あんそろじーこれくしょん あんこれ! (伊崎ハヤテ)
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吹雪 始まりの波飛沫

 まずはこのゲームのセンターでもある吹雪から。最初の秘書艦は吹雪にしました。現在改です。駆逐艦の中では一番レベルが高いですね。頑張りやさんなのがまた可愛いです。
・鎮守府のイメージはアニメ鎮守府と同じような感じです。
・吹雪自身の設定もアニメに寄せています。
・あえて主人公と鎮守府には名前はありません。艦これを始めるであろう人みんなに共感して頂くには丁度いいかと。

 それではどうぞ。願わくば、これを読んだ提督の方々の心に、一番最初の艦むすが浮かびますように。


 

 俺はとある施設の前に立っていた。鎮守府。ここが俺が提督として勤める場所だ。俺の提督としての日々が始まるんだ。

 よし、と気合を入れると鎮守府の正門まで足を進める。するとそこには一人の女の子が立っていた。その子は俺を見るやいなや、敬礼してきた。

「司令官、お待ちしてました!」

 青と白を基調としたセーラー服。髪は短く、そこから真面目さが伺える。

「駆逐艦、吹雪です! よろしくお願いします!」

「ああ。よろしく」

 俺も敬礼をして返答する。すると吹雪と名乗った彼女はにこりと笑った。

「はい! 司令官、荷物はさっそく執務室に置いておきました!」

「お、ありがとう。鎮守府に着いたらあの量の荷物を部屋に運ばなきゃいけないと思ってたから気が重かったよ」

 前もって送っておいたダンボールの山を思い出して苦笑いがこぼれる。そこでふと疑問が残った。

「あれ、ってことは君があのダンボール全部運んだのか?!」

 この俺よりも遥かに年下に見えるこの子が?

「はい! 一度には無理でしたけど全部運びました!」

 彼女の言葉に俺は何も言えなかった。俺よりも小さな体にどれだけの力があるのだろうか。少しの畏怖を覚えたが、彼女が俺のためにそこまでしてくれたのが嬉しかった。

「ありがとな、吹雪。おかげで助かったよ」

「あ……」

 彼女の頭を撫でると一瞬顔が緩んだ。頬が少し赤く染まったその顔は年相応の女の子のものだった。

「っ、司令官、執務室にご案内します!」

 そう思ったのも束の間、吹雪は顔を引き締めた。この子、俺が提督だからこんなに畏まってるんだろうか。

 そう思いながら俺は彼女の後ろ姿を追いかけた。

 

「こちらが執務室です!」

 吹雪に案内されて通されたのは、少しこじんまりとした部屋だった。壁にはシミが点々とあり、空気は少し埃っぽい。そこに置かれた、数個のダンボール。それ以外は何もなかった。

「ごめんなさい、机位は用意したかったんですけど……」

 吹雪がしゅんとして謝ってきた。

「吹雪が落ち込むことはないさ。誰だって始めはこんなもんだろ」

 部屋をぐるりと見渡すと、埃っぽい部屋に光を差す窓を見つけた。それに近づいて外の景色を覗いてみる。

「それにさ、この窓からの景色がいいな。いい部屋だよ。用意してくれてありがとう」

「司令官……」

 吹雪の表情がぱあっと晴れる。俺も笑顔でそれに応える。

「よし、まず手始めにこの部屋の掃除から始めるか!」

 俺は軍服の袖を捲る。まずはここの埃っぽい空気を何とかしないとな。

「はいっ!」

 彼女の元気な返事を聞きながら掃除用具を取りに向かった。

 

