~真・恋姫†無双~軍師たちの三国会議 (たたらば)
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第一回議題『雛里ちゃんよりおっぱいありますから』

はじめまして。思いつきで書き始めた本作でございます。
原作のキャラクターたちが会議室で雑談するだけ、ヤマなしオチなしイミなしのゆるい作品です。
キャラは崩壊してます。ファンの方には申し訳ありません。
一刀くんは存在するかもしれませんが話には出てきません。多分。
掲示板に上がっているSSのようなスピード感のある会話劇が書きたくて始めたので、そういったものが合わない人は読むのはやめておきましょう。
そんなんでもよければ、読んでやってくださいませ。


――――時は後漢。

 

漢王朝の権威が失墜し、にわかに大陸に暗雲が立ち込め始めた時代。

あるものは漢王朝を立て直すべく、あるものは漢王朝に成り代わるべく。

そしてあるものは旧秩序を破壊し、新たな時代を気づくべく。

さまざまな思惑と意志が、大陸の各所で表面化しはじめていた。

 

そんな時代にあって、大陸中央のとある場所。

大きな街から離れた小さな別荘に、この大陸の行先を憂う年若い少女たちが集まっていた。

別荘の一室に置かれた円卓、それを囲うように、四人の少女が座っている。

どの娘も見目麗しく、なれどその瞳には、全員が理知的で聡明な光を宿していた。

 

「そろそろ時間ですね。……では、始めましょうか」

 

美しい金髪の髪にちょこんと帽子をかぶった少女が立ち上がり、口を開く。

他の三人もそれに頷くと、金髪の少女へと視線を集めた。

こほんと咳払いをし、少女が元気よく声を上げる。

 

 

「それでは、第一回『大陸を平和に導いちゃうぞ会議』、始めましゅっ!!」

 

「(噛みました)」

「(噛んだわね)」

「(噛んでるよ朱里ちゃん……)」

 

 

開会宣言を台無しにした金髪の少女に、三人から微妙な視線が向けられる。

 

「……始めますっ!!」

 

金髪の少女が涙目になりながらも強引に引き戻す。

こほんと咳払いをし、改めて説明を始めた。

 

「本会議は、これから騒乱が予想される大陸を平和へと導くため、在野の中から特に知力に優れた士を集め、具体的な方策を練っていくことを目的としています。条件で言うと、在野で仕官を考えており、かつ知力90以上が目安です」

「90?」

「気にしないで下さい。それでは、初対面の人もいるので自己紹介から行きましょうか。では桂花さんからお願いします」

 

金髪の少女に指名され、猫耳型のフードをかぶった少女が立ち上がる。

 

「荀彧、字名は文若よ。……朱里にも真名を許しているし、桂花と読んでくれて構わないわ。馴れ合いはするつもりないけど、まあよろしく」

「とまあ、こんな感じでひねくれものです」

「朱里うるさい!」

 

桂花が怒鳴る。

だが金髪の少女は気にした様子もなく、素知らぬ顔で立ち上がった。

ちなみに真名とは、この世界における自身の真の名前のようなもので、本来ならばよほど気を許した相手でなければ呼ぶことすら許されない神聖なものである。

 

「では次は私が。諸葛亮、字名は孔明と申します。頭がいいです、天才です」

「自分で言ってちゃ世話ないわよ」

「はわわ!」

「何よいきなり!」

「決め台詞です」

「だから自分で言ってたら世話ないわよ!」

 

隣に座る桂花はもはやツッコミ役である。

 

「真名は朱里です。気軽に呼んでくださいね」

「気軽に呼んでいいものじゃないけど」

「桂花さん茶々入れないでください」

「こいつ……!」

「そして私の隣に座っているのが雛里ちゃんです。ほら、雛里ちゃん挨拶して」

「う、うん」

 

朱里に促され、帽子を目深くかぶった青髪の少女が立ち上がる。

 

「龐統、字は士元でしゅ……。雛里と、呼んでください」

「オドオドしてるわね。ハッキリ喋りなさいよ」

「あわわ……」

「……決め台詞?」

「あわ……」

「桂花さん!雛里ちゃんをいじめないで下さい! 雛里ちゃんは対人能力がゴミ以下なんです!」

「アンタのほうが失礼でしょ!」

 

ポカポカと桂花と朱里が殴り合う。

結果は桂花の圧勝であった。

 

「きょ、今日はこのくらいにしておいてあげましゅ……。では最後の方」

「は、はいっ」

 

ボロボロの朱里に呼ばれ、片眼鏡をかけた優しそうな少女が立ち上がる。

 

「私は呂蒙、字は子明と言います。真名は亞莎です。よろしくお願いします」

「やっとまともそうなのが来たわね」

「少し前までは孫家の部将の方に仕えていたのですが、私を目の敵にする上官をうっかり毒殺してしまったので、国から逃げてきたら朱里さんに声をかけられました」

「こわっ!! 一番まともじゃなさそうなんだけど!!」

 

恐ろしい経歴に桂花が亞莎から距離を取る。

亞莎がニコリと笑いかけると、雛里までもが怯えたようにビクリと体を震わせた。

朱里だけは動じることなく、何事もなかったかのように話を進める。

 

「というわけで、少ないですが最初はこの四人で進めていきましょう!」

 

 

 

 

 

諸葛亮、龐統、荀彧、呂蒙。

 

始まりは、水鏡という賢人が開いていた私塾で学んだ朱里と雛里が、戦乱の機運高まる世を憂えて旅に出たのが始まりだった。

私塾でも一二を争う秀才であった二人は、己の力を世直しに活かすべく、しばらくは各地を回って大陸の情報を集め歩いた。

 

その旅の途中で出会ったのが、在野として同じく世の様子を伺っていた桂花と亞莎の二人である。

両名とも知略に優れ弁舌さわやかで、人見知り気味であった朱里や雛里とも打ち解け、やがて夜通し大陸の未来について語り合うほどの深い仲となった。

それぞれの実力を認めた四人は、朱里を発起人として乱世を共に歩むことを決意。

不定期で行われる会議というかたちで大陸中央に位置するこの別荘に集い、現在に至るというわけだ。

ちなみにこの別荘は、朱里と雛里の門出の祝いとして、旅立ちの時に水鏡が貸し与えた場所である。

 

雛里が入れた茶をすすりながら、まったりと会議が進む。

 

「まあ、まず挙げるなら黄巾党ですよね」

「最近、大陸中で行動している謎の集団ね。官軍と各地で戦ってるそうじゃない」

 

朱里の言葉に桂花が頷く。

黄巾党とは、ここ最近、漢王朝の打倒を掲げて決起した武装集団である。

発生した経緯等はよく分かっていないが、その数は凄まじく、優に官軍の数十倍の人数に膨れ上がっている。

 

「数は居るけど、烏合の衆でしょ? 討伐できないなんて官軍も情けないわ」

「桂花さんならできるんですか?」

「できるわよ」

「在野の分際で?」

「アンタ私のこと嫌いなの?」

 

さらりと毒を吐く朱里。

そういえば、と亞莎が口を開いた。

 

「黄巾党の首領は、張三姉妹なる三人の女性らしいですね。人をひきつける魔性を持つとか」

「そうなんですか。雛里ちゃんを黄巾党に送り込んで首領を篭絡させようと思ってたんですが、女性では無理ですね」

「あわっ!?」

 

雛里が驚いた顔で朱里を見る。

 

「朱里ちゃん、ひどくない?」

「大陸の平和のためだよ」

「朱里ちゃんが行ってよ」

「私はこの会議の頭脳だから」

「むぅ」

 

雛里が可愛らしく膨れる。

 

「……朱里ちゃんはおっぱい無いもんね。篭絡無理だもんね」

「言ってはならないことを! 雛里ちゃんも同じなくせに!」

「朱里ちゃんよりあるよ」

「何を!」

「あわわ」

 

