なら兎も角一介の悪魔達には受け入れ難いだろう。

 まあその点、『魔法少女マジカル✩レヴィアたん』の視聴者の年齢層の子達に好かれているのは幸福なことだろう。

 良くも悪くもこの年齢層の子達は純粋だ。

 俺の存在を切っ掛けに堕天使にも興味をもって欲しい。

 俺が良い印象を与えておけば、その事が和平への後押しとなるだろう。

 

 

 

 

 

 筆記も実技も問題なく実力を発揮出来た。

 まあ、実技に関してはある意味に置いて問題があったかも知れないけれどね。

 如何せん、試合の相手との実力差があり過ぎた。

 獅子が兎を狩る様に全力を出さないのは失礼だと思って禁手化(バランスブレイク)して戦った。

 まあ、闇の魔法(マギア・エレベア)は自重したけれどね。

 堕天使の光力を込めた一撃は下手をしなくても悪魔にとって致命傷となり得るからね。

 それでも努力をして鍛えた功夫は一撃必殺となり得た。

 一般の悪魔は己を虐め抜いて修行なんてしないからね。

 

 うん。ちょっと悪魔勢力の未来が不安に思えてきた。

 禍の団(カオス・ブリゲード)と直接戦闘するのは、確かに俺達グレモリー眷属を中心に一部だろう。

 だが、相手は各勢力の過激派が集まっているテロ組織で、決して一枚岩とは言えずに複数の派閥が生じている。

 その目的に応じて一般の悪魔達も標的になり得るだろう。

 その際に、俺達だけでは明らかに手が足りない。

 俺達以外の悪魔達の実力の底上げが急務と言える。

 だがしかし、旧体制の貴族社会を維持したい老害とも言える上層部の悪魔達は、一般の悪魔達が力を付ける事を嫌うだろう。

 サーゼクス様も頑張ってはいるが、老害とも言える上層部を一新できていない。

 確かにサーゼクス様は慈愛に満ちたグレモリー家出身で良い為政者かもしれない。

 だが、為政者たる者は時には非情となって改革を推し進めなければならない。

 一応具申はしておくが、頭では理解して下さっても感情はままならないだろう。

 一層の事、俺がクーデターを起こして魔王を襲名して改革を行いたいがそうもいかない。

 難しい問題だが少しずつでも賛同者を集めて世論を動かして、旧体制である貴族社会を壊す勢いで改革を進めるしかなさそうだ。

 

 全く、こんな事は中級悪魔昇格試験を受けに来たいち悪魔が考えることじゃないな。

 だが、この世界は最早小説に書かれたものではなく、紛れもなく俺が生きている世界である。

 物語の様に都合良く話は進みはしない。

 今を生きる一人一人の積み重ねが世界を形作っていく。

 俺一人では小さな力でも数が集まれば、それはうねりとなって世界を変革していくだろう。

 願わくば、それがより良い世界の礎とならん事を望む。

 

 

 

 

 




活動報告にTS一誠のイメージキャラを募集しています。
よろしければ似合う残念美少女なキャラを列挙して頂ければ幸いです。(終了しました)

⇒http://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=78155&uid=1327


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【第一章】 旧校舎のディアボロス
第13話


 

 

 

 

 

 駒王学園高等部の生活も大分馴染んできた今日この頃。

 高等部に入学してから幾月か過ぎて、俺は二年生へと進級していた。

 後輩として白音ちゃんとギャスパーちゃんが入学してきたのがつい最近の様に感じられる。

 そして、相も変わらず今日も専ら一番の悩みの種と言える人物と第一種戦闘配置とも言える遭遇をしていた。

 

「はぁ~……何時も言っているけれど()()でも同意を得ない接触はセクハラだよ」

 

 俺に制服の首根っこを掴まれて猫の様にぶら下げられている一人の女生徒。

 彼女の下心塗れの行為は風紀委員の一員の俺としては見逃せない要注意人物の一人である。

 黙っていれば美少女と言える程の容貌の彼女は、若干困った表情を浮かべながらも嬉しそうに表情を崩したまま手をわきわきと卑猥に動かしている。

 その表情は丸でセクハラオヤジの様だ。

 口元には涎も垂れている。

 

「だってそこにおっぱいがあるんだよ! お胸様信者としては是非とも触って感触を確かめないとっ!」

 

 俺に掴まれたまま力説する人物の名は兵藤 一誠と言う。

 見紛う事のないスカートを身に付けているのだが、別段に女装癖のある残念さんではない。

 少しくせっ毛のある天然パーマな髪型がキュートなチャームポイントな紛れもなく女生徒なのだ。

 そうなのだ。原作主人公まで女性(TS)化しているのだ。

 本当に神様は俺にどうして欲しいのだろうか?

 最初に出会った時には軽く絶望したものだったが、今となってはコレが普通となった。

 幾ら適応能力が一般人よりも若干高いとは言えども慣れって怖いよね。

 

「安心して、綾人きゅん! 君の雄っぱいは別腹で逝けるからっ!」

 

 サムズアップした手と反対側の手で俺の胸を弄るイッセーちゃん。

 

「っ!!? やめなさい!」

 

 俺はイッセーちゃんを利き腕で猫掴みしたまま、空いた反対側の手で彼女の脳天にチョップを振り下ろした。

 

「うぎゃっ!!?」

 

 しまったっ!!?

 

 咄嗟の事に反射的に手を出してしまった。

 一応は無意識に若干だが手加減出来ていた様だが、さすがに転生悪魔である戦車(ルーク)の怪力で小突かれたイッセーちゃんは白目を剥いて気絶してしまった様である。

 チョップの勢いで俺の手から落ちて地面に横たわるイッセーちゃんのスカートが捲れ上がって下着が見えそうで見えないラインを形成していた。

 その存在を余す事なく主張しているニーソックスとスカートが生み出している絶対領域が眩しい。

 

 俺は思わず生唾を飲み込みながら、その細くも鍛え上げられた太股に魅入ってしまった。

 実際にはニーソックスに覆われていてその程好く引き締まった太股は窺い知る事が出来ないが、その事が逆に俺の妄想力(リビドー)を激しく掻き立ててくる。

 

 イッセーちゃんは何時しか見様見真似で俺の功夫を真似る様になっていった。

 最初は才能は殆ど感じられなかったが直向きに努力する姿に心惹かれた俺は正式に彼女に手解きをする様になった。

 まあ、修行と言うよりかは師匠である俺や同じ弟子である白音ちゃんに事ある毎に手合わせと言う名のセクハラをカマしてきて、ぶっ飛ばされて身体で覚えていっている節も見受けられるけれどね。

 それに伴いイッセーちゃんの肢体は程よく筋肉がついてきていて一種のアスリート体型と呼べる様な感じになっている。

 筋肉の上にうっすらと脂肪が乗っていて実に魅力的である。

 今ではその努力も実って大分様になってきている。

 

 さすがに一年以上鍛え続けていていれば、それなりに成果は出るのは当たり前である。

 俺と同じく愚直に、だが煩悩塗れで鍛えているイッセーちゃんは、ある時を境にその成果を亀の歩みではなくて、丸で水を得た魚の様に凄い勢いで吸収していった。

 これが元原作主人公の特権だと言うのだろうか。

 世界の後押しを受けて成長していくイッセーちゃんには、凡骨な俺は嫉妬を禁じえない事も多々ある。

 だがイッセーちゃんの真の魅了の前にはそんなものは霞んでしまうだろう。

 男女どころか、下手すると種族間の差異すら気にすることなく笑顔で接していくだろう。

 それは本当に凄い事である。

 まあ、表面上は躊躇うだろうけれどね。

 だが、心の奥底では差別と言う名の偏見はしないだろう。

 

 イッセーちゃんは俺と出会ったから、事ある毎に俺に構ってくる。

 一年生の始業式の日に同じクラスになった事が運の尽きとも言える程に、甘えたがりの子犬の様に俺に纏わり付いてくる。

 傍から見るとそこには一目惚れの感情が垣間見えていたらしい。

 まあ、そこには純真な気持ちの他に、下心が見え隠れしているから油断出来ないんだけれどね。

 事ある毎に俺の胸板に手を伸ばしてくるからね。

 本当に胸が心底好きな様である。

 

 ヴァーリはその点、無意識に俺の尻に手を伸ばして触ってくる。

 まあ、その事に気がついて頬を染めながら誤魔化す様に捲し立ててきて、そのまま手合わせという名の照れ隠しが炸裂するんだよね。

 下手すると羞恥心からか手加減を忘れて周りが焦土と化す時も間々にある。

 うん、ツンデレ乙。

 

 今代の二天龍の宿主はどちらも原作と掛け離れて女性(TS)化しているけれど、根っこの性癖までは変化してはいないらしい。

 正に魂に根付いている業とも言えるだろうね。

 

 俺は逆セクハラに慣れたくはなかったけれど、日常茶飯事なぐらいカマされているからね。

 それくらいで嫌ったりはしない。

 まあ、不快なものを若干感じる事はあるけれどね。

 

 隙を見せると暗がりに連れ込まれて逆レ○プされるよりはマシだよね。

 嫌がる素振りを見せても、姉ちゃんや白音ちゃんは許してくれないからね。

 何度、俺の意思を伴わない絶頂を迎えさせられたかは分からない。

 でも、心の底では喜んでいる自分に気がついて自己嫌悪に陥る事は多々ある。

 いや、まあ、気持い事には間違えはないんだよね。

 

 俺は頭を振って湧き上がった煩悩を追い出した。

 俺は深呼吸をしてからイッセーちゃんを保健室へと運ぶためにお姫様抱っこをした。

 その際、イッセーちゃんから香る乙女の甘い香りに無意識に鼻を鳴らしてしまった。

 

 落ち着け、俺。平常心だ、平常心を心掛けるんだ。

 

 俺はポーカーフェースをしながら自身に言い聞かせる様に、丸で念仏を唱える様に繰り返した。

 

 

 

 

 

 イッセーちゃんを保健室に運ぶ際に黄色い悲鳴に混じって殺気とも呼べそうな勢いの嫉妬の視線が突き刺さってきた。

 

 その視線の先に眼を向けると、松田と元浜が悔しそうに手を握り締めながら俺を睨んでいた。

 

 松田と元浜は美少女とも呼べるイッセーちゃんの赤裸々な性癖に共感して男女の壁を乗り越えた友情を育んでいる様である。

 松田と元浜が度重なる犯罪行為と呼べる覗きやセクハラ紛いの発言を行って停学処分を受けているものの、その友情に罅が入ることなく変わらず続いているらしい。

 イッセーちゃんは全く気にしていない様子だが、多くの女生徒達から丸で塵芥を見る様かの眼で見られている松田と元浜と行動する事で、イッセーちゃん自身にもその嫌疑の眼は若干向けられている。

 松田と元浜も根はそんなに悪い奴等じゃないのは確かではあるが、少しは周りからの評価も鑑みて欲しいところである。

 まあ、イッセーちゃん自身もセクハラを止めはしないから、苦笑を禁じえないけれどね。

 まあ、入学当初の頃に比べると女生徒へのセクハラは無意識に許される範囲のレベルを見極めて若干だが大人しくはなっている様ではある。

 その分セクハラの矛先が俺に向いているのは気のせいだと思いたい。

 

 松田と元浜はもう一度問題を起こせば即退学処分も検討されている。

 原作では事勿れ主義と認識阻害の結界の影響で殆どお咎めなしな状態だったからね。

 後は原作主人公であるイッセーちゃんと行動していて、何らかの恩恵が働いていたかもしれない。

 だが、この世界のイッセーちゃんは原作と違って女の子である。

 

 その上に、ここは俺が転生して今を生きている似て非なる平行世界である。

 幾ら何でも犯罪行為を行った者を処分しない訳にはいかない。

 俺は風紀委員の一員として厳格に対処していった。

 まあ、恨まれて当然とは思わないものの、憎しみを向けられるのは仕方ない事である。

 

 松田と元浜も悔い改めて行動すれば良いのに、今は我慢に我慢を重ねている状態の様である。

 まあ、エロは三大欲求の一つだから抑えるのは難しいかもしれないが、理性で自制出来れば表に出す事はないだろうにね。

 何時しか我慢が限界に達して爆発しないか心配ではある。

 

 俺は松田と元浜の視線を無視する様にその前を通り過ぎていった。

 その際、隠すことのない舌打ちが俺の耳を打った。

 

 出来れば松田と元浜にも青春をエンジョイして欲しいのだけれど難しいのだろうか?

 俺は落胆のため息を飲み込みながら歩き去っていった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 駒王町の場末にある一見寂れた外見の喫茶店。

 だがここはその外見とは裏腹に隠れた名店ではある。

 一般人からの人気の少ない薄暗い店内では、俺の様な分けありの者達が密会するには丁度いい雰囲気ではある。

 ここの初老のオーナーは引退したとは言えども、元々は三大勢力の一角に関わっていた人物であるとの事である。

 確かに、眼光といい、風貌といい、歴戦の戦士の凄みを感じられる。

 まあ、付き合いが短いと寡黙で理解しにくい人物なのだが、常連ともなれば表面上はぶっきらぼうでもオーナーのその心内は暖かい事は明白に理解出来るものである。

 自ずとこの店は俺のお気に入りの店となっていった。

 

 その店内の更に奥まった一番目立たない客席で俺は一人で珈琲を啜っていた。

 

 うん、相変わらずこの店の珈琲は絶品である。

 この店は紅茶も美味しいが、俺には飲みなれた姉ちゃんが入れてくれるものの方が好きではある。

 

 カップの中身が殆どなくなる頃、待ち人がやってきた。

 

「お待たせしたっす。久しぶりっす、綾人♪」

 

 そこには出会った頃から外見が全く変わっていないミッテルトちゃんが佇んでいた。

 

 まあ、下級堕天使から昇格して中級堕天使となったので見た目に反して感じられる力は上昇しているけれどね。

 

 その頬は僅かに赤みを帯びており、瞳は若干潤んでいた。

 

「やあ、ミッテルトちゃん。立ち話もなんだし、座ってよ」

 

 促すとミッテルトちゃんは俺に抱き着くように隣に座った。

 

 今まではヴァーリと手合わせする度に、お付としてヴァーリと共に行動していたミッテルトちゃんとも出会えていた。

 だが最近はミッテルトちゃんはアザゼルさんと俺の密談の結果、とあるグループへとダブルスパイとして潜入してもらっている。

 そのグループとは『教会』と呼ばれていて神の子を見張る者(グリゴリ)の下部組織にあたる。

 中級堕天使のレイナーレをトップとしている正式な教会に認められないと言う意味での非合法の悪魔祓い(エクソシスト)の組織である。

 堕天使がトップとして君臨しており、教会を追われたはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)が集う集団を、天界陣営の影響下にある教会が認める事は天地がひっくり返っても有り得ないけれどね。

 

 それに、この『教会』には戦争馬鹿と言える幹部であるコカビエルさんの息が掛かった人物が潜り込んでいる可能性がある。

 まあ、目星は付いてはいるけれど確定情報が不足している為に、態々ミッテルトちゃんに潜入捜査をお願いしている訳である。

 放って置けば三大勢力全体を巻き込んだ戦争の火種になる可能性があるからね。

 

 

 

 

 

「はふぅ~♪ 久し振りにアヤトミンを補給できて幸せっすよ♪」

 

 ミッテルトちゃんは蕩けそうな笑みを浮かべながらご機嫌である。

 

 因みにアヤトミンとは主に俺を構成している主成分だそうだ。

 ミッテルトちゃんを始め、俺に懸想している女性は、アヤトミンが欠乏すると動悸息切れが激しくなるそうだ。

 

 特に姉ちゃんはその症状が顕著であるという事だ。

 お陰で事ある毎に姉弟のスキンシップを超えた男女の睦事に晒されている。

 いや、嫌じゃないんだけれどね。

 寧ろバッチ来いな精神状態になっている今の自分自身を見たら、前世の頃の俺は落胆するだろうか?

