畜生先生ポチま! (お話下手)
しおりを挟む

年表

簡易ながらポチま!の年表と重要人物の軽い説明を載せました。けして更新を先伸ばしとか、そんな悪あがきではございません。ございませんとも。


 【西暦900年】“とあ”、アマテルから狗族の里、地中深くに封印される。

 

 【西暦1443年】エヴァンジェリン、アマテルと???に出逢う。更に真祖の吸血鬼化、父親を殺害。

 

 【西暦1850年】相応しくない者がズルをして手に入れようとしたが、“とあ”暴走。 狗族は壊滅に追い込まれるまで虐殺。

 

 【西暦1976年】冬、日本京都にて“とあ”とナギ出逢う。 正式に主として選ばれる。 更に詠春と出逢い、助太刀、友人となった。

 

 【西暦1983年】紅き翼、アリカとテオドラ救出。 隠れ家にてアリカ・バスター喰らう。

 

 【西暦1986年】“とあ”とエヴァンジェリンと出逢う?

 

 【西暦1991年】3月、エヴァンジェリン、登校地獄にかかる。

 

 【西暦1993年】ナギ、“とあ”、アリカ、アルビレオ、イスタンブールで事故?により死亡。

 

 【西暦1994年】ポチ、全裸で麻帆良学園に現れる。 エヴァンジェリンに変態不審者として追われる。

 

 【西暦1994年】???がエヴァンジェリンを襲う。 ポチ、式を使い撃退。

 

 【西暦1995年】始業式、ポチ先生始まる。

 

 【西暦1995年】明日菜転入。 あやか、エヴァンジェリン、ポチ、顔を合わせる。

 

 【西暦1997年】2月、ポチ、チャチャゼロからバレンタインチョコ?を貰う。

 

 【西暦2001年】春、必殺技を考える。 初めての合コン。

 

 【西暦2001年】夏、Konozama。

 

 【西暦2003年】ネギ登場。

 

 

 

 ◆エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル

 

 みんな大好きブロンド髪の最強ロリ。主にツッコミ担当。ポチが起こすイタズラを物理的に止める。

 原作よりも若干当たりが優しく、学園内の立場も良心的。本人が知らぬところでファンクラブもある。しかし、周りに毒されたせいか少々アホな行動を取る場合も。色々溜まるとポチに対しセクハラを仕掛けるが上手くいかず、思考が汚いおっさんみたいに。時には文字通り食す。バリバリムシャムシャ。

 

 吸血鬼になる前や、登校地獄を掛けられた後など、過去に関する話しは主人公であるはずのポチよりも圧倒的に多い。彼女が登場しない話しの方が少なく、ポチが登場しない場合は彼女が主人公になりシリアス濃厚。もはや吸血鬼先生 エヴァま!

 

 ◆ナギ・スプリングフィールド

 

 ヤンキー魔法使いで始祖アマテルに封じられたポチを解放した最初?の飼い主。若くしてアマテルの仕掛けた罠や自動人形を全て撃破する強者。

 ポチは彼を気に入っているが、彼自身は手放したいと思っておりエヴァに譲ろうとするなど微妙に扱いが酷い。実はポチを嫌っているのではなく、エヴァならばポチを任せられると、彼なりの思いやりがあってのこと。

 ポチが我が儘で自由奔放な性格になったのは、彼のせいでもある。ペットは飼い主に似る。

 

 ◆始祖アマテル

 

 造物主の娘にして仮契約のモデルとなった人物。一人の従者を引き連れ世界を救った女性でもある。900年前にポチを京都の狗族の里に封じた張本人。

 

 【本作品では、原作にて墓所の主と呼ばれる神楽坂明日菜によく似た女の子をアマテルとして扱います】

 

 英雄の立場でありながら幼女の獣姦(未遂)を見逃したり、吸血鬼化に助力するなど、割りとえげつない行為がちらほら。被害者はエヴァ。べろちゅー。

 言動を見る限り、ポチとはただの敵対関係には見えない。没ネタだけの内容だが肉体関係もあり、異母姉妹であるエヴァとは因縁めいた物が。容姿も大人から幼女になっているなど、恐らく作中で最も謎が多く、何を考えているのかわからない。

 

 

 




ちょこちょこ増やしていきます。年表もそうですが、造物主や明日菜など。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【第一章】ポチの日常編 畜生先生ポチま!

時系列は原作スタートの1年くらい前。 基本、話し事に年代がバラバラです。


 【2001年】

 

 春、麻帆良学園。 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの別荘にて。

 

 「ねーねー、エヴァンジェリン」

 

 ソファー座り込みながら軽い言葉と裏腹に重々しい雰囲気を放つ青年。 スーツ姿からしてこの学園の先生だろうか。

 無機質で人形みたいな目が不気味さを感じさせるが…。 口調は何処か幼い。

 

 「また下らんこと言うなら潰すぞ。 …なんだ?」

 

 潰すってなんですか。 玉ですか、そうなんですか。

 

 「そろそろ俺もね、オサレな必殺技が欲しいと思うんです、けど……断罪の剣は止めて下さい! せめて氷爆で!」

 

 「必殺技って…。 お前には魔力が無いだろう、第一争いは苦手ではないのか?」

 

 「苦手も苦手ですね。 でもね、どっかのとある学園第一位が言っていたんですよ、最強ではなく戦う気力すら湧かない無敵になれば戦わずにすむってね!」

 

 人形のような目が三枚目タイプに崩れる。 必殺技、即ち漢のロマン。

 一撃必殺から連携攻撃、代償を伴うタイプや仲間との絆により生まれる奇跡など様々な物があるが、彼には魔力が全く無いうえ魔法詠唱も出来ず身体能力も並み程度なので居合い拳どころか魔法射手も使えない。

 

 畜生! 才能のある奴が憎い!

 かめはめ波とか螺旋丸とか月下天衝とか使いてぇよおおお!

 

 「どうせそんなことだと思ったわ。 アホか」

 

 「クソ、こうなったらエヴァンジェリンから全魔力の供給を受けて俺無敵になるしかない!」

 

 吸血鬼最強の全力供給である。 きっとナルトみたいな尾獣になれるってばよぉ、サスケェ!

 

 「そんなことをすれば私はどうなる!?」

 

 「大丈夫、エヴァンジェリンには物理タイプの障壁になってもらうから」

 

 俺紙装甲だからね。 障壁ないし基本的に避けないといけないし。

 

 「死ね貴様あああああ!」

 

 怒りに任せて腕を奮う吸血鬼。 衝撃により青年は砂浜ごと凪ぎ払われて、ぐっちゃぐちゃのグロテスク物体に変わった。

 血塗れってレベルじゃない、骨とか脳ミソとか其処ら辺に転がるレベル。

 

 「ちょっとおおお!? 少しは手加減してよおおお!」

 

 口元と胸だけの肉塊が泣きながら叫ぶ姿はホラー。 しゅうしゅうと煙や泡を吹きながら再生する様子も合わせて、もはや人間ではない。

 

 「貴様が変なことを言うからだ! だいたい必殺技なのに何故肉体強化! あれか? やっぱり自分だけ助かりたいからか!?」

 

 「人聞き悪いこと言わないで! 刹那ちゃんやタッツー(龍宮)の為なら俺、命懸けるよ!」

 

 ガンッダアアアアアム! タッツーはきっと、本気出したらはかいこうせん使えると思うんだ。

 

 「そこに私はいないのな…」

 

 「そんなことはどうでも良い、重要なことじゃない! 問題は俺の必殺技! 俺も欲しいんだよ、闇の吹雪みたいな超かっこいい必殺技!」

 

 何故か不老不死である彼だが、その身体能力は魔力が一切無くただの一般人そのもの。 必殺技としたら体力に依存される気を使うしかない。

 

 「気を放出するようにしたらどうだ。 まぁ、元々機械であった貴様がどうなるか知らんが」

 

 「ああ、それですか…。 実はやったことあるんですよ」

 

 「あったのか…。 で、どうなった?」

 

 「尻アッーな、から出たんだよねー」

 

 「何? 尻穴?」

 

 いやもうビックリしたよ、深夜アニメ観た夜のテンションで頑張ったら、尻からウ〇コみたいに気の塊がジュドーンって。 おかげでアナルがひぎぃ!してらめぇ!して現場が凄惨なことになったわ。

 

 「偶然一緒にいたタッツーからゴミみたいな目で見られたし、独学はもうしない…」

 

 再生するのに時間が掛かって地獄のような痛みは味わうし、人として大事な物は失うし踏んだり蹴ったり。 ま、プライドなんて前々からなかったんだけど!

 

 「それで私からアイディアを貰いたいと…」

 

 「そうなんですよー。 お代官様、ハローキティ様」

 

 「おい、もう一度殺されたいらしいな」

 

 ちょ、まっ…! その魔力は本気じゃ(コズケミーカタストロフェー

 

 氷付けと共に砕け散る彼の身体。 因みに周りの人間どころか本人でさえも、何故死なないのか知らない。

 その理由として彼は発見された時、記憶喪失で自分に関することが何1つ知らなかった。 昔の知り合いがいたおかげか、なんやかんやで学園のお世話になっているが、一応ちゃんとした名前もある。

 その名はポチ、初めに拾ったエヴァンジェリンが周りの人が反対することを押し退け、嫌がらせのために命名した悲しき名前だった。

 

 「わんわんお! 俺復活!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「一番確実で手っ取り早いのは仮契約だな。 アーティファクトが手にはいれば単純に戦術も増えるうえ、必殺技に派生しやすいと思うが…龍宮真名か桜咲刹那のどちらかと仮契約するか?」

 

 「やだ! ていうか死ぬ! 死なないけど死ぬ!」

 

 「だろうな。 まぁ、私が許可しないんだが」

 

 となると、思い付く限りあと残された方法はやはり肉体強化を重点にしたタイプぐらいしかないな。

 

 「つまりアレだね、フリーザ様みたいに変身する奴か! 悪くない!」

 

 「変身する奴って…。 お前は似たようなことが出来るだろう」

 

 みんなが言っていた全身機械鎧姿になるのと、あとはハチミツプレイ金ぴかか?

 

 「ダメダメ、あれは変身って言わないの。 第一金ピカが許されるのは特撮ヒーローかロボット、或いは不動なデュエリストだけなんだよ! 俺の金ピカは蜂蜜塗っただけだからキモいし、エヴァンジェリンの髪の毛みたいな綺麗なブロンドだったら良かったんだけど…」

 

 「ほ、ほう? たまには良いことを言うじゃないか」

 

 「いやー、初めて見た時は天使かと思ったぜぇ」

 

 「ブゥーーー!? な、ななな!」

 

 「落ち着きのある出で立ち、艶やかな長髪、美しい顔と完璧なプロポーションはまさに天使だった! ラブリーマイエンジェルしずなたーん!」

 

 「はっ?」

 

 「あれ? どうしたの? …もしかして自分だと思った? フヒヒ、ねぇねぇどんな気持ち? ドキドキさせられて実は違ったなんてどんな気持ち?」

 

 以下リピート。 ねぇねぇどんな気持ちどんな気持ちとウザイくらい言われるエヴァンジェリンの目から徐々に光が消える。

 先程から見守っていたチャチャゼロは危険な空気を感じると、外野から楽しむため静かにその場から離れた。 流石に彼女の様子がおかしいことに気がついたポチは、困惑しながら距離を取る。

 

 「えーっと…。 え、エヴァンジェリンさん? エヴァンジェリン? あの、ゴメンね?」

 

 「何故謝る? 貴様が何を言おうと私が一々気にすることはないのだからな。 必殺技だったか? 調度新しい必殺技を編み出したとこだったんだよ、貴様限定のなぁ…」

 

 「マスター、楽しそうです」

 

 あ、これアカンパターンや。 うわー、どんな拷問かなぁ。

 楽しみだなぁ(白目) 茶々丸ちゃん、後片付け御願いします。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「ん? 誰かと思えばエヴァンジェリンに茶々丸とポチ先生か。 珍しく早いな、おはよう」

 

 「む、あ…あぁ」

 

 「おはようございます。 ガンドルフィーニ先生」

 

 明朝。 職員室に向かう途中、廊下でガンドルフィーニとバッタリ出くわしてしまう。

 向こうは気さくに挨拶をしてくるが、このバカの影響によるものか、ここ数年で私に対する態度が急に変わっているせいで未だに此方は慣れない。

 貴様、私が嫌いではなかったのか? 前は敵意剥き出しだったはずだが…。

 それに対してコイツは…。

 

 「ガンドルちゃん、おっはー!」

 

 私が言うのもあれだが、なんて馴れ馴れしいんだ。

 

 「今日も元気だな、それと仕事中にちゃん付けは止めろ」

 

 お前も仕事中じゃないなら良いのかっ!?

 

 「えーっ。 奥さんにはちゃん付けで呼ばれているのにズルい」

 

 「なッ!? なんでそれを知ってる!」

 

 「え、この前“昼顔”みたいにお宅へお邪魔したら教えてくれた」

 

 同僚の家で何をやっているんだ貴様ーーー!?

 

 「なんだとおおおおお!」

 

 流石にガンドルフィーニも自身の妻が寝取られると聞いて、褐色の肌が一目で分かる程真っ青に変化する。 新婚のうえ、愛妻家だ。

 このままポチが消し炭にされるのだと思っていたが…。

 

 「そのまま調子に乗って壁ドンしたら、物理的に壁ドーーーンされたけどね」

 

 「ふはははは! ざまーみろ!」

 

 既に制裁された後らしい。 ガンドルフィーニに嬉しそうである、教師としての威厳を保て。

 しかし物理的に壁ドンとは一体なにをされた。

 

 「こう、ね。 トンカチで頭蓋骨をドンドンドンドン。 ニコニコ笑いながら…」

 

 「笑いながら!? 怖すぎるぞ!」

 

 「ちょっと待て! 私の妻が本当にそんな残虐なことをしたのか!?」

 

 「本当だよ。 いやぁ、サイコなおかげで頭がブレイクして部屋が脳汁まみれに」

 

 「だからこの間部屋の模様替えをしていたのか」

 

 「心当たりがあったんだな…」

 

 コイツの妻は一般人と聞いていたが、よくそんなことが出来たな。

 

 「ガンドルちゃん…じゃなくて、先生。 君の奥さんは鬼嫁の素質があるよ」

 

 「そんな素質はいらない!」

 

 最早鬼嫁が可愛いレベルだと思うが、黙っておこう。 ガンドルフィーニに悪夢のような未来が見える。

 

 「ちゃんと奥さん大事にしてね?」

 

 「ちゃんとしてる!」

 

 「そ れ は ど う か な ?」

 

 「何!?」

 

 「ガンドル先生は大切にしてるつもりでも、奥さんからは愛情が薄くなったと感じられるかもしれない…」

 

 「そ、そんなことはない…!」

 

 ポチの悪魔の囁きが続く。 やれ教師としての忙しさに家へ帰宅するのが遅くなっていないか、やれ麻帆良学園の警備で家をあける回数が増えていないか、やれたまには家族サービスしろだとか。

 ガンドルフィーニの表情は固い。

 

 「た、確かにポチ先生の言うとおりだ。 最近、家に帰るのが遅く、空ける回数も増えた。 だが私は教師、そう簡単に休むなど…」

 

 「情けないぞぉ! ガンドルフィーニぃ!」

 

 いきなりどうした。

 

 「己の愛する者さえ大切に出来ない者が何が教師だぁ! 恥を知れぃぃぃ!」

 

 「はっ!」

 

 お前も、はっ!ではない。 何か間違いに気づいたような顔は止めろ、膝ま付くな、ポチが最もらしいこと言ってるがお前自身間違っていない。

 

 「そうだったな…。 待っていろジュリアス! 今逢いに行く!」

 

 「待てガンドルフィーニ! 貴様一間目の授業はどうするつもりだ!?」

 

 「すまないがポチ先生。 生徒達を、頼む…!」

 

 この馬鹿に授業を任せるつもりか!? それこそ大惨事だぞ!

 任せるならタカミチ…いやアイツは出張か。 いざという時、役に立たない!

 

 「任されたぜガンドル! 逝ってこい!」

 

 お前も軽々しく受けるんじゃない!

 

 「あぁ! うおおお! ジュリアスエメリー!」

 

 「おい! 戻ってこい、ガンドルフィーニ! ガンドルフィーニいいい!? そもそもジュリアスエメリーって誰だあああああ!?」

 

 その日、ガンドルフィーニは帰ってこなかった。

 

 「クククッ、巧くいった…」

 

 暗黒神のような邪悪な笑みで、一人笑い声を上げる畜生。 怪しいと思っていたが、やはり何か理由があってこその展開だったのだろう。

 ろくでもない理由に間違いないが。

 

 「…何が目的だ」

 

 「これで刀子ちゃんのパンストが手に入るんだ。 フヒヒ」

 

 「はぁ!?」

 

 刀子とは、あの神鳴流の教師か。

 

 「実はこの前飲みに行った時さ…」

 

 少し前に彼氏からフラレた刀子はその悲しみを振り払うため、ポチを連れ回して飲み歩いたらしい。 3件目辺りで互いに意識が朦朧するなか、気づけば奥さんとラブラブのガンドルフィーニが羨ましいと話していたようだ。

 そろそろ三十路が近い刀子である、このタイミングで彼氏を失ったのがかなりの焦りを生み出した。 ガンドルフィーニ爆発しろーガンドルフィーニ末長く爆発しろーと、両者大声をあげながら羨ましがっていたが、不意にガンドルフィーニに奥さんから最近旦那の帰りが遅いと相談されていたことをポチが思い出した。

 酔った勢いで俺達がキューピッドになろうぜ!と、刀子と意気投合し、そのままではつまらないから、次いでに巧くやった方は相手の言うことを何でも聞くということにしたようだ。

 

 「刀子は覚えているのか?」

 

 「勿論覚えていたよ。 シラフでもヤル気満々だった」

 

 「……」

 

 …あの女はこういうのをあまり好まないと思っていたが、まさかな。

 

 「何でもだからなー。 パンストじゃ、ちょっと勿体ない気がするし……もっと大胆に攻めて“くぱぁ”をお願いしようかなー。 見るだけならセーフセーフ!」

 

 お前が縦に“くぱぁ”されるのが、簡単に予想出来た。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「えー、ということで…ガンドルフィーニ先生の変わりにポチが授業をしまーす」

 

 『はーい!』

 

 ポチの言葉に皆、一斉に元気良く返事を上げる1ーA組メンバー。 バカレンジャーと呼ばれる神楽坂明日菜達は嬉しそうだが、委員長である雪白あやかはあまり顔色が優れない。

 まぁ、コイツの授業はいつも学業とは関係ない物しかしないからな…。 だが、自習だけにしてほったらかしにしないだけマシなのか彼女自身からそれ以上言うことはなかった。

 だからそんな風にどうにかしろの目で此方を見るな。 この前は錬金術の授業でその前は並行世界の話しだった。 さて、今日は何か……。

 

 「今日は皆さんにポチの必殺技を考えてもらいたいと思います!」

 

 『おお!』

 

 お前まだ諦めていなかったのか!? そして何故一部目を輝かせる!?

 

 「エフェクトは派手に、名前は最高にカッコいい物で。 威力についてはあまり求めていないので安心してください」

 

 「つまり、実用性より見た目重視でござるな」

 

 「Yes! では仲の良い5人グループを作って話しあってください、ポチは見回りながら参加するので。 それじゃ、始め!」

 

 ポチの合図と共に一斉にグループが作られる。 やはり仲が良い者同士、席が離れていても簡単に出来てしまうが、対する私は今までこのクラスとあまり積極的に関わっていないせいか、残り者同士どころか全く出来ない、そう思っていたが…。

 

 「エヴァちゃん。 ポチの奴、また変な授業始めたね」

 

 「か、神楽坂明日菜…」

 

 いつの間にか私の横の席に座っているバカレッドこと神楽坂明日菜。 その横にはじじいの孫である近衛木乃香と、更にはその親友である刹那もそばに近寄ってきた。

 

 「な、なんだお前達」

 

 「なんだって、グループ作るんだけど…?」

 

 「エヴァちゃんならポチの好みとか知ってそうやしなぁ」

 

 「勿論です。 マスターはポチ先生の好き嫌いを熟知しており、更には身体の味…「おい止めろ」…飽きずに喧嘩しています」

 

 神楽坂明日菜は呆れた顔で此方を見るが、茶々丸よ。 お前、本当は何を言おうとした。

 

 「好みならお前達も良く知ってるだろう。 別に友達ではない私に聞かずとも…」

 

 「え、友達じゃないの? 私達?」

 

 神楽坂明日菜は何を言っているという顔で私を見た。 不思議と胸の奥がむず痒い感覚に囚われる。

 私は今、どんな顔をしているのだろうか。

 

 「友達になるの、嫌やったかなぁ…」

 

 近衛木乃香が悲しそうな表情を浮かべ、刹那はどうしていいのかおろおろしている。 クソっ、これでは私が悪者みたいではないか、いや…悪者なんだが。

 どうにも居心地が悪いため、仕方ないが此方からも何か言わなければならない

 

 「いや、別に…嫌では、ない……」

 

 「なら決まりね!」

 

 「えへへ、嬉しいなぁ」

 

 「良かったですね、お嬢様」

 

 顔が熱くなるのを感じる。 これも全部ポチのせいだ。

 苛立ち気に奴を睨み付けてやろうと探した瞬間、本人とバッチリ目が合ってしまう。 まさか見ていたのか!?

 ポチは私にグループ出来たのが良かったのか、無機質な目を歪めてニカッと、屈託の無い笑みを向ける。

 …長い間共にいるが、たまにこんなことがある。 アイツが本当に馬鹿なのか分からなくなるくらい。

 なんにせよこれで、私、茶々丸、神楽坂明日菜、桜咲刹那、近衛木乃香のメンバーが揃い5人グループが出来る。 ポチが教師になってから昔みたいにハブられることはなくなっていた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「ポチさんの好みで選んだ方が採用されやすいでしょうね」

 

 「だろうな。 アイツはジャンプとかマガジンとか少年漫画が好きな奴だ。 そこら辺でアイディアを捻るのも良いだろう」

 

 「早速ネットで検索してみたで。 えーと、フタエノキワミ、アーッ!……なんやこれ」

 

 それはネタだ、アイツは好きだが完全に駄目な方向性へ展開が進む、必殺技とは言えない。 却下。

 

 「でもポチって避けるの得意だけど、刹那さんより力弱かったわよね…。 必殺技以前の話しだと思うけど…」

 

 「ばっ…。 神楽坂明日菜、アイツがいる前でそんなこと言うな!」

 

 ほら見ろ、泣きそうな顔で倒れてる。

 

 「だから見た目重視なんですね。 此方が泣きたくなってきました、可哀想に…」

 

 おいいいいい!? 桜咲刹那、死に体に鞭打つ言葉は止めろ!

 奴から血涙が出てるではないか!

 

 「しっかりしろポチ、傷は浅いぞ!」

 

 「もう駄目ぽ。 ドッヂボールでしか役に立たない弱者は屍を遺すワン…」

 

 「ポチーーー!?」

 

 「エヴァちゃん、本当にポチと仲が良いのか悪いのか分かりにくいわよね」

 

 「ほんなら、うちらは必殺技について考えておこうか」

 

 「名前には、数字を入れたりしたらカッコいいですね。 壱撃とか、百烈など…」

 

 「それええなぁ。 昔、お父様がそんな名前の芸をやっていたの覚えとる」

 

 「ぶううう!? 長ー! 見られてますよおおお!?」

 

 「刹那さんどうしたの?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ぱんぱかぱーん!

 

 「えー、時間になったので各自発表してもらいたいと思います。 まずは楓グループから」

 

 「拙者達が考えた結果、やはり小道具に頼るのが良かろうかと。 先生は手先が器用でござるからな」

 

 「ほほう。 確かに先生は器用ですよ、主に竿いじ(ry…なんでもないです、だから龍宮(りゅうぐう)さんそのコインを仕舞ってください」

 

 「素直な犬は好きだよ。 だが、前から言っているよう私はリュウグウではなくタツミヤだ」

 

 失礼、噛みましたワン。

 

 「楓さん、続きをお願いします」

 

 「うむ。 故に起爆札を作り上げ、自爆特攻などは如何でござろうか。 先生は頑丈と回避が取り柄と噂のようで…。 その名も、爆遁 畜生自爆の術!」

 

 「NARUTOから引っ張ってきたのは良いですが、名前に悪意を感じるうえ超痛そうなので却下でーす」

 

 …なんで楓ちゃん、俺が死なないの知ってるの?

 

 「次は古さんのグループ」

 

 「はいネ! 先生私と勝負して欲しいアル!」

 

 「バカイエロー話しを聞いていたかい? 先生の必殺技を考えてって言ったの! なんで戦うの!?」

 

 「だて先生、いつも誘うけどいつも逃げられるネ」

 

 「当たり前だよ! 古と戦ったら、かすっただけで死んでしまうわ!」

 

 防御はトゥーフー。 攻撃は爪楊枝。

 古ちゃんどころか、木乃香ちゃんにも勝てる気がしない!

 

 「…今まで私の攻撃、全部避けてるアル」

 

 「だから必死なの! 避けなかったら必ず死ぬの!」

 

 腸とか胃とた飛び出したら後処理が大変よ? 臭いが凄いのなんの。

 

 「…っていうか古さん、必殺技は?」

 

 「……」

 

 「えー、古さんには後で宿題をプレゼントします」

 

 「酷いアル! 職権乱用ネ!」

 

 先生悪くない! 悪いのは止めなかった超ちゃん達を怨みなさい!

 宿題もポチからの愛の鞭よ!

 

 「えー、次は春日さんのグループ。 春日さん、ココネちゃんをポチにください」

 

 「あげませんよ!? っていうか、アタシが発表する流れなの!?」

 

 だってみんな目を反らすから。 あれじゃニコポもできない。

 

 「ココネちゃんくれたら、今後一切春日さんに宿題を出しません」

 

 「よっしゃあ! あげちゃう!」

 

 「あほかぁーーー!?」

 

 おー、明日菜ちゃんの蹴りが…。 春日ちゃん白目剥いてるけど大丈夫?

 …発表してくれる人が脱落したからこのグループは無理か。

ずっと目を合わせる様子がないし、そんなに先生が嫌いなの…?

 

 「次は…ショタコ(ry──委員長、お願いします」

 

 「先生? 今、明らかに何か言いかけましたわよね」

 

 「そんなことはありませんよ委員(ry──ショタコンんんんんん!?」

 

 痛い痛い!? あやかちゃん、腕が折れる折れる!

 ポキッといっちゃう! ポチの前足がポキッといっちゃううううう!

 

 「なんで委員長の攻撃は喰らうノネ…」

 

 「優しい方だ。 私のお仕置きはもっと凄いぞ?」

 

 古ちゃん助けて! エヴァンジェリンもお仕置き自慢とかいらないから!

 

 「オホホ! 名誉棄損な口はこれかしら!?」

 

 「委員長のそれがポチ先生の必殺技で良いんじゃないかな?」

 

 残念ながら先生にあやかちゃん程の腕力はありません!

 

 「じゃあ…次、朝倉さんは……やっぱ止めた。 相坂さんで」

 

 「なんで私を飛ばすんですか!? しかもいない人使命してるし!」

 

 だってぇ、和美ちゃんてば絶対なんか質問してくるでしょー? ポチは野次馬根性だけど、逆にされるのは嫌なんだよねー。

 この前も全力で逃げたし、何年続くか覚えていないけど君もしつこいからなー。 あ、さよちゃーん! 元気ー?

 

 「先生がちゃんと私の質問に答えてくれたら、とっておきの必殺技を教えてあげますよ」

 

 「さて朝倉君、私で良ければどんな質問でも答えてあげるよ。 HAHAHAHA!」

 

 「わかりやすっ。 じゃあ、先生の本名。 ポチって名前は流石にないでしょ」

 

 「平仮名で“とあ”ですが何か」

 

 「またまたぁ、そんな平仮名でとあって…女の子じゃないんだから!」

 

 「…………じゃかぁしい、ボケ」

 

 「え、マジ?」

 

 おい、その…うわぁキラキラネームだよ、大人なのに可哀想。 みたいな目は止めろ。

 ポチだってね、これが自分の名前って信じたくないんだよ! “とあ”ってなんだよ!

 何気に俺は記憶喪失だから余計質が悪いし! 昔の俺を知っている詠春ちゃんとエヴァンジェリンが言っていたから間違いないと思うんだけど!

 

 「じゃ、じゃあ…先生は昔、麻帆良学園の生徒だったと聞きましたが、何故教師に? 正直、全く合っていない……」

 

 失礼な! 俺だってね、これ程責任感がある仕事なんてしたくなかったんだ!

 

 「先生はね、学園から出られ──じゃなくて出ちゃいけないの! この仕事だってエヴァンジェリンが絶対やれってしつこいから!」

 

 「ほうほう、確かに先生を外に出したら犯罪者になりそうだしね。 しかもここでエヴァンジェリンさんが出るか……」

 

 おいこら待て、犯罪って酷いだろ。 俺はロリコンではないが、ココネちゃんを激情に愛してるだけだ。

 エヴァンジェリンとか却下だしー。

 

 「そういえばお前と再会した時…」

 

 エヴァンジェリン止めて! あれは事故だったんだ!

 

 「なんか高畑先生から凄い扱いを受けていると聞きましたが、どういう意味ですか? 理由も」

 

 「あの人ポチのお尻を狙っているみたい…」

 

 昔からの友達だけど、常に目が合うからな、豪殺居合い拳で俺の処女を奪うつもりなんだ。 俺が死なないからってハードコアなプレイをするに決まっている。

 

 「そんなわけないでしょー! 高畑先生の出鱈目言ったら許さないからねー!」

 

 いやいやオジコン明日菜ちゃん、現実を見ろ。 俺の写真見ながらニコニコ笑っているの見たんだよ! 絶対ダメな奴だって!

 

 「ぐふふ、タカミチ×ポチ。 いけるかも…」

 

 そんなの創られてたまるか。

 

 「おかしいな、話しではポチ先生を尊敬しているって聞いたけど…。 じゃあ次、エヴァンジェリンさんと一緒に暮らしているって噂だけど本当なの? あと恋人?」

 

 「本当だよ、エヴァンジェリンが働かなくていいから住めって」

 

 あたいが養ってあげるけんっ! 紐になりぃや!

 

 「誰もそんなこと言っとらんわっ! それと私とポチは恋人などという関係ではない!」

 

 恋人という関係じゃない、ねぇ…。 簡単に説明すると…食糧かな?

 この前肩ロース喰われたし。

 

 「なんか逆にわからないことが増えたなぁ。 …そういえば刹那さんとも仲が良いと聞きましたけど、幼なじみらしいですね」

 

 あらー、そこまで下調べしていたのか。 こりゃ適当なこと言えねぇな。

 ていうかエヴァンジェリン、刹那ちゃんを睨まないでください。 怖がっています。

 

 「幼なじみって言っても近衛さん程じゃないし。 2人が7歳の頃から付き合いだからね」

 

 初め紹介された時はビビったわぁ。 2人をあげるーって、夢かと思って思わず学園長を殴ってた。

 あの人、そのうち詠春ちゃんに斬られるぞ。

 

 「それよりさ。 そろそろ必殺技について教えてくれませんかね?」

 

 いい加減質問ばかりで疲れちゃったよ。

 

 「え、ああ…夕映ちゃんが教えてくれるようですよ」

 

 「いきなり何を言い出してるですか!? 私、全然考えてないですよ!?」

 

 なんだと…? 和美ちゃん、いや…朝倉よ。

 貴様は俺を騙したというのかあああ! 夕映ちゃんも全然考えてないとか何気に酷ッ!

 

 「許すまじ。 ウソをついた朝倉さんにはポチのブロマイドを差し上げます」

 

 「いらない!」

 

 即答かい! 普通ここは「え、ポチのブロマイド? ……ちょっと欲しい、かな?///」…な展開だろ!?

 ちっ、和美ちゃんにすらフラグ建てられないとか、俺はどんだけスペック酷いんだよ! 前はタッツーに撫でポしようとしたら、腕を撃ち抜かれたからね!?

 試しに和美ちゃんにやってみるか…?

 

 「フッ……」サワサワ

 

 「うわぁ…ポチに髪触られたぁ…」ゾッ

 

 赤くなるどころか照れもない。 怒るどころかガチで引かれている表情をされてしまった。

 所詮、撫でポなんて幻の存在やったんや。 もしくはイケメン限定やったんや。

 畜生が何やったって…。

 

 「うわあああああん! ラストは桜咲さん! お願いしますッ!」

 

 「先生、泣かないでください。 そしてエヴァンジェリンさんではなく私を指名ですか」

 

 エヴァンジェリンは今朝話したけど、役に立たなかったの! 明日菜ちゃんはポチに厳しいし、木乃香ちゃんはツッコミがハードだから勘弁! トンカチで殴るとか洒落にならん!

 刹那ちゃんはぁ、ポチに優しいもんねー! 

 

 「私の場合、突っ込むのも疲れたんです。 …まぁ一応、必殺技は考えましたが」

 

 「マジで!? ポチ期待しちゃう!」

 

 「まずは必殺技の名前ですね。 漢数字をいれるのは良い考えだったので、先生の戦闘能力0と関係のある武器を合わせて……零式突破。 などは如何でしょう?」

 

 『おお!』

 

 「ヤバイ、何それカッコいい。 語呂が良いし厨二病ビンビンじゃん!? 流石せっちゃんやで!」

 

 「いえ、それほどでも。 明日菜さん達と話し合った結果ですから」

 

 「で!? その零式突破とやらは、どうやったら使えるの!?」

 

 「ハチミツを全身に塗って金ぴかモードになるだけです」

 

 結局ハチミツプレイじゃねぇかあああああ!

 

 

 




9月26日、細やかな修正をチラホラ。 明後日までには全て統一します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ポチの日常

主人公
名前・とあ?
通称・ポチ
特徴・不老不死、学園から出られない、紅き翼の知り合いっぽい、記憶喪失


 【1983年】

 

 「ねーねー、ラカン」

 

 紅き翼の隠れ家前。 朝日が昇り始めた時、千の呪文の男ナギ・スプリングフィールドが王女アリカに騎士としての誓いを建てる。

 荒れ果てた大地に美男美女が神聖な儀式を行うその姿は、闇に差し込む一筋の光のように美しい。 だがその最中、間延びした間抜けな声が響く。

 

 「おう、どした」

 

 紅き翼のリーダーナギと同等の実力を持つ、褐色肌の筋肉巨漢ジャック・ラカン。 ナギ達に向けていた目を呼んだ相手、即ち間抜けな声の主に向き直った。

 その人物は声質から二十歳前後の青年を思わせる、姿は頭から爪先にかけ隙間なく全身を鋼鉄の鎧兜に包まれており表情は一切は見えなかったが、間抜けな声と裏腹に空気が張り積めるような雰囲気を放っていた。 周りのメンバー達も何事かと視線を浴びせるが…。

 

 「俺、前々からアリカちゃんはブレザーでテオドラちゃんはセーラー服だと思っていたんだよね…」

 

 絞り出した声。 まるでそれは推理物語終盤で真犯人が動機を説明するかのような口調で、周りのメンバー、特にラカンとアルビレオ、ナギは衝撃的な真実を知ってしまったような顔をした。

 どうして僕達はそんなことに気づかなかったのだろう。 アルは顔を青ざめ額に手を当て、ラカンは拳を荒野に叩きつける。

 

 「おい」

 

 アリカ姫がなんか言っているがそんな場合じゃねぇ。 ナギはこの重大な真実を重く受け止め、気持ちを落ち着かせながら真っ正面に鎧男へ称賛の言葉を差し出した。

 

 「───今までで一番良いこと言ったな」

 

 「お前には言われたくないよ!」

 

 「どうでしょうね、この前はロリに興味ないとかふざけたことを仰っていましたし」

 

 「ロリコンのアルまで…! だいたいね、あんなつるぺたのどこが良いんだよ! 原種のエロスが母性であるようにこの世はオッパイが至高なんだ、OPPAI! OPPAI!」

 

 腕を振り回す鎧兜。 アリカ姫のいかりのボルテージがあがった!

 

 「でもよ、それならセーラーのテオドラはどうなるんだ。 コイツペッタンこだぞ」

 

 ナギの言う通り、テオドラはまだ幼い。 ピチピチどころかプニプニのロリである、しかし、それは輝かしい未来が約束されていれば話しは別。

 

 「ペッタンこ言うな! あとセーラーのテオドラとか二つ名みたいだからやめろ!」

 

 とりあえずテオドラはスルー。 大事なのはロリであり続けるかの話しなのだ。

 

 「テオドラちゃんは期待出来るから良いんだよ。 アル君が好きなのはロリババアでしょ、無いわー。 そんな奴絶対いないし、妄想と現実を混ぜないでください」

 

 「いえいえ、私と貴方のような存在もいるのです。 きっとロリババアはいます、なんなら賭けますか?」

 

 「上等! じゃあ30年くらいで良いか、それまでに見つからなければ何でも言うこと聞いてね!」

 

 「では私は…。 貴方にはナギではなく私の犬になってもらいましょう」

 

 「おいいい! いつから俺はアイツのペットになったの!」

 

 「おや、巷では鋼の名犬ポッチーと呼ばれているのをご存知ないと?」

 

 「嘘つき! 絶対今考えただろ、古本! 女か男かわからない顔しやがって!」

 

 「貴方は鉄仮面みたいな顔してますね。 マザコン……おっと、鉄仮面は余計でしたか」

 

 「鉄仮面みたいな顔じゃなくて鉄仮面だよ! マザコンも余計だわ!」

 

 ガトウがナギの肩に手をかける。 あれどうにかしろ。

 この中で一番鎧の青年と付き合いが長いナギだが、冷静なアルビレオならまだしも無駄に堅い、無駄に早い、無駄に強い相棒を止めるのには骨が折れる。 ぶっちゃけめんどくさいので、自分に似た性質、好きなだけ暴れさせて疲れさせるのが一番楽な対応だと知っていた。

 ので、無視無視! ほっとこうぜ!

 

 「いつか貴方とはぶつかる時があると思っていましたが…。 仕方がないですね、ここで決着を付けましょう」

 

 口喧嘩もヒートアップしていよいよ肉体的解決に移りだした。 前から二人は巨乳か貧乳、熟女か幼女、オッパイかお尻、ショートヘアーかロングヘアー、褐色か色白、その他挙げてはキリがない属性で度々対立しあっている。

 

 「あれれ? やる気? 良いの? エロスだったら最強だよ俺? 重力使いなんて瞬殺だよ?」

 

 コイツボコッちゃう?…と言わんばかりに舐めた様子でファイティングポーズを構えた。 対するアルビレオは自然体だが、その口元はひくついている。

 

 「グーパンしか能がない鉄屑にやれますか?」

 

 「あ、てめ! それ禁句だろぉ!? 次いでに言うと“劣化ラカン”とか傷付くからな!?」

 

 「フッ…」

 

 アルビレオの嘲笑が合図だった。 瞬時にその場から姿を消した両者は荒野に無数のクレーターを次々と作りながら衝突し合う。

 

 「全く、どちらも本気じゃないか…!」

 

 青山詠春の嘆きは二人に届かない。 ガトウとタカミチのおかげストーパー役は間に合っているが、いなかった次期は本当に地獄であった。

 ナギとラカンは何でもかんでもぶっ壊し、アルビレオととあは色んな意味でアレだ。 おかげで体重激落ち、頬はこけ、京都の彼女に会いたいとマクラを濡らす毎晩。 

 ストレスで胃がキリキリ痛むが、そろそろ二人を止めなければならない。 だってアリカ姫から殺気が立ち上っているから。

 あれはヤバい、マジでヤバい。 好意を抱いているナギとの神聖な儀式を下らないことで邪魔されたのだ、心無しか細い両刃剣がラカンの斬艦剣並に巨大化しているような…。

 

 「むん!」

 

 アリカ姫が構えを取った瞬間、余波で暴風が吹き荒れる。 幻じゃねえええ!?

 本物の大剣だ! 姫様何してんの! てかどうやったの!?

 

 「アリカ・バスター」

 

 無情の必殺技が前方の変態に放たれ、剣の腹でハエのように叩き潰された二人は大地に埋まった状態でそのまま動かなくなった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【2001年】

 

 「バスタアアアアア!」

 

 「うぉ! いきなりどうした!?」

 

 明朝、突然意味不明な叫び声をあげたポチはベッドから飛び起きる。 同じく隣りに眠っていたエヴァンジェリンも驚きで一気に覚醒し、そのまま転げ落ちた飼い犬に言葉を投げ掛けた。

 

 「クッ、今…俺の封じられし記憶が蘇りそうになったが…!」

 

 「何! それは本当か!」

 

 記憶が蘇る、その言葉にエヴァンジェリンは顔色をパァと光らせ、ポチに詰め寄るが何故か本人は彼女の顔を間近で見た瞬間絶叫する。

 

 「ぎゃあああああ! 出たあああああ!」

 

 「人をお化けみたいな風に言うな!」

 

 「げふぅ!?」

 

 捻りの入った拳が顔面に突き刺さり、一撃KO。 気絶したポチにエヴァンジェリンは足でゲシゲシと踏みつけながら無理矢理起こした。

 

 「おい。 駄目犬、起きろ」

 

 「うぅ…。 今の衝撃で全部忘れてしまった…」

 

 「何ー!?」

 

 「その代わり、今日刀子ちゃんと合コンの約束していたのを思い出したよ」

 

 「どうでも良いわ! ──いや、ちょっと待て、どうでも良くない!? そっちはそっちで大問題だ!」

 

 「ふぃー、危ない危ない。 危うく約束をすっぽかしてしまうとこだった」

 

 「貴様、私との“向かえに来る約束”を忘れておりながら…!」

 

 「ひぃ! ごごごごめんなさい! でも俺だって行く気がなかったんだ! 人数合わせにどうしてもって言われて!」

 

 「ちっ…。 しかし、前から思っていたが奴はお前に気があるんじゃないのか?」

 

 「まっさかぁ! だって普段はお前と俺みたいなことしかしてないんだよ?」

 

 斬られたり殴られたり、この前はくぱぁしてくれた。 縦に。

 

 「……」

 

 「あ、刀子ちゃんからメールだ……え、ナニコレ」

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 From:刀子ちゃんのパンスト欲しい

 Title:教員連絡と合コンについて

 

 おはようございます、今日も良い天気ですねポチ先生。 私は今朝剣術の稽古も兼ねて5時頃に起床し、軽く汗を流した後シャワーを浴びて、日が昇ると共に寝る前洗濯していた洋服を干しました。 柔軟剤はとても触り心地が良いので好きなのですが、やはりタオル類には使用しないほうが良いですよね。 肌には優しいでしょうが、私としてはカラカラに乾いたタオルでしっかりと水気を取らないの気持ちが悪いので後者を好みます。 しかし、昨晩浸入者の撃退になかなかどうしてか苦戦したせいか、帰宅後は何もしたくない気分てしたのできちんと確認しないままタオルや洋服をまとめて柔軟剤を使用してしまったのです。 おかげでタオルはフワフワですが────。

 

 「…刀子ちゃんが旦那に逃げられた原因はこれか。 怖いね」

 

 「…ああ、怖いな」

 

 一万字越えちゃってんだけど…。 なんか文章は優しいのに暗黒面が見えるというか、むしろ優しいからこそなのか。

 どちらにしても想いが重い。 恐らくほとんどの内容は本題と関係ないと思うので、最後まで跳ばす。

 

 ──実は今日の合コンなんですが、残念ながら私以外の男女からドタキャンを受けてしまい。 私達だけとなってしまいました。 もしよろしければどこかで食事でもどうでしょう? あ、別に デ ー ト なんかではありませんよ? 丁度良いお店も見つけたので急なお誘いを受けてくれたお詫びとしてです。

 

 追伸・最近、学園内で露出狂が現れたそうです。生徒達に注意を呼び掛けてください。

 

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 

 「おいいいいい!?」

 

 「いやああああ!?」

 

 「間違いない! これは罠だ! 刀子の小娘、奴は最早なりふり構っていないぞ!」

 

 恐怖である。 生物が持つ本能的な警報を鳴らす寒気、そして痙攣。

 エヴァンジェリンの言う通り、今までの流れは全てこの瞬間の付箋だったのだ。 丁度良いと書き込んでおきながら、これはどうみてもあらかじめ用意していたのは丸わかりであり、わざわざデートの単語を残しているところが此方を意識させようという魂胆に違いない。 更に今回は事前に予定を入れられているため、実は用事が……の作戦も使えない。 完全に退路を防がれちゃってる!

 震える指先でメール削除を選択する。 これは見なかったことにしよう、見ようとしたけど間違えて消しちゃったテヘペロで本人に言えばきっと許してくれる。

 次にあった時はいつも通りに、キツいこと言いながらも相手をしてくれる綺麗な刀子ちゃんになっているはずだ。 だがその幻想は、手元にあるケータイに着信が入ることで打ち砕かれた。

 

 「いやあああああ!? 刀子ちゃんだあああああ!」

 

 ガチ泣き絶叫。 どうする、ここは素直に出るべきなのか? それとも気づかないフリをするべきなのか?

 どうしよう、このままじゃポチ、身を固めることになっちゃううう!

 

 「…恐らく、電話に出ずとも向こうからやって来るだろう」

 

 「だよねー。 じゃあ、意を決して…」

 

 指先を動かそうとしたが、エヴァンジェリンの小さい手が添えられ止められる。 手と手がふれあったー、そのしゅんかんー、はじめてきづいたー、このきもちー。

 

 「待て。 ここはデートを受けるのではなく敢えて合コンに誘え」

 

 「え? 合コンは無くなったんじゃ…」

 

 「要は合コンする奴らが集まれば良い。 今度は此方から用意するんだ、とっておきの生け贄をな」

 

 うわぁ、悪い顔だなー。 良い提案だけど、合コンに来てくれる人達か…。

 俺の人望でわざわざ集まってくれる人なんていないんだけど。 だいたいは何か企んでいないかと勘繰られる。

 ん、いや…ちょっと待てよ? あの子達なら頼めるかもしれん…。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「御待たせしました、御主人様! 此方オムライスになります! メッセージは何がよろしいですか?」

 

 「私はポチのペットです! これが良いです!」

 

 「とあさん、生徒達の前でそれは止めたほうが…」

 

 さぁさぁ始まりました合コン。 主催は勿論、A組のマスコットポチこと、私とあ。

 男性側は俺とタカミチと、“男性に変装”した長瀬楓ちゃんと龍宮真名ちゃん。 いやー二人とも見事だねー、かっこいいねー。

 タッツーはお金で受けてくれて楓ちゃんは今度手合わせしてくれた良いとのこと。 …どっちにしろ痛いな。

 無論、生け贄はタカミチです。 誘ったら喜んで参加してくれました、良いのか? ホイホイついて来ちまって。

 言っておくが、ここには逃して離さない肉食系BB(ry─女子、刀子ちゃんがいるんだぜ。 まぁ安心しろ、しずなちゃんは俺が貰うから(ゲス顔)

 駄菓子菓子、問題は女性側なんだよなー。 

 

 「さ、桜咲刹那です。 宜しくお願いします…」

 

 「近衛木乃香やで。 よろしゅうなぁ」

 

 「神楽坂明日菜です! 高畑先生がくると聞いたので参加しました!」

 

 「葛葉刀子です」

 

 …おかしい。 9割がA組関係者とか絶対おかしい。

 男性側を用意したのは俺だが、女性側はエヴァンジェリンが用意した。 一体何考えてるの…。

 そして刀子ちゃんの落ち着いている姿が逆に怖い。

 

 (任せろって言うから安心したのに、どうしてこうなった)

 

 (わ、私はタカミチの奴がくるから神楽坂明日菜を用意したんだ。 奴は友人も多いためすぐに集まると考えたのだが…)

 

 少し離れた席にいるエヴァンジェリンの念話から、焦った様子が伝わってくる。 確かにすぐ集まったけどさ、最初のチョイスがおかしい。

 相手はあのタカミチだ、確実に邪魔してくるだろうし、友達が明日菜ちゃんしかいないと思ってしまう。 これじゃあ、すぐにタッツー達の正体に気付く。

 

 「それじゃ、次は男性側の挨拶から」

 

 俺の合図と共に立ち上がるタッツー。 堂々とした姿は正直タカミチより男らしい、素敵! 抱いて!

 

 「龍宮ゴルゴだ。 宜しく」

 

 (ぶふぉ!)

 

 あ、今吹いたね。 念話で吹くことが出来るなんて器用だな。

 流石は闇の福音(笑)と呼ばれる存在、妙なところでその実力を見せつけてくれる。 うん、念話でリアクションとれる奴なんてそうそういないよ。

 俺らなんて無理だし、楓ちゃんは口角筋がピクピクしている。 よく我慢した。

 

 「あ、私のクラスメイトと同じ名字だ。 宜しくね、ゴルゴさん」

 

 愛想良く返事を返してくれる明日菜ちゃん、何故気付かない!?

 

 「長瀬楓乃助でござる。 このような場は初めてでござるが、精一杯楽しませていただく」

 

 「また、同じだ。 今度は名前まで…」

 

 「ほんまやなぁ、せっちゃん」

 

 「そうですね、少し驚きました」

 

 楓ちゃんはゴルゴちゃんを見習ってもうちょっと偽名に捻りを入れてよ! そして何故気付かない!?

 ポチ、三人の将来が心配よ! 

 

 「えっと、これは僕も言わないといけないのかな?」

 

 苦笑した表情でタカミチが呟く。 …うん、全員知り合いだがら意味なんてないんだけどね。

 ここは刀子ちゃんのために、もとい俺のために相手をメロメロにするような自己紹介お願いします!

 

 「本当は僕はこのような場にいちゃいけないんだけど。 大切な、とあさんのお願いで出席させてもらうね、宜しく」

 

 『……』

 

 全員無言。 今、なんか…嫌なアッー!ことを連想させる単語が出たような…。

 タッツー、楓ちゃん、刹那ちゃんは石化してる。 明日菜ちゃんとか白目剥いてるし…大丈夫だって! 俺とタカミチはそんな関係じゃないから!

 明日菜ちゃんが信じないで誰が信じるの!

 

 「…よし! 今度はポチの番だ! 皆さま、本日はポチのためにお集まりいただき誠にありがとうございます! 今日のポチは、せっちゃんとこのちゃんをお持ち帰るつもりなので宜しくお願いします!」

 

 「何言ってんのよー!?」

 

 (何言ってんだ、貴様ー!?)

 

 「ごふぅ!?」

 

 前と後ろからガラスコップが飛んできた。 不意討ちは止めて。

 

 

 




過去・ナギのペット
現在・エヴァのペット
未来・アルビレオのペット


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ナギとの出逢い

 「でも、なんで開催場所がメイド喫茶なわけ?」

 

 「それはポチ先生のチョイスでござる」

 

 「納得…」

 

 おおっと、早くも明日菜ちゃんと楓乃助が仲良さそうにしている! 事態は俺の想像以上に進んでいるかもしれない!

 

 (馬鹿なこと考えてないでさっさと仕切れ。 全員どうして良いのか困っているぞ)

 

 はーい。 マジでみんな、やべぇ…こっから何すんだ!?って顔してる。

 こういうのはねノリと適当なテンションで過ごせば良いのよ!

 

 「じゃーん! 王様ゲームしまーす!」

 

 「え、王様ゲームって何?」

 

 「せっちゃん知ってる?」

 

 「いえ…。 ゴルゴさんは?」

 

 「ふむ、私も知らないな。 楓乃助はどうだ?」

 

 「拙者も初耳でござる」

 

 ヤバイ! 子供達がピュアすぎて、天使すぎてヤバイ!

 ぐああああ! ポチの心が穢れ…大人の心が穢れていると実感させられてツライ!

 

 「すいません。 王様ゲームは止めます…死にます」

 

 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。 本気の謝罪じゃない、別に教えてくれれば良いんだし、やるわ」

 

 明日菜ちゃん、普段ツンツンしてるけど意外と気配り出来る良い子やでぇ。 タカミチもなんか嬉しそうだし、ホンマ天使やでぇ。

 

 「ポチ、エヴァンジェリンのペットじゃなくて明日菜ちゃんのペットになりたかったお…」

 

 「それは遠慮するわ」

 

 「(´・ω・`)お…」

 

 取り敢えず、子供達に王様ゲームのルールを教えて割りばし用意。 意外とルールが簡単で、また初挑戦だからか、結構ワクワクしている様子が見てとれる。

 まぁ、お色気無しでも面白そうだからね。 …それにしても刀子ちゃんが息してない、どうした。 黙っているとなお怖い。

 

 「王様だーれだっ!」

 

 「あ、私やなぁ」

 

 木乃香ちゃんに当たったか。 なんか逆に怖い気がするが…ばっちこい!

 

 「ほんなら、2番は最近のマイブームを教えてー」

 

 こ、これは…王様ゲーム初心者でありながらこの質問だと!?

 序盤、当たり触りのない内容で牽制しつつ、相手の情報を得られる神のようなスタートを切るとは…やはりこの子、天才か…! これならばこの合コン、平穏に終わりそうだぞ!

 

 「はい、私です」

 

 おいいいいい!? 刀子ちゃんかよおおお!

 よりによって一番危険性の高い地雷に当たるとは…! いや、いくらなんでもそれはないか、最近のマイブームだし刀子ちゃんなら大人っぽいお洒落な趣味しているはず。

 

 「そうですね、最近のマイブームは海洋生物のドキュメントDVDを観ることでしょうか」

 

 『ん?』

 

 目が点になる一堂。

 

 「弱肉強食の世界や生命の誕生、下等生物の営みを観るのはなかなかどうして面白いです」

 

 『…………』

 

 何故だ、普通なら中々知的でお洒落な趣味で盛り上がるはずなのに、みんなの表情が固い。 彼女の含みある言い方と単語に引いているのか、それとも刀子ちゃん自身の存在がそうさせているのか。

 天真爛漫な明日菜ちゃん空気読んじゃってるし、木乃香ちゃんはショボーンだし。 あれ? 合コンってこんなにツラかったけ?

 

 「次だ! 王様だーれだ!!」

 

 「おろ、拙者でござるな」

 

 楓ちゃんか…。 冷静沈着なタイプで良かったぜ…!

 

 「うむむ…! では、4番は最近の悩みを教えてほしい」

 

 結局同じ!?

 

 「あ、私ですね」

 

 せっちゃん!? なんか滅茶苦茶真剣な顔つきしているが、悩みってあれか? あの翼のことを暴露するのか!? ポチ、心の準備が出来てないよ!

 

 「最近の悩み…。 実は同姓で気になる方がいまして、どうしたら良いでしょう?」

 

 『ぶううううう!?』

 

 そっち!? 百合の方!? 暴露しちゃって良いの!?

 タカミチボーゼンとしちゃってるよ、刀子ちゃんなんてブツブツ呟きだしたし。 日本ではまだ同姓の結婚は許されてないからね? ほら、目の前に最良物件があるよ、さっさと買いなさい。

 

 「せっちゃん、女の子が好きなん?」

 

 「いいいいえ! 女の子というわけではなく、その方が女性で……同じくらい男性で気になる方もいるので女性だけが好きではないようです…」

 

 男は知らんが、これ…明らかに女性は木乃香ちゃんだよね。 明日菜ちゃんが渇いた笑いをあげている姿から、恐らく気づいている。

 むしろ気づいていないのは、木乃香ちゃんぐらい。

 

 「んー、まぁ本人達が幸せなら良いんじゃない?」

 

 明日菜ちゃんナイス! ポチもそれ考えてました!

 

 「そ、そうですね。 よーし!」

 

 本人が納得したとこで…。

 

 「よっしゃ! 次いくぜ、王様だーれだ!!!」

 

 「おや、僕だね。 それじゃ、1番は最近嬉しかったことを教えてくれるかな?」 

 

 タカミチ、お前もか!?

 

 「ふむ、私だな」

 

 今度はハードボイルドのタッツーか! くそ、くじ運悪すぎだろ!

 誰の運勢が悪いか知らんけど!

 

 「この前、自販機の下に10円玉を落としてしまってね。 最初は諦めたんだが、後日どうしても気になって持参した定規を使ったらなんと、10円玉だけではなく、100円玉まで出てきた時は大喜びしたよ」

 

 『…………』

 

 何言ってんのこの子おおお!?

 

 「次だあああああ!」

 

 「あ、今度は私ね!」

 

 明日菜ちゃんか、まぁ…安心出来るな。 彼女自身、ヤバいと感じ始めているみたいだし。

 

 「むむ…!」

 

 ほら、空気読んでこの不毛な状況から抜け出すために、一生懸命頭を捻っている、王様ゲーム初体験なのに精一杯考えてる! 流石ポチが目をつけたMy friendだぜ!

 

 「じ、じゃあ、3番は最近失敗したことを」

 

 「なんでーーー!?」

 

 精一杯考えていたんじゃないの? 一生懸命頭捻っていたんじゃないの!?

 

 「だって、みんなと同じにしたほうが良いと思って」

 

 マジで空気読んじゃってるよこの子! ギャグは繰り返すものだってちゃんと理解している! 天使すぎるッ!

 

 「拙者が失敗したことでござるか。 あれは1週間前の話しであった──」

 

 楓乃助、お前が3番かよ! しかも俺を無視して進めるとか、ノリノリじゃねぇか…。

 

 「深夜に風魔手裏剣で修行していた時、誤った投げ方をしてしまい、在らぬ方向へ飛んで暫く探していたのでござったが、見つけた時には刃に血糊がベットリと付着していたでござる…。 周りには人影が居なかったため、最悪の状況にはどうやらなっていなかったが…怪我をさせた人には謝罪したい。 ニンニン」

 

 それ俺だあああああ! 散歩中にいきなり首チョンパされたからよく覚えているわッ!

 転がった首が目にしたのが、馬鹿デカイ手裏剣だったから2回ビックリした、俺じゃなかったら確実に死んでる! あっぶねぇえええ! ていうか木乃香ちゃんと明日菜ちゃんの前でそんなこと言わないで! 別の意味で危ない!

 

 「次は誰が王様だあああ!」

 

 「私、ですか…」

 

 せっちゃんか、もう誰が引いても何がくるか予想出来ちゃうよ。

 

 「7番は最近酷い目にあったことを教えてください」

 

 「あら、私ね」

 

 刀子ちゃーーーん!? せっちゃんは予想通りだけど、ここでダークホース引いちゃったよ!

 旦那に逃げられたことか、彼氏に逃げられたことか…!?

 

 「この前、同僚と勝負ごとをしたのですが……」

 

 ん?

 

 「残念ながら私が負けてしまい、その人から脱ぎたてパンスト寄越すか……口にするのは憚れるような卑猥なことをしろと脅されました」

 

 それも俺だああああああああああ!!

 

 最近ってか、今話題沸騰中の話しじゃねぇか! 刀子ちゃん、このタイミングで言うのは卑怯でしょ、俺何か悪いことしたかな!?

 

 『……』

 

 「あの、皆さん。 なんでポチを見るの? あれ、もしかしてポチだと思っています? そそそそんなわけないじゃん、ポチはあれよ、あれ。 紳士に見せた変態だからやるわけないって──」

 

 クソオオオ! もう合コンじゃなくて暴露大会になってやがる、SAN値がだだ下がりじゃねぇか! 主に俺の!