胸が無いことを気にしている朱里が雛里にわーっと襲い掛かり、ポカポカと殴り合う。

結果は雛里の圧勝であった。

 

「今日のところはこのくらいに……」

「アンタ弱いわね」

 

ボロボロの朱里に桂花が微妙な顔をする。

めげることなく、朱里が話題を軌道修正した。

 

「やっぱり、黄巾党は打倒しなきゃダメですね。ここはやっぱり手っ取り早く、私たちのようなすごい頭脳が官軍に味方するのが良いのではないでしょうか」

「だから自分で言うんじゃないわよ」

 

桂花に突っ込まれながらも、朱里が地図を広げる。

 

「最近、黄巾党相手に連勝しているところというと……孫策さんですね。亞莎ちゃんが居た場所です」

 

揚洲を指さしながら朱里が言う。

 

「うぅ……私の故郷ですし、可能なら戻りたいのですが……」

「でもアンタ、上官殺したんでしょう? もどったら処刑されるわよ」

 

桂花に言われ、亞莎がうなだれる。

朱里はしばらく考え込むと、ぴんと指を立てて提案した。

 

「うーん。お手紙書きましょうか。亞莎ちゃんを許してくださいって」

「アンタ馬鹿じゃないの?」

「失礼な。誠意を見せればきっと許してくれますよ。……えーと、『亞莎ちゃんはうっかりさんなので許して上げてください』っと」

「誠意の欠片もないんだけど」

 

書をしたためた朱里が、亞莎にそれを渡す。

 

「はい。これで国に帰れますよ」

「大丈夫でしょうか?」

「自己責任でお願いします」

「分かりました。試してみます」

「馬鹿しかいないのここ」

 

桂花がうんざりした顔で溜息を吐いた。

 

「他人事じゃありませんよ。桂花さんはどこにするんですか?」

「私は……そうね、この北の曹操って騎都尉が気になるわ。連勝してるみたいだし」

「おっぱいが小さそうな名前ですね」

「どんな名前よ」

 

桂花の話を聞き、朱里が考え込む。

 

「私は、義勇軍のほうをあたってみようと思います。最近、劉備なる人物が率いる義勇軍が活躍しているみたいですし、その辺りを」

「義勇軍ねぇ。活躍してるっていっても、知れてるんじゃないの?」

「小さくて人材不足の組織のほうがチヤホヤしてくれます」

「会議の名前もう一回思い出しなさい」

「考えたのは亞莎ちゃんです。イマイチですよね」

「だからさらっと毒を吐くのはやめなさいってば! ほら、亞莎も泣かないの!」

 

うなだれる亞莎を、桂花が必死でなだめる。

最後に残った雛里に、朱里が視線を向けた。

 

「で、雛里ちゃんは黄巾党だね」

「いいよ。朱里ちゃんたち滅ぼしてあげるね」

「私のほうが頭がいいから無理だよ」

「あわわ、象棋では私の勝ち越しだよ」

「水鏡女学院では私のほうが成績良かったし」

「…………」

「…………」

「(ばしっ)」

「(げしっ)」

「だから喧嘩するなってんでしょ!」

 

桂花が叫ぶ。

その後しばらく悶着があり、ようやく全員が落ち着いて席に着いた。

 

「それではとりあえず、桂花さんが曹操さん、亞莎ちゃんが孫策さん、私と雛里ちゃんが劉備さんの陣営の様子を伺うという感じでいきましょう。各自死なないように」

 

まとめるように朱里が言う。

 

「在野でめぼしい人がいたら勧誘してくださいね。ただしおっぱいがある人は駄目です。亞莎ちゃんも正直言ってギリギリですが、文句を言うと後が怖いので許しました」

「私、怖いですか?」

「ひぃぃ、ごめんなさいごめんなさい」

「何もしてないのに」

「とにかく、こんな感じで大陸に平穏をもたらすべく暗躍しましょう。では、お疲れ様でしたー」

「お疲れ様でした……」

「お疲れ様」

「お疲れ様です」

 

挨拶を終え、ひとしきり雑談をしてから全員が部屋を後にする。

大陸の騒乱は、始まったばかりである。

 

 

 



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第二回議題『亞莎ちゃん殺人鬼説』

第二話です。相も変わらず何の生産性もないお話です。
第一話は加筆・修正しました。あまりにも説明が足らなすぎたので。
それではどうぞ。


 

第一回の会議から二ヶ月後、前回とおなじ別荘にて。

 

 

「はい、というわけで第二回でしゅ!」

「また噛んだわね」

 

 

桂花に突っ込まれながら、朱里が第二回の開会を宣言する。

 

「えーとですね、とりあえず気になるのは……」

 

朱里が言うと、桂花と雛里の視線が亞莎へと注がれた。

二人の意見を代弁するように、朱里が言う。

 

「えっと、亞莎ちゃんはなんで生きてるんですか?」

「ひ、ひどくないですか!?」

 

あんまりな言い方に、亞莎が涙目になって喚く。

 

「いやその、ほら……あんな書状持ってほんとに国に帰ったから、てっきり処刑されてるものだと」

「その書状書いたのアンタじゃない」

「じ、自己責任でと言いましたし!」

 

桂花にジト目を向けられ、朱里が必死で言い訳をする。

会話を聞いていた亞莎はしかし、朱里の書状が冗談だったとも気づかずポカンとしている。

 

「えっと、お二人が何を言いたいのか分かりませんが……あの書状を渡したら国主さまよりお許しが出たので、私はまた孫家にお仕えしてますよ?」

「えっ、あの書状ほんとに渡したんですか!?」

「……? は、はい」

 

驚く朱里に、亞莎が頷く。

 

「国主の孫策様にお渡ししたら、大笑いした後に『面白いから許す!』と」

「……おおらかな方なんですね」

「はいっ。孫策様は懐が深いです!」

 

嬉しそうに言う亞莎に、朱里たちは笑うしかできない。

 

「ま、まあいいです。会議を進めましょう。……そういえば、今日は新たな士を桂花さんが勧誘してきてくれたんですよね」

「ええ。頭も切れるみたいだし、在野でちょうどいいから拾ってきたわ」

 

桂花が扉に向かって「入って」と言うと、勢いよく扉を開け、緑の髪をなびかせる一人の小柄な少女が会議室へと入ってきた。

少女は促されるまま、桂花の隣の椅子にちょこんと座る。

 

「えーっと、では自己紹介を」

「……陳宮、字名は公台なのです」

 

そっけなくそれだけ名乗った少女は、不機嫌そうに鼻を鳴らす。

無愛想な挨拶ではあったが、なぜか朱里は大喜びである。

 

「素晴らしいです桂花さん! この子おっぱいがありませんよ!」

「アンタの判断基準それしかないの?」

「よろしくね陳宮ちゃん! 私は諸葛孔明、真名は朱里って言います!」

「なっ、初対面のねねに真名を預けるのですか!?」

 

陳宮が驚く。

 

「ここに来てくれたってことは、もう私たちの同志。桂花ちゃんのお墨付きなら信頼にも値しますから」

「む、む……そうですな。……では、ねねのことも真名で呼んで構いませんぞ」

「本当ですか! 嬉しいです!」

「ねねの真名は、音が三つで音々音といいます。ねねとでも呼ぶといいのですよ」

 

ねねが真名を名乗り、それぞれと名前を交換する。

 

「それでは、新しい同志を加えて今日も頑張りましょう!」

 

 

 

 

 

 

雛里が入れた茶を飲み、亞莎が持ってきたごま団子をつまみながら、まったりとした雰囲気の中で五人が会議を進める。

 

「それでは、前回の作戦の報告と行きましょうか。例によって桂花さんからお願いします」

「そうね。……完結に言うと、私は曹操様に全てを捧げるわ」

「……ほぇ?」

 

突飛なことを言い出した桂花に、朱里が間の抜けた返事を返す。

 