 

 さてと、話が逸れしまったけれど本題に入ろう。

 

「それじゃ、近況を報告してもらおうかな? 我が愛しき下僕よ」

 

 俺は真面目な表情を浮かべながらミッテルトちゃんを促した。

 

「はいっす、愛しき我が主様(マイ・マスター)……」

 

 ミッテルトちゃんは俺の肩から頭を上げながら腕から離れて、若干距離を開けて姿勢を正した。

 そして恭しく臣下の礼を取った。

 

 俺とミッテルトちゃんは非公式ながらも使い魔の契約と似て非なる主従の契約を交わしている。

 まあ、その際にたっぷりと精も根もを搾り取られたのはご愛嬌かな。

 どうあっても俺はする方ではなくされる方なのには泣けてくるけれどね。

 

 俺は今や四大魔王の一角であるサーゼクス様の妹君であるリアスさんの下僕の転生悪魔である。

 俺も元々は堕天使の血を引く混血(ハーフ)だが、おいそれと今現在は敵対勢力の堕天使と表立って本契約を結ぶ事は御法度であって難しい事である。

 まあ、抜け穴があるからこそ、非公式とは言えども契約を交わしているんだけれどね。

 

「先ずは、こちらをご覧下さいっす」

 

 ミッテルトちゃんは一枚の書類を手渡してきた。

 

 俺は余す事なくその書類に目を通した。

 そこにはイッセーちゃんのプロフィールが記載されていた。

 

「レイナーレはその娘……どうやら、神器(セイクリッド・ギア)を宿しているみたいっすけれど、障害となる前に始末する気みたいっすよ」

 

 ミッテルトちゃんは肩を竦めながら呆れている様子である。

 

「でも、その娘って……確か、綾人の知り合いっすよね? 助けるんっすか?」

 

 若干の不機嫌さを隠そうともせずに訊ねてくる、ミッテルトちゃん。

 どうやら乙女の本能でイッセーちゃんが俺に懸想している事に気が付いている様である。

 

「彼女に死なれると寝覚めが悪いからね……それに彼女なら我が姫君(リアスさん)の下僕に相応しいだろうからね」

 

 俺は苦笑しながらも尤もらしい言い訳紛いの事を口にした。

 実際には俺は原作に関わりなくイッセーちゃんの事を気に入っている。

 度重なるセクハラには疲弊しているものの、それを打ち消すものを感じているのだ。

 まあ、心の底ではメリットとデメリットを無意識に勘定している自分に気がついていて、若干罪の意識に苛まれてもいるけれどね。

 

「まあ、予防策は施しているから心配ないとは思うけれど……それとなくミッテルトちゃんも阻止の方向で動いてくれるかな?」

 

 俺は命令としてではなく、お願いとしてミッテルトちゃんに語りかけた。

 

「綾人のお願いじゃ無碍に出来ないっすね……報酬は奮発してもらうっすよ♪」

 

 ウィンクをを一つして微笑みながら頷くミッテルトちゃんは魅力的である。

 俺は思い掛けず見惚れて固まってしまった。

 

 そんな俺に妖艶さと無邪気さが入り混じった笑みを浮かべながら擦り寄ってくるミッテルトちゃん。

 

「綾人。この後、少し時間をうちにくれるっすよね? 休憩していこうっすよ♥」

 

 俺にはその提案を断れる程の理性は残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 逢魔が時。

 ミッテルトちゃんに種が尽きる程に絞りたられた俺は、腰を叩いて栄養ドリンクを飲み干しながら一人で歓楽街を歩いている。

 まあ、別にミッテルトちゃんはダブルスパイだから俺と居るところを堕天使達に見つかっても問題はないけれど、さすがにミッテルトちゃんとこんな時間に歓楽街で連れ立っているところを学園の関係者に目撃されると風紀を取り締まる立場としては拙いからね。

 

 歓楽街の路地裏に足を踏み入れた際に、ふと気が付くと周りに人気がなくなっていた。

 代わりに絶望的な力の差を感じさせられる気配が漂っていた。

 その気配には闘気も殺気も微塵に混じっていなかったが、滲み出てきている隔絶的な力の差が否応無しに感じられて無意識に俺は人払いの結界を張りながら臨戦態勢を取った。

 俺は淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)を展開して、魔力を練り上げながら精霊に働きかけて何時でも魔法を唱えられる準備を行っていった。

 額に嫌な冷や汗が流れて、喉がカラカラに乾いている。

 

「ナラカ……」

『そう緊張するな、綾人……彼の者にお前を害する気はなさそうだぞ』

 

 ナラカの台詞に肩の力を抜きつつ、ため息を一つ吐いた。

 それで俺の緊張感は霧散するまではいかないものの落ち着く事が出来た。

 

 意を決して気配のする方に眼を向けると、そこにはゴシックロリータ風のファッションに身を包んだ少女が無表情で俺を見詰めていた。

 その格好はところどころはだけていて、乳首なんか黒いテープでバッテンで隠されていた。

 一見痴女と見紛うその少女の姿はよく知っている。

 まあ、所詮は前世の記憶でしかなく、実際に目の当たりにしたのは初めてではある。

 

「我、見つけた。異世界の魂……凡骨なるも、全てを、飲み込む、深淵に、新たな能力を、生み出せし者……我と、グレードレッドに、届き得る存在」

 

 少女……いや、無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)のオーフィスは無表情ながらもどこか嬉し気である。

 

「ナラカ。我に、力を、貸して……」

 

 俺の足元まで歩いてきて、瞳を覗き込む様に見上げてくるオーフィス。

 

「俺の名前は姫島 綾人だよ。ナラカじゃないよ」

 

 俺は未だに震えている手でオーフィスの髪を梳かす様に頭を撫でた。

 何故だかそうしないといけないような気がしたのである。

 

 オーフィスはきょとんとしながらも、身動ぎせずに受け入れている。

 

「アヤト……?」

「なにかな? オーフィス……」

 

 何時しか手の震えは止まって愛おしさが優っていた。

 オーフィスは表情が無い訳じゃない。

 ただ今まで表現する機会が少なかっただけだろう。

 

「これ、何? 我、今まで、感じた事の、ないもの……」

 

 オーフィスは自身から湧き出る感情に戸惑っている様子である。

 

「それは、嬉しいって事じゃないかな? オーフィスが手に入れたい静寂と似て非なるものだけれど、生きていく上で必要なものだよ」

 

 俺はしっかりとオーフィスの瞳を見返しながら微笑んだ。

 

「静寂、それは、我、求めるもの……この感情、我、必要とする?」

 

 オーフィスの瞳の奥は揺れ動いていた。

 

「ああ……必要なものだよ。オーフィス、俺と友達になろう!」

 

 俺は頭を撫でている手とは反対側を差し出して握手を求めた。

 

「友達? それ、何?」

 

 首を傾げながら訊ねてくるオーフィス。

 

「友達はね、時に助け合い、時にぶつかり合い、苦楽を共にする大切な者の事だよ……友達になるならお互いの名前を呼んで、握手したらいいさ」

 

 俺の差し出した手を見詰めながら思案している様子のオーフィス。

 

「握手。手を、握る事……こうで、良い?」

 

 恐る恐るといった感じで俺の手を握ってくるオーフィス。

 

「ああ……及第点だよ、オーフィス」

「うん、アヤト」

 

 瞳の奥底を揺らしながら、若干口元を曲げて嬉しそうなオーフィス。

 

 願わくば純粋無垢なオーフィスが心の底から笑える日が来る時が訪れる事を祈ろう。

 

 

 

 

 

 

「アヤト、グレードレッド、倒す。力を、貸して……」

 

 オーフィスは俺の膝の上に座りながら振り返って、瞳を覗き込んできている。

 

「俺の事を認めてくれるのは嬉しいけれど、それはまだ過大評価だよ」

 

 俺は頬を掻きながら苦笑を浮かべている。

 

「なら、何時に、なったら、力を、貸す?」

 

 オーフィスは真剣な眼差しで訊ねてきている。

 

「そうだな……オーフィスが俺の認める友達を百人作ったらかな?」

 

 俺は冗談めいて言った。

 

「分かった。我、頑張る」

 

 無表情ながらも何処か意を決した気配を漂わせているオーフィス。

 この焚付けが、吉と出るか、凶と出るか、今はまだ分からない、

 だが、オーフィスがその力を利用する為に近づいてくる奴等以外に交友関係を築ければ、自ずと良い方向に解決する気がする。

 

「我、帰る。また、会おう、アヤト」

 

 オーフィスは俺の膝から立ち上がって、振り返りながら俺に手を差し出した。

 

「ああ、またな。オーフィス……」

 

 俺は微笑みながらその手を握り返した。

 

 オーフィスは何処か名残惜しそうにしながらも手を離して去っていった。

 

 俺との回合はオーフィスに取ってどんな意味を持つのだろうか?

 

 オーフィスは未だしっかりと判明していないものの、世界を揺るがすテロ組織の禍の団(カオス・ブリゲード)神輿(トップ)である。

 そんな彼女が喜怒哀楽を理解して、静寂以外の何かを求めようとする事は楔となるだろう。

 

 俺は切っ掛けを与えただけでなく、今後も友達として成る可く関わっていこう。

 そうする事で世界はまた一つ優しくなれる可能性が生まれるだろう。

 

 さあ、これからが大変である。

 言うは易し、行うは難し、である。

 

 俺の存在を気に食わない奴等の妨害は苛烈を極めるだろう。

 だが、ただ手を拱いているだけでは始まらない。

 思う存分に抵抗させてもらおう。

 

 

 

 

 




執筆していく内に当初の予定より早くオーフィスたんと関わる事になりました。
このバタフライ効果が齎すものは、祝福か、はたまた、絶望かっ!!?
未だまだ判明していませんが、この事が物語を彩るアクセントになる事を祈ります。

ご意見ご感想、並びに批評や評価をお待ちしています。


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第14話

お待たせいたしました。

オイラの拙い二次SSを心待ちにしてくれる人が一人でも居たら嬉しいです。

更新が滞り気味でしたが、鎌鼬さん作の『せーはいせんそー』にオリ主である姫島 綾人がキャスター枠で出演する事になって、再び重い筆を走らせてみました。

どうぞ、お収め下さいませ。


 

 

 

 

 

「……以上が堕天使下部組織、通称教会の最新の動向です。今回の教会の標的(ターゲット)の細かい補足は別途に用意した書類を参照して下さい」

 

 会議室にて普段から掛けている眼鏡のブリッジを人差し指で軽く押し上げて若干のズレを直しながら、持っていた書類から目を離して眼の前に座っている二人へと目線を向ける。

 

 俺の説明を受けてリアスさんとソーナさんが書類に眼を通して黙読している。

 その表情はどちらも真面目一辺倒に見える。

 

 だが僅かに眉が顰められており、その胸中を察するに余り有るね。

 何せ駒王学園始まって以来の問題児(トラブル・メーカー)とも言えるイッセーちゃんの詳しいプロフィールが載されているんだよね。

 さすがに二人共今は未だ直接の被害(セクハラ)を受けた事は無い様だけれど、イッセーちゃんの赤裸々なおっぱいに掛ける情熱を知っているんだから、この反応は致し方ないよね。

 

「綾人くん……」

「はい。何でしょうか、ソーナさん?」

 

 ソーナさんは冷静沈着な表情の仮面を被りながら俺の眼を確かめる様に覗き込んできている。

 まあ、若干被りきれてなくて額に一筋の汗が流れているのはご愛嬌かな?

 

「この教会の動向の信憑性は如何程でしょうか?」

「そうですね……教会に潜入しているミッテルトちゃん(我が愛しき下僕)だけでなく多方面からの情報を加味した結果、この件の兵藤 一誠の宿していると思われる神器(セイクリッド・ギア)神の子を見張る者(グリゴリ)が危険視しているのは間違いないようです」

「それって人間社会規模でしか機能しないものではなく、私たち悪魔や堕天使の存在を脅かすほどの力を持った神器(セイクリッド・ギア)を宿している可能性があるって事かしら?」

 

 リアスさんは興味深そうに書類のイッセーちゃんの写真を眺めながら訊ねてきた。

 

「ええ……しかも、彼女から感じられる波動は俺の神器(セイクリッド・ギア)に封印されている深淵龍(アビス・ドラゴン)のナラカと同種の系統の様ですね」

「それって、龍が封じ込められた神器(セイクリッド・ギア)って事よね? しかも、並みの神器(セイクリッド・ギア)ではないとすれば……」

 

 リアスさんは書類から目を離して俺の表情を読み取る様に見詰めてきている。

 その瞳には期待が溢れかえっている。

 

「ええ……確証はないですが、可能性はゼロではないですよね」

 

 俺は肩を竦めながら苦笑を浮かべている。

 さすがに神滅具(ロンギヌス)赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の事は今はまだ確定情報としては教えられないよね。

 まあ、原作知識で知っているけれど、この時点で俺が確信しているのは普通に考えたらおかしい事だからね。

 

 それにしても、イッセーちゃんは俺や白音ちゃんと共に功夫を鍛えていく内に徐々に覚醒してきている様で僅かに龍氣が宿り始めている。

 今はまだ微々たるもので余程注意深く感じ取ろうとしないと認識出来ないレベルではあるが、原作よりも成長しているのは確かである。

 

「それは是非とも眷属に欲しいわね!」

 

 リアスさんは興奮した様子で嬉しそうに燥いでいる。

 

「落ち着きなさい、リアス……縦しんば上級の神器(セイクリッド・ギア)を宿していたら転生悪魔にするのは簡単ではないですし、何より本人が望まなければ駄目ですよ」

「わっ、分かってるわよ!」

 

 ソーナさんに窘められてばつが悪そうに眼を逸らしているリアスさん。

 

「では教会は暫く泳がせておいて、襲われたところを助けて契約を結ぶといった感じの方向で進めても構いませんか? 彼女が保護を求めれば、多少強引でしょうけれど大義名分も成り立つでしょうしね」

 

 俺は落とし所として自分の考えを忌憚なく述べた。

 契約と言う形を取るもののイッセーちゃんにも悪い話ではないだろう。

 彼女の性格や趣味嗜好を鑑みるに転生悪魔になる事への抵抗は高くないだろうしね。

 まあ、波乱万丈の生を歩む事には違いないけれど、若い身空で死んでしまうよりは良いだろう。

 対価に見合う将来は約束されるだろうしね。

 

「……若干の不安要素は感じられますが、私としては依存ありません」

「私としても依存はないわ」

 

 チラチラと窺う様にソーナさんを見ているリアスさん。

 

「はぁ……今回はリアスに譲ります」

 

