ギアーズ・スクール (クロラピ)
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異世界ってやつさ……

 

 夢なら覚めてほしかった。

 

 異世界――空想の物語では良くあるが、実体験するとは思わなかった。

 

 武沢ケイこと俺は、何時ものように目を覚ました。

 しかし、もう元の世界には居なかった。

 自室の温かい布団で寝ていた筈なのに、今は緑生い茂る草原にいた。

 

「ここは」

「止まりなさい」

 

 辺りを確認する暇も無く、俺は後ろから硬い何かを突き付けられた。

 

「貴女、ここがローテイア学園と分かって侵入して来たのか?」

 

 冷酷な女性の声。

 もし、回答を誤れば硬い何かで、俺は死ぬしかない。

 

「知るか! 俺はローテイア学園なんて初耳だぞ!」

「口だけなら、何とでも言える」

 

 あれ、俺ミスったか? 雲行きが怪しすぎる。

 女性は俺の両腕を掴み、カチャと音を発てる。カチャだと。

 

「あっ!」

「抵抗されても困るからな」

 

 俺の手には手錠? 歯車みたいのを着けられている。

 ヤバいな、死亡フラグがビンビンだな。とか考えていると、女性は俺の前に出てきた。

 女性は赤色の髪で緑色の軍服を来ていた。かなりスタイルが良い。

 さらに……。

 

「犬耳?」

「違う猫耳だ!」

 

 頭から赤色の耳がピコピコ動いていた。

 

「コスプレ……」

「こすぷれ? そんな名前では無い」

 

 コスプレを知らないだと。まさか、モノホンだと! 俺は――。

 

 夢を見ているんだろう。

 一人ほほ笑み。自己完結して、ウンウン頷いていた。

 傍から見たらかなりの変人だろう。だけど、この時の俺は気にする程、冷静さが無かった。

 

「おい、変態」

「名前が変態になりました……って、おい!」

「なんですか? 変態」

 

 女性の見る目が、ゴミ屑を見る様な目だ。

 俺は別に、弄られて興奮する性癖は持って無い。というか持ちたくない。

 

「俺には武沢ケイって名前があるんだよ! 決して変態って名前じゃない!」

「そうですかケ……変態ですか」

 

 女性は言い直して変態という。もう変態から変える事は出来ないと、悟った。

 

「というか、俺は何所に連れて行かれるんだ?」

「本来なら変態は銃殺ですが、学園長の指示を聞いてから処罰を決めます」

「ソ、ソウデスカ」

 

 死亡フラグは回避したけど……原因は俺だった。

 そんな事をお構いなしに、女性は手錠モドキから出ている鎖を引っ張り連行する。

 俺は、身の危険を感じながら大人しく着いていった。

 

・・・

 

 どうしてこうなった。

 女性に連れられ、学園長室に向かっていた。 そして、気が付いた時にはローテイア学園に入学する事に決まっていた。

 

「どうしてだ……」

「どうしたのじゃ?」

 

 学園長と呼ばれる白髪の美女は首を傾げている。その後ろには、俺を連れてきた女性が立っている。

 

「いや、何も分かんないのに入学って……」

「成程、そういう事か」

 

 学園長は手をポンと叩く。

 

「簡単なことじゃ。お主が異世界人であり。この世界たった一人の男なのじゃ」

「そうだよ……ん? 俺がこの世界の人間じゃないって言ったけ?」

「いや、言っておらぬよ」

 

 確かに言って無い筈だ。じゃあ、なんで知っているんだ。

 

「ひ・み・つじゃよ」と、ウィンクする。

 

 俺はたぶん顔が真っ赤に染まっているだろう。そんな時、ふと学園長を見た。

 学園長は俺を見ながら「うぶ、じゃな」と笑みを浮かべながら言う。

 

「じゃあこの世界の男は俺だけって事だろう?」

 

 俺は苦し紛れに話題を変えた。

 

「そうじゃ。昔の男が言うには、はーれむ? と言うやつじゃ」

「なるほどね。でも、それだけなら別に入る必要は無いんじゃないか?」

 

 その問いに学園長は、二回手を叩く。

 すると、学園長のドアが開き一機の白いロボットが入って来た。

 ロボットは学園長の机に持ってきた資料を置くと、さっさと部屋を出ていった。

 

「これじゃよ。この世界の基本であり大切な説明書じゃよ」

 

 学園長から渡されたのは、茶色い本。そこに、題名が書いてあった。

 

『ギアーズ』

 

 その言葉に何故か聞き覚えがあった。

 元の世界でもギアという名前はあるが、それを別にして俺は聞き覚えがあった。

 

