ジョン・メイトリックスは勇者部所属 (乾操)
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1・うどんでも食ってリラックスしな

このSSを読むにあたって注意点がいくつか。
1.このSSは原作視聴を前提として書かれています。ゲームは未プレイで構いませんが、アニメは見ていないと分かりにくいかもしれません。

2.このSSはコマンドーだけでなくその他様々な映画のネタが含まれます。俗に言う『組合員』でない方は訳が分からないかもしれません。

3.このSSは『ジョン・メイトリックスは元コマンドーである』の番外編に相当します。本編の方を読んでおいた方がわかりやすいと思うので、見てこいカルロ。

4.1、2、3を踏まえた方でも結局訳が分からないかもしれません。

それでも構わないならば、お読みください。OK?



 讃州中学校勇者部は私、犬吠埼樹を含めて六人。

 

 まずは、三年生で私のお姉ちゃんの犬吠埼風。勇者部の部長で、優しくて頼れるリーダー。

 

 次に二年生の結城友奈先輩。勇者部のムードメーカーで誰とでも仲良くなれる凄い人。 

 

 同じく二年の東郷美森先輩はクールビューティーな勇者部の頭脳。

 

 最近転校してきた二年の三好夏凜先輩は、煮干しとサプリを愛するツンデレさん。

 

 そしてお姉ちゃんの同級生で副部長のジョン・メイトリックス大佐は、身長190センチ、髪は茶、筋肉モリモリマッチョマンの変態だ

 

 

 私達勇者部の活動は、社会のためになることを勇んでやること。例えば、公園の草むしりや浜辺の清掃活動、商店街や幼稚園、保育園のお手伝い、エトセトラエトセトラ……。要するに、ボランティア活動なんだけど、色々理由あって『勇者部』という名前になっている。

 

 でも、それは表の顔。

 私達勇者部には、隠されたお役目があった。

 それは、迫りくる人類の敵、『バーテックス』から、勇者(コマンドー)としてこの国の恵みの源である『神樹様』を守ること。

 人類の未来とかけがえのない日々を守るため、私達は戦う。 

 でもその前に、私たちにはどうにかしなければならないことがたくさんあった。

 

 

「あっつい……」

 午後の部室でお姉ちゃんが胸元を扇ぎながら唸った。

 季節は夏に入り、外では蝉がみんみん大合唱している。窓は開け放たれてはいるけど風一つ吹かず、部室に熱がこもる一方だった。

「今日は40度まで上がるらしいですよ……」

「樹ちゃんそれホント? うちのお風呂の温度よりも高いよー」

 友奈さんはいつものハキハキ元気な雰囲気とは打って変わって溶けかけている。その近くでは夏凛さんが鞄からサプリ瓶を取り出して、しきりに振り回していた。

「瓶の中でサプリが溶け固まってる……こんな室温じゃぁ、間違いなく死ぬわね」

 夏凜さんが参ったように言うと、窓際で銃を磨いていたメイトリックス大佐が、

「大丈夫だ、そう簡単に死ねるもんじゃない。まずここの空気が230度まで熱くなる。次にサプリが花火みたいに爆発する。それから髪の毛が燃えて、爪が溶けていくんだ」

「怖いわ! ……まぁ、それにしても……」

 そう言ってチラリと東郷先輩を見る。

「東郷ってすごいわね。汗一つかいてないわ」

 東郷先輩はさっきからパソコンに向かいながらカタカタとキーボードを打っている。そんな先輩の額には汗の一粒も無く、背筋もピンと伸ばしていて、『心頭滅却すれば云々』を体現しているかのようだった。最初は脱水症状起こしてるのかと思ったけど、そうでもないらしい。

「東郷、 気を悪くしないでよ……あんたターミネーターでしょ?」

「もー夏凜ちゃんったら。今度変なこと言うと口を縫い合わせるわよ」

 東郷先輩はキーボードを打ちながら私達に説明してくれた。

「脇の下にタオルでくるんだ保冷剤を挟んでいるのよ。脇の下には太い血管が通っていて、そこで冷やされた血が全身の体温を下げてくれるの」

 えっ、なにそれズルい。

 なんでも、お昼のお弁当に使っていた保冷材を使った応急処置らしい。私達の保冷材は完全に溶けきってしまっていた。

「でもさ東郷、人間はそれでイイにしてもパソコンがヤバいんじゃないの?」

 お姉ちゃんが訊く。曰く、過熱を冷却系でカバーできなくなって壊れてしまうらしい。確かに、それは心配。

「大丈夫ですよ風先輩。この程度の室温ならまだ……あら?」

 そう言った矢先、パソコンがエラー音を発し、画面が真っ青に変化した。キーボードを叩いて、マウスを何度もクリックするけども、ウンともスンとも言わない。

「何? 壊れたの?」

 固まったサプリを鞄に戻した夏凜さんもパソコンを覗きこんだ。

「東郷さん直せないの?」

「さすがにそこまでは出来ないわ……」

 これは非常に不味い。

 勇者部の活動はこのパソコンに依存するところが大きい。そのパソコンが壊れたとなるとホームページの更新もできないし、依頼メールの確認も出来ない。子猫の引き取り先探しにも影響が出てくる。勇者部は機能不全に陥っちゃう。

「何を騒いでいるんだ」

「あっ、ジョン」

 大佐も青画面を覗きこむ。なんだろう、嫌な予感がする。

「こんなの、叩けば直るだろ」

「あのねぇ、精密機械なのよ?」

 お姉ちゃんが呆れ声を上げる。でも、大佐は問答無用でそれを実行した。

「動けこのポンコツが! 動けってんだよ!」

 大佐の大きな手がバシバシとパソコンを叩く。そして、次の瞬間! 

 ぐしゃ。

「あっ」

「あっ」

 聞こえてはならない音が部室に響いた。

 勇者部が誇るパソコンは『ポンコツ』から『スクラップ』に進化した。完全破壊だ。なんてこったい。

「ジョン……あんた……」

「本当にすまないと思う」

 大佐は筋肉を委縮させて落ち込んだ。筋肉が委縮するということは、相当反省しているらしい。

 しかし、これでいよいよ勇者部は機能不全だ。まさか学校に、『副部長の筋肉がパソコンを完全破壊したので新しいのください』なんて言えるはずがない。

「と、とりあえずパソコン部に持っていくわね……」

 お姉ちゃんは弱弱しくそう言うとパソコンの亡骸を抱えて部室を出ていった。

 そして5分後、それを抱えたまま戻って来た。

「どうでした?」

「ダメだった。『こんなのパソコンじゃないわただの不燃ごみよ!』って言われた」

 当然だね。

 でも、本当にどうするんだろう。みんなでお金を出し合うにしろ、同程度の性能のパソコンとなると十万円以上はする。一介の中学生にそんなホイホイ一万円以上の大金を出せるわけがない。

「あっ! そういえば!」

 落ち込む勇者部一同の中で友奈さんが何か思い出した様子で鞄を漁った。

「これ! これですよ!」

 友奈さんが鞄から取り出したのは一枚のビラだった。そこには『第46回 ふるさと料理対決』と書かれている。参加人数は2人で、中学生の部のテーマはうどんのようだ。

「これ、優勝賞品が最新式ノートパソコンなんです!」

「おお! でかしたわ友奈!」

 参加人数は二人。家庭料理の達人であるお姉ちゃんは自ら捏ねるほどのうどん好き、東郷先輩は本格的な和食を作ることに定評のある職人肌。この二人がいる勇者部ともなれば、これは優勝間違いなしだね。

 そういうわけで、私達勇者部はこの大会に参加することとなった。

 

 

「ごめんなさいみんな……」

「悪いわね……」

 大会当日、会場である讃州中の体育館で、東郷先輩とお姉ちゃんが私達に謝った。

「昨日うどんの練習してたらバッツリ指切っちゃって……」

「私は捏ねてたら手首捻っちゃって……」

 戦力が無くなっちゃったわ。

 夏凛さんが焦った様子で訴える。

「どうすんのよこれ!」

 勇者部の料理担当2人がリタイアした今、残っているのは4人のみ。

 まず私。料理は壊滅的にできない。使えるキッチン用品はせいぜい電子レンジくらいだ。

 次に友奈さん。友奈さんも私達同様料理は出来ないらしい。ご飯は全部お母さんに任せっきりのようだ。

 夏凜も絶望的だ。何しろ晩御飯はコンビニ弁当でそれ以外はサプリか煮干しを食べているだけ。

 大佐も、料理できるイメージがこれっぽっちも沸かない。

 つまり、揃いも揃って料理に関してはトーシロー。全くお笑いだ。

「えっと……とりあえず、ジャンケンで決める?」

 友奈さんが提案した。こうなっては仕方ないだろう。

 ジャンケンの結果、料理するペアは私と夏凜さんに決定した。タロットで占ってみようか……いや、やめとこう。どうせ碌な結果にならないことは目に見えている。

『それでは出場者の皆さんは位置についてきてください!』

 そうこうしている内に司会のお兄さんが指示してきた。出場する中学生のペアが次々と設置された料理台に移動していく。

「さぁ、私達も行くわよ!」

「は、はい!」

「夏凜ちゃーん、樹ちゃーん、頑張ってねー」

 友奈さんの能天気な声援が私達を見送った。大佐も親指を立てている。なんか死地に赴く戦士を鼓舞しているようだ。縁起でもない。

『……皆さん位置につきましたね!? では、ヨーイ! スタート!』

 私達が位置につくのとほぼ同時、開始の合図が鳴り響く。夏凜さんが腕をまくって気勢をあげる。

「さぁさぁ樹! まずは麺づくりよ! ……えっと、うどんの材料って……」

「確か、小麦粉です!」

「分かったわ! で、小麦粉ってどれよ」

 私たち二人の前にはたくさんの具材が並べられている。その内粉は4つあり、この中のどれかが小麦粉という事だろうか。

「えぇっと……こ、これかしら?」

 夏凜さんが一番手前にあった粉を手にした。すると、ギャラリー席にいたお姉ちゃんが、

「待って、それは片栗粉よー!」

「えっ、違うの!?」

 慌てて片栗粉をもとの位置に戻した。お姉ちゃんが司会のお兄さんに注意されている。今度余計なアドバイスしたら失格にするぞと言われているようだ。

 そうなると、残り三つのどれかが小麦粉ということ。食品リストを見ると、それぞれ強力粉、中力粉、薄力粉とある……。

  おぉイエイエイエイエふざけんなこんなのアリかよマジで契約違反だ。なんでうどん大会なの『小麦粉』が用意されて無いの。

「それともあれかしら、名前を変えてるだけで、この中のどれかが本当は『小麦粉』ってことかしら」

「何でわざわざ名前を変えてるんですか?」

「情報戦の一端ね。きっと」

「マジですか」

「とにかく、こうなると名前以外の点で判断するしかないわね」

「どうするんです? 匂いを嗅げとでも?」

「ああそうだ」

 答えるなり夏凜さんは粉の入っている袋に顔を突っ込んだ。会場にどよめきが起こる。どうやら頭がおかしくなったと思われたようだ。

「ど、どうですか夏凜さん?」

 恐る恐る訊く。夏凜さんは袋に頭を突っ込んだまま答えてくれた。

「う~ん……ヘロインの匂いがするな」

「えっ」

「これはヘロインよ。間違いないわ」

「なんでこんなところにヘロインがあるんですか?」

「治安悪化の一端ね。きっと」

「マジですか」

 この粉がヘロインかどうかの真偽のほどはさておき、とりあえず小麦粉ではないらしいことは分かった。となると、残った粉のどちらかが小麦粉。

 夏凜さんはヘロインの袋から顔を上げるとその隣の袋に顔を突っ込んだ。再び会場にどよめきが起きる。

「ど、どうですか夏凜さん?」

「う~ん」

 真っ白になった顔を上げながら夏凜さんは確信的な笑みを浮かべる。

「これが小麦粉ね」

「そうなんですか? はいこれタオルです」

「ありがと。とりあえず、これに水と塩、そして私厳選のサプリを加えてこねるだけね」

「えっ待って」

 私は耳を疑った。見ると、夏凜さんの手にはサプリミックスが握られている。

「これが入ることで、栄養満点パーフェクトうどんが完成するわ」

 オイオイオイオイちょっと待てよ待てって! そんなのいれたらうどんじゃ無くなっちゃう!

「ま、待ってください! 麺は私が作ります! 夏凜さんは麺つゆを、どうぞ!」

「お、おう」

 夏凜さんを鍋へ追いやって私は小麦の前に立つ。

 うどん自体は単純だ。なんたって小麦に水を入れて混ぜていけば出来上がるんだから。

 でも、いざ水を入れて捏ねていっても一向に固まる気配が無く、ボソボソの玉に変身していく。こんな簡単な仕事一つ、果たすこともできんのか私。

「樹! そんなへなちょこじゃコシのあるうどんにならないわよ!」

 夏凜さんの声が私に飛ぶ。私の腕ではどうしてもうまくうどんをこねられなかった。

「代わるから麺つゆ見てて!」

「は、はい! ……何だこれは!」

 ポジション変更と同時、私は思わず叫んでしまった。

 確か、夏凜さんはうどんつゆを作っていたはずだ。にもかかわらず、鍋で煮えたぎっているのはブルーハワイよろしく青色の液体であった。

「これは……サプリメントあたりでしょうか?」

「お目が高いわ~。正確には15種類のサプリを配合したうどんつゆよ」

 なんでこういう時に限って煮干しを使わないんだこの人は。 

 と、そんな時、ふとギャラリー席の方を見たら何故か大佐がドシドシこちらに歩いてくるのが目に入った。いったい何が始まるんです?

『ああっ、ギャラリーの方は席に戻ってください! 失格処分になりますよ!』

 司会のお兄さんが大佐に警告した。が、大佐はお構いなしで私達のキッチンまでやって来た。そして、明後日の方向を指さし、大声で叫んだ。

「見ろ! 象さんだ!」

 司会のお兄さんも含め、会場にいた全員が驚いて大佐の指さした方向に注目する。その一瞬の隙を突き、大佐は夏凜さんの首筋に一発手刀をお見舞いした。

「ぐえっ」

 夏凜さんはたまらず昏倒。そんな夏凜さんを抱えて大佐は、

「大変だ! 選手が倒れたぞ! 医務室に連れて行かなければ!」

『えっ!? た、大変だ! 救護班の人は来てください!』

 大いなる陰謀に斃れた夏凜さんは哀れ担架に載せられて会場の外に運びだされていった。

「こうなってはしょうがない。俺が夏凜の代わりに続き参加する」

 なんと、白々しいんだ……。大佐はエプロンを装着して手を洗った。

「大佐、料理できるんですか?」

「月に一度、『筋肉系の集い』という会合があってな、そこで知り合った軍艦乗りのコックに教えてもらった」

 なんと、人は見かけによらないものだ。ていうか、料理できるなら言ってくれても良いのに……。

 でも、仮に大佐が料理出来たところで鍋の中のブルーハワイもどきが突如PONと麺つゆに変化するわけでもなし、どうすれば……。

 焦る私に対して大佐は冷静沈着筋骨隆々だ。

「ノープロブレムだ樹」

 そう言って、どう見てもサバイバルナイフにしか見えない包丁を手にした。

 

 

『はい、しゅーりょー! 皆さん調理時間終了です!』

 終了の合図が鳴るのと料理が完成するのはほぼ同時だった。

「なんとか間に合ったな」

 大佐がフゥーと息を吐く。間にあった……うん、確かに時間には間に合った。でも……。

「これ、大丈夫なんですか?」

「問題ない。ほら、持っていくぞ」

 大佐が顎でステージ上にいる審査員たちを示した。

 審査員席には有名な料理研究家の方々がズラリと並んでいて、私達をギロリと睨んだ。中学生相手に本気モードだなーと思ったけど大佐が睨み返すとみんな視線をずらした。

『それでは、最初は讃州中勇者部のうどんです!』

「こっ、こちらになります!」

 おずおずと作ったものを差し出す。瞬間、料理家の先生の目つきが変わった。訝し気な顔で私と皿の上のものを見比べる。

「何だこれは」

「う、うどんです」

「どう見てもうどんじゃないのだが」

「な、夏野菜うどんのパンケーキサンドです」

 そう、大佐が作り上げたのはサンドイッチだったのだ。私達の作ったメタクタなうどん(らしきもの)を食えるものにするにはこれしかないと作り上げたのだ。

 審査員の方々の前に順番に皿が並べられる。ああ、視線が痛い。

 視線に耐えられなくなった私は料理の説明を大佐にバトンタッチした。そもそもうどんを全く別なものに作り替えたのは大佐だ。私に説明できるはずがない。

「えー、おほん」

 主任審査員が咳払いする。

「何故題目とは違うものを作ったので?」

「黙って食え」

「えっ……いや、君ね」

「いいから黙って食え」

「…………」

 バトンタッチなんてするんじゃなかった。この人ミジンコレベルも解説するつもりないよ。

 審査員の方々は皆偉い人ばかり。それが一介の中学生ごときに生意気な口をきかれてさぞ腹が立っていることだろう。でも、大佐のギラリとした目を見る度に委縮してしまうようだ。

「まぁ、食ってみるか……」

 しぶしぶ料理を口に運ぶ審査員の先生方。でも、料理を口に含んだと同時、目が飛び出るんじゃないかという勢いで目を見開いた。

「何だこれは!? 見た目はサンドイッチにも関わらず、うどんのコシと喉越しが損なわれていない!」

「こってりしているようで爽やかで、出汁の良く利いた風味が溜まらん!」

「これは紛れもなくうどんだ! しかも上等の! これはまさにうどん界の人間武器庫」

 えぇ……。

 何か良く分からないけど、評判は上々なようだ。いや、上々なんてものではない。感動のあまり泣いている人もいる。

「いやはや素晴らしい。ところでこの出汁だが、単なる出汁醤油ではないな」

「言われてみればそうですな。独特の風味だ。いったいどのようなスパイスを?」

「知らない方が良い」

 首を傾げる審査員の方々にそう言って、大佐は私に振り向いた。

「これで(パソコンが)出来た」

 その表情は、何とも確信的なものだった。

 

 

 かくして、我が部に最新のノートパソコンがやって来た。

「ああっ、最新式ノートパソコン『マーヴ6』凄いわ! 処理速度がまさに真紅のジハード級」

「東郷さんが嬉しさのあまりおかしくなっちゃった」

「にしても意外だったわ。まさかジョンが料理出来たなんて」

「長年の経験のたまもんよ」

 大佐がライフルのボルトをガチャガチャさせながら誇らしげに答える。考えてみれば、大佐は山の中で一人暮らしだというし、夏凜さんと違ってコンビニも近くにないから料理の出来る出来ないは死活問題なのだ。

「むう、悔しいけど、大佐に料理教えてもらった方が良いのかしら」

 夏凜さんが唸る。ちなみに夏凜さんは大会後に目を覚まし、勝手に自分で倒れたと勘違いしていた。何故倒れたのかは伝えていない。世の中には知らない方が良い事もある。忘れないことだ。

「なんだ夏凜。料理を教えてほしいのか」

「えっ!? べっ、別に教えてほしいわけじゃ……でも、教えてもらった方が便利かもって……」

「そうか」

 言うなり大佐は整備していたライフルを夏凜さんに渡した。

「えっ、なに」

「まずは猪狩りだ。ついてこい」

「えっ、嘘、えぇっ」

「I'll be back」

 料理に関心を持った夏凜さんだったが、まずは食料調達だと大佐に連れられて部室から消えていった。

 今夜は猪のステーキか?

 

 

 



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2・カメレオンみたい……

 部活の時間、私達勇者部は体操着に着替えてグラウンドの隅に立っていた。周りではサッカー部と野球部の声が朗々と響き渡っている。

 勇者部をグラウンドに集めたのは夏凜さんだ。どうやら、何か企んでいるらしい。

「いったい何が始まるんです?」

 私は訊いた。すると、横からお姉ちゃんが、

「第三次大戦だ! ……なんちゃってー」

「あっ、それ昨日テレビでやってた筋肉モリモリマッチョマンの映画ですよねー」

 友奈さんも反応する。昨日の映画は最高に面白かった。あれほどの名作にはそうそう出会えるものではない。そんな素晴らしい作品が今、従来の吹き替えに加え、完全新規吹き替えを収録した数量限定ディレクターズ・カット版ブルーレイディスクとして好評発売中だ。パッケージは豪華スチールブック仕様で、吹き替え声優インタビューも付いてくる。さらに、この吹き替えシリーズの商品を併せて購入すると抽選で名言集カレンダーと、運が良ければ新録版吹き替え台本までもがもらえるらしい。

 コイツは最高の商品だ、買わない手はない。

「それって洋画?」

「はい。東郷先輩は見なかったんですか?」

「ええ。もっぱら邦画ばかりで」

「面白かったんですよ。なんか他人事と思えない映画で」

 私達は一斉に大佐を注視した。体操服が筋肉ではち切れそうな大佐は、私達が注視するのに気付いて、「なんだよ」といった表情を見せた。

「……とにかく、アンタ達はたるんでるのよ! いつバーテックスが来るか分かんないのよ!?」

「まぁまぁ夏凜。イライラしちゃって働き過ぎィ?」

「そうだよ夏凜ちゃん。カルシウムでも摂ってリラックスしな」

「ふざけないで!」 

 ふむ、マジで怒ってるな? 