 それから吹雪と二人で黙々と執務室の掃除をした。モップをかけたり、壁のシミ取りをしたり、かなりの時間を要した。

「一先ずはこんなもんかな」

 ふうと息を吐き、額の汗を拭った。見違えるほどとは言えないが、さっきよりはマシになった。

「お疲れ様です、司令官!」

 吹雪はにこりと笑顔で俺に駆け寄ってきた。会った始めよりは硬さが無くなったかな。

「あ、吹雪、ほっぺに汚れがついてるぞ」

 頬の黒ずんだ汚れが気になって、持っていた手ぬぐいで拭きとってやる。

「あ、ありがとうございます……」

 吹雪は顔を赤らめる。素直なとこがなんとも可愛らしい。

「し、司令官、次は何をしましょう?」

 ふと我に返ったのか、また表情を引き締めて距離をとった。そんなに身構えなくてもいいのに。

「そうだな……。出撃するのはちと早いと思うし……」

 ちらと吹雪を見る。こんな俺よりも年下の女の子が海に出て深海凄艦とか言う正体不明の敵と戦うんだよな。未だにそれがちょっと信じられない。

「そうだ。吹雪の力を見せてくれないか?」

「私の、力ですか?」

 首を傾げる吹雪に俺は頷いた。

「俺は提督として、艦娘一人ひとりの力がどれ位のものかしっかり把握しておく必要があると思うんだ。吹雪がどれほどの力を持っているのか、俺に見せてくれ」

 本音としては彼女ともっと打ち解けられたらいいな、と思っていたけど。

 俺のそれっぽい理屈に納得してくれたのか、彼女は勢い良く敬礼した。

「了解しました! 吹雪、抜錨します!」

 さて、見せてもらおうか、特型駆逐艦の性能とやらを。

 

「まさか、これ程とはねぇ……」

 港にある演習場。広がった海に幾つかの射撃用の的が幾つも浮かんでいた。その海を吹雪は走っていた。艤装に引っ張られながら。

「う、うわぁ!」

 姿勢制御もままならず、両足の推進装置が彼女の身体を乱暴に振り回す。彼女がバランスを崩し、海面に叩きつけられても尚スピードは落ちない。

「てゆーかこっちに来てる?!」

 制御を失った吹雪の艤装は見物していた俺の方へと突進してきている。俺が避けようと動いた時にはもう遅かった。鉄の重みと、柔らかな感触が同時に襲いかかると、俺の視界はブラックアウトした。

 

「ん……」

 身体にのしかかる重みに意識が戻ってくる。一体どうなったと目を開く。

「……」

 俺の腹には吹雪の頭が乗っかっていた。伸ばした手は俺の胸元にあてがわれ、足は絡みあう様にもつれていた。

「っ、吹雪! 起きてくれ!」

 俺は倒れたまま彼女の肩を揺すった。この大勢は色々とまずい。俺の身体が反応しちまう。

「う、ん……、ん?」

 ぱちりと吹雪の目が開いた。そして彼女の瞳に映るのは俺の顔。彼女は自分の置かれている状況を理解したのか、一瞬で顔が真っ赤になる。

「ご、ごめんさい!」

 慌てて俺から離れようとするが足がもつれていたせいか、上手く離れられない。俺は慌てる吹雪の肩を掴んだ。

「吹雪、まずは落ち着け。はい、深呼吸して」

 落ち着くように諭すと彼女は目を瞑って深呼吸し始めた。さっきの慌てた表情が消えていく。

「立てるか?」

「はい、大丈夫です……」

 がしゃりと艤装が音をたてながら吹雪は立ち上がった。彼女の装備を見るが、特に壊れた所はなさそうだ。

「怪我が無くてよかったよ」

「すみません司令官……」

「謝ることはないよ。それよりも、今日は調子が悪かったのか?」

「いえ、それが……」

 俺の質問に吹雪は目を逸らした。この様子だと何かを隠したがっているのか?

「――じめてなんです……」

「え?」

 よく聞き取れなかったな。吹雪は顔を真っ赤にしながらこちらに向き直った。

「わたし! 海に出るの、初めてなんです!!」

「……」

「ごめんなさい、私、ずっと言えなくて……。こんなこと言ったら司令官はがっかりするだろうし……。がっかりさせてごめんなさい……」

 吹雪は申し訳無さそうに項垂れる。その瞳からは涙が滲んでいた。

「俺と同じだな」

「え?」

 自然と言葉が出ていた。それを吹雪は不思議そうに聞きながら俺を見つめている。俺は自分の正直な気持ちを吐き出すことにした。

「俺だって今日初めて提督に着任した、素人みたいなもんだ。今後艦隊を指揮することになって、上手く指示出来ないんじゃないか、誰かを――、轟沈させることになるんじゃないかって不安なんだ」

 でも着任した時、その不安以上にワクワクしてたんだ。提督になれば今までとは違う経験が出来る。今まで見れなかった景色が見れるんだって。

「俺と吹雪、素人提督と新米駆逐艦。ここから俺たちの鎮守府が始まるんだ。だからそんなに気を落とす必要はないよ。これから強くなればいいんだから」

「司令官……、ありがとうございます!」

 涙を拭い、満面の笑顔を俺に向けてくれた。よかった。女の子の涙はあんまり好きじゃないんだ。

 俺が安心していると吹雪は鼻息を荒くしながら俺に近寄ってきた。

「よーし! そうとなったら特訓しましょう、司令官! 吹雪、全力でいきますよ!」

「最初っから全力で飛ばし過ぎたせいで艤装に引っ張られたんだろ? 無理しちゃダメだろ」

 俺が指摘すると、はう、と身を縮こませる。ちょっと頑固で融通がきかない所がまた可愛らしい。

「特訓って程じゃないけど、そうだな……」

 顎に手を当て、海を見渡す。波は穏やかで潮風が気持ち良いい。

「そうだ!」

 俺は妙案を思いつくと走りだした!