「だから、私は曹操様に全てを捧げるって言ってるの。身も心もね」

「……ど、どうしたんですか? この二ヶ月で何があったんです?」

「一目惚れよ。華琳さまの神々しい美しさに、私はもう魅了されてしまったの♡」

「うわぁ……」

「もう処女も捧げたし」

「ええぇぇぇぇぇぇぇっ!!??」

 

うっとりと虚空を見つめる桂花に、朱里が絶句する。

話の流れからして、どうやら華琳というのが曹操の真名であるらしい。

 

「き、気持ち悪いです桂花さん」

「失礼ね。いいじゃない惚れたんだから。私は華琳さまのもとで、これからの乱世を生き抜くわ」

「ちょ、ちょっと! 当初の目的は分かってますか!?」

「心配ないわよ。それはそれ、私情と目的は混同しないわ」

「ならいいですけど……」

「人のことより、アンタたちはどうだったのよ?」

 

桂花が朱里へと視線を向ける。

 

「私たちも、もう桃香さま――劉備さまの下で軍師をやってます。人材不足らしくてすぐに軍師に任命してくれました」

「えらく簡単にいったわね」

「事前に、周囲の国で近くに二人の天才軍師がいるという噂を流しておきましたから」

「……ああ、あの伏龍と鳳雛とかいう馬鹿っぽい噂アンタたちだったのね」

「ば、馬鹿っぽいとはなんですか! それに伏龍と鳳雛という名前を考えたのは雛里ちゃんです!」

「朱里ちゃんの嘘つき。考えたの朱里ちゃんでしょ」

「自分の感性の悪さを人のせいにしちゃダメだよ雛里ちゃん」

「…………」

「…………」

「(ぺちっ)」

「(びしっ)」

「はいはい喧嘩しないの」

 

慣れが入ってきた桂花が二人を仲裁する。

 

「それで、劉備のほうはどうだったの? 噂では腕利きの義兄弟がいるって聞いたけど」

「関羽さんと張飛ちゃんですね。三人を評するなら、おっぱい・おっぱい・ちっぱいって感じでしょうか」

「……アンタに聞いても話が進まないわ。雛里?」

「あわわ……ちっぱい、おっぱい、ちっぱいって感じでしゅ」

「おっぱいが一人居なくなったんだけど! アンタ何したのよ!?」

 

虚ろな目をしている雛里に、桂花が叫んだ。

 

三人がわぁわぁと騒いでいる間に、取り残された亞莎とねねがそろって茶をすする。

 

「この会議は、いつもこんな感じなのですか?」

「まだ二回目ですけど……まあ、そうですね。あはは……」

「まあ、楽しそうなのは結構ですが……。あ、そういえば」

 

何かを思い出したねねが、一旦部屋を出て、すぐにまた戻ってきた。

その手には紐が握られ、紐の先には小柄な犬が結ばれている。

 

「洛陽からここに来る途中、犬をひろったのです」

「わあ、可愛いですね」

 

少し元気のない犬を撫でながら、亞莎が笑う。

 

「あれ? ねねさん、この子首輪に名前が書いてありますよ」

「ほんとですか?」

「えっと……セキト。この子の名前でしょうか」

「小柄な体に似合わず勇ましい名前ですな」

「それから……『呂奉先』?」

 

首輪に書いてあった文字に、亞莎が首をひねる。

 

「呂奉先? それって確か、最近涼州から出てきた董卓のところの武将じゃない。それ、呂布の飼い犬じゃないの?」

 

話を聞いていた桂花が、つかつかとセキトのもとまで歩いてくる。

 

「呂奉先と言えば、最近の黄巾党討伐で活躍してる猛将よ。なんでも数万の軍勢を一人で退けたとか。……うわ、本当に呂布の名前が書いてある」

 

首輪の文字を見ながら、桂花が言う。

だがねねはそれを鼻で笑い、反論した。

 

「数万の軍勢を一人でなんて、おとぎ話にしても出来が悪いのです。……その呂布とかいう武将、よほど自分の武を誇りたいのですな。性格悪そうなのです」

「まあ、私も信じてるわけじゃないけど。……ねねアンタ、ちょうどいいから董卓軍の様子見てきなさいよ」

「えぇ~……なんか粗暴そうでイヤなのです」

「わがまま言わないの。アンタも同志なんだから、しっかり私たちに協力しなさい」

「面倒ですなぁ。……まあ、飼い犬を返しがてら、行ってきますか」

 

ねねが諦めたように溜息を吐いた。

そこに、喧嘩が終わったらしい朱里が入ってくる。

 

「どうやら、ねねちゃんのお仕事も決まったみたいですね」

「そうですな。というか朱里、ボロボロですぞ?」

「気にしないでくださいねねちゃん。今日は引き分けでした」

「雛里は無傷のようですが」

「引き分けです」

「……そうですか」

 

それ以上、ねねは何も言わなかった。

 

「では、ねねちゃんの今回の目標は董卓軍の様子を見てくること。他の皆さんは仕官に成功したみたいですし、少しずつ重役に登っていけるよう努めましょう」

「「「「おー」」」」

 

揃っているような揃っていないような声で、皆が掛け声を上げる。

 

「そういえば、黄巾党のほうはだいぶ勢力が弱まってきたみたいですね」

「諸侯の活躍で官軍が盛り返してきてるからね。このままいけば滅ぶでしょ」

 

朱里の発言に、桂花が返答する。

 

「あっ、黄巾党との戦では私も功を上げたんですよっ」

「おおっ、そうなんですか亞莎さん。どんな策を用いたんです?」

「いえ、策ではなく前線での槍働きですけど」

「……亞莎さん、軍師をやってるんですよね?」

「そうですが?」

 

またもキョトンとする亞莎に、再び四人が沈黙する。

 

「前線で、たくさんの黄巾党の兵をくびり殺したんです。全部で五十人はヤったでしょうか。……楽しかったです」

「楽しかったって言った! いま亞莎さん楽しかったって言いましたね!?」

「はいっ、とっても楽しかったです!」

「開き直らないでください!」

 

晴れやかな笑顔で亞莎が言う。

 

「はわわ……どうしよう雛里ちゃん。亞莎ちゃんって実はとってもヤバい感じの人なんじゃないかって気がしてきたんだけど」

「勧誘したのは朱里ちゃんだよ。もしもの時は責任とって死んでね?」

「ひどい! 雛里ちゃんひどいよ! そんなこと言うならわたし、雛里ちゃんが巻物での自慰に挑戦して紙がふやけて抜けなくなった時のことみんなに言いふらしてやるんだから!」

「あわわぁっ!? 微妙に本当っぽい嘘つくのやめてよ朱里ちゃん! ほら、そんなこと言うからねねちゃんが私から距離を取ろうとしてる!」

 

相も変わらずぎゃあぎゃあと喧嘩を始める二人。

蚊帳の外の桂花は、ぬるくなった茶を啜ると、

 

「…………帰ろ」

 

そういって、帰り支度を始めるのだった――――。

 

 

 




はい、前回に続きどうもすみません。
勘違いされるかもしれませんが、作者は恋姫のキャラたちをとっても愛しております。
愛ゆえにのこの酷さです。


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第三回議題『浣腸って子供のころ流行りましたよね』

 

 

「はい、今回は第三回ですが、その前に!」

 

開会宣言を前に、朱里が手にした杯を掲げる。

 

 

「まずは、黄巾党完全征伐を祝して……かんぱーい!」

「「「「かんぱーい」」」」

 

 

会議に参加する面々が杯を鳴らし、注がれた老酒に口をつける。

 

「ぷはーっ、おいしいですね。さすがは最近なぜか酒造が盛んな揚州のお酒です。亞莎ちゃん、ありがとうございます」

「いえ、皆さんのお口に合ったなら良かったです」

「ちなみに、私たちは全員十八歳以上なので飲酒も問題ありません!」

「は、はあ……そうですね。誰に言っているんですか?」

「気にしないでください」

 

朱里の発言に亞莎が首をかしげるが、朱里は答えなかった。

 

