【短編集】やはり俺の物語集はまちがっている。 (新クラスはぼっち)
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やはり俺の絶対選択肢はまちがっている。
ご存知変態アニメこと脳コメを加えました。
選択、それはいつも誰しもが自然と行っている行動である。
無意識の行動は選択という言葉の意味の範疇の外だが、意識的に行う行動には全て選択が伴っているといっても過言ではない。
例えば、普段は左の道に曲がって帰るけど今日は直進して帰る、それも立派な選択だ。前へ進むかそれとも曲がるか、或いは立ち止まるか。それによって未来が付随して変動する可能性は大いにありうる。
だがどの選択肢を選んでもいつも違った未来が見えてくる…と言うわけでは決してない。晩飯でご飯から食べるかそれとも味噌汁から食べるか、そんな意味のない順番を選ぶのも一応選択の定義内であり、そのどちらかを選んでもさして未来は変わらない。変わるとするならばその一秒後に味噌汁の味がするかご飯の感触がするか、そのくらいである。
そしてこれらの大きな特徴は、全て自身で選択肢を取捨選択して作る事ができ、そして選ぶのも自分。いわゆる自分でこの作業行っていくのだ。そうして人1人の人生が形成されていく。
ーーーしかし、もしも選択肢が強制的に押し付けられ、かつ選ばないという選択肢が無いとしたら果たしてどうするのだろうか?もしかすると普通の人がそんな事になれば精神異常を来すかもしれない、あくまでもしかすればの話だが。
然るに、そんな運命に成り得てしまった俺は既に何かが可笑しくなっているのだろうと思う。
だからこそ俺は今日も存在すら怪しいどこかの神に対して祈る、…明日こそは絶対選択肢よ無くなれと。
ーーーーーーーー
4月上旬、入学式を無事何事もなく、本当に何事も無く終えることのできた放課後。俺は細い路地の一角で立ち往生していた。
加えて捕捉するなら俺の目の前には現在文字が浮かび上がっていて、頭の中では『選べ』と渋い声で響き渡っている事を説明しておこう。うん、きっと気のせいだろう、幻聴に幻覚、ただ俺は疲れてるんだ。休めば治る、それが世の理だろ?
【①金切声を10秒間上げ続ける】
【②全裸になって大きな声で豚の声真似10回】
何度目を逸らしてもこの選択肢は目から離れて消えない。
…そう、これが俺の視界に今入ってきている選択肢。幻聴でも幻覚でもなく、本当の選択肢。しかもどちらもいくら路地裏とは言え、白昼堂々とやるにはとても恥ずかしい上無意味な行動である。特に2つ目、全裸でも相当法律的にヤバいのにその上丁寧に【大きな声で】なんて条件出すんじゃねえよ絶対選べないだろうが…!
そしてこの選択肢、選ばないでいるとかなりの頭痛が選択を急かすように頭を襲ってくる。
今回もその例に漏れなかったらしく、5秒ほどすると突然頭の中でギンギンとした痛みが脳内を締め付ける。痛い…っ!痛いって!
「うごぉぉぉぉぉぉ!」
遂に俺は痛みに堪え切れず膝を地に着いてしまう。分かった!選べばいいんだろ選べば!