 ソーナさんはため息を吐きながら眼鏡を外してレンズを磨いている。

 

「ありがとう、ソーナ♪」

 

 リアスさんは表情を一変させて満面の笑みを浮かべている。

 

「さてと……綾人くん。この後、お時間ありますか? よろしければ、一局お相手願えますか?」

 

 今までの冷静沈着な上級悪魔としての仮面を取り去って年相応の少女の様な笑みを浮かべながら訊ねてくるソーナさん。

 

「ええ、喜んで……胸をお借りします」

 

 俺はソーナさんに微笑み返しながら承諾した。

 最初の頃はソーナさんは俺にチェスを手取り足取り教えていくスタンスを取っていたが、亀の歩みだが徐々にチェスを通して戦略眼を鍛えられていく俺に敬意を表してくれて今では全力で相手をしてくれる。

 俺も大分鍛えられたがソーナさんもチェスの腕前を上げていっているので中々勝てなかったが、なんとか喰らいついっていって、チェスの戦績は今や10戦中3~4勝を程取れるようになったけれどね。

 

 さあ、とびっきりの遊戯を始めよう。

 これは厳密には遊びであって遊びではない。

 だが遊び心を忘れてしまってはいけない。

 今は賭けるのはお互いに己の矜持(プライド)のみである。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 今日も今日とて、旧校舎を望む校庭の一角で功夫を重ねている。

 千里の道も一歩からと言うし、殆ど才能に恵まれていない凡骨な俺は日々の積み重ねが重要である。

 

 白音ちゃんとイッセーちゃんと並んで八極拳の型をなぞる様に演舞を行う。

 これが地味に見えて結構キツいのである。

 

 俺は寸分違わず己の身体の動きを把握して流れる様に行える様になるのに少なくない年月を費やしたものである。

 

 その点、白音ちゃんやイッセーちゃんの才能は俺を凌駕している。

 特に最近のイッセーちゃんは眼を見張るものがある。

 その事に対して何も思わないと言えば嘘になるが、腐ていてもしょうがない。

 俺も魔法拳士の端くれとして譲れないものがあるから常に前を向いて精進を重ねていく。

 

 ゆっくりとだが確実に型を行っていくと心地良い疲労感が全身を満たしていく。

 やはり()()()()に組み込んでいる魔力負荷や龍氣負荷が齎す効果は、少なからず俺の能力向上に一役買ってくれている。

 愚鈍な今の俺では徐々に膨れ上がっていく自身の魔力や龍氣に耐え切れずに自滅の恐れがあるからね。

 亀の歩みでも制御力を向上させる必要がある。

 まあ、制御力も確かに徐々に上がっているけれども、それに伴い魔力や龍氣も少しずつ上昇していっているから、正に鼬ごっこなんだけれどね。

 転生特典の限界無しの鍛えれば鍛えるほど強く成長していく心技体も、制御力が追いつかなければ宝の持ち腐れになるから我武者羅に鍛えている。

 

 

 

 

 

「お疲れ様……白音ちゃん、イッセーちゃん」

 

 一通り型の実演を終えて、俺は微笑みながら白音ちゃんとイッセーちゃんにスポーツタオルと俺謹製の特性ドリンクを手渡す。

 

「ありがとうございます、兄さま」

「ありがと、綾人きゅん♪」

 

 白音ちゃんとイッセーちゃんは滴る汗を拭きつつ、特性ドリンクの入ったカップのストローに口をつける。

 因みに少々独特の苦味があるが飲みなれると癖になる味わいの特性ドリンクの配合は秘密である。

 

 えっ? 中身の話を聞きたいの?

 本当に? 後悔しない?

 世の中には知らない方が幸せな事もあるよ?

 

「ご馳走様です、兄さま」

「ぷふぁ~♪ 元気が漲るぅ~!」

 

 俺が謎の電波を受信している内に、態と微温く保っていた特性ドリンクが見る間に空になった様である。

 静かに微笑みかけてくる白音ちゃんとは裏腹に、イッセーちゃんは何処かオヤジ臭い感じがする様子である。

 まあ、それが嫌味ではなく似合っているので嫌悪感は抱かないけれどね。

 寧ろギャップ萌えって言えなくもないのかな?

 

 

 

 

 

 

「あっ!!? そうだ! 綾人きゅん、今度の日曜日の鍛錬は休んでも構わないかな?」 

 

 クールダウンを兼ねているストレッチで身体を解しているとイッセーちゃんが思い出したかの様に訊ねてきた。

 

「鍛錬を一日休むと取り戻すのに三日も掛かって、その分時間を無駄にするんだけれど……」

 

 俺は態とジト目になりながらイッセーちゃんを見詰めている。

 

「うっ!!? そっ、それは……そう! 最低限の自己鍛錬するから、大丈夫だよ!」

 

 額に冷や汗を流しながら苦し紛れの言い訳をするイッセーちゃん。

 

「ふぅ……その代わり理由を教えてよ。それで俺を納得させられれば……まあ、構わないよ」

 

 俺は腕を組みながら片目を閉じて聞く体勢になった。

 

 まあ、十中八九の確率でレイナーレ絡みだろうね。

 先日接触したとの報告があったからね。

 

「実は……今度の日曜日に知り合った女の子と遊びに行くんだぁ~♪ その娘、お胸様が素晴らしくて……♥」

 

 その胸のサイズを思い出したのか、卑猥な手付きでエアおっぱいを揉む様に指を動かしているイッセーちゃん。

 

「最低です……」

 

 白音ちゃんはそのイッセーちゃんの様子を見て、無意識に自分の胸の大きさを確かめる様に覆いながら、さらりと毒を吐いている。

 そして、ちらりと俺の様子を伺う様に目線を向けてきている。

 

 安心して、白音ちゃん。

 現世の俺は胸の大きさにそんなにこだわりがないからね。

 前世では確かにちっぱいの方が好きだったけれど、現世で姉ちゃんの成長したお胸様を味わってからは、お胸様に貴賎なしって思っているからね。

 

 俺とのアイコンタクトで俺の性癖を改めて認識し直した白音ちゃんは機嫌が直った様である。

 

「ふむ……まあ、それなら構わないよ。俺にイッセーちゃんのプライベートの行動を制限する権限はないからね」

 

 俺は肩を竦めながら答えた。

 

 俺はイッセーちゃんの拳法の師匠とは言えるけれども彼氏じゃないからね。

 まあ、彼氏でも束縛する気はないけれどね。

 

 それに俺はどちらかと言うと束縛される方だからね。

 姉ちゃん然り、白音ちゃん然り、女性に手綱(主導権)を握られてしまっている。

 それが嫌と言う訳ではなくて、逆に快感を得られるまでに身も心も調教されてしまっている俺は、もう前世の頃のある意味において汚れを知らなかった頃に戻れないだろうしね。

 

「ありがとう、綾人きゅん♥」

 

 俺が再び、思考の海へとダイブしていると、イッセーちゃんは嬉しそうに俺を抱きしめにきた。

 俺は逃げるタイミングを失ってされるがままである。

 

 しかも、身長差で俺の顔はイッセーちゃんの胸に挟まれている状態である。

 姉ちゃんに比べたら小振りだけれどそこそこあるボリュームのある感触と女の子特有の甘い匂いに、思わず身体の一部が元気になってしまう。

 

 その後は大変だった。

 嫉妬した白音ちゃんに戦車(ルーク)の怪力で思い切り背中を抓られたり、イッセーちゃんには股間に張ったテントがバレて逆セクハラされそうになったりした。

 幸いにも股間のテントの件は白音ちゃんにはバレなかった様である。

 

 もしバレていたら、姉ちゃんに影響されてSの気質に目覚めつつある白音ちゃんにお仕置きと称して()()をされるか想像するだけで……ごくり……はっ!!?

 なっ、何でもないよ!

 べっ、別に足コキとか望んでないよ!

 本当だよっ!!

 

 嘘です。しっかりと脳裏の片隅で望んでしまいました。

 俺はすっかりとドMな気質に堕ちていると、改まって実感し直したよ。

 まあ、ボッチで素人童貞だった前世よりもある意味において幸せだから問題ないよね?

 誰かそうだと言ってよ!!

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 今日はイッセーちゃんが楽しみにしていた件の日曜日である。

 

 本来なら今回の案件は我が主であるリアスさんが出張るのが一番なのだろうけれど、下手に介入すると堕天使と悪魔の戦争の引き金を引きかねない事案だから俺一人行動しているのである。

 影に見え隠れしているコカビエルさんの存在は厄介である。

 彼は先ず間違えなくこの世界でも戦争を望んでいるみたいだしね。

 

 それにもしも、コカビエルさんの息が掛かった者と戦闘になったとしても、俺一人だけならば何とかなるだろうしね。

 今のところグレモリー眷属並びにシトリー眷属の中の最高戦力は俺だしね。

 

 それに政治的に考えても俺が一番妥当だと言えるからね。

 俺はアザゼルさんとは非公式にだけれど、フランクな関係を継続している。

 未だにアザゼルさんは丸で親戚の小父さんの様な態度で俺に接してくれているのである。

 それは堕天使の混血児(ハーフ)から転生悪魔になった俺でも、何とか堕天使の総督のアザゼルさんに顔が利く状態を維持している事を意味している。

 

 まあ、いち転生悪魔な俺に政治的に頼るのはナンセンスな事かもしれないけれど、背に腹は変えられないからね。

 

 一応、イッセーちゃんには用心として俺謹製のお守りを渡しているから心配はいらないと思うけれどね。

 でも、何かあったら後悔してもしきれない。

 

 世界には歴史の修正力が働いていて殆ど原作通りに事が運ぶ可能性が大きいのである。

 変えられる事は多くはないが、望む結果を得るためには努力を惜しんでられない。

 

 俺は己の持てる全ての技法や能力を駆使してイッセーちゃんを影から見守っている。

 イッセーちゃんは服装は臍出しの短めのタンクトップの上に革ジャンを羽織っていて、下はスカートではなくパンツルックである。

 髪型は普段とは違ってポニーテールにしており、バンダナで纏めている様である。

 

 イッセーちゃんは何処かそわそわした様子で頻りに時計を確認していた。

 丸で初デートに繰り出した男の子の様で微笑ましい感じである。

 

 俺はその様子を具に観察している。

 普段の制服姿も良いけれど、滅多に見る機会のない私服なイッセーちゃんの姿は眼の保養になる。

 イッセーちゃんは本当に黙っていれば美人さんなのである。

 

 えっ!!?

 なっ、なんだとっ!!?

 誰がストーカーだってぇえぇえ~!!?

 はっ!!?

 どこからか電波を受信して、思わず取り乱しそうになってしまった。

 

 落ち着け、姫島 綾人。

 一応、万が一バレても直ぐに俺とは気付かれない様に変装しているけれど、見つからないに越した事はない。

 

 俺の姿は簡単に髪型をオールバックにしたり、服装を普段好んで着ているカジュアルウェアからパンクロックファションへと変更している。

 こんな格好は俺の好みから随分と掛け離れているけれど、休日に普段の格好で一人で行動していたら大概年上のお姉さん達に声を掛けられるからね。

 少しでも近寄り難い服装と雰囲気にしておかないとね。

 

 所謂ところの逆ナンパだけなら未だいいけれどね。

 下手をすると逆援交までする羽目になりそうになるからね。

 実際に以前に姉ちゃんと逸れた際には、如何にもお水系なお姉さんに声を掛けられて、そのまま色町に連れ込まれそうになった事もあった。

 その時は姉ちゃんが駆けつけてくれて、やんわりとだが棘がある言い回しでそのお姉さんを追い払ってくれたから事なき得たんだよね。

 

 まあ、代わりに姉ちゃんに種が尽きるまで搾り取られたんだけれどね。

 途中でゴムが尽きた時はどうしようかと思ったものだったね。

 さすがに学生の身分で子供を授かったら拙いからね。

 仕方ないから姉ちゃんの胸で扱いてもらったりして行為を続けたものだった。

 これが白音ちゃんも交じるならば、仙術で仮に受精しても着床しない様にコントロール出来るそうだから、何時も生で遠慮なくしているんだけれどね。

 

 えっ!!? 姉ちゃんとは血が繋がっている実の姉弟なのに性交は禁忌だって?

 そんなの今更だよね。

 転生悪魔になった俺達に現代日本の社会常識は通用しないのである。

 まあ、この際建前は今更どうでもいいけれどね。

 俺と姉ちゃんはお互いに深く強く依存しあっていて、どちらか一方でも欠けたら生きていけないだろうしね。

 もう純粋に姉弟をしていた頃には戻れそうにないよね。

 

 後それに、姉ちゃんが未だに踏ん切りがつかなくて父さんとの仲を修復しきれていないから、俺と父さんとは微妙な関係なままである。

 堕天使の中には俺や姉ちゃんを裏切り者呼ばわりする者達が少なからず存在しているから、余計に父さんとの関係修復は難しいものとなっているからね。

 まあ、俺と姉ちゃんが男女の関係に堕ちているから、今更どの面下げて父さんに会えばいいのか俺自身躊躇っているところもあるから、こっちからは歩み寄りにくいんだけれどね。

 姉ちゃんとの関係は今更後悔はしないけれど、やっぱり少しばかり俺の心の片隅で罪悪感を感じている証拠だろうね。

 

 っと、いけない。

 思考が大分ズレてしまっていたね。

 今はイッセーちゃんを見守る事に集中しないとね。

 

 

 

 

 

 

 暫くイッセーちゃんの様子を伺っていると、一人の女の子が現れた。

 写真でしか見たことはないけれども、間違えなくレイナーレの様である。

 彼女はにこやかそうに笑みを浮かべているが、俺の眼には巣に絡め取った獲物を舌舐りをしながら捕食しようしている様にも感じ取られる。

 

 しかし、彼女は少しばかり自意識過剰気味なんだろうな。

 隠すことなく堕天使の気配を漂わせている。

 俺ならこんな馬鹿な部下はいらない。

 まあ、さすがにアザゼルさんも部下の行動の全てに眼を光らせている訳じゃないだろうから、レイナーレの行動の一部始終を知っている訳じゃないだろうしね。

 

 この駒王町は四大魔王様の一角のサーゼクス様の妹君である、我が主でグレモリー家次期当主のリアス・グレモリーが日本に滞在する際に与えられた領土である。

 しかも原作ではどうだったかは知らないけれども、この世界では日本神話勢力にも非公式にだがリアスさんの領土として駒王町は認められている。

 以前は相互不干渉が暗黙の了解だった様だが、今代の淵龍王を宿している俺を切っ掛けに色々と事態が動いている様である。

 そこで中級の堕天使が問題を起こせば、アザゼルさんの望む和平から遠のくって理解出来ないんだろうか?