 夏凜さんはフンヌと息巻いた。

「いい? 私は本気(マジ)よ。今日はアンタ達をビシバシ鍛えてやるわ。特訓よ!」 

 え~……季節はもう夏に入ろうとしてるのに外で特訓とか、チョー最悪だ。カンボジアが天国に思える。

「特訓? なんだか楽しそう! 私走るの好きだよー!」

「そいつはいい。トレーニングへの『熱い情熱』を決して失わないことが成功への最大の条件だともいう」

 友奈さんと大佐はノリノリだ。さすが勇者部筋肉三人組の二人。腕力になら一応の自信があるらしい東郷先輩も、

「私も第五匍匐前進なら腕だけでどこまでもいけるけど……」

 東郷先輩が地面を這いずりまわってる姿に若干の興味が沸くけど、やるとなると話は別だ。

「ていうか、こう言うのは部長たる私が決めるのよ。でも、夏凜のいうのもまぁもっともな話よね」

 夏凜さんの案に一応の同意を見せたお姉ちゃん。だけど、単に訓練するだけなことをこの人が認めるはずもない。

「そうでしょ? だから、私が教官となって——」

「だから、勇者部それぞれの個性を出すべく、交代で教官役をしよう!」

「…………は?」

 唖然とする夏凜さん。そんな彼女を他所に勇者部一同は大いに盛り上がった。

「なんか良く分かんないけど面白そう!」

「興味深いですね」

「筋肉だ」

 要は、みんなそれぞれ好きな事すればいいということだ。その間は、みんなもそれに従うと。なるほど、確かに面白そう。

「…………」

「夏凜ったら何しょぼくれてんのよ。言いだしっぺだから、最初に教官役やらせてあげるわよ」

「……! そ、そう!? いいの?」

 嬉しそうに頬を綻ばせる夏凜さん。先輩にこう言うのも何だけど、可愛い。

「一同傾注! これより、夏凜教官主導の訓練を開始する!」

「はーい!」

お姉ちゃんの号令の下、私達は一列に並んで夏凜さんを見据えた。当の本人は若干困惑してたけど、すぐに気を取り直して、鬼教官モードに入った。

「ビシバシ鍛えていくわよ! まずは口からクソ垂れる前と後に『マム』を付けろ! 分かったかウジ虫ども!」

「まむ、いえす、まむ!」

「ふざけるな! 大声出せ!」

「マム、イエス、マム!」

「もっとネイティブに!」

「Ma'am Yes Ma'am!」

 恐ろしい。まさか夏凜教官がここまでガチ系だとは思わなかった。大佐なんか「良いぞ海兵隊!」なんて喚いてるし、友奈さんはヘラヘラしてるし、お姉ちゃんは突如ドーナッツを取り出して微笑みデブごっこ始めるし。

 こんな中、東郷先輩だけが、

「こんなの勇者部じゃないわ! ただのブートキャンプよ!」

と珍しく文句を言っていた。とにかく、今日は動きたくないらしい。対して、夏凜軍曹は容赦と言う言葉を知らない。

「だったら鍛えればいいだろ! さぁ東郷も声だせ!」

 でも、夏凜さんの天下はそこまでだった。

「はーいしゅ~りょ~。次は東郷ねー」

「んなっ!?」

 お姉ちゃんの号令によって夏凜さんの教官タイムは幕を閉じた。これからは東郷先輩の時代である。どうやら東郷先輩はそんなに動き回りたくないらしいし、これは楽なの期待できそう。

「うーむ……。はい、決まりました。では、私の話を聞いてください」

 どうやら訓示系らしい。これは楽そう。

「——お前らは女や子供たちを殺したんだ。我々の町に空からうどんをばら撒いた。そのお前らが我々を『テロリスト』と呼ぶぅ!! 」

 なんか始まった。

「友奈さん、東郷先輩何言ってるんですか?」

「えっ、分かるわけないじゃん」

「ですよね」

 東郷先輩の演説が響く。

「瀬戸内海全域から全ての軍隊を撤退させろ。即刻ぅ! そして永遠になぁ!」

「いやさ、東郷。もうわけわかんないから」

「これだからテロリストは気に食わねぇんだ」

 お姉ちゃんと大佐に止められて東郷先輩の演説は終わりを告げた。

 続いては私が教官役。

「えっと、発声練習しましょう!」

「発声練習?」

 夏凜さんが舐めくさった声を上げる。おっと、発声練習を舐めんじゃねぇよ。

「結構体力使うんですよ」

「えー? そうかしら。声を出すだけでしょ?」

「じゃぁそう言う夏凜さん、とりあえず『あー』と声を出してみてください」

「分かったわ。あー」

 まったく、夏凜さんったらさっき散々声張れだの喚いてたくせにいざ発声練習となるとただのカカシですな。全くお笑いだ。劇団員が見たら、奴らも笑うでしょう。

「もっとお腹から声を出してください」

「あー!」

「ダメですよ、そんなじゃ喉潰れちゃいます」

 喉で無理やり声を出すと喉を傷つけちゃう。下手すると喀血するよマジで。

「横隔膜を張る感じです。ほら、やってみますから私のお腹を挟みこむように触ってみてください」

 あー、と声を出した。私のお腹を触る夏凜さんは「オォウ……」とおもしろい声を上げた。

「こら夏凜! 人の妹の腹に濫りに触るな。ジョンの腹触ってなさい。アイツも腹式発声出来るから」

 お姉ちゃんが大佐に振ると、大佐は何故か上半身裸になり、これまた何故か全身に泥を塗りたくり、またまた何故か近くにあった大きな木の上にスルスルと登って、太い枝の上に立ち、力の限り叫んだ。

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「ね?」

「色々突っ込みたいところがあるんだけど」

「泥を塗るのはプレデターに探知されないようにだね」

「その通りよ友奈ちゃん」

「いや、私が言いたいのは……はぁ、もういい」

 夏凜さんは呆れかえっていた。

 次の教官役は木の上にいる大佐だ。大佐は飛び降りて、身体についた泥を拭い取った。

「で、ジョン。何すんの?」

「筋トレだ。腕立てを百回」

「ひゃっ!?」

 お姉ちゃんが変な声を上げる。私も同様だ。か弱い女の子に腕立て百回なんて、あまりにも過酷に思える。勇者部の一応筋肉要員である夏凜さんと友奈さんもウーンと言っている。私達女子の中で余裕なのは車椅子生活であるが故に腕力のある東郷先輩くらいなものだ。

「あ、あのさジョン。さすがにいきなり百回は、無理かな~……」

「いつも平気でやってることだろうが!」

「やってねぇよ!」

 でも、教官の言う事には従うこと……そう言ったのは、他ならぬお姉ちゃんだ。我が姉ながら、余計なことを言ってくれたものだ。

「やるんだ」

 大佐の鋭い眼光が私達の身体を射抜く。なんか筋トレになった瞬間大佐の目の色が変わった気がする。

 まぁ考えてみれば、あの体つきは見るからに筋トレ大好き人間のものだ。なんか讃州中ボディビル部の名誉部員らしいし、筋トレに命かけてるんだろう。

 私達はしぶしぶ地面に身体を伏せた。

「よし行くぞ! イーチ……」

 大佐が数を数えはじめた、その時。

 グラウンドの隅に固めておいた私達の鞄。その中にしまわれていたスマートフォンが、けたたましく鳴り響いた。

「!?」

 辺りを見回すと、野球部やサッカー部の人たちがぴたりと止まっていた。ボールも空中で止まっている。そよいでいたはずの風も、いつの間にか無くなっていた。

「これは……」

「樹海化ね……」

 樹海化……それは、四国全体が神樹様の作りだした結界に包まれるという事。私達はその結界の中で人類の敵『バーテックス』と戦い、そいつが神樹様にたどり着く前に、倒さなければならない。倒さないと、人類が滅びる。『審判の日』的なものが来る。

「とりあえず、筋トレどころじゃないわね……」

 お姉ちゃんが真剣な面持ちで言う。でも、腕立て百回から解放されたという喜びを隠しきれていなかった。

 

 

 

 

 樹海化と同時、私達は『勇者(コマンドー)』に変身した。変身すればそれぞれ個性的な武器が使えるようになる。具体的には、私は変幻自在なワイヤーが武器で、お姉ちゃんは身長ほどもある大剣、友奈さんは籠手、東郷先輩は銃、夏凜さんは刀、大佐は筋肉だ。もっとも、お姉ちゃん曰く大佐のそれは『勇者(コマンドー)システム』とは若干違うものらしいけど。

 私達が変身し終わるのと大佐がデエェェェェェェエンと武装し終わるのは一緒。大佐はマシンガンを構えながら、

「さぁ、敵はどこだ」

 筋トレを中断されたことが気に入らないらしい。さっきまでの大佐は確か筋肉を高める人の顔をしてた。今の大佐は全く違う顔をしてる。 

 私達が変身し終わったと同時、向うからバーテックスの放つカカシ……『星屑』の大軍が殺到してきた。クラゲのようなものからクモのようなモノまで色々で何ともまぁキモイ。

「お前らみんな死ねぃ!」

 大佐の弾幕が炸裂した。

 バーテックスに通常兵器は通用しない。それでも大佐の機銃弾が通用するのはひとえに筋肉の賜だ。大佐曰く、筋肉は万能なのだ。

「やることが派手だねぇ」

 お姉ちゃんが感心した様子で呟く。大佐の強みは扱う武器の多様さ。

「武器は一体どこから取り出しているんだ」

とか

「弾切れしないのか」

とかまぁ色んな疑問があるけれども、それもこれも全て『筋肉のおかげ』でかたが付く。ツッコミを入れようものなら、ある朝目覚めるとベッド脇のコップの中に大事なタマタマが浮かぶことになる。忘れないことだ。

 そんなことはさておき、大佐の弾幕のおかげで飛来した星屑たちは文字通り星屑同然になった。

「大気圏で燃え尽きてろ」

「やるわね。さぁ~、私たちも負けてらんないわよ!」

 お姉ちゃんが大剣を構えながら意気込む。私たちもそれぞれ得物を構えたりした。

「あっ」

 と、そんな時、友奈さんが何かに気付いたような声を上げた。

「ちょっと友奈、人が折角やる気満々になってるのに——」

「あそこ」

 友奈さんが指さす方向、そこでは大きなバーテックスが自分の身体を軋ませながらこっちへゆっくりと近づいてくる姿が見えた。

「そうねバーテックスね。だから、あれを倒すのよ!」

「違います! その手前ですよ」

 私達はグッと目を凝らした。

 確かに友奈さんの言う通り、バーテックスから数十メートルほど離れた場所に女の子らしき人影があるのが見えた。何かの間違いかと思って目をこすってみたけど間違いなくそこにいる。バーテックスはゆっくりではあるけどこちらに向かっている。女の子が立っているのはその進路上。このまま行けば……。

「間違いなく死ぬわね」

 お姉ちゃんが眉間にしわを寄せる。

「お姉ちゃん、あの子なんで逃げないのかな」

「腰を抜かして動けなくなっているのかも……東郷、援護して! 私達はあの子の場所へ行くわよ!」

「了解!」

 指示に従って跳び上がる。

 勇者(コマンドー)に変身することで私達の身体能力は数倍にも上がる。思いっきりジャンプしたら十数メートル、いや、数十メートルの高さまで跳べるし、それを利用して素早く移動することもできる。

 そんな私達の上を大佐が飛んでいった。

「行くぞ! ターボタイム!」

 大佐の移動速度は私たち以上で、本気を出したら音速を越えられるとも噂されている。

「相変わらず速いわね」

 夏凜さんがどことなく悔し気に言った。夏凜さんの勇者(コマンドー)としての長所の一つが『機動性』らしい。図体に似合わず自分より高速移動する大佐にちょっとジェラシーを感じているようだ。

「あの筋肉じゃしょうがないわよ」

「そうだよ夏凜ちゃん」

「分かってるわよそんなこと。なんか釈然としないけど」

 筋肉さえあれば物理法則の壁なんて余裕で超えられる。これは常識だから。

 戦闘時の長距離会話はスマホ(スマートフォンの略。断じてスマッチョフォンの略ではない)を使う。お姉ちゃんは大佐に女の子の安否を確かめるべく電話をかけた。

「コマンドー、繰り返しますコマンドー。こちら部長の風よ。女の子は? ……なにィ!? 見失ったァ!?」

 お姉ちゃんが目をひん剥いて電話口に吠える。どうしたんだろう、もしかしてバーテックスに食べられたのかな? 私たちもスマホを取り出して回線につなぐ。

「突然消えた? どういうことよ」

『そのままの意味だ。消えたんだよ。スッと』

「バカ言ってんじゃないわよ」

「消えた子はもういいから、バーテックスを倒すのが先決よ風」

 夏凜さんが刀を振り回しながら言う。確かに、女の子が『消えた』のなら一応無事とも取れる。ともなれば、目の前の敵に対応すべきだ。

「それもそうね……よし、勇者部一同、親玉のバーテックスを殲滅するわよ!」

「了解」

 

 

 バーテックス自体は割かしあっさり倒すことが出来た。

 戦いの後、夕暮れに染まる部室。私達の話題は例の女の子のことで持ちきりだった。

 『樹海』は神樹様の作り出した結界で、そこで戦えるのは神樹様から力を分けてもらっている私達『勇者(コマンドー)』だけ。でも、夏凜さんが言うには、私達以外には勇者(コマンドー)は存在しないらしい。

 あの子は、いったい何者なのか。

 そんな私達の疑問に『勇者部の筋肉』ことジョン・メイトリクス大佐が一つの答えを出した。

「奴はプレデターだ」

 なるほど、あの女の子の正体がプレデターなら突然姿を消したことの説明もできる。あの女の子は宇宙から飛来した戦士なんだ。

「アイツがプレデターという事は、いずれ戦うことになるわね……」

 夕日に照らされながら夏凜さんが深刻そうに言う。私たちも無言でそれに頷いた。

 でも、この時私達は気付いていなかった。この予想が、大きな間違いだということに。

 




とりあえず連投になりましたが、以降間隔は広めです。


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3・メイトリックスは元気に走り回ってるわ。い ま ど こ ?

最近コマンドー系の映画以外見ていないことに気付き愕然とする。


 学校が半ドンだった冬のある日。私達は石油ストーブを取り囲む形でお菓子をつまんでいた。特に活動することもなく暇だったからだ。そんな時、お姉ちゃんがふと口を開いた。

「そう言えばさ、今日ジョンの様子が変だったのよ」

「いつも変じゃない」

 夏凜さんが煮干しをつまみながら言う。身も蓋もない言いぐさだけど、確かにその通りだ。大佐は毎日変だ。つまり、変じゃ無くて世間一般的な価値観で『普通』になった時、初めて大佐が『変になった』と言うことが出来る。

「つまり、大佐が普通になっちゃったの?」

「いや、いつも通り変なんだけど、そのベクトルが違うというか……」

 この日、大佐は部室に顔を出していなかった。お姉ちゃんが言うには、いつもは部室に直行している大佐がいつの間にかどこかへフラフラと行ってしまったらしい。奴らしくないです、コイツは何か裏があります。

「どんな感じだったんですか?」

 友奈さんが首を傾げて訊いた。お姉ちゃんはウームと考えて、

「なんて言うかね、その……輝いてた」

「え」

「風先輩それは……大佐がチェレンコフ光を発していたということですか?」

「んな物騒なもんじゃないわよ。なんかね、喜びがにじみ出てる感じ……?」

 お姉ちゃんの話はスカートの上からお尻を撫でるようなものだ。実態がどうも見えてこない。

 でも、大佐の状況はすぐに分かることになった。

I'm back(今戻った)!」

 扉が開け放たれて、大佐が姿を現したのだ。

「あっ、ジョン! まったく、どこ行ってたのよ」

「風、今日は最高の一日だったよ」

「はぁ?」

 姿を現した大佐は確かに異様な雰囲気を放っていた。なんというか、妙ににこやかというか………そう、輝いてる。喜びが筋肉の節々からにじみ出ていて、それはもう変だった。

「散歩に行って、それからヘルスクラブでご機嫌なマッサージ。あんまり気分が良くて、そのままそこで昼寝をした………煮干し! それ大好物なんだ」

 大佐は静かに素早くシュワッと夏凜さんに接近すると煮干しをヒョイと取り上げて口の中に放り込んだ。夏凜さんが怒り混じりの悲鳴を上げる。

「何すんのよ!」

「何も怒ることないだろう。人生は音楽、友達、そしてこの煮干し。最高だ。人生の喜びを分かち合おう」

「煮干しが人生そのものだということは認めるわ。でも、それとこれとは話が別よ!」

 すると大佐はふぅとため息をついて、純粋無垢なチワワのように潤んだ瞳で夏凜さんを見つめ返した。そのあまりの不気味さに夏凜さんはたじろぐ。私たちも近寄る勇気が無くて遠巻きに二人を眺めていた。

「そう怒っていては身体に悪い……血圧が上がる。夏凜、君はもっと自分を大事にすべきだ」

「な、何を……」

「夏凜ったら照れてるわよこんな状況で」

「あはは、夏凜ちゃんチョロイねー」

「風、友奈! 覚えときなさいよ!」

 ちょうどその時、廊下から音楽が聞こえてきた。どうやら、管弦楽部が練習を始めたらしい。曲はタンゴのようだ。ご機嫌な曲が学校中に響き渡っている。大佐は夏凜さんの手を掴んだ。

「えっ」

「タンゴでも」

「えぇっ? アッ!?」

 デレッデッデェェェン♪

 勇者部の部室は突如としてダンスホールと化した。大佐の太い腕に夏凜さんはブンブン振り回されている。友奈さんと東郷先輩はそれをやんややんやと手を叩きながら楽しそうに見ていた。

 でも、お姉ちゃんは神妙な顔をしながら腕を組んでいた。

「お姉ちゃんどうしたの?」

「……やっぱり今日のジョンは変だわ」

「うん、見てれば分かる」

「……あ」

 お姉ちゃんは何か閃いたように手を打った。そして、「ジョン!」とタンゴを踊る大佐に呼びかけた。

「何だい風」

「ジョン、あなたの無上の喜びは?」

「そんなの決まってるじゃないか。勇者部のみんなで、平和に楽しく暮らすことだよ」

 大佐にしてはあまりにも常識的な発言に暖房が効いているにもかかわらず身体が震えた。そんな大佐のおでこに友奈さんが恐る恐るチョンと触った。瞬間、まるで沸騰した薬缶に触れたように手を引っ込めて耳たぶを触った。

「大佐スッゴイ熱!?」

「何言ってんのよコイツが風邪なんて人間的な病魔に襲われるわけないじゃない」

 夏凜さんもつま先を伸ばして大佐のおでこに手を触れた。

「うおっ熱っ!?」

「みんな離れて! メイトリックス大佐が爆発する!」

「東郷ったら何くだらない冗談言ってるのよ。それより、保健室にでも連れてった方が良いんじゃないの?」

 お姉ちゃんの言う事は至極もっともなことだ。私も大佐のおでこに触ってみたけど、焼き石かと思ったほどに熱かった。ていうか人間が発して良い熱じゃない気がする。布団なんかかけようものなら熱で発火してしまうんじゃないだろうか。

 こんな熱い男(そのままの意味)を担いで保健室に行くのは至難の業だ。皮膚がただれる。お姉ちゃんは

友奈さんに保健室から担架か車椅子を持ってくるように頼んだ。

 と、その時。

 私達のスマホが一斉にアラームお鳴らし始めた。

 樹海化警報……バーテックスが攻めてきたんだ。

「こんな時に……」

 これだからバーテックスは気に食わねぇんだ。こっちの都合も考えずに、全く身勝手な連中だよ。

 それにしても、大佐がダウンしているというのは私たちにとって大ピンチだ。戦力が下がるうえ、この大男を守りながら戦わなければならない。

 私達の不安を他所に世界はみるみる樹海に呑みこまれていった。

 

 

 樹海化が完了したころには既に私達はそれぞれ変身を終えている。ただし、今回は大佐の『デエェェェェェェエン』は無し。大佐は近くにある神樹様の根っこに腰かけている。どことなく女々しい雰囲気を放っているけど、全くもって不気味だ。こんなのが街中に現れたら都市伝説として未来永劫語り継がれるに違いない。

