ネギまとかちょっと真面目に妄想してみた (おーり)
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多分序章的な物語の前夜祭、とか?
『亜子をメインヒロインにしたいんだけど……』


ラブ米っぽいと思ったら一票ください


「はよーす、あーさむっ」

 

「やる気ないわねぇ、もっとシャキっとしなさいよ」

 

「このぐらいで勘弁してよ、こちとら寝不足でさ」

 

「なぁに? 遅くまでゲームでもしてたわけ?」

 

「べんきょーだよ、べんきょー。今習っているところをしっかりと復習しとかないと、多分高校くらいになってもっと後悔するからなー。留年とかなったら苦学生もやってられねーだろ」

 

「………………」

 

「……おい明日菜、目を逸らすな」

 

 

 バカレンジャーとか呼ばれてるこいつには実に耳の痛い話であろう事を理解しながらも、あえて言っておこう。べんきょーしろ、じょしちゅーがくせー。 なんだか明日菜とこういう話をするのが日課になりつつある今日この頃、同じクラスの男子らには羨ましがられるかも知れんが知ったことではない。

 そもそも言ってないし。言わないし。

 

 神にチートを一つぶち込まれて転生したネギま世界。チート以外は普通であるはずなのに、ちょっと鍛えた程度で車と同程度の速度で走れるようになれるスペック。漫画の世界である。

 あえてこの世界を現実的に考察するやからが多そうではあるが、それほど深く考えるな。どのようになったところで元は一人の人間の考えた世界なのだから。お約束、とか、ご都合主義、なんてものが常備されているのが当然の世界だ。俺はもう割り切ってる。

 割り切って、二度目の人生(漫画だけど)をちょっとだけ真面目に取り組んでみることにした。

 

 具体的に言うと、冷めた目線で生きていた前世とは対照的に、ちょっと熱く、そんでもってある意味適当に。情熱的に。

 大体元来がのんきな世界だから、平穏に平坦なモブならばそれなりに成功できる。いや、成功というよりは得、というほうが適切かも知れないけど。

 

 小学校の頃からのなじみで、明日菜とはそれなりに仲がいい。同じ苦学生だし、同じように新聞配達のバイトに精を出し、コイツの恋愛相談にもたまに乗る。幼なじみ、という関係だとしても過言ではないのではないかとちょっとだけ自負してしまいそうだ。

 ん? 恋愛感情? なぁにぃそれぇ?

 つーかこいつには特に持ったことは無い。割とがさつだし、女というよりはガキっぽい。

 コイツも入学当初は無口キャラやっていたという話を聞いたし、原作でもそんな感じの描写があったけど、今がこれだし。あまり気にしたことが無い。

 雪広なんかは、どうしてこうなったのか、と首をかしげているが、間違いなく原因はお前が一端じゃね? と内心思う。原作を読んだときの感想だから直接言ったことは無いけど。

 

 身体はそれなりに成長著しいようではあるけれども……。

 

 と、思っていたらジト目で見られた。何さ。

 

 

「……なんか、イヤらしい目で見なかった?」

 

「お前を? どうやって?」

 

「~~っ! ほんとアンタって! ほんとに!」

 

 

 言葉にしろよ。語彙の無いやつだ。

 

 

   × × × × ×

 

 

「じゃーなー、べんきょーしろじょしちゅーがくせー」

 

「うっさいわね! 居眠りして廊下に立たされろバカっ」

 

 

 挑発の返し方が直接過ぎやしないかね。

 特別好かれたいとは思わんが、ちょっとひどくね?

 

 それに俺は戻って二度寝できるやつとは違う。これからサッカーの朝練があったりするからな。

 

 前世じゃあ、サッカーなんぞ集団行動を義務付けるための大人の汚い思考が混じっている動き回らせるためだけの玉遊び、なんて思っていてやらなかったが、今じゃ違う。俺には相応の目標があるからだ。

 

 それはサッカーの日本代表――ではない。

 

 いや、車並みの速度が出る上に体力まで無尽蔵に成長できるこの世界ならそれも容易かも知れんけど、俺は楽しむために生きてるから。将来はまあおまけだ。

 

 じゃあ目標って何? それは――、

 

 

「おっ、烏丸くん。今日も早いなー」

 

「おー、おはよー和泉」

 

 

 コイツだ。

 和泉亜子。

 

 俺はコイツの恋愛を本気で応援したいんだ。

 



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『物語的に言うならプロローグってやつです』

烏丸そらは転生者であるっ!!


 

 俺が『烏丸そら』となるちょっと前の話。

 俺は神様って言う奴の前にむき出しのままで突き出されていた。

 

 

「やあやあ少年、スモークチーズは食べるかい?」

 

「いや、いらねっす……つーかここどこ、俺どうなってんの? 素っ裸なんですけど」

 

「気にする必要はないよぉ、所詮下位領域の人間程度の裸なんてものにこちとら何の感慨も湧かないからね。少年だってリアルな漫画で女の子の裸見たって興奮しないだろう?」

 

「するものにはするけど……、じゃなくて、説明してよ」

 

「えー、テンプレな導入は苦手なんだけどにゃー。

 えーとね、私が神だー、お前にはわれわれの暇つぶしのために漫画の世界へ転生してもらうー、俺は寛大だからちーと能力を特典としてくれてやるのだー。

 おっけい?」

 

 

 ……おっけい、わかった。このひとあらゆるものを小馬鹿にしてんだな。

 

 

「あ、しんじてないなー。まあ能力っていうか特典はこっちで決めるねー」

 

「そこに俺の意思は介入できるのか……?」

 

「無理無理、少年の逝き先は勝手に決まっているし、能力も決めた、ちーとと呼べる程度の祝福もくれてやろう。あ、でもやりたいことをすればいいよ、その先は少年次第だってことだね」

 

「ちゃんと説明してくれよ……」

 

「壱から拾まで全部説明してもらえる社会があると思うなよー。ついでだからそこがどういう世界なのか、少年の原作知識を一回封印してやるぜー。中学生になったら解除してやるけどなー。

 死んだ人間をどうこうできるのは神の特権ってやつさー、マジやめらんねーなーフヒヒ」

 

 

 棒読みで誰かの心の声を代弁している。そんな気がした。

 

 

   × × × × ×

 

 

 で、もらった能力とやらはどうも『スタンド』らしいのだが、一見して見たことのない外観。オリジナルスタンド? ぼくのかんがえたかっこいいのうりょく、とかってタグについちゃうの?

 まあスタンドって要するに『もう一人の自分』だから、漫画と同じスタンドをもらっても使いこなせない可能性のほうが高いけどさ。

 

 あとすげぇ呪的障壁とか呼ばれるバリアーがオートでついてる。攻撃魔法はまず効かないけど、それより防御力高いのは精神系に関してだ。認識阻害の結界を完全に遮断してやがる。強度は多分ATフィールド並みだと思う。

 お陰で常識的な考え方を失うことには至らなくってマジでそれは感謝。魔法使いはその辺よく考慮したほうがいいと思うんだけどなー。魔法使いの町とか日本のど真ん中に作らないでさ、一般人にかかわらせたくなけりゃ魔法世界に引っ込んでろよ。認識阻害に頼るんじゃなくってさ。意識を逸らすって普通に犯罪に直結できるって自覚してんの?

 

 あー、ぐだぐだ愚痴が出る。

 やだやだ魔法使いは、一般人舐めきってるよね。

 

 

「もういいか? 休憩は終わりだ」

 

「………………エヴァ姉、一般人にこの修行はちょいきついっす」

 

「ど阿呆、お前の何処が一般人だ。一般人はそんな馬鹿みたいな障壁なんぞ常時張ってられんし、そもそも幼いころからとはいえ易々と魔法を習得なんぞできんわ。おまけに妙な能力までついてるし、その能力も効果範囲もリーチも誰にも知覚できないステルス性。

 ……ここまで戦闘に特化しているのに魔法使いとつるまない奴も珍しいがな」

 

 

 説明乙。

 

 

「……ふざけてるのなら修行量を倍にするぞ」

 

「やめて! 俺のライフはもう一桁よ!」

 

「一桁あれば充分だ、ゼロになるまでのたうち回れ」

 

 

 いやあああああ! 吸血鬼が極大魔法で襲ってくるうううう!

 







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『聞くところによると若干はらわたの煮え繰り返るO☆HA☆NA☆SHIだとか』

 

「そーいやあ和泉、お前先輩と何かあった?」

 

「うぇ!? べ、べつになんもあらんよ!?」

 

「いや、嘘つけよ」

 

 

 朝連終了後、和泉に気になったことを聞いてみた。見るからにわかりやすいどもり方でうろたえるさまは結構可愛いのだが、嘘を吐かれてスルーできるような問題じゃない。

 件の先輩というのは高校生の部活の先輩であるのだが、マネージャーをやっている和泉とは彼氏彼女の仲となっているという専らのうわさ、もとい現実。というか俺が仲を取り持ったし。リアルで『ラブレターを○○君に渡して』を言われるとは中々に鬼畜仕様だよこの世界。

 しかし、そうまでして恋仲になったというのに今日の二人は若干おかしい。なんだか余所余所しいようにも見える。

 

 

「先輩もなんかお前のこと避けてるし。喧嘩でもした? なんなら前みたいに恋のキューピッドに、」

 

「やめて」

 

 

 怒鳴られた、わけじゃないが、断とした口調にこっちの思考が止まる。

 なんだ、とてつもなくやな予感がする。まるででかい地雷を踏み抜いたような……

 

 

「ごめんな、でもほんとになんでもないから、そっとしといてくれんか?」

 

「お、おう」

 

 

 和泉の口調は至極平坦で、なんだか感情を押し殺しているように聞こえた。

 こういうときは余計なことは言わないのが吉。KYになれ、空気読もうぜってことだな。

 

 そんな馬鹿な思考をしているうちに和泉は立ち去っていった。

 マネージャーの仕事は?

 

 

「宍戸、お前亜子ちゃんと別れたってほんと?」

 

 

うん? 宍戸って例の先輩……、は? 別れた?

 

 

「あー、まあなー」

 

「なんでよ? 可愛い娘だし、もったいねーなー」

 

 

 こっちに俺がいることには気づいていないらしい。

 俺に気づかないまま、先輩らは話を続ける。

 

 

「確かに可愛いけどさー、なんかおどおどしていて話が続かないんだよな。

 年も中二だし、あんまり『そーいうこと』をやるわけにはいかないだろ? だからのめり込む前に別れておこうかなーってさ」

 

「勝者の余裕かよ。イケメン滅べ」

 

「ははっ、まあ付き合うならやっぱり同年代の子って話だな。仲を取り持った烏丸には悪いけどさ」

 

 

 ………………別に俺を気にする必要はないだろうけれど、あんたはもっと気にすべき相手がいるんじゃないのか?

 相手のことを慮ってのことかも知れないけど、それは結局あんたの独りよがりな考え方じゃないのか?

 もっといい別れ方ができたんじゃないのか? あんたは俺たちより年上で、経験も豊富なんだろ?

 ………………なんで和泉が辛そうにしているんだよ?

 

 先輩に気づかれないようにその場を後にした。その人が特別悪いってわけじゃない、強いて言うなら間が悪い程度の話だ。

 でも和泉にとっては、中学二年で子供であったとしても、あの時俺に仲を取り持って欲しいと頼んできたあの時の様は、あいつにとっても一世一代の恋だったのは間違いなく思えた。

 

 それからは、なんとなく和泉を気にかけるようになっていた。

 これが恋だとは、あまり思いたくはない。

 

 

   × × × × ×

 

 

 ………………と、いうような話が半年前にあったとさ。

 

 馬鹿か、俺は……。

 

 は、恥ずかしすぎる……っ!

 思い返して脳が千切れるような羞恥! 誰か俺を殺せ!

 なんなの!? 「恋だとは思いたくはない(キリッ」!? 何かっこつけてんだよ馬鹿か俺は!?

 それでやったことも特にないよ! 和泉のやつが可哀想だとか勝手に無意識に思って、それに惹かれているような猿かと思うような直情思考に陥ってんじゃねえかよ! 嫌いじゃないよ! 嫌いじゃないけど漫画だろ! 漫画でも現実だけどさ! 割り切れるかヴォケェ! なにを言ってんだ俺は!

 

 ぐぅあぁぁぁ……、落ち着け俺くーるになれ、俺は割り切っているだろ。

 この世界は漫画。俺はそれを割り切って楽しむために生きている。

 チートで無双だー。ヒロインかわいいー。エッチな場面もご褒美です! って自覚していたはずだろ。

 そりゃ修行で心がささくれ立っていたときは愚痴愚痴と文句も出たけどさ、全部が全部本音じゃねえよ?

 それがなに? 可愛い娘とお近づきになってにゃんにゃんするためにその子を気にかけて半年部活に付き合って………………告白できない中二か!? 中二だよ!

 

 ……まあ、今更内申どうこうされたくはないから部活やめるとかはしないけどさ。

 

 ………………この考え方もどうなんだよ。

 

 はーあ、頭の中ぐっちゃぐちゃさ。こんなんで主人公が現れたときに介入できるのかねぇ。

 和泉はもっと幸せになるべきだと思うから、あいつの次の恋であるネギとの関係を推し進めてやろうと思っていたんだけど。

 

 あれ、この考え方もなんかおかしい気がする……。

 

 

「どしたん? さっきから百面相しとったけど……」

 

「あ、和泉。

 え、そんなに変だった?」

 

「うん。高畑せんせーのことで思い悩んでいる明日菜みたいやったな、さすが幼なじみ」

 

「マジでか」

 

 

 むぅ、幼なじみと呼ばれるのは不本意ではないが、アレと同列に見られるのは流石におかしい人な気がする。自重しよう。

 

 つーか、俺は認識阻害も効かない障壁が常時張っているから、そんなにぐちゃぐちゃと思い悩むようにはなるはずもないんだけど。

 どうしてこうなった?

 




~ATフィールド並みの
 最強の拒絶タイプだ。→要するに人の意見を聞かない頑固者。→じゃあこの内心は全部こいつの本領じゃん。→そこまで思考が及ばない。元から考えるのが得意なタイプじゃないくせに思考する渦に嵌まりだした思春期であった主人公。もっと成長しましょう。


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『私は人間をやめるぞっ! ネギィィィッ!』

 

 エヴァ姉と出会ったのは俺が小学校に入学したてのころ。

 当時の俺は『原作知識』の部分に記憶のブロックがかけられた状態で、学園にある認識阻害の結界のことや魔法使いのことなんぞ詳しく『知らない』状態となっていた。

 

 そんな状態だったにもかかわらず、自身のチート特典であるスタンドをむやみに使用しなかったのは褒めてやりたい。

 使っていたら間違いなく怪現象として人の目に触れていただろうし、それで目をつけられでもしていたら目も当てられなかっただろうし。今俺上手いこと言った。

 

 ……今じゃエヴァ姉に修行つけてもらっているお陰で、魔法教師とかとは若干距離を置かれている気もするけどな……。

 まあいいさ。『学園のお仕事』を手伝うような暇もないし、な。苦学生舐めんなよ?

 

 まあ、それはともかく。

 

 魔法のまの字も知らない順当な前世ありの少年が、好奇心あふれる少年が、それらを見かけたらほいほい近寄っていくよな? うん? 同意求められても困る? うん、ゴメン。

 

 で、エヴァ姉と出会ったのはそういう現場そのものだったわけで。

 

 具体的に言うと、

 

 吸血鬼が主催する屠殺現場。

 

 ……フツーはトラウマものだぜ。

 

 

   × × × × ×

 

 

「よく付き合っているよなあ……」

 

「始めにほいほいやってきたのはお前だろうが

 それもなんだったか? 吸血鬼と聞いていきなりお前の『それ』が見えますか? とか言われたときにはさすがの私だって戸惑ったさ

 実際何も見えないのに、勝手に落胆されたしな」

 

「だって吸血鬼といったら石仮面しか思い浮かばなかったし……」

 

 

 若しくはDIO様。今なら仮面片手に例のあのポーズとあの台詞を叫ぶエヴァ姉を軽く妄想できる。うむ、滑稽。

 

 

「大体なんだその石仮面? とやらは

 聞いたこともないわ」

 

「ですよねー

 いや、前世のことだからもーいいんだけどさ」

 

 

 原作知識が戻っても未だにエヴァ姉と呼び続けているのは、偏に修行という名の調教の成果。刷り込みとか、そういう分野の話かも知れんけど知らねーし興味もねー。

 成長の結果こうなったっていいじゃんか、って言う程度の話だ。

 

 あ、あと付き合っているって言うのは男女の仲じゃねえぞ。

 いや俺としては吝かでもないけど、エヴァ姉からしてみればまず間違いなく弟程度が一番いいところだろうしなぁ。高望みはしていませんよー。

 

 

「それでもまあ暇つぶしにはなったさ

 出会ってから7、8年か

 此処に封印された期間の大体半分をお前で気休めになったことには感謝しているよ」

 

 

 原作からして十五年だっけ?

 そう考えると確かに半数だわ。高畑先生と同級生って言う設定は俺と出会う前の話なのだろうか。

 

 まあそれはともかく。

 ……その言い分はどーよ?

 お前『で』ってなにさ、『で』って。確実におもちゃ扱いじゃね?

 

 ちょっとむかついたから意趣返ししてやろう。

 

 

「……なんだよ、その胡乱な目は」

 

「……クールキャラを装っているけど間違いなくエヴァ姉はツンデレだと思う

 そこでもっと顔を赤らめてドモって見せれば完璧

 テイクツー、いってみよーか」

 

「縊ってやろーか」

 

「ゴメンナサイ」

 

 

 即土下座。

 意趣も返せないというのか……っ!

 

 

   × × × × ×

 

 

 この世界の魔法は多分だけど6つくらいの属性に分けられる。

 多分、火・光・雷・氷・闇・毒の6つ。

 アーウェルンクスシリーズは地とか水とか言っていた気もするけど、実際使っていたのは石化や氷。石化は毒に順ずるし、別口で見かけた木々を操る魔法使いは血統に属するものに見えた。どっちかというと魔法というよりは超能力とかに近い代物なんだったんじゃないかなと思う。

 

 で、本来人間には属性はなく、魔法を使うことによってその属性へと純化されてゆくものなのだろう。要は慣れ。

 俺もやっているうちに気がついたら一本に絞っていそうなので、気をつけて全属性を使えるようにしている。

 今のところ戦う予定なんて皆無だけど。

 

 

「で、どんな感じだ?」

 

「割と上々。障壁からの魔力転用に魔法とスタンドの複合もいい具合だね」

 

「相変わらず器用なやつだ」

 

「それを集中してやってんだもんよ、7年で正常に作動できないとかなったら本格的に才能ないでしょ」

 

 

 正直ゆえきちとかの本来魔法の才能がなさそうに見えた一般人が、魔法教師(見習い)に修士してそれなりの技術を得た描写を見たときには、さすが漫画、って思ったけど。

まあゆえきちはそのすぐ後にアリアドネに留学していた気もしたけど、イギリスに行くまでにそこそこの修行を受けていたじゃんよ。アーティファクト持っていたとはいえ、あのレベルの上がりようは現実的に考察できるものなのかね。とも思う。

 

 

「そうそう、そう言えば今年の三学期になんか私を封印したやつの息子がやってくるとかいう話だ」

 

「へー

 ………………ん? なんでそれを俺に言うの?」

 

「これは私の勘だがな

 お前はそいつに関わることになりそうな気がする」

 

「え、やめてよエヴァ姉の勘とか

 下手な占いより当たるかもしれないじゃん」

 

「くくっ、信用されているなぁ?」

 

「そりゃそーだ

 俺にとってはエヴァ姉ってだけである意味絶対だし」

 

「くははっ」

 

 

 なにが面白いのか。

 ひとしきり笑った後、エヴァ姉はいやらしい笑み(彼女曰く悪らしい含み笑い)を浮かべつつ、

 

 

「まあ冗談さ

 正確に言うとソイツを使って私にかけられた封印を解いてみようかと思っていてな?」

 

「ああ、それの手伝いしろってこと?」

 

「そうだ

 もっとも、お前は保険程度の手伝いでいい

 ソイツの出来を見極めるのがまず第一だしな」

 

 

 なにやら色々と画策している様子である。

 つうかソイツってネギだよね? 英雄の息子だよね? エヴァ姉の熱の入りようが微妙に淡白に聞こえるわー。封印とかもあんまりどうでもよさげな。

 

 

「封印をなにが何でも解くぜーって感じじゃないね? なんかできればやってみようか的な?」

 

「まぁな

 ……ま、私にも色々思うところがあるんだよ

 成長したって程度のハナシさ」

 

 

 む。微妙に原作から乖離しているような気が。

 

 

「深く聞いてもいいハナシ?」

 

「そうだな……

 お前が模擬戦で私に一本取れれば答えてやろう」

 

 

 しまった。ヤブヘビだったか。

 

 

   × × × × ×

 

 

「リク・ラック・ララック・ライラック!

 きたれ えいえんのやみ とこしえのひょうが!」

 

 

 無理無理無理無理無理ぃっ!

 なんなのこの吸血鬼! 可愛い顔して極大魔法ばっかり使うし! 別荘で魔力が十分に使えるからって張り切りすぎじゃねーの!?

 

 

「どうしたっ!? スタンドとやらを使ってもかまわんのだぞっ!」

 

「俺のスタンドが攻撃できないって知ってて言いやがってっ!

 つーかこれ模擬戦だよなっ!? こっちのターンとかないわけ!?」

 

「ずっと私のターンだっ!」

 

「鬼ぃぃぃっ!」

 

 

 いやほんとに鬼ですこの幼女。

 

 

「防いで見せろっ! 氷神の戦槌!」

 

 

 やってやんよー!

 

 

「インストール・ドット!」

 

 

 スタンド使うときは叫ぶのが必須。たとえ見えなくても様式美は絶対です。

 俺のスタンドは真っ黒な姿で、悪魔みたいなカジュアルスーツを纏ったカラス天狗のようなやつ。名前は『インストール・ドット』、移動速度はスタプラ並みで移動範囲・効果範囲は1m程度。ただし、攻撃力はゼロ。その代わり特殊な性質を持っている。

 

 

「『熱』!『暑』!『細』!『解』!」

 

 

 それは『文字入力』。対象に一文字ずつ書き込むことによってその性質を撃ち込める、という概念制御のスタンド。

 ただし、何も考えずに攻撃すれば『攻撃≪Attack≫』という言葉が対象に撃ち込まれて襲いかかられたことがある。このことから正確には感情とか意思とか、曖昧な精神を反映させるのが本質なんじゃないかと思う。

 だからこの7年で『文字』しかも『漢字』という比較的なじみのある言語で制御できるようにまで、必死で修行したのだ。

 

 そのお陰でご覧のとおり。

 エヴァ姉の放ってきた巨大な氷の塊は、俺の撃ち込んだ文字を浮かび上がらせて『細』切れになって『解』けていった。多分触ってみれば『熱』く『暑』くなっているのだと思う。

 

 

「今のうちにこっちのターン! ドロゥ!」

 

 

 手札≪使える魔法≫から『腐食の汚泥≪ヴェノン・マッダー≫』を発動! インストール・ドットと掛け合わせて『凝』『縮』!

 

 

「無月」

 

 

 ちょいふざけて作った自作魔法。

 オサレな世界の最終奥義を作ってみた。

 本来ならば鉄を融解させるほどの泥の毒が放射状に広がって俺もヤヴァイ魔法が発動するはずだったところを、インストール・ドットの能力で一方向に向けられるように『凝』『縮』して振るうように放つ。巨大な影のような衝撃波がエヴァ姉を飲み込んだ。

 ちなみに放つときは静かに言う。これ鉄則。

 

 

「月牙と、一つになることだ」

 

「いや、知らんがな」

 

 

 かわされてた。ですよねー。

 

 

「お前のそれは確かにすごいのだろうけどな、振るうときの動作が大振りで初見殺しにしかならん。

 もっと汎用性に優れたものを考えろ」

 

「了解しましたー」

 

 

 しかも滔々と説教される程度にしかリアクションされなかった、という事実に心の中で泣き崩れる。

 

 

「で、これで終われると思ったか?」

 

「………………

 解散しようよ……」

 

「だが、断る」

 

 

 結局、この後一日中逃げ回ってた。

 

 




~スタンド『インストールドット』
 色々詰め込んだ結果がこれだよ。
 考えた末に、文殊とエコーズを足して2で割ったようなものになった。姿のイメージはわかりやすくいうと『足洗い屋敷~』に出てきていたトム・ポーカー。
 あまりオリジナルになっていないけど、サウンドマンのアレだってエコーズにしか見えなかったんだしこれもオリジナルでよくない? だめですか? ですよねー

~エヴァの思考は語られない
 主人公の一人称だから見えない。
 ほんとは、封印されている期間の半分を一緒に過ごしてくれた子供がだんだん大きくなってきていて弟だったものが自分を守れそうになるほど成長してきていてそんなそいつがこれからも一緒にいてくれそうなくらいに気安くて、しかも自分を封印した英雄は死んだとか風の噂で聞くしその息子が来ることから自分ははじめっから相手にされていなかったことも自覚できるしこのままここにいるのもいいかもしれないとか日和ったことを考え出した闇の福音、けどそんなことを正直に言葉にできるわけがないツンデレ福音さん。
 とか妄想したけどほんとかどうかはオフレコで一つ



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『ハーレム王に、俺はなるっ!』

 

「というわけで、是非ともお願いしたいんだけどねぇ」

 

「えぇ……

 あの、こんなこと言いたくないんですけど……」

 

「ん? なんだい?」

 

「頭大丈夫ですか?」

 

「……言いたくない割にははっきり言うねぇ」

 

 

 珍しく高畑先生に呼び止められたと思ったら、「三学期から麻帆良女子中で授業を受けてほしい」と言われた。

 な、なにをいってるのかわからねえと思うが、俺自身なにを言われたのかもわからねえ……。魔法だとか認識阻害だとかそういうちゃちな話じゃもっとねぇ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

 

 

「っていうか、なんでそんな話になったんですか?」

 

「うん。

 共学化の一環としてね、男子校から何人か移動して、徐々に生徒たちに慣れさせようと思うんだけど、やっぱり気心の知れた相手のほうがいいだろう?

 烏丸君なら明日菜君や和泉君に明石君、エヴァとも仲がいいし、下手な男子を入れるよりは軋轢もないかなと思ったんだよ」

 

「それはたまに会うからですよ。部活程度ならそりゃあカッコはつけますけど、毎日となると流石に気疲れしますよ」

 

「明日菜君とは毎朝会っているじゃないか」

 

「いや、俺がじゃなくて相手がですよ」

 

 

 駄目だこのオッサン。女子の心情酌んでやれよ。本当に女子中の教師かよ。

 

 

「うん、そう考えられるキミならなおさら適任だと思うなぁ」

 

「それに気づけない先生は教師としてどうかと思うなぁ」

 

「ハハハ、これは手厳しいね」

 

 

 おいそれはこのかパパの台詞だろ。あんたが取るなよ。というか厭味言ったんだから笑って流すな。

 

 

「とにかく、そういう話は断りますんで。

 学園長かエヴァ姉にでも話し通してくださいよ」

 

「ああ、二人にはもう言ってあるんだ。

 というか、学園長のほうからこの話は出たものでね」

 

「なんでだ」

 

 

 つーかやっぱり学園長からの差し金なんかい。

 エヴァ姉にも通してあるというのはびっくりしたけど……、あ、だから前の修行のときあんなこと言ったのか。

 

 いや、でも拒否権ぐらいある、よね……?

 

 正直直接かかわりたくないんだよなぁ。

 このかとは仲いいはずだけど、せっちゃんとかがなぁ、割とキッツイ目で睨んでくるんだもんよ、一緒にいると。まぁ、こんな障壁常時展開している俺が護衛対象に近づけばそう警戒されるのもわかるけど。

 睨まれっ放しとか空気悪くすんじゃん。俺もうやだよ、そういうの。

 

 あと大概の魔法生徒が結構警戒してるみたいなんだよな。仕方ないとは思うけど。

 常時展開の障壁に加えて、エヴァに弟子入りしてるとか、「せいぎのまほうつかい」からしてみれば正気の沙汰とは思えないのだろう。

 え、ネギ?

 それはほら、英雄の息子だから大目に見てもらえてるんだよ。

 

 というか、この話が俺に来るってことは、あのクラスは「ネギへの従者候補≪生け贄≫」ではなくて「厄介者を一つ所に集めた」が正解かもしれないな。

でなければ、ほんとにつかみ所のない俺をそんな大事な場所へと押し込める意味がないだろうし。

 

 ……まさか何も考えてなくて「とりあえず希少そうなキャラを集めようぜ」とかいう理由じゃないよな。

 

 

「で、どうかな?」

 

「あー、ちょっとは考えさせてくださいよ

 ってそういえば、この話受けたら夜の警備にも手を貸してとか言う方向へ持っていこうとかそういう魂胆があるんじゃ……」

 

「いやいや、さすがにそこまでは頼まないよ」

 

「ならいいんですけどね」

 

 

 夜間警備とか、早朝新聞配達やってる俺にはマジ拷問です。

 

 

   × × × × ×

 

 

 はっ、ひらめいた!

 入場料を取って図書館開放すればいいんじゃね!? 魔法の資料とか見たところで結局努力しないと身につく代物じゃないのは学問の一種としては違いないものなんだし、侵入者としていちいち気を張っているよりもその方が儲けも出るよ!

 

 ……って、なんで俺はこんなこと考えてるんだろ。

 

 とりあえず、目的の奴も見つけたし、

 

 

「かーきざーきくーん、あーそーぼー」

 

「誰が『くん』だ小僧」

 

「誰が小僧だフォラァ」

 

「その切り返しは理不尽だよ」

 

 

 そんな邂逅ですけど互いに笑顔。仲は悪くないよー、トモダチトモダチ。

 

 

「でさぁミサミサ、俺なんか高畑さんに『僕と契約して女子中学生になってよ!』って言われたんだけど、契約したほうがいいと思う?」

 

「ちょ、なんで乗り気なのさww

 あとミサミサ言うなし」

 

「ゴメン、カッキー」

 

「カッキーもやめぇ」

 

 

 冗談みたいなほんとのハナシを繰り返しつつ、合い席で座る。

 行きつけの喫茶店なので多分待ち合わせ。相手が来るまで相談相手になってもらおうじゃないか。

 ちなみにこの柿崎美砂とは小学校時の同級生。夕日の河原でクロスカウンターを決めた熱い仲である。嘘だけど。

 

 

「ちなみにお前らのクラスに編入とかって言う話

 どうすればいいかね」

 

「へー、そらっちほんとに女の子になるの?

 いーじゃんいーじゃん、きちゃいなよー」

 

「信じてなくね?」

 

「……ん? マジなの?」

 

「マジだって」

 

 

 高畑先生の話じゃあオフレコっぽいけれど、仲のいい相手って前提条件を俺に話してるんだし。これぐらいのリークは見逃して欲しいね。

 朝倉とかに言ったら一瞬で学園中を駆け巡りそうな気はするから言わないけど。っていうか今のところ面識ないけど。

 

 

「ふーん。そっかー。ふーん……

 

 いんじゃね?」

 

「考えた割りに答え軽いな」

 

「乗り気じゃないの?」

 

「乗り気じゃあ、ない。ここはマジで。

 反発とかけっこうありそうな気もするし、そういうところに無理に横槍入れたら学級崩壊すんのが目に見えてる気もするし」

 

「いいんちょとかならけっこう簡単に受け入れてくれるんじゃないの?」

 

「雪広とかがその筆頭だろうよ、ショタならともかく同年代とか奴得とは思えない」

 

「それいいんちょに言っとくね」

 

「やめたげてよぉ!」

 

 

 雪広流柔術はいやぁ。

 投げ飛ばされるのはもっといやぁ。

 

 

「あたしはへーきだとおもうけどなー

 あ、本屋ちゃんとかは無理か」

 

「ホラ、男子が苦手なやつとかだっているんじゃん」

 

「よくわかったねー」

 

「このノリなら読むのは容易い

 五秒も要らぬわ」

 

「何で五秒?

 まあいいけどさ

 

 そらっちは前に言ってたじゃん、『ハーレム王に俺はなるっ』って

 なっちゃいなよ、ユーやっちゃいなYO」

 

「言ってないからな、マジで

 そうやって人の発言を捏造すんのはやめてくれませんかね、マジで」

 

 

 そこはほんと頼むよ柿崎さん。同級生だったのはわずかな間だったはずなのに、あーたの捏造発言のお陰でいらん武勇伝がそこかしこにど派手な看板で乱立してんだからね?

 無駄に伝説の男、とか言われて、たまに声かけられることもけっこう迷惑してるのよ。いまどき珍しいリーゼントとかさぁ。

 

 ……余談だけど、あのリーゼントが実はスタプラとかクレイジーダイヤモンドとかを持っていたら本気でこの世界が嫌になってるな。俺。

 麻帆良武道会では要注意といこう。

 

 

「あっれー?

 ミサミサー、そのひとかれしー?」

 

 

 と、多分待ち合わせの相手が現れた。

 椎名桜子、か? 初対面だから知らんけど。

 

 

「違うよ、こいつはトモダチ

 夕日の河原でクロスカウンターを決めた間柄って程度だね」

 

「ああ、熱いバトルだったぜ」

 

「なにしてるの二人!? ダメだよケンカはー!」

 

 

 喧嘩じゃない。決闘≪デュエル≫だ。

 




~デュエルスタンバイ!
 ネタだと思わせて実はマジ、と思わせたネタ。作中でばらさないとまったくもって判別できない。真相はヤミノナカ……

~幼馴染なの?柿崎君!
 あとそらの知り合いは2-A(3-A)にはもう2、3人って程度。
 それ以外にスタンド使いを潜ませるネタを画策中。
 いつから使い手が主人公だけだと錯覚していた……?


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新任教師は子供先生!? って、原作では言ってた第一章
『【速報】一月の早朝に幼なじみが屋外でパンツ一丁になっている件について』


 今更メタなハナシをするようで申し訳ないのだが、原作の第一話なんてもう覚えていない。それなりに濃い十四年を生きてきたわけだし、原作知識が復活したのがついこの間だといったからってそれで十全に詳細をこと細かく覚えているほど記憶力はない。精々が大まかな『正史』の流れを把握しているって程度の情報だ。

 その『記憶』だって、前世で大量の二次創作を読み耽っていたことから補填された記憶だから、公式設定とはやや齟齬が生じているのかもしれないし。

 

 なにが言いたいのかというと、

 

 ネギがやってきたのって二月~三月じゃなかったっけ?

 

 

   × × × × ×

 

 

「やあ、それじゃあ行こうか」

 

「うす

 つーか今更ですけど、男子って俺一人なんですか?」

 

「まあね

 テストケースだって言ったろ? まずは三学期の間に顔を知り合う程度、それから男子への配慮を彼女ら自身にも自然と身につかせてあげたいというのが教師側の意見でね」

 

 

 ああ、要するに俺は当て馬か。

 まあどっちが名目かは知らんけど、「せいぎのまほうつかい」としてはやっぱり目的は「ネギ」の成長を促すほうなのかも知れん。

 

 別段気にするつもりもないけど、良いように使われるって言うのはやっぱり面白くない、よな。

 

 

「ところで、エヴァ姉から英雄の息子がこの学園に来ると聞いてますけど、それと何か関係が?」

 

「あれ、それも聞いていたのかい?

 まったく、エヴァは口が軽いなぁ」

 

 

 ハハハと笑うダンディ髭。エヴァ姉もあんたには言われたくはないだろうよ。

 

 ……今更だけど、なんで明日菜はこのおっさんのことが好きなんだろう……。

 やっぱりファザコン程度の感情なのかな。結論出すのは早いかも知れんけど。

 

 

「そうだね、2-Aで三学期の間に教師としてやってもらうことになるんだけど、烏丸君にはそれもフォローして欲しいっていうのもあるかな?」

 

「ふぇ?」

 

 

 っと、変な声でた。俺は萌えキャラかっ。

 

 

「えっと、失礼を承知で聞きますけども

 あんた正気ですか」

 

「その言い回しは前にも聞いたね……

 まあ、そう聞き返されるのも仕方ないかもしれないね、他の魔法先生方はキミの事を良く思っていないみたいだし」

 

 

 それを本人に言ってしまっていいのか。知ってるけどさ。

 

 

「でもね、僕や学園長個人としては、キミの事をそれなりに買っているんだよ

 彼は……、言いようが悪いかもしれないけど田舎育ちだからね、結構世間の常識を知らない部分があると思うんだ」

 

「魔法使いとして育てられていたらそうなるでしょうね。いくつなのかは知りませんけど」

 

「その点、烏丸君なら正確な対応でそれとないフォローをできるんじゃないかと思ってね

 あと、もしも危ないことがあってもキミならその障壁があるだろ? 英雄を凌ぐ魔力障壁だなんていう神殿の防御に匹敵する代物を抱えているキミなら何とかできるんじゃないかと」

 

「おいこらおっさん

 それは盾か、盾になれってことなのか」

 

「ハハハ」

 

 

 目をそらすな。

 

 

「まあ冗談はともかく、」

「本当に冗談であって欲しいんですけどね」

「冗談だよ?

 彼は将来を有望視されているとはいえまだまだ若い、だからこそ失敗するのも糧になるのだけれど、どうにも本国がきな臭くてね

 その『失敗』を快く思っていないみたいなんだよ

 それがこっちとしては参ってしまってね」

 

「随分と明け透けに事情話してますけど……

 俺がそれを知って何かに利用する、とか考えないんですか?」

 

「正式な魔法関係者が身近にいない烏丸君だから言える話さ

 残念だけど、僕にはキミみたいな相手がもういないんだよね……」

 

「おっさんの愚痴相手には進んでなりたくないっすね

 あとその言い方だと俺に友達がいないみたいに聞こえるのでやめて欲しいっす」

 

「キミこそ明け透けだねえ

 ま、そういうところが僕としては話しやすいんだけど」

 

 

 裏目った……。

 切る牌を間違えたか……っ。

 

 

「大きく失敗すれば僕らが『対処』に回るのだろうけれど、そうなるってことはクラスにもそれなりの『処方』をすることになるかもしれない

 僕ら個人としてはそれをなるべく抑えたいんだ」

 

「倫理的なハナシっすか、わからなくもないのでそれは『理解した』とは受け取っておきますよ」

 

 

 いい加減聞きたくもないので話を切る。

 こんなグダグダを朝一でやりたくはないよ。せっかくほんとの朝一は明日菜のバカっぷりで癒されてきたのに、タバコと硝煙の香りがするおっさんの相手でその空気を掻き消されるのはもう勘弁。

 第一、聞きたい話はそっちじゃない。

 

 

「それで、その英雄の息子、ずいぶんと若い若いと言ってますけど

 大体いくつなんですか?」

 

 

 知ってるけどさ。

 もしも知識と齟齬が生じていたら目も当てられないかもしれないし。

 

 

「ああ、言ってなかったっけ?

 ――十歳だよ」

 

「魔法使いは本当に馬鹿なのか?」

 

 

 知ってたけどさ。

 

 

   × × × × ×

 

 

『もう一回言ってみなさいよこのガキーーー!?』

『はわわーーー!!?』

 

 

 幼なじみが小学生ぐらいの男の子をネックハンギングツリーで〆てる件について……。

 すごく、近寄りがたいです……。

 

 

「うわぁ……

 知り合いが小学生をカツアゲしてるぅ……」

 

「!? そ、そら!?

 何でここにいるのよ!?

 っていうかこれはちが……、ヒクなーーー!!」

 

「あー、そらくんやー

 ひさしぶりやなー、今日はどーしたん?」

 

 

 思わず幼なじみから知り合いへと降格してしまう光景を尻目に、久しぶりに顔を合わすこのかへと向き直す。

 

 

「ん、久しぶりこのか

 今日は学園長に呼ばれてきました」

 

「そうなんかー

 ……ん? 高畑先生と?」

 

「そっちは付き添いっつうか、そっちにつれてこられたって言うか」

 

「聞きなさいよ!!

 って高畑先生!?」

「ああ! た、タカミチー! たすけてー!」

 

 

 明日菜と一緒のタイミングで悲鳴を上げている、大荷物を背負った小学生くらいの男の子。多分ネギ。

 高畑先生はそれを若干のんきな目で眺めながらハハハと笑う。いや、笑っていていい雰囲気には見えねえですよ? 明日菜のツインテが怒髪のように天を衝いているし。

 

 

「明日菜君、放してあげてくれるかな? 彼は大事なお客様でね、今のところは」

 

 

 まだオフレコにしておくつもりなのか、若干含みのあるような言い方で明日菜にそう告げる。

 いいけどさー、その言い方だと「後でどんな風にしてもかまわない」っていう感じにも聞こえるよな。ああほら、明日菜が思い至ったような悪い笑みを浮かべてるし……。

 

 

「ククク……、『今のところは』ってことは後でオシオキしてやれば良い訳ね……、散々バカにした罪をその血で贖うといいわ……」

 

「オイ、暗黒面に堕ちてるぞ

 マジで戻って来い」

 

 

 そんな俺らを余所に再会の挨拶で盛り上がっているおっさんと子供。

 会話の端々に迎えに行くはずだったけど、とか、都合がつかなかったから二人を向かわせた、とか聞こえた。おい、まさかとは思うけど俺をダシにしてないか、あのおっさん。

 

 

「明日菜~、戻ってこんと話が進まへんよ~?」

 

「ハッ

 ……あれ、あのガキはどこ? 確かに磔刑にしたはず……」

 

「どういうオシオキしたんだよ、お前の想像が怖すぎるわ」

 

「あ、そら

 そういえばあんたはなんでここにいるの? ここって女子校よ?」

 

「ハナシがすすまねえから後で言うよ

 それより、高畑先生ウィズお子様が何か言いたいらしいぞ」

 

 

 泣き止んだのか、ちょっとだけきりっと心を引き締めた雰囲気を見せるネギ少年(多分)。その横に付き添っているおっさんは授業参観付き添いの親父のようにも見える。心なしか奥さんに逃げられたようにも見える。不思議。

 

 

「手数をかけたね、明日菜君、このか君」

 

「いっ、いえ! でも、高畑先生が言っていた今日来るはずの『先生』に会えなかったんですけど……」

 

「いやいや、会えているんだよ

 ほら、ネギ君」

 

 

 促されて前へと出てくる、幼いながらもイケメンの空気を醸し出す少年。

 ん、んん? なんか忘れているような……?

 

 

「え、えっと、あのボクは……

 ふ、ふぇ……、」

 

 

 あ、少年の魔力が昂ってる?

 これって暴走の兆候じゃあ……。

 

 ああ、武装解除、か。

 

 

「フェックション!!」

 

 

 その瞬間、正面にいた明日菜の衣服がパンツ一枚を残し、無残にも花びらと化して散った。

 

 誰も、何も言えない。

 

 気まずいなんて言葉ではとても言い表せない沈黙がその場を支配し、その時間は実質たったの数秒だったはずなのに、まるで何時間にも感じるほどだった。

 

 そんな中、俺がまず取った行動は、

 

 

「チェキー」

 

 

 とりあえず、ケータイで写メっておいた。

 

 

「と、撮るなバカーーー!!!?」

 

「うんゴメン。寒くね?」

 

「もっとほかに言うことがあるでしょうが!?」

 

「ああ、そうだよな

 女の子は腹を冷やすのも問題だし、毛糸のパンツなんて子供みたいな下着でも仕方な――」

「それ以上言うと本気で殺す!!!」

 

 

 言い合いながらも自分のコートを手渡す。

 まだ俺が冬服を使っていて助かったと思え。寒空の下パンいちはどうかとも思うし。

 俺は寒いがな。

 

 そしてそのパンいちにした張本人の少年はというと、謝るでもなく目をそらすでもなく、あわわはわわと慌てるばかりで役立たずであった。それでも英国紳士の国から来たのか。少年よ、もっと紳士たれ。

 

 

「そらくんの言うのは変態紳士とちゃう?」

 

「違うよ

 変態じゃないよ

 仮に変態といわれても変態という名の紳士だよ」

 

「それはどっちにしても変態やな

 とりあえず、写メは消しておこうな?」

 

「………………うぃっす」

 

 

 後ろ手に構えられていたトンカチが怖かったので、言う通りにしました。

 

 




~盾になれ
 烏丸シールドは絶対じゃないっす。ふぇぇ・・・。

~毛糸・くま・ぱんいち
 改めて思い返すとひでぇ原作。明日菜が幼すぎる。
 この空気が恒常化する女子高って、最早異界じゃね?


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『俺は魔窟に足を踏み入れたようだ』





 

「先生っ!? このガキがーーーっ!?」

 

 

 実に無礼な物言いを隠そうともせず、明日菜の絶叫が学園長室より木霊した。多分、響いた。俺もその場にいるから外にまで聞こえたかどうかは知らんけど。

 

 

「きょ、今日からこの学園でせんせいをすることになりました、ネギ=スプリングフィールドです」

 

「と、いうことでの、ネギ君には2-Aを担任、及び英語を教えてもらうことになるでの

 とりあえず三学期の間を、のう

 問題になるのは住居なんじゃが、明日菜君とこのかの部屋でネギ君を預かってはくれんかのぉ?」

 

 

 犬猫の類じゃねえんですから。というか、結構ハナシを端折ったように聞こえたのは気のせいか?

 

 

「いっ、イヤですよ! なんで私たちがそんな見ず知らずのガキをいきなり預からなくっちゃいけないんですか!?」

 

「えー? うちは別に問題ないと思うけどなー?

 ネギ君かわええんやし、問題なさそうやん?」

 

「このかは黙ってて!」

 

 

 そんな原作でもあったようなやり取りを見つつ、このままだと俺が引き取らされるような誰得な状況を作らされそう、とちょっと筋違いな感想に思いを馳せていた。

 

 

   × × × × ×

 

 

 結局のところ住居問題は原作通りに決定しあっという間にハナシは進み、気づけばアスコノの二人は一足早くに教室へ。ようやく俺が口を挟めそうな状況へと進んでいた。

 

 

「さて、それではネギ君。さっそくじゃが2-Aに行く前に紹介しておきたい子がおるのじゃよ」

 

「へっ、あ、はい?」

 

 

 すすっていた茶をテーブルに置き、どもりながらも話を聞こうという姿勢になりつつあるネギ君の意識に入るように立ち上がる。

 期待通りに、そばに寄ると彼はこちらを見上げて不思議そうな表情を作った。

 そんな彼の心情には構わずに、こちらはできる限りに爽やかそーな笑顔を作って挨拶。

 

 

「烏丸そら、だ

 キミと同じように三学期から2-Aで授業を受けることになった、編入生という代物かな?

 よろしくおねがいしたいところだね」

 

「あっ、ど、どうも、ネギです」

 

「うん、知ってる

 ネギ先生、と呼んだほうがいいかな? それともネギ君?」

 

「ええっと……、その、どちらでも」

 

 

 ファーストコンタクトは滞りなく終了。

 正直、中身が転生者でキラークイーンのスタンドを使う、とかいう最悪を妄想しかけたけれど、対応から鑑みるにその心配はなさそうである。握手の際にスタンドを出してジョジョ立ちさせてみたけど無反応だったし。あとネギ君が使うのだったらキラークイーンよりはレッドホッドチリペッパーかも。

 それよりもネギ君は俺の障壁に気が行っているらしい。無理もないかと。

 

 

「ああ、これは生まれつきのものだから、あんまり気にしなくていいよ」

 

「き、気にするなといわれましても……

 ……神殿クラスの障壁を生まれつきって……?」

 

「まあ、あれだよ

 世の中こういうこともあるんだよ」

 

 

 納得できない? 納得しろ。

 

 

「ほっほ、早くも打ち解けたようじゃのう

 それでは、後のことはしずな君に聞くと良いじゃろう」

 

 

 そんな風に見た目明らかに人外な翁≪学園長≫の言葉に、前へと出てくる巨乳かつスタイルの良い美人女教師。源しずな、だったか。

 原作知識を総動員すれば、高畑先生と若干いい仲になっていたような描写があった気もするけれど、ふと疑問に思う。

 

 

「そういえば、しずな先生って何の先生何すか?」

 

 

 学園長秘書なのか。しかし教職関連に秘書がつくとかいう話を聞いた覚えもないし。

 などとのんきなことを考えていたのだが、

 

――それは充分に問題発言であったらしい。

 

 

「なんの……うん? なんの教師、じゃったかのお……?」

 

「えーと、しずな先生は……あれ…………?」

 

「え、なにそのはんの――、

 っ!? インストールドット!」

 

 

 ガッ、と慌てて唐突に正面に現れていた『それ』を掴み取る。

 

 首をかしげている学園長や高畑先生、ネギ君なんかもこの場にはいるのだから、スタンドのことを勘付かれるというリスクは負いたくはない。かといって易々と攻撃を受けるわけには行かない。

 俺に攻撃してきたのは『スタンド』なのだから。

 

 

「あっぶねぇ! つうかなんだいきなり――っ!?」

 

 

 気づけば、全員の動きが『停止』していた。

 それぞれの胸や頭に、VHSなどにあるような『一時停止』の記号≪マーク≫が浮かんでいたのだ。

 間違いなく、攻撃したのはこのスタンド。そして、以前から仕込んでいたであろう二人はともかく、この場に今日現れたネギ君に真っ先に『攻撃』したのであろう。だから俺もコイツに反応できた。

 

 そいつは真っ黒のドレスで着飾った貴婦人みたいな姿で、俺のインストールドットに腕を止められているのに無感情な様子でそこに佇んでいた。いや、スタンドだろうから無感情無表情なのはある意味当然なのだけれども。

 

 

「どこのどちらさまだよコノヤロウ……っ!」

 

 

 俺のスタンドと似たように見た覚えのない、少なくとも『どっちの原作』にも登場した覚えのない姿。それでもって女性型となると真っ先に使い手は絞られる。

 遠隔操作型という一人立ち(?)できるスタンドも想定しかけたけれど、この強力さからしてそうは思えない。つーかこの場から去ったばかりであるあの二人を真っ先に犯人候補として考えかけてしまいそうであるので、そうは思いたくはない。

 そんな俺の希望的観測を思ってくれたわけではなかろうが、犯人はすぐに名乗り出てくれた。

 

 

「ふふ、必死で抵抗して……

 可愛いわね」

 

 

 正体不明の美人女教師兼謎のスタンド使いとして、源しずながそこにいた。

 

 

   × × × × ×

 

 

――と、いうようなやり取りがつい先ほどあったのだとさ。

 

 今は原作通り、ネギ君が2-Aの仕掛けた罠に『原作通り』に引っかかって自己紹介。タイミングを見計らって俺も中に入って自己紹介、という流れとなるべく教室の外で待機である。

 しずな先生はネギ君と一緒に中にいる。

 

 正直、先ほどのやり取りなんざ思い出したくもないので、暇にさせずにとっとと呼んで欲しいものだ。

 

 

   × × × × ×

 

「他にもいたのかよスタンド使い……っ!」

 

 

 正直いないと思っていた。しかし考えてみればスタンドが発現する条件というものが別方向の『原作』にあるのだから、その可能性を据えておかなくてはならなかったのだろう。この世界には『矢』または『遺体』があるとでもいうのだろうか。

 

 

「っつうか、俺には正直現状を理解するので手一杯なんで、攻撃やめてもらえませんか先生っ!?」

 

 

 情けないかもしれないが膂力の差が結構あるらしい。しずな先生のものと思われるそのスタンドからの腕力が、俺のスタンドを圧しているのが、スタンド越しに伝わってくる。 自分が弱いのだとは思いたくはない。男子として。

 

 

「――そうね、あなたには何の恨みもないし、正直あなた程度ならどうとでも対応できるしね」

 

「お褒めに預かりましては光栄ですよ……っ」

 

 

 ちっくしょう、俺は弱くねえぞっ!

 

 

「認識阻害が効かない、というのも厄介ね

 あなたにも私の『これ』で刷り込みを入れなくてはならなくなったみたいだし……」

 

 

 やばい。まだ狙われてる。

 

 

「いえいえいえ! 先生のお手を煩わせるなんてことはいたしませんのことよ! 正直自分なんぞ塵芥にも等しい三下でごぜえますから、あなた様に逆らう意思なんぞとてもとても!」

 

 

 情けないか? どうとでも言え。

 

 

「せんせい、そういう自分を下に見るような子は嫌いだなー?」

 

「どうすればいいんだよチックショウ!!!」

 

 

 思わず切れた。テンパリ過ぎていたんだと思う。

 

 

「まあまぁ、私としては別にどうやってでも排除する、っていうつもりもないのよ?

 ただ、貴方みたいなイレギュラーに登場されるのも困ってしまうものなのよねぇ」

 

 

 それはあれですか、二次創作的な意味合いでのイレギュラーってことですか。

 それとも言葉通りに2-Aまたはネギ君に関わる意味合いでの?

 

 

「……、正直、先生の狙いが読みきれなくって本音でお手上げっす

 まずは言葉で解決できないでしょうか……?」

 

 

 OHANASHIしようよ。

 

 

「――そうね、

 

 私の目的は特にないわ

 ただ、平穏に暮らせればいいのよ

 

 あなたたち魔法使いに脅かされることなくね」

 

 

 ………………………………

 

 はっ?

 

 

「ちょっとお待ちを

 ………………えーと、しずな先生? ひょっとして俺のこと魔法関係者だと思って攻撃しました?」

 

「エヴァンジェリンさんと懇意にしていると聞いたけど……

 それで魔法使いではない、と貴方が言えるの?」

 

 

 いや、確かに魔法も使えますけど。正直なところ魔法使いとはあんまり仲が良くないって言うか。

 というより、しずな先生って魔法関係者と違うんかい。

 

 

「あと、学園長の秘書とか特別指導員とかいう肩書きはそれなりに重宝するものなのよ

 下手なことを言って刷り込みを取り払おうというのは困るのよね」

 

 

 絶対そっちが本音だろ。就職難でもないのに贅沢な物言いをしおってからに。

 つーか使い勝手良さそうなスタンドっすね。俺もそういうやつが欲しかったなぁ。

 

 

「おーけいせんせい、俺は先生に逆らわない

 先生の生活を邪魔するつもりもないし、誰にも話す気もない。これでいいっすか?」

 

 

 そう答えると、しずな先生は満足そうに頷いて、

 

 

「――ホッ、確か特別指導員じゃったかのぉ」

 

「ええ、僕とも近い仕事だから、烏丸君も気軽に声をかけるといいよ?」

 

「あらあら、よろしくね? 烏丸君?」

 

 

――全員の動きが再開した。

 ドッ、と冷や汗が湧き出そうになったけど、なんとか押し殺して笑顔で対応。

 

 

「ええ、何かあったら、よろしくおねがいします」

 

 

 このときの自分を全力で褒めてやりたい。

 

 

   × × × × ×

 

 

「諸君、私が烏丸そらだ

 本日から諸君らと勉学を共にすることとなった男子だ

 諸君らをそれぞれ立派な淑女にするのが私の仕事だ

 私の言うことには『はい』か『イエス』で返事をしろ

 納得できないなどという泣き言は一切を許さん」

 

「なにを言い出してるんですかあなたは」

 

 

 とりあえず登場一番ボケてみた。真っ先に反応を返してくれたのが雪広、この辺りは一応の元クラスメイトなだけはある。見えないだろうけどスタンドで投げキッスを送る。

 

 

「まあそんな冗句はさておいて、

 あ、今日からクラスメイトになるって言うのは本当だから。よろー」

 

『え、えええええええ!!!?』

 

 

 大半からの当然の反応。

 反応を返さないのは……、エヴァ姉&茶々丸・柿崎の事情を知っていたもの。うっすら笑っている辺り、お二人の人の悪さが伺える。

 

 一方で静かにこちらを値踏みしているのは龍宮マナ・桜咲せつな・長瀬かえで・古菲の武道四天王と呼ばれている四人。前二人は魔法生徒でもあるし、俺のことを注意しているって感じだけど、後二人はなんか微妙にやーなフラグが立っている気もする。『実力』って言う点に集中して値踏みされているような気がするし。

 

 そんでもって、叫ばずに絶句して目を見開いているのが……、ん、んん? 超鈴音と長谷川千雨はわかるけど、大河内アキラと鳴滝姉妹の片割れ? あれ? なんで?

 超さんは恐らくだけど、歴史にないイレギュラーだから驚いている感じ? で、ちうたんは冗談みたいなことを実行した学園側に引いてるって感じだろうな。

 大河内と鳴滝ってマジでなんで? 共通点も接点もこれまでなかったのに、何に驚いてるんだ?

 




~源しずな
 本作ではラスボス的な存在。学園にとっては隠しダンジョンの裏ボスみたいな人。使用するスタンドは『ノクト・コペルニクス』と呼ばれており、攻撃した対象の時間の流れを操れる代物で、キングクリムゾンの上位置換をイメージしたスタンド。実際どうかは今後に期待。
 学園側からすれば高畑と同じ立場の教員として周りに認識されている。脳の働きをスローで再生されたところにガチの催眠術を学園長に仕掛けた、というのが本作の設定。
 公式がどうなっているのかは知らないが、原作の舞台内で正式に語られたものでもない裏設定とかがあったとしても知ったことではない。


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『クラスメイトとの友誼の図り方【激闘編】』

 

 改めてクラスを見渡してみれば全席が埋まっていて、おめーの席ねーから! と言われること必須な状況。

 イジメか。良くないよー、そーいうのー。

 

 

「で、どうすればいいか、ねぇ?」

 

「え! えっと、あの、済みませんが誰か机とイスのある場所を教えてもらえないでしょうかー?」

 

 

 すまんねネギ君。就任初日っから転校生を任されているようで。

 でも俺は悪くない。悪いのは学園長か高畑先生だ。

 え? しずな先生にエヴァ姉? ナンノハナシデショウカー?

 

 

「え、ええっと、一先ずは使用していない教室から持ってくるのがよろしいかと……」

 

「ん

 場所教えて? 自分で取りに行くからその間に先生とお話しているといいさ」

 

 

 挙手した雪広にそう言って教室を出ようとする。と、

 

 

「わたしが付き添うよ」

 

 

 そう、声を上げたのは多分、大河内アキラ。長身・スタイル良好・ポニテ、といったら多分そう。

 まあ、気になってはいたし、好都合だけどね。

 

 

「じゃあ、よろしく」

 

「うん」

 

 

 多分、コイツも何かしら聞きたいのかも知れんなぁ。スタンド、見えていたみたいだし。

 

 

   × × × × ×

 

 

「悪いね付き合ってもらっちゃってさ

 アキラ、でいいのかな?」

 

「ん

 大河内、だから」

 

「暗に名前で呼ぶなってことですね、わかります」

 

 

 馴れ馴れしかったか。

 教室を送り出されるときのBGMが彼女をからかうものばかりだったからな、俺が直接耳にしたのは名前だけだったんだしこう呼ぶのも仕方ないと思って欲しい。チャライわけじゃないのよー。

 

 

「あっ、いや、嫌だと言っているわけじゃなくって」

 

「あー、訂正しなくていいからいいから

 大河内さんね、リョーカイ」

 

 

 思わず『了解』が棒読みになってしまったのは演技じゃない。残念ながら。

 こころで泣くくらい許しておくれ。

 

 

「んで、

 わざわざ二人っきりになりたかったってことは、なんか用事があるんだよな。何?」

 

 

 出て来る時には「すわラブ臭か!?」と轟き叫んだ黒い触角の女子がいたけど、その他俺を知っているのも知らないのも合わせてあきらたんの身を案じた台詞ばかりが飛び出した中で、無理やりにでも自分を売り込んできた彼女の意志を優先。

 それはともかく知っている女子らからも信用されていないような自分がちょい情けなくも思ったり。

 

 

「………………、キミ、も、持っているんだよね」

 

「なにを?」

 

「スタンド」

 

「まーね、つかやっぱりそれかぁ」

 

 

 投げキッスが拙かったのか。

 まあ確認されたけれどもいきなり攻撃されるような相手じゃないだけ良しとしよう。具体的にはしずな先生みたいな。これ先生にはオフレコで。

 

 

「それの性能を、教えてくれる?」

 

「おいおい

 スタンドは戦うためのものだってわかってるのか? 俺は強くないからさ、自分の手札≪カード≫を晒す真似はしたくないんだけどな」

 

 

 なんか言い回しが中二っぽい。いや中二だから間違ってはいないんだけどさ。

 やだなー、漫画の主人公になった気分だよ。

 

 

「………………

 最近、女子水泳部の更衣室に覗き魔のスタンドが出現するから、確認させてもらえるかな?」

 

 

 ………………………………

 

 訂正、そんな主人公はいねーな。

 

 ………………まて、いやいやいやいや、まてまてまてまて、

 

 

「………………えーと、大河内さん? それって俺のことを覗き魔だと断定してませんでせうか?」

 

「確認したいんだ

 アレの姿までは完全に捉えられていないから見た目じゃわからないんだけれど、せめて『キミ』の活動範囲を把握しておきたい」

 

 

 いつの間にか俺のすぐ隣に立っているアキラたん。威圧感がハンパねえ。背の高い女子ってすげぇな、普通ならあるようなドキドキがこんなシチュじゃあまったく持って機能不全だよ。

 

 

「………………で、把握して、犯人だと思ったらどうするんだ?」

 

「………………キミが犯人なの?」

 

 

 いや違うよ? でもさ、無表情で見下ろされるのが結構怖くて、自白を強要されてしまいそうなのですけれど。

 というか俺としては犯人より何より自分の身が一番不安なんだよ!

 

 

「違います、だから密やかに握り締めているそのコブシを解いてください

 ほら、チカラ抜いてー、深呼吸しようねー」

 

「………………ふー……、

 ……で、教えてくれる?」

 

 

 あー、こりゃあ話さなきゃいけない流れだ。

 

 

「いいよ、話す

 その代わりに2-Aのスタンド使いが他にもいたら交流頼むよ、デンジャーゾーンに居たくはないからな」

 

 

   × × × × ×

 

 

 教室に帰ったら喧嘩が勃発していた。

 雪広VS明日菜、オッズは1.5:6でやや雪広が有利か。

 

 

「じゃあ俺は明日菜に食券2枚」

 

「おっ、烏丸くんは話せる口かー

 でも明日菜に賭けても確率悪いよ?」

 

「幼なじみとしての義務っつーか、何か俺でも考え付かないような離れ業で大逆転してくれると信じてみる

 がんばれ明日菜っ、俺のために!」

 

「なにを叫んでるのよバカ!!」

 

 

 怒られた。

 理不尽。

 

 

「あはは、烏丸くんは本命明日菜かー

 アキラちゃんとは違うの?」

 

「アレは大河内さんが優しかったってだけのハナシでしょ

 背も高いし優しいし、男子ならばほれてまうやろー」

 

「烏丸くんも?」

 

「さー、どうだろ?

 ところでお宅どちらさま?」

 

「あとで聞かせてもらうよん♪

 胴元の朝倉和美、ヨロシクね♪」

 

 

 ほほぉ、このパイナップルが噂の。

 

 って、あ。明日菜が投げられた。

 

 

「はい、いいんちょのしょーり

 配当は唯一明日菜に賭けていた烏丸くんが担当でーす」

 

「なんですと!?」

 

 

 え!? 明日菜に賭けていたの俺だけ!?

 

 

「ちょっ、俺負け金いくら払えばいいわけ!?」

 

「食券にして大体30枚相当?」

 

「しまったぁ……、手堅く雪広に賭けておけばよかったぁ……」

 

 

 悲しみに、泣き崩れる。

 

 

「まったく、帰って早々ろくでもないことに口を挟むからこうなるのですわよ」

 

「そのろくでもないことをやっていた筆頭に言われたくはねえっすよ

 つか、喧嘩の原因はなに?」

 

「何といいますか……

 そうそう、何か今日の明日菜さんちょっとおかしいですわよね。挙動不審というか、なんというか」

 

「は? 何が言いたいわけ?」

 

 

 雪広から返ってきた応えは微妙にあさっての方向性。理解が追いつかないのですが、どゆこと?

 

 

「ネギ先生に妙に突っかかっているというか……

 心当たりはありませんの?」

 

「いや、いくら付き合い長いからといって……

 それにどっちかといったら雪広のほうがツーカーじゃんかよ、お前で気づかないものが俺に気づけると?」

 

「べ、別にそこまで理解しあっているわけじゃありませんわよっ」

 

 

 この二人は喧嘩もするけど、それ以上に息も合っている。仲の良さは自称幼なじみの俺が太鼓判を押せるほど。

 色合いも似てるんだし、百合キュアでもやれば?

 

 ちなみに百合キュアというのは日曜朝八時くらいからやっている美少女戦士的なアニメ番組。茶髪と金髪の二人組みが変身して戦うヒロインアニメだ。寮の同室の奴が隠れて見てた。別に隠れんでも。

 

 

「それはそーと、机持ってきたんだけど、俺はどのへんに座ればいいかね?」

 

「わたしたちで決めておきますわ」

 

「ん?」

 

「なので、あなたは買い出しをお願いしますわね?」

 

「んん?」

 

 

 あれ、ちょっとまて。

 食券30枚分でってことか?

 

 

「あ、じゃーそれで配当チャラってことで」

 

「付き添いに明日菜さんをつけますわ」

 

 

 あれよあれよという間に再び教室を追い出される。

 いいのか、俺まだろくに授業受けてないのだけど。

 

 

   × × × × ×

 

 

 原作第一話目ってことなんだろうな。今は。

 そんなメタなことを考えつつ購買へと進む俺。ウィズ明日菜。この時点で色々とブレイクしているような気もするけれど、それともこれで順当に物語の道筋をなぞっているとでもいうのだろうか。

 道行く先でネギ君と本屋ちゃんの邂逅を目の当たりにでもするのか? つーか本屋ちゃんの本名を思い出せない。のど、か……? みや、もと?

 障壁のお陰で恐らくは心を覗かれることはないのだろうけれど、とりあえず最低限にはクラスとの仲を良好にしておくことも必要なのだろうなぁ。

 

 

「つーか、買い出しって何を買っていけばいいわけ?」

 

「んー、お菓子とか、かなぁ」

 

「食券30枚分も? 言っとくけど相当だぞ」

 

 

 ついてきている明日菜も何処か上の空な気もする。

 恐らくはネギ君の挙動にでも疑問を持ってるんだろうなー。雪広にはわからない、とは一般的な一般人としての感性で答えたけれど。

 考えるまでもなく、認識阻害が効かない状況では少年教師というのは普通に異常だ。特に明日菜の場合は担任を外されかけている高畑先生のことも相俟ってそこに極端に注視しちまう。更に魔力無効化体質だっけか? そんなものを持っているって事は注視したそれを『対象』として発動するって可能性もあるよな。

 魔法使い、わざとやっているわけじゃないよな。特に学園長とか。

 

 今は特別関係ないけれど、長谷川さんちの千雨たんとかも苦労してるんだろうなー。

 

 

「んで、

 お前はなーんでネギ君に絡むわけ?」

 

「う゛……、

 だ、だって変に思わないの? 十歳のガキが先生とかってっ」

 

「まぁ、変だけどな」

 

「でしょ!?」

 

「いくら出来のいいお子様だからって、年下に教えを請うくらいバカにされてるって思うのも無理はないわな」

 

「でしょでしょ!?」

 

「でもさ、あんまいじめてやるなよ」

 

「え……」

 

 

 裏切られた、って顔をしている。

 でも、言っておくべきだと思うので、言う。

 

 

「お前も言ったようにさ、ネギ君は十歳の子供だよ

 その歳で極東の島国にまでやってきているのは凄ぇ大変だと思う、高畑先生と知り合いとか言ってたけど、親御さんが一緒に来ていない時点で、親御さんが何をしているのかが把握できない時点で、ろくでもない事情が絡んでいるって見て間違いないよな

 それってさ、俺らと似てね?」

 

「あ……」

 

 

 気づいたね。

 だからコイツとの付き合いは止めらんねぇ。

 バカだけど、色々と自覚できる奴だからな、バカだけど。

 

 

「それに変で言えば俺の待遇も変だしな

 女子の群れに男子を一人だけ放り込むとか、異文化交流馬鹿にしてんのかっていうハナシだし」

 

「あ、アハハ、そーね」

 

 

 だから、敢えて続きを話さずに、ふざけた口調で自虐ネタに走る。それも理解できたらしい。明日菜は自然に笑い飛ばしてくれた。

 

 

「――ね、そら」

 

「ん?」

 

「ありがと

 それと、ごめんね」

 

 

 ひとしきり笑った後、そんな台詞を残して先に購買へと走る。

 なんだか顔が赤かったように見えたのは、慣れない台詞を吐いた所為だったのだろう。

 




第一話を何回小分けにしているんだ
気づけば最初の副題をまっとうにやるはずが、隅へ隅へと追いやられてゆく正ヒロイン候補
今では影も形も話の中にありません
そして徐々に『漫画の世界』へと沈み込んでゆく主人公
今回は微妙なシリアス回もどきで締められるという始末

違う……ッ
俺はもっとギャグをコメディをお色気をやりたいんだ……ッ

あと伏線ばっかり仕込む性分に若干嫌気がさしてきた
そんなんだから感想でツッコミばかり貰うんじゃないかーやだー



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『クラスメイトとの友誼の図り方【逃走編】』

 

 そういえば見事にネギ君のフォローを忘れてた。

 教室に帰ってきてからふつーに気づく。

 

 が、このかに連れられて戻ってきたらしいネギ君が2-Aでの歓迎会に感激し、明日菜にもやや乱暴に頭を撫で繰り回されて謝られたり、と色々とあって内心の問題は自然消失していったと判断。

 良かった良かった。

 

 というか、明日菜のパイ●ンフラグをぽっきりとへし折ったんだし、問題なくね?

 あれ、俺この上なくいい仕事をしたんじゃなかろうか。無自覚だったけれど。

 

 

「ね、ネギせんせー、これ、お礼の図書券です……」

 

 

 ほぉ、しっかりと本屋ちゃんを助けもしていたと。

 働き者だなーネギ君は。

 

 というかアレが本屋ちゃんか。

 実際見てみると可愛さなんぞ良くわからんね。いや、女の子はみんな可愛いですけどね?

 

 

「何を見てるんだ」

 

「あ、エヴァ姉」

 

 

 珍しいことに、エヴァ姉が歓迎会の場で話しかけてきた。というかいたんですか、あなた。

 

 

「ま、形だけでも祝ってやろうという私からの心遣いさ」

 

「――あぁ、マスターがこんなに嬉しそうに……」

 

「別に嬉しいとかそういうわけでもないわボケロボが」

 

 

 いや、あんまりしゃべんないほうがいいっすよ? ただでさえツンデレなんだから、もはやなにを言ってもそういう台詞にしか聞こえないというか。

 っつうか、茶々丸さん? あなたもどっから顔出してんですか。

 無表情で俺の背後を取っている茶々丸さんに地味ーに驚く。この娘の表情の変化はまだ掴めそうにもない。付き合いはエヴァ姉に比べるとまだ少ないからね。

 

 

「それはそうとあのボウヤ、いきなり魔法を使ったみたいだぞ? 幸いにも目撃はされなかったみたいだがな」

 

「へぇ、秘匿意識が低いのか、それともそういう方向へ誘導されたのか……

 まあ子供なんだし多目に見てやれば?」

 

 

 大方、本屋ちゃんを救ったときの例のアレでしょうよ。明日菜には魔法バレしていないのだから、問題なくない? 物語的にはブレイクどころのハナシじゃないかもしれないけれど。

 

 

「なにを暢気な。

 万が一バレれば、その傍にいたお前がボウヤと一蓮托生にされるのかも知れんのだぞ?」

 

「えー、正式な魔法生徒でもない俺にそのルールって通用するの?

 あとネギ君が教師やらなくなったら俺もここにいる意味なくなるだろうから、結構万々歳なんだけども」

 

 

 ちらりと、一緒に飲み食いしている高畑先生を眺めながらそう答える。先生には悪いけれど特別彼を擁護する必要性って俺自身にはあんまりないよね。あとその飲み食いしている代物は俺のおごりであること気づいてないだろ?

 

 

「くふっ、いい感じに『悪』だな。

 だがまあ、その必要もないことぐらいわかっているんだろ?」

 

「そりゃそーだ。

 ネギ君を簡単に手放すようなら、初めっから預かりはしないでしょ。麻帆良も、さ」

 

 

 ぐだぐだ言ってたけれど、結局はどれもこれも取り越し苦労の過剰想定。初めっから俺には直接被害もないし、構ってやる必要もない。

 俺の所属はエヴァ姉の下、って程度だと魔法関係者らは見ているのだろうから、彼にかかわること自体が鬼門であることは間違えようのない事実なのだ。

 

 だが、それでも関わることは止めれそうにないのだろうな。と思う。

 

 

「烏丸く――あ、

 お、お邪魔、かな?」

 

「ん? いーや?

 それじゃあな、2-Aにようこそ、そら」

 

 

 普段使わないような他人称で呼ばれて思わずどきりとしつつ、名前を呼んで去ってゆくエヴァ姉へと手を振って話しかけてきたお客へと向き直る。

 関わる必要性のある原因というか、勝手に俺がそう計らっているだけの対象なのだけども、和泉亜子が話しかけてきていた。

 

 

「烏丸くん、エヴァちゃんと仲良かったん?」

 

「まあねー、結構長い付き合いだよ。

 で、なんか御用っすか?」

 

 

 去ってゆくエヴァ姉を横目で見ながらの質問に正直に答えつつ、ハナシを振ってみる。普段と変わらぬ口調であるので、和泉は俺の心境も理解できていると思う。一見さんは大抵突き放したように聞こえる、と結構不評だったりする我が口調。

 

 

「あ、そや!

 なんで教えてくれなかったんっ?」

 

「おお、びっくりするかなーと思った」

 

「びっくりしたわ!」

 

 

 素直だね。

 半笑い、且つ手のひらでの裏拳ツッコミを入れられ、こうゆうくだらないやり取りに苦笑。漫才とするには台詞の構成が互いに甘いけど。

 

 そして突っ込めばとりあえず満足したのか、ころりと表情を変えて聞かれる。百面相でちょっと面白い。

 

 

「あとアキラとはどうゆう繋がりがあったん?」

 

「なんもねーよ、大河内さんが優しかったってだけさ。

 いい子だねぇあきらたん」

 

「あきらたんはやめぇな? ちょっとキモイわ」

 

「マジか」

 

 

 まさか直接キモイと言われるとは思わなかった。

 

 

「まあ、泣かせるとかいうことにならなければええけどな。

 ほんとにええ子なんだから、泣かせたら怒る」

 

「そういうのじゃないってばよ」

 

「やって、アキラから男の子にかかわろうとするのって初めて見たんやもん。

 そういうのでなかったらなんなん?」

 

 

 スタンド関連です。とは言えないけどさぁ。

 和泉さん。友人の恋愛に興味深々なのはわかるけれども、その口調って俺に対して友人以上の感情を抱いてない、って断言してるよね。

 いーけどさぁ。

 

 

「それより、和泉から見たらどーよ?」

 

「どーよて、なにが?」

 

「ネギ君。

 意外とお買い得に見えるのだけれど」

 

 

 恋愛関連のハナシということで聞いてみる。

 真顔。

 何故。

 

 

「――はぁ?」

 

「ん、折角だから聞いてみたんだけど」

 

「あっはは、ないない。

 まだお子様やねんで?」

 

「そうかー?」

 

 

 あっけらかんと笑い飛ばされたが、まあ今のところはこれでもいいか。

 徐々に互いに惹かれるように、色々と画策してみるかねぇ……。

 

 

「おーいそらっち……、ってうわ!? なにその悪い顔!?」

 

「ん? あ、いや、気にしないで。

 んで、どしたよ、ゆーな?」

 

「ああ、アキラとの関係を聞いてみようかなぁ

 ――と、思ったんだけど、何? 亜子ともそういうのだったの?」

 

 

 あれ?

 

 

「お前らで俺については交流なかったの?」

 

 

 てっきり運動部関連で俺のことぐらい情報交換していると思っていたのだが。自意識過剰か?

 

 

「え、ゆーなとも? 手広いなぁ烏丸くん」

 

「ちょ、亜子なんか勘違いしてないっ?」

 

 

 互いに知っている相手との交流を知らなかったって言うのは珍しいが、まあこのクラスのやつらが目立つから俺もそこそこ交流持てたって言うのもあるんだけれどね。といっても中学に上がってからの交流は和泉と裕奈とこのかくらいだけど。

 

 きっかけは体育倉庫で一緒に閉じ込められたというものだったのだが、何処のラブコメだよ、とツッコミを入れたくもなるtoLoveるな展開。出てくる頃には互いに名前で呼び合うような気安さを発揮したのは、偏にゆーなの社交性の高さがネックだったと思われる。よくその状況下で俺≪男子≫と親しくなれたものだ。

 それからはその一悶着を肴に笑いあったり、たまに買い物を付き合ったりすることもあるという友人関係。交遊の度合いで言うならば、現在は明日菜よりも裕奈のほうが高い気もするのだから侮れん。

 街中で元クラスメイトらに一緒にいる場面を目撃されたこともあり、さすがにそのときの視線は中々にすごかった、とだけ言っておく。

 

 ちなみにこのかとは明日菜が仲介した。街中でばったり会っての会話で、だったのだけれど、しっかりと尾行していたせっちゃんと目が合っちゃったんだよなー。あれ多分このかは気づいてなかったと思う。よく俺も斬られなかったよ。

 今更ながら、自分の綱渡りっぷりにちょっと驚愕してみたり。

 

 

「へぇ、友人なぁ?」

 

「にやにやすんなし、ほんとにただの友達だってば」

 

 

 ゆーなさーん、その台詞回しじゃあ疑ってくれと言ってるようなもんだよー?

 ヒエラルキーは和泉が上だったのか。驚愕の事実、

 

 

「失礼。貴方が烏丸そらで間違いないカ?」

 

「………………。人違いです」

 

 

 ――おいおいおいおい、なーんかいやーな相手が寄ってきてるんですけどぉ?

 

 

「いや、なに言ってるの?」

「そやでー、どしたん、くーふぇい?」

 

 

 そう、うわさのバカンフーことバカイエロー。褐色金髪中華娘に話しかけられた。

 いやな予感がして即刻戯言を吐いた俺を責めるのは止めてくれよ、友人たち。

 

 

「矢張りそうカ

 ――うわさの埼玉の漆黒! 私と勝負アル!」

 

「何じゃあそりゃあ!?」

 

 

 なんだそのダサい二つ名!?

 ちょ、吹き出すなそこの友人二人! そしてもう一つ吹き出した音が聞こえたので、バッと振り向く。

 ババッ、と目線をそらした柿崎美砂がそこにいた。

 

 おめぇかぁぁぁぁっ!?

 

 

「待て待て待て待て! 一応確認するが何者だその埼玉の漆黒って!?」

 

「その実力を誰もが捉えられないと有名アル! 中武研の猛者タチが挙って挑むも、誰一人として勝てない謎の実力者! 一見素人にしか見えないらしいとのことでアタガ、戦ってみればわかる!

 ――さぁ、勝負アル!」

 

「イヤだよ!」

 

 

 くっそう、一人歩きしていたうわさがしっかりとろくでもないところにまで届いていやがる! 柿崎、お前後で屋上だからな!

 

 

「さ、埼玉の漆黒……ブフッ」

 

「いつまでツボってんだよ和泉もよぉ!?」

 

 

 やめてよぉ! 俺の名乗ったものでもないんだからさぁ!

 あと中武研(中国武術研究会)の筋肉らから逃げ切れたのはスタンドのお陰です!

 




~埼玉の漆黒
 名付け親・柿崎美砂。単なるうわさ。なのに逃げ切っちまうからうわさが下手に真実味を帯びている。けっこうそらの自業自得もあるかも?



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『クラスメイトとの友誼の図り方【邂逅編】』

 

 こっこんなところにいられるか! 俺は帰る!

 

 そんな感じで逃げ出した2-Aを離れて大体校舎裏。バカンフーから逃げ切った俺は身を潜めつつ一休みなのであった。

 見事に死亡フラグを打ち立てているけど今更だ。スタンドがこの世界のどこにいるのかわからない以上、多分逃げ場はない。

 

 ただ、お願いだからイエローはスタンド使いではありませんように、とだけ祈る。

 

 

「……祈りは無駄かもしれないけど」

 

 

 考えてみれば俺をここに送り込んだのも神だし、何に祈ってもどうしようもないのだろうな、と軽く絶望してみたりもしちゃったり。

 

――と、そのとき、

 

 

「――いた」

 

「ん? おおあきらたん、じゃなかった、大河内」

 

「今気持ち悪い呼び方しなかった?」

 

 

 とっさに出たんだ。聞き流してくれ。

 女子に気持ち悪いといわれることの男子の辛さを女子は知らなさ過ぎて(絶叫)、

 

 

「って、なんでこの場所が?」

 

「それ、風香のスタンド」

 

「それ?」

 

 

 指で指されたところを見る。

 左腕には――、小人のようなやつらがいつの間にかまとわりついていた。

 

 

「う――おおおおおおっ!?」

 

 

 思わず向こうの『原作』張りに絶叫する。

 その数は十数匹、セックス・ピストルズ、いやハーベストみたいな複数型か? 姿は機械の歯車が重なり合って人型を形作っている感じだけれど。

 つーか、まったく気づかなかった。大丈夫か俺。

 

 

「名前は『ベイビィ・ユニオン』、対象に隠れて内側から直すスタンドだって聞いたよ」

 

「そ、そうなのか」

 

 

 隠密性高っけえ。密着しているのに気づけないなんて相当だぞ。

 つーか、ふーかって鳴滝風香? なんで双子の片割れのスタンドだけがこの場に。

 

 

「わたしが知ってるのは風香だけ。

 あとは2-Aにはいないと思うけど」

 

「――マジ?」

 

 

 勝った! 第三部完ッ!!

 

 いやいや、まだ始まってない。落ち着け俺。

 イエローがスタンド使いじゃないって言うのは確かに朗報だけれどね。

 

 

「で、これがわたしのスタンド」

 

 

 そう言って見せるのは、全体的に青い女性型。表面は壁画のように塗りたくられている姿? えーと、モザイクカラーっていうやつか?

 

 

「名前は『モザイク・ブルー』」

 

「まんまだな」

 

「性能はよく知らないけれど」

 

「えー」

 

 

 人に聞いておいてこの女は。

 

 

「だ、だってそうそう使うこともないし」

 

「ああ、まあそうだけどね」

 

 

 考えてみれば当然かもしれない。

 そもそも原作でも魔法関係者でもなかった二人が、こういった力を有したところで使い道なんぞあるはずもないし、おそらくはこの場でもその可能性が高い。高畑先生も龍宮とかせっちゃんとか以外の魔法生徒は教えてくれなかったし、そもそもしずな先生がああやって魔法関係者から隠れ住んでいる時点で、スタンド使いがその身を魔法関係者に晒しているとはまったくもって思えない。

 

 まあそんな事情はどうでもいいのだ。

 解決しなければいけないこちらの事情は覗き魔。俺のこの先の学生生活が関わる死活問題でもある。もし解決できないとすれば、どういう飛び火がこちらに来るものかわかったものでもないし。

 

 

「つうか、この場に鳴滝姉? がいないってことはけっこう広範囲かつ遠距離に使えるスタンドってことだよな?

 俺、いらなくね?」

 

 

 改めて、思う。

 しかも俺のスタンドは使い勝手がかなり悪い。近接戦型だし、特殊能力の効果範囲は近ければ半永久的に効果を発揮できるけれど、離れればその効力が消えるし。多分十メートルも離れれば、放った『無月』すら霧散する。

 

 あれ、俺本気でいらない子なんじゃなかろうか……。

 

 

「でも、ベイビィ・ユニオンはそもそも対象に引っ付いて持続するスタンドみたいだから。

 あと、モザイク・ブルーに試してみたんだけれどスタンドにはくっつけないみたい」

 

「ああ、そうなると持ち主を追いかけることもできないってわけか」

 

 

 どっちかというと寄生型ってことね。なるほど。

 

 

「例のスタンドは写真とか撮る様子もなかったし、証拠で犯人を挙げるにはちょっと難しいし。

 正直犯人を『見て』いるのが私だけだから、スタンド使いにしか関係しない事件なんて、私たちだけじゃ解決できそうもないんだ」

 

 

 意見が欲しい、か。

 まあ三人寄れば文殊の知恵とも言うしね。

 

 つーか、平和だ。

 もう一方の『原作』にあったような殺伐としたり世界の命運をかけたり、人の生き死にが関わっていたり、なんて事態はかけらも見当たらない。

 ま、それだけでも安心したよ。

 俺のような一般人はそんな事件とは無関係に生きていきたいものだしな。この程度の事件でそれらが回避できるというなら、いくらでも手を貸そうじゃないか。

 

 

   × × × × ×

 

 

 そんな二人(二人?)との邂逅を終えて、現在はエヴァ姉のログハウスへと向かっている状況である。

 

 OHANASHIはつつがなく終了し、適当な食料でも購入してからいつもの修行に向かおうという魂胆なのである。

 

 バカイエローとのゴタゴタの所為で、結局俺は宴会場のつまみをかけらも腹に入れてないからな。自分の金で買ったものなのに、どういうことなんだよ。

 

 

「――ん?」

 

 

 ログハウスへと向かうつもりのはずなのだが、現在コンビニ前。単に森に入る前の町並み、というだけの話だから、間違ってはいない。というかその森もこの町からは結構遠いし。

 それはともかく、そのコンビニ前に見た覚えのある姿を発見。えーと、あれはー、

 

 

「――ああ、2-Aの一番前にいた娘」

 

「えっ!?」

 

 

 何故か、至極驚いた顔でこちらを見上げ、目がパッチリと合ってしまった。

 

 

   × × × × ×

 

 

「――で、どういう状況なんだ

 それは」

 

「いやー、俺にもさっぱりで」

 

 

 そして現在エヴァ姉の城。別荘へとやってきたわけなのであるけれど、空気が寒い。つーか痛い。

 中位から上位の魔法使いとなると使用する属性が偏ってくる。これは『純化』というらしく、その属性をより強力に行使することへと繋がる性質らしい。

 ちなみにこれは魔法使い以外でも人間にはその傾向は元からあり、器用貧乏や万能型等と呼ばれるやつ以外はそうやって自分の分野を狭めてゆく。そうして得意分野を開拓してゆくのが『普通』なのだ。

 なにが言いたいのかというと、

 

――エヴァ姉の怒り≪魔力≫で引き寄せられた氷の精霊が、周囲の温度を極端に引き下げている真っ最中です。

 

 エヴァ姉の属性は『氷』『闇』。特に氷に特化しているために、氷の精霊が魔力を呼び水に無意識下にて喚起されている状態。

 冒頭で立てていた死亡フラグをここで回収されるとは思わなかったぜ。どんどん空気が引き下げられてゆくお陰で水蒸気が凍りつき最早雪山状態。

 その状況に怯えた古めかしいセーラー服のクラスメイトが俺の背中に引っ付くというね、ちょっと俺得な状態、に繋がるわけなのです。

 

 

「で、いい加減に説明してもらえないかなぁ?」

 

 

 エヴァ姉怖い、超怖い。

 顔は笑っているのに、目が欠片も笑っていないよ。なにこれ、なんでこんなに怒ってるのこの幼女。

 

 

「え、えーと、こちら、相坂さよ

 エヴァ姉も知っている通り、2-Aのクラスメイトです」

 

「そんなことは知ってる……!」

 

 

 怒りが増した。

 なんで。

 

 

「なんで、そいつが、お前と、いっしょに、こ・の・場・に・い・る・の・か、と聞いとるんだ!」

 

「ヒィッ!?」

 

 

 うお!? 背中に柔らかい感触が!?

 

 

「いちゃいちゃするなボケェ!」

 

「してませんよ!? サー!?」

 

 

 思わず返した。でも怯えたさよちんの引っ付いたときの感触が中々上々。

 あー、やっぱ女の子はいーなー。見た目成長不良っぽかったけれど、これはこれで年相応で、

 

――うわ、エヴァ姉の視線が人を殺せそうなほどヤヴァい。

 

 

「ええっと、ですね、

 コンビニ前で偶然会って、話してみると仲良くなって、そのままついてきちゃいました」

 

 

 いい加減説明しないとって、俺も思っていたんですよ。てへぺろ。

 

 

「元いたところに捨てて来い」

 

「犬猫じゃねえんですから」

 

 

 でもって、更に引っ付くさよちん。ぎゅうううって感じで、もうご褒美以外の何物でもないよね。

 

 

「いい加減に離れろ! 取り憑くつもりかこの悪霊がっ!」

 

「あ、悪霊じゃありませんよっ!

 イヤです! 離れたくないですぅぅ!」

 

「え、幽霊なの?」

 

「ええっ!? 気づいてなかったんですかっ!?」

 

 

 い、いーや? 知ってたし。原作知識で知ってたしー?

 でもふつーに見えるし、触れることもできるし、実際触れて掴まれて抱きつかれている状況だし。てっきりこの世界じゃ生きているのかと。ちょっと懐古趣味の影の薄い少女かと。

 そっかー、本物の幽霊だったのかー。スタンド使いだから触れるのかね?

 

 

「わ、わたし、死んでからも影が薄いのが悩みで……、誰にも気づかれることなくこれまで過ごしてきたんです……

 でも……っ、あなたはそんなわたしに気づいてくれてっ、そのうえ普通の女の子に対するみたいな態度で接してくれて……っ!

 こんなひともういません! だから離れたくないんですーーーっ!!」

 

「なんだそれはっ!? 結局取り憑くと宣言しているようなものではないかっ!?

 ヒトの弟子に勝手に取り憑くな悪霊がっ! 今すぐ離れろ! 即刻強制成仏させてやるーーーっ!!」

 

 

 元気だなぁ、二人とも。

 あ、そー言えば明日菜にコートを返してもらっていなかった。明日の配達で持ってきてもらうように連絡入れとかないとな。

 




今回やっとエヴァの本領発揮な気もした
そこに食い込む薄幸少女さよ
吸血鬼と幽霊とに挟まれた三角関係
いっそ憐れにも見える
これでようやくラブ米なのか…?
あれ、でも最初のヒロインがどんどん隅に追いやられるのが変わってない
がんばれ亜子、超がんばれ


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『お悩み相談教室【ちう編】』

 

「はよーっす」

 

「あ、普通にくるんだ

 昨日の様子から来ないのかと思った」

 

「暗にくんなっていいたいのかコラ」

 

 

 女子中の校舎へとやってくる男子なんて目立ってしょうがねえ。ちらちら見られ眺められ指差されまくって、かなり肩身が狭かったさ。

 2-Aに入って早々、顔を合わせたのは柿崎。そういえば昨日の報復がまだだったな。

 

 

「で、なんか申し開きはあるか」

 

「いふぁいいふぁい、ふぉっぺをふゅままにゃいでよぉ」

 

 

 ぐにぃ、とミサミサのほっぺを伸ばす作業。それほど痛くもねえだろうが、抗議の声が上がる。

 それより自身に衝撃走る。女子の頬袋柔らけえ。

 

 

「うぅ~

 でも今更どうすることもできなくない?」

 

「せめて中二な二つ名だけは訂正しておいてくれよ

 いや中二だけどさ、まだ。

 で、俺の席どこ?」

 

 

 頬をさすりつつ恨めしげな上目遣い。

 はっ、お前のが通用するとでも?

 

 鼻で笑ったら今度はアヒル口でむくれた。

 

 

「そっちのそこ、長谷川の隣だよー」

 

「長谷川さんね、ハイハイ

 ――――なんで?」

 

 

 聞き返したが怒ったように去っていった。

 わずかに、舌打つ。弄り過ぎたか。

 もっと落ち着かないとな、俺。

 

 で、席は長谷川千雨のお隣。最後尾、と。

 

 

「えーと長谷川さん?」

 

「………………おう、あー、烏丸? おはよう……」

 

「おお、おはよーさん」

 

 

 話しかけたが鬱陶しそうな雰囲気。

 むしろ私に話しかけんな、を地で行く雰囲気。

 むしろコミュ障の雰囲気?

 

 

「まあよろしく

 三学期の間だけだと思いたいけどね」

 

「おぅ……

 あー、烏丸、はさ」

 

「うん、なんすか?」

 

 

 コミュ障ではない様子。

 話題を振ってくるならば喜んで応えようじゃないか! 友達作りって大事だしね!

 

 

「自分から、志願とか、したのか? その、女子中に通うの、って……」

 

「いや、志願してそうなるわけじゃねえと思うよ?

 俺の場合は学園長と高畑さんに頼まれたのが実情だね」

 

「そか。

 あー、そか、だよ、なぁ……

 あ、いや悪いな。あんたもなんだかんだで巻き込まれている口なのか

 クラスの奴と結構親しげだから、トラブルメーカーなのかと勘違いしてたわ」

 

「いーよいーよ、こんな異常な状況にぶち込まれていれば疑心暗鬼になるのもわかるし」

 

「だよなぁ………………

 ………………………………ん?」

 

 

 そういや昨日は結局まともな授業受けていなかったな。一時間目はなんだ?

 

 

「あー、時間割確認してなかった

 すまん長谷川さん、教科書見せt」

「おいちょっと待て」

「お、おー、なんすか?」

 

 

 え、やだなにこの状況。

 ちうたんが俺の襟首を締め上げてるんですけれど。

 

 ……昨日といい、昨今の女子中学生はネックハンギングツリーがコミュニケーションの主流なのか?

 

 

「……質問がある」

 

「はい、何なりと」

 

 

 もう登校している何人かもこちらの状況を見ていると思われるのだけれども、目線を向ければほぼ全員が逸らしてゆく。巻き込まれたくないんですね、わかります。

 

 

「お前、この学園都市をどう思う?」

 

「ってゆうと? たとえば?」

 

「たとえば、車並みの速度で走る学生がいたり」

 

 

 すいません、それ俺もできます。

 

 

「たとえば、山より高い馬鹿でかい樹が生えていたり」

 

 

 世界樹ですね。葉っぱ一枚で死者蘇生できるのかなぁ。

 

 

「極めつけはこのクラスだけどな」

 

 

 あぁ。幼女が三人くらいいるしね。

 逆にやたら発育のいいのもいるし。ほんとに同年代? って言いたいんですか。

 あと学生の身で店を切り盛りしていたり。

 ロボとか通っていたり。

 普通に見てごった煮、って感じだもんな。このクラスは。

 

 

「お前は、どう、思う……?」

 

 

 そんな、すがり付くような目で見ないで欲しいんだけどね。

 抱きしめたくなっちまうよ。

 

 

「ちょっと、場所変えるか」

 

 

 今すぐが大事。授業? あとあと。

 

 

   × × × × ×

 

 

「落ち着いたー?」

 

「ああ……、わりーな、いきなり……」

 

「いーよ

 人間、何が琴線に触れるかわからんし」

 

 

 肌寒い季節ではあるが、外にて自販機前のベンチに腰掛け並んで飲み物を啜る。今日は日差しがいいので、朝でもそれほど寒くなさそうだ。しかし一応飲み物は熱燗で紅茶系。ちなみに俺のおごり。

 昨日から俺ばかり奢っているのだが、男子は女子に奢らなくてはならない暗黙の了解があるのだと思う。そう思わないとやってられない。これが大宇宙の意思か……っ。

 

 ちなみにこの場所は校舎から結構人目につく場所。俺は紳士ですからー。人気のない場所になんて連れ込んだりしませんよー。

 

 

「琴線か……、そーだな……」

 

 

 さて、なぜこうなった?

 

 よくある二次創作にあるように、多分このちうたんは原作通りに麻帆良の異常に慣れることができなかったんだろう。

 認識阻害が効かないっていうのがどういう理屈でそうなっているのかは知らないけれど、そういう状況に晒され続けていればその異常に慣れることができない現状からくる尋常じゃない孤独感を感じていたのだろうことはよくわかる。

 それを解決できる手段や人物が目の前に現れれば、少なくとも同類っぽい奴が目の前にいれば、それにすがり付きたくなるのは目に見るよりも明らかだ。

 

 ただ、それがなんで俺になったんだ。その理由がわからねえ。

 俺なんか特別な台詞でも吐いた?

 

 

「で、一応俺から答えるけどな」

 

「――おう」

 

 

 ここで誤魔化してその末をネギ君に任せるのは簡単だろうけれど、こうやって意を決したような表情でじっと見られると、なぁ。

 そうしちゃいけないよな。やっぱり。

 

 

「正直、この学園都市は異常だよ

 普通じゃない」

 

「――!

 ………………だ、よな

 だよなぁ!」

 

 

 とたんに元気になったけれどさ、ちうたん。これは結局、負け犬が傷を舐め合っているだけってことに気づいてる?

 

 

「学生の部活動の間口が広がりすぎ

 広範囲になんでもやらせるにしても限度がある」

 

「そうなんだよ! 飛行機とか運転できるんだよ!

 科学部とか研究とかだってロボットを作るのはともかく、麻帆良以外での技術と比べても先を行き過ぎだろうがよっ!」

 

 

 人間は社会生活を主軸にして進化してきた。そしてそれをぶれさせない為にそれぞれのコミュニティで暗黙のルールを作り上げる。そこから外れちまうと、社会に適応できていないって言うことになる。

 

 

「樹齢が何年かは知らないけれど、あの樹だってありえない

 航空法とかに引っかからないのかねぇ」

 

「ギネスに載っててもおかしくねぇだろっ!

 なんでみんな平然と受け入れてんだよっ!?」

 

 

 ドロップアウトしちまう人間は、社会に馴染めないというだけで負け犬扱いされる。それは厳しいことだけど、そもそもルールに人情はない。人が作り上げたもののはずなのに、おかしな話だ。

 

 

「極めつけはうちのクラス、か

 見た目的に中学生に見えない奴らばっかりだもんなぁ、上も下も」

 

「さらに子供先生とまできたからな!

 もう腹いっぱいだっつうの!」

 

 

 ルールを定めるのは最低限度の常識。その常識ですら環境が変われば変動する。

 麻帆良はその『変動した常識』を強行させている世界だ。けれど腹立たしいことにそれですら『常識』。自身の常識と反りが合わないからといって、それが非常識足り得ないことになる。

 だから――、

 

 

「非常識がここまでまかり通ることだって、あり得ねぇだろうがよ……っ!」

 

 

 ――残念だけど、そんなちうたんは結局社会に馴染めていない『負け犬』なんだよね。いくら口惜しそうに嘆いてもさ、受けている傷を癒せているわけじゃないんだよなぁ。

 

 それで、俺としてもただ共感できるわけでもない。残念ながら負け犬じゃないし、俺。

 

 

「でもさ、こんな街でも俺は好きだよ?」

 

「あぁ……?」

 

 

 うむ。ちょい裏切られたような表情。

 でもさ、言うべきことは言っておきたいのは性分なのですよ。

 

 

「基本的に悪いやつが悪いことをやっているってわけでもないし。この町の主成分は善意でできています、って言っても過言ではない気もするし

 やりすぎ感は多分にあるけれど、ブレーキを利かせられないってだけでハナシを聞かないわけじゃない、……と思いたいけどさぁ」

 

「希望も混じってんじゃねえかよそれ

 つーか、昨日手痛い目に遭わせられといてよくそう言えるよな」

 

「男が女に弱いのは昔っからのお約束」

 

「それを認められるのかよ……」

 

 

 だって勝てないんだもん。

 男はさ、守れればいいんだよ、女の子を。

 

 

「イヤじゃないのかよ、お前だって色々と迷惑被っているように見えたぞ

 お前は、この町の異常を知っている

 私と、同類なんじゃねえのかよ」

 

「イヤであっても嫌いじゃない

 だったら認めちまうと意外と気楽だ」

 

 

 説教できる立場でもねえから、あんまりこういうハナシもしたくねえんだけどね。

 

 あー、もう一時間目始まってるよなー。

 初日第一回目が新田先生でないことを祈るばかりだ。

 そんなことを考えつつ、立ち上がる。

 ちうたんは、まだ残っているつもり?

 

 

「ま、ストレスフリー自体、みんながみんなできているわけでもない。その人の内心なんてそう見えたものでもないし、なにを考えてなにを悩んでいるかなんてのも他人にはわかることでもない

 本人のストレス発散が別個にあるように、モノの見方もそれぞれにあるんだよ。

 

 少なくとも俺は好きだ

 だったらそれでもいいんだよ

 そっちにそれを強制するつもりもないけど、気楽にいこうぜーちうたん」

 

「あ゛ー……、言いたいことはわかる気もするよ……、

 愚痴に付き合ってもらったみたいで悪かったな……

 ………………って、おい!? なんでてめぇがそれを知ってやがるっ!?』

 

 

 ひらひらと手を振って、かっこよく去っていった。つもりだったのだが、なんか最後怒鳴られた気がした。

 俺、またなんか失言したのかね?

 

 

   × × × × ×

 

 

 せっかくなので手洗いの場所確認も兼ねて一時間目はサボり。仕方ないんだ。途中から顔を出して授業を遮るわけにも行かないんだ。

 そんな言い訳にもならないことを内心思いつつも、男性用は教員用にしかないという何処の航空戦闘系ハーレム主人公ラノベ? と感想を抱きつつも手洗いから離脱。

 二時間目の鐘を待つかね、と時計を確認した刹那、

 

 

「そらさーん!!!」

 

「ひでぶっ!?」

 

 

 懐古系セーラーの薄幸少女に体当たりを噛まされた。

 

 

「ちょ、さよちゃん? なに、どしたのさ」

 

「うう~! だましましたねっ! 誰も気づいてくれないじゃないですかっ!」

 

 

 え。少なくともスタンド使いはあと二人いるから大丈夫だと思ったんだけど。

 ちなみに名前呼びしないと怒られるのでちゃん付け。

 

 

「誰も? ポニテとか幼女とかも?」

 

「まったくですよっ!

 私のことを見える人がいるって聞いたから目の前に出て挨拶もしたのに見事なスルー!

 イジメかと思いましたよっ!?」

 

 

 特徴っつうかカテゴリで呼んでしまったけれどこのほうがわかりやすいと思ったんだ。

 それにしてもテンションが高い。幽霊という割には俺にはそれがまったく実感できないのだが。

 

 しかし見えない、ねぇ。本格的にイジメではない限り、普通に考えて『見えていない』のだと想定したほうがいいのかね。

 幽霊だから、って言うのが理由か?

 

 つーかスタンド使いだから見えているわけじゃないのか、俺?

 あと正直、見えて触れられる幽霊が実在するなら、俺も『夕子さん』みたいなナイスバディが良かったかも。あの絵柄はマジでエロいと――、

 

 

「あらあら、授業をサボるのは感心しないわね」

 

 

――ドッ、と冷や汗が出た。

 声に振り向けばしずな先生が。

 せんせい、いつのまに?

 

 

「いえ、ちょっと見慣れない構造でしたので。

 道に迷ってしまいましたよ

 

 いけませんねぇ、僕の、悪い、癖です」

 

 

 コマンド→水○豊のモノマネで乗り切る。

 

 見ると、にこにことした表情でこちらを見ていた。しかし、目は確実に笑っていない。

 

 ……怖ぇ。

 

 

「……すみませんでした。

 二限目はちゃんと出るので許してください」

 

「……ま、いいけれど

 あなたはここ唯一の男子なのだから、その行動には気をつけること

 これは普通に教員としての注意よ」

 

「肝に命じます」

 

 

 威圧感がぱない。お陰でさっきからさよちゃんが引っ付いていてやわこくてきもちいーくて、そのことに気づかれないように精神力を絶賛稼動中な訳ですが。

 つーか、しずな先生もさよちゃんが見えてないよね。これ。

 

 あれ? マジで俺の見えている理由って何だ?

 

 




~頬袋ぷにぷに
 リスじゃねえんだから。

~失言だらけの主人公
 自覚なし。ちうたんが警戒を開始しました。

~夕子さん
 黄昏乙女。アニメ化したとか聞いた気もした。いいの?

~水○豊
 相棒。


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『さよちゃんをオーバーソウル!in俺の背中ぁ!』

 

 あの後。

 教室へ戻れば再びちうたんに詰め寄られて詰問を受けた。曰く、どこでその呼び名を知ったのかという、ちょっとよくわからないですね、と答えるくらいしかできない質問。

 逆説的に問うてみれば『ちう』発言が問題だったご様子。はぐらかす。はぐらかす。はぐらかすったらはぐらかす。

 

 最終的に、「いいな! 絶対にネットとかで検索にかけるなよ!? 絶対だぞ!?」と言われて放課後。ダチョウ倶○部理論ですね、わかります。

 

 

   × × × × ×

 

 

 それはともかくとして、いつも通りにエヴァ姉の城である。

 今日も修行を重ねるだけの、簡単でないお仕事がはじまりますよ~。

 

 

「なんだ、またきたのか悪霊」

 

「悪霊じゃないですよぉ……」

 

 

 仲悪いなぁ。

 エヴァ姉のつっけんどんな物言いに弱弱しく返すさよちゃん、in俺の背中。むしろライドオンしているけれどね。顔を埋めてぐりぐりとね。

 

 

「なんだ? 何かあったのか?」

 

「なんかみんなに認識してもらえなかったことが心をダイレクトアタックしたみたいで」

 

「なにを今更」

 

 

 そうは言っても、俺という希望が現れた状態でそれを覆されたら泣きたくなるのも仕方ないかと。さよちゃんの泣き顔ktkr。

 

 

「というかみんなに見えなくて俺にだけ見えている理由がよくわからない

 エヴァ姉、なんか心当たりとかない?」

 

「なんかといわれてもなぁ……、あ」

 

 

 あるの?

 

 

「アレじゃないか? 学園結界。

 認識阻害の結界は生徒を危険から遠ざける方向へと導くものなんだが、魔法関連の事情に気づかせないという働きもあるし

 ソイツのその状態が麻帆良結界には魔法関連だと判別されたのかも知れんな」

 

「ってことは麻帆良にいる限りさよちゃんは気づかれないということか」

 

 

 ひでぇハナシだなぁ。

 

 

「なんですかそれぇ!?」

 

「出てけばいいじゃないか

 もう戻ってくるなよ」

 

 

 エヴァ姉も出てくことを前提に話を進めないの。地縛霊っぽいから無理じゃねぇの?

 

 

   × × × × ×

 

 

 泣き喚くさよちゃんを思わず微笑ましく眺めつつ、俺は俺で修行を開始。といっても毎度のことながら反復練習をしている程度なんだけれど。

 

 俺のスタンドは単体じゃ攻撃力のない特殊型で、残念ながらオラオララッシュとかやっても俺の精密性じゃそのすべての攻撃が『攻撃』となって返ってくるという鬼畜仕様である。一撃毎に文字を入力≪インストール≫すればそれがすべて有効打に変わるのだろうけれどね、無理なものは無理である。

 それよりもせっかくのスピードと精密性なのだから自身かそれに殉ずる形で活用すべき。残念ながら自分には掛けられないのだけどな。

 

 要するに、俺の修行は身体能力を伸ばす筋トレに使う文字を選別するための辞書読解、さらには障壁からの魔力転用を効率よく行うための精神統一、と地味な代物ばかり。

 いや、修行なんて地味なのが本来ですけれどね。原作でネギ君がエヴァ姉とやっていた実戦形式とかは、なったらなったで逃げたくなるのだし別にかまわないけれどね。

 

 だからこそその地味な光景を、さよちゃんに眺められてもどうすることもできないなぁとしか、

 

 

「つーか、楽しい?」

 

「……あんまり」

 

 

 ですよねー。

 

 

「帰れよ」

 

「……前から思っていたんですけど、なんでエヴァンジェリンさんはそんなにわたしに辛らつなのでしょうか……」

 

 

 なんでだろうね。

 長年縛られ続けていた似たもの同士の二人なんだから、もっと仲良くできるかと思っていたのだけれど。

 

 

「つーか、さよちゃんってなんで死んだの?」

 

「なんでなのでしょうか……?」

 

 

 原作でも思ったことだけどさぁ。

 死んで未練があるから幽霊がこの世に残り続けているというのが通例であるから、その未練すら思いつかないこの娘が麻帆良に居続けている理由が本当にわからないのだけれど。

 なんでこの娘は幽霊をやれ続けているの? ここまで歪んで残っているといっそ妖怪に転化するのが通例じゃないのかね?

 

 

「地縛霊ってことは、実は死体が校舎の壁の中に埋め込まれているとか?」

 

「なんでそんな恐ろしい発想になるんですか」

 

 

 かべのなかにいる。

 放課後の魔術師に目をつけられそうな会話だ。

 じっちゃんの名にかけて!

 でもこの場合犯人は学園長かもしれないから、犯人もじっちゃんである。どういうことなの。

 

 しかし話が弾まないなぁ。

 いっそちうたんを『こっち』に引き入れるべきだったかねぇ。

 そういやあその昔ちうたんを魔改造した二次が流行っていたな。

 ネギ君の妹に弟子入りしたり。

 負完全筆頭に憧れたり。

 魔法少女になったり。

 サイボーグ? になったり。

 仮面使いにもなったり。

 今じゃすっかり下火になっているけど。

 やり尽くされた感が結構あるよね。今更ちうたんを仲魔にするのは気が引けるよ。

 

 

「あ、俺この後は普通に寮に戻るんだけど

 さよちゃんはどうする?」

 

「寮、ですか?

 ……お付き合いしてもいいですか?」

 

 

 男子寮なんだけどな。

 わが部屋に女子の訪問。何気に初訪問である。

 wktk。

 

 

『くっそう、いちゃいちゃしやがって……』

 

 

 なんかエヴァ姉っぽい呟きがどっかから聞こえた。

 

 

   × × × × ×

 

 

「お

 おっかえりぃ、ごはんにする? おふろにする? それともぉ、あ・た・し?」

 

「飯も風呂も済ませてきたから寝る」

 

「どこの女とよぉ!?」

 

 

 エヴァ姉の別荘でのハナシですよ。

 つーか裏声出すな。キモイ。

 

 

「なんですか、あのひと……」

 

 

 ほらぁ、さよちゃんも気持ち悪がってるじゃん。

 寮に入るなり気づいた元クラスメイトのムードメーカーっぽい奴が話しかけてきたのだが、華麗にスルーしつつ部屋へと向かう。

 悪い奴じゃないんだ。キモイけど。

 

 

「つーか、烏丸って今どこのガッコに通ってるの?

 いきなり転校とか、ねえだろ」

 

「三学期の間だけだよ

 学園長に直々に頼まれたことだから、単位には影響しないはずー」

 

「ふぅん

 それで未だにこっから通えるわけね」

 

 

 ソイツ、神宮寺久貴は舐めていた飴を振り回し、質問しつつついてくる。帰れ。

 

 

「ついてくんなよ」

 

「えー

 もうちょっとおはなししようZE☆」

 

「帰れ

 むしろ土へ帰れ」

 

「ひっでー」

 

 

 けらけら笑い飴を振り回す。

 俺としてはそれよりも、その飴に目線を釣られているさよちんがちょっと心配である。猫かキミは。

 

 

「そーだ、級長から伝言あったー」

 

「あーそー」

 

 

 聞かずに扉を閉めた。

 

 

「って、よかったんですか?」

 

「いーのいーの、割と無駄な会話をする奴だから

 九割方聞き流すのが正解な対処なんだよ」

 

 

 答えておいてなんだが、そういえば自室のルームメイトはいないのだろうか。

 見渡しても人影はない。

 これで堂々とさよちゃんといちゃつけるぜ!

 

 

「はー、これが男子寮ですかー」

 

「女子寮となんか違いでもあった?」

 

「いえー、わたし女子寮で生活したことがないのでなんともー」

 

 

 連れ込み甲斐のない相手である。

 

 

「で、なにしよっか?」

 

 

 何もなければそれでも良し。

 俺は寝るだけである。

 明日も早いし、えっちなことをしている余裕なんてないのだよ。

 いや、あんまりする気もないけど。さよちゃんだしなぁ。

 

 

「え、う~ん……

 あ、とらんぷしましょう!」

 

「ほぉ、この俺にトランプとは片腹痛い

 いいだろう

 廃棄虚言≪ディスカード≫で勝負だ!」

 

「それどんなゲームですか!?」

 

 

 その昔二次創作で読んだんだよ。

 確かダウトの変形版だった気がする。あれ、二人でやるにはちょい無理があるか。

 

 

『おーい、烏丸ー、いるんだよなー』

 

 

 と、聞こえてきたのは元級長の声。

 ちっ、久貴が告げ口したらしい。

 舌打ちしつつ扉を開く。

 

 

「何かようかー」

 

「おお

 敷浪の奴が学校に来ねぇんだよ、様子見頼む」

 

「えー、なにやってんのあいつ」

 

 

 残念ながら廃棄虚言はオアズケである。

 さよちゃんに目で合図を送り、渋々部屋を出る。

 さよなら、女子とのいちゃいちゃタイム……。

 

 

「あーすかー、あーすーかーちゃーん

 でてこいやぁ」

 

 

 ノックしつつ扉を開けて部屋へと入る。

 

――ダンッ!と、入った瞬間、顔の横に東京タワーの文鎮が突き刺さった。

 

 

「ちゃん付けは止めろや」

 

「言われたくなかったら授業ぐらい出ろバカ」

 

 

 俺より頭ひとつ分でかい+ガタイのいい金髪ヤンキーがそこにいた。

 ちなみに級長こと織村一夏は、扉に突き刺さった文鎮に怯えて部屋に入れずにいた。

 

 このヤンキーは名を敷浪飛鳥という。劇場版にもなった赤い少女と同じ読み名なのだが、似ているのは名前だけ。見た目も性別も性格も完全なる別物で、正直ファンが聞いたらぶち殺されそうな出オチキャラだ。実際いろいろな奴にからかわれたりしたこともある。

 そのいろいろなやつらは悉く痛い目に遭っているらしいのだが、飛鳥の鋭いナイフみたいな心を逆撫でたのだからある意味自業自得である。というか、このガタイ相手に喧嘩売るとかバカでしか思いつかないだろ。JK。

 

 ちなみに、俺とは中一のころのルームメイト。

 そのためか、未だにコイツ関連だとよく仲介として充てられる。不本意。

 

 

「どうせジオラマ作っていたとかそんな理由だろ

 そのガタイでちまちま作業するのが好きとか、ヤンキーなら町に出てカツアゲでもしてろよ

 そんで高畑さんとかにぶち殺されろ」

 

「好きでわりぃか、つーかヤンキーじゃねぇし

 いちいちおめぇには関係ねえだろうが、口を挟むんじゃねぇよ

 おめぇは俺の母親か」

 

「口を挟ませるようなことやってんじゃねぇよ

 お前が出てこないから俺に話が回ってくるんだろうが、バカ」

 

「バカって言ったほうがバカなんだよ」

 

「じゃあお前もバカだよな、万倍バカ」

 

 

 メンチを切り合いつつ互いに罵り合う。

 

 そして一呼吸おいて、一拍。

 頭の中でゴングが鳴る。

 

 

『やるかーーー!!?』

 

 

 殴り合いの開始である。

 男の友情なんてのはこんなものだ。

 

 




~ダチョウ倶○部理論
 押すなよ! 絶対押すなよ!

~じっちゃんの名にかけて!
 元祖歩く死亡フラグ製造者。彼より先に真相に気づくと悉く命を狙われる。

~ちうたん魔改造
 その昔、ぬこさんとかメルさんとかまるさんさんとか、そんなユーザーがいたのだけどな……

~仲魔
 誤字ではない。

~廃棄虚言≪ディスカード≫
 ルールも忘れてしまったし、今後出ることはなさそうである。元ネタは『禊ちゃんが吉井明久にry』。ちなみに作者の方が今なにをしているのかはまったくもって不明。暗にこの場に出てくることをちょっと期待。

~神宮寺久貴
 CV三木眞一郎

~織村一夏
 ISは関係していない。

~敷浪飛鳥≪シキナミ・アスカ≫
 某赤い少女と同じ読み名。完全な出オチキャラ。件の少女は名前が変わった理由は知らないが、作者はアニメ版の後のハナシだとかいう設定なの?と問うたことくらいしかない程度のファン。期待度によっては再登場も考慮。

~そらのルームメイト
 ルームメイトがるー無名徒となるくらいに設定ができていない少年。とりあえず苗字は大柴。今考えた。隠れオタらしいくらいしか情報がない。とりあえず『二人は百合キュア!』は毎週見ているとか。

~東京タワーの文鎮
 時期的には間違っていないがそもそもこの世界、本来の流れと比べると十年くらい文化が先行している箇所が所々あるご様子。
 ひょっとしたら古い一品なのやも知れない。


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『踊る麻帆良捜索線』

 

 作戦はこうだ。

 まず、風香のスタンドを更衣室から放射状に点在させてマーカーの役割をさせる。ベイビィユニオンは隠密性が高い上に、広範囲に扱えるくらい射程距離という概念が薄い。何せ『何か』に取り憑かせればどこに移動しても対象の位置を把握できるわけだからな。そのことは俺が実証済みだ。

 そして、その内の一体を大河内にも所持させる。敵のスタンドを見つければ、それを通して風香も相手の存在を把握できる。あとは逃がしたor逃げたそいつが主人の下に行くところを、放射状に広がったベイビィユニオンで逐一発見してゆけばいい。

 申し訳ないけれど、大河内は囮役だ。

 

 何のハナシかって?

 覗き魔を捕まえるための作戦だよ。

 

 作戦は翌日、即行で執り行われることとなった。

 その際の、俺の役割はというと――、

 

 

「いっけー! からすま一号ー!」

 

「わかったから降りろ」

 

 

――何故か幼女を肩車で運ぶ、お父さんポジとなっていた。

 

 

   × × × × ×

 

 

 敷浪のやつをジャーマンスープレックスで撃沈した翌日、登校した俺はとりあえず隣席に笑顔でサムズアップし、うあああと悶えるちうたんをによによ眺めつつ授業を受けた。

 個人的にはバニーがお気に入り。白いのとか、でっかいにんじんに抱きついてる姿とか、もう、ね。

 

 そんな普通の授業風景をすでに日常として受け入れ――、

 

――かけたところで、鳴滝風香にさんぽ部の活動をや・ら・な・い・か? との第一種接近遭遇を許してしまったのであった。

 

 それがなにを意味するのか。理解しないわけではなかったが、場所が実に問題で。

 

 なんで教室でそんなこと言い出すのこの娘は。

 

 

「えっ!? 烏丸君ってロリコンやったん!?」

 

 

 オイコラ亜子さん? なぁーんであなたがまっさきにそういう反応をしちゃうのよ?

 

 お蔭様で躍り出る『烏丸そらロリコン疑惑』。エヴァ姉とも懇意にしているという情報を拾っていた2-Aの淑女共は、そろいもそろって俺を遠巻きにひそひそと言葉を交わす。イジメですか。やだー。

 

 声をかけてきたのは幼女のほうだというのに、犠牲になるのはいつも男の評価。助けを求めて横を見れば、ちうたんにも逆にによによ見られていた。バラす気はないから助けてよ。

 

 

「あれっ、でも烏丸くんって昨日、長谷川に告白してなかった?」

 

『はぁっ!?』

 

 

 え、なにそれこわい。

 

 教室中から上がる驚愕の声。当然ながらちうたんからも上がっていた。俺のログには何もないよ……?

 

 

「ちょ、ちょっとまってくぎみー! それどこ情報!?」

 

「くぎみー言うな

 えーと、昨日C組の娘が朝ベンチで男子見たとか言ってたから、それって烏丸くんで間違いないよね?

 で、告白していたって。

 長谷川のこと知ってる娘だったから、相手がうちのだっていうのはわかっていたみたいだけど、男子がなんで? っていう話題は昨日からけっこうあるんだけど……」

 

 

 恐るべしは女子校の情報網。まどぺでぃあが中々万能ですげぇ。

 しかし見られてたか。まあ、人目につきやすい場所だったし、ある意味当然。しかし告白?

 

 首をかしげているとちうたんに詰め寄ってゆく女子たち。俺に聞く気はないですよね。助かるけど。

 

 

「どういうこと長谷川っ!? それマジ話!?」

 

「詰め寄んじゃねぇっ! つーかなんだそれ……

 あ、」

 

『あ、って何!? 心当たりがあるわけ!?』

 

 

 え、マジで? 俺にも教えてよ。

 

 

「いや、アレは違ぇだろ

 告白とかじゃねえよ、好きだとは言われたけど

 って、私じゃなくてだなぁ、」

 

『好きって言われたっ!?』

 

 

 ほんとになにそれ。どこ情報よ。

 

 

「おいちょっと待てメガネ

 お前がそうならこっちにだって言いたいことはあるぞ

 なんせそらのやつは昔から我が家に泊まることも度々あるくらいだしな、自分がアドバンテージを持っているなんて勘違いは早々に取っ払うことだ」

 

『お泊まりっ!? 何度もっ!?』

 

 

 エヴァ姉っ!? なんで張り合ってるの!? あなたはそんなキャラじゃないでしょう!?

 

 

「そ、それを言うなら

 そらっちは私と何度かデート行ったし

 買い物に付き合ってもらったこともあるしー」

 

『マジでっ!?』

 

 

 裕奈さーん、なんでちょっと対抗心醸し出しちゃってるのー?

 

 いい具合にカオスった教室内。

 俺はというとちうたんの発言が一番引っかかるのだけれど。そんなこと言ったっけ?

 

 

「みなさーん、ほーむるーむ……ってなんの騒ぎですかっ!?」

 

 

 ゴメンネギ君、もうしばらくかかりそう。

 久しぶりの出番だというのにゴメンね。

 

 

   × × × × ×

 

 

 思い返してみれば確かに言ってたわ。でもこの学園が好きって発言だから恥ずかしいことに相違ない。オフレコで頼むわ。俺がちうたんに告白したことでもいいからさぁ。

 

 騒然となっていた教室から逃げ延びて、現在は風香と行動中。ホームルームが終わった瞬間に脱兎したところ、しっかりついてきたのは忍者とそれが小脇に抱えていた双子幼女。

 忍者はというと「それでは後は若い二人に任せるでござる」と言ったかと思ったら、ニンニン言いながらもう片割れを抱えて屋根の上をシュバァ。忍ぶ気ねーだろ。

 

 それにしても女子って恋バナ好きよね。あの騒ぎの中しっかりと明日菜や雪広までもが食いついていたのだから、じょしちゅーがくせーのぱわーってすごい。

 

 

「ほんとにそれだけが理由なのかなー?」

 

「何が言いたいんだよ鳴滝姉」

 

「べっつにー?

 ってゆーか、ふーかでいいよ?

 れでぃの扱いがなってないなぁ」

 

「はいはいお姫様

 そんな台詞をのたまうんだったら肩から降りてくださいな」

 

 

 太ももやわこい。

 じゃなかった、重いんだよ(棒読み)。

 

 

「まぁまぁ、

 のぞき魔を捕まえるにはこの方がいいでしょ

 すぐに――

 ――きた」

 

「釣れたか」

 

 

 笑っていた風香があさっての方向を見上げる。

 多分アキラに憑かせた一体がそれを補足したのだろう。

 というか、遠隔操作型以上に視覚を共有できるっていう利点がベイビィユニオンにはあるのが普通に羨ましいな。

 

 

「どうなった?」

 

「ん、え、あー

 ――いよっし!」

 

「一人で見てねえで、解説頼むよ」

 

 

 野球中継見ているおっさんかお前は。

 

 

「アキラちゃんが相手を殴り飛ばした」

 

「マジかい」

 

 

 スタンド相手ならやっぱりスタンドでってことなんだろうなぁ。

 

 

「で、相手が走って逃げてるところをはっけーん」

 

「よくやった

 どっちだ?」

 

「あっち

 いっけーぶらっくれいぶん号!」

 

「いえっさー」

 

 

 今だけは従ってやるよ。名前変わってるけどな。

 

 

   × × × × ×

 

 

 普通の人間にはその存在を認識できないが、スタンドにも質量がある。何かに取り憑かせる、とかの手段をとらなければ風香のスタンドが移動できてないように、それがテレポートとかできるものでない限りは一瞬で別の場所へと移動する、なんて真似はどういうスタンドでもできはしないのだ。

 近距離なら可能かもしれないけど。スタプラとかワールドとかキンクリとかね。

 

 今回のやっこさんにもその理屈は通用しているようで、必死に逃げているカエルみたいなソイツを発見。追跡中、なう。

 

 全体像は見えないなあ。

 緑がかっているからカエルって表現したけど。

 

 

「でもほんとに逃げてるね

 よくわかったね、そらっち?」

 

「こちとらコイツと付き合うようになって十五年だぜ、ある程度の理屈や制限は理解してるっつうの」

 

 

 ほんとは『原作』知識だけどな。荒木先生、尊敬してます。

 

 そんなこんなのやり取りをしている間に、対象は誰かに接近・消失。おそらくは隠れた、と思われる。

 

 

「動くなよ」

 

「――っ!?」

 

 

 背後に下りて、隠し持っていたシャーペンを『そいつ』に突きつける。

 おーおー、怯えてるねー。

 ちなみにふーかたんは肩車したままお口にチャック。俺はそいつに後ろを振り向かせないように、背広の背中からシャーペンの尖ってないほうを突きつけて触れている状態。なんだこれ。

 

 

「まさかあんたが、とはな

 ――瀬流彦先生」

 

「か、烏丸くん、かい……?

 な、なんでこんな真似を、」

 

「なんで、か

 それは俺の台詞でもあるんだけどな

 あんたが、覗きの犯人なんだろ?」

 

「なっ、なんのことかわからないなぁっ!?」

 

 

 どもり過ぎ。

 シャーペンを仕舞い、構える。

 

 

「振り向いてもいいぜ」

 

「は、はは、

 まるで刑事みたいなことをする

 ごっこ遊びはもう卒業する歳じゃないの――」

「インストールドット!」

「かあぁぁぁっ!?」

 

 

 構えておいたスタンドで殴りかかる。

 あわてた様子で瀬流彦が回避。

 ハイ、確定ー。

 

 

「見えてるんじゃねえかよ

 もう言い逃れは無しにしようぜ、センセ」

 

「………………っ

 しょうがない、か」

 

 

 観念した様子で、静かに、恐らくはセンセのものであろうスタンドを出して……く、る、が……

 

 わ、若本ぉぉぉぉぉぉ!!!?

 

 

「コレが僕のスタンド

『セカンド・フロッガー』

 出したからには、簡単に勝てると思うなよ」

 

 

 いやいやいやいや! あんたカッコつけてる場合じゃないから!

 

 なんでこっちが逆に慌てているのかと言うと、瀬留彦の出したスタンドは緑の体皮をした人造人間だった。多分第一形態。尻尾も羽根もないけど、今にも「ぶるぁぁぁ」と叫びそうなフォルムにどう反応していいのかちょっとよくわからない。

 コイツが「おいおいベ○ータァ」とか言い出しても割と早くに納得できるくらいにはクリソツだ。

 

 つーかなんでこんなのなんだよ?

 セル彦だからか?

 完全体へと成長したりするのか?

 

 

「ど、どうするつもり……?」

 

 

 なんかもう正直帰りたい。

 帰ってメシ食って寝たい。

 シリアスでくるから風香もシリアスで返してるみたいだけど、こっちの内心はテンション駄々下がりだったりするんですけど。

 

 

「ふっ……、『セカンド』!」

 

 

 叫び、その若本に飛び乗るセル彦。

 ………………えっ?

 

 

「逃げた!?」

 

「ええっ!?」

 

 

 あっという間に遠ざかってゆくセルコンビにしばし呆然と見送ってしまった。

 つーか戦わないのかよっ!?

 

 

「わはははは!

 コイツで勝てるわけないだろ!?

 僕のスタンドは逃げて隠れるくらしいしか能力がないんだよっ!?」

 

「自信満々に言うこと!?

 待てー!」

 

「待てと言われて待つか!」

 

 

 ああもう、本気で帰りたい。

 

 

「――ぶげらっ!?」

 

 

 えっ、あ。

 

 

「早かったねー、アキラちゃん」

 

「ああ、終わったな」

 

 

 いつやってきたのか、アキラたんがセル彦の逃走予定経路にて待ち構えていた。

 

 ぶん殴られて地べたを転がる女子中教師。

 ゆっくりと近づいてくるアキラたんからは修羅のような闘気が立ち上っているようにも見える。あんなスタンドだっけか?

 

 

「……そのスタンド、先生が犯人なんだね……」

 

「ひ、ヒィィィ……!?」

 

 

 ああ、心が折れてる。

 残念だよセル彦先生。いくらで許してもらえるかを交渉しようと思っていたんだけどな。この電卓はどうやら使う予定は無さそうだ。

 

 

「さっきも、覗いていたんだよね、私の着替え……?」

 

「み、見てないよ!? すらっとした手足とか意外にもかわいらしい下着とか成長著しいおっぱいとかなんて! ……ハッ!?」

 

「そう、全部見てたんだ……」

 

 

 語るに落ちるにしてもボロボロと語りすぎだろう。

 目のハイライトが完全に消えたアキラたんがセル彦と唯一対峙している。

 俺もう帰っていいのかなぁ。いらない子みたいだし。

 

 

「そのスタンド、頑丈だよね

 さっきも殴ってしまったのに、全然平気そうだよ」

 

「い、いや、さっきは確かに痛かったんだけど……

 というか、なにをするつもり……」

 

「それだけ頑丈なら、何発ぐらいで壊れるのか

 ――試してみようか」

 

「い、いやあああ助けt――っ!!!」

 

「『モザイクブルー』」

 

 

 アキラの一言で、青い『彼女』は一瞬で若本へと詰め寄った。

 ほぼ目に映らないくらいの素早さで、そのコブシが顔面へとめり込むのが見えた。

 

 

「せい」

 

 

 一撃で鼻血のような液体を口らしき部分からコポォと吐き出す若本。意外と武闘派なのだろうか、『彼女』の攻撃はそれだけでは済まなかった。

 

 

「せいせいせいせい」

 

 

 アキラの一言のたびに次々にめり込まれてゆくコブシの連打。俺のスタンドみたいに反撃されるような効果を持っているわけじゃないらしいが、それが痛くないとは到底思えない。

 敢えて意識的にカットしているが、めり込む音もそのたびに濁った悲鳴を上げるセル彦のうめき声も、その場にはしっかりと響いているのだから。

 

 

「せいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせい」

 

 

 淡々と、意識的に、聞こえてくるのはアキラの一撃ごとの意気込みもあるであろう静かな声。

 なんて静寂的なオラオララッシュなんだろうか。

 まったく感動的ではないけれど。

 

 

「せいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせいせい――」

 

 

 一際強力な一撃が、若本を大きく宙に浮かせた。

 原形を留めていない、緑色の肉塊へと変わってしまったソイツは、空しくべちゃりと地に落ちる。

 

 

「――成・敗」

 

 

 時代劇宜しく、アキラの清々しい声がそう締めくくられた。

 セル彦がどうなったのかは――、見たくない。

 

 

「あたし、アキラちゃんにだけはイタズラシナイ……」

 

「賢明だな……」

 

 

……俺も注意しよう。

 

 

   × × × × ×

 

 

 心なしか晴れ晴れとしたアキラと、心なしどころか青い顔で見るからに沈み込んだ風香と別れ、よく生きてるものだと逆に感心するセル彦を引きずりつつとある場所を目指す。

 スタンドがあそこまで変形させられたら普通死ぬだろと思うのだが、ダメージを反映させるはずのセル彦本人は廃人のようだが生きている。身体の節々が色々と変形しているようにも見えるけれど、青痣も出血も見えないのだ。

 モザイクブルーはひょっとしたらクレイジーダイヤモンドみたいに、『絶対に死なない攻撃』を繰り出せるスタンドなのかもしれない。この仮設が正しくなくても、攻撃力が高いので恐ろしすぎる。

 もう主人公とかあっちでいいじゃん。

 

 

「失礼しまーす、しずな先生いますかー」

 

 

 そうこう思考している間に目的地へと到着。

 スタンド関連は魔法先生に教えてもどうしようもないので、せっかくいるスタンド先生に任せてみようというのが俺の魂胆だ。

 怖がってばかりもいられないんだ。気張れ、俺。

 

 

「あら、烏丸くん?

 瀬流彦先生も、どうしたの?」

 

「ちょっと個人的なご相談が」

 

 

 ちなみにセル彦は俺のインストールドットで『歩』けと打ち込み自動行動中。意識が無いんだから仕方がないよね。

 

 職員室を出て、人気のない廊下にてある程度の説明をする。

 アフターケアとかお願いできませんかね。

 

 

「スタンドは感知されないことが多いですし、魔法先生に任せても完全な対応がされるとは到底思えないですし

 実際証拠も残ってないですしね」

 

「なるほど

 そういうことをしていたのね、この人は」

 

 

 うわぁ。虫ケラを見下すような目で見てる。

 これからの彼の待遇が甚だ不安だけど、まあどうでもいいか。

 

 

「正直、女子更衣室を本人が覗きたがらないようにできれば一番いいんですけれどね

 できますか?」

 

「任せて頂戴

 女の敵なら容赦はしないわ」

 

 

 心強いお言葉をいただいた。

 しかし、この人のスタンドは個人の時間支配だった気がするのだけど。

 

 俺が考えたところ、そのスタイルは思考を遅延させ意識の低迷化を強制的に引き起こし、催眠術でその隙を穿ってのある程度の精神支配なのだろう。あのスタンドの効果だけであの時部屋にいた学園長と高畑先生を完全に隷属化させていたとは考えにくい。だがこうやって能力を把握してゆけば、いずれは打ち倒せる可能性も見出せるかもしれない。

 そう意識を込めて見ていたのに気づかれたのか、しずな先生は微笑みつつ、視線を送る。

 

 

「私のスタンド能力があれだけだなんて、誰が言ったのかしら?」

 

 

 視線の先にいたのは先生のスタンド。

 だが、あれ? 姿が前と違うような気がする。黒い貴婦人だったスタンドは、以前は持っていなかった杖を片手に、もっと厳かな格好へと変化している。喩えるなら聖職のシスターみたいな。

 

 

「『ノクト・コペルニクスVer.ビショップ』

 能力は『反転』よ

 この場合は彼の趣味嗜好を反転させれば、もう女子生徒には被害を出さないはずだわ」

 

 

……なんでもないように言いますけれど、それってかなりえげつない上に恐ろしい手段な気もするのですが……。

 

 というか、これってスタンドの成長?

 エコーズとかみたいに成長してるのこの人?

 

 

「正確に言うなら『変身』かしらね

 私のスタンドは必要に応じて姿を変えることができるのよ。肝に銘じておきなさい」

 

 

 やだ、しっかり脅された……。

 

 

「ちなみに、どれくらいの手札があるんすか?」

 

「私の変身はあと二回残してあるわ」

 

「絶対に逆らいません」

 

 

 フリーザ様ですか、あなた。

 

 




~前半とか
 キャラ崩壊の嵐。焦ったちうたんやゆーなはともかく、エヴァ姉ェ…

~覗き魔捜索線
 構成が甘いことを自覚しています。シャーペンとか必要なかった。スタンドを見れるセル彦はスタンド使いだ!

~若本
 フゥグタくぅぅぅん!

~電卓
 烏丸くんは苦学生です。あとは、判れよ。

~オラオララッシュ
 ジョジョの冒険マジリスペクト(今いい韻踏んだ

~成・敗
 なんかしっくり来ないよね。

~『セカンド・フロッガー』
 破壊力D スピードB 距離A 精密性B 持続力A 成長性B? 能力・カメレオンのような隠密性能・攻撃されても回復できる再生力
 多分今後の出番は無い。

~私はあと二回変身を残して~
 エコーズも成長してからも以前の能力を使えていたハズ。
 あとこの台詞をしずな先生に言わせたかった。後悔はしてない。



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『あー、あったあった、あったわこんなハナシ』

 

 先日のカオスはなんだったのか。

 本日は逆に大人し目の2-A。じょしちゅーの心内(こころうち)は男子には掴みきれないよ。

 

 というよりは距離を置かれているご様子?

 ここのところ教室内で堂々と近づいてくるのが鳴滝姉のみって、俺のロリコン疑惑がまた深まるじゃないですか。やだー。

 元より男子であるワタクシめと淑女どもの距離がまた広がっているよぉ。ふぇぇ。

 

 

「くーふぇいとしょーぶすれば打ち解けるんじゃないかな」

 

 

 ガタッ、と風香の言葉に立ち上がる黄色い勝負馬鹿。座ってなさい。呼んでねーから。

 

 ちなみに現在は昼休み。わがクラスの淑女どもは中庭にてバレーに興じているようであった。

 クラス内にいるのは件のイエロー以外だと、屋台率いる中華な一味や、授業の予習をしていたりする金髪お嬢様に若干ニヒルな隣のメガネっ娘。

 バレーに興じているのは運動部四人娘、そのそばには図書館探検部らしき組み合わせがいっしょに雑談をしている模様。あのロングヘアデコ助はきっとバカブラック。

 そういえば、最近活用しきれてない原作知識によれば、バカレンジャーよりも鳴滝のほうが成績いいってことなんだよな……。見た目小学生に負ける学力って……ぷふー。

 

 

『なんだか不快な視線をいただいているようなのですが……』

 

『え、えと、ゆ、ゆえゆえは子供じゃないですよー……下着とかも紐だったりするですよー……』

 

『待ちなさいのどか、それは何のアピールですか』

 

『え……、ロリコンさんに目をつけられないために、』

 

『喧嘩を売っているのですか。

 いいでしょう、言い値で買いますよ……っ!?』

 

『そ、そんなつもりはないよー……!』

 

 

 おや? バカブラックとやらに目を向けていれば何やら不穏な雰囲気に……?

 宮崎?とゆえゆえとか言ったはずのデコ助が喧嘩っぽい空気を醸している。珍しっ。

 

 と、確か次は体育だっけ。

 着替えを持って男子便所へ向かうべく席を立つ。残念ながら更衣室が無いので、教員用男性トイレのみが今の俺の安息地である。まだ時間はあるけど、ここの淑女どもが教室で着替えをする前に移動しておかないとにゃー。

 

 

『~~っ! ~~っ!!』

 

 

 ん? なんか騒がしい……。

 

 

「なんかあった?」

 

「あっ、烏丸くん! こ、校内暴力がー!」

 

 

 教室を出たところで鉢合わせたのは最近めっきり影の薄くなっていた和泉に、これまで直接の対面が無かった佐々木まき絵。

 特に佐々木は若干涙目。おぅ? なにがどーした?

 

 

   × × × × ×

 

 

 ネギ君を呼びに行くと言った佐々木と別れて、和泉とともに現場へ急行。

「女子高生あたーっく!」との台詞とともにバレーボールで弾き飛ばされる前髪っ娘がいた。

 

 

「おーい前髪、大丈夫か?」

 

「ま、前髪……? は、はい、なんとか……」

 

 

 なんだか喚き立てている女子高生らしきお姉さま方はいったん放置としておいて、倒れた宮崎?に声をかけて助け起こす。

 ちょっとおどおどとした態度だけど、そこそこ普通に対応してもらえてはいるようだ。男性恐怖症の娘だとか聞いていたけど。ネギ君で慣れたのかね?

 それとも俺がロリコンだと思っているから平気だとかいう理由じゃないよな……? ないと思いたい。

 

 

「ど、どうして男子がここに……」

 

 

 おぅ。確かミッション系の高学年お姉さま方。黒百合? 黒薔薇? 確かそんな人たちだった気がする。

 驚いてる?

 

 

「共学化のテストケースですよ、お姉さま方

 それよりなんでまたこんなことを?

 仮にもクラスメイトにこんなことされて、ちょっと納得がいかないんですけど?」

 

 

 バレーの場所取りか? そんなんでいざこざ起こすって、お前ら小学生かよ。

 とは言わない。俺、空気読んだ。

 

 

「ふ、フンっ

 その子達が生意気だからちょっと教育的指導しただけよっ」

 

 

 うわっ、この人空気読めてねえっ。

 子供みたいな論点で中学生に突っかかるって、本当にお嬢様なのか? いや、ある意味お嬢様っぽいかもしれないけどさ。

 

 

「こ、コラー! 僕の生徒たちに何をするんですかー!」

 

 

 おお、ネギ君が佐々木に連れられてやってきた。

 

 ソレに気づいたお姉さま方。

 

 あっという間に囲まれてたじたじのネギ君。

 

 もみくちゃにされて可愛がられ始めた。

 ナニソレ羨ましっ。

 

 

「えー……

 なに? 要するにあの人たちって全員ショタコンなの? 雪広の同類なの? それが気に食わない理由なの?

 えー……、引くわー……」

 

 

 口にはそう出すけど羨ましいのも事実。イケメンは得だよねー。爆ぜろ。

 

 

「何の騒ぎなのよ? 校内暴力とかってきいたけど……」

 

「おお、明日菜

 あれだ。ネギ君が女子高生に捕食された」

 

「は?

 ……え。

 なに? あの人たちっていいんちょと同類なの? ショタコンなの? 引くわー……」

 

「お前俺と同じ台詞言ってるよ」

 

 

 どうしよう。助けるべきかもしれないけど、今その場に突貫するのってモテない男の僻みみたいに思われそうで行きたくない。

 

 

「二人とも、そこで私(ワタクシ)を引き合いに出すのはやめていただきたいのですけど……」

 

 

 雪広までやってきた。

 アレどうしようかね?

 

 

「って、雪広はアレを見て怒ったりしないの?」

 

「そんなことしませんわよ

 ネギ先生がわがクラスの担任というのは変えようのない事実

 ならば先生を信じて待つのも、いい女の条件ですわ」

 

 

 一段階上だった。訓練されたショタコンだった。あと何気にネギ君が完全に担任にされていた。そして高畑先生がいつの間にかクビになっていた。

 

 

「待ちなさいいいんちょ、高畑先生がまだ担任よ

 勝手にガキンチョを担任に据えないでよね」

 

「すぐにそうなりますわよ

 高畑先生って出張ばかりですし、未だにクラスを任されているとは思えないですわ」

 

「やだ、辛辣……

 それはそうと、お前らネギ君助けてやろうぜ

 なんか脱がされ始めたんだけど」

 

 

 た、たすけてー! というネギ君の悲鳴が中庭にて木霊する。しかし女子高生ぱわーに押されて、我がじょしちゅーぱわーでは太刀打ちできないようだ。みーんな遠巻きに眺めています。

 

 

「キミたち、そういうことは止めてあげてほしいなぁ」

 

 

 おお、高畑先生だ。高畑先生がご光臨なされたぞ!

 

 なんだかんだと口を出して穏便に女子高生たちを撤退へと追い込む高畑先生。きゃー、かっこいー、おっとなー。

 

 

「助かりました

 正直年下の俺≪男子≫が其処に突っ込むには問題があったので」

 

「いや、これくらいかまわないさ

 これも仕事のうちでもあるしね」

 

 

 そこで『仕事』と言わなけりゃかっこいいんだけどな。

 あ、そういえば聞いておきたいことがあったんだ。

 

 

「あー、ときに先生

 『職場』のお仲間とは最近どうです?」

 

 

 隠語で魔法先生のことを暗に指しつつ質問。でもコレ多分通じてないかもしれない。

 なんでこんな質問を? と思われるかもしれないけど、セル彦があの後どうなったのかが知っておきたい。

 あれからもう一週間くらいたってるけど、見かけないから生存報告を聞いておきたいというか。

 

 

「なんでそんな質問を?

 特に変わったことはないけど……

 ああ、あれがあったかな」

 

「なんです?」

 

「いや、気にすることでもないだろうけど、瀬流彦先生がね」

 

 

 おお、どんぴしゃ。

 

 

「何故だか知らないけど、いきなり男子中等部に転属願いを出してね

 まあそんな勝手なことをこの三学期の時期にできるはずもないから、新田先生に大目玉を食らったんだけど」

 

 

 そう笑いながら話す高畑先生。だが……

 諸に『反転』しちゃってますよねー、趣味嗜好。

 

 改めて、しずな先生の恐ろしさを実感した。

 

 

「そういえば、そのすぐあとにサウナにいっしょに行かないかと誘われたんだっけ……

 仕事の都合がつかなくて断っちゃったけど、あれはなんだったのかなぁ……」

 

 

 進化もしていた。無駄に嗜好が広がっていた。

 先生逃げてー!

 

 

   × × × × ×

 

 

「やっぱり高畑先生だよねー、ネギ君は結局おこちゃまだしー、大人の魅力ってゆうかー? みたいな、きゃはっ☆

 みたいなことを囁き合っていたんじゃねえの? お前ら」

 

「お前教室に盗聴器でも仕掛けてんのかよ……」

 

「当たった?」

 

 

 なんとなーく、そんなことを話していたような気がしてちうたんに答え合わせを要求。根本的に他人事と割り切っているらしい長谷川はまったく気にもかけていないらしいが、そういうハナシを着替えながらやっていたのだと言われて、引かれた。

 

 

「いや仕掛けてはいないけどね

 割と考えることくらいは予想つくもの

 みつを」

 

「つうか十歳のガキに期待どうこう以前に、そういう仕事をやらせようって言うのがまず間違ってんだけどな

 くそ、なんで気づかねえんだよアイツら……」

 

 

 それが認識阻害だもの。みつを。

 

 

「しっかし、あたっていたとなるとネギ君の株価も下降中かねえ

 いや、人気でやれるほど甘い仕事だとは思ってないけどね、教師って

 でも中学生っていう多感な時期と向き合うには必要な要素だと思うのよ、俺は」

 

「前から思っていたけどお前って結構爺臭いよな」

 

「失礼ね! 誰が加齢臭漂うオッサンよ!」

 

「言ってねえよ

 あと女言葉やめろ、キモイ」

 

 

 茶化してみたけどこれは転生者とかいうのが理由なのではなく、まともに付き合っている年上の幅が広いから。近くは高校生の先輩だけど、一応身元引受人は学園長だし、バイト先は新聞配達だし、よく話すのは高畑先生だしー。

 あとキモイ言わないで。

 

 

「まあそんなことより

 結局体育はどこでやるのさ?」

 

「屋上だとよ

 お前が女ならこうやってわざわざ呼びにいく必要もなかったんだけどなぁ」

 

「俺が女だったらこういうややこしい話にはなってないけどなぁ」

 

 

 軽口を叩きあいながら、言われた場所の突き当たり。階段を上りきった踊り場の扉を開ける。

 

 

『ドッチボールで勝負よ!』

 

 

 ……ん?

 

 




~『下着は紐だったり~』
 アダルト路線でアッピール。烏丸くんはクラス内ではロリ●ンだと認識され始めているようです。

~女子高生あたーっく
 原作ではその場にいたのは運動部の四人のみ。しかしこの世界のアキラたんはスタンド使い。これが運命の分岐点なのか・・・

~黒百合
 そらの原作知識はうろ覚えレベルです。作者も。

~ネギ君
 相も変わらず出番がない。この世界線では助けられもしなかった。多分あやかの狙いは××されてトラウマを負ったネギ君をやさしく介抱することで自身の好感度を上げようという若干姑息な手段。伏せ字の部分はR18なので各自ご自由に妄想下さい。

~サウナ
 俗に言うハッテン場。アッ―――――!な展開が待っている予感?

~みつを
 天丼芸は残念ながらおあずけ。



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『ドッチボールといったな、あれは、嘘だ』

 

「やるならバレーじゃね?」

 

「えー? ソレだと普通にあたしらが不利じゃない?」

 

「バカ、よく考えろ

 そもそも体格の差が出るのはどっちでも変わらないんだよ

 ドッチだと選手に当てる必要性が出てくるけど、バレーならばコートに落とせば点になる

 そして何より、体の何処かにボールが当たっても『反則じゃない』」

 

「………………っ」

 

「気づいたようだな」

 

 

 例えば脚、例えば頭、例えば胸。わざわざ手で掴んで投げ直す必要がバレーにはないのだ。当たったとしても、故意じゃなければ『反則ではない』。

 

 

「じゃあ、言いたいことはわかったよな?」

 

 

 改めてそう確認を取ると、明日菜・雪広の二人はこくりと頷いて、

 

 

『バレーで勝負よっ!』

『えええええっ!?』

 

 

 前回で引いた台詞を綺麗に撤回した。

 

 

「……お前って偶に、懐に螺子とか隠し持ってるのかってくらいにゲスいよな……」

 

 

 誰が負完全筆頭か。

 

 

   × × × × ×

 

 

 屋上に来てみると先に場所を取っていた高等部のお姉さま方。かてて加えて先に監督に来ていたネギ君が再び捕食されており、ついに雪広がキレた。

 売り言葉に買い言葉のオンパレードで、すわ喧嘩になるかってところ、ネギ君の鶴の一声が球技で勝負ということを決定付けたらしい。

 なんだかんだで『先生』をやろうっていうんだからネギ君も真面目だよな。いや、この場合は周りの淑女諸君が総じて幼いのかもしれない。ロリ淑女。精神だけロリでも萌えねえ。無しだな。

 

 というのが居なかったときのダイジェストだそうな。説明をした和泉もゲームに参加。ガンバ。

 

 

「いや、烏丸くんも手伝ってな」

 

「え。男が入るのってありなのか?」

 

「平気やて

 参加人数はこっちは十人、あっちは六人

 先に十点とったほうの勝ちやって」

 

 

 思ったとおりにゆるいルールだな。

 まあエキシビジョンだろうし、テキトーにや……いやいや、俺が参加する必要性ないよね?

 

 

「ち・な・み・に

 このゲームで勝ったほうがネギ先生を担任にできるってことでいいわよね?」

 

 

 ネギ君を抱き上げながら、そーんなことを宣うお姉さまA。

 いやいや、そういうのはまず学園長とかに許可を取らないと。と言おうとしたところ、

 

 

「ふっ、ふざけるんじゃありませんわ!

 そんな勝手が罷り通るとお思いですの!?」

 

「もう決めたもんねー♪」

 

 

 雪広が絶叫して、ツッコミが入る前に条件として浸透していた。女子の決定力とでも言うものだろうか、強固過ぎて突っついても壊せないと判断。

 仕方ないよね。

 

 

   × × × × ×

 

 

 参加するのは、明日菜、雪広、運動部組四名の明石・和泉・大河内・佐々木、バカイエロー(古菲)、何故か超、俺に付き合っての風香、そして俺。

 ずるずると参加する破目になっていた原因の一つが参戦しないクラスメイトにあることを噛み締めるように理解しつつ、睨む。長谷川は目をそらした。宮崎&鳴滝妹は申し訳なさそうにしていた。その他は大したリアクションもしなかった。

 チアとして柿崎を筆頭にポンポンを振り回す女子応援団に、何処から持ってきたのか花火を飛ばす茶々丸。麻帆良武道四天王のうち半分は我関せずと見学中。忍者はいつの間にかいない。サボり? かと思いきや少し離れた校舎の屋上にその姿を発見。ハットリ君を表現したかのようなその暢気な所業には、憤りを感じざるを得ない。

 

 

「なんで俺が……」

 

「烏丸さん! 提案したのは貴方なのですから当然ですわ! ネギ先生を奪われないためにも、尽力してくださいましね!」

 

「いや、だからそういうのは学園長とかが関わることだから、生徒が勝手に決められるものでもないと、」

 

「さあ皆さん! 力をあわせて!」

 

「聞いてよ」

 

 

 ショタコンとして覚醒中の雪広には言葉が通じないらしい。ぐぬぬ。

 

 

   × × × × ×

 

 

『ボレーサーブ!』

 

『ちょっ、ソレ足!』

 

『故意ではないので試合続行です!』

 

『審判流したっ!?』

 

『アハトアハトキャノン!』

 

『弾丸スマッシュ!?』

 

『なんの! 烏丸ガード!』

 

『ぐぶえ』

 

『でかしましたわ烏丸さん! 今必殺の――!』

 

『負けてられるかー!』

 

『この一球に! すべてをかける!』

 

『俺に任せろっ!』

 

『明日菜を踏み台にしたっ!?』

 

『オーバーヘッドドライブシューット!!!』

 

『試合終了ー!!』

 

 

   × × × × ×

 

 

「……負けたわ

 ……でも、なんだろう……

 とっても清々しい気分……

 おかしいわね、負けて悔しいはずなのに」

 

「いいえ、私たちも同じ気持ちですわ

 これはどちらの負けというハナシではございません

 私≪わたくし≫たちの絆の勝利なのですわ、お姉さま方」

 

「フフ、今更取り繕わなくてもかまわないわよ

 

 いい勝負だったわ

 また、やりましょう」

 

「ええ、ぜひ」

 

「………………

 キミたち、その輝かしい絆の背景には傷だらけの犠牲者がいるということも覚えておいてもらえると嬉しいのだけれどもね」

 

 

 こちとらスマッシュの壁にされたり、着地を失敗してけっこうズタボロな状態なのですが。

 ……こっち見ろや。

 

 そんなわけで、白熱した試合は皆の健闘も相俟って2-Aの勝利によって幕を閉じた。

 終わってみてなんだが、景品扱いにされていたネギ君は徹頭徹尾蚊帳の外である。酷ぇ。

 

 勝てて健闘を称えあっているお嬢様方ですけども、この学園の中学生が普通の中学生であるはずがない。相手が高校生クラスだろうと、割と軽く勝利できるであろうことは始めっから見据えられていた事実。むしろよくここまで食い下がったものだ、と相手側を褒め称えたいです。

 

 

「そらも、お疲れ

 怪我はどう?」

 

「おー、明日菜もお疲れ

 大した怪我もねえよ

 どっちかというとお前のほうがどう?と聞きたいのだけども」

 

「あはは、まあお互いぼろぼろよねー」

 

 

 最後の一球、明日菜を踏み台にした俺は腕の力だけで跳び上がった。紳士として女性は足蹴にできないことは当然なのだが、お陰で逆立ち状態での蹴り返しを成功させたはいいモノの、着地は明日菜を巻き込んでの失敗。相手が明日菜でなかったらToLoveるな展開になっていたぜ。ふぅ。

 

 

『うう、ぼく、せんせいなのに……』

 

 

 あ。

 

 

「やっべ、ネギ君のフォロー忘れてた」

 

「ふぉろー?

 ……あ」

 

 

 今更思い出したのだが、このイベントネギ君がクラスに馴染むためのそこそこ必要な代物だった気がする。最近原作知識をろくに活用できていないのですっかり忘れていた。やべぇ、どうしよう。

 

 

「ど、どうしよっか、そら

 ネギのことすっかり忘れてたんだけど……」

 

「うん……

 そもそもネギ君の威厳をある程度示すのが今回の仲直りとしては適切だったと思うんだが、そんなの必要ないくらいにお互いを褒め称えているよなー……」

 

 

 うろたえる明日菜に思わず呆然としてしまう俺。視線を向ければ、雪広とお姉さま方はうふふあははと朗らかなご様子。今更何をどうにかする必要性もないくらいには仲良くなっていた。ショタコン同士、通じ合うものもあるのだろう。

 

 

「………………」

「………………」

 

 

 なんとなく、気まずい沈黙が俺と明日菜の間に漂う。

 

 

「見なかったことに」

「そうね」

 

 

 即答だった。

 細かいフォローは同室らしきこのかにでも任せよう。明日菜も同室のはずだけど、まあそこはそれ、気にしない一拓で。

 




~バレーで勝負
 黒百合なんて無かった。

~懐に螺子
 負完全筆頭。裸エプロンせんぱーい!

~試合内容
 いちいち書くとクッソ長くなりましたのでダイジェストでお送りいたしましたら今度はめっさ短くなった。どういうことなの。
 本来は意地と意地、絆と友情のぶつかり合いが醸し出す実に熱い球技マンガが三週に渡って広がっていたらしい。講談社もびっくりである。嘘だけど。

~明日菜を踏み台にしたっ!?
 正確には腕の力だけで跳び上がったすごい・そらの・きせき・な身体制御。腕の力だけで空中を繰る繰るぶつかり合うカレイドなスターに通じるものが…あるわけない。
 着地は明らかにラブコメな展開のはずなのだが、気安すぎるこの二人には然程気にするものでもないらしい。傍から見たらお前らもう付き合っちゃえよ、と言われてもおかしくないレベル。

~ネギ放置プレイ
 もっと絡めるつもりだった。気がついたらいらない子だった。魔法もねぇ!出番もねぇ!教師としての威厳もねぇ!こんなネギいやだ~♪アンチのつもりもヘイトもない。この小説は結局こういうもの、というだけである。
 嘘みたいだろ?これで一巻分が終わってるんだぜ?


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『ぎぶみーちょこれーと【男子の悲哀】』

 

「そういえばそろそろあの時期だよなー」

 

「どの時期?」

 

「ああ……、

 お前なら気にもしないんだろうな……」

 

「わざわざ言葉にしねえと察しないって言うのか

 上等だ、表に出やがれ」

 

「冗談だよ

 あれだろ? 期末テスト」

 

「「「ぶち殺すぞ烏丸ぁ」」」

 

 

 神宮寺・織村・敷浪が口をそろえてメンチを切った。期末も大事だと思うのです。

 

 

「そんなことを言われてもなぁ

 お返し考えるのも結構大変だぞ?」

 

 

 まあ俺も男子ではあるから、言いたいことはわかっている。わかっちゃいるが俺の苦悩もあるんだよ。

 『苦労』や『面倒』とは絶っ対に言わないけどねっ。女の子ぉのためならばっ。

 

 

「言ってみてえなその台詞!」

 

「もらえる宛てが絶対にあるという確信か!」

 

「女子との交流があるからって余裕かよ!」

 

 

 口々にそれぞれ呟く端から凄まじい呪詛の念が滲み出る。

 これで女子中校舎に通っているということを伝えれば虚(ホロウ)が産まれてもおかしくない。ソレぐらいには凄まじい怨念。

 

 

「とりあえず去年はいくつだった?」

 

「えーと、エヴァ姉に明日菜にこのかにゆーな、柿崎と和泉。あ、あとバイト先のおばちゃんにも貰ってたわ、七つだな」

 

「最後はともかくその前六つ! 全部同年代だよなぁ!?」

 

「くそ、こんなに格差があるのかよ……っ

 イケメンってわけでもないのに、なにが違うって言うんだ……!」

 

 

 付き合いの濃度かな。

 あと敷浪のキャラのブレっぷりがさっきからハンパねえんだけど。

 

 

「まあお前もジオラマ作ってないで部活にでも精を出せば?」

 

「部活は駄目だ

 先輩とかがいれば確実に問題起こす」

 

「自信満々に言うなよ……」

 

「つか、敷浪はそんなにチョコが欲しいの?」

 

「欲しいね

 当然だろうが」

 

 

 そんなことを言われても。

 

 

「級長は? イケメンだし、剣道部やってれば貰えるだろ?」

 

「いや、ウチは女子のほうが強いし……、そもそもあまり接点がないんだよなぁ……」

 

「何のために男女混合なんだよ、その剣道部」

 

 

 せっちゃんが君臨していたりするのだろうか。あの娘の方が女子人気は高そうではあるし。

 

 

「あ、それロン」

 

 

 何だかんだと言いつつ神宮寺の棄て牌で和了り。対々和。

 

 

「またかよ!?」

 

「やー。なんか今日調子いいわ

 なんかいいことでも起こる前兆かね?」

 

「爆ぜろ」

 

「もげろ」

 

 

 『いいこと』を直接的にそういう風に捉えるっつーのは、まあ男子だから仕方ないのかもしれない。

 

 

   × × × × ×

 

 

 そんなことを話しながら麻雀を囲んでいたのが三日前。そして本日がバレンタイン当日。

 

 

「好きです、つきあってください!

 あ、あの、へんじは今度でいいですからー!」

 

 

 そう叫ぶように走り去ってゆく女子。

 俺はというと、告白と同時に手渡された四角い包みと手紙を片手に、呆然と見送るくらいしかできなかった。

 つーか、今の娘誰よ。

 

 どうやら八連荘は吉兆ではなかったらしい。

 朝からちょっと頭を抱えたくなる問題を片手に、相変わらずの女子校舎を進んだところ珍しい人物を発見した。

 

 

「おいーっす、ちうたん

 珍しいね、こんな時間に来るとは」

 

「あ? ああ、烏丸か。おはよう

 ちうたん言うんじゃねえよ……」

 

 

 元気がない。

 登校時間もいつもより遅めなので、何かあったのだろうかと疑問に思う。

 

 

「どーかした?」

 

「いや……

 今朝方、変な夢を見てな……」

 

 

 夢見が悪いとな。

 

 

「それがイヤにリアルな夢でな……

 ちょっと、今でもどっちが現実だか曖昧で」

 

「それ普通にやばい人だよ

 話してみれば? どんな夢さ?」

 

 

「何故か私が武装錬金を駆ってリリカルな世界でジュエルシードを集める夢を……」

 

 

「ちうたん……、あなた疲れてるのよ……」

 

 

 その場合、主題歌は『真っ赤な誓い』なのか『BrightStream』なのか。

 

 

「だよな……

 ん、人に話したらちょっと自覚できた

 わりーな、もう平気だ」

 

「ならいいけどさ……

 バレンタイン当日になんちゅー夢を見てるのか」

 

 

 思わず呟くと、なんだか真顔になってこっちを見る。何。

 

 

「お前、そういうのを期待してるのか」

 

「期待っつうか現実だよ

 男子校舎では割りとそういうのをよく話しているからなぁ」

 

「ふぅん、そういうもんか

 あー、そうかぁ……」

 

 

 なんだか辟易とした様子なのだが。

 何かバレンタインに嫌な思いでもあるのだろーか。

 

 

「いやな、

 私はいいんちょと同室なんだけどな、」

「ああ、

 もういいよ、よおくわかった」

 

 

 なんとなく察した。

 あのショタコンは何かしら企んでいるということなのだろう。

 憂鬱すぎて教室に行きたくなくなってきた……。

 

 

   × × × × ×

 

 

「おは……うわ、ナニコレ……」

 

「うわぁ……」

 

 

 教室に入って一番に目に付いたのは銅像。それもネギ君の姿をした茶色の銅像だ。

 匂いから察するに、これひょっとしてチョコ?

 

 

「おはよー烏丸くん、いやぁいいんちょがさぁ」

 

「ああ……うん、察したわ……」

 

 

 これをプレゼントできるって……、雪広もかなりキているなぁ。

 件の雪広はそわそわうきうきとネギ君が来るのを今か今かと待ち構えている。捕食寸前の狼のようにも見えなくもない。

 

 

「にしても、珍しいね二人がそろって一緒に来るとは」

 

「そこで会ってね」

 

 

 残念ながらチョで始まる甘いものすら彼女には貰ってない。まあくれる人柄じゃないのは傍目に見てもよおくわかっちゃいるけれど。

 少しだけは期待していたんだけどなあ。

 

 

「そんな目で見てもやるモノはねーぞ

 用意もしてねえしな」

 

「用意していたらあげるつもりだったの?」

 

 

 ニヤニヤしながらパイナップル娘こと朝倉が長谷川を茶化す。

 ちうたんはというと、「アホ」とだけ答えて席へと向かう。なんてハードボイルドなじょしちゅーがくせいなのか。

 

 

「あ、そだ朝倉に聞きたいことがあったんだけど」

 

「ん? 何々? アタシがチョコをあげる相手とか?

 いやー、それはいくらなんでも烏丸くんには簡単には教えられないなぁ

 欲しいっていうなら考えてあげても――」

 

 

「なんか、俺がロリコンだという話が予想外の範囲にまで広がっている気がするのだけど貴様が報道の実行犯と見て間違いないのか」

 

 

 ――逃げた。

 鮮やかな逃走に留めることもできなかった。

 

 つかこう来ると犯人は確実だな。くっそ、ろくでもない噂ばかり広げやがる……っ!

 

 

「顔怖いよ、そらっち

 おはよー」

 

「んぉ? おおゆーな、おはよ」

 

 

 何故かこっちが葛藤しているタイミングでばかり話しかけるね。やってきたのはバスケ娘裕奈。

 

 

「はい、はっぴーばれんたいん」

 

「おー、ありがとうございます」

 

 

 ふつーに渡すのでふつーに感謝。お返しは何にしようかなー。

 

 

「………………

 えっ、ちょ、ずいぶんアッサリ渡すんやな」

 

 

 あ、和泉。

 

 

「いや、そらっちに恥ずかしがるってのも今更だし」

 

「言いながらまだ二度目なんだけどな、去年と今年とで

 愛も変わらず義理だというのもよぉく知ってるし」

 

「そなん?」

 

「そだよー」

 

 

 本命は父親だっけか。中学生までならなんとか親孝行で済む話なんだろうけど、それを高校にまで上がってやっていたとしたら、引く。

 まあ俺としては貰えるものは貰うので、裕奈のやりたいことには特に口出しする気もないけど。

 

 

「でもゆーなデートとか前いうてへんかった……?

 義理相手でそんなんゆうん……?」

 

「二人で遊びに行くときはデートって普通言わない?」

 

「えー……」

 

 

 うん。和泉のその疑念はなんとなくわかるけど。

 精神的に未だ小学生から抜け出せないのか、それとも社交力が無駄に高いのか。判断に困る娘では、ある。

 

 

「むー、なんかなっとくいかんなぁ……」

 

「亜子、それよりも」

 

 

 お、アキラたんもいた。

 

 

「せやな

 烏丸くん、はい、はっぴーバレンタイン」

 

「私からも

 この間は世話になったし」

 

「おお、ありがと」

 

 

 しかし朝一で渡すって、確実にこれが義理だと言外に語っているよね。いいけどさ。

 って、そういえば。

 

 

「そういえば、和泉は部活で渡せばよかったんじゃないか? 朝練あったんだし」

 

「ん、いや、他にも男の子おるところで渡せるはずないやん」

 

 

 あれー。去年はマネージャー数人でサッカー部男子にごそっと豆撒きならぬチョコ撒きをやっていた記憶があるのだけれど。今年はやらないってこと?

 

 

「それには参加せえへんねん、

 今年は烏丸くんだけや」

 

 

 ………………。

 

 

「……なんよ、その顔?」

 

「亜子、その言い方だと誤解招くよ……?」

 

「うん……、他人のこと言えないじゃん……」

 

 

 ……うむ。思わず微笑み忘れた顔になった。

 こ、これ、義理であってるよな?

 

 

「いや、あたしにそんな顔されても……」

 

「私も、詳しく聞いたわけでもないし……」

 

 

「なんなんよ、三人して

 なんか言いたいん?」

 

 

「えーと……

 和泉さん、これ手作りだったりする?」

 

 

 思わずその場にいる二人に顔を向けて意図を探ってみても、あまり役に立たなかったので、意を決して聞いてみた。

 

 

「うん」

 

 

 はー?

 

 

「えー、あー……、

 改めて、ありがとう、ございます……?」

 

「ん、味わって食べてな

 と言っても、湯煎して型に流した程度やけども」

 

 

 ちょっとテレテレと笑いながらそんなことを言う和泉さんですけれども、こちとらDIO以上の攻撃を食らったように内心の処理が追いつきません。

 俺、裕奈、アキラたん、と揃ってワールドの影響を受けているようであった。

 

 

   × × × × ×

 

 

「なんか、ちょっと見ないうちに偉く憔悴してねえか……?」

 

「うん……、バレンタインってこんなに精神削るイベントだっけ……?」

 

 

 席に着くとちうたんに心配された。

 今朝のことと相俟って、俺のライフはほぼゼロだったりする。なにがどうしてこうなっているのか、そもそも本当にそれが真実なのかと、色々答え合わせをしたくないことばかり起こる。

 あの三人で六つ目。既に去年の数に追いついてきているのだけれど、だからこそのこの結果なのか。それとも貰えない男子からの呪詛でも何処かで拾ってきてしまったのだろうか。

 

 

「何かあったの?」

 

「おはよーさん、そらくん」

 

 

 次から次へとやってくるね、今日は。ある意味仕方ないのかもしれないけど。

 明日菜とこのかが自席へとやってきた。

 

 

「はいそら」

 

「おー、いただきます」

 

 

 明日菜の手から差し出された手作りチョコを摘む。今年はトリュフ形かー。

 

 

「年々腕前上がってるなー、旨ぇ」

 

「ほんと?」

 

「ほんとほんと」

 

 

 やっぱり美術部なだけあって、造型にも相性が合ってきているのか。形もしっかりしているし、味も満足。

 この分だと料理の腕前も上がってるんじゃないか? なんかほんわかしてきたー。

 

 

「あー、なんか人心地つけた気がする

 癒されるわー」

 

「なんか知んないけど疲れてるみたいね

 あ、飲み物いる?」

 

「もらうー」

 

 

 おお、ホットココアか。準備万全だな。

 

 

「嫁スキルが着実に上がってるじゃん

 結婚してー明日菜ー」

 

「はいはい、こんどね」

 

 

 実は割りと何度か交わしている冗談を酌み交わせるくらいには回復してきた気がする。しかし未だ垂れている状態には変わりないのだが。

 あ。明日菜が頭撫でて来た。なんか懐かしい――、

 

 

「おい」

 

「はい?」「なに?」

 

 

 ――なんか、ちうたんの目が怖い。

 

 

「朝から何いちゃついてんだお前ら……っ」

 

「「えー」」

 

 

 理不尽な怒りを買っている気がする。思わず共にハモってしまう、俺と明日菜。

 

 

「長谷川さん長谷川さん」

 

「止めんな近衛、私は今からこのバカップルに鉄槌を下さにゃなんねー」

 

「えーからこっちこっち」

 

 

 あ、このかに連れてかれた。

 

 

「なんだったんだ……」

 

「さぁ……?」

 

 

 なんか教室の隅でぼそぼそと。

 まあいいか。「それより、」と起き上がり言う。

 

 

「お前いい加減渡さないのかよ

 腕前ばかり上がって、渡さないと意味ねえぞ」

 

「う、うるさいなぁ

 タイミングって言うものがあるじゃないの」

 

 

 世間一般でのタイミングというものは、まさに本日のことだと思うのだけれど。

 そんなことを年々続けて今年で五年目ほど。高畑先生に手渡せないままに、バレンタイン終了後に俺が処理したチョコは累計四つ。

 五つ目が加算されないことを切実に願う。

 

 

「せっかく味見に付き合って着実に腕前も上がってるんだし、今年こそはがんばれー」

 

「わかってるわよぉ、うう……」

 

 

 なーんであのおっさんに相対するときばかりそういう乙女になっちゃうのかねこの子は。小学校の2・3年くらいまでは平気だった気がするのだけれど。

 そんなことを話していたら二人も戻ってくる。OHANASHI終わった?

 

 

「なんだ、つまりそれは、味見、なのか」

 

「え? うん、そうだけど……?」

 

「毎年……?」

 

「う、うん……」

 

 

 去年までと違うのは前日じゃなくなってるところだな。味見は前日、処理は後日、というのが去年までの通例。

 今年こそは味見だけで済むといいな。俺的にではなく、明日菜的に。

 

 

「あ、そだ

 できれば相談に乗ってもらいたいのだけれど」

 

 

 ん? と声をかければ三人とも振り向く。

 

 

「いや、実は今朝ここにくる途中で本命を貰ったんだけど、」

 

「マジでか。」

 

 

 うお。ちうたんが真顔になってる。

 見渡せば全員が真顔。何、そんなに驚く話?

 

 

「なん……だと……?」

 

「………………そらくんは義理ばっかりで本命を貰えんタイプやと思うとった……」

 

 

 明日菜の驚愕の仕方が。

 あとこのかが地味に酷い。

 確かにその通りではあるけれど。コレまで貰ってきたのは大体友チョコか義理チョコで、エヴァ姉に貰うのだって多分家族チョコ程度の意識だと思うし。

 

 

「で、えーと、続きを」

 

「いや、話すけどさ、相談持ちかけたの俺だし……」

 

 

 でも平気だと思うなよ……?

 

 

「で、だ

 なんかいいお断りの仕方とかってないかね」

 

「「「えっ!? 断るの(か)っ!?」」」

 

 

 そろって驚くな。

 俺にだって許容できないことぐらいある。

 

 

「だって、ガチの告白してきたのって……

 ……初等部の二年生だぞ……?」

 

 

 未だ一桁相手に、どういうリアクションを取ればいいのか本気でわからない。

 教えてー、青●せんせーい。

 

 




~タイトル
 多分男子寮の場面しか示してない。

~真っ赤な誓い
 【まにあむけりりかる】をご参照ください。

~BrightStream
 劇場版か紅白を観たんだと思います。烏丸の中ではリリカルはこの曲。

~いいんちょと同室
 設定上、部屋割りが原作とは若干変更されております。

~手作りチョコ(義理)を手渡す亜子たん
 今更ながら和泉さんがアップを始めたようです。

~流れるような明日菜の、
 小学生時から始めて通算五年目の味見。原作でどうだったか知らないがこの世界では足掛け五年の片思い。しかし実質あげている男子はそらのみ。もうお前らつきあっちゃえよ。
 ちうたんも堪忍袋の緒が切れそうです。

~青●せんせーい
 こど●のじかん。実は作者まったく読んでない。ネタのみ。なので青山先生だったのか青葉先生だったのかがわからずに伏せ字。
 俺は悪くねぇ!俺は悪くねぇ!

~結局そらはいくつ貰ったの?
 順繰りにいくと、早朝訓練と称して夜明け前から駆り出されたエヴァから一つ。新聞配達のバイトで分所のおばちゃんで二つ。通学途中に待ち伏せられて手紙つきでガチの本命を初等部二年生幼女から手渡されて三つ。登校して裕奈、亜子、アキラからで六つ。明日菜から味見と称して七つ。このかから友チョコで八つ。その後は風香、いいんちょ、柿崎からで累計十一。もげろ。
 しかし限りなくグレーな亜子はともかくとして、本命チョコが幼女のみな烏丸くん。実際はロリコンではないドノーマルなので完全に困惑。どうなるのかは感想次第かもしれない。


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え、あー、ここから二巻分かー・・・見えないなー・・・
『期末試験と相成りましたが、』


 

「2-Aが学年一位を取れば教師として認めてもらえる?」

 

「はい! クラスの皆さんは頭の良い方が多いようですし、コレくらい簡単ですよね!」

 

「ん、んん~?」

 

 

 相談があるからといって生徒指導室に連れ込まれたかと思えば、返答に困る相談をネギ君に持ちかけられてしまった。

 というかそういう相談は俺でなくて高畑先生とかに……あ、出張中かあのオッサン。

 

 先週のバレンタインからずっと姿を見せない高畑先生に明日菜がチョコを渡せるはずが無く、それから三日くらいかけて意気消沈していた明日菜を皆で元気付けたのが最近の思い出。

 特に奔走していたのが雪広と、このか含む図書館探検部の面々。ネギ君もそれなりに元気付けようとしていたのだけど、彼の役割は明日菜の手渡せなかった証を処理するくらいであったのが物悲しい。

 当然俺もそっちに携わっていたので、せっかく貰った本命チョコの返事が未だに良い断り方を思いついていない。噂ではともかくガチでロリコンではないノーマルな性癖なわけだから、あれくらいの年頃の少女にどういう対応をするのが正解なのかまったく想像がついていかない。こういうことの専門家がどこかにいないものだろうか。

 いや、それで本当に見つかったら引くどころの話ではないのだろうけれど……。

 

 それはともかく、ネギ君の相談というのがネギ君自身の承認試験に関するものだと聞いて、ちょっと思うところがある。

 

 

「えー、と。いくつか聞いておきたいんだけど、いいかな?」

 

「はい? なんでしょうか?」

 

「その通達?を、いつキミは教えられたわけ?」

 

「ついさっきですけど」

 

 

 おいちょっと待て。

 

 

「……期末試験まであと一週間きってるぞ……?」

 

 

 思わずボソリと口に出す。

 期限に間に合うかどうかの瀬戸際にそんな通達をしてくる学園長の思考回路には疑問を感じざるを得ない。とうとう惚けたか……?

 

 

「それと、キミはうちのクラスの、あー、2-Aの順位を知ってるの?」

 

「いえ、まだ調べていませんけど」

 

 

 いや、知っておこうよ。一応『先生』なんだし。

 

 

「……他に何か注意事項とか……」

 

「いえ、これだけです」

 

 

 えー……。

 

 まて、現実逃避はまだ早い。

 思考を切り替えろ烏丸そら。

 

 

「まずさ、ネギ君

 その試験はネギ君自身に課せられたものなわけだけど、それに対して思うところはないかな?」

 

「思うところ……ですか?」

 

 

 これを言っちゃうとそもそも生徒に相談している時点でどうなの、とも思うけど。

 まあこれは学園長側の過失だと思って諦めてもらおう。俺をここに引き込んだ時点で既に詰んでるようなものだし。

 

 

「試験で上位の成績を取って、正しく評価されるべきは生徒であってしかるべき

 コレくらいは理解できるよね?

 それなら、この試験結果がネギ君の評価に繋がるのはおかしいと思わないかな?」

 

「え……、あ……っ」

 

 

 聡い子だね。

 まあ学校そのものは本来教師側が自分たちに都合よく生徒を導くためのものでもある、という傲慢な見方もあるわけだから、生徒の成績を自分の『利益』にしないで、ここできちんと生徒のことを考えられる辺り『教師』としては未熟なのかもしれないけれど。いい意味で。

 そこで自分のことだけを考えないで思い止まれているのだから、利発で聡明な『良い子』なのだろう。本気で教師をやれば心労で胃を壊すタイプだ。

 

 

「そして、キミが教師として認められることは構わないけれど

 その先は?」

 

「その先……ですか?」

 

 

 コレも、確認をしておかなくてはならないものだ。

 

 

「そもそも、キミはなんで『先生』をやろうとしているのかな?

 魔法学校の卒業課題、とは聞いたけど、魔法学校を卒業するのに教師の資格が本当に必要なの?

 そして、それに終わりはあるのかな?」

 

「い、言っている意味がよく……」

 

「たとえば、教師の仕事をやることと言われたのは良いとして、それをどれだけ続ければ教師として合格なんだと思う?」

 

 

 この課題。多分合格そのものが無い。

 教師をやるのに魔法使いである必要性はないし、教師を続けている者達に対しても「やり遂げたぞっ」とでも言おうものなら完全に侮辱しているからだ。

 新田先生ディスってんのか、てめー。と言いたい。

 

 

「生徒を卒業させれば? 就任一年の教師が? たった三十人あまりの生徒の一年を見ただけで胸を張って言えるのかな?」

 

「う、あう……」

 

 

 それで本当に胸を張っていたら張り倒しているけれど。そういう子でなくて本気で安心した。

 

 

「さてここで本題に戻るけど

 ネギ君が、ここで教師を続ける理由は何?」

 

「それは……試験、で……」

 

「うん。卒業試験、だよね

 じゃあ、卒業資格を認められなかったらキミはどうするのかな? ずっと此処で教師を続けられるの?」

 

 

 コレ、苛めているわけじゃないですからね?

 ネギ君今すげえ蒼白になっていますけど、俺別に教師イジメをやっているわけじゃありませんから。

 

 

「話題を変えようか

 ネギ君。キミの夢はなんだい?」

 

「夢は、立派な魔法使い≪マギステル・マギ≫になることです……」

 

「……ん?

 それって魔法学校を卒業しなくちゃなれないものだっけ?」

 

「………………………………………………は?」

 

 

 おや?

 

 

「あれ?」

 

「え?」

 

「んん?」

 

 

 ちょっと待てよ。ひょっとして、ネギ君ってまだ知らないのか?

 

 

「ネギ君、キミひょっとして今マギステル・マギって呼ばれている人たちが全員魔法学校をきちんと卒業した、って本気で思っているわけじゃないよね?」

 

「は……?」

 

「ん?」

 

「なにそれこわい」

 

 

 うっそ、本気で思ってた?

 

 

「あのねネギ君。今そう呼ばれている人たちって、魔法世界でそれなりに戦争に参加していた人とかが大半なんだけど、その戦争だって数十年くらいの規模で広げられたっていう話なんだよね

 そういう戦果を挙げた人たちが育った環境が、果たしてのほほんと学校にしっかり通えていたのだと、本気で思っていたの?」

 

「え……あ、ああああああ!!」

 

 

 うへぇ、今気づいたのかよ……。

 

 

   × × × × ×

 

 

「えーと、一週間後には学期末試験を控えているわけですけれど、大事なのは皆さんそれぞれのペースですから!

 自分たちの最高の成績を出せるように、勉強と体調管理には充分気をつけてくださいね!」

 

『ハーイ!』

 

 

 幼稚園か。

 と、いう感想が出そうなくらいに能天気な返事を返す2-Aの淑女共。

 

 

「そして目指すなら学年一位ですよ!

 今回は頂点を目指してみましょう!

 エスカレータ式だからといって、いつまでも学年ビリでいていいという理屈にはならないですし!