「…うぉァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
当然選んだのは①、10秒間の金切声。②はそもそも法に触れてる時点で選択外とも言えるので、実質的には選択肢は一つと言える。
「アアァァァァァァ!…よし!」
10秒間経つと選択肢は完全に消え、頭痛も急激に収まる。
そして目前の問題を解決できた俺は、次の問題が起こる前にすぐにその場から走り出した。昼間に大声を叫ぶのは普通に迷惑防止条例とかに引っかかるだろうし、逃げるが勝ちである。
走りながら俺は何故こんな事になってしまったのか考える。
というか始まりはちょうど去年の今頃だった。
その時俺はまだ新入生で、つまり来たる高校生活に不覚にもワクワク感を覚えてしまったのだ。今思えば単価が安いのに無駄に高いハッピーセットに魅入られた子供と同じような状況だったのかもしれない。
そうして高校の入学式の一時間前に家を出た俺は浮き足立ちつつ自転車のペダルを漕いでいたのではあるが、道中で犬が突然車線に出てきて、そしてその少し先でスピードを出した車が走ってきたのである。
当時轢かれると判断して俺はペタルを漕ぎまくり自転車で頑張って犬を救出したまではいいものの、俺自身は轢かれてしまい意識は混濁、というか気絶。気づけば見知らぬ天井ならぬ病院であったことは確かだった。
そこからだ、この絶対選択肢との付き合いは。
病院で起きてすぐにナースコールを押し、事情を担当の医師から聞いたすぐ後に謎の『選べ』という声とともに浮かび上がってきた選択肢がこれだ。
【①今までの記憶を忘れ、0歳の思考から人生をやり直す】
【②これからの選択肢を受け入れる】
医師の話によると俺は丸一日は寝ていたらしいのだが、疲れてるのか…?と思い横になるとすぐ様に頭のを割るような激痛が襲ってきた。
何が何だか分からず頭を抱えながら先ほどの虚空を見れば、やはり①とか②とか書かれた選択肢がそこには浮かんでいる。
まあそこで訳も分からず当然②を選んだ俺は、いまこうしてその代償を払い続けているのである。と言うか①はどう考えても選べねえだろ。下手をしなくとも精神障害、それか発達障害のハンコ押されるぞ。自分からアスペになる奴とかいたら居たでどうかしている。
…と、これ見事なまでに俺の意思が介入してないよね?みたいな状況が一年経った今も尚続いているのだった。
…と、偶然目の前に何人かの女子高生がたむろしているのを見つける。
「あ、比企谷だ」
「本当だ…また変なことやってたんじゃない?」
「うわマジ引くわ…」
「キモいし気持ち悪いからあっち行こ」
勿論学校である程度そんなことをやっていればこのように煙たがられるのも当たり前の事になる。正直俺も学校の中で今の俺と似たようなことをやってる奴がいたら絶対に無視するはずである。てかあの女子グールプ誰だよ、誰一人として知らないんだけど。同じクラスとかなら未だしも流石に他クラスから言われる筋合いはないだろ。…そういや廊下でも選択肢出てきて選んだことあったような気が……いや、思い出すな俺。高校生活は全て黒歴史確定なんだ、記憶を探れば探るほど傷ついてしまう。
鬱々しい気分を振り払うように俺はコンビニに入りマッカンを購入する。
プルタブを開けて口の中に注ぎ込めば、そこにはコーヒーとは思えないほど甘々しくも少しの苦味が口の中に広がる。更にその甘美な暴力は口の中だけではなく食道を通り、胃の中へと入り込む。そこでも異様な存在感を示して糖分を糖分として認識させる。やはり俺のマックスコーヒーは甘すぎている。
そんなことを考えていると、またもや不意に『選べ』と、恒例の選択スタートの時間がやってくる。選択時間は約10秒、時間切れになると恐ろしいまでの頭痛が襲ってくる。…何これ完全に脅迫だろと思うのは俺だけか?
そして浮かんでくる選択がこれ。
【①空き缶を家まで持ち帰る】
【②空き缶で自分の頭を10回叩く】
…ごめん、意味分かんないです。
②の空き缶で頭10回叩くってただの錯乱か、あるいは精神障害だろ。する意味あるのか?と言うか選択余地が①以外にあるのか?