「さてさて、いちおう出欠取りますね。名前を呼ぶので返事をして下さい」

「そんなの見れば分かるじゃない。少人数なんだし」

「野暮はいいっこなしですよ桂花さん。では、桂花さーん」

「……はいはい、居るわよ」

「亞莎ちゃーん」

「は、はいっ」

「ねねちゃーん」

「ここに居るのですぞ」

「雛里」

「なんで呼び捨て?」

「全員いますね。じゃあ会議を始めますよー」

「ねえ朱里ちゃん、なんで私だけ呼び捨て?」

 

そんなこんなで、今日もゆるい会議が始まる。

本日のお茶請けは、桂花がお土産で持ってきた兗州地方の老舗が作った菓子だ。

いつも通りに雛里が茶を入れ、皆に振舞う。

 

「雛里ちゃん、私だけお茶がない」

「…………」

「呼び捨てにしたの気にしてるの?」

「…………」

「雛里」

「…………」

「ちっ……まあいいです、報告といきましょう」

 

雛里から視線を切った朱里が、まず桂花に向き直る。

 

「桂花さんから、簡単な近況報告を」

「そうね……華琳さまは黄巾討伐で連勝、大功を立てられたわ。その功あって、朝廷から兗州牧の地位を賜った。ま、妥当なところでしょうね」

「ふむふむ、順調なようですね。桂花さん個人はどうです?」

「私も、軍師として確実に華琳さまからの信頼を勝ち得ているわ。側近の夏侯惇なんかとは対立しているけど、バカだから問題ないし」

「なるほど。妄想とかではないですよね?」

「喧嘩売ってんの?」

 

失礼なことを言う朱里を桂花が睨むが、朱里は素知らぬ顔で話題を移した。

 

「では次、亞莎ちゃん」

「はい。孫策さまは元々揚州で軍閥として勢力をもっておられましたが、今回の黄巾党討伐の功で名声を得て、勢力は確固たるものとなりました。ですが……」

「ですが?」

「その、孫策さまは正式な官位は持っておられないので、形式的には荊州太守である袁術さまの客将という立ち位置なんです。なので地元での名声は高まっても、その功績は全て袁術さまのものということに……」

「はー、なるほど。苦労してるんですね」

 

深刻そうに言う亞莎に、朱里が唸る。

 

「反乱でも起こしたらどうです?」

「軽いわよ! そんなふわっとした感じでやるものじゃないから!」

 

朱里の発言に桂花が叫ぶ。

が、しかし、

 

「あ、それは私も提案しました」

「したの!? 孫策はなんて!?」

「『面白いから採用! でも冥琳に怒られるからまだ』だそうです」

「冥……? 誰よ?」

「孫策さまの軍師をしていらっしゃる周瑜さまですね」

「ああ、噂の美形軍師ね。……というか、反乱は起こす気満々なわけか」

「そうみたいですね」

 

どこか楽しそうに言う亞莎に、桂花が辟易する。

ふむ、と顔に手を当てた朱里が続けた。

 

「では、孫家が躍進するのは近そうですね。亞莎ちゃん自身はどうです?」

「激痛が走る人体急所を的確に刺突する技を開発しました」

「間違ってます! その進歩は明らかに軍師関係ないです!」

「だめですか?」

「ひぃぃだめではないです素晴らしいです、頑張ってください」

「はい! 頑張りますね!」

 

笑う亞莎に、朱里が距離を取る。

 

「こ、こほん。気を取り直して、ねねちゃん」

「はいなのです」

「どうでした? 呂布さんは想像通りの自信過剰なお馬鹿さんでしたか?」

「ちんきゅー胴回転廻し蹴りッ!!!!」

「はわごふぅっ!?」

 

体重の乗った蹴りが朱里の即頭部に刺さり、錐揉みしながら椅子から転げ落ちる。

 

「恋どののことを悪く言うのは許しませんぞ!」

「おふぅ……な、なぜうちの軍師たちはみんな戦闘能力が高いのですか……」

「朱里が弱すぎるのです」

「ひ、雛里ちゃんとは互角ですもん……。というか、どうしたんですかねねちゃん? その、恋というのは呂布さんの真名ですか?」

「そうです。ねねは、恋どのの軍師として董卓軍で働いているのです!」

「ああ、仕官には成功したんですね」

 

よろよろと立ち上がり上がら、朱里が話を続ける。

 

「董卓軍自体は黄巾党征伐ではあまり話を聞きませんでしたが……」

「恋どのは活躍していたのですぞ! あまり大きな戦場には出ていませんが」

「へー、自軍の温存に走ったんですね。賢いけど卑怯――」

「ちんきゅー延髄切りッ!!!!」

「ぎゃーっ!!」

 

ずったんばったんと追いかけっこを始める二人。

会議が進まないと見た桂花が、雛里へと話を振った。

 

「劉備のとこはどうだったのよ?」

「あわ……こちらも黄巾党討伐の功で、桃香さまが平原の相に任じられました」

「へぇ、義勇軍出身としては破格じゃない」

「はい。私と朱里ちゃんも、正式に軍師として任命されて働いています」

「そっちも順調ってことね。……あーもう、いい加減うるさいわね」

 

走り回るねねと朱里にしびれを切らした桂花が、ねねの襟首を掴んで止める。

 

「何をするのですか桂花! ねねは朱里に制裁を――」

「うるさい。ふんっ」

「ふぎゃあぁぁっ!!??」

 

ねねを持ち上げた桂花が、勢いよくねねの後ろの穴(どことは言わないが)に指を突き入れた。

 

「あが……け、けいひゃ……なにを――」

「うるさい子には、おしおきよ。ほらほらほらほら」

「あっ! うあ……あが……! やめ……アッ――――!!」

 

ぐりぐりと桂花が指を動かすと、ねねは叫び声をあげた後、力尽きたかのようにがくりと脱力した。

 

「しばらく大人しくしてなさい」

「あぅ…………」

 

床に倒れ伏したねねは、ヨダレを垂らしたままぴくりとも動かない。

その一部始終を見ていた亞莎が、キラキラとした眼差しで桂花へと向き直る。

 

「あんなに元気なねねさんを指一本で黙らせるなんて……。桂花さん、すごいです! いったいどこでそんな技を?」

「別に。閨で華琳さまにして頂いたことを真似しただけよ」

「そうなんですか。……是非、私も会得したいですっ!」

 

意気込んだ亞莎が、倒れたねねに蹴りを入れている朱里に目を向ける。

 

「あっはっは! お姉さんに逆らうからこうなるんですよ! このっこのっ!」

「…………」

「あー、愉快です。これに懲りたらもう私には…………ん? 亞莎ちゃん?」

「…………(じりっ)」

「あ、亞莎ちゃん? なんでじりじりと距離を詰めて来るんですか……?」

「大丈夫です、痛くしないよう頑張ります」

「何かする気満々じゃないですか! 止めて! そういうのは雛里ちゃんに――」

「こんな感じでしょうか。えいっ」

「はわーーーーッ!!!!????」

 

亞莎が勢いよく朱里の下の穴(どことは言わないが)に指を突き入れた。

 

「あッ亞莎ちゃん! ソコは駄目です! 私の大切な膜が! 膜がっ!!」

「そしてこう、ぐりぐりと」

「アッ―――――!!!!」

 

 

閑話休題。

 

 

「うぅ……今日は何だか酷い目にあってます……」

「自業自得でしょ」

「どこがですか! 亞莎ちゃんのは私に非はありませんよ!」

「日頃の行いよ」

「…………ッ!!」

「ああ、言い返せないくらいには自覚あるのね」

 

桂花が溜息を吐く。

 

「まあいいです。とりあえず、皆さん順調ということで。今回は黄巾党の討伐も終わってどこも一息ついてますし、現状維持で頑張っていきましょう」

「はいはい」

「それでは、お疲れ様でしたー」

 

朱里が閉会の挨拶をし、各々が帰り支度を始める。

 