 なにより今回ビリだと、えと、その、大変なことになりますのでー!」

 

『ハ、ハーイ……』

『ハイ……?』

 

 

 子供に言われたことで返事も力ない。プラス、最後の台詞に困惑するものもしばしば。まあ仕方がないことだと思うが。

 ネギ君はというと、やはり自分の課題を優先しているようだ。でも元々性格的にそういう部分があったし、欲目が出るのを悪く言う気はないし、別段気にするほどでもないので放置。

 ただ一応はクラスのためにという考え方もあるようにも思える。クラスの成績を知って愕然としていたようだし、そう考えるようになっても不思議ではないけれど。

 でもそれ、けっこう余計なお世話な気もするなあ。

 まあソレはともかく。

 

 

「特に成績が悪い方のために、今回から特別講師をお願いしました!

 先生! お願いします!」

 

「どぉーれ、お仕事しましょうかね♪」

 

 

 雇われ用心棒の如くに現れたのは、

 

 

「「そらじゃん」」

 

 

 はーい、俺です☆

 

 

   × × × × ×

 

 

「まあこっちは期末に今のところ不安もないし、教えられるところを手伝ってあげようという親切心だ

 ネギ君一人に任せてクラスを放り出して良い道理にはならんでしょ?」

 

「そりゃそうだけどな

 なんだ、あの子供先生は何でまた張り切っているんだ?」

 

「まああっちはあっちで理由もあるのさ」

 

 

 一先ず着席し、それぞれが自主補習に移りだす淑女の面々。

 俺はというと、隣の長谷川さんに手を借りつつ席の確保。纏まってやったほうが効率がいい。

 

 

「さーてそれじゃあ、

 成績不振者を呼ぶからこっちへ来ることー

 ちなみに自主的に『そら先生の特別授業』を受けたいという淑女でも可っすよー

 とりあえず順繰りに、綾瀬神楽坂古桜咲佐々木長瀬ー」

 

 

 ぞろぞろとやってくる五(・)人。

 五人?

 

 

「おいこら桜咲、自分は関係してませんみたいな顔で鹿十こいてんじゃねえ」

「えっ」

 

 

 本当に聞こえていなかったみたいで、改めて名前を呼ばれてびっくりしているせっちゃんがいた。

 

 

「なっ、何故私が……」

 

「成績不振者っつったろうが

 ぶっちゃけネギ君に去年の成績見せてもらったけど、……お前、落ちてるぞ、成績」

 

「え」

 

 

 護衛()とか言いつつ学園警備に廻っているからじゃないのかね。正直、原作でコイツのやっていたことは煮え切らないちぐはぐさばかりが目立って仕方ないと思っていたのだけれど。

 今はどうなのか知らんけど、この分だと多分大差ない現状じゃなかろうか。

 

 

「つーわけで来なさい」

 

「いっ、いえ、私は自分で、」

 

「成績不振者に拒否権は無い」

 

「」

 

 

 自分でやって出来ないから成績が落ちるんだろうが。諦めて特別授業を受けろ。

 

 

「そんなわけで急遽参入したバカホワイトでーす

 みんな、仲良くしてね☆」

 

『ハーイ!』

 

「止めてください! 大体なんで白なんですか!?」

 

 

 文句は受け付けない。

 なんで白かといわれたら、イメージカラーだとしか答えようが無い。ピュアホワイトなイメージがせっちゃんにはあるのだ。ねえ?

 

 

「まあまあ桜咲さん

 そらはけっこう教え方上手いから、大丈夫だよ」

 

「それは期待できそうですね」

 

「この補習を受けるからショーブして欲しいアル!」

 

「くーふぇい、そのじょーけんは変だよー」

 

「宜しくお願いするでござるよ、バカホワイト」

 

「なんでそんな早くに受け入れられるのですか!?」

 

 

 さーて、ビシバシ行くよー。

 

 




~課題の変更
 ネギの出番を危ぶみ一計を案じた無茶振り。課題レベルが天元突破で学園長の正気がルナティック。

~生徒指導室
 生徒『が』指導しています。

~キミはどうして教師をする?
 ネギだけでなく世の教師陣全てに問いたい課題。ほんと、考えてください。

~マギステルマギについての考察
 筆頭がアレだし。作中の解釈はそらの考え方もあるけど、大体間違ってないと思うんだ。
 どう贔屓目に見ても碌な設定に思えない。魔法使いェ・・・。

~先生!お願いします!
 用心棒を呼ぶときはこの台詞。と、そらに教わりました。

~バカホワイト
 翼とか無視しての内面的なハナシ。作者の中のせっちゃんのイメージは大概がスカカード。若しくは式神のちびせつな。と同意を求めてみる。多分少数派。

~野球拳なんて無かった
 『ざ、残念だなんて思ってないんだからね!』。


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『ご愛読、ありがとうございました!』

ネギまとか真面目に妄想してみた
最終話です



 

「正座」

 

「え……と、あの……」

 

「正 座」

 

「あう……、ハイ……」

 

 

 時刻は深夜十時ごろ。場所は図書館島入り口前。

 島といっても図書館であることに変わりは無いのだから、こーいう時間に施設が動いているわけが無い。

 俺はというと、見るからに『コレから侵入します』という格好のクラスメイトらを捕まえて、今から説教に入るところだった。

 

 

「で、」

 

 

 じろりと見渡せば、びくぅ、と身を竦ませるのは、綾瀬を筆頭にした馬鹿レンジャー+αの六人組に、図書館探検部の綾瀬除く三人。+ネギ君。

 

 

「試験期間中の部活動は駄目だろうが

 いやそれ以前に深夜に図書館島に行く意味がわからない

 どういうつもりだったのか言ってみろ」

 

「え、ええと、ですね……」

 

「ま、どうせ噂とやらの『頭のよくなる本』とかを探しに来たってところだろ

 このままじゃ一週間以内に学力を上げられそうにもないと思ったろーし、次の試験でも学年ビリだと初等部からやり直させられると別の噂でも聞いて危機感でも覚えたか」

 

「全部あってますけど……

 なんですか。大浴場に監視カメラでも仕掛けているんですか」

 

 

 大浴場での話題だったか。

 

 

「違う。お前らがバカをやろうとしたら教えてもらうように頼んでおいたんだよ

 案の定、報告通りにここにやってきただろうが」

 

 

 ちなみに件のスパイ役はさよちゃんだったりする。

 未だに見つけてもらえない幽霊娘は有効的に活用させてもらっております。

 

 

「し、しかしですね、ここは確実に学年ビリを回避するためにも、噂の検証という意味合いも兼ねて件の『本』を探してみるのも一考かと思われるのですが、」

 

「噂を頼っている時点で確実性なんぞ無いわバカタレ」

 

「……ぐぬぬ」

 

 

 ずばりと切り捨てられてぐうの音しか出ない綾瀬。実際どれほどの効果があろうと、実物の所在も不明な代物を探す時点でこの行動自体に意味がない。

 アレだ。テスト前に部屋の片付けをしようとする心理に近いのだと思う。

 

 

「し、しかし……、今回ビリを回避できなければ初等部からやり直しという話ですよ?」

 

「だから『頭のよくなる本』を探す?

 その噂に翻弄されてる時点で本当に初等部からやり直したほうが良さそうな発想なのは間違いないがな」

 

「ぐぬぅ」

 

 

 ネギ君も止めろよ、と思って見てみれば、うつらうつらと舟を漕ぐお子様。まだ十時だぜ?

 だがまあ仕方ないかもと思いつつ、ため息をつく。

 

 

「あと、初等部からやり直させられるっていうのはさすがに無いだろ

 一応は義務教育だぞ。本気でそんなのやる学校だったらPTAから苦情が殺到するわ」

 

「…………まぁ、確かにそれはそうでしょうけど……」

 

 

 学園長なら認識阻害でなんとかしてしまいそうな気もするけど、まあ流石にそこまでバカな真似をやるわけが無い。……と、思いたい。無いよな?

 

 

「つーか俺の教え方がそこまでイヤか

 こういう手段を取られるとそうとしか思えないんですけどねー」

 

「え、いっいえ、そういうわけではないですけど、」

 

「けど?」

 

「う、ううぐぐ……」

 

 

 ずい、と近づいて綾瀬の顔を覗き込む。

 メンチ切ってるわけではなく、ただジッと覗き込む。

 黙ったまま綾瀬を見詰め続けると、次第に顔を赤らめてゆくのがよくわかる。コレだけの至近距離なら、夜でもよく見える。

 

 

「………………あ、あのぉ、近いのですが……」

 

「そんなのはいいから

 答えてみてくれよ」

 

「いえ……、こ、答えづらいといいますか……」

 

「ん?」

 

「うう、あううう……」

 

 

 ハハハ、下手に問い詰められるより堪えるだろう。

 無論確信犯だ。

 さて、この『次』はどういう反応をしてくれるのかなー?

 

 

「!?」

 

 

 つぃ、と綾瀬の顎下を指で上向かせ、さらに見つめる。

 顔が赤いままに目をまん丸にして俺を覗く綾瀬がいる。

 突然のことに混乱しているか。

 こうかはバツグンか。

 

 

「………………っ!?!?!?」

 

 

 さて、どうする?

 

 

   × × × × ×

 

 

 綾瀬のキス待ち顔を写メし、この一週間は部活動を自粛することを条件に『人質』とさせてもらった。

 いい具合に嵌まってくれて実に愉快。

 ちなみにこの条件はその場にいた全員に適用される。精々必死で皆を説得してみな、バカブラック。

 

 

「でさぁ、なんで桜咲がついていながらここまでずるずる来ちゃったのかなぁ」

 

「仕方ないでしょう

 試験勉強という名目で呼び出されたのですから、図書館島が危険です、と言えるはずもありません

 ネギ先生も一緒だったので止めてくれるかと期待していた部分もありますけど……」

 

 

 可愛げねぇー。

 このバカホワイトってば、皆と離れたら途端に口調がツンツンしてるし。

 ま、こちとら魔法生徒との交流自体そんなに無いからな。仕方ないのかも知れんけど。

 

 

「子供にその期待は酷だよ

 見習い魔法使いなんだし、学園長から詳しいことなんぞ聞いてないだろ」

 

「しかし教師です」

 

「だから期待かけすぎなんだよ

 つーかこの話題はやめやめ。楽しいことなんてありゃしない」

 

 

 大変だよねー、英雄の子供っていうのも。

 

 

「……いつもは学園警備なのですが、この期間は外れても構わないといわれました

 何かあるのですか?」

 

「あ、そーなの?

 たいしたことはねーよ。ネギ君の最終課題が2-Aを学年一位にしろっていう学園長からの無茶振りさ」

 

「ああ、なるほど………………、?

 えっ、いえ、それは無理、というか無謀すぎるのでは……?」

 

 

 ですよねー。

 やっぱあのクラスにいるだけあってその点に関する理解力程度はあるか。

 

 

「だからこんな『噂』も流れたんじゃねーの?

 どうするつもりだったのかぐらいは学園長に聞いてみれば?」

 

「………………。

 そうですね、そうしてみます

 それでは今日はこれで。お騒がせして申し訳ありませんでした」

 

 

 ほんとにな。

 

 

   × × × × ×

 

 

 さて。

 早くも試験は終了し、採点も終了してランク別トトカルチョなんていうのも終わった。

 残念ながら2-Aは学年五位。成績自体は上昇したのだろうけれど、さすがに一週間で詰め込められるほど期末試験は簡単ではない。

 つーか、一週間前になってようやく試験勉強を始めた2-Aがドンケツから巻き返すなんぞ不正が無い限り無理だ。

 我らがバカレンジャー+αは中学生としての基礎を結構疎かにしていたタイプで、一週間程度の烏丸教室では応用にまでは至らなかった。せめてもう一週間あればもう少しなんとかなっていたかもしれない。『俺は悪くない』。

 ネギ君はネギ君で普通授業もあったし、あの六人だけに付きっきりで集中講座をやるには放課後だけでは足りなかったようでもあるし。

 まあ今回は赤点回避だけでもできたようだし、人質であったキス待ち写メは綾瀬のケータイに転送しておいてやろう。

 ちなみに、俺はきちんと元の学校にて普通に試験を受けたので2-Aの採点にはカウントされない。悪しからず。

 

 ところで、とてつもなく今更なハナシなのであるが。

 この最終課題、クリアできなければ先生を辞めろ、とは誰も何も言っていないし、ネギ君は言われていないはずである。

 何故原作ではビリを回避できなかったネギ君はイギリスへと帰ろうとしていたのだろうか。

 謎だ。

 

 

   × × × × ×

 

 

「ビリ脱出したんだってなー

 おめでとー」

 

「あ、そら。おはよ」

 

 

 試験結果が出て翌日の2-A。

 今日も今日とて授業がある。

 残念ながら試験休みは、本日と明日と二日ほどかけて採点結果との復習と答え合わせを済ませてからのハナシ。

 この場合俺は男子校舎に行くのがスジなのだろうが、こいつらの勉強を見た手前、ちょっとだけ気になったので顔を出してみた。

 あとは雪広にちょっとした提案があったわけだが、

 

 

「ねーそら、これ読める?」

 

「あ? ……ナニコレ?」

 

 

 雪広を探す前に、明日菜より突き出されたのは一枚の手紙。

 ご丁寧に英語で書かれており、どうやら明日菜は読めなかった模様。

 

 

「いや、筆記体? が斜めでちょっとよくわかんなくって」

 

「本場の書き方、ってやつかねー

 えーと、ん? ネギ君から?」

 

 

 手紙の末にはネギスプリングフィールドと書かれていると思われる名前が。

 何故わざわざ英語で手紙を。

 

 

「そなの?

 なんて書いてあるの?」

 

「ちょい待て待て

 今簡単に訳すから。なんか無駄に書かれてる部分がある」

 

 

 こういうのはもっと得意な奴にやらせろよ。

 えーと、インストールドットで、『解』『釈』と。

 スタンド自身の指先に書き込んで、なぞる。そうすればなぞった部分の意訳がスタンドの手のひらに現れる。

 こんな使い方をした奴初めてなんじゃなかろうか。

 

 

「えーと、なになに……

 『実家に帰らせていただきます』

 ………………うん?」

 

「えっ?」

 

 

 えっ。

 

 




~最終話
 じつはもうちょっとだけ続くんじゃよ。

~図書館探検、不発
 ツイスターなんて無かった。学園長ゴーレムは多分放置プレイ中。

~キス待ち顔、ゆえ
 いきなりなにをするのですかこの人は。いえ、自分がただおちょくられているというのはよくわかるのですが、まるで子供に対して言い含めるかのような視線の向け方なんて、自分も同年代ということをわかっていないのではないのですか。どうせ自分は胸も無い幼児体型なのですから気にしないとでも言いたいのでしょうか。しかしそういえばこのひとはそういうタイプの女子が好みだというハナシも聞いた覚えが、ま、まさか本気でき、キスするつもりなのですか。しかし自分はそういった接点なんて得に無かったはずですのに、いえ、勉強を教えてもらっている身で他人行儀なつもりもありませんけれど、しかしそれにしてもキスはいきなりすぎると、いえ、そうではなく。そもそもそういうお付き合いをする気などまったく無かったはずですのになぜこういった、あ、だ、だから近いです、顔が近い、い、イヤではないです、でもそんな真剣な眼差しで見つめられると断るものもどうかと、というかこの場には他にも明日菜さんとかこのかさんとかのどかだっているのに、こんな場所でいきなり、だ、駄目です、駄目、ダ、駄目――――――ッ!
 という葛藤がゆえの中ではあったのだろうけれど基本この物語はそらの主観でお送りしておりますので割愛。本とはもっと長く書くつもりもあった。

~『俺は悪くない』
 うん。悪いのは無茶振りした学園長だよね。

~最終課題
 これは原作で本当に気になった。
 誰も「おめーの席ねーから!」とは言ってないはずなのに、何故彼は帰ろうとしていたのか。

~試験休み、の前に
 ウチのがっこでは答え合わせがありました。ほぼ白紙の答案用紙を返されて途方に暮れた日々も、すべて懐かしき地獄の一端です。

~筆記体?
 斜めの、ぐにゃっとした癖のある書き方。本場英語の癖字って古文以上に読み難いですよね。慣れればそうでもないのか?

~スタンド『応用編』
 殴れば手紙の中身自体を解読して書き換える。でもそうなるとスタンドを隠しきれないと思ったそらの苦肉の策。ある意味とてつもないカンニング。本当にできるのかは謎。だって俺スタンド持ってないしー。

~『実家に帰らせていただきます』
 ある意味原作をなぞった結末。
 魔法先生ネギま! 完ッ!?



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『じつはもうちょっとだけ続くんじゃよ』

 

 拝啓、顔も名をも知らぬ母上様。草葉の陰かお空の上か、はたまた擦れた都会の片隅か、俺の与り知らぬ何処彼処かでお元気でやっておるのでしょうかふぁっきゅん。

 俺は現在お空の上を高速飛行中です。敬具

 

 と、誰とも知れぬ人物に手紙を脳内で送るくらいには混乱中の現状。脳内手紙に書き入れたように、ワタクシ烏丸そらは雪広の所有するジェット機によってイギリスへと旅客の真っ最中であったりもする。

 こうなった起因はネギ少年の家出。そしてそれを迎えに行けと、無茶振りを果たした学園長の命令が発端となる。

 

 期末テストが終わって、何故か悠々と久方振りに学園へと現れた好々爺の福禄寿様はそれまでどこで何をしていたのやら。ネギ君が麻帆良を出立して既にいないことを学校にやってきて初めて知ったという話。

 彼の遺していった文書によれば『魔法学校の最終課題をこなせなかったので一から出直ししたく、このまま教師を続けるには自信も無くなった』とかなんとか、なんだか餓鬼が生意気言ってんじゃねーよと言いたくなるような遺言もとい手紙。一通り意訳で読んでから学園長に手渡すと今回のこれに繋がったというのが事の次第であった。

 

 当然ながら何故俺が、と言っては見たものの、英雄の息子に直接関わっていた魔法関係者では、高畑先生が出張でいない今顔を知るのは俺程度。それ以外をおいそれと麻帆良の外へと出張に行かせるには理由を作り難く、外聞としても無茶すぎる。

 というか、恐らくは魔法使いの『本国』辺りに合わせる顔が無いというのが本音なのだろうなー。

 預かった英雄の息子が家出で実家へ帰るところを見逃したって言うのは、確実に学園長の監督不届きってなところだろうし。

 

 まあ、俺としてもネギ君にはまだ用事もあったことだし、迎えにいく程度なら問題ないだろうけどね。旅費とかは学園長のポケットマネーで賄ってもらっているし。急遽の休みとなったバイトや単位問題なんかも色々手を出してくれるのならば、さすがに断りづらいところがあるというものである。

 ……ちょっっっと、がめつ過ぎたかもしれない。プチ反省。

 

 

   × × × × ×

 

 

「え、いない?」

 

 

 件の魔法学校へとやってきた我らを出迎えてくれたのはネギ君のお姉さんだというネカネさん。なんだか髪を下ろした明日菜をおしとやかにしたような外見の人である。似すぎててワロタ。作者の画力不足だろーか。

 

 

「そうなのよ、ごめんなさいね

 ネギってば帰ってきたその日に旅に出ると言い出しちゃって

 当然反対したのだけれど、なにをどういう風に考えているのやら……」

 

 

 なんだかご近所の友達の少し若い母親のような台詞で答えてくれるネカネさん。ネギ君は変わらずイクエ不明だというにもかかわらず、どこか暢気な言い分にも聞こえないことも無い。

 ネギ君はというと、修行のつもりなのだろうか。魔法学校に引き篭もるのではなく、見聞を広めることを目的としているようにも思える。

 

 

「今学校のほうでも探してもらっているから、行き先がわかったら迎えに行ってもらえないかしら?」

 

 

 RPGのような展開になってきた。いや、確かにこちとらソレが目的だったから、特に気にする気もないですけれどもね?

 

 

「ところでそちらの娘たちはあなたのガールフレンド?」

 

「いえ、ネギ君の受け持っていたクラスの生徒と、内二人がルームメイトです」

 

「あら~、そうなの………………?

 えっ?」

 

 

   × × × × ×

 

 

 ちなみに、わざわざイギリスまでやってきたのは俺だけではなく。

 ついてきたのはいいんちょである雪広を筆頭に、ルームメイトの明日菜にこのか、図書館探検部でかつネギ君のことを気にしているという宮崎についてきた綾瀬と早乙女。そして何故かいるのが茶々丸だったりする。

 なんで?

 

 

「マスターより、そらさんがそのまま麻帆良からいなくならないように見張っていろ、とのことです」

 

「えー

 そんなつもりはなかったけど、エヴァ姉のキャラのぶれ方のほうが惨事じゃね?

 そんな直接的なことを言うお人ではないでしょ」

 

「なんだか色々と言い訳めいたことを口にしつつも私を同行させることは確定事項だったご様子でしたので、本意を意訳して濃縮還元いたしました」

 

 

 いい性格してるわ、このロボ。

 

 

「お姉さんってけっこう常識人なのねー

 同じ部屋になったことを謝られちゃったわ」

 

 

 ネカネさんに平謝りされていた明日菜とこのかが戻ってきた。

 それはお前らもネギ君も直接は関与してない問題だと思うんだけどな。悪いのは多分学園長。

 男女七つにして云々、の貞操観念を抱えた常識的なお姉さまであったようである。悪いのは多分学園長。

 

 

「で、お姉さまは、あー雪広となにやら話してるな

 もうちょっと掛かりそうかね?」

 

「多分ね

 しっかし、ネギも何でいきなり家出とかするのかしらねー」

 

「色々あるんだよ、男の子にはさ」

 

 

 雪広を筆頭にした2-Aガールズがついてきた理由は偏にネギ君を連れ戻しにきたことになるわけだが、このメンバーは今のところネギ君が原因で魔法バレをしていることも無い、一般的には常識人の範疇の六人。

 最初に雪広に迎えに行く云々がばれたのが拙かった。

 気がつけば2-A中に広がる薬味少年捕獲指令。春休み中の都合とかが合わなかったらもっと大人数になっていたやも知れない。

 その癖表舞台に立たせたいメンバーとは都合がつかない現実。和泉とか。

 もっとがんばれよ! そんなんだからお前原作でも影が薄いんだぞ! サッカー部のマネージャーとかやってる場合かよ!

 

 ……ところで、この状態で魔法バレすることになっても俺がどうこう言われる義理は無い気もする。そもそも俺は魔法生徒と違うし。魔法使いの国にはなんの義理もないし。立派な魔法使いとかしらねーし。

 もっと細かく掘り起こせば、エヴァ姉と同じカテゴリに属するんじゃないのかね、俺って。

 

 

「ところで、この学校は一体どういう大学なのでしょうか……? めるでぃあな、という名の学校など聞いたことも無いのです」

 

 

 おおっと、いきなり地雷を踏む気かい、デコ助探偵。

 

 

   × × × × ×

 

 

 そういえば外国に来て、というより、麻帆良を出立して気づいたことが一つある。

 麻帆良を出てからこっち、俺の障壁が顕在化していないのだ。

 

 憶測だけど、麻帆良は学園結界を常時張っていたからそれに反応して俺の障壁がバリ三だったのではないかと思う。

 麻帆良を出て、成田に来てから茶々丸に言われて初めて気づいた事実。

 というよりそれ以上に茶々丸の外見が目を引きすぎていたが。個人所有のジェット機でなかったら、絶っっっ対に国を出れなかったと思う。パスポートの年齢とかも、茶々が一番アウトだったしね。

 

 話を戻すが。

 麻帆良はそれだけ無茶苦茶な学園結界と認識阻害を重ねがけしていたというのが事実なわけで、こっちのメルディアナ魔法学校は意外とそうでもない、というのが本日のいちビックリ。

 え、なに。麻帆良ってそうまでして日本になくちゃならない学校なの?

 今更ながら、麻帆良の『無理を通して道理を押し込める』感が強すぎて、逆に引く。

 世界樹とかが問題になるなら、いっそ引き抜いちゃえばいいんじゃないかなー、とも思うのだけど。絶園の樹ってわけでもないんでしょ? あれって。

 

 

「で、なんでしたっけ?」

 

「えーと、ですね……

 どうも……、ネギ君は本国に密入国した疑いがありまして……」

 

 

 はい、現実逃避しゅーりょー。

 

 なにやってんの、あの子……。

 

 色々調べてくれたお姉さんに愚痴るつもりも無いけれど、ちょっとため息が出るのは仕方がない。

 ……俺、本国にまで行かなくちゃ駄目……?

 

 

   × × × × ×

 

 

 魔法使いの国、通称本国。

 魔法使いではない人間、ちょっと専門用語的な言い方をすればマグルとかいう人らが治めている世界を旧世界と別視し、そちらとの時間のずれが多少ある、ということでこの世界での活動限界時間はもう少し余裕をもてそうである。

 なので、こんな事態でも慌てず。騒がず。

 

 

「……いつの間についてきた、お前ら」

 

『てへぺろ』

 

「おねーさーん、こいつら今すぐ強制送還で」

 

『ちょ、待って!』

 

 

 くそっ、めんどくさいことを増やしやがるぜ。

 こちとら魔法世界に初めてやってきた記念に「本国よ! 私は帰ってきたーっ!」とか無意味に絶叫してみたかったって言うのに!

 ネタを封殺するとか人間のすることと思えない。

 

 まあ愚痴っていても仕方がないので、せっかくなので魔法について真実について、茶々丸の補助も相俟って簡単に説明する。

 

 実はネギ君は魔法使いで、その世界においては英雄と称えられる者の息子で、将来を有望視されて麻帆良にて修行にやってきていたのだよ!

 

 Ω ΩΩ≦ナ、ナーンダッテー!!!?

 

 ノリのいい奴らである。

 

 

「って、どうしたこのか

 なんか面白いものでもあった?」

 

 

 一人入国管理室備え付けの映像媒体を見上げていたお嬢様にハナシを振ってみれば、

 

 

「……ネギ君?」

「はい?」

 

 

 思いもよらぬ名前が出てきて目を向ける。

 

 

『さぁ! 英雄と一字違いの新人拳闘士ネギ=スプリングフィールド選手! 本日も快勝だー!

 お次はどんな戦いを披露してくれるのでしょう! 実に楽しみです!』

 

 

 ………………、えー……。

 年齢詐称をやっているように見えるけれど、確かに薬味少年。十六歳、くらいか?

 

 ………………本当になにやってるの、あの子……。

 

 




~拝啓・敬具
 そらの出自が初めて明るみに! やったねそらくん! ツッコミが増えるよ!

~久方ぶりに現れた好々爺の福禄寿
 学園長ゴーレムは遠隔操作で操っていた、という解釈をする人らがいる中で、あえてアレは着ぐるみだったという説を推してみる。
 放置プレイ余裕でした。

~ツッコミどころ満載のネカネさんの外見
 おいやめろ。

~魔法生徒はついてきませんでした
 結果お嬢様が本国へ旅立つ始末。
 せっちゃんェ・・・。

~悪いのは多分学園長
 大事なことなので二回言いました。

~亜子をメインヒロインにしたい計画
 もっと熱くなれよ!

~出国管理
 ちゃちゃまる・にさい。

~世界樹批評
 そもそもどういうものかをしっかりと見極めていたようには到底思えない魔法使いたちの世界樹の扱い。最終巻でも明かされなかった謎が多々あるネギまで、今更どうこう言われても特に痛くないのですけれど、真面目にやるならもっと平和的に考えようよ……と、そらには言いたくもあるのが現実。
 実はこれまで二・三作品くらいネギまを元に二次創作を構成していたのだけれど、そのどれもが結果的に世界樹を消滅させたというそれどこのカタストロフィとツッコミを入れたくなる内容。書かなくてよかったのか悪かったのかは俺も知りません。

~マグルとか
 それハリポ(ry。


十九話でした。元は三話ぐらいのハナシでした。詰め込みすぎました……。早く魔法世界に行きたかったんだ。『僕は悪くない』

最終話とか言うノリがどこまで通用してたのか、この先の展開が想定つかない現状です
有名マンガだってもうちょっと続くとか言いながらZまでいったじゃないですかー
これからが本番ですよーやだー(泣


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『ソノメ、ダレノメ?』

そいやっとこさときました20話目
なんだか感想で期待されすぎててワロタw



 

 烏を模したヴェネチアの仮装のような仮面で顔を隠し、黒を基調としたローブで身を包んだ一見冗談のような格好をした男。彼が拳闘の舞台へと向かう途中で、同じように灰色のローブで正体を隠した人物にその先行きを縫い止められる。

 男は、思わずため息をついたような動作をし、その人物へと声をかけた。

 

 

「何の用だ」

 

 

 質問ではない。その行動から男に用事があるのは明らかだ。

 ローブへと向けた言葉は返されること無く、その人物は片手を出して金貨の入った袋を男へ見せ付けた。

 

 

「ここに賞金額の倍入っている

 次の試合。負けてくれるのなら、喜んでこれを進呈しようじゃないか」

 

 

 何のことは無い。拳闘で八百長をしろ、という『お誘い』であった。

 

 

「拳闘士として、わざと負けるような気はさらさら無い」

 

 

 無碍も無く断るように言葉を零しつつ、男は通路を進む。

 ローブの人物はソレを遮るような姿勢になりかけた、が、男が懐から手を出し、金貨の袋を掴むことで、安堵の息を漏らす。

 

 

「が、スプリングフィールドが逃げ出さない限りは勝つチャンスも巡ってくることもある」

 

 

 金貨の袋を懐へと仕舞いつつ、男はローブの人物とすれ違い、そう返答した。

 

 

   × × × × ×

 

 

「英雄の再来

 その正体は八百長に塗れた虚構、か」

 

 

 烏マスクの男が呟いた言葉は誰の耳にも届かない。

 ここは円形闘技場の真っ只中であるし、さっきから喧しいくらいにリングガールがネギ=スプリングフィールドの今までの戦跡をアピールしている。

 その戦いは正々堂々・流麗可憐、ときに負けそうな戦いを見せても、必ず巻き返して勝利を掴む。

 拳闘士としてデビューしてまだ一週間もたっていないというのに華々しい快勝を幾度と繰り返し、その甘いマスクも相俟って彼の人気は鰻登り。

 更には赤き翼の英雄と同じ姓ということもあり、その真相を知りたくて彼のファンになってゆくもの(特に女性)が後を絶たなかった。

 

 闘技場の反対側から出てくる姿は、なるほど、確かによく知られている赤き翼の『彼』によく似ているのだろう。

 だが、それで騙されるのは彼を直接知らないものくらいだ。

 近くで見ればよくわかる。

 その顔つきは、まかり間違っても拳闘を嗜んでいるような凛々しいものには到底思えない。

 彼は、世間知らずの小僧がそのまま大きくなったような、暢気な表情で舞台へと現れていた。

 

 

『相対するは今回初登場! 賞金稼ぎとも噂される、レイヴーン=ブラック選手!

 言っちゃあなんですが何処までネギ選手に対抗できるのか、はっきり言って未知数です!

 それとも今回も私たちに素敵な戦いを魅せてくれるのかネギ選手っ!

 それでは両者揃ったところで! 試合ッ! 開始――――ッ!!!』

 

 

 彼女も幾らか積まれているのかもしれない。スプリングフィールド寄りな選手紹介を一頻りし、試合開始のゴングが鳴った。

 

 

「行きますっ先手必勝!」

 

 

 先手必勝と言いつつも、

 

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル、」

 

 

 始動キーから始まり、詠唱に入る。

 正直、ブラックは戸惑った。

 これでは拳闘どころではない。

 まるで魔法学校を卒業したばかりの、本物の初心者を相手にしているようだと。

 

 

「魔法の射手! 光の17矢!」

 

 

 ようやく撃ち出されてくる『攻撃』に、やっと動くことができる、と内心安堵の息を漏らす。

 が、縦横無尽にぐにゃぐにゃ飛び交う『魔法の射手』は非常に遅く、それらを制御しているならば数こそ見事なれどどうやっても『当たる』とは思えなかった。

 これで勝たせろというのだから、正直早々に棄権したほうが手っ取り早いのでは、とブラックは矢をひょいひょいかわしつつ考える。

 考えている間に、スプリングフィールドが次の詠唱を唱えているのが視界の隅に映った。

 要するに今の『攻撃』は撹乱ということか。

 

 

「“雷の暴風”!」

 

 

 直線の雷撃が放たれる。

 直撃すれば確実に致命傷になりそうな攻撃だが、ブラックにとっては読み切れた手段でしかない。

 

 

「はなてこころーに(ry」

 

 

 思わず口ずさみながらブラックは身を屈め、自身の『攻撃』の準備に移った。

 さすがに無抵抗でやられるのは、誰にとっても快いものではないのだ。

 

 

「次はこちらの番だ

 受けてみろ、スプリングフィールド」

 

 

 かわされたことを目にし驚愕の表情を浮かべているネギにブラックはよく通る声で宣言し、その声が届いたことを確認すると技の名前を口にした。

 

 

「焦天回廊」

 

 

 技を唱えたその瞬間、ブラックの正面から焔が吹き出し、一瞬にして巨大な火球となって闘技場の宙空を埋め尽くす。

 火球などではない。それは最早空に広がる焔の地獄のようであった。

 

 

『こ、これはなんだー!? 無詠唱で再現したのは、もしや“燃える天空”かーっ!?』

 

 

 そう。

 これは火炎呪文の上級魔法『燃える天空』……に、一見よく似ている。

 スプリングフィールドもそう思ったのだろう。詠唱破棄で出てきたのがこれまでにない『攻撃』だったので、彼は完全に棒立ちとなってその光景に見入ってしまっていた。

 

 結果、ほぼ無防備にその攻撃を受けてしまう。

 

 

「ぬわぁーーーっ!?」

 

 

『ネギ選手に“燃える天空”が直撃っ!!

 これまでにない展開に対応し切れなかったのかっ!? というか何者だレイヴーン=ブラック! その実力はまさに未知数ですっ!』

 

 

 実況の女性は本来取るべきカウントを取らず、ブラックの正体のほうへと思考が逸れる。

 彼女もやはり買収されたのかもしれないが、これも予定調和と思っている節もあるのかもしれない。

 言葉とは裏腹に、スプリングフィールドの反撃を期待しているのが簡単に見て取れた。

 

 ブラックがそうこう思考するうちに闘技場に燃え広がっていた焔が晴れてゆく。

 その開けた視界の先にはやはり健在のスプリングフィールドの姿が見えて、実況の女性も安堵の言葉を漏らした。

 が――、

 

 

『おおっと! ネギ選手どうやら無事のようで、す――………………はっ?』

 

 

 その姿に、思わず絶句してしまった。

 

 

「けほっ、どうやら見た目だけの技だったようですね……

 ですが、これだけで倒せる僕では………………?

 ………………………………っ!?」

 

 

 焔の晴れたその先にいたネギ君もといスプリングフィールドも、また自分の姿を認識して、絶句する。

 その姿は――、

 

――ニーソスク水兎耳の青年という、誰得ー?な状態であったのだから。

 

 

「………………なっ」

 

『………………き』

 

「いやぁあああああああああああ!?」

 

『キャァアアアアアアアーーーッ!?』

 

 

 絶望と歓喜の悲鳴が同時に木霊した。

 片方はスプリングフィールド。もう片方は恐らく闘技場を眺めていた女性観客のものだろう。

 これはひどい、と云わざるを得ない。

 

 そのままスプリングフィールドは闘技場から逃走。

 興奮冷めやらぬ闘技場観客席と違って、呆気に取られたのは審判のほう。

 実況の女性はというと、彼女的には役得の姿であったのかナニヤラ興奮して詳しく聞きたくない解説を熱演している状態。

 中継は意図的に彼女の解説を放送しないようにカットしたのは、賢明な判断であった。

 

 

『えー……

 スプリングフィールド選手の戦闘放棄により、レイヴーン=ブラック選手の勝利といたします……』

 

 

 この現状では当初の目的を果たせるわけもなく、結果的に勝ち鬨を上げられるのはブラックのほう。

 相手が逃走してしまっては、彼を勝たせるなんてことは既に不可能となる。

 それはわかっていても、どうしても納得のいかない結末としても、依頼者も現状を認めざるを得ない。

 

 どこか微妙な空気を醸したままに、闘技場の一部をいやーな沈黙が支配していたという。

 

 




~ソノメダレノメ?
 推理する必要性がほぼ見られない内容。
 大体わかる気もします。

~レイヴーン=ブラック
 正体を隠した謎の新人仮面拳闘士。
 くそっ、一体ナニモノなんだー。

~『焦天回廊』
 ネタ技その2。元ネタは『マテリアルパズル』。
 この作品では派手なだけの偽火でのフェイク。本命は内側に仕込まれた『武装変換』の魔法。パクティオカードにも搭載されているあの機能を改悪した技術で、どのような人物でも「ニーソスク水バニーイヤー」の姿へと瞬間的に着替えさせる最悪な呪文。
 エヴァには禁術指定まで食らったとか。


短いですがこんなカンジでどうでしょうか?
期待されていた方には悪いですが、一週間程度で上手く戦えるわけがないのでこの展開です
ネギくん的にはナンテコッタイな現実ですが、元老院の手元に居ればこんな風に扱われることも仕方ないかなと思われます
焦天回廊は前々から考えていたネタの一つ。無月以来の遊びがこれだよ!


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『私6号さん。今あなたの後ろにいるの……』

ネギまをやれよ
と言われてもおかしくないオリジナル展開な21話



 

 拳闘士として致命的な恥を晒してしまったネギくんは見事に引き篭もり、それを慰める意味合いを兼ねて顔を出せばまさかの門前払いを食らった。

 まあ麻帆良から来ましたとネギくんに伝えさせればすぐに顔を合わせることが出来たのだけれど。

 元老院だっけ? 彼を囲って上手い汁を吸う気が満載な方々の片鱗を、その対応で垣間見せてもらった気がする。

 

 そんなネギくんを慰めるのは雪広と宮崎。

 一応それに付き添う形で図書館探検部のこのか・綾瀬・早乙女の三人官女も。

 麻帆良に帰るわけだから説得のほうヨロシク。

 そんな葱坊主の説得は丸投げしてこちらはというと、

 

 

「デート、なう」

 

「デートというか買い出しだけどね」

 

「それでも両手に花ですね。わかります

 そらさんの分際で生意気な」

 

「茶々丸。俺のこと嫌い?」

 

 

 魔法世界首都メガロメセンブリアの下町的な市場の一角にて、近くにはカフェとかもあったりするのでデートという表現でも間違いじゃないと思うんだ。

 そのお相手は明日菜と茶々丸という、まあ何処に色気があるのと問い詰めたくなるようなあぶれた二人なわけだけど。

 

 

「つうかネギくんのことを慰めなくていいのかいキミらは?

 いちおー今回の旅の目的だけど?」

 

「私の目的は初めからそらさんの監視なので

 目を離すと何処に行くものかわかったものではない。とマスターからはきっちり言いつけられております

 面倒臭いですが」

 

 

 やっぱり茶々丸は俺のこと嫌いでしょ。

 信用ねえなー、と呟きつつ目線は明日菜へ。

 

 

「説得はまああの面子に任せれば大体大丈夫じゃないの?

 それより私はこっちでどんなものを売っているのかがちょっと気になるかな」

 

「完全に観光気分じゃないですかやだー」

 

「それで? 何を見るの?」

 

 

 こっちの買い物は個人的なものばかりなんだけどなあ。

 

 

「あー……、まあいいや

 ついでだし何か奢ってやるよ。ちょうどあぶく銭が浮いたことだしな」

 

「ああ、例の拳闘の賞金ですね」

 

「……違うし

 レイヴーンに賭けた配当の返金だし」

 

「ひよっこ魔法使いを相手にしたのですから勝てるのは当たり前かと」

 

「しかも負ける約束までしたのに相手に逃亡させての勝利ですからね。卑怯臭い」

 

「だから俺じゃないから

 あんな中二臭いキャラ間違っても俺じゃないから」

 

「認めたくないから違う違うと自己暗示までかけて他人のように思考をそらしていたのですね。わかります

 結局は姑息な手段でしかありませんでしたが」

 

「認めたほうが良いのではないですか?ユー、認めちゃいなYo。ですよ」

 

「………………わかったよ。お前らにも何か奢るから、それ以上傷口に塩を塗り込まないでくださいますかねお嬢様方」

 

「やっふう。それでは私は食事できる身体ではないので着飾れるアクセサリーの類を要求します

 着飾ってマスターにこれ見よがしに自慢したいので露天で売ってるものよりも宝石店に行きましょう」

 

「では私はあそこの露天の軽食を

 ネルティプラチナマイオケートナブリュッセルヒュデルンというよくわかりづらい飲み物を要求します。通常の五倍ほどのお値段ですが」

 

「あらやだこの娘たちったら要求額が天井知らず……ッ!」

 

 

 間違っても宝石店なんぞには入らねえぞ茶々丸……ッ!

 って、なにやら明日菜が静かなんだけど。

 

 

「っと、明日菜どした?

 お前も何か注文しねえとキャラが薄くなるぞ」

 

「そこは影でしょ

 ……じゃなくって、えーと、そら?」

 

「おう?」

 

「いつの間にかあんたの後ろにいたその女の子、誰?」

 

 

 ああ、そういえば。

 口調が茶々丸とそっくりだから気にしなかったけどいつの間にやら背後にいたりする、アルビノっぽいネギ君くらいの年齢の幼子美少女。

 つうかお前らキャラが似すぎなんだよ。違いを強いて挙げるなら俺に対して辛らつなのが茶々丸なんだけど。

 ほんと、俺のこと嫌いだろ。茶々丸。

 

 

「ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね」

 

 

 ネルティプラチナマイオケートナブリュッセルヒュデルンという名前が長ったらしい飲み物をヂュゴゴゴと飲みつつ、そう切り出す美少女。

 いや、正直あまり聞きたくないのだけれど。

 

 

「完全なる世界(コズモエンテレケイア)から来ました。水のアーウェルンクスを拝命いたしております、セクストゥムと申します

 レイヴーン=ブラック、貴方を我が組織へと勧誘に来ました」

 

 

 ………………だから俺は違うといってるだろうがぁ……。

 つーかなんでいるの、アンタ……。

 

 

   × × × × ×

 

 

「二十年ほど前、魔法世界全土を巻き込んだ世界大戦が起こった当初は数十万人に及ぶ超規模だった我が組織なのですが、赤き翼(アラルブラ)の忘れ形見タカミチ高畑とかクルトゲーデルの地味ーな殲滅力によって近年まれに見るほどの弱小振りを発揮しつつあります

 

 んぐ、むぐ……

 

 何とか逃げ延び生き延びている中ボスクラスがいるにはいるのですが、組織自体を動かせるほどの人員はあまりにも頼りない女子供ばかり。このままではいかん、と蜂起した某中ボスさんは、私たちアーウェルンクスシリーズを正直未調整な状態で稼動させてしまいました

 

 はむ。もぐ……

 

 実力的には申し分ないのですが、私としては作戦参謀を行うべき頭脳が我が組織には圧倒的に足りない、ということに気付いてしまったのです

 そこで目をつけたのが実力的にも合格領域にいそうなレイヴーン=ブラック

 

 あむ、むぐむぐ……

 

 詠唱破棄で燃える天空に似た攻撃魔法を再現させたことには正直驚きましたし、心情的にも英雄の息子を躊躇い無く叩き潰せるその性格、契約をしたはずなのに舌の根も乾かぬうちに契約を覆すその度胸、悪党としてみるならば十二分にパーフェクトです

 その『悪』を、我が組織にて遺憾なく発揮していただけないでしょうか?

 

 すいません、おかわり」

 

 

 随分と饒舌に色々説明してくれたけれど、その表情はずっと変動しないまま。しかしその手元では俺が注文したベリー系のケーキを切り分けるフォークの動きを止めることは無い。

 そんなに気に入ったのか。聞いちゃいけなさそうなことまで喋ってくれたけれど。

 つうか食うか喋るかどっちかにしようよ。

 

 

「今組織に入るなら、メンバーは七割強が女子です。はーれむですよ?」

 

「詳しく」

 

「食いつくなバカっ」

 

 

 いやだってハーレムと言われたら食いつかずにはいられないでしょっ!

 明日菜だって禁酒法時代のギャングやマフィアが屯っている酒場とかが実際にあったら入り浸るじゃんかよ! オジコンハーレムは良くて正統派ハーレムが駄目とか納得できないんですけどー!?

 

 

「大! 体! そんな怪しい組織に幼なじみを預けられるわけないでしょ!

 どういう代物なのよ、そのコズモなんとかっていうところは?」

 

「別にあなたに許可を求めているわけではないのですが

 そうですね、一言で言えば『悪の秘密結社』です

 しかし目的は『魔法世界の救済』となっていますが」

 

「はぁ……?」

 

 

 明日菜には理解できないらしい。無理もない。

 まあ冗談は一先ず置いといて、

 

 

「正直入る気無いから他を当たってくれるか? 魔法世界もネギ君の説得が済めば早々にサヨナラするつもりだし、俺はキミの勧誘に応えられないんだわ」

 

「ネギ、ネギ=スプリングフィールド、ですか?

 彼を旧世界に連れ戻すのがあなたの役割、と……?」

 

「うん。まーね」

 

 

 特に隠すことでもないので正直に答える。

 ソレに対して、彼女は表情を変えないままに小首をかしげる仕草。無駄に可愛いな。

 

 

「しかし、それは無理では?」

 

「いや、拳闘であんな恥をかいてまだ続けられるような子じゃないでしょ

 彼が帰りたくなったらこっちのものさ」

 

 

 まさに気分は呉学人。提案したときのみんなの視線が痛かったけど細かいことは気にしない。俺だって早くカエリタインダ!!

 

 

「そう上手くいかないかと」

 

「……何故?」

 

「例のあの姿を新Verパックで絵柄にした『仮契約カードコレクション』がファングッズとして販売が開始されていますから」

 

「なん……だと……?」

 

 

 言われて見せてきたのが、件のウサ耳スク水ニーソ姿になったネギ君(青年Ver)の仮契約カード。……に似たトレカだった。

 拳闘士のファングッズが色々あるのは知っていたけど、まさかこういうのまで着手されているとは思っても見なかった。

 意外と手広いな、メガロメセンブリア。

 

 

「こういう『金の卵』を、彼を抱えている元老院が易々と手放すとお思いですか?」

 

「ぐぬぬ……」

 

 

 そうなると……どうしたもんかなー。

 ネギ君の意思だけじゃ開放しきれない可能性が浮かんでくる。

 雪広たちは説得に成功しているとは思うけど、政治とかの話になると、学生の身である俺にはちょっと手出しできないことに……

 

 

「私ならなんとかできます」

 

 

 うぐ。確かに、原作では『完全なる世界』は元老院にも融通を利かせられるくらいには浸透していたはず……。今もそうかは知らんけれども……、

 ……背に腹は変えられないな。

 

 

「わかった

 ただ、俺は一応エヴァ姉の弟子だからさ、そっちの許可が取れたらってことでかまわないか?」

 

「いいでしょう

 では、契約成立ということで」

 

 

 そう応えた、瞬間――何故か、俺の障壁が勝手に作動し、

 

――バキン

 

 

「ん?」「え」「は?」「え、なに?」

 

 

 何かが壊れる音が聞こえたかと思ったら、目の前の彼女の懐から道具がこぼれて床に落ちる。

 あれれー? 何かなそのアイテムはー?

 ………………見たことあるぞ、鷲のマークの天秤とかって。

 確かー、……相手に絶対遵守の契約を口約束で取らせるアイテムじゃなかったっけか?

 

 

「………………」

「………………」

「………………」

「え、何々?」

 

 

 わかっていないのは明日菜のみ。

 対して、俺と茶々丸の彼女に向ける眼差しは、ひじょーに冷たい。

 

 そんな沈黙がしばらく続いた、数秒後。

 彼女は、動いた。

 

 

「………………えへ☆」

 

「ギルティ(有罪)

 お前たちー、やーっておしまい」

「「あらほらさっさー」」

 

 

 俺の掛け声に応えて躍りかかるノリのいい明日菜と茶々丸がそこにいた。

 

 

「えっ、ちょ、ま――――アッ――――――!」

 

 

   × × × × ×

 

 

 数分後、目に光の無いうつろな表情で、ビクンビクンと痙攣する6号さんがいたとかいなかったとか。

 

 




~前回のネタバラシ
 レイヴーンブラックの正体はそらだったのだよ!な、なーんだってー(棒)

~茶々丸の口調が厳しすぎます
 心が、芽生えているのだよ。

~6号さんの勧誘
 ある意味修正力が仕事しました。ちなみに会話中徹頭徹尾無表情な彼女。茶々丸の無表情キャラというポジションが本気で狙われております。

~呉学人
 肝心なときには役に立たない、という逸話がある。

~仮契約カードコレクション
 ありそうな気がする。ファンとかが買い集める気がする。
 当然カード自体に効果も強制力も無い。トレカと同等の価値程度。

~鷲のマークの天秤
 名前なんだっけー(チラッチラッ
 思い出せないなー(チラッチラッ

~今更ながらそらの障壁について補足
 ・オートで勝手に発動する
 ・物理より精神寄りの効能
 ・認識阻害、幻惑、幻覚、催眠、呪詛をほぼ完全に遮る防御力
 ・初心者の魔法使いでも発動すれば見ることができる
 ・神殿並み、とはネギの談
 ・天秤は契約をかけようとして魔力を障壁に弾き返されて自壊した模様、南無
 ・あれ、これパクティオーも無理じゃね?

~「えへ☆」
 当然、無表情のまま。

~ビクンビクン
 具体的に言うなら原作で風呂場にてフェイトに襲われた明日菜状態。えっちなオシオキじゃないよ! この小説は全年齢向けの健全な作品です!


『思いつき二次創作』という暇つぶしの駄文の蛇足を投稿しました
現在続きを書いている『【まにあむけりりかる】』や『バカとテストとクロガネカチューシャ』、そして現作品の『ネギまとか真面目に妄想してみた』を投稿できないときはそっちを投げ打つ所存です
ハーメルンでの投稿以前から書き溜めていた頓挫作品の墓場みたいな
皆様のお目汚しになるやも知れませぬが次話投稿までのお暇つぶしにでもそちらをどうぞ


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『お土産何にしよう……』

 

「もっしんぐ?」

 

『あっ、やっとつながったー

 はろはろー今へいきー?』

 

「おう。どしたゆーな?」

 

『どしたじゃないよー。この三日なんでケータイつながらなかったのさー』

 

「ああ、ネギ君の実家ってかなりの田舎だったからな。電波が届かなかったんだろ

 っておい、なんかお前からの着歴が三十件とかバカみたいな数字になってんだけど!?」

 

『わたしのログにはなにもないなー』

 

「嘘付け

 つーかなんの用事だよ」

 

 

 次々入ってくる遅まきながらの着信履歴に一々対処しながら、ゆーなの声に応える。ゆーな、ゆーな、ゆーな、ゆーな、和泉、ゆーな、ふーか、和泉、ゆーな、ゆーな多すぎワロタ。あ、因幡。

 

 

『今まだイギリスでしょ?

 お土産とかー、ホワイトデーのアレもかねてブランドのバッグとか買ってきてくれたらうれしいかなーって思って』

 

「おま、苦学生になんとゆう注文を」

 

『パパー、グ●チかってー、シ●ネルかってー』

 

「本物のパパに頼みなさい」

 

 

 ろくでもない注文を付けなさる。

 まさか和泉や風香もコレ系の連絡だったんじゃねーだろうな。

 

 

『ってかまだ帰れないの?

 そらっちがいなくてサミチイナー』

 

「棒読み乙。残念ながらお兄さんの出張はまだ終わってないんだよ」

 

『え? 連絡取れたってことはネギ君の実家からはもう離れてるんでしょ? じゃあ空港とかじゃないの?』

 

「連れ帰ることには成功したけどさ。もう二三日くらいはかかりそう

 や、航空機関連のことでなくてな」

 

『……そらっち、いまどこにいるの?』

 

「京都」

 

 

   × × × × ×

 

 

「――というわけで、意外と死亡例自体は少ないそうです。ちなみに祭神は阿弖流夷というのがあまり知られていない事実です」

 

「あてるいって誰だっけ……」

 

 

 ゆえせんせーの雑学神社仏閣講座を聞いていた明日菜からのちょっと残念な感想を聞きつつ合流。

 感動しているネギ君をエスコートしているのは主に雪広。まあお互いに楽しそうで何より。

 

 

「ずいぶんお楽しみでしたね。彼女ですか?」

 

「いや友達。お前は楽しんでるか?」

 

「ええまあ。八つ橋くれいぷというのも中々オツですね」

 

「食い倒れているようで何より」

 

 

 俺の財布は着々とダイエットをしていますけどね。

 後で学園長に請求しよう。絶対。

 

 

「どうですか?」

 

「何が」

 

「着替えろと言ったのはあなたです」

 

 

 いや、言ったけど。

 今その話題を聞くの? 服を換えさせたのって二三時間は前だけど?

 

 

   × × × × ×

 

 

 ネギ君の連行に伴って最初に彼を迎えたのは他でもない、従姉であるネカネさんからの涙混じりの説教であった。

 帰ってきたと思ったら魔法世界へ無断渡航した上に拳闘というバトル漫画に首を突っ込んでいたのだから、ソレを知られてしまえば改めて泣かれることは当然である。

 加えてネカネさんは、ネギ君が未婚且つ家族でもない女性と寝食をともにしていたことにも説教していた。

 身内の恥ほどどうしようもなく目立つのは仕方のないことだ。

 改めて自分が如何に世間知らずだったのかを突きつけられて、ネギ君のライフはマイナスへと振り切っていった。

 

 ちなみにアーにゃだかアンナだかいうネギ君の幼なじみの娘には会えずじまいだった。多分都合がつかなかったのだろう。

 

 それと。

 魔法世界を脱出するにあたって、助力を発揮してくれたこの少女を俺はとりあえず皆に紹介した。

 少女6号からすれば俺に用事がまだあるわけだから、このまま麻帆良までついてくるつもりなのだろう。

 そのことを含めてみんなに紹介すると誘拐と捉えられそうになった。解せぬ。

 とりあえず偽名を『鈴木』としておく。

 

 そんな少女鈴木の格好は、原作で着ていたままの男装なのだが、性別の差か未調整だという事情の所為か、原作フェイトより幼く見える。

 なので、せっかくなので、何かしら着飾ってみることを勧めると同時にじょしちゅーガールズへと放り投げてみた。

 

 

「――その結果がこれだよ」

 

「似合いませんか」

 

「いや似合ってはいるよ。うん。ゴスロリとか着せられるとは思ってもみなかったけど。きゃー6号ちゃんカワイイー(棒」

 

「えへへ(棒」

 

 

 なんだかんだでゴスロリはエヴァ姉がよく着ているのを見るからあんまり新鮮味がないんだよなあ。

 でも折角なので写メを撮る。

 無表情で上目遣い&横ピース、だと……っ?

 なんという破壊力……っ!

 

 

「あの、そらさん」

 

「む、ちょっと待てネギ君、今いいところだから」

 

「ありがとうございます」

 

 

 唐突に有り難がられてしまった。

 キミも似合うと思うか。

 この写メが欲しいというのか。

 え、違う?

 レフ版を持っていた茶々丸に休憩の合図をしつつ、ネギ君へと向き直す。

 

 

「この京旅行、そらさんが企画してくれた、っていいんちょさんから聞きました」

 

「え、喋ったの? 雪広」

 

 

 そのまま自分の手柄にすれば良いのに。

 妙なところで律儀な奴。

 ショタコンの癖に。

 

 

「それに、ボク家出したのに、わざわざ魔法界まで迎えに来てくれるなんて……」

 

「あー、まあ気にしないほうが良いよ。大体学園長からの依頼だしね

 あと今回の旅行は2-Aをいちおー最下位脱出させたご褒美ってことで」

 

 

 課題が原作通りなら一応はあれで正式な教師になれたはずなのになぁ。

 学園長はなんで課題のレベルを上げたのだろうか。謎だ。

 

 

「でもボク、教師クビになっちゃいましたし……」

 

「そもそもまだ正式に教師じゃなかった状態で首とか意味がわからない

 正式に採用されないだけで、チャンスくらいならまだあるんじゃね?

 っとすまん、なんか電話」

 

 

 ケータイが着信を鳴らす。

 曲は『サン●オピューロランドのテーマソング』

 てゆーかエヴァ姉だった。

 

 

「もっしんぐ?」

 

『オイコラそらなんだこの小娘はお前魔法界で女引っ掛けてきたのかコラ』

 

「えっ」

 

 

 句読点なしで問い詰められて、思わず件の対象であろう6号のほうを向く。

――サムズアップをしている茶々丸が目に映った。

 お前か。

 

 

   × × × × ×

 

 

 茶々丸が6号の写メをエヴァ姉に送っていたらしい。

 麻帆良帰宅早々にややこしい事態になることが予想される。

 埼玉に暗雲が立ち込める。

 

 それはそれとして。

 

 

「千本鳥居のようですね」

 

「残念ながら違う。ここはこのかの実家です」

 

「えっ」

 

 

 言われて、改めて周囲を見渡すゆえきち。

 ずらーっ、と鳥居が立ち並ぶ、どう見ても件の神社のそれに酷似していた。

 

 

「……著作権とかで訴えられないのですか?」

 

「どーなんやろーなー」

 

 

 のんきね、お嬢様ってば。

 当人がこの調子なのだし、突っ込まなくてもいいのかもしれない。

 むしろそっちが正解だと思いたい。

 気にしない方向性でいこう。

 

 

「せっちゃんもくればよかったんになー」

 

「一応は誘ったのよ?」

 

 

 イギリスに行くとしか言わなかったから断られちゃったけど。

 

 

「なんで桜咲さん?」

 

「幼なじみなんよー」

 

「へー、そうなんだ」

 

 

 軽くスルーしているような返答を返す明日菜。

 まあこれで気づけというのは無理か。

 

 

「……あの、烏丸さん?」

 

 

 ゆえきちが何かに気づいたようである。

 

 

「ひょっとして、桜咲さんって魔法使いなのですか?」

 

「え、そーなん?」

 

「ちがうよ」

 

 

 率直過ぎ。

 正確には関係者だけど。

 

 

「ゆえきちはどーしてそー思ったのかな?」

 

「ゆえきちは止めてください

 えと、イギリスに誘ったと言うので、ネギ先生の事情を汲める人だったのではと

 ……私たちは何気についていっただけというカンジでしたから」

 

 

 自覚してたのな。

 そう、俺がネギ君を連れ帰る役目を仰せ付かって真っ先に声をかけたのが2-A魔法生徒で色々役立ちそうな護衛(笑)と顔黒スナイパー。あとついでにサボり魔シスター。

 不慣れな外国に行くにあたって、一人じゃ心細かったんだー(棒)。

 簡単に袖にされたけど。

 一蹴どころか話も聞いてくれなかったけど。

 それを教室でやったから話が広がったんだけど。

 

 そうして都合がついたメンバーが今のこれ。

 雪広がついてきたからその足で今回の旅行に踏み込んだ。それだけであったりする。

 

 なので今回のこのかの帰省は完全に不意打ち。

 でもまあ原作知識と照らし合わせてみても、別段問題ないような気もする。

 

 

「つーわけでこのか、掛け声たのむわ」

 

「ほいほい

 ただいまー!」

 

「「「こっ、このかおじょうさまっ!!!?」」」

 

 

 門を開いて元気良く。

 巫女さんの群れが驚愕していた。

 

 




~着信三十件
 魔法界は普通の電波では通話できないところ。
 おかけになった電話は電源が入っていないもしくは大気圏突入中につき繋がりません。というメッセジが多分あった。

~因幡
 そらに電話をかける数少ない男友達。
 社交性の高いイケメン。
 これまでの三人? そういうタイプと違う。

~阿弖流夷
 悪路王とかゆう呼び名もある蝦夷の王様。
 正確には寺だし、祭神ゆうよりは御霊が正解。
 まあ奉られてることは間違ってないからそこまで細かくなくてもいいか。

~八つ橋くれいぷ
 あんこと生クリームのコラボレーションに八つ橋特有のニッキのにほいが香ばしい一品。
 味わいをどうにかできないものかと、店の配慮によって混入された山盛りフルーツが更にカオスを引き起こす。
 このクレープを作ったのは誰だぁ!?

~アーにゃ
 本名がアンナココロヴァ以下忘れた。多分色々間違ってる。
 最初にこの変換が出てきたので思わず猫耳の釘宮を妄想したのは間違ってないはず。
 ツンデレでロリっ子とか、出てきたらそらもネギも確実に帰れなかったので割愛。理由は、分かれ。

~鈴木6号
 調整ミスの結果何気に幼女なセクンドゥム。
 俺のイメージでは原作フェイトより頭ひとつ分背が低い。年齢設定はネギ君と同じくらいで妄想してるけど。
 今のところ麻帆良にいるはずの別の幼女の対抗馬。
 これにはエヴァも激怒する。

~昆神社なう
 確かそんな名前だった。
 本家の千本鳥居はもっと小ぢんまりとしていた気がする。
 行ったこと無いから知らん。


パソコンがあんなことになるなんて、思ってもみなかった俺が通りますよ、っと
いやな、じけんだったね・・・

ここに来て戦闘力(白目)のインフレがおかしなことになった気がする
幼女率が跳ね上がる、だと・・・っ!?
俺のスカウターじゃ測定不能だぜ・・・!

幼女と書くからおかしいんだ。少女と書こう
そう思われる方もいらっしゃるでしょうが、某時代があれで名乗ってるから書ききれないだけで・・・あれ、そうなると少女と書けないじゃないかやだー
あとは、わかるよね?

なんだか混沌かつ正しく狂っているような展開を書いている気もしますが、これはこれで一応の物語にはなっている
きっと、そのはず。たぶん、おそらく、めいびー


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『わんわんを! わんわんを!』

 

「ふえー」

 

「ふわー」

 

「ほへー」

 

「はわわ」

 

「ふええ」

 

「みんな気にしすぎやでー

 そらくんは狙いすぎや」

 

 

 いかんか。

 お嬢様のご実家に通されて、恐らくは客間で待機中の我ら麻帆良一行。

 通されたそこが、実家というよりは屋敷、客間というよりは本殿、と意訳したほうがしっくり来る場所なので完全に圧倒される。

 上から順に、明日菜・ネギ君・触覚・鈴木・俺、と間の抜けた声で心内を表現してみればこのかに窘められてしまったぜ。てへぺろ。

 平気そうなのは雪広と茶々丸、意外なところでゆえきちくらいだった。あ、いやゆえきちは微妙に緊張してるっぽいな。声を出せなかっただけかも知れぬ。

 ちなみに鈴木は何気に俺の後ろを陣取っている。すそを小さく掴んでいる仕草が引っ込み思案な妹みたいで思わず萌える。なんというハニートラップ。くそっ、強すぎる! みんな! ここは俺が食い止める! ょぅι゛ょは任せて先にいけー! ぐへへ。

 

 

「最後ので台無しや」

 

「心を読むな」

 

 

 そんなとりとめも無い会話をしていると、きっちり正装した壮年の小父様が登場した。初見だけどこのかパパなのだろう。きっと。

 

 

「ようこそいらっしゃいました麻帆良の皆様

 私はこのかの父の近衛詠春といいます。このかがいつもお世話になっています」

 

「いっ、いえこちらこそっ!」

 

 

 真っ先に明日菜が反応した。オジコンレーダーに触れたか? お辞儀をする恭しい明日菜に反応して慌ててソレに倣う図書館探検部の面子。

 割と平然としているのは俺と、やっぱり雪広と茶々丸くらいだ。

 

 

「こちらこそ、このかさんとは普段から良くしていただいておりますわ

 申し送れましたがワタクシ雪広あやかと申します

 僭越ながら学級委員長を勤めさせていただいておりますわ

 このかさんにはそちらでも手を貸していただくことがよくありまして――」

 

 

 雪広の社交スキルが天元突破。

 対してこのかパパはというと、妙にぽかんとしている。

 さてはこういう普通な対応がくるとは思っても見なかったな?

 

 

「あ、ああいえ、そんな畏まらなくてもかまいませんよ

 ええと――」

 

 

 ん?

 なんかこっちをチラ見してる。

 ああ、全員が魔法関係者だとでも勘違いしていたのかも。

 さすがにいきなり敵対視するつもりは無いだろうけど、連絡なしにいきなりだったから対処し切れなかったのか。

 

 

「雪広、チェンジ」

 

「あら

 そらさんに相応の対応ができますの?」

 

「誤解があるようだから取っ払っておこうかな、と」

 

 

 改めて。

 

 

「ども、近衛さんとはお友達をしています烏丸といいます

 ちなみにこちらはネギ君、近衛さんを初めとしたこちらの女子たちの担任をしている子供教師です

 直接的な関係者は俺たち二人くらいなので、過剰な反応はナシにしていただけるとありがたいです」

 

 

 一応は友人の父親、という相手なのでこのかのことは呼び捨てにはできない。

 そう言うと、少しだけ納得したような顔をした。

 

 

「そうでしたか

 しかし、この場で話すというのも適さない話でしょうし――」

 

「ああいえ、一応は魔法のことには知識として知っている娘らなので大丈夫ですよ」

 

「――そ、そうですか」

 

 

 再度苦笑されてしまった。解せぬ。

 

 

「で、本日来た理由なのですが」

 

 

 改めて本題を切り出す。

 無駄に溜めると、周囲の巫女さんらまでもが緊張した空気を張り詰めさせる。

 

 

「――ただの暇つぶしです」

 

『――は?』

 

 

 おお、全員の言葉がシンクロした。

 相手を驚かせることができるのって、なんか新鮮。

 

 

「正直特に目的も無く

 ネギ君には日本文化をある程度見学させてあげようっていうのが名目ですけど、その過程上でここに寄っただけですので邪魔だというならお暇します」

 

『え……ええー……?』

 

 

 まあ『魔法使い』をこの初心者集団に見せるっていう名目も亡きにしも非ずなのだけれど。

 このかの実家が『まっとうな』魔法関係者集団だというなら、この場にやってきた俺らを一網打尽にするようなバカな真似はやらないだろう。という打算もちょっとはある。

 

 で、いい加減に相応の反応をして欲しいのだけど。

 

 

「そ、そうですか……」

 

 

 反応できたのはこのかパパのみ。

 俺はDIOじゃないのだけれどなー。

 

 

   × × × × ×

 

 

 そして、時は動き出す――。

 と、なったのは少年が突貫してきたお陰だった。

 そうならなかったらあの空気のまま夕方まで放置となるところだったぜ。

 

 

「しょーぶや! 西洋魔法士!」

 

 

 突貫してきたのは犬上小太郎と名乗るネギ君くらいの少年。

 バイタリティあふれる彼に連れられるまま、我が一団は庭先へと移動していた。

 あのままあの部屋にいても気まずかったから気にしないけれどもさ、子供をフルボッコにするのはさすがに気が引ける。

 

 

「そんなわけで、ネギくん。Go」

 

「え、ボクですかっ!?」

 

 

 おや。

 まさか自分ではないと思っていたのかな?

 

 

「だってこの中で西洋魔法士なんていうカテゴリにいるのはネギ君だけだし」

 

 

 ほんとは鈴木もだけど、6号ちゃんはすでにやる気なしに縁側で茶を啜り観戦モードに移行している。

 俺? ほら俺ってばスタンド使いだし。

 

 

「そらさんも魔法使いじゃ……」

 

「なにをばかな

 まあ逝きたまえよ。キミくらいの年の男の子なら喧嘩に明け暮れるのも経験さ」

 

 

 すっとぼけたことを言いつつ戦線離脱。

 取り残されたネギ君は臨戦態勢な犬っ子に「えー……」と若干引き気味。

 

 

「はっ、おびえて喧嘩もできへんのか? 西洋魔術師なんてーのは臆病もんの集まりやなー!」

 

 

 こたろう は ちょうはつした!

 それはそうとカテゴリは統一しようぜ。

 なけなしのプライドが勝ったのか、ネギ君も反論する。

 一応は拳闘をやっていたから相応に『男子』な部分が反応したのかもしれない。

 口喧嘩がデットヒート。

 殴り合えよ。

 

 

「なんかgdgdだよな」

 

「あの~、あまり喧嘩を助長するのはどうかと~……」

 

「まあまあ本屋ちゃん、あれくらいならかわいいもんじゃない?」

 

「怪我は男の勲章、とも言いますしね

 ネギ先生にも少年らしきところがあったということなのではないでしょうか」

 

「けんとう、を見た感じそれほど危なっかしいようにはみえへんかったしなー

 日本ならもっとあんぜんちゃうん?」

 

 

 うん? ……、あぁ。

 なんでか気が抜けてるのかと思えば、ネギ君の試合を見た感想がみんなの第一印象として残っているのか。

 まあ観戦したネギ君のあの試合はどれもこれも手加減された代物だったし、見た目派手なだけのプロレスみたいな拳闘だったからそう印象付けられるのも無理は無いか。

 

 ――ドコォッ!

 

 そんなことを考えていたらネギ君が殴り飛ばされた。

 

 唖然とする女子中学生群。

 茶を啜る幼女。

 舞い飛ぶ薬味少年。

 犬っ子の追撃が繰り出される。

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」

 

 

 どう見てもオーバーキルです。本当に(ry

 

 

「ちょっ、やりすぎじゃないの!?」

 

「ああっ! ネギ先生がっ! ぼろ雑巾のようにっ!」

 

「やりすぎです! 早く止めなくては!」

 

「いやあれはあれで正しい対応なんだけどね」

 

 

 魔法使い相手にはかなり正攻法な対処法。

 要するに詠唱させないようにラッシュで畳む。

 単純だけど確実な戦略。

 それにしてもよく息が続く。すげーな犬っ子。

 

 

「感心している場合ですのっ!?」

 

 

 大体障壁で衝撃ぐらいは緩和しているから、俺としてはそれほど慌てることもないのだけれど。

 まあどの障壁も打ち抜かれてクリティカルってるようにしか見えないのが現状だけども。

 

 

「ハッ、やっぱ西洋魔法士なんつーのはこの程度ってことやな!」

 

 

 うぃなー、こたろう。

 勝ち鬨を挙げる犬っ子はまあ置いといて、薬味少年を回収する。

 

 

「あーあ、ぼろぼろだなー」

 

「の、のんきやなそらくん」

 

「この程度の怪我なら回復手段ぐらい頼めばあるんじゃね?」

 

 

 暗にこのかぱぱとかに聞いてみればどうよ? とこのかに話題を振ってみる。

 理解力↑なこのかはうなずくと、すぐに人を呼びに行った。

 

 

「うう、そらさん……、こ、これで、僕のかたきを……」

 

「瀕死の割りには余裕だねネギ君」

 

 

 バレーボールのようにヴォッコヴォコにされたネギ君は、腫れた顔でよろよろと懐から小判を取り出した。

 それ映画村のお土産?

 

 

「ほぉー、お次はにいちゃんの番かい」

 

「え、いや俺は」

 

 

 やるつもりはないのだけれど、

 

 

「やっておしまいなさいそらさん!」

 

「やっちゃえ烏丸くん!」

 

「ね、ネギ先生の敵をー!」

 

「生意気なガキは畳んじまうです!」

 

 

 うーわ。

 我らが担任をフルボッコにされたことで女子らはお怒りのご様子である。

 改めて愛されてるねー、ネギ君。

 

 

「……明日菜は静かだな」

 

 

 いの一番にモンペ的なことを言いそうな幼なじみに思わず目を向ければ、何か微妙な顔つき。

 なんぞ?

 

 

「ほんなら行くでー!」

 

「え、まだやるとは言ってn「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

 

 

 繰り出されるラッシュ。

 その全てが俺を襲う。

 

 ――が、

 

 

「めんどいっ」「オ、ラァッハぁ!?」

 

 

 がっし、ぽーい。

 

――ど・ぼーん

 

 振り飛ばされた小太郎は庭先の池へと着水した。

 

 

「まだまだぁ!」

 

「えぇー」

 

 

 どざぁ、と池から這い出てきて、再び襲い掛かってくる。

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

 

 

 がっし、ぽーい。

 

――ゴン

 

 振り飛ばされた小太郎は庭先の石灯籠へと着地した。頭から。

 

 

「……っ……! ……っ!」

 

 

 悶絶する犬っ子。

 平気?

 

 

「ダ、ダメージ受けるっつうこと知らんのかいアンタは!?」

 

「些細なことだろ」

 

「納得いくかぁーっ!!」

 

 

 単にスタンドで全部攻撃を受けきったって程度なんだけどなー。

 まあ見えなかったらわかるわけないか。

 

 

「か、烏丸くんってあんなに強かったの……?」

 

「ふ、ふぇー」

 

「た、確かにあれでは、烏丸さんからすればイジメにしかならないのですね……」

 

「それだけでは済みませんわよ……! 反撃しなさいそらさん……! ネギ先生をごみくずのように扱った報いを受けさせるのですわ……っ!」

 

「いいんちょ、ちょっと落ち着いて(……でも強かったんだ、そらって……。なんか心配して損した……)」

 

 

 ほらー、ドン引きじゃないかよみんな。

 雪広は未だに腸煮えくり返っている状態のようだけど。

 つーかその言い方、何気にネギ君の傷口抉ってるから。

 あとなんか明日菜が最後ボソっとつぶやいた気がした。気のせいか?

 

 

「もーいいだろ、そろそろお暇しておきたいのだけれどな」

 

「納得できるかい! ちゃんと勝負しろやー!」

 

 

 現状、手も足も効かないのによく言えたもんだ。

 

 

「仕方ねえなあ」

 

 

 ちぃともんでやろう。

 雪広もうるさいし。

 

 構えらしい構えはない。

 自然体で、力を抜き、抜き身のコブシをだらり、と引っさげての、カウンターに対処できる抜刀術。

 その名も――、

 

 

「ヒテンミツルギスタイル」

 

「なん……やて……っ!?」

 

 

 まあ刀なんて持ってないけど。

 子供相手には無刀で充分。

 ほら、かかってこいよ。

 

 




~ょぅι゛ょは任せて先にいけ!
 最強にして最悪の兵器。
 投下された戦場では兵士の帰還率は最低を割る。

~このかぱぱ、空振り
 正装もまったくの無駄。
 ふぁいと。

~いぬっこ が あらわれた!
 対処はネギ君に任せる!
 ほら、そらってば平和主義者だしー(意味深)。

~こたろう の こうげき!
 ある意味まっとうなオラオララッシュのアーキタイプ。
 あきらたんのラッシュなんてなかったんや!

~だが すべて ふせがれた!
 インストールドットは概念を打ち込むスタンドですがその基本形態は【意思】を撃ち込むもの。
 防御する/迎撃するという【意思】があれば完全防衛のできるスグレモノ。
 逆に攻撃が単体では出来ない、というのがこれまでのおさらい。
 これでよくスタンド使いとか名乗れる。
 都合のいいときばっかりだけどな!

~あすな は しんぱいそうに こちらをみている
 久しぶりにヒロインらしいことを書いた気がする。
 もう、ゴールしてもいいかな・・・?

犬っ子で一話作ろうとしたけど関呪のさわりを書いてたら変なところで切れてしまった
気楽な二次小説なのでそれほど深く書き込むつもりもないので、組織とかムツカシイハナシはやりたくないよ!
そして相変わらずちっちゃい娘が目立つ目立つ
鈴木をレギュラーにする運動が勃発しそうです

次回次々回辺り、大体出揃っている原作設定に改変が加わるかもしれません
ついていけねーよ、と思った方は遠慮なさらずにご感想をください
こいつほんとに好き放題書くなw、と思った方はエールをください
そんな感想が私の原動力です


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『そのころ麻帆良では』

コイツが主人公でも良くね?
かっこよく書けてたらいいなー
そんな番外編


 

 今日も気だるい気分で目を覚ます。

 清々しい朝なのに、片付かない問題がひとつあるだけでこんなにも憂鬱になるとは。

 俺もまだまだ修行が足りない。

 と起き抜けの頭で、彼は自身を叱咤した。

 

 

「はぁ……」

 

 

 ため息をついてその『問題』へと視線を向ける。

 目を覚ましたその背後、枕元の寝台の角には、学ラン姿の『悪霊』が膝立ちとなって佇んでいた。

 いや、コイツは『悪霊』ではないのだ。そのことは不本意ながら、彼自身がファンでもあるマンガの知識でよく知っている。

 

 それの名称は『スタンド』。

 それも第三部の主人公に憑いていた『スタープラチナ』と良く似た姿の『スタンド』だ。

 

 戦うための能力を持った不可視の存在を背後に従え、豪徳寺薫は今日も憂鬱にため息をついた。

 

 

   × × × × ×

 

 

 俺は『喧嘩屋』だ。

 男とは強くあるもの、漢であるもの、という理念の下に素手(ステゴロ)で最強を目指す。

 麻帆良ではよく居る、熱き夢を目指した少年たちが目指した先の通過点の一人だ。

 

 そのことを良く知っているからこそ、自覚しているからこそ、強くなろうという後進を見るのは嬉しく、胸に熱くこみ上げてくるものがある。

 それ以上に強くなりたい、という信念も己にある。

 だからこそ後進には壁となり、一足先を行くものたちに追いつきたいとも足掻く/鍛えることを忘れない。

 

 そんな己に、何故こんなものが憑いたのかが理解できなかった。

 

 強さは確かに渇望していた。

 だがそれは『自分自身を』という前提が敷かれている目標だ。

 マンガで読むような戦況を覆せる特殊能力ではない、自分が積み重ねてきた努力が土壇場で活きる。そんな才能こそが俺には必要だ。

 だからこんな能力は必要ない。そう思っていたが……。

 

 ……どうも世の中という奴は上手く回らないものらしい。

 

 間違っても己の喧嘩に使ってしまわないようにスタンドを制御しようとしたのだが、このスタンド、姿を現してから今日で一週間目、うんともすんとも反応しねえ。

 お前、何しに現れたんだ……?

 

 

「やあ豪徳寺君、調子はどうだい?」

 

「瀬流彦先生か……」

 

 

 スタンド制御を目的として、今日もいつも通りの特訓をしていたところ『先輩』がふらりと現れた。

 一見してそうは見えないが、この人も俺と同じ『スタンド使い』だ。

 先達として色々助言を受けてはいるものの、いまいち様にならないことが情けなくて歯噛みしちまう。

 

 

「どうもこうも、一向に反応がありゃしねえ

 先生はどうやって動かしてやがんだ?」

 

「うーん、僕の場合は『動かない』なんてこと自体がなかったからなぁ。助言だけじゃ話せることももうないよ」

 

「そうか……」

 

 

 芳しくない回答に、思わず恐ろしいヴィジョンが脳裏に浮かぶ。

 もしコレが俺に制御できないままだったら?

 そしてそれが喧嘩の最中に突然動くような事態になってしまったら?

 そしてその能力が予想以上の結果を出してしまったら?

 

 コイツは見た目スタープラチナに良く似ているのだが、細部が微妙に違う。

 特に身体の数箇所に掲げられているはずの『星』のマーク自体が『ハート型』へと変わってるのだ。

 『ハート』で思い起こすのは無理な連想かもしれないが、どうしてもあの『爆弾魔』キラークイーンを思い起こしちまう。

 もしそんな能力が自分の制御できない事態になってしまったら、などと思うとぞっとしない。

 俺は喧嘩屋であって殺人鬼ではない。

 

 

「強く……なりてぇ……」

 

 

 思わず口から漏れた。

 勝てる強さじゃない。

 己を律することのできる、従えることのできる強さが欲しい。

 当然勝つことも希望には入っているから己のなんと強欲で浅ましいものか、と自嘲するような気分にもなっちまっていた。

 

 

「強く、か……

 何なら、手をかしてあげてもいいんだよ?」

 

 

 俺の呟きに応えたことに瀬流彦先生の方へと思わず目を向ければ、先生はスーツの上着を脱いでネクタイの襟を緩めていた。

 何故か背筋が寒くなった気がした、があまり気にせずに聞いてみる。

 

 

「なんか、手段でもあるのか……?」

 

「手段というほどのものでもないけれどね、試してみて損はないと思うよ」

 

 

 「セカンドフロッガー」と、先生の背後に緑色のスタンドが現れる。

 前にも見せてもらったが、尻尾のない某人造人間もどきはやはり見慣れたものじゃない。

 

 

「スタンドは戦うためのものだ

 僕のは間違っても戦闘向きじゃないけど、だからこそスタンド専用のデコイとも呼べる代物だ

 さあ、僕/スタンドを殴って見せろ!」

 

 

 唐突的な変態発言にも似通った台詞だが、恐らくは俺を気遣ってのものなのだろう。

 要するに模擬戦の相手をしてくれると言っているのだ。

 

 

「――ちっ、先輩のご好意には頭が上がらねえぜ

 それじゃあ遠慮なくやらせてもらうけど……、

 ――怪我しても、知らねえぜ?」

 

 

 「構いやしないよむしろ来い!」と挑発にも律儀に応えてくれる先生に内心の嬉しさを隠しきれず、俺は拳を握り締めた。

 

 

「いくぜぇええ!」

 

「よっしゃこいバッチコイいますぐきてぇえぇええええ!!!」

 

 

「――モザイクブルー!」

 

 

「え」

 

「――あげろぱっ!?」

 

 

 ドフッス! と鈍い音が俺の拳の届く前に響いた。

 

 セル彦先生のスタンドは、突然現れた青い別のスタンドに鳩尾をアッパーカット気味に打ち貫かれ、それに合わせるように悲鳴を上げつつ、セル彦先生自身の身体もくの字に折れ曲がる。

 メタァ、とスタンドと連動してダメージを受けたセル彦先生が地面へ膝から崩れ落ち、青いスタンドはそれを気にせずに「セカンド」の首根っこを掴まえて佇んでいた。

 

 

「……え、だ、誰だ……?」

 

「なんか不穏な気配感じたから思わず

 お邪魔、しました?」

 

 

 後ろから声がかかり、ばっと振り向くと長身の女生徒がいた。

 コイツが、あのスタンドを使っているやつか……?

 

 

「ナニモンだ、テメエ……?」

 

「そんなに警戒されても……

 とりあえず敵じゃないです」

 

 

 そんなことを言われても信じられるわけがねえ。

 セル彦先生を不意打ちでいきなり倒したスタンド使い、なんて警戒しないほうが可笑しいだろ。

 

 

「とりあえず、そいつを放せ

 ハナシはそれからだ……っ」

 

 

 「セカンド某」とかいう緑のスタンドを未だに掴まえている状態なんて、充分に警戒に値するよな?

 

 

「全然信用してもらえてない……

 どうすればいいかな……」

 

 

 放せばいいと思うぜ?

 

 

『アラアラアラァ?

 何をしているのかしら? あなたたちは?』

 

 

 ――不意に、そんな声が聞こえた。

 

 

「「「!?」」」

 

 

 女生徒が、俺が、そしてなんとかいつの間にか復活していたセル彦先生が、そっちのほうへと顔を向ければ、そこには信じられない存在があった。

 

 

『校内で喧嘩かしら?

 そんな悪い子にはしっかりとOHANASHIしないとねぇえ?』

 

 

 ――戦車だ。

 

 

「は――っ、はぁああああああっ!?」

「え、ナニアレ」

「ひぃぃぃぃ!?」

 

 

 三者三様に驚きの声が上がる。

 無理もないと思う。

 そして、その『戦車』の砲台はしっかりとこちらを向いていた。

 

 

「やば」

 

 

 女生徒が呟く。

 俺も全身の毛が逆立つのを感じたのだから、同じように危機感を感じ取ったのかもしれない。

 そしてそれからの仕草は流れるように流麗だった。

 

 

「セル彦ばりあー」

「はい!?」

 

 

 青いスタンドが緑のスタンドを俺たちの眼前へと放り投げる。

 それと同じようなタイミングで、『戦車』が砲撃を発射した。

 

 

「ぎゃああああああ!?」

 

 

 セル彦先生が鼻毛を扱う少年漫画のよく犠牲になるところてんのような悲鳴をあげ、緑のスタンドが俺たちの壁となって砕け散った。

 その隙に俺たちは物陰へと全力で隠れる。

 ありがとう、俺はお前を忘れない……っ。

 

 

「って、セル彦先生死んだんじゃねえのかっ!?」

 

「あ」

 

 

 慌てて先生のほうを向く。

 先生(本体)は真っ白になって膝から崩れ落ちていた。

 例のマンガの描写的には完全に死んだイメージしか伺えないのだが!?

 

 

「………………………………………………

 多分大丈夫。スタンドが砕け散ったのなら本人も砕けるはずだから。全身満身創痍にしか見えないけど、多分生きてる。多分」

 

「沈黙が長すぎるだろ! というか『多分』多いな!」

 

 

 本当に生きてるんだろうな!?

 こんなギャグみたいな死に方なんて哀れすぎるぞ!

 

 

   × × × × ×

 

 

 『それ』はとある人物のスタンドである。

 『彼女』はこの場に来ることもできたが、直接動くことを是とはしない。

 『彼女』はあくまで裏方で、今回のコレも彼女本来の仕事の延長線上にスタンド使いが関わっていたから出張ってきたに過ぎないのだ。

 

 だが、そんなことは彼らには露ほども関係ない。

 

 むしろ、第一の犠牲者が出たことによって命の危機を感じる事態へとなってしまっていた。

 

 

「で、どうしよう?」

 

「スタンド……だろうな。あんなのが敷地内にいたら、基本なんでもありのさすがの麻帆良でも騒ぎになるだろうし……

 くそ、シアーハートアタックより性質が悪い……っ、あれで更に遠隔操作型なんて言ったら本気で逃げたくなるぜ」

 

 

 薫が至ったその思考は間違っていない。

 コレは『彼女』のスタンドの第三形態の上に、遠隔操作型であることも当たっていた。

 故に、この場の誰もが気づかないが、現状最悪な状況のままなのである。

 

 

「えーと、先輩? のあれは戦えますか?」

 

 

 長身の女生徒、アキラが薫に尋ねる。

 見た目中学生に見えないから先輩と呼んだのだろう。大方これも間違ってはいない。

 

 

「いや、無理だ

 俺のスタンドは何故か一向に動く気配がない」

 

 

 一見主役級にも見えるそいつは、薫の背後で佇むのみ。

 それを確認すると、アキラは頷いた。

 

 

「わかりました

 じゃあ私がアレを惹きつけますから、先輩はその隙に逃げてください」

 

「なっ! バカ言え! あんなのに敵う筈が――!」

 

「敵う敵わないの話じゃないんです

 戦えるものが戦う。それだけです」

 

 

 それが正義感なのか。

 それとも蛮勇か。

 アキラの言葉が薫の胸のうちに響く。

 息を呑み、前にも後ろにも進めない、そんな感覚を薫が覚えている間に、アキラは今にでも戦線へ躍り出そうな雰囲気を醸し出していた。

 

 

「(俺は――何をしている?)」

 

 

 スタンドを使える。

 スタンドを使えない。

 ただそれだけの理由で二人の選択肢が分岐する。

 

 

「………………わかった、死ぬんじゃねえぞ」

 

「死ぬ気なんて、ありませんから」

 

 

 それに納得できない自分がいることを自覚しつつも、今はこれしか選択肢がないのだ。

 薫はこそ泥のように逃げつつ、そう自分に言い聞かせようとしていた。

 その時――、

 

 

『――本当にそれでいいのか?』

 

「!? だっ、誰だ!?」

 

 

 響いたその声に慌てて振り向く。

 そこにいるのは己のスタンドのみ。

 『それ』が、自分に言い聞かせていた。

 『それ』が、語っているのが理解できた。

 『それ』は、自分の声でもあった。

 

 

『お前は強くなりたいと願ったんじゃなかったのか?』

 

『女子供を捨てて逃げ出す、それがお前の強さか?』

 

『勝つことができなければ逃げ出すのか?』

 

『それでお前は強くなれているのか?』

 

 

「お、俺は……、俺、は……」

 

 

 どれもこれも自分の声で、どれもこれも自分が納得できない現状への不満で。

 どれもこれも、

 

 

「俺、は――っ!!」

 

『『『『俺は、強くなりたい』』』』

 

 

 ――彼の、願いだった。

 

 

   × × × × ×

 

 

 大河内アキラは普通の女子中学生だ。

 少し他人より背丈があって、少し他人より腕力がある。それでいて水泳に趣向を傾ける程度の、まだ常識人の範囲にいるはずの少女だ。

 少し他人より違うのは、不可視の能力であるスタンドを使える。ただその程度。

 

 だから、またセル彦先生が何かやっているのかと嗜めるつもりで口を挟んだ。

 被害意識と正義感、それ以上の感情も衝動もないままに、ここは平和な日本の一角なのだと、そんな無意識を自覚しないままに、知らないスタンドと対峙していた。

 

 それが――、今、命の危機を覚えている。

 

 

「はぁ、はぁ、くっ」

 

 

 息を切らせ、砲身がこちらを向く前に駆けて近づく。

 モザイクブルーは直接戦闘用のスタンドなために、最低でも2mは近づかないことには手も足も出ない。

 あまりにも無防備な、あまりにも無策な素人の行動。

 それでも近づけたのは、その『戦車』の砲身が見たところ一つだけに見えたからだった。

 

 

「これで、決まる――!」

 

 

 モザイクブルーにコブシを振り下ろさせる。

 

 ――が、

 

 

「―――っ!?」

 

 

 じわり、と自分の手が痛むのを感じた。

 石か鉄を直接殴ったような感触に、思わず手を引っ込めて握る。

 

 そして、『戦車』はまったくダメージを負っているようには見えない。

 コレの意味するところは、つまり、

 

 

「……っ、倒せ、ない……っ」

 

『そぉねえ

 というか、普通に考えればわかることだと思うけど?』

 

 

 事実に慄き、思わず呟いたそこへ投げられたのは『戦車』からの声。

 中に使い手がいるのか。それとも別の方法で意思の疎通を可としているのかは、アキラには判別できない現状であった。

 

 

『離れなくて、いいのかしら?』

「っ!?」

 

 

 次の瞬間、『戦車』が動いた。

 

 本来ならば――、

 すべての地上兵器を直接射撃で破壊する高初速砲の攻撃力と、その自身の砲をゼロ距離で防ぎきれる複合装甲の防御力。

 更にその50t前後の巨体を時速70kで駆け巡らせる起動力を併せ持って敵陣を蹂躙し歩兵の盾となる、最強の地上兵器。

 戦車とは怪獣映画に使われるようなかませ犬などではない。

 

 対して――、

 様々な能力と不可視の実体を持ち、常人では対処のしようもないようなエネルギーの塊。

 ただしそれは『対人』に限っての話。

 広域を殲滅したり、対象を爆弾に変えたり、バイオテロのような効果を発揮したりという非常識な悪意を顕現させる存在であっても、それらが高速戦闘機などと直接戦ったという話はない。

 スタンドとは、あくまで『対人』に特化した戦闘技能の延長線上でしかない。

 

 故に。

 車に直接体当たりを喰らわされたような錯覚を覚えつつ、轢帯を唸らせた『それ』から距離をとったのは間違いではない。

 たとえそれで砲身の害意を向けられているのだとしても――、

 

 

「あ――」

 

『ハイ、おしまい』

 

 

 砲身が唸り、目に映らぬ速さの衝撃がモザイクブルーを捉える。

 その瞬間、

 

 

「漢玉ぁっ!!」

 

 

 『それ』を横っ面から弾き飛ばした『攻撃』があった。

 

 

「っ? なんで……」

 

 

「へっ

 のこのこ逃げてちゃ漢が廃る、ってなもんよ」

 

 

 それは逃げろと離れた人物。

 自分が囮になるからと逃がしたはずの彼。

 

 ――豪徳寺薫が、そこにいた。

 

 




予想外に長くなったけど、これくらいの内容ならどうかな、という実験も兼ねての番外編
次回に続く。わけではない
こんな書き方ってどうよ?
展開が中途半端?
これから豪徳寺先輩のストーリーを初めてゆくんだよ、多分
まあ学園祭までは直接絡む予定はないけど。いつになるやら

以下、没ネタ

―――――――――――――――

 響いたその声に慌てて振り向く。
 そこにいるのは己のスタンドのみ。
 『それ』が、自分に言い聞かせていた。
 『それ』が、語っているのが理解できた。
 『それ』は、自分の声でもあった。

『お前は強くなりたいと願ったんじゃなかったのか?』
『女子供を捨てて逃げ出す、それがお前の強さか?』
『勝つことができなければ逃げ出すのか?』
『それでお前は強くなれているのか?』

「お、俺は……、俺、は……」

 どれもこれも自分の声で、どれもこれも自分が納得できない現状への不満で。
 どれもこれも、

「俺、は――っ!!」

『『『『俺は、強くなりたい』』』』

 彼の、願いだった。


「ペル、ソナァ……っ!」

『我は汝、汝は我』


 背後の『自分』が動き出す。
 さぁ――、反撃の始まりだ。

―――――――――――――――

本気でやりかけてあわてて消去
ペルソナじゃねえよスタンドだよ!
番長、自重してください



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『そろそろ麻帆良に帰ろうぜ』

これじゃない感を引っさげての二十五話
なんだか大サービス



 

 かぽーん、という音が響く。

 浴室ではお馴染みの効果音なのだけれど、木桶の音であってるのだろーか。これで鹿縅だとか言ったら首を捻らざるをえないのだけれど。

 そんな益体もないことに思考を持っていかれつつ、風呂場なう。

 女子風呂だと思った? 残念! そらくんでした!

 ちなみに未だにこのかの実家。即ち関西呪ずつ協会(噛んだ)。略して関呪。

 大体犬っ子のせい。

 相手し終えればすでに夕方で、再生遅いネギ君の回復待ち中にこのかが泊まってゆく方向でパパさんに話してた。

 まあお嬢のご実家であることだし、このかパパはネギ君にもそこそこお話があるらしいし、泊まるところが絶対だったわけでもないのですんなり承諾。

 

 このかパパ&ネギ君に連れられ、銭湯みたいな風呂に浸かっていたところでそんな話をされた。

 大体女子の行動力が既定なんだし、別に俺に話さなくっても良かったんじゃね?

 

 

「それでは私はもう出ますが、烏丸君はどうします?」

 

「あー、俺はもうちょっと浸かってます

 ねぎ君は?」

 

「僕は詠春さんがお話があるそうなので、お先に上がりますね」

 

「おー」

 

 

 やったぜい、でかい風呂場を、独り占め(五・七・五調)。

 風呂はいいよね。

 徐倫(ジョリーン)の残した人類の英知だよ。

 あれ、ケインだっけ?

 

 普段ゆったり浸かることをしない俺だけど、麻帆良では基本個人風呂がないからなんだよなー。

 男子寮は大浴場だし。

 大抵いも洗い状態だし。

 部活ではシャワーだし。

 カラスの行水だし。

 せっかくの機会だから脳髄に染み渡るまで溶けきってやるぜぇ。はふぅ。

 

 

――カラカラカラ

 

『とぉーう』

 

――ドボン!

 

 

 ――うぉ!?

 

 

「なんだぁ!?」

 

「――ぷっは! のんびりしとんなー兄ちゃん!」

 

 

 犬っ子が現れた。

 お風呂場で飛び込むんじゃありません!

 

 

「お前かよ。もう平気かー?」

 

「おー。あんなに簡単にやられたん初めてやったわ

 どうやったんや? 攻撃がぜんぜん見えへんかったし」

 

 

 まあ単にインストールドットで頭を揺らしただけなんすけどね。

 『攻撃』自体は正しく通じないから、『揺らす』だけのつもりでのスタンド攻撃。というよりは触れた程度の攻撃だけど。

 三箇所くらい別々の場所から頭だけを揺さぶれば流石に三半規管とか脳とかもまともに動けていられるわけないし。

 

 ん? ヒテンミツルギスタイルはなんだったのかって?

 ただのポーズですけどなにか?

 

 

「……まさか飛天御剣流とはな、ほんもんの使い手がおったなんて、世界は広いで」

 

 

 信じるなよ。

 

 

「……そんな兄ちゃんに、折り入って頼みがあるんやけど」

 

「おー? なんだー?」

 

 

 ここんところ誰かに何かを頼まれてばかりのような気もする。

 そろそろ「だが断る」と主張しておいたほうがいいのかもしれない。

 

 

「――俺と、結婚してくれへん?」

「だがことw――なんだって?」

 

 

 おかしいな。俺の耳がおかしくなったんだろうか。

 思わず難聴系主人公みたいな聞き返しをしてしまったが、俺は悪くない。

 

 

「せやから、俺と結婚してくれ」

 

「――ああ、耳がおかしくなったわけじゃなさそうだな……どういうこった」

 

 

 ウホッ、いいショタっ子! いいのかい? 俺はノンケでもほいほい食っちまう黄色いタクシーなんだぜ?

 ――みたいなことは絶対言わない。

 つうか、

 

 

「男に求婚するとは……

 修行のし過ぎで頭がおかしくなったか」

 

「なんでや」

 

 

 その返答こそなんでだよ。

 

 

「あのな。おとことおとこはこのくにのほうりつではけっこんできないんだよー?」

 

「なんで全部ひらがなやねん!? 殊更馬鹿みたいに扱うなや!」

 

「ことさらバカだろーがてめーは」

 

 

 会って一日も経ってないけど。

 こいつが脳筋なのは変えようのない事実だと思う。

 

 

「つうか出てけ。今すぐ出てけ。男に言い寄られたとかいう事実を無かったことにしたいから。俺とお前は風呂場では会わなかった。いいな?」

 

 

 くそ、なんで俺は『大嘘憑き』を持っていないんだ!

 

 

「そんな邪険に扱わんでも……

 つーか、」

 

 

 手をひらひらと振って立ち去れアピールをしていると、不意に犬っ子がその手を掴む。

 ぐいっ、と、そのまま湯船の中へと引き下げた。

 

 

「誰が、……んっ、誰が『男』やねん」

 

 

 小太郎の赤らめた顔を思わず凝視し、同時に、ぷに、という柔らかい感触が手に伝わる。

 視線は濁り気のない湯船に張られた湯へ向かい、水鏡越しに揺れている『少年』の肢体を窺う。

 この手を下ろした先の箇所を見、その表情を情報の一端として観測。発言、行動、そして感触を改めて知るべく、微かに動かす。

 

 

「ひぁ……っ」

 

 

 びくん、と小太郎が甲高い声を上げて身を捩った。

 

 というか、この感触は、どう間違っても、

 

 つ い て な い

 

 ………………殿、こやつ、女子でござるぞ……。

 

 ――どういう、ことだってばよ……。

 

 

   × × × × ×

 

 

「ほぉー、一族の集大成ねー」

 

「せや。今日び犬神憑きだけじゃ生き残れへんねん」

 

 

 なんだかややこしい話を聞いてしまった。

 

 なんでも、この『十三代目(・・・・)犬上小太郎』は女子の身でありながら実力も相俟って襲名してしまった『犬神筋』の次期党首だとか。

 本来『神族』として集落の信仰と畏怖を一身に受けているはずの『犬神筋』だが、群や地域の吸収合併や過疎化などの影響でそれらを讃え奉る『周囲』の人間が減少に。

 いくら神だといったところで、奉る人間がいなくなっては正しく成立するはずもなく、このまま時代の波に呑まれて消え行くはずであった。

 

 それをなんとかしようと一念発起したのが『先代』の小太郎。

 彼は狗族、俗に言う『人狼』または『ワイルドハーフ』などと呼ばれる『妖怪』を嫁として引き入れて血筋の強化を図ったのだという。

 まあそんな意図は後付けで、本音は、好きになった嫁さんが妖怪でした。という事実もあるやも知れないが本当のところは知らん。

 

 結果として現在の『小太郎』はこれこのとおり。

 一族の期待を一身に背負い、『犬神筋代表』として関西呪術協会へと出向していたのだという。

 それも一族自体の意図や本音がどの辺にあるかは知らないが、襲名までしているということは実力的にも血統的にもこいつが一番優れているのだろう。

 

 ……つうか、そんな話を風呂場でするなや。

 

 

「なんで結婚とかってなったんだよ……」

 

「おかんが強いやつと番(つがい)になれば将来あんたいやー、ゆーて

 あと千草ねーちゃんが風呂場で身体を触らせれば大体の男は落ちるゆうとった」

 

 

 眼鏡ェ……!

 

 

「とりあえずその千草とかいう奴の話は聞かなかったことにしておけ

 つか人間と結婚したって言う割には妙に野性的なおかんだな」

 

 

 実際触ったことに関してはスルーの方向で。

 俺からじゃないもん。

 柔らかかったけど、無理やりとかじゃないもん。

 

 

「なーなー、結婚してー」

 

「こ と わ る」

 

 

 意味わかって言ってんのかよ色々とやばいだろこの娘。

 というか原作どこいった。

 犬神筋とかのくだりは絶対原作に無いだろうがよ。

 いや、原作で犬神(物理)っていうのもどーかと思ったけどさ。

 本物の犬神筋は小太郎の語った通りの『憑き物筋』の類だって話だし、呪詛や怨念方面に偏った『妖怪』とは別種の民俗学分野の一族がなんでこんなんになっているのかは……、まあ魔法が実際にある世界だからなー。仕方ないのかも知れん。

 

 

「つーか俺はもう上がる。結婚もしないし明日は帰るし」

 

「えー、ほんなら俺も、」

 

「馬っ鹿、おま、そのまま上がろうとすんな!」

 

 

 見えちゃうでしょうがぁ!?

 

 

「?」

 

「羞恥心ぐらい持てよ……っ!」

 

 

 きょとんとした顔で湯船からざばぁ、と上半身だけを外気に晒した小太郎の胸部は、確かに女と言われれば納得の微かな膨らみがあr――

 

 

――カラカラカラ

 

 

 ――はい?

 

 出ようとはしていたが、戸に手をかけてはいなかった。

 それなのに戸を開ける音が鳴り、思わずそちらを振り返る。

 そこには――、

 

 

「――ゆき、ひろ……?」

「え――、そら、さん……?」

 

 

 ――幼なじみの、同級生の裸体が、タオルで腰から下だけをわずかに隠した裸体が、金の長い髪が、豊満な胸部が、見開かれた目が、雪のような白い肌が、薄ピンク色の先端が、きれいな肌が、もっちりと柔らかそうなおっぱいが、全裸が。

 ――そこに、あった。

 

 

「――ぁ」「~~っ!」

 

 

 一瞬、お互いにお互いの状況を姿をすべてを確認し、声を詰まらせて言うべきことを見つけられなくて、次の瞬間には、

 

 

――パァン!!!

 

 

 頬を打った平手の音が、風呂場に木霊した。

 

 ……つうか、でかかったな、雪広の胸……。

 

 

 




~かぽーん
 なぞの効果音。
 正体は永遠の謎。
 本気で鹿縅だったら目も当てられない。

~徐倫の残した、
 名台詞のはずなのにどこか違う。
 ケインも違う。惜しい。

~「俺と結婚してくれへん?」
 この作品の小太郎君は女の子。
 前々回ぐらいから語りたかったネタ。
 困るのは夏美ちゃんぐらいだけど、元の世界線を知らなければ問題ないよね!

~先代の『小太郎』
 原作で両親がどうなっていたのか知らないけど、男女と人種がこうならばこうなっていたんじゃね?くらいの軽い気持ちでの改変。
 今でもご両親はラブラブ夫婦。

~眼鏡ェ
 いい年のお姉さん(意味深)。
 やんちゃな少女に何を教えているのか。
 ナニですね。わかるわ。

~お風呂場でばったり
 ラブ米の定番。
 やっとスレタイ詐欺と言われない仕事をした気分。
 こんなんどうよ、という気持ちで額を拭う。
 被害者はいいんちょ。

ちょっと短いかも。二十五話でした
改めて読み返してみると超ひでぇ。なんぞ、この内容www
ちなみに前回の番外編で語るはずだった注釈は多分次回か次々回あたりの予定。しずな先生の第三形態とかね!

現場は風呂場で濡れ場な表現が多分にあった今回ですがぎりぎり全年齢向けに書けたと思ってる。いやアウトじゃね?とお思いのあなた、富士○書房とかのラノベならこれくらいの表現はありますよー
ありますよね!?(切実な言い訳)

次回はようやく麻帆良へ帰郷
果たしてナニが待っているのか
豪徳寺さんはレギュラーになれるのか?
乞うご期待。それでは


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『こんな娘がヒロインでもいいと思う』

実はまだ三月半ばな現状
こっそりと桜を花見てきたご一行、麻帆良へ
そんな二十六話

あとようやくお気に入り登録数1500の壁を突破したようです
感謝感激



 

 地球温暖化の影響は深刻なものになってきていると思う。

 京都の桜がすでに満開だった。年中咲いているわけではないはずなのに見事に見所を享受できたことに、メンバーの誰かの運命力の高さを再認識した旅だったと思う。初音島かよ。

 

 そんなどうでもいい思考に逸れていったのは、旅の終わりが若干気まずかったせいかもしれない。

 全力びんたで紅葉を作った当のゆっきーがあんまり目線を合わせてくれないままに麻帆良へと到着。何があったの、と皆も視線で問いかけてくるけれどスマナイ、ハナスワケニハイカナインダ。

 きっと時間が解決してくれる。

 見たところマジ怒ぷんぷんというわけではなく、恥ずかしそうに顔をうっすら赤らめている辺り、完全に嫌われていると言うわけではないと思う。

 というかあの後土下座で謝罪したし。どもりながらもびんたしたことの謝罪ももらったし、一応は話がついているのだからこの話はもう掘り起こさないほうがいいのだ。ハイサイ! やめやめ!

 

 さて、それはともかく帰還である。

 麻帆良よ! 俺は帰ってきた!

 学園長には報告も済んだし、真っ先にエヴァ姉に会うべきなんだろうけど。

 ……ログハウス方面に瘴気のようなものが見えるのだけど、気のせいかな……。

 

 ………………。

 まずはお土産をみんなに配ってからにしよう。

 一応話をつけておかないと問題ありな娘も真っ先にいることだし。

 

 

   × × × × ×

 

 

「だ××んふ××に××か×か×め×♪」

「初●ミク? かわいいね」

「ほわぁ!?」

 

 

 なんか口ずさんでいるところに遭遇した。

 やっべぇ、可愛いんですけどこの子。

 歌詞転載が無理なので歯抜けがひどいけど。

 

 

「そ、っそそそそそらさん!?」

 

「やぁ。バレンタインのお返しにきたよー」

 

「はうあう、あ、ありがとうございますっ」

 

 

 初等部はもう休みかなー、と警備員さんに聞いたところ、本日にようやく春休みに突入だとか。

 なので校門のところで断りを入れて待機していたところに件の娘が歌いながら出てきた。

 以前にバレンタインで本命チョコを貰った小学生女児である。名前は『鬼瓦まお』という。

 

 もらった手紙にあった名前が特徴的だったので、調べてみればすぐにどこの誰なのかはわかったが、断りの話を持ってゆくつもりで今までずるずると引き延ばしてしまっていたのだ。

 引き伸ばしておいて言うのもなんだけど、年齢を理由に流していい問題じゃない。幼女でも女性ならば真摯に取り扱うべきである、と紳士の俺は思うわけです。

 

 

「えーと、こほん。はいこれ、お返しとお土産です。お菓子だけじゃどうかなと思ったのでケータイのストラップにでもどうぞ」

 

「あ、ありがとうございますっ! 大切にしますねっ!」

 

「こちらこそありがとう」

 

 

 喜んでもらえてあげた冥利に尽きるというもので。

 ちなみにお菓子は魔法世界産のハイドラなもの。誤字ではない。

 

 

「まあお返しはともかくとして、以前の告白はお断りさせていただきます。ごめんね?」

 

「う……、そ、そうですか……」

 

 

 上げて落とす鬼畜な所業。

 笑ったかおが一気にしょんぼり。

 泣かれるか? しかし受け入れるわけにはいかん。

 

 

「ごめんね、俺はロリコンじゃないから、君くらいの年齢の娘を恋人としては見れないんだ」

 

「そ、そうだったんですかっ!?」

 

「何故そこまで驚くかな」

 

 

 あのパイナップルの所業のせいか。

 今度会ったらあの髪をノブナガみたいなちょんまげにしてやろう。

 

 

「わたしと同じくらいの娘を肩車してたからてっきり……」

 

 

 自業自得……だと?

 

 

「いや、その娘は多分俺と同年齢だから

 というか勘違いさせたんなら本当にごめんね

 せめて友達とか兄代わりくらいならまだ大丈夫だったんだけど――」

 

「い、いいんですか!?」

 

「――うん?」

 

 

 あれ? なんか妙に喜んでないか?

 

 

「え? ちょ、ちょっとまって

 逆にそれでいいの?」

 

「はい! むしろそっちがいいです!

 あ、あの、お兄ちゃんって呼ばせてください!」

 

 

 斬新な告白をされてしまった。

 

 

「え、ええー……。それくらいならかまわないけど……」

「やったあ!」

「待って、せめて詳しいところを聞かせt」

 

「おー、どーしたんやまおやん? みょうにうれしそうやなー?」

 

 

 間延びした関西弁みたいなイントネーションの少女の声が後ろから聞こえた。

 振り返れば、まおちゃんと同じくらいの幼女が二人。友達、かな?

 

 片方は黒髪でうっすらと微笑んでいる感じの娘。多分この娘が先ほどの声の主だ。

 もう片方の娘は青みがかかったロングヘア。しかし、俺を見る目には微弱ながらも警戒心みたいなものが見え隠れしている気がする。その様子からして先ほどの声音で声をかけられはしないと判断。

 この間0.5秒。好タイムだ。

 

 ……髪質、といえば、こちらのまおちゃんも髪がピンク色に見える。

 とてつもなく今更だが、この娘といい佐々木といいなんでこんな風に見えるのだろう。茶々丸の緑髪は製作されたこその光ファイバーだとして。

 

 

「あ! シルヴィアちゃん! みそらちゃん!」

 

 

 シル……え、どこの国の娘?

 

 

「こちらのお兄さんはどちらさまなのでありますか?」

 

 

 青髪の娘が特徴的な丁寧語で質問してくる。

 むしろ君らに言いたい。

 キャラが立ちすぎだろう。

 

 

「そらお兄ちゃんだよ!」

「お兄ちゃんでありますかー」

「お兄ちゃんなんかー」

 

「納得力高すぎだろ!?」

 

 

 すっげえツーカーの仲だった。

 なんか、出口のない袋小路に引き込まれた気分だった。

 

 

   × × × × ×

 

 

「えーと、何処にいるんだ……?」

 

 

 防衛隊三人娘と別れた後、土産片手に部活を巡る。

 え? 防衛隊って何の話かって?

 あの三人娘はそろいもそろって防衛庁だかなんだかの幕僚長のお孫さんだからだ。

 まさか三人が三人ともとは思ってもなかったけど、なんかしっくりくるので心の中ではこう呼ばせてもらおう。

 

 なんでそんなことを知ってるのかと言うと、最初に『鬼瓦 まお』でウィキったところ『鬼瓦陸士朗のブログ』が真っ先に出てきた。

 誰? と思って読んでみれば、孫の可愛さを語るわ語るわ。写メまで載っているので閲覧数がとんでもない数になってた。

 迂闊にも不埒発言した『大きなお兄さん』とかは住所まで特定されてOHANASHIされたらしいけど、詳しくは知らない。知りたくもない。

 というかお役所のトップらしき人が、そんなんでいいのか。

 

 話がそれたが。

 

 さすがに休みすぎたので部活へと顔を出して、魔法世界の菓子と京都の菓子をみんなに配った。

 和泉にもバレンタインのお返しをしようと思っていたのだけど、今日は休みだとか。

 思い立ったが吉日、と言うわけではないけど、お返しを返すためにバスケ部・水泳部へも行ってみたがゆーなもアキラたんもお休み。

 女子寮は最後の手段なので、散歩部の活動場所を探しているのがこれまでのあらすじ。

 

 ちなみに柿崎はチア部に行ったらすぐに見つかったので魔法世界産『インスマスクッキー』を投げつけといた。スケベとか言われた腹いせではない。ないったらない。オメェーへのお返しねぇから!

 謝ってきたので銀細工のブレスレットを渡しておいたけど。

 

 

「ケータイの電源切ってるし……」

 

 

 それはともかくふーかである。

 周囲の情報に左右されない。とか、そういう理念で部活をするのだ。と言って散歩中は切っているらしい。

 まああいつはスタンドをいろんな箇所に配置しているらしいから、うろついていればそのうち向こうから見つけて連絡を入れるだろう。

 ――と、思っていたらすぐに鳴るケータイ。

 

 

「ほーらね

 はいはいもっしんぐ? そらですよー」

 

『そらっち、どうしよう……』

 

「お?」

 

 

 ふーかであったけど、珍しく沈んだ声音。

 まるで「できちゃったの……」と今から通告する女性のような雰囲気。

 って、例えが最悪すぎるし。そんな関係した覚えないし!

 嫌な妄想を片手で振り払って問う。

 

 

「どした?」

 

『アキラちゃんが――』

 

 

 ――そして、衝撃的な話を聞いた。

 

 

   × × × × ×

 

 

「あ! そらっち! こっちこっち!」

 

「烏丸くん、うちら、どうしたら……」

 

「お帰りもねえのかお前ら」

 

 

 女子寮前。

 寮長さんの承諾も得て迎えてくれたのはゆーなと和泉だが、いきなりせっぱ詰まった言い分をとりあえず落ち着かせる。

 

 

「そんなゆーちょうなこと言ってるときじゃないでしょ! アキラがっ!」

 

「まずは落ち着けよ。大怪我を負ったってわけでもないんだろ? 周りのお前らが騒いでもどうしようもねーぞ」

 

「そ、それはそうだけど……!」

 

「烏丸くんは、アキラのこと心配じゃないの?」

 

「心配でなければここまでこねえって」

 

 

 言い方ドライかも知れんけど、わかってくれるといいなあ。何気に『友情に熱い男』とかにも憧れてるんだけど、周囲の人間が直情型ばかりだとどうしたって一歩引いちゃうんだよな。

 この辺は転生前の性格や経験も要素になっているせいかも知れんわ。

 

 

「っ、せやな。ごめん……」

 

「ま、気にしてねーよ」

 

 

 さて。

 俺が呼ばれる切欠となったのはふーかからの連絡だけど、正確には大河内の事情が絡んできた。

 なんでも、大河内が引き篭もったとか。

 

 なんで? と思った。

 寡黙で物静か(二重表現)だが、彼女の性格は結構人付き合いを重視するほうだ。突然ヒッキーとなるには何かあったという以外にはない。

 しかし、普段から付き合いのある運動部四人娘がその理由を問うてみても一向に教えてくれない。

 部屋に篭もって布団を被り、まるで何かに怯えてるような様子であるのだと言う。

 どこぞで邪悪な儀式でも目撃でもしたのか?

 

 

「まー話してはみるけど、あんまり期待するなよ?」

 

「ん、よろしく頼むわ」

 

「うん……、ごめんね、そらっち」

 

 

 少しばかり落ち着いたゆーなも謝ってきた。

 気にしてねーよと手を振りつつ部屋の前。

 アキラ‘sルームをノックする。

 

 

「入るぜー」

 

『ノックの意味何や!?』

 

 

 和泉が叫んでいたけど気にしない。

 

 で、何でふーかが気にしていたかと言うと、俺の帰る数日前に強力なスタンドと対峙したのを目撃していたのだとか。

 自分は見ているだけだったが、大河内と他二人のスタンド使いも成す術なく負けたそうな。

 以来表に現れない大河内に何かがあったのだと、同じスタンド使いとして参戦できなかったことに僅かながらも責任を感じていたらしい。

 そうは言っても、ベイビィユニオンは正直攻撃力ないだろうし、仕方ないんじゃないかなぁ。

 

 

「アキラたん元気ー? ……とは言えない状態のようやね」

 

「………………烏丸、くん……?」

 

 

 布団をめくるまでもなく、頭から被っていた大河内はスウェット姿で、髪はぼさぼさで目の下にはうっすらと隈が出来ていた。寝ていない、というよりは眠れてないのだろう。

 ナニをそんなに怯えているのか、皆目理由がわからない。

 

 

「どうした? 正直大河内のスタンドなら大抵のやつなら勝てると思うのだけど……」

 

 

 それが俺の『わからない』理由。

 敵なしの強者がここまで怖がる存在が、本当にあるのかと思ってしまう。

 

 

「―――っ!」

「ふーぅん……」

 

 

 スタンド、のところで強張った。

 原因は間違いなくそれだろうが、やはり『その先』が見当がつかない。

 

 

「ま、なんかあったら相談してくれ

 一応はお仲間だし、解決できるように手も貸すさ」

「―――っ、烏丸くんっ」

 

 

 ばさっ、と布団が撥ね退けられた音がした、と思ったら、ぎゅむっと柔らかな感触が俺を包む。

 その正体は、震えて抱きつく大河内アキラだった。

 

 え、え、なんぞこれ?

 嬉しいけど、気持ちいいけど、つーかこんななりでも女の子としての匂いが香る辺りティーンズってすげぇな。

 って、落ち着け俺。

 女の子とはいえ怯えているのがよくわかる相手に欲情とか、サルしかしねえよ。

 慌てず騒がず、包容力を見せてやれ。

 ……身長はアキラが上だから、抱きかかえられているのは俺のほうだけど。

 

 

「よしよし。どーした?」

 

 

 背中に手を廻して幼児をあやすようにとんとんと撫ぜる。

 震えるのは治まらないが、ぽつりと語りだした。

 

 

「………………こないの」

 

「……なんだって?」

 

 

 え、そっちの話?

 いつからこの世は中学生日記に。

 

 

「モザイクブルーが、出て、こないの……」

 

 

 ――あ、あー、そっちね。よかったー、まだ範囲内だわー……って、

 

 

「………………なんだって?」

 

 

 どういう、ことだってばよ……?

 

 




~初音島
 年中桜の咲くと言う、魔法と言うよりは逆に呪われているんじゃないかと疑う伝説の島。
 麻帆良に負けず劣らず美少女が多いと言う噂もあって、逝きたい者は後を絶たない。

~「鬼瓦まお!歌います!」
 桜繋がりで歌ってもらいました。
 千本のアレが飛び散る、白夜もお気にの例のアレ。いい歌だと思うのだけど世間の評価は微妙。
 ちなみに最近の持ち歌。

~鬼瓦まお
 防衛庁陸上自衛隊幕僚長、鬼瓦陸士朗のお孫さん。
 ピンクの髪が特徴的な運動神経ゼロの少女。
 そらを好きになった、というより憧れた理由は、自分と同じくらいの少女を肩車して麻帆良の街中を屋根から屋根へと跳び走っていた姿をヒーローのようだと思った、から。
 この娘は悪くない。むしろそらが悪い。

~丸山シルヴィア
 間延びした関西弁を話す黒髪ボブカットのゆるふわのんびりがーる。
 同じく海の幕僚長、アーダルベルト・フォン・丸山のお孫さん。
 実はドイツ人クォーターらしいが、名前以外その要素を発見できない割と普通の少女。
 かなづち、だという噂。

~築島みそら
 実は一番ハイスペックな青髪ロングのお嬢様。
 同じく空の幕僚長、築島空次郎のお孫さん。
 「~であります」という語尾をつける姿に、そらが一瞬某宇宙蛙を連想した失礼さを受信して警戒心が先立った、のかも知れない。
 しかしながらまおちゃんに一番依存している少女。
 まおちゃんが一番! まおちゃんが認めればすべて正しい! を地で行く素直ヤンデレ少女(←作者が一番失礼)。

~鬼瓦陸士朗
 防衛庁幕僚長三羽烏の一人、ひと呼んで『陸の幕僚長』。
 この世界の防衛庁は新撰組みたいに三人組みでの議決決定権を等分している、とかなんとかいう改変設定。多分魔法とかに対処するために政府も色物を揃えざるを得なかったのだと思う。あまり詳しくないので突っ込まれると襤褸が出る。だからこの辺で勘弁して。
 孫にはでれっでれに甘い爺バカな反面、その渋い雰囲気が若い女子高生以上の女性層になかなか人気。
 ブログを嗜み孫の可愛さを全世界へ配信するが、釣られた『大きなお兄さん』を見つけ出してOHANASHIするサイバーテロ染みた行動もしばしば。
 彼の布教活動のお陰で、いまやまおちゃんは防衛庁のアイドルに。
 まかり間違って手を出せば、後は、わかるな?
 やったねそらくん! パブリックエネミーのフラグが見事に立ったよ!

~インスマスクッキー
 魔法世界産ハイドラなお菓子。
 食してもSAN値が下がることはない。多分。

~邪悪な儀式
 「窓に! 窓に!」

~中学生日記
 三年B組の物語でも可。

~ノクト・コペルニスクの第三武装形態
 Ver.タンク
 遠隔操作型 破壊力A スピードA 距離A 精密製B 持続力A 成長性A
 能力・戦車を『装備』する最強の戦闘型。
 ただし遠隔でしか展開できないため本人は搭乗できない。
 その代わり『スタンドの周囲の情報の収集と発信ができる』と『スタンドを追尾する』という二つの命令を入力できる。
 その最大の攻撃である速射砲は『スタンド封印能力』を持っており、彼女の効果範囲外に出て行かない限りその効果は持続される。
 効果範囲は今のところ麻帆良全域に及ぶ。

~おまけ
 ノクト・コペルニスクの最終形態
 Ver.フェニックス
 彼女の意に介さない死を与えられたときそれは発動する。
 その効果は『与えたもの』を巻き込んで過去へ逆行すること。
 記憶を人格を情報を過去へと持ち運ぶことができる最終手段。その情報の引き継ぎは彼女の場合は『同期』することになるため、逆行した後も周囲との齟齬は生まれない。
 ちなみに、それが与えられた死即ち『殺人』であった場合、『殺したもの』の彼女へと持つ『殺意』が存在する限り、例えどのような遠隔的な殺し方をしてもその『殺意』がマーキングの役割を果たして一緒に逆行する。
 彼女に対する殺意を改めない限り、彼女が死ぬたびに延々とループする。ナニソレコワイ。


好き勝手やりましたがやりたかったことの一つをようやく書けた気がします
二十六話でした

書き始めの当初はモバマスSSとか読んでいたので年少組の娘とかを候補に入れていたんです。薫ちゃんとか
でも同じ名前で番長がいるのでややこしいことになりそうだし、と思っていたら、そういえば赤松系には小学生枠もあったよね、と思い出しました
上手く描けていたら幸いです
ちなみに俺はOPが好きです

しずな先生がチートすぎて引く、という意見がありましたが、今回のこれで一応は出納めです
ナニコレ実質無敵やん
倒すことも不可能なガチチートキャラになってしまいましたが、彼女はわざわざ触れない限りは主人公を害そうとはしないので
NPCみたいなものとして扱ってやってください
美津里さんみたいな

あとがきが無駄に長くなっていますので今回これにて
エヴァ姉と6号の修羅場はまた次回
それでヴぁー



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『アキラのセカイ』

やっぱり実験作な二十七話
それを言い出したらこの作品自体なかなかに実験作な気もする



 

 彼について知っていること。

 三学期になって一緒のクラスで勉強することになった男子。

 私と同じスタンド使い。

 意外と同じクラスでの友達が多かった。

 私が知っているのはせいぜいこれくらいで、それ以上は知らなかった。知ろうともしなかった。

 でも、このときの私にとっては頼れるのが彼しかいないと思えた。

 

 私は酷く視野が狭かったと思う。

 いつの間にか偶然得ていただけの『特別なチカラ』、それに酔って自分が何かをしなくてはならないのだ、と思い込んでしまっていたのだろう。

 本当はぜんぜん特別なんかじゃなかった。

 チカラに溺れて、迷惑なことをした先生を殴った。その後も、また何か他人に迷惑をかけているのではないかと、正義感染みた衝動に突き動かされていたのだと思う。

 そうして強すぎる存在と戦って負けて、得たものが『力を使えなくなる』という結果だった。

 

 そんな話をしたら、彼は頭を抱えて蹲っていた。

 

 

「……戦車って……、規格外すぎるだろあの人……」

 

 

 だよね。

 というか、ひょっとして知っている人なのだろうか。

 

 私はあのスタンド使いに負けた。

 戦うと言うことは雌雄を決すると言うことで、負けたものには何かを言い返す権利もない。

 その先にあるものを、私は今まで自覚できていなかった。

 

 当たり前だったはずのセカイは私にとって実に恐ろしいものになった。

 スタンドを使えなくなった上に見ることもできなくなっていた私には、まだ見ない使い手が『何か』事件のようなものを起こしたとしても感知できないし対処できない。

 スタンドはそもそもが規格外な方向に性質を特化させているから、もし異常な事件が自分に降りかかったとき、何もできないと自覚してしまったとき、私は一歩も外へ出ることができなくなっていた。

 私はスタンドを使えない、という本来ならば『当たり前』だったはずの状況で、『見えない』という現実に怯えながら生きることとなってしまっていたのだ。

 

 

「……やっぱり見えないと気になる?」

 

「うん……、正直、烏丸くんのことも、ちょっと怖い」

 

「……けっこう、ぐさっとくるな……」

 

 

 言ってから、悪いかな、とは思ったけど。

 目の前二十センチ以内の彼は、ちょっと傷ついただけの顔なのがちょうどよかった。

 もし何か危害を加えよう、という魂胆があったら、私はそれくらいなら見抜ける。

 これは私が特殊なんじゃなくて、コレくらい近くにいる人の心、表層心理というものをなぞる程度なら女の子は誰だってできる。

 それをなぞれば、烏丸くんは私を必死で気遣っているのがよくわかった。

 もともとお人よしな部分もあるのかもしれないけど、そんな反応をしているのが少しだけ可愛い。とも思っちゃったりなんかりしたりして。

 

 

「つーか、大河内、近すぎないか?」

 

「だめ。離れちゃだめ」

 

「なんでだ……

 大河内って、そんなにパーソナルスペース狭かったっけ……? はっきり言ってアレな距離感なんすけど……」

 

「恋人とか?」

 

「………………」

 

 

 赤くなった。可愛い。

 はっきり言うなって言いたいのかな。

 

 

「……つか、じっと見るな」

 

「でも、離れすぎると、怖いし」

 

「怖いから近づくって何だよそれどういう心理なんだよわけわかんねぇよ」

 

「捕まえておけば怖くない、みたいな」

 

「本末転倒過ぎないか……?」

 

 

 でも、危害を加えよう、とは考えないんだよね。

 彼の優しさに甘えてるのかも。

 でもこの後どうしよう。

 

 

「まあ、まずは効果を解除するのが第一だよな」

 

「え? もう使えなくなったんじゃないの?」

 

「それならとっくに死んでるだろ」

 

「そうなの?」

 

 

 彼が言うには、スタンドは一度発現すれば死なない限りは消えると言うことはないらしい。

 それでも現在使えていないのならば、それは相手のスタンドの攻撃効果だろう、というのが見解だ。

 

 

「でもそういうのは範囲外に出れば大体解除できると思うのだけどな

 範囲が広すぎるのかも知れんなー」

 

「そう、なの?」

 

「少なくとも俺は生の戦車なんぞこの学園内で見たことねえよ」

 

 

 そういえば風香も女子寮の近くでそんなものを見たとも言ったことはないはず。

 そう思っていたら、烏丸くんが徐に携帯を取り出した。誰かに連絡でもするの?

 

 

「手っ取り早く移動しよう。いつまでもここにいてもどうしようもねえだろ」

 

 

 移動って、わ、まぶし

 

 

   × × × × ×

 

 

 目を開けるとすっごい開けた場所にいた。

 突き抜けるような青空に、眼下には広い海原。というか、手すりが無くてちょっと怖いんだけど。

 

 

「そっちじゃねえ、こっちだ」

 

 

 声に振り返ると、また絶句する。

 遠くには大きな西洋のお城。某ネズミの国とか目じゃないくらいの規模だ。

 断言できる。ここは日本じゃない。

 

 

「か、からすまくん、ここは……?」

 

 

 確か、私はログハウスみたいなところにいきなり連れて行かれて、手を引かれるままにボトルシップみたいなものの前までついていって。

 ……気がついたらここ。

 あれ、これって誘拐じゃないの? 原理はよくわかんないけど、瞬間移動みたいな能力、で連れ込まれたのかな。

 というか私、部屋着のままなんだけど。

 

 

「別荘みたいなもん

 連れ込んでも悪いようにはしないから安心しろよ」

 

 

 た、食べられちゃうのかな。

 

 

「……なんで顔赤らめてんのか知らんけど、本当にどうするつもりもないからな

 つーか結構耳年増だよね、アキラたんって……」

 

「う゛、だ、だっていきなり連れてこられたらそう考えてもおかしくないし

 普通だよ、普通。これくらい今頃の娘なら考えたことくらいあるし

 あとアキラたんとかってやめて欲しいんだけど」

 

「明日菜とか佐々木とかはそういう危機意識が足りない気もするけど。……体格の

差かね

 あとアキラたんは絶対やめない」

 

「なんで!?」

 

 

 あ、思わず叫んじゃった。

 いや、だって、なんかここ風も結構あるし。

 というか体格云々はセクハラじゃないかな。

 

 そう思っていたら、烏丸くんはくくっと可笑しそうに笑う。

 

 

「元気出てきたな。まー、ここにいてもどうしようもないから、向こういこーぜ」

 

「むー

 ……本当に食べちゃったりしないよね」

 

「しないしない(つーか、こんなところで手を出したら俺が縊られるし)」

 

 

 ? なんかぼそっと聞こえた?

 でも、とりあえず差し出された手をつかむ。

 城までは石橋が架かっているけど、やっぱり手すりもないし、風もあるから危ないし。エスコートしてもらうのって、女の子なら当然だよね。うん。

 

 ………………。

 そう思っていたら、目が合った。

 石橋の端っこ、というか外側。足元に捉まって、じっとこっちを覗いている、なんか白い女の子と。

 ……幻覚?

 

 

「……そらさんが女の子を連れ込んできました……」

 

 

 しゃべった。

 

 

「うお!?」

 

 

 あ、烏丸くんにも聞こえた。というか見えてるみたいだ。幻覚じゃなかった。

 というか、そんなところに捉まっていてよく落ちないね。

 

 

「突然旅行に行ったと思ったら知らない女の子を連れてきて、今度はクラスメイトの女の子とか連れ込んで、なんですか、はーれむでも作るつもりなんですか、わたしのことはないがしろですか、飽きたらポイですか、そらさんのスケベ!」

 

「人聞き悪ぃし拗ねるなよ。つーかそんな台詞回しとかどこで覚えたのさよちゃん」

 

 

 彼女なのかな。

 なんだかノスタルジックな雰囲気の娘だなー。

 でも、私は手を離さなかった。

 

 

「ふーんだ。今でもしっかりと手をつないでいるようなお二人とはどうせ関係ないですもん。別荘の中でいちゃいちゃしていればいーんですよー、だ」

 

「わけのわからん拗ね方してないでついてきなよ、土産もあるから。……って、あ、」

 

 

 ?

 なんか烏丸くんがこっちを見て変な顔してる。

 気にしなくていいよ。続けて、どうぞ。

 

 

「……? つーかアキラたん、さよちゃんのことひょっとして見えてる?」

 

 

 え、なにそれ何の話?

 あとアキラたんはやめて。

 

 

   × × × × ×

 

 

 驚愕の事実。さよちゃんはうちのクラスに取り憑いている幽霊少女だった。

 普通信じられないことだけど、壁抜けとかポルターガイストとか宙に浮いたりとか、色々証拠も見せられたし納得する。

 烏丸くんには普通に触れているから、実はそういうスタンド使いなんじゃないかな、とも邪推してしまうけれど。私に触れられない以上は多分どちらでもいい問題なのかもしれないし。

 というか、この様だとクラスに取り憑いているのではなくて烏丸くんの背後霊にしか見えない。

 

 

「肩とか重くなったりしないの?」

 

「羽根より軽し

 女の子だからかもな」

 

 

 軽口にやだー、と赤くなっているさよちゃん。

 さっきまでの険悪な雰囲気は欠片も無かった。

 というかいちゃついてる? リア充爆発しろー。

 

 

「つーか、さよちゃん見えるってことは解決してるじゃん」

 

「そうなの?」

 

「幽霊が見える→スタンドは質量のある幽霊→認識できることがスタンド使いの第一歩。」

 

「なにその三段論法」

 

 

 言われて、出してみようと念じる。

 

 

「でないよ?」

 

「解決したとは言っても病み上がりみたいなもんじゃねえの? すぐに運動できない、みたいな状態なんだろ。ゆっくりリハビリしていけばいーだろ

 これ、見えてるだろ?」

 

 

 言うと、インストールドットが動く。

 

 

――きゅっきゅっきゅ、にゃー。

――ブフォ!?

 

 

 思わず吹き出した。

 

 

「な」

 

「なんてものを見せるの……っ!?」

 

 

 スタンドを踊らせるとか初めて見た。

 まったく違う印象なのに、もう烏丸くんのスタンドがギャグキャラにしか見えない。

 

 

「まー、ゆっくりしていってね

 お世話はあの子らに言えばいいから」

 

「あの子ら?」

 

 

 振り返ると、

 

 ――いつの間にかずらっと、メイドさんがたくさんいた。

 え、これ烏丸くんの趣味?

 どこか茶々丸さんに、似てるような……姉妹?

 

 

「風呂入れて洗ってやって。着替えはてきとーに」

 

「「「りょうかいしました、そら様」」」

 

 

 なんですと?

 

 え、ちょ、まって、そこは自分でできる、

 アッ――――――――――――。

 

 




~アキラのセカイ
 成恵の、が完結したと聞いてリスペクトしてみた副題。
 若干失敗っぽい。

~目の前二十センチ
 距離感のおかしいあきらたん。
 そらに対する信頼と言うよりは男扱いされてないようにも見える。

~携帯
 詳しくは次回。

~部屋着のまま
 意外と耳年増なあきらたん。改変の結果。
 『最近の中学生』よりは『いい娘』な風には書いています。原作よりは冷静に物事を判別できるだけの観察眼があるご様子。スタンドの副次効果やも知れぬ。

~きゅっきゅっきゅ、にゃー
 FFとかの動画のアレ。
 スタンドに目の前でやられたら普通は吹く。

~茶々丸姉妹が現れた!
 詳しい設定も忘れてしまった。
 原作終了時期には何処に行ったのか影も形も見当たらなかった不遇姉妹。あれ多分エヴァも忘れてるよね。


アキラたんのキャラも順調に狂ってきています
シリアスかと思ったらそんなことなかった
そんな出来になったと思う
〆とか最早テンプレ。もうちょっと上手く描けないものか

一回で書ききれなかったので続きは次回


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『俺のロリ姉と妹系が修羅場過ぎる』

根本的にネタみたいな作品なのでタイトルに釣られて真面目に読むのではなくて斜めに流し読むのがある意味正解な気もしますけれど、読む側の事情を慮るのもないわーというのが実は小説を書く者の一般的な心情。お好きにどうぞとしか言えやしねえ

相も変わらず先行き不明な二十八話
二十八話にまできて未だに行方不明とか、構成力の成長性の無さに全俺が涙する



 

 前回起こった三つの出来事!

 ひとぉつ!

 女子寮一室に主人公が潜入!

 ふたぁつ!

 連れ出していった先は西洋の古城!

 みっつぅ!

 連れ出された少女はメイドらによって丸洗いにされるのだったぁ!

 

 

   × × × × ×

 

 

「おや」

 

 

 茶々量産型にアキラたんを任せて別荘探索なう、な俺に気づいて声をかけてきたのは他でもない6号だった。

 ちなみにさよちゃんはアキラたんに任せた。道案内も兼ねて。

 

 

「お先に失礼しています。少々遅かったようですが何か御用事でも?」

 

「まーな、そっちは説得はどうなった?」

 

「駄目ですね。マクダウェルさんは聞く耳を持ってくれません」

 

 

 まあそうだろうなあ、とは思ったけど。それにしたって聴く耳すら持たないのはないだろ。とも思いつつ、何気に水着に着替えてバカンス気分を満喫している幼女の頭に手を乗せる。

 

 

「まー期待しないようにな。俺の発言権だってそんなに無いし」

 

「――いえ、気長に待ちます。こちらは今のところ特に命令みたいなものもありませんし」

 

 

 そーなのかー。

 ちなみに6号の水着は白のビキニ。ぺったんぺっ(ry

 

 

「ようやく来たか、そら」

 

 

 ――おう。鬼が居る。

 

 

「ただいま帰りました、お姉さま

 これ、お土産です」

 

 

 魔法世界産『白い旧支配者』京都産『宇治茶&餡蜜セット』『ご当地キティ@両面宿禰Ver』を手渡す。

 やや乱暴な手つきでそれらをぶん取られた。

 

 

「……これだけか?」

 

「え、ツッコミなし?」

 

 

 色々ツッコミ所の多い土産だとも、我ながら思うわけだけど。

 

 

「……茶々丸には買ってやったみたいだが」

 

 

 言われて、エヴァ姉の後ろに控えていた茶々丸に目を移す。

 魔法世界にて買ってやったシルバーアクセのネックレスを、これ見よがしにちらちらと見せていた。

 ……ほんと、こいついい性格してるわ。

 

 

「エヴァ姉は銀系だめじゃねえかなー、と思ってさ

 それでご満足いただけないのでしたらば後日修行でもなんでも付き合いますのでそれでご容赦を」

 

「ふん……」

 

 

 拗ねたようなエヴァ姉かわえええ、

 

 

「なんでも、と言ったからにはきっちり付き合えよ」

 

 

 そりゃあもう。ええ、必ず。

 

 

「それで、こいつはいったいなんなんだ」

 

 

 未だ不機嫌そうなエヴァ姉が6号を指差して聞いた。ちなみにエヴァ姉も水着。というよりは南国チックなチューブトップにパレオという若干解放的なお姿。白いおみあしがちらちら見えるのがまたなんとも、

 

 

「聞いてるのか」

 

「おう、ええ、はい。えーと……

 自己紹介とかしてねえの?」

 

 

 思考が反れそうに成るのを抑えつつ現状確認。

 

 

「鈴木6号とかふざけた名前は聞いた

 お前を魔法世界のとある組織に連れて行っていいかとも聞かれた

 で、その組織が魔法世界を救済しようと言う名目で大量殺人を敢行しようと言うことも聞いた

 魔法世界の住人がそもそも仮初めの存在だから件の『完全なる世界』へ送ることは殺人ではない、という意見もな」

 

「はぁ、ずいぶんこと細かくネタバレしてんね」

 

 

 秘匿意識とかないのかね、この6号は。

 

 

「で、だ。私としてはお前がそれにかかわろうと言う理由がわからん」

 

「っていうと?」

 

「私にとってもお前にとっても、魔法世界なんてものは元より関係ないだろうが

 そもそも『魔法使い』自体に深く関わるわけでもない私たちが『そんなもの』をどうするべきかという理由もない

 ――そら、お前がこの事情にかかわろうと言う理由は何だ?」

 

 

 改めて言われても、実は大した理由もない。

 『魔法使い』には結構生活を引っ掻き回されている感もあるけれど、直接こちらに関わることも無ければ放置していても問題ない程度の距離感だと自負できる。

 彼らの『本国』がどのように崩壊しようと知ったことではない。ああ、でも――

 

 

「下手に魔法世界が終わると、そこにいる現実世界人が『こちら』に押し寄せて来そうではあるかも」

 

「――ふむ?」

 

 

 原作でもクルトが言っていたメガロメセンブリアの『実体』を持つ6700万人、だっけ? がいきなり現れたとして、下手な皺寄せが麻帆良に関わってくると回りまわって嫌な影響が出る気もする。

 関西との諍いとかメじゃないくらいのメンドクサイ影響がさ。

 

 

「じゃあ、それを考慮して手を貸してもいい、と?」

 

「いや、その辺は今適当に考えたもっともらしい理由って程度なんだけどね」

 

 

 本音を言うと、本気でどっちでもいいんだよな。

 手を貸そうと貸すまいと。

 結局はエヴァ姉に俺の意見を一任しても構わないくらいには。

 

 

「エヴァ姉に任す。好きに采配していいよ」

 

「丸投げか……

 まあ聞いたとおりだ鈴木とやら。私はこいつを手放す気はないからな」

 

 

 それでもそうやって庇護してくれるエヴァ姉が大好きです。

 

 

「では、貸してください」

「駄目だ」

「半年でいいですから」

「新聞の契約か」

 

 

 食い下がらないなぁ、この6号。

 長くなりそうだから俺はこの辺で――

 

 

「――ああ。待て、そら」

 

 

 残念! 吸血鬼からは逃げられない!

 

 

「その話はともかくとしてお前には色々と聞きたいこともある

 魔法世界でこんな幼女を引っ掛けたこともそうだが、どうやら京都では現地妻までこさえたそうじゃないか……?」

 

 

 え、ええー、なんでそんな話になってんの?

 

 

「こさえてません

 つーか誰から聞いた話なの」

 

「茶々丸が記録していた」

 

 

 風呂場に、居たの……?

 

 

「せっかくだ、修行してゆけ」

 

 

 ――実戦モード、一丁入りまーす……。

 

 

   × × × × ×

 

 

 マスターとそらさんの久々の実戦を●RECしていると、大河内さんがさよさんにつられてふらふらと現れました。若干足取りが覚束無いようですが、一体なにがあったのでしょうね?

 服はわが姉たちのメイド服を着させられているご様子。胸部のサイズが合ってないらしく、上半分がはみ出ていますね。

 

 

「いらっしゃいませ大河内さん。ご気分はいかがですか?」

 

「あ、お邪魔してます……、というか、絡繰さん、もいたんだ。烏丸くんは?」

 

「そらさんなら、あれあの通り」

 

「……?」

 

 

 大河内さんは訝しげに私の見上げるほうへと視線を移します。見上げるとそこには――

 

 

『大体お前はいつもいつも私のことばかり放っておいて他の女子ばかり構って! お前私の弟子だろう! もっと師匠を敬えやコラァーーー!!!』

 

『十分敬ってるよ!? あとそんな理由で極大魔法を放ってくるのは納得いかないっす師匠!』

 

『お前に拒否権はない!』

 

『ひでぇ!?』

 

 

――のりのりで極大魔法を連続でぶちかますロリロリなマスターと、魔法を使う暇も与えられずに逃げ惑うそらさんの優雅な空中戦闘が繰り広げられておりました。

 楽しそうですね、マスター。

 

 

「あれ……マクダウェルさんと烏丸くん……、空飛んでる……?」

 

「そうですね」

 

 

 マスターのは飛行魔法に高速術式をアレンジしたガチの空中戦仕様ですが、そらさんは杖も発動体も持っていないのでアレは自由落下の状態らしいと以前に聞きました。

 その割には縦横無尽に動き回れるのは一体どういうわけなのかと聞けば重力魔法の応用だとか。相変わらず変な方向に魔法理論を開発する人ですね。

 

 

「うわぁ、マクダウェルさんの手から吹雪みたいなのが出た。エターナルフォースブリザード? 烏丸くん死んじゃうね……」

 

「そうですね」

 

 

 大河内さんは若干現実感のないご様子で傍観しています。確りと覚醒するまで代わりに実況しましょうか。

 そらさんが携帯に手をかけました。

 どうやらそらさんは、詠唱が面倒だという理由で携帯電話に魔法をストックしているらしいのです。

 遅延魔法と圧縮魔法を電子精霊で構築して端末に封入してあるとか仰っていましたが、それって魔法世界にとって完全に新理論なのではないでしょうか。

 それなのに時々詠唱みたいなことをするのは一体……、ああ、俗に言う『中二病』というやつですね。わかります。眼帯はしないのでしょうか。

 

 

「わ、なんか火が出た。烏丸くんの周囲を覆ってる」

 

「ファイヤーウォールですね。全方位型の障壁魔法です。視界が狭くなるのであまり好まれない戦術なのですが」

 

「そうなの?」

 

「はい」

 

 

 いきなり『詰み』に自分から首をつっこんでますね。

 そもそもそらさんの発動法自体、実は問題が山積みだったりします。

 本来の魔法の発動は、杖などの発動体に魔力を流し込み伝播させ、其処から周囲に拡散させて精霊を喚起する。と言う実は面倒くさいシステムだったりします。

 その際に流し込む魔力量によって喚起される精霊の物量に差が出るのですが、その現象こそが才能と魔力量に魔法の実力が左右される。という状態。即ち「今のはメラゾーマではない、メラだ」という非情な現実となるわけです。

 そらさんの場合は、使う魔法は予めストックしてある代物ですし、携帯電話自体魔法発動体としては相応しくないものですから、過剰に魔力を伝播させれば携帯自体が自壊する恐れもあります。

 恐らくは流し込む魔力量も必要最低限の規定値なのでしょう。

 Q:そんなもので発動した魔法が、物量で圧しているマスターの魔法に敵うとお思いですか?

 A:無理です。

 

 

「あ、吹雪が火の壁を撃ち貫いた」

 

「そうですね」

 

 

 まるでごみのように『炎の壁』が散って逝きます。

 ある意味綺麗ですが、かべのなかにいるそらさんは無残なすぷらったでしょうね。

 

 

「………………。あれ? 烏丸くんはどこ?」

 

「なるほど。ファイヤーウォールを囮にすでに脱出していましたか」

 

 

 いつの間にか別方向に『跳ねて』いたそらさんを発見。アレは『雲耀』でしょうか、それとも『跳ね馬』? 魔法を多重に発動させたのかそれとも体術か。逃げるときは実は形振り構わないので、予め持っている手札をリストにしてもらっても照合が追いつかないのが口惜しいですね。そらさんのくせに生意気な。

 

 

「……ねえ、絡繰さん」

 

「なんですか、大河内さん?」

 

「あの二人が使っているのって、なに?」

 

「魔法です」

 

「……りありー?」

 

「ですから、魔法です。そらさんにはご説明いただいてないのですか?」

 

 

 そういえば改めて、大河内さんは何故ここにいるのでしょうか。

 間接丁寧に答えると、「きいてないよー……」とダチ●ウ倶楽部のような台詞を出して項垂れました。

 なんだかそらさんに振り回されているご様子ですね。大河内さんもハーレム要員なのでしょうか?

 

 

   × × × × ×

 

 

 大体半日くらい。

 命辛々逃げ延びて終了の合図が鳴り響いて、城のバルコニーへと降り立ってみれば、ぱっつんぱっつんのメイド服を着たアキラたんにお出迎えされた。

 エロい。エロいよアキラたん。

 しかもミニスカメイドとか、俺をどうするつもりだぁー!?

 

 

「って、なんで睨むの」

 

「……別に」

 

 

 あらやだテンション低っ。

 こっちはたった今まで戦い(逃亡)を繰り広げていたから気分は上々なんすけど。

 なにこの温度差。

 

 

『やはり凄まじい腕前ですよね。貸してください』

『だが断る』

『三ヶ月でも構いません』

『拒否』

 

 

 あっちはあっちで6号とエヴァ姉がそんなやり取りを再開していた。

 いよいよ新聞屋染みた攻防になってきているな。

 

 

「……絡繰さんから、」

 

「うん?」

 

「絡繰さんから聞いたんだけど、烏丸くんは魔法も使える、って?」

 

「ああ、うん」

 

 

 まあ説明必要になるだろうけど、一応はこっちの意図もあるから連れてきたんだし。

 まあ説明の手間が省けて良かったけど。

 

 

「それにしたってもっと前もって言ってくれてもいいんじゃないかな。いきなり連れてこられて……、ゆーなや亜子だって心配してるんじゃないかな」

 

「ああ、それなら大丈夫」

 

「どこが? もう半日以上経ってるし、携帯も圏外でまったく連絡取れないんだけど」

 

「そりゃここは一日経たないと出れない仕組みだからな」

 

「はぁ?」

 

 

 あ、そっちは説明してないのか。

 

 

「まあここでの一日は外じゃ一時間だから。安心しろよ」

 

「なにその精神●時の部屋」

 

 

 伏せ字になってねーよ。

 それにしたってアキラたんも意外とものを知ってるよね。

 

 




~京都土産
 両面宿禰キティは何処かのネギま二次で依然読んだのを流用させていただきました。勝手に。
 いえ、どこで見たのかが思い出せないんです。この場を借りて謝罪します。

~6号の勧誘
 この時点で完全にネタバレなことを知ってしまったエヴァ。いいの? これ?

~●REC
 貴様ッ! いったい何処で見ていたッ!?

~一体なにがあったのでしょうね?(すっとぼけ)
 地の文がこうなっててもおかしくない。

~「~っす師匠!」
 某虎道場のノリ。但しこの世界にコンテニューはない。

~携帯
 そらくんの手札の一つが判明したよ!
 正確には発動体ですらない普通の携帯。中に封入してあるのは構築に時間がかかったりする魔法で、ショートカットの役割も兼ねている。対ラカン戦でネギ君がやったみたいな奴だとお思いくだせえ。
 ちなみに電子精霊という概念はちうたんが仮契約する前からあったはず。原作での麻帆良停電の際に茶々丸がそんなことを口走った記憶ガガガ。

~茶々丸の視点
 そらに対する心情は茶々丸は大体こんな感じ。
 つうか、しれっとした顔してネタを多分に仕込む思考回路の茶々丸が……。
 改めてそらに対する評価が妙に低いのは対抗意識もあるつもりで書いてみましたがいかがでしょう。
 ちなみにそらの手札の多さは異常。これでまだ一端。


前回の続きに見えない二十八話でした
書きたいことをやっと書けたはずなのになんだろうこの不完全燃焼
まだ書ききれてないからだな。でもあんまりそれやりすぎるとギャグが足りなくなる。やだー

あと総合評価がなんか一万超えてました。感謝感激
記念に特別編でも書こうかなーと画策していますが、執筆速度は鈍亀以下なのでその辺りはご了承ください
出来上がれば程度の感覚で

そろそろ新学期が始まる時期かなー
次回次々回辺りに久方ぶりにあの娘らを登場予定
それでは


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『IFルート【その1】』

評価Pt総合10000突破記念
ちょっとだけ未来の話を出番のないあの娘で


 

「いやな? 最近、そらくんとシテへんなぁ……って」

 

「……おあえ?」

 

 

 目の前のルームメイトの台詞が、彼女を言葉に詰まらせた。

 脳の言語野を正しく行使できなかったその発言に注視することなく、ある意味での問題発言を口走った彼女、和泉亜子は憂鬱そうに言葉を続ける。

 

 

「最初にわたしのほうからがっつきすぎたんがいけなかったんかなぁ」

 

「へ、へぇ……」

 

「最近はアキラとか明日菜のほうが沢山シテるみたいやし」

 

「え、ほぇえ!?」

 

 

 予想外の人物名がふつーに出てきて、さすがに許容の限界を迎える。

 目がぐるぐると理解不能を示すかのように廻りだした佐々木まき絵を救助するかのごとく、明石裕奈が会話に参戦した。

 

 

「なになに何のはなしー?」

 

「ゆ、ゆーなー、亜子がシテなくてアキラがシテて最近とみにごぶさたで!」

 

「いや、わけわかんないから」

 

 

 まき絵の話では要領を得ない、と視線を亜子へ傾ければ、

 

 

「いや、そらくんとシテへんなーって話をな」

 

「へー……、へぇあ!?」

 

 

 絶賛混乱中のパッションピンクに引き続き、3-Aにて崇められる乳神様の一角も衛生兵筆頭に狙い撃たれた。

 己がよく『知ってる』名を縒りにも縒ってな会話の最中にその気もなく見出してしまい、流石の撃墜率一位も狼狽える。

 

 

「あ、でも一番シトるのはふーかとさよちゃんかな」

「聞き捨てならないんだけど!?」

 

 

   × × × × ×

 

 

「そらっちのロリコーン!!!」

 

「いきなりなんだ人聞き悪ぃ!?」

 

 

 扉をドバンと開け放ち、人聞きの悪い台詞で突撃してきたのは裕奈だった。

 丁度その場にいたのは6号とエヴァ姉だったので、そう言われても言い逃れできないのが物悲しい。

 でも此処はエヴァ姉の家だから居るのは仕方ないことだと思うんだ。

 

 でもなんか、よくよく話を聞いてみたら違うことだった。

 

 

「なーんだー、シテるシテないって単なるスキンシップのことかー、あはは、なーんだー」

 

 

 よくわからんが、一応はそういう一線を越えたと言う記憶は俺にはない。

 釈明と言うわけではないけど、童貞で悪いかと開き直れば裕奈は朗らかに笑って、

 

 

「「ひらがなで話しなさい!」」

「ごめんな、まきえ、ゆーな」

 

 

 一緒に来ていた亜子によくわからんことで怒っていた。何故か一緒にいた佐々木と共に。

 その怒りのままドン、と叩かれたテーブルで湯飲みが跳ねた。威力から怒気の程も伺える。理由はよくわからんけど。

 怒られてはいてもどこか朗らかそうに、亜子が「してないしてない」と呟いた後、「まあ、」と続ける。

 

 

「かくしんはんなんやけどなー」

「「うおおおおおい!!?」」

 

 

 だから。一体何の話?

 

 

   × × × × ×

 

 

「はぁ、すきんしっぷ、ですか」

 

 

 6号が、なんかいまいち合点が行ってないような声音で三人の説明に応える。

 エヴァ姉はというと、目線はしっかりと俺のほうを捉えていた。

 

 

「なんだ、そんなに言うほどシテるのか?」

 

「ひらがなではなしなさい

 ……そんなにしてるかなー?」

 

 

 言われた風香やさよちゃんとの最近の接触回数を数えてみようと、思い浮かべて指を手折り、浮かんだ数に自分で絶句した。

 

 

「……ああ、これは言い逃れできないわ」

「早いなっ」

 

 

 いや、だって思い返すだけで二人して俺に乗っかかっている姿ばかりが浮かぶし。

 二人ともあーやって触れ合うことが楽しくて仕方ないんだろうなー、とは思う。

 さよちゃんは実体があるから生身の触れ合いが新鮮なんだろうし、風香は感覚が子供だからだろう。まおちゃんにもそういう感じで通じる触れ合いが多い気もするし。

 俺のことを兄代わりにでも思っているんじゃないかな、と。

 

 

「(……とか考えてるんだろうな、如何に兄代わりとかいう名目を挙げてもその触れ合いが過剰なことの理由にはならんだろうに)」

 

「? エヴァ姉、なんか言った?」

 

「いいや? 大河内と神楽坂はどうなんだ?」

 

「二人と……?」

 

 

 あきらは、まだ俺のほうが身長低いからなー。あまり並びたくないから思わず先に歩いちゃうんだけど、そういう時は手を離すなって要求されたし。なんだか面倒を見させられている弟か子供になったような気分で微妙。

 明日菜は、やっぱり出かけるときは手を離すなとよく言われる。といってもこっちは身長に大差はないから、のんびりとしたものだ。付き合いだす前と関係性があまり変わってない、とちうたんによく言われるのはご愛嬌。それに関してはあんたに言われたくはない。とだけ返しておく。

 

 

「――って感じか」

 

「う、初々しい……、手をつなぐだけって、なんかすっごく健全なんだけど……」

 

「すぐにそっちの方向に持って行くお前らがヨゴレてるんじゃねえの?」

 

「「はぐぅ!」」

 

 

 胸を押さえて仰け反る佐々木と裕奈。

 対して、亜子は突っ込みを入れる。

 

 

「でもそのデートの最終地点はラ●ホなんやろ?」

「「「「おっさんかお前は!?」」」」

 

 

 俺、エヴァ姉、裕奈、佐々木のツッコミが同時に入った。

 視界の端では「ラ●ホとはなんですか?」「連れ込み宿のことです。恋人たちが逢瀬を――」と6号と茶々丸の会話がちら見しているが、突っ込まないほうが火傷しない。と見ない振りを決め込んだ。

 

 

「でも、アキラはそらくんにあすなろ抱きしてるの見たことあるけど?」

「「ほぉ?」」

 

 

 裕奈とエヴァ姉がこっちを見た。

 あすなろ抱きってどんなの?

 

 

「あとは明日菜がだいしゅきほーるどでそらくんにのっかかっている姿勢とか」

「「へぇえ?」」

 

 

 いや、それはあいつが馬鹿で、混んでいた店で「合い席」の意味合いをそう解釈しただけで、すぐに離れたし。

 というか何処で見ていた。お前。

 

 

「ずいぶんと密着してるじゃないか」

 

「そうだねー、誰がヨゴレてるって?」

 

 

 一応は『付き合って』いるんだし、そうやって怒気を孕んで凄まれる謂れは無いと思うのですけれど。

 ちなみに佐々木は一端俺から距離をとって、しかし興味津々でこちらを見ている。

 ネギ君にでも要求する気か? 参考にしたいのか? この先起こるとしたら修羅場か惨劇だぞ? そんなのを参考にしてなにをする気だお前。

 

 

「わたしにもそーいうのしてほしいなーって」

 

「……えー」

 

「なんでイヤそうやねん!?」

 

 

 思わず引いた。

 その俺の様子にエヴァ姉も裕奈も気になったようで、孕んでいた怒気が若干萎む。

 宜しい、ならば語って進ぜようじゃないか。

 

 

   × × × × ×

 

 

「――ここ、か?」

「うん、そう、そのへんや」

 

 

 上気した肌が緩やかに波打つ。

 上着は端に脱ぎ捨てられ、指先で触れるたびに怯えたような、歓喜しているかのような、そんな感情で反応が返る様が愛おしさを誘発させる。

 

 

「いく、ぞ?」

「うん、キテ……」

 

 

 露出した肌の、一番敏感な部分。

 大きく開いた薄皮を、そらがつつ、となぞり上げる。

 

 

「ひぅ……っ」

 

「だいじょうぶかよ……、止めとくか?」

 

「んっ、ううん、だいじょ、ぶやから、でも、もっと、優しくぅ……」

 

「充分優しいつもりだけどな」

 

 

 そう言いながら、触れることを止めず。

 しかも見上げられる顔は、赤く薄く染まりながらも『続き』を期待した微笑。

 ――だから、これは仕方のないことだ。

 そう自分に言い聞かせ、そらは背中へと手を回し――、

 

 

   × × × × ×

 

 

「続きはWebで」

「「「おおい!?」」」

 

 

 この先は教育上宜しくないからね。

 ウン。シカタナイヨネ。

 

 

「ちょ、そらっち童貞って言ってたジャン!? 嘘だったの!? 私の気持ちを踏みにじったのね!?」

 

「あんまり童貞童貞言うなバカおっぱい」

 

「うわーん! 亜子に寝取られたー!」

 

 

 寝取られてませんし未だに卒業できていません。清いままです。

 でも言わない。なんかこの娘わざと騒いでるのが丸わかりだし。

 エヴァ姉のほうも、俺が卒業できてないのは感覚で捉えているっぽい。吸血鬼だからなー。匂いとかでわかるのかも知れぬわ。

 

 結果、騒いでいるのは裕奈だけとなり、

 

 

「構ってよ!」

「「「知らんがな」」」

 

 

 俺、亜子、エヴァ姉が異口同音で切り捨てた。

 佐々木? 目を回して寝てるよ。

 

 あ、ちなみに本当に一線は越えてません。背中の傷をなぞったって程度の行為でした。

 ……そういうのを要求されたから、それ以上のスキンシップとか言われてもなんか引くんだよなー。この娘、アブノーマルすぎじゃね?

 

 




割と急ぎ足で書き殴りました。壁を叩く所存で
亜子√だと思った? 残念! ハーレム√でした!
ここに至る道のりが一向に思いつかない。誰か回収率100%のデータを俺にくれ

記念と言うことで書いてみた特別編
時系列は大体夏休み後
仮契約とかの関係上こんな関係になっているけれど本当にこうなるかどうかは知らぬ

多分次回は原作√再開。では


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ここまで遠かったなぁ…、新学期だよ! 桜通りの吸血鬼編
『戯言だよ』


お待たせいたしました、原作√再っ開!
恐らく突っ込み所過去最高な三十話目くらい?
改めて思い返すとあとがきのほうが多い作品だよね



 

「なんだか甘い夢を見ていた……

 そんな気がした」

 

「――いや、何の話?」

 

 

 新学期スタート。というわけで始業式なう。

 隣に立つのは何処か懐かしき神宮寺。CV三木●一郎のやつ、いたじゃん。ほら。

 

 

「なんかすっげえおざなりな紹介された気がしたんだけど」

 

「気のせいだろ」

 

 

 大人しく狙い撃ってろよ。あれ、違う人だっけ?

 

 なんやかんやでネギ君を無事に麻帆良へと連れ帰った奮闘空しく、俺に返ってきたのは男子校舎へと戻れ、という悲しいお知らせだった。

 いや、元から三学期の間だけのつもりでもあったから別に悲しくねーけどね。

 べっ、別に強がりじゃないんだからねっ。

 

 ちなみにネギ君は再び2-A改め3-Aにて副担任と言う名の教育実習にも似た教師の修行を続ける、と言う処罰のようなそうでないような処遇。

 高畑先生は出張でよくいなくなるから実質担任である。ネギ君の無双がはじまるぜぇ、ひゃっはあ!

 

 この二週間の間で起こったことといえば、このかとのデートに見せかけた桜咲のせっちゃんからの逃走劇だったかな。衝撃的だったのは。

 着物姿で登場したかと思えばいきなりデートに誘われて、しかもせっちゃんがはるか後方で睨みを利かせているもんだからSAN値がガリガリ削られる。

 な、何を言ってるかわからねえと思うが(ry。頭がどうにかなりそうだったぜ……。

 

 あとはアキラたんとの関係性を微妙に伺われた程度か。実質二週間前のことになるけれど、部屋の中から出てきたのが一時間弱後なら疑われるのは当然だろうけれど。

 大河内と同室のバスケ部微巨乳に「慰めてた」と言い訳したら「身体でッ!?」と過剰反応されたのがなんとも。こう、言葉に出来ない感じでなんだかとってもコンチキショウ。

 ちなみに和泉は微笑んでいただけなのが、ちょっと背筋が寒い。何も悪いことしてないのに謝罪したくなる。へるぷ。

 

 

「で、結局烏丸は今までどこに居たん?」

 

「黙れ小僧ッ!」

 

「なんで!?」

 

 

 某山犬の長のように教師からの叱責が神宮寺に飛んだ。

 お前にあの娘が救えるのかッ!

 

 

   × × × × ×

 

 

「ち ょ っ と 来 い 」

 

「え、ええ~……」

 

 

 今日は始業式だけだし、久しぶりにのんびりしようかなー、と校門を出たところでこれだよ。

 ちうたんが参上。

 すっごい怖い目で睨まれた。

 ガクガクブルブル……。

 

 

「え、なに、烏丸の彼女?」

 

「神宮寺、俺が帰らなかったら、墓前には鈴蘭を添えてくれ……」

 

「いや、答えになってないんだけど……」

 

 

 なんか好きなんだよね、その花。

 

 

「いいから来い。わりーな、借りてくぞ」

 

 

 連れ去られる仔牛の気持ちが痛いほど身に染みた。

 

 

   × × × × ×

 

 

「で、なんであの子供が戻ってきてお前がいないんだよ?」

 

「俺は元から三学期の間だけって話だったはずだけど?」

 

 

 これは割りとガチ。

 当初から当て馬扱いだったはず。

 というか、ちうたんが来るのは予想外だった。俺がいなくなってそんなに寂しいの?(ドヤァ)

 

 

「一人だけ逃げるなんざゆるさねぇ……ッ!」

 

 

 そっちっすか。

 

 

「それくらいは見逃してほしいなぁ

 つうか、俺が介入していなかったら今頃ちうたんはネギ君と同じ部屋になっていたかも知れんし」

 

「ちうたん言うな……って、はぁ? なんでだよ?」

 

「長谷川って確か雪広と同じ部屋だよな? 今回の旅行ではなんだかんだでネギ君の実家にとこのかの実家に行ったんだけど、そこで同室ってことをそれぞれの保護者の方々にばれちゃってねぇ

 行き場がなくなったネギ君を雪広が引き取ろうとしていたんだよ」

 

 

 いやぁ、あの時は笑った笑った。

 それぞれからのお手紙を学園長に手渡して再生したら「「うちの弟を(娘を)どんな扱いしてるんですか?」」って同時に凄まれて、学園長は「ファッ!?」とかいう声を上げて驚いていたからね。

 そのあとのごたごたの結果、ネギ君を女子寮自体に置いておくと後々何を言われるかわかったものじゃない、ということを反省した学園長の采配で、ネギ君は俺の部屋に転がり込むことになった。

 当初に若干の心配もしたものの、今では同室の大芝との付き合いのほうが濃くなっている。あれだな、大芝がネギ君に提示した日本のサブカルチャがにいい刺激になっているのかもしれない。

 ただ、始業式始まるちょっと前くらいに日本の三大文化は?という質問に「メイード、ワビサービ、西●維新」って答えられて、ちょっとこの子の将来が心配になった。大芝ェ……やっちまったなぁ……。

 

 

「ぐっ、それはまあ感謝するけどよ……、でもお前だけ常識の世界へ逃げられるのは納得いかねぇ」

 

 

 そんなことを俺に言われてもなぁ。

 

 

「あれ、烏丸くん?」

「ん?」

 

 

 声をかけられて振り返れば、

 

 

「あー、因幡か。久しぶり」

 

「うん、久しぶり。そっちの娘は彼女かい?」

 

「はは、だったら良かったんだけどな」

 

 

 俺にとっては数少ない常識人の一人が登場した。

 

 

「こんにちは、因幡誠一です。烏丸くんにはいつもお世話になってます」

 

「あ、ああ、長谷川千雨、だけど……」

 

「そうそう、僕らまた同じクラスみたいだよ。三学期は結局ろくに顔あわせられなかったけど、これから一年よろしくね」

 

「へぇ、そいつは重畳。よろしくな」

 

 

 こいつと一緒のクラスか。素直に嬉しいな。

 

 

「それじゃあ僕はこれで」

 

「ああ、またな」

 

 

 爽やかに去ってゆく因幡。

 相変わらずイケメンなやつだ。

 

 

「――で、なんでちうたんはそんなに呆けてんの?」

 

「え、いや……、なんだ、今のは」

 

「クラスメイトだけど?」

 

「………………あれが?」

 

 

 なんか含みのある言い方をするなぁ。

 

 

「なんか問題でもあったかね。ああ、イケメンすぎて惚れたとか?」

 

「いや、そうじゃなくて………………

 ………………あれ、兎(うさぎ)、だよな」

 

「うん。まあ。そうだけどさ

 でも本人に言ってやるなよ?

 毛深いってこと気にしてるんだから」

 

 

 中身はいいやつなんだよ。本当に。

 

 

「………………………………………………

 わりぃ、お前の世界も中々に非常識だったわ」

 

 

 失礼な。

 

 

   × × × × ×

 

 

『今夜決行だ。すぐに来い』

「りょーかい」

 

 

 電話があったので外出の準備。

 ネギ君は一回帰ってきたけれど、またすぐに出かけた。

 なんだかんだで、エヴァ姉も布石を打っておいたのだろう。

 

 

「つーわけで、今日はネギ君戻らないかも

 先に寝てていいぞー」

「え、」

 

 

 大芝の答えを待たずに窓からダイブ。

 気分は超希釈存在感の人狼種。若しくはROD。黒の全身タイツとか用意しておくんだったかな。

 

 

   × × × × ×

 

 

 吸血鬼と魔法少年の追いかけっこを遠目に見やる。

 魔法をバンバン打ち合っているのに、あれが気づかれないとかいうのが納得いかない。

 認識阻害だって万能じゃねーぞ。目視されたら終わる。昼間のうちに、ちうたんに桜通りを通らないように釘を刺しておいて良かった。

 

 

「『子供が粋がってんじゃないよー!』

 『それでも、守りたい世界があるんだー!』」

 

 

 暇なのでアテレコで楽しんでみた。

 でもなんか微妙。

 度胸と力押しでレールガンの威力を上げる無茶な原理のような無理矢理感がある。

 

 ……あ、ネギ君がエヴァ姉を追い詰めた。

 でも茶々丸がそこに突貫した。

 ……俺もそろそろ参戦しようかねー。

 

 

「さぁてボウヤ、そろそろ降参したらどうだ?」

 

「ぐっ、まだです! どんなときでもあきらめない心が逆転のチャンスをつかむ! 必ず僕が勝って、エヴァンジェリンさんがなんでまき絵さんを襲ったのかを聞かせてもらいます!」

 

「……なんか、この二週間で暑苦しいやつになったな。何があったんだ……」

 

 

 言い合いしているところに、俺参上。

 

 

「こんな夜更けに騒ぎを起こすなよ」

 

「ッ! そらさん! きてくれたんですね!」

 

 

 ネギ君は俺が味方だと信じて疑わない様子。

 エヴァ姉はどこか愉しそうにニヤニヤと俺らの様子を伺っていた。意地が悪いなぁ。

 

 

「さあこれで数は対等です! もう逃がしませんからね! エヴァンジェリンさん!」

 

 

「いやいやネギ君――

 ――俺が君の味方だと、いつ言った?」

 

 

「――えっ」

 

 

 何を言われたのかわからない、そんな表情で振り返ったネギ君の両腕を、見えないくらいに細い糸が吊るし上げた。

 

 

「なっ!? これは……糸!?」

 

 

「――ようこそ、曲弦師の彩る極限空間へ」

 

 

「は……?」

 

 

 呆けた表情のままに、俺を見る魔法少年に、俺は決定的な言葉を告げる。

 

 

「残念ながら俺はエヴァ姉の味方であって、君の味方ではない

 これで数は三対一だ、あきらめるべきなのは明白だろう?」

 

「そ、そんな……、そらさんが、エヴァンジェリンさんの、味方……?」

 

 

 見る見る間に表情は絶望に染まる。

 そんな彼に、俺は――、

 

 

「さぁ、零崎を始めよう」

 

 

 よくわかるように、とどめの一言を放り投げれば、

 

 

「い、いやああああああ!?」

 

 

 春の夜空に、魔法少年の悲鳴が木霊した。

 

 

 




~お前にあの娘が救えるのかッ!
 そばにいることなら…いや、なんでもないです。

~「ファッ!?」
 そらの旅の長い伏線の結末。男女七つにして云々。
 幼馴染の部屋に子供といえども男がいることを見過ごせる少年ではなかった。…のかもしれない。

~「メイード、ワビサービ、西尾●新」
 かなり偏った三大文化。
 でもあんまり間違いじゃない気もするんだ(白目)。

~大柴君
 そらのルームメイト。日曜朝は「百合キュア」を見ている。
 ネギ君のお目付け役的な魔法生徒として選抜されたのかもしれないが、日本のオタク文化サブカルチャをネギ君に植え込んでしまった張本人。
 魔法使いとオタク文化の融合が、必要以上のケミストリを醸し出す。合体、駄目、絶対。

~因幡誠一
 イケメンで気さくなクラスメイト。そらにとっての唯一の常識人。でも見た目は癒し系。
 学ランを着たピーターラ●ットを妄想してくれ。それで大体合ってるから。

~黒タイツ
 壁を通過したり。ステルス性能を発揮したり。
 講●社の二次なのに集●社のネタばかり使っている気がする…。気がついた人は挙手。

~度胸と力押しで威力を上げる
 上がるか。

~曲弦士の彩る極限空間へ
~零崎を始めよう
 どちらも戯言。でも言われたほうはたまったものではない。
 俺なら確実に泣く。
 いつから彼がそうだと、錯覚していた…?
 してません。


相も変わらず暴走しっぱなしの作品だと自覚できます。大体三十話でした
前回の番外編を含めればそれくらいです
割と無意味に数だけ稼いでいるような気もしないでもない・・・

それはそうともっとツッコミどころが満載な気がするこの作品。もっとバンバン突っ込みを入れてもいいんですよ? ツッコミという名の感想をください! 感想貰えるとやっぱりモチベが違いますしね! もっと可愛い娘がみたいんでしょ! ほらほら! もっと褒めてもいいんですよっ!?(やっぱり暴走気味)

なんだか輿水的なあとがきで何を言ってるのかわからなくなってきたのでこの辺で。うざいと思った方は腹パンしてやってください。それでは


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『この場に於いては手札は及ばず』

 

「よっす、今日も早いなー」

 

「あ、うん、おはよー……」

 

 

 翌日の早朝、日課になっている新聞配達にて明日菜と遭遇。若干距離を取られている可能性も無きにしも非ず。なので、

 

 

「で、ネギ君の様子はどんな感じだった?」

 

「一応は平気みたいだけど……って、やっぱり昨夜の事は間違いとかじゃないみたいね……」

 

 

 と、話題を振ってやると素直に応じた。

 微妙にげんなりしている。おいおい、この麻帆良であれしきのこといくらでも起こっていただろ?

 

 それは昨夜のあの後のこと、エヴァ姉が捕まったネギ君の血を吸おうとしたところ、明日菜がやってきてエヴァ姉を蹴っ飛ばした。

 救助されたネギ君を見て「原作通り……(ニヤリ」と思わず三日天下の神のような表情で嗤う。

 その際立ち去るときに、エヴァ姉が中二臭い警告台詞を明日菜に放ったのが昨夜の思い出。

 しっかり警戒してやってくれよ?

 

 

「――ね、そら」

「んー?」

 

 

 内心ニヤニヤと笑っていると並走していた明日菜が言葉を漏らす。

 

 

「そらは、ネギの敵、なの?」

「いーや?」

 

 

 敵じゃねえよ、二つの意味で。

 味方でもないけど。

 

 

「そっか」

 

 

 一言応えただけでそこまで把握したかはわからないが、明日菜はどこか納得したように頷いた。

 

 

「じゃあ、見とく。この先何をする気かは知らないけど、あんたのことだからそこまでひどいことはしないだろうって、なんとなくわかるし」

 

「そこまで素直に信用するかね?」

 

「だって、あんたのことは大体知ってるもん」

 

 

 付き合いが長いから、という意味合いなのだろうけど、スタンドのことを知らずに、ついこの間まで魔法のことも知らずにいた幼馴染みが何を言うのか。

 ……まあ、悪い気はしないけどね。

 

 

「ま、見とけ」

「うん」

 

 

 再び並走する、俺と明日菜。

 さっきよりは距離が近づいた、そんな気がする。

 

 そういえば、

 

 

「そういえばネギ君、昨夜は結局明日菜のところに泊まったのか?」

「ううん、いいんちょのところにつれてかれた」

「そ、そうか」

 

 

 ……ごめんね、ちうたん……。

 

 

   × × × × ×

 

 

『CQ、CQ、えまーじぇんしーです』

 

「えっ、そんな緊急な要件なの?」

 

『いえ、実はそれほど緊急ではありませんが』

 

 

 授業中に6号から電話がかかってきたかと思ったら、突然そんなことを言われてちょっと焦った。

 何よ?

 

 

『女子寮に小動物が侵入したので思わず氷漬けにしてしまいました』

 

「小動物……?」

 

『オコジョです』

 

 

 ああ、あれか。

 しかしいきなり氷漬けとは。

 

 

『わたしの部屋にて下着の中に埋もれていたので』

 

「幼女の下着にか」

 

『はい、ようじょぱんつに』

 

 

 何故、言い直した?

 あと俺の発言に反応したクラスメイト諸君、後で屋上な。

 

 それはともかく、それはお仕置きされても仕方ないね。うん。仕方ない。

 しかし6号はいつの間に女子寮にて部屋まで用意してもらったんだろう……?

 

 

   × × × × ×

 

 

 簀巻きにして氷を溶かし、起こす。

 

 

「さて、お前には今四つほど選択肢が揃っている

 返答次第によっては生き残れる道もあるだろうから、返答と選択には充分な注意を持つように」

 

『………………っ!』

 

 

 相手が見知らぬ人間だからととっさに沈黙で応えたようだけれど、驚愕の表情を浮かべている時点で普通の動物(オコジョ)とは判断されないと思うんだ。

 そんな小動物によくわかるように、ゆっくりと噛み砕いて説明する。

 

 

「A、進入経路と目的を素直に吐いて魔法教師に突き出される

 B、沈黙を守り保健所へ突き出される

 C、起死回生の言い訳を思いついてこの場で挽き肉にされる

 D、今日の夕飯はオコジョ鍋だー。弱肉強食、現実は非情である

 ――さて、どれがいい?」

 

『………………っ!?』

 

 

 お勧めはCとDの合わせ技。

 Aでは学園長が介入するか、魔法教師の『善意』が働くかによって小動物の行き先が変わる。

 そもそも魔法生物を飼育するに当たっては許可が要るらしい。原作の通りならこいつは『妖精』となるだろうし、魔法生物の範疇にしっかりと収まる存在になる。魔法教師が『真っ当に』善意を働かせれば本国送還。オコジョ収容所、とやらへと強制送還になるだろうな。

 若しくは、魔法教師は今のところネギ君に関わる許可が学園長から下りていないけど、学園長が介入すればネギ君の下へと手渡されるだろう。介入するのは構わないが、そうなると他の魔法教師からの信頼は割りと低下するのは確実だろうなぁ。ネギ君が飼育許可を貰っているとは思えないし、そうでなければ学園長がそういう形で『許可』を勝手に下ろすことになるだろうから、そんな独断に勝手に巻き込まれた『正義の魔法使い』が黙ったままとはとても思えないし。

 Bでは完全な手とは言えない。多分すぐに脱走するか、そうでなければ殺処分。まあ保健所の管理はそこまで杜撰ではないだろうから殺処分が妥当だろうけど。

 その点CとDなら、こいつ自身言い訳が立ち、結果として俺たちの腹も膨れる。Win-Winの関係になるな。

 

 まあそんな俺の勝手な見解はともかく。

 選択肢を提示してやれば、土下座の体勢になって謙りだす小動物。簀巻きの所為でただの正座にしか見えないが。

 しかしよく関節がこうも見事に曲がるものだ。

 

 

『も、申し訳ございませんでしたぁーっ!! アッシはしがないオコジョ妖精の一匹でして! 名前はカモミールというちんけなこそ泥、それこそあなた様には歯牙にも掛ける価値もないような愛玩動物程度の存在でして! あなた様が手をかけるまでもないので見逃していただければお見苦しい様も見せることなくひっそりと息を引き取りますので……っ!』

 

「俺が価値を見出すかどうかは俺自身の判断に則って自分で勝手に判別つける自己責任のハナシだと思うのだけれどな。それをお前のような小動物が決め付けるのはお門違いだ、そうは思わないのか?」

 

『っ!? いえいえいえいえ! 滅相もございません! どうぞあなた様のお好きなようにしていただけたらと!』

 

「言われるまでもない。が、そうなると確実にお前は今日の夕飯なのだがそれでいいのか? 意思の疎通ができるということは被捕食者にはなりたくないというのも当然のことだろう? 言ってみろ、お前は何を思って何のためにここ(麻帆良)へと侵入してきたのかを、な?」

 

 

 目の前の小動物はがたがたと小刻みに震えだす。

 おやおや、嚇しているわけでもないのにどうしたのだろうなぁ。俺はただ取引を持ちかける前準備として事を正確に把握しようというだけなのに。

 取引というものは、着実に確実に静かに行われるべきものだ。決して、これは尋問ではない。

 

 だから、その羨望の眼差しをやめろ。6号。

 

 

「――、見事な尋問ですね。さすがは私が悪と認めただけのことはあります」

 

 

 6号、うるさい。

 尋問ではない。

 

 

「さて、話してみろ。悪いようにはしないさ」

 

 

 震えが増した。

 解せぬなぁ。(すっとぼけ)

 

 

   × × × × ×

 

 

 まあ原作の通りに後ろ暗いところがあったらしい。

 女性下着千枚を盗んだ罪でとっ捕まっていたオコジョ妖精は旧知の間柄であるネギ君を頼ってウェールズの奥地から日本までやってきました。という事情を聞きだすことに成功した。

 脱走手段はともかく、どうやって日本までやってきたのだろうこの小動物は。

 実はオコジョ刑に処されていた元魔法使いと言われても信じられそうだ。それはともかく、

 

 

「女性下着千枚を盗んだ、ねぇ……?」

 

『ちょっ! このお方なんか半端ねえくらいに怒っておいでじゃありませんかい!? そこの幼女ー! 歌でも歌って和ませてーっ!?』

 

「誰が幼女ですか、お断りします」

 

 

 誰がと問われれば6号だとしか言えないけれど、そんなこと今はどうでもいい。

 

 

「温いな、小動物

 そんなちんけな行為で己の欲求を満たすなんざ、まだまだ温い。紳士の風上にも置けねえ奴だ――」

 

 

 言葉を切ると、ごくり……と生唾を飲む音が場に響く。何故か6号まで一緒になって息を呑んでいたが、まあどうでもいい。

 

 

「――ぱんつは、愛でるものだろう!?」

 

「『!?』」

 

 

 そう、俺は高らかに宣言してみせた。

 

 

「ふわりとスカートが翻るその瞬間にわずかに見えるちらリズムでも!

 少女がボールを蹴り上げて寄越す無防備な仕草のときにも!

 短いスカートを穿いている、なのに見えないように恥ずかしげに隠していて正直見えなくっても!

 そこにあることをあるがままに受け入れて、女性が少女が幼女が美女が、ただ『はいている』! その事実だけを受け入れ、目視できるならば愛おしく想う! それが紳士の紳士たるあり方だ!

