真剣で私に恋しなさい ACC (アドベントチルドレンコンプリート) (ヘルム)
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初投稿!!
いやーなんか、感慨深いです。
とりあえず、受けが良かったらいいなと思っています。
では、どうぞ!


これは、直江大和がもしも禁断の力を手にしまったら、というありえたはずのもう一つの未来の物語。

 

真剣で私に恋しなさい ACC

遠いどこかで何かが起き上がるような音がした。それは、同じ人間のように感じられるが、彼らを間近で見たものは、口を揃えてこう言うだろう。

『こいつらは何かが違う』と、そうして起き上がった三人は口を揃えてこう言った。

待っててね母さん

 

2009年11月4日

川神 変態大橋付近

「川神百代!自分は最強の名を求めて来た!覚悟!!ケエエン!」

となんかやたら拳法を学んでそうな男が現れ、鳥のような声を出しながら1人の少女に向かって行った。

ガクト「おー、おー、やってるやってる」

 

京「今回の挑戦者はいかにも雑魚っぽい登場の仕方だね。しょーもない…」

 

とガクトと京はそれぞれ言い合っている。

 

キャップ「いや、案外ああいうヤツが意外にも強かったりするんじゃねーか?」

 

モロ「それはさすがに自由すぎる考えだよ。キャップ…現にホラ負けちゃってるし」

 

ワン子「さすがお姉さまだわ!」

 

クリス「うわー、随分な吹っ飛びようだなー」

 

まゆっち、松風「あ、首から落ちました。大丈夫でしょうか?」『相手そこそこ武術学んでたようだしきっと大丈夫じゃね』

 

とキャップこと風間翔一につづきモロ、ワン子、クリス、まゆっちは口々に言い合った。

 

モロ「あ、モモ先輩こっちに気づいた!近づいてくるよ!多分、大和いじるために…って大和?」

 

とモロに声をかけられた直江大和はというと

 

大和「…………」

 

完璧に上の空だった。そこへ、

百代「美少女だぞ〜!お姉ちゃんだぞ〜!」

大和「うお!」

川神百代はのしかかってきた。

大和「ね、ねえさん!いきなりなんだよ!?」

百代「決まっているだろう。今回の相手もつまんなかったからな。その分弟で弄って解消しようというわけだ。」

大和「またかよ!」

姉の理不尽なストレス解消道具にさせられてしまっている大和は、思いっきり叫んだ。

百代「で、何を考えていたんだ?」

大和「ん?何が?」

百代「とぼけるな!この美少女の存在に気付かなかった程考え込んでいたんだ。さぞや、大層な考え事をしてたんだろーなー?」

大和「イタタタ、別に何も考えてないよ!」

百代「ほんとーかー」

大和「ああ…ほんとーだよ。」

百代「…ならば、よし!」

と言って百代は大和を離してあげた。

キャップ「そんじゃ、今日も頑張って学校に行こうぜ!みんな!!」

一同『おおー』

今日も風間ファミリーは仲良く号令して一緒に学校に行った。

ただ一人直江大和を除いて…

 

川神学園

 

ユキ「やーまとー、ウェイウェーイ」

冬馬「大和くん今度デートしませんか?」

準「いやー、やっぱ、小学生最高だぜ。」

 

上から順にユキ、冬馬、準が話しかけて来た。

 

大和「…ほんと、ぶれないね。お前ら…」

ユキ「?やまと、何かあったの?」

大和「いや?別に何もないが?」

準「そうなのか?なんかお前…」

大和「ほんと、何もないって気にすんな!」

 

と言って大和は教室に向かって行った。

 

冬馬「…どうしたんですか?彼は?」

 

と風間に向かって冬馬は問い掛けた。

 

キャップ「やっぱ、お前らも気づいたか。なんか元気ないんだよ。今日あいつ」

準「モモ先輩がいじりすぎたんじゃね?」

百代「ほう、いい度胸だな?ハゲ!ちょっとこっちこい」

準「いや、もちろん冗談ですって。勘弁してくだ…ギヤー」

冬馬「冗談はこれくらいにして、心当たりは?」

キャップ「ねーよ。朝飯食べるまでは普通だったんだ、あいつ。登校途中からだよ。ああなったのは」

冬馬「そうですか……相手は大和くんですしそうそう口を簡単には開けてくれなさそうですね。」

ガクト「そうなんだよ。あいつ変に抱え込むとこあるからな…どうにかしてあげたいけど」

 