 

「はい朱里ちゃん、お茶」

「遅いよ雛里ちゃん! ここでお茶とかもう嫌がらせでしかない! しかも熱い!」

「じゃあ私、先に帰るね」

「待って雛里ちゃん! 謝るから! もう呼び捨てにしないから!」

 

 

「桂花……」

「何よねね」

「さっきの……もう一回……」

「気色悪い!」

 

 

「私も桂花さんの技を必ずや会得してみせます……。帰ったら、明命で練習しましょう」

 

 

こんな感じで、第三回会議もまた、何の実りもなく終了した――――。

 

 

 




はい、毎度どうもすみません。
何かしているようで何もしていない感じで、これからも会議は続いていきます。
未プレイの方向けに喋りますと、最後に出てきた明命というのは亞莎の同僚である周泰の真名です。きっとこのあと亞莎に後ろの穴を開発されます。どことは言いませんが。
まあ、未プレイの方向けに書いてないので、何もかもがチンプンカンプンだとは思いますが。
ご意見アドバイス頂けたら嬉しいです。ではでは。


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第四回議題『袁紹さんはきっとこんな喋り方』

「揃いましたね。では、第四回『大陸に救いをもたらしてやろう会議』を始めます」

「会議名そんな上から目線だったっけ?」

 

 

いつも通りな朱里と桂花のやりとりを合図に、会議が始まる。

席に座るのは変わらず五人だ。

 

「今回はちょっとまじめに話し合わないといけませんね」

「いっつも真面目にやってないって認めてるようなもんじゃないそれ」

「桂花さん人の発言中は静粛にお願いします。えー、理由はこれです」

 

そう言って、朱里が一つの書簡を円卓の上に置く。

それは朱里が持ってきたものだが、所属が違う他の面子もその書簡には見覚えが有るようで、思い思いに表情を輝かせたりうつむいたりしている。

 

「皆さんもお分かりのようですね。これは冀州一帯の大勢力の長、袁紹さんから発せられた檄文です」

 

書簡を広げながら、朱里が言う。

 

「内容を意訳すると……『お~っほっほ! ごきげんよう、名門袁家の宗主、袁本初ですわ! さてみなさん、現在、漢の都である洛陽が董卓という西涼の田舎者に占拠されているのはご存知ですわね? 黄巾党討伐からほどなくして、皇帝位であらせられた霊帝が崩御なさったとき、董卓さんはゴタゴタに紛れて都に軍を入れ、あろうことか朝廷の力を我が物にしようと画策したのですわ!なんと許しがたき暴挙でしょう!』」

「…………」

 

朱里のひどすぎる、だが不思議と違和感のない文章意訳に桂花が何か言いかけるも、ひとまずは黙して続きを促した。

 

「漢に忠義を誓う臣として、この袁本初、董卓さんの無礼な行いを見過ごすわけには参りません。よって、ここに華麗なるわたくしを盟主とした、反董卓連合軍の結成を宣言しますわ! 漢に忠誠を誓う諸侯のみなさんなら、間違いなく参加して下さいますわよね? というか参加しなければ、董卓に与する者と認識しこの袁本初自らが叩き潰して差し上げますわ! お~っほっほ!!』とのことです」

「……まあ分かりやすかったから良しとするわ」

 

偏見に過ぎるが、おおむねは朱里の言う通りの内容である。

つまり袁紹が言うには、漢の皇帝亡き後、その権力を強奪しようとして都を占領した董卓の軍勢を洛陽から駆逐するため、諸侯の力を結集して連合軍を結成しようと呼びかけたというわけだ。

参加しなければ逆賊として征伐するという脅し付きである。

 

「それで、この書簡が桃香さまの下にも届いたというわけですね。皆さんはどうです?」

「華琳さまのところにも届いたわ。まあ、華琳さまは袁紹のバカとは顔見知りみたいだし、当然よね」

「孫策さま個人には届いていませんが、州牧である袁術さまが連合に参加されるそうなので、孫策さまもそれに従って出陣することになると思います」

「ふむ、やはりほとんどの勢力が出陣するというわけですね」

 

桂花と亞莎の返答を聞き、朱里が頷く。

最後に、朱里が先程から無言のねねへと視線を向けた。

 

「というわけで、ねねちゃんは死ぬこととなりました。ご愁傷様です」

「切り捨てるの早すぎなのですっ!!」

 

ねねが叫ぶ。

が、朱里は表情を崩すことなく淡々と続けた。

 

「だって、いくら董卓さんの勢力が強大でも、大陸中の諸侯を相手にして勝てるわけがありませんし……そうなれば、董卓軍所属でしかも軍師などという重役に就いてしまっているねねちゃんは間違いなく死にますよ。良くて性奴隷です」

「死ぬほうがマシなのです! じゃなくて!」

 

あんまりな言い草に、ねねが涙目になる。

 

「朱里たちがねねを董卓軍に向かわせたのでしょう!? なら少しは責任を感じて助けてくれたっていいではないですか!」

「あーはいはい分かりました。じゃあ戦が始まったら、全裸で後ろ手に縛られながら一人で劉備軍まで来てください。気が向いたら保護しますから」

「それどうあがいても性奴隷になるやつなのです! 万分の一も助からないのです!」

「だから性奴隷として保護しますってば」

「それを助けたと言う気でやがりますか!?」

 

朱里の言葉に、ねねが喚く。

見かねた亞莎が、声をあげて立ち上がった。

 

「分かりましたねねさん! 私がねねさんを助けます!」

「おお、亞莎……!」

「性奴隷になる前に、楽にしてあげます」

「殺す気満々!? 現世で助けやがれです!」

 

誰も助ける気は無いようだった。

 

「さて、冗談はさておき」

「あ、冗談なのですね?」

「真実はどうなんですか? 董卓軍所属のねねさんなら分かるのでは?」

 

朱里がねねに問うと、憎々しげにねねが言う。

 

「檄文の内容はうそっぱちなのです。霊帝が崩御なさったあと、真っ先に都を占拠しようとしたのは袁紹。董卓さまは、それを阻止しただけなのです」

「なるほど、つまりそれに腹を立てた袁紹さんが、董卓さんを追い落とすために逆賊に仕立て上げたと」

「きっとそういうことなのです。月さま……董卓さまは、戦を嫌うとても優しいかたなのですから」

 

悲しそうに、ねねがうつむく。

会議室が重い沈黙に包まれた。

 

「うーん、これは由々しき問題だね雛里ちゃん。人を悪人に仕立て上げるなんて最低の行いだよ!」

「そうだね。部屋に隠してた房中術の本がみんなに見つかったとき、全部私が集めたものということにして逃走を図った朱里ちゃんが言うと説得力が違うよ」

「あれは笑ったね」

「笑えないよ?」

「まあとにかく!」

 

ばんと朱里が机を叩く。

 

「檄文が発された以上、董卓軍との戦いは避けられませんからね。ひとまずは、ねねちゃんをどうやって助けるかですが……そうですね、ねねちゃんは劉備軍で保護します」

「え、大丈夫なの?」

 

朱里の発言に桂花が言う。

 

「大丈夫です。私が提案しなくても、事のあらましを話せば桃香さまが助けると言いだすと思います」

「劉備って随分とお人好しなのね」

「桃香さまは頭と股がユルいお花畑な人ですからね」

「自分の君主にそこまで言う?」

「あ、間違えました。股はユルそうというだけですね。桃香さまは多分まだ処女なので」

「訂正になってないわよ」

 

桂花がジト目を向けるが、なおも朱里が続ける。

 

「ついでに、呂布さんもうちが貰っていきますね。捕獲には骨が折れそうですが、ねねちゃんが協力してくれれば何とかなるでしょう」

「あ、ずるいわよ朱里。華琳さまだって優秀な人材を欲してるんだから、呂布はうちに寄越しなさい」

「そ、それは孫策さまも同じです。優秀な人材なら引き抜きたいと……」

 