 小動物! テメェは紳士の国から来たというのに何をやった!? ただ盗んで、それで満足か!?

 はいている姿あってこそのぱんつだろうが!?

 はかれていてこそのぱんつだろうが!!!」

 

『な……なんて雄雄しいぱんつ愛……っ!

 この国には、こんなやつがいたのかよ……っ!』

 

「これが……SAMURAI……!」

 

 

 思いの丈をぶちまければ、二人はただただ圧倒されていた。

 だがまだだ。まだ、俺のターンは終わらないっ!

 

 

「俺なんかまだまだだ、この国には、もっとすっげえ奴らがいる……コレを見ろ」

 

『こ、これは……っ!?』

 

「――月刊、ぱんつあー?」

 

 

 そう、これは俺が氷山の一角でしかないことを証明するもの。

 この月刊誌はとある団体が最初に作り上げ、以降10年に渡って日本中へ伝播している。

 俺がコレの存在を知ったのはほんの一年前。購入するには定期通販しか手段はなく、そのためにはとある団体へと入会する必要があった。

 ――しかしそのとある団体は既にこの世にはない。

 政治的な介入によって姿をなくして久しいその団体の代わりに発足されたのが、『SOS(すべてのおぱんつを幸いとせよ)団』だ。

 命名センスは正直どうかと思われるが、その総人口は6000万を下らないともいう話。恐らくは初期発足団体以上の数になっているのだろう。

 そんな団員たちの中でも俺は新参中の新参。

 そんな俺がぱんつ愛を語れ切れるはずがないのだ。

 

 

「それを読めばわかるとおり、俺なんてまだまだ尻の青い若造さ。だがな、それでもやっちゃいけねえことくらいはわかる

 さあ、もう一度言ってみろ小動物

 お 前 は 、 何 を し た ?」

 

『お、俺は……っ、とんでもねえ間違いを……っ!』

 

 

 犯罪? 生温い。

 こいつの本当の罪は、半端な気持ちでぱんつ愛を語った、否、『騙った』ことだッッッ!!!

 

 だが――、

 

 

「――だが、間違いを間違いと認められれば、後はどうすればいいか、自ずとわかる

 そうだろう?」

 

『あっ、ああ……っ、ああああああぁぁ……っ』

 

 

 尋ねれば、小動物は声を上げて泣き出した。

 漢泣きだった。

 そいつは小動物だが、滝のように涙を流してかつての己を全力で恥じていたのだ。

 その悲しみは俺には、産声のように聞こえていた。

 ここまでくれば、もう俺が語ることなんて大してない。

 

 

「その本は、くれてやる」

 

『! い、いいんですかい!?』

 

「なあに、この瞬間同士が一人増えた

 ――それに立ち会えたのなら、本望さ」

 

『あ、アニキィィィッッッ!!!』

 

 

 ちなみに入会金は無料。

 定期購読には月々五百円というお得な購読料を支払うだけで――、

 

 

   × × × × ×

 

 

「……おかしいな、なんかえらい遠回りなことをしていたような気がする」

 

『アニキもですかい? なんだかアッシもそんな気が……』

 

 

 俺たちの邂逅は決して無駄なことではなかったと、そう思うのだが。

 

 

「あと小動物、アニキは止めろ

 なんか最終的に火山の中で命をかけて戦うフラグがビンビンに視える」

 

『はぁ……? では、師匠と……』

 

「ふっ、よせやい」

 

 

 俺はまだそう呼ばれるほどじゃない。

 

 

『いえっ! アッシにとっては人生の師匠に出会えた! そんな瞬間でしたっ!』

 

「っ、なら好きに呼びな」

 

 

 照れるようなことを言いやがる。

 それはそうと、

 

 

「――お、いたいた」

 

 

 ネギ君を発見。未だ帰宅してはいないご様子。

 まあ女子寮に帰るというわけにもいかないのだろうなぁ。

 ネギ君の授業準備に必要なものは大概が男子寮、如いては俺の部屋にある。

 さすがに今日は帰らないと授業も滞るだろう。

 

 そんなわけで――、

 

 

「やぁ、ネギ君」

「ひきゃあああああ!!!?」

 

 

 後ろから声をかければ最大級に驚かれる(愉悦)。

 

 

「おいおいおい、そんなに驚くことはないだろぉ?」

 

「ひぃっ! そ、そらさんっ!? 何故女子校舎にっ!?」

 

「ほんの数週間前まで通っていたからな。道なりくらいは覚えているさ」

 

 

 そんな愉しい会話(一方的)をしていると、駆けてくる一団を発見。

 あれは、雪広に早乙女か。

 

 

「大丈夫ですのっ、ネギ先生っ!?」

 

「おおっとぉ! ネギ君の前にあたしらをなんとかしてみせなっ!」

 

 

 ネギ君を庇って前に立つ女子二人。

 ふむ。既に事情でも話していたか?

 

 

「物々しいなぁ、ほんの数日前まで一緒に教鞭を受けていた仲じゃないか」

 

「零崎と名乗る相手ならこのぐらい普通です……っ!」

 

「正直ワタクシは『零崎』とかいうのは存じ上げませんが、ネギ先生を狙っているのならば例え烏丸さんでも容赦いたしませんわよっ!」

 

 

 後ろから聞こえた声は、ゆえきちか。挟み撃ちのつもりかね?

 雪広はショタコンっぷりがぶれないだけって気もするけど。

 

 

「そんな戯言真に受けるなよ、よく聞け

 零 崎 葬 識 なんて人間は、こ の 場 に い な い 」

 

 

 おや、怯えが増した?

 真実を言っただけなんだけどなあ(すっとぼけ)。

 それはともかく。

 

 

「それよりネギ君、キミに会いたいという子がいてね」

 

「え……っ! かっ、カモ君!?」

 

『アニキー! 俺ですぜー! アルベール=カモミール! アニキの力になるためにただいま馳せ参じやしたー!』

 

 

 脱走の上に密入国、更には実刑判決を逃れるためだけの用意していた言い訳の癖によくもまあいけしゃあしゃあと。

 まあ、もう女子寮に入れないように『首輪』っつう処理は施してあるからいいけど。

 あ、ちなみに本人了承済みな? 無理やりじゃないから。

 

 

「俺の今日の用件はそれだけだ

 じゃあねー」

 

「待つです」

 

 

 振り返って帰ろうとするとゆえきちに阻まれる。

 ちなみにその後ろには宮崎も控えていた。

 

 

「あなたとエヴァンジェリンさん、そして茶々丸さんは仲間である。間違いはないのですか?」

 

「うん、間違ってないな」

 

 

 エヴァ姉はともかく、茶々丸が俺らの旅行についてきたのはゆえきちだって見ていたはずなんだけど。

 何を今更確認する必要があるのか。

 

 

「では、ネギ先生の血を狙っているのは何故ですか? 正直、烏丸さんが狙う理由がわかりません」

 

「ふん? んー……」

 

 

 あれ? この娘ひょっとして主犯格が俺だと思ってないか?

 

 

「面倒だから簡単に話そう」

 

「はい?」

 

「ネギ君の血を狙っているのはエヴァ姉だけ。というか主犯がエヴァ姉で俺らは手伝い。先頭立ってやりたいエヴァ姉を何とかできれば今回の事態は収束できる」

 

「へ、はっ!? ちょっ!?」

 

「とはいっても俺らはそこそこに戦える。戦闘に関してはせめて魔法使いを連れてこないと今回の事件は解決できないだろう。君たちの中で魔法使いといったら誰がいる? そう、彼しかいない」

 

「あの、ちょっ」

 

「ネギ君は自身が狙われていると同時に自身こそが解決の鍵でもある。さあネギ君、事件解決のために正義の魔法使いを目指すのならば、何をする?

 ――これが、今回の顛末だ」

 

 

 まあ、一部だけのネタバレだけど。

 おや?

 

 

「ぽかんとして、どうした?」

 

 

 みんな揃って俺のほうを向いている。

 何故?

 

 

「呆然ともするです……

 なんですか、あなた方は愉快犯なのですか……?」

 

「まさか。真面目な試練だよ。ネギ君宛ての、な」

 

 

 さて、そろそろ帰るか。

 

 

「そうそうネギ君」

 

「はっ、はいっ!?」

 

「俺はしばらく寮に帰らないから。精々自室に篭もって戦術を練るんだな」

 

「えっ」

 

 

 ひらひら手を振って大手で帰る俺。

 うーん、かっこいいー。

 

 さて、思ったとおりに動いてくれると助かるんだけど?

 

 

 




~三日天下の神
 「僕は新世界の神になる!」
 確実に三日天下フラグなために、作者の中ではこういう名称に。ほくそ笑んでも駄目。

~いいんちょにつれていかれた
 舌の根も乾かぬうちにちうたんに迷惑をかけたそらくん。
 次に会うときがお前の最後だ……っ(by眼鏡

~女子寮寮監6号
 「麻帆良は子供が働いていても違和感を持たれないので潜入に楽ですね。ちなみにバイトです」
 労働基準法とはなんだったのか…。

~選択肢は四つ~現実は非情である
 大体がそらの勝手な見解。
 でも間違ってないと思うんだ。

~麻帆良の片隅で幼女に対してぱんつ愛を語る少年
 どう見ても『変 態』である。
 一般的にオコジョは対象とは数えられないので6号に向けて語っているようにしか見えない。一応ひと気はなかったのでセーフ。
 そして待ってくれ。彼は変態でも女性に危害を加えようとしない変態紳士でもある。
 だからその手に持ったケータイをそっと、静かに、床に置くんだ。いいな! そっとだぞ!? 間違っても通報のボタンを押すんじゃぁないッ!!

~初期発足団体
 名を『高級ランジェリー買収団』
 くれぬなら、買い占めてくれようランジェリー。をモットーに集まった紳士の集団。正直紳士の定義ってなんだっけ? と疑問に思わなくもない。
 数年前、買い占めるための資金が底を尽いた一団は資金回収のために秋葉原で銀行強盗を犯す。しかし偶然通りかかったメイドの一団によって犯罪は無事解決され、主犯かつ首班である一団は投獄へと収まり、団体は全国数十万の同士を置いてきぼりにしたまま解団されるはずであった。
 それを良しとしなかった同士らが新たに再生させたのが『SOS団』であり、その入団数は先日ついに6000万を突破。中には女性の団員もいるという性の垣根を越えた日本最大の一団へと成長した。
 『月刊ぱんつあー』は購読料たったの五百円と大変お買い得で、中身は会員だけの秘密情報となっている。しかしその会員数から公然の秘密であるのはもはや言うまでもない。

~火山の中で最終決戦
 俺を誰だと思ってやがるッ!!!

~零崎葬識
 勝手に名づけた戯言。烏→鳥葬→葬式という連想でこうなったらしい。
 なお完全にフィクションであり、この世界における実在の人物・団体・地名などとは一切の関係がございま(ry

~首輪
 原作にもあった奴隷用のアレ。持ち主は6号。
 勝手に女子寮に近づけば電撃が流れる魔改造品。


とうとう来ました三十一話。ついにカモの登場まで漕ぎ着けましたが、大きく何かが犠牲になったような気がします。気のせいですね

ちなみに『零崎葬識』は勝手に考えた名称です
作者は西尾維新を全部読んでいませんので、本当に居たらすいません
居なかったら、誰かこの名で西尾節の二次創作を作ってみても構いませんよ・・・?

欲しいツッコミがたくさんあります
正解を引き当てる方もきっといます
そんな豪気な読み手の方が多分にいることを期待しています
答え合わせは感想にてお願いします。それでは



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『いともたやすく行われるえげつない行為』

双識さんと読み方同じでしたねー・・・
忘れてくれて構いません。所詮戯言なので

なんだか前回書き過ぎた割には内容も飛び飛びに抜けていたような気もします
編集するべきでしょうが、めんどkハナシの内容は大差ないと思われますので、矛盾点や突っ込み箇所が露見しない限りは敢えてあのままにしておきます
盛大な黒歴史の暴露会場www
酒飲んで書くもんじゃねえっすねw
ちなみに今回のタイトルはスタンドとは直接関係していません。そんな三十二話

・・・しかし、高級ランジェリー買い占め団にツッコミがなかったのが解せぬ・・・そんなにマイナーな団体だったかなぁ・・・?



 

 それは私がお買い物に出たときのハナシでした。

 烏丸さんの勝手な判断で急遽我が家に宿泊する流れになったことに、わがマスターは隠そうとしていながらもたいそう喜んでおられました。

 ただ、そのために食事を一人分多目に用意しなければいけなくなってしまったことに対する労いの言葉は、私にはございません。

 普段より特別な労いなど貰ってはいないこの身ですが、流されたままというのも釈然としないものがあります。

 せめてもの反骨精神の表れとして、本日の夕飯はにんにくたっぷりのペペロンチーノにすることに決定いたしました。

 

 しかしここで驚愕の事実。

 なんと我が家にはにんにくのストックがまったくございません。

 マスターがにんにく嫌いなために、我が家では普段よりにんにくを使った料理は提供していないのです。

 まったく、好き嫌いが激しいマスターを持つと大変面倒です。

 私は仕方なくにんにくの購入のために、あとは顔見知りの野良の子猫たちのためのごはんをあげるために、町へと繰り出したのでした。

 

 そんな最中の出来事です。

 

 

「茶々丸さん! 覚悟です!」

 

 

 ネギ先生が杖を構えてこちらになにやら叫んできました。

 

 

「――なるほど、私が一人になるところを狙った。そういうわけですか」

 

 

 中々に狡猾な手段を使います。

 表立って敵対したのですから、従者が一人になったところを狙うのは確かに魔法使いと対峙するときのセオリーでもありますね。

 しかし、てっきり烏丸さんが真っ先に狙われるのかと思っていましたが……烏丸さんのことですから何か脅迫染みたことをして自分から狙いを外させたのかもしれませんね。

 

 

「僕の血を狙うのをやめていただけませんか……? そう約束すれば、見逃してもかまいません」

 

「すみませんネギ先生。マスターのご命令ですので」

 

「やはり駄目ですか……なら、仕方ありませんねっ!

 契約執行! 60秒間! 雪広あやか!」

 

 

 なんと。

 ネギ先生の宣言とともに雪広さんが茂みから飛び出てきました。その様はまるでポケ●ンのようですね。

 どうやら雪広さんがネギ先生と従者契約をしたようです。仮か本かは判別できませんが、彼女ならば納得もいきます。

 

 

「いきますわよ絡繰さんっ!」

 

「迎え撃たせていただきます」

 

 

 伸ばし、逸らし、交わし、掬い、払い、引き、押し、流し、矧がして、穿ち、かわされる。

 互いに拳を打つ戦法ではなく、投げを主体とする合気の戦い方なのが災いしているのでしょう。共に決定打はなく、一進一退の攻防、いや、決めあぐねている仕合が延々と続きます。

 

 雪広さんの身体を薄く包んで輝いているのはネギ先生の魔力です。

 それは簡易防御の役割と身体能力の余剰上昇を促すシステムです。それがただの一般人ならば急激に上がった身体能力に振り回されることになるのでしょうが、どうやら雪広さんはもとより運動神経がよいお陰か振り回されることなく手足を腕脚をしなやかに動かし、私の懐へと攻め込んできます。

 

 しかし後一歩が届かない。

 互いにそんな状況の中、

 

 

「いいんちょさん! 右です!」

 

 

 不意に、

 

 

「ふっ!」

「――っ?」

 

 

 ――心を、読まれました。

 

 

「右下! 左手! 脇腹! 左肩!」

 

 

 叫んでいるのは、宮崎さん? その手に持っているのは……、

 

 

「――! 気づきましたね!」

 

 

 あれは、『いどのえにっき』ですか。

 なるほど、従者契約していたのは宮崎さんもでしたか。

 前衛と後方支援の連携がよく取れた戦術です。正直、侮っていました。

 

 

「――これは、一人では分が悪すぎますね……」

 

「今です! 魔法の射手! 光の7矢!」

 

 

 っ、このタイミングで更にネギ先生の魔法ですか?

 しかし、七発程度ならば雪広さんの攻防を凌がなくとも……

 

 

――ニャアー

 

「!?」

 

 

 気がつけばすぐ背後には子猫の姿がありました。

 そして雪広さんは既に魔法の射手が当たらない距離に避難しています。

 これは、まさか、誘導されていた……?

 

 愕然とした表情でネギ先生を見れば――、

 

 

「茶々丸さんが避ければ、子猫は粉々だぁーーーッ!!!」

 

「――ッ!」

 

 

 考えましたね、チクショウッ。

 

 

   × × × × ×

 

 

「――と、そこへ颯爽と現れて魔法の射手を叩き落とし、ネギ先生にビンタをかまし、私と子猫の窮地を救ってくれたのが、本日お礼として夕飯にお呼びした大河内さんです」

 

「ど、どうも……」

 

 

 何か始まった、と思ったら野菜星の王子みたいな台詞を吐いた薬味坊主で〆られた。

 そしてエヴァ姉のログハウスの入り口には茶々丸に連れられて、若干申し訳なさそうにアキラたんが佇んでいる。

 まあとにかく。

 

 

「ま、いらっしゃい。茶々丸を助けてくれてありがとね」

 

「ううん、ちょうど通りかかっただけだから」

 

 

 そんな風に謙遜するアキラたんに対して、茶々丸が否定の意で、

 

 

「いいえ、大河内さんには感謝しています

 助けていただきありがとうございました」

 

「そ、そんな畏まらなくっても……

 あ、あと、アキラ、でいいよ」

 

「では、私のことも。是非、茶々丸、とお呼びください」

 

 

 なんか稀に見るタイプの友情が成立してた。

 

 それはともかく、従者契約をしたのが明日菜ではなくて雪広と宮崎が最初かー。

 好感度の高さで言うなら確かに二人とも第一候補だろうけど、明日菜は契約してないのかね?

 あとネギ君が下衆過ぎる。一体彼に何があった?

 

 なんか無事修正できたと思っていたのだけど、随分原作から乖離しちまっているなー。

 ま、どんな展開になろうと特に気にすることもないけど。俺の目標は大して変わらん。

 

 それはそうと夕食はにんにくたっぷりのペペロンチーノだった。

 エヴァ姉が涙目で可愛かった。

 

 




~野菜星の王子
 「俺は誇りある王子のネギータ様だぞ……ッ!?」
 どっちも一応王族だし。足してみた。


前回に比べて非常に短い仕上がり。でも元はこんな感じだったと思う。第一話の文章量なんかと比べれば、ねえ?

前回の内容があまりにもアレ過ぎたのか評価が落ちました。チカタナイネ。
割とgdgdだったし、ある意味納得の結果。
なんとか書き方をリフレッシュさせたいなぁ・・・

あと『月刊ぱんつあー』はエ●本ではございません。世の男性が普通に所持していてもおかしくない程度の内容の、ある程度はノーマルで健全な購読雑誌です。名前はアレですが。
つまり、そらもこの世界では普通の性癖の一般男性なんだよ! ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー!?
説得力ねえなぁ。

次回、エヴァのターン。では



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『そろそろ私の輝かしい過去を披露するときじゃないのかな……(チラッチラッ』

原作ファンだという方に感想返信でちょっと毒を吐いちまったようで、スミマセン
原作好き閲覧注意、とかタグに用意しておいたほうがいいのでしょうかねぇ・・・
あれ、でも待って? 純粋に原作好きならそもそも二次創作を見る必要性なくね?
そんなことをふと思った

それはそうと前話の感想では、ネギ君下衆ぅい! という意見がちらほら出ました
しかしうちの茶々丸はそんなことモノともしません
そんな三十三話




 

「すいまっせんでしたーーーッ!!!」

 

 

 一体何事でしょう。

 休日明けの月曜日、昇降口で私を見るなりネギ先生が土下座をかましてきました。

 一緒に登校していたアキラさんもびっくり仰天です。

 

 

「何事ですか、これは?」

 

 

 思わず、ネギ先生と一緒に居た雪広さんと宮崎さんに目線を向けます。心なしか居心地が悪そうなのは、休日前のネギ先生の蛮行を脛に抱えているためでしょうかね。知ったことではありませんが。

 

 

「ええと、私からも謝罪しますわ。先日はあのようなことをしてしまってごめんなさい」

 

「す、すみませんでした……」

 

 

 雪広さんと宮崎さんまで謝罪してきました。

 さすがに土下座はしませんが、この休日はさぞかし心持ちが悪かったのでしょうね。

 

 アキラさんと顔を見合わせて、目で語り合います。

 ふむ。つまりは、この未だに土下座姿勢のネギ先生も、そういう意図、ですか。

 

 

「別に構いませんよ。アキラさんのお陰で窮地は脱せましたし、あれも立派な作戦です。結果として子猫も無事でした、もう気にしていません」

 

「そ、それじゃあ許してくれるんですか……?」

 

「誰が顔を上げていいと言いました」

 

 

 土下座の姿勢から顔を上げた、ネギ先生の頭を踏みつけます。

 顔を上げられるとスカートの中が見えちゃうじゃないですか。

 恥ずかしいことをしないでください(棒。

 

 

「プギュムッ!?」

 

 

 踏みつけたまま、私は唖然としているお二人に言葉を続けます。

 

 

「むしろこちらからは、襲撃していただきお礼を言いたいくらいです」

「「えっ」」

 

 

 おや、まだ気づいてないのですか?

 

 

「いえ、マスターと直接対決に踏み出す前にわざわざ自分たちの戦力を披露していただけるとは、対策を練ってくれと言っているようなものではありませんか」

 

 

 そう教えて、思わず不敵に笑みを浮かべます。

 ドヤァ。

 

 

「そ、それは……ッ」

 

「――茶々丸さん、エヴァンジェリンさんは、どうしても僕の血を諦めてくれないのですか?」

 

 

 言い淀んだ雪広さんの代わりに、ネギ先生が尋ねてきました。

 

 

「何故、僕の血を狙っているのか、理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「……そうですね。特に隠すことでもないですし、後でお話します」

 

 

 それはそうと、ネギ先生は未だに土下座の姿勢の上に私に頭を踏まれた状態です。

 いくら凛々しい声を上げても、どうにも格好がつかないのは宜しいのでしょうか?

 

 

「あ、あのー、ところで今日はエヴァンジェリンさんは……?」

 

「そ、そういえばお姿を見ませんわね。またサボタージュですの?」

 

「いいえ、マスターは――、

 ――風邪で寝込んでいます」

 

「「「ほんとにあの人吸血鬼ですかッ!?」」」

 

 

 季節の変わり目には至極通常営業な事実をさらりと語ると、揃って驚愕の表情で目を見開きました。

 ネギ先生の中では『真祖の吸血鬼』というものは無敵且つ絶対の人間にとっての天敵であり上位存在である、という認識があるのでしょう。それを教えられていたのであろうお二人にとっても驚愕の事実だったようです。

 それはそうと、

 

 

「誰が顔を上げていいと言いました」

「アリガトウゴザイマスッ!」

 

 

 私は起き上がったネギ先生の頭を再度踏みつけました。

 

 

   × × × × ×

 

 

「最近、茶々丸が出張りすぎだと思うんだ……」

 

 

 どうも。多分物語も二章目くらいに突入したお陰か、最近めっきり地の文を読む機会が減った烏丸です。一応主人公なのに、この扱いはひどいと思うんだ。

 

 

「って、なんだ今の回想……?」

 

 

 キッチンでの炊事の最中、電波のようなモノローグが脳裏をよぎった。

 

 ネギ君の茶々丸襲撃から土日が明けて月曜日。

 本来ならば俺も学校に行っている時間なのだが、現在済し崩し的に同居しているロリ姉の感冒の看病という理由を伝えて自主休校とさせてもらった。

 春先だっていうのに、あんなセクシーな下着みたいなパジャマで寝ているからそうなる。

 格好はセクシーかも知れんが、正直欲情するかと問われたら否と答える姿だ。見た目十歳だし。可愛らしくて微笑ましいことは否定しないが。

 

 ちなみにこの休日中、原作ではあったはずのネギ君の家出はまったくなかったらしい。

 むしろネギ君は土日総じて引き篭もっていたと、小動物からのご報告。

 「バカにできねぇっすね、日本の文化……」などと電話口で呟いていたのだが、お前らこの休日何してたの?

 

 

『そらー……、そらー……』

「はいはーい」

 

 

 おおっと、エヴァ姉がお呼びだ。

 ちなみに家中に声が響いたわけではなく、拾音魔法でエヴァ姉の声を拾って対処している。魔法のチカラってすげー。

 

 

「はいよ、何ー?」

 

「うー……、はなれるなー……」

 

 

 寂しかっただけか。

 思わず頬が緩む。普段からこうなら最高なんだけどー……。って、不謹慎だな。イカンイカン。

 

 

「はいはい。

 あ、桃缶とりんご、どっちがいい?」

 

「うー……、……りんご」

 

「ん、起きれるか?」

 

 

 尋ねてみれば、もそもそと布団の中で蠢く気配。

 しかし、数秒後、

 

 

「……むぅーりぃー……」

 

 

 言いつつ、腕をこっちに伸ばす。

 起こせ、ということかー。

 

 

「ん。じゃあ、失礼しますよー」

 

「ん……」

 

 

 気怠気なエヴァ姉の背中に手を回して、優しく起き上がらせる。そのままベッドの上に座らせて、寒くないように半纏を羽織らせる。

 

 

「自分で食べれる?」

 

「んん……」

 

 

 首を横に振り、チラッとこちらを見上げる。

 まあ答えはわかっていたので、苦笑しつつ、傍らに置いた食器を手に取った。

 中身は摩り下ろしたりんごで、一口分、スプーンで掬って口元へ持ってゆく。

 

 

「はい、あーん」

 

「あー……」

 

 

 この先が読みたい方はワッフルワッフルと書き込んで(ry

 

 

 




~昇降口で土下座先生
 裸エプロン先輩リスペクトは回避。期待していた方はスミマセン。
 でもこれもアウトだと思うんだ。

~それを踏みつける女王様
 茶々丸の恥じらい(棒)。
 「えっちなのは許しません(キリッ」

~休日家出無し
 引き篭もって自分を見詰め直していたネギ君。
 でもやっていることが正しかったかどうかはカモの発言で思いっきり謎。恐らくはあさっての方向へ行ってると思われ(ry
 お陰で忍者フラグ無し。

~そらの出番が最近めっきり減ったよね
 主人公視点縛りという当初の予定は何処へ行ったのか・・・
 実際書き方どう思います?

~エヴァが可愛い
 書き込んでも続きは書かないがなァ!


期待した方はほんとにゴメン。でもあまりの甘甘な内容に壁の厚みがどんどん磨り減ってゆくんだ。仕方ないよね?

ダルげなエヴァが森久保か双葉かと間違われそうだけど、そんなつもりは全然ないよ! 少なくとも本人に自覚はないからセーフ!
最近こういうネタが無駄に過剰な気がするので、とりあえず宣言しておく。ふぅ

人気も評価も低空飛行を続けても構わないつもりの書き起こしだったのに、気がつけばお気に入り登録数は実は1700を突破という事実にマジ感謝
君らも好きだよねー、ネギま。それともジョジョ?
両方を兼ね備えた作品が最近出ているらしいので、そちらでスタンド募集しているらしいので、こちらは一端打ち切ります。少なからずも応募していただいたもののうち、数点は採用させていただきますので、「こんなのを登場させたいんだぜッ」という方が居たら是非とも応募を続けていただいても構いませんが、全部が全部というわけにはいきません(作者の執筆能力的に)
逆に「こんな作品に出されるくらいなら秘蔵するぜッ」という方はそれはそれで。まあここも二次創作なので、その点は割とフランクにやっていきたいですよねー
問題なのはその『点』が触れて小説をいつの間にか消されるとかいう事態にならないといいなー、という懸念。盗作疑惑とかかけられてたら泣くに泣けないし・・・
まあ、件の作品の作風はなんか結構違うらしいので言うほどの懸念もないんすけど

言いたいことがわからなくなったので本日ここまで
次回、本領発揮の予定。では



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『大停電の夜に』

わっふるわっふると書かれた数が多すぎて対処し切れんわ!ほんとエヴァが大人気だな!
あの後起こったことなんて、寝汗で寝苦しいエヴァの身体を拭いたり、心細いエヴァに寝付くまで手を握られたまま離されなかったり、夜半にエヴァがふと目が覚めて部屋を見回してみるとそらが椅子に座ってでも隣で舟漕いでる姿にホッとしたりにやにやしたりとそれくらいしかないもんね!

そんなことより三十四話を始めるんだからッ!
ばーかばーか!



 

「復活……」

 

 

 ぐっ、と広げた片手を握り締め、

 

 

「復活……っ」

 

 

 それを胸のところへ近づけ、

 

 

「――ふっかぁぁぁぁつ!!!」

 

 

 高々と掲げて、ロリータ吸血鬼は「ひゃっはー」とはしゃいで見せた。

 本日、大停電予定日の午後七時半くらい。無事風邪から快復しきったエヴァ姉は、なんとか当初の予定を解消できそうである。

 まあなんだかんだとはしゃぎつつ、あの後二日くらい寝込んで正直予定ギリギリなわけなのだが。

 病み上がりなのだからもうちょっと大人しくしていたらどうよ? と思わなくもない。

 

 なんだかんだで大停電には、学園結界が電力供給の不足に伴って一旦消滅するわけで、そうなると真祖の吸血鬼であるエヴァ姉も力が戻る。

 その隙に『外に出られない封印』である『登校地獄』を解呪するのが今回のミッション。

 『登校地獄』を解呪するにはかけた本人であるナギ=スプリングフィールドの血統が必要であり、その代替え品としてネギ君の血が狙われているのが真相なわけだ。

 ちなみに件のネギ君を呼ぶメッセンジャーの役割は、原作通りに血を吸ってあったという佐々木まき絵。呼び出しに伴って運動部他三人も芋づる式に引きずり出さないように、なんとか佐々木だけを動かすように予めエヴァ姉には言ってある。

 いや、だってアキラたんとか巻き込んだら後で何言われるかわからんし……。あと一応は茶々丸の友達だそうだし。

 

 それはそうと、エヴァ姉も随分とテンションが高いご様子。あのしおらしかったエヴァ姉はもういないんだね……。正直、あんな感じの妹がいたら確実に犯罪に走っていた。危なかった。

 今にも「清々しい気分だぜぇ~……まるで新年一日目の朝に(ry」とか言い出しそうでちょっとだけ引く。

 満月も一緒に昇っている、とか言っていたので魔力も最高潮に達しているのだろう。……って、ん?

 

 

「エヴァ姉、ちょっといい?」

「清々s、ん? なんだそら? 聞きたいことでもあるのか?」

 

 

 おお、いい笑顔だ。

 何か言いかけたことは聞かなかったことにしよう。

 

 

「エヴァ姉って満月時に一番強くなるって言ってたよね?」

 

「ああ、その通りだ。月の魔力が一番高まる今日に大停電が起こるとはなぁ。くっくっく、爺も詰めが甘いことだ……!」

 

「それおかしくね?」

 

「――え?」

 

「いつか見た文献ではさ、吸血鬼の力の基本は重力を操りその源流である『重力子』を支配することだって書いてあったんだけど。

 それ故に、星の重力が高まる太陽の出ている昼間や満月時は、重力への干渉が効きにくくなるために弱くなる。ってもあったんだけど。

 だから、吸血鬼の最高時は、星の力が分散する夜、それも新月時が一番だ。って」

 

「…………」

 

「逆に、吸血鬼の対存在である人狼が満月時に一番強くなるのは、人狼こそが吸血鬼の天敵だから。ともあったけどね。

 その人狼も、重力子の干渉によって吸血鬼が別の吸血鬼に対抗するために作り出した改造人間的な下僕だから天敵足り得る。っていうらしいけど」

 

「………………」

 

 

 黙ってしまった。

 ひょっとしてエヴァ姉もそのこと知らなかったのかな。それともエヴァ姉が特別なだけ?

 まあ、どっちにしろ満月でテンション高まるってやっぱ吸血鬼らしくないよな。どっちかというと狼男っぽい。

 

 

「じゃあエヴァ姉は今日から語尾ガンスね」

 

「ガンス!?」

 

 

   × × × × ×

 

 

「エヴァンジェリンさん! ……って、あれぇ?」

 

「ガンス……、ガンスってなんだよ……」

 

 

 ネギ君登場。

 でもエヴァ姉はさっきの会話を未だに引き摺っているらしい。代わりに俺が相手しておこう。って、おやあ?

 

 

「ネギ君、キミ一人?」

 

「烏丸さん……あの、エヴァンジェリンさんは一体……?」

 

「まあすぐに戻るさ

 で、キミだけなの?」

 

 

 やってきたのはネギ君一人。従者が一人も居ない状態では、勝負は目に見えてると思うのだけど。

 

 

「はい、まずは話し合いに来ました」

 

「ふっ、話し合いとはまたずいぶんと甘いことを言うな?」

 

 

 エヴァ姉が復活した。

 二人が会話するらしいので、心持ち控える気持ちで聞き手に回る。

 

 

「はい。僕の父さんが十五年前に呪いをかけて麻帆良に封じ込めたって……茶々丸さんに聞きました」

 

「ふん、しゃべったのか、このおしゃべりロボめ」

 

 

 睨まれても、何処吹く風だよコイツも。

 前から思っていたけどお前本当に従者? 本当にロボ?

 

 

「でも、本来の『登校地獄』は卒業と同時に解呪されるものだとも……、正直、父さんの封印法がバグってるんじゃないかとも思います」

 

 

 鋭いな。

 

 

「だから、解呪のお手伝いをします! その代わりに生徒を襲うのはやめていただけませんか!?」

 

 

 あれー。なんか微妙にハナシが食い違ってない?

 エヴァ姉のほうを見ると、ちょっと口の端が引き攣っているのが見えた。

 

 

「……フン。私は吸血鬼だ、人を襲うな、と言うほうが無理な相談さ」

 

 

 えー?

 実はそれほど吸血行為しなくても結構平然と生きられるのに?

 

 

「だからこそネギ先生、言うことを聞かせたいなら勝って見せろッ!」

 

 

 「オールベットだッ!」と互いの血と尊厳を賭けた勝負を挑むエヴァ姉。

 ははぁ、このロリっ娘ってば、偶には俺以外で遊びたいからこんな風に挑発してるな?

 まあ、いいけどね。

 

 

「……わかりました。それではエヴァンジェリンさん、勝負です!」

 

 

 そう応え、杖を構えて向けるネギ君。

 ふむ、そろそろいいか。

 

 

「よし、よく応えた。じゃあはじめようか」

 

 

 立ち上がり、コキコキと首を鳴らす俺。

 エヴァ姉の傍らに立ち、ぽきぽきとこぶしを鳴らす茶々丸。正直俺よりやる気だ、こいつ。

 

 

「「え」」

 

 

 異口同音に言葉に痞えるエヴァ姉と葱坊主。

 

 

「おいおいどうした? 鳩が88砲(アハトアハト)喰らったような顔してるぞ?」

 

「砕け散りますよねそれ!? じゃなくて、あの……ここは僕とエヴァンジェリンさんの一騎打ちにする場面では……?」

 

「ははは、面白いことを言うなー、ネギ君は

 ――魔法使いの戦いが、そんな正々堂々とできるものだと思っているのかい?」

 

 

 そう応えてやったら、だらだらと脂汗を流し始め、

 

 

「い、いえ、こっちは、ほら、従者も連れてきてませんし、騎士道精神、とか……」

 

「俺は紳士ではあっても騎士じゃない

 茶々丸は元より従者で人形。エヴァ姉にいたっては吸血鬼だ。キミらの都合を慮る悪役が、どこにいるのかな?」

 

 

 ははは。

 更に流れる汗の量が増えたなー。

 今にも泣き出しそうだゾ?

 

 

「さて、奇しくもあの夜と同じ状況なわけだし、口上を上げておこうか?」

 

 

 エヴァ姉は何処か他人事みたいに乾いた笑いを浮かべているので、代わりに俺が。

 正直いっぱいいっぱいな感じにしか見えないネギ坊主は、ひぃ、と息を呑んだ。

 

 

「さぁ――始まるザマスよ!」

 

「………………え?」

 

「………………」

 

「………………フンガー」

 

 

 応えたのは茶々丸のみ。

 空気が、凍りついた。

 

 俺と茶々丸の目線が、エヴァ姉に刺さる。

 ノっかってよ。

 

 

「いや、言わないからな!? 空気読めよお前みたいな目で見られても言わないからな!? というか茶々丸も何故ノった!? フンガーって何だフンガーって!?」

 

「正直、言わなければ宇宙の法則が乱れる気がしました」

 

「なんだその意味不明な理由は!?」

 

 

 うちゅうのほうそくがみだれちゃ、仕方ないでしょ。

 せっかくのガンス要員なのに……。

 

 

「……あっ、ま、まともにはじめてくださいよ!」

 

 

 ネギ君、それ違う。

 

 

 




~まえがき
 わっふるわっふる多過ぎぃ!
 本気で対処しきれないのでこれで勘弁。

~吸血鬼と人狼の関係性
 実は結構知られてない隠し設定。しかも割りと現実的な方面での。設定を掘り下げた解釈でもある。
 この世界にて適応されるのかは謎。

~吸血鬼の性質
 重力子を支配するので本格的な真祖になれば太陽も克服できる。ハイデイライトウォーカーなんかメじゃない。それどころか太陽の魔力まで使用できるのでその力で圧殺されるかも知れぬという恐怖。
 はっきり言って勝てる気がしない。

~語尾がんす
 狼男といったらこれ。
 古くから伝わる文献には吸血鬼はざます、狼男はがんす、人造人間はふんがー、と記されている。

~「さぁーあ、はじめるざますよ!」
 いにしえよりの合言葉。
 ネギ君のは『幸運星』。実はこっちがオマージュ。
 それを口にできた時点で、ネギ君が休み中に何をやっていたのかが容易に想像できそうなもので。


二時間で書き上げた。あまりにも感想の数が多くって(泣
エヴァの続きはあれで勘弁してください

そろそろシリアスな戦闘シーンの出番かも?
結局今回もgdgdなのに、本当にシリアスになれるのか?
行く末は俺にも見極められねえ・・・

あ、章ごとにわけてみました。では



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『烏丸の切り札(ジョーカー)』

本気で戦うシリアス(笑)開始
ちょっと怒られそうな三十五話。いくぜっ


 

「ここは……?」

 

 

 光に眩んだ目を開ければ、先ほどとは違う場所に。周囲には烏丸さんもマスターの姿もありません。

 超特性GPSを起動。現在地を特定。

 どうやら先ほどの場所とは500mほど離れてはいるようですが、麻帆良の街中なのは間違いない様子。

 ついでにお二人の位置情報を取得しておきましょうか。

 

 

「しかし、あれは転移符、ですか」

 

 

 ネギ先生の第一手は光の精霊を使ったデコイ(囮)。

 三対一、という無理な状況を覆そうとしたのか、数での手を打ってきたと思われるネギ先生。しかしその間隙を突いてきたのは背後から近づいていた小さな影でした。

 あれは恐らくオコジョ妖精でしょう。

 烏丸さん曰く『ネギ先生の下僕の小動物』が転移符を発動させたのかと思われます。

 お二人の位置情報の取得完了。烏丸さんもマスターも、遠い箇所にそれぞれ居りますね。

 結果として、私たちは散り散りにされてしまったようです。

 

 

「そうして各個撃破する、それがあなた方の手ですか。――雪広さん」

 

「そのとおり、ですわ」

 

 

 木陰から、雪広さんと宮崎さんが現れました。

 私の相手はお二人のようです。

 

 

「よろしいのですか? お二人の戦術は対処できる、と先日言ったはずですが」

 

「早々対応策が取れるのならばそれを乗り越える。それもまたいい女の条件ですわよ

 それに、」

 

 

 一つ区切り、雪広さんは身構えます。

 

 

「以前の勝負は不完全燃焼でしたので、決着をつけたい。そう思っておりましたの」

 

「何処の少年漫画ですか

 ですが、わかりました。謹んで、お相手させていただきます」

 

 

 嘆息しつつ、私も戦う準備をします。

 しかし、そうなると烏丸さんの相手は、いったい誰なのでしょうか……?

 

 

   × × × × ×

 

 

「あっはははははははははははははははははは!」

 

 

 目の前に広がる状況に気でも触れたのでしょうか。

 それとも別の要因でしょうか。

 転移されてきた烏丸さんは、状況を確認すると声を上げて大笑いし始めました。

 いっそ爆笑と言っても過言では無いくらいに笑った後、周囲を見越してこちらへと視線を向けます。

 

 

「はー……。で? 俺の相手をお前らがするってことか? 綾瀬、早乙女?」

 

 

 ……正直、以前に教室で同じく授業を受けていたときとまったく変わらない雰囲気なので気が抜けてしまいそうですが、相手は仮にも『零崎』を名乗る人物。

 気を引き締めなおして応えます。

 

 

「――そうです

 この状況なら、烏丸さんが以前使った炎の魔法やネギ先生から聞いた曲弦師の技も使えないはずです

 烏丸さんはエヴァンジェリンさんの手伝いだと聞きました。勝てない勝負をすることは、本意ではないはずです」

 

「だから、降参しろ、ってこと?」

 

「そうだよー! というか、よく平然としていられるね? これでー!」

 

 

 共に来ていたパルも同じように首肯しました。

 烏丸さんを囲んでいる状況は――、

 

 パルのアーティファクトで召喚した簡易ゴーレム『炎の魔人(インフェルノアニキ)』×37という、傍から見れば悪夢になりかけるムキムキマッチョのオンパレードでした。

 

 しかし、これが現在私たちの使える最良の手段なのは間違い無いはずです。

 以前に見せた炎の魔法は同系統相手には効果は薄いですし、その副次効果なのか装備変換魔法なんてものを使われても、はっきり言ってダメージを受けるのはそれに囲まれている烏丸さん本人でしょう。

 糸を使っても所詮は糸。魔力コーティングとか、実はワイヤー、とか想定しかけましたが、インフェルノアニキの周囲を覆う炎ならばそれすらも焼き切れます。

 これで、烏丸さんに勝ち目は無いはずです。

 

 ……正直言ってこれはヒドイと言わざるを得ない状況ですが……。

 ボディビルダーも真っ青な筋肉祭り……。

 私が囲まれたら五秒で泣くデス……。

 

 

「ふうん、ふうんん、確かに、これはちょっと手が出そうに無い」

 

 

 しかし、烏丸さんは未だ余裕の表情。

 まだ、何か手があるとでも?

 

 

「でもさー

 ――相手を間違えたな」

 

「はい?」「へ?」

 

 

 360度を囲まれている相手の台詞とは思えず、思わず続きを促しました。

 

 

「あのさぁ――、」

 

 

   × × × × ×

 

 

「うわっ!?」

 

 

 そらと茶々丸を転移符で飛ばし、一対一の状況を無理矢理作り出したボウヤだったが、どうも私のことを甘く見すぎだな。

 封印がまだ継続しているこの状況では、魔法すら薬という触媒がなければ行使できん。学園結界が解除されているからといって、無駄に強力な登校地獄が解呪されることもないという、ナンダコレあの馬鹿(ナギ)どんな無茶苦茶な構成シヤガッタ、と愚痴りたくなる現状だ。

 学園結界が効果を発揮しないというだけで、高位呪文を扱えないことが恐らくはばれているのだろう。ボウヤは捕縛魔法ばかりを使って私の動きを封じようとしてくるばかりだ。

 だが、甘い。

 魔法だけに頼った戦いなんぞ、私がすると思うのか? 現に今、ボウヤは足を引っ掛けて空中につんのめっていた。

 

 

「なっ、こ、これは、糸!? どうして……っ!?」

 

 

「――なあネギ先生、勘違いしていないか?」

 

 

「え……っ?」

 

 

 こういうのを何と言うんだったか。

 ああ、伏線、か。

 

 

   × × × × ×

 

 

「「『そらが』(『俺が』)曲弦師だって、いったいいつ誰が『断言した』(のかな)?」」

 

 

   × × × × ×

 

 

 絶句、しました。

 

 

「俺は糸を扱えない。

 俺は零崎というわけでもない。

 俺は言うほど強くも無い。

 全部、ぜーんぶ、戯言なのさ」

 

 

 あ、あれだけ思わせぶりなことをしておいて、全部『嘘』ですか……!?

 

 

「「――はぁー……」」

 

 

 気が抜けました。

 そんな相手なら、ここまで用意周到に対処する必要も無い……。

 というか、そうなるとネギ先生のほうが現在進行形で危険ということに?

 

 

「……では、とっとと降参してください

 私たちは急いでネギ先生のところへ――、」

 

「――とは言うものの、」

 

 

 言葉を遮って、烏丸さんが口上を続けます。

 その雰囲気は何処か奇妙で、切り上げるべきだと判断していたはずの私たちの注意を惹きつけるほどの何かが垣間見えました。

 

 

「俺も、エヴァ姉の弟子であるからして

 そうそう容易くやられる気も無い

 

 ――なので、切り札を一枚、切ろう」

 

 

 そう言うと、携帯を手にし、

 

 

「あー、もしもしー? 俺俺、俺だけどー」

 

 

 詐欺めいた口調で何処かへと連絡をし、

 

 

「悪いんだけどさ、

 ――今すぐ来てくれない?」

 

 

 次の瞬間、

 

 

「「なぁっ!?」」

 

 

 ――烏丸さんの背後に、巨大な魔法陣が出現しました。

 

 

「ゆ、ゆえ!? あれはなに!?」

「ちょ、ちょっと待ってください! あれは……!」

 

 

 私は急いでアーティファクトである『世界図譜』を使って魔法への対処法を調べます。

 既存の魔法であれば、この『図譜』で調べられないことは無い、というアイテムなのです。

 

 

「ありました! あれは、召喚魔法……っ!?」

「ぬぇえ!?」

 

 

 答えを見つけた、その瞬間には、『魔法陣から』吹雪が吹き荒れます。

 比較的近くに居たインフェルノアニキ達が凍り付いてゆく姿が目に映りました。炎の魔人なのに!?

 

 

「って、『吹雪を』『召喚した』ってこと!?」

 

「それはどんな魔法ですか……! いえ、違います! 見てくださいパル!」

 

 

 召喚陣から、しなやかな腕が、青く長い髪が、透き通るような美しい肌の女性が、そう。人型の『何か』が抜き出てきたのです。

 しかし、その姿は……!?

 

 

「よぉ、悪いないきなり呼び出して」

 

『まったくじゃ、妾を呼ぶとはどんな難敵かと思えば、なんじゃ? あんな小娘どもに遅れをとるとは、情け無い』

 

「まあそう言うな。せっかく機会だし、思う様に暴れさせてやろうってだけさ」

 

『ふむ……

 まあ好かろう、父様(ととさま)を梃子摺らす小娘の一匹や二匹、すぐに蹂躙してやるから有り難く思え』

 

「あ、殺しは無しな?」

 

『りょうかい、じゃ』

 

 

 フランクに言葉を交わしているようですが、私たちは古めかしい口調で話すその『彼女』の容姿に開いた口が塞がりません。

 なんで、なんで……、

 

 

「じゃあ、よろしく頼むな

 ――セルシウス」

 

『うむ。妾に掛かれば朝飯前、よ』

 

「「なんでゲームのキャラがいるの(ですか)ーーーッ!?」」

 

 

 それは、有名なRPGの某氷の精霊でした。

 ……というかほんとになんでなのですか……?

 

 

 




~転移符
 オコジョがまほネットで購入した模様。仮契約者が四人もいるんだし、それぐらいの出費も懐に優しいだろう。

~インフェルノアニキ×37
 筋肉祭り。マッスルマッスル。
 悪夢が顕現したおぞましい現実。実際目の前に居たら泣くどころの話ではない。やめてようやめてよう。
 ちなみに魔法の射手や召喚数はこの世界線では素数を元に考えています。原作でも元々はそうだったらしいよ?

~登校地獄が原作以上にチートでは?
 実際ただ登校させるだけの呪いでエヴァに止めを刺せたナギがおかしい。
 まともに考えたらこうなった。

~戯言だよ
 伏線回収。何人が本気にしていたのかな?
 いつから烏丸が『本物』だと、錯覚していた…?

~セルシウス
 烏丸の切り札(その一)。
 召喚されると『吹雪』という『天候』も一緒に召喚される困った娘。
 詳しくは次回説明予定。


やりたかったことを意外と安易に出せまして、ちょっと安堵しています
でも感想でなんと言われるかガクブル。セルシウスは人気だもんなー。キャラが違う、って確実に言われそう。でもこの娘はゲームから直接召喚したわけじゃないから、ツッコミあったら次回まで待っててね?

ガチバトルっつうよりは一部一方通行のフルボッコになりそうな予感
それでも! 彼女らが! 泣いても! 書くのを! 止めないッ!



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『説明回だよ!烏丸さん!』

つい先日、花山薫のハートフル学園漫画を発見
スカーフェイスっていつの間に終わってたん?
フルボッコな三十六話



 

 おや? GPSにジャミングが……?

 恐らくは烏丸さんですね。こんな真似ができるのは。

 早めに勝負をつけたほうがよさそうです。

 

 そう判断し、雪広さんに回し蹴りを仕掛けます。

 が、寸でのところで回避され距離を取られました。

 計画通り、彼女としても一端距離を取りたかったのでしょうから、僥倖でしょうね。

 

 

「はぁっ、はぁっ、の、のどかさん! 茶々丸さんの心は、まだ読み取れないんですのっ!?」

 

「そ、それがぁ~」

 

 

 一向に援護がこないことに痺れを切らしたのか、雪広さんが宮崎さんを叱責しています。

 そんなぷんすか怒っている雪広さんに、宮崎さんは読み取っている本の内容を語って聞かせました。

 

 

「ジャ、ジャガイモ2個、たまねぎ一つ、にんじん一本、コンソメ適量、牛乳300cc」

 

「それはシチューの作り方メモですッ!!」

 

「で、でも~、こんなことしか考えて無いんですよぉ~!」

 

 

「言ったはずです、対処はできる、と」

 

 

 私が宮崎さんの『いどのえにっき』対策として用意して『もらった』のは並列演算用の副次電脳、人間風にいうならば『脳みそをもうニ、三個追加してもらった』とでも言えるでしょうか。

 『名前を知る相手の思考を読む』というアーティファクトは確かに脅威かもしれませんが、名前を知れぬ相手が『私』以外に複数内側に居れば、どれが戦闘思考を行っているのかを読みきれないと推測しましたが、どうやらそれは的中したようですね。

 ちなみに宮崎さんの読んだのは今夜の献立です。

 

 

「そして、雪広さん。あなたの相手もそろそろ終わりにしたく思います

 なので、切り札を用意しておきました」

 

「切り札、ですって……?」

 

「はい

 ――『こんなこともあろうかと』ッ」

 

 

 恐らくは烏丸さんによる魔力ジャミングが広範囲に及ばないうちに、外部パーツの召喚キーワードを唱えます。

 すると即座に『それ』が飛来し、『装備』を切り離しました。

 切り離された装備が、ガシンガシィンと音を立て私の肩口へと装着されます。

 時間にしてほんの数秒。私の高起動戦闘形態が今ここに完成いたしました。

 

 

「これが――モード『三面六臂』

 またの名を『茶々丸阿修羅モード』です」

 

 

 副次電脳は二個ですし、外部パーツは四本の腕です。これで某悪魔超人の技だって使えます。

 

 

「な……! な……っ!?」

 

 

 唖然としている雪広さんは言葉を紡げないご様子です。

 烏丸さん曰く『切り札とは、己が確実に勝てる回数のことを指す』そうです。

 さすがに合気での戦闘技術が優れているからといって、このような事態に即座に対処できる経験は無いでしょう?

 

 

「さて雪広さん、ここで質問しますが……

 ――腕が六本ある相手と、戦ったことはありますか?」

 

 

   × × × × ×

 

 

 以前にも語ったと思うが、魔法使いが自分の得意な系統の呪文を使い続けてゆくうちに、本人の属性がそちらへと偏って行く反作用を、俺は『純化』と呼んでいる。

 これは得意な属性の魔法が更に強力に行使できるというメリットを魔法使い側へと与えるのだが、同時にその方面の魔法しか扱えなくなる、というデメリットも孕んでいるのだが、所詮は得意不得意の範疇で収められる問題なので実は大して問題視されていないことでもあるのだ。

 

 その前提をさておいて、俺は魔法理論を研究しているうちにふと気づいたことがある。

 はじめから一属性のみを偏らせる魔法使いを作ることはできるのか? と。

 

 はっきり言ってマッドサイエンティストの考え方なのだが、同時にやってみたいこともあったので、更にはエヴァ姉の城という時間がそれなりにある場所も提供してもらっていたので、ついその研究を完成させてしまった。

 その完成系の一つが、わが娘『セルシウス』となる。

 

 

『凍れ』

 

 

 呟きの一つで、『共に』召喚された吹雪が彼女の意のままに簡易ゴーレムらを氷漬けにしてゆく。

 威力的に俺も巻き込まれてもおかしくない距離と効果なのだが、俺は『同調』という裏技で一時的にセルシウスとシンクロしている状態なので平気。

 ちなみにこの技はスタンドではなく魔法、それも同一血族にしかできない血統魔法だとかいう特殊な分野の魔法を研究してオリジナルアレンジした代物なので、『俺が』『誰にでも』扱えるわけではないもの。悪しからず。

 

 

『どうした小娘ども? 逃げるだけが精一杯か?』

 

「逃げたくもなるわーーーッ!!!

 あたしのインフェルノアニキがまさかの紙装甲じゃ勝ち目なんて無いじゃんよーーーッ!!!」

 

 

 悲鳴を上げながら早乙女が綾瀬を抱えて全力ダッシュ。ちなみに魔力供給状態。

 さっきまで素のままだったが、逃げるために急いで魔力供給をしてもらえるようネギ君に連絡を入れていた。わかるわ。

 

 さてこのセルシウス、構成自体は結構単純。

 俺の血を素体として作り出したホムンクルスに氷の精霊を封入量限界まで圧縮して馴染ませた。

 

 ホムンクルス、『人造人間』または『人造妖精』とされる代物だけど、この世界じゃ多分アーウェルンクスシリーズとかと同じようなものなのだろう。作ってから『そういうもの』の製造法令、とか一瞬頭を過ぎったけれど、俺はそもそも正しく『魔法使い』として学徒となっているわけじゃないから気にすること無いか。と思うことにした。実際魔法世界の法律に抵触するかもしれないけど、知らん。

 話を戻すと、そもそもこのホムンクルス【フラスコの中の小人】と呼ばれるものは外部供給と最低限度の結界が無ければすぐに自己崩壊を起こす、と漁った文献にはあったので、存在成立の方法としてとある漫画の錬金術を採用して成立に至った。

 とは言っても、『例のアレ』のように人の魂を凝縮するような外道な手段ではもちろんない。それの代わりの核として『氷の精霊』という、一属性のみの純化前提製造を積極的に促進させた成果である。間違っても『扉』なんぞ開く必要もないし、「持って行かれた……!」なんてことはしていない。

 

 結果として、エヴァ姉の『氷の女王』状態を常時再現してしまったのだが、まあ問題ないだろう。

 

 同調状態だってこいつが俺の血を使ったホムンクルスだからできるだけだし、その状態だと俺にも氷の魔法や低レベルの攻撃魔法が効かなくなる、という恩恵にも与れるのだけれど。でもエヴァ姉相手だと千日手になるんだよなー。お陰でどのレベルぐらいに戦えるのかがよくわからん。

 まあ、あの二人なら確実に勝てると踏んだから召喚したわけなのだけど。

 

 今回の戦いは俺がエヴァ姉との模擬戦でやるような戦い方じゃ駄目だ。

 俺の戦い方は、エヴァ姉相手じゃ基本的に防戦一方で逃走前提。逃げてもあいつらは追ってはこないだろうし、魔法使いの世界へ足を踏み入れたあいつらに、魔法の怖さを思い知らせるためには『格の違い』をしっかりと見せ付けなくちゃならなかった。

 逃げようと思えば『跳ね馬』であの場から離れられたし、倒すだけなら小太郎戦みたいなスタンドの使い方で嬲るのも出来た。

 でも、今回は『わかりやすい敗北』を与える必要があるわけだ。うん、めんどくさい。

 あと俺のスタンドってあんまり戦闘向きじゃないし。

 

 

「!? え、ちょっ! ネギ君!?」

 

 

 急に、がくん、と逃走スピードが落ちる。

 早乙女の魔力供給がいきなり尽きたらしい。

 

 

「そうそう、セルシウスの吹雪は広がれば広がるほど魔力ジャミングがかかって外部との連絡がつかなくなる。早々逃げ切れると思うなよー?」

 

「なにその反則仕様!?」

 

『ぼやぼやしておると氷漬けじゃぞ?』

 

「ぎゃぁーーーッ!!?」

 

 

 女子の上げる悲鳴じゃねえなあ。

 

 

「ええいくそ! やってやるわよ!

 召喚! インフェルノアニキ×109!」

 

 

 さっきよりずっと多い筋肉らがその場に現れた。

 むさ苦しさに辟易するが、これが今のあいつらの最大戦力なんだろう。

 

 

「それじゃあ止めといくか」

 

『うむ。愛の共同作業じゃな』

 

 

 どこで覚えた。

 

 

「『エターナルフォースブリザード!!!』」

 

 

 どーーーん。相手は死んだ。

 すいーつ(笑)

 

 




~茶々丸の対処
 並列演算用の副次電脳と外部装備の腕+4本。全部超のお手製。
 止めは阿修羅バ●ターだ!

~烏丸の切り札
 彼曰く「勝てる回数」のことをそう呼ぶらしい。スタンドは「隠し球」と思っているっぽい。それにしてもスタンドの評価が低すぎる。

~エターナルフォースブリザード
 あいてはしぬ。
 ちなみに傍から見た見た目は「石破ラブラブ●響拳」。本当は掛け声は何でも良いらしい。


もっと文量があったはずなのに出来上がってみれば完全なる説明回。ゆえきちどこいった?
大体のところは説明できたはず。前回で疑問に思った方も納得してくれればよろしいのですけどー?

従者サイドは大体これで決着。あとはネギが勝てるかどうか・・・あっ、無理だわ、これ
それでもまだまだ吸血鬼編は終わりじゃないです
もうちょっとお付き合いください。では



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『大停電の夜に(裏)』

遅くなって申し訳ない
ちょっと今回ネタが少ない。戦々恐々な三十七話



 

 見た目どちらも子供にしか見えない教師と生徒が、夜の麻帆良で非現実的な技術で大人の遊び(意味深)を繰り広げているちょうどそのころ。

 同じく非現実的な技術を持っている本物の大人、俗に言う『正義の魔法使い』達は大忙しだった。

 何故ならば――、

 

 

「出でよ式神!」

「四季方従神、春蠱、」

「夏草、」

「秋蛇、」

「冬熊! そしてぇ、式神合成! 究極合体『赤兜』ぉぉぉッ!」

 

 

 違う漫画に出てきそうな四メートルを越す大熊が、珍妙な和装の男たちの呼び出した『数種の虫の絡み合ったような生き物』や『蔦が絡み合って中身が解り辛い生き物(?)』、そして『頭蓋骨からはみ出てくる数匹の蛇』を次々と取り込んでゆく。

 その『合体』は数秒で終わり、大熊の迫力と外観がコレまで以上に化け物じみて見えるようになった。ちなみに合体は例え何分かかろうとも待たなくてはならない。これは世界の常識である。

 

 

「ゆけぇ赤兜! 西洋魔法使いなんぞ蹴散らしてしまえぃ!」

 

「お前たちもぼやぼやするな! 百鬼や九十九でもかまわん! 援護を頼むぞ!」

 

「「「「「ハイ!!!」」」」」

 

 

 一際老齢な和装の男性がノリノリで大熊に命令すれば、それに自らの式神を吸収させた青年の一人が背後に控えている数人~数十人の人影らに発破を飛ばす。

 言われた人物たちは、己の力量に見合った式神を弱くとも数で補おうと大量に召喚して見せた。

 

 ――と、このように。

 麻帆良の魔法使い、俗に言う『魔法教師』や『魔法生徒』らが大忙しなのは、何故か今日に限って侵入者らが大量にやってきて急遽対応を迫られたためなのであった。

 

 自らの陣営の戦力が次々と補われてゆくことに気が大きくなったのか、蔦が絡み合った(ry(以下モン●ャラもどき)を召喚した青年が高らかに笑う。

 

 

「ハハハハハ! 本当に結界が消えているとはな! あの犬神の小僧の言ったことが本当とは!」

 

「夏衵、気を緩めるな

 いくら人外に負荷を掛ける結界が無いとはいえ、彼奴らの数は膨大ぞ」

 

 

 かじつ、と青年を呼んだ『虫』を召喚した禿頭の男が嗜める。が、青年には馬耳東風のようだ。

 それもそのはず。

 この現状は遊●王で相手が攻撃しないうちに自らのフィールドに次々と手札を伏せてゆくこととほぼ同等。これまで『碌に麻帆良へ攻め入れなかった』という鬱憤を晴らすべく、戦力をかき集めてこの場へと辿り着けたことが、青年にとって実に面白い。

 

 

「くそっ! なんで今日に限ってこんなに侵入者が!?」

 

「援軍を呼べ! 私たちだけでは侵入を許してしまうぞ!」

 

 

 麻帆良の第一線を防衛していた魔法教師が叫び声を上げる。

 相手が人外のみで構成するならば『学園結界』を復活させるのが第一なのであるが、今回の侵入者は何故かそれだけではないのだ。

 

 

「桜花烈斬!」

「空洞虚実拳!」

「土遁・破濁流!」

「ざーんがーんけーん」

 

 

 ドォッ、と剣波が拳波が岩石の濁流が土地を削る。

 一部気の抜けた声も聞こえたが威力は間違いなく本物で、ただの術者だけで構成されたわけではない『侵入者』の団体が学園結界のみでは抑えきれないことを如実に物語る。

 

 よって、第一に防衛すべきはこの第一線。

 麻帆良の停電復帰へ割かれていたはずの魔法関係者らは、戦えるものから次々とこの場へと集まってくる。

 停電が復活するまでは、もうしばらくかかりそうである。

 

 

   × × × × ×

 

 

 同時刻、世界樹前。

 

 

「――良し々々、西洋魔法士らは見事に一線にてかかりきりのようだな」

 

 

 にやにやといやらしい笑みを浮かべながら、小男が世界樹の前へと現れた。

 その背後には数人の人物が控えているが、どの人物も格好は普通の作業着で、夜中にいる場所を除けば魔法関係者だと疑われることもないだろう。

 しかし場所は違えるわけには行かない。彼らの目的はこの世界樹なのだから。

 

 

「――厳冬殿らはよくやってくれているようですね」

 

「ああ、あいつ等が盛大な囮を買って出てくれている間に、俺たちは自分の仕事を済ませるぞ」

 

「「「「はい」」」」

 

 

 今回の作戦はただの侵入ではない。

 そもそも、敷地内に踏み入っても『どろけい』みたいに領土を確保できるわけでもない。彼らが麻帆良に踏み入る目的は、元々二つあるのだ。

 

 一つは、此処が『重霊地』誑しめられている原因、『世界樹・旙桃』を調査すること。

 魔法使いらは何故かこの『樹』を重視している。その内包している魔力量、が第一かもしれないが、それくらいならば他にも日本には各地に相応の霊地があるのだ。

 旛桃には、此処にしかない『何か』が隠されている恐れがある。

 

 もう一つは、彼ら『関西呪術協会』の長・近衛詠春の娘『近衛このか』。

 協会やら長やらとはいうものの、実際のところ『関西呪術協会』は『関東魔法協会』と同じくそれぞれ地方で成立している術士・術式に目を光らせている『だけ』の目障りな存在でしかない。それらはそれぞれが相応の最大勢力を抱えている、というだけで名が知れ渡っているのであって、彼ら自身に『言うことを聞かせる権限』などというものは実は存在していないのである。

 仕事が欲しければ自分たちは自分たち自身が相応の場所に売り込んでいるし、政府が人材を欲しがったときには実は相応の専門機関が存在している。間違っても『外様』の息の罹っている『関東』に話を通す必要がないのはもちろん、自分たちが日本の半分の術士を従えていると勘違いしている『関西』の紹介で仕事が降りてきた、などという事態すら自分たちには来た覚えも無い。そんなものが無くとも相応の場所から仕事を請けている身としては、正直こいつらなんのために居座っているの? といい加減に堪忍袋の緒も切れそうなのであったりもする。

 

 そんな両協会の泣き所、とでも呼べる立ち位置にいるのが『近衛このか』なのだ。

 それを確保できれば、少なくとも余計なところで茶々を入れられたり、そもそも日本で堂々と認識阻害の結界を敷くような真似を看過する必要もなくなるはずだ。

 

 

「――と思ってはいるが、まあ確保とは言っても犯罪的なことをやろうというつもりは特に無いが」

 

 

 世界樹の幹を削りながら、顔に似合わず小男『八秦』は自身の思考を日和らせた。

 彼はよく、見た目変態的。エ●ゲに登場してそう悪い意味で。などと評価されるのだが、その実仕事振りは真面目一辺倒。実は政府からもそれなりの評価と仕事を与えられているのが、この男の正体だ。

 しかしそもそも今回の作戦上『近衛このか』は自分たちとは無関係。関西呪術協会に思うところはあっても、男は黙って自分の仕事をこなすのである。

 

 

「八秦さん、サンプル入手しました」

 

「意外と簡単でしたね……」

 

「できれば地下も見ておきたいが……、それは高望みしすぎか……?

 ――ん!?」

 

 

 と、ふと何か脅威のようなものを見過ごしたような、そんな警戒心が彼の中に沸き起こった。

 慌てて振り向けばそこには、

 

 ――戦車が。

 

 

   × × × × ×

 

 

 同時刻、麻帆良女子寮前にて。

 一人の男性が必死に逃げて行くのを尻目に、少女はケータイを取り出す。

 

 

「もしもし、こちら女子寮前です。たった今侵入者を迎撃したところなのですが」

 

『そかそか、被害はあるか?』

 

 

 電話に出たのは少年の声だった。というかそらだった。かけた相手がそうだからそれは間違いないのだが、少女はふと疑問に思う。

 

 

「もしかして、侵入してくることわかってました?」

 

『ん? なんでわかった?』

 

「あまりにも落ち着いてますので……

 とりあえず、一人逃げられましたが、他には被害は無いです」

 

 

 件の男性と行動をともにしていた他のものたちは、彼女の足下で氷漬けになって転がされていた。

 逃げた男性の気配は遠ざかっているので、足下の彼らを捕縛してしまえばあとは魔法教師にでも任せてしまえばいいだろう。

 

 

『女子寮に、いない生徒、って今わかるか?』

 

「私が確認している限りでは、綾瀬ゆえ、早乙女ハルナ、桜咲刹那、龍宮マナ、宮崎のどか、雪広あやか、のみです。停電直後、佐々木まき絵が同室の和泉亜子に引き渡された以外は、外出は誰もしていないかと」

 

『明日菜とこのかも?』

 

「……お待ちを

 ――はい、いますね」

 

『良し。じゃあ引き続き、番犬宜しく』

 

「わん」

 

 

 彼女としては、実は少年の言うことに従う義理は無く、少年がいずれ気持ちよく自分たちの手伝いをしてくれることを見越しての賄賂のようなつもりで今の仕事に就いていた。

 決して寮監と言う立ち位置が楽しくなってきたわけでも、たまに少年に頭を撫でてもらうことが気持ちいいというわけでもなく、ただそういう下心があるのだ。

 だから余計なことは聞かず、少女6号は足下の人物らを魔法教師へと引き渡すための連絡をしに自室へと戻っていった。

 ……最後の返事に、ちょっとだけ込めた稚気が伝わったかどうかで少し悩んだのは、誰にも知られてはいけないことなのである。

 

 

   × × × × ×

 

 

『ぶるぁぁぁぁぁっ!?』

『げ、厳冬どのぉ!? くそぉっ! 誰だ! 誰が撃ったぁッ!?』

 

 

 壮年の男性が自身の砲撃に撃墜されるのを遠目に確認して、彼女はその場を離脱した。

 その姿は誰にも見えることはなく、撃たれた本人くらいしか認識することはできなかっただろう。だが念には念を入れて、彼女は遠距離から件の男性を砲撃した。

 これで今夜二人目である。

 

 

「あと一人いるみたいだけど……

 そっちは逃げているみたいだし、もう放置してもかまわないかしらね」

 

 

 そう呟くと、遠隔操作していた『戦車』に戻ってくるように命令を飛ばした。

 

 彼女は表舞台に立つつもりは無い。

 彼女はあくまで静かな生活を送りたいだけの、彼女曰く無害な人物でいたいのだ。

 だから魔法使いのごたごたに、進んで関わる気は更々無かった。が、その対象に『スタンド使い』が関わっていれば別だ。

 その存在は、放っておけば遠回しに自分に被害をもたらす恐れがあるのである。

 

 

「とはいっても、今日のはどれも反応が弱かったわね……

 ま、撃っておいても問題ないわね」

 

 

 一人自室で空恐ろしいことを呟きながら、源しずなは目を閉じた。

 

 

   × × × × ×

 

 

 遠見の魔法でエヴァ姉とネギ君の勝負がついたのを確認していたら、6号から連絡が来た。

 ちなみに遠見の魔法とは、よく魔法使いが水晶をかざして別の場所を見る、というアレのことなのだが、俺のはケータイの動画での閲覧。……言って置くが、普段から使っているわけじゃないからな。

 遠見の魔法って見たい本人が魔力を伝播させる必要があるから、結構逆探知が簡単だったりするんだよなぁ。魔法使いらって意外と視線には敏感だし。

 今回は付近に魔力ジャミングをかけているし、先生方も別の対処でいっぱいいっぱいだろう。

 つーかエヴァ姉、とどめに”雷の斧“を使ったよ。本人は『選別だ』とかいう屁理屈で父親(ナギ)のよく使っていた魔法を見せたみたいだけど。これがネギ君強化フラグにちょっと近づくかも?

 

 最終確認として6号に聞けば、このかが無事なのは元より、明日菜も外出していないご様子。小動物も仮契約従者が四人いるから安心しきっていたのかも知れんな。

 それなりに小細工を弄したのも報われるってなものだ。

 

 俺が今回やったことは、小太郎に麻帆良の結界が弱まる日があることを伝えた程度。そのことをそれとなーく周囲に広めて、とは言ってあったけれど、ここまで大々的に攻め入って来いとは一言も言って無いけど。まあ注意をそちらに向けれたので、万事由ということにしとこう。

 

 エヴァ姉が原作で負けた要因は、麻帆良停電の早期復旧に伴っての結界の急回復。そして魔法無効化体質という、魔法使いにとっては反則級のワイルドカードである明日菜の仮契約。

 正直どっちも主人公だなぁ、と言えるくらいには都合の良過ぎる展開だろうけれど、『それら』が追いつかない程度の展開で決着してしまえば問題は無い。

 実際、今夜の勝者はエヴァ姉で決定したし。

 

 どんな経緯で関西の人らに情報を流したのが俺だということがばれるかわからんから、そっちのほうにも一応はもっともらしい理由も用意してあるのだけれど……。

 まあ、今夜のところは『こいつ』で〆、といこうかね。

 

 

「――今晩は

 どちらへ、お出かけ?」

 

 

   × × × × ×

 

 

 男は、一見駄目人間に近しい容姿をしている。

 無精ひげを適度に生やし、髪はぼさぼさで手入れもせず、格好はラフといえば聞こえはいいが半パン・サンダル・開襟柄シャツと一見すれば駄目人間どころか何処のチンピラ? と問いたくなるような格好であるが、こう見えて『この』商売に関しては玄人(プロ)なのである。

 

 素人(アマ)と玄人(プロ)との違いは多々あれど、彼は嗅覚の鋭さ、が一番に取り立たされるのではないかと自負している。

 それも生き延びれるかどうか、という瀬戸際にて発揮される嗅覚だ。

 男は、笹浦福次はその嗅覚に従って、いの一番に逃げ出した。

 

 もっともその嗅覚が絶対というわけではないことも、彼は自覚している。

 この仕事を請け負った時だって、普段から福利厚生の利かぬ仕事をしている癖に生活はその日暮らしに近しい見立ての甘さが招いた借金にて首が回らなくなったことで、急遽纏まった金を欲したところに舞い込んできた仕事を引き受けてのこの様なのだ。

 正直、その嗅覚を普段から使えよ、と言ってやりたいこともない。

 

 それでも、無様にでも生き延びる欲求はあるのだと自負できる。その程度には嗅覚も働く。

 彼は『関西呪術協会の長の娘の誘拐』という仕事を割り振られたときに、うっすらと感じた『嫌な予感』が、女子寮の前まで来て急速に肥大化したのを感じ取り、真っ先に逃げ出したのであった。

 

 その逃走の最中に、今回の作戦筆頭である『厳冬』が撃墜されたことを無線で知り、自分の嫌な予感が的中したことも確信した。

 そもそも逃走する前に見えたが、女子寮にあんなに強い魔法使いが控えている、などという情報は入っていなかったし。元より彼は、金にさえ困っていなければこんな仕事を請け負うつもりもなかった。

 金の問題は片はつかないだろうが、前金だけでもそこそこあるのだ。それで一応の段落をつけて逃げる。そして生き延びて残りの借金をどうにかするための仕事を探そう。

 そのためにも、こんな場所で捕まらないためにも、人の気配の無い場所を、魔法が使われていない場所を、魔力の感じないような場所を狙って逃走を図っていた。

 そこへ、森へと、抜けていったその先に――、

 

 

「――今晩は

 どちらへ、お出かけ?」

 

 

――学生服を着た少年が、笹浦を待ち構えていた。

 

 

 




~侵入者だぁぁぁ
 原作でも裏側であったかもしれない展開。さすがにこんなピンポイントで狙われる可能性は低かっただろうけれど、そこはまあ主人公のあれの所為で。

~関西とか関東とか
 原作では政府にもコネがあるよ、って何処かで読んだ気もするけれど、この世界線ではこの程度の扱い。
 鬼瓦の幕僚長なら魔法使いの要求とかも跳ね除けそうな気がした。気合で。
 分野が違う? そんなの関係ねぇ。

~「わん」
 犬ミミ6号。今回の萌え要員。

~しずな先生もお仕事してるんですよ?
 裏方ですけど、スタンド関連ならば出張ってきます。伏線、そして一部回収は次回。

~主人公だってたまには暗躍するのです。にぱー
 暗躍言うにはちょっと動きが少なかったけれど、出てきた効果が意外に大物。
 ちなみにそこまでは『見て』いません。『遠見』で観戦したのはエヴァ程度。

~厳冬
 本日のオリキャラ。
 関西ではそれなりの立場にいる……と、いうわけでもない老人。
 戦闘方面のみの意外な脳筋なので主に仕事は現場。関西では古株なのに、性質上取り立たされないという不遇キャラ。
 式神『冬熊』は他の式神を喰うことで強くなる。そのために必要な部下がそれぞれ四季の名を冠して部隊が編成されているとかなんとか。

~八秦
 本日のオリキャラその2。
 たまに政府の仕事も請け負う、とかいう見た目悪役キャラな小男。
 らめぇ、なゲームならば結構見るかもしれない、という印象を呪術協会では受けられているとか。主に噂の主は巫女さん方と思われる。
 砲撃を受けた理由はもちろん……?

~笹浦福次
 本日のオリキャラその3。
 正確にはきちんと協会に所属していない、傭兵みたいな駄目人間。土壇場の勘は確かに鋭いのだが、それが常時使えればせめて人並みにはこの仕事でももっと売れているはず。悪い人ではない。
 強いてあげるなら運が悪い。

~「ざーんがーんけーん」
 例のあの娘。
 それはともかく、直接戦闘の部隊の中に忍者の影もあるね。多分覆面で顔を隠してるんじゃないかな。


なんか色々書いてたらずいぶんと間が空いてしまいました。三十七話でした
たまーにこういう書き方になるのは、あれです、病気みたいなものと思ってください。三人称がぁ、三人称が書きやすいんだよぉ・・・

それはそうと、作中でも書いた東西のあれ、ちょっとまじめに考えてもやっぱり二つの組織だけで日本全土を分割できるとは思えないので、この世界線じゃこうなりました。別にディスってるわけじゃないっすよ?
というか、魔法協会ってメガロの請負っていうか、中間管理職みたいなイメージが割りとあります。部下に恵まれているとは思えないですけど

あと以前にも感想で質問されたしずな先生の活動。基本スタンスは彼女もタカミチみたいな生活指導員なんだと思います。この世界じゃ戦う力を持っていますけど、戦えるからといって戦う必要性を自分で選択する必要は無い、っていう、ね?
わかるよね?

なんか長くなったし、次回はもっと短くしたいなぁ
更新期間も。では



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『吐き気を催すほどの、邪悪』

ようやくそらのかっこいい戦闘シーンが?
三十八話です

・・・ところで、麻帆良祭って何月でしたっけ・・・?



 

 前回のあーらーすーじー。

 見た目チンピラっぽいおっさんが森を抜けて現れた。多分侵入者で、女子寮から逃げた奴だと思う。6号からの連絡と時間的に一致するし、方向もそうだし。

 つーわけで、職質開始。

 

 

「今晩は、どちらへおでかけ?」

 

 

 できる限り好青年っぽい雰囲気でにこりと笑いかけてみた。多分意味無いけど。

 

 おっさんは俺の姿を見て引きつった顔していたけど、ちらりと別の方向を向くと、

 

 ……何故か更に引きつった顔になって、俺に対する警戒心がありありと見て取れるように。

 なんでさ。

 

 

「お、お前なにもんだっ、そこにいる子達になにをしてるんだっ!?」

 

「はいー?」

 

 

 そこにいる子達って……?

 

 言われておっさんの視線の先を見てみると――、

――ああ、綾瀬と早乙女が気絶していたな、そういえば。

 

 ………………え? 俺、見知らぬおっさんに変質者認定されかけてる?

 

 

「いや、待て。待て待て待て待て、

 おいこらおっさん、あんたこそ他人に何事か言える立場なのか?」

 

「だっ、だまされねえぞ! 変態はみんなそう言うんだ!」

 

 

 ……変態に何か嫌な思い出でもあるのか……?

 つーか変態じゃねーし。紳士だし。

 

 

「そっちこそ言い逃れしようとか思って無いだろうねー? っていうか侵入者がいることは連絡きてるし、おっさんがその一人ってことで間違いないよな?」

 

 

 つか、もうこいつボコろう。うん。

 

 セルシウスは返喚したけど、冷気はまだ周囲に漂っているから、無駄に詠唱する必要も無い。セルシウスの魔力は俺との『同期』で自在に扱えるし。

 

 

「とりあえずは捕まえるか

 えーと、氷の37矢」

 

「うおおおおッ!?」

 

 

 対象一人なら充分な数なはず。

 縦横無尽の氷の矢が、おっさんの周囲を蠢き襲う。それの回避に囚われて自由に動けない隙に、俺は別口を用意。

 魔力を手に集中。形は銃をイメージ。進行方向、前へ。要するに、日本一有名な霊界探偵の必殺技。

 なんで魔法使いって魔力だけでこういう使い方しないのだろうね? 呪文唱えるより手っ取り早いと思うのだけど。ってこれを考えた幼い頃には思っていたのだけれど、魔法理論を知るうちに納得した。

 魔力は基本的に魔法というシステムを通さないと効力を発揮しない。電気や炎といった発電用のエネルギーとは違う、むしろカロリーに近いそれ自体は貯蓄系統のエネルギーなのだ。このまま撃ったとしてもそれは攻撃にはならず、ドラクエで言うところのマ●イミにしかならない。

 それを俺はスタンドで攻略した。

 

 

「霊●ーン!」

 

 

 手の甲に『銃』の文字、指先に『弾』の文字で的確な攻撃意思を表示。

 撃ち出された魔力の弾丸は魔法の射手以上のスピードで、おっさんの無防備なわき腹へと吸い込まれるように命中した。

 

 

   × × × × ×

 

 

 逃げ延びれたと思っていた。

 人気の無い場所、つまりは魔法使いの気配である魔力の感知できない場所を選んで其処へと抜け出るつもりだった。

 魔法使いが魔法を使えば、少なからず周囲に魔力が分散される。それを逆手に感知して行けば、と己の知略に賞賛を浴びせたいほどだった。

 

 ……まさか、それを隠せる術法があるとは、思いもしなかった……。

 

 

「(つーか、このガキ、そんなことをなんでここでやってるんだよ!?)」

 

 

 八つ当たり染みた思考で、視界の端に映った何物かに視線を思わず向ければ、そこにいたのは――、

――拘束されて気絶している女子生徒らで……。

 

 思わず自身の顔が引きつるのを、笹浦は感じ取っていた。

 

 

「(……え、つまりそういう犯罪行為を隠すためか……?)」

 

 

 やべぇ、と自分が信頼する嗅覚が警報を鳴らす。

 目の前の少年からは、社会の裏に存在するくらいの悪の気配がありありと見て取れた。

 

 自分も人に胸を晴れる仕事ではないが、少なくとも犯罪行為に手を染めるような真似はしたつもりはない。

 しかしこの少年からは、己が悪であるということを自覚した上で、それを非道と知った上で、平然と他者を慰み者にできる程度の悪。それくらいの『凄み』とでも呼べるものを笹浦は嗅ぎ取っていた。

 

 

「あんたこそ、他人に何事か言える立場なのか?」

「だっ、だまされねえぞ! 変態(犯罪者)はみんなそう言うんだ!」

 

 

 笹浦は嗅ぎ取った感覚から、その少年の持つ『悪』が己の知る限り最低最悪の種類に属する『害悪』だと判断したが故の言葉である。

 その中には『死体偏愛(ネクロフィリア)』『幼女性愛(ペドフィリア)』『嗜虐または加虐趣味(マゾヒスト&サディスティック)』『執着追跡偏性(ストークフィリア)』『監禁束縛趣味(ヘッジロック)』等、思いつく限りの変態的犯罪が名簿のようにずらりと彼の脳内に浮かんでいた。

 

 はっきり言って関わりたくないし、今にも逃げたくなるが、間違いなく逃げたら追ってくるタイプの変態(犯罪者)だと確信している。

 その証拠に、魔法の射手を無詠唱で多数放ってきた。

 

 

「うおおおおっ!?」

 

 

 縦横無尽に氷の魔法が自身を襲い来るのに対して、笹浦は一歩対応が遅れたと数秒前の己に歯噛みした。

 とっととシキガミでもなんでも呼び出して、それを囮に逃げておけば良かった。

 あらゆる方向から襲い来る氷の魔法に、その場で姿勢を崩さないように留まって避け続けるのが精一杯の中、

 

 

「霊●ーン!」

 

 

 懐かしい漫画の必殺技を叫ぶ、少年の声が聞こえた。

 と、同時に、わき腹へと相応の威力の何かが襲ってくることを自覚し、しかしそれでも、

 

 

「(よ、避けきれねぇっ!?)」

 

 

 数瞬の間の後、コレが彼の行く末の分かれ目になったことを知ったのは、後の話である。

 

 

   × × × × ×

 

 

 は?

 

 思わず目を疑った。

 

 

「………………っ!

 ………………?」

 

 

 おっさんのほうもどういう状況なのか自覚して無いみたいだった。

 俺が見たその光景とは――、

 

――おっさんのわき腹から腕が生えて、俺の霊ガ●を掴み取った姿だった。

 

 

「腕……っつうか、」

 

 

 スタンド、か?

 おっさんはやってくるはずの衝撃が無いことに疑問を持って、瞑っていた目を開き、その『腕』に目を白黒させていた。

 その『手』が掴んだ俺の魔力弾を『飴玉』のような形に圧縮したものを手にして、更に白黒させている。

 どうも、たった今その能力に目覚めたようだ。

 

………………ふむ。

………………よし。

 

 やってみるかねぇ。

 

 

   × × × × ×

 

 

 来るはずだった衝撃に思わず目を瞑っていたからわからなかったが、この『飴玉』を生成したのは己らしい。

 というか、どうしてそうなったのかを理解できていなかった。

 突然『腕』がわき腹から生えて、少年の魔力弾を掴み取った。

 その結果になんでこういう付随効果が生まれるのか、奇妙な冒険にでも遭遇したかのようだ。

 

 頭の中が混乱することを自覚しつつ、笹浦は突然少年のことを思い出したかのように目を向けた。

 呆けている暇は無い。今は警戒しなくてはすぐに捕らわれる。

 そのことにいち早く気づけたからこそ、目を向けた。……のだが――、

 

――ニィィ、と少年の口の端が盛大に吊り上がる様を見て、心が折れかけた。

 

 ヤバイッ!!! と彼の嗅覚が、過去最大級の警報を鳴らす。

 

 

「(ま、負ける以外の選択肢が見つからねえ、だと……ッ!?)」

 

 

 逃げる→捕まる→殺される。

 立ち向かう→殺される。

 言い訳する→殺される。

 そんな『結果』を、彼の嗅覚は未来予知のように導き出す。嗅覚が全面的に降伏を支持し、その先にある己の姿は、敗北を認め土下座しひれ伏し涙と鼻水で意地汚く命乞いをする、という負け犬の底辺のような未来を垣間見ていた。

 猫に狙われたねずみ、どころではない。蛇に睨まれたカエル、でもない。

 今の彼はゴ●ラに捕食されることをただ待っているだけの亀だ。ガ●ラではない、ただの『亀』だ。

 

 

「(逃げ……ッ!?)」

 

 

 それでも、動かなくなる身体を必死で奮い立たせようと己の意思を心に浮かべる。その瞬間、

 

――少年の姿が無くな「動くな」

 

「――!?」

 

 

 気づけば首筋に、うっすらと掠められている何者かの指先。声音は少年のものだから、恐らくは彼がいつの間にか背後に回りこんで自分を脅しているのだろう。

 笹浦には、彼がいつの間にこうやって移動したのかがまったく目に映っていなかった。

 

 

「(瞬動、いや違う! わからねえが、ノーモーションから移動できるのなんざ達人しかいねえだろ!)」

 

 

 既に負けていることを自覚した。

 少年が本気になったその瞬間から、笹浦にはそれ以外の選択肢なんてなかった。

 最後の悪あがきすら起こすことなく、彼は易々と捕縛されたのだった。

 

 

「名前は?」

「……笹浦だ、笹浦福次」

「ここへは、何しに?」

「関西のとある一派からの依頼でな、近衛このかの誘拐をしにきたんだが……、俺はその前に逃げた」

「それを信じる証拠は?」

「……ない。けど、俺はもうこの仕事から足を洗う。だから、見逃、いや……なんでもない」

 

 

 命乞いすら無駄だと、そう感じていた。

 彼は基本的に生き汚いくらいに生き延びることに執着しているが、それでもこの土壇場で生き延びる方法が無いことくらいは自覚できる。そんな修羅場をいくつか潜り抜けた人間でもある。

 だからこそ嗅覚が優れ、今に至るまで何とかこの仕事を続けてこれた。だが。

 

 

「(――そんな俺以上に、このガキのもつ雰囲気はヤバすぎる……)」

 

 

 どっぷりと裏の世界に頭の先まで浸かっているような、邪悪。

 殺して奪って引き裂いて、犯して解体して曝して壊す。そんな悪意を他者に振りまいても、平然としていられそうなくらいに我の強い、まるで吐き気を催すほどの、邪悪。

 笹浦は、その少年の見せた威圧感に、それくらいのイメージを抱いてしまっていた。

 

 そんな少年は、どこか愉しそうに口を開く。

 

 

「なぁ、笹浦さん。あんたさ――、

 ――この状況を助かるための手段を、欲しくないか?」

 

「………………なに?」

 

 

 少年の言いたいことが理解できずに、笹浦は思わず疑問符を浮かべると同時に振り返っていた。

 

 

 




~霊●ン
 ネタ技その3くらい?
 日本一有名な霊界少年探偵の得意技。今更ながら、当時の彼は中学生だったんだぜ?
 威力は初期のあれと同程度。スピード重視で人一人をぶん殴るくらいの威力。込められた魔力によって変動もあり得るけれど、そらの魔力は普通の魔法使いよりは意外にも下。大魔力は障壁から転じて使っていますからねー。

~笹浦のおっさんの思い浮かべた『害悪』
 漫画的には指差すおっさんの背景に文字がずらっと浮かんでいる感じ。アニメ版エ●ァのタイトルとか予告とかみたいな文字だけで表すあれね。
 後半のルビは大体が意訳。あってなくてもべつにいーや。

~おっさんのスタンド
 前回二人ほどしずな先生に撃墜された理由がまあこれだけど、他二人としずな先生関連の詳細は多分説明入るのはずっと先。また長い伏線を張るのか……。多分その頃にはみんな忘れてるんじゃねえかな。
 スタンドの元ネタは@ガッサン4256さん。応募された『チュッ●チャップスラバー』を採用させてもらいましたー。
 でもチュッパ●ャップスって多分商標登録されてたって聞いた記憶があったし、名称は変更されます。あと付随効果とかも。ごめんね?

~そらが悪役過ぎる
 おかしいな。どうしてこうなった……?


ちょっと内容薄いかなー、っていう三十八話がこんなんですいません。キンクリしてとっととエヴァと合流させようかとも思ったけれど、片付ける部分片付けないと後々めんどくさいんですよね
ギャグやってるんだしいいんじゃないかって? でも意外にもこれをマジに捉える人が多くて多くって・・・
次回こそはエヴァ戦を終わらせたいです


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『えー、では今から反省会を始めまーす』

ここ数話がギャグ、というかシュールコメディになっている気がします・・・
そろそろガチでギャグりたい。もっとハジけたい。ほら熱くなれよ! そんなんじゃないだろお前は! もっともっと高みを目指せよ! そんな三十九話



 

「そ、そんなっ!? 私のインフェルノアニキが阻まれるなんて!」

 

「くはははは、そのような簡易ゴーレムなんぞ路傍の石にも劣るわ。壁を用意するならばもっと頑丈な奴を用意するんだな」

 

 

 大量に召喚した炎のマッチョを見る見る薙ぎ払ってゆく烏丸さん。光景だけ見れば彼を応援したくなるですが、対立的には劣勢な状況。好き嫌いを言っているときではないのです。

 

 

「ハルナ! 私が時間を稼ぐです! その隙にネギ先生を呼びに行ってください!」

 

「ゆえ……ッ! わかったよ! 絶対に無事でいてよね!」

 

 

 駆け出してゆくハルナを庇うように、私は烏丸さんの進行方向へと立ち塞がります。

 女の子と敵対したとしても、それを無理やりに突き崩そうとしない人だというのは、2-Aの頃には観察済みなのです。……さすがに直接対峙するというのは、気恥ずかしいですが。

 

 

「俺を止める? お前のようなちんちくりんがか?」

 

「ちっ!? ちんちくりんとはなんですか! ロリコンの癖に!」

 

 

 身体の震えを抑えきれませんが、これはそう、武者震いなのです。

 その震えを気づかれないように声を張り上げます。

 

 

「ふん。無理をするな

 そんなに怯えているのは、とっくに気づいてる」

 

「~~~っ!」

 

 

 気づかれていました。しかし、それでも親友を見捨てるわけにはいかないのです。

 私は立ち塞がることを止めず、両腕を大きく広げて仁王立ちの姿勢となりました。

 

 そんな私を押し退けるつもりでしょうか、烏丸さんが近づいてきます。

 怖いです。ですが、相手は知らない相手ではないはずです。言葉の理解できない怪物ではないはずなのです。だから、彼の説得ができるように、声を張り上げようと――、

 

 

「無理をするな、と言っただろう――、

 ――その可愛らしい顔に、傷でもついたらどうする」

 

「――……は?」

 

 

 彼の指が、私の頬を優しく撫でました。

 愛おしく、大事そうに、壊れ物を扱うかのように触れるか触れないか、そんなぎりぎりの距離で、烏丸さんの指が私の肌を這って蠢きます。

 しかしそれは決して不快ではなく、どちらかというとキモチイイ……、

 

 

「や……っ、だめ、です……、なにを、」

 

「目立つような傷は無い、が、わざわざ作ってやる気も無い

 ――ゆえ、お前が立ち塞がる必要も無い」

 

「それは、どういう――っ?」

 

 

 烏丸さんの言葉に気づいたときには、彼の顔はずっと近くに寄ってきていて、

 

 彼の瞳の中に、私の顔が映るのを、覗き込むように見せ付けられて、

 

 彼の指は、まだ私の頬を薄く撫でていて、

 

 肌の先、唇の先、僅か3cmの距離が、今もゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。

 

 

「あ、だ、だめ、です、私には……、もう、パートナー、が……」

 

「そんなの――、書き換えてやるよ」

 

 

 私がネギ先生の仮契約従者になったのは彼を吸血鬼の従者というわかりやすい『悪』を止めると言う大義名分があったからですがそこには魔法や幻想への憧れはあれどもネギ先生や烏丸さんに対する恋心というものは実際余りありません手数が必要であったネギ先生の仲間になれば非日常の世界へと足を踏み入れられるそんな心の躍るような誘惑に惹きつけられたことは否定できませんがしかしその先がこの展開というのはさすがに予想できるはずもないというか何故烏丸さんは私に対してこのような別種の誘惑にも似たアプローチを仕掛けてくるのかがわからなくもしやネギ先生の従者を引き離す作戦いやそれにしたところでこの今でそれをやる意義は実際それほどあるのでしょうかそもそも烏丸さんだって私たちと同年代のはずなのに何故こうもジゴロみたいなことを余裕でできるのかが理解できないというかむしろ普段以上にイケメンに見えてしまうのは魔法の補正でしょうかそうですそうに違いありませんでなければ烏丸さんにこのまま口付けをされても構わないなどという思考には至るはずが――、

 

 

「――はっ!?」

 

 

――今、私はなにを考えて――、

 

 

「ゆえ、

 

 ――俺のものになれ」「ハイ」

 

 

   × × × × ×

 

 

「ハイじゃないでしょうハイじゃあぁぁぁぁぁーーーーッ!!!???」

 

 

 うおっ!?

 

 

「なんで即答してるですか! 私はいつからそこまで尻の軽い女にっ! いえそもそもなんでそんな展開を平然と受け入れているとか! そうですこれはきっと吸血鬼の罠! 烏丸さんの魔法のせいなんです! 絶対!」

 

 

 なんか、目を覚ましたと思ったら絶賛俺のせい、ということにされている。……何が?

 

 笹浦のおっさんとの打ち合わせも終わり、こちらの用事は一通り片付いた。いい加減エヴァ姉と茶々丸と合流するべきかなー、と思って気絶していたデコと触覚をどうするべきかと思っていたのだが。

 目を覚ましたのはいいが、起きるなり元気のいいこのゆえきちをどう扱えばいいものやら。

 

 

「そうですそうなんです、絶対にそういう要因があるのです、そうでなければあんな簡単に靡くなんてことを私が実現するはずが、」

「なんだかお楽しみのところ悪いのだが、」

「――ハイ?」

 

 

 あ、ようやくこっちを見上げたな。

 

 

「っか、烏丸さん!?」

 

「はいはいそらくんですよー、身体に具合の悪いところとかはあるかー?」

 

「え、いえ、特には……って、近すぎです! 離れてください少なくとも1m!」

 

「そこまで離れちゃ診れねえだろぅ」

 

「大丈夫です! 大丈夫ですから!」

 

 

 赤い顔で手をダバダバと蠢かして必死でなにやら離れてアピール? なにその反応こわい。

 まあ言われて離れるつもりも無いけど。

 

 

「で、だ。お前が負けた要因なんだけど、」

 

「なんでそのまま話を続けるですか!? は、離れないと大声出しますよ!?」

 

「今更大声出したところで誰もこねえだろうよ」

 

「たっ、助けてーッ!! 犯されるーッ!!」

 

 

 何を人聞きの悪いことを。今でも十分騒いでいるし、戦闘中もあれだけ騒いでいたし、今更叫んでも意味ねえと思うんだけどなー。

 まあとりあえず、平気そうなら移動するかね。

 

 

   × × × × ×

 

 

「お前が負けた要因はとりあえず地力の差もあるだろうけど、単純に初心者の上に殻すら取れてないひよっ子だから、っていうのもある

 どんな世界でも経験がものをいう。それは魔法の知識にも同じく言える

 けどそれ以上に、そればかりをずっとやっていたって何が必要になってくるかわからない、っていうのがこの世界の『経験』だ。アーティファクト手にした程度で一朝一夕に強くなれるわけじゃねえんだよ」

 

「――まじめな、ハナシなのですか……?」

 

「ちゃんと聞けよてめぇ」

 

 

 一応はちゃんとついてきている綾瀬に目をやりつつ、未だ起きない早乙女を引き摺って移動中。

 ちなみにパクティオーカードを人質ならぬ物質にしていることを伝えてやれば、きちんとついてきているようではある。

 

 何でか知らんが、未だに胡乱な目を向けられているのは何故なんだろうか。

 

 

「魔法使いが全員相応の魔法を扱えるわけじゃないように、得手不得手は誰にだってある

 だがな、それを覆すのも経験がものを言うんだよ

 俺の場合は魔法理論、魔法を科学的に分析すると言ったほうがそれっぽいか? 格闘家が肉体を技を鍛えている間に、現象を分析し把握し理論と技術に変え、火薬を調合し内燃機関を組み上げ飛翔体を制御し核反応を発見する。魔法使いという人種はそうやって『手札』を容易く増やせるんだ

 俺が『そう』だと言うほどおこがましいつもりは無いが、状況をひっくり返せる手札を誰が持っているかもわからない。それがこの世界の常識だ

 生きている以上は『現実』が『常識』がどこまでだって憑いて回る。『幻想の世界』に夢を見ても、足を踏み入れた瞬間からそこは『現実の世界』であることに変わりは無い

 酷かも知れんがな、お前らそういうところの覚悟も持っておいたほうがいいと思うぞ?」

 

「それはそうと、ハルナのことを引き摺るのはやめてあげてほしいのですが……。さすがに逆さに脚を引き摺って運ぶのは女子の尊厳としてどうかと」

 

「聞いてよ」

 

 

 俺、結構大事なことを言っていたはずなんだけど!?

 

 

「烏丸さんの言い分は、まあなんとなくわかりました」

 

 

 一つ嘆息すると、ゆえきちは言葉を漏らす。

 が、なんとなくかよ。

 さてはてめえ大半を聞き流していただろ。馬鹿レンジャーの中じゃあ比較的人の話を聞くほうだと思っていたんだけどなぁ……。まだなんか顔赤いし、そっぽ向いているし。

 とりあえずこっち見ろよ。

 

 

「しかし、私たちは一応ネギ先生の従者ですから

 その点に関してはネギ先生に教わる予定ですのでご心配には及びません」

 

 

 そのネギ君が一人前の魔法使いには程遠いから、こうして助言しているのだけどね。

 まあ嫌いな相手の言葉なんて聴きたくない、っていうのは人の心理だし。仕方が無いのかねぇ。

 

 

「それより今は先生の身が心配なのですが……

 今頃エヴァンジェリンさんに負けて血を一滴残らず吸い尽くされているのでは……」

 

「ああ、その点に関しては心配ない」

 

 

 物騒な想像をしているところ悪いけど。

 

 

「エヴァ姉の解呪には俺が用意した術式が必要だし、ネギ君の血を全部使わなくても良いように構成してあるから、へーき」

 

「ああ、そうなのですか。

 ………………………………………………へ?」

 

 

 きょとん、とした表情でようやくこっちを向く綾瀬。

 

 

「ん? どーした?」

 

「え、えっと……あのー……」

 

 

 何か言いづらそうにしているゆえきちが、意を決して言葉を紡ぐ。

 

 

「それって、今回の顛末を起こす前に話し合いで解決できたのではないですか……?」

 

「………………

 起きねぇな、この触覚眼鏡」

 

「質問に答えてください」

 

 

 ちっ、気づきやがったか。

 

 

   × × × × ×

 

 

「罰ゲェーィムッ!!!」

「ギャーーーーッ!!!」

 

 

 闇の扉は開かれたぁぁ……。

 事情を知る綾瀬とか雪広とかからは白い目で見られているようだけど、ネギ君本人は至って真面目に怯えているご様子。

 まあ目の前に巨大な注射器を取り出されたら、誰だってそうなると思うけど。ちなみに注射器のイメージは、ラストダンジョンで和泉が見せたアーティファクト。

 

 

「どれほど必要ですの?」

 

「フラスコ二つ分程度かなぁ」

 

 

 ぢゅぅぅぅ、と啜っているけど、実は派手なのは音と見た目だけ。

 まあ献血されてるネギ君本人はあまりの光景に目を回しているが。

 

 

「暇だし、反省会でもやるかね

 雪広はどうやって負けたの?」

 

「その理由は如何なものかと……

 まあ、応えるのも吝かではありませんけれども」

 

 

 なんだかんだで答える雪広。正直に言ってみ? 暇なんだろ? その可愛いお口で言ってみろよ?

 

 

「私たちは茶々丸さんの隠し玉にやられた、といった感じですわね

 あの場面で腕を六本にされるとは、思っても見ませんでしたわ」

 

 

 なにそれこわい。

 阿修羅かよ。

 

 

「私たちは烏丸さんの召喚にしてやられました……

 氷の女王とか、初心者どころか上級者でも危ういのではないのですか?」

 

 

 氷の女王? と場面を知らない雪広と宮崎が首を捻る。察して。

 

 

「簡単そうに見えて切り札の一つだからな

 ……あ、あとゆえきちはあの場面でちょっと勘違いしていることがある」

 

「勘違い?」

 

「俺が使ったのは召喚魔法じゃない。転移魔法だ」

 

「はい?」

 

 

 よくごっちゃになるんだけど、召喚と転移は完全に別物。

 召喚は呼び出してから形を与えるのに対して、転移は予め形が調っているものを移動させる術式だ。

 召喚の場合は、呼び出して→この世界の物質で姿を構成→契約。若しくは、契約し→呼び出して→形成(以下同文。

 転移の場合は形成と契約を予め済ませておく代わりに、魔族とか式神が倒されても別の召喚で呼び直せるのに対して、一度死ねばそれで大抵終わる。

 俺の使い魔とかは作ったのが俺本人だから、一点ものなんだよなぁ。まあ簡単には倒せない仕様だけど。

 

 で、それらがごっちゃになっている要因は間違いなくパクティオー。

 従者召喚っていう術式があるよね? あれ一応転移魔法に分類されるんだけど、魔法使いのほとんどがそれを『召喚』って認識しちまっているんだよなぁ。

 この世界においては、自らが移動することを『転移』、他者を移動させることを『召喚』って呼ぶ仕様になっているのやも知れんわ。

 

 そんなことを滔々と説明してみたのだけれど。

 

 

「はぁ、そうですか」

 

「食いつき悪いな」

 

 

 これ結構大事なことだぞ?

 

 

「転移は良いとして、烏丸さんはその『氷の女王』? とやらを一体何処に控えさせているのですか?」

 

「ん? エヴァ姉の別荘」

 

「おいちょっと待て。初耳だぞそれ」

 

 

 と、エヴァ姉に食いつかれた。

 あれ? 言ってなかったっけ?

 

 

「雪山エリアあるじゃん? そこに住まわせてる」

 

「せめて許可を取れよ……」

 

 

 呆れられてしまった。

 

 

「それはそれとして、

 烏丸さん、その血液量だけでエヴァンジェリンさんの呪いを解けるのですか? ネギ先生の話では干からびるまで吸ってやる、とか言われたと聞いていたのですが……」

 

 

 ああ、エヴァ姉のお遊びか。

 

 

「正確には解呪じゃなくてな、呪いの安定化を図るつもり」

「「「「「は?」」」」」

 

 

 この場にいるほとんどの奴らがこっちを見た。

 疑問符を上げないのは茶々丸くらいだ。

 

 

「そもそもこんなスパゲッティコードの呪い、解呪に精通している魔法使いでも解読だけでどれだけかかるのやら

 結構支離滅裂な術式が無駄に組み込まれているのに強大な魔力で無理矢理起動できているってだけでもイミフ

 それに解呪できたとしても、いきなりそうやったらうるさい人はどうしたってうるさいだろうし」

 

 

 魔法先生とか魔法生徒とか。誰とはあえて言わないけど。

 

 

「だからさエヴァ姉、力は大きく削がれたままになるだろうけど、術式を正常化させるだけで納得してくれね?」

 

 

 そもそも、調べてみてわかった『登校地獄』の正しい効果は以下の通り。

 1、理由の無い不登校児を登校させる。

 2、監督者または収監場所(学校)の手の届く範囲内ならばある程度の自由はある。但し反抗や抵抗ができなくなるように一定限度の封印が課せられる。

 3、卒業と同時に契約は満了する。

 

 つまりは、正常化させさえすれば後一年以内にエヴァ姉は卒業できるわけだから、それだけ辛抱して『契約満了』という理屈を楯にすれば、魔法使いらも納得せざるを得ない。というのが俺の算段なわけだけど。

 そんなことを説明すれば、

 

 

「……むぅ、それが一番確実な手段なのか……?」

 

「まあねー、バグッた呪いを『正しく』書き換える程度なら、俺くらいの『魔法使い』ならできるんじゃね?」

 

「ふむぅ……」

 

 

 だろうに、俺以外がそれをやろうとしなかったのはやっぱ『英雄』のネームバリューと『悪い魔法使い』っていう先入観なんだろうなぁ。

 でも間違っていることを見ない振りって、それ本当に『正しい』の?

 

 

「……ま、今更うるさい魔法教師どもに難癖つけられるのはごめんなのは確かだからな

 あと一年で堂々と解決できるというなら、それを待ってやろう」

 

「どわーいじょおーぶ、むわーかせてっ」

 

 

 納得してくれたらしい。

 口調は渋々そうに見えるけれど、心なしか嬉しい気持ちが滲み出ている気がする。さっきからにまにまと口の端が笑んでいるのがちらちら見えてるから。

 思わずこっちもおどけた返答をしちまったぜぃ。

 

 

 




~ゆえ視点
 誰お前ぇ。と思った方は間違ってない。
 ゆえの夢から導入しました。かっこいい男性に押して押して押されて組み伏せられる。そんな願望を彼女は持っているはず。原作の修学旅行を読み直したらこんなのが出来た。悔いは無い。

~烏丸君のぉ、ちょっといいこと言ってみたぁ
 きいてよ。
 寝覚めの悪さが引き摺られたせいでせっかくの説教(笑)が話半分に。
 そして触覚眼鏡は合流まで引き摺られてパンチラどころか逆さ摺り。ひでぇ。

~闇の扉は開かれたぁ
 ひゃぁははっはは! 金だ金だぁあああ!
 だしてぇぇぇ! だしてよおぉぉぉ!
 うわぁぁぁ! こっちにくるなあぁぁっぁぁぁっ!
 今思えばトラウマもの。今もまだ通用するのだろうか。千年パズルとはなんだったのか・・・

~反省会
 話しているのはいいんちょとゆえ。口調だけで違いを見出せたあなたは上級者。
 召喚に関しては多分間違ってない。

~解呪について
 ルールブレイカーとか文殊の解呪とか、色々やりつくされた感があるけどこの世界ではこうしました。
 つーか烏丸のスタンドじゃ解呪できないし、下手すりゃエヴァ殺しちゃうし。
 結果として解呪のごたごたで小うるささが際立ってこういう展開上、必ずといって登場していたガンドルフィーニ先生とか高音さんとかの出番がこの世界線ではもうしばらく後々に。ざまぁ。


笑神さまぁ、おらにちからをわけてくれぇ・・・
詰め込む必要のある注釈が在りすぎてなんだか尻すぼみ。もっとできるだろぉ、がんばれよおれぇ・・・な三十九話でした

描くことにヒートアップしてゆけば一緒に熱くなる我がパソコン。もっとクールになれよ。お前俺の下に来て何年になる? 十年? そろそろ落ち着く時期じゃないのかよ・・・
書けば書くほど休み時間を必要とします。熱くなるとすーぐ処理落ちするんだから、仕様の無い子ねえ

諸々のことを書ききってようやく架橋。次回か次々回にはこの章を終わらせられるかと思います
それでは



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『カーテンコールの跡に』

面白く読める二次創作が他にあるんなら俺はもう書かなくてもいいんじゃないかな、って最近思う

エヴァ編最終話
副題がどう見ても惨劇の跡


 

「失礼します……」

 

 

 京都昆神社、関西呪術協会の本拠地であるそこの一室から、憔悴しきった男性が静かに出てくる。

 男の名は笹浦福次。関西の一部に雇われて麻帆良へと攻め入る部隊に組み込まれていた傭兵呪術師だが、逃走したところとある少年にとっ捕まり、哀れな運命を辿ることと『なりかけた』男性であった。

 

 

「……はぁ~~~」

 

 

 笹浦はしばらく歩くと、重く溜息を吐き出して縁側へと腰掛ける。ライフは既にゼロだった。

 

 

「なんとか……首の皮一枚つながった……」

 

 

 とっ捕まった際、少年と汲み交わしたことは自分に有利になる条件であった。

 彼曰く、『関西の過激派を探るためのスパイ役であったという嘘(こと)を引き受けてほしい』とのこと。

 そうだとする結果でトップである近衛詠春にも話を通しておくので、麻帆良に攻め入った者達のリストを作成して捕縛された呪術師または近接戦闘職らとの照合に役立つように、とのこと。

 

 ……正直、面倒なこともあるが笹浦自身に有利な条件過ぎて逆に恐ろしい。

 それらの条件を呑むならば逃げることを見逃してもよい、というのが少年の言い分であったのだが、それ以上の見返りをわかりやすく要求してこないことが笹浦には果てしなく恐ろしかった。

 

 そして現在。彼は詠春にリストを手渡し、現在麻帆良で捕縛の目に合っている関西の術師らの照合とを済ませてきたところである。

 法律の目の届きにくい魔法関係者の処罰ではあるが、さすがに関東魔法協会の者らが関西の捕虜を勝手に処理するわけには行かない。関東には大きく貸しを作ってしまうことになるのだが、身内のことを他人に任せるわけにはいかないのは、戦場の最前線でもない限りは至極当然の理屈であった。

 

 

「……なんか、これだけ仕事をしているとあのガキに手間だけを手渡された気がするな……」

 

 

 しかも、スパイであったという嘘が本当のことらしく両組織内に広がっているお陰で、彼が今後とも仕事を請け負えるヴィジョンが欠片も伺えない。

 組織内の内患を早期に発見できたという名目での成功報酬を詠春には頂けたので、借金に関しては一先ず目処は立ったものの、その先の人生には最早支障しか表れていない。

 どーすんべ、となんとも言えない悲壮感が、彼の背中にどよんと圧し掛かっていたのだった。

 

 

「なんや、えらい空気淀んでますなぁ」

 

「あ? ああ、千草のお嬢ちゃんか」

 

 

 着物を着崩して胸元と肩とを露出させた二十歳そこそこの女性がふらりと現れる。その後ろにはとてとてと犬耳の少年(見た目)がついてきていた。

 

 

「そういやぁ嬢ちゃんは麻帆良には行ってなかったな」

 

「そうやねぇ、行ったところでうちには何も意味無いことやし」

 

 

 仕事仲間としても協会の顔見知りとしても、この女性の『魔法協会嫌い』は割りと有名である。

 それなのに今回の事件には関わっていないことに、笹浦は眉を顰めた。

 

 

「うちのしたいことは関東をどうこう、というのは違うんし

 厳冬はんらとは意見合わんかったなぁ

 うちの『目的』は、『別』にあるし」

 

「そんなお嬢ちゃんは、なんでこの場にいたんだ?」

 

 

 もっともな疑問。

 今日はそれなりに重要な、かつ機密でもある『話し合い』だ。呼び出されたのは必要最低限に今回の事件に関わったものばかりで、指揮にも暗躍にも関わっていないとされる協会関係者は原則『禁足』扱いとなっているはずなのである。

 千草は呼び出しも照合にも名前は載っていないはずであった。

 

 そのことを指摘すると、彼女は胸の谷間から一枚、何かの用紙を取り出して、

 

 

「いやぁ、本日の分の婚姻届を詠春はんに渡しておくの忘れとってなぁ♪」

 

「お願いだからやめてやってくれ。詠春さん、ガチで泣いてたから」

 

 

 そう何処か嬉しそうに宣った彼女の『目的』とは、『玉の輿』であるというのは一部暗黙の噂である。

 

 

   × × × × ×

 

 

 なんだか一生分に暗躍したような気分。

 でもエヴァ姉に関する懸念は解けたことだし、魔法関係に深くかかわる必要ももう無いんじゃねえの?

 そんな晴れ晴れとした気分で登校した過去の俺に一言。

「甘い。甘すぎる。上等なケーキに蜂蜜をぶちまけたかのように甘い」

 ……そーですねー。

 

 

「くくく、煩わしい太陽だな……」

 

「跪きなさい、豚ども」

 

『ロリっ娘&メイドロボキターーーー!!?』

 

 

 エヴァ姉と茶々丸が教壇に立ってそんなことを呟いていた。つーかあんたら何やってんの。

 

 

「えー、本日よりこのクラスで一緒に授業を受けることになった、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。並びに絡繰茶々丸だ

 みんな、仲良くするように」

 

『はーい!』

 

 

 というか受け入れるのはええなお前ら。

 紹介した神多良木先生(通称ヒゲグラ先生。ひげにサングラスが特徴)も、担任だっていうのにそれ以上自分から説明しようとしないのは何故?

 

 

「グラせんせー、質問ありまーす」

 

「なんだ神宮寺。あとお前のその呼び方、俺の名前に一文字も掠ってないからな」

 

「なんで女の子なんですかー、それって校則、っつうか法律に触れて無いんですかー?」

 

 

 際どい質問をするな神宮寺。

 でもやっぱり気になっているのはエヴァ姉だけのようだな。確かにエヴァ姉は見た目十歳だから、ぱっと見危うげな感じはビンビン感じるだろうけど。

 

 

「彼女はこう見えて女子中等部の同学年に通っていた。何も問題は無い」

 

「えっ、同い年っ?」

 

 

 ヒゲグラ先生もエヴァ姉『だけ』に限定して説明した。

 あれか、自分のクラスとなるとやっぱり監督者はヒゲグラ先生になるから少し煩わしかったりするのか。

 

 

「それに彼女の移動は学園長の共学化試用試験の一環だ

 ほら、お前らも烏丸が去年末学期に移動していたの知ってるだろう。あれと同じことを男子でもやろうという話になってな」

 

「ああ、あれ……

 って、えっ? その理屈だと烏丸って去年は女子校舎に通っていたってことに、」

 

 

 その言葉が終わるのが早いか否か、クラスの視線が一斉に俺のほうを向いた。

 俺は俺で咄嗟にあさっての方向を向いていたから見えてないけどー。

 

 

「それについて烏丸、ちょっとこい。話がある」

 

「うす」

 

「残りは、少し自習だ。質問にでも充てていろ」

 

『はーい!』

 

 

 ヒゲグラ先生に連れられて廊下へ。

 何人かは気になっていそうだけれど、すぐに興味はエヴァ姉&茶々丸へと向いていた。

 

 

「で、話とは?」

 

「学園長からの伝言だ。エヴァンジェリンの監督役はお前が勤めるように」

 

「……はっ?」

 

 

 えっ、いいの?

 俺、正式な魔法生徒じゃないんだけど。

 

 

「それだとむしろネギ君のところに預けておけば良かったのでは……」

 

「エヴァンジェリン本人の希望だ……

 ネギ君には……まあ一応は伝えてあるが、あまり追求しないようにな……」

 

 

 何があったんだろうか……。

 というか、エヴァ姉の問題が一段落ついたのだし、魔法関係にはもう関わらなくっても問題なくないっすか? だめっすか。やれやれ、主人公はつらいぜ。

 そんなことを、教室の喧騒を眺めながらふと思った。そんな一日が、今日も始まる。

 

 

『闇に呑まれよ!』

 

『やみのまーーー!!!』

 

 

 ……締まらねえなあ。

 

 

 




~千草さんがやばい
 いろいろ試行錯誤しているうちにこんなのになってしまった。すまん。

~エヴァが男子部に現れた!
 子供先生に監督役をやってほしくないけど烏丸ならいいんじゃないか? というエヴァの心情を書こうとしたけど割と蛇足な気もしたし。いろいろ削ってごらんの通りだよ!

~闇に呑まれよ!
 意訳はない。
 何気に初めて男子生徒と一緒に授業を受ける(烏丸以外)、ということに気づいたテンパリエヴァが苦肉の策としてとある人物に参考を授かった結果。
 頭にちゃのつくメイドロボがそれの犯人。


おっつおっつ、やみのま
いろいろ考えて描いてるはずなのに内容が薄い。ハーメルンのみんな、俺にネタの作り方を教えてくれ。四十話でした

またパソコンが熱くなってるし。休憩が追いつかないよぉ。ふええ・・・
今までのも編集とかしたいし。とはいっても今回のように行間を空けようとかいうつもり。あとは前書きとあとがきをいくつか削ったり。IFの2も上げるつもりだけど、すこーし手間がかかって遅くなるかも?
個人話でスミマセン

描きたいことがけっこうあるはずなのに書く時間と描くための端末がこの様。今もファンが回ってて、本体が熱い熱い
ともかくバカテスも仕上げたいし、りりなのもやりたい。オリジナルだって書きたいのにぃ・・・
えっ? 暇が出来ない以前に俺には文章力が無い? 言い返せないのが、くやしぃ

というか、もうこれで最終回でもよくね?
次回のIFともう一つ特別編でも載せてから考えますかね。明日菜の誕生日くらいはやりたいけどなぁ・・・
それでは



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『IFルート【その2】』

今更ながらお気に入り登録数2000件突破記念
と、エヴァ戦終了記念も兼ねて

こんな出来なのに評価が橙星ぎりぎりな現状に、皆様の優しさに感謝の念が途絶えません



 

 義妹がさらわれた。

 なんのことかわからんだろうけどどど、おおお落ち着いて聞いてほしいいい。

 ……ふぅ。

 転生したと思ったら俺の生きていた時代のはるかに昔で、しかも日本じゃないときたもんだ。しかし運良く優しい領主に拾われた俺はそこで養子に迎え入れられて、その時代にしては裕福な暮らしを送ることが出来ていた。

 だが本日、十三歳ほどになったことが記憶再生の必要条件を満たしたのだろう。拾われてから七回目くらいの誕生日。俺はこの世界が『ネギま』だったということを思い出した。

 そして自分の義理の妹がエヴァンジェリンの特徴と一致している事実に思い至って、慌てて彼女の部屋に行ってみれば後の祭り。

 

 部屋にはだーれの姿もない。もぬけの殻でしたとさ。ちゃんちゃん。

 

 

   『もしも烏丸の転生先が600年前だったら』

 

 

 正直拾われた身だったから、誕生日なんてわからなかったので義妹と同じ日になっていたのだが。

 彼女が十歳の誕生日にどんな目に遭うかをもっと前に知ることが出来ていたなら、俺は死ぬ気であの怪しい客を泊めないように、と領主である義理の両親に進言していただろう。

 まあ、自分の肌の色が褐色系にも拘らず養子にと迎え入れてくれた両親の御人好しっぷりを知っているからこそ、そんなことは口に出来なかったわけなのだけれど。時代が時代だからなー、出身があやふやなのに見た目どうしたって暗黒大陸か赤道近くの群島かが出所じゃね? ってツッコミ入れられそうな容姿なのに、奴隷とかにしない寛大な両親には頭が上げられない。

 

 そんなわけで、という理由をつけるつもりも無いけど、義妹を捜索することを進言して旅に出た俺。

 途中怪しげな錬金術に手を出して、魔法の力を視認できる『邪眼(イービルアイ)』を植えつける。

 能力的には『複写眼(アルファスティグマ)』かも知れんけど、状況的には幽遊白書の飛●。そのうち邪王炎殺拳とか開発してみようか。

 え? そんなのやってる暇あったら真面目に探せって?

 いや、普通に見つからないんだよ。

 目撃証言とかそれらしい廃屋とか城とか、手当たり次第に捜索しても一年かけて見つからなかったわけだから。最終的に魔法の力を視認できるようになって、『吸血鬼の魔力』をなんとか見分けて、それを辿ることで旅に出て三年かけて、ようやく見つけられたんだからな。邪眼の力を舐めるなよ?

 

 ちなみに『邪眼』は額につけたわけじゃないから。

 褐色肌でそんなことやったら、どこぞの破壊神様かと勘違いされちゃうでしょ。

 

 

「エカテリーナ、やっと見つけた」

 

「……兄、様?」

 

 

 誰かって? 見て分かれよ。エヴァンジェリンだよ。ネギまで金髪で幼女な吸血鬼って言ったら他におらんでしょうが。アニメじゃ髪の色若干違っていたけどな。

 

 

   × × × × ×

 

 

 自分が化け物にされてしまった、ということを気に病んでいたらしい。

 それを気にしすぎて、自分を変えた錬金術師を仕留めたのはいいが家に戻ることも出来ずに放浪していたとか。なにこの妹、可愛すぎる。

 

 でも同時に馬鹿だわ。

 一人じゃ出来ることも高が知れてるだろうに、そんな感情だけで動くのって、完全に家出娘の心境ではなかろうか。

 しかも可愛いからな。下手すればろくでもない男に引っかかっていたかもしれないと悪い想像までしてしまいそうで非常に心持ちが落ち着かない。可愛いからな。大事なことだから二回言った。

 思わずぎゅっと抱きしめてしまうじゃないかー。

 

 

「エカテリーナ馬鹿可愛い」

 

「わぷっ、ちょ、にいさま! 誰が馬鹿!? っていうか苦しい!」

 

「――啜れ」

「!?」

 

 

 家族の意地を見せてやる。

 

 

「ちょ、ちょっと、何言ってるの、にいさま

 は、早く離して……」

「いいから、噛み付けよ」

「――っ!」

 

 

 義妹はバカだけど、優しい娘だ。

 この時代は何より宗教が強い。お陰で人種差別はまだあるし、自分たちに属さない異教徒は『死後に怪物となって延々と苦しむ』なんて馬鹿げた通説まで蔓延っている。

 我らが総領主であり両親らはそういったことに右倣えなことは絶対にしないけれど、エカテリーナが『そう』なっていると周囲のものに知れ渡れば、まず間違いなく両親を領主から引き摺り下ろそうとする馬鹿も出てくる。彼女はそれが迷惑をかける、と思っていたのだろう。

 

 

「俺もこの三年で色々わかるようになったからな

 力が弱ってるんじゃないか? 血を吸わないと命を保てないんだろ?」

 

「う、あ……」

 

 

 抱いたままの義妹の瞳から光が失せてゆく。

 俺の言葉に惹かれるまでもなく、彼女が『栄養失調』の状態に陥っていることは明白だ。

 同時に、それをやれば俺を彼女の『同類』にすることも自覚しているのだろうし、それを必死でやらないようにと気を張り詰めているだろうということも手に取るようにわかる。

 それでも目の前の『餌』に食いつかずにいられないほどに、彼女は人を襲わないように『我慢』してきたのだろう。

 本当に優しい義妹だ。

 

 

「いいから食らえよ。義妹の事情なんて負担にもならないってこと、見せ付けてやるよ」

 

「うぁ、ぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」

 

 

 くぁっ、と口を開いた義妹に噛み付かれ、鋭い痛みが首筋に走った。

 

 

   ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

「つわものどもが夢の跡、いや、違うか

 此処には暴虐の念しか残ってないし」

 

 

 二人寄り添って広場の端に佇む。

 エカテリーナ改めキティは無言で、人々が行き交うその様をただじっと眺めているだけだった。

 

 改名したのはいいけどラテン語読みを改めただけなんだけどな。今時ファーストネームをラテン語でなんていうのは学のある貴族か神学関係者くらいしか命名しないので、人気のあるところで呼べばいくら認識阻害をかけてても足りなくなりそうで。

 旅にでていることだし、せっかくなので庶民的な名前に変えたのである。

 もう、なんだろうね。呼ぶごとに甘甘な空気で照れていた可愛い義妹を全世界中に見せ付けたい。これが旅の目的でもいいんじゃないかな。

 

 今いるのは元の家領に近しい地域なのだけど、十年ぶりくらいに帰ってきてみればフランス軍を率いていた魔女を捕まえてきて火あぶりにした、とかいう曰く付きの広場である。どういうことなの。

 魔女とか言われていたようだけど、俺はそれが年端も逝かない少女であったことを知っている。

 名前はジャンヌ・ダルク。

 フランス側からすれば聖処女とか呼ばれていた、戦争の英雄だ。

 勝っていた戦争をひっくり返したファクターなわけだから、イングランド側からすれば確かに魔女かも知れんけどな。

 

 けど、その正体も知っている。苦しいくらいに。

 

 

「哀れなもんだよな、結局あいつらは何がしたかったんだか」

 

「にいさま……」

 

 

 ジャンヌの正体は、錬金術師に作り変えられた魔法の被害者だ。

 狂おしいくらいに他者を惹きつける、圧倒的なカリスマ。戦乙女的な戦闘に特化したものではない。むしろ傾国の美女を作り出そうとしたのではないか、と疑わしいくらいの錬金術の実験動物。

 それの試金石として、キティが選ばれていた。

 

 

「錬金術師は考えることは一緒、ってことなのかね」

 

「にいさま……」

 

 

 魔法使い、じゃ体裁が悪いので、この時代のやつらは錬金術師を名乗っている。

 実際、宗教がでかい顔できている世の中で堂々と魔法とか名乗っていたら異端審問を連れてこられる時代。

 まっとうな学問として技術を紡いでいるものもいれば、どの時代の観点から見てもマッドな実験を繰り返している狂人も多数いる。

 本物の魔法使いはその両方。

 コレが将来的に『正義の』とか名乗ると思うと吐き気がするのだけど。

 倫理なんていうのは結局、時代によって変遷してゆくものなんだろうねー。

 

 

「さて、もう行くか

 こんなんなっていたら、もう元の城も残ってないかもしれないしなー、何処に行こうか、」

 

「にいさま、聞いて」

 

 

 ……いや、聞きたくないんだけど。

 さっきからキティが一点を見つめているのはわかっているけど。そこにいるものを見ているのはわかっているけど。

 ……スルーしてよ。見なかったことにしようよー。

 

 

「あの女の子、泣いてる」

 

「………………ソーデスネ……」

 

 

   × × × × ×

 

 

 俺が見たけどスルーしていた少女は、キティが放っておけなくて声をかけることにした。

 でも半透明だし。明らかに周囲の奴らは見えていないご様子。どう間違っても余計な関わりとなりそうでこのまま旅に出たいのだが。

 でも義妹は見捨てられなかったようだ。

 見えると声をかけ、なぜ泣いているのかと問えばもっと生きたかったと。殉教すれば神の国に行けると思っていたのに、天使様は一向に迎えにきてくださる様子も無い。と。

 アカン。この子完全に宗教にド嵌まりや。いや、この時代なら仕方の無いことかもしれないけどね?

 

 

「それで、あなたはなんというお名前なの?」

 

「ジャンヌといいます」

 

 

 ……ほらー。だから言ったじゃないかー。

 

 

「にいさま、助けてあげよう?」

 

 

 無茶を言いよるこの妹様は。

 でもなー。出来そうな知識が俺の中にはあって、基本的に今現在はキティの僕というか、従者というか、ほら、吸血種の宿命というかね? お陰でご主人様の意思があるならば嘘をつくことができないという……。

 

 

「にいさま」

 

 

 ああもう。可愛いなぁ。

 上目使いとか何処で覚えたのこの妹様は。

 わかったわかった、わかりましたよ。

 

 じゃあとりあえず、錬金術師を生け贄に使うけど構わないよな?

 

 

   ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

「吸血鬼め! ついに見つけたぞ!」

 

 

 うええ!? あいつらこんなところまで追ってきやがった!?

 

 ジャンヌと会ってから三人旅となり、大体百年くらい。聖処女様を復活させる術式とか考えて無いかなー、と淡い期待を抱きつつフランス領各地を錬金術師を探して転々としていたら、いつ頃からか狙われる立場に。

 まあ吸血鬼二人と幽霊だしなー。追い立てられるのは仕方ないとしても、魔法使いどもはそいつらなりのネットワークでも構築してるのか? 気がついたら『悪の吸血鬼』とかって勝手に名前までつけられて懸賞金までかけられてた。

 一応今のご時世は、文明社会ってカテゴリに入りかけた頃だったと、俺の前世の記憶は囁いているのですが……。開拓地でも無いのにそんな扱いされていてワロタ。

 やっぱ魔法使いの町を一つか二つ潰して歩いたのが引っかかったのかなー。でもあいつらのやっていたことって人体実験の嵐だったし、文句つけられる謂れも無いはずなんだけど。

 

 そして現在。

 色々術式を弄くった死霊術(ネクロマンシー)を活用して復活を果たしたジャンヌ(普通少女)が、とみに狙われている最中だったりするのである。

 現在地はフランスではなく、ちょっと未来で言うところのドイツ北部。デンマークとの国境辺り? のはずなのだが、よくもまあここまで追ってこれるものだ。宗教家ってコワイネ。

 

 

『薄汚い吸血鬼め! 我らが聖処女を返してもらおう!

 ジャンヌ様! どうかわれらの元へお戻りください!』

 

 

 ほらな。

 

 

「で、ジャンヌはあれらについていくの?」

 

「イヤです。もう戦争とかしたく無いですし、ジャンヌは普通の女の子に戻ります」

 

「だってさ」

 

『オノレ吸血鬼! 我らが聖処女を誑かすか!』

 

 

 してねえよ。

 つうか距離置きすぎだろ。もっと寄れば?

 

 

「というかお前も。普通の女の子は吸血鬼とは一緒にいないっつうの

 いい加減に一人立ちすれば?」

 

「まあ! お父様はジャンヌのことがお嫌いなのですか!?」

 

 

 確かに足りない血と肉を補うために俺の血も多少は使ったけども、再生に充たっては基本彼女自身の遺灰を使ったからね。気がつけばお父様なんて呼ばれていたけど、そもそもそんな風に呼ばれる云われも無いのだけれど?

 再生してから十数年は経っているのに、この娘の精神年齢が一向に成長の兆しを見せないのは一体どういうことなのか。

 

 

「まあ、連れて行かれたところでどんな風に利用されるかわかったものでも無いからなぁ……

 拒否は、まあ異論は無いのだけれど」

 

 

 でもわざわざ対立するつもりも別段無いのだけれど。あいつらも、なんか威嚇しかしてこないし。

 もっと近づけばいいのに。

 

 と、葛藤しているところに妹様が登場。

 

 

「お兄ちゃん! がんばって!」

 

「お兄ちゃん超がんばる!!!」

 

 

 うっひゃほぉぉぉ!!!

 さぁ死にたい奴から前に出ろぉぉぉ!!!

 

 

「わぁ……、相変わらずエヴァ姉さまの頼みはちゃんと聞くのですね……」

 

「もう血の呪縛は解けているはずなんだけどね」

 

 

   × × × × ×

 

 

「ちょ、

 カラミティが動いたぞぉぉぉ!!?」

「なんで!?」

「ひぎあああああ!!! しにたくないいいいい!!!」

 

「逃げるな貴様ら! 逃げ、逃げるなといってるだろうがぁぁぁぁ!!!」

 

 

 なんという阿鼻叫喚。

 追われているうちに俺らは勝手にあだ名をつけられたわけだけど、妹様が福音って意味の『エヴァンジェリン』とかいう名前に対して、俺は災厄とかいう意味の『カラミティ』と真っ先に呼ばれている。

 エヴァはそれを名前に入れてノリノリで名乗っているときもあるから、まあそれは可愛いからいいのだけれど。

 俺の今のフルネーム聞いてみる? 『カラミティ・O・R・マクダウェル』って、エヴァの両親からつけられた名前がいつの間にかミドルネームに。そうでなくとも不吉な意味で『レイヴン』とかいうのも勝手に名づけられているのが、解せぬ。

 

 

「逃がすと思ってるのか?

 太陽陣≪ゾンネンクラフト≫」

 

『ギャァァァァァアアア!!!?』

 

『!?』

 

 

 吸血鬼の性質をそのまま術式に組み込めば長ったらしい詠唱もいらない。

 ふははは、未だにラテン語で唱えている魔法使いどもに目にもの見せてくれる。

 

 

「い、一番遠くの奴が潰された……!?」

「も、もう駄目だ……」

 

 

 あれ、一気にやる気がなくなってる。というか絶望?

 一番遠くの奴だけを狙ったのだけど、ひょっとして司令官とかだったのかな。

 

 

「……まあ、やることは変わらないけどな」

 

 

 磨り潰してから記憶を引き出すだけの、簡単なお仕事が今日も始まりますよ。っと。

 

 

 




~番外編なのに?
 ようやく明確になるそらの容姿。
 褐色の肌に黒目黒髪。確かにこの時代にイングランドでは悪目立ち過ぎる。この回では十六になっているので、身長も伸びてまんま黒バスの青峰だったりもするし。
 おい、バスケしろよ。

~邪眼の力を舐めるなよ?
 飛●は生まれ里を探すために邪眼を植えつけて、その果てに妹探しのために旅に出ました。
 ちょっと懐かしいあらすじ。雑かね?

~額に目をつけたどこぞの破壊神様
 インドの破壊神様。このお方が日本の大国主と習合して七福神の大黒天に。

~エカテリーナ
 キティのラテン語読みだとか。俺が勝手に決めたわけじゃないよー。設定漁るとそう描いてあるんだからー。

~つまり→エカテリーナ・マクダウェル
 これが最初の名前だったんじゃないかと思ってます。エヴァンジェリンとかアタナシアとかは名づける親って何考えてるのさ。って思うし。
 後付け、若しくは自称が最初だったんじゃねえのー?

~聖処女との関連
 強ち間違っていない気もする。予測だけど。
 時代背景的に、原作でもそんなことを考えていた節がちらりちらりと見え隠れしていたような?
 理由無しに吸血鬼化するとかってなったら、完全に通り魔の犯行だろうし。

~ネクロマンシーで復活
 正確にはそれを利用したクローニング再生技術。必要な羊水とかは、女性魔法使いの腹を割いたりして調査して、とやっていたら百年近くかかった。
 グロいけど、人体実験をかなりやってるっていう設定の魔法使いらなので良心の呵責? なにそれ? 状態。
 技術骨子は想定できてるけど、情報が無いので調査のために色々手を出すのは仕方ない。妹様の頼みでもあるので。

~お三方の移動ルート
 イングランド(イギリス)から海を渡ってフランスへ。フランスからイングランドへ。もう一度フランスへ。何回海を渡ってるんだ。
 その後にフランス中の錬金術師を屠殺して情報を集めて、技術を確定させてからドイツ(当時国としては未発展中)へ隠れて、研究を完成させる。
 今思えば、まんまリリなののテスタロッサさんのやり方ではなかろうか。違いは本人の意思(霊)がいるかいないか。

~そら(偽)のフルネーム
 カラミティ・オブシディアン・レイヴン・マクダウェル。
 カラミティとレイヴンが勝手に名づけられた後付けの名称。
 オブシディアンの意味は『黒曜石』。義理の両親がつけてくれました。

~太陽陣≪ゾンネンクラフト≫
 ドイツ語。
 重力子に干渉し広範囲に渡って範囲内を焼き潰す。魔法使いアンチどころじゃねえ。魔法界が潰される。


若干グロイ特別編。いかがでしたか?
大まかに分けて三つくらいの時代に分かれています
あと、そら無双。本編でやる機会が足りないなー、と思っていたのでやってみました
なんか違う? そりゃあ成長過程違うし(体のいい言い訳)

いろんな資料を読み漁ってなんとか作ってみたけど詰め込みすぎな気もするIFの2
こんなのエヴァじゃない。という異論は認めますが妹系のエヴァってなかなかいなかった気もするし。これはこれで可愛いと思うんですがどうでしょう?
まあ現代のエヴァに適うはずも無いのですけどね! 可愛いですし!(ドヤァ

おっと、興水がまろび出ましたね。失礼

多分次回から修学旅行編に入るかと思われますが、構成に結構時間食うかもしれません。最悪そのまま消え去ります。若しくはキンクリ
意欲はあるのよー、ほんとうよー?
では




あ、活動報告に超特別編というのを載せてみました。思いついたはいいけどどう考えても本編でやることではないのでそちらに。興味が沸いたら見てやってください



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そうだ、京都へ行こう・・・。修学旅行編
『四月二十一日【午前】』


お待たせしました修学旅行編
・・・の前哨話。大体二回くらいです



 

「いいか貴様ら! 『ボールは友達』などと腑抜けた戯言は忘れろ!

 ボールとは奴隷だ! 己がどれだけの影響力を持ってそいつを従えられるかこそが! 勝敗と実力の上下を決める!

 それぞれ自分たちの支配力をフルに発揮できるように! 全力で部活に取り組め!」

 

 

 エヴァ姉の編入で一時期沸いた男子部の興奮も一様の沈静化を見せ始めた土曜日、本日の朝練は宍戸先輩のそんな宣言で始まった。

 思わず唖然とする俺を放置して、ジグザグドリブルの五百メートル往復を開始する部活仲間たち。

 というか放置でいいのか、あの人を。キャ●翼を全力でディスる様なこと言ってるんだけど。

 

 

「……何があった?」

 

「ん? あー、烏丸はここしばらく来なかったもんな」

 

 

 同年の一人が納得の表情で応えてくれた。

 仕方なかんべよ。ここ数日、エヴァ姉の相手をしていたんだし。男子部の配置とか説明とか連れ回されて(デートして)いたのがここんところの我が記憶。部活に来るのが久方振りすぎてこいつの名前を思い出せない。

 

 

「振られたんだってよ、宍戸先輩」

 

「そーなの? 彼女に?」

 

「いや、和泉」

 

 

 ……どゆこと?

 和泉を振ったのがあの先輩だったのではなかったっけ?

 

 

「……同学年の彼女とやらはどうした」

 

「そっちはバレンタインにはもう振られていたらしい」

 

 

 ふーん。

 それで年下の女子によりを戻そうとして改めて振られたー、とか? なんだか荒れてるのはそんな理由か?

 

 

「それにしたって、あの先輩ならお望みの『同学年の彼女』がいくらでも作れるだろうに」

 

 

 イケメンだし。悔しいけど。

 

 

「それがさぁ、宍戸先輩がバレンタインにもらったチョコの数、知ってるか?」

 

「いいや?」

 

「ゼロ個だってよ!」

 

 

 プー、クスクス! とでも言いたげにほくそ笑む部活仲間。正直嗤うしかないだろうが、疑問も沸く。

 あの人選り取り見取りなタイプと違ったん?

 

 

「何でも、件の彼女に宍戸本人の悪い噂を友人伝ってあらゆる方向へと広がっていったらしい。女子のネットワークって、怖いよな」

 

 

 あ、主将。聞いてたんすか。

 つーかそこまで言われるって、本気で何やったんだあの人。

 

 

「小倉! 烏丸! 何をくっちゃべっている!

 ダッシュでノルマ追加だ!」

 

「「げぇっ!? 倍っすか!?」」

 

 

 ジグドリ(略)はノルマを追加されると倍の距離にされる。すなわち一キロ――、

 

 

「いいや、――十三キロだ」

 

「「なん、だと……っ!?」」

 

 

 やつあたり、カッコワルイ。

 

 

   × × × × ×

 

 

「ダッシュで、十三は、死ねる……っ」

「」

 

 

 息も絶え絶えにノルマ完了。

 俺、なんで朝から全力疾走せにゃならんのだろー。一緒に走った小倉(仮)は息もしてないのだけど。というか死に掛けておらんかね?

 

 

「おつかれー、災難やったなぁ」

 

「おー、和泉か、さんきゅ……」

 

 

 スポドリとタオルを手渡され、とりあえず死に掛けている小倉(仮)に半分ほどかけておいた。肌から呑め。

 

 

「――無茶だ……ッ!」

 

 

 陸地で溺れる小倉(仮)が、現世に帰還する。

 

 

「生還したならそのまま行けよ、また倒れたら目も当てられねーぞ」

 

「う、うぉおぉ……、烏丸の救助方法が鬼畜過ぎる……」

 

 

 充分優しいだろーがー。

 よろよろと歩む小倉(仮)を見送り、和泉に目を向けた。残りのスポドリを口に含みつつ。

 

 

「助かった」

 

「助け方間違うとるよ」

 

 

 ハハハ、ソンナバカナ。

 

 

「で、宍戸先輩を改めて振ったって、マジ?」

 

「あー、それを話しとったんか」

 

「なんで断ったんだ? よりを戻すのも悪くは無いと思うんだけど」

 

 

 正直、将来的にナギスプリングフィールド(偽)相手に見込みの無い恋愛をするよりかは現実的なお相手にも思えるのだけど。

 いや、宍戸先輩は見た目はいいけど性格的に難有りなのか? そうでもなければ女子友達に悪い噂を広げられる謂れも無さそうな……?

 それでも一応は和泉が最初に告ったのは件の先輩だから、改めて縁られるとそれを受け入れてもおかしく無さそうには思えるのだけれど。

 

 

「烏丸くーん? 女の子にそういう聞き方するか?」

 

「え、だめ?」

 

「減点1、女の子は繊細なんやで?」

 

 

 知ってるよ。でも男の子も繊細ですからね?

 

 

「罰として明日一緒に買い物に付き合いなさい」

 

「あ、それ無理だわ」

「え」

 

 

 ほぼ脊髄反射で答えてたけど。

 あれ、今のひょっとして、デートのお誘いだった……?

 

 

「え、ちょ、なんで!?」

 

「いや、先約があるからさ。済まんけどまたの機会に」

 

「あ、ああ、そうなん? そんなら仕方ない、かな……」

 

 

 かなり残念そうな和泉さん。

 むう、マジでデートのお誘い? 俺いつの間にこの娘にフラグ立てたんだっけ……?

 

 

「ちなみに先約って誰かと?」

 

「おお、明日菜と」

 

「え」

 

 

   × × × × ×

 

 

 斯くて翌日。日課の新聞配達を終わらせ、エヴァ姉の別荘に寄ってからの一時帰宅。

 野暮用の配分がどうにもこうにも手間がかかる。

 一日経過するだけで別荘の『中』は一ヶ月経つわけだから、一週間も過ぎれば半年。一ヶ月過ぎれば二年を悠に超過する。

 下手に手を出せば時期がずれるし。どう見繕っても修学旅行には間に合いそうも無いし。

 茶々姉妹にやり方をある程度伝授しても、安定するまでは目を離せない日々が続きそうではある。

 

 そんな益体も無いようなことをつらつら考えつつ、自室の扉を開けた。

 

 

「「「うーっ☆どっかーん!」」」

 

 

――パタン

 

 

「――………………?」

 

 

 思わず閉めてしまったけど、今の、何……?

 

 ネギ君とオコジョと大芝が、何かを謳いつつ踊っていたような幻覚が見えた。

 ……幻覚、だよな?

 

 もう一度、扉を開く。

 

 

「「「ミミミン! ミミミン! ウーサm」」」

 

 

――バタン

 

 

 ――うん。俺は何も見なかった。

 少し早いけど待ち合わせのところへ行こう。

 

 ああ、今日もいい天気だ。

 

 

   × × × × ×

 

 

「こちらA、ターゲットは合流した模様です、どうぞ」

「こちらY、拾音機の調子は良好です。音声を拾いますので各自判断を」

 

 

『ご、ごめん! お待たせ!』

『いや、こっちが勝手に先に来ただけだし、気にしなくていいさ』

『ううん、それでもごめん。あ、でも、待っててくれてありがとね?』

『気にすんなって』

 

 

「ターゲットはまさかの三時間待ちでした」

「なんでアレで笑って許せるの……?」

「表情見るに完全に気にかけていません。やべぇ、大物過ぎて惚れる」

「しかも時間見る感じじゃ明日菜も遅刻なんじゃ……」

「現在11時半。そやね

 ……問い詰めたいなぁ……っ」

 

「……二人とも、怖いんだけど」

 

 

 こんにちは、アキラです。

 現在空気が重いです。

 何でか知りませんが烏丸君と明日菜がデートをするとかで、その情報をどこから聞きつけたのか亜子とゆーながノリノリで追跡を開始しました。

 追跡一時間で発見できたものの、それから三時間。私たちはずっとこの場所に隠れています。

 亜子の口調が若干おかしいのも仕方が無いのかもしれません。

 

 

「ターゲットが移動を開始。追跡を再開します」

「了解。見つからないように注意しろ」

「らじゃー」

 

「なんで二人はそういう話し方なの?」

 

 

 別に無線で連絡を取り合っているということもなく、三人一緒に動いているのですけど。

 ちなみにまき絵は部活です。烏丸くん絡みになるとなんだかタイミングが合いませんけど、気にする必要も無いかと思います。

 

 

『時間的に、まずは昼でも食うか

 何がいい? 奢るけど』

『えっ!? いや、そんな悪いわよ! 自分の分くらい自分で払うし!』

『こういうものは男が支払うんだよ。つーか旅先でもそうだったろうが、今更気にすんなっての』

『い、いや、でも、そんなお腹すいてないし、そ、そう! 食べてきたから今すぐ食べなくってもへいk』

 

――クゥゥゥ

 

 

 拾音マイクが明日菜のお腹の音まで拾いました。

 ゆーなは一体何処に仕掛けたのでしょうか。

 

 

『……食べてきたから?』

『う、うぅぅぅ……』

 

 

 顔を真っ赤にしている明日菜が、ちょっと可愛いです。

 

 

『じゃ、やっぱまずは昼だな。俺も空いてるし、少し店にでも入ろうぜ』

『うん……』

 

 

 食べ歩く、という選択も捨てがたいけど、烏丸君はまず落ち着ける算段もしているように感じます。

 軽く微笑みつつエスコートする心を忘れない。意外に紳士をやってます。なんという雰囲気イケメン。

 

 

「あれは、落ちるな」

「マジで? 亜子あーゆうのしてほしいの?」

「してほしいっちゅうか、女の子をそれなり立てるって同年代の男の子にはあんまり無いやろ?」

「うん」

「そういうギャップとか、萌えへん?」

「うん?」

 

 

 なんか、亜子の言ってることが理解できません。

 

 

「というか、亜子はやっぱり烏丸くんのことが好きなの?」

 

「「ふぇっ!?」」

 

「え、隠してたの?」

 

 

 そして一緒に驚いているゆーなの反応が若干おかしいです。

 

 

「い、いややややや、すきとか、そんな、はっきりしたもんでもなくってな! ただ、ちょーっときになるっていうか、ちょっとな、ほんのちょびーっとな! 思わず目でおってしまうていどの気になるってだけであって! ほら! 去年はなんだかんだで二ヶ月いっしょにおった仲なわけやしな!」

 

「その理屈で言ったら2-A全員が範囲に納まるよ」

 

 

 というか、亜子は結構面食いな趣味をしていたと思っていたのだけど。前に振られたっていう先輩とかも部活のエースだって聞いた気も……。……? あれ? そういえば烏丸君って亜子と同じ部活だっけ?

 

 

「スタンド能力……? いや、でもこんなことに使うような人じゃないし……

 っていうかそんなに効果も続かないはずだよね……?」

 

「? おーい、アキラー? どうしたのー?」

 

「ん。ううん。なんでもない

 ねえ亜子、なんで好きになったのか理由聞いてもいい?」

 

「せ、せやから、好きとかそういうんじゃなくって……」

 

「もう諦めたら? ばればれだよー?」

 

「ううう……」

 

 

 前から気づいていたようにゆーなも言うけど、間違いなくさっき気づいたんだよね? さっきの反応どう考えてもおかしいもんね?

 そして、ゆーなもひょっとして……?

 

 

「え、と、な? 宍戸先輩に振られたんやけど、そのあとで、この間またよりを戻さないか、って聞かれたんよ」

 

「「あれ? 烏丸くん(そらっち)は?」」

 

「ちゃんと話すから

 そんときにな、先輩の考えてることがわからなくなって、私、悟ったんよ」

 

「「なんて?」」

 

「――イケメンは、信用できへん」

 

 

 ………………。

 え、その理屈でいくと烏丸くんに、っていうのはひどくない?

 

 

 




~ボールは友達!
 お前は友達を足蹴にするのか?
 過去何回も問いかけられたコピペ。

~宍戸先輩
 二話以来の再登場。
 同年代の彼女にエッ●なお願いをして盛大に振られたイケメン。見た目イメージは工藤。
 たった一回の失敗が口火を切り、今年の戦績は見事に0個。ザマァwww

~小倉(仮)
 そらと同年の部活仲間。
 無駄な体力のあるそらと違って一定値は普通の子。十三キロダッシュとか、死ぬ。

~和泉亜子
 元はヒロインだったはずなのにそのキャラの薄さからか第一ヒロイン、ヒロイン候補、と格が下がってゆき、ついには半分くらい忘れられかけていた薄幸少女。
 サッカー部の主将に告白し付き合いもするが、相手の度量の狭さのせいで振られる羽目になった、改めて見てみると本当に哀れな扱いに涙が出る。
 烏丸のことは少なからず想っているかもしれないが、果たして…?

~うーっ☆どっかーん!
 電車で片道一時間。

~そしてこちらは三時間
 男は待つもの。というか、待て(鬼畜)。

~イケメンは信用できへん
 ほんとの理由はどうなんでしょうかねぇー?(意味深)


エヴァの独壇場が始まると思ったかい?
残念! 亜子でした!
いや、残念ってわけでも無いと思うのだけど

色々試行錯誤していたら少しだけ時間がずれました。遅れまして申し訳ない
IFを2つ思いついてしまったので、仕方ないわな

修学旅行に行く前のインターミッション。明日菜の誕生日を祝うために前々から予定していた烏丸君の巻
何のことはなく、単に幼なじみの好きなものを買ってあげようという同年というよりは父親みたいな思考回路の果ての有様です。スニーキングミッションが始まるよ!

この裏では当然「あれ」も行われているので……?
以下次回。それでは


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『四月二十一・・・と思ったか!? バカめ!』

コハエースとプリズマイリヤと螺旋のエンペロイダーと伏と実は私はとハーベストマーチを読んでいたら遅れました。サーセン
フクイタクミさんの主人公は何故ああも可愛らしい少年になるのか・・・



「――というわけで、意外と死亡例自体は少ないそうです。ちなみに祭神は阿弖流夷というのがあまり知られていない事実です」

 

「あてるいって誰だっけ……」

 

 

 コピペ乙。

 ゆえせんせーの神社仏閣講座を再度聞きつつも一度耳にした話なのに頭に疑問符を浮かべる明日菜を遠めに見つつ、現在清水寺。京都、修学旅行の一日目である。

 新幹線の車中で笹浦のおっさんと会った以外には別段でっかい騒動もなかったので、のんびりとした見学に踏み入れて居れる初夏の旅。

 強いてあげるならエヴァ姉のテンションが鰻登りであった程度だろうか。精神年齢高いとかって原作設定で目にした記憶もあるのだけど、十五年も麻帆良から出られなければ解放されることで子供みたいにはしゃぐのも無理は無い。

 というよりやっぱり肉体に精神は引っ張られるものだから、という理屈も何処かに潜んでいそうではあるけど今日語ることでも無いので話はここまで。蛇足蛇足。

 

 ちなみに先日の休日の一抹。

 結局全員で集まって誕生会という名目でカラオケに直行しました。

 全員っつうか、後をつけていた和泉とゆーなとアキラたん? 後はネギ君とこのかをつけていたチア三人娘に雪広と図書館探検娘の三人で合計十四人。ぞろぞろとカウンターで集まっていたときのカラオケ店員の驚愕の表情は忘れられそうにない。

 というか和泉らが三人一緒にこそこそしていた理由がよくわからん。三人とも美少女だから麻帆良の外じゃあ目立つ目立つ。よく声をかけられていた御三方を遠目に見つつの暇つぶしでの三時間は、それはそれで意外と面白かった。

 午前から隠れていたし、どうせなら最初から顔を合わせておけばちょうどいい暇つぶしにもなったのだけど、明日菜に鉢合わせすることに気を使われたか? どっちにしろ明日菜は早朝に既に会っていたから気にしなくてもいいと思うんだけどなー。新聞配達で一緒だったし。

 ちなみに明日菜の遅刻の理由は二度寝。休日だということで身体が休みを求めていたのだと思う。このかも先に外出していたらしいし。

 

 カラオケではネギ君とオコジョが謎のユニットで電波ソングを踊ったが、同室の俺が教えたのかと勘違いされそうだから自重してくれねえかな? 自室ならいくらでも踊って構わないからさ。

 綾瀬と宮崎のビブリオンも、まあ面白かったからいいんだけどね。ただし明日菜と雪広に百合キュアを要求したネギ坊主、てめーはだめだ。いや確かに似合っていそうではあるけど、多分二人とも聞いたこと無いと思う。

 ちなみに俺が歌おうとしたカゲロウデイズは全員必死で止められた。わかるわ。お陰で結局無難なバ●プ。いや無難っていう言い方も違うか? 硝子玉ひーとつ(ry。

 

 さて、そんな一日の話はもう置いといて。

 本日より修学旅行。大事なことなので二度目だが、京都である。

 さっきも触れたが、新幹線では別段特筆するようなこともなかった。

 あえて言うなら、修学旅行の行き先がハワイではなく京都であったことに打ちひしがれていたキモい神宮寺がいた、って程度だ。

 「エヴァたんと茶々丸たんの水着姿ぁ……」って若干本気のテンションで落ち込んでいたのが目に悪い。麻帆女3-Aが合同で京都に行くということで復活したのはいいが、大宮で既にそのテンションでその先大丈夫なのだろうか。上方修正されたテンションの高さに、やつの周り半径一メートルには終ぞ人が集まることはなかったという。

 どうでもいいけど一緒に行くのはA組だけじゃないからな?

 

 

『わたしあいさかさん、今あなたのとなりにいるのー』

 

「はいはいなんすか」

 

『次あれ食べたいです! ソフトくりーむ!』

 

「りょーかい」

 

 

 ちなみに相坂さんちのさよちゃんはこの場に来れていない。麻帆良の結界が原因なのか、それとも地縛霊ならではのルールでもあるのか。麻帆良から外出できなかったせいでの欠席である。

 なので、俺がなんとか開発した遠隔感覚共有の術式で一方的なリアルタイム中継。首から提げたお守りを通じて、さよちゃんにも麻帆良に居ながらにして体を持っていた頃の感覚を思い起こさせている状態だ。意見を聞くために念話も常時接続状態。お陰で俺の財布が薄くなる。

 

 

「そんなに買ってお土産買えるのかい?」

 

「今回はちょっと多めに小遣いあるから、へーき」

 

 

 因幡に心配された。いいやつ。

 ちなみに小遣いの出所は学園長。エヴァ姉を修学旅行に連れてゆく際に、『登校地獄』の呪いの精霊をどうにかするための始末の一端を俺が握っているのだ。ちょっとしたバイト感覚でイギリス旅行と同等の小遣いを貰えているが、これは確かに俺じゃないと無理だわ、と納得の値段設定。

 そんな過去回想に赴く間も無く、舞台ではしゃいでいたエヴァ姉が駆け寄ってきた。

 

 

「そら! そら! 私も食べるぞ!」

 

「おぉ、アメリカンクリームサンドだって、食ってみる?」

 

「なんでいきなり珍味を寄越す!?」

 

 

 ハハハ、何をおっしゃる。

 今回の小遣いの増額はエヴァ姉のお陰だからねー。これは俺なりのお礼だよー。

 

 

「まあまあ、意外と旨いよ?」

 

「むぐ、そんなにいうなら、はむ……

 !? かっ、かたひっ!? 中のくりーむが溶けてはみ出て……大惨事に!?」

 

「いや、早く食べないから」

 

「そんなに早く食えるか! 硬くて食いちぎれんぞ!?」

 

 

 千切る、とか言わないで。形状がアレだから、ちょっと、ねえ?

 

 そういえばエクレアの語源はエクレールといって、意味は稲妻。雷のように早く食べる必要がある、っていう意味合いらしい。へぇー。へぇー。

 

 

   × × × × ×

 

 

 修学旅行二日目の早朝。部屋割りはエヴァ姉と茶々丸は男子と同室にするわけにはいかないので、そちらへと俺が移動する必要があった。

 そんな個人部屋へ参上した俺のやることは一つ。

 

 

『けいやくですか?』

 

「契約です」

 

 

 部屋にて未だ眩ろみの中にいるエヴァ姉を放置して、わがままフェアリーともや●もんの菌類を足して二で割ったようなマスコットと会話する俺がいた。っていうか妖精さんである。人類が衰退してしまいそうな。

 

 

『どれくらいですか?』

 

「とりあえず今日一日」

 

『りょうかいしたです?』

 

 

 本当にこれであってるのかなぁ。

 とは口に出して言わない。

 俺が正常化させたせいなのか、それとも呪いをかけた本人がナギスプリングフィールドだからなのか、契約の精霊が某アニメの妖精さんみたいな存在の上にスタンドみたいに一部の人間以外には不可視の存在となってエヴァ姉に取り憑いているのである。

 俺のバイトはこの子を宥め賺して、呪いをかけている『側』の人間の観察者代理として仮上書きする、という面倒なものだ。俺が一時的にエヴァ姉の監督者となれば、先生がいちいちついてなくともこの旅行中は自由時間も満喫できる、という寸法である。

 但しいつまでもは無理。基準となる消費魔力がものすげぇ吸い取られるのだ。ナギスプリングフィールドの馬鹿魔力の余波がこんなところに無駄に発揮されるとかって。どんだけー。

 

 ちなみに俺の入っている班は他の男子は敷浪と因幡だったりするのだが、エヴァ姉と茶々丸が入っているので色々敵視されていたりもする。飛鳥ちゃんは壁要員だ。ガンバ。

 

 

「そういえばネギ君大人しいな……」

 

 

 ガッツリ魔力を吸われる感覚を身に受けつつ、昨日から気になっていたことをぽつりと呟く。

 笹浦のおっさんに新幹線内であった以外は騒動もなかった一日目。原作では口にするのもバカらしいくらいのしょうもない妨害工作(いたずら)が蔓延っていたはずなのに、千草さんとやらは活動していないのかね?

 A組女子らが大人しかったのは意外だったが、嵐の前の静けさ、という言葉を髣髴とさせる。本番はおそらく自由行動日の今日なのかもしれない。

 

 

   × × × × ×

 

 

「うーん、どうしたらいいのかなぁ……」

 

 

 ネギ少年は悩んでいた。原因はこの旅行が始まる前に学園長より預かった書状だった。

 二日目自由班行動日となる本日の朝食時、彼にアプローチをかけて来る女子らに辟易とはしかけたものの、教職を疎かにするほど不真面目ではないネギ少年は何処の班と行動をともにするかで大いに悩んだ。

 だがこの手渡された爆弾のような親書という名目の書状、所謂『お互いにいがみ合うのも大人気ないだろうし、そろそろ仲直りしない?』という旨を綴った関東魔法協会より関西呪術協会への融和の書状を自らが届けるという、見習い魔法教師には本来任せられるはずの無い『お使い』に比べれば、今朝の悩みなど些事のようなものである。

 

 班行動の付き添いは明日菜にこのかに図書館三人娘、プラスバカホワイト(命名そら)の六人編成の五班となった。が、なぜか距離を置きたがる刹那を五人でカバディするというよくわからない陣形にて奈良へ行けば、そこでは鹿せんべいを三枚同時に愉しそうに鹿へ食わせるエヴァを引き連れたそら一行と合流。

 いいタイミングかと思いそらかエヴァンジェリンに親書について相談してみようかと思えば、運動部娘四人衆に龍宮の加わった四班が馳せ参じ魔法関連の話を出来ないような雰囲気に。

 結局どうしたものかと悩んだままに、気がつけば一人はぐれて別行動に陥っている始末である。

 このまま悩みを抱えながらでは教師の仕事もろくに出来やしない。困ったクマー。と本来自分が請け負わなくてもいいんじゃないかというお使いを背負わせた珍妙な頭蓋の学園長に、こっそりとささやかな呪詛を送るネギ少年であった。

 

 そんな少年の目に、ある光景が飛び込む。

 

 それは、狭い道の中をバーッと10tトラックが走り迫り来る光景。その道の先にはとてとてと小さな子猫が車に気づかずに彷徨っている。

 それを目にしたときには、もう彼は駆け出していた。

 

 

   × × × × ×

 

 

 そしてそれを目撃していたのは彼だけではなかった。

 ネギ少年よりわずかに数メートル後方。3-Aの広報係、新聞部所属の少女。パイナップルを髣髴とさせる髪型が特徴の少女・朝倉和美その人が、今にも轢かれそうな猫を、そしてそれを助けに飛びつく自分たちの担任を、すべてを目撃していた。

 

 

『絶! 天猫抜刀牙!』

――ドゴォォォォッン!!!

「ぐわぁぁぁーーーッ!?」

 

 

 ――そう、助けに入ったはずのネギ少年が、襲い来る10tトラックと共に、小さな子猫に返り討ちにあう光景まで。ばっちりはっきりくっきりと、まるっと終始お見通しにしてしまっていたのであった。

 

 

「(猫つえぇぇーーーっ!?)」

 

 

 驚いて声も出ないが、心の声は驚愕一色に彩られ、爆炎に沈むトラックの前にスタッと降り立つ子猫はニヒルに笑い呟き、何事もなかったように立ち去っていった。

 

 

『――身体は猫で出来ている……にゃぁ』

 

「(何もんだあのねこーーー!?)」

 

 

 それは、誰にもわからない。

 

 

「うう、い、いったい何が……?」

 

『だ、大丈夫ですかい、アニキ?』

 

「うん、何とか……」

 

 

 慌てて物陰に隠れなおす朝倉和美。

 謎の猫も追わなくてはならない不思議に思えるが、轟々と燃え荒ぶトラックを他所に、意外にも平気な風に立ち上がった我らが担任。そしてそれに話しかける何者かがいることを目撃してしまったためだ。

 そしてその何者かは、彼の懐に潜むオコジョであったように見えたし、そのオコジョと一瞬目が合った気がした。

 

 こっそりと様子を伺えば、オコジョは明らかにこちらに気づいた様子でにやりと笑っている。以前に担任から見せてもらった、小動物らしさが欠片も見当たらない。なんだか小物臭のぷんぷん漂う小悪党が、自分たちの担任を騙しているような? そんな空気をも感じ取ってしまうパイナップル頭。

 

 

『とりあえずこの場は急いで離れたほうがいいですぜ。トラックのほうはおれっちに任せて、アニキはお早めにお逃げくだせぇ』

 

「え? う、うん。わかったよ、カモ君。でも大丈夫?」

 

『大丈夫でさぁ。オコジョ妖精の力を甘く見ないでほしいっすね』

 

「そ、そうなの? それじゃあ……」

 

 

 思ったとおりに、いたいけな子供を騙しているようにしか見えない小動物に朝倉は憤りを感じる。

 もしアレがネギ少年が女子寮にいた頃にいたとしたら、どんなことに巻き込まれるかたまったものではなかった。という憶測の元、朝倉は小動物の行動を記録するためにカメラを構える。

 

 体良くネギ少年を現場から遠ざけた小動物は、果たして何を見せるつもりなのか。と朝倉が様子を伺い続けていた、そこに、声をかけられる。

 

 

『――姐さん、見て、いやがるんでしょう?』

 

「――っ!?」

 

 

 ――そして騒動はこの一匹と一人の邂逅によって、堂々たる幕を開かれるのだった。

 

 

 




~清水寺
 ゆえせんせーの神社仏閣講座(コピペ)。二度目なのに明日菜の記憶領域がやばい。きいたげてよぉ。

~カゲロウデイズ
 歌詞内容がどう聞いてもR-15。無限ループって怖くね?
 俺が聞きながら書くとどんどんと鬱に傾く。『アキラの世界』にて実証済み。おお怖い怖い。

~あいさかさん
 携帯を媒介とした念話なため、傍目に独り言を言っているようには見せない仕様。ただし魔力ではなく電力の消費が凄まじい。
 感覚共有は一方通行。お守りを提げれば別の人にも任せられるという特別仕様。ある意味呪いにも似ている気もスル。

~アメリカンクリームサンド
 アメリカンドッグ状の、中にクリームを挟んだという食べ歩き型のお菓子。
 何かを狙ったような形状に、男子中学生は前屈み。いやん。

~けいやくするです?
 衰退しましたか?的な容姿の妖精さん。学園の外に出ると実体化したという、初見でなぁにこれぇ?と大宮にて二度見したそらを攻められる者はいないと思う。
 わがままフェアリーは、覚えてる人いるかなぁ。

~親書について
 こちらのネギ君は石橋を叩いて渡りたい性格になってきており、なので先ずは内容を確認したらこの悩みが出没。要するに学園長のPSのあれ。
 先手を打とうとしたら禄でもない内容を見つけてしまい、こんなもん書状に残したら後々どう難癖つけられるかわかったものじゃねぇ、と思考が行き着いたネギ少年の苦悩。次回へ続く。

~10tトラック
 よう! 俺は転生トラック! 神の手を煩わせないように優しい心の持ち主を神の座へと送る仕事を持つ、この道十年のナイスガイさ!
 今日のターゲットは少年らしいが、おおっと、子猫を助けようってのかい? その心意気善し! 次の人生ではもっと良いものを送れるように、今こそ転生のときだぁ! いくぜぇー! ――っ!? な、なんだあの猫!? まさか、あの動きは! ぐわぁぁぁぁ!!?

~猫
 普通の猫。転生者でもなければ魔法にも携わっていない何処にでもいる子猫。
 強いてあげるならばシュレディンガーの反転因果を請け負っただけの因果凝縮推戴。その存在は視認されなければ50:50の生存確率を持つという件のシュレディンガーの猫理論が成立するための律を相反させた因果を持ち、彼が存在している限りどのような事故に遭おうとも『生存する』という無駄に強固な因果を持っている。
 但し強いというわけではなく、ただ生き残れるというだけの因果なためにそれ自体の強度は平凡そのものであるが、それを滅ぼそうとするならば星の一つや二つが対消滅する覚悟を持たなければならない。
 ちなみに猫自体はモブそのものなので、どのような世界線にでも存在しうる可能性を持つ。例えばラカン表の中とか。


超遅れてスイマセン。43話目くらいをお送りいたしましたよ、っと
トッポってすげぇよな、最後までチョコたっぷりだもん

前回の更新から遅れること一週間弱。コレまでの話を修正とか行間開けとか、あとは資料を読み漁っていたりしたらいつの間にかこんなに期間を空けてしまいました。話の内容はある程度練られているはずなのに、それを文にするのがかなりめんどくさゲッフンゲッフン!ほら、雨とかゲリラ豪雨とかで停電の心配してたから。そのせいで書く時間を持てなかったんですよー(白目)

長々とお付き合い下さり毎回感謝
次話はもっと早くに載せたいです。それでは


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『乙女はオオカミなのーよー【序】』

推奨BGM:ParadiseLost
副題の割にね



『狙ったあの人の唇を奪え! ラブラブきっちゅ(・)だーいさーくせーん!!!』

 

「噛んだな」

「噛んだね」

「噛んだわねぇ」

「噛みましたわね」

「――噛んだ」

 

『噛んでないっ!』

 

 

 自室に備え付けのテレビを、言われるがままに点けてみれば。

 我らがクラスメイトのパイナップル頭の少女が突然に珍妙な宣言をしたことに目を見張りつつも、台詞を噛んだとしか思えない滑舌に同班の少女らが口々に呟いた。

 自覚があるのか声が向こうにも届いているのか、顔をやや赤くし数秒前の己を否定するパイナップルがそこに居た。っていうか朝倉だった。

 

 

『えー、こほん

 さあ始まりますよ3-A淑女の皆様方っ、今なら修学旅行すなわち旅の恥は掻き捨てという理屈も後押ししてくれるっ! 気になるあの人との距離を縮めるなら今しかねえ! っていう企画が今宵始まるわけですよ!』

 

「無駄にテンション高ぇなぁ、何言ってんだコイツ……」

 

「ちょっと待ってください。朝倉さん今なんとおっしゃいました?」

 

 

 一人語りだした同班のクラスメイトに、クラスでは数少ない眼鏡要員が辟易とした。が、真っ先にクラスの暴走を止める役割に居るはずの委員長こといいんちょ(あだ名)は、ブラウン管の向こうの彼女の言葉に思わず食いつく。

 それを見て、あーこれ私が割を食う流れ? とある意味予定調和となっている可能性に、眼鏡さんは思い至る。

 現に、相部屋にいるはずの年齢不詳のクラスメイトや影が薄いキャラ・無口キャラなどは、既に彼女と画面から遠く離れた場所にて布団を移動させていたことであるし。

 

 

『ね? だから始めるなら今しかない。いつキスするの? 今でしょ!

 要するに我らが担任のネギ君の唇を奪っちまおうぜぇというお誘いで・す・よ!』

 

「担任は高畑先生だろ。忘れてやるなよ、実際全然姿見てねえけどさ」

 

 

 少女のツッコミは、誰にも届くことはなかった。

 

 

   × × × × ×

 

 

『ま、狙うにしても壁がいくつもあります。見廻りの先生に見つかればアウトだし、そもそもネギ君はどこにいるのか、賞品が唇だけってリスク高すぎじゃね? というツッコミも聞こえてくる。

 ふふぅ、まったくキミらってばハイエナだなぁ♪』

 

「好き勝手言っとるなぁ

 そんな言われて参加するとかアホやん。あたしはパスな」

 

「うーん、私も興味ないね。デザートのフリーパスとかが賞品につくというなら参加もするけど」

 

「あっ、じゃあじゃあわたし出る~

 えへへ~、ネギ君におとなのみりょくを教えてあげるのだ~」

 

「ちょ、まきえその言い方わかってやってる?」

 

「とりあえず聞いてあげようよ、皆……」

 

 

 ハイエナ発言からこっち、朝倉がブラウン管の向こうで演説しているのだが4班の女子らは既に興味を失った模様。唯一参加に乗り気なのはバカピンクの新体操部員のみだ。

 この時点で企画倒れな雰囲気をぷんぷん匂わせているのだが、どうやって挽回できるものなのか、と『考え中』であったゆーなは朝倉の言葉回しに不審を浮かべる。

 キス以上に、何か心を掴める特典でも用意しているのだろうか?と。

 

 

『そんなキミ(女子)らに朗報さ!

 ――ネギ君ってば、みんなも知ってる例のあの男の子と相部屋らしいぜ?』

 

「「「!!!」」」

「「?」」

 

 

 ――乙女に、衝撃、走る。

 

 

   × × × × ×

 

 

『そんなわけで~、もしかしたらネギ君と間違えちゃうかも~?

 まあそうなっても事故だよね~、事・故!』

 

「キター!!! キタよコレ! みんなも知ってるっていったら一人しかいないじゃん!

 史伽! 参加するよ!」

 

「ええっ!? お、お姉ちゃん本気だったの!?」

 

「えっ、マジラブ?」

「ほほぅ、それはまた」

「彼も罪作りですなぁ~」

 

 

 1班では双子の片割れが奮い立ち、

 

 

   × × × × ×

 

 

『勝負のルールはずばり!『枕投げ』!

 障害物を打破するための武器は枕のみ! それを駆使して愛しいあの子の唇を目指すのだ! 乙女たちよー!』

 

「それはイイコトを聞いたアル! 決着をツケル好い機会ネ!」

 

「ふむ、ではイエローがやる気になっているようなので拙者が手を貸してあげるでござるよ

 なぁに、出番が無いことを危ぶんでいるわけではござらんよ。ただ彼の御仁との決着をつけた後は拙者もちょっと手合わせを望むというだけの、そう、べっ別に憂さ晴らしとかじゃないんだからね! というテンプレのツンデレ的思考故」

 

「ブルー、心の声が駄々漏れアル」

 

「忍べてませんよね~」

 

「んー、じゃあ二名参加、っと」

 

 

 2班では麻帆良武道四天王などと物騒極まりない名称で呼ばれる女子中学生のうち、二人が参加を決意し、

 

 

   × × × × ×

 

 

『あんまり大人数じゃすぐに身バレしちゃうので、各班2名ずつの参加としておきます!

 さーあブックメーカーのはじまりだぁ! どの娘に賭ける? どの娘が勝つ? 勝負の行方は神のみぞ知る! ってね!』

 

「ゆーなどいて! そいつ(枕)に届かない!」

 

「亜子は不参加だって言ってたじゃん! この枕はアタシのもんだー!」

 

「あんまり騒いだらやる前に見つかっちゃうよ

 喧嘩するなら両成敗ということで私が……」

 

「あ、あれ? アキラも出たいの?」

 

「……素直にじゃんけんで決めたらいいと思うのだけど……」

 

 

 4班では一部を除いて、前哨戦にて体力をすべて遣ってしまいそうなほどに漲っていた。姦しくも。

 

 

   × × × × ×

 

 

 そして、5班では――。

 

 

『おかけになった電話は、現在電池が無いか、大気圏突入中につき通話できません。番号をお確かめの上、時間を置いておかけ直しください』

 

「駄目、つながらないわ」

 

「そんな――……! くっ、何故こんなことになったのですか! 何故このような事態になるまで放っておいたのですか!

 なんで、いつの間にか朝倉さんがエロオコジョと手を組んでいるのですか!?」

 

「知らないよそんなこと!」

 

 

 ケータイを手に首を横に振る明日菜に、絶望した!この世のすべてに絶望した! と云わんばかりに戦くゆえ。叫び返して応えたのはハルナだが、何の解決にもなっていない。

 彼女らがここまで取り乱しているのは、見てしまったからだ。画面に映る朝倉のその胸部、そこには悦び蕩けた表情で挟まっているよく見知った小動物の妖精の姿があったのだから。

 

 

「あの、ひょっとしてこの班、全員が魔法関係をばれてるのですか……?」

 

 

 そしてそう呟くのはバカホワイトこと桜咲せつな。その発言に、あ、そういえば説明まだだった。と比較的平常運転な精神状態の少女ら(明日菜・このか・のどか)がせつなに目を向けた。

 

 

「そういえばせっちゃんも魔法関係者とかゆうとったな」

 

「な!? お、お嬢様どこでそれを……っ!?」

 

「え? そらくんがそー言うとったえ?」

 

「烏丸ぁぁぁ!!!」

 

 

 届かないとは思うが叫ばずにはいられない。そんなせっちゃんの声は当然ながら奴に届くことはなかった。

 

 

「ちょ、桜咲さん声抑えて!」

「な、何かこのかさんが知ってはいけないことでもあったのでしょうか~?」

 

 

 そしてナチュラルに要点を突く宮崎。

 本来、隠し事など出来ない性分であったせつなは、その台詞に思わずギギッ! と身体が固まった。わかりやすい反応で誰もが気づいてしまう。

 

 

「……イイエ? ナンニモナイデスヨ?」

 

「……せっちゃん?」

 

「ア、ワタクシチョットオ花摘ミニ……」

 

「せっちゃん」

 

 

 がしぃ、と肩を掴まれる。

 正直彼女的には簡単に抜け出せる程度の力なのだが、相手がそれをさせてくれる相手ではない。

 何より十年来の幼なじみがようやくすぐそばに近づいてくれたこのチャンスを、逃すようなこのかではない。

 

 

「おはなし、聞かせてくれるな?」

 

「………………ハイ……」

 

 

   × × × × ×

 

 

「なるほど……そういうことですか。

 ならば、長谷川さん! 行きますわよ!」

 

「ああそうだな。これは参加せずにはいられねえわ」

 

「「「え!?」」」「?」

 

 

 一方そのころ3班では、参加を決意した雪広あやかに引き続き、長谷川千雨が即答で応える。

 それに驚くのは少女たち。あやかもまた、即答してくれるとは思っていなかったのか一緒に驚愕の声を上げていた。

 

 

「なんで驚いてんだよ……

 つーかいいんちょ、てめえまで」

 

「え、いえ、まさか即答とは思っていなかったので……」

「い、いつのまに烏丸くんのことを……?」

「あらあら、千雨ちゃんったら」

「――ハッ! それともネギ先生に!?」

 

「どっちもちげぇよ!

 あたしはあたしの憂さを晴らしたい。それだけだ」

 

「「……ウサ?」」

 

 

 二度驚くあやかに、口々に憶測飛び交わせるA組一の母性の人に影の薄い娘。そしてもう一人の無口っ娘は早々と布団へと入って就寝していた。

 そして応えた千雨の台詞に、疑問符を掲げる千鶴に夏美。

 あやかはというと、合点はいったものの若干呆れた表情で続ける。

 

 

「ひょっとしてまだ根に持っていますの? ネギ先生を私達の部屋に泊めたお陰で千雨さんの性癖がばれてしまったことを」

 

「「性癖……?」」

 

「性癖じゃねえ! 趣味だ!

 あったりまえだろうが! そもそもの原因は部屋を出るような何かを仕向けた烏丸だったっていう話じゃねえかよ!? 今仕返しせずにいつするってんだ!」

 

 

 イマデショ。と誰かが呟くのを聞いた気がし、夏見が思わず首を捻る。しかしそこには、布団に収まりすやすやと寝息を立てているザジしかいなかった。

 

 それはそうと、千雨の事情もしょうもないものだろうが、この場で反撃に踏み込むのにはわけもある。

 ネギが千雨とあやかの部屋に泊まったあの日からこっち、烏丸に復讐しようと捜索しているが何故か寸でのところで捕まらなかったためだ。

 今回の旅行にて、同じ行き先となったことでようやく話す機会も生まれるかと思いきやそうでもなく。新幹線では卑猥なオーラを発していた近寄りたくない男子と話していたし、清水寺では金髪ヤンキーに二足歩行のウサギ、金髪ロリータにロボとおかしな位に悪目立ちもしていた特殊人物らと同じ班のようでそれだけで近寄りたくない筆頭に上げられていた。

 二日目の本日も然り。

 班行動で無理を言う訳にも行かなかったのだが、ここにきてチャンスが到来した。

 復讐の女神はようやく千雨に微笑んでくれたのであった。

 

 

「待ってろよ烏丸ぁ……!

 お前にはあたし特性の膝枕をお見舞いしてやるからなぁ……!」

 

 

 台詞を聞けば何処かの触覚乙女がすわラブ臭が!と食いつきそうではあるが、どう考えても台詞回しが不穏。

 枕を使うという今回のルールには抵触していないものの、今の千雨の脳内ではそらの顔面に直角に膝枕(・)を叩き込む絵面が浮かんでいるのは、誰の目にも明らかに見えたという。

 

 

   × × × × ×

 

 

「いやぁ! しかしいいのかねぇ! こんな勝手なことしちゃってさぁ?」

 

『いいんですよ姐さん! これも全てアニキのため!

 今回の旅行じゃあ特使なんていう仕事も請け負っておるんでさぁ、それならいくらでも仲間が必要なのは間違いない! でやんしょ?』

 

 

 ゲッヘッヘ、と下衆い笑いが部屋に響く。その声は胸の谷間から聞こえてくるのだが、一旦放送を止めたので朝倉は気に留めない。もっと気にすべきだろう、という天の声は聞こえやしない。

 声の主はカモミールであった。

 彼はいち早くこの少女に魔法を目撃されてしまったことに気づき、それを黙っていてもらうこと、そして自身が美味い汁を吸うために利用できるということにもいち早く気づいていた。

 それ即ちパクティオー(仮契約)。

 一人仮契約を行使すればオコジョ妖精には五万オコジョ$という、一体何処で使用するのか良くわからない金額が振り込まれるのだという。

 前回の吸血鬼騒動においては、それを利用した魔法アイテムの購入によって、一気に四人も加わった仮契約の報酬はあっという間に消えてしまった。しかもハナシを判ってくれたであろうはずの女子らのうち、未だ二人の女子(明日菜とこのか)が仮契約に踏み込んでくれないのだ。ついでに言えば自分とネギはおいそれと女子寮には踏み込めないように契約もされている。

 こうなればこの修学旅行こそが一番の狩場。その狩り(ハント)を成立させるための最も妥当かつ有力な相方を目にしたカモの行動は速かった。

 

 

『(この姐さんの情報操作力は中々に侮れねえ、口八丁手八丁で仲間にできて万々歳だぜ)

 そ・れ・に! かわいい女の子にキスしてもらえるってくれば断らない男なんて居りやしませんって!』

 

「そうだよねー! しかし烏丸君もこういうことに精通していたとは……。だからネギ君が来たときに一緒のクラスになっていたのかなぁ……?