 まあ、アザゼルさんも今のところは大々的に和平を訴えていないから、レイナーレは知らないんだろうけれどね。

 でもそれは怠慢であると言える。

 知らなかったでは済まされない。

 自らのエゴでアザゼルさんやシェムハザさんに憧れに似た敬愛を向けている以上、彼らの意にそぐわない行動は避けるべきである。

 

 

 

 

 

 イッセーちゃんとレイナーレは仲良く連れ立っており、その様子は会ったばかりの友達というよりも初々しい百合ップルの様な空気を醸し出している。

 レイナーレはイッセーちゃんに絡みつく様に寄り添っているし、イッセーちゃんも然りげ無くレイナーレの腰に手を回して丸で抱き寄せる様にしている。

 まあ、イッセーちゃんの緩みきった表情は乙女としてはどうなんだろうと思うけれど、そこは見ない振りをしておくのが友達としての最大の譲歩かな。

 

 そうなのだ。

 今のところ俺とイッセーちゃんの関係は師弟関係を除くと、友達止まりであると言える。

 まあ、イッセーちゃんからは恋愛感情混じりの好意を向けられてはいるけれどね。

 今のところ応える事なくはぐらかしているからね。

 

 心の片隅では、イッセーちゃんのその想いに答える事で、彼女をこちらの事情に巻き込む事を躊躇っていたのかもしれない。

 今回の事案は謂わば、契機と捉える事出来るだろう。

 無自覚に躊躇っていた俺の決心をある意味において付けさせるのには十分である。

 もうイッセーちゃんは、三大勢力や他の勢力からの干渉を避けられないだろう。

 

 出来れば原作通りに俺と同じくリアス・グレモリー眷属になってくれると嬉しいけれども、万が一イッセーちゃんが拒否したら彼女の意思を尊重しよう。

 リアスさんやソーナさんには転生悪魔に勧誘すると言っていたのに随分身勝手な発想と言えるけれども、イッセーちゃんは最早小説の主人公ではなくて同じ世界に生きている者である。

 俺の思い通りにならないからと言って、癇癪を起こすのは出来ないのである。

 

 もしも、レイナーレが純粋にイッセーちゃんの好意に応えるならば、それはそれで構わないと思っている。

 その時は納得し難いが祝福しようとさえ思っている。

 だけれど、レイナーレにその気はないだろう。

 

 俺の友達のイッセーちゃんを害するならば容赦はしない。

 だがまあ、今回は追い払えれば、それで良しとしておくべきだろう。

 

 これは俺のエゴだが、来るアーシアちゃんとの繋ぎの役割をしてもらう必要があるからね。

 手を拱いていたら、アーシアちゃんはディオドラ・アスタロトの眷属の転生悪魔にされて、身も心も犯されてしまうだろう。

 それだけは絶対に許容出来ない。

 

 イッセーちゃんやアーシアちゃんの意思を尊重すると言ってるのに矛盾するかもしれないけれど、利用出来る物は有効活用させてもらっても罰は当たらないよね?

 

 俺はある意味において強欲なのかもしれない。

 俺の手の届く範囲でも構わないから、俺の愛する者達が幸せになって欲しいと願っているのである。

 勿論、手が届かないからと諦めたりしないけれどね。

 

 そこには当人達の意思は関係なく、あるのは俺の押し付けがましい善意とも言えないエゴが存在する。

 例え俺の行動によって嫌われても構わない。

 愛する者達が幸せならば、それでいい。

 まあ、出来れば好かれていたいが、贅沢は言ってられない。

 

 俺は万能の神様ではない。

 それに例え神様でも万能とは言えないだろう。

 事実において聖書の神は亡くなっている。

 そう、この世に完全なモノなど存在しない。

 

 だから履き違えるな、姫島 綾人。

 己一人の力で世界を望む様に変えようなんて、ただの妄言である。

 

 仲間達と力を合わせる事が重要である事を、常に頭の片隅に置いておけ。

 俺は独りじゃない。

 頼もしい仲間に恵まれている。

 

 だが、その幸せを享受するだけでなく日々努力を重ねて精進すべきである。

 

 

 

 

 

 イッセーちゃんを見守りつつ、自分のエゴを再確認していると何時の間にか夕暮れどきの公園に辿り着いていた。

 

 ここからは一層気を引き締める必要がある。

 気配を殺しつつ、レイナーレとイッセーちゃんの一挙一動に眼を凝らす。

 

「今日は楽しかったね」

 

 イッセーちゃんから離れて噴水をバックに微笑むレイナーレ。

 

 その顔は確かに満面の笑みとも言えるが、眼がちっとも笑っていない。

 どちらかと言うとその眼には侮蔑とも取れる感情が見て取れる。

 

 やっぱり神器(セイクリッド・ギア)を宿していると言っても、今のところはただの人間であるイッセーちゃんを見下しているんだろうね。

 

「ねぇ、イッセーちゃん?」

「何かな、夕麻ちゃん」

 

 一見すると甘酸っぱい空気にも見えなくはないけれど、微かに漏れ出してる殺気で台無しである。

 

 本当にレイナーレは三流役者だよね。

 殺気は殺す瞬間にだけ発する様にしないと格上相手では通用しない。

 

「私たちの記念すべき初デートって事でひとつ、私のお願いを聞いてくれる?」

 

 イッセーちゃんは生唾を呑み込みながら、期待に胸を膨らませていることだろう。

 

「なっ、何かな、おっ、お願いって」

 

 丸で童貞の少年の様な反応のイッセーちゃんに対して、レイナーレは笑みを深めている。

 そしてはっきりとイッセーちゃんに向かって宣言するかの様に静かに言い放つレイナーレ。

 

「死んでくれないかな」

 

 突然の期待外れでいて物騒なお願いに、イッセーちゃんの思考は停止しているみたいである。

 

「……? それって……あれ、ゴメンね。もう一度言ってもらってもいいかな? なんか、あたしの耳が変になったみたい……」

 

 聞き間違えだと思って縋る様に聞き返しているイッセーちゃん。

 

「死んでくれないかな」

 

 はっきりと笑顔を浮かべながら言ったレイナーレ。

 

 固まっているイッセーちゃんの眼の前でレイナーレは自身の正体を現す様に堕天使の羽を展開した。

 

 焦るな!

 まだ踏み込むタイミングじゃない!

 

 俺は飛び出しそうになるのを、ぐっと堪えて様子を伺い続ける。

 

 後で思い出しても、この時は集中しすぎて周りに気を配れていないのは失策だった。

 そう、この二人を付けていたのは俺だけじゃなかったのである。

 

 

 

 

 




家のTSイッセーちゃんの一人称に迷っていましたが、結局のところイメージ元の『絶対可憐チルドレン」の『赤石 薫』と一緒の『あたし』にしました。

ご意見ご感想、並びに批評や評価をお待ちしています。


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第15話

前回の投稿は番外編でしたがそこから一年以上間が空きました事を、先ずはお詫びします。

仕事の忙しさも有りましたが、某SNSゲーのイベラッシュに埋没していて執筆の時間が全く取れませんでしたからね……

拙い内容でお目汚しかと思いますが、読まれた方はご意見やご感想等頂けましたら幸いです。


 

 

 

 

 

「私の提案を受け入れさえすれば、殺さずにおいてあげるけれど……どうするのかしら?」

 

 レイナーレは驚きに固まっているイッセーちゃんを解きほぐす様に妖艶に微笑みかけながら提案している。

 だがその瞳は全く持って欠片も笑っていない……アレは()()()いる感情が支配している様子がありありと感じられるんだよね。

 

「……美少女のお願いだから叶えて上げたいけれど、条件次第かな?」

 

 イッセーちゃんは戯ける様に大袈裟に肩を竦めているものの、その心情は穏やかではないんだろうね。

 その証拠にその身体は一見未知なるモノに対する恐怖によって小刻みに震えている様に見て取れるんだよね。

 

 でも()()は違うんだよね。

 相変わらずイッセーちゃんは()いよね。

 あそこまで行くと、ある意味尊敬出来るよ……ねぇ?

 

「簡単な事よ……私の奴隷(モノ)になりなさい。そう……身体だけでなく、その精神も魂さえも……」

 

 レイナーレの提案にイッセーちゃんは一瞬眼を見開いた様子に見受けられる。

 そして、イッセーちゃんの赤裸々な趣味嗜好を実際に()で感じ取って知ってないと、その震えは隠しきれない程に恐怖が大きくなっている様に()()()しちゃうよね。

 

「あら? やっぱり、怖いのかしら? ……私の奴隷(モノ)になるのならば身も心も魂さえも快楽の渦に落としてあげるわよ♪」

 

 最早隠す事なくイッセーちゃんを心底から侮っているレイナーレは、自身の身体を掻き抱きながら思惑通りに事が進むと陶酔している様子である。

 

「ごめんね……どっちかと言うと、あたしはネコよりタチなんだよね♪」

 

 イッセーちゃんは百年の恋も一時で冷める様な下心満載の表情を浮かべながら、己の性癖を明け透けに暴露しちゃったよ。

 

 まあ、俺はイッセーちゃんの性癖は既に骨身どころか魂にまで染みこむぐらいの勢いで把握済みなので、今更精神(中身)が腐女子でも幻滅はしないけれどね。

 彼女の真の魅力はそんな()()()事では色褪せないからね。

 

 ああ……俺は既にイッセーちゃんの()()に贖えない程にどっぷりと漬かって酔っているんだと改めて自覚を強くしたよ。

 

「なっ!!? ……良いわ。もう、貴女に掛ける情けもない……死になさいっ!!」

 

 レイナーレは米神に青筋を浮かべながら、無造作に光の槍をイッセーちゃんへと投げつけた。

 

「ほいっと……」

 

 イッセーちゃんは録に狙いも定まっていなかったその光の槍を難なく避けてみせた。

 

 まあ、あれくらい避けられない様だったら、俺や白音ちゃんへの日常茶飯事的なセクハラ(スキンシップ)は出来ないよね。

 

 最近はアレはアレでお互いの修行になるからと黙認とまではいかないものの許容範囲内って事で、俺は自分自身に言い聞かせているんだよね。

 

 白音ちゃんも冷たい言葉と蔑んだ視線をイッセーちゃんへと向けながらも、心底からは拒む事無く相手をしているしね。

 

「……はぁ?」

 

 そして、眼の前の光景が信じられなくて固まっているレイナーレに対して、イッセーちゃんは我流っぽいアレンジが入っている縮地擬きな足運びで間合いを一瞬で詰めていった。

 

 まだちょっと入りと抜きが甘いって言えるレベルだけれど、()()さえなければ合格点をあげられるかな?

 

「しまっ……!!?」

 

 レイナーレは迫り来るイッセーちゃんの攻撃を驚愕の表情は浮かべながら、生存本能じみた動きで避けようと身体を捻ったのが幸いした……って言いたいところだけれど、()()はレイナーレの胸を鷲掴みしようとしていたイッセーちゃんの掌が逸れて、吹き飛ばされながらも致命傷は避けれた様子だって感じなんだよね。

 

 生粋のお胸様スキーなイッセーちゃんには色んな()()で脱帽な気持ちでお腹一杯になっちゃいました。

 

「かはっ!!? にっ、人間の分際でぇ……!!」

 

 痛みである程度の冷静さを取り戻したレイナーレは上空へと羽ばたいていった。

 さすがにイッセーちゃんには虚空瞬動は()()実戦レベルで使えないから有効な手段だよね。

 

 さてと、コレは今現在のイッセーちゃんには最早打つ手なしだろうし、そろそろ止めに入らないと……

 

「っ!!?」

 

 俺は刹那の瞬間に首筋へ鋭く刺す様に感じ取れた殺気に対して半ば無意識に条件反射気味(カウンター)の拳を繰り出した。

 

「ほぅ……さすがに不意打ちは無駄だったか」

 

 俺の視線の先には一人の堕天使の男が佇んでいた。

 

「ドーナシークっ!!?」

 

 先程の攻防で俺の攻撃を捌いたのは、幼い頃に知らない仲でもないと言える程度の付き合いのあった堕天使であった。

 その立ち振る舞いは以前とは比べられない程に鍛え上げられている。

 

 だが()()は真っ当な鍛錬だけではないよね。

 よく知っている()()がドーナシークのモノと入り混じって感じ取られるんだよね。

 

 俺は無意識に歯軋りしながらも冷静にドーナシークの一挙一動を具に観察していくべく意識を向けていった。

 

「久しいな、小僧……さてと、少しばかり遊んでもらおうかっ!!」

 

 状況証拠だけだけれど、()()はかなりよろしくない状況だよね。

 さすがに戦闘狂と言えどもコカビエルさんが()を用立てる筈もないし、コレは()()()の介入も視野に入れて調査し直さないと……

 

「考え事をしながらとは、余裕だなっ!!」

 

 分割思考のお陰でイッセーちゃんの様子も伺いながら、何とか捌けていた攻撃が苛烈さを増してきた。

 

 さすがにまだまだ未熟な今の俺では、致命的な隙と成り得るかな……

 

 仕方ないか……

 このまま出し惜しみしてる間にイッセーちゃんが害されたら意味がないからね。

 今のところ突然の闖入者達にレイナーレの動きも鈍っているものの、イッセーちゃんも怒涛の展開で混乱しているみたいだしね。

 

「いくぞ、ナラカ! 禁手化(バランス・ブレイク)!!」

『Abyss Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 一瞬にして俺は森羅万象をも呑み込む様な深淵の如く漆黒な鎧に包まれる。

 その姿が徐々に禍々しく混沌としたモノへと至っているのは、俺が性懲りもなく様々な因子を吸収しているからだろうね。

 

 そして、更に保険を掛ける如くストックしていた魔法を解き放って己の身へと装填させる。

 

開放(エーミッタム)固定(スタグネット)!! 掌握(コンプレクシオー) 魔力充填(スプレーメントゥム・プロ) 術式兵装(アルマティオーネ) 疾風迅雷(アギリタース・フルミニス)!!!」

 

 術式兵装の疾風迅雷は運動性に特化しているものの防御力が低いのが難点だが、禁手(バランスブレイカー)淵龍王の喰種鎧(アブゾーブ・グール・メイル)の基本性能は防御に向いているので今の俺の発展途上な功夫でも上級堕天使程度のレベルの敵にならば問題ないと言える程である。

 

 だがしかし、感じ取られるドーナシークの膨れ上がった光力には効果があると言えるかどうかは疑問かもしれない。

 

 一気にケリを付けるべくドーナシークの死角へと電光石火の勢いで回り込んで龍氣と魔力、更には堕天使の光力をも織り交ぜた電撃を打ち込もうとすると脳裏に染み入っていると言っても過言ではない甘く切ない()()が鼻腔を擽った。

 

 俺はその馴染みのある匂いで、無意識に功を焦っていた思考を切り替えて感謝の念を覚えながら首を若干傾けた。

 間一髪とも言える程のスレスレで光の槍が回転しながら地面に突き刺さった。

 

 砂埃どころか破片すら飛び散らないのは光力が一点に集中しているからだろうね。

 光の槍はその直径の大きさの穴を穿っていって、地中深くへと消えていった。

 

 暫くすると行き場を失った光力が地中深くで炸裂した様で小刻みに地面が揺れ動いた。

 

「何してるんっすかっ!! 失敗したなら、直ぐに撤退する手筈なんでしたっすよね?」

 

 聞き覚えのある凛とした声の持ち主であるミッテルトちゃんは、逆光でその表情は読み取れないものの有無を言わさない雰囲気で佇んでいる。

 

「くっ!! 撤退します……この落とし前は付けさせてもらうわよ、()()()()っ!!」

 

 レイナーレは丸で俺を仇に様に睨みつけながら去っていった。

 まあ、彼女からすれば俺は堕天使勢から転生悪魔になった許しがたい存在なんだろうからね。

 

「ドーナシークも下がるっすよ!」

「……了解した。今日のところは大人しく引き下がろう」

 

 ドーナシークも突然の乱入者とも言えるミッテルトちゃんの剣幕に毒気を抜かれた様に肩を竦めながら去っていった。

 

「お邪魔したっす……」

 

 ミッテルトちゃんはイッセーちゃんに軽く会釈をしながら立ち去ろうとしている。

 

「待ってっ!! ミッテルトちゃん!!」

 

 俺は()()の表情を浮かべながら引き止めようとするも徒労に終わってしまった。

 

 

 

 

 

 

「あの~綾人きゅんだよね……?」

 

 イッセーちゃんは混乱した表情をしながらも、半ば確信した様子で訊ねてきた。

 

 俺は術式兵装と淵龍王の喰種鎧(アブゾーブ・グール・メイル)を解いて、真っ直ぐにイッセーちゃんと向き合った。

 

 さすがに服装は無理でも髪型を戻してから成るべく普段通りの表情を向けているんだけれど、イッセーちゃんの眼は混乱したままなのは仕方ないよね?

