Nanoha×MGS = The Rebrllion = (No.20_Blaz)
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前日談篇
第一話 「快晴の街の下」 


皆さんのアッついご感想と感触の良さに、性懲りにも無く連載に振り切りました・・・が!!


基本、更新速度は亀と爺さんが競争して結果ナマケモノが勝つぐらい遅いです!
ぶっちゃけ・・・IS×MGSが優先となります。


・お知らせ・

えー・・・検討した結果、月に一本か二本のペースで投稿することにしました。
かなり遅いと思いますが、どうか首を長くしてこちらの作品を見守っていただけると幸いです。


 

「地球は青かった」と言う言葉をご存知だろうか

 

 

有名な宇宙飛行士ユーリイ・ガガーリンが語ったとされる言葉だ。

 

だが。実際、彼はこの言葉を言ってはいなかった。

 

この言葉は一人歩きして生まれたのであり、彼が言ったそれとは違いがあった。

 

 

 

「空は非常に暗かった。一方、地球は青みがかかっていた」

 

これが彼が語ったとされている言葉。

 

また、彼の著書では「地球はみずみずしい色調にあふれて美しく、薄青色の円光に囲まれていた」と記述されている。

 

 

 

これがガガーリンの言葉の真実。彼は「地球は青かった」と口にはしなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふうっ」

 

ぱん、と片手で本を閉じる。

本一冊を読み終え、それまで呼吸をしていなかったかのように腹の奥から溜まっていた空気を吐き出す。それまでの集中が吐く息と共に出て行くようで複雑になりつつあった頭の中は、その一回の呼吸で排出されていくのだ。

 

本の世界に引き込まれて時間が経つのも忘れ、まるでその本を読んでいる間に数年の時が流れたかのようだった。

 

 

「面白かったわね。時間つぶしには丁度良かったし・・・また来れたら借りようかしら?」

 

読み終えた本の表紙を見て簡潔な感想を呟き、あるべき本棚にへと本を戻す。

元々これは自分が持っているものではない。まして買えるものでもない。

読んでいた本は借りる物。

ここは本を借りられる場所、図書館だ。

 

「えっと、時刻は・・・まだあるか」

 

まだ余裕のある時間だ。

見上げた壁には張り付けの時計があり、そこに刻まれた時刻を確認すると次をどうするかと考える。

時間に余裕はある。そう焦る時間でもないので、またしばらく時間を潰すかな、と読書中立ち続けていた足を動かすが、咄嗟にその動きは中断される。

 

「・・・・・・。」

 

その先に居て欲しくない者達が居たからで、今この場からすれば明らかに場違いな身なりの二人組みが入ってきたのだ。

 

同じ服であるのは指定された制服だからで、その服装でどこの所属かは一目で分かる。

そして、その服を着る人間の印象もいくら性格がよくてもその制服だけを見れば嫌悪される。それを承知なのか、否かは分からない。

だが、この二人がただの図書館に入ってきたのはそれを承知の上でなのだろう。

 

 

 

(管理局・・・それも海の連中ね)

 

時空管理局。様々な次元世界を管理・統制する組織だ。

近代的技術と魔術の融合する科学技術。それを主流に強大な戦力を誇る。

表立っては警察組織。更には政府組織としてもあるのだが、それは彼らが優勢であるが為に行っている演技に過ぎない。

 

現実の管理局の行いは独裁。または侵略、略奪。

ある筈の無い平和の理想に泥酔した者達の集まる組織。言えば宗教カルトだ。

平和の為に武器を取れ。魔術を学べ。そして戦え。

警察組織と謳っておきながら、行うこと全ては武力での制圧や支配となんら変わりない。

彼らはそれを善と取る。しかし、他の者。管理局から外に居る者達にとってはどうだろう。

これだけの事をして外の人間たちは、これを善と取るだろうか。

 

そんなわけは無い。誰もが『悪』だと言い張るだろう。

力で全てをねじ伏せ、自分達の幸せだけを考える。

幸せを奪われた者達の苦しみを、彼らは知ることは無いのだ。永遠に。

 

 

 

「すまない。人を探している」

 

その管理局の局員二人が、一般的な魔導師の装備をして図書館の係員の前に立ち一枚の写真と共に尋ねる。

人を探しているようだ。

 

「・・・・・・。」

 

「この写真の子供だが、知らないか?」

 

「・・・いえ。知りません」

 

 

「・・・・・・。」

 

「嘘は言ってませんね」

 

「そうか」

 

 

「ご丁寧に相手の心理を読む魔導師まで・・・上位ランカーの魔導師のスキルよ・・・」

 

いずれにしても今は不味い。気づかれたくないのだ。

音を消し、気配を消して彼らに見つからないようにその場を後にしよう。

決断すると蛇の様に足音と気配を消し、姿を消した。その場に居た誰もが気づかないうちにまるで幽霊かのように。

 

 

「・・・失礼した。では・・・」

 

「・・・。」

 

「っと。一つ忘れていた」

 

「・・・?」

 

 

「この辺りで反管理局のゲリラが活動していると聞いている。もし何か情報を持っているのなら、また私達に伝えてきてくれ。相応の報酬は用意しよう」

 

「・・・・・・。」

 

局員二人はそう言い図書館を後にするが、後ろから係員の女性が彼らの後姿に対して舌を出していたと気づかず。誰も知っていたとしても話さないと無意識のうちに同じ事を考えられていたと思わず。

 

 

そんなものだ。

偽善の塊である彼らを受け入れる者など、嘘偽りの事を吹き込まれた者達だけ。

嘘を暴かれれば、彼らの栄光など容易く崩れ去る。誰もが信用しなくなる。

だから人は平気に嘘をつく。

保身のため。地位のため。力のため。権力のため。

最終的には金のため。

 

己の事を第一とする強欲で傲慢な人間。

そんな奴等だけが生き残ってしまう世界。

 

この世の成り立ちはもう腐り果てているのだ。

 

 

 

 

だから”彼女”は選んだのだろう。

腐敗した体制に、彼らに引導を渡すが為に。

彼女は自ら危険を犯しその中にへと向かう。

 

 

「・・・向こうに行ったかな」

 

古ぼけたフード付きのマントを羽織り、顔を隠すその姿は一目では男か女か分かり難い。

しかし僅かではあるが彼女の顔と長い髪が、燦々と輝く日の光に当たり照らされていき、隠れていた彼女の顔が見えていく。

オレンジの髪と碧眼。肌の色が白いところからして性別は女。しかも歳はまだ十代前半と、

言うなれば本当に少女と呼べる歳だ。

 

名をティアナ・ランスター

彼らによって存在を消された、本来生きている筈の無い少女。

そして、一人の英雄によって育てられた戦士でもある。

 

「なんで海の連中がここをうろついてんだか。確かここの世界は地上連中の管轄って聞いてたのに・・・」

 

物陰に隠れ、去っていく局員二人の様子を窺いつつティアナは反対側へと歩き始める。

あの二人の局員がこの世界に居ると言う事を前もって聞かされていなかった彼女は、あの二人が居ると言う事に驚くと共に、まるで自分たちが居る事が当たり前であるかのように振舞っている事が気に入らなかった。

 

図書館に現れた二人は空戦魔導師と呼ばれ、主に空を飛んで戦闘を行う。

また局員一人一人の魔力のランクは高く、戦法は集団戦が基本。

物量と弾幕での面制圧が彼らの主戦法だ。

 

その空戦魔導師とは違う魔導師。地上戦を主体とし、連携での集団戦だけでなく少数精鋭の小隊での行動。更に上位に行くと単独での活動も可能としている陸戦魔導師が居る。

魔力ランクは空戦よりも低くい者が殆どだが、それを補う為に軍隊の色が強い戦法、戦術を基本としている。

 

空戦を『量』ととるなら、陸戦は『質』を重視していると言ってもいい。

個々の能力が低くともそれを戦略等で補い、場合によっては覆す事も可能。

地を這い戦う彼らは、地球でいう軍人となんら変わりはない。

空戦は見栄を張るエリート。陸戦はたたき上げの番犬だ。

 

「大方、威張り散らしてここに入ってきたか・・・よほど自分達の支配地域を延ばしたいか力を見せ付けたいのね」

 

 

 

現在、ティアナが居る世界は最近になって管理局に制圧・占領された世界だ。

広大な荒野と荒れ果てた街。建築物も中東的な物ばかりで人種も多様だ。

文明レベルは平均。特出するのも無ければそれ以下もない。安定していると言っていい。

 

ここを制圧したのは先ほどの空戦魔導師たちではない。実戦経験豊富の陸戦魔導師だ。

この世界だけではない。殆どの世界は陸戦魔導師たちによって占領され、今もその高い錬度を活かし様々な次元世界を制圧する。

反管理組織ゲリラや武装集団の言う魔導師とは基本彼らを斥す言葉で、空戦魔導師は制服と呼ばれている。傷も汚れも無いまっさらな制服。その服を着て堂々と土足で踏み入る。

皮肉以外見当たる理由はない。

 

 

「自分たちの見栄だけが取りえね。ホント嫌な連中ねぇ」

 

自分達が勝利者だからと言う理由だけで身勝手にされる。これ以上に無い屈辱だ。

だが、今はその本音を隠さなければいけない。生きていけない。

バレれば自分の人生が『終わる』からだ。

 

「はぁ・・・先行き不安だわ、コレ」

 

これからの事に不安さを感じるティアナはため息を吐く。彼らの姿を見ただけでも不安になるのは彼らを嫌い、呆れているからだ。

力はあっても技術は無い。名誉はあっても実績はない。

中身の無い空な存在である彼らをティアナは誰よりも嫌っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ちやがれ!このコソ泥小僧ッ!!」

 

直後。ティアナの後ろから怒声を張り上げる男の声が聞こえてくる。

かなり大きな怒声であるのでどうやら相当血が上っているようだ。

突然の怒声の声に驚いたティアナは目を見開き、反射で後ろにへと振り向く。

 

 

「・・・物取り、のようね」

 

どうやら男の経営する店で物取りがあったようで、その犯人を男は追っている最中だったようだ。

振り向いた先に木の角材を持って追いかける男と、逃げる少年の姿があった。

 

「子供・・・!?」

 

ティアナの視界に入ったのは赤い髪の少年。歳は自分よりも下で大体7歳ないし8歳ほどか。妙に大人びた顔つきな為、正確な歳は分かり難い。

目つきは細く鋭い敵意のある目。まるで目に見える人間すべてが敵と言う目だ。

 

「どけっ!」

 

「うえっ・・・私か?」

 

真っ直ぐ彼女の方に向かってきた少年は驚く人の中を潜り抜け、追いかける男から逃げ続ける。叫ぶ声は本当に子供だと改めて認識させられる。

その少年が叫ぶ相手が自分だと気づき。抜けた声で自分に指差すティアナは彼が強引にでも押し通る気だと見て、数秒ではあるがどうするべきかと考える。

素直に道を開けるか。助けるか。それとも成敗するか。

もし少年が被害者の側であれば助けるが今回の場合は逆。彼が事を起こした側だ。

 

 

「・・・まぁ抵抗感はあるが、ゆるしてもらおうか」

 

「ッ!?」

 

彼女は応戦する気だ。

普通なら驚いてそのまま避けるところだが、少年の考えは大きく外れティアナはその場に立ち止まって彼を迎え撃つ事にしたのだ。

 

「くそっ!」

 

「・・・。」

 

素直によければいいものをと言いたいところだが、少年は話しをする余裕は無い。

このまま強引突破するだけしか方法はないのだ。

 

 

「ッ・・・!」

 

(退けばいいものを!)

 

刹那、少年の足に電撃が集まり始める。

突然現れたその電撃が自然のものではなく魔力によって作られた魔術であるのは誰の目からも明らか。彼も恐らくはかじった程度ではあるが魔術の心得を持っているのだろう。

だが、問題はその電撃を何に使うかだ。

足に纏っても使いようは様々だ。電撃を纏った足でそのまま蹴るのか。それともただの牽制か、もしくは。

 

考えようは様々だが、今は正面の彼をどうにかしないといけないのは確かだ。

 

「雷電霹靂・・・!」

 

「雷の属性・・・ッ!」

 

 

 

 

 

「ドライブッ!!」

 

電撃を足の裏に集束させ、それを一気に爆発。即席のブースター代わりにして、爆発的な加速を生んだ。

始めから戦う気などない。ここを突破する気だったのだから、突破する事を第一にする筈。

見落としていた事を今更ながら思い出したティアナだが、もう遅い。

少年のスピードは誰も追いつくことも、目で追うことも出来ない。

これで勝った。少年の脳裏に勝利の二文字が現れた。

 

その一瞬が、その一瞬の油断さえしなければという言葉が前にあると気づかずに。

 

 

 

「・・・え?」

 

「残念」

 

 

気づいた次の瞬間、少年は地に足をつけていなかった。

くるりと回転したかのように身体は宙を舞い、視界には青く透き通ったかのように何も無い空が広がっていた。

一時的に重力に縛られず、浮いているかのような感覚は僅かな時しか感じられなかった。

やがて重力に引かれ、少年は背中から勢いよく地面に叩きつけられた。

 

 

「っあ・・・」

 

背中から盛大に叩きつけられた少年の身体は肺の空気が吐き出され、脳が激しく揺さぶられる。地面の砂利や砂、小石が自分が地面についたのだと再認識させてくれた。

なにが起こったんだ。真っ白になっていた脳裏に最初に浮かんだ言葉を理解していたかのようにティアナが近づく。

 

「かっ・・・かはっ」

 

「筋はあるけど荒削りだしタイミングを読みやすいから、それに合わせてやれば単なる自爆技にしかならないわ」

 

「・・・いったい・・・」

 

「アンタの呼吸とタイミング、そして間合い。それを元にアンタが私の技のレンジに入るまでの間合いを計って、入ったと同時に投げ技をかけた」

 

日の影で顔が黒く塗りつぶされた彼女の顔を少年は眩しそうに見る。

一方でティアナは日の光を眩しそうに見る少年を見下ろし、手には彼が盗んだ品々の入った袋を何時の間にやら持っており、一応彼が何を盗んだのかと中身を物色する。

 

「・・・・・・。」

 

その中身を見てティアナは再度少年を見る。

ホコリと汚れに塗れた一般的なフード付きの服とハーフパンツ。なのだが見るべき場所はそこではない。彼の顔だ。

彼の行いにティアナは仮説を立てる。彼の行動の意味。どうして盗みを行ったのかと。

 

「アンタ、まさか・・・」

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・よ、よくやったぜお前!そのガキをこっちに渡してくれ!」

 

そこへ後ろから先ほどの男がようやく追いつき、ティアナに向かい彼を渡すように言ってくる。息切れが激しいので余り体力に自身が無いのだろう。だがその表情は苦しいものではなく寧ろ喜びに満ちた顔だった。

男の言動と持っている角材。

なるほど、と納得したティアナは独り言を呟き、男の方へと振り向く。

 

「な、なんだよ・・・」

 

「・・・私が払うわ。それでいいでしょ」

 

「お前ッ、女か?」

 

「ええ。それよりも、いくらなの?」

 

「・・・は?」

 

「この袋一つ分の金。私が払うって言ってるでしょ」

 

突然の事に話を飲み込めなかった男だが、直ぐにどういう意味かと理解する。少年の盗んだ物を彼女が代わりに買うという事だ。

物の売買というのは売り手が物を売り、買い手が物を買って成立する。彼が盗んだものがまだ支払われていないから、その支払いを済ませればこの場は丸く収まるはず。

それなら向こうも了承してくれるだろうとティアナは懐から持ち合わせの金を取り出そうとする。

しかし、事はそう簡単に終わることではなかったようだ。

 

「・・・嬢ちゃん。それは有難いがなぁ」

 

「・・・何かあるの?」

 

「ああ。悪いが、それ一つ分じゃ割にあわねぇからな」

 

「・・・・・・。」

 

「ッ・・・」

 

男の返答はノー。それだけでは収まらない理由が彼にはあった。

彼だけではない。周囲を少し見回せば彼の意見に同意するという人間が多くいた。

 

「俺たちはソイツにもう何度も物を盗まれっぱなしなんだ。数え切れないほどにな。このまま払えば終わりなんてのは無理なんだ。俺たちの腹がおさまらねぇ」

 

「・・・管理局に引き渡すとでも言うつもり?」

 

「ッ!」

 

「残念だがな。仮にも奴等は警察だ。治安を守るぐらいは出来る」

 

「・・・それで済めば誰も苦労はしないわ」

 

確かに彼らの意見は尤もだ。

罪を犯したのならそれを償わなければならない。

それも常習犯となれば尚の事だ。

だが、仮に彼を引き渡し、それで全員納得するだろうか。

少なくとも一人、納得できない人間は居る。

 

「分かっている。だがな。そろそろ俺たちも我慢の限界なんだ」

 

「なら、もっと他に方法はあるでしょ。この世界での労働基準なんて関係ないはずよ。コイツに罰としてアンタたちの下で働かせる。それで万事解決じゃないの?」

 

「確かにな。けど、そこの悪ガキはかれこれ数年もこんな事をここいらで行っているんだ。それが出来たとしても、俺たちの怒りは収まらない」

 

「・・・魔術を使うから?」

 

「それもある。だが、それが原因でこの街は占領された。このガキも間接的にだが連中に加担したんだ」

 

「・・・魔力感知による索敵レーダー、か」

 

魔術に依存する管理局の設備は殆どが対魔導師に重視したものを採用している。

その中で魔力探知による索敵レーダー等が開発され、魔力に関係する事、つまり魔術を使えば確実に察知される。

少年が先ほどの加速系の魔術を使用したことでこの街の存在がばれてしまい、管理局の勢力下におかれたのだろう。

つまり、少年はこの街の人々の自由と平和を奪った人間だと見られている。

 

「進駐軍が入ってきて俺たちの自由は無くなった。毎日毎日、連中の顔を窺って生活しなきゃならねぇんだからな。それもこれも、みんなそのガキの所為なんだよ・・・!」

 

「・・・・・・。」

 

本当は持っている角材で彼を気が済むまで殴り倒したいのだろう。

先ほどの怒声と言い、男は今にも怒り狂いそうな気持ちを胸中に抑え込んでいるのだと、それが他のまわりの人間も同じなのだと、ティアナは周囲を見回し感じる。

間接的に少年がここの自由を奪ってしまい、更にはそれを都合よしとして物取りを続けた。

彼が生きるためと言うが、傍から見れば悪業にしか見えないだろう。

 

「・・・だからって、それじゃあ状況悪化になるわよ。こんな事で奴等に媚売ってたら、あいつ等は調子付いていい加減な理由を突きつけて自分たちに都合のいいようにするだけよ」

 

「・・・・・・。」

 

「それならまだ生かしているほうがマシでしょ。生き地獄の方がまだ生きてるだけマシ。向こうに引き渡したらそれこそ自由なんて夢のまた夢になるわ」

 

「・・・・・・。」

 

だが管理局に渡す事はティアナは絶対に納得しない。

彼らがどういう組織なのか。それは管理外と呼ばれている世界の人間。強制的に管理させられた世界の人間にとっては痛いほど分かる事だ。

それならまだ死んだ方がマシだといわんばかりの言葉に男は口をつぐむ。

彼女の説得で管理局に引き渡すという考えが少しではあるが揺らいできたからだ。

 

「こんなのを天秤にかける意味なんてない。引き渡すのだけはやめなさい。代わりに、コイツがアンタの所で働くなり何なりして返せばいい、そうでしょ」

 

「そうだがな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや。お困りですかな?」

 

 

「「ッ・・・!!」」

 

そこに聞くと苛立ちを感じる言い方で誰かが会話に割って入ってきた。

一体誰かと思うと、男の後ろから局員が二人。ずかずかと我が物顔で歩いてきたのだ。

 

「な・・・なんだアンタ等!?」

 

「なに。この辺りで物取りがあったと通報があってな。その犯人を『排除』しにきた」

 

「はっ・・・は!?」

 

(さっきのとは別の二人組み・・・しかもこのタイプ・・・出世願望の塊が来たわね)

 

善意の欠片も無い笑みを浮かべ、出てきた局員は支給タイプの杖を持ち男に事情を話す。が、その内容は誰が聞いても過剰と取れること。タダの物取りだけでなにも犯人を殺す理由もないし、言語道断の極みだ。

 

「えっ・・・なっ・・・えっ!?」

 

(ちっ・・・これだから海の連中は好きになれないのよ!)