 さぁて、あとエントリーしてないのは5班だけかな?」

 

 

 魔法アイテムのばら撒き、という一見テロみたいな行為をしているのだが、その事実に気づかないままに、朝倉は能天気にゲームの進行を取り仕切ろうとする。

 改めてエントリーされたメンバーを見渡してみれば、明確に烏丸を狙っているのは確かに半数はいるのだが、それがラブかと問われれば小首を傾げざるをえない理由。

 もし内情を烏丸が知れば、逃走するのは確実なメンバーがエントリーしていた。

 

 

   × × × × ×

 

 

「長い。三行で説明してください」

 

「駄目出しされた!?」

 

 

 そして未だエントリーに踏み込んでいない5班では、関西がどーの魔力がどーのと説明していたせつなが、ゆえに切り捨てられていた。

 剣士が切り捨てられるとは、世も末である。

 

 

「え、えーと、え~っと……」

 

「要するにこういうことでしょ?

 関西と関東の魔法使いは仲が悪い

 このかは両方の長の血縁で他にも理由があって狙われている

 せっちゃんは護衛のためにいろんなことをしていた

 健気にこのかを影から見守るせっちゃんマジぺろぺろ」

 

「四行になっているです」

 

 

 いまいち説明できないせつなの代わりにハルナが説明したが、ゆえにつっこまれた。

 てへぺろ、とふざける程度には余裕も出てきたらしい。

 

 

「というかぺろぺろってなんですか」

 

「いや、そこはマジトーンでつっこまないで欲しいなぁ……」

 

 

 せつなにもつっこまれた。

 ハルナは養豚場から出荷される豚を見下すような目で見られて、思わず背筋が震えた。

 

 

「で、それの『とくし』?っていうのにネギが関わっているってこと?」

 

「はい。それを踏まえた上で、皆さんが魔法関係者だというなら聞いておきたいことがあるのですが……」

 

 

 そう言いつつ、懐から一枚の紙を取り出す。

 其処には幾何学の紋様が幾つか描かれていた。

 

 

「先ほど旅館の周りにこのような魔方陣、と思われる紋様を発見したのですが、これが何なのか説明してほしいのでネギ先生に連絡を、」

「こ、これは!?」

 

 

 全て言い終わる前にゆえが食いつく。

 ハルナもまた、それを見て小首を傾げて、

 

 

「あれれ~? なんか見たことない?」

 

「暢気なこと言ってる場合ではないですよハルナ!

 これは仮契約陣です!」

 

「――げ」

 

 

 言われて思い至ったハルナは、思わず顔を青くした。

 

 

「? それってカモの言っていた……?

 なんでそれが旅館の周りに?」

 

「決まっているです、パートナーを増やすためですよ! パクティオーカード一枚につき五万オコジョ$とかいう信用のならないお金が動くのです

 あの小動物はそれを狙っているのです!」

 

 

 明日菜の疑問に答えるゆえ。狙いの解明が鮮やかに的確すぎて安楽椅子探偵も真っ青な推理力だった。

 

 

「お金のために乙女の純潔を利用するというのも許し難いですが、それ以上にこれが烏丸さんに発覚するとなると……ヒィィ!」

 

「え。なにそれちょっとこわい」

 

 

 思わず染み出たゆえの悲鳴に、怖いというよりは引き気味の明日菜。内心、この娘は我が幼なじみをどういう目で見ているのだろう。そしてそう見られるような何かをやった彼は一体……? と呟いている。

 

 

「このまま見過ごすのも危険です!

 ハルナ! 行くですよ!」

 

「いや、あたしはちょっと……

 今エントリーされた子らを見たんだけど、バカレンジャーが既に三人参戦してるし、どう見ても無理ゲーだし」

 

 

 そう言われて、ゆえも画面に映し出された他の班の参戦状況を見、頭を抱えた。

 それを見て立ち上がったのは、

 

 

「――では、私が行きます」

 

 

 桜咲刹那。参戦決定。

 

 ――斯くして、乙女の戦いが今、始まる。

 

 

 




~推奨BGM
 それくらい疾走感のある文体に出来ていたら幸いです

~各班の状況描写
 誰が誰だったのか、わかるといいなぁ
 あと、一っ言もしゃべっていない娘が一人います

~烏丸ぁぁぁ!
 わたし~、比較的大人し目の原作キャラに~、オリ主の名前を呼び捨てで吐かせるのが夢だったの~
 夢がひとつ、叶いました

~養豚場から出荷される豚を見下す目
 豚をバカにするな。意外と清潔なんだぞ
 そして豚の体脂肪率は驚きの14%。7%だっけ?どっちにしろ人間なんぞよりずっと筋肉質。豚さんマジぱねぇ

~烏丸を怖がる理由
 魔法関連で勝手に増えたとか言ったら怒られるだろJK。というのが恐らくはゆえの思考
 本当にそうなるかはなってからじゃないとわからんけどね


なんとかまだ生き残っています
通算44話。大作戦がはじまりましたよ、っと
前回と比べれば比較的短いサイクルでお届けできたと思いますが、改めて読み返してみればネギもそらもいないという事態に。たまにはこんなときもあるよね(白目)


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『乙女はオオカミなのーよー【破】』

「相談があるのですが……」

「なんぞ?」

 

 

 大体皆が寝静まったと思われる時刻。ネギ君が神妙な面持ちでそんなことをのたまってくれた。

 俺はというと、別の部屋で行われていた徹夜ドンジ●ラ大会を途中で抜けて自部屋へと戻っての彼のこの発言である。ほら、子供が一緒の部屋じゃいつまでも起きているっていうのはダメでしょー?

 そんな気遣いを無にするように、ネギ君はこうやって俺を自部屋へと呼び戻してくれたわけである。これで下らん用事ならブットバスゾ☆

 

 

「えっと、実は僕、今回の旅行中に関西呪術協会に親書を届けるようにって特使の役割を学園長に請け負っていたんですけれど」

 

「あ、やっぱそうなのか」

 

 

 道理で、来るとき新幹線内で笹浦のおっさんに変な質問されたはずだよ。

 

 

「……知ってたんですか?」

 

「来る途中でそんなハナシを、関西の知ってる人と偶然会ってね」

 

 

 おっさんには、関東からの親書は俺が持ってゆくのか?という質問をされて、知識としては知っていたが魔法関係者にそのハナシをされたことはなかったので、親書ってなんぞ?としか返せなかった。

 この分だと特使関連の情報は、割とどちらの協会でも広がっているようだわな。

 

 

「えっと、それで、これが件の親書なんです」

 

 

 そう言うとそれを寄越す葱坊主。

 えっ。

 

 

「……何? 読んでいいの?」

 

「………………」

 

 

 沈黙怖ぇ。

 促されるままに広げて、読み進めて、ふーん、この間の停電のときの侵入者は皆関東で捕虜扱いか。で、それを引き渡すための条件とか書いてあるし。あー、これ親書っていう名目だけど中身違くね?

 で、最後に学園長の追伸。ちょっとイラッとくるイラストと共に、詠春さんを諌めるようなことが書いてあった。ぷんすか、とか書き込んであるのも癇に障りそう。

 

 

「部下をしっかり従えんかい婿殿、だってよ

 ハハハ、学園長ってば言いたいこといってるなぁ」

 

「ですよねー、ハハハ」

 

 

 互いに笑いあって、しばらくすると、はぁ……、とネギ君が沈痛な面持ちでため息を吐いた。その気持ち、わかるわ。

 

 

「……コレ、文章に残していたら後々どでかい遺恨の種になりますよね……?」

 

 

 色々勉強しているようだ。

 で、そんなものを持たされた特使なんてやってられるかー、っていうのがネギ君の意見でFA?

 

 

「どーしたらいいのでしょうねー……」

 

「好きにやればいいんじゃね?

 そもそも子供にそういう役割を推すのがまず間違ってるんだし」

 

 

 責任は取る(キリッ)、とか言うんじゃないかな。学園長が。

 そんな益体も無い話をしているとケータイの充電が終わったらしい。

 充電といえば、今朝エヴァ姉の部屋に行ったときは茶々丸がしていたような気がする。おそらくは旅館の電気メーターの回転数も高速でマッハ。ちょ●ッツかよ。あいつゼンマイ式だと思ったのだけど。

 

 

「じゃあ、俺はそろそろ

 代行で打ってもらってるからいい加減に戻らんと」

 

「女子部の担当とはいえ先生なんですから、僕の前でそういうこと堂々と言わないでくださいよー」

 

「安心しろ、ヒゲグラ先生も打ってる」

 

「何処に安心する要素を見出せと……」

 

 

 あの人、見た目は豪運なイメージだけど実際はかなり配牌悪いんだよな。それなのに麻雀を打つのがやめられないし、そもそもグラサンに己の手が映ってこっちに筒抜けなんだけど、それを指摘する男子は一人もいない。いいカモがいる内に戻って勝ち数上げておきたいわ。

 

 

『ネギセンセイヲ……ヘヤカラダサナイ……』

 

「ん? なんか言った?」

 

「え? いえ何も……?」

 

 

 みょんな声が聞こえた気がし、振り返って聞いてみればネギ君には聞こえていない様子。

 気のせい? と聞こえた内容を反芻しようかと思いきや、ネギ君がある一点を凝視しているのが目に入る。

 

 

「……ネギ君?」

 

「――――っ」

 

 

 その視線の先を追ってみれば、

 

……バナナの皮?

 

 何故か、いつの間にか、部屋の入り口のあたりにそれが落ちていたのを発見した。

 

 

「なんだあれ、いつのまに……

 ネギ君?」

 

「――何故か、何故だろう、あれを、

 アレを、踏まなくてはならない、――そんな気がする」

 

「どうしたネギ君、口調が変だぞ」

 

 

 そう声をかけた。

 直後! 彼は猛スピードで走り出した!

 

 

「う――うおおおおおおおッ!!!」

 

 

――バナナに向かって、一直線に!

 

 

「にょわーーーーーーーー!!!」

 

 

 そして踏みつけ! 勢い良く滑る!

 謎の奇声を上げながら、少年は宛ら新喜劇のように、勢いよくすっころぶのだった!

 

 ……それを俺は呆然と見るしか出来なかった。

 

 

「――なんだこれ」

 

 

   × × × × ×

 

 

『改めてっ! 参加選手のご紹介です!

 

 一時期ロリコンでは?との噂も立った烏丸君、この二人が同時に飛び掛かれば太刀打ちできないのでは!? と放送席では推測中! その小さな体躯を生かしての小回りを利かせた動きを有効活用できるのか!? 1班より、鳴滝姉妹ペアー! 姉の風香が参加を決意! 狙いは烏丸君だと同班のチア娘らより吉報が届いております!

 

 ガチで武闘派! 麻帆良四天王の一角、そしてバカレンジャーの脳筋担当が手を組んだ! 狙いは烏丸君へのリベンジとの噂! 2班からは古&長瀬ペアー! 忍べていない忍者がどう動くのか! 実に見ものです!

 

 不動の眼鏡がついに動いた! いいんちょに引っ張られての参加かと思いきや、この人も烏丸くん狙いだと!? 物理的かっこ意味深かっことじな深慮遠謀の眼鏡が動く! 3班から、ちうたんアーンドいいんちょペア! メガネの奥のイーグルアイが狙い打つぜ!

 

 試合開始前にごたごたがあったとか!? どういうことだ烏丸人気!? 不参加を決め込んでいたはずの褐色巫女が参戦だ! 4班は、まさかまさかの龍宮&佐々木ペア! 出ようとしていたという噂があった運動部他三名は何があった!?

 

 そしてぇ! お待たせしましたついにこの人! このクラスの面子になってからずぅぅっと交流をしようとしなかったサイドポニーがやってきた! 心を動かしたのはやはり烏丸か!? 男か! そんなに男がええのんか!? 5班から、桜咲アーンド綾瀬ペア! これで役満! 武道四天王の揃い踏みだぁ!

 

 ただの枕投げのはずが、開示してみれば見事なフォーカード! 勝つのは誰か! それともこの場で真の麻帆良チャンピオンが決まってしまうのか!? ラブラブキッス大作戦! スタートですっ!!!』

 

 

「……私はそんな風に思われていたんですか……」

 

「まあ仕方ないかと思いますよ?」

 

 

 orzと落ち込んでいる刹那さんですが、交流がろくになかった状態でこんな参加の仕方を見せればそんなことを言われるのは仕方ないと思うのです。

 このかさんの護衛のために距離を取っていたという話ですが、そのハナシも何処か可笑しいと、このかさん側の友人の意見としてですが言いたいこともあります。

 

 

「そもそも、せつなさんはこのかさんの護衛なんですよね? なんで距離を取っていたのですか? 魔法のことを知らせるわけにいかなかったとしても、友人関係を疎遠にする必要性がどうしても思いつかないのですが」

 

「そ、それは……、えーと……」

 

 

 言いづらそうにしているということは本気で理由が無いか、もっと言えない事情があるということでしょうが、

 

 

「一言では言い出せない事情があるのかもしれないとも思えないこともありませんが、このかさんの友人としての意見を言わせてもらうと『そんなの知ったこっちゃねえ』なのですよ

 巻き込めないとか曖昧な理由だったとしてもです。そんなことで距離を取ろうという人ではないことぐらい、幼なじみだという貴女ならば見てわかることでしょうが

 貴女はこのかさんを、自分の幼なじみをそこまで狭量な人間だとでも評価しているのですか?」

 

「………………返す言葉もございません……」

 

 

 すっかり縮こまってしまい、廊下に正座して私の話に圧し潰されている刹那さんなのでした。

 さて、バカホワイトを苛めるのはこの辺にしておきますかね。

 

 

「ではそろそろ動きますよ。いつまでも遊んでいる場合ではないのです」

 

「ソウデスネ……」

 

 

 しっかりしなさいホワイト。

 このバカ騒ぎを収められなくては、烏丸さんにどんなことを言われるかわかったものではないのですから。

 

 監視カメラの死角に入り込み、懐から二枚の紙を取り出します。

 一枚は転移符。以前エロオコジョが購入したものを、こんなこともあろうかと一枚だけ抜き取っていたのです。残念ながら一人用ですが。

 そしてもう一枚は、

 

 

「では、囮役よろしくですよ?」

「了解したのです」

 

 

 ぬらぁ、と立体化する私の似姿。

 パルに作らせた簡易ゴーレムを私の姿にしたものです。

 本来しゃべらないはずなのですが、パルが言うにはレベルが上がったとか。解せぬ、なのです。

 

 それはそうと。

 

 

「返事はどうしましたか、バカホワイト?」

 

「ハイ……、ショウチシマシタ……」

 

 

 まーだ落ち込んでますね。

 二人揃って囮なのですから、しっかりしてください。

 

 

「さて、ネギ先生が部屋にいるといいのですが……

 ――転移!」

 

 

 作戦開始、なのです。

 

 

 




~ちょ●ッツ
 電気メーターの回転数が~っていうのはアニメで見た記憶を手繰り寄せたら出てきた。
 原作でもその描写はあったのだろうかー?

~『ヤッテヤルデス』みたいな
 所有者不明のスタンド。のつもり。
 @;アンジェロさんより以前応募いただいたオリジナルスタンドを参考とさせていただきました。
 多分細部の設定が変わるかと思いますけど、これで許して☆

~にょわー
 某たくあんさんの有名な掛け声。参照はとあるSS。
 あーあ! ここが動物の森なら完全犯罪だったのになー!

~朝倉の紹介で力尽きた
 褐色巫女は佐々木の完全な補助。彼女自身は表立つつもりは無いご様子です。
 運動部三人? じゃんけんで負けた。

~転移符
 ゆえきちの裏技。
 既に仮契約しているので、原作を忠実に再現しなくてもいいかな、と考えていたらこれを思い出した。
 パルのゴーレムは会話は出来ないけど、決められた数通りの台詞を答えられる仕様。

~せっちゃん苛めのバトンがゆえきちにw
 事情をこの時点で耳にすればコレくらいのことを言いそうだと思うんだよね。綾瀬は。ソースは学園祭での小太郎相手のあれ。
 もうやめて! せっちゃんのライフはとっくにゼロよ!


キリがいいのでこの辺で
綾瀬がネギを注目しているのは一応は教師だからです。名目上景品扱いの彼を確保しなくては、このバカ騒ぎは収められませんw
つーても狙いの大半が烏丸になったのは何故なのかw
アエエ? どーしてこーなったしw


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『乙女はオオカミなのーよー【離】』

『ほほぉ、そぉかぁ、朝倉、貴様が主犯かぁ……!』

 

『げ、げぇっ!? 関羽! じゃなくて新田先生!? 何でこんなに早く……! い、いえこれはそのレクリエーションみたいなものでして……』

 

『カモ君……キミってやつは僕に黙ってなんてことを……』

 

『げぇっ! アニキ!? い、いやこれはですね……っ!?』

 

『『言い訳無用、ちょっと来い(来なさい)』』

『『す、スイマセンでしたぁーーー!!?』』

 

 

 ジャーンジャーンジャーン! という銅鑼の音と共に部屋に踏み込んできた二人の教師にとっ捕まり、引き摺られ連れてゆかれる一人と一匹。本作戦開始10分にて胴元が捕縛されるという状況に陥り、ゲーム終了のお知らせが誰の目にも明らかになる。

 それを俺は逃げ隠れた1班の部屋の液晶にて、その一部始終を眺めていた。

 なんでここにいるかって? 新田先生を連れてくるために別館の中を走り回り、行き着いたのがたまたまここだっただけで。

 

 

「アイヤー、朝倉が捕まテハ、げーむもお仕舞いアルかな?」

 

「そうでござるなぁ、あの場で雌雄を決するというのも捨てがたいと思ったのでござるが」

 

「いや、この辺りで妥当じゃないかな。さすがに先生に捕まってまでそんな労力を割くつもりは無いよ」

 

「そもそもあんなところで麻帆良武道四天王全員がぶつかり合ったら大変なことになっていただろうしね~」

 

「「「いや、正直まき絵殿(ピンク)が一番脅威だったのだけど(ワケダガ)(でござるが)」」」

 

「えっ」

 

 

 え、なにそれ気になる。

 一緒についてきた参戦メンバーの話に耳を傾けていると、意外なダークホースが居たことに驚きを隠せない。

 

 

「なぁ……、それより、いまあのオコジョしゃべったよな……?」

 

「そうですの? 生憎わたくしには聞こえませんでしたわ」

 

「そうですね。それに今の世の中、猫ですらしゃべるのですから。小動物の一匹や二匹がしゃべったところで気にするほどでは」

 

「いやいや、あれは完全にしゃべったろ。ていうか綾瀬、猫がしゃべることは無いだろ、普通」

 

「そうですか? よくテレビでしゃべっているですよ『まぐろおいしいにゃ~』と」

 

「いや、それはそう聞こえるってだけでだな……」

 

 

 ゆえきち、その台詞もう一回頼む。ポーズつけて。

 

 

「で、なんでエヴァ姉まで居たの?」

 

「ふ、修学旅行の醍醐味といえば枕投げだろう! こんなこともあろうかと茶々丸には前日のうちに充分休養を取らせていたのでな、折を見て参戦した次第だ!」

 

「まさかエバちゃんにぶつかるとは~」

「せっかくゴール目前まで行けたのに~」

 

「お二人とも、残念でしたね。うちのマスターがはっちゃけたのが運の尽きです」

 

 

 茶々丸は相変わらず平常運転だなぁ。

 いや、そうでなくて。その内実をどうやって知ることができたのかが知りたいのだけど?

 まあ念話妨害結界とか契約陣とか敷いてあれば、その魔力を読み取るくらいできるか。

 

 

「しかし、烏丸さんが手をかしてくれるとは思いませんでした。てっきり放置するかと」

 

「せっちゃんの中では俺はどういう評価なのよ」

 

 

 周りのハナシに混じらない桜咲さんちの刹那さんが俺に話しかけてきた。

 それを何故か、にやにやと笑みを浮かべながら遠巻きに視線を向けてくる、部屋にいたチア部三人娘。

 

 

「何?」

 

「ううん、べつに~」

 

 

 声をかけても柿崎はその笑みを止めない。なんなの、ほんと。

 

 ネギ君がバナナで転んだ、その数分後にゆえきちが部屋に転移魔法で踏み込んできたわけだけど、それまでが実に散々だった。タライは落ちてくるわ、部屋の中には落とし穴が生まれるわ。ネギ君を標的にしていただけらしいから俺は無傷だったけど。

 で、ゆえきちが踏み込んだらぴたりと収まったのだけど、アレは一体なんだったのだろうか。

 新手のスタンド攻撃か? それにしてはしょうもない罠ばかりだったけどなぁ。原作での関西の妨害工作(笑)みたいな。

 

 ともかく踏み込んできた綾瀬に事情を説明してもらい、どうせならば打って出るかとネギ君には新田先生のところへと行かせ、俺はせめて被害が少なめに済むようにと参加メンバーに招集をかける役目を。部屋を出てすぐに双子姉妹とエヴァ姉が対峙していたのは、正直驚いたが。

 それからは女子の使っている別館へと、正体がばれないように天狗の面を被って走り回った。移動術で並ぶものといえば縮地くらいしか思いつかない雲耀と跳ね馬を使いこなせる俺に、追いつけるものなど居りはしない。精々新たな怪談を作れ。

 あ? 天狗の面? ネギ君が買っていたお土産の一つだ。

 

 

「さて、俺はそろそろ戻るかね」

 

「えー、もうー?

 もっとお話していけばいいのに~」

「今ならいい娘揃ってるよ~

 サイドポニーの娘とかー」

「おにいさーん、安いよ安いよ~

 三十分で五千円ぽっきり!」

 

「なんの店だよ」

 

 

 完全にぼったくられるのが目に見えた。ので、俺はそっと部屋を抜け出した(脱兎)。

 

 

   × × × × ×

 

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………おかえり」

 

「………………ただいま……」

 

 

 数分後、先ほどと同じ部屋に俺は舞い戻ってきていた。

 

 

「えっ、どうしたんですか?」

 

「うん……、無理だわ、あれ、戻れない……」

 

 

 沈黙のままに皆が視線を俺に向ける中、せっちゃんが若干驚いた表情で話しかけてきた。

 いや、あれは戻れないわ。

 女子が使っている別館と男子の使っているほうを繋ぐのはロビーだけなのだけど、ネギ君と新田先生がそこに陣取って朝倉(+一匹)に説教して正座させているんだよ。

 ひょっとしたら朝倉がゲーム内容をゲロッたかも知れん。ゲームの都合上ネギ君の部屋がある隣へはあの通路を使わないと行けないわけだし。道連れを一人でも多く引き込むつもりか。汚い。さすがパイナップル、汚い。

 先生方の見回りが終わる頃を見計らって移動するくらいしか手段はねぇなぁ。転移魔法使おうにも、転移先に誰がいるかわかったものでも無いし。

 

 

「つーわけで、しばらくここで暇を潰すわ

 女子トークに混ぜてー」

 

「お、語っちゃう? 好きな人のこととか聞いちゃうよ?」

 

「ごめん、やっぱ別のにして」

 

 

 すぐさま反応したのは柿崎。

 しかし、俺はそれを聞いて即座に意見を翻した。

 さすがに、ねえ?

 

 

「じゃあじゃあ、枕投げしよぉ~!

 ちょうど枕もいっぱいあるしっ!」

 

 

 椎名がそんな提案をする。

 さ、さすがは桜子大明神さまやでぇ。

 能天気の塊のような発言!

 男子が混じっているのにそんな発言が出来るとかマジぱねぇ! そこに痺れる憧れる!

 

 

「おお! それはいい考えアルな!」

 

「それでは始めるでござるか

 賞品が無ければチームわけも要らないでござるし」

 

「そうだな、ただ力の限り目標にぶつける

 枕投げ本来の仕様で充分さ」

 

「あ、最低限声を抑えろよ

 無効試合後に捕まるとかどんなバカでもしねえぞ?」

 

 

 あれよあれよという間に決定されてゆく。枕投げ会場はここですか? な空気。

 えっ、みんな抵抗無いの?

 正直おんにゃのこの浴衣姿とか目の前に並んでいるのって、結構揺さぶられるものがあるのですが、心とか。

 ……俺が不純なのかな……。

 

 

「あの、本当に大丈夫なのですか?」

 

「ん、まあ、時間つぶしに付き合ってくれるなら、何でも文句無いけどさ」

 

「じゃあ決定だね~」

「ボクらの分身魔球をとくとごらんあれなのです~」

 

 

 綾瀬に尋ねられ、応えれば双子姉妹がそんなことを言った。

 あー、原作でもやってたね。あれかー。

 微笑ましい気持ちでのんびりと対応してしまう。あ、そういえば俺枕持ってなかった。

 

 

「それでは僭越ながら、わたくしが試合開始の合図を、」

「雪広、俺の枕とかs」

「はじめ!」

 

 

 小声で開始の合図を叫ぶ。という器用な真似をする雪広。

 いやそれよりも俺の質問に答えてほしいのだけど。

 と、そんなことを口に出す前に、

 

――部屋の中のありとあらゆる女子らから、一斉に枕(殺気)をぶつけられる俺がいた。

 

 

 




~タイトル
 Qだと思った? いいえ、私は真打ち派。
 ねえどんな気持ち? 予想を裏切られたのってどんな気持ち? ねぇねぇ? ねえってば?

~キングクリムゾン!
 過程をすっ飛ばし、結果だけが残される!
 いつから原作通りにゲームが進められると錯覚していた……?

~意外すぎるダークホース
 カンフーのイエローに分身などができる忍者のブルー、そしてスナイパーの褐色巫女。
 しかし、俺らのまき絵さんは枕をリボンでつかんで自由自在に操れる! その動きはまさにゴ●ラに対抗するビオ●ンテの如し!
 なんという触手プレイ。

~やっぱりいました
 エヴァェ……。いや、参戦理由はまっとうだったご様子ですが。
 なんか京都に来てからはっちゃけてるなぁ、うちのエヴァは。(すっとぼけ)

~せつなさん
 未だにぼっちだった頃の印象がクラスメイトからは抜けていないのか、男子とお話しするだけでにやにやと意味深に眺められます。
 ぼっちなんじゃないよ!「私は一人でも大丈夫です(キリッ)」っていう中二にはよくある精神だったんだよ! ほら! 孤高な俺かっこいい、とかって考えたことあるよね! みんな!(おい、やめろ)

~浴衣姿の天狗
 どう見ても変態です。本当に(ry

~そして、伝説へ
 枕投げ大会(目標・男子一名)、開☆催。
 打ち合わせをしていたわけではない。そらが戻ってくるなんて思ってなかったし。
 目線で合図をして暗黙のうちに決定した。団結力が試される。多分せつなさんは此処でも一歩遅れてるかもしれんけど。


短いかな? まあキンクリすればこうなるよね
さくさく読んで欲しいのでこんなん出来ました
そしてせつなさんの扱いがひでぇ。どうしてこうなったのか、俺が教えてほしいくらいだわ
でも原作でも刹那ってこんな感じじゃなかったっけ?

序破離、と三分割にしたラブラブキッス大作戦ですが、実はもうチョットだけ続くんじゃよ
蛇足の一回を次に載せて、それからIFの3を載せようかと思います
もうちょっとだけ舞っててね!



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『乙女はオオカミなのーよー【蛇足】』

スタンドバトル?なにそれ美味しいの?


『王さまだーれだっ?』

 

「わったしー! 奏者よっ、愛でよ~っ」

 

 

 おい、なんか違う王様混じったぞ。

 明日菜とかこのかとかの5班も混じった1班の部屋にて、色つきの割り箸を掲げてドヤ顔している桜子大明神様がいた。なんかどっかの恥女王とか混じっている気もするけど、可愛いので許す。

 というか、気がついたら王様ゲームが始まっていた。

 

 武器を持たずに一方的に標的にされるだけの枕投げが始まったと思ったら途中で5班の残りの面子がやってきて、へるぷと泣きつけばこの様だよ。

 いや、なんか茶々丸とかがどう見ても丸太にしか見えない禅寺の修行枕とかいう代物を引っ張り出してきたのを目にすれば、それと比べればずっとマシな現状なのだけれども。

 女子と混じっての王様ゲームとか、後々男子への遺恨を遺しかねない。どうあってでも隠し通さないと。Code:1、いのちだいじに。

 

 

「それじゃあ~、メガネの子は男子にひざまくら~」

 

「せめて王様ゲームの体裁は保とうぜっ!?」

 

 

 あらやだ桜子大明神様ってば初っ端っからハジケすぎぃ……ッ!

 

 

「メガネかー、あたしか千雨ちゃんだね?」

「男子の頭はひとつしか無いし、じゃんけんだな」

 

「ちょ、なんか不穏な会話してるんだけど!?」

 

 

 頭って!? 聞きようによっちゃ標的扱いなのが変わってないんすけど!?

 

 

   × × × × ×

 

 

『王様だーれだ!』

 

「あ、私だ。それじゃあ……

 ミサーシュ・ヴィ・カキザキニアが命じる!」

 

 

 語呂悪っ。

 膝の素振り、というなんかムエタイの踊りみたいなことをしていたちうたんから全力で逃れることとりあえず一分。頭の横を膝が通過し空気を切るという、日常ではありえない経験の後、二人目の王様はミサミサ。

 とりあえずさっきから王様キャラで宣言するのは仕様なのか?

 

 

「ツインテールさんは色黒の子にだいしゅきホールドしろっ!」

 

「止めろ! 王の力はお前を孤独にするぞっ!」

 

 

 だから、せめて王様ゲームの体裁は保てよっ!?

 割り箸に割り振ってある番号ってなんの役に立つんだよ!?

 

 

「ツインテール……えーと、アタシ?」

「あたしもかな~」

「ボクもだね~」

 

 

 ほらぁ、三人いるじゃんツインテール。

 

 

「いや、桜子とふーかはツーサイドアップだし、対象は明日菜じゃないかな?」

 

「余計なことを言うなヒューマン!」

 

 

 まどかっちがほんと余計なこと言った。

 だが残念だったな! 色黒キャラは俺だけじゃねえっ!

 

 

「出番っすよ龍宮さ……ん?」

 

 

 あれ、いつの間にかいなくなってるんだけど……?

 

 

「あ、あの、マナとまき絵さんは枕投げの後にすぐに部屋に戻りましたけど……」

 

「……マジで?」

 

 

 改めて見てみれば、古とか長瀬とか雪広とかもいなかった。

 

 

「うん、まあ、し、仕方ないわよね

 ……ほら」

 

 

 ん。と腕を広げる明日菜。

 ……どーすりゃいいの、俺?

 

 

   × × × × ×

 

 

『王様だーれだっ』

 

「あ、うちやな~

 ぶるぅあぁ~」

 

「お嬢様!?」

 

 

 このかさんが、しゃるるさんに……。

 思えば、このときに逃げておいたほうが良かったのかもしれない……。

 ちなみに明日菜はさっきのことで茹蛸になった。多分今夜はもう再起不能。

 ……飲茶シヤガッテ……。

 

 

「ほんなら、色黒の子がー」

 

「だから、せめてゲームの体裁を……っ」

 

「サイドポニーの子にキッスやなー」

 

 

――一瞬の、静寂。

 その後に、広がってゆく波紋。

 

 

『――お、おぉ~……』

 

 

 冷や汗がどばぁどばぁと背中に流れる。

 一番恐ろしいのはこのかだった……っ!

 

 

「ほら、せっちゃん」

「え゛!? そ、それは絶対なのですか!?」

「そやなー、王様の命令はー……?」

 

『ぜった~い』

 

 

 口を合わせるように全員(内再起不能を除く)がこのかの台詞の後に続いた。

 エヴァ姉までっすか……!?

 

 だが残念だったな!

 この烏丸そらのもっとも得意とすることは、優位に立っている者に対してNOと言うことだっ!

 

 

「まあまあそらっち」

「に、逃げちゃだめだ~、ですよ~」

 

「は!? 離せ貴様らぁ!?」

 

 

 じりじりとふすまの方へと距離を取っていたら、いつの間にか早乙女と宮崎に退路を塞がれてた。

 こ、こいつらいつの間に移動した!?

 くそっ、こんな乱●パーティ会場みたいな所に残っていられるか! 俺は部屋に戻るんだっ!

 

 

「おおっと、足が滑りました。すいません」

「え、はわっ?」

 

 

 な、なにぃぃぃ!!?

 綾瀬が桜咲に足払いだとぉ!?

 

 

「す、すいません……」

 

「え、あー、いや……」

 

 

 トサッ、と俺の胸に飛び込む形になった桜咲。

 女の子の肢体の柔らかさに逃げることが出来なくなってしまうけど、さすがにそのままラッキースケベみたいなキスには至らない。支えるくらいの体幹はあるっつうの。

 

 

『キース! キース! キース! キース!』

 

 

 外野、うるさい。

 

 

「え、えと、どうすればいいのでしょうか」

 

「いや、離れろって。このままなのも嫌だろ? 桜咲も」

 

 

 この娘も突然の距離感に戸惑っているご様子。

 男慣れしていないにもほどがあるだろ、お前。部活ではどうしてるんだよ。

 

 

「おおっと、足が滑ったぁ!」

 

「甘い」

 

 

 バキィ! という音が鳴るくらいに、ちうたんが俺の向こう脛を蹴っ飛ばした。

 が、そのくらいで崩れる体幹じゃねえって言ってんだろうが。

 

 痛そうに蹴飛ばしたほうの自身の足を押さえるちう。

 ザマァ――、

 

 

「盛大に手が滑りました」

 

「「――はっ!?」」

 

 

 ズガッ、と足を払われる。

 自重を支えきれなくなり倒れるそのとき、視界の隅に見えたのは、修行枕を横に薙ぎ払う茶々丸の姿だった。

 

 き、貴様ぁぁぁぁ!!!?

 

 

   × × × × ×

 

 

「………………セクハラは犯罪だぞ……っ」

 

「女子からのならセーフだよっ!」

 

 

 そんなわけあるか。

 

 

 




~奏者よ、愛でよ!
 赤い騎士王。青はオワコン。


え、これで終わり!?
と思ったあなた。ええまあ、蛇足なので
膝枕とキッスのフラグはなんとか回収できたはず
5000文字の半分も無いって・・・あははー

そしてお待たせしました
次回、IFルート【その3】


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『IFルート【その3】』

あなたの知らないりりかるなのは


「武装錬金! 焼き尽くせ! ブレイズオブグローリー!」

『俺のこの身が真っ赤に燃えるぅぅぅ!!!』

 

 

 麗の所持しているデバイス『20号』が、叫ばなくていい台詞を吐き本来の性能を起動する。

 彼女としても、今日のところは文句を言ってる暇もないので、心の中で呟いた。自重しろ、火渡。

 それはともかく。

 起動した核鉄本来の性質である『炎熱同化』をその身で再現した彼女を筆頭に、彼らは臨戦態勢を取る。

 

 対峙するは邪神の顕現。

 幼い少女の姿をした、歪な笑みを浮かべているその存在『ナイアルラトホテプ』を取り囲むように、『魔法少女』らの準備は整いつつあった。

 

 

   『【まにあむけりりかる】(疑問)』

 

 

 取り囲むのは『魔法少女プリティ☆ベル・高田厚志』に『闇統べる王・ロード=ディアーチェ』『夜天の守護騎士ヴォルケンリッター』らを筆頭に、金髪の転生者・涌井天馬と青髪の転生者・淀橋虎丸。それらに混じり、中学生くらいの容姿でありながら何の因果か魔法少女をやっている千里塚麗・前世の名を長谷川千雨が、広範囲に手を届かせるように炎の壁を作る。

 そこから距離を取り、ナイアルラトホテプからリィンロッドを回収して変身した『真魔法少女プリティ☆ベル・高町なのは』に若干露出狂の卦が気掛な少女・フェイト=テスタロッサと銀髪の転生者・埴谷正一、そして最終防衛ラインはなのはそっくりな少年・泉井美月だ。

 バッグには時空管理局の次元航空船(修理中)もいるが、本来マスコット的存在であるはずの小動物・ユーノ少年の話では、彼らは元いた世界を追い出された全時空にて懸賞金まで賭けられているテロリスト扱いの信用できない集団なので、この前線に無理を言って出てきてくれなくて彼らとしては正直ほっとしている。それでも見張りの意味合いも兼ねてユーノ少年と狼幼女アルフを更に後方にて控えさせているので、彼らがモーションを起こせば即座に対応できるため、魔法少女らは最大火力を邪神へと宛てられるのである。

 

 さて、何故一息に詰め寄らないのかというと、人質がいるからだ。

 夜天の書本来の主である夜神はやてが、本と一緒にナイアルラトホテプに捕まっているからだ。

 しかもなんかぶつぶつと呟いているのは、SAN値が下がっているかというか、『何か』を解放しようとナイアが小細工を弄したのが現状。

 もっと正確に言うならば、夜天の書に封じられているという最悪の魔導書の封印を、ナイアルラトホテプがこじ開けたのが原因だ。

 件の書は、正確に『読み解』かなくては封印を開けない、というガッチガチに夜天の書に縫い付けられた一冊で、そもそもそれを封印するために今の『闇の書』と呼ばれるような現状になったのだとか。バグだとか言われているその部分自体が封印のための仕様だとか。それを手に入れるために試行錯誤していたのがナイア本来の狙いだったのだとか。まあ、色々込み入った事情が出揃ったわけであるけれど――。

 とりあえず、攻めあぐねているのが現状。

 どうしたものか、と誰もが思う。

 

 

「んふふふ、これだけ並ぶと壮観だねぇ

 真・疑のプリベルだけでもオーバーキルなのに、夜天の騎士とバグの顕現。SSS+の魔力所持者に過去の英雄に匹敵する槍使い、そしてほぼ無限に近しい炎を扱える焼夷弾の顕現に、ど本命は手数の数え切れないサイキッカー

 リィンロッドが手元に無いのは、正直やばいかな?」

 

「黙れ邪神。大人しく小狸を引き渡して縛につけ

 この戦力差で、勝てると思うか?」

 

 

 不敵に邪悪に笑みを歪める少女の姿の邪神に応えたのは、バグと呼ばれた闇統べる王。

 そして銀髪君にも焦点を当てて欲しい。確かに、聖剣・魔剣の創造なんていう能力を持っているのに今まで実質役立たずだったために、スルー仕様は仕方ないとは思うけれど。

 そんな風に麗が、正一への評価の低さに、ひっそりと心の中で涙を流していた。そのとき、

 

 

「んふふふ、まぁねぇ

 でもボクはこのまま引き下がるつもりは無いからねぇ……

 ――みせちゃお」

『禁鞭』

 

 

 その言葉とともに、ナイアの足元に多量の魔方陣が出現。そこから極太の触手のように勢い良く吹き出してきた『それ』に――、

 

 

「! 散れッ!!」

 

 

 厚志の言葉で、全員が咄嗟に距離を取った。

 捕らわれたものも弾かれたものもいない。が、醜悪な結界のように縦横無尽にナイアの周囲を囲むそれを、何人かは良く知っている。

 

 

「『禁、鞭』……?

 なんで宝貝が……っ!?」

「あいつだ! 白のやつ!」

 

 

 それを能力として得ていた転生者が一人いた。

 他の二人と一緒に行方不明となっていたのだが、この場面で敵対するとは何を考えているのか。

 そう思っていた彼らの予想を裏切るように、魔方陣から出現してきたのは件の少年だった。

 但し、2・30人くらいに増量して。

 

 

「「「「はぁっ!?」」」」

 

「んふふふ、スーパー宝貝の召喚能力だっけ?

 呼び出せても基本的に使えない少年だったけど、連続使用が無理ってだけだったみたいだしね。コピー&ペーストでとりあえず量産してみたんだ☆

 ま、リィンロッドが没収されちゃったから、これ以上は増やせないけどね」

 

 

 驚愕する彼らを他所に、白髪の転生者・海常礫達(・)が一斉に、それぞれが超攻撃力の漫画兵器を行使する。

 

 

『禁鞭』 『雷公鞭』 『金蛟剪』 『盤古旛』 『六魂旛』

 

「「「「ちょ、おま!!!」」」」

 

 

 対処しきれず、彼らは散り散りに逃げ出した。

 麗は慌てて炎熱同化を解除する。

 ブレイズオブグローリーは炎と同化している限り無敵の攻防一体術を顕現できるが、『雷公鞭』が相手だとどうなるか予想がつかない。その能力は雷を使う上に攻撃力は全宝貝第一位。炎自体が塵にされれば、それと同化している麗も一緒に死んでしまう。

 

 案の定、余りにも比類なき攻撃力に、取り囲んでいたはずの全員が成す術なく逃げ惑う。

 不幸中の幸いは同じ宝貝は呼び出せないらしい、ということだったが、だからこそもっと気を配るべきだったのだろう。

 

 

『――傾世元禳』

「えっ……」

 

 

 高町なのはの背後に、それがいた。

 

 

「げっ、やばい!?」

 

「――神威、召喚」

 

 

 洗脳特化の宝貝『傾世元禳』によって一時的に脳を洗われ、目に光の無くなった高町なのはがリィンロッドを振り上げて呟く。

 

 

「飛竜≪ワイバーン≫」

 

 

 魔力が渦となって空気を揺さぶる。

 その中心に呼び出されるのは、

 ――比類なき巨体、

 ――全身を覆う鋼よりも硬い鱗の表皮、

 ――どんな空戦戦力をも上回るスピードで飛びまわれる翼、

 ――何物をも焼き滅ぼせる息吹を吐き出し、爬虫類を描けと言われれば真っ先に紡がれるであろうフォルムの、そのもっとも原始的且つ理想的な、誰もが色濃く妄想できるであろう神話上の恐怖の象徴。

 『もっともドラゴンらしいドラゴン』が、そこに呼び出された。

 

 

『GOAAAAAAAAAA!!!!』

 

 

 理不尽を上回る理不尽。

 不条理を打ち破る不条理。

 それが、莫大な魔力量を誇る高町なのはの変身する、『真・魔法少女プリティベル』。

 

――その特化戦力が、よりにもよって敵に回る。

 転生者たちがほぼ全員絶望した瞬間だった。

 

 

   × × × × ×

 

 

 うわああああ、最悪最悪最悪、最っっっ悪だ!

 よりにもよって高町が敵側って、冗談にしてもワラエナイ!

 とりあえずこの瞬間20号は核鉄本来の性能を扱えないことが確定した。妥当な攻撃力なら炎熱同化で回避できるけど、ワイバーンの攻撃力はどう見繕ってもオーバーキルですホントニアリガトゴザイマシタァ!

 つうかどうやって倒せばいい?

 

 

「あ、これ詰んだわ」

 

「ちょっ! ちうたん!? 諦めるのはやすぎっしょ!?」

 

「ちうたんいうな

 つか無理だろ、ワイバーン倒せてもスーパー宝貝軍団がいるし、そっちに対抗戦力割り振ってもなぁ……」

 

 

 淀橋が槍で禁鞭を捌きつつそんなことを叫んだけど、肝心の対抗できる戦力があたしの知る限り一人しかいないのが一番痛い。

 

 

「美月、なんとかできるか?」

 

 

 その唯一の対抗可能戦力にハナシを振ってみた。

 若干思案するような表情にも見えるが無表情に近い、肩にトカゲを乗っけた高町なのはそっくりの少女。この集団の中では一番の年下で、実はヴィータよりも身長が低い。だが、男だ。

 但しその戦闘力はこの中では対抗できるのがいないくらいに高い。基本武装は掌握領域で、それで再現したビスケットハンマー(小型版)を扱うのだが、そのハンマー自体概念武装に近しいのでそれで叩けばいいんじゃないかとも思える。

 しかし、

 

 

「無理かと

 あそこまで巨体なものに対抗するには、泥人形でもポジディオンクラスを創る必要性がありますし。そのためには時間が圧倒的に足りませんし

 それに、それに匹敵する掌握領域を使うとなると、ボク一人じゃまず無理です」

 

「再現領域は? つーかビスケットハンマーじゃ無理なのか?」

 

「倒せると思いますけど、倒した端から再召喚されるとやっぱり体力的にきついです

 まだなのはちゃんも抵抗しているようなのでワイバーン一体で済んでますけど……

 あと、再現領域は一回発動ごとに一発が限度です。いちいち再構築する間に夜天の書の封印解除が済んでしまいます」

 

「だよなぁ……」

 

 

 あたしらの最終目標はナイアルラトホテプの陰謀の阻止だ。

 高町なのはを倒すことが目標ではないので、言い方は悪いかも知れんけどワイバーン一体に感けている暇はない。

 なんせ件の書が読み解かれれば、『すべて終わる』らしいし。

 そもそも目標の魔導書とやらがどういう代物かは、まあ美月は知っているらしいがあたしらはナイア以外誰も知らない。そんなのそもそも原作に出てこない設定だし。いや、今更原作どうこう言うのは間違っているというのはわかってるんだけど、でも泣き言くらい言わせてくれよ。

 どうしてこうなったし。

 

 

「おい! はやてがいねーぞ!」

 

「ナイアもだ! 多分転移した!」

 

「む? 銀髪はどこにいった?」

 

 

 でぇぇい、全員でいっぺんに聞くな!

 しかし、聞かれた情報を元に20号で消えた者ら全員の居場所を検索。こういうのでは認めたくねえけどあたしのコイツが一番早い。

 

 

「ユーノとアルフからだ、ナイアとはやては次元航行船内部、やっぱりあいつらつるんでやがったな。まあ、修理中だからすぐに逃げられることは無いだろうけど

 埴谷は交戦中。見るに、こいつは赤髪だな。あいつもナイア側か」

 

「……やばいのではないか? 正一に灰倉を倒せるとは思えん」

 

 

 涌井がそんなことを言うけど、一対一で抑えてくれてるんならそれが一番いい。

 多分、埴谷もそれを狙ってやっているかも知らん。

 

 

「一応、相手が相手だからな。あたしらが対応に乗り出しても対抗武器が無い。

 灰倉鐙の能力は『万物の選択』だし、埴谷に教えておいた対抗策以外だとやっぱり一対一が一番妥当だよ」

 

「対抗策?」

 

「それは、

 ――っ!? 厚志さん離れろっ! 次元転移で誰かやってくる!」

 

 

 デバイスの20号が表示した情報に、慌てて一番隣接していた厚志さんに檄を飛ばす。

 敵対していたときは恐ろしかった肉弾戦車のマッチョな魔法少女が、筋肉の鎧で弾き飛ばしていた海常らをいったん引き剥がし全速力で離脱する。

 そこに転移陣が出現し、そこから現れたのは怪獣だった。

 

――一瞬。

 思考が考えるのを放棄する。

 

 え、なにあれ。

 

 

『KYOAAAAAAAA!!!』

 

 

 ライオンに翼が生えた姿の、身の丈50メートルはあるであろうワイバーンに匹敵する大きさのキメラが。そのままワイバーンへと踊りかかり動きを封じる。

 その様子を見てさすがに驚いたのか、海常らが動きを止めた。

 それらを更に縫い止める人物が現れる。

 こちらもまた、原作にはいないはずの日本人形のような格好の女性が、動きの鈍くなった海常らを次々に石化してゆく。

 うん。石化だ。

 影響力と威力が桁違いなあれは、魔法以上の手段でやっているのではなかろうか。

 何処か、美月に近しいバグの気配を感じる気がした。

 

 

「………………味方、でいいのか?」

 

 

 先立って戦闘していた転生者組みが、思わず距離を置いてその戦場を観察する。

 ヴォルケンズと厚志さんも同様だ。

 そして、その攻撃に抵抗するかのように、ワイバーンがブレスを吐き出す。その動作に一歩反応が遅れた。

 

 

「――って、やばい! ブレスが来る!?」

 

 

 叫んだときにはもう遅く。

 ものみな焼き尽くす破壊のブレスが、その余波が、一纏めになっていたあたしたちに一斉に襲い掛かってきた。

 

――が、

 

 

「鉄壁シーーーールドぉぉぉ!!!」

 

 

 それを防ぎきる、そんな桁違いの障壁を持つ人物が、あたしらの前に現れて攻撃を凌いでくれた。

 

 その人物は、……どうやら女性らしい。

 

 

「――ふむ、本来魔法文化の発展していない辺境の地で、このような威力の攻撃ができるとは

 末恐ろしいものが居たものだな。管理局に所属していないと助かるのだが」

 

 

 攻撃を防ぎきったことを確認すると、中腰の姿勢から立ち上がり、凛とした佇まいを見せるのは騎士のような甲冑姿の女性。

 貌は完全に兜で覆われ、胸当て、手甲、脚甲でそれぞれ武装しているが、武装していない二の腕や太もも腹などの部分は女性の柔肌を見せている。更に口ずさんだ声音から、恐らくは女性。

 そんな彼女は、呆然とするあたしらに言い聞かせるように、声を張り上げた。

 

 

「私の名はタロス、ミッドチルダ防衛戦団、順位6位にして第6部隊隊長、ひと呼んで『鉄壁タロス』!

 そしてあちらは同じく、防衛戦団第4位『獣神ヘカーテ』に、第10位『メデューサ市松』!

 管理局がこの地に逃げ込んだと聞き追撃に参った次第だが、戦力が足りないというのならば手を貸すことも吝かではない!

 よく見ておけ少年たちよ、これがそれぞれ防衛力第一位、殲滅力第一位、捕縛力第一位の比類なき実力だ!

 力仕事もこなせると見せて実は家庭的、そして、ちょっぴり餅肌なお姉さんの『鉄壁』を! 説くとその目に焼き付けろ!」

 

 

 ………………うん。

 言いたいことはわかった。

 この土壇場で戦力が増えたことも喜ばしいよ。

 

 タロスさんとやらは言いたいことを言うと、再び残っている海常らの残党を処理するように『鉄壁』を展開しつつ戦場へと舞い戻ってゆく。

 それじゃああたしからも、言いたいことを一つ言わせてくれ。

 

――他人の星で最終戦争始めるなっっっ!!!

 

 ほんと、どうしてこうなったんだろうなー……。

 

 

 




~いつからIFがネギまのみだと錯覚していた……?
 ありとあらゆる予想を振り切って書き上げたこれじゃない感。
 描く見通しが一向に浮かばないために、この場にて掲載した次第。
 原作通りのちうたんを妄想したひとには悪いかも知れんけど、格好は原作仮契約の魔女っ子コスなのでそれで許してね☆

~最初からクライマックスだ!
 この場に至るまでに色々と紆余曲折があったわけだけど。
 うん。ポカンとするのは良くわかるから、そのもの言いたげな視線は感想にぶつけてください。

~転生者組みはともかくさー……
 とりあえず、『魔法少女プリティベル』と『封神演技(フジリュー)』、『惑星のさみだれ』に『忘却の旋律』を読むことをお勧め。どれも漫画なので、それほど難しいものではないかと。
 あとは『D-Grayman』かな。

~泉井美月
 この世界線においての最大戦力でありバグ。
 一応転生者なのだけど、掌握領域は転生特典ではないらしい。
 見た目は完全になのは似の美少女。正直言葉遣いも相俟って星光さんことシュテルにしか見えない。だが、男だ。
 一応最終戦直前までは味方の振りをしていた管理局の、次元航行船に穴を開けて修理中にしたのはこいつが原因。

~主人公とか闇の書とか
 なんかほぼ空気。
 詳しくは別枠に載せるね。

~みんな目が死んでる
 主に転生者組みが。
 チカタナイヨネ。


IFのルート3、いかがでしたか?
絶対に皆様の期待したものではないと、自信を持って言えます
どーしてこーなったしw

まあ、あれですよ。バレンタイン辺りにちうたんがぼやいていた夢の続きです
並行して進められれば良かったのですが、そんな実力は俺にはねぇ、ということを思い知ったのでこうしてやりました
描きたかったんだよ。仕方ないんだよ

【まにあむけりりかる】の詳細はいっそ『思いつき二次創作』のほうへと載せます
その際に色々とネタバレなことを一緒に載せますので、途中まで進めていた本編は多分消します。大体一週間くらいを目安に
誰かこれを参照に形に起こしてくれると嬉しいなー(チラッチラッ

さて、後残るは高音さんの話ですか
今度こそネギまを書きますので、あんまり期待しないで待っててください
では、次回は本編です


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『前回余りにも的外れなことをやっちまったことをここにお詫びします。でも、後悔はしない』

今回はきちんとネギまですので


 

 

「あ゛ーーー……」

 

 

 朝食時、非常に気だるげな様子で長谷川が息を吐き出した。

 昨日は膳で女子や男子はクラスごと別々に並んで食べていたのに対して、本日の朝食はヴュッフェ形式。自分の分を取ってきたちうたんは、何故か人の隣を陣取っていたりする。

 

 

「どしたん? 寝不足?」

 

「いや、ちょっと夢見が悪くてな……」

 

 

 また? 確かバレンタインの頃にもそんなことを言っていたような気がする。

 

 

「マッチョな魔法少女にクトゥルフの邪神と宝貝と幻想種のオンパレードで海鳴のキャパがマッハ……」

 

「……なんぞ、それ?

 あー、以前に言ってた件の夢となんか関係してんの?

 案外別の世界線のちうたんの記憶を読み取ったリーディングシュタイナーだったりしてな」

 

 

 フゥーハハハ! 我こそはムァーッドサイエンティスト! その名も鳳凰院血雨! と高らかに叫び声を上げる白衣のメガネを幻視する。

 ……あれ、意外と似合ってね?

 

 

「いや、まさか、そんなはずはねえだろ。夢だよ夢……

 あとちうたんいうな」

 

 

 そう? 面白そうなのだけど。

 

 

「ところで今日のご予定は? 俺らは特に決めてないから参考にしたいのだけど」

 

「あー、確かいいんちょが今日こそネギ先生と一緒に行動したいとか言っていた記憶が――」

 

 

 まあ、あんまり掘り下げても大変そうなので話を横へシフトさせてみた。

 どっちにしてもエヴァ姉の要望で行き先が決まる気がするけど、話題としてこれ以上のものは無いと思う。

 

 

   × × × × ×

 

 

「ほぉ、映画村か」

 

「うん。ネギ君がいいんちょに誘われてなー、いっしょにって誘われたんよ」

 

「……ネギ君に?」

 

「そやえ」

 

 

 身の危険でも感じ取ったのだろうか。

 なんだか3班と5班が同時出向してとんでもない人数になりそうだが、うちの班も誘えば総人数は二十に届きそうなくらいに跳ね上がる。

 聞かなかったことにしてエヴァ姉の思考を逸らそうか。いや、無理か。

 

 しかし、件の映画村と関西呪術協会の本山である昆神社は距離的に間逆の方向。親書の件はどうするつもりなのだろうか。

 ……まさか忘れたことにして遊び倒す腹積もりじゃなかろうな、あの葱坊主。

 

 

「お嬢様、此処でしたか」

 

 

 桜咲が現れた、と思ったらこれまでと違う距離感でこのかに話しかけてきた。

 あれ? 何か心境の変化でもあったのか? 昨日の昼頃までは随分と距離を取っていたような気がしたのだけど……。

 

 

「あ、せっちゃん、どうしたん?」

 

「宮崎さんが早乙女さんを説得するのを手伝って欲しいそうです、なんだか雪広さんに負けてられないとか言い出して煽るのを止めて欲しいとか」

 

「あー、そんならうちのとーるはんまーの出番やな」

 

「いえ、そこは穏便にしたほうがいいのでは……」

 

 

 懐からとんかちを取り出すこのかに、若干声音が引き攣った様子で抑止しようとする桜咲(震え声)。

 そんなの関係ねえ、とばかりに駆け出すこのかは、思い出したように含み笑いを桜咲に見せた。

 

 

「まあまあ、こっちはうちがなんとかするし、せっちゃんはそらくんとゆっくり話しとってや? あとは若いお二人に~」

 

「え。いえ、それほど話すことも、ってお嬢様ー?

 ……あぁ、行ってしまわれた……」

 

 

 遠くを見やる桜咲に視線を向ける。

 正直昨日のことで若干申し訳なさも残るのだけど。まあ何とかなる。聞いておきたいことも一応はあるし、平常心平常心。

 うむ。一回昨夜のことは忘れよう。

 

 

「あー、桜咲? お前このかと何かあった?」

 

「え、いえ。お嬢様とは特に何も」

 

「じゃあその距離感の変化はなんだ? 護衛とか言いながら護衛対象と距離を置いていたのは、他でもないお前じゃなかったっけ?」

 

 

 町に出たときとか、このかと俺が顔つき合わせていたときに遠くからちら見する殺気を感じていた俺が言うのだから、そう的外れなことではないと思うので聞いてみることに。

 

 

「ああ、そのことですか

 ……綾瀬さんに、ちょっと反省を促すようなことを……」

 

「説教でも受けたか」

 

 

 翳りのある表情で呟いたので突っ込んでみれば、更に目線をあさっての方向へと逸らす。図星かよ。

 

 

「まあ、一緒に行動するのは悪いことじゃないと思うけどな。結婚おめでとう」

 

「してませんよ!? そ、そもそも二人の間にはそれはそれは大きな身分の差が……!」

 

 

 気になるのは身分だけか?

 

 それはともかく、桜咲のほうはこのかとのこと以外では何かを気にしている素振りもない。

 ……あっれー? ひょっとして昨夜のことを気にしてるのって俺だけ?

 むぅ、自信過剰だったか……。

 

 と、思案していると電話が鳴る。

 正確には念話専用のコール音だけど。チャチャチャチャ、チャチャチャ、チャーラー。と響く音を理由に。

 

 

「済まん、電話だわ

 あ、もう聞くことも無いし、お嬢様のところへ戻っていいぞー」

 

「ぞんざい過ぎやしませんかね……」

 

 

 そう言いつつも、場から離れることに苦言を云わずに去ってゆく桜咲。

 いや、俺のほうが気にしちまいそうで。

 

 離れてゆくせっちゃんのサイドポニーを眺めつつ、意識を切り替える。

 

 

「さ、て

 もしもしさよちゃん? なんぞあったかね?」

 

『あ、そらさーん?

 昨夜何か私が寝ているときに食事とかしました? なんだか柔らかいものが口に触れた感触があったのですけど、肉まんとかプリンですかね?』

 

 

 ……思い出させないでください。

 

 

   × × × × ×

 

 

 ぶつくさ言いながらもその場所を離れるせつな。

 そのまましばらく歩き、廊下を曲がる。周囲に誰の姿も見えなくなったことを確認すると、不意にその場にて壁へと寄りかかり顔を押し付けて、

 

 

「―――にゃぅぅぅ~……!」

 

 

 なんだか艶めかしいような可愛らしいような呻き声を上げつつ、真っ赤になった顔面の温度を下げたいのか、そのままぐりぐりとひんやりと涼しく感じる壁に顔を押し付け続ける。

 どう見ても奇行のそれなのであるが、せつなは今とてつもなく恥じていた。

 彼女だって昨夜のことを忘れたわけでなければ、無かったことにするには余りにも衝撃的過ぎた。

 麻帆良に来てからこの二年弱での交友関係など、剣道部に所属しているものの麻帆良では常時帯刀していても問題の無い口実のためであって、まともな部活動に参加した記憶など無いに等しいし。魔法生徒とは仕事上の付き合い程度の交流であり、プライベートは基本的に遠距離からのこのかの護衛()くらいしか行ったことしかない。

 有り体に言うならば、男子との付き合いなんぞ想定したことすらない。それなのに、昨夜はこのかの命令とはいえ――、

 

 

「ふにゃぁぁぁぁ……!」

 

 

 事故のような形とはいえ、重なった瞬間の感触を思い出し、尚更奇行がヒートアップする。

 先ほどの邂逅だって平然を装えたものの、心の底から平気だったわけではない。

 むしろ早く離れたかった。

 しかし理由も無しに離れるには無礼すぎるかと心の片隅でそんな理由が浮かんでしまったが最後、自分から離れることが出来なくなっていたのだ。

 

 それにしたって酷い。

 何がというのは、当然己の現状。

 同い年の男子に耐性が無いとはいえ、こんな姿をもし誰かに見られでもすればまたどのような印象を与えてしまうのか――、

 

 

「――……」

 

「」

 

 

 ――そこまで考えたころにはもう遅かった。

 

 ぎ、ぎ、ぎ、と視線を感じて首を曲げれば、その廊下の先には、

 

 ――にやにやと笑みを浮かべている柿崎美砂の姿があった。

 

 

「」

 

「」

 

 

 どちらも無言。

 しかし、その表情には雲泥の差がある。

 

 せつなは余りにも妙な姿を目撃されたということで絶望的な表情を浮かべているのに対し、美砂は「言わずともわかってますよ」的な。

 うんうん、と頷きながらも、その表情は笑みを浮かべるのを止めやしない。

 そのままフェードアウトしようとする美砂。

 その動きを見、慌ててせつなは叫んでいた。

 

 

「ち、ちがっ! 違うんです! 違うんですよこれはぁっ!」

 

 

 釈明にもならない絶叫は、空しく無人の廊下へと響くのみである。

 

 

 




~鳳凰院血雨
 ネギま(原作)を終えた三十路手前のちうが、えるぷさいこんぐるぅする二次創作とか思いついたのだけど。

~着信アリ
 音源は火サス。

~せっちゃんフラグきたー?
 いえ、彼女の心境がどうこうって程度なのでそこまで行くつもりは。


49話目ですよー
始めた頃は二十も続けばいいかなと思っていたエタる気満々だったのに、よくもまあ此処までこれたものです
評価が本格的に低迷化でもしない限りは期待に応えられるようにやってみますわ

それはそうと、
IF3、そんなに不評かw
いや、想定外にもほどがある内容なのは自覚してますけどね。元々はにじふぁんの頃一番最初に考えた二次創作なので作りが甘いのは仕方ない
あれでも一応は骨子をつなぎ合わせた結果なので、投稿したことは後悔して無い。反省はしている。サーセン
え、それ以前の問題?マジでか

まだ引き摺っている超番外編を、活動報告へと載せてみます
次回、多分衝撃の展開
それでは



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『ドロップコンプレクス』

ちょっと難産


 

 

「しかし似合わんな、お前」

 

「俺はまだマシなほうだと思うんだけどなー……」

 

 

 思った通り、映画村へと行くかと尋ねてみれば二つ返事で了承むしろ連れてけ、と誘われ返されてコスプレしている俺がいますよ。っと。

 意外に舞妓の格好が似合っているエヴァ姉と浪人風茶々丸はともかく、因幡は新撰組で飛鳥は忍び装束。男子の異様率が天元突破。なんだこの集団。

 そして俺は坂本竜馬のコスプレである。ドレッドヘアは出来ないのでテンガロンハットに丸メガネ風サングラス。モデルガンを懐へ。え? 何か違う?

 

 

「それを坂本竜馬だと言うのもおかしな話だが、そもそも京都でそのコスプレを選択するお前の神経が一番おかしい」

 

「そうかなぁ」

 

 

 ちなみに。ネギ君らとか3-Aとは一緒に行動しているわけではない。

 誘われたわけじゃないし。待ち合わせるつもりも無い。

 あっちもあっちで色物集団だろうけど、そんな大人数でぞろぞろ動くのも。ねえ?

 

 ……嘘です。見栄張りました。

 せっちゃんと顔合わせ辛いだけっす……。

 

 いや、だって一応は初キッスだったし。事故とはいえ、その次の日にそういう相手と平然と付き合えるほど面の皮は厚くないつもりだし……。

 朝の会話? あれだって結構無理してたよ!

 

 

「に~ぃ、ちゃんっ!」

「おお?」

 

 

 そんなことを考えていたら、突然。背中にぽよんと圧し掛かる感触。

 女の子の声がしたと思ったらこう来るということは、間違いなく背中に当たっている柔こいものの正体は『男の夢』であろうと推測される。

 ……でも、この持ち主は誰よ? と振り返る。

 

 

「……え、ほんとに誰」

 

 

 背中に張り付いているのは同年齢くらいの女子。若干ボーイッシュというか、服装がガクランの何者か。格好は男子のものであるのに、背中で圧迫されているふくらみは矢鱈と自己主張している。それが感触でよくわかったりして。

 

 

「なんや、きとったんなら連絡くらい入れてくれてもえーやんか

 せっかくやし、一緒に歩かんっ?」

 

 

 妙に気安いし、話し方も何処か明け透けというか、少年口調というか。

 見た覚えがあるようなないような……?

 

 

「そら……、その女は誰だ……?」

 

 

 いやぁあああ! エヴァ姉の表情が無くなってるぅううう!

 女の子に思考を割いている間にこれである。

 嫉妬なのは見てわかりやすいくらいに間違いなかろうが、その割には昨日とか、あーたもノリノリで王様ゲームに参加してたよね?

 この姉の思考回路がわからないわ。

 

 

「おーい、いきなり走り出してどうしたんだよ……?」

 

 

 怒れる金髪幼女にうろたえてると、恐らくは女の子の保護者らしきおっさんの声がしてそちらを振り向く。

 って、笹浦さん……?

 

 

「おー、おっちゃん!

 すまんわ、にいちゃんが居るからつい!」

 

「あ? 知り合いか?

 ……って、すげえ格好だな……。お前の兄ちゃんって何もんだよ、小太郎」

 

 

 ――小太郎?

 

 

「え、小太郎?」

 

「おう?

 なんやにいちゃん、わからんかったんか?」

 

 

 ………………いやいやいやいや。俺の知る小太郎は、ネギ君とどっこいな身長の小学生くらいのはずだし。この女の子はどう見ても俺と同年代くらいの中学生にしか見えないし。

 この間京都に来てからまだ半月も経ってないのに、こんな風に成長しているとか普通考えられないから。

 成長著しいにもほどがあるだろ。胸とか、尻とか。3-Aの平均切っちゃってんじゃねえか。

 何がどうしてこうなったんだよ。

 

 

「……ちょっとその辺教えてもらえませんかね、笹浦さん」

 

「は? え、いや、お前俺の知ってる奴なの?」

 

 

 ああ、メガネしているからわからないか。

 見えるように、サングラスを外しておっさんのほうを見る。

 

 

「\(^0^)/」

 

 

 おいおい、絶望するにはまだ早えぞ?

 

 

   × × × × ×

 

 

「……つまり、例の『飴玉』を食べたら成長した、と」

 

「ああ、そうだ。

 でもこいつが目を離した隙に勝手に食ったんだ! だから俺は悪くねえ! 俺は悪くねえ!」

 

「黙れ」

 

 

 魔法関連の事情なので因幡と飛鳥には聞かせられない。が、あの二人は意外とそういう『聞いてほしく無い部分』にまで踏み込んでくるほど野暮な性格ではない。

 こういうときに、いい友人を持ったものだ。と嬉しく思う。

 

 が、それはそれ、これはこれ。

 今は笹浦のおっさんの尋問が大事なので、二人にはちょっと別行動をしてもらっている。具体的には映画村を一周してきてもらい、何かしらのイベントが行われていないかを確認してきてもらっている。

 一応、笹浦さんは呪術協会側の人間だし。天ヶ崎千草とかが見つかれば儲けモノかも知れんし。

 

 それはそれとして可及的速やかに尋問したのは小太郎の現状。

 どうやら、笹浦のおっさんが以前に俺の魔力弾で生成したスタンドの賜物を食ったらこうなったらしい。取り込んで平気な代物なのかよ。

 

 

「どう? エヴァ姉?」

 

「幻術じゃないな……

 普段の成長との比較が出来ないから詳しくはわからんが、身体に無理な部分はあまり見られん

 ……実際に成長してこうなっていたかどうかは知らんがな」

 

 

 何処か憎々し気に小太郎の胸を睨み付けるエヴァ姉。

 はっきりと形のある立派な双丘のふくらみが矢鱈と自己主張している。大事なことなのでもう一度言った。

 そんなに睨んでも防御力は下がらんぞ。多分。

 

 

「んー、俺と同年齢くらいだとしても部分部分の成長が著しすぎるよな

 身長の無いアキラたんみたいな」

 

「的確かも知れんがその表現はヤメロ」

 

 

 思わず目が行くのは仕方ないと思うのですけど。

 

 

「そんなに変わったかなぁ?」

 

「変わったっつうか、立派になったというか」

 

「そうかー……ふへへ」

 

 

 嬉しそうに顔を綻ばせる小太郎。

 褒められたことが嬉しいのだろうか。

 

 

「そっかぁ、兄ちゃんもやっぱおっきいほうがいいんやなぁ」

 

 

 おい待て。誰がそこまで言ったか。

 いや、否定できないのも事実ですけど。そこまではっきりと言うつもりはないっすよ。

 だから視線だけで殺せそうなその目つきをやめてください、お姉さま。

 

 

「そ、それはそうと

 笹浦さんらはなんでここに居るんだ?」

 

 

 話を逸らすわけじゃないよ!

 情報を拾うのも今後的に大事な戦略なんだよ!

 

 

「ん。あー、まぁ、言っちゃってもいいか。別に隠すことでも無いし」

 

 

 ん?

 あれ、隠密行動とかじゃないのか?

 

 

「ちょっとお嬢様に用件があってな

 俺が、というよりは俺の今の仕事仲間? 上司? みたいな奴がな。天ヶ崎千草っつうんだが」

 

 

 やっぱりか。

 というか、小太郎絡みでその名を聞くのは二度目だ。余計な入れ知恵したこと、忘れてねえぞー。

 

 というか、やっぱり暗躍してるんじゃねえのか?

 と、内心で首を傾げていると、

 

 

「リョウメンスクナって、知ってるか?」

 

 

 割と想定内だが、あまり詳しく聞きたくない単語が飛び出した。

 

 

   × × × × ×

 

 

「今日和ぁ、お嬢様

 ちょっとお時間よろしいですか?」

 

 

 せっちゃんと待ち合わせの約束をして、自分もなんか可愛い格好とかできへんかなーと思ってたら、なんか知らないお姉さんに声をかけられてもーた。

 ちょっと色っぽいというか、肩と胸元をがっつり開いた着物、って、なんや何処かのお店の店員さんなんやろうか? 中学生は絶対入っちゃいけない系の。

 

 

「ええけど、お姉さんは何処のお人なん?」

 

「おおきに。自分は関西呪術協会に所属しとります、天ヶ崎千草といいます。

 今日はお嬢様に、折り入ってお頼みしたいことがあってやってまいりましたえ」

 

 

 違った。お父様の部下の人(?)やった。

 そーいえば、この間帰ったときとか巫女さんとかやたら増えとったなぁ。この格好もお父様の趣味とかが反映されとったりするんやろーか?

 

 

「頼み?

 ……申し訳ないけど、魔法関連は何もできへんよ? そこを頼んでおるんやったら他を当たってくれへんかなぁ」

 

「いえいえ、これはお嬢様にしかお頼みできないことなんですわ」

 

 

 申し訳ない気持ちでお断りを入れるのやけど、千草さんは微笑ってそう言った。

 ほんまに役に立てへんよ? 魔法初心者どころか、私はお父様とお爺ちゃんが魔法使いなだけの一般人やしなぁ。

 そんなことを思いながらも、聞いて欲しそうなのでお姉さんに続きを促す。

 

 

「このかお嬢様は『近衛』の血筋で居りますからなぁ、実は素質的にも魔法や呪術への適正は高いのですわ。それはご存知でした?」

 

「そーなん?」

 

「ええそれはもう。

 特に内蔵魔力量ならトップクラス。そこらの凡夫とは比べ物になりませんからなぁ、それだけでも適正が高いのですわ」

 

 

 それは知らんかったなぁ。そらくんにもそんな話聞いたことも無いし。

 今度、相談に乗ってもらおうかなぁ?

 

 それで、お姉さんは何が言いたいんやろ?

 

 

「今回お頼みしたいのは、その魔力を使用させてほしいというお願いです

 お願いできます?」

 

 

 ………………。えーと、

 

 

「その、たくさんある、っていう魔力? を使って、お姉さんは何がしたいん?」

 

 

 なんか、犯罪とかやないよね?

 そんな不安が沸いてしまったので聞いてみると、お姉さんは佇まいを治し、真っ直ぐに私の目を見て言った。

 

 

「関西呪術協会の手によって封印されとります飛騨の鬼神、リョウメンスクナノカミを解き放ちたいのですわ」

 

 

 ……それって、危ないことやないよね……?

 

 

 




~タイトル
 笹浦さんのスタンドの名称。のつもり。
 名前出すつもりでいたのに出ないままにずるずる。今後ともスタンドを出すときに叫ぶこともなさそうで、どうしたらいいものかと。
 あ、能力は『掴んだ気や魔法を飴玉に変える』です。

~坂本竜馬
 ぴーすめいかーに、なるぜよ!
 りょーまのおっちゃん・・・(泣

~おや? こたろう の ようすが・・・
 おめでとう! こたろう は ろりきょぬー に しんかした!
 ネギまでは有りそうでなかったヒロインジャンルに挑戦してみた。ちなみに身長はのどかくらいになってるイメージ。


顔文字難しいな・・・
なんと五十話目。皆さんの感想が執筆のための活力。いつもお世話になってます

この調子なら百話もすぐにいけそうな気もするけど、多分評価平均の星が黄色から下回ったら書く気なくすキガス。今は橙なんで、そんな懸念がずっと低いのがありがたいですけど
いや、言われずともクオリティ保ちたい若しくは高めたいのは当然ですけどね

多分ここからシリアス
シリア・・・ん? なんか違う・・・?
次回とか説明回になりそうな予感。もっと易々と笑いを提供できるような脳みそが欲しいなぁ
また見てギ●ス!


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『説明回だよ! 千草さん!』

めんどくせぇぇぇ!


 

「そもそも、関西呪術協会が発足した理由を知っとりますか?」

 

「んー、日本の魔法関係の人らをまとめるためのものやないの?」

 

 

 ちょっとせっちゃんを待たせてまうかな、と思ったけども、千草さんの表情は至って真剣なもので。話に付き合うのも致し方ないかな、とも思ってまう。

 わたしの憶測での返答に微笑むと、千草さんは穏やかの表情のままに応えてくれた。

 

 

「その返答では半分しか正解ではないですな。

 関西呪術協会の前身は、元は情報を取りまとめるためのものだったらしいですえ?

 まあ、このことを知っとるお人が、今何人残っているのかも怪しいものですが。私かて、歴史を辿ってようやく知った事実ですし」

 

「情報? それって、どういうものなん?」

 

「要するにネットワークの中継点みたいなものだったらしいですわ。どちらにしろ、呪術師を取りまとめること自体は専門ではなかった、というのが実際のところだったようですわ」

 

 

 あー、なんかそらくんも、魔法使いは今ではインターネットにも手を広げとるとか言うとった気が……。

 いつの時代でも情報は命綱ってことを、昔の人も知っとったんやねぇ。

 あれ? でもそうなると……。

 

 

「今の呪術協会の在り方、って?」

 

「鋭いですな。そこなんですわ、私が懸念しとるのは」

 

 

 一つ息を吐くと、千草さんは言葉を続けた。

 

 

「現在の関西呪術協会は日本の裏関連の術師らを、魔法使い以外すべて取り纏めようと躍起になっているのですわ。

 でもそないなことできるはずがありゃしません。

 そもそも裏の技術自体、呪術師だけで一まとめにできるほど単色ではありませんからなぁ。

 魔法使いに呪術師・陰陽師。それらだけで対立できるほど、裏の世界は単純では無いのですわ」

 

「お父様では手が足りない、っていうこと?」

 

「すぐにそこに思い至るあたり、お嬢様のほうが向いとりますなぁ。

 そもそも、長の本職は剣士どす。

 赤き翼、というものをご存知で?」

 

「知らへん」

 

「二十数年前に魔法世界を救ったという英雄の一派ですわ。長はそのメンバーに所属しておりましてな、そのときの実績とお嬢様のお母様との婚姻で協会の長に就任しましたけども、協会がごたごたと下のものまで手が届かなくなっていったのもその辺りからですからなぁ。

 やっぱり、『詠春さん』には協会の長は荷が重いのでしょうなぁ」

 

 

 そんな事情があったんやね。

 どーでもええけど、千草さんがお父様のことを名前で呼ぶのを聞くと、長としては認めてないことがよくわかってしまうなぁ。でもなんか、別の感情も混じっているような、そうでもないような……? なんやろ?

 というか、それがわたしにお願いしたいこととどういうつながりがあるのかな?

 

 

「まあ、長の責任問題以前の話もありますけどな。

 そこで話はリョウメンスクナに戻ります。

 こちらはご存知ですか?」

 

「飛騨の大鬼神、って千草さんさっきいうとったえ?」

 

「ああ、そうでしたな。

 そう、つまりは元々京都にあるもんとは違うのですわ。

 この『戦力』を抱え込んでしまっていることが、第一の間違いですわな」

 

 

 戦力?

 

 

「この大鬼神、二十年前にも暴れて、それをサウザントマスターや長が封印したという逸話がありましてな。逆にいうと、そこまでの戦闘技能を持っていないと、英雄クラスに匹敵しないと対抗しきれない、ということの証明にもなってしまっておるのですわ。

 『それほどの『戦力』を抱えているからこそ、関西呪術協会は日本の術師を取り纏められる』という、しょーじき逆接にもならん理屈が罷り通ってしまっておるのですわ」

 

「ああー、その勘違いを正すために、そのスクナちゃんを解放しよういうことやね」

 

「す、スクナちゃん?」

 

 

 なるほどなるほど。合点がいったわ。

 ほんなら手を貸すのもやぶさかでもないな。

 

 

「ええよ。わたしに何が出来るかわからんけど、千草さんに手を貸してもええわ」

 

「ほんまですか!?」

 

 

 というか、協会云々じゃないのやろうな、千草さんの目的って。

 

 

「お父様の重荷を何とかしよう、いうのがほんとの目的なんやろ?

 なんかでかい組織の長とかって、そもそもお父様には無理やろうし。千草さんの狙いもすぐにわかったわ」

 

「え、いや、そんな。

 ……そんなにわかりやすかったですか?」

 

 

 ちょっと赤くなってる。

 かわええなぁ。

 

 

「隠そうとしてもばればれやで? お父様も隅に置けんなぁ」

 

「う~、えいs、お、長には内緒にしといてくださいね?」

 

「あはは、なんならお義母さんって呼ぼか?」

 

「是非! ……あ、」

 

 

 こんな若い人が新しい母親となるのも、まあ悪くないかな?

 

 

   × × × × ×

 

 

「ほー、スクナの解放で協会自体の解体を狙うってことか。つまりは」

 

 

 笹浦のおっさんから話しを聞いて、なんとなく狙いも読めた。

 けどとんでもないことやろうとしてるな、千草さんとやらは。

 

 

「まあ、関東が関西を掌握しようという理由の一つが戦力の確保だろうからなぁ。術師は元より、鬼神でさえも戦力として見られていることを考慮しての解放と解体か。

 だから新幹線で会ったときに親書について聞いてきたのか、笹浦さんは」

 

「それが関西の長に渡ると、関西だけの一存じゃ手が出せなくなりそうだったしな。その前に接触できてよかったよ。

 一応、昨日とかは協会本部前で張っていたのだけど。

 それと、千草の嬢ちゃんは純粋に長のことを心配してるらしいけどな。その結果協会っつう『重荷』を下ろさせようってんだから、マジでぱねえが」

 

「よく思いついたよなぁ、そんなこと

 で、解放したスクナはどうする気だ?」

 

「なんか嬢ちゃんの知り合いに外国の魔法組織がいるとかで、そいつらに売り払うつもりで途上ルートの隠蔽を要求しとるらしい」

 

「返せよ。飛騨に」

 

 

 いや、今更鬼神を返されても飛騨も困るかも知らんから別に構わないけどさ。

 

 

「そもそも、日本の術師は呪術だけじゃねえ。

 青森は恐山じゃイタコっつう霊媒師のメッカだし、魔法協会の取り仕切ってるっつう東京の地鎮をしたのは会津出身の僧侶だし、今でも東京の心霊配備は魔法の魔の字も携わってないそうじゃねえか。北海道じゃ未だにシャーマンが生き残ってるしな。

 関西呪術協会っていう名称だけでも、既に名前負けしてんだよなぁ」

 

「そういやあそうか。

 というかシャーマンのくだりもうちょっと詳しく」

 

 

 やっぱりシャーマンキングを決める戦いが何処かで起こっていたりするのだろうか。wktk。

 

 

   × × × × ×

 

 

「え、お前らも一緒にいくの?」

 

「うん。さすがにこのかだけ実家に帰すことはできないでしょ?」

 

 

 ホテルに戻ってみれば5班全員が制服に着替えて出発しようというところだった。というか、修学旅行なんだからそういう別行動自体ダメだと思うのは間違ってるのだろうか。

 

 

「大丈夫です! 学園長の許可は下りているって、先ほど新田先生に許可を取ってきましたから!」

 

「マジで?」

 

「親書とかを渡すように言ったのは学園長ですよ? それくらいの配慮をしてあるのは当然ですよ」

 

「当然かなぁ……

 って、ネギ君も行くんだよな?」

 

 

 行くんだよな? なんかこの葱坊主、既に浴衣に着替えて温泉に浸かる気満々なのだけど?

 

 

「いえ?

 ボクはこれでも3-Aの副担任ですよ~?

 許可を取っていたとしても、特定の班と別行動とか許されるはずがありませんよ~」

 

「え、いや……親書は?」

 

「……ナンノコトデショウ?」

 

 

 目を逸らすな。こっちを見ろ。

 こいつ、完全に渡す気無いじゃねえか。

 まあ、今日のところはそれでも構わないから別に深く追求する気は無いけど。

 

 

「それでは、特別見学実習ということなので、怪我などしないように、周りの人に迷惑をかけないように、気をつけていってきてくださいね!」

 

『はーい』

 

 

 久しぶりに見たな、幼稚園みたいなあのやり取り。

 ネギ君のほうも浴衣だし、緊張感なんぞかけらも無いし。

 

 ってそれより。

 

 

「明日菜、ちょっとまて」

 

「ん? 言っとくけどお土産とかは期待しないでね?」

 

「してねえよ。ほれ」

 

 

 ロビーから全員が出立する前に、明日菜を一人呼び止めて手渡す。

 

 

「? 何これ?」

 

「お守り。もしものための保険みたいなもんだ。首にかけとけ」

 

「なんか、あんの?」

 

「GPSも内蔵されてる。迷子になっても安心だ」

 

「ならないわよっ」

 

 

 と、突っ返されそうになるが、

 

 

「あと、なんかあったらすぐに俺に連絡が来るような仕組みになってる。念のためだ、持っとけ」

 

「ぇう……、

 も、もう、しょうがないわねぇ」

 

 

 と躊躇し、顔を赤くしてそれを首にかけ、服の中へと仕舞う明日菜がいた。

 そんなやり取りを、眺めている一つの眼(まなこ)。

 

 

「……何かな」

 

「いえ? 青春ですねえ」

 

 

 ネギ君、キミって意外と爺くさいな。

 

 

   × × × × ×

 

 

 その日の夜。

 俺の元に、狙い済ましたように悲報が届いた。

 

 

 




~千草さんがアップを始めたようです
 着々と外堀から埋めている千草さんマジしたたか。

~関西&鬼神について
 完全に俺の勝手な解釈です。

~シャーマンキング
 よみがーえーれー(CVはやなみさん)

~お守り
 さよちゃんのあれ。


すっげめんどくせぇ。これを書くのにどれだけの資料を漁ったことか
いや、この話の大本だけってわけじゃないですけどね
でもある程度読み飛ばしても問題無いような気もしてくる。不思議!
というかお二人の口調が俺自身一番違和感。どうすりゃいいの

先週とは打って変わって更新速度ががくんと落ちました。五十一話です
なんか日刊一位をとったとか(他人事)
これもひとえに皆さんの応援のお陰。なんとかクオリティ下げないようにがんばります!

考察とか、政治的影響とか、麻帆良の土地情報とか、いろんなサイトを飛び飛びに漁ってなんとか自分なりの形にまとめられ始めたような気がしますがもう話数も五十を過ぎてんだから遅すぎるだろ常考。と言われてもおかしくありません
それもこれも原作がふわっとしてるから!
いえ、愚痴る気はないですけどね
逆に考えろ、これで好き勝手やっても大丈夫という大義名分を得たのだと
え、今更?

とりあえず、原作では「埼玉県麻帆良市」という表記があったのは確実なので、
所沢の西武ドーム付近に水気があった気がしますのでそこを世界樹として、高尾山のほうを麻帆良山・その反対側にエヴァの家、更に多摩川に麻帆良大橋を架けて、と・・・
ん? なんだおまえらうわなにするやm

・・・感想待ってます



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『ブレイクタイム』

お気に入り登録数が遂に2500件を突破しました!やったあ!

・・・なのに、こんな話ですみませんw



 

「色即是空、という仏教概念があるのを知ってるかい?

 色とは現世に於ける己の知り得るものを指し、空とはそれ以外を指す。そして色とは空であり空とは色である、というのがその概念の意味するところだ。

 これは世界そのものを己一人の視点だけで見るのではなく、全体を語るものらしい。己の知り得ぬことは己以外が知ることであり、他者が知ることは己の知るもの確たることとは言えない。仏教とは哲学だね。

 この概念をたとえに出すと、恋に恋する女子というものは知らぬものに恋い焦がれているのであってそれほど無駄なものは無い、ということかな。

 高みを目指すのは勝手だが、知らぬものへ期待を高めても届かぬものでは意味が無い。少女よ分相応であれとは、よく言ったものだよ」

 

「おめーら何処に行ってきたの?」

 

 

 温泉に浸かって就寝しようかという適度な時刻、ロビーを通り掛かれば遭遇したのは珍しいことにたつみーであった。

 せっかくなので、と誘われて椅子に腰掛けて顔をつき合わせての雑談タイム。本当に珍しい。

 お前俺のこと嫌いじゃなかったの? と問うて見れば、魔法使いのいざこざに巻き込まれたくないので麻帆良では過度な接触をしないようにと言い含められていたのを了承していたが実際のところ別段嫌いになる要素は抱えてはいないよ、と長ぇ言い訳で一息に応えられて思わず言い淀む。お、おう。

 

 

「とある寺社仏閣にて体験学習。

 由貴英里似の金髪のお坊さんが出てきたときには正直驚いたが、言ってることは意外にまともでためになったよ。最近ではイケメン僧侶、とかいうカテゴリも生まれつつあるのかもしれないね」

 

「たつみーって確か運動部四人組と一緒の班だったよな。よくあの連中が寺の体験学習とか選択したな」

 

 

 原作では某ネズミの王国関西版に行っていたはずでは?

 そしてユキエイリって誰よ。

 

 

「大河内がいつの間にか申し込んでいてね……

 気がついたときにはもう寺にいたよ。びっくりだ」

 

「そ、そっすか……」

 

 

 アキラたんが意外にもアグレッシブで……。

 

 

「由貴英里は、知らないかい? えらくイケメンで今人気の小説家なのだけど」

 

「知らん。まあイケメンに出会えて良かったんじゃねえの? 金髪の僧侶とか何処のリロードかと問い質したくなるけど」

 

「いや、その僧侶とは別物だよ完全にあれは」

 

 

 拳銃片手に須らく魅せる破戒僧が真っ先に脳裏に浮かんだのだけど、たつみーは倒置法で否定。

 理由は? と視線で続きを促した。

 

 

「好みのタイプはニトルグラスパーの佐久間竜一とか言っていたからね。多分ゲイなんじゃないかな、あの人」

 

「色即是空どこいった」

 

 

 ホモォ……。

 ニトルグラスパとやらは知らんかったけど名前からして確実に男性。すげぇ破戒僧だな。むしろ寺に置いといて大丈夫なのかよ。

 そして説法に説得力が無さ過ぎる。芸能界とか、一般人では到底楽に辿り着けそうに無い場所だろうが。高みを目指し過ぎるのは愚策だとか、そう説法咬ましていたんじゃねえのかよ。

 

 

「っと、すまん、電話だ」

 

 

 そんな益体も無い会話をしているところへ連絡。さよちゃんだな。

 一言断りを入れて、電話≪念話≫に出る。

 

 

「もしー? どした?」

 

『そらさん! なんか明日菜さんからの反応が消えました!』

 

「……どういうことだ?」

 

 

 さよちゃんにはあらかじめ、感覚共有の媒体は明日菜に渡してあると伝えてある。

 が、それが消えるってどういうことだ?

 

 

『わ、わかりません! 急に身動きが取れなくなったと思ったら視覚も触覚も聴覚も閉ざされたままで……っ』

 

「………………とりあえず、さよちゃんは今から俺の言うことを実行してくれ。俺は現場に行ってみるから」

 

『はい……!』

 

「まずは――、」

 

 

   × × × × ×

 

 

「あ?」

「お」

「吽?」

「おろ?」

 

 

 四者四様で驚きの声を発する。

 此処は昆神社の参道真っ只中。

 さよちゃんにそれなりに指示を出し、関西呪術協会の本部へと急行したわけだが、その道中にて麻帆良武道四天王のお三方と顔をあわせてしまった。

 何故ここに。

 

 

「なんで?」

 

「いやいや、ブラックに救援を求められてしまいましてな。一人では援軍として心もとないゆえ、こちら二人に伝手を頼った次第でござる」

 

「緊急の要件だとかで出張ってきたわけだけど、そちらはどうしたのだい?」

 

「こっちは別口で救難信号受け取ったんだよ。

 というか、たつみー以外帰れよ」

 

 

 はっきりと魔法に関わっているのはそこの色黒巫女しかいないわけだろ? 勝手に関わらせると後が怖い。

 参道を駆け上がりつつそう提示してみれば、忍ばない忍者がそのスピードについてきながら応える。

 

 

「しかし、そちら二人だけでは大変でござろう?

 夜目の利きにくい素人相手では、闇に溶け込みすぎて見つけることが困難ではないかと、」

 

「「色黒馬鹿にしてんのか!? そこまで溶けこまねえよ!」」

 

 

 思わずたつみーと台詞がはもった。

 そんな俺らを気にすることなく、残る色黒もとい褐色肌の馬鹿イエローも参戦してくる。

 

 

「まぁまぁ、足手まといにはならないつもりダシ、気にすることないヨ」

 

「それにブラックの居場所はこのGPSで探知しているゆえ、烏丸殿では見つけられずにスルーしてしまいそうでござるし」

 

「……そんなことはねえよ?」

 

 

 忍者も文明の利器に頼る時代か。と思わないことも無いけど、便利なのでその点には触れない。

 それより割とぐうの音も出そうに無い要点を突かれ思わず目を逸らしてしまいそうになるけど、それに気づかなかったのかたつみーが声を潜めて話しかけてきた。

 

 

「すまない。だが私だけで今更出直すにはもう遅すぎるし……」

 

「いや、もういいけどさ……」

 

「それはそうと。

 何故烏丸君がきたんだい? てっきりエヴァンジェリンあたりを押し出してくるかとも思ったのだけど」

 

「エヴァ姉を出張らせるには契約を動かす必要があるからな。そうなると、仮契約主となる俺の魔力が根こそぎ持っていかれるし、常に一緒に動かなくちゃならなくなるからその場合は『俺が』完全に足手まといになる」

 

「ああ、成る程」

 

 

 納得のいったように頷くたつみー。

 俺も気になっていたことを質問することにした。

 

 

「で、ネギ君はどうした?」

 

 

 てっきりそっちと一緒に動いたのかと思っていたのだけど?

 

 

   × × × × ×

 

 

「うーんむにゃむにゃ、もう食べられないよう……」

 

「テンプレな寝言を呟いている場合じゃないぞ、ネギ君! 起きろ!」

 

「ふぁいっ!?」

 

 

 布団にて就寝していた薬味坊主を神多良木先生が叩き起こす。起き抜けにヒゲとサングラスのドアップが目の前に現れたことに一瞬パニックに陥りそうになったネギ少年であったが、それが自身の知る者だと思い至るとほっと胸を撫で下ろした。

 

 

「な、なんだ神多良木先生じゃないですか

 なにかあったんですか?」

 

「何かどころじゃないぞ! 麻帆良から脱走者が出た! 関西呪術協会のものらしいのだが、ネギ君は親書を届けに行っていたのではなかったのか!?」

 

「はぁっ!?」

 

 

 一度に色んな情報を叩きつけられて混乱する葱坊主。実際、ヒゲグラ先生も混乱しているのかもしれない。

 そのことを自覚できたのか、はっと気がつくと深呼吸をして言い直すヒゲメガネ。ところで魔法教師の一人だということは、バラしてしまっても構わないものなのだろうか?

 

 

「む、いや済まない。

 学園長からたった今、東西の融和を脅かす、おそらくは反対派と思われるものらが二名、捕縛してあったはずの麻帆良から脱走していたという連絡が入ったのだ。

 呪術協会本部とは連絡が取れないというし、そのことでネギ君に注意を促すように言われたのだが、ネギ君は親書を届けに行ったのではなかったのか?」

 

「い、いえ、今日のところは遅いですし、明日にでもと、今日関西呪術協会の本部に行っているのはこのかさんや明日菜さんたちで……」

 

「な、一般人と学園長のお孫さんがか!?」

 

「で、でもそちらでしっかりと話はついているはずですから、安全面は大丈夫だったはずなのですけど!」

 

 

 自分に言い聞かせるように口調が強くなる葱坊主。実際、そうであってほしかったのだと、言外に語っているようにも見えた。

 

 

「……っ、とにかく、呪術協会の本部に敵対勢力が向かったのは事実だ。

 ネギ君はすぐに出撃の準備をしておいたほうがいい。それと、烏丸は何処にいる?」

 

「え、そらさんは……?」

 

 

 ここで、初めて少年は同室のはずの彼の姿が無いことに気づいた。

 昨日も結局深夜遅くになるまで帰ってこなかったらしいし、今日も女子部屋にでも行ってるのだろうか? と憶測をしかける。

 そこに、

 

 

「そらなら一足先に現場へ出向したよ」

 

 

 いつの間にかそこにいたのか、真祖の吸血姫・エヴァンジェリン=マクダウェルが偉そうに壁に寄りかかっていた。

 

 

「エヴァンジェリン……?

 現場に出向とは、どういうことだ?」

 

「言葉の通りだ。そらの元に別方向からの救難信号が届いたらしくてな、本来ならば実力の差ということで私が出向くのが筋なのかもしれないが、生憎私に掛けられている契約が足枷になる。私は泣く泣くヒーローの役目をあいつに譲った、というわけだ」

 

「って、襲撃されたのは確実なんですか!?

 た、大変だ! 僕も早く行かな「行って、どうするつもりだ?」っ!?」

 

「ネギ先生は見習いの魔法使いで、大きな魔法事件をどうにかできるという実績も無ければ経験も不足している。

 対して、関西呪術協会というのは腐っても一端の魔法組織だ。そこを襲撃できる実力者に、ただの見習い魔法使いが、高が『英雄の息子』程度が、どうにかできる範疇はとっくに超えている。

 ボウヤ(・・・)、子供は大人しく、大人の帰りを待っているものだぞ?」

 

 

 エヴァの言葉にネギが声に詰まる。

 それは奇しくも、この中で誰よりも自分の実力を自覚しているがゆえに真っ先に気づけた。そんな躊躇の足踏み。

 少年は、弱い。

 その事実を知るからこそ、彼自身は何も言い返すことが出来なかった。

 

 

「だ、だが、エヴァンジェリン、烏丸も、魔法使いとしては未熟そのものだろう?

 麻帆良では警備についた経験も無い。実戦経験が何より不足している者の筆頭ではないか」

 

「おいおい神多良木先生、あいつをなんだと思っているんだ?

 ――曲がりなりにも私の一番弟子だぞ? この程度の騒動、一晩で解決に導くさ」

 

 

 妙に自信のある言い方にヒゲグラ先生も言葉をなくす。

 が、自分の言い分だけでは説得力が無いのは百も承知なのだろう。

 

 

「ま、不安だというならジジイに登校地獄の契約変更の術式の打診でもしておけ。咄嗟のときには、私が出張って事件を片付けるさ」

 

 

 そう言い締めて、少女は部屋を出て行った。

 後に残されるのは今後の打診のために学園長へと連絡を取り始めるヒゲメガネと、己の弱さに口の端を噛み締める少年だけであったという。

 

 




~色即是空空即是色
 あんまり高みを目指すなよ!お前の知るところは結局その程度!分相応に夢を見ないのが現実的な生き方だぜyear!
 という仏教的哲学の教え。ちなみに仏教の元は宗教ではなくて哲学だそうで。蛇足蛇足

~たつみーの言い訳
 せ、せやな・・・

~リロードな破戒僧
 硝煙の香りとタバコと酒と麻雀が良く似合う金髪の破戒僧。ジープに乗って西域へ、須らく見よ

~ニトルグラスパー
 佐久間竜一をボーカルとした人気バンド。佐久間竜一本人は現在外国へと出向中の世界的アーティスト。そろそろ三十路に突入だというのに可愛さが天元突破しているおっさんで、ファンの心を鷲掴みにして離さない。ぱねえ
 最近そっくりな少年の率いるグループがデビューしたとかしないとか

~ネギ、不参加
 あれー?


なんだか前回くらいから微妙にクロスな気配が漂っていますが言及するつもりはございません
言い出したらきりが無いしね。因幡とか、鬼瓦幕僚長とか、とっくにクロスキャラは出ていることだし
ネギま原作を消化しきったら何かしら出すかもしれませんが、今のところはネタの域を超えません。ファンだという方がいたらごめんなさいね?

色んな伏線が張られていますが感想でネタバレさせたくないのであんまり言及は避けて欲しいなー、っとも思ったり?わかりやすい展開だと言われちゃったら言い訳できないっすけどねwww
逃げ出した二人って、だ、ダレナンダー(棒)

あと突発でハイスクールDDの二次創作とか書いてみた俺がいる
タイトルは“忙しい人のための赤竜亭”
東方のあれを捩りましたwそのままのスピードで脳内再生をヨロシクお願いしますw
よろしければ読了ください。では


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『ワイルドバンチ』

今回少々残酷な描写がありますが、年齢制限は必要ないかと思われますので明記しません
ちょっと耐性の無い方は読了注意、という自己責任とのことでご了承ください



「う、後ろですッ!」

 

 

 ゆえきちの悲鳴と銃撃の音に咄嗟に反応し、思わず出したインストールドットで対応する。撃ち落とせたのは二発分。もう一発がゆえきちに迫っていることを辛うじて目視できたが、インストールドットでは対応が追いつかない。

 結果、俺が其処に左手を伸ばして銃弾を受けることになった。

 

 

「がっああああっ!!!」

 

「――な……っ!」

 

 

 ゆえきちの絶句する姿が視界に写るが、対応している暇は無い。手のひらからバシバシと石に変わってゆく左腕はその進行が収まる様子もないので、インストールドットで肩口から『切断』する。

 

 

「――っはぁ……っ! はぁあぁ、間に合った、か……?」

 

「か、からすまさん、う、腕が……っ」

 

 

 石化の進行は切り離した左腕だけで収まるが、今度は出血多量で死ぬ。スタンドに『凝固』と連続で書き込ませてかなり荒い応急処置を終えるころには、一緒に来ていた三人娘の石化も終了していた。

 すまん。俺では綾瀬だけしか守れそうになかった。というかスタンド見えないんじゃやっぱり足手まといじゃねえかよやだー。と幾分かマシになるように思考誘導を己に暗示する。いちいち反省している暇は無い。

 視線を向ければ、二足歩行の鮫型のスタンドが山中の中腹、雑木林の奥のほうからこちらをじっと窺っていた。

 

 

   × × × × ×

 

 

 GPSを持った長瀬楓に連れられて歩んだ先は屋敷ではなく山中の方で。恐らくは逃げ回っているであろう綾瀬の身を案じつつ俺もそっちへついてゆく。

 呪術協会本部が襲われたというなら未だ敵が残っている可能性もあるそちらへのこのこ行くのは明らかに悪手だし、状況を詳しく知るであろう綾瀬と合流するほうが一番の近道に思えた。

 

 しばらくして発見した綾瀬は浴衣と思われる着物風の寝巻き一枚しか羽織っておらず、ついでに言うと裸足で逃げ回っていたので、こんなこともあろうかと用意していた自分用より少し小さめのサイズのバッシュを履かせれば全員に怪訝な表情で見られた。

 備えあれば憂いなしと言うだろうに。こういうのを普段から準備しておけばバスケに勤しむ小学生女子が困っているところを助けて、そこから縁が連なって青田買い出来る可能性も俺にもあるかもしれない。と冗談で言ってみれば蔑んだ目でじっとりと見られる。冗談だっつうの、笑えよ。きっちりと括弧もつけていたのに。解せない。

 それはともかく、昨夜も見たはずなのだが今夜の綾瀬の格好は昨夜以上に装甲が薄い。もしや、はいてないのでは……!? と戦慄が走る。

 

 閑話休題。

 

 聞くところによればこのかと桜咲は天ヶ崎一派に連れられて封印解除に赴いたのだが、本部にて残っていたものたちを謎の怪物が次々と石化していったらしい。

 その怪物を認識できるのが自分だけで、逃げ惑ううちに一緒に逃げていた他の仲間も石化させられて残っているのは綾瀬のみ。申し訳なさそうに謝罪するが、情報を残してくれただけでもありがたい。

 しかし聞けば明日菜も石化させられたという話。あれ? あいつ魔法無効化できなかったっけ? と首を傾げるも、その怪物を認識できていたのが綾瀬だけだというのも解せない話。

 

 そんなところへ強襲を仕掛けてきたのがあれってわけだ。

 っていうか、スタンドだよ。マジかよ。

 

 

「とりあえず色々言いたいことはあるけど綾瀬、ようこそ、こっちの世界へ」

 

「何をのん気な……っ!?

 大丈夫なのですか! 腕は!?」

 

「応急処置はしたよー、痛ぇけど、治す手立てくらいあるさー」

 

 

 エヴァ姉は治療魔法不得手だったから、結局独自製法で術式編んだんだよなー。なつかしーい。

 

 

「そ、そういえば魔法使いでしたね、烏丸さんも……

 わたし的には今見た謎の人物が何者なのかを知りたいのですが……」

 

「こいつ? 名前はインストールドット、スタンドだよ」

 

「そ、そんな、漫画じゃあるまいし……」

 

 

 おや。魔法を知るはずなのに幽波紋には懐疑的とな?

 

 

「漫画の世界みたいな現実に足を踏み入れた癖して何をいうかー。こういうこともあるんだよ」

 

「なんだか反応がおざなりでは……って、若しかして怪我で血が足りていないからなのではないですか!? 早く治療してください!」

 

「いやぁ、専用の術式を組むには今この場では無理」

 

「駄目駄目じゃないですか!?」

 

 

 漫才みたいな掛け合いが続く。

 狙われているのに、こいつもいい根性している。

 

 

「ふん。生き残っているものがどんな使い手かと期待してみれば、運で生き残っている程度の素人だったか」

 

 

 そんなことを呟きつつ、敵スタンドのそばに爺が一人現れた。

 どう見てもあいつが主犯です。本当にありがとうございました。

 

 

「あんたさー、協会敵に回して何がしたいわけ?」

 

「口の利き方に気をつけるんだな小僧。今のお前程度、すぐに殺せるぞ」

 

 

 爺の言葉に怯えたのか、綾瀬が俺を守るように抱きついてくる。嬉しいけど、浴衣が汚れるぞ。『凝固』しているけどしっかりと滲むんだよな、この状態の血でも。

 

 

「離れてたほうが良くね?」

 

「そんな状態で何を言うのですか。守るくらいなら出来ます――アデアット!」

 

 

 アーティファクト『世界図譜』を召喚する綾瀬だけど、はっきり言ってほとんど意味が無い。

 あれだ、グリードアイランドでスペルカードが無い状態でもバインダーを出しておくっていう、初心者以外はやるスペカバトルの心意気みたいな状態に近いかも知れん。

 

 

「わたしが時間を稼ぐです! だから烏丸さんはセルシウスさんを召喚する準備を……「無理」――はい?」

 

 

 抱きついている綾瀬が首をこっちに向ける。距離感がおかしいけど、まあ重症中(俺が)だし今は気にしないでおく。

 それはそうと、気になっているであろうことを説明。

 

 

「麻帆良と距離がありすぎる。召喚できないし、そんな暇をさせてくれるような爺じゃないでしょ」

 

 

 召喚には距離が離れすぎると出来ないんだよなー。あれって実は転移魔法だし。と爺から目線を外さずに言葉を続ける。

 爺は俺の言葉ににやにやと厭らしい笑いを浮かべて眺めているだけだった。この出血量で死ぬことを待っているようにも見える。不思議!

 

 

「じゃ、じゃあどうすれば「だから」……へ?」

 

 

「だから、ココに来る前に先手を打っておいた」

 

 

 静かな山中に俺のその言葉が空しく響いた。

 その言葉に怪訝となるのは、奇しくも綾瀬と、少し距離の離れている爺で。

 その爺のほうがこちらへ一歩踏み出した瞬間――、

 

 

「おい小僧、貴様一体なんのh」

 

 

――グチャ ブチブチブチ

 

 

 台詞の途中で爺が半分(・・)になる。

 もっと正確に言うなら、上から降ってきた何物かに半分だけ踏み潰されて見事に半身が千切れた。まるで獅子目言彦に潰された梟博士みたいだぜ……。

 

 

「――は?」

 

 

 目の前で絶命(どう見ても即死)した爺を目にした衝撃か、綾瀬が呆けた声を上げた。

 しかし結局この爺は何を目的として何のために呪術協会を丸ごと石化させたのか。理由ぐらい探っておきたかったのだけどな。

 

 呆ける綾瀬を押し退けて、降りてきたそいつに近づく。

 

 

「よう、早かったな。もう片方はどした? ―― ん? 水辺に置いてきた? ……んー、まあいいや。来てくれてさんきゅうな」

 

「あ、あのぉ、からすまさん……?」

 

 

 恐る恐る、といった様子でこちらを伺う綾瀬に、ああ、と応え、

 

 

「紹介しよう。俺の最初のホムンクルス、名前はヘラクレスくんだ」

 

『カブー!』

 

 

 そう俺の言葉にのんきな鳴き声で応えたのは、身長3メートル弱の、カブトムシを人の形に変形させたような、巨体の甲殻生物であった。

 

 

 




~麻帆良武道四天王(三人)ログアウトのお知らせ
 というかキンクリ。合流する描写を書くのが面倒だったんじゃないよ!この三人の出番を削っただけだよ!(その方がより酷くね?)

~バスケに勤しむ小学生女児
 ロウきゅーry

~爺
 厳冬さんだけど、気づいた人が何人いたのか・・・
 リョウメンスクナを解放させる旨を耳にしてオノレの手に入れるために協会本部の者らを石化して人質にするつもりだったらしい。と、詳しく書こうと思ったけど一々詳しく説明してくれる悪役なんぞどの世界にry

~ワイルドバンチ
 マヨチョコさんから提案されたスタンドを採用とさせていただきましたがこんな扱いでごめんねごめんねー。使い手も死んじゃったし、せめて送ってもらった詳しい設定をコピペするねー

 スタンド名『ワイルドバンチ』 遠距離操作タイプ
パワー:E スピード:B 射程距離:A 持続力:C 精密動作性:A 成長性:A
見た目はメカメカしいのこぎり鮫で、のこぎりの部分がリボルバー型の銃口になっている。

能力:ありとあらゆる無機物を食べる事ができ、食べた物を銃弾として発射することができる。銃弾には特殊なウイルスが付いており、生物がこの銃弾をくらうとくらった場所からウイルスが感染、体が銃弾の材料の物体になってしまう。
例えば、石で造られた銃弾が手に直撃した場合、手から徐々に石化していく。
    砂で作った場合は当たった部分からたらだが砂になっていく。

・感染力が強く象でも三十秒立たずに体全体が銃弾の材料そのものになる。
・対策としては銃弾を受けた場所をすぐに切断するのみ。
・リボルバー型なので銃弾は六発。それ以上は食べてリロード。
・成長性がAなのでACT系。成長例:銃口がマシンガン、ショットガンになる。

~そらの打っていた先手
 さよちゃんに命じて送還魔法で別荘の外へホムンクルスを送り出し、その足で京都まで
 呼び出して一時間弱で到着。中々に健脚

~ヘラクレスくん
 そらが初めて一から作った思い出深いモルモ…実験体一号。カブトムシを人型にした姿。体長三メートルなので巨大ロボのような風格を持つ
 厚い鎧骨格はあらゆる衝撃にも耐えることができ、魔法も雷の斧程度ならほぼ無傷で耐えられる。重機のような外装であるにもかかわらず素早く動くこともできる直接高速戦闘のエキスパート
 ちなみにしゃべることはできず、「カブー」というコミカルな鳴き声で意思疎通を図る


今回初めて人死にが出ました
出て来るキャラたちはあまり死なせないように、と気にかけていましたが、厳冬さんの攻略方法が思いつかなかったためにこんな結果になってしまいました
ごめんね厳冬さん・・・

そんなことはさておき

前回にさよちゃんとの連絡のやりとりが伏線ではありましたが気づいた人は何人いました?わかりづらかったですか?今回もう一つ伏線置いてますよ?どうですかボクのこの魅力あふれる才能は!?(ドヤァ

・・・あ、すいません。腹パンだけはご勘弁を・・・(ガクガクブルブル)

ちなみに、ヘラクレスくんは見た目完全に人型の虫ですけど、もう片方はちょっとは期待しても大丈夫なはずですから。では



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『リョウメンスクナ』

最近パンプキンシザーズのロンダリオが可愛く見えてきた
しっかりしろ俺・・・っ!アイツはヒゲ面のおっさんだぞ・・・!しかも強面w

あ、前回のあとがきでドヤ顔がうざいと言われたのでちょびっと修正。宜しければ読み直しをどうぞ
え?意味合いが違う?



 

『やだ……やだよ……しんじゃやだ……』

 

『そいつは、無理な相談だな……』

 

『ガトウさん……しなないで……!』

 

『泣くなよ……。いいか、俺のことは忘れろ……』

 

『やだよ……わすれたくない……!』

 

『忘れて……幸せになれ……』

 

『やだ……ガトウ……お父さん……っ!』

 

『っ! ――はは、……最後にそう呼んでもらえただけでも、充分さ……』

 

『お父さん……!!』

 

 

 心の声に叩き起こされるように、記憶の己が叫んだのを切欠として明日菜の意識が浮上する。

 がばり、と跳ね起きて、どっどっど、と鳴り続ける心音を確認するように自身の胸を押さえる。

 記憶の中とは違う。ふくよかに成長した女性らしい胸だ。未だ少女と呼ぶに相応しい程度の大きさでしかないが、それもまた成長の証だと無意識の誰かが呟く。

 ――あのころとは違う。確りと成長できる身体だ。

 

 

「――……、おもい、出した……」

 

 

 目を覚ますと同時に、明日菜は過去を思い出していた。

 煙草の香りを身に纏った、胡乱気な男性。そして自分よりわずかに年上であった、幼さの残る少年。その二人と旅をしていた。そんな過去。

 紅き翼、ウェスペリタティア、黄昏の姫巫女、魔法世界の崩壊、英雄と呼ばれた少年に助け出された記憶、その仲間であった男性とその弟子と旅をしていた記憶、そして、死に別れた記憶。

 全てを。

 

 

「明日菜さん? 大丈夫ですか?」

 

 

 名前を呼ばれて、焦点の合ってなかった瞳がそちらを認識する。

 黒髪の同級生。自分と同じ年のはずなのに、ずっと幼気な少女。

 

 

「……ゆえ、ちゃん?」

 

「はい、ゆえです」

 

 

 認識して思い至る。此処は過去の記憶ではない。

 此処は、確か親友の実家であったはずだ。件の親友は別件で外出したところであったが、そのあとで襲撃されたのだった。

 と、近しい記憶に己の状況把握をフォーマットし直して、

 

 

「………………なにこれ」

 

 

 周囲の状況を見て、絶句した。

 

 自分らを取り囲む何らかの『術』を行使しているのだろう、呪文を唱え続けている術師ら。

 怒号と悲鳴に塗れながらも、必要なものを必要な場所へ届ける必要があるのだろう。バケツリレーの如くに途絶えることの無い奔走を繰り返す、巫女の格好をした協会の者ら。

 絶えず襲い掛かり続けている異形の生物らは『人』を狙っているのだろう。それらを片っ端から狙撃し、弾き飛ばし、撃墜する、見知った顔の女子が三人。

 

 どれもこれも、意識を失う前には欠片もなかった光景だ。

 

 

「――えっと、確か、巫女さんたちが石にされちゃったんだよね……?」

 

「はい。その術の使い手は烏丸さんが倒したので、皆さんの石化は無事解けました」

 

 

 己の記憶を確認するように呟けば、ゆえがそれに応えてくれた。

 その返答に、「(そっか、そらが来たんだ……)」と微かに嬉しさが心の内に染み出ていたが、同時にあの術は今思えばなんだったのだろうか、と記憶を取り戻した頭で疑問が浮かぶ。確か己は魔法を無効化できるはずだったが……と。

 

 

「で、まだこんな状況ってことは、その襲ってきたやつに仲間がいたってことなの?」

 

「……あー、いえ、それなんですが……」

 

 

 そうでなければ異形の怪物が多種多様にこの『屋敷へ』襲撃をかけ続けているはずが無い。

 それを撃退している顔見知りの三人娘も若干気になるが、今は現状確認のほうが優先だと一先ず一番の懸念から質問した。

 が、ゆえは目線を逸らしつつ、言葉を濁し、

 

 

「――私自身、何から説明したものかと思うのですが……、とりあえず――、」

 

 

 そうして語りだす。

 『こうなった』そのときの状況を。

 

 

   × × × × ×

 

 

「とりあえず、これ以上の危機はないようですね……」

 

 

 死んだ人には悪いのですが、どう考えても襲ってくるほうが悪いのです。と命の重さについては一旦思考を割り切り、石化が解け始めた烏丸さんの左腕を視界に収めてほっとします。なんだかんだで烏丸さんにも毒されてきたみたいで非常に不本意ですが、こんな状況で我が侭を言う気は無いので黙っておきましょう。あれもこれも全部後です。色んなことがいっぺんに起こりすぎて思考放棄していた、というのが正直な本音ですけど。

 ……わたしを守るために犠牲になって、切り落とされた左腕を見てしまうと、どうにも申し訳ない気持ちも浮かびますしね……。

 

 

「そっちの三人娘も復活中。さて、ヘラクレスくんをどう説明したものかねぇ」

 

「隠し事ばかりしてるからこういうときに大変なんですよ。一度どんな手札を持っているのかくらいばらしてみては如何ですか?」

 

 

 確かエヴァンジェリンさんもセルシウスのことを知らなかったとあの日言っていたみたいですし、この人は本当にいくつ隠し札を持っているのか。

 そう考えると申し訳ない気持ちも吹き飛びますね。

 

 

「そして敵も(冥府に)去ったのですし、いい加減にその腕も治療したほうが宜しいですよ?」

 

 

 石化の解けた左腕を持ち上げて唸る烏丸さんに、そんな言葉を投げかけてみれば、

 

 

「こうなると本格的な治療に集中せんといかんからなー。俺の工房に行けば機器も揃っているからなんとかできるんだけど」

 

 

 どこの魔術師ですか。と口を挟みたくなるようなゲーム的な単語が飛び出しました。

 というか、

 

 

「……? 応急処置くらいならできるのでは……?」

 

 

 というわたしの純粋な疑問に対して、

 

 

「んー、無理だな」

 

 

 そんな言葉をあっけらかんと呟きます。

 

 

「え、でも、切断したのはその、スタンド、ですよね?」

 

 

 未だに納得できませんがそう言っているのですから認めざるを得ませんが、スタンドはスタンド使いにしか見えないという『ルール』が存在していたはず。そうなるとわたしも『それ』だという可能性が浮かびますが……。わたし、『矢』に射抜かれた経験も『遺体』に関わった経験もありませんよ……?

 と、今はそれよりも別のことでした。

 

 

「俺のスタンドじゃ付け直すためにはイメージが足りん。単純に『治療』とやるには重傷だし、癒着とくっつけるにはどの部分がどうくっつくか見当つかんから最悪くっついたら関節曲がらなくなるかもしれないし。そもそも能力一度解かないと書き込めないし解いたら解いたで出血多量で死ぬかも知れんし。マチみたいな観察眼とかドクターブライスみたいな念能力が欲しかったなぁー」

 

 

 最後の台詞は聞かなかったことにします。

 というか、そこまで明け透けに話してしまってもいいものなのでしょうか? いえ、確かに手札を晒せと言ったのは他ならないわたしですけど。スタンド能力まで晒されると、こう、言い知れぬ罪悪感まで感じてしまいそうですよ……!?

 

 

「ま、魔法でちゃちゃっと……」

 

「ストックしてあるけど、起動させるのと腕の固定とに文字通り『手』が足りないな」

 

 

 誰が上手いこと言えと。

 

 

「魔法自体それほど強力な奴じゃないからどのみち腕をくっつけるにはこの場じゃ無理だしなー。折角だし協会本部に出向いて治してもらうか?

 ――……って、お?」

 

 

 暢気な様子でそんなことを言っていたとき、烏丸さんは不意に宙を見上げました。

 何かと思い、わたしも見上げれば、

 

 

―――ォォォォン……!!!

 

 

 何処からか怪獣の鳴き声のような咆哮が……。

 

 

「封印が解けたか。多分リョウメンスクナだろ」

 

「あっちにはあの人のような刺客は赴いて無いですよね?」

 

 

 無事に事が済んでいるといいのですが……。と、このかさんと刹那さんの身を案じつつ、思わず未だ動かないはずのお爺さん(半分)に目を向けました。

 目を向けて――、絶句しました。

 

 

――バリバリ ボリボリ グチャグチャグチャグチャ

 

 

 いつ、それらが現れていたのか、お爺さんの死体は無数の異形の怪物に食されておりました……。

 

 

「――ひっ!?」

 

「あ? なんだこりゃ?

 ――はぁ?」

 

 

 素っ頓狂な声を上げる烏丸さんの周囲に、障壁が出現します。今まで反応しなかったのに、何故?

 と、思っていると、急に息が、苦、しく……

 

 

「っと、やばいやばいやばい」

 

 

   × × × × ×

 

 

「――おう、神社、というか協会の敷地の外側な? 全体的に広範囲で頼む。ああ、出力はそれほどかからんと思う。出て来る奴らは弱いのばっかりだし」

 

 

 ――再び気がついたときには息苦しい気分は消えて、ある程度快調な状態に戻っていました。

 恐らくですけど、烏丸さんが何かしらの処置を施したのだと思われます。

 

 

「何が、あったんですか……?」

 

 

 烏丸さんは何処かへ電話をかけている様子ですから、説明できるほど余裕があるとは思いません。

 なので呟きつつ、自力で状況の確認をしようとします。目が覚めていた楓さんの背に負われながら周囲を見渡せば、ヘラクレスさんが無数に湧き出ている異形の怪物らを片っ端から滅多打ちにしているところでした。

 

 

「え、ほんとになんですか、あれ」

 

「おや、気づいたかい」

 

「あ、龍宮さん」

 

 

 周囲を警戒している龍宮さんに、心配したと言いたげな目を向けられました。

 

 

「瘴気に中てられたようだね。突然このあたり一帯に濃い目の瘴気が吹き出し初めてね

 まったく、こんなもので処置ができるとは、つくづく規格外な人だね」

 

「こんなもの?」

 

 

 言われて首をかしげると、龍宮さんは自分の胸元を指差しました。手に取るとわたしにも同じものが。

 

 

「成田山のアミュレットだよ。個人用簡易結界の効果を及ぼすらしい」

 

「ますますゲームの世界ですね」

 

「いや、アミュレット自体は普通に売っていたらしいけど」

 

 

 何を売ってるんですか成田山。

 

 

「お、気づいたか

 じゃあ俺はちょっとスクナ見てくるから、お前らは協会本部で結界強めておいてくれ。なんかどう考えてもイレギュラーな事態みたいだし」

 

 

 じゃあいくぞヘラクレスくん!と叫び跳び乗ったかと思うと、烏丸さんらはそのまま飛び立ってゆきます。

 ええー……。確かにここら一帯の異形らはヘラクレスさんが片付けたみたいですけど、乙女を四人も放置してゆきますか普通……。

 

 まあ、中心地のほうが危険だという理屈は、わからないでも無いので構いませんけどね……。

 

 

   × × × × ×

 

 

「――と、いうわけでして

 ちなみに協会の敷地全土を外側から結界を敷いて怪物らを逃がさないようにしているのは茶々丸さんらしいです」

 

 

 と、ゆえは締めくくる。

 これで篭城の説明は全てなのだが、内心果たして納得してくれるだろうかと戦々恐々でもあった。

 どう見ても明日菜も物事の中心から遠ざけられて、はいそうですかと簡単に頷けるような性格をしていないのは明白だからだ。

 そらは明日菜の幼なじみであるらしいし、そら自身あの場にやってきたのは明日菜の身に起こったことを心配してやってきた、ということは憶測できた。

 そうなれば遠ざけるのは自明の理でもあるのだが、明日菜のほうもそらを心配するという心情を抱えているのは普段の親密具合からも容易に推測できる。

 このあとどんな無理な注文を告げられるのか、とゆえはちょっとだけ憂鬱になる。

 

 

「……ねえ、ゆえちゃん」

 

「は、はい、なんでしょうか……」

 

「そら、左腕取れたままなんだよね……?」

 

「で、ですね……。治療は麻帆良に戻らないとできないとか言っておりましたので……」

 

「そうだよね……」

 

 

 ふぅ、と息を吐く。

 ああ、これは噴火前だ。とゆえは漠然と理解した。

 

 

「――そんな状態で何をやってんのよアイツはぁぁぁあああ!!!」

 

「わ、わたしに言われましてもぉぉぉ!!?」

 

 

 記憶を取り戻したことなんて、最早どうでもよかった。

 

 

   × × × × ×

 

 

 一方、協会の中心で怒りが爆発していることを知らぬ少年は、カブトムシのホムンクルスに乗ったままとある一点を見ていた。

 

 

「――おいおいおいおいおいおいおいおいおおいおい、なんだよあれは……」

 

 

 それは、天を衝くような巨躯の大鬼――、

 

 ――ではない。

 

 

「なんでこんなところにあるんだよ……

 ああ、魔法使いが携わっていたからか……? こんなものまで秘匿するなよ、バカだろチクショウ……」

 

 

 どう考えても問題がある。と頭を抱えて項垂れる。

 その少年の視線の先は大鬼の出現した大岩――、でもなく。その傍にある、湖であった。

 

 ――そこから、瘴気が漏れ出していた。

 

 

「スクナの気に中てられて活性化したか……それとも綻びが緩んだか……

 おっかしいなぁ、聞いた話じゃどでかい穴はとっくに塞がれていて、こんな地表にまで出ているはずが無いんだけどなぁ……」

 

 

 完全に専門外だわ。と一人呟く。

 よくよく見ればスクナのほうもなんだか暴走しかかっているご様子。

 何処ぞの巨人型決戦兵器宜しく拘束具を解除する勢いで咆哮を繰り返す。

 どちらかというと、大鬼の方が瘴気に中てられているようにも見えた。

 

 

「めんどくせー。すこぶるめんどくせー……

 ――でも、やれるやつって俺しかいないんだろうなぁ……。はぁ……」

 

 

 ため息をつきつつ、ヘラクレスの進撃は止まらない。

 やるしかねー、と気合を入れて、烏丸そらは現場へ赴いた。

 

 

 




~マチみたいな観察眼
 念糸縫合技術は能力だけじゃ説明つかない気がする

~ドクターブライス
 玩具修理者。死者蘇生まではできないけどね

~成田山のアミュレット
 言い方違うけど要するにお守りのこと。ので、売っていても不思議じゃないよ?
 効果というか魔性付加≪エンチャント≫はそらが色々仕込んだわけだけど

~異形の怪物
 姿のほうはご想像にお任せします


ハイスクールD×Dの二次を始めたお陰でちょっとだけ更新が遅れました
いや、あっちのほうがやたら書きやすくて書きやすくて
短いのですけど内容が濃い目です。地獄少女がやたらと人気。何故

別の作品のキャラで表現するな、という旨を感想でつっこまれました
思わずそうだよな、と思い謝ってしまいましたが、そもそも視点が主人公の場合は明確に語る気も無ければ明確に語れるほどの性格でもありません。という前提が暗黙の了解にあったりします。勝手に
ついでに言うとそのすぐ前文辺りに相応の描写をして、それから例文のような形で表現しているし、今更考えると別に平気じゃね?伏せ字にする必要性は多少なりともあるけど。と思い至る始末
こいつ、反省してねえぞw
もっといい表現も今なら思いつきますが、書くその時に思い至ってないのだからその時の己の実力がその程度なのだと思われるのも致し方なしです

まあ今後もこういう表現を割とやらかすかと思います。所詮踏み台にして欲しい二次創作ですから。読者の方がこれを読んで面白い話を考える参考にしてくれればそれで良いんですよ
作者のことを嫌うのは別段構いませんが、小説というものに拘りを持つのは止した方が宜しいかと
文章なんてのは誰が書いても良いんです。面白ければ。これが駄目それが駄目、と言うよりは、清濁併せ呑んで厳選したほうが愉しいですし?と余計なことをまたこんなところで呟きます
そんなんだから突っ込まれるんじゃ無いですかやだー

相も変わらず、前書きや後書きで余計なことしかしないのが俺ですw
精進します


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『クタァト=アクアディゲン(・・・?)』

遅くなって申し訳ない
多分過去最高の謎回


 

「ヘラクレスくん、一足目、始め!」『カブー!』

 

 

 二足歩行のカブトムシを従えてわたしらの前に現れたのはそらくんやった。何を言うとるのかわからんかも知れんけどわたしも何を言うとるのか良くわからん。催眠術とか魔法とかとはずっと違う、なんか恐ろしいものの片鱗を味わったわ……。

 

 

「――で、呆けとる様だけど大丈夫かこのか?」

 

「ああ、うん。一回ポルナレフやったら落ち着いたわ」

 

「そかそか」

 

 

 改めて、リョウメンスクナの封印を解いたと思ったら突然の咆哮、辺りには瘴気が漂ったという千草さんらの談に慌てて皆で入れる結界を用意してくれた笹浦のおじさんには感謝やけどわたしの魔力とやらもスクナにぐんぐん持っていかれている現状ではいつ結界も解かれるかわからんかった。そんな地味なピンチに助けに来てくれたそらくんマジイケメン。さすが雰囲気イケメンといわれるだけのことはあるわ。というかどうして片腕無いん!?

 

 

「そ、そらくん左腕どうしたんや!?」

 

「途中でちょっとあってな。まあそれはいい

 今はこれを収めるのが先だ」

 

 

 全然放っておいていい問題とちゃうと思うんやけど。

 

 

「これは……、どういうことなんや……、私の封印解除術式は間違っていなかったはずやのに……」

 

 

 千草さんが虚ろな目でそんなことを呟いた。

 救援が来たお陰でちょっとだけ余裕が出たんかな。

 

 

「どちらかというとこれは封印した場所の問題だと思うが」

 

「……え、なんやあんさん、これがどういうことなのかわかっとるんか……?」

 

 

 その呟きに応えたのはそらくん。

 まあ、湖の真ん中では二足歩行のカブトムシくんが木剣を振るっておるのやから、多分全部把握してやっとるのかと思うけど。あれ、多分封印術式か何かやろうしなー。

 

 

「あれは、反閇、か……?」

 

「さすがに笹浦さんは知ってるか。ああ、心配しなくてもスクナを再封印するわけじゃないから」

 

「じゃあ、なんで封印術式を組んでるんだ……?

 しかも、あれは俺でも見たことの無い型だぞ」

 

 

 笹浦さんって意外とインテリ系なんやろか。そらくんのやろうとしていることに興味深々で解析しようとしとるみたいやし。

 

 

「説明、要るか?」

 

「「頼む(わ)」」

 

 

 千草さんと笹浦さんの声が完全にはもった。

 一方わたしとこたろーちゃんとせっちゃんは置いてきぼりのままや。何がどうなってるのか、さっぱりわからんかった。

 

 

「まずは、地球空洞説というものを知ってるか?」

 

 

 その切り出しで、更にわけわからんことになったのは言うまでも無いな。

 

 

   × × × × ×

 

 

 1692年、エドモンド=ハレーによって提唱されたこの惑星の内殻に存在する直径一万キロになんなんとする大地と極孔及び世界各地に点在するそこへ通じる穴についての奇説らしいがな、都内某所のちょいと老舗の骨董品屋の魔女に聞いた話ではどちらかというと『こっち』が内殻じゃないかとゆう話だ。それというのも『あちら側』のほうが比較してずっと広大だからという理由にしか基づかないが。

 で、だ。その説を裏付けちまう事件が実は半世紀ちょっと前くらいに大陸のとある都市で引き起こされた。

 正確にはその都市のど真ん中に眠っていたファンタジー合金を回収するための犠牲だったらしいが、どちらにしろいつまでも放置しておくわけに行かない代物だったらしいからそのついでに『穴』を塞ぐと言うのも現代の人類にとっては有り難いことだがな。その犠牲になった都市は地図から消えたそうだから、当時そこで生活していたやつらにとってはたまったものではなかったと思うけど。

 

 それとは規模はずっと小さいけど、これも『穴』だ。本来なら地下にあるはずなんだろうけど、何かの拍子で地上のここまで上がってきたんだろうな。

 それを魔法使いの秘密主義が今日まで隠し続けてきたってわけか。隠した上に放置プレイとか、誰得だっつーの。

 

 この『穴』というのも単なる現象に過ぎなくてな、向こうの宇宙とを繋ぐ回廊みたいなものでこれが開ききってしまうと向こうの法則に侵食されて世界が終わる。正確にいうなら、物理法則が捻じ曲げられて自我の脆い己のカタチの認識の甘い他人に与えられた価値基準を丸呑みな輩はあちらの法則にのっとった形に順応しちまうらしいのだが、桜咲のその姿はそれの影響か? まあ、羽が生える程度ならまだ良いもんだろ。女神転生も真っ青な怪異か怪獣かに変貌した標本を見せてもらったことがあるけど、あれに比べればずっと可愛いさ。――おい、顔を赤らめるなよ。褒めてねえよ、別に。

 

 んんっ、話を続けるぞ。

 

 穴の規模が小さかったのと、最低限度ではあるけど地脈を封印する下地が呪術協会にあったのが幸いしたのかも知れんな。変貌したのは今のところ人には及んでいないはずだ、まあ、道中昆虫だか山の獣だかが百鬼夜行になって屍骸を漁るようにはなってしまったようだが、今のところ協会本部は防戦に徹底させているから被害は特に無い。周囲に結界を敷くようにも連絡はいれてあるから、街中に被害が及ぶことも無さそうだし。

 それにしたって小規模ではあるけど穴が放置されていたのが一番いただけないな。本当にただ塞いだだけって感じ。お陰で法則の余波が瘴気って形で噴出してんだと思うぜ?

 

 

   × × × × ×

 

 

「――で、今はその穴の処置かな。規模から考えて人体で言うところの引っかき傷程度のものだろうけど、自然治癒にするには内側から吹き出てくる『血』を止めていないのが問題。生傷のままって状態だな。

 さすがに回廊をどうにかする技術は俺には無いからねー、俺に出来るのはせいぜい場所を移す程度だ。もうちょっと処置のし易い場所に、な」

 

 

 あかん。本格的にわけがわからへん。

 SFな話に行ったかと思ったらせっちゃんの背中には羽が生えとるし、都内某所の骨董品屋の魔女って誰や。有子さんか? これも魔法関連の話と仕舞ってしまって良いのやろうか。

 

 

「……言いたいことは色々あるけど、処置のし易い場所ってのは何処や?」

 

「麻帆良」

 

 

 千草さんの質問にあっけらかんと答えるそらくん。

 

 

「って、麻帆良にこの穴を移すん!?」

 

 

 なんかとんでもないこと考えとった!?

 

 

「正確には世界樹かな。あれ、ヘラクレスくんの振るっている木剣、旙桃の枝なんだよ。その中に紫金の針代わりとして金を流し込んだ特別製でな。振るって流れを断ち切り最終的に中心へ突き立てることであの枝を世界樹と誤認させてリンクする。そうすることで瘴気は世界樹へと流すことが出来る。

 世界樹は循環器としてはこの世界で最高級のものだそうだ。そうして魔力に転換させれば向こう数百年くらいは放置しても大丈夫だろ」

 

「長い。三行で説明して」

 

「これ以上要約できねえし」

 

 

 わ、わけがわからへん……。

 大丈夫って言うからには大丈夫なんやろうけど、千草さんもよく理解できてへんのかぽかんとした顔しとるし、笹浦さんに至っては頭痛が酷いかのように目頭を押さえとる。あれ? 『大丈夫』を信頼できる要素が見あたらへんよ?

 

 

「まあ四の五の言ってる間にそろそろ架橋なんだけど」

 

「へ?」

 

 

 言われて湖を見れば、二足歩行のカブトムシくんが真ん中に剣を突き立てているところやった。

 え、もう終わったん?

 

 

「流れを断ち切ったから、もうこのかの魔力も遮断されてると思うけど?」

 

「え、あ、い、言われてみれば……」

 

 

 力が抜けるようなあの感覚がいつの間にかなくなってることに気づく。別の意味で力が抜けそうなんやけどな。

 

 

「……瘴気も無くなってるな。なんっつう無茶苦茶な術式を組みやがるんだこのガキ……」

 

 

 笹浦さんがそう言って結界を解く。

 お、終わったんか。なんかどうなることやと思っとったけど――、

 

 

『He is torch to the heart of people clearly filled to people's child's eyes in supreme Jin's work gorgeously once again at vanity and deception…』

 

 

 ――はい?

 

 

『my God -- please lend how or power…』

 

 

 なんか英語?が聞こえたかと思って、みんな揃って上を見上げる。

 

 ――リョウメンスクナがまだおった。

 

 

「あれ? なんで一緒に相殺して無いんだこいつ?」

 

 

 え、想定外なん?

 

 

『The child etc. of the poison electric wave which tells an ignorant crowd the voice of God and it pours from the dark sun to God

 God gave only this me Stigma as save – already teach me the reason right into this world by this power -- me -- this world -- a living deity…』

 

「あー……、多分だけど、『あの』スクナもあっちからきた元・人間なのか?」

 

「は!? あれが!?」

 

「少々愉快な見てくれになってもあれも人だ。かなり前にあっちに迷い込んでそれが出戻ってきたんじゃないかな、生物としての帰巣本能が働いたか?」

 

『right God gave the right blessing of the right help correctly to the child of God right us who continued repenting the right faith on a breast every day already alike right It is different and twists!』

 

 

 うわぁ、なんや、ハウリングみたいな聴こえ方で声(?)がびりびり響く。

 意味のありそうな言葉を発声させているのが余計に醜悪に思えてくるな。なんか、嫌な感じや。

 

 

『it can sing sacred song in praise!

 Brace up the good heart!

 It is March about March!』

 

 

 五月蠅っ!?

 

 

「――the pseudo cleric of religion collapse. Is it a case where it is immersed in a good feeling?(宗教崩れの似非聖職者が。いい気になってんじゃねえぞ?)」

 

 

 え、そらくん今なんて言ったん?

 あ、なんかスクナがこっち向いた。

 

 

『What was it called now?』

 

「was said that it was noisy It goes also on a diet, oxygen consumption can be cut down fuck.(うるせぇっつったんだよ。ダイエットでもして酸素消費量を少しでも減らせや豚が)」

 

『…God said. There is no necessity that you get angry. To a thing to that extent is as useless no thing as getting angry with the said thing of a yellow ape and an animal』

 

「if I am an animal, although you will be an insect. White maggot(俺が動物ならお前は虫だろうが。白蛆)」

 

『…it is better not to offend me. I am " simply only at twisting this hand, such as your life--』

 

「It does not have the culture with it which can understand the language of an insect.(虫の言葉なんて理解できねえな)」

 

『it is good courage! it kills pagan right now!』

 

 

 そ、そらくん何言ったん!? なんかスクナがえらい剣幕でこっちを威嚇しとんのやけどぉー!?

 

 

「いや、だってあいつうるさかったし、なんか妙に態度偉そうだしよ」

 

「そんなんでも喧嘩腰に話しちゃアカンって幼稚園で習ったやろぉー!?」

 

「そんなんしらんもん」

 

 

 ぷいって感じでそっぽを向く、っていや、今そんなんやっとる場合ちゃうよ!?

 

 

「あんさんら何漫才やっとるんや!

 ここはあたしらに任せてはよにげぇ!」

 

「ち、千草さん!?」

 

「負傷者と女子供に戦わせるほど、こっちも大人辞めてるつもりはないんでな……っ!」

 

「笹浦さん……っ!」

 

 

 そういえばそうやった、そらくん何故か左腕無いし、はよ逃げんと……!

 

 

「お嬢様! つかまってください!」

 

「せっちゃん!?」

 

 

 こたろーちゃんを小脇に抱えたせっちゃんが、翼はためかせて必死な顔でこっちに手を伸ばす。

 そらくんもつれていかんと……!

 と、そう思ってそっちに目を向けると、そらくんは、

 

 

「――クタァト!」

 

 

 そう叫んだ。瞬間、

 

 

『--it is was this!?』

 

 

 湖の水が全部押し上がってスクナに絡みつき、それが姿を変貌させてゆく。

 その姿は、蛸と蝙蝠が合体したような、巨大な怪獣やった……。

 

 

「ああ、まあここにいると思っていたんだよな。水辺って言えばここくらいしか無いし」

 

「そ、そらくーん!? あのラブク●フトなクトゥ●ーも向こうの生き物ーっ!?」

 

「いんや、あれは俺の使い魔」

 

 

 邪神にしか見えん!?

 邪神が使い魔って何!?

 そらくんって実はいつもにこにこな這い寄る混沌さんやったんか!?

 

 

「――………………湖が完全に干上がっちまった……」

 

 

 呆然とする笹浦さんの言葉に目線を下ろすと、確かに、湖は完全に少し凹んだ程度の広場になっておった。

 

 

「麻帆良と繋げた際にここの水も媒介として利用したからなー。残っていたのは魔物だけだ」

 

「っつうことは、水気と木気と金気の三重相克……? どんなやり手の陰陽師だよ……、協会にも居ねえぞそんなやつ……」

 

 

 え、魔法とちゃうの?

 

 

「ま、そんなのはどうでもいいさ」

 

 

 平然とした様子で見上げる。

 そこには、軟体系海洋生物的な触手で雁字搦めに身動きできなくなっているリョウメンスクナの姿が……、

 

 

「敵対したいというなら対峙してやる。てめぇは今から俺の敵だ

 ――解して晒して並べてやるよ」

 

 

 実に嬉しそうに、スクナを見上げてそんなことを宣ったそらくんが、そこにいた。

 




~タイトル
 クタァト=アクアディゲン。またの名を『水神クタァト』。狂気的な魔道書の一冊。なんで今回のタイトルにしたかというと、

~クタァト
 水の魔道書の名前で括った製作者そら印の魔性の使い魔。前々回くらいにヘラクレスくんに乗って近場まで運ばれてきたけど水気が欲しくて自身で移動。スクナが封印解除されるまでずっとここに居たお茶目な娘。水を吸えば姿は変幻自在。今回こんな格好ですけど、普段はもうちょっと可愛いんですよ?

~英文
 エキサイトさんに頼りました。翻訳し切れんかった部分は辞書を片手に。久方振りに英語やったわ

~都内某所、老舗骨董品店の魔女
 某次元の魔女さんとは関係ありません
 イリシャ=リーバス。年齢不詳、黒髪眼鏡のお姉さん。かなり昔からそこに陣取ってはいるものの、魔法使いらとはほぼ疎遠。というか出会うこと事態が幻扱いの御伽噺がそのまま実体化したような魔女。敵対すれば優しく絡め取られ戦力を無くすらしい、という闇の福音に比べると少々大人し目にも聞こえるが実は魔法界には賞金までかけられているお方。魔法界や協会に属さない魔法使いには割と格安で相談を受けることもあるらしい。通り名は『ワルプルギスのご老体』

~解して晒して、
 自由を奪ってフルボッコですね。わかります


長らくお待たせしてスイマセン
D×Dが一段楽したのでちょっとした宣伝に来ました嘘です

ええ、まあ、言いたいことはわかります
わっかんねえだろぉー?
俺でも何書いてるか途中プロット何度も見直したもん

え、結局何が言いたかったの?
これってオリジナル解釈だよ?
地の文少なすぎねえ?
いや三つ目は、このか視点だからある意味仕方ないんですけどね(という体のいい言い訳)

あとそら、お前いつの間にそんな流暢な英語喋れるようになった
あれー?ヘブンズドアとか出たっけ?
まあ後々説明入れます。多分ずっと前に書いたことで説明して無い部分もまだ残っていたはずですし、次章か次々章辺りには、ええ

イリシャさんはクロスキャラです
偽名です
意味無いとか言われそうですけど、己的には言いたいことがこういうクロスに混じっているのでこういうこと結構続けます
感想とかご意見とか、待っていますのでよろしく

次回、ついに章の終盤まで忘れられかけていた某運命さん登場の予定・・・っ!
お楽しみにー

・・・予定は所詮予定ですが


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『フェイト=アーウェルンクス』

すっごいキングクリムゾン!
こんなキンクリ見たことない!

前話の細かいところを少々修正しました
禁酒法に照らし合わせると年代が合わなかったし


 

「――ということがあってスクナはこれこの通り、ばらんばらんにされてしまいましてな。核だけをこうして持ってくることくらいしかできまへんでしたわ」

 

 

 さらりと事後報告を終えて、千草は目の前の『客』

に『お土産』の飴玉を一つテーブルに転がす。

 それらを見つめるのは感情の無い目だったのだが、話を聞いているうちに何と応えれば良いのか本人も検討を失ったらしい。今では若干胡乱な瞳を、テーブルの上を無造作に転がる飴玉へと向けている。

 その『客』は『フェイト=アーウェルンクス』と名乗っていた。

 

 

「……聞くに、とんでもない力量の魔法使いがいたもんだね。自我を取り戻した鬼神相手に使い魔付きとはいえ単騎で対峙するなんて、正気の沙汰とは思えないよ」

 

「戦闘用の準備を怠った状態で封印解除に挑みましたからなぁ。お嬢様の魔力は正規のものやし大丈夫かと思っとったのやけど、まさか『場』の方に協会自体が見逃したもんがあるなんて誰も予想だにしとりませんでしたからな」

 

「僕が直接赴いても良かったのだけどね」

 

「そこまではお力を借りるわけにもいきまへん。外様の力を借りて今回の事案に乗り出しとったら、余計に東からの目が怖くなりやし

 出来てスクナの処理。この程度が関の山ですぇ」

 

「そうかい。まあそちらがそう言うのなら構わないのだけど。こっちとしても言うほど手が足りているわけでも無いし、ね」

 

 

 そんな会話をし、フェイトと名乗った少年がコーヒーを一杯、啜る。

 

 

「で、この飴玉、どうやって封印を解けばいいのかな?」

 

「さぁ?」

 

 

   × × × × ×

 

 

「――なんとか、捌けたかな」

 

 

 ふぅ、と一つ息を吐いて、千草は店から立ち去った少年の背中を眺める。

 スクナの核、というのは実は嘘で、本当はバラバラに解体されたスクナの一部を、どうやったのか知らないが笹浦の謎技術で飴玉に収束するようにあの場所で色黒の少年に指示されたのだ。上手く解放できれば魔力濃度は鬼神に匹敵するだろうから、売り込む相手側にも納得させられる。というのが少年の言い分であったが、あの様子から察するに転売は不都合無く終了したと見てしまってもいいだろう。

 もう売ってしまったのだし、後々に突っ込まれても知らん。と千草は悩む素振りも脳裏から切り離す。

 

 

「そういえばあの子のこと喋ってもうたけど、まあこれくらいなら大丈夫やろ。名前を出したわけでないし、な」

 

 

    × × × × ×

 

 

 一方件のフェイトは店から離れつつ困惑しか残っていなかった。

 手渡されたのは魔力の塊とは言え飴玉。封印解除法もわからず、巧い使い方も思いつかず、どうすればいいのか。

 

 純粋に人手と言う名の戦力が欲しかったのが彼らの組織の今回手を貸そうとした目的であったはずなのだが、素気無く断られて事が終わるまで関わらせてもらえなかった。それもこれも今回の事案に発展する寸前に麻帆良へと大々的に関西の手が伸びたことが原因であったりする。

 外側から搦め手で協会に潜り込む手筈のはずが、根本的に人員が足りなくなってきていたために遠まわしに準備していたイスタンブールからの留学生という違法すれすれの手で用意した仮の身分を使う暇も無く、作戦の発案者からは手を借りないとまで言われる始末。

 最後に手渡された鬼神ですら『これ』である。

 

 なんとなくではあるが、件の鬼神と単騎で渡り合ったという例の少年魔法士が全て裏で暗躍していたのか?とまで疑ってしまいそうだ。

 

 

「(しかし、京都に来ていた魔法使いで、そこまで力量の高いものはいなかったはず……

 いや、まてよ?)」

 

 

 事件にまったく関わらず、姿そのものを晒していなかったために、国内では追われる心配も無いのでゆっくりと歩道を歩みながら、少しだけ物悲しい気持ちでフェイトは内心で推測を立てる。

 

 

「そうか、そういえば彼も来ていたという話だったな……

 修学旅行でこんな事件に巻き込まれるというのも、彼という存在がそうさせているのかもしれない……

 詳しい力量も不明なままだが、彼ならば或いは……」

 

 

 推測から、一人の少年を脳裏に浮かべた。

 一人振り返り京の街を睨み付け、宣戦布告するように彼は続ける。

 

 

「どうやら、キミのことを詳しく調べる必要があるみたいだね、

 ――ネギ=スプリングフィールド」

 

 

 人違いだった。

 

 

   × × × × ×

 

 

『どうして、どうしてこんなことをするんですか!? 楽しい旅行じゃないですか! こんなことをして台無しにするなんて、馬鹿げてますよ!』

 

『それもこれも旅行の醍醐味って奴さ!

 ボクは愉しいよネギ君!? この気持ち、まさしく愛だ!!!』

 

『そんな歪んだ気持ち! ボクが修正してやるぅぅぅ!!!』

 

 

「と、いうことが夕べ起こりまして。覗きを敢行した瀬流彦先生と3-A男子数十名、本日は謹慎です」

 

「馬鹿なのか!?」

 

 

 一方そのころ、とある色素と感情表現の薄い運命的にも薄幸そうな少年に勘違いで狙われている薬味少年は、翌朝になっていつの間に帰っていたのかわからないが隣の布団で眠っていた色黒系ルームメイトに昨夜の報告をしていた。

 言われたそらにはまさに寝耳に水であろうが、起こっちゃったことなのだからしょーがない。これも修学旅行の醍醐味というやつなのだろう。多分。

 

 

「いちおう、敢行した男子はみんな捕まっていますし、そらさんの班にはエヴァンジェリンさんもいますから謹慎はなしということで見逃してもらっています。実際因幡さんと敷浪さんは参加してなかったみたいですし」

 

「信じていた。信じていたよ、うん」

 

 

 捕まった男子(馬鹿)には悪いかもしれないがやったほうが悪い。性犯罪者に情状酌量の余地など無いのである。

 

 

「でもしばらくは男子への風当たりが懸念されますけど……」

 

「麻帆良に帰れば大丈夫じゃね?認識阻害あるし」

 

 

 認識阻害はそういうことに使うものではありません!と、麻帆良に残っているらしきお嬢様系魔法少女が声高らかに否定しそうであるが、そら的には真っ先にそういう用途に手を出しそうな人物が学園長であるから。説得力は無い。

 

 

「あ、あとなんかしずな先生がそらさんに話があるとか言ってましたけど」

 

「………………なんで?」

 

 

   × × × × ×

 

 

『やっと私のスタンドの使い方がわかったよ。

 これは、壊したものをばらばらに組み立てるのが正しいんだろうね』

 

『く、くそっ、こんな、こんなところで、こんなガキにぃぃぃ!!!』

 

『――モザイクブルー、あの人の中身を、組み立て直して』

 

 

「っていうことが、昨夜あったみたいなのよ」

 

「……で、こいつが主犯ってことですか」

 

 

 捕縛されたおっさんをジト目で見やる。なんかエ●ゲとかに出ていそうなおっさんだった。悪い意味で。

 どうも、ネギ君の言っていた覗きを扇動したのがこのおっさんのスタンドだったらしく。そうやって扇動した中で侵入してきたところをアキラたんがフルボッコにしたらしい。発見者は風香だとか。しっかりと防衛網を敷いていた彼女にはあとで飴ちゃんをやろう。ちょっといわく付きの飴ちゃんだけど。じ、実験じゃねーし。

 

 

「それがどうも魔法使い関連の脱走兵らしくってね? 勝手に始末するには都合が悪いかなーって」

 

「気楽に言いますけど言ってることそら恐ろしいっすからね?」

 

 

 もうガクブルである。

 

 

「うーん、関西は関西でごたごたしているみたいなんだよなぁ、このまま麻帆良に連れ帰るのも面倒だし……

 とりあえず、伝手に連絡入れときます。一応スタンド使いもいるので、このまま再脱走なんてことにはならないと思いますけど」

 

「助かるわー。あ、精神処理はしておいたから、安心してね?」

 

 

 だからさらりと言う話じゃないってばよ。

 

 

「ところで、左腕どうしたの?

 なんだか動きが悪いわね?」

 

「昨夜くっつけたばっかりなんで。しばらくリハビリが必要なんスよ」

 

 

 あの場にクタァトが居て、本当に助かったけど。

 

 

   × × × × ×

 

 

「あれ!?なんで!?」

 

「何がだよ」

 

 

 朝食が終わって最終日を満喫しようと出立しようって時間、協会からなんだか急ぎ足で帰ってきた集団に駅でとっ捕まった。

 叫んだのは綾瀬。俺の腕を見て驚愕の表情である。

 

 

「麻帆良に帰るまで無理だとか言ってませんでしたっけ!?」

 

「いや、回復用の使い魔が居たからさ、丁度」

 

 

 電車は出発してしまい、因幡と飛鳥がいきなり別行動になる。仕方なし、行き先で合流しよう。

 

 

「なんだ? 怪我でもしたのか?」

 

「左腕が切り離されました」

 

「あ、おい馬鹿やめ、」

 

「ホホゥ?」

 

 

 オワタ。

 

 

「帰ったら修行度50%増しだな」

 

 

 あ、俺死んだわ。

 エヴァ姉の極大魔法が更に襲い来る悪夢が今日から始まるんですね、わかりかねます。

 

 

「というか事が終わったのなら本部に来てくださいよ! 戻ってきたこのかさんもせつなさんも真っ白な状態で! 何も聞き出せなかったからどうしたのかと気が気でなかったですし!」

 

「いや、俺一応旅館から脱走していたからさ、急いで戻らんといかんかったし」

 

「どうせ面倒そうだと思ったんじゃないのか?」

 

 

 ちょ、エヴァ姉、怪我をしたの言わなかったのは謝るから機嫌直して。確かにそうだけどこの場で言うと俺に非難が集中するから!

 

 

「そーらーさーんー!?」

 

「まて、落ち着けゆえきち、これはあれだ、聡明な罠だ」

 

「それを言うなら孔明の罠だろう」

 

 

 そんな援護射撃いらねえよ!

 もっといい援護してくれよ色黒スナイパー!

 

 

「ともかく一旦おちついてdアイタタタタタ!?」

 

「――腕、大丈夫なの?」

 

 

 ぐぃぃぃ、と無茶な方向に引っ張られる。いや明日菜さん、そんな関節極めるみたいにやられると大丈夫では全然無いのですけど!?

 

 

「待て待て待て待て! 極まってる! 関節極まってるから一旦離し――!」

 

「――良かった……っ!」

 

 

 ――本当に孔明の罠な気がした。

 

 

「は、え?」

 

「馬鹿……、心配したんだからね……っ!」

 

 

 腕拉ぎから解放されたと思ったら抱きつかれて泣かれている俺が居る。なんかラノベのタイトルみたいな状態になっているのだがどういうことか。

 みんなも呆然としてるよ。なんか反応しめしてよ。俺だけじゃなんにもできないよぅ……!

 

 

「えーと……」

「えー……」

「……ねえ?」

「うん……」

 

 

『なーかしたなーかした、せーんせーにゆーてやろ』

 

 

 違う!!!

 そういう対処をしろって言ったんじゃねえよ!!!

 なんなのオマエラ!? 目線合わせてアイコンタクトで会話してたじゃん! そのための打ち合わせ!? なんだその無意味すぎるクオリティは!?

 

 

「呼びましたか!?」

 

 

 呼んでねえよ葱坊主。

 

 




~スクナぇ・・・
 触手で身動きできないところをヘラクレスくんでフルボッコ
 クタァトには勝てなかったよ・・・

~麻帆良に残っているお嬢様系魔法少女
 高n・・・

~アキラたん、覚醒
 麻帆良に一層険しい壁が生まれた瞬間である

~麻帆良の脱走兵
 捕虜として捕まっていたもう一方のスタンド使い
 スタンドは“トラ吉”さんより応募いただきました。こんな扱いでごめんねー

スタンド名『スリラー・パーティー』 遠隔操縦型 群衆タイプ

パワー:E スピード:C 射程距離:A 持続力:A 精密動作性:E 成長性:E

見た目:お面に手足が生えたもの。二頭身。10センチ前後。一〇〇〇匹。お面の種類も色々。

能力
人の首筋辺りに憑り付きその人の『喜』『楽』の感情を暴走させる。
早い話、徹夜明けテンション。
脳にアッパーが入り、自重ができなくなり、テンションに身を任せてヒャッハーする。
首筋からとれればしばらくして正気に戻る。弱に取れないとそのまま。
憑り付かれた時の記憶はばっちりあるので早く対応しないと色々ヤバイ。

~いわく付きの飴ちゃん
 じ、実験じゃねーし

~クタァト
 回復専門の使い魔。膨大な魔力を取り込んで体内に含めたものの細胞組織を活性化させる。ドラゴンボールにあった回復装置とか想像すると一番近い

~孔明の罠
 史実のほうでなくて多分あわわとかはわわとか言うほうのだとry

~明日菜さん
 最後に全部持っていかれた希ガス
 もう、ごーるしてもいいよね・・・?


後片付けみたいな場面で召喚してすまん運命さん
でもこの世界線じゃまだマシな扱いだと思うんだ

お待たせいたしました次回IFの4!
前回みたいなことはしないよ!
今度こそきちんとネギまやるもんね!
あ、でもネギと明日菜の出番がry

構成のためにちょっと時間食うかも?では


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『IFルート【その4】』

長らくお待たせいたしました
すげぇ趣味の世界
詰め込むぜぇー


 

「マクダウェル先生!今日こそ覚g――!」

 

 

 なんだか叫び声が聞こえたかと思って扉のほうを見てみれば、聞くに堪えない潰された蛙みたいな悲鳴を上げている女子が居た。多分いつも通り学習せずに入り口に仕掛けた『太陽陣』の罠に引っかかったのだろうから、これまたいつも通りのやつなのだろうと当たりをつけながら罠を解除する。

 這い蹲って涙目の高音=D=グッドマンがそこにいた。高等部に上がったのだからそろそろ正義の味方ごっこは卒業しなさい。

 

 

「ふ、ふふ、た、たとえわたくしが倒されようとも、第二第三のグッドマンが貴方を打倒しに参りますわよ……」

 

 

 なにそれこわい。

 見知った娘の量産型宣言に若干引きつつ、どうしてこうなったのかとやや追憶に耽る。昔は「せんせーのおよめさんになるー」って可愛かったのに。

 

 

「え、そうなんですか?」

 

「ちょ!いつの話をしてるのですか!?愛衣も食いつかないで!」

 

 

 大体幼稚園くらいのころだけどね?この娘ってば俺が寝かせつけてやらないとすーぐに駄々をこねて。

 

 

「無視して話題を続行させた!?なんという鬼畜!」

 

 

 何を今更。

 それにしても毎週のローテーションで襲撃に来るのはいい加減どうしたものかとも思う。しかも玄関から堂々と。せめて搦め手を覚えればいいものを、と育て方を間違えただろうかと教え子の教育法に首を捻る。そんな夏の日の午後の話。

 

 

   『もしもそらが600年前に転生していたら(続)』

 

 

 創設150年、埼玉県麻帆良市の一角にある研究区画『魔法理論研究学区』通称・麻帆良学園。都心に出るには大宮方面に行くよりはモノレールで立川まで降りたほうがずっと早い、というどちらかというと西東京寄りの地理条件の地域には現在120名ほどの魔法使いの卵が通学している。

 卵とは言うものの、世界中での魔法使いのうちでの一割にも満たない程度の人数。イギリスとかアメリカとかトルコとか中国とかなんでか知らんが北半球に魔法文化圏が多いのはともかく、そっちの魔法学校のほうが規模や歴史や所有生徒数があるのが事実なのだけど毎年こっちに進学を希望するのが後を絶たないのは矢張り真祖というバッグボーンが大きいのだろうか。麻帆良学園なんぞと呼ばれちゃいるがウチは私塾程度の規模なのだけど。俺は教えるよりは研究のほうが専門だし。教えていることも割と趣味の範囲を逸脱しないんだけどなぁ。

 今更だけど120名以上の子供に趣味で教育施すって倫理的にどうよ?と自分事ながら思わなくも無い。

 

 そんなウチで教えていることといったら、古代詠唱言語魔法(エンシェントマジック)を筆頭にした魔法の歴史と常識と活用法。あとは500年ほど前に確立して成立した無言語呪紋技法そして医療魔法を若干といったところ。

 古代言語とは200年以上前に魔法世界がこちらと完全に断絶してからこっち、魔法文化自体が一時完全に遮断されそうになったお陰で染み出てきたギリシャ語版。ラテン語でやるのがメジャーになっていた魔法使いらが一斉に逃げ出したお陰でというのもおかしな話だが、逃げた奴らのことなんぞ知らん。まあ何かしら接触したいと言うならそのうち向こうから来るだろう。ゲートとやらは蟠桃の地下にしかもう残っていないが。

 一時期は無言語呪紋技法が主流になったのだが、そもそもアレは魔力をそれほど使わないのに馬鹿みたいな威力を自然現象を利用して顕現させるという完全に戦闘用の技法なのだけど、呪『紋』となっている通り『その場』に魔法陣を刻印することによって形成する必要性がある。その形成事情のお陰で呪紋には癖が残り、誰がどういう目的で形成したのかが丸判りになる技法だ。真っ先に犯罪には適用できないので基本的に魔法使いはそれを使うつもりは無いらしい。

 いや、魔法使い全部が犯罪者だとは言わないけど、頑なに使用を躊躇う理由が他に思いつかなかったんだよなぁ。

 今ではそんな完全戦闘用技法なんてとっくに廃れてるけど。魔法でどんぱちするような奴ら自体が減少してきているのだから、この辺りは生き残っている魔法学校らの教育の賜物であろうね。

 

 

「その教育者の筆頭がいきなり無言語技法を使うとかなに考えてるんですか!?」

 

「俺のせいじゃなかろうよー

 それに扉には『適用の』方法で入れば問題なんて何もねーぞ? いきなり開け放って入ってくるとか何処の強盗だよ」

 

 

 ちなみにウチの玄関に貼り付けてある『太陽陣』の非発動条件は『ノックして相手の返事を待つ』、これだけ。それすら守れない相手は己の体重を乗算した重圧を受けて身動きが取れなくなる。

 ちなみにこれ強盗相手ならこれで問題ないけど、ガチの暗殺者とかが『お届け者でーす』とかってやってきた場合は効くはずが無い。まあそんな相手用の術式も一応はあるけど、長くなるので今回は割愛。え?もう充分長い?またまたご冗談を。

 

 

「そんなウチで学習したはずなのに戦闘思考の襲撃を仕掛けてくるって、何が高音をそうさせるんだ? 先生わっかんないなー」

 

「それは、やはり、えっと、その……」

 

「高音先輩はマクダウェル先生の従者を目指しているのではないですか? そのためには最低限度の強さが要求されるからだと思うのですk」

「わぁーっ! わぁ! わぁあああああ!!!

 なっ、何をおっしゃっておりますの愛衣はぁぁぁ!?」

 

 

 赤くなって歯切れの悪い高音に変わって中等部の佐倉愛衣がさらりと答えた。が、すぐに騒ぎ立てる高音に口を塞がれる。

 従者とはまた、随分とコアな風習を持ち込んできたものだと思わず息が漏れた。今でもそんなんやってるのがいるとすれば完全に隔絶された山中の魔法使いの集落くらいのものである。本当にそんなものがあれば文明社会そのものから切り離された村になっていそうであるし、現代まで生き残っている可能性ははっきり言ってかなり低い。

 

 

「要するに認めてもらいたいんですよ先輩は」

「もうわかったから黙って! お願いだから黙って頂戴愛衣ぃぃぃ!!!」

 

「というかそんなの詳しく教えた覚えも無いのだけど」

 

「歴史でちらっと流した程度でしたよね、先生は。

 でもたまーにやってくるジャンヌ先生が事細かに詳しく説明してくれるので。特に女の子たちはみんなそういうことに食いついちゃって」

 

 

 何を教えてるんだあいつは。

 ちなみに仮契約と呼ばれた術式自体が喪失されて久しい現在、行えるとしたら日本女学生のよくやるおまじないごっこ程度のものなのだろう。術式を構成できると言われたオコジョ妖精なる生物は絶滅したものだし、『魔法使いをオコジョに変える』などという魔法界がまだ繋がっていたころの刑罰も無くなっているのであるし。

 

 

「あ、そうそう。先生にお客様がおりましたのでご案内していたんでした」

 

「そういうことは襲撃前に言って欲しかったなぁ」

 

 

 あと高音にも付き合ってあげて? なんか構ってもらえなくって隅のほうでさっきからいじけてるから。

 そう言いながら佐倉が連れてきたという客に目を向ける。

 

 

「――アー……、マクダウェル先生というのハ、貴方なのカナ……?」

 

「そうですよー

 オブシディアン・マクダウェル。先生をやってます。そちらは?」

 

「………………。ハッ!

こ、コレは失礼、超鈴音という者ネ」

 

 

 日本語のイントネーションが若干違う、そんなチャイナ娘が我が家に現れた。

 

 

   × × × × ×

 

 

「エーと、まず聞きたいのだガ、エヴァンジェリン=A=K=マクダウェルはご在宅ではないのかナ?」

 

「――キティなら今北極圏に居るんじゃないか?」

 

「なんデ!?」

 

 

 一瞬、随分と昔の呼び名で呼んだことに違和感を覚えつつ、何とかその違和感を気取られないように応える。するとそれ以上に今の義妹様の現状が驚愕のものであったのか、気取られる心配は杞憂で終わったらしい。

 

 

「捕鯨調査船団って知ってるか? キティはそこの株を持っててなー。最近それに反対運動を繰り返す反捕鯨船団とかいう海賊もどきにはぐれ魔法使いが加わったとかいう話を聞いて自ら討伐に乗り出しちゃって。一週間もしたら帰ってくるだろうけど」

 

「……エヴァンジェリンさんはどうしてそんなことになっているのヨ……」

 

「鯨の大和煮が食えなくなるのがイヤだ、とか言ってたな」

 

 

 俺の返答に「登校地獄はドウシタネ……イヤそれ以前にも問題ガ……」などと、気になる単語を発しながら項垂れるチャイナっ娘。

 ふむ。本当に何者だこの娘?

 ちなみに高音と佐倉は今日の授業へ。あと一時間もすればまた襲撃に来るのだろうか。

 

 

「で、用事はキティにだけか?」

 

「で、デハ、世界樹、旙桃を調査したいノだけど、許可を下ろして欲しいのダガ」

 

「……? なんであんなもんの許可を俺が下ろすんだ」

 

「へ? こ、この辺りを治めている責任者は貴方方では無いのか?」

 

 

 なんかずれたこと言ってるなこの娘。

 

 

「職業・魔法使いにそういった権限を与える法律は今の日本にはねえよ。土地を管理するとかいう権利は兼業で色々やっているやつの持つものだろう

 俺は私塾の講師か研究者程度の権利しか抱えて無いから、許可が欲しかったらまずは役所へ行け」

 

「役所が管理してるのカ!?」

 

「そこで誰が地税を納めているかで話が決まってくるんじゃねぇの?

 どっちにしろ危険物取り扱いの許可か免許程度は持ってないと樹自体に近づけないと思うけど」

 

「……それハ、なんでネ?」

 

「いや、第一級危険物指定されてる物件に自分から近づきたいとか、さすがに普通は止めるだろ」

 

「どういうことヨ!?」

 

 

 『旙桃』を守る氏族というのもかつてはいたけど、口伝で伝えていたその風習も所々欠けていたものばかりで俺には結局どうにもできない代物で終わってしまったのが悔やまれる。その氏族最後の言葉によると、あの樹は22年に一度周囲に魔力を放出して周囲の生物に必要以上の契約を仕掛ける性質を持っているそうな。そのことを国に教えたところ、最終判断を下したのは国の決定。一度何とかしようという調査師団が何とも出来ずに成果を挙げられなく終わったのが決定打だったのだろうな。これも22年前の出来事だけど。

 そんなことよりも。

 

 

「おいチャイナ娘。お前一体何処から来た?」

 

「へ? い、いや何処ってそれハ出身は四川省の魔法学校からノ、」

 

「そんな嘘の身分を一貫して信じられるほど俺はお人好しじゃないぜ。一つ一つ挙げていこうか?

 お前は魔法使いが当然ながら土地を治めているものだという200年以上昔の『常識』を持ち出してきた

 お前は『登校地獄』なんていうそれこそ古代の禁止術式の存在を何故か知っている

 ついでに言うとその身体に呪的改造を施してるな? そんな馬鹿な真似をする必要性は今の魔法技術ではまるで必要性のないものなのに、何のためにそんな改造を抱えてる?」

 

「………………」

 

 

 一つ一つ挙げるたびに、顔色の悪くなるチャイナ娘。

 

 

「まあそこまでは何処ぞの秘密結社か魔法研究所のモルモットかという説明でもすれば覆せる事情だけどな、残念ながらそういう組織が存在する場合は俺に真っ先に情報が入る。その可能性は限りなく低い

 そしてこれが最後だ

 お前はキティの昔の『賞金首名』を何故か尋ねた。今のキティのフルネームを教えてやろうか?

 エカテリーナ・マクダウェル、だ。此処200年はその名前で周囲には通してきた。エヴァンジェリンなんてのは、文献にすら残っていない滅び名なんだよ」

 

「………………………………フゥー……

 参ったヨ、私の負けネ……

 まさかコンナに私の知る世界と違うとハ、思ても見なかったネ」

 

 

 そう応えると力が抜けたのだろう、そのまま座っている椅子に身を完全に預けるチャイナ娘。

 さっきまでは交渉か、こちらより優位に立とうとしていたのはその姿勢から見て取れたが、こちらを謀るには600年早いのである。

 

 

「ソモソモ麻帆良がこんなニ縮小されているノガおかしかったシ、目当ての人物モ全く見当たらナイ、こんなんデハ優位性など初めカラなかたネ」

 

「で、答えてくれるんだろうな?」

 

「あー、わかてるヨ、今から答えるネ」

 

 

 そうして切り出したのは、どうにも突飛な話の連続であった。

 

 

   × × × × ×

 

 

 今から百年以上先の未来から来たとか。

 魔法世界と現実世界とで戦争が起こったとか。

 本来の歴史では此処は巨大な学園都市で、ぬらりひょんみたいな魔法使いが学長として治めていたとか。

 其処で子供教師のクラスに編入するのが当初の予定だったとか。

 その子供教師が未来の英雄になっているとか。

 

 

「全部ひっくるめて、アホか」

 

「切り捨てるのが早すぎるヨ」

 

 

 出身はともかく、常識的にはありえなさ過ぎる話の連続に、まず最初にその言葉が出た。

 ぬらりひょんは妖怪だし、魔法使いとしてならともかく学校のしかも都市ほどの巨大な施設の学長とするにはそいつ一人じゃ絶対に把握しきれるわけがない。魔法を使っているとしたらそれこそ倫理問題が浮かび上がる。そんなところを見逃していたら日本の魔法使いの品位にも関わる。

 子供教師とか、日本じゃ最低限必要な教員免許を取得するための必要条件をまず前提から破綻してる。そいつに教えられて卒業するとかいう中学生も不憫としか思えない。認識阻害とかを関わらせたとしても何処かで必ず襤褸が出る。そもそも『この世界』じゃ認識阻害は禁術指定だ。使えば投獄、禁固三年は硬い。

 そして子供が英雄になるとか。漫画か。英雄になる前提がそもそもあるだろう、戦争が起こっている時点でその時代背景が確実におかしい。本当に現代社会の話なのか。

 しかしなんだろうこのデジャヴ。何処かで聞いた覚えのある話なんだが……?

 

 

「英雄の少年の名前はネギ=スプリングフィールド

 聞いた覚えハないかナ?」

 

「スプリング……?

 確かイギリスにそんな名前の赤毛馬鹿が居たな……。結婚してサラブレッドが生まれたとか本気で馬鹿なこと言って、周囲の皆から必死で子供の教育にかまけているとか言う話だが」

 

「おお、いるのではないカ

 というか、サラブレッドでバカなことテ何カ?」

 

「よりにもよってガキにバカ魔力を引き継がせた。今の時代、強大すぎる魔力は普通の生活を送る上で邪魔でしかないからな。あの馬鹿に教育させたら一発で封印指定されるガキの出来上がりだ」

 

 

 そんな常識(こと)を答えたら「うわー」という顔でこちらを見るチャイナ。なんだよ。

 

 

「……私の知る世界デハ、そのバカ魔力というのガ英雄の条件に一票を投じていたからネ」

 

「何時どういう暴発をするかわからない魔力が?」

 

「アー……、そういえバくしゃみで武装解除していタと口伝にはあたネ」

 

「おい、それ本気で英雄なのか……?」

 

 

 禁術ではないけど、人前でそんなことしたら変態一直線の扱いを受けることをよりにもよってくしゃみで発動させるって。ショートカットにしてもありえない術式構成に頭痛が痛い。……そんな暴発助平小僧が英雄になれるなんて、ある意味平和な世界だな……。いや、逆にそこまで追い詰められていたとか……?

 知らぬ世界線が本気で不憫に思えてきたそのとき、扉を叩く音が聞こえる。

 

 

「せんせー、おるかー?」

 

「おーう」

 

 

 応えると入ってきたのは朝の面子、ではなく近衛だった。こちらを見ると僅かに驚いた表情で、

 

 

「あ、お客さん居ったんならいうてや」

 

「ア、構わないネ、気にせずドウゾ?」

 

 

 チャイナ娘が空気を読んだ、だと?

 何か思うところでもあるのかも知れんが、気にせずに。

 

 

「今日はどうした? 定期健診は済ませたよな?」

 

「そういう事務的な話やのーてな、今日はせんせーにお願いがあってきたんや」

 

「お願い?」

 

「ぱくてぃおーをあたしと実演してみん?」

 

 

 馬鹿だった。

 

 

「とりあえず今度の授業ではそれについて詳しく教えてやるから、今日は帰れ」

 

「ええ!? そ、そんな人前で……?」

 

「そもそも術式が喪失してるから意味のない儀式なんだよ」

 

「えー、なんやそーやったんかー?」

 

 

 歴史学の講義を倍にするべきだろうか。

 

 

「そもそもなんでそんなこと言い出してんだお前は」

 

「あたしが従者になればお母様にかかった手術の費用もチャラやなー、て思った」

 

「真っ当に返せ」

 

「手術?」

 

 

 無粋極まりないことを漏らす近衛にそう返してると、思わず出たのだろう。その声に反応して振り向けば口を押さえているチャイナが。

 

 

「アー、済まんネ、聞いちゃイケナイ話だたカ」

 

「いや? 今の時代これくらいは普通に居るしなー」

 

「……? 何の手術か聞いてもいいカ?」

 

「半吸血鬼化手術。ヴァンピール医療っていう生命力と寿命とを底上げする弱眷属化の術式なんだが、お前らの世界には無いのか?」

 

「――――ハ?」

 

 

 本日何度目かになる驚愕の表情が、そこにあった。

 

 

   × × × × ×

 

 

「……ところデ、神楽坂さんハ元気にしてるかナ?」

 

「誰? それ?」

 

「え」

 

 

 




いつかのIFの続きの世界
度重なる奇跡が重なってこんなんできました
高音さん回のつもりが超のツッコミが冴え渡る
おっかしいなー?

気になったところは感想で答えようかな
こういう完全改造とかなんかこうわくわくするよね!

あとなんかHSDDばかりよく書ける
これを上げる前に三章分投稿しているとか
あちらも楽しんでいただけたら幸いです

こんなIFを出したら、もう最終回でも良くね?
感想待ってます


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タイトルは後で考える!弟子入りと葛藤の第5章!
『よく見てくださいこの葱。いい色してるでしょ?新鮮取れたてぴっちぴちですよ!』


人物紹介はどうも需要がないらしい
くそっ、一話分稼ぎ損ねた・・・っ!

それはともかく新章突入です
大体序章的なものなんで読み飛ばしても問題なさそうな気もしますがry


「は? すまんネギ君、も一度言ってくれ。

 なんっつった、今?」

 

「ですから、弟子にしていただけませんか?」

 

 

 修学旅行から帰って来、土産物で思い出話に花を咲かせるのもまた良しかとチョコ八つ橋を悪くならないうちに食ってしまおうと卓に広げたところで、正座し対座しきっちり三つ指ついてそう言った少年が目の前にいた。ていうかネギ君だった。

 

 

「今更かも知れんけど此処って男子寮なわけだからさ、普通人もそこそこ居る中で魔法の話とか注意したほうがいいぜ。

 で、だ。弟子ってのはどういう了見だよ」

 

 

 というか、そこはエヴァ姉にじゃないのか。原作の修正力仕事しろよ。

 あと帰ってきてからまだ一時間しか経ってないのですけど。弟子入り相手を探すのに目の前で済ませようとかってお手軽すぎて有難み無くないか?

 

 

「はい。

 ――烏丸さん、僕は弱いです」

 

 

 うん。知ってる。

 

 

「自分の従者が仮契約とはいえピンチになっているとき、僕は足手まといだから出てゆくなとエヴァさんに言われました」

 

 

 あ、それでエヴァ姉は候補から外されたのか。

 知る限り最強の魔法使いってエヴァ姉なんだけど、さすがに自分を見返してやりたい相手に教わる気にはなれなかったってことか?

 男の子だねぇー。迷惑だけど。

 

 

「なので、「待て待て。その前に強くなってどうしたいの? キミのやりたいことからやるべきだろうけど、そのために他人から目をかけてもらおうとか言うからにはそこをはっきりしておかないと。

 そして教師の仕事に魔法使いの仕事は内約としては入ってないと思うぜ?

 強くなるには時間をかけなくちゃまず無理だし、修行したいので休みます、とか教師は言っちゃ駄目だろ。そこはどうするつもりなんだ?」そ、それは……」

 

 

 言いたいことは察せたので言葉を遮って気にすべきことを聞く。

 正直面倒ではあるけど、この子の成長なくして話が進まないというメタな実情が無きにしも非ず。だがそんな修正力がどーのと考えさせられる話以前の問題として、そもそもが俺が受けるべきことではないはずなのだ。そこはきっちりと彼自身の身の振り分け方想定プランを聞かせてもらいたいところだ。

 やる気だけで育ててもらおうとか甘いことを言うクソガキだとしたら本気で相手なんぞしたくないのも事実だし。

 

 

「僕は……やっぱり父さんを探したいです」

 

「ふうん。で?」

 

「父さんは英雄だったと聞きます。そんな父さんを探すためには、戦いの道が続いているのだと断言できます。だからこそ、負けないだけの強さがほしいんです……!」

 

 

 うむ。かっこいいこと言ってるなぁ。

 

 

「だ が 断 る」

 

「ええっ!?」

 

 

 漫画なら確かにかっこいいけど、ちょっとこのドラマティックな気分に酔い痴れるのが通症の魔法使いには少しばかり現実的な視点で物を見させるべきかも知れんね。

 その決意、今から踏み台にさせて頂く……!

 

 

「ネギ君、英雄というものはどういう意図で生まれると思う?」

 

「えっ、えと、それは、「そう。英雄というものは基本的に戦いの中からしか生まれることはない」はっ話をさせてっ!?」

 

 

 なんか言ってるが無視。

 

 

「現代社会においてはある程度の功績を立てたものを称える名称をカテゴリ分けする際に必要とする傾向にあるようだが、『英雄』なんていうわかりやすくも難儀な身の丈が必要な場面なんてそうそうあるわけはない。

 しかしそんな中、ナギスプリングフィールドは魔法使いの中において英雄と呼ばれているわけだが、ネギ君はその理由をご存知だろうか」

 

「そ、それは、「せ戦争、だよね……ふひ」また遮られたっ!? っていうか居たんですか大柴さん!?」

 

「居たよ……ふひひ」

 

 

 ネギ君の代わりに聴衆をしていたルームメイトが答えた。が、まあ正解なのでよろしい。

 

 

「そうだ。ネギ君、戦争においての英雄というものは戦果を挙げたもののことを指す。戦果とは何か? 言わずもがな、どれだけ人を殺せたか、に集約するのさ」

 

 

   × × × × ×

 

 

 その後、聞いた限り知る限りの『英雄・ナギ』について割と余すところなく伝えたわけだが。

 子供のうちから自分から進んで戦いに臨んだ戦闘狂、聞いた話では『俺より強い奴に会いに行く』とかいう言葉を遺している。とか。初期の戦場に投入されては『敵軍』を極大魔法で焼き払った。とか。そういうことをやっていたはずなのに最終的に魔法界を救ったらしいから英雄の名はそのままになっているけど、当初の犠牲は忘れられているっぽい魔法界自体がブラックじゃね?とか。

 まあ原作知識を一旦封印した己でも知れる情報網を辿ってゆくと、認識阻害に引っかからない自分だからこそ気づいてしまったのか出るわ出るわ微妙な記録。これを妄信できる魔法使いが改めて怖いわー。

 しかし、そういったことを聞かされても、ネギ君はそれなりに固い決意を抱いているようであった。

 

 

「そ、それでも探さなくていいということにはなりm「そもそも見つけてどうしたいんだキミは?」……えっ」

 

 

 おや?

 なんか言葉に詰まっているけど、おかしなこと聞いたか?

 

 

「いやさ、見つけるにしたってその先が普通あるだろ? ネグレクト親父をぶん殴りたいのか、母親について聞きたいのか、はたまたもっと違う目的が? まあ子供らしく憧れの親父に会いたいという簡単な目的があっても構わんけれども、弟子入りしたいと言うくらいなら他人を納得させられるだけの理由を挙げられるようになっておかないと、」

「すストップだよ烏丸君、ネギ君のライフはもうゼロよー、ふひ」

 

 

 おっと。大柴君に言われて口を抑える。

 が、完全に思考停止に陥ったらしい。いやさ、思考の迷宮か?

 渦巻き目玉で熱暴走っぽい状態異常。しばらく待ったほうがいいかね?

 

 

「失礼しますわネギ先生! 不肖ワタクシ雪広あやか、只今お邪魔いたしますわね!」

 

 

 と、そんなことを叫びつつドバンと戸を蹴破って雪広が現れる(過剰表現)。メイドまで伴って。

 

 

「修学旅行はお疲れ様でしたわね先生! これ京都土産の宇治抹茶味八つ橋で……って、先生!? ど、どうしましたの!?」

 

 

 そういえばなんか久方振りな気がするなぁ、コイツの出現自体が。

 おや、なんか電波が……?

 

 

   × × × × ×

 

 

 実は風呂にも入って就寝前だというこんな時間に男子寮にまで現れたコイツは何を考えているんだ。と思いつつも赫々然々とこうなった経緯を説明する。

 やっぱネギ君寄りなんかねー、と半ば諦めの境地にも至っている俺がいたりするが。

 

 

「まあそんな前提の話はそれで以上だけど、お断りの理由の一つとしては、時間が圧倒的に無い。

 弟子入りした魔法使いに手をかけるというのは放課後で一朝一夕にできるものじゃねえんだよ」

 

「まあ、それはわかりますけれども……、あの、烏丸さん? そちらのルームメイトの方には話してしまって宜しかったのですの?」

 

「あー、大丈夫、大柴君はヒゲグラ先生付きの魔法生徒だから」

 

 

 そして雪広が『わかるわ』と言った理由は彼女なりの経験則に基づくものなのか。

 あと大柴君は雪広の仮契約のことを聞いて察したのかそんな会話のすぐ後に一旦部屋から去っていった。淫行教師ktkrとか呟いていた気もするけど、気にせんでも問題なかろー。

 

 

「とりあえずネギ先生、烏丸さんに弟子入りするというなら明確な理由が必要なのは変わってないと思われますわ。何気にこの人ってそういうドライなところがありますし」

 

 

 俺って雪広にそんな風に性格分析されてたのね。

 

 

「え、えと、僕の知る限りエヴァンジェリンさんに匹敵しそうなのは烏丸さんだと思ったからです」

 

「そこは素直にエヴァ姉にしとけよ」

 

「だって、見返す人相手に教わりたいだなんて、言えるわけ無いじゃないですか……」

 

 

 あ、そこは想像通りなのね。

 男の子だなー、と思ってるとそんな拗ねた仕草がツボにきたのか雪広が鼻を抑えて上を向いてた。相変わらずぶれないなぁこのショタコンは。

 

 

「ふぅ………………

 ネギ先生、それでも強さを渇望するのなら教わる相手はキチンと選択するべきですわ。確かに烏丸さんは経験を積んでいるようですが、それが『=他人に師事される』という方程式に成り立つわけではありませんから」

 

 

 良い事言ってるようだけど鼻に詰めたティッシュで粗方台無しであったり。あと雪広のその台詞、そっくりそのままネギ君の現状にダイレクトアタックするわけだけど自覚してる?