うーんと考え込む葵ファミリーと大和除く風間ファミリーとそこで、キャップが

 

キャップ「ま、うだうだ考えても仕方ねーって、とりあえず今日大和をどこかに連れ出してみようぜ!」

ガクト「どこかってどこだよ?」

 

ガクトを筆頭にみんながキャップの方を向いた。

 

キャップ「それはな…」

大和「カラオケ?」

 

大和は問い返した。

 

キャップ「そう、今日みんなでカラオケ行くことになったから」

大和「そりゃ、また急だな。この前までそんなこと言ってなかったろ?」

キャップ「ああ、なんせさっき決まったことだからな!」

大和「ほんとに急だな!!」

 

思わず大声で突っ込んでしまった。

 

キャップ「で?大和は行く?行かない?どっちなんだ?」

大和「どっちって、葵ファミリーも含めてみんなでいくんだろ?行かないわけないじゃん?」

キャップ「よっしゃ、そんじゃ放課後に集合な!」

 

イエーイ、と誘われた本人よりも喜んでいる親友の姿をみて、大和は苦笑しながら小声で

 

大和「それに、あそこ行く前の気分転換にもなるだろ……」

 

と呟いた。

 

川神学園 放課後

 

キャップ「そんじゃ、みんないくぞー!」

一同『おおー』

 

と風間ファミリーと葵ファミリーは同時に発進していった。

 

ユキ「で、どうなのー?キャップ、大和の調子は?」

キャップ「うーん、本人「大丈夫だ」っていってんだけどなー」

京「まあ、見ての通りなわけで…」

 

と京が大和を指し示すと

 

準「うわ、完璧に上の空じゃねーか?」

冬馬「これは…かなりの重症ですね…」

 

と準と冬馬は言い合う。

 

百代「あいつ本当に隠す気あるのか?もう、いっそのこと私が無理矢理口を割ってやろうか?主に物理的に」

モロ「いや、何恐ろしいこと言ってんの!?モモ先輩!」

 

とモロが突っ込んだところで、

 

ワン子「ま、そのためのカラオケだもの今日は楽しみましょうよ!」

 

とワン子が言うと皆が頷いた。

 

カラオケボックス

 

カラオケではやはり、京と百代が目立ち、ワン子とまゆっちは壁の花を決め込んでいた。葵ファミリーはというと

 

ユキ「準ー、また崖の上のポニョー?」

準「やかましい!ロリが歌ってんのそれしかねーんだから仕方ねーだろ!ってアレ?若は?」

ユキ「トーマならさっき女の子連れて別の部屋に行ったよー」

準「あっそ、若も相変わらずだな…」

 

という感じであった。

大和はその微笑ましい光景を見ながら、苦笑し、しばらく自分も歌などを歌った後に出ていった。

 

大和「ふう…」

百代「休憩か?」

大和「っ!!?」

 

大和が振り向くとそこには、百代が立っていた。

大和「…ああ、ちょっと歌い過ぎちまったからな。」

百代「よく言う。3時間で合計3本しか歌ってないだろう?おまえ?」

大和「…見てたのかよ」

百代「まあな」

 

観念したかのような大和の顔を確認すると、百代は大和の隣に来た。

 

百代「お前…本当に今日はどうした?」

大和「…別に、なんでもないよ。」

百代「とても、そんな風に見えないぞ?」

大和「大丈夫だって、悩みがあったとしても、そんなに大層なことじゃないから。」

百代「大したことないのなら、お前の姉である私に教えてくれても構わないだろう?」

『……』

 

二人とも黙りこくってしまった。しばらくして百代が

 

百代「私の好きな言葉知ってるよな?(誠)だ!だから、私は何事にも正直なものの方が好きだ。だから、今のお前は正直好きじゃないな…」

大和「…誠か、そうだなそういう意味で言えば、ねえさんとオレは対極に位置しているよな。」

百代「は?」

 