 

 「──止め止め! 最近〇〇だったことは禁止! もっと現実、今起こることにして!」

 

 「そ、そうだね。 何かしてほしいとかが、面白そうだよ」

 

 タカミチの言う通り! 精神的痛みは此処等で終わり、割りばし回収!

 

 「いくぜえええ! 王様だれだあああああ!?」

 

 俺は4番! 王様じゃない!

 

 「よし、私だな」

 

 龍宮ゴルゴか! 来い、お前のスナイピングを見せてやれ!

 ポチならどんな肉体的苦痛にも堪えきってみせるぞ!

 

 「4番は、そうだな……」

 

 来た来た来たああああああ!

 

 「王様に有り金全部寄越せ」

 

 「痛いいいいいい!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「お嬢様、メッセージはこれで良かったですか?」

 

 「ああ、もういいぞ」

 

 メイドがいなくなると、ケチャップで“俺は貴女のペットです。byとあ”と書かれたオムライスを見て1人にやつくエヴァンジェリン。 名残惜しそうにスプーンで掬おうとした瞬間、それは起こった。

 

 「くそおおお! また俺かよ、もってけドロボー!」

 

 「…何をやっているんだ彼奴は」

 

 合コンを観るのに飽きてきたが、どうやら先程と状況が違うらしい。 ポチこと、とあは自らの上着を脱ぎ上半身裸になるとそれをタカミチに渡している。

 

 「もっかい! 王様誰だあああああ!?」

 

 「今度はうちなやぁ。 じゃあ5番は王様になんか頂戴」

 

 「チキショー! またか! もうパンツしか残ってねぇよ!」

 

 近衛このかの言う通り、今度はズボンを脱いでパンツ一丁の姿なるとそのズボンを彼女に渡した。 見れば参加者全員彼の洋服を手に入れており、追い剥ぎゲームでもしているのではないかと思う。

 

 (おい!? 何をやっているんだ!)

 

 (ちょっと黙ってて、この王様ゲームに勝利して刹那ちゃんのパンティ手に入れるんだから!)

 

 (もうパンツしか残ってない奴が何言ってる!?)

 

 くじ運悪すぎる。 しかも王様ゲームであるため番号を指定しなければならず、仮に王様になったとしてタカミチに当たった場合どうするのか。

 おっさんの脱ぎたてパンツを貰うのか? 何れにしても、全員の状況を見る限り、誰も負けていないのがマズイ。

 このままゲームを続ければ間違いなく“とあ”は…。

 

 「あ、また俺だ」

 

 「じ、じゃあ私にパンツをください…」

 

 なんでよりにもよって桜咲刹那に当たる!? タカミチか神楽坂明日菜でも良い、誰か止めろ!

 

 (あーあー、聞こえるかいエヴァンジェリン。 此方龍宮だ、高畑先生は急な用事で帰ったよ)

 

 またか! 肝心な時にいないな、彼奴は!

 

 「待ちなさい! アンタ達本気でやるつもりじゃないでしょうね!」

 

 よし、よく言ったぞ、神楽坂明日菜!

 

 「明日菜ちゃん、止めないでくれ。 ポチは負けたんだ、その代償はちゃんと払うさ」

 

 子犬の柄が入ったトランクスに指をかける駄目犬。 ゆっくりと下ろそうとするその姿を神楽坂明日菜と桜咲刹那は顔を真っ赤にして見つめ、残りのメンバーは興味津々、ギラギラと瞳を輝かせて仰視していた。

 全員ノリノリだな。

 

 「ちょっとーーー!?」

 

 神楽坂明日菜の叫びと共に、産まれたままの姿へと変貌する犬。 妙にやりきった表情でパンツを桜咲刹那に渡すと北斗・天波の構えを取った。

 

 「あー、君。 ちょっと交番まで来てくれないかい?」

 

 「え…?」

 

 肩をポンポンと叩かれ振り返ればそこには、目が笑っていないお巡りさん2人。

 

 「いや、これはですね…けして私は露出狂などではなく、この子達の教師で…」

 

 「先生がこんなことしちゃマズイでしょ」

 

 「あ、はい…そうですね」

 

 「名前は?」

 

 「ポチです」

 

 「なめてんのか?」

 

 「いえッ! なめてるわけではなく、犬だから舐めるといえば舐めるんですけど、止めて! 暴力はんたい!…じゃあ名前は“とあ”で」

 

 「なんて書くの?」

 

 「ひ、ひらがなで…」

 

 「…コイツなめてる。 連れていくぞ」

 

 「ああ…! そんなやめて!? エヴァンジェリン、エヴァンジェリン助けて! ポチ臭い飯食わされちゃううう!」

 

 まぁ、彼奴はこの学園から出られないから大丈夫だろう。 それに麻帆良は比較的男女共に脱げ率が高いから、今回は厳重注意ですむ……はず?

 斯くして、ポチは大切な物を大量に失ったものの、葛葉刀子からの魔の手に逃れたのであった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【1976年、冬】

 

 日本、京都にて。

 

 もう、どれだけの時が流れたのだろう。 肉の無い身体にひんやりとした空気が撫でる。

 真っ暗闇の空間の中、唯一外を感じられるすきま風。 そして、不意に外から誰かの叫び声が聞こえた。

 また誰かか来たのかと思うと同時に、また誰かか死んだのかと理解してしまう。 この力を欲して幾多の者が此処にやってくるが、その全てはたどり着くことなく力尽きる。

 もう、誰も来ないで欲しい。 静かに眠らせてくれ、断末魔程意識を揺さぶられる物はない。

 もう、誰にも…死んで欲しくない。

 

 叶わぬ願いを胸に、再び眠りにつこうとした瞬間、大きな衝撃が襲う。

 

 「…ったく、やっと見つけたぜ。 こんちきしょうめ」

 

 …なんだ? 暗闇に光が差し込んでいる。

 何かが破砕する音が響くと、続けて生意気そうな声が聞こえた。

 

 「へー、コイツが詠春が言っていた伝説の“式神”か。 どんなもんかと思えば、ただの首輪じゃねぇか」

 

 年若い、少年の声か。 かすかに指先で触れられるが、何故かとても温かい感触が伝わる。

 まさか此処にたどり着く奴がいるなんてな。 しかもそれがこんな若い…。

 

 「…俺の力が欲しいのか、少年」

 

 「あん? んなもんなくても、俺は強ぇよ」

 

 「…では何故」

 

 「決まってるだろ、お前の声が聞こえたからだ」

 

 日の光が強くなる。 少年の赤毛が眼下に映り、それこそ太陽のような屈託のない笑みが現れた。

 額から血を流し、服装は至るところに切り傷や刺し傷、火傷の跡が見受けられる。 首輪に触れる指先の腕には、大量の流血が今も少年の綺麗な白い肌を赤く染めた。

 このままでは命の灯火が消えるのも時間の問題だろう。

 

 「俺の、声…?」

 

 「おう、お前の助けてって声が聞こえたぜ。 だから俺は此処に来た」

 

 此処は地上から遥下、離れた地中に存在する。 幾度のブロックや罠が仕掛けられているというのに、そんな物が聞こえるわけがない。

 だが、この少年の言葉にはそれが嘘偽りと思わせない、何か力強さを感じさせた。 返答に困った首輪はただ静かに、そうか…としか呟けない。

 

 「おいおい、随分ドライだな。 礼も無しかよ」

 

 にこやかだった少年の顔が歪む。

 

 「お前、名前は?」

 

 「ああん? 人の話しを聞かないうえに、礼儀も知らねぇみたいだな。 人に名前を聞く時は、まずは自分から名乗れって親に教えられなかったか?」

 

 「そうか、それは失礼した。 …では、とあって呼んでくれ」

 

 「とわ? あー、日本語で“永遠”だったような…」

 

 「違う。 とあだ」

 

 それに、とわは永久だ。

 

 「おっと悪い、とあだな。 俺の名は、ナギ・スプリングフィールド、よろしくな」

 

 ナギ・スプリングフィールド。 悪くない名前だ、微妙にアホっぽいのも気に入った。

 

 「よろしくナギ。 今日からお前は俺の主だ」

 

 

 




とあ+式(しき)=とあしき=としあき=お前ら


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エヴァンジェリンとの出逢い

シリアス強め。


 

 

 【1986年】

 

 「何故助けた」

 

 暗がりの森、夜行性の鳥や虫達が鳴いているのを聞きながら、エヴァンジェリンは訊ねる。 ボロボロになったマントには綺麗な毛布が背中から被せられ、眼前にはパチパチと木が弾ける焚き火。

 永い間連れ添った従者、チャチャゼロはそんなエヴァンジェリンを見ることはなく、薄ら笑いを浮かべながらボーッと火を見続けた。

 

 「え、まだ飯は出来ないのか糞野郎だって?」

 

 そんなエヴァンジェリンの質問を、話しを聞いていないのに適当な感じで答えるのは、全身を彼女と同じようにマントとフードで身体を隠す青年。 焚き火にはこれまたボロボロの鍋が乗せられており、中には妙にドロドロした黒っぽい謎スープが熱せられている。 …不思議と悪臭が。

 

 「貴様、私を馬鹿にしているのか…」

 

 ふざけた態度に苛立つが本人は一切気にすることはなく、鍋のスープをかき混ぜていた。 

 

 「よし、こんなもんだろ。 さぁ、食べてくれ、ムドオンスープだ」

 

 闇属性で即死しそうな名前だ。 手渡された器には相も変わらずドロドロで黒色の汁だが、これを飲んでしまえば私は死んでしまうのではないだろうかと真剣に考えてしまう。

 元々死ぬつもりだったし、これで死ねばそれはそれで良いと思う。 世界中から忌み嫌われた大罪者は、人知れず、ひっそりと、変なスープを飲んで無様に倒れる。

 誇り高い私にふさわしい最期だ。 意を決して一気に口の中へ流し込む。

 

 「…不味い」

 

 実は意外と美味しかった、ぶっ倒れるほど不味かった、ということなく、ただ普通に不味かった。 私の反応が面白かったのか、青年はゲラゲラと楽しそうに笑う。

 

 「そりゃそうだ。 残っていた食材全部ぶちまけたから、味は保証出来ないけど無駄には出来ないからね」

 

 「これで…全部だったのか?」

 

 ドロドロのスープは大した量ではない。 だが、それでも自分一人だけであれば一日は持たせられるはずだったのに、この男は分け与えるため全て使いきってしまったのである。

 

 「もう、いらん…。 あとは貴様が食べろ」

 

 「オイオイ、せっかく作ったのに食べなきゃ」

 

 「こ、こんな不味いものが食えるか」

 

 嘘は言ってない。 ただ、相手を追い込ませてまで己を助けてほしいと思わないのもまた、事実だった。

 

 「むっかー。 腹立ってきた!」

 

 しかぁし! 目の前のコイツには そ ん な の 関 係 ね ぇ !

 

 「ほらほらー! ワガママ言う口は何れかなー?」

 

 「もががぁー!?」

 

 鋼の手甲がマントから覗かせ顎を掴み、無理矢理口が開かれる。 合気道で投げ飛ばそうとしたが、何故か“剛”に強い“柔”をアホみたいな力で抑えつけられ巧くいかない。

 ドロドロのスープはエヴァンジェリンの意志とは裏腹に流し込まれ、若干白目を剥いていた。

 

 「ケケケ。 御主人、楽シソウダナ」

 

 やっとのことで話し始めた従者はそんな主を見て愉快に笑う。

 

 「んなわけがあるか! おい、やめろ。 ちゃんと飲むからいい加減やめろ!」

 

 観念したエヴァンジェリンに満足した青年は自分の定位置に戻り、フードを脱いだ。

 

 「……」

 

 エヴァンジェリンはその姿を横目で確認する。 頭部を丸々覆う兜が現れた。

 鈍い灰色の光沢を放つ質感は、他の騎士団の物に比べて明らかに安物に見え、全体的に模様も装飾もなく無骨、曲線を描く兜は黒いバイザー以外、ただの粗悪品である。 青年が器を顔に近付けると、口元の部分だけカシュンの音と共に開き、そこからスープを流し込んだ。

 

 「うへぇ、ホントだ。 不味いよぉ」

 

 鉄仮面で表情はわからないが、自身の下手な料理に苦い顔をしているのだろう。

 

 「貴様、仮面を外せ」

 

 「フッ、止めといた方が良いぜ。 俺ッチのイケてる顔にポッするぜ、ポッと…ポブゥ!?」

 

 グーパンが飛んできた。 仮面が凹んだ。

 

 「何!? なんで!? なんで殴られたの俺!?」

 

 「そういうのはいらん。 こっちは真剣に言っている、相手に対して素顔を見せんのは失礼だろう」

 

 エヴァンジェリンの言いたいことはわかる、言ってることもごもっともだ。 しかし、鎧の青年は返事が重く、うーとか、あーとか、んーとか適当な声しか出ない。

 

 「えっと、…ね。 実は脱いだら死んじゃうぅぅぅ! とかの設定はどうでしょう?」

 

 「誰が設定作りの話しをしろと言った。 なら名前だ、名前を教えろ」

 

 「ウルトラスーパーヘブンアンドデビル俺はキングゴッドうわぁ、なぁにぃそのぉ光るぅ剣、コワぁーイ」

 

 断罪の剣が輝いてる。 流石に相手を怒らせたと理解した青年は小さく“とあ”と答えた。

 

 「とあ? …どっかで聞いた名だな」

 

 エヴァンジェリンの反応にピンときた青年は、鼻を高くするポーズをとるとわざとらしくヒントを出す。

 

 「あー、あれじゃない? 紅き翼の──」

 

 「──思い出した。 鋼の名犬ポッチーか」

 

 「オイイイイイ!? ポッチーって、オイイイイイ!!」

 

 アルビレオの言っていたことが事実だった。 受け入れられない現実に膝をつき叫ぶポッチー。

 もっとも、これはある一部の人達にだけ呼ばれ、大体シリアスな時は鋼の式神(笑)、白銀の閃光(爆笑)、鎧亞の王神(爆死)とか背中が痒くなる呼び方がある。 因みに本人は式王神と呼ばれるのが一番好き。

 それと、鋼の名犬ポッチーと呼ぶ人達だが、不特定多数の女性ばかりで、大体はナギ×とあ、アル×とあ、タカミチ×とあに興味を持つ者だ。 相手の正体を知ったエヴァンジェリンは満足したのか、それ以上何も言うことはなくスープを再び口に含む。

 無表情なその顔に何を考えているのかわからなかった“とあ”だが、ひとつだけわかることがある。 彼女は彼が差し出したスープを残さず食したことを。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「殺せ! あの化け物を!」

 

 「魔獣の餌になるがいい、吸血鬼!」

 

 酷く耳障りな雑音が脳を揺らす。 いつもならば一瞬で肉塊にしているとこだが、それももう疲れた。

 何故、そこまで言われなければならないのだろう。 何故、こんな輩に一々相手をしなければならなかったのだろう。

 別になりたくて吸血鬼になったわけではない、化け物としての力は私から人を遠ざけ、不老不死の能力は孤独を加速させる。 例え、受け入れる者が居ても、すぐに一人ぼっちだ。

 何度自分の親だった存在と協力者に恨みを募らせただろう。 誰かに愛される権利を奪われ、誰かを愛する自由を奪われ、御人形遊びが唯一の安らぎだった、そんな生活。

 

 「すまんな、チャチャゼロ」

 

 「ケケケ、俺モ飽キテイタシナ。 気ニスンナヨ」

 

 白夜の風景が目の前に広がる。 眼下には深い谷が長く続いており、そのほの暗い底には軟肉が降ってくるのを今か今かと、涎を撒き散らしながら待ち受ける無数の魔獣。

 隙間なく蠢いている様子から、底に見えるもの全てが魔獣らしい。 流石にこれだけの暴食に襲われれば真祖の吸血鬼も復活が難しいか。

 再生してもすぐに喰われ、そして喰われ続ける。 精神が崩壊、あるいは魂が磨耗するまで喰い尽かれ、最後にくるのは消滅だ。

 崖際から一歩を踏み出す。 襲いくる浮遊感。

 周りの風景が暗くなっていくなか、私は思う。 意外に死ぬのは怖くないな、当然か、何度も死にたいと思ってはいたのだから。

 でも、でも最後に一度だけでも誰かから愛され、誰かを愛する人生を歩みたかったと、虚しい願いを胸に秘める。

 

 ─────文字どおり、人の生を。 歩みたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「大丈夫かい、お嬢ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「え?」

 

 ソイツは突然現れた。 頭から深くフードを被っているため、素顔が見えないが若い青年の声だ。

 私を喰らおうとした魔獣の一体を踏みつけており、何故大人しいのかと思えば、頭蓋骨を砕かれて絶命しているからだとすぐに気付く。

 どうやら自分はお姫様抱っこをされているらしく、景色は上を向いていた。 青年の身体を覆うマントから、これまたボロボロに劣化した鉄製の手甲が覗かせ私とチャチャゼロを優しく抱き寄せており、金属越しだというのに、変に暖かい。

 

 「おい、誰かが吸血鬼を助けたぞ!?」

 

 奴らは此方の様子に気づいたようだ。 上から伺うかのように覗き込んでいるのが見える。

 

 「吸血鬼?」

 

 「私のことだ。 貴様も早く私を下ろさないと血を吸うぞ」

 

 脅すつもりで鋭い犬歯を剥き出しにすれば、さっさと逃げ出すかと思ったが、大して気にしているようではなかった。

 

 「ふーん。 あ、ちょっと移動するね」

 

 「お、おい…!」

 

 魔獣達が再び襲いかかってくる。 青年は軽い口調を取りながら一度距離を取るように跳躍した。

 

 「成る程、此処は魔法も封じるのか。 魔獣といい、ケルベラスを参考にするなんて。 趣味が悪いな…!」

 

 平淡な口振りだったが、何処か静かな怒りを含んだ言葉。 魔法が使えないとなると、どんな強者だろうがただの人になってしまう。

 無論、それは私とて例外ではない。 魔力で自立していたチャチャゼロは残された力で僅かに喋れるが、動くことはもう無理だろう。

 

 「貴様死にたいのか!? 何故こんなことをしたのか知らんが、もう助からんぞ! 私でも助けられん!」

 

 「大丈夫。 だって俺、魔法も気も使えないし」

 

 なんだと、ではどうやって魔獣を倒したというのだ?

 

 「吸血鬼ちゃん、ちょっと離れて。 危ないから」

 

 青年は私を後ろに隠すよう下ろすと、フードと、そして全身を覆い隠していたマントを脱ぎ捨てた。

 

 「それは…!」

 

 現れるのはボロボロでヒビや傷跡が大量に刻まれた、灰色の鎧と兜。 魔獣の攻撃を受けきるどころか、かすっただけ…いや、攻撃の余波さえも受けてしまえば瞬時にバラバラにされる、そんな粗末な物を奴は身に付けているに過ぎなかったのである。 

 もうダメだ、コイツは助からないと悟った。 それでもなお深く腰を溜め、迎撃の体制を取る青年。

 そして小さく何かを呟いた、次の瞬間だった。

 

 ─────青年は“銀色の線”へと変わる。

 

 灰色だったはずの鎧兜が瞬く間に眩い銀色に変色し、大地を踏み砕きながら突撃を開始、そこからは姿を一切捉えきれなかったのだ。 縦横無尽に谷間を駆け巡り、粉骨砕身のスピードを載せた拳や蹴りで魔獣達を次々と蹴散らす。

 暴力の嵐なんてものではない、まさに街を吹き飛ばすと言わんばかりのサイクロンごとき激しさで、眼前の怪物達を虐殺。 圧倒的スピードは奴の分身体、残像が生まれる程であり、谷の横幅全てをひとりで制圧、数千の魔獣はドンドン奥へと押し出されているのだ。

 ミキサーにかけられるかのように、骨を砕き、肉を裂き、血が飛ぶ。 何が魔法も気も使えないだ、そんなもの必要ない程強いではないか。

 

 やがて、谷間に静寂が訪れた。 騒がしかった魔獣は一体も残さず破壊され、上で見ていた奴らは恐怖のあまり全て逃げ出しているらしい。

 血の海に佇む、銀色の鎧。 此方を振り向いた一瞬で元の灰色に戻るが、その刹那、私は見逃さなかった、鎧の姿が変色しただけではなく鬼のような攻撃的な顔つき、四本の牙と二本の角を生やした“兜”の本当の姿を。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「おーい」

 

 「あ、ナギだ」

 

 草木が枯れ果てた山脈の上を歩き続ける、三人。 気候の変化が激しい高所であるため、横風もまた強い。

 遠くから、若い男性が此方を呼ぶ叫び声が聞こえ、とあはフードから頭を出すと小さく呟いた。 あれが千の呪文の男、ナギ・スプリングフィールドかとエヴァンジェリンは思う。

 逆立った赤毛、戦う男の引き締まった完璧なスタイル、中性でありながら凛々しく端整な顔立ちをしており、女性ファンが多い理由にも納得がいく。

 

 「全く、急にいなくなっちまったと思ったら、なんだ…女の子を拾っていたのかよ。 本当にお前は女の子が好きだよな」

 

 「あのさぁ、その言い方は俺がロリコンみたいに思われるから止めてくれない? 確かに女の子好きだけど」

 

 「ははは、コイツめ。 やっぱ好きじゃねぇか」

 

 軽口を叩き付け合う両者。 次第にヒートアップした口喧嘩は物理に発展し、拳と拳をぶつけ始める。

 パンッパンッと空気が弾けるような音と共に、高速に、連打の打撃は衝撃波を生み出しながら跳ね合う。 少しずつ周りの地形が変わっていくところも見ると、やはり紅き翼のメンバーはぶっ壊すの大好きという噂は本当だったようだ。

 破砕されていく風景に気にも止めないあたり、無自覚の可能性もある。

 

 「ん? ちょっと待て“とあ”。 コイツ、闇の福音だろ」

 

 どうやら千の呪文の男は私の正体に気づいた。 打ち合いを止めると此方を指差す。

 …指を差すな。 紅き翼の連中はどうやら礼儀を知らんらしい。

 

 「闇の福音? 何それ、ウププ…」

 

 「おい、何故笑う」

 

 「お嬢ちゃん可哀想に…。 まだこんな幼いのに、吸血鬼ってだけで闇の福音なんて痛々しい二つ名を付けられて。 でも大丈夫、お兄さんはちゃんと理解してあげるから。 君が将来大きくなってその二つ名に苦悩しようともお兄さんだけはちゃんとわかってあげるから」

 

 言いたいことを全て言わせたあと、もう一度鉄仮面を砕いた。

 

 「ぎゃあああああああ!?」

 

 「おお、すげぇな。 流石は真祖か」

 

 「ふん、当然だ」

 

 「もっと誇れよ、コイツの装甲を破壊出来る奴なんてそうそういないぜ」

 

 だろうな。 アホみたいに硬いため、此方の骨が砕ける勢いで殴らなければ傷ひとつ付かん。

 

 「えーん、痛いよー」チラチラ

 

 大の大人が、それも鎧姿の男が泣くところは絵的にかなりキツい。 コイツの精神年齢は一体幾つなんだ。

 いつの間にか破壊した仮面は元に戻っており、余計腹立つ。

 

 「ていうか“シンソ”って、何? 梅干しに使う奴?」

 

 違う、そうじゃない。 それはシソだ。

 

 「お前、知らなかったのか? このガキんちょ、600年は生きる滅茶苦茶有名な吸血鬼なんだぜ」

 

 「え…600年?」

 

 “とあ”の動きがピタリと止まる。 ワナワナと震えながらゆっくりと此方を見ると、指を差した。 …だから指を差すな。

 それにしても、ほう…コイツがこんな様子を見るのは初めてだ。 畏怖されるのは嫌いではないが、何故か少しなんだろうこの感情は、今まではこんなことなかったのに。

 

 「うおい!? マジかよオオオ! 何してんだよ俺ぇ!」

 

 「…っ」

 

 胸が痛みだした。

 

 「アルと安易にあんなことするからだろ。 ま、頑張れ」

 

 「お前それでも俺の主か!?」

 

 ナギは絶望する自分のペットを嘲笑い、その場から逃げ出した。

 両者が言っていることは、かつての仲間と約束した賭けの話しなのだが、当然、事情を知らないエヴァンジェリンからして見れば、どこをどう聞いても自分を助けたことによる後悔をしているようにしか考えられず、またしても捨てられると思った彼女の心の痛みは更に鋭さを増した。

 

 「ま、いっか。 なんとかしてアルとこの娘を会わせなければ良いし」

 

 ん? 

 

 「それはどういう意味だ、私を助けたことに後悔しているんじゃないのか」

 

 “とあ”は数秒硬直する。 どうやらポカンとしているらしい、私の言いたいことに気づいた時は両手でポンと叩いた。

 

 「それは違うよ、まぁ…いろいろ此方にも事情がありまして」

 

 なんで敬語なんだ、心なしか口調にも力はない。 だが、そうか、違うのか。

 私のことでは、なかったのか…。 先程までの痛みは嘘のように消え失せ、代わりにポカポカしたような不思議な暖かさが広がる。

 これは──ホッとしている…?

 

 「では何故…」

 

 ここで私は昨晩聞きそびれたことを思い出す。 人ではない、吸血という行為を行う“鬼”の存在、化け物である私を、600年生きた人々に忌み嫌われる私を、正義の味方であるコイツが何故助けたのか、その理由を。

 

 「何故助けた」

 

 「決まってるだろ、君の声が聞こえたからだ」

 

 「私の、声…?」

 

 「ああ、君の“助けて”って声が聞こえたよ。 だから助けた」

 

 何を──世迷い言を。 あの時、私一言も喋っていないうえ、あんな場所だ聞こえるわけがない。

 

 「…馬鹿馬鹿しい。 有り得ないな」

 

 「そうなんだよなぁ、有り得ないんだよなぁ」

 

 おっかしいよなぁと、首をひたすら捻りながら“とあ”は離れたナギ・スプリングフィールドを見つめた。 

 

 「俺もそんなはずないって思っていたんだよ」

 

 ずっと彼は不思議に思っていた、主の言葉の深意を。 長い間考え続け今まで答えが出なかった。

 だけど、泣きそうなエヴァンジェリンを一目見た瞬間、理解したのだ、こんな簡単なことだったのかと。 口では説明出来ない衝撃が全ての答えだったのである。

 

 「でも、君に出会ってそれをわかることが出来た。 有り難う、吸血鬼ちゃん」

 

 「…ふん、礼を言うのは私の方ではないか」

 

 酷くドライな返事が返ってくる。 “とあ”にとってそれは充分な一言だ。

 彼の硬い手甲がエヴァンジェリンの小さな頭を撫でた。 この日を切っ掛けに彼女は“とあ”を気に入り、後に地の果てまで追い掛けまわすことになるのだが、それはまた別の話しである。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「あ、そうだった!」

 

 「どうした」

 

 「トイレ行きたい! 先に行ってて!」

 

 デリカシーのない言葉にエヴァンジェリンの回し蹴りが襲う。 折角の良い雰囲気をぶち壊され、一気に不機嫌になった彼女はずんずんと地面を踏み締めながらその場をあとにする。

 

 「いてて、まぁしょうがないか…。 これはナギと詠春以外に見せられないし」

 

 “とあ”は兜を脱いだ。

 

 「あー、やっぱ式との遠隔操作神経系が切れてる。 システムを使いすぎたか、マズイな」

 

 きっと、エヴァンジェリンがこの場にいなくて正解だっただろう、間違いなく絶句してはず。 兜を脱いだ“とあ”の素顔、そんなものはないのだから。

 そのままの意味、ないのだ。 頭部どころか肉体も空っぽ、鎧の中は空洞に出来ている。

 

 彼に血や肉、骨はない。 式神と呼ばれる退魔の正体は、機械で出来た存在であった。

 

 

 

 

 




正義の鬼と悪の鬼の話し。この時のエヴァンジェリンはまだやさぐれている感じ。

とあは本気モードになると銀色に変わって、メッチャ速い、メッチャ硬い、メッチャ強くなります。
魔法的なものと言うより、科学、ハイテクノロジーの塊。 ロボですロボ。

式神には実在する式王子という全身真っ白な鬼神が存在していて、元ネタはそこから。
式王子+式神=式王神



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

チャチャゼロとポチ

超短い。


 【1997年 2月】

 

 「バレンタインデーですね、チャチャゼロちゃん」

 

 「ソーダナ、駄目犬」

 

 男女がソワソワしだす季節が近づき、テレビのニュースでは新商品の話題で持ちきり。 照れた様子でインタビューに答えるJKは大変幸せそう、殴りたいこの笑顔。

 あぐらをかいたポチの上に座り込むチャチャゼロ。 下から彼を見上げ、プルプルと右手を僅かに動かしながら髭の剃り残しが無いかチェックする。

 

 「オ前ハ御主人ニ、マダ貰ッタコトガ無インダッタカ?」

 

 「べ、別にー! 誰もチョコなんて欲しくないしー!」

 

 エヴァンジェリンどころか、この学園に来てから3年経つが未だに収穫無し。 みんなポチの魅力に気付いてない!

 ゆくゆくは麻帆良学園のマスコットを狙っているのに!

 

 「餓鬼カヨ…。 ソンナンダカラ、貰エナインダゼ」

 

 「あ、でもでも! チャチャゼロちゃんからは頂きたいなー?」

 

 「嬉シイコト言ッテクレルジャネェカ」

 

 ポチの頬っぺたスリスリを受け、ケケケっとご機嫌に笑うマリオネットの人形。 そこから抜け出し、ヨタヨタ今にも倒れそうな様子でキッチンへと向かうが見かねたポチが気を遣う。

 

 「マァ、大丈夫ダ。 昨晩アル程度補充シタカラナ、今日一日ハ動ケル。 ソレニ直接渡シタカッタ」

 

 人間にとっては普通サイズのチョコでも、チャチャゼロが運べば大変な大きさである。 やっとの思いでもってきたのは、キレイに包装されたバレンタインチョコ。

 感涙の激情で箱を裏返せば、バーコードのオマケがついていた。

 

 「おいいいいい!? これあれじゃん! コンビニで売ってる奴じゃん! 最初の数字が490の奴じゃん! 思わず手作り期待しちゃったよッ!」

 

 「オイオイ、俺ガ手作リナンテ作レネェヨ。 ソレニ、血トカ肉トカ入ッテイルチョコナンテ、食イタクナイダロ」

 

 「確かに…。 ホワイトデーのお返しとか困る」

 

 ていうか愛が重い! 血とか肉とか入っている前提とか完全にヤンデレだ!

 

 「まぁでも、ありがと。 嬉しいよ」

 

 「オウ、有リ難ク食エ」

 

 包みを開けて、中から出てきたのはトリュフタイプのチョコ。 いただきまーすと、口を開けた時、何故かチャチャゼロからジーっと見られていることに気づいたポチは振り替えると、チャチャゼロは目を逸らす。

 

 「ケケケ」

 

 再びチョコを口に含もうとして、またしてもチャチャゼロがこちらを見ていることに気づき、バッと振り替えれば同じように目を逸らされた。

 

 「ケケケ」

 

 「あの、チャチャゼロ…さん?」

 

 本当にこれ、何も入っていないよね?

 

 

 




チャチャゼロと絡みたかったんや…。
1時間くらいであと1話投稿します、ぶっちゃけそっちが本命。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

龍宮とポチ

龍宮のエヴァに対する呼び方があってるかわからない…。


 【2001年、夏】

 

 「タッツー、一緒にごはん食べよう!」

 

 「ポチ先生、前から思っていたのだが…その呼び方の意味はなんだい」

 

 「え、タッツーはスナイパーでしょ? みずタイプのアイツも特性がスナイパーだから…」

 

 「ポケモンか」

 

 昼休み、ひとり教室から弁当を持ちながら出てきた龍宮真名を待ち受けたのは、オタマロみたいなムカつく顔をしながら飛び付いてくるポチ。 一瞬殴り飛ばしたい感情をギリギリで抑えつけ、クールに受け止める。

 

 「いいのかい、エヴァンジェリンに怒られるのだろう?」

 

 「いいんだ。 今ケンカ中だし」

 

 「ほう。 それは私と一緒に食事をすることと、何か関係があるのかい」

 

 流石鋭いと汗をかくポチ。 エヴァンジェリンとのケンカ原因、それは彼が給料日前だと言うのにお小遣いを全て使い切ってしまったことにある。

 

 「先生の給料は彼女が管理しているということか」

 

 「なんか、不老不死は年金に適用されないから今の内に少しでも貯金した方が良いと。 俺も利子だけで生活出来るようしたいからね」

 

 目指せ! ニートマスター!

 

 「社会人失格だな」

 

 そしてエヴァンジェリンの管理理由が吸血鬼らしくない。 やけに所帯染みてる。

 

 「でね、最近Amaz〇n使いだしたんだ。 ポチはこの学園から出られないからさ」

 

 すると使い方を知った途端、今まで欲しくて中々手に入らなかったフィギュアやマニアグッズに調子こいてポチりまくり。 Konozamaすることはなかったが、みるみるうちに所持金は底を尽き無駄使いしたペットに雷が落ちたのである。

 

 「ポチがポチる…ククク」

 

 「いや、別に面白いことは言ってないよ」

 

 「まぁ、事情はわかった。 つまり先生は、私と食事をするというより、私から食事を恵んで欲しいというわけだ」

 

 本音はそうですね。 お小遣い追加をお願いしても却下されたし、夕食はあるから飢え死にするようなことはないが、正直キツい、身体が上手く動かない。

 

 「いいさ。 私はあまり料理が得意ではないが構わないかい?」

 

 「流石タッツー! ケチンボに見えて懐が深いから、ポチ大好きです!」

 

 「頭を撃ち抜かれたいのかな?」

 

 それでは行きましょう、そうしましょうと仲良く手を繋ぐ両者。 ルンルン気分で屋上に向かおうとした、その時だった。

 

 「そうはさせんぞ」

 

 「げげぇー!? エヴァンジェリン!」

 

 主降臨。 ニヤリと不敵な笑みを浮かべているが、額には青筋、肩はワナワナと震えているため相当御立腹のようだ。

 気のせいでしょうか、力を封じられておりながら心なしか爪も伸びており、マニキュアがキラリと輝く。 先生として、それは許すわけにはいきませんね…あれれ? おかしいな、視界がズレてるぞ?

 もしかして、斬られたかな? 周りにバレないよう少しだけズレるようにしたのは流石ですね。

 

 「龍宮真名、悪いが私の犬を甘やかさないでくれないか。 躾をキチンとするのも飼い主の役目だからな」

 

 「躾を頑張る吸血鬼もどうかと思いますが」

 

 「駄目犬は黙っていろ。 大体ナギ・スプリングフィールドはお前にどんな教育をしたんだか…」

 

 ナギ? ああ、俺の前の飼い主か。

 凄い英雄とか言われてるけど、俺の飼い主だった人物だからな、絶対変な奴に違いない。 写真とか見せてもらったけど、クソイケメンで殴りたい顔してたし、アリカ姫?…とのツーショットとか無性にムカムカしたわ。

 あああッ! 思い出したらイラッてくるぜ!

 

 「エヴァンジェリン、私は前から犬を刈っ────飼ってみたいと思っていてね。 この機会だ、エサやり初体験をしたいのさ」

 

 なんかその言い方ヤダナー。 若干、不穏なこと言われたし。

 

 「くっ! …お、お前もお前だ! あれほど知らない人から物を貰うなと言っただろ!」

 

 タッツーはクラスメイトでしょ! ていうかそれだけは本当に恥ずかしいから止めて! お前は俺の母さんか!

 

 「ふーん! いいもんね、俺は俺を甘やかせてくれる人と暮らすもーん!」

 

 「こ、ここここの駄目犬がぁ…! お前なんぞもうしらーん!」

 

 エヴァンジェリンのキックが俺の息子にクリティカルヒットォ! 今、ぐちゃって音がした…。

 ヤバい…これじゃあ、タッツーにお持ち帰りされても使い物にならねぇ。 エヴァンジェリン、ここまで考えるとは流石真祖の吸血鬼、がくっ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 目が覚めた時には口一杯にタッツーの弁当が詰め込まれてました。

 

 「ゲフゥ!? まっずううううう!?」

 

 ナニコレ不味い! 不味すぎる!

 

 「いや、ちょっと待てよ。 逆にメシマズ嫁は価値が高いからな、これはこれで…」

 

 「貶されながら主婦力を褒められるのは初めてだ」

 

 ははは! 今構えているそのアサルトライフルはエアガンですよね?

 

 「まぁいい、今日の私は気分が良い。 許そう」

 

 ありがとーございまーす!

 

 「でもなんでこんな不味いの? これなに?」

 

 「イギリス軍のレーションだ。 余っていたから適当にいれた」

 

 あ、ああ…なるほど。 ていうかそれは果たして料理と言えるのだろうか、弁当のジャンルとしては間違っていないけど、この子料理が苦手とか言ってたよね?

 其処らへんどうなんでしょうと聞きたいが、身体が蜂の巣になりそうなので止めておきます。

 

 「それにしても、エヴァンジェリンに捨てられてしまったな。 これからどうする?」

 

 「うーん、このままタッツーのペットになるのも悪くないなぁ」

 

 ぶっちゃけ本気にしてなかった。 冗談半分でどうせまた撃ち抜かれるんだろうと思っていたけど…。

 

 「ああ、それは良いな」

 

 「だよね。 ……って、なにいいいいい!?」

 

 良いの!? だって自分で言うのもアレだけど、俺…こんなんだよ?

 それでも頷くタッツー。 おかしい、俺はタッツーにフラグを建てていた記憶がないのだが…。

 だいたい頭に浮かぶのはセクハラしているところぐらい。 フラグどころか墓が幾つか建つレベルで。

 そうかぁ、タッツーが俺を好いていたかぁ。 これが無自覚系フラグ建築の力、凄いな、意識してなかっただけでこんなにアッサリ……年下御姉さんゲットだぜ!

 

 「私の躾は厳しいが、良いのかい?」

 

 「全然構いません! むしろ厳しくしてほしいっす!」

 

 「ほう…」

 

 褐色年下御姉さんから教育されるとか、それなんてエロゲ。 ポチ感無量です!

 

 「よし、まずは小手調べだ。 犬、昼休みまでに麻帆良学園を一周してこい」

 

 「え?」

 

 「何をボケッとしている、お前の耳はボンドで塞がれているのか?」

 

 え、ちょ…何!? どうしたのいきなり!

 なんか軍隊の訓練みたいで怖いんだけど! 君、NGOの人だったよね!? 傭兵じゃないの!

 それに昼休みまでに一周とか無理だわ! あと15分しかないよ!

 

 「あ、あの…タッツー? 龍宮さん?」

 

 「私のことはアダ名でも名前でも呼ぶな! サーと呼べ!」バンバン

 

 ちょwwwアサルトライフルが火を吹いて俺の右手がぶっ飛んだwww周り気にしてwww

 

 「さ、サー! イエッサー!」

 

 ヤバい…殺される。 死なないけど逆らったら殺される…!

 

 「良い返事だ、行ってこい!」

 

 「はい! イってきます!」

 

 「絶頂しそうなのか! 気持ち悪いぞ! 犬!」

 

 どうしろと!?

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「ゼェゼェ…」

 

 「ふむ、13分57秒か。 流石だな、ズルはしてないな?」

 

 「はい…ゼェゼェ、式は使いましたが…ゼェゼェ、ズルはしてません…ゼェゼェ…!」

 

 「ゼェゼェ五月蝿いぞ! 空気泥棒がっ! 」

 

 しょ、しょんな…。 

 

 「私は午後の授業に入る、貴様はここで待機していろ」

 

 「えええええ!?」

 

 どんだけ待機させる気!? 放置プレイなのに何故か嬉しくない!

 

 「なんだ、休憩は嫌か。 ならば…」

 

 「いえ! 嬉しいです! しっかりと待機させていただきます!」

 

 「うむ。 では戻ってきた時はご褒美をやろう、楽しみにしておけ」

 

 「サー! イエッサー!」

 

 俺の返事に満足したのか、悠然とした動きでこの場から去るタッツー。 周りの人達は何事かと凄い見ているが、そんな場合じゃねぇ、さっさと逃げねぇと…!

 ご褒美とか嫌な予感しかしない、こんな場所にいられるか、俺は帰らせてもらうからな! 死亡フラグをおっ建てて、その場から一歩を踏み出した…その瞬間だった。

 

 ドッカーン。 眩い閃光、身体がバラバラになる衝撃、肉が焦げる臭い。

 ポチの周りには360度地雷が敷き詰められており、踏みつけた一個は隣の地雷にまで連鎖的に爆発を起こし、ポチは見事爆散してしまう。

 

 「ぱぴぷぺぽおおおおお!?」イッタイイツノマニー

 

 幸い認識阻害札付きだったので、周りに凄惨な場面を見せることはなかったが、駄目犬相手にやりすぎである。 一体、この嫌がらせにいくら使ったのだろう。

 

 「おいいいいい! ポチ、大丈夫かポチ!?」

 

 この声は…エヴァンジェリン!? 再生しかかった目玉にブロンド幼女が映し出され、俺は大号泣した。

 

 「うあああああん! 怖かったよー!」

 

 「ええい! 引っ付くな、鼻水がつく!」

 

 そう言いながらハンカチを差し出してくれるエヴァンジェリン。 きゅん、ちょっと惚れそうになったワン。

 

 「お前が学園内を駆け抜けていると聞いて何事かと思えば、いきなり爆発したのは驚いたぞ…」

 

 ホント、何事だよね。 当事者である俺でさえ、何が何だか。

 

 「ごめんなさい。 きっと、俺に対する罰だったんだ」

 

 見てくれ、この土下座を! 俺は反省している、本当は優しいエヴァンジェリンに甘えて我が儘言ってばかりでしたぁ! すいませんでしたぁ!

 

 「ん、まぁ…別にそこまで気にしてない。 いつものことだしな」

 

 変だな、許されているのにあんま嬉しくないゾ。 しかも本人の表情はなんかひきつってるし。

 

 「昼休みにお前の変な荷物が届いてな。 …あんなのが欲しがったのか?」

 

 …Amaz〇nかな? 中身を知っているってことは開けたのか。

 いやいいんだけどね、エヴァンジェリンだから困ることはないんだけど変な荷物ってのが気になる。 フィギュアや同人誌は今更だし、まさかエロゲーか!?

 対魔忍ア〇ギをポチっていた記憶があるから、流石に…。

 

 「これだ。 ウッディ人形」

 

 「アイエエエ! ウッディ!? ウッディナンデ!?」

 

 ポチに届けられたのは注文した覚えのない、アへ顔晒しているカウボーイ人形、つまりは初めてKonozamaしました。 この日を境にポチの浪費癖は落ち着いた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 その夜。 龍宮真名、自室にて。

 

 「どうした、真名。 元気がないな」

 

 「刹那か…。 いや、なんだ。 どうやら私はイジワルしたくなるタイプだったことに気づかされて…」

 

 「は?」

 

 「なんでもない、忘れてくれ」

 

 あんなに落ち込んだ真名を見るのは、初めてでした。

 by桜咲刹那

 

 

 

 

 




一応書いておきますが、Konozamaは商品がいつまで経っても届かない現象です。 因みに私はまだありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

青山詠春との出逢い・前編

超シリアス。 しかし最後は…。


 

 【1976年、冬】

 

 日本、京都にて。

 

 「詠春君、今日もええ天気やなぁ。 おてんと様が優しく照らしとる」

 

 「ええ、そうですね」

 

 青山詠春は幸せ絶頂期だった。 ここ京都の5本指に入る由緒ある家系、近衛家のお嬢様とこうして会話出来るこの瞬間を。

 勿論、彼女がお嬢様だからというそれだけの理由ではない。 桜のような美しく可憐で華やかさを持ちながら、何処か儚さや不気味さを感じさせるその容姿、そしてまさしく此方を安心させてくれる、おてんと様のような笑顔に惹かれていたからだ。

 

 近衛さん、マジ天使!

 

 だが、そんな幸せも最近居座っている問題児のせいで打ち砕かれる。

 

 「おーい、詠春! 帰ってきたぜー!」

 

 広い屋敷に響く生意気そうな声。 ナギ・スプリングフィールド、イギリス出身の西洋魔法使いらしいが、自分探しの旅という痛々しい理由で家出をしているとのこと。

 …学校はどうしたのだろうか。 後先考えない行動ばかりで少々頭の悪い印象を受けるが、魔法使いとしてその実力はかなりのもので、下手を打てば歳上である自分が負けそうになるくらいだ。

 所謂、天才と呼ばれる人種なのだろう。 後、数年も経てば追い抜かれるのも間違いない。

 

 「詠春ー! いないのかあ! ウ〇コしてんのかあ! おーい、ウ〇コー! …あ、やべ…ちょっとクラクラしてきたわ、どうしよこれ」

 

 「近衛さん、ちょっと待っててください」

 

 危うくはち切れそうになった血管を鎮め、彼女をその場に残し、そそくさと部屋から退出する。 あのクソガキ、人をウ〇コ呼ばわりして。 厠にぶち込む…!

 

 「おーい!」

 

 「喧しい! そんなに叫ばんでも聞こえとるわ!」

 

 瞬動術の無駄使いで一気にナギのもとへ向かう詠春。 一発ぶん殴ろうと、木刀を構えたが、そこに現れた光景に口をあんぐりと開けた。

 全身に鎧兜を纏った謎の人物に抱き抱えられたナギが、これまた全身血塗れで此方に手を振っていたのである。

 

 「え、ちょ…おま。 何をしたんだあああああ!?」

 

 「お前も充分喧しいな」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「何ぃ!? 狗族の禁断の地に入ったのか!」

 

 屋敷の一室。 治療を終え、布団へ横になったナギに何があったのか事情を聞いた詠春は、開口一番に怒鳴り声をあげる。

 

 「偶然な。 フラフラーって行ったらこうなった」

 

 なんてこと…。 頭に頭痛が走ったため額を押さえた。

 

 彼処には今から九百年以上前に、始祖アマテルと呼ばれる、古の人物から譲り受けた使用者に無二の力を与える神とやらが納められていたのだ。 お伽噺としては此方の世界と魔法世界の和平的存在として贈られた物と伝えられているが、実際は違う、残された記述によると当事者達はこう書いている。

 

 アマテルはこの神の力の一端を授ける代わりに、選ばれた者が現れるまで誰の手にも触れられない、誰の目にも映らない場所へ封じ続けて欲しいと頼んだようだ。 危険な代物とわかっていたが、神の力を欲した人間はそれを引き受けた。 しかし、人の性か、アマテルの願いを聞かずに己の私利私欲のために手に入れようとした者が多くいたのである。

 

 そこで人間達は、アマテルの言葉を守るため知的生命体の中で最も忠実な思考を持つ狗族に管理者として定め、彼らの里地中深くにアマテル自身が作りあげた罠仕掛けと、魔力で可動する人形町と共に封じたとされる。

 

 その、あまりにもあの時代の日本において“先進的で未知の技術が詰め込まれたそれは”式神の原種であり、狗族の固有術である影装術の元となった。 後に狗族を壊滅に追い込む事件以来、彼処は百年以上前から立ち入りを禁じられており、九世紀経った今でも恐ろしい罠が作動し続けているとされていたが…。

 

 「まさかお前が選ばれるなんてな…」

 

 「別に神の力なんて必要ないんだけど」

 

 「いらないのか!?」

 

 「だって充分強いし、流石俺だよな!」

 

 包帯グルグル巻きの死に体が何を呑気に言っている。 コイツには反省という文字を知らないのか?

 ナギの枕元には鉄製の白い首輪を首に嵌めている、鎧そのものが兜の開口部を開け、吉備団子を美味い美味いと言いながらムシャムシャ食べていた。 正直これが伝説上の宝で神と呼ばれる存在なのか少々信じがたい。

 俺の分の吉備団子食うな。

 

 「おい“とあ”、いい加減なんか喋ろ」

 

 拳でガンガン殴っているが止めたほうが良いだろうか。 一応、それは国宝級の古代遺産なんだが。

 

 「ん? なんだ、もう無くなったか…」

 

 「食いすぎだボケ。 お前についてなんか教えろよ、てか喋れ」

 

 「やれやれ、どうやら俺の主は相当な我が儘らしいな」

 

 無機物が口もないのに、溜め息混じりに呟く。

 

 「語っても良いが、残念ながら俺のメモリには眠る前の行動データが破損した状態で残されている。 あとはあの場所に来ようとして死んだ者達の断末魔しか大した物がない、てっきりお前もそのひとつになると思ったのだが…」

 

 「縁起でもねぇ! つか、それって記憶喪失じゃねぇか!」

 

 「厳密には喪失とは違う、破損だ。 ナノマシンによる修復を進めているが難しいだろう。 わかっているのは俺自身の名と、力の使い方が少し、あとは鎧の名前が“式”であることと、主と呼ばれる者が現れるまで眠るぐらいだ。 アマテルなんぞ知らん」

 

 「ナノ……なんだって?」

 

 歴史的発見が何かあると思ったが、そう簡単にはいかないようだ。 しかし、問題はまだ残っている。 

 この首輪もどきをどうするかだ。 国宝であるこれを勝手に持ち出すのは犯罪であり、狗族に対してはなんと説明すれば良いか。

 

 「詠春とやら。 悪いがもしも許されるのならば俺はコイツに付いていきたい、外の世界も見たいうえ、また美味しい物を食べたい」

 

 「だとよ」

 

 他人事みたいに言うな! これはとんでもなく危険なことなんだぞ!

 強大な力が一個人に、しかも西洋の幼い魔法使いに渡ったとなれば、関西呪術協会内による派閥同士の亀裂が深まる。 過激派だけではない、鳥族や鬼族までも狙いにくる可能性も…。

 

 「やはり難しいか」

 

 “とあ”が呟いた瞬間、たどたどしい歩きで畳を踏みつけながら、外へ出ようとする。

 

 「どこ行くんだよ」

 

 「主の迷惑となれば、居て良いはずはない。 大事になる前に、また彼処へ戻る」

 

 確かに、この状況をクリアするにはそれが一番だ。 今のうちに何事も無かったかのよう、全て元通りにしてしまえばそれで済む話しなのである。

 だが、これはけして素直に決められるものではない。 また彼は再びに眠りについてしまうのである、何十年、何百年という歳月を、誰とも触れ合うことなく、誰からも見つめられることもなく。

 それが良いはずがあるまい、彼がやっと長きに渡る眠りから覚めたというのに、結局変わることのない扱いにどのような気持ちなのか。 詠春は鉄仮面からそれを読み取ることは出来ない。

 

 「馬鹿やろ、一々気にしてんじゃねぇよ。 周りがそうさせているだけで、お前は悪くないだろ」

 

 「しかし…」

 

 「大丈夫、いざとなれば詠春がなんとかするから。 なぁ? 次期、関西呪術協会の長様?」

 

 ニヤリと意地の悪い笑顔が此方に向かれる。 …誰から聞いたんだ、近衛お嬢様以外に話して────あの人か。

 まぁ、しょうがない。 ここまで聞いてほっとくことは出来ないからな。

 

 「やってみよう。 別に助けてあげたいとかではなく、この程度、上手く切り抜けられなければ長なんて無理だろうからな」

 

 詠春は立ち上がる。 口ではああは言ったが、まだ若僧である自分がどれだけの発言力を持つなど、たかがしれている、しかしやらねばならない。

 関西呪術協会次期長としてだけではない、青山詠春として、侍、武士道に殉じる己の誇りにかけて、外の世界に想いを馳せる“とあ”を救ってみせよう。 これが後にサムライマスターと呼ばれる男の生きざまであった。

 

 その結果は────。

 

 「────スマーン! やはり無理だったあああ!」

 

 「オイイイイイ!?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「あ、式神様や。 おはようございますぅ」

 

 「おはよう、近衛。 一応言っておくが、俺のことは“とあ”で良い。 様付けはどうも苦手だ…」

 

 深い霧が立ち込める寒い朝。 屋敷の庭に立ち尽くしていた“とあ”に、小さな子供達を連れた近衛が挨拶を交わす。

 昨日の夜に降り積もった雪は、真っ白に美しい景色を生み出し、ずっと見つめていると自分が溶けてしまいそうな錯覚に陥った。 子供達は楽しそうに黄色い声をあげながら雪ダルマや雪合戦で遊び、近衛は庭の隅にポツンと生える植木に近づく。

 

 「椿か…。 綺麗だな」

 

 白景色に映える、淡い赤の花弁。 鉄で出来た指先が優しく触れた。

 

 「花に詳しそうな物言いやね。 椿、好きなん?」

 

 「いや、嫌いだ」

 

 椿の花が丸ごと“ボトリ”と落ちた。

 

 「…散る姿がまるで、首を落としたみたいだから」

 

 地面にも花を咲かせるその姿はまさしく、血溜まり。 近衛もその様子を光が消えた目で見つめていた。

 

 「“とあ”さんはウチと同じことを感じるんやなぁ」

 

 椿の花を両手で優しく掬いあげる彼女。 じっとそれを凝視していたが、花弁を一枚一枚、ゆっくりと、丁寧に千切っていく。

 

 「でも、ウチは好きや。 椿」

 

 光を失ったままの目で頬を染めながら苦笑。 クスクスと嬉しそうに笑いながら立ち上がった。

 

 「本当はな、嫌いやったんよ。 でも詠春君がな、椿好きって。 近衛さんみたいに綺麗で可愛らしいからって、だからウチも好きになった」

 

 「…そうか」

 

 形はどうあれ、二人は互いをとても大切にしていることがわかる。 詠春の真っ直ぐな心が彼女の心を動かしているのが理解出来た。

 なら俺も、いつか椿を好きになれる日が来るのかもしれない。

 

 「“とあ”君、お願いがあるんよ。 もし出来るなら、この椿…守ってくれへん?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「何やってんだよ青山さんよー、じゃなくて役立たずさんよー」

 

 「喧しい! 全く、何故ドイツもコイツもドンパチやりたいのだ! 奴らはイライラしているのか? カルシウム足りないのか? 今度のお歳暮は茶葉ではなく、牛乳送ってやる!」

 

 怒りながらも次の贈り物を考える青山さん、マジ詠春。 

 

 とかそんな冗談を言ってる場合ではない。 “とあ”の存在は昨日の今日話したばかりだというのに、既に奪いにくる為の準備が着々と進められているらしいのだ。

 報告の様子から、恐らく今夜中には襲撃がくるとみて間違いない。 だが、これはいくらなんでも速すぎる!

 まさか、“とあ”とは関係なしに前々から何かしらの準備が成されていたのか? もしかすれば、近いうちに大きな戦が起こるかもしれない。

 

 「鬼族、ならびに鳥族と狐族までも“とあ”を狙って此方の屋敷に向かっているとの伝達があった。 何れ、この屋敷は戦場になるぞ」

 

 部屋には上半身だけを起こしたナギ、緊迫した詠春、そして壁に背もたれている“とあ”が集まっていた。 やはり予想が適中した、高台から見れば数千の妖怪達が文字通りの百鬼夜行を体現し、ゆっくりと此方へ向かってくる様子がわかる。 不幸中の幸いだったのは、狗族がこの戦いに参加しなかったぐらいか。

 やはり忠実な種族であったおかげか、例え選ばれた相手が西洋魔法使いであっても掟に従い静かに身を引いたのである。 先人達は恐らくこうなることも予想して彼らに管理者として選択したのだろう。

 

 「どうすんだよ、俺はこの状態で動けないぜ?」

 

 「お前がいなくとも、私ひとりで退治くらいはどうとでもなる」

 

 剣士としての実力行使なら詠春の右に出る者はない、まずこの戦場において敗北は有り得ないだろう。 しかし、それが守りに入るとなれば圧倒的不利になる。

 女、子供の存在により屋敷には戦えない者が多すぎた、他の神鳴流を合わせても、それを補うのはかなりの困難を極めるに違いない。

 

 「詠春様! 敵の第一陣、来ました!」

 

 若い少年に近い容姿を持つ青年が庭から叫ぶ。 詠春は刀を手にした合図に外へ飛び出した。

 

 「お前達は近衛さん達を連れて此処から離れるんだ。 頼んだぞ!」

 

 駆け抜けていく彼の背中を見つめながら、“とあ”は大きな動揺に襲われる。 見ず知らず、得体の知れない自分のことを何故、ここまでしてくれるのか。

 あるはずのない胸に、こうまでして鋭い痛みが走るのは何故なのか…。 

 

 「きっと、彼の指示通りに動けば犠牲者は出ることなく、この戦いは終わるだろう。 だが、この屋敷は無事ではすまない」

 

 命が救われることに比べれば大した損害ではない。 しかし、帰る場所は失われる。

 近衛や詠春、そして子供達の安らぐ場所は無くなるのだ。 今は大丈夫だとしてもいつかそれをツラいと感じることはある、俺はそれを、かつては知っていたようだ。

 

 「ナギ、お前の友に不幸が訪れた。 それでもお前は俺を傍に置くのか?」

 

 「当たり前だろ。 ペットを最後まで見るのは飼い主の最低限の義務だからな」

 

 例えこの戦いに勝利しても意味はない。 また再び俺を狙って此処は襲われる、他者から危険を回避するには、あらゆる土地から離れ、永遠に逃げ続けなければならない。 

 

 「ならば修羅の道を共に歩むと?」

 

 「退屈しなさそうで良いじゃねぇか、相棒」

 

 迷いの無い、力強い笑みが俺に心を与える。 ああ、やはり…お前は良い。

 おかげで思い出せた、この胸の痛み、激しい動揺、これが守りたい感情だったのだと。 かつての俺の力の源は、いつだってこれだったのだ。

 畳から草へと足が移る。 

 

 「そうこなくっちゃな。 俺も行くぜ」

 

 「食事も満足に出来なかった奴が無理をするな」

 

 傷は縫合したばかりで少しでも下手をすれば、今度こそ危ない。

 

 「安心しろ俺はお前のペットだ、負けることなど有り得ない。 其処で見ているが良い、お前が手にした力がどんなものかな」

 

 「言うじゃねぇか。 よーし、行ってこい!」

 

 “とあ”は小さく唱えた。 力を奮っていた己を呼び覚ます、覚醒の言葉を。

 眩い光に包まれる全身、銀色に変わる装甲。 武骨で丸みを帯びていた形状は鋭角に、洗礼された物へと変化し、兜に備え付けられているバイザーから鬼を思わせる二本の大きな角と開口部には牙が四本生えた。

 

 「4時の方向、距離8600。 詠春確認」

 

 跳躍し、地を駆ける。 爆音と同時に走るように跳んだ“とあ”は屋敷から消えた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 昔話しを簡単に説明するとこうなる。

 

 アマテル「このロボットの技術、幾つか使って良いから誰か大事に管理して」

 

 人間「心配だけど技術欲しいお。 アマテル様の頼みだし」

 

 悪い人間1「ヒャッハー! 俺のもんだぜー! 最強だぜー!」

 

 アマテル「お仕置きだべぇー」

 

 悪い人間1「ギャー!」

 

 人間・アマテル「やっぱ人間駄目だわ。 お利口さんの狗族に頼む」

 

 狗族「わんわんお! がんばるわん!」

 

 人間・アマテル「がんばれ」

 

 狗族「式神の技術使えるようになったわん! 機械は無理だから紙で使えるようにしたわん! みんなで使うと良いわん!」

 

 人間・アマテル「良い子良い子」

 

 狗族「もっと頑張ったら影装術が使えたわん! おかげで狗族強くなれたわん! ありがとうだわん!」

 

 アマテル「安心できた。あとは頼んだバイバイ」

 

 狗族「U;ェ;U」クゥン

 

 悪い人間2「ヒャッハー! アマテルいなくなったぜー! 俺のもんだぜー!」

 

 狗族「U`ェ´U」グルル

 

 暴走ポチ「アンギャー!!!」

 

 悪い人間2「嫌だ、止めろー!」

 

 暴走ポチ「アンギャー!!!」

 

 狗族「止まらないわん、アマテル様との約束破っちゃったわん、ごめんなさい…」

 

 百年後。

 

 ナギ「死にかけたけど変なの見つけた」

 

 ポチ「やっと外に出られるわん、嬉しいわん…」

 

 ナギ「凄いみたいだけど興味ねぇ。 俺強いし」

 

 ポチ「気に入ったわん!」

 

 詠春「どないしよ…」

 

 ポチ「U;ェ;U」また戻るわん…

 

 詠春「居て良い。 べ、別にあんたのためなんかじゃないんだからね!///」

 

 ポチ「ありがとうわん!」

 

 詠春「やっぱ無理だったわ…」

 

 ナギ「ダセェ」

 

 詠春「時間稼ぐから逃げろ」

 

 ポチ「嫌だわん! 絶対戦うわん! 絶対に守ってやる!」

 

 続く。

 

 

 




実はナギと出逢う前から記憶がないポチ。
木乃香ちゃんのお母さん、何故かヤンデレ。 詠春が大好き。
狗族はただの被害者、人間最悪。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

青山詠春との出逢い・後編

そろそろあらすじとタグをどうにかしないといけない。


 

 

 「思ったより敵が多い…!」

 

 自身の倍以上の巨体を持つ鬼を、流れるような動きで斬り伏せる。 鳥族が全方位から同時にくるが百烈桜華斬で全て地に叩き落し、雷光剣の衝撃波は狐族の妖術を吹き飛ばした。

 屋敷に侵入されるのも時間の問題か、ナギ達が無事に逃げられていれば良いが、この進行スピードでは厳しい。 このままでは間に合わん…!