「あの、司令官?」

「そこで吹雪は待ってて!」

 吹雪の返事を待たず、俺は工廠へと走りだした。

 

「はい、お待たせ」

 しばらくして俺が工廠で作ってきたものを見て、吹雪はそれを不思議そうに見つめていた。

「ゴムボート、ですか?」

「そ、ゴムボート」

 作れるかどうか分からなかったが、工廠に勤める妖精さんに無理を言って作ってもらった。大して資材も消費しなかったからよかった。俺は心の中で妖精さんたちに感謝した。

「こいつを吹雪の艤装につける。俺がこのボートに乗るから吹雪はこいつを引っ張ってくれ」

「私が、引っ張るんですか?」

「ああ。俺は吹雪たちが、艦娘たちがいつも見ているだろう景色を一緒に見てみたいんだ。頼めるかな?」

「分かりました、吹雪、改めて抜錨します!」

 俺がゴムボートに乗り込んで微笑むと、元気のいい返事をした。

 

「じゃ出発進行ー!」

 俺がゴムボートに乗り込んで合図を送ると吹雪はゆっくりと動き始めた。景色が歩くような早さで進んでいく。

「あの、こんなにゆっくりでいいんでしょうか?」

 吹雪は不安そうに後ろを向いてくる。俺はそれに笑顔で答えた。

「最初っから速力全開で疾走ろうとするから艤装に引っ張られるんじゃないかな。だから始めはゆっくりで、その艤装と海に慣れたらスピードを出してごらん」

 ほら前向いて、と俺が指示すると彼女は航海に集中し始めた。それからゆっくりと景色が流れていたが、吹雪が慣れてきたのか徐々にスピードが上がっていった。吹き付ける潮風が中々に心地いい。

「っ! 司令官!!」

 吹雪もそれを感じているのか、はしゃいだ子供みたいに振り返った。

「な、落ち着いてやれば出来るんだよ」

「はい!」

 嬉しそうな笑顔に俺も自然と頬が緩んだ。

 

 それから吹雪と一緒に鎮守府近海をクルージングしていると、空の色がオレンジ色に染まった。はしゃぎ過ぎたかな。

「そろそろ港に帰ろうか。夜の航海はまだ危険だろうし」

「わかりました、司令官!」

 笑顔で見つめ合う俺達の顔に複数の影が落とされる。その主に視線を向けると、数羽の海猫が夕日に向かって飛んでいた。

「暁の水平線、か……」

「綺麗……」

 吹雪は足を止めて海に沈みゆく太陽を見つめる。夕日に照らされた彼女は格別に魅力的で。

「ああ。綺麗だな……」

 思わず言葉を漏らしてしまう。そんな俺の言葉の裏を知らず、吹雪は笑いかける。

「改めて、よろしくお願いしますね、司令官!」

 笑顔で敬礼してくる吹雪に俺は敬礼ではなく、笑顔で応える。

「ああ、こっちこそよろしくな、吹雪」

 

 ここから始めよう、俺と吹雪の艦隊を。俺たちの鎮守府を。

 

 それから俺たちはどんな艦隊編成にするか笑い合いながら港へと戻った。




 このシリーズの後書きに、僕自身が提督として体験した出来事をSSとして書いておきます。
俺「吹雪、建造を頼む」
吹雪「はい、司令官! 全材料オール100ですね?」
俺「ああ。軽巡が欲しくてな。初めての建造だし、少し奮発してみた」
吹雪「了解しました。えーと、建造時間一時間だそうです!」
俺「そうか。その時間だと軽巡かな? 何が出るのか楽しみだな!」
吹雪「はい!」

 一時間後……

「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー! よっろしくー!」
俺「……」プルプル
吹雪「司令官抑えてください! 解体用のハンマーを握らないでください!」


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