「これか……」

「そうじゃ。これを見て学習せい」」

 

 俺は適当に相槌をうちながら、『ギアーズ』と書かれた本を読んでいた。

 

 ギア――エネルギー元の名前であり、歯車の形をしているからそう名付けた。

 それは、普通のエネルギーより何倍ものエネルギーを持っている。

 ギアーズは四つ以上、直列使用するとと理由は不明だが爆発を起こす。だから、最高三つまでなら運用が可能である。

 だが、夢のエネルギーにもデメリットはある、それは……。

 

「……なんで続きは無いんだ」

「知らんのじゃ。先代から貰った時から、そのページだけは無かったのじゃよ」

 

 俺はその続きが気になりつつも次のページを開いた。

 

「武装兵器ギアーズ」

「この学園は、ギアーズ使いを育てる学園。後、兵器と言っても大会だけしか使わないから安心せい」

 

 武装兵器ギアーズ――ギア・エネルギーの合理的分配を目的とした大会用兵器である。

 使用者は死なない安全な兵器であり、勝てば勝つほどギアを取り付けられ強化できる。

 そして、自分の戦闘スタイルによって多彩に変化する。。

 

「ふーん」

 

 俺のいた世界では考えられない技術だな。この世界はSFか? いや猫耳がいたんだファンタジーかもしれない。

 

「すいません」

「なんじゃ?」

「この世界には、人間以外にもいるのか?」

 

 学園長は唖然としている。

 そして、思い出したかのように手をポンと叩いた。

 

「そうじゃったな。お主、異世界人じゃったな」

「そうだよ。というか、最初にお前がそう言って無かったか」

「嘘だと思ってました、のじゃ」

 

 誰も信用してませんでした。

 学園長は、ゴホンと場を変える為に咳き込む。

 

「確かに、この世界には人間と獣人族の二人居る。今、お主の後ろに居るケイトちゃんがそうじゃよ」

「えっ……うえぇ!」

 

 学園長の後ろに居た女性――ケイトが、俺の後ろに立っていた。その手には握りこぶしぐらいの白色ギアを持っていた。

 

「うるさいですね。変態」

 

 そして、開口一番がそれだった。

 

「いや、変態じゃないからね。前にも言ったけど武沢ケイって名前が――」

「私の名前と被ってます。だから、貴方の名前は変態です」

「言いがかりにも程があるぞ!」

 

 俺とケイトが言いあっていると、学園長は腹を抱えていた。

 

「どうしたのですか、学園長」

「い、いゃ……痴話喧嘩みたいじやな、と思っていたら笑いが……」

「違います!」

 

 ケイトは声を荒げて言う。

 そして、突然ケイトは緑色のズボンから茶色のギアを取り出し『起』と、呟く。

 すると、手には黒光りする銃。元の世界で言うならスナイパーライフルが握られていた。

 

「学園長……」

「話せば分かるのじゃ、分かる――」

 

 パン、と音が鳴響く。

 ケイトが持つライフルの銃口から白煙が上がり、学園長が座る椅子に一点の穴が開いていた。

 

「謝るから、謝るから許してなのじゃ」

「嫌です」

 

 学園長が謝り。ケイトは顔を真っ赤にしながら銃を乱射していた。

 俺は、今後大丈夫なのか不安になってきた。

 




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変態は勘弁だ……

前の続きです


そんな時、服の裾が引っ張られている事に気が付いた。

 足元には、灰色の四角いロボット。キャタピラ足のモノアイ。

 

「どうしたんだ?」

 

 俺は屈み、ロボットと同じ目線になる。ロボットはモノアイを点灯させている。

 

『コンニチワ、デス』

 

 ロボットは律儀にお辞儀し、俺も釣られお辞儀を返した。

 

『ソレデハ、ココニテヲオイテクダサイ』

 

 ロボットは体からアームを出すと、そのアームを差し出す。

 別に断る事も無い俺は、出されたアームに手を乗せる。すると、学園長が「あーっ!」と叫んだ。

 

「へっ? どうしたんだ」

「お主、何故わざわざ旧型を選んだのじゃ!?」

 

 学園長はそう言いながら顔を近づけてきた。彼女も出来ず十八年過ごしてきた俺は、

女性への免疫が無い。だから、顔を背ける。

 きっと、顔が熱いのは気のせいでは無い。

 

「世界で一人しかいないお主には、最強の新型ギアーズを渡すつもりじゃんたんだぞ!」

 

 それは、理不尽じゃないか? と思っていると学園長は横目でロボットを一瞥する。

 