 

 「待てぇい!!」

 

 青天の霹靂、闇夜の上空から戦場全体に響き渡る程の怒号が聞こえた。 皆が何事かと上を見上げると、キラキラ輝く何か。

 重落下しながら徐々に此方へ近づく。 詠春と妖怪達の間に割り込むよう、右拳と膝で衝撃を殺しながら着地、白銀の鬼が参上した。

 

 「詠春、あとは任せろ。 お前からの恩義、今返すッ!」

 

 「“とあ”か!? その姿は────いや、それよりも何故此処に来た!」

 

 「従わなかったのは許してくれ。 だが俺は守りたかった、お前達の大切な居場所を。 こんな俺を当たり前のように置いてくれたお前を! だから戦う!」

 

 言葉にするたび、力が溢れる。 空っぽの自分に埋まる、目には見えない何かが。

 

 「おう、兄ちゃんがそうなんかい」

 

 一際屈強な鬼が前に出た。 一本角で肩に狐族を乗せた明らかに格上の妖怪、三白眼の鋭い眼差しが“とあ”を舐めるように眺めるが彼がそれに怯むことはない。

 

 「そうだ。 俺は貴様ら魔を滅する式神の王であり、祖である存在、“とあ”。 またの名を──式王神(シキオウジン)!」

 

 「随分と威勢がええな。 昔はどれくらいの強さだったかは知らんが、獲物がひとりで相手をするなんぞ、大した自信や」

 

 鋼の金棒を担ぎ上げ、自然体で挑発してくる。 腹部ががら空きだが微かな記憶が警告を鳴らす、これは罠だ。

 上等。 もとより目覚めたばかりで大した能力がない、始めから真っ向勝負、“一瞬のち一撃”で罠ごと粉砕させてもらう!

 

 「安心しろ。 どうやら俺は鬼退治が得意らしい、キジやサル、桃太郎もいないが……なに、貴様ら妖怪には畜生で充分ッ!」

 

 その雄叫びが合図だった。 今一度、拳を地面に叩き付ける式王神。

 

 「出力、フルドライブ!」

 

 鎧の隙間から熱風が吹き荒ぶ。 周りにいる者達の産毛がゾワリと逆立つような空気が満ち、大気が揺れ、空間が歪む程の闘気が溢れているのだ。

 

 「コイツァ…アカンな」

 

 鬼の声から焦りが見える。 一秒、また一秒と式王神のオーラが膨れ上がり、視覚出来る衝撃として押し返していた。

 詠春も危険を感知し、全ての神鳴流剣士に屋敷まで退避するよう指示を出す。 皆が急いでその場から離れた、それがスタートのタイミングだった。

 

 「オオオオオッ!」

 

 ガキンと火花を散らして式王神のバイザーが持ち上がる。 隠されていた瑠璃色のツインアイが現れ、発光した瞬間、全てが終わった。

 白銀の閃光となり、一文字を画いて敵陣のど真ん中を貫く彼の拳。 一拍置いて静まりかえると、数千は下らない百鬼夜行の群衆を衝撃波で戦場ごと吹き飛ばしたのだ。

 

 「見事や…!」

 

 大地を抉り、木々が凪ぎ倒れるなか、残されたのは右腕を突きだしたまま戦場の端に静止する彼だけ。 味方を覗いた全ての敵は、ひとり残らず消し去られた。

 

 「なんてことだ…」

 

 これが始祖アマテルが封じていた力なのか。 ただ技術としての塊ではない、かつて狗族を蹂躙した暴力、その恐ろしさを目の当たりにして詠春は息を飲む。

 もしも“とあ”がナギではなく、過激派の者に渡っていたならば…そう考えるだけで頭に冷や水を掛けられたようにな不快感が襲う。 …いやそれは駄目だ、彼は自らの意志で此処に来た、誰に指示されたのではない私達のために戦いたいと、その想いを持って此処に来たのだ。

 それを踏みにじるようなことをしてはいけない。

 

 「“とあ”!」

 

 彼のもとへ向かう。 全く動かない様子に心配し、労いの言葉を欠けながら肩に手で触れるが、その瞬間、硝子のように本体の首輪だけを残してバラバラに砕け散ってしまったのである。

 

 「しっかりしろ、おい!」

 

 「詠、春か…? 無…事か?」

 

 「馬鹿者、それは此方の台詞だ!」

 

 すぐさま本体を拾い上げられた。 まるでナギが叱られるように大きな声で怒鳴られたので、安心したのか小さくか弱く、渇いた笑い声を出す“とあ”。

 目覚めたばかりで加減がわからないうえ、思い出した力の使い方がアレしかなかった。 出来れば勘弁してほしい。

 しかし、こうして誰かに叱られるというのは中々悪くないと、彼は思う。

 

 「全く無茶をして! この状態は大丈夫なんだろうな!」

 

 「衝撃を…鎧に移し、ただけだ。 問題は…な、い────多分」

 

 「一番怖いから、多分とか止めろおおお!」

 

 帰り道。 詠春の手の中で揺れながら“とあ”は思う。

 やはり俺を見つけてくれたのがナギで良かった。 此処に居てはいけないと思った時、本当に嫌だった。

 寒くて冷たくて、日の光も入らないあんなところへ戻るなんぞ辛くて辛くてしょうがない。 外に出られた感動は今もこうして感じられる。

 真っ白くて綺麗な雪、日の暖かさ、夜空の星、椿の香り、美味しい吉備団子、子供の声。 どれも素晴らしい、生を感じさせる物だった。

 別にこの世界全てがそうではないことは、昔の俺が知っているのだろう。 今回のように平穏無事を脅かす存在だって腐る程いる。

 だが、それでも此処は美しい。 俺は生きていきたい、この世界を。

 ナギ、そして詠春。 お前達が居て良いと言ってくれた時、嬉しかった…ありがとう。 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【1994年】

 

 ところ変わって麻帆良学園。

 

 「イイハナシダナー」(白目)

 

 「以上が私と貴方の出逢いでした。 どうです、何か思い出せましたか?」

 

 学園長室内で一通りの話しを終えた、近衛詠春。 質素なスーツに身を包んだ関西呪術協会長は、皺が刻まれた目尻を緩め、すっかり冷めてしまった緑茶を口に含む。

 その隣りには髭を蓄えたヒョウタン頭の学園長、近衛近右衛門。 対峙するように椅子に座り込むのは、不機嫌そうなエヴァンジェリン、そしてポカーンとしたポチこと“とあ”だった。

 

 「いやあああぁ…それが全く! 全然! 欠片も! ていうか普通に良い奴で驚きが隠せない! 俺なんでこんなチャランポランになったの!? つーか、記憶を失う前も記憶ねぇとか超メンドくせぇなッ!」

 

 くわっと表情を一変させ、泣きながら詠春に説明を求める。

 

 「飼い主の影響です。 ナギはともかく、ラカン、アルビレオ、この三人は貴方に変なことばかり教えていました」

 

 変態、不良、馬鹿、そして超変態に教えられていれば、当然の結果であろう。

 

 「最悪だ! 昔の俺だったら絶対モテてたわぁ、ポチハーレム待ったなしだったわぁ」

 

 まるで俺TUEEEE!の最強系主人公だ。 最低系畜生にしたその三人、許すまじ!

 

 「でもなんで機械の身体じゃなくなったんだろうね。 学園には出られないし」

 

 “とあ”が気がついた時は、学園内にいつの間にかいた。 真夜中、スッポンポンの状態で林の中を突っ立っていたのだ。

 自分のこと、ナギ達と過ごした時を全て忘れて…。 容姿が容姿だけに初めはエヴァンジェリンに侵入者、もとい変質者として撃退されそうになったり、なんやかんやでポチと名付けられたり、ポチの正体が“とあ”だと知る事件があったりで、そして今、かつての“とあ”を思い出すために詠春が学園を訪れ昔話しをしてくれたが、効果は無かった。

 

 「魔法世界で英雄になった後、貴方とナギは探し者をすると言って旅へ出ましたからね。 その後はエヴァンジェリンが詳しいでしょう」

 

 あー、俺がストーカー被害受けてるやつか…。 エヴァンジェリン、なんで睨むの? 心読めるの?

 

 「詳しいといっても大したことはない。 せいぜいアルビレオやアリカに出会って、最後は登校地獄をナギ・スプリングフィールドから掛けられたぐらいだ」

 

 因みにヤれと指示したのは俺らしい、ナギやアリカ姫は迷っていたようだ。 ソースはエヴァンジェリン、俺最低だわ。

 その後は皆様ご存じのように、イスタンブールで事故によりまとめて死亡。 帰らぬ人となったらしいが…。

 

 「絶対事故じゃないでしょ」

 

 「でしょうね。 なにかしらラカンと私に対して秘密もあったようですし……」

 

 真実は知らないようだが、秘密の何かには薄々気づいているみたいだな。 だが語らないってことは、それなりに言えない理由があるんだろうね。 それがエヴァンジェリン対してなのか、それとも俺か、或いは両方か…。

 

 「つかエヴァンジェリン、なんでそんな不機嫌なの? 生理?」

 

 「吸 血 鬼 に 生 理 が あるかあああああ!」

 

 「え、そうじゃったの? 儂もてっきりあるのだとばかり…」

 

 学園長も思っていたんだ。 定期的に苛つくからね、この娘。

 

 「じじい黙れ。 私が怒ってるのは、駄目犬の余計な茶々を入れたことだ!」

 

 茶々? あれか、詠春ちゃんが話している最中に俺の独白を勝手に捩じ込んだことか?

 

 「ふざけている場合じゃないぞ貴様、記憶を取り戻す気はないのか!? 此方としても色々思い出してもらわんと困るんだよ!」

 

 「んー、別にふざけているわけじゃないよ? まぁ…本当に俺が“とあ”だったらその時、何を考えていたのか教えようと思ってさ。 詠春ちゃんは嫌だった?」

 

 「そんなことはありません。 友人の心境を知れたのは私としても大変嬉しいことです」

 

 あまり本音を語らない人物であったので、なおのこと嬉しい。 思わず頬が緩んだ。

 

 「なら良かった。 これからも頑張って思い出さないとね」

 

 長い間座り続けていたせいか、ポチは大きく伸びをする。

 

 「やはり過去の自分を取り戻したいと?」

 

 「いや、それはぶっちゃけ興味ないッ!」

 

 真顔で速答。 だって厨二みたいで中々キツい。

 

 「何いいいいい!?」

 

 エヴァンジェリンとしてはショックが大きかった。 お前はあんなのが好みなのか?

 あ、そういえば厨二病でしたね。

 

 「結構気に入っているんだよねー、この生活」

 

 「ハハハ! 貴方らしい。 昔の“とあ”もそんな性格でした、過去にあまり興味がなく、今を、これから先に見る世界ばかりを進んでいました。 純粋にただ真っ直ぐ」

 

 過去を知るより、美味しい物を食べたい。 面白いことをしたい。 美しい物を見たい。 沢山の人々と触れ合いたい。 その一心で。

 

 「でも、“コイツ”の使い方ぐらいは思い出さないと。 色々便利そうだし、いざという時戦えるからね」

 

 ポチがポケットから取り出したのは、鉄製の輪っか。 “とあ”の本体であった首輪、通称“式”と呼ばれていた物。

 ある事件からエヴァンジェリンを守るために彼が何処からともなく喚びだした、ポチが“とあ”であったという何よりの証拠だ。

 

 「そうですね。 貴方の場合、戦闘技術や経験も忘れているみたいですし。 これから追々、私が覚えている限り資料にまとめてそちらに送り続けます」

 

 「サンキューベリーマッチョ! 愛してるよぉお!」

 

 「また変なの覚えたな…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【1976年】

 

 「もう行くのか? 一応動けるとは聞いたが…」

 

 翌日、これ以上は迷惑はかけられないと、すぐさま屋敷から発つことにしたナギと“とあ”。

 

 「お前の嫁さん候補に無理矢理塞いでくれたしな。 激しい動きをしなけりゃ、大丈夫そうだ。 戦闘になってもコイツが戦ってくれるし」

 

 流石に鎧姿で彷徨くことは出来ないため、現在彼はナギの首へネックレスのようにぶら下がった形で収まっている。

 

 「馬鹿。 俺を使う前にさっさと治せ、コッチも調子は悪いんだ」

 

 「本当に大丈夫なんだろうな…」

 

 あまり仲が良くなさそうな二人に不安を感じる詠春。

 

 「世話になった…いや世話したのは此方だったが、まぁいい。 もし困ったことがあればいつでもこい、数年経てば俺の立場もある程度は変わっているはずだ。 今度はゆっくり出来ることを約束する」

 

 「おう、その頃にはお前が結婚してると良いな」

 

 勿論、近衛家のお嬢様のことである。 そっち系の話しは先程一回目は無視したが、またとなればそうはいかない、ナギの頭をポカリと殴り茶化すなと注意した。

 “とあ”はその様子をよく見て、徐に口を開く。

 

 「なら、俺も約束しよう。 もしも青山詠春に何かあれば恩を返すため駆け付けることを」

 

 「全く、そういうのはいらん…。 来るなら友人としてこい」

 

 呆れながら、だが最後の言葉は優しく、語りかけた。 

 

 「友人か…」

 

 その後もこの三人、色々な事情により再会することが多々あり、紅き翼として共に戦い続ける。 更に数年後、京都にて飛騨の大鬼神、リョウメンスクナノカミの封印が解かれる事件が発生するが、その場には千の呪文の男と式王神がいたという。

 そして長い時が流れ、例え彼が相棒を失っていても、記憶喪失により全てを忘れていても、若かりし頃に交わした約束は再び果たされることとなる。

 




Q・ポチにアルビレオのイノチノシヘン使えないの?

A・使えません。 イノチノシヘンの条件が対象の名前を知らないといけないためです。
前にも後書きで書きましたが、実は“とあ”は真名ではないです。 ポチの本当の名前はとしあきで、式という自身の名前が入っている能力の存在により、記憶に混乱が生じているせいで“とあ”が本名と勘違いしている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネギとの出逢い

なんの脈絡もなしにネギ。 これからもこんな感じです。


 【2003年 2月】

 

 「え? ナギの息子がくる?」

 

 「そうじゃ。 修業として今年から君が副担任している2─Aの担任を任そうと思ってのぉ」

 

 学園長室、ノートパソコンでエロゲーをしていたポチ。 生々しい嬌声を響かせている時、近衛近右衛門からの唐突な一言は、なんとも微妙な空気を醸し出すには充分だった。

 今のタイミングでそれ言っちゃう? なんかツッコミ要員もいないから気まずいって感じじゃないよ、画面に映っている嫁もフィニッシュ迎えそうだし。

 

 「あのぉ、それって大丈夫なの?」

 

 ナギのことをよく知る人物は、この学園に数多くいる。 良い意味でも悪い意味でも注目されそうだ。

 主に変な恨みがあったり、変に注目されたり。

 

 「それはないじゃろう。 ほとんどの学園の者はお前さんのせいで壊れたからの」

 

 「ちょおおおおお!? それはどういうこと!」

 

 「まぁ、そちらにとっては遊んでいただけだから気づかないのも無理ないわい」

 

 代表的な物は、このちゃんはせっちゃんの嫁とか、学園のゆるキャラ作って、まほらっしーとか、エヴァンジェリンに罵倒され隊とか、エヴァンジェリンに踏まれ隊とか、オッサンだけで構成された麻帆良48とか、オッサンだけで構成されたプリキュアとか、オッサンだけで構成されたけいおん!とか、“とあ”逮捕し隊とか、ポチ抹殺瞬殺撃滅撲滅し隊とか、畜生ぶっ殺し隊とか。 オッサン率高い! そして後半が物騒すぎるッ!

 

 「注目されても十歳の可愛い先生くらいじゃ。 命が狙われるとしても高畑先生も居るし、大丈夫であろう。 忙しくともエヴァンジェリンやお前さんの存在で安心じゃからな…」

 

 エヴァンジェリンは封印状態でも強いから良いけど、俺とか無理よ? 刹那ちゃんに負けるレベルだし。

 

 「式は使えるのじゃろ?」

 

 「といっても、両腕か両足が限界。 昔によく出るフルアーマーは一度も無いからね?」

 

 「それでもよい。 支えてやるだけで構わん、記憶が無くともナギの親友としてお前さんの言葉はネギ君に良い結果をもたらす」

 

 「そうなのかなぁ…」

 

 学園長、ポチを買い被りすぎじゃない?

 

 「大人になるのは意外と簡単。 だが、子供であり続けるのは難しい」

 

 前に言った俺の言葉ですね。 でもそれ銀魂から引っ張ってきたやつよ?

 

 「中々的を得た言葉じゃ。 …というわけで────」

 

 ピョンと飛び上がり、俺の横に座り込む。 フフフ、やはり気づいたか。

 

 「このゲームは百合物じゃな! …儂大好物!」

 

 最近発売された“しじゅゆり”と呼ばれるアダルトゲーム! 主に主従関係で女の子達がチュッチュッするストーリー。 ポチのオススメとしては、刹那ちゃんと木乃香ちゃんにそっくりな設定と容姿を持つルートだ。

 

 「これをプレイしながらこのせつも楽しむ! すばらしいのぉ!」

 

 「流石学園長、ポチと趣味が合いますなぁ?」

 

 「ほっほっほ」

 

 「へっへっへ」

 

 「学園長ー! 今月の学費持ってきましたー!」

 

 『ぎゃあああああ!?』

 

 あああああ明日菜ちゃん!? いきなりノックもせずに入るとはどういうことかね!

 犬はあまりビックリしちゃいけないのよ! 学園長とか入れ歯取れてるし!

 

 「おおおおお、明日菜君。 毎回偉いのぉ、じじい嬉しいわい」

 

 学園長落ち着いて! 入れ歯反対反対!

 ポチは荒ぶるタカのポーズとるから、兎に角落ち着いて!

 

 「ポチもいたんだ。 …なんか怪しいわね」

 

 「何を言っているんだい教師である僕は常に明日菜君の御手本として清く正しい生活をしている例え私が電子機器で卑猥な映像を見ようと俺が見ることでそれは生命誕生という真理を垣間見ているだけに過ぎない」

 

 「ちょっとそのノーパソ見せて」

 

 「違うって! これは違うって! ポチ悪くないの! せっちゃんが何時まで待ってもこのちゃんに押し倒されないから我慢出来へんかったんや!」

 

 「いいから見せなさい!」

 

 ちょ、引っ張らないで! なんかメキメキ言ってる!

 どんだけ力強いの!? ゴリラか!

 

 「嫌だあああああ! 学園長ー! 助けてって──いねぇえええ!?」

 

 逃げ足速い! 見捨てやがった!

 

 「ふんぬっ!」

 

 我が手元から離れる愛玩道具。 神速の動きでノーパソを開いた明日菜ちゃんは静止、徐々に顔へ赤みが増し、中身を理解すると頭から湯気が吹き出たと思わせるぐらい髪の毛が逆立った。

 

 「な、ななな…!」

 

 よし、逃げよう。 今すぐ逃げ、あ…捕まった。

 

 「何してんのよ、エロ犬ーーー!」

 

 「ぐげえええ!?」

 

 明日菜ちゃんの蹴りが水月に…! ヤバい、今のポチ、メッチャ主人公っぽい──がくっ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 今日はネギ君が来る日、職員室で顔を合わせることになっていたが、朝早くからポチはお仕事。 遅刻者チェックだが、まだ時間に余裕があるから暫くボーッとしておこう。

 にしても、変わらず遅刻しそうな生徒達が多いねー、ポチが学生の時はエヴァンジェリンがいたから遅刻はなかったな。 無理矢理連れていかれていたし。

 おや、向こうから高畑先生連呼しながら物凄いスピードで走ってくるのは、明日菜ちゃんと木乃香ちゃんか? …木乃香ちゃんはローラーシューズ使用しているのにあの脚力、ホント運動神経良いよね、才能ある子って羨ましい。

 

 「おはようさん」

 

 「あ、オハヨー。 ポチ、昨日はゴメンね!」

 

 挨拶を済ませ、すぐさま謝罪をしてきた。 良いのよ、メッチャ痛かったけどポチが悪いんだから、未成年にあれは見せちゃ駄目だしね、メッチャ痛かったけど!

 エヴァンジェリンも少しは明日菜ちゃん見習ってほしいわ、暴力振るっても基本的に謝罪なしだから。 朝の挨拶とかアレよ? 起きて早々食事の用意しろだからね?

 ポチが唯一作れるムドオンスープとか不味いって平気で言うし、茶々丸ちゃんが来るまでは地獄だったな。

 

 「ところでさっき、高畑先生連呼してたけどどうしたの? 発情期?」

 

 「アンタまた、そんなこと言って…。 んなわけないでしょ」

 

 「明日菜になぁ、運命の人に会う運勢あげるために好きな人の名前を十回言ったあとワンと吠えれば良いって、教えたんよ」

 

 「マジ? それはポチの専売特許じゃないですか」

 

 「いやー、ホンマにやるとは思わなかったわ…」

 

 「なんですってえええ!?」

 

 「まだ他にも逆立ちしながら開脚して50m全力疾走する、こっちは運命の人の秘密を知れるってやつがあるで」

 

 「マジ? やるわ」

 

 速答ですね、流石明日菜ちゃん。 俺の目の前で瞬きする間に実行し、更に木乃香ちゃんからドン引きされる。

 そんな様子を見ていると、横に何かの気配を感じてそちらへ視線を移すと。

 

 「あの、貴方…顔に死相が出てますよ…」

 

 「は?」

 

 歳は十才くらいだろうか、小さい丸メガネをかけて、背中には比較に大きなリュックを背負っている赤毛の少年が俺を見ながら、顔を真っ青にして声をかけてきたのである。 死相ってアレか、顔相っていう占いのやつで一番最悪の。

 つーか、この子好みの可愛い顔してるけど、なぜだろう。 赤毛を見ると妙にイライラする。

 

 「ぼぼぼ坊や? 喧嘩売ってんのかな? 俺の拳が真っ赤に萌えてるよ?」

 

 「スイマセン! 占いの話しをしていたようなので、あまりにも強い死相が出ていたのもあり、どうしても伝えないと思いまして!」

 

 なん…だと! つまりポチは主人公でよくある死亡フラグみたいなのを建てていたのか!?

 不老不死も終わりが近いと?

 

 「因みにどんな感じ?」

 

 「ブロンド髪の女の子にボコボコにされているのと、刀を持った女の子にバラバラにされているのと、黒髪褐色の女性に穴だらけにされているのと、アルアル言っている人にペシャンコにされているなど、まだまだあります」

 

 「ただの日常じゃねぇかクソッ!」

 

 「因み全て近いうちに起こります」

 

 …なんか生きてるのが嫌になっちゃったな。

 

 「ポチ、さっきから何してんの?」

 

 明日菜ちゃん、実はかくかくしかじか。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「占いね…。 ボク、私のも教えてよ」

 

 どうしよう、なんだか悪いことをしてしまった。 目の前に自らの占い結果に絶望した男性が倒れこんでいる、スーツが汚れるから立ち上げたほうが良いと思うが、周りの人達は一瞥するだけでドンドン横を通りすぎていく。

 ここではコレが当たり前なのだろうか…。

 

 麻帆良学園、死んだ父さんの親友が教師をしていると聞いて、大喜びで修業を受けたけど、来て早々こんな人達ばかりの生活に不安を感じる。 僕の父さん、千の呪文の男の親友、タカミチからは“とあ”という名前で『凄く良い人だけど、凄く変な人』と聞いたけど一体どんな人だろう。

 特徴を訪ねても、変な人と思ったらその人だからとしか聞いていない。 まさか、ね…。

 

 「貴女は失恋の相が出てますね、かなりドギツイのが…」

 

 「な、なんだとこんっガキャー!?」

 

 そんな!? どうして僕を怒るんですか!

 ウソつくわけにもいかないのに!

 

 「で、でも安心してください! その代わり、今年中には運命の人と出逢える相が出てますから!」

 

 もちろん、これもウソではない。 何故か凄く歪な感じだけど、とても大きくて優しくて暖かい者が見える。

 

 「グギギ、明日菜ちゃんは良いよね、失恋でも良い出逢いがありそうで。 ポチとか…ッ!」

 

 無限に死ぬ運命の人は、目に光が消えた状態でゆっくりと立ち上がった。 歯軋りの圧力が凄い、そしてポチって変な名前…。 

 

 「アンタ、黙っていれば良いのよ、口を開くと最悪だし。 柿崎なんてアンタが担任になるって聞いた時は大喜びだったのに」

 

 「うそぉ!?」

 

 「せやけど、初日のやらかしで正体に気付いて死んだ目ぇしてたなぁ。 だから彼氏作ったみたいやで」

 

 初日にやらかしって、何したんですか…。

 

 「えーと。 確か、クラスの中で誰が安産型か目視でランキングづけしてたような…」

 

 頭を捻りながらポツリと出たポチさんの一言。 逮捕されてもおかしくない。 

 ああ成る程、これでやっと理解したというか納得したかな…絶対この人変な人だ。 名前とか違うけど間違いない、この人凄く変な人で絶対に“とあ”さんだ。

 

 「貴方が“とあ”さんだったんですね…」

 

 「え? なんでポチの本名知ってるの? まさか、ストーカー!?」

 

 どうしてそんな風に考えるんですか!? 僕のことは連絡が入っているはずなのに的ハズレにも程がある!

 なんか面倒くさい人!

 

 「僕はネギです! ネギ・スプリングフィールド! 今日から貴方と一緒に2─Aを担当することになった!」

 

 「ネギ!? ネギかぁ……ネギと言えば最近ねぎま食ってないな。 今夜は新田ちゃんとねぎま食いに行くか…」

 

 こ・の・ひ・と・は…ッ!

 

 「えええ! アンタが担当するの!? じゃあ高畑先生は!?」

 

 タカミチは出張が忙しくなってきたから、担任を出来ないって言っていたっけ。 そういえばこの人、タカミチが言っていた神楽坂明日菜って人みたいだけどタカミチが好きなのかな、だから残念がって…。

 

 「マズイわ! たださえポチのせいでクラスが壊滅しているのに、ストッパー役の高畑先生がいなくなったらそれこそ終わりよ!」

 

 あ、そっちなんですね…。

 

 「ええやん、この子可愛いし、楽しくなりそう」

 

 「…あとはガントルちゃん誘って、刀子ちゃんは……保留って、何いいいいい!? ネギだとおおおおお!」

 

 今更気づいたんですか! 本当に面倒くさいなこの人!

 ポチさんと呼べば良いのか“とあ”さんと呼べば良いのかわからないけど、とりあえず変な人は、僕の顔を穴が開くんじゃないかと思うくらい凝視して何かをブツブツ呟いていた。

 

 「確かに似ているな…。 クソッ、アリカ姫とニャンニャンした結果を目の前に見せつけられているようで腹立つぜ…!」

 

 言ってる意味はわからないけど、多分悪いことを言ってることだけはわかった。 なんか、口元から血が滴っているし。

 

 「可愛らしさを持ち合わせながら、父親の男らしさも併せ持つ。 まだショタでこの容姿とは…、このままではポチの麻帆良学園マスコット化に支障が出る、こうなったらククク…」

 

 怖い! 怖いよこの人!

 助けてー! ネカネお姉ちゃーーーん!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

明日菜とポチ

お気に入りががが。


 【1995年】

 

 「オハヨー。 今日は先生から皆さんに、新しいサティスファクションメンバーをご紹介したいと思います」

 

 教室に入ってきたのは両眼の色がそれぞれ違う、鈴の音が鳴る髪留めをしたツインテールの女の子。 無表情で顔立ちが非常に整っているせいか、人形のようなイメージを持たれる。

 

 「……」

 

 ポチが黒板に子供達へわかりやすいよう、平仮名で“かぐらざか・あすな”と書いた。 みんな仲良くしてねーっと、自己紹介を済ませたが転校生は何も喋ることはない。

 

 「ちょっとアナタ、なんですのその態度と目つき。 ポチ先生に全て任せるなんて転校生のくせに生意気じゃないですこと?」

 

 先陣を立ったのは突然の転校生にも怯まないクラスの委員長、雪広あやか。 

 

 「あ、あやかちゃん? 俺は大丈夫よ? だから仲良くして? ほらデュエッ! すぐさま仲直り出来る秘密の呪文だから唱えて」

 

 「なんですの、それ…」

 

 相変わらず訳のわからないことばかり言う自分の担任に困惑、彼女が明日菜から目を反らしている時、小さく何かを呟いた。

 

 「アナタ、今何かおっしゃいました?」

 

 「────」

 

 「は?」

 

 「良い子ぶってんじゃない。 ガキ」

 

 「がっ!?」

 

 ブチぃ! 切れちゃいけない何かがキレた音が教室に響く。

 

 「な、なんですってぇ! ガキはどちらですの! このチビ!」

 

 「それがガキって言ってんのよ、バカ」

 

 キャットファイトォ! レディィィ、ゴオオオ!

 取っ組み合いの喧嘩が始まった、周りの子供達は囃し立てるだけで誰も止めようとしない。

 

 「おいいいいい!? 仲良くしろおおお!? 君ら出会って三分後喧嘩とかどんなカップラーメンだよ! ほら、喧嘩は止めて! 呪文を唱えて! デュエッ! デュエッ! デュエエエエ!」

 

 『ポチうるさい!』

 

 「ひぃ!」

 

 「ポチいいいいい! 貴様また、私の羊羮食べたなあああ!」

 

 混沌とした教室に更に乱入したのは飼い主のエヴァンジェリン。 犬歯を剥き出しにしてドアをぶち破ってきた。

 

 「エヴァンジェリン!? 丁度良かった! 助けて、この二人止めて! やっぱり俺が先生なんて無理だったんだ!」

 

 「はぁ? …全く、しょうがないな。 貸しだぞ」

 

 これがこの四人が一緒に顔を合わせた始めての日である。 初日から最悪だった。

 

 「ええい、大人しくしろ! おい貴様! 障壁をナチュラルに壊すんじゃない、ゴリラか! そしてポチいいい! 逃げるなあああ!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【2003年】

 

 「殺殺殺殺殺」

 

 「……」

 

 ポチに案内される形で2─Aに向かうネギ。 自分よりも大きな背中からは、どす黒い怨念のようなものが滲み出ている。

 囁く呪詛の言葉は少年の胃をキリキリ痛めた。

 

 「さぁ、ネギ君。 着いたよ」

 

 しかし、一度振り替えれば満面の笑み。 晴れ晴れとした笑顔に戸惑いながらもネギは教室のドアに手をかける。

 

 「…む、ドアが少し開いている?」

 

 ポチだけはすぐに気づいた。 典型的に仕掛けられる悪戯、ドアに挟んだ黒板消しの存在に。

 くっ、先に向かった明日菜ちゃん達からネギ君のことを聞いて誰かが仕掛けたな…! ネギ君の低い身長では気付いていないみたいだし、これに引っ掛かってしまえば爆笑、間違いなくクラスと馴染んでしまう!

 んなことさせるかよー! その悪戯にはポチが受けてやるぜー!

 クラスの人気者は俺だー!

 

 「ネギ君、退くんだ!」

 

 「え…」

 

 無理矢理引っ張って俺の頭で黒板消しの直撃を喰らう。 わぷ。

 

 「イヤー、マイッタナー、ヒッカカッタナー」

 

 「“とあ”さん、今、わざとですよね。 なにがしたいんですか…」

 

 へへ…! これで可愛らしいドジッ子ポチの誕生だぜ……って何かに躓いた!?

 苦笑いのフリをしながら一歩踏み出すと、更に仕掛けられていたロープに躓いて転げ回っていく。

 

 「ぐお…! い、いやー参ったなー引っ掛かったなー」

 

 「ちょっとポチ! せっかくボクが仕掛けたのに無駄にして!」

 

 上から怒鳴り付けるのは、チビッ子双子の姉、鳴滝風香ちゃん。 あらあらパンツ見えてる。

 …つか、あれ? 期待していたのとは違う?

 ポチ的にはやだもー、ポチってばお茶目さん! ってな感じになるのを期待していたんだけど。

 皆さん、空気読めよ…みたいな雰囲気が。 うう、ポチ虐めが酷い、動物保護団体に訴えてやる!

 

 「あの、“とあ”さん? そろそろ退いてくれませんか、僕の自己紹介が出来ないんですけど。 ていうか退いて」

 

 ネギ君黒いな!? 出逢って初日で敬語止めてるよ!

 当然、ポチとは違い一気に人気者へなったネギ。 その、あまりに楽しく女の子達に遊ばれている様子を見て、駄目犬は更に嫉妬の炎を燃やした。

 

 「呪呪呪呪呪」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「ネギ君の授業、どう?」

 

 「まぁ、ありじゃないか」

 

 お昼。 屋上でエヴァンジェリンと一緒に茶々丸が作ってくれた弁当を広げるポチ。

 因みに茶々丸自身はハカセと超ちゃんからメンテナンスを受けているようだ。 今度、ポチの“式”もメンテナンスしてもらおうかな、色々秘密が知れそうだし。

 それにしても、エヴァンジェリンが人を褒めるなんて珍しい。 俺なんてずっと一緒にいるのに2年くらい前しか褒めていない……いや、あれは褒められてないな。

 更に3年前のやつは……これは褒められたとは言えないし、あれ? 結局一度も褒められたことなくね?

 ペットなのに扱い酷くね? ストライキや、ストライキ!

 

 「十才にしてあの秀才ぶりは中々ない。 まだまだフォローは必要だろうがな」

 

 背が低いから黒板に届かなかったり、子供だから可愛がられたり、どちらもどうしようもないものだ。 だが、やはりそれでも勉学を教える教師としては上手いの一言、生真面目な性格もあり向いていると言える。

 

 「みんな、基本的真面目に受けていたしね」

 

 「お前みたいにならないから安心したんだろう、千雨は泣いて喜んでいたぞ」

 

 ずっと普通の授業を受けたかった彼女にしては、子供先生でどうなるか不安でいっぱいだった。 ポチのうろ覚えで語る適当なクトゥルー神話や因果律について、論破と同時に投げつけられる千雨のツッコミは暫く見れなくなりそうだ。

 

 「それにナギ・スプリングフィールドの息子が来てくれたのは、私にとってかなりの朗報だ」

 

 「え、もしかして…」

 

 「ああ、ぼーやの血を吸えばこの呪いから解放される! ハハハ!」

 

 「なにー!? ズルイぞ、ひとりだけ!」

 

 薄情な飼い主には髪の毛クシャクシャしてやる! このこの!

 

 「ええい! 止めろ! もう私は修学旅行から置いてきぼりにされたくないんだよ!」

 

 それは此方の台詞! 俺だってここから出て秋葉原に行きたいんだ!

 大の大人同士、みっともない取っ組み合いが始まる。 体格ではポチが勝るが、最弱でも強いエヴァンジェリンの合気術はそのハンデを埋めるには充分すぎた。

 9:1でポチがボコボコにされてる。

 

 「ぐぬぬ、エヴァンジェリンだけおいしい思いをさせるか!」

 

 「器が小さいな! ペットなら飼い主の望みを叶えてやるのは本望だろう!」

 

 「残念でしたあああ! ポチに世の中のルールは通用しませえええん!」

 

 「安心しろ! 例えお前が因果に縛られない存在だとしても、私のルールがお前のルールだ!」

 

 「厨病め! 一々格好いいんだよ!」

 

 「当然だ! 私は悪の魔法使いだからな!」

 

 「へー、エヴァちゃんって魔法使いだったんだ」

 

 「ふははは! 今更気づいたか、って────え?」

 

 喧嘩に夢中だったせいか、組み合っていた二人の横には神楽坂明日菜がほほう、といった表情で座り込んでいた…が、全く気付いていなかった。 突然のことに涙目になりながら抱き合い、叫び声をあげるエヴァンジェリンとポチ。

 

 『ぎゃあああああ!?』

 

 「あれ、なんかデジャヴ…」

 

 明日菜ちゃんが首を傾げているけど、そんな場合じゃない!

 

 「大変だよ、エヴァンジェリン! このままじゃオコジョにされちゃうよ! 俺、飼い主がオコジョなんて嫌だよ!」

 

 「おい! 何故私だけがオコジョにされるように言うんだ!?」

 

 「あ、やっぱりオコジョにされちゃうんだ。 ネギの言ってた通りね…」

 

 明日菜が呟いている間に、懐からシリンダーに詰め込まれた魔法薬を取り出すエヴァンジェリン。 焦りで手が震え、目が逝っちゃってるが、記憶を消すなんぞ封印状態だとしても楽勝だろう。

 

 「よ、よーし…。 動くなよ、神楽坂明日菜。 ちょっと頭がパーになるがなに、貴様は元々パーだからな安心しろ、ククク…!」

 

 明日菜ちゃん逃げてえええええ! 超逃げてえええええ!

 

 「パーって何!? 怖いんだけど! え、ちょっと待っ…!」

 

 「記憶よ消えろ!」

 

 その時、不思議なことが起こった! 完璧だったはずのエヴァンジェリンの魔法、何故か不発に終り、明日菜ちゃんの洋服下着を全て消し去ってしまったのである!

 色々見えた。 てか全部見えた、パ〇パンだった。

 

 「こ、これは…すまん」

 

 エヴァンジェリン自身も目の前の光景に混乱しているのか、目を丸くしながらも思わず素で謝ってしまう。 どうしてこうなった。

 

 「え、エヴァちゃんの……バカぁーーー!」

 

 顔を真っ赤にして号泣。 エヴァンジェリンの物理障壁をアッサリと破壊するチョップが彼女の頭頂部に直撃する。

 

 「がくっ」

 

 おいいいいい!? 最強と呼ばれるエヴァンジェリンの障壁破壊するとかどんな威力だよ!

 明日菜ちゃんは次元将ガイオウか!? しかしながら、うーむ。

 素晴らしい肉体美ですな、でも思ったとおり少し細すぎるからもうちょっと太った方が良いよ。 今のところパーフェクトは古ちゃんだから。

 

 「何はともあれ、眼福」

 

 良いもの見せていただきました、ご馳走さまですッ!

 

 「アンタも死ねーーー!」

 

 「ありがとうございますッ!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 目を覚ますとエヴァンジェリンの家にいた。 家主は明日菜ちゃんと一緒にお茶を飲んでいるらしく、比較的和んでいる。

 真新しい制服を身につけている明日菜ちゃんだが、どうやらエヴァンジェリンが用意してあげたようだ。 下着も弁償したが、彼女の派手な趣味のせいで合わなかったためか受け取らなかったらしい。

 …つまりノーパンか、ゴクリ。 やべ、睨まれた。

 茶々丸ちゃんは主の制服を明日に備えてアイロンがけ、俺達を連れ帰ったのもこの娘らしい。 ホント頼りになるわぁ。

 

 「にしても、ネギ君の魔法がバレるなんて。 しかも明日菜ちゃんに…」

 

 「本屋ちゃんを助けるとこを偶然見てね」

 

 うーむ、まさか初日にバレるとは思わなかったけど、こればっかりは仕方ないや。 明日菜ちゃんだし、この娘は昔から義理堅いから言いふらしたりする心配はまずないだろう。

 ネギ君から魔法使いの存在を知った彼女は、ネギ君の亡くなった父親と俺の話しも聞いたみたいで、更に茶々丸ちゃんから屋上の情報を手に入れ向かったらエヴァンジェリンと俺が喧嘩している場面に出くわしたようだ。 わざわざ何しにきたの?

 

 「なんて言ったらわからないけど…。 ネギが、アンタは記憶喪失で父親の話しを聞けなかったって、それで本当か聞こうと思ったし。 アンタが記憶喪失ってのに驚いたから聞きたいってのもあったし、魔法関係だったってのも驚いて……とにかく色々聞きたかったの!」

 

 「大丈夫、言いたいことはわかるよ」

 

 説明が上手く出来ないというか、まだ結構混乱しているんだよね。

 

 「確かに俺は記憶喪失だよ。 昔の話しを聞いても魔法関係者だったのは間違いないみたいだし、ネギ君のお父さん、ナギの知り合いだったのもね。 彼のことは知ってるけど、それは全て人伝で聞いたもの。 だから話しようが無いんだ」

 

 唇をきゅっと結んで俯く明日菜ちゃん、何故にそこまで深く考えてるの? ポチ、不安になっちゃう。

 

 「なんだ神楽坂明日菜。 貴様ぼーやが気になるのか? それでは雪広あやかのことを悪く言えんなぁ」

 

  ニヤニヤ楽しそうですね。 エヴァンジェリン、最近の明日菜ちゃんに苦手意識あったし、明日菜ちゃんはエヴァンジェリン大好きなんだけど、この幼女はツンデレだからな。

 

 「違うわよ! エヴァちゃんだって知ってるじゃん、わ、私も昔のことよく覚えてなくてカラッポみたいな人間だったの…」

 

 自分と同じ境遇を持つ俺に何かしらのシンパシーを感じているのだろうか。 今では当たり前だが、こうして思い返すと一緒に過ごしている間にメキメキとこの娘は元気ッ子になったからかなり驚きである。

 

 「だからさ、私もポチになんかしてあげられないかなって…」

 

 「いや、イイッス」

 

 「軽っ!?」

 

 「いやいや、明日菜ちゃんも人のこと言えないよ? あまり昔のこととか気にしてないし、俺達もそんなの気にしないで遊んでいたからさ」

 

 まぁ、あやかちゃんとは喧嘩ばかりだったけど、きっとそうだと思うな。 俺もそうだし、黙って茶を啜るエヴァンジェリンも…ね?

 

 「余計だった?」

 

 「そんなことないよ、ありがと。 ポチ、明日菜ちゃんのそんなとこ好きよ」

 

 「…あんま嬉しくない“好き”ね」

 

 えええええ!? いや、おかしいでしょ!

 今メッチャ良い雰囲気だったじゃん! 俺メッチャかっこ良かったじゃん!

 なのにいきなり態度コロッと変えすぎだよ!

 

 「え、もしかして今の告白のつもり? …ゴメン、私には高畑先生がいるし、ていうか無理だわ」

 

 告白してないよ!? そもそもなんで俺がフラれてんだよ!

 慰めようとして逆に傷つけられるとか斬新すぎる! 記憶喪失よかよっぽどキッツいわ!

 

 「それよりさ、そろそろネギの歓迎会が始まるから一緒に行こう?」

 

 「えー、なんで俺から人気を奪った人の歓迎会にいかなきゃならないのー」

 

 「アンタに人気なんて元々無いわよ! 人間が小さいわね!」

 

 「私も却下だ。 面倒くさい」

 

 「エヴァちゃんまで! そんなんだからみんなと仲良く出来ないんだよ? ほらほら!」

 

 明日菜ちゃんに無理矢理立たされる二人とも。 ポチは単純にパワーで負けているせいだが、エヴァンジェリンはわざわざ投げ飛ばさないで渋々立つあたり、実は満更でもないのだろう。

 

 「茶々丸さんも一緒に。 よーし、出発ー!」

 

 ま、他でもない明日菜ちゃんの頼みなら、聞いても良いや。

 

 




Q・エヴァンジェリンとポチが喧嘩してるけど、障壁どうなってるの?

A・ポチと二人の時は障壁を外してます。 明日菜からチョップを受けたエヴァンジェリンですが、実はこの時も外したままで、ポチは明日菜の謎パワーで破壊されたと思っていますが、実際は違います。

Q・昔に出会っている四人だけど、あやかと明日菜はエヴァンジェリンの存在におかしいと思わないの?

A・登校地獄のおかげみたいです。 因みに明日菜には効かないけど、おバカだから気付いていない。

Q・明日菜の運命の人。 出逢うタイミング、その人の秘密…うっ、頭が…!

A・まだ因子が足りない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

闇の魔法とポチ

今の世代でこのネタが分かるだろうか…。


 

 【2003年】

 

 「そうだよ! なんで今まで気づかなかったんだ!」

 

 「急にどうした…」

 

 なーんか最近面白いことねぇなぁと、別荘でゆっくりと惰眠を貪っていたエヴァンジェリンとポチの二人、外と違う時間が流れる此処はまさに精神と時の部屋。 かと言って別に修業したりしないが、不老不死のエヴァンジェリンとポチにとってはまさにデメリットが一つもない休日いっぱいの夢の国である。 ハハッ、ヨウコソ! エヴァーランドヘ!

 

 「闇の魔法だよ! あれって相手の魔法を取り込んでも使えるでしょ!」

 

 「ん、あ…ああ。 そういえばそうだな…」

 

 「あれでパワーアップすれば必殺技じゃん!」

 

 確かに、何故今まで気づかなかったのか。 魔法を己の肉体に取り込んで身体能力を底上げする禁術だが、それは他者の魔法でも可能だ。

 ほとんど魔力も障壁も持たないポチにとってはパワーアップだけでなく防御用としても使え、会得さえ出来ればまさに一石二鳥だが…。 この馬鹿にそれが出来るかどうか、無理だな。

 

 「諦めろ」

 

 「結論速い!」

 

 「お前は闇って感じではないからな」

 

 闇とは、受け入れる絶対的な包容力だ。 光はその眩さに目を逸らしてしまうが、暗闇はどれだけ見つめても痛みはない、寧ろその吸い込まれそうな空間に惹かれ続ける性質を持つ。

 故に、闇とは月の象徴、雌、母親の愛として例えられていた。 あらゆる生物が安心していられる母の腕の中。

 甘く、官能的で原種のエロスであるそれらから抜け出すことは難しい、だからこそ闇は危険なのだ。 それをこの馬鹿が持っているかと考えれば、まずないと言い切れる。

 

 「いや、ちょっと待て…」

 

 確か、“とあ”として戦っていた時、ヤツは一度だけ闇の属性を持つ攻撃をしていた。 アルビレオが言うには重力攻撃の究極技法だと言っていたが、間違いなく此方の魔法を吸収して消滅させていたのをハッキリと覚えている。

 幸いにもポチは不老不死だ。 適正が無くとも死なんし、とりあえず精神世界云々は無視して、詠唱呪文とコツだけを教えて試してみるか…。

 

 「やってみよう。 やり方を教えてやる」

 

 「わーい! やったー!」

 

 キングサイズのベットから這い出て、被害を抑えられる砂浜に移動する。

 

 「呪文は【固定。掌握。魔力充填『術式兵装』】だ」

 

 「お、結構短いね! 覚えやすい!」

 

 まるで尻尾と耳をピコピコしているような笑顔、ちょっとでも楽出来ると嬉しそうだな。 だが、いつまで笑っていられるか。

 

 「よし、右手を突きだして構えろ。 いいか、大切なのは受け入れる心だ」

 

 「受け入れる心ね…」

 

 「そうだ」

 

 「ならばポチは受け入れる! エヴァンジェリンが残念吸血鬼であることを、明日菜ちゃんが馬鹿であることを! 刹那ちゃんが百合であることを、木乃香ちゃんが刹那ちゃんの嫁であることを! タッツーが軍隊系お姉さんであることを、最近ネギ君が俺に対する扱いが雑なことを! タカミチがポチの尻穴を狙って……いや、流石にこれは………でも、先っちょだけなら許す! 遊戯王の調整中も! ヴァルヴレイヴのシナリオも! 電脳冒険記ウェブダイバーが生まれる時代を間違えたのも! 東京ミュウミュウが生まれる時代を間違えたのもおおおおお────「長いわっ!」────以下省略、ポチは全てを受け入れるッ!」

 

 「いくぞ。 リク・ラク・ラ・ラック・ライラック! 来たれ氷精、闇の精。 闇を従え吹けよ常夜の氷雪。 闇の吹雪!」

 

 吹雪と暗闇が直線の塊となって放たれる。 直撃する一歩手前で【固定】の呪文を詠唱し、ポチの手の先で闇の吹雪が凝縮された魔力その物へと変化するが……これは意外と簡単に出来る、問題はここからだ。

 これを握り潰し、取り込むことが闇の真髄。 お前に出来るか、“とあ”!

 

 「掌握! 魔力充填! 術式へい────あ、出来た」

 

 「何いいいいい!?」

 

 待て待て待て待て! そんなアッサリ出来るのか?

 有り得んだろう!? お前は何を考えて受け入れた!

 信じられないが、実際にポチの肉体は闇の魔力が溢れ出ており、皮膚の色が褐色に変化している。 無論、見た目だけではなく力の片鱗も感じられた。

 

 「ヒャッハー! 最高だぜー!」

 

 少し、テンションが気持ち悪いが余程嬉しいのか、それとも闇の影響だろうか。 しかし、まさかコイツが闇とは…。

 

 「ん? あれれ?」

 

 普段は馬鹿な言動ばかりしているが、実際はその奥底に負の感情を持っていたということか。 私の知らない何処かで己に生い立ちに涙したり、怒りを溜め込んでいたり。

 クソ、少しは私を頼れば良いものを。 私はお前のおかげで今こうして平穏で幸せな日常をおくっているのだぞ。

 

 「ね、ねーねーエヴァンジェリン!」

 

 なのにそれを無視して全てを我慢し続けるなんて、寂しいではないか。 お前にとって私はその程度の存在だったのか?

 私ではナギのようにお前を受け入れることが出来ないとでも? 機械の身体であったこともだ、確かに驚いたがそんなもの吸血鬼である私にとって些細なことでしかない。

 これからもだ。 例えお前にこの先、地獄のような運命が待っていようと私は抗う。

 お前が幸せをくれたように今度は私がお前に幸せと平穏を与えたい。 そしていつかはお前と結ばれ────。

 

 「エヴァンジェリン! 大変! 大変!」

 

 「喧しい! 今、良いとこなんだ! 少し黙ってろ!」

 

 「なんかマジでヤバいんだって! 頭の中でさっきからエラーエラーって警告音みたいなのが流れてる!」

 

 「は?」

 

 「あああ、ヤバいヤバい! これアレだ、爆発するパターンだ! アスラン逃げてえええ! 母さん…僕の……ピアノ……」

 

 次の瞬間、大☆爆☆発! ニ、ニコルううううう!?

 内部から破裂したポチの身体はバラバラに吹き飛び、砂浜には大量の臓器や骨が転げ落ちた。

 

 「なんでそうなる…」

 

 検証結果。 腕に闇の魔法の特徴である模様は入っていた、適正は確かにあったが、何故か爆発する。 以上。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「ちょっとネギ君聞いてる? もうホントに痛かったんだよー?」

 

 は、はぁ…そうなんだ。 それより僕、“とあ”さんが不死身なの初耳なんだけど…そんな簡単に教えて良いのだろうか。

 

 「あれ、そうだっけ? ていうか“とあ”は止めて、俺のことはポチって呼んで」

 

 そっちが好きなの!?

 

 「それよりポチさん、少しは手伝ってよ。 今度の期末テストで2─Aが最下位だと僕は正式な教師になれないんだから」

 

 「えー、ネギ君がんばってよー、これはネギ君の修業なんだからー」

 

 2─Aが今まで最下位だったのは誰のせいだと思ってるの!?

 

 「タカミチ?」

 

 違うよ! それ絶対違う!

 タカミチは出張で仕方なく空けることが多かったのに、真面目に授業を行わない貴方のせい!

 

 「じゃあさ、魔法で何か無いの? 頭良くなるヤツとか」

 

 あることはある。 三日間だけ凄く頭が良くなるが、代わりに副作用としてパーになる禁断の魔法が。

 でも、これを使うのは流石に…。

 

 「それだ! それ使おうぜ、ネギ君!」

 

 「アホかぁー!?」

 

 「きゃいん!?」

 

 職員室に呼び出していた明日菜さんが、背後からポチさんの頭をチョップで殴る。 犬みたいな鳴き声をあげたポチさんは、そのまま床とキスをした。

 

 「ネギ。 この馬鹿の言うことなんて聞いちゃ駄目だからね!」

 

 「勿論です。 反面教師としてお手本にさせてます」

 

 「ネギ君、酷い…」

 

 一番酷いのは貴方です。

 

 「ところで明日菜ちゃんどうしたの?」

 

 「僕が呼び出したんだ。 今度のテストに向けて対策を練ろうかなって…」

 

 勿論、連れてきたのは明日菜さんだけではない。 続けて職員室に控え目のノックが鳴る。

 オズオズといった様子で入室してきたのは、前に僕が助けた宮崎のどかさんだ。 あの日以来、明日菜さんを除いてクラスの中で最も打ち解けた生徒であり、こうして度々協力をお願いしている。

 

 「あ、あの…ネギ先生」

 

 「いつもスイマセン。 僕、宮崎さんに頼ってばかりで…」

 

 「いえ! わ、私も頼られると嬉しいので、ドンドン言ってください…」

 

 「ありがとうございます! じゃあ、この小テストなんですが────痛いっ!?」

 

 痛い痛い! いきなり爪先で頬をグリグリしないで、ポチさん!

 

 「ネギくーん? どういうことかなー? 生徒とイチャラブなんて例え天が許してもポチは許さないよー?」

 

 「べ、別にそんなつもりじゃ…! 明日菜さん、助けてください!」

 

 此方のヘルプに溜め息を吐きながらポチさんを止めようとする明日菜さん、しかし。

 

 「明日菜ちゃん、君は羨ましいとは思わないのかい? タカミチと仲良くなりたいのに、同じ生徒と先生の間がらであるネギ君はすぐにそれをやってみせた。 これが許されるのか?」

 

 言ってることがむちゃくちゃだ!?

 

 「いいわ、ポチ。 もっとやりなさい」

 

 明日菜さん!?

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 その日の深夜。

 

 「うおおお! 死ぬ死ぬ!?」

 

 「ぶるぅあああああああ!」

 

 突然のことだが、学園に襲撃者がやってきた。 幸いにも一人だけのようだが、コイツがむちゃくちゃ強い!

 デカイ斧を振り回して意味不明な叫び声をあげるマッチョな謎の男。 援護にきたガンドルちゃんはアッサリと負け、どっかその辺で気絶している。

 進入者は残された俺をターゲットにしたようで、ガンドルちゃんに被害が及ばないようさっきからずっと逃げまくり。 両足を式にして割と全力で逃げるが、全く引き離せない!

 エヴァンジェリン助けてえええ! 殺されちゃうよおおお!

 

 「ちょこまかしてんじゃねぇ! ふぅうぁむぇつのグランヴァニッシュ!」

 

 「ひょえええええ!?」

 

 地面がぶっ飛んで足場が崩される! もうちょっとスマートにやって、周りにバレちゃう!

 つか、これヤバい、回避が出来ん!

 

 「覚悟しろぉ! 犬っころぉ!」

 

 「ギッ…!」

 

 炎の波を纏った斧で大きく斬りつける。 右半身がまとめて吹き飛ばされ、傷口からはたんぱく質と油が焦げる独特な臭みが立ち上った。

 

 「今死ねぇ!」

 

 更なる追撃二殺目。 別の属性、旋風を纏った切り上げが怯んだ身体を襲う。

 下半身丸々切り飛ばされ、出口が出来た胴体から大量の腸がバラバラで飛び出した。 

 

 「すぐ死ねぇ!」

 

 ラスト三連殺の三殺目。 首根っこを骨身が砕ける程掴み、膝頭で蹴りつけながら地面に叩き付けようとする。

 やべ、流石にこれをまともに喰らったら再生に時間がかかるか。 もしその間に木乃香ちゃんや他の生徒に被害が出たら…!

 急いで残った右腕に式を装備、頭部に全再生力を集中させた。

 

 「骨まで砕けろぉ!」

 

 「────ッ!?」

 

 地面を抉るクレーター、想像以上の破壊力。 防御なんて無いに等しいくらい役には立たず、頭だけ残してあとの全身は挽き肉に変わる。

 ちょ、これじゃ動けない。 ヤツの足音が遠退いていく、急いで足止めしないと…。

 

 「どうやらピンチみたいでござるな」

 

 進入者の足音が止まった。 何処からともなく暗闇から少女の声が聞こえ、死角から巨大な手裏剣が襲いくる。

 

 「ぬぅなぁにぃ!?」

 

 ぎりぎりのところで斧を盾に使用。 気合いの一声で跳ね返し、進入者は攻撃の正体を知るため一度下がるが、自身の影をクナイで突き刺され、身動きが取れない。

 この攻撃と捕縛方法、まさか…。

 

 「甲賀中忍、長瀬楓。 只今推参」

 

 「うおおお! 楓ちゃーん! ありがとー!」

 

 メッチャかっけぇ! ヒーローは遅れて登場するって言うけど、本当だったわ!

 

 「ところでポチ殿。 その状態は大丈夫でござるか?」

 

 「大丈夫大丈夫! こんなのアレだから! すぐに治っちゃうから安心して!」

 

 「なら良かった」

 

 ニコニコと楓ちゃんの細目が僅かに開く。 あ、それマジのヤツだ。

 因みに楓ちゃん、俺に対する呼び方が教室と外では違う。 本人からは公私の混同は出来ないとの話しだが…。

 

 「しゃらくせえええ!」

 

 影縫いの縛りを進入者は無理矢理破壊。 再び斧を構えて此方に接近してきた。

 

 「────ゴメンやっぱ無理だわ。 もうちょっと時間稼いで…」

 

 「いやぁ、ははっ。 本当に有言不実行でござるな…」

 

 本当にスイマセン! 呆れたいのはわかるけど、この再生が完了したらとっておきの新・必殺技でアイツぶっ倒すから、頑張って!