意味が分からず思わず間抜けな声を出してしまった。いったい、何を言っているんだろう?こいつは?と思っていると、大和がはあ、と溜息をついて、

 

大和「なあ?今まで自分自身に嘘をつき続けたやつってやっぱり、最低のやつなのかな?」

 

と言った。どう答えればいいのか迷っていると大和は立ち上がり、

 

大和「悪い。困らせる気は無かったんだ。ただ、ちょっと聞いてみたくなっちまってさ。」

 

と言って、大和は手を振りながらカラオケの店内に帰っていった。百代はその背中をただ呆然と見ることしかできなかった。



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リューベックへ

今回は短めです。
読んでくれた方々!お願いです。どうか短けー。とか思わないでください。


2009年11月5日

 

大和「んん、(ふにゅん)んん?」

京「おはよう。大和、朝だよ。大好き」

 

と大和に馬乗りになって京は言った。

 

大和「ああ、おはよう。京、そして、お友達で」

京「もう!釣れないんだから!」

大和「いや、というか退いてくれないか?

あと10秒で退いてくれないと嫌いになってしまう確率がある。」

京「それは大変。今すぐどく。」

 

そんな、いつも通りの会話が流れていく中、京はほんの少し安心した。ああ、いつも通りの大和だと、だが…

 

京「大和、制服そこに置いておいたから」

大和「…いつもながら、まめだな。けど、今日はイイや」

京「え?」

 

いつも通りではないことが起こった。

 

京「な、なんで?」

大和「んー、ちょっと今日行きたいところがあるからさ、だから、今日は学校行かないよ。後、ついでに何日か連続で休むから。まあ、風邪とでも梅先生には伝えといてくれ!」

京「……」

大和「ん?どうした?」

京「う、ううん。わかった。伝えておくよ。」

 

そう言って、大和は部屋を出て行った。

 

京「怪しい…」

 

京は人知れずそう口にした。

 

多馬川

 

ガクト「で、結局大和を見送っちまったってことか!!」

京「うん、なんだか近寄りづらくて、止められなかった。」

クリス「おいおい、それは…」

まゆっち、松風「はい。本格的におかしくなってきましたね。」『大和坊どうしたのかなー?』

 

風間ファミリーは口々に言い合っていたが、そんな中、百代だけは一人何か考えていた。

 

『自分自身に嘘ついてきたやつって、やっぱり、最低なのかな?』

百代(あれは、どういう意味だったんだ?)

 

川神学園

 

ユキ「えー、やまとどこか行っちゃったのー?」

準「驚いたな。まさかこんなに早く…」

冬馬「ええ、らしくないですね……」

葵ファミリーに報告するとやはり驚愕だったようで、こんな反応をしていた。それに対しクリスは、

 

クリス「ああ、自分もそう思う。大和が急にフラッと出掛けるなど…」

冬馬「いえ、それも確かにそうですが、私は別の点で、らしくないと言ったんです。」

一同『?』

 

一同は葵冬馬を見る。

 

冬馬「いいですか?彼はなるべく、僕たちに聞かせたくない話があるようですよね?だったら、変じゃないですか?どこかに行くにしたって、昨日の今日で消えてしまうなんて」

モロ「そうか、確かにそうだね!どんなバカでも、これは変だと気付かせるような真似したら、逆効果だね」

ワン子「え?え?」

ガクト「つまり、どういうことだよ?」

百代「ここに気がついていないバカがいるぞー。」

キャップ「つまり、こんなすぐに不審な行動を起こすのは、軍師として失格だっていうことか?」

冬馬「ええ、そういうことです」

まゆっち、松風「確かにそうですね。ほとぼりが冷めるまで待てばいいのに。」『おいらたちに変だと気付かせてでもしたいことがあったってことかな?』

冬馬「さあ?ですが、追う手段がない以上待つしかないでしょう。」

一同『……』

 

それからは皆黙るしか無かった。

 

時は流れて 2009年11月8日

ドイツ リューベック

 

《それにしても、驚いたな。マスター》

大和「ん?」

話しているのは、直江大和と【乗っているバイク】だった。

大和「なにがだよ?フェンリル」

フェンリル《いや、ここまで来るための手段だ。いったい、どうやってここまで来るのかと思っていたが、まさか、バイクである俺に気を纏わせて水上走行させるとは》

大和「ああ、おかげで腐るほどガソリン買わなくちゃいけなくなったがな」

 