「こんなガラクタ、どこが良いのじゃ。今ならまだ契約破棄が可能じゃぞ!」

「黙れ」

 

 学園長の言いように、頭に来た。そして、口から自分でも驚くほど冷たい声が出た。

 

「使かってないのに、最初から駄目扱いはいけないだろう」

「……このガラクタを使った者は死んだのじゃ」

 

 学園長は辛そうに顔をしかめる。

 だけど……。

 

「使ってみなきゃ解らないだろ。前の奴は、コイツの所為で死んだとは限らない」

 

 ロボットはモノアイを忙しく、左右に動かしている。

 一方の学園長は顔を背け。ケイトは無表情で俺を見ていた。

 

「なら、それを使えばいい……ケイト、あやつを部屋に連れて行くのじゃ」

 

 後ろに控えているケイトに指示する。ケイトは俺の前に立ち「変態、行きますよ」と。

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

 さっさと行ってしまうケイト。

 だが、俺はこの学園の地形を全く知らない。だから、はぐれたら迷子になってしまう。

 俺は早足でケイトの後ろを付いて行った。

 

 ロボットは器用にお辞儀をして、学園長室の扉を閉めた。

 

 

 純白の壁に、均等的に付けられている電球。その廊下を歩いていた。

 

「ちょっと待ってくれよ! ケイト」

「気安く名前を呼ばないで下さい、変態」

 

 ケイトに一瞥される。

 というか、何で俺はこんな扱いなんだ……?

 あっ、原因は俺じゃん。

 

「せ、せめて普通に呼んでください」

 

 何故か、敬語になっている。

 というか、変態という名から変えてもらえるなら、俺は土下座でも出来る覚悟だ。

 

 ケイトは考える素振りをすると「分かりました」と、頷く。

 

「じゃあ――」

「では、今後から変態さんとお呼びしますね」

 

 あまり変わってない自分の呼び名に絶望した。

 俺は地面に膝を着き、頭を下げる。言うなれば土下座、というやつだ。

 

「本当に変態以外でお願いします!」

 

 頭が痛くなるほど、地面に打ち付ける。

 この世界に俺以外の男がいない。それで、もし変態と言われ続けていたら、

男は変態という方程式が出来上がってしまう。

 

「しょうがないですね……じゃあ、Tさんとでも呼びましょうか?」

「俺は容疑者か! って、驚いた顔をしない」

 

 ケイトは驚いた顔をする。

 だけど、変態よりはマシかと納得する。変態よりはね……。

 

「じゃあTで構わないよ」

「分かりました。へ……Tさん」

「今、変態って言いそうになってたな」

 

 俺が詰め寄ると、ケイトは顔を反らす。そして、会話を変えることを思い出したのか、

手を叩き「そうでした」と言う。

 

「ここが、Tさんの部屋ですよ」

 

 ケイトは足を止め、木製の扉を指さす。

 

「本来は物置部屋でしたけど、急ピッチで片づけました」

「ここが、俺の部屋か……って物置?」

 

 この部屋が物置。しかも、急いで片づけた。ならこの学園の生徒は? まさか……。

 

「後、本来なら同部屋なんですが、変態と一緒では可哀想なので、独断で

この部屋を案内しました」

「ちょっと待て、相部屋の子に確認したのか?」

「はい。貴方との相部屋の方は、突然いやらしい笑みを浮かべ、一人で頷き変態だから嫌です、と」

「成程な」

 

 俺はもう変態の角印を押されたのか。でも、まだ会ってない子にまで変態……って。

 

「それって、相部屋ってお前じゃねーか!」

 

 そうツッコミを入れると、ケイトは舌打ちをする。俺にも聞こえる位の高さで。

 

「では、明日の早朝迎えに行きますから。身勝手な行動は慎んで下さい」

 

 無視をして、話し続けるケイト。

 ケイトは淡々と明日の事を話すとその場を後にしていた。

 

 俺は溜息を吐きながら木製の扉を開いた。

 

「アイツはツンデレか」

 

 俺は部屋を見て、そう呟いてしまった。何故なら……。

 物置部屋と思わせないほど綺麗で、一片の汚れもない。しかも広い。

 家具はベットと机だけだが、満足ものだ。

 

「というか疲れたな」

 

 今日は色々とあり過ぎた。

 獣人族のケイトに銃を突き付けられたこと。

なんやかんだで、このローテイア学園に入学すること。

 

「帰れるのか? 元の世界に……」

 

 ベットの上で横になる。

 まだ、気持の高ぶりはあるが、それでも睡魔の方が勝っていた。

俺は、意識を睡魔に委ねた。

 




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