 十体の分身を作り上げ向かえ打つ忍。 基本は分身体に牽制を任せ、本体は後方から反撃の機会を伺う。

 多数の分身に翻弄され、苛立ちに顔を歪める進入者。 少しずつだが、斧の扱いに大振りで派手さが目立つ。

 まだ彼方は相手が少女だからと油断しているところが見える、好機は今。 煙玉を使用、煙幕で視界を封じたのち、多重の分身が同時に鎖を放ち、敵の身体を縛りあげる。

 分身の密度をあげるため、十体から四体に減らし、東西南北四方から気で強化した掌打を同時に叩き付けた。

 

 「秘技。 四つ身分身、朧十字!」

 

 「グハァ!?」

 

 会心の一撃だが、致命傷は見当たらない。 足止めで勤まる相手ではないことは、経験で理解していた。

 故に今持てる己の最大攻撃をぶつけたが…。

 

 「やるじゃねぇかぁ。 今のは効いたぜぇ!」

 

 「くっ、やはりタフネスでござる…!」

 

 「だがなぁ! 戦士がアイテムなぞ……」

 

 此方が後退するよりも速く分身体を見切り、長瀬楓自身が捕まる。 マズイ…! 気を最大に高め、自分の肉体の硬度を限界まで上げた。

 地面に叩き付けられ、二度踏みつけられる。 あばら骨が砕ける気持ち悪い感触が伝わるが、敵が斧を振り上げようとした姿を確認すると分身体を残し、瞬動術で一気に避けた。

 

 「使ってんじゃ……ねえええええ!」

 

 欠き消える分身。 一瞬の判断が遅ければ自身があのような目にあっていたと、冷や汗をかく。

 だが、時間稼ぎはここまでだ。

 

 「よし、あとは任せて。 一発で終わらせてやんよ!」

 

 ポチが頼もしい声と共に復活する。 その下半身が丸出しでなければさぞ決まっていたであろう。

 

 「さぁさぁ、来い! 全力全開で来い穴子君! フルチンが相手だ!」

 

 「お望み通り、殺してやるよぉ!」

 

 進入者の闘気が高まる。 斧を前方に構え、刃先から凄まじい闇の波動がチャージされた。

 

 「む! ポチ殿、あれは危険でござる!」

 

 「皆殺しだぁ! ジェノサイドブレイぶるぅあああああああ!!!」

 

 極太のビームが真っ向から迫る。 ポチは回避行動を取らず、ニヤリと嫌な笑みを浮かべて右手をつきだした。

 そして激突。

 

 「固定!」

 

 長瀬楓は目を見開いた。 あれほど強烈なエネルギーの奔流が、渦を巻きながら掌に一つの塊となっていることに。

 

 「馬鹿なぁ!?」

 

 「掌握! 魔力充填、術式兵装!」

 

 魔力の塊を握りしめ、取り込まれる。 衝撃でポチの上半身の服が吹き飛んで全裸になるが、その肉体からは先程の魔力が滲み出ていた。

 

 「なんと…」

 

 皮膚は真っ黒に染まり、僅かにだが筋肉が膨張し、血管が浮き出ている。 まるで魔神だ。

 

 「ハッハー! コイツが、スーパーポチ! …って言いたいけど、やっぱり限界だわ。 刺し違えてその命、貰い受ける!」

 

 「えー…」

 

 ポチ先生の額からおびただしい汗が流れ、口からは「やっぱ、…っべぇ。 超やっべぇ」と焦りの言葉が溢れていた。 何を考えているのか、そのままの状態でダッシュ。

 進入者にしがみつくとそのまま待機。 だいしゅきホールド!

 

 「ぬぉ! は、離せえええ!」

 

 「見てて楓ちゃん! これが楓ちゃんが考えてくれた必殺技だあああああ!」

 

 「まさか…!」

 

 「我が魂魄、百万回生まれかわっても! 恨み晴らしたるからなああああ!」

 

 「有り得ん! 有り得んぞおおおおお!」

 

 

 

 ───【爆遁・畜生自爆の術!】───

 

 

 

 炸裂閃光。 これで何回目の爆発だろう…。

 ポチはバラバラになる肉体を沁々と感じながら、悲壮に気絶した。 進入者は零距離のジェノサイド爆発を喰らい倒れ、その身体が光の粒子となって消滅する。

 

 「…世界は広いでござるな。 まだまだ強い者は沢山いる」

 

 長瀬楓の呆れて良いのか、感心して良いのかわからない感情を載せた言葉が、深夜の森に響いた。

 

 

 




良い敵役がバルバトスしかいなかった。 別にテイルズとはクロスしないので安心してください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

登校地獄とポチ

基本は原作の年表ですが、今回は少し違います。
そのうち、わかりやすくまとめた物を作りたい。


 【1991年 3月】

 

 「頼む、行かないでくれ! 私を置いていくな!」

 

 麻帆良学園、学園長室を小さな女の子の悲痛な叫びが揺らす。 真新しい中等部の制服を身に纏い、強気な瞳が一人の人物に注がれた。

 今この場に学園長である近衛近衛門と千の呪文の男、ナギ・スプリングフィールド、その妻アリカ、従者であるアルビレオ、そして全身をマントで覆った鎧の青年が集っている。 女の子、エヴァンジェリンは鎧の青年に懇願するように、マントの裾を掴み何処にも逃げないようにした。

 

 「それは出来ない…」

 

 だが、青年はエヴァンジェリンの願いを受け入れられなかった。 普段は明るい彼の言葉に力はなく、周りの者達も静かにその様子を見守っている。

 

 「何故だ! 私が吸血鬼だからか!」

 

 「…そうだよ」

 

 空気が一気に冷え固まるような台詞。

 

 「…っ!?」

 

 エヴァンジェリンは驚愕に目を見開く、絶望に歪んだ表情が周りにはあまりにも痛々しかった。 だったら何故救った、何故私に優しくした。 

 今までそんな素振りも見せずに急に言われて、私がどれだけ傷付いているのかわかっているのか。 これならば、いっそのことあの時死ねば良かった。 

 その、嘘に塗り固められた心と光で、毎日馬鹿なことが楽しく笑えて幸せで。 それがなんだ、どうだこの痛みが、貴様にわかるかこの苦しみが!

 

 「貴様なんぞ、死ね! 死んでしまえ!」

 

 エヴァンジェリンのか弱い拳が鎧に何度も叩き付けられる。 皮膚が破け、血が滴り、骨が見えてもなお、止めようとはしない。

 見かねたアリカが止めようとしたが、それよりも早く青年が動く。

 

 「死ね! 死ね! 死────」

 

 「必ず向かえにくるから…」

 

 彼女を強く抱き締めた。 妙な暖かさが鎧を通してエヴァンジェリンに伝わり、それにより彼女の目尻から涙が溜まる。

 この暖かさだ。 これが自身を癒し、そして苦しめる。

 本当にこの男は何もわかっていない…! けして涙を流しているとこを誰にも見せぬよう、青年の胸に顔を埋め、腕の中から逃げ出そうと身をよじった。

 青年は離さない、そのまま胸を殴りつけられ、どれだけ罵倒されようと。 エヴァンジェリンの抵抗が落ち着き、小さく震え始める。 伏せられた顔からどのような表情を浮かべているのか、わからない。

 

 「ここは安全だ。 結界が守ってくれる」

 

 「何の、話しだ…」

 

 青年の含みある言葉に何かが引っ掛かった。 まるで、危険な存在から自身を隠すために、或いは彼らがその場へと向かうかのように。

 

 「何か、何かあるんだな…! お前達は何かと戦う為に私を遠ざけて! なら、私も戦う! 私を連れていけ! 私が強いのは知ってるはずだ!」

 

 「それだけではないのです、エヴァンジェリン…」

 

 アルビレオの淡々とした言葉は、一つの事実をハッキリさせた。 やはり彼らは何か理由があっての決断だったのだと。

 だが、それだけではないとは、どういうことなのか。

 

 「教えられないのか?」

 

 青年は頷く。

 

 「お前が悪いんじゃない。 ただ、俺が臆病なだけなんだ。 ヤツとの決着をつけたらきっと、俺はちゃんとお前を受け入れられる気がする。 そしたらエヴァンジェリンちゃん、お前に“俺の全て”を教えたい」

 

 全て。 鎧の中身、力の秘密、生い立ち、そして“本当の名前”を

 

 「それまでこれを預かって待っていてくれ」

 

 青年の鎧の胸部が十字に切れ込みが入ると、ばつ印に開いた。 網目状に回路が張り巡らされている鎧の中身、逆三角形に丸いピンポン玉台の三つの窪みが特徴的で、右側には何もなく、左側心臓の位置には真っ黒い玉が埋め込まれており、中心下部には透き通った深紅の玉が埋め込まれていた。

 青年はその内の一つ、深紅の玉に手を翳し、一回り小さい玉としてを抜き取るとエヴァンジェリンに渡す。

 

 「それは俺の心そのものだ。 何かあればお前を守ってくれる」

 

 「お前の心…」

 

 光を放つのに痛みはなく、仄かに暖かく、優しい色だ。

 

 「わかってくれ、エヴァ」

 

 「……」

 

 エヴァ。 彼はこれまで自身のことをちゃん付けで呼んでいたが、今日この日初めて余計な物を取り払い呼ばれる。

 アリカにでさえそうであるのに、その事実がエヴァンジェリンの胸を高鳴らせ、そして彼の決意の強さを感じ取った。

 

 「俺のように光の中で生きて、悲しいことは忘れ去るんだ。 それでも寂しい時は握っとけ、そして俺が無事に帰ってくるのを願ってろ」

 

 いつもの無駄に明るい声がかけられる。 エヴァンジェリンはそれを両手で強く握り締めた。

 

 「必ず帰ってこい。 もし破ったら殺す、貴様が後悔するほど何度も殺してやる」

 

 「それはマジで怖い。 けど、らしくて良いね、約束する」

 

 青年はゆっくりと立ち上がり、ポンポンとエヴァンジェリンの頭を撫でる。 口では言ったが本当は離れるなんて嫌だった。

 例え危険な目に遭うとしても私はそれで構わなかった。 お前のそばにいられるだけで怖いものなんてない、恐れるものなどない。

 ただお前に捨てられることが、失うことが何よりも怖かった。 だが、お前はそれだけではない何かを恐れている。

 私では解決出来ない、お前自身の問題に。 ならば私は待とう、与えてくれた光の中で、忘れ去れるこの空間で、お前が…貴方が勇気を持てるその日まで。

 

 そしてその2年後、彼らは謎の死を遂げた。 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【2003年】

 

 「楓ちゃーん、この前の影分身ってどうやるのー」

 

 「あれは影分身ではなく、ただの分身でござる」

 

 あ、やっぱり違うんだ。 NARUTOでは分身はただの幻術で、影分身は質量を持ったタイプだったもんな。

 でも楓ちゃん、分身なのに明らかにダメージ与えていたよね。 どうなってんのあれ、出来れば螺旋丸の開発に役立てたいのだけど。

 

 「あれは超高速に移動して、本体が直接攻撃してるにすぎない。 因みに拙者、未完成ながら螺旋丸使えるでござるよ」

 

 「マジで!? チャ、チャクラって実在するの!?」

 

 「チャクラではなく、気を代用しているでござる。 漫画を見てやってみたら、これが思いの外上手くいったゆえ。 あとは気の練り具合を上げればもうすぐ完成しそうでござる」

 

 あー、楓ちゃんも漫画見て、あれ? これって意外とやってみたら出来んじゃね?…のタイプだったか。 かめはめ波とか六式もやったのは俺だけじゃないはず。

 しかし、気かぁ。 俺、尻から出るんだよね。

 なんでグルグルみたいに尻から出るんだよ、魔法じゃねぇのかよ。 尻からの螺旋丸とか精神的苦痛でしかないわ。

 おかげで瞬動も使えない、多分全力で出せばちょっとだけ飛行出来る程の出力は出そうだが確実に痔になるか、最悪下半身が消える。

 

 「いいなー! ポチも格好いい必殺技欲しい!」

 

 「では放出系は諦めて、体術系の必殺技はどうでござろう」

 

 やっぱり、六式とか? ツボの位置を覚えれば北斗神拳擬きとかやれそうだが…。

 

 「実はポチ、古ちゃんや刹那ちゃんに弟子入りしたことがあるんだよね…」

 

 「ほほう、それは良い相手を選んだでござるな。 しかし、その様子から察すると…」

 

 そう、俺にはまるで才能がなかったのである。 剣の腕どころか武術そのものが。

 技の練習してもなんか変だし、剣を振れば飛んで、脳天にぐさぁ。 最終的に古ちゃんは匙投げて、刹那ちゃんフォローしようとオロオロしてたわ。

 確かに昔話とか聞くと、基本式の力に任せてぶん殴ってばっかだったなー。 でもアホみたいなスピード持っていたみたいだし、回避とかどうしていたんだろ。

 これがどこぞの劣等生みたいに実は能力隠しているとかだったらクソかっけぇのに。 今のポチ、全部能力出してこれよ、さらけ出しすぎて警察にお世話になったわ。

 仮にあったら、さすおにならぬ、さすポチだな。 …あれ? なんで殺される感じになってるの?

 

 「やっぱ、式を完全に使いこなせないといけないのかな」

 

 「それだけが貴方の強さではないですよ」

 

 「むむ、この渋いダンディーな声。 タカミチか!」

 

 振り替えればいつの間にかニコニコ笑顔のタカミチ。 あの、気配殺して近づくのいい加減止めて? 楓ちゃんもびっくりしてるよ?

 

 「…拙者の背後を。 前から感づいていたが、やはり只者ではないでござる」

 

 「どーだ驚いたかい楓ちゃん! タカミチはこれでもAAランクの魔法使いなんだぜ!」

 

 「どうしてポチ先生が自慢してるでござるか…。 確かに驚きはしたものの…」

 

 だって身内しか自慢出来るもんがないんだよ!

 

 「ところで盗み聞きのタカミチくん! ポチの強さが式だけではないとは、どういうことかね!」

 

 更に俺のそばに近寄り、空を仰ぎ見る。 遠い目をしているその姿はなかなか様になっているなー。

 ポチも同じことやったけど、急にエヴァンジェリンからアッパーカット喰らったからね。 なにすんの!?って聞いたら、顎を差し出していたからてっきり殴ってほしいのかとって。

 んな奴いねぇよ。

 

 「“とあ”さんの強さは確かに式に頼っていたところがありましたが、それを使いこなすだけの凄まじい戦闘経験があればこそだったのです」

 

 「成る程、拙者も大型の手裏剣を使いこなすのに、かなりの日数が必要でござった」

 

 そういえばそうでしたね、被害者が俺だけで良かったよ。 でも経験だけでナギとかラカンみたいなバケモンと並ぶ強さって手に入るの?

 

 「昔の貴方が僕にとってもう一人の師匠と聞いても?」

 

 「えええええ! そうなの!?」

 

 なんかガトウって人が師匠だと詠春ちゃんから聞いたけど。 咸卦法はエヴァンジェリンの別荘で頑張って修得したし。

 

 「あの人からは居合い、いえ…無音拳を教わり、貴方からは戦い方を教わりました。 短い間でしたけどね」

 

 戦い方ってメッチャ気になる。 教わりたいけど、それだと俺からタカミチに、タカミチから俺にって、不思議な構図になるね。

 

 「基本は相手の行動予測することを大事にしてました。 何十通りも予測し、そこへ回避、或いはカウンターを仕掛ける、といった具合で」

 

 予測ねぇ。 でもそれだと、外れた時に大変じゃない?

 右から予測! 残念! 左からでした! バキィ!みたいな。

 

 「ええ。 ですから貴方はその予測を確実のものとするため、相手のくせ、筋肉の動き、足さばき、視線、呼吸、これを戦闘中、経験をもとに瞬時に統合し計算して戦っていたのです」

 

 歩く際、右足出したら、次は左足を出す。 こんな感じで?

 言ってることは理解出来るけど、あらゆる動きからしかも戦闘中でしょ、確かに出来ればとんでもない強さだけど、無理じゃね?

 

 「普通は無理です、僕も未だにあれほどの領域には立てません。 だからこそ昔の貴方は強かった」

 

 「才能を上回る経験。 記憶喪失である今のポチ先生に全くないものでござるな」

 

 ホント、何やってんだか。 しかも楽して強くなろうとする辺り、ポチはクズですね!

 

 「学園長から聞きましたよ。 僕が明日菜君をここへ連れて来る前、エヴァを助けるため一瞬だけ記憶を取り戻したとか」

 

 あの事件か。 と言っても、実際に見たのはエヴァンジェリンと刀子ちゃんだけで、俺は全ッッッく覚えてないんだけど!!! 

 

 「でもだからってポチは記憶を取り戻したりしないもん!」

 

 話し聞くと、無茶苦茶別人だったみたいじゃん!? なんか相手を貴様とか言ったり歯が浮きそうなクサイ台詞吐いたり意味不明な単語を呟いたり、なんかもう嫌すぎた!

 恥ずかしくて死ねる!

 

 「それが本来の貴方なんですが…」

 

 「いやあああああ! ポチは少年の心は残しても、厨病は辞めたいのよ!」

 

 あ、思い出したらサブイボが。 タカミチー! まほらっしー持ってきてー! ちょっと学園内走ってくるからー!

 

 「“とあ”さん。 まほらっしーの正体はA級の機密事項ですよ…」

 

 「なんと! まほらっしーの正体はポチ先生でござったか!」

 

 「その通りらっしー! 楓ちゃんには特別に教えてあげるらっしー! 実は機密事項だったのを忘れていたとか、そんなことないらっしー!」

 

 「みんなには黙ってくれよ、楓君。 夢を壊すことになるから」

 

 「うむ、確かに…」

 

 酷いな楓ちゃん! タカミチも夢壊すとか、本当にポチを尊敬してるのか馬鹿にしてるのかわからなくなる!

 にしてもポチの強さが経験かぁ、必殺技は無かったんだろうか。 なんかもう、ここまでくると昔の俺、必殺技持ってるだろうな、てかフォームチェンジとかありそう。

 

 あれ? 実は記憶取り戻すのが、一番良いじゃね?

 

 

 




本来エヴァンジェリンが登校地獄を受けた年は1989年です。原作では1ヶ月ナギを追いかけましたが、ポチの影響で3年間も一緒にいます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

茶々丸とポチ

 

 【1987年】

 

 「闇の精霊1001頭、集い来たりて敵を切り裂け。魔法の射手・連弾・闇の1001矢!」

 

 星の死を体現した矢が、おぞましい雨となって襲いかかる。 視界が真っ暗に染まる瞬間、銀色の閃光は音速のスピードで僅かに残された場所へ縫うように走り回った。

 ホーミング性能高いな、情け容赦ない攻撃に思わず舌打ちが出る。 徐々に此方を追い詰めるかのように誘導され、最終的に行きつくのは…。

 

 「ケケケ」

 

 血飛沫ぶしゃー大好きなマリオネットの人形。 自分よりも大きな、2mはあろうかという巨大な鉈を降り下ろしていた。

 矢のスピードを考える限り後方、横、上、共に同時に魔法の矢が迫っているため回避は出来ない。 ならば迎え撃つ。

 火花と共にバイザーが上がり、瑠璃色のツインアイが現れる。 チャチャゼロの攻撃予備動作を確認、人形の間接では分かりにくいが目線と芯の形から計算、算出、初撃がフェイントだと見切った。

 ワンセコンドの一瞬、チャチャゼロの降り下ろしキャンセル、次撃は袈裟懸け、これもフェイント。 またフェイント、フェイントフェイント、そして本命きた。

 距離感が掴み難い突きの攻撃、嫌らしい。 鋼の左手甲で受け流し、チャチャゼロの体勢が崩れる。

 

 「オ?」

 

 「フンッ!」

 

 鼻息荒く、鉈を手刀で砕く。 得物を失えば然程脅威ではない、はず。

 未だ此方へ向かってくる1001本の矢を回避するため、更に距離を取り直撃ギリギリまで待機、タイミングを見計らい跳躍した。 勢いを殺せなかった矢は全て地に激突し、足下では先程まで大地であったものが消滅したかのように消し去られている。

 

 「空中では回避は出来まい! 貰ったぞ!」

 

 「エヴァンジェリンちゃん、それ負けフラグ」

 

 闇の吹雪×4が真っ正面に向かってくるが、逆に対処はしやすい。 胸部の装甲を開き、心臓の位置に収められた黒い玉に紫雷が走る。

 超々極少恒星形成。 フェミニ縮退増圧。 重力崩壊開始。 排出。

 黒い玉から拳代の、先程とは違う、鮮やかさを全く持たない黒い球体が飛び出た。 すぐさま掴み取り、闇の吹雪に向け投げ付ける。

 周りの時空を僅かに歪めながら漂うそれは、エヴァンジェリンの魔法をその小ささで全て吸い込み、音もなく黒い球体自身と共に消滅させた。 

 

 「くっ、相変わらず出鱈目な…! 大人しく受けろ!」

 

 「いやいや! エヴァンジェリンちゃんマジで殺す気だったでしよ!? あんなん喰らったら死んじゃうわ!」

 

 モーション込みでもなんとか間に合った。 あれだけの魔法を4発同時とか器用すぎるぞ、この娘! スタミナも高いし、割りとヤバい虎の子使っちまった!

 

 「ふん、それが嫌ならさっさと私のモノになれ」

 

 「だーかーらー! 俺はナギのモノだから駄目なの!」

 

 「安心しろ、本人には許可を貰ってる」

 

 「ナギイイイイイ!!」

 

 お前マジか!? 長年連れ添った相棒をおいそれあげてんじゃないよ!

 あの感動的な出逢いはなんだったんだ! アリカちゃんがいるからって蔑ろにしすぎ、やっぱり女なの!

 女なのね! ムキイイイイイ!

 

 「エヴァンジェリン、今のなかなか良かったぜ」

 

 「だがやはり、あの能力は卑怯だ。 どうにかしないと…」

 

 「今回は隠していたが、アイツは一応、虚空瞬動無しでも空中回避が出来る。 やっぱり動きを封じた方がいいな、馬鹿力を発揮するのも予備動作が必要みたいだからよ。 それが出来りゃ、楽勝だ」

 

 「ちっ、まだ奥の手があったのか…」

 

 後ろから薄情な相棒が、何故かアドバイスを送る。 クソ、お前ら仲良いな、それちょっとだけ俺によこせ! てかアドバイス適格すぎる、マジのヤツじゃねぇか!

 サイドスラスターの存在も教えてんじゃないよ!

 

 「よし、凍てつく氷柩!」

 

 ぐおお!? なんだこれ、全身丸々氷付けされて動けねぇ!

 

 「今だー! ぶっ殺せえー!」

 

 おいいいいい!?

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【2003年】

 

 「家政婦のミタです」

 

 「ほらみろ、また変なのを覚えてきたぞ」

 

 「……」

 

 ちょっとエヴァンジェリン! そんな冷めるようなこと言わないでよ!

 茶々丸ちゃん、メッチャ困ってるじゃん。 困らせてるのは俺だけど。

 

 「いやぁ、最近奉仕精神に目が覚めましてね。 是非とも御奉仕させて頂きたいと」

 

 「その金髪カツラやメイド服はどうしたんですか?」

 

 訊ねてくるのは、別荘内で修行中の刹那ちゃん。 最近刺客の進入が激しくなってきたから、エヴァンジェリンに頼んで貸してあげてる。

 剣の使い手に邪道のチャチャゼロちゃんがいるから、かなりのスピードで上達していくな。 刀子ちゃんでは学べない対応力が付くし、正解だった。

 

 「何故か千雨ちゃんがくれました。 なんで持ってるか知らんけど」

 

 「このうえなく気持ち悪いコスプレだが、まぁ殊勝な心掛けは悪くない。 漸く飼い主に対する誠意が産まれたのなら、それに応じよう」

 

 凄く愉しそうですな。 ふんぞり反ってまぁ、偉そう。

 止めてください、あまりないというか……殆どない胸を強調されても此方が泣きたくなるだけです。 ああ、知らぬとはなんと幸福なことか、その姿が眩しすぎる。

 

 「では身体を舐めろ」

 

 「え、エヴァンジェリンさん!?」

 

 刹那ちゃんが驚いているが、安心してくれい! そんなの余裕よ!

 

 「畏まりました。 では茶々丸さん、服を脱いでください」

 

 「……え」

 

 あ、今一瞬嫌そうな顔した。 それでも平常を保とうとする茶々丸ちゃん、メイドの鏡。

 

 「待てぇい! 何故茶々丸なのだ!?」

 

 「元ロボとしてガイノイドの生態に興味が」

 

 「本音は?」

 

 「ペロペロしたい! 関節の隙間とかペロペロしたいです! ぶっちゃけると御奉仕するのエヴァンジェリンではなく、日頃お世話になっている茶々丸ちゃんに対してです! ペロペロペロペロハァハァしたい!」

 

 「ひっ…」

 

 ガチのドン引き。 茶々丸ちゃん、君絶対ロボじゃないでしょ。

 怯える表情がリアルすぎる、おかげで精神のダメージががが。

 次の瞬間、こめかみ辺りにドシュリと、続けてズドンとした衝撃。 ぶっ倒れながら手で確認したら夕凪と包丁が刺さっていた。

 夕凪もそうだが、包丁の切れ味凄い、骨ごといったぞ。 この白ゲージな切れ味は台所で使われる物ではない、チャチャゼロちゃんお手製のだ。

 

 「俺ノ妹ヲ怖ガラセテンジャネェヨ」

 

 「最低ですね」

 

 「ごめん。 でも手より口が先にきて欲しかったな」

 

 「躾ニハ痛ミガ一番ダッテ知ッテルカ?」

 

 ヤバい、チャチャゼロちゃんがシスコンに目覚めかけてる。 マジ御姉さんの鏡。

 おっと、そうだ。 血が吹き出ないよう慎重にゆっくり抜かないと、メイド服が汚れちゃう。

 ゆっくりゆっくり、治れ治れ────治った。 綺麗に抜けた。

 

 「まぁ、お遊びはここまでにして。 割りと本気で御奉仕させてください」

 

 ワンコの分際でランクが高い茶々丸ちゃんを使うなんて、したっぱプライドが許さないのよ。

 

 「しかし…」

 

 「な、なら私だ! 私に奉仕しろ! ベッドだ、ベッドに行くぞ!」

 

 「あーた、ポチに何させる気よ。 エロゲーの汚いおっさんか」

 

 俺にツッコミさせるあたり、色々溜まってんだろうなぁ。 吸血鬼ってサキュバスの要素を僅かに持っているって、破損したメモリに残ってるし、600年分の性欲とか尋常じゃないと思う。

 最近目力凄いのよ、もうピチピチのJK見たおっさん並のギンギン。 食欲満たせば性欲も静まるから色々頑張ったけど、そろそろ吸血や俺のハラミ、ロースじゃ抑えが効かない。

 

 「茶々丸ちゃん夕飯の買い物行こうぜ! ここは危険すぎて居られない!」

 

 「わかりました…」

 

 彼女にとっては主人の意に反する行為だが、流石にあれはヤバいと感じてくれたのだろう。 いや、ホント優秀な娘だわぁ。

 因みにエヴァンジェリンは刹那ちゃんとチャチャゼロちゃんが抑えてくれてる。 鳥族の力を開放して全力で剣を振るっているが、やはり強いな。

 チャチャゼロちゃんも意外と面倒見が良いよね。 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「にゃー!!!」

 

 「わんわん!!!」

 

 「あの、喧嘩は止めてください」

 

 茶々丸ちゃん、止めないでくれ。 今日こそはこのぬこを倒すって決めたんだ! てめぇ、いつもいつも茶々丸ちゃんから無償の愛を受け取ってんじゃねぇよ、マタタビ持ってくるぞ! にゃーにゃー鳴いて転がるだけで撫でられやがって、ポチなんて五月蝿いと言われて蹴られる始末よ!

 

 「にゃにゃ!(お前だ、いつもいつも脇から見ているだけで! 可愛がらない!)」

 

 「勝てると思うな、小僧ー!」

 

 「にゃにゃあ!(何を!)」

 

 くっ、コイツ…なんだ!? 急にニューなタイプの力を感じる!

 心無しかぬこの体毛に光が…。

 

 「まだ私の知らないぬくもりが内蔵されているというのか…!」

 

 「にゃにゃあにゃあ!(俺の身体をみんなに貸すぞ!)」

 

 『にゃあああああ!』

 

 むおお!? モフモフが、仔猫の大群が…!

 ポチ動け…! ポチ、何故動かんッ! 

 このぬくぬくから逃げられない!(ビクンビクン

 

 「にゃあにゃああああー!(ここから居なくなれぇ!)」

 

 「アオーン!?」

 

 昇天しました。 ぬこの肉布団最高です。

 だが、貴様の魂も持っていく、カミーユ・ぬこん。 がくっ。

 

 「にゃ?(なんだ、コイツ抱きついて…。 ぬくぬくが、広がっていく…)」

 

 「仲直り出来て良かったです」

 

 これが種族を越えたモフモフ愛の力です。 茶々丸ちゃん、理解出来ましたか?

 犬猿の仲とかあるけど、ポチと明日菜ちゃんは仲が良いしね。 例外は鬼くらいだよ、それも暴虐無人な変態金髪ロリ吸血鬼な奴。

 

 「あ、茶々丸さんだ!」

 

 呼ばれた方角には、寮に帰るところだったのか、ネギ君と明日菜ちゃんがいた。 君らも仲良いね、一緒に住んでるって聞いた時はまるで主人公みたいで羨ましくて羨ましくて…くそう、ちくしょう。

 とりあえず、木乃香ちゃんは刹那ちゃんの嫁だと釘を刺したから修羅場にはならないと信じる。

 

 「お二人とも帰りですか」

 

 茶々丸ちゃんが御辞儀をしたので、メイドモードのポチも真似ます。 ペコリー。

 

 「「あ、どうも…」」

 

 あれ? ツッコミなし?

 この姿に対して何の反応もないのは寂しんボーイ…。

 

 「えっと、貴女は…」

 

 はいはい、わかるよネギ君。 この姿に疑問なんでしょ。

 ただのごっこ遊びだから気にしないで。

 

 「エヴァンジェリンのメイドです。式子と呼んでください」

 

 今のポチは“とあ”でもない! ネタキャラ式子ちゃんよ!

 …なんか轢き子さんみたいな感じだけど、口から適当の出任せなのだから気にしないでおこう。 どうやらポチはネーミングセンスのないロボだったらしい。

 

 「式子さんですね。 いつも茶々丸さんやエヴァンジェリンさんにはお世話になってます」

 

 ヤwバwいw。 意外とネギ君がノリの良い子だ。

 わざわざポチのメイドごっこに付き合ってくれてる、じゃなきゃいつもみたいなタメ口になってるよ。 ならばポチも全力でお相手するぜ!

 えー、あーあー、カーッ、ぺッ! よし、喉の調子バッチリ。

 

 「あら、これは御丁寧に。 流石は英国の紳士ですね」

 

 「い、いえ! これぐらいそんな…」

 

 「エヴァンジェリンもネギ君の授業はとてもわかりやすいと褒めていました。 これからも頑張ってくださいね」

 

 頑張ってね、ネギ君。 おかげでポチは働かないで済みますから!

 手も握ってあげる。 草加スマイルもあげる。

 

 「あ、あああありがとうございます…」

 

 …てっきり、貴方も働いてくださいよ!って言われるのかと思ったが、そんなことなかったぜ。

 

 「ちょっとネギ! アンタなに顔赤くしてるの! いつまでも手を握っていない、失礼でしょ!」

 

 「す、すいません!」

 

 「此方こそ御免なさい。 過度なスキンシップでしたね」

 

 まさか明日菜ちゃんもノリノリとは…。 これじゃあ、止め時がわからない。 ツッコミ不在の恐怖。

 

 「では式子さん、僕らはこのへんで…」

 

 「はい。 また明日ですね」

 

 互いにズルズルとそのまま終了。 バイバイと手を振りながら去っていく二人を見て、なんか消化不良な感じ。

 何故だろう、嫌な予感がするが…まっ、いっか!

 

 「エヴァンジェリンも待ってるし、茶々丸ちゃん、帰ろう」

 

 「はい。 ですが申し訳ありません」

 

 え、何が? なんで謝るの?

 

 「私は心を持たないガイノイドであるため、このような場合どうすれば良かったのか、わかりませんでした…」

 

 「よくわからないけど、それは茶々丸ちゃんが知らないだけであって、ガイノイドは関係ないんじゃないかな」

 

 「そうなんでしょうか…」

 

 「今の茶々丸ちゃん見ると、普通の大人しい女の子にしか見えないんだけど」

 

 決まったあああ! ポチ決まったあああ!

 会心の台詞だったぜ、これで茶々丸ルート突入だ!

 

 「ありがとうございます。 …ですがなんでしょう、この残念な空気。 正直────はぁ、姉さんやマスターの苦労を感じます」

 

 なにそれ、なんか胸に刺さるんですけど。 心当たりありすぎて精神の回復追い付かない。

 茶々丸ちゃん? 白目剥いてますけど、本当に大丈夫?

 多分これ、あれだな。 茶々丸ルート開いてないわ。

 

 




Q・エヴァンジェリンの攻撃防いだ黒い玉は何?

A・ブラックホールです。非常に強力ですが、とあは放出系の攻撃が非常に苦手で消費が激しく、攻撃に使用する場合チャージに時間がかかり使えない、無駄に殺傷能力が高いなど欠点ばかり。
ぶっちゃけ殴ったほうが速い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ガンドルフィーニとポチ

シリアスじゃないよー。


 【2003年】

 

 「ポチのマグナムが火を吹くぜ! オラオラ────あ、切れ味落ちた」

 

 「任せなさい! 私が引き付けるわ!」

 

 「ほんならうちは、回復させたる。 発射ー」

 

 「おいポチ! ジンオウガがそっちに行ったぞ!」

 

 昼下がりのある日、教室で携帯ゲーム機を使い人気ハンティングゲームをプレイしていたポチ、神楽坂明日菜、エヴァンジェリン、近衛木乃香の四人。 画面内には白い狼の電撃を必死に避ける女の子の姿が。

 

 「またかよ畜生おおお! なんでさっきから此方に来るんだよ! 犬科にモテても嬉しくねぇんだよ! ひぃぃ肉球スタンプ来たあああ!? ひでぶっ!」

 

 【ポチが力尽きました】

 

 【クエスト失敗です】

 

 「あ、ポチ死んだ。 これで失敗かぁ…」

 

 「ポチはホンマ弱いなぁ、おまけに運もない」

 

 「この下手くそ! こっちは天玉が欲しかったというのに!」

 

 「ひぐ、えっぐ! だ、だってぇ…ジンオウガがぁ…ポチばっかぁ、狙ってくるからぁ…!」

 

 大人が幼稚園児みたいに泣きじゃくっているのを近くで見ていたネギ・スプリングフィールド。 精神年齢が低い彼を見て、お父さんはどうしてあの人を親友に選んだのだろうと心底疑問に思う。

 故郷で世話になったスタンからは父自身悪ガキだったとよく耳にはしたが、彼に関する話しは一度も聞いたことがなかった。 物静かな男の話しは聞いてはいたが…。

 

 そういえばスタンからの話しといえば、闇の福音もあった。 先日、エヴァンジェリンから正面堂々と自分は闇の福音と呼ばれた吸血鬼で千の呪文の男に学園から出られない呪いをかけられ、解除するためにネギの血を頂くと言われたのだ。

 闇の福音、幼い頃から自身の姉とスタンから何度も大量殺人を犯した恐ろしい存在だと耳にタコが出来るくらい言い聞かせられている。 それが自分を狙っているという事実は9才の子供を怖がらせるに充分であった。

 タカミチは出張中、学園長に相談しても心配ないと言われ、残る最後の頼みの綱も悲しいことに“アレ”である。 本当にもうどうすれば良いのか…。

 

 「おや、ネギ先生じゃないか。 どうしたんだいボーッとして、具合でも悪いのかい」

 

 「ガンドルフィーニ先生。 実はエヴァンジェリンさんとポチさんのことを考えていまして…」

 

 「ポチ先生のこと? ん、彼処でゲームしているな…」

 

 どうやら携帯ゲーム機が視界に入ったらしい。 一瞬、しまったと思うが何故かガンドルフィーニは褐色の肌を青冷めるとズレた眼鏡を震える指で元の位置に戻す。

 額にびっしりと細かい汗をかき、具合が悪そうだ。 まさか体調を尋ねた人が一番具合悪そうとは…。

 

 「だ、大丈夫ですか?」

 

 「いや…ちょっと昔のことを思い出してね」

 

 「昔のこと…。 まさかポチさんのことですか?」

 

 「ああ、彼と出逢ったばかりの頃だが…アレを今思い出しても────うっ、オロロ!!」

 

 「ちょ、えええ!?」

 

 限界だったのだろう、口からキラキラと謎に光る何かが吐き出されていく。 誰か回復魔法を! ガンドルフィーニ先生のHPがドンドン減ってる!

 一体過去に何があったのだろう。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【1995年】

 

 「免許欲しい」

 

 ある日、エヴァンジェリンと学園長が将棋を差していた時だった。 真剣な顔つきでいきなり横から全く脈絡無く、我が儘を言い始めたポチ。

 両者はポカンと手を止めたが、すぐに何も無かったかのように再開する。

 

 「王手だ」

 

 「むぅ、マズイのぉ…」

 

 「無視かよ! ちょっと聞いてる!? もしもおおおし!」

 

 「いや、だってお前…嫌な予感しかしないのだが…」

 

 引きつった表情で睨み付けるが、ろくでもないことが起きると予想出来るのは、長年傍にいた経験だろう。 車を壊すか道路を壊すか、とりあえずポチが事故って死ぬのは確定していた。

 

 「儂もあまり進められん…」

 

 「我が同士! ポチはいい加減成人しているので、免許のひとつやふたつ欲しいのよ!」

 

 肉体的には恐らく成人だと思うが、肝心の中身が今時の小学生より酷い。 そんなことを言っている時点で既に幼さが抜けていないだろう。

 

 「止めておけ、今度チョロQ買ってやるから。 な?」

 

 「その言い方止めろおおお! お前は俺のお母さんか!」

 

 遂には床に倒れ、ヤダヤダ免許欲しいー!と手足をバタつかせながら騒ぎだす。 エヴァンジェリン達のいかりボルテージがあがっていく!

 

 「ええい喧しい! 大体何故免許が欲しいのだ!」

 

 「エヴァンジェリンとドライブ行きたくて…」

 

 「なっ…! そ、そういうことなら────」

 

 くすんと鼻を啜りながら小さくポツリと出た彼の言葉は、エヴァンジェリンを絶句させるのに充分だった。 本人が顔を真っ赤にして俯くなか、ポチはケケケと心の中で高笑いを決める。 マジチョロイン。

 

 「────とでも言うと思ったか糞犬!」

 

 「何いいい!? 引っ掛かっていないだとおおお!」

 

 「貴様の考えていることなど、お見通しなんだよ!」

 

 怒りの飛び蹴りが顎を破壊。 

 

 「だってぇ、俺は外の世界を全くを知らないんだよぉ? 記憶無いから海とか別荘でしか見たことないし…」

 

 「だからなんだ…」

 

 「いつか此処を出られたらさ、真っ先に向かいたいんだよ。 自分の足で一秒でも早く」

 

 今度は本当らしい。 そんなことを言われれば、似たような立場であるエヴァンジェリンに嫌とは言えない。

 なまじ、ジッとしてはいられないタイプの男だ、この学園だけの生活では窮屈に感じるだろう。

 

 「…ったく。 おいジジイ、私からも頼みたい」

 

 「仕方ないのぉ。 なんだかんだお主も“とあ”には甘いわい」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 この麻帆良学園では卒業後すぐに活かせるよう、広大な敷地を使いこじんまりとはしているが自動車学校も存在する。 仮免許後には学園の外に出て国道を走ることになるのだが、今回はポチのために学園内での使用が許可された。

 もっとも、その前に仮免許を取らなければ意味ないのだが。 

 

 「今日から担当になったガンドルフィーニだ」

 

 「よろしくガンドルちゃん!」

 

 馴れ馴れしい挨拶、何故かその目にはクマが。

 

 「ガン、ドル…ちゃん?」

 

 担当は同じ教師であるガンドルフィーニ。 彼は教員免許を持ちながら指定自動車教習所指導員の資格を持ち、僅かながら教師としてポチと面識があった彼に学園長から直々にお願いされたのである。

 しかし、元から堅物な性格か普段からテキトー人間であるポチに対して初めから高圧的な態度で接し、特に今日はいつもより表情が固かった。 その理由としてはポチの保護者でストッパー役であるエヴァンジェリンが、今回の練習に見張り役として同席していることだ。

 闇の福音、吸血鬼の真祖、600万ドルの賞金首である大罪人。 封じられているとはいえ、そのような危険な存在を快く思わず彼女を見つめる視線はとても厳しい。

 故にこの顔合わせはエヴァンジェリンが本当に驚異ではないかガンドル自身確認する意味もあるのだった。 特にここ最近、漸く妻のお腹に新しい命が宿ったのだ。 大切な家族、なにがなんでも守らなければならない用心に越したことはない。

 

 「なんだ、そんなにジロジロ見て」

 

 「別に何でもない」

 

 此方に気づいたのか、エヴァンジェリンは幼い容姿とは違い不釣り合いな射殺す目で睨み付けた。 ガンドルはそれを何事もないように返す。

 ポチは楽しみなのかにっこにっこにー。

 

 「操作は習ったか」

 

 「勿論、自宅で予習もしてきたぜー!」

 

 ならば話しは早いと早速乗り込む三人。 ポチ運転席、ガンドルフィーニ補助ブレーキが設置されている助手席、エヴァンジェリン後部座席。

 

 「座席とハンドルを自分に合わせるんだミラーも大丈夫か? よし、シートベルトを締めてエンジンスタートだ」

 

 準備はオーケイ。 しかし、ポチは何故か俯きながらクククと気味の悪い声を出す。

 

 「おい、ポチ。 早く始めろ」

 

 困惑するガンドルにエヴァンジェリンのフォローが入るが、ポチは徐々に笑い声のボリュームを大きくすると狂ったように叫んだ。

 

 「ヒャッハアアアアア! いくぜえええええ!」

 

 そのままアクセル全開。 エンジンの爆音が講習場全体に轟くと、やけに手慣れた手つきでギアを入れ急発進した。 タイヤの擦れた後を残し地獄の走行が始まる。

 

 「ポチいいい! いきなりどうしたあああ!?」

 

 Gにより座席へ一瞬固定されたが、すぐに起き上がる。 後ろからポチの首を掴み正気に戻そうとしたが、あははと笑いっぱなしで戻ってくる様子はない。

 目がヤバイ目が。

 

 「くそっこんなことになると思ったわ! おい貴様、補助ブレーキを使え!」

 

 とりあえず車を停止させてから説教だ。 呆然としているガンドルフィーニに指示を出す。

 

 「わ、わかった。 あれ…?」

 

 浅黒い彼の顔色が徐々に青ざめていく。

 

 「どうした!? 早くしろ!」

 

 「補助ブレーキが効かない!?」

 

 「こんなこともあろうかと俺が外しておいたぜ!」

 

 『何いいいいい!?』

 

 白い歯をキラリと輝かせサムズアップ。 うざやかな笑み、頼むから前見て。

 昨日の夜、自身が使用する車体を予め調べあげ誰にも見つからないよう彼は取り外したのである。 目にクマが出来ていた原因はそこにあった。

 しかし、一度ハンドルを握れば寝不足などぶっ飛び脳汁ドバドバ。 そもそも何故このようなことをしでかしたかというと。

 

 「チマチマ教習なんてメンドクセェ! ポチのドライビングテクニックで一発初日合格してやるぜ!」

 

 「阿呆! 大体そのドライビングテクニックは何処で習う!?」

 

 「グランツーリスモでA級ライセンスは手に入れた!」

 

 ガンドルは思う。 それゲームのやつだ、マジで危ないマジで死ぬ。

 葛葉刀子から色々危険だから気を付けろと言われていたが、こういう意味だったのか。 更にポチの座席周りを透明な壁が覆い、此方からの干渉をシャットアウトする。

 

 「なんだこれは!?」

 

 「邪魔されるのはわかっているからね。 それに備えて」

 

 用意が良すぎる。 こんな人物が昔英雄と呼ばれていた存在だとにわかに信じられん。

 ならばサイドブレーキを引くまでと、扱ったが一瞬減速したのち再び走り出す。 どういう、ことだ…!

 

 「こんなこともあろうかと、手動でサイドブレーキ効果を無くす装置も付けといたぜ! ポチがいる限りこの車は絶体止まらん!」

 

 だから用意が良すぎる!? 教習所の狭いコースのせいですぐ目の前に急カーブが迫り、もうだめだぁおしまいだぁとガンドルは頭を抱えた。

 

 「今こそPS版頭文字Dで鍛えた俺のドリフト、見せてやる!」

 

 なんかもう、普通の運転でやってはいけないハンドルさばきとアクセルとブレーキを使いわけ、車は真横に走る。 見よう見まねのくせに上手くいったのが腹正しい。

 

 「っべえ! ポチってば才能あるじゃん! このままドンドン行っちゃおう!」

 

 行っちゃおうって何処へ。 車を教習場の防壁へ移動させているが…え、いや…ちょっと待ってホント待って。

 

 「やぁってやるぜ!」

 

 『壁にぶつかるううう!?』

 

 その瞬間、車体の下から五つ目のタイヤが現れ長いアームと共にグイーンと伸びるとフロントが大きく持ち上がる。

 

 「これはまさか────ミッドナイトと同じ機構!?」

 

 エヴァンジェリン随分古い漫画知ってるな、今時の子は絶対知らない作品だぞ。 …そういえば600歳だった。

 

 持ち上がったフロントはそのまま壁に乗り上げ、残るバックもアームとタイヤがあげることにより車は場外へ飛びだす。

 

 「おいポチ! お前は一体何時の間にこんなもんを造った!」

 

 「こんなこともあろうかと、初等部の葉加瀬ちゃんに頼んでいました!」

 

 「ホント用意が良い!? お前ははやぶさ君か!」

 

 「お、なんならこのままま内之浦宇宙空間観測所まで行くか!」

 

 「車で行ける距離でもないうえ、私とお前は出られんよ!」

 

 「大丈夫大丈夫! 車で結界と呪い突っ切ろうぜ!」

 

 まさか、こんなこともあろうかと結界破壊の力を車に与えていたというのか…! むちゃくちゃな運転、周りの人々が逃げ惑うなか僅かな隙間を掻い潜り奇跡的にぶつからない。 でも危ないからみんな逃げて!

 学園の外に通じる橋が見えてきた。 本当に出るつもりらしい。 視界クリア、障害物無し、ポチの冷笑と共にアクセルを噴かせる、昂るエンジン、心臓、さぁいざ行かん自由の地へと!

 

 「学園に…出る!」

 

 そして、ポ チ が 消 え た。

 

 「あぎゃあああぁぁぁ……!!」

 

 後方へ飛んでいく彼の叫び。 何がおこったかというと、ポチが車の後ろから飛び出たのである。

 彼は学園から出られない、その範囲から出ようとした時、彼だけが見えない壁に憚れたように車内のシートやガラス、車体フレームを突き破りながら後ろから抜き出たのだ。 見れば肉片となったポチが遥か後方でビクンビクンしている。

 おかげで車の中は彼のアレ(血)やコレ(内臓)が飛び散り怪奇的な殺人が起きたかのよう。 ガンドルフィーニには刺激が強すぎたようだ、目を開いたまま気絶していた。

 

 「って、結界破壊するのは用意していないのか!? 馬鹿じゃないか!」

 

 突っ込みしている場合ではない。 運転手を失った車だが、まだポチの両足は千切れた状態で残されており未だにアクセルペダルを踏み続けている。

 急いでエヴァンジェリンはサイドブレーキを引き、無理矢理車を停止させた。

 

 『た、助かった…』

 

 両者、気が抜けたのか一気に脱力し、暫しその状態から動けなかった。 だがいつまでもこうしているわけにはいかない。

 屍のポチや血の海の車を一般人に見られてはいけない。 エヴァンジェリンひとりでは後始末に少々面倒そうだ。

 

 「おいケガはないか?」

 

 意外なことに悪の魔法使いから心配され戸惑ってしまう。

 

 「え? そうだな…何ともないようだ」

 

 この血は全てポチによるもので、自身はケガひとつない。

 

 「なら良い。 悪いが貴様アイツの回収を手伝ってはくれないか?」

 

 「あ、ああ構わない。 此方もお前には助けられたしな」

 

 「そうか、ならば此方としても気兼ねない。 いくぞ」

 

 小さい身体のその姿にガンドルフィーニは何とも言えない頼もしさを感じた。 それと同時に過剰に警戒し、冷たい態度をとってしまった己を馬鹿らしく思い恥じた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【2003年】

 

 「僕は気づいたよ、外道で悪の存在と聞いていた吸血鬼がまさか本当は誠実で真面目な女の子だったのだと。 彼女がいなければ今頃どうなっていたか…。 思い出すとポチ先生に対して殺意が湧く…!」

 

 なんかもう、エヴァンジェリンが意外と良い人だったことにビックリで相変わらずフリーダムなポチには頭がクラクラしてきたネギ。 本当に飼い主なんだなあの人と、強く実感した。

 

 「ネギ先生、もしもポチ先生で問題が起こったらエヴァンジェリン、彼女に頼りなさい」

 

 「でも、あの人は恐ろしい人だと昔話で語られていました…」

 

 ガンドルフィーニから話しを聞いたとしても、その不安はすぐに抜けない。

 

 「確かに昔は人を沢山殺したし、魔法使いとしての実力は最強と言われている。 だがこの学園に封印されてからは何一つ問題は起こしていないし、第一彼女は女子供を殺さない主義を持っている」

 

 頑固な性格故に信用も出来る。 実際エヴァンジェリンはこの話し以外にもポチが起こした問題を幾つか対応しており、そのせいか学園の彼女に対する人気は中々のもの。

 飼い主としてもそうだが、ストッパー役として適任なためダメ犬が何かやらかしたらすぐに連絡がいくようになっていた。

 

 「しゃっあああ! ジンオウガ亜種倒したぜ! 剥ぎ取り剥ぎ取り…って、ちょ! エヴァンジェリン、キック止めて剥ぎ取り出来ない!」

 

 「クククっ、スマンなぁ。 ボタンが故障しているみたいだ」

 

 「その割りには狙いが正確なんですけど! さっきから逃げてんのにすんげぇ蹴られまくってんですけど!」

 

 何気ない日常、馬鹿みたいなことで満面に笑う。

 

 「あの様子を見ると彼女も普通の女の子なのだと深く実感するよ…」

 

 確かにそうかもしれない。 事実、エヴァンジェリンが闇の福音だと聞くまでまるでわからなかった。

 あの日の夜、自分に見せた邪悪な笑みと今のような笑顔、果たしてどちらが本当のエヴァンジェリンという人物なのか。 もっと、知らなければならないと感じた。

 

 「そうか、そうだったんだ…」

 

 僕は千の呪文の男の息子である前に、ひとりの先生だった。 そして彼女も闇の福音である前に自身が導かねばならないひとりの生徒なのである。

 怖いと思う、それはきっと先生として失格な感情だ。 だから話しをしなければならない先生として、今度家庭訪問しよう。

 その話し合いでまだエヴァンジェリンさんが僕を狙うというのなら、僕は選択を迫られるだろう。 大人しく受け入れるか、或いは“先生”として抗うか…。

 

 まぁ取り合えずは…。

 

 「あのゲームは没収ですね」

 

 先生としての責務を果たそう。

 

 




ポチ・ガンランス
エヴァンジェリン・チャージアックス
明日菜・大剣
木乃香・ライトボウガン

四人の装備。 因みに明日菜が男性キャラでポチが女性キャラを使っている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【第二章】エヴァンジェリンの過去編 エヴァンジェリンとマガツ

ガチシリアスです。 エヴァンジェリンが吸血鬼になる話し。
原作とちょっと違い、更に何の救いもない絶望の話しなのでポチは一切出ません。


 これは、私がまだ10才の誕生日を迎える前の記憶。 今では私をこんな身体にした父親と母親の顔さえ覚えていない、遥か昔の出来事、全ての始まり。

 出来ればこのまま全て忘れたいが、何時まで経っても忘れられないものがある。 両親よりも私の傍にいた執事、不思議な少女、裏切りの夜、大好きなおとぎ話、そして黒い獣と炎の男。

 記憶というのはおかしい物だ、僅かな間しかない存在が強く残り、産んだ母親の声さえ思い出さないのだから。

 

 【1443年】

 

 「ねぇ、爺や。 御父様はいつ帰ってくるの?」

 

 「申し訳ありません、御嬢様…」

 

 まだ私が人間であった頃、ヨーロッパの辺境に住まう古びた貴族の一人娘だった私は、7才の頃に母親を亡くし父親と老人の執事、そして使用人達に蝶よ花よと育てられていた。 自身、母親と同じ不治の病にかかっていたせいか、私は身体がとても弱く、屋敷の外から一歩も出たことはない。

 唯一の楽しみは父が毎月のようにプレゼントしてくれたヌイグルミ、執事である爺やが見せてくれる、マリオネットの人形劇だけだった。

 

 「旦那様は忙しい身であるため、今度はいつお戻りになるやら」

 

 きっと困り顔をしていたのだろう。 どのような顔をしていたか覚えていないが、この人との会話を忘れたことはない。

 

 「つまんない。 最近ずっとお留守にしているんだもん…」

 

 私が八つになった頃から、父は屋敷を開けることが多くなった。 貴族の中でも公爵の位置を任されていたせいか、広大な領地の管理や頻繁に行われる社交場へ出席する回数も多い。

 特に妻を亡くしてからは、その後釜を狙う者達から執拗に誘いを受けており、私はいつも親の愛情に飢えていた。 だがそれでも、父親はあらゆる貴族の令嬢からアプローチを受けても全て払いのけ、一度もそのような人物を屋敷にあげたことはない。

 例え顔を会わさなくとも、プレゼントのヌイグルミは絶対に欠かさず用意し、いつまでも母を大切にするそんな父が私は大好きだった。

 

 「けほっ…」

 

 「そろそろお薬の時間でございます」

 

 「お薬は嫌。 飲むと気分が悪くなっちゃう…」

 

 執事が持ち出したのは、父親が私のために独自で作り出した粉末状の薬。 毎回、白か灰色に色が違い、飲めば一時的に吐き気を催すが、そのあとは病状が穏やかになる。

 

 「我が儘を仰ってはなりませんよ」

 

 「じゃあ、またあの人形劇を見せて! 狼さんの話し! それなら飲む!」

 

 「ふふ、わかりました。 さぁ、お薬をどうぞ」

 

 白湯と共に流し入れると、すぐに目眩と吐き気が襲う。 口元を押さえる私の背中を執事の嗄れた手が擦り、落ち着くまでその状態が続いた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 私が10才の誕生日を向かえる少し前のある日、突然久方ぶりに姿を見せる父親があった。 あまりにも嬉しく、身体のことなど一切気にせず屋敷中の中を走り回り、執事を困らせては父親に抱き付き甘えた。

 しかし、彼はゆっくりする暇もなく、私と執事に馬車へ乗り込むよう促すと、すぐさま走らせる。 父は私の病気を治すために知り合いの領主の城へ移すと言った。

 当然のこと戸惑い、いきなり馬車の中で揺らされ、更に今までプレゼントされたヌイグルミ達を全て置いてきてしまったため、私は駄々を捏ねてしまう。 だが、彼はそんなことは予想していたのか、代わりに別のヌイグルミを用意しており、現金なことに私はそれで大人しくなった。

 引っ越してから数刻、城にはその広さとは裏腹に使用人がひとりもいないことに気づく。 住んでいたのは私と父親、そして執事と……全身をフードで覆い隠した私と同じくらいの小さい女の子のみだ。

 何故かそれ以来父親が外出することは無くなり、食事は毎回共にするようになったため大喜びした。 しかし、フードの少女は一度も食事を共にしたことがない。 

 いつも何処で何をしているのかわからず、大抵見かけた時は何故か父親とばかり過ごしており、真剣に難しい話しばかりをしていた。

 長い年月が経った今ではどのような会話をしていたかまるで覚えていないが、後に吸血鬼になる衝撃で記憶が飛んでいる可能性もあるだろう。

 

 「ねぇ、爺や。 あの子は誰? 折角御挨拶したのに無視されちゃった…」

 

 「それが、私としても旦那様から詳しいお話を聞いていないのです。 とりあえずは、親切の娘だと聞きましたが…」

 

 「どうしよう…。 御父様、私よりあの子が好きなのかな。 私、嫌われたかな…」

 

 昔から父とは接触が無かった。 幼い女の子にとって、充分な愛情を注がれていると理解しても急に横から現れた者に親を奪われたと不安を抱えていたのだろう。

 

 「いえ、そんなことはございません。 旦那様は誰よりも貴女のことを大切に思っていますとも」

 

 泣きたくなる、そのたびに執事の優しく力強い言葉は、私を安心させてくれた。

 

 「ねぇ、爺や。 人形劇見せて! 私、狼さんのが良い!」

 

 「おや、またですか。 今日は始祖アマテルのおとぎ話にしようかと思いましたが…」

 

 「あれも好き! でも狼さんはもっと好き!」

 

 「しかし、あれは悲しいお話ですよ?」

 

 執事の劇の中でその話しが一番好きだった。 ひとりの騎士が大好きな女の子と大切な友達を悪魔や邪神から守るために、身体を棄て鋭い牙と爪を持つ狼に変わり、もっと強くなるため最後は心を棄てて神様になり、誰とも交われなくなったという、どうしようもなく救いの無い話し。

 

 「とっても悲しい話しだけど、だからこそ私はその想いが大切だと思うの。 悲しい、ツライかといってそれを聞かないのは、狼さんの人生を否定することだわ」

 

 「…御立派です。 御嬢様は旦那様にとてもよく似ていますね」

 

 「ほ、本当に!?」

 

 「ええ、実はこの御話し、旦那様から御伺いした物なんですよ」

 

 何故、今まで私には一度もおとぎ話をしてくれなかった父親が、彼には語っていたのか、今なら分かる気がする。 きっと、それは本当にあった話しだったのだ。

 おとぎ話なんて非ではない、悲しくツラく、残酷で絶望のお話。

 それを執事がおとぎ話のように簡潔にまとめ、私を喜ばそうとしたのだろう。 父との繋がりを少しでも与えるために。

 

 ある日。 フードの少女が地下室から出てくるのを見かけた。

 彼処は父親が私のために薬を調合している、立ち入り禁止空間。 勿論、執事でさえ中に入ったことはない。

 だからこそ、不躾なあの子が出てきた時は信じられなかった。 名前も顔も知らぬ、無愛想な彼女が自分から親を奪おうとしているのではないかと疑心暗鬼に捕らわれ、この不安を拭うために知りたいと思ったのだ。

 私と彼女の違いは何なのか。 そして、私は入ってしまったのである。

 父から禁じられた地下へと…。

 

 地下への道は、螺旋階段となっていた。 内側に壁や手すりは存在せず、大きな空洞が出来ている。

 覗きこめば何処までも続いている暗黒の世界。 唯一の明かりである蝋燭は、外側の壁に幾つも立て掛けられているがその先に終わりが見えず、不気味な炎が渦巻く。

 言い知れぬ恐怖があった。 暗闇もさることながら、階段を下っていく度に底の方から肌を刺すようなピリピリとした雰囲気と、胸を締め付ける悲しみが襲いくる。

 頭の奥では、危険だ、ここに居ちゃいけないという警告が何度も流れるのに、不思議と歩みは止まらなかったのだ。 まるで、何かに呼ばれるかのようだった。

 

 「はぁ…はぁ…」

 

 もうどれだけ歩いたのだろう。 体感で半日は掛けたと思う。

 辿り着いた場所は、巨大な両開きで出来ている鉄の扉。 私では到底動かすことさえ不可能な物だが、指先が触れた瞬間、扉全体に光が走りひとつの模様が浮かびあがると独りでに動き出したのである。

 

 「何、あれ…」

 

 そこには一匹の獣のような何かがいた。 成人男性程の大きさで、全身には真っ黒い体毛。

 狼のような頭部をしており、果たして純粋な動物であるか疑問に感じたのはその骨格と四肢にあった。 中足骨が人間のように短いのである。

 本来犬科の足は指先のみ地面に接しており、人間でいう足の裏はまるでふくらはぎのように浮いている構造だ。 そして四肢は有機生物ではなく、無機物、鋼のような質感を持ち、光沢を放つ刺々しい物だった。

 

 「──────」

 

 獣が私に気づき、牙を剥き出しにしながら喉奥で唸る。 人間が四つん這いになる格好で、全身を鎖で縛りあげられており、酷く苦しそうだ。

 

 「狼さん、ツライの…?」

 

 怖いが、その姿に助けてあげたいと思った。 何重にも巻かれている鎖をひとつひとつ掴み、か弱い力で精一杯剥がしていく。

 身体中に汗をかき、お気に入りのドレスに染みが広がる。 そして最後の鎖を剥がした────その瞬間だった。

 

 「──────ッ!」

 

 「きゃ!」

 

 獣が咆哮をあげて飛び掛かってきたのである。 私を押し倒し、覆い被さると、スイット状の瞳で睨み付けてきた。

 獣と人、そして鉄が合わさった両手で胸ぐらを掴むと、そのままドレスを引きちぎり、胸元が露となる。 何をされるか分からずとも女性としての本能だろうか、自分はきっと酷いことをされて喰われるのだと幼いながら察してしまった。

 

 「い、いやぁ…来ないで。 やめて…!」

 

 獣の額が割れて、深紅の眼球が飛び出る。 ギョロリと此方を見た時、失禁してしまった。

 

 「ひっ…」

 

 みっともなく涙をポロポロと流し、鼻水も出ていたのはよく覚えている。 獣の瞳に無様で汚ならしく顔をぐちゃぐちゃにした私が写っていたのだ。

 獣は何を思ったのか、その状態のまま喉を唸り続け私をジッと見つめていると興味を無くしたようで身体から離れ、四つん這いのまま部屋から出ていき、階段を登っていった。

 暫く、何も出来なかった。

 

 「これは驚いたな。 てっきりボロ雑巾になるまで遊ばれて喰われるのかと思えば…」

 

 私以外、いないはずの部屋で少女の声が聞こえる。 何処から現れたのかフードの少女が此方に向かってゆっくりと近づいてきた。

 私は獣から助かった安堵により、何も考えることも返事を返すことも出来ず、ただその様子を眺めるだけ。 それにより、フードの中身を初めて見ることが出来た。

 確かに少女の顔をしていたが、何処か老婆のような印象を感じる。 ある種の錯覚か。

 

 「私に掴まれ、部屋に連れていこう。 お姫様が何時までもそんな格好をするわけにもいくまい」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「飴玉だ。 気分が落ち着く、舐めなさい」

 

 綺麗な紙で包まれたお菓子を差し出す。 中身は色鮮やかな飴で今まで見たなかで一番見事に出来た物だったかもしれない、味も香りも、ただ甘いだけでなく口に残らないシュワシュワとした爽やかさがあった。

 

 「ふむ、やはり似合うな」

 

 気がついた時には自分の部屋にいた。 服装もフードの少女により着替えさせられており、真っ白いドレスを着用している。

 心を何処かに置き忘れように、ボーッとしていた私はひとつの不安があった。 あの獣を逃がしてしまったことに対する罪悪感だ。

 地下にわざわざ捕縛していた存在を逃がしたということは、父親から何か言われる、もしかしたら叱られて嫌われるのではないかと。

 

 「どうしよう…」

 

 「何、心配する必要はない。 もうアレには用済みだ、それよりももっとすばらしいのが手に入った」

 

 少女は不敵な笑みを浮かべる。 うつむく私の横から此方を覗きこむように、見つめてきた。

 

 「私から父親に上手く言ってやろう。 お主が嫌われる要素も無いからな」

 

 「ほんと? ありがとう!」

 

 「フフっ……」

 

 ぱぁっと輝かせた私の笑顔に、少女の口角が更に上がる。 だが、その目は全く笑っておらず、嫌な予感がした。

 

 「お主はとても美しい、エヴァンジェリン」

 

 「え…」

 

 「まるで、そう…。 紫丁香花のように可憐で美しく力強さを持ち、不吉さを持つ。 “白い”ドレスが似合うとこなど、如何にもヤツが好みそうだ」

 

 少女はおもむろに私の顎を掴むと、ぐいっと顔を寄せ唇を重ねた。

 

 「…っ!?」

 

 口の中を何かが這い回る。 それが舌だと気づいた時は、息苦しさと羞恥、恐怖から思いっきり噛みついてしまった。

 

 「何するの!」

 

 「いや…単なる嫉妬だ。 気にするな」

 

 相変わらず笑みを張り付けて、口から滴る血を妖艶に舐めとる少女。 私は初めてのキスを奪われた悔しさと怒りから、乱暴に口元を拭う。

 

 「そういえば、もうすぐ誕生日か」

 

 「それが…何」

 

 「私は急用で恐らく出られない。 今のうちに一応、おめでとうと伝えよう」

 

 お前が一度でも食事を共にしたことはない。 出てきそうな言葉を飲み込み、少女はそれさえ予想していたのかフッと笑うと、何も言わずに部屋から退場した。

 今にして思えば、きっと…この少女もグルだったのだろう。 私を吸血鬼にした者達と。

 

 

 

 




あと一話続きます。

Q・黒い獣って誰?