「そこのガキンチョ。こっちに来なさい」

 

「えっ?」

 

「いいから。黙って」

 

「・・・・・・。」

 

舌打ちを鳴らし、ティアナは後ろでやっとの事で立ち上がったが少年に小声で呼びかける。

非常すぎることに未だ納得できていない少年はどうすればいいのかと迷うが、ティアナの声に敵意が無いと分かったのか、黙って彼女のいう事に従い、立ち上がると同時にティアナのもとに駆け寄る。

 

「ん?そこの君。その小僧を渡せ」

 

「・・・・・・。」

 

「その小僧は窃盗と魔法の乱用の容疑がある。管理局が統治しない場所で魔法を使う魔導師くずれが居るのは危険なんだ。即刻その小僧を排除しなければならない」

 

「ッ・・・!?」

 

見下した目で局員の一人が言うが、二人の立ち姿はまるで見栄を張るだけしか能が無い殿様と、その従者だ。無能だと知らずその外見だけに騙された従者と、その騙しを真実だと受け止め調子付く殿様の魔導師。ティアナからすれば見ているだけで自身が恥ずかしいと思えてしまうほどだ。

だが言葉には効果があるようで、その証拠に少年はティアナに寄り添いながらも必死に睨みを利かせていた。言葉では勝てない、彼らは本気で自分をやる気なのだと。

 

「随分と過剰な事ね。たかが窃盗と魔術の使用で殺す事はないんじゃない?」

 

「・・・女か。まぁ関係ない。君は知らないだけだ。無法者が魔法を使えばどれだけ危険なのかをな」

 

「・・・魔法と魔術の区別も付かない・・・トーシロにも程があるわね」

 

「・・・・・・。」

 

少年を守るように手を置いたティアナはまるで生意気な子供を相手取るかのように余裕の表情で局員にへと言い返す。

ため息を吐いて彼の言葉に呆れるティアナに局員の一人は眉間にしわを寄せ始めていた。

だがそれでもティアナの反論は止まらない。

 

「それに。危険だと思ってるのはアンタたちだけでしょ?加えて、この程度の魔術ならムショ行きで済む筈・・・大方手柄を立てて点数を稼ぎたいって言うんでしょ?小さい理想ね」

 

「ッ・・・口を慎んでもらおうか」

 

「ココに居る魔導師様を誰と心得る!ミッドチルダ有数のエリート魔導師・・・」

 

「三流魔導師の間違いでしょ」

 

「さっ・・・!?」

 

図星だったのだろう、威張っていた局員が苦しそうな表情を見せ始める。

すぐに苦虫を噛み砕いたかのような顔を見せるのは制服連中が見せる顔だ。

威張るだけ威張り散らしても大した成果を立てていない。家柄などを押し立てて自分を大きく見せるだけだ。

その彼をフォローするかのようにもう一人の局員が話に割り込むが、それを更にティアナが割りに入る。心に思っていた事を彼女は思い切って口にしたのだ。

 

「あ。ゴメン。五流だったわね。格は下の下だったかしら?」

 

「ッ・・・ッ!!!」

 

「き、貴様ぁ!!」

 

 

どうやら当たりのようだ。

挑発に乗った局員は頭に血を上らせて怒りだし、もう一人もそれに観応して怒りだす。

気にはしていた。そして気づいていた事なのだろう。

怒りに任せ、子供の様に力を振るう二人はその象徴とも言える杖、支給の量産型デバイスを構える。

 

「もういい!貴様も同罪だ!!」

 

「おお怖っ。これだから・・・」

 

だが、隙は与えない。杖を構える局員たちを見てティアナは少年を離す。

これからの事に少年は足手まといでしかならないから。何より、彼を巻き込みくないという理由もあった。

 

「・・・!」

 

「離れてな。ちょっと片付けてくるから」

 

「片付けてって・・・相手はデバイスを・・・」

 

「たかが量産型よ。あれぐらいならどうにでもなるわ」

 

「は・・・?」

 

そう。ティアナにとって相手のデバイスなどどうにでもなる。

そもそも、挑発に乗った瞬間から既に彼らは手の上で踊っていたとも言える。その理由はティアナがこれぐらいの事を自力で、それも簡単に突破できる技術を身に付けているから。

武器も使わず、手だけで勝てるという絶対的保障があるからだ。

 

「まぁ見てなさい」

 

「・・・・・・。」

 

それを今証明しよう。そう言わんとティアナは

手に何も持たずに局員二人へと向かい走り出した。

 

「ッ!?」

 

「馬鹿め!!」

 

「丸腰で勝てると思っているのか!」

 

「・・・ええ」

 

勝てる自信。保障。根拠。全て持っているティアナはスピードを緩めず、一直線に二人との間合いを詰めていく。

双方距離は一メートルも無い。直ぐにティアナと局員二人の間合いは詰まり、ティアナの手が局員二人のデバイスにへと届く。

そして、それを見た局員二人は勝機を得たと確信し、デバイスに魔力を集中。

殺傷設定の魔力弾を形成した、筈だった。

 

 

「これで私の勝ちだからよ」

 

 

 

 

刹那の間にそれは起こった。

気づけば、局員二人の杖は一瞬にして先端部がバラバラに分解されていたのだ。

 

「・・・は?」

 

「えっ?」

 

 

 

ティアナが二人の後ろに立ったときには、既に分解されたパーツは地面に音と共に落ちており、先端の部分のみが丸々無くなっていた。

僅かな隙で起こった事に局員二人は呆然と立っており、正面から見ていた少年も言葉が出なかった。デバイスを壊すというのは聞くが、分解するなど聞いたこともない。

誰もが目の前の事を疑い、信じることが出来なかった。

 

「で・・・デバイスを・・・」

 

 

 

「・・・えっ・・・なっえっ!?」

 

「なんだ・・・なんで・・・なんでだぁ!?」

 

だが時間と共にその現実はゆっくりと受け入れられていき、やがては嫌でも受け入れなければならなかった。

受け入れたくも無い現実を受け入れた局員の二人は、目の前の事を未だ信じられずかなりの慌てぶりを見せていた。

 

「いっつ・・・指切ったか・・・まだ上手くはいかないわね」

 

「っ!!き、貴様いったい私達に何をした!?」

 

「なにをって言っても分かるでしょ。ちょっとその杖に手を入れて外したのよ」

 

「は、外したって・・・!?」

 

「デバイスを・・・解体した!?」

 

精密な機器と魔力が常に行き来するデバイス。

そのデバイスを破壊(・・)ではなく解体(・・)したと簡単に言われても、誰もが直ぐに納得出来る筈が無い。

あまりに精密であるデバイスは現在解体すると言う行動は無謀に他ならず、例えるならマグマに素手で手を入れるほどに危険な事なのだ。

精密であるが故、一箇所でも欠落すればそこから魔力が漏れ出し大暴走しかねず、最悪大爆発などもあり得る。過去にそれが原因で起こった事故の事例もあり、幸い重傷事故となった。

 

なのに、彼女はそれを平然とやってのけた。しかもデバイスを暴発させず、更には気づかれもしないスピードでだ。人によっては神業と取れる事を彼女は指を少し切った程度で成し遂げたのだ。

 

「ば・・・馬鹿な!!たかが無法者の小娘にそんな芸当が!?」

 

「小娘舐めるなって事よ。それに、今は自分の身を案じたほうがいいんじゃない」

 

「何を・・・!」

 

「さっきアンタ達が私を無法者って言ったでしょ。つまりはそう言うこと」

 

「・・・?」

 

 

「まだ分からない?ココは私のような無法者が平然として居る無法地帯。法も無ければ権威もない。アンタ達権力の使者にとっちゃここ等での局内での権力だなんだは無いの。という事は・・・」

 

法で裁かれる事もない。

法無き世界に法などは存在しない。あるのはその世界での摂理だけ。

外的から一致団結し抵抗するか。強き者が頂点に立ち、弱者が虐げられる弱肉強食となるか。

いずれにせよ、法無き世界に法の番人が居るというのは自殺行為に等しい。

法の番人という肩書きが意味を成さないのだから。

 

「うっ・・・」

 

「ま、不味いですよ・・・ほかの連中が!」

 

「き、貴様等!もし我々に危害を加えればどうなるか・・・!」

 

「どうなるの?」

 

「それは・・・」

 

鋭い目で二人に睨みを利かせるティアナ。その表情は余裕と愉悦によるもので、焦りを見せる二人の姿を見て今にも笑い出しそうな様子だった。

無言の視線に圧迫される二人の局員はこの場は圧倒的に劣勢だと、逃げるように走り始めた。

 

「き、貴様!今度あったら唯では済まさんからな!!」

 

「覚えてろよ!!」

 

「・・・なんちゅー典型的なモノを・・・」

 

古典的な逃げ台詞と共に逃げ去っていった局員達。

その後姿は情けなさの一言に尽き、彼ら二人が威勢だけであるというのを自ら示していた。

慌てふためいて逃げていくその様に清々した人々は逃げる局員達にバッシングを浴びせていく。武器が無くなればこちらの物だと言わんばかりの状況に、ティアナ軽くため息をつかせ呆れた様子で周りの人々を見ていた。

が。それも直ぐに終えて、ティアナは少年の肩を軽く叩くと彼の耳元に近づき小声で囁く。

 

「チビ。黙って付いて来なさい」

 

「・・・あ、え?」

 

「逃げるわよ」

 

「あ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

そういえばそうだったな、と思い出す少年は頷くと彼女の言葉に従い無言のままその場を後にする。

局員たちの割り込みで自分が追われていた事を忘れていた彼は、彼女の言葉で思い出した。

勿論、言った方は覚えてはいたが、それよりも彼女は聞きたい事があった。

少年がどうして物取りをしているのか。その理由を聞くため、二人は人気の無い路地裏にへと入っていく。

複雑な構造である裏路地であれば見つかった時に逃げ切れるだろうという理由と、誰かに聞かれてはいけないという彼女なりの理由もあったからだ。

 

 

 

燦々と照り付けていた日の光が裏路地に入るとその輝きを建物や曲がり角などに遮られ、昼だというのに辺りはかなり暗い。日の光が強いほどそれによって出来る日陰の濃さもまた濃くなるからだ。

 

「さてと。ここなら誰にも聞かれる心配はないわ」

 

「・・・。」

 

人気の無い場所に連れて来られた少年は辺りを見回し不安そうな表情をしている。

別にとって食うわけではないのでと言ってはいるのだが、やはりまだ信用はされていないようだ。

 

「ま。そう易々と信じてもらえるとは思ってないけど・・・で。なんでアンタはこんな量の食料(・・)を盗んだのかな。チビ助」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・答えたくない、か。まぁアンタのようなチビがこれだけの量を盗める事もさることながら、よくこれだけの量の食料抱きかかえて逃げられたわね。脚力半端ないわよ」

 

「・・・あのさ」

 

「なに?」

 

「なんでさっきは『ガキンチョ』って呼んでたのに今は『チビ』にランクダウンしているんだよ」

 

「・・・あまりに情けない顔していたから」

 

「・・・・・・。」

 

彼の癇に障ったのか、少年は口をかみ締め今まで溜まっていた怒りをティアナに向けて爆発する。あまりに舐めきっていた言動に少年は我慢なら無かったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チビチビって・・・・・・俺には『エリオ』って名前があるんだよ!!」

 

「・・・オーケー。んじゃ改めてアンタに訊くとしましょうか、エリオ」

 

少年、エリオの威勢に笑みを浮かべたティアナ。

その意気や良しと、今度は彼の名前を呼んで再び問いを投げた。

 

 




後書き。

「いや、これは無理だなぁ・・・」と思って脳内で色々とクロス系のストーリーのアイディアのを浮かべる自分。半ばアニメか何かの脚本についての会議状態ですねぇ・・・
諸事情で色々とボツ案になったり中身を忘れて廃案になったりというものが多々ありますが、自分が「これだ!」と思った物は今でも脳内で思い出せる・・・それが今連載や投稿している作品達ですね。

さて・・・なのはともう一つのISはどうするか・・・(汗)


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第二話 「決意と出会いの日」

遅くなりましたが第二話です。
少しスランプ気味だったのですがどうにか持ち直せました。
IS×MGS共々頑張っていく所存です。

さて。第一話を見てもらった方ならお分かりだと思いますが、今作は基本ティアナやエリオたちといったフォワードメンバーが主軸になります。よって、なのはたちは出番は少なめになっています。ていうかします。あくまで主人公ティアナなので。
後、設定がかなり細かいので出来るだけ後書きの欄に書いていって、ある程度溜まったりしたら纏めを出そうかと思っています。

さて。それでは、月壱ないし月弐更新のNanoha×MGS。スタートです。


とある次元世界の辺境の地。

そこで、ティアナは一人の物取りの少年と出会った。

 

 

名はエリオ。エリオ・モンディアル。

 

歳は教えてくれなかったが、まだ十歳にも満たないのは確かだろう。

鋭い目と赤い髪。身体は近くで見ればそれなりに肉のついたもの。恐らく何度も物取りをして自然と身に付けた()なんだろう。

歳の割りには体つきはしっかりとしている方だ。

 

これなら労働基準法だなんだという五月蝿い管理局のお小言を無視して働くという事も出来るかもしれない。

だが、その(脚力)がついたのは全て物取りのお陰。

全うに働ける見込みは、その時点で既に失っている。

 

だから続けるしかない。だからもう、戻れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・オーケー。んじゃ改めてアンタに訊くとしましょうか、エリオ」

 

「・・・・・・。」

 

面と向かい合い、それでも余裕の表情を崩さないティアナはエリオに言う。

二人は今、市街地の狭い路地裏で顔を合わせている。互いの間の距離は目測で大よそ三メートルあるか否か。

ティアナは廃材同然の木箱の上に腰掛けており、手にはエリオが盗んだ食料が一つ袋詰めの状態である。

そしてその食料をいつ取り返せるかと窺いつつ、エリオは反対側の壁に背を預けていた。

 

「・・・その前にそれ(食料)返せよ。それは話に関係ねぇだろ?」

 

「駄目よ。話が終わったら返してあげる」

 

「・・・・・・。」

 

状況からしてティアナが有利なのは明白だ。

裏路地の人気の無い場所で狭い道を挟んで向かい合う二人。

片や圧倒的とも言える戦闘スキルを持ち。もう一人は未熟な魔術のみが使用できる程度。

能力差もあるこの状況では覆す事も、ましてや食料を取り返すことでさえも無理だ。

 

「言っとくけど、さっきの魔術は無理よ。アレ、助走して勢いつけてでないとマトモに使えないんでしょ?」

 

「・・・!」

 

「仮に出来たとしても制御は出来てないし、突撃自爆技だから後ろの壁に激突して鼻を折るのが精々なものね」

 

「―――。」

 

彼女のいう事全てが図星だった為、エリオは言い返すことは出来なかった。

歯を軋ませ、俯くその顔は悔しさの色が濃く現れていて拳を強く握り締めていた。

彼がそこまでしか実力がない、もし自分以上の魔術を使える人間が現れれば負けるという事は自分が良く知っている。

だから改めて口で言われれば誰だって良い気分はしない。

 

「まぁ話如何によっては直ぐに返すけど・・・・・・」

 

だから流石に言い過ぎたかと思ったティアナは苦笑交じりで補足を付け加え、彼とまともに話せる場を作ろうとする。正直、ティアナはこういった尋問のような質問は得意ではない。大抵相手を怒らせて失敗するか、他の誰かに手間を取らせてしまう。

そのジンクスに苛まれながらも、彼女はエリオの機嫌を直そうとする。

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・絶対に返せよ」

 

「えっ、あ・・・分かってる」

 

泣き気味だった。持ち上がった顔は少し赤らめており、瞳の中が潤んでいたので涙を必死に堪えていたのが分かった。メンタルはまだまだ子供らしい。

明らかに自分が完全悪のようになってしまったティアナは自分の行いを自虐しつつも、エリオの幼いその涙ぐんだ表情に心を撃たれた。好みだったようだ。

 

「ヤバイ・・・ショタの涙はヤバイ・・・」

 

「・・・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涙を拭いたエリオは気持ちを落ち着かせ、深く深呼吸をする。

そしてそれから少しを間を置いて、彼は元通りの表情を取り戻すと、ティアナに一言だけ言った。

 

 

「・・・着いて来な」

 

「・・・は?」

 

ただ一言。そう言ったエリオは路地の道を歩き出した。

ココが何処の路地裏なのか知っているようで、彼の歩く速度はそこそこ速い歩きだ。

だが気にする所は其処ではない。

突然ついて来いとだけ言われたティアナはココで話すのではないのかと思っていた。

が、彼にこの場で話す気というのは元から無かったようで、呆けているティアナを無視し本人は日陰が差す路地裏を黙々と歩いていた。

食料は要らないのか。思う所がそこかと自分自身に突っ込むティアナにエリオが遠くから呼びかける。

 

「来ないのか?別に食料はまた盗って来れば良い話だし、いいんなら・・・」

 

「え・・・えー・・・・・・」

 

一本取られたようだ。呆けたティアナは彼が本気で言っているのだと気づき、自分を気にせず歩いていく彼にただついて行くだけしかできなかった・・・

 

「・・・ああもうッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒れた荒野が広がるこの次元世界は、ただ人々が安住の地を求めただけで人々が住み着いたわけではない。

もっと他の、彼らにとって有益になる理由が存在したのだ。

 

人がその地に住み着く理由。土地の環境、地形、そして資源。

荒れた荒野で殆どが崖や峡谷。渓谷といったのが大半。

ならば最後にあるのは資源ただ一つ。

彼らは資源を求めてこの地に辿り着いたのだ。

 

鉄や鉱物といった資源が主に採れるこの地ではかつてはその殆どを管理外の世界に輸出。

交易で食料や水などを確保していた。

鉱物などは加工すれば宝石などの金品になり、他にも建造物の為の資材に加工されるものもある。

そして鉄は主に質量兵器と呼ばれる銃火器。また、余り知られていないがデバイスにも鉄は使われているものもある。主に量産型のデバイスやストレージ・アームドデバイスにも一部採用されている。単純な強度と重量を考えれば当然の事だろう。

 

 

 

 

 

 

そのデバイスや銃器などに使われる鉄が採掘される採掘場()

その工場の正面と思われる場所にティアナとエリオは立っていた。

 

「廃工場・・・」

 

「今は俺たち(・・)の家さ」

 

「俺たち?」

 

「来な。みんなに会わせてやる」

 

「みんなって・・・やっぱ、アンタ・・・」

 

 

 

古く錆びた採掘工場の跡地に入っていく二人。

錆びた鉄の扉を開けると中はホラー染みた世界、とまではいかず枯葉の木々や茂った人工芝などが最初に目に入った。

手入れ自体は放置されているようだが、それでもまだマシだ。

 

「足下、気をつけろよ。薬莢で転ぶかもしれねぇから」

 

「薬莢?なんでこんな所に薬莢が・・・」

 

「・・・・・・。」

 

工場に入った二人はそのまま奥へ奥へと進んでいく。暗く電灯も付けられていない場所に、警戒心を持つティアナは無意識に左右を見回す。

入ってすぐに加工ライン等の大型機械。

階段を上がり、途中にあるガラス窓の奥を除けば簡易的な指令室。

人気の無い場所なので気味が悪い。

 

「・・・。」

 

「ここは元々鉄を採掘して、採掘された鉄を加工・溶接して鉄資材にしたりするのが目的だったらしいんだ。お陰で時々廃材の鉄とかよく見かけるし」

 

「その廃材を売ろうって考えは無かったの?」

 

「ここいらじゃあ値打ちが低すぎて無理だ。束で売っても札一枚にもならない」

 

「・・・だから盗みになった、か」

 

「・・・仕方ねぇだろ。生きていくためだ」

 

「・・・・・・。」

 

 

 

やがて廃工場の中にある会議室や配電室のような部屋が見え始め、製造加工ラインから離れ、業務関係の部屋が集まる場所に移動していく。

 

「所々穴抜けしている床あったりするから、俺たちは基本ああいう場所は使わないんだ」

 

「じゃあ一体、アンタたちは何処で生活してるの?」

 

「・・・トラックヤード」

 

「は!?」

 

トラックヤードとは、トラックが工場内から物資や荷物を積み込んだり積み替えたりするスペースの事を言う。

一般的にトラックヤードは駐車しやすくするためにシャッター等がないのだが、この採掘工場の場合は荷物が湿気たりしないように室内に駐車スペースがあるようだ。

 

「いざって時に逃げやすいし、あそこから色んな場所に行ける排気口もある。それに空のコンテナが役にも立つからな」

 

「はぁ・・・」

 

エリオの説明に半ば呆れ気味のティアナは頭を抱えそうな表情で俯き、彼の後ろをついて歩く。実に子供らしく馬鹿馬鹿しい考えだと彼らの歳相応の発想に頭を抱え込んでいた。

そんな考えでやり過ごせるのなら誰も苦労はしない。彼もまだ子供という事か、と自慢げに話していたことに批判し、それを口に出さないように頭の隅に留めておく。

するとエリオが足を止めた。どうしたのかと尋ねようとしたティアナだったが、二人の正面には少し大きめの古びた扉が立ち塞がっていた。どうやらここがトラックヤードに繋がる扉らしい。

その証拠に扉にはトラックヤードの文字がかすれ気味ではあるが刻まれており扉の隙間からは僅かにだが光が漏れていた。

その古びた扉に両手を置いたエリオは、力一杯に扉を押し込む。

小さなホコリと鉄のカスをふるい落とし重い扉が開かれた。

 

 

「・・・・・・!」

 

開かれたその先に広がっていたのは、ただ長く。コンテナというコンテナが散乱するトラックヤードと呼ばれていた場所だった。

閑散としたトラックヤードだが、妙に人気と温かみを感じる。

恐らく、温かみはココにだけ点灯している電気の事だ。

そして人の気配。考えられるのは一つだけだ。

 

 

 

「・・・!」

 

「ッ!」

 

コンテナの影から小さな影が一つ、文字通り顔を見せる。小さな黒髪の少女が、警戒した様子でティアナとエリオを見つめていたのだ。

 

「リーナ。戻ったぞ」

 

「・・・エリー、その人、誰?」

 

「・・・分かっている。ちゃんと話すよ。クルトは?」

 

「・・・・・・こっち」

 

エリー。それが彼のニックネームかと思っていたティアナはおどおどとしている少女に向かい小さく首を傾けて挨拶をする。

リーナと呼ばれた少女は、呟くような声でエリオの問いに答えると隠れるようにコンテナの影に消えていく。

 

「・・・。」

 

「リーナは少し気が弱いんだ。あと、人見知りで大抵コンテナとかの影に隠れてるんだ」

 

「・・・あの子、いくつ?」

 

「・・・先月、五つになったばかり」

 

「・・・・・・。」

 

まだあんな歳なのにと、重苦しい空気が二人の間に流れる。ティアナ自身、分かってはいたが実際見るとなると胸に突き刺さった現実はかなり痛いものだ。

そのリーナの後を追い、コンテナで出来た道を通っていく二人。

エリオ曰く、コンテナで出来た道はいざと言うとき隠れたり上ったりして逃げたりする時に役立つらしく、作るのにかなりの手間と時間を要したとの事。

それにはティアナも無駄に頑張りすぎね、と動揺と呆れを隠せなかった。

何よりも、それを提案したのはエリオではなく彼が言ったクルトという人物らしく、相当の馬鹿なのかと頭の隅で呟く。

 

 

 

しかし、彼女は直ぐに納得してしまう。

こんな大袈裟なことをする理由が、あるのだと理解してしまった。

直後に目に映った光景。それがティアナを嫌でも納得させたのだ。

 

「・・・戻ったか、エリオ」

 

「ああ。ちょっとオマケ付きだけどな」

 

リーナと同じく黒い髪をしており伸びても髪を斬ることも出来ないので後ろに幾つか束ねられている。

正面から見れば分かり難いが僅かに横を向いていたお陰で後ろで髪を束ねているのが見えることが出来る。前からだけだと短髪の少年だとしか思えない。

エリオと同じく歳に似合わない鋭い目をしている。あれが彼の普段の目つきなのだろうか。だとすれば目つきが悪いでは済みそうにも無いと溜息を吐く。

 

「・・・ソイツは?」

 

「・・・・・・。」

 

みすぼらしいとしか言えない服に身を包んだ彼は目線をティアナにへとズラし、彼女を連れて来たエリオに尋ねる。本人もこうなるのは分かっていた事だが、流石に現実となるとどう言えばいいのかわからないもの。頭を掻いてうなり、その場しのぎではあるが返答する。

 

「今から話す」

 

「・・・・・・。」

 

「心配すんな。奴等じゃない」

 

「・・・そうか・・・」

 

 

その時だ。ティアナは自分の目に映った光景に驚きを隠せなくなった。

 

「・・・ッ!」

 

コンテナや他の色々な物陰から一人、また一人と幼い子供たちが姿を現したのだ。

一人や二人ではない。ざっと見ただけでも十人前後は居る。

双子。兄弟。姉弟。中には赤ん坊を抱く子供までも。

まざまざと見せ付けられた光景に言葉が出なかったが、無意識に彼女の口は動いていた。

 

「―――ココにいる全員・・・ストリートチルドレン?」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・いいや」

 

クルトが険しい顔になり、エリオは嘆きそうな表情と声で否定する。

そして、冷たい声でクルトがティアナの疑問へと答えた。

 

「みんな、孤児さ」

 

「・・・戦災孤児」

 

戦災孤児。戦争で親を亡くした子供達のことだ。

この子達には確かに親は居た(・・)が、この世界を管理するために起こした戦争で彼らの親は死んでしまった。

そして、残された子供たちは身寄りのないまま、この廃工場で共に暮らしているのだろう。

 

「アンタ。本当に管理局の連中じゃないんだな」

 

「・・・寧ろ嫌われてるわ。向こうからも、こっちからも」

 

念のためにと尋ねた事をカラカラと笑い否定するティアナに、クルトは疑いの目を向ける。

彼女が管理局の人間なのではないというのは理解したが、それでも彼女の雰囲気の所為か油断する事は出来ず逆に警戒心を高めるばかりだった。

その会話の中にまた新たに一人が加わる。

 

「・・・レジスタンス?」

 

「というよりも、唯の慈善団体って奴よ。あいつ等(管理局)の言う管理外世界に対してのね」

 

リーナの質問に苦笑で答えるティアナ。

慈善団体と言っても時に荒事も担当するけど、と頭の隅で呟いた。

口には出さなかったがどうやら勘がいいのか、エリオとクルトはまさかといった顔を二人揃えてしていた。

 

「別にアンタたちをどうこうする気はないわ。元より別の用事でこの世界にいるんだし」

 

「・・・なら何でココに来た」

 

「そこのガキンチョにこれ(食料)を渡しにね」

 

「渡しにじゃなくて返しにだろ。言い間違えんな」

 

「・・・・・・。」

 

本当に大丈夫なようだ。クルトはエリオとティアナの会話を聞き、彼が警戒心を持っていないというのと彼女が管理局の人間ではないというのを理解し、ある程度ではあるが警戒心を解いた。

 

「・・・・・・わかった。アンタが管理局の人間じゃないってのは信用してやるよ。けど、変な事したら・・・」

 

「する訳ないでしょ。弱いものいじめは余り好きじゃないのよ、こう見えて」

 

 

 

 

 

 

クルトたちに理解を得られたティアナは客人として彼らに迎え入れられる。

しかしまだ信用しきれていないのか警戒する子供も多く、幼い子や気の弱そうな子はまだ隠れたりしてティアナを窺っていた。

その彼らの事を視界に入れつつティアナはエリオとクルトに一番彼女が気になっていたことであり、聞いてはいけないのだろうタブーを訊いたのだ。

 