朱里の言葉に、桂花と亞莎が続く。

わーわーと言い合いが始まる中、話題の中心にいるはずなのに放置されたねねがふぅと溜息を吐いた。

 

「全く……もう董卓軍を撃破した後の話ですか。取らぬ狸の皮算用にならなければいいのですが」

「あわわ……だ、大丈夫じゃないかな。兵力差は圧倒的だし」

 

ねねの言葉に雛里が応える。

 

「しかし、ねねたちを匿うのも相応に危険な行為ですぞ?」

「それも、平気。匿う危険性よりも、ねねちゃんと呂布さんが来てくれた時の恩恵のほうが大きいから」

「そうですか?」

「うん。呂布さんは、最強の武官として。ねねちゃんは……」

「…………」

「……性奴隷?」

「頭脳を活かして欲しいのです!」

「でも、軍師は足りてるし……やっぱり、性奴隷で――」

「ねねを性奴隷にしていいのは桂花姉さまだけなのです!」

「あわっ!?」

 

元気に言うねねに雛里が驚愕する。

そうこうしている内に話し合いが終わったようで、

 

「それじゃ、決定です! 我が劉備軍にはねねちゃんと呂布さんを!」

「曹操軍には、瞬将と名高い張遼を」

「孫策軍には、武名あらたかな華雄さんを頂きますっ」

 

議論が決着し、全員が席に着いた。

 

「さてと、今回の会議はこんなところですね。黄巾党よりは楽だと思いますし、気軽にサクッと撃破しちゃいましょう」

「軽いわねぇ。本当に大丈夫かしら」

「大丈夫ですよ。劉備軍、曹操軍、孫策軍はもとより、攻撃目標である董卓軍ともある程度は連携が図れるんですから。そのために、さまざまな軍に軍師を送り込んだんです」

「まあ、半分は八百長試合みたいなものよね。……それでも、それぞれの君主は事情を知らず本気でかかってるんだから、そう甘くはないはずよ?」

「そこはほら、天才的頭脳で、ねっ!」

「何がねっ、よ。腹の立つ顔ね」

 

得意げに笑う朱里に、桂花が呆れたように吐息を漏らした。

朱里は特に気にした様子もなく、まとめの言葉に入る。

 

「ともあれ、最も不味いのはこの会議の存在が明らかになることですから。そこだけは皆さん注意してくださいね」

「分かってるわ」

「それでは、本日はここまでとします。お疲れ様でした」

「お疲れ様」

「お疲れ様でした」

「お疲れなのです」

「あわ……お疲れ様です」

 

 

 

反董卓連合が結成される、半月ほど前の出来事である。

 

 

 

 

 

 




今回は、話を進めるために少しまじめなお話となりました。
次回からはいつも通りのくだらないお茶会です。


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第五回議題『宴会芸のひとつくらい持っておくべき』

 

 

――――第四回の会議から幾ばくもしないうちに、檄文を受け取った諸侯のほとんどは連合への参加を表明、反董卓連合が結成された。

 

数十近い諸侯が参加しているだけあってその動員兵力は優に数万を数え、兵力だけならば都を抑える董卓軍を圧倒出来るだけの数が揃った。

決起のための集会を終えた諸侯は、いよいよ以て王都・洛陽への進軍を開始した。

洛陽へと至るには、都を守るために築かれた虎牢関と汜水関という二つの強固な関所を抜かねばならない。

連合軍はまず最初の難関である汜水関へと到着し、現在は明日以降の攻撃開始に備え、関にほど近い場所に陣地を築いて休息をとっている所である。

 

時刻は夜。

広大な連合軍陣地には無数の篝火が焚かれ、その一体をまるで昼のように明るく照らしている。

そんな陣地の中の、とある天幕にて。

 

「こんばんはー」

「あわ……こんばんは」

 

いつもの会議と変わらぬ調子で、天幕に朱里と雛里の二人が入ってくる。

 

「遅いわよ」

「こんばんは、二人とも」

 

これを出迎えるのは、こちらもまたいつもの調子と変わらない桂花と亞莎だ。

ねねを除いた初期のころの面子が、全員ひとつの天幕に集っていた。

 

「はわわ、食料庫から色々くすねてきたら遅くなってしまいました」

「あら、気が利くじゃない。あたしも持ってきたけど」

「あ、それなら私も」

 

四人がそれぞれ、持ち寄った酒や食料を机に並べていく。

準備が整ったところで、朱里がいつものように声をあげた。

 

 

「それでは、始めちゃいましょう」

 

 

 

 

 

 

「それにしても……良かったの? 前の時に『この会議の存在が知られるのは不味い』って言ってたのはアンタでしょうに」

 

杯に注がれた酒をあおりながら桂花が問うと、ぽりぽりと煎豆をつまんでいる朱里が答えた。

 

「バレるのは不味いですが、今は私たち味方同士ですから。軍師同士の交流会とでも銘打っておけば、馬鹿な諸侯の方々は気づきませんよ」

「アンタはそうやって息を吐くように人を見下すのやめなさい」

「だって、実際ここに連合軍内での最高位の頭脳は揃ってますし」

「華琳さまは軍師並みに頭も切れるわよ」

「じゃあ桂花さん必要ないじゃないですか」

「うるさいってのよ。多少は気にしてるんだから黙っときなさい」

 

少し語気を荒げ、桂花が言う。

もくもくとごま団子を頬張りながら、亞莎が口を開いた。

 

「そういう意味では、我が軍の周瑜さまも切れ者ですね」

「ああ、見ました見ました美周郎。デキる人って感じでしたね。ああいう気の強そうな女性はぜったい後ろの穴弱いですよ」

「で、では私が見よう見まねで習得した桂花さんの指技を駆使すれば、私でも周瑜さまに勝てるということですかっ?」

「そこは頭脳で張り合いましょうよ」

 

目を輝かせる亞莎に、朱里が微妙な顔をする。

 

「あ、そういえばウチの愛紗さん――関羽さんが、亞莎ちゃんのこと『なんか殺したい』って言ってましたよ」

「なんかってなんですか!? 雑すぎませんか!?」

「うーん。理由は本人にも良く分からないそうですが、なんか殺意が湧くそうです」

「え、えぇ……。私、関羽さんとは会ったこともないのに」

 

謂れのない恨み言に、亞莎がげんなりとうなだれた。

 

「殺意とか、よく分かりませんね武官の考えることは。たまに雛里ちゃんがいなければなーとか、その程度ですよ私は」

「私もおんなじだよ朱里ちゃん。気が合うね私たち」

「仲良しだもんね」

「…………」

「…………」

「(どかっ)」

「(ごすっ)」

「はいはいそこまで」

 

仲裁に入った桂花が言う。

 

「アンタたち見てると、なんで一緒にいるのか不思議だわ。どうみてもソリが合ってないじゃない」

「そうですね。……私と雛里ちゃんが仲良くなったのには、それはもう深い訳がありまして」

「へぇ、酒の肴に話してみなさいよ」

「はい。……あれはまだ、私たち二人が水鏡女学院で学問を修めている時のことでした」

 

真剣な顔で、朱里がかつての情景に思いを馳せる。

 

『ふんふ~ん。さて、今日も隠し持っていた房中術の本を読んで……』

『あわわ……』

『はわわ!? だ、誰っ!?』

『ご、ごめん。覗くつもりはなくて』

『違うの! こ、この本は――』

『その本……好きなの?』

『……う、うん。気に入ってるよ』

『私も、おんなじの持ってるんだ……』

『……!!』

『良かったら、いっしょに読もう?』

『うんっ』

 

回想終了。

 

「というわけです」

「どこが深いのよ。思春期の子供かアンタたちは」

「というわけで房中術関連の本を探しに行く時は仲良しです」

「普段は?」

「雛里ちゃんの服装って私のパチモンみたいですよね」

「よく分かったわ」

 