 

「さてと……ここじゃなんだし、場所を変えて色々と説明したんだけれど……構わないよね?」

「……()()って大丈夫なんだよね?」

 

 イッセーちゃんが掲げた左腕には赤い籠手が装着されていた。

 ドライグの意識は未だ覚醒していない様子だけれど、先程の俺とナラカの龍氣に呼応したんだろうね。

 

「うん、今は大丈夫だよ」

 

 俺はイッセーちゃんを安心させる様に微笑みかけながら手を握った。

 

「…………」

 

 イッセーちゃんは俺の手を握り返しながら黙って着いてきてくれている。

 

 ちょぴり予定通りとは行かなかったものの、()()でミッテルトちゃんがより一層動きやすくなったので結果オーライって感じだよね。

 

 予想外の第三者の介入もある様みたいだし、一から調査し直す必要があるみたいだしね。

 

 問題があるとすれば()を持ち込んであろう禍の団(カオス・ブリゲード)の息の掛かったモノの実力次第ではミッテルトちゃんを危険に晒してしまう事だけれど、コレばかりは杞憂に終わって欲しいと願うしかないよね。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 俺には馴染みのある旧校舎にある部室にイッセーちゃんを案内して、先ずはお茶の時間と洒落込んでいる。

 

 イッセーちゃんは緊張した面持ちで小さくなりながら紅茶を啜っている。

 

 まあ、駒王学園でもトップレベルの美少女の園と言えるオカルト研究部にご招待と相成った訳だからね。

 

 既に俺の膝の上には何時も通りに白音ちゃんが座っているし、何気にギャーちゃんも俺の背中越しにイッセーちゃんをおっかなびっくりとチラチラと見ているしね。

 

 姉ちゃんも俺とスキンシップをしたそうにしていたが、リアスさんに釘を刺されて女王としての振る舞いをしている。

 でもその瞳は俺を捉えていて嗜虐的な感情の炎が燻っているんだよね。

 コレは後でしっぽりと搾り取られる事は間違いないよね。

 

 祐美ちゃんは窓際の壁に背を預けながら我関せずといった態度を示しているけれど、()()かあった際には逸足を用いて鎮圧出来る様してくれている。

 

 まあ、ソレは姉ちゃんや白音ちゃんも対象に入っているのだと無言の圧力を向けられているのはご愛嬌かな?

 さすがにこの場では俺が()()()な乱痴気騒ぎにはならない……よね?

 

 

 

 

 

 

「さてと、兵藤 一誠さん……いえ、綾人が呼んでいる様に親しみを込めてイッセーと呼ばせてもらうわね……一息吐いて落ち着いた頃合でしょうし、改めて私たちオカルト研究部はあなたを歓迎するわ……悪魔としてね」

 

 にこやかに、しかして何処か冷徹にも感じれれる笑顔で挨拶しているリアスさんは、臆面もなく悪魔の翼を曝け出しながら正に悪魔其のモノと言った感じで切り出した。

 この辺は俺の影響で原作と比べると現実主義者(リアリスト)へと変貌したところといった感じだなんよね。

 

 ソレが良い事なのか悪い事なのかは別として、貴族としての義務や責務を念頭に行動出来る事を意味しているんだよね。

 まあ、プライベートでは年相応な可愛らしいちょっぴり我侭なお嬢様な面も見受けられるし、公私を混同する事なくある種の()()を被って演じられる事は、一筋縄ではいかない悪魔社会を渡り歩いてていくためにも必要不可欠な技能ってところだよね。

 

「昨日までのあたしなら、何の冗談かって笑い飛ばしていたかも知れません……でも、今日の夕麻ちゃんや綾人きゅんの姿を見た後なら信じられます。理解する事は難しいですけれど……」

 

 イッセーちゃんは左腕に装着された赤い籠手を掲げながら苦笑している。

 

「一見龍の手(トゥワイス・クリティカル)の様に見受けられるけれど……」

 

 リアスさんは興味深そうにイッセーちゃんの顔と赤い籠手を交互に観察している。

 

「ふぅ……私にはこの状態じゃ判別しにくいわね。微かに孵る前の卵を見ている様な高揚感は感じられるのだけれど……お願い出来るかしら、綾人?」

 

「イエス、我が姫君(マイ・ロード)……イッセーちゃんお手を拝借するね」

「うん……優しくしてね♥」

 

 イッセーちゃんは冗談混じりに手を差出してきた。

 まあ、微かに震えているのは仕方ないけれどね。

 

「善処します……」

 

 俺は苦笑しながらイッセーちゃんの左手、更に詳しく説明すると籠手の宝玉に触れた。

 

「行くぞ、ナラカ……寝起きの悪い奴を叩き起す!」

『了解した、綾人』

 

 俺とナラカの相乗効果で一気に高めた龍氣を瞬間的に宝玉へと流して打ち込んだ。

 

 イッセーちゃんの左腕に装着されている赤い籠手の宝玉が震えて点滅しながら徐々に光を増していく。

 暫く震えと点滅を繰り返していく内に宝玉に文様が浮かび上がった。

 

 そして眩い程の光を放った籠手は一気に変化していた。

 

『随分と荒々しい気付けだったな……そんな事をしなくてもこの宿主の力量ならば暫くすれば眼が覚めていただろうに……』

『確かにな……だが、その猶予が致命的な事を引き起こしかねない状況だと理解出来ているのだろう?』

 

 ナラカは何処か忌まわし気な感じに刺々しい言葉を意に介さずに、懐かしそうに相手を諭す様に問いかけている。

 

『ふん……相変わらずと言いたいところだが……更にお節介が増したな、ナラカ……』

『まあな……否応なしにお前も変わらざる得ないかも知れんぞ、ドライグ……』

 

 目覚めた二天龍の一角であるドライグはふてぶてしい態度ながらも、何処か穏やかな雰囲気を醸し出していた。

 

 歴代の赤龍帝と淵龍王の所持者達を通して幾度となくぶつかり合い、極希に協力してきた年月の積み重ねは伊達じゃないってところだろうね。

 

 

 

 

 

「さあ、役者も揃った様だし、本題へと入りましょうか……イッセー? あなた、悪魔にならないかしら?」

 

 リアスさんは丸で簡単な事様に悪魔へと勧誘しているが、その内心は冷や汗をかいているんだろうね。

 その証拠に事前の打ち合わせの内容を完全に失念している。

 

 まあ、勧誘対象のイッセーちゃんが今代の赤龍帝と確定したのでテンパるのはしかないとしても、コレはダメだよね……

 

 現にイッセーちゃん自身は理解が追いついていなくて疑問符を浮かべているんだけれど、ドライグの方は不快感や怒りを静かに堪えている。

 しかもドライグは態と微かに感じ取られる様に仕向けているよね。

 

 そのために余計にリアスさんは萎縮しちゃってるよね。

 

 ドライグはイッセーちゃんの出方を窺っている様子で今は押し黙っているけれど、一つ選択肢を間違えれば感情が爆発する可能性があるよね。

 

 仕方ないか……

 ここは助け舟を出すしかないよね。

 リアスさんには後できちんと()()しておくけれどね。

 

 俺は一度リアスさんに目配せしてから、イッセーちゃんへと話しかけていく。

 

「突然の事でごめんね、イッセーちゃん……今日一日で君の運命は分岐点へと至ったのは分かるよね?」

 

 俺はイッセーちゃんの瞳を真っ直ぐと覗き込む様に訊ねていく。

 

「うん……まあ、出来の悪いあたしでも、もう引き返せないところまで来ているのは何となく分かるつもりだよ……」

 

 イッセーちゃんは苦笑しながらも俺の眼を真っ直ぐに見つめ返している。

 

「今日体験したとおり、イッセーちゃんのその身に宿っていた神器(セイクリッド・ギア)を懸念した堕天使の一部が管理、もしくは抹殺を企てていたんだよね……まあ、調査不足だったみたいだけれどね……」

 

 俺は態とらしく肩を竦めてみせた。

 

神器(セイクリッド・ギア)……あたしのこの籠手や綾人きゅんの鎧が、そうなんだよね……」

「正確にはちょっと違うんだけれどね……」

 

 俺は更なる真実を隠す事なく伝える事を一瞬躊躇いそうになったけれど、遅かれ早かれ伝える必要があると決心を新たにした。

 

「俺の淵龍王の盾(アブゾーブ・シールド)やイッセーちゃんが宿している赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)神滅具(ロンギヌス)に分類されるモノだし、俺のあの鎧の 淵龍王の喰種鎧(アブゾーブ・グール・メイル)禁手化(バランスブレイク)したモノなんだよね……」

神滅具(ロンギヌス)……?? 禁手化(バランスブレイク)……??」

 

 イッセーちゃんは一気に増えた情報量に知恵熱が出てきて頭から煙を吐きそうな様子で混乱している。

 

 普段の明け透けな態度とのギャップが可愛らしくて思わず微笑ましくなりそうだけれど、今はしっかりとイッセーちゃんに知識として理解してもらわないとね。

 きちんと理解しているのと出来ていないのとでは、転生悪魔になる意味も変わってくるだろうしね。

 

神器(セイクリッド・ギア)とは聖書の神が作ったシステムで不思議な能力を所持者へ与える物の事なんだよ。そして、神滅具(ロンギヌス)とは神器(セイクリッド・ギア)の中でも、神すら滅ぼす事が可能な力を持つと言われる特殊な神器(セイクリッド・ギア)の総称なんだよね……更に禁手化(バランスブレイク)とは神器(セイクリッド・ギア)の力を高め、ある領域に至った者が発揮する力の形の事なんだよ。基本的には元の力のスケールアップなんだけれど、使い手の認識によって別物に化ける事もあるから一概には言い切れないんだよね……」

「なっ、なるほろ……」

 

 イッセーちゃんは俺の怒涛の説明に飲み込まれそうになっているものの、少しずつ理解出来る様に情報を反芻する様にしている様子だね。

 

「ねえ、ドライグだったよね? あなたの意見も聞かせて欲しいんだけれど……」

 

 イッセーちゃんは愛し気に籠手の宝玉に触れながら語りかけている。

 

『何だ……』

 

 ドライグは態と素っ気ない態度を示している様だけれど、イッセーちゃんに対してソレは()()って言えるんだよね。

 

「もう!! 悪魔になるかどうかはあたしだけの問題じゃなくてドライグにも関係あるんでしょう!!」

 

 イッセーちゃんは頬を膨らませつつ、籠手の宝玉を小突いている。

 

「ドライグとはコレから一蓮托生、それこそ否応無しでもあたしが死ぬまで一緒なんでしょう!!? ソレならあなたの意見を踏まえるのは当然の事なんだから……ねぇ?」

 

 イッセーちゃんははにかみながらドライグへと己の想いをぶつけている。

 

 ああ、イッセーちゃんの魅力はコレなんだよね……

 ドライグを道具としてではなく意思を持った一対象の相手として認めて、対等以上に扱える心持ちは一朝一夕では身に着かないよね。

 ご両親の愛情を一心に受けて健やか……かどうかは言い切れないけれど、貰った愛情を正しく新たに周囲へと向ける事の出来る暖かさは何事にも代え難いモノだよね。

 

 

 

 

 

 その後は三大勢力の成り立ちや現在の三竦みの危うい冷戦状態とも言える事柄や、転生悪魔に関する基礎知識等を余すことなくじっくりと説明していった。

 その上で二天龍の一角である赤龍帝たるドライグと俺に宿っている淵龍王(アビス・ドラゴン)たるナラカの関係性を具に説明していった。

 後は敢えて白龍皇たるアルビオンとの関係性は説明は省いたんだけれどね。

 

 何せドライグが今は言ってくれるなとイッセーちゃんを気遣う様な節を込めて、俺に無言の圧力をピンポイントで掛けてきたからね。

 ドライグにしてもイッセーちゃんは掛け替えの無い存在だと朧気ながらも認識出来たから、歴代の二天龍達が積み重ねてきた()()とも言える関係性の負担までは今は掛けたくなかったんだろうね。

 

 まあ、今代の白龍皇たるヴァーリと俺は懇意にしているから時間の問題でもあるんだけれど、ここはドライグの意思を尊重しておいたんだよね。

 

 

 そして、コレが一番重要だと言える俺に流れている()()の説明を掻い摘みながら説明していったんだよね。

 何故堕天使の混血児(ハーフ)たる俺や姉ちゃんが転生悪魔になったかは、イッセーちゃんは敢えて突っ込んで訊ねてこなかったんだけれどね。

 俺はイッセーちゃんが疑問に思うのならば隠す事なく説明する腹積もりだったんだけれど、母性の片鱗を感じさせられる様に抱きしめられてすっかりその機会が失われてしまったんだよね。

 

 でも俺の胸を揉みしだく様にまさぐってきたイッセーちゃんを反射的に小突いたのは仕方ないよね?

 

 

 

 

「さてと……コレで一通りイッセーちゃんを取り巻く環境を説明出来た訳だけれど……」

 

 俺は一歩下がってリアスさんを促した。

 リアスさんは先程とは打って変わってイッセーちゃんの前へとしっかりとした足取りで出ていってくれた。

 

「イッセー……改めて勧誘させてもらうわね。あなたは私の眷属の転生悪魔になる気はあるかしら……勿論、嫌ならば断ってくれても一向に構わないわ。綾人頼みになるのは不甲斐ないのだけれど、堕天使勢へと働きかける事も不可能ではないしね……でも、コレはオフレコでお願いね♪」

 

 リアスさんは自身の唇に人差しを添えつつウィンクしながらはにかんでいる。

 

「ドライグ……」

『自身の心の赴くままに決めろ……お前の決心ならばどちらに転んでも潔く受け入れよう……』

 

 ドライグの返答に後押しされてイッセーちゃんは転生悪魔になる事を()()付きで了承してくれた。

 

 イッセーちゃんの地力は俺との日頃の功夫の積み重ねで原作よりも上がっていたんだけれど、幸いにもリアスさんも俺の影響で原作よりも地力が上がっていたので、兵士(ポーン)の駒を全部使用して転生悪魔へと到る事が出来て一安心だよね。

 まあ、殆ど賭けに近かったのは内緒だけれどね。

 

 唯一問題があるとすれば、イッセーちゃんが交換条件に出した()()なんだけれど……ねぇ?