どうしてこんな所に住む事になってしまったのか。

 

 

 

「一年前、突然奴等(管理局)が大きな船に乗ってこの世界に侵攻してきた。俺の親父たち大人は奴等の狙いが直ぐにこの世界で採れる鉄や鉱物だって分かって騒いでた」

 

「・・・管理局は最近、空戦魔導師の個人の戦力の増強に力を入れてるわ。それを推進している本局の差し金なんでしょうね。資源を確保し戦力増強の為の研究にする。理由はそんなところよ」

 

「当時。俺たちの世界にはそれぞれの町に自警団が存在して、クルトのオヤジさんも自警団に所属していたんだ。魔術が使えなくても、この世界で採れた鉄を使った武器があったからな」

 

だが。思えばそれが間違いだったのかもしれない。

武器の豊富さを宛てにした彼らの油断が、今の自分たちとなってしまったのだ。声に出さず、俯いた表情のエリオとクルトはその過去を思い出し、低くなった声で呟いた。

 

「・・・けど、甘かったんだ。俺たちは」

 

「ッ・・・」

 

「俺たちが奴等の管理下に入るのを拒否したから、管理局の奴等が力で俺たちを黙らせようとしたんだ。物量と能力。そのどちらもから攻められた自警団だったけど、なんとか粘って。この戦い自体は三ヶ月ぐらい続いたんだ」

 

「三ヶ月・・・そんなに武器に余裕が?」

 

「まぁな。こと鉄にかんしちゃ困らない世界だし。クルトの親父さんも笑って言ってたしな」

 

「ああ。オヤジが頑張ってくれたから・・・自警団はあそこまで戦いを続けられた。みんな守り続けてくれたんだ。けど・・・」

 

 

 

それは突然の始まりだった。思い出したくも無い、空からの来訪者達。

その時の記憶を思い出しただけでもクルトは全身に振るえが止まらず、苦しさと悲しさが心の底から吹き上がったのだ。

 

「・・・奴等。空戦の魔導師たちが、毎日のように空から仕掛けてきたんだ。俺たちを捕まえたりする為にな」

 

「制服が?ココは陸戦の支配地域じゃ・・・」

 

「確かに陸戦は居た。それも半端ない数のな。クルトのオヤジさんたちも当面の相手は奴等(陸戦)だと思っていた。けど、それは甘かったんだ」

 

 

エリオ曰く。

ある日、突如として奴等が現れた。まるで神の代行者のように、空を覆い光を降り注がせた。

 

そして、最後には裁定を下したかのように大きな光が放たれ、町一つが全て飲み込まれた。

 

「ただ吹っ飛ばすってだけの攻撃。それで町のひとつが全て無くなっちまった。建物も人も。みんな・・・消えちまった」

 

「―――。」

 

毒を吐く様に語るクルトの目は怒りと憎悪に満ち溢れていた。

声や目の色。言葉の一端。そしてその時の事を話した時の様子。

思い出したくも無い苦しかった日々を思い出したクルトは、段々と声のトーンを下げて自分たちが受けて来た苦しみを思い返す。

 

突然の事にただ呆然とするしか出来なかった自分。

辺り一帯は廃墟となり、まるで遊び終えて興味を無くされた人形の様に人は転がっていた。

物のように瓦礫に埋まり、挟まれる人々の殆どが体のどこかの部位を失い、中には見ただけでその人が死んでいると一目で分かるものもあった。

 

絶望と悲しみしかない光景に幸運か災いか、生き残った少年たちの思考は停止し何も考えられなくなってしまった。

そして、無意識のうちに支離滅裂な言葉を口にし、一人でに泣き出した。

 

「・・・現在でも思う。正直、あの時に死んでいたらどれだけマシだったかって」

 

「・・・。」

 

 

そして、その時を待っていたかのように偽りの希望の手は差し伸べられた。

 

「分からないぐらい、泣いた。そんな時だ。奴等がまた俺たちの頭上から神様のように降りてきたのは」

 

「制服が?」

 

「ああ。あいつ等、手のひら返したかのように・・・俺たちを助けた(・・・)んだ」

 

 

低く重い声で話すクルトに眉を寄せたティアナは小さく、やっぱり、と呟く。

彼の話は管理外の世界ではよくある事。管理世界の一般市民に対し、好印象を保ち続ける為に彼らが行う偽善行為で現在でも彼らはそれを行っている。

カバーストーリーを作り、自らの地位と力を保持する為の方法。バレなければ全て良しという事で、自作自演に近い。

 

 

「よくあるマッチポンプね。自分たちで壊しておきながら、攻めておきながら、ほとぼりが冷めたら今度は正義の味方として助けに行く。奴等が使う手口よ」

 

「・・・・・・。」

 

「あいつ等にとっちゃ、攻めた世界で生き残った人間なんて自分たちのアピール材料にしかならない。用済みになったら殺すか連行して実験の材料にするか」

 

「ッ―――実験!?」

 

「まだ確実じゃないけど、とある場所からの情報じゃ管理外の非公式研究所で延々と続けられてるって話よ。大方、目的はキメラ(合成獣)か、ミュータントか。はたまた・・・」

 

「ッ―――」

 

 

そんな事は誰も知らず、管理世界の人々には彼らの表の面だけしか映らない。

正義の味方。法と秩序の守護者。この世全ての善。

どれも都合の良い物ばかり。

しかし、光があれば必ず影がある。黒く濃い影は、光に遮られその姿を見せずに済んでいるのだ。

 

「我田引水とはよく言ったものね。連中が水の管理をしているから、人はその水の本当の色(真実)を知らない。血の色で濁った水を奴等が色を変えて、色を落として・・・ね」

 

「・・・・・・。」

 

「けど、あんた達はその色を知った。だから・・・逃げたんでしょ?」

 

そうだ。エリオたちは濁った水の色(真実)の事を知っている。

色を落とされず、色を変えられていない本当の色を知っているからこそ、彼らは今こうして生きている。

 

「・・・ああ。みんなで一緒に逃げたさ。奴等の目を潜って、目が届かないだろう場所を求めて、ずっと・・・」

 

奴等に助けられてしまったエリオやクルトたちは彼らを信用できない以上に恨みと殺意を持って居た。親や友。多くの人を殺した相手に対し、本心では今すぐにでも復讐したいと思っていた程に強く。

しかし自分たちにそれだけの力があるだろうか。

それだけの事を成し遂げる知識があるだろうか。

大前提を覆せないと知った彼らには、その場で復讐を行うという決断は踏めなかった。

 

残された抵抗の手段。

彼らには「逃げる」しか他に無かった。

 

「逃げる時にはココにいる倍ぐらいの奴等が居たんだけど、みんな途中で奴等に見つかって捕まっちまった。結局、残ったのはココにいる十八人」

 

「それでも多い方ね。私が知っている内じゃ三人が平均だから」

 

「・・・それだけ、俺たちは運が良かった、かな?」

 

「な訳ねぇだろ。俺たちに強いられたのは生き地獄だ」

 

頬を掻き、呟いたエリオを言葉をクルトは即答で否定する。

親や家族を殺されて残った事が幸運なものか。

全力で。低く怒気のある声で否定したクルトは拳を強く握り締めた。

血が出そうなほど握り締めたその姿にエリオは俯き、ティアナは小さく溜息を吐いた。

 

 

「・・・俺たちの話はここまでだ。今度はアンタだぜ」

 

「・・・・・・。」

 

事情は全て話した。今度はそちらの番だ。

目でそう訴えるクルトとエリオを見て、ティアナは改めて自分かと自身に指差す。

道理としては間違っていない。どうしてと最初に尋ねたのはティアナなのだ。

ならば、エリオやクルトたちにも質問の権利は当然としてある。

頭を掻き、さてどうするか、と考えたティアナは話しにくそうな言い方で口を開いた。

 

「私ねぇ・・・事情あって、あんまり多くは語れないけど・・・まぁ大雑把に言えば・・・」

 

「・・・。」

 

「管理局に異を唱える側の人間・・・ってとこかしらね」

 

「レジスタンス?」

 

「もっとマトモよ。私の居る所は」

 

だが流石に傭兵部隊の人間、とまでははっきりとは言えない。言ったとしても信じてもらえるかだろうし、仮に信じてもらえたとしても、その先を追求させられて面倒になってしまう。ココでの面倒事は流石に後々不利になると予想したのだ。

そこで取り合えず、彼らに対しティアナは自分が敵ではないと明言した。

未だにエリオやクルトは自分が敵ではないのか、と疑っていた様子なのでそこだけでもはっきりとしておけばその場をやり過ごせるからだ。

 

案の定、ティアナの明言を信じた二人はそれを前提に更にティアナに尋ねる。

 

「・・・。」

 

「・・・なら、なんでそのアンタがこんな所に?」

 

「食料渡しに来た・・・っていうのはココで出来た事。本当はちょっとした用事でね。ミッドチルダに行こうとしていたの」

 

ミッド(本拠地)に!?」

 

ありのままの事実だが、僅かに事実をずらしたティアナ。

本当は任務でミッドに行くのだが、ここではそこまでを語らずともよいと判断し、その言葉だけに纏めた。

 

「別にテロ行為をするって訳でもないわ。ちょっと所用ってところ。あんな所、長居する気はあんまりないから」

 

と言ってもかなり長居しそうな予感ではあるが、と頭の隅で呟く。

正直、任務完了が何時なのかは本人も、ましてや言い出した二人(スネークとカズ)でさえも分からないのだ。

何時終わるのかと始める前から落ち込むティアナは、ただ俯いて失笑するしか出来なかった・・・

 

「・・・・・・。」

 

「確かに、ココからの転移列車はあるが・・・本気なのか?」

 

「本気よ。言ったでしょ、悪いことするために行くんじゃないって」

 

寧ろそれ以上にタチの悪いことをしに行くのだが、とまた頭の隅で呟く。

だが、そろそろそんな本音を言わなければいけない状況に迫りつつあるのも事実で、現にエリオとクルトは彼女に対し次なる質問を考え始めている。好奇心による質問攻めは彼女にとってはどうしても避けたい事態だ。

これ以上長引くと流石に面倒か、と思ったティアナは話をまとめに向かわせる。

 

「―――ほらッ」

 

「っと!?危ないな!」

 

突然ティアナは自分が持って居た食料の袋をエリオに向かい投げつける。

覚えているだけで中には生ものなども入っていた気がするが、袋をひっくり返すほどでもないので気にはしない。

その袋を間一髪のタイミングでキャッチしたエリオは中身の食料が無事なのかを確認する為、袋を開き中を覗き込む。

 

「中身は・・・無事か」

 

「それ返すから、詳しい話についてはチャラにして頂戴。私も今は少し急いでるの」

 

「は・・・?」

 

唐突に彼女が言い出したことに面くらい、声を上げるエリオは間髪入れずに言い出したティアナの方に顔を振り向けた。

彼女は既にその場から立ち上がって歩き出しており、その様子はどこか急いでいるというよりも焦っている様子だ。

 

「元々、時間つぶしで町うろついてたんだけとアンタ(エリオ)が出てきて予定が狂ったの。まぁアイツ等(魔導師)の鼻をへし折れたから別にいいけど」

 

「・・・。」

 

「んじゃそう言うことで。邪魔したわね」

 

「「・・・・・・。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがそう言って「はい、そうですか」と納得する者が居るだろうか。

 

 

 

「・・・まぁ分かってはいたわよ。あんなイキナリ有耶無耶にしたのでやり過ごせるなんて思ってもないわよ」

 

「んじゃ何であの時あんな事言ったんだよ」

 

「仕方ないでしょ。他に思いつく考えが無かったんだし」

 

ステーションと呼ばれる駅の中。

 

このステーションから出発する次元運行が可能な列車、通称「次元列車」が管理世界や列車の運行が可能な管理外の世界にへと一般の人間が行き来でき、物資の運搬。人員輸送などの軍事的役割から民間人の交通手段としても確立している。

しかし、民間人の使用が可能となった昨今。管理局内ではその列車の中に反体制派の人間が紛れ込み、首都グラナガンないしミッドに容易に入られてしまうと危険視もしている。

現に、その一員であるティアナがステーションの中に平気でいるのは正にそれだ。

警備シフトや何処を重点的に警備すればいいのかなど、詳細な事が出来ていない今なら「行って下さい」と言っているのと同義なのだ。

 

 

「それに、私基本ああいうの苦手なのよ。纏めようとしても纏められないから」

 

「子供か、って・・・まぁ俺と同じ子供か」

 

頬を赤らめ、エリオから顔を逸らしたティアナは恥ずかしそうな顔で黙り込む。

その場を纏めるというのは彼女には難儀であり、どうにかして直そうとしても結果として前進の気配は全く無い。纏めようとしても他の誰かが口を出してしまい結果纏める事はできずじまい。

自分にはボス(スネーク)のようなカリスマはないのだと痛感した時だったという。

 

「っていうか平然とこんな所に居るけどいいの?そこらに局員とか結構うろついてるわよ」

 

「心配ねぇよ。足には自信あるからな」

 

「・・・要は逃げるって事じゃない」

 

「まぁな」

 

能天気で良いわねと皮肉を言うが、エリオはそれを軽く鼻で笑う。ここがどれだけ危険な場所であるかは彼も重々承知しているのだろう。

そうでなければ其処に堂々と立っていること自体、自殺行為となんら変わりない。

その為の切り札である足を叩いたエリオは自信ありげな顔で彼女に言い返した。

 

「確かに。俺は魔術もロクに扱えないし、使えもしない奴さ。けど、だからってそれで全てが決まるワケじゃないだろ?要は使いよう。要は―――生き方だ」

 

「生き方・・・ね。生きるために身に付けたって事」

 

「ああ。だってそうだろ?生きる為に生きるための力を手に入れる。生き抜くための技術を身に付ける。俺は生きる為ならなんでもするさ」

 

「・・・だからって盗みが続くワケでもないし続けていい理由にもならないわよ」

 

「分かってる。けど―――それしか俺たちに生きる方法が無いのは分かったはずだ」

 

「―――。」

 

多くの子供たちを養う為に。明日を生き抜く為に。

彼は自分の名誉を、命を危険にしてまでも盗みを続けていた。

恥も外聞も無い。生きるという意味を突き詰めた結果が今のエリオなのだ。

 

「正直・・・俺はアンタが羨ましい」

 

「羨ましい?」

 

「俺とは違う生き方で生きるアンタが・・・俺には羨ましく見える。だから思っちまう。

 

 

 

 

 

『アンタみたいに生きられたらな』って」

 

「・・・。」

 

「・・・なんだよ」

 

「・・・いや。何でもない」

 

自分の生き方を羨ましがられたティアナだが、その内心は複雑な心境だった。

それを素直に喜ぶべきか。それとも「それはいけない」と否定するべきか。

そして、事実を教えるべきか。

迷った彼女の思考は纏まらず、結果飾り気のない言葉が彼女の口から漏れてしまっていた。

だが。

 

「―――何時か、もう一度アンタに会いに来るわ。その時に・・・もし私の事を知ったのならば・・・一緒の生き方を教えてあげる」

 

「―――。」

 

「もし―――知ったらの話だけど」

 

知ることが出来るのだろうか。

知る機会があるのだろうか。

そんな心配とも危険視とも取れる感情に胸を痛めつけながらティアナはそれとは真逆の優しい笑顔を彼に見せていた。

 

「アンタ、一体・・・」

 

「ティアナよ」

 

「―――え?」

 

「ティアナ。私の名前よ。アンタから聞いて自分の名前を明かさないってのもフェアじゃないし、食べ物の事もある。だからその見返り・・・っていうのかな?お返しよ」

 

「・・・・・・ハッ・・・なんだそりゃ」

 

小さく笑ったエリオの顔は嬉しそうな様子で、本当に子供の笑顔その物だった。

あれが彼の本当の笑顔。彼の顔なのだとティアナはこの時、始めて知った。

本当は優しい少年なのに、生きる為に押し殺してトゲのある性格を装ってしまっていた。それが戦争の所為であり、奴等の所為なのだと知ったティアナは無意識に拳を強く握り締めていた。

 

 

「・・・じゃ、そろそろ行くわ」

 

「ああ。また・・・何時か会えたらな」

 

「ええ。その時にはもう少しマシな性格してなさい、エリオ」

 

「アンタに言われたくないぜティアナ」

 

そう言って二人は分かれの挨拶として互いの手を勢い良く合わせ、乾いた音を鳴らした。

また何時か会おう。その意味も込めて、二人はその後再び振り向かずにその場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらオセロット(・・・・・)。予定通りミッドチルダに向かえました」

 

『こちらミラー。よくやった。後は向こうに着いて安全を確保した後に再度連絡してくれ」

 

「了解。その間、見つからない事を祈ります」

 

『心配するな。奴等はお前の事を知らない。仮に知っていたとしても、上手く誤魔化せるしな』

 

「一抹の不安しかないですけど・・・まぁ期待しますよ」

 

『安心しろ!お前の為にお父さんがんば―――』

 

仕様も無い雑談の為に連絡したのではない。

無言のまま、少女は連絡機器の電源を落とした。

任務の時ぐらい真面目にならないのだろうか。

・・・いや、無理か

 

 

「はぁ・・・・・・」

 

 

深い溜息を吐き、ゆったりとした座席に深く腰をかける。

柔らかい材質の為に自然と奥底から眠気がわき上がってくるのを感じ、少女の目蓋は重くなっていき、意識は遠のいていく。

 

(まだ時間はあるし・・・寝よ・・・)

 

今は僅かな間のまどろみ。休めるときに身体を休めよう。

やがて少女は窓の外に映る世界を見ながら、ゆっくりと目蓋を落とし、眠りについたのだった。

 

 

窓の外に映る世界、管理局本拠地ミッドチルダの首都。

グラナガンの夜景をその目に刻んで。

 

 




オマケ。

= 魔法と魔術について =
今作では魔法の下位である魔術が存在し、明確にその二つは部類されている。
しかし世間では魔法と魔術の見分けを知らない人間が多く、正確に部類で斬る人間は極僅かとなっている。

基本概念は変わらず、魔法は無から有を作り出す力。
(例題としてはフェイトの稲妻だったりシグナムの剣に纏う炎のみがこの部類。紫電一閃の場合は空気中の酸素を使って火力を上げるので魔術の部類)

逆に魔術は有から有を作りだす力の事を斥す。
(例題としてはクロノの氷がコレ。氷は空気中の水分を凍らせて生成するので)

尚、魔力スフィアも実際リンカーコアで生成された魔力を使用するもので、どちらかと言えば魔術に部類される。
また、光の魔法だったり闇の魔法だったりというのも存在するようだがこれは歴とした魔法に部類される。
なのはとフェイトで簡単に表すなら
なのはは魔術のみ。(周囲の魔力を取って使うSLBはどちらかと言えば有から有なので魔術)
フェイトは半魔法・半魔術(サンダーレイジなどが魔法。武器強化だったりは基本魔術《今作オリジナルであり》)





= 次元列車 =
原作では転送ポートと呼ばれていたが、こちらではコレが主に次元世界間での交通の便になっていて文字通り次元を渡る列車。主に管理局の管理する管理世界か、勢力が及んでいる世界等で活用されている。
物資の運搬、人員の輸送等の効率が良く事故の確率はかなり低いが、短所としてステーションと呼ばれる場所の設置が必要。
尚且つ、次元空間が安定していないと途中で事故を起こしたり、最悪の場合、別の世界に跳ばされる可能性もある。
今作では近年、陸戦魔導師の人員輸送として重宝されており、逆に次元航行艦は殆ど使用される事はない。理由としては「大人数を送れるが迅速な人員輸送を行えない」・「運用時と補給・整備時の資材等の消費が馬鹿にならない」などのデメリットがあり、現在本局は所有する艦の近代化改修と新造艦の生産。また旧型艦の解体などを急がせているが、それが完了するまで後十年はかかると予想されている。(実際はそれ以上とも)





= 管理局の評価と現状 =
一言で管理局の評判を言うならば「可もなく不可もなし」。
管理世界の人間でさえ殆どが管理局を警察組織程度にしか認識していない。
そのため、制服(空戦魔導師)が自分たちの善意を売り込んでいてもその程度にしか認識されない。
体制と内情は完全に二分されている状態で、制服組みである本局派と陸戦魔導師の地上派の二つがある。しかし制服の中には陸戦魔導師を懐柔して引き込むという行為(それもある特定人物が)が多発し、有能な陸戦魔導師の殆どが現在本局派になっている様子。
双方の見解は本局が「こちらの意思を分かってくれた(by三提督)」地上本部が「養分(人材)を奪われている(byレジアス)」とのこと。


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第三話 「邂逅の星々」

月更新を頑張ろうと思う第三話です。

タグにPWがついていますが、基本的にノリがPW的な明るい目。また少しネタに走ったりするストーリーとなっています。
それでもしっかりとシリアスはやるつもりです。
あと、本編に入る前に前日談が続くと思いますのでよろしくお願いします。

それでは、Nanoha×MGS。スタートです。


 

 

 

 

 

 

 

あの日、私は死ぬ筈でした。

 

 

ですが、私は救われました。

 

 

そして、私は教えられました。

 

 

 

 

 

 

 

 

この世の全ての真実を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おはようございます。モーニングニュース、今日はこのニュースからです』

 

 

 

日の光が小さく差し込み、肌寒い冷たさの風が静かに吹き通る。

春の時期だというのにまだ暖かい陽気は見えず、冬の冷たさが残っていた。

そのお陰か、眠っているときに使う毛布が思った以上に心地良い。肌で丁度いい程合いに温められ、安定した睡眠をくれる。

 

毛布の外では科学と魔術が統合された技術を用いて作られたテレビが動いている。

前もってテレビの時間をセットすると自動的に電源が入り、何時もの様に朝のニュースが放送される。朝のニュースは最高の目覚まし時計であり時間つぶしだ。

 

「んっ・・・・・・朝か・・・」

 

ほんのりと温められた毛布から小さく顔を見せ、寝起きでぼやけている視界に微かだが見えているテレビ画面を見て少女は呟く。

起きたばかりなので頭はまだ呆けているが、ほぼ日課になっているニュースが始まっているのだけは瞬時に理解していた。

 

「―――。」

 

だが眠い。まだもう少し寝ていたい。

睡眠欲に駆られもう一度眠りに付こうとするが、生憎とニュース画面を見て理性が働いて眠気は少しずつ消えていってしまう。

このニュースが始まったら起きなければいけないと決めていたからだ。

 

「―――はぁ」

 

やがて、眠気が理性に負けてしまい頭も起きはじめていく。

もう暖かい毛布から離れる時かと思うと、残念というよりも屈辱的なものを感じてしまう。

自分の睡眠欲が理性とニュースに負けてしまった。彼女にとってはなんとも言い難いものだ。

 

 

「んッ・・・」

 

 

ゆっくりと毛布から身体を起こすと、暗い毛布とベッドとの間に包まっていた寝巻きが姿を見せるが、その姿はとても寝巻きとは呼びがたい。

黒のタンクトップ一枚と下着のみという健康的な肌を露にした状態で、睡眠するにしたら問題はないだろうが余りに無防備すぎると言える。

 

「ふあっ・・・」

 

小さく欠伸をする少女は下着の端を調整すると使っていたベッドの上から立ち上がり、身体を伸ばしつつ眠気を覚まさせる。

 

「んーっ!」

 

身体中から骨が鳴り響き、身体が更に柔軟に動けるようになっていく。

今日も問題なし。

調子を確認した少女は閉め切られていたカーテンを勢いよく開いた。

 

 

 

 

「・・・今日も平和ね。この世界は」

 

 

 

 

その先に広がったのは未来的な光景の広がる街。

朝日が外の世界を照らし、ガラス窓の外から雑な機械音が響いてくる。

少し顔を上げれば青い空が広がり、今日一日が快晴であるのは間違いない。

そんな朝の風景を見て、少女ことティアナ・ランスターは小さくぼやいたのだった。

 