 敵の姿は遠くに小さく見えた。放熱板のようなものを纏ったバーテックスだ。

「じきに星屑も来るわね。これは、ここで迎え撃つ方が良いのかしら? 東郷?」

「そうですね。下手に展開するのは得策ではないでしょう」

「大佐も動けないしね」

 友奈さんが心配そうに一瞥して言う。対して大佐は「今日の晩御飯どうしよう」などと言っている。平和。

 そうこうしている内にバーテックスはみるみる近づいてきて、星屑の大軍も押し寄せてきた。

「来たわよ!」

「弾幕張ります」

 東郷先輩は銃を構えるとすぐさま濃厚な弾幕を張り始めた。もっぱら狙撃の東郷先輩には珍しい戦い方だ。でも、いつもの弾幕担当が戦えないのだからしょうがない。

「東郷さんやる~」

「プロですから」

「東郷が引き寄せてる内に、私達はバーテックスに回り込むわよ。友奈と夏凜は右、樹は私についてきて!」

「了解!」

 バーテックスは神樹様の方角へ一直線に突き進んでいる。進路上には東郷先輩と大佐がいるから、どうにかそれまでに仕留めておきたい。

『そういえば』

 移動中、連絡用のスマホから友奈さんの心配そうな声が聞こえてきた。

『なんかあのバーテックス、前に見た気がしません?』

「なんですって?」

 お姉ちゃんが訊き返す。

『はい、なんだか、あのバーテックスと前に戦った気がするんです』

 友奈さんと同じことは私もさっきから気になっていた。あのバーテックスの姿にデジャヴを感じる。思い過ごしだったと思っていたけど、友奈さんも感じていたようだ。

『何バカなこと言ってんのよ……!』

「そうよ友奈。バーテックスは同じ種は二つとないのよ」

 友奈さんの言ったことを夏凜さんとお姉ちゃんは真っ向から否定した。でも、声の端々にデジャヴへの共感がにじみ出ていて、震えていた。

 バーテックスは全部で十二体、それを倒せば全ておしまい。そう分かっているから私達は戦っていけるわけで——。

「言ってても仕方ないわ。さっさとケリつけるわよ!」

 お姉ちゃんが振り切るように言って武器を構えた。

 と、その時、バーテックスが口っぽいところにエネルギーを溜めはじめた。ビームか何かを放つつもりらしい。

「あっ!」

 お姉ちゃんがマズイと言うように悲鳴を上げた。

 バーテックスの射線上には東郷先輩と、そしてすっかり女々しくなってしまった大佐がいる。バーテックスは動けない大佐に目をつけたのかもしれない。

「東郷達、危ないわっ!」

『えっ?』

 叫んだ、次の瞬間。バーテックスからビームが放たれた。放たれたビームはまっすぐ進み、伏せ撃ちしていた東郷先輩の真上を通過、その後ろに腰かけていた大佐に直撃し、大爆発を起こした。

「ジョン!?」

「大佐!」

 もうもうと煙が立ちこめる。なんてことだ、あんな強力そうなビームを食らったらひとたまりもない。生きていられる生き物はいないはずだ。

 煙はしばらく同じ場所を漂った後、ようやっとのこと立ち消えた。砲撃の後には大きなクレーターが出来ていて、地面がごっそり抉れていた。

 そしてその真ん中に、神樹様の根に腰かける全裸の大佐の姿があった。

「良かった、服が燃えただけだったのね」

 お姉ちゃんがホッとする。みんなも大佐が無事息災なのを確認して安心したようだ。なんか色々おかしい気もするけど。

 それはバーテックスも同じなようで、「撃ち所が悪かったかな?」とでも言いたげに身体を軋ませるともう一度ビームを放った。ビームは寸分違わず大佐に直進して大佐に直撃した。しかし、再び煙が晴れて現れたのは全裸で傷一つない大佐の姿だった。大佐は寒いと見えて、くしゃみを一つした。

「東郷」

「はい?」

「君の着ている服が欲しい。死ぬほど寒い」

「嫌です」

 それにしても大佐は本当に人間なのだろうか。人間は極限まで鍛え上げると身体にビームコーティングでも施されるのだろうか。

 それはひとまず置いといて、大佐にバーテックスの攻撃がほとんど通用しないことが解った以上、護衛する必要もない。ほっといてバーテックス退治に専念できる。

「よし! それじゃみんな行くわよ!」

「了解っ!」

 私達は答えると武器を構えた。

 

 

「片が付いたわ」

「早い」

「当然だぜ、勇者部の私達に勝てるもんか」

 優しい勇者(コマンドー)の前に敵は一人残らず息絶えた! 慣れてきたからだろうか、封印、御魂の破壊の流れをスムーズにこなせるようになってきた。御魂を破壊されたバーテックスは砂となって崩れていく。バーテックスを倒せば私たちの仕事はひとまず終わり。後は樹海化の解除を待つだけだ。

「あっ、あそこ」

 戦いが終わって一息ついていた時、友奈さんが遠くにあるものを見つけた。

「あっ」

「あれは……」

 そこにいたのはこの間の女の子だった。遠くて表情は全く見えないけど、こちらをじっと見つめているのは分かる。

 女の子はしばらくしない内にまたフッと姿を消してしまった。

「やはりアイツは……プレデター……」

 夏凜さんが呟く。

 追おうか——誰もがそう思った。でも、間もなく樹海化は解けるし、大佐なしでプレデターと対決するのは少々心もとない。

「今日のところは諦めよう。それより、ジョンをどうにかしなきゃ。とりあえず、犬吠埼家に運び込むわよ」

 大佐はいつの間にか裸のまま気を失ってしまっていた。バーテックスには勝てても、風邪には勝てないらしい。

 

 

 樹海化が溶けた後、私達は大佐を当直室から借りてきた布団でスマキにすると四人で担いで、東郷先輩の先導のもと犬吠埼家へと向かった。スマキにされた大男を女子中学生がえっちらおっちら運んでいく画は何とも奇妙なものだけど、日頃の行いが良いからだろうか、途中すれ違ったお巡りさんにも特に言われることは無かった。

 犬吠埼家に到着すると私達はお姉ちゃんに言われて大佐をお姉ちゃんのベッドに放り込んだ。サスペンションが聞いたことのない音を立てる。床が抜けてベッドごと大佐が階下に落ちていくんじゃないかとヒヤヒヤしたけどさすがにそんな漫画みたいなことは起こらなかった。

「それじゃぁ、私と東郷はお粥とか作るから、三人はジョンの傍にいてあげて」

「はーい」

 大佐は熱にうなされる様子もなく、電源を落としたみたいに眠っている。

「ねえ」

「なぁに夏凜ちゃん」

「こいつピクリとも動かないんだけど」

「よく眠ってるね」

「死んでんじゃない?」

 夏凜さんに言われて友奈さんが脈を計った。

「生きてるよ」

「ならいいんだけど。大体コイツうるさいときとそうじゃないときの落差大きすぎるのよ」

 それは夏凜さんに全面的に同意できる。静かな時はもう存在を消せるレベルに静かだけど、うるさいときはずっと、

「ほあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

とか、

「ああああああああああああああ!」

と叫び続けている。

 しばらく私たち三人は雑談(お天気、税金、インフレ)に華を咲かせていた。すると、突然大佐がムクリと起き上って辺りをゆっくり見まわたした。

「大佐、お目ざめですか?」

 私がそう訊くと枕元にあったサングラスをかけてゆっくり私の顔を見つめた。無言で。なんか言えよ。

「なに、ジョンお目ざめ?」

 その時丁度お姉ちゃんが東郷先輩とお粥を持ってきた。ほのかな出汁の香りが部屋の中にふわっと広がる。

「ジョン、調子は?」

「悪くない」

「お腹は?」

「空いてる」

「あなたの至上の喜びは?」

「敵を打ち負かすこと! そいつらの息の根を止め、バーテックス共の悲鳴を聞くときです」

 大佐がムキムキそう答えるとみんなはイエアホゥウ! と歓声をあげた。

「それでいい! よく言った!」

と、お姉ちゃん。

「これでいつもの大佐ですね」

 東郷先輩も目元に涙を浮かべながら嬉しそうに言う。何をこんなに感動しているんだろう。

 何はともあれ大佐の熱は下がった。何でも、大佐の身体の抵抗力が凄くて、その反動で熱が爆上げしたらしい。『人間の身体』って不思議。

 ベッドから降りた大佐はアツアツのお粥をぺろりと食べてしまった。本当に調子が戻ったようだ。

「それにしても、あの女の子、誰なんだろ」

「何言ってるのよ友奈。あんなのプレデターに決まってるじゃない」

 夏凜さんは自分の鞄から煮干しを取り出して一匹口に放り込みながら言った。

「でも、見た感じ普通の女の子って感じじゃない? そもそも、プレデターだからって樹海の中で動けるのかな」

「じゃぁ誰だっていうのよ」

「なんにせよ——」

 友奈さんと夏凜さんの不毛な議論をお姉ちゃんが止めた。

「アイツがプレデターだろうと何だろうと、何かあることは確かよ。今度見つけたら……」

「首をへし折る?」

「もージョンったら過激派なんだ。……話を聞かないとね」

 もしかしたら、あのプレデター(仮)は私たちの感じたデジャブについて何か知ってるかもしれない。意思の疎通ができるのかは知れないけど、やってみる価値はある。

 




SS書く時にガンダムなんて読むもんじゃない。文章が御大将節になりそうになる。


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4・助けてターボマン!

テストも兼ねて挿絵を挿入してあります。


 新緑香るある日の午後、私達勇者部は神妙な面持ちのお姉ちゃんと対面していた。私達に伝えておかなければならない事があるのだという。

「で、お姉ちゃん、それって?」

「うん。実は、昨日大赦から連絡があったの。『壁』が、枯れ始めたって」

「!?」

 『壁』というのはこの四国を取り囲む神樹様の根で作られた文字通り大きな壁で、これが四国に死のウイルス、そしてバーテックスが一気に侵入するのを防いでいる。この壁が壊れようものなら審判の日待ったなしの大惨事大戦だ。

「今のところは私達と大赦以外このことに気付いていないわ。不思議なことにね」

 目に見えて枯れているというなら、海岸に暮らす人ならすぐに気付くはず。そして、パニックを起こしかねない。でも、ニュースでは何も言っていないし、そんな噂も聞かない。

 本当に不思議。

 お姉ちゃんは腕を組んだ。

「詳しいことは大赦の調査待ちよ」

 そう言って、ポケットから一枚のプリントを取り出す。

「まぁ、今はそんなことどうだっていいの。本題はこれからよ」

「えっ」

「みんな、これを見て」

 お姉ちゃんが広げたプリントには鮮やかな色調ででかでかと文字が書かれていた。学校近くのバル・ベルデ商店街の発行したものだ。そこに書かれていたのは——。

「ヒーローショー?」

 私達は異口同音に声を上げた。お姉ちゃんが笑顔で「そう!」と答える。

「デパートの屋上とかでやってたあれよ」

「あっ、私、昔ターボマンのヒーローショー見ましたよ。『ターボディスケットを食らえー!』って」

 友奈さんが懐かしそうに言う。私も昔家族で見に行った記憶がある。私は相棒のブースター(首の座らないピンク色の熊みたいな生き物)の方が好きだったけど、どうも人気の今一つなキャラだった。

 お姉ちゃんが請け負ってきたのはバル・ベルデ商店街のご当地ヒーロー『仮面エンリケス』のヒーローショーだった。かなり昔からいるちょっと色黒なヒーローで、誕生自体はターボマンより古いヒーローだったはず。

「あれ、まだ続いてたんですね」

「東郷も知ってるの?」

「みんな知ってますよ。知らないのは夏凜ちゃん位じゃないかしら。大佐もご存知ですか?」

「知ってるよ。テレビに出てたアホだろ? で、なんでこんな依頼を受けてきたんだ?」

 お姉ちゃんが言うにはなんでも本職のスーツアクターの人が急な用事で来られなくなって、その代わりに出てほしいとのことだった。本来なら中止にするところだけど、折角の名物イベント、中止にするくらいなら勇者部が請け負いましょうと宣言したらしい。

「あんたってホント突拍子もない依頼受けてくるわね」

「褒めるなよ」

「褒めてないわよ」

 まぁ、その突拍子のなさがお姉ちゃんが勇者部部長たる所以でもあるんだけど。

 スーツは仮面エンリケスの分と悪役の分全部がそろっていて、ショーの大まかな流れも決まっているらしい。そこにお姉ちゃんが細かな肉付けをしていくということだ。

「どんなストーリーなの?」

「悪の組織ムエタイXが放つ怪人と商店街の平和をかけた戦い……まぁ、定番ものね」

 スーツは二種類。一つは我らがヒーロー『エンリケス仮面』。もう一つはムエタイXの怪人。名前は適当に決めてくれていいらしい。

「とりあえず、エンリケス仮面は友奈にやってもらうわね。怪人は夏凜」

「ちょっと、何で私が怪人なのよ」

「なによ私の可愛い妹にやらせるつもり?」

「言ってないでしょそんなこと。アンタや大佐がやればいいじゃない」

「私は演出・脚本だから。それにジョンは」

 そこまで言うとお姉ちゃんは大佐とスーツを見比べた。大佐の背は190センチにも達するし、筋肉も尋常でない。怪人スーツを着こんでちょっと力んだら肉圧でスーツが破れ飛んでしまう。まぁそれはそれで中々エキサイティングな演出にも見えるけど、相手はあくまで良い子のみんなだから、そんな破廉恥なことは出来ない。

「運動神経が良くて、体格もちょうどいいのがアンタなのよ。期待してるから、がんばりなさいな」

「……まぁ、そこまで言うなら、やってあげないこともないけど」

「ふっ、相変わらずチョロイな夏凜は」

「そこの筋肉うるさいわよ」

夏凜さんはそう言いながら大佐にパンチした。が、あの筋肉にパンチするなんて鉄骨にパンチするようなモノ。殴ると同時、夏凜さんは手から異様な音が発生して声にならない悲鳴を上げながら床の上でゴロゴロ悶絶した。

「ところでお姉ちゃん、そのヒーローショーはいつやるの?」

「うん? 来週の日曜日よ」

「えっ、もう一週間ちょっとしかないの?」

 お姉ちゃんの立てる計画はどうしていつもこうギリギリ何だろう。脚本はおおよそ出来ているというけど、他にも練習することはあるだろうに。もっとも、こんなハードスケジュールでもばっちりこなすのが勇者部のいいところなんだけど。

「樹は音響お願いね。東郷はナレーション、ジョンは舞台監督。私は当日は東郷と一緒にナレーションするから。さっそく練習始めていくわよ。ほら夏凜もいつまで悶絶してるつもりよ」

「モァイ……」

「夏凜ちゃんその呻き声面白いね」

 友奈さんは脳天気に笑った。

 

「エンリケス仮面は敵に止めを刺す時に必ず使わないといけない技があるの。必殺技ってやつね」

 体育館のステージ上には友奈さんと夏凜さんが立っていて、そこへパイプ椅子に座ったお姉ちゃんが指示をしていく。その隣には舞監(舞台監督のこと)の大佐が窮屈そうに収まっているのだけど、指示を出すのはもっぱらお姉ちゃんの仕事だ。ちなみに私と東郷先輩は大佐のさらに横に座っている。

「設定はガバガバなのにそこはしっかりしてるんですね」

 東郷先輩の言う『ガバガバな設定』というのは主に仮面エンリケスの生い立ちに関する設定のことで、これがショーをやるたびに変わっていた。今回は流浪の傭兵という設定らしい。

「どんな技なんですか?」

 友奈さんがワクワクしながら訊く。

「えっと……まず首の骨を折ります」

「死ぬほど疲れますね」

「今までの人が異常体質だったのかしら」

 技自体は何の変哲もない跳び蹴りだった。首の骨を折る理由が皆目見当つかない。でも、私達は伝統を重んじていくスタイルだから、友奈さんがまるで本当に首の骨を折ったかのように見える演出を施すことにした。

「ジョンお願い」

「任せろ」

 大佐はドスドスとステージの上に登った。そして、シュワッチと友奈さんの隣に相変わらず静かに素早く移動すると、目にも留まらぬ速さで首を抱え込んで、思い切り捻り上げた。

 ゴキャッと嫌な音が響く。

 そして、大佐は友奈さんをそのまま夏凜さんにむかって放り投げた。投げられた友奈さんはちょうど夏凜さんに飛び蹴りを食らわせる形でぶつかり、二人はもつれ合いながら転がった。

「流石ジョン。やるわね」

「これで当日も安泰そうですね」

 お姉ちゃんと東郷先輩はホッとした様子で言う。でも、夏凜さんだけが違って、

「何呑気なこと言ってんのよ! 友奈の首の骨折っちゃって! 死んじゃったんじゃないの!?」

「生きてるよ」

「うわ!?」

「ジョンがそのことに配慮しないわけないでしょ。だーいじょうぶ心配ないわよ」

「そうだよー、夏凜ちゃん。人間には215本も骨があんのよ。一本くらい何よ」

「その一本が致命傷なのよ! ていうか明らかに一本以上折れてたような気がする」

 しかし、友奈さんはピンピンしていた。首もきちんとすわっている。どんな魔法を使ったのやら。

 でも、こんな光景見せたら良い子のみんなは怖がってしまうんじゃないかな。

 そう思ったから、そのことをお姉ちゃんに訊くと、

「大丈夫よ。幼稚園の劇で普通に撃ちあいしててもみんな喜んでるじゃない」

「うーん、それもそうかなぁ」

 言われてみれば、前にやった幼稚園の子たちに見せるお芝居で、友奈さん演じるダンコ大尉がモブキャラを盛大に射殺していたけど(詳しくは前作一話を見てこいカルロ)特に何も言われなかった。そもそも、必殺技のパフォーマンスが『首の骨を折る』なんていう常識的に考えてめちゃくちゃな設定な時点で問題にならなかった。

「よーし、それじゃぁみんな! 本番に向けてビシバシやっていくわよ!」

「はい!」

 その日から一週間、体育館には友奈さんの首の骨が折れる(ような)音が響き続けた。

 一緒に活動していたバスケ部とハンドボール部は集団でノイローゼになった。

 

 

 そして本番当日。

 ショーは屋外でやるから天気が心配だったけど、幸いにして空はまさに秋晴れといった様子で、高く澄み渡っていた。観客席はちびっ子たちでごった返しており、エンリケス仮面が根強い人気を誇っていることが窺える。

『みなさーん、こんにちわー!』

 東郷先輩とお姉ちゃんが司会席から観客席に呼びかけた。ちびっ子たちはそれに元気いっぱいで答える。

『みんな元気だねー。司会のお姉さん一号、東郷美森だよー』

『同じく二号、犬吠埼風でっす!』

『今日はみんな集まってくれてありがとう! お姉さん、とっても嬉しいわ』

『でも、みんなが会いに来たのは、私達じゃないだろ~?』

 お姉ちゃんのおどけた声に客席からキャハハと明るい笑いが起きる。掴みはばっちりだ。お姉ちゃんは続ける。

『それじゃ、みんなで名前を呼ぼう! せーの……』

「エンリケスかめーん!」

 ちびっ子たちが叫ぶと同時、私は音響のスイッチを入れた。ゴキゲンで軽快な音楽が会場に響き渡る。そして、しばらくしない内に友奈さん扮するエンリケス仮面がステージ上に姿を現した。客席から割れんばかりの歓声が上がる。

「やぁ、良い子のみんな。今日は来てくれてありがとう!」

 友奈さんお得意のイケメンボイスがスーツ内に仕込まれた小型マイクを通してハキハキと響く。ちびっ子たちは目をキラキラ輝かせて(プレデターではない)エンリケス仮面を見ている。

 エンリケス仮面は客席にまんべんなく手を振ると腰に手を当てて仁王立ちしながら言った。

「実は、今日は良い子のみんなに紹介したい人がいるんだ。僕の相棒なんだけど」

 この『相棒』という設定はお姉ちゃんオリジナルである。ラストでエンリケス仮面が必殺技を叩き込む時、なんの脈絡もなく大佐がステージに登壇したりしたらちびっ子諸君は混乱するに違いない。それならば、最初からステージに立たせておけばいい、というお姉ちゃんの英断の賜だ。

 この相棒、皆さんは分かっていると思うけど、大佐である。

「僕の相棒、ターミネーターだ」

 音響のスイッチを入れる。重厚なBGMが会場に流れ出した。

 デデンデンデデン……デデンデンデデン……。

 BGMと共にステージに現れたのはライダースーツで身を固め、サングラスとショットガンを装備した大佐だった。観客席からは「ひゅ~……でけぇ」という声が聞こえる。

「このターミネーターは頼れるサイボーグなんだ」

「そうだ。正確にはサイボーグ101型だ」

「人間にしか見えないでしょ? でも中身は機械なのさ」

「金属の骨格を造って、その上を生きた細胞で覆ってある」

 ちびっ子たちは目をキラキラさせながら、

「すっげぇ……!」

「カッコいい……」

と口々に言っている。さすがはバル・ベルデ商店街に通うようなちびっ子。だてに末法な世界に生きているわけじゃない。

 友奈さんは続けた。

「実は、今日この場所にムエタイXの怪人が現れたという情報を聞いたんだ。早く見つけて、口を縫い合わせなければならない。良い子のみんな、怪人を見なかったかい?」

「知らなーい」

と、ちびっ子たちの大合唱。

「そうか……くそぅ、怪人め、どこだ!」

 友奈さんは大げさな素振で辺りをキョロキョロ見回している。すると、どこからともなくハキハキした声が響いてきた。

「ここよっ!」

 そう言って、私が鳴らした壮大なBGMと共に現れたのは夏凜さん扮する怪人『にぼっしー』である。煮干しに手足が生えて二足歩行する怪人だ。煮干しの頭に当たる部分は点を向いているデザイン上、視界確保のため胸の辺りには夏凜さんの顔がある。

 

【挿絵表示】

 

「現れたな怪人にぼっしー!」

「ふはは、四国中の人を煮干しで溺れさせてやるぅ」

 何とも微妙な野望を抱いた怪人だ。

「そうはさせないぞ!」

「ふはは、これでも食らえエンリケス仮面。煮干しビームっ!」

 夏凛さんはお辞儀するような形になって着ぐるみ煮干しの頭を友奈さんに向けた。すると、煮干しの口がパカッと開いて出汁が勢いよく噴き出した。

「うわっぷ!」

 出汁は友奈さんに命中した。

「ふははは。出汁まみれになれぇ」

 客席からはエンリケス仮面を応援する声援とにぼっしーへの罵声がステージへと発射されている。ちなみにこの時大佐演じるサイボーグ101型は何もせず、デデンデンデデンと友奈さんを見守っているだけだった。頼りになる相棒とは何だったのか。