 

 まあ、コレは……俺がある種の()()なる事で済む案件なんで、涙を飲んで受け入れたけれどね。

 

 どちらかと言うと姉ちゃんや白音ちゃんの()()の方にこそ骨を折ったんだけれどね。

 

 前世の俺からすれば血涙を流して羨ましがった事だけれど、いざ当事者になるとSAN値直葬とも言える案件なのは仕方ないよね?

 

 まあ、()()な悩みって言えるとは理解出来ているけれど、納得出来るかは別問題だからね……

 

 

 

 

 




オイラの拙い作品をお読み頂きありがとうございました。

次回はアーシアたんやフリードに関するお話になる予定です。

二人共原作からちょっくら“魔改造”しちゃっている事をご了承して頂きましたら幸いです。

一応、年内に次回を公表出来ましたら御の字ですが、何分熱し易く冷め易いオイラの性質ですので、あまり期待せずにお持ち下しませ。


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第16話

長らくお待たせいたしました。

久し振りの投稿でお目汚しかと思いますが、よろしければお読みになってご意見やご感想を頂ければ幸いです。

今回も原作キャラのTS化や魔改造化も有りますので、その点をご了承頂けません方はお読みにならない方が良いと事前にお伝えさせて頂きます。


 

 

 

 

 表向きのオカルト研究部の部活動も終えて、俺は久し振りに一人で歩いているんだよね。

 最近は必ずと言って良い程に姉ちゃんを筆頭に何人かの女性陣と一緒の帰路なんだけれども、今日は色んな偶然が重なって奇跡的に一人だけなんだよね。

 

 まあ、渡りに船って感じだよね。

 

 ここのところ俺の()()が著しく増えたのはイッセーちゃんが新たに眷属仲間に加わった際の()()で必然的に俺が組み敷かれるローテーションが増えた事も然る事ながら、俺が知らない間になし崩し的に房中術を習得させられていた事も大いに起因しているんだよね。

 

 自分の意思でしていたんじゃなくて身に覚えのない間に、習うより慣れろっていった感じで手取り足取り()()取りで習得させられていたって事も追い打ちなんだけれど、房中術は即ち生命の延長を求める養生術の一環として体内の陰陽二気を調和させて体力の消耗を防ぐ術で本来は真面目なものである筈なんだけれども、所謂ところ性交の技術のため淫猥に思えてしまうのは俺自身の拭い切れない()()な性根があるからなんだろうね。

 

 こればかりは転生悪魔だからと簡単に割り切る事が出来ないのは、人間としての倫理観が僅かなりとも残っている証左って事なんだろうけれどね。

 いや、まあ、現世では既に血を分けた姉ちゃんとお互いに抜け出せないぐらい睦み合っ(依存し)ている上に他の娘達とも関係を持っているのに、人間社会の倫理観なんて今更なんだって事は頭では理解だけはしているつもりなんだけれどね。

 

 誰に憚る事なく大きなため息を吐きたい心境だけれどもね。

 でも、ため息を一度吐く度に()()が逃げるって言われてるしね。

 

 それにもしも姉ちゃんを筆頭にオカルト研究部+αの女性陣に俺がため息を吐いていたと知れ渡っちゃうと、問答無用で物陰に引っ張り込まれて()()()に組み敷かれてしまって一時的にでも悩みを忘れるぐらい身も心も蕩かされてしまうから安易にため息を吐けないってところもあるからね。

 所謂ところの有難迷惑な感も否めないけれども俺が彼女達、特に姉ちゃんに対して骨の髄どころか魂レベルまで依存しちゃってるから断るって選択肢は最初から存在しないんだよね。

 

 俺自身が好意を持っている複数の女の子に囲われてしまって()()されている現状は、前世ならばハーレムモノの主人公だって喜ぶだけで良かった状況なんだけれどもね。

 まあ、いざ当事者になったら一歩選択肢を間違えるとバッドエンドへ()()な綱渡り感が俺の神経を確実にすり減らしているんだけれどね。

 それにも関わらず俺自身が彼女達と触れ合わないと気が狂いそうになる危惧があるって言うのはある意味究極のジレンマだよね。

 コレって明らかに弱くなったって言えなくもないけれどね。

 

 コレも現世で母さんを守れなかった事が姉ちゃんだけでなく俺の心に()を深く打ち込んでいるからなんだろうね。

 一応母さんは一命を取り留めているものの未だに意識は回復してないからね。

 

 原作(世界)の修正力の流れに逆らうためには俺自身が今まで以上にもっと強くなる必要があるけれど、一人では限界がある事も重々承知しているので無謀な事はしないつもりだけれどね。

 

 でも時と場合においては()()の無茶は必要だとも実感しているんだよね。

 まあ、それで何度も姉ちゃんを心配させてしまって泣かせているので、()()はある程度は自重しているけれどね。

 

 

 

 

 

 心身共に疲れ果てていた俺は癒しとストレス発散を兼ねて知り合いの子達が自主的に行っている草サッカーの野良チームに参加するために原っぱにやってきたんだけれど、眼に入った光景に驚きで魂ですら固まる勢いだったのはある種の不可抗力で仕方ないよね?

 

 見知った少年少女達に混じっているのは陽光に煌めいている金髪をシニヨンで纏めて匠にボール裁き……じゃなかった、ボール捌きを披露しているミニスカなシスターさんは時期的にも十中八九()の娘さんだよね。

 

 見えそうで見えない鉄壁なミニスカ(ガード)は侮れない……って、ちょっぴり現実逃避しちゃったのは許されるべきだよね?

 

 絶対領域に垣間見れる健康的な肢体は充分過ぎる程にどストライクなのは救いなのかそれとも破滅への導きなのか、今の俺の精神状態では推し量れないかな?

 

 うん、まあ、コレも俺が転生してきたバタフライ効果の一環なんだろうけれども、簡単に納得出来ないのは致し方ないよね?

 

 俺は足元に転がってきたボールを分割思考で華麗にリフティングしながら、シスターさんのモノも含めた視線に笑顔で手を振り返しながらも内心は怒涛の展開に冷や汗を流したいくらいテンパっているんだよね。

 

 

 

 

 

 

「なあ、晴ちん……? このお姉さんは……?」

 

 俺は駆け寄ってきたリーダー格の子にそっと耳打ちする様に訊ねてみた。

 

「分からないよ……道に迷っているみたいだけれど、日本語が殆ど通じなくて途方にくれていたみたいだから……」

「なるほど……分かった、後は任せてよ」

 

 俺は頬を掻きながら困った様に苦笑している晴ちんの頭を撫でながら微笑みかけたんだよね。

 晴ちんが俯いて驚きで固まってしまっているのは、やっぱり知り合って間もない俺が無造作に帽子越しとは言えども触ちゃったからだよね。

 

 思春期の子に対してちょっぴり気安かったよね。

 反省しないとダメだよね。

 

 如何せん俺へのスキンシップと言う名の姉ちゃん達からの逆セクハラの影響で、其の辺の線引きの俺の基準が曖昧なのは致し方ないとは言い切れないからね。

 

 俺は不快にならない様にそっと晴ちんから手を離しながら、不思議そうに首を傾げているミニスカシスターさんにゆっくりと歩み寄っていったんだよね。

 

「Ciao, sorella」

 

 転生悪魔として言語の壁を取り払われているもののここには晴ちんを筆頭に他の子達の眼と耳があるので、俺は無作為にイタリア語で話しかけてみたんだよね。

 

 後から思い出すと()()過ぎた判断だったと言わざる負えないんだけれども、この時はシスターさんの方も話が通じる相手と出会って安堵の表情を浮かべていたので気がつかなかったんだよね。

 

 

 

 

 

 俺は草サッカーをしている原っぱから少し離れた木陰にあるベンチから晴ちん達のプレーを眺めながら、シスターさんから事情を聞き出しているんだよね。

 この距離なら会話を聞かれる心配は無い筈なので、俺は殆ど使ったことのない不慣れなイタリア語ではなく悪魔となった特典を有効活用させてもらってるんだよね。

 

「良かったです……この町の教会に今日付で赴任することとなりまして……でも、道に迷ってしまったんですけれど、私日本語うまくしゃべれないので……途方にくれていたところで子供達がサッカーをしているのが眼に入ったので、思わず飛び入り参加しちゃってました!」

 

 シスターさんは微笑みながら自分の頭を小突いている。

 活発そうな印象とのギャップが更にアクセントになっているよね。

 

 きゃわいい……♪

 

 無意識に見惚れてしまったのは、最近俺の周りには()()系な女子が少なくないからだろうね。

 

 無意識の内に俺の両眼から()()()が零れ落ちてしまいそうになるのは仕方ないよね?

 

「大丈夫ですか?」

 

 シスターさんはそっとハンカチを差し出して俺の眼元を拭ってくれたよ。

 

「ありがとう……えっと……コレって君の名前かな?」

 

 俺はそれとなくハンカチに刺繍されていたモノを指さしながら訊ねてみたよ。

 

 別にハンカチから香っているシスターさんの移り香が気になったからじゃないからね。

 

 すいません、嘘です!

 バッチリとトリップしかけてましたよ。

 

 何時もの逆セクハラの際に晒されている()()な牝の匂いとは似て非なる甘く優しい香りはアロマテラピーの効果が有りそうで心身共にほっこりとするよね。

 

「はい! 私の名前はアーシア・アルジェントと言います!」

 

 花も綻ぶ程の眩しい笑顔で答えてくれるシスターさん、改めアーシアちゃん。

 その表情は太陽にも負けない向日葵の大輪の様に輝いている様に感じられるね。

 

 うん、まあ、転生悪魔の俺には眩しすぎて若干直視出来ないくらい困るってところも否定出来ないけれどね。

 

 だけれど、コレで問題なくアーシアちゃんの名前を気兼ねなく呼べて一安心だよね。

 さすがに罷り間違えて名前を聞き出す前に呼んじゃったら不信感を煽っちゃっただろうしね。

 

「俺は姫島 綾人って言うんだよ……よろしくね、アーシアちゃん!」

「はい! よろしくお願いします!」

 

《きゅうぅ~くるるぅ~♪》

 

 俺の差し出した手をしっかりと握り返してくれるアーシアちゃんをどうやって()()しようかと思案していると、可愛らしくお腹がなったのが聞こえてきたね。

 

「はわぅ! きっ、聞こえちゃいましたか……?」

 

 お腹を押さえながら上目遣いで恐る恐る訊ねてくるアーシアちゃん。

 

 ナニ、この愛くるしさが迸っている娘はっ……!!?

 

 きちんと()()()するから家にお持ち帰りしちゃっても構わないよねっ!!?

 

 はっ!!?

 危なかった……ナチュラルに暴走しちゃってたよね。

 アーシアちゃん、恐ろしい娘っ!!?

 

「えっと……お近づきの印にご飯を奢るよ。何か、食べたい物とかあるかな?」

「ご好意は嬉しいですけれど、 ()()の男の子にご馳走になる訳には……」

 

 慌てた様子で手を振り乱しているアーシアちゃんは微笑ましくも可愛いらしいくて癒されるけれど、何か聞き捨てならない台詞があったよね?

 

「俺はこんな背格好だけれども、一応は高校二年生なんだよね……」

 

 俺は学生証を掲げながら苦笑しつつ、自分の学年を明かしたんだよね。

 

 何時もの事とは言えども、やっぱり俺って一般の高校生からすると成長が著しく遅れているんだと落ち込みそうになったのは内緒だけれどね。

 

 アーシアちゃんは学生証の顔写真と俺の顔を交互に見比べて、瞬きしながら俺の生年月日を確認しているんだよね。

 

「えっ……? あれ……? 私と同じ年齢……? えぇえぇえっ~~!!?」

 

 アーシアちゃんの驚いた声が響き渡った影響か、晴ちんがシュートを外してしまって頬を膨らませていたのはご愛嬌だよね?

 

 晴ちんがむくれた表情でこっちを睨んでいるのは可愛くて微笑ましいけれどね。

 

 でもコレは後日改めて晴ちんのご機嫌取りに伺った方が無難かな?

 

 確か今度期間限定のハンバーガーが発売されるから一緒に食べにいくと良いかもね。

 それをコーラーで流し込むのも乙だよね。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「はふはふ……もぐもぐ……ごくん……美味しいかったですっ~♪」

 

 行きつけでもある駒王町の場末にある一見寂れた外見の喫茶店の裏メニューたる麻婆カリー、それもギガ盛り&煉獄級の辛さが謳い文句のチャレンジメニューをアーシアちゃんは項に汗を掻きながら制限時間内に美味しそうに平らげてしまっちゃったよ。

 

 俺が瞬きする毎に眼の前で丸で飲み干す様にアーシアちゃんの可愛らしいお口で咀嚼されていく様は圧巻の一言だったよね。

 未だに俺の眼が霞むぐらいスパイスの残り香があるのに、汗を流しながらも平気な表情で微笑んでいるのは色んな意味で尊敬するよね。

 

 まあ、喰べきったところで麻婆カリーのお代は無料なったりしないので、奢ると言った俺の男の面目も保てて一安心だよね?

 その代わりに目の前の()()()サイズのお化けプリンアラモードがチャレンジメニュー攻略の特典で無料になっているんだけれどね。

 プリンが自重で崩れないのが奇跡と思える程のビッグサイズなんだよね。

 

 米粒一つどころか皿にルーの一滴をも残さず喰べきった挑戦者の一角に新たに名を連ねたアーシアちゃんは、満足そうに食後のプリンアラモードを噛み締める様に味わって食べているんだよね。

 バナナや林檎や桃を筆頭に両手でも数え切れないぐらいのフルーツも丸々一個ずつ使用した装飾が飾り付けられているボリューム満点な代物なんだけれどね。

 

 生クリームもかなりの量なのに諄くなくさっぱりとした後味とは言えども、さすがに見ているだけで胸焼けしそうになるのは仕方ないよね?