 

 

「―――平和ね」

 

 

 

 

 

 

 

MSFスタッフことティアナがミッドチルダに到着したのは今から約一週間前のこと。

そして、今いる隠れ家に潜伏してからもう三日が経過している。

その間、彼女は副指令であるカズヒラ・ミラーの根回しによって予めある程度の準備が済んでいた用意(・・)を行い、それを独り徹夜で行っていた。

寝床は近くの廃工場やらなんやらを転々としつつ、最後にはココに落ち着いたもので彼女自身は久しぶりのベッドで熟睡出来た事に喜んでいた。

 

 

必要最低限の物と自前で持ってきた武器などが置かれたミニテーブル。

その上には更に、そのテーブルの上には不釣合いな絵柄のした紙が数枚置かれていた。

 

「さてと。今日の・・・えっと十時からだったっけ?」

 

そのテーブルの上に置かれた紙を僅かに視界に入れるとティアナはいそいそと寝巻きを着替え始める。

と言っても身に纏っているものは僅か二枚なので脱ぐ事に苦労する事は無い。

問題はその後。彼女が着慣れていない正装というものを着るのだ。

 

「はぁ・・・」

 

着るのは二度目なのである程度は問題ないが、彼女の溜息の理由は別にあった。

女なら誰もが気にするだろう『見た目』。

つまるところ服のデザインだ。

 

「・・・ダサいわね」

 

ダサい。正直ティアナの目からしても目の前にかけられた制服というのはその一言だけで片付けられる程のダサさだった。

斬新さを求めた結果それに行き着いてしまったのだろうが、そのダサさはファッションセンスの無い人間からしても一目でダサいと断言できる。

その服を一言で表すなら奇抜なヒーロー服、とでもいうのだろうか。

それとも、光の巨人が出てくる特撮の人類の防衛軍の服装とでもいうべきなのだろう。それのカラーチェンジ版と言っても良い。

 

兎も角。それほどまでに制服は着る気にはなれない物で、それをティアナは苦い顔で見つめていた。

あんなのを大事な時に着るのだとなるとかなり恥ずかしいし阿呆らしい。

 

「全く、これデザインした人どんな頭をしてるのよ・・・」

 

 

ちなみに、その服をデザインした人物が後にティアナが知る人物であると言う事はココだけの話。

 

 

 

 

 

 

『――――――“あの事件”からもう二年半。現在の新管理世界『ヌアザ』の様子をリポートしてきました』

 

 

「・・・!」

 

聞き覚えのある名前が彼女の耳に入る。

目をテレビの方へと向けてシャツを着替える途中のまま動きを止めると、そのままテレビに釘付けになる。聞き覚えのある単語が耳に入ったので思わず興味が其方に向いたのだ。

 

ヌアザ。それは彼女にとって忘れる事の無い記憶の鍵となっていたからだ。

 

 

 

『今から約二年半前。私達を守る組織、時空管理局が新たに保護した世界『ヌアザ』では、元々治安も良くなく、局員達が犯罪者を逮捕するというのが日常的でした』

 

出来上がったカバーストーリーを淡々と読んでいくニュースキャスター。本人に悪気はないのだろうが、キャスターが語るニュースの殆どはティアナにとっては嘘のほかに何でもなかった。

 

『それが、あの日。突如として襲い掛かったのです。―――そう。血のバレンタインと呼ばれた『ヌアザ内戦』の始まりです』

 

ヌアザは確かに彼らにとっては(・・・・・・・)治安が悪い世界だったのだろう。

だがそれはあくまで管理局側にとってはの話だ。

元々ヌアザは独立した管理外世界であり、管理局なしでも十分に機能する世界で同時に反管理局勢力にとっては重要な拠点となっていたのだ。

武器や物資の流通が盛んでそれを利用し、各反管理勢力へと物資を供給するという事さえヌアザの自治政府は認可していた。それが自分たちにとって有益であると、向こうにとっても悪いことではないと分かっていたからだ。

 

だがそこを管理局に漬け込まれた。

大義名分を彼らに与えてしまったのだ。

 

 

『今から二年半前の二月十四日。反管理勢力が管理局の駐屯地を爆破。それにより多くの死傷者を出しました。当時、管理局は現地自治組織との交渉を進めており、進駐軍が多く入っていました。そこを彼らに狙われたと、当時の司令官は言います』

 

実際は違う。大義名分を得た彼らは水を得た魚のように餌を求めて集まってきたのだ。

圧倒的武力を持って現地政府を脅し、降伏を迫った。

「ここで降伏せねば武力を持ってこの地を更地にしてやる」と、まるで自分たちが神の代行者であるかのように。

 

あまりにも見下したような物言いに見かねた反管理勢力は遂に決起。

 

これが本当のヌアザ内戦の切っ掛けだ。

 

 

「ヌアザを取られてしまってはいけない」。それが反管理勢力たちが団結する理由となり、近隣の大小様々な反管理勢力、及び軍事請負企業等が参加。現地政府も裏ではそれに賛同し当時ヌアザに座り込んでいた管理局勢力に勝るとも劣らない数が集まり、爆破事件を皮切りに戦いの火蓋は斬って落とされた。

 

 

約一ヶ月に及ぶ、大攻防戦の始まり。地獄の日々の幕開けだった。

 

 

PMC的立場であったMSFも会戦初期から参加。現地組織に雇われ、戦力の供給と『反管理勢力連合』と呼ばれたゲリラ兵たちの訓練を請け負った。

連合だと言われていても所詮はゲリラ兵であるのには変わりない。戦闘能力は一般人に毛が生えた程度でとてもではないが即戦力になるとはいえなかったのだ。そこで、現地兵士の訓練を視野に入れていたMSFに白羽の矢が刺さり、伝説的な戦士と呼ばれていたビッグ・ボスのことも知った彼らは高額の報酬を用意し自陣に招きいれたのだ。

最強の戦士、ビッグ・ボスが率いる部隊。それだけでも相手への圧力にもなり、連合側のゲリラたちの士気も高揚していく。

その戦意を更に高揚されるかのようにビッグ・ボスも自ら前線に立つ。

そして、その中でティアナは大人たちに紛れ少年兵ならぬ少女兵として参加していた。

 

 

 

 

『約一ヶ月に及んだこの内戦は最終的に管理局本局の主力部隊投入という大規模な作戦、通称『天の息吹作戦』によって反管理勢力の司令部を制圧した事により終戦。多大な局員(・・)の犠牲により、この内戦は終息しました』

 

だが実際、ゲリラ勢力と呼ばれていた反管理勢力はそれ以上の被害を受けた。

勢力が小さいところによってはその作戦に参加した全員が全滅したと言う話も現地で良く聞いたことだった。ひとつやふたつではない、十や二十といった数を軽く超したのだ。

更に、現地政府もその『天の息吹作戦』によって中核人物たち全員が死亡。

これが決定打となり、反管理勢力は敗北を余儀なくされた。

 

「―――。」

 

『多大な犠牲を払い、正義を行った局員達を弔う為に今日戦没者慰霊碑の前には多くの関係者が集まり、黙祷を捧げました』

 

そして其処からの関係者達の悲痛な声。というのが画面に映り、視聴者達に涙を誘わせる。

同時に反管理勢力への強い怒りと軽蔑の種となり、何も知らない人々はただ表にだけ現れたカバーストーリーに涙するのだった。

 

『非人道的行動を取った反管理ゲリラたち。現在も各地に分散し、管理局の保護行為を妨害していると―――』

 

 

胸糞が悪い。

ティアナは余りに出来すぎたカバーストーリーに苛立ち、テレビの電源を落とす。

まるでキャスターが裏の事実を全て知っていたのにも関わらず、知らないフリをしているかのように思えてしまい、彼女にはそれがどうしても我慢できなかった。

 

「・・・嘘ばっかり」

 

ドキュメンタリー系の番組はどこかしらばっくれた感じがしてならない。

自分たちが味方している側の悲壮感や悲惨さを強調し、軽蔑、軽視している側は嘘を交えて残虐さ、悪という感情を埋め込ませる。

ミッドチルダについてからというものの、そんな番組などが殆どだ。

まるで日常的に人々へと洗脳行為が行われているかのようで、その洗脳を受けた人々は機械のように教えられたことを口にし、元にして考える。

 

この世界、ミッドチルダはいわばディストピアだ。見方を変えれば、管理局が都合の良いように情報を操作し、統制して人々を欺く。

こんな世界に居る人間など、タダの一人としてまともな人間は居ないだろう。

毒を吐くようにティアナは外の世界を見つめる。

鳥かごのように囲まれた外の世界を、彼女は息苦しそうに思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティアナが管理局へと潜入する方法。スパイ活動を行うには先ず、当然ながら局員にならなければならない。出なければ本局内部での活動に多くの支障が出てしまう。

また非正規の方法での入隊が無理な以上、合法的に正規でしか入る方法は無い。

協力者が居ると言っても、ミラー曰く「其処まで高い地位ではない。一般局員クラスが精々だ」との事。裏口の見込みはこの時点で潰えていた。

なのでティアナは正規で課程を終えて局員になるしか道は残されていない。

 

 

「・・・学校、かぁ」

 

一般人が管理局員になる方法は二つ。手続きを踏み、専門の訓練校での課程を終えて局員になる。しかしこれは規定の年齢以上の人物に該当する方法で彼女には当てはまらないもの。

ではどうすればいいのか、と言われて上げられるのがもう一つの方法だ。

管理局が定めた規定最低年齢。それから一つ目の年齢に該当するまでの歳の者。つまり子供たちが同じく専門の訓練校で課程を全て終えれば晴れて局員になれるのだ。

 

面倒ではあるが、これしか他に道は無い。

急がば回れ。地道に課程をクリアして局員になるしかないのだ。

ティアナは複雑な心境を胸に、小さく呟くと目の前に建つ建物を見上げる。

 

「課程を終えれば即局員・・・可笑しいでしょコレ」

 

眼前に建つ建物は、これから彼女が利用する事になる陸士訓練校。

文字通り陸戦魔導師の養成学校で、噂では制服(空戦)よりも厳しく逃げ出したり自主退学したりする者が後を絶たないらしい。

ミラーからの伝手曰く、「空戦を体験コースとするならば陸戦は米海兵隊レベル」との事。

聞いた時には酷い差だな、とスネークがぼやいていた事を思い出す。

つまり、天と地ほどの差があると言う事らしい。

 

訓練校の正門前には、そんな事を知ってか知らずか様々な顔つきの少年少女が居た。

見た目が非行少年のような者や、がり勉と呼ばれている委員長系という少女。

だが、中にはしっかりとした面構えをする者も何人か見え隠れしている。

熱血系、沈黙系。見た目はよしだが、果てさて中身は、と思う者も何人か居て、正に十人十色だ。

 

「・・・ま。大丈夫でしょう、色々と」

 

そのうち振り落とされるか自分から逃げるかで数は減っていくだろうと本心では思っても居ない事を考え、ティアナは一人訓練校の門を潜って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて。ココで少し陸戦の訓練校について説明しよう。

陸戦魔導師にとって重要となる技術や能力。魔力関係といったものから技能的なものまでのカリキュラムを効率よく組み上げ、それを三年という短い間に実施、生徒達に身に付けさせるのがこの訓練校の主な目的だ。

更に、陸戦魔導師は空戦と違い飛行したり大量の魔力を保有するという事が少ないのでそれを補う為の訓練。連携での作戦行動を行わせるなど実戦的なものを行う。

また個々の能力を反映し個人にあったスキル向上を図るなどもあり、近年では優秀な魔導師を多く排出している。

ただ、その裏では当然ながら振り落とされる者も少なからず存在する。

訓練を軽視して居た者、耐え切れない者。理由は様々。

だが、乗り越えれば精神的にも成長し、最終的には一般からすれば優秀と見られるほどの実力になる。見返りは十分にあるのだ。

 

 

 

 

つまり、漫画などのような二次元で言い表すなら、落ちこぼれの主人公でも最終的には強大な悪を倒せる力を最低でも持てるようになるという事。

ただし、それはあくまで訓練校を無事卒業できればの話だ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

= 訓練校・学長室 =

 

 

「さて。今年の入学希望者は?」

 

「去年の1.3倍。約五百そこそこです。毎年ながらはじめは(・・・・)多いですな」

 

場所は変わり、訓練校の学長室では二人の壮年の男二人が面と向き合った状態で椅子に腰掛けて、テーブルに置かれた入れたての緑茶に手をつけていた。

一人はまだ若さが残る黒い髪の短髪と無精ひげを生やす男。退役将校である人物で訓練校の学長だ。

その彼と対面して座っている白髪のおやj……男は、管理局の陸戦魔導師専門の特殊部隊(・・・・・・・)。108部隊司令、ゲンヤ・ナカジマだ。

 

「五百・・・まぁ予想の範疇ですかな。近年では就職率だなんだで騒がれてますからね」

 

「態の良い職場だと思っている・・・なーんて思ってたら大間違いなのは後で気づくんですがね。そういう奴等は」

 

「ええ。今年の振り落としは大いに期待できますな」

 

「ははは・・・まったくです」

 

と、笑いながら雑談を楽しむ壮年二人だが、実際会話の内容は聞き方によっては容赦ないことを平然と話しているとしか思えないものばかり。

自身たちが所属している組織への悪口から始まり、職場の鬱憤。更には新人が入ってきた目的への文句等々・・・悪態づいた事を延々と話していたのだ。

 

(この二人、いつも顔を見合わせたら居酒屋モードなんだから・・・)

 

その光景を呆れた様子で聞くのは、108に所属する局員でゲンヤの娘、ギンガ・ナカジマで何時もの事だと思ってはいたが、流石に何時も長話を聞かされている身としては敵わないと、見切りの良いところで釘を刺した。

 

「・・・お二方。長話も良いですけど、そろそろ用意しなければいけませんよ?」

 

「おっと。もうそんな時間か」

 

「早いモンですな時間が過ぎるのは」

 

「まったくだよ、歳を取ってしまっては余計に早く―――」

 

「お二方?」

 

「・・・分かってるってギンガ。そんな眉間にしわ寄せてたらシワがで―――」

 

「ゲンヤ司令?」

 

「・・・すまん」

 

ゴキッ、と骨が鳴った音を聞き青ざめた二人は彼女の怒りと鉄拳が爆発する前にとさっさと学長室を退室する。

娘ながら彼女が怒りを見せればゲンヤでも頭を下げるしか謝る方法がないらしく、「そんな娘に育てた覚えはねぇのになぁ」と時折ぼやいていた。

明らかに尻しにかれた父親の姿に友人たる学長も同情の念を見せた。

 

「もうっ・・・今日はあの子(・・・)が入る日なんですよ?」

 

「わってるって。特等席から見れる大切な日なんだからな」

 

そう笑いながら歩いていったゲンヤの背を見て、ギンガは小さく微笑む。

 

「まったく・・・我が父ながら・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今や陸戦魔導師というのは空戦魔導師に変わり、花形職業と言っても過言ではない。

多大な戦果。多くの実績。優秀な局員。

少し前までは一部の空戦魔導師が広告塔のようにライトを浴びていたが、近年の陸戦の目覚しい実績等があり、完全に立場を失いつつある。

故に、近年では空戦魔導師の希望者は年々減少していき、その減少の原因。吸い取ったかのように陸戦は希望者数を伸ばしていた。

 

そして今。その陸戦魔導師になるための訓練校の道が開いたのだ。

 

 

 

『あー・・・先ほどご紹介に預かりました・・・108部隊の司令官をしているゲンヤ・ナカジマですっ』

 

ぶっきらぼうな物言いと表情で壇上に立ったゲンヤは内心「面倒だな」と思いつつも彼の姿勢に目を光らせる他の陸戦将官を窺いつつ話を進めていた。

せめて礼儀だけは出来ていると知ってもらいたいと他の将官、佐官は思って彼を見ていたのだが・・・

 

『・・・・・・はぁ・・・堅苦しいのはここまでにしようや』

 

と、狙っていたかのように言い出したゲンヤに、将佐官一同は呆れてずっこけていた。

これには釣られて新人たちも笑っていたりと、緊張の解れには丁度よかったのだろう。

しかし将官たちにとってはせめてもう少しは頑張ってもらいたかったようで、特にギンガは頭を抱えて近くの人間にも聞こえるほどの溜息を吐いていた。

 

『さて。改めて、お前さんらにおめでとうと言わせてもらうが・・・ココで気を抜いたらお前等は明日にはココを去ることになるぞ』

 

(・・・。)

 

しかしそこからはゲンヤなりの話が始まり、真剣な眼差しとなった彼を見て意外そうな表情を見せる者も居た。

 

『はっきりと言わせてもらう。ココはお前等が思っているほど生易しい所じゃない。本気で陸戦魔導師、またはそれに近しいものになる奴等が入る場所だ。職だ金だとか思っている奴等が居るなら・・・今ココから出て行っても俺は何も言わん。知らなかったんだからな』

 

図星の者が居たのか、何人かがぎくりと表情を変え目線を逸らす。

それは新人だけでなく、一応ながら同席が許されていた親兄弟もで、特に母親の八割方が表情を暗くした。

 

『ココは陸戦魔導師を育てる場所。最悪の場合、俺たちのように戦地に赴くなんてこともある。残念ながら空戦のように空からドンパチなんてことは一切無い。

 

 

分かるか?入れば最後、「絶対に安全」なんてのは無くなっちまうんだ』

 

 

「へぇ。どうしてなかなか・・・肝据わってる人ね」

 

『俺たちの仕事はそれだけ危険であると言う事。はっきり言えば得なんぞ無いに等しい。それでも、俺たちと同じ場所に居てみたいっつー馬鹿野郎どもは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついて来な。ココはそう言う馬鹿が集まる世界だからな・・・!』

 

 

その言葉に誰もが震えた。

怯えて震えた者。どうせハッタリだと思っているのに本能がそうさせた者。

後悔した者。

 

 

そして、武者震いをした者。

俄然、馬鹿になった者。

 

面白い、と興味を見せた者。

 

この瞬間。彼らは二つに分かれる。

去る者と残る者。利口な者と、馬鹿になった者に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で。大切な初日でそんな馬鹿なことを言った馬鹿の今の心境は?」

 

「まぁ良かったんではないでしょうか、中将」

 

その後。再び学長室に集まったゲンヤや学園長だが、其処にはギンガは居らず、代わりに二人の男女がソファーに腰をかけ、そのソファーの後ろに立っていた。

陸戦魔導師の総本山。地上本部のトップであるレジアス・ゲイズとその娘であるオーリス。

現在の陸戦魔導師、そして地上本部の体制を気づいた男がそこに座っていたのだ。

 

しかし現在レジアスの表情はいつもよりも曇っている。

いや、半ば怒りを爆発させる数分前といった様子だ。

まるで活火山が今にも吹き出してしまいそうな、そんな表情相手にゲンヤはマイペースに言い返していた。

 

「・・・・・・。」

 

「ゲンヤ三佐。毎度のことながら度が過ぎます。これでは・・・」

 

「まぁ分かってますよ、オーリス三佐。ですが最近の若者にはこれぐらいの方が丁度良い。軽くしか見ていない馬鹿には、ね」

 

「・・・・・・。」

 

深く溜息を吐いたレジアスはゲンヤと学長に残った人数を尋ねる。

あの後、かなり場の空気が冷えていたのでかなりの人数が止めたはずだ。

 

「・・・で。あの演説でどれだけ減った」

 

「正門の私服隊員たちの話だと約半数。つまり残ったのは・・・」

 

 

「二百五十・・・あるか無いかって所ですかね」

 

「・・・・・・。」

 

「過半数・・・まさかそれ程とは・・・」

 

「それだけウチの事を軽く見ていた馬鹿が居たって事でしょうな」

 

学長から聞かされた数にレジアスは深く椅子にもたれかかる。

確かに学長が言ったとおりなのだろう。それだけの脱落者が居るという事はそれだけ軽視していたという事。そこは素直に喜ぶべきなのだろう。

だが、問題はその脱落者が世間でこの事(脱落)をどういうかだ。

中には話に虚実を織り交ぜ肥大させた話を言いふらす物も居るだろう。

もしそんな嘘か真か分からない事が世に出回ってしまってはどうなるか。

そこをオーリスは敏感に警戒していたのだ。

 

「ですが、それでは脱落した者達が何をしでかすか・・・」

 

「それは多分ないでしょうな。仮にもウチは管理局。組織の行動が明確なほど嘘を並べても信じられにくいでしょうに」

 

「・・・。」

 

「それに、何時までもそんな事を考えてたら前には進まんでしょ。落ちたなら落ちたでさっさと前に進めるべきです」

 

 

「・・・では、既に訓練生たちは?」

 

「ええ。今頃、ゲンヤ三佐が連れて来た隊員たちも手伝っているでしょうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃。

訓練生たちは少し古風な掲示板のある場所に集まり、あるものを確認していた。

再度割り振りが行われた部屋割りの一覧が大きく張り出されていたのだ。

ゲンヤの脅し混じりの演説に屈せず残った約二百五十人をもう一度シャッフルし、二人一組の部屋に振り分けたようで見出しには括弧書きの中に「再編版」と書かれている。

どうやらかなり大幅な再編のようで訓練生の中には元々予定されていた部屋の組み合わせが変わったことによって様々な表情を見せる者が居た。

仲の良い二人が離れたり、いやだと思っていた相手と離れられたりと見せる顔は様々。

その中、ティアナは一人人ごみの中を潜り、張られていた一覧から自分の名前と割り当てられた部屋の番号を確認する。

 

 

「えっと、ミ・・・ティアナっと・・・」

 

 

ちなみに、ティアナ・ランスターの名前は都合上ややこしくなる原因であるので今回の場合は姓を偽装している。その間の姓は本人が預かり知らぬ間に『ミラー』の姓になっていたのだ。

これには本人も我慢ならず、立案者兼犯人である某杉田を約半日CQC訓練のサンドバッグにしたという。

 

「・・・32号室ね」

 

自身の名前を思い出しただけで腹が立ったティアナは、その名前を視界から消す為に素早く部屋の番号を確認すると、直ぐ様その場を後にした。

いくら任務とはいえ、自分に話も無しとなれば酷いとしか言い様がない。

しかも、これが独断で決められたとなれば尚の事だ。

 

「はぁ・・・あんなグラサンの名前を使うなんて・・・せめて他のにして貰いたかった・・・」

 

ぶつくさと呟きながら割り振られた部屋へと歩いていく。

自分の知らない所で名前を決められるなどという事は誰だって嫌な事だ。

正直危険に曝されるのはグラサンだけで十分だ、と。

 

 

なのに、自分も危険に曝されるとなると余計に恨めしくなる。

 

 

 

 

「―――ん?」

 

「あ―――」

 

刹那。ティアナは正面から歩いてきた人物の姿を見た瞬間、血の気が引き全身が冷たく凍り付いてしまう。

記憶の中に刻まれた恐怖が、見た瞬間に呼び覚まされたのだ。

 

「――――――!!」

 

 

青いロングヘアーと過去の出来事で僅かながら焦げた肌。間違いない。

彼女の前に現れた人物、ギンガにティアナは無意識に警戒心を持ち焦りの表情を見せていた。

 

(げっ・・・まさかココで鉢合わせるなんて・・・)

 

挨拶の時に顔は見ていたので警戒はしていた。

出来るだけ会わないようにと心がけていたのだが、偶然出会ってしまったらどうするという想定を考えていなかった所為か、顔が見合った瞬間、頭の中が真っ白になってしまう。

どう対応するべきなのか。どういい訳したらやり過ごせるだろうか。

 

「貴方・・・訓練生?」

 

「えっ・・・ええ。はい・・・」

 

思った矢先、ギンガは何の疑いもなくティアナに話しかけてくる。しかし話の内容は他愛の無い事なので答えるのは簡単だ。

それでも上ずった声で答えるしか出来ないティアナは目線をずらし出来るだけギンガと目を合わせないようにする。

 

「ふーん・・・」

 