『エンリケス仮面がやられちゃったわ』

『あぁ~、このままじゃ文明社会は彼女に征服されてしまいます』

 司会席ではお姉ちゃんと東郷先輩が残念そうな声を上げている。それを聞いてか、客席からの応援の声はますます勢いを増した。

「やめろにぼっしー! ぶっ飛ばすぞ~」

「ふははは、やれるものならやってみなさい」

『みんな、エンリケス仮面を応援してあげて!』

 東郷先輩がマイクに叫ぶ。それに併せて私も熱いBGMを流した。すると客席のボルテージはみるみる上がっていき、会場は熱気と出汁の香りに包まれた。

「うおおおおおお!」

「ぐはぁ!」

 友奈さんは出汁攻撃をものともせず駆け出して、にぼっしーに体当たりをかました。

 そこから数分間、二人は熱い戦いを繰り広げた。かたや大赦で訓練を受けてきたプロ、かたや武術の達人、その二人の演じる戦闘シーンともなれば、迫力満点なものになるのは必然といってよかった。ちなみに大佐はその間ずっとステージ脇でデデンデンデデンと立っていた。

 そしてステージはついにクライマックス。よれよれになったにぼっしーに、エンリケス仮面が必殺技をお見舞いするのだ。

「いくぞにぼっしー! 受けてみろ、私の必殺技!」

 友奈さんがそう言うや先ほどまで微塵も動かなかった大佐がシュワッと友奈さんの隣に移動して、頭を抱え込むと思いっきりゴキリと捻りあげた。そしてその勢いを利用して友奈さんの身体をにぼっしーに向けて放り投げた。

 友奈さんの身体はちょうど跳び蹴りをする形で夏凜さんにぶち当たった。

「グッハアァァァ!」

 夏凜さんは断末魔の絶叫と共にもんどりうって倒れた。一瞬、会場が静寂に包まれる。

『エンリケス仮面の首折バル・ベルデ蹴りが決まりました! 正義の勝利です! ばんざーい!』

 東郷先輩の声にちびっ子たちは大いに反応してくれて、万歳三唱を始めた。

「ばんざーい!」「ばんざーい!」「アメリカばんざーい!」

 そして、万歳三唱が落ち着くと客席からは拍手喝さいの嵐がステージに贈られた。その拍手に、大佐は諸手を振って答えた。

「はっはっは、ありがとう。いや、ありがとう」

 友奈さんと夏凜さんはその時ステージの隅で目を回していた。

 

 

 

 

 数日後、勇者部に大きな段ボール箱が届けられた。中身は子供たちからの大量のファンレターで、たどたどしくも元気いっぱいな絵や文字が描かれていた

「それにしても、ファンレターがジョン宛ばっかりね」

 集計してみると、七割が大佐宛て、二割が友奈さん宛て、一割が東郷先輩とお姉ちゃん宛てだった。友奈さん充てや司会二人組充てのものは無難ながらも嬉しいことが書いてあったんだけど、大佐宛ての内容はバラエティに富んでいた。例を挙げると、

「ぼくもあんなマッチョになりたい」

みたいな男の子のロマン的なものから、

「すてき。だいて」

みたいな男にだらしのないヴァカ女のものとか色々。

 しかし、ステージで友奈さんの次に身体を張っていた夏凜さんには一通もなかった。

「なんで大佐にあって私に無いのよ!」

「怪人にファンレターを書く酔狂なちびっこなんていないわよ」

「だってだって、樹にもあったのよ!? もらってないの私だけじゃない」

 私宛ても一通だけあった。素晴らしい音響でしたという内容で、中々目の付け所がシャープなちびっ子もいるもんだと感心した。

「怪人はそういう運命なのよ。諦めな」

「ぐぬぬ」

 お姉ちゃんが夏凜さんの肩をポンと叩く。すると、その時友奈さんが、

「ねぇ、夏凜ちゃん!」

「何よ」

「夏凜ちゃん宛てのがあったよ!」

「なんですって!? ちょっとよこしなさい!」

 夏凜さんは友奈さんの手からファンレターをひったくって読み始めた。そして、「ふぉおぉおおおお!」と大歓声を上げた。

「そうよねそうよね! やっぱりわかる人にはわかるのよね! 私のアクションの良さがっ!」

 私は喜び震える夏凜さんの後ろに回ってファンレターを覗きこんだ。そこには夏凜さんの演技の素晴らしさが綴られた可愛らしい色文字が並んでいた。でも、この字は……。

「この字って……むぐ」

 友奈さんが私の口にそっと人差し指を当てて口を塞いだ。

「余計なことを言うと口を縫い合わすぞ」

 最近の友奈さん、キツイや……。




最初、怪人を『レンタルビデオ男』にしようと思ったけどネタが分かりにくいうえにコマンドー関係ないのでやめました。


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5・NO FATE(運命ではない)

ジュニアの見すぎか知らないけど妊娠する夢を見た。


 『かめや』は讃州中近くのうどん屋さんで、私達勇者部お気に入りのお店。うどんのメニューがとてもバラエティに富んでて、基本的な素うどんからきつね、たぬき、山菜、肉、プロテインなど老若男女弱肉強食それぞれ楽しむことが出来る。

「ずるる、ずるる、うまっ! この一杯のために生きてるって感じよねぇ」

「もーお姉ちゃんったらお酒じゃないんだから……」

 お姉ちゃんが一心不乱にうどんを啜る。脇には既に三つの器が重ねられていた。一体うどんの麺はお姉ちゃんの身体のどこに吸収されているんだろう。

 隣に座る大佐の横には空になった器が五つある。これに関してはうどんはもれなく筋肉に消えていることが解るから問題ない。

「壁って、今も枯れ続けてるんですよね?」

 うどんを啜るみんなに私はそう訊いた。

「そうよ。今はまだ耐えてるけど」

と答えたのは夏凜さんで、神妙な面持ちでうどんをちゅるりと吸った。

 壁……四国を取り囲む防壁。それが崩れたら、バーテックスが大挙して押し寄せてきて、人類はなす術なく滅ぼされてしまう。

「大赦は何か言ってないの?」

と、東郷先輩。

 夏凜さんは首を横に振ってそれを否定する。

「相変わらず『現在調査中』の一点張り」

「なんにせよあれだ」

 大佐が八つ目のうどんを平らげながら会話に割りこんできた。

「壁が崩れようが、その時は弾幕を張って迎え撃つだけだ」

「相変わらず大佐は無茶言うわね」

「だが、それならまとめて倒すことだってできる」

 なるほど、そういう考え方もできる。でも、いくらなんでも残りのバーテックスを全て倒すことなんてハードな戦いは難しい。大佐がいるからなんか出来そうな気がするけど、所詮は机上の空論。

「まったく。風、アンタどう思うよ?」

 夏凜さんはお姉ちゃんに話を振った。でも、お姉ちゃんの意識は完全に五杯目のうどんに向かっていて、こちらの話は微塵も耳に入っていない様子であった。

「うまっ! ずるるー。うまうま」

「…………」

「ウマっ! 美味し糧!」

「おい犬先輩!」

「うっ!?」

 夏凜さんの生み出した斬新な略称でびっくりしたお姉ちゃんがうどんで盛大にむせ返った。

「犬言うな!」

「アンタが話聞かないからでしょ。全く……」

「聞いてるわよちゃんと。 壁の事でしょ? 今さらどうこういっても遅いわよ」

 その時、テレビからひときわ力強い声が聞こえてきた。私達はその声につられて一斉にテレビを見やった。

『弾けろ筋肉! 飛び散れ汗!』

 それは、今晩テレビで放映される映画の宣伝で、筋骨隆々なマッチョメンが銃を撃ったりターザンしたり銃を撃ったり銃を撃ったりするという映画だった。なんだか、他人事とは思えない内容である。

「樹、今夜はこれ見るから夜更かしOKよー」

「東郷さん、一緒に見ない?」

「私洋画は……でも、友奈ちゃんと一緒なら……」

「おいそこの友奈にだらしのないヴァカ女! 今はそれどころじゃないでしょ!?」

「ああそうだ! 夏凜ちゃんも一緒に見ようよ!」

「そうじゃないわよ!」

「ええ、もしかして一緒に見るの嫌だった……?」

「だからそういうんじゃ……ああもう! 大佐助けなさいよ!」

 しかし大佐は十二杯目のうどんに掛かりっきりで夏凜さんの声を聞いていなかった。

「うん美味いね」

「まったく!」

 夏凜さんは呆れ果てて椅子に深く身体を埋めた。大佐は気にする様子もなく十三杯目のうどんを注文しようとしている。食べ過ぎだわ!

 でも、大佐がこの十三杯目のうどんにありつくことは、その後永遠になかった。

 軽やかで、不快指数の高い音楽——樹海化警報がそれぞれのスマホから流れ出したのだ。

「ふざけやがってぇ!」

 大切なうどんタイムを邪魔されたお姉ちゃんと大佐は怒り狂った。これは、今日も修羅場となりそうだ。バーテックスにとって。

 

 

 遠く望むバーテックスはどことなくサソリを思わせるデザインで、大きな棘をつけた尻尾をブンブン振り回している。えらくゴキゲンな様子。

 対してお姉ちゃんと大佐はお世辞にもゴキゲンと言えない雰囲気を纏っていた。この威圧感だけで並みの星屑は消し屑にメタモルフォーゼしてしまうだろう。

「樹……」

「なぁにお姉ちゃん」

「あなたには秘密にしていたことがあるの。その名も、『勇者部裏三箇条』」

「えっ、なにそれは」

「俺と風で決めた、勇者部の邪魔をする者が現れた場合のガイドだ。内容は、『追いかけ、見つけ出して、殺す』」

「今回の事件、例の女の子がカギを握っていると見て間違いないわ。つまり、その女の子を」

「追いかけ、見つけ出して、殺す」

「まぁ物騒」

 このうどんにだらしのないヴァカ女と、うどんにだらしのないヴァカの怒りは絶大だ。そんな二人に友奈さんが、

「そんな物騒なのじゃなくて、一緒にうどんでも食べながら、ゆっくりお話聞きましょうよ」

「そうね………友奈の言う通りだわ。分かったわ。追いかけ、見つけ出して、うどんを食わせて殺すべきよね」

「風先輩全然分かってねぇじゃないですか」

「ま、なんにせよ!」

 お姉ちゃんは得物を肩に載せて息巻いた。

「アイツを倒してしまえばいいのよ。あの女の子も捕まえれるわよ」

「こればかりは風の言う通りね」

 夏凜さんも手をパァンと叩いて賛同した。つまるところ、いつもとやることは同じと言う事。

「勇者部、出撃よ!」

「了解!」

 

 星屑は相変わらず数が多いけど、大佐と東郷先輩が弾幕を張ってくれるおかげで全く気にしないで済む。私達はサソリもどきのバーテックスへ一直線で進んでいける。

「あの尻尾には気を付けた方が良いわね。針もそうだけど、横なぎに振って来ることもあるでしょうし」

「お姉ちゃん、分かるの?」

「何となくね……何でかしら……?」

 お姉ちゃんが首を傾げる。

 それを他所に、バーテックスは相変わらず尻尾をブンブン振り回していた。このブンブン振り回される尻尾は私達が近づくたびに振り降ろされて、中々懐に入りこませてくれない。私たちではバーテックスに傷一つつけることが出来ない。

「くっ、こんな時にジョンの手が空いていれば……」

「空いてるよ」

「うわ」

 いつの間にか大佐と東郷先輩は星屑を文字通り全滅させてしまっていたようで、私達の背後にスタンバっていた。二人の持つ銃は赤く焼けていて……ていうか東郷先輩の銃がいつもの洒落乙な銃じゃなくて軽機関銃を装備しているのはどういうことだろう。

「先輩、どうしたんですかそれ」

「これは九九式軽機。銃剣突撃もできる優れものよ。余裕の命中精度だ、信頼性が違いますよ」

「いやそうじゃ無くて」

 まぁ、どうせ大佐からかしてもらったか何かしたんだろう。先輩の武器は優秀だけど、弾をばら撒くのに向いていないといつも言っていた。

「まぁ東郷の機関銃は置いといて、ジョン、アイツどうにかしてよ」

「OK!」 

 ズドン!

「オウフ」

 大佐は返事と同時にお姉ちゃんを撃ち倒すと、ロケットランチャーをサソリもどきに向けた。

「ぶっとべ!」

 引き金を引くと同時、数発のロケットが火を噴きながらバーテックスへ突っ込んでいく。

 しかし、バーテックスはロケットを認めるや否や尻尾を大きく振るって全ての弾頭を叩き落とした。

「大佐のロケットランチャーが!?」

 私達は驚愕せざるを得ない。

 大佐の攻撃は強力無比だ。つまり、大佐の攻撃が通用しないということは、あのサソリ野郎に打つ手がないということ……。

「何てこと……」

「どうしよう……」

 冷静沈着な東郷先輩の顔には絶望の色が広がって、いつも明るい友奈さんの顔には暗い影が差している。夏凜さんも歯を噛みしめながら、

「く……風の奴はサッサと死んじゃうし……」

「生きてるよ」

「みなさんどうしましょう……」

 バーテックスは私達を嘲笑うかの如く尻尾を振り回してゆっくりと前進を始めた。目指すは神樹様。レッツ審判の日。

「いや、まだだ」

 絶望に打ちひしがれる私達。しかし、大佐はまだ希望を失わず、目と筋肉をギラギラと輝かせていた。

「でも、どうするの? まるで地獄じゃない(展開が)!」

「東郷、その台詞は先までとっておけ。まだ打つ手はあると言ってるんだ」

「どんな手ですか?」

 私が訊くと、大佐は自分の胸をトントンと指さしつつ叩いた。

「実は俺は水素電池で動いている」

「衝撃の事実」

「これを爆発させれば、あのバーテックスを吹き飛ばせるだろう」

「マジかよ」

「でも、それって………」

 それはすなわち、大佐の自爆攻撃を意味する。大佐が死んじゃうなんて、そんなの嫌だよ。

 でも、お姉ちゃんは顔をうつむけながら、幽かな声で、

「ジョン、お願いするわ……」

「お姉ちゃん!?」

 勇者部のみんなを大切に思っているお姉ちゃんの口から出た言葉とは到底思えなかった。私はお姉ちゃんに詰め寄る。

「どうして!?」

「あのバーテックスを倒すにはジョンの自爆攻撃が不可欠だわ」

「でも、それじゃぁ大佐が死んじゃうんだよ!?」

「それはいわゆる、コラテラル・ダメージというものに過ぎない。軍事目的のための、致し方ない犠牲だ」

「致し方ない犠牲!?」

 突然の理不尽に泣きわめく私。そんな私の肩を、大佐は優しく叩いた。その手で、私の涙をそっと拭ってくれた。

「人間がなぜ泣くか分かった。俺には、涙は流せないが……」

「大佐も、私達と同じ人間じゃないですか……」

「樹。水素電池で動く物を、普通は人間とは呼ばない」

「まぁそうですけど」

 大佐はみんな一人一人とかたく握手をした。大佐の手はとても大きくて、私達の手なんかすっぽり覆い隠してしまえるほどだった。おまけに力が強いから、かたく握るとちょっと痛かった。ちなみに夏凜さんは指の骨が折れた。

「それじゃぁ、いってくる」

 大佐は踵を返して私達に広い広い背中を向けた。みんなが涙をこらえながら(夏凜さんは痛みをこらえながら)その死にゆく背中を見送る。

「ジョン!」

 お姉ちゃんが、背中に呼びかけた。大佐は足を止める。

「……また会おうメイトリックス」

 お姉ちゃんの声に、大佐は振り向いて答えた。

「もう会うことは無いでしょう」

「撤収!」

 号令一下、私達は一斉に動き出した。大佐の自爆範囲から逃れるためである。

 勇者(コマンドー)の脚を持ってすればその程度容易いことだ。三十秒も移動すると、バーテックスは遠く豆粒のようになっていた。

「時間だわ」

 お姉ちゃんが呟く。 

 その瞬間。

「あっ!」

 凄まじい地響き、耳をつんざく爆音、目を焼かんばかりの閃光。それら全てが、サソリもどきのバーテックスを包み込んだ。そして、それが晴れた時、バーテックスの姿は無く、透明水彩を溶かしたかの如く幻想的な樹海の風景が延々と広がっているだけだった。

 そう、大佐は自らと引き換えにバーテックスを抹殺(ターミネート)したのだ。この世界を、この世界に暮らす、全ての人々の明日を守るために……。

 未来へ続く道は、まだ闇に包まれていますが、僅かに希望の光が見えてきました。 大佐が、筋肉モリモリマッチョマンの変態が命の大切さを学べるのなら……私たちにできない筈はありません(サラ・コナー並みの感想)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言わせてもらうと、どっこい大佐は生きていた。

 悲しみに暮れている私たちのところに例のごとく全裸で現れたのだ。

 大佐の出現に私達は喜びはすれど驚きはしなかった。こういうオチになることは、大体予測できていたのだ。そうでもなければ、お姉ちゃんが大佐に自爆攻撃を支持するはずがない。 

 本人も動力源を自爆させると言っていたけど傷一つ負っていなかった。それに関してはギャグ時空のなせる業としか言いようがない。夏凜さんの指もいつの間にやら治っていた。

 

 しかし、問題はそこではない。

 

 

 

 

 戦いが終わり樹海化が解けると、私達はいつの間にやら学校の屋上にある祠の傍へ移動している。空は夕焼け模様で、これから訪れる暑い季節を彷彿させる。

「なんで気付かなかったのかしら」

 お姉ちゃんは赤く焼けた空を見上げながら言う。

「今日戦ったバーテックス……いえ、今まで戦ってきたバーテックス全てと、私達は一度戦ったことがある」

「風先輩も、そう思いましたよね?」

 友奈さんが心配げに言う。東郷先輩も、同様の感触だったらしく、膝に視線を落としている。夏凜さんも遠くを見つめていた。大佐は全裸で腕を組んでいる。

「しかし、バーテックスは全部で十二体と決まっているのだろう」

「そうよ。だから困ってるんじゃない。それとジョン、服着なさい」

「君の着ている——」

「あげない」

「でも、バーテックスが十二体以上いるとなると、困ったことになりますね」

 大赦に問い合わせても回答はなかった。『現在調査中』の一点張りである。

 そんな中、夏凜さんがワナワナと身体を震えさせ始めた。

「何よみんなして! バーテックスは十二体しかいないの! 分かり切ったことじゃない」

「でも夏凜さん、あのバーテックスだけじゃ無くて、今まで戦ってきたバーテックスも、今まで何度も戦ったような気がしませんか?」

「『気がする』だけよ。みんなで集団催眠にかかってるんだわ。デジャヴでしかないのよ!」

「落ち着け夏凜」

「ええい触るな前を隠せ筋肉バカ!」

 大佐の手を払いのけると夏凜さんは大声で泣き叫びながら右往左往した後に屋上を飛びだしていった。

「なんなんだアイツは」

「ジョンよ、その言葉をそっくりそのままお返ししよう」

「夏凜ちゃん大丈夫かなぁ」

「心配ね」

 あの混乱っぷりは変質者に出会ったそれとはまた違ったものだったように見える。明日学校に来られるのだろうか。

 




樹海の記憶は銀のイケメンボイスを聞く為だけでも買う価値はあった。
80デイズは筋肉王子を見る為だけでも買う価値はあった。
欲を言うなら鷲尾三人組を動かしたかった。


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6・信じられない、夢みたい

 今回はストーリーの関係上ちょいシリアス


 翌日の部活動、夏凜さんは部室に来なかった。友奈さんと東郷先輩が言うには、今日は体調不良で欠席らしい。夏凜さんが欠席と言うのが相当珍しいのか、先生も驚いていたという。

「夏凜ちゃんも風邪ひくんだねー。ちょっと意外だなぁ」

「バカは風邪ひかないって言うのにナンデダロー、みたいな?」

「風先輩ったら違いますよ」

「だが、どちらにしても珍しい」

 大佐はウームと言いながら首を傾げた。

「あれですよ、昨日大佐が見たくもない物見せびらかすから……」

「別に見せびらかしたわけじゃない」

「心配だねー」

 部室にいるメンバー的には夏凜さんが転入してくる前の状態に戻っただけなんだけど、一度六人で慣れてしまうと五人だけというのは何となく寂しく感じられる。いつもふよふよ飛び回っている友奈さんの精霊である牛鬼もどことなく寂し気。仕方なしに大佐の上腕二頭筋を齧っている。

「お見舞いに行った方がいいんじゃない?」

 私はお姉ちゃんにそう提案してみた。でもお姉ちゃんはちょっと困ったような顔をして、

「行きたいのは山々の谷々なんだけどさ、もうじき商店街のショーじゃない? それに向けて急がなきゃならないのよ」

「ああ、そっか……」

 夏凜さんの離脱でただでさえ遅れているショーの準備をこれ以上遅らせるのは得策とは言えない。でも、心配なのはみんな同じようで、最終的には比較的暇な私と大佐がお見舞いに赴くこととなった。