話し終わったところで、大和はバイクをとめた。

 

大和「さて、着いたぜ。ここが俺の目的地だ。」

 

リューベックハズレにある森の奥深くそこで、バイクが目にしたものは、

 

フェンリル《これは、剣?》

大和「ああ、バスターソードって言ってな。リーチと破壊力がうりの大剣さ。ま、重すぎるから、扱い切れるやつなんてほとんどいないがな。」

フェンリル《いったい、なんでこんなところに刺さっているんだ?》

大和「墓さ。」

フェンリル《っ!!?》

 

思わず絶句してしまった。

 

大和「この下には、何百という死体の山が溢れかえっているんだ。」

 

今、閉ざされた過去が再び動き出そうとしている。



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3つの影

はい、今回で、カダージュたちが登場です。ちなみに自分の好きなのは、ロッズです。理由はなんか、すぐ泣いてしまうところが親しみやすいと思うからです。


大和「よお、ザックス久しぶりだな。」

 

突然、流暢な英語で大和は大剣に話しかけた。

 

大和「10年振りか。おれももうあとちょっとで、17歳だよ。時間が流れるのは早いもんだな。後で研究所にも向かおうと思っているが」

 

愛車のフェンリルの方をむくと、

 

大和「ん?ああ、あいつは前に九鬼財閥の従者たちのクーデターを止めた時に紋様に『何か欲しいものはないか』って言われてな。それで、『大剣六本ぐらい入る大型のバイクが欲しい』って言ったらくれたんだ。さすが、九鬼だよな。

まあ、ほとんど哀れまれてくれたんだろうが…」

 

と言って、全国に向かって広がってしまった。自分の恥ずかしいセリフを思い返した。

 

大和「人工知能は付けなくていいって言ったんだけどな。まあ、これはこれで楽しいから、別にいいけど…

ん?哀れまれて大丈夫かって?大丈夫だよ。だって…

 

あの悲劇に比べれば、本当に些細なものだ」

 

一方、フェンリルは一人黙々と剣に向かって喋っている主人を見て、不思議と可笑しいと思わなかった。ただ…

 

フェンリル(本当にマスターは話しているのかもしれない。ここにいるはずのない10年来の友達と…)

 

と結論付けて別のことを考えることにした。

 

フェンリル(しかし、さっきは受け流してしまったが、何故マスターは気などを使えるんだ?

あれほど気の扱いに長けたものならば、川神の武芸者に気付かれそうなものだが…うん?)

 

異変に気付いて、フェンリルは思考を切り替えた。

 

フェンリル(これは生命反応に似たようなもの?

まずいな。どんどん、近づいてきている。)

《マスター!!》

大和「ああ、どうやら時間切れみたいだ。

研究所に行けなくて残念だが、ん?大丈夫だって…おれは死なない。だって、おまえが言ったんだろ?

 

オレがおまえの生きた証だ

 

ってさ。だから、おれはおまえの分まで生きていくよ。」

 

フェンリルに乗り込み

大和「じゃあな、また会おうぜ!」

 

ブーン

 

発進させようとした瞬間に、黒い影が3つ飛び込んできた。

 

「やあ、兄さん」

 

バイク集団の先頭にいた肩に掛かるか、かからないかぐらいの銀髪、そして特徴的な空色の瞳を持った黒いレザースーツの少年が問いかけてきた。

他の二人も髪の毛、瞳の色、服装まで似通っていた。ただ、違うとすれば、右側の少年は短い髪をオールバックにして、左側の少年は長い髪をダランと伸ばしていた。

だが、髪の毛と瞳の色だけで充分だった。

 

大和「……」

 

大和の苦々しい記憶を蘇らせるには

 

「早速で悪いけど、単刀直入に聞くね?