「・・・えっと・・・なにか?」

 

何か考えるかのようなポーズを取り、全身をジロジロと見つめるギンガに恥ずかしくも焦ったような声で聞き返す。

すると、その質問を待っていたかのように、ギンガは舌なめずりをして興味のありそうな表情と声で答えた。

 

「・・・いい身体してるわね」

 

「――――――へ?」

 

「うちの妹も大概いい身体と肉付きしてるけど・・・うん。うま―――実にいい体格してるわ。陸戦に入って正解よ」

 

「・・・・・・。」

 

 

今一瞬「うま」と言わなかっただろうか。

まさかと思うが、と頭の隅で余計な疑惑が浮かび上がり警戒と焦りは段々と薄れていく。

今あるのは単なる恐怖だけだ。

彼女の性格に対する、本能的な恐怖。

まさかと思うが・・・

 

「・・・・・・ねぇ」

 

「・・・はい」

 

「名前、なんていうの?」

 

「・・・・・・ティ・・・ティアナ・・・ミラーです」

 

「そう・・・じゃあミラーさん」

 

「な、ナンデゴザイマショウカ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今夜、私の部屋に一人で来なさい」

 

 

 

野生の肉食獣の目だった。

 

 

 

百合(レズ)に興味はありませんッッっ!!!!!!」

 

 

 

全力で否定して逃走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

全力疾走で逃げたティアナは疲労した身体を休め、壁に手をつけて呼吸を整えていた。

ここまで体力を消耗して疲労する事など最近では殆ど無かったので久しぶりな感覚だなと懐かしむが、その感覚を呼び覚ました原因を思うと気分が落ちてしまう。

思った以上に撒くのに手間取ったと言いたいが、恐らくまだ油断は出来ないだろう。

ティアナが逃げた直後に、不敵な笑い声と共に追いかけてきたギンガから逃げるのに一時間近くを費やし、出来る限り逃げたり隠れたりとしてやり過ごそうとしたのだが、どれも彼女には通用しなかった。

ダンボールに隠れる。ドラム缶で転がる。デコイを使う。グラサンを投げる。

 

 

正直ここまで帰りたいと思った事は無いだろう。

 

 

「はぁ・・・・・・なんちゅー連中よったく・・・本当にロクでもない組織ね・・・」

 

深く息を吐き、呼吸を整えるとぼやくように悪態を吐く。

内心帰りたい一心だが、任務を投げ出してというのも駄目な事。その為に自分は態々ここまで来たのだ。

こんな事でやめると言ったら単なる根性無しとしか思えない。自分でも分かっている事を考えるティアナは諦めて帰りたいと、それでもココに残らなければいけないと相反する思いを胸にしまうと、ゆっくりと上半身を起こした

その時だ。

 

 

 

「あのー・・・」

 

「ッ!!!」

 

突然後ろから聞こえてきた声に、思わず振り向いたティアナは直ぐ様後ろへと振り返る。

何時の間に自分の後ろに立っていた、と驚きつつも後ろを取られた事で臨戦態勢を取ろうとした。が、その人物を見た瞬間、警戒心は消え失せてしまった。

そこには、一人の同い年ほどの少女が立っていたのだ。何の変哲もない、ただ気遣いでティアナに声を掛けた青いショートヘアーの少女が。

向こうも突然振り向いた事に驚いたのか半歩下がっており、驚いた顔は今の彼女の様子そのもの。

空回りしてしまった警戒が解けてしまい、二人の間に気まずい沈黙が流れた。

 

 

「「・・・・・・・・・。」」

 

 

このままでは不味い。そう思い、ティアナが適当に言ってこの場を収めようかとした時。

同じ事を思っていたのか、相手の少女が先に口を開いた。

 

「えと・・・だい、じょうぶ・・・ですか?」

 

「え、ええ・・・ちょっと走って疲れただけだから平気よ・・・」

 

心配なのは確かだが、聞いてもいいのかと気まずさに飲まれ言葉は途切れ途切れとなるが一応ながらティアナへと尋ねる。

聞かれた本人も気まずい空気に飲まれていたが、冷静さを取り戻し返事をする。

 

「え、走ってたって・・・」

 

「・・・変人に追っかけられてただけ。逃げ切ったからいいケド・・・」

 

「・・・本当に大丈夫ですか?」

 

「・・・まぁ大丈夫よ。心配させてごめんなさい」

 

「・・・・・・。」

 

とりあえず本人が大丈夫と言っているのだ。大丈夫なのだろう。

そう思い、ひとまず胸を撫で下ろした少女は、図々しいとは思うがと彼女へと願い出る。

 

 

「・・・あー・・・そのー・・・」

 

「・・・?」

 

「そこドアの前・・・」

 

「・・・あ」

 

 

今更ながら自分が手をつけていたのが目的地のドアである事に気づいたティアナは、悪くは思いつつも寧ろ好都合と思い返事をした。

 

「大丈夫よ。ここ、私が使う部屋だから」

 

「・・・へ?」

 

「・・・ん?」

 

すると帰って来たのは抜けた声で、その声に釣られて同じく抜けた声を出す。

ティアナの脳裏に「もしかして」と予想が浮かび上がる。

 

 

「・・・え・・・ってことは・・・」

 

「・・・・・・ああ」

 

 

 

「貴方が・・・ミラーさん?」

 

「・・・・・・。」

 

ミラーの単語に不愉快さを感じたが、彼女の脳裏に浮かんでいたもしかしてが的中する。

彼女が部屋のパートナーだ。

 

「え、違ってた・・・?」

 

「・・・いや、間違ってないけど・・・姓で呼ばれるのは好きじゃないの(勝手に決められた意味で)」

 

「え・・・?」

 

「だから。これから呼ぶときはティアナって呼んで。私の名前だから」

 

「・・・あ、はい」

 

どうして姓が嫌いなんだろう、と本人にとって深い理由をとてもではないが聞けそうに無かった少女はそのまま彼女の言葉に頷く。

別に嫌な訳ではない。ただ少し驚いただけだ。

そう思い、調子を取り戻した少女は返答代わりにと自己紹介をした。

 

「私はスバル。スバル・ナカジマです。よろしくね、ティアナ」

 

「よろしく。ナカジ・・・ナカジマ?」

 

「うん。さっき壇上に居たのはアタシのお義父さん。で、後ろに座っていたのはお姉ちゃん」

 

「・・・・・・。」

 

 

つまり。自分は彼女の姉に追っかけられていたという事。

そして、最悪の場合また鉢合わせする確率が格段に向上したという事。

 

前途多難。一難去ってまた一難。

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶっちゃけありえない。

 

ティアナの目の前は一瞬にして真っ暗になったのだった。




オマケのキャラクター設定。


ティアナ・ランスター

Old : 13(前日談時) 16(本編開始時)
Like / Don't Like : 愛用銃のメンテナンス マウンテンデュー 安心できる場所 / 管理局(制服は特に) ミラー(完全に嫌いと言う訳ではない) 空爆 砲撃 子ども扱い
Affiliation : 元・国境なき軍隊 実戦部隊スタッフ
Staff Rank : 実戦・A  開発・C 糧食・C 医療・D 諜報・B
Skill : ガンミス(ハンドガン・狙撃銃) グリーンベレー 声優 

本作の主人公。ちなみに歳は一話開始前に誕生日を迎えたとの事。
原作とは違い凡人だなんだというコンプレックスは無く、寧ろ凡人とは何なのかと逆に問いたいと思っている。また、髪はツインではなくそのままロングヘアーで伸ばしており、腰近くまで伸びている。短髪にする考えもあったが、子供の頃に兄に「ロングが似合う」と言われたのを切っ掛けにロングヘアーを続けている。
性格は基本的に優しくも冷静。また現実主義ではあるが理想主義は否定はしない。が、あくまで否定しないだけで反論する事もあり、その場合は徹底的に否定を通す。
戦場では冷徹なもので敵と判別されたら息の根を確実に止めるまで続け、その為に狙撃についてはハンドガンでの近接に続き高い。CQCではスタンロッドはあまり使わず、殆どナイフを使用して尋問したりする。
魔法・魔術に関しては素人に毛が少し生えた程度ではあるが才能自体はあるようで既に幾つ物技を身に付けており、原作のものは粗方習得。オリジナルの物も編み出している。


過去の出来事から兄を失い、独りとなってしまった為に生きる活力を失ってしまい、兄の死後間も無くして自殺しようとしていた。
しかし、そこに偶然ながらスネーク(ビッグ・ボス)が現れ彼女を保護。その後、彼の組織したMSFに身を置く。当時は孤児院に預けられる予定だったが本人が頑なに拒否し、暴れた為に孤児院行きは取りやめられ「戦う力が欲しい」という理由で訓練の参加を申し出る。
それに折れたスネークは、彼女に対し一対一での訓練の手ほどきをする。
数年後には実戦部隊のスタッフとして子供ながら戦場に立ち、八歳の時には幾つもの戦場を渡っていた。
今回はスパイ活動として管理局に潜入。先行き不安ながらも独り奮闘する。


= Weapon =
主にべレッタM9とナイフを携行し任務によってはMP5やM10を使用する。
また狙撃にはレミントンM700かVSSを使用。また幼い時はM21を使っていた。
戦闘スタイルは狙撃か銃による接近戦で主に後者をメインとしている為、リロードはスネークよりも若干速い。

最近はリボルバーに興味を示しており、特にマテバ6Unicaなどの系列を好んでいる。


魔法・魔術は最近から使い始め(というか学び始め)、主にアームドデバイスを使用。M9とレミントンM700をモデルにした二つだけを使っている。
M9タイプでは複数の魔力スフィアを同時に生成し時間差での攻撃だったり、マーカー弾代わりに貼り付けたりする事ができ、M700では魔力を通す事でスコープを更に倍率化。弾の大きさや貫通力を調整したりも出来る。
また原作通り幻影魔術も多少ながら使えるが、まだ慣れていないために消費魔力はかなり多いというデメリットを持つ。


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第四話 「香りし臭いは」

ちょっと早いかなって思う第四話です。

かなりはしょった内容となってしまいましたが、これで前日談は一応ながら終了。
次回からいよいよ本編です。ええ。《本編》ですよ、ぐへへへへへへ(ゲスッチ顔)

ちなみにタグにあるとおりオリキャラも出ますが・・・多分そこまで登場回数は多くないと思います。ハイ。

それでは、なんだかんだでNanoha×MGS、スタートです!


 

 

 

 

 

 

 

 

Side Teana

 

 

 

 

 

「~♪~~♪~~♪」

 

 

 

 

 

脳裏にこびり付いた記憶を、時折思い起こす事がある。

 

照りつける太陽。

清々とした青空と白い雲。

 

そして、その下で香る

 

 

 

 

 

 

 

死臭と火の臭い。

 

 

 

 

 

砂と廃材に混じり匂うそのクセのある臭いは、鼻から入ると脳を刺激する。

コンバット・ハイ(戦意高揚状態)とでも言うのだろうか。

どろりとした甘ったるい血の臭いと、それに混ざり合うかのように絶妙なアクセントを醸し出す火薬と火の臭い。

 

それを、私は日の光が当たる廃墟の中で鼻歌を歌いながら次の獲物を待っていた。

 

甘い血の臭いを吹き出してくれる、タダのデク人形を待つ為に――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

= 現在 =

 

曇りひとつもない青空の下。

廃墟群の中に聳え立つビルの屋上から、反対側に建つビルの中を少女は窺う。

焦る事も無く、動じる事も無く、ただ冷静に自分の視界から見えるビルの中を投影式のディスプレイから確認していた。

 

『――――ハウンド(猟犬)よりフォックス()。配置についた』

 

『同じくキャット()。配置についたわ』

 

「・・・了解。ヴォルフ()そっちは?」

 

ノイズ交じりの念話が頭に響くと、少女は応答し準備が着々と進んでいる事に感心する。

だが、ただ一人。まだ報告が来ていないと気づいた彼女は、最後の一人が何をしているのかと口で声を出しながら念話を行う。

 

 

 

『えっと・・・予定位置到着・・・完了。いつでも』

 

「遅い。実戦なら命取りよ」

 

『ウッ・・・』

 

最後の一人が今更準備が出来たと報告してきた事に、少女は当然のことのように冷淡に咎めた。言われた側は、そこまで傷ついてないが若干心に響いたのか、声を漏らしていた。

 

 

『ははは・・・相変わらず、アイツには厳しいな。お前は』

 

『当たり前でしょ。実戦は時間も大切。一秒の遅れで戦況が変わることがあるって聞いてなかったの?』

 

『聞いてた。けど、まるでこいつ等二人が犬と飼い主みたいだからさ・・・』

 

『い、犬ってアタシ!?』

 

『お前以外に誰が居る?忠犬ス―――』

 

「私語は慎め。二人共」

 

『ちょっ、どうして俺たちだけだよ!?』

 

『そうだよ!レミィだって・・・』

 

「黙っとけと言ってるのが分からないの。二人共?」

 

『『・・・・・・・ハイ』』

 

『・・・自業自得ね』

 

状況そっちのけで話していた二人に少女は冷たい物言いで黙らせる。

逆らえないと思ったのか。はたまた逆らえないと知っていたのか。二人は直ぐに彼女の言葉を受け入れ、低い声で返事を返した。

その中で早々に話すのを止めたもう一人の少女ことレミィは、小さく溜息を吐いて二人の馬鹿っぽさに呆れていた。

 

 

だがもう、そんな余裕も猶予もない。あと少しで始まる事に口に重りをつけたかのように黙り込む。

叱られていた二人もそうだ。気落ちした表情から直ぐに真剣なものに変わり、全身に力を込める。そうすることで自然と身体に緊張感を持たせ、気の緩みを無くさせているのだ。

三人が直ぐに切り替えたのを確認したのか少女は口元を釣り上げ、念話で全員に最終確認を行う。

 

「作戦開始までツーミニッツ(二分後)。用意できてる?」

 

『いつでも、お姫様』

 

『同じく』

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・いけるよ、ティア』

 

 

 

 

 

 

 

「――――――Angriff(突撃)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティアナが陸戦魔導師の訓練校に入学してから三年の月日が経った。

 

 

様々な情勢の変化。朗報。ニュースなどが飛び交っていたが、ティアナはその大まかな事しか頭に入れず、本来受けるはずであった勉学に励んでいた。

元々、彼女は普通に行くはずであった学校を行かなかったので、筆記自体は入学当時はスバル以下。しかし彼女の励みと必死の甲斐もあってか、今では立場も含め逆転している。

 

 

同時に彼女の周りにも変化があった。

いわば同い年の友人。同級生が彼女にはできたのだ。

ルームメイトのスバルを始め、実践訓練時に組む他のルームペアたち。

そしてその中で最も関係を築いたのが、先ほどの少女レミィとパートナーのライ。

初めての女友達という未知の領域に四苦八苦していたが、現在では良き仲間である。

 

戦場では。MSFでは学ぶ事も出来なかっただろう多くのことを学び、知ったティアナは人としても戦士としても。そして魔導師としても飛躍的な成長を遂げたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

が。その成長の所為で色々とトラブル等が絶えないのも、また事実だったりする・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日のこと。学長室にティアナとレミィの二人は学長に呼ばれていた。

緊張した趣で学長と目を合わせる二人は背筋を伸ばし、唾を飲み込んでいた。普段ならそこまで緊張はしないが、今回ばかりはそうもいかなかった。

今回呼ばれたのは、彼女達にとって最も重要な事が彼から発表されるからで、学長も真剣な眼差しで口を開いた。

 

「・・・さて。ミラー、ブロウニング両訓練生」

 

「―――はい」

 

「はっ―――」

 

 

「昨日行われた最終実技試験の結果だが・・・」

 

「「・・・・・・。」」

 

 

 

「おめでとう。両ペアともに合格だ」

 

 

「・・・ふうっ」

 

「・・・・・・。」

 

試験通知の結果を聞き、合格であると分かった二人はホッと胸を撫で下ろした。

昨日、彼女達四人は陸戦魔導師としての最終試験を受けていた。これを合格すれば晴れて訓練生たちは陸戦魔導師となり、管理局の一員になることが出来るのだ。

内容は実践形式の実技試験で、ビル内に拘束された人質を救出。犯人グループを確保しろというものだった。

 

その結果用紙を見せられた二人は不安が取り除かれてホッとしていた。のだが・・・

 

「ただ・・・」

 

「・・・ただ?」

 

「・・・?」

 

「・・・ミラー君。君の所には私が少し書き足しているから、後で読んでくれたまえ」

 

「―――はぁ・・・」

 

なにやら別の何かを隠していたのか、学長は不安げな表情を見せてティアナに言った。

先ほどまでの真剣な眼差しから解けるように変化した表情は不安というよりも困っているといったほうが正しいのだろうか。

それでも彼女の合格通知には変わりは無かったのでその時はティアナは詮索は行わなかった。が、その表情と言葉の理由が、自分たちの合格用紙に書かれていることを、ティアナは退室直後に知ることになる・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、訓練校にあるラウンジではティアナとレミィのパートナーであるスバルとライが、軽食を取りつつ今後の進路について語り合っていた。

まだ合格通知の合否を聞いても居ないのに早い事ではあるが、一応ながらあくまで合格したらという事で話を進めていた。

 

「ところでスバルよぉ」

 

「んお?」

 

「お前、卒業(合格)したら何処に入るんだ?」

 

「―――うっん。何処って・・・前に話したじゃん。私もティアも第七陸戦師団に入ってから108(父のところ)だって」

 

「・・・そういやそうだったな」

 

口に放り込んでいたベーコンドッグを喉の奥へと飲み込んだスバルは、口元にパンくずを残した顔でライの問いに答える。

過去に聞いたことをもう一度聞くのかと思っていたが、ライは彼女の口から語られるまで忘れていたようで、頭を掻いて面目なさそうにしていた。

 

「第七師団・・・本土(ミッド)防衛為に最近創設された錬度育成師団だっけか」

 

「うん。時々、他の師団の後方支援だったり兵員補充の為に駆り出されることもあるけど、期間付きが殆どだから心配ないだろうって。お父さんがね」

 

「・・・親父さん、確か元は・・・」

 

「そ。その事もあって、ちょっと過保護だと思うんだけどね・・・」

 

父の優しさには嬉しさを感じるスバルだが、もう少し自分が成長していると見て欲しいというのが彼女の本音だ。

彼女だってそれなりに力はつけているので前線行きでないにしろレスキュー隊だったりと興味のある部署などは多く存在した。だが、父というよりも経験者としてか「まだまだ実力不足だ」という事で彼女の技術に磨きをかける為にその師団を推薦したらしい。

最初こそスバルは推薦には反対していたが、実際師団の訓練の様子などを見ている内に、気が変わったのか、推薦ではなく自身の希望として師団行きを決めたのだ。

 

「けど、最終的にお前自身で決めたんだろ?推薦つっぱねて」

 

「うん。その時、お父さんの顔ったら・・・」

 

「・・・?」

 

「いや、灰になったような顔で呆然としてたからさ・・・くくくっ・・・」

 

その時の事を思い出し、笑いのツボに触ったのかスバルは一人でに笑い出していた。

どうやら父としては推薦は必要なくても受けて欲しかったのだろうと思ったライは、苦笑気味の顔でスバルの笑い顔を見ていた。

 

 

 

 

「あら、随分と楽しそうねスバル」

 

「―――ん」

 

「あ、ティア。レミィも」

 

「また二人で変な事でも話してたの?」

 

唐突に正面から声を掛けられたスバルは笑っていた顔を見上げて、声の主であるレミィとその隣に立っていたティアナの名前を呼ぶ。彼女が顔を上げたのに釣られてライも目線をスバルからレミィたちの方に向け、帰って来たという事はと思い、直ぐに話を其方に切り替える。

 

「まぁな。ところで、お前等が戻ってきたって事は・・・」

 

「ええ。合否は聞いてきたわよ」

 

「あ!どうだった!?」

 

「落ち着きなさいスバル。アンタの期待には答えられるわよ」

 

合格である事を遠まわしに告げたティアナはその証拠として通知の紙をスバルに渡す。レミィも同じくライに渡し、二人が合格できたという喜びの笑顔を再度確かめさせた。

 

「やった・・・!」

 

「ま。あれだけやったんだ。不合格なほうが可笑しいぜ」

 

「・・・かも、しれないわね、ティアナ?」

 

「・・・・・・うっさい」

 

「・・・?」

 

小さくガッツポーズをして合格に喜ぶスバルと、当然のように笑みを見せるライ。

しかしライの言葉にレミィは可笑しそうな笑い顔を見せてティアナへと投げかける。当のティアナはばつの悪い顔で頭を抱えて目線をズラしている。しかもどこか苛立ったような雰囲気にライは何があったのかと疑問に感じた。

 

 

「・・・あれ。なんか追加で・・・」

 

すると、用紙を眺めていたスバルが、最下部に二文ほど機械のとは違う、誰か人が書いたような文面を見つけ、その文章を目を凝らして流し読みする。

そこにティアナの表情の真実があったのだ。

それが―――

 

 

 

 

 

 

 

 

“ 今後、無闇やたらと建物を倒壊(・・)させないように。(二人そろって)壊すのは簡単ですが、作るのには苦労するんです。師団に入ったら自重するように “

 

 

「・・・・・・ティア―――」

 

「アンタだって同罪なんだからね」

 

「あ、うん・・・」

 

 

ちなみに。これが原因で、二人は「ふたりはクラッシャーズ」という不名誉な異名をもった事になったという。

原因は、その名の通り。眼前の建物はバジリスクが乗った岩の如くになってしまうからだ。

 

「これ、大丈夫なのか?師団の話が無くなったりとか・・・」

 

「一応、向こうは「心配するな」って言ってるから大丈夫なんじゃない。私等は知らないけど」

 

「知らんってお前・・・一応お前等の行いが招いた事だぞ?」

 

「別に平気よ。人が救えるなら、建物の一つや二つ。倒壊しようが問題ないわ」

 

「それには同意するわ。慈悲は無い」

 

「に、ニンジャもびっくりの考えだよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうか。取りあえずは、ミッドに残れたんだな』

 

「はい。都合よく第七師団が創設されたので、幸いでした」

 

訓練校の一角。人気の全くない場所にティアナは一人、通信用デバイスを持ちある人物と連絡を取り合っていた。

彼女のことを知る数少ない人物で恩師である彼は、その声を聞くだけでも安心できるほどで、彼の器の大きさもあってか信頼する人物は数多い。

 

『直接108という方法は矢張り無理だったのか』

 

「ええ・・・向こうも一応、受け入れる人数を決めていましたから・・・」

 

『・・・まぁ、何にせよ。無事に入れるという事だな』

 

「ええ。ありがとう御座います、ボス」

 

ビッグ・ボス。

またの名をスネークが、画面越しに「そんなことはない」と返す。

蛇のような鋭い目と右目の眼帯。そして、トレードマークであるバンダナを付けた彼は、その屈強な顔つきにも関わらず、威圧感のない表情。人間らしい笑みを見せて答えた。

 

『ここまで出来たのはお前の力だ。俺のお陰じゃないさ』

 

「・・・けど、貴方が技術を授けてくれたから、私は戦い方を知り。更に高める事ができた。もしそうじゃなかったら、私はずっと足踏みしていましたよ」

 

『・・・それは「もしも」の事だ。今のお前ではない。ありもしない自分と比べるなと言ってるだろ』

 

「―――。」

 

『お前はあの死線を潜り抜けて、一人の戦士になった。違うか?』

 

「そうですが・・・それを可能にしてくれたのは貴方です。私一人でどうにかなることじゃなかった」

 

『だが、最終的にはおまえ自身の力で生き抜いたんだ』

 

「・・・・・・。」

 

『もっと自分の力に自信を持て。いくら人にどうこうされようとも、最後に決めるのは他人じゃない。自分自身だ』

 

 

「・・・自分自身・・・か―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

= 約一年前 =

 

 