「じゃぁ、大事にしなさいって言っといてね」

「うん。分かった。大佐、行きましょう」

「I'll be back」

 私と大佐は部室を出ると駐輪場へと向かう。そこには大佐の立派なバイクが停めてある。この人は毎朝その立派なバイクで登校するのだ。大佐は大人びているから、中学生でありながらバイク通学が許されている。何の問題もない。

「夏凜さんのお家、分かりますよね?」

「ノープロブレムだ。信用しろ」

 無論私はバイクなんて運転できないから大佐の後ろにメットを被って乗って振り落とされないように背中にしがみ付く。ここでしがみ付く相手が素敵な先輩なら素敵な物語の一つや二つPONと始まるんだろうけど、生憎相手はマッスルターミネーターだ。ときめきというものが一切感じられない。

「発進するぞ」

 私達を乗せたバイクは高く澄んだ冬空の下、轟きを上げて走りだした。

 

 

 夏凜さんは大赦からあてがわれたマンションの一室で一人暮らしをしている。まだ引っ越して間もないことと、夏凜さんの禁欲主義的な生活が相まって部屋の中は広々としており、私達は度々飲食類を持っては夏凜さんの部屋を襲撃した。

 でも、今回は夏凜は体調不良で学校を休んだわけで、私と大佐はそのお見舞いに来ている。いつもなら完全装備(タクティカルスーツにサブマシンガン)で突入するところだけど、今日ばかりは普通にドアチャイムを鳴らした。

 ピンポーン。

「……返事ないですね」

「寝てるのか?」

 大佐はドンドンドンとドアを拳で叩く。

「おい夏凜。夏凜!」

 やはり返事はない。いつもならこのあたりで「うるさい!」と言いながら飛びだしてくるんだけど……。

「何かあったんでしょうか」

「よし、ドアを破るぞ」

「待ってくださいなんでドアを破るのにグレネードランチャーが——」

「ぶっ飛べ!」

 問答無用、大佐はランチャーで部屋の扉を吹き飛ばした。元々それほど頑丈でもない扉だから、一瞬でばらばらとなり、余波は壁の一部も破壊した。これは怒られる。

「やることが派手だねぇ」

「修理代は大赦が出すだろ」

 そう言うと大佐は土足のまま室内に上がりこんだ。

「邪魔するよ」

「大佐誰かに野蛮だって言われたことないですか?」

「そんなことは無い」

 私はきちんと靴を脱いでお邪魔する。

 中は電気が点いていなくて薄暗く、それはリビングへ通じる扉の向こうも同様であるようだった。カーテンも閉められているらしく、明かりの気配が微塵もない。

「夏凜さん、大丈夫ですか?」

 言いながら私は扉を押し開けてリビングへ足を踏み入れた。

 瞬間、足の裏に『ずもっ』という初体験な感覚が襲った。それは床から剥離してそのまま私の足を滑らせた。

「えぇええ!? あああ!?」

 あわててバランスを取ろうとすると余計に足を取られて倒れ込みそうになる。

「カ、カビぃ!?」

 私の足の自由を奪っていたのはこんもり繁殖したカビだった。周りを見渡すと、室内は壁、天井などと至る所に分厚くカビが繁殖していて、室内は本格的に樹海のようだった。大佐が勢いよくカーテンを開けると、カビの胞子が光の中を乱舞していて、それはもう気色悪かった。

「なんと……ひどい有様なんだ……」 

「何だってこんなことになってるんですかぁ……」

 私は大佐に助けてもらい、そのままおんぶしてもらった。こういう時大佐はホント便り……頼りになる。

 それにしても、この部屋の惨状を見ると心配になるのが夏凜さんの安否である。リビングにいない事から恐らく隣の寝室にいるのだろうけど、生きているか甚だ疑問だ。

「大佐、寝室、行きましょう」

「OK」

 大佐は寝室の引き戸に手をかけた。いつもなら蹴飛ばすか吹き飛ばすかの二択な大佐だけど、さすがに部屋の惨状を見て思いとどまったか、普通に開けた。

「……!」

寝室の惨状はリビングと変わらず……いや、それ以上かもしれない。壁一面がカビとコケとキノコに覆われて、胞子で視界が雲っている。床とベッドの区別ももはや無くなっていて、部屋の奥に何となく盛り上がったところが見えるだけ。たぶん、あそこがベッドなんだろう。

 そんなベッドと思われる盛り上がりの上に、もっこり山のようなものが起立していた。

「あれ、もしかして夏凜さんじゃ……」

 大佐は私の言葉を受けるとカビとコケの中を雪を漕ぐように進んでいき、もっこりに接近した。

「どうやら掛布団のようだ。その上に、カビとコケがむしている」

「じゃぁ、この中に夏凜さんが?」

「多分な。おい夏凜!」

 もっこりに呼びかける。すると、その中から微かに声が聞こえてきた。

「…………」

「ん? 今何て」

「……I am a Mountain……」

「何言ってるんですか! 大佐、掛布団、捲っちゃってください」

「了解した」

 返事と同時に掛布団を払いのける。同時にカビが勢いよく舞い上がり、土煙よろしく部屋の中を覆った。そして、その中から体育座りをした夏凜さんが姿を現した。

「大変だ! まだ生きているぞ!」

「当たり前でしょ。夏凜さん、大丈夫ですか?」

「あ……大佐に樹……」

 そんな夏凜さんの目には活力の類が一切なくて、深く暗く沈んでいた。

 

 私たちは夏凜さんを腐海から引きずり出すとそのまま「かめや」へと直行した。夏凜さんが昨日から何も食べていないと分かったからである。

 店内はピーク前だからか、店内にほかのお客さんの姿はなく、片隅に置かれたテレビが商店街の新商品紹介の声だけが大きく響いている。

「で、夏凜さん、いったい何があったんですか?」

「何があったか……? ……そんなの私が知りたいくらいよ……」

 曰く、夏凜さんは別に常日頃超不潔な生活を営んでいるわけではなく、昨日帰宅したらすでにあの状態になっていたのだという。そんな中、あまりのことに茫然といて、今に至る。

「はい、素うどんお待ちど~。お嬢さんとお兄さんのは、もうちょっと待っててね~」

 注文した素うどんが夏凜さんの前に置かれた。かぐわしい出汁の香りが鼻をくすぐる。

「うどんでも食べてリラックスしてください。温まりますよ」

「……樹、あんた達前に、同じバーテックスと戦ったことがある気がするって、言ってたわよね」

「えっ、はい。そうですね」

 昨日は半ば怒りながら私たちの意見を一蹴していた夏凜さんだけど、実感としては私たちと同じだったようだ。でも、夏凜さんが感じたのはそれだけではないという。

「私は今も信じてないわよ、そんなこと。でも、百歩譲って以前戦ったことがあるとして、それはいつのことなのかしら……」

「さあ、さすがにそこまでは……」

「わからないな」

 答えを受けて、うつむき加減に夏凜さんはうどんをちゅるちゅる啜る。厨房からは私と大佐のうどんを調理する音が聞こえてきた。

「私、気付いたのよ。そういえば、ここしばらくの記憶がすごく曖昧なことに」

「曖昧?」

「そう。昨日何をしたか、昨日何を食べたか。何時に家を出て、何時に学校について、何時に帰宅したか。そんなのが全部曖昧で、うまく思い出す事が出来ないのよ……」

「学校に通っているとなると自然と生活が習慣づくからな。毎日似たような生活を送っていれば、そうなるのもやむを得ないな」

「そうだとしても、あまりにも不自然だわ……」

 夏凜さんの話はスカートの上からお尻を触るかのように核心の見えないものだった。すると、膝に落としていた視線をゆっくり私の方へ向けて、一つ問いかけてきた。

「樹、アンタ、家で最近何をしたか、思い出せる?」

「家で、ですか? それは……」

 その瞬間、私の頭はフリーズしてしまった。

 そうだ、最近家に帰って、お姉ちゃんとご飯を食べただろうか? お風呂に入って、テレビを見て、ベッドに入って明日に備えていただろうか? 何の疑問もなく毎日を過ごしてきたけど、改めて意識してみると私の記憶から『帰宅』というものがすっぽり抜け落ちてしまっている。

「で、でも、この間……大佐が熱を出したとき、みんなで私の家に運び込んだじゃないですか?」

「そう、『みんな』でね……でも、その後のことは? それに、『この間』と言ったけど、この筋肉が高熱を出してダウンしたのは何時? 昨日? おととい? 一週間前か……いや、一か月前……?」

「そういえば、覚えていないな」

 大佐が腕を組んで考え込む。私も背中をいやな汗が濡らすのを感じていた。

「そもそも、今日は何月何日なのかしら? 樹、さっきアンタ『うどんでも食べてリラックスしてください。温まりますよ』って、言ってたわよね? きっとそれは、気温が低いから私に気を利かせて言ってくれたのよね。でも、なんだか……外から聞こえない……?」

 私と大佐は外に耳を澄ました。すると、特徴的な鳴き声が、私たちの鼓膜をやさしく、しかしどこか恐ろしげに叩いた。

 カナカナカナ……カナカナカナ……。

「ヒグラシって、冬には鳴かないはずよね……それに、私汗が出てきたんだけど、これって、冷や汗なのかしら……」

 沈黙が流れる。テレビの音に混じって、ヒグラシの鳴き声が店の中に響いた。そんな中、店のおばさんが私と大佐のうどんを運んできてくれた。

「はい月見うどんとプロテインうどんお待ちど~」

 私たちの前にそれぞれうどんが並べられる。美味しそう。プロテインうどんは相変わらず微塵も美味しそうに見えないけど。

 おばさんが、口を開く。

「今日は暑いね~」

「……? そうですね」

 答えながら月見うどんを啜る。相変わらずかめやのうどんは美味しい。一口食べてから、お姉ちゃんたちと合流してからにすべきだったとかすかに後悔した。

「美味しい?」

「はい、美味しいです」

「そう……」

「……?」

 今日のおばさんはえらく話しかけてくる。お客さんが他にいなくて暇なのだろうか……。

 と、その時、スマホに着信があった。

「お姉ちゃんからだ」

「なに、風から?」

「うん……もしもし?」

『あ、もしもし樹? 夏凜はどうだったの?』

「うん、生きてたよ」

 そう答えて電話口を夏凜さんに向ける。夏凜さんはそこに向かって、「心配かけさせたわね」と吹き込んだ。

『ならいいのよ。それより、今から海岸に来てくれるかしら』

「なに? こんな時間に海水浴でもするの?」

『違うわよ』

 お姉ちゃんは苦笑しながら答えた。

『枯れかけた壁の調査に行くのよ』

 

 

 バイクに三人相乗りというのはお巡りさんに見つかりでもしたら一発御用なことだったけど、幸い遭遇することはなく、目的地である学校そばの砂浜に到着できた。堤防のそばで待っていたお姉ちゃんと友奈さん、東郷先輩の三人が心配げに夏凜さんに尋ねる。

「大丈夫なの?」

「もう平気よ。それより、壁を見に行くんですって?」

「ええ。大赦からは音沙汰ないし、もう自分で見に行ったほうが早いと思ったのよ」

「なるほどね。で、どうやって行くか考えてるの?」

「ジョンのハリアーに乗せて行ってもらうわ。ジョン、いいわよね?」

 OK! と答える大佐の傍らにはいつの間にかハリアーⅡが駐機してあった。ほんと準備がいい。ていうか、あれに六人乗るとか普通無理じゃないのかな。

「樹ちゃん! なせば大抵なんとかなる、だよっ!」

「便利ですね、ソレ」

 と、そんな時、東郷先輩が向こうから近づいてくる人影を認めた。

「だれか来ますよ」

 そりゃ、海辺にハリアーが停まっていたら何事かと思って見に来る人もいるだろう。近所の人だろうか。

 でも、近づいてきた人は予想外の人だった。

「……あの人って、『かめや』のおばさんじゃないですか?」

「は? なんで?」

 『かめや』のおばさんはさっき私たちにうどんを配膳してくれたあのおばさんだ。白いエプロンをなびかせながらこっちに向かってくる。

「東郷さん、おばさんどうしたんだろう」

「私たちに何か見せたいんでしょ」

「ストリップかな?」

「ぬへへ」

 おばさんは私たちの前で立ち止まった。そして、口を開き、

「あなたたちは今、幸せ?」

「えっ」

 突然何を言い出すんだ。

「えっと……」

「あなたたちは今、幸せ?」

 もう一度繰り返す。すると、友奈さんが一歩前に出て、

「幸せだよ! 東郷さんや、風先輩、樹ちゃん、夏凜ちゃん、筋肉。みんなと一緒にたくさん笑って……とにかく、幸せだよ!」

 おばさんは友奈さんの言葉にウンウンと頷いた。そして、

「あなたたちは今、幸せ?」

「だから、そうだよ!」

「あなたたちは今、幸せ?」

「……? 幸せだよ!?」

「あなたたちは今、幸せ?」

「幸せだって言ってるだろうが!」

 あまりのしつこさにさすがに怒る友奈さん。そんな友奈さんを、東郷先輩が何かに気づいて抑えた。

「待って友奈ちゃん、様子がおかしいわ……」

「えっ?」

 私たちは一斉におばさんへ注目した。すると、おばさんは突然うめき声をあげながら顔中をグニグニと触りまわし始めた。

「あなあなあなたははははいいいままままいあわしあわええええ」

 そのあまりにも異様な光景に私たちは思わず言葉を失う。優しげなおばさんの挙動は狂人のそれであった。そして、そのまま耳のあたりをまるでスイッチを入れるようにかちりと回した。それと同時、おばさんの髪の毛が落ちる。

「きゃっ!?」

「か、かつら……?」

 次の瞬間、私たちは自分の目を疑った。

 突如ピタリと電源が切れたように止まったかと思うと、おばさんの頭がみるみるスライスされて、それがシャコシャコ開き始めたのだ。そして、割れた頭の中からかわいらしい女の子の顔が現れた。

「衝撃の乃木園子!」

 女の子は取り外したおばさんの両手で頭を抱えながら、ニコリとほほ笑んだ。

 

 事態は、確実にろくでもない方向へ向けて確実に加速していた。




シリアスだな


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7・嫌な考えが浮かんだ。もしこれも夢だったら……(前編)

今回は大佐分少なめ。
大佐はエネルギーを溜めている。


☆前回までのあらすじ☆

 バーテックスと戦うたびにデジャヴを強めていく勇者部一同。しかし、夏凜はそれに反発し、更にそれを拗らせて体調を崩してしまい学校を休んでしまった。

「バカは風邪ひかないというのに、なんてことだ」

 失礼極まりなくも仲間を心配する勇者部。そんな彼女のお見舞いへ、部内で一番暇だった樹と筋肉が赴く。

 夏凜の家を訪ね、半ば当然のようにドアを吹き飛ばし(やることが派手だねぇ)お邪魔する樹とメイトリックス。そこで二人を待ち構えていたのは、幾年も時を重ねたが如くカビ・コケ・キノコに覆われた室内と、その中で呆然と座りこむ夏凜の姿だった。

 そんな夏凜の口から語られる、この世界の不自然さ。そして、勇者部の前に現れた謎の少女。

「衝撃の乃木園子!」

 今、全ての謎を解く、自分探しの、大冒険!

 

 

「私は、乃木園子」

 女の子は『かめや』のおばさんの身体を脱ぎながらそう名乗った。服装は……テレビでも見たことがある。名門中の名門である神樹館初等科の制服だ。

 でも、分かったところで余計謎は深まるばかりだ。神樹館はここから車で一時間以上かかる距離にある。小学生の脚で来れる距離じゃないし、なんだか私達の事を知っている様子だった。

「あなたね、近頃ずっと私達を見ていたのは……」

 お姉ちゃんが訊く。園子ちゃんは微笑んだままコクリと頷いた。

「うん、そうだよ~。実は、樹海でだけじゃ無くて、他の色んなところで、ずっと見てたんだ~」

「怖い」

こういうのはストーカーって言うんだ知ってるか? いくら可愛い女の子でも、そのようなことを告白されたら怖がらずにはいられない。

「ところで、もう一度聞くけど、あなたたちは幸せ?」

 園子ちゃんの質問に、今度はお姉ちゃんが答えた。

「幸せよ。あなたに言われるまでもなくね」

 それについては全く同意で、それは他の皆さんにも言えることだ。私たちには何の憂いもない。それを聞くと園子ちゃんは目を閉じて「そう」とだけ答えた。

「でもね……樹ちゃん」

 そして、私の方へグリンと顔を向けた。

「な、なに?」

「幸せなこの世界が、もし夢だとしたら?」

「えっ——」

 瞬間、私と園子ちゃんを除いたみんなが突然PON!と音を立てて風船のように破裂した。いや、破裂したというより、煙と共に掻き消えたと言った方が正確かもしれない。みんなが立っていたところには白い煙と色とりどりの紙吹雪だけが残っている。

「な、何が……」

「安心してね、これは夢を見てるだけだから」

「夢を?」

「そう」

 園子ちゃんが言うには、この世界は園子ちゃんの作りだした夢で、壁が枯れているのも、バーテックスにデジャヴを感じるのも、すべては私の見ている夢と言う事らしい。

「あなたのお姉ちゃんやみんなも、同じような夢をそれぞれ見ているんだよ~」

「そんなこと……突然言われても……。そもそも、私はあなたの事を何も知らないんだよ?」

「私は……まぁあなた達の先輩だと思ってくれれば良いよ」

「先輩……」

 園子ちゃんは言うと私のすぐそばまで近づいてきた。どうでもいいけど、小学生とほとんど背丈が変わらない事実に私は少なくないショックを受けている。

「壁が枯れたと聞いた時、同じバーテックスと戦っていると気付いた時、怖かったでしょ? 夢から覚めたら、それよりももっと辛くて悲しい現実が待ってるんだよ」

「辛い現実?」

「そう。私は、あなた達にそんな思いをしてほしくないの」 

 何かと怪しさ全開な園子ちゃんだけど、この言葉には妙な説得力があった。心の底から、何かを恐れているような、そんな説得力が。

「私もあなた達と同じように精霊をいくらか持っていてね、この夢は、その力で見せてるんだけれども……この力があれば、あなた達をずっと夢の中にいさせてあげることが出来る。辛い悲しみのない、優しい世界に」

 園子ちゃんの言う『辛くて悲しい』世界と言うのが具体的にどういうものなのかは皆目見当もつかないけど、口調や面持ちから信用は出来ると思った。

 でも、それと私が夢を受け入れるかは別問題。

「ううん。私は夢から覚めるよ。だって、どんなに楽しくても、それは所詮夢だから」

「そっか……」

 園子ちゃんは微笑みを崩さないままゆっくりと頷いた。

「でも、もう少しよく考えてみてね」

「えっ」

 その瞬間、上から「うわぁぁぁぁぁあ!」という悲鳴と共にサリーが落ちてきて私の頭に激突、そのまま意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「樹、朝よ。起きなさーい」

「う……ん……?」

 忌々しい朝陽のあん畜生がカーテンの隙間から私の顔を照らす。うっすら目を開けると、目の前にお姉ちゃんの顔があった。

「いくら今日が休みでも、いい加減起きなさい」

 寝起きでけだるい身体を無理やり起こして、ショボショボする目をこする。何だか、凄く変な夢を見た気がする。

「さ、早いとこ顔洗って、歯ぁ磨いてきなさい。ちょっと話したいことがあるからさ……」

「? はぁい」

 もそもそとベッドから這い出る。同時に、強烈な寒さが身体を突き抜けた。外を見ると、ハラハラと雪が降っている。寒いわけだ。

 ベッドへ戻りたいと悲鳴を上げる身体を黙らせて、洗面を済ませたら台所へ向かう。香ばしいトーストの香りが漂い、テーブルにはおいしそうな朝食がホカホカと湯気を立てて並べてあった。私はのそのそと席に着く。

「はいコーヒー。ミルクと砂糖たっぷり入れてあるわよー」

「ありがとー」

 一口含むと、砂糖のミルクの甘さとコーヒーのちょっぴり大人な風味が、口いっぱいに広がる。インスタントコーヒーにもかかわらずここまで美味しく淹れられるなんて、さすがはお姉ちゃん。カフェインが五臓六腑にしみわたる。

「それで、お姉ちゃん。お話って何?」

 コーヒーを飲みながら訊いた。

「ああ、それなんだけどね」

 お姉ちゃんは自分用のコーヒー(ブラックコーヒー。さすがお姉ちゃんはオトナだ)を手にして席に着いた。そして、ちょっと顔を赤らめながら伏し目がちに言った。

「実はね……赤ちゃんが出来たの」

「ぶぼっ!?」

 私は思わずコーヒーを噴出してしまった。

 えっ? 赤ちゃ……えっ!?