再びポカポカと殴り合いを始める朱里と雛里を放置して、桂花が杯に酒を注ぐ。

 

「ねねも来れれば良かったんだけどね」

「少し寂しいですね」

 

桂花のつぶやきに、亞莎が答えた。

流石に、いちおう敵方であるねねはこの会には参加していない。

 

「まあ、いたらいたでうるさいんだけどね。……最近、うっとりした眼で私の指を見つめてくるから気色悪いわ」

「桂花さんのことも桂花姉さまと呼んでいますよね」

「変ななつかれ方したものよ」

 

 

 

「へっくちっ!」

「あら、風邪?」

 

董卓軍の陣地にて、ねねと董卓軍軍師である賈駆(真名は詠)が話し合いをしていた。

 

「うー、なんだか鼻がむずむずと……」

「誰かアンタの噂でもしてるのかしら」

「ついでに後ろの穴もむずむずするのです」

「は?」

「うぅ、久しく桂花姉さまにお会いしていませんからな……。詠、ちょっとここに指を入れて欲しいのです」

「イヤよ気持ち悪い! アンタいったい何に目覚めたの!?」

 

 

 

閑話休題。

ようやく喧嘩を終えた朱里と雛里が席に着く。

結果はいつもの通り朱里の完全敗北である。

 

「惜しいですね、あそこで私の右が入っていれば……」

「はいはい、負け惜しみはいいから」

 

ボロボロになってなお強気な態度を崩さない朱里に、桂花が嘆息する。

 

「それで、明日以降はどうするのよ?」

「そうですね……汜水関を守ってるのは孫家が捕らえる予定の華雄さんですから、明日は亞莎ちゃんたちに頑張ってもらいましょう」

「はいっ、お任せ下さい!」

 

亞莎がぐっと拳を握る。袖で隠れて見えないが。

 

「何か策はありますか? 亞莎ちゃん」

「華雄さんは昔、とある戦で孫策さまの母君であらせられる孫堅さまに手痛い敗北を喫したことがあるそうです。本人も頭に血が上りやすい将であるとのことなので、孫策様が挑発をすれば関から出てくるかと」

「ああ、脳筋ですか。扱いやすいですよねそういう人種って。ウチにも一人、『なのだ!』が口癖の暴食少女がいますよ」

「ウチにも突撃しか能のないデコハゲ暴力女がいるわね」

 

思い当たる節のあるらしい二人が言う。

 

「まあ、ねねちゃんの密書によると呂布さんは虎牢関に配置されているそうなので、華雄さんさえどうにかすれば汜水関は落ちるでしょう」

「どうせ袁紹や袁術は前に出たがらないだろうし、孫家が出張るならちょうど良いわね」

「あ、袁紹さんといえば」

「ああ、あれでしょ」

「「「「喋り方」」」」

 

朱里が言うと、全員が声を揃えて言う。

 

「いやー、この間の袁紹さんの真似は適当だったんですけど……まさか本当に『お~っほっほ!』と笑う人が居るとは……」

「すごく高圧的だしね」

「腹が立ちましたね。ちょっと桂花さん、袁紹さんと領地近いんですからこれが終わったら滅ぼしてきて下さいよ」

「そうねぇ。どうせ、華琳さまが勢力拡大するとなったら必ず当たらなきゃいけない相手だけど……。でもまあ、当分先じゃない? 袁紹の領地の北方にはあれがいるじゃない、あの…………あれよ」

「あれですよね、あの……こ、こんそう……?」

「こうそんじゃなかった? こうそん……す、さ……」

「…………」

「……ゆ、幽州の普通っぽいのがいたじゃない! あいつがいるから戦うならあっちが先でしょ」

 

結局思い出せなかったらしく、桂花が言う。

ちなみに幽州の普通っぽいのとは、幽州一体を治めている公孫賛という領主である。

秀才でなんでも卒なくこなすが、そのせいか他の諸侯と比べると特徴に乏しく、影が薄いと言われている残念な将である。

 

「でもなんかこう、あの幽州の人って気づいたら滅んでそうじゃありません?」

「まさか。流石にそこまでは……ねぇ?」

「…………」

「…………」

 

天幕内に微妙な沈黙が流れる。

話題を変えようと、朱里が無理やり笑って口を開く。

 

「し、しかしあれですね。袁紹さんと袁術さんは、従姉妹どうしなだけあって似てましたね。そういえば、亞莎ちゃんは袁術さんのことは知ってたんですよね?」

「そうですね。袁紹さまに負けず劣らず高圧的で、でも無邪気な方です」

「そうですねー。じゃあ袁術さんを滅ぼすのは孫家に任せちゃいましょうか」

「お任せ下さい。必ずやあの可愛らしい細首をねじ切って持ってきます」

「あ、持ってこなくていいです」

「これまでの鬱憤晴らしも兼ねて、生きたままこう、少しずつ首をひねっていくというのはどうでしょうか。きっと激痛が――――」

「亞莎ちゃん、この話はやめましょう」

「でも」

「いいから」

「……はい」

「…………」

 

またしても重い沈黙が流れる。

 

「あーもう辛気臭いわね! 話すことは話したんだから、あとは飲むわよ!」

 

妙な空気を嫌い、桂花が酒瓶を掲げる。

渡りに分とばかりに、他の三人もそれに乗った。

 

「そうですね、飲みましょう! そうだ、雛里ちゃんが一発芸やりますよ!」

「あわわっ!?」

「ほら、あれやって雛里ちゃん。眼からお酒飲むやつ」

「そんなの挑戦したこともないよ! 止めてって、ちょっと」

「ほらほら、雛里ちゃんならできるから」

「い、痛いっ。お酒が眼にしみるから……あわわっ」

「頑張れ頑張れ雛里ちゃん」

「あわっ……あわわ、あわわわわわわ……………………やめろぶっ殺すぞ」

「!?」

 

ドスの聞いた声に、思わず朱里が手を離す。

 

「やめて」

「……ご、ごめんなさい」

「…………」

「…………」

 

「「「「………………」」」」

 

とてつもなく微妙な空気のまま、臨時会議は終了したのだった――――。

 

 

 

 

 

 




雛里ちゃんは毒舌。これは公式だからしかたないね。


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第六回議題『巨乳が嫌い、だから巨乳になる』

 

 

陣中での飲み会から二ヶ月ほどのち。

いつもの別荘には、いつも通りの軍師たちが顔を揃えていた。

 

 

「はーい……それでは、第六回の会議を始めます……」

 

 

どんよりとした声で朱里が言う。

いつものような元気が無いことを心配した亞莎が声をかけた。

 

「ど、どうしたんですか? 何やら気落ちされてるみたいですが」

「あー……それはおいおい話しましょう。ひとまず皆さん、洛陽での戦いはお疲れ様でした」

 

朱里が言うと、全員がそれに答えるように頷いた。

 

結果から言えば、反董卓連合軍と董卓軍の戦いは、連合軍の辛勝に終わった。

虎牢関と汜水関、二つの関で頑強に抵抗した董卓軍は、将兵の質の高さもあって大いに連合軍を苦しめたが、守将が敗れ、捕らえられたことにより指揮系統が崩壊。

結果、二つの関はほどなくして陥落した。

最後の砦である洛陽でも董卓軍は徹底抗戦したが、衆寡敵せず敗退。双方に甚大な被害を出しながらも、こうして洛陽の戦いは連合軍の勝利で終結した。

 

「ま、私たちには董卓軍との繋がりもあったわけだから手放しでは喜べないけど、ねねも無事に保護できたし、それぞれの目標は達成できたんだからいいじゃない。何をそんなに沈んだ顔してるのよ?」

「それだけで済めば良かったんですけどね……」

「なに、何か不味いことでもあったの?」

 

桂花の問いに、朱里が頷く。

 