ティアナとスバルが卒業する前の事。ある日、スバルが二枚の用紙を持ってティアナに進路について、話を持ちかけたことがあった。

当の本人はまだ勉学に勤しんでいた時なので、聞いたときには専用の眼鏡を掛け、机に向き合っている最中だった。

 

 

「希望進路?」

 

「うん。訓練校卒業後に、何処に入るか決めておけってメリッサ先生が」

 

当時、ティアナは別にミッドに残れればそれで良いと考え、明確に進路は決めていなかった。彼女にとって、正直どこでも一緒だろうというのが本音だったのだ。

 

「・・・別にどこでもいいんじゃない?それに、直ぐに決めなきゃいけないって理由もないんだし・・・」

 

「駄目だよ、ティア。ちゃんと決めないと、コレ後々響いちゃうんだよ?特に、お給料とか」

 

「ぶっ―――なんでたかが進路で給料変わるのよ!?」

 

「さぁ?なんか、キャリア(経歴)実戦(結果)で変化あるみたい」

 

「はぁ・・・?」

 

しかし、スバルの話を聞き、堕落っぷりに呆れたティアナはどういう神経をしている、と頭を抱えた。

たかがそんな事だけで給料を上げ下げするなら、インチキ(改ざん)すれば楽な話なのだ。

それを分かっているのか、それとも分からずなのか。

正義の味方は気楽だな、と深く溜息を吐いていた。

 

「・・・どうしたの、ティア?」

 

「・・・いえ、世間の馬鹿っぷりに呆れただけよ」

 

「もしかして、インチキしたら上がるって思ってる?」

 

「―――。」

 

「大丈夫だよ。(陸戦)にも(制服)にも、中立立場の監査官がいるから、毎年そう言うのを徹底的に調査して決めてるって話だから」

 

一応は分かっているのかと思える措置を彼女の口から聞き、それでも軽く賄賂ぐらいはされてるのではないかと疑惑を持つ。

スバルの顔は大丈夫と言っているが、彼女にはどうにも信用ならなかったようだ。

 

「・・・都合のいい話ね」

 

「そうでもないよ?実際、去年退職に追い込まれた海の佐官さんが居たでしょ?」

 

「・・・確か、履歴の改ざんと組織資金の不正使用疑惑だったかしら」

 

「うん。それを暴いたのも監査官さんたち。全うな中立立場で、組織以来ほんの極少数の人しか構成員とか分からないんだって」

 

「授業じゃ大体、三十いるか居ないかだったはずだけど?」

 

「それは創設時。言ってたじゃん」

 

「・・・・・・。」

 

「で。結局、ティアはどうするの?進路」

 

「・・・進路、ねぇ―――」

 

 

 

そんな話があった直後。スバルに第七師団推薦の話が滑り込み、それに乗ったティアナも彼女と共に希望を第七師団に決めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

= 現在・同時刻 ミッドチルダ =

 

 

管理局の二大勢力。地上本部と本局。

その中で海と空の二つを護る、「法と秩序の守護者」を称する組織。

空戦魔導師の総本山。管理局本局。

 

そのオフィスの一室では一人の若い女性が、仕事疲れか。それとも、だらけているだけなのかデスクの上に倒れこんでいた。

 

 

「・・・・・・はぁ―――」

 

溜息を吐き、晴れることのない気分をどうやって晴らすべきかと、頬をデスクに擦りつけているその姿は、普段の彼女の態度と雰囲気からすれば到底考えられるものではない。

寧ろ、人前で見せているのはあくまで他人との付き合いの時のもの。本当の彼女はこれなのだろう。

 

「あ゛ーー・・・どないしよぉ・・・」

 

関西弁に似た口調でぼやく少女は、氷が解ける様に全身から力を抜いていき、椅子とデスクとの間に両腕をぶら下げる。辛うじて頭と腰に力を入れているので体勢は保たれているが、一歩間違えれば胴体からズレ落ちるのは明らかだ。

 

だがそうでもしない限り、彼女の悩みは解決しない。

体勢を変え、思考を変え。様々な見方と考え方で解決に導こうとする。

 

が。それを始めて早一時間。その結果がこの有様なのだ。

 

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーー・・・・・・あと・・・後、二人ぃぃぃ・・・」

 

 

 

 

「時間はまだあるのですから、しっかりして下さい。主」

 

オフィスの自動ドアから一人の女性が入り、見っとも無い姿の彼女に声をかける。

ピンクのロングヘアという風変わりな姿をする彼女は、スタイルは整っており。顔つきも凛としたもので、本局内でも容姿の評判はかなり高い。

しかし。彼女こと、シグナムは同時にかなり好戦的な性格で有名な人物でもある。

その所為あってか、彼女についた二つ名は「桃色バーサーカー」だとか。

 

「シーグーナームゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・」

 

「・・・しっかりして下さい。貴方がちゃんとせねば、計画は水の泡なのですよ?」

 

「分かってるねん・・・分かってんねんケドなぁ・・・」

 

「酒屋の酔っ払いみたいな事を言わないで下さい。人前ではその姿、出してはいけませんよ」

 

「ううう・・・・・・」

 

しかし実際、シグナムは割り切りのいい性格で、言えば気持ちの切り替えをしっかりと出来る人物だ。

好戦的になるのはあくまで戦闘などの時。普段はこうして彼女が主と称する女性の世話を焼いたりと至って真面目なのだ。

 

「それに。一応ながら、主の悩みを解決できるものを持ってきました」

 

「・・・解決できるもの?」

 

「はい。今年の陸戦魔導師訓練校の卒業生のリストです。先ほど、ゲンヤ三佐から受け取りました」

 

シグナムが脇に抱えていた資料を入れたファイルを渡すと、その中に入っている分厚い紙の束と一枚目に書かれている卒業生の数に、彼女の目は潤いを取り戻していた。

 

 

「―――へー・・・今年は結構な人数が卒業するんやなぁ」

 

「それでも今年は例年よりも下だといいます。最盛期はその倍はあったと、ゲンヤ三佐も言っておられました」

 

「この際、そういう欲は言わんて。ウチはこうして多くの後輩らが卒業してくれるだけでも嬉しいからなぁ・・・」

 

(・・・空戦の我等がそれを言えば、睨まれるのは目に見えているが・・・)

 

「ふーん・・・今年は結構個性的な子が多いなぁ・・・トラップ、爆破系を得意とした子・・・バトルアックスをメインとした突撃兵タイプ・・・・・・ん?」

 

「どうかしましたか?」

 

思わず手を止め、紙の束の中から二枚の用紙をデクスの上に並べ、他の束をファイルの上に置いた彼女は、何かが目に留まったのか呟くように読み始めた。

 

「スバル・ナカジマ・・・ナカジマってまさか―――」

 

「ええ。ゲンヤ三佐の所の次女のようです」

 

彼女もゲンヤからしつこく娘の話を聞かされており、特に長女のギンガが立派に育ったお陰か、今度は次女のスバルに愛を集中投与し始め、傍から見ればストーカー紛いのことも平然と行っていたそうな。

ちなみに、その全ては自分の権限でもみ消すという公務員にあるまじき行為を過去百単位以上行っている模様。

これには彼女も呆れる他反応が出来なかったという。

 

それを思い出したのだが、それともう一つ。ある事も思いだしていた。

スバル・ナカジマといえば。第一印象として彼女の記憶の鮮明に残っていた記憶を脳裏によみがえらせていたのだ。

 

「それに、この子あの時の・・・」

 

「総合成績は一位。学力も申し分なく、何より格闘戦重視の戦闘スタイルを持つという異例の訓練生のようですね」

 

「うーん・・・けど、格闘技だけでそんな・・・えっ!?柔道、空手、八極拳経験・・・極めつけには軍用格闘術!?」

 

「クロース・クォーターズ・コンバット。CQCですね。ですが、見た限り恐らくかじった程度ではないかと」

 

「かじった程度でも軍人さんの格闘術身に付けてるって・・・どんな子に育ててんねんあの人・・・」

 

彼女たちは知らないが、ゲンヤの教育理念は「基本本人の自由」がモットーで責任をもてるなら、という条件付でゲンヤは彼女が望む事を叶えてあげていた。

当然、賛否をいう事もあったが、本人の根気強さに親として負けたというのが履歴に色濃く出ているのだ。

 

「はぁ・・・最初のインパクトが強すぎて、後の子に響くようで怖いわ・・・」

 

「二人目は・・・彼女のルームペアみたいですね」

 

「らしいな。名前は・・・ティアナ・ミラー・・・変わった名前やなぁ」

 

「それを言うなら、我等もですよ・・・」

 

「それは言わんといて、シグナム・・・ウチ薄々と後悔してるんやから・・・」

 

候補として挙げられたもう一人、ティアナのデータが書かれた紙を自分の目の前に置き、流し読みで見始める二人。何か光るものがあったという勘だけを頼りに取り上げたのだが、二人はその一部始終を見終えると表情を変えていた。

 

「・・・・・・。」

 

「――――なんやこれ・・・」

 

「・・・ナカジマも大概ですが、こちらも別の意味でなかなか・・・」

 

始めは心配気味だった表情がここまで一変したのは、彼女の学業などの成績が余りにも現実的でなかったからだ。

自分が知る中でもココまで飛躍的に能力を伸ばした人間が過去にいただろうか、と自身に問いかけたが、直ぐ様「無い」と断言できた。

 

「学業成績、一年はビリ手前やったのが・・・今年の総合で三位て・・・」

 

「実戦成績はほぼパーフェクト・・・空戦は兎も角、陸戦でもここまでの逸材はそうは居ないはずです・・・」

 

「使用デバイスはアームドの銃タイプ。実践訓練?ではダントツトップ・・・ポジションはキャプテン(隊長)兼スナイパー・・・なるほど。彼女(スバル)の真逆ってことやな」

 

「ええ。前衛のジンクスを彼女が見事なまでにフォローしているのでしょう。そうでもなければこの成績に理由は付けられない」

 

流しであるので詳細は細かく確認していないが、軽く見ただけでも主と呼ばれた彼女に冷や汗がにじみ出るほどの能力と成績を持つ卒業生が資料の中にはゴマンと居た。

恐らくもっとよく確認すれば、彼女たちに近い成績や能力を持つ者がごろごろ出てくるだろう。

 

「・・・今年の卒業生はナニモンや・・・流しで見てたけど、かなりバケモン揃いやで・・・」

 

「逸材の宝庫と他の者は言うと思いますが・・・これは中々に面白いものですね。いかがしますか?」

 

「・・・・・・。」

 

 

改めてシグナムに問われ、思考の海に落ちていく。

 

確かに、今年の卒業生は逸材が揃っている。はっきり言えば異常だ。

例年の成績と比べれば、その差も歴然ではあるし、何より自分の時とは比べる事すらも出来ない程にランクが違っていた。

当時の自分と今の彼らを比べれば間違いなく彼らが優秀だ。

その中で、彼女の頭の中に強く印象を残した者達。

自分が引き上げた雫の涙ほどの金の卵―――否。

 

「・・・まさにダイヤモンドやな―――」

 

「・・・・・・。」

 

今更なにを考えている。答えは決まっているのだろ?

内心のもう一人の自分がそう告げるのが聞こえた彼女は小さく笑い、立ち込めていた煙の中を駆け抜けたかのように、晴れた顔でシグナムに目を合わせた。

 

 

 

 

 

「シグナム。今すぐ、ゲンヤさんに話つけてくれへん?この二人について・・・!」

 

 

「・・・ええ。直ちに」

 

 

この子たちなら、もしかしたら。

色々な希望。期待を胸に、膨らませ―――八神はやては、シグナムに命じた。

 

 

「この子ら・・・ウチが貰うで!!!」

 

 

 

 

 

 




キャラクター設定 (オリジナルキャラクター編)


レミィ・ブロウニング (イメージCV 辻あゆみ)

Old : 15
Like / Don't Like : 読書 トラップの構築と製作 そのトラップに引っかかる相手(馬鹿であるなら尚良し) / 自己中心的な人(無自覚も同様) 解けたアイス ぬめりのある食べ物
Affiliation : 陸戦魔導師訓練生(第四話時点) 108陸戦部隊(Sts本編)
Staff Rank : 実戦・B  開発・B 糧食・D 医療・D 諜報・D
Skill : 工作員 チャネラー SWAT

本作オリジナルキャラクター。
陸戦の訓練校でティアナが知り合った友人の一人で、ライ(後述)とペアを組む。
冷静な性格ではあるが、実際腹黒いところもあり、自分の嫌いな人間であれば容赦なくトラップの餌食にしてしまうクセが子供の頃(・・・・)からある。
しかし仲のいい友人であれば優しく、助言をしたりもするようで、ティアナも彼女から助言を受けることも多々あった。

容姿は一言で言うなら「大人びている」。黒いショートヘアと眼鏡がトレードマークでスタイルも整っている為、歳以上に見えるという人も少なくないらしい。
どうしてそんな容姿になったのかは、本人曰く「生活をきっちりする事」らしい。

ティアナとスバルとは四人一組(フォーマンセル)の実践訓練を多く行った仲で自然と友人となった。特にティアナとは気が合うようで、時折スバルに変わり勉強を教えていたりしていた。
陸戦魔導師になろうとした理由は不明。曰く「語るほどでもない」との事。
学業成績(最終)は一位。総合では三位。





ライ=クロガネ (イメージCV 森久保祥太郎)

Old : 16
Like / Don't Like : 運動系全般 森の中での食料探索(っていうかサバイバル) 子供の笑顔 / 独裁者 夢や理想を馬鹿にする奴 口やかましい母親(苦手意識)
Affiliation : 陸戦魔導師訓練生 → 108陸戦部隊
Staff Rank : 実戦・A  開発・D 糧食・B 医療・D 諜報・D
Skill : 囮 プロレスマニア 大和魂

本作オリジナルキャラクター。
レミィのパートナーでティアナの知り合いの一人。ただし、厳密にはスバルからの経由で知り合った仲。
明るく面倒見の良い性格で四人一組時は、スバルとならぶムードメーカーの一人。
しかし戦闘ではかなり好戦的で眼前の敵は粉砕するのを信条としている。その為、味方が巻き込まれる事も多々あるようで、その度にレミィに注意されるのがお約束。
また子供の面倒を見るのが好きで、父方の姉弟が孤児院をしているのでそこに山などで採れた山菜や魚などを定期的に送っている。その為、山の中でのサバイバルについては長けており、食料等についても詳しい。

ぼさぼさとした茶髪でアジア系に近い容姿をしている。また、体格はしっかりとしており一応歳相応の外見だが、服を脱げば大人顔負けの肉体を持つ。

元々スバルが知り合ったのが始まりで、其処から互いにパートナーを紹介して知り合ったわけでティアナはレミィのパートナーで顔見知り程度にしか思っていない。
魔導師になろうとしたのは、稼ぎで養えるから(誰とは言っていない)
学業成績は二十八位。総合はレミィと同じく三位。


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第五話 「夢か真か」

意外にもサクッと出来てしまった第五話です。

今回からSts編………と行きたかったんですが、その前にもう一つ前日談を今回は行います。
ズバリ、今回ははやてたちの視点で六課設立までの事が今回の内容です。
なので今回ティアナたちはお休み。登場は次回のSts本編になると思います。

ちなみに今回けっこーキャラ達の性格が変わっていたりしています。
特に若干一名は激しく……ええ。激しいです。

では、そんなこんなで(おい
Nanoha×MGSスタートです。



(実はSts本編が原作どおりに進むのかでさえ怪しいなんて言えない………)


 

 

 

= ミッドチルダ 首都グラナガン郊外 =

 

 

第零管理世界ミッドチルダ。

次元世界の中では最も技術と文明が発展していると称している世界で、法と秩序の守護者を名乗る、彼ら時空管理局の本拠地でもある。

中心部に管理局本局を象徴とし、絶対的権力と軍事力を見せ付ける彼ら。

 

しかし、灯台下暗しと言うべきか。そこには彼らの勢力が及んでいない場所というのは多くある。

いわば中立地帯と呼ばれる地域がミッドチルダの首都郊外に多数存在し、そこは文字通り陸戦・空戦の双方が利用する重要な場所で、情報収集や非公式の取り引き、更には表立っては禁止されている物の入手する経路もココには多く存在している。

例を挙げれば本局が禁止している質量兵器と呼ばれている銃がココではルート次第で簡単に入手が可能だ。

 

 

 

 

 

そんなミッド郊外にある中立地帯の町。ストリート街と呼べる場所にある一軒のパブで、そこでは何の変哲もない、将官ランクの局員達の四人が密談を始めていた。

 

 

「会員用ボックスまで使うたぁ・・・例の話か?」

 

「それ以外、今のウチらが話す事があると思いますか?」

 

「・・・ねぇな。改まって思うと」

 

 

会員専用のボックスはそのパブを何度も利用し、マスターに顔を覚えられて始めてなれるものらしく、会員数はミッド広しと言われても数える程度しかいない。

無論、理由としては来客数が少ないという事もあるのだろう。

しかし、何よりココに来るという事に戸惑う者も多く居るのがもう一つの理由だ。

名のある悪党。腕のあるベテラン。それを上回るプロ。

何時しか、そのパブは強者の巣窟となっていたのだ。

 

そんな危険地帯ともいえる場の中に、彼女ことはやても会員として数えられている。

どうやら顔を嫌でも覚えられるほどにここを利用しているらしく、マスターも影では溜息を吐くほどだ。

彼女が会員になってからというものの彼女からの注文が殆ど来なくなって、辛うじて注文があるとしてもそれは密談の時ぐらい。しかも軽いつまみ程度だ。

 

「マスターも滅入ってたぞ。たまにゃあ一人の客として来てやれよ」

 

「この案件が無事に通ったら・・・シグナムと二人で打ち上げしますわ」

 

「・・・ま。あの三人も好き好んでこんなところに来るとは思えませんし、そうなるでしょうね」

 

苦笑交じりに答えるシグナムは、豊満な体を見せ付けるかのように彼女の隣に座り、時折ゲンヤの隣に座るギンガとはやての目をチラつかせる。かなりスタイルのいい彼女の身体がまざまざと見せ付けられれば女として気になって仕方ないのだろう。

 

「で、改まって訊くが、俺に何のようだ。あの話は俺には無関係のはずだと思うが」

 

「またまた。話はギンガから聞いてるはずやと思いますけど?」

 

「・・・・・・。」

 

子供のようににやけるはやてはゲンヤにそう答えると、一枚の紙を彼の前に出す。ミッドの標準言語、英語で書かれた管理局の資料のようだ。

 

「ゲンヤさんだって話は聞いたはず。ウチが何をしようとしているか。何を考えているか」

 

「・・・。」

 

言葉に耳を傾けていないかのように資料を手に取るゲンヤは、何度も見ていた資料なので軽く読み流すと隣で前もって頼んでいたジュースを飲むギンガに渡した。

何度も見た資料だが、今回のはあまり気が乗らない。というよりも案が固まれば固まるほど、彼の眉が寄せられてしまう。

 

「わかってる。分かってるがな。これは流石に現状無理としかいえんな特に、今回見せられた”修正版”は」

 

「そんなん、作った私だって分かってます。これがどれだけ彼ら(上層部)には馬鹿馬鹿しいものであるのか。どれだけ子供の夢物語であるのか」

 

 

「うわ・・・」

 

思わず声を漏らしてしまったギンガは、彼女が気を悪くしてしまったのではないかと直後に気づき、目線を上げて様子を窺う。

しかし当の本人はその反応が当然のものだと分かっているので、何も言わずゲンヤと目を合わせていた。

 

「―――で。その夢物語を成就させる為に、ウチはあとちょっとだけ欲しいのがある」

 

「・・・(スタッフ)か?」

 

「ええ。ココ(資料)に書いてる通り、今現在の時点で殆ど重要なポストな埋めれました。けど、後はそれ以上に自由に動いてくれる人が必要。つまり、階級に縛られず任務を達成するフォワードメンバー」

 

「――新人どもか」

 

ゲンヤの読みに、はやては頷く。

 

「今年の卒業生のリストを拝見させてもらいました。今年は・・・えらい卵達が産み落とされましたな」

 

「・・・・・・。」

 

(卵・・・というよりもね・・・)

 

やはり見ていないからか、と思うギンガはある出来事を脳裏に思い浮かべていた。

 

「―――。」

 

違う。正確には思い出していたといった方が正しいだろう。

脳裏に酷く鮮明に刻まれた刺激的過ぎるあの出来事を。

 

 

 

 

数日前の事だ。

ゲンヤが訓練校に用事があると言い出し、二人で様子見も兼ねて向かう事になったのだ。

様子見が本音だと分かりきった言い訳をした彼に半ば呆れ気味だった彼女だが、それほど気にしている、どこまで成長したのか気になる、と子供のような興味があったのだろう。

 

ギンガも自分の妹がどれだけ成長しているのかを見たいと思ったのが理由で、同行することを決意。親が子供の授業風景を見に行くかのように彼らは向かった。

 

(二佐だって分かっているはず。彼らの実力を―――)

 

しかし現実は彼らの思っていた甘い考えを簡単に崩してしまった。

そこにあったのは生易しい魔導師の訓練でもダラダラとした子供遊びでもない。

本物の軍隊さながらの訓練と、それに平然とついていく訓練生が居たのだ。

 

(卵というより・・・)

 

「つーよりも、トンビが鷹の群れを生んだような感じだがな」

 

「・・・ええ。産み落とされた鷹の群れ―――」

 

ゲンヤたちの前に新たに二枚の資料が置かれる。

それを手に取らずに見た彼は眉間にしわを寄せて表情を曇らせ、本気なのかと見るだけ無駄な彼女の目を見た。

 

 

「ゲンヤさん。この二人。ウチに下さい」

 

「・・・・・・。」

 

 

二枚の資料。そこには彼が良く知る二人の人物の顔写真が張られていた。

スバル・ナカジマとティアナ・ミラー。

自分の娘とその友人を彼女は物の様にくれと言ってきたのだ。

 

「駄目だ」

 

だが答えは変わらない。変える気はない。

ゲンヤは断言して答えた。絶対にと。

 

「・・・そこをどうにか」

 

「駄目だ」

 

子供のようにせがむ彼女にゲンヤは変える意思がないと目を閉じて復唱する。

手を合わせてお願いしますと神に頼むように言う彼女だが、頼むものが悪かった。どんなに頼んだとしても絶対に首を縦に振らないであろう者を彼女は欲してしまったのだ。

その頑なな態度にはやては無駄と分かると表情を変え、冷たい目で彼に尋ねた。

 

「・・・娘だからですか?」

 

「それもある。だがな。それ以外に理由は幾つかある」

 

「・・・それは?」

 

「―――お前、この二人の配属先を知ってて訊いたのか?」

 

「第七師団、でしょ?ウチかて知ってます」

 

「既に話はつけてるし、向こうでもその用意は完了している。今更配属先を変えますなんて簡単に出来ると思ってるのか」

 

「・・・・・・。」

 

「それにだ。お前のこの案の前提。明らかにこいつ等に合ったものじゃない。鶏に空を飛べって言ってるのと同じだ」

 

「ッ―――」

 

「何より」

 

「―――。」

 

 

「テメェの城でへーこらさせる為にウチ(地上)から出す局員は一人も居ない。仮に創設したとしてもテメェ等のキャリアを自慢させる為の舞台でしかねぇんだよ」

 

 

「・・・・・・。」

 

現実を次々と投げてくるゲンヤに、はやては悔しさを抑えて唇が切れそうなほど強くかみ締める。薄々は分かっていた事だが、ここまでの批判と反論の応酬となると彼女の精神も揺らいでしまう。自分が間違いだったのか。自分にはまだ早かったのかと、心の底から隅に置いていた不安さが湧き上がってくる。

 

だが。それでも今回だけは退けない。どんなに侮辱されようと。どれだけ馬鹿にされようと。今回だけは彼女にも退けない理由があった。

 

「分かっているだろ。この部隊の構想。人員。理念。ただの子供の妄想にすぎん。それを分かっていてお前は―――」

 

「子供でもいいんです」

 