 

 俺は目の前で繰り広げられていた()()……じゃなかった、衝撃の現実を誤魔化す様にコーヒーを啜る様に飲んでいるんだよね。

 

「まさか新たに赴任してきた駒王町に大好きな麻婆豆腐とカレーを兼ね備えて更に美味しくなった食べ物が存在するなんて……コレも神の思し召しですね。主よ、感謝します……」

 

 何時の間にか生クリームすら一匙も残さずお化けプリンアラモードも喰べきったアーシアちゃんはロザリオを掲げながら聖書の神に祈りを捧げているんだよね。

 

 今の俺の疲弊した精神力では地味にじわじわとダメージが加算されて()()から勘弁してほしいところなんだけれどね。

 

 

 

 

 

 

「御馳走様でした、綾人さん。本当にありがとうございました!」

 

 アーシアちゃんの腹拵えも済んで、俺は古ぼけている教会へと案内する経路と言う態で公園へと足を踏み入れたんだよね。

 

 よく考えたらこの公園はイッセーが転生悪魔になる切っ掛けとなった場所だよね。

 

 幸い黄昏時で閑散としていて込み入った話をするには誂え向きのシチュエーションだよね。

 

「一つだけ先に謝らせてね、アーシアちゃん……」

 

 俺は深々と頭を下げながらも拭いきれなかった()()()の正体に気付きかけていたんだよね。

 

「頭を上げて下さい、綾人さん。悪魔にだって善い人も悪い人もいるのは()()()知ってますから……」

 

 アーシアちゃんは慈愛の笑みを浮かべながら俺の手を優しく握り締めてくれている。

 

「……何時から俺が転生悪魔だって気が付いていたのかな?」

 

 俺は答え合わせをする様に訊ねてみた。

 まあ、十中八九件の似非神父の入れ知恵だろうけれどね。

 

 先日、アザゼルさん経由で似非神父から一方的にだけれども簡潔な内容の直筆の手紙が来てたしね。

 まあ、アーシアちゃんの事は一言も記されてなかったけれどね。

 

 何度かの手紙のやり取りで似非神父の粗方の為人は理解してはいるつもりだけど、どうしても原作知識で得た情報での先入観で穿った思考に陥りかけちゃうのは仕方ないけれどね。

 

 アザゼルさんからそれとなく誘導されたのは癪だったけれど、調べ付いた似非神父の()()の経験ならば、まず間違えなく俺のプロファイリングは的を得ている筈なんだよね。

 

「綾人さんのお名前をお聞きした時からですね……()()()()から頂いた資料に今代の淵龍王である綾人さんの事が書かれてましたからね。でも年齢に関しては一切記述されてませんでした……」

 

 アーシアちゃんは悪戯が成功した幼子の様ににっこりと微笑んでいるんだよね。

 

「今回の私……いえ、()()の主目的は堕天使の下部組織、通称教会を隠れ蓑に今代の淵龍王である綾人さんにコンタクトを取る事だったんですけれど、教会に合流する前に出会っちゃいましたね……」

 

 アーシアちゃんは少しばかり困った様に眉を顰めながら苦笑しているんだよね。

 そしてその視線は俺越しに()()を捉えているんだよね。

 

 アーシアちゃんの視線の先には先程まで感じ取れなかった気配が()()に感じられるんだよね。

 若干の()()混じりなのは致し方ないとは言えども心地良いモノじゃないよね。

 

 その感情の根本にある原因は俺じゃなくてディオドラ・アスタロトの()趣味なのは似非神父も重々承知承知している筈だから、いきなり斬り付けられる心配はないけれどね。

 

「んーんー。これはこれは、悪魔くんではあーりませんかー」

 

 声の主は先程の殺気を感じられない程の道化の表情(仮面)()()を覆い隠しながら、丸で偶然に想い人に出会えた様に嬉しそうに話しかけてきているんだよね。

 

「実際に会うのは初めてだよね、シスター・フリージア……」

 

 俺はゆっくりと振り返りながら敢えて()()の本名を呼んだんだよね。

 勿論、態とだけれどね。

 

「クソ悪魔風情が()の本名を気安く呼ぶんじゃないっ!!」

 

 白髪をポニーテールに纏めた男装の麗人たる似非神父は笑顔の仮面を取り払って素の嫌悪の感情を顕にした表情を浮かべながら殺気立っている。

 

 俺個人的にはこっちの憤怒に彩られた表情の方が人間味があって魅力的に思えるよね。

 

「おっと……ごめん、ごめん……」

 

 俺は両手を上げながら降参の意を示して謝罪を試みたよ。

 まあ、これ以上怒らせるのは得策ではないと頭では理解出来ていて、俺は内心彼女の興味を最大限に引き出すために敢えて軽薄な態度を醸し出しているけれどね。

 

 俺に殆ど無関心では後々で好意へ変化しづらいからね。

 最初は嫌悪の感情でも俺自身に興味を持ってもらわないとダメだからね。

 

「てめぇ、なんでそんなにウザイのよ! もうチョベリバ!」

 

 大げさに肩を怒らせながら頬を膨らませて地団駄している似非神父とは、とある契約の元で水面下で協力関係を結ぶ事になっているんだよね。

 

「さてと、仕切り直そうかな……良いかな? フリード・セルゼン……」

 

 俺の問い掛けにフリードは道化の仮面を被り直しつつも無言で頷いてきたんだよね。

 まあ、眼が全く笑ってないのは仕方ないけれどね。

 

 さてと、既にかなり原作(本筋)から逸脱している訳で今更感も否めないけれども、このチャンスを生かさない手はないからね。

 まあ、油断していると色々と足元を掬われてしまう可能性が高いのは何時もの事だよね。

 

 折角アーシアちゃんだけだなくフリードにも協力を得られる現状なのに手を拱いてしまうのは悪手だからね。

 

 精々上手く立ち回ってやるとしますかね。

 そのためには、ここでしっかりと協力関係を結んでおかないとね。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 俺は今回のアーシアちゃんとフリードとの協力関係を説明するためにオカルト研究部の部室へと赴いてきているんだよね。

 

 後でソーナさんにも書類を回しておく必要があるけれども、先ずは駒王町の現管理者でもある我が姫君(マイ・ロード)のリアスさんへの報告するのが筋だしね。

 一応、現状においては秘匿事項な案件も少なからず記載されているので、姉ちゃんを筆頭に他の眷属仲間にはご遠慮頂いてはいるんだけれどね。

 

「はぁ……綾人? 悪魔勢力だけでなく残りのニ大勢力や日本神話勢の上層部に水面下で完璧に根回ししている事は高く評価するけれど、私にも事前に一言でも説明があっても良かったと思うんだけれど……」

 

 リアスさんは米神を解す様にマッサージしながらジト目で俺を睨む様に射抜いてきているんだよね。

 

 まあ、今回のアーシアちゃんとフリードとの協力関係に関しては完全に事後承諾になっているから仕方ないけれどね。

 俺がアザゼルさんと水面下での付き合いを継続しているとは言えども、現状では限りなくフリーに近いアーシアちゃんとフリードはまず間違えなく堕天使勢の管轄だからね。

 

「すいません……不覚的要素が少なからず見受けられましたので、確実を期すために情報漏洩の危険性を皆無にする必要が有りました。我が姫君(マイ・ロード)への事前相談もなく行った独断専行の咎の罰は、今回の件が済み次第でよろしければ逃げも隠れもせずにお受け致します……」

 

 俺は臣下の礼を取って甘んじて処罰を受ける宣言をしておいたよ。

 親しき仲にも礼儀有りって言うし、リアスさんを信頼していない訳ではないのは普段からの俺の行いで示せていても、今回の件に関してのリアスさんの不平不満を拭えていないのは確かだしね。

 

「ふぅ……今回は件は不問にします。既に四大魔王様達のお墨付きも頂いている訳だしね……この件は貸しにしないでも、私が困っていたら綾人は助けてくれるでしょう?」

「はい、それは勿論……リアスさんは俺の大切な()()ですからね」

 

 年相応の少女の眼でお願いしてくるリアスさんは、深い情愛を持って眷属を慈しむグレモリー家の姫君なんだと俺は改めて認識を強くしたね。

 

 この事は悪魔の貴族社会において公爵家の次期当主としてはある種の()()と成り得る事だけれども、この深い情愛は本当に親しい者達にしか向けない様に普段は冷静沈着な貴族として振舞える様に出会った当初から誘導(教育)してきたので問題は少ないと思いたいよね。

 

 まあ、きちんと公私のスイッチの切り替えが問題なく出来てはいるし、いざと言う時のフォローを俺は惜しまないつもりだしね。

 

 完全に俺のエロ……じゃなかった、()()に過ぎないけれど愛しくも親しい者達には出来るだけ幸福でいて欲しいからね。

 

 

 

 

 

 その後、最大の不確定要素である禍の団(カオス・ブリゲード)の介入が有り得る現状は敢えて明確に掲載していない書類を熟読したリアスさんの質問に答えていく事で意見の擦り合せを行っていったんだよね。

 

 特にレイナーレを筆頭に教会の面々が神の子を見張る者(グリゴリ)の上層部のトップであるアザゼルさんの許可を得ずに私利私欲で行動している事をきちんと確認してもらった上で、更にその教会を隠れ蓑に()()()の介入が見え隠れしている点だけはきちんと重点的に一つずつ説明を行って理解してもらったんだよね。

 

 その調査の一環として以前からダブルスパイとして教会に潜入してもらっているミッテルトちゃんだけでなく、今回新たに協力関係を結んだアーシアちゃんとフリードを合流させている旨もきちんと説明していったんだよね。

 

 アーシアちゃんとフリードとの協力関係を結んだ際の契約の条件を守秘義務として明確に伝えなかった点は、色々と聞きたそうにしていたリアスさんを宥めるのには苦労したけれどね。

 

 その点を明かすにはアーシアちゃんやフリードの過去を洗い浚い暴露してしまう事に成りかねないからね。

 

 現時点で当人達の口からではなく、俺が説明するのは完全に筋違いだからね。

 

 それに未だ尻尾を出していないディオドラの警戒感を煽るのは得策じゃないだろうしね。

 

 もしかしたら現時点ではディオドラは未だに禍の団(カオス・ブリゲード)と通じていない可能性も無きにしも非ずだろうしね。

 その点は直接垣間見れる時にでも改めて要確認ってところだよね。

 

 公爵家であるグレモリー家の次期当主のリアスさんが日本に滞在する際に領土として与えられた駒王町にアポイントなしではディオドラが訪れられない様に、俺がきちんと根回ししているのでその手続きで手間取るだろうから暫くは簡単に来れないだろうしね。

 

 さすがにディオドラは秘密裏にやって来る気概は持ち合わせていないだろうからね。

 

 アーシアちゃんだけなら未だしも、フリードが事前準備や心構えなしにディオドラと出会ってしまえば問答無用で斬りかかってしまうだろうしね。

 

 それは三大勢力が和平を結ぶ前だと揉み消すの面倒だからね。

 

 我が契約者の願いを円滑に叶えるためにも、先ずは目先にぶら下がっている問題をきちんと解決しておかないとね。

 

 まあ、今回の件も表立った対応は淵龍王たる俺の仕事だからね。

 歴代の淵龍王の先達の大半が築き上げてきた調停者としての役割は俺が願っていた事柄でもあるからね。

 

 さあ、ここが踏ん張りどころの分岐点の一つなのは間違えないし、気合を入れつつも余裕を持って尽力しますかね!

 

 取り合えずはソーナさんともアポイントを取ってきちんと報告を行ったら、この書類は抹消しておかないとね。

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?

拙作のアーシアちゃんはある程度キャラの下地の設定は出来上がっていたんですが、書き進める内に食いしん坊属性まで新たに備わってました。

TS化しているフリードについては今のところ概ね設定していた通りですかね。

キャラ設定に簡易的にですがアーシアちゃんとフリードの項目を追記しています。


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第17話

久方振りの投稿でお目汚しかと思いますが、巣籠のお暇潰しとなれれば幸いです。


 

 

 

 レイナーレの手勢であると言えるはぐれ悪魔祓い達が集っている通称教会に入り込んでいるであろう禍の団(カオス・ブリゲード)の息の掛かった()()達の動向もかなり気になるけれども、俺は今日も今日とて最早日課となっている修行に明け暮れる日々が続いているんだよね。

 まあ、今回の修行はちょっとばかり普段の鍛錬内容とは毛色がかなり違っていて未だに試行錯誤な状態だと言えるんだけれどね。

 

 俺はアザゼルさんとの極秘って程でもないけれど今現在は非公開にして非公式な共同制作中でもある試作品の腕時計型の魔法発動体を媒介にして、俺の精神体を経由(バイパス)として自分自身の魂魄を複製(トレース)して電子領域の大海原の狭間に浮かぶ仮想領域へと潜入(ダイヴ)させていっているんだよね。

 

 更に()()として此方もアザゼルさんと共同開発中で試作段階のナノサイズの極小な群体(ウィルス)型の人工神器の被検体に自ら志願しているのでその実証実験も兼ねているんだけれどね。

 電子領域の大海原に浮かぶ仮想領域への融和率を高めるだけでなく現実世界での肉体強度や自己治癒力の強化や反射速度等を著しく向上させることが出来るものの、今現在の開発段階においては継続して人工神器(ナノマシン)のポテンシャルを高レベルで維持するためには膨大と言えるほどの分量の熱量(カロリー)や鉄分を筆頭に各種ミネラル分等の大量摂取が必須不可欠なんだよね。

 

 俺は年齢の割りに比較的に小柄な体躯を少しでも解消しようと、以前から健啖家とも言えるレベルの食生活を心掛けていたのが更に過食どころか暴食(奈落)気味になったのは仕方ないよね。

 まあ、俺の体躯が停滞気味(ショタ)なのは今に始まった懸念事項でもないので、今更感満載なんだと自分自身に言い聞かせておくしかないんだよね。

 

 べっ、別に悔しいからって嘆いてなんていないんだからねっ!!

 多分……恐らく……きっと……メイビ―……

 

 

 

 

 

 先ずは魔力と氣をお互いに反発しない様にしながら合一させて増幅させていく技法の咸卦法、氣と魔力の合一(シュンタクシス・アンティケイメノイン)を無心になりつつ細心の注意を払って発動させていくと言うある意味において矛盾した方法を行うんだよね。

 俺的には魔力と氣を段階的に電力に変化させてから電磁力(フレミング)の法則に沿って微調整を行いながら合一させると咸卦法の成功率が著しく上がるのに気が付いたのは、電子領域の大海原へと足を踏み入れる事になってから暫く時を経た頃なんだけれどね。

 

 更に俺自身の神経系を疑似電脳回路に見立てて体内、主に血管系やリンパ系で半ば休眠状態である人工神器(ナノマシン)を活性化させていくのだけれど、当然まだまだ試作段階で改良の余地どころか欠陥が大いにあるモノなのでリスクも劇的に高いんだよね。

 

 未だにある程度試行錯誤を重ねて若干熟れて来たかなってレベル止まりな上に、まだまだ人工神器(ナノマシン)の操作性も拙い部分もあるので無理無謀は厳禁なんだよね。

 活性化させた人工神器(ナノマシン)はそのままだと一つ一つがそれぞれ無秩序に独立稼働しているので、分割思考も展開しておかないと統括制御出来ずに末端神経どころか脳細胞まで人工神器(ナノマシン)に侵されて、俺自身の五感や体機能が麻痺するだけでなく記憶領域まで侵されて自滅へと陥る危険性も大いに孕んでるしね。

 

 『魔法少女マジカル✩レヴィアたん』での準主役とも言える魔法拳士としての俺の活躍っぷりに、とある()の熱狂的とも言えるぐらいのレベルなコアなファンから不定期にだけれど送らてきている市場に出回っているよりも遥かに高純度で高性能なフェニックスの涙のお陰でこのところ修行では無理無謀と紙一重とも言えるハイリスクハイリターンな鍛錬が出来る様になったけれども、無理無謀な鍛錬はある種の博打(リスキー)とも言える内容なのであまり褒めらた事じゃないから程々にしておかないとね。

 

 一応は匿名どころか秘匿レベルの極秘ルートで定期的に送られて来ているけれど、コレは十中八九で()のトランジスターグラマーな金髪ツイン縦ロールのお嬢様からだよね?