「桂花さん、乱の首謀者と目されていた董卓さんは、どうなりましたか?」

「はぁ? そんなのアンタも知ってるでしょ、消息不明よ。逃げられた可能性が高いわね」

「そうですね、逃げられました。……逃げられたということになっています」

「……どういう意味?」

「…………うちに居るんです」

「は?」

「だから! うちに! 劉備軍に居るんですよ保護したんです!」

 

朱里が叫ぶ。数秒の沈黙ののち、

 

「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!??」

 

桂花が絶叫した。

亞莎も驚いた顔をしているが、雛里とねねは事情を知っていたようで、気まずそうに視線を逸らしていた。

 

「いや、何でそんなことしたのよ!? バカじゃないの!?」

「バカじゃないもん、天才だもん」

「拗ねてる場合か! 世間では都を乱した大罪人として認知されてる董卓を保護してるなんて他の諸侯にバレたら、次はアンタたちが討伐されるわよ!」

「分かってますぅー! 私天才だからそのくらい分かりますぅー!」

「はいはいアンタは天才よ! それでいいから早く理由を言いなさいこのバカ!」

「だから私が実行したんじゃないんですよ! うちのゆるふわ君主が言い始めたことなんですよぉ!」

 

涙目になって、朱里が喚く。

 

「劉備が? どういうこと」

「……事情を、桃香さまに説明したんです。董卓さんは袁紹さんによって濡れ衣を着せられているだけだって。だから、私と繋がりのあるねねちゃんを保護して欲しいと」

「作戦通りね。それで?」

「そしたら桃香さまが、『じゃあ、董卓ちゃんも保護しよう! 濡れ衣なのにこのまま討ち取られちゃうなんて可哀想だよ!』って」

「…………」

 

目眩のしそうな話に、桂花が絶句する。

 

「そしたら、関羽さんや張飛ちゃんもそれに賛成して。私と雛里ちゃんは反対したんですが、巷で『人徳の劉備』なんて呼ばれてる桃香さまにそれが通じるはずもなく……」

「で、保護したと」

「私は悪くないです。最善を尽くしました」

「開き直ってんじゃないわよ。……はぁ、とんだ火種を抱え込んだわね」

 

桂花が嘆息する。

そんな様子に、もともと董卓軍に所属していたねねが申し訳なさそうな顔で小さくなっていたが、桂花はそんなねねの頭を優しく撫でた。

 

「辛気臭い顔してんじゃないわよ。終わったことは仕様がないでしょ」

「桂花姉さま……」

「ましてアンタのせいでもないんだから、堂々とふんぞり返ってなさい。しおらしいねねなんて気持ちが悪いわ」

「……桂花姉さまぁっ」

 

感極まったねねが、桂花に抱きつく。

 

「ねねはっ……ねねは嬉しいです桂花姉さまぁ! ねねを庇ってくれるなんて……!」

「あーもう、鬱陶しいから抱きつくんじゃないわよ」

「桂花姉さま……桂花姉さま…………うふ……うへへへへ」

「ぎゃーこの糞餓鬼! 変なとこ触ってんじゃないわよ!」

 

桂花がねねを蹴り飛ばす。

 

「痛いっ! 桂花姉さま、もっと! もっと蹴ってください!」

「気色悪いわね! 女相手に発情してんじゃないわよ変態!」

「えぇー……それを桂花さんが言うんですか……」

 

朱里が微妙な表情で桂花を見やる。

桂花が数発蹴りを入れると、ねねはようやく大人しくなった。

ひと段落したところで、改めて朱里が口を開く。

 

「とにかく、董卓さんが劉備軍に居るということは秘匿する方向で。こちらでも情報の隠蔽には全力を注ぎますが、皆さんのほうでもある程度の情報操作はお願いします」

「はいはい」

「了解しました」

 

桂花と亞莎が頷く。

 

「他に、何か報告事項はありますか?」

「あ、そういえば」

「はい、どうぞ亞莎ちゃん」

「孫家が捕獲することになっていた華雄さんなのですが、勢い余って殺してしまいました」

「……いちおう聞きますが、誰が?」

「私です。すみません、ドジを踏んでしまいました……」

「いや、そんな可愛らしく言われても……。ドジで猛将を殺害とか笑えないんですが」

「笑えませんか……?」

「だ、大爆笑です! もう腹がよじれそう! あはははははっ!」

 

瞳に怪しい光を宿した亞莎に見つめられ、朱里が冷や汗をダラダラ流しながら笑う。

 

「ほ、他に! 他に何か!」

「ああ、そういうことならウチからも報告だけど」

「はいどうぞ、貧乳さん」

「アンタ自分がどんな胸板してたらそんなこと言えるわけ」

「私より身長あるぶん余計に哀れですよね桂花さん」

「後で覚えてなさい」

 

青筋を浮かべ、桂花が朱里を睨む。

 

「そうじゃなくて。ウチはちゃんと張遼の拿捕に成功したわよ。張遼も、華琳さまの下で働くことに納得してくれたわ」

「ああ、あのサラシと袴だけで戦場を歩いてた痴女ですか」

「間違ってはいないけど、もっと他に言い様ないわけ?」

「おっぱいでかい」

「あっそう。私からは以上よ」

 

溜息を吐いて桂花が座る。

 

「そういえば、おっぱいって揉めば大きくなるらしいですね」

「…………」

「雛里ちゃん、私のおっぱい揉んで」

「あわわ……触りたくない」

「頬を染めながら辛辣なことを言うね。こないだ買った房中術の本貸してあげるから」

「分かったよ朱里ちゃん。吐くほど嫌だけど頑張る」

「なんでそんなゴミを触るみたいに嫌がるの? 解せない」

「ゴミって朱里ちゃんにそっくりだよね」

「解せない!」

 

というわけで実行。

 

どすっ

 

「……ねえ」

 

どすっ

 

「雛里ちゃん。ねえってば」

 

どすっ

 

「これ、揉み揉み違う。正拳突き」

 

どすっ

 

「痛いから。鳩尾えぐらないで」

 

どすっ

 

「雛里ちゃんの腐れワレメ」

 

がすっ!

 

「まさかの顔面」

 

閑話休題。

鼻血を垂らした朱里が話を進める。

 

「ともあれ、董卓さんが諸侯によって征伐されたことで、董卓さんを押さえ込めなかった漢の力がすでに形骸化しているということが大陸中に喧伝されました。これから先は、力を持った諸侯が争う群雄割拠の時代になるでしょう。これからが私たちにとっての本番ですよ」

「ああ……桂花姉さまに蹴られたところが熱を持って……気持ちいいのです!」

「ねねちゃんうるさいです。……なので、これまで以上に連絡は密に。外交でも私たち同士が関わりを持つ機会が出てくると思いますが、そのときは上手く連携して対処していきましょう」

 

朱里の言葉に、全員(ねね除く)が首肯した。

 

「それでは、今回はこんなところで。お疲れ様でしたー」

「お疲れ様」

「お疲れ様です」

「お疲れさまでした……」

「はぁ、はぁ……体が、熱いのです」

 

これにて、会議終了。

 

 

 

 

「あれ、でもなんだか雛里ちゃんに殴られたところがジンジンして膨らんでる気がする! 雛里ちゃん、もっと殴って!」

「(ごすっ)」

「顔じゃない」

「あわわ……でも、膨らんでるよ?」

「それ腫れてるだけだよ!」

「じゃあ、胸もそうなんじゃない?」

「あっ…………」

 

 

 

 

 




ねねがどんどん変態に。いいと思います(真顔)
今更ですが、前回で関羽が亞莎を殺したいと言ってたのは、史実において関羽を打ち取るのが呂蒙だからです。原作にもあったネタですね。
こんな感じで原作ネタはなるべく解説しますが、キャラの見た目くらい調べておくと想像しやすいかもです。
まあこんなSS、プレイ済みの人しか見てはいないでしょうが。

堅苦しいので主君だけは真名で呼ばせています。孫策もそのうち。

桃香⇒劉備
華琳⇒曹操
雪蓮⇒孫策

です。他の人は基本的に名前呼びで。面倒くさいので。


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