A・超超超厨二設定ですが、マガツという名前。 ある人物の失った闇の因子。

Q・狼さんのおとぎ話って…。

A・わんわんお。 でもおとぎ話風に改変しており、実際に起こったこととちょっと違う。

Q・フードの少女の正体。

A・アマテルさんです。 因みに早い段階で教えたのは、原作でハッキリとした描写がないからです。
もしかしたら違うかもしれないので、このSSではフードの少女はアマテルさん。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エヴァンジェリンとアマツ

絶望注意。 ポチは────い ま せ ん 。


 10才の誕生日を迎える前夜。 あと少しで月は天辺まで登り、それと同時に私は10才となる。

 不思議なことに月は綺麗に見えるのに、外では暗雲が立ち込め、雷が落ちる程の大雨だ。 まるで、雲が月を避けている、そんな夜だった。

 

 「おや、御嬢様。 まだ起きていらしたのですか?」

 

 執事が見回りにきた。 ランプから照らされる顔はやはり覚えていない。

 

 「ねぇ、爺や。 今日は姿を見せなかったけど、御父様は何をしているの?」 

 

 「さぁ、そればかりは私にも。 もしかすると、御嬢様の誕生日パーティを用意しているかもしれませんね」

 

 「そうだったら良いなぁ」

 

 母親が亡くなってから誕生日はずっと使用人と執事達で行われた。 他の貴族を呼ぼうにも私の身体の弱さがたたり、一度もそのようなことはない。

 だからこそ、今年こそ心の底から喜べるお祝いが出来ると信じた。

 

 「ごほっ! ごほっ!」

 

 「さぁ、今のうちに御休みください。 明日はめい一杯、旦那様に甘えるのですから」

 

 「うんっ!」

 

 例え嘘で出来ていても、その明日があれば私はどんなに幸せだったことか。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 目を覚ますと、まだ真夜中だった。 しかし、何故か起きた場所は私の部屋ではなく地下の、禁じられた部屋だ。

 床には複雑な術式で描かれた魔方陣があり、眠気眼を擦ると執事と父親が何やら意味深な話しをしていた。

 

 「……本当に可能なのですね!?」

 

 「勿論だ。 因子の埋め込みに成功している、これもお前の長年の努力が実を結んだ。 私からも感謝する」

 

 「…御父様?」

 

 私の呼び声に振り返る。

 

 「起きたか、まぁ良い…。 発動には問題あるまい」

 

 一瞥すると、いつもとは違う、冷たく暗い声がかけられた。 私を見ているようで見ていない、そんな言葉。

 執事と父親は魔方陣から離れ、中心に私を残す。 誰も彼も無表情で、重苦しい空気が漂った。

 

 「御父様、なんか怖いよ。 爺やも…」

 

 「始めるぞ」

 

 淡泊な一声。 懐から白い玉を取りだし掲げると魔方陣に光が走り、私の心臓が不安定に動き出す。

 

 「あ…、あぐ!?」

 

 おかしな血の流れが身体に駆け巡る。 血管が熱を持ったようにたぎり、脳へと届くと鋭い頭痛が。

 徐々に強さを増すそれに私は頭を抱えて絶叫した。

 

 「痛い! 痛い痛い痛い! 痛いよ御父様!」

 

 激痛で視界が定まらず、手足は麻痺を起こしたようにいうことをきかないため、逃げ出すことさえ出来ない。 涙腺と鼻から血を流す、この症状は私に衝撃を与えた。

 

 「爺や! 助けて!」

 

 死ぬ、このままでは本当に死んでしまう。 残された力を振り絞り、手を伸ばすが最後の頼みの綱も、私の言葉を聞いてくれることはなかった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ふと、自分が此処とは違う何処かに跳ばされた感覚があった。 目を凝らすと、周りは真っ白い空間で執事と父は居らず、私の身体も先程と違い、怪我ひとつ無いいつも通りの姿だった。

 目の前には巨大な樹が聳え立ち、大地は存在せずその根っこは下へ何処までも伸び、樹には10つの果実がなっている。 果実がそれぞれ違う色に輝くと、私の頭に様々な言葉、映像、それらを統合した膨大な情報が入ってきた。

 

 「アルカナ……平行世界……輪廻転生……六道……72柱……特異点……No.beast……炎の柱……王龍」

 

 樹から蔓が伸び、私の身体に巻き付くと取り込もうと引き寄せ始める。 更に情報が流れ、私の中にある思い出、自身の情報が代わりに磨り減った。

 名前も姿も声も。

 

 「あ、いや…。 嫌だ、私……消えたくない! 消えたくないよ!」

 

 消える、私が消えていく。 脳を直接情報が詰め込まれ、色々な物に押し潰されて心が磨耗していく。

 身体が弄くり回されて、別の何かに変わっていく。 でもこの心だけは消えたくない。

 真っ白い空間へ必死に手を伸ばす。 誰もいない世界、独りぼっちの空間。 

 寂しい、冷たい、痛い、怖い。 身体が樹に飲み込まれ、頭まで埋まる。

 

 ああ、もう駄目だ……私が……消える……助けて……。

 

 「諦めるな」

 

 最後に残った腕を掴まれた。 芯の通った声が頭に響く。

 情報の奔流は更に私を呑み込もうと勢いを増すが、誰かに腕を引っ張られるだけではなく、その一声に背中を押されるような感覚が伝わり、がむしゃらにもがいた。 真っ暗だった視界が少しずつ開かれ、光が射し込む。

 そこはまたしても真っ白い世界だったが、ひとつだけ違った。 全身が炎で出来た男がいたのである。

 握られた腕は炎に包まれているのに熱くはなく、妙な暖かさが。 炎のせいで表情が全くわからないが、薄れいく意識、確かにわかったのは二本の角と瑠璃色の瞳だけだった。

 

 「よくやった」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「戻ってきたか」

 

 「お、おお…!」

 

 これで何度景色が変わったのか。 父親達がいるということは、私は元の空間に戻ってきたらしい。

 顔中から流れ出ていた血は止まっており、激痛は嘘のようになくなっている。 さっきの光景は夢だったのだろうか。

 そうだ、きっとそうに決まっている。 でなければ、父と爺やがあんな酷いことするわけがない。

 

 「確認しよう」

 

 それは、何気無い一言だった。 父親は近づくと、いつの間に握っていたのか手にはナイフが見え、私の顔を掴み上げるとそのまま躊躇無く喉をかっ切ったのである。

 

 「が──っ!? ぁ! はっ!」

 

 痛みもあるが、それ以上に息が出来ない! どれだけ懸命に口から空気を取り入れようとしても、こひゅーこひゅーと開いた出口から洩れるばかり。

 金魚のように口をパクパクと無意味に動かし、両手が血に染まりながらも、必死に空気が逃げないように押さえる。

 

 「少し再生が遅いな。 やはり成り立てではまだ無理か」

 

 「かはっ! はっ! は────え…」

 

 血が止まった。 息が出来る。

 何事かと首を擦れば、傷が綺麗に無くなっていた。 

 

 「おお! 素晴らしい!」

 

 執事の歓喜の声が胸に突き刺さる。 何が素晴らしいのか、何が嬉しいのか、私がこんなに痛がって苦しんでいるのにどうして。

 

 「エヴァンジェリン、我が娘よ。 お前はこの世の理から外れた存在、吸血鬼となったのだ」

 

 「吸血、鬼…」

 

 「御嬢様、それもただの吸血鬼ではございません! ハイ・デイライトウォーカー、神の光を浴びても灰にならぬ至高の生命、真祖となられたのです!」

 

 その頃の私には、彼らが何を言っているのかまるでわからなかった。 ただ、幼くともその思想が歪んでいるのに気づき、何より執事の綺麗に弧を描いた口元がとてつもなく恐怖を感じてしまったのである。

 私は、ただ泣き叫ぶしか出来なかった。 この絶望しかない現実で。

 

 「いやあああああ!」

 

 「──────!!」

 

 その時、私の影から何かが飛び出してきた。 黒い体毛、硬質化した四肢、狼のような顔をしたあの時の獣が咆哮をあげ、執事の喉笛に噛み付いたのである。

 

 「がはぁ!?」

 

 「影から転移。 お前は…」

 

 牙を立てた状態で、頭を3~4回振る獣。 より深く突き刺し、そのまま壁に向かって投げ捨てると赤い華が咲いた。

 ピクピクと痙攣している執事を私以外誰も見ない。 獣はゆっくりと立ち塞がるよう私と父の間に入り込むと、牙を見せながら唸る。

 

 「やはりヤツの言った通りか。 欠片の分際でそこまでの意思があるとはな」

 

 「─────ッ!」

 

 「私が憎いか? いや、違うか。 どうやらお前は────」

 

 「─────ッ!!」

 

 父が獣に対して何かを言おうとしたが、それよりも速く動いた。 硬質の爪で胴体を真っ二つに両断し、崩れ落ちる。

 だがそんなことはまるで気にしないで、父は右手に魔方陣を浮かべると光を放った。 光に包まれ、苦痛の鳴き声をあげる獣。

 その肉体を粒子のように蒸発していくと、黒い玉を残して霧散する。

 

 「何が、どうなってるの…!」

 

 「喜べエヴァンジェリン。 お前は手に入れたのだ、意思を持ちながら人を超えた力を」

 

 死に体でありながら、淡泊に答える父。 下半身を無くした腹からは大量の血と臓物が転がっていた。

 

 「わ、私、そんなのいらないよ…。 私はただ、御父様と一緒に居たかっただけなのに…」

 

 「それは無理だな。 お前の人生全てはこのためにあった、それ意外の物など何の役にも立たない」

 

 私の人生など、この歪んだ結果、化け物を産み出すだけでしかない、この男はハッキリとそう言ったのであった。 あの穏やかな日々も、必ず用意してくれたヌイグルミも、執事の存在も、何の意味も持たない偽りの幸せ、嘘で塗り固められた優しさ。

 

 「嘘だよ、こんなの絶対嘘だよ…!」

 

 「認められないか。 現実逃避など愚かなことだ」

 

 「嘘だもん、私は認めない…!」

 

 「ならばそのまま腐り堕ちるがいい。 素質があると思ったが、どうやら違うらしい」

 

 許せなかった、私の全てに裏切ったこの男が。 愛していたのに、心の底から本当に。

 だからこそ、憎い。 愛が強ければ強い程、憎しみもまた強くなる。

 相反するように見える二つの感情だが、実は違う。 表裏が違えど本質は同じ、憎しみや愛の反対は無関心だ。

 とても、無関心で済ませられるような想いは私に無かった。 先程私の喉を切ったナイフが、傍に落ちている。

 何も言わず、震える指先で握り締めた。

 

 「私を殺すか、その憎しみで。 それも良いだろう、だが…そこから後戻りは出来ないと思え」

 

 煩い、それがどうした。

 

 「何れ魔女狩りや戦争も始まる。 お前には地獄のような日常が待ち受けるだろう。 理不尽に命を狙われ続け、捌け口に殺され生き残る」 

 

 「煩い! 黙れ!」

 

 「だが悪く無かろう。 元より病弱で生きていると実感出来ない人生だったはずだ。 であれば、これから始まるのだ、お前の本当の────」

 

 「ああああああ!」

 

 もうそれ以上、何も聞きたくなかった。 かき消すように大声をあげて、私の血で染まるナイフを、全身を使い、ヤツの顔面に降り下ろした。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「物の見事に殺されたな」

 

 死体が残された地下でフードの少女が不敵な笑みを浮かべる。 凄惨な現場に不釣り合いな幼い容姿。

 ナイフが顔から生えているそれを、軽く蹴った。

 

 「一応、優しく扱ってほしいのだが…」

 

 死体が喋りだす。 死後硬直で筋肉が固まってしまった腕を無理矢理動かし、眉間からナイフを引き抜いた。

 脳の一部がこびりついたそれを放り投げ、立ち上がると黒く禍々しいローブを全身に纏う。その容姿はブロンド髪を片方のみ編み上げた、男性のように見え、女性のように見え、子供、或いは成人のようにも見える、そんな人間離れした妖しさを持つ、否の打ちようがない美しさだった。

 

 「何、ちょっとした意地悪だ。 それよりも良いのか、マガツだけではなくエヴァンジェリンまで失うとは…」

 

 彼女が此処を出ていったあと、黒い玉も独りでに飛び去っていった。 だが、問題はない。

 どのみち、本体のもとへ還っていっただけ。 既に必要なデータは手に入っているうえ、封印状態の彼奴にどうすることも出来ない。

 それに、アマツはまだ此方にある。

 

 「エヴァンジェリンはそのまま肉体を奪えば良かったはず、なのにどうして」

 

 「その価値すら無かっただけだ」

 

 果たして本当にそうなのか。 あの子は母親と同じ癌に侵されていた、あと数年も経たずに死ぬはずだった運命だが、吸血鬼になることでそれを克服したのである。 

 しかも、それも遥かに高度な技術が必要な真祖として。 陽の光を歩けるために。

 

 「ただの吸血鬼ならまだ良い。 だが真祖となると話しは違う」

 

 「何が言いたい」

 

 けして短くない年月と財を費やした。 無論、それだけではない。

 エヴァンジェリン程の魂を持つ存在など早々いない、例え真理を開き、同じようなことを行ったとしても不可能だ。 叡知に呑み込まれ、世界の一部となるか完全なる消滅が起こる。

 まさしく奇跡がなければ有り得ない。 だというのにコイツは。

 

 「まさか、娘想いの強いヤツとは思わなくてな」

 

 少女はニヤリと、今までと違う笑顔をエヴァンジェリンの父であった者に向けるが、本人はくだらないと言わんばかりに睨み付ける。

 

 「それとひとつ気になったが、何故マガツはエヴァンジェリンを助けた。 あれはヤツの闇、憎しみという本能の塊であったはず…」

 

 「私も初めは驚いた。 だが、闇の本質を思えば有り得んこともない」

 

 闇とは、受け入れること。 存在を受け入れる行為自体に悪も善も無い。

 憎しみはその存在を強く認識している証、即ち存在を受け入れているのだ、どうしようもなく歪みながら。 そして光の本質は拒絶や無関心。

 

 「まさか…」

 

 そう、マガツが闇の塊で憎しみを持つのならば、その裏、愛することも出来る。 つまり…。

 

 「ヤツは、エヴァンジェリンに対して一目惚れしたのだ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 砂漠の中を歩き続ける。 汗を流し続け、身体の水分がなくなり、血液が凝固していく感覚が伝わる。

 激しい立ち眩みと吐き気の中、もう死んでしまった方が楽だと考えているのに肉体がそれを許さない。 ぎりぎりの状態で命を保ち、まさに生き地獄を味わう。

 だから歩みを止められない、止めてしまえば永遠にこの苦しみが続く。 何処でも良い。 水のある場所へと延ばさなければならない。

 あんなに出たがっていた外の世界。 なんて無情で薄情。

 いや、最初から私の世界はそんな物でしかなかったのかもしれない。 あの男の言う通り、生きている実感はなく、いつ死んでもおかしくない日常。

 漸く手にした健康な肉体は化け物だ。 ああ、お願い…。

 

 「誰か私を助けて…」

 

 




本当はオイイイイ系書く方が得意なんですが、ポチま!を書くうえで、どうしてもエヴァンジェリンの過去話を書きたいと思っていました。 シリアスが難しくとも。
次回は恐らくポチ爆走。その次は登校地獄にかかった後のエヴァンジェリンで、またシリアス、そしてポチが本気だす。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エヴァンジェリンとしずな

 【2003年】

 

 「何? 私とポチの出逢いを知りたいだと?」

 

 休日昼過ぎの話し。 1人寂しく学園のカフェで紅茶の薫りを楽しんでいたエヴァンジェリンだったが、同じクラスの桜咲刹那が現れたことで面倒だと言わんばかりに眉を潜めた。

 

 「はい、是非とも。 ポチ先生に聞いても答えてくれず、刀子先生も貴女の許可が無ければ話せないと」

 

 此方の了承を得ていないにも関わらず当たり前のように相席し、店員に自分は緑茶でと御願いする姿はなんと厚かましいことか。 だんだんコイツ、神楽坂明日菜とポチに似てきたな。

 そういえば前にこんなこともあった、私がステーキ屋でレア肉を食そうとした時どこから嗅ぎ付けたのか、いきなりポチと神楽坂が現れゴチになります!と勝手に奢らされたことを。 いかん、思い出したらイライラしてきた。

 家に帰宅したらまずお仕置きだな。 久し振りに肩ロースでも頂くか。

 

 「男女の馴れ初めを気にするとは…。なんだ貴様、そんなにあの駄目犬が好きなのか。 趣味が悪いな」

 

 「ち、違いますよ! 第一何故あんな変態を…!」

 

 年幼い少女特有の健康的な白い肌が朱に染まる。 わかりやすい。

 

 「小さい頃は『うち、とあ兄ちゃんとこのちゃんと結婚するー』…と言っていたみたいだなぁ? 両刀使いは神鳴流に相応しくないと思うが」

 

 桜咲刹那の瞳に意地悪な顔をした私が映った。 …が、すぐに涙が溜まったことによりその姿は一瞬にして歪められる。

 …これは泣いた。

 

 「どこからの情報ですかそれーーー!?」

 

 否定はしないんだな。

 

 「少しは音量を抑えろ。 周りが見ている」

 

 はっとした表情になった桜咲は小さく咳払いし、恥ずかしそうな顔で俯く。

 

 「それを言うならエヴァンジェリンさんだって…」

 

 「確かにお前言う通り、私は奴に惹かれているよ。 詠春とポチから昔の話しは聞いているだろう?」

 

 「はい…」

 

 ティーカップに唇を近付け一息つく。 桜咲刹那は私の言葉に陰を落とした。

 私と“とあ”は登校地獄が掛けられる前から面識がある。 私が奴に好意を抱いていたのは既にその時からであり、ナギ・スプリングフィールドと旅をしていたアイツを手に入れようと何度も追いかけては、返り討ちにされた。

 

 「エヴァンジェリンさんがあの人に負ける姿が考えられないのですが…」

 

 「気持ちは分からんでもない。 しかし強者であった奴の実力は、圧倒的戦闘経験によるものと馬鹿力だったからな」

 

 記憶を失ってからはそれも失ってしまい、回避のスキルはある程度残っていたが、殆どは素人同然。 馬鹿力も巧くコントロール出来ていない。

 だが、あの時代の奴は、類いまれ戦闘技術、特に零距離において紅き翼最強と言われていた。 逆に言えば魔法や気の力は使えないため、距離を取られると一気に弱くなるが…。

 

 「馬鹿力、ですか…」

 

 「ああ。 覚えているだけでも、殴るだけで山脈を割ったり海を割ったりしていたな。 多重障壁なんぞ奴にとっては意味をなさなかった」

 

 つっかかている私を、奴はなんだかんだ言いながら何度も相手をしてくれたし、困った時があればすぐに助けに来てくれていた。 だが、ある日突然、それこそいきなり奴は私のことを避けだしたのである。

 初めは無視されていた程度で無論、私自身その態度が非常に許せなかったためいつも以上に関わりを持とうとした。

 

 「しかし、最終的にはこの様だ」

 

 「ネギ先生の御父さんの力を借りて、貴女を学園に閉じ込めたのですね…」

 

 私は絶望して泣きわめいた。 置いていくなと。

 奴がそれに返事を返すことはなかった、何故か私を抱き締め、必ず迎えに来るとだけ伝え去っていた。

 

 「そしてその後、すぐにだ。 3年と少し、千の呪文の男と共に死んだと伝えられたのは」

 

 「うう、マスター。 おいたわしや…」

 

 「って、うおおい!? 茶々丸、いつから!?」

 

 振り替えれば無表情で涙を拭くフリをする一番新しい従者。 夕飯の食材を購入していたのか、腕には袋つづみが。

 

 「何? 私とポチの出会いを知りたいだと?……あたりからです」

 

 一番最初ではないか、貴様ー!

 

 「あー、兎に角だ。 刹那、貴様が知りたいのは“このあと”の話しだな?」

 

 「で、出来れば事件の話しも…」

 

 「まぁ、確かにこれはおいそれと話せん内容だ」

 

 理由としては二つ。 ひとつはポチに関することだ。

 事件の犯人を倒した彼だが、その相手を倒したこと自体が問題だった。 何せ相手はエヴァンジェリンと同じ吸血鬼、不死の存在、殺すことの出来ない魔族を殺害してしまったのだから。

 

 「いいか、たださえあのバカは不老不死だというのに、これが知られれば奴は真っ先に不死狩りから狙われることになる」

 

 間違いなくバラバラにされて実験動物にされるだろう。 そういう意味では、学園から出られないポチは“助けられている”と言える。

 

 「ポチ先生はなんと考えているのでしょう…」

 

 「アイツは、美人の研究者に実験されるなら本望だッ!っと言っていた」

 

 「美人である前に女性である可能性もないのに、アホですね…」

 

 お前もそう思うか、茶々丸よ。 最近アイツの生態に馴れてきたな。

 

 「そして二つ目、これは私のプライベートに関することなんだが…まぁ、お前になら話して良いか」

 

 茶々丸は口が堅い、刹那は自身ととてもよく似通った生い立ちを持つ。 信用は出来る。

 

 「実は、ポチが────いや…“とあ”が倒したその不死は、私の昔の知り合いだったんだよ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 【1991年 4月】

 

 「今日から転入してきたエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさんです。 皆さん、仲良くしてください」

 

 「よ、よろしく…」

 

 その子はとても恥ずかしそうに、スカートの裾を掴みながら絞り上げるよう挨拶をした。 顔は真っ赤で唇はきゅっと結び、まるでお人形さんみたい。

 新任の葛葉刀子先生は、エヴァンジェリンさんの紹介を済ませると、一番後ろにいた私の横の席に着席するよう促す。 彼女が他の生徒達の間を通る度にヒソヒソと話し声が。

 ある者はその愛らしい容姿に心奪われ悶え、またある者は彼女の正体を知ってる恐怖から警戒するような会話。 

 

 「私、しずなっていうの。 宜しくね、エヴァンジェリンさん」

 

 「あ、ああ。 そうか…」

 

 座り込んだエヴァンジェリンさんに名一杯の笑顔で握手を求める。 ドギマギしながらそれに応じてくれる彼女の表情と、包み込んでしまいそうな程小さな手を握り、思わず頬が緩む。

 これが私と闇の福音と怖れられたエヴァンジェリンさんとの、最初の出逢いだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【1991年 6月】

 

 

 「エヴァンジェリンさん、今日の放課後勉強に付き合ってくれない?」

 

 「いいぞ」

 

 6月の梅雨入り、隣のしずなからいつものお願いがきた。 彼女は他の生徒達とは違い、歳がひとつ上だ。

 その理由として留年による影響だった。 別段しずな自身は頭が悪くない。

 むしろ此方と並ぶ程成績優秀である。 しかし、一年程前魔法世界に家庭の事情で暫く過ごしていたせいか出席日数が足りなかったらしい。留年の理由はそれだ。

 落ち着いた態度のせいか彼女はクラスの中で一際高いリーダーシップを持ち、私のようなクラスで孤立しやすいタイプの存在にも気を配り、こうして度々誘いを受けている。 初めは断り続けていたが、しずな自身、クラスから浮いていることを感じており、話しの内容も私の方が合っていたようだ。

 それもそうだろう。 なんせ4ヵ月も魔法世界で留守にしており、此方の世界で換算すれば凡そ一年間だ。

 留年などしてしまえば、周りの生徒は二つも年下であり、彼女の達観した性格も含めて子供っぽい空間と感じていたはず。

 

 「──さん、A組のガンドル君が好きみたいよ」

 

 「無理だな、あの色黒は別の奴が好きだと聞いたぞ。 修羅場になるな」

 

 「それは、怖いわね」

 

 「そういうお前はどうなんだ。 好きな奴くらいいるんだろう?」

 

 しずなは「さぁ、どうかしら」と微笑を浮かべ、静かに紅茶を飲む。 やはりコイツは中学生に思えない。

 私とは違い、美人でスタイルもよく、他者に対する気立ても巧い。 くそ、此方も成長すればアレくらい余裕でなれるはずなのに…!

 

 「エヴァンジェリンさんはいるんでしょう。 待ってる人が」

 

 「ぶうううっ!? な、何故それを……誰から聞いた!」

 

 「高畑君から、ね」

 

 あのバカの元弟子とか言っていた小僧か。 全く、べらべら喋りおって…おかげでお茶を噴き出してしまった。

 

 「きっと素敵な人なのかしら」

 

 「いや、それはない」

 

 キッパリと否定した私の言葉に、しずながポカンとする。

 

 「アイツは変な奴だ。 それこそ、その辺りで土を耕すミミズがまだマシに見えるレベルのな」

 

 「ふふ、ならその変な人に惚れた貴女も変ってことね」

 

 アイツと同じ扱いをされるのはかなり嫌だな。 

 

 「でも、好きなんでしょう?」

 

 「ああ、好きだよ」

 

 どうしようもなく、バカなことで笑わせて、アホなことで楽しませてくれ、しかしいざという時は頼りになる、アイツの優しくて心が強いところは大好きだ。

 

 それからは月日が流れ、修学旅行を除けば運動会、学園祭など比較的楽しませてもらった。 運動会では体格の関係上足の遅い私はリレーでアンカーを務め、ゴール手前で転んだ時は涙がちょっと出そうになった。

 しずなと刀子のフォローが無ければクラスとの関係が危ぶまれそうだった。 そのあと玉入れで取り返して、二人の顔に泥を塗るような真似をせず済んだ。

こうして思い返すと誰からも狙われず、安心して寝床につけたのは一体何年ぶりか。 いや、そういえばアイツと共にいた時は常に一緒で寝ていたか。 

 気づけばあの時からゆっくりと眠れていた気がする。

 

 もうすぐで中学も卒業だ。 成績に問題はなく、体調不良を除けば毎日通っていたため、出席日数にも問題はない。

 このまま高学年に進級し、しずな達ともまた穏やかな生活をおくれる、そう思っていたが…。

 

 「何! 進級出来ないだと!?」

 

 「スマンのぉ。 ナギの奴め、登校地獄の呪文をちょっと間違えているうえ、無駄に魔力を込めたせいか呪いの精霊との契約を滅茶苦茶にしておる」

 

 「ふざけるな、じじい! 貴様ではなんとか出来んのか!」

 

 「残念ながら流石に儂でも、魔法使いとして最強であるアイツの呪いを解くのは不可能じゃ。 早いとこアイツらには帰ってきてもらわんと、このままずーっと中学生じゃの…」

 

 学園長室の扉をおもいっきり音を発てながら退出。 あのバカコンビめ、帰ってきたらボコボコにしてやる!

 外れに建つ、自身の家に帰宅。 苛立ち気に制服を脱ぎ捨て全裸になると、床に叩き付けた。

 

 「オーオー、久シブリ怒ッテイルジャネェカ。 何カアッタノカ?」

 

 「何でもない…!」

 

 リビングでテレビをずっと視聴していたチャチャゼロが、茶化すように話し掛ける。 今は誰とも話したくなかったため無視を決め、ベッドへ潜り込んだ。

 傍にある戸棚にシーツから手を出し、引き出しを開ける。 中に納められていたひとつの小さい箱を取り出すと、そのまま中に引き入れた。

 蓋を開けると中には深紅に優しく輝く宝玉。 アイツの心そのものであるそれを両手に握り締め、静かに祈る。

 

 「寂しい、早く戻ってきて…」

 

 学生生活初めの頃はこうして毎晩握り締めていた。 しずな達と過ごしてからは回数が減り、頼ることも無くなっていったが、またこうして再び握り締めようとは…。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【1994年 4月】

 

 「おはよう」

 

 「あら、おはようエヴァンジェリンさん。 えっと、貴女は中等部でしたよね? ここは高等部ですよ」

 

 ああ、知ってるよ…しずな。 お前にとって、私がここにいるのはおかしいことなのだろう。

 高等部へ進級した彼女は、私と過ごした日々を全て忘れていた。 これも登校地獄による作用なのか、腹立だしいことこのうえない。

 恐らく混乱を避けようとする精霊の対処なのか、魔法関連の教師達には兆候が見られなかったが、嫌なところにばかり気が回る。

 

 「いや、何…お前の顔を改めてよく見ておこうと思ってな」

 

 「ふふ、貴女のような可愛らしい人に見つめられるとテレるわね」

 

 変わらぬ微笑。 お前はいつもそうだったな。

 

 「タカミチは紳士に見えてただの朴念事だ、難しいだろうが頑張れよ」

 

 「……」

 

 私の最後の言葉に目を見開く。 それ以上有無を言わせぬまま、私はその場から離れた。

 さようなら、私の友達。

 

 「あれで良かったの?」

 

 先には刀子が待っていた。 自ら担任を請け負った者として最後まで見届けたかったらしい。

 あれで良いのだ、彼女には何度も世話になった。 これ以上私のワガママに付き合わされて余計な混乱を招くわけにはいかない。

 

 「ごめんなさい、私も次は大学部の担当に移ることになったわ。 ひとりにさせてしまうわね…」

 

 いいさ。 ひとりは馴れている、次の新しいクラスでもきっと巧く出来る。 

 もう人との接し方には馴れた。 しずなに頼らずとも、やってやろうじゃないか。 それが、アイツの願いでもあるのだから。

 

 

 

 




次も間違いなくシリアス。 そしてちょっとだけポチ登場。
次の次あたりで、ちょいちょい語られていた事件の話しに入ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エヴァンジェリンとポチ

もはやエヴァが主人公。


 【1994年 6月】

 

 梅雨は嫌いだ。 特に雷が激しい大雨はあの日を思い出す。

 

 「…?」

 

 始めは違和感だった。 周りの者、特にクラスのまとめ役としてリーダー気質を持つ女子、彼女達が私を遠巻きから眺めこそこそと耳打ちしていたのだ。

 今まで感じたことのない視線、恐怖や嫌悪のものではなく好奇心や対抗心を燃やした攻撃的なものだった。 落ち着かなかったが、特別敵意はないだろうと思いそのままほっておいてたのだ。

 積極的に友達の作り方を知らない私は、やはり上手くいかず、毎日教室で空気のように過ごし、アイツの帰りを今か今かと待ち焦がれていた。 もしも出迎えた時、何と言ってやれば良いだろう。

 

 素直にお帰りなさい? それともいつものように遅いと一喝するべきか?

 …いや、流石に酷い気がするが、でもアイツなら笑い飛ばすかもしれない。 逆に真面目にやったら戸惑うかもしれん、そういうのは苦手だと言っていたし。

 等と他愛のないことで思考を働かせ、今日も時間が過ぎていく。 だが、ふとある日のことだ。

 ボーッと窓の外を眺めている時、クラス内で一際大人しい少女が自分に話しかけてきた。 周りをかなり気にしているようで忙しなく辺りをキャロキョロと見渡すと、エヴァンジェリンに小さく話し始める。

 

 「き、気をつけて。 最近、生意気だって言ってたから…」

 

 「何? なんのことだ」

 

 少女の言葉にまるで理解が出来ない。 詳しく聞こうとしたが、クラス内のリーダー格が教室に戻ってきたのを気づくと、すぐさまそそくさと、自分の席に戻ってしまう。

 この時は全くわからなかったが、次の日エヴァンジェリンは、その意味を嫌でも知ることになる。

 

 「なんだ、これは…」

 

 翌朝の下駄箱での出来事。 自身の上履きの中に雑草が詰め込まれていた。 陰湿な嫌がらせ、しかし幾多の経験でこんな物では生温い迫害を受けてきたエヴァンジェリンからすれば鼻で笑ってしまうくらい、あまりにもちっぽけで単純に意味のわからない行為だった。

 こんなもの、さっさと掃き捨ててしまえばなんてことない。 大勢の人間から石を投げつけられるほうが余程酷だ。

 その後も机を落書きされたり、足を引っ掛けられたり、様々なバリエーションが増えるが、それでも彼女がへこたれることはない。 ただ、いつも空を見上げ想いを馳せる。

 だが、それを良しとせず面白くないと苛立つ主犯者達。 徐々にその行為は小さく、そして確実にエスカレートしていき、エヴァンジェリンの反応を楽しもうと机の上に菊の花を飾ったと思えば、机その物を無くし、体育の時間で集中的にボールをぶつけられ、トイレの上からバケツをひっくり返した水が流し込まれたこともあった。

 流石にこれには彼女も怒りを募らせたが、相手がまだ幼い子供であるため、やり返すようなことはしない。 不機嫌そうな表情を貼り付かせ、私に近寄るなと感じさせる空気を常に放っていた。

 

 無論、その様子を“とあ”からエヴァンジェリンを頼まれていた学園長、近衛近衛門が気づかないわけがない。

 

 「御主、ちと無理をしとらんかの」

 

 「いきなりどうした」

 

 「いや、あまりよくない噂を聞いたものじゃからな。 暫く自宅待機でもしたらどうかのぉ」

 

 「出来ないくせに言うな。 お前は関西との小競り合いを気にしていろ、スクナのこともある、少しマズイのだろう」

 

 学園長は知っておったのかと、申し訳なさそうに髭を撫でる。 あれは無理矢理“とあ”とナギと詠春が力ずくで解決させた事件、戦争一歩手前、後々の面倒を考えればそう簡単にもいかなかったはず。

 

 「バカにするな。 私は闇の福音と呼ばれた女だぞ? この程度で喚くようではアイツに笑われる」

 

 勝ち気な笑みを返してくれたが、近衛にはそれが何よりも辛かった。 これから彼女に伝えねばならない“最悪の結果”をどのように話せば良いのか、一体どれだけの苦しみを与えることになるのか。

 想像するだけで嗄れた自分の手が震える。

 

 「エヴァンジェリン、その──じゃな…少し落ち着いて聞いてほしいのじゃが…」

 

 「ん、またさっきの話しか? 良いんだよコレで。 もう慣れてる。 アイツが来たら思いっきり愚痴でも溢すから、年寄りが無駄に気を回すな」

 

 「……ッ」

 

 「なんだ、違うのか?」

 

 「い、いや──参ったのぉ、御主も年寄りのくせによう言うわい」

 

 言えなかった。

 

 「はっ。 ザンネンながら私とお前では歳の取り方が違う」

 

 此方をバカにしながらも楽しげに話し、軽快な足取りで部屋から退出するエヴァンジェリン。 彼は自身の目を覆い、嘆く。

 

 「わ、儂は…なんと弱い…」

 

 この歳になっても未だに成長出来ていない己。 彼女の最愛の人物が死亡した事実を伝えるべき責任があるというのに、それを放棄してしまった。

 絶望したエヴァンジェリンを支えるべきなのも“とあ”から託された自分のやるべきことだというのに、その約束さえ破った。 愚かで、卑怯な人間である。 彼女はこのまま帰ることのない人を永遠に待ち続けることになるのか、知らぬ幸せもあるというが、エヴァンジェリンはきっと、そんなもの欲しくないだろう…。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「エヴァンジェリンさんってさぁ、ここまでされて何も思わないわけ?」

 

 それは突然のことだった。 いつも通りの昼休み、教室から出ていこうとしたエヴァンジェリンを止めたのはクラス内のリーダー格。 小馬鹿にした甘ったるい声はエヴァンジェリンに不快を与えるが、これを無視。 何も言わずにその横をすり抜けようとしたが、彼女の腕を相手は強く掴む。

 

 「おい、痛いのだが」

 

 「シカトしないでよ、いっつも上から目線でムカツクんですけど」

 

 「別にそんなことをしたつもりはない」

 

 「そうそう、それ。 そのまるで気にしてないような態度が嫌なの。 それともなに? …吸血鬼様は人間をそんな接し方しかしないの?」

 

 最後の言葉はエヴァンジェリンに耳打ちするよう小さく囁く。 流石にハッとした彼女は目の前の少女は事情を知る人物だと気づき睨んだ。

 

 「魔法関係者…」

 

 「私の曾お爺ちゃん、エヴァンジェリンさんに殺されたってお父さんから聞いたんだ。 酷いよね、人殺しがのうのうと学生生活なんて」

 

 「成る程、遺族の者か。 赦してくれとは言わん、だが私は常に向かってくる者しか殺さなかった、それは覚えておけ」

 

 吐き捨て腕を振り払い、脇を通る。 これは昔から何度もしてきた行為だ、悪に謝罪をする資格はない。 覚悟していたこと、悪者は悪者らしく振る舞う必要がある。 それがエヴァンジェリンの誇りでもあるのだから。

 故に、侮蔑罵倒から逃げない。 敢えて真っ正面から恨みを受け取る。

 だから、彼女が怒りに震え叫び声をあげるのも予測していた。 …その後に続く言葉を除いて。

 

 「なによ、それ…! 馬鹿みたいに帰らない人を待ってるくせにカッコつけてんな!」

 

 「…どういう意味だ」

 

 一拍おいて聞き返す。 エヴァンジェリンは自分の耳を疑った。

 

 「まだ知らないの? 事故で死んだって大騒ぎよ、千の呪文の男とその相棒が!」

 

 「くだらん」

 

 即答。 あの馬鹿が簡単にくたばるわけがない、しかも事故などという呆気ない結果で。 最強と自負する己と互角の強さを持つ強者、どれだけ戦力を用意しようとそのままぶち壊すようなヤツだ。 冗談にしても笑えない。

 

 吐き捨てた言葉。 エヴァンジェリンは踵を返し、振り返ることなく足早にその場から離れた。

 

 そう、そんなことは有り得ない。 自身を置いて勝手に逝くなど、あってはならないことなのだ。 強い想いは胸に溢れているが、そこに学園長の言葉がけして混ざり合わない油と水のように入り込んでくる。

 

 あの時、彼は何を言おうとしたのか? 深刻な表情。 すぐさま取り繕った笑顔を見せたが、よくよく思えばあれは演技に見えた。

 だが、まさかと…。

 

 頭の中を同じ考えがグルグルと回り続ける。 少しずつ歩みは速まり、足取りはやはり、学園長室へと向かっているのだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「おっ、なんじゃ御主、ノックもせず……」

 

 いきなり入室したエヴァンジェリンに少したじろぐ近衛近衛門。 しかし、彼女の肌を切り裂くような殺気を感じ取った瞬間、理解した。ああ、この時が来たのだと。 相手を傷つけてしまう恐怖で僅かに指先が震えるが、同時に、この苦しみから抜け出せると不快なことに安堵してしまう。

 

 「じじい、今から言うことを嘘偽りなく正直に応えろ。 仮に冗談でふざけたこと言ってみるがいい、貴様の髄液を引き抜く…!」

 

 「おお、怖い怖い。 そんなことをせんでも、正直に応えよう…」

 

 前半はおどけた様子で、しかし後半は静かに重々しく力強く言った。 エヴァンジェリンの殺気は膨れ上がり、空気が鋭い。 当てられた近衛門の頬は僅かに斬れている。

 

 「アイツらは…とあは今、どこにいる」

 

 「死ん────っ!」

 

 エヴァンジェリンが眼前にいた。 まるで反応出来なかったのだ。 幼く、細いその腕に一体どれ程の力があるのか、近衛門の首には彼女の左手がかけられ右手は異形の形となって自身の頭部を掴む。結界内でこれほどの力、明らかに彼女の身体スペックを上回っていた。

 そこには、エヴァンジェリンという美しくも可愛らしい少女はどこにもいなかったのである。

 

 「…モウ一度聞イテヤロウ、とあハドコダ」

 

 これが人の悪意が造り上げた者なのかと近衛門は戦慄した。 エヴァンジェリンの姿にではない。 彼女をここまで変えてしまう境遇、生い立ち、苦悩、それを想像するだけで絶望してしまう。

 とあと共にいた彼女はそれそれは美しかった。 光を放ち、周りの者達さえも幸せになれるそんなオーラを持っていた。 しかし今はどうだ、口は耳まで裂け、目は反転し、鋸のように牙が並ぶ。 こうまで変えてしまう、なんと恐ろしいことか。 これが人の悪意そのものなのかと戦慄した。

 

 「すまぬ、彼らは…」

 

 エヴァンジェリンから力が抜けていく。 異形の手は紅葉のように小さく縮み、顔は元の容姿を取り戻す。

 

 「嘘だ…」

 

 「儂も信じたくない。 じゃが、まだ安否を知る方法はある。 御主がとあから預かった玉、あれが無事ならば…!」

 

 そう、とあが自分自身と言ったあの深紅に輝く宝玉。 未だにその光を失っていなければ、望みはある。

 エヴァンジェリンは有無を言わず走り出した。 自宅で大切に保管していたあれは、昨日も光輝いていた。 彼らが事故で亡くなってから少し日にちが経っている、つまり、今も何処かで生きているのだ!

 

 「はぁはぁ! っぐ…!」

 

 か弱い少女の身体で休み無しの全力疾走。 息がきれ、足がふらつき、自宅前の庭に顔から転んでしまう。 顎と膝を石で切ったのか、血が流れジクジク痛む。 だが今はそんなことどうでも良い!

 扉を壊す勢いで玄関を開け、二階の自室へ駆け上がる。 背中からチャチャゼロが呼び止める声が聞こえたが、それさえも無視。

 部屋にたどり着き、引き出しの中にあるケース、そこに収められた宝玉を確認するため開いた。

 

 「ああ、良かった…!」

 

 宝玉は今も輝いている。 安堵と同時にドっとした疲れが押し寄せ、彼自身を握り締めながら力尽きたように横になった。

 安心して沸き上がるのは苛立ち。 じじいは兎も角、私をここまで疲れさせたあの小娘の罪は重い。 流石に命を取ったりはしないが、少々おしおきが必要だと一人、悪の笑みを浮かべた。

 

 その時。

 

 「は?」

 

 手の中の宝玉が揺れる。 ピシリと、何かが割れるような。

 

 「そんな…」

 

 恐る恐る、手を開く。 其処には大きく、いつ割れてもおかしくないヒビが宝玉に刻まれていた。

 

 「な、何故だ! どうして…!」

 

 エヴァンジェリンの悲痛な叫び。 ヒビは広がり、光もまたその輝きを失い始めている。 理解出来ない、これはあってはならないことなのだ!

 

 「ああ! ま、待ってくれ! 駄目だ、こんな────」

 

 砕ける。 彼が、彼の命が。

 

 「あ…」

 

 其処にあるのは、もう深紅の宝玉ではなかった。 光は失い、砕け、石ころどころか砂となり、サラサラと指の隙間から零れるカスだった。

 

 「アアアアア!!」

 

 慟哭。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 麻帆良学園外。 結界の外側から一人の老人が両目を静かに閉じる。 色褪せた黒いコートを羽織り、広い鍔を持つ帽子を深く被り素顔は見えない。

 空は曇りかかる。 一雨降りそうだ。

 

 「あのような結果になるとは…。 やはりここは…」

 

 杖でアスファルトを叩きながら歩き始めた。 その足取りは麻帆良学園へと向いている、絶望の遺恨が。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 狂笑が響く。 変わり、嘲笑。 せせら笑い。耳を塞ぎたくなるような狂気の宴が目の前で行われる。 刀子はそこから身動きが取れなかった。

 胸に突き刺す哀しみが他者の物と信じられない。 これが愛であり、憎しみなのか。 痛々しく、なんてみっともなく、なんて羨ましい。

 誰かをここまで愛せた“彼女”は酷く醜く、とても素晴らしかった。 自分もこうでありたいと。

 

 彼女は笑い続け、そして気づく。 これが罰だったのか。

 親殺し、人外、幾多の者を殺害した自身の罪、それに相応しい罰はこれだった。

 幾年も覚悟した。 何れ罰せられる時、己は一体、何れ程の身体的苦痛を味わうのか? 死ねぬ身体で狂うまで火炙りか、切り裂かれるのか、喰い尽くされるのか。

 違った。 此れこそだった。 大切な者を奪い続けた化物には相応しい罰、同じく命よりも大切な者を奪われる罰。 残酷で正しい。

 

 ああ。 私は深淵で生きるしかないのか。外では雷が落ち、薄暗い部屋に光が射し込む。 あの日も、こんな空だった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 その日の深夜。一人の青年が林の中で倒れこんでいた。

 一糸纏わぬ産まれた姿、男性器を持っているにも関わらず、女性的で美しい姿だ。

 無機質な瞳が開かれ、瞬きを数度繰り返すとゆっくり起き上がる。 が、その美しい容姿は青年がだらしない欠伸と共に崩れ去った。

 

 チャーラチャーラチャーラチャーラチャー! なんということでしょう、あんなに美形だったイケメンは見る影もありません。 出来杉君がのび太に変わるかのようです。

 

 「───あれ? ここ…どこ? あれ? 俺…誰だ?」

 

 駄目犬見参ッ! おすわり、待て、お手、おかわり! そしてチンチン!

 

 「って、スッポンッポンじゃねぇかあああああ!?」

 

 これどういう状況なの!? なんで裸なんだよ!

 此処、外だよね、見られたら通報ものだわ…! やばいわぁ…!

 

 「きゃあああ! HENTAIよー!」

 

 叫び声の方に中学生くらいの可愛い女の子が!

 見つかったあああ! 早いな、おい! フルチンでゴメンね!?

 

 「誰かー! 誰かー! 誰──もが…!」

 

 「しー! 大人しくしてくれたら悪いようにしないから…!」

 

 駄目だ、これは完全に駄目なヤツだ!! 誰か助けてー!

 

 




Q・なんでフルチン?

A・産まれた赤ちゃんは服を着ていない!(迫真)

Q・しずなはエヴァンジェリンのこと覚えていないの?

A・記憶は操作されているが、感覚では覚えている。 あれ? この子とは仲良く出来そう…。 みたいな。 でもエヴァンジェリンがヘタレてもう一度仲良く出来ない。

Q・ポチのチ〇コのサイズ。

A・素で8センチ。

Q・結局ポチってイケメンなの? なんで正確な容姿の描写がないの?

A・一言で言うと残念な美人。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ポチとの出逢い

シリ、アス…?


 【1990年 12月】

 

 「ねーねーエヴァンジェリンちゃん」

 

 「またくだらんことなら割るぞ。 …なんだ」

 

 割るってなんですか、顔面ですか。 そうなんですか。 中身空っぽなのバレちゃうから止めて。

 

 「好きって、十回言ってみてよ」

 

 「何?」

 

 エヴァンジェリンは思い出す。 前にナギとアリカが似たような遊びをしていたことに。 その時は『膝を十回言って肘に引っかける』遊びだったが、アリカが物の見事に引っかかりナギから「やーい、バーカ!」っと馬鹿にされボコボコにしていたのは、記憶に新しい。 どうやらこの鎧男、自作の物を考えたようだ。

 

 「しっかり言ってね」

 

 「ふん、良いだろう。 好き好き好き好き好き好き好き好き好き……好き! 言ったぞ」

 

 エヴァンジェリンは構える。 如何なるひっかけだろうと、このバカの思惑なんぞに乗らないと隙なく、自信満々に。

 

 「わーい、ありがとー!」

 

 しかし、とあは全身で喜びを表現すると、全速力ダッシュでその場から逃げ去った。

 

 「──────」

 

 一拍おいてエヴァンジェリンは理解する。 白い肌を真っ赤に染め上げ。

 

 「貴様あああああ!!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【1994年】

 

 真っ暗の深夜。 落ち着きを取り戻すまで何れ程時間を要したか、気づけば時計の針は二時をすぎ、月が沈み始める兆候が見られた。 意識を覚醒させたのは一つの反応、学園の結界に何者かが侵入する感覚がくる。

 とても小さくか弱い、今にも消えてしまいそうな存在だった。 だが、確かに何かがやってきたと此方に知らせる、確信めいた存在だ。

 やる気は全くなかったが、ほっといて後々面倒でも起こされては逆に疲れる。 もう、煩わしいことは何もかも嫌だ。 家から出ていく私にチャチャゼロは何も言わない、それはありがたい。

 

 「んー! んー!」

 

 「頼むから静かに! ね?」

 

 「……」

 

 現場にたどり着いた時、エヴァンジェリンの時は止まる。 これは一体…いや、一目見ればわかることなのだが状況が特殊すぎた。

 一言で説明すると、そこには変態がいた。 暴れる女子中学生を押さえつけ、全裸で跨がる変態が。 エヴァンジェリンの瞳から光が消える。

 

 「おい」

 

 「ちょっと、静かにして! 今忙しいとこだから!」

 

 「おい」

 

 「だから静かにしてよ! こんなとこ見られたら間違いなく変態扱いされるんだから!」

 

 「おい貴様!」

 

 「もう! 静かに…って───わあああああ!?」

 

 驚きに目を丸くし飛び上がるのは、一人の青年。 気持ち悪い行動の割りには中々の顔立ちだが、コロコロと子供のように表情が変化し、それがやはり…気持ち悪い。

 

 「大人しくしていろ、そのぶら下がっているモノを引き抜いてやる…!」

 

 「怖い! 怖すぎる!」

 

 「──っ!?」

 

 今の声、アイツに瓜二つだ…。 声質も抑揚も全く。 背も体格も、鎧越ししか見ていないが似通ったとこが ──くそ、阿呆か私は…!

 確かに似ているが、侵入者相手にこんな考えに至るなど、極まっている。 失ったショックからこのような…自分自身が気持ち悪い!

 侵入者はぶわっと、一気に涙腺を決壊させ悲鳴をあげるが、今の私は非常に機嫌が悪い。 こんなくだらないことで腰を上げさせたのを、後悔させてやる。

 

 「お嬢ちゃん! ちょ、俺の話し聞いて! 俺、悪い変質者じゃないよ! 良い変質者だよ!」

 

 「良いも悪いも、貴様はただの変態だろうが!」

 

 「おっしゃる通り…!」

 

 苦虫を噛んだような青年の言葉。 どうやら自覚はあったらしい。

 だが、このふざけた態度…妙にイライラする!

 

 「で、出来れば平和的話し合いをお兄さんは望みます!」

 

 「安心しろ、此方もそのつもりだ。 …痛みを伴ったあとにな」

 

 「安心出来ねぇぇぇ!」

 

 素性がわからん相手に油断は出来ん。 どのみち、侵入した目的も聞き出さねばならない。 このふざけた態度こそ、一般人に見せかけた演技である可能性もある。

 魔法関係者であればなおのこと…。 危険だな。

 

 未だに変態に拘束されている女子生徒を眠らせ、私が本気とみた男はそのまま逃亡を開始する。 気持ちを切り替えるよう頭を振り、マントを羽織った。

 

 「そうだ。 アイツは、死んだんだ…」

 

 さぁ、久々の鬼ごっこが始まり始まり。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「ちょおおお!?」

 

 フルチンの青年が林の中を走りぬく。 非常に怯えきった表情で、時折後ろを忙しなく確認するが、対象が視界に入ると悲鳴をあげて更に走る速度を上げた。 ビームが! なんかビームが飛んでくる!

 

 「お願いします! 止めてください! 死んでしまいます!」

 

 「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック───」

 

 自分よりも小さなチビッ子が無表情で淡々と死の呪詛を呟く。 怖い! 怖すぎるぅ! 何、なんなの、あの子!? 此方は抵抗の意志どころか、人間が見せちゃいけないモノまで出しちゃってんのに話しきかねぇぇぇ!

 そりゃね、どう見てもゾウサン状態じゃ攻撃されてもおかしくないですよ、でも記憶が全くないからそこら辺許してほしい! 自分自身、実は露出狂で女の子から返り討ちにあって記憶を失ってんじゃないかと不安になっている! そしてチビッ子が退治に来たとかそんな状況じゃないか…畜生、 間違いが見当たらない!

 

 「チッ、これも当たらんか…。 ならば───」

 

 やべぇ、なんかとっておきが来そう。 散々木を盾にして凌いでいたけど体力的にもそろそろ限界が近い。

 

 しかぁーし!! 此方もただ逃げ回っていたんじゃねぇ! 実はこそこそと其処らじゅうに簡単で小さな罠を仕掛けさせてもらったぜ! なんで出来るのかは、知らんがな! マジでヤバイ人間だったんじゃないかと不安です!

 

 しかし、これが巧くいけばチビッ子から逃げることは容易。 余計な詮索はあと!

 まずは初歩の、吊り上げトラップカード! 発動! 相手はこのターン、身動きが取れない!

 巧い具合にチビッ子を罠まで誘導し、足首に蔦が絡まるとそのまま勢いよく持ち上げられる。よっしゃあああ!

 

 「ん? ───ぬおおおおお!?」

 

 明らかに、女の子が出してはいけない雄叫びをあげてやがる…。

 

 「くそ! やはり罠に嵌めたな!」

 

 え、やはりって…。 何か誤解されている、よう…な……まぁいいや!

 

 「ふはははは! ひっかかったな、物理系女子力め! これで身動きは取れまい!」

 

 「おのれ…!」

 

 睨み顔怖っ! メッチャ可愛いぶん、メッチャ怖っ!

 

 「やーい、バーカバーカ! まさか最初の罠に嵌まるなんてなぁ、これ以外に色々沢山罠を用意していたけど全部無駄になったなぁ! くくくっ、こ、ここまでの苦労が無駄になぁ…! 本っ当に、俺……バっカみたい」

 

 「─────」

 

 やめろおおおおお! そんな憐れむような、申し訳ない目はやめろおおおおお!

 

 「暫く其処でがまんしてね。 俺が逃げたら適当に通報しといてあげるから」

 

 「何? どういうことだ…」

 

 「俺、なんで此処にいたのか覚えていないんだよ。 素っ裸で記憶喪失ッス」

 

 「ふん、そんなことが信じられるか」

 

 だよねー。 ましてや開幕から女の子拘束していたし、逆に信じてくれる要素がない。

 

 「ってなわけで、さっさと逃げることにするよ」

 

 痴漢の冤罪から逃れる一番の方法は、その場から逃走することである!