足を踏ん張り、腰と腹に力を入れ、勇気を出して搾り出す。

何を言われようとも、何をされようとも決して倒れない自分の意志を示すかのように、はやては声を絞り出した。

 

「別に背伸びしているつもりでもないんです。他人に認めてもらいたいためでも、自分たちの事でお涙頂戴をさせる為でもない。自分がしたいからする、やりたいからやる。

 

 

 

成し遂げたいという理由があるから成し遂げたい」

 

「・・・・・・。」

 

「前に・・・ゲンヤさん言いましたよね?「自分のやりたい事があれば最後まで責任を持ってやれ」って」

 

「―――。」

 

「同時に「どんな事を言われても、どんなに馬鹿にされても。『やりたい』って思う事があれば突き通せ」って」

 

「それは―――」

 

自分が以前彼女に言った台詞。

現在でも曲げない自分の理念。その結果が目の前にある。その結果が、今の自分の居場所(108部隊)だ。

自分に自分の言葉を突きつけられ、ゲンヤは言葉を搾り出そうとするが肝心の言葉が思い浮かばなかった。

 

「ウチはそれに従います。やりたいからやる。やりたい事やからやり通す。決めたから曲げない」

 

「―――ッ」

 

「ゲンヤさん――――――この二人。貰います」

 

「・・・八神。テメェ―――」

 

頼みではない。要求ではない。願いではない。

もう決めた事だと、彼女は堂々と言い放った。

睨みを利かせようと。威圧感で圧しようとも。彼女の意思は変わらない。

彼女の目の色は、輝きを失わない。

 

 

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

 

息苦しい静寂が彼らの間を通っていく。

二人の接戦を見ていたシグナムとギンガはその息苦しさに窒息死してしまうそうで、汗をにじませると息を飲んだ。

その息でさえも重く、更に息苦しく思えてしまうほどの重圧。

気が狂ってしまいそうだと、ギンガは自分の意識を支える事に集中させる。

 

 

そして。やがてその静寂は一人の言葉でかき消される事になる。

 

 

「・・・・・・はぁ」

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

「――――どうなっても知らんぞ」

 

刹那。ゲンヤの言葉にはやては表情を明るくした。

思わず涙がこぼれ出そうなほどに喜びをかみ締めた彼女は、激しく身体を揺らし感謝の礼を言った。

 

「ッ・・・・・・!!ありがとう御座いますッ!!!」

 

 

「・・・・・・。」

 

「ふうっ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲンヤとはやての交渉はゲンヤが折れる形で終結した。

はやてはその結果スバルとティアナという二人の宝石を手に入れ、子供の様に喜びの笑顔を見せていた。

が。それで全部が終わりと言う訳ではない。

ゲンヤがそれに当たって提示する条件というのがあると言う事で二人きりにしてくれと、シグナムとギンガを一旦ボックスから退室させたのだ。

 

 

「・・・一時はどうなるかと思いましたね・・・」

 

「ああ。さすがに心臓に悪かったが・・・よい形で安心したな」

 

カウンターで二人の話し合いが終わるのを待つことにした二人は先ほどの空気が抜け切った反動か気の抜けた様子で語り合っていた。

年齢からしてシグナムが上だが、本人が知人との会話ではあまりそう言うことを好まない為にギンガも少し年上に対しての話し方で言葉を交わしていた。

 

「あはははは・・・もうああいうのは勘弁してもらいたいですよ・・・」

 

「まったくだ。つき合わされている方の身も持たん」

 

肩に伸し掛かっていた重圧がやっと抜け切ったのか、シグナムは頼んだ酒を喉の奥へと流し込む。ロックアイスで冷え切った酒が喉を潤し疲れを抜けさせ、身体を火照らせる。

気分が落ち着き、張り詰めていた神経がふやけて解けるような感覚にシグナムはしばし入ろうと多めに飲んでいた。

 

「・・・・・・。」

 

「・・・ん?どうした?」

 

「・・・いえ。別に・・・」

 

もう少し酔っ払う酒ならチャンスがあるか、と思っていた彼女だが後が怖いと思い今は思いとどめていた。今は。

 

そんなギンガの視線を他所にシグナムは話を切り出す。

 

「・・・まぁ無理もないか」

 

「―――え?」

 

「主の案のことだ。今回の」

 

「・・・ああ・・・確かに・・・」

 

無理というよりも無茶すぎる案だと言い出しそうになるが、それは彼女だって同じ事だ。

現実、あんな考えを出すところも、そもそも考えようとするところもギンガからすれば無茶な事だ。

 

「そもそも、八神さんも草案の時点で分かっていたはずです。自分の考えたことがどれだけの事なのか。それが本局や地上本部からすればどれだけの愚行なのか」

 

「分かっていたいた。主も自分の考えがどれだけ無理難題であるのかは分かっていた。別に、新しい事の先駆けになりたいとかもそんな事を彼女は思っちゃ居ない」

 

「じゃあ、どうして・・・」

 

「・・・主曰く。「対立しているのは差別意識を持っているからだ」という事らしい」

 

「それって・・・殆どの局員に当てはまる考えだと思いますよ・・・特に今は」

 

「ああ。だから彼女はそれを崩す為に、自分の考えを証明したいが為に・・・もしかしたらこの考えを打ち出したのだろうな」

 

「・・・それって、総理念は建前って事になるんじゃ・・・」

 

「建前ではないはずだ。現に彼女も私も被害者の部類だ。一応はな」

 

「被害者だからって・・・これが成功する確率は・・・」

 

「それでもやるだろうな。主はこの部隊創設を」

 

「・・・・・・。」

 

そう言って俯いたギンガは、彼女も不安があると言う事を察した。

彼女の考えていること。やろうとしている事。作り上げようとしている部隊のことを。

 

「―――対ロストロギア対策部隊「機動六課」・・・」

 

はやてが始めようとしている部隊。それは今までの管理局ではまず絶対に出来る筈がないという物の塊。少数精鋭、陸空混合の部隊。空戦魔導師をメインとした管理局内では始めてのロストロギアを専門とした部隊。

その部隊の局員の顔ぶれをギンガがはじめてみた時は思わず声を失い、彼女の考えを疑った。

 

エース級の空戦魔導師を彼女を含め五人。

そこにサブと通常戦力として新人の陸戦魔導師を配置。

まるでひな壇のように上に行くほど豪勢になるというものだった。

 

「後ろ盾も十分すぎるほどに確保している。が、これが原因で恨みを買われるというのも当然のことだろう」

 

「それもありますけど・・・やっぱりスバルたちを部隊に引き入れるのは納得できません」

 

「・・・。」

 

「そもそも、陸戦のあの子達が空戦である皆さんの引き立て役になっているというか・・・」

 

「私もそこは分かっている。だから基本的にはフォワードメンバーが前線に立ち、アイツらや私達は基本前には立たん・・・という言い訳があるがな。確かにお前の言い分も尤もだ」

 

宥めるように言うシグナムは残った酒を喉の奥へと流すと、音を立ててテーブルの上に置く。彼女の意思と知ったギンガは気まずい顔で目を逸らした。

 

エース級の空戦魔導師五人と新人の陸戦魔導師四人。

誰の目から見ても釣り合いが取れていないのは明らかだ。

シグナムもそれは重々承知して、その為の言い訳(・・・)彼女の上官(はやて)が用意していることだって知っている。

だからなのだろうか。シグナムの表情は急に曇りを見せはじめていた。

 

 

「・・・私も、この部隊が無事に終わりました(ハッピーエンド)を言えるとは思っていない。特に・・・」

 

「・・・特に?」

 

「・・・若干一名、不安要素の塊が居るからな」

 

「まさか・・・」

 

「ああ・・・高町(・・)のヤツ、途中で暴走せねばいいが・・・」

 

 

六課メンバーの一人、隊長陣として名を連ねている女性。彼女は幼くして魔導師となり、数々の事件を解決したいわばアニメヒーローのような人物だ。

名を高町なのは。

現在ではエース・オブ・エースと呼ばれている空戦魔導師の要で、最も有名な魔導師だ。

 

そして。裏の二つ名は―――「神の代行者」。

管理局の意をそのまま表したかのような天の使い。

それを良い意味で捉えている人間など、恐らく彼女の身内も含めて誰一人として居ないだろう。

 

「・・・やっぱりなのはさんも?」

 

「当然。主が最初に声を掛けたヤツだからな。即答で返事をしたというし・・・はて、何をしでかすか・・・」

 

「・・・・・・。」

 

そう。アニメヒーローのような電撃的登場をした彼女は瞬く間にその実力と頭角を現し、今の地位にいる。

だが、その過程で彼女は多くのことを学ばなかった。

それがこの先どうなるのか。どう影響してしまうのか。考えるだけでも恐ろしく、そして果ての見えない結末だと、火照った身体にシグナムは感じていた。

 

「アイツは・・・今のアイツは昔以上に危険だ。なにが原因で着火するのかも分からない。何が理由で・・・暴走するかも―――」

 

「そ、そんなに・・・」

 

「あり得るんだ。特に今のこの世界では」

 

「・・・・・・。」

 

「もしかしたら、ギンガ。お前よりもアイツの方が劣るやもしれんからな」

 

「わ、私よりもですか!?」

 

「・・・そうだ。今のアイツとお前。比べれば、違いははっきりと分かる」

 

まるで彼女を危険な動物か火薬庫と見るかのようにシグナムは目を細めていた。

愉悦や苛立ちではない。焦りに満ちた顔。

思うだけでも背筋に汗がにじみ出てしまうほどの危険な存在。

一体彼女は何を知っているのだろうか。何を思っているのだろうか。

 

不意に、彼女が飲んでいたグラスの中にあった氷が解けて落ちる音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

= グラナガン・某所 =

 

 

首都グラナガン。その都市部にある一つの建物。そこは主に管理局で使用するデバイスの研究や整備。メンテナンスなどを行ういわば技術科と呼ばれる場所だ。

 

その技術科の一室の個室では一人の女性が夜だというのに殆ど明かりをつけず僅かな小型の蛍光灯だけとモニターの光を頼りに投影式のディスプレイに映る映像とデータに釘付けになっていた。

 

 

「ふっ・・・ふふふ・・・ウフフフフフフフフふふふふふふふふふふ・・・・・・」

 

不敵な笑い声を延々と言い続けるのは、ブラウンのウェーブヘアーの女性。

丸い眼鏡が特徴的で、見るからに理系文系な雰囲気の彼女だが、その経歴を聞けばだれもが驚き、引いてしまうという。

 

 

「これは・・・なかなか・・・いやぁ・・・ふうっ・・・はああっ・・・あはっ♪」

 

意味不明で支離滅裂な言葉を間に挟み、映像に釘付けになっているのはそこに彼女が心撃たれたものが収められているから。そして何度も撒き戻して再生したいと思う程、彼女が好むものが映っていたのだ。

 

 

 

「おーい、いるか―――」

 

「ぐふっ・・・うぷぷぷぷぷ・・・にひゃあ・・・うほほほほ・・・ああ・・・♪」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・えっと・・・シャーリー?」

 

後ろから二人の男女が入室してきた事に気づかず、画面に釘付けになっている女性ことシャーリー。口からヨダレをだしてみっともない姿を見てしまった二人は思わず声を失い、呆然としていた。

いつもと様子が違う。いや、まるで別人のような姿がまざまざと映っていたのだ。

が、それでも用事があると言う事で女性は何故か勇気を振り絞って声を掛けた。

 

「ぐへへへへへへ・・・」

 

 

「シャーリーさーん?」

 

「・・・・・・おーい、シャーリー」

 

「今ちょっと別件なんで後にして」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・何してんだよ」

 

しかし本人は声は聞こえても誰とまではわからなかった様で、適当に答えると再び画面に夢中になる。

あまりの夢中さに思わず目を合わせた二人は、どうするべきかと考えるがだからと言って力でどうこうするというのもと思い気が引けてしまう。

 

なので。

 

「・・・仕方ない。ちょっと無理矢理だけど・・・」

 

半ば脅かして気を引かせようと考え、女性は三角型のデバイスを取り出した。

 

「バルディッシュ」

 

《Yes.ma`am》(※実は女性にsirは使わないとか)

 

それが本当に脅かす程度なのか。彼女の手には大鎌が手に持たれたのを見てもう一人の男はその鎌の大きさに思わず半歩後ろに下がってしまう。

 

「おおい、あんまり大事にしないで下さいよ・・・」

 

「大丈夫。向けるだけだから―――うん」

 

「いや、その「うん」ってなんですか!?まさか最悪首バッサリとかじゃないでしょうね!?」

 

「だ、大丈夫だよ!多分作者さんがギャグ補正でどうにかしてくれる筈だし!!」

 

いえ、今回はわりとシリアス方面も入れているので首バッサリはアウトですよ?

By 作者

 

「だ、大丈夫だよ!!そこは作者さんががががががが」

 

「おーい大丈夫なんですかー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ああもう!誰ですか!!人が折角フリータイムを楽しんでいるって時に―――」

 

 

 

「「・・・・・・。」」

 

 

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

十分後。部屋の明かりをつけ夢中になっていたディスプレイを閉じたシャーリーは面目のない顔で二人と向き合っている。

だがあの自分の性格がまざまざと見られた後だ。面目のなさよりも、彼女にはそれ以上の恥ずかしさがあり頬を赤くして俯いていた。

 

「ええっと・・・その・・・ゴメンね、フリータイムの時に無断でお邪魔しちゃって・・・」

 

「い、いえ良いんです。仮にも職場ですし、フリータイムと言っても勤務時間内のことですから、素の状態だった私が悪いんです」

 

(あれ、素だったのかよ・・・)

 

「で、改めてなんですけど・・・どうしたんですか、フェイトさん」

 

金色のロングヘアーを腰まで伸ばした髪と整ったスタイル。

その見た目と性格から影ではかなりの人気を誇る人物ことフェイト=T=ハラオウンはエースランクの空戦魔導師だ。

その彼女も苦笑いを浮かべて頬を掻き、自分の目的を忘れかけていたとなると彼女の場合まだ可愛げのあるものだ。

 

「時々来るのは分かりますけど、今日はその・・・ヴァイス陸曹と一緒で・・・」

 

「り、陸曹は今日は付き添いというか、単に偶然さっきあっただけというか・・・」

 

「お前んところに用事があってそれでばったりと会っただけだ」

 

呆れた目で語る男、ヴァイスは小さく溜息を吐いて彼女に他意はないと断言する。

彼はとある人物からの使い代わりに今回来ただけで本当にフェイトとは偶然技術科の中で出会っただけだ。

 

「あ・・・そうですかー」

 

「おーいなに棒読みしてんだよおめぇは」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・それで。お二人は今日はどうしたんですか?聞くからにそれぞれ目的が違っていると思うんですが・・・」

 

「・・・。」

 

「お先にどうぞ、フェイトさん」

 

一度目を合わせた二人は先にどちらが話しを切り出すかと思っていたが、そこはレディファーストだと言って、ヴァイスが先を譲った。

それじゃあ、と答えたフェイトは持ってきていた一つの紙束をシャーリーに手渡した。

 

「・・・これは?」

 

「前にはやてが話していた部隊のこと、覚えてる?」

 

「―――確か、六課・・・でしたっけ」

 

「うん。機動六課。あれの案件がもう殆ど固まって、話もつけられそうなの」

 

「あの案がよく通りましたね」

 

「俺もそこはびっくりだ。まぁバックがバックだからか・・・っと」

 

さすがに悪かったかと思い、フェイトの方を見るが本人も分かっていたのだろうか、気なしないでと苦笑して答えていた。

 

「その部隊。六課の技術スタッフとしての出向は・・・できるよね?」

 

「ええ。話もつけてますし、後は荷物とかを纏めれば」

 

「――よかった。大丈夫かなって思ってたから」

 

「・・・話、ズレてますよ」

 

「あ、そうだった・・・――話は六課の設立後。そこに書かれているのは部隊に参加する予定の二人の資料だよ」

 

「二人?なのはさんとフェイトさんとかじゃなくて?」

 

「うん。その新人が二人。あともう二人の計四人がね」

 

フェイトの話を耳に入れつつ、資料を捲り始めるシャーリーは確かに、と小さく呟く。

そこに書かれている資料と貼り付けられている顔写真は若い二人の少女のもので、シャーリーは最近どこかで見たなと思う人物たちだった。

 

「―――スバル・ナカジマと・・・ティアナ・ミラー・・・ミラー?」

 

「・・・?シャーリー、知ってるの?」

 

「・・・ティアナ・・・ミラー・・・・・・・・・」

 

「・・・その二人の資料を元に専用デバイスの設計を頼みたいんだけど―――シャーリー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ・・・ふふふふふ・・・ふふふふふふふふふ・・・・・・」

 

 

「あ、あれ・・・シャーリー?」

 

 

 

「ティアナ―――ティアナ・ミラー・・・そう、あの子が・・・あの美しい私のジャンヌが・・・ぐふふふふふ・・・」

 

「・・・フェイトさん、まさか・・・」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が世の春がきたぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」(テラ子安)

 

 

 

「――ッ!?」

 

 

 

「ヒャッハー!!!!これはこれは最高ですねぇ!!!まさか!!あの子が!!!私のところに来るなんてぇ!!!!」(ヒャッハー中村)

 

 

 

 

 

「・・・シャーリー?」

 

「銃バカ大爆発か・・・」

 

頭を抱えるヴァイスは、自分が原因なのではないかと戸惑うフェイトに対し気にしないで、と呟き、シャーリーの発狂が冷めるであろう事を願っていた。

腕と実力は確かな彼女だが、その経歴は管理局内でも異色と言えるものだ。

 

しかしその発狂が何時終わるのだろうかと、二人は無視して暴走する彼女をその後しばらく眺めるほかなかったという・・・

 

 

 

 




オマケ。キャラクター設定。

スバル・ナカジマ

Old : 15
Like / Don't Like : 食べること 格闘技の鍛錬 ローラーブーツでの外出 / 火災 身内や友人を傷つける人 嘘(冗談などは問題なし)
Affiliation : 陸戦魔導師訓練生(第四話時点) 第七師団(中止)→機動六課
Staff Rank : 実戦・A 開発・D 糧食・D 医療・D 諜報・C
Skill : 囮 声優 プロレスマニア 熱血漢


ティアナのパートナーで準主人公兼ヒロイン(?)
原作よりも額の辺りの髪が少なく、より中性的。一人称は一貫して「アタシ」(時折「私」になったりもする)
明るく前向き。そして気配りが出来ると歳相応の落ち着きも見せるが、ティアナやレミィ曰く「アホの子」。また男勝りな所も多々あり、過去に数度ほど男風呂に平気で入ったことがある(しかも丁度男子訓練生が入っている時に)
当然その時はティアナやレミィ。更には教官たちからも呆れてしばらく入浴禁止を言い渡された。理由としては「別に慣れている」とのことで、後に原因が父である事が発覚。
またライと同じく子供好きで面倒見が良く、休日や孤児院のボランティアには積極的に参加。子供たちからも親しみやすいからか人気がある。
しかし、過去の経験などから嘘をつかれる事を嫌い、それが他人であったとしても注意するか反発をする。また自分が嘘をつくことも嫌っており、進んで平気で嘘はつかない。
冗談程度なら本人はまだ笑って済ますが、嘘の度合いが酷ければ怒りの片鱗を見せ、彼女の限度を超すものだと喉を省みずに怒声を上げるほど。

元々子供の頃は今とは違い内気で泣き虫だったが、ある時に母親が格闘技の鍛錬をしていた所を見たことが切っ掛けで格闘技に目覚める。母の死後もそれは変わらず、五歳前後の時に大人(局員)二人をケリ倒すほどの実力を持っていた。
その後、柔道・空手・八極拳と手当たり次第に習い、短期間のうちに習得。特に八極拳習得後には既に格闘能力は常人を軽く上回っていた。その為、将来は格闘家に成ろうかと思っていたが、余りに(本人の実力が)危険でやむなく断念。ギンガの勧めもあって、陸戦魔導師を志すことになった。尚、なのはの事は原作通り事件があったのだが、本人はその時気が気ではなかったので余り覚えていない。

戦闘スタイルは格闘技ではあるのだが、リーチが短いという欠点を持ち受け流されたり中遠距離からの攻撃には弱いため、ローラーブーツを履いて無理矢理間合いを詰めさせるという戦法を用いる。
相手が自分と同じ接近戦を得意としている場合は基本、足か腕を潰してから倒す。
しかしそれだけでは相手をほぼ無傷に倒すという事を出来ない為にCQCを習得。相手の無力化も可能としている。







ギンガ・ナカジマ

Old : 17
Like / Don't Like : スイーツめぐり デバイス等の整備 スバルとの戯れ(本人談) / 無益な殺傷 身内が傷つく所 ヌメヌメした奴
Affiliation : 108陸士部隊 捜査官
Staff Rank : 実戦・A 開発・C 糧食・B 医療・D 諜報・C
Skill : SWAT 声優 チャネラー 大和魂

スバルの姉で髪の色は彼女より濃く肌も少し焦げているのが特徴。これらはとある出来事でできたもので、それ以前は女性的な肌を保っていた。
過去の境遇などもあって妹であるスバルのことを大切に思い同時に愛情を持ち、時折には母親的な立場で物を言ったりする。それが原因で衝突する事もあるらしく、それでも彼女がそれだけ元気であると言う前向きな意味で受け取っている。
が。結果それが原因で現在ではスバルに対して並々ならぬ感情を持ってしまい、ゲンヤからは重度のシスコンと言われている。
またそれが切っ掛けとなったのか百合に目覚めてしまい、最近ではかつて自分を助けてくれた恩師に捕食者として目を向けることも多々ある。
ちなみに男に対しては好みでない限りは興味を持たない。
それでも姉としての事もあってかしっかり者でスバル同様に他人への気遣いを見せたりと基本いたってマトモな面を見せる。
数年前に起こった出来事が原因で、現在では「将来の目標」と「自分の行動理念」というものが分からない状態に陥っており、深く追求される事を嫌う。


戦闘スキルはスバルほどではないがシューティングアーツなどの格闘技をメインにしており、他にも足技も得意として、それを応用した戦闘スタイルも彼女の持ち味として活かされている。
また基本スキルの殆どはスバルと酷似(というよりスバルがギンガのを真似ている)ので相違を上げるなら中距離に対して一応ながら対応策を持っていると言う事。
ちなみに今作では利き手は両利き。


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Sts本編
第六話 「胎動する星々」


いよいよ本編の第六話です!