 

母さんはどこ?」

 

-母さん一緒に人間共に復讐しよう-

 

大和「っ!!?」

 

突然の言葉に驚愕と怨念を隠しきれないでいたが、大和はすぐに冷静な表情に戻って

 

大和「おまえら、一体何を知っている?」

 

問い返した。

 

「質問は、僕たちがしているんだけどな?」

大和「ああ、そうだったな。だが、いきなり現れてきて、おれのことを兄さん呼ばわりした挙句、勝手に質問とは随分な礼儀じゃあないのか?」

「それもそうだね。じゃ、自己紹介ぐらいしておこうか?僕の名前はカダージュ」

「俺はロッズ」短髪

「俺はヤズー」長髪

カダージュ「さて、じゃあ僕たちの質問に答えてくれないかな?母さんは…」

大和「知らないな。なんのことだ?」

カダージュ「…釣れないな。」

「用件はそれだけか?じゃあ、帰らせてもらう。」大和

 

そう言ったと、同時にフェンリルは発進した。

そしてカダージュは告げた。

 

カダージュ「…追うぞ」

大和「ちっ、やっぱり追って来たか…」

フェンリル《マスター!奴らを知ってるのか?》

大和「知ってるとも、知らないとも言える。ただまあ、あいつら個人に会うのは、あくまで初めてだ。あまりにも気の感じがヤツに似すぎているが…」

フェンリル《ヤツ?》

大和「とにかく、今はっきりしていることは、ヤツらが俺たちの敵だってことだ。荒っぽい運転になるが、よろしく頼む。」

 

そう言いながら、剣をバイクから一本出して、横の木を一本切り倒した。

そして、木はカダージュたち三人の行く手を阻むように倒れこんで来た。だが、ロッズは殴り飛ばし、カダージュは切り裂き、ヤズーは蹴り飛ばした。

 

大和「ま、そりゃそうか。うん?」

 

下を見てみると、黒い影らしきものが出て、追ってきていた。

 

大和「っ!!やばい!」

 

大和が黒い影を避けるとそこから、黒い獣が出てきた。

 

大和「気でできた獣か…こんなことができるとはな!」

 

大剣で斬ると、獣が煙のように分散して、また、獣になっていった。

 

大和「ちっ、なるほどな!実体があるわけではなく、あくまで攻撃なわけか!」

 

獣に目を奪われていると、後ろから、また黒い影が出てきた。最初は、獣かと思ったが違った。銀の長髪をたなびかせているヤズーがバイクごと飛んで来たのだ。

 

大和「なっ!!?」

 

ヤズーが銃を自分に向けているのを知ると、顔を急いで逸らした。

 

ズガンッ

 

銃弾がじぶんの装着しているゴーグルに当たって、ゴーグルが弾かれていった。

 

大和「がっ!!?」

ヤズー「ちっ、惜しい。」

 

なんとか、避けたが状況がまずいことには変わりない。横は森、ヤズーに前を、カダージュとロッズに後ろを取られた形になっていた。つまり、

 

大和(挟まれたか…)

 

どうしようか。迷っていると、後ろから音楽が流されて来た。

カダージュ「なに?」

 

それは、カダージュの携帯の着信音だった。どうやら、だれかから電話が来たようだ。

 

カダージュ「はあ?一回戻ってこい。ちょっと待ってよ。今、兄さんが目の前にいるんだ!」

 

カダージュは叫んだ。が、

 

カダージュ「はあ、分かったよ。あんたらとも協力する約束だったからね。」

 

と言って、携帯を切った。

 

カダージュ「ごめんね。兄さん。なんだか急用が入っちゃってさ、今度ゆっくり話そうよ?」

大和「何だと?」

 

そう言って、カダージュたちは去っていった。

 

フェンリル《なんだったんだ?》

大和「さあ、だが少なくとも、いい感じはしないな…」

 

そう言って、瞳を空に向けた。その瞳の色は、いつも川神で見せる焦げ茶色の日本人らしい瞳ではなく、カダージュたちと同じような空色の瞳だった



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ヤズーvs梁山泊

2009年11月10日 梁山泊

 

林冲「楊志ー、また、私のパンツをとったなー!」

楊志「うおーっしゃー!!」

史進「おーおー、やってる。やってる。」

 

愉快に走りまわっている。林冲と楊志をみて、史進はつぶやく。

 