 

 「さらばじゃー」

 

 チビッ子をおいて、再び逃走開始。 しかし、俺はまだこの時気づいていなかった。 自分がここから脱け出せないことに…!

 

 その経緯を簡潔に説明しよう。 なんか林から抜けたぞ! でも敷地が広すぎて迷子だぞ! お、向こうにデカイ橋あるぞ! 彼処からなら外に出られるかもしれないぞ!

 

 ヒャッホー! 見えない壁に顔面強打! ぐしゃあ、脳みそ揺れてその場で気絶! 記憶飛んだ! 完!

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「コイツ、まさか学園から出られないのか?」

 

 目の前に寝そべっているのは、鼻から【血を流している】変態。 白目を剥いて気絶しているようだ、アホすぎる。

  一部始終を見ていたが、そもそも出られないのならば、一体どうやって侵入したのか。 わざわざ自身を不利にするうえ、記憶がないと言っていたが、どこまでが真実か、その深意は理解出来ない。

 今までとケースが違いすぎるため、どのみち一度近衛近衛門学園長に報告する必要がある。 エヴァンジェリンはマントを脱ぎ、全裸の男に被せると学園長室へ運び出した。 足首をつかみ、背中をずるずる引きずりながら。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「いやぁ、これはどうも御丁寧に…」

 

 目が覚めるとベッドの上に寝かされていた。 どうやらここは麻帆良と呼ばれる学園らしい。 俺は其処の保健室に拘束されていた。 興奮することに両手には手錠。 しかも保健室かぁ、女の先生がいれば…それなんてエロゲ。

 麻帆良の学園長、名は近衛近衛門と言った御老人が怪しい俺に暖かいお茶を差し出す。 びゃあああ、うまいいい!

 

 「ふむ、記憶喪失と聞いたが…」

 

 「そうなんですぅー、なぁーんにも覚えていないですぅー。 あと、背中が凄く痛いけど、これも覚えていないんですぅー」

 

 気絶する前はケガしてなかったのに、すんごい背中ヒリヒリするのん。

 

 「な、なんでじゃろなぁー」

 

 髭を撫でながら震え声の学園長。 そっかぁ、知らないかぁ。

 

 「エヴァンジェリンが御主を運んできたからの、彼女に聞けば何か分かるかもしれん」

 

 エヴァンジェリン? ああ、あの怖いチビッ子か。 あの子には悪いことしたなぁ、こんな風に捕まるなら最初から抵抗しなければ良かった。

 

 「エヴァンゲリオンちゃんはどこいるの?」

 

 「エヴァンジェリンじゃ。 彼女は自宅で寝ておる」

 

 寝てるねぇ。 外は太陽がサンサンと輝いているから昼頃だろう。 こんな時間に睡眠とは…体調が宜しくないのかな? もしや、深夜俺を追いかけ回したせいだったりして…。 うーむ、謝るべきか。

 

 「御主のせいではない。 寝込んでいるだけじゃ、ちょっと嫌なことがあっての」

 

 そっかぁ。 …あれ? 学園長、俺の考え読んでる?

 

 「すまんの、あまりに御主がわかりやすい顔をしていたものじゃから」

 

 学園長すげぇ! そしてわかりやすい顔って、なんか良いっ!

 

 「それにしても、うーむ…」

 

 そ、そんなジロジロ見ないで…。///

 

 「やはり、御主と話しておると…思い出してしまうのぉ」

 

 「意味はわからないけど、泣きそうな顔で言わないで、お年寄り虐めてるみたいだから」

 

 犯罪やってる此方の身としては、もうこれ以上罪を着せないで。 ホントに豚小屋へぶちこまれそう。 知ってる? 彼処では臭い飯しか食えないんだぞ! だからなんで知ってる!?

 

 「いや、御主の声と態度があまりにも友人に似ていての。 まるで今、其所にいるようじゃ…」

 

 余程大事な友達みたいだね。 でも空気が重い…! この感じは絶対死んでるパターン!

 さっきから、俺。 保健室でエッチな妄想しかしてないのに罪悪感が凄い! 誰か来てよー!

 

 「学園長、車の用意が出来ました」

 

 部屋に入ってきたのはピチピチタイツが非常に眩しい、長髪のクールビューティーな女性。 勝ち気そうな目付きに、眼鏡が大変似合います。

 

 「おねぇさん、宜しければ御名前を」キリ

 

 「ごめんなさい無理私婚約者がいるから。 葛葉刀子よ」

 

 色々すっ飛ばして自己紹介ですか、斬新すぎる。 言葉から話しかけんな変態って思いが伝わります。 畜生ー、リア充めー、末永く爆発しろよー!

 ついでに重苦しい空気がかき消えたー、ありがとうよー!

 

 「ところで、俺…どうなるんですかね?」

 

 拘束されているが、いつまでもこうしているわけにはいかないだろう。 早くも暗い未来しか見えないが、知り合いとか見つかんないかなぁ。

 

 「とりあえず身元を調べるため、魔法関係と繋がりがある警察に引き渡すつもりじゃ。 ハッキリ言えば御主は危険人物じゃからな、変態とは違う意味で」

 

 なるほどね、車の用意はそういうことか。 どっかに連れていくのね。

 

 「うん、わかったー」

 

 「や、やけにアッサリしとるの…」

 

 扱いとしては妥当かと。 仮に俺が悪人として、記憶が戻った瞬間襲いくる可能性があるからな。 正体がわかるまで、独房にぶちこむのが一番でしょ。 悪人じゃないとしても、全裸で女子を押さえていただけで充分犯罪者だし。それに…。

 

 「自分でもちょっと、引っ掛かるんだよね。 俺が普通の人とは思えないんだ」

 

 「ほう、その心は?」

 

 「魔法という存在に、違和感を覚えない。 俺を襲って────げふんげふん! 捕まえにきた女の子にはビックリしたけど、魔法自体に驚きは無かった」

 

 魔法自体ではなく、飛んでくる魔法には驚いたがな!

 

 納得したように髭を撫でる学園長。 しかし、何故か黙り込んで空気が重い。 おねぇさんも、更に眼光鋭くしちゃってるし、俺…何か変なこと言ったかな? 普通に当たり前のことしか言ってないんだが。

 

 「失礼する」

 

 またしても追加のお客さんが。 ガチムチのスーツ姿、三人組。 ちょ、あの…狭いんですけど、暑苦しいんですけど…。

 そんなにぞろぞろ来られてもねぇ、恐らく搬送の方だと思うが、さてはて…どうなるか。 まっ、考えてもしょうがないし、テキトーに構えとくか。

 

 




Q・あれ? 変態は学園から出られないんじゃ…。

A・本人は頭打って忘れてる。エヴァは報告せず家に帰って丸くなっていた。

Q・あれ? 変態のケガ、治ってない…。

A・まだ式が無い。

Q・なんで変態、エヴァンゲリオン知ってるの?

A・としあき。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エヴァンジェリンと学園長

ポチま!20話になりました。 相変わらず短くて色々省力していますが、これからも宜しくお願いします。


 ずっと、リビングのソファーで横になっていた。 時計が針を刻む音が静かに響き、時折校舎の方から鐘が微かに。

 ふと意識を覚醒させれば、またしても同じことをしていたと自己嫌悪。 一体どれほどこうしていたのかと、時刻を見れば然程大して時は過ぎていないと気づいた。 時間にして午後の二時前か。

 どうにも昨日からこの調子だ。 頭ではわかっていても、アイツのことばかりが浮かぶ。

 

 「ケケケ、情ケネェナ御主人」

 

 部屋の棚に無造作で置かれたチャチャゼロは、醜態を晒す主に冷笑。 かつて、闇の福音と呼ばれた最強の魔法使い。 弱者は虐げず、傲りの愚者に絶望を与える誇り高い悪の女王だった己の主、それが今では愛する者を失い牙が抜かれたように怠惰に呼吸するのみ。

 

 「煩い、お前に何がわかる…!」

 

 「ワカリタクネェナ」

 

 チャチャゼロは思う。 アイツはこんなことの為にエヴァンジェリンを此処に残したのではない。 確かに、戦いの世界でも迫害され一般世界の中でも迫害されているこの状況に、光で生き続けろなど無理な話しだ。

 アイツも其れは知っている、なのに何故『光で生き続ける』のか? チャチャゼロは知っている。 エヴァンジェリンも知っている、だが気づいていない。

 

 「アイツハ、御主人二光デアッテホシカッタンジャネェノカ」

 

 誰かを守り、導けるそんな存在に。 だがどうだ? 今のその姿は?

 

 「ホント二、情ケネェヨ」

 

 落ち着いたチャチャゼロの言葉が痛い。いつも斜に構えている僕から道徳的指摘を受ければ、頭は苛立ち、腹の奥がチリチリ不快感を受ける。 思春期の女の子が親の正論で抑え込まれた、そんな感じ。

 エヴァンジェリンはゆっくり起き上がる。 すぐに立ち直れるわけではない。 正直、今でもすぐに泣き出したい気持ちでいっぱいだ。

 けど、そうだ。 背筋くらい、しゃんと伸ばそう。 ウダウダすると、チャチャゼロにいつまでも馬鹿にされそうだ。 笑顔にまだなれない。 でも、泣き顔だけは止めよう。 ウジウジすると、アイツに影で泣かれそうだ。

 

 「…全くキツいな」

 

 家を出る。 空は晴れ晴れ。 吸血鬼であるこの身体は、太陽光を浴びて心地よいと感じる。

 

 「あの変態に会ってくるか…」

 

 明らかにまともではなく、変なヤツだったが、悪い人間には見えない。 このタイミングで学園から抜け出せないなど、妙な因縁を覚えた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 『ふんぬぅぅぅ!』

 

 「ちょっ、痛い痛い! 肩が折れちゃうよ!」

 

 学園の敷地外から少し離れた場所。 エヴァンジェリンはそこで大男二人組に両腕を引っ張られている変態を見つけた。 初めは捕縛していた保健室に向かったのだが、学園長から既に搬送したと聞き相手が学園から出られないことに慌てて気づいたためすぐに追いかけたのだが…。

 やはり、見えない壁で出入りが出来ないようで、空気中に顔を貼り付けながら悶えている。 格好は流石に裸ではマズイので、質素なパジャマ姿だがそんなことは後にしよう。

 

 「先輩、やっぱり無理っすよ」

 

 「諦めるの速すぎだ! 何か細工があるはず…!」

 

 「頑張って考えてねー、俺も学園から出られないなんて怖いから」

 

 だいぶ、難航しているみたいだな。

 

 「おいお前達、その馬鹿は学園から出られんぞ」

 

 「む。 き、貴様は闇の福音!?」

 

 どうやら魔法関係者のようだ。 それも面倒そうなタイプの。 こういう輩は目を見ればすぐにわかる、畏怖と対抗心に燃やした嫌な目。

 

 「学園から出られないとはどういうことだ!」

 

 「喧しい、一々大声で怒鳴るな。 理由については知らん、ソイツのせいかもしれないし別に原因があるかもしれん」

 

 ジジイと刀子が言っていた。 変態は馬鹿な発言と態度しか見せないが、“まとも”に考える思考は持っている。 本当の馬鹿というのは“後先考えるない見栄ばかり”の中身が空っぽな奴等だが、表面上の馬鹿は心の奥底で何を考えているかわからない道化師だ。

 私は、そういう馬鹿を何度も見ている。 そして、空っぽな馬鹿も。

 

 「ほう、そういうことか。 つまり貴様らグルだな?」

 

 「何?」

 

 「グル? 黒のローブ纏ってレアカードを奪っていくアレ?」

 

 変態は少し黙ってろ。 話しがややこしくなる。

 

 「違う! それはグールズだ! それとローブは紫!」

 

 二人組の、此方に食って掛かって来ない方が拳を握りしめ叫ぶ。お前も一々突っ込むな。

 

 「と、とにかくだ! この侵入者は貴様が用意した協力者だな、自らの封印を解くために外から呼び出したのだろう! 」

 

 「え、先輩そうだったんすか?」

 

 「え、俺…お嬢ちゃんの知り合いだったの?」

 

 えええい! お前らホントに黙れ!

 

 「何を勘違いしているのか。 私とコイツは無関係だ。 ただ捕虜といはえ、その雑な扱いはどうかな?」

 

 「俺に魔法ぶっぱなしていたお嬢ちゃんがそれを言う──「何か言ったか?」…げふんげふん!」

 

 第一アレはお前が悪い。 全裸で女の子に抱き付いているヤツを見かけて、攻撃しない者が何処にいる。

 

 「ふん、それを信じられる証拠など無いものを…」

 

 疑う証拠も無いがな。 やはり思う、この男達には任せておけん。 流石に見過ごすわけにはいかない、とあもきっと…同じ想いのはずだ。

 

 「大人しくその馬鹿を渡せ」

 

 「…共犯の疑いかある以上、無理だな」

 

 構えをとる大男。 恐らくヤツの後輩とやらも戦闘に入ると気づいたのか、慌てて同じ構えをとる。

 

 「良かったな。 これは私から仕掛けた。 思う存分やれるぞ」

 

 お前達みたいなのが大好きな悪党退治がな。

 

 「え、な…何するの?」

 

 ジジイとナギ、そしてとあの命令からコイツらは私に手を出すことは出来ない。 だが、何事も例外はある。 例えばそう、私が敵対行動を取った場合など。

 

 「おーい、俺の声届いてる?」

 

 懐から魔法薬を取り出す。 先に動いたのは後輩の方。 瞬動で此方の背後に周り込んだが遅い、抜きも入りも雑な動きだった。 掴みを裏拳でいなし掌底を大胸筋に叩き込みながら弾き飛ばす。

 もう片方はその隙を突き、詠唱を完了させ私の頭上に石柱を出現。 中々早いな、しかしこの程度の練りならば魔法障壁で充分。 一度、ここで力の差というものを見せつけるため避ける動作は取らなかった。 だが。

 

 「お嬢ちゃん、あぶなーい!」

 

 「…っ!?」

 

 変態が私を押し出し、ヤツの右腕はそのまま鈍い音と共に落下した石柱で捻り潰された。

 その場に激痛で呻く悲鳴が響き、私と男達に戦慄が走る。 ものの見事に潰された肉は上腕から先を失わせ、肉の繊維を引き延ばしながらブチブチと離れた。 衝撃で倒れ込んだ変態は身体を痛みに耐えるかのよう震えながらゆっくりと起き上がる。

 

 「…このっ──バカちんがぁ!」

 

 「あうっ!?」

 

 男達は茫然。 それもそうだ、変態は起き上がると目尻を吊り上げ、残された左手を使い、物理障壁を展開していなかった私の脳天にチョップをくり出したのだから。

 

 「な、何をする!」

 

 「何をするじゃないでしょ、お嬢ちゃん! お兄さん達は自分達の仕事を全うしようとしていただけなのに、それを邪魔するなんて!」

 

 「はぁ!?」

 

 コイツは何を言っているんだ、一連のはそういう意味ではなく…いやそうではなくてそれよりももっと重要なことがあるだろ!? 本物の馬鹿か!

 

 「そうだ! 貴様、右腕が無くなったんだぞ!」

 

 「知っとるワイ! めっちゃ痛いわ! 泣きたくなる、ぐら…い…ぐすっ」

 

 泣いてるじゃないか。

 

 「でもね、右腕よりお嬢ちゃんの方がもっと危なかったんだよ!」

 

 「いや、私は大丈夫だったんだが…」

 

 「お兄さん達もお兄さん達だよ! いくら相手が強いからって二人がかりで手をあげるなんて! あほ! なすび! 鬼畜! あんぽんたん!」

 

 話しを聞いちゃいない。 同じように男どもにも左手で脳天チョップを喰らわす。 特に石柱を出した方には号泣しながら連続でベシベシベシベシ。 怪我をさせた後ろめたさから、両者甘んじて受けている。 …いやいや、こんな呑気にしている場合じゃない!

 

 「それより治療が先だ!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「御主も随分、無茶したのぉ。 自棄になっとらんか?」

 

 「煩い」

 

 当たっている、とあと少しでも繋がり持たせようとして気持ちばかりが先走っていた。 私に近づいていた変態に気づかなかったのが良い証拠だ。

 

 「ホントだよー、全くー、嫌なことあったとしても冷静でいないと」

 

 喧しい、いつもテンパってるお前には言われたくないわ。

 

 「ジジイ、コイツの右腕はどうだ?」

 

 「うーむ、やはり無理だの。 千切れた組織の損傷が酷い、右腕も原形を留めていない。 修復するのは不可能じゃ」

 

 「そうか…」

 

 切断面が綺麗であれば魔法で治すのも容易なんだが。

 

 「今回は儂の人選ミスじゃ、侵入者とはいえ右腕を失った御主には悪いことをしたの…」

 

 「なーに言ってんの、こんなの自分でやったんだから俺のせいだよ。あのお兄さん達も悪気はないんだし、反省しているみたいだから許してね。 怪我をさせた片方は死ぬまで殴らせてくれたら良いから」

 

 「充分、キレとる…」

 

 「何を言っている。 これは私を庇った結果だ、ならば悪いのは私であるはず…」

 

 コイツはアイツらを許すのか、あんな扱いを受けたことも含めて。

 

 「じゃあ、お嬢ちゃんのせいで良いよ」

 

 うおおい!? お前は誰の味方なんだ!

 

 「うむ、ならば暫くはエヴァンジェリンに彼の監視を頼もうかの」

 

 「いきなり何を…!」

 

 「へー、お嬢ちゃんがしてくれるの。 ま、俺はどうでもいいよ」

 

 本人はポケーッと窓の外を眺めながら鼻をほじる。 見事なまでに適当だな。 アイツもこんな感じでいつも適当な……いや、止めておこう。

 

 「学園から出られんのなら、同じく学園に出られん御主が適任じゃろ。 実力も申し分ない、両者面識もある」

 

 ふざけるな、何故私がそんな面倒なこと! ジジイの口角が僅かにあがっているのを微かに確認出来た。 コイツ、まさか私に面倒を押し付けようとしている!

 そりゃあ確かに関西との事情で忙しいのはわかるが、よりにもよって今の私に頼むなど…! まだ別の深意があるまいな!

 

 「か、刀子はどうだ!」

 

 「彼女は婚約者との式の準備に忙しい。 そちらは家に帰って寝るだけじゃ、その様子だと授業に出るのはまだ無理ではないか?」

 

 「ぐ…」

 

 確かに、ここ最近家にいてもふて寝ばかり。 クラスに戻ったとしても上の空な自分がすぐに頭で浮かんだ。

 

 「周りの者達はとあが死んだ切っ掛けで御主が何かやらかすのでないかと危惧しておる。 変に気を使って放置しておくよりも、余計なことを考えないよう仕事を与えといた方が周りも安心するんじゃ」

 

 つまりはあれか、自暴自棄の自殺や破壊衝動など。

 

 「あぁ、もう。 わかった、やれば良いんだろう!」

 

 「有難い。 では、儂は他の先生方に連絡しておく。 あとは御主の好きなようにしてくれ」

 

 「好きにするのは構わんが、コイツのことはなんて呼ぶ」

 

 流石にいつまでもコイツやアイツや変態と言っているわけにはいかない。 公衆の面前がある。

 

 「記憶がないからねー。 お嬢ちゃんが名前つけていいよ。 あ、出来れば紅蓮とか夢幻とか剣聖とか格好いい……「ならばジャジャ丸で」……ダッサ!?」

 

 嫌か? 慌ただしい感じなど、貴様にピッタリだと思うが。

 

 「ではジョジョ丸」

 

 「スタンド使いかよ!」

 

 「じぇじぇ丸」

 

 「お嬢ちゃん、朝ドラ見る派なの?」

 

 「獅子丸」

 

 「もはや忍術使うチャウチャウ犬か」

 

 「ちっ、わがままばかりだな。 ポチではどうだ?」

 

 「もう考えるの飽きてない!? さっきから嫌がらせでしかねぇ!」

 

 「貴様にはポチで充分だ。 はい決定これ以上変更なし」

 

 「うむ、では御主のことはポチと呼ぼう」

 

 ジジイもいい加減痺れを切らしたようで、ヤツに対する対応が雑になっていた。 ああ、やはり名はあったほうが良い。 コイツのことを少しでもとあと認識しなくなるから。

 

 「マジかよ、ポチの流れに入ってやがる…!」

 

 「どうする。 暫く落ち着いてから私の家にくるか? それとも…」

 

 「んー、他に可愛い女の子がいるなら、行く!」

 

 「女の子? ああ…いるな」

 

 可愛くはないが、ケタケタ笑うマリオネットが。

 

 「マジで!? よっしゃあ、行こう!」

 

 もう名前についての問題はいいのか。 単純なヤツだ。 だんだんコイツ……ではなくて、ポチの扱いに馴れてきた。 嫌な馴れである。

 




ジャジャ丸は没案でした。 着ぐるみのヤツでも、うむと鳴く変な犬でもありません。
今思えば、これでも良かった気が。

畜生先生ジャジャ丸!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エヴァンジェリンとチャチャゼロ

シリアス多め。しかし、エヴァンジェリン編が終われば間違いなく減るでしょう。その内エヴァンジェリン編とかナギ編とか明日菜編とかが出来るかもしれません。
あとアップデート更新したせいか、どうやらスペースのサイズが揃っていないです。



 人は予め定められた運命に従い行動する。 例えそれが自身の意志だとしても無意識にその通りに。 例え生まれ変わろうとも、住む世界が変わろうと立場が変わろうと、転生した魂に刷り込まれ刻まれた運命の情報は簡単に消し去ることはない。 そしてまた、同じことを繰り返す。 

 

 『痛いぃ、痛い痛い痛い痛いいいいい…!』

 

 『馬鹿! 痛いのは当然じゃないか! 何故庇ったんだ!』

 

 『腕が! 腕が、俺の腕がぁ…!』

 

 『馬鹿だ、本当に馬鹿だ! なんで、こんな…! 私を助けなければよかったのにっ!』

 

 『うッ、うぅ…』

 

 『あぁ…済まない、─────君。 けして許せとは言わない、謝らせてくれ、私のせいで君をこんな目に遇わせてしまった事を…! だから泣かないでくれ、君が泣くと凄くツラい…』

 

 その真実に気づき、運命に抗う存在はいるだろう。 己を信じ仲間を信じ、希望を信じ戦い続けた彼の者の先に待つのは素晴らしいハッピーエンドだ。 しかし、何れ来る死を迎えれば再び産まれ、記憶を失いまた初めから。 二週目開始。 無限のループ。 本来ならば人がそれを気づけぬまま終わりを迎える。

 だが、彼は違った。 知ってしまう。 知り続けてしまう。 出逢い、そして戦いが始まり成長、勝利。 そして…挫折、敗北、消失、真実を知り、またなのかと絶望。 

 呪いにも似た人生。 自分だけならまだ良い。 でも、周りが全く同じ苦しみを味わい続けるその姿は見ていられなかった。 助けられたはずなのに助けられなかった。 今度こそ助けたい、他人の人生を思い通りに動かせるようになれば…世界を思い通りに動かせるようになれば…。

 

 もしも、そんなことが出来る存在がいるのだとしたら、きっとそれは、意志という枠組みを超え、人の姿を保っていない化け物くらいだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「おい、何をしている。 いくぞ」

 

 「ん? あ、ああ…」

 

 その日の夕方。 真っ赤に燃える夕陽を背に受け、エヴァンジェリンの自宅へと向かっていた彼女その本人と、ラフな格好で身を固めたポチ。 不意にポチが後ろからついてきていないことに気づき、振り返れば己の失った右腕をジッと見つめ硬直する青年が。

 やはり、始めこそ態度では軽いものだったが、時間が経過すると事態の深刻さを認識したのかもしれない。

 

 「何を考えていた?」

 

 「なんだろうね。 デジャヴみたいなのが見えて」 

 

 穏やかな表情で目を細める。 今までに見たことのない、大人しさで満ちた姿。 ふざけた騒がしいところしか見せられていないのに、何故かそこに違和感を感じない。 独特の貫禄が滲み出ていた。

 だからこそ、彼女は思う。 コイツは何者なのか。

 

 「ところでお嬢ちゃん、お兄さん達が闇の福音って呼んでいたけど…」

 

 「あれか? 私はこう見えて600年は生きる吸血鬼でな、色々悪さしたものだからそう呼ばれていた。 今ではこの学園に封印されているが…」

 

 ポチはああ、学園から出られないのはそういうことかと一人でにウンウン頷く。

 

 「うーむ、それは辛いね…」

 

 「全くだ。 しかも呪いをかけた魔法使いはくたばり、私は一生涯此処で過ごすこととなった」

 

 「いや、俺が言ったのは闇の福音っていう痛い名前の方で…はぁ、可哀想に」

 

 尻を蹴りあげた。 怪我人とかもう関係ない、コイツは本当にムカつくな。 600年や吸血鬼よりもそこに反応するとは、一々燗に触る。 不快ではないが。

 不意に、強い突風が吹きすさび肌寒さを感じた。 夕暮れは終わり、夜空に薄く灰色の雲がかかり始めているのが見える。 雨が降る前の予兆だ。

 悪ふざけもここまでにしてそろそろ足を速めようとした、しかし。

 

 「雨が降りそうだね。 ──お嬢ちゃん、どうかした?」

 

 何かが此方を見ていることに気づく。 一瞬、魔法関係者が監視をしているのかと思ったが、周囲に濃い鉄の臭いが立ち込めそれが間違いとはすぐにわかった。 これは血の臭いだ、しかもこんな濃厚の物──戦争以来だぞ…!

 侵入者か? だが、どうやって結界を抜けた。 ポチ以外誰一人入ってきた感覚は無かった。

 

 「ポチ下がれ。 これはマズイ…」

 

 「何かヤバそうだね…」

 

 今度は真剣な態度だな。 この状況の危機感はわかるようである。

 

 「何処だ、出てこい!」

 

 木々の隙間からユラリと一人の老人が現れた。 浮浪者のようにボロボロのコートを羽織り、ツバの長い帽子を深く被りその顔は確認できない。 杖を用いながら歩き、あまり足は良くないようだ。

 なんだ、この胸騒ぎ…! 雰囲気や血の臭いもそうだが、私の奥にある何かが争訟に沸きだす。 コイツは危険であると。

 

 「この度は再びお目にかかれ光栄でございます。 闇の福音殿」

 

 「私は貴様のことなんぞ知らん、何者だ…」

 

 老人は此方の威圧をものともせず、静かに白く蓄えた髭を撫でる。 微かに自身の手が震えていることに気づく。 あり得ん、私が恐怖を感じているだと…!

 

 「やはり600年という永き年月が過ぎ去れば記憶にないのも、仕方ないのかもしれませんね」

 

 「600年…」

 

 私が初めて吸血鬼になった頃。 いや、そんな…。

 

 「では、これでもお忘れでしょうか」

 

 老人はゆっくりと帽子を下ろす。 私はもう思い出せないと感じていた昔の記憶を、今この瞬間に鮮明されたビジョンで蘇る。 

 

 『いえ、そんなことはございません。 旦那様は誰よりも貴女のことを大切に思っていますとも』

 

 『…御立派です。 御嬢様は旦那様にとてもよく似ていますね』

 

 『おお! 素晴らしい!』

 

 『御嬢様、それもただの吸血鬼ではございません! ハイ・デイライトウォーカー、神の光を浴びても灰にならぬ至高の生命、真祖となられたのです!』

 

 「馬鹿な!」

 

 認められない、認めたくない。 あの日の絶望、とっくの昔に捨て去った忌々しい過去が亡霊のように現れるなど。

 

 「───お久し振りでございます。御嬢様」

 

 綺麗な弧を描いた口元で、全く違わない口振り。 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルにとって最大のトラウマが傷つける。

 

 「爺や…」

 

 「そうです、貴女様の爺やでございます!」

 

 歓喜の声をあげ、向かい入れるかのように大きく腕を広げた。

 

 「…っ」

 

 情けないことに幼子のようなか細い悲鳴をあげてしまう。 これ以上の恐怖など、幾度となく味わってきたというのに己の根源的部分によるものか、頭では大丈夫だとわかっていても身体が言うことを聞かない。

 

 「どうしたのですか御嬢様、折角再会出来たのです。 さぁ、もう私がいれば安心ですよ」

 

 「い、嫌だ!」

 

 蹲る私に一人の影が落ちる。 ポチは私と爺やの間に入り込むよう、立ち塞がっていた。

 

 「お嬢ちゃん、逃げて」

 

 不思議とその背中は、魔獣に喰われそうになった私を助けたアイツに酷く似ている。 迷いの無い真っ直ぐな瞳は力強さに溢れて、挫けそうだった私の心を立ち上がらせた。

 

 「だ、大丈夫だ。 あとは私に任せろ」

 

 不安そうな目で確認するポチ。 まさかお前に助けられるとは、一々警戒していた此方が馬鹿みたいに思える。 だが、正直…助かった。

 

 「爺や、何故貴様が生きている」

 

 あの時、黒い狼に喉笛を食い付かれ死んでいたとばかり思っていた。 しかも容姿が全く変わらず600年の歳月を生きるなど…まるで私のようではないか。

 

 「御嬢様の聡明な判断力ならば、薄々気づいているのではないかと」

 

 にこやかな笑みを浮かべ唇の隙間から鋭い犬歯が覗かせた。 やはりそうか、この男…吸血鬼化している。 漂う濃厚な血の臭いもコイツが今までに吸血した者達のか、少々死臭が混ざっているのは気に食わんな。

 

 「マガツに喉を喰われ瀕死に陥りましたが、旦那様が御嬢様の血を流し、それを啜ることで生き永らえました」

 

 マガツ、あの狼のことか。 禍津とは随分不吉な名だ。 確か、神の道を生きた厄災だったはずだが。 そもそもコイツが生きているということは、あの男も生きているんじゃあるまいな。 膓をぶちまけ、余計な行動を起こす前に脳を破壊したからその心配はないと思うが…。

 

 「どうやって結界を無視して侵入した、一体何が目的で…」

 

 「それならば特に細工はございません。 私は至って普通に入り込みました」

 

 侵入した反応はひとつしかなかったはず、仮にポチと同時に侵入しようとしても個別にわかる。 どういうことだ。

 

 「しかし、どうやら御嬢様方は“初めから学園内にいた”彼を侵入者と誤解してしまい。 そのおかげでこうして楽に御嬢様を見つけることが出来ました」

 

 「なんだと…!」

 

 「成る程、俺は侵入者じゃなかったのか」

 

 ジジイの話しでは学園内の資料にポチに関する物は残っていなかった。 記憶喪失であるため、身元の情報を探っていたが結局は見つかっていない。 学園関係者ではないのに何故敷地内にいる。 そもそも見つかるまで何処に過ごしていたんだ…。

 

 「そして私の目的、それは貴女様なのです」

 

 「私?」

 

 「今まで本当に頑張りましたね。 これからは私が御嬢様を御守りいたします。 学園の呪いも私が解いてみせましょう」

 

 「私をこんな化け物にした共犯者が。 懐柔する気か! 恥を知れ!」

 

 貴様の歪んだ行為にどれだけ地獄を味わったか分かっているのか。 迫害され拷問を受けた苦痛を。 それが今になってノコノコ現れ守るだと、ふざけるな。 

 

 「ええ、そうです。 我々は化け物です。 ならば、愚かな人間と暮らさねばならぬこの地に留まる理由などないのでは?」

 

 「どういう意味だ」

 

 「失礼ながら学園に侵入する前から御嬢様のことを監視させておりました。 しかし、その学生生活はあまりにも酷いものです。 貴女様があのような仕打ちを受けるとは…」

 

 視ていたのか、クラスメイトから虐められる姿を…。私自身のプライドを傷つけるとは相も変わらず不快な奴め。

 

 「私も貴女様と同じように迫害を受け続けました。 人間は本当に愚かな生き物です、自分達と違う存在にこうも残酷になれるのですから…」

 

 コイツも私と同じように魔女狩りや戦争に巻き込まれたのか。

 

 「だから私を求めると? 同族の傷の舐めあいをしたいのか」

 

 「そうではありません。 私は貴女様を危険から御守りしたいのです。 我々は“血の繋がった家族”ではありませんか」

 

 「黙れ愚図が! 私を惑わすつもりか!」

 

 今更赦されると思うな。 私は一人でも生きていく。

 

 「滅相も。 私が何故御嬢様を吸血鬼へと進化させたのか、その真意を御理解ください」

 

 「進化…」

 

 「そう、私は支配者たるに相応しい力を貴女様に授けたかったのです。 老いることなく美しい姿を保ち、不死は死の恐怖を捨て去った。 素晴らしい力であります、全ては貴女様のためを思ってのこと。 そして…貴女はそれに在るべき支配者としての器を手にいれた」

 

 「…っ!?」

 

 そのために追い詰め、私自身が育つようにしたのか。 私を放置して強く生きられるように。 

 これまでの人生、そして築き上げた人格さえコイツらの計画通りだというのなら、私は一体…今まで何のために生きて。 嘘だ、そんなことが信じられるか!

 

 「こ、こんな…!」

 

 「もういいよ、お嬢ちゃん」

 

 沈黙を貫いていたポチが私の肩に手を置く。 無機質な目で何か表情を見せるのではなく、能面にただ爺やを見詰めていた。

 

 「おや、また貴方ですか。 あまり首を突っ込まれては困ります」

 

 「なーに、ちょっとアンタの話しに違和感を感じてね。 黙っているわけにはいかなかった。 それに、流石にお嬢ちゃんが泣いていると辛いんで」

 

 「な、泣いてなどいない!」

 

 慌てて頬を確認するが、そこに涙のあとなどない。 ポチ、嘘をついたな…。

 歯軋りしながら睨み付けるが、本人は能面から口元を意地悪くにやりと動かし楽に構えていた。 しかし、その目は全く笑っていない。

 

 「アンタ、結局何がしたいんだ?」

 

 爺やの目が大きく開く。 瞬きをした時には表情を怒りに歪め、何故かポチにありったけの殺気を跳ばしていた。 なんだ、この状況は…。

 雲に掛かっていた夕陽が再び差し込む。 爺や顔を隠すように帽子を深く被り直すと踵を反した。

 

 「今日のところはこの辺りで失礼します。 少し考える時間も必要でしょう」

 

 「待て、貴様にはまだ聞きたいことがある!」

 

 「千の呪文の男が死んだ今、御嬢様が自由を手にするには私と共に生きていく他にありません。 そしてよく覚えておいてください、我々が光で生きていくなど不可能であると」

 

 木々に入り込み、影へ溶け込むようその姿を欠き消す。 ヤツの言葉が耳に深く刻まれているのは間違いなかった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「ほら、着いたぞ。 此処だ」

 

 「おー、中々立派な…」

 

 趣のあるログハウス。 ふふん、どうだ良いだろう? もっと褒めろ。

 

 「お人形ハウス…」

 

 「お前はよく一言余計と言われなかったか?」

 

 「さ、さぁ? どうでございましょう、何分記憶が無いもので。 にゃははは…」

 

 私が睨むと両手を擦り合わせながら中腰になるヘタレ。 笑っているが乾いており、口元はひくついている。 だったら初めから言うな。

 改めてこう見るが、やはり先程までと随分印象が違う。 益々ポチの正体がわからなくなった。

 あれは演技によるものか、はたまた本性なのか。 もしくは記憶が戻りかけているのか。 どちらにしても面倒な生い立ちを持ちそうで厄介である。

 しかし、まぁ…此方を助けようとしたのは事実であり、それに関しては礼が必要だろう。

 

 「お、おい」

 

 私の呼び掛けに振り返り、何?と優しく語りかけそうな微笑みで首を傾げた。 くっ、パッと見ただけでは女みたいな容姿をしている。 初見であの奇行がなければ間違いなく騙されていた。 

 間違いといえば監視の方だが、女である私ではなく男性に任せていれば、それこそ間違いが起こっていたかもしれん。 

 

 「すまなかったな、さっきは…」

 

 「お嬢ちゃんなんで謝るの? こういう時はありがとうじゃない?」

 

 苦笑いを浮かべて頬をかくポチ。 確かにそうだ、つい癖で礼のつもりが謝罪になっている。

 

 「あ、ありがとう…」

 

 「どーいたしまして」

 

 間延びした間抜けな返答。 ポチはそれ以上語ることなく歩みを進めた。 何も聞こうとしないんだな。 少々、どう話せば良いか難しいうえ、長い事情だ。 正直助かる。

 もっとも、コイツの場合どこまでが本気かわからんが。

 

 「前から思っていたが、その“お嬢ちゃん”と呼ぶのは止めろ」

 

 「え、なんで?」

 

 「そんな年齢じゃないからだ。 あとムカつく」

 

 「…何故だろう、後者が本音に聞こえる」

 

 よく気づいたな。

 

 「じゃあ、えーと……エヴァーミリオンちゃん?」

 

 「違う、エヴァンジェリンだ」

 

 ジジイから聞いているぞ。 お前が私の名前を間違えていることは。

 

 「オーケイオーケイ、エヴァンジェリンちゃ……「ちゃんは止めろ」……はい」

 

 ポチはエヴァンジェリンエヴァンジェリンとブツブツ呟く。 コイツ頭悪そうだから人の名前を覚えるのが苦手そうだな、横文字とか特に。 …おい、誰がヴェンジェンスだ早速間違えてるぞ。

 

 「よし、覚えた! お邪魔します女の子何処!!」

 

 気がつけば、もう既に家へ上がり込んでいる…。 まさか事情を聞くよりもそちらが気になっていたのか? 

 

 「そこの棚にいるぞ」

 

 「え…棚?」

 

 ポチの視線の先には沈黙を保っているチャチャゼロ。 一応起きてはいた。

 

 「人形しかいないよ?」

 

 困った顔で此方を見るが、ポチがチャチャゼロから視線を外した瞬間ケケケと笑い声をあげる。

 

 「な、何!? 今変な笑い声が…!」

 

 声の正体を確かめようと再びチャチャゼロへ振り返れると、ちょっとだけ態勢が変化していた。 どうやら新参者を怖がらせたいようである。

 

 「見てお嬢ちゃん! 人形が、人形が動いてる!」

 

 「お分かり頂けただろうか…」

 

 「止めて! その台詞は怖い!」

 

 目尻に涙を貯め、耳を塞ぐポチ。

 

 「ケーッケケケケ!!」

 

 「ギャー!?」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「ふーん、チャチャゼロちゃんね。 覚えた覚えた」

 

 「オウ、宜シクナ変態」

 

 夕食終了の時。 互いの挨拶を済ませながらの食事だった。 出会いに一悶着あったがチャチャゼロとポチ、両者は問題なく仲良く出来そうである。 どちらも適当な性格故、相性が良いかもしれない。 ポチは相手が人形だろうと持ち前の態度を崩すこともないうえ。 

 まぁ、人間ではないことには私に対し腹を立てていたが、チャチャゼロが可愛いから許すとか言っていた。 可愛い、か?

 

 「それにしてもエヴァンジェリン、まさかとは思っていたけど……ネーミングセンス酷ッ」

 

 なんだと!? チャチャゼロもジャジャ丸も可愛いだろうが! これだから凡人の感性は…真に迫る者の名付けには深い意味もあるのだと何故気づかん!

 

 「イヤー、流石二俺モ御主人ノセンスニハ無イト思ウゼ」

 

 お前もか! 実はチャチャゼロという名前が嫌だったんじゃないんだろうな!

 

 「日本は多数意見国家だから、この場においてチャチャゼロちゃんと俺がセンス無いと思えばそれが正しい。 つまりエヴァンジェリンのセンスゼロ!」

 

 馬鹿な、闇の福音と恐れられ最凶最悪の女王である私のセンスがゼロだと。 これでも良いとのの貴族で暮らしていた時代もあり、美的感覚も教育されていたのだ。 容姿も中々悪くないと自負している。

 

 「全部関係なくない?」

 

 「がっ!?」

 

 そう、なのか…? 本当に私はセンス無いのか?

 

 「無いと言えば、エヴァンジェリンが作った料理……味がしなかったんだけど」

 

 喧しい! 私は料理が苦手なんだよ!

 

 「き、貴様にはわからんようだな、素材の味を活かした調理を。 なんでもかんでも味を付け足せば良いものではない。 あと塩分を取りすぎないため健康に良い」

 

 「不老不死ノクセ二、何言ッテンダ。 アト、ババクセェゼ」

 

 「ああ、ヴェンジェンス。 ロリババァだもんね」

 

 「ババァじゃない! あとエヴァンジェリンだ! お前もう、わざとだろ!」

 

 食後の茶をポチと共に用意しながら席に着く。 暫し茶を啜りながらボーッとしていた三人だが、不意に爺やのことを思い出した私はチャチャゼロにこのことを伝えようとして、ポチが居ることを理由に踏み留まる。 チラリとポチを横目で確認すれば、ガッチリと目が合う。

 

 「さて、俺はそろそろ休ませてもらおうかな…」

 

 「風呂は良いのか?」

 

 「着替える時にシャワー借りたから今日はもう良い」

 

 「汚いぞ、ズボラめ」

 

 しっかり洗ったよ!と叫び、二階に上がっていく。 アイツ何処に寝るつもりだ?

 だがまぁ、あの様子だと此方に合わせたのは明白である。 ポチも気づいたのだろう、私がチャチャゼロと重要な話しをすることを。 勘の良い奴だ。 空気が読めるのに空気を読まない行動をとるくせに。

 

 「…デ? 何ガアッタンダ?」

 

 「そうだな、少し長くなるぞ」

 

 吸血鬼になる前を除けば一番付き合いが長いチャチャゼロ。 事情の説明はポチよりも遥かに楽であり短く終わる。 しかし、内容が内容だけに全て話し終わる頃には僅かに日が昇り始めていた。

 

 「言イタイコトハ、ソレデ全部カヨ」

 

 冷たく突き放すチャチャゼロ。 私は自分の耳を疑う。

 

 「なんだと?」

 

 「チットハ、マトモニナッタカト思エバ…下ラネェ」

 

 「下らんだと? ふざけているのか!」

 

 「下僕二相談シテイル時点デ充分下ラネェダロ」

 

 どういう意味だ

 

 「ソンナ相談ヲスルッテコトハ、御主人…迷ッテイルンジャネェノ」

 

 迷っているだと? まさか、私に僅かでも爺やを受け入れる心があるというのか。 有り得ん! 私を化け物に変えた張本人だぞ!

 

 「学園長ノジジイ二連絡シナカッタノガ良イ証拠ダ」

 

 「なっ!?」

 

 「父親ノ次二“とあ”、アイツノ次二爺ヤ。 寂シイカラッテフラフラシテンナヨ」

 

 頭を殴られるような衝撃を受けた。 私はそうなのか。 アイツのことを、“とあ”のことを父親の代わりとして見ていたのか?

 そして、その次は爺やを…。 私は“とあ”のことを愛していなかったのか?

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「あれ? 俺なんで床に寝てるの?」

 

 「私のベッドに寝ていたからだ」

 

 明朝。 ポチを叩き起こしたエヴァンジェリンは早速、昨日の出来事、そしてポチが侵入者ではなかった事実を学園長に伝えるため、互いに着替える。 エヴァンジェリンは制服、ポチは予備のラフな服装。 顔立ちとの違和感を覚える。

 

 「おい、ジジイ。 入るぞ」

 

 学園長室に辿り着いたエヴァンジェリンは、ノックもせずに大きな扉を開けた。 しかし、そこには学園長の姿はなくスーツ姿の女性が一人。 知的なメガネがキラリと似合う葛葉刀子だ。 見れば学園長の幅広い机を整理していたようで、A4サイズの紙束が幾つも積まれていた。

 

 「む、お前か…」

 

 「おはようございます。 エヴァンジェリンさん、ついでに…変──ポチさんも」

 

 後ろでポチが倒れたが無視だ無視。 一々付き合っていれば体力が持たん。 しかし、引きこもりのジジイがいないのは珍しいな、何かあったのか?

 

 「ジジイは何処だ」

 

 「学園長ならば昨晩遅くに西へ」

 

 「何、京都か?」

 

 そいつはまた急な話しである。 …いや、考えれば自然なことか。 大戦が終わったとはいえ西との関係が不安定な今、彼方の長である詠春との顔合わせも難しくなるだろう。 互いに距離を開けなければならない立場故、次の年からは親戚の集い…なんてことはまず無理だ。 十年くらい何も無ければ少しばかり穏やかに過ごせると思うが、今の内に家族との時間を過ごしたいのは仕方ない。 奴も歳だ。

 

 だが、こうなると困ったのは此方。 ジジイにポチの扱いや侵入者に対する相談をしたかった。 連絡は入れておくとして、果たしてそれがいつ彼方に届き、いつ此方に戻ってくるか。 

 京都の連中を刺激しない為に転移魔法を使用せず、優雅に飛行機で旅立った。 なおのこと手詰まりである。

 

 「何かご用があれば私が対応しますが?」

 

 …葛葉刀子に報告しておくか。 事務的な作業も任されているこの女なら問題なかろう、ついでに腕もたつ。 純接近戦でこの神鳴流よりも強い者は学園にいない。

 

 「実はな──」

 

 「──成る程、ポチさんは侵入者ではなく、別の吸血鬼が侵入者であったと」

 

 「事実かは知らんがな。 相手は何を仕出かすかわからん狂人だ」

 

 「わかりました、他の先生方にも至急警戒指示と共に伝えておきます」

 

 出来る女の貫禄か。 割と緊急事態だが、彼女から焦りは見えない。 冷静に慎重な表情。 

 

 「それと、ポチのことは別の奴に頼みたい。 吸血鬼の狙いは私だ、巻き込まれると面倒だからな」

 

 「確かに。 では私に任せてください」

 

 「マジかよ! いやっほおおおおお!!」

 

 喧しい。

 

 「良いのか? ジジイから挙式の準備やらで忙しいと聞いたが…」

 

 しかし、葛葉刀子はハテ?…と首を傾げる。 おい、これはまさか。

 

 「準備はありますが、まだ先の話しですから私としては問題ありません」

 

 ジジイめ、私を騙したな。

 

 




Q・最初のは?

A・ポチというか、とあというか、としあきの過去。同じく右手を失った。そしてその次は左足を握り潰された。

Q・過去で庇った人は?

A・としあきが愛した人。でもエヴァではない、そういう人もいたってこと。今では名前も姿も思い出せないくらい、遠い過去の人。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エヴァンジェリンと爺や

 葛葉刀子は困った。非常に困った事態になった。エヴァンジェリンに任された変態への監視…ではなく、保護を果たせなくなったことに。

 一言で言うなら、ポチがいなくなった。初め、他の先生方に事情を説明をしようと職員室まで連れ出していたが、彼は此方が隙を少しでも見せると尻に触ろうとしていたのだ。剣士である刀子にとってもっとも警戒している背後から襲われそうになれば、すぐさまに気づく。迫り来る魔の手をその都度叩き落とし、ポチもまた隙を見てはチャレンジ、徐々にその動きにも息を殺した物へと変化していた。恐ろしきかな、痴漢の執念。

 しかし、逆にそれは刀子がポチに対する監視が緩んだことになる。彼女はポチではなく常に自身の安全を見てしまっていたのだ。またしてもポチが息を殺し、気配を消したことに気づいた刀子は自分の神経を尖らせる。だが、いつまで発ってもポチが手を伸ばすことは二度となった。

 不審に思い、後ろを振り向けば其所には誰もいない。彼女も剣士である前に女だったのだ、自然と静かに怒りを含んだ言葉が溢れる。

 

 「あの犬ぅ…っ!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ポチが現れようと、吸血鬼が現れようと、エヴァンジェリンの日常は変わらない。朝の始まりから彼女を待ち受けていたのは、やはり陰湿なイジメだった。一日不登校になろうとそれは変わらない。これからもきっと、変わらないのだろう。

 

 その日で一番キツかったのは、女子トイレに閉じ込められ上から水をぶっかけられたことだ。柔らかなウェーブがかかるブロンドの髪は濡れ、肌にピタリ貼り付く。エヴァンジェリンはただ、呆然とした。

 

 「さ、寒い…」

 

 狭い個室の中、弱々しく自分の体を抱き締める。わかっていた、これは当たり前の罰なのだと。相手の家族を奪った己が受けなればならない罰だと。命を狙われないだけまだマシだ。水をぶっかけた者達の嘲笑を聞きながら小さく耐える。すると。

 

 「きゃー! なにコイツ、アタシのお尻触りやがったー!」

 

 「きゃー! アタシはパンツ盗られたー!」

 

 え。何が起きている。急激に変化した現場、気になったエヴァンジェリンは扉をゆっくりと開け、そして目撃する。

 熊さんパンツをびろーんと晒しながら此方へ振り返る変態犬を。

 

 「ガ、ガンヴァリオン、さん…?」

 

 「誰だそれは。私はエヴァンジェリンだ」

 

 名前を修正しつつ、ポチを睨みつける。何か言わねばならないが、あまりにも意味不明な状況であるせいか、他に言葉が見つからない。

 

 「へ、へへ。 エヴァンジェリンの姉御、こいつぁ奇遇ッスね?」

 

 右手は無いため、左手をモミモミしながらすり寄る小物の鏡、握っていたパンツを一瞬でポケットに閉まったのは見逃していない。私はお前を子分にした覚えわないぞ。

 

 「エヴァンジェリンさんの知り合い…?」

 

 イジメグループのリーダーが怪しげな目線をポチへ向けていた。マズイ、今度はコイツがターゲットにされる恐れがある。

 

 「いや、そんな奴は知ら───「オウオウ! お嬢ちゃん達、この方をどなたと心得ていやがる! 闇の福音と呼ばれ───っ!」───喧しいわ!」

 

 とりあえず、金的で黙らせた。白目を剥いて痙攣しているバカから奪われたパンツを奪い返し、相手に渡す。なんか一々庇おうとしたのがアホらしい。

 

 「すまんな」

 

 「え、あ…うん」

 

 状況についていけず相手はポカン、周りもポカン。気持ちはわかる。

 

 「うごぉ、あ、姉御…! コイツら姉御がチビッ子だからって舐めてますぜ、いっちょ絞めてくださいよ」

 

 満身創痍で立ち上がり、私の肩に手を乗せる。舐めていたのはお前だろうが!

 しかし、周りはポチの絞めるという言葉に反応し、皆が皆、ビクリと体を震わす。その目には怯えが映っていた。

 それを見て私は、気づいてしまう。ああ、彼女達はやはり子供だったのだなと、痛みも苦しみも報復も殺しもまだ理解出来ていない子供だったのだと。何故か、急に辛さが薄まっていった。

 

 「いや、私は女、子供に手はださん」

 

 「えー! 姉御ぅ、そりゃないッスよー。あわよくばおこぼれ頂こうと思っていたのにー」

 

 「ほう、例えば?」

 

 「下着盗むとかクンカクンカするとか、しまったあああああ!───ごはぁ!?」

 

 暴露した顎にアッパーを喰らわせる、一撃KO。割と外道だな、お前は。

 

 「さっさとコイツらに謝罪して刀子のもとに行け!」

 

 頭を踏んづけながら吐き捨てるように罵倒。次の授業に備えて着替えことにした。保健室に行こう。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 エヴァンジェリンが立ち去ったあと、女子トイレでは気まずい雰囲気が流れる。イジメていた者からまさか助けられるとは思いもしなかった。彼女達は互いに目を見つめながら何も喋らずに、一人、また一人とゆっくりと出ていく。

 ポチをその場に残して。

 

 「ま、とりあえずはこんなもんかね」

 

 女の子が誰もいないところで、独り言が静かに響いた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 その日の夕方。ポチはエヴァンジェリンと一緒に歩いていた。学園内でも特に外れ、人通りの少ない川沿いを。

 一人はジョギング。若い少年がジャージ姿で走り込みを。もう一人は川沿いから静かに釣りを楽しむオッサン。ただそれだけ。あとはエヴァンジェリンとポチが小さく会話しているだけだ。

 

 「全く、何故刀子のもとから離れた…」

 

 「いやね? エヴァンジェリンが爺やって呼んでいた人のことで気になったことがあったからさ、確認しておこうと思って」

 

 意外と重要なことだった。

 

 「何? そんな重要ことよりパンツを優先したのか?」

 

 「ああいう、ビッチっぽい子がどんなパンツ穿くか気になって気になって……あっ、すいません拳を下ろしてください」

 

 それがまさかの ク マ パ ン 。

 意外と中身は純情かもしれない。

 

 「それで? 気になったことはなんだ?」

 

 エヴァンジェリンもそれは気になっている。ポチは爺やと会合した時、何かを感じたようであった。爺や自身もポチの発言に一変して態度が怒りに染まったが…。

 

 「んー、三つあるんだけど。もしかしたらエヴァンジェリンも気づいているかな?」

 

 「三つもだと…?」

 

 エヴァンジェリンは二つ気づいた。そのうちの一つ、それは爺やが現れたタイミングである。

 一昨日の深夜に学園内の侵入を感知したエヴァンジェリンだが、相手が姿を見せた時間に違和感があった。彼女が狙いならば他の増援を頼まれる前にすぐさまコンタクトを取り、連れ去れば済む話だ。時間を置いて潜伏の線もあったが、わざわざ待つ程のメリットはない。

 

 「やっぱ、エヴァンジェリンも気づいていたね」

 

 「……」

 

 「…と、なると。何か準備をしている可能性が───何か?」

 

 ポチはエヴァンジェリンがじっと見つめていることに気づく。にぱっと向日葵のような笑顔を向けたが、彼女はあまり表情が優れない。

 

 「いい加減、馬鹿のふりは疲れないのか?」

 

 「酷い!? ふりじゃなかったら馬鹿って言ってるだけじゃん!」

 

 むきー!プンスカ怒るが、それでもエヴァンジェリンに変化は無かった。ポチは戸惑ったように停止すると、罰が悪そうな顔に変え耳の裏をカリカリと掻いた。何故か落ち込んでいる。

 

 「…ゴメン。気を使わせたね、別に深い意味はなかったんだけど」

 

 「そう、か…」

 

 返答に困ったエヴァンジェリンの頭をポチはポンポンと優しく叩いた。

 

 「なんかさ、嫌われたくないから…」

 

 見上げるエヴァンジェリン。夕日に晒された彼の表情は苦笑だった。重みのある苦さだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「二つ目だけど、あの吸血鬼…間違いなく太陽が弱点だよね」

 

 「うむ…」

 

 一つ目は何かしらの準備をしていたと考えたが、同時に二つ目と繋がっていることでもある。姿を現したのは天気が崩れ始めた夕方。夕日が僅かに覗いた瞬間、すぐに引いたところを見るとほぼ確定している。

 この二つを合わせれば、爺やはエヴァンジェリンを手に入れるため侵入した当日に、他の先生方が“増援に入っても構わない”何かしらの準備を夜のうちに整え、更に自身の弱点である太陽が沈むまで彼女に接触するのを待っていた。

 総括するとこんなとこだろう。ポチとエヴァンジェリンの考えは全く同じだ。だが、最後に気になる点が残っている。

 

 「最後に三つ目、これは流石に私でもわからん」

 

 「……」

 

 てっきり教えてくれるのだと思っていたが、ポチは固く口を閉ざし、話すべきか迷っている様子だ。

 

 「おい、どうした」

 

 「もし、違っていた時の可能性が…」

 

 「違う可能性? 言わなければわからないだろう、別に笑いもしない、馬鹿にもしない。正直に言ってみろ」

 

 何か意味深なことが含まれていることには気づいていた。馬鹿にされることを恐れているような男ではないのは、エヴァンジェリンも承知している。ならばそれでも言いにくい理由、きっとそれはエヴァンジェリンに関係しているのだろう。彼女を傷付ける何か理由が。

 

 「あまり適当なことを仰有られては困りますね」

 

 「っ!?」

 

 背後から突如話しかけられ、両者振り返る。鍔が広い帽子を深く被る老人が其所には立っていた。夕日は既に沈んでいる。

 

 「爺や…!」

 

 「流石お嬢様。たったあれだけの情報ですぐさま此方の狙いと弱点を見つけ出すとは、成長したその姿に私…感無量でございます」

 

 わざとらしい、涙を拭くその仕草にエヴァンジェリンは犬歯を剥き出し。だがやはり、相手の狙いは間違いなかったようである。罠の可能性もあるが今はそれを一々視野に入れてはおけない。

 

 「私は吸血鬼になりましたが、立場上従僕という枠組みでしかありません。不老不死であっても弱点は残されております。太陽、聖水、銀、十字架、にんにくなど…」

 

 だからこそ大変だったという。エヴァンジェリンを見つけ出しても常に移動が制限される。半日しか活動出来ないその肉体では、ヨーロッパに在住している情報を得られても辿り着いた時には南アフリカだったらしい。600年という年月を持ってしても、追い付くことはなかった。

 そう、彼女が登校地獄に掛かるこの日まで。

 

 「長かった、実に長かった…」

 

 噛み締める物言い。

 

 「随分な執着だな。600年も諦めずずっと追い続けるとは」

 

 「ええ、全てはこの日のためでした」

 

 「それで準備とやらも万全か」

 

 大仰に頷く。

 

 「ご安心を。これはお嬢様を呪いから解放するための物。貴女に危害はございません」

 

 僅かにエヴァンジェリンの指がピクリと動く。呪いの解除法、本当にそんな物があるならば願ったりだ。ここからさっさとおさらばして“とあ”達が死んだ詳細をこの目で確認出来るのだから。だが、この老人は今までに自分に大してとんでもないこと仕出かした。故に、どんな甘い言葉だろうとそれを信じることは出来ない。

 

 「貴様の戯れ言にウンザリしてきた。此処で引導を渡してやる…!」

 

 過去の清算を今終わらせるべきだ。

 

 「ほう。私と戦うと? 出来ますか、貴女様に?」

 

 封印状態だろうが、戦う術はある。しかし、それは相手も同じだろう。結界である程度は弱体化させられているようだが、自身と同じ600年間の戦い続けた強者である。その蓄積された膨大な戦闘経験は何よりも危険だ。

 

 「闇の福音を舐めるな」

 

 「ご存知ですとも」

 

 だからこそ、爺やは油断無かった。今この場において最も最悪の手段を迷わずとる。

 

 「そこの青年は邪魔です。死んでもらいましょう」

 

 「え?」

 

 爺やの手がブレる。詠唱も魔力の反応もない遠距離攻撃だった。

 ポチの左目玉と左足が宙を舞った。大量の鮮血がエヴァンジェリンに振りかかり、一瞬視界が防がれる。愕然とした彼女の目の前には爺やが音もなく接近。

 

 疾い。

 

 魔法薬を取り出したが、そのタイムラグは命取りだった。予め用意されていたのか爺やはクロスボウを手にしており、腹部に衝撃。蹴りあげられ、傍に立つ木へ叩きつけられたエヴァンジェリンの四肢を打ち付けた。

 

 「あああ!?」

 

 激痛が走る。ただの矢ではない。吸血鬼にとって弱点である銀で出来た矢だった。聖なる輝きが魔の肉を焼き、その肉体から力を奪う。

 霞む視界の中、彼女が目にしたのは爺やに蹴り飛ばされ、片足を失ったまま川へ落ちていくポチの姿。

 

 「ポチいいいいい!!」

 

 川の水が赤く染まるのに、そう時間は掛からなかった。

 




チャラチャチャチャ-チャラララー!

吸血鬼の弱点を突かれ敵に拘束されてしまうエヴァ。圧倒的な力の差にポチは左目と左足を失い、右腕もないまま川の底へ沈む。登校地獄の解除法に戦慄、絶対絶命のピンチの中、助太刀に来たのは意外な存在だった!