 表向きにはお嬢様が生れ付き病弱で精神的にも未成熟なので心身のバランスの統合性が不安定で長年において引き籠りな状態だったと風の噂になっていたのだけれどね。

 

 実質的には所謂先祖返りの影響で強力()過ぎるフェニックス家の血族の宿命とも言える()()の自己制御が覚束無くなっていたとの事らしいんだよね。

 蝶よ花よと大事に育てられていると言えば聞こえは良いけれど、事実上の軟禁状態だったとの事らしいからね。

 

 その事を長年に渡って不服と不満を感じていたとの事であるフェニックス家の某三男坊殿の口添えもあった上に、更にはお嬢様自身の粘り強い要望と文字通り血も滲む努力の研鑽する姿でフェニックス家の重鎮達も態度を軟化させたとの事で徐々にだけれど社交界へと顔を出し始めたと聞き齧っているんだよね。

 

 社交界では常に傍らには眼を光らせている某三男坊殿がお嬢様に煙たがられながらも守護者(シスコン)として佇んでいる様に見受けられるとからしいんだよね。

 

 『魔法少女魔法少女マジカル✩レヴィアたん』への出演の恩恵は計り知れないぐらい嬉しい誤算続きなんだけども、所詮俺自身は一山幾らの何処にでも存在している凡才なので転生特典の限界無しの鍛えれば鍛えるほど強く成長していく心技体がなけれ過去において既に壊れ(ポシャっ)てしまっている可能性が否定出来ないのが……ねぇ?

 

 うん、まあ……あまり無理し過ぎて姉ちゃん達に()()を掛け過ぎるのも良くないよね?

 

 電脳空間と現実世界には時間の流れには意図して差異が生じる様に調整していて、電脳空間の三日間が現実世界では一日となるんだよね。

 そのため多少の時間超過(ロスタイム)でも問題が出にくいので、俺が修行にのめり込まない様に人工精霊(知能)には制限時間を教えてもらう様に設定しているんだよね。

 そうしないと電脳空間で一昼夜どころか一週間掛けて不眠不休で修行に明け暮れていた事もあったんだよね……

 

 あの時は心配かけてた姉ちゃんを始めとした親しい間柄の女性陣に代わる代わるローテーションで説教(オシオキ)されちゃったんだよね。

 何故か説教(オシオキ)の内容を思い出そうとする度に心身共に()()状態になって思考停止(フリーズ)しちゃうのはお察し下さいとしか言い様が無いのは……ねぇ?

 

 

 

 

 

 今回も何とか電脳空間にもある程度には五感や第六感のリンクが馴染んできたし、そろそろ本題に入らないとね。

 今現在は誤差範囲内とは言えども思考と挙動差のタイムラグを、徐々に零へと近づける様に克服していくのは今後の克服すべき課題だしね。

 

 これまたアザゼルさんと共同開発中の特殊な人工精霊(知能)を駆使して俺自身の電脳体(魂魄)を更に複製(トレース)していくんだよね。

 まあ、魂魄の複製(トレース)を更に重ねている影響で多少なりとも虫喰い(バグ)があるのは仕方ないんだけれどね。

 未だに確実性に乏しくデバックの必要性が高くて複製(トレース)した姿も影法師(シャドウ)である上に、魔法属性やスキルが一切付与されていない素体(アバター)状態なんだよね。

 

 そこで逆転の発想で敢えて俺自身が得意としている属性である風や雷の魔法ではなく他の属性を付与した影法師(シャドウ)を制作していくんだけれど、如何せん俺自身の電脳体(魂魄)斑模様(モザイク)混じりなので上手くいかない事が多々あるのは仕方ないんだけれどね。

 

 まあ、コレも禁手(バランスブレイカー) 淵龍王の喰種鎧(アブゾーブ・グール・メイル)の亜種化能力で様々な因子を節操なく取り込んでいっている影響で、俺自身の肉体どころか魂魄にまで影響が出るくらいに合成獣(キマイラ)みたいなモノへと徐々に変貌しているのが原因なんだろうけれどね。

 

 幸いにも今回は比較的に影法師(シャドウ)の生成や魔法属性付与が上手くいったのは一安心だと言えるんだけれどね。

 でも一つだけ難点を挙げるとすれば素体(アバター)の外見的特徴がどう見ても()()体型(スタイル)だったって事なんだけれどね。

 

 いや、まあ、うん……

 一見では解りづらいけれど喉仏の有無とか腰周りのくびれの位置と骨盤の形や微々たる胸部の膨らみとか股間の膨らみの有無とかが……ねぇ?

 

 まあ、影法師(シャドウ)の単純な戦闘力のスペックを鑑みると素体(アバター)の性別の違いは誤差の範疇って事で呑み込むしかないよね?

 

 ある程度戦闘回数を重ねていくと影法師(シャドウ)に制御のために搭載している人工精霊(知能)の思考ルーチンも向上して戦略の幅も広がってくるんだろうけれど、現状では直截簡明な思考ルーチンのみなので俺がソーナさんとのチェスの対戦で日々積み重ねてきた戦略眼を使用するまでもなく簡単に封殺出来るんだけれどね。

 

 まあ、慢心は俺自身だけでなく親しくも愛おしい者達をも害する要因と成り得るからしないけれどね。

 凡才な俺は自分の意志や願いを貫き通すためにも起こり得る不幸な事象の可能性だけでなく偶然や必然、更には望まぬ運命や宿()()すらも払い除ける術を貪欲に求め続けないとね。

 

「さてと……そろそろ始めますかね。命令入力(コマンド・オーダー)……」

『イエス、ご主人様(マイ・マスター)……オーダー・プリーズ……』

 

 俺の問い掛けに返答する人工精霊(知能)は未だに学習時間が乏しいのか殆ど無機質な返答で応えるんだよね。

 しかし近頃は何処か愁いを帯びつつも仄かに嬉し気な雰囲気を醸し出している気がするのは俺の思い過ごしなのか否か……

 人工精霊(知能)はアザゼルさんと共同開発したと謂えども、この個体(シリアルナンバー)は俺が零から構築した我が子の様な存在だからか愛着が湧いているのかもしれないよね。

 

 

 

 

 

 さてと、一通り影法師(シャドウ)の性能テストも兼ねた演舞や模擬戦を終えて一息吐けたかな。

 

 名残惜しいけれどもそろそろログアウトしておかないと部活動や風紀委員活動に支障を来す可能性が高くなるからね。

 

 ゆくゆくは影法師(シャドウ)が獲得した経験値や技能を俺自身にフィードバックして修得出来る様にまでに昇華していける様に努力を積み重ねていかないとね。

 今回の影法師(シャドウ)の生成や魔法属性付与が比較的に上手くいった事を記録(ログ)にきちん残しておいて、今後の修行の糧にしておかないとね。

 

 後日気が付いたんだけれどこの時にちょっぴり……いや、かなり()()()なポカミスしてしまっていたんだよね。

 その内容としては影法師(シャドウ)素体(アバター)を一旦抹消し忘れていた上に人工精霊(知能)も搭載したままにログアウトしちゃってたんだよね。

 

 些細とも言えるこのポカミスから()()した大誤算(ハプニング)がある事を、この時の俺は未だ知る由もなかったんだよね。

 気が付いた頃には既に後の祭りで取り返しのつかないぐらいになっているんだけれど、後日に語られる()春の一ページって感じのお話かな……

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 草木も眠る丑三つ時――

 とあるお得意様に契約内容を更新するために俺は定期的に召喚されているんだけれども、今回は何時もと違って転移した先で眼に入った光景と鼻に付いた激臭に思いがけずに頭痛と眩暈がしちゃったのは不可抗力だよね?

 

 月明かりに照らし出された何時もと変わらないどこにでもある様な至極一般的なリビングの風景――――

 まあ、とある魔法少女グッズがアクセントになる処ろか寧ろ所狭しと飾られているのはご愛嬌なんだけれどね。

 今現在は冥界でしか流通していない筈の某()()()()関連のグッズが少なからず紛れ込んでいるのは俺の精神安定上敢えてスルーする方向でお願いします……

 

 そして転移した俺の足元に最近になって見知り合った人影が口や鼻から赤黒い泡を噴き出して倒れ伏しているのは見間違えかとは思いたいんだけれど、吐き気を覚えるぐらいの俺の鼻を突く激臭の刺激に思わず眼を背けるしか出来なかったんだよね。

 

 そして、眼を背けた先の壁一面サイズの大きなスクリーンに投射された映像には満身創痍な()の姿が映し出されていたんだよね。

 

 色んな意味で俺が更に引き攣った笑みを浮かべたのは不可抗力なんだけれども、()()を切り抜ける術を増やすためにも精神鍛錬の割合を増やす必要があるなって現実逃避気味に考えたのも仕方ないよね?

 

「いらっしゃいにょ、師匠(マスター)

 

 スクリーンに向けていた視線を振り返えした先にはミルたんが満面の笑みで迎えてくれているのは何時もの通りの光景なんだけれど、その隣で喰い入る様にスクリーンを見詰めていたとある少女がミルたんに呼ばれた俺に気が付いて振り返ってきたのは俺の硬直(ループ)した思考を吹き飛ばすぐらいの衝撃(インパクト)だったんだよね。

 

「こんばんわ、綾人さん……すいません、サインを頂いても構いませんでしょうか?」

 

 眼をキラキラと輝かせながら上目遣いに頼んで(迫って)くるアーシアちゃんの情熱的な雰囲気のアプローチに()され気味なのは、俺の精神鍛錬不足だけが原因なのかなぁ~?

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます、後生大事にして家宝にしますね♪」

 

 胸元に俺のサイン入りの色紙を抱きしめて感無量な様子で佇んでいるアーシアたんは正に聖女と思える程の後光が差している様に感じられるんだよね。

 勿論ちょっぴり現実逃避でトリップしたい俺の脳が眼の前の光景の理解を拒んでいて、アーシアちゃんの純真な姿に見蕩れ様と誤認しているだけなんだけれどね。

 

 うん、テーブルに所狭しと並んでいる古今東西のみならず()()()すらも網羅する勢いの満漢全席の様な()激辛な夥しいとも言える料理の数々なんて俺には見えてないんだからね。

 

 まあ、俺の足元で痙攣しながら倒れ伏していたフリードの尊い犠牲には色んな意味で涙を禁じ得ないけれどね。

 

「げほぉ……ごほぉ……しっ、死ぬかとおもったぜ……」

 

 走馬灯を観る度にアーシアちゃんに無理矢理癒されながら()激辛料理のフードファイトに一緒に何度も挑まされていたらしいフリードは脂汗を流しながら虚ろな眼で座り込んでいるんだよね。

 限度を超えた辛みは最早下手な拷問よりも過酷だって言うからね。

 

「こんなに美味しいんですのに……」

 

 アーシアちゃんが()激辛料理に舌鼓を打ちつつ不思議そうに首を傾げているのを横目に、俺はミルたんとの契約内容を更新するための確認作業を粛々とこなしているんだよね。

 別に()激辛料理の()食に巻き込まれたくないからって直視しない様にしているとかじゃないからね……

 

「はい、確かに対価となり得る成果のレポート内容を拝見しました。この結果を踏まえて契約内容を更新して修行内容を次のステップへと進められますね……」

「良かったにょ、コレで更に魔法少女の高みへとまた一歩前進出来るにょ~♪」

 

 ミルたんは歓喜の笑みを浮かべながら俺の手を握り締めているんだよね。

 俺の肉体強度や魔法や氣に寄る身体強化も以前に比べて劇的にレベルアップしているにも関わらず、俺の手の骨どころか腕から肩にかけての激痛が半端ないんだよね。

 

「ところで二人とも何で契約者(ミルたん)の家に居るのかな?」

 

 俺は痛みを誤魔化すためにも分かり切った質問を投げかけてみたんだよね。

 

「だってー、定期的に悪魔を呼び出す常習犯だったみたいだし、殺すしかないっしょ~♪」

「そんな表向きな建前の理由で綾人さんとの情報交換のパイプの構築のためにやってきたら思った以上に意気投合しちゃったんですよね」

 

 フリードの冗談めいた台詞を引き継ぐ様に語るアーシアちゃんは困った様な嬉しい様な複雑な表情で苦笑を浮かべているんだけれどね。

 

「ソレに『魔法少女マジカル✩レヴィアたん』での綾人さんの演技(活躍)が本当に素敵でしたので、ついつい話し込んじゃったんですよね……」

 

 恍惚とした表情で語っているアーシアちゃんと無言で腕くみしながら同意する様に頷いているミルたん、この二人からの無類とも言える程の称賛に俺は照れ臭くなって思わず眼を逸らしたのは不可抗力だよね?

 

  聞き齧った程度だけれどアーシアちゃんも足技が主体(メイン)と言えども体術は中々の練度を誇るみたいだし、ミルたんの魔法拳士としての力量に感じ入るモノがあったんだろうね。

 

 アーシアちゃんは基本的には博愛主義者との事なので()()主体のスタンスみたいなんだけれどね。

 取敢えずそれ相応の実力を伴っていないと相手に自身の話を聞き入れてもらえないと教えを受けているみたいなんだよね。

 基本的に心身共に無力化(武装解除)させるために相手を生かさず殺さずってぎりぎりのラインまで削っていって、()()の痛みは癒せば問題なしと教授されているらしいんだよね。

 

 まあ、確かに身体的な外傷や痛みは聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)で癒せても精神的外傷(トラウマ)を深く刻み込む様な気がしないでもないんだけれどね……

 うん、あまり深く考えないでおくのが俺の精神安定上でも吉だよね……

 

 

 

 

 

 情報交換のためミルたんの家に長居し過ぎたのかふと気が付くと堕天使らしき気配が複数近づいてきちゃったみたいなんだね。

 しかも俺が神の子を見張る者(グリゴリ)本部へと通う日々での良く見知った気配だけでなく、何やら知っている様な知らない様な曖昧な()()も入り混じっている()()達が含まれている様子みたいなんだよね。

 

「どうするよ、淵龍王のお坊っちゃん……もう少し事細やかに情報を得るためにも引き続き熱心に()()しておきましょうかね~?」  

 

 既に迫ってきている気配に気付いているフリードが含み笑いを浮かべつつ、俺の真意を覗き込む様に尋ねて来たんだよね。

 先程の情報交換である程度の推察は出来るだけの情報は得られたけれど、確証に至るにはやっぱり俺自身も確認しておかないとね……

 

「そうだね……()()のためにもお互いの実力の一端を明かしつつ、()()するとしようかな……?」

「そうこなくちゃね~♪」

「分かりました……」

 

 俺とフリードはお互いに戦闘狂(バトルジャンキー)な笑みを浮かべ、アーシアちゃんはその様子を微笑ましく見守る様に同意してくれたんだよね。

 

「ミルたん、後日に改めて窓ガラス代は弁償に伺いますね」

 

 アーシアちゃんはお辞儀をしながらミルたんに詫びを入れつつ、ノールックモーションで背後の俺を家の外へと蹴り飛ばしたんだよね。

 その舞う様な重心移動と脚運びの練度に見惚れたのも鑑みても俺の反応が遅れる程の技の()()は称賛に値するよね。

 

 舞い散るガラスの乱反射の奥でちらりと見えた清楚でいて活発的な二律背反(アンチノミー)の純白のショーツと鼠径部やお臍に眼を奪われた事実はアーシアちゃん自身には内緒だけれどね。

 

 さてと、鬼が出るか()が出るかどうかは……ねぇ?

 俺は臨戦態勢を整えながら緩みかけていた鼻の下と思考を引き締め直したんだよね。

 

 

 

 

 

 

 




次話の投稿は未定ですが再び少しづつ書き溜めて行く所存ですので、生暖かい眼で見守って頂ける事を願います。


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