公孫勝「本当、よくやるよね。楊子も林冲も」

武松「お前もあれくらい走りまわって、たまには体力作ったらどうだ?公孫勝?」

公孫勝「ブショー、シュークリームいる?」

武松「もぐもぐ♪」

史進「っていや、簡単に食うなよ!」

 

梁山泊は、いつも通り平和であった。まあ、危険な任務がちょくちょくあるから、平和と言えるかどうか微妙ではあるが、

 

公孫勝「それにしても、史進たちの任務失敗から、もう一ヶ月以上経ったんだねー。」

史進「ぶ!!?」

公孫勝「いやー、あの時の胸パッドたちの姿は傑作だったなー」

史進「ああん!誰が胸パッドだって?決闘だ!かまえろ、公孫勝!」

武松「落ち着け!史進」

 

と、洒落合っている時に変化は起きた。

 

武松「…何だ?この気配は?」

公孫勝「生き物いや現象?」

史進「いずれにしろただものじゃないってことはわかんよ…」

楊志「確かにねー、最近退屈だったし、丁度いいんじゃない。」

林冲「迂闊に考えるな!楊志、ただものではないと史進もいっていたろう?」

 

そして、悲鳴が梁山泊に響いた。

 

林冲「まずい!行くぞ!」

公孫勝「うん、行ってらっしゃーい。」

楊志「あんたも行くんだよお。公孫勝。」

 

ガッと楊志に掴まれて、引き摺られて行く公孫勝。

5人が急いでそちらに向かうと(一人急いでないのもいるが)、銀の長髪のレザースーツを着た男が倒れている少女たちの中心に立っていた。

 

ヤズー「やあ、俺の名前はヤズー…

いきなりで悪いけど、死んでくれないかな?梁山泊!」

武松「なっ!!?」

 

そう言った瞬間、ヤズーは武松に突進していき、鋭い蹴りを放った。

 

武松「っ!!?」

 

いきなりのことで驚いた武松だったが、即座に蹴りで応戦した。

 

ズバアーン

 

とても、蹴りと蹴りの衝撃音とは、思えない音が、辺りに響いた後、両者は下がった。

 

史進「何だ?こいつ、不意打ちだったとは言え、炎を纏った武松の蹴りに素の蹴りで拮抗しやがった?」

林冲「待て、ヤズーと言ったな?何が目的だ?」

 

林冲が銀髪の男に問うた。

 

ヤズー「同じことは、何度も言いたくないな。お前たちを殺しに来たと言ったんだが?」

林冲「だから、それはなんのためだと聞いている。」

 

睨み返す。

 

ヤズー「ほう、いい目だな。まあ、いいか…別に話しても…俺たちとしてもこんなことには興味がなかったがな。だが、ヤツらが後々厄介になるから、潰しておけというんでな。とりあえず、潰しておくことにしたんだよ。」

史進「はっ?ヤツら」

ヤズー「ああ、もちろん最初は反発したが、話を聞いているとなるほど、どうして粒揃い、だから、外部の組織と手を取り合い、おれたちの計画を潰しに来たら、こちらとしても大打撃を受けるだろうということで潰しにきたんだ。」

楊志「あっそぉ、じゃあ今すぐ…」

史進「潰してやんよ!」

 

楊志と史進が同時に突進して行った。

楊志は双剣を横薙ぎに一振り、史進は棍で一突きした。だが…

 

ヤズー「危ないな。二人同時にとは」

 

信じらないことにヤズーは、二人の武器にそれぞれ足を乗っけて立っていた。

 

史進「なっ!?」

楊志「っ!?」

ヤズー「お返しだ!」

 

避けれないと判断した史進は楊志を自分の腕で引きさがらせ、

 

史進「梁山泊玄武陣!!」

 

自分の身を鋼鉄の盾にする梁山泊玄武陣を使った。だがそれでも、軽く3メートル吹き飛ばされた。

 

史進「がはっ!?嘘だろ!わっちの玄武陣をもってして、防ぎきれない蹴りなんて…こいつ川神百代並みいや、それ以上か!?」

林冲「楊志!ヤツの技のコピーはできそうか?」

楊志「正直難しいなあ。」

林冲「何?」

楊志「そりゃあ、私にだってプライドはあるから、全ての技のコピーをしようという意気込みでコピーはおこなってるけどぉ、さっき衝突した時に見たけど、使う武器が武器だからなぁ。」