次回、畜生ううう!先生ぇポチまぁ!

【ポチ死す!】

お楽しみにネ☆


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覚醒

そろそろ、サブタイトルのバリエーションに限界ががが。


「ポチ! クソっ!!」

 

 川を静かに揺らす泡が未だに浮かび上がる。しかし、その原因となる者はいつになっても現れる気配がない。水は赤く染まり、一分一秒を争う緊迫した状況だった。

 

 「無駄です。例え真祖であろうと、封印状態で銀を受ければ効果は絶大。今のお嬢様は幼子の力さえ残っておりません」

 

 爺やの言うとおり、両手足は痺れたように力が入らない。肉を引きちぎる痛みを耐えて、無理矢理抜け出すことは可能でもこれでは…。

 

 「彼はもう助かりません。片腕と片足を失った状態では泳ぐことなど不可能でしょう」

 

 「爺や、アイツは無関係だ。何故こんなこと!」

 

 「ええ。ですが、貴女様を拘束するのに一役買いました」

 

 「っ!?」

 

 私のせい…!私と関わったばかりで狙われたと言うのか、コイツは!

 

 …いや、実際にそのとおりだ。私だってわかっている。だからこそ刀子に任せようとしたのに、ポチはけして離れようとしなかった。

 口では憎たらしいことばかり言っていたが、此方を思って色々気を使っていたのは分かっている。右腕を犠牲にしてまで庇い、馬鹿のふりをして、吸血鬼だろうと全く気にしない…。

 

 良い奴だというのに、こんな死にかたをして良いわけがない…!

 

 「頼む爺や、ポチを今すぐ助けてくれ…」

 

 「それは出来かねます」

 

 「何故だ…!」

 

 「生かしておいては危険だからです」

 

 危険だと。ポチがお前にとって脅威になるというのか?

 

 「初めて顔を合わせた時、私は彼に恐怖しました。吸血鬼に昇華してからこれまで、あの感覚は今までに味わったことのない本能の警報でした。古傷が疼き、あの男はマズイと…。」

 

 虚言が。吸血鬼に古傷があるものか。

 確かにポチはこれまで一般人ではない疑う点が幾つかあったが、其れほどの力を持っている様子は無かった。現にこの結果だ。

 

 「ですね、それも杞憂だったようです。少し様子を見ていましたが、とても見ていられぬ程愚俗で痴体、ただの臆病者とは…」

 

 爺やは呆れたように溜め息を吐く。その目には侮蔑の色が含まれていた。

 

 「臆病者だと…?」

 

 ふざけるな、ポチの何を知っている。アイツは確かに変態で馬鹿だ、ムカつくことばかりで人の名前をわざと間違えるが、そこに不快感はけして無かった。

 普通の人間達が、下らないことで笑い、ふざけたことで茶化しあう、ただの日常があった。私が今まで味わうことのない日常が。とあ達と過ごした日常が。それを、愚俗で痴体だと? 貴様が私に与えて来なかった物だぞ!

 

 「アイツは、臆病者じゃない! それは貴様だ!」

 

 「ほう…」

 

 「ポチは危険でも私から離れようとしなかった! なのに貴様は無駄な深読みで奴を即排除とは、これを臆病と言わずして────がっ!」

 

 再度、腹部に衝撃。爺やの杖が私の意識を刈り取る程の力で突き刺した。

 

 「ぐっ…」

 

 「此処は場所が悪いです。少し移動します」

 

 爺やのやけに落ち着いた声が、気絶する前に聞いた最後の声だった。川から浮かび上がる泡が途切れる。しかし、赤く染まり続けるその変化だけはいつまで発っても終わりはない。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「オ?」

 

 薄暗い部屋。主の帰りが未だ無いリビングにて、一人の従者が何かに気づいた様子で声をあげる。

 

 「…ッタク、本当ニショウガネェ御主人ダナ」

 

 其れまで動きが無かった一つのマリオネット人形が起き上がる。プルプルと膝が揺れ、立ち上がるのも精一杯なその姿だが、変わらない笑みを貼りつけたまま人形は起き上がる。

 人形はずっと、己の体内に魔力を貯蓄していた。如何なる時でも主の危機を助太刀するため、必要以外は全く動かないようにしていた。

 全盛期に比べれば明らかに戦闘能力は低いだろう。腕力も精々ナイフ一本で限界で活動時間も僅かしかない。

 だが、それでも行かねばならない。大切な主の為に、大好きな友達との約束を果たす為に。

 

 『チャチャゼロちゃん。もしも俺に何かあったらエヴァを頼むよ…?』

 

 「サテ、ヤルカ…」

 

 今宵のナイフは良く斬れる。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「おや?」

 

 「どうしたのじゃ、アル」

 

 「どうやら、ピンチのようですよ」

 

 「何! どちらが!?」

 

 「どちらもです」

 

 エヴァンジェリンに良く似た容姿を持つ女性がティーカップを置き、目を丸くする。冷や汗がダラダラと流れていた。

 

 「お、おお…それは大事ではないか! は、速く助けに行かねばならぬ! ぶぶぶ武器は何処へ───」

 

 僅かな時間思考。立ち上がり、シンプルなドレスをはためかせ傍に立て掛けていたショートソードを触れる。

 

 「駄目ですよ」

 

 紅き翼のメンバーの一人、アルビレオ・イマは彼女の行動を戒めた。古本はただ静かに紅茶を口に含む。

 

 「貴女のお腹にはナギの子供が宿っているのです。暴れてもしものことがあれば、私はあの二人に顔向け出来ません」

 

 「ならば主が行くのか?」

 

 「いえ、私もこの場を離れるわけにはいけません」

 

 此処にはナギと“としあき”が命を懸けて封印した者が存在する。もしもこの事件が第三者によって引き起こされた物ならば、アルが出現したことで奴らに封印の場所を教えるような物だ。守りも彼女一人に任せ、手薄になるのは危険すぎる。

 それにしても、事故犠牲を必要とする王族とはいえ、相変わらず他人のことになると慌てるその性格はどうにかならないものか、お腹に宿す子供に性格が移らなければ良いが。

 

 「大丈夫です、彼は強い。もしかすればシステムの拘束から脱け出せるかもしれません」

 

 「じゃが、もしも出来なければどうなる?」

 

 流石に不安要素は大きい。アルビレオは失言でしたと呟くと静かに目を閉じ、そして開く。紛れもなく力強い目だった。いつも柔らかな笑みを貼りつけている顔はどこにもない。

 

 「出来ます」

 

 それは自信。長き間共に戦い続けた仲間に対する、絶対的な信頼だった。

 今、この場において最もしてはいけないことは、彼らの残した想いを無下にしてしまうこと。大丈夫。例え性格が変わろうと記憶が無くなろうと身体が変わろうと、彼が彼であり続ける限り何度だって蘇る。

 

 鋼の肉体は己を守るためではない、大切な者の盾となるために。

 破壊の力は敵を殺すためではない、己の悪意を壊すために。

 覚悟の想いは弱さを捨て去るためではない、己の弱さを受け入れるために。

 

 永久に戦う彼が辿り着いた真実。これが彼の強さだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「うっ…」

 

 エヴァンジェリンが目を覚ますと、其処は世界樹の根本。身体は十字架に貼り付かれており、やはり四肢には銀の矢が突き刺したまま。最悪の拘束だった。これ程の用意、恐らく相手もただでは済むまい。爺やの腕は再生しかかっていたが、ドス黒く変色している。

 

 「少し手こずりました。しかし、お嬢様にはこれくらいしておかねば完全に押さえ付けるなど不可能ですから」

 

 離れである此処は学園の風景が良く見える。チラホラと灯りは見えるが殆どは街灯で、外出してまで活動している人間は見えない。葛葉刀子が此方の異変に気づけば良いが。

 

 「貴様、何をする気だ…」

 

 「決まっております、お嬢様の呪いを解除するつもりです。ですが、その前に貴女様から今一度“宣誓”して頂けないでしょうか」

 

 「宣誓だと? 何か確認したいことでもあるのか?」

 

 「ええ。闇の女王として世界に君臨し、人間どもを支配すると」

 

 爺やは唇で綺麗な孤を画く。しかしながら帽子は常に深く被り続け、その瞳は見えない。

 

 「支配か。ハハハ! 矮小すぎて話しにならんな!」

 

 下らない。実に下らない!私の人生を犠牲に、誰かの命を奪ってまで叶えるべき願いがそれとは、片腹痛い。

 

 「ふざけるなよ下老」

 

 あまりの怒りに沸点が一週回って、逆に静かな声がエヴァンジェリンの口から漏れる。低く重圧を含んだ言葉に爺やが大きくたじろいだ。冷たく鋭い殺意は同業である歴戦の吸血鬼だろうと、おぞましい恐怖、身体が微かに震えていた。

 

 「ですがお嬢様、我々はこれまでに人間から、数多くの苦しみを味わってきたではありませんか。何故このような場所に留まるのです? 貴女様はそれだけのことを成し得る権利があるというのに」

 

 人間は愚かで残虐な存在だ。一人一人は非力で欲深く臆病だというのに、それが束になったとたんに強気になり、なに食わぬ顔で正義を語る。自分達と違う者だからと数の暴力にものを言わせ、排除。周りから異分子がいなくなれば今度は互いに殺しあう。

 

 「確かに貴様の言う通りだ、人間とは愚か者ばかり。…だが、勘違いがすぎるな?」

 

 「勘違いですか…」

 

 エヴァンジェリンの眼が反転する。

 

 「私は別に人間が殺しあいをしようが全く興味ない。それこそ愚者の行いなど眼中にない、わかるか? どうでも良いんだよ」

 

 本気の笑みだった。多重封印状態でこれ程の余裕、女王の風格が滲み出ている。

 

 「私は──私は自分の意思で此処にいる。誰かに強要されたわけではない」

 

 自らの口から溢れた無意識の言葉。それは、エヴァンジェリン自身気づかされた意味を含まれていた。

 

 そうだ、そうだった。これは私が決めた選択だったのだ。差し与えたのは“とあ”だったが、それを手にしたのは間違いなく私だ。

 拒否することは出来た、私にはそれだけのことを成し得る確かな実力があった、それを行使することだって。無理矢理“とあ”についていくことも。

 

 けれども、選んだのには揺るぎない意味があった。

 

 兜に隠されて一度も素顔を見たことかない、悲しそうなアイツの声。

 

 光の中で生きろと言われて。

 とあが勇気を持てるその日まで、待ってやると…信じたのだ。

 

 もう、とあが帰ってくることもない。

 

 しかし、だからどうした。死んだからアイツの想いを捨て去る?そんなことが許されるものか、私自身が許せるものか。今ならハッキリ言えるだって私は───。

 

 「私は“とあ”が好きなんだ!!」

 

 やっぱりアイツが凄く好きだ、大好きだ。私は生きたい、私ならば光で生きられると信じたアイツの想いに応えるためにも、この歪んだ世界で。

 

 「私は闇の福音、悪の女王、エヴァンジェリン・アナタシア・キティ・マクダウェルだ!」

 

 「ッ!?」

 

 「私を呪いから解放だと? 自惚れるな、これは私が望んだ選択だ。私は欲しい物ややりたいことは勝手に、我が儘に手にする」

 

 迫害を受けたから支配する権利があるとは…くくくっ、抵抗出来ん弱者になんの権利があるか?

 答は否。己を高めずに怠惰と生きた馬鹿どもと一緒にするな。モラルによる権利など吐き捨てろ!

 

 「幼子の力も残っていない? 上等だ!」

 

 返しが付いた銀の矢に力を込める。右腕の肉が裂け、タンパク質が焼ける臭いが立ち込めた。傷口をズタズタに広げ、ポッカリと開いた穴から矢を抜く。

 

 「馬鹿な。十字架と銀の拘束から逃れるなど…」

 

 「ぐぅ…!」

 

 激痛が走る。治る気配など一切なく、そのまま血が吹き出る右腕で残りの拘束を解放した。銀に触れたせいか、掌は爛れ、ろくに着地も出来ないまま地面に叩きつけられる。

 土の味に不快し見れば、右腕はほぼ千切れかかっていた。

 

 「無茶シスギダロ」

 

 暗闇から片言の声が。爺やは咄嗟の判断で右腕を盾にしたが、煌めく刃が数回線を引き、両断された肉がズルリと落ちる。

 

 「むぅ!?」

 

 「デモマァ、合格ッテトコカ。カッコイイゼ、御主人?」

 

 「チャチャゼロ!? どうしてお前が…」

 

 エヴァンジェリンの従者、マリオネットの殺戮者が小さなナイフを持ってカラカラと笑う。

 どうやらめんどくさい悩みは気合いで解消出来たようだと、少し溜め息が出たが。しかし、ウチの御主人が正しい答えを出せたことは間違いなく嬉しく、チャチャゼロはとても愉快だ。

 

 「ヘッ、ンナコトドウデモ良イジャネェカ。 ソレヨリ、ポチハドウシタ?」

 

 「ポチは奴にやられて危険な状況だ。 さっさと捻り潰して迎えに行くぞ」

 

 なるほどなと、チャチャゼロもそれには同意見だった。今自分の身体は貯蔵していた少しの魔力で稼働しているに過ぎない。スペックも戦闘時間も全盛期に比べれば、目を覆いたくなるような性能しかない。エヴァンジェリンの傷も吸血鬼ならばまだしも、このままでは危険だ。

 

 「御主人ハ危ネェカラ動クナ、始メカラ全開デイクゼ」

 

 ナイフを振るい、こびりついた血を払う。既に相手の腕は元の形に戻っていた。

 

 「主の危機に自らを酷使して参上するとは。なかなか良い展開へ運びましたね」

 

 「何…?」

 

 爺やの言葉に戸惑うエヴァンジェリン。既に両者は激突していた。

 魔力によるブーストでチャチャゼロはパワーよりもスピードを底上げし、手数で責める。高速の斬撃が爺やの四肢を細切れにするが、瞬く間に吸血鬼の治癒でその姿は元に。

 

 「チッ、吸血鬼ッテノハ厄介ダナ…」

 

 エヴァンジェリンのパートナーとして近接戦闘に特化されているチャチャゼロは魔法が使えない。ましてや吸血鬼のような不死に対抗するような攻撃手段などあるはず無かろう。自身の主が不死なのだから。

 

 「爺や、貴様…どうやって私の呪いを解放するつもりだ」

 

 捨て身の戦法でチャチャゼロにクロスボウを放つ爺や。明らかに差がある速さにまるで掠りもしないが、それは相手としても同じ。幾ら断ちを与えようとそれらが致命になることはない。

 いや、チャチャゼロに限界時間があるせいか若干此方が不利か。魔法教師達が助太刀に来てくれれば勝ちも同然だが、残念ながら“今この時”、エヴァンジェリンが家を開けていても気にかける先生達は居なかったのである。

 

 「簡単なことです、お嬢様も既にわかっていると思いますが」

 

 「何だと」

 

 チャチャゼロのスピードが僅かに落ちる。爺やは此方に注意を向ける余裕があるのが返事を返した。

 

 「全ての魔法に言えることですが、術の行使は精霊であり、我々魔法使いは使役しているにすぎないのはご存知ですね?」

 

 魔法というのは一種の契約だ。土や草木、炎や水など万物全てには意思が存在し、それは属に精霊と呼ばれる。精霊に魔力と引き換えに力を行使してもらうのが魔法。呪文詠唱は契約内容であり、どの力をどの程度で、どの範囲発動させるのか意味を含まれる。簡単でシンプルな魔法ほど契約内容は短く魔力は少ない。

 

 「登校地獄の契約は千の呪文の男により、適当かつ、常人には到底理解出来ないような契約で強大な魔力を使用し、無理矢理発動させています」

 

 簡単に説明すると、お前にこれだけの大金やるから、あれとこれとそれとどれとやれよ。破ったら金は没収、罰金もあるからと無理矢理判を押させたようなもんである。

 

 「しかし、それでも突くべき穴はある。契約そのものを解除するのではなく、契約を意味の無い物にしてしまえば呪いも無くなるでしょう」

 

 「貴様……まさか!?」

 

 「この学園を消滅させれば登校という呪いは発動しない」

 

 それは、最悪最低の最終手段だった。

 

 「馬鹿な! 出来るわけがない!」

 

 秘密裏に事を進めるならまだしも、たった一人でこれだけ広大な施設、強力な魔法使いが数多く住む此処を、学園としての体を無くすだけの破壊など不可能だ。

 

 「それはどうでしょう?」

 

 爺やのクロスボウがチャチャゼロのナイフにより両断。追撃を仕掛けようとした時、爺やの血がまるで意思を持ったかのように動きだし、薄く、薄く研ぎ澄まされた刃として射出するとチャチャゼロの左手足が切断される。

 

 「…っウォ?」

 

 「チャチャゼロ!?」

 

 見覚えのある攻撃。ポチを一瞬にして襲ったあの技だとすぐにエヴァンジェリンは気がついた。

 

 「私にはお嬢様のように太陽の下で歩けなければ、強大な力も持っておりません。ですが吸血鬼化した影響により、“血”を自在に操る能力を持っております」

 

 血には大量の鉄分が含まれる。押し固めれば剣として扱えるほどに。

 

 「こんな風に…」

 

 血が滴る掌から刃を形成し振るう。チャチャゼロのナイフが防ぐ度に刃零れしていく。一方爺やの剣は血液が存在する限り刃に衰えはなく、より切れ味は増していた。

 軽さを活かすために固さを捨てた脆いナイフは砕け、エヴァンジェリンが目にするのは従者が五体不満足の姿で地面に落ちる無惨なところ。

 

 「チャチャゼロが負けるだと…っ」

 

 「魔力が供給されない状態で寧ろここまで動けたのが奇跡的です。これは貴女様の弱さが招いた結果ですよ」

 

 「…っ。学園の消滅にも切り札が残っているというのか」

 

 「ええ。準備は全て初日に終わらせました、信じるか信じないかはお嬢様自身ですが」

 

 僅かな時間でそれだけの術式が本当に可能なのか些か疑問だが、確かめる手段すらない。

 

 「 わかっているのか、 自分が何をしようとしているのか…!?」

 

 「勿論、この学園に住まう愚か者は全て皆殺しです」

 

 爺やは深く帽子を被り直し、髭を静かに撫でる。酷く、自然体だった。

 エヴァンジェリンは今ほど吸血鬼ではないこの肉体に歯痒い思いをしたことがない。目の前の老人にただ何も出来ず這いつくばるしか出来ない己の弱さに。

 

 「寧ろ私としては、何故お嬢様が其処までお怒りになるのか疑問なのですが。相手は我々を化け物としか見ない人間です、なのに何故」

 

 「決まっている、私が私を捨てないためにだ!」

 

 エヴァンジェリンは女、子供を絶対に殺さない。それは新たな自分を産み出さないため。

 まだ幼い、何も知らず、何も出来ないか弱い自分が受けたのは身勝手な大人達による理不尽な扱い。どうして?なんでこんなことをするの?

 

 「此処には全く無関係の子供がいる。なのに貴様は“また”しようと言うのか、私のように…!」

 

 どれだけ泣き叫んでも、父親も爺やも助けてくれなかった。

 あの時、エヴァンジェリンを救ったのは黒い狼と、自分が飲み込まれそうになった光の中手を引いてくれた炎の男。

 

 「今ここでその行いを認めてしまえば、私は貴様らと同類だ。あの日の私を見捨てるのと同じことだ…!」

 

 言いたいことは全て吐き出した。過去に、怒りをぶつける場所が無かったあの日の代わりに。

 

 「では、自らの誇りを貫くと言うのならば……大切な仲間を失っても構わないと言うのですね」

 

 爺やの掌から血の剣が出現し、地に伏せるチャチャゼロの頭頂部に添える。

 

 「止めろ! 貴様はどうしてそこまで…!」

 

 「ただの操り人形かと思えば…そうでもなかったようです。この木偶はお嬢様に修羅の道を歩ませる。私が望むのは恐怖による支配で永劫の安寧を約束される王の道」

 

 「ヘッ、ツマンネェ生キ方ダナ…」

 

 相変わらずチャチャゼロはマイペースにニヤニヤ。

 

 「御主人ヨ、俺ノ知ッテル闇ノ福音ナラ、脅シデ屈シタリシネェヨナ?」

 

 「チャチャゼロ…」

 

 「安心シロ、大丈夫ダ」

 

 チャチャゼロはもう、笑っていなかった。思えばコイツは憎まれ口を叩きながらも、常に私の進むべき道を間違えないよう遠回しに指摘していたとエヴァンジェリンは気付く。私ならば迷ってもけして間違えないと確固たる自信を持ち、今更何を言っているのだと言わんばかりに。

 

 「爺や、私は此所を離れるつもりはない」

 

 「残念です…」

 

 声質に暗い影を落とした。

 

 剣を振り上げ、そのままチャチャゼロを真っ二つにしようとした刃は……最後まで落ちることがない。

 

 「其処までだ」

 

 静かに、誰かの言葉が。

 

 『ッ!?』

 

 “チャチャゼロ”以外のエヴァンジェリンと爺やが驚愕に目を見開く。何かが来るのだ。それも並の気配ではない、冷たく、無機質で鋼がのし掛かるような圧倒的プレッシャーが襲いくる。

 

 「な、なんだ…この感覚は!」

 

 暗闇からコツコツと小気味の良い音が近づく。まるで、爺やが杖を突いていたような歩くスピードに合わせて。

 

 「ヤット来タカ」

 

 現れたのは、全身ずぶ濡れで髪が肌に貼り付いた女性のような容姿。深い傷が刻まれた左半分の顔、左眼球が失われポッカリと瞼には穴が開いている。右腕も失われたままだというのに、何故か彼は二足歩行で歩み寄っていた。

 

 「これは一体…」

 

 爺やは、彼の切り飛ばした左足の切断面を見て理解する。上着のシャツを使用し木の枝を腿肉に固定していた。当然そんなことをすれば歩く度に傷口から激痛が走り、立つことすら困難のはずが、彼は無表情のままで苦痛の様子がとれない。

 

 「ポチ……なのか?」

 

 あのふざけた態度を取り続けた青年とは、様変わりしていた。雰囲気だけではない、顔つきも、目に宿す力強い意思もこれまでに見たことのない、戦士としての風格がそこにはあった。

 ポチはゆっくりとエヴァンジェリンに顔を向け、頬を緩める。そしてその口から出た言葉は、とても、とても優しく懐かしくて待ち焦がれた言葉。

 

 「エヴァ、待たせたな」

 





エヴァンジェリンの思想や言葉が上手く書けているか不安。軽く打っていた時は「な、何言ってんだ、このキャラ…」みたいな内容だったので、伝えたいことが果たして伝わっているか。

Q・アルビレオと話していたのは?

A・アリカ姫です。ナギの奥さんでアマテルの子孫、そして真 祖 の 吸 血 鬼のあの方。

Q・チャチャゼロが…負けた…!?

A・寧ろ動けるのが奇跡。エヴァンジェリンは右腕宙ぶらりん、残りは穴が開いて動けない。

Q・あれ? アルビレオ、ポチの本名知ってる?

A・このタイミングでは知ってます。あとナギとアリカ姫も。残りはアマテルと造物主のみ。因みにイノチノシヘンも使えます。なので、この五人だけポチの本当の過去を知ってる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

とあと刀子

最近シリアスばかりだったせいか、禁断症状があああ。
UQ HOLDER!要素があるので未読の方は注意。


 「と、あ?」

 

 思わずポチとは異なる名前が口から零れた。エヴァンジェリンにはあまり自然なことで違和感が一切感じられず、目の前の青年が死んだはずの人物だと不思議なことに信じられる。

 

 「お? 今のでわかるか。流石だね」

 

 彼の放つ無機質なプレッシャーが霧散し、能天気なその言葉に胸が苦しくなった。

 

 「うっ」

 

 「うっ?」

 

 「うわあああん! わあああん!」

 

 「え、ちょっ…号泣ううううう!?」

 

 さっきまで私は闇の福音エヴァンジェリンだ!(キリ。

 が、どこへ行ったのか。600年生きた精神ババアの女王は見た目通りの幼い女の子みたいに、みっともなく涙と鼻水をドバドバ垂れ流し。顔を真っ赤にして泣き出した。

 

 「だ、だってぇ…お前が死んだって聞いて、信じられなくて…でもそれじゃいけないと思って無理に受け入れて…でもやっぱり生きていたから…うぅ!」

 

 嗚咽混じり。最後なんてもう限界が来そうである。

 

 「カメラ持ってれば良かったな」

 

 恐らくこれほどの表情、一生に一度しか見られぬであろうレアな物だ。是非とも写真に納めて弄りネタに使いたいと思うが、実に惜しい。

 

 「まぁ、そのまま待ってよ。さっさと、この爺さんぶっ飛ばすから」

 

 正面にはチャチャゼロに剣を向けたまま此方に警戒心を強めるお爺さん。とあのプレッシャーが弱まった今でも油断した様子が見えない。

 

 「成る程、貴方が白銀の閃光ですか」

 

 「時空間忍術使いそうな呼び名止めて、恥ずかしい」

 

 自分の呼ばれたくない呼び名で、暗い影を落とす。背後にどよーんとした空気が。

 

 「いやね? 別に良いんだよ? 俺も最初は良い気分だったし、格好いいと思っていたけどあまりにも回りが閃光閃光言うから居心地悪くってさぁ? ほらあるじゃん? 〇〇ちゃん可愛い可愛い!って連呼して困らせるアレ? あんな感じみたいにさぁ、わかるでしょ?」

 

 「どうでもいいです」

 

 「あ、はい」

 

 この手の話しが通じない相手だった。エヴァンジェリンとチャチャゼロなんか、白い目を向けてくる。

 

 「いくら英雄であろうと、その形で勝てますか?」

 

 全身鎧を身に纏っておらず、彼の身体はかなり細く、また重症だった。

 

 「うーん、ムリポ(はぁと)」

 

 「なっ! だったら速く逃げろ、奴の狙いは私だ!」

 

 そういわれて、はいそうですかと引き下がれるわけがない。もう、決めていたのだ。今度こそ、絶対に彼女のもとから離れないと。

 

 「大丈夫だよ、そろそろ援軍も来る」

 

 爺やのすぐそばで煌めく刀身、剣となった右腕が音もなく斬り飛ばされる。無駄のない洗礼された斬り込み、傷口も斬られたことに気づかないのか、一拍置いてから血が吹き出た。その再生に、停滞が見られる。

 

 「むぅ、これは…!」

 

 「神鳴流奥義、斬魔剣です」

 

 チャチャゼロを素早く抱え、一時その場から離れる長身の女性。一瞬、彼女のタイトスカートから神秘的な光景が見えたが黙っていよう。多分余計なこと喋ったらエヴァにぶっ殺される。

 

 「葛葉刀子か!」

 

 「はい、助太刀に参りました」

 

 麻帆良学園高学部教師、警備担当もとい、学園長の秘書も任されている新婚ホヤホヤ、もうすぐ挙式も行う予定の美人剣士。葛葉刀子。ここに見参。

 日本刀の剣先を敵に向けたまま、チャチャゼロを静かにエヴァのそばへ。彼女の制服もまた、とあと同じように濡れていたのを、この距離で気付く。

 

 「そうか、お前がとあを引き上げたのか…」

 

 更にはチャチャゼロもこうして救ってくれた彼女に、エヴァは頭が下がった。

 

 「当然のことです。生徒を御守りするのが我々教師の役目なのですから」

 

 至極当たり前のように語り、エヴァはそこで気付くのだ。全ての人間が愚かではない常識に。しずなもそうだった、エヴァが闇の福音だろうと気にしないで接してくれた。人間という一括りにまとめ見聞を誤るのは、それこそ愚かだ。眼前に立つ敵のように。

 

 「再生出来ないと言っても、時間の問題だね。どうやって倒そうか、美人さん」

 

 「そうですね…。とあさん、貴方は封印術が使えますか?」

 

 「え? 封印式が書かれた御札ないの?」

 

 「はい。生憎切らしており、斬魔剣で首を両断した後、封印をかけたかったのですが…」

 

 とあと刀子は不死の吸血鬼に対抗するため、簡易な作戦を建てる。内容としては魔の力を抑える斬魔剣で身体から頭部を離し、封印を掛ける神鳴流や陰陽師で最も使われる手だが…。

 

 「うぅん…。あまり使いたくないけど、出来る───かも?」

 

 「なんですか、その曖昧な」

 

 「色々と制限があるんだよねぇ。不発の可能性があるし」

 

 「全く出来ないってわけではないようですね。ならば覚悟してください、どの道やるしかありませんので」

 

 「はーい。じゃあ、美人さんもあのやり方行くよね?」

 

 「うっ。し、仕方ないです…」

 

 決心がついたのか、とあは若輩者が喧嘩の時するようなファイティング・ポーズを取り、足を肩幅に開く。その時、左足の傷口に障ったのか、少しばかり血がブシュリと溢れる。痛々しい姿だが、本人はやはり気にしていない。

 

 「いくぜ! フォーメーション・ハミガキじょうずかな!」

 

 『え?』

 

 エヴァンジェリン、チャチャゼロの時間が一瞬止まる。

 

 それは、此所に来る前、とあと刀子が事前に用意したコンビネーション攻撃だった。勿論提案はとあ。

 このフォーメーションは今までにタッグを組んだことがない者同士でも息の合った動きが出来るよう、とあとナギが開発した究極の連撃である。

 まず重要なことは必ずどちらでも良いので、歌うこと。そして羞恥心を捨て、あとはタイミングに合わせひたすらボコる! 以上!以上です!

 

 「大事なことなので二回言いました!」

 

 ハ・ミ・ガ・キ・じょうずかな?

 

 「か、葛葉刀子。 二十二歳です…!」

 

 赤くなりながら自らの名と年齢を口にする。とあはその間に歌いながら爺やに突っ込んでジャブで牽制。

 

 クチュクチュ「はあああ!」シュワシュワ「うおおお!」クチュクチュ、ハミガキ。シュワシュワ、ハミガキ。クチュクチュクチュクチュシュワシュワ──「ぐお!?」

 

 とあと刀子のダブルキックが爺やの水月を直撃、くの字に曲がった吸血鬼は苦悶の叫びをあげ後方へ弾き飛ばされる。

 

 クチュクチュクチュクチュシュワシュワ──「がはぁ!?」

 

 完璧な阿吽の呼吸。とあのふざけた歌に合わせて両者の攻撃タイミングが見事に合い、吸血鬼の再生が追い付かないスピードの連打が襲いかかる。欠点と言えば擬音だらけで何が起こっているのかサッパリわからないこと。

 

 「仕上げはお母さーん!」

 

 「誰がお母さんですか!?」

 

 グリグリ(ザクザク)、シャカシャカ(ボコボコ)。

 上の歯ぁー(殴る!)、下の歯ぁー(斬る!)

 前歯ぁー(殴る!)、奥歯ぁー(斬る!)

 グリグリ、シャカシャカ、グリグリ、シャカシャカ───「ぐはぁ!?」

 

 「食べたら磨く、約・束・げん・まん」

 

 チャンチャンチャン。

 

 「んな、バカな…」

 

 エヴァンジェリンの茫然とした声。本当に圧倒してしまった、あんなアホなやり方で。

 よくよく思い出してみれば、ナギやアリカ達と旅をしていた時もこのようなことばかりしていたなと、改めて思う。完全なる世界とか、よくわからん連中と戦っていた時も常々こんな感じだった。二番目という名前の人形も泣きながら退散していたのを鮮明に思い出せる。

 

 「やったかしら?」

 

 「ちょっと美人さん!? まだ封印掛けてないのに、それは言っちゃダメエエエエエ!!」

 

 斬魔剣で四肢を切り落とされた爺や。傷口に再生の様子はなく、勝利を確信した刀子の言葉にとあのストップが入る。合わせたように起き上がる吸血鬼。

 

 「ほらぁ! まだピンピンしてるじゃん! 今のはやってないフラグになるんだよ!」

 

 「いやはや、貴方のそのふざけた態度少々神経に触りますね」

 

 起き上がった爺やは何を考えたのか、自らの牙で先を失った腕に噛みつき、血を流し始める。

 

 「アレハ、ヤバイゼ!」

 

 チャチャゼロの警戒に目を見張る一同。爺やは流した血を刃として飛ばし、とあ達ではなく自身の切断された四肢を更に深く切り落としたのだ。それにより魔の力を封じられた傷口は無くなり、新たな傷痕からは再び肉が生えてくる。

 

 「あんなの、ありなの?」

 

 誰の声だったのか。再生が完了して立ち上がった爺やの服装は、闘いによるダメージであちこちに傷みが見られ、スルリと脱げた。

 

 「なっ…!」

 

 そこには、とても年老いた老人とは思えない程、鍛え上げられた剛毅な筋肉が現れる。無駄な脂肪は一切無く、しなやかな肉体。しかし、エヴァンジェリン達が呻いたのはそれではなかった。

 その肉体に刻まれていたのは、夥しい数の傷痕があった。切り傷、銃痕、火傷、薬品で爛れたような跡さえ。数百、いや数千はあろうかという、彼のそれまでの人生を語るような壮絶な記録だった。

 

 「爺や、それは…!」

 

 「私はお嬢様程の再生力はありません。銀や聖水を受ければ傷が無くなろうと、跡は完全に消え去ることはないです」

 

 爺やな上半身裸になろうと、帽子は深く被り続けたまま。淡々と語るその言葉に表情がやはり見えない。

 

 「それにしても鮮やかな剣筋です。私の再生をここまで封じるとは…」

 

 「あれ、連携なかったことにされてない?」

 

 帽子越しに刀子を見る。ボロボロの指先で髭を撫でると、爆発的に殺気が膨れあがった。周囲に緊張が走る。

 

 「昔、アオヤマと名乗る少女との闘いがなければ斬魔剣の対策は無かったでしょう」

 

 もう、数十年前の話しだ。今では老婆になってもおかしくない年月である。

 

 「貴女はその少女よりも圧倒的に実力がある。剣筋もそうですが、足さばき、気配の読み、そして賢い───だが」

 

 瞬動術。足の裏で一気に放出した気は術者に一瞬の超加速を与え、刀子の目と鼻の先に接近する。咄嗟の回避で彼女も同じように瞬動を使うが、僅かに遅れたせいか爺やの持つ血の剣に頬に掠り切り傷が。

 

 「残念ながら経験が足りない」

 

 「まさか今のがそうだって言うの? この程度、何度も味わっているわ」

 

 額に汗をかき言い放つ刀子。確かにあの程度の瞬動ならば、彼女の反射神経で対応出来る。しかし、爺やは落ち着いた様子で血の剣を体内に納めると、ひとつ…頷いた。

 

 「ふむ、なるほど…どうやら近々式を挙げる御予定のようですね」

 

 「…何故貴方が知ってるの」

 

 彼は答えず、更に口内を咀嚼するように動かし再度頷く。まるで、何かを味わうように…何かを読み取るように。

 

 「御相手は…西洋の魔法使いですか。しかも貴女と幼馴染み」

 

 「ちょっと待って…どうしてそこまで…っ!?」

 

 皆が気づく。あの行為は刀子の血を味わっているのだと。そしてその血から得られる者の情報を吸血鬼が詳細に読み取っていたのだ。

 

 「あの爺さん、そこまで出来んのかよ!」

 

 血を操る能力とは知っていたが、それほどまでに強力な能力だと予想出来なかった。

 

 「それだけではございません。更に血の感情を読み取ることも可能で、相手の思考さえも探知出来ます。どうやら貴女は御結婚に向けて幸せな感情を抱いていますが、僅かな隙間に不安要素を押し込めていますね」

 

 「…っ」

 

 刀子の手がビクリと揺れる。

 

 「御相手、幼馴染みでしたか。彼は昔から暴力的で女癖もあまり宜しくないようだ」

 

 当然、そんなことを聞いてしまえば、とあとエヴァンジェリンは刀子を思わず見てしまうに他ない。相手の男性について全く知らなかったが、幸せ絶頂期にも思える彼女からその不安要素は、まさに寝耳に水である。

 

 「黙りなさい…」

 

 「そして大人になってからは賭け事に手を出し、酒乱の体質も持つ」

 

 「止めたげてよぉ!」

 

 聞いてはいけないことを聞いてしまった。とあとエヴァンジェリンは居たたまれない気持ちになる。流石に見過ごせない…もとい、これ以上は聞いていられないとあは爺やに攻撃を仕掛けるが、先ほどまでより速い彼に対して片足が不自由なとあの攻撃が当たるはずもなく、続けざまの言葉を止める術がない。

 

 「書類上結ばれているとはいえ、既に旦那様の悪い癖が目立ち始めたようですね。しかし、貴女はこう思っている。式を挙げればきっと、夫婦としての実感を持ち、彼も心を入れ換えて夫として相応しい男性になってくれる」

 

 「爺さん、マジマインドクラッシュ! 次いでに俺のSUN値も減るわっ!」

 

 「いや、貴女は旦那様に夫としての自覚を持ってほしいのではない。せめて、せめて彼に“女として見続けてほしい”と願っている。既に見放されていると気付きながらも」

 

 「マジかよ、旦那最低だな…。うわぁ、やる気なくすわぁ」

 

 それ即ち、浮気の二文字。

 だんだん目の前の敵より刀子の夫をボコボコにしたくなってきた、とあ。同じ女性大好きとして許せん存在である。顔が崩れるくらい殴りたい。

 

 「皮肉な話しです。結婚において、男は女に変わらないことを望み、女は男に変わってくれることを望む───「黙れえええええ!」───っ」

 

 「美人さん落ち着いてえええええ!?」

 

 何に対して怒りを爆発させたのか。刀子は鬼の形相で日本刀を振りかぶり、大雑でスキだらけの断ちを浴びせる。

 

 「やはり経験が浅い」

 

 これにより、とあと刀子の連携は完全に崩れた。冷静さを欠き一人で突っ走った彼女が600年戦い続けた人外の強者に敵うはずもなく、意図も容易く十数の血の斬撃が直撃し、スーツが切り裂かれた刀子はほぼ半裸状態で地に伏せる。

 

 「ま、まだよ…! まだ戦える…っ」

 

 「その執念、怖ッ」

 

 「イイ加減オ前モ黙レ」

 

 半開きの目をギラギラと輝かせ、闘志が衰える様子がない。片腕で胸元を隠し、痛みに震える身体を無理矢理立たせた。爺やがその姿に溜め息を吐く。

 

 「仕方ありません。あまり“これ”は使いたくなかったのですが」

 

 刀子以外が、嫌な予感に包まれた。

 

 「はあああああ!」

 

 雄叫びを上げて直進する。エヴァンジェリンが制止の声、とあも急いで刀子を引き止めようと走りだしたが、如何せん彼女の方があまりにも速すぎた。爺やは真っ向から刀子の斬撃を受け、肩口から胸にかけ両断されようとしたが、彼女の血が滴る腕に手を添え、決着がついてしまう。

 

 「ぎゃあああああ!?」

 

 とあとエヴァンジェリンでさえ、理解出来なかった。

 

 刀子が突然日本刀から手を放し、とても女性が発したとは思えないような絶叫で悲鳴をあげ自らの右腕を抱え込んでしまったのである。

 

 「あああああ!!」

 

 右腕には何も変化はないが、それでも刀子は耐えず吠え、目が血走り、その場でゴロゴロ転げ回る。

 

 「貴様、何をした!?」

 

 「体内の血を形質変化させただけです。もっとも、血管だけではなく細胞や神経、骨の髄に入り込む僅かな血液も含まれますが」

 

 傷口を再生させながら語り、とあとエヴァンジェリン、二人の顔色が青くなる。それは即ち、腕の中にある痛覚全てを血を使って刺激したということ。常人ではショック死してもおかしくない程の激痛を与えたのだ。幸いにして刀子は剣士、痛みには慣れており“女性”であるためこの程度に済んでいるが、如何に戦う者と言えど、神経を焼き引きちぎるにも似た痛みは耐え難いものであり、発狂か、戦意をそこで失う。

 しかもこれは触れればアウトの防御不可。血を持つ限り防ぐ術はない。

 

 「あ、ああ…!」

 

 刀子が落とした日本刀に手を伸ばすが、指先が僅かに触れただけで、またしてものたうち舞う。

 

 「さて、あとはふざけた貴方だけですね」

 

 爺やが此方に向き合った。そして、とあの行動は速い。相手に接近し、その“目の色”を変えている。美しく輝く瑠璃色に。

 

 「…むっ!?」

 

 「アクセス」

 

 無機質な言葉。独特な鋼のプレッシャーがのし掛かる。爺やは咄嗟に危険と悟った。

 

 刹那、とあはある歴史、場面、人物に触れる。まだ延ばしてはいけないそこへ。 

 

 時空間因子の収束開始。

 

 ◆年月【2087年】クリア。

 ◆所在【仙境館】エラー、【貧困街】クリア。

 ◆人物【近衛刀太】エラー、【時坂九朗丸】エラー、【夏凜】エラー。

 

 これでは駄目だ、全員得意体質すぎる。もっと、今の俺にもギリギリ扱える能力を持つ人物を選び、発動が容易な攻撃手段を再検索。

 

 ◆人物【灰斗】クリア。

 

 この人狼族だ。

 

 ◆特技【虚空瞬動】エラー、【瞬動】エラー、【封印術】クリア。

 

 インストール開始。因子のトレース完了。

 

 「吸血鬼封印術───」

 

 とあの動きが別人のように変わる。左足の代わりとした木の枝で、爺やの上半身に十字を画くよう、十の打突。健全な左手で狙いを定め、敵の胸に強烈な掌底を叩き込んだ。

 

 「───零式『十字封棺』!!」

 

 衝撃に後方へ吹き飛ばされる爺や。大地を破砕しながら漸く身体が止まる。

 

 「はぁはぁ…───ッぐぅ!」

 

 だが、ダメージを受けているのは明らかにとあの方だった。エヴァンジェリンが見たところ相手の血を操る攻撃は受けていないにも関わらず、本人は油汗をかき、土毛色の顔で頭を押さえつけている。

 

 「やっぱ、人間の脳じゃこの辺が限界か…」

 

 「今のは一体…」

 

 エヴァンジェリンが事情を聞こうとしたが、破壊された大地から爺やが現れることで続かない。

 

 「おいおいマジかよ…。効力が三割減ってるとはいえ、まだ立てるとか…」

 

 「私も驚きました。まさか触媒どころか気や魔力を練り込まれていない封印術でこれ程とは…」

 

 爺やの胸元は血の鎧に覆われていた。掌底の跡がクッキリと残されており、鎧は効力を失ったのかサラサラと灰に変わり零れ落ちる。

 

 「爺さん、アンタの血を操る能力万能すぐる…」

 

 「600年も生きれば流石に、能力の工夫も一つや二つ増えますよ」

 

 「ですよねー」

 

 そう、目の前にいる男はエヴァンジェリンと同じように一筋縄ではいかない。そういう存在だ。技術的にも精神的にも他の者とは一概に違い、これを潰すとなると、小細工は通じず、より上回る力で押さえつけるしかない。

 

 「ねぇ、爺さん。もう止めない?」

 

 「残念ながら私はお嬢様を王にするという、重大な使命が…」

 

 「違う、それじゃないよ」

 

 とあは悲しそうに呟く。爺やの動きが止まった。

 

 「流石にね。確信しちゃったんだ、俺」

 

 「ほう…」

 

 老人は初めて帽子を取り、そこには、怒りに顔を歪ませた吸血鬼が。

 

 「貴方は本当に私の神経を逆撫でする…!」

 

 エヴァンジェリンとチャチャゼロからして見ればあまりにも突然な激昂だった。すると、急に筋肉が膨張し体格を大柄に変え、汗腺から血を流すと全身に真っ赤な鎧兜を身に纏った。防御、攻撃共に最大限の効率を発揮させる彼の本気の形態だった。

 チャチャゼロの時も、刀子の時でもけして使用しなかった姿。

 

 とあは、彼が本気で潰しにかかってくることを知り顔を小さく伏せる。

 

 「やるしかないのか」

 

 人間の肉体でどこまで耐えられるか、あまりに久しぶりすぎて覚えていない。自身そのものである“式”の鎧は本来人間が扱える代物として設計されていないのだ。攻撃の反動は全て装備者に跳ね返り、システムの干渉を受ければ処理能力に限界がある脳は簡単に破壊されてしまう。ナノマシンと併用して使えば死ぬことはないが、メモリが破壊されれば記憶を再び失い、エヴァンジェリンをまた忘れてしまう。

 

 それだけは絶対に避けたかった。

 

 でも、やらなければならないのだ。

 

 理由なんて、決まってる。

 

 「エヴァに、貴様を殺させるわけにはいかない」

 

 とあは、唱える。自身の力を呼び覚ます言葉を静かに。

 

 【式 王 神 解 放】

 

 何もない空間がひび割れた。

 

 




次回、ポチが人間形態での本気を出します。

【爺やの能力まとめ】
不老不死、血で斬撃を飛ばす、血で剣を形成、血で鎧兜を形成、相手の血を体内に取り込み記憶や感情の情報を読み取る、相手の血に触れ操る、自身の血を操り身体能力を高める。

元々は剣を形成するだけで精一杯だったが、600年の時をかけ様々なバリエーションを生み出した万能タイプ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

とあと爺や

シリアスのみ。ポチがいません。


 

 とあはひび割れたその空間へ、左手を突っ込んだ。硝子が割れる音が響き、裂傷が彼の腕に刻まれる。彼が延ばした其処は、此処とは異なる空間、異なる時間が流れる次元と次元の狭間。重力の概念すら存在しない多次元空間。数多の者達が渇望し其処へ辿り着く為、幾数の悪や闇を起こした罪の空間。

 彼は其処へ殴ることで開いたのだ。左手は先へ埋もれ、周りの者達はその異常な行為にただただ目を見張る。

 

 「オオオオオ!!」

 

 雄叫びと共に、とあが掲げるよう“引き出した”のは真っ白い鉄輪。エヴァンジェリンはそれを知っている。彼の目印、首輪。後に知ることとなるそれは、彼自身であり、本来ならば彼が選んだナギに渡されるはずだった、王を超え、神を超え、究極の戦士に進化させる鎧兜の源。式。

 とあ、自らの首へ“差し込む”よう“馴れた手つき”で嵌め込み、封じられた力を解放する。

 

 「ナノマシン発動」

 

 目には見えない分子レベルの、数千万に上る細胞復元機が全身を駆け巡る。人体の要素であるタンパク、炭素、鉄、水分などが生成され、彼の失われたはずの右腕と左足、左目、傷痕さえもひとつ残らず復元されていく。

 エヴァンジェリンは、息を飲んだ。“遥か未来の技術”であるそれは、この時代の者からすれば、まさしく人外の力に他ならないからだ。事実、彼の再生力は人外のそれに相応しい。最早死ぬことも、老いることもないナノマシンの力は未来においても他の者達では再現不可能な技術であった。神の頭脳を持つ者を除いて。

 

 そして瞬くマズルフラッシュ。黒い靄がかかった西洋甲冑が全身を纏い、とあは僅かに呻く。

 

 「う、ぐぉ…!───オオオ!!」

 

 一喝。黒い靄を気合いではね除け、弾き飛ぶ。其処に出現したのは、真っ白く輝く穢れ無き装甲。紅き翼と共に戦い抜いた鋼鉄の英雄。白銀の閃光。千の呪文の男の相棒、式王神だった。

 嘗てエヴァンジェリンが見た、今にも壊れてしまいそうな劣化はなく。滑らかに磨きあげられた真新しい装甲は、まさに生まれ変わった出で立ち。

 

 「ゆくぞ、吸血鬼」

 

 落ち着きの孕んだ静かな合図。両者、互いに大地を踏み抜き、疾走、激突。身体能力を強化された爺やの、丸太のように太い拳がとあの正面から襲い来る。並大抵の魔法使いが張る物理障壁など、木っ端微塵に砕ける風切り音を轟かせ、鋼鉄の英雄は片手でそれを受け止めた。

 衝撃波は後方まで届き、大地を消し飛ばすが、彼がその足を一歩も引き下がることはない。

 

 「どうした。破壊力だけでは俺に勝てんぞ?」

 

 明らかに口調が変わったとあの挑発。爺やは一撃の重みによる面としての攻撃よりも、鎧の四肢から血の刃を生成し、線として攻撃方法に変える。

 しかし、それらが相手の身体を引き裂くことにはならなかった。とあは爺やの呼吸、脈拍、目線、足運び、筋肉の動きから次の攻撃パターンを算出、計算し、全て最小限の動きで回避する。

 

 「貴様に見せてやる。連打とは“こう”するのだ」

 

 とあの右腕がぶれる。爺やの攻撃を打ち返し、風船が割れるような音。一拍おいて右腕の攻撃が、ひとつ、またひとつと続けて放たれる。右腕一本のみの高速連打は彼の腕が数百に見え、相手は反撃も出来ないまま動きを拘束されてしまう。

 僅かに後ろへ押し出されていく爺やだが、とあはゆっくりと歩みよりながら更に連打のスピードを上げていく。直立のまま右腕のみをひたすら動かして。

 

 圧倒的だった。600年の歳月の中、技でも何でもない、ただの殴るという行為にこれ程までの危険を感じたことがない。これが、紅き翼の零距離最強と呼ばれる男の力なのか。無論、こんなものは氷山の一角にすぎない。

 

 鎧が剥がれ、無防備となった相手の身体に鋭い回し蹴りが放たれる。大部分が痛覚と共に消し飛び、肉片をバラつかせながら世界樹の幹に頭部が埋まる。だが、この程度の損傷、吸血鬼の持つ再生で幾らでも復活が可能だ。

 

 「貴様では俺に勝てん。彼女のことは諦め、この場から去るがいい」

 

 「奴を見逃すというのか! 術式が発動すれば大変なことになるんだぞ!」

 

 エヴァンジェリンだけではない、チャチャゼロも刀子も意味がわからなかった。学園全土を脅かす危険人物であり、エヴァンジェリンにとって宿怨の存在であるこの老人は、到底このまま見過ごせるものではない。

 

 「確かにな。だが、そもそもそんな大それた物を用意など……俺には思えん」

 

 それはエヴァンジェリンもわかっていた。しかし、今更それを本当のことだと確かめる術も時間も全くない。

 

 「貴方がそう思うのは勝手です。そうしている内に私はお嬢様の呪いを解除するだけですからね」

 

 全身の再生が完了した吸血鬼は、丁寧な物腰を再び構え、静かに語る。

 

 「それも選択のひとつだったのだろう」

 

 とあは、それが嘘ではないと言う。妙な含みを込めて。

 

 「どういうことだ?」

 

 エヴァンジェリンの疑問にとあは答える。

 

 「あまりにもタイミングが良すぎる」

 

 始まりからおかしかった。彼は…爺やは、学園生活を送っているエヴァンジェリンを監視していたと発言していた。それは、いつでも学園に侵入し、接触することも出来たということ。なのに、呪いを掛けた千の呪文の男が死んだとわかってから仕掛けるとは…。仮にナギが死亡しなければこのまま手を出さなかったのではないか? そう考えてしまう部分がある。

 

 「何を世迷い言を。私はお嬢様を此方側へ引き込みたかったのですよ」

 

 愚かな人間どものそばではなく、悪や闇を越えた先、外道の道へ。

 

 「その割には、随分と自身に不利なことばかりだな。彼女が一人ではなく、誰かと一緒にいる時を狙い会いに来るなど、エヴァと己が敵対関係であることを第三者に教えるとは…」

 

 前科があり、学園中に嫌われている闇の福音だ。当然外からの侵入者が現れ、それが昔馴染みの者ならば疑惑を持ち彼女の立場は危うくなる。事実、そうなった。しかし、とあという第三者の存在によりエヴァが白であると少しでも周りに伝え、互いが協力の方向性へ持っていこうとするようにも見えた。

 

 「何故貴様は俺が侵入者ではないと伝えた? 何故、エヴァと学園内の関係を悪化させ、自身へ引き込みやすくしない? 何故、これ程の力を持ちながら俺と刀子に止めを刺さない? 血を操るならば即死も出来る。どうせ術式で殺す命だ、何故生かす?」

 

 疑問点はありすぎた。太陽が弱点であるなど、わざわざわかりやすくするとは、まるで───。

 

 「エヴァに殺されることを望んだように見える」

 

 とあのその言葉は、今此処にいる者達を静めさせるのには充分だった。茫然としたエヴァンジェリン。刀子は痛覚が収まり始め、無言となった彼を見ると、真っ白い鎧の隙間から赤い血が滴っていることに気づく。

 とあの中身、動かした右半分は既に“ぐちゃぐちゃ”で破壊されていたのだ。僅かに彼の頭部がユラリと揺れていることに気づく。既に意識は朦朧だった。

 

 「黙りなさい!!」

 

 爺やの言葉使いが乱雑になり、とあに襲いかかるが拳は届くことがない。

 

 「貴様は感ずいた俺に怒りを隠しきれなかった。嘘が下手な辺り、実は純粋な性格のようだな」

 

 「貴方は本当に邪魔ばかりする…! 最早見過ごせるものではない、再起不能にしてやりましょう!」

 

 爺やはとあの流れてる血に手を延ばす。刀子が受けた、血を操る力を使う気だった。とあは霞む視界のなか、足を一歩後ろへ下がらせるが、グニャリと膝が曲がってしまい体勢を崩してしまう。

 

 「くッ、ナノマシンの再生が遅───ガアアアアア!」

 

 「とあぁ!?」

 

 細胞復元機のスペックが明らかに全盛期時代よりも落ちており、筋肉、骨、筋が切れた足は動かすことがままならない。爺やの能力は刀子の時と違い、右腕だけではなく、全身に及ぶまで流れ込んだ。

 

 「アアアアア! がぁ、あが!」

 

 発狂してしまいそうな激痛が全身を駆け巡り、とあは頭を抱えて転げ回る。

 

 「私が600年戦い続けられた理由に、最も大きな存在だったのが、この相手の血を操る技でした。不死狩りの中には同じく不死の方も居ましてね、その者達にはこうして精神を破壊するまで痛みを与えました。何れ程肉体が再生しようと精神まで復活させることは出来ません」

 

 爺やは一瞥し、エヴァンジェリンの方へ。しかし、その前に立ちはだかったのは、同じ痛みから立ち直った葛葉刀子だった。右腕は使い物にならないのかダランと垂れ下げ、聞き手ではない左で剣を持つ。乳房はもう隠すようなことはせず苦痛に顔を歪めながら、ただ吸血鬼相手に鋭い殺気を飛ばす。

 

 「彼女は私の生徒よ、これ以上…は…近づかないで…!」

 

 「最早立つのがやっとではありませんか。彼の協力も期待しない方が良い。その痛みを受けた貴女ならばわかるはず、右腕でこれ程の痛み…全身へまともに受ければただでは済まないと」

 

 「それ…でも、立ち向かわなくちゃ…いけない時があるのよ!」

 

 刀子は知っている。エヴァンジェリンが何れ程とあのことを愛して、嘆き、絶望していたのか。自分なんかとは違う、互いに意地悪で優しくて温かいあの二人は一緒にいなければならないのに、幸せにならなければならないのに、この老人がそれを邪魔する。許せない、何も知らないくせに!

 

 「斬魔剣!」

 

 「やれやれ、豪気な婦人だ。しかし…!」

 

 爺やは全身に血の鎧を纏う。剣は火花を散らして弾き返され、刀子の左腕に再び血の流れを変える力を使う。激痛に彼女は絶叫をあげるが、手放された剣の柄に歯を立て加えると、そのまま口で斬魔剣を浴びせようとした。

 

 「チィ…!」

 

 止まらぬと悟った爺やは、彼女も同じように全身を破壊しようと手を延ばす。

 

 「爺や、止めろ!」

 

 エヴァンジェリンの制止は第三者によって引き起こされた。爺やの手は刀子の頭部すぐそばで止まっており、刀子もまたその動きを止められていた。

 

 「馬鹿な…」

 

 爺やは驚きを隠せない。今だ嘗て、自身の最悪な技を受けて立てた者など存在しなかった。彼を、とあを除いて。

 

 「幾ら再生出来ようと、痛みは瞬時に脳を焼く。耐えきれるわけが…」

 

 とあは静かに俯いたまま。意識が相当参っているのか、小刻みに身体を震わしている。

 

 「…刀子、君は手を出してはいけない」

 

 美人さんではなく、下の名で呼び捨てされた。絞り出すように、激痛で今にも意識が飛んで行きそうな己を支えるために。掠れた小さな声。

 

 「君の剣は力無き者を守る為に振るうべきだ。こんな男を斬る為の者ではない」

 

 優しく刀子をエヴァンジェリンのもとへ押し出した。握り締めた爺やの腕が動くことはない。

 

 「こんな男とは、随分と言ってくれます。人外だからと戦うことすら差別しますか?」

 

 「違う。貴様が臆病者からだ」

 

 「臆病者? 面白いことを言いますね、数えきれない程の戦いをし、殺し続けた私を臆病者とは…」

 

 くくっと肩を揺らし笑う。

 

 「臆病者とは、もっと別に使われるのですよ。例えば、お嬢様のような」

 

 「何?」

 

 「闇の福音、悪の女王と謳っておきながら例え迫害されようと女子供に手を出さない。無様にやられ続けても尚、殺したくないと目を瞑る。これが臆病者と言わずなんと良いますか、外道になる覚悟も出来ずに綺麗でいようとする」

 

 それは甘さで弱さだと、まだ心が人間でありたいと願っている見苦しい幻だと語り続けて、エヴァンジェリンは黙り込むしかなかった。だが、異を唱えた者はすぐに出た。

 

 「貴様は、何もわかっていない…!」

 

 式王神のバイザーのみが上がる。其処にはスイット状の垂直に立つ、獣の瞳が僅かに覗いていた。怒りに燃える獣の。

 

 「貴様は言っていたな、彼女を此方側へ引き込むと。それは自分の為にだろう? 生き抜くために汚れ続けた自身が間違いではないと、安堵するために」

 

 自分は罪を犯したが、間違いではなかったはずだった。怒りに身を任せ力を振るってきた。子供や女達さえも巻き込んで。だって仕方ないではないか、生きる為だったのだから。それがこの世の真実だと。

 だが爺やが知ったのは、信じていたものを揺るがす存在。自らと同じ立場であり、しかも幼い子供であったはずのエヴァンジェリンは違ったのだ。その時、彼は初めて悟る。もしかすれば自分はとんでもない間違いをしてしまったのではないかと。肉体だけではない、心までおぞましいこと物へ変貌してしまったのではないかと。

 それを認めるのは恐い。ならば、彼女も同じ立場にしてしまえば良いのだ。そうだ、それが良いと。

 

 「戯れ言を…!」

 

 「けど、貴様にはもうひとつの想いもあった。半分、自分の間違いを認め始めている貴様には」

 

 とあがここまで、彼の心中を察することが出来たのには理由があった。

 

 「そんな自分の汚さを“誰かに知られる”前に死にたくなった。醜く生きるぐらいならば、死に意味を見出だしてこの世から去りたいと。その相手として始まりであり自身を裁くに相応しいエヴァを選んだ」

 

 彼女の登校地獄を解き、最後くらいは役に立って美しく死にたいと。なんで、そんな…。エヴァの疑問に満ちた呟きが闇夜に溶け込む。

 

 「だが、そんなことは俺がさせない。貴様の相手はエヴァでも刀子でもチャチャゼロでもない。同じ臆病者で充分だ。貴様の相手は、同類である俺で、充分だ…!」

 

 「抜かせ、偽善者の英雄がぁ!」

 

 ───『戦いの歌』

 

 魔力により更に強化された爺や身体。大振りの裏拳がとあを襲う。脳に損傷を負ったせいか思考に緩やかさが見られ、回避が出来ない。腕で庇い、衝撃がたたらを踏ませる。反撃に打ち返すがパワーが落ちているため互いに弾き合うだけに留まる。

 

 「わからないのか? エヴァは、俺や貴様なんかより…ずっと強い。強くあり続けた人間だ! それを、貴様の身勝手な願いで歪めさせてはいけない!」

 

 「何をわかったようなことばかり、ベラベラと! 貴方のような若僧に、英雄と崇められ光の中を生きていた人間の代表みたいな貴方に、私達の苦しみがわかるものですか!」

 

 爺やの鎧兜が血の液体となって、とあの全身を覆う。傷口だけではない。あらゆる人体の穴へと進入し、髪の毛一本、眼球や爪の先まで余すことなくその力を放つ。

 

 「業火よりも、身を引き裂かれるよりも苦しい、絶望の痛みを味わうがいい!」

 

 「とあ、逃げろ!」

 

 「最大級!」

 

 「がッ!?」

 

 とあの身体から夥しい鮮血が吹き出た。穴という穴から血が溢れ、その余りの痛みに絶叫すら出ることはなく、ただ呻いて棒立ち。式の鎧は解除されて、全身を真っ赤に染めた青年が今にも倒れそうな姿で現れた。僅かにアンモニア臭が漂い、失禁していることにエヴァンジェリンは気づく。

 

 「あ、ああ。そんな、ウソだ…! とあが、とあが…!」

 

 決着はついたと、爺やはとあに興味を無くしたよう、脇を通りすぎた。これから忙しくなる、術式など始めからないのだから、己の手で此処にいる人間どもを、早い内に全てを殺害しなければならないのだ。

 

 だというのにッ!