「樹ったら汚いわよ」

「いやいや、それどころじゃないって! 誰!? 相手誰!?」

 さすがに中学生ともなると子供の作り方くらいわかる。小学校で女子だけ集められてそういうことを教えれたのだ。てっきりキスをしたら赤ちゃんが出来ると思っていた私にとってはかなり衝撃的な授業だった……いや、今はそんなことどうでもいい。

「お姉ちゃんまだ中三だよ? これから高校受験だってあるのに……何か月? 何か月なの?」

「樹」

「許しませんよ私は! 許しませんよ~!」

「おい樹」

「なんだお!?」

「落ち着きなさい樹。何も私が妊娠したとは言ってないわ」

「……え?」

 目をパチクリさせる。えっ、どういうことだろう。お姉ちゃんの口振りからするに、どう考えてもお姉ちゃんに子供が出来たというものだった。

「まぁ、私の子供であることには違いないのだけど……いいわよ、入ってきて」

 お姉ちゃんがそう呼びかけると、リビングの扉が開かれ、中から大佐が現れた。その大佐なんだけど、ちょっと様子がおかしくて、なんていうか……どことなくお腹が膨らんでいるというか……。

「妊娠したのは私じゃなくて、ジョンなのよ」

「僕もママになるんだよ」

 そう言いながら大佐は上着を捲って膨らんだお腹を見せてくれた。その幸せそうな顔と言ったら……お姉ちゃんもまばゆい笑顔で私を見ている。

 

「嘘だあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 私は席を蹴って駆け出した。そんな、男が妊娠なんて……それも女々しさの欠片もない大佐が……ナンセンスすぎるっ。

 ショックのあまり駆け出した私は、その勢いのまま壁に激突。気を失ってしまった。

 

 

 

 

「樹、起きなさい樹」

「う……ん……ん?」

 忌々しい熱帯樹の木漏れ日のあん畜生が私の顔を照らす。薄っすら目を開けると、迷彩の施されたお姉ちゃんの顔があった。

「うなされてたわよ。大丈夫?」

 ひどい夢を見た気がする。そんなことより……。

「……お姉ちゃん、ここ、どこぉ?」

「何寝ぼけてんのよ。ここは某国国境付近のジャングルじゃない」

 ……そうだった。私達勇者部は、この付近に墜落した大臣を乗せたヘリの捜索に来ていたのだった。で、残念ながらそのヘリの乗員は見るも無残な姿となっていて、私達まで謎の捕食者に追われる羽目となっていたのだ。

「とにかく、さっさとこのジャングルを抜けないと。マック軍曹、地図を持って来て」

「ラジャー」

 マックと呼ばれた黒人の兵隊さんが地図を広げてくれた。お姉ちゃんはそんな地図とにらめっこして、うんうん唸っている。

「罠の敷設完了したよー」

「こっちも完了だ」

「友奈、ディロン、お疲れ。休んでていいわよ」

 友奈さんも、ディロンなる唇さんも、肩にライフルを担いで野戦服を着ている。まぁ当然だ。ここはゲリラの勢力圏なのだから。私だって同じような格好をしている。

「東郷、捕虜は何か喋った?」

「いいえ、何にも。カリーンという名前がわかっただけです」

「ネーロインテンテス」

 東郷先輩は大きなスナイパーライフルを持っていて、その傍らには腕を後ろで縛られた女の人がいる。なんか煮干しが好きそうな顔だ。

「一体、何者なんでしょうか」

「もしかして……幽霊?」

 友奈さんが言った。

「下らん、恐怖でおかしくなったか? 相手はただのゲリラだ。どうってことない」

「あれ、ディロンさん、もしかしてちょっと怖い?」

「そそそんなわけあるか。相手はゲリラだ。特殊訓練を受けたゲリラだ!」

「ネーロインテンテス……」

 カリーンさんも何かに怯えているようだ。

 ジャングルは至って静寂で、時折鳥の飛び立つ音や虫の鳴き声が聞こえる程度だ。そんな静けさの中、友奈さんとディロンさんが設置したであろう罠に反応があった。

「罠が!」

「待ちやがれぇえい!」

「あっ、マック! マァーック!」

 マック軍曹が一人駆け出してしまった。無理もない、昨日軍曹の親友が一人謎の敵に殺されたのだ。その敵討ちに燃えているのだ。

「いたぞぉ! いたぞおぉぉぉぉぉぉ!」

 そして、何かを発見したらしく、チェーンガンをぶっ放し始めた。

「出て来いクソッタレェェェェェェェェェェェ!」

 私たちも手持ちの銃を乱射する。放たれた銃弾は木々をなぎ倒し、地面を抉った。しかし、

「ウッ!」

 マック軍曹が喉から血を噴いた。それに続くように、ディロンさんも斃れる。敵はえらく素早いようで、私達はたじろいだ。

「みんな! 逃げるわよ!」

 お姉ちゃんの号令で、私達は草木をかき分けつつ走りだした。敵の姿は見えないけど、確実に私達を追跡している。

「あぁっ!」

 そんな時に、東郷先輩が足を挫いた。

「東郷!」

「わ、私はついて行けそうにありません……! 先に行ってください!」

「東郷さん!」

「友奈ちゃん、生き延びてね……! ここは私が食い止めるから……!」

 東郷先輩は来た道に向かって立つと、いかにも強そうなポーズを取って臨戦態勢に入った。

「夜叉の構え!」

「東郷さぁぁん!」

 私達は泣きわめく友奈さんを引っ張って走りだした。そして、その姿が見えなくなったころ、ジャングルに悲鳴が響き渡った。

「ううっ……東郷さん……」

「ネーロインテンテス……」

「カリーンちゃん、慰めてくれるの?」

 カリーンさんさっきからそれしか言ってない気がするけど、気のせいだろうか。

 そうこうしている内に、敵はまた私達に追いついてきた。

「ここは、私が食い止めます!」

「友奈!?」

「大丈夫です! 成せば大抵、何とかなります!」

 そう言って友奈さんは私達を逃がして一人立ち向かった。なんやかんやで友奈さんは死んだ。

 生き残っているのは私を含めて三人だけ。もうあのころには戻れないのだろうか。ていうかなんでこんなことになってるんだろうか。

 ……気配が近づいてきた。いよいよ私も年貢の納め時だ。

「お姉ちゃんはカリーンさんを連れて逃げて!」

「樹!?」

 私は肩のライフルを手に取るとレバーを引いて構えた。

 カリーンさんが心配げに叫ぶ。

「ネーロインテンテス!?」

「それしか言えんのかこの大根野郎!」

「誰が大根野郎よ!」

「樹!」

「早く行って!」

「……分かったわ樹。いい!? 絶対死ぬんじゃないわよ! すぐ逃げるのよ!?」

 そう言いながら、お姉ちゃんはカリーンさんを連れて草木の中に消えていった。せめて、大好きなお姉ちゃんだけでも助かって欲しい……お姉ちゃんさえ生きていれば、勇者部は何度でも蘇るだろう。根拠はないけど。

「よぉし! かかってこいプレデターめ!」

 そう叫んで、銃を構え直した。その刹那、

「ぎゃあ」

 木の上からブレードが飛んできて、私の胸を貫いた。

 私は死んだ。

 

 

 

 

 私の名前はサイボーグ樹……。バル・ベルデ商店街の町内会長に返り咲こうと画策するアリアス元町内会長の陰謀によりサイボーグに改造された悲劇の少女だ……。元々勇者(コマンドー)として戦っていたこともあり、改造は思ったより上手くいったのだという。

 サイボーグ化した私は以前からの武器である丈夫な糸に加え謎ビームも撃てるようになり、戦闘力は倍増した。あと金管楽器が吹けるようになり、胸も大きくなった。やったね。

 しかし、その代償はあまりにも大きかった……。

 言語能力は壊滅的になり、「ペコペコリーン」や「I'll be back」を何の脈絡もなく呟く前衛的なキャラクターとなってしまった。おまけに常に寝不足のような睡魔に襲われ続け、カフェインの錠剤を常時大量摂取しないと起きていられなくなった……。

 そのせいだろうか、以前は仲の良かった友達も次第に離れ始め、クラスでは孤立していった。

 いや、それだけなら良かった。一番つらかったのは、勇者部にいられなくなったことだ。態度がどこかよそよそしくなり、私に明らかな軽蔑の眼差しを向けてくるようになった……。それはお姉ちゃんの同様で、私は家にすら帰れなくなった……。

 夕暮れの河川敷、私は泣きながら座りこんでカフェイン錠剤を食べていた。水面に写った夕焼けが、空しく揺れる。

「I'll be back……」

 孤独さが身体を包む。

 その後も私はカフェイン錠剤を食べ続け、結果、カフェイン過剰摂取で孤独に死んだ。

 

 つづく




ここら辺はトータル・リコールだけじゃ無くてビューティフルドリーマーも入ってる。


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8・嫌な考えが浮かんだ。もしこれも夢だったら……(後編)

(^q^)チョウテンカイ


「…………」

「おはよ~ございます~」

 目が覚めると、目の前に園子ちゃんの笑顔があった。私の身体はえらく仰々しい装置に横たえられていて、頭の上では妖しい光を放つ機械がミョンミョン音を立てている。見回すと、園子ちゃんと、もう一人白衣を着た技術者らしき人の姿も見えた。

「ここ、どこ?」

「商店街のリコール社ですよ~」

 そういえば、そんな店が商店街にあったナァ。気にはなっていたけど、同級生の友達が、

「私の従妹の友達で、リコール社に行って植物人間にされかけた奴がいるんだ。脳ミソは、いじくらないほうがいいぜぇ!」

と言っていたこともあって、行く決心がつきかねていた。そんな私が、なぜリコール社にいるのか。

「あの、私は……」

「記憶が混濁しておりますね~。犬吠埼さん、あなたは当社のお客様ですよ。素敵な夢、ご覧になれまして~?」

「は、はぁ」

 そっか、私はリコール社に来て夢を見ていたのか……まだ記憶が混濁していて、なんで来たのか思い出せないけど。まぁ、夢見最悪だから二度と来ないことにしようそうしよう。

「夢を見るのは疲れるでしょ~?」

「そうですね」

「ビールでも飲んでリラックスしな」

「あ、どうも」

 渡されたビールを口に含む。どうやら林檎サイダーのようだ。美味しい。そんな私を見ながら、園子ちゃんは笑顔を崩さず、

「今日はもうお家に帰るの?」

「はい。お姉ちゃんも待ってるでしょうから」

「そう~」

 ゆっくりと身体を起こして装置から降りる。園子ちゃんが私の身体を支えてくれて、預けていた荷物も返してくれた。

「またのご利用を~」

 園子ちゃんがニコニコ出口へ案内してくれる。今日が最後です。もう来ることは無いでしょう。

 にしても、夢と言うのはなんと摩訶不思議なものであろうか。夢を見ている時の実感は現実と寸分たがわぬものだった。柔らかな布団の感触、香ばしいトーストの香り、刺すような日差し、吹き抜ける風、弾けろ筋肉、飛び散れ汗……すべてがあまりにもリアルだった。

 昔テレビで偉い学者さんが言っていた。夢と現実の違いなんて、時間と言ういい加減な概念を除けば無いに等しいのだ、と。

「その通りだ樹」

 そう、この世は全てゆめまぼろし。今私がいるこの現実だって、もしかすると夢かもしれない。

「樹、良く分かったな」

 …………?

 私は振り向いて室内に目をやった。園子ちゃんも同様に振り向く。

 その先には、白衣を着た技術者の姿があった。園子ちゃんと同じくらいの背丈で、改めてみると白衣はぶかぶかだった。

「だが、夢は必ず醒めなければならない。だろ?」

 そう言うと、『彼女』は白衣を脱ぎ棄て、デエェェェェエンとその姿を白日(蛍光灯)の下にさらけ出した。瞬間、園子ちゃんの表情に明らかな変化が現れた。

「み、ミノさん!?」

 ミノさんと呼ばれた女の子は園子ちゃんと同じく神樹館初等科の制服を着ていた。が、お嬢様と言うよりは元気溌剌勝気な女の子と言った風だ。そんなミノさんの出現に、園子ちゃんは『ミノさん! 殺されたんじゃ?』と言わんばかりに大いに驚いている。

「この世界は樹の夢であると同時に勇者部全員の夢、そして園子自身の夢でもある。だから、それを利用したまでさ」

「えっ、ここってまだ夢の世界なんですか?」

「その通り!」

 言うや、ミノさんは自分の耳元に手を伸ばしてカチリ、とスイッチを押した。すると、ミノさんの頭はみるみるスライスされていき、中から見知った筋肉質な顔が現れた。

「た、大佐!?」

「I’m Back!」

 大佐はミノさんの身体を脱ぎ棄て(サイズが明らかにおかしいけど、夢だから問題ないのだろう)、頭を園子ちゃんに放り投げた。

「受けとれぃ!」

「わ、わ!」

 園子ちゃんは何とか頭をキャッチする。すると、ミノさんズヘッドは大きな声で一言、

「びっくりするのはこれから!」

 と叫び、突如大爆発を起こした。室内が粉塵に包まれる。

「逃げるぞ樹」

「ええっ、ちょっと大佐!」

 大佐はその煙に紛れながら私のことを脇に抱え込むとリコール社の建物を飛びだした。外は夕暮れで、買い物客がごった返している。後ろからは「ま~て~」という間抜けな声が聞こえた。大佐は道行く人を半ば突き飛ばすような勢いで駆けていく。

「大佐、逃げ出したにしても、どうするんですか?」

「勇者部の全員を見つけ出す」

「どうやってです? 匂いを嗅げとでも?」

「ああそうだ!」

 曰く、園子ちゃんの夢であるこの世界と、私達が見ている夢の世界はそれぞれ全て繋がっていて、それが映画のセットよろしく壁で区切られているのだという。

「大佐は平気なんですか?」

「鍛えてるからな」

「そうですか」

 考えてみれば、大佐は存在自体が冗談みたいな人だ。夢の支配なんて尽く跳ね返してしまうだろう。

 大佐が犬のようにクンクンと鼻を動かした。

「向うに風の夢がある」

「分かるものなんですか?」

「風の夢は常にうどんの出汁っぽい匂いがする」

「なんだそれ」

 大佐は少しキョロキョロしたあと、街角にある小さなビルにたどり着いた。なんだか湿気た雰囲気のビルで、如何にもな怪しいオーラを噴出している。

「開けるぞ」

 大佐は私を下すと、どこからともなくショットガンを抜いて、扉を押し開けた。

 扉の先は、先ほどとは打って変わって時刻は夜。月明かりの差し込む位病院だった。

「なに、ここ……」

「風の見ている『悪夢』だ」

「悪夢?」

「そうだ。お前も見ただろう」

 よく覚えていないけど、言われてみれば悪夢だった気がする。なんだか、このまま無理に思い出すと大佐を見る目が変になりそうだ。

 私と大佐は暗闇の病院を進む。窓には鉄格子がはめられていて、通路のところどころにはやはり格子がはめられている。怖いというより、妙に物々しい雰囲気だった。

「ここは、精神病院あたりだろう」

「分かるんですか?」

「適当だ。……静かにしろ……」

 大佐に言われて私は口を閉ざす。すると、遠くから足音のようなものが聞こえてきた。タッタッタッと、駆けているようだ。そして、その音が最大になった時、通路の突き当りの丁字路をお姉ちゃんが駆け抜けているのが見えた。

「風だ」

「なんかトンファー持ってませんでした?」

「追うぞ」

 私達はお姉ちゃんの後を追う。

 お姉ちゃんは息を荒げて当直室へと向かっていた。そこには、当直の医師と看護師がいて、患者への投薬について話し合っている。

「お姉ちゃん、何する気なんでしょ」

「見てれば分かる」

 碌でもないことが起きることは何となく予想付く。で、その予想は当たっていた。

 お姉ちゃんはトンファーを構え直した。そして、目にも留まらぬ速さで当直室に突入、看護師を殴り倒し、警察に通報しようとする医師の腕をそのまま叩き折った。

「腕の骨が折れた……」

「人間には215本も骨があんのよ。一本ぐらい何よ!」

 やることが派手だ。でも、いい加減止めなければならない。

「お姉ちゃん!」

 私と大佐はお姉ちゃんに駆け寄った。

「!? 樹!? なんでここに!?」

 お姉ちゃんはひどく驚いている。驚きながら、私の肩をがしりと掴んだ。

「こんな危険なところに来ちゃダメでしょ!? あなたは人類の希望なんだから」

「一体どんな設定なのか知れないけど、落ち着いて」

 私と大佐はお姉ちゃんを落ち着かせて、ここが園子ちゃんの作りだした夢だということを説明した。初めこそ信じられないという顔をしていたけど、本人にもどこか思い当たる節があるのか、納得してくれた。流石はお姉ちゃんだ。

「じゃあ、他のみんなも何かしらの夢を見ているってことなの?」

「そうだ」

「あらやだ」

「とにかく、ここを出よう」

「腕の骨が折れた……」

 お姉ちゃんの手を引いて、私達は病院から外に出た。外は相変わらず夕暮れの商店街で、買い物客が右往左往している。その光景に、お姉ちゃんは唖然としていた。当然だ。さっきまでいた病院の中は夜だったんだから。でも、このことがより一層、夢への理解を深めることにもなった。

「ところでお姉ちゃん、何で私が人類最後の希望なの?」

「……言われてみれば何でかしら」

「夢と言うのはだいたいそんなもんだ。気が付いてみると、脈絡がない……見ろ、東郷だ」

「えっ」

 大佐が指す方を見ると、なるほど確かに東郷先輩が車いすを転がしている。学校で移動する際はいつも友奈さんが押していたから、自分で転がしているのはちょっと新鮮だ。

「なんか、元気ないですね」

「話しかけてみるわ。おーい、東郷!」

 お姉ちゃんが東郷先輩に駆け寄る。私たちもその後に続いた。

 声に気付いて振り向いた先輩の顔は真っ青だった。

「どうしたの、具合でも悪いの。顔が真っ青よ?」

「友奈ちゃんが……友奈ちゃんが……」

「友奈がどうしたの? 先を言えよ」

「友奈ちゃんが……男と不倫してる」

 なんだそれ。

「友奈ちゃんが男に盗られちゃったら、私どうすればいいの」

 おろろーんと泣く東郷先輩。先輩は事故のせいで記憶が欠落しているらしく、その寂しさを友奈さんに依存することで満たしている(なんかそれ以上な気もするけど)らしい。そんな人が離れてしまうなんてことになると、耐えがたい苦しみがあるのだろう。知らないけど。

「落ち着きなさい東郷。これは夢。夢なのよ」

「ううっ……夢……?」

「そうよ東郷。夢。DREAM。分かる?」

「ぐすん……風先輩、慰めてくれるのは分かります。でも、私だって夢と現実の区別くらいつきます」

 先輩は涙を拭った。

「友奈ちゃんは気立てが良いから、いつ殿方に見初められてもおかしくなかったんです。そういうわけで、私死にます」

「オイオイオイオイちょっと待てよ待てって。そう短気起こすこともないでしょー」

 東郷先輩は懐から短刀を取り出すとそれを首に当てた。お姉ちゃんがそれを必死で止める。

「二人とも! 早く友奈を見つけて連れてきて! 大至急!」

「わ、わかった!」

 私と大佐は東郷先輩をお姉ちゃんに任せて走りだした。大佐の筋肉レーダーによれば、そう遠くない位置に友奈さんがいるという。

 しばらくとせず、友奈さんは見つかった。公園の中をふらふら徘徊しているのが私達の目に入ったのだ。見るからに面倒くさそうな夢を見ている。

「友奈さーん」

「あっ、樹ちゃんに大佐……」

 友奈さんの顔はさっきの東郷先輩同様真っ青だった。

「どうしたんですか。具合でも悪いんですか?」

「東郷さんが……東郷さんが……」

「東郷先輩が何です?」

「東郷さんが……私の事きらいだって……」

 友奈さんはがっくりと肩を落としている。

「私、何か怒らせるような事しちゃったかなぁ。ぼた餅せがみまくったせいかなぁ」

 それに関しては、東郷先輩は頼まれなくても作って来ると思う。それにしても、夢の中とは言え、ここまで消沈する友奈さんは始めて見た。貴重だ。

「東郷先輩が友奈さんの事を嫌いになるわけ、無いじゃないですか?」

「うう……」

「これは夢、夢なんですよ」

「……夢?」

 友奈さんは半信半疑といった様子で私の顔を見かえす。

「そうですよ。東郷先輩は、友奈さんの事が大好きなんです。今も変わらず」

「ホント?」

「ホントですよ。今から会いに行きましょう」

 私がそう言うと大佐は友奈さんを持ち上げると脇に抱えた。さっき私も抱えられたけど、良く考えたらとんでもない事だよねこれ。

 友奈さんを確保した私達は急いで元来た道を戻る。東郷先輩はお姉ちゃんの努力のおかげもあって、まだ無事だった。

「東郷さん!」

「友奈ちゃん!?」

 大佐の手を離れた友奈さんはバランスを崩しながら駆け出して、東郷先輩に抱き付いて、二人でオンオン泣き始めた。

 それを見ながらお姉ちゃんも目元に涙を浮かべて、

「樹……友情って素晴らしいわね。泣けるでしょ?」

「いや、展開が早すぎて私ついてけない。……ところで、夏凜さんは?」

「ああ、夏凜ならあそこにいるわよ」

 お姉ちゃんの指す方を見やると、ベンチに座る夏凜さんの姿があった。東郷先輩を制止する最中、偶然通りかかったのを保護したらしい。それにしても、何故顔が真っ赤なんだろう。

「夏凜さんはどんな夢見てたの?」

「本人に訊いてみれば?」

 お姉ちゃんがニヤニヤしながら言う。不思議に思いながら、夏凜さんに訊いてみた。

「どんな夢を見たんですか?」

「…………よ」

「え? なんて言ったんですか?」

 顔を伏せるようにボソボソと呟く。何を言っているのか聞こえない。聞き返すと、今度は勢いよく真っ赤な顔を上げて、

「みんながいなくなる夢よ! 悪い!?」

「いや、別に悪くないですけど。ウフ」

「その笑いは何なのよ」

「何でもないですよ」

 夏凜さんは拗ねてそっぽを向いてしまった。ほんと、この先輩可愛い。

 とにかく、勇者部一同は全員集合を果たした。あとは、この夢から脱出するだけだ。しかし、肝心の方法がわからない。

「俺に良い考えがある」

 そんな中、大佐が自信ありげに言い放った。

「ジョン、何か策はあるの?」

「これだ」

 そう言うと大佐はライフルをガチャコンと構える。うん、知ってた。でも、今ここでぶっ放したところで夢から覚めるわけでもないだろう。

「どうすんのよ」

「こうするんだ」

 言うや、大佐は天に向けてライフルを一発放った。すると、上空でビシッという音が聞こえたかと思うと、男の人が悲鳴を上げながら落ちてきた。ビタン! と漫画のような音を立てて地面に叩きつけられたそのスーツ姿の人は、見覚えのある人だった。前の話で、私の頭に激突したサリーとか言う男だ。

「おいサリー」

 大佐が地面にうずくまるサリーさんの胸ぐらを掴み上げる。

「あの、大佐、この人、誰なんです?」

「園子の精霊の一人だ。さっきから俺達の上を飛んでいた」

「え゛っ」

 精霊って、可愛くてふわふわしてるものなんじゃないの……!?