 

 

「それと、これも大事なことなんだけどな。俺ってば麻帆良じゃ基本的に役立たずだからそもそも根本的に魔法を教えるのに向いてないんだよ」

 

「「………………は?」」

 

 

 怪訝な表情でこっちを見る二人。

 あれ? 言ってなかったっけ?

 

 

「いやね、俺ってこの障壁があるじゃん? こいつに普段から莫大な魔力が流れていってるから、そこから更に自分へと返還させないと基本的に攻撃魔法の一つも使えないんだよな。障壁が働かない場所ならそれもできるけど、麻帆良じゃ自動で常時張りっぱなしだからやっぱり魔法は扱えないし。

 理屈を語るだけなら講義もどきとかができそうだけど、魔法使い相手となると説得力がやっぱり足りなくなるんだよねー」

 

「「え、ええ~……」」

 

 

 なんだかんだ言って魔法使いは結構脳筋な部分が強い。英雄クラス以外は頭打ちな実力の癖して実力至上主義なわけだから、その辺の思考もどっかで誘導されてるんじゃないかなー、って思わなくも無かったりしちゃったり。

 そこを理解できるからこそこの学園都市の現状も納得できる程度なんだけど。そうでなけりゃ此処まで人外魔境な街にはならんべー、ってなところだけだけど。

 

 

   × × × × ×

 

 

「まあそんなわけでエヴァ姉宛の紹介状を書いて二人に持たせたんだけど、たらい回しにされる気もするなー、なんだかんだ言ってエヴァ姉も好き嫌い激しいし」

 

「わかっていながら渡すほうもどうなのよ……」

 

 

 翌朝。バイトに勤しみながら遭遇した明日菜に昨夜の事情を説明。散文的にだけど、ある程度はどうでもいい話でコミュニケーションを図ってみたり。

 いや、なんか明日菜の様子が大人しすぎて今距離を測りかねてるだけなんだけど。修学旅行でなんかあったのかってくらいにcoolです、この娘。

 

 

「弟子入りぐらい、ってお前なら言いそうな気もしたけど」

 

「それぐらい理解できるわよ。どういう事柄においてもそういう話は一朝一夕じゃ済ませないっていうことでしょ? それはネギが図々しいっていうのはよくわかるしね」

 

「なん、だと……っ!?」

 

 

 明日菜が、馬鹿じゃない、だと……?

 え、本気でコイツどうしちゃったの?

 

 

「明日菜、風邪でも引いた……?」

 

「なんでよ」

 

「いや、なんか元気ないし……あとバカじゃないし」

 

「一度あんたの中の私はどうなっているのか知りたいところね……」

 

 

 ジト目で見られる。coolになっているから視線の温度が氷点下にも感じられるのですがそこはどうなのか。

 

 

「別にね、ちょっと昔のことを思い出しただけよ」

 

「………………は?」

 

 

 え。記憶戻ったの?

 思わず絶句した俺に、少しばかり陰のある微笑で明日菜は言う。

 

 

「やっぱり、気づいてたんだ? 私が人格矯正されてたってことに」

 

「もうちょっと穏便な言い方にしたほうが良くないか……?」

 

「言い方悪いかもしれないけど、タカミチは私のことを守るつもりでやったんだと思うし。その辺りは納得もできるから大丈夫」

 

 

 さよで。

 

 

「……で、今お前の中はどういう状態なわけだ?」

 

「んー、昔の私を思い出したって程度かな。『私』が『高畑先生』を好きだった理由がわかって納得したっていうか」

 

「え、そっちかよ。

 ……で、理由って?」

 

「私、ただのファザコンだったみたい」

 

 

 そんなはっきり言っちゃっていい問題なのか?

 そうじゃないかなー、とは原作見ても思っていたことだけど。

 

 

「で、少しばかり昔の私が浮き出てるんだと思うけど、麻帆良で過ごしたことも忘れたわけじゃないし、気持ちの整理をつければ復帰できる、かも?」

 

「自己分析が凄まじいな。

 あと今のお前の『察する力』がなんか神掛かってんだけど」

 

「そういう子供だったからねー」

 

 

 何気に小1の頃からの幼なじみである明日菜の、その頃との人格の違いを俺が察していたということを明日菜も察したと、そういうことだ。今のやり取りは。

 姫巫女さんが全力過ぎる。もうちょっとダウナーになっていてもいいのよ?

 

 

「んー、そうなると今のお前にネギ君の面倒を見させるのは酷か?」

 

「やっぱりそういうつもりだったんだ。なんで弟子入り云々の話をしたのかと思ったら」

 

 

 見透かされていたでござる。

 

 

「ブレーキかけようと思ったけど最終的にガソリン注いじゃった気分だったからさー。

 同じクラスのお前らにそれとないフォローをお願いしたかったんだけど」

 

「従者があやか含めて四人もいるんだし、大丈夫なんじゃないの、その程度は?」

 

「ネギ君を甘く見るなよ。貪欲だぞ、あの子は」

 

 

 強さって奴にね。

 ほんと、少年漫画を地で行く子だよ。

 

 

   × × × × ×

 

 

 茶々丸からメール。朝一でやってきたその足でネギ君を学園長宅へと叩き返したらしい。ネギ回しが現実味を帯びてきた。もうちょっと本気で売り込みをかけるべきだったかなー、と少しばかり反省。

 その件で話があるので至急エヴァ姉宅へと出頭するようにという旨も。

 

 

「だ が 断 る、……と」

 

 

 メールを返して街へ繰り出す。

 まおちゃん宛のお土産を早めに渡しに行かなくちゃー(棒)。

 

 

 




~漫画なら確かにかっこいいけどry
 本日のお前が言うな
 この世界を漫画と認識していた奴の台詞じゃねーですよねー

~大柴 巧
 オリキャラ。そらのルームメイト
 魔法生徒らしい。若干オタクらしい。日本のサブカルチャをネギに教えた張本人らしい
 生徒と仮契約をしたネギ君のことを知った彼が何をするのかは彼のみぞ知る・・・

~麻帆良じゃ基本役立たず
 学園結界はともかく認識阻害に『対処』するためにオートで張られる障壁を維持するために魔力をガンガンに使用中、というのが実はそらの現状
 ので、魔力転用のために障壁が張られない程度の環境がまず必要で、実質攻撃魔法なら魔法の射手すら使えない。補助系も転移系も魔力を大目に使うものは無理。だから魔力少な目のケータイでの行使を覚えたというのが実情。・・・なんだけど、あれ?これってUQの設定にありえそうな気がry

~明日菜ジョグレス進化中
 昔を思い出した明日菜は時間をかけてゆっくりと人格統合の真っ最中です
 どんなんなるかはちょっと構成中。しばらく出番が無い恐れも・・・


お待たせしましたか?58話目お届けに参りましたー
ついに総合評価が20000を突破、ありがとうございます!
しかし今回のはアクロバティック二次小説。文章と設定の空中殺法で追いつけない読者も大勢いるかも知れません。またアンチとか言われそうだよぉ、ふええ・・・

そしてそらの弱点がようやく発覚
仄めかしてはいましたけど読み返しても問題ない程度の表現だったと思うのですがどうかry
そういう事情をある程度魔法教師にも言ってあったので裏のお仕事に就いていなかったわけです
これで納得できないんだとしたら本気で麻帆良がブラックになるのでマジで納得してください
これはそういうアンチ二次と違うとです

あとネギの親父探し。純粋に理由が本気でちゃんと書かれていなかった気がするのですけど、結局親父を追いかけたかっただけなんですかね、あの子は
文句は無いのですけど、フツーに疑問だったので今回こんな書き方になりました

原作では修学旅行が終わって海に行くまでの一巻分となるつもりの新章ですけど、いくつかスキップがかかるかもしれません
読み返してみたら見事に遊んでばかりなんだもんよこいつら。女子部から離れた烏丸君に何をやれと言うのよ

なんだかんだ言いつつ二次三本同時進行中の現状なのでやっぱり更新遅れるかもしれません
お客が多いこちらをメインに書く所存では御座いますが週に一回が出来れば上々
気長にお待ちください。では


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『今から弟子入りのためのテストをします。エヴァンジェリンのかっこいいところ可愛いところをそれぞれ十個挙げなさい』

また趣味回だよー
ごめんよーでも伏線回収でもあるんだよー

ちょっと長い59話目


「来ないとはどういう了見だあんなめんどくさいガキを私に丸投げするとはそれでも私の弟子かコラ」

 

「ハハハ、いいじゃないか魔法先生を弟子にできるとか。エヴァ姉も出世したなぁ」

 

「胡散臭い誤魔化し方をするな。お前がタカミチの真似をするとか死ぬほど似合わんわ」

 

 

 それは高畑先生が胡散臭いと言いたいのか。

 

 

「大体なんだあのガキの言ってることは。ナギに追いつきたいとか、あの歳で死地に赴くつもりか。時代が時代なら、生き急ぎならぬ死に急ぎ野郎などと揶揄されても可笑しくないぞ」

 

「あれ? ……ああ、エヴァ姉ってそういやあ知らんかったんだっけ」

 

「――おい、お前何を隠してる……?」

 

 

 隠してるってほどのことでもないが。

 

 

「いや、ネギ君の言い方って、どうもナギスプリングフィールドが生きてるってことを確信しているようなんだよね。だから探すんじゃないかなー、って」

 

「なん……だと……っ!?」

 

 

   × × × × ×

 

 

 そんなことを話したのが修学旅行の振り替え休日が明けての一日目、つまりは昨日の話。

 クラス内は見事に自宅謹慎者の山で、歯抜けならぬ学級閉鎖にしか見えないという罠。飛鳥と因幡は謹慎処分を受けてないはずなのだけど、空気を読んだのかクラスに居るのは俺とエヴァ姉と茶々丸だけという世紀末な雰囲気の中。ネギ君に関する話題を堂々と話していた俺らを咎めるものは誰も居なかった。

 

 しかしそんな話をしたらエヴァ姉はすぐにネギ君を問い詰めたらしく、ネギ君はそれを逆手にとって弟子入りを志願した。親父の情報を売る代わりに鍛えて欲しいとか、何この子原作以上に強かかつ貪欲なんですけどー。どうしてこうなった……?

 

 まあそれはともかく、これで原作より弱い主人公という事態にはならなさそうで安心した。ついでに古菲にも弟子入りしていたとか言う愚痴を雪広から電話で滔々と零された。

 ボーリングに行ったところパーフェクトスコアで嫁力の差を見せ付けられた、悔しい!とかそんな話で一時間。ミミミンミミミン歌っている自部屋に極力戻りたくなかったので大人しく聞いていたが、あのネギ君が本当にそんな原作キャラみたいなフラグを立てていただと……?と今度はそっちで驚きの俺である。どういうことなの。

 

 そんなこんなで一週間。ネギ君は古菲との修行に明け暮れ、メンタルの弱ったまき絵を励ましたとか言うイベントを耳にした記憶もある中、エヴァ姉の修行の第一段階に突入する日曜日と相成った。

 

 

   × × × × ×

 

 

「雪広あやか・宮崎のどか・綾瀬ゆえ・早乙女ハルナ、契約執行180秒!」

 

「次、北の空に向けて魔法の射手、199

 結界を張ってあるから全力でやれ」

 

「ハイっ!」

 

 

 どぱぱぱぱぱ、と花火のように光の矢が空に張ってある結界にぶち当たる。

 初日ということでネギ君がどれだけ出来るかということを確かめているのだろう。この場に来ているのはネギ君の師匠である古菲と仮契約従者の四名。そして付き添いのこのかと吸血鬼主従プラス俺。明日菜は用事があるとかで麻帆良にも居ないらしい。

 それはともかく、ネギ君がボコボコにされて帰ってきた記憶なんてまったく無いのだけど、弟子入り試験とかってやってないのか?

 

 ――あ、倒れた。

 

 

「フン、やっぱりあの程度か」

 

「相変わらず変な魔力配分してるよなー。あれだけ間口が狭いのにくしゃみで魔法発動するっつーのは普段から締め方が緩いせーか? その癖体内魔力を完全に使おうとするとリミッターがかかるって、『全力を出す』にも不得手に見えてくる。

 ……魔法学校って、何を教えてる学校なんだろうな……?」

 

「最近じゃ攻撃魔法自体を禄に教えないらしいぞ? ネギ先生のアレは自己流なんだろ」

 

 

 思わず気になったことをエヴァ姉とそんな風に会話する中、

 

 

「なぁなぁ、わたしも回復魔法とか学びたいんやけど、教えてくれへん?」

 

「えー。エヴァ姉ー?」

 

 

 とてとてとこのかが近づいてきてそんなことを尋ねてくる。

 エヴァ姉のログハウス近くにある青空教室な廃屋の教会にてやっているのはともかく、魔法学教室をこの場で開催しているのは何らかの意図があってのことだろうなー、と思い流すようにエヴァ姉へと。しかし、

 

 

「私が対価を貰ったのはネギ先生くらいだからな、近衛に教えるのはお前がやれ。回復魔法はお前のほうが専門だろうが」

 

「専門ってほどでもないけど……。

 なに? このかは魔法医師とかが目標なの?」

 

「そらくんのアレを見たら知っといて損はないかなーって思うたんや」

 

 

 さよで。

 教えるほど詳しくも無いのだけどなー。ところで。

 

 

「せっちゃんはどうした?」

 

「おるよー? あっちに」

 

 

 指差す方向。物陰にてこっちをチラッチラッと覗いている不審者の影が。

 ……なにしてんのあの娘。

 

 

「そらくんのアレでおびえてるんちゃうかな」

 

「そんなに怯えるような娘じゃないんだけどな、あいつも普段は」

 

「おい、お前一体何を見せたんだ」

 

 

 ちょっとイアイアなクットルゥーを……。

 

 

   × × × × ×

 

 

 そんな益体も無い会話をしていた俺たちであったが、ところ変わってエヴァ姉のログハウス。

 復活したネギ君は未だに満身創痍であるのだから俺にはこれを鍛える手段なんぞ思いつかない。というかそんな弟子育成とか将来的にも無理だと思う俺は魔法世界じゃ生活できそうに無いなー、と思い至る。

 そんな己の葛藤も知らず、ネギ君が恐る恐る尋ねてきた。

 

 

「ど、どうだったでしょうか……?」

 

「まあ駄目駄目だな。ギリギリで及第点と言ったところだが、私が仮にも魔法を教えるというのだからアレで音を上げられては困る。

 ちなみに弟子入りまで認めたわけじゃないぞ。今の私はそらに手をかけるので精一杯だからな。ネギ先生を教えるのは初歩の初歩程度だ、それでも強くは鍛えてやるから感謝するよーに」

 

「は、はぁ……」

 

 

 うっそくせぇー。

 俺相手の『修行』だってある程度はカリキュラム組み終わってるから気を張ってそこまでやる必要もねぇじゃねえかよー。……とは言わない。なんか氷の視線が向けられたし。おお怖い怖い。

 

 

「あ、あのエヴァンジェリンさん」

 

「ん? ああ、そういえば聞いてなかったな。ネギ先生、貴様はどの程度まで強くなりたい? 強さのわかりやすい指標があるなら、そこを目指すのが私からの到達点だと理解してくれると助かるのだが」

 

「は、はい! 僕はドラゴンより強くなりたいです!」

 

 

 ――ん?

 

 

「………………ドラゴン?」

 

「ど、ドラゴンと言ってもワイバーンらしいのですけど」

 

「ほぉー、そうかそうか。ドラゴンか……」

 

 

 本気でワイバーンとか目指すとしたら、俺的には無理ゲーとしか思えないのですけど。そう思う俺が真っ先に思い浮かべたのは魔王少女の繰り出す神威召喚ワイバーン。ワンブレスで核弾頭を蒸発させるあの大怪獣に戦いを挑むなんて、正気の沙汰とは思えない。魔法世界と真っ向から戦争をやるほうがずっとマシに思えてくる。でもそれ以上にやりたくない。できるできないは知らん。が、『やりたくない』。それを分かってほしい。

 

 

「ドラゴンねぇ……はっはっは、そうかそうか……

 ――じゃあ遠慮はいらないということで文句はないな?」

 

 

 あ。これキレてるわ。

 ガシィ、と襟首をつかまれて引き摺られてゆくネギ君。おろおろとしながらも未だに満身創痍なのか抵抗ができないままに部屋の奥へと。

 

 

「え、え? あ、あのぉ~?」

 

「特別特訓だ。現代においてドラゴンと戦おうなどと漫画みたいなことをほざく御餓鬼様には戦いというものがどういうものかをみっちり一時間かけて教えてやろう。

 その間、魔法使い初心者どもはそこの弟子一号より魔法について見解を学んでおけ。ためになるぞ、そいつの『理論』は」

 

 

 あ、余計なこと残していきやがった。あとそれ絶対『一時間』じゃない。

 ドナドナと連れてゆかれるネギ君はまあ死にはしないだろう、と割り切ることにして。

 ……俺に、ちょっと目を輝かせているこの娘らに講釈を垂れろ。と……?

 

 

「んー、オリジナルで勝手な魔法理論の解釈でよければ噛み砕いて説明してやるけど。

 ……あまり真に受けるなよ? 正規の魔法研究家とは多分違うものだからさ」

 

 

 予めそういう予防線を張っておかないとなー。それほど自身があるわけでもないんだよ。

 帰ってくるまで一時間。そら先生の魔法講座が始まりますよーっと。

 

 

   × × × × ×

 

 

「まず始めに。魔法とは、魔力を代償に現象を喚起させる技術。仮想存在とされる精霊を魔力で呼び起こして現象へと転化させることを指す。

 つまりは魔力だけではなく、精霊が存在して初めて実行できるもの、なのだけど、それらについて色々と調べてみるとどうにもあやふやで理解できそうにない部分が多分にあったんだよ」

 

 

 エヴァ姉の家に何故かあった備え付けの黒板に『魔力』→『精霊』、『転換(コンバート)』と書く。

 バカレンジャーが二人+aいるけど、バカンフー以外はついてきている様子。頭の使い方の違いかね。

 

 

「どうやら『魔法使い』の連中は魔法理論を学術体系の一環ではなくて、結構『感覚』を基盤とした『才能』重視の技術だとしてそれを捉えている節があるらしいな。

 理論で学ぼうとすると、考えるんじゃない感じるんだ、ってリー先生のありがたいお言葉でお茶を濁すみたいにどの魔法書にも書いてあるのをよく見かけるし。魔法を学ぶために必要なのが『研究よりも修行』って感じで重視されているのを見てしまうとなんとも言えんわ」

 

 

 よくこれで一文化として発展させるまでに今日まで至ったものだと思う反面、それだけ魔法世界という名の基盤がすごいのだろうと逆に感心したりもする。これだからマンガだと言われ続けるんだよ。チッ。

 内心舌打ちしながら、『魔力の使い方』→『感覚』と書き足した。

 

 

「ちなみに、俺の魔法行使は他の魔法使いと比べるとやや異なるわけだけど。魔力を呼び水に精霊へと働きかけるのが『普通』の魔法だが、俺の場合は魔力を純粋に『魔法』へと転換(コンバート)する。

 だから修行を教えろと言われてもやっぱり感覚の話になっちまうから、初心者向けの魔法の修行なんてのは俺には無理。そこはわかってくれや」

 

 

 障壁からの魔力転用というのが本来の目的だったのだが、それをそのまま魔法に変えれれば戦略の幅が広がるぜ!と意気込んだ子供の頃の自分が原因。やり遂げてみてなんだけど、戦闘用だけに魔法を開発するのって心が病んでるとしか言いようがない気がする。

 エヴァ姉には「器用な奴」と呆れられたけど。

 というか、学術体系であるはずの魔法をエヴァ姉の城にあった魔導書なんかで一から学びだしたら解釈を変えたほうが自分でもわかりやすく扱えるようになったのだから、これはもうしょうがないんじゃないかな。

 というわけで、ここからは自分なりの解釈の魔法理論。

 

 

「で、本題に入るけど、魔法は自然そのものを操るわけじゃない」

 

「えっ? でも私の『世界図譜』には初心者用の学術書に『四元』とあるですよ?」

 

 

 まあ反論はあると思ってたよ。

 

 

「もしそうなのだとしたら、それはドッチかというとサイキックなどの超能力系統の代物になる。元素を発生させるならまだしも、四元って言うのは結局のところ自然界に存在する元素のことを指すからな。魔力の喚起で四元以外の属性飽和現象が見られる以上、『発生させている魔力内包の状態物質』とかが顕現しているし『既にある元素』の操作じゃないことは明確だ。

 だから、分類上に書いてあった地水火風の四元という表記は無視。本当にそれらを操れるなら魔法を使う奴らに優劣なんてものは存在しなくなる」

 

 

 これ以上は長くなるからカット。

 超能力を基盤としてどっかで混じった結果こんな説明不足な属性分けが成り立ったんじゃないかなー、って勝手に思ってる。その辺りは作った奴に聞くしか詳しいところは知らんしな。

 

 

「魔法が起こしているのは『現象の顕現』。それも自然が働きかけて引き起こすものよりは、より人間の指向に導かれる方向性のある、より性質の悪い『現象』だよ」

 

 

 『魔法』=『現象』と黒板に記す。

 火災に嵐に落雷はともかく、毒霧・石化・催眠・睡眠・読心・遠見・幻影、これらを「自然だ(キリッ」と言われてもちょっと納得がいかない。うち数部分には本人の性能でも差異が出てくる代物でもあるし。

 

 ちなみに俺のその理論を擁立させているのが『光・闇』の属性もしくは精霊使役魔法。

 光は根本的に太陽光や星の光、そうでなければ人工物しかない。では逆に闇は?それを遮られて存在する影がそれであるというなら、それは影属性であって別物になるらしいが、そうなると神話的な要素を含むことになる。

 結果として、コレも自分なりの解釈だけど。

 光と闇は同じ力の表裏。それを遡ってゆけば結局は『星のチカラ』に行き着くわけだ。光は天から差し込むもので、闇は穴の底へと引きずり込むもの。分類するなら『核熱』と『重力』になるのだろう。

 

 まとめると、魔法の大前提である属性別けは光・闇・火・氷・雷・毒の六つ。黒板にはそれぞれ、『光=核熱・極光』『闇=重力・引力』『火=高分子振動』『氷=分子固定・停滞現象』『雷=神経伝達活性』『毒=伝達阻害・壊死』と書き込む。

 どれもこれも自然現象の一端であり、それを人の目で理解できる範囲での発現だと研究した結果こうなった。ちなみに六属性の参考文献はヴァルキリープロファイル。その参考文献によるとそれらは互いに相互作用があり、互いが互いに作用する場合は打ち消しあう性質も同時に持つらしいが、現実じゃ多分もっと酷い現象が巻き起こるだけだろうなー。

 

 あ? 睡眠とか幻影とか? しらね。

 だってやる気ないし。俺はソレ系なら防御できるし。やろうと思えばスタンドで引き起こせるしー。

 

 

「あとこれは完全に余談だけど、科学と魔法を分けて考えるやり方を魔法使いはよくやるんだけどな。人の手で理論を分析するのが科学って言う領分の話だから、人の手が混じった以上魔法も科学の一端でしかない。

 人類文化=科学だ。現実的に考察してる時点で研究家は希望的観測だけで物事を推し量っちゃ駄目ってことだな」

 

 

 学術体系ならフラットに物事を判別できんと。特別な技術や才能に左右されるなんて代物じゃあ、遅かれ早かれ廃れていくっつーの。

 誰の希望なんだろうなー?(棒)

 

 

「さて。質問は?」

 

 

 ほへー。と静聴していた卵らがさわさわと囁きあう。

 まあ大きな反論が無いのは、まだ魔法使いとして頭が凝り固まってないからなんだろうな。

 

 

「はいこのか」

 

「はーい、ネギ君の使うとった風の魔法とかっていうのはどの属性なん?」

 

 

 手を挙げたこのかを指すと当然ながら言われるだろうと思っていたことを聞かれた。

 ……ちょっと愉しくなって来たわ。

 

 

「そう、そこが問題なんだよ。今俺は属性として魔法を分けたよな? この分け方だと存在するはずの水の魔法・風の魔法、そしてお前らはまだ見たことないかもだけど石化魔法や地属性魔法というのもあるが、それらを説明しきれない。

 まあ、俺の理論だと石化は置換魔法になるのだけど。地中に埋まった物質が化石化する現象を地属性に擬えてな。が、今は水と風を説明しようか」

 

 

 魔法使いの『石化』は『呪い』になるけど、普通に分析すると石化って解呪方法が成されなくなるんだよな。あいつらどうやって解呪してんだろうか。

 それはともかく、黒板に『水&風』→?と記す。

 

 

「その前にお前ら、精霊を信じるか?」

 

『は?』

 

 

 本題前の前置き。大事なことなので尋ねれば「何言ってんだこいつ」みたいな返事が返ってきた。

 

 

「はじめに言った気もするけどな。前提からして魔法使いは割りと間違えてんだよ。

 精霊は実は『存在しない』仮想神格。これが精霊の正体だ」

 

 

 続きは次回な。

 

 

 




長くなったので急遽切り上げ
二話か三話くらいにやっていた伏線の回収がようやくできた気がします
最初のうちにやるとなると本気で読者置いてきぼりのネギま読解ですからタイミング図ってましたw
もうちょっと練り上げてから書きたかったけど
次回、理論科学が二転三転しそうなお話
かと思うとそうでもないようなw

-追記-
やっちゃ駄目、と言われた部分を修正しました
そんな気は無かったのですが運営さんに引っかかってしまい申し訳なく思います
以後も気をつけます。謝辞


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『A:全部。の一言で解決しちゃうから問題の前提自体が間違ってるんだけど?』

―前書き修正―
タイトルが前回とリンクしてるってだけですのでお気になさらず


「自然界にそんな代物がガチで存在してるんだとしたら現象そのものに一々それらが関わっているという狂気的な事実が浮上してしまうし、その精霊を完全に使役できているという魔法使いには『できないことは何も無い』くらいの程度になるはずなんだよ。死者を生き返らせるとか時間を逆行するとか異次元に突入するとか、そういう部分も例外じゃない。

 でもそれをやって世界中がぐちゃぐちゃになったこともなければ、時代が変革したとかそんな認識も存在していないわけだから、やっぱり存在自体が疑わしいっていう、まあ悪魔の証明にしかならないけどな。

 ガチでやって見せた『魔法使い』は別の次元に移行して王様とか神とかになっているー、とかって説明もできるかも知れんけれども、そうなっても俺らの次元ではやっぱり認識されない存在になるわけだから証明のしようも無い話なんだけど」

 

 

 黒板に書き忘れていた部分を書き足しながら、説明し足りない別の説明をし続ける俺。

 

 

「精霊っていうのは仮想神格、つまりは『そこに存在している』と『認識する』程度の代物でな。実際に存在しているかは二の次だ、魔法が発動すれば存在しているし、発動しなければ足りないものがある。と施行者に『認識される』程度の話。それで存在自体を完全に捉えることができる代物で無いって言う話なんだから、やっぱりこれは誰かが意図的に『存在している』と『仮定』した代物なんだろうな。

 電子精霊というものもいるけど、あれは魔法らしく使い手の意図することをより複雑により強固に施行するためのプログラムと言ったほうが正しい。その電子精霊ですら現実世界で認識するには『存在を附加させる』という構成が必要になってくる。

 以上の例を鑑みるに、精霊というものは概念存在に等しくなるわけだよ。存在すると想定して発動させたい魔法に適した精霊の存在を認識と魔力によって構成し術式を組み上げる。そういうめんどくさいプロセスを、魔法使いは『呪文』という通例どおりの術式を広めることによって形にしていったのだろうな。

 あとこれは専門外の話になるのだけど、『魔術』にも似たような概念想定の論理が存在するらしい。まー聞きかじった程度の話だから詳細なんて知ることもできないけど。麻帆良が閉鎖しているお陰でこっちに関する知識は本当に門外漢なわけだし」

 

 

 そんな言葉で締めくくり、『雷=神経伝達活性・天候操作』と書き足す。

 なんだかんだ言って雷属性にはそういう前提があるから、風や雨なんかはそれの下位領域だと俺は勝手に思ってるのだけど。

 

 

「って、それで話は済んだやん!?」

 

「バッカおめぇ、一時間も時間もらったんだぞ? 話したいことを話して何が悪いってんだよ」

 

「結局言葉のロジックでかき乱されただけのようにしか思えないのですが」

 

 

 文句を言うこのかと綾瀬に「でも勉強にはなったんじゃね?」と返す。とっていたノートを顔面に叩き付けられる。おい、俺の障壁は万能じゃないんだからな。普通に痛いんだからな。

 

 

「いや、でも勉強になったのは確かだよね。

 要するに素粒子は目に見えないけど『空気の一部』っていう形では存在しているわけでしょ? でもって同じように、精霊は目に見えないけど魔法使いたちはそれと同じもののように『存在している』って認識しているわけかな?」

 

「そう、それが言いたかったんだよ。早乙女は意外と話がわかるやつだな」

 

「そらっちの掻い摘み方が回りくどすぎるんだよー、先生っぽいけど初心者にはついていけねぇっす」

 

「ついてこれるような成長を見せるべきだろー。お前ら一応学生なんだからさー」

 

「中学生に何を期待するのか」

 

 

 一応は同年代なんだけどな。魔法に携わった年数は違えど。

 あと中学生らしくない見た目筆頭のクラスがその台詞を口にするのは間違っていると、俺は大いに思うのだけれども。

 

 

   × × × × ×

 

 

 石化に伴う細胞の変化と化石化における置換現象の違いを『ロバの耳』で知られる有名な王様の小噺で面白おかしく解説していると、奥からぬらりとした気配が。

 首を傾げるようにそちらへ振り向けば、エヴァ姉が半冷凍状態のネギ君を引き摺って現れた。あれ?もう一時間経ってたのか。

 

 

「お帰り。どうだった?」

 

「ああ……、どうというか、なんというか、とりあえず……。そら、お前私の別荘にいくつ内緒で勝手な実験を放置してるんだ」

 

 

 おや?

 何処か憔悴しきった様子でエヴァ姉はこちらを睨み上げる。

 

 

「んー。続行している実験は一つか二つ程度だけど、放置しているのは一つかな。

 あ、火山エリアはマジで危ないから進入禁止にしといたほうがいいかも」

 

「遅いわッ!!!」

 

 

 どさぁ、と放り投げられ倒れるネギ君。

 げ、これ半冷凍以前に半死半生じゃねえか。どういう修行したんだエヴァ姉。

 

 

「ね、ネギ先生ーーー!?」

「しっかりするアルネギ坊主!?」

「か、烏丸さん! 回復魔法を早くっ!」

 

「んー、ちょっと待ってて。ホイミホイミホイミ、」

 

「まだるっこしいよ!? ベホマとか無いの!?」

 

 

 ベホイミ(意訳)なら。ストックしてある回復呪文じゃどのみち追いつかないなぁ。

 

 

「ゆえきち、『図譜』で回復呪文とかって検索できないの?」

「そんな一朝一夕にできるアーティファクトと違うですよ! というかこんな死に掛けている状態でよく生きていられると……!」

 

「まさに必死かつ瀕死な状況だったからな、ひとまず氷漬けにすることで仮死状態に移行してみたわけだが……。

 ――火の柱が生き物みたいに的確に襲い来るとか、何を放置していたんだ貴様……!」

 

「あれに遭遇したのかぁ。よく生きてるなネギ君」

 

「その前に私が直々に半日鍛えてやったからな。

 生身でドラゴンと闘ろうなどと言い出したわけだしとある小説を元に先ずは実現可能なだけの強度を附加させようと考えたんだ。障壁の硬さをまず前提として、」

 

「「「「「「「そんなこといいから早く何とかしなさいッ!!!」」」」」」」

 

「「スミマセン」」

 

 

 総勢七人によるツッコミが炸裂した。

 

 

   × × × × ×

 

 

 死に掛けたネギ君を救うためにはエヴァ姉の別荘に再び行くしかなく。

 

 

「――と、これで半日漬け込めば回復するだろ。欠損した肉体の補修と意識の補充を同時にやるにはこれしかないし」

 

「……いあいあ」

「くっとるぅ……」

 

「しっかりしいや、初見のみんな」

 

 

 クタァト(変身)を初めて見た綾瀬と早乙女のSAN値がヤヴァイ。

 せっちゃんはガチで怯えて近づいてこないし、その元ネタを知らないらしい古はぽへーと見上げてる。

 このかは耐性が早くもついているらしい。雪広と宮崎はネギ君が第一らしく些事にはかまけない様子である。……正気に返る前に水辺に戻すか。

 

 

「クタァト、しばらく湖の中にいろ。ネギ君の回復が済んだら戻っておいで」

 

『――了解』

 

 

 ざぶざぶと湖中へと沈んでゆく巨体。水を補給しながらなら、ずっと確実な補修に移れるし。

 ずいぶん昔に、某シャーマンの完全版を読破した俺はエヴァ姉に頼んで修行場を改造することを許可してもらった。それに基づいて構成した魔法球の中には、エヴァ姉の城・海岸エリア・雪山エリア・火山エリア・密林エリア・砂漠エリアの六つにプラスして、湖エリア・迷宮エリア・農場エリア・真空エリアと四つを作ってみたわけである。

 そんな此処は湖のエリア。主にクタァトの実験場であり、隣接する農場エリアとは『地続き』の、内部は転移では奥まで移動できない空間であったりもする。

 ちなみに農場エリアの普段の管理者は、

 

 

『カブー』

 

 

――ズシャン、と巨大な人型カブトムシのヘラクレスくんが湖畔へと降ってきた。早いな。

 

 

「おおヘラクレスくん、出迎えご苦労。

 さて、ちょっと休憩でも入れるか。絞りたてのミルクか、新鮮な果物か、どっちが好みだ?」

 

 

   × × × × ×

 

 

「そういえばずっと疑問に思っていたのですが、昆虫は巨体になると自重で自らの肉体を支えきれなくなるとかいう話を小耳に挟んだのです。このヘラクレスくんはどうやって巨体を維持できているのですか?」

 

「筋肉」

 

 

 甲殻の内部はみっしりと筋肉が超密度で詰まっていて、解放されると辺境の刑務所くらいなら簡単に圧死させることもできる。

 それを維持しているのは偏に強力な甲殻とそれに伴わせた魔力の圧縮率。だからヘラクレスくんは外側に魔法を扱うことはできない代わりに、その魔力の密度が天然の鎧になって中級から准上級の呪文程度なら耐えることもできる。それ以前に超機動で素早く動けるので回避されるのがオチなのだけど。

 

 

「まさかのまっするパワーとは……。アンチェインのようですね……」

 

「俺も質問していいか?

 ――バナナ&フィッシュのミックスジュース、旨いか?」

 

「意外といけるです」

 

 

 洒落で用意した物だったのだけどな。

 農場エリアでは茶々姉妹が絞りたての牛乳を用意してくれたが、それに合わせてシェーキを作ろうとバナナを取ってきてもらったらときに、ふと思い立った原作リスペクトの例のスープ。ちなみに俺は一口でギブアップである。無理。

 

 

「なんっていうか……、本気でファンタジーの世界にきちゃったね~

 いやあ、一時はどうなることかと思ったけど」

 

「せやな~

 で、エヴァちゃんはどうしてまだいじけとるん?」

 

「うるさい。弟子と従者が勝手にこんな巨大な農場を形成していたのに何も知らされていなかった気持ちがお前らにわかるか」

 

 

 逆に聞くが、なんで気づかなかったんだ? 茶々丸は普通に此処から食材をよく持って行くのに。

 

 

「てっきり、買ったものだとばかり……」

 

「新鮮な野菜とか魚とか肉とか、特に農場エリアの後ろのほうにある山岳地帯とかにしか野鹿や猪肉なんて獲れないと思うのだけど」

 

「麻帆良山からだとばかり……」

 

 

 一応埼玉だけど、まあ棲んでいる、か? でも、

 

 

「エヴァ姉の家のリビングに飾ってある牡鹿の首は此処で獲れたやつの剥製だけど?」

 

「あー、あのシ○神の森の主かと思うくらいの?

 あれは確かに麻帆良山にはいないだろうね」

 

「てっきりディダラボッチに返還し忘れた首かと思ってました」

 

 

 せっちゃんまでそんなことを言って話に乗っかる。バナナシェーキが心の壁を溶かしてくれたらしい。

 

 

「茶々丸さんが獲ったのですの?」

 

「はい。猟銃でズドンと」

 

「一体いつの間に取り扱いの免許まで取っていたんだか」

 

「免許などなくとも、必要なのは一発の弾丸と撃ち込む覚悟だけです」

 

 

 またぎと山猫は眠らねぇ。と付け加える茶々丸。

 やだ、漢らしい……! あと良い子は真似すんな。

 

 

『――マスタ、回復終わった』

 

 

 早いな。

 小屋の扉を開けながらネギ君を背負って入ってくるクタァト。

 全員の視線がそれに釘付けになる。

 まあ、

 

 ――裸でナイスバディの女性がぺたぺたと入ってくれば誰でも注目するか。

 

 

「「「「「「「「はぁっ!?」」」」」」」」

 

 

 茶々丸を除く全員が驚愕の声を上げた。当然だよねー。

 

 

 




~魔術
 この世界線では魔法とは別物。型月ともまた違いますので期待した方は悪しからず
 でも出したかったなぁ、ネコアルク・・・

~ロバの耳
 ゴールデンライトーアムズというものがかつてあってだな・・・

~ホイミ(意訳)
 止血・火傷・凍傷程度が対象の回復魔法。ベホイミは千切れた部分をつなぐ程度の回復魔法。ネギは命がやばかったので焼け石に水
 修学旅行本編では生存しているのになんでこんな脇閑話で死に掛けてるんだこの子は・・・

~火の柱が生き物みたいに
 四体目のそらの子。火山エリアの火力を無制限に取り込み今もまだ成長中
 ぜったいによんではいけない・・・

~シ○神
 どうしても先にこの台詞が浮かぶ
「おっことぬしよー、しずまりたまえー」

~クタァト=アクア=ディゲン
 本来の姿はボンキュボンなナイスバディ。姿が変幻自在の水棲魔法生物
 モ○波さんとか妄想したら一番近い。R-18になっちゃうかもだけど


ついに60話ですよ!思えば遠くにきたもんだ
注意事項とか危険なこと呟いたりとかタグで重箱の隅を突かれるような通達とか色々ありましたが大体書きたいこと書けたような気もします
よく続けれたな自分
くぅー疲れry

とにかくこれでそらの戦力がどういうものかをある程度出せましたし、あとは強化するだけですね!
何をって?
ヒロインとのフラグだよ・・・!
この主人公(笑)立てているようでその辺愚図なままで・・・!
もっと貪欲に行けないものか。草葉の陰で元メインヒロインとのレッテルを張られたあの娘が泣いてるぞ!?
まあ俺のせいなんですけどwww

色々飛ばしているのに百話とか行きそうな予感すら感じてきた
ついてこれるならば書き続けます
妄想だけどな・・・!
ではまた次回


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『IFルート【その5】』

お騒がせして申し訳ない
色々警告食らってましたさーせん
活動報告に前書きみたいなものが載ってますよー



 

 轟々と気流が千々に乱れる遥かな空の下。地面は煮え滾った溶岩で溢れていて足の踏み場もない様子。おいちょっと待て、ここ何処だ。

 落ち着け落ち着け、素数を数える……必要はないとして、気がついたらここに居たという自分の数秒前を思い出せばいいんだ。

 

 と、思い返そうとした瞬間目の前に迫り来る白い雷の奔流がー!

 呑み込まれそうになるのを必死で回避。

 数ミリ掠って、後方で誰かが飲み込まれる気配がしたが気にしている暇はない。

 

 つうか、なんでいきなり激戦地に飛ばされているのだ。

 

 確かクタァトの真の姿がみんなの前で発覚して精神的な死を迎えそうになっていたのが最後の記憶。完全に趣味で造ったホムンクルスの中でも異色……いやさ、どっちかというとホムンクルスというカテゴリに入るのがセルシウスだけだからセルシーの方が異色なのだけどそんな詳細はまあ他人には理解できない話だから攻められるのも仕方ない。こっちとしては個人所有のエロ本を目撃されて趣味を解明されたような気分だったのだけど、こういう場合は大抵男が悪いんだ。そこに男女平等の精神はないのである。

 ともあれ、雪広・綾瀬・刹那からのじっとりとした視線に加えてエヴァ姉の物理的なお仕置きが多分最後の記憶。覚えている辺りを思い返せば致死の直接的な原因はアレかと思われる。ていうか、俺死んだ?

 しかし走馬灯だと言われてもこんな地獄みたいな場所に訪れた記憶なんてない。本気で死んだとかそういう思考はカットとする。怖いし。

 と、いうことはだ。

 

 

「なんだ貴様、そこの一行のお仲間か?」

 

 

 ああ、夢か。

 

 

   『そらさん!ラストダンジョンですよ!ラストダンジョン!』

 

 

 目の前に居るのは白髪の青年で、性格が歪んでいそうなくらいに下卑た表情を浮かべている。多分だけどセクンドゥム。

 その周囲にはずらりと居並ぶ恐らくは『完全なる世界』の復活した面々の皆々様、といったところか。

 

 そしてちらりと後ろを振り返ってみれば、満身創痍でボロボロなネギ君と同じく瀕死のフェイトくん。それを纏めて始末しようという二番目の人形との間に、俺はいきなり現れたということらしい。

 果たして誰の仕業なのだろうか……。

 

 

「フン、誰であろうと関係ないな。そこを退け、退かないのならば力ずくで退かせる」

 

 

 ……初見であるけど酷い性格してるなこの二番。

 というか、俺を単体でこんな場所に連れてきて何をさせようというのだろうか。誰の仕業かは知らないけど。

 言葉を返すのも億劫なのだが、確認を取りたいので、

 

 

「あn「私は、退けと言ったんだ」

 

 

――言葉を紡ぐ間も無く雷撃魔法が放たれる。

 が、それをインストールドットで『防』ぐ。雷撃の矢はジッと弾かれて掻き消えた。

 おお、使えた。相変わらず防御だけなら鉄板な硬さで俺も安心である。そして見えている奴はどうやらいない、と。あ、後ろのほうに麻帆良組も発見。

 

 

「……? なんだ、貴様?

 今、何をした……?」

 

 

 言葉を介そうとしない二番は放置。

 今会話すべきは後ろの少年たちだと判断する。

 

 

「えーと、ネギスプリングフィールドとテルティウムことフェイトくんで合っているのかな? 違うというなら名乗って欲しいけど」

 

 

 どうにも現実感がない。目の前の少年たちが自分の知る本人らとは別物に思えて仕方がないのである。

 時間が経っているからこその違和感のせいなのか、それとも本格的に違うのか。詳しく知れないところで余計な勘違いを誘発するのは避けたい所存であるし。

 まあ片割れは元のところでも未だ初対面なのだけど。

 

 

「え、と、はい、そうです、けど……あの、貴方は誰なんですか……?」

 

 

 ハイビンゴー。このネギ君は俺のことを知らないご様子でーす。

 んー、状況を鑑みるに、原作世界の最終決戦場?

 世界線が違うって程度の理屈も考えかけたけど、そうなると俺以外の転生者とかが居たりするのだろうか。

 

 

「……誰かは知らないけど、とんだことに巻き込んでしまったようだね……

 それとも、貴方が僕らを助けてくれるのかい……?」

 

 

 おおう、感情表現の薄い子だね。

 んー、手を貸すのは吝かではないけど、今の俺に何ができるのか。ケータイをぽちぽちと検索しながら思考してみる。

 障壁は張られていないから無駄な結界なんかが介在する空間ではないけど、魔法が使えるからといってずかずか踏み込んでくるあの一団に対抗できる手段とか――、

 

――あ、あったわ。

 

 

「――イグドラシルの恩寵以て来れ貫くもの……!」

 

―轟き渡る雷の神槍(グングナール)!!!―

 

 

 ちょw、おまwww

 

 

「どんな手で今のを防いだのかは知らんがこれくらいの威力なら消し炭になるだろう?」

 

 

 雷製の巨大な槍を構えてこちらに向ける。

 無視していたらいつの間にかピンチに陥っていたでござる。急げや急げ。

 

 

「――諸共消え去れ……!」

 

 

 そうして槍を投擲する体勢に入った。その瞬間、俺はケータイを掲げる。

 

 

「御出でませ、ハチリュウ」

 

 

 トラップカードオープン!

 

 

   × × × × ×

 

 

 目の前の少年が携帯電話を翳した瞬間、彼の足元に召喚の魔法陣が刻まれる。が、それを目の当たりにしても『完全なる世界』の面々はさして危機感を抱いていなかった。

 彼の少年がどんな才能に溢れていて、どんな思惑で手助けに入ったのだとしても、自分たちは魔法世界最強の実力者だと自負していた。中には『例外』も現れることが間々あるが、そんな事象は『前回』の敗北以降起こっていないし、その事象を起こした人物も自分らの知る限りこの場に現れないということも判っていた。

 だからさほど脅威ではないと判断し、傍観していた。それが、ことの推移を判断する材料になった。

 

 足元の召喚陣から現れたのは『炎』だった。

 

 八本の炎の柱が、召喚陣から吹き出て溶岩を飲み込み、更に巨大に畝って絡み合い、焼け溶けた大地を我関せずとばかりに走り回って、とぐろを巻き、鎌首を擡げて、彼らの仲間たちを守るように囲んで聳え立つ。

 それらはまるで意思があるように動き、自分たちと対峙するかのように静止した。

 

 

「ハチリュウ。後ろの女の子たちとそこの少年らを守護。後は好きにして」

 

『ヤー』

 

 

 しゃべった。

 

 そう判断した瞬間には炎の柱はそれぞれが自分たちに突撃を咬まして来る。いや、此処に至って彼らはようやく気づいた。これは『柱』などという無機質なものではない。

 これらは、炎の『竜』だ。と。

 

 

「お、おお、うおおおおおおっ!?」

 

 

 鞭のように撓った動きで一匹がセクンドゥムを弾き飛ばす。遥か上空に放り投げられるような形で吹き飛んだ彼は必死で体制を立て直そうとしたが、次の瞬間には飛ばされてきた隕石大の火の玉に飲み込まれた。

 褐色の幼女は似たように火の魔法で火の玉を何とか逸らしてかわすことに成功したが、脇を走り抜けた火の刃によって障壁関係無しに片腕が蒸発する。『断罪の剣』のように相転移に近しい性質を持っているのか。食らった瞬間にそう判断したが、切り傷が焼けている様子からして焼切ったというのが正解らしい。刃の厚さ自体が数メートルなのに切れ味が抜群とかなんの冗談かと顔を歪める。

 腕が何本もある黒衣の男・デュナミスはそのコブシが次々と蒸発してゆくにもかかわらず内の一匹と正面から戦っていた。が、こちらの攻撃は意にも介さぬままに睨まれるだけで焼けて溶けて塵になってゆく腕たち。何度も再生を繰り返していてもそのうち本体にまで『視線』を向けられればそれで詰む。

 大柄なもう一人の男は炎の結界に遮られて身動きできなくなっていた。得意らしい水の魔法で結界をいくら叩いても壊すことが出来ず、むしろ水素爆発が勝手に引き起こされる連続自爆をいい加減学習するべきだと思う。あとそろそろ酸欠でヤバイ。

 雷の魔法を扱うアーウェルンクスシリーズとはまた違った様子の男はとっくに満身創痍である。召喚が成功した瞬間に走り出した炎の奔流に巻き込まれた上に、降って来た火の雪崩が彼の遺体を溶岩の中へと押し流していった。辛うじて息があるらしいので遺体と言うのは過剰表現かもしれない。

 ちなみに他のアーウェルンクスシリーズは火の暴走が始まった瞬間に一目散に逃げ出した。勝てない喧嘩に付き合う義理は無い、とデュナミスも言っていたらしいのでその判断は正解であった。が、それならばこんな全員集合する前に参加を辞退しておくべきであったのだろう。高々数百メートル距離を置く前に火の幻影に行く手を遮られてとっくの昔に逃げ場が無い。足場の悉くが危険地帯として判断するような幻影をかけられ、素早すぎる状況判断力を逆手に取られて右往左往しているのが現状であった。ちなみにそこを飛んで逃げようとした火のアーウェルンクスはレーザーのような光線に撃ち落とされている。

 

 はっきりという。

 地獄絵図であった。

 

 それらを『特等席』で、火の結界に守られた麻帆良組は唖然と眺めていた。

 

 

「……いや、強すぎるだろ。誰なんだよ、あれは……」

「なんや、もう可哀想になってくるなぁ……」

「て、敵じゃないんよね……?」

 

 

 誰が誰かは推して知るべし。

 

 

   × × × × ×

 

 

 あれー? なんでこんなに容易いのかなー?

 ハチリュウ無双に思わずそんなことを心内で呟く。

 実際、ちょっと強くしすぎたかなーとは思っていたけど、この場所が溶岩の渦中でなければそれほど強化もされなかったはずなのである。この子は。

 

 炎と熱とを溜め込んで推進力とエネルギーに換える、火の精霊の複合実験で生まれたのが『ハチリュウ』だ。

 形が竜になったから折角だから昔読んだ漫画の性質違いの炎の能力を再現させようと色々実験を繰り返した結果、呼び出したら当たり一面を焦土にするまで落ち着かないという困った子になってしまった。てへぺろ。

 普段は餌場でもある火山のエリアに常駐させているから、そこで蓄えたエネルギーを使い切るまで止まらないやめられない。いや、普段から餌しかない世界に押し込んでいるから、広い場所に出るとはしゃいでるんだと思う。一応俺が居れば言うことくらいは最低限聞くし。

 

 

「こ、この! 貴様をやればぁぁぁ!!!」

 

 

 消し炭になったかと思った二番がグングニールをこちらへ飛ばす。

 が、ハチリュウの一匹に槍は途中で食いつかれて飲み込まれる。

 あ、なんか唖然としてる。わーお、火のレーザーに飲み込まれたー。

 

 まあ、見ての通り。内包している火力よりも威力の低い魔法なら飲み込んでエネルギーに変える。普段からマグマ溜まりで生活しており大地のエネルギーを食い散らかしているコイツに勝てる威力の魔法ってなんぞや?と思わなくも無いけど。なんという魔法使い殺し。

 

 

『アルジ、アルジ』

 

「ん? どしたい烈?」

 

 

 先ほど槍を飲んだ一頭がこちらを呼んだ。名前は『烈』、八本それぞれに名前をつけているのだけど意思の疎通が出来るのは最初の生まれのコイツだけである。ちなみに中枢みたいな役割をしてもらっており、こいつを通しての制御だ。

 あの漫画で見たような最終変化はさすがに無理だったしなぁ。

 

 

『ダレカ、キタ』

 

「誰か? 何人だ?」

 

『ヨン、ナナ? ノミコマレタ』

 

「ん?」

 

 

 あれ? 過去形?

 

 

「「「「「「「ぬわーーーッ!!!」」」」」」」

 

 

 あ、なんか遠目にハチリュウの暴走に巻き込まれている人らが。

 英雄組、かなぁ……。

 

 それにしても面白い夢だ。普段からこれくらい無双出来れば楽しいんだろうけどなぁ。

 

 

 




~原作ラストダンジョンですよ!
 36巻既読推奨

~ハチリュウ
 烈火の何某を参考に造った火の精霊実験体
 それぞれに名前があり能力を再現させることに成功した
 『崩(くずれ)』は無数の火球を作り、『砕(くだき)』は分厚い炎の刃を生やし、『蛇(かがみ)』は打撃干渉の出来る状態に変化でき、『瞬(またたき)』は瞬間的に視線の向いた先を沸騰させることができ、『甲(よろい)』は火の結界を生み出すことが出来、『累(かさね)』は火の幻影を見せ、『虚(うつろ)』は熱戦砲を放射できる。『烈(れつ)』は唯一の攻撃吸収型で司令塔の役割である
 ちなみに中の人はいない。けど名前を付けているのはそのうち人格が搭載されて人型に変化できるようになったときのためのものか?累辺りが好みの美女になればと画策している可能性も・・・
 あと残念ながら不死鳥の火の型は再現できなかった模様

~最後、おい最後
 巻き込まれた7名を挙げると、ぬらりひょん・ソードマスター・古本・エターナルロリータ・陰険メガネ・デスメガネと思われる
 公式チートは復活が間に合わず。危機を察して密かに隠れていると言われても納得の危機察知能力
 あと一人?いるじゃんほら、最初からいたけど描写されてなかった人がさ・・・


微妙に間が開きまして申し訳ない
いつもよりちょっと短めのIFをお送りしましたよっと
火の四番目が丁度いいタイミングかなーと思い急遽やらかしました
登場渋っていたら益々後になりそうでw
しかしこの予想を誰もしなかったというのが逆に驚きました。クト●グァさんよりは再現としては妥当な気がするのだが如何なものか

活動報告でも軽く謝罪しましたが前前回のクイズまがいな後書きを運営さんに注意されて完全非公開になっていました。すいません
俺の割と勝手なミスですので今後とも気をつけます
編集はしたけどこれでいいものかどうかとも思われる・・・

ところで本気でこんなラストダンジョンだったら、嫌ですよねー
熱線に呑み込まれる二番・・・ツインテールの白い魔王のOHANASHIか、カメ●メハに呑み込まれる人造人間か、に通じるものがあったりなかったり・・・
ではまた次回


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『薬味坊主奮闘日記(略)』

 

「魔法使いには二つのスタイルがある。

 一つはスタンダードな『魔法使い型』。砲撃専門で、距離を取って大魔法で敵を一掃するのが主な戦い方だな。基本的に安全圏から攻撃するのが第一なのだが、そのためには自身の戦闘圏域をしっかりと把握する空間認識能力は必要不可欠となる。まあ戦うことを目的とする奴には多かれ少なかれそれは必須なのだけどな。ちなみに私はこのタイプに当たる。

 もう一つは『魔法剣士型』。接近戦が主な戦い方になるが、魔法と両立して戦術を組み立てる以上同時に二つ以上のことをこなせるような並立思考が必須となる。ワンマンでも真価を発揮できる完全戦闘専門タイプと言ったところか。このタイプはナギだな、近づいて大魔法をバカスカ撃つとかいう戦法をよく取っていたが、対峙した相手が可哀相なくらいだった。

 ちなみにどちらも極めたものにとっては大差は無くなる。得意な戦法とは言うが、なんだかんだで魔法使いというのはどいつもこいつも戦闘野菜人みたいな成長を見せるからな、この先もその意識が改善されない限りは脳筋が蔓延るだけだろうな」

 

 

 最後に愚痴みたいなことを零しつつ、エヴァンジェリンはそう締め括った。

 大人しく聞いていた一行はほほー、と納得のため息を漏らす。

 その部屋の隅でごろりと放置されているそらには誰も気にかけない。ネギを回復させたクタァトは湖に戻ったし、ヘラクレスはそもそも小屋に入れない。という事情とは関係無しに、あまり彼に目線を向けないように彼女たちは極力努めていた。

 単に彼の造った作品の出来を軽蔑していた、というだけであって決してエヴァンジェリンの嫉妬混じりの『お仕置き』が恐ろしかったから、という理由では断じて無い。乙女の心情は複雑なのだ。

 

 

「あのー、そらさんもやっぱり魔法剣士なんですか?」

 

 

 そんな空気を読めていないのか読む気がなかったのか、ネギ少年が挙手して尋ねた。

 それを受けて嘆息を一つ、

 

 

「いいや、あいつは『魔法使いタイプ』だよ」

 

 

 どうやらお仕置きしたことで少しは溜飲も下げたらしい。エヴァンジェリンの怒りが再燃しないことに静かな安堵の息を零した少女たちは、同時にえっ?と彼女を再び見た。

 

 

「やろうと思えばやれるのだろうけどな、そらは魔法と体術を同時に行使しない。距離を取って魔法を使うという、意外とスタンダードな魔法使いだ」

 

 

 もっとも近づけばスタンドという切り札も持っているわけだが、そのことは敢えて教えないエヴァンジェリン。彼女にとってもその技術は見えないし、本気で敵対すれば対処の仕方が今ひとつわからない。

 しかし、それ以前にそらはスタンドを戦闘に多用する、という方法をあまり取らないというのも理由には含まれている。今のところ防御くらいにしか咄嗟に働かせられない能力でもあるので、やり易いほうへと戦法を傾けてしまうのは仕方の無いことなのだが。

 

 

「……意外でした、てっきり烏丸さんは魔法剣士かと」

 

「あいつの専門はそもそも研究職だ。『造ること』に興味が赴いたのだから、そうなるのも仕方の無いところなんだろうな」

 

 

 まあその結果が例の理想の女体を造る、ということに繋がったのだが。とは誰も言わない、言っちゃいけないことである。

 

 

「それよりも私が知りたいのはお前のほうだよ、ネギ先生。

 お前はその歳で、なんでそこまでして強さを望んでる? ナギを探す、という名目だけではまだ私は納得してないんだ。今日は時間もあるし、是非ともじっくりと語って欲しいのだがな?」

 

 

 その言葉に全員が、考え込んでいたネギに視線を向けた。

 確かに、少年特有の強さに憧れている、という理由も無きにしも非ずであろうが、彼にはそもそも魔法世界へと密航したという前科がある。そこまでして強さを手にしたいという焦りが見え隠れしている。向こう見ずすぎるのだ、この少年は。

 

 そのことに朧気ながら気付いていた少女たちは、顔を上げて思いつめる彼の返答を静かに待っていた。

 

 

「――……わかりました。そうですね、皆さんには話しておいたほうがいいかもしれません」

 

 

   × × × × ×

 

 

 気付いたら涙ぐむ少女たち、という現状に直面して訳が分からず。どういうことだってばよ、と比較的平然としている茶々丸に質問してみた。

 

 

「ネギ先生の過去バナ」

 

「把握」

 

 

 ……起きたらクライマックスが終わっていたでござる。

 なんだろう、このすっごい置いてきぼり感。

 まあ、その代償というわけではないだろうが面白い夢を見れたから別段文句は無いけど。魔法世界のラストダンジョンで無双をした謎の夢想。今更だけど火星と麻帆良ってかなり距離があるのにどうやってハチリュウを呼べたのかが未だに謎だ。だからこそ夢だろうなーとは思った。

 

 さて、そんな現実逃避はともかくとして話に加わるか。

 

 

「で? つまりはそれがキミの原動力ってことか」

 

「わっ! お、起きてたんですかそらさん?」

 

「話は夢の中で聞いていた……」

 

「そんなZ戦士みたいなことが……!?」

 

 

 リアクションを返してくれるのはネギ君のみで、他の娘は涙ぐむのにお忙しいご様子である。

 まださっきのことが尾を引いてるとか、そういうわけじゃないよな……?

 

 

「で、だ。キミがそうやって強くなろうっていうのはよくわかった。つまりは村人をそんな目に合わせた悪魔への復讐心か」

 

「ち、違います! 僕は……!」

 

「? 村人を助けたかったら先ずは解呪法を探すじゃないか。力を強さを望む今のキミが、それを否定できるわけ無いだろ?」

 

「そ、それは……っ!」

 

 

 必死で否定しようとしたネギ君を庇うように、その場にいたほとんどの女子が俺とネギ君の間に立ち塞がった。

 まるで悪役を相手しているかのような睨めつけ方がちょっと心に刺さった。

 

 

「何のつもり?」

 

「烏丸さん、言って良いことと悪いことがあるですよ」

 

「イイコトも何も、ただの事実を聞かせて何が悪いのかね?」

 

「こんな幼い子に聞かせることではありません!」

 

「そんなんでも、君らの『先生』だ」

 

 

 割と正論に聞こえたのだろう、俺の言葉にぐぅっと怯む綾瀬。

 

 

「他のも同意見?」

 

 

 伺うように小首を傾げると怯むような表情でも、しかし一歩もその場から離れようとしない仮契約ガールズ+1。

 そんな彼女らを掻き分けて、ネギ君が前へと出てきた。空気を読んで、一触即発の事態とでも思ったのかも知れん。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!

 皆さんも聞いてください!

 僕がこのことを話したのは、僕の傍にいると危険に巻き込まれるだろうから、もう普通の女子中学生に戻ったほうが良いと思ったからで……!」

 

「――はぁ?」

 

 

 思わず、そんな言葉が漏れた。

 矢鱈大きく響いたその困惑の声は皆の関心を集めるのには適役だったらしく、全員が言葉に詰まったような表情でこっちを見てくる。

 仕方ないので俺はそのまま言葉を続けることに。

 

 

「ネギ君、キミが麻帆良に来て此処まで過ごしているのに今更そこの娘らはキミの言う『日常』には戻れないと思うぜ?」

 

「………………えっ?」

 

 

 これは『原作』でも思ったことなのだが、受け持つ女子らの安否を伺う割には、そういうところがこの子は若干想像力が足りてないようで。

 

 

「まずな、キミが中心的に狙われたと仮定しようか。

 そうなると狙う側の心情は関わるものが増えれば増えるほど弱点として扱えるものが増えるってことになるわけなんだが、狙う側と狙われる側で有利なのはどう考えても狙う側だ。キミは今更縁を切るには麻帆良にどっぷりと浸りすぎてる、そこの仮契約ガールズが魔法から足を洗ったとしても、『狙われなくなる』っていう理屈には繋がらんぞ」

 

「……? っ!」

 

「気付いたか。

 それとキミの襲われた村についてだ。

 実際のところ、なんで襲われたんだろうな?」

 

「そ、それは僕の父さんが英雄で、その生まれ故郷だから……」

 

「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、とでも言いたいか? じゃあ、その悪魔の軍団に敗北しつつも応戦できたっていうほぼ軍隊みたいな魔法使いの大隊については? 魔法使いっていうのは村人全員が『そう』なら悪魔にも対応できるレベルにすぐ至れるものなのか?」

 

 

 思い出すのは漫画でそれを読んでいた記憶。誰も彼もが杖を持ち、応戦するような姿勢のままに石化していたまるで何処かの軍隊のような対応力。いつでも襲われることを想定していたのかと思わんばかりに、逃げようとする者があまりにも少な過ぎた。

 

 

「……どういう、ことですか……?」

 

 

 震える声で核心を問うネギ君。

 そんな彼に応える言葉はというと――、

 

 

「――さぁ?」

 

 

 そう応えれば誰も彼もがズッコケた。

 

 

「思わせぶりなことを言っておいてそれですの!?」

 

 

 聞き入っていたらしい雪広が怒鳴る。

 

 

「俺はネギ君の村を襲った犯人じゃないからな。

 憶測でしかモノを言えないさ。

 でも、」

 

 

 言葉を区切り、ネギ君へと再び視線を向け、

 

 

「ネギ君、キミの村が襲われたのは、本当にキミの父親が原因かな?」

 

 

 本人がいない状態でも狙われる『だけ』の村なんてのは意味が無い。英雄は確かに怨みも買うが、本人以外を襲撃して鬱憤を晴らそうとするには、彼の話だと戦力を多用し過ぎにしか思えなかった。

 

 

「だからね、ネギ君」

 

 

 だから、結局言いたいことはキチンと言っておくことにした。

 

 

「キミが世界の中心って訳じゃない。キミ以外が狙われる襲われる要因を生むのは、割とこの世の真理みたいなものだ。

 彼女らを危険から遠ざけようとしても、『絶対安全』なんてのはない。どうせ強くなるなら皆一緒に強くなれよ、先生なんだろ?」

 

 

   × × × × ×

 

 

「で、そこまで言うからにはそらには先生を強くするプランでもあるんだろうな?」

 

 

 括弧良い事言ったのにこれだよ。

 

 エヴァ姉の発言でみんなが視線を向けてくる。

 自分の株を上げたわけだから此処で下げるようなことはあまり言いたくないけど、正直俺にはあんまり修行として使えるネタがないんだよなぁ。

 

 

「んー、火山エリアにでももう一回いってみる?」

 

「嫌ですッッッ!!!」

 

 

 全力で拒否られてしまった。

 トラウマか。そうか。

 

 

「じゃあヘラクレスくんと模擬戦? 彼、ちょっと手加減が出来ない程度の膂力を持ってるから、直に相手するとなると魔法の効かないネプチューン●ンと戦うような状況になると思うけど」

 

「誰ネ、ネプチュー●マンって?」

 

 

 完璧超人。決して四葉のプリキ●アの青い子ではない。

 

 

「魔法が効かない時点で詰んでるじゃないですかやだー!」

 

「“千の雷”の直撃を数十発放てば倒せるんじゃね?」

 

「そんな上手いことサンドバッグにする前に僕の魔力が尽きますよ!?」

 

 

 まあその前にかわすと思うけど。

 

 

「じゃあセルシウスを、」

 

「それはもっと無理だと思うけど!?」

 

 

 早乙女から待ったが入った。

 こっちもトラウマか。そうか。

 

 

「……? それって、どんなのですか?」

 

「氷の女王です」

 

「うえ!? エヴァンジェリンさんみたいな!?」

 

 

 ん?

 

 

「あれ、エヴァ姉、ひょっとして見せたの?」

 

「まあな。というか、それを使わないと逃げ切れなかった……」

 

 

 ああ、ハチリュウね。

 それくらいのレベルだって状態測定が済んでるのならこっちは万々歳だが。

 

 

「あんな究極技法みたいな魔法僕にもまだできないです……!」

 

「だろうね」

 

 

 その状態でも同質だから千日手にしかならんし。

 

 

「そら、此処以外に作ったエリアがあるだろ。そっちを使うのはどうだ?」

 

「あー?」

 

 

 正直、まともな魔法の修行には向いてないんだけどなぁ。

 

 

「んー………………………………………………、

 ………………じゃあ、ダンジョンにでも潜ってみる?」

 

「「「「沈黙長っ」」」」

 

 

 ネギ君とバカイエローとバカブラックと触覚に同時に突っ込みを入れられた。

 ……あとなんか宮崎はキラキラした目でこっちを見てた。

 

 

   × × × × ×

 

 

「大まかな形は俺が手掛けたわけだけど、中の時間の流れは此処とも外とも違う。早い話がダイオラマ魔法球の中にもう一つあるって思えばいいけど」

 

「それも作ったんですか?」

 

「魔法球を作るには至らなかったけどな。

 入り口はこの洞窟からしか入れないし、緊急脱出ルートはクタァトのいる湖に繋がっている。それ以外の出口は“迷宮”の深奥にしか用意されてない」

 

 

 農場エリアの奥の山、そこにある洞窟を進みながら大体の説明をする。

 俺がエヴァ姉にもらったエリアは魔法球ひとつ分のみで、俺はその中に四つのエリアを増築したに過ぎない。

 この洞窟の奥にしかもう二つのエリアへの入り口は用意されておらず、そこも用意するに当たって色々と環境調整する中で一番のネックだった『時間の流れ』を構成するのに、魔法球の術式を模した空間をなんとか作ることに成功した。が、もう二度とやりたくない。

 

 

「正直、あれは作るのに成功したのはいいけどそれだけで割と色んな構成を試したから俺としては大体終わってるものなんだけどな。片付けてない物置みたいなもので、あまり他人を入れたくない」

 

「……なんかスイマセン」

 

「いいさ。使えるといえば使えるし、『チームのレベル上げ』には最適な場所かもしれんし、な」

 

 

 そう進むうちに奥へとついた。

 地面には五望星みたいな形で巨大な魔法円と直線状の溝が彫られており、それぞれの頂点にもまた適度な大きさの円が彫られている。

 全員がその魔法陣を眺めて呆然とする中、古がポツリと、

 

 

「………………人間の魂を代償に賢者の石でも作ったアルか?」

 

「お前からそういう突っ込みいれられるとは思わなかったよ」

 

 

 まあ誰かにそう言われるかも、とは思ってはいたけど。

 

 

「方円はでかいけど入り口は一つだけだ。

 中心に立って“迷宮(メイズ)”と唱えるだけで初心者モードへと入れる。クラスを上げたければダンジョンの奥に用意されている『クリアのご褒美』を見つけるんだな。初心者用は全十階層、半日あれば戻ってこれるさ」

 

「いくつクラスがあるんですの?」

 

「全部で五つ。初心者モード、上級者モード、達人モード、神モード、モード鬼。階層は十、五十、百、五百、千、とそれぞれ上がっていく。

 あと中には俺の手がけた魔獣(モンスター)と、初心者モードのみ休憩所が階層ごとにあるから、休みたくなったらそこで休むといい」

 

「「「「「「……モンスター?」」」」」」

 

 

 入る予定だった六人が聞き違いかとでも言いたげにこちらを振り向いた。

 

 

「そいつらを捕食する上位個体が階層のボスだ。それを倒せば下の階層へと入れる入り口が用意される。ちなみに魔獣の肉は火を通したりすれば人が食うことも出来るぞ。丁度いい魔法薬とかアイテムとかの素材にも使えるから、一部採ってきたら俺が加工してやるよ」

 

「わー、なんか本格的にRPGみたいになってきましたねー」

 

 

 宮崎がのほほんとそう宣う。さっき目を輝かせていたのはあれか、図書館探検部としての血が騒いだのか。

 

 

「迷宮の名前とかはあるんですか?」

 

「一応な」

 

 

 綾瀬が尋ねてきてそう応える。

 誰もが続きを待つ。

 正直、冗談で名づけたからあんまり言いたくないのだが。

 ……期待されてるなら、言うしかない、か。

 

 

「………………。『ダンジョンの達人~何度だって遊べるドン!~』だ」

 

「「「「「「「「「「アウトアウト!」」」」」」」」」」

 

 

 総勢十名での総ツッコミは流石に響くなぁ。

 

 

 




~話は夢で聞いていた・・・
 子供に現実を突きつけるそらくん、素敵!

~ネプチュー●マン
 マグネットパワー!な完璧超人

~四葉のプリキ●アの青い子
 私、完璧!

~賢者の石の錬成陣
 中心は、此処だ・・・!

~ダンジョンの達人~何度だって遊べるドン!~
 ちなみに死んでも出られるわけではなくてコンテニューに入る
 もう一度遊ぶドン?


お待たせしました62話、ちょっと詰め込みすぎな気もしましたがなんとか構成できました
途中の解釈をお前其れ何処かで見たことあるぞ、と思った方には申し訳ございません。以前読ませてもらった二次創作のネギまを参考としました
パクったわけじゃないよ!リスペクトだよ!
でもあの村の事情についてはこの作品ではこれ以上深く掘り下げるつもりはありませんのでそれで打ち止めです。ご安心を
いや、実際凄く説明力のある解釈だったので一番ありえそうだなぁ、とは思ったんですけどね、さすがにそのまま此処で扱うのは駄目だろ、と思いましたので若干暈して付け加えました
実際のところ原作でも『誰が』は明かしても『何故』かは明確にしていませんでしたし、ネギって実は本当にこの世界において付け合わせ程度の薬味的な存在だったのじゃないかなーとも思いつつこんな展開になりました。異論は認める

なんだかモ●ハンみたいなダンジョン攻略でそっちに期待される方もいらっしゃる予感
でも内部を事細かにやる気はないっす
それだけで話題占めるのももうネギまじゃなくなっちゃうしなぁ・・・

次回そろそろ出番の危ういあの娘が登場予定
どうなるかは俺も知らぬ。ではまた


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『幸せについて本気出して考えてみたった』

べっ、別に更新を忘れていたわけじゃないんだからねっ!


 

 ドッパアアアァァァンンンッッ!!!と盛大な水音を上げて湖中へ叩きつけられる六名のチームネギま。転送してからまだ二時間も経っていないところをみるとどうやらリタイアした様子。

 回復系呪文の教本を開いて残っていたこのか・桜咲らに魔法学校でやるような基礎中の基礎の講義を開いていた手を止めて、半死半生で湖面に浮かぶ女子らを救出に向かう。

 そんな救出された綾瀬から一言。

 

 

「か、考えてみれば私たちは普通に魔法のまの字も学んでいなかった気がしますが!?」

 

 

 今更かよ。

 意気揚々と乗り込んでいったもんだから、てっきり最低限度の魔法学習くらいは受けてるのかと思ってたが。そこはネギ君の落ち度だと思うんだ。

 

 で、どんな様子だったのかを聞いてみることに。

 

 

「半日とか嘘じゃないの? 丸一日かかっても最初の階層から先へまったく進めなかったし! 『名前だけ』の雑魚敵とかも結構ごちゃごちゃ出てきたよ! 何あれマジでエンカウント率どうなってんの!?」

 

 

 と、早乙女。そりゃあなあ。階層ごとに食物連鎖の頂点であるボスモンスターの餌だから、繁殖力だけはそこそこ無いとすぐに食い尽くされるだろうし。お陰でエンカウント率は黄金の爪所持のピラミッド探索並みになってしまうけど、採集を目的に探索する分にはそれが丁度いいと俺は思うのだけど。

 あと半日というのも嘘じゃない。表で半日。中では十日もあれば初心者モードは攻略できる。

 

 

「第一階から牛頭の魔人がデテキタのはどういうことアルか?」

 

「迷宮といえばミノタウロスだろ」

 

「鎧を着込んでて横幅もあるものは牛魔王イウアル」

 

「それも一体だけじゃない時点で明らかにおかしいよーなー……。あ、あと迷宮内部も意外に広かったのも違和感が……」

 

 

 愚痴、というよりは普通に感想を語るイエロー。並びに放心状態でそう零す宮崎。

 魔法使いの訓練用に、初心者用はそれなりの広さを確保できる造りになってるからな。階下へ進めばそれも難しくなってくるはずだったのだけど。

 ついでに言うとそのミノタウロスもボスじゃない。精々中ボス程度だ。

 

 

「その牛魔王を数対相手したところで無理だと判断したので緊急脱出用の合言葉を言ったのですけど、まさか本当に湖の上に出てくるとは……」

 

 

 雪広は程よく相手の力量を見極めることが出来たらしい。

 本来なら死んで死線を覚えるのがこの迷宮エリアの本懐なのだけど、結局誰一人死なずに脱出に漕ぎ着けたとか。それはそれでサバイバル力が高いと思うのは俺だけか?

 

 

「あのー、あとなんかあのダンジョン内部って飛べなかったのですけど?」

 

「内部は魔獣とかが生存するために、漂っている魔素をそいつらが優先的に取り込めるような進化をしてる。お陰で魔力濃度が通常空間以上に薄いんだ。自身の魔力を完全に掌握しきれない魔法使いはそもそも魔法自体上手く扱えないだろうな」

 

 

 えぇー……、と思うところがあるのか気の抜けた返事しか返せないネギ君。

 『初心者用』だし、魔法使い本人のレベルが低いと脱出すら危うい空間になる。こう考えれば修行用としては持って来いなのだけど。

 

 

「それだとモンスターが倒せません」

 

「魔法はそこそこ効くはずだから倒す分には問題なかったと思うけどなぁ、体の良いサンドバッグに出来なかったのか?」

 

「ハルナが壁役を作り、のどかが相手の攻撃意思を読み取って距離を稼ぎ、私が相手の弱点を探って、いいんちょには迎撃をお願いしました。実質攻勢に移れたのは遊撃のくーふぇいさんと主戦力のネギ先生だけなので、攻撃力がまったく足りませんでした」

 

 

 必死で倒した直後にすぐもう一体道の先からひょっこり顔を出されるともうどう対応していいのか……、とハイライトの消えた目で呟く綾瀬。

 ちなみにミノタウロスは咀嚼器官が普通の牛と変わらないから、あいつらが食べられるのは植物由来の触手系モドキだけだったりして。単に外敵に対応するだけだから、侵入者は大斧で真っ二つにされるとそのまま放置される。それを貪るのはボスの仕事。

 

 

「ちなみにヒントを出すと一階のボスはミノタウロスを解体してると匂いにつられてやってくるぞ。あいつの肉はそこそこ良い質を持ってるからドロップ出来れば今度は持ってきてみるといい」

 

「あれっ、ひょっとしてガチで解体作業をする必要性が出てくるのですか?」

 

 

 何を今更。

 

 

「食材or薬材にしたいと思えばタッパーは必須」

 

「タッパー必須なダンジョンって時点で何かおかしいような気がしますが」

 

 

   × × × × ×

 

 

「じゃあ俺は一回出てくるわ。あとはてきとーに頑張っていてくれ」

 

 

 見本として一人ダンジョンへ赴き、三時間で帰ってきた俺の持ち帰った食材でバーベキューが始まった。が、俺は中でそこそこ食べていたのでしばらくは食べたくない。

 うーまーいーぞー!という絶叫がそこかしこで響くのを眺めながらそんなことを思いつつ、そう一言告げた。

 

 

「口中に広がる甘味と旨味……! 塩だけというシンプルな味付けゆえに肉の旨味がはっきりと出るとはいえ此処まで上質な味わいと食感はそうそう無いですわ……! 噛む度に溢れ出しそうな肉汁とのハーモニーがまた絶妙に絡み合って……!

 ああ、まるで肉汁に包まれているよう……ッ!」

 

 

 聞いて。

 

 

「――はっ!

 こ、コホン。そらさん、生徒を置いてゆくとはどういう了見ですの?」

 

「今更取り繕っても遅ぇよ。

 いや、俺の教えれることなんてもう高が知れてるだろ。あとはネギ君という専門の『魔法先生』がいるんだから、綾瀬とかはそっちから的確に教わりなさいな」

 

 

 何処かの高級(ハイランク)調理師専門学校のようなリアクションから復帰した雪広にツッコミを入れつつ、実際俺の出番がもう必要じゃないなーと思っていたのでそう告げる。

 

 

「そういえば、そらさんは魔法使いとしては外道もいいところだと初めに自分で仰ってましたね。

 ご苦労様ですそら先生。これで貴様はもう用済みだ……!」

 

「おい、おい後半」

 

 

 綾瀬の労いが若干ガチなトーンに聞こえる。不思議!

 

 

「それはそうと、カラスマは食べてゆかないアルか? こんなに美味い肉は初めて食べたネ!」

 

「ダンジョン内でそこそこ摘んだよ。短いとはいえ何日いたと思ってるんだ」

 

 

 あんまりこれだけの味に慣れてしまうと、以降普通に食事が出来なさそうで少し控えろと俺の味蕾が必死で警報鳴らしてる。

 本当に旨い肉なんだけどな。使い道があまり無いというのが少しだけ懸念。超包子とかに提供してみるか。

 

 

「あ、それとドロップしたアイテム類は攻略しないと持って帰って来れない仕組みになってるから。これ以上肉を食べたければ必死で強くなるんだな」

 

 

 その言葉に、――はっ、と気が付く全員。

 用意された銀色のパッドの中には肉は既に残されてなく、網の上で金串に貫かれてジュウジュウと良い音を奏でる肉塊が数本分あるのみ――。

 

 文字通り骨肉の争いが始まろうという状況を尻目に、矛先を向けられる前に俺はとっとと外へ脱出した。

 

 

   × × × × ×

 

 

『ククク、いるいるいっぱいいるぜぇ……! 素質のある将来有望そうな女の子が山ほどなぁ……!』

 

 

 草葉の陰にてそんなHENTAI親父な台詞が聞こえてくる。同じように草葉の陰から覗いてみればその視線の行き着く先に見えるものはすぐにわかった。麻帆良チアリーディング部の練習風景である。

 適度な広場を貸し切って休日練習に励む少女たちの元気な姿に、微笑ましげな視線を向けるのは顧問の教師か広域学年指導主任の新田先生くらいのもので、必要以上の好奇の視線を送って寄越すのは覗き魔か助平以外の何者でもない。

 そしてその声の主は、覗き魔で助平でHENTAI親父なイメージと相違無い淫獣であった。

 

 

「せやっ」

 

『ぶぐぉっ!? あ、あれえぇ!? 師匠ってばいつの間にぃい!?』

 

 

 オコジョ妖精ゲットだぜ。首根っこを背後から引っ掴んで、驚くそいつが逃げないように首輪にリードもつけておく。今更だけど某国の奴隷法案を拘泥するような首輪をつけっぱなしなのに、こいつはよく麻帆良の中を適度に歩き廻れるものだ。

 まあ此処まで言えば誰かは一目瞭然だろう。カモである。ここんところすっかり出番が無くって「アレ?死んだ?」などと誰かの心の中で呟かれるような不遇な妖精である。いや、大凡自覚しながら放置していた俺にそこまで言う資格なんてないけど。

 

 あと師匠は止めろ。

 

 

「カモ、お前まだ懲りてないのか」

 

『ギクッ! な、なんのことでやんすかぁ~?』

 

「口で擬音出すな。大方ネギ君のパートナーを増やすつもりで覗きを敢行していたって事だろ。修学旅行で魔法関係者でないはずの新田先生にパイナップル共々説教食らっていたって言うのに、まだ懲りてないとはな」

 

 

 まあ正確に言うなら直接説教したのはネギ君で新田先生はそれに付き添ったのが正しかったのだろうが、大人としての薀蓄も経験も豊富な学年主任に叱られるほうがまだマシで、子供先生に叱られていた朝倉は必要以上にずっと身に染みていたのだろう。子供先生に叱られた中学生とか言う噂が報道部を介する必要も無く麻帆良中を駆け巡っているお陰で、朝倉はとっても居た堪れない気持ちになっていると風の噂でよく耳にする。

 それに比べてこの淫獣ときたら。

 

 

「戦力を過剰に持たせても今のネギ君には身に余りすぎる。今いる分でも扱い切れてないのに、従者をそんなに増やしてもネギ君にとっては重荷にしかならんぞ。

 それをまだ理解できてないということは、無いよな?」

 

『い、いやぁ、アニキには仲間を守るという試練を乗り越えて強くなって欲しいな~、なーんて……』

 

「お前の理由は金だろ」

 

『』

 

 

 図星だったらしい。

 ばっさり切り捨てれば一言で押し黙る。まったくこの淫獣めが、

 

 

「あれ、そらお兄ちゃん? どうしたんですかこんなところで?」

 

 

 ――と、SEKKYOに入ろうとしたところでそんな声がかかり振り向く。

 チアガール姿の、まおちゃんが……。

 ……あかん、俺この状態って覗き魔にしか見えないんじゃなかろうか。

 

 

「いや、ちょっと小動物の捜索をね」

 

「小動物?」

 

「そう、これ」

 

 

 余計なことは喋るなよ?という念を込めてオコジョの脇を抱えて見せれば、可愛らしい格好のまおちゃんは眩しいくらいの笑顔を花のように綻ばせてはしゃぐ。可愛い。

 

 

「わぁー! フェレットですかぁー?」

 

「いんや、オコジョ。同室の先生が飼ってる奴が逃げ出しちゃってね」

 

「かわいいですー! だっこしてもいいですかー?」

 

 

 いいよー、と答えはするけどむしろ可愛いのはお前だよ、と言いたい。すごく言いたい。

 そんな微笑ましい姿をほんわか眺めていると、まおちゃんのおっかなびっくりな抱き心地の中比較的大人しげにしているカモから、何か言いたげな目線を感じる。

 

 

『(師匠師匠、なんならこの娘と仮契約結びません? アニキの従者じゃなくてもこの際問題ないんで)』

 

「(いいわけあるかよ大問題だよ)」

 

『(いやだってこの娘なんか豪い素質を感じるんですけど?何処かの漫画ならば主人公を張っていてもおかしくないほどの将来性を俺の妖精レーダーがビンビンに感じていますぁ!)』

 

「(なんだ、妖精レーダーって)」

 

『(魔法少年や魔法少女の従者キャラには備わっている基本能力っす!)』

 

 

 うっさんくせぇー。と口に出したくなるアイコンタクトを交わす俺とオコジョ。この間0.5秒。

 キャラって言っちゃってんじゃねえか。何?魔法少女の従者ってお前みたいなのばっかりなの?と何処かの世界線のOHANASHI系魔法少女(但し十九歳)の過去の従者もそういう存在だったのかなぁ、と益体も無い回想に更けかける。

 というかコイツが自身を相応の従者だとか自覚していることに少々の苛立ちを感じるのは、間違った感情じゃないと思うのだけど。

 

 

「ところでまおちゃんはどうしてここに? チアガールとかって、やってたっけか?」

 

「あ、今年から二年生からでもクラブに入れるようになったんです! お兄ちゃんも見学していきますか?」

 

「……それじゃあお邪魔しようかな」

 

 

 ……多分、体験入部のことだろうな。なんか、この娘が本気で可愛く見えてきた。俺ロリコンじゃないから性的な意味での魅力を感じたわけじゃないけど、こういうほんわかな空気に癒されてることは別に否定しなくてもいいと思うんだ。

 幼女に手を繋がれて引かれて連れ立って行かれながら、そんな感情に身を任せる。

 

 考えてみれば俺まだ中学生じゃないか。前世の記憶も相俟って人生経験が普通の中学生の倍になってるけど、精神年齢的にはそこまで大差は無いと思うのに。なんで俺はこう魔法関係に悩まされてるのだろう、と自身の日常に思わず苦悩。

 というか俺本当にあんまり関係ないよね?なのになんで魔法生徒ら見習いと同じように修行することで悩んでいたのか、と自分のお蔵入り(文字通り)を開放までしたのかをちょっと疑問に思う。

 苦悩とまで大げさな表現はしたけども、まあ内容はあまり関わり合いになりたくないなぁ魔法使いと、っていう少しだけ距離感置きたい好き嫌い程度の僅かな感想。色々趣味も相俟って研究に没頭したのは仕方ないとは言っても、俺って別に強さを追い求めてるわけじゃないから魔法使い(脳筋)だけに周囲を固められるのって避けたいの。なのにどんどん追い込まれてる感じがするの。ネギ君来てからずっとそれが続いてるの。

 なんでだよー。エヴァ姉の封印関係はある程度目星ついたんだし、原作関係はあとはもう放置でよかったんじゃねえのー?

 

 俺、なにやってんだろうな……。と連れられて歩くごとに、そういう方向へと思考が落ち込んでゆくのは、普段からこういう癒しが少なすぎて希少になっている所為かもしれない。

 いっそしばらくまおちゃんに付きっきりでこの幸せ甘味料を味わい尽くす毎日でも選択してみようかなぁ。

 

 

「……そ、そらっち、大丈夫?」

 

「なんか、死んだ魚みたいな目をしてる……」

 

「(覗き?とかって茶化す雰囲気に見えない……。見た目は犯罪的なのに、なんでそんな悲しそうな目をしてるの……?)」

 

 

 3-Aチアガールズがお出迎えしてくれたが、なんか微妙に優しげな対応が少しだけ心に刺さるのだけど。

 止めろよ、もっと面白おかしく持ち上げろよ。俺を、笑わせてみろよ……。

 

 

「とうちゃくですー! ……って、お、お兄ちゃん!? どうしたんですか!? おなか痛いんですか!?」

 

 

 うわぁ、まおちゃんがアホ可愛い。すっごい癒されるなぁー。

 

 

   × × × × ×

 

 

「……落ち着いた?」

 

「……うっす。桜子大明神様、ご心配おかけしまして申し訳ないっす。ども、ありがとうゴザイマス」

 

「あはは、まーだこわれてるねー」

 

 

 あかん、本気でアカン。

 聞くところによると、ちょっと癒しを求めただけでこうなったって、もう本気で末期なんじゃない?

 鬱病ではないはずなのに……、と呟くそらっちに憐憫の眼差しが思わず向いたり。

 桜子ぉ、笑ってていい問題じゃ無くない?これ……。

 

 

「ねえミサ、烏丸君ってこんな子だっけ?」

 

「いや、もーちょっと明るいはずだったんだけどなぁ、多分疲れてるだけだと思うけど」

 

 

 尋ねてくる円にそう応えながら、そうだよね……?とこの中では比較的付き合いの長いはずの彼にもう一度目を向ける。

 

 ………………あれ?

 

 ごしごしと目をこすって、もう一度。

 

 ………………あれぇ? なんか、そらっちの周囲の体験入部の女の子の数が知らぬ間に3人に影分身してるんだけど……?

 え、あれ? そらっちってガチでロリコンじゃないはずだよね……? なんであんなにちっこい子の知り合いが多いの……?

 

 

「おにいやん大丈夫かー?」

「だいじょうぶでありますかー?」

 

「あー、平気平気、ちょっと憑かれてただけだから」

 

 

 なんか『疲れてた』のニュアンスが若干おかしい気もしたけど、割ともう平気そうではある。……朗らかに笑っているその姿を見ると、心配したのがバカらしくなってきたわ。

 

 

「いよっし! それならそらっちは一回私たちのダンスを見ていくといいよ! 気持ちのいいダンスを見てれば気持ちも盛り上がって幸せゲットだよ!」

 

 

 桜子、それ多分キャラが違う。

 そう言う前に駆け出してゆく桜子に連れられて、体験入部の女の子たちも一緒にダンスを始めた。

 たどたどしいけど元気いっぱいなその姿は、確かに見るものにも元気を分けてくれそうだった。

 

 

「――死にてぇ……」

 

 

 なんで!?

 

 これもう私じゃ無理だよぉー!!! 誰か明日菜を、元祖幼なじみを呼んできてよぉー!!!

 

 

 




~タッパー必須のダンジョン
 実際ゲーム内でのアイテムの保存率は異常。あの主人公らはどうやって保存してるんだよ。ポケモンとか見るとまだ理解できるけど、テイルズとかスターオーシャンとか食材って腐らないの・・・?

~ドロップアイテム『ミノタウロスの肉』
 何処の部位を削ぎ落としたんですかねぇ・・・?
 のっけからいきなりブラックな話題でスミマセン。

~高級(ハイランク)調理師専門学校
 食戟のry

~亜なんとか子さんだと思った?残念ry
 計画通り・・・(ニヤリ、などとほくそ笑むまおちゃんなんていない。いないったらいない。

~幸せゲットだよ!
 そらの心内環境を語ると更に鬱々とするのでお久しぶりです美砂ちゃんです。最近暑くなってきましたが麻帆良祭という本番はまだまだこれから、チアではなくってバンドの練習を始めた模様ですが皆様は如何お過ごし(以下略


そろそろお気に入り登録数が三千に届きそうでwktkの毎日を送りつつ他のところやオリジナルなんかも手がけてます
どうも、呼吸するように妄想する、小説屋をかつて志望していた物書モドキです
なんとかこういうことを書きながら生きてるという実感にしがみついています
・・・改めて書くと中々凄惨な精神状態な気がするのは多分気のせい

なんか随分間が空いたのですけど、プロットは一応出来てますのでまだ続けます
他のところもゆっくり更新がずるずる活きますので暇だというならそちらもご覧ください。過去話でも思うところがあれば感想に寄越してくださって構わないのですよ?出来得る限り質問に答えますので

特に他に書くような近況報告も無いなー、とツイッターならば面白くないとばっさり切られそうな毎日なのですが、日常なんてのはそんなもんだと思います。なんでわざと面白おかしく演出する必要があるのでしょうねと多分物書きとしてあるまじきことを口に出していたりする己がいますけど
あ、ワンピースの人魚姫のフィギュアが只で当たったことくらいかな。こう、ガラポンで
あーゆう2.5次元ってあんまり興味ないのでなるたけ高めに売り払おうかと店舗を探索中です。しかし良い出来だな・・・

あんまり後書き長いと詰まるのでそろそろお開き
また次回にご期待ください。でわ


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『考えてみればネギまって真夏以前の話が大半を占めてるはずなのに水着ばかり多かったよな』

しばらく日常回を続ける予定


「青い空……、白い砂浜……、照りつける太陽……、極め付けは豪華な水上コテージ……!

 ――海だーーーッ!!!」

 

 

 上着を取っ払って一瞬で水着姿になる女子中学生の群れが、飛び出すように砂浜を駆け出してゆく。

 時期は五月初めの連休・即ちゴールデンウィークなのであるが、彼女らはクラスメイトの委員長の実は財閥のお嬢様な雪広あやかのご招待に肖って海外の某プライベートビーチへと参上していた。

 もっともクラスメイト全員が来たわけではなく、都合がつかなかったり行く気がなかったりそもそも麻帆良から出られなかったりといろんな事情がある三分の一ほどの女子がこの場にいない。が、それでもこの人数を易々と引き連れられる辺り、あやかの行動力とキャパシティは矢張り普通の女子中学生とは一線を画す。

 

 

「いやぁ悪いねいいんちょ、こんな人数で押しかけちゃって!」

「構いませんわ。楽しいことこそ皆さんで分かち合うもの、むしろ都合が合わなかった方たちのほうに申し訳がありませんわね」

 

 

 朝倉和美のまるで申し訳なく思っていない台詞にも、寛大な態度でそう返す。

 和美はというと、てっきりネギ先生を独り占めできなくって残念!とか脳の沸いたような発言をするものだとばかり思っていたので、そんな大人な対応をできるあやかに若干驚愕の思いを向けていた。

 ちなみに件のネギ先生は他のクラスメイトらに引き摺られて既に海へと没している。

 

 

「本当は、なんだか最近お疲れのようでした烏丸さんもお呼びするはずだったのですけど」

「うええ!?」

 

 

 ショタコンのいいんちょが同年代の男に気を使っている、だと……!?こいつさては偽者だな!?という意味を込めた悲鳴が、和美の喉から盛大に漏れた。

 そんな意味など露も介さず、あやかは続ける。

 

 

「明日菜さんは明日菜さんで、過去を清算してくるぜ、などと無駄にニヒルな表情(かお)でパスポートをちらつかせていましたし」

 

 

 そちらはそちらで、神楽坂明日菜の人格崩壊が富に顕著になってきているようだ。

 

 

「人生、ままなりませんわね」

「え、ええー……、感想それでいいの……?」

 

 

 遠目に海を眺め無駄に色っぽく呟くあやかに、和美は気持ち距離を置かざるを得ない。

 烏丸謹製の初級ダンジョンを未だ攻略できていない現状が、彼女の精神にも何かしらの影響を与えているのかもしれなかった。

 

 

   × × × × ×

 

 

「第一回、麻帆良スタンド使い対談~」

「いえー!」

 

 

 風香の合いの手が聞こえるが、同時にこの場にいるはずのゆえきちとアキラたんの反応が悪い。

 聞こえなかったかな、と思いもう一回。

 

 

「第いっか「いえ、聞こえてるので無理に盛り上げようとしなくても平気ですから」そうか?」

 

 

 雪広に海へと誘われたけどメイン主人公視点が無い今がチャンス、とばかりに画策していたスタンド使い対談を勃発してみた。

 そんな麻帆良の連休午後、呼び出されたお三方はそれほど不満には思っていないようで一安心している俺である。

 

 

「すまんね、本当は海に誘われてたんだろうけど」

 

「ううん、こういう力を持っている仲間がほかにいるんなら顔を合わせておくのが優先だと思うし」

「そーそー!それにこれから海に行けるんでしょ?それなら問題ないってー!」

「海といえば確かに海でしょうけど」

 

 

 とエヴァ姉の別荘へと続く足並みを揃えながらお三方の返答。

 まあ確かに、申し訳なく思って引き連れていっているわけだけど。

 

 妙に期間を空けてしまったけどゆえきちを二人に紹介するのを忘れていたというわけじゃないんだからねっ。タイミングが掴めなくってレッスンの時間も用意できなかったってだけなんだからっ。

 しかし現状、何処かで使ったのかもしれないけどスタンドのすの字も自身から引き出せていないという自覚なし状態のゆえきち。あの爺さんのスタンドを目撃できたというのだから素養はあると思うけど、広瀬何某君みたいに成長する主人公みたいなジョーカーが一人くらいネギ君のパーティに居ても問題ないんじゃないかな、とか思いつつレッスンの始まりというのが語られることのなかったあらすじである。

 でも実際、こんな閑話みたいな話題を引き摺る必要もないはずなのだが。

 

 

「修行とかキンクリしてとっとと強くなれよお前らも。修行パートで尺稼ぎとか今時の漫画もやらねえぞ」

「なんという無茶振り」

 

 

 そして、一週間が経過した。とかって描写しておけば漫画なら強くなれるんじゃね?

 

 

「しかし、他にもスタンド使いが居たとは驚きです。本当に麻帆良は魔窟ですね」

「魔法少女もいるしね」

「カオスだね。ひゃっはー」

 

「今のお前らのほうがよっぽどカオスだよ」

 

 

 風香のテンションがなんかおかしい。

 ちなみに彼女は麻帆良中に張り巡らせているベイビィユニオンのお陰で、魔法親父や魔法少女などが飛び交う現状を割と頻繁に目撃していたりもする。なんか見続けていたら世界樹の大きさとかも気になりだしたとか、カフェでちうたんに愚痴を零す姿をたまに見かける。それでも魔法使い関連は彼女にはまだ明かしていないらしいが。認識阻害とはなんだったのか。

 

 

「あ、あともう一人紹介する奴がいるから、心構えだけしておいてくれ」

 

 

 エヴァ姉の家へと到着し、そんなことを呼びかける。はーい、と幼稚園みたいな元気のいい返事が風香(のみ)から返ってきた、のを尻目に扉を開けた。

 

 

   × × × × ×

 

 

『じゃじゃーん』

「おお、夏服になったのか。うん可愛い可愛い」

『えへへー』

 

 

 別荘にやってきてすぐに、影の薄いキャラ暫定一位のさよちゃんが半袖ミニスカでスカートの裾を摘んでひらひらと翻す。薄白い肌の生足がちらちらと見えているのが新鮮で、思わずそこに目が釘付けになるのは男の子の性分。

 ……って、生足!?霊格上がっとるやん!?

 

 

「また調整しないと駄目じゃねえかよ何してくれてんのお前?」

『ええっ!?そんな理不尽なことで怒られましても!?』

 

「あのー、そろそろ誰なのかを教えていただけるとありがたいのですが……」

 

 

 と、ゆえきち。

 言葉にしないけど風香も同じようなことを思っていそう。

 

 

「俺今からちょっと調整と検査で忙しいから、詳しくはアキラたんに聞いて。行くぞさよちゃん」

『ええー、またですかー?』

「文句言わない」

 

 

 あー、もう。なんで霊格が上がってんだよ、魔力素でも取り込んだか?もういっそのこと真空エリアにでも保存しておくべきかな。

 

 

『あの、なんか不穏な思考が漏れてるんですけど、』

 

 

   × × × × ×

 

 

「ははぁ、クラスメイトでしたか」

『そうなんですよー、ここ五十年ほど幽霊をやっておりましてー。席だけは用意してもらっているのでありがたいのですけどねー』

「あれっ、さよちゃんって二年のころから同じクラス?……そーいえば一年のころから教室が変わってない気が、」

 

 

 風香、それいじょういけない。

 結局ついてきた三人に俺が説明することとなった。幽霊でクラスメイトだよ、と教えてもそれほど怖がられたりもしてない様子でそっちは一安心。

 

 

「安心ついでにそちらはそちらで修行でも何でもやっておればいいんじゃないかね。いちおーこちらの事情はそこそこのシークレットなわけだから」

「そんなことを言って触れられる幽霊のさよさんにえっちなことをするつもりですね?薄い本みたいに!薄い本みたいに!」

「一度お前の中の俺の評価がどうなっているのかをじっくりと話し合いたいところだな」

 

 

 コブシでな。

 

 

「というか早乙女の思考トレースはやめなさい。お前らのブレーキ役が一人も居なくなるだろうが」

「それは暗にのどかやこのかさんもアクセルだと認識していると思ってよいのでしょうか」

 

 

 詳しくは言えないなぁ。

 というか雪広の名を出さない辺りアレのアクセルっぷりは云うまでも無いとの共通認識なのだろう。振り切るぜ!

 まあそんな会話も冗句だったらしく、それなり表情も変えずにゆえきちは続ける。

 

 

「というか先週のうちに紹介してくれても良かったのではないのですか?二度手間な気がするのは私だけですか?」

「先週はネギ君とせっちゃんが居たじゃん」

「え、ハブの子ですか。烏丸さんはそんな人ではなかったと思ったのですが」

「そー言うんじゃなくてね。魔法使いも神明流も幽霊に対してはそれなり色々あるもんだからさ」

 

 

 知ってるか?神鳴流は退魔の剣とかって名乗ってるんだぜ?

 魔法使いも若干宗教色が強いから、死んだ人間は行くべきところへと行くもので地上に残っているのは自分たちを惑わす残滓みたいなものだ、って考えるお人らが結構多い。麻帆良は日本だからそーいう考え方は少ないかもだけど、肝心のネギ君は英国人。念には念を入れて、ね。

 

 

「どちらも教えとしては幽霊に対しては『退治』一択なところが多分にあってさ、会わせるなら肉体を用意してからかなー、って思ったんだよ」

「無駄に色々考えてるのですね……疲れません?それはそうと聞き流してしまいそうになりましたが、さよさんの実験とはつまり、死者蘇生ですか?」

「そんな難しいものじゃないさ」

 

 

 目の前に居て、会話して意思の疎通が出来て触れることも出来る存在を、果たして死者と呼んでいいものなのだろうか。

 

 

「さよちゃんをしっかり受け入れられる受容体を用意してるだけだな、要するに。クローニングが出来るほどあの娘の肉体の大元が無いわけだから1から作る必要性があったってだけで。

 ホムンクルスみたいに精霊を内包させたり魔力で補修したりすると受容率が下がるかも知れんしなー、さよちゃんの幽体を馴染ませながらゆっくりと成長させないと何処で拒絶反応出るかもわからんし、やることは色々あるのよ?ほんと言うとネギ君の修行にかける時間も無いのよ?」

 

「それは、なんというかスイマセン……。スイマセンついでにもう一つあったりしますが」

 

 

 ん?何、悪い話?

 ちなみに一緒に話を聞いていたアキラたんや風香は、「魔法使いってそんなこともできるんだー」と若干感心の表情で周囲の機材とかを見て回ってる。あ、そこはあんまり触んないようにな。

 

 で、何の話なんだ?

 幼女の受容素体に入ってえっちらおっちら身体を動かしているさよちゃんを二人に任せて、少々申し訳なさそうな表情のゆえきちに再度問う。

 

 

「先日の、関西呪術協会襲撃事件についてなのですが、少々言い忘れていたことが」

「なんか報告でもあったか?俺は以来別段何も言われてないのだけど」

 

 

 襲撃犯はあのスタンド使いの爺だと元呪術協会は認識したらしく、麻帆良で捕縛されていたというアレを逃がしたことで両組織共に責任は折半という形になった。とは耳にした。

 

 

「どういう技術を使ったのかは特殊体系魔法の一種だろうということで話は済んだようですが、現場の残滓を調査したらしい呪術協会の方々に烏丸さんのことが顔バレしてます」

「……マジで?」

「あのお爺さんが亡くなったことは、詠春さんは正当防衛だと認めてくださったようですが、遺族の方はどう思われるかがちょっとよくわからないといいますか……」

 

 

 むぅ。さすがに人を一人殺しておいてごめんなさい、では済まないだろうなぁ。一応は言うつもりだけど、聞き入れてくれることを切に願う。

 まあ、一番は顔を合わせないのがいいのだろうけど。

 

 

「ところで話は変わりますが……、

 さよさんの肉体(仮)は一体何処からサンプルを用意したものなのですか?なんだか幽体時との印象が少々違う気が……特に髪が」

 

 

 まーね。髪の色赤いしね。

 

 

「お前らも良く知る子供先生の血を培養して仕上げましたが、何か?」

「………………わーお」

 

 

 現実はいつもクレイジーだぜ、などとアメリカナイズなことを呟いて、ゆえきちは頭を抱えていた。

 

 




エヴァ戦終了時の伏線回収ー
必要以上に採っていた血はこのためだったのだよ!

あと英国人云々はそらの偏見です
本当はあの人らって幽霊を見ても結構放置らしいよ?噂では

週一更新のつもりでぐだぐだ行きます
修行回なんてなかった
というか自分はこれほどまでに日常を書けなかったのかと若干愕然
次回も日常、にち、じょう・・・?

あと本日は後付詳細は無し
気になった方はツッコミ(感想)をください
それではまた次回


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『母の日の贈り物』

相変わらずキンクリが仕様です
何話目かわからない人のために第65話
番外編除いたら60話だけど


 

 私服姿で墓石の並びの中を進み、手に持った献花を目当てのそれに供えて、静かに手を合わせる。その隣を歩む俺はというと黒のスーツでビシッと決めている。ある意味想定外な格好だったはずなのに、彼女はというと「似合うじゃん」と微笑って言うのみで。その仕草が、少し、不気味。

 で、俺は実際のところそんな裕奈の今日の大人しさに若干引き気味であるが、そういうことに注視する余裕は余り無い。

 さっきからこちらを見ている視線が四つほどあるので。

 

 

「――母さん、今日は紹介したい人がいるんだ」

 

 

 なんか語りだした。

 墓前に合わせていた手を休め、遠い目をしつつ裕奈が語りかけるのは、そこに眠るであろう彼女の母への言葉だった。

 

 

「こいつ、烏丸そらっていうんだけど、私の――、

 

 ――友達」

 

『って、ただの友達!?そんなの紹介されてもリアクションし辛いんだけどっ!?』

 

 

 ですよねー。

 墓石の正面に立つ裕奈似の大人の女性が、すげぇいいツッコミを入れてくれた。半透明だから、多分幽霊かなぁ。

 あと後ろのほうのストーカーしてる三人組も、いっしょにずっこける雰囲気を感知した。

 

 

「えっと、紹介に与った烏丸です。本当にただの友人でして、なんでこいつこんなに雰囲気出して紹介するのかと……」

「えー、いいじゃんこれくらいー」

 

『な、なんかごめんなさいね?裕奈の母の夕子です』

 

 

 いえいえ。

 しかしリアル夕子さんと邂逅するとは思わなかった。スタンド使いだから見えるかなーとは思っていたけど、さよちゃんと付き合ってるうちにこっちのほうの感受性まで高まっていたらしい。

 と、なると俺の用事のほうも、見えるのか?

 

 

『それにしても裕奈に男の子の友達が出来るなんて、あの人も穏やかじゃないかも知れないわね――』

 

 

 なんか語りだしてるけど、これくらいの女性がおしゃべり好きだというのはまあ周知の事実で。というか、裕奈には見えてないんだよな?夕子さん。

 俺もそれに応えるわけには行かないよなー。

 

 

「ちょっとまったー!!友達だって言うんならうちらは親友やでー!!」

「えっ、ここで出るの?」

「ゆーなー!ごめんねー!」

 

「えっ!?あれっ?亜子にまき絵?アキラまで……」

 

 

 ストーカー三人組も出てきた。

 よくもまあ麻帆良から多磨霊園にまでついてこれるものだ。

 

 

『あらあらこんなにお客様が、お飲み物あったかしら……』

 

 

 いえ、もう帰りますんで。お構いなく。

 茶菓子代わりにお供え物とか出されるのもアレなんで、ちょっと落ち着いてください。

 

 本日五月の第二日曜・母の日、ということで裕奈は夕子さんの墓参りに参上。俺は他に用事があったので多磨まで来たのだが、麻帆良からのルートはほぼいっしょなために途中の電車で遭遇したわけである。

 あの三人組はいったいどうやって俺たちの邂逅を嗅ぎつけたのだろうか。色々謎が残る一日が始まった。

 一頻り騒いだ後、帰りごろになって、

 

 

『それにしても、裕奈がお友達を連れてきたのがこんなに嬉しいとは思わなかったわね……。

 皆さん、これからも裕奈と仲良くしてあげてくださいね』

 

 

 などと。そんないい笑顔で言われたら応えざるを得ない。「もちろんです」と最後に礼をして、墓前から立ち去った。

 

 

   × × × × ×

 

 

『あらあなた見えてたの?見えてたんなら見えてたって言ってくれればいいのにー!もう、やだわ。お化粧もしてないじゃないの。こんなすっぴん見せちゃうなんておばさん恥ずかしいわー』

 

 

 憑いてこないでもらえませんか……?

 最後に応えたあの礼が駄目だったのか、しっかりと背中に乗っかっているテンションやや高めのおばさゲフンゲフンお姉さんである。友人の母に取り憑かれるとか、どういうシチュエーションだよ。括弧付けたのが台無しだよ!

 そして運動部四人組も付いてくる。見世物じゃねーぞ。

 

 

「えー?そらっちの用事が終わったらでいいからさ、カラオケ行こーよ。それとも一日中だったりする?」

「ネギ君とか呼ぼっかー」

「今更やけど、烏丸君そのスーツかっこええなー」

「学生服でも良かったんじゃ……?」

 

「いっぺんに喋んな。一日じゃねーからカラオケぐらいいいけど、あとネギ君は用事があるとかで今日は朝からいない。このスーツはもらい物だ、学生服で休日街中を歩くかよ」

 

 

 普段からそんな格好したら本格的に這い寄る過負荷になるじゃないですかやだー。

 そんな旨を言ったらエヴァ姉からもらったのがこのお手製のスーツである。ちなみに神多良木先生の着ているものを参考にしたらしく、スーツ自体が弱目の概念武装に近いとかなんとか。手袋を付ければ人を殴ることが特技の某就活魔術師になってしまうな。ならんか。

 

 

「お墓に用事ってことは、烏丸君もお母さんが亡くなったの?」

「お前ズバズバ聞くな。いや、俺は母じゃねえよ」

 

 

 佐々木の距離感がおかしい。

 それはともかく、到着したのは『千束』と家名のある墓石の前。予測通り、初めて見る父親らしき色黒のおっさんの姿が其処にはあった。

 

 

『よぉ、今年もきたのか。つっても、姿は見えてねえだろうけどな』

 

 

 気安さから予測していた通りの性格でもあるらしい。安心した。

 安心して今年も、用意してきた線香に火をつける。

 墓前に供え、懐から扇子を出して、バタバタと扇ぐ。

 

 

『げぇっほげほげほっ!おっまえ!毎年毎年止めろそーうのっ!?』

 

 

 効いていたらしい。この蚊取り線香も。

 

 

「そ、そらっち?それ、どーいうこと?」

「なんや、普通の墓参りとは違うよーなー……?」

 

「当然だろ、俺はこのおっさんに参るつもりなんざ端からねえし」

 

 

 母の日、ということで俺の出来るささやかな贈り物がこれくらいしかないのである。

 

 

『チクショウこの親不孝ものめっ!?毎年毎年地味な嫌がらせばかりしに来るとか暇なのか!?』

 

 

 実の母は今何処にいるのかまったく知らないし、母の日とはいえわざわざ来てやっているんだからありがたく思え糞親父め。

 

 

「――……やっぱりお前だったのか、毎年人のうちの墓を荒らしているのは」

 

 

 と、そんな声が聞こえたので振り返る。

 本気で珍しい珍客と遭遇したことに驚きを隠せない。其処には同学年くらいの色黒の男子が立っていた。

 

 

「よぉ。ばあさんはどうした?」

「死んだよ。今年からは僕が家長だ、だからもうお前にうちに来いなんてバカな勧誘はもうする気はない、とだけ伝えておこうと思ってね」

「そいつは重畳」

 

 

 けらけら笑ってそいつの返事に気分が良くなる。ここ数日で最も良好なニュースを聞いたわ。

 しかしこいつと話しているとドッペルゲンガーと遭遇している気分になるなぁ、相変わらず。

 

 

「烏丸君、この人、誰?」

 

「ん、兄かな、多分」

「そうだろうね。まあ十中八九確定だけど」

 

 

 揃って憶測となる現状を応える。

 答えを聞いた和泉は、当然ながら怪訝な表情を浮かべた。

 

 

「いや、多分って」

 

「仕方ねーだろ、異母兄弟なんだから」

「そこに眠っている糞親父の馬鹿な行動の結果さ」

 

『揃いも揃って親を敬わない餓鬼どもめ、死んだ暁にはお前らも俺の一部にしてやるから覚悟しやがれ』

 

 

 くそ親父がなんか言ってるけど無視。

 全員は当然ながら絶句していた。

 

 

「ええっと、聞いていい話じゃないよね」

 

「それほど面白い話でもないなー」

「それはそうと、お前毎年荒らすのは止めろよ。去年なんて墓場でバル●ン焚いて、火事かと思われたとかって僕が住職に怒られたんだからな」

「さーせーん、反省してまーす」

 

 

 墓石に生卵をぶつけないだけマシだと思って欲しいけど。こう見えて配慮してるのよ?他の眠っている方々には。

 

 

「やるなら徹底的にやれ、今から僕が作った最高級の呪殺用の呪符を張るからお前は念を込めるのを手伝え」

「いや、お兄様の家族の方もこの中じゃねえの?」

 

 

 すごい手のひら返しを目の当たりにした。

 言うが早いかぺたぺたと貼り付けてゆく呪符の枚数に少々引き気味の面子。そして目に見えて苦しみだす糞親父。

 効くのか。死んでいるのに呪殺とはこれ如何に。

 

 

「お前は知らなかっただろうがな、この墓には糞親父殿しか眠ってないよ。一族の鼻撮み物だからな」

「それ早く言ってくれよ。言ってくれればもっと強力なのを用意できたのに。あとこのお嬢様方は一応堅気のお人らだからあんまりそういう芸風を見せるのは止めてね」

「善処するさ」

 

 

 スタンドで『死』『苦』『醗』『悔』と一文字一文字丁寧に書き込む。悔やんで腐って苦しんで死ね。

 

 

『ぎゃああああ!?この親不孝ものどもがぁあああああ!?』

 

 

 やだ……!ちょーたのしー……!

 グズグズに霊体が崩れてゆくのを見て、最近溜まっていたストレスがぐんぐん消費できているのを実感できた。なんて有意義な一日なんだろう……!

 

 

   × × × × ×

 

 

 お兄様と別れて晴れ晴れとした気分のままに、都心方向へと繰り出す我ら麻帆良運動部五人組!気分が良いのでこのまま服でも買いに行こーぜと女子らを誘ってみたところokの返事を貰ったぜ。

 ひゃっほう!可愛い女子とデートだー!若干人数多いけど気にしないやー!

 

 毎年毎年陰気になるだけの母の日であったけど、今日は何より楽しい一日になった。

 ここ数年で稀に見るすっごい気分爽快。こんなことでしか爽快になれない日常って何ナノかなー?という部分については触れないことにしておく。

 

 

「えーと、さっきのって聞いてもいい?」

「いーよー、今すごい気分良いから。ある程度なら答えちゃうよー」

 

「うわ、すごい爽快な笑顔。こんなそらっち見たことない!」

 

 

 尋ねてきたのはアキラたん。俺は新しい服に身を包んで気前良く返事を返した。

 

 

「あの人って本当に烏丸君のお兄さん?」

「年齢一緒、って言いたいか?マジだよ。お兄様の母親が身篭っているときに俺の母に手を出したのがあの糞親父っていうだけでね、」

「あ、なんかもういいや。この時点ですごい重いし」

 

 

 そう?ここからが割と壮絶で凄惨な俺の過去話に繋がってゆくのだけど。

 両手を広げて拒否のポーズをとるアキラたんに免除して話すのを止める。

 

 

「家に、とかどーこーゆうとったのはなんなん?」

「お兄様のお婆様の勝手な配分でねー。そもそも『千束(ちたばね)』の家は呪術的な大家であの婆様がその家的に俺の潜在能力がどーのと言い出したお陰で勧誘されていたってだけだよ」

「呪術て」

「現代でもそーいう考えはまだいるってこと。それほど珍しくもねえよ」

 

 

 それが現実的に実在可能かどうかは言わないでおくが、和泉はともかくアキラたんは気付いていそう。ま、この中では唯一魔法使いの実在を知ってるから、気付くのも無理はない。

 

 

「他に聞きたいこととかってあるかな?」

「んー、じゃあこれで最後にするね。烏丸君のお母さんって今何処でどーしてるのかな?」

「さぁ?」

 

「「「いや、さーってことはないでしょう」」」

 

 

 異口同音に口を揃えて(過剰表現)、質問した佐々木以外のツッコミが入りましたー。

 本当に知らないんだから仕方ないでしょうよ。失踪してからこっちも、探すつもりもないからなー。

 

 

「――失礼、貴方のお名前をお聞かせいただいても構いませんか?」

 

 

 四人のツッコミを聞き流しつつ店を出ると、唐突に声をかけられる。

 見た目は良い所のお嬢様みたいな容姿で、多分高校生くらい?3-Aに見劣りしないくらいの美少女に逆ナンを食らったでござる。

 

 

「え、えーっと、烏丸です、けど……?」

「烏丸……、ひょっとして下のお名前は『そら』?」

「ええ、まあ……」

 

 

 さすがの俺も突然の展開に警戒してしまう。

 なんでこの人、俺の名前を知ってるんだろう。

 

 

「なるほど。ようやく見つけました……――」

 

 

 感慨深げで意味深な台詞を吐き、俯き表情を曇らせる美少女。それを見た俺の直感が告げた。

 あっ。なんかやばい。

 

 

「そらっちー?こんな美少女がそばにいるのにナンパですかー?」

「あかんなぁ、あかんよ烏丸くん。その人も嫌がっとるやろ?ほらはよ行かんと、な?」

 

 

 うん、ちょっと怖いお二人の視線は今は見なかったことにしとくから、この人から離れるのを少し手伝ってくれませんか?今はこの人の方がちょっと怖いっす。

 

 

「――お父様の仇ぃぃぃッ!!!」

 

「って、あっぶねええええッ!?」

 

 

 背後にやってきた二人に視線を移した瞬間、目の前の美少女がナイフを腰に構えて突進してきたところを間一髪で回避。

 せっかく買ったばかりの新品が、脇腹の辺りを切り裂かれた。

 ……服とか苦学生の俺には割と贅沢品なのに!?なんてことしやがるこの女!

 

 

「……避けましたか。次は外しません!」

 

「いや待って!?仇とか狙われる覚え俺ないんだけど!?」

 

「そんなはずはありません!貴方がお父様を手にかけたと、元協会の方からお聞きしました!」

 

 

 う、心当たりがありすぎる。

 つうかこんな所でおおっぴらに話すことじゃない。店の外だしギャラリーが既に大量に居るし、何より後ろの四人に思いっくそバレちゃ駄目な話題じゃね?

 

 

「とりあえず、名前を言え。それが目的の人物かどうかを知るのにはまず確認からだ」

 

 

 聞いてから警察に突き出そう。

 都心の繁華街ど真ん中で刃物振り回しているお嬢様なんて、普通に考えてそっちにご厄介になるべき人物だと思うんだ。念のため、認識阻害と人払いと隔離結界と捕縛魔法の準備はしておくが。

 一先ずお嬢様も、元々こういうことには慣れていない性格なのだろう。俺の話に耳を傾けて、深呼吸をし、キリッとした表情でこう言った。

 

 

「私の名前は野木坂遙、お父様の名前は野木坂厳冬です。この名前、忘れたとは言わせませんよ……っ!」

 

 

 ………………?

 え、誰?

 

 

 




〜黒スーツ
 イメージは喪服。好ましくない相手に会うときそらは積極的にこの格好で徘徊する。弱目の認識阻害と物理障壁と魔法障壁を術式にして随所に編み込んだとか言うエヴァ珠玉の一品。ある意味戦闘服。

〜千束 津袖(ちたばね つのそで)
 そらとは腹違いの兄。性格が似たり寄ったりなお陰で揃って喋られるとどっちが喋っているのかわからなくなる、意外な似たもの兄弟。一人称は僕。

〜千束 恩寿(ちたばね おんじゅ)
 そらの父親。麻帆良が進出したお陰で陰日向に行かざるを得なくなった千束家の家長であったのだが、それを口実に麻帆良に攻め込んだ際に当時学生であったそらの母である千歳を手篭めにするという暴挙を犯す。理由は『自身の想定する呪的術式の構築の一環として』という外道過ぎるもの。それから数年後、放置していたそらを『回収』するために再度麻帆良へと踏み込んだ際、そら自身の手によって再起不能に追い込まれる。それから数年の後に床から出ることがないままに自殺。自殺の際めんどくさい術式を実家に仕掛け、以降実家で死ぬ者はその術式に取り込まれるという悪循環が今もまだ続いている。

〜野木坂 遙(のぎさか はるか)
 厳冬さんの名前を書いてからこの娘を思い出した。せっかくなので出演。別に名前読みが一緒だからといって同一人物ではない。多分別世界線のパラレルな存在なんじゃないかねー。


厳冬さんの名前、そら知らなかったもんなー
書くこと無いから注釈だけで切り上げますかね

あ、前書きと後書きは本筋とは基本完全に別物だと思ってくださると有難ry


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『ドキッ!?おっさんだらけの水泳大会!ポロリもあるよっ?』

あれ?ネギ、ま・・・?


「えーと……、除霊依頼、かな?」

「いえ、違います。こっちの人は一旦気にしないでください」

 

 

 阿佐ヶ谷のとあるビルの一室にて、髪をつんつんに逆立たせたお兄さんにのっけから用件を勘違いされてしまった。それもこれも全ては夕子さんが憑いて来ている所為である。

 出会いから早くも六日ほど、俺の何が気に入ったのかゆーなと付き合え付き合えと娘を一押しして来るその友人の母。悪霊とは思いたくないが、少々うざい。

 そんな彼女を押し退けて本日阿佐ヶ谷のとある探偵社に顔出ししたのは、夕子さんとの出会いの数時間後に出会ったとある少女に関する雑事となる。

 

 

「二十代、後半か……? もう少し上なら好みだったんだがな……」

「お前はお前でお客さんを不安にさせるようなこと呟くんじゃありません」

 

 

 その雑事の目的と思われる、黒スーツを着た寡黙で陰鬱っぽいけどイケメンの兄ちゃんが夕子さんを見、品定めする。この人が恐らくは嵯峨トオル。呪術協会が解散した後の散り散りになりかけた術師らの、取りまとめを引き受けてくれた陰陽師の大家である『嵯峨家』の次期党首だろう。

 どちらかといえばヤクザの若頭みたいな風体で、先ほどのお兄さんと弱めの漫才みたいなやり取りを見せられていると、俺以外だととてもそうは思えないかもしれないが。「年頃の少年にくっ憑いてるんだから母親か何かだろ。獲物を狙う猛禽みたいに見るのはヤメロよな」「美人で人妻ならば口説くのが俺の本領だろう。和服で科があるならば尚好し!」などとその後も阿呆なやり取りを、お客の前でさらに続けられる。お陰でちょっと疑わしくなってきた。あとこちらは俺の母ではなくて俺の友人の母です。なんでそんな微妙なところからくっ憑かれているのか経緯を知らんと俺すら理解できんけれども。

 しばらくその漫才もどきを眺めていると、思い至ったようにお兄さんが咳払いを一つ。

 

 

「さて、所長の庵原といいます。本日はどういったご用件で?」

「烏丸です。とりあえずはこれを見てもらえますか?」

 

 

 お兄さんに切り出されるのでサクサクと本題に移ろうかと思う。

 懐から野木坂嬢の写真を取り出してみせる。

 

 

「探し人かなにか、かな?」

「いえ、こちらのお嬢さんの取り扱いが今回の用事でして」

 

 

   × × × × ×

 

 

 遡ること六日前、街中にて襲撃を噛ましてきた野木坂さんは割りと簡単に取り押さえることは出来た。出来たは良いが、問題となるのはその後始末だった。

 何しろ目的は敵討ちで、その所属元を辿れば関西呪術協会。術師であるならば麻帆良としては件の敵討ちを敢行した罰として、麻帆良所属の戦力に受け入れたいらしい。

 それについては敵討ちの対象にされた俺としても文句は無い。やったことはやったことであるが素直に討たれるつもりは無いし、だからといってそれに武力対応するほど殺伐とした性格はしていないつもり。処罰を考えてくれるのならばそれに甘えたい。

 

 しかしそう簡単に済まないのが大人の世界の難しいところで。

 協会は既に解体しているから、彼女の身の振りようをこちらでどう扱っても文句の付け所は無いはず。無いはずなのだがやはり元日本製術師、何処かしらからか文句があってもおかしくは無い。戦力は手にしたいが下手に火中の栗を拾いたがらないのもまた麻帆良の心情である。

 

 そこで今回の交渉、という名の緩ーい脅迫。

 敵討ちの対象にされた俺からのお願いという名目で、野木坂さんの身の采配を麻帆良に一任して欲しい、という旨を『嵯峨家』へと打診したい。というのが今回のお使いの内容だ。

 俺としては野木坂さん本人を関西へと送り返したとして、それが強化されて今度は麻帆良へ乗り込まれると本気で打つ手が無い。何しろ麻帆良では俺は弱くなるし、かといってスタンドで対応するのも無駄なところから目をつけられそうだからやりたくない。目の届くところで奉仕活動に勤しむ姿を見ているほうがまだ安心できるのである。

 あれだな、捕らえられた熊を檻に入れて店先にて飼うような、あれに近い。

 

 ……なんで京都陰陽師の古株であるはずの嵯峨家の次期党首が、東京の一角で探偵業を営んでいるのかはよくわからないことであったが……。

 

 

「ははぁ、それはトオルの出番だろうなぁ……」

「好きにしろ」

「……だ、そうです」

 

 

 ……え、終わり?

 

 いやいや、え?

 確かにそちらの人に用件はあったけども、一言で終わりなんすか?

 

 

「俺本人としては呪術協会と麻帆良とのいざこざなんかには本気で興味が無い。本家の奴らが何か言ったとしても、嵯峨家自体が動くことに意義が無い。馬鹿な真似をやったお嬢さんを擁護するほど、うちはお人よしじゃないんでな」

「だ、そうです」

 

 

 ええー。

 まあ、話は早く済んでよかったけども……。

 じゃあとりあえず後は家族の方に連絡して、そっちとの対処は麻帆良に任せるか。言質は取れたのだし、問題ない、よな?

 

 

「まあ、こちらとしても早めに済んでよかったよ。なんせ、これからちょっと大口の仕事が入るからトオルにも手を開けていて欲しかったし」

「あ、そっか。嵯峨家に打診するとなると京都にまで出向く必要性がありましたね」

 

「いや、そんなのは本気で関係ないが」

 

「「(駄目だコイツ(この人)、早く何とかしないと)」」

 

 

 俺と庵原さんの心の声がユニゾンした、気がした。

 

 そんな内心を取り払うつもりで、気になったことに質問してみる。

 

 

「そ、そういやあ、大口の仕事って探偵のですか? 俺ってそういう世界をよく知らないので、詳しく教えてほしいなー」

「え、あ、い、いやー、本来そういうところは守秘義務があるから、ちょっと無理かなー?」

「あ、そうでしたねー」

 

 

 あははー。と笑いあう俺と庵原さん。

 なんだろう、苦労人の気配をびんびんに感じるんだけどこの人。ついでに言うとすっごい似通った匂いを感じるわ、誰かさんと(すっとぼけ)。

 

 

「……いや、教えとけ若菜。多分そいつも関係者だ」

 

 

 そんなゆるゆるとした空気をぶち壊すのがやはりこの人。

 ……KYにもほどがあるだろ。

 

 

「関係者?」

「というよりも、関係者になってほしくない、だな。

 小僧よく聞け、これから入る仕事は霊媒業だ。都心の事故物件を処理に行くわけだがお前は間違ってもそこに近づかないようにしろ」

 

 

 ああ、やっぱりそういう世界のお人なのか。

 こちらの探偵事務所、表向きは探偵業を営んでいらっしゃるようだがその裏では退魔業を取り扱っているらしい。東京退魔師組合のホームページの組合名簿に同名のチーム名が載っていたから、そういうことなのかなー、とは思ってはいたのだけども。

 というか、そういう危険な世界に子供を引きずり込みたくないとか、そういう心積もりなのか? 見かけはヤクザっぽいが、意外としっかりとした人じゃないか。

 

 

「せっかくの人妻霊をそんなところに連れ出してみろ、間違って除霊されたなんて言ったらお前を除霊するからな」

 

「「どういう心配してるんだこの野郎」」

 

 

 前言撤回。先ほどの感心を返せ。

 

 

「まあ好き好んで近づきはしませんけど……。

 とりあえず住所と名前だけでも教えてくれませんか? 遠ざかるか近づくか指標だけでも聞いておきたいです」

 

「……ま、トオルの言い分はともかくそれも知っておいたほうが良いかもな。どちらにしろキミって見えるタイプらしいし」

 

 

 好き好んで見てるわけじゃねえっすけどね。

 そんなことを思いつつ、戸棚からファイルを引き出して捲る庵原さんを眺める。

 

 

「えーと……、これは、センゾク、って読むのかな……?」

 

 

 ………………ん?

 あれ、なんか嫌な予感が、

 

 

「違う、それは『チタバネ』と読む」

「ああ。珍しい読み方だよな」

 

 

 え、確定?

 非情に嫌だが、手を上げる。

 

 

「……さーせん、多分それ、俺も関係者です……」

 

「「は?」」

 

 

   × × × × ×

 

 

 事故物件。

 俗に言う心霊物件のことで、『出る』不動産をそう総称する。

 今回の『大口』とやらは千束の実家らしい。なんでも死んだ人間を次々取り込み、その連鎖が生きた人間にまで及ぶようになった本格的な呪的物件が出来上がっているらしく、そのまま放置しておけば某ホラー映画並みの迷惑物件が出来上がるとか。というかもう今の時点で充分に迷惑物件だと思うのは俺だけじゃないはず。

 で、それを仕込んだのが件の自殺した糞親父であったほんとあいつ地獄に落ちればいいのに。

 

 

「へー、父方の実家ねぇ……。ってことはこの依頼者の千束津袖さんっていうのはご兄弟なのかな」

「ええまあ……。あ、これが首謀者の居る墓の場所です。思いつく限りの苦しみを味わせて二度と輪廻できない程度に磨り潰してやってください」

「あー、はいはい、了解……。

 なんだか苦労してるみたいだね、キミも……」

 

 

 墓の場所をメモに書いて渡すとしみじみとそんなことを言われる。わかって、くれますか……?

 涙交じりで差し出されていたお茶に手を伸ばそうとした、ところで――、

 

 

「きっりこすぁーんっ♪」

 

 

 バァン、という戸を開く音と能天気なおっさんの声音が事務所に響いた。

 何事かと振り向けば、ロンゲでヒッピーな雰囲気のヒゲ面のメガネの四十後半くらいのおっさんが全身にアクセサリーをジャラジャラつけて、ちょっと長毛種の犬を連れてやってきていたところであった。色々キャラが濃すぎて正直引く。というか……、

 

 

「あー、あれは気にしないでおいてくれ。うちの事務員の、こ、恋、人、みたいなもの、だ、か、ら……っ!」

 

 

 庵原さんが血涙を流しギリギリと歯軋りしつつ説明。なんだか二人の関係を決して認めたくない父親のような表情をしてる。そんなに嫌ならわざわざ言わなくとも。

 というか俺の目線はそっちではなく、さっきから犬へと注がれる。思わず立ち上がって、そちらへ近づく。

 

 

「まあ~、お土産ですか?」

「はいぃぃぃ♪ 先日豊橋まで編集部の小旅行に行ってきましてね~♪

 ――あ? なんだ坊主、お兄さんに何か用かぁ?」

 

「お兄さんとか、身の程を知れ四十過ぎ。阿佐ヶ谷をうろついてないで東中野に直帰しろ」

 

「ハッ、てめぇもそのうち四十になるんだ、そんなこと言ってられるのも今のうちだぜぇ?」

 

「……これ、犬神ですよね? 触ってもいいですか?」

 

 

 嵯峨さんとおっさんの遣り取りを丸っと無視して、尋ねたときには既に手を伸ばしていた。

 

 

「うわー、本物の犬神とか初めて見た。しかも実体化してるとか、どれだけ霊格高ぇんだこの子。それに怨みの念が一切感じられないとかブリーダーの方もいい仕事してますね~。よーしゃよしゃよしゃよしゃよしゃ」

 

 

 やばい。なんかもうマジでやばい。

 思わず某動物王国の英霊が乗り移ったんじゃないか、ってくらいに可愛がってしまう。手触りも良いし大人しいしで腹毛に埋もれたい勢いでわしゃわしゃと可愛がれば、わふわふとじゃれ付く長毛がまたいい肌触りで。

 小太郎とはやっぱり違うね!さすが本物!

 

 

「いいこでちゅね~、お名前いえるかな~?」

『か、戒狷だけど……』

「カイケンちゃんでしゅか~、よくお名前いえましたねぇ~」

 

「……坊主、お前何モンだ?」

『わ、私を一目で犬神と見破る子なんて、初めて見たわね……。しかも全然怯えてないし、怖いもの知らずにもほどがあるんじゃないの……?』

 

「――はっ、トリップしてた。やばい、何がやばいってこの犬神が可愛過ぎて世界がやばい。戒狷可愛いよ戒狷。こんなに可愛い犬神見たことないよ」

「まだトリップしてるなぁ……」

 

 

 というか最近の犬神はしゃべることもできるのか。飼い主らしきおっさんに呆れた目で見られてるし。

 

 

「なんていうかスイマセン」

「いや、いいさ。犬好きに悪いやつはいねえもんな」

 

 

 改めて謝罪するとそんなことを言って手を出してきた。そうなれば後はもう言葉にする必要もない。

 がっし、と差し出された手を握る。

 

 

「武村恭一郎だ。言わずともわかるだろうが犬神使いをやってる」

「烏丸そらです。麻帆良で真祖の弟子をやってます」

 

 

 犬好きに、必要以上の言葉は要らない。同士よ!

 

 

「というか、キミ真祖の弟子って……」

「麻帆良組とは完全に敵対してないか……?」

「麻帆良にも話のわかる奴いるんだなぁ……」

 

 

 三者三様に微妙な感想を口にするおっさんズ。事務員のお姉さんは話がわからないのか、終始ニコニコしていた。

 

 

   × × × × ×

 

 

「麻帆良の住人は霊の類は問答無用で除霊(物理)を噛ますものだとばかり思っていた」

「あ、それ強ち間違いじゃないです」

 

 

 マジカルパワー自体が物理だからね。魔法使いって脳筋ばかりだからね。仕方ないわ。

 本題が終わったのだが久方ぶりに話の通じるお相手に出会えたことで、竹輪を茶請けに話も弾む。

 但しマヨネーズ、貴様は許さん。穴に入れるならもっと硬いものじゃないと駄目だと思う。きゅうりとか。

 

 

「ちくわの話だよー。勘違いした?ねえねえ勘違いした?」

「その話題からは離れようぜ」

 

 

 庵原さん改め若菜さんもフランクな口調に戻っている。こちらが素のご様子。

 

 

「しっかしキミも苦労人だなぁ、今回みたいな遣り取りって普通大人が出張るものだと思うのだけど。まあ魔法使いがわざわざ此処までやってこなくて普通に有り難かったけどね」

「というかやっぱり評判悪いんすか麻帆良。埼玉のど真ん中に認識阻害の大結界を敷いてりゃそんな評判になるのはなんとなくわかるけど」

「それ以上にまず話を聞かない。魔法使いの傍若無人っぷりはこの業界じゃ結構目に余るよ」

「俺が言うことじゃないけどなんかスイマセン」

 

 

 退魔師も魔法使いも、考えてみればどっちも宗教関連だから話が噛み合わないのかも知れん。誰だ、宗教は世界を救うなんて寝言ほざいたのは。教義が合わなかったらぶつかり合うのは必至じゃないか。

 

 

「本当だよー。魔法は神秘学の分野のはずなのに、今時の魔法使いは神秘のしの字も掲げてないからねー。お陰で僕も易々と出張れやしない」

「はぁ、重ね重ねスイマセン」

「その点、キミはその年で随分と間口が広いねぇ。何処かで神様でも目の当たりにしたのかい?」

 

 

 転生直前に、ちょっと。

 

 ――というか貴方誰ですか。

 

 

「妖怪も鬼も悪魔でさえも認めているのに頑なに神や仏を信じようとしない。そんな人らには加護をあげたくてもあげられないよ、頭が固いったらありゃしないね、まったく」

 

 

 いつの間に話に混じっていたのか。にこにこ笑顔で若干毒っぽい台詞を呟いているのは、青いつなぎを着た清掃員っぽいおじさん。……なのだが、今の俺の霊視はひょっとしたらレベルが上がってるのかも知れない。おじさんの姿に偽装しているが、その本性も割とはっきりと見える。

 その薄っぺらな偽装の下に隠されていたおじさんの真実の姿は、腕が六本ある褐色肌に青い目の美丈夫な青年だった。ついでに妙に神々しい。

 

 思わず絶句し、おじさんを指差す俺に、答えてくれたのは若菜さん。

 

 

「あー、まあ初見なら誰でも驚くよなー。

 紹介しよう、我が事務所によく入り浸る闘神・烏枢沙摩明王様だ」

「はーい、よろしくね♪」

 

 

 ……本物の闘将神仏じゃねえか。どういう事務所だよ此処は。

 パネェな、阿佐ヶ谷Zippy。

 




~嵯峨トオル
 陰陽師の大家、嵯峨家の次期党首。人妻スキーで女性の敵。痩せの大喰いでエンゲル係数が毎週マッハ。これだけ書くといろんな意味で駄目人間にしか見えないが退魔師としての腕はかなりのもの。

~庵原若菜
 京都に広大な敷地面積を持つ財閥の三男坊なのだが何の理由か探偵業を営む。傍らで退魔業も営む。どっちかというと退魔業のほうが比率が高いというのが最近の悩み。冥府の蛇“クロウクルワッハ”をほぼノーモーションで呼び出せる天才召喚師。

~武村恭一郎
 竹村あんじゅ、というペンネームで「らぶらぶアニマル」というペット雑誌のライターを営む。傍らで呪殺依頼もこなすときがある。犬神使いの四十過ぎ。
 武村家に代々仕える犬神の戒狷は自我があり、それに唯一認められたという優しい心を持つとか何とか。顔は怖いが。

~服部桐子
 庵原家に仕える忍の家系で実際ある程度の忍術もこなせる、いつもニコニコな笑顔を絶やさぬほんわかお姉さん。霊勘は無いらしく霊的干渉すら受け付けないある意味最強の体質を持つ。

~東京退魔師組合
 各区を縄張りとする退魔業務を営むそれぞれのチームとの意思疎通を潤滑にするための連絡網。所属しているといないとではそれぞれメリットもデメリットも存在するため、どちらがいいと一概に言えるわけではない。ちなみに所属は強制ではない。

~動物王国の英霊
 ムツゴ・・・

~ちくわ
 豊橋土産。

~烏枢沙摩明王
 通称うっちゃん。浄化を得意とする俗に言うトイレの神様。普段は清掃員の姿で都内各所のトイレ清掃業務を執り行う。みんなもトイレは清潔に使おう!

~事故物件
 千束恩寿の残した呪術式の残滓。既に犠牲者は結構な数が上っているトラウマ必至の実家事情。某ホラー映画とほぼ同じな展開が待っている。ヒントは親父の名前。

~阿佐ヶ谷Zippy
 東退組が誇る退魔チームの若手ナンバーワン。闘将神仏の加護があったりなかったり、魔王を鍋の席に呼んでいたりいなかったり、山を一つ吹っ飛ばせる神器を所持していたりいなかったり、忍者がいたり、とカオス過ぎて常識人が音速で置いてきぼりにされる内情の探偵事務所。見習い退魔師があと二人ほど居る。


こんなもんかなー。クロスが多くてカオスになる第66話くらいでした
嵯峨家が云々っていうのは何処かで載せたような気になっていて忘れていた設定ですので後付というわけじゃないです
ほんとは京都編終了くらいに書いておくはずだったんだよ!
プロットにも組んでいたんだよ!
まあ此処で出せたので良しとしておきます

ネギまが陰も形も見当たらない件について
きっと次話辺りで本領を発揮するために、今アップに入ってるんだと思います
じ、次回はきっとネギまだからー(震え声)
それでは


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『レイニーデビル【追憶風味】』

あれ?ちょっと間が開きすぎたかなーって


 ……土砂降りの雨の下、地面に倒れ伏し這い蹲って身動きの取れない男子がいる。

 右の手のひらと左肩、そして右脚の太ももと左の足には、無数の針で穴を開けられたような痛々しい傷痕が。開いた穴からは流血が血と一緒に意識まで流れ出して逝きそうになるのを、彼は止めることも出来ずに、ただじっと待っている。

 ……次の攻撃が来るのを。

 

 

「――グァ……ッ!」

 

 

 バツッ、という音が背中、腰の辺りから聞こえた。

 『攻撃』を防ぐことが出来ず、新たに開いた穴は貫通し、噴出する血流を唯一動かせる右腕をなんとか動かして腹へと当てる。

 ゴボッゴボッ、と呼吸のたびに吹き出し、死に一歩近づくことを実感しつつも、彼はスタンド・インストールドットを出すことを止めない。

 

 スタンドが攻撃を受けたとき、その効果は使い手にも影響するが、使い手が攻撃を受けてもスタンドにダメージが影響することはあまり無い。

 あるとすれば使い手が仕舞おうとするか、それとも、死ぬか。

 

 

「(――……どうして、こんなことになったんだっけ……?)」

 

 

 見えない攻撃を防ぐことも出来ず、猫科の動物に追い詰められた獲物のように弱々しく抵抗することしか出来ずとも。

 烏丸そらは思考することを止めなかった。

 

 

   × × × × ×

 

 

「というわけで新しい魔法生徒の皆さんでーす」

 

「どうもー!」

「どーもー」

「やっはろー!」

「ど、どうも」

 

「「「「「「「「「「……は?」」」」」」」」」」

 

 

 総勢十名の唖然とした呟きが見事にシンクロした。

 唯一、同じ反応を見せなかったのはアキラに近づいていっている茶々丸である。友人が堂々と『別荘』へと大手を振って入って来れるようになったことが嬉しいのか、真っ先に会釈した。

 

 

「いらっしゃいませアキラさん。並びに新たな魔法生徒の皆様。ようこそマスターの別荘へ。

 マスターに代わりまして心より歓迎いたします」

 

「おおう、反応堅いなー茶々丸さんは」

「あはは、いきなり来てごめんなー」

「うん、ありがとう茶々丸さん」

 

「ずるいよいいんちょー! わたしだってネギ君の役に立ちたいのにー!」

「ちょっ、まき絵さんっ!? 真っ先に突貫してくる前に何か説明をっ!?」

 

 

 一足早くまき絵があやかに突貫するのは、まあご愛嬌と言ったところだろうが。同じようにネギの方向へと興味のベクトルがアクセルを踏んで加速している、そんな同類同士の抜け駆けが見逃せなかったのもあるかもしれない。

 その前に四人がこの場にいるということに、やはり最低限の説明はして欲しい。そらたちが来る前に待機していたネギ・あやか・のどか・ゆえ・ハルナ・このか・刹那・明日菜・古菲、そしてエヴァンジェリンの総勢十名の内心が、そう地味にシンクロした。

 その中でも比較的平然であるこのかが、そらに顔を向ける。

 

 

「……で、どういうわけなん?」

「あー、先週に襲撃されてな。そのとき一緒に居たせいで魔法バレすることになった」

 

 

 なんか耳を疑う単語に再度聞き返したくなる一同。

 当然の如く、このかは聞く。

 

 

「そやのー? で、その襲撃犯は?」

 

 

 おい、反応はそれでいいのか。とあまりにも淡白なこのかの反応に、誰もが別の意味で絶句した。

 

 

   × × × × ×

 

 

「さて、それでは始めるとするかのぅ」

 

 

 ところ変わってこちらは世界樹前広場。

 魔法教師立会の下、先週に襲撃を噛まし、その結果として麻帆良預かりの魔法生徒の一人として紹介されることとなった野木坂遙が、その実力をお披露目していた。

 

 

「私が言うのもなんですけど、いいんですか?烏丸さんをまた襲うかもしれませんよ?」

「それならそれで、やはり麻帆良に居たほうが阻止し易いのう。二人の言い分のどちらが正しいにしろ、白昼堂々街中で神秘を扱うようなものを放逐するわけには行かないのじゃよ。関東魔法協会の長としてものう」

 

 

 福禄寿みたいな頭をした老人・近右衛門がそう諭して朗らかに笑う。

 普段より魔法関係者には厳しい態度で接することが多い老人であるが、たとえ犯罪者だったとしても子供には相応の態度で通すつもりなのか。教育者としては最低限度己に課している様でもある。

 

 

「それで、野木坂くんは何が使えるのかね?」

「……式神を少々」

 

 

 若干憮然とした態度のままだが、遙は応えて符を一枚ポケットから取り出した。

 

 

「御い出ませ、星屑少女メルティちゃん!」

『まじかるー』

 

 

 唱えると同時に眼前へと差し出した符から再生されたのは、2.5次元を等身大に再現したような表情の固まった美少女フィギュアであった。

 それを目の当たりにした魔法教師らの数人が失笑を漏らしたが、その美少女フィギュアの膂力に漏らした笑みが凍るのはまた別の話。

 

 

   × × × × ×

 

 

「で、修行ってどんなことしとるの?」

 

 

 適度に説明を終えて、比較的手持ち無沙汰に陥った亜子が皆に尋ねる。内数名が顔を曇らせて目をそらした。

 

 

「えっ。どうしたの?」

「まだ初心者モードも攻略できてないらしいからな、成長性の見えない成果に己で恥ずかしいんだろ」

 

 

 辛らつなコメントがそらから放たれる。言われたチームネギまは言葉も無かった。

 

 

「ちなみに、あたしらには魔法教えてもらえるの?」

「そんな暇あるか」

 

 

 裕奈の上目遣いがそらには通じない。

 ばっさりと斬って捨て、そらは不満げな裕奈に更に追撃を入れる。

 

 

「事情を話す必要があるからつれてきただけだからな。正直どんなにファンタジーな魅力があるように見えても結局のところ技術でしかないし、教える必要性のあることでもない。本当にしっかり学びたかったらそういう専門家に習わせてもらえ」

「烏丸くん、私らになんか厳しくない?」

 

 

 そんな亜子の質問には、うんざりとした顔でそらは応えた。

 

 

「襲撃されたのも後始末をしたのも俺なのに、お前らの一時監督役にされてたからな。ネギ君に任せるにしても、魔法生徒が増えすぎると一番近い俺が芋蔓式に引っ張り出されるだろうから、正直お前らには『普通の生徒』をやっていてもらいたい」

 

 

 疲れた表情で吐き出す様子に、申し訳ない気持ちが先行する亜子。

 だが、そんなそらは気にも留めない、とばかりに裕奈が不満を漏らした。

 

 

「えー?あたしも魔法とか使ってみたいなー。杖を使って変身とかできるんでしょ?」

 

「そういうのは精々中級者程度から上だろうな」

 

 

 応えたのはエヴァだ。

 実際『変身』は『衣装』か『実体』かで用途も目的も分かれるだろうが、魔法初心者ではどちらにしろ一朝一夕に手に出来る領域ではない。

 

 

「え?魔法少女みたいなことって無理なの?妖精とかと契約して平和を守る!とか?」

「漫画やアニメと混同するな。それに変身魔法なんて使い手も今時そんなに居らんわ」

「えー、そーなんだー?」

 

 

 何を妄想していたのか知らないが、少々残念そうな声音で裕奈はがっくりと項垂れる。

 そんな彼女に声をかけるものが居る。

 

 

『へっへっへ、そんなお嬢さんに良~い代物がございますぜ?』

 

「ん?誰?」

 

 

 微妙に胡散臭そうな声音であるそれに振り向けば、ネギのペットのオコジョが煙草片手に歪な陰のある笑顔を浮かべていた。

 

 

「……あ!使い魔とかそういう奴だったのか、ネギ先生のペットって!」

 

『お、おおう、察しのいいお嬢さんでやんすね。まあ間違いじゃございませんけど。アッシの名はアルベールカモミールというケチなオコジョでごぜぇましてね、』

「前書きは要らん。どうせ仮契約だろ?」

『ちょ、師匠っ!?久し振りの出番ナンすからもうちょっと喋らせry』

 

 

――キングクリムゾン!――

 

 

 詳細はすっ飛ばされ、魔法アイテムを手に出来るという事情を教えられた裕奈は仮契約に乗り出した!

 但し、相手はそら。

 

 

「解せぬ」

「なんで?いーじゃんいーじゃん!こんな美少女とキッスできるとかお得だよ?」

「無駄だと思うのだけどなぁ」

 

 

 向かい合ってそんな会話を交わす二人。

 その代償に、周囲にいる少女たちはほぼ全員がジト目で二人の様子を見ていた。

 衆人環視の中ラブい空気が発生するには親密度が足りないのは事実なのだが、それ以前にそらに対してそれなりの感情を抱えているものが多過ぎるのも現状の一端。

 声を上げて制止するには、『恥ずかしい』やら『気持ちが言うほど足りない』やら『次は自分も』やらと思っている乙女らが居るというのも内情である。

 残りはやはり、昼間から盛るな猿が、という辛辣通り越して直死に直滑降な意見もまた無きにしも非ずなのだが。

 

 が、これから仮契約を行う二人にはそんなのは関係ない。

 

 ん。と目を閉じて、口を相応の形にし、所謂キス待ちの状態で佇む裕奈。心なしか頬が赤く染まっているようにも見える。

 対してそらはというと、

 

 

「あー……、ま、とりあえず試してみるか」

 

 

 そんな内容によっては最低とも取れる台詞を呟き、実は激しい動悸を気づかれないように、平静を装って口付けをした。――頬に。

 

 

「――あれ!?そっち!?」

「そーですよー」

 

 

 所々から、ホッ……という呟きや、ほほぅ……などという感嘆が聞こえるのだが、彼自身はそれを無視。

 確認すべきことは確認すべき相手へ、と視線を向けた。

 

 

「で?出たか、カモ?」

 

『あ、アレー?おっかしいなー?いくらほっぺとはいえ……。お二人ともぉー、本当にキスしましたぁ~?』

 

「なんだ、疑ってるのか小動物。縊るぞ」

 

 

 己の師匠のお家芸で脅して見せればひぎぃ!?とガタガタ震え始める小動物。

 だがしかし、今日のカモはこれしきではへこたれない。怯えて距離を取りつつも抗議の声を上げる。

 

 

『い、いや!だって!スカカードすら生まれないって仮契約のシステム上問題しかねぇっていうか!?』

 

「だから、俺の障壁で相殺したんじゃねえの?」

 

『障壁ってそんな効果ありましたっけ!?』

 

 

 さらりとそらの想定していた事情を説明され愕然となるカモミール。

 これでまかり間違って仮契約が成されてしまっていたら明石教授とかに何を言われるかわかったものじゃないな、などと自分の障壁の効果が間違ってなかったことにひっそりと安堵していることは誰にも知られちゃならないことだ。無論、先日闘将神仏の手によって直接浄霊してもらった夕子さんにもであるのは間違いない。

 

 その後、何故かアキラが若干距離を開けていたり、明日菜が何事か考え込んでいたり、と微妙に周囲の反応が腫れ物に触るように感じたが、程よく日常風景のままに修行風景も埋もれていった。

 というのが先週の話。

 

 そして本日早朝、新聞配達で一緒になった明日菜に仮契約で試したいことがある、というカミングアウト染みた宣言が怖くなって本日の活動を急遽中止に決定したそらは、放課後になって降り出した豪雨の中唐突に『狙撃された』。

 運動部四人組の身元引き受けをネギに明け渡すための手続きを学園長の下で済ませて、女子中学校舎からの帰り道の出来事であった。

 

 

   × × × × ×

 

 

 最初は左足、そして左肩だった。

 狙い撃たれたという感覚すら感じることなく、衝撃に足を取られつんのめって倒れこみ、混乱する頭のままに『攻撃された』と判断してスタンドを顕現させる。

 第二の攻撃はそれからしばらく後だった。

 『攻撃』が来ることを防ぐためにスタンドを待機させたまま一分、這い蹲って前へと進もうとした次の瞬間には伸ばした右手と右脚太腿に穴を開けられ、最低限頭部を守らせていたスタンドには掠り傷しかない。

 これらのことから、この攻撃は狙いがしっかりとしているわけではない、次の攻撃に移るためには時間が必要である、という推測が生まれる。

 そして最後の攻撃でそれは確信となった。

 身動きをあえてしなかったそらは、頭部のみを守らせて攻撃を待った。結果、経過した時間は同じ程度で、攻撃された箇所は一箇所のみ。

 攻撃スピードは目に映らないし、何処から攻撃しているのかわからない=射程が恐ろしいが、狙いは正確ではない。だが――、

 

 ――正直、このまま嬲り殺しにされるのも時間の問題であった。

 

 そんなとき、インストールドットの姿が一瞬ぶれる。

 どうやら活動時間も限界に近いらしい。

 そう覚悟すると、血と一緒に流れて逝きそうになる意識を取り戻したく思いながら、腹に当てた手に力が篭もった。

 

 ――そこへ、彼が現れた。

 

 

「……フヒヒ、いい様だね……」

 

 

 どもるような口調で、しかし抱えている愉悦を隠し切れない声音で、ルームメイトの大柴巧が茂みから顔を覗かせたのだ。

 

 

「――……お前、かよ……。なんか、したっけ、俺……?」

 

 

 その彼へと目を向けて、その背後に煙突のような形状の頭部を持つスタンドを従えている姿を見て、この犯人が誰なのかが一発で理解できた。

 あまりにも遅すぎる理解でしかないが。

 

 

「なんか……?お、おいおい、キミ、忘れたとは言わせないよ……?」

 

「……?」

 

 

 そらの言葉に、困惑したような声音で巧は言う。

 しかしそら自身身に覚えがなかった。少なくともルームメイトに此処まで攻撃されるようなことをした覚えは無い。そう自覚していたはずであったのだが。

 そんなそらの内心が理解できたのだろう。

 巧は激昂したように声を上げる。

 

 

「ぼ、僕のウサミン抱き枕……!ネギ先生に勝手にあげたのは、キミじゃないか……ッ!」

 

「………………あー」

 

 

 言われて思い出す。

 そういえばネギ君の同室決定日、一人寝が寂しく無いようにと部屋にあった抱き枕を手渡したなぁ、と。

 本人的には、知らぬうちにベッドに入り込まれるフラグを叩き折っていたはずが、まさかこんな弊害が発生するとは、と内心実は反省していない胸中で言葉を選ぶ。

 

 

「すまん」

「反省して無いじゃないか……!」

 

 

 当然ながら、すぐに見破られた。

 

 

「まあ、いいさ……。この攻撃はキミには見破れない、当然魔法じゃないから、僕がお咎めを受けることも無い……。フヒヒ……、ぼ、僕の制裁、受けるがいいさ……!」

 

「それ、なんだが……、なんで、此処に、現れた……? お前の、スタンド……、実は、精密性が偉く、低いんじゃないか……?」

 

 

 分析していたウィークポイントを指摘すれば、ぐっ、と言葉に詰まる様子が僅かに伺えた。更にそらは、息が途絶えそうになりながらも言葉を続ける。

 

 

「この場に現れたのも……、正確に、狙うためだろう……? 俺のスタンドの、活動限界を、見計らって……、出せなくなりそうだとでも、思ったか……?」

 

「――――ッ!!」

 

 

 ガッ!と巧の蹴りがそらを転がした。

 図星を突かれて激昂したが、その程度ではうつ伏せから仰向けになる程度の威力しかなかった。

 だがその衝撃なのか、そらのインストールドットが姿を消す。

 それを目にし、更に気が良くなった巧は叫び声を上げる。

 

 

「ぼ、僕の弱点でも突いた気になったかぁっ!?そんなに死にたけりゃ今すぐ止めを刺してやるよ!

 行け!レインボウレインボー!」

 

 

 煙突のような頭部から、ボシュッ、と何かが射出された。

 それは放物線を描いて、おそらくはそうやって雨のスピードに紛れて着弾する攻撃なのだろう。だからこそ正確な狙いを測ることが難しかったのだろうが、今度こそ外すことは無いだろうとそらも覚悟した。

 

 ――そして、針のような弾幕がそらの頭部へと襲い掛かった。

 

 

 




~『まじかるー』
 オブジエンドじゃないですかやだー。
 能力は其処まで凶悪では無いけど膂力がアレすぎる、遙さんのオリジナル創造式神。

~ラブリー十七歳抱き枕
 限定品。両面にアナベベのらぶりぃな姿がプリントされている前年齢向け抱き枕。裏は水着だが、正直これ年齢制限つけるべきじゃね?とそらは言う。

~レインボウレインボー
 全身虹色の二足歩行機関車ト○マス。頭部の煙突から遠距離攻撃可能な鉄矢の雨を降らせるが、近づいて殴った方が実は強い。
 パワー:A スピード:D 射程距離:A 持続力:A 精密性:C 成長性:D


67話っす
書きあがってみるとなんだか微妙にコレジャナイ感がひしひしと。一見真面目そうに見える客観視点ですが所々ふざけていてどっちつかずな気分です
でも少なくともレイニーデビルはコレで行く気
これでも面白いという方は三話ほどの予定ですのでどうぞお付き合いください

またちょっと時間が空きそう
そんな次回、そら反撃。では


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『レイニーデビル【負完全風味】』

ちょっと早くに出来たので更新
二度見も辞さない68話

注意!
今回某西尾維新作品を未読の方にはわかりづらいかもしれませんが、
わかんねえよボケェ!なお方が居ても決して腹パンとかしないで、大きな心でお読みください!


 顔面に命中したことを確認して、巧はようやく溜飲が下るのを覚える。魔法は万能だ。これだけの怪我を負っても、この学園でならばどうせしばらくすれば治すことが出来るのだろう。そういう思いで、ぴくりとも動かなくなったそらを遠目に観察する。

 

 烏丸そらは魔法生徒としては随分と低い評価を受けているが、あの真祖の弟子をやっているのは見過ごせることではなく、更に一部の人間にしか理解できないことだがスタンド使いという特殊な能力者であることもあって隠されているが実力はかなり高い。巧も同じくスタンド使いであるから、その実力は一目でわかるようなものではない、と理解できる。

 だからこそ、これまでずっと観察し相手の実力と弱点を見極めてきた。ずっと仕返ししたかったが、ただ突っ込むのでは無謀だということは誰の目にも明らかだったので、臥薪嘗胆の精神で伏してチャンスを伺っていた。

 それが今日、ようやく憂さを晴らすことに成功した。

 その決定打を与えることがほぼ致命傷に近い攻撃となったのは、これまで溜まっていた気分を一新するためだ。決して歯止めが利かなかったとか、そういうわけではない。ハーレムを作っているのが羨ましかったとか、そんな理由は無いのだ。決して。

 

 だが。と巧は考える。

 最後にこちらのスタンドの性能をほぼ見当てられていたのが、わずかに痛い。

 そもそも同じ部屋であったのだ。四月の初め頃はネギ先生とのごたごたが原因らしく部屋から居なかった時期もあったが、今は部屋換えを申請するほどの理由も無い。怪我の療養を理由に彼の方から部屋を別にする可能性も無きにしも非ずではあるが、どちらかというと報復が待っているのは火を見るよりも明らかなことは確かである。

 

 致命傷に至るほどの害意に晒されれば、普通の人間ならば歯向かわない。これは人間が受け入れられるキャパシティの広さも相俟っての事実であるけど、そもそもの生物的な本能に基づく理屈にも関わる『性質』だ。

 それすらも覆すのが主人公という人種である。

 実際に存在するかどうかはどっちでもいいが、彼らは『諦めない』。反撃することを、歯向かうことを。だからこそ物語は成立するし、面白くなる。だが。

 今この場においては、それは非情に迷惑な性質でしかないのだ。

 

 巧の知る限り、烏丸そらという人物は実に主人公染みている。

 真祖に気に入られているというバッグボーンに、ヒロイン染みた幼馴染との付かず離れずな関係性。そして強力な実力に、勝負を決するための天運地運。

 羨ましい限りだが、これほどの主人公性は現実じゃそうそう見ることは無い。良くてネギ先生あたりがもう少し成長していれば、そのポジションに匹敵する存在になっていたかもしれないが……。

 

 だがそれでも、『今』は完全に沈黙している。

 

 この『今』を『安全』と認識し、勝利の凱歌に酔い痴れる気分で踵を返し――、

 

 

「――感謝する」

 

 

 ――彼から発せられたその一言で、足が止まった。

 

 

「正直……、嘗めてた」

 

 

 起き上がれるはずが無い。そもそも言葉を発せられるはずが無い。

 それほどの致命傷を与えた。半死半生で、息をすることも辛い現状で気を失っている。そう確信したはずだった。

 

 

「……俺は、自分が何かを使えるという自覚はあっても、……その使い手そのものであるという自覚が薄かったのだろうな。……知識を学び、研鑽を積む。学徒の一角としての責任しか負いたくない、という意識も、心の何処かにあったのだと……、――そう『受け入れる』」

 

 

 しかし、息を辛そうに、だが流暢に発せられるその言葉には、先ほどまでの這い蹲っているようなくぐもったような反響がない。

 そこまで理解して、巧は振り返る。そこには――、

 

 

「俺は今、『スタンド使いである』という自覚を覚えた。そういう風に『成長できた』。そのための試練を与えてくれたお前に、そう『感謝する』」

 

 

 幽鬼のように、映画に見るようなゾンビさながらに、ぐったりとした姿勢のままに起き上がる。

 烏丸そらが、復活していた。

 

 ぐしゃぐしゃに潰れて、彼本来の魔法では治すことも出来ないはずの顔面に両手を当てつつ、彼は言葉を続ける。

 

 

「魔法使いとしてはエヴァ姉に関わっている以上、アレを超えるだけの成長性を示してくれる対象は居ないと思っていたが、スタンド使いとしてならば話はそう簡単じゃない。何故ならば、スタンドが成長するということは人間的に成長できるということと同義だからだ」

 

「……? ――ッ!?」

 

 

 タオルで顔を拭くような、そんな仕草をした。

 次の瞬間には傷痕がすべて塞がった、血の跡以外はまっさらに綺麗な顔に戻ったことを見、巧は言葉を失った。

 

 

「それでも、俺は正直期待していなかった。成長を示すだけの危機を受けるということは、麻帆良自体に侵入者が深奥まで来るということと同じだ。俺は警備には当たっていないからな、そんな俺が対処する状況なんて、既に麻帆良は八割負けていると見て間違いないだろう?」

 

 

 言葉を続けながら左肩、太腿、手のひら、足、と手を当ててゆく。

 テンポのいいスピードで、傷が次々と塞がってゆく。回復魔法を使うにしてもおかしすぎる素早さに、巧はそれを指差したまま言葉も出ない。

 

 

「正直俺自身が強くなりたい、などと考えているわけじゃない。常日頃からそう思うほど切羽詰まった生活をしているわけでも無いし、俺の本分は研究することだというのも理解しているからな。理屈を上手く扱えるだけの土壌があればそれでいい、そう思っていたのも確かだ。だが――、」

 

 

 スタンド使いは、違うよなぁ?

 と、そう言われたときに、巧はようやく気付いた。そらはさっきからずっとスタンドを出していない、という事実に。

 

 

「ど、どういうことだよ……っ! さっきから、なんなんだ! なにをやってるんだお前! それに……っ!」

 

 

 一番気になるのは、最後の攻撃。

 あれは確実に『へし折った』はずだ。反撃する意思を。勝負の決定打を。

 勝敗は、あれで決まったはずなのだ。

 

 なのに、何故平然としていられる?

 

 

「どうやって……! 最後の攻撃を、どうやって防いだんだよっ!?」

 

 

 その巧の慟哭に、そらはきょとんとした表情を見せ。次の瞬間には、あぁ、と嗤った。

 

 

「確かに、あの一撃は見事だった。俺も回避も防御もできない、最良かつ最悪の攻撃だった。

 ――だから、あえて『喰らわせて』もらった。文字通り」

 

 

 応えて、べろっ、と舌を出す。そこからは――、

 

 ――じゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃら、と。

 大量の鉄矢が吐き出されて地面に堕ちた。

 

 

「――ふぅ。事前に『め●かボックス』を読んでいて助かったぜ」

 

「そんなわけあるかぁッ!!!?」

 

 

 魂からの叫び声が木霊した。

 

 

   × × × × ×

 

 

 漫画のキャラクターではあるが、上峰書子というアブノーマルが存在する。

 彼女は機関銃の銃撃を『喰らう』ことで防御した、委細の知れない一発キャラでしかなかった。

 

 だから、どうした!?

 と、巧は現実の不条理さにツッコミを入れる。

 

 漫画で読んだからって使えたら修行いらねぇよ!簡単に再現できるようなものでもねぇよ!読むだけで強くなれたら魔法使いも今頃強さがインフレしているよ!お前いつ黒神●だかに改名したの!?

 と思いつく限りの脳内ツッコミが冴え渡った。

 言葉にすれば完全にキャラ崩壊もいいところなので、決して声には出さないが。

 

 あとついでに言うと舌を出したときに、そらの舌の上に『言』という文字が踊っていたように見えた。

 なんなの?ついでに言葉使いにも転職したの?スタンド使わないでそっちに転職するとか漫画が違く無い?そういえば復活のときも球磨●禊っぽかったですね。いつの間に世界線が移動したのさ?

 と凄く言いたい、そんな巧くんも十五歳。中学生。多分そういう世界にも興味があるお年頃なんだと思われる。エル・プサイ・コングルゥ。

 

 

「――さて」

「――ッ!」

 

 

 脳内ツッコミ虚しく、そらが一言発しただけで巧は身を竦ませる。

 此処から第二ラウンドに移る?

 そう想定できるが、想定するだけで逃げ出したくなる。

 

 攻撃したのは自分だ。

 だが相手も許せないことをした。

 それでも、喧嘩は先に手を出したほうに非がある。

 

 世の中の常識ではないが、そんな三段論法もあるのは確か。

 今は静かに、地面に落ちた矢を拾っているそらだが、あそこまでボロボロにしたことを怨んでいない、とは思えない。というか、確実に反撃に移られる。

 アカン、逃げたい。

 巧の泣き言が加速する。

 そもそも接近戦が一番苦手なのは、魔法使いとしてもスタンド使いとしても致命的である。巧の戦法は、攻撃力&火力で遠方からの射撃。しかもそれが上手いこと当たる確立が低い。という無様なものだ。バランスが悪いのは、彼自身自覚していることだった。

 

 

「どうする?」

「…………?」

 

 

 どうする、とは?

 そらの質問の意図が読めなかった。

 

 

「俺としては、悪いことをしたなぁ、という自覚はあるのさ。だからさっきも謝ったし、きちんと弁償もしたい。大柴くん、キミはまだ続けたいか?」

 

 

 ――終われる?

 追われることなく終わることができる?

 まるで地獄に吊るされた蜘蛛の糸のように、その言葉が希望に見えた。

 

 そうだ、悪いのはそらのほうじゃないか。

 そもそも最初に攻撃されるようなことをしたのは彼の方じゃないか。

 そこまで考えて、その提案を受け入れようと思ったそのとき――、

 

 

「――………………っ」

 

 

 ――唐突に、理解した。

 これは、完全に強者の余裕だと。

 

 場の空気を呑み込み、劣勢であったはずの彼我の差を覆し、互いの憤慨を無かったことにし、勝負に負けて優勢を奪い取る。

 それだけのことが出来るということを見せ付けられる。そんな惨めな敗北を、ちらちらとイヤらしく見せ付けられる。

 そんな相手と、これからもルームメイトとして暮らす……?

 

 

「握手をしようぜ。これで手打ちだ」

 

 

 そう言葉を投げかけられて、手を出してきた。

 巧はその手を、――払いのける。

 

 

「――嫌だね……!」

 

 

 自分は悪くない。悪いのはそらだ。

 だから、たとえ負けだとしても負けたままではいられない。

 手打ち?引き分け?

 そんななあなあで、自分の憤慨をなかったことにされて堪るか……!

 

 これが捻くれた鬱屈した思考だったとしても、大柴巧にも意地(プライド)がある。

 

 

「け、決着をつけてやる……!かかってこいやぁ……!」

 

 

 そう心に決めて、烏丸そらを睨み付けた。

 声は相変わらず震えていたけど、心の震えは止ませない。そんな臆病者が、堂々と立ち上がろうとした瞬間だった。

 

 

「……そうかい」

 

 

 憮然とした表情で、手にした鉄矢を重ねて束ねる。

 

 

「じゃあ――」

 

 

 束ねた矢を、――捩じる。

 

 

「俺の成長したスタンドは、インストールドット・ダイバーと名づけた。自身の中に潜ませることで、最小の出力で最大級の効果を発揮できる、それを理想とした、俺にできる最良の成長がこれだ」

 

 

 捻じる、捩じて、捻じり巻く。

 巧はその様子をじっと見詰め、突然始まったスタンドの解説も黙って聞いた。

 未だ強者の余裕を続けているのか、とも思わなくも無い。しかし、これは必要な説明なのだと、感覚で理解する。

 

 

「俺の出力はこれで今まで以上になっている。対してスピードや射程はどうかと問われると、そこはそれ魔法がある。距離程度、速さ程度、なんとでもなる。つまり、」

 

 

 決定打が、ある。

 理解して、耳にして、解る。

 誘っているのだ。一発勝負にしよう、と。

 

 

「手打ちの提案を受け入れない、そんな捻くれものにはこれが一番だな」

 

 

 そうして出来上がった矢の束は、大きな螺子の形になっていた。

 

 

「――って、そこで『それ』かよ……っ!?」

 

「良いだろ? これで、捩じ伏せてやるよ」

 

 

 冗談ではない。

 何処まで漫画で表現するのかと言いたくもあるが、それを実行できるというだけの性質になったと言いたいのだろう。

 ……それが果たして成長なのか? という部分については、触れないようにしておく……。

 

 

「じょ、上等だ……!行くぞ、レインボウレインボー……!」

「お前にも、雨と泥の感触を味合わせてやる!」

 

 

 ――少年たちの決着は、すぐに着いた。

 

 

 




~めだ●ボックスを読んでて助かったぜ
 上峰書子たんマジリスペクト

~『言』
 『体言使い』
 行動がそのまま現象として顕現する、肉体言語的なスタイル。手を当てれば『手当て』になって傷を塞げるし、攻撃を食らえば『喰らう』ことが出来る。鉄の束を滑ることなく『捻じる』ことが出来るし、螺子で『捩じ伏せる』ことも可能となった
 既存のスタイルと違う点は、相手が居なくても効果を発揮できるという点。自身がそれを理解できれば、自身の認識できる範囲内に効果を及ばすことも可能である
 但しそら自身はこれが『スタイル』の一種だと自覚しているわけではない

~インストールドット・ダイバー
 自らの内側にスタンドを顕現させる新形態。インストールドットは本来『意思』『概念』を表層に顕現させるスタンドなので、この形態になって更に性質に磨きがかかったといえる。というか、いちいち文字を入力するのがめんどくさい、と常々思っていたのでこういう風に成長しないかなぁ、という理想が形になった形態
 スタンド本来の利点を捨てることで能力のみを特化させた超接近戦仕様。より使いどころが難しくなった、とも言える
 パワー:E スピード:E 射程距離:E 持続力:A+++ 精密性:C 成長性:C
 という低スペックなのはそら本来の機動力に由来する所為。これに魔法を加えることができるので『戦いの唄』などを使えば前半三つはすぐに覆せる

~螺子
 皆ご存知、裸エプロン先輩の特化技能。の、超劣化再現
 でも別にこれで貫いたからといって何かが出来るというわけではない。単に相手を『捩じ伏せる』だけなのでせいぜい心を折る程度


すこーし短い
でも大体出来たので更新
今一歩足りないなーと思うのは俺だけじゃないはず
どうしよう、西尾維新を読み直すか?

でもそらの負完全っぷりがやばい
世界が違ったら確実にそっち側へ傾いていたと思う

悪魔が未だに現れないレイニーデビル
次回で終了予定。では


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『レイニーデビル【極楽大作戦風味】』

まだ生きてる俺が通りますよ、っと・・・


 

 どうしてこういうことになったのか。

 もう何度目かになる鍔迫り合いを交わしつつ、侵入者である悪魔伯爵・ヴィルヘイムヨーゼフフォンヘルマンは内心嘆息する。斬撃を迎撃しているのだが、拳で対抗しているのに鍔迫り合いとは是如何に。とも詰まらない冗句を浮かべつつ、コブシを振るうのを止めることは無い。

 止めようとすればこちらが斬撃の雨に晒されるからだ。

 

 

「もう止めにしたらどうかね……!」

「あははー、まーだまーだ、つきあってもらいますえー?」

 

 

 斬魔剣!と刀を振るう毎に何処からか業の名称が叫ばれる。無駄に気合の入ったイイ声で漫画ならば画面の端に縦字で貼り付けられている感じである。こういう効果は世界の真理と理解していただければ構わない。ドン!みたいな。惜しむらくは続けて振るわれれば斬魔斬魔斬斬斬ざ斬魔斬斬魔剣!と、スクラッチでもかけているのかと思われるようなことになっているのがなんとも情け無いが。

 それはともかく。

 

 刃引きのされた刀を振るうは、京都弁の残る口調のゴシックロリータ調の服装で着飾った眼鏡の少女。番傘を差しつつ、雨の中片手で悪魔に対処のできる実力者。彼女の名を月詠という。

 彼女は以前に麻帆良大襲撃に参加した元関西呪術協会の刺客であったのだが、協会が空中分解してしまったお陰で行き場がなくなった者の一人である。その時同じように捕縛された術者などは協会解体後も引き取り手があったので引き渡せたが、彼女はそのようなものが居なかったために同じく京都出身であるという理由で葛葉刀子が面倒を見ることとなった唯一の麻帆良預かりの使い手である。

 その実力は葛葉の折り紙つきなので、こうして麻帆良の防衛に一役買われていた。

 

 

「久しぶりの獲物やー。変態でなければ渋いオジサマなんやけどなー」

「背筋がそら寒くなるような台詞を……!あと私は変態ではないよ……!?」

「女子寮に侵入しようというオジサマが言い逃れを通用できるとでも思うんですかー?」

 

 

 喜々として剣戟を繰り出す月詠。彼女の本質はバトルマニアである。戦えれば何処でも構わない。その相手が強ければ強いほど善い。

 そういう人種であるがして、こうして実力のある侵入者が自分の警備する範囲の女子寮前までやってきてくれたことは、彼女にとって実に僥倖なのであった。

 たとえそれが女子寮覗きの変態紳士だったとしても。

 

 一方のヘルマンとしては、こうしていつまでも闘っているわけにも行かない。

 彼の趣味は戦うことであるが、その前に彼は召喚された身である。先ずは与えられた仕事を片付けなくてはならないのだと、召喚師からの令呪が彼を苛む。絶対的に抗えないものというわけではないが、抗うだけで気をとられるので趣味の範疇を片付けようと気を向けるにはやはり邪魔なのである。

 かといってそちらに気を向ければ戦いに集中できない。実に興味をそそられるだけの使い手に出会えたというのに、世の中上手くいかないものだと反撃に乗り出せない己の身が恨めしかった。

 

 

『(ダンナー、ダンナー……)』

「(むっ、その声はすらむぃか?どうした、犬上くんは見つかったか?)」

 

 

 そんな中、先に女子寮に侵入していた使い魔から念話が届く。

 そもそもこの場に彼が現れたのは、道中ちょっかいをかけた変質型犬神使いに魔力マーカーをかけて追いかけたからだ。麻帆良に行くという彼女が京都にてリョウメンスクナを破砕した少年と顔見知りだと耳にして、恐らくは手を出しておけばすぐに合流するだろう、と目論での凶行である。

 傷ついたであろう彼女が身を隠したと思われる場所を追いかけていったらこの場所に行き着いた、というだけであって、決して変態的行為ではないのである。決して。

 

 

『(ダンナー、スマネェ……、ニゲロー)』

「……何?」

 

「両者其処まで。先ずは話を聞かせていただきましょうか」

「あ、せんぱーい」

 

 

 月詠のそんな間延びした声とともに剣戟が止む。

 二人と離れた場所から現れた少女の声の主は、先に送り込んだスライム娘の三人を手に持っていた。――氷漬けにして。

 

 

「スラミィアメ子ライムっ!?」

 

「まさか女子寮に液体系モンスターを放つ変質者がいるとは思いませんでしたが、彼女らがウスイホンのように陵辱の限りを尽くす前に回収させてもらいました。残念でしたね」

 

「いや待ちたまえ!私はそういう目的で彼女たちを放ったわけではないよ!?」

 

「変態は皆そう言うのです。では事情聴取を始めましょうか」

 

「不本意すぎる……!」

 

 

 話を聞いてくれるのならば目的を早めに片付けられそうであるが、此処に至るまでの話の流れに納得がいかない悪魔伯爵。

 そしてあることに気付く。

 ビニール傘を差して現れたその少女の容姿が、どうにも自分を召喚したものによく似ているような気がする。

 

 

「……?」

 

「先ずは侵入した目的を話していただけますか、悪魔さん?」

 

 

 その少女の名は鈴木6号。

 女子寮の鉄壁ガーディアンとして未だに君臨し続ける、若すぎる寮母さんであった。

 

 

   × × × × ×

 

 

「おのれ、まさかこんなことになるとは……!」

 

 

 雨の中を全力疾走する影がある。

 云わずと知れたヘルマン伯爵。彼は今男子寮に向かって敗走中であった。

 

 実力者であっても召喚された身であれば基本的に使い捨て。それをわかっているからこそ、彼は必要なだけの情報を得て目的地を改め直した。

 その情報元である鈴木と名乗る少女によると、犬を拾ったという寮生がいたのを確認はしているがそのためだけに寮内に進入させるわけにはいかないとのこと。

 更に破れかぶれであったが、こちらの目的の人物として召喚師にマークされている人物『ネギ=スプリングフィールド』の居場所を確認するとそもそも居るのは女子寮ではなく男子寮らしいので、件の犬神使いとは合流するようには思えない。

 更に更に、一足早く捕縛された使い魔三人娘の為に目的を後回しにすることはできない。ヘルマンは彼女らを見捨てて本来の目的地へと『敗走』した。

 

 考えてみれば『少年』が女子寮に居るはずがないのであるが、ネギ=スプリングフィールドが女子寮内に居れば話は早くに済んだはずなのだ。この落とし前はキッチリつけさせてもらうぞー!と理不尽な意気込みを入れつつ、ヘルマンは男子寮前へと到着した、

 

 

「ぬぶるはあああっ!!?」

 

 

 ――ところで、蹴り飛ばされた。

 

 

「いらっしゃーい、侵入者さぁん」

 

 

 雨と泥に塗れながら来た道を数メートル逆にごろごろと転がされる屈辱を味わいつつ、急いで起き上がり蹴り飛ばした相手を睨み付ける。

 というか蹴り飛ばせるってなんだ。こっちはこう見えて悪魔である。人外を蹴り飛ばせる膂力がある人間って普通に考えておかしくないか。

 そんな困惑が相俟って、睨み付ける目に力が足りないが。

 

 

「連絡はきっちり受けてたけど、まさか真っ正面から襲撃しかけてくるとは思ってなかったよ。まあ文句は無いのだけれど」

 

 

 学生服を着、ビニール傘を差した白い髪の少年である。

 肌の色はやや色黒なように見えるので、そのコントラストが相俟って日本人には見え辛い。

 が、少なくとも耳にしたネギ少年の容姿でもなければ年齢でもないのは明らかであった。

 

 

「……誰だね? 私が用があるのはネギ=スプリングフィールドという少年なのだがね?」

 

「それを聞いてちょっとおせっかいにな。今日はまだ帰らんらしいから、また後日来てくれるかな」

 

 

 またなんとも締まらない理由だ。

 不在表明を挙げるならもっとキッチリとして欲しいというのは、古い人間の考え方なのだろうか。いや、人間ではなくて悪魔なのであるけど。

 というか、

 

 

「子供の使いでは無いのでね。はいそうですか、とおずおず帰れるものでもないのだよ」

 

 

 実際のところ、自身を召喚した者が子供の姿をしていたということが一番物悲しい事実なのだが。

 ともあれそう断ると、少年はため息をつく。

 

 

「そうかー。

 ……話は変わるけど、お前さんレイニーデビルって知ってるかい?」

 

「……何?」

 

 

 少年の言い分に、応えるより先に困惑が追いつく。ヘルマンには先ず何の話を始めたのかが理解できなかった。

 

 

「人の心の奥底にある願望を曝け出すっていう雨の悪魔。正確に言うと逸話であって悪魔そのものでは無いけどな、雨の日に悪魔が居るって時点で、何か符号のようなものがかっちり嵌まった。俺としてはそんな気分だ」

 

「……一体何の話を……」

 

「いや、聞いてくれよ。俺実はついさっきルームメイトと殺し合いをしてきたところでね、原因は俺のほうにあるわけだけど、何も殺す気にまでならなくてもよくねぇ?って思うわけよ」

 

 

 少年が手を伸ばす。

 雨はもう上がっていた。

 それを確認して傘を畳む。

 

 

「で、だ。思ったわけだ。今回こんな羽目になったのは、雨の日の悪魔が介入したお陰であって、彼本来の人間性を暴走させたのは別の要因があるんだ。ってな」

 

 

 聞いてるうちに、なんだかヘルマンの背筋に微妙な汗が流れてゆく。

 話の方向性が明らかにおかしい。そう切り出したいのだが、捲し立てるように語った少年はこちらを指差した。

 

 

「つまり、俺が今回風穴を開けられたのも血と泥にまみれて雨の中這い蹲ったのも気絶した大柴くんを担いで部屋まで運んで電話で侵入者が居るって呼び出されたのも元を糺せば全部手前ぇが侵入してきたせいだってことだよなぁぁぁぁっ!!!?」

 

「ちょ、ちょっとまてぇぇぇっ!?なんだか知らぬ罪状まで私のせいになってないかねっ!!?」

 

 

 後半は確かに伯爵のせい、とは言えないこともないが、前半は明らか過ぎる。

 酷すぎる言いがかりに絶望した!と指差し絶叫してくる少年に叫び返す悪魔伯爵の姿がそこにあった。

 

 

「まあなんでもいい。理由なんてものは何でもいいのさ。今夜一晩のストレス発散の為に生け贄になれ侵入者……!!」

 

「くそ、もっとマシな理由で戦いに発展できないのかね……!?本当に麻帆良は魔窟だな……っ!」

 

 

 悪魔に言われたくは無い台詞第一位に輝きそうだった。

 

 

「そうそう、自己紹介がまだだったな。

 烏丸そら、だ」

 

「フン……。

 ヴィルヘイムヨーゼフフォンヘルマン、伯爵だ」

 

 

 そうしてヘルマンが構えたのを見て、烏丸と名乗った少年は片腕を横に広げてみせる。

 まるで、何かを紹介するかのような仕草で。

 

 

「並びに、クタァト。使い魔だ」

 

「何……?」

 

 

 が、そこには何もいない。

 気配も無い。

 そのことに首を傾げ、

 

 

「……何もいないでは無いか……?」

 

 

 ――不思議そうな表情をした伯爵の背後に、大口を開けた軟体液状の少女が地面から顔を出していたのは、また別の話である。

 

 

 




~斬魔剣!
 サイクロン!のあの声を思い浮かべていただければ

~月詠
 麻帆良剣客・葛葉月詠。もうちょっとしたらネギクラスに編入予定

~あれ?白髪?
 イメチェンの理由は次回やっから

~ヘルマン後ろー
 クタァトは好き嫌いをしないいい子です


短いなぁ
ともあれやりたかったことをようやく書けました
でも俺の書く客観視点はどうにも不評のご様子
次回からはきちんとそら視点に戻しますのでご容赦を
エピローグ的な五章最終話を上げたら、IFの6に移りますね。では


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『生存戦略しましょうか?【エピローグ風味】』

短いけどエピローグ風なのでキニシナイ
書き上がったので投稿する少年よ我に帰れ的な70話


 

「うわ、なんですかその髪。イメチェンですか?」

「おー。さっき死に掛けて気付いたらこうなってた。臨死体験の功績じゃね?」

「どういう日常を送っているのですか」

 

 

 意訳を重ねた螺子で捻じ伏せた大柴君の心を折った後、クタァトだけ外に送ってもらって返すために別荘へとやってきた俺。に、最初に声をかけたのは城の入り口に居たゆえきちだった。

 ダンジョンに挑んでいると思っていたのだけど。もう飽きたとか言わないよな。

 

 スタンドは新たな進化をしたわけだが、文字を書かなくても意思を反映させる能力に進化したと思ったらどうやら言葉使いになっていたご様子。このことは大柴君に言われて始めて気付いたが、差し詰め『体言使い』とでも名乗るべきか。

 多分だけど、既存の能力設定に則っているのかなー、とも思う。ぼくのかんがえたかっこいい能力、とかやるよりも世界の大多数が理解し得れる能力の形へと変化するものなのかもしれない。俺に限らずスタンドの表在化とかどう見ても『そう』だし。漫画でも存在する能力を発現できた、って時点でどでかい世界法則が働いているんだと思うことにする。

 それよりやろうと思えば他のスタイルが使えるのかを試す方が大事な気がしてきた。

 

 

「見てろ、そのうち固有結界とかブロークンファンタズムとか使えるようになってやるぜ」

「何処のアーチャーですか。どちらかというと踏み台転生者っぽいのですけど」

「せめてエミヤにして」

 

 

 というか読んでるのかよ二次創作。

 

 

   × × × × ×

 

 

「うわっ、似合わなっ!」

「第一声がそれぇ!?」

 

 

 もうやめて!俺のライフはゼロに近い。

 こちらを指差して笑ったのは裕奈である。てめぇ見てろ、そのうち恥ずかしい写真を撮って夕子さんの墓前に添えてやるからな!