 

 「何故だ…! 何故倒れない!?」

 

 彼は倒れなかった。白目を向き、間違いなく死んでいると思わせる姿だが、一向に倒れる様子がない。寧ろ、その目で此方を睨み付けているとわかるくらいだ!

 

 「とあ、もう…いい。やめろ、やめてくれ! このままではお前が壊れてしまう!」

 

 エヴァンジェリンの声はとあに届かない。やはりもう、意識が限界に近い。爺やの攻撃もだが、システムの干渉が進行している。記憶に、全てが押し潰されそうだった。だが、せめてやらなければならない、これだけは。

 

 「ナギ、俺に力を貸してくれ…」

 

 ───契約執行10秒間。ナギの従者、山田としあき。

 

 




予定では次で決着ですね。長かったエヴァンジェリン編に終わりが見えました。これも付き合い続けた皆さんのおかげです。次は現代で登校地獄解除編になるでしょう。間違いなくシリアスは無くなります。温度差が激しいですが、ついてきてくれることを願います。

今回はポチの裏設定でもなく、Q&Aでもなく、この話のボツネタをご紹介します。かなり短いですね。

その1。

 「貴方に、光の中で生きていた貴方に何がわかる…。英雄と称えられた貴方に、私の考えが理解出来るわけがない…! 貴方達人間に、我々の苦しみが理解されて堪るものか!」

 「ならば自分が大虐殺の罪を背負うと? あまりにも身勝手すぎるぞ」

 それはもうひとつの選択。エヴァと学園内の人間関係が“良好しない場合”の可能性。彼は敷地内人間全てを殺し、麻帆良の学園としての機能を破壊して登校地獄の呪いを意味のないものにしようとしたのだ。
 そうなればエヴァは再び自由を取り戻し、殺戮犯となった己を殺せば正義感に目覚めた鬼として認識を改められるかもしれない。どうせ、悪の魔法使いだ。今以上に堕ちることはないのだと。

 「それは、本当…なのか?」

 とあの考察に彼女は全く信じられないようだ。爺やの姿勢が変わることはない。

 「いいえ、全て出鱈目です。第一私は、お嬢様を闇の王にするため真祖の吸血鬼に変えた狂人なのですよ?」

 その言葉にエヴァンジェリンはハッとする。全ての始まり、悪夢の夜、あれは今でも覚えている。父親が自分に与えた苦しみ、化け物へ変貌したこの身体を大喜びした爺や。あの恐怖を。

 「果たして。元の願いがそれではなければ、話しが変わるがな」

 とあはうつむきながら悲しげに呟く。爺やは時が止まったようにピタリと動かず、彼の兜、バイザー越しからその目を見た。

 「悪性黒色腫」

 「馬鹿な! どうして、それを知っている!」

 スイット状、縦に割れた、獣の瞳を爺やは見てしまった。顔色が蒼白し、力無くゆっくりと後退する。

 「あくせいこくしょくしゅ? なんだ、それは?」

 エヴァンジェリンは聞き覚えのない単語に顔を歪める。しかし、とあも爺やも質問には答えることなく。爺やは、目の前に立つ存在が何か理解してしまい、事情をわかっていたことに驚きを隠せなかった。

 「何故、貴方が此処に…。いや、そもそもその姿は…!」

 爺やは嘗てマガツに牙を立てられた自分の首へ手を延ばす。古傷痕がズキズキと疼いていた。

 「もう止めよう? 爺さん、アンタは悪くないよ」

 俺が、全部悪いのだと、険が取れた口調で囁く。

 「いい加減に私へ分かるよう説明してくれ!」

 エヴァンジェリンは我慢の限界だった。恐らく、今両者の間で流れているのは、自分のこと。とあは戻ってきた時に全てを話すと言っていたが、未だにその様子がないのだ。彼は自分の何かを知っている、それは確固たる事実だった。

 「爺さんは───「やめなさいっ!」───エヴァを助ける為に吸血鬼にしたんだよ」

 「は?」

 助ける。その言葉の意味をすぐには理解出来なかった。呆けたエヴァンジェリンの声が、闇夜に溶ける。

 「何を、有り得ない。…そもそもなんでお前がそれを知ってる」

 「エヴァ、お前は“あの時代”では施しようのない、不治の病に犯されていた。爺さんはそれを治す為にお前を不死にしたのだ。日の光りを歩けるハイデイライトウォーカーとして」


その2。

 ───契約執行。ナギの従者、式王神。

以上です。その1はなんというか、エヴァに語りすぎた部分がありました。その2は迷いました、此方にするべきか本名でよかったのか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誰しもが望んだこと

エヴァンジェリン過去編終了です。まだ納得していない部分もあるので、後々肉付きが入るかもしれません。


 最初に言っておこう。ナギは俺が出逢った者達のなかで、最も俺を扱わない男だった。幾度の戦場において、装備されたのはたったの一回。コイツ、実は俺のことを嫌いなんじゃないかと思ったこともある。

 

 昔、こんなことがあった。ナギが俺の所有者となって数刻した何時の日か。アイツは戦いの道具であるはずの俺を使おうとせずに、自分だけの力で敵を倒していた。毎回使え使えと言うのだが。

 強いくせに無駄に突っ走るものだから勝負に負けることがなくとも、その幼い身体にはいつも酷い怪我が絶えず、そばで見守っていた此方はヒヤヒヤしていた。ラカンと戦った時も、俺を装備しろと言っては無視をされ、勝敗を引き分けで持ち越した時は何れ程安堵したか。仕方あるまい、これが惚れた弱みというものだろう。

 

 折角、自ら望んで止まなかった素質を持つ者に出逢えたため、焦りもあったのか冷静を欠き詰め寄ったことがあった。苛立つ俺に対してナギが放った言葉はそっけなく。

 

 「俺はお前を使いたくねぇ」

 

 この糞餓鬼ぶん殴ってやろうかと思ったが、その後に続いた言葉に俺は現金なこと、すぐに怒りの火が静まった。

 

 「仲間の力ってのは使うもんじゃねぇだろ。貸したり合わせたりするもんだ」

 

 そして今。俺の中にはナギの力で溢れている。アマテルが生み出した仮契約のもと、俺達は繋がっている。たった十秒だが、質も量も規格外の魔力の奔流が限界を越えた俺の身体を奮い立たせる。

 ナギは今、自分を犠牲にして身動きが取れない、眠ることのない、呼吸することも出来ない地獄の中へ自ら投じ込んでいった。俺のせいで。

 アイツはそんな地獄の苦しみを味わい続けているというのに、俺は静かな日常のもと、みんなが与えてくれた光の中を生きている。恨まれてもおかしくない。ましてや力など、貸してくれるはずもないだろうに、ナギは俺に力を与えてくれた。自らを削る程の。

 だからこその十秒間、無駄には出来ない。これだけの魔力があれば、俺は鬼になれる。

 

 眼前に立つのは俺と同じ道を間違えてしまった男。ならばこの者、気持ちわかる。最早言葉だけでは止まらぬことも、引き返すことも理解した。

 男が望むのは自らの命を使い赦されること。だが、それは駄目だ。その行いこそがエヴァの重みになると気づいていない。自らの荷を彼女に載せるだけ。

 罪人に赦しはない。罪人は背負い続けなければならないのだ。故に、その重みは俺が持っていく。

 

 【ジェネレーターの出力を確認。システムアンロック】

 

 再び纏った鎧兜が白銀に輝いた。

 

 「出力フルドライブ!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「何故だ…」

 

 爺やは呻く。目の前の青年から溢れているのは仮契約による、主から供給される魔力。これほどまでに膨大な物はあの人物しか考えられない。英雄、千の呪文の男。この男が選んだ主だった。

 とあが何かを呟くと再び纏う白い鎧。しかし、それで終わりではなかった。眩い光と共にその姿を徐々に変化させていたのだ。

 無骨な西洋甲冑が装甲の形状を変化させ、中身を露出。配線のコードを僅かに覗かせ基盤らしき物さえも。本来防御として扱われる物を退かし、超々高速戦闘に邪魔となる物は全て収められた。

 そこに現れたのは銀に輝く鋼鉄の鬼。二本角が立ち、細身で洋から和へと変貌したその姿はまさに真逆だった。

 

 「何故そんなにも…!」

 

 揺るぎない闘志が吹き荒ぶ。先ほど爺やが彼に与えた痛みは渾身の物だった。自身、迫害によって受けたその痛みに耐えきれず折れ、恐怖した痛み。それすらも越える激痛を受け、何故この青年は立てる?

 痛みを知らぬはずの偽善者が何故だ。そして爺やはその答えを知りたかった。

 葛葉刀子の時と同じように、相手の血からその記憶、思考を読み取った。

 

 「なんだ、これは…」

 

 そこには答えがない。あるのは真っ赤に染まる風景、嘲笑のヒトビト、魔族が人を喰らう、陵辱そして。

 絶望してしまう程に巨大な、それこそ勝てないと思わせる惑星規模のおぞましい怪物が迫り来る様子。一つではない。何千、何万回目という“人生”、それぞれ違う場面がフラッシュバックのように脳を駆け巡る。時代も、星が産まれてから終わりまで様々な過去と未来。気の遠くなるような“メモリ”が刻まれていた。

 

 けして一言では語れぬ、果てしなき道。

 

 彼は普通の人間だった。何処にでもいる普通の学生。しかし、ある日を境が終わりの始まりだった。罪を被せられ、戦いに身を投じ、助けたはずのニンゲンから迫害され、酷使した肉体は限界を迎え、戦いが終わる度に肉は鋼に付け替える。肉体から人としての暖かみが無くなるごとに精神は廃れ、無機質になり、人間としての激情と機械としての冷徹が混ざりあい、外道に堕ちた。

 

 愛した者達を何一つ守れず、魔を憎み、魔に染まり、己が憎くて仕方ない化け物に変わってしまったことに恐怖する。

 

 畜生と成り果て、欲望の赴くままに喰らい、奪い、殺し、なぶり、犯し、絶叫と艶声がループするように繰り返された。

 

 「貴方は、一体…」

 

 爺やはわからなかった。目の前の青年は英雄ではなくただの悪党だったのだから。自分と同じ、人間を憎み魔を憎み絶望した男。

 

 「何故だ」

 

 故にわからない。自分と同じ、いや…自分以上の地獄と後悔を生きていたというのに何故光の中で生きられるのか。何故、まだ生きていたいと願うのか。

 

 「どうしてお前はそんなにも強いのだあああああ!!」

 

 「────────ッ!!」

 

 二匹の鬼が咆哮。式の兜に隠されたスイット状の獣の瞳が現れる。次の瞬間、その姿が消えた。

 そこにいる者達が目にしたのは、上空から拳の壁。本来、点として放たれる拳の攻撃は上から神速で打ち出され、覆い被さらんとする面としての攻撃だった。

 衝撃は周りを凪ぎ払い、まさに暴風。一陣の嵐が迫り来る勢い。

 

 最初に異変を気づいたのはエヴァ。

 

 「な、なんだ。空間が歪んでいく!?」

 

 次元を捻る破壊力。その拳から金色の粒子が溢れ、学園に張られている結界が音を発てて軋んでいた。真祖の吸血鬼を弱体化させる程の結界、それがただの殴打で壊されようとしている。

 

 「──────ッ!!」

 

 止まらぬ咆哮。金属の鬼は白銀の閃光となり猛攻を続ける。学園を覆う結界にヒビが入り、大地は爆散。吸血鬼の肉体は再生スピードが落ち始める。彼が破壊するのは肉体ではない、吸血鬼の持つ不死の因子その物。魔を滅する式神の力、かの本領が発揮される。

 

 「コイツでトドメだあああ!!」

 

 ラスト。踵落としが支柱を破壊。衝撃が粉塵の柱を作り出し、結界は音を発て砕かれた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「とあ! しっかりしろ!」

 

 「エ、ヴァ…」

 

 私が駆けつけた時、とあは真っ黒に焼け焦げ、荒廃した瓦礫の風景に倒れていた。兜は右目を覗かせるよう砕けており、両手足は消し飛んで達磨姿。生きているのが不思議なくらいボロボロだった。

 

 「怪我は…大丈夫なの、か? ごめ、ん。目が…見えない、んだ。身体も動、かない」

 

 「動かなくて当たり前だ! 私の心配より自分を心配しろ!」

 

 私の身体は吸血鬼の再生力で元の姿に戻っていた。恐らく、とあが結界ごと破壊したおかげで自身の力が蘇ったのだろう。

 

 「俺は、大丈夫だ。もう…死なないから。でも、ごめん…限界が近い」

 

 確かにとあの身体は僅かであるが、その肉体が治り初めているのがわかる。これはどういうことなんだ。

 

 「エヴァ、爺さんは…?」

 

 「奴は倒した。安心しろ」

 

 私の言葉にそうかと、力無く呟いたとあ。何故かその様子は悲しげだった。静かに身体を寝かせ、少しだけ彼から離れる。勿論、目的はクレーターの中心に横たわる敵、私の右手が断罪の剣で輝いた。

 

 「私を、殺しますか」

 

 そこには五体満足であるものの、刻まれた傷痕が再生する様子を見せない吸血鬼。憔悴しきっている表情だ。

 

 「ならば早い内が良いでしょう。もうすぐ私は終わります」

 

 死期を悟っているのか、奴の気配はかなり希薄になり、指先は灰色に染まり始めているのがわかる。

 

 「その前に答えろ。何故貴様は…いや、貴様達は私を吸血鬼にしたのだ」

 

 「言ったはずです。貴女を王に───「この期に及んでまだほざくか? 私に殺されるのが望みなのだろう。その意味を理解しているのならば言葉を選べ」───これ以上語ることはございません」

 

 何故だ、どうして私の周りの者達は秘密ばかり抱える。

 

 「それで良いのか」

 

 此所で真実を語れば貴様の罪を少しは軽くなるのかもしれない。だというのに。

 

 「きっと、それが一番私に相応しい罰なのです。貴女に討たれること自体甘えなのではないかと。罪人は背負い続け、逝くのみ」

 

 爺やの下半身が灰になり、崩れる。空は少しずつ明るくなり、雲の隙間から陽の光が射し込む。

 

 「トドメを刺す機会を失いましたね」

 

 「ならば、せめて最後だけ聞かせろ。貴様はこの600年間、何を思って生きていた?」

 

 「無論、お嬢様のことだけを。ただ、それだけを支えに生きました…」

 

 目を閉じて噛み締めるように語る。私を支えにか。貴様には生きていくだけの何かがやはりあったのだろう。

 

 「爺や。私は、とあ達に出逢うまでずっと、望まれた存在ではないと思っていたが、そうではなかった。少なくとも、一人の男には望まれていたのだな、600年も長い時を」

 

 とても長い時間だ。それを持ち続けたのは、並大抵の強さではないとわかる。爺やは安心したような、深い、それは深いため息をつき最後の言葉を口にした。

 

 「暖かい。太陽の光とは、こんなにも暖かい物だったのですね…」

 

 当たり前のように存在した陽の光は、600年もの間触れることなく避けてきた業火の光。降り注ぐそれを浴びれば爺やの肉体など瞬時に焼き付けてしまうが、何故かその身が燃え上がることはない。

 キラキラと儚く輝き、崩れていく。

 

 「馬鹿者がっ…」

 

 もう、そこに爺やの姿はない。山と積まれた灰だけが残された。

 

 別段、悲しくはない。だが、同時に憎しみもまた、消え去っていることに気づいたのはそれからすぐだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【2003年】

 

 「次の日、怪我を完全に治して目を覚ましたとあは、記憶を失っていた。アイツが言っていた限界とは、恐らくこの意味だったのだろう。後に詠春から昔話をしてもらい色々記憶取り戻す方法を探ったが、どれも上手くいかなかった。私から言えることはこれで全てだろう」

 

 「結局、真相はわからないのですね。話しを聞く限り、ポチ先生と爺やさんの間に何か思惑があったのは間違いないようですが…」

 

 「もう過ぎた話しだ。その内、気が向いたらお前からも何か話してくれ」

 

 あの日以来、ポチがとあに戻ったのは一度だけ。幼い桜咲刹那とジジイの孫がピンチの時に救ったのは、やはりアイツだった。もしかしたら何か理由が隠されているのかもしれない。

 

 「エヴァンジェリンさんも複雑ですね。待っていた人がすぐそばにいるというのに…」

 

 「ああ。ポチ自身、思い出す気がまるでないおかげで、常日頃イライラしている」

 

 「もしかして、ポチ先生が度々喰われていると言っていたのは…」

 

 桜咲刹那が引きつった表情を向ける。ポチめ、大方同情を誘いたかったのだろう、バラしたな。

 

 「昨晩はモモ肉を喰った。おい待て何故逃げようとする、私はポチしか喰わんぞ」

 

 しかし、実際のところ吸血鬼は血だけが食事ではない。人間を家畜としか思わない吸血鬼は人肉を口にする。人間でさえ、血は飲まないものの豚や牛を喰らう。血を食せる吸血鬼ならば、なおのこと肉は美味に感じられるのだ。だからこそ人々から恐れられ迫害を受けるのも、ある意味では当然であった。

 

 「実際、アイツは美味い。脂身が少ないくせに筋肉質ではないから柔らかいんだよ」

 

 「うぷっ」

 

 吐きそうな顔を止めろ、いやだからなんで逃げようとする怖がるな。

 

 「だが最近では“疼き”が収まらない。ポチの使用済みストローや歯ブラシ、パンツを集め…止めろ、その携帯を仕舞え、110番に指を伸ばすな」

 

 「冗談ですよ、ね?」

 

 そうであってほしいと懇願するような涙目を向ける。何故だ、私はアイツの飼い主だぞ? 飼い主ならば犬の全権利を持っているも当然、アイツの物は私の物で私の物は私の物だ。

 しかし、桜咲刹那の指は未だに110番へ添えられている。くそっ! だんだんコイツからの扱いがポチと同レベルに感じるのは何故だ!

 年上に対する礼儀がなっていないが、ここで騒ぎを起こしてクラス中に笑い者扱いされたくない!

 

 「あー、なんだ、その。魔というのは欲望が密接している物だからな、これも私の中に眠る吸血鬼としての衝動を抑えるために必要な処置の一つであり、サキュバスとしての要素もある以上エロスを満足させるにはこういうこともしなければならないのだ、スマン自分でも何を言っているのかわからなくなってきた」

 

 「でしょうね。どうにかして言い逃れようとしていたのがわかります」

 

 なん、だと…!

 

 「あらあら、桜咲さん。あまりエヴァンジェリンさんを虐めては駄目よ?」

 

 ふと、柔らかい声がかけられた。椅子座ったまま後ろを振り向けば、にこやかに笑うしずなが其所に。

 

 「あ、しずな先生。実はエヴァンジェリンさんが、もがが…!」

 

 おいいいいい!? 貴様今何を言おうとしたあああああ!

 大体予想はつくが、あの話しを聞いた後にしずなへチクろうとするなど、卑怯だぞ!

 

 「と、ところでどうした!?」

 

 「実は学園長がポチ先生を探していてね。どこ行ったか知らないかしら」

 

 「ジジイがポチを?」

 

 また良からぬことを企んでいないだろうな。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 学園外れの辺境。世界樹のすぐそばでそれはあった。

 人の頭ほどの大きさを持つ卵形の岩。名前すら刻まれていない墓。一輪挿しの花が揺れる。鮮やかな赤が。

 

 「ここにいたのか」

 

 「ん? エヴァンジェリンどした?」

 

 ぽけーっとした青年が、墓の前で立ち尽くしているのをエヴァンジェリンは見つける。

 

 「そこのサルビア。お前が?」

 

 「うーん、見た時はもうあったよ」

 

 「そうか」

 

 エヴァンジェリンの声は、ちょっと嬉しそうな返事だった。彼女は知っている、彼が昔どんな男だったのか。ならば、この花に意味もあるのだろう。

 彼女が望む未来、もしかすると、すぐそばまで近づいているのかもしれない。

 

 「ジジイが探していたらしいぞ、また何かやらかしたんじゃないんだろうな…」

 

 「ちょっとぉ!? 何でもかんでもポチのせいにしないでよ!」

 

 口汚い喧嘩をしながらその場を後にする二人。サルビアの花弁は可笑しそうに揺れ続ける。それはきっと、誰しもが望んだ光景だったのだ。

 

 









ありがとうございました。
本来ならば爺やの独白が入り、もう少し長くなるはずだったのですが、ちょっと…表現がアウトではないかと思い、バッサリカット。エロ的な意味で。

一応此方に隠しながら途中まで載せます。まだ未完成の部分もあり、もしかすると表現変えて投稿するかもしれませんし、別に移るかもしれません。







おーけい?







 私は若い頃、奴隷だった。まだその昔、奴隷制度が出来ておらず人間に人間とは違う扱いを受けた。気まぐれに出された食事も大抵は傷んだ物か、水は泥だ。手足は骨のように痩せ、腹だけは無様に膨らんだ餓鬼。いつ死んでもおかしくない、そんな時出逢ったのが旦那様だった。
 あの方は貴族、それも王族の血を継ぐ公爵家であり、本来ならば私のような底辺の者に関わることなど一切ないはずだというのに、旦那様は私に手を差し伸べてくれた。命を拾ってくれたのだ。
 それから私はあの方に忠義を誓った。如何なる時もこの身を盾とし守り抜く覚悟を胸に刻んだ。

 屋敷は誰しもが暖かい者で満ちており、私の心を癒した。故にただ一生懸命に働き皆の力になりたいと生き続けた結果、気づいた時、私は世話係達の長となり、旦那様方の執事となっていた。

 奥様が第一子を出産なされた時は自分のように喜び、産まれになった赤子は顔立ちは奥様に、髪の色は旦那様似て、とても可愛らしい女の子だ。名はエヴァンジェリン。

 これからもこんな幸せが続くのだと思っていた矢先、奥様は亡くなられた。原因は不明の不治の病だ。悲しみはこれだけに止まらず、お嬢様さえ、奥様と同じ病の症状が見られた。守るべき者を守れず旦那様に恩返しも出来ないと打ちしがれた私の前に現れたのは、一人の幼女らしき人物。丁度、エヴァンジェリンお嬢様と同い年ぐらい。

 こじんまりとしたその肉体は正しく幼子だったが、何故か私は彼女を老婆のように見えてしまった。フードを深く被り、僅かに覗いた顔立ちがどこかお嬢様と酷く似ている。そんな彼女が当たり前のように屋敷に現れ、ニタリと笑いながら私に耳打ちしたのだ。

 「御主、エヴァンジェリンを救いたくわないか。無論、旦那様とやらには内密になぁ…」

 それは悪魔の囁きだったのかもしれない。冷静な判断が出来なくなっていた私は彼女に言われるがままに付いていき、たどり着いた場所は無人の見知らぬ屋敷。

 「これから会う者はな、御主の大切なお嬢様の病の正体を知り、更に克服する術も持っている男だ」

 医者か魔法使いか、或いは祈祷師だろうか。

 「だが、私はその男に会うことが出来なくてな。別件で会いたいのだが、そこで御主に手伝ってほしい」

 「説得でもしろと?」

 「いや。ただ門を開けるだけで良い」

 そんな簡単なことで良いのかと疑問に思ったが、ここまで来て引き返すつもりも私には到底なかった。彼女と共に屋敷へ入る私。言われていた門だけではなく、必ず扉さえも私が開けることになり、彼女はただ私の後を付ける。扉自体に何か仕掛けがあるわけでもなく、屋敷の中は無人の割に綺麗に清掃されていた。

 「此方だな。奴がいる」

 彼女が指差したのは地下への道。蝋燭が灯されるだけの真っ暗闇な螺旋階段を降りていき、ほの暗い底から何とも言えない悲しみと恐怖が押し寄せていた。足を進める度に、私はとんでもない間違いを犯しているのではないかと不安になり、すぐにそれは的中してしまうのだ。

 「思った通り、やはりマギめ。中だけでなく、外からも封印をかけるとは…」

 彼女の指定していた門へたどり着いた。巨大な複雑怪奇な術式が刻まれた、明らかに開けてはいけない門であると理解してしまう。

 「ほ、本当に大丈夫なのですか…!」

 「安心するがいい。御主に被害はない。それよりも、開けぬとお嬢様は助からんぞ?」

 それは卑怯な言葉だった。渋々開いた門、見た目とは裏腹に軽く出来ており、特に何か結界が張られているのでもなかった。いや、きっと…彼女に対してだけの結界が張られたに違いないのだ。私がそれを開けてしまっただけで。

 「なんだ、あれは…」

 其処には人間などいなかった。中央の魔方陣の中に鎖に縛られた、一匹の半獣。黒い体毛が生えかけた、人間の形をした人間ではない獣がそこにはいた。青年の顔立ちをしているが、犬歯が伸び、瞳は血走りながらスイット状に立ち、爪が鋭い青年が全裸で唸る。
 歯茎の隙間から涎を垂らし、睨み付けていた。

 「あはははははは。 漸く逢えたなぁ!? この時を待ちわびたぞ─────。お前にどれだけ逢いたかったかわかるかっ」

 彼女は豹変した。頬を赤く染め、だらしなく口元が緩み、しかしながら目だけはギラギラと強め、それまでの老婆の雰囲気は霧散していたのだ。
 絶句した私を前に何を考えているのか、彼女は全身を覆っていたローブを脱ぎ捨て、その下には何も履いておらず全裸になってしまった。

 「な、何を…!」

 「あ? あぁ、済まない。ちょっと待ってくれ、事が終わったらな」

 一瞬、身を切るような殺意を向けられたが、すぐに返事を返す。しかし、それはどこか適当にあしらわれた感じであった。
 お嬢様と同じくらいの幼女と獣が重なり合う。もう、その先は…恐ろしさのあまり目を背け、耳を塞いでしまう光景だ。

 「ん、じゅる…。こんなに────が溢れてるぞ、相変わらず大きさは並みのくせに量だけは凄いな」

 幼女は獣の股に頭を埋め、壊れてしまうのではないかと思うくらい───────。美しく可憐な彼女の顔は──に歪め、発情した雌のように鼻息荒く───を───た。

 獣は───────────。────────、────────────。

 「ごぼぉ! んぼお!」

 【中略】

 私は嘔吐した。彼女の姿はお嬢様と何故か重なってしまい、自らの大切な者が汚されたような気持ちに駈られたから。

 「ああ…。 そうだ、良い…! もっと、もっと滅茶苦茶にしてくれ!」

 馬桑っている。

 【中略】

 「これが、これがずっと欲しかった! 冷徹なお前に、野獣のように求められたかった! んあ、愛されたかった!」

 私はその場から逃げるよう離れる。

 【ちゅーりゃーくー】







 はい、アウトですね。あれがこうなって、あれがそうなって、あれがなってしまったので。

 爺やの心情を混ぜながら、ちょいちょいポチの過去を仄めかす内容だったのですがやりすぎました。
 アマテルさんは、エヴァンジェリンと異母姉妹なのでこの爛れた関係は昼ドラ並み。アマテルさんは修学旅行あたりで本格的に登場します。…その前にネギ対エヴァンジェリンですね、コメディです、はい。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【第三章】紅き翼編 エヴァンジェリンとまほらっしー

仏教の六道についての話しですが、私なりのアレンジが入り、実際とは異なる部分がございます。俗に言う、だいたい合ってる。



 

 桜通り、深夜。

 

 「おや、お嬢さん。こんな夜更けに出歩くとは、危ないな」

 

 「ふぇ? だ、誰?」

 

 ふむ、佐々木まき絵か。同じクラスメイトに対し、少々罪悪感があるが仕方あるまい。ほんの少し血は分けて貰うだけだ、せいぜい貧血程度ですむ。

 それに、旨そうだしな。一度吸ってみたいと思っていた。

 

 「そんな悪い子は、襲われても知らないからなぁ…!」

 

 「きゃあああ!?」

 

 あはは! 愉快、愉快。私の中にあるサディズムが満たされていく!

 

 「待てぇいいいいい!!」

 

 突然、茂みから叫び声が聞こえ、丸くて、ずんぐりむっくりな着ぐるみが現れた。

 

 「淫獣ゆるキャラ、まほらっしー参上らっしー!」

 

 「あ! まほらっしーだ!」

 

 「さぁ、此処はまほらっしーに任せて早く逃げるらっしー」

 

 「ありがとう!」

 

 ちっ、逃げられたうえに面倒なバカが現れたな。佐々木まき絵が離れたことを確認してからずんぐりむっくりに近寄る。

 

 「おい」

 

 「らっしー!!」

 

 「何をしている」

 

 「らっしー!!」

 

 「いい加減その気持ち悪い着ぐるみを脱げ」

 

 「ら、らっしー!!」

 

 「氷爆」

 

 「ちょっ、やめ───血飛沫ぶしゃああああ!?」

 

 着ぐるみごと爆散し、桜通りは血溜まりと臓物が転がる地獄絵図とかす。くそっ、思わず所持していた魔法薬が残り僅かしかない、かなり消費してしまった。

 

 「エヴァンジェリン! マスコットを殺害するなんて、どういうつもりよん!」

 

 文句を言いながら再生し、全身素っ裸で現れたのは、やはりポチ。

 

 「それはこっちの台詞だ! 何故邪魔する!」

 

 これはボウヤを襲撃するために、必要なことだとバカにでもわかるはずだ。ましてやお前が邪魔するなど。

 

 「ふふん。実はポチ、学園長から頼まれたんだよ。最近桜通りの吸血鬼(笑)がいるみたいだから調査、或いは妨害してほしいって」

 

 「その(笑)はお前が付けたのか? それともジジイか?」

 

 「い、言えるわけないじゃん!? 二人ともって言えるわけな──「氷爆」──血飛沫ぶしゃあああああ!!」

 

 その様子だと、どうやらジジイも気づいているみたいだな。なるほど、この前探していたのはそれを頼む為だったのか。

 

 「全く。何故お前はそれを了承したんだ、私が呪いから解放されたいのは知っているだろう」

 

 千の呪文の男がコイツとの仮契約で生きているとわかっているが、もう何年経とうが戻ってくる様子を見せない。約束を果たされていないのに、こんなに待ったのだ、いい加減痺れを切らす。それでも妨害するのは…。

 

 「…まさか、何か理由があるのか?」

 

 「勿論、エヴァンジェリンが出れるのにポチだけ出れないなんて不公平だか──「氷爆」──またかあああ! またこの展開かあああ!!」

 

 深読みした私がバカだったよ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「…というわけで、エヴァンジェリンがネギ君狙ってるからね」

 

 「完全に僕、とばっちりじゃないか!?」

 

 父さんと貴方の尻拭いに死ぬまで血を吸われるなんて、あんまりだ! 前々から色んな人に聞いていたけど、本当にこの二人は周りに迷惑をかけていたのがわかる。ぼ、僕の父さんのイメージが、だんだん壊れて…。

 

 「って、何をしているの…」

 

 「んー? いや、ちょっとね…誰に頼むか迷って…」

 

 難しそうな顔でA組みんなの顔を、ジッと見つめている。

 

 「ネギ君、学級日誌出来たよ」

 

 和泉亜子さんが日誌を持ってきた。今日の日直であったため、簡易な報告が書かれている。

 

 「ありがとうございます、亜子さん」

 

 ハニカミながら軽くお辞儀をして、アキラさん達の下へ向かう。こうして少しずつ皆さんとの距離が縮まっていると、安心した矢先にこの問題だ。どうにかしないと。

 

 「ポチさん、亜子さんってギター引けるみたいだよ。今時の日本人らしいお洒落な女の子って感じがするね」

 

 「おい…。あ? 亜子ちゃんが今時の女の子だと? ネギ君の目は節穴か? あの子からは素晴らしい素朴オーラが滲み出てるのがわからねぇのか? あ?」

 

 なんで怒ってるんだ。時折意味不明な拘りを見せるから、どこで地雷を踏んだか全然わからないよ。

 

 「それより、この後の授業任せて良いかな? 僕、明日の小テストの準備したいから」

 

 「えー、面倒だなー。ポチがテスト作ろっか?」

 

 その結果、保険体育だけの問題を作って周りからリンチにあったのを、もう忘れたのかな? この人、基本的に働かないから全ての作業を僕にやらせているし、また痛い目にあったほうが良いかもしれない。

 

 「…すんません」

 

 「英語じゃなくて総合だからポチさんでも大丈夫だから。ちゃんとやってよ?」

 

 「了解だぜ、ポチの得意分野で攻めるから!」

 

 サムズアップに不安を覚える。…やっぱり失敗だったかなぁ。最近胃が痛い。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「今日は皆さんに、六道についての授業をしたいと思います!」

 

 『……』

 

 え、何…その、またか。みたいな顔は。

 

 「この前は平行世界の話しだったわね。ま、私は楽だから良いけど」

 

 明日菜ちゃんはテストと全ッッッく関係ない話しだから、呆れながらもちょっと嬉しそう。まぁ、これはポチが厨二知識を広めたいだけの物なんでぶっちゃけ人生には役に立たない。

 千雨ちゃんとか本読み始めてガン無視。平行世界の授業はあんなにぶつかりあったじゃないか!

 

 「もっと熱くなれよッ!」

 

 「喧しい!」

 

 ちうたま、怖い。

 

 しかも千雨ちゃんだけじゃないな、他の人はゲームしたり漫画読んだりしてる。学級崩壊の危機も近いな。因みに前者はエヴァンジェリンだったりする。

 いいもーん、wikiってきたこの浅知識でみんなを驚かしちゃる。

 

 「六道は所謂人生状態で三種の善、三種の悪に別れている、個人の道筋を大まかに示しているものみたいなんだ」

 

 感情がある存在ってのは大体悪か善に分かれる。エヴァンジェリンは悪人(笑)なので、立ち位置はかなり微妙だが、まぁ善としておこう。

 

 「おい、後で覚えておけ」

 

 「前言撤回! ポチ限定の悪だ!」

 

 話しを戻そう。道筋といってもかなりテキトーだから悪の道だからといって悪業を犯すわけじゃない。ただ、その分試練や苦しみがあるってこと。

 悪の道で苦しみを受けようと、それに屈せず善の人生を歩み、カルマ、つまりは罪は洗い流され次に生まれ変わった時、善の道に昇華する。

 

 「善の道は楽な人生を歩めて幸せも受けられるらしい。しかし、だからといって堕落し罪を犯してしまえばカルマを背負い、次に生まれ変わった時には苦しみが待ち受ける悪の道を歩むことになる」

 

 「なんか、難しそうな割には子供に言い聞かせるような内容ね…。悪いことをすればバチが当たるって言ってるような物じゃない」

 

 明日菜ちゃんの言うとおり。もしかしたら六道は昔のお母ちゃん達が、子供の躾用に作り上げたデタラメって、線もある。

 確固たる証拠がないし、宗教作りたかったどっかの人間が便乗して広めた物かもしれない。

 

 「そうだとしたら、中々間抜けな話しですわ」

 

 あやかちゃん、マジかよ。珍しく明日菜ちゃんと意見が合ってやがるぜ。

 

 「じゃあ、次は…三種の善と三種の悪について」

 

 善には更に分けて天、人間、修羅の三つ。天、つまりは天道は上位種が歩む道。苦しみがもっとも少なく楽ばかりの生だが、煩悩はけして無くならないので罪を犯しやすい。

 

 「結果、天道は長続きしにくい、ぶっちゃけると一番バカっぽい人生だ!」

 

 「ポチにぴったりね」

 

 明日菜ちゃん酷い。だが、そこが良い!

 

 「えー、次は修羅道。これは戦いばかりの人生だね」

 

 善の道の中で肉体的にもっとも苦しみを味わう。けれども楽しいことや幸せもあるから主人公らしい人生と言える。ネギ君はこれの素質があるわ。学園生活という戦いに身を置いている。

 

 「ぶっちゃけると一番格好いい人生。ガンダムの主人公とか大体こんな感じ」

 

 カミーユ? 聞こえんなぁ。

 

 「またそういうことを…」

 

 エヴァンジェリン、ゲームしないの?

 

 「善の道、最後は人間道」

 

 まぁ、ほとんどはこれだね。病、生、死、老、これらに常々苦しまれる人生。悩み、迷う道。一番精神的にキツイ、社畜やママカーストとかこれだわ。マジ死ねる。

 

 「でも良いこともちゃんとある。結婚とか───奥さんに逃げられる可能性があるけど」

 

 「…それは良いことなのか?」

 

 エヴァンジェリンには一生関係なさそう。

 

 「友達とか…」

 

 「ぼっちはどうなんですか…」

 

 ちうたま、自分で自分をディスるのはお止めください。周りがドン引きしてます。もはやぼっちではないレベルで心配されてる。

 あれ、目の前が霞んで…。

 

 「じゃあ次、三種の悪」

 

 まずはそうだな、餓鬼道かな。生前において強欲で嫉妬深く、物惜しく、常に貪りの心や行為をした人が死んで生まれ変わる世界とされ、結果、次の人生では飢えに苦しむ。手に入れようとしても満たされず、手に入れてもすぐに失ってしまう。

 

 「餓鬼と呼ばれる妖怪の姿が腹だけ膨れ上がり、手足が痩せているのはクワシオルコルの病気からイメージされたらしいよ」

 

 「なるほど、そういうことでしたか」

 

 刹那ちゃんとか、退魔関係で見かけたことがあるかも。リリス新作品、対魔剣士セツナ。ヌルヌルヌチャヌチャ…おっと、これ以上は止めておこう。夕凪の気配がしやがる。

 

 「次は悪の中でもっとも恐ろしい道。地獄道について」

 

 「明らかにヤバい名前ね。地獄なんて大雑把な名前だから逆に想像つかないわ…」

 

 実際、地獄と言っても数種類あるからね。焦熱地獄、極寒地獄、賽の河原、阿鼻地獄、叫喚地獄、どっかで聞いたことのある単語がチラホラ。

 地獄道は他の道とは違い、人生というか、死んだ後の罪を償うための世界だからね。即ち、罪を償わないと転生も出来ない、罪と密接している道でありながら罪を行えない道と言える。意味深だ。

 

 「みんなの思い描く天国地獄そのもの」

 

 「そして最後は、畜生道か…」

 

 今回初めて喋ったタッツー。…何故にポチを見るの。そりゃ、犬畜生ですがね、こんなのただのニックネームよ?

 

 「畜生道はね、ちょっと説明が難しいかな…」

 

 簡単に言えば愚痴ばかりで感謝もしない愚か者は死後に畜生に生るとされる。ただひたすら食事、睡眠、淫行を求める本能だけで生き、使役される存在になってしまう。ペットとか使い魔とか。…平賀才人、おめぇにピッタリだぜ。ルイズはポチの嫁。

 

 「なんかそう聞くと、あんまり地獄道や餓鬼道と変わらないじゃない」

 

 いやん。明日菜ちゃんがルイズに嫉妬するかと思ったのに、そんなこと全く無かった。

 

 「違うな、神楽坂明日菜。畜生道には他の二つとは決定的に違う罪がある、それがあるかないかでハッキリ分かれるのだ」

 

 あれ、エヴァンジェリンも六道について知ってたの? 600年も生きるババアだから当然か、闇の魔法に関係する太陰道についても知ってるし。

 あ、でも…流石にそれは言わせないほうが良いな、

 

 「畜生の最大の罪、それは───「えーと、このようにカルマによって人生が変わるんだけど、逆にカルマを持たないと輪廻転生の環から外れるんだ」───っ」

 

 「感情がある限り、カルマがないということはないと思いますが」

 

 うむ、せっちゃんの言うとおりやでぇ。

 

 「そうだね。無我の境地なんて普通では辿り着けないよ」

 

 普通だったらだ。一応感情がない存在はいる。例えば機械とか事象とかね。

 

 「輪廻の環から外れるとどうなるんですか?」

 

 「それについては私が説明しよう」

 

 エヴァンジェリン、ノリノリだ。いつの間にかみんなも食い入るように聞いてるし、今回の授業は成功だぜ。

 

 「輪廻から外れるということは、生命体としての存在から外れることも意味してる。或いは不滅、或いは不死。世界の理から外れる者は場合によって、こう呼ばれることもある、神と」

 

 神ねぇ。さっきも言ったけど、無我の存在である機械が神になるとしたら、あながちデウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)も存在してそうで怖いな。

 お、良いタイミングでチャイムが。

 

 「みんな、この授業は絶対にテストで出ないので、完全な無駄です! お疲れ様でしたあああ!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「おい、何故畜生道の説明に割って入った」

 

 「いやいや、流石に中学生相手にまずいでしょ。つーか、エヴァンジェリンが六道に詳しかったのが驚きなんだけど」

 

 「昔な、教えられた…」

 

 ふーん、表情が優れないあたり、あまり良い話しじゃなさそうだねぇ。

 

 「しかし、別に教えても構わないと思うがな。中学生とはいえ、アイツら賢い。意味を知ってる者や逆にそういうことを気にしない」

 

 「えー、そうかなぁ」

 

 「寧ろお前ならば率先して語ると考えていたがな。お兄ちゃん大ぁ好きー!とかで」

 

 「ぶほほほほほ!?」

 

 何今の! 妹キャラ似合わないにも程がある!

 

 「ふむ。妹キャラか、その発想は無かった」

 

 どうしても親子の考えが浮かんじゃうのは何故だ。

 

 

 

 

 

 ───畜生道の最大の罪、それは近親相姦だった。

 




本当なら人間道以外は人外の存在らしい。そして、人間道は一度しかなれないようです。様々な説があるので、興味がある方は調べてみましょう。

短くも今年最後にうp出来て良かったです。それではこの辺で。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゼクトとの出逢い

 

 【1977年】

 

 魔法世界。

 

 「どうしてこうなる…」

 

 ナギの自分探しの旅の途中、TABRUNA飲食店で束の間の休息に入ったとあとナギだが、御主人様はスキンヘッドの顔が厳つい少年と睨みあっており、店内の雰囲気はピリピリしたものとなっていた。

 

 「あぁん! 殺るってのか、ハゲ?」

 

 「あぁん! それはてめぇだろ、赤毛?」

 

 血の気の多い人間というのは、嬌声をあげないと気がすまないのだろうか。 仮面に丸々覆われた頭部で静かに溜め息を吐く。 カウンターの向かい側に立つ、この店のマスターだろうか。 そんな“とあ”に怪しげな目線を送っている。

 

 「お兄さん、そんな兜脱いだらどうだい? 暑苦しいだろう」

 

 「気にするな」

 

 「連れが喧嘩しそうなんだが…」

 

 「気にするな」

 

 「後ろから魔法が飛んできたよ」

 

 「それはいかん」

 

 振り替えれば砂属性の魔法の射手がひとつ、此方へ寸前まで迫っている。 聞き耳はたてていたが詠唱は聞こえなかった。 恐らくスキンヘッドが無詠唱で放ったのか。 右手で掴みとり、握り潰す。

 

 「だ、大丈夫かい?」

 

 「関節の隙間に砂が…」

 

 ジャリジャリして気持ち悪い。 これは掃除が大変そうだ。

 

 「お兄さん凄いじゃないか、死角からの魔法を受け止めるなんて。しかも片手間でなんて、相当な実力者と見た」

 

 店のマスターが探る顔つきに変えている。こういうのは知っていた。実力を計りかねている様子だ。下手に出てそのような態度を取る場合、何かしら厄介ごとを任されそうな流れである。横目で確認すれば、ナギがハゲ頭を負かしていた。しかし、周りの取り巻き達がお返しと言わんばかりに次々と襲いかかる。

 アイツが負けるとは全く思わないが、もう少しかかりそうだ。このまま黙って退散とはいかないだろう。店内もかなり破砕されていた。

 

 「頼みを聞いてくれたら、弁償はあっちから取るよ?」

 

 「…内容によるな」

 

 「何、そう複雑な話しじゃない」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「で、その仙人とやらをぶっ倒せば良いのか?」

 

 「別段、倒さずとも良い。ただ此処から追い払えば良いと言った」

 

 ほの暗い洞窟を悠々と進む、1人の少年と1体の機械生命体。松明すら立て掛けられていない此処は、打ち捨てられた廃坑。まだ整備された後が真新しく、とても堀尽くされた鉱山とは思えない。無論、それには理由がある。

 ここ最近、この魔力石が取れる鉱山にて1人の魔法使いがある日突然現れ、瞬く間に乗っ取ったらしい。マスターの知り合いが経営している採掘場、此処で取れる魔力石は小粒ばかりだが、その小ささに似合わず非常に濃厚な魔力が込められており、質の良い魔法発動体によく用いられている。

 近接戦闘を得意とするナギにピッタリかもしれない。

 

 話を戻そう。採掘場を乗っ取った人物、仙人と呼ばれているが、その素顔をハッキリと見た者は実のところいない。しかしながらそう呼ばれる訳として、長い白髪、小柄、年寄りめいた喋り方、そして圧倒的な魔法使いとしての実力があったからそう呼ばれているようである。

 これまでに様々な実力者を採掘場へ送り出したが、全て返り討ちされたらしい。それも全員が軽傷でギリギリまで疲労させ、撤退を余儀無くさせたあたり、かなりの力があるとわかる。手加減出来る程の余裕があるということなのだろう。

 

 「どっちにしろ、めんどくせぇなぁ」

 

 「お前のせいだろう。依頼を果たせば報酬もくれる話しだ、丁度路銀も必要だった。悪くないと思うが」

 

 「てめぇは機械のくせにバクバク食いすぎなんだよ」

 

 燃費が悪いのは認めるが、移動に疲れたとおんぶをせがんだ奴に言われてもな。待機モードになればエネルギーなど必要無いというのに。

 歩みを進める度に、洞窟内に眠る魔石の欠片がそこら辺りに転がっていることに気付く。力が抜け、灰色であるそれらは、奥へ徐々に入り込むほど光輝き、内壁には原石が剥き出しで表れていることさえある。暗闇は幻想的な世界へ変貌。

 不意に背中越しからナギは息を飲んだ。

 

 「近ぇな」

 

 「…わかるか?」

 

 「あぁ。やべぇのを感じるぜ」

 

 その声は愉しげだった。新しい競争相手を見つけたようで。

 そいつは現れた。ゆらりと霧を払うかのように。

 

 「ふむ、また懲りずに来たか。いい加減、雑魚相手に飽きるの」

 

 古びた口調。老人のような物腰。無造作に伸びきった白髪に小柄な体型はまさしく情報通り。ただひとつを除いて。

 

 「──子供だと?」

 

 「おっと、顔を隠すのを忘れておったわい」

 

 仙人の正体は10才に届くかどうかの容姿をした、少年だった。砕けた口調のわりに、抑揚の無い言葉。老人だと思っていた少年は、爆発的な魔力を右腕に込めている。

 

 「ガキかよ!?」

 

 「なに、お前さんより年寄りじゃ。気にせんでよい」

 

 ナギの言うこともごもっともだが、相手が言うこともまた納得いく。このプレッシャー、まず普通の人間程度が凡そ出せるものでもあるまい。強いな。

 

 「ん? そこの人形は───」

 

 少年が。此方を見る。その目を大きく歪ませて。苦々しく。

 

 「なるほど。お前さんが式か…。奴も本気で儂を潰しに来たな」

 

 「なんのことだ」

 

 一瞬、依頼人のことかと思ったが何かその語りに違和感を覚える。自分達とは違う、何かを見ているかのように。

 

 「心を持たぬ兵器に語ったとこでの」

 

 少年は飛び込んでくる。憐れみを含まれた言葉と共に。

 これが彼との出会い。

 

 造物主に造り上げられた、完全なる世界の元メンバー。産みの親に敵対し、対抗しゆる力を蓄えるため魔石からマジックアイテムを制作し続けていた老人。不老で、俺と同じ人形。

 そしての後にナギの師匠となる人物。ゼクト。

 

 彼はどこまでも真実を語らない男だった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 【2003年】

 

 あれ? ここどこだろう。

 気がついたら遺跡みたいなとこで、ひとりポツーン。

 

 俺がいれるとこだから、学園の何処かだと思うけど見覚えない場所だ。確か、今度のテストでクラスがビリになるとネギ君がクビになるから、バカレンジャーと一緒に図書館島にある頭が良くなる本を取りに来たとこだったような…。

 なんて名前だったか。メルちゃんのセーキミルクの本とかそんな名前の。絶対間違ってるな、この名前…。

 本は見つけたけど変なゴーレムに落とされて、みんなが死ぬ死ぬ騒いでいる最中に明日菜ちゃんに抱きつこうとしたらファングスラッシャー喰らったんだ。あの子、空中で捻り技出せるとか、どんだけ器用なんだよ。かっこよすぎて一緒にダブルエクストリームしたいわ。

 

 その後、みんなとは違うとこに落ちたみたいで挽き肉になっていると、だーれも落ちてこないし。顔面で受け止めようとしたのに。AとかBとかCとか味わおうとしたのに。ポチはラッキースケベを切に願う。

 だが、ポチにやってきたのはアルファベットじゃねぇ、ドラゴンだった。レベル100くらいのエンシェントとか位が付きそうな。ナウシカばりに恐くないわよウフフ、みたいな感じでなつかせようとしたけど、美味しく喰われた。

 彼奴絶対、一片の迷いなくだったわ。わーい、お菓子だぁ、みたいな軽いノリで。パックリ。

 ポチが銀髪オッドアイだったらなついていたに違いない。あれ装備したら無敵だからな、負ける気しねぇもん。最高に厨二出来るし、明日菜ちゃんのハートもゲット出来るに決まってる。

 

 よし、帰ったら銀髪に染めよう、カラコン買おう。ポチは明日から転生者(笑)になるわ。

 …しかし、その前にウンチまみれの身体を洗わないとなっ! あとパンツ!

 

 「おっ。彼処にでっかい扉が」

 

 出口ぽいな。Yahoo!おじゃマップ!

 

 「───って、なんだここ」

 

 円柱の建物に庭園みたいな広場が屋上に備え付けられた、オサレなテラス。あかん、来ちゃいけないとこ来ちゃったみたい。完全に部外者じゃねぇか。白いキャンバスに汚物を落っこちた感じで。うひぃ。

 

 「ようこそ」

 

 物静かな声が聞こえる。そこにいたのは、くすんだ紺色をした髪、中性的な容姿で分厚い本を片手に挨拶をするローブの若者。…コイツ、どっかで見たような。

 

 「どうしました、このような場所へ」

 

 お兄さん…お姉さん…かなぁ? 下手に訪ねるわけにもいかんし、取り敢えず。

 

 「お風呂場貸してくんない?」

 

 「ええ、構いませんよ」

 

 即答ですね。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 「いやー、すんませんねー! お風呂借りたうえに、お茶もご馳走してくれて!」

 

 「おかわりはありますから、遠慮しないでください」

 

 この親切な人、名はクウネル・サンダースというらしい。さっきから適当な会話ばかりしているが、終始ニコニコ。楽しそうに俺の話を聞いている。珍しい人がいたもんだ、大体俺が語りだすとみんな、うるせぇ!って怒るのに、クウネルさんは本当に嬉しそうに聞き入っている。

 前にエヴァンジェリンと一緒に禁酒宣言した話題とか、どうでもいい内容だったんだが…。

 

 「エヴァンジェリンも随分貴方に似てきましたね」

 

 「あれ? エヴァンジェリンのこと知ってるの?」

 

 ええ、勿論と頷くクウネルさん。

 

 「エヴァンジェリン、そして貴方のことはよく知っていますよ」

 

 「……」

 

 おや、この展開はもしかすると、まさかクウネルさんって。

 

 「ポチのファンなの?」

 

 「   」

 

 おや、クウネルさんの様子が。笑顔のまま引きつっている。

 

 「時々、貴方は本気なのか冗談なのかわからなくなります…」

 

 「え、ファンじゃないの? もしかして紅き翼の関係者?」

 

 「もしかしてもなにも、その通りです。寧ろ何故それが一番始めに出ないのか疑問なのですが」

 

 ほっほう。確かに見たことある人なんだよなぁ。でも、アルビレオ・イマはもう少し髪に艶があった。クウネルさんのは明らかにくすんでいるし、双子か何かか?

 

 「ポチの知り合い、アルビレオにそっくりだけど。なんか髪の毛、変じゃない?」

 

 「あぁ、これですか。前に無理をしてしまいまして、その影響です。ほら、言うじゃないですか、本は陽に当たると色褪せると。あとクウネルです」

 

 そういや、ポチも漫画を日光浴させて色が落ちたことあったなぁ。それとついでみたいに否定されても。

 

 「紅き翼の関係者なら、色々知ってそうだねー」

 

 「はい、詠春よりも知ってます。ナギがどこにいるのか。敵の存在。目的。エヴァンジェリンの真実。貴方の正体さえも。学園から出られないのも私のせいですからね」

 

 お前だったんかい! なんとなく仲間が絡んでいる察していたけど、お前だったんかい! 委員会、ここでいいんかい!

 

 「出して! 今すぐポチを出して!」

 

 外の世界ではポチのドリームワールドが広がっているんだ!

 

 「いいですよ」

 

 「いいんかい!?」

 

 あっさりしすぎる! ポチのために閉じ込めていたと思っていたのに、実は嫌がらせのためだったんじゃないんだろうな!

 

 「ふふっ、まさか、とんでもない」

 

 人が慌てふためく様子を見て笑うなんて嫌な奴。子犬にモフられて死ね!

 

 「勿論、条件はあります」

 

 そういって、何処からともなく取り出したのは、一枚の薄くて小さな板。見たことがある。所謂、仮契約カードってやつだ。

 

 「これは、貴方とナギの仮契約カードです」

 

 そこに描かれているのは、最高にイカしてかっこいい式王神───ではなく……むちゃくれた二頭身のポチがスッポンポンで載っていた。おい、これハズレカードじゃん。しかもチンコまで描かれている犯罪仕様。

 何気に野郎とキスした事実も合わせて、精神力が削られている。

 

 「ハズレカードですが、アーティファクトは出てくるようです」

 

 「そうなの?」

 

 確かハズレカードはアーティファクト出なかったはず。

 

 「契約者が元の姿を失ったせいか、このように変化しました。おそらくアーティファクトも本来の力を失っています」

 

 失っていても、あることはあるんだな。どんなアイテムだろ。

 

 「なんでも、貴方が昔使っていた武器のレプリカが収められていると」

 

 レプリカ、ということは本物じゃないってことか。しかし、むふふ…ポチのパワーアップフラグが見える…!

 

 「私の条件はこれを使いこなすこと。身の安全を守るために。そして、外へ出たのならば、絶対に接触してはいけない人物に気を付けることです」

 

 クウネルさんは笑っていなかった。

 

 「その人物って、誰? そんなやばい? フロム的におねがいします」

 

 「ヤバイですね。コジマキャノンとグライドブレード装備した熔鉄デーモンくらいでしょうか」

 

 駄目だ、勝てる気がしない! ガチタンやハベルでも蒸発してまう!

 

 クウネルさんは更に懐から一枚の写真を取り出す。かなり撮影した物の状態が良くないのか、ノイズが入り込み、ピンぼけが激しい。しかしながらすぐにわかった、そこに写っていたのは長身の女性であると。

 右半身が炎そのものとなり、右頭部から炎の角が生え、所々鋼鉄の鎧を纏っていてもすぐにわかった。ブロンドの長髪、エヴァンジェリンと明日菜ちゃんを丁度合わせた容姿を持つ、美しい女性であると。

 

 「…アリカ姫に似てる」

 

 「安心してください、本人ではありません」

 

 それは良かった。俺としても、親友だったナギの嫁がこんな…レイプ目の歪んだ笑顔を向ける相手だとちょい困るわ。お、おぅ…ってなる。

 

 「彼女はかつて貴方を封印した、始祖アマテルです」

 

 「このお姉さんが…」

 

 おやおや、ちょいとシリアスな流れなんじゃないの? エヴァンジェリンと明日菜ちゃんに似た女性が俺を封印したとは、なんとも不思議な縁を感じますねぇ、ドドリアさん。

 

 「なんか…メッチャ身体燃えてるね、アマテルちゃん。変な武器持ってるし」

 

 ビームサーベルみたいなのと、ビームライフルみたいなの。熱くないのかな? 冷え性系女子?

 

 「これは貴方の力、彼女がその一部を使っているのです。炎は強化系の能力でしょう。そして手にしている武器こそ貴方のアーティファクトです」

 

 「おお、なんか強そうだ!」

 

 「強すぎました。私は破れ、貴方も一撃で破壊され「俺、弱っ!?」…そうですね、瞬殺で負けました。あの時、ナギ…そしてゼクトが助けてくれなければ全滅だったんでしょう」

 

 ほへー、ナギってのは本当に強いんだねぇ。それにくらべ相棒弱すぎィ!

 

 「フフ。因みにこの写真は、あっという間でバラバラに破壊された貴方の身体から抜き出した、データを現像したものです」

 

 なるほど、だから写りが悪いのか。でも傷口に塩塗るのやめて。

 

 「そもそもなんでこの人俺達を襲うの? 完全なる世界の仲間?」

 

 昔、偉い人だったんでしょ。話が通じそうだが。

 

 「残念ながら詳細はわかりません。何せ狙いは貴方ですから」

 

 「え」

 

 「おや、知らなかったのですか? 彼女は貴方の元主ですよ、昔…何かあったようで」

 

 原因、俺かよぉ…。もう記憶喪失なんだから、またそういうのやめてよぉ…。

 

 




アマテル「主人公? バフデバフに遠距離からのガン逃げで余裕」

一応ポチにも武器があったのですが、既に消滅しており、アマテルが情報を元に改めて造り上げたのが仮契約のアーティファクトの正体。全部で三つ存在し、そしてその全ては彼女が持っている。アマツの力も。

ナギはビームライフル。
アマテルはビームソード。
あとは誰との仮契約か。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。