 私達の驚きを他所に、大佐は問い詰める。

「夢から覚める方法を教えろ。そうすれば殺すのは最後にしてやる」

「誰が言うかよ、くたばれ……」

「見上げた忠誠心だサリー。だがな! てめぇの命を張るほど値打ちのある相手か? さぁ頭を冷やしてよく考えてみろ」

 すると、周りの景色が一転、賑やかな夕暮れの商店街から、寂しい夜の崖へと変化した。遠くに私達の暮らす街の灯が見える。大佐はサリーさんを逆さ吊りにすると(左手一本で支えている。凄い)、崖から突き出した。

「支えてんのは左手だ 利き腕じゃないんだぜ。さぁ、言うんだ」

「知らねぇよぉ……園子が、園子が知ってる……」

「そうか」

 サリーさんから脂汗がにじみ出ている。そんな彼に大佐は冷酷に言い放った。

「お前は最後に殺すと約束したな」

「そうだ大佐、助け——」

「——あれは嘘だ」

 大佐は無慈悲に手を放した。サリーさんは登場時と同じような悲鳴を上げて奈落の底へと墜落していった。

 急展開の連続に私達はついて行くのがやっとだ。

「さっきの男、ジョンの知り合いなの?」

「自分でも良く分からんが、精霊についてちょっとわかるのだ」

「ふうん」

 まぁ大佐は私達の知らない交友関係をいくつも持っていそうだし、今更驚くこともない。個人の交友より、今は夢からの脱出だ。

「この先何があるか分からん。みんな武器を持て」

 そう言うと大佐はどこからともなく様々な銃器を取り出して私達に手渡した。

勇者(コマンドー)に変身して戦えばいいんじゃないですか?」

「東郷の言うことももっともだが、ここは園子の精霊が作りだしている世界だ」

 精霊を介して神樹様の力を得る勇者(コマンドー)の力は、この世界では信用できないという事らしい。でも、それなら大佐の銃も不味いのではないだろうか。

「俺の物は大丈夫だ。筋肉の加護がある」

「それなら安心です」

「ホンット筋肉って便利ですねー」

 友奈さんがロケットランチャーの説明書を読みながら言う。全くその通りだ。いつも徒手空手で戦っている人が持っていると違和感が尋常じゃない。対して東郷先輩は狙撃銃を持っていても何の違和感もないのはさすがと言ったところだ。

 お姉ちゃんと夏凜さんもそれぞれライフルやらマシンガンやらを持っている。私も小さなマシンガンを持たされた。

「これは、勇者っていうか、ちょっとした軍隊ね」

 お姉ちゃんが呆れ顔で言う。これぞまさしく『勇者(コマンドー)』。

「園子は恐らく商店街のリコール社にいる。あそこがこの夢の中心地点なのだろう」

「殴り込みってことね。いいじゃない。やってやろうじゃないの!」

 夏凜さんがアラブる。それに友奈さんが、

「そんな物騒なのじゃなくて、一緒にうどん食べながら話そうよ」

「ロケットランチャー装備してるアンタが言っても説得力ないわよ」

「えへへ」

「言ってる場合じゃないぞ。あそこに偶然にも位置エネルギー車がある。あれで商店街まで行こう」

「夢って便利ね」

 私達は近くに偶然停めてあった位置エネルギー車に乗りこみ、大佐の運転で商店街へ向けて発進した。

 夢からの脱出をかけた戦いが、始まろうとしている。




夢は馬鹿に出来ませんよ。以前背中を刺される夢を見て、その痛みで起きたことありますから。夢で刺されたところを撫でながら「あれは夢だから、ホントに刺されたわけじゃないから・・・」と呟いてました。

あと、次回がたぶん最終回です。


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9・私たちはあなたの思い出づくりに協力します

 前回の最後で『次回が最終回です』と言ったな。
 あれは嘘だ。
 書いてたら思いのほか長くなった。いい加減有言不実行の癖直さないと、娘のバラバラ死体が届く。


 商店街のリコール社を目指し、位置エネルギー車は坂道を登る。

「見えたぞ、リコール社だ」

 運転席の大佐が言う。見ると、商店街の店の中、ずば抜けて大きなビルディングが立っていた。あれ、あの会社ってあんなに大きかったっけ。前に見た時は、三階建てくらいだったはずなんだけど……。

「夢に何言っても無駄よ樹」

「まぁ、そうだけどさ」

 車はリコール社の入り口の反対側の車線に停まる。窓から覗くと、大きな入り口には警備が数人立っていた。全員が銃を持っていて、まるで私達の襲来に備えているようだった。

「どうやって忍び込むんですか?」

 友奈さんが後部座席から大佐に訊く。すると、大佐はニヤリと笑いながら、

「正面ゲートから、堂々と入って行くさ」

「ご立派。利口じゃないけど勇気は買うわよ」

 お姉ちゃんが肩を叩く。

「で、あの警備をどう突破する?」

「決まってるだろ」

 言うや否や、大佐は車を急発進させた。そして、ハンドルを思いっきり切る。車の向かう先は、リコール社正面玄関。

 

 知ってた。

 

 位置エネルギー車の破壊的エネルギーはガラス扉を簡単に突き破った。ガラスの割れる甲高い音と、警備員たちの悲鳴がロビーに飽和する。何気に車の窓が強化ガラスだったため、車内にいた私達に被害はなかった。急な発進でもみくちゃになった以外は。

「やり過ぎだわ!」

 スカートを必死で抑えながら東郷先輩が呻く。お姉ちゃんなんかパンツ丸見えで女子力の欠片もない。対する大佐は冷静なもので、

「良いから武器を持て。来るぞ」

 窓の外を見ると、武装した屈強な男たちが横隊に並んでゾロゾロとこちらに向かってきていた。

「元グリーンベレーの俺に勝てるもんか」「元グリーンベレーの俺に勝てるもんか」「元グリーンベレーの俺に勝てるもんか」「元グリーンベレーの俺に勝てるもんか」

 同じような顔をした黒人の男たちだ。クローン・クックだ。一様に同じようなセリフを呟いている。

「い、一杯来たぁ~!」

あれだけガタイのいい男の人が密集していると、気持ち悪い。天井からぶら下がるシャンデリアに煌めく瞳の威圧感が尋常ではない。

「怯えることはない。奴はカカシだ。友奈、ロケットランチャーで吹き飛ばせ」

「はい!」

 友奈さんは車のサンルーフを開けて、ロケットランチャーと一緒に身を乗り出した。照準をクック軍団に合わせる。

「いくぞー。勇者ミサイルー!」

 掛け声と共に、引き金を引く。

 次の瞬間、発射口が煌めいて、白い噴煙を引きながらロケットが発射された。

 クック軍団とは逆の方向に。

 放たれたロケットは後ろの壁に激突、大爆発を起こした。車にカンカンとコンクリート片がぶつかる音が響く。

「やっだぁ……」

「友奈さん逆! 逆ですよ!」

「もう、友奈ちゃんったらおっちょこちょい」

「えへへ、ごめんね」

 一言謝って、友奈さんはランチャーを構え直す。今度は間違いなく、照準は軍団に合わせられている。

「改めて、勇者ミサイル!」

 二発目のロケットが発射される。ロケットは噴煙と共にクック軍団のど真ん中に突っ込み、大爆発を起こした。ダメージを受けたクローン・クック達が「モァイ……」と悲鳴を上げながらポンポン弾けて煙になっていく。

「やったね!」

「友奈ちゃん、やることが派手ね」

「よしいいぞ。そのまま撃ちつづけてくれ。俺達は弾幕を張る」

 私達は車の窓を開けて、銃口を外に突き出した。迫りくるマックたち。私達は狙いを定めた。

「よし撃て」

 号令一下、私達は一斉に引き金を引く。瞬間、凄まじい弾丸の雨がクック軍団に降り注いだ。

 弾丸が空気を切り裂く音、跳ね返る音、クックの放つ断末魔らしきヴォイス。ロビーはそれらの音で完全に支配されている。弾幕の前に、敵はどんどん倒されていった。

「ちょっと、これキリがないわよ!?」

 夏凜さんが悲鳴を上げる。

 弾幕は厚く、クローン・クックは次々と倒されていく。でも、一体倒されれば後ろからもう一体が補充されてきて、全くと言っていいほど減る気配はなかった。

「これはもう、強行突破するしかないな。向うに階段が見えるだろう」

 大佐がマシンガンをぶっ放しつつ奥を指す。たしかに、クック軍団の背後には広々とした階段が続いている。でも、あの軍団の中を強行突破するには、私たちでは些か戦力不足と言えるだろう。でも、ここで東郷先輩が、

「なら、こんなこともあろうかと作っておいたこの『装甲車椅子』を使いましょう」

「装甲車椅子?」

「そうよ」

 言うなり、先輩はポケットから何やらスイッチを取り出して、ぽちっとなとそれを押した。すると、車のボンネットが横に開いて、その中からえらく仰々しいデザインの車椅子が出てきた。前と横を鋼鉄で装甲して、運転席の後ろには人が乗れるスペースと銃眼がある。

 こんなの車椅子じゃないわ、ただの装甲車よ!

「こいつはカッコいいな!」

「私が運転しますから、みんなは後ろに乗ってください」

 先輩は肘でフロントガラスをかち割ると外に這い出て、装甲車椅子に着席した。

「ねぇ東郷さん、私達はそれに隠れられるけど、大佐はどこに隠れるの?」

 友奈さんが心配げに訊く。すると、大佐が、

「俺は大丈夫だ。筋肉が護ってくれる」

「そっか。なら、心配ないね」

 装甲車椅子がブルルンとエンジンをふかした。車椅子はゆっくりと地面に私たちも車から這い出て、車椅子に乗りこむ。友奈さんが危惧した通り大佐だけが装甲から見事にはみ出ているけど、なんか問題なさそうだ。

「みんな、舌を噛まないようにね」

 私達にそう注意すると、東郷先輩はレバーをガチャガチャ動かした。豪快なエンジン音が響き、車椅子は急激に加速する。

「うおおおおおおお!?」

 お姉ちゃんがこれまた女子力の欠片もない悲鳴を上げる。

「私を殺したいでしょぉぉぉぉぉぉぉ」

「東郷先輩ハイになってるぅ」

 走りだした装甲車椅子はクローン・クックを容赦なく跳ね飛ばしていく。もしこのクローン・クックが血や内臓をブシャブシャ吹き出していたら私達は卒倒していただろう。良かった良かった。

 装甲車椅子はクック達をポコスカ吹き飛ばしながら階段に到達、そのまま登り始める。

「ちょっと東郷壊れる。壊れちゃうからコレ!」

「喋ってたら舌噛みますよ

 感覚としては、自転車で階段を下る感覚に近い。全身を激しい振動が襲うのだ。

 スッゴイどうでも良い事なんだけど、階段でガタガタ揺れる度に東郷先輩のメガロポリスが揺れて私と夏凜さんは血の涙を流していた。今日は厄日だわ。

「このまま最上階まで行きますよ!」

「行っちゃおう、東郷さん!」

 装甲車椅子は東郷先輩の華麗なドライビングテクニックで階段をガタガタ駆け上がって行く。その間、私と夏凜さんはギリギリと歯を鳴らし続けていた。

 階段はずっとまっすぐ伸び続けていた。途中に他の階はなく、延々と前に進むだけである。

 やがて、階段の終わりがみるみる近づいてきて、車椅子はバッと広い空間に躍り出た。

 そこは薄暗い照明の空間で、奥にはさらに階段が続いている。部屋の両側は水槽になっていて、意味あり気にワニが悠々と泳いでいる。

「……うーん……発動機がもうダメだわ」

 東郷先輩がガチャガチャ動かしながら唸った。確かに、ここについた途端に車椅子のエンジンが煙を吐き始めた。ここまで酷使してきたから、無理もない。先輩は私達を降ろすと車椅子のエンジンと装甲をパージして、いつものスタイルに戻った。どういう仕組みだ。

「ここって、何階なんですかね」

 私は誰にでもなく訊いた。

「さあね。ジョン、何か分からない?」

「皆目見当つかんな。それより、皆弾薬は大丈夫か」

 ハッとして残弾をチャックする。すると、残りは良くて数発、私のなんか一発も残っていなかった。いつも弾切れしない癖に、こういう時は律儀に弾切れしてくる。

「下で撃ち過ぎたわね」

 夏凜さんが舌打ちした。

「とにかく、前に進みましょう。ここにいても仕方ないわ」

 お姉ちゃんが言う。もっともなことだ。

 私達は階段へ歩きだした。と、ちょうどその時。

「……何か聞こえない?」

 友奈さんが緊張の面持ちと共に呟いた。

「えっ?」

 私達は一様に元来た階段へ目をやる。

 ……敵うもんか……敵うもんか……。

「まずい、クローン・クックよ。追ってきたんだわ!」

 足音から察するに、相当の数が追ってきているようだ。私達はさっきみたいにバカみたいな弾幕も張れない上に、装甲車椅子で駆け上がることもできない。いずれ追いつかれるだろう。

「どうするの?」

 夏凜さんが焦りを含んだ声を上げる。すると、大佐は辺りをキョロキョロ見渡して、

「俺に考えがある」

 大佐が言うと同時、部屋に大量のクックが雪崩れ込んできた。

「き、きたぁぁぁぁぁぁ!」

「食らえぃ!」

 大佐は銃を構える。でも、その銃口はあらぬ方に向けられている。

「ジョンどこ狙ってんの! 脳みそまで筋肉に侵食されたのかしら!?」

「違う。こうするんだ!」

 大佐は引き金を引いた。すると、どうだろう。弾丸は部屋の両側の巨大な水槽に当たり、見事ガラスを粉砕した。その水槽には、前述の通り、ワニが泳いでいた。それも、お腹を大いに空かせたワニが……そいつらが、濁流の如く部屋に放たれる。

「モァイ!」

 放たれたワニは我先にとクローン・クックに襲いかかる。軍団は筋肉式ワニワニパニックに陥った。

「よし、俺達も逃げるぞ」

 大佐の言葉に、勇者部一同は階段に向けて駆け出した。

 だが。

「アッ!」

 ここで誤算が発生する。水槽が割れると同時、ワニと一緒に放出された水の量が、思ったより多く、激しかったのだ。その波にもまれ、東郷先輩が車椅子ごと転倒してしまった。

 後ろからは東郷先輩の身体を狙ったワニがじわじわと近づいてくる。

「くっ!」

「東郷さん!」

 友奈さんが悲鳴を上げ、あわてて駆け寄ろうとする。

「待ってて、今起こしてあげるから!」

「ダメよ友奈ちゃん!」

 でも、そんな友奈さんを東郷先輩は制止した。

「私に構わず行って! この先の階段じゃ、私は足手まといになるわ!」

 東郷先輩は銃をガチャリと言わせた。ここで時間を稼ぐつもりだろう。しかし、そんなことを許す友奈さんじゃない。

「嫌だ! 友達を見捨てる奴なんて、勇者じゃない!」

「友奈ちゃん!」

「風先輩たちは、先に行っててください。追いつきますから!」

 そう言うと友奈さんは転倒した東郷先輩の元へ駆けだした。

「うおおお! 東郷さんに手を出す奴は、鞄にするぞ!」

 だが、友奈さんの快足よりワニの方が一足早かった。大きな口を開けたワニは、倒れた東郷さんを掃除機のように吸いこんでしまった。

「!? 東郷さん!」

 そして、それを追いかけるように友奈さんもワニの口の中に飛び込んだ。二人を取りこんだワニは満足げに口を閉じる。

「うわあああああ、友奈と東郷が食われたあああああ!」

 夏凜さんが悲鳴を上げる。当然である。

「夏凜、落ち着きなさい」

 対して、お姉ちゃんは冷静だった。

「何言ってんのよ! 二人が食べられちゃったのよ!?」

「落ち着いて夏凜、これは夢、夢なのよ」

「ゆ、夢……」

 しばらく夏凜さんは脳の処理が追いつかなくなってだんまりしていた。少し経って、ようやく、

「あそっか……はぁ、夢で良かったわホント」

「まぁここまでリアルだとね。夢だということを忘れそうになるわ……」

 ワニに飲み込まれた二人を救うにはこの世界から脱出するほかない。私達は再び階段を登り始めた。

 今度の階段はさっきまでとは違って狭いらせん階段だった。両側の壁はコンクリートで、らせんになっているからすぐ先を窺うことが出来ない。

「五メートル間隔、音を立てるな」

 大佐が先頭に立って進む。この先いったい何が飛びだしてくるか、予想もつかなかった。

 しばらく階段を上り続ける。ずっとぐるぐる歩く物だから、途中で少し目が回った。

 やがて、階段は終わり、またも広い空間に出た。

「今度は何よ……」

「気を付けろ、何が出てくるか分からんぞ」

 そこはボイラー室らしく、そこら中で蒸気が噴出していた。ボイラーには火がくべてあって、ひどく熱い。カンボジアが天国に思える。

 暑さに喘ぎながら、部屋の出口を探す。

 そんな時、お姉ちゃんが何かに気付いた。

「……夏凜、何か言った?」

「言ってないわよ?」

「……樹?」

「ううん?」

「どうしたんだ風」

「いや、何か聞こえた気がして……」

「えぇ?」

 言われて、私達は耳を澄ました。ボイラーの駆動音やらなにやらが室内に響いている。そんな音の中に、幽かに人の声が混じっているように聞こえた。

「タイサァ……」

「ホントだ、何か聞こえる……」

「空耳かしら。大佐?」

「タイサァ……」

「あっちから聞こえるな」

 声に導かれ、迷路のようなボイラー室を駆け抜ける。そして、三つめの角を曲がった瞬間、大佐が突然右腕を撃ちぬかれた。

「ぬ゛っ!」

「きゃぁ!?」

 今さらの如く飛び散る鮮血に私は悲鳴を上げてしまった。

 慌てて物陰に隠れた。大佐に傷を負わせるなんて、一体何者なのだろう。

「大佐ァ」

「む、あの声は……」

「なに、ジョン知ってるの?」

 そっと物陰から顔を出す。ちらちらする炎の向こう、鎖帷子っぽい服を着たオジサンがこちらに銃を向けていた。

「誰ですか、あれ……」

「ベネットだ。恐らく、園子の精霊だろ」

「サリーさんの時も思ったんですけど、精霊って何なんすか」

「俺にもわからん」

 でも、なんだか因縁深そうな感じだ。可愛げの欠片もない精霊のベネットは銃を向けたまま、挑発的に大佐へ問いかける。

「大佐ぁ、腕はどんなだ?」

「こっちへ来て確かめろ」

「いや、結構。遠慮させてもらうぜ」

 この時、大佐は黙って私達になにやらジェスチャーを始めた。しきりにベネットの反対方向を指さしている。見ると、そこには出口と思しき扉があった。

「顔だしてみろ。一発で、眉間をぶち抜いてやるぜ。古い付き合いだ。苦しませたかねぇ」

「付き合い長いんですか?」

「いや、普通に初対面だ。たぶんノリだろ」

 大佐は、私達にその出口から出ていくように指示しているらしい。

「大佐は?」

「アイツの期待を裏切っちゃ悪い」

 静かに言うと、大佐は懐からナイフを抜きとった。そして、

「来いよベネット!」

「ちょっとジョン!?」

 お姉ちゃんが大佐を引き留める。

「アンタ珍しくダメージ受けてんのよ? それも利き腕を。大丈夫なの?」

 しかし、そんなお姉ちゃんに対して大佐はニヤリと一つ笑って、「信用しろ」とだけ言い、ゆっくりと身体をベネットの前にさらけ出した。

「来いよベネット。銃なんか捨てて、かかってこい! ……怖いのか?」

 見え透いた挑発だ。でも、ベネットと言う人(ていうか精霊?)は煽り耐性が壊滅的らしく、大佐に言われるや否や瞬間湯沸かし器よろしく顔を真っ赤にして、

「誰がテメェなんか! テメェなんか怖かねぇ!」

と叫んで銃を投げ捨て、ナイフを構えた。 

「野ァ郎ォォォぶっ殺してやアァァァァァァァァる!」

 精霊のベネットが大佐に襲いかかる。大佐は左腕でナイフを振りかざしながら応戦した。お姉ちゃんはそれを見ながら、

「私達は前に進むわよ」

「いいの風? あのままにしといて」

「ジョンなら大丈夫よきっと。樹もそう思うでしょ?」

「まぁね」

 私は大佐を見やった。どうやら今までにないくらい苦戦しているようだ。ちょっと心配な気もするけど——きっと、大佐なら大丈夫だ。

「行こう、現実に戻るために」

「ふん! ホァ!」

 筋肉同士の熱い戦いをその場に残し、私達は再び駆け出した。

 