 

楊志がそう言った瞬間、ヤズーは、背中に隠していたであろう銃を取り出してきた。

 

ヤズー「さあ、始めようか。」

林冲「なるほど、では私がでる。武松!援護をお願いする。」

 

と武松に向かって言ったが返事はない。

 

林冲「武松?」

公孫勝「ブショー!ブショー!どうしたの?」

 

心配そうに公孫勝が駆け寄って行く

 

ヤズー「無駄だ。さっきの打ち込みで、蹴りをしていないもう一方の足の関節部分に気を練った銃弾をぶち込んでおいた。そいつはしばらく立てない…」

林冲「何?」

ヤズー「さて、小さな小娘は戦闘には向いてないんだろう?どうする?」

林冲「くっ!」

楊志「何迷ってんのぉ?」

林冲「楊志!?」

楊志「今、まともに動けんの林冲と私だけでしょう?だったら、二人で行くよぉ。」

林冲「分かった。防御は任せてくれ!」

楊志「ん。じゃあ、いっくよー!」

 

今度は楊志と林冲で突撃していった。

まず、最初にヤズーが銃を楊志に向け放った。が、それを見事に高速の槍さばきにより林冲は弾き飛ばした。

 

ヤズー(なるほど、防御には自信がある、と)

 

そう考えているとき、楊志はすでに目の前にいた。

 

楊志「ハアーー!!」

 

キン、キン、キン、キン

 

凄まじい連撃を食らわせる楊志、だがその連撃を全て受け切っているヤズー、

 

ヤズー(なるほど、完璧に防御を相方に任せることによって攻めに徹している。

しかも、防御に徹している相方とすぐにペースチェンジするために、わずかに空間を開けている。一見、中々踏み込めないように見えるが…)

 

キン

 

と連撃を食らわせている。一瞬の間にわずかにヤズーの重心が崩れた。これはチャンスと思い、楊志は畳み掛けようとしたが、

 

林冲「楊志!待て!」

ズガンッ

 

楊志「ガッ!!?」

ヤズー「俺が近接戦闘もできるせいで、銃口から一瞬、注意を逸らしたな。ちゃんと、見てなければな…フン!!」

 

ヤズーは楊志の腹に回し蹴りを食らわせた。

 

楊志「グフッ!!」

 

そして、それだけで軽く40メートルほど吹き飛び梁山泊の家屋に激突していった。

 

林冲「楊志!!」林冲

ヤズー「どこを見てる?お前の相手はこっちだろう?」

 

容赦ない側頭蹴りが林冲を襲った。

 

林冲「ガッ!?」

 

そう叫び、林冲は倒れた。

 

ヤズー「まったく、この程度か?これでは、本来の目的の前の暇つぶしにもなりはしない。」

 

それは、見ながら史進は思った。

 

史進(嘘だろう?わっちらは梁山泊内部でも、トップの実力を誇っている。

川神百代などが来た場合の対策もバッチリだ。それをあいつ、こうも容易く)

ヤズー「それとも、銃を相手にするのは珍しいと、言い訳でもするか?

別にそれでもいいが、

 

これから死ぬヤツに言い訳など意味ないと思うけどな。」

 

史進「っ!!?」

 

最後の言葉の響きにゾクりとし、まずい殺されると思った瞬間にありえないものを見た。

 

ヤズー「何だ?お前?」

 

なんと、公孫勝がヤズーの前に立っていたのだった。

 

公孫勝「やめて…」

ヤズー「なに?」ヤズー

公孫勝「これ以上、ブショーたちを傷つけないで!」

ヤズー「それは、できない相談だね。お前達なら知っているはずだ。こういう闇の世界もあると、まあ、俺たちの場合、それはもっと奥深くにあるがな…」

史進「やめろ!公孫勝!お前直接的な戦闘は苦手だろう!?」

 

史進が見ると、公孫勝は震えていた。いつもやる気などを見せない公孫勝が必死に勇気を振り絞っているのだ。

 

ヤズー「フッ、まあいい、お前もどのみち殺すんだ。遅いか早いかの違いだ。」

史進「ヤメローー!!」

 

ズガン

 

公孫勝に銃弾が当たったかと思った。

だが、違った。銃弾はその前の剣に防がれていた。

その剣の持ち手の方には、

 

大和「何をやってんだ?お前、こんなところで。」

 

直江大和が立っていた。




ヤズーの一人称って俺だったんですね…いや、なんていうか、ヤズーだけは想像できなかった。というかうん…
すみませんでしたー!