 

 死に掛けたとはいえ個人的にはそこそこ気に入ってるのだけどな、この白髪化。だがお気に入りなのは己一人で女子らには不評。お前ら揃いも揃ってカラフルな頭髪しているくせに他人に言えた義理なのかよ。

 

 

「つうか全員城に居るのか。ダンジョンはどーした?」

「あ、そうでした! 聞いてくださいそらさん! 初心者モードを攻略できましたよっ!」

 

 

 内部時間通算三ヶ月弱。ようやく攻略できたとネギ君らが焼き肉しながらはしゃいでた。

 鉄網の上で焼かれているのは、匂いからして最終階層に居るであろうランナードラゴンの肉だろうか。ワイバーンほどではないけど馬程度の体格で、集団で襲ってくる中ボスクラスだ。香草でもある植物性モンスターを主食としているので、火を通すと芳しい香りを発する。軽く炙って塩で食べるのも美味い。

 どうやら剥ぎ取り技術も相応に上がっている様子。改めてどういう女子中学生だお前ら。

 

 

「素材もいくつか選別してみたので、後で鑑定とかしていただけますか?」

「おっけー、後で薬か宝飾か希望するアイテムを言ってみな。

 ……で、逆にあっちはなんでへこんでるんだ?」

 

 

 へこんでいるのは和泉のみ。部屋の隅で体育座りしているのがなんとも湿っぽい。

 

 

「それが、和泉さんは魔法とは相性が合ってないらしくて……、思うように魔法を扱えることが出来なくて私たちもどう教えればいいのか……」

「図りかねている、と」

 

 

 いや、お前らも魔法使いの卵に皹が入った程度なんだし、誰かに教えられるほど経験あるわけでもあるまいよ。雪広の説明に把握した、と後を揃える。

 正しく使い手として成長するには正しく基礎から学ぶべきだと先達は語る。それ以前に魔法生徒になったはいいけど、あいつの行きたい方向って何処なんだよ。と問いたいけれども。

 

 

「同じ部活の好だ、俺が対処しとくからそっちは遊んでな」

「申し訳ないですわ」

 

 

 ある程度の説明をして雪広はネギへの対応に回る。

 俺は一先ず網の上から程よく焼けた肉を奪取して和泉の元へ。

 

 

「へいお嬢ちゃん。食ってるかい?」

「へぁ? あー、烏丸くん……? 何、イメチェン……?」

「そっちについてはもう触れないでくれるかな」

 

 

 似合ってなくていいよ、もう。

 

 

「で、魔法扱えないって?」

「ふぐぃっ」

 

 

 本題を切り出せば奇妙な断末魔を上げて胸を押さえる。今気付いたがなんでこいつ体操着なの。

 

 

「扱えなくてもいいんじゃねえの? そもそもこんなんただの技術だし。明日菜を見ろ、あいつの方こそ魔法なんて微塵も扱えないんだぞ?」

 

『あれ、なんか知らないうちに私のことディスられてる』

 

「でも、明日菜は身体能力あるやん。わたしはどういう風になってもどっちつかずで……、せめて魔法使いになったらもうちょっと何かになれるんじゃないかなー、って思っとったんやけどな……」

「人間そう簡単に何かになれるもんでもねえよ。というか、人間が自分以外の何かになれるってことはまずねえから」

 

 

 コイツの美点は自分をしっかり見れるってことなんだが、しっかり目を向けすぎて引き篭もりになる要素があるのが欠点でもあると俺は思う。

 それにしても、アキラたんといいこいつといい、相変わらず中学生日記みたいなことで悩むやつらだなぁ。まあ中学生なんだし仕方ないのかも知れんけど。

 

 

「でも、アキラはなんか茶々丸さんと別のことやっとるみたいやし、ゆーなはお父さんに教わっとるみたいやし、まき絵はネギ君と仮契約済ませたし……」

「このかは魔法使いとしてはまだ見習いだし、せっちゃんは人間関係で距離の取り方に悩んでいるし、エヴァ姉でさえ不老不死っていうどでかいハンデがこの先の人生に憑いて回る。

 何かしら悩んでいるのがお前だけってわけじゃねえよ、あんまり自分の殻に篭もってもいいことねえぞ」

 

 

 先を歩いている(と見えているであろう)奴でさえ、言ったように悩みはある。和泉の悩みは比べてしまえば実に矮小だ。

 要するに他人と自分とを比べること自体が愚問でしかない。のだと俺は思う。

 

 

「大体お前の地力も人によっては羨ましがられるくせに、なーにをぐだぐだと」

「むぅ、わたしの地力ってナニ?」

「見た目?」

 

 

 即答して小首を傾げる。

 3-Aは元より麻帆良は美少女揃いだが、部活動とかで異性と交流がある奴らは特に目を引いているということに気付いて欲しいのだが。

 

 

「見た目って……、いあいあ、そんなぁ……」

 

 

 まんざらでも無い様子で顔に手を当てイヤンイヤンと身を攀じる和泉。キモイ。

 

 

「ま、とりあえずは飯でも食って元気出せ。ほらこれやるから」

「ん、うん。あんがとな烏丸君。……え、あれ?そういえばこれってわたしのこと励ましとるってことなん……?」

 

 

 今気づいたのかい……。

 ……自分のこと見過ぎてそれ以外に目を向けられなくなるって、普通に欠点だなぁ……。

 

 

   × × × × ×

 

 

「また怪我したの?危ないことしないでよ、もう……」

「いやいや、結果的にまたひとつ強くなれたから。今回のこれは相応に怪我の功名というか」

「怪我してるじゃん」

 

 

 そういえば試したいことはなんだったのか、と明日菜に近寄れば目敏く俺の状態を把握したらしい。

 以心伝心以上の観察眼を持つ、俺の幼なじみがこんなに可愛く見えるはずが無い。

 

 

「そこまで漂白していれば誰だって気付くわよ」

「洗濯物の類じゃねぇーから」

 

 

 漂白言うな。

 

 

「で、和泉ちゃんを口説いてたんだ?」

「口説いてねえよ。魔法の世界に首突っ込んだのは俺が原因だからな、アフターフォローできないで魔法使いかよ、っていう持論を保持しただけさ」

「とっとと仮契約しちゃえばそれで済むのに」

 

 

 明日菜の言ってることがわからないわ。

 

 

「俺に仮契約が無効なのは見ただろ。障壁が無効化するさ」

「それそれ、それを試してみたかったんだ」

 

 

 指差し、少し寄ってきて小声になる。

 ナニをしようとしているのか。

 

 

「アタシの魔法無効化で障壁を無効化すれば、仮契約できるんじゃないの……?」

「……できるとしてもやめておいたほうがいいと俺は思うなー……」

 

 

 こいつ、黄昏の姫巫女として記憶が戻ったからかもう自在に扱えるってことかよ。

 

 そっちはまあともかくとして、俺的に仮契約にはちょっと否定的な部分があるので、契約できなければ出来ないでそのままにしておいた方がいいと思うのだ。

 手っ取り早く魔法の世界に足を踏み入れられる仮契約であるけど、俺はそのシステム自体を首輪に近い印象として捉えてる。思い出すのは原作知識の修学旅行。一般人でしかなかったはずの宮崎がレアモノのアイテムを得た所為で、協会襲撃の際はフェイトに真っ先に狙われた。

 首輪というのは契約主被契約者どちらにとってもという意味で、互いが互いを束縛する少々見え難い鎖のようにも思えてしまう。実力者は弱点から狙うのが定石だ。『弱点』となり得る存在を増やすのはどうなのか、と若干思うわけで。

 

 そんな少し真面目なことを考えていたのだが、

 

 

「あー、そうかもねー。そらが駄目ならネギと契約すればいいんじゃないか、ってカモが言ってたとき、乙女の唇をどれだけ安く見てるんだお前ー、ってゆーなとかがカモのことすっごい締め上げてたし」

 

 

 と、なんだか違う着地点での回答をする明日菜。

 いや、そういうつもりで話したわけじゃないんだけどなぁ……。まあいいか。

 

 

   × × × × ×

 

 

「あ、そーだネギ君。完全石化解呪呪文の術式をさっき手に入れたんだけど、キミいくらまで出せる?」

「はいぃぃぃっ!?」

 

 

 




~漂白そら
 臨死を乗り越えて踏み台転生者に覚醒進化!
 似娘歩!撫手歩!トレースオォン!

~ヘルマンだと思った?残念!亜なんとかちゃんでした!
 これには作者も苦笑い

~仮契約
 同時期に契約した四人はともかく、その内のガチネギ好きののどかとあやかとまきえが囲っている限り仮契約者が増える恐れが無いんじゃないかと勘繰ってしまふ
 あとは周囲の女子の倫理問題かもね

~伯爵どーした?
 犠牲になったのだ・・・クタァトの犠牲にな・・・
 補足すると、クタァトは魔物とかを蠱毒的な方法で掛け合わせたある意味純正の使い魔なので、悪魔を捕食することも可能です。捕食された悪魔は返還不可になるけど・・・


ひゃっはー!ようやく麻帆良祭に突入できるぜぇー!
そういう思いで書いた修行編+ヘルマン編エピローグ
ふたを開けてみれば亜子がいつの間にかいる、だと・・・?
おかしい。そういえば学園祭で逸話を書く予定だったのに何故か魔法生徒としているし・・・

ま、まあ問題ない、よね?
女の子が増えるのは悪いことじゃないよね!うん!

次回は多分色々思惑飛び交うIFの6
コレジャナイ感がやっぱりすげぇあるだろう話です
では。


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『IFルート【その6】』

そらも居なければネギも居ねぇ
UQ的な番外編
思いついたらやっとくべきだってブギーでポップな自動的な死神が囁いた気がしたから描いてしまった
浮かんで消えるのは泡沫の云々なIFの6

でも一番興味を惹かれそうなのは本編じゃなくてあとがきかも知れなry


 

「スマンッ!!間違ってお主を死なせてしまった!お詫びといってはナンじゃが漫画の世界に転生させてやるから新しい人生を歩むといい!ちなみに儂は神じゃ!」

「えええっ!?ちょ、ちょっとまってちょっと待て!」

「好きな特典を要求することも許してやるぞ!但し一つだけじゃがな!」

 

 

 なんという一方的なテンプレ発言。一瞬勢いに流されそうになってしまいそうになるけど土下座姿勢だというのに焦らせる口調の神(自称)の爺にリアクション以上に付き合うつもりも無い。

 相手が捲し立てても、焦らず騒がず。こういうときは転生特典をじっくり選ぶべきだってジッチャが言ってた。

 

 

「うーん、そうだなぁー、えーと、えっとーぉ」

「あと五秒じゃ!ハリーハリー!」

「短ぇ!?え、ええっと、じゃあ魔法!魔法の使えるようになりたいなー!」

 

 

 生まれ変わっても常識を覆せない人生なんて真っ平御免。最低限レベルの要求を口にする。こうしておけばある程度はそういう概念のある世界に転生できるだろうという目論見も若干あるけどー!

 なのはとかー、ネギまとかー、ドラクエとかのRPG系とかー!?

 魔法にしておけばガンツとかH×Hとかの危険度マックスな世界には行かないだろう。という回避法でもあるのは言わなくてもわかるよね!

 よしんば行けなかったとしても、そういう世界ならば俺だけ無敵になれる可能性もあるしっ?

 

 

「宜しい!それではお主の行く世界は『UQホルダー』じゃ!」

「え、ナニソレまったくわくわくしない」

 

 

 期待を裏切られた気分で心底がっかりだよ!

 

 

   ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 二次元転生の醍醐味って先の展開を知っているとか、原作ブレイクするチートとかだよね。コミックにすらなって無い原作にいきなり行けって言われてもさ、正直面白味が薄いのだけど。

 そんな感想で始まった第二の人生。俺はちょっと途方に暮れていた。

 確かに世界観としての魔法はある。ネギま世界が元になっているし、可愛い女の子がデフォルトの世界なのだから普通に過ごしていても小躍りすべき第一希望の世界だ。

 

 俺自身が主人公じゃなければな!

 

 近衛刀太って疑いようがないじゃん!主人公じゃん!雪姫っつう美人女教師と一緒に暮らしてるし、田舎の学校に通っているしで100%確定じゃん!

 でもこの原作途中までしか読んでないけど可愛いのって男しか出てなくね!?旅仲間で一番可愛いのってエヴァじゃなくてクローくんじゃね!?正直実は女の子だったって言われても驚愕せずにああやっぱりね、って納得すると思うよ!

 原作ではそんな気配中々無いけどね!

 でもってやっぱり可愛い女の子の気配が微塵も感じられない、狙っている読者層が若干マニアックな気配しか見えないストーリーだけどねー!

 お色気担当が男子ってナニを狙ってるんでしょうかねぇーぇー!?

 

 ――ふぅ。で、だ。

 俺は気付いたら『近衛刀太』として転生していたわけだけど、此処に至るまでの記憶がすっぽりと抜けているのはどういうことなんだ。

 あれか、原作準拠にするためにストーリーを大幅変更しないための措置でも取ってるのか?

 

 記憶喪失という旨で生活しつつも特に不便もなく一年生活できた。手に出来る娯楽は非常に少なかったけど、魔法を教えてーと頼んでみたら修行をつけられる。特典のこともあるだろうから、やらなくても平気だろう、って考えで基本怠けてたけど。

 魔法を使えるようになったら頑張る。

 原作にあった吸血鬼ハンターらしき先生が現れたらまず疑ってかかってみようかと思うわ。噂のアプリを取り上げてからな!

 

 そんなことを企んでいたら真っ先に田舎諸共襲撃受けたでゴザル。

 

 アエエエエエエエエ!!!? ナンデェェェェッ!!!?

 

 いやおかしいだろ!?先ずは潜伏してエヴァの隙を窺っていなかったっけ!?

 

 混乱のうちに狩り尽くされる近所の人々。首を刎ねられる友人知人。火で染まる日本の原風景。

 呆然としながら、戦争ってこんななのかな、なんて他人事みたいに思っていた。

 

 

「――……っは、トータ、生きてたか……!」「っ!雪っ! ひ、め……」

 

 

 声に振り向けば、両腕と顔の上半分を切り落とされてふらつきながら近づいてくるエヴァの姿が目に入って、思わず絶句した。

 え、いきなり敗北色が濃厚すぎるんですけど?

 この後で俺がそのハンターをぬっころすの?

 ぬっころせるのか?本当に?

 

 

「お、俺は、ナニをすればいい……?」

 

 

 逃げたい。逃げたいけど多分無理だ。

 だったら反撃できる力を、せめて生き延びられる力を得るために台詞と行動を選択しなくちゃならない。

 尋ねたとき、エヴァが一瞬驚いたように見えたけど、すぐに微笑う。その顔は痛みからかそれとも両腕の無い違和感からか、強張っているようにしか見えなかったけど。

 というか下顎しか残っていないのに顔と呼べないとか突っ込むなよ?ここは多分我慢するところだ。

 

 

「そう、だな、先ずは――」

 

 

 エヴァが恐らくは不死化するための最終工程の説明に入る。それを聞く体勢になって、そういえば俺は普段から怠けていたな、と日頃の努力のなさを今更ながら後悔する。

 でも、こんな死に方は望んでいないのは確かなんだ。

 俺だってやるときはやるんだ!前世ではぐうたらしていた現代日本の大学生だったけどな、せっかくの新しい人生を、こんな場所で潰されて堪るか!

 

 

「――力の限り、ぶん殴れ」

 

 

 その言葉に疑問を抱くより先に、茂みからハンターらしき見知らぬ男が飛び出てきた。

 修行は怠けていたけど、俺の身体能力は前世とは比べ物にならない程度には良好だ。向上した動体視力でその姿を捉え、エヴァに飛び掛かる男を力の限りぶん殴ってやったぜ!

 

 

「おっらぁああああああ!!!」

 

 

 ――インパクトの瞬間、俺の中の何かが弾けた。

 

 ――そして、コブシを振りぬいて、視界がおかしいことに気付く。

 片目が見え辛くなってる……?

 触れてみれば、もしゃもしゃとした羽のような感触が右の目にあった。

 

 

「――………………は?」

 

 

 あ、あれ……?

 不死化は……?

 

 

「なん……なんだ、これ……?」

 

「――く……くく、くふ……」

 

「ゆ、ゆき、ひめ……?」

 

 

 通り過ぎて佇んでいるエヴァが、笑ったような声を漏らしたように聞こえて。

 そういえば、顔すら残っていないのにどうやって発音しているのかなぁ、とかどうでもいいようなことを思いながら。

 恐る恐る振り向いて、

 

 

「くふははっ、かっは、く、クカカカカカカカカカカカカカ!!!成功成功!成功したヨ!!!」

 

 

 狂ったように絶叫する、顔の無い女の姿を、そこに見た。

 

 どうすればいいのか、何を聞けばいいのかもわからず、絶句したままに呆然と、高らかに嗤うその半死体の女を見る。

 しばらく嗤うと、エヴァはふらついた姿勢のままにだが、ゆっくりとこちらへ近づいてきた。

 思わず、半歩後ずさる。

 

 

「疑問に、思わなかった、か?自分が、記憶を失っていること、に」

 

 

 思っていた。

 思っていたけど、でも『そういうものなんだ』と頭の何処かで納得しかけていた。

 

 

「私と出会った記憶は?その年になるまで成長した記憶は?自分の好物と、趣味思考と、運動能力と、癖と、思うことはなかったか、自身の感じる齟齬は?」

 

 

 前世は甘物をよく食べていた。塩辛いものも好きだった。酒も飲んでいた。

 今世では酒は飲め無いのは当然とは思っていても、甘いものが苦手になった。自然食を食うようになっていた。怠けるようにしたかったのもあるけど、ある程度は動かなくては一日の気が済まないときもあった。身体をよく動かしたいと思っていた。 生まれ変わったから、それで出てきた差異だとばかり思っていた。

 

 

「魂の記憶までは奪えなくても、物理的なものならば奪うことも不可能じゃない。記憶が飛んだ、と思っていたのは間違いじゃない。お前の記憶は、私が奪った。脳を半分戴くのに、子供程度大した労力も必要ない」

 

 

 ふらふらと身体を揺すりながら話す。

 まるでこちらを嘲笑っているように。

 事実そうなのだろうとは思えた。言葉だけで心情はがたがたに崩れ去り、想定していた記憶と現状との齟齬が俺の心を再起不能なまでに縛り付けている。

 と、いうか、一番の疑問があった。

 

 

「……お、前……、誰だ……?」

 

「――クカカカッ!」

 

 

 こいつは、エヴァンジェリンじゃない。

 想定している通りではない吸血鬼だとしても、こんなに醜悪で邪悪に堕ちるほど、歪みまくっているとは到底思えない。思いたくなかった。

 

 

「不満、カネ? キミの前世の記憶から面白そうなものを見つけた。だから、それを使ってこの村を再現した。美人の保護者も用意した。特別な身体を用意した。特別な立場も用意した。なかなか骨が折れたが、楽しい一年だったよ」

 

 

 からからと嗤う。

 その言葉に、乾いていた俺の心は完全に折れた。

 膝から力が抜けて、地に崩れる。

 

 

「………………気を許しているようだった……」

 

「そうしなくては家族とは呼べないだろうからネ」

 

「…………自分がわからなくなって不安なときもあった……」

 

「そっと優しく抱きしめてあげたよネ、今となってはただの慰めだけドも」

 

「……深夜に徹夜で勉強していたときうたた寝していた俺に毛布をかけてくれた…………」

 

「ああ、そんなこともあったネ。頑張る姿は実に素晴らしかたヨ」

 

「俺の作った不味い料理を、美味しいといって食べてくれた………………ッ!!!」

 

「滑稽だ、と思う感情は、実に好い調味料足りえたからネ」

 

 

 ベロ、と舌を出しているような仕草で吐きたくなるような応えを出した。

 血まみれの布のようなものが、ひらひらと開けた咽喉から覗くのが見えた。

 

 

「ゆ、き、ひ、めぇええええええ!!!」

 

「カカカッ!」

 

 

 怒りに任せて殴りかかろうと走り出す、

 

 ――瞬間、俺の身体を無数の紙のようなものが取り巻いて、地べたへと這い蹲らせられる!?

 それを放ったのは――、ハンターに首を刈り取られてはずの友人の一人。若干肥ましい同年齢だと思っていた少年が、首の無いままにこちらへと手のひらを向けていた。

 

 

「――っ、はぁっ!?」

 

「ダメダメ、焦るのは好くないヨ?」

 

 

 嗤うように言葉を続ける女は、その身体を仰け反らせた。かと思うと胸が更に大きく膨らんで、そのまま上体全てが破裂する――。

 

 ――そこから飛び出したのは、やはり肥ましいオールバックのオッサンの首。

 

 オッサンの首は少年の身体に飛び掛かり、首の上へと着地すると、ぐりぐりと蠢いて癒着したようだった。

 

 

「――ふぅー、流石に一年も仮の肉体に納まっていてはブランクもあるかネ。初めましてカネ、少年。私のナは馬呑吐、しがない幽棲導師ダヨ」

 

 

 マートンツー、と名乗ったオッサンは、そのまま俺の身体を縛り付けている紙を自身の体に巻く。するとその紙は、白いスーツへと形態を変えた。

 

 

「さて、少年は魔法を使いたいという願いを持っていたそうだネ? ネタ晴らしとイウモノをさせてもらうが、その眼球から飛び出ている羽はそれに実に近しい願いを叶えてくれる代物だヨ? ごく狭い範囲でしかないが気象操作アーティファクト足りえるものだ。私が作ったから名前などまだ無いがネ」

 

 

 転生特典が何処に行ったのかと思っていたらこんなところに!?

 というかそんなの今はどうでもいい!それよりもこれが魔法を扱えるのだとしたら、このオッサンを殴れるだけの魔法を手にしろ!目覚めろ俺の真の力ぁぁぁ!

 

 

「少年は実に好い働きをしてくれた。襲撃があると予測できる情報をくれたし、その実験台として相応の血統も揃えてくれるとは予想だにしていなかった。イヤハヤ、あの日の出会いに感謝したいところだヨ」

 

「お前、が、脳を、記憶を、奪ったんだろう、がぁ……!!」

 

「そうだヨ? 最初に其処から手をつけた。それが実に僥倖だった。いくら私の領分とはいえ、完全に殺してしまっては無駄足を踏むところであったからネ。これはやはり、私のグルメっぷりに拍手したいヨ」

 

「ぁあっ……!?」

 

「実に美味かったよ、キミの脳みそ(記憶)はネ」

 

 

 こいつ、実際に食ったのか……!?

 目の前のオッサンのカニバリズムっぷりにドン引きする。というか、俺このままだとモグモグされるのでは……っ!?

 

 

「キミの体験は有効に使わせてモラウ。本当はフェイ・ウーロンを再現出来ないかと始めた実験だったが、実に好い試金石足り得た。似たようなものを作るのに、これ以上の情報(記憶)は無いからネ。

 ――デハ、そろそろ回収させてもらおうカ」

 

 

 やっぱりぃぃぃいいい!?

 表在化する食人の恐怖に更に身体に力が入らなくなる。

 というかオッサンがゆっくりと近づいてきてる!

 誰か助けてぇ!!!

 

 

 ――そう叫びたくなった瞬間、オッサンを小さい影が蹴っ飛ばした。

 

 

 ノォウ!と短い悲鳴を上げてすっ飛ばされるデブのオッサン。

 蹴っ飛ばした小さい影は、俺の目の前へとスタッと着地し、

 

 

「はーい!ちぅだっぴょーん♪」

 

 

 くるり、とポーズを決めてそんな台詞をのたまった。

 

 っていうか、ちぅたん!?

 長谷川千雨!?

 しかも幼女Ver!?

 あれ!? おかしくね!?

 

 

「――なーんて、言ってる場合でもねえだろうがな。おい、大丈夫か?」

 

 

 おあああ! こ、この三十路の岬で演歌を歌うようなキャラ崩壊やさぐれモードは紛う事なきネギまちぅたん!?

 なんでさ! 俺の来た世界が年代通りならもういないんじゃねえのこのお人も!?

 

 

「――はっ、電子の妖精か……! こんな場所までご苦労なことだネ……!?」

 

「オメェーに言われたくねえな馬呑吐。でかい釣り針仕掛けておきながら、アタシが来ねえって本気で思ってたわけでもねぇだろ?」

 

 

 か、顔見知りなんすかお二方……?

 互いに笑いながら話す二人。しかしその笑みは敵意をじんわりと染み出させるような、獰猛な攻撃色を浮かばせている。

 お互いを目障りな敵だと認識しているような。そんな不敵な笑みを浮かべつつ、二人の会話は続く。

 

 

「しかも僵尸(キョンシー)でもねえ、生きた人間を釣り針にするとか珍しい。が、どういうつもりか知らんが名前は見逃せなかったな」

 

 

 え、な、なんのお話で……?

 

 

「近衛このかに子供はいない。近衛家は一応として断絶してるというのに、よりにもよって『近衛』刀太? どういうつもりで名づけやがった?」

 

 

 は?

 え、じゃあ俺って結局何処の子なの?

 

 

「ま、それは追々として。こいつが特別製だというなら奪い取れば少しはお前ェの動きも阻害できるんじゃねえのか?」

 

「ハッ!やれるのかネ?その身体、見たところ先ほどの男が素体になっているのダロウ?プログラム体を転移させるだけで、備えていた魔力も尽き始めているのではないかネ?」

 

 

 さっきの男って……、ハンターか?

 ちぅたん本人じゃないのか? やっぱり?

 

 こちらが狼狽している間に、オッサンは首を刎ねられた死体の山を総動員してぞろぞろと集めさせている。とはいっても、全部が全部揃うわけじゃないらしく、焼かれて身動きの取れない死体も多数あるようだった。

 ……これが全部、俺を騙すために用意されたってことは、大量殺戮の片棒を担いだってことになるのか?やっぱ……?

 

 

「舐めてんじゃねぇぞ馬呑吐、その程度の挑発で臆するアタシじゃねえ」

 

 

 応えると、ちぅたんはUSBメモリを取り出して、まるで咥え煙草をそうするように、歯で挟むようにして口に咥えた。

 

 

「こんなこともあろうかとな、アタシの端末には一通りのアプリを所持させてんだよ。――『術式兵装・滅竜塵凱(ドラゴン・インストール)』ッ!!!」

 

 

 ボッ、と魔力光らしきものがちぅたんを覆い、獰猛な笑みは更に凶悪に歪む。

 見る見るうちにちぅたんの姿は変貌していった。……って、ハァァァアアア!!?

 

 

「手前ぇを再起不能にすればそれで仕舞いだ、地獄に落としてやるよ馬呑吐……ッ!」

 

「面白い、私が死ぬのが先か、お前の魔力が尽きるのが先か、一つ、チキンレースと逝こうではないかネ……ッ!?」

 

 

 紙のようなものを腕に巻き、ドリルを作り上げたオッサンに対して!

 闇の魔法に侵食されて暴走状態に陥ったネギのように変貌し、前傾姿勢のままにちぅたんが突貫してゆく!

 

 そうして互いの人外は、集落一つを火の海に変えて激突した――!!!

 

 

 

 

 ――……って、結局俺の転生してきたこの世界って『UQホルダー』で合ってるの!?

 誰か、教えてくださぁーいぃ……!!!

 

 

   『UQ宵闇草紙:第一話(続かない)』

 




〜近衛刀太
 UQ原作主人公。どう見ても毛色の違うナギにしか見えない性格。多分原作ではエヴァがそうなるように矯正したんじゃないかって思ってる。若しくは遺伝か?
 この世界線においては転生者が乗り移った上に馬呑吐によって魔改造された可哀想な少年。脳みそを半分食われて記憶を奪われ、その開いた隙間にアーティファクト『天狗の羽団扇(模造品)』を圧縮して埋め込まれる。使い手のキャパ次第では大竜巻を引き起こせるらしい馬の珠玉の一品。
 一応はネギの曾孫、という設定を隠し持っている。原作でガチでネギの血統なのかは今のところどっちでもいいや。

〜馬呑吐
 異世界から帰ってきたら世の中そこそこ平和になっていてどうしたものかと狼狽えるも、人生を謳歌することに変わりない、と相も変わらず外道ならライフワークで人を食うオッサン(物理)。ヒヒイロカネの骨格を持っていて肉体が古くなるたびに様々なところを飛び回り若い筋と腑を収集するために時には集落一つを犠牲にする。サドでマゾでデブの吸精鬼。一応は真祖でもあるのでこいつもUQホルダーに入れてやってよ。組織がどうなるか知らんけど。
 転生者の好奇心を優先し知識を採用して村を一つ再現して見せたとっても優しいデブ。自らはエヴァ大人Verの肉体(継ぎ接ぎ死体製)に首だけ納まっていた裏から支えていた超監督。演技の腕も抜群だ!

〜ちぅ
 長谷川千雨の思考トレースでプログラムされた電子の妖精。千雨の思考が元になっているので面倒事を極端に嫌う性質を持つ。なのでネット世界を荒らされることを極端に嫌う彼女に任せれば電脳世界の安全はほぼ不眠不休で守ってくれる。コアなファンもついてる電脳世界の鉄壁ガーディアン。
 人形使い(ドールマスター)茶々丸Ver.5と大河内明流(アケル)元監察官(72)との三人体制で、科学と魔法の文化の隙間の平和を今日も守れ!
 ちなみにアケルさんはそらとアキラとの娘さん。

〜『術式兵装・滅竜塵凱(ドラゴン・インストール)』
 一時的にドラゴンスレイヤー相当の膂力と魔力を得られる代わりに、解除後の凄い反動と魔法使用制限が掛かる諸刃の剣的な魔法アプリ。
 ドラゴンスレイヤーとは、生身でドラゴンと相応に戦い合えるもののことを指すッ!!!

〜主人公に何の恨みが
 特に理由は無い。


最終的にこのかさんはせっちゃんと結婚したからね
�PS細胞とか使えば女同士でも子供作れるかも知れんけどそこまでやる気はなかったみたいよ?
っていう未来の世界線。エヴァ?火星でそらとかとロハスな生活を送ってるよー

設定上は色々考えたのだけどものすげぇネタバレっつうか方向性違う話になりそうなので今回此処まで
次回のIFでこの世界線の前述譚とかやれたらいいなーって妄想してるw
作った設定をそこで放流できることを信じてまた次回。では


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すーぱーアクロバティック麻帆良祭編
『若干奇抜なプロローグ』


すーぱーアクロバティック麻帆良祭編
始動


 

「ラステル・マステル・マギステル! 光集いて敵を捉えよ、光の射手11矢! 術式固定! そして掌握ッ!

 ――術式兵装、『天の光は全て星(スターライト・アデルパ)』ァァァァッ!」

 

 

 光の魔法を闇の魔法で内側へ取り込んだネギ君がそこに居た。術式の名称は日本の漫画を参考にしたらしい。

 というか、教えたのか闇の魔法。そんな意味を込めてちらりとエヴァ姉を見やる。若干呆然としたような表情で佇むロリ吸血鬼がそこに居る。

 

 

「(いや、私は何も教えて無いぞ)」

「(コイツ、直接脳内に……!?)」

 

 

 念話の返答に再度驚愕の表情で薬味坊主を見る。

 開発したのか、自分で……?

 若干ドヤ顔のネギ君が仁王立ちのままこちらへと声を向ける。

 

 

「ど、どうですか、そらさん! 初心者モードを攻略するために作った魔法なんですけど、これで!」

 

「あー。うん。まあすげぇけど。ナニ? 苦しそうに見えるけどまだ改良の余地があるとか?」

 

「僕の今の制御力じゃ! 五分が限界なんです! 力を抜くと魔法が暴発し、は、は……ハクシュッ!」

 

「「「キャーーーッ!?」」」

 

 

 くしゃみと同時に制御が崩れた模様。解放された魔力の余波は『何故か』武装解除に変化し、珍しそうに一番近くでそれを眺めていたゆーな・和泉・明日菜の三人の衣服を光へと変えた。

 一番距離を取っていたのは雪広を始めとしたネギまパーティなので、そういう結果がよくあったのだろう、と推測できる。

 ちなみにこのかも近くで眺めていたのだが、危機に気付いたせっちゃんに連れられて瞬即離脱していた。

 

 

「ちょっとぉぉぉ!? ナニ人の服消し飛ばしてんのネギくーーーん!?」

「ひやぁあああん!?」

「こ、こらー!ネギ坊主!あんたねぇええええ!?」

 

「ご、ごめんなさぁいいいい!!!」

 

 

 久方振りに見るような阿鼻叫喚のエロコメディ。

 皆が笑ってる。お日様も笑ってる。

 ついでとばかりに俺もげらげら笑わせてもらった。

 

 

「ま、面白いものが見れたし、いいぜネギ君。今ので石化解除術式の御代は少しまけてやるよ」

 

「ほ、本当ですかっ! ありがとうございまびゅふっ!?」

 

「暢気に話してるんじゃないわよ!?」

 

 

 明日菜の一撃がネギ君の顔面を横殴りに吹っ飛ばした。

 武器が無いので得物は離脱の際にせっちゃんがその場に置き去りにしていった長物である。木刀かな。おお怖い怖い。

 

 

「って、ちょ、そらっち向こう向いててよ!?」

「こ、こっちみんといてやー!?」

 

 

 殴られるのは御免なので三人のことは茶々姉妹に任せ、俺はとっとと退散しようか。

 

 

「逃すかぁぁぁっ!」

 

 

 ちょっ、バカ明日菜!全裸で追ってくるな!?

 

 

   × × × × ×

 

 

 俺のせいではないので攻撃を受ける謂れも無い。武器を振るうたびに震える胸部に目を奪われつつ、上着を放り投げるという犠牲のみで何とか無傷で逃げ切った俺は、最初から避難位置に居たネギまパーティに詳しい事情を聞きに行った。

 

 

「で、何か質問でもあるのですかエッチな烏丸さん?」

「思わず見ちゃうのは仕方ないだろうがよ、その枕詞で俺を呼ぶの止めて?」

 

 

 最近ゆえきちの視線が中々辛らつで。

 

 

「面白いものを見たから、などと言ってたような」

「それは術式の方だよ。掌握して取り込むとか、普通は考えないだろ」

「そうしないと魔法が上手く扱えない、ってネギ先生が言ってましたよ?」

「一か百しかないのかあの子は」

 

 

 確かに魔力結合がやりづらい空間ではあるけど、制御力を得るための修行場だからそうなるのはむしろ仕様。それでどれだけ射程を伸ばせるか、っていうのが割と正規の課題なのだが、あの様子だと魔法を掴んで近づいて殴れ!という別種の『正解』に傾いたのかもしれない。

 間違いではないけど、大いに間違いだ。

 

 

「あとあれさ、何で光魔法なんだ? 正直ネギ君なら雷の魔法を取り込んだほうが攻撃力向上したんじゃないかな、って思ったけど」

 

 

 原作みたいにな!

 というか自力で作るほどまで切迫するようなダンジョンだっただろうか。

 

 

「雷だと先行放電がありますからね。それだと察知されやすいので、光速化を皆で相談しあって目指しました」

「……いや、先行放電察知する奴って、そんなに居ないだろ……」

「というかそういう敵がいたんですよ。五階くらいでしょうか、雷の魔法を吸収するタイプのボスでして、雷速で移動・攻撃をされました」

 

 

 ……あー、そういえば居たわ。雷獣だな、それは。

 製作の段階で鬼っ娘にしようかとも思いかけたけど、剥ぎ取り前提だから獣の槍な『あの獣』に。ちなみに意思の疎通は無理。倒して内臓を奪取すれば雷耐性を付加できる『雷の魔水晶』という宝飾アイテムの原材料が手に入る。

 

 

「それとあやかさんが対処できていましたからね。同じように雷化は芸が無い、って皆で思いました」

「……なんて?」

「雪広流に雷程度の速度は通用しませんわ」

 

 

 可笑しな意見が聞こえた気がして聞き返せば、ドヤ顔で雪広あやかが胸を張る。

 ……対処できたんかいこの女ラカン。

 俺の幼なじみがこんなにチートなわけが無いと思っていたかったけどそうでもなかった。

 

 

「ひ、ひどい目に合いました……」

「それはこっちの台詞よ」

「えっちなのはいけないよーネギ君!」

「ついでにクラスで堂々とうちらの着替えを覗くのも止めた方がええと思うけどなぁ……」

「覗いてませんよ!?」

「注意が散漫なのが一番の問題よ。教室に入る前に確認ぐらいしなさい」

「まああたし等にもそういう意識が無いのが問題かもしれないけどさー」

 

 

 ぐちぐち言いながら城内へと戻ってきた四人。女子は全員が茶々姉妹の用意したミニスカゴスロリで身を着飾っていて非情に素晴らしく思います。前から思っていたけどメイド服に見えるのは仕様なのか?

 あとネギ君はそろそろ逮捕されるべき。

 

 

「あ、そら、上着返したいからちょっとこっちにきなさい」

 

「いやいや、正直そろそろ衣替えの季節だからもうガクランはいらないかなーと思っていたんだよ。そのまま保管するように茶々姉妹に渡しておいてもらえるかな」

 

「いいからきなさい。痛くしないから。先っぽだけだから」

 

 

 何の先っぽだよ。

 ちらちらと後ろ手に隠し持っている長物が脚の隙間から見えてるぞー。

 

 

「そういえば烏丸さんにも質問があったのです」

「ん?」

 

 

 じり、じり、と距離を取っている俺と明日菜の攻防を尻目に、ゆえきちが言葉を投げる。

 

 

「私たちは三ヶ月かかって初心者モードを攻略しましたが、烏丸さんは既に全部を攻略したのですか?」

「したよー?」

「……参考までに、どれくらいの時間を要したのでしょうか……?」

「五年かな」

 

 

 総合して、だけど。

 さすがに全部を全部攻略するのに一朝一夕にはできなかったわ。

 

 

「………………烏丸先輩、とお呼びすべきでしょうか」

「なんでだ」

 

 

 見ると全員が似たような表情でこっちを見ていた。

 妙にしんと静まり返った沈黙には非情に異議を申し立てたい。

 

 

「いえ、だって、同年齢に+5ですよね?最低でも」

「ちげぇーよ。んー……、説明したいけどその前に。ネギ君、ダンジョンの続きってまだやる?」

 

「うぇっ!? えーと、正直更に攻略に時間をかけるほどの暇は無いかなーってちょっと思っているのですぐに上級者モードへ移行するのは勘弁願いたいといいますか……」

 

「ん。要するにやる気は無いと」

 

「や、やる気ならありますよっ!?」

 

 

 なんか焦ったような薬味坊主。あれか、修行終了と思ってる?

 

 

「まあどっちでもいいや。初心者モード以外は割りと趣味の範囲だから」

 

『ええぇー……』

 

 

 全員の声が綺麗に揃った。

 文句あんのか。そもそも趣味が高じないとこんなもの作らんわ。

 

 

「最低限度攻略できれば大体の課題は攻略しているって思って構わないんだよ。

 で、ちょっとネタバレするけど、あのダンジョンは正直言って現実じゃない」

 

『ハイ?』

 

 

 再び揃うのを聞き流しつつ続ける。

 

 

「リアルに作りすぎた仮想現実が正解だ。同時に時間を圧縮しているから浮上したときの齟齬に気付かないってだけでな」

 

 

 沈黙。

 見渡せば全員が理解の追いついていない表情をしていた。絶句とも言う。

 構わず説明を続けた。

 

 

「だから死んでも生き返れる。優先されるのは意識だから、死んでても味方がいれば状況を知覚できる。意識と精神を成長させて、肉体の正しい動かし方を意識的に刷り込むためのシミュレーテッドアミュリティ、だっけ? そういうやつだ。

 肉体的な成長は付加されないけど、仮想体にかかる負荷は現実以上だから、現実に戻ったときの身体の動かし方をイヤでも実感できるはずだ。思考の高速化とでも言えばいいか。達人が極限に至るような、それほどまでは行かないだろうけど、判断力と行動力を伸ばすことが可能になる。

 アイテムを攻略しないと持ってこれないのは、クリアボーナスみたいなもんだ。中で過ごしても肉体的な成長はできないけどな」

「ちょ、ちょっと待ってください? 仮想現実だとして、どうやって中のものを持ってこれるのですか?」

 

 

 いち早く復帰したゆえきちが慌てたように質問する。

 慌てたようではあるけど質問は的確である。

 

 

「それに対する答えはこれだ。魔力構成物質顕在化術式、効果は前にも見せたはずだけど?」

 

 

 それに更に驚いた表情を見せたのは明日菜だった。

 どうやらこれがどういうものかを理解したらしい。

 

 

「……覚えがないのですけど……」

「魔法世界の土産物を持ってくるときに使ったじゃないか。魔法世界産の土産は基本的に外界に持ち出せない代物だぜ?物理的にな」

 

 

 思い出せ、インスマスクッキーを。

 

 

「そうだったのですか……?

 ――?あれ?

 えーと……、烏丸さん、魔法世界のものが持ち出せない代物って、つまり……」

 

 

 あ。

 

 

「――ま、いいか。もう此処まで言っちゃったら今更誤魔化しも利かないだろうしな」

 

 

 全員がゆえきちと同じく悟ったような表情で、俺の次の言葉を待っていた。

 

 

「魔法世界も同じように、現実じゃないのさ。あそこは火星の表層に構築された幻想世界だ」

 

『――はいぃ!?』

 

 

 更なる爆弾発言に、城内が騒がしく沸いた。

 

 

 




~天の光は全て星
 ルビの方はマテパの五本指・ヨマの使う魔法より参照。あっちがムーンに対してこちらはもうちょっと色々使えてるんだぜ、っていうネギの意思表示。
 光の速さを再現できる直接攻撃専用術式兵装(未完成)。正直光の魔法を持っていたはずの原作ネギは何故これをやろうとしなかったのかと問い詰めたいところ。

~木刀を振るう=ヒロイン
 割と正しい数式に見えるのはラノベ作家の気のせい。同系式に『暴力を振るう=ヒロイン』という間違った数式もある。

~武器を振るうたびに震える
 乳肉だよ。言わせんな恥ずかしい。
 原作と体つきに大差は無いので多分B程度か?もっと大きく見える?中学生だぜ?目の錯覚じゃね?これからこれから。

~獣の槍
 意思疎通の通用しない長飛丸。総合戦力は原作より大幅ダウン。
 ちなみに内臓から取り出せる『雷の魔水晶』は避雷針とアースを併用したような性質を持つ。雷属性の攻撃を吸収して容量を超えると弾けて混ざる(←ナニと)。

~雪広流柔術に隙はありませんわ!
 天地魔闘の構えで長飛丸を待ち構えるあやかを妄想した。

~魔力構成物質顕在化術式
 ファンタジー素材の性質を劣化させることなく扱いたいがために作られた術式。使用者+世界の魔力を介入させてその世界でも存在可能な状態で顕在させる。小難しい理屈は置いといて、要は魔法世界を構成する古代術式の下位互換。物質にだけなんとか通用するので人間や動物・怪物・魔獣などの生物には適用できないらしい。


今回でこの先何人かの説明要員が不必要になった気がする
そらが火星云々を知ってるのは原作知識が前提になっていますけど、探そうとすればそれらを裏付ける証拠はキチンと世の中にあるらしいので問題ありません
多分この後その他色々と説明し切ってしまったような気もする
もうやめて!メガロメセンブリアの出番はとっくにゼロよ!

一応この世界線自体が宵闇とクロスしてるのでちうたんが寅蔵と血縁関係なんじゃね?って意見も色々でてるみたいだけど、寅蔵が子供成したとしても家庭を持つようには思えない
関係していたとしても、最低イディオティックと霧間凪みたいな関係性だと想像する程度が俺の限界です
あれ、それでも充分に怖いのか

あと最近、そらとその使い魔が出揃っているから、合わせて五人(五体?)だけど、エヴァを最終ボスみたいな立ち位置にしてその前座的な師団長的存在として、とかって色々妄想してる。ダイの大●険みたいな構成で
正直フレ●ザードとクロ●ダインが居れば六武将とかに充分匹敵しそうな気がする
氷雪系のセルシウスに炎熱系のハチリュウ、水棲魔族のクタァトに超筋肉ヘラクレスをそこらに当て嵌める
そらはデ●ボネかミス●バーン枠、術師系か科学者若しくは参謀タイプ。あと必要なのは剣士かな。ヒュ●ケルみたいな
・・・せっちゃんで良くね?妖刀持たせて魔闘剣士刹那!とかってどうだろう
戯言だけどー。では


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『これはアレだね、DKSSだね』

前回のネギマジに多くのご意見ご感想を戴きましてまことにありがとうございました
基本的にネタが大半を占めるこの作品にこんなに真面目な意見を下さるとか皆様の妄想力も中々ぱねぇなと改めて心に留めておきます
それ以上のクオリティ目指して今後も頑張って書いてく所存です

今回も恒例のキンクリ仕様
この作品はこれで通常運転ですw


 

「始動キーが決まらないのですけどどんな風にしましょうかね」

「ぱめるくらるくろりろりぽっぷ、でいいんじゃね?」

「真面目に答えてください」

 

 

 文化祭の準備が始まった麻帆良の一角にて、相談があるからとゆえきちに呼び出されてほいほい来てみればこんな内容だよ。正直知らんがな。

 

 

「真面目だよー。すこぶる真面目だよー。ゆえきちはロリィな面をもっと推し出すべき。ピーカブースタイルで上目遣いとかされれば並の魔法使いでもノックアウトだぜぃ」

「魔法使いが皆ロリコンみたいな物言いはどうかと。それで退治できるのは烏丸さん程度ですよ」

「いい加減苗字呼びじゃなくって名前で統一しても良いと思うのだけど。お兄ちゃんでも可」

「そういうのは小太郎ちゃんとかに頼めばどうですか? というかいつまでそういう風に話題を続けるのですか。いい加減戻ってきてください」

 

 

 この烏丸、ロリコン呼ばわりしても堪える様子が無い。とゆえきちが言外に語る。

 今日の俺は一味違うぜ。

 

 

「それと麻帆良祭本番はもう少し先ですよ? なんでもうコスプレしてるのですか」

「うちのクラスの出し物関連でなー。今のうちに宣伝としてこの格好で徘徊しておく必要があるんだにゃー」

「にゃー……。ああ、『とある魔』のグラサンアロハを真似てるんですか……。道理でロリコン発言ばかりすると思えば……」

 

 

 ちなみに今日からの俺の格好は普段の学生服に加えて猫耳+尻尾。白髪になったので白い耳にしなくてはならなかったのがちょっと手間取ってしまった。

 未だにガクランなのはこれもやはり目立つため。詰め襟をきっちりと閉じて着ているわけだけど、正直この髪と肌のコントラストはガクランには異常なまでに似合わないと自覚してる。

 あーあ、これで女子なら某ザジ何とかって娘とお揃いだったのになー!

 

 

「TSしたとしても決して同じにはなれないという罠が」

「心を読むな」

 

 

 親友の専売特許を奪ってまで出番が欲しいのか。その程度の出番譲ってやれよ。あの娘の影の薄さは正直異常。

 閑話休題。

 茶を啜りつつ、話を変えよう。

 

 

「そういえば小太郎が編入したって聞いたな」

「ええ、葛葉という娘と一緒にわがクラスへ」

「クズノハ?」

「葛葉月詠さん、とおっしゃるのですが。……どうしました、頭を抱えて」

「いや、ちょっとね……」

 

 

 あれ?京都で姿見ないと思ったらなんで3-Aに編入してるの?一体いつ麻帆良へ来たんだ……。

 というか小太郎もいつ来たんだ。ヘルマン編をネギ君との衝突なしに済ませてしまったから、あの娘が絡む要素がほとんど見当たらない気がするのだけど……?要素以前にそもそも女子だし。

 

 

「ちなみにどのような出し物なのですか?」

「ん?不思議の国のアリス」

「……男子部、ですよね?」

「金髪と兎がいるからね、うちのクラスは」

 

 

 選択肢に上がったら満場一致で決定したわけで。主演はエヴァ姉である。当然ながら。

 

 

   × × × × ×

 

 

「うちの副担がメイド喫茶にすこぶる乗り気なんだが」

「誰か止めてやれよ」

 

 

 翌日、今度はちうたんに呼び出された。

 なんで俺に相談するんですかねぇ……。

 

 

「メイドが日本の文化みたいに教えたのってお前だろ?」

「違うし」

 

 

 俺じゃなくてもう一人のルームメイトだよ。西●維新もな。

 

 

「女子中学生のメイドとか最高ですね!って頭のおかしな発言してた。まあ同意だけど」

「同意するんだ……」

「昨日十二万も払わせられたのにまだやる気なんだぜ……、もう止めてやれよ……」

「……支払ったんかい」

 

 

 今にも涙を流しそうな憐憫に満ちた表情でちうたんは言う。

 一つ前の発言は女子が言うにしてはオッサンすぎて聞き逃すには至れなかったけど、ネギ君はネギ君でどうしてああなっちゃったんだろうね……。

 

 

「そもそもメイド喫茶としてのクオリティが低すぎるんだよ、学生のノリでやっていて許されるほど甘い世界だと勘違いしてんじゃねえぞチキショウ」

「なあちうたん、その話長くなりそう?」

 

 

 俺が聞く意味は果たしてあるのだろうか。

 

 

   × × × × ×

 

 

 ちうたんと別れて今日は部活の出し物の手伝いなわけなのだが、正直やることといったら屋台の組み立てくらいである。

 下準備だけやって、あとはクラスで出し物があるやつはそっちに回っていいって言うのが高等部の先輩方の意見交換で決定されたのであった。

 ……つうか宍戸先輩が一人全員参加を声高に主張していたのを椿先輩が食い止めたって聞いた。さすがですエース!

 

 

「――その代わり出展がこんなんなったけどな」

「え、ナニコレ、赤過ぎね?」

 

 

 小倉の突き出してきた大判焼きっぽい物体を見て第一の感想が漏れる。真紅である。形は大判焼きなのに配色は赤一色である。……これを売るらしい。

 

 

「見るからに激辛な配色……! 勝負に出たな、椿先輩……」

「いや、あの人赤が好きなだけだから。試合でもレッドカード一発退場を喜ぶ方の人だから」

 

 

 エースとしては致命的だけどね。残される仲間のことを微塵も考えちゃいねえ。そんなんだから微妙に弱いんだよな、うちのサッカー部は。

 

 

「あとこれそこまで罰ゲーム的なノリじゃないっぽいよ? 材料見たけど唐辛子とかは一切なかった」

「ん?じゃあこの原色の配合はどこから?」

 

 

 不安になるのだけど。

 

 

「まあ一口食べてみろって、不味くは無いから」

「お前が食えよ……」

「大体みんな食ったから。あと食ってないのお前だけだから」

 

 

 渋々、手渡された『赤焼き』を一息に一口、頬張る。

 

 ――チョコでも出ない鼻血が出た。

 

 

   × × × × ×

 

 

「――あっっっまっっっ!? ナニコレあっまっ!」

「すげぇだろー」

 

 

 噴出して勢いそのままに後ろへ倒れた俺を待っていたのはそれでも止めてくれない甘味の暴虐だった。のた打ち回る俺を見て、ふふふーと小倉が不敵に嗤う。

 笑ってないで茶をくれ茶を! コーヒーでもいい! この口中を蝕む甘味を鎮める苦味を寄越せ!

 

 

「ほい、ニルギリ茶」

「~~~~~! っぷは、あー……、うえ、まだ残ってる……」

「辛いのじゃさすがに客足が遠のくってことで方針を転換したらしいぜ」

「ニルギリ茶も一緒に売る魂胆か……。方向変えても天元突破したら結局同じじゃねえのかね……?」

 

 

 どっちにしても罰ゲームとか、売れ行きが最早絶望的なのですが。

 

 

「――お、烏丸くーん、今だいじょうぶー?」

 

 

 当日の手伝い免除されてて本当によかった、と正直こんなものを進んで売りたくないって思い始めていたところへ和泉が現れる。

 一緒にいる小倉は視界に入って無いらしい。

 

 

「ほい、これ。ウチら二日目にステージでバンドやるんやけどなー、見に来てくれんかなー?って」

「うちら?」

「ウチとー、ミサとー、桜子とー、円と」

「チアガールバンド?」

「そこまで露出はせんなー」

 

 

 残念。

 じゃなくって。

 

 

「え、チケット、って、俺に?」

「他に誰がおるんよ?」

 

 

 横には小倉がいますけど……?

 その小倉は手元にあった超絶苦いお茶を進んで飲んでた。

 

 

「あれー、おかしいなー、俺赤焼き食ってないのになんでこんなに口の中甘ったるいのかなー」

 

 

 棒読みが涙を誘う。

 

 っつうか、ネギ君改めナギサンはどうした。

 あ、大人化してないのか。そういえば。

 

 

「ダメ?」

「いや、この時間なら問題ねー、かな。二日目は俺もクラスの用事あったけど、終わってから充分間に合うだろうし」

「よかったー」

 

 

 チケットに書かれた時間を確認しながら応えると、

綻ぶように微笑う和泉。

 思わずドキッとした。

 

 

「――見たぞぉー……」

 

 

 そんな俺らの間に横から声をかける宍戸先輩。

 思わずドキッとした。恐怖で。

 

 

「うひゃあ!?」

「うおっ!? ナニやってんすか先輩!?」

 

 

 というかいつの間に現れたんだこの人。まったく気配を感じなかったから映画のホラーシーンみたいに背筋が寒くなったわ。

 

 

「いいよなーリア充はー、ささやかな触れ合いで満たされてゆく時間が足りなくって幸せなんだろー。スケジュールが埋まってますかー、俺のようなクラスに居場所が無い奴とは無縁の悩みなんだろうなー」

 

 

 酷く粘着質に絡んでくる宍戸先輩。

 本当にこの人ナニをやったのだろう。去年までは普通に、それこそリア充と呼べるような部長だったはずなのだが。

 そんな先輩に関わりたくないのか、和泉は避けるように俺の陰に隠れる。というか俺を盾にするな。

 

 

「チクショウ! 一年前まで俺に告白してきたくせに! ビッチめ!」

「振ったあんたが悪いんじゃねえんですか?」

 

 

 どんどん最低の先輩になってくー。

 

 

「しょうがねえだろー、中学生にえっちなお願いするとか出来なかったんだからよー、でも今ならもう何も怖くない……!」

「益々最低です。先輩」

 

 

 懲りねえなこの先輩。それで痛い目見てるはずなのに……。

 

 

「おら宍戸、後輩に絡んでるんじゃねえよ」

「あ、椿先輩ちーす」

「おう」

 

 

 そんな宍戸先輩を回収に来たのは椿史郎先輩。赤が好き過ぎて頭髪も赤一色に染めて赤いカラコンをしている気合の入った先輩である。あと節操なし。

 

 

「椿ぃ……、俺も出会いが欲しいよぉ……、可愛い女の子との出会いが欲しいよぉ……、美少女でもいい……」

「その二つにどういう違いがあるんだ」

「勢いだけで生きてる人ですから気にしない方がいいんじゃないですか?」

 

 

 小倉くん、中々辛らつだね。

 

 

「しょうがねえなあ。美少女くらいなら紹介してやれるから、元気出せ」

「え、マジで!? 出会える? 俺の噂とか気にしない子に出会えるの!?」

 

 

 本当に何をしたんだろう、この人。

 途端に元気になった宍戸先輩は椿先輩に連れられながら、自分の持ち場へと戻っていった。

 

 

「なあなあ、それでどんな子なんだ?やっぱ可愛いんだよな?美少女って言ったモンな?なあなあ教えてくれよ椿ぃー?何系?ナニ系?」

「ああ、ゴリラ系美少女だな」

「おいちょっと待て。それは顔面がか、性格がか。どっちかで俺の回避スピードはマックスを振り切るぞ」

「握力だ」

「握力ッ!?」

 

 

 立ち去り際にそんな妙に気になる会話を交わしていたが……、

 

 

「――はー……、じゃ、じゃあ烏丸くん、またな」

 

 

 そんな風に小さく手を振りながら可愛さアピールを忘れない和泉もまた、マネージャー陣への手伝いへ戻ってゆく。

 というかスルーしていいのか?あの二人の会話。

 

 

   × × × × ×

 

 

「あ、そら、二日目にちょっとでいいから一緒に回らない?」

「え」

 

 

 翌朝。新聞配達で一緒になった明日菜にそんな風に誘われた。

 ……あれ?高畑先生はどうした……?

 

 

 




~DKSSってなんですか?by薬味少年
 天ノ=声:大体(D)烏丸(K)そらの(S)せい(S)
 薬味坊主:DKSSです!
 体言使い:酷くね?

~ぱめるくーらるくー
 資料は無い。
 思い出せるのは藤異秀明の後書き漫画で作者本人がはしゃいでいたという遙かなる追憶。アニメから入った俺にとっては漫画版初代デビチルのシリアスっぷりは正直異常。
 あ、あとヒロインはミライとかいうデコ娘ではなくてレイジーだと思う。

~ナギサン=フラグ
 ベキッとへし折れるいい音がした。
 年齢詐称薬=サンの出番も同時に退場か・・・?

~椿史郎
 赤い人。サッカー部エース。情報通。宍戸とは別の共学クラス。でも一応宍戸も共学クラス・・・。


本当はもっと早めに書き上げる予定だったのだけど(言い訳)
どうも。遅ればせながらの更新、73話目くらいでした
その間色々感想などを送ってもらったことを、この場にて感謝の意を込めて改めて御礼申し上げます

あと今更ながら光刺体っぽいマギアエレベアをやっていたSSを見つけたことをこの場にて謝辞
パクッたわけじゃありませんのでどうか許してください・・・っ!

ともあれ次回から学園祭本編へ突入する予定です
え?さよちゃんとか超とかはどうしたのかって?
さよちゃんは肉体が未完成なのでもうちょっと幽霊状態で学祭をふらつく予定です
超は話の裏側で暗躍してネギとそこそこフラグを立てていると思われます。なんだかんだで原作との成長度合いに違いは無いはずですし、おそらく、きっと、めいびー・・・
き、基本烏丸視点だから描かれないこともあるんだよ!(震え声)
それでは。また次回


あ、あと活動報告が少しだけあります


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『オマツリサイクル』

本作を読むのを久しぶりだという方のために改めて一言

この作品のキンクリは仕様です!はい復唱ぉ!


 麻帆良祭一日目・7時半

 

 ――さて。

 こうなってしまったからにはどうしようもない。遊ぶのは止めて現実と向き直るのが適切だろう。恐らくはネギ先生もそろそろ気が済んだ頃だろうし。

 考えてみれば十歳、もっと細かく言うならば数えで十歳だったか。まだ遊び足りない年頃だというのに、当初は私も彼に教師として期待しすぎていた節もあっただろう。今思い返しても常識を疑わざるを得ない判断で、当時の私が(といってもほんの二・三ヶ月前だが)どれだけ視野狭窄であったかが実に恥ずべきことだと思わなくも無い。

 そんな教師見習いである我らが副担任の仕出かしたことは数あれど、そのアンバランスさにつき合わされていることは大して気にかけることではない。より言うならば、もっと様々に問題の下地を作る人材がこの学園には多量に居るということに今更ながら気付いたのだから。

 今はその問題の人物の一人である、超鈴音についてだ。

 

 

「どう、思いますか? 超の言ったことについて?」

「どう、というか……どうなんでしょうね……?」

 

 

 彼女の用意したと思われるアイテムで巻き返された(・・・・・・)私たちは、その理由について追求するために彼女を探した。その果てに告げられた台詞が――、

 

 

「火星人……ですか」

「魔法世界出身の方なのでは?」

「そうですね。そう考えたほうが適切ですか」

 

 

 意味ありげにそう告げられたわけだけど、そらさんのネタバレによって色々ぶっちゃけられている私たちにとってはそう大した驚愕ではなかったのがなんとも物悲しい。超自身、何某かの秘密や秘匿について色々あるのかもしれないというのに、ちょっといい反応を返せなかったのが申し訳なくも思う。驚けなかった私に対して理解できないとでも思ったのかもしれないから、まあわざわざ謝る積もりも無いけど。

 あとついでにこんなアイテム(・・・・・・・)を持っていたところから見て、未来人とかそういう人種なのかも知れない。こんな『タイムマシン』なんて――。

 

 

「あ。」

「?どうしましたか刹那さん?」

「………………巻き込んでしまったそらさんにフォローするべきでしょうか……」

「あー……」

 

 

 ネギ先生が何か諦めたような表情で虚空を見る。

 私も釣られて空を見た。飛行船から見える景色だが、実にいい青空を見た。エヴァンジェリンさんの別荘でそこそこ飛行訓練を繰り返しているので、あんまりありがたみが無い景色であったけど。それでも空はいい。忘れたいことを忘れさせてくれる気がする。

 

 

「まあ、大丈夫ですよ。そらさんですし」

「そうですね。そらさんですし」

 

 

 多分どうにかして自分のフォローくらいはするだろう。

 そう思い直して、注文したお茶を一口飲んだ。少し、苦かった。

 

 

   ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 一日目をようやく終えたかと思ったら、保健室で発見したネギ君&せっちゃんに連れられて一日目朝に戻された。何を言ってるかわからねえと思うがとりあえず聞いてくれ。――俺は文化祭を延々と楽しむ趣味なんてねえんだよ……っ!

 ナニが悲しくて中二病を抜け出せなかった女子高生のエンドレスエイト染みたループに片足突っ込まなければならないのか。とりあえず超の女郎(めろう)は見つけたら地獄に引きずり込む。捕まえて転移符かけて俺の修行場へと引きずり込んでくれる。こう、才能を選別するゲームのオブザーバーに選ばれたずぼら系中学校教師の最後の台詞のように。

 

 

「暇になってしまった……」

 

 

 自分が一日ぶらついたところなんてよく覚えてないし、下手に動くのはさすがにまずいかなーとは思う。

 間違って過去の自分という名の同率存在と出会ったら対消滅しました、みたいな落ちにはならないと思うけど、そうならないという保証も無い。まるでD4C食らった気分だよ。ガチで食らえばこんな暢気にはなれないと思うけど。

 

 それはともかく(閑話休題)、どうしたものか。

 

 原作知識をもとにすればタイムマシンなんてものをネギ君が超から得るのは予測できたけれど、その恩恵に俺も与れるとは思っても見なかったので、麻帆良祭は例年通り忙しくも楽しく過ごすつもりであった。要するに元より期待なんぞしていなかった。複数の女子に誘われたお陰で去年よりスケジュールはいっぱいいっぱいになってはいるものの、なんとか廻れる程度には詰め合わせた状況であったのであるが。

 だからこそ時間が余るという事態に現在陥っているわけで。

 どうしたものかなぁ。一日目は完全にクラスの用事で埋まって既に終えたのだけど。二日目に誘われた女子と過ごして三日目はどんな具合になるにしろ最高潮の祭になあなあにでも参加できれば充分かなぁ、などと軽い皮算用を済ませていたのだが。

 余った時間を無為に過ごすのも気が引ける。かといって今更ながら準備だけで済ませることを由としてもらった部活の模擬店に復帰するのもどうかと思う。正直あの食のテロを髣髴とさせる物体を売りつけるとか正気の沙汰とは思えない。

 

 

「――よし、少し早いけどまおちゃん辺りを冷やかしに行くか」

 

 

 誘われた女子勢のうち、比較的軽傷で済みそうな幼女に狙いを定める。

 本当は二日目に誘われたのだけど、和泉とか明日菜とかにもご招待されているわけだから何某かの衝撃が来ることも予測して早目のうちに癒しからゲットしよう。そんな二度目の皮算用をリビドーの算盤で弾かせて、可愛い妹分の居るであろうチアガール部の出し物へと足を向けた。

 ――ところで、知ってる顔を見つけてしまう。あれは確か――、

 

 

   ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 あらあらどうしましょう。と私、那波千鶴は年には似合わないであろう仕草で頬杖をついていた。

 暇になったからといって出歩いてみたところ外部のお客さんに捕まってしまう。自分は中学生だと言ってもまったく聞き入れてもらえず、一緒に歩いていた夏美ちゃん共々誘われている現状に困惑しているのだ。要するにナンパだ。

 自分はともかく見た目完全に中学生の夏美ちゃんまで一緒で構わないと言っている辺り、その二人組みの男性は若干倫理的に問題があるのでは?と失礼な感情が浮かぶのも仕方が無い。更にこの場にちっちゃいのに一部が大きい小太郎ちゃんまでいたらより最悪な状況に陥りそうにしか思えないので、それは一旦彼女が離れた事実があったことに若干の安堵を覚える。気休めにしかならないけど。

 それでもあくまでやんわりと断るしかないのは、この学園祭という空気を壊したくないからという感情を優先した結果だ。だから男性らも勘違いしているのだろう。付き合わないと言っているにもかかわらず、押し押しでぐいぐい来る二人組みにさっきよりも更に少しだけだが苛つきが浮上しかけてきた。

 それでも、すぐに広域指導員の誰かが止めに来てくれるだろう、という最後の手段にして最初の頼みの綱である淡い期待を抱いていたら、

 

 

「やはー、お二方お待たせー」

 

 

 ――なんか全く期待していない少年が自分らに声をかけてきた。

 というか、誰?

 

 それからはその男の子の口八丁手八丁で二人組みはすぐに去って行き、荒事には成らずに事は済んだ。

 それについては確かに感謝の感情もあるけど、今度はこの男の子がナンパ紛いのことを仕出したりはしないだろうか?と嫌な懸念が浮かんでしまう辺り、今の出会いで人間不信が浮かんだ自分に嫌悪を覚える。

 そんな私には気付いていないと思うけど、二人組みを切り離すことに成功した男の子がこちらへ向けて口を開く。――と、同時に。

 

 

「おおっ、兄ちゃんやんっ!」

「っとと、小太郎か。ガチで麻帆良に来ていたんだな」

 

 

 離れていた小太郎ちゃんが男の子へと飛び掛かっていた。

 預けたお小遣いで少なからずの軽食を購入してくるように頼んでいたのだが、戦利品は一旦夏美ちゃんへといつの間にか押し預けており。やたらと馴れ馴れしい様子でおぶさって、自分の母性の塊をぐいぐいと男の子の背中へと押し付けている姿は、天然か、故意か。どちらにしても恐ろしい娘である。

 その仕草にちょっとだけ妬いたのは秘密だ。

 ともあれ、知り合いだというなら警戒する謂れは無い。

 まだ少し困惑しているけど、質問を二人へと投げかけた。

 

 

「えーと、小太郎ちゃん、そのひと小太郎ちゃんのお兄さん?」

 

「――いやいやいや、那波さん? さすがに忘れるのってどうよ?」

 

「え?」

 

 

 出会ったことがあるのだろうか。

 頭が真っ白な色黒の男子なんて、私の知り合いにはいないはず……?

 

 

「ち、ちづねぇ、烏丸くんだよ、このひと」

「村上も若干距離置くよね。まあいいけど」

 

「――ええっ!?」

 

 

 あれ!?こんな頭していたっけ!?

 

 

「そこまで驚くかなぁ……」

「ちづねぇって意外と第一印象引きずる人だから」

「ふーん」

「お陰で小太郎ちゃんなんて未だにペット扱いで」

「いや、そこはホントに訂正してやれよ」

 

 

 そもそもなんでペット扱い?犬を拾ったのが出会いでー、と二人が会話を進める中、密かに烏丸くん(他称)の顔を確認する私。

 ……確かによく見ると覚えがある。というか自分の把握力の低さに今更ながら驚いた。

 

 そのあとはいくつかの会話をして、一緒に学祭を回ろうと誘う小太郎ちゃんをまだクラスの仕事があると押し退け、意外と早くにも去ってゆこうとする烏丸くん。

 その後ろ姿をみてそういえば忘れていたことを、聞こえる程度の大きさの声で告げる。

 

 

「あ、あの!ありがとうね、助けてくれて!」

 

 

 そんな私に振り返ることをせず、烏丸くんはひらひらと手を振るだけで応えていた。

 うーむ、かっこいい。思わず真顔で唸ってしまった私は悪くないと思う。

 そんな私を少しだけいたずらっ子のような表情で眺めている夏美ちゃんがいる。

 それはともかく、と気持ちを切り替え、学祭を楽しみましょうか。と烏丸くんの去っていった方向と逆へと歩き出せば――、

 

――何故か、烏丸くんの後ろ姿が。

 

 

「あ、あらあら~?」

 

「?どしたのちづねぇ?」

 

 

 混乱するのは目撃した私だけらしかった。

 そのことに気付かずに見たままのを呟いてしまえば――、……さっきよりもニヤニヤと笑う夏美ちゃんが。

 

 

「おやおやー?恋?」

「え、ちづねぇが?」

「いやいや、まっさかー、ちづねぇだよ?」

「せやなー」

 

 

 ……二人とも、私に一体どういうイメージを抱いているのかしら……。

 せっかくだから、じっくりとOHANASHIしましょうか……?

 

 

   ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 あっぶね。そういやぁ昼間ここ通ったわ。

 そんなことを思い出していた俺はこのまま三人と一緒の行動をするのは得策では無いと信じて方向転換。少々回り道だけど、出来る限りカブらないルートで目的地を目指そう。

 ナビゲーターみたいなスタンドが手元にあればいのにー。

 

 

「あれ、そらっち?」

「え、あ、ほんまや」

「今日は一日クラスの行事だって言ってなかった?」

 

 

 そうこうしているうちに運動部四人娘-1と遭遇する。

 佐々木はどうした。

 

 

「まき絵は新体操部の手伝いに借り出されてるよー。あたしらは特に手伝わなくてもいいみたいだから学祭を満喫中ー」

「こんなにのんびりできるんは初等部以来かも知れんね」

「あれ、亜子って確か中学からの新規組みじゃなかったっけ……?」

 

 

 そんなことを尋ねられても詳しいことなんぞ知らんわ。

 それよりも、だ。

 

 

「お前らクラスの出し物はどうした? さっきも那波さんや村上を見かけたけど」

「あー、言ってなかったっけ? 風営法違反に抵触するらしくって、出店不許可処分を下されちゃって」

「お前らなにやってんの?」

 

 

 あっけらかんと答えるゆーなとは対照的に他二名は若干恥ずかしげな雰囲気。マジでどういう店をやろうとしていたのかがすげぇ気になる。

 

 

「そんなわけで暇になっちゃったんだよー。そらっち、一緒に回らない?」

「んー、今目指しているところへ行けるならば仲間にしてもいいけど?」

「あ、あこはなかまになりたそうにそ、ちらをみている……」

 

 

 恥ずかしいならばやらなくても。あと途中なんか変なところで言葉区切ったな。

 

 

「あきらは仲間にしないならば攻撃するつもりだ」

「オーケイ、つれてゆく気はあるからその振り上げたこぶしをゆっくりと下ろすんだ」

 

 

 本気で暇なのか。

 まさかアキラたんにそんな冗談で口説かれるとは思いもしなかった俺がいた。アキラたんには別段誘われた記憶も無いのだけどなー。

 

 

「じゃじゃーん、そらっちは美少女を三人仲間にしたー!」

「美少女(笑)」

「美少女じゃん!」

 

 

 異論は無いが自分で言うのは駄目だ。

 そらはきょにゅう×2と、ちっぱいを仲間にした!

 

 

「で、どこを目指しとるんや?」

「知り合いの妹を応援に」

「文章おかしくない!?」

 

 

 おかしくない。

 あ、そういえばこいつらには一応説明しておいたほうがいいのかも知れんな。ネギ君経由じゃ多分聞いてないだろうし。というか絶対に説明して無いだろあの子。

 

 

「そういやあお前ら知ってるか?」

「なにを?」

「今年の学祭には恋愛スナイパーが出るらしいから、告白の成功率が一桁を下回ってるんだって」

 

「「なにその不穏な情報!?」」

 

 

 ゆーなと和泉の台詞が見事にはもった。

 告白する気だったのか?

 




〜キングクリムゾン!
 世界樹前の集会は原作通りなのでカット。きちんと超にタイムターナー貰うイベントはやってましたよ
 ちなみに組み合わせに若干の差異あり。月詠・小太郎のほかに乃木坂・大柴という魔法生徒が追加されているので、ヒゲグラ先生と葛葉先生の組み合わせが解消されてそれぞれ魔法生徒を請け持っていると言う超蛇足情報

〜火星人だヨー
 その情報をマジで検証してほぼ正解を引き当てているネギ&せっちゃん。DKSS(大体烏丸そらのせい)
 それはともかくふわふわバニーガールなせっちゃんとかが目の前にいたらガチで食われそうな気配がある。それぐらい可愛い。誰にって?このかだよ!

〜才能を選抜するゲーム
 植●の法則
 ロベルトを地獄へ引きずり込むコバセンのように超を地獄(ダンジョン)へ引きずり込め!

〜これはヒロインですか?
 いいえ、この娘はモブです

〜風営法違反で出店不許可処分
 中学生のメイドとか犯罪の匂いしかしねえ
 すべては推し進めたネギと、不在のために止めることも出来なかったタカミチのせい。いつまで副担に任せっきりなんだよ!

〜恋愛スナイパー
 褐色の巫女スナイパーが狙い撃つぜ!


ええっ!?もう学園祭!?
前日譚とか前準備とかぜんぜんしてないよぉ!
でもでもがんばる!みんなが楽しみにしていた麻帆良祭だもんね!
屋台や出し物がいーっぱいっ!あれ?あのクラスは演劇をするんだって!見に行ってみようよ!
え、ええー!?エヴァンジェリンちゃんが主演なの!?
次回!ネギまとか真面目に妄想してみた『不思議の国のエヴァンジェリン』!
次回もおーりといっしょに、レリーズぅ!
(CV:若本規夫)


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『不思議の国のエヴァンジェリン』

 

 むかーしむかしと言うほどでも無いろんぐろんぐなんとかかんとかなとある時代のお話です。

 あるところに“アリス”という名前の夢見る美少女がおりましたそうです。

 

 

「はぁーあー、毎日毎日似たような日々、たまにはおもしろおかしな抱腹絶倒の展開を迎えてみたいものだわー」

 

 

 金髪ロングにカチューシャをつけて水色のエプロンドレスを着た美少女は、実に棒読み臭く教室の真ん中でそんな腹パンを一発決めたくなるような台詞をのたまっておりました。

 というかもうちょっとやる気を出せないのですか、そこの幼女。

 

 

「ナレーション、うるさい」

 

 

 ナレーションにけちをつけないでください。

 早くも地が滲み出てきている幼女の言動はともかく、退屈そうな仕草で背伸びをする幼女。

 中身はともかく、格好は『死んでくれる?』の例のあの娘にクリソツでした。

 これでミニスカートにローレグなぱんつでも穿いておればお前どこのゼカマシ?とツッコミを入れられたというのに、こういうときは空気を読もうとしませんがこれでもかというくらいの美少女です。

 退屈そうな仕草でもきっちりと絵になりますね。

 

 

「いちいちうるさいな……。いいから早く導入に入れよ……」

 

 

 さてそんな幼女がナレーションに愚痴を呟きだした折、教室の隅から一匹のウサギが飛び出したのでした。

 

 

「遅刻遅刻ー」

 

 

 忙しそうに走り出す一匹の白兎。

 口には食パンをくわえて学生服で駆け出すその姿は、実にこの世が順調に狂ってる、と全身を使って表現しているかのようでもありました。

 そんなウサギを見て、退屈であったアリスはきらきらと目を輝かせます。

 

 

「ほほぉ、面白い。今日の晩御飯はウサギ鍋に決定だな」

 

 

 若干違ったようです。

 退屈とか、興味がわいたとか、そんな子供らしい理由ではなく、きっちりと食欲に直結する発想でアリスはウサギを追って駆け出しました。

 ウサギさん逃げてー。

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 ウサギを追って教室を飛び出し、学園中を駆け回るアリスはウサギを見失ってしまっておりました。

 

 

「ちっ、見失ったか。逃げ足の速いウサギだ……」

 

 

 獲物を狙う猛禽のような目つきをしながら、アリスは憎憎しげに呟きました。

 学内に蔓延る屋台の数々に気を取られ買い食いを繰り返しているうちに至った結果なためにお祭りの観音様みたいな様相になっているのはさておき、このままでは物語が進行しませんのでナレーションは心を鬼にして進行させます。

 そうこうしているうちにアリスは次の屋台へとツケで買い食いを敢行しようという有様でしたが、見失ってしまったウサギの足取りをアリスは聞き込みで辿ろうという腹積もりなのでした。

 さぁ、並んでいるそこの男性二人に聞き込みをしなさい。

 

 

「なに?いやそんなの台本には、」

 

 

 アリスは聞き込みをするのでした。

 そこの屋台に並んでいる、金髪ロンゲとドレッドヘア黒人の二人の男性に。

 はりーはりー。

 

 

「ちっ、貴様覚えておけよ……。

 あー、そこの二人、ウサギを見なかったか?」

 

「へっ?なになに?」

―ウサギー?

 

 

 振り返った二人の男性は後ろ姿とは裏腹に気の良さそうな気配でした。

 金髪ロンゲのほうは若干女顔で優しそうですし、ドレッドな黒人の方はとぼけたような口調で心なしか精神年齢が幼そうに見えます。

 ……この様子ではだぶるぴーすでアヘがおらめぇ、な展開には発展しなさそうですね。

 残念です。

 あとそこのドレッドさんはフキダシで会話するように努めるように。

 ナレーションである私とキャラが被りますので。

 

 

「貴様本気で覚えておけよ……!」

「……なんかすげぇろくでもねぇこと言われてる気がする」

「……とりあえずそこのやつの言ってることは気にするな。で? 見たのか、見なかったのか?」

 

 

 場を取り繕ってあげているナレーションを放置プレイしつつ質問してみても、彼らは『見ていない』と首を横に振ります。

 

 

「学生服を着たウサギって……、流石にそんなのを見た記憶はないなぁー」

―僕も見てないー

 

「――……見た」

 

 

 結局彼女の聞き込みが徒労に終わろうとしていたそのとき、並んでいた屋台のお兄さんが口を開きました。

 

 

「なに、何処へ向かった?」

「あっちの、南のほう」

 

 

 客商売にあるまじき片言な説明をするお兄さんはさておき、指差す方向は教室とはまるで逆方向です。

 

 

「ふむ、一直線に向かっているのか……。助かったぞ、屋台のバイト」

 

 

 そのときでした、寡黙なお兄さんがアリスの言葉に頷くのを見届ける間もなく駆け出そうとする彼女の前に、一人の西洋甲冑の騎士が立ちはだかったのです。

 

 

「おおっと! ここから先は通行止めだ! 通りたければハートの女王さまの許可をもらうんぐふるぁば!?」

 

 

 騎士の割には何処か軽薄な言葉使いにいらっとしたのでしょう。

 駆け出したアリスは立ち止まることなく、立ちはだかった騎士にシャイニングウィザードをぶちかましていました。

 

 

「なんだ貴様は」

「ば、な、なんだ貴様はってか、そうです私がナイトです」

「聞いとらんわ。そこを退け、通らせてもらうぞ」

「だから駄目なんだってばよ!」

 

 

 若干凹んだ騎士甲冑でしたが、脇をすり抜けようとするアリスを阻止するように反復横跳びでカバディを繰り返します。

 重濃な鎧を身に纏っているにもかかわらず、軽快なフットワークでアリスを翻弄するのでした。

 

 

「ちっ、面倒くさい……。じゃあ女王とやらは何処にいるというのだ」

「あ、はい。ここから北のほうにあるハートの女王の城にいらっしゃいます」

 

 

 自らのフットワークに注視されることなくスルーされたのが堪えたのでしょう、騎士は割かしさらりと自らの主の居場所を語っていました。

 居場所を聞いたアリスは、もうこの場所には用は無いとばかりにさっさと北の城へと歩を進めるのでした。

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

「ようこそマスター。私がハートの女王の茶々丸です」

「おい、演技しろよ」

 

 

 北の方向へと歩めば、そこには演技の糞ど下手なメイドロボが女王のコスプレでふんぞり返っていました。

 ぷぎゃー。

 

 

「さっきからナレーションに悪意しか感じないなぁ!?」

「そんなことよりもマスター、南の広場で行われているお茶会はわが国の人間で無い貴女には参加資格がございません。どうしても参加したいというのならば、相応の褒章を授かってからでなければ」

「いや、別に参加したいというわけでは……」

 

 

 いちいちナレーションにツッコミを挿入れる主人公をさておいて、ハートの女王は物語を進めていました。

 

 

「そうですね、それでは北の森に棲むというジャバウォックという怪物を倒してきてください。そのとき初めて貴女にお茶会の参加資格を授けましょう」

「一介の少女に頼むにしては随分とルナティックな要求すぎやしないか!?」

 

 

 ベリーハードな資格取得条件を突き出されて、アリスはその場で駄々を捏ねました。

 泣きながら手足をばたつかせ、ひっくり返って暴れまくり、うずくまって嗚咽をもらし、そして寝ます。

 

 

「いやしてないからな!? やってないことをさもやったかのように説明するなよナレーション!?」

 

 

 やりなさい。

 はりー。

 

 

「しないというとろうに!」

 

「仕方ありませんね。それでは資格の授与とともに特別に褒美も授けましょう。この国に一匹しかいない、珍しい生き物です」

 

 

 ハートの女王はそう言ってカーテンの被さった篭を用意します。

 矢鱈と大きな、人間一人くらいなら入っていそうな鳥篭でした。

 

 

「ジャバウォックを倒した暁にはこの生き物を授けましょう。特別に鳴き声を聞かせてあげます」

「え、な、鳴き声? ……んにゃーぉう」

 

 

 ……なんかどこかで聞いたことのあるような声が鳥篭から聞こえました。

 アリスもまた何かに気付いたかのように、その鳥篭をじっと見つめます。

 

 

「ふ、ふん! そこまで言うなら手を貸してやらないこともないな! 北の森に棲むとか言うそいつがどんな怪物だろうと私の敵では無いわ!」

 

 

 すげぇやる気になったアリスは、意気揚々と北の森へと歩を進めるのでした。

 何が彼女をそこまでやる気にさせているのでしょうね?

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

「貴様が怪物か! 塵殺してやるから覚悟しろ!」

「あ、あれー!? 闇の福音さんがすげぇやる気になっていますよー!?」

 

 

 怪物の着ぐるみを着た誰かが彼女のやる気にすっごい驚いていました。

 中二臭い二つ名を叫びつつ怯えたように後ずさります。

 

 

「ゆくぞ! リクラック・ララック・ライラック――!」

「ちょ!? 詠唱まで入ってる!? やめてー! 誰か助けてー!?」

 

 

 何がしか唱えだしたアリスに怯えて怪物は既に戦闘意欲なんてありませんでした(すっとぼけ)。

 アリスのエターナルフォースブリザードがジャバウォックを倒す、というCGを観戦しつつ(ここ重要)、物語はさくさく進行します。

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

「怪物退治、ご苦労様ですマスター」

「ふん、私の手にかかればあんなやつ一捻りよ」

 

 

 ふんす! と鼻息荒いアリスの様子に、ついてきていた観客の皆様も顔を綻ばせます。

 民族大移動よろしくあっちへこっちへ歩き回っているというのに、よくもまあついてこれるものですね。

 ロリコンってすげぇです。

 

 

「それで茶々……女王よ、褒美とやらを見せてもらおうか? ああいや、別に興味なんて無いのだがな、貴様がくれると言うのならばもらってやら無いことも無いというだけであってだな」

 

 

 何かもじもじと歯切れの悪いアリスです。

 そういう仕草がロリコンをホイホイさせる要素なのでしょうか。

 参考になりますね。

 

 

「いいでしょう。お茶会の参加資格、そしてこちらをあなたへ授けます」

「おお!――……おぉ?」

 

 

 女王の言葉と共にかけられていたカーテンが取っ払われました。

 が、そこには何も入っておらず、空の鳥篭があるだけでした。

 あ、下の方にテープレコーダーが。

 

 

「……おい?」

「本来ならば、この中にはチェシャ猫が入っていたのですが、どうやらいつの間にか逃げ出していたようですね」

 

 

 ジト目を向けるアリスとは対照的に、ハートの女王は飄々とした様子で空の鳥篭をアリスへと手渡すのでした。

 正直大きすぎて持てないので、アリスは鳥篭を放置して城から去りました。

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 お茶会にいたのは、卵みたいな胴体をした伯爵『ハンプティダンプティ』、ながーいシルクハットを頭に乗せた紳士風の『帽子屋』、そして身体中をピンクと水玉の斑点で彩られた『三月兎』の三名でした。

 兎を除いて、どいつもこいつもミスキャストとしか言いようの無い配役です。

 騎士とジャバウォックを連れてきてミスキャストカルテットとでも呼ぶべきでしょうか。

 

 

「なんだこのナレーション、口悪すぎだろ……」

「誰がミスキャストだコラァ」

「お前等だよ」

 

 

 アリスは茶会の席に着き、ナレーションに愚痴をこぼすハンプティダンプティと帽子屋の二人にツッコミを入れました。

 そしてそこの三月兎は配色ミスを施しただけの冒頭のうさぎと同一人物にしか見えなかったのです。

 なんという2Pカラー。

 

 

「さて、ハートの女王に聞いたところによると、貴様らはあの篭の中身について詳しいそうだな? 答えてもらうぞ、チェシャ猫はいったい何処にいるのかをな……!」

「えーそこは時計兎のことじゃなかったっけー?」

「おい、台本通りにやれよ」

「うるさい、とっとと答えろ」

 

 

 アリスの関心は完全に特別なペットへと向いているご様子でした。

 最初に駆けていたウサギさんの真名が『時計兎』であったという事実までスルーです。

 

 そうしてアリスはチェシャ猫を探して麻帆良祭を縦横無尽に走り回ることとなったのですが、それはまた別のお話。

 お祭りの最中に猫と少女を見かけたというお方はご一報ください。

 アリスの冒険はこれからだー。

 




キャスト

アリス(エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル)
時計兎&三月兎(因幡誠一)
ハートの女王(絡繰茶々丸)

騎士(神宮司久貴)
ジャバウォック(大柴巧)
ハンプティダンプティ(織村一夏)
帽子屋(敷浪飛鳥)

チェシャ猫(烏丸そら)
ナレーション(鈴木6号)


特別出演

通行人A(篠原一樹)
通行人B(ジャン・B・キャンデロロ)
バイトの店員(灰島健児)


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『IFルート【その7】』

前回のIFの前日譚みたいなネタバレ話
時間軸は大体ネギま最終回から7年後?くらい
ネギの娘の主観で物語を語ります


 

 ウチの父が変態だった。

 

 いや、正確に言うなら犯罪者だったというべきかもしれない。

 申し遅れましたけど、私の名前はカタナ=スプリングフィールド。今年15歳になる中学三年生、麻帆良に通う受験生だけど。

 受験生だというのにとんでもない問題を浮上させた父に、ちょっと激おこぷんぷん丸っていうところです。

 

 いきなりすぎて意味がわからないという方の為に父の犯罪遍歴の証拠を提示しますけど、

 一、母は今年で29歳。

 一、父はここ10数年中学校の教師として勤務。

 ……おわかりいただけただろうか……?

 

 ネタバレするけど、父は母が中学生の頃に私を身篭らせたらしいそうで。母の卒業写真を見せてもらいましたが、若干お腹が膨らんでいるように見えるのは錯覚ではないらしく……。

 ……なんでウチの父はそんなスキャンダルを起こしておいて未だに中学校教師をやってられるのでしょうか。中学生に手を出す教師を普通に採用しているとか、麻帆良女子中学の感性が理解できなくなってきました。

 ……よく今まで無事だったな、私。

 あー、だから“先生”は私に護身用の魔法を寄越してくれたのかもしれないなぁ。

 

 で、そんな父が改めて起こした問題を解決するために集合したのが、“先生”を筆頭にした当時の父の教え子である母とそのクラスメイトだそうです。

 

 

 

「この歳になってまだトラブルメーカーなのか、ネギ君は」

「なんかスイマセン……」

「いや、カタナちゃんが謝ることじゃないけどね?」

 

 

 

 “先生”こと、烏丸そらさん。

 私に無詠唱自動展開術式『四閃三獄』を授け、扱い方を教えてくれた人生の師匠です。あとなんか火星の開拓事業に手を貸していたとか言う凄い人。

 

 

 

「それよりも私はこのかのほうに驚いたわ。あんなに怒ったこのかとか初めて見たし……」

「いえ、あれは怒るのも無理ないかと……」

 

 

 

 その先生の奥さんである烏丸明日菜さん。

 魔法世界のお姫様だとか言う世界的超VIPの筆頭で、先生はすっごい逆タマをゲットしたみたいです。

 お二人は4年ほど前に結婚したのですが元々幼なじみらしいので、周囲からしてみれば収まるところに収まったって感じで。

 

 

 

「確かマウントでボッコボコにしていたんだっけ? 近衛のやつが」

「そうらしいで、ネギ先生を」

 

 

 

 改めて聞くとすっごく情けなくなります……。

 そんな会話をしているのは長谷川千雨さんと和泉亜子さん。

 お二人ともいい年のはずなのに未だに独身。

 ニートのちうさんはともかく、亜子さんは引く手数多のはずなのに全部お断りしているとかいう話。何故なのでしょうか? 何か已むに已まれぬのっぴきならない事情でも?

 

 

 

「……そんなに怒るほどなにをやったの、ネギ君は?」

「さー? 私はまだ聞いて無いんだけど」

 

 

 

 父の教え子であったはずなのに君付けで呼ぶお二人は大河内アキラさんと明石裕奈さん。

 火星で水先案内人をやっているとかいうアキラさんとツアーコンダクターの裕奈さんもそうですけど、真っ先に集まってきたのが以上の六名。

 お仕事とかどうやって都合つけたのか。

 

 そしてウチの母の名はノドカ=スプリングフィールド。

 彼女は現在、魔法探偵と名高い綾瀬ゆえさんに長者番付にも乗るくらい人気の高い漫画家・早乙女ハルナさんと共に、しかるべき手続きを執り行いに行ったところである。

 それにこのかさんを加えての4人は元・図書館探検部とか言うところの所属つながりで今でもたびたび交流があるために既にこの事件を承知のうえで行動している。というか現場にいた。

 ……後から知ったのだけど、母が身篭ったのは母のほうから押し倒したとか言う衝撃の事実。

 母はというと、当時から超人気だった父につばをつけておこうという作戦だったらしい。

 駄目だこの母、早く何とかしないと……。

 

 そんな我が家の事情は一旦置いておくとして、先生が揃っている皆さんに事件のあらましを軽く説明し始めた。

 

 

 

「なんでも、ネギ君がせっちゃんを孕ませていたらしい」

「「「「「ああ、それは怒るわ」」」」」

 

 

 

 えっ、それで理解できるほどの共通事項!?

 

 

 

「あの、やっていたことが不倫だったというのは理解できますけど、正直私はせっちゃんという方を詳しく知らないのですけどー……?」

「え? ……あー、そういえばあんまり顔合わせたことなかったっけ?」

「そうなのか? 桜咲のやつなら近衛の行くところには犬みたいについて回るようなやつだったと記憶しているんだけど」

「せやなー、二人の結婚式のときにもみんな集まったし、そんときにおったはずやで?」

「一応このかさんには幼なじみだとは聞いてますよ? このかさんは皆さんとは違って地球にいますから、会おうと思えば会えますし。ただ又聞きみたいな紹介しか受けていなくって……」

 

 

 

 ちうさんと亜子さんの軽い説明に、私の中でのイメージが意外と寸分違わないことに軽く驚愕を覚えるも、補足で応えた言い訳に顎に手を当て思考する仕草を見せるのは先生である。

 

 

 

「現場にはいたんだよな?」

「はい。壮絶でした。必至で言い訳するうちの父にマウントとってボコボコとコブシを振り下ろしながら怒るこのかさんなんてレアモノ一生見なくて良かったと今でも思います……」

 

 

 

 何が「刹那さんが生徒のときから好きでした!」だ。

 浮気の言い訳どころか、開き直りもいいところの父改め糞野郎の言い分なんぞ覚えていたくも無い。

 けれども伝えるべきことは伝えなくてはならない。そうでないとせっちゃんさんも浮かばれない。

 

 

 

「ただ、」

「?」

「そうなった経緯って先生の結婚が若干引き金らしいです」

「え。なにそれちょとまって詳しく」

 

 

 

 あー、やっぱり気になりますよね。

 一瞬真顔になった後こちらに詰め寄る先生にちょっと内心どぎまぎしつつ。

 

 

 

「お二人の結婚って言っちゃあなんですけど急だったじゃないですか」

「あー、まあねえ」

「なんだっけ? 確か学生の頃のノリで求婚して、それをアスナが冗談のつもりで受けて、周囲の人たちが全部真に受けちゃったんだよね」

「そんな経緯だったんですか!?」

 

 

 

 アキラさんの発言に初耳の私が思わず驚いた。

 幼馴染みながらに求婚するのを普通にやっていた学生時代というのも想像しがたいが、4年前でもお二人は未だ25程度だったのだからそれほど焦るような年齢でもなかったはず。

 それなのに真に受けて結婚式を用意する周囲の環境が存在する、という時点で世界観が可笑しい。

 笑えないけど。

 

 

 

「互いに超を越えるクラスのVIPだというのにわかりやすい足枷が無いって言うのが回りの奴らは恐ろしかったんだよ。だから一番くっつけやすい二人を結婚させた、って思うけどな」

「恐ろしいけど納得です。恐ろしいですけど」

 

 

 

 ちうさんの説明に得心して反芻。

 大事なことなので二回。

 

 片や魔法世界の完全管理者で、片や得体の知れないパイプを繋げる火星にとっての英雄と反英雄を兼ね備えた大人物。

 どっちも好きに(自由に)動けるというのだから、当時の政治家の方々とかはさぞ背筋が寒々しかったのでしょうね。

 それが今でも温もれているかといえばそうではなさそう、というのがまた笑えない話なのでしょうけど。

 

 

 

「話を戻しますけど、急な結婚で意外にもせっちゃんさんがショックを受けていたらしくって。なんか先生のことを少し好きだったみたいです」

「そうなのか……。改めて言われても実感わかないのだが……」

「え、でもファーストキスは刹那さんじゃなかったっけ? 刹那さんもあんたが初めてだって耳にした覚えが」

 

 

 

 つ、強いですね明日菜さん。

 その話を聞いて普通にしていられるとかどういう神経してるんですか。一応旦那様ですよね?

 

 

「その後特に進展らしきものもなかったのに気付けとかマジで酷なのだが」

「刹那さんとの接点って何かなかったっけ?」

「んー……、武道会で対戦した程度……?」

 

 

 

 裕奈さんとの会話に何か気になる単語が。

 武道会ってなんですか?

 

 

 

「で、ですね、それで泣き濡れてお酒に巻かれるせっちゃんさんを介抱したのがうちの父だった、とかそんな経緯を……」

「あー、うん。大体わかったから皆まで言わなくて宜しい」

 

 

 

 はい。

 さすがに己の父の濡れ場とか詳細を語りたくはないので、助かりました。 とはいえ一応の事後報告をば。

 

 

 

「で、さきほどことの始末を聞いたところによると、そのときに出来た私の弟を、あやかさんに預かってもらうことになったそうです」

「「「「「「いや、そのりくつはおかしい」」」」」」

「えっ、満場一致っ?」

 

 

 

 あやかさんとはとある財閥のお嬢さんです。

 大学卒業後に結婚したらしくて、母を除けば当事の友人関連ではそれなりに早いゴールインだったとか耳にした覚えが。

 母との付き合いが元クラスメイトだと聞いても最初頭の中でくっつかなかったのですが、先生に魔法について指導を受けてからはなんとか理解できています。どうやら当時は父の仮契約相手だったらしく。

 ……でも、パクティオーってキスで契約するのが一般的なんだそうですよね……。

 ま た 女 生 徒 か 。

 本当に一度捕まるべきだと思う、あの男は……。

 

 それはともかく、そのあやかさんとは母との繋がりもそうですけど明日菜さんとも先生ともそれなりあるので、そういう付き合いが多い私ともそこそこ顔見知りでもあります。

 そんなあやかさんにはお子さんがいないそうなので、引き取ってくれるというのならばどちらにとっても願ったり叶ったりとも言えるわけですが。

 

 

 

「いや、せっちゃんはどうした。なんでわざわざ親元から離れることになるんだ」

「このかさんが凄い剣幕で父もとい糞野郎の血が入った息子(ココ重要)を引き連れてせっちゃんさんと付き合えるほど寛容にはなれない、というお話でした。義弟は私と同じ赤毛だそうで、近くにいると殴り殺してしまいそうだ、って……」

「せっちゃんと離れるって選択肢が無い辺り徹底してるなぁ」

 

 

 

 でもそんな娘だったっけ?と先生が小首を捻ります。

 そんなことよりも気になる点が。

 何の優性遺伝なのか父の赤毛はかなり根強く遺伝しています。私にも。

 そのうちこのかさんが『不快だから』という理由で私にコブシを振り上げないか、若干懸念が浮かびます。

 まあそのときには私の魔法で立ち向かえばいいっか!

 

 

 

「しかし雪広に幼い少年……。酷い化学反応が起こりそうで背中に嫌な汗が流れるのだが」

「言うなよ……、私らも懸念で済んでいるように祈ってるんだから……」

「そうだよ……、まさかいいんちょがそんな、ねえ……?」

「そうだよ、……たぶん」

「せやよね、……たぶん」

「あんたらそろいも揃ってあやかのことを疑いすぎよ。……まあ間違って無いと思うけど」

 

 

 

 ……ですから。何がそんなに気にかかっているのかわからない私にはすっごい不安なのですが?

 

 ちなみに、このときの先生方の懸念が6年後に嫌な形で解消されることになろうとは、誰も気付くことはなかったのでした。

 ……あやかさんの妊娠という形で。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

≪おまけ≫

 

「それはそうと、オマエラよく都合つけられたな。忙しいと思っていたのにこんな早くにはせ参じるとか」

「そうですね。わたしもびっくりしました」

 

 

 

 火星在住のお人らが他の地球組を差し置いていの一番に集まれるとかって、普通は誰も思いません。

 あ、ちうたんはご近所のニートさんなので別です。

 そう思っていると、ちうさんの話題振りに明日菜さんが笑って応えます。

 

 

 

「まあ、話が来たときにみんな一緒にいたからね。興味がわかないとかって言ってたエヴァちゃんと茶々丸さんに留守番任せたし、それほど準備しなくっても来れたのも事実かも」

「「………………ん?」」

 

 

 

 ……あれ?

 

 

 

「おい、ちょっとまて。エヴァンジェリンが出てくるのはまあいいとして、留守番をそいつらだけに任せて安心できるとかどういうつながりだ?」

「裕奈さんと亜子さんとアキラさんのおうちは放置でいいんですか?」

 

 

 

 計算が微妙に合わないので突っ込んでみました。

 ……なんで目をそらすのでしょうか、お三方?

 

 

 

「あれ? 言ってなかったっけ? 今私たち5人と、エヴァちゃんと茶々丸さんと小太郎ちゃんとを入れて8人で一緒に暮らしてるんだけど」

 

 

 

 え、なんですかその異常な生活環境。

 

 

 

「…………シェアハウスってレベルじゃねえぞ……。そんな女子ばかりに囲まれて、烏丸も随分いい思いしてるんだな? ……おい、なんで目をそらす」

 

 

 

 目をそらした先生の代わりに、明日菜さんが笑って。

 

 

 

「千雨ちゃんもいっしょにどう?」

「どう? じゃねえよ!? なんだオマエラ!? 普通の考え方じゃねえってーの!」

 

 

 

 軽い調子で誘う明日菜さんにちうさんの怒声が炸裂しました。

 ですよねー。

 結婚しているはずの明日菜さん公認にしか聞こえない同棲とか、なんで許容できるのでしょうこのお姫様。

 ……ん? 『お姫様』?

 

 

 

「そりゃあ私ってほら、一応王族だし」

「――え、それ適用されるのか?」

「突っ込まれたらそう答えておけばいいのよ」

「コイツ確信犯だ……っ!」

 

 

 

 ……ああ、そういえば、一応明日菜さんって『黄昏の姫巫女』とかいう王族の末裔でしたっけ。

 魔法世界は封印以降なんの音沙汰も無いので正直忘れかけてましたけど、そういえばVIPになっている一番の理由が『それ』でしたね。

 

 

 

「だから2号3号もいてもおかしくない。ハーレムとか王族なら当たり前だし。っていうかセクスティウムちゃんこと6号ちゃんは一応うちの旦那の6号だし。せっかくだしこのかと刹那さんを火星にご招待しようか」

「その提案には賛成だけどハーレム作るのはむしろお前の方が正統だろうが。というかまだ居たのかよ愛人が、お盛んにもほどってもんを知れよお前」

「王族である私の結婚相手なんだから王権の一端を担いでも正当」

「畳み掛けるんじゃねえよバァーカッ!!」

 

 

 

 おおう、こんなにおこなちうさん久々に見ました。

 しかしなるほど、それでお三方は結婚の話が未だに無かったわけですね。

 確か学生の頃からのお知り合いだそうなので、その頃からの淡い恋とかそういうロマンスがあったのでしょうか?

 うちの父を相手側に置き換えると何故かどたばたラブコメディに変換されてしまいそうになって、いまいち想像し辛いのが難点ですけど。

 

 

 

「……実のところね? ちょっと困ってたからね」

「そりゃあ愛人が6・7人とか一週間でローテーションも組めねえしなぁ」

「いや、そういう下なハナシじゃなくってね。うちの旦那って私一人じゃちょっと捕まえきれないっていうか」

「……それで何人も公認で女囲わせて身動き取れなくさせるとか、お前本物のバカだろ」

「後悔はしてない(キリッ」

 

 

 

 ……仲良いですよね、お二人って意外と。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

≪おまけ2≫

 

「それはそうと、ちうたんも火星に来ないか?」

「ハーレムには入らねぇぞ」

「そういう話で無く、ね」

 

 

 

 一端の閑話休題を挟んで、気まずい空気を脱却させて先生がちうさんを誘惑してます。

 くっ、私も中学生という身分でなければ今すぐにでも火星へ単身乗り込めるのにっ。

 

 

 

「ちょっとした仕事のお誘いだ。電脳世界のサーバー管理に魔法技術を応用してみたいんだけど、一番能力的にも人格的にも信用できるのが俺の知る中でちうたんなんでな。本格始動させたいからとりあえずの一年契約からで火星まで来てくれね?」

 

 

 

 と、思ったらガチで真面目なお仕事の話でした。

 本気でそういう話題を振られるとは思ってもなかったらしく、ちうさんは少し居直して。

 

 

 

「唐突だな。つーかニートを担ぎ上げようとかって本気かよ? それ以前にいい加減ちうたんって呼ぶんじゃねえ」

「これは癖、っつうか愛称みたいなもんだと思ってくれよ。なんならその存在をネット上に再現させる技術とかも開発するのに資金提供の伝手も探せるけど?」

「おいおい、ネタを大真面目に再現しようとするその領域をまーだ忘れてねえのかよ。そろいも揃ってバカな方向へ突っ切ってるアルティメット夫婦め」

「なんだそのカテゴリ」

 

 

 

 苦笑してますけど、なんか乗り気じゃないですか? ちうさん。

 ……なんだかんだでこの人も、先生のことを想っていた一人なのかも知れませんね。

 

 

 

「来たらえーんやない、千雨ちゃんも。ほら、仮契約した縁で」

「それを言うんじゃねえ!」

 

 

 

 今まで空気だった亜子さんが爆弾発言しました。

 というかしていたんですか!?

 そのくだりもうちょっと詳しく!

 

 三年後、技術革新を成功させた千雨さんがテレビに映るその指には、先生たちとお揃いの鈍く輝く指輪が嵌まっていたのは、もう少し先の話です。

 




〜神楽坂そら(旧姓・烏丸そら)
 魔法と科学のハイブリッドの後進事業や人外の人権提起・確保に及ぶまで何気に色んなことに手を出していた新世界の生きた英雄。特別腕っ節が強かったわけではなく、戦う前にある程度の積み立てをして出来得る限り『平和的』に事を済ませてきたという地味な活躍。だが彼に頭が上がらない人物は特に政財界などに山のように居るらしい。良い意味でも、悪い意味でも。
 割かしのんべんだらりと寿命すれすれまで生きて総勢50人くらいの嫁さん友人息子娘孫曾孫に見送られて逝去。ちなみにその嫁の中にエヴァは入っていない。89歳の大往生であった。
 がその数年後、平行世界から帰ってきた超の持ってきた魔術式をエヴァが解読。『せーはいしすてむ』等という死者蘇生染みた術式を強大な魔力で再現した結果、従者として復活を果たす。
 槍を順装備でないのに何故かランサーのランクで召喚されたそらはちゃっかり若いころの肉体を得て、現在エヴァと火星にて悠々自適の老後改め死後生活を送っている。
 ちなみに件の術式にて追加で召喚されたのは、剣を持たないセイバー明日菜・魔術の使えないキャスター千雨・乗りこなすのは騎馬じゃないんですねわかりますなライダーこのか・性的な意味でのバーサーカー亜子・影が薄いのは仕様ですアサシンアキラ・普通の狙撃手(アーチャー)裕奈の生前の嫁の一部である6人。まさかこんな方法で再び生を受けるとは思っていなかった、と各々呟いたが、どいつもコイツも火星においてはそこそこ名を残した平和的な英雄存在である。

〜エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
 百年経ってもエターナルロリータな真祖様。組織?闇の末裔?なにそれ美味しいの?という意思の元テラフォーミングが完成した火星の首都ネオ・ヴェネチアで悠々自適のニート生活を送る。
 寿命とか人権とか色々悩む必要のある日常問題はそらが死ぬ前に色々と片付けていったのだが、まさかそれに自らが関わるとは死んだそらも思っても居なかったことで。
 ちなみに召喚された6人以外のそらの嫁は3人とも人外で、同じく火星にて適度の生活水準で活動中。どうやら普通に寿命が人間より長いらしい。

〜神楽坂明日菜
 一人で魔法世界を抱えてる、完全なる世界の鍵を所持している世界樹の番人。魔法使いが悪いことをやったらすぐに感知して完全なる世界へと送還できるとか言う、全世界共通最高峰のVIP。一国、どころか一つの世界一つの星を抱えているのでとてつもない警戒をされる羽目に。
 そらと結婚したのは二十代後半。くだりは、学生の頃のノリで疲れていたそらが気楽に結婚してーと言ったことをはいはいと許可したら周囲の護衛らが真に受けてあれよあれよという間に挙式の準備が出来ていて、置いてきぼりにされているのは本人たちばかりだったという。というか、完全なる世界の事情を抱えているお陰で制御できる人物がそらくらいしか居ないんじゃね?と周囲の者も認識していたのが一番の原因。彼が疲れたタイミングで再会したのも何かしらの意図が関わっているような気がしないでもない。
 その後嫁さんが更に増えたのは明日菜も了承していたことだとか。どうも彼女自身も彼を一人で制御できないんじゃないかと、学生の頃の印象が抜け切れなかったらしい。

〜近衛このか
 嫁と表記はしたが血の繋がった子は一人も居ない。正確にはそらの嫁として嫁いだ刹那の嫁。(←!?)
 そらの結婚数年後にネギが刹那を孕ませていたということが発覚し、宮崎という奥さんが居てなんでそういうことをするのかとネギがこのかにボコボコにされるという原作では欠片もありえない展開にまで発展。「中学生の頃から好きでした!」という更にありえない発言を聞いて、刹那を奪い取るようにネギから離させる。結果生まれた息子の親権はネギに任せられ、瞳からハイライトの消えた宮崎が自分の旦那をどう躾けたのかは誰も知らない。
 その十年後、ネギの息子の一人があやかと結婚したとか風の噂で聞こえたが、挙式が行われることは終ぞ無かったという。

〜和泉亜子
 テラフォーミング中の火星にて駆け回っていたという白衣の天使。色んな現場に借り出されるも、お前のナース服とかプレイの匂いしかしねぇな、という友人からの一言がかなり浸透。患者さん方も納得した、色んな意味でお世話になりました、という白衣の天使(意味深)。
 一緒に動き回っていた介護師、と見せかけた総合現場監督のアキラたんと双璧を成す人気を誇っていた為に英雄的存在に今も祭り上げられて居る。当時の映像や写真が、色褪せることなく皆の記憶に残る。そんな二人。

〜火星
 原作ネギまとはまったく別物。魔法界が残っていない水の惑星。戦争も人種差別も無い、ある意味とてつもない理想郷。
 文化保存との声が上がり地球では沈没した水の都・ヴェネチアを再現した中心都市に並び、千本鳥居や厳島神社、水上洞窟や温泉棚田などの『水』を主題とした有形地球文化遺産の移堰に成功しているとかなんとか?
 代わりに電子的な造詣は極端に少なく、日本の首都東京の様な都市計画は一向に進言されないという『最後の癒し』だとかいう名目が名づけられているとかなんとかry。
 ちなみに件の千本鳥居には犬耳の巨乳巫女が住み着いているという噂。この一文で既に眉唾。

〜カタナ=スプリングフィールド
 のどかとネギの娘。腹違いの弟がいる。
 両親の出会いを聞いて世の中の常識を疑う14歳。
 出会いが学校で教師と生徒?生徒に手を出したの?え?パパの年齢が当時九歳?その学校やばくね?と混乱の極みに至る少女の奮闘記をいつか書きたい。

〜その弟
 せっちゃんとネギの息子。存在が発覚したのは生後四年後。姉が14の頃。
 カタナの学習環境を懸念したネギが預かる先を探したらあやかが立候補したという経緯。この時点で既にヤバイ匂いがぷんぷんしていたのだが、このかにふるぼっこにされていたネギには正しい判断は出来なかったヨ・・・・・・。
 彼とあやかの孫が要するに前回のIFで登場した近衛刀太君(偽)。せっちゃんの血がわずかながら入っているから『天狗の大団扇』に適応した、という裏設定。

〜四閃三極
 魔法アプリに繋がる前身(プロトタイプ)みたいな術式。
 見えない刃を魔力で構成し、その軌道は前以て入力することで稼働させる。
 元ネタはマテリアルパズルの切り裂き魔コルクマリー。

〜魔法世界
 実はとっくの昔に影も形も残されて無い。明日菜を主軸にした封印で火星から住人も根こそぎ剥離された幻想世界。
 元幻想世界の住人共はテラフォーミングの成功した火星上に新たな隠れ住人として放流してあるのだが、本来実体を持っていると宣言しているはずのメガロメセンブリアの元老院などは魔力に完全還元して『完全なる世界』へと袋詰め中。
 黄昏の姫巫女2号であり世界樹の番人2号でもある相坂さよの暇つぶしとして、現在一人一人『中身』を確認しながらの選別作業中。プライバシーも何もあったもんじゃねえ。
 ちなみに鈴木6号はその従者でありつつも、そらの嫁6番目に立候補した猛者。



こんなに長いあとがき初めて!
もうこのまま本編に載せるべきだったかもしれない注釈&IFの7でした
アキラたん√に見せかけてアスナ√、と見せかけたハーレム√だよ!かかったなバカメ!
たぶん本題はあとがきに載せた【その後設定】の嵐


魔法世界封印については簡単なルートを語りますと、

魔法世界編が夏に始まらない

卒業式ぎりぎりまで時間をかけてそらが準備
その間アーウェルンクスらが魔法世界中で『完全なる世界』の真似事をしつつ暗躍。何気にゲートを破壊しておいて魔法世界人の逃げ場をなくす

卒業旅行として完全封殺に敢行
黄昏の姫巫女×2を引き連れて、元老院でも還元可能な術式を構成しつつ唯一開けたゲートにそれらの全てを設置。打ち漏らしは漏れなく魔力へ還元(リライト)

火星から魔法世界を完全に剥離させる

って感じです。この世界線だと
そもそも人間の新陳代謝と適応能力がどうやって成立しているのかを考えろというのがこの理屈を立てた原因
魔法世界のものが全て幻想だとして、それって栄養素とかにも適用されるの?
その世界で最長でも一週間くらい生活していたらその体の中身も代謝で改変が終わってるんじゃないかしら、って思った
そうなったわけでなければ元現実世界人が普通に生活できている理由がわからん。全部が幻想だと最終的には栄養失調で死ぬでしょ?
事実どう考えていたのか、赤松さんは

っつうわけでこの作品においてはリライトは魔法使いなら適用する、って設定に改変。むしろそらが改造しましたw
今後続ける上でそうなる可能性もあるので、ガチで『完全なる世界』側にそらが行くとネギが絶望に包まれますね!
それを乗り越えるのが主人公だよ!ガンバ!


ここまで書いてしまったらもうこれで最終回でも良く思えてきた
ま、まあIFだし?
本編やるとしたら多分違う展開になるだろうし?
・・・なるといいなぁ・・・

これが最終回でも宜しいですよ。という方にとっては蛇足になるかもしれませんが、一応今後も続きます
違う結果を目指してみるのも一興かもしれない
そんな意気込みで、多分次も番外編。では


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『IFルート【その8】』

本編再開すると武道会編で随分話数使う計算になっているのでその前にちょっとしたブレイクタイム
数多くある二次創作の中で気負わずに読める程度のフランクな代物目指して本日も執筆開始



 

≪初めまして真祖です≫

 

「えっ、ハリーポッター!? キミ本物のハリーポッターなのかい!?」

「うっ、うん、まあね」

「そ、それじゃああれはあるのかい? 生き残った時につけられたっていう雷状の傷痕が!?」

 

 

 

 本物の証明を求められて、メガネの少年が何処か誇らしげに自分の額を、前髪をかき上げて見せる。

 恐らくはあまり誇らしい代物ではないはずだったのだろうが、それに関する『逸話』を多くの『魔法使い』が知っていることから自信に繋がっているのだろう。

 傷痕を見せてもらった赤毛の少年は、目の前の相手が本物だと知ると、更にいっそう興奮していた。

 

 

 

「ひゅうー! おったまげー! 僕はロナルド・ウィーズリー! 気軽にロンって呼んでよ!」

「うん、よろしくロン!」

 

 

 

 同年代同士の少年たちはすぐに仲良くなったようだ。

 二人の友好の握手を横目で眺めながら、私は手元の操作を止めることは無い。

 今良いところだから。ソロじゃ回復が追いつかないから。気を緩めるわけにはいかないのだ。

 

 

 

「で、えーっと……、キミも新入生なんだろ? それ、マグルのキデン、ってやつなのかい?」

「集中が乱れる話しかけるな赤毛。キデンじゃない、電気、だ。あとこれはゲーム(おもちゃ)だ」

「」

 

 

 

 む、死んだ。

 くそっ、クエスト失敗か。

 

 やる気がなくなった私はPSPの電源を切って、話しかけてきた少年たちに応えてやることにした。

 同室にて乗り合わせたのも何かの縁。

 無下に扱ってしまったが、すぐに挽回してやればそう気を悪くするほど狭量な奴などそうはいないだろう。

 

 

 

「ふぅ。すまんな、少しうっとうしかっただけだ」

「いや、それ謝ってないよ……。えーっと……、もういいのかい?」

「ああ、興が削がれた。ウィーズリーくんにポッターくん、であってるのか? 私も新入生という奴さ、学校で顔をあわせたときには仲良くしよう」

「ものっっすごい他人行儀だね!? どの口が仲良くしようとか言ってるわけ!?」

「細かいことを愚痴愚痴言うな、はげるぞ?」

「はげないよっ!!」

 

 

 

 メガネの方はテンポ良くツッコミを返してくれている。

 なんだか数十年前に逝去した新八のような奴だな、と若干の懐かしさがこみ上げたのは内緒だ。

 

 赤毛の方は、遺伝的に懸念でもあるのか、家族の誰かが薄毛に悩んででもいるのだろうか。

 私の一言にビクンッ、と跳ねていた。

 彼の将来の頭皮に、幸あれ。

 

 

 

「ま、まあそれはともかく、キミの名前を聞いて無いんだけども……」

「エカテリーナ。エカテリーナ・マクダウェルだ。お気軽にマクダウェル様と呼べばいい」

「どのへんがお気軽なのさっ!?」

 

 

 

 やばいな、少し楽しくなってきた。

 打てば響くような反射(ツッコミ)に忘れかけていた望郷の念が蘇るようである。

 

 と、そんなメガネの少年はともかくとして、なにやら赤毛のほうが目を見開いていた。

 おいおい、いくら私が美少女だからって、そんなに驚かなくってもいいんじゃないか?

 

 

 

「――マクダ、ウェル……? キミ、ひょっとして、オブシディアン・マクダウェルの関係者、なのかい?」

「? 兄だが?」

「ひ、ひぇえっ! おったまげぇーーーっ!?」

 

「ねえロン、キミ僕のとき以上に驚いてない?」

 

 

 

 おい、なんでそんなに驚いてる。

 うちの兄様は一体なにをやらかしたというんだ?

 リアクションに乗り切れなく、若干の哀愁を漂わせたメガネの少年がなんだか侘しさを醸していた。

 

 

 

     『なんか違う魔法少年物語(小並感)』

 

 

 

≪よくわかる日本の歴史【導入編】≫

 

 吸血鬼となって600年ほど生きたわけだが、その間に家族は兄様以外にはジャンヌくらいしか出来たことはなかった。

 魔法使いがうっとうしかったので、兄様はそれに対抗すべく徹底的に殲滅し尽くし、魔法世界とやらが完全にこちらと断絶したのはおよそ300年前。

 それから十数年くらい後にジャンヌもいい人を見つけ、生涯を終えた辺りを見届けてからも相変わらず仲良し兄妹をやっていた私たちは、物見遊山気分で日本へと渡った。

 

 そしたら鎖国とかで日本から出るのが難しくなり、めんどくさくなった私たちはそのまま永住した。

 

 ノブナガとかいうおっさんの料理番をしていたとかいう男の残したという西洋料理の再現度に驚いたり、

 サイトーとかいう剣士に京都で追い回されたり、

 死んだ魚のような目をした侍もどき天パ男の仕事を手伝ったり、

 今で言うドレットヘアの色黒男と兄様が飲み明かして朝帰りしてきたところを背負い投げで布団へ放り込んだり、

 安藤奈津とかいう東京銘菓に舌鼓を打ったり、

 と、色々なことが起こる日本での生活は、中々飽きることはなかった。

 

 そうして空襲とか震災とかで文字通り沈んだり、東京タワーとかバブル経済とかで盛り上がったり、と日本人の一喜一憂がやたらと激しくなった頃。

 若干目立っていた私たちの外見でもある程度馴染んできた辺りで、『魔法使い』が日本へと入国してくるようになった。

 

 おかしいのはその魔法使いたち、どうやら断絶した魔法世界とはほとんど関わりが無いらしく、私たち兄妹の知らない魔法体系を発展させていたらしい。

 そこで興味がわいた兄様は、無暗矢鱈とフレンドリーなその新魔法使いらの技術を探求すべく奴らの居城へと渡って行ったのが去年の話。

 というのもどうやらその新魔法使い共、兄様のことを『魔法学校』と言う奴に通うことが出来なかった未発見(もぐり)の同類だと判断したらしく、兄様はこれ幸いと魔法学校へ入学して行ったのである。

 

 そして一年の間、私には『景観が侘しいからソメイヨシノを送ってくれ』だとか『生きた幻想種を発見して倒してしまったので標本を送る』とかわけのわからない手紙や郵便の遣り取りをし続け、最終的に今年、私も件の『ホグワーツ魔法学校』へと入学する流れと相成ってしまったわけだ。

 魔法を扱えない一般人をマグルと呼んだり、そのマグル製品である家電などが使えない学校だったり、と聞いていた私にとっては完全に興味外の世界であったので、兄様が楽しそうなら問題ないかな、と他人事扱いしていたのであったのだが。

 フクロウが郵便を運んできたのには驚いた。

 海を渡れるとか、世の中にはまだまだ知らぬ鳥類がいるものだ。

 

 

 

「キミ知らないのかい!? オブシディアン・マクダウェルは『名前を呼んではいけないらしかった例のあの人ヴォルなんとかさん、より最悪で残虐な絶対に目を合わせちゃいけない青年』って二つ名で有名なんだぜ!? キミを殺し損ねたトム・リドルを生け捕りにしてホグワーツの地下深くで飼っているとか言うとんでもない噂まである!」

「う、噂だよね……? というか二つ名長いよ、長すぎる」

「ホグワーツの噂話は『ほとんど真実』さ! 英雄なんだか悪魔なんだかわからない、うちの一つ上の兄さんたちと同学年だったって言うのにとんでもない功績を魔法界にもたらした今一番注目されている奴さっ!!」

「どう聞いても悪魔にしか思えないよ」

 

 

 

 スマン、吸血鬼なんだ。一応。

 あと二つ名長いな。大事なことなので三回目を言った。

 

 

 

≪テクノポップ=ボーシ≫

 

 列車の中で知り合ったネビルとかいう少年と、小生意気なハーミーとかいう小娘はグリフィンドールとやらへ。

 蛙を探すために労力を使いたくなかっただけなのに、捲し立てるように煩かったので霧化して一瞬のうちに列車の隅々まで探してやった。

 あの小娘とは一緒のクラスにはなりたくないなぁ。

 

 

 

「次、エカテリーナ・マクダウェル!」

 

 

 

 クラスを分けるのに帽子を被って判断するらしい。

 というか、同じような性質・性格のやつらを一つところへ集めるのは果たして正しい教育なのだろうか。

 それぞれの個性を切磋琢磨させるためには、別のタイプの人間をばらばらに変遷して、そういうやつらを纏め上げるからこそ団結力は出来上がると思うのだが。

 まあ勝手な持論にもならない思考でしかないので今はカット。

 というか誰だ、今「マクダウェルならスリザリンが確実じゃないのか」とか言った奴は。

 兄様はレイブンクロー主席だとか言ってたそうじゃないか、どんなクラスか知らんが私もそこがいい。

 

 

 

『――ハッフルパフ!』

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!??????????????????????」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 うるさっ!?

 なんだオマエラ! 全員そろって大合唱するとか! 失礼にもほどがあるだろ!?

 

 で、ハッフルパフってどういうクラスだ?

 

 

 

『心優しきものが集まるハッフルパフ♪

 誰かのことを想うことが出来るそんな貴女は♪

 きっとそこが似合うはず♪

 というかグリフィンドールに行きたくないとか言うの初めてすぎワロス♪』

 

 

 

 何処かの配管工の音調で歌う帽子とか初めて見たわ。いや、歌う帽子自体初見だが。

 

 ちなみにポッターとウィーズリーはグリフィンドールに行った。

 ポッターの奴は「スリザリンは嫌だ」とか呟いていたのが聞こえたが、改めてそこってどういうクラスなんだ。

 あと小娘の相手は任せた。

 

 

 

≪こんにちは妹様≫

 

「うちの妹様の優しさは三千世界に響き渡るほどだからね、こうなる可能性のほうがずっと高かったのは自明の理」

「おお兄様、お久しぶり。突然だが帰ってこないから日本の家は売っ払ったからね」

「え、せっかく送ったお土産とかは?」

「全部送り返したから、明日にはこっちに届くだろーね」

 

 

 

 大人しくなった奴らに紛れて食事しているとゴースト(驚愕)よりも幽霊みたいに隣の席に座っていた兄様に、同クラスの全員が飛び上がるほどに驚いた。

 そして流れるように、講堂中の新入生全員が私たちから目をそらした。

 おい、あの噂完全に新入生全員に知れ渡っているみたいだけどいいのか。

 

 というか兄様は自分のクラスで食事しなくて宜しいのだろうか。

 え、ボッチなの? フレンドリーな新魔法使い共とは打ち解けられなかったの?

 

 

 

「まあ、自分の部屋くらいならもらえたからいいけどさぁ」

「寮生活と違ったの?」

「ああ、俺は一応特別。理由は――、」

 

「――諸君、食事しながらで宜しいので聞いてもらいたい」

 

 

 

 ――おお、なんだあのヒゲ。凄いヒゲだ。

 

 兄様の言葉の途中で声が聞こえ、振り向いたらヒゲの凄い爺さんがいた。

 誰?

 

 

 

「ダンブルドア、校長だよ。というかさっき名乗っていたはずなのだけど」

「聞いてなかった。ところで兄様の部屋って電気来てる? ケータイとPSPの充電できる?」

「キティ……、俺がいなくなってからなんか妙に自堕落になってない?」

 

 

 

 突然生き別れる兄様が悪い。

 働きたくないでござる。

 勉強もしたくないでござる。

 

 

 

「今年から新しい先生を迎えることになった。

 闇の魔術に対する防衛術にはスネイプ先生がつくこととなり、代わりに魔法薬学はオブシディアン・マクダウェル君が教えることとなる」

 

 

 

 ん?

 なんか聞いたことのある名前を言わなかったか、あのヒゲ。

 講堂中所々からも、は? とか、え? とか難聴みたいに聞き返す奴らが続出してるし。

 

 

 

「まあ、そういうこと。俺が教師の代わりをやるから、相応の部屋ももらえた、ってことだよ」

「……兄様、確か二年生じゃなかったっけ?」

「色々自主学習したら此処で教わるようなことは全部終わっちゃって、正直暇なんだー」

「相変わらず学ぶことに関してはチートだよね、兄様は……」

「あとは、ヴォルなんとかって奴を捕まえたからその褒美みたいな?」

 

 

 

 褒美じゃないじゃん。

 逆に城に縛られちゃってるじゃん。

 

 兄様が楽しそうなら別にいいんだけど。

 

 

 

「あいつなんかいくら殺しても死なない身体らしくってね、とりあえず思いつく限りの実験材料に使わせてもらったんだけども、」

「兄様、食事時にグロ話はやめて?」

 

 

 

≪おい、デュエルしろよ≫

 

 本当に二年生なのか、とそこかしこから声が上がる、わかりやすくて為になる兄様の授業は矢鱈と好評であった。

 お陰で流れていた噂も、ヴォルなんとかさんを捕まえた、っていう好意的らしい部分が先行して悪評のほうは沈静化してきているらしい。

 ちなみにそのヴォルなんとかさんは闇の帝王(笑)を名乗っていたらしい中二病で、ガチで死なない私たちみたいなものの劣化版? みたいな奴だったと兄様の研究資料には載っていた。

 あんまり煩かったので読ませてもらったが、本気で興味の失せる資料であまり面白くなかった。

 ちなみに兄様の部屋は電気や電波も届くしネットも配備されていたので、思わず此処に引き篭もりたくなる垂涎の環境であったのが実に羨ましかった。

 

 そしてそんな中、第一回闇の魔術に対する防衛術の授業は、グリフィンドールと合同。

 意気揚々と教室に現れたスネ……スネヲ? とかいう先生に連れられて、恐ろしくやる気の無い表情でついてきたのは兄様だった。

 

 

 

「――さて諸君、諸君らは彼の噂を既に耳にしていると思われるが、そんな彼の実力を知りたくは無いかね?」

 

 

 

 確かそんなことを言っていた気がする。

 あれよあれよという間に、生徒を煽っていたスネヲは兄様と決闘の真似事を生徒たちの前で実演する流れとなっていた。

 というか、兄様をガチで戦わせる気なのかあの粘着ロンゲ。

 

 

 

「兄様、手加減ぐらい覚えてるよね……?」

「本気じゃやらないって」

 

 

 

 互いの聴力の範囲を知っているので小声で会話する。

 誰にも聞こえないくらいの声量で、最低限の確認をして、恐らく死なせない程度の戦いにはなるのだろう、という言質は取れた。

 あとはスネヲが上手くやればいいだけだ。多分。

 

 

 

「では始める。――アブダケダブラ!」

「――おい?」

 

 

 

 緑色の閃光が兄様の身体を直撃した。

 

 

 

「う、うわああああ!? スネイプが殺したああああ!?」

「きゃあーーーーーっ!?」

 

 

 

 ウィーズリーとハーミーの声がやたらと良く響いた。

 ポッターは青い顔で壇上の二人を見上げている。

 

 そして、騒々しい講堂内で唯一静かだった壇上の上では、一旦倒れた兄様がゆっくりと起き上がった。

 

 

 

「――スネイプ先生、面白い冗談をやってくれるなぁ……!」

 

「――前から思っていたのだが、マクダウェル、キミは何故『死の呪文』にまで対抗できるのかね」

 

「俺と妹様は泰山父君に謁見できるからな」

 

「なるほど、日本のon-myo-doか」

 

 

 

 たいざんふくんって誰だ。

 日本にいた頃矢鱈と麻婆を推してきた行きつけの中華屋の主人か。

 

 兄様が適当なことを言ってるとスネヲ先生は納得したように頷いていた。

 多分興味本位か何かでやったのかも知れんけど、兄様今えらく怒ってるから。

 逃げてー、スネヲー。

 

 

 

「『セブルス・スネイプニ命ズル、サカシマニナッテクルクル踊レ』!」

 

「なん――、ぬ、おおおおおおおおおお!?」

 

 

 

 あ、良かった、まだ良心的なほうだ。

 

 何の呪文かは知らないが、多分新しく覚えたものなのだろう。

 スネヲ先生は兄様の言いつけ通り、逆立ちとなってブレイクダンスを披露し始めていた。

 

 

 

「ヒュゥーーっ! すげぇやマクダウェル先生! スネイプに言うことを聞かせる呪文を軽々とかけてやがるぜ!」

「スネイプ先生の頭髪に見る見るダメージが溜まってゆくわ!」

 

 

 

 先ほどとは打って変わって、ウィーズリーとハーミーの二人が我がことのように兄様の反撃を喜んでいた。

 ちなみに兄様は明確には教師ではないのだが、苗字の後に先生とつける愛称が最近流行りだした。

 最初は私との差別化を測っていたものであったらしいが、今ではマクゴナガル先生もそう呼んでいる。

 どうでもいいけどあの先生もにゃんこに変身できるのだから凄い。

 新魔法使いたちは本当にやることがすさまじいなぁ。

 

 もう一つついでに言うけど、兄様が本気で怒ってたらスネヲ先生は首と胴と下半身とでの歪な三分割に一瞬でされていたと思うから、あの反撃は本当に優しいものなのである。

 たとえ先生の頭皮が見る見るはげ散らかっていっていたとしても。

 ……何処かで「止めて……! 止めろ……っ!」という知らない男性の絶望の声が聞こえた気がした。幻聴?

 




〜お久、オブシーだよ!
 IFの4とは若干違った世界線
 魔法世界との断絶があっちより若干早かったです

〜改めての自己紹介
 エカテリーナ・マクダウェル(通称・キティ)↓
 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
 オブシディアン・マクダウェル↓
 烏丸そら、のIFの転生体。外見年齢17くらいで吸血鬼化したエカテリーナの義兄

〜日本の元ネタ
 順繰りに『信長のシェフ』『銀魂』『ピースメイカー』『仁―JIN―』

〜生きた幻想種
 城の地下で眠っていたバジr

〜捕らえられたヴォルなんとかさん
 学校でたまたま見つけた分霊箱から『本人』を引き寄せる魔法を開発してみたら、悲鳴を上げながら床を転がるクィレル先生が出来上がった。という逸話
 そのまま実験動物コース直行

〜中華『泰山』
 若干不機嫌がデフォルトの麻婆なおじ様
 なんだかんだで日本在住中はお世話になったらしい

〜首・胴・下半身で三分割
 日本で色々やっているうちに覚えた無拍子(手刀)
 吸血鬼の膂力なめんじゃねーぞ


怒られるのは覚悟している
真面目にハリポタ二次をやっている方々からすればとんでもねえ大暴投
でも俺自重しない・・・!

次回からはようやく本編再開
今月中にどれだけの投稿が出来るのか
気分はまるでチキンレースw
それではまた


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『麻帆良武闘会、開催してます』

この一話毎の感想の差が・・・!

微妙に長くなりそうな麻帆良武闘会編開始
一話一試合を内包できるよう更新する所存です
あとはキンクリ?


 

 麻帆良祭・二日目――。

 

 

 

『それでは! 出場選手の紹介です!

 気は優しくて力持ち、いまどき珍しい絶滅危惧種!? 喧嘩“番長”! 豪徳寺 薫!

 対するは、最近イメチェンしたそうですがこんな場にもかかわらず相変わらずのガクラン姿! 最早これが彼のトレードマークか!? 埼玉の漆黒改め麻帆良の混沌よりも這い寄る“負完全”! 烏丸 そら!

 どんな勝負になるのか誰もがまったく予想のつかない! 麻帆良武闘会本戦第一回戦、レディー……! ゴォーッ!!!』

 

 

 

 ペプシコーラ吹いた。

 暇つぶし代わりに冷やかしに来た催し物の舞台ど真ん中で、まさか見るとは思ってなかった知り合いの姿を見つけてしまう。

 若干やる気の無さそうなガクラン姿の褐色白髪が、いやに熱気で溢れたリーゼントヘアの番長と対峙していた。

 アイツ今から戦うのかよ。つーか戦えるのかよ。

 そんな疑惑を抱きつつ、アタシはハンカチで口元を拭う。

 

 

 

「始まりましたね、麻帆良武闘会。実況は私、麻帆良科学部よりの依頼で登板いたしております絡繰茶々丸と、」

「暇なので連れてこられました、解説の大河内です。とはいっても茶々丸さん、わたしこういうことに詳しくないよ?」

「大丈夫です。賑やかしに女子がいれば問題ないのですから」

 

 

 

 もう二人、というか一人と一体、知り合いとクラスメイトを見つける。

 というかすぐ隣が実況席だった。

 ぶっちゃけた実況と解説で、のっけからgdgdになりそうな混沌具合に頭痛が痛くなってくる。

 

 

 

「というか、烏丸くんはなんであんな名称で呼ばれているの?」

「それは語るも涙、聞くも涙の悲しい過去が関わってくるのです」

 

 

 

 表情を変えずにおよよ、と涙を拭う仕草をして言葉を紡ぐロボ。コイツのその存在に違和感があるのは元よりとして、何気に烏丸のことを内心嘲笑っているように聞こえるのは気のせいなのか。気になったのも確かなので咎める気は更々無いけど。

 雰囲気がばっちりなのには異論は無いしな。

 

 

 

「昨日行われた予選会場にて、「モブキャラの皆さんこんにちわー」という一言で3ブロック分の出場選手の心をポッキー感覚でポッキリ圧し折り再起不能に追い込みました」

 

 

 

 もうアイツ球磨川禊に改名しろよ。

 螺子を使い出したらそう呼ぶことを心の中で決定付ける。既に懐に潜ませていそうな雰囲気を醸していることなのだし。

 

 

 

「それほど昔でもないね」

 

「いやそういうツッコミじゃないだろ今必要なのはっ!?」

 

 

 

 って、やべえ、声が出ちまった。

 

 

 

「これはこれは、長谷川さん。なんだかお久しぶりです」

「ほんとだ、千雨ちゃんもネギ先生の応援?」

「お前らとりあえずアタシのフルネームを公共の電波で放送するの止めやがれ。応援っつうか、まあ見学だよ」

 

 

 

 さすがに全聞こえな状態で冷やかしだとは堂々言えなかった。

 本音としては、昨日襲撃食らわされてコスプレコンテストで赤っ恥をかかされた意趣返しに、ウチの副担任の面白い姿でも拝めればとやってきただけなんだが。

 まあ今更逃げるのもアレだと思われるだろうから、せっかくだし聞いておきたいことを尋ねる。

 

 

 

「ところでなんでアイツ、烏丸は出場してるんだよ? アタシの知る限り、アイツはこういうところに堂々出てくるタイプじゃなかったはずだと思っていたんだが」

 

 

 

 数ヶ月程度しか同じクラスにはいなかったが、バカイエローとかが勝負を挑んでも逃げ回っていたイメージが先行している。

 ついでに言うと聞きかじった噂でも直接対決を避ける逃げ足だとかって耳にした覚えもあるんだが?

 

 

 

「さあ。暇だったのでは無いでしょうか?」

「どんだけ暇人が横行してるんだよ今年の麻帆良祭は」

 

 

 

 アタシが言えたことでもないのだけれども。

 そんなアタシらの会話を横に、本戦はとっくに始まっていた。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 むしゃくしゃして予選に出場した。

 今ではちょっと後悔している。

 

 全ては昨日の夜が原因。

 時間が余ったのでまおちゃんに使おうかと、余計なことを考えてしまったことが一番駄目だったのだろう。

 ――まさか彼女と仮契約が結ばれるとは思っても見なかったなぁ………………。

 

 ――いや、違うんですよ。聞いてください。

 このロリコン野郎め、って語るその眼差しを向けないで。お願いだから。それでも俺は無罪だから。

 

 キスとかそういうのをやったわけじゃないんだよ。

 ただお願いされただけなんだよ。

「わたしとパートナーになってもらえませんか?」って。

 

 うん。まあ、それが世界樹で叶えられちゃった、っていうのが顛末である。

 世界樹の魔力ぱねえ。

 強制力こそ働かなかったものの、俺の障壁とすげぇ轟音鳴らしてぶつかり合って、最終的に無理やり仮契約カードを具現化させたからね。

 

 しかもよくよく聞いてみると、今日行われるはずだったカップルコンテストに出場したいから、それのパートナー役をやってほしかった。とかなんとか……。うん、あれだよ。原作でネギ君と和泉が出ていた路上コンテスト。

 ……言葉が足りないよ、まおちゃん……。

 

 仕方ないのでカードについて魔法についてちょっとだけ詳しく教えて、秘匿主義とばらすと俺がオコジョにされる、って九分九厘程度の嘘を教え込んで口封じしたのが昨夜の記憶。

 嘘じゃないよー。可能性はあるって話だから嘘はついてないよー。

 ちなみに九分九厘って10分の9って意味合いなのだけど、常識で語れば“割”っていう単位が上にある。九分九厘に九割一厘を足してようやく全つまりは一になるとかいう意味合いもあるのだ。つまり九分九厘とは訳すと一割に満たないって程度。それが“ほぼ全部”っていう意味合いで共通認識されてる日本語ってちょっとおかしくね?ってどうでもいいことを思ってしまったりもしちゃったりもする。

 まあ日本語なんて時代でころころ意味合い変わるからどうでもいい。眉唾眉唾。

 

 

 

 そうして出場したのはガチで憂さ晴らし。自分がどの程度まで戦えるのかを知りたかったというのもあるけど。

 スタンドが進化したのはいいが、相変わらずピーキー過ぎて使い勝手が悪いのだ。俺のスタンドは。

 

 言葉で何処まで行けるのかを実践で証明したかった俺は、『見下す』視線で相手より上位の領域に立ち、『暴言を吐く』ことで『言葉をぶつけ』的確に聞いた者の心を『圧し折る(へしおる)』。

 スピーカーでちょちょい、と立ってられない程度の言葉の重みに嫌なトラウマを植えつけられた数は、片手じゃ確実に足りない様子。

 

 そしたら出場選手が足りなくなって、慌てて欠場しようとしたらご覧の有様だよ!!!

 目立つつもりは全然なかったのに。

 ただ超の思惑を根っこから圧し折るのも面白そうだと思っただけなのに。

 こんな目立つ場所に引きずり出されるとか、まるで天下一武道会で正体をばらされたグレートサイヤマンみたいな心情である。

 俺にはスーパーな野菜人を更に超える、みたいな面白ギミックは備えられていないのだけれど。

 

 ともかく、それ繋がりで別ブロックから連れ出された目の前の豪徳寺先輩を見やる。

 原作では予選敗退であった彼だが、ネギ君と当たらなければ相応に本戦出場可能なキャラクターであるはずなので、俺のバタフライエフェクトの結果であろうとこうやって戦っていることには、まあ文句は無いのだ。

 その相手が俺自身でなければ。

 

 というかこの先輩、確かアキラたんの話ではスタンド使いであったとかって聞いたはずなのだが一向にスタンドを使おうという気配が無い。

 使い方がわからないのか、使いたくないのか、隠しているのか。

 

 以前にしずな先生(おそらく)に襲撃された折、彼も封印の憂き目に遭っていたと予測できる。だが、その封印もおそらくは完璧ではない。

 現にアキラたんは別荘に連れて行ったらすぐに回復したし、おそらくしずな先生のスタンドの感知外に出ると効果が失われるとか、そういった解消法があるのかもしれない。そう考えるとセル彦先生の封印が修学旅行で解けたらしいことも納得できるし、麻帆良に襲撃かましてきたらしいスタンド使い2名の封印が解けたことも納得できる。そうでなければ捕縛していた麻帆良側が易々と取り逃がすとはちょっと思えないし。

 そのうち片方は俺ゲフンゲフンヘラクレスくんが半身に圧してしまった訳だけど。

 

 ともかく、どの可能性も捨てきれない以上は迂闊に間合いへ踏み込むのも躊躇われる。

 アキラたんにどんなスタンドだったのかを聞こうと、とりあえず参考資料としてジョジョの第三部を読ませたら一発で近い形状のスタンドを指差したからな。

 それがスタープラチナであったのだから、俺が戦いたくないのも、わかるよね?

 

 まあ、形状というか身に着けているトレードマークは若干違った、とかっては言っていたけれど。

 

 

 

「っ、くそぉっ! いい加減かかって来いやぁっ!?」

 

 

 

 回避行動ばかりしていたら怒られたでござる。

 モノローグだと思った? 残念! 既に戦いは始まっていたのでしたっ!

 

 っつうかいやいや、俺って見た目は普通の男の子だから。最近は無茶なイメチェンで若干転生者っぽい見た目になったかも知れんけど、自分から殴りかかるとか今時の踏み台転生者でもやらないし。つうか俺そんなに野蛮じゃないしー。

 

 

 

「俺にはわかる! お前は本性を隠している! そのガクランに隠された強さを! どうか俺に見せちゃくれねえかっ!?」

 

 

 

 良い事言っている風に聞こえるけれど、言葉区切るごとに殴りかかってきているんだぜ。

 それを雲耀スタイルで回避しながら、豪徳寺先輩の動きに注視する。

 

 言いつつ、この人も隠し球を抱えているんだよな。

 

 振るっている攻撃は最初こそ本気だったが、今では狙っているような力を抑えた大振り。

 決定打を打ち込むために、あえてかわせる攻撃でカウンター誘い? 番長の名は伊達じゃないのか。

 

 

 

「――っ、ち、さすがに誘われちゃくれねえか。

 それなら、俺のほうから見せてやるよ。俺の錬(レン)をな」

 

 

 

 そう言って、こちらが距離を取ると追撃を止める。

 つうか『錬』って言った? 何? 念能力なの? スタンド使いじゃなかったの?

 

 コブシを腰打目に構えて、気合(オーラ)のようなものを全身から発揮。

 あれー、スタンドじゃないし……。

 マジで錬?

 というか、――来るのか、原作でも見せたアレを……!?

 

 

 

「『発』――漢魂ァ!」

 

 

 

 コブシから振りぬかれた弾丸が、一直線にこちらへと放たれた。

 放出系かよ、お前。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「躁気弾、ですか。やはり麻帆良の使い手は一筋縄ではいかないようですね」

「いえ、特別な修行をしたように思えない一学生が気の扱い方を習得しているって普通におかしくないですか……?」

「ネギ先生、埼玉にはこんな格言があるんです。『麻帆良なら仕方ない』」

 

 

 

 そっかー、と私の説明を受けて若干白い目で舞台へと再び目を向けるネギ先生がそこにいた。

 

 いや、私だって普通におかしいとは思いますけどね? 説明できない事象が実は一週間でダース単位で盛られていると言っても過言ではない麻帆良ですから、一々気にしてたら身が持たないのも事実なんですよ。夜間警備をしていたらその格言がよく身に染みた私としては、他に言葉を選べません。

 関西呪術協会が解散したはずなのに、何故か襲撃は止まらないし。それ以外の事件も実は日夜起こっているとかいう現状だと、何かしらの手当てを要求しないとやってられなくなりもする。当初料金請求をしていた龍宮の気持ちも今ならよくわかります。

 

 そんなことよりも今は烏丸さんの試合だ。

 このブロックに残っている実力者は私か烏丸さん、それ以外となると月詠かローブを纏った魔法生徒の誰かでしかない。

 最も警戒すべき麻帆良四天王は上手いこと別ブロックに分けられたことだし、順当にゆくならば準決勝で私たちは激突するのは必至のはずだ。

 勝ち抜けばそのうち二人とぶつかるネギ先生には哀れみの目を向けざるを得ないけれど、手数が多いという理由でエヴァンジェリンさんとほぼ互角に戦えるとかいう烏丸さんの手の内を探るのに、この試合から目をそらしてはいけないと私の勘が告げている。

 

 というかローブで姿を隠すってなんだ。

 試合を始めたら嫌でも人目に付くのだから、正体を隠すってあまり意味の無いことのようにも思えてくる。

 それともそこまでして隠さないといけない人物だったりするのだろうか。

 いや、あちらのブロックには人差し指に目玉の模様の覆面で顔を隠している人とか、変身ヒーローみたいなマスクで待機している人もいるから、そっちに比べたらまだマシなのは確かですけど。

 

 

 

「あ、刹那さん! そらさんが何か始めました!」

「っ! あれは――!」

 

 

 

 怪訝な思いがローブの人物あとその他に向けられていたところで、ネギ先生の呼びかけに舞台へと再び目が向く。

 その中央では、拳銃のスピードで放たれた弾丸を紙一重でかわした烏丸さんが、何某かの技を『作ろう』というところで――、

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「へへ、その身のこなしでよくわかるぜ……。やっぱりお前ぇ実力を隠してやがったか……!」

 

 

 

 今日はこんなに嬉しいことはない。

 噂に聞いた謎の実力者の実力が、期待以上だったと実感できるのだから……!

 

 俺の『漢魂』をかわすとは思ってなかったが、その回避から実力の程は計り知れる。

 俺の見立てでは、――計測不能。

 最初から本気で打ち合えば、負けていたのは俺の方だ。

 

 だからこそ本気の実力を、引き出せる状況を作り出せたことに自身を絶賛したくなる。

 強い相手と戦いたいのは、上を目指すためだ。

 上が計り知れなければ計り知れないほど、俺はまだまだ強くなれる。

 そう信じて勝負を挑む。

 勝つためじゃない、負けないためだ――!

 

 

 

「さぁ、俺は手札を晒した。これ以上の技なんて持っちゃいない……。

 だからお前の本気を見せてくれ……! 俺は後悔する戦いなんてしたくないからな!」

 

 

 

 勝手な奴だと言わば言え。

 勝てる戦いをするのが漢ってわけじゃないんだからなっ!

 

 

 

「――ふぅー……。本当に勝手な先輩だよ……」

 

 

 

 愚痴のような言葉を漏らすが、その両手が何かを用意しているのが気配で感じる。

 俺の『念』のような、攻撃的なオーラを両手に込めているのが『凝』を使うまでもなく理解できた。

 というより、俺の技もそうだがオーラは隠そうという気がなければ一般人の目にも見えるものらしい。

 漢魂を放ったときのギャラリーのざわめきでそうだとわかる。

 

 で、何を見せてくれるんだ?

 

 

 

「この技は、正直時間が要る。四十秒ほど待てよ?」

 

 

 

 当然だ。

 構えたところへ攻撃するなど漢のすることじゃないからな。

 そう頷く、前に、――烏丸は自身のコブシをぶつけ合った。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「――ムゥ? アレはナニをしてるのカナ?」

「ふむ、見たところ、両手に込めたのは魔力のようだね。それをぶつけあう……、皆目検討がつかないが」

「魔法使いの技ではないのでござるか?」

 

 

 

 かといって拳法でもなし。

 うむ、相変わらず何をやるのかわからないことを見せてくれるな。

 

 コブシ同士をぶつける毎に、重量級の何かを叩きつけるような轟音が響く。

 本当にコブシをぶつけ合っているのか?と疑いたくなる行為だ。

 そもそもあんな真似をしてどうなる――何?

 

 

 

「――あれは……?」

「気付いたか、龍宮」

 

 

 

 刹那が声をかけてくる。

 そちらへ目を向けるが、彼女は舞台から目を逸らさない。

 一挙手一投足を見逃さない勢いの視線だな。

 視線が熱烈すぎて、想い人に向けるようにも見て取れるな。

 

 

 

「気の威力を高めている。魔力を掌握したままだ」

「――掌握? っ、まさか『闇の(マギア)』――!」

「いや」

 

 

 

 私の憶測を切って捨てる刹那。

 お前は何かを知っているのか?

 

 

 

「エヴァンジェリンさんに聞いた話では、烏丸さんは『闇の魔法』を修得するには至って無いらしい。そもそも資質が合わないとか」

「そう、なのか……。見た感じでは一番性に合っていそうに見えるのだが……」

「言うほど負完全でもないのだろうな」

 

 

 

 このネタ通じるのか。お前。

 

 

 

「今烏丸さんがやっているのはおそらくそれ以外だ。見ろ、内包する魔力と外気の自然エネルギーが衝撃の毎にゆっくりと混ざり合っているのがよくわかる――っ!」

「お前誰だ」

 

 

 

 口調の変わったルームメイトに思わずそう突っ込んでいた。

 

 というか、今『混ざる』とか言ったか?

 まさか彼のやろうとしていることは……。

 

 そう気付いたとき、轟音は止んでいた。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「――完成」

 

 

 

 翠色に淡く輝く両コブシを、中国拳法の構えのように合わせているその人物に、俺は思わず後ずさっていた。

 そんな自分を叱咤し、半歩で踏みとどまる。

 しかし、それでも、――目の前の重圧は予選の時以上のものを醸している……っ!

 

 

 

「この技は、」

 

 

 

 烏丸が、わざとやっているかのように言葉をゆっくりとつむぐ。

 聞かせているのだと、理解できた。

 そしてその理由も。

 

 

 

「この技は食らえば唯では済まない。――棄権しろ」

 

 

 

 予想通りの言葉を投げつけられる……っ!

 そしてその言葉に飛びついてしまいそうになる自分が、俺は今一番嫌いだ!

 

 だが、その信念を折るかのように、俺自身の言葉を俺自身の口が勝手に紡ぎ出す……!

 

 

 

「お、俺は、こ、こうさ――」

 

『――おいおい、やめられるわけ無いだろ?』

 

 

 

 ――その背中を支えた言葉もまた、他でもない俺自身のものであった。

 

 背後から響く言葉の主は、振り向くまでもなく良くわかる。

 あの日、あの時、あのピンチに、

 逃げ出したくなったあの『俺が死ぬ』間際に動き出し、念能力を授けてくれた、俺自身の『相棒』――。

 

 ――俺の『スタンド(傍らに立つもの)』が、再び俺のことを支えていた。

 

 

 

『受けて立てよ。負けるとわかっていても戦う、それが俺≪漢≫だろ?』

『こんなところで逃げ出すなんて、面白くないぜ』

『背中なら任せろ、お前≪俺≫は前だけ向いてやがれよ』

 

 

 

 ――ああ、まったくいやに頼りになる。

 本気で逃げ出したいときに声をかけてくれる。

 決して離れない、俺自身の中に直接響くようなその声は、いつだって俺を鼓舞してくれる。

 

 ――そんなお前に、俺は『イット・ビート』と名づけよう――。

 

 

 

「――へっ、誰が逃げるかよ……っ!!!」

 

 

 

 相棒についに名を与え、俺を支えてくれる俺自身に背中を押され、俺は仁王立ちで『堅』を建てる。

 

 その姿を見て、烏丸は、ふぅ、と息を一つ。

 

 

 

「そうか――

 ――じゃあ遠慮はしない」

 

 

 

 言葉を、投げられた。

 

 嬉しいぜ、手加減なんてしようとしない、その様がな……っ!

 

 

 

「彗龍(すいりゅう)――」

 

 

 

 コブシを振りかぶる、と共に一瞬で距離を詰める烏丸の姿が正面へと躍り出る。

 振りかぶったその威圧で、一瞬で再び“死”のイメージが蘇る……!?

 

 駄目だ……!

 堅じゃ無理――!

 硬――! 何処を守る――!?

 頭? 腹? 腹だよな!? 腹だって言えよ! 腹!

 腹腹腹腹腹腹腹腹!!!!!

 

 

 

「一本髪(いっぽんがみ)――!!!」

 

 

 

 瞬間――腹部へと突き刺さる衝撃に、後方へと吹っ飛ばされた。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

―長谷川千雨の証言―

 

 ええ、死んだと思いましたね。

 

 いや、一瞬の出来事なんですけどね、その瞬間は皆が良く覚えているんですよ。

 まるでスローモーションで風景が動いたかのような、そんな印象が残りました。

 

 結末としては、10トントラックに吹っ飛ばされた事故を目の当たりにした、って感じでしたけど。

 

 

 ――ええ、皆の目に映っていたと思いますよ。

 緑色、いや翡翠色って言うほうが適切だったのかな。

 そんな龍がゆるりと突き刺さっていった、そんな光景を見せてもらいました。

 

 ――え? いや龍なんて見たこと無いですよ。でも実在するならあんな感じかなって。

 西洋のドラゴンじゃなくって、東洋の。ええ、蛇みたいな感じのあれです。

 アイツの一撃が、輝くコブシを正拳突のように突っ込ませるその攻撃が、歩法って言うんですか? それ自体が攻撃のモーションに繋がっているみたいな。

 ……上手い言葉がみつからねえなー……。

 ともかく、そんな一撃が相手の腹へと一直線に、いや途中蛇のような動きって言うか、コブシの通過した残像がそう見えたっていう感じなんですけど。

 それが、突き刺さると同時に、相手が吹っ飛んで行きました。

 

 

 ――それで終わる、と思っていたんですけどね。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 一瞬――、意識が飛んだがすぐに呼吸を整える。

 いや、衝撃が全身を突き抜けていて最早戦えるコンディションには戻りえない。

 それでも最後の意地を通す!

 それだけは譲れない――!

 

 腹に込めた念を解いて脚へ!

 舞台へ下ろして踏ん張るように着地、――失敗! 着地、失敗! 着地!

 まだ威力は収まらない!

 ブレーキをかけろ!

 脚に込めた念で足場を削り、舞台との摩擦で舞台の床板がバリバリはがれるっ!

 それを全て“引っかかり”にしろっ!

 脚を下ろせ! 足を下ろせ! 足を下ろせぇっ!!!

 

 

 

「――――――っっっ!!!」

 

 

 

 ガリガリガリガリッ! という音で武舞台の外、水掘りに落ちる寸前の縁にて仁王立ちのポーズで止まる。

 これで全神経を、全精力を消費した。

 まったくもって無駄な行為だと誰もが言うだろう。

 だが、それでも、最後の意地だけは貫き通した――!

 

 

 

「へ、へへ……、信じて、いたぜ……!」

 

 

 

 ――その告白を最後に、俺の意識は闇に飲み込まれた。

 漢の倒れる最後の意地――、『倒れるときは前のめり』を遣り通せたのだから、悔いは無い。

 

 

 




~予選はキンクリ
 この負完全め・・・・・・っ

~仮契約第1号
 まおちゃん。まあすっげえアクロバティックな契約になっていたけど

~『念』
 纏・絶・錬・発の四大業が云々。纏と錬を維持して堅、身体の一部分にそれを集約して硬
 堅が鎧とするなら硬は盾兼矛
 スタンド能力からこっちが発現したのは気を云々よりもイメージしやすかったから。あくまでイメージなので念能力そのものを身に付けているというわけではない。発=漢魂になったのもイメージ
 イメージのちからってすげぇー

~ローブを着込んだ人物
 一体何音さんなんだ・・・・・・?
 それとも何ネルさんか・・・・・・?

~覆面&変身ヒーロー
 原作キャラは多分豪徳寺先輩のみ
 予選のアレで大体が無残に・・・・・・うぅっ・・・・・・(泣

~彗龍一本髪
 当初より予定していたネタ技
 元ネタはマテリアルパズルのジールボーイ
 魔力を手のひらで握ることで『掌握』、魔力量を保ったまま、それに合わせるように気をぶつけ合うことで高めてゆく擬似感卦法。保つ必要は無いのです。威力だけを目的としているので。一部に集約させることで擬似的に再現できた一撃必殺。直撃すれば魔力も気も通過する勢いで拡散するのでマホイミみたいな攻撃に。ガクブル
 距離を詰めるのは跳ね馬+雲耀の特殊歩法。滑るように低空を跳ねて距離を詰めるのだが上体を動かさないので予備動作無しで詰め寄られる恐怖
 あれ、これ今思ったけど瞬動術と何が違ry

~『イット・ビート』
 豪徳寺のスタンド
 直接戦闘能力はほぼ無し、本体が戦うのではなく使い手本人が戦いたいがゆえにこの形になった可能性が有り
 実は感覚スピードを高速にさせる能力を備えておりスター・プラチナ若しくはザ・ワールドを再現したようなスタンドでもある
 だがこの世界線において時間停止という荒業を再現できないためにクロックアップ染みた性能に劣化
 それでもそのアクセルな世界に慣れれば充分強くなれる素養はある

~っていうか区切り多くね?
 遊びすぎたかも知れぬスマン


8000字越えだよ長くてごめんね!
ダレたかもしれないけど読み込んでくれることを願ってネタを盛り込んでみた
お気に入り登録が3000を突破したら正直もういい数字かなーと思っていたのだけど未だに増え続けてます。感謝
あとはまあ今年中に何ぼか進められるように執筆を続ける
仕事も忙しいけど、エタらないように頑張るー

あと前回の更新で実は更新一周年経ってた
一年経ってまだ78話って、早いのか遅いのか・・・?
それではまた次回


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『子供たちを責めないで!』

今回若干のクロスが関わります
わけがわからないよ、となった方は私の他の作品である『思いつき二次創作』をご覧いただければ、と
若しくはIFの3とか


 

 麻帆良武闘会本戦・第二試合

 犬上小太郎 VS 高音=D=グッドマン

 

 ローブ姿の謎の出場選手その1の正体とは、予選敗退した佐倉何某の意趣返しとばかりに烏丸へ敵意をむき出しにするグッドマンであった!

 そんな彼女に対するはロリ巨乳というだいなまいとぼでぃ中学生の犬上小太郎! 彼女の出場理由はこれまた暇つぶしであるのだが。

 そんな彼女たちのキャットファイトの行く末は、試合開始よりグッドマンが纏った『黒衣の夜想曲』というスタンドもどきによって先行きが見えなくなった。

 

 防戦一方にて決定打の無い絶対的防御のあるるかんもどきに、攻撃スピードはあっても一撃一撃の重さが足りないようにしか見えない小太郎の連撃。

 素肌に直接着込んでいるようにしか見えない高校生とは思えない大人の色気を漂わせる黒のビスチェにちらちらと見える生脚と胸元、身体を動かすたびに上下左右に揺れる年齢に見合わぬ凶器を暴力的なまでに見せ付けるアクロバティックな少女の肢体。

 どちらの様子も観客を沸かせるのには充分だった。沸いている理由が若干違うと思わないでもなかったが。

 

 勝負の分かれ目は不明。投票の結果、僅差でグッドマンの勝利となって終わる。

 ロリコンが少なかったのか、肌色成分多目を選択したのか。観客の心情は出場選手の誰にもわからなかった。

 

 

 

 第三試合

 田中さん VS 星屑魔法少女メルティちゃん

 

 ふたを開けてみればどちらも無機物。

 片や麻帆良科学部製作のロボット兵、片や某先行き不明な式神使いの放った烏丸へ向けての式神刺客。

 互いに無人であると理解しあった彼らは全力で互いを無力化しようとその膂力を思う様に振るった。

 

 首がねじれ、

 腕がもげ、

 背骨がひしゃげても、戦いを止めなかった両者は審判の権限によりダブルノックアウト。両者敗退を結果として次の試合へ。

 

 

 

 第四試合

 桜咲刹那 VS 葛葉月詠

 

 試合開始寸前に月詠の武器が真剣であったために出場停止。

 桜咲刹那・不戦勝。準決勝進出。

 

 

 

 そして、Bブロック・第五試合に駒は進む――。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 第五試合

 ネギ=スプリングフィールド VS ???

 

 我らが副担任と連れ立って舞台に進み出てくるのは、これまた同じ程度の身長の誰か。

 余程小柄な人物なのだろう、そうでなければネギ先生と同じように子供なのか。

 ローブを着込んで正体を隠したその何某かは、舞台の中央に到着すると一礼をした。

 

 

 

『えー、此処でオフレコとなっていた裏事情を語らせていただきます。

 先日出張が終わり、麻帆良祭開始と共に広域指導員の責務に出戻りました我らが3-A担任の高畑=T=タカミチ教諭、予選に出場しているところを新田先生に見つかり「そんなところで遊んでいるならば仕事しろや」と強制連行されました。

 結果高畑先生は本日一日誰もいない職員室にて事務作業。ご愁傷様でーす』

 

 

 

 ざまぁ。

 子供教師に仕事任せて出張に行っておいて、帰ってきたら『こんな遊び』に出場しようとしていたのならそうなって当然だっつーの。

 

 担当クラスの生徒であるアタシらにとっては因果応報過ぎて思わず鼻で笑ってしまったが、観客側は若干残念がっている様子だった。

 麻帆良のデスメガネ、とかって呼ばれている実力者の勝負を見逃せなくって残念ってか?

 そういう格闘家みたいな思考で試合見ていたと言いたいのだったら、第二試合の結果を覆してから言ってみろ。

 どう見たって武闘会の趣旨的には小太郎が勝ち上がるべきだって試合だったじゃねえかよ。

 

 

 

『そんなわけで期待した方々には申し訳ございませんが、これから先ローブ姿の誰かが出場しても見知った方では無いと御想定くださーい』

 

 

 

 釘を刺した……。

 まあローブで姿隠した奴まだいたしな。

 

 しかし今出場しているアイツはどういう奴なんだ?

 

 

 

『それではそろそろご紹介に移りましょう!

 出身地は不明、しかしその実力は予選を通過したことにより折り紙つき!』

 

 

 

 朝倉の紹介に合わせてローブの前を解く仕草が見える。

 なるほど、こういう演出を狙っていたのか。

 

 

 

『キミ何処かで見たこと無い? 無垢であどけない美少女小学生! 泉井美月ーーーっ!』

 

 

 

 ――は?

 

 思わずきょとん、とした表情で舞台を見た。

 ローブを脱ぎ、現れたその姿は――、

 

 幼い少女の容姿で、

 表情の起伏に乏しい無表情に近い顔つきで、

 首筋にかかる程度の長さに切り揃えられた若干茶色がかった髪で、

 身に着けているのは『聖鷹女学院(・・・・・)』の女子制服――。

 

 ………………はぁっ!?

 

 

 

「……あれ、何処かで見たことあるような……?」

「お前も? 実は俺も……」

「――あっ、シュテルだよシュテル! 星光の! ほら『リリカル――』」

 

 

 

 待て、それ以上言うな観客共。

 っつうかアイツアタシの夢の住人じゃなかったか?

 まさかこの世界の何処かで『あんな』事象が平然と起こっているとか、そんな現実?

 ははっ、なにそれワラエナーイ。

 

 い、いや落ち着け。

 アタシは『千雨』で『あれ』は夢だ。

 ただの偶然の一致で、この世界の主役がネギ先生だとかそんな馬鹿げた妄想が現実になってたまるかっつうの。

 それにあの泉井は女だって、朝倉も言ってたじゃないか。

 夢の通りなら細部まで一致するだろうけど、違うって言うのなら結局偶然の――、

 

 

 

『スイマセン。僕、男です』

 

『なん……だと……っ?』

 

 

 

 ――泉井の告白により、朝倉の絶句と観客全員の心情が一致した。

 

 ……そっかぁ、ガチかぁ……。

 あはは……、なんだこの斜め上。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「えっ、じゃああの子転生者なんすか?」

「まあねぇ。紅ぃちゃんもまさかあんな離れ業を使うとか思っても見なかったけど」

 

 

 

 周囲に出場選手がいないところを見計らったのか、舞台裏へと貌を出し、哂いながら事情を語ってくれたのは祭りを堪能しにやってきたイリシャ=リーバスさんだった。

 お忘れかと思われるので軽く紹介するが、ワルプルギスとか呼ばれる世界最高峰の一角に佇む魔女である。

 多分だけど偽名だろうなー。

 

 

 

「強いんすか?」

「第一にそれを希望したから、紅ぃちゃんの折り紙つき」

「というか、そんな並行世界から引っ張ってくるとかって改めて何者なんですかその人」

「おやぁ? ボウヤは紅ぃちゃんとは会ったことなかったっけ?」

「あるわけないっす。というか最強の魔女なんて呼ばれているお人と直に会うとか狂気の沙汰としか」

 

 

 

 魔女、と呼ばれるものはこの世界において五人しかいないらしい。

 某神様的魔法少女の世界とは違って、この世界においての魔女とは一個人or一組織では対抗することのできない実力者。

 各魔女それぞれが世界一つと対等以上に渡り合えることで、それぞれがその異邦性を発揮しているとか。

 と、いうよりも、件の『最強』が『そう』だから他の滅多に見つからない『魔女』に触れるべきでは無い、っていうのが共通認識になっているらしい。

 意外と世界も賢明だよ。

 

 つうかこんな設定ネギまに無かったでしょ。

 どうなってんだ、この世界。

 

 で、そんな『最強』さんがイリシャさんに頼まれて引っ張ってきたというのが、現在出場中の泉井ちゃん、いやさ“くん”らしいな。

 見た感じリリカルなのはの主人公の2Pカラーっぽいのだが。若しくは『星光の破壊者』。杖は手にしていないけど。

 

 

 

「で、その召喚の理由をまだ聞いてないのですけど」

「ああ。あの赤毛のボウヤさ、なんか時間軸いじくってない?」

 

 

 

 うわ、鋭い。

 正確には時間移動だと思うけど。

 

 

 

「もっとよく見るとボウヤも一回関わってるよね?」

「事故でありんす」

 

 

 

 お、俺は悪くねぇ!

 

 

 

「まあそんなことを何度も繰り返されるのもいちいち付き合ってられないからね、ちょっとお灸を据えてやろうかな、ってだけさね」

 

 

 

 カラカラ哂いながら恐ろしいことを平然と宣う。

 つまりはそのレベルの実力者、ってことですか?

 

 

 

「顕現の代償は此処の世界樹の今年分の魔力。ほらー、ボウヤ京都で変な地軸と繋げたろ? それで余った分なら廻しても平気かなー、って言ってたよ」

「世界って上手い具合に回ってますよね」

 

 

 

 うへぁ、俺の所為でもあった。

 ごめんネギ君。どんな修羅場に遭遇するかわからんけど今のうちに謝罪しておくわ。

 

 ……っていうかその理屈で行くと、超の計画に必要な魔力も削られてね……?

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 ガチってことはネギ先生には勝機はねえ。

 あの先生がこの世界の主人公で、魔法の力が備わっていたとしても、泉井美月はそのはるか斜め上をステルス並みの速度で飛び去ってゆく。

 というか、死ぬんじゃないか、あの先生。

 

 夢の先で次元航行船を一人で大破した『かつて』を思い出し、養豚場から出荷される豚を見るような目でネギ先生を哀れんでいると、

 

 

 

「おお、ちうではないか。オヌシも来ておったのか」

 

 

 

 知った声を耳にして、そちらへ振り向くと案の定の生き物が。

 えっちらおっちらとアタシの横の観客席へと上り現れた。

 トカゲである。

 

 

 

「ノイ=クレザント、か……。はは、もう確定じゃねえかよ、なんだこれ」

「どうした? 苦虫を百匹ほど噛み砕いたような表情をしおって」

 

 

 

 苦くもなる。

 というか平然と喋るなよ、このトカゲめ。

 

 

 

「お前美月にくっついてなくていいのか」

「この距離ならば問題あるまい」

 

 

 

 夢の記憶だが、あれもまた現実であると認識してしまったらしい。

 アタシとトカゲの会話にそれほどの齟齬は無く、割り切ってしまえばそこそこ平然と会話をしていた。

 

 

 

「というか手加減ぐらいできるよな、あいつ?」

「さぁー……?」

「うぉい!? こっちに被害出るのだけは勘弁だからな!?」

 

 

 

 そんな会話をよそに試合開始。

 暫く攻撃を躊躇っている様子だったネギ先生だが、仕掛けてこないと見ると即座に攻勢に移るのが美月である。

 烏丸の見せたような一瞬で距離を詰める移動術で近接、攻撃はただのパンチで、ネギ先生は吹っ飛ばされて舞台脇の水辺へと水没した。

 

 

 

『はぶぅっ!?』

『手加減とか、舐めてるんですか。全力できなさい』

 

 

 

 いや、今お前がふっ飛ばしたから。

 というか、これ既に『掌握空域』使ってる?

 千鬼夜行だけは……、千鬼夜行だけは勘弁して……っ!(切実)

 

 

 

『――掌握! 術式兵装! 天の光は総て星!』

 

 

 

 おお、なんかネギ先生がスーパーな野菜人以上に輝いてる。

 その状態は某配管工の“星”みたいなものなのだろうか、水上を走って反撃に移るネギ先生。

 それを往なされて投げ捨てられるネギ先生。

 反対側の堀へと再び水没。

 容赦ねぇー。

 

 水辺から出てくるのを待ってあげる美月。

 “光る”状態は既に解除されたらしく、足取りも覚束ない様子でネギ先生は手を横へ。

 

 

 

『くっ、杖よ!』

『武器を手に取りますか。いいでしょう。未熟なりの強さを見せてもらいますよ』

 

 

 

 アタシの知る美月そのままだよ……。

 何処までも冷静に、相手の全力を堂々正面から叩き潰す。

 アイツ本当に小学三年生? って何度思ったことか。

 っていうか対抗してビスケットハンマー出さなくって本当に良かった!

 そこは小学生らしくないところにマジで感謝。

 

 

 

『ラステル・マスキル・マギステル!――千の雷!』

『無敵の盾』

 

 

 

 詠唱?を省略したらしいネギ先生のミサイルみたいな光撃を、複合領域の盾再現で全部受け止める。

 それが予想外すぎたのか、呆然としてしまうネギ先生の隙を突かない美月ではない。

 瞬時に接近して、掴まえて投げ飛ばす。

 今度は上空高くに放り投げていた。

 あ、あと杖が音を立てて舞台に落ちた。手放してしまったらしい。

 

 

 

『今度は僕の番ですね。食らいなさい』

 

 

 

 告げる言葉と共に、美月の周囲に具現化された矛状の掌握領域の影がはっきりと視える。

 というか数が恐ろしいことになっているのだけどぉ!?

 

 

 

『砲軍・滅天陣』

 

 

 

 やめたげて。

 

 

 




~高畑先生、拉致
 タカミチ「ぐぅ、正論」

~泉井美月
 【まにあむけりりかる】に出演した元主役
 シュテルンの皮を被った美少女然とした転生者。だが、男だ
 並行世界にてちうと共に大冒険した男の娘
 次元の魔女と安心院さんを足して二で割ったようなお人にこの世界へと三日間のみの顕現をさせられる
 作品自体は完全に未執筆だが設定と最終決戦の一話だけ別々に投稿してあるので、それらを読んでから今回の話を読み返すのもまた一興かと

~イリシャ=リーバス
 ワルプルギスのご老体、の異名で知られる宵闇な魔女の一角
 東京の何処かに居を構えている。魔法世界にとってはエヴァと同等の脅威
 地球のそれぞれの裏世界にとってはそれ以上の凶悪
 総ての原因が某『最強の魔女』さん

~五人の魔女
 『最強さん』を除いた四人はクロスキャラ
 一人は長野に、最強さんは高千穂に、残る二人も日本在住らしき目撃情報で日本の未来がやヴぁい
 そんな彼女らには実はこの先ろくに出番が無い。舞台装置程度のキャストですので隠しキャラみたいに思っていただければ充分かと

~ノイ=クレザント
 喋るトカゲ
 本来は認識する相手を選ぶ存在なのだが、美月と共にこの世界に召喚されたために誰にでも見えるように実体化したらしい
 それでも彼から数メートル以上離れられない従者

~掌握空域『天の庭≪バビロン≫』
 薄く広げた掌握領域というサイキックの膜で自身を覆い、絶対的な制拳空域を作り出す
 その内側でならば、相手のスピードを緩めることも出来れば自信の膂力を高めることも出来る
 接近戦なら無敵の領域

~砲軍・滅天陣
 三つの領域を複合させて放つ必殺技
 多数に分裂した“陣”の形状の攻撃専用領域を全て矛状に変形させ、ついでにいうとその一つ一つの大きさが重槍≪ランス≫みたいな具合
 食らえば跡形も無くなる


私は私が楽しむために書いている!

っていうか美月を放置はできなかった
使っても良いよって言っているのに、使わせてほしいとも【まにあむけ~】を書きたいという言葉も無いし
せっかくなのでご登場しました
超の計画に巨大な障害が立ち塞がったようです

某紅い人的な呼ばれ方をしている『最強さん』は某哀川さんとは別物です
この方はオリジナルのつもりで、今は名前と設定の欠片のみ登場させましたが、本格的には登場しないので
こんな人がいるよ、程度で覚えていていただくと後々楽しめます(俺が)

あとネギ君にはなんのうらみも無いです
まっとう主役級オリ主と対峙すると負けるってことを書きたかっただけなんで
アンチでもヘイトでもないのでかっかんちがいしないでよねっ!
別にネギ君のことなんてなんともおもってないんだからっ!

そしてちうたんの『裏に関する確信』が若干斜め上の過程で成されました
やっと出番が来るよ!やったねちうたん!
次も今週中に載せたい。それでは


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『閃☆乱!タツミヤ!』

誰だよお前ら!?
オリキャラではなくクロスです
そんな80話


 

 第六試合

 長瀬楓 VS 春闘正義スプリングマン

 

『ふむ、けったいな御人でござるなぁ……』

『お前に言われたくは無い忍者め! 春闘正義・スプリングマン只今参上! 正義の鉄槌を受けてみよ!』

 

『ガンバレー! はーるとー!』

 

『本名で呼ぶんじゃねえええええ!!!』

 

 

 

 なんだあのコント。

 仮面ラ●ダーみたいな覆面マフラーを相手取るのは長瀬なのだが、観客席からの応援と横断幕に堂々と『桃木春人、ファイト!』と書かれているので中の人は丸分かりである。後々個人特定待った無しなのは間違いない。

 桃木って、確か高等部にそんな苗字の女教師がいたな。ちらっと見た感じあんまりイメージの中の『女教師』とは合致しなかった、微妙な印象の人だったけど。

 生徒との仲は良かったかな。まるで同年代のようで。

 

 

 

「む、遅れたか。ボウヤの試合はもう終わってしまったか」

「あ、エヴァ姉。まーね」

 

 

 

 出場選手控え側の応援席へとやってきたエヴァ姉に、先ほどの私刑(リンチ)を思い出しつつ応える。

 槍状の魔法とはまた違った衝撃波に次々晒されたネギ君はボロ雑巾のようになって舞台へ落ち、誰がどう見ても敗北一色の濃厚な死体へと様変わりした。あれで生きていたというのだからそっちが驚きである。

 医療室送りと相成ったネギ君は当然一回戦敗退。次戦へ進むのは泉井ちゃん(もう面倒くさいのでちゃん付けでいいや)となり、その対戦相手はこの試合で決まる。

 まあ十中八九、長瀬が勝ち上がるのが濃厚にしか見えないのだが。

 

 

 

「まあ次を楽しみにしておくか。で? ボウヤの対戦相手はどんな奴だったんだ? 次も少しは修行の成果を見せられるのであろうな?」

「いや、ネギ君はもう出ないけど?」

「――ん?」

「だから、一回戦敗退」

「………………ふぁっ!?」

 

 

 

 エヴァ姉が驚愕の表情で声を上げる。

 まあ多少とはいえ手がけた弟子みたいな魔法生徒みたいな子なわけだし、そこらの相手に負けるとは思いもしなかったのだろう。主人公だし。

 

 

 

『――1分、夢は見れたでござるか?』

『幻、術……だと……っ!?』

 

 

 

 あ。

 舞台に倒れ伏す覆面マフラー。

 少し目ぇ離した隙にもう終わってたよ。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 第七試合

 古菲 VS クウネル=サンダース

 

『さて! 若干期待はずれだった第六試合はさておきましてようやく今大会の大本命!

 前年度のウルティ麻帆良チャンピオン・古菲選手! 今大会においての一番の優勝候補の試合が始まります!