 

 




(次回こそ)最後です。
夢から脱出なるか。大佐はベネットに勝てんのか。


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最終話・(夢から脱出)したいだけです

 六人いた勇者部は、二人はワニに食べられ、一人はベネットとの宿命の対決に臨んで、いまや三人だけとなっていた。

 助けるためには、この夢から脱出しなければならない。

 

 

 しばらく階段を登って行くと、一際大きな部屋へと到着した。

 装飾や家具の一切ない作りで、光源は部屋のはるか奥に並ぶ大きな窓と高い天井の天窓のみ、照明機器も存在しなかった。扉や階段が他に見えないことから、どうやらここが最上階らしい。

 その証拠に、部屋の真ん中には一人の女の子が立っていた。

「さぁ、来たわよ乃木園子さん?」

 お姉ちゃんが言う。園子さんの表情は逆光になっていてよく見えないけど、微笑んでいるであろうことは分かった。

「みんなすごいね~。あの中を突破するなんて」

「いや、みんなただのカカシだったから銃乱射してるだけで何とかなったわ」

「あれ~」

 少し驚いた様子だったけど、園子ちゃんは「まぁ、いいけどね~」と呑気なものだった。

「ところで、みんなはやっぱり夢から醒めたい?」

「当たり前よ。そのためにここまで来たんだから」

 夏凜さんがフンスと言い放つ。当然の事である。でなければこんなところにわざわざ車で突っ込んで来たりしない。

「それは、みんなも同じ?」

 園子ちゃんは私とお姉ちゃんにも問いかけの視線を送った。

「もちろん」

 私ははっきりと答えた。

「どんなに楽しくても、それは夢でしかないもん。どんなに辛くても、私は現実でみんなと一緒にいたい」

「樹、立派になったわね……」

 お姉ちゃんがそんな私をみてヨヨヨと涙を流した。何かに付けて大げさなんだからお姉ちゃんったら。

「それは、みんな変わらないんだね?」

 私達はコクコク頷いた。それを見て、園子ちゃんは少し落胆したような、安心したような、複雑な微笑みを見せた。

「そっか。それじゃぁ……」

 次の瞬間、園子ちゃんの身体が一瞬まばゆい光に包まれたそして、それがはじけると、そこには勇者(コマンドー)の装束に身を包んだ園子ちゃんの姿があった。

「今日の私は、ちょっぴり悪役モードだよ~」

 彼女は大きな槍を持っていて、それを両手交互、器用にくるくる回している。

「園子ちゃんも勇者(コマンドー)だったんだ……」

 よくよく考えてみれば、この夢を作りだしているのは園子ちゃんの精霊だというし、精霊がいるなら、彼女は勇者(コマンドー)だということだ。

「驚いたわ。私達の他にも勇者(コマンドー)がいたなんて……」

 お姉ちゃんが呻く。

 園子ちゃんはウォーミングアップがてらの槍回しをやめて、槍を右前半身に構えた。

「来なさい」

 顔からは柔和な笑みが消え去り、全く読み取れない表情となった。そんな彼女の挑戦に、夏凜さんが受けて立つと前に出た。

「なるほど、勇者(コマンドー)と戦えるのは勇者(コマンドー)だけと言うわけね」

 夏凛さんも勇者(コマンドー)に変身して、刀を数度回した後、構えた。

「怖いかクソッタレ。当然だぜ、正真正銘正式な勇者(コマンドー)の私に勝てるもんか」

 いけない、密かに緊張しているのか、夏凜さんったら負けフラグを口走ってしまった。 これはいけない。

 空気がピリピリしている。

「あの子、凄い殺気」

「えっ、お姉ちゃん分かるのそういうの」

「一応ね。このままじゃ、夏凜が危ないわ」

「まぁ、負けフラグ立ててるしね」

 ていうか、あの『のほほん』とした園子ちゃんが、それほどの殺気を出しているなんて信じられないなぁ。確かに今はその道のプロって感じだけど、夏凜さんだって正規の訓練を受けた勇者だ。

 お姉ちゃんも勇者(コマンドー)に変身した。

「夏凜、私も参戦するわ。樹はそこで待ってなさい」

「ちょっと風、余計な手出しするんじゃないわよ」

「アンタ一人だと危ないわ。夏凜に解らないわけじゃないでしょ」

 夏凜さんも案山子ではない。相手がどれだけの手練れか分かっているだろう。だから、お姉ちゃんの申し入れは素直に受けた。

「夏凜……怖い?」

「もちろんよ。プロですから」

 いつものマッチョネスな展開とは違って、突然バトル漫画的な展開になってきた。でも、私にそれを修正する力はないし、今はただ、手を握って祈ることしかできない。

 二人は園子ちゃんとの間合いをじわじわと縮める。

 最初に動いたのは夏凜さんだった。

 夏凜さんは二口の刀を振りかざし、EM銃の弾速並みの素早さで一気に距離を詰めた。

「受けてみなさい、私の力っ! はぁっ!」

 掛け声と共に、刀を振るう。剣撃は素早く、まさに『目にも留まらない』。

 でも、園子ちゃんは穂先を素早く振るって夏凜さんの刀を弾き飛ばした。そして、そのまま勢いよく突きだす。

「うおっ!?」

 夏凜さんは間一髪後ろに飛びのいて串刺しバーベキューにならずに済んだ。

「夏凜! 大丈夫?」

「何とかね。それにしても、全く隙が無いわ」

 二人は元の位置について再び隙を伺い始めた。そんな時、お姉ちゃんが、

「どうした恐いか? 当たり前だ、私は勇者(コマンドー)だ。料理してやる」

「お姉ちゃんも夏凜さんも負けフラグ立てないと死ぬ病気にでもかかってんの?」

「違うわよ。負けフラグも重ねれば勝利フラグになるのよ。そうよね、夏凜」

「そうね。二人でやっつけようぜ」

 私にはもう二人が園子ちゃんに勝利する未来が見えない。二人は如何にもカカシ的なセリフを吐き過ぎたのだ。

 

 ——一瞬の静寂が、まるで永遠のように流れ去る——。

 

「!」

 特に掛け声をかけるでもなく、お姉ちゃんと夏凜さんは示し合わせたが如く得物を振るって駆け出した。その勢いはまさに疾風怒濤。

 しかし、園子ちゃんは表情一つ変えず、先ほど以上に素早く、そして正確に槍を振るった。

「な!」

「しまっ……!」

 一陣の風となったその槍は、迫る二人を大いに切り裂いた。二人の剣先は相手に届くことなく空しく宙を切り、カツンと床を叩き、そのまま倒れ伏した。

「だっ、大丈夫!?」

 私は慌てて二人に駆け寄った。

「腹ぁバッツリ切られた……」

「最後に……高級にぼし……食べたかった……」

「二人とももう少し悲壮感のあること言いなよあああしっかりしてー!」

 私の切なる思いも空しく、切り裂かれた二人は例のごとくPON!と弾けて紙吹雪と共に霧散した。

「お姉ちゃんー! 夏凜さんー!」

 ここまで来て、私一人になってしまった。

 そんな私の肩を、園子ちゃんはトンと叩く。

「落ち込まないで樹ちゃん、これは夢なんだから」

 これは夢なのだから、みんなが本当にいなくなってしまったわけではない。この建物から出て、学校に戻ればそこにはいつもの明るい勇者部がある。優しい日常がある。

「さっきから何度も『ああ、夢で良かった』って、思わなかった? 現実に戻れば、そうはいかない。どんなに辛くても、どんなに苦しくても、どんなに悲しくても、それを受け止めて、ずっと過ごしていかなければならない」

 その声はとっても優しさに満ちていた。私たちの事を心から気に掛けてくれている。

 私は振り向いて、訊き返す。

「園子ちゃんは、それで満足してるの?」

「私もね、よく自分で夢を見るんだ~。こうやってね……」

 言うや、園子ちゃんの両隣に人影が現れた。さっきの『ミノさん』とかいう女の子と、もう一人……凛とした、でもどことなく優し気な女の子だ。あと胸が大きい。ふざけやがってぇ。

「大切な友達と一緒に過ごす夢を作るんだよ~」

 周りの景色も、さっきまでの殺風景な部屋から一転、春の陽光が降り注ぐ公園へと変化した。芝生は柔らかく萌えていて、小道の傍には何本もの桜が花を咲かせている。

 季節と景色は巡りかわり、夏の海辺、秋の山、冬の校庭、クリスマスやお正月の彩が施されたショッピングモールなど、それは賑やかなものだった。

「私達はね、ちょっと事情があって、すぐに別れることになっちゃったんだ~。もっと一緒に、たぃさん遊びたかったんだけど……」

 一瞬、園子ちゃんの笑顔に影が差した。でも、すぐに持ちなおして、

「だから、こうやって夢の中でたくさん遊ぶんだ~。夢の中なら、悲しみもない」

「でも、どう言ってもこれは夢だよ」

「現実はあまりにも辛い。それなら、夢の中でゆったりした方がいい」

 園子ちゃんの物言いは極端なことに思えた。

 でも、私の心はどこかでこの夢に留まりたいと囁いている。

 『勇者(コマンドー)』という非日常が、遠からずに大切な日常を壊してしまうのではないか。大切なものを、すべて奪い去ってしまうのではないか。そんな怖さが、夢の世界を魅力的にしていて……。

「夢も現実も、所詮は意識の産物。なら、一緒に夢の中にいた方が幸せだよ~」

 園子ちゃんはそう言うと嬉しそうに両サイドの女の子を抱き寄せた。

 すると、その時————。

 

「園子はさ、本当にそれでイイの?」

「———え」

 園子ちゃんが驚いて横を見る。声を上げたミノさんは、朗らかな笑顔を顔に湛えていた。

「苦しみも悲しみもないけど、所詮は夢だろ?」

 その言い方は、とても気軽で、なおかつ諭すようにも感じられた。ミノさんは私を見やると、「犬吠埼さんもさ、そう思うだろ?」

「えっ……うん、まぁ」

「なんだよツレない返事だなー……ま、いいけどさ」

 ミノさんはアハハと快活に笑う。そんな彼女にしばし呆然としていた園子ちゃんだったけど、自分を取り戻し、ちょっとだけ語気を強めた。

「でもミノさん……! 夢から覚めたら、辛いだけじゃない。だから私はこうやって、みんなで一緒に……」

「園子」

 ミノさんは顔を引き締め、園子ちゃんの顔を見据えた。そして、小さな子供に言い聞かせるようなはっきりした喋り方で、同時に私にも言い聞かせるが如く、

「所詮は夢だ。どんなに取り繕ったところで、三ノ輪銀も、鷲尾須美も、帰ってこないんだ」

「でも……」

「でもじゃない。現実から逃げて引き籠ってるだけだ。行動しなきゃ、何も変わらないだろ」

 園子ちゃんは何か言いたげに口を数回パクパクさせた。そして、顔を伏せるとその場にペタリと座りこんでしまった。

 そんな園子ちゃんの頭をポンポンと撫でるように叩くと、ミノさんは私を見やった。

「ごめんな、巻き込んじゃって」

「いえ……それより……」

 私は辺りを見渡した。

 周りの風景はいつの間にか殺風景な大部屋に戻っている。しかし、外に出る扉の類は部屋の入り口しかなくて、どうやれば夢から脱出できるのか見当もつかない。

 でも、ミノさんは私の心配を他所に一つ笑うと、 

「それなら大丈夫」

と親指を立てた。

 それとほぼ同時……。

 バルルゥウウウウン……。

 盛大なエンジン音が響く。音は、見る見るうちに近づいてきた。

「ほら来た」

「え?」

 次の瞬間! 

 轟音と共に入り口の扉が吹き飛ばされた。爆風が私を襲い、煙が濛々と立ちこめる。

「な、なに?」

 すると、立ちこめる煙の中に、嫌というほど見慣れたおおきな筋肉の影が現れた。その影は、煙から抜けるといつものように挨拶をかました。

I'm Back(戻って来たぜ)

「た、大佐!」

 嫌というほど見ている筋肉が、今はとてつもなく愛おしく感じられる。

 私は思わず大佐に駆け寄った。

「大佐、遅刻ですよ」

「道が混んでた」

「ならしょうがないですね……あの、ベネットさんは?」

「見送ってきたよ」

 おおよそパイプ串刺しの刑に処されたのだろう。大体予想がつく。

 今はそんなことより大事なことがあるのだ。

「大佐、夢から脱出しましょう!」

「OK!」

「OKって……方法は解るんですか?」

「ノープロブレムだ。信用しろ」

 そう言うと大佐は破壊した入り口に歩いて行き、そこから一台のオートバイを引きずり出した。おそらく、それでここまで駆け上がってきたのだろう。さっきの盛大なエンジン音の正体だ。 

「夢からの脱出方法は簡単さ。起きると忘れてしまうだけで」

 ミノさんが私に言う。

「方法って?」

「『この夢から覚めたい』と念じる」

「……それだけ?」

「そっ。それだけ」

 でも、それなら私は幾度となく夢から覚めたいと思ってきた。それにも拘らず、現に今も夢の中だ。

 それを言うと、またもミノさんは「簡単さ」と笑った。

「本心では夢から覚めたくないと思っていたんだ。今は、どうか知れないけど」

「はぁ……」

「おい樹、準備が出来たぞ。来い」

「あっ、はい!」

 大佐を見やると、バイクにまたがってバルルンバルルンとエンジンを吹かしていた。

「えっと、何してるんです?」

「良いから。後ろに乗るんだ」

「いいですけど……何を考えてるんですか?」

「信用しろ」

 すごく嫌な予感がする。

 でも、夢から脱出するには大佐の指示に従わざるを得ない。私は腹を据えてバイクの後ろにまたがった。

「しっかり掴まってろよ」

「はい。……あの、どうもありがとう」

 私は園子ちゃんの傍に立っているミノさんにそう言った。彼女は笑顔で私に手を振り返す。

「よし、行くぞ」

 大佐はそう言うと、エンジンの回転数をさらに上げた。

 ちなみに、バイクの進行方向には大きな窓ガラスがあって、その先には大空が広がっている。地上数十階に相当するこの部屋から飛びだそうものなら、まりがいなく死ぬ。

 そして大佐はいま、間違いなく飛びだそうとしている。

「行くぞ! ターボタイム!」

「えっちょっと」

 私の言葉を封じるようにバイクは加速する。広い部屋をあっという間に駆け抜け、ガラスを突き破ると、そこはすでに大空だった。

「えっ」

 眼下には街が広がっていて、人がようやく見えるくらい小さく動き回っている。

 すぅっ、と身体を嫌な浮遊感が襲う。

「ええええええ!?」 

 私達は凄まじい勢いで落下を始めた。強い風が身体を叩く。このままいけば数秒後には地面に激突してしまうだろう。大佐ならなんてことないかもしれないけど、私はごく普通の人間だから普通に木端微塵である。

「樹、夢から覚めたいと念じろ」

 落下しながら大佐が叫ぶ。

「そんなこと言ったってぇぇぇ」

「どうした!? 結局夢のままがいいか!? ほら唱えろ! チチンブイブイ!」

「ままま待ってくださいよぉ!」

 地面はみるみる迫って来た。

「わ、私は……!」

 勇者部のみんなやクラスの友達の顔が頭の中で駆け巡る。もしかして、走馬灯ってやつ?

「私は……!」

 地面が、視界いっぱいに広がる。

 そして————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んあ……」

 朝日がカーテンの隙間から私の顔に差し込んでいた。外からは鳥のさえずりが聞こえる。

「夢……」

 ムクリと身体を起こして、大きく背伸びをした。

「あー、何ちゅー夢……」

 内容はよく覚えていないけど、ジャングルでプレデターと戦ったり、私がサイボーグに改造されたりと、まぁ脈絡がない疲れる夢だったことは確かだ。

 ボーとしていると、エプロンをつけたお姉ちゃんが部屋に入ってきて「おっ」と驚きの声を上げた。

「樹が自分で起きてる……今日は雪が降るわね」

「も~ひどいよお姉ちゃん……」

 昨日の天気予報で今日は夏日だと言っていた。雪が降ることは無いだろう。

「あはは、冗談よ。さ、朝ご飯もうじきできるから、顔洗って着替えてきなさい」

「はーい」

 

 

 ※

 

 

 

「あっついねー」

 その日の放課後、灼熱の渦に包まれた部室で友奈さんが呻いた。

「そうね。でも、旧世紀はもっと暑かったらしいわよ?」

 何でも、夏の湿度が高かったらしい。つまり、街中がサウナ状態だったというわけだ。それはたまらない。

「湿度ってわかる夏凜ちゃん? 空気のジメジメ度だ」

「友奈ぁ、アンタ私の事馬鹿にしてるでしょ」

「ご冗談!」

「変な掛け合いしてないで~。全く、今日は変な夢見て体調悪いのに……」

 お姉ちゃんがボソリと呟く。すると、友奈さんが、

「へ~、風先輩も変な夢見たんですか」

「『も』って、友奈も変な夢見たの?」

「はい。よく覚えてないんですけど……」

 友奈さんはウ~ンと頭を捻って夢の内容を思い出そうとした。

「なんか、ワニに食べられたような……」

「友奈ちゃん偶然ね、私もワニに食べられたわ」

 東郷先輩が何故か嬉しそうに言う。対して、それを聞いていた夏凜さんは、驚きの声を上げた。

「ちょっと、私はアンタ達二人がワニに食べられる夢見たわよ」

「私もよ」

 お姉ちゃんも同意する。そして、私も見たという事を伝えると部室に寒い空気が流れた。

「何これ怪談……?」

 お姉ちゃんがブルルッと震える。お姉ちゃんは幽霊とかそういう類がすこぶる苦手なのだ。

 しかし、奇妙なこともあるものだ。みんな一様に、同じような夢を見るとは。

「大佐はどんな夢を見たんですか?」

「ん? 俺か」

 大佐はいつものように銃を磨いていた。その手を止めて、しばし考える。

「妊娠する夢を見た」

「…………」

「……部室の気温が下がったわ」

 なんと、醜い夢なんだ……。 

 でも、そんな感じの夢も見や気がする……ホント、夢ってのはなんでこんなに滅茶苦茶なのだろう。

「ま、そんな気味の悪い話は置いといて、ジョン! 樹と迷子の猫探ししてきて」

「了解した。樹、行くぞ」

「はーい」

 猫の捜索は大佐のバイクで行う。効率を上げるため二人乗りをすることになっていて、一番小柄な私が同行するのだ。

 外に出ると、爽やかな風が吹いていた。空はどこまでも高く、私達の前途を思わせる。

「置いてくぞ」

「ああん待ってください」

 私が大佐の後ろにまたがると、バイクは唸りを上げて走りだした。

 今日も世界は穏やかで、平和だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんと、勇者部はすごいよね~」

 

 

 

 

 

 




 そういうわけで最終回です。アリアスございました。
 DVDも全部でたし、ラジオも終わっちゃったし、あとはニコ生残すだけで、ああ、ゆゆゆももう終わりなのかぁ、と思います。まぁ、僕自身はこんな訳わかんないもの書いて自分の中のゆゆゆブームをもう少し噛みしめているつもりなんですけどね。園子様が勇者部に入って以降の話も少し書きたいし。国防仮面とか、彼女いったい何者なんでしょうね?

 拙作をよんでくださっているということは、少なくともゆゆゆかコマンドー、もしくはその両方が好きな方だと思うので、是非気が向いたら、未だ数の少ないゆゆゆSSだったり、ハーメルンにほぼないと言っていいコマンドークロスSSを書いてみてください。

 まぁ反省点の多々あるSSでしたが、書いててとても楽しかったです。その作者の自己満足的な楽しさが、お付き合いくださった読者の方々にも多少なりと伝わっていたなら嬉しく思います。

 その後の園子的要素を含んだ話を数話考えてるので、いずれ『元コマンドーである』の方に投稿するかもしれません。プロット的なものを完全排除してるので支離滅裂かもしれませんが、これよりかは勢いがあると思います。気が向いたら覗いてみてやってください。

 だらだらと後書きを書いてきましたが、これで最後です。皆様、お付き合いくださりありがとうございました。疲れている故、ネタ成分少なめなのをお許しください。コマンドー見て寝ます。疑問点などがあれば、感想欄に書くなりメッセージ送るなりしてくださいませ。作者的にも「実はこここうなんだぜ」と意味もなくドヤできるので嬉しいです。
 本当にありがとうございました。


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