そんな訳で当然空き缶は家まで持ち帰る事にした。コンビニで捨てたかったんだが、どっちにしろ結果は変わんないしな。
すると、再び『選べ』と言う声がどこかしらから聞こえてくる。いやちょっと、二連続は幾ら何でもやりすぎじゃないですか俺じゃなかったら死ぬレベルまであるぞおい。
【①美少女が地面から這い出てくる】
【②葉山が地面から這い出てくる】
いやすみません、さっきの5倍以上は訳がわからないんですけど…。つか何故に葉山?葉山が地面から這い出してくる?どういう意味だよ。
そもそもここ普通の路上で、即ちコンクリで地面覆われてるんだがどうやってその美少女やら葉山やらは這い出てくるんだよ。それにどちらか選んだところで俺はどうすれば良いの?何か面倒見なきゃならないの?それとも14歳の火の魔術を使う不良神父に追われてて俺がそれを助けるとか?いやいやそんな武力は八幡さんにはありませんですって。
「って痛っ!!」
思わず、と言うのも予測ができていた時点でおかしいが、とにかく恒例の頭痛が脳を締め付ける。こうやって判断力を奪って判強制的に選択を強いられるのもすでに慣れたものである。できれば慣れたくはなかったけど。
「分かった!①だ、だから早く痛みを無くせ!」
すると急激に痛みが引いていく。まるで今まで痛覚を刺激されていたことがまるで嘘のようにだ。
…まあとにかく、これで痛みはなくなったし、後はちょっとの懸案は残っているがそこまでではないだろう。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ーーー何てご都合主義宜しく考えていたのがいけなかったのだろうか?
空から美少女が落ちてくる一種の幻想的な光景ではなく、コンクリを突き割って、地面から吹き出すマグマの如く思い切り人の形をした何かが勢い良く上空へと放り投げ出される光景がそこにはあった。ああ、もう意味不明だな。
その人らしき物はビルの4階ほどまで飛び出すと、地球の重力に従い直ぐに垂直落下を始める。…ってこれそのままぶつかったら普通に死ぬよな?背中から落ちたとしても重症は確定だよな?
強制的にとはいえ呼び出した責任感を感じざる終えない俺は仕方なくその美少女(選択肢から推定)が落下してくるポイントを素早く見極め、その場まで動いて待機。
そのほぼ直後に降ってきたのに合わせて腕と膝を使って力を振り絞り、膝立ちになりつつも何とかキャッチに成功。制服のズボンの膝の部分を擦りむいてしまったが、重症になるよりかは遥かにマシである。
「ぅぅぅぅぅぅ……」
落ちてきた人物の顔を確認してみると確かに、美少女といっても差し支えはないような顔立ちではあった。白銀に微かに輝く髪に、幼いながら可愛い顔立ち、背丈から見ると良くて中学生くらいだろうか?下手をすれば小学生の可能性も捨てきれない。
…ロリコンに間違われるかもしれんし、取り敢えず地面に置くか。
そう思い、俺はその少女の体を地面にそっと下ろす。
それにしてもこれがもし葉山だった本当に最悪な展開になってたな…。海老名さんとか絶対に嗅ぎつけてきて、今でも選択肢のせいで悪名が轟いてるのに更にホモみたいな称号まで頂戴してしまっていたかもしれない。ありがとう選択肢を選んだ時の俺、社会的地位の破滅から逃れることはできた…!
「うぅぅぅん…うれ?ここは…?」
少女はそう言いながら目を擦って、上半身を起こす。何だか可愛い、戸塚とは違った可愛さがあるまである。
だが戸塚は譲らんぞ、絶対に!
「目が覚めたか、じゃあ俺はこれで」
俺はできるだけ素っ気なく、自然に帰ろうとするとその少女は明るく元気な声でこう言った。
「あ、貴方が比企谷八幡さんですね!」
「いや何で知ってるんだよ…」
…何か面倒な予感がする。それにコンクリだって割れたままだし、見つかって事情聴取とかされる前に早く去りたい。
そんな気持ちも、次の少女の一言で失せてしまった。
「私はメリナ、貴方の絶対選択肢を無くすためのお手伝いをするためにここに参上しました!」
「えっ…まじで」
これが俺と絶対選択肢との、高校生活を掛けた長い戦いの始まりであった。
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