 対するは正体不明のまたもやローブ! お前らいい加減正体晒せよ! しかもどう聞いても偽名だよ! ふざけたお名前はクウネル=サンダース! 戦い方実力経歴一切不明! 少しは面白い対戦を見せてくれるんでしょうかーっ!?』

 

 

 

 クウネル叩かれすぎワロタ。

 というか朝倉の紹介が偏りすぎなのは、これまでの対戦の事情に寄るものが大きいと見たね。

 

 

 

「ふむ……、これは古のやつも運が悪いな。アイツもなんでこんな大会に出ているのだか」

「ん? エヴァ姉あのローブの正体知ってるの?」

 

 

 

 若干ドヤ顔で試合を眺めるエヴァ姉の方を向き、原作知識で知っているけどすっとぼけて聞く。

 ほら、俺は一応初見なわけだし。

 

 

 

「元赤き翼の一人だ。しかもあの身体は幻影みたいなものだな、生半可な攻撃では通用しない」

「ああ成る程。バカンフーは打撃が主武装だしね」

 

 

 

 わかりきっていた確認で再び試合へと目を向ける。

 

 

 

『――ぐふぉ……っ!?』

 

 

 

 ――鳩尾に鋭い拳打を打ち込まれ、錐揉み回転で吹っ飛ばされるクウネルがそこにいた。

 

 

 

「――は?」

「――え」

 

 

 

 ほぼ同時に、絶句の声が俺らから漏れる。

 エヴァ姉の驚きも尤もだと思うけど、俺も相応に驚愕していた。

 実体を持った幻影、だというのは確かである。はっきり言って存在感が無さ過ぎた、と見た俺の観察眼もソースのうち。

 それを攻撃して勝ってしまった事実に、エヴァ姉は理解が追いついていないご様子。

 若しかしたらネギに用があったのを、彼が負けてしまったから出場している意味も無い、と相手に花を持たせたのかも?とまで考えていそうなエヴァ姉ではあるのだろうけど、それにしたって一撃は無いだろ。とか呟きそうだ。

 

 

 

「それにしたって一撃は無いだろ……」

 

 

 

 当たった?

 すげぇ。俺エスパー?

 

 っていうかあのバカイエロー、スタンド使って攻撃していたんだけど。

 正確にはスタンドの形に『なろう』としているエネルギーのイメージ?。それが彼女の身体と重なって、クウネルを腹パンしている姿を鮮明に目撃してしまった。

 

 ………………。

 朝倉が渋々と、一撃KOしてしまったクウネルをdisりながら終わってしまった注目試合の勝者を称える仕事をする。

 もっと盛り上げないと給金もらえないだろうしね。

 そんな姿を黙って眺めつつ、俺は次の試合に祈りを捧げた。

 

 たつみー、次絶対勝て。

 そうすれば正々堂々ぶつかり合った末の僅差勝利で次試合棄権、という原作展開が発揮されるはず。

 っていうかこのまま決勝戦にまで勝ち抜けるとアレと戦うことになるのは目に見えているから嫌過ぎるんだよ!

 

 舞台の中心で打撃の姿勢でぽかんとしている、攻撃が効いたことに一番驚いているであろう本人が覚醒する前に。

 どうか原作の修正力が仕事をしますように!と観察者の神的なお姉さんに祈ってみることにした。

 ……何故か嘲笑われた気配がした。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 第八試合

 龍宮マナ VS 霧ヶ崎優

 

 アオザイみたいな格好で現れたたつみーに対するは、脇の開けた巫女装束の格好で登場した霧ヶ崎とかいうどう見てもコスプレ中の一般人少女。巨大な刀を担いでいるけど、許可が下りてるってことは模造刀か?

 キャラ的には間違いなく予選通過も理解できるけど、……本当に強いのか?

 

 

 

『あっ、あれは……っ!』

『知っているのですか、長谷川さん』

『アニメ版『巫女夜叉』の主人公コスに『喝采牙』付きだと……っ? 再現率がすげぇ! あれはプロのコスプレイヤーだな!』

『長谷川さんが何を言っているのかわけがわからないよ』

『とりあえず落ち着いたらどうでしょうか……』

 

 

 

 解説席からの放送で観客の何人かもキャラクターの概要を知れたのだろうから構いはしないが。

 気になってそちらを向いてみると、解説席には当初の2人に加えて観客その1のちうたんの隣に、ネギ君相手に試合で無双した泉井ちゃんの姿が。

 違和感なく並んでいる様子からちうたんも警戒していないように見える。

 ……待て。麻帆良中でも現実主義の申し子みたいなちうたんが警戒していないだと? ……え、知り合いなの?

 

 ちなみに解説席の並びには俺と試合した豪徳寺先輩の姿もあった。なんという転身。

 

 それはともかく、……戦えるのか?

 ちうたんの説明だけ聞くと普通にコスプレイヤーにしか思えてこなくなった。

 俺以外も不安に駆られているであろう焦燥感を抱いているだろうに、試合開始の合図は容赦なく下された。

 

 

 

『先手必勝、と往かせてもらおうか!』

『!? わっ!』

 

 

 

 羅漢銭を指弾で弾くたつみー。

 此処は原作通りか。木刀だか竹刀だかは許可するくせにエアガンは駄目とか、この大会の禁止項目の采配がよくわからない。

 武装した時点で普通は駄目だと思うんだ。モップで叩かれても痛いときは痛いし、当たり所によってはどういうアイテムでも危ないんですけど?

 

 

 

『……これは、500円玉……っ?』

『銃は禁止されていてね』

 

 

 

 おお、巨大な刀の幅で硬貨の攻撃を防いでいる。

 スナイパーに距離を取ること自体が間違っている気もするけど、あの武装に関しては距離を取ることは間違いじゃない。

 威力が気にはなるけど、防御に徹するというなら距離を取って攻撃を弾くのも戦略だ。

 思いの他霧ヶ崎さんは善戦していた。

 というかまともに(拮抗しているように)見ていられる試合が少なすぎないか、この大会。

 

 

 

『ふ、ふふふ……』

『む、ど、どうした……?』

 

 

 

 安堵していたらなんか暗く笑い出したよ霧ヶ崎さん。

 顔を伏せて怨嗟にも聞こえる声音に、たつみーも思わず攻撃の手が止まる。

 

 

 

『こちとら生活費切り詰めて普段のアホ変身ロッドに魔法使うたびに搾り取られているっていうのに……、

 一攫千金狙ってこの大会に出場して普段のマイナス解消しようとしている私に対しての攻撃が硬貨投擲とかって――……、

 

 舐 め て ん の ?』

 

 

 

 ゾクゥッ!!!

 と見ていた全員の背筋が寒くなるくらいに恐ろしい声を聞いた。

 

 こう、高町式OHANASHIに近しい威圧感が舞台の中央から冷気のように漏れ出ているのだから、すぐそばで晒されているたつみーの恐怖も推して知るべし。

 やべぇ。

 たつみーがマジでヤバイ地雷を踏み抜いた。

 

 というか漏れ出た台詞の中に微妙に気になる単語が混じっていたのだが。

 変身ロッドがどーの、魔法使うがどーの。

 何? 魔法少女なの、あの娘も?

 

 

 

『全て諸共吹き飛ばしてあげるわ、その余裕の表情をね!

 風 の 傷 跡 !!!』

 

『なん……っ!? うおおおおっ!!!?』

 

 

 

 叫ぶと同時に刀を大振りに振るえば、

 凄まじい衝撃波がたつみー&武舞台を襲う!

 

 やっぱり一般人じゃなかったー!

 っていうか今更だけど鉄●牙じゃないですかやだー!

 

 

 

『ちょっ!? と、とんでもない暴風を霧ヶ崎選手が巻き起こしたーっ! ていうか舞台をこれ以上壊さないでーっ!!?』

 

 

 

 暴風で視界が閉ざされる中、朝倉の悲鳴にも似た実況が響き渡る。

 

 衝撃波の奔流は水煙を伴って大きく舞台上を乱雑にかき乱し、一分弱。

 観客席からは何が起こっているのか見えないだろうなー。っていうかこっち側からも見えないのだけど。

 

 そしてこんなこともあろうかと用意しておいたパラソルを差せば、エヴァ姉を伴っての相合傘で巻き上げられた膨大な水量が降り注ぐ。

 猫バスを待つトトロみたいになった感覚で濁流の雨を防御し、更に一分。

 

 ようやく全てが終わった舞台上では、たつみーがぽかんとした表情で防御姿勢をとっていた。

 

 

 

『………………は?』

 

 

 

 ――程よく衣装を伐採された、実にせくしぃな格好で。

 

 観客席は降り注いだ水量でてんやわんやの真っ最中。

 その様を第一に目撃してしまったのは傘を差し、比較的無事でいる俺とエヴァ姉くらいなもの。

 そのまま、こちら側へと姿勢を向けていたためか、『俺と』目が合う。

 

 

 

『――――っ!!?』

 

 

 

 見る見る真っ赤な表情(カオ)になってゆくたつみー。

 おお、レア顔。

 と思わず驚愕に目を見開くと、直ぐ様ぶっ壊された舞台の破片を引っつかんで投擲し――、

 

 ――これだけは言わせてくれ。

 それでも俺は悪くない。

 

 

 




~春闘正義スプリングマン
 桃木春人がごろごろだらける回数を振り切ったとき、彼の中で燻る正義の心が目を覚ます!
 鬼のような姉に対抗するために山篭りをした春人が得た忍(しのび)の能力(ちから)をばねにして、今日も戦え! スプリングマン!

~巫女夜叉
 お賽銭をめぐって日々奮闘!
 平安日常絵巻、巫女夜叉!
 主演は博麗霊夢

~喝采牙
 アニメ版巫女夜叉のオリジナル武装
 本来戦う必要の無い原作をアクションが欲しいからと無理矢理スポンサーによって捻じ込まれたでかい刀
 空気を切ることによって振り下ろされる暴風の如き衝撃波『風の傷痕』は全てをなぎ払う

~霧ヶ崎優
 奇跡を起こせる魔法の杖『アルバート=ホリックル(通称アホ助)』を拾ってしまったことにより魔法少女へと変身できるようになった普通の少女(但し有料)
 コイン投入口のついた上に喋って動く杖を使うよりもコスプレしてキャラになりきったほうが強い、という稀有な才能を持つ
 何気に極貧な少女の未来に、幸あれ

あとがきは活動報告へ


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『やめてください美月さん。しんでしまいます』

怒涛の麻帆良武闘会が織り成す81話


 

 二回戦・Aブロック第一試合

 烏丸そら VS 高音=D=グッドマン

 

「ようやく貴方に引導を渡す日が来たようですわね! 同じ魔法生徒だというのに毎晩役目も全うせずふらふらと……! しかも闇の福音に弟子入りしているとかいう非常識極まりない貴方に!」

 

 

 

 高音さんがとてつもなくアウトなことを公の場(武舞台上)で高らかに宣言している気がする。

 秘匿とかそういう意識はどうした。

 

 やる気が漲っているらしいグッドマンお嬢は既に『夜想曲』を着込んでの臨戦態勢。

 対する俺はまだ仕込みも済んでないので、ケータイをぽちぽち弄くりつつ話を聞く。

 チャントキイテルヨー。

 キキナガシテナイヨー。

 

 

 

「そもそもは、ネギ先生の『昨夜のこと(不幸な事件)』を反省したにも拘らず、『こんな公共の場で魔法によるお遊びを実行すること(不真面目な行い)』を正すために出場したわけですが……。

 愛衣は予選で貴方の威圧の余波で敗退……、ネギ先生は外部の出場者の手によって敗退と成ってしまったので今更話をどうこうというつもりもございませんでしたわ……」

 

 

 

 語るなー、お嬢。

 というか昨夜の何某が云々ってことは、やっぱり原作通りにキス魔にでもなったか?

 

 原作と違う部分は話伝いに聞いたことだけど、宮崎がネギ君に告白する気は実は無いらしいとのこと。ゆえきちから又聞きしたからどの辺りまで正鵠を射ているのかは知らんけど、そういう一大イベントとかが発生しない限りはネギ君らを尾行しようとする一団も発生しなかった可能性が高い。

 事実、昨夜の女子部3-A打ち上げパーティに顔出ししたときは、危ぶんでいた面子の彼女らの距離感は別段普段とは変わった様子もなかった。

 そういう観察眼はしっかり備えている俺がそう観たのだから、この判別も間違いないだろうと思われる。このレベルになるともう『心理定規(メジャーノート)』を名乗れるんじゃないかな、俺。

 

 つうか、まあ、顔出ししたというよりは連行されたというのが正確だけど……。

 猫耳男子がそんなに珍しいか鳴滝姉妹。

 尻尾触られたりと逆セクハラ的な弄られ方をすげぇやられたよ……。

 つうか誰だ尻をついでに触ったオッサン女子は。

 そういうセクシャルなハラスメントの扱いがあった事実はともかく、本来ならば距離を置かれるであろう場違い極まりないはずの黒一点をそれなりに受け入れ態勢であったテンションマックスの女子一同。

 初日からあのテンションでよくぶっ通せるもんだ。これが、若さか……!

 あ、でも朝倉だけは距離をとってた。まあその時点で予選を無双した別時間軸の俺がいたわけだから、そうなるのも仕方ないのか?

 

 ちなみにその直ぐ後にネギ君の姿が見えないとか耳にして、俺が自分のクラスに戻るついでに探しに行く名目で女子らから離れ、保健室で時間移動に巻き込まれたのが初日の顛末。

 

 っていうか俺にコイバナを相談するとかってなんなのゆえきちは?

 あいつの中での俺に対する距離感が一番わからないわ。

 

 

 

「――ですが此処で貴方とぶつかったと言うことは即ち僥倖! この場を通して日頃の行いを改めるように、勝負の行方にて従っていただきますわよ!?」

 

 

 

 ……ん?

 あ、やべ、話聞いてなかった。

 ていうか途中から別の方向に思考がシフトしていた。

 

 つうかなんか、あの人の言っていることが途中から繋がってなくないか?

 『試合で負けたほうが言うこと聞く』でFAってこと?

 

 

 

『……えー、長々とよくわからないお話を頂きましてありがとうございましたが、つまりはこの試合に勝って普段から気になっている貴方に話を聞いてもらうんだからっ! ってことですかね。

 それでは烏丸選手も、意思表明をどうぞー!』

 

 

 

 あ、やっぱりそういうことなの?

 っていうか朝倉、試合始めろよ。お前絶対面白がっているだけだろ、それ。

 

 

 

「………………えっ!? いや、ちょっ、ちっ、違いますわよ!? わたくしが言いたかったのはそういうことではなくてですねっ!?」

 

 

 

 長い黙考の末にグッドマンさんも現状を理解してしまったらしい。

 というか、そこで慌てたら朝倉の思う壺ですよー。

 まあこれは本気で俺に気があるとかいう話ではなくて、単純に女子高育ちだから男子との絡みに相応の対応力が備わってない、っていうだけなんだろうけど。

 

 さて、仕込みは終わったのでそろそろ始めてもらおうかね。

 

 

 

「――わかりました。じゃあそれで。勝ったほうが相手にひとつ話を聞いてもらう、宜しいですよ?」

 

 

 

 そんな発言で返せばギャラリーが嘆息で沸く。

 お前らも好きだね、こういう展開。

 

 挑発をし、ケータイを仕舞う。

 戦闘体勢は万全だ。

 

 

 

「だから違うと……っ! ――ああもうっ! 本当に違うんですからねっ!?」

 

『それでは! 両者意思を表明したところで、試合開始ーーーっ!!!』

 

 

 

 そして鳴るゴングの音。

 即座に跳ね馬+雲耀を合わせた歩法で隣接し、幽鬼のように真っ正面に対峙する。

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 装備を整えておけば負けないと思ったか?

 俺を同じような魔法生徒の輩だと認識していたか?

 距離を取って警戒するとでも想定していたか?

 

 ――甘ぇよ。

 

 

 

「――焦天回廊」

「――っ!? きゃああああああっ!?」

 

 

 

 轟ッ!!! と仕込んでいた炎の魔法を発動させる。

 こうかは ばつぐん だ!

 

 

 

『とっ、突然噴き上げた炎が舞台を覆うーーーっ!? 火遁か! 火遁・劫火球の術かっ!?』

 

 

 

 ニンジャはもういいから。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 ――そして正座で説教受けている俺だよ!

 

 

 

「お前あの技は禁術だと言ったよな私? なあなんで使った? そんなにあの格好が好きか? そんなに見たかったのか? なあなあ? ちょっと説明してみてくれないかな? 私にさぁ?」

「いや、ほら、女の子と戦う趣味とかって俺には無いし、一撃で戦意喪失させるにはこれが一番かなぁって……」

「ああそうだな、あんな格好に公衆の面前で変えられてまだ戦い続けるとかそういうバトルジャンキーじゃないからな、普通の魔法生徒は」

「そ、それに全裸じゃなかったし」

「そんなのは当たり前だバカ弟子がっ!」

 

 

 

 ウサ耳スク水メガネ尻尾付き、に変えられたグッドマンさんは、当然ながら棄権。

 俺は程よく準決勝へと駒を進めることに成功した。

 え? 酷すぎるって?

 でも靴下は残しておいてやったから多分平気」

 

「気休めになるかそんなもんっ!」

「あと声出てますよ、最後」

 

 

 

 一緒にいたせっちゃんにまで窘められてしまった。

 というかキミついでに心読んでなかった?

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 二回戦・Bブロック第一試合

 泉井美月 VS 長瀬楓

 

 せっちゃんは不戦勝なので実質二回戦は三試合しかないのだが。

 ブロックごとに分ける必要性は、もう残って無いのではなかろうか。

 

 そんな思考で見る小学生VSニンジャ。

 ちなみに俺の姿勢は正座のまま。

 その上に石抱き宜しくエヴァ姉が座り込んでおり、拷問というよりはご褒美なのですがこれは。

 いや、後ろ手はエヴァ姉の用意した手錠で使用不可だから実質拷問か。

 ――くそぉ、う、動かせろ……! 柔っこくて抱きしめたいよぉ……っ!

 

 

 

「………………。」

 

 

 

 そしてそんな俺を蔑んだような目で見ているせっちゃんである。

 

 

 

「……なんすか」

「いえ、別に……」

 

 

 

 え。俺考えていること表情に出てる?

 俺のサトラレ説が浮上する。

 若しくはせっちゃんサトリ説。

 

 

 

『――遠出山越え笠のうち、聞かざる時には物の白黒、出方善悪、とんと分からず、

 童子来たりて撞木当てざれば、とんと鐘の音分からずじまい、

 手前此処に呼び出したるは、おんばこ食らって露草に育つ、

 万葉古来に詠われる、筑波は四六のがまにてゴザル』

 

 

 

 そしてお前はナニヲシテルンダ、ニンジャ。

 武舞台の中央にて、どでかい蝦蟇蛙を足の下へと呼び出した長瀬がいたりする。

 口寄せの術なの? ガマ仙人にでも弟子入りしていたの?

 ニンジャはもういいよぉー。

 

 

 

『ほほう、まさかリアル自来也を見られる日がこようとは。これは僕も相応に相手しなくてはなりませんかね』

 

 

 

 えっ、なにこの子、でかいガマを見て逆にやる気になっちゃってない?

 泉井ちゃんは両手を何某かのオーラで包むと、それを舞台へと下ろす。

 

 

 

『創造領域・キュベレイ≪地母神≫』

 

 

 

 その瞬間――、

 

 舞台を突き破って出てきたのは、両腕が巨大な鰐頭となっている二足歩行のスペースゴジラと、巨大な銃のような大筒を片腕に構えた変則六角形の顔面を持つ怪物。

 どちらも映画の大怪獣のように巨大ではないが、蝦蟇よりは充分に巨体。

 

 

 

『ゾンアーベントにフリユーリンク、です。

 ――さて、始めましょうか』

 

 

 

 ……正直、えっ二対一? とか、強気に出たはずの楓たんが威圧負けしているでござる……。とか、そんな感想しか浮かばなかった。

 ……一体誰が勝てるんだ、この子に。

 そして俺の拷問はいつまで続くんだ。

 

 

 




~初日の暴走
 のどかとのデートで事が起こったらしい
 尾行者は居なかったがキスを注文したのどかが腰砕けにry
 そしてそれを目撃していた高音と愛衣
 まあキンクリしたんですけど

~焦点回廊
 まさか二度目の登場になるとは作者も思いもしなかった(すっとぼけ)
 衣装換装魔法だけど強力な武装解除でもある
 そらくんマジ負完全

~筑波は四六のがまにてござい
 ニンジャといったらこれだよね!

~創造領域・キュベレイ
 意志薄弱な泥の人形を作り出せる。限定十二体
 出現する泥人形は順ごとに体表に張り付いた目玉の数によってカウントされているが、美月は二人の泥人形使いの技をトレースしているためにあんまり関係ない
 今回出たのは味方側の7体目と8体目。なのでそれぞれ順繰りに目玉の数があると思ってください


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『Grow-Up』

タイトルだけで中身を知れた人はエスパー
全力フルボッコな、でも振り切られる82話


 

 二回戦Bブロック・第二試合

 古菲 VS 霧ヶ崎優

 

 達人は達人を知る、とでも言うのだろうか。

 一回戦とは違った中華な恰好(コスプレ)で現れ古と向き合った霧ヶ崎さんは、構えて睨み合うこと数十秒、どちらも動こうとしないままに彼女自身の棄権宣言によって試合終了となった。

 「あれは無理無理、勝てないわ」と軽く手を振って落胆する彼女に、一番怒っていたのは一回戦で恥を掻かされた龍宮である。

 

 

 

「諦めんなよ! もっと頑張れよ! お前ならいけるいける! もっと熱くなれよぉっ!!!」

「たっ、龍宮隊長! 落ち着いてくださいっ!」

 

 

 

 何故か彼女のことを隊長と呼ぶネギ先生に腰に抱きつかれつつも、てへぺろと頭を掻く霧ヶ崎さんに絶叫し続ける龍宮。

 まあ脱がされて負けたわけだから、自分を倒した相手に相応に感情移入するのはわかる気がするが、それも普段の彼女からすると随分と雰囲気が違う気もしてくる。

 やはり彼女なりにも今日の大会にてテンションが上がっているとか、そんな心情だったりするのだろうか。

 

 

 

「お米食べろよ!!」

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 準決勝・第一試合

 烏丸そら VS 桜咲せつな

 

『さぁて! お待たせしました準決勝!

 正直武舞台何度壊すのこいつらっ!? と思わなくもなかった今大会もとうとう大詰め!

 負完全だの過負荷だの言われ続けてもまだ負けてない! このまま汚名返上できるのか!? 麻帆良の混沌よりも這い寄る負完全、烏丸そら選手!

 対するは、今まで戦わずに此処まで来たよ! 麻帆良武道四天王の名の片隅に陣取りつつも、ミステリアスな雰囲気で若干ボッチ!? 猫耳和風メイドの得物はデッキブラシ! 桜咲せつなっ!!!』

 

「そーいやあ蛙平気だったんだ?」

「? 何の話でござるか?」

 

 

 

 と、真顔で返答した楓に怪訝な表情をしている烏丸さん。

 次の相手は私なのだが、そんなことは微塵も気にしていないらしい。

 私よりも楓の方が気になりますか。

 そーですか。

 あと朝倉さんのことも忘れないであげてください……。

 というか朝倉さんの紹介に私に対する何某かの印象操作を感じなくも無い。

 誰がボッチだ。

 

 そんな烏丸さんが進み始めるのを視界の端に捉えつつ、連れ立つように武舞台上へと足を運ぶ。

 彼の手には今回は既に得物が用意されていた。

 どうやら素手で戦おうというつもりは無いらしく、両先端が三つに分かれた鉾のような武器を案山子のように担いでいる。

 注意されないということは許可をもらっているのだろうが、何処かで見たことのあるような形状だ。

 ……あ、以前にお嬢様と観に行った『えばんげりおん』とかいう映画に出てきた『ろんぎぬす』とかいう槍に似ている気がする。

 

 戦い方をそれほど知っているというわけではないが、今までに見たことの無いやり方で相手をしてくれるらしい。

 エヴァンジェリンさんの話では砲撃タイプとかいう魔法使いらしいのだが、得物をころころ変えて戦える辺りはとても遠距離専門には思えない。

 槍だか矛だかも扱える時点で、この人の格闘センスはかなりのものなのではなかろうかと勘繰ってしまいそうだった。

 

 

 

『さてさてっ、試合の前にちょっとだけお二人へ質問タイムといきましょうかね!

 何かお相手にいうことがあるというならば一言お願いしますっ!』

 

 

 

 ふむ。

 朝倉さんの言い分は若干気に懸かるが、大会を盛り上げようという彼女なりの時間の使い方かもしれない。

 此処は一つ、私から烏丸さんへ『挑発』といこうか。

 

 マイクを借りて、向き直す。

 

 

 

「では、少々。

 烏丸さん、私はあなたのことが嫌いです」

 

 

 

 あ、真顔になった。

 というか会場が妙に静まり返っているような気がする。

 まあいい、このまま言いたいことを続けよう。

 

 

 

「いつもお嬢様と無駄に近しい貴方が嫌いです。

 へらへらと笑っていられる貴方が嫌いです。

 言いたいことを言いたいだけで済ませられる貴方が嫌いです。

 雰囲気だけで機微を注視するわけでもなく物事を片付ける雑さが嫌いです。

 本当は戦えるくせに、滅多に動こうとしないでいいところばかり掻っ攫うつもりですか?

 なんでそんな恥ずかしい真似をできるのか教えて欲しいくらいですね。

 ついでに最近調子に乗りすぎているようで、見ていて吐き気がしてきます。

 負完全とかって言われる自分括弧いい、とかですか?

 全然格好良くないですし正直アレすぎますよね。

 それに軽口を叩いて女の子の嫌がる呼び名を使い続けるとかも止めて欲しいです。

 貴方自分が毛虫みたいに嫌われているかもとか、そんな想像力は働かせる頭は持ち合わせてないのですか?

 その髪も似合わないイメチェンとか、死ねばいいのにって言われません?

 大体――」

「ちょっ、すとっぷすとっぷ桜咲さんっ!? もうやめてっ! 烏丸くんマジで凹んでるから! 既にorzの格好で土下座寸前だから! 戦う前からHP0だからぁっ!!!」

 

 

 

 朝倉さんの言うとおり、地球の重力に押し潰されているかのように諸手を着いて四つん這いの烏丸さん。

 顔を下げて震えているので表情は伺えませんが、今にも泣き出しそうな雰囲気すら感じます。

 言い過ぎてしまったでしょうか。

 

 まあ今のうちにボコるという烏丸さんお得意の戦法をここで使うのも吝かではないのですが、私としてはまだ言いたいこともあります。

 これ以上時間をかける気も無いので、短めに締めましょうか。

 

 

 

「――ですが、そんな貴方でもお嬢様とは友人なのですよね」

 

 

 

 今口にしたそれらは全て、烏丸さんに対する印象でしかありません。

 彼のことは正直知りませんから。

 彼とは実際、あまり接点が無いので、それ以上の印象を得る機会が今までなかったのです。

 

 ……エヴァンジェリンさんの別荘で顔を合わせているのになんで無かったのか、って誰か思いましたか?

 ――事故とはいえ、キスしてしまった相手と平然と顔を合わせるとか出来ると思ってるんですか?

 

 

 

「貴方を私は良く知りません。

 教えて欲しいといっても正直に話す人では無いであろうというのは、まあ見ていた印象からそう感じていますので聞くつもりもありません。

 なので、戦いましょう」

 

「………………えーと、桜咲さん? なんでそうなったの……?」

 

 

 

 朝倉さんが口を挟みます。

 無粋かもしれませんが、聞かれたことにはしっかり応える所存の私です。

 何処かの誰かとは違うということを言葉で証明する必要もあるというのは、少々面倒ですけれども。

 

 

 

「私は不器用ですから。これ以外の付き合いで他人のすべてを知る術を、私は知りません。

 即ち、――斬ればわかります」

 

 

 

 某半人剣士は良いことを言いましたね。

 

 

 

「全力でかかってきてください。

 私は貴方を知りたいのですから」

 

 

 

 それだけ言ってマイクを返す。

 烏丸さんもいい加減起き上がってください。時間はあんまり無いのですよ?

 

 

 

「え、えーっと……、なんだかすんげぇ発言聞いた気がしますけど……。

 か、烏丸選手ー、何か言いたいこととか、応えたいこととかありますかー……?」

 

 

 

 マイクを向けられて、俯いていた彼がよろりと立ち上がります。

 その表情は、――笑っていました。

 

 

 

「ああー、うん。とりあえず、俺も此処まで言われたのは始めてかもな……。

 言っておくけど負完全とかっていうのは朝倉が勝手に言い出した称号だから、俺自身はそういうつもり全然無いからな? 平気だと思っているんならちょっと後で屋上来い」

「ええー、いやそれは嘘でしょ? ならなんで笑ってられるのよ? ドM?」

「MでもなければSでもねえよ。バリッバリにドノーマルだよ」

「Sじゃないのは絶対嘘だよね」

 

 

 

 ……私のことは放置ですか?

 朝倉さんとの掛け合いみたいな台詞の応酬が、続くかと思われましたが、すぐにこちらへと向き直しました。

 

 

 

「女の子相手に全力出すとか、紳士としてはやりたくないけどな。頼まれちゃったら、まあ応えるつもりだよ」

 

 

 

 そう口にし、鉾を構える。

 なるほど、これがツンデレというやつなのですね」

 

「いやそれは違ぇよ!?」

 

 

 

 口に出ていたみたいです。

 私もまだまだ修行が足りません。

 人のことなど言えませんね。これでは。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 烏丸のニヨニヨが止まらないそうです。

 まああんなこと言われたんなら、そうなるのも仕方ないんだろうな。

 前半の罵倒は完全にアレだったけど、後半のアレはアレで完全に告白だろ。

 そんなことで喜ぶアイツもマゾなんじゃないかと疑わしいのだが、美少女に言われて喜ばない男子はいない、ってことか。

 そういう部分はやっぱり普通の男子なんだけどなぁ……。

 

 ――なんか、あんまり面白くないな。

 

 

 

「どうしましたかちうさん。お気に入りの友人が告白を受けたところを覗き見してしまった幼なじみみたいな表情をしてますよ」

「微妙に嫌なたとえだな……、っていうかアイツとは幼なじみでもねえし」

「アイツとは烏丸って人のことですか」

「……べ、別になんとも思ってねえし」

「とりあえず落ち着いてください。口調がヴィータちゃんみたいになってます」

「ツンデレでもねえし!」

 

 

 

 というか美月はいつまで観客席にいるんだよ!?

 お前も次が試合だろうが、とっとと選手側へ戻れよ。

 

 

 

「イリシャさんには必ず勝てとは言われて無いので。というか次に当たる人がかなりの使い手にしか見えないのであまりやりたくないです」

「あん? 試合放棄か?」

「そうですね。この後お暇なら麻帆良を案内してもらえませんか? なんせ三日間しかいられないそうなので」

「異世界人も難儀だな……」

 

 

 

 あぁ、なんか非日常に慣れてしまってるあたしがいる……。

 まあ、あの夢が全部マジもんだったってことを受け入れちまえば、非日常も日常か。

 あいつらに聞きたいこともあるけど、それは今日が大体終わった後でも良さそうな雰囲気だし。

 

 っていうか、この試合ネットで流れてるんだよな。

 あの夢が現実なら、あそこで得た『原作知識』もある程度は有効活用できそうなわけだけど、正直見た記憶と現実が一致していないのは、『烏丸』っていうイレギュラーが関係しているのか?

 そして『それ』によると魔法とかって秘匿するものらしいのだが、やっぱり超の一味がそういうことを全世界へばらすのに加担していたりするのだろうか。

 ……ちょっとその辺が気になるな。

 

 

 

「ネットですか」

「ああ、少し気になってな」

 

 

 

 スマホを弄りつつ美月に応える。

 麻帆良、武闘会、と検索すれば、すぐに映像が見つかった。

 ……見つかったのだが……、

 

 

 

「何処にも『魔法』の文字がありませんね」

「あるにはあるけど、すぐに塗りつぶされている感じだな。まあニンジャ多かったしな……」

 

 

 

 見つかった映像に添えられたコメントの多くが、

 

―イザナギだ

―アイエエエエ! ニンジャ! ニンジャナンデ!?

―火遁劫火球出たー!

―ガマ仙人さんチーッス

 

 と、麻帆良スレならぬNA●UTOスレになりかけていた。

 ちなみに自来也と綱手は原典では夫婦らしい。

 蛇・蛞蝓・蛙の三竦みも、件の原典から派生した設定だとか。へぇ、へぇ。

 

 そんな胡乱な情報を斜め読みしていると、直ぐ隣の実況席からも胡乱な声が漏れた。

 

 

 

「……? おかしいな……」

「解説の豪徳寺さん、どうかしましたか?」

「ああ、いえ、ちょっと気になることが……」

 

 

 

 胡乱な声の主は、大河内から解説役を仰せ付かった豪徳寺というリーゼント。

 元出場選手なりに格闘に対しての知識はそれなりにあるらしく、描写されていないが今までの試合ではそこそこに詳しい解説を執り行ってもらったので観客席側からは評判はいい。

 

 

 

「烏丸選手ですが……、ちょっと強すぎませんか?」

 

 

 

 そんなリーゼントの疑問の声に、あたしらは再び試合へと目を向けた。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 おかしい、この人の強さが異常な気がする。

 

 いや、全力で相手をしてくださいと言い出したのは私ですから、そういうのはむしろバッチ来いですが。

 それでも移動スピードとか、膂力とか、攻撃威力とか、そんな一つ一つのポテンシャルが上昇修正されているような気がする。

 

 遠距離戦闘特化型だという魔法使いだが、呪文詠唱の禁止という項目がある以上は彼の得意なスタイルでの戦闘は無いと断言しても良い。

 無詠唱で技を放てるのも彼の強みだろうけど、それをやるために必要な手順があるということは既に承知の上だ。

 ので、私は自身の得意なスタイルで戦うことをまず第一に考えて、デッキブラシを構えて踏み込んだ――、

 

 ――はずが、その瞬間には目の前に烏丸さんの姿が既にあった。

 距離を詰められた?

 いや、あの歩法は脅威だが正直瞬動とスピードに言うほどの差は無い。むしろ瞬動のほうが素早いので、『目を騙す』タイプの移動術である歩法は瞬動に慣れた接近戦型の使い手ならば対処が出来るものだ。

 それを、私が見逃した?

 

 距離を詰めた烏丸さんの得物からの一撃が、腰の位置から放たれる。

 鍔迫り合いをするつもりでブラシの柄でその攻撃を防ぐ。

 ――が、あまりの重さに後ろへと吹っ飛ばされた。

 

 気で強化していた私を吹っ飛ばす威力?

 烏丸さんはそういう強化術を使っている様子は無い。

 そもそも強化術自体、彼は手順を組まないと形に出来ない。

 気も扱えないし、ネギ先生のような『戦いの歌』を使おうともしない。

 そんな烏丸さんの膂力が異常化するって、どういう手品を使ったんだ。

 

 リーゼントの先輩と戦ったときは手を抜いていた?

 否、別荘での戦闘を見せてもらったこともあったが、そこでの動きはまだ第一試合のときのほうが近かった。

 相手取ったのはエヴァンジェリンさんなのだから、そこで手を抜くということが=逆鱗に触れる、ということを今更やらかす人ではないはず。

 ということはこの数時間で強くなった?

 どうやって?

 

 思考の間も戦闘は続く。

 

 私を吹っ飛ばしたままに追撃を食らわせる気だったのか、追いつく速度を出す踏み込みで鉾の切っ先を私へと向けている。

 ので、咄嗟の判断で攻撃を往なす動きを数合、合わせつつ移動スピードは遅れぬままに、会場の屋根へと互いに着地。

 が、やはり烏丸さんは隣接してくる。

 完全に接近戦型の前衛の戦い方での動きに、こっちの思考が追いつかなくなる。

 

 慌てるように屋根から退避。

 『羽』を使わなくとも空中移動の心得くらいは得ている。そんな私に追いつける空中戦は出来ないはず。

 そう思っていたのが甘かった。

 烏丸さんは私以上の滞空時間と、私以上の高さでの跳躍を見せた。

 

 太陽を背にし、空中で体勢を整え、私の方向へと脚の切っ先を槍のように向けて。

 

 『羽』を出せない状態で、空中にて回避は不可。

 行動が追いつかない状態での末に私が出した思考(考え)は、この技に対する実にどうでもいいことであった。

 

 ――ああ、これってひょっとして、ライ●ーキッ

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「」

「」

「」

 

 

 

 叩きつけられるように舞台へと蹴りつけられた桜咲の様に、見ていた観客がそろって絶句していた。

 というか確かに強すぎる。

 第一試合でも二回戦でも、アイツはあんな戦い方を見せたことなんてなかった。

 手を抜いていた? いや、それ以前に何処かがおかしい。

 

 そんな理解できないものを見てしまったかのような考えに囚われていると、桜咲がゆっくりと起き上がってくる。

 叩きつけられた舞台上にはクレーター状に床板が凹んでおり、人間一人分の重さでめり込んだにしてはその被害は大げさに過ぎたようにしか見えない。

 まるで、

 

 

 

『『「まるで、重力でも操っているみたいだ」』』

 

 

 

 私の思考と、リーゼントの呟きと、桜咲の台詞と、そして烏丸の声が重なった。

 

 

 

『……か?』

 

『どういう、ことですか……?』

 

 

 

 距離を置いて着地していた烏丸に、起き上がった桜咲が向き直す。

 が、蹴り落とされたにしては頑丈すぎるな、アイツは。

 あれか、身体強化とかそういうやつをやってるんだったか?

 

 

 

『これだけ打ち合えばもう理解できると思っていたが。正体はこれだよ』

 

 

 

 そう言って、手にした槍のような武器を桜咲へと向ける。

 そういえばラ●ダーキックの瞬間にも手に掴んだままだったな。

 不恰好だと思っていたが、アレは必要なアイテムだったとでも言いたいわけか?

 

 

 

『名を『帝釈廻天』。重力制御術式の具現化さ。傾けるだけで自重を変えられる』

 

 

 

 ――その瞬間、見ていたスレの発言が一気に沸いた。

 

―烈火の炎キターーー!!!

―火影忍軍の人材募集を読んだのですが

―ジョーカーの中の人だとぉ!?

―またニンジャだよ!いい加減にしろ!

 

 ああ、アタシも言いたいね。

 お前もうちょっと普通な奴じゃなかったっけ!?

 

 

 

『全力で戦えって、桜咲は言ったよな? 俺は少なくともやる気の時には手を抜かない。でも本気の全力を出すとなると、やっぱり舞台が狭いんだよ』

 

 

 

 言葉を続ける烏丸。

 お前今麻帆良で一番の非常識だって発言している自覚あるか?

 

 

 

『だから、本気でやる気は無い。

 これだってペテンみたいなものだからな』

 

 

 

 魔道具使うとか誰が予測できるものか。

 というか桜咲にきちんと応えてやれよ。

 ある意味一世一代の告白したというのに、桜咲が哀れすぎる。

 

 

 

『つーわけで俺は棄権する。

 あとは頑張れ!』

 

 

 

 ――おい、最後アイツなんて言った?

 

 

 




~蛙
 ニンジャが蛙を苦手なはずが無いじゃないですかやだー!
 この世界線では京都にてカエル騒動が微塵も起こらなかったので、楓自身にはトラウマとなる事件がなかったという設定改変
 実質蛙が苦手な人ってその形状よりは小ささが一番の要素な気がする。ソースは俺
 あとは、うじゃうじゃいる物を直に目にすれば誰だって嫌だ、とか

~せっちゃんが鬼過ぎる・・・
 とんでもない威力のクーデレだとでも思えば、感情移入していた読者さんたちでも平気だよね・・・?

~というか今日のせっちゃんが冷静すぎて別人
 途中でゆえきちかと錯覚しかけたことは内緒だ!

~帝釈廻天
 元ネタは烈火の炎。の、魔道具
 重力魔法の具現化術式
 切っ先を傾けるだけで自身に掛かる重力のベクトルを変更できる
 術式を掌握している状態ならもっと捻った変更も可能となる


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『オツキミリサイタル【麻帆良編】』

おーりはラブコメへと力を入れるそうです
出来てみるとなんか違う気もするけど・・・


 

「優勝、惜しかったわね」

「いや、さすがに勝つわけにはいかないだろ?」

「勝っても良かった気もするけど……」

「無理無理、もっとふさわしい奴らがいるさ」

 

 

 

 麻帆良祭二日目午後、約束していた明日菜と連れ立って喧騒の中を歩く。

 これ実質デートなわけだけど、明日菜自身はどう思っているのか。それとも二度目だからもう耐性でもついたか?

 

 

 

「放って置いてきちゃって良かったの? 連れ出しちゃっておいて言うのもなんだけど……」

「お友達がいるから問題ねーさ。約束はアレだけだったしな」

「それにしても……、またそらの武勇伝が増えるわね」

「……言うなよ、考えないようにしてるんだから……」

 

 

 

 ちなみにこれ、武闘会の話ではない。

 まおちゃんと約束していたカップルコンテストの一部始終である。

 

 時間に間に合わなくなるのも面倒なので、大会を棄権で切り上げたわけだったのだが、向かった先がそれだと知られたらまたロリコン疑惑が浮上しそうで嫌過ぎる。

 でも約束を子供相手に破るとか、そういう大人には俺はなりたくない。

 約束していた休日がゴルフで潰されたときの子供の気持ちを良く知る俺としては、そんな大人にはなりたくない。という一念の元に参加したわけだ。

 ちなみにそれ前世でのハナシな。今生? 身に覚えが無いね。

 

 まあ要するに、原作通り優勝したのは真っ当な小学生カップル。

 俺とまおちゃんは兄妹カップルとして紹介されたが、それでも生暖かい目で見られていたのは言うまでも無いだろう。

 そんな噂を払拭するためというわけでは無いけど、午後は付き合ってもらうぜ。明日菜さん?

 

 

 

「それはそうと、武闘会は良かったの?」

「暇は潰せたし、俺としては何の未練も無いけど」

「そうじゃなくって桜咲さんのことよ。全力でぶつかって欲しいって告白までされたのに、それをのらりくらりとかわしていたらどのみち成就はしないんじゃない?」

 

 

 

 明日菜に恋愛に関して苦言を受けるとは、ついこの間までも思わなんだ。

 

 

 

「なに? 明日菜はせっちゃん推しなの?」

「推し、っていうか、桜咲さんって思い込んだら一直線っぽいし、手綱を握ってくれる人がいたらいいのになー、って。やっぱり女同士だと世間の目とかあるじゃない?」

 

 

 

 明日菜の中でこのかとせっちゃんの関係が更に育まれている件について。

 同室だとやはり色々見えてきたりするのだろうか……。

 

 

 

「そこをそらが纏めて面倒見てくれたら、私としてもすっごい安心」

「俺が安心できねーよ、お前の思考に」

 

 

 

 若干違った。

 斜め上だった。

 コイツは俺のことをなんだと思ってるの?

 

 

 

「そもそも斬ればわかる、とかみょんなことを言い出したお嬢さんに真っ正面から付き合いたくねーよ。元からあの大会はお遊びのつもりで出ていたしな、本気出そうとしていた奴らにはちょい悪かったけど」

「そこは本気で反省しなさい。まあアルのやつも出ていたし、英雄の一員が真っ先に他人をおちょくってるんだから説得力無いけど」

 

 

 

 魔法使いってほんと非常識ですよね(他人事)。

 

 

 

「そもそも俺が本気を出したら麻帆良を焦土か氷河期にできるという罠」

「でも本気を出すためには障壁が邪魔で、麻帆良の結界がある限りオートで発動し続ける障壁を解除できない、と」

「だから俺の本気はやっぱりあーいう小細工に限っちゃうわけよ。小物過ぎてごめんね。

 そんな俺にあんないい子をつき合わせようとか、マジでやめろよ?」

 

 

 

 どういう思惑があるか知らんけれど、明日菜の狙いとかを手札開く前に潰しておく。

 そう思って連れ立っていた彼女の方へちらりと視線を向ければ一歩遅れており、うーんと唸るような仕草をし、

 

 

 

「――しゃーない、ぶっちゃけますか」

 

 

 

 そう呟いて、こちらの手をとった。

 右手で、俺の後ろから右手の方を握る。

 ぐい、と引っ張られる感覚に逆らわず、流されるように身体をそちらへと向けた。

 

 

 

「そら、あんたハーレムルート目指しなさい」

「――意味が分からない」

 

 

 

 え、なにそれ。

 とうとう頭が湧いたのか……?

 

 

 

「ネタバレしちゃうけど、6号ちゃんってアーウェルンクスでしょ? っていうか前にもあの子『完全なる世界』がどうこうって言っていた気がするのよ」

「お、おう。そういえば記憶戻っていたんだったな」

 

 

 

 ほとんどどうでもいいことだったから忘れかけていたが。

 

 

 

「魔法世界のことはちょっと気にかかるけど、問題はそれ以前よね。そらが『完全なる世界』に関わると100%魔法世界は負けるわ」

「そこまではいかないだろ、精々75%くらいだろ」

「それでも充分すぎる勝率よ。ついでに言うならあんたなら私を魔法世界の崩壊キーとして上手い具合に連れ出すくらい簡単にできそうでもあるし」

 

 

 

 ……その場合、俺が信用されているって言うよりは高畑先生とかの実力疑っているって感じに聞こえるのだが。

 実際隙を見て明日菜を連れ出すくらい、俺なら本気でやれば出来そうなのだから反論できないが。

 

 

 

「それで最終的に魔法世界を解体しちゃうと、そらは真っ先に魔法使いから狙われるでしょ?」

「それとハーレムとどういう関係があるんだよ……」

「6号ちゃんが霞むような数と付き合えばそっちに関わる気もなくなるかなー、って」

「酷ぇ!?」

 

 

 

 予想以上に下種い作戦だった!

 

 そして此処でメガロに肩入れするように言わない辺り、元老院とかに対する不信がいい具合に募っているようにも思えてくる。

 そんな明日菜はうんうん、と唸りながら言葉を続けた。

 

 

 

「まあさ、幼なじみとしては、そんなことになるくらいなら、安全な生き方を目指してもらいたいわけですよ」

「余計なお世話過ぎる……。お前はどうなんだよ?」

「あたし? あたしはまあ、一応考えている手段はあるんだけどねー……」

 

 

 

 尋ねると、若干遠い目をする明日菜。

 なんだ? まさか魔法世界の礎として封印される気満々だとか言い出さないよな?

 ……あり得てきた。

 こいつ余計なところでバカだから、それを既に選択しているから他人にこういうことを振ってきたという可能性が、……今凄い浮上してきた。

 

 

 

「……一応、一応言っておくけど、ハーレムルート目指せって言うんならお前も入れよな」

「――あはは、何? 告白?」

 

 

 こいつ、やっぱりか……。

 返答に間があったことに憶測がほぼ予想通りなのだと確信する。

 恥ずかしいことを言わせておいて逃げるとか、できると思っているのかこいつは。

 

 

 

「お前が言い出したことだろうが。っていうか、結婚するなら真っ先に明日菜だね」

「あは、いーよ、そのうちね」

「約束しろよ」

「うん、約束――」

 

 

 

 こりゃあ、本気で魔法世界どうにかしないといけなくなってきた、か……?

 いつもの軽口を叩きあいながらも、俺は伏せていたカードを動かすように一計を案じ始める。

 やはりコイツが犠牲にならない世界を目指すのが、俺の第一目標なのかもしれない。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 我が男子麻帆良中3-Aは初日に劇をやり、本日並びに三日目はそれを撮影した上映会を執り行った。

 上映した教室ではグッズ販売もしており、隣の空き教室を借り切って劇で使用した着ぐるみなんかも陳列してある。

 どう見てもプロジェクトARMSなジャバウォックさんとか、ノリノリでエターナルフォースブリザードをぶっぱするアリスコスのエヴァ姉の写真とか、女王様でドヤ顔する茶々丸の等身大フィギュアとか。ついでに俺の誰得猫耳写真とか。

 そんな秘宝館なんだか博物館なんだかよくわからん品々が飾ってある一室を、明日菜とデートよろしく見て回って三時間。

 

 

 

「あ! 烏丸くん、きてくれたんやなー!」

「おーう、まあなー」

 

 

 

 そんな俺らが向かった先は和泉+チア部のバンドなわけだが。

 部屋の鏡台の前でステージ衣装に身を包み、嘆息しつつカップを傾けていた彼女は、こちらの姿を視認すると即座に破顔していた。

 

 しかし、最初に控え室への陣中見舞いをしに向かったところ、柿崎はノックもせずに部屋へ入れさせようとするわ、明日菜もそれに便乗するわ。

 ラッキースケベなんて大ッ嫌いだね!

 俺が遭遇するそういうイベントって大抵が好意のベクトルが俺以外に向いている人たちのばかりなんだもんよ!

 ソースは3-A女子部のほぼ全員だ!

 なんだこの無駄な命中率!?

 お陰で俺へのダメージがやたらと酷いんですけどー!?

 

 そんなひと悶着というか静寂の中での応酬があったわけだが、柿崎も明日菜も扉の外で様子を伺っているのが良く分かる。

 散れ、マジで。

 

 

 

「武闘会お疲れさん、頑張ったやんな」

「おいおい、何普通なこと言ってんだよ。ますます個性が薄れるぞ?」

「ええ!?」

「でもありがたいわ。さんきゅーな」

 

 

 

 中々いないんだよな、普通に労ってくれる人って。

 普通って、珍しいな。普通って、レアだな。

 そんな安心感を実は、震える声で俯く和泉に感じていたりもする。

 

 

 

「うう、やっぱりアタシは没個性なん……?」

「没個性は没個性で個性のうちだよ、気にすんな」

「慰め方がおかしくないかなぁ!?」

 

 

 

 下手に非凡を目指してキチガイ認定されるよりはずっとマシだと思うのですがそれは。

 武闘会本戦出場枠を勝ち取れた奇抜な面々を思わず脳裏に浮かびかけ、それを選別した他でもない自分自身のことを頑丈な心中の棚に載せて。

 さておき、

 

 

 

「それはそうと随分と客の入りが凄いな」

「話をはぐらかされた……。でもまあ、うん」

「結構宣伝したのか?」

「烏丸くんは知らんの? ステージは数十組で応募しておるから、誰がどういうものを発表するかはあまり知られとらんのよ」

 

 

 

 ああ、有志での参加型みたいな?

 てっきり中学生チアのバンドに引き寄せられた『おっきなお友達』が大勢いるのかと。

 今日のこれはともかくとして、かきふらいなバンドに嵌まった人らは確実にロリコン。あっちは高校生だったはずなのにね。原作とはなんだったのか……。

 

 

 

「……大丈夫そうだな」

「え、あ」

 

 

 

 原作で思い出したわけだけど。

 和泉ってナギさん()の踏み込む前まで緊張で震えていた描写があったから、今日も俺がタイムリープを敢行してやらなくてはならないのかと危惧していたわけだったのだけど。

 気楽に会話できている様子から精神状態は割と平穏なのだろうと当たりをつけ、

 

 

 

「じゃあ、あとは客席から応援しているから俺はこれで、」

「あっ、あっ! なんかすっごい緊張してきたなあー! これは誰かにもっとしっかりと支えてもらわないと駄目やも知れんなぁー!」

「………………」

「………………」

 

 

 

 立ち去ろうとしたところでとてつもない大根な演技で棒読みする和泉に、がっしと袖を掴まれた。

 ジト目で見下ろす俺に、上目遣いで見上げる和泉。

 彼女は座ったままだが、手を放そうとしないのは仕草からも良く分かるわけで。

 

 そのまま見詰め合うこと数十秒、根負けした俺は聞くことにした。

 

 

 

「……なんか、やってほしいこととかって、あるか?」

「え? えっと……、お、応援が、ほしいかなぁ……」

「頑張れ。それじゃ」

「そういう簡素なものじゃなくってな、もっとこう、魔法みたいな」

「魔砲みたいな?」

「なんかニュアンス違くない!?」

 

 

 

 OHANASHI的な魔砲はご不満か。

 まあ俺だって嫌だけど。

 

 しかし、ガチで魔法とかって言ってるわけじゃないよな?

 あるにはあるけど……。

 

 そこまで思考したところで、扉の隙間からこちらを覗いている柿崎&明日菜と目が合う。

『抱きしめてあいらぶゆー、と囁く』『死ね』

『俺がついてるぜ、と手を握る』『地獄に落ちろ』

 そんな会話を目で交わす俺たち。

 なんの参考にもならない茹立った恋愛脳の意見は放置しつつ、袖を掴まれたままというのも面倒なのでこちらから手を握り返す。

 暴漢対処法みたいな小手先の技術だが、手首のスナップを利かせる要領であっという間に逆配置。

 

 

 

「ふぇっ!?」

「ま、気負わずにありのままで行けよ。結局あーいうステージものは楽しんだ者勝ちだ」

「えう、う、うん……」

 

 

 

 赤くなって俯く和泉に優しく笑いかける。

 大丈夫、俺ニコポとか持ってないから。

 これはただの愛想笑いだから。

 

 

 

「……そこは俺がついてる、とかいうべきちゃうかな……。……あいらびゅーでもええけど」

「お前までそっち系かよ」

「女の子はそういうのを欲しがるものやー。

 ……『まで』?」

 

 

 

 若干不満げな和泉に応えれば、平然とそんな要求をしてくる小娘に嘆息が漏れる。

 そんな俺の言葉に注目した彼女には、目線で扉の方へと促してみた。

 

 

 

「っ!? みっ、美砂っ、明日菜っ!? ふたりともおったん!?」

「おったよー」

「おりましたよー」

「「大丈夫、あたしらは『この泥棒猫……!』とか言わないタイプだから」」

「そ!? そういうんとちゃうから!? そんな気を使ってくれなくってけっこうやからー!?」

 

 

 

 

 

 声をそろえて一言一句同じタイミングで同じ台詞を発揮する柿崎&明日菜。

 そして分かり易過ぎる和泉の対応力に、内心残念な娘と思わざるを得なくなる。

 スマン和泉。

 俺難聴系でもなければ鈍感系でもないから、お前の感情割と丸分かりだわ。

 でもそういうのって口に出さないと意味無いよな。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 月光煌めくステージは大成功にて収まって、最終投票による序列決めでは和泉たちのバンド『でこぴんロケット』は2位となった。

 1位はバッドラックとかいう飛び入りの高校生バンドだったが、確かにあれは盛り上がり方がずっと上だった気がする。ボーカルは男子高校生というよりは女子中学生みたいな人だったけれど。こう、なんって言うんだろう、中性的?

 

 

 

「惜しかったわねー美砂も、亜子ちゃんも」

「そーだな。かく言う俺は3位の娘らへ投票したのだけど」

「それ、絶対亜子ちゃんに言っちゃ駄目だからね」

「いわねーよ」

 

 

 

 ニュージェネレーションとかいう本物の芸能人だったらしいわけだが、プロがアマチュアに惨敗するというのも面白かったので。一つネタのつもりで。

 

 

 

「亜子ちゃんもいいかもね、恋人にするなら」

「その話題をそれ以上広げるなよ。マジで怒るぞ」

 

 

 

 余計なお世話がくど過ぎるとさすがの俺でも般若顔。

 

 そんな俺たちは連れ立ってエヴァ姉の家へと向かっていた。

 どうやら順当にちうたんに魔法バレしたらしく、説明を求めたちうたんへ答えるべくネギ君がまず捕まったそうな。

 俺個人としては、ちうたんにこちらへと完璧に嵌まってくれるのは避けたいので、せめて麻帆良祭が終わるまでは逃げ続けたい所存である。

 さすがに夜道を明日菜一人で行かせるのは考え物なので送っているわけだが、送り届けたらすぐ帰ろうかと思案中だ。

 ちなみに和泉とか裕奈とかも既に到着したとのメールがあったので、多分明日菜が最後。

 

 というか、明日菜が俺に今日付き合えと言い出したはずなのだが、ハーレム目指せという要求以外何かを求められた記憶が無い。

 おい、こいつガチでそれだけを言う心算で俺を誘ったわけじゃあるまいな。

 

 

 

「あー、もうついちゃった。そらも寄っていけばいいのに」

「お前行きつけの居酒屋みたいに言うなよ。俺はちうたんに睨まれたくはねーの、学祭終わるまでは心穏やかに過ごしたい」

 

 

 

 原作通りにことが進むことになったら、そんな希望が絶対的に叶わないのだろうけれど。

 そんな、小さな、夢。

 

 

 

「――今日はありがとうね」

「――おう」

 

 

 

 何かを決心したような表情で、こちらへと感謝の言葉を綴る明日菜。

 見詰め合い、手を振って、家へと入ってゆく彼女を見送って、しばらくその場に佇んだ。

 

 佇んだ思考で、明日菜の今日を理解する。

 思い出作り、そんな言葉が浮かんで、俺もまた決心を固める。

 言葉にしなくちゃ分からないはずの考えていることを、なんとなくだが理解したのだ。

 その上で俺は否定する。

 やはり明日菜の決心は間違っている。

 と。

 

 

 

 その数分後、エヴァ姉の家から出てきた超と顔を合わせた。

 出会うとは思っていなかったが、此処で会ったのならば都合がいい。

 俺が中にいなかったことに驚いていた様子だったが、俺自身は彼女と対立するつもりはない。

 超が原作通りに事を起こすというならば、一つ要求したいことがあったわけで。

 

 かくして、麻帆良祭二日目は幕を閉じる。

 結末は激動の三日目へ――。

 




~ぶっちゃけ
 ラブコメに見せかけたラブコメもどき
 明日菜はそらのことが好きっちゃ好きですけど親友異常恋人未満。彼が割と大変な目にあっていることを知っているために心配が尽きません
 いつこのベクトルがしっかり傾くのかはもう少し待ってね!

~かきふらいなバンド
 原作が第二期始まった、とかって言っていた気がするあれは果たしてなんだったのか・・・
 おーりは本誌は知っているけど作品はほぼ未読。おっかけているのはあっちこっちか魔人プラナくらいです

~バッドラック
 デビュー前。高校生男子二人組のバンド
 歌よりもお二人の絡みが好きだというファンが多数。ホモォ・・・

~ニュージェネ
 ファンタズマ、なあれではなくて
 小梅・輝子・輿水が出てたならシンデレラプロが1位取れてたんじゃないかな(確信)
 ろっ、ロリコンじゃねーし! ニュージェネの三人が個性薄いだけだし!(暴言)

~ちう、合流
 原作知識を照らし合わせようというわけではございませんが現状の確認ぐらいはするのが我が世界線のちうたんクオリティ
 ある意味これがシュタインズゲートの選択かと錯覚しそうなくらいの自己修正。間違って魔法世界に連れて行かれたくないので今から回避運動を始めるそうです。遅いですね


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『未来の記憶』

なんとか年内に区切ることが出来た84話
ちなみにだけど、あとがきは活動報告へと切り離してあります。今更ですが


 ドバン、と扉を蹴破るように開け放って、見目麗しい美女が自室へと乗り込んできた。

 そのままベッドへとダイブし、しな垂れる様に俺の身体を毛布の上へと押し伸す。

 そろそろ20後半に入るはずなのだが、行動力は学生の頃から変わらないようだ。むしろ結婚してからのほうが、より活発になってきているようにも思われる。気の所為か。

 

 

 

「そーらっ、子作り、しよっ?」

「……あー……、それはまあ良いのだけどね、お前は奥さんだし、問題は無いよ。

 ………………一緒に入ってきたそちらは放っておいて構わないのか?」

 

 

 

 豊満に育った胸部をほとんど隠さない薄くて扇情的な、夜伽の為にこそ真価を発揮するのだ、と主張して止まないパジャマを着こなし、特徴的なオッドアイの眼で上目遣いをしてくる彼女に困惑する。

 ちなみに年齢の割にまだ十代と言っても過言ではないその若々しさは、咸卦の恩恵によるものらしい。

 旦那として文句は無いが、公の場に出ると素性を知らぬ者から掛かるロで始まりンで終わる特殊性癖の人かと言われそうな陰口を想定してしまい若干困る。

 奥さんが同年齢なのに本妻だと思われ無さそうって、どーよ?

 

 そしてその妻と連れ立って入ってきた、そちらもそちらで目を引く美女たち。

 奥さんに負けず劣らずのナイスバディが2人とスレンダー系1人を併せての3人が、やはりそれぞれ寝巻き姿で入室してきた。寝巻き姿というかほぼ下着にしか見えないが。何処で買ったのそのパジャマ。

 つーか最後に入ってきて扉を閉めたモデルみたいな長身美女はともかくとして、前2人は下一枚しか穿いてないのだが。

 さすがに此処に来るまでほぼ全裸は恥ずかしかったのか、持ってきた枕を抱えて前を隠している。行動する前に気付くべきだと思われる。

 

 

 

「当然いっしょにきた『みんな』でっ。5●(ピー)に挑戦しよっ!」

「……奥さん、元気すぎませんかね……?」

 

 

 

 あと伏せ字になってねーぞ。

 ちなみに連れ立って入ってきた3名はちゃっかりと我が愛人となっているわけだが、その内実は学生の頃よりの友人で奥さんとも元クラスメイトだったほどの十年来の顔見知り。なのだが――、

 

 ――俺と結婚した一週間後には奥さん本人が連れてきて、一緒に生活し始めたのだから恐れ入る。

 

 奥さん公認の愛人とか、何処の王族だっつうの。一応奥さんは王族であってはいるけれども。

 というか俺自身が承諾した記憶がほとんど無いのだが!?

 

 なあなあのうちに共同生活が始まってしまい、実情ベッドインもまだであったところなので奥さんがお誘いなのに問題は無い。

 無いのだけどほぼ初夜でこれってどうなのさ? と言いたい俺と、それまで手をつけるタイミングを逃していた俺と、常識的に鑑みれば男子としての情け無さを露呈する以前の問題だと思うのは果たして間違っているのだろうか。

 ……と、困惑した頭を抱えて項垂れる。

 ……そういえば結婚もなあなあのうちに執り行われたなぁ……。

 

 

 

「そーらぁー」

「つか酔ってるだろお前。酒盛りしてたんかいオマエラ」

 

 

 

 ぐいぐい、と腹に胸を押し付けて抱きついてくるうちの奥さんはこんなに可愛い。

 まあ俺も男子ではあるので戴いてしまうのも吝かではございませんが、奥さん自身のテンションで中々艶めかしい雰囲気にならないのは俺の所為ではなくね?

 むしろこの場面はこうするのが正解なのではと胸元にある奥さんの頭を撫でれば、にゅふーと猫のように顔を綻ばせる。

 ……これ、今夜も成らずに就寝のパターンに入ってませんかね……?

 

 そう思いかけたとき、突然起き上がらせられて座る姿勢になる。

 何事かと振り替える間もなく、後ろ側から柔らかい感触を肩のところへと感じ、そのまま抱き締められた。

 

 

 

「私も、いいかな……?」

「へ、なん、アキrフムッ」

 

 

 

 いつの間にか背後へと回っていたモデル系美女が、俺を抱きしめて唇を奪う。というか肩に押し当てられてる柔らかいこの感触は彼女の胸らしい。

 何気に一番でかいそれと三番目に、ぐにぐにとサンドイッチな状態。やばい、男の夢過ぎる。

 

 ……いやちょっと待って。

 え、俺される側なの?

 

 感触の方が衝撃的過ぎてスルーしかけたけど、ディープなやつを下になって食らうって、荒木な漫画では効果音がつく――ッ!?

 

 

 

「んん、むぐ……」

「――ッ! ――ッ!?」

 

 

 

 咽喉を嚥下する何某かの液体に、一際身体が反応して行くのが分かる。

 ちょっと待て、コイツ俺に何を呑ませてる……!?

 

 

 

「ぷは、ひゃんっ?」

「お、まえ、何呑ませ……!?」

 

 

 

 利き腕を捻ってダイレクトに触れる豊満なそれを掴み軽い尋問に移ろうとしたところで、もう片方の腕が別の感触に包まれているのを知る。

 撫でていた筈の片腕は、ショートカットな愛人の1人が持つ二番目のダブルロケットへと挟み込まれていた。

 

 

 

「そらっちー、ア・タ・シ・も♪」

「いや今そんな場合じゃなくって……!」

 

 

 

 不明な代物を飲ませられるとか毒殺を連想しそうで嫌過ぎるのだからはっきりさせたいのだが挟み込まれたそれの先っちょを悪戯に舐められるとか仕草と背筋を走る快感に身悶えせざるを得なくって!

 

 

 

「安心してえーよー、そらくんに飲ませたんはそらくんの作ったお薬やからー」

 

 

 

 1人場所を取れずに余っていたはずのスレンダー系ラマンの声が奥さんの方から聞こえる。

 もう一度そちらを見れば、奥さんが身体をずらして愛人さんと2人揃って俺の正面に陣取っていた。

 

 そして、その手に見えるは見覚えのありすぎる1瓶――。

 

 

 

「謹製の『ファイト一発』! こういうとき用のお薬なんやろ?」

 

 

 

 悪戯が成功したような微笑みで、色素の薄い髪色の彼女は奥さんと共にほぼ全裸の姿で擦り寄ってきた。

 

 いや、その薬は戦闘本能を狂化させていわゆる『火事場の馬鹿力』を無理やりに興す効力だから精力剤みたいな効能は発揮されないし、服用後の副作用が意外に最悪すぎて――。

 って、ちょ、待って、4人同時本当に始める気か!? 奥さんほぼ泥酔なんだけど、あ、あれ? 奥さん? なんでそんなしっかりとした手つきで、ちょ、脱がせないで! いや自分ではやらないよ! つーか初夜だよねこれ!? み、認められるかー! こんなところにいられるか俺は帰、あっ、まって、最後まで言わせ、ア――――ッ

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「――うぉおおおっ、お、お、……おぉ?」

 

 

 

 とてつもない夢を見て飛び起きた、と思いきや内容を即座に忘れてしまい絶叫が部屋に響かずに終わる。

 なんだろう。嬉恥ずかしな気分ではあったのだけど、同時に肉食生物に寄って集って捕食されたかのような珍妙な感覚を夢見た気がする。

 

 とりあえず、飛び起きたときにそれほど声が響かなかったのが功を奏したのか、隣で寝息を立てているエヴァ姉を起こさずに済んだらしい。

 むぅー……、と身悶えて煩わしそうに、2人の間に挟まった抱き枕へと顔を埋める幼い家族に、思わず顔を綻ばせずにはいられなかった。

 しかし、わざわざ枕を挟んでまで一緒に寝たがる彼女は一体なんなのか。

 

 

 

「境界線のつもりなのかねー……」

 

 

 

 枕越しに手を伸ばして抱きついてくるのも、正直ご褒美ですとしか言いようが無い。

 本気で襲われたりしたら意味なんてないぞ、この境界線。

 ま、まあ俺はロリコンじゃねーからそんな心配はないけれどね(震え声)。

 

 

 

「って、あん?」

 

 

 

 ――はて?

 階下から話し声が聞こえてくる。

 

 この一週間茶々丸は不在なわけだから、こんな朝から客人が侵入できるはずもないのだけれども。と小首を傾げつつ、エヴァ姉を起こさないように毛布をかけて、上着を羽織って話し声の聞こえる方へと足を運んだ。

 未だに夢見を引きずっているのか、なんだか聞きなれた話し声に戦慄に似た感情を覚えつつ。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「――とりあえず、烏丸さんを探しましょう。こんな事態になっている以上、犯人若しくは事態を把握する最重要人物かと思われますし……。

 ――って、烏丸さんっ!?」

 

 

 

 いきなり不穏な会話が聞こえた。

 口走ったのはせっちゃんのご様子だが、何処か焦っている様子にも思える。

 そんなそこへ顔を出した俺に盛大に驚く面子。

 ほほぅ、せっちゃんに明日菜にこのかに雪広、和泉にアキラたんに裕奈に佐々木、宮崎ゆえきち早乙女ちうたん、とついでに長瀬とバカイエローか。

 ……総勢14人の女子とか、大所帯過ぎやしないか……?

 

 

 

「どうした、雁首揃えて馬鹿みたいに」

 

 

 

 実際彼女らの格好は学祭のときのままで、時刻は現在9時。ひょっとしたらその格好のまま学園に向かい、そして帰ってきたのかもしれない。

 

 

 

「こ、これはどういうことですか!? 麻帆良祭は!? 終わったとか言われてどういうことなのか!?」

「お、おお。落ち着け、学祭なら一週間前に終わった」

「一週間……っ!?」

 

 

 

 慌てた様子のせっちゃんが一番に詰め寄ってきて突きつけられた現実に愕然となる。

 というかこちらからすればこいつらが行方不明になって一週間だ。むしろ何をしていたのかと問いただしたいところでもある。

 

 

 

「私たちはダイオラマの中で一週間すごしていたのですが、中の一日は外の一時間だと言ってませんでしたか?」

「俺は学祭中触れてないから知らんが。誰かにシステム弄られたのかもな」

 

 

 

 比較的大人しいゆえきちに尋ねられるがしらばっくれる。

 本当は一週間前に家から出てきた犯人と顔合わせしたけど。

 でもばらさない。

 どちらにしろ件の犯人からメッセージを預かっていたりするので。

 

 

 

「とりあえず、お前らは一週間何をしていたんだ?」

「ネギ先生が力不足を実感しまして……。烏丸さんダンジョンの上級者モードに引き篭もっていたのです。出てくるのを待って一週間経過していました」

 

 

 

 なーるほど。

 超は中と外の時間のずれを合わせただけだ、って言っていたのにこんなに出てこないから何が起こったのかと思いきや。

 こっちはこっちでやることもあったからなー。調整し直すには住人を一度出さなくっちゃならないとかいうエヴァ姉の言に任せて放置していたわけだけど、一度中に入って呼びかけるべきだったかもな、これ。

 しかしネギ君、1人で上級者モードに挑んだのか? あれ全50階層あったはずなのだけど。

 まあ普通の魔法使いなら4~5ヶ月あれば攻略できるレベルに達するはずだし、彼は天才だから攻略できたのだろう。多分。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

『――コレヲ見ている頃にはワタシは麻帆良にはいないだろう……。

 世界の変革を目撃し、どういう気分かネ? クラスメイトの諸君……?』

 

 

 

 どうやら本当に学園まで顔を出し、祭りに乗り遅れたことに愕然として帰ってきたと言う魔法生徒見習い女子‘s。

 そんな彼女ら宛てに預かっている超の伝言があると告げたところ、一も二もなく飛びついた。

 それというのも、麻帆良祭二日目の夜に三日目を終えたら実家に帰るとか言い出した超の安否が気にかかっていただとか。

 そういえばそんな話をしていた気もする。考えてみればこいつら、浦島太郎みたいな状態なのだから現状を知りたがるのも当然か。

 

 

 

『時を越えたような感覚に陥っているであろう諸君には、もう一つ気になっている点があると思われるネ。即ち、魔法存在の事実が公になっている今の現状に困惑していないかネ?

 ぶっちゃけ言おう、――犯人はワタシ、ネ』

 

 

 

 手紙の上に映し出されている立体映像超の言葉に息を呑む面々。

 本当にぶっちゃけたが、コイツが言いたいことはまだあるということを俺は知っている。

 

 

 

『さらにその上で、カシオペアを所持し過去へと戻れる手段を持つ諸君らに依頼したいことがあるネ。

 どうか、世界改変を行おうとしている過去のワタシを、阻止してもらいたいヨ……!』

 

 

 

 泣きそうな表情で超が土下座した。

 連続した驚愕のカミングアウトに誰も彼もが絶句するしかなかった。

 

 

 

『魔力不足に関しては烏丸サンに必要な魔法薬を注文してあるカラ、それをネギ坊主に飲ませれば必要分の魔力を発生させることも出来るネ!

 だからどうか、バカなことをする前にワタシを止めて――『超、此処にいましたか』ッ、チャ、茶々丸ッ!? 何ネ! まだ休憩時間内のはずヨ!?』

『シンガポールから連絡が来ました。未認可の人型ロボット作成の件について詳しい話を聴きたいとのことです』

『い、嫌ダネ! さっきイングランドから帰ってきたばかりナノニもう日本を離されるカ!?』

『私も行ってあげますから。さあさあ』

『クッ、と、とにかくヨロシク頼むネ! 絶対に企みを阻止してもらいたいヨッ!』

 

 

 

 うあああああ、と引きずられてゆく超のフェードアウトで手紙は終了した。

 みんなぽかーんとしている。

 何から言葉にするべきか理解が追いついていないようなので、とりあえず事情を知っている俺が促してみた。

 

 

 

「えーと、とりあえず超りんが未来人だっていう事実を知っているやつらは何人いる?」

 

 

 

 誰もその言葉に疑問符を浮かべたような反応がないので、恐らくはもう知っていたことなのだろう。

 というかクラスの半分に実情を掌握されているとか、アイツも中々に間が抜けているような感じだ。

 

 

 

「『麻帆良にいない』って、そういう意味アルカ……?」

「ええっと……、超さんはお帰りにならなかったのですの?」

「そう。理由はまあいろいろあるけど、やっぱり変革した世界が本当に平和になるか。って言うところを見極めるべきだって進言したのが第一なのかもな」

 

 

 

 古菲と雪広の言葉に頷いて、未帰還理由を暴露する。

 まあ進言したっていうの俺なのだけど。

 

 

 

「平和に、ですか……?」

「超りんのやってきた未来はそんな言葉は無縁な世界らしい。そもそもそんな理由でもなければ、わざわざ技術水準とか文化水準が下になるはずの過去へと渡航してくる道理も無いから、まあ納得の理由なのだけどな」

 

 

 

 結局原作で詳細まで語られていなかったわけだから、俺個人としては時間遡行の詳しい理由は予測するしかないのだけど。

 簡単な予測で説明して見せれば、若干納得した様子の面々。しかし、

 

 

 

「あの、それでしたら超さんが改変阻止を依頼するのはおかしくないですか?」

 

 

 

 真っ先にそこに気付いたゆえきちが尋ねてくる。

 元より説明するつもりであったので、俺も詳しく語る。

 

 

 

「結局、超りんの敗因は麻帆良に一回勝った後、あと何回勝利しなくてはならないのかを予測できなかったこと。そして世界の広さを想定していなかったことだろうな」

 

 

 

 そう、前置きして、

 

 

 

「まず――、世界改変の内容は『全世界に魔法を強制認識させる』というものをやるはずだったのだが、世界樹の魔力が“何故か”足りなくて断念。

 超りんは泣く泣く麻帆良の内実をレポートした記録映像その他を世界配信し、それを魔法先生らに阻止されないために麻帆良占拠へと事を及ぼした。

 麻帆良にかけられている認識阻害を排除し、学園結界を解除。地下に封じられているとか言う鬼神を解き放って再封印するというパフォーマンスでもって麻帆良祭の三日目は激動に突き動かされた。

 結果としては成功。世界は隠された技術である魔法を認識するには至った――。

 

 ――問題はそのあとだ。

 魔法のことを知りつつ、“わざと”隠そうとしていた種類の人間がいたんだよ。世界のいたるところにな」

 

 

 

 俺の説明に気付いたものもいるのだろうが、うわぁ……と言う表情で続きを待っていた。

 嘆息し、続ける。

 

 

 

「日本の一介の女子中学生に過ぎない超りんのやったことを快く思わない方々が、ここ一週間かけて代わる代わる聴取という名の尋問を繰り返している。

 世界的頭脳集団に魔術結社、秘密組織に異邦事件対策協会、魔女や法王庁、武器商人からテロリストなどなど。真っ当なところから法の及べないところまで次々と、文句に近しい『呼び出し』を麻帆良へと送ってくるわけだ。来ないのならばこちらから行くぞ?という脅迫も添えて、な。

 麻帆良在住の魔法先生らは日本政府と魔法世界からの声に対応するので大忙しで、超を拘束する暇も無い。というか逆に、拘束したらやばいんだけどな」

「あの、もうその辺りでおなかいっぱいなのですが、」

「――よりによって魔女の一人が、『麻帆良に拘束されている真祖の吸血鬼の不当労働』を普通のメディアで大発表しやがりましたとさ」

「「「「「はぁっ!?」」」」」

 

 

 

 ほぼ異口同音に全員が驚いていたが、何人かがそれに乗り遅れる。

 これだけじゃ分かり辛かったかな?

 

 

 

「要するにエヴァ姉の扱いだな。中身がどうあれ見た目は十歳の美少女だぞ? それを15年も縛り付けていたってことで今麻帆良の魔法先生のお株はとてつもなく低い。

 だから今下手に目立っている超りんとかエヴァ姉とかに手を出せば、悪い立場がさらに悪くなるって寸法さ」

 

 

 

 まあお陰で麻帆良組(それら)に組み込まれなかった俺とエヴァ姉の将来には、今のところ不安なんて無いのだけども。

 魔法先生の扱いの悪さに全正義の魔法使いが泣いた!

 

 

 

「だから、俺個人としては別に改変阻止を促すつもりは無い。

 むしろお前らも今は行方不明だったということで目をつけられているだろうけど、直接乗り込んで来れない魔法世界の窓口である魔法先生方も追い遣られるだろうし、そうなればメガロの息自体が撤退に傾くことになるかも知れんから、もう数日ほど穴熊決め込んでても勝てる勝負だ。

 ――どうする?」

 

 

 

 平穏無事な生活が直ぐそばに待ってるぞー。

 そんな俺の手招きに応える、こいつらの反応は――。

 

 

 




~このスレは全年齢版です
 描写の限界に挑戦だ!
 本番に移行しなければまだ大丈夫だと信じてる
 ちなみにわっふると書き込んでも続きは無い

~夢っすか?
 実は何気に一番遠くなった世界線からのリーディングシュタイナー
 魔法世界の問題が別枠になったことで魔法自体が地球から剥離されかける未来が浮上
 ハーレムルートが遠ざかるよ!やったねそらくん!

~ファイト一発
 某ゲームのような効果を発揮させるために調合したそら謹製のお薬
 精力剤としては使用できない
 ゲーム的な効果を言うならば『改心の一撃』が出やすくなる
 副作用は服用数十分後に四肢が攣る

~チャイナ娘、ちょっと面貸せ
 一番怖かったのは間違いなくテロリスト
 貌を走る大きな火傷の跡を隠そうともしない金髪美人が一際怖かった、と彼女は語る

~どうする?
 →過去に戻る?
 →過去に戻らない?
 選択肢によっては此処で物語が終了します
 ちなみにネギは一足先に魔法先生と接触したため現在既に捕縛済み
 ネギや魔法先生方を犠牲にすればハッピーエンドで終われるけど?


あとがき詳細は活動報告にて
それでは良いお年を


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『故意は渾沌の隷也』

前話との間の話は番外編として別のスレッドに転載しました
特に読まなくとも問題はありません



 麻帆良祭・三日目

 

 泉井ちゃんに超りんの計画について説明をしつつ、手を出さないようにお願いしていたところ、ふと視界にとんでもないものが飛び込んできて目を疑った。

 お、親方ー! 空から美少女がー!?

 親方って誰だよ。

 

 

 

『にゃあああああ!?』

『ちょっ、なんで空にぃいいい!?』

『わひゃああああ! おちるぅうううう!』

 

 

 

 元気に叫ぶね、君ら。

 学祭の喧騒に紛れて他に気付いた人は居ないご様子。

 さすがに俺も慌てて魔法を具現化する。

 

 

 

「帝釈廻天、――――マイナス!」

 

 

 

 落下地点まで赴いて鉾を廻す。

 無重力状態が発生し、落ちてきた何人かをちょうどいい地点で受け止めることに成功した。

 良かった、明日菜も中に居たから、正直魔法を打ち消される可能性も考慮しかけていたけど。

 ちなみにそうなっていたらお陀仏であった。が、まあ多分泉井ちゃんとかに頼んでいるだろう。あの娘超能力者らしいし。

 

 

 

「――ふぅー。で、お前らはなんで揃いも揃って空中自由落下とか、」

 

 

 

 事情を聞く、前に。

 

 ――抱きつかれた。俺が、明日菜に。

 

 

 

「お、おお? どした、怖かったのはわかったから、さすがにそう強く抱きしめられるとちょい照れる――」

「――そら、だ……!」

「――明日菜?」

 

 

 

 あ、あれぇ? なんか様子がおかしくない?

 明日菜の怯え方が空中自由落下の恐怖だけじゃなくて、それ以上のものを見てしまったときみたいにがたがた震えてるのですけれど。

 

 

 

「良かった……、もう、会えないかと……っ!」

 

 

 

 これ、泣いてね?

 

 ココでうろたえるのは男じゃない。

 とりあえず無言で抱き止めて、あやすように頭を撫でる。

 よーしゃよしゃ、怖くないですよー。

 

 

 

「ふわぁぁぁん……!」

 

 

 

 ガチ泣き仕出した!?

 いやこれちょっと無理! さすがにこれをうろたえるなというのはインポッシブルすぎるので誰かヘルプ!

 そう視線に込めて周囲を見れば、

 

 

 

「――そ、ら……くん、はは、良かった……!」

「ああ、まだ、間に合うな……!」

「希望は前に進むんやな……!」

 

 

 

 和泉とちうたんとこのかがそんな台詞を涙ぐみつつ口にしていた。

 どういうことだ……。

 というかこのかは何か違くないか。

 

 そして明日菜に便乗しているのか知らんが、アキラたんとせっちゃんが人知れず引っ付いてきていることには皆スルーなのか?

 今俺普通に身動きが取れないのですけど?

 

 

 

「はは、生きてる、生きてるよ、烏丸くん……!」

「はい……! 生きてます……! 烏丸さんが生きてます……!」

 

 

 

 勝手に殺すな。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「――あたしらが最後に見た光景は、烏丸の首が綺麗に胴体から切り離されたところだ。それを回避するために、あの時間軸から逃げてきた」

 

 

 

 え、俺マジで死んだの?

 一緒に一週間後の世界へと出現してしまったちうたんからの証言で、あいつらが何に怯えていたのかをようやく把握した。

 というか、切り離すことができずに未だにくっついている明日菜さんをどうにかしてくれませんかね。さすがにアキラたんやせっちゃんはもう離れているけど、明日菜だけがもう絶対に離さない!ってレベルで抱きついているのですけど。

 

 状況を一番に把握していたのがちうたんだというのには疑問が残るのだが、仕方のないことなのだろうと割り切り、彼女からの某時間軸の事情を聞くと、どうやら超りんは世界改変を阻止して欲しいとネギ君らに要求したらしい。

 自分で変えておいて再改変できないものなのかと疑問に思うが、超りんは超りんで色々と忙しいらしい。それでも自分の責任から逃げ出さない辺りは偉いと思うが、その自分の大変な状況を別の時間軸の己には味合わせたくないとか、そんなに追い詰められる状況ってなんぞそれ?

 なんだ、終野イズミにでも目をつけられたか?

 

 そしてその時間軸の俺、苦戦したとか言うエヴァ姉を庇いどうやら本気で彼女らの目の前で死んだらしい。

 犯人は刀子先生らしい。

 封印中とはいえエヴァ姉を追い詰める神鳴流、マジぱない。

 まあいくら俺の能力が人外染みているからと言って、さすがに首を切り離されたら死ぬしか無いだろうしなぁ。

 危機的状況の詳細を今のうちから知れたのは有り難い、と心に留めては置くが……、

 

 

 

「……ちうたん、浮かない顔してるね?」

「ああ、お前もな」

 

 

 

 ちなみに、世界樹の魔力が根本的に足りなかった件の時間軸から逃走する手段として、ネギ君には俺の調合したという魔力の出力を一時的にだが大幅に引き上げるお薬を飲ませたらしい。

 そのネギ君はオーバーフロー状態で寝込んでいる様子であるが。診ているのは宮崎。

 そして『超の引き起こす歴史改変を阻止しようぜ大作戦』略して『超作戦』の方は、大々的に起こすつもりらしいというならばいっそ隠すのも無理だと判断し、一々魔法先生方に話を通すのも面倒なので雪広の陣頭指揮の下、準備を着々と進めてもらっている。

 多分ネギ君が起きてこなくても今の戦力なら対抗できるんじゃないかな、って見立てている。戦力の当ても既に居るわけだし。

 

 そんなことよりも気になっているであろうことは別にある。

 その点については、ちうたんも気付いているらしい。

 

 

 

「お前に隠しても意味無いと思うから言うけどな、あたしが懸念しているのは修正力についてだ。歴史改変の修正力もそうだが、あたしらが知る時間軸に収束する可能性をあたしは少し懸念している」

「あー、まあ俺もそこは気になっているけどね」

 

「……なんの、話?」

 

 

 

 抱きついたままの明日菜が話についていけて無いらしい。

 まあ俺らの会話は、漫画とかラノベとかで時間移動について割りと読むからこそ浮かぶ懸念なのだろうな。

 話すべきかな? とちうたんに眼を向けると、若干苦い顔で唸る。目と目で会話できるほどの仲ではなかったらしい、残念。

 

 

 

「要するに、未来予知の話かな。時間はすべての方向性に同時に存在する立体であり可能性である、っていう説があるわけだけど、要するに改変してもその時間の問題を解消できるわけじゃない、っていう理屈。パラレルワールドといえばいいかね。

 その世界線を履行させないためには状況に変革を起こすべきで、分岐するための基点を幾重にも重ねる必要性が出てくる。タイムパラドクスは存在し得ないけれども、未来予知は絶対的である。それが成立するのはその形に沿って状況を知らずの内に動かしているか、その形に収束する強制力が時間という枠組みの中に存在しているかの違いかは分からないけれど、」

「――ごめん、三行でお願い」

「未来を知るとその形に未来が決まる。

 俺が死ぬ未来に状況が沿って動く可能性がある。

 超りんの改変を阻止しても意味無いかも?」

 

「すげぇ、本当に三行でまとめやがった……」

 

 

 

 ちうたんが戦慄していた。

 まあ小難しい理屈よりも要点を押さえれば問題は無いよね。まだ語り足りないけど、明日菜の目がぐるぐる渦巻いてきたので簡単に纏めてみた。

 改めて無理ゲーなんじゃないかな、この状況。

 

 若干絶望的にも思いつつ、まあ超りんの作戦を阻止すれば時間軸の改変には繋がるだろう、と楽観視にも似た気持ちでいると、明日菜はそうではないらしい。

 理解が追いついたのか、マジ目で尋ねてきた。

 

 

 

「っ、そんなっ……! どうすれば、いいの……っ?」

 

 

 

 マジ目というか、ハイライトが消えているのだが。

 誰にともなく尋ねる明日菜に、さすがに俺自身は未来予知なんて出来やしないので絶対的な答えなんて出せやしない。

 そこに声をかけたのはちうたんであった。

 

 

 

「――まあ、状況を変革、要するにあの時間軸と違う世界線に少しでも近づければなんとかなるんじゃないか? あの時間軸じゃ無かった要素を、烏丸に追加するとか」

「要素……?」

「おう。イメチェンでもするか?」

 

 

 

 俺、また髪色変えるの?

 これ以上変えると誰なのか理解されなくないかね?

 例えば那波さんとかにさ。

 

 

 

「――っ! そら!」

「お? おう、はい、何?」

 

 

 

 何か思いついたのか、明日菜が目にハイライトを戻して叫ぶ。

 俺から離れて、何かを探すように部屋を見渡し、その『何か』を見つけたのか部屋の隅へと駆け寄りドタンバタンと奮戦していた。

 どうでもいいがそんなに暴れるとぱんつ見えるぞ。

 

 

 

「捕まえた! 暴れるんじゃないわよカモ! 準備しなさい!」

『へっ、へい! 了解しやした姐さんっ!』

 

 

 

 カモ?

 居たのか。

 オコジョを捕まえて戻ってくる明日菜。

 そしてそれを目を丸くして見ているちうたん。

 

 

 

「オコジョが喋っているのはまあいいとして、……おい、神楽坂、お前まさか……」

「うん。

 ――そら、仮契約しよう」

 

 

 

 なんとなく予測できていたことだが、本当にやる気かよ……。

 そしてちうたんはどうやら仮契約を知っているご様子である。

 一体いつ説明を受けたのだろうか……。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「――え、何ですかこの状況」

「そらくん、どうしたん……?」

 

 

 

 このかとせっちゃんの2人が手の空いたゆえきちと早乙女を引き連れ、麻帆良祭中は使用しない図書室へと戻ってきて目の当たりにしたのは、

 

 泣き崩れる俺。

 それを覆うように抱きしめる顔の少し赤い明日菜。

 そんな俺を慰めるように頭を撫でるアキラ。

 カードをかざして喜んでいる亜子・裕奈。

 ドン引きの表情でそれらを眺めるちうたん。

 

 そんな惨状。

 ――所謂カオスであった。

 

 ズキュウウウウウン!と効果音が出そうな強制キッスの嵐で、見事に仮契約は成されたわけである。

 説得して回避しようとしていた俺を押し切って、部屋へ侵入してきた和泉とか裕奈とかアキラたんとかに羽交い絞めにされた状態で、先ず最初に明日菜に唇を奪われた。

 

 ……なんなんだよオマエラのその行動力……。

 初キッス……ではないけど、よくもまあ他人のキスシーンを間近で眺められるものである。

 今度からオマエラのことビッチって呼ぶわ。

 

 ついでに言うと侵入してきた件の3人にも、一緒に接吻による契約を結ばれた。

 あ? 障壁?

 そんなの明日菜に無効化されたよ!

 またしても羽交い絞めでの逃げ場無し。

 ロマンの欠片もあったもんじゃぁない。

 ――あ、ちょっと背中が柔らかかったのは内緒な。

 

 それにしたってやっていることはほとんど強姦。

 被害者が男子だけど、訴訟したら勝てないかな。

 ……勝てないだろうなぁ……。

 

 

 

「いい加減、泣かれるのもちょっとアレなんだけど……」

「元気だしなよ、烏丸くん」

「お前らにわかるかよ……。男子のプライド粉々に打ち砕かれた気分がよ……」

「そんなもん美少女とキスしたことで相殺じゃん」

「そやなー、文句を言われるとかちょっとムッとくるかもしれんよ?」

 

「するほうならばいいんだろうけどなぁ……。

 舌入れて口の中まさぐるとか、普通女子がするか……!?」

「うわぁ……」

 

 

 

 見ろ!ちうたんなんかもうドン引きだぞ!?

 次々と代わる代わる女子に蹂躙されてゆく俺の口内のSAN値はとっくにゼロだ!!!

 他人のSAN値を唇だけで引き下げるとか、オマエラ何処の邪神群だよ!?

 

 

 

「え、ぱくてぃおーしたんか、そらくん?」

「そ、ソウデシタカ……」

 

 

 

 このかさんの注視する点が微妙にずれている件について。

 そしてせっちゃんは顔を真っ赤にして初心な反応を見せているけれども、そんな初々しいものなんか欠片もねーっすよ!

 それはともかく片言なせっちゃんが少し可愛い。

 ああ~、浄化されるぅ~・・・・・・。

 

 

 

「このかと桜咲さんも、どう?」

「ヤメロ! 俺の癒しを堕天させるな!」

 

 

 

 もうちょっと女子に幻想を抱かせてください……!

 

 

 

「それでは代わりに私とかどうですか?」

「――は? むぐぅっ、ちょっ、やめっ、ふむぐっ」

 

「あ、6号ちゃん。いつの間に……」

「いや、止めてやれよ……」

 

 

 

 ディープなやつではなく、唇で啄むようなフレンチなやつを連続でされる。

 こー、ちゅっちゅっちゅーちゅちゅっ、と。

 ……何処からかげっへっへ、とゲスい親父の喜ぶような声が響いたけどカモであろうから気にする必要は無いな……。

 

 ………………オマエラそらくんに優しくしろっつってんだろ!!!

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「まあ、要するに神楽坂の狙いはわかったよ。件の時間軸との変更点を作るための布石が、この仮契約だってことはな」

「なるほど……。言われてみれば、未来の烏丸さんは誰とも仮契約をしていなかったみたいですしね。概念的な意味でも契約という『繋がり』を用意しておけば烏丸さんが辿った悲劇をなぞる可能性は少なくなるということですか……」

 

「………………オマエラ真面目にそう思えるんならこっちを見ろよ」

 

 

 

 ちうたんとゆえきちがマジなトーンで会話するも、こちらへは一向に視線を寄越さない。

 必至で目をそらす彼女らに、俺としても何某かの疑念が浮かばないでもない。

 一応言い訳させてもらうけど、俺は被害者だからな……?

 

 

 

「大丈夫です、私は正妻ではなく愛人の座で我慢しますので」

「……そういうのは、私ちょっと問題だと思うんだけどな」

 

 

 

 ――たとえ事を終えた6号が胡坐掻いた膝の上でだいしゅきホールドで居座っていたとしてもな!

 

 そして説得力無いっすよアキラたん……。

 そんな6号一人勝ちを阻止するつもりなのか、アキラは俺の背中をあすなろ抱きで支えている。

 ちょっとまて、俺アキラにいつの間にフラグ立てたっけ?

 

 そしてそんな俺らを放っておき、仮契約カードを確認しているのが残る3人に、このかせっちゃん早乙女の3人がプラスの6人。

 学祭中であるから人は関係者以外来ないように配慮しているらしいが、そもそも手が空いたという図書館探検部の面子はともかくとして、運動系4人娘はまだ仕事が残ってるのではなかったかな。

 と、ジト目で問うてみれば、少年心を擽る魔法アイテムをようやく所持できた恩恵か、性別の問題も明後日の彼方へと放り投げて少女たちはにへらと嬉しそうに笑って見せた。

 

 

 

「いや、まずは戦力の確認からしておこうかなー、ってね。つーわけで“アデアット”!」

 

 

 

 裕奈を皮切りにアーティファクトを召喚すれば、衣装まで変わるいつもと違う運動系3人娘。

 裕奈・亜子は原作通りのコスプレな衣装へとチェンジしたのだが……、明日菜の格好が若干おかしい。

 黒い茨をモチーフにしたようなドレス姿でー……、っておい、それラストダンジョンの………………あ?

 

 

 

「ふわー、明日菜の格好せくしーやなー」

「あんまり戦闘向きじゃなくね? ハズレ?」

「こ、この鍵みたいなのってまさか……!?」

 

 

 

 ………………なんでだ。

 

 

 

「あー……、とりあえず明日菜、お前ちうたんと一緒に後方支援で頼むわ。『それ』じゃ直接戦闘は無理だろ」

「あ、あー……うん、そうね。そうさせてもらうわ……」

 

 

 

 『造物主の掟(コードオブライフメーカー)』を抱えて呆然としていた明日菜に役割を言い渡す。呆然というよりは何処か戦慄していたように見えなくもなかったが。

 麻帆良祭に参加するほどの戦闘経験も無ければ、原作みたいな『破魔の剣』も無い。

 はっきり言ってしまうと普通の女子中学生と然程変わらない女子を、前線には押し出せるわけがなかったからな。

 ………………車と同等のスピードで走って魔法世界を崩壊させる鍵を抱えた奴が普通の女子中学生?

 内情(中身)を改めて考えると何のギャグかと問われそうだー……。

 

 

 

「え、そらくん明日菜のアイテムが何か知っとるの?」

「何かっつうか、なんつうか……」

 

 

 

 亜子に尋ねられるが応えていいものかどうか。

 ちらりと6号へ目線を向けてみれば、珍しくも目を丸くして驚いていた。

 ですよねー。

 なので、

 

 

 

「まあ、戦闘向きじゃないな、とは思った程度だよ。それよりお前のナース姿ってプレイの匂いしかしねーな」

「あ、それはアタシも思った」

「どういう感想!?」

 

 

 

 さらりと亜子のコスプレをdisって話をそらす。

 裕奈が賛同したのは理解できるが、お前も人のこと言えねーからな?

 

 

 

「――ねぇ、そらくん」

「なんだよ」

 

 

 

 それよりもアキラの距離が偉く近づいた気もする。

 呼び方は名前呼びで統一しているらしいし、そもそもスキンシップが過剰になっているのは何の心情の変化があったのやら。

 そんな俺が新たに抱えるようになってしまった心内の動悸を悟られませんように、とややぶっきらぼうに俺は応える。

 

 

 

「私の気のせいかもしれないんだけど……、」

「………………うん」

「……アーティファクト召喚の掛け声と一緒に、あの3人……、

 

 

 

 ――スタンドを控えさせてなかった?」

 

 

 

「………………………………………………うん」

 

 

 

 見たくなかった現実はしっかりと目の当たりにし、理解が追いつい(事情を悟っ)てしまっていたらしい。

 これって、まさかとは思うけど……、お、俺のせいじゃない、よな……?

 

 

 




~未来そら、死亡のお知らせ
 ある意味決定的な分岐
 メンバーが全員過去へ向かおうとしなければこの状況は回避できたらしい
 そちらは番外編として別枠に転載。読まなくっても物語の進行上なんの不都合も無い

~終野イズミ
 単独で活動する日本語しか話せない世界的テロリスト
 おーわーりのーうーたーをーうーたおーうー

~世界線の収束
 運命石の扉の選択、とかを知っていれば思いつきそうな展開
 そこからぱられるんるんな法則に傾ける理屈を展開させてみたけども時間移動自体作者はしたこと無いから予測でしかないですさーせん
 でもこの予測に基づいて今後も進む予定

~それを回避するためという名目でこの結果だよ!
 これにはちうも苦笑い。むしろドン引き
 でもフラグっぽいのなら色んな場所で放流していたから、そろそろ結果を出してもいいんじゃないかなって思ったのも事実
 しかし肉食系女子に群がられた状況を妄想してしまったのであまり羨ましいと思えなさそうなのだがいかに

~烏丸の心情の変化
 呼び方に若干の変更点
 女子側からパクティオーしてきたら流石に気付くので、ボッチを望むわけではない彼なりに歩み寄った結果
 しかしこれって一歩前進か?

~そしてスタンド
 感染源がそらなのは間違いない
 活動報告でアンケ取ります



遅ればせながらば

あけましておめでとうございます
今年もネギマジ共々、よろしくお願いいたします


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『Paradise-Lost』

そしてキングクリムゾン!


 

「あ、起きた」

「――………………? そら、さん?」

 

 

 

 ――目を覚まして最初に目に入ってきたのは、時間移動前に一緒には来れないと言っていたはずの人だった。

 その人がなんで目の前にいるのかと問い質そうと思う前に、僕たちが一週間の時間移動に成功したのだと理解する。

 理解して……? ――っ!

 

 

 

「! そ、そうだ! 超さんを止めないと! そらさん! 手を貸してください!」

 

 

 

 時間移動前に教えてもらった、僕の生徒が引き起こしたというとんでもない事件。それを未然に防ぐために、僕は皆と『一週間前の麻帆良祭・三日目』へと戻ってきたんでした!

 ベッドから起き上がり、窓から差し込む光量から外が既に予定の時刻へ到達していることに焦りを覚える。

 い、急いで学園長やタカミチとか、他の魔法先生にも話を聞いてもらわないと!

 

 

 

「落ち着けネギ君。もう終わったから」

「落ち着けといわれても! そ、そうだ、今何時で――………………終わった?」

「おう。キミが寝ている間に全部終わった」

 

 

 

 えっ。

 

 

 

「お、終わったというのは、つまり、超さんの計画は既に……?」

「実行されたし、阻止も完了した。阻止って言うか、別に大した手段も使いはしなかったから特別な作戦で食い止めたわけじゃないけど」

「は………………?」

 

 

 

 え、あの、魔法世界の危機、とかって未来の魔法先生方からは耳にしていたのですけど。

 それが、僕が寝ている間に、全部終わったのですか……?

 

 

 

「あ、あのぅ、ちなみに今は何時なのでしょうか?」

「9時45分。まあ魔力全部出し切る薬を飲んだらしいし、足りなくて寝こけるのは仕方ないわな」

 

 

 

 え、ええー……。

 な、なんでしょう、この言いようの無い遣る瀬無い気持ち……。

 大きな規模で言うならば世界改変を引き起こせずに終了したのだから問題は無いはずなのですけど、大事なことに関わせられずにミソにされたような悲しい気持ち。

 そっかぁ、これが悲しみなのですね……。

 

 それはともかくとして、失礼だけども魔法先生だけで超さんのロボ軍団に対抗できたのでしょうか?

 一応僕も手は考えていたのですけど……。

 

 

 

「ち、ちなみにどういう手段で解決したんでしょうかー……?」

「何なら見るか? 映画にしてあるからさ」

 

 

 

 映画!?

 ちょ、本当にどういう手段で食い止めたんですか!?

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「ぶっちゃけさぁ、聞いた話じゃ魔力が足りなくって強制認識術式自体を超りんが引き起こせなかった、って未来の俺から聞いたらしいんだわ。その時間軸へ飛ばされた皆がな」

「はぁ」

 

 

 

 防衛戦線映画を眺めながら、ネギ君は相槌を打つ。

 ターミネ●ターとマトリ●クスを足したような田中の軍団を蹴散らすのは、泉井ちゃんの召喚した等身大ハーヴェストの軍団と騎士鎧を身につけたケンタウロスみたいな怪獣。

 彼女(もう彼女でいいや)が言うには、名前は『ピュアノプシオン』と『ボエドロミオン』。

 どういうネーミングセンスなのか、中二臭くてカッコいいと思わず唸ってしまったのは内緒だ。

 

 

 

「ってことは、穴熊決め込んでても勝てるんだよ。あ、穴熊ってわかる? 将棋の」

「わかりますけど、え、いやそれはおかしいのでは」

「おかしくねーさ。超りんが代わりの手段として起こしたのが、魔法先生方の鬼神対抗戦を録画して全世界配信するっていう力技だったらしいじゃねーか。それと同時に麻帆良武闘会も公開されたそうだけど、そっちが霞むくらいに魔法先生方は麻帆良の認識阻害に慣れちまっていてバンバン魔法使うからなー。その映像をリアルタイム配信されることと麻帆良の防衛を天秤にかけたら、やっぱり魔法先生方の方に非が偏るだろ」

 

 

 

 あの戦力を惜しいと思うのは魔法使い程度の話で、そんな手段に頼らなくとも防衛作戦ぐらいは本来なら勝てなくっちゃおかしいのだ。

 実戦に赴くことになったら8割負け。

 本気で勝つか守りを固めようと思ったのなら、相手に『戦う』という思考をさせないことを優先させなくっちゃなー。

 

 

 

「アナグマって魔法先生方も含めてですか!? ……よ、よく話を聞いてくれましたねー……」

「聞くわけねー」

「はい?」

 

 

 

 ネギ君の驚愕の声にカハハと嗤う。

 こちらを向いた気がしたけど、そっちは見ずに言葉を続ける。

 

 

 

「聞くわけねーから無理矢理食い止めた。現場に向かわせないように、カメラに映らせないように。認識阻害も学園結界も進撃の鬼神も田中軍団も、全部スルーさせて方はついた」

「………………………………………………………………………………………………はぁっ!?」

 

 

 

 ようやく理解が追いついたらしい。

 長い沈黙の後に、再度驚きの声が。

 

 

 

「俺らが打った手は、雪広を筆頭に生徒たちの避難誘導。魔法先生の出撃阻止。そして超りんに全ての手を出し尽くさせるために最低限度の戦力による誘導戦闘。

 当然、生徒らに避難だとは知らせないような注意を施したし、出撃の阻止もこちらの身元が判明しないように隠蔽したし、最低限度の戦力は過剰でいて魔法に見えないものを使う必要があった。単身で言い訳できない正体晒す魔法先生方とかじゃやっぱ不適材だ」

「ぼ、僕としては、麻帆良の生徒全員を引き合いに出して全体イベントとして片付けようかなー、って思っていたんですけど……」

「一応全体イベントとして、撮影進行を観測するっていう名目で全部モニターに出したんだけどな。今のこれはリプレイ。作戦実行時間中は火星ロボ麻帆良侵略!って銘打って様子を生中継して生徒らに見せておいた。いやあ盛況だった」

 

 

 

 『打ち抜いて! ミー君っ!』と画面の中でまおちゃんが叫ぶ。

 彼女の乗った戦車が猫みたいな鳴き声を発して大砲をぶっぱ。

 鬼神に穴が開く。

 彼女のアーティファクトも凄いけど、アーティファクト召喚時に同時に背後に立つスタンドが恐ろしいのだが。

 明日菜らで嫌な予感はしていたのだが、俺と仮契約していたまおちゃんにも備わっていたらしい。

 戦車砲の威力が俺の知るものよりずっと強力になっている様子から、威力変更の能力かと推測。

 よし、モーヴィ・ディックと名づけよう。

 

 

 

「か、彼女は?」

「特別出演の鬼瓦まおちゃん。陸自幕僚長のお孫さんらしいから、この映画に『実写版がーるずぱんつぁースピンオフ』って銘打ってプレゼントしようかなって今思考中」

「なんか生臭い!?」

 

 

 

 画面の中の俺が田中の凶弾に撃たれる。

 倒れ伏す俺に駆け寄り、『おにいちゃーん!!!』と泣き叫ぶまおちゃん。

 ちなみに撃たれた映像はCG。

 田中の主武装は脱げビームなので、実際に被弾した覚えは無い。

 

 

 

「うわぁ、凄い陳腐な演出が際立ってますね」

「言うねキミも。

 俺も武闘会に参加したお陰で顔が売れちゃっているからね、簡単に撃墜させることでわざとらしさを演出させてみたんだけど。どうよ?」

「すごく……素人くさいです……」

 

 

 

 このガキ、麻映研に売り飛ばしてやろうか。

 演出に関して人のことを言えない本物の素人であるネギ君でも、キャラクターだけならば画面栄えするのではないかと思うのだが。

 

 

 

「それはそうとネギ君。キミ7日も別荘にいて何をしていたんだ? ちうたんらには修行とか聞いたけど、なんでまたこの時期に」

「グフッ!?」

 

 

 

 映画も架橋に入ってダレてきたので、気になっていた純粋な疑問をぶつけてみたら彼の心情的にクリティカル入ったらしい。

 結果を実証できなかったのがひょっとしたら心残りなのかも知れない。

 そんな少年の心内環境、私キニナリマス!

 

 ネギ君とそんな取り止めの無い会話しているところへ、彼を助けるつもりでは無いのだろうが葉加瀬が口を挟んでくる。

 若干彼女が惹いていたように見えたのは恐らく気のせい。

 

 

 

「と、ところで、魔力が足りなかったというのはさておいて、最後に全世界の聖地12ヶ所とのリンクが出来なかったのですけど……、ひょっとして烏丸さんが何かしたんですか?」

「え、それ単に拒否られただけじゃねーの? 俺は何もして無いけど?」

「意思無い聖地から拒否っておかしいですよ!?」

「おかしくねーだろ。聖地をそれぞれ管理できる権利者が備わってるんだから」

「は!? それこそ初耳なんですけど!?」

 

 

 

 あ、これイリシャさんから聞いた話だったっけ?

 魔法使いにはオフレコなことを話してしまったけど、まあ問題ないか。

 

 

 

「他の奴には内緒な。これ知っちゃうと秘密結社に狙われるから」

「なんでそんなヤバイ情報をあなたは持ってるんですか……!?」

 

 

 

 そりゃあその秘密結社を興したのが件の12人だからに決まっているだろうに。

 ちなみにイリシャさんがワルプルギスと呼ばれるのに対して、アルケスティスと呼ばれている魔女さんが所属しているのが件の秘密結社。

 彼女は首領とか言う立場ではなく、特別顧問だとか耳にしたけど。

 もう一つちなみに話すと長野在住。

 いいなあ長野。

 見渡す限りの山と森と御柱。

 

 

 

「待て、一応人家もあるから」

「心を読むなよ」

 

 

 

 時間軸を退場していたらしいたつみーが出現してきた。

 ニンジャと相打ちにでもなったか?

 

 

 

「あの泉井という娘は一体何者なんだ……。狙撃しようとしたらスコープ越しなのに目が合うし、撃ったと思ったら背後に現れて撃ったはずの弾丸で時間跳躍をさせられた……」

「時間跳躍は知らんが」

「そういう仕組みの弾丸を持たされたんだよ。魔法先生方をより良いタイミングで退場させる手筈だったのに先生方は一向に出てこないし、ようやく出てきた戦力は無双過ぎて慌てて退場させようと思ったら……」

「逆に退場させられたか。多分だけど、撃った弾丸を優しーく掴んで背中から弾いただけじゃね?」

「どういう超人だ」

 

 

 

 超人じゃない、転生者だ。

 聞いた話でしかないけど。

 

 

 

「どうも」

「おお、お疲れさま」

「「「ひぃっ!?」」」

 

 

 

 そんなところへふらりと現れた件の泉井美月ちゃん。

 こらこら君たち、怯えるんじゃありません。

 一応年齢は見た目通りらしいんだから。

 

 

 

「そろそろお時間なので挨拶に来ました」

「そっかあ。悪いね、ろくなおもてなしもできなくて」

「いえいえ。武闘会とか充分面白かったですよ」

 

 

 

 スピードだけに頼るのはどうかと思いましたけど、とさり気にネギ君をdisる泉井ちゃん。

 あ、あの術式は未完成だったらしいから……(震え声)。

 

 

 

「それでは失礼しますね。お疲れ様でした」

「ああ、また機会があったら」

 

 

 

 そんな簡素な会話だけで、光の粒子となって消える彼女。

 粒子は宙に散らばって霧散していった。

 

 

 

「やっぱり人間じゃなかったじゃないか!」

「いや、どうやら魔女さんらが世界樹の魔力を使って具現化させていたらしんだよ。異世界の住人だったんだとさ」

 

 

 

 一部始終を見、たつみーがほら見ろ!と指差すので簡潔に説明。

 あの娘が無双するリリカルなのはかぁ……。

 原作が酷いことになりそうだなぁ。

 

 

 

「待つネ。今、世界樹の魔力を使った、とか言わなかったカ……?」

「言ったけど?」

 

 

 

 それが一番の要因かぁ!!!と超りんが絶叫した。

 お前どうでもいいけどいつの間にこの場に来たの。

 

 

 

「チャ、超さん!」

「お、おお葱坊主。まさか直接対決せずして片がつくとは思ってもミナカタネ。具合は如何カナ?」

「そんなことより! 未来に帰ってしまうのですか!?」

「え」

 

 

 

 そういえば、二日目の夜に盛大にお別れパーティやった、とかって早乙女が言ってたな。

 超りんの転校がどーの、とクラスで騒いでいたとか耳にした記憶が。

 でもその後に俺と話したわけだから、

 

 

 

「世界を改変する覚悟を抱えつつこの時代にまで遡ってきた超さんには、戻ってやるべきこともある。それはわかっています……。

 でも、この時代で生きて、あの3-Aでみんなと過ごした時間は、決して何物にも換えようの無い時間だったはずです!

 せめて、せめて卒業まで皆さんと一緒にあの教室で過ごせませんか!?

 超さんならマギステルマギを目指す事だって、」

 

「アー、ネギ坊主? 非常に言い難いのダガ……、

 

 

 

 ワタシ、未来に帰らないことに決めたネ」

 

 

 

「―――――――――――――――――ハイ?」

 

 

 

 だよなぁ。

 その可能性を指摘したときは、超りんもすげぇ項垂れていたから、今になって言い辛いのはまあ仕方ないだろうけれども。

 

 

 

「え、えっと……、つまり、転校も……?」

「ウム。考え直したヨ。非情に心苦しいのだがネ、またあの教室で卒業までヨロシク頼むヨ」

「は、はい! それはもちろん!」

 

 

 

 イイハナシダナー。

 なんだかんだでいいシーンなので、ハンカチ片手に涙ぐむ仕草で放置。

 その俺をついつい、とつつく葉加瀬。

 

 

 

「あの、超さんに何言ったんですか?

 言っちゃなんですけど、超さんも未来に残してきた問題があるとか決戦前に言っていたはずなのですけど……」

「ん? いや、ちょっと想定した時間移動の理屈を尋ねてみたんだよ。

 嘗て知る筈の世界線から分岐した世界線上を未来へ進むのって、果たして元の時間軸へと辿り着けるのかね? って」

「………………あっ(察し)」

 

 

 

 単純な時間移動の問題だよね。

 デロリ●ンで移動したあの青年は結局本来の時間軸には戻れなかったし、数十年単位の時間移動自体が世界線の破壊に繋がるとかって誰かも言っていた気もするし。

 元の未来に戻るには、せめてパラレルワールドを移動できるシステムを開発しない限りは不可能なんじゃないかなぁ。

 

 って言ったら見るからに目からウロコな表情で固まった二日目の超りんマジ迂闊。

 要するにこの世界線に来た時点で超りんって初手から詰んでいたよね、っていう話である。

 原作超は果たして本当に帰れたのだろうか……。

 あの時点では分岐していなかったとか言い出すのか?

 超が時間遡行した時点で最早別物だろうに。

 

 

 

「ワタシはこの時代で科学と魔法の融合を果たす先駆者となるヨ!」

「応援します超さん!」

 

 

 

 なんだか現実逃避したような二人が語りつつ、後夜祭も始まる。

 続々と広場へと訪れてくる生徒たちの中には、今回奮戦したネギ君の従者とかもいた。

 まあ、楽しそうだし問題ないか。

 こうして、麻帆良中を巻き込んだ世紀の大事件は、魔法界に知られることなく幕を下ろすのであった。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「いや、お前と仮契約したあいつらのこと、忘れちゃいないよな?」

「………………放置のままにできないかね……」

 

 

 

 広場へとやってきたちうたんに棚上げしていた問題を問いかけられ、思わず目をそらす。

 いやな、事件だったね……。

 

 

 




~キングry
 仕様です

~魔法先生の足止め
 ゆえきちのトラップ系スタンドが惜しげもなく働いてくれました
 金ダライが落ちてきたり、バナナの皮で滑ったり、初等部向け実証実験で誕生したスライムの暴走に巻き込まれてラッキー助平な刀子先生&神多良木先生が目撃されry

~ピュアノプシオンver.Ⅵ
 武装形態。大体1000体くらいで群がって田中さんに対抗
 数では勝てなくとも質では最良。津波のように押し寄せる上に泥人形なので脱げビームも効果無し
 火星ロボ軍団に対抗する地球発怪獣として作中では公開される

~ボエドロミオン
 地球発怪獣の主力。四つ足でランスと盾を装備している騎士型の泥人形
 鬼神の一体に突貫して行き諸共に崩れ落ちる姿は視聴者の涙を誘った

~モーヴィ・ディック
 まおちゃんのスタンド。アーティファクト使用時のみ出現するらしい異色スタンド。ちなみにアーティファクトは『礫帯凱旋戦術執行形態車両・陸王3号』と無駄に長ったらしい名前の戦車。縮めて『ミー君』と呼ばれる
 砲撃の威力を気力で変更できる性質を持ち、最低は紙も破れぬ低威力から最大は鬼神も屠れる貫通弾まで自由自在
 名の意味は『白鯨』だが、雨宮世津子さんを知っている方ならわかるんじゃないかしら

~麻映研
 麻帆良映画研究会。○の中に『マ』の一文字がトレードマークだが、頭のマの字を略されて呼ばれることもしばしば。今回の映画の冒頭に名前を借りている
 豪快でナイスバディな女子高生が会長を勤めているらしい

~長野在住の魔女さん
 境界のお方ではなく、さらに命名はごく最近なので参考文献がラノベだったりする若干可哀想なお方
 人前に出る魔女がイリシャさんとこちらの方くらいなので勝手に対立存在として命名されたという過去を持つ
 本名は彼女本人も忘れてしまっているので不明

~秘密結社
 『K.I.R.C.H.E.』という通り名の組織。等和機構ではない。業務は主に世の中の超常現象に対抗すること
 設立者の12名は世界を12分割して管理しており、そのオプション的な因果でそれぞれ聖地とリンクすることが出来るらしい。彼らに断りを入れずに勝手に件の土地と接続を行使しようとすると、怒る
 ちなみに東京にある末端組織は長野の魔女様の息がかかっている血族であり、世界樹とのリンクはスルーされているとか。理由は不明

~原作が酷いことにry
 本日最大のお前が言うな
 こんな勢いのいいブーメラン初めて見た!

~わ、忘れてナイデスヨ?
 仮契約者のスタンドはまだ募集中
 詳しくは活動報告まで



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最終章・烏丸イソラ編
『後始末、その一』


そろそろ最終章を始めますかね
序章的な87話


 

「――と、まあ以上が今回起こった顛末となります」

 

 

 

 学園祭の結末と、それに連なる説明不足分の解説。誰が何を起こして、誰が何を起こしたかったのか、それらを掻い摘んで簡潔に纏めて『責任者』へのネタ晴らしをやったところ、件の責任者は頭を抱えて蹲ってしまった。

 ていうか学園長であった。

 精々悩め悩め。

 頭を抱えたくなる実情は今まで俺がナンデか抱えてきたものなのだし、そろそろ丸投げしてもいいんじゃないかなって思いたくなってきたし。

 まあそんな簡単に投げられるような状況を抱えているわけじゃないから、そうそう適当にはやらないけどね。俺も。

 

 

 

「説明ご苦労……と言いたいところじゃが、正直どうすればいいのかのう……?」

「知りませんよそんなん」

 

 

 

 生徒に縋りつこうとするんじゃないですよ。

 喩えポーズでも受け入れるつもりは無いんです。

 

 

 

「冷たいのぅ……。麻帆良も一応は魔法使いの本国に属するわけじゃし、事件が起こったときは報告する必要性があるのじゃが……、こんなとんでも事件を報告しても信じてもらえなさそうじゃし……」

「報告しなければいいんじゃないですかね? 今年も『ちょっと』学園祭が盛り上がった、ってだけにしておきましょうよ」

「そもそもの原因が言える言葉かのう。世界樹にリンクした京都にあるらしい次元の穴、じゃったか? それ儂初耳なんじゃが……」

 

 

 

 言ったところで魔法使いに対処できる問題でもないでしょうよ。

 

 

 

「まあそれ系で魔力放出量が嵩増しされていたらしいですけどね、それも因果だとでも割り切っていただければ」

「自分で言うのはやめぃ。確かに対処するべき事も無いし、処罰を与えるのも違う気もするがの……? それでももう少し説明を欲しかったのじゃけど……」

「だから、これこうして」

「遅くね?」

 

 

 

 ドン☆マイ。

 きゅるん、とガッツポで励ますと重厚に溜息を漏らす学園長。何すか。

 

 

 

「はぁ………………。

 まあ、ワルプルギスの魔女ならば学園結界なんぞ素通りできるのも納得じゃし、他の魔法先生方に見つかっておらんのならば敢えて虎の尾を踏む必要もないかの……」

「虎の尾で済む人でもないですしねー」

「それを認識できんのが普通の魔法使いなのじゃよ……。というか『それ』クラスの魔女が他に4人も日本に点在しておるとか、まかり間違っても知られるわけにはいかんじゃろ」

 

 

 

 この人はさすがに認識していたらしい。

 もっとも、その『それ』扱いしたお人らのうち半分が人類にとって明確な『敵』であることまでは認識していないらしいが。

 まあそれはそれで正解か。

 なんであの人らは危険を正しく察知できないんだろうなー?とも思いかけたけど、正しく察知したところで、対抗手段なんぞ碌に通用しないお人らに喧嘩を売ったところで、無駄死に魔法使いの屍山血河が築かれる程度で終わる話であるだろうし。

 

 

 

「――あのぅ……」

 

 

 

 学園長と若干共感しつつしみじみ頷いていると、一緒に部屋にて座っている長椅子の横から声がかかる。

 

 

 

「ところでなんでアタシまで呼ばれたんですか? まさか、美月のことで何かやっちゃいました……?」

 

 

 

 ちうたんである。

 正確には呼ばれたという名目で付いてきてもらったわけだけど、学園長も彼女自身に負い目があるので其処には言及しない。

 俺の方を少しだけ見、多分だけど俺が必要以上に問い詰められないための盾代わりに連れてきたということを理解したのだろうが、対面する長椅子に座ったまま頭を下げた。

 そうだね。丁度良い機会を作ったのだから、察することくらいは出来ないとね。

 

 

 

「うぇっ!?」

「いや、そっちも気になるところじゃけども本題はそもそも別じゃ。先ずは――、スマンかったのう、長谷川君」

 

 

 

 それからは謝罪会見のように平謝りする学園長。

 要するに認識阻害が効かない体質であるちうたんを長年放置していた、という部分が学園長には負い目としてあるわけだ。

 俺は当然それを見越しているということを学園長も自覚しているわけで、下手に浅慮を晒せば突っつかれることも予測できる方からしてみれば、やはり先ずは手の内を晒すことが必要。

 晒したところで負い目は消えないわけだから、ちうたんが言いたくないことや俺が突っ込まれたくないことも学園長からの言及も避けられる。

 魔法先生を足止めしたスタンド使いであるゆえきちのこととか、別次元の存在が扱っていた超常的技術の使い方とか。細部を説明するわけにいかない事情もこちらは抱えているのさー。

 ちうたんマジ無敵の盾。学園長限定だけど。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「なんか無駄に疲れた……。アタシに謝罪させるために呼んだのか? もっと聞くことがあったようにも思えたけど……」

「まあ認識阻害の効かないのを知っていて放置していたのは事実だしな。魔法使いとしての負い目を突っついてやったから、何某かの要求も通せるかも知れんぜ?」

「それについてはありがたいけど……、お前もアタシのことを知っていて放置していた部類に入る、ってこと忘れるなよ?」

 

 

 

 ジロリと睨まれる。

 ゾクゾクするねぇ。

 

 

 

「それについてはまあゴメン。俺も一応こっちの部類だからねー、勝手に話すわけにいかなかったんだー」

「棒読みすぎる……! ……と言うか、それで言ったらいいんちょや運動部四人組とかに既に話が行っているのはどういうことなんだよ……」

 

 

 

 そっちも不可抗力ですよ?

 というかそう譬えに挙げると、何気に候補から外された明日菜とか図書館組の名前が挙がらないことが疑問に思える。

 そもそも、ちうたんがこちらの事情を確信したのってどういう経緯だ? 原作と随分かけ離れた展開になったことを自覚している武闘会で気づいたにしては、泉井ちゃんと顔見知りだったことが気にかかるし。

 あんまり突っ込んで欲しくなさそうだったので聞いちゃいないが。

 

 学園長室から離脱して現在街中。

 振り替え休日1日目の本日、まだ興奮冷めやらぬ女子部3-Aはカラオケに繰り出したとの事で何故か俺まで御呼ばれしている。

 嫌な予感がビンビンするので個室に連れ込まれるとかマジで止めて欲しいのですけど。

 

 

 

「まあ、風営法に抵触したウチの出し物の件もあるから、これ以上児ポ法に触れるようなことになって欲しくないのも事実だしな。そっちのほうは最低限防いでやるよ」

「法に触れるような見た目はしてないはずなのに、なんでそんな心遣いが必要なんだろう」

 

 

 

 登場人物は18歳未満です。

 

 

 

「ああ、いたいた。ちょっと待ってもらえるかしら」

 

 

 

 そんな取り留めない会話での帰り道、18歳以上であるお人から声がかかる。

 しずな先生である。

 思わず土下座の体勢になりかけたのは仕方がないことなのである。

 

 

 

「あれ。どーしましたか?」

「うん、ちょっと烏丸くんに用事がね? 長谷川さんは席をはずしていてもらっても構わないかしら?」

「? まあ、別に構わないですけど……」

 

 

 

 ちょ、待ってちうさん!置いてかないで!

 

 

 

「……なんか、烏丸が捨てられた子犬みたいな目で袖を掴むのですけど……」

「烏丸くん? 寂しいのはわかるけれどちょっとお話しましょうね?」

 

 

 

 どう聞いてもOHANASHIじゃないですかやだー!

 

 奮闘空しくちうさんは席を外し、それでも少し距離を置いて待っていてくれるちうさんマジ大天使。

 ネギ君との仮契約を実行させなかったからアーティファクト手に出来てないであろうし、今度俺から代わりの何かを進呈しよう。

 そんなことを決意しているとしずな先生が近づく。

 ゼロ距離で寸勁とか腹パンとか?

 このお人ならば出来そうだからマジで怖い。

 

 

 

「――手短に言うわね。貴方、このままじゃ死んでしまうわよ」

 

 

 

 実行犯は先生ですか?

 

 

 

「茶化さないの。私のスタンド能力の一つに自己死で発動する逆行による未来回避があるのだけれどね、それで見てきた未来がとてつもなく最悪で……。

 ――簡単に言えば、貴方が死ねば日本の半分が焦土になるの」

「ナニソレコワイ」

 

 

 

 どういう因果でそうなるんだよ。

 要因として真っ先に思い浮かぶのはハチリュウの暴走だけど、俺が死んで勝手に召喚されるのか?

 

 

 

「そうならないために貴方を何度か警護もしたのだけど……、」

「回避しきれない、と?」

 

 

 

 どうしたって俺が死ぬのは世界線の履行運命のようである。

 誰か絶対運命回避拳を覚えてないかな。

 

 

 

「だから唯一試せなかったことを今回ではやってみようかな、って」

「――試せなかったこと?」

 

 

 

 世界線を覆すために別の要因を挟み込む。

 まあそれはわかるが、しずな先生でも回避できない運命なんぞどうやれば回避できるものかと、

 

 

 

「――貴方、今回こそは他人を受け入れなさい」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――。

 

 わお。

 

 

 

「何度か見ていてわかったのだけれどね、貴方は自ら死に向かっている傾向があるわ。若しくは自分の命を第一にしない、軽視しすぎている傾向」

 

 

 

 ははっ、まっさかー。

 誰が死にたがりですと?

 

 

 

「そんなことはないのですけどね」

「一番に覆せなかった要因といったら、やっぱりそれしかないかなって思えてくるのよ。ねえ? 負完全くん?」

 

 

 

 自分で名乗ったことなんてないのだけれど。

 

 

 

「それを履行するために一番は友達付き合いね。

 待たせちゃってごめんなさいね、長谷川さん」

「もういいんですか?」

 

 

 

 気がつけばちうたんが直ぐ後ろにいた。

 気を取られすぎだろ、俺。いつスタンド攻撃喰らったんだよ。

 

 

 

「ええ、ちょっとした注意だけだから。

 それじゃあ烏丸くん、今度こそ間違えないようにね?」

「……善処します」

 

 

 

 とはいっても、俺が何かした記憶なんて俺自身にはないのだけれど。

 ………………みんな勝手だよな。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「――変わるわよ♪」

 

 

 

 狙い打つな、俺を。

 カラオケなのだが、明日菜が倖田を歌って振り付けまでしてノリノリである。

 神楽坂さんや明石さんは楽しそうなのですが和泉さんや大河内さんが肉食獣みたいな目で俺を狙っているのです。

 いやだから、そっちの娘らって俺いつフラグを建てたの?

 まったく記憶になくて混乱が助長するばかりなのでヘルプ。

 

 ……しずな先生、これを受け入れろと? 無理です、死んでしまいます。胃痛で。

 

 見事に個室に連れ込まれてなんというハーレム状態、と飲み物を持ってきた店員に軽く睨まれたのが記憶に新しいが、別室に連れ込まれたネギ君の安否も若干気にかかるところ。

 まああっちは一応、仮契約してないこのかとかせっちゃんとかが混じっているから彼の貞操は問題なかろうとして、こちらはストッパーがちうたんとゆえきちくらいしか居ないのがどういうことかと。

 ゆえきちが来てくれたのはありがたいけどね……。

 柿崎? あいつは愉しみながら俺を突き落とすタイプだ。

 何処へって? 恋と言う名の奈落じゃね?(ドヤァ

 

 

 

「なんか上手いこと言ったみたいな顔してますね」

「いや、あんまり上手くなかったわ」

「いや、知りませんけど」

 

 

 

 両隣にちうたんとゆえきちが居なかったら、その僅か外側に陣取っている肉食獣コンビに即座に挟み込まれていたと思うね。

 防衛線がそのまま防壁になっていてもらっていて申し訳ないが。

 

 

 

「次ー、誰ー?」

「そろそろ烏丸くん歌ってよー」

 

 

 

 持ち歌ねえんだよ。

 倦怠ライフでも歌うか?

 というか歌う人が前に出て歌うシステムはいつの間に成立してたの。

 

 

 

「おっと、その前に尿意だ」

「こらー、女子の前でそういうこと言うなー」

 

 

 

 桜子大明神様には申し訳ないが生理現象はどうしようもなかろう。

 

 そうして個室を出たところで、用も済み。

 ……どうしたものかと途方に暮れる。

 

 戻ったら指定席が別の誰かに取られているとは、そこまで思考が及ばなかった。

 扉の前を一回通り過ぎて確認したら座席がシャッフルされていて、明日菜&裕奈の間と亜子&アキラの間が丁度一人分空いていた。

 おめーの席ねぇからー、って言われる方がまだましなのではなかろうか。

 

 

 

「きゃっ」「おうっ」

 

 

 

 どうやって戻ろうかと悩んで廊下を通り過ぎていたところで、曲がり角で軽い接触事故。

 

 

 

「と、すまん。怪我はないか……って、あれ?」

「あ、はい、大丈夫「確か……」――え?」

 

 

 

 見た覚えのある女の子との正面衝突であったが、思わず口に出していたので怪訝な表情で見られる。

 今日俺迂闊すぎないか。

 

 

 

「あの、何処かで会った、っけ……?」

「あ、いや、気にしないでくれ。気のせいだから」

 

 

 

 俺が一方的に知っているだけの少女だ。

 具体的に言うならば麻帆良祭のステージにて見た三人組の一人。

 というか仮にもプロのアイドルユニットだ。

 だから気のせいにして通り過ぎようとしたのだけど、

 

 

 

「あっ! 映画で撃たれていたひとだ!」

「待て、その覚え方はどうなんだ」

 

 

 

 確かに撃たれていたけど。

 というか観ていたのかお前。

 早くも目論見が崩れ去り、せめて意趣を返そうと会話を繋げる。

 

 

 

「へー、奇遇だねー、そっちは友達と? あ、アタシの名前、知ってる?」

「……知ってる。本田だろ?」

 

 

 

 というか投票した。3位だったけど。

 その識性を好意的なものと受け取れたらしい。彼女は嬉しそうに、やはーと微笑を浮かべてはしゃいで見せた。

 

 

 

「おー! 知ってたんじゃん! ファンなの?」

「それは違うわ」

「断言された!?」

 

 

 

 が、甘い。

 馬鹿め。俺が知ったことなど投票したそいつらの実情をググった程度だ。

 

 改めて、彼女は本田未央。

 ニュージェネレーションとして麻帆良祭のステージを彩り、投票によって3位になっていた一応のプロアイドルユニットメンバーの一人だ。

 1位は残念ながらホモォ、なバンドだったけれど。しかもアマチュア。

 麻帆良にホモ好きは多い。はっきりわかんだね。

 

 

 

「出来の悪い売名行為とかステマにもならねーよ。しつぼうしましたちゃんみおのふぁんやめます」

「それはみくちゃんのネタだよぉ! っていうかやっぱりファンなんじゃん!」

「そんなわけあるか。あんまり調子こいてるとエドモンドって呼ぶぞ」

「それだけは止めて!?」

 

 

 

 なんだろう。こういう言葉遣いとか普通は初対面にはやっちゃダメなんだろうけど、コイツ相手に敬語とか死んでも使いたくない。

 確か高校一年だった気がするのだけど、まったく年上に見えないのは俺が悪いのだろうか。

 

 

 

「――なにしてるんですか? 未央さん」

 

 

 

 今日の俺、背後取られすぎじゃね?

 なんでか気付かなかった後ろからの気配に振り向くと、誰もいなかった。

 はて、声は聞こえたのだけど。

 

 

 

「下だよ下」

「え?」

 

 

 

 本田が言うので再び振り向くと下のほうを指差す。

 下、足元?

 目線を下にもう一度背後へ。

 足元ではなかったが、頭二つ分ほど低身長の少女がこちらを睨み上げていた。

 なにこのちっこいの。

 

 

 

「お知り合いですか?」

「知り合いって言うか、顔見知りっていうか?」

「なんですか? それ?」

 

 

 

 俺も知らねーよ。

 ともあれ本田にも迎えが来たようだし、そろそろ離脱しよう。

 

 

 

「じゃ、俺そろそろ」

「あー、なんか引き止めたみたいでごめんねー

 

 ――なんて言うと思ったか! さっちゃん捕まえて! お前にアイドルの魅力を見せ付けてやるー!」

「えっ、えっ、な、なんなんですか!?」

「おい、無茶振りするなよ。戸惑ってるだろこの娘」

 

 

 

 通路は塞がれているから逃げられない。というかわざわざ逃げる必要性が無いわけだけど、目前のちっこい少女に右往左往されていると踏み潰してしまいそうになるな」

 

「そこまで小さくないですよ!? なんなんですかこの失礼な人!?」

 

 

 

 いかん、口に出てた。

 しかし、髪が小型犬みたいに跳ねているような少女がぷんすかと怒るがあんまり怖くない。

 むしろより一層犬っぽくて撫で繰り回したい衝動に駆られる。くっ、落ち着け俺の右腕!

 

 

 

「敵は動揺しているよ! いまだアタシらの部屋に連れ込めー!」

「いやだからなんでそうなるんですか!?」

 

 

 

 ノリに乗っている本田が身動きの取り辛い俺の腕を背後から挟みこむ。

 胸で。

 

 ――いや、意図した結果じゃなかろうけれどもさ、弾力すげぇ

 

 

 

「――――浮気?」

 

 

 

 ヒィッ!?

 

 

 

「と、あ、お友達の方ですか? ほら未央さん、離さないと」

「えー、これからが勝負なのにー」

 

 

 

 何を勝負するつもりだったんだ本田。

 そしてそこのちっこい娘は俺の背後の誰を見上げているんだ。

 ……先ほど聞こえた台詞は気のせいだとシンジタイナァー。

 

 

 

「戻るの遅いから探しに来てみたけど、そらくんって逆ナンされるほうだったっけ?」

 

 

 

 本田から離された俺の腕を、アキラがぐいぃと抱き寄せる。さっきよりより凄い弾力が、むしろ万力のように俺の身動きを取れなくする。

 わ、モデルみたいー。と暢気な本田はいつか絶対泣かす。あ、いややっぱいいや。コイツとは二度と会いたくない。

 

 

 

「疫病神め……!」

「アイドルにかける台詞じゃないよそれー!?」

 

 

 

 ドナドナされゆく俺の捨て台詞が精々胸に響いた、と信じたかった。

 

 

 




~ちうたんマジ無敵の盾
 認識阻害とか学園結界とか総スルーだった実情を聞きたかった学園長
 「馴染む、実に馴染むぞ・・・・・・! フハハハハハッ!!」と、そのとき結界が解かれてノリノリで魔王様ごっこをしていたそらを見ていたちうは実は同時にウィークポイント
 学園長に負い目が無かったら負けていたのはそらのほう

~烏丸そら
 そろそろオリ主として本領発揮するときじゃないかなと思う
 次回辺りにすっげぇ恥ずかしい黒歴史をばらす予定

~カラオケという名のry
 なにこれ、キャバクラ?

~デレプロガール参戦
 じりじりと近寄ってきていましたが87話にしてようやく会話に登場。こんなんちゃんみお違う!とか、こんな輿水偽者だね!という異論は認める
 そらとの相性ははっきり言って最悪です


本物のあとがきは活動報告


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『後始末、その2』

今回のお話、この作品のコンセプトとはどうしても合わないんじゃないか、ということで『載せたくない』が強く出てしまい執筆が異様に遅れました
でもそれを言い出したらこれまでも暴走したのは多量にあったから『今更かよ』と言われることも必至
広げた風呂敷を畳むには避けては通れないこともあり・・・・・・、若干のシリアス雑じりの88話、渋々更新します

・・・・・・精々笑い飛ばしてやってくださいm(_ _)m



 麻帆良祭振り替え休日・二日目

 昨日のカラオケで罰ゲームと称してSHAZNAのVirginを延々と歌わされた俺なのだが、何故か本日も彼女らに同行している。といっても魔法バレしているいつもの面子のみなのであるけど。

 場所は図書館島の最深部、ワイバーンの守る深奥へと連れてこられる俺がいた。

 ナマモノの、かつ自分で製作したわけでないドラゴンとか初めて見たわ。やっぱ漫画とは違うなー。神威召喚的な飛竜と比べると、どうしても見劣りするイメージは抜け切れないのだけれど。

 

 ……いや、なんでだよ。

 

 正直言って、俺の方からは此処には全く用がない。

 アルビレオ・イマに会う用事も気もないというのに、何故連れてこられたのかが理解できない。

 どうもネギ君は雪広とかの仮契約ガールズと先に行っているらしいが、それで俺まで呼び出すというのはどういう用件なのだろうか。

 

 

 

「なんかね、アルがあんたも呼びなさいって」

「嫌な予感しかしないから帰っていい?」

 

 

 

 先に行っているネギ君と仮契約ガールズの雪広・宮崎・早乙女・ゆえきち・佐々木、それに付き添っているらしいこのか&せっちゃん&古菲&エヴァ姉には悪いけれど、こちとら特に英雄様とのお茶会とか必要ないでござる。

 このままさぼって超包子にでも行って飲茶しようぜ。奢るからさ。

 

 

 

「いや、さすがに約束破るのは駄目でしょ」

「約束とかしてねーよ、今日一日くらいはゆっくりとしていたいな」

 

 

 

 それはとても素敵だな、って。

 連れ立っている裕奈の言葉に、休日のお父さんみたいな返答で駄目人間宣言してみる。

 ちなみにこちらと連れ立っているのは、明日菜を筆頭に裕奈・アキラ・亜子の俺の仮契約従者と茶々丸・ちうたんの実は接点が未だ碌に無いらしいネームレスコンビ、の合わせて7人。

 長瀬・朝倉は不参加らしいが、逃げられるというならば俺も逃げたい。朝倉はハブにされた感が菱々感じるけれどそこはまあ置いといて。

 

 

 

「アルー、来たわよー」

 

 

 

 気軽にすったかと軽快な足取りで、瀑布の飛沫が飛び交う中を歩み行く明日菜。

 蟠桃の根がマングローブの森のように絡み合い、その隙間をナイアガラのように滝が縫って流れる圧倒されるほどの神秘的な情景の空間なはずなのだが、軽快さのお陰でアルビレオの演出が泣いている姿を幻視した。

 そのまま本棚の部屋を素通りし、通り抜けると瀑布を背景にした空中庭園のような茶会場へと歩み出る。

 

 

 

「じゃ! 僕ちょっと行ってきます!」

 

 

 

 何処へだ。

 

 

 

「お待ちくださいネギ先生っ、さすがに今からイギリスまで行くには――!」

「が、がっこうとか、授業とかー!」

「魔法の国とか少年心をくすぐるフレーズだけどちょっとまってよネギくーん!」

 

 

 

 佐々木ぃ、性別っ。

 どうやら本国へまたもや行こうとしているらしいネギ少年。そういえばあの子密入国した実績があったわ。

 止めようとするのも納得の中、俺はひっそりとテーブルへと腰掛ける。え、お前いつからいたの?まあいいや作戦を敢行して騒ぎの内容を把握しようとしていた。

 

 

 

「いや、普通に見てわかりますから」

「ちっ、せっちゃんの愛の前には隠れ切れなかったか」

「あ、ああああい!?愛とかそういうのはありませんからっ!!!」

 

 

 

 相変わらずからかい甲斐あるなぁ半デコは。

 力いっぱい否定されて少しだけブロークンだけど意外とその発言が癒しである。

 俺マゾじゃないはずなのだけど。

 

 

 

「せっちゃんの愛しません宣言はさておいてなんの騒ぎ?」

「クウネルさんのアーティファクトは他人の記憶を完全コピーできるものやった

 それによるとネギ君のお父さんがまだ生きとることが判明

 手がかりは魔法界にある

 いてもたってもいられないネギ君がその足でイギリスへ行こうとするのを止める

 ↑イマココ」

「おK、把握」

 

 

 

 止める人材が多分にいるのでのほほんとしていたのであろうこのかに、さりげなしに事情を聞いた。

 どうしたって父親を探さずにいられないのは彼が彼であるための絶対条件なのかもしれないが、猪突猛進な部分はこの半年では結局改善されなかったらしい。

 ところで武闘会では結局演出しなかった『ナギの遺言(笑)』とかを披露したのだろうか。あれをネギに見せるためだけに原作では反則で勝ち上がっていったらしいというんだから、他の参加者は涙目であるわけで。

 ナギもナギで育児放棄宣言とも取れる内容しか残さないというのもどうなのかと、

 

 

 

「おや、来ていたのですね。ようこそ、お待ちしていましたよ?」

 

 

 

 益体も無い意見でもない思考をぼーっと流しているとアルビレオに気付かれる。

 しかしその声音が聞いた覚えのあるような、ある意味聞きたくないような、そんな女性のもの。

 それに気付いたのか全員がアルビレオのほうを、つまりは俺の背後を視界に入れた。

 

 

 

「あれ? クウネルさん? その人誰なん?」

「また悪趣味な……、貴様は女装趣味もあったのか?」

「きれいな人ですけど……。あの、失礼ですけど他人の人生を盗み見るとか正直趣味としては応援できないのですが……」

 

 

 

 フルボッコにされながらも背後から移動する気配がない。

 一体何者なんだー、と思いつつも振り返り――、

 

 ―――――――――――――――、

 

 ――絶句した。

 

 

 

「歓迎しますよ、烏丸『イソラ』くん」

 

 

 

 ……本名まで把握している。が、それ以上にその外見に釘付けとなる。

 俺の母じゃねーか……。

 

 

 

「か、烏丸? 今にも人を殺しそうな目してるぞ……?」

 

 

 

 長谷川に諌められているが、そんなこと今の俺には些事でしかない。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 千束恩寿の犯した罪は非情に重い。

 学生であった烏丸千歳を手篭めにし、呪式核として最適な資質を用意するためだけに彼女を連れ去った。

 身篭った『子』を堕ろせなくなる程度まで監禁し麻帆良へと放置。

 その際に一般人で、しかも子供でしかなかった千歳に抗う術は無く、麻帆良の認識阻害に馴染むように上書きした認識阻害の呪式を組み込まれた。

 故に、彼女は出産から育児まで、麻帆良にいながらにして強制的に行動させられ、他の魔法教師に見つかることなく『子』は造られた。

 呪式と認識阻害によって麻帆良から逃げることもできないままに、烏丸千歳は密かに命を育んだ。

 

 烏丸千歳はただの被害者ではなかった。

 いくら呪を組み込まれたからといって行動を全て制御できるわけではない。

 産み落とすことを強制された千歳が最初に行ったのは、産み落とした自身の子供を殺そうとしたことだった。

 欠片も好意を抱いていない男に無理矢理孕ませられた子供は、彼女にとって害悪でしかない。

 産声を上げる前に喉を潰す。

 出産で力の抜けた自身に鞭を打ち鈍器を抱えて叩きつけた。

 その存在を根本から憎み、恨み、嫌悪し、自身から別け出でたことすら忘却してしまいたかった。

 烏丸千歳は弱かった。

 だから己を守るために徹底的に拒絶した。

 

 子はしかし、それでも生きていた。

 

 産み落とされると同時に発現した不可視のエネルギーは彼自身を守るために実体化し、潰された喉を押し広げて呼吸をし、叩きつけられた鈍器を受け止めて弾き返した。

 全ては生存本能と、当時から自己を認識していた前世があった故の相乗効果。

 生き延びられたことは奇跡に近いが、生き延びなければ彼は存在できない。

 死にたくなかった彼は、必死で自分を守った。

 ただそれだけだった。

 

 命銘は父の恩寿がつけた。

 意味は他者を呪うため。

 日本の古典文学の怨霊の名前だ。

 連動して腹違いの兄にも『物語』を絡ませて『呪式』を組み込むための命銘をした。

 鋳止まれ、疎まれ、蔑まれ、ただの道具に成り下がるように名づけられた。

 

 怨めと、呪えと、世を儚めと、到底『親』が『子』に望むことではない感情を一身に受けて、『烏丸イソラ』は世に生まれ出でた。

 

 

 

 『子』を殺せなかった千歳は、それでも諦めなかった。

 嫌悪するそれを殺せないとわかったならば、徹底的に放置した。

 餌を与えず、身を整えず、衣を剥ぎ取り、雨風に晒した。

 捨てることは出来なかった。

 しかしそれは呪式の強制力によるもので、仕方なく自身の住むアパートの窓の外へ。

 ベランダの端が彼の住処だ。

 要らなくなった箱で囲い、外から最低限見えないようにして。

 麻帆良の認識阻害が働いていようと、“そんなもの”が自分の部屋に関係していると周囲から思われるのを忌避した千歳は、彼のことを徹底的に隠蔽した。

 認識阻害は上手く働き、彼は誰にも気付かれること無く麻帆良に棲んでいた。

 それでも彼は死ぬことは無かった。

 

 食事を与えられず、衣服を与えられず、雨風を凌ぎ難く住処を用意させられて、身動きも取れず。

 それでも生きていたのは、不可視のエネルギーを活用したからだ。

 『それ』は人型に変化し、生き延びるために必要な応用を働かせ、前世の記憶から必死に知識を活用した。

 隣室や階下の住人がいない時期を見計らって食料を拾ってこさせ、消化しやすく自身で磨り潰して啜って生き延びた。

 拾えた物資はごくわずかであったりもしたが、少しづつ少しづつ、最低限生きるために必死で食い繋いだ。

 身動きできない己に代わって動いてくれるそれが『スタンド』であったことに気付いたのは、住処を快適にしたかったときだった。

 隣室から出た古新聞に包まって、温度を欲しがったときには『それ』は既に能力を発動させていた。

 書き込まれた文字で暖を取る。

 物質に概念を埋め込めるスタンド。

 それからはより一層能力を活用した。

 時には土に栄養と味を書き込んで食い繋ぐこともあった。

 

 放置して一年経った『子』がまだ生きていたことを知り、千歳は尚更『彼』が恐ろしくなった。

 逃げることも殺すことも出来ないそれが、自分に復讐する可能性に思い至ったのだ。

 嫌々ながら世話をする。

 殺されたくないし、これ以上傷つきたくなかった。

 それを『彼』も把握していたのか、スタンドで彼女を攻撃することは決してなかった。

 彼もまた、彼女が被害者であることを理解していた。

 何より、これまで以上に酷い生活を強いられるわけではないと理解できたから、彼女を排除するような真似をしようとは思わなかった。

 

 千歳は危害を加えられないことを理解した。

 しかしそれでも、彼に対する嫌悪は薄れることはなかった。

 得体の知れない生き物でしかない彼を受け入れることは、彼女には絶対に出来ないことであった。

 そうして彼らのコミュニケーションは始まった。

 

 

 

 死ね。

 消え去れ。

 生まれてくるべきじゃなかった。

 生まなければ良かった。

 そんなニュアンスの言葉ばかり浴びせられ、彼は5年育まれた。

 徹底的に嫌悪する彼女の拒絶に、彼はさすがに辟易していた。

 いくら前世があり、自己と人格が既に形成されているからといって、一律の言葉ばかり浴びせられればどうあっても歪む。

 そうして彼は心を閉ざし、彼の望むままに精神的な障壁が形成された。

 皮肉にも、恩寿の用意した呪式核としての機能は上手く働いて、自身から生み出す膨大な魔力はほとんどが障壁へと転化するように成長した。

 それが良かったのか悪かったのかは、誰かに判別される事柄ではない。

 

 頃合を見計らって『彼』を『回収』に来た千束恩寿は、反撃に出た彼自身によってあっさりと返り討ちとされた。

 一番に働いたのは当然ながら不可視のスタンド技術。

 腕を圧し折り、脚を踏み砕き、抱えている術式核を徹底的に無力化して、齢6つにて侵入者である恩寿を撃退した。

 その際に彼は真祖の吸血鬼と出会い、目をつけられる。

 初めての友人がこれである、つくづく運が無い。

 しかしながら、長年母を悩ませていた呪いの大本を撃破できたことは朗報である。

 意気揚々と自宅へと帰った彼に待ち受けていたものは、誰も残っていないアパートの一室であった。

 待てど暮らせど誰かが帰宅する様子はまったくなく、一週間経ってようやく彼女は麻帆良から逃げ出したのだと思い至ることが出来た。

 彼女の行動を縛る呪はもう無い。

 それならば嫌悪している怪物といつまでも一緒にいる道理も無い。

 納得がいった彼は、とりあえず部屋を出ることにした。

 麻帆良にいる意味などとっくに無かったが、初めて出来た友人には最低限の挨拶をしておきたい。

 それが逗留の始まりであった。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 元の姿へと戻り、平身低頭で謝罪するアルビレオ・イマに胡乱な目を向けつつも、内心では“帰りたいでござる”の嵐が大フィーバー。

 何が悲しくて自身の黒歴史を滔々と語られて謝罪されなくてはならんのか。麻帆良にいながらにしてネグレクトと精神的虐待を防げなかったことに対する申し訳なさが表立ったらしいが、それでも状況を理解できなかった周囲の娘らにまで教えてあげる道理は無くね?

 

 

 

「か、烏丸さんに、そんな過去が……」

「なんで、なんでそんな酷い目にあわなならんの……? そらくんが何をしたっていうんよ……」

 

 

 

 言葉にするこのかとかネギ君ならまだ良いほうなのだけどな、涙浮かべてじんわりと視線を向ける女子共、オマエラ止めろその哀れみの目。

 同情とか必要ねえから。

 もう終わったことだから。

 ……と言うか、自分の暗い過去を語るとかって何処の“ぼくのかんがえたかっこいいしゅじんこう”だよ!?

 男の黒歴史をひけらかすとか! 今時わざわざやるとか! 拷問にしても度が過ぎてるしぃ!

 暴露大会とかやめたげてよぉ!?

 

 多分だけど、事件を解析し切れなかった部分を補足するために俺の母の記憶を拾得したんだろうな。で、その外見から俺に起こった事柄を全部知っていますよ、という最初のジャブなのだろうが……。

 あの人をわざわざ探し出して何かしようという考えは俺には無いから良いようなものの、普通ならそのジャブに逆上して刺されて(クロスカウンターして)もおかしくないレベル。

 謝罪しているように見せかけた魔法使いの自己満足だろ、これ。

 前世持ちという事実はさておいてエヴァ姉にも語っていなかった詳細を、わざわざ話すことでもないから墓場まで抱えてゆく所存だったのに。アクロバティックな方法で内情を調査されて全貌を語られるとか、富んだダークホースがいたものである。

 

 つーかいい加減にその視線止めて。マジで。

 

 

 

「……で、その千歳さん? とかいう人はどうしたわけですか?」

 

 

 

 同情する視線から一転、怒気すら醸す迫力を滲ませつつアキラが尋ねた。

 アルビレオが応えるのかと思ったが、俺からの返答が無いお陰でだんまりのご様子。

 胡乱な目は彼から外せないまま、俺が答える。

 

 

 

「どうしたとか応える必要性ないっすよ。別に何処で何をしていても関係ないですし、こちらのことを忘れて平穏に暮らして、二度とかかわりが無ければ言うことはないんですし。だから余計なことは云わんでくださいな」

「――っ、善処します」

 

 

 

 謝罪を受け入れるとも言わない俺の言葉に意思を汲み取ったのか、息を呑む古本さん。

 ところでこの人どうやって母の記憶を補完したのだろうか。いや、原作でも当時麻帆良に『来ていなかったはず』のアーニャをコピっていたから、この人は麻帆良から出られないというわけじゃないんだろうな、きっと。

 

 どうでもいいことを考えつつ、未だに視線の定まらない女子らに情報を小出しに口を開く。

 

 

 

「そのあとは児童養護施設のお世話になって、エヴァ姉とは何度か交流があって、つながりで学園長に戸籍を確保してもらって、名前は名付け親が一度しか呼んだことが無かったから拒否。命名を削って今に至る。面白くも無い、世の何処かには有り得そうな不幸の一例だ。だからもう気にかけてんじゃねー」

 

 

 

 そもそもが本人が一番気にしてないのに、余計な同情とか本気で要らん。

 そんな俺の言葉に明日菜が、声音を努めて明るく口を開いた。

 

 

 

「でも、そこからエヴァちゃんがそらを救ってあげたっていうことなんでしょ? 優しいところあるじゃんエヴァちゃん」

「考えたりねえな明日菜は。エヴァ姉だぞ? あくのまほうつかいだぞ? 物珍しい稀少品を見つけて面白がっていただけだって」

「「「ちょ」」」

 

 

 

 何人かが俺の台詞に待ったをかけたけど。

 だって現にエヴァ姉ちょっと気まずそうにしてるもの。これで強ち間違いじゃない気がするなぁ。

 

 しかしながら、お陰で面白いもの(魔法)に出会えて持ち札の幅をスタンドだけに留まらせなく広げられたのは事実。

 その点はしっかりと感謝しているのですよ? マジでね。

 だから、言葉にする。

 

 

 

「それでも感謝はしてるさ。出会えなかったら人生が無味乾燥であったのは間違いないしな。

 愛してるぜー、エヴァ姉」

 

 

 

 ………………誰か何か言えよ。

 

 

 




~Virgin
 サビにてひたすらに、愛してる、とか、好きだから、とか、そばにいて、とか連呼する歌。中学生に歌わせるには羞恥心が天元突破
 5回も繰り返した暁にはハイライトが消えていた

~烏丸千歳
 土属性の会長がイメージなのではなくて、あえて言うならば銀河天使的な6人目のいらない娘
 似ているというだけでご本人とはまったく関係性はないはず

~烏丸イソラ
 随分前に出した腹違いの兄の名前が伏線
 出典は雨月物語

~障壁の真実
 実は神の特典じゃなかったATフィールド
 そのまま心の壁でしたというオチ

~黒歴史暴露
 オリ主ならば一度は通る道
 かっこよさげな雰囲気醸して「俺の手は罪だらけだ・・・」とか呟く銀髪が俺の中では一番印象深い
 精々笑い飛ばすのが正しい対処法

~手札・持ち札・切り札・鬼札
 その結果がこれだよ!
 資質があったのか少年はマッドな科学者もどきへとジョブチェンジしました



・・・胃の辺りがきりきり傷む・・・
イジメとか虐待とかの描写をこれだけ書くだけでこのとおりのメンタルです
ともあれ風呂敷を畳む前準備はようやく終了
あとは残り十話ほどに収まる程度に突っ切ります


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『カウントダウン5』

ネギマジをやるにあたって、アキラのキャラが一番難儀でした
というか、原作読み返すたびにキャラクターが混迷極めていくとか普通ねーぞ
何気にモブ度が一番強いキャラだったのではないかと未だに疑ってる

そらの死亡予知に向けて、カウントダウンスタートな89話


 

 さて、しずな先生の話ではこのままゆくと本日入れてあと5日でご臨終となる我が人生。期末試験を受けないままに終了とか申し訳ないなー、などと若干楽観的なままに今日も今日とて一日が始まる。

 せめて真っ当に、名残を残さないように、色々と整理整頓でもしておこうかね、と新聞配達のバイトをとりあえず辞めてきた。

 

 

 

「コラァっ!? そらっ! あんたいきなりバイト辞めるとか何考えているのよーっ!?」

 

 

 

 正確には、今日から三日ほどやってから辞めますと名残を惜しまれつつ発言していたのを耳聡く知ったらしい、明日菜が土煙を上げて突貫してくる。

 お前の担当地区こっちじゃねーだろ。

 

 

 

「耳が早いな。期末の準備もあるから様子見ってところだよ」

「あ、そ、そうなの? それならそうと言っておきなさいよ」

 

 

 

 ほぼ嘘だけど。

 

 それにしても、昨日の今日だというのに明日菜の対応は特に変化した様子は無い。

 あのあとはお茶会とかいう雰囲気なんぞ微塵も掻き消えて、気まずいなんて空気を味わう間もなく帰ったからな、俺が。

 態度を変えないのは、黄昏の姫巫女という人生経験を経ているからなのかね。同情したところで仕様も無い事実なんて何処にでも転がっているよ、って頭の何処かで理解しているとかだったらこっちも気を遣う必要ないから楽なのだが。

 

 

 

「……それにしても、そらも割かしドラマチックな人生送っていたのねー」

「お前それを本人に直接言うとか本気で何考えてるの?」

 

 

 

 違った。

 なんか過去を思い出しているはずなのにこの明日菜、中身がこれまでの幼なじみのままだ。

 あっれー、おっかしいなー? Coolなアスナは表面だけっすかー?

 ……麻帆良で形成された自己は、それまでの100年あったとかいう人生をも凌駕するインパクトがあったということだろうか……。普通に怖いのだが。

 

 

 

「まあ、人間誰しも何かしらの事情くらい抱えているわよね」

「確かにそうだけど」

 

 

 

 同情されたくは無いから有り難いのだが、そうあっけらかんと応えられるのは納得がいかない。いまいち。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 驚かせた罰として次の日曜に買い物に付き合えとほぼ強制的に約束を取り付けられ、黒歴史を知り気まずかったのかエヴァ姉が授業をサボタージュしていた本日放課後。

 なんだか紅王症候群に取り憑かれたかのような感覚を感じつつも、何故か今俺がいるのはウルスラの校舎内であったりもする。

 それというのも、全校放送でそこの生徒会室まで出頭を命じられた所為なのだが、……呼ばれた理由がまったく持って謎なのであるが如何なものか。

 

 呼び出したのは女子高の生徒会長。呼ばれたのが男子部の中学生。

 ……そこはかとなくイケナイ薫りを燻らせているのは気のせいだと思う。というかそう信じたい。

 意を決してノックし、許可が下りたので入室する。

 

 

 

「しつれいしまー」

「ようこそ、ウルスラ女学院生徒会室h」

「失礼しました」

 

 

 

 バタン。

 と部屋の戸を閉めて回れ右。ありえないものを見てしまったので多分まだ気疲れが残っているのだろうと判断する。

 とっとと自室へ戻って布団を被ろうそうしよう。

 

 そんなことを思考しているうちに部屋から触手がにゅるりとはみ出て俺を捕縛した!? ナ、ナニヲスルダー!?

 

 

 

「お待ちなさい。人が話しているのに退室するとはマナーがなってませんわよ?」

「女子高で触手プレイ強要されるとかマナー以前の問題っす! やめてー! アブノーマルな世界へと引きずり込まないでー!」

「触ッ!? 違いますわよ! 影ですわコレは!」

 

 

 

 質量を伴った影の畝りとか触手以外のナニモノにも見えません。

 廊下には人がいないとはいえ魔法秘匿意識を欠片も見せようとしない高音さんの得意技能に雁字搦めにされつつ、生徒会室(自称)へと舞い戻る俺(文字通り)。

 そして改めて、部屋の主としてホワイトボードの前に陣取っている彼女が口を開いた。

 

 

 

「改めまして、ウルスラ高等女学院生徒会長を務めさせていただいています、野木坂遙です。お久しぶりですね、烏丸くん」

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 以前に俺の命を狙っていた野木坂さんであるが、ウルスラへと転校し高音さんとかと同級生になっているとかいう話は耳にしていた。しかし転校一ヶ月弱で生徒会長となっているとかカリスマ力ぱねぇ。俺の知らない場所で暗躍していたようである。

 こうなるとますます以て俺の命を狙う下準備が整っているのではないかと勘繰ってしまうのであるが、如何に。

 

 

 

「先ずは、謝罪を。先月は出会い頭早々、申し訳ないことをしてしまいましたね」

「――はいぃ?」

 

 

 

 ペコリ、と頭を下げてくる野木坂さん。一瞬意味がわからずに、右京さんの物真似声で応えてしまう。

 こうして見るといいとこのお嬢さんであるし、優しそうで物腰柔らかそうなお姉さんにしか見えないのであるけれど、人の第一印象というのは大事なもので、俺からすれば唐突な心内変化にしか思えずに疑心暗鬼が表立つ。

 ところで高音さんは何故この部屋に居るのであろうか。居なかったら野木坂さんと二人っきりにされていたであろうから文句なんて一切無いのだけれど。

 

 

 

「遙さんの襲撃はブラフですわ」

「はぁ?」

「彼女の一族が厳冬を殺害した貴方を抹殺するために、一番の実力者であり縁が特に強かった近親の彼女を刺客として貴方へと送り届けた。その指令を実行していると見せかけるために白昼堂々貴方を襲撃した、それが一連の流れです」

 

 

 

 高音さんのからっとした説明に、はぁそうですかと納得する。

 ……納得はしたけど、そういうことはもっと早くに教えてくれても良かったのではなかろうか。

 

 

 

「学園長にも思惑があったのでしょうね。貴方を目印に西からの刺客を集中させよう、とか?」

 

 

 

 高音さんも把握し切れていないのか疑問系で返答が出た。

 学園長の計らいかい。一昨日ちうたんを盾にしたことを根に持っていると見た。まあそれ以前にも色々と麻帆良に片付けてもらっていることはあるから、それらの負債を見えないところで処理してもらっていたのだと思うことにする。

 

 

 

「……本当は、私もこんな式紙使いとかになるつもりはなかったんです。でも適正というのが高かったらしくって、お爺様にもそこを見出されて。出来上がった専用式はあんななのですけどね」

 

 

 

 そういえば武闘会に参戦させていたな、オブジエンドな等身大魔法少女フィギュア。滔々と自分語りを始めた野木坂さんに未だ疑惑の目は向きつつも、正確な内容を整理する。

 つまり野木坂さん自身は実家の稼業というか修行というか慣習というかに追従する気は更々無く、況してや敵討ちと銘打たれたからといって人を殺すことを良しとするようなお嬢様ではなかったようだ。しかし実家の目が自分を監視していることは事実なわけで、頭首であった実力者の厳冬とかいう爺様がいなくなった今、替わりの御輿として担ぎ上げられる可能性が高くなってきていた。そこで一計を案じた野木坂さんは、俺を直接狙うことで実家での表立った立場を完全に放棄し、麻帆良への亡命を裏取引にて成功させていたのだという。

 なんだか色々と面倒くさい事情をやっていたようだなー。……あれ、そうなると俺が阿佐ヶ谷まで出向して話を聞いてきたのってなんだったわけ……?

 

 

 

「お爺様のことは悲しくないといえば嘘になりますけれど、お爺様が何某かの謀を覆されて命を落としたというならばそれはお爺様自身の責任です。

 それに、烏丸くんがやりたくてやったというわけではないのは学園長からも話を聞かせてもらっていることですし」

「あー、まあそうですけどね……」

 

 

 

 というか未だにその厳冬とか言う人が誰なのかが実感が伴わない。ヘラクレス君に踏み潰された爺様のことだったのだろうけれど、あの直後に瘴気で湧き出た魑魅魍魎に食い潰されたから遺体も残っていないんだよな。だからか、俺が命を奪ったという印象はどうしても薄い。

 いや、人を殺すことに慣れているわけでも無いですよ? こう見えて直接的に人殺しに関与するつもりなんて全然ないんだからねっ。

 

 ツンデレっぽく自分の思考を纏めたところで、ふと疑問が沸く。

 

 

 

「あれ? そうなると俺にそのこと話さなくとも、いやむしろ話さない方が良かったんじゃないっすか? 下手に実情ばらすと何処に飛び火するかわかったものじゃないと思いますけど」

「それは確かにそうですけれど……」

 

 

 

 高音さんが若干言葉を濁しそっぽを向く。

 え、なに?

 

 

 

「家族を失い居場所を失う、そしてその全貌を隠したままに相手に棘だけを握らせる。それでは駄目だと思い直したので、全てを話すことに決めたんです。この程度のことが不幸だなんて言ったら、烏丸くんに申し訳が立たないですから」

 

 

 

 なんだか晴れやかな、優しい目と笑顔で野木坂さんが言う。

 しかし何故俺?

 棘が云々、というのは俺が気にしていないかとかそう言った憶測か、と推測する。暗喩だらけでいまいち全貌が掴めないままにも思えなくも無いけど。

 じゃあ不幸ってなんぞ?

 その点が理解できずに、顔をそらしている高音さんをじーっと見る。

 

 

 

「――じ、実は、学園長から貴方の幼少期の話を……」

 

 

 

 気まずくなったのか高音さんが顔をそらしながらも呻くように呟いた……って、お 前 も か 。

 心変わりの理由はそれかよ。ていうか何処まで知れ渡っちゃっているの俺の黒歴史ーーーっ!?

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 無駄に優しくなったお姉さまな野木坂さんに、辛いときには頼ってくれても構いませんからね?などと誘惑染みたありがたいお言葉を貰って退室。失礼しましたー、と部屋を出たら、目の前のロッカーがドバンと開いて俺を捕食した。

 

 

 

「なん……っ、はぁっ!? んもっ」

「んっ、暴れないでよそらくん……」

 

 

 

 正確にはロッカーから飛び出してきた何者かに捕縛され、引き擦り込まれる。

 もにゅむだぷん、とウォーターベッドに沈められたような超絶柔らかな感触に抱きしめられ、挟み込まれて、挟み込まれた顔面が埋まったのは果たしてなんなのか。

 なんなのかっつーか、俺の知るところ声の主から鑑みて乳しかないのだけれど、この状況が一番何なのか教えて欲しい。何してくれてるのアキラたん。

 

 

 

「何って、ウルスラの生徒会長に呼び出されたって聞いたから、保護?」

「保護されるほど脆弱でもありませんが……」

 

 

 

 やたらとスキンシップの激しさに拍車がかかったアキラが、俺を抱えたままに小首を傾げる。

 というか不意打ち噛ますためとはいえロッカーに隠れているとか、アキラも3-Aの空気に毒されてきたと思われる。

 そんなことを考えていたら個室から強制退場し、飛び出た先は見覚えのある寮の部屋だった。っていうかアキラの部屋だった。

 振り返ればクローゼットの戸が開いており、どうやら其処から飛び出したらしい。……どういうことだ。

 

 

 

「これ、私のアーティファクトみたい。便利だね」

 

 

 

 クローゼットやロッカーが?

 どうやら原作とは若干違うアイテムを引き当てたらしい。格好も原作にあったような人魚ではなく、バニースーツに生脚で燕尾服みたいな上着つき。カジノとかにいそうなコンパニオンディーラーみたいな、男心を擽る格好でこちらと向き直るアキラがそこにいた。

 というか、原作との差異を探すと一番に目に付くのは胸囲なのだが。原作以上に成長著しい気がするのだが。抱えられたときえらく気持ちよかったのだが。

 

 閑話休題。

 

 個室に二人っきりとか身の危険を覚える思考にそれかけるが、本来男が浮かべるべき思考ではないので脳の端へとカットカット。それよりも丁度いい機会なので、座り直しても未だに俺を放さないアキラに聞いておきたかったことを尋ねるとしようか。

 

 

 

「あー、アキラたんや」

「ん、何?」

「髪に顔を埋めるな。……丁度いいから聞きたかったのだけどな?」

「うん」

「ぶっちゃけお前らって俺の何処が気に入っているわけ? つかクンカクンカと嗅ぐの止めて」

「んー……」

「ちょ、考えながら手を動かすな。腹がこそばゆいのだけどっ、ど、どっちかにしなさい!」

「………………」

「そっち!?」

 

 

 

 声を出さずに服の下へと手を入れてくるアキラがあああああああ。

 

 ともあれ、俺もここまでされて鈍感キャラをやれるほど鈍くもなく。というより、キスまでされたら思春期男子ならばこういう勘違いくらいするだろう。勘違いと言うにはさすがにあからさま過ぎるわけでもあることだし。

 それでも納得がいかないわけだから、やはり聞いてはおきたかった。出来れば全員分。好意を向けている根本的な理由ってなんなのだろうか?

 

 

 

「――ん、距離かな」

「はー……?」

「だから、少なくとも私がキミのことを好きな理由」

 

 

 

 素肌を弄られて色気な展開になるのではなく、こそばゆさで息も絶え絶えな俺にアキラはあっけらかんと口を開いた。

 

 

 

「そらくんはさ、好きと嫌いをはっきりと分けるタイプ?」

「……? いや、そんなことはないけど……。てかそんなことがなかったから今こうなっているんじゃないかと少し後悔しかけてるわ」

「その点については後で考えるとして。好きとか嫌いとか以前に関心があるかないかで物事があるくらいならわかるよね?」

 

 

 

 まあ、そもそも知らないと判断できないか。あーなんか言いたいことわかってきた気がする。

 そんな俺の様子に気付いたのか、アキラは一つ頷いて言葉を続ける。それは答え合わせのような作業になっていた。

 

 

 

「で、そらくんが言いたかったのは、私がいつフラグを建てられたのか、って部分」

「まぁな。好感度を上げた覚えも無いのに近寄ってきていたら、不審になるのもわかるだろ」

「女の子が男の子を好きになる理由に、そんな劇的なものはないよ。人を信じられないのは、まあ理解するけど」

「その『理解する』って部分も俺には謎だな」

 

 

 

 俺が突っ込みたかったのは其処なのだ。昨日から引き続き、どいつもこいつも。

 

 

 

「虐待されていたガキを同情こそすれ、好意を抱くのは間違っているだろ。叩き潰されて捻じ曲がった成長で歪になった弱者に恋愛感情を向けるとか、普通はねーよ」

「――それをキミが言うんだ……」

 

 

 

 普通の感性としては、間違ったことは言ってない。

 世の中がどれだけ偽善を謳っても、人間の根本は結局のところ二元論で決まる。即ち『やりたい』か『やりたくない』か、だ。

 動物的な、原始的な生活をしているわけでもない、近代的な日常が基本として敷いてある日本においては、歪んだ人間というのは基本的に排斥される傾向にある。理由は『気持ち悪い』から。

 例えば此処が動物的なコミュニティの中だというのならば多少の歪みは見逃されるのだろうが、それでもそれを引き換えにしてでも目に付くメリットがあればこそだろう。例えば『強さ』だとか。

 しかし歪んで弱くしか見えない存在は、排他されて然るべきだ。繋ぎ止める意味がない。あるとすれば餌にするくらいだろうか。

 

 だから、俺も排斥されて然るべき理由がばれたはずだというのに。どいつもこいつも同情的な視線を向けるだけで、あまつさえ手をかけてこようとする始末。

 あれか、魔法使い(正義の味方)なら負け犬にも手をかけますよとでも言いたいわけか。ふざけろ。

 

 

 

「拗ねた子供みたいな顔してるね」

「わかっているなら放せよ……」

「可愛い」

「いや、そのりくつはおかしい」

 

 

 

 俺の内心を捉えたのか、アキラの抱きしめる力がいっそう強くなる。

 本当にいい加減放してほしいのだが。

 

 

 

「結局はそういう部分だよ。私が好きな理由は」

「どういう部分だ……」

「縮まっている距離はキミの過去(むかし)を知った程度じゃ離れないくらいに、キミのことを気に入っちゃっているから。だと思うよ」

 

 

 

 ………………。

 ……なんつうか、ぐうの音も出ないくらいに論破された。

 要するにばらされたくなかった過去をばらされてご機嫌斜めだった俺を、距離で囲って懐柔されたわけだ。

 ……全部お見通しされていたみたいで少し恥ずかしくなる……。いつから俺はサトラレになっていたのか……。

 

 

 

「顔、赤いよ?」

「……、そんな男殺しな台詞言われて平然とできるか……。勘違いしちまうだろうが……」

「してもいいよ。勘違いじゃないし」

 

 

 

 この距離では呟きすら拾われてしまう。恥ずかしくなって、せめてもの意趣返しに抱きしめられている腕の中から、アキラの顔を見上げる。

 彼女は恥ずかしがっている様子もなく、近距離で目が合うとじっと見下ろしてそらさない。

 抱きしめる力が強くなる。

 ごくり、と彼女から生唾を飲むような音が聞こえ、アキラのそばへと、拾われるように抱き上げられる。

 顔と顔が近づいて、目をそらすことも憚られるような錯覚に陥り、二人の唇が、

 

 

 

「おおっとそこまでだよ! あたしの目の黒いうちは自室で二人っきりラブラブデートなんてさせないにゃーっ! つーかあたしも混ぜろーっ!」

 

 

 

 ――触れる寸前に、空気の読めない裕奈が突貫してきた。いや、むしろ読んだ方かもしれない。

 

 俺としては2対1の男女比で襲われるのは勘弁なので、早々に退去する。

 ……残念そうに舌打ちした女子なんていなかったんや。

 

 

 




~アキラのアーティファクト
 『神出鬼没の箱(プレゼントボックス)』
 超広範囲絶対転移非実体型アーティファクト。アキラが箱と認識した『四方を閉塞した空間』に入れば一瞬にして転移することが可能。そらの知らない何処ぞの世界線にてミミック娘にされた箱入り吸血鬼息子の識能を再現したような箱
 移動範囲は直線距離にて最大3キロ、最小で800m。箱の中身を入れ替えることで転移するので荷物を移動することもできる。但しいちいちアキラが一緒に入らないと不可
 元来は某殺人鬼が箱詰めの死体を作り送り届けたラッピングアイテム、というフォークロアの顕現を再現させたレプリカにて魔術礼装。なのだが、アキラの手元に召喚される際に契約主であるそらの資質と合わさって変質し概念存在に変換された。通過の際にちょっと血生臭い香りが漂うのは気のせいである


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『カウントダウン3・朝』

亜子をメインヒロインにしたかった(過去形)


 

 金曜日。実は弱小サッカー部な我が部の朝練が、久方振りに感じるくらいの頻度でようやく再開されるらしい。

 いや麻帆良祭で燃え尽きたのはわかるけれども、週一に陥るってどうなんだ。と問い質したいが。

 

 そんなことよりも問題は今の俺の日常だ。軽く語れば「えー?クライカコガタリー?そんなの語って許されるのなんて小学生までだよねー!」なんて笑い飛ばされること必至な我が黒歴史、どういうわけなんだか俺に一定以上の関わりのある魔法先生や魔法生徒に普通にばらされていた。

 同室の大柴君は知らなかったらしいのがまだ救いなのだが、担任の神多良木先生がやたらと優しくしてくるのが正直キモイ。

 あとエヴァ姉がなんでか一昨日から登校してこない。俺の恥ずかしい話を窮せず知ってしまって顔を合わせづらいのか? 実際のところは知らんが。

 そんな日常になってしまった犯人が一体誰なのか、と思いを馳せつつ練習場へと赴けば、

 

 

 

「おめーら気合入れろぉぉおおおぉぉっ!!!」

「「「「オオオオーーーーッッス!!!!」」」」

「俺たちの天使がついにご降臨なされたぞぉぉおおおおっっっ!!!」

「「「「イッッッッヤッフゥゥゥゥーーーーーッッッ!!!!」」」」

 

 

 

 テンションというか脳内麻薬が過剰分泌されているとしか思えない部活仲間たちが、宍戸先輩の煽動にて大興奮していた。どうしたオマエラ。少し落ち着け。

 一瞬来る世界線を間違えたのかなぁ、と現実逃避に似た憧憬に突き動かされそうになりつつも、部の全員がそれに参堂しているわけじゃないことに安堵を覚え、その円陣を組む宍戸先輩のご同輩らの中心には見慣れた少女がいることに目を疑った。ていうか亜子だった。

 ……何してるの、あの娘。

 

 亜子は、何故か仮契約装備状態のナース服に身を包み、部活仲間に笑顔を振り撒きつつドリンクを配布している。

 周囲の先輩方は一定の距離を保ちつつ、彼女を逃さないフォーメーションで中心の亜子を崇め奉っている。

 あれだ、アイドルの取り巻きみたいな状態に近い気がする。

 

 

 

「うはぁー、凄い人気だねー亜子ちゃん」

「何の騒動ッすかこれは……」

「多分あれだよ、あの娘と他の娘たちだけど学祭のステージで二位獲ったじゃん? その可愛さにようやく気づいたバカな男共が、あわよくばお付き合いしたいーってイマサラ騒いでいるんじゃないの?」

 

 

 

 亜子とは別の、高等部の先輩マネージャーが疑問に応えてくれた。彼女の言うとおり、確かに今更な気がする。

 バンドなんてやらんでも充分可愛かったのにな、アイツ。

 

 

 

「バカだよねー、とっくに売約済みだって見てればわかるのにねー?」

「宍戸先輩とはもう終わってるみたいッすよ」

「そっちじゃねーよ、キミだよ。付き合ってるんでしょ?」

「付き合ってねーッす」

 

 

 

 付き合ってはいない。一応は。

 当然彼女はその返答には納得がいってないらしく、

 

 

 

「あれー? でもその割には距離が一番近いのはキミだよねー」

 

 

 

 そう言いつつ、「オラー散れやー!」と練習を再開させるべく男共に備品のサッカーボールを蹴っ飛ばすマネジ先輩。正直、この人がうちの部ではトップクラスに上手かったりするのだが。

 そして円陣から解放された亜子がこちらに気付くと、今までの引き攣っていた笑顔ではない、自然な顔で笑って手を振ってきていたりして。

 ……こうして見ると確かに美少女なんだけどなぁ。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「やばいわー、まさかあんなんなるとは思いもしなかった」

「一体何をやっていたんだよお前は……」

 

 

 

 朝練終了後、ナースルックからいつものジャージへとフォルムチェンジを果たした亜子がこっそりと近づいてきていた。こっちは備品の片づけ中。

 本来ならマネジか一年の仕事なのだが、マネジ先輩の采配によってあれよあれよという間に俺と亜子へとお鉢が回ってきていた。しかも「亜子たんの可愛さに惹かれた一年に告白される可能性も微レ存だぜ?」などと、本気で余計なお世話な忠告付きである。

 べっ、別に気になってなんかいないんだからねっ。

 

 

 

「ちょっとアーティファクトの臨床実験を……」

「やだなにこの娘、こわい」

 

 

 

 マネジ先輩が裏で少女漫画のお助けキャラみたいな裏工作をしている傍らで、メインヒロインに相当する女子が人体実験をしていたという恐ろしい事実を知り思わず身を数センチ離した。本気で何をしているのこの娘……。

 そうするとわたわたと、見た目だけはちょっとだけ可愛らしい仕草で慌てたように手を振り本人からの修正が入る。

 

 

 

「あっ、実験にいうても危ないもんとちゃうよっ? 出てきたウチのアーティファクトって、なんか飲み薬みたいなもんやったからね。説明書きの通りなら副作用とかも無いハズ」

「どっちにしても怖ぇよ」

 

 

 

 つかこの娘も原作と違うアーティファクトなんすか。一体なんの因果で変更されるのか、ちょっとルールを誰か教えてくれや。

 

 そんなことを思いつつ、見せられた彼女のアーティファクト。召喚のために一々ナースルックに変身するギミック付きなので、まるで魔女っ娘のような中学生。その年齢ならば惑星系美少女戦士か、若しくはプリティでキュアキュアな感覚なのかもしれぬ。

 性格バランス的には木星の気高さとか、水星の知性がどーのだっけか? そういう配役とかがしっくりきそう。配色は現在進行形で完全どピンクだけど。

 

 

 

「これこれ、なんかすごいお薬みたいで」

「どら」

 

 

 

 益体ないことを思考しつつ。手渡された小瓶の横についているラベルを読み込む。

 製造元が『柊製薬』。聞いたことが無い――ような、ある、ような……?

 

 喉に小骨が刺さったような疑問を覚えつつ、下に連なる効果を読む。

『一回一錠で三回分の死を回避できます。四つ飲めばこれで貴方もヘラクレス!』

 これは酷い。

 正式名称が『四分の一の純情な優しさ【内服薬】』。ルビには『ウィッカン・メディスン』とあった。

 

 ………………ウィッカ。魔女?

 ……あっ(察し)。

 

 

 

「柊っておま、」

「え、知ってる人?」

 

 

 

 思わず己の口を押さえてしまった。

 柊 紅。『最強の魔女』などと呼ばれている、この地上で一番目の当たりになりたくないお人である。

 正直口に出しただけで麻帆良に平然と現れそうで、一番得体が知れない分イリシャさんより会いたくない。その件のワルプルギスさんも、この間別の次元から幼女呼び出した張本人だって言っていたし……。

 

 そんな彼女謹製のお薬らしきこの物体。しかもラベルの一番下には、『非売品』ととってつけたように書いてある事実に恐れ慄き、

 

 

 

「おま、これ絶対他人に見せるなよ? これフリじゃねーからな!」

「う、うん? わかった……?」

 

 

 

 押すなよ!絶対押すなよ!

 本人が一番意味を理解していなさそうに頷いていたが、これをいつまで隠し通せるのかまったく予想がつかない。なんとか目をつけられる前に返すことができるか、返せなかったら何かしらの補償を弁えないことには命が危ない、気がする。

 ネームだけでガクブルなんだよ! ネギまストーリーの裏に魑魅魍魎が跳梁跋扈していそうな世界線で、『最強』という二つ名が罷り通るお人だぞ!?

 カウントダウンが先か、魔女が先か。なんで俺こんなやりたくもないチキンレースに乗っかかってるの……?