ちょっと長い気もしなくなかったですがようやくの本編……
さぁここからどうなるのやら、あはははははははははははは(白い目)

……では、Nanoha×MGS、スタートです


 

 

 

 

 

あの一人の少女の記憶を見せよう。

 

 

しかしその少女の記憶は覚えているとは言い難い。

その時の衝撃と苦痛が記憶と共にこびり付いてしまい、邪魔してしまっているのだ。

磨耗してしまった記憶は、再生しようとすると酷い吐き気と頭痛を感じてしまい、とてもではないが全て思い出すことはできない。

思い出すだけでむせ返り、呼吸が不安定となって精神が揺らいでしまう。

それだけショッキングであると言う事か彼女も、彼女の記憶も再生することを拒んだ。

 

もう二度と思い出したくもない記憶だ。

だが、その中でたった一つだけ。彼女の頭の中で邪魔なく再生される記憶がある。

たった数秒とも思えるその記憶は残念ながらいい加減なものだ。

 

覚えているのは黒い影となびく『何か』。

意識が殆どなく、目も霞んでいたのでその影と後ろに映る烈火の炎だけが確かなことだった。

記憶の中。その誰かは、ゆっくりと自分のほうを振り向き

 

 

彼女に何かを言ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ル」

 

 

「・・・。」

 

 

「―――――バル」

 

 

「・・・やっぱり、駄目か・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ。試験前から落第に賭けるなんて偉くなったわね、スバル」

 

 

「・・・・・・ほえ?」

 

背筋を凍らせる悪寒が走るのを感じたスバルは、僅かに間を置いて抜けた声で後ろへと振り返る。

驚いたというよりも気まずいという顔で振り返ると、冷たい半目で見る彼女の相棒のティアナの顔がかなり近い距離で映った。

どう見ても彼女の機嫌が斜めであるのは明らかで、気まずい空気と彼女の機嫌にスバルは汗を垂らし、苦笑いで言い訳を言おうとしていた。

 

「・・・ティ、ティア・・・えっと・・・これは・・・その―――」

 

「別にいいのよ?アンタが自爆してくれるのならお望みどおりこの試験を落第してやるわよ?」

 

と言ってさりげなく自分のこめかみにデバイスを構える相棒に、スバルは焦ってしまい思ってもなく、その場で思いついたことを口にしてしまい更に自分の立場を悪化させてしまう。

 

「ち、違うの!!違うんだってティア!!さっきの独り言は・・・そう!!今後の予定が駄目だって―――」

 

「それを遠まわしに「する」って言ってんのよ」

 

「・・・・・・。」

 

墓穴を掘ってしまったスバルはなんとも言えない顔で言い返すことも出来ず、直後に子供がしょげた様に謝り、体で落ち込むという感情を表した。

 

「・・・ゴメン」

 

「―――はぁ・・・なに試験前からガラにも無い事をしてるのかって思ったら・・・アンタがその調子じゃ私の胃に大穴が開くわ・・・」

 

頭を掻き、面倒なと苛立ちを見せる顔で離れるティアナに、スバルは取りあえず苦笑する。言い訳を返す事もできない状態では、本人の答えはこれで十分だと思うしこれが妥当な返しだろう。

現在に至るまで、スバルという人間は彼女ことティアナに敷かれる立場となってしまったのだから。

 

「・・・・・・。」

 

「・・・はぁぁ・・・」

 

二度の溜息を吐くティアナは、面倒と苛立ちの色を見せているが内心では心配というのを感じていた。ここまで共に進んできた相棒だ。もし仮に彼女が居なくなるのなら、誰が彼女の相棒となるだろうか。

そう思うと、心の底から「否」の文字が浮かび上がる。彼女以外に自分の相棒たる人物は居ない。断言できることを再認し、ティアナは内心の感情を押し殺し、変わらぬ物言いでスバルに問うた。

 

 

「用意、できてる?」

 

「ん?ああ・・・油はさしたし、メンテも十分。来る前にコンディションチェックは二人でしてもらったし・・・特には」

 

「・・・そう。だからって本番でヘマしないでよ。アンタここぞって時に失敗かトラブル起こすんだから」

 

「そ、それって一年前の事でしょ?ティア引きずりすぎ―――」

 

「そのせいで誰が学業順位上げるの苦労したんだっけ?」

 

「―――ティアナさんです」

 

「よろしい」

 

弱みを突かれてしまったスバルは落胆して答え、またも言い返すことは出来なかった。

というよりも彼女にすっかりと弱みの数々を握られてしまった彼女に果たして一度でも逆転した事があっただろうか。

あったとしても軽くかわされるか何かで無意味ではあるのだろう。

 

先行きが不安というよりもその過去の事がぶり返してきたスバルは深い溜息を吐いて。自分の右手につけているグローブ型のデバイスを深くはめ込む。

これが彼女の得物。剣だ槍だ、鎌だには頼らない。己の身体こそが彼女の最大の武器だ。

 

 

「さてと・・・」

 

その隣ではアームドデバイスと呼ばれる武器型のデバイスをいじるティアナが立っており、手には質量兵器と呼ばれている銃のM9を模して作られた銃が握られている。

これは彼女自らが一から作り上げたオリジナルのデバイスで、細部に至るまでその作りこみ、銃本来の機構も施されている。魔力を充填し、使用することで内臓した魔力分パワーを上げるカートリッジシステムも自身が扱いやすいように9mmパラベラム弾を模した物をマガジンに詰め、銃に装填している。

さながら本物の銃ではあるが、一応は許可を取っているので違法にはならないのだ。

 

しかし、そのM9を見て疑問に思ったのかスバルがティアナへと問いを投げた。

 

「アレッ・・・ティア今日は狙撃に撤するって言ってなかった?」

 

「作戦変更。どうやら向こうがコッチの戦歴を知って、試験内容をイジったらしいから」

 

「イジったって・・・これ地上本部公式だよ?まさかおと―――三佐たちが?」

 

「なワケないでしょ。こんな性根が腐った事をするのは本局の連中よ」

 

「うえぇ・・・」

 

嫌そうな表情で答えるティアナに釣られ、スバルも露骨に嫌そうな表情で彼女の答えを聞き、気分を損ねていた。

本来、彼女たちの受ける試験は地上本部のものであるのだが、どうやら本部にコネか伝手がある人物が意図的に改変したのだろう。その為、雰囲気だけでティアナは試験内容が変更されたと読み、スバルにも嫌味を兼ねて伝えたのだ。

 

「ったく・・・何処の狸がやったのよ、殆ど向こうの趣向じゃない・・・」

 

「ってことは空飛ぶの?消費が激しいだろうなぁ・・・」

 

「だーかーらー・・・アンタは・・・その為に私はこうしてコイツ(M9)を調整してたんでしょうが」

 

「あ・・・」

 

「・・・スバルもカートリッジの消費は抑えなさい。こんなのに付き合ってられないわ」

 

「まぁ、こうなりゃヤケクソが一番だもんね・・・」

 

ずれた感覚で話す二人は、その会話が聞こえなくても話している姿を、サーチャーと呼ばれる監視スフィアで確認する二人の人物に、気づきつつも知らないフリ(・・・・・・・・・・・・)をしていた。

 

 

 

「・・・で。あれが例の二人ってわけや」

 

「確かに、ギンガと瓜二つだね・・・私もびっくりしたよ・・・」

 

とあるヘリポートでは離陸の準備を進めているブラックホークが待機し、中では彼女達の様子を投影式のディスプレイで見ているはやてとフェイトの姿があった。

無論、この試験の内容を変更した()とははやての事だ。

本人に聞こえていないのが幸いか、差ほど緊張もしていない様子の二人に画面越しに見る二人は興味を持った目で見つめていた。

 

「今年のドチート新人の中でも特にチートな二人・・・実力はゲンヤさんのお墨付きや」

 

「けど、それってあくまでも訓練での話しでしょ?あまり過信したりするのも二人に悪いんじゃ・・・」

 

「・・・まぁ最初はそうは思うわな。けど、あの二人の実力はマジや」

 

「はやて、幾らなんでもそれは―――」

 

「Aランクの空戦魔導師を五人。一分以内で全滅させるっちゅうゲーム染みた事をやったとしても・・・まだ言うか?」

 

「―――え?」

 

真偽を疑いたい言葉を吐かれたフェイトだが、疑う余地もなかった。言い出した本人の顔が事実であると言っていたのだ。

フェイトもはやてがよくジョークだったり冗談だったりを言うので疑う事も多々あるのだが、この場合だと彼女の表情がその証拠となっていたので疑う事も、言い返すことさえもできなかった。

 

「ウチだって信じられへんって何度も思ったわ。Aランクの空戦といえばそこそこ腕のある魔導師。それを平均五分。その中の最短で一分以内で全滅させたって言われれば、冗談にもならんって・・・けど」

 

「・・・。」

 

「実際の映像を見せられて腰抜かしたわ。戦闘マシーンとか快楽主義とかっていう狂乱舞とかじゃない。確実に敵を倒す。敵に当てるっていう威圧感を持った、本物の奴等―――」

 

「けど・・・あの歳で・・・一体どうして・・・」

 

「知りたいところやけど、そこは教えてくれんかった。ゲンヤさんでもや。向こうからすれば極秘中の極秘らしいからな」

 

「そんな・・・そんな言い訳だったら―――」

 

「人格破錠もいとわんやり方をしている、か?」

 

それもないな、と一笑して蹴るはやてだが、その意見も尤もだと汗をたらして呟いていた。

彼女も最初はフェイトと全く同じ事を考えていたのだろう。それを尽く潰され、見せ付けられた事実。

ありのままの真実にはやては唇を強くかみ締めて味わうほかなかった。

その中でもう一つの不安を抱えながら―――

 

(まぁ・・・前になのはちゃんにも見せたけど、あんま良い印象ももってなさそうやったし、何よりも・・・ちょっとヤバイ感じが見え隠れしてたからなぁ)

 

 

 

 

 

 

 

 

「――作戦は頭に叩き込んだわね。こんな面倒な試験、さっさとパスするわよ」

 

「了解っ。まかせてティア!」

 

口伝えで作戦を伝えたティアナに自信ありげに答えるスバルは笑顔で答える。少々過剰にならないかと心配ではあるが、今では作戦をきっちりとこなしてくれるのでさほどの問題にはならないだろうと思い、笑みをこぼしつつも小さく溜息を吐いた。

 

「・・・ヘマすんじゃないわよ」

 

「大丈夫だって!ティアの作戦はいっつも成功するし!」

 

「そっちじゃなくてアンタの方。怪我でもしたらたまったモンじゃないわ」

 

気に掛けるように言ったが、当の本人は「大丈夫ッ!」とVサインと共に有り余る元気で笑みを見せる。彼女が元気であるのは構わないが、それが災いしないかと心配であるのには変わりは無かった。

 

 

「・・・さて。そろそろ試験時間よ」

 

 

空戦魔導師たちによって試験が変更されていると言う事は恐らく試験官たちも空戦魔導師かその関係者。もしくは彼らの息がかかった者達か。

何故彼らが自分たちの試験を突如変更したのかは疑問として残ったが、兎も角として。ティアナは目の前に浮かび上がった大型の投影ディスプレイに背筋を伸ばして向き合った。

 

『おはよう御座います!受験者さん二名は揃っていますね?』

 

「・・・はい」

 

「はいッ!」

 

『今回は急遽試験内容を変更すると共に試験官も私に変更となりました。突然の事で申し訳ありません・・・』

 

(・・・子供?歳は・・・エリオと変わんないか?)

 

(あれっ・・・あの子どこかで・・・?)

 

『・・・改めまして。今回、お二人の試験についての試験官を勤めさせて頂きます、リィンフォース=ツヴァイ空曹長です!よろしくお願いします!』

 

銀色の髪の少女に戸惑いを覚える二人だが、それぞれ思う事は警戒と疑問。

油断などもう既にしていない。

 

『―――では再度確認を行います。陸戦魔導師のティアナ・ミラー二等陸士』

 

「――はい」

 

『・・・スバル・ナカジマ同二等陸士』

 

「おっ・・・違った、はいッ!」

 

(―――。)

 

『・・・保有ランクはB()・・・今回は、Aランク(・・・)昇格試験で・・・本当に間違いありませんね?』

 

「・・・そちらの情報に間違いがなければ」

 

「――だと、思います」

 

明確に答えないところ、どうやら読まれていたらしい。

リィンの使うディスプレイを通し、始めて彼女達の肉声を聞くはやてとフェイトは互い目を合わせ、冷や汗を垂らす。

声色と表情からして既にバレている。

二人は互いに同じ事を思い、画面へと顔を戻した。

 

「完全にバレてるな、こりゃ・・・」

 

「はやて・・・なんだか怖くなってきた・・・」

 

「いや。そんなオバケとちゃうんやし・・・」

 

 

 

 

 

『あ、あはは・・・り、了解しました・・・』

 

苦笑いで誤魔化すリィンは、助けを請うように画面外の後ろへと振り返り、誰かに承諾か助言を得たのかまた画面の方に顔を振り向けた。

 

『では、今からそちらに今回の試験内容とマップを転送します』

 

 

(・・・誰か後ろに居る?この悪巧みを手伝った奴か・・・)

 

「――ティア」

 

「・・・!」

 

 

《 PON! 》

 

軽い音と共に彼女達のもとに一枚の投影ディスプレイが映し出される。

書かれているのは試験内容について。そして、その試験を行うマップ。ならびに配置されているドローンの種類だ。

 

『いま転送したデータにはマップと試験内容が書かれています。マップにつきましてはこの場で見て覚えていただきます。その後、こちらで自動的に回収しますので』

 

「・・・。」

 

「広いね・・・」

 

『今回の試験内容は下位ランクであるBランクと同様。先ずは、市街地を抜けてそびえ立つビルへ突入。同施設内部に居る救助者ドローンを避けつつ、敵対象ドローンを破壊。最上階にあるドローンを破壊してください。その後、高速道路を抜け、指定されたポイントへと向かえば、無事にゴールです。

制限時間は一時間。

最低でも目標のドローンと指定数のドローンを破壊していただければそれでも合格となります』

 

「一時間・・・」

 

「ふえぇ・・・」

 

 

「い、一時間!?」

 

「なのはちゃん、リィンに時間を短くさせたな・・・」

 

「そんな・・・こんなの、最低でも一時間半はかかるのに・・・!」

 

「露骨に腹いせなところがなのはちゃんらしいというか・・・」

 

どうやら友人はそこまでご立腹なのだろう。

上官に対しての口答え、態度、そして恐らく油断。

大方、少し痛い目にあってもらおうという彼女なりの仕置きのようなものなのだろう。

しかし・・・

 

 

(・・・長いね(・・・)、ティア)

 

(ええ。二十分ありゃ十分。ギンガさんなら、嫌がらせに十八分とか言ってくるでしょうけど・・・甘く見すぎてるって空気と様子で分かるわ)

 

寧ろ易しすぎる。あまりに簡単すぎてしまっている。

念話で会話をする二人はそこまで時間をかける気は無いと最初から思っていたようで、彼女達の感覚からすれば余りにも長い時間、一時間を半日と思ってしまうほどの長さに感じてしまっていた。

 

 

『―――他に質問は?』

 

「――いえ」

 

「特にはありません」

 

『・・・分かりました。今から二分後に試験を始めます・・・危ないと思ったら棄権してくださいね!?それが普通なんですから!!』

 

なにやら心配するようにリィン締めくくるが、ティアナとスバルはなぜあそこまで気にするのかと思い首を傾げていた。

 

「・・・?」

 

「・・・さぁ?」

 

彼女が映っていたディスプレイの場所を指差し、目で尋ねるティアナ。しかしスバルも当然ながらなぜそうなったのか分かる筈もなく、お手上げというポーズで首を横に振る。

元より彼女に聞くのが間違いだったかと思い「そうよね」とティアナはぼやき、試験の行われる場所、廃棄された都市部へと目をやった。

 

 

 

 

 

 

管理局内での魔導師のランクはEからSまで存在し、ランクを上げるためには昇格試験を受けなければいけない。

その試験内容は全ランク一貫して実技試験であり、どちらに所属しているかで試験の難易度も違ってくる。

 

今回、ティアナたちが受ける試験は魔導師ランクAへの昇格試験。

内容は灰都市のビルでターゲットを破壊。その後、高速道路跡を通過しゴールするというもの。内容自体はシンプルなものだが、試験内容は空戦向けにアレンジされ、制限時間も変更されている。

制限時間一時間以内にターゲットを破壊し、ゴールするというポイント形式。

そのポイントが一定値を超していれば合格らしい。

 

 

「ポイント形式って・・・なんだか遊ばれてる感じがするね、ティア」

 

「同感。だから見栄しか張れない連中しかできないのよ、空戦は」

 

しかし、彼女達には実に眠たい話だ。

陸戦魔導師の場合、制限時間、内容ともにこれを軽く上回る条件が課せられる。

例としてなら制限時間は二十分前後。対象ドローンのレベルの上昇などなど。

言い表すなら「合格したければ地面を這い蹲ってでもやれ」というものだ。

 

 

「―――スバル。開始と同時にパターン2。ビルを通過したら私が()を渡すから、それを蒔いていって」

 

「オーケー。ティアはどうするの?」

 

「・・・範囲外(・・・)のドローンを狙撃して先にゴール地点の道路に居るわ。マーカーを付けとくから、蒔き終ったら辿って来なさい」

 

「了解ッ。けど、相手は空戦魔導師だし、ティアも気をつけてね?」

 

「・・・アンタに言われたくないわね」

 

とは言うが、本人もまんざらでもないという顔でスバルの言葉を聞き入れた。

純粋に心配してくれているのだろう。思っている感情が表に出やすい彼女のことだ。目の前に映る表情の殆どが彼女の気持ちをダイレクトに表している。

信頼しているからこそ、思う事を彼女は素直に見せているのだろう。

 

「・・・やれるわね、相棒(スバル)

 

「勿論だよ、相棒(ティア)

 

互いの拳をあわせ、最終確認を終える。

元より準備は出来ている。

 

 

―――さぁ、始めよう。狐たちの舞いを

 

 

 

 

 

 

 

 

試験開始の合図であるランプが消えると同時に、二人は真っ直ぐに走り始める。

スタートダッシュというべきかその元気の良さを窺える。が、スタートダッシュをした瞬間。モニターが観戦していた者達はその行動に戸惑い、驚いていた。

別にたかがスタートダッシュで驚いていたわけではない。

問題は、彼女達がその場(・・・)で走り出したということだ。

 

道がないわけではない。だが、厳密にいうなら、彼女達にとっての道は僅か数歩程度しかなかった。

二人の立つ場所は地面ではなく、五階建ての廃ビルの屋上。

その先には空虚に広がる廃都市があった。

 

「ティアッ!」

 

テンセカンズ(10秒)、タイミングは任せる」

 

「――了解ッ!」

 

刹那。

高揚感に釣られ足に力を込める。興奮と緊張、そして僅かな不安。

しかし彼女達に恐れはない。散々こんな事を経験した。だから大丈夫だ。

恐怖に勝る自信と安心感に身を任せ、二人はまるで海にでも飛び込むかのように屋上の端でタイミングよく蹴り上げた。

 

 

 

 

「ひゃッ―――――ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

 

まるでアトラクションを楽しむかのように飛び降りた二人は重力に引かれ、地面へと落ちていく。いや、彼女達の場合は降りる(・・・)といったほうが良いか。

死を恐れず、降りていく二人。その中で先に変化を見せたのはティアナだ。

今更怖くなったわけではない。彼女もこんな事にはもう慣れている。だからこそ、彼女は場合によっては死に至るというこの状況でも涼しい顔をして冷静さを保っていた。

 

 

 

(魔力生成・・・)

 

落下と共に向かってくる風の中、目を凝らし意識を研ぎ澄ます。

恐怖や興奮を抑え、体内に循環する一つの流れをつかみ取り、それを自分の身体の中心。胸の中心へと集めていく。

段々と熱を帯びていく中心では、そこだけが日光に当たっているかのように熱い。だが、同時になにか柔らかな感覚も感じられる。

 

――まったく、不思議な感覚だ。何度も経験しているがこの感覚にはいつも驚かされる。

 

そんな感想を思いつつ、ある程度集まった熱に力を加える。

といっても実際に手を加えるわけではない。感覚と意識をそのままに熱を変化(・・)させるのだ。

これが彼女が三年の間に習得した技の一つ。

 

 

「生成・・・・・・迷彩、展開ッ!!」

 

体内で変化させた魔力を一気に体内へと放出し、自分に覆い被せる。

瞬時に生成、変化した魔力は布のようにティアナの身体に覆いかぶさっていき、全身を包み込む。

やがて、魔力が身体と一体となった時、彼女の身体は段々と消え始めていった。

 

 

 

「ッ・・・幻術・・・違う・・・」

 

「消えた・・・!?」

 

魔力によって応用された透明魔術(・・)に観戦するはやてとフェイトはそれぞれの表情を見せていた。はやては口元に手をあてて考え込み、フェイトは純粋に驚いたという様子だ。

 

「僅かに魔力が漏れてるってことは・・・魔術の類?」

 

「あんな高度な物を魔術で?そんな事・・・」

 

「うん・・・理論と理屈さえ変わってたら魔術は幾らでもできる。けど、透明化を可能とする魔術なんて、聞いたことないて・・・」

 

これはますます目が離せなくなった。

冷や汗を掻きつつも舌を撒くはやては瞬きすらも自ら禁じ、彼女達の映るモニターに釘付けとなる。一分一秒、その行動に目が離せず、その全てを脳裏に焼き付けようと目を輝かせた。

 

 

 

 

 

ごうっと吹き続ける風の中、(地面)に近づくにつれ心臓の鼓動が速くなる。

本能が告げている警告に耳を傾けるが、一々そんな事に怯えることもない。寧ろそれを元にタイミングを計れると前向きな考えを胸にスバルは笑顔のまま地面を見続けていた。

 

(そろそろかなっ・・・!)

 

心臓の鼓動を時計代わりにスバルは魔力を生成、転換させる。

弾丸のような攻撃でも、鉄壁の守りでもない。

魔力自体に自身を乗せる(・・・)

自分の立つべき道を作り出す。

 

 

 

 

「―――ウィングロードッ!!」

 

 

次の瞬間、スバルの足下から青白い魔力が放出され、それが人一人分の道へと変化する。

ウィングロード。彼女が姉と共に独学で身に付けた魔力道だ。

魔力によって生成されているので防御にも転用が可能。更に、緊急の道を形成したりとその用途は幅広い。

彼女の足下から形成されたウィングロードは螺旋状の急な坂となり、地面まで続く即席の階段になった。と言ってもご丁寧に階段が出来たわけではなく、一本の坂道が内向きに傾いているだけのものだ。

その道にスバルは足を付け、慣れた動きで地面へと滑り降りていく。このままいけば二人とも無事に地面につけるだろうと思いたかったが、スバルはそんな生易しい事を行わず、自分の身だけを考えるかのように自分の足下にだけ道を形成した。

 

つまり、ティアナだけは単身まだ落ちていたのだ。

スバルの形成したウィングロードの中心は人間一人が入れる程度の広さが広がっており、そこに彼女だけが一人落ち続けていた。

このままでは地面に激突して最悪足を折るだろう。

誰もがそんな事を考え、スバルに正気なのかと問いかけたかった。

 

 

 

しかしスバルもそこまで馬鹿ではない。ティアナが一人形成したロードの真ん中を落ちているのには気づいていた。そして、それが自分と彼女が意図的に行ったことであると言う事も、始めからそのつもりで彼女はロードを作り上げたのだ。

何の策もなしに自分の身の安全だけを考えたわけではない。既にスバルはティアナに頼まれたものを地面に用意していた。

 

 

 

「――――――ッ!!」

 

 

彼女が通っていた道が霧のように霧散し一部は本人の魔力として戻っていく。

そして、残った魔力を使い、スバルは彼女の落下地点にあるものを形成していた。

螺旋の中心に作り出されたのはスバルの魔力色で作り上げられた丸い何か。

見た目からすればまるで柔肌のような色と輝きだ。

それをティアナの足下に設置したスバルは小さく笑みを見せる。

 

 

 

「出来上がりッ!!」

 

「ふっ・・・!」

 

刹那。透明化したティアナが丸い魔力の塊に片足をつける。

重力に引っ張られた勢いと彼女の体重が合わさり、丸い塊に衝撃が走る―――

かと思いきや、塊は本当に柔肌のように凹んでいき、彼女の付けた片足を中心に塊の中に一瞬だがティアナは沈んでいった。

これには見ていたはやてもまさか、と驚きを隠せなかった。

 

衝撃を和らげるだけの魔力を形成。それを地面に設置し、彼女の着地時の衝撃を和らげる。

つまり、足下に作られたものは魔力で出来たクッションだ。

そう思ったはやてだが、結論付けるにはまだ早かった。

 

勢いと共に沈んだ体は地面に付く事無く―――

 

 

「いっ・・・けぇ!!!」

 

足を蹴るようにクッションを蹴り上げ、ティアナは再び大空を舞っていったのだ。

 

 

 

「魔力のクッションやなくて・・・トランポリン・・・!」

 

 

 

 

 

「作戦開始・・・!」

 

「らじゃーッ!」

 

 

恐ろしくも感じた二人の笑顔に、画面越しに見ていたはやては笑みを見せる。

焦りと興奮。そして歓喜。

二人の力をこの目で見たいと心の底から欲した。

 

「こんの二人は・・・!」

 

その欲に答えるように、ティアナとスバルは空と地を駆け抜けていった。

 

 

 



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