 

 

 

「あ、あとな、そらくん。それと、もう一つ相談があるんやけど」

 

 

 

 思い掛けないところからの疲労に朝から困煤な俺に、亜子がナースルックのままもじもじと問いかける。

 なに? なんでお前まだジャージに戻らないの? 背後にうっすらとした人型がこっちを凝視してるから早目に戻ってくれない?

 

 

 

「こ、このアデアットのときにいっしょに出てくる人って、なんなん?」

「――え、気付いてたの?」

「気付いてたん!?」

 

 

 

 てっきり見えてないのかと思ってた。

 ほら、まおちゃんも戦車の上に乗っかっていたスタイルのいい女性のスタンドに気付いてなかったし。

 

 

 

「気付いてたんなら早く言うてよ!? ウチだけにしか見えない幽霊みたいなモンかと思うとったーっ!」

「いやスマン。てっきり見えてないのかなー、って思ってた」

 

 

 

 そういえば、実際の幽霊であるさよちゃんとも未だ邂逅してないのではないかな、3-Aの娘らの大半って。

 そのうち説明するか。見た目ネギ君の娘みたいな髪色になっているけど、まあ大丈夫だろ。

 

 

 

「うう~……、そ、それで、これはなんなん? これが出るたびに、周囲の男の人たちが凄い興奮してるみたいで怖いんやけど……」

 

 

 

 へー、もう性質を理解しているのか。意外に観察力あるな亜子って。

 真っ先にスタンドの所為だって思う、というより自分がアイドルみたいに扱われていた朝の風景が信じられてないんだろうなぁ。

 

 

 

「とりあえず名前だけでもつけてやろうぜ。制御法はそのあとで教えてやるから」

「いや、その前にこれが何なのかを教えてほしいんやけど……」

 

 

 

 おっかなびっくりな亜子を放置して、亜子のスタンドを見やる。

 意外と女性型には見えないのは胸部装甲(意味深)が薄い所為かもしれない。スレンダータイプ、なのだとは思うが、透け過ぎていて見えづらい。実態を得るためのエネルギーが足りてないのか?

 配色は金と黒。獅子を思わせる配色……いやむしろ牙狼?

 

 

 

「ライオンキングとかでどーだ」

「ネーミング酷っ!? ぅああ、もうそうとしか思えなくなってもうたー!?」

 

 

 

 改めて己のスタンドを見直して絶叫する亜子。

 そして実体化するライオンキング(仮)。

 命名が無駄に洗練された瞬間であった。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「マスター、朝です」

「………………」

 

 

 

 ……起こしにきた茶々丸に、無言のままに半目を向ける。

 察したのだろう、ため息をつくと昨日のように納得した。

 

 

 

「はぁ……。またサボタージュなさるおつもりですか?」

「………………うるさい」

 

 

 

 寝不足の頭のまま、一言だけ返して毛布を被りなおす。が、眠ることも出来やしなかった。当然だ。

 今の私の頭の中は、後悔でいっぱいだった。

 

 些細な切欠は全て源しずなの言葉に踊らされたことなのだろうが、あの結果を引き起こしたのは私自身の配慮の足りなさが原因だ。

 私の弟子であるそらのことを私がどれだけ知っているのか、そんなことを言われたような気がする。源しずなが魔法関係者だったことには気づかなかったが、そんなことよりもそらが私に心を開いていないのではないかと、挑発みたいな言葉に気を取られたことが間違いだったのだろう。

 私はよりにもよって、アルビレオ=イマにそらについて知らない部分を尋ねてしまっていた。

 

 私がそらについて知らないことといったら、精々が出会う前の幼少期に両親のことぐらいなのだが、それをわざわざ聞くというのも野暮だと判断していたはずだったのだ。

 結果は最悪。

 アルは何をトチ狂ったのか、そらと交流のある女子やネギの前でそらの過去を暴露した。

 それを知ってしまって改めて、聞いてはいけない事実であったのだと、私は未だに後悔し続けている。

 きっとあれだ、武闘会で女子中学生に腹パン一発で負けたことに、腹を抱えて笑ってやったことの意趣返しなのだろう。恐らくはそんな気持ちで私からの依頼を果たしたのかも知れぬ、アルの奴め。

 

 私とて、こんな身体になる前は両親の記憶もある。

 愛された記憶もある。

 愛していた記憶もある。

 そらにはそれが一切ない。

 嘘か真か前世があるとは聞いていたが、だからといって今世で肉親から疎まれていたことを帳消しにできるとは思えない。

 どういう気持ちで生きていたのだろう。

 どういう気持ちで死ななかったのだろう。

 私と出会って、どういう気持ちになったのだろう。

 

 そらは言った。

 私に対して「愛している」と。

 しかしその前にも言った。

 私が奴を拾い上げた理由を「気まぐれで暇つぶし」だとも。

 それは当時の感情としては当たっていたし、修正する気も無い。今は違うのだし。

 しかし、それでも言ったあの言葉には、本当に私の知る『愛』が混じっていたのだろうか。

 知りたい反面、それがあいつを更に苦しめることに繋がってしまうのではないか。

 そんな苦悩も、ここのところずっと続く。

 600年生きた吸血鬼で、不老不死の化け物で。

 なのに心の中を整理することも出来なければ、今自分の一番そばにいる少年の心に触れることもできない。

 治療の仕方がわからないからなのか。

 それとも他に理由でもあるのだろうか。

 

 ああ、また混乱してきた。

 まだ眠れない、本当にどうすればいいのか――、

 

 

 

『……マスター』

 

 

 

 ――遠くの方で、茶々丸の心配するような声音が響いたような。そんな気がした。

 

 

 




~惑星系美少女戦士
 月がお仕置きで火星が折檻、なのは有名だけど他のきめ台詞が思い出せなくってうろ覚え
 木星と水星が当たっているかどうかは、まあどうでもいいか

~柊 紅(ひいらぎ くれない)
 ネギマジ最後のオリキャラ。舞台装置程度の役割なので今後ともご本人が登場する予定は一切無い
 最強の魔女、などと呼ばれており、この世界線には存在していない安心院さんと侑子さんを足して二で割ったような性能を兼ね備えている。やべぇ
 しかしスキルホルダーとかそういうのではなく、どっちかというと製作系に資質は傾いている模様。こう、人外魔境的に

~4分の1の純情な優しさ【内服薬】(ウィッカンメディスン)
 和泉亜子のアーティファクト
 ナースコスだからと言って注射器である必要性は無い。手元に1瓶召喚できる、飲むだけで無敵に成れるアーティファクト。内包60錠
 一つ飲めば三回分の死因を無効化でき、以降その無効化した『死因』に対して一定時間の耐性が付く。4錠飲めば『十二の試練』を再現できる、簡易型ヘラクレス再現薬。但し内包している緩衝剤が一定量を超えるため、副作用によって薬の効果時間が切れても一週間は偏頭痛が続く。飲むときは用法用量を守って正しくお使いください
 某最強の魔女が作成した家庭用常備薬。飲むだけで概念付加が出来る薬品だが薬事法違反に抵触しているために販売されていない。これにはワルプルギスさんも苦笑い

~ライオンキング(仮)
 亜子のスタンド
 スレンダータイプだが一応は女性型。偽仮面ライダーみたいな姿かと幻視したそらが勝手に名づけたが、正確には実態が保たないてけてけなんだかダークライなんだかみたいな揺らいだ形質。配色は金と黒
 能力は『周囲の男性をケモノに変える』要するに性欲を迸らせるサキュバスみたいなもの。そんなスキルあったね、エロティックピエロだっけ?
 ちなみに命名には亜子は納得いってないご様子。モバゲーみたいな命名がご不満かと見た。くるぉえるうぇーるです!(巻き舌)

~エヴァ、独白
 なんだか微妙に形にならないのは寝不足による混乱のせい(断言)
 合わす顔がなくてこんなことになるくらいならとっとと会いに行けばいいのにー(白目)


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『カウントダウン3・夕』

柊さんのステマも終えたしそろそろオリジナルに本腰入れたいナー!と最近嘯く俺です
後半と言うにはあまりにもアレすぎる日常回


 

 今日も今日とて一日が終わる。

 収穫といえば亜子のアーティファクトが原作とは違っていたという部類ぐらいか。どうやって柊さんちに返しにゆけばいいんだ……。

 4錠飲めば不死身になれると謳うチートなんだかピーキーなんだか判別し辛い薬事法違反っぽい麻薬染みた一品、実質3分の1しか優しさ成分が配分されていないという某家庭用常備薬には敵わないとしても、ただ死ななくなるだけにしか思えないという実情を鑑みるに使えるのか使えないのかが判別し辛いわけでもある。これ原作より弱体化してね?

 そして4錠飲んで不死身になるなら5錠以上飲んだらどうなるのよ?と尋ねたところ、なんか無敵スターを取った配管工みたいな活力漲る状態で前世の自分に変身した、とかちょっと理解の追いつかない返答をもらった。というか試したのか。

 

 要するに逆玉手箱ってことですね。蔵馬さんチーッス!

 そんな風に結論付け、近いうちに魔界のオジギソウを亜子に操ってもらおうと期待しつつ自室へと戻ってみれば、先に戻っていたらしいネギ君に夕食へと誘われる。

 

 

 

「そらさんっ今日は外食しませんか? 僕奢りますよ!」

 

 

 

 いや、子供に奢ってもらうとか情け無いにもほどがあるだろう。

 奢りという言葉に惹かれたわけではなく偶には家族サービスでもしてやろうかという寛大な父親心を発揮した俺が手を引かれて外へ出たのだが、行き着いた先は超包子。本日の夕食は中華になるらしい。

 らしいの、だが、

 

 

 

「おお烏丸サン、来たのかネ。今日のお奨めは桃まんに小龍包だヨ。キミたちにはサービスで特性薬膳スープもつけてあげるネ!」

 

―身体が温まりますよ(ニコッ―

 

「………………」

 

 

 

 ――なんだか愛想の好い超りんと四葉さんに出くわして、困惑中の俺であったり。

 な、なんか妙に優しい気がするのは気のせいか?

 

 

 

「そんなことないヨ! 私たちの優しさは元から女神レベルなのは自覚しているところネ!」

 

―いつもと同じですよー―

 

 

 

 とりあえず四葉さんはフキダシで喋れるようになろうよ、聞き取り辛いし。

 なんだろう、何かいいことでもあったのかな。ネギ君が食事に誘うというのも珍しいし。

 

 

 

「とりあえず、奢ってもらわなくってもいいけどね。お奨めから戴いてもかまわない? あ、ネギ君も同じものでいいか?」

 

「えっ、あっ、はい」

 

―どうぞー―

 

 

 

 カウンター席に並んで座り、お奨めとされた桃まんを戴く。

 サービスだという薬膳スープを戴く。

 小龍包と豚の角煮と青椒肉絲を戴く。

 旨い。

 

 

 

「相変わらず美味いなぁ、四葉さんの料理は。あ、回鍋肉と麻婆茄子と蟹玉も注文していい?」

 

―歓んでー―

 

 

 

 久しぶりに来てみるものだ。

 上質な料理に舌鼓を打っていると、同じく注文した料理を目の前に並べられたネギ君が、なんだか呆気に取られた表情でこちらを見上げていた。食べないのなら貰うけど?

 

 

 

「そ、そらさんってそんなに食べるんですか?」

 

「少ないかな」

 

「いえ充分多いです。というか、そこまで食べてよくおなか壊さないですね……」

 

 

 

 幼少期の家庭環境のお陰で食い溜めというものが出来るようになっているからね。とは言わない。食事の席だし。

 が、ネギ君の台詞で超りんがビクッと身を竦めた。

 ……なんかあったか?

 

 

 

「な、なんにも無いヨ!? いやぁ! 烏丸サンは相変わらず健啖だネ!」

 

―見ていて惚れ惚れする食べっぷりですよね―

 

 

 

 やはり態度のおかしな超りんを怪訝に思い、小首を傾げつつも食事を再開する。

 新たに並べられた三皿に手をつけつつ、

 

 

 

「あとエビチリと牛のアレもお願いできるかな。あの辛いタライのやつ」

 

―歓んでー―

 

「まだ食べるんですか!?」

 

 

 

 驚くネギ君を尻目に、数分後にドドンと目の前に積み上げられる大皿エビチリに、牛肉の塊が木製タライにゴロゴロ詰まったとんでも料理。料理は勝負だぜぇー!カカカカカ!

 ひぎぃ、と呻いた悲鳴が横から聞こえた。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「うわ、何してんだお前等」

 

「は、長谷川さーん、助けてください~!」

 

 

 

 タライから肉の塊を小皿に取り分けつつ、ほくほくと頬張っていると夕餉を戴きに来たのかちうたんが現れた。

 泣きついたネギ君を見て驚いた声を上げた、というよりは彼の正面に並んでいる料理の数々に若干引いているご様子。

 

 

 

「ぼ、ボク一人じゃ食べきれなくって……うぷ」

 

「なんで注文したんだよ……」

 

「気付いたら並んでたんです……」

 

―てへぺろ―

 

 

 

 同じものを、と注文してしまった俺の注文と同じものをネギ君の正面にも並べてしまったらしい。四葉さんはお茶目だなぁ。

 そんな四葉さんの茶目っ気に口の端を引き攣らせつつ、ネギ君の横へと座る長谷川さん。

 どうでもいいがさっきから背後で注文を取っている超りんの方から視線は来るのだが、微妙に声をかけようという様子がない。なんだろう、やっぱり何かあったのか?

 

 

 

「まあ、夕食代浮くから貰うけど……。これ凄い量だぞ。特にタライ。……なんだこれ、肉の塊?」

 

「牛肉を煮たのを山椒とラー油とで味付けしたやつだよ。旨いよ?」

 

「ふーん」

 

 

 

 小皿を取ってやれば、ネギ君の目の前にあるタライから少しだけ取り分けて食う。女子だし、やはり少食なのか。

 

 

 

「あ、美味い。なんつーか白米が欲しくなるな」

 

―炒飯なら作りますよ?―

 

「いや、いーや。

 ……とりあえずネギ先生は、他の皿から攻略した方がいいですよ?」

 

「ぐす……、そうします……」

 

 

 

 涙を流しつつ、一人分がきちんと用意されて残っている蟹玉と青椒肉絲と回鍋肉と、大皿のエビチリの攻略に取り掛かるネギ君。

 あまりの美味さに嬉し涙が止まらないご様子である。

 

 

 

「そらも手伝ってくれよ、あたしだけじゃ絶対食いきれないって。これ」

 

「ん? そうなん? じゃーちょっと多めによそってくれ」

 

 

 

 言えばケバブの塊みたいな肉塊が、差し出した小皿にドンと乗る。

 まあ食えるからいいけど。

 異議を唱えないで受け取るとネギ君が小声で、

 

 

 

「い、いえ長谷川さん、そらさんはこれより多い量をもう食べてます……」

 

「え゛。……何処の禁書目録だよそれ」

 

 

 

 呆然とこっちを見るちうたんの目には、既に空になった小皿が。旨し。

 あと誰がグラトニーだ。

 

 

 

「そろそろデザートかな。四葉さん杏仁豆腐お願いー」

 

―甘味ゾーンに突入ですか?―

 

「ひぎゃー!?」

 

 

 

 ネギ君が絶望的な声を上げた。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 結局食いきれなかったネギ君の皿をほぼ俺が平らげて、三人で杏仁豆腐に舌鼓を打つ。

 甘味が別腹なのは世界の常識なので、まだ食えるんじゃねーかなどという文句は口にしない。四葉さんの料理は美味しいしね。

 

 

 

「一皿分だけで安心しました……」

 

 

 

 滂沱の落涙を見せながら、胃に優しいらしいフルーツ杏仁をゆっくりと咀嚼する薬味少年。こうして表現するとえらいシュールな光景に見える。不思議。

 そして三人並んで座っていると、家族の肖像みたいで微笑ましくも思う。口には出さないが。

 

 

 

―そうしているとご家族みたいですね―

 

 

 

 四葉さんも同じことを思ったらしい。良かった、俺にもまだ平和な感性があったんだ、と思わず安堵した。

 

 が、四葉さんの言葉に俺の周囲の何人かがビクンと身を竦める。なんぞ?

 

 

 

「よ、良し! 烏丸サンの食べっぷりに免じて今日は私の奢りとしてあげるヨ! 御代は結構ネ!」

 

「は? いやちゃんと払うよ。つかいきなり何言い出して、」

 

「わ、わぁ本当ですか超さん! さすが学生オーナーですね! 太っ腹ですー!」

 

「そ、そうだな! こんな大胆に優しさを見せられるやつなんてもう女神と呼ぶしかねーな! みんなで褒め称えようぜ!」

 

「「メ・ガ・ミ! メ・ガ・ミ!」」

 

 

 

 唐突に起こるちうたんとネギ君の女神コール。

 それに対して「ハッハッハいやいや」とまんざらでもなさそうな超りん。

 周囲のお客さんたちはついてこれずに全員が困惑の表情。

 なんだこのシュールな光景。

 

 

 

「なにネ、このシュールな光景ハ?」

 

「すいません超さん遅れまし――って烏丸さんっ!?」

 

 

 

 そんなところへひょっこりと現れたのは、古菲に葉加瀬と茶々丸の三人。

 クーと茶々はウェイトレスだったはずだからわかるけれど、葉加瀬は何故。

 そう疑問に思う間もノータイムで、葉加瀬は深々と頭を下げた。

 

 

 

「もうっしわけございませんでしたぁあああああ!!!」

 

「――何が?」

 

 

 

 あまりにもオーバーなリアクションに思わず思考の停止する俺がいる。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「――なーるほど、茶々丸の記憶領域を覗いたってわけね」

 

「なんかもう本当にスイマセンとしか、知るつもりはなかったんですよ? いえ本当に」

 

「ふーん?」

 

「………………改めてモウシワケゴザイマセン」

 

 

 

 魔法生徒としては見做されていなかった葉加瀬や超りんは俺の黒歴史を魔法先生方からは聞かされていなかったそうなのであったのだが、偶然にも茶々丸の記憶を調査していたら知ってしまったことにスゲェ罪悪感を感じていたらしい。超りんの本日の挙動の不振さの原因が、ようやく判明した。

 今更誰に知られたとしてももうどーにでもなーれ♪な我が黒歴史なのだけど、気になるのは俺に対する対応ではなくて、なんで茶々丸の記憶領域を今漁ったのかという部分だ。

 この世界線の茶々丸は人格形成のベクトルが原作とはまた違うあさっての方向へとメガ進化しているから、何某かの挙動不審や駆動系への不具合なんてのが引き起こされたとは到底考え難いのだが。

 

 その疑問にはご本人様が―とはいっても今現在ロリボディに化けて三つ子になっているのをご本人と呼ぶかは甚だ疑問でもあるけどそれは置いといて―快く応えてくれた。

 

 

 

「ここ数日、マスターはサボタージュしているではないですか」

 

「うん」

 

「理由は風邪とかではなく、思い悩みによる寝不足です。ベッドから起き上がれないほど沈み込んでいるマスターが不憫で何か良い解決案はないかと葉加瀬と超に質問したところ、吸血鬼の真祖が寝込むことに驚いたお二方は私の記憶領域を洗い直して原因を探ろうとしたらしいのです」

 

「重い悩みかぁー」

 

 

 

 体重とか? エヴァ姉は充分軽いと思うのだけど。

 

 まあ現実逃避はさておき、明らかに俺の事情に関することじゃねーのか。

 その暴露大会を参照して二人があの態度になったのを考慮に入れれば、そっちに連想できるのは割りと直通。

 自己評価高すぎるかね。

 

 

 

「かてて加えて、マスターは暫く誰にも会いたくない、とプチ引き篭もりの鬱病患者のようです。漆黒と白銀のブリュンヒルデが一転してまるで森久保、哀れなものですね」

 

「お前本当にエヴァ姉の従者?」

 

 

 

 自分のことはさておいて、こんなロボしか仕えていないエヴァ姉の周囲があまりにも不憫すぎる。何処で覚えた、プギャーと内心嘲笑っているようにしか聞こえない、そんなデレプロ仕込みの喩え方。

 あと森久保バカにすんな。

 

 

 

「しかしそうかー、暫く会いたくないかぁ」

 

「何か御用でもありましたか?」

 

「んー、あるにはあったんだけど、まあ大丈夫か?」

 

 

 

 明日辺りスタンド使い呼び出して別荘借りようかと思っていたのだけど、会いたくないと言っているところへわざわざ顔を出すようなKYをやる気はないし。

 仕方ないから別口で、と地理条件を見出して皮算用を弾き、遠方にてウェイトレスをやっているイエローチャイナに声をかけた。

 

 

 

「とりあえずバカイエロー、明日の放課後に綾瀬と一緒に来い」

 

「ム? 手合わせアルカ?」

 

「おー、それでいいから」

 

「「マジでっ?」」

 

 

 

 ん? なんか声がハモった?

 片方はイエローだけど、もう片方は……。

 

 

 

「――どした、ちうたん?」

 

「……いや、お前が自分から古と付き合うというのも珍しいなと思ってな……。

 つっても、勝負してもちょっと見ない間にすぐ負けるような結果が目に見えているけど」

 

「誰が負完全か」

 

 

 

 そうなるのは少なくとも武闘会での試合形式だけだと思うぜー。……そう、だよな?

 自身と古菲との実力の彼我をキチンと把握できているのか、少しだけ不安に思う今日この頃。流石にルール無用で全力(意味深)を出せば負けは無い、と思いたい俺である。

 

 それからはほぼのんびりといつものごとく。小太郎とか月詠さんとか明日菜とかこのかとかせっちゃんとか高畑先生とかが現れてラブコメなんだかバトルものなんだか判別できない展開へと発展したけれども、こんな日常は平常運転なので割愛させていただきたく。てゆーか帰って寝る!

 

 

 




~某家庭用常備薬
 半分が優しさで出来ているという謳い文句が有名な医薬品
 実際の優しさ成分が3分の1しか配分されていないというのは意外にも有名な話

~逆玉手箱
 裏浦島の無様な死

~牛の水煮・ラー油と山椒の辛味仕込みタライ仕立て
 超包子では『中華の覇王』印の一品が普通にメニューに並ぶとシンジテル

~グラトニー
 わたs禁書目録=大食いみたいな風潮は解せないんだよ!!!

~茶々丸朧四つ身分身の術っ!
 いや三つ身だけど
 以前に開発していた阿修羅モードを併用した三つの副電脳による並列操作。中身は全員茶々丸なロリ三姉妹。実験的にショートカットにしている新ボディなのだが保冷剤仕込みのミニスカチャイナで排熱対策はバッチリ

~森久保ォ!
 むぅーりぃー・・・


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『カウントダウン2』

前回のあとがき的な活動報告でのお詫びにと言ってはなんですがお色気成分を2割ほど増してみました
お楽しみいただけると幸いです


 

 ――烏丸そらは戦慄した。

 思わずそんなモノローグで出だしてしまいそうになる、そんな圧倒的な威圧感。

 殺気? 敵意? いいや、これはそんな攻撃的な感情じゃない。

 圧倒的なまでの――、

 

 ――母性だ……ッ!

 

 

 

「ふぅ……、まさか、またこの姿になるとは思わなかったわね……」

 

 

 

 口調すら変化したピンクブロンドの亜子(・・・・・・・・・・)が、己の身体を窮屈そうに抱き締める。

 身長、体格、部位、骨格、顔つき、ここまで変化すると最早完全に別人にしか思えないが、その声音だけは変化していない。

 変身した『亜子』は、中学生であったはずの肉体よりも一回り近く成長し、こぼれそうな胸部の谷間が本来生まれないはずのナース服で爆誕している。その様、まさに爆乳。つけているはずの下着は一体何処へ消失したのだろうか。

 元々短かったスカートはボディコンかと見間違う短さへとなっているのは、多分胸部が引っ張った所為で布が足りないのだろうなぁ。そこから伸びる脚が、というか太腿が眩しくてなんて素敵な不具合か、いいぞもっとやれ。

 

 そういった格好の相乗効果が俺の劣情を執拗に掻き立てるのですが……っ!?

 

 

 

「ふふ、そらくんもこういう姿ならやっぱり興奮する? 大丈夫、お姉さんが今からシテあげるからね……?」

 

 

 

 そんなことを呟きつつ科垂れかかってくる、オールピンクの爆乳お姉さん。

 俺も男なので、眼前にそんな豪華なものが居並ぶと、垂涎とせざるを得なくなってしまっておりまして。要するに、エロい。

 やべぇ、なにこれ逃げられないんですけど。

 

 お姉さんは俺の手を拾い、自分の胸元へと抱き寄せる。硬直したままの俺はされるがままに、その手は滑るように豊かな双丘の谷間へと挟み込まれる。

 ふくよかな膨らみに埋もれた手の甲から、クッションのような弾力性と滑らかな温もりが同時に感じられて、思わず硬直が解けた反動で手のひらが蠢いた。

 

 

 

「――ぁんっ」

 

 

 

 ――その声音でより急かされた俺の男性が蜂起したのか、覆いかぶさる格好になった瞬間に頭頂部に何かが振り落とされる衝撃がッ。

 クワン、という耳障りのいい音とともに、俺の意識はがくりと堕ちた。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「………………綾瀬も上手く扱えるようになったんだなぁ」

 

 

 

 目を覚ますとそばにあったのは金ダライ。

 俺の意識を落としたスイートトラップの正体は、綾瀬のスタンド・トリックオアトリックのトラップだったらしい。

 ネーミングがそのまますぎる気もするけど、絶対的に罠に嵌めるというスタンド能力は上手い具合に効果を齎して、俺の精神を冷静に落ち着かせる効果を顕してくれたようだ。感謝。

 

 そして視界の隅では、ピンクブロンドのままの亜子らしき『お姉さん』が件の綾瀬に正座させられていた。ぱっつんぱっつんのナース服の格好のままで。

 何あれシュール。

 

 

 

「まあ『変身』はともかく、アコもスタンドだっけ?それを使っていたみたいだし。説教喰らうのは仕方ないんじゃないかにゃー」

 

「ああ、なんか興奮したのはそれか。……性欲を自在に出来るとか、効果覿面すぎるだろ」

 

「でもそれが効果発揮するには少なくともアコに対して何かしらの意識が向かないと駄目みたいだ、ってそらっちさっき言ってたよね?」

 

「黙秘権を行使します」

 

 

 

 突っつかれたくない部分を突っ込まれ、ぷいっと裕奈から目を逸らした。

 

 土曜日放課後、6号を除いた俺との仮契約者と都合のついたスタンド使い初心者全員に呼びかけて、人気のない廃屋へと集合している俺たち。あれだ、原作でネギ君が別荘を使う前にエヴァ姉が人を集めていたと思わしき場所だ。多分。

 下手にスタンドを暴走させる前にと声をかけたものの、何故か俺が一人一人スタンドに対処することで扱い方を正しく導く、見たいな空気へとなっていた。

 亜子のライオンキングは最初俺に対して特に効果が見られなかったのだが、業を煮やした亜子が『薬』を飲んだら効果の幅が大幅にブれた。

 仕方なかろーもんあんなん! 男子ならアレに反応しなかったら最早EDだよ!

 

 つうかあのお姉さんって能無しの使い魔のあの人だよね、カトレアさん。格好はともかく容姿は完全にそっちにしか見えなかった。

 それ前世じゃねーよ。時系列的にはむしろ来世だよ。俺の覚えている限り放送期間はネギまの後だったはずだし。

 それともひょっとして、この世界線ではあの作品が過去に展開していたとでも言うつもりか。だとしたら舞台は火星だな。あそこも月は二つあるし。魔法世界の中世年代設定で実現していたりしてー。

 ……さすがに笑えない。

 

 変身した亜子は病弱であったらしいのだが前世の肉体は完治して、更にはステータスMaxで水と火のスクエアだとか聞いた。しかも魔法先生とかの扱う『普通の』魔法のように詠唱が要らなくて、ナースらしく診察棒を杖代わりに想像力と精神力で実現可能とかも。なんかそれぞれ水と火をどんな状況下でも出現できる上にそれらを分身みたいに形取らせて、しかもそれぞれの分身がそれぞれ個別に自分自身と同等の技量を持たせることが可能だとかも。

 最初の方専門用語多すぎて把握しきれなかったけど、とりあえず危険人物認定待ったナシなのは間違いないなと理解したわ。

 いやさ、今はまだ中身が女子中学生だろうから問題ないだろうけどね? 相応の知識と理解力と応用力さえ備えさせたら、一人で『軍隊』を作れる。個別に能力を持たせて規律的に行動させられるって、要するにそういうことだからね。怖いねー。

 も一つついでに言うと『水と火』なんて一見両極端な属性に見せかけて、突き詰めれば生命を維持することにすら応用利きそうな範囲の広さだよ。水は液体全般を掌るらしいし? 動物の体の8割が水分で占めるわけだけど、それ以前に人間みたいな哺乳類には『血』って言う代表的な『水』が流れているからね。血流操作とかで流れ方を逆にするだけでも人一人殺せるよね? 火だって怖いよ? いわゆる分子の振動を掌っている訳だからね。わざわざ火で焼かなくっても、超振動でぶつければ電子レンジでチンしたみたいに人体をぐずらせることもできるし。あとは、振動で大地を液化させれば地殻変動にも手を伸ばせそうじゃね? 土の属性無くってもアースクエイクで一網打尽が可能じゃね? 怖いわー。スクエアレベルの魔法使い超怖いわー。

 つうか魔法のランクで作品明言しちゃってんじゃないですかやーだー……。

 

 

 

「――で、いい加減にこの扱いを教えてほしいんだけどな?」

 

「ん? そらっちが逃げないように、とあとは魔法アイテムの実験?」

 

 

 

 じゃらり、と手枷を見せればさらりと暴露する、ミニスカポリスの格好の裕奈さん。起き抜けにその格好で現れるドッキリとか、今見ないよね。

 ――気付いたら裕奈に手錠嵌められてました……。

 

 つーか俺の仮契約相手は皆コスプレなのはどういう理屈? 俺のせいじゃねーよな? 元々仮契約ってコスプレみたいな部分あったもんな? 根源的な男性的な期待が形をとって顕れたとか言わないよな? 俺の無意識そんな情けない希望とか持ってないよな?

 あたしゃ認めねーよ!?

 

 

 

「茶々丸さんに調べてもらったんだけどさー、この『手枷足枷歩を阻む(うぉんてっどぼーい)』って男性相手だと絶対的に捕縛できるみたいで」

 

「それでかよ、さっきから外せないの」

 

 

 

 むしろ外そうという意識が向かない。

 触れちゃ駄目な代物みたいに思えて、若干行動に支障が出ているはずなのにどうしたって外そうと思えない。

 これって何処の聖骸布だよ。

 つか俺の精神干渉を阻むはずの障壁を突破しているとか普通に怖い。仕事しろATフィールド。

 

 俺のそんな葛藤を余所に、裕奈はほにゃらと微笑って、

 

 

 

「で、これがあたしのスタンド?らしいんだけど、人型じゃないんだね、スタンドって」

 

 

 

 ――胸の谷間から黒塗りのマスケット銃を引きずり出した!?

 ちょっ、そんなん挟まるような隙間じゃなかったろうに!?

 どんなんなってんだよ其処の女子中おっぱい!

 

 

 

「え、なに、そんなの入る隙間か? 四次元? 四次元なの?」

 

「おっ、きょーみ深々っ? そらっち、おっぱい気になっちゃう?」

 

 

 

 見る? とばかりに婦警的な格好のままにちらりと胸元を開くホルスタイン。ポリスが誘惑してんじゃねーよ。

 

 

 

「いや、気にしないことにするわ」

 

「えー、見てもいいのにー「それよりも!」

 

 

 

 なんか方向違う部分へディスカッションしそうになっていたので思わず声を上げる。亜子の変身で空気もって行かれているけど、本来の方向へとシフトせんと貞操がガチでヤバイ。気がする。

 気をつけろ俺、今日の目的思い出せ!

 

 

 

「それよりも、能力的にはどうなんだ。ソイツ?」

 

「あー、うん。見てくれたほうが早いかな」

 

 

 

 そう言って、空中に向かって引き金を引く。

 乾いた音と共に発射された弾丸は、天高く突き抜けてゆくのかと思いきや、旋回しながら裕奈の傍まで降りてきた。

 空中で静止している弾丸に、妖精のようなスタンドが張り付いている。

 

 

 

「これがあたしの『ガンズアンドローズ』、撃った弾丸を好きな方向へ飛ばしてくれるみたいで」

 

 

 

 ……いや、これ普通に凄いぞ。

 裕奈のスタンドは弾丸をただ掴んで留めているんじゃなくって、弾丸の回転エネルギーを静止させることなく維持したまま其処に留まらせている。つまりは銃撃の威力を低下させることなく、対象に至近距離で被害を与えることも可能ってことになる。

 武器には当然射程があるけど、銃器ほどそれが顕著になるのは先ず間違いない。弾丸がミサイルみたいな爆発物ならば射程は遠いほど戦術的には優位に立てるのだが、鉛玉のような『貫通力』に重きを置くものは射程が離れるほど威力が低下することは当然の理屈だ。しかしその射程を意味の無い程度に狭められるってことは、銃本来の持つ殺傷力をより遠距離でも発揮できるということ。しかも可能性の範囲だけども、旋回ができるってことは、ある程度は意識的に『操縦』が可能だっていうことだろ?

 これ、やりようによっては一発分の弾丸で、原作のフェイトの撃ってきた石化の針の散弾も対処できるんじゃねーか?

 

 

 

「名前の由来はこの銃に薔薇の模様が刻んであるからなんだけど――って、聞いてる? そらっち?」

 

「……聞くけど、これって何処まで動かせるんだ?」

 

「聞いてねーし……。んー、弾丸を完全に止められるまでは自在みたい。詰められる弾は属性も付けられる、のかな?」

 

 

 

 ってことは魔法の射手での応用も可能か。

 やだ、マジ怖い。

 避けた魔法の射手が距離を置かずに、直ぐに急旋回して背後から襲ってくるっていう手法も可能じゃねーかよ。亜子のアーティファクトが原作通りだったらクロックアップも戦術に含まれていただろうから、そこまでガチな戦闘が出来る女子中学生にならずに済んで良かったよホント。

 ……いや、この時点で充分に強い気もするんだけどね?

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「お前のスタンドは所謂“幻痛”を相手に与える代物だ。武闘会でアルビレオ=イマにコブシが通用したのは、要するにそういう理屈だな」

 

「ゲンツウ……? つまりドウイウことアルか?」

 

「スタンド自体に攻撃力は無い。現に、スタンドで岩をぶっ叩いても壊れなかったろ。岩は意識が無いから痛みを覚えない。逆に人間とかの生き物全般には有効すぎる性質を持ってるな。下手したらショック死するから、気をつけろよ」

 

「うむ、ワカタアル!」

 

「よし、わかったのなら――、

 

 ――先ずは俺に謝れ」

 

「スイマセンデシタ」

 

 

 

 ぺこり、と折り目正しく腰を折るバカイエロー。

 約束通り手合わせに近い形をとったのはいいのだが、コブシを往なした隙間にスタンドのコブシが狙って突き刺さってきて、脳みそがひっくり返るんじゃないかというくらいの激痛を久方振りに味わった。

 以前に敵性スタンドに腕ぶった切られたり、全身穴だらけにされたり、と死にかけた俺であるけれど、あんときは一瞬で通過性のものだったし、痛みを意識的に阻害する神経遅延を働かせるタイミングもあったから平気だった―いや、結果的に見れば平気というだけでそのときそのときに平然と出来たわけでもない―わけだけど、今日のこれはガチで死を覚悟しかけたよ。

 遺書用意するのが間違いじゃなかったと思った瞬間だったね。一撃貰って断続的に30分間、殴られた箇所をぐりぐりとドライバーで抉られているような感触と激痛が遮断できない状態で続くんだもんよ。もうマジで泣くかと思った。

 

 

 

「名づけてやる、てめぇのスタンドは『タイガーアンドバーニィ』な」

 

「ビ、微妙に可愛らしいアルな」

 

「名の由来は『兎のような無力に見せかけた虎の猛威。ってゆうか兎の皮を被った虎。相手がいっそ殺せと泣き叫ぶことを笑って眺め続けるサディストの如く』」

 

「悪意たっぷりの名づけアル! っていうか長っ!」

 

 

 

 それでも許す俺を寛大だと思え。

 いや、模擬戦の形を了承したのは俺だけどね。

 

 

 

「さて、これであとは明日菜だけだな」

 

「うん。……っていうか大丈夫なの? 辛いなら今度にしない?」

 

 

 

 ぽんぽん大丈夫?と母親の如く俺の身を心配する明日菜。平気だから。ちょっと小鹿のように立てなかっただけだから。

 ちょっと強がって大丈夫だと手を立てる俺に、未だ心配そうな目を向けたままの明日菜は、渋々と手札を開いた。

 

 

 

「アデアット!」

 

 

 

 そうして身に纏うのはラストダンジョンで着ていた原作のままの格好。その明日菜に一番ほっとしているのだから現状若干救えない。

 しかし手にしている得物は『造物主の掟』。あれっ、やっぱり安堵できない?

 

 ともあれ今は明日菜の背後にいる別の存在だ。

 それは、仮面をつけローブみたいなドレスで着飾った幼い少女のような存在。一見すると幼少期の明日菜に似ている気がする。

 

 

 

「………………戦えるの?」

 

 

 

 現状を認識した明日菜の言葉に、さぁー……?と全員が小首を捻った。

 とりあえずは、

 

 

 

「……動かしてみたら?」

 

「ん、んー……、動いてくれる?」

 

 

 

 明日菜の言葉に、若干渋々そうに手を上げる。

 ………………。

 えっ、それだけ?

 

 

 

「ど、どうしよう……」

 

「とりあえず名づけようにも、どんな性質を持っているのかが判別つかないしなぁ……。

 ともあれ、危機に反応するのが本来のスタンドの性質だから、いっそ俺と相手してみるか」

 

「ええっ、さっき戦ったばかりじゃない! 危ないことするんじゃないわよ!」

 

「加減もするし、そもそも俺のスタンドは明確な攻撃能力が無い」

 

 

 

 というわけで、出現させるダイバーではないインストールドット。悪魔みたいな服装の烏面の幻影がぬらっと現れた。久しぶり。

 

 

 

「捕縛」

 

 

 

 捕まえる意志で前へと進み、明日菜へと近寄ってゆく。

 う、と狼狽える明日菜の脇で、幼女型スタンドが小さい手を仮面に添えた。

 お? 何をするか――、

 

 

 

「――えっ」

「えっ」

「え、」

「ひっ」

「は」

「な」

「っ!?」

 

 

 

 ――全員が、息を飲んだ。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「――――えー、審議の結果、明日菜のスタンドは以降絶対的に『召喚禁止』、ということで」

「……異議なし」

「異議、ないね」

「異議無いアル……」

「異議ありません……」

 

 

 

 10分後、意識を保っているものの顔面蒼白な裕奈・アキラ・古菲・明日菜が俺の決定に賛同した。

 亜子と綾瀬はさっきまで狂ったように笑い、悲鳴を上げ、泣き叫んでいたのだが、今は落ち着いて、膝を抱えて敷地の片隅で不安に震えている。時折、何か呼吸なのか言葉なのか、形にならない声とも音とも取れぬ何某かをぶつりぶつりと発しているのだが、さっきまでの喧騒に比べればずっとマシだ。

 斯く言う俺とか、現在意識のある明日菜以外の面子は、件のアレと対峙したとき“ぽっきり”と対抗する心が折れてしまい、次々と膝から崩れ落ちて否定と拒絶の言葉を繰り返したり、何度も何かに許しを乞うたり、悲鳴を上げつつ母親に助けを求めたり、と発狂してしまっていたので、現状SAN値がマイナスにまで引き下がってしまっている二人を一向に笑えないわけだけど。

 ……今更ながら、何の理由で来れなかったのかは知れないが、風香とか6号とかの子供組みがこの場にいなくって本当によかったな。女子中学生の精神力でこの有様なのだから、見た目チャイルド且つ中身も幼い様子のあいつらだったらトラウマを軽く凌駕するレベルで再起不能になっていた恐れがある。

 ……スタンドの描写? 説明したくないよ、解説読め解説。あとがきで披露するからさ。

 ……止めろ止めろ、思い出させるな、アレがこっちを見ている姿を俺の脳裏に浮かべさせるな、虫か魚か判断のつかない空虚な目がこちらを見る、そこに見出せる感情が人のそれと決定的に別物であるとそれは語る、言い知れぬ形容へと変化したその姿は人を冒涜し尽くした化生の姿をありありと見せつけてただじっと佇むだけで俺たちの精神を逆撫でる、根源的な恐怖を思い起こさせるのか、それとも未知なる天の果てにある空虚を知らしめているのか、あの目がまぶたに焼き付いて離れない、夜には奴が這い寄ってくるのだと脳の何処かが警鐘を鳴らすのだ、ああ窓に!窓に!

 

 

 

「そ、そら落ち着いて! もうアレはいないから! もう立ち上がらなくても大丈夫だからぁっ!!」

 

 

 

 ――はっ!

 

 

 

「………………俺、今何か言ってた?」

 

「――ううん、ナニモイッテナイヨ?」

 

 

 

 アキラがハイライトの消えた目で乾いたように微笑む。イカン、こいつも逝ってる。

 誰かの声で気がついたと思ったのだが、どうにも明日菜っぽいな。件の明日菜へと視線を向ける。

 

 

 

「……何も言ってないけど、明らかに何か呟いてたよ……、もう今日は解散しない……?」

 

「ウム……下着も替えたいアル」

 

「クーちゃんそういうことは男の子の前じゃ言っちゃ駄目! ……いや、異論は無いけど」

 

 

 

 被害は尋常ではないらしい。

 うん、帰ろう。

 詳しいことは聞かないで置くから。

 

 一番被害の甚大な綾瀬と亜子をなんとか立ち上がらせて、肩に腕を回して帰宅する裕奈とアキラを眺め、明日はゆっくり休めと手を振りつつ思う。

 ともかく、これで明日菜の戦闘手段の一切が表沙汰に出来ないものばかりだと結論付いてしまった。

 アーティファクトは『造物主の掟』。

 スタンドは召喚不可の『フェイスフェイク』。

 ……原作なんかもう影も形も見当たらないよ!

 戦闘手段がロクに無いとか、昨今の作風に超逆らっていて逆に新鮮!

 今の状態で魔法界行くとガチで捕らわれのお姫様っぽくなるよね!

 明日菜ちゃんマジメインヒロインゥ!

 

 

 

「……戻ってきなさい、そら」

 

 

 

 ……現実逃避くらいさせてよ。

 

 

 





~カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ
 中の人繋がりで登場してもらいました本日のゲスと枠であるピンクの爆乳お姉さん。主人公であるピンクわかめ少女の姉だとか
 設定上どれだけの能力を所持しているのかがほとんど表記になかったので憶測の限りMaxに設定。しかし恐らく今後登場する予定はまったく無い
 あと能無しは禁句な?

~トリックオアトリック
 ゆえきちのスタンド。ネーミングが決定していなかったのでこの場にて発表
 方囲・定礎・結、で定めた区間を一つの箱庭としその中であればどのようなトラップでも設定できるとかいう何気にチートなスタンド能力。スタンド本体の攻撃力は無いに等しいが攻撃されても破壊されることはなく、そのダメージも本人には伝わらない
 破壊力:F スピード:C 射程距離:A 持続力:A 精密動作性:D 成長性:A

~手枷足枷歩を阻む(ウォンテッドボーイ)
 明石裕奈のアーティファクト。手錠の形をしており鍵と揃って6セットある
 元は魔法界にて男性性犯罪者を無力化して捕縛するために開発された魔法具。某聖骸布をモチーフとしており、女性にしか扱えないためにお蔵入りとなったメガロメセンブリア謹製の一品

~ガンズアンドローズ
 黒塗りのマスケット銃とそれに付き添う小型のスタンドで1セットな裕奈のスタンド。ちょっと改造したけれど元ネタ提供はナラヤさんですありがとうございました!
 作中でもそらが思考した通りに、一発の弾丸の回転エネルギーが途切れない限りはほぼ半永久的に貫通と銃撃を繰り返す。亜子のスタンドが原作通りだったなら意識を高速化させる薬の注入で包囲網を敷くことが可能なコンボが発生するところだった。ヤバス
 破壊力:B スピード:A 射程距離:A 持続力:A 精密動作性:B 成長性:不明

~タイガーアンドバーニィ
 虎柄でウサ耳の女性型、古菲のスタンド
 攻撃した対象に『幻痛』を与える能力。痛みは使い手である古菲の攻撃力そのままに、一過性のものではなく延々と断続的に染み渡る
 但し意識が無かったり、無生物だったりした場合には効果は及ばない。直接的な破壊性が無い対人用に特化したスタンド。実は意識を失うと効果が切れていたのだけど・・・
 破壊力:F スピード:A 射程距離:D 持続力:B 精密動作性:C 成長性:B

~フェイスフェイク
 明日菜もそうですけど新スタンド群のネーミングの元は昼寝猫さんよりのお便りを参考とさせていただきました。ありがとうございました!
 幼い女児のような人型で、表情の伺えない目と口だけが三角に穴の開いた仮面をつけている。一見すると何の力も持たないようなスタンド。その仮面を逆さに回転させるとその本性を発揮する
 圧倒的なSAN値の減少を伴わせて他のスタンドが出現することを封印させることが出来る。ついでに目の当たりにした使い手はスタンド能力で齎されている効果を消失、つまりはスタンド能力の無効化がこのフェイスフェイクの真骨頂となる
 但し直接戦闘に関してはまったくの不明。普通のスタンドとは一線を画す
 スタンドとは心の力である。心とは人の側面である。そして心とは一人の人間が独力で作られるような容易いものではない
 彼女の心の側面を形成するのは、彼女が生きてきた100年という冗長な時間の中で奪ってきた命の持つ悪意や絶望そして断末魔の悲鳴、それらを形作る負の集合意識がこの冒涜的な怪物を生み出した
 大きさは巨人の如く、焼け焦げた肉のような肌からは臭気こそ漂わぬもののその毒々しい配色が見る者に嫌悪感を引き出させる。人の姿を模していながらも蜘蛛のような節足動物に酷似した姿勢を執り、その姿勢により近づけようというのか手足は8本生えている。その全ての手足がそのまま人を掴まえ握ることを可能とした人の手のひらを模しているが、生え揃っている指の数はそれぞれ別々で5~10本の数が乱数的に長さもバラバラに伸びている。ぽっかりと開いた空虚な目は虫か魚のように感情を感じさせないが、その奥から覗いているものは紛れも無い悪意であり絶望であり闇よりも尚濃い混沌をありありと語る様ですらある。その瞳でじっと覗かれるだけで「まるで全身を羽虫が這いずり回るかのような」または「粘つく菌糸を躰の内側から張り巡らされているような」そんな言い知れない嫌悪感を醸す視線は一度目の当たりにすればもう忘れることは出来ないあの目があの目がこっちを覗く空虚な忘我を齎そうと狂うのを待つ背徳の瞳が待ち望む止めて止めてと啼いても啼いても追い縋るあの目は呼吸することすら許しはしない正しく生きる代償に魂を差し出せといあいあはすたぁふんぐるぅいなむふたぐぅんぐきはははははははhhhhh


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『カウントダウン1・午前』

非常に今更な注意事項ですが、この作品を読むときは心の許容量を広く持って「なんだそれwww」と所々作者を嘲笑いつつ読了ください


 

「……烏丸さん?」

 

「あ……?」

 

 

 

 日曜日、お嬢様にデートしようと誘われて街へと繰り出したのだが、先に出たはずのお嬢様は待ち合わせの場所には居なかった。

 代わりにというわけではないのであろうけど、待ち合わせ場所のファーストフード店にてカウンター席に座っていたのは、携帯電話を弄っている烏丸さん。何故かノーネクタイでのかじゅあるなスーツ姿を若干着崩した、無駄に格好の良い仕草であったのが目に付いてしまい私は思わず声をかけていた。

 

 

 

「せっちゃん? どしたこんなところで一人で」

 

「いえ、待ち合わせです。というか烏丸さんも一人じゃないですか」

 

「俺も待ち合わせだよ。というか、キミなんでスーツ姿なの」

 

「私はお嬢様の護衛ですから、動きやすい格好を」

 

「うん。普通に間違ってるな」

 

 

 

 何それ酷い。

 この人が私の人称をお嬢様と同じように呼ぶのはもう変更できないのかは、まあ置いとくとして。言われたからには私としても言っておきたい。

 

 

 

「そういう烏丸さんもスーツじゃないですか。何処のホストかと思いました」

 

「それ褒めてるの? 俺はこの髪になってから似合う服が無いからね。仕方なく」

 

 

 

 胡乱な目で睥睨されたが(ジト目、というやつだろうか)、続けて応えられた回答も酷い。着てくる服が無かったらスーツになるとか、一般人の感性だと先ずそうならないはずなのだとも思えるのだが。

 あと着ているスーツがスタイリッシュすぎて、益々日本人からかけ離れている気もする。少なくとも喪服とは併用出来なさそうだ。

 

 

 

「染め直したらどうですか?」

 

「髪染めに金かけるほど余裕無いんだよ俺は」

 

「……なんでその髪色に変えたんですか?」

 

「同室の奴に勝手に変えられた」

 

 

 

 なんでしょう、その不憫な話。烏丸さんってひょっとして男子部ではイジメられてるのでしょうか。

 ……あり得そうですね。あんな過去を抱えていたわけですから、迫害され続けた生き様を得ているのかもしれませんし。……私みたいに。

 

 

 

「……なんなら今度良い染料をお裾分けしましょうか?」

 

「? せっちゃんも使って……、あー」

 

 

 

 ……? 私が使っていることを疑問に思ったのでしょうけど、……なんで最後納得したような声を上げましたか?

 あれ? 私この人に自身の出生とか話しましたっけ?

 

 ふと疑問に思ったことを尋ねようとする、前に。

 

 

 

「――はい、もしもし」

 

「おま、今鳴ったぁ?」

 

 

 

 お嬢様からの電話に即対応すると烏丸さんが驚愕に目を見開いた。

 待たせるとかそんなことを、私がするはずがないでしょうに。何を驚いているのでしょうこの人。

 

 

 

『せっちゃーん、ごめんなぁ、ちょい用事が出来てもうたから、今日はそらくんにリードしてもらってええかなー?』

 

「――はい?」

 

「――は? おい待て明日菜、お前ひょっとして近くにいるんj、って切りやがったアイツ」

 

 

 

 お嬢様の得体の知れない台詞に困惑し、一瞬思考が静止する。すると烏丸さんもいつの間にか電話に出ていたのか、私みたいに困惑の声を通話相手へと向けていた。

 というか明日菜さんと待ち合わせていたのですか、この人。

 

 ――ん? 何か今妙な具合にパズルのピースが嵌まったような感覚が……?

 

 

 

「へいせっちゃん、なんか明日菜から今日せっちゃんのことエスコートしろって言われたんだけど、そちは都合つくかい?」

 

「――奇遇ですね。私もたった今お嬢様に似たようなことを言われましたよ……」

 

「「……何処で見ていやがる……」」

 

 

 

 互いに頷き、目配せして店内を見渡す。

 それらしい気配や人物は見当たらないのだが、間違いなく近くにいるはずなので早いところ見つけて問い詰めたいところなのだが。

 

 そんな私の心情を慮れるはずなのだろうに、烏丸さんは少し見渡した後ため息を一つ。

 

 

 

「ま、ぶらつけばそのうち出てくるだろ。デートしないかいせっちゃん?」

 

「――ふぅ、仕方ないですね。デート(疑似餌)しましょうか、烏丸さん」

 

「あれ、俺の想定している反応と違う」

 

 

 

 可愛かった頃のせっちゃんはどこへ逝ったの。等と失礼なことを呟きつつも、エスコートを忘れない烏丸さんに連れられてファーストフード店を出ます。

 失礼ですね、こんなに可愛いじゃないですか。

 って、こういう自画自賛はさすがにキャラじゃないですよね。自重しなくては……。

 

 なんだか誰かさんに随分と毒されていると思いつつ、囮捜査の始まりです。早くに出てこないとどうなるかわかりませんよー、私が。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「ほほー、なんだかんだ言いつつまんざらでもなさそうやなー、せっちゃんも」

「そうよねー。桜咲さんもいい加減に認めちゃえばいいのにね」

「というか、二人そろってあの格好で歩いていると下手なばかっぷるみたいや」

「スーツ姿でペアルックみたいで、お店での視線も凄かったわー。桜咲さんも目を引いてたのに、本人気づいた様子なかったわね」

「せっちゃんは『自分女捨ててますから(キリッ』みたいな部分も確かにあるんやけど、ふつーにかわぇえからなー。男装してもさすが美少女、誰や少年剣士とかいうたの!」

「すていすていこのか。居場所ばれるわよ。あの二人のことだからすぐにばれるだろうけど、せめて午前中くらいは二人っきりにして距離を縮めさせなきゃ」

「せやな。ほな変装用さんぐらすを装備して!」

「いきますか。尾行開始!」

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 なんか、明日菜とこのかが徒然嘲笑っているような気配が後方から感じる。

 ビバップな浮遊を感じている気分でもあるけど視線は向けない。最悪の場合俺の仮契約カードで召喚してやろう。

 

 本日は元々明日菜にデートに誘われていたわけだけども、ひょっとしたら最初っからこのつもりでせっちゃんを連れ出したのかも知れん。このかもグルっぽい。

 最後の晩餐的な意義も掛け合わせて楽しもうかと思っていたのだが、せっちゃんにとっては富んだ苦行となってしまったことを申し訳なく思う。スマヌ。

 

 

 

「で、何処に行きますか?」

 

「んー、普通に遊ぶか。なんかもうあの二人が我慢できなくなるくらいに愉悦してやろうぜ」

 

「異論ありません」

 

 

 

 本当にこの娘せっちゃんか? なんか俺の知っている赤面娘と若干違うのだけど。

 

 

 

「しかし、二人でこの格好で、ですか?」

 

「あわよくば私服も買おうかと思ったんだけど、正直せっちゃんのセンスは当てにならないからこのままで行こうぜ」

 

「失礼ですね! というかそんなことを言うのならご自分で見定めればいいじゃないですか」

 

「独り善がりな服選びほど信用の無いものは無いんだよー」

 

 

 

 女子の目、を期待していたのだけどね。この娘はそういう部分の鑑定眼は鍛えられてないと見た。

 

 というわけで、遊びの殿堂。

 

 

 

「ゲームセンターにやってきました」

 

「誰に説明してるんですか」

 

 

 

 別名でかい貯金箱。

 金食い蟻地獄でも可。

 

 

 

「せっちゃんこういうところって来たことある? というかキミ普通に遊ぶイメージが欠片も無いよな、カラオケとかすら徃かなそう」

 

「酷い肖像権侵害を見た!? 普通に行きますよ! カラオケくらい! ついこの間も私も行ってましたし!」

 

「そなの? 俺終始別の部屋に軟禁されてたから他の面子まったく知らんかったわ」

 

「なんですかその不憫な話……!」

 

 

 

 涙ぐんで声に詰まるせっちゃん。

 哀れんだ目を辞めろ。

 

 

 

「しかし行ったとして、……何を歌ったん? 80年代歌謡曲とか? 若しくは演歌とかをコブシ聞かせているイメージが先行してるんだけど」

 

「ですからそれ普通に失礼ですってば。私だってじぇーぽっぷとか歌いますよ」

 

「(なんか、発音が……)へ、へー、どんなの?」

 

「恋愛サーキュレーションを歌いました」

 

 

 

 なにそれ聞きたい。

 ドヤ顔で胸を張るせっちゃんに一瞬萌えた。ようやく俺の知るせっちゃんに会えた気分だ。

 

 

 

「ところで、わざわざ来たということは何かお目当てのげーむでもあるんですか? アイカツですか?」

 

「真っ先になんでそれが出るの……? いや、小耳に挟んだ最新次世代型の体感ゲームが出ているって話なんだけど、」

 

 

 

 倒置法で胡乱な目をせっちゃんに向けつつも、ちょいと視線を巡らせて、人気のありそうな筐体を探す。「あっ、烏丸?」

 余計なモンを見たので視線から外す。

 

 

 

「あの、烏丸さん? 今呼ばれませんでした?」

 

「気のせいじゃ「って桜咲っ!? なんでっ!?」……ちっ」

 

「舌打ちされた!?」

 

 

 

 驚愕に目を見開くクラスメイト。

 デート中に出くわすとは、不貞ぇ野郎だ。

 

 

 

「何してんだ、織村」

 

「いやお前こそ何してんだよ!? なんだその格好!?」

 

「人の格好はどうでも良かろうに」

 

 

 

 何故か居たのは級長の織村一夏。別名をワンサマーと呼ばれる無駄イケメンで。

 確か剣道部だったはずだから、それでせっちゃんと面識があるわけか。

 ちっ、まさか休日に知り合いに出くわすとはな。せっちゃんも運が無いなぁ、などと思考していると困惑顔のせっちゃんが斜め後ろからついついと袖を引く。ナニコレ可愛い。

 

 

 

「……あの、烏丸さん。お知り合いですか?」

 

「え」

 

「え」

 

「え?」

 

 

 

 ……えっ。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「」

 

「………………ナニアレぱねぇ」

 

 

 

 さすがは空戦の第一人者と言ったところか。

 センター内の巨大ディスプレイに転写されたせっちゃんの機体がぬるぬる動く。

 

 件のゲームは『IH【インフィニット=ヘクトパスカル】』と言い、空中戦専用対戦シュミレーテッドリアリティとかなんとか。要するに己の身体能力にて機体の行動を決められるゲームであるようで。

 俺もいいところまでは行けたのだけど、元来羽根のあるカラス天狗もどきには勝てなかったらしい。空を飛ぶ程度の能力&風を操る程度の能力を得ているかのごとく、空中での姿勢制御とかが万全且つ十全なせっちゃんの前ではぬるゲーに見える。

 ちなみに名前を覚えられていなかった現在絶句のあまり息してない級長も件のゲームを遊びに来ていたらしいのだが、ランキングでいいところにいたはずの彼を軽々と追い抜いて、全国トップにすら躍り出たせっちゃんを止められるものは多分もういない。世界番付一位二位に輝いていたCharlotteとかokiuraとかをすっぱ抜いて堂々のランキング一位をsettanが獲得した。名前の打ち込みは俺だが。

 

 

 

「……楽しかったかい?」

 

「堪能しました」

 

 

 

 むふぅ、と満足そうなせったん改めせっちゃんがヘッドマウントディスプレイを頭から外し、ゲーセンにしては大仰な筐体から降りてくる。

 そりゃああれだけ動けば満足だろうよ。

 どんがどんが沸いてるギャラリーとは対照的に、webの向こうの対戦相手であったCharlotteさんは今どんな気分なのであろうか。

 

 

 

「すげー、あんな動き人間にできるんだ」

 

「あれ絶対プロだよ。もしくはその道のSPとかだよ。格好もそれだもん」

 

「いや紗南、スーツ着た人がみんなSPだったらプロデューサーとかどうなるのさ。いや云わんとすることはわかるけど」

 

「というか片方の麻帆良祭で見たよ。映画出てた」

 

「あー、麻帆良かぁ。MAHORAならしょーがない」

 

 

 

 そしてギャラリーの端っこの方からなんだか失礼な女児の声が聞こえた。

 片方って俺のことか。そして麻帆良が非常識の共通標識みたいに思われているのは若干心外。

 なんとなくわかるけど。

 

 そっちがなんとなくだが気になるのはともかくとして、せったんがある一点に目を向けている。

 気付いて見てみれば、サングラスをかけた明日菜とこのかが下手糞な変装で連れ立っており、スーツ姿の変態にナンパされている姿が目に映った。

 途端に、

 

 

 

「――そこの変態ッ!! お嬢様に何をしているかッ!!!」

 

 

 

 跳躍するせっちゃん。

 跳び越えられるギャラリーの群れ。

 何処から取り出したのか長物の得物を振りかぶり、頭に英語の頭文字の被り物をしたスーツ姿の男性(?)にせっちゃんが急襲をかけたのであった。

 

 ……とりあえず、いい笑顔で近寄ってきている店の人から逃げる準備をしなくちゃな。

 

 

 




~ビバップな浮遊感
 どんなんよ、夜咄

~恋愛サーキュレーション
 せぇーのっry

~織村一夏
 実は再登場なそらのクラスの級長
 以前にIS関係ないと表記はしたものの、正しくはISの発展しなかった並行世界のパラレルな、いわゆる一つのワンサマー
 見たところcool系美少女剣士な刹那に懸想しており、朴念仁は患っていないご様子

~IH【インフィニット=ヘクトパスカル】
 空で戦うスタイリッシュ武装ゲーム。空中戦を予め体感している刹那に隙は無かった
 開発者は実際にこんな機械を作り出して宇宙開発に乗り出したかったようだが、観測できるのに掌握できない謎の粒子が大気中に介在しており、それに邪魔をされて機体の量子変換化が成功しなかったとかなんとかいう裏話。要するに謎の粒子は魔力素のことで、原因は大体魔法使いのせい
 むしゃくしゃした開発者は最終的にゲームに変えたらしい

~okiura
 izuruも下から数えると居るってよ


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『カウントダウン1・午後』

あくろばてぃっくシンデレラ劇場【変則版】


 

「カワイイボクが行きますよっ! 此処でドロー4ですっ!」

 

「残念読んでた。ドロー2」

「ふ、ふひ……、ドロー2……」

「え、えと、ドロー4で……」

「それじゃああたしもドロー2」

「甘いっ! ドロー2だよっ!」

 

「えっ、ちょ、えええっ!?」

 

 

 

 円環は流れるように、俺の直前まで次々と手札(カード)が切られてゆく。輿水から双葉へ、双葉から星へ、星から白坂へ、白坂から神谷さんへ、神谷さんから三好へ、三好から烏丸へ。

 そんな俺に捨てられた仔犬のように潤んだ瞳で見上げてくる輿水。俺が出したら当然の如くこの怒涛の連打を自身が受ける破目になってしまうのであろうから、こんなところで『カワイイ力(可愛いぢから)』とやらを発揮してしまうのも納得なのであるがさて、そこで俺の取れる行動というものも当然の如く狭められてしまうのである。

 

 

 

「――ドロー4×2だ」

 

「其処は手心を加えるべきじゃないですかねぇっ!?」

 

 

 

 輿水が途端に逆切れした。

 怖いわー、突然切れる昨今の若者マジ怖いわー。

 

 

 

「良いから引けよ。合わせて、ひのふの……24枚?」

「うあーん、これがまたスカカードばっかり……」

「色は、青で良いかな」

「えっ、ちょ、青色なんでか無いんですけど!?」

「そう。じゃあはい」

「引けと!?」

 

 

 

 難癖つける輿水に山札を指差すと泣き崩れる。

 ゲーム(勝負)はいつでも全力全開だよ!

 

 

 

「や、やった、ありましたよ! 8があったので別色に変えます! 此処で一気に枚数消費! 色は赤です!」

 

「んー、じゃあリバースを3枚。色は青」

 

「いやあああああああああ!?」

 

 

 

 双葉の容赦の無い追撃が輿水の精神力をガリガリ削る。この幼女マジ怖ぇ。

 そんな愉しいUNOに勤しんでいるところへ、扉の開く音が耳に届く。

 

 

 

「闇に呑まれよ!(お疲れ様です!)」

「おつかれさまですー」

「やみのまー」

「あれ? お客さん?」

 

 

 

 奇抜な挨拶と共に4人ほどの女性が入ってきた。

 その中には知った顔も。

 件の知った顔は、俺の姿を見つけて一瞬思考が静止したかのように、

 

 

 

「……なんで居るの?」

「え、未央知ってる人?」

 

 

 

 開口一番に失礼なことをぬかしてきたのであった。

 

 

 

「あー。ちょっとした事情?」

 

「ゲーセンでプロデューサーがスカウトしたんだよ」

 

「えっ、キミアイドルになるの? 男子だよね?」

 

 

 

 その場に居合わせていた双葉が端的に説明すると、即食いついてくるエドモンド(本田)。説明するのならば端折らずに細部までやって欲しいなぁ……。

 

 

 

「スカウトされたのは俺じゃないし、アイドルにもなる気はありません。今は所用で待機みたいなもんだよ」

 

 

 

 午前中の話になるのであるが。

 頭にPの被り物をした不審人物に目を付けられた明日菜とこのかに危機感を抱いたせっちゃんが突貫。

→寸前まで注目を集めていた彼女が暴れだしたことによりゲーセンに居られなくなり逃走。

→何故か一緒に逃走していた被り物のPがせっちゃんにも目をつけてアイドルやってみない?と交渉。

→興味はあるお三方の暇つぶしの保護者みたいなたち位置で俺まで付いてゆく羽目になる。

→真っ当な事務所であることをアピールするために見学会開始。俺は初めから興味が無いのでパスすると待機で放置される。

→半分やさぐれた気持ちで事務所に居るととある机の下から謎の歌声が以下略。

 

 

 

「――そうしてなんやかんやの後に意気投合した手持ち無沙汰ーズの俺たちはこうしてUNOに興じて輿水を苛めて遊んでいたっていうわけだ」

 

「ちょっと!? 今聞き捨てならないことを聞きましたよ!?」

 

「ヤベっバレタ、ニゲロー!」

 

 

 

 わー!と蜘蛛の娘を散らすかのように、思い思いにはしゃぎ出す無垢な子供たち。

 輿水はむきー!と口の割りに逃げなかった俺にぽかぽかとぐるぐるぱんちを噛ましてくる。おお痒い痒い。

 

 そんな俺たちの有様を見て、本田を初めとするお嬢様方4名は呆れたような声を上げた。

 

 

 

「……あー、まあ、無害なら別にいっか」

「良くないですよ!?」

 

「それよりよく輝子ちゃんと気があいましたねー」

「スルーされた!? ねえちょっと!?」

 

「あやつとは我と似た魔力を感じる……(な、なんだか妙な親近感を覚えます)」

「スイマセン神崎さんの言っている意味がわからないので処理しきれないんですけど」

 

「きっと奈緒が間に立ったんじゃないかな」

「お願いですから誰か反応してください……」

 

 

 

 ニュージェネレーション+1に口々にスルーされて輿水のライフはとっくにゼロである。

 ぽかぽかあたっくも鳴りを潜め、そのまま俺の胸で泣き出すちっちゃい娘。

 

 

 

「お前ら輿水のこと苛めるの止めろよ!」

 

「今 日 一 番 の お 前 が 言 う な で す よ お ぉ ぉ ぉ っ ! ! ! 」

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「いやー、遊んだ遊んだ」

「事務所で遊ぶのってどうなのと言いたいのですが。それは」

 

 

 

 神崎ちゃんとやらに微妙に期待したような目を向けられつつ、渋谷さんとか島村さんとか本田とかに応援してますとエールを送り、仕事ということで現れた180はありそうな大柄な美少女に小脇に抱えられた双葉が拉致られるのを目撃した少年Sはあまりの展開に暫く思考が追いつかなかったり。あれが噂のきらりんぱわー(物理)、か……。

 そんなこんなで遊んでいた面子が用事とか帰宅とかで次々と事務所から去ってゆく中で、暇があるらしき神谷さんと俺だけとなってる現状。未だに俺の連れであるお三方は事務所へ戻ってこない。待ち惚けである。にょわー……。

 

 ともあれ、実際神谷さんには頭が上がらない。

 渋谷さんの見越した通り、机の下のキノ娘とその悲鳴で爛々とした表情で隣室から飛び出してきたキタロー娘に挟まれて逃げ場が無い状況下で、一緒に部屋から抜け出てきた神谷さんと少なくとも顔見知りの輿水が緩衝材になったお陰で、恐らくはあんまり警戒されなかったのであろうとは思われるわけで。

 さすがに顔合わせ初で素である髪と肌に驚かれて、キメ台詞を要求されたのは頂けなかったが。キメ台詞とか俺持ってねーよ。これコスプレじゃねーよ。

 しかし、部屋から抜け出た後の二人からの感謝の言葉は一体なんだったのだろーか。

 

 

 

「プ ロ デ ュ ー サ ー ッ ! ! !」

 

 

 

 小首を傾げているとそんな怒鳴り声が事務所に響く。

 怪訝に思い、関係ないのに振り返れば、少女的な全力の威力で入り口をドバンと蹴破ってきた、ろりーたでばにーな小学生くらいの女児が怒りの怪鳥蹴りを俺目掛けて――って、おい。

 

 

 

「待て待て。なんで俺目掛けた貴様」

「!? は、はなせーっ!?」

 

「跳び蹴りの着地点を予測して手掴みでバニー姿の女子小学生を逆さ吊りにする贋作師……っ!?」

 

 

 

 ソファの向かいに座った神谷さんがなんか失礼なこと言ってる。

 俺は攻撃に対して対処しただけであるから、俺は悪くないよ、多分。うん。

 

 

 

「プロデューサーの仕業だろー!? なんだよこの格好! かっこいいのにするって約束じゃんかよ!?」

「お待ち女児。俺お前のプロデューサー違う」

「………………え、誰?」

 

 

 

 先ずは謝れ。

 

 

 

「晴、そちらお客さん。というかなんで間違えた?」

 

「えっ、事務所でスーツ着てるからてっきり中の人かと……」

 

「「中の人なんていないっ!」」

 

 

 

 神谷さんと声がはもる。

 思わず見合わす俺たち。

 ……わかってるねぇ。

 

 

 

「いやそのりくつはおかしい。……っていうか下ろしてください。あと突然蹴りいれちゃってごめんなさい……」

「うむ、素直に謝ったから許す」

 

 

 

 くるり、と反転させてひざの上に着座させる。

 されるがままに俺の上に座り込んだ晴ちゃんとやらは、何をされたのかわかってないご様子であったり。

 

 

 

「すげぇー、やっぱあんた贋作師だろ。なあなあ、キメ台詞言ってくれよー」

「ええー、じゃあちょっとだけ。――俺に勝てるのは、俺だけだ」

「それ違う人だよ!」

 

 

 

 どっ、と互いに笑う。

 いやでも俺の元の髪色黒だったし、これ間違ってなくね?

 

 

 

「え、えーと……、とりあえず、本当に誰?」

「あー、晴にはまだわからなかったかー。えっとな、黒子のバスケっていう漫画があってね、」

「そっちじゃなくって! この人! あと俺降りていい!?」

 

 

 

 あー降りちゃうのかー。

 ふわふわロリバニーとか何気に最高なのだが。

 

 

 

「ざ、残念そうな顔してる……。え、俺降りちゃ駄目なの……?」

「とりあえず新しいアイドル候補の付き添いの人。名前は烏丸くん、だっけ?」

「あんまり居座る予定無いけど名前だけでも覚えて行ってね。あとゆっくりしていってね!」

「最後の台詞は多分今の状況を言ってるんだよな……」

 

 

 

 律儀に降りない晴ちゃんとやらきゃわわ。

 

 

 

「えーと、結城晴です。アイドルやり始め、みたいな……?」

「その格好は?」

「なんか、写真撮るからってこの衣装で……」

 

 

 

 おおう、不満顔。

 思い出してしまったらしく、ひざの上で膨れて俯く小学生女児。

 お? 神谷さんからアイコンタクト。

 何とかしろ? 了解。

 

 

 

「しかしさっきのはいいキックだったなー。こりゃ将来有望なサッカー選手になれんじゃね?」

「おい、なんでそこ突付いた」

 

 

 

 神谷さんのツッコミはいりまーす。

 

 

 

「……そ、そっかな?」

 

 

 

 あ、あれー?

 意外な好評価に反応した晴ちゃん。ちょっと振り向きそうな首の仕草が衣装と相俟ってとってもせくしぃ。

 しかしそこに神谷さんのアイコンタクトが!

 続行? 了解。

 

 

 

「おう。俺サッカーしてるから。そういうこと割とわかるよー」

「マジ? 俺もしてるんだけど――」

 

 

 

 半分くらい嘘と本音とを混じらせて小学生を宥める。

 そんなちょっとだけ犯罪臭のするお仕事で、待機の時間は潰れていった。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「うお、せっちゃんかわいい!」

「かっ開口一番に何を口走ってるんですかっ!?」

 

 

 

 帰ってきたせっちゃんは見学だけでなく何某かの体験学習でもしてきたのか、誰かのステージ衣装みたいなものを着てがっつりおめかしして戻ってきていたのである。

 俺がそれに反応するのは当然の理屈。

 

 

 

「せやろせやろー? うちらも着せてもろたけど、やっぱりせっちゃんの可愛さをそらくんに見せんのは間違っとる思うてなー」

「とりあえず桜咲さんだけ衣装のまま連れてきました。もう今日はこのまま帰る勢いで」

「え? それ着てっていいの?」

 

「いいわけないでしょう!?」

 

 

 

 俺たちのボケ倒しに赤面したせっちゃんのツッコミが冴え渡る。

 そんな俺たちに近寄ってくる、被り物P。

 

 

 

「いやあやっぱり私の目に狂いはなかったなぁ。本当にアイドルやらないの? 勿体無い」

「やりません! 私は忙しいんです!」

 

 

 

 全員に尋ねたのだろうが、せっちゃんが代表してお断りの返事をした。

 ところで俺はそんな変態に一つ話があるわけで。

 

 

 

「なあそこのPヘッド、ちょっと質問があるのだけど」

「ん? なんだい?」

 

「――結城晴、というアイドル見習いに会ったんだけど。あの衣装はお前が選んだのか?」

「そうだが?」

 

「――せっちゃんの衣装は誰が選んだ?」

「私だが?」

 

「――あなたが、神か……っ!」

 

「何言ってるんですか貴方は」

 

 

 

 がっしりと神に向かって握手を要求する俺に、せっちゃんの冷徹なツッコミが突貫した。

 

 いやだって仕方なかろうよ!

 赤面せっちゃんを復活させた男だよ! これを神といわずして何を言うべきなのか!」

「口に出てますよ! あと神扱いしてるのに扱いがぞんざい過ぎです!」

 

 

 

 何はともあれ、この出会いが後のアイドル業界を巻き込んだ『桜咲せつな』のシンデレラストーリーの幕開けと「なりませんよ!!!」




~UNO
 ローカルルールかも知れんけど同じカードならば色違いでも一緒に出せる。今回は更にそれを変則させたドロー4の二枚同時出し。鬼かと

~謎の歌声
 きーのこのこのこぼっちのこー……ふひひ

~キメ台詞
 「別に、倒してしまっても構わないのだろう?」
 「――僕は悪くない」
 前者は対前川。後者は対輿水
 もっと早くにそらがこの事務所に関わっていたらそんな非情な展開が待っていたはず。どちらにしろ輿水涙目待ったナシ!さすがは腹パン要員だぜ!

~部屋から抜け出て感謝
 隣室ではホラー映画鑑賞会の真っ最中でした

~晴ちゃんきゃわわ
 おっきなおともだちが全力で大興奮するほわいとでばにーでふわふわな晴ちゃんの画像はググると割と直ぐに出てきます。マジで


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『カウントダウン0』

お待たせしました
ようやくネギまに戻れた気がしますが、
そろそろ終局です


 

「『ユキエイリ・シンドウシュウイチ、熱愛発覚!? 公共の電波で熱烈キスシーン!!』……? どっちが女?」

 

「いや、そいつら2人とも男だよ。片方は小説家で、もう片方はバッドラックってーバンドの」

 

「バッドラック……、あー、あれかー。

 ――へー、料理番組で床を突き破って土中から登場したユキエイリが踊りながら料理を作ってシンドウシュウイチを応援? 会場の熱気に中てられたのか踊りつつ2人が熱烈なキスシーンを披露したのをギャラリーが悲鳴と共に祝福。うん、わからん」

 

 

 

 名前を聞いたことのあるバンドと、何処かで耳にしたようなネームが目に付いたので新聞記事を読み込んでみた。けど、正直読むと余計に混乱するような内容が描かれていた。というか神宮寺が言うには男同士である2人のキスシーンが紙面の半分を埋めるような大きさの写真つきなので、でっかく取り扱っていればイヤでも目にするわ。

 教えてくれた神宮寺には悪いが、俺の理解力を超えた事情ってこの世界に結構溢れてるもんだな。と逆に感心させられた気がする。

 

 

 

「……一見すると2人そろって女顔っつーか整っているっつーか……。……写真だけだと性別逆での同性愛にも見えなくもねーな」

 

「色んな女子がこぞって悲鳴を上げたらしい。中には男子も」

 

「ファンが多いのか、どっちも。……大人しく交際することも許されない世界か、業が深いな」

 

「至言だなぁ……」

 

 

 

 新聞を隣から覗き込む敷浪と揃って頷き合う。

 若干この記事自体とは関係ない話題かも知れぬけれど、この2人はもうプライベートでもマスコミに憑いて回られることは必至だろう。日常生活で『業が深い』とかって揶揄されるようなキャラクターを維持しなくちゃならないかもなんて、芸能人ってタイヘンダナァ。

 

 

 

「他人事みたいだけど、烏丸も割かしそういう部分あるから気をつけたほうがいいんじゃねーの?」

 

「なんでよ。俺は有名税なんて支払うつもりは毛頭ねーぞ」

 

「有名人であることに間違いはねーだろ」

 

「それ何処情報?」

 

 

 

 疑問の声を上げると、「わかっちゃいねぇぜこいつはよ」と神宮寺は欧米人のようにやれやれと両手を広げてため息をつく。イラッとむかつきすぎて殴り抜きたい衝動に駆られた(ダブルミーニング)。

 

 

 

「級長から聞いたぜー、ゲーセンで桜咲とデートしてたって」

 

「そか。おしゃべりが過ぎるワンサマーくんには同性愛疑惑を抱かせて溺死させてやろう」

 

「それこそ今更だろ」

 

 

 

 えっ、そうなの?

 正しい報復を仕掛けてやろうかと思っていたら既に疑惑があったでゴザル。じゃあどういう報復が必要かなー、と思考しかけていたところへ。

 

 

 

「おはよー、って烏丸! 結局あの後桜咲とは何処へ――!」

 

「おお、来たなホモ野郎」

 

「早朝一番に罵倒されたっ!?」

 

 

 

 織村一夏改めゲイ山ホモ太郎と一文字も原型の残っていない改名をしてやろうかと画策している張本人のご登場に、自然と心がささくれ立つ。

 いつしか誰かが言っていた。笑顔とは元来攻撃的な表情であったのだと。

 そんな笑顔で新聞を投げつける。

 

 

 

「ホラ見ろ、お前がおしゃべりなせいでこんな熱愛報道をされた哀れな犠牲者がいるんだぞ?」

 

「え、ええー? それ俺に関係ないんじゃ、」

 

「バカやろう! この地球上で人と無関係な事象なんて一つとしてないんだよ!」

 

「それこそ話題から遠ざかったよな!?」

 

「無関係でないというならば、是非ともどうにか片付けて欲しい案件が一つ残っているのですが」

 

 

 

 人間だけが特別視される謂れなんて何処にあるの?って、何処かの人外が言っていたよね。わかるわ。

 と、朝っぱらからわけのわからないバカな男子校生会話を一通り楽しんでいたら、久方振りの茶々丸の登校に口を挟まれた。

 そういえば忘れかけていたけどこの主従、男子部に通学中のテストケースだっていう設定だったな。学祭以降教室で見てなかったから、最早なんだか懐かしくも思えてくる。

 っていうか茶々丸だけ? エヴァ姉は?

 

 

 

「そのマスターのことでお願いがあります」

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「――ふぅ、お茶が美味い」

 

「ふざけるなコラァッ!!?」

 

 

 

 現在時刻は朝の10時。朝定をやっている店に間に合うことができた俺とエヴァ姉は、遅めのブレックファストを楽しんだ後別のカフェテラスで優雅に茶を飲んでいた。

 飲んでいたのだが、落ち着く心を何処かへ置き去りにしてしまったのか、王蟲も画やというほどに心頭来たエヴァ姉がテーブルを幼女の力で叩きつける。鎮まりたまえー、テーブルは壊れこそしないけど茶が零れる。

 まあ怒る気持ちもわからなくも無い。

 しかし俺としては、感謝されてこそあれど怒られる要素なんて特に持ってないはずなのだけどなぁ。

 

 

 

「私の知らないうちに従者を寝取られていたら怒りたくもなるわッ!! 私の命令でなくてなんでそらの命令をあいつ等は優先したんだ!?」

 

「あー、そっちかー」

 

 

 

 茶々丸に、エヴァ姉が引き篭もり一歩手前くらいの割合で病んでる、っていう旨を受け強攻策を取ってでも回復の兆しを見せてもらえまいかと依頼されたのが登校時朝(冒頭)の話。

 日取りも日取りのことであるし、思い立ったが吉日ともよく言うし、代返を頼んでエヴァ姉の部屋へと脚を向けた俺。そんな俺が見つけてしまったのは、実に病み入り一歩手前というか、ニート手前も斯くやと従者から評価されるのも已む無い、布団を引っ被ったエヴァ姉であった。

 

 俺はそんなエヴァ姉を心機一転させるために、先ずは風呂で丸洗いから始めよう、と茶々丸の妹たちである量産型メイド人形らに注文つけただけである。

 

 最大首領(ぐらんどますたー)であるエヴァ姉の健全なる精神を取り戻させるため、という事前命令も相俟ってか妹たちはエヴァ姉の止めろという命令を聞き入れず、実に細部に至るまでいい仕事をしてくれたらしい。GJ、妹らよ。

 

 

 

「いやよいやよも好きのうちですね、とか変な台詞まで仕込んだのは貴様か……!?」

 

「いや、それは知らんけど」

 

 

 

 茶々丸の仕業じゃねーかな。

 俺がエヴァ姉の部屋に、しかも普段着というかパジャマ姿であろう彼女に対面するのはどうなのよ、と苦言を呈したときも、「大丈夫です。お気に入りの服を毎日着るのは好きな人の目線をちらつかせるためらしいですから」って何処から収入したのか不明な理屈を口走っていたし。

 

 

 

「あとエヴァ姉が憤怒ってるのは朝食が洋食だったことだー、とついさっきまで思ってた」

 

「それはどうでもいいっ」

 

「洋食のぶれっくふぁすとの後が緑茶じゃ合わないんだろうなー、と」

 

「死ぬほどどうでもいいっ!!」

 

 

 

 むぅ、不死者に死を引き合いに出されるとはこれ如何に。

 未だに憤怒ったままのエヴァ姉だが、鬱一歩手前みたいな精神状態は解除されたらしい。先ずは身体を動かせば人間生きる気力が沸いてくる、ってバンコランが言ってた。要するに脳と身体を騙すわけなんだけど、何気に自分を騙すのが人生楽しむコツだ、ってとも。こっちは某コンシェルジュの受け売り。

 ともあれ、健全な生活へと無理やり逆転させられてのお子様吸血鬼は、某10歳のセレブ高校生みたいに下手な方向へは進んでいなくって若干の安堵であったりもする。

 そんな彼女はぷんすかといきり立ちつつ、まったくもうまったくもう、と食後の茶を啜る。なんか和んだ。

 

 

 

「で。そら、授業はいいのか?」

 

「まあこっちとしてもエヴァ姉にそこそこの用事があったんだよ」

 

「む、そ、そうか」

 

 

 

 テーブルを挟んだ状態で、さっきまで怒っていたエヴァ姉が少しだけ居心地悪そうな顔をした。

 ころころと表情が変わるなぁ、と俺としては未だに和んだ状態で、本題を切り出す。

 

 

 

「ぶっちゃけ、俺、今日死ぬみたい」

 

 

 

「――――――は?」

 

 

 

 いやぁ、無理無理。

 緊急回避決めろとか、生存戦略立てろとか、色々しずな先生には言われていたわけだけど、マジで俺には無理だわ。運命石の扉の選択を覆すための能力なんて俺には備わってないし、死因もさることながら死んだとしても、復活するような術式を開発するのも候補にはあったけど、正直根本的に乗り気じゃない。

 そもそも考えろよ。俺転生者だぜ? 死んだ人間をまた人生やり直させるとかって、正直人の手に及んでいい問題じゃない気がするんだ。むしろ一度きりの人生だ、と覚悟することこそが人間十全に人生を謳歌するコツなんじゃないかな、って最近ちょっと思いだしたし。この辺は平成漫画の問題点がネックなのかもなー。でぇじょぶだドラゴンボールがあるから死んでも生き返られる(キリッ、っていう有名な台詞は正直問題だらけだとも思うわけで。

 そんな益体も無い思考をしていたら、エヴァ姉の表情が呆然としたままから帰ってこないことに気付いた。まあそれはともかく、本題を続けようか。

 

 

 

「というわけで、遺産分配をしておこうかなーと思ってね。俺の『子』である人工精霊とか、エヴァ姉の封印術式の緊急解除法とか、あとは俺の持っている新呪文とか。腐らせるのも勿体無いから、エヴァ姉が保存しておいてくれないかな。好きに使ってもいいけどさ。あとは、」

 

「――なんでだ」

 

 

 

 正直俺の死因はともかくとして、日本の半分が焦土に化したという謎の因果関係。原因はこういう遺産分配をやっていなかったことなんじゃないかな、って思ったわけで。いや、正確に審議したわけじゃないけどさ、それくらいしか思いつかないんだよな。放置されたハチリュウとかが暴走したんじゃないかね、ってさ。

 そんな目論見で面倒見良さそうなエヴァ姉に話を切り出したのだけれど、……おーやぁ? なんかエヴァ姉、怒ってないかね?

 

 

 

「なんで、そんな簡単に自分の死を語れる……」

 

「んー、まあ、一回経験済みらしいし。死ぬんならしょうがないかな、と」

 

 

 

 その一回目の死亡自体まったく覚えてないから経験というにはなんかアレなんだろうけど。そんな暢気な軽い気持ちで語る俺。

 人間はいつかは死ぬのだし、覚悟とかしないと死ねないわけでもない。死なんてそこらに転がる代物、俺にとってはアフタヌーンティーを楽しむのとそう変わりないのさ。

 等とクロロみたいなことを思っていると、げきおこぷんぷんであったらしきエヴァ姉が沈んだ表情のままに俯く。うーむ、不死者には理解し切れん話だったのかなぁ。死なない存在のありようとか、正直よくわからんことだし。

 

 話が詰まってしまい、エヴァ姉が顔を上げるまでちょっと待つことに。こちらも黙って茶を啜っていると、遠くの方からなにやら喧騒が耳に届いた。

 居心地の問題もあってか気に掛かり、思わず首を傾げるように視線を向ければそこには、

 

 

 

「――ですから! いい加減落ち着きなさいと何度も言ったでしょう!? 更正しない限りはしばらくは刀禁止です!」

 

「後生ですからぁ、人を斬らせてくれるだけでええんですわー。ほらぁ、不死者のお人とか殺しても死ななそうなお人とか、麻帆良には仰山おるんでしょう?」

 

「良いわけがありますかっ!!! ああもう、なんでこういう癖のある子を私に預けたんですか学園長ーーーっ!?」

 

 

 

 なんか物騒な会話している刀子先生と、ロープでぐるぐる巻きにされて引き連れられている月詠の姿が………………、なにやってるのあの人たち。

 つーか本当に月詠だよ。今までまともに対峙したことなかったけど、そういえばアイツいつのまに麻帆良にやってきたんだ? 京都じゃ影も形も見なかったし、完全なる世界との邂逅フラグも無かったってことなんかね?

 

 

 

「――あ」「は?」

 

 

 

 刀子先生と目が合った。

 そしてそのまま気まずそうに目をそらす先生。

 ……あー、俺の黒歴史ってそういえばまだ消えたわけじゃなかったよね。

 

 

 

「ど、どうも。授業はどうしたんですか?」

 

「ちょいと所用で自主休講ッす。午後にはキチンとでますんで」

 

「午後では遅いのでは……」

 

 

 

 気まずくて話をしたくないのだろうけど、先生としての責務があるのだろう。なんだかんだで悪い先生じゃないんだよな、原作じゃへたれな部分ばっかり強調されてる気もするけど。

 そしてそんな先生とは裏腹に、月詠がちょっと昂ぶり過ぎていませんかね?

 

 

 

「――――あはぅ、先生ぇ、やっぱし刀くださいな。目の前にこんな上等なお肉転がっておったら、斬らずにはおられんのが人情ですえー」

 

「なにそれ物騒」

 

 

 

 こっちをちらっちら見ながらとんでもない台詞を口ずさむ月詠。あとお肉言うな。

 この娘はどうしてこんなになっているんですか、という意思を込めて視線を刀子先生へと。

 

 

 

「………………なんか、禁断症状みたいで」

 

 

 

 言い辛そうに、目線をあわせないようにそっぽを向きつつ応える刀子先生。現代には到底生き辛そうな生粋の人斬りが、此処にて市中引き回しの刑に処されていた。

 いや、人を斬るのに未だに刀を必要とする時点ではまだ安心かね? 世の中には無刀で人斬りが出来る人間もいると聞くし、武器さえ取り上げちゃえば平気だろう。……平気、だよな?

 そんなことを思いつつちらりと見る。

 

 

 

「刀~、刀~、あううう~」

 

 

 

 ――がくがくブルブルとアル中っぽく震えだしたメガネ女子。斬殺に依存性があるとか、この子ひょっとして村正の生まれ変わりとか? そんな隠れ設定持ってないよな?

 というか俺が標的っぽいのはなんでだ。

 

 

 

「本当にすいません。この娘何故か朝からこの調子で、一時間目に既にこんな状態が断続的に続いているので連れ出したところでして」

 

 

 

 ということは、一時間目は女子部3-Aは刀子先生の授業だったのか。今更ながら、なんの教科を教えているんだろう、この人。

 

 

 

「刀~、はぁう~、は………………ぁ、はっ………………っ!」

 

 

 

 立っていられなくなった女子中学生が荒縄に雁字搦めになったまま横たわり、ビクンっと一層身を捩じらせる。エロいと感じるのは、俺が汚れているのだろうか。

 なんというか、見てはいけない気分になってくる。もう刀の一本くらい渡したらどうよ。

 

 

 

「いや、そう簡単に渡すわけには、」

 

「でも、なにかしらで発散させないと一層危ない娘のままですぜ? 最低限リハビリとかもしないと普通の生活すらこの先危ういのでは」

 

「う゛」

 

 

 

 刀子先生が言葉に詰まる。心当たりがありすぎるのだろうなぁ。

 そしてそんな俺たちの会話が耳に届いたのか、月詠は恍惚とした表情のままに期待の眼差しをこちらへと見上げた。なんか器用な奴だな。

 

 

 

「貰えるんどすかぁ!?」

 

「……あげません」

 

「うう~、先生のイケズ~! 刀~、一本だけ~、さきっちょだけでええどすから~……!」

 

 

 

 御預け、を決め込む刀子先生。あれ、話がループしてない?

 

 

 

「――――そら、一つ、いいか?」

 

「ん?」

 

 

 

 ようやく何か言葉にするつもりとなったらしい。

 再起したエヴァ姉が、対面したこちらを見上げつつ尋ねてきたので、刀子先生らを放っておいて向き合う。

 

 

 

「自分をそこまで蔑ろに出来るお前の根本は、やはり『愛』を受けずに育った故か?」

 

「自己解析できるほど人間できてないのだけど。つうか蔑ろにはしてませんよー。どうしようもない事実の一つや二つ、この世にはあるってだけ」

 

『荒縄……、食い込む……、もがけばもがくほど……、硬く、堅く……、』

 

 

 

 表情の割には随分と一息に踏み込んだ質問をする。その辺りは彼女自身の癖なのかもしれないけど。

 しかし自身の中ではしっかりと答えとなっていることであるので、言えることは言葉にしておく。今日のいつ死ぬのかを具体的に把握してないしね。

 そうするとエヴァ姉は少しだけ言いにくそうに、言葉を続けた。

 

 

 

「……お前の事情を知りたいと思ったのは、私だ」

 

「ん? うん」

 

「その結果、あの古本に調査を依頼して、あの通りの結果になったことを、謝らせてくれ」

 

「いや、そっちは別に気にしてないけど」

 

『刀が無い、無刀、しかして斬れなしに非ずが儚き世の常……』

『何を言ってるんですか貴女は……』

 

 

 

 そっちも今更起こったことだし、正直一週間も根に持つほど腐っちゃいないし。

 つうか、さっきから後ろのほうが煩いな。

 

 

 

「そう、か。しかし、聞いてしまっておいてなんだが、ひとつ疑問が浮かんだんだ。

 ――お前は、本当に私のことを受け入れてくれているのかと」

 

「………………あー」

 

『硬い、だからこそ斬れる……、逆説的には。――つまり、刀が無くとも人は斬れる……!』

『その物騒な結論を止めなさい。――って、え!?』

 

 

 

 しずな先生にも言われたようなことを此処で聞くのか。今日のエヴァ姉は核心を妙に突くね。

 まあ本日で最後であるらしいですし、俺の本心を大サービスでぶっちゃけると、

 

 

 

「受け入れているに決まってるじゃない。家族だと思ってますともよ、俺は」

 

 

 

「――――――そう、か」

 

 

 

 大嘘だ。

 

 この世界は所詮漫画だ。俺は迷い込んだイレギュラーで、いつかは退場するのが絶対だ。

 それでも、愛着は沸いている。

 だからこそ今までそれなりに成果を出して、『原作』で解決されてなかったような問題を『どうにかする』手伝いでも出来ればいいかなと思っていたのが本音だ。

 自分が全部が全部まで手を広げられるとは思っちゃいないし、そもそも自分は万能じゃないし、目の届かないところくらいは普通にあるだろうし。

 でも、踏み出す勇気とやらが大事なことだと、魔法使いの誰もが言うらしい。

 俺は所詮その一歩目の手伝いでも出来ていればいいな、と。そう思って今まで生きてきた。

 ただそれだけのことなんだ。

 

 なんて、シリアスみたいな戯言をつらつら浮かべたけど、正直説得力も聞かせる気も無いので沈黙。男は黙って結果を出す。間違っても己の傷を白日の下に自ら曝け出してはいけない生き物なんですよ。俺自身は正直かなり手遅れだけど。

 

 エヴァ姉は当然俺の言葉に納得がいってないのだろうな。こちらの様子をじっと見上げて、内心を測り知ろうとしてくれている。

 それでもいいさ。どうせ今日でお仕舞いだ。

 …………でも痛いのはいやだなぁ……。

 

 

 

『――げて、逃げてっ!!!」

 

 

 

 唐突な刀子先生の叫びに、思わず振り返る。

 何事かと思ってみてみれば、

 

 

 

「――斬、る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬、る斬る」

 

 

 

 刀を持った月詠が、実にいい笑顔でこちらに踊りかかっていたところだった。

 ――いかん、逆説的に斬り殺される。

 

 

 

「――いやいや、只で斬られるほど安くは無いのよ。俺も?」

 

 

 

 体言、手のひらで握れば『掌握』出来る。振りかぶる刀を掴む姿勢に移り、寸前で刃が反されて手首を切り離された。

 やべぇ、こいつ普通に強い。

 

 

 

「――その首、もらいますえ?」

 

 

 

 瞳は白目と黒目が反転しているような、明らかにトリップ状態の月詠が微笑む。

 瞬間、狂化した月詠の返す刀が、己の首へと滑るように近づいて、

 

 

 

「――五月、蝿いッッッ!!!」

 

 

 

 ――バキィン、と氷の壁に阻まれて刀は折れて、その呆けた瞬間を月詠は氷漬けにされた。

 女子中学生の氷像がカフェテラスの真ん中にて展示される。っていうかエヴァ姉、封印はどうしたの?

 

 

 

「人が決断しようとしているところでごちゃごちゃごちゃごちゃと! 葛葉! この戦闘馬鹿をとっとと連れて行け!」

 

「――はっ、い、言われなくてもそのつもりです!」

 

 

 

 げきおこからまじおこぷんぷんにモードチェンジしたエヴァ姉の怒声に、現状に気がついた刀子先生が後片付けを始めた。

 どうも帯刀していた愛刀を奪われていたらしいのだが、おいおい大丈夫なのかよ魔法先生。思えば良いところを見た記憶がないなー、と物思いに更けそうになる。

 

 

 

「そら、手を拾え。とっとと治しにゆくぞ」

 

「え、あ、ちょっと待って、」

 

 

 

 そんな俺の返事を待たずに、俺の腕を掴んでこの場を離れようとするエヴァ姉。その顔はなにやら怒っている以上に思いつめているようにも見えたのだが、気のせいかね。

 待って待って、手首拾っておかないと。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 ああ、実に腹が立つ。

 死ぬことを簡単に受け入れているそらにもだが、そうなったその先を見通せなかった私自身にだ。

 

 言われて想定してみた。こいつが死んだ後、私が何をしようとするのかを。

 思考の末は、どうしたって暴走しかなかった。それだけの喪失感を『こいつの死』で想定してしまっていた。

 便利な駒だとも切り替えられない。そんな私に己の全ての技術を提供する? 遺産分配をするために今日私を連れ出した?

 こいつは本物の馬鹿かっ!?

 ついでにいうと私も馬鹿だ!

 

 要するに私はこいつのことを家族みたいに思っていたわけだ。

 従者ではなく、恋人でもなく、一番近くにいて当然の、大事な存在だと思っていたわけだ。

 たったの8年だ。タカミチよりも付き合いは短いし、ナギにしてもらったみたいな劇的とも言える何かも無かった。

 ただ傍にいた。ただの人間なのに、ただ普通に。それだけで、気を赦せる間柄になっていた。

 それをこの土壇場で知らしめられることになるとは思いもしなかった。

 布団に包まってうじうじ悩んでいる暇があったら、とっととそらに会いにいけ!と昨日までの私に言ってやりたい気分だ。

 というかナギには世話にもなったけど最終的に喰らったのは封印だったし、そっちを引き合いに出すのは何か違うな。うん。

 

 ともあれ、実際、話をしてようやく気持ちが定まった。

 それだけこいつが近かったのもあるだろうけど、それ以上に考えさせられるような大嘘をほざいてくれるこいつにも、多少は腹が立っているのも事実なのだ。

 ――目にモノを見せてやるさ。

 

 

 

「そら、お前はこの前も、今日も、言ったよな。私を愛していると、受け入れていると。言葉にしたな」

 

 

 

 私の家へと帰る道すがら、切り離された手首を自力で治したらしいそらへと声をかける。

 人の気配は無く、周囲は森。

 やるなら、今だ。

 

 

 

「あー、うん。言ったけど、」

 

「言葉にしたのなら、証明して見せろ」

 

「証明って……、どうやって?」

 

 

 

 簡単なことだ。

 あらかじめ用意してあった魔法陣が、地面にて発光する。オコジョのものじゃない、私自身が随分昔に、いつかのためにと用意していた謹製の一品だ。

 

 

 

「――エ、エヴァンジェリンさん? これって……」

 

 

 

 気付いたらしいな。

 だらだらと滝のような汗を流し、そらは身を硬くする。

 私はそいつの腕を掴んだまま、決して逃がすつもりは無い。

 

 

 

「私のことを愛しているというなら、この契約を受け入れろ」

 

「――本契約、じゃないっすか………………!」

 

 

 

 当たり前だ。小娘どもと同じと思うなよ?

 

 

 

 




本番はないよ!
エピローグは日付変わる頃に投下予定


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『エピローグ』

ほぼ連投です。前話から御参照ください
ともあれ、
ご愛読、ありがとうございました!


「――昨夜はお楽しみでしたか」

 

「昨夜でもねーしお楽しみでもねーし。っていうか帰ってきてたんなら引き受けてよ、この娘」

 

「いえ、そんな幸せそうなマスターを受け入れられるほど、私の心は広くありませんので」

 

「お前エヴァの従者だよねぇ!?」

 

 

 

 あの後、突然その場に現れた俺の仮契約の面々明日菜にアキラに和泉に裕奈、そして風香と綾瀬と古菲と、と茂みを掻き分けて顔を出した女子中学生らに問い詰められるまま。徒然なるように別荘へと足を運んだ俺たちを待っていたのは、足早にエヴァの屋敷へ出戻ってきた茶々丸のご挨拶であった。

 コンチキショウめ。微笑ましそうな顔(無表情)をしてこちらを眺めるガイノイドが実に小憎らしい今日この頃である。

 

 

 

「姉扱いは止めたのですか」

 

「ん、まあね」

「そら、手が止まっているぞ」

「ああ、はいはい」

 

 

 

 膝上に抱えた金髪幼女の長い髪をなでなでと、促されるままに手を動かす。静かに優しく、手櫛で梳かす感触が心地好いのか、エヴァはごろごろと喉を鳴らす猫のように、俺の肩に頭を傾けて目を細めていた。

 ――うん。どうしてこうなった。

 

 本契約と言葉にするのは一層妖しい響きに聞こえるかもしれないが、実際やったことといえば仮契約にプラスして結婚式の真似事みたいなママゴトくらいしかなかった。来賓のまったくいない結婚式の真似事は互いに互いを愛するという子供みたいな約束だが、そんなのでも契約は契約、足元で輝く仮契約陣を少々改変した本契約魔法陣は俺の了承を確実に汲み取ってしまったらしい。不満はないけど。

 誓いのキスをするところで茂みから傾れ現れた面々は、というよりも風香がここのところ色々暗躍していたらしく、正直忘れかけていた彼女の行動と良すぎるタイミングでその場に現れたことを問い詰めようと別荘まで連れてきたのが事の次第。というかお嬢様方、授業はどうした。

 

 

 

「そらっちの命がかかっているところで授業なんて受けている余裕ないよ。先生からは聞いていたんだけど、どうやったらいいのかなんてボクもぜんぜんわかんなかったしぃ」

 

 

 

 不貞腐れた様子で風香は言う。

 どうやらこの娘ってば、唯一しずな先生から直接協力を要請されていたらしい。とはいっても依頼されたのは俺の監視だったらしいが。

 確かに、風香のベイビィユニオンは俺でも感知しきれないスタンドだったし、俺自身に控えさせていれば何処までも見張ることが出来ていたのだろうなぁ。と思っていたのだが、

 

 

 

「土曜日のみんなの特訓、ていうか明日菜のスタンドの影響でボクのベイビィユニオンも剥がれちゃったし」

 

 

 

 思い出させないで。

 どうやら明日菜のスタンドは他のスタンド能力を完全に無効化できるらしく、俺の監視は日曜と今日とでまったくのフリーになってしまっていたらしい。

 その上で俺をようやく見つけられたと思ったら、視界同調で目撃したのは月詠に切りかかられる俺の姿。大慌てで教室を飛び出して、ついでに内的な事情に精通できるスタンド使いの面子を連れ出してきた。というのが、ついさっきの出来事であったらしい。展開のスピードが程よくて、まるで桜新町の独特な髪型の主婦のようである。財布を忘れて買い物に出かけるあの人のような。

 そんな事情を、エヴァの家へ行く道すがら肩車の状態で聞き出していたのが、エヴァ的にはご不満であったらしい。

 そこからようやく今に至る。

 

 家族、と俺のことを受け入れていると本人は言っているのだが、続柄がなんとなく姉弟よりは夫婦に近しく感じるのは気のせいではないのだろう。現に名前の呼び方も。

 姉と付けることを露骨に嫌がり、かといってキティと呼ぶのも正直嫌だといわれた俺。その果てに、ずっと昔に捨て去った本名を呼ぶことを許してやる、と古本さん以上の未踏範囲設定があざと可愛い。2人っきりでいるときはその名で呼べ、愛おしくな。と某拘束服の緑の魔女みたいな妖艶な台詞使いにはすこうしくらくら来た気がする。エヴァカワイイ!

 

 というか、何気に契約できないと思っていたのだけど。てっきり俺の障壁で無効化されるかとばかり。

 正しく穿つなら、俺の障壁はATフィールドと同等の心の壁だとそういえば誰かに分析されていた気もする。そう考えるとこうなった結果は、彼女のことを愛着以上に受け入れているということなのだろうなぁ。驚愕の結論にご本人がびっくりである。

 そんな愛着改め愛情を注ぎ、イチャイチャにゃんにゃんする俺とエヴァ。

 そして、そんな俺たちをにやにやと眺めている、明日菜を初めとした俺の仮契約メンバー。

 ……正直、静かなその対応が不気味すぎる。嫉妬とか、ないの?

 

 

 

「いやぁー、それにしても、これで磐石になってきたわよねー」

「せやなー、エヴァちゃんを受け入れたいうことは、体型には問題ないというても過言でないしなー」

 

 

 

 筆頭の明日菜と亜子が、なにやら逆鱗に触れそうな会話をしている。

 止めてやれよ幼児体型とか、見た目10歳なんだし仕方なかろうよ。

 

 

 

「他にも参入するのかな?」

「んー、あたしは正直これ以上は入るとそらっちの精力的にどうかなーって思っちゃったりするんだけど」

「せ、精力……」

 

 

 

 裕奈の言葉にアキラが頬を染めた。

 ――あっ、ハーレムか!? ハーレム計画のことか!? オマエラそれまだガチで狙っていたの!?

 正妻候補の明日菜が許可しているから他の3人もいっそ、みたいな空気になっているのか?

 やめてよー、俺宇宙人系美少女ヒロインに追い縋られるラッキースケベ系主人公とは別の人よ?

 というかそうやって俺を分割する考え方って俺自身の意思は何処へ?って聞きたくなるわ。

 

 しかし、エヴァの反応はというと、

 

 

 

「あ? 何を言ってるんだ貴様らは」

 

 

 

 和気藹々と語る4人に冷や水を注がれたのが癇に障ったのか、睥睨するように彼女らを睨み付けると鼻で笑って言葉を投げつけた。

 

 

 

「そらの主人は私で、私の所有者はそらだ。であれば、この先私がそらの周囲を管理することに、問題なんてないはずだよな?」

 

「――え?」「つ、つまり……?」

 

 

 

 あ、今まで一応は気にかけてたのね。

 俺の周囲に美少女がどんどん揃っていっても、基本的にノータッチだったのはそこを配慮していたのだろう。家族であっても色事には関わらない、とでもルールを自ら課していたのかもしれない。

 律儀だなぁ、エヴァは。

 

 そんな俺の理解と裏腹に、のっぴきならない現実に迫られたのかと、戦々恐々とした声音で続きを促す亜子と明日菜。

 アキラと裕奈はこっちに珍妙な表情を向けて、小首を傾げていた。

 

 

 

「――私の目の黒いうちは、ハーレムなんぞ許可するかっ!」

 

「「「「え、ええーーーっ!?」」」」

 

 

 

 ですよねー。

 

 

 

「ええー、ボクも魔法アイテム欲しいよー」

 

「そんなの坊やとでも契約しておけ。そらはやらないぞ」

 

「そらっちだからいーのにー」

 

「やらんと言っただろうが」

 

 

 

 不満な声で仮契約ガールズがブーイングを上げるが、エヴァはにべも無く払いのける。

 それでもその中でも、地味に食い下がるのが風香。

 なんだろう、6号といい、麻帆良に来る幼女系は無駄に積極的になる傾向にあるんだろーか。

 というか何気に俺がモテモテである。なんで?

 

 

 

「……割と落ち着いてますね、烏丸さんは」

 

「そりゃあ俺としてもハーレムとか元々望んでなかったし」

 

 

 

 ゆえきちの視線に平然と返す俺。

 束縛系な彼女ですけれども、これもまた自分にだけ愛情を注いで欲しいという気持ちの表れなのでしょうからね。俺としては不満などない。

 

 そう応えたのだが、ゆえきちは視線を外さない。

 まだ何かあるのか?

 

 

 

「あ、いえ、ちょっと烏丸さんのアーティファクトがどういうものなのか、気になったものですから」

 

「あー。じゃあお披露目しましょうかね」

 

 

 

 と、納得のついでにアデアット。

 光に包まれて手元に現れるは、一冊の本。

 うーむ、ゆえきちとか宮崎とかと同系統?

 

 

 

「本型のアーティファクトですか。お揃いですね」

 

「だな。さてさて、どんな中身かなー」

 

 

 

 適度に応えて書を開く。

 あとエヴァさん、こそばゆいので腕を抓らんでください。ゆえきちのお揃い発言に同意したことに何気に嫉妬したのだろーか。

 

 ぱらぱらとページを捲って、内容をざっと確認し、最後に閉じて表紙を見る。

 お、おおう、これはこれは。

 

 

 

「――エカテリーナ」

「っ、な、なんだいきなり! 2人っきりのときだけ呼べと言っただr」

「ありがとう!」

 

「――ぅ、あ、うん……」

 

 

 

 すげぇ! こんな最高峰のアーティファクトそうそう無いよ!

 思わず感謝の意味を込めて、超ハグる。

 恥ずかしそうに顔を背けちゃったエヴァカワイイ!

 

 

 

『あ、あんな笑顔初めて見た……』

『う、うん。まるでクリスマスにサンタさんからプレゼントをもらったと喜ぶ子供みたいに無垢な笑顔だったね……』

『そ、そらくんでもあんな顔するときあるんやな……』

『そらっち可愛い』

 

 

 

 外野がなんかうるさいけど、今の俺には通用しない。

 これでいろんなことが捗るかも!

 

 

 

「で、どんなアーティファクトなのですか?」

 

「おお、凄いぞこれ。『ラヴクラフトの書架』っつってな、5種の魔本を再現した上で俺の資質にブースト掛ける優れもので、」

 

「ちょっと待ってください名前の時点でヤバイ匂いがぷんぷんするのですがそれは」

 

 

 

 説明の途中で句読点なしで待ったをかけられる。

 むう、此処からが凄いところなんだけどな。

 

 

 

「と、とりあえず、SAN値がガリガリ削られそうな解析はともかくとして、そんな本を一体どんな人が用意したのですか? ラヴクラフトの年代的に見てそう古いものではないでしょうし、魔術分野を魔法使いが取り掛かるというのも違和感があります」

 

「あ、そこ聞いちゃう? 聞いちゃうかー。まあそう思うだろうなー。どうしようかなー、言っちゃおうかなー」

 

「果てしなくうざいのでとっとと説明しやがれです」

 

 

 

 やだ……、辛らつ……!

 

 

 

「元々は魔術師の作成した代物みたいだぜ? 著者近影に載ってた」

 

「載ってるのですか……」

 

「製作者は、『アレイスター=クロウリー――』」

 

「「――っ!?」」

 

 

 

 あまりにも有名すぎるネーミングに、エヴァとゆえきちの2人揃って表情が強張る。

 が、

 

 

 

「『――3世』」

 

「「誰!?」」

 

 

 

 意外すぎる暴露に、揃って絶叫するのであった。

 

 

 




※前話からの注釈です

~本文導入部分
 男子中学生の日常、なんつって

~お気に入りの服をry
 ちょっとフルムーン探してくるわ

~バンコラン
 美少年キラーの秘密捜査官

~逆説的にry
 陰険院さんのるきるき講座ー

~エヴァの本名
 IFで以前に書いたけど、エカテリーナ説を推すよ、俺は

~『ラヴクラフトの書架』
 『この世界』に現存する魔術師アレイスター=クロウリー・3世が製作した魔術道具。クトゥルフ神話を独自解釈した魔書であるのだけど、若干適当な出来栄えの魔術演算増幅器(アンプ)でしかなかったはずの本。それがそらの元へと召喚されたことでアーティファクトとして変質した
 3世は祖父であるアレイスターの残した『法の書』に匹敵する本を作りたかったらしく、中身は実在しない5冊の魔書『妖蛆の秘密』『ルルイエテキスト』『ナコト写本』『セラエノ断章』『黄衣の王』の断片的な解釈本でしかなかった
 ちなみに、3世自身は『ヘキサエメロン』と称される世界に6人しかいないとされる魔術師の一人であり、魔女っ子スタイルの銀髪少女であったりするのだが蛇足だろうか

~いつからハーレムエンドだと錯覚していた…?
 摩り替えておいたのさ!





これにて一応の終わりとなります
が、
蛇足がもうちょっと続きます


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『IFルート【その9】』

※注意!前回とは√の違う世界線です!
IFの6と7を読んだ後にお読みください


 

 船のタラップを降りると、想像していなかった風景に圧倒される。

 船着き場は海辺であるし、遠くのほうに見える街並みは近未来的な風景も魔法世界的な風景も欠片も見せちゃいない。何処かの外国の田舎に辿り着いただけのような、そんな異国情緒を感じさせるだけに留められた異界の街並みは、此処が『魔法世界である』とはまったくもって感じさせない風景であった。

 それより何より、此処に辿り着く経緯にも物申したい。

 

 

 

「……軌道エレベーターじゃないんだ……」

 

「当たり前だろ。そんな無駄なもん作るんだったら他に必要なものを用意するさ」

 

「……無駄?」

 

「無駄だろ。公転周期が違う惑星同士を繋ぐのに目に見える形で繋いだところで高が知れてる。距離を稼いで途中から魔法で転移する形だとしても、それならもっと効率のいい術式を用意すればことが足りるだろうしな。ついでに言うと、そんなもん作ったところで維持費もバカにならないから、使用者に莫大な料金を要求することになる。製作者側やスポンサーから搾り取るにも限度がある。そうなると使用できる奴は限られてくるから格差が生じる。元々それほど渡界にかからなかった無駄手間が生まれる。結果として要らん箱物のシンボルが出来上がるわけだ。他にもあるぞ例えば、」

 

「もういいよ! もうそれだけでおなかいっぱいだから少年の夢を壊さないでっ!?」

 

「お前がくだらないこと言い出すからだろ。ガ●ダムは夢であるうちが華なんだよ、実現すれば人類に限りなく『現実』ってやつを叩きつける『絵に書いた餅』さ

 つーか、何処から沸いて出たんだ?そんな荒唐無稽な発想?」

 

 

 

 公式の二次だよ。

 言わせんな恥ずかしい。

 ちょっと知っている原作との違いを発見しただけなのに、ちうたんにぼろくそに扱き下ろされたでゴザル。スマヌ、スマヌ……。

 

 ドーモ、読者=サン。近衛刀太デス。

 あ、いや正確にはその身体に憑依した転生者?みたいなカテゴリなのかも知れんけれど。今更ご本人様に主導権渡しても困惑されるだろうから、もうこのままでもいいよな。

 勝手な話に聞こえる?そんなこと言うんだったら返してもいいけど?返したところで人格が形成されてない可能性が高いから、最早時既に時間切れって感じだろうけど。

 もういいだろ。原作なんて欠片も生き残ってない状況で今更、右も左もわからない少年にお前が主人公だ、って丸投げするほど鬼畜じゃねーですのことですよ。

 俺が、俺こそが主人公だ……っ!

 

 ――いや、この公式二次で主人公にされても、だからなんなのよ、としか言えないわけですけども。

 

 何の話かとわからない方はログを遡って読んでみてくれ。

 読者くらいいるよな?神様転生したんだし、そういう用途での二次なんだろ?これもさ?お前だよお前、この文章を読んでいる画面の前のお前。お前らの妄想にされるがままになって動いている俺たちの人生なんて、どうせニセモqあswfjk

 

 

 

 

   『UQっていつ終わるの?(おいヤメロ』

 

 

 

 

 バイオグラフが振り乱した気がしたけどそんなことなかったぜ!

 

 馬呑吐に嵌められて『半死人』になったらしい俺を放っておけなかった、というか放置するのはまずいと感じたのだろう。俺の住んでいた田舎を丸ごと焼き払った張本人であるちうたんは、その首根っこを引っ掴んだまま火星へと渡る、と仰られた。

 つうか、あのデブのおっさん吸血鬼(吸精鬼?)は死体使い≪ネクロマンサー≫でもあるらしく、奴の住んでいた地域は基本的に住人全員が生きた死体≪リビングデッド≫とされるために焼き払うのが正解だとかついでのように言われた。ネギまの世界ってそこまで怖かったっけ。

 

 俺の思い出そのものがフェイクであったことに若干の寂寥を感じつつも、火星に行くということには少なからずwktkしていた俺。連れ出される理由はともかく、あのまま焦土の村跡に残されても途方にくれるしかなかったので、特に抵抗もせずに連れ出してもらった。

 軌道エレベーターなんて少年心を擽る代物すら幻想であったことはさておいて、最寄りの駅にてやってきたのは電車ではなく何処か古代に造船されたかのような雰囲気を持つ『箱舟』。銀河鉄道的にふよふよと浮上して俺たちを拾い、一瞬のうちに大気圏を突破する謎の飛行技術に驚愕する間も無く、次の瞬間には海上に出て着水した。

 そうして到着した水の惑星こそが開拓された火星である、と教えられて更にびっくりな俺です。つーか『AQUA』じゃねーかっ!

 

 

 

「ほ、本当にここが火星? 魔法世界なのか?」

 

「火星ではあるけど魔法世界じゃねーな。ムンドゥクスマギクスは大体100年位前に滅んだし」

 

 

 

 ちょっ!?

 なんか今すげぇ衝撃の事実をさらりと語りましたよ!?こちらの幼女さま!

 

 

 

「ほ、滅んだって、再生計画とかそういうのはなかったのかよ!?」

 

「だから、一回滅ぼしてから火星そのもののテラフォーミングが発布されたんだよ。邪魔な世界を剥がしてから下地を作り直す。普通だろ?」

 

「えー……。……魔法世界の住人は?」

 

「無論、一回『完全なる世界』へ回収してから選別したさ。元老院の老害とかは再生させられないまま魔力として世界樹に回収させてある、って聞いたな」

 

 

 

 り、リライトって現実世界人にも効きましたっけ?

 思った以上に原作の崩壊が進んでいてもう笑うしかない気がしてくる。先ずは原作との差異を把握したかったので質問することから始めたのだけれど、更に困惑する結果が待っていてもう本格的に帰りたいでござる。前世へ。

 それにしても思いっきりの良すぎる決断を下したものだ。ネギスプリングフィールドがやるにしてはシビアすぎる結末で俺の知る原作の子供先生とは色々違うようだけど、その結末なら原作でやったみたいに明日菜を見殺しにはしなかったのだろうから、少なくとも好感は持てた。

 

 クローくんに会えないのは少し残念だが、状況はとんとん拍子に進んでいるらしい。

 遠くの方へと見えていた街並みに辿り着くための交通手段はゴンドラであるみたいで、その辺まで天野こずえワールドを再現しなくてもいいんじゃないかってくらいにレトロで風情のあるネオヴェネツィアの街並みへと入り込んでゆく。

 そうしてしばらく水路を入り組んで進んでいった後に、途中の船着き場から陸に上がり、石畳の路地をすたすたと進んでゆくちうたんを慌てて追いかけた。道順を完全に覚えているらしき彼女とは違って、俺としては何もかもが物珍しい風景ばかりで、ちょっとばかり目移りしてしまう。お陰で付いていっているだけのはずなのに迷ってしまいそうになる。

 というか、すれ違う人の中に亜人っぽいケモミミとか褐色肌の子供とか角付きの幼女とか、なんか色々と十人十色すぎる人種がすれ違っていったのが目に映った。あれか、先ほどちうたんの言うてた『選別』とやらの結果が、この風景なのか。

 

 

 

「……随分と様々な人種がいるな」

 

「そりゃあそうなるために作った街だからな。人類の新天地じゃなくて、心の余裕を持つための世界が今のこの星だ。ただの人間が数を蔓延らせるためだけの土地なんて用意されてねーんだよ」

 

「あーそーかい……。つうか、ふと思ったんだけど今の総人口ってどうなってるんだ? 医療技術とか延命技術とかも発展してるんだろうし、亜人を含めるととんでもない数になりそうなんだけど……?」

 

 

 

 現状が幼女の姿だからか、彼女の言い分はかなりシビアで。むしろ一般人を若干排斥している節も伺えたのだが、まあそこは触れないつもりで話を続ける。

 ついでに気になったことを振ってみることにした。

 話題づくり、という意図しかなかったのだけど、ちうたんは歩を緩めることこそしないものの、少しこちらを警戒するような視線で見上げてくる。

 

 

 

「……お前と話しているとなんか変な感じだな。まるで100年前の誰かがタイムスリップしてきたみたいに現代の常識が欠如してるんだな、お前」

 

 

 

 ぐ、鋭い……。

 でも疑われるのも仕方がないか。

 

 

 

「こちとらあのデブのお陰で色々情報不足でね」

 

「あー、まあいっか。今の総人口は地球が32億、月が18億、火星が7億、金星は不明、ってところかな。亜人も含めて」

 

 

 

 ………………あれ? 100年前の総人口って70億くらいじゃなかったっけ?

 亜人含めても合計で57億……。減ってる!?

 

 

 

「お、俺の知る総人口より随分少ないんだな……」

 

「妥当だろ。まあ仮にお前の常識が100年前のものだと仮定するけど、その100年の間にも色々とあったからな。事件とか事故とか。大量虐殺をする馬呑吐みたいな奴だっているし、これだけ生き残っているだけでも充分だろうよ」

 

 

 

 最早開いた口が塞がらない……。

 確かにあのデブは大量虐殺の常習犯に見えたけれども、それにしたってあれ一人で13億もの人口を減らせるわけはないだろうから、やっぱり俺の知る以外の理由もあるのだろう。魔法世界人が全部で12億だったはずなのに、それが加わって減るとか何が起こったのかと問いただしたいところでもあるけれど。

 

 

 

「ネギ=スプリングフィールドは何をしていたんだよ……」

 

「あ?」

 

 

 

 思わず呟くと、今度こそ変な目で見られた。

 何を馬鹿なことを口にしているのか、という視線だ。前世でもよく向けられたからわかるわー。

 でも、理由が思いつかない。

 

 

 

「……? 俺、なんか変なこと言ったか?」

 

「……なんでそこでその名前が出てくるんだ? あ、いや、近衛の苗字だとすると近親者の可能性もあるから、可笑しくはないのか……?」

 

 

 

 ……そうだ、そこも聞きたかった。

 近衛家が断絶しているってどういうことですか?

 

 胡乱な目を向けられたまま、後は何も口にせずに突き進むちうたんを追いかけて。

 たどり着いたのはなんでもないような、街並みの風景にすんなり収まっているようにも感じられる、そんな一軒の家だった。

 

 

 

「さて、ここまでくればもういいだろ。アタシは帰るから、あとは任せた」

 

「は!?」

 

 

 

 リンゴーン、とベルを鳴らして出てきたそんな言葉に思わず、言葉だけ放ってそのまま立ち去ってゆく幼女様の肩を慌てて掴んだ。

 つうか返事も待たずに帰りますか普通!?

 

 

 

「離せよ」

 

「待って待って待ってちうたん! 知らない人相手に俺に何をしろと!? というか此処まで来たのでしたらご紹介くらいしていただけませんかねっ!?」

 

「めんどくせぇ。却下」

 

「おおぅい!?」

 

 

 

 置いた手を払い除けられて、そのまま進むちうたんに追い縋る。ちょっ、本気で帰る気だよこの人!

 

 

 

「お前をより詳しくスキャンしてくれる奴がそこに住んでるんだよ。正直、僵尸でも生者でも死者でもないお前の扱いなんて誰にも決め兼ねるのが現状だからな、どういう類なのかを己で知るのにもいい機会だろ? つかそれが目的で此処まで来たんだけどな」

 

「だからそれに為るのはいいとしましても! せめて紹介を! 俺が一人で此処にいたりしたら普通に不審者じゃないか!?」

 

「あー」

 

「そこは否定して!?」

 

 

 

 納得した表情で頷く、そんなちうたんにはちょっと賛同できないしたくない。

 それよりもなによりも、せめて一人は間に挟まってほしいなと、前世では人見知りでした俺が必死で焦っております。マジで。

 

 

 

「まあ、大丈夫だろ。一応はメールしておいたし、何よりお前の会いたがっていた奴がそこにいるからな」

 

「……会いたがってた、やつ?」

 

 

 

 気になる言葉と共に開いた玄関の扉から顔を出したのは――、

 

 

 

「――ふん、そいつが例の小僧か」

 

 

 

 ――真祖の吸血鬼。しかも幼女Verであった。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 ある程度想定はしていたけど、エヴァって火星に住んでたんだな。まぁ亜人とか普通に受け入れている社会が出来上がっているみたいだし、地球じゃ吸血鬼筆頭兼極悪犯罪者が大量虐殺してるし、住むところが限定されるのはある意味仕方がないことなのかも。“雪姫”というのはどうやら俺と原作者さんの幻想でしかなかったようだ。

 というかいきなり対面させられて大丈夫か俺! 相手は曲がりなりにも『悪の魔法使い』だぞ!

 いや、今もそのままとはあんまり思えない雰囲気だから、まだこっちも平然を装えているけれども。そんなことよりも原作知識を勝手に読み取られませんように、とさっきから必死で祈っている俺がいる。タスケテ。

 

 

 

「まあ、楽にしていろ。今家族は出かけていてな、帰ってきたら用事も済むさ」

 

「は、はい、了解しました……」

 

 

 

 家族ってどなた? 茶々丸とか? でも原作じゃ今の時期なんか茶々丸とも別れている、見たいな描写があった気がする。

 い、いや、忘れろ俺。あれは二次。公式の二次。今目の前にいるものに対応するには余分すぎる情報なんだっ!

 

 

 

「え、えーと、ちうさんからは、なんて説明受けてます?」

 

 

 

 アドバンテージがまったくない上に、無言でいるのも苦痛なので話しかけて話題を広げてみようと試みる。

 

 

 

「なんでも記憶喪失気味の半死者か僵尸もどきだ、とか? 馬呑吐に唆されて私のニセモノと一年ほど共同生活をしていた、とも聞いたな」

 

 

 

 うっおぅ……!

 ちうたん!? ちょっと暴露情報が偏りすぎてませんかねぇ!?

 

 あんまりいいイメージがもたらせられていないことを認識し、

 

 

 

「で? 本物と比べて、どうだ?」

 

 

 

 地雷級の質問を投げかけられましたっ!!!

 

 やだぁああああ! この人マジでどSだぁああああ!?

 自分とそのニセモノとの比較を目の前で検証させるとか! 下手な答えをしたら今後どうなるかわかったもんじゃないYO!

 なんで帰っちゃったのちうたん! そんなに俺といるのが苦痛でしたか!? だったらゴメン! 謝るからすぐに戻ってきてぇえええええ!?

 

 応えられずに顔を背けるのも限界になってきていた頃、玄関のドアが普通に開いた。

 

 

 

「ただいまー。あ、お客さんか? おいエヴァ、あんまり子供を苛めんなよ?」

 

「苛めていないさ、からかっていただけだ」

 

 

 

 そんな会話をしながら、普通に家中へ上がってきたのは、他ならぬちうたんで。

 つうか、普通にメガネの、大人Verの。

 

 ………………………………………………え?

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 あの後、雪崩れ込むように明日菜とかこのかとかせっちゃんとかアキラとか亜子とかゆーなとかのネギまキャラが“帰って”きて、目を白黒している間に知らない男子、というかアーチャーみたいなどう見ても転生者だろお前、な奴も帰ってきて。ちうたん(大人)の原作とは若干違うアーティファクトで俺の身体をスキャニングして調査されたわけだけど。

 ……なんかもう許容量オーバー過ぎて自分のことなんかどうでもよくなってきたな!

 魔法が使えない原因とか、俺がネギとせっちゃんの子孫だったとか、何故かこのかさんに殺されかけたりとか! 色んなことが起こりすぎてリアクションしきれねぇや!

 もうどうにでもなーれっ☆

 

 




~近衛刀太(疑問)
 膂力にブーストを掛ける身体強化術式が組み込まれた人工アーティファクト『天狗の大団扇』を核として埋め込まれた少年。発動は彼自身の魔力循環によって自動的に発動し、発動している限り他の魔法は扱えず、また彼を生かしている。なので、取り外すと死亡
 色々思うことはあるだろうけど、強く生きろ

~ちうたん
 ロリVerは電子精霊状態。大人Verは顕現英霊状態。それぞれが別個に存在しているのだが、敢えて己自身に遭遇しないようにお互いに無意識下での棲み分けを指向している模様
 アーティファクトは学祭時に烏丸と契約した世界線のもので、『力の王錫』とは別物。スキャニングに特化した代物らしい。あ、英霊状態での年齢はIFの7で登場時の年齢です

~神楽坂ご夫婦
 そらはランサー、明日菜はセイバー。なんだこの近接戦闘特化型最強夫婦
 そらが槍兵で召喚されたのは学祭時に帝釈回天装備したからでわかるとしても、明日菜が剣士なのが関係者各位未だに謎。多分別世界線の明日菜に準拠しちゃったんじゃないかね
 ちなみに二人とも学祭時、つまりは中学生時の姿で顕現中

~近衛ご夫婦…夫婦?
 このかの騎乗宝具として別個に召喚されたのがせっちゃん。乗り回すんだ(ベルレ…)! 生前では風乗配達人として火星を飛び回っていたとかなんとか
 こちらは火星に来てからの姿なので普通に大人。しかして、その姿でそらに度々迫る姿が目撃されるせっちゃんにはショタコン疑惑がご近所から浮上中

~アキラ・亜子・裕奈
 三人とも火星開拓時代現役時の年齢で顕現中。大体20代前半の若い身体
 アキラは元水先案内人の最長寿見習いとして今も現役。会社は『おれんじぷらねっと』で某オール捌きの天才の下に就いて修行中
 亜子と裕奈は何故かアイドルとしてユニットを組み活動中。三人組なのだけど、あと一人のウサミン星人と名乗る少女の実年齢は未だに謎
 
~ネギ
 彼が40くらいの頃にセクハラで退職したとかry
 別にこの世界線においては英雄でもなんでもなry



今更ですけど、続編投稿してます


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蛇足章・駄言遣い篇
『がんばれ笹浦さん』


ネギがいない。そらもいない。麻帆良のまの字すら出てこない超蛇足回
タイトル通りに主役はあの人ですが、設定だけ出ているお人らを登場させようっていう魂胆の駄文です
クロスとかいい加減にしろってみんな言うけど、俺は好きだ


 

 

 元関西呪術協会所属の式神使い。

 笹浦福次を表すなら、端的に言えばそんな立場の人間であった。

 だが、現在は関東魔法協会舞浜支部に半所属している、フリーエージェントに近しい立場の傭兵的式神使い。

 呪術協会を内側から瓦解させた、という客観的かつ一側面からしか見ていない実績を買われ、彼は協会を解体させるべく潜り込んでいたスパイであった、という誤りが独り歩きして、いつのまにやらそんな立場の人間として魔法使いらに友好的に扱われている。

 最近のそんな立場に、笹浦本人も少しばかりの懸念が浮かび始めていた。

 

 関東魔法協会の政府直轄支部、という事務所に通うようになって一ヶ月が経過した。

 笹浦には直接与り知らぬことであるのだが、この世界において魔法界は政治関連に結構な割合で手を広げている。

 神秘に准ずる人種であって然るべき、という魔法使いの暗黙の了解を破り捨て現世利益に基づいて行動し、現実社会の法律に則って歴史から爪弾きにされないように行動した結果である。

 であるのだが、その社会システムに入り込む際に、『魔法使いの実績が伴う解決』へと導く手順の大体が認識阻害の乱用だったりする。

 そんなことねーよ、魔法使いだって倫理観ぐらい備えているよ、そんな風に思う純朴な思考が悪いとは言わない。が、それではやはり甘いのである。

 

 この世界各地でもそれなりに反論凄まじい魔法協会なのであるが、一先ず日本においての事例を挙げよう。

 そもそもが設立からして、反対意見をものともせずに首都近くへと協会の名と実をつけた。古い歴史のある組織と思えるだろうが、設立自体は実は最近。

 日本支部の置かれている麻帆良学園自体は明治中期に設立されたのだが、その頃は西洋文化を大々的に取り入れたりすれば先進的と言えば聞こえは良いが国の性質上顰蹙(ひんしゅく)を買う。当時は『協会』などという題目も挙げられず、メガロメセンブリアすら形となっているかは怪しいところ。他にも彼の『連合』が優位性を声高に掲げようとも、疑問点と矛盾点が酷いので割愛とする。

 では『協会』は一体いつごろ出来上がったのだろうか?

 遡れるのは魔法界の『大戦』が収束した後くらいの時期、大体20年程度しか経っていない。それも古くても、だ。麻帆良に集中する人員の年齢層を鑑みるに、もっと若い組織である可能性も垣間見えるので、確実な証左のあるというわけでもないのが問題だが。

 その目的自体は、魔法使いの活動する土壌を日本にも用意する、という独尊的な理屈。元居た呪術系列の術師らを牽制するためなのか首都近くに日本支部を作り、関東近辺土着の術師らを排斥か取り込んだかそれとも攻め滅ぼしたか、まるで古くは日本書記に見られる混沌期の人種対立。

 話が逸れたが、そんな若い組織が現政府に取り入るのには、魔法の力が無くてはやはり形にならないのである。

 たとえその目的が、他の魔法使いを慮っての必要悪である、と自負したとしても、裏ワザ≪チート≫はやはり『卑怯』にしか見えないのだ。

 

 当然ながら、そんな組織だからそれを知る者たちからの目は冷たい。

 その裏ワザでもって得られた、他の部署よりもずっと間取りと広さと設備の充実した中々快適な支部執務室なんかへ足を運んでいると、時折鋭い目が笹浦にも向けられていたのであった。

 正直、胃が痛かった。

 

 

「(しかも俺自身は関東に完全に所属しているってわけでもないんだよなぁ……。まあ、友好的な関係を築こうって魔法使いらも言ってくれてるみたいだし、その点には感謝しているけど)」

 

 

 関西の協会が解体されて、フリーの術師となった笹浦には仕事が必要だった。

 抜ける際に近衛家から相応の謝礼は貰えたものの、大体が借金の返済で消失。しかも借金はまだ残っている。

 しかし、式神使いという潰しの効かない資質を持っているお蔭で普通の仕事に就く気にもなれず、かといって関西系列は彼を雇うことに忌避感が生まれるのは仕方のないことだった。

 そんな彼を救ったのが、冒頭の間違った実績を買った魔法協会なのである。

 元が組織人なおかげで、何処かに所属している、というだけで彼の不安はその時一時的とはいえ安らいだのであった。

 

 とはいっても、特別彼が能力を発揮して働ける仕事も、今のところは無いのだが。

 

 冒頭で言ったように、此処は政府直轄とはいえ舞浜支部。

 此処に所属する魔法使いたちの主な業務は、『夢の国でお客の気分を害さないように演出』することなのであった。

 

 

「(……まさかネズミの国が魔法使いの演出で成立していたとはなぁ……)」

 

 

 水兵姿のアヒルの着ぐるみで正体を隠した笹浦の傍では、国の主役が高らかに笑っていたという。

 ――ハハッ!

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

「……どうしてこうなった……っ!?」

 

 

 夜の王国≪ランド≫。

 帳も照明もすっかり降りた、『国』の総てが寝静まった丑三つ時。

 笹浦福次は物陰に身を潜め、見つからないように静かに呻く。

 平凡な日常を謳歌する、そのHomeの最たる庭であったはずなのに、一転して邪気と狂気に晒された最悪の戦場。

 知らぬうちに陥れられた、と頭を抱える笹浦は、共に隠れている他の魔法使いたちを尻目にしつつ『原因』を思い返す。

 

 

 話の元は、舞浜支部に『仕事』を持ってきた魔法協会の他支部の魔法使いであった。

 何処から仕入れた話であったのか。笹浦の所属する舞浜支部近辺に『闇の福音』レベルの違法魔法使いが潜伏している、という情報を引っ提げて、彼らは意気揚々と討伐へとやってきたのである。

 本物であれば多数の戦力が必要であるのは必至であるから、そうやってぞろぞろと引き連れてきた上で、舞浜支部の他の魔法使いに助力を乞うのも至極当然の流れになって然るべきであろう。

 偽物であったとしても、魔法使いが脅威を日本から取り除いた、という実績と箔を彼らは得られる。起こった事実は一つなれど、世の真実などは声がでかいものが騙ればいくらでも書き換わる。要するに“そういうこと”だ。

 

 仕事に不満はあっても、笹浦自身は現状には不満はなかった。

 揉め事は少なくとも荒事にはならないし、命の危機もなければ得られる収入で生活も何気に安定している。

 『王国』の裏方、という立場でしかないけれども。式神使いである、というプライドなんて働いているうちに心の自室のごみ箱に放り込んであるけれども。

 少なくとも、借金の返済に追われて食うにも困る生活をしていた時よりはずっと人間らしい生活だったので、他の魔法使いが『王国』の住人にこき使われるように魔法を扱っていることに不満を垂れ流していても、自分としては他の魔法使いみたいな愚痴を口にする気にはなれなかった。

 ちなみに借金の返済と一口に言ったが、其処にダークでシリアスな理屈や理由は隠れておらず、関東に来た際、競馬で摩って螻蛄(オケラ)となっただけである。来ると思ったのだが、ケンタウロスホイミ。と名前の神秘に引っかかったこの屑に同情の余地は、無い。

 

 話が逸れたが。

 現状に不満を抱えていた舞浜支部の他の魔法使いは、彼らの持ってきた情報に大いに沸いた。

 闇の福音レベル、なんて言ってもこの数ならば倒せると息巻いた。

 というか、『本物』クラスの魔法使いがこんなところにいるはずがない。どうせ名前を騙っただけの偽物であろう、と。

 情報の真偽を確かめようともせずに、勝利を確信していただけなのであった。

 

 これもまた笹浦の与り知らぬ情報なのであるが、件の情報を持ってきた者たちもまた現状に不満を持つ『魔法使い』であった。

 彼らは麻帆良に所属しておきながら、正規の教員免許を所持していないために非常勤扱いとなっている。出身こそ様々だが、魔法世界などの生粋の魔法文化に触れて育った『外様』である。中にはメガロメセンブリア出身の者もいたりした。

 魔法界にとって『麻帆良』というのは一種のステータスとなっている。そんなところへ派遣される彼らは、魔法使いの社会からすればエリートなわけである。

 しかし意気込んで現実世界へ渡ってみれば、寄越される仕事は魔法使いとしては特に必要とされていないものばかり。土地を守るために侵入者を迎撃する、という専守防衛ならばまだ良い方で、教師を志したというわけでもないのにやりたもない授業を興すことで己の時間も取られてゆく。生徒側もこちらのやる気のない内心を察しているのか、碌に授業を聞いているというようにも見えない。

 要するに、与えられる現実が納得のできないものばかりで腐っていたわけである。同時に、そんな仕事ばかりを押し付ける近右衛門に対するフラストレーションもまた募るばかりであったりもしていた。

 そんな折に与えられた、というか見つけてしまった、『魔法使いの本分』にもっとも適している、と思われる情報。そして仕事。

 無駄に気持ちは逸り、やる気になったままに千葉の房総入口へと足を向けたのは、何気に近右衛門すらも与り知らぬことなのであった。

 

 そんなわけで、魔法協会からはこれ以上の増援はない。

 日本支部の筆頭であり、責任者である近衛翁にすら連絡の行っていない事項。

 正義の魔法使い側からしてみれば「協会長の見過ごした大敵を討つ」という屁理屈だが、傍から見ても「手柄を独り占めしたいがために報告の義務を怠った」のは一目瞭然だ。

 彼らからしてみれば、「まさか敵わないはずが無い」という理由にもならなかった傲慢は、戦場が『興った』数分で覆されたのである。

 

 

「――ねぇ、お友達になりましょう?」

 

 

 ――ッ!?

 

 と、恐ろしい程に静まり返った広場に、楽しそうな少女の声が鈴の様に響く。

 思わず気づかれないように、笹浦は己の口を両手で塞いだ。

 

 こつ、こつ、と誰を探すでもなく徘徊する、彼女の服装は、夏場だというのに長袖の学校制服で、それが何処のモノなのかは詳しくない笹浦には窺い知れない。

 その上に、更にケープを纏った黒髪の、一見しただけでは何処にでも居そうな高校生くらいの少女。

 時期的に格好は暑そうなのだが、今の園内の気温は夏場だというのに酷く冷め切っていて、身動きを取らないままだとそのまま凍死してしまいそうなくらいに凍えている。だからこそ、逆に恰好が似合うようにも思えてくるのだが、その気温の低下が心理的に要因するものとしか思えないのは至極当然の連想の結実なのである。

 心理的要因の原因こそ、その彼女にあるのであるということも。

 

 

「こ、この化け物が、ぁぁぁああああアアアアッ!!」

 

「あら嬉しい、そちらから来てくれたのね」

 

 

 背後から魔法の射手を撃とうとでもしたのであろうが、一人の魔法使いが叫び声をあげた瞬間に『変質』した。

 ブヨブヨとした白い肉塊へと見る見るうちに変わってゆき、声に似た『音』を発しながら、だらしなく地面へと投げ出される。

 それきり、『彼』は動くことは無くなった。

 

 

「このままじゃ可哀そうね。カタチを与えてあげる」

 

 

 その白い『肉塊』に、少女が優しく語り掛けて手を翳す。

 距離があったのだが、いつの間にか近づいていた彼女が手を翳すと、彼は見る見るうちに『形成』されてゆき――、

 

 ――等身大のぬいぐるみのような、服を着た動物をモチーフとした『王国』の『住人』へと姿を変えたのである。

 思い返してみれば、『彼』は同じ職場で働く“同僚”であった。

 

 そのことに気づいた瞬間、恐ろしくなった笹浦は這い蹲って逃げ出した。

 気づかれないように、必死になって、影に陰に隠れる様に死角を進む。

 『変えられて』しまった『彼ら』に命が残っているのかどうかは、彼には与り知らぬことなのであった。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 ……おそらくだが、あれで魔法使いは全滅した。

 あの少女こそが、彼らの目標であった『魔女』だ。

 確か、魔法使いらから渡された資料には『十叶詠子』と、名前だけがあった。

 ……が、

 

 

「……は、はぁ、はぁ……っ、っくしょう……っ、捕まって、たまる、か……っ」

 

「――こんにちは、笹浦福次さん」

 

 

 ――……名前だけがわかったからって、何になるっていうんだ……。

 

 必死で逃げ切って、さっきの場所から距離を置いたはずの『国』の玄関口に、『彼女』が自然と佇んでいた。

 己の名前を知られていることにも、最早違和感は無い。

 

 

「なんなんだ、なんなんだよお前は……!」

 

「わたし? 魔女だよ。ふふ、ただの魔女」

 

 

 何が可笑しいのか、柔らかく微笑んで応えられる。

 瞬間、己の身体を寒気が襲い、ぞわりとした感覚に思わず我が身を抱きしめた。

 ――その指の隙間から、腕の肉が融解して蕩け出す。

 

 

「――うぁ……っ!?」

 

「すごいなぁ、笹浦さんは何か特別な自分でも持っているのかな? 普通はすぐに溶けちゃうんだ、この『魔女の森』では」

 

 

 分かっていたんだ。

 対峙した瞬間から、この世界全てが彼女の『領域』になっていたということが。

 

 

「自分を保てている人は簡単に崩れないで、新しい魔女になれるの。最近はそんなにいなかったから、ちょっとだけ嬉しいよ? 変わったら、すぐにわたしの『魔女団(カヴン)』に入れてあげるね」

 

「、ぃ、やだ……! 助け……、っ!」

 

 

 言葉の意味を理解できないが、絶対に碌なことにならない。

 そう確信できるのだが、抵抗感が減っていることに驚いて、必死で声を嗄らした。

 

 融解してゆくのは、己の身体だけじゃない。

 心と呼べる『ナニか』も、一緒にどろどろと溶けて行っている。

 そうわかるのは、あんなに悍ましかった筈の彼女の声が、次第に心地の良いものとなっているから。

 そう思えてくる、変化する己の心情に悲鳴を上げたいが、それすらもかつての己の声だったのかも、今の俺には判別は出来ず。

 

 ――誰にも看取られないままに、『自分』は此処で終わるのだ。と理解した。

 

 その時だった、

 

 

「――先輩、目に余りますよ」

 

 

 黒尽くめの服を着た少年と、臙脂色の服装の少女が、俺たち2人の間に割入っていたのは。

 ……何故か、枯れた草と鉄錆びのような匂いが芳しかった――。

 

 

 

 





~魔女・十叶詠子(トガノヨミコ)
 日本に点在する5人の魔女の一人。存在するだけで“異界”を発生させ、引き寄せた人間を『変質』させてしまう『魔女の森』を領域に持つ『異界の魔女』
 助かる術は基本的に皆無。呑み込まれた人間は『魔女』になるか『食事』になるか
 当然それらは比喩表現なので、変質した先が当人の希望に沿っているモノなのかどうかは誰にも分らない。少なくとも5人の魔女に匹敵するような正当な『魔女』へと変質した者は、今の所皆無かと思われる

~黒尽くめの少年&少女
 一体ナニモノなんだ…
 あ、この先登場はしません



誰もが予測していなかったであろう、実はクロスしていたのはあの話
でもさわりの伏線だけならちょいちょいありましたよ? まあその時はバララ●カさんの存在感に埋もれてしまった感じがひしひしとありましたけど
笹浦さん? さぁ? なんとか助かったんじゃないっすかね(適当)

お待たせしましたが時系列的に今の時期かな?という理由で更新した完全なる番外です
ちう凡、というネギマジZに連動する裏話的な意味合いで更新いたしました
あれ、これ本当にネギまの二次創作だっけ?と思った貴方へ。俺にもよくわかりません

この先2話ほど、このおまけ的な『駄言遣い篇』が更新される予定ですが、クロスした先が主体となって携わるのでネギまonlyでやれや、と言いたい方にとっては多分読まなくても平気です
そっちが欲しければちう凡かネギ恥へどうぞ
このスレッドとしては、一応は完結を見せましたので。百話に届かせるだけの穴埋めですから

しかし穴埋め目指すのがなんだか百物語的でちょっとだけどっきどきですね
少しづつ火を消して行っているのが己の命の火でないことだけを祈ります

……これが終わったら俺、魔法科魔王を放り投げてone-pieceをオリ主で書くんだ……
べ、別に魔王の構成で心が折れたとか、そんな理由じゃねーですし!


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『ふたりは百合キュア☆まっくすはぁと!』

名状し難きシンデレラ劇場
ひょっとしたらR-15かも知れやらぬ


 

 

『あ』

「っ――ふぁ……っ、ぐぅ……ッ!?」

 

 

 腹部へと突き抜けた衝撃に、輿水幸子はその場へ崩れ落ちた。

 内臓がひっくり返りそうな、まかり間違っても女の子へと『やっちゃダメ』な腹パンに抗議する間もなく、呼吸できないほどの衝撃に蹲るしか為す術は無く。

 

 

『スマンお嬢ちゃん。思いっきりやれって言われたから、つい』

「ふぉぉ……!」

 

 

 突き抜けて行った衝撃のお蔭で返事も出来ないが、マスクでくぐもった声で申し訳なさそうに謝る『戦闘員』にも怒るに怒れない。

 だってアイドルだもの。

 イメージって大事。

 

 

「――ってそんなわけあるかですよーーーっ!!! イメージ如きでこの怒りを表現できないならばそもそも“女の子”をやってられませんっ!

 ちょっとスーツアクターさん!何するんですか“女の子”にっ!いくらボクがかわいいからって簡単に許してもらえると思ったら大間違いですよっ!?」

 

 

 やたらと“女の子”を強調し憤慨する少女に、スーツの『中の人』はホッと胸をなでおろす。

 

 

『それだけ動ければ大丈夫そうだな。ナイスファイトお嬢ちゃん』

「なんでそこでサムズアップ!? もっとしっかり謝ってくださいよ!? ホントボク死ぬかと思ったんですからねっ!?」

『元気じゃねーかよ』

「悪びれもしていないっ!? あなた本当に大人の人なんですかッ!?」

 

 

 グッ、と親指を立てる中の人にマジ切れの形相で憤慨し続ける幸子。

 外跳ねの髪も抗議に連動し、ピコピコと跳ねて怒りを顕わとしていた。

 しかし、ぷんすかとコミカルにツッコミを入れるその様子からして痛みは既に感じてないご様子。

 あの分だと跡とかも残って無さそうで、2人のやり取りをカメラに収めていた現場の面子は内心ホッと胸をなでおろしていた。

 そして怒りながら、ようやく何かに気づいたのか、輿水幸子は己の腹を疑問符を浮かべながらさする。

 ちなみにどうでもいいことかも知れないが、今の彼女の恰好は実在しない中学校の女子制服だ。

 セーラー服が現場スタッフに懐かしさと寂寥感を感じさせるらしいが、本気でどうでもいい。

 

 

「……? あれ? そういえばもう痛くない……?」

『プロだからな。寸止めで済ませた。衝撃だけが突き抜けていっただけだから、痕も残っていない筈だぜ?』

「なんという無駄技術……。……? っていやいや、それなら痛くしないやり方でお願いします」

 

 

 一瞬感心しかけた幸子だったが、彼(?)のやった容赦の無さにやはり抗議を止めない。

 が、

 

 

『それじゃあ駄目だろう。お嬢ちゃんの腹パンというファンからの需要に応えてこそアイドル、だろ?』

「なんでボクの需要がお腹にパンチされることなんですかねぇ……っ!?」

 

 

 しれっ、と答えられた回答に、笑顔のままなのに青筋がぴきぴきと治まらぬ幸子。

 どうやら今日の収録も長くなりそうだ。

 

 

 

     ☆     ★     ☆     ★     ☆

 

 

 

 此処は某スタジオ。

 本日の収録は毎週日曜朝8時半より放送している『魔法少女ビブリオン』――ではなく、その裏番組である『ふたりは百合キュア☆まっくすはぁと!』。

 ぶっちゃけ裏番組なので、基本的に視聴率は『ビブリオン』に持っていかれているのだが、実写系のアイドル主演番組ということで密かな人気が根強く残り、辛うじて深夜枠へと押し遣られずに二期の製作もこうして続投されているのである。

 

 先程腹パンで蹲っていたCGプロ所属の輿水幸子(14)は主役2人の片割れ『黒井くじら』の変身前の役、なのだが。

 

 

「どうして変身前なのに攻撃食らうんでしょうかねぇ……」

 

 

 煤けた顔で休憩中の幸子が、椅子に座り独り言ちる。

 こっそりとセーラーを捲って己のお腹を確認してみれば、件の彼の言う通り傷痕一つないまっさらなお腹だったのだから、文句を直接言うに言えない。

 

 

「この前聞いたんだけど、なんでもリアリティの追及らしいよ? いくら正体が女子中学生の変身ヒロインだからと言って、その変身を態々敵が待っていてくれるはずもない、っていう『お約束』を覆すのが番組の趣旨みたい」

「あー、そういえば、プロデューサーも「最近のライダーは変にポーズばっかり決めていて中身が無いよな」って言ってたもんね。何? 凛ちゃんはイケメンライダー否定派?」

「別に。そういうつもりで言ったんじゃないと思うよ、プロデューサーも」

「そーぉ? あ、そだね、凛ちゃんはプロデューサー派だもんね★」

「……別に?」

 

 

 そして隣にて出待ち中の『白野かもめ』役である2人、渋谷凛と城ケ崎美嘉が幸子の話題に乗っかり愚痴を引き継いだ。

 しかし引き継がれてシフトした話は、自分たちの補佐役である男性―頭部に英語のPの頭文字マスクを被った人物―の話題であった。

 同年代であるがクール系とギャル系、雪●下と由比●浜くらい別人である2人だからこそ、共通している話題などそれほどあるわけでもない。

 何か色んな不文律に喧嘩を売るような番組趣旨が耳に入った気もしたが、そんなことをスルーする程度には別のネタの方がhotな話題な女子高生らなのである。

 

 ところで、見た目完全に別人である2人がいくら変身ビフォーアフターの役どころだからと言ってもそれが同一人物だと言い張る、ついでに現役女子高生なのに女子中学生役。

 そんなこの番組は製作からして終わっているんじゃないかと、幸子は幾度となく思う。

 それも他人の事は言えないが。と視線を向ければ、

 

 

『――オノレ漆黒の衣を纏いし愚者よ! 貴殿の窮するところになど我が覇道は潰えたらん! 征くぞ白き同志よ! 我が手綱を握る間に、汝は然るべき者へと導かれんことを!』

 

 

「……相変わらず何言ってるのかわかんないね」

「今のうちに変身しろ、って感じみたいです」

「幸子ちゃんよくわかったね。この間一緒に熊本行ったときに勉強して来たの?」

「いえ蘭子さんのアレ別に本場の熊本弁ってわけじゃありませんからね?」

 

 

 自分の相方である神崎蘭子が、先ほどのスーツアクターと別撮りの最中であった。

 髪色と長さと顔立ちと性格が、変身前とは比較にならないほど変貌してしまっている。

 まかり間違っても『表側』の“ビブリオン”みたいな『元来は低年齢向け』などではなく、初めっから俗に言う『おっきいお友達』向けのニッチな番組であることは言うまでもない。

 それくらい『触れてはダメ』な不文律に喧嘩を売り過ぎていた。

 よく放送2年目に入れたな。

 

 

『ふっ、粋がるなよ百合ブラック! 例え俺を斃せたとしても、第二第三の戦闘員が貴様の前に立ち塞がる! 忘れるな! 俺は只の前座だということを!』

 

 

 と相手取る、そんな件の彼の中の人もまた、休憩中には彼女らアイドルには一切関わったことが無いので、正体不明にも程があり過ぎていた。

 いたのだが、敵役の女性幹部の人とは談笑している姿を見かけたりするし、何気にあのキャラのままで敵幹部諸共2年目まで生き残っている。

 可笑しい、こういう番組は普通1年で敵対組織はきっちり入れ替わりが起こっている筈なのだが?

 というか戦闘員が強すぎる。

 ショ●カーの「イーッ!」の位置に居るには、キャラも強さも規格外すぎる。

 ぶっちゃけ第二第三と本人が謳いはするものの、件の第二第三が一向に現れる気配が無いまま、組織とは『戦闘員1人』としか肉弾戦をした覚えが無い。

 彼の言う処の“前座”が長すぎて、最早誰が本当の敵なのかが判らなくなってきている。

 組織の深淵に至ることも無く番組は延長戦に突入、それは宛ら某作者の二次創作のように、ストーリーは牛歩で遅延的に進んでいたのであった。

 そんなことを認識し直すと、確かに2年目に継続していても可笑しくないのかも、と納得も出来そうなのが番組的にも怖いところなのである。

 

 

【百合ホワイトさん、ワイヤー準備できました】

「じゃ、行ってくるね」

「いてらー」

「気を付けてください、あの人相変わらず手加減しませんよ?」

「大丈夫。それは基本的に幸子だけだから」

「――アレッ、今何か聞き捨てならないことを聞いたような、」

 

 

 スタッフに呼ばれ、変身後役の凛が衣装(・・)の(・)まま(・・)颯爽と向かう。

 それはまるで、これからライブでもしますよ?とでも言いそうなくらいに堂に入っていた歩みだ。

 ……変身ヒロインのような姿でなければ。

 

 その変身ヒロインに、自分も同カテゴリだった、と思い至り、自然と涙が零れる幸子。

 滂沱、という奴である。

 

 

「……ほんと、なんでボクらこういう番組ばっかりなんでしょうね……」

「それはライブすら未だ準備されてないアタシに対する嫌味かな?」

 

 

 涙と共に零れた台詞を拾い、一緒に残っていた美嘉が茶化すように応える。

 言葉はキツそうだが、美嘉の表情は笑顔のまま。

 どんな時でもスマイルを忘れない、そんなアイドルとしての信条であるのだろう。

 

 

「テレビに出れるだけマシだよー★」

「でも美嘉さんも凛さんも年齢的には「うわキツ」ってネットで叩かれているって橘さんが、」

「年の話は止めて」

 

 

 思わず真顔で応えてしまう。

 信条が一瞬で潰えた。

 現実は非情である。

 ちなみに件の橘某が見たネットのスレには、「だがそこが良い」という続きもあったのだが、そこはまた別の意味で不安にしかならないので割愛とさせていただきたく。

 

 

「……ふつーさー、こういう役どころって菜々さんとかに行くんじゃないかなー……? なんでアタシと凛ちゃん? 何? スタッフマジで喧嘩売ってんの……?」

「なんで菜々さんが引き合いに出てくるのかはよくわかりませんけど、菜々さんで大丈夫なら同年齢のお2人でも平気なんじゃないですか……?」

「……んー、あー、そうねー、どうねんだいだったねー(棒)」

「……? というか、高校生が中学生の真似、なら成人男性が高校生の真似をしている最近のドラマとかと同レベルですよ。大丈夫ですよ」

「そういう話じゃないのよ幸子ちゃん。問題なのはこのえも言われぬ屈辱感と視聴者の視覚に訴えかける犯罪擦れ擦れの光景を撮っているってことなのよ。見なさいあの凛ちゃんの格好。あんな短いスカートで宙吊りとか、実際に生で流していたら私たちにとっては充分にアウトな年齢だってことなの」

「それを言い出したらボクらも代わり映えしないと思いますけど……」

 

 

 ちなみに件の渋谷の映像は収まっていないご様子。

 カメラワークは現状、仕事をしていない2人を無意味に追い続けていた。

 

 

「……ああ……、どうせテレビに出るんなら、『きらりん☆れぼりゅーしょん』に出たかったなぁ……」

「ああ……、きらりさんの冠番組……。というか、とうとうぶっちゃけましたね」

「だって一緒に出てるのがみりあちゃんとか薫ちゃんとか雪美ちゃんだよ!? そっちの方が断然いいよ! 莉嘉も出てるのになんでアタシは駄目なのかなぁ!?」

「わかりましたからトーン抑えてください! あとそこを目的としている時点でオファーも無いです絶対!」

 

 

 城ケ崎がダークサイドに堕ちたところで映像は途切れている――、

 

 

 

     ☆     ★     ☆     ★     ☆

 

 

 

「ところで、『百合ホワイト』ではなく『白野かもめ』さん」

「……あ、アタシの事か。ほいほい、なーに?」

「変身前なのにボクと共演しないって、なんでなのでしょうね?」

 

 

 輿水が、バランスの悪いダブルヒロインの共演を眺めながら、ふと気になったことを呟く。

 本当に純粋に疑問に思ったのだが、何故か城ケ崎(姉)は歯切れが悪そうに、苦笑交じりに応えていた。

 

 

「あー、よくさー、仲間のピンチに颯爽と駆けつけて「声が聴こえたからっ!」っていう友情を確かめるお約束が、あるじゃん?」

「ああ、ありますよね。……え? まさか?」

「あ、察した?」

 

 

 要するに、そういう『お約束』もこの番組では採用しない、ということなのだろう。

 確かにある種のリアリティ指向ならば納得できるのだが、何処か釈然としないモノを輿水は感じていた。

 しかし、片やフフーンな優等生と片やミ★なギャル系。

 そうそうピンチに駆けつけることが不可能なのは、普段から行動を共にしていなければそうなっても可笑しくは無いのであろうなぁ、と納得はできるのである(誰が)。

 ちなみに、件の『其れ等』が変身して厨二と黒髪ロングに変貌を遂げるのだから、番組の趣旨は相変わらず色々と可笑しいと言わざるを得ない。

 

 

【すいませーん、次秘密結社側の出番なので、スタンバイをお願いしたいのですがー】

「あ、はーいわかりましたー、呼んできまーす」

 

 

 スタッフに呼ばれて、輿水と城ケ崎は腰を上げる。

 この番組、どの部分の予算を削っているのか、撮影スタッフの数が微妙に少ないので、出演者のスイッチに主演が駆り出されることもしばしば起こる。

 もうこの遣り取りも2年目に突入しているので今更文句は無いが、改めてどういう予算配分なんだ、と城ケ崎はふと疑問を覚えていた。

 ちなみに、似たような思考に至っても可笑しくない筈の輿水は、

 

 

『カブータさんを呼びに行くのか、俺も手伝うぜー』

「あれっ? 貴方まだ収録中じゃ……」

『大丈夫、今は百合タイムだ。男はお呼びじゃない』

「……それは一切大丈夫では無いのでは?」

 

 

 と、先ほどのスーツアクターさんに連れられて別の演者の出番を呼びに行っていた。

 視界の端で、「いいよーすっごくいい、じゃあちょっと腕からめてみようかー」等と言うカメラマンが見えた気がするが精神衛生上不衛生に過ぎるので視なかったことにしておく。

 「は、図ったな貴様ぁぁぁ!」という神崎の声も意識しなければ届きはしない。

 

 さてそんな道中も数分で済み、女幹部役の女優さんが控えている個室へと、城ケ崎は役名を呼び乍らノックをした。

 

 

「すいませーん、『ハイヌウェレ』さーん。そろそろ出番みたいですよー?」

 

 

 が、返事が無い。

 

 しかし来る途中に聞いた他のスタッフの話だと、此処に入ってから出てくる姿を見ていないとか。

 ならば、居る筈。

 小首を傾げ乍ら、城ケ崎は個室のドアへと手をかけて、鍵が開いていることに気づいた。

 

 

「おじゃましまーす。ハイヌウェレさーん、お時間――」

 

 

 ――艶めかしい、唾液が肌に滴って、粘つく水音と、途切れ途切れの呼吸音が絶え間なく響く。

 部屋中には湿った、香水と栗の花の香りが充満しており、まるで媚薬をそこらへと散りばめたかのような錯覚を、入室する者へと疑わせる。

 その連想は非常に非現実的でしかないが、“そう”としか思えないくらいに、その部屋の薫香は幻想を抱かせる芳しさを醸し出していた。

 そして、そんな部屋の中ほどには――、

 

 

「――っ! ぁ――っ! ゎ……っん――っ! ――! ――! ――!」

 

 

 ――ピチャピチャと粘液の滴る水音を鳴らす発生源、中●生の白坂小梅が『ハイヌウェレ役』の女優に“捕食”され、情事の真っ只中に陥っていた。

 

 

「――っ!? んなぁ、何やってんのぉぉぉぉぉおおおっ!!!!?」

 

 

 状況を理解するのに十数秒かかった城ケ崎が、一瞬遅れで絶叫する。

 そんな目撃者に、女優さんは蠱惑的に小首を傾げて、

 

 

「――あら、美嘉ちゃん。混ざる?」

「混ざりませんッ!」

 

 

 と、誘うも素気(すげ)無く断られていたという(スタッフ目撃談)。

 

 

 

     ☆     ★     ☆     ★     ☆

 

 

 

 呼吸すらも不可能となるまで蕩けてしまわれた同僚を救出し、女優さんを送り出して十数分。

 真(ま)っ裸(ぱ)にされていた白坂嬢は試供品のシーツに包まり、コップ一杯の水を浴びるように嚥下したところで、ようやく人心地ついていた。

 

 

「~~~~っ、はぁ……、し、死ぬかと、思った……っ」

「だ、大丈夫?」

 

 

 白がかった鬼●郎ヘアの14歳、白坂小梅は同じ事務所の同僚でありながら、近日登場予定であった『3人目の百合キュア』役の少女である。

 珍しく変身前と後が同一でとオファーがあり、他に仕事の予定も無かった彼女は一も二も無く飛びついた。

 その果てがあの様である。

 某不幸系少女と役処の采配を間違えてはいやしないか?と、天の声が嘯いていた。

 

 

「だ、だいじょうぶ、これが芸能界の洗礼なんだね……っ」

「いや、こんなのは特殊な例だから。アタシもこんなのは遭遇したの初めてだから」

 

 

 むしろ遭遇して堪るか。

 そう云わんがばかりに手を横に振る城ケ崎。

 あくまで彼女は愛でる側であって、される側ではないのである。

 え、論点違う? 違うか。違うね。

 

 

「というか、なんであーなってたの……」

「新人だから、挨拶ぐらいしておかないとだめかな、って、思ったんだけど、……扉が開いてコンマ1秒で引きずり込まれて……!」

「何それ怖い」

 

 

 少女たちは冷汗を浮かべ、各々女優の所業に戦慄する。

 しかし、白坂の方はその意味合いが若干違っていたようである。

 

 

「まさか、あんな、あんな……、あんな気持ちイイS●Xが存在したなんて……っ!」

「――なんて?」

 

 

 震える声で続けられた科白に、城ケ崎は真顔で問い返していた。

 

 

「ただ性器と性器を繋げるだけが●EXじゃないの、それが共同作業である以上は、必然的にお互いの親和性が必要になってくる……。でも、あの人の場合は、そんなものは関係ない。だって女同士だもの、互いが互いに啼いていては、演奏者のいない楽器でしかないよ。それを、その関係性を凌駕出来るだけの技能が、才能が、あの人の指先には総てが備わっている……!

 鍵盤を叩いて音の強弱をつけるだけで、それだけでイイSE●が出来るって勘違いしているだけじゃ猿と変わりない。まるでメロディを奏でるかのような、楽器自身に歌を歌わせるような、それほどの指先のテクニックはまさに天上のピアニストの如く……!

 ――つまり、S●Xは、音楽だったんだよ……っ!」

「アッハイ」

 

 

 城ケ崎は、白目を剥いていた。

 とりあえず、中●生がS●Xという単語を連呼するな、とだけは感想を抱きつつ。

 

 

「美嘉さんは経験豊富だから、こんなこと云わなくっても判るかもしれないけど……」

 

 

 付け足されたその台詞に、ビクンと城ケ崎の肩が跳ねる。

 先ほどよりも多い冷汗を全身から吹き出し、真顔なんだか引き顔なんだか判別の付き難いぎこちない表情で笑みを浮かべつつ、「えっ、あっ、そーねー、うん、豊富豊富!」と白坂の言葉に乗っかって相槌を打っていた。

 見ていて、非常にわかりやすかった。

 そして――、

 

 

「あんなS●Xを覚えたら、もう、私……! お姉さま以外満足できない……っ!」

「とりあえずお願いだから戻ってきてよ小梅ちゃぁぁぁぁん!!!?」

 

 

 ――臨界が、突破した。

 

 

 





~ふたりは百合キュア☆まっくすはぁと
 日曜朝8時半より絶賛放送中、ビブリオンの裏番組
 戦闘シーンやストーリーは基本的にOPの1分45秒で曲と共に流れ切り、後は終わるまで30分、ひたすらアイドルたちの撮影風景を流す異色作
 ギリギリ少女たちのスカートの中とかチラ見えしそうな局部などを放送しないように采配するくらいならばストーリーを流せ、とは出演者らの談。ぶっちゃけありえない

~きらりん☆れぼりゅーしょん
 身長180cm弱の女子高生・諸星きらりが、きらりんぱわー(物理)でアイドルを目指す夕方5時のトーク番組
 ゲストには小学生組と呼ばれるCGプロダクションのアイドルらが毎週こぞって参加し、通う小学校での疑問点や改竄点などを槍玉に挙げる。前回の放送では給食のカレー等を改善できないかと語り合ったとか
 教育改善に繋がる可能性を醸し出す力技系情報番組。おい、アイドルどこ行った

~戦闘員スーツアクターの中の人
 お前何処かで見たことあるぞ…?

~カブータさん
 秘密結社;ReジェクDoラッグの直接戦闘専門の幹部怪人
 カブトムシをモチーフにした3mを優に超す、強化外骨格の着ぐるみ(予測)なプロレスラー(多分)
 CVはアテレコで野際●子さんとかに頼んでいるらしく、中の人の声を直接聴いた人物は皆無
 着ぐるみの割には昨今のアニメのようにぬるぬる動く

~ハイヌウェレさん
 5人の魔女の一人。何時から存在しているのか定かではないが、少なくとも大正時代の初め頃には出没した記録が残っているらしい
 史上最初の自殺者の女神の名を冠する魔女で、異界存在(フリークス)を現界へと多量に引きずり出す呼び水のような人
 異界存在は人間の悪意によって膨大に成長し、最終的には人を食らうこともあるという。どう考えても人間にとっての災厄でしかない魔女
 最近新しいバイトを始めたらしく、その職場には彼女の好みである10代半ば頃の食べ頃少女が多量にいることもあって『本業』の方は大人し目にしている

~シンデレラプロダクション
 略してCGプロ
 輿水幸子・神崎蘭子・渋谷凛・城ケ崎美嘉・白坂小梅の所属するアイドル事務所
 他にも多数のアイドルが所属しているが、詳しくはググれ



とりあえず、やりきりました
完全趣味に走った蛇足回
5人の魔女は出し切ったから、以降はようやくネギまに戻れそうです
えっ、設定上不穏にしか見えない?
ハハハ、まさかそんなry


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『俺のファンキーでヒロイックなパーティナイトがバーニングにトゥギャザーするダイレクトマーケティング』

こちらしかお気に入り登録してないよ!という方の為にステマに来ました
微妙に書き方が変わっているので此処だけ読む方には違和感が微レ存…?

今回はエロく無いはずの番外編
ネギ君は相変わらず影薄いですがネギまキャラをガン推しです


 

 「「トリック(いたずら)or()トリート(お菓子か)!」」

 「えっ、どうしたのお前ら」

 

 

 10月の31日。

 鳴滝姉妹がパンプキンなお子ちゃまコスで突貫して来た。

 ジャコランタン柄のチューブトップに、それぞれヘアアクセを乗っけて、の小道具片手に、の初等部なんかが遣りそうなcostumeplayである。

 風香の方は小悪魔ちっくに角まで付けて、カボチャパンツな短パンでボーイッシュに。

 史伽の方は麻帆良祭で使ったネコミミの使い回しか、スカートはふんわり膝上だが黄黒の縞々ニーソでそれっぽい。

 ……統一感!

 

 それはそうとハロウィンか。

 先日麻帆良大体育祭という寸劇が執り行われたというのになんというバイタリティ。

 普段から百鬼夜行抄みたいな学園内に居るというのに、この日に限ってコスプレる必要性とは果たして……」

 

 「口に出てるよそらっち」

 「つべこべ言わずお菓子を渡すですー」

 

 

 風香にマイルドに突っ込まれ、史伽にはとりあえず菓子を要求された。

 山賊かそこの双子妹。何が彼女を駆り立てるのか、今日はちょっとワイルドな史伽たんのご様子だった。

 

 

 「で、なんで長瀬まで居るの」

 「さんぽ部の活動でござるよ。決して出番が無いからと主張しているわけではござらん」

 

 

 いいよ、そういうメタな宣伝しなくて。

 ちなみに長瀬の楓さんもまたハロウィン風味なコスプレに挑戦してみたのか、ジャコランタン柄チューブトップでお揃いだ。

 胸囲的には主張が激しすぎて、本物のかぼちゃが詰まっているのかと疑いたくなる圧迫感。

 パンプキンパイが凄まじいぜ。うへへ。

 

 

 「そらっちのスケベ」

 「いやいや、男の子なんだからこうなるのは自然なんだからね」

 「お菓子が欲しいですー」

 「壊れたラジオみたいに同じセリフしか云わねぇぞ、大丈夫かこの妹」

 

 

 それにしても可笑し、いや、お菓子ねぇ。

 

 

 「持ち合わせがないんだよなぁ。買ってくるから少しおにーさんと散歩しない?」

 「完全に誘拐犯の台詞でござる」

 「えっ、なんで。同年代だろ。中3だろ」

 

 

 ハイエースも所持してないし性的な意味合いで誘ってるわけがないのに。解せぬ。

 それはそうと、お前らはお前らで受験とか大丈夫なの?

 

 

 「ブー! 時間切れなのでトリックモードに移行するですー!」

 「受けて見て! 私たちの三位一体攻撃!」

 「応っ! 逝くでござるよっ!」

 

 「「「ジェッ●ストリームアタック!!!」」」

 

 

 初めから其れが目的か。

 縦に重なり並んださんぽ部3名の部員が(尚、その他の部員を一切知らない。幽霊部員の可能性が微レ存)、長瀬を筆頭に史伽風香で突貫の姿勢。

 体育祭の障害物競走で勝ったからそれの仕返しだろうか。

 伏せ字の意味がほとんど無いその攻撃を、俺はどうあしらえばいいのかと少々思い悩むことコンマ数秒。

 

 ――とりあえず、初めから目に毒なパンプキンパイを目標に荒鷲の型にて握撃すべく、手の平を構えた。

 

 

 「ぬおっとぉっ!?」

 

 

 ちぃっ、殺気が漏れたか。

 横っ飛びに回避された長瀬さんに目を取られた双子はそのまま置いて行かれた形となり、障壁が無い2人はその現状に戸惑い突貫がピタリと止まってしまっていた。

 

 

 「ど、どうしようお姉ちゃん! いきなり作戦が頓挫したよっ!」

 「あ、慌てちゃ駄目だよ史伽っ! こういう時は楓ねぇに教えてもらったアレでいくよっ!」

 

 

 その楓ねぇさんが真っ先に逃げたから現状なのだが。

 そんな俺のツッコミ(心の声)は当然届くことは無く、双子は『次の手段』とやらへと作戦を移行する。

 

 

 「「忍法っ、分身の術っ!!」」

 

 

 ――出来てない。

 

 

 「ふっはははは! これでどちらがどちらかわかるまいっ! 片方を掴まえても片方がいたずらを成功させるっ! これぞ真のいたずら殺法だよっ!」

 「大人しくネコミミアーカイブを歌うですぅっ!」

 

 

 史伽さんが自分のネコミミを片手になんか言っとるのだが。

 しかし此れが原作でも有名な分身の術(双子Ver)か。

 ……とりあえず、一言。

 

 

 「鳴滝妹、パンツ見えてるぞ」

 「ふぇっ!?」

 

 

 ネコミミを持ったお団子ヘアが顔を真っ赤にしながら自分のスカートを抑えた。可愛い。

 史伽は合法、はっきりわかんだね。

 

 その隙を突き、顔を赤らめた方を目標に接近。

 掴まえて、空気投げの要領でそのまま長瀬の方へと投げ飛ばす。

 

 

 ――俺の目標は初めから、本家の悪戯小娘である鳴滝姉である。

 

 

 「良し、掴まえた」

 「――足首っ!?」

 

 

 「――わっしょいっ!!!」

 「にゅあーーーーーーーっ!!?」

 

 

 天高く、空飛ぶ風香

 着地は如何するものぞ

 

 うむ、良い句が詠めた。

 いたずらをする者は、されても良いと覚悟した者だけだ。

 

 

 「ちょっ、着地ぃぃぃぃっ!!!!?」

 

 

 ――麻帆良は今日もにぎやかです(笑顔。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 「「「「トリックorトリートぉっ!!!!」」」」

 「……流行ってるのか、それ?」

 

 

 さんぽ部を撃退したかと思ったら運動部系4人組がユニット組んで参上していた。

 せやから、普段から百鬼夜行な麻帆良でコスプレする意味ってナニ。

 

 

 「つうか本当にコスプレしてるだけって感じだな。統一感仕事しろよ」

 「えー? こんな美少女の素敵ファッション眺められたら、それだけで男の子は満足できるんじゃないのー?」

 「否定はしないけどね」

 

 

 ちなみに、内約は以下の通り。

 ゆーなはミニスカポリス。青いラメの制服が如何にもな空気を醸し過ぎていて少々古臭いし、バラエティテレビなノリで着こなしている感が半端ない。キッドざゆーなは何処へ行ったのか。初めから生まれてないのか。その姿になるとむしろ強調されるのは生足なのだが。胸で勝負しようよ。

 アキラたんはバニーガール。しかしシルクハットまで用意している以上はむしろマジシャンの付き人的な意味合いでのバニーだ。本来だとバニーガールって、ウサギが年中発情期だから『いつでもOK』みたいな暗喩的意味合いがあったはず。……止めよう、この思考だと碌でもない結果しか待っていない。

 佐々木は魔女っ子コス。黒い三角帽子に黒いミニスカートワンピ。袖は無くて肩を出してるが長手袋で肘までを隠し、小道具の杖(ハリポタ風味)をフリフリ振るう。先端には星型とかも無いので、ネギ君から支給された幼児用のとはまた違う一品かと。網タイツ風ニーソまで穿いてるけど、此れで箒とか持ってたら佐倉ちゃんとキャラ被りが酷いテロ。辞めるテロ、出番が無い子に死体蹴りとかオーバーキルも良い処テロよ。

 そして亜子はナースルック。前にも言ったけど、お前のナース姿プレイの匂いしかしねぇな。オプション幾らよ。

 

 

 「なんかうちだけ描写足りへんよーな」

 「気の所為だと思うぜ」

 「そんなことより烏丸くん、どうする? トリック? それともトリック?」

 

 

 アキラたんの距離感がヤバい。

 年中発情期でいつでもOKというのはガチなのか。

 そして日本人は何故いたずらと聴くとやたらと性的なものにしたがるのか。

 

 

 「いやいや、はいよ」

 

 

 と、予めて学習していた俺は、ばさぁとバラの花束を全員へ。

 お、おう、といったご様子で、それぞれ受け取った女子らが顔を赤らめた。可愛い。

 

 

 「……え? いや、なんで薔薇?」

 「そこの露店で売ってたんだよ。食べられるお菓子のバラだとさ」

 

 

 商魂が逞しいのか、はたまた世相を見て販売に切り出せる精神が魔窟と云われる所以なのか。

 何処から取り出したかと? 魔法って、便利やね。

 

 

 「~~~っ、あ、あっ、そうだそらっち! 私たちの中で誰が一番可愛かったっ?」

 「ん? 佐々木かな」

 

 「「「「えっ」」」」

 「えっ?」

 

 

 空気を払拭すべく切り出されたゆーなの質問に、正直に応える俺に、何故か全員の虚を突かれた声が重なったそうな。

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 正直、他三名の格好は仮契約時のコスチュームそのままな感じがあるし、ぶっちゃけ性的な誘惑が強すぎて可愛さとは無縁な気がしたんだよ。

 その点、佐々木は基本的に色気が皆無だから、そうであるが故の無量の可愛さを年相応に醸し出しているというか。

 だから可愛いか、と問われれば女の子特有の『可愛らしさ』を踏まえた点で彼女を一推し。

 そう理論付けて答えたら、微妙な顔を(特に佐々木に)されてしまった俺がいた。

 そんな俺に、第3波。

 

 

 「トリトリ」

 「やる気出せよ」

 

 

 明日菜が普段の格好のまま、片手挙げてふらりと参上。

 現在地はエヴァのログハウスへと向かう道。

 おいっすぅ、な恰好のままに会話は続く。

 

 

 「どっちにする? いたずら? おかし?」

 「とりあえずほい」

 

 

 既に支払った覚えもあるバラの花束。

 というかそもそも、何故皆俺にいたずらかと問いかけるのか。

 よーしこいっ、って構える程頑丈でもないわ。

 

 

 「じゃあほい、お返しにちょっとお誘い」

 「あん?」

 

 

 と、返されるのは、……チラシ?

 

 

 「……『上園学園・紙園(しおん)祭』?」

 「うん。今度行ってみない? 学校見学がてら」

 

 

 ふぅん、とぱらりと眺めてみるが、場所が九州・宮崎であることに若干の違和感を覚える。

 というかまたあっち方面? 俺この夏に熊本経由で鹿児島まで行ったんだけど? 正確には種子島。

 

 

 「宮崎ねぇ……。うーん……」

 「だめ?」

 

 

 上目遣いで再度問う明日菜。

 正直、俺的には宮崎は完全に鬼門なのだが……。

 

 しかし、魔法界のごたごたも亡くなって、普通に進学が考えられるようになった明日菜の希望でもある。

 聞いてやっても問題は、無いか。と考えを検めた。

 

 

 「いいよ。行こうぜ」

 「やったっ。じゃ、来週宜しくっ」

 

 

 そうして、嬉しそうに明日菜は去って往く。

 

 ――……この時感じた違和感をもっと深く考えていれば、あの惨劇は起こらなかったのではないかと――、

 

 

 

     ×     ×     ×     ×     ×

 

 

 

 「ほい、トリート」

 「……いや、そういう宣言で出すものでは無いだろ……」

 

 

 アレ、なんか間違えたかな。

 

 入室早々、バラの花束を渡してエヴァに呆れられる。

 他の女子に渡していて俺のエヴァ様に何も無し? そんなのはありえない!

 忠誠心とはまた違う愛の形を顕したのに、何故微妙な顔をするというのか。

 

 

 「まあ確かに毎日が百鬼夜行な麻帆良でコスプレする意味なんて無いと思うけど。ほら、ノリって大事だよね?」

 「いや、嬉しいよ? 嬉しいけどな? ……そらならもっと喜ばせるモノを持ってるだろ?」

 「……ほほぅ、つまりはトリックでニャンニャンしたいと、そういうわけか」

 「えっ!?」

 

 

 ……え? 違うの?

 誘う様な目つきで流し見られて、てっきりそうなのか、と応えて見れば驚きの表情で返される。

 そして自分の言い回しに何か気づいたのか、やや顔を赤らめて赤いバラへと埋めるように隠すエヴァが其処に。

 何このカワイイ生き物。

 

 

 「………………ち、違わない、けど……」

 

 

 ――この後めちゃくちゃトリック(いたずら)した。

 

 

 




どっとはらいな100話目
短いかな。でもまあ二次創作って元々小話だし問題無いよね
よしっ、これで完走だっ!

明日菜に纏わる惨劇の内約?
R18で烏丸くんがはっちゃけてるから、そちらへどうぞー(誘導


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