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直江大和vsヤズー

はい、多分みんな梁山泊入れたの蛇足なんじゃないかとか、考えたでしょう。一応、今回で訳を書きました。どうぞよろしくお願いします。


大和「何やってんだ?お前、こんなところで…」

 

直江大和は、身の丈程もある大剣を肩に置きながら目の前の銀髪の男を睨みつけながら、聞いた。

 

ヤズー「ほう、メインディッシュが来たか。ま、これで狙い通りだね。こんにちは兄さん。2日振りだね。」

大和「オレは何やってんだって、聞いてんだがな?」

ヤズー「見て分からない?蹂躙だよ。」

 

ちっ、と舌打ちしながら、周囲を見渡してみる。すると、林冲などを含めたわずかに意識があるもの達が、何が起こっているのか理解できないといったような顔でこちらを見ていたのが、理解できた。

 

林冲「お前は直江大和…」

大和「ん?ああ、たしかこの前のクーデターの時にいた…」

 

クーデターと聞いた瞬間五人全員の表情が強張る。それを見た大和は、

 

大和「安心しろ。今回は味方だ。」

 

と五人に言い聞かせた。

そう言って、銀髪の男に向き直り、大剣を肩から前へ構えなおした。

 

大和「とりあえず、ここから出て行ってくれないか?」

ヤズー「さっきも、そこの娘に同じようなこと言われたけど、無理だね。ここ梁山泊は、世界最強の傭兵集団として名が通っている。つまり、ここを潰せるかどうかは、今後の俺たちの計画が成功するか、否か?にも直結する。」

大和「つまり、追い出すには、力づくじゃないといけないってわけか…」

 

ハア、とため息した後、もう一度ヤズーのほうに目を向ける。ヤズーもそれで察したのか。銃を構えなおした。

そして、

 

ガキーン

 

一気に衝突した。

 

楊志「うわぁ…」

林冲「なんという戦いだ。」

 

突然、やってきた以前敵であった来訪者に舌を巻く。林冲と楊志。

ヤツの持っている大剣は、本来スピードには、適さないパワー重視の剣のはず、だが、目の前のこの男はその大剣をナイフと同じほどの長さしかない銃と互角のスピードで操ってたたかっているのだ。

だが、やはり、敵も並ではない。

そんな大剣、振りかぶられたら、確実に銃が切られているだろう。だから、振りかぶられる前に、銃を前に突き出して勢いを殺しているのだ。

と梁山泊の戦士達は瞬時にそこまで理解できた。

 

大和「ハア!」

 

長く二人で切り返した後、大和は押し切った。かのように見えたが、ヤズーはそれを受け流し、バク転するような形で蹴りを食らわせた。

 

大和「ぐおっ!?」

 

思わず悶絶している間に、

 

ヤズー「はっ!」

 

ヤズーの蹴りが入ろうとした。直前になんとか、大剣で防いだが、蹴りの衝撃が自分の身体を吹き飛ばす。

 

だが、吹き飛ばされてもただでは帰らない。大剣を地面に突き刺し、そのまま剣を中心に腕一本で鉄棒のように回りはじめると、

 

大和「ぜあっ!」

 

そのまま、身体をヤズーの方に向けて射出した。もちろん、大剣は地面に刺さったままであるが、大和には、もう二本予備の剣が腰にあるのだ。

その剣の一つを取り出し、気をまとわせ、

 

「ブレイバー」大和

 

そうつぶやいて、思い切り突いた。

 

ヤズー「なっ?」

 

ヤズーは驚いた。なんせ、蹴り飛ばした相手がその反動を利用して、さらに加速して戻ってきたのだから。

銃を構えようとするが、間に合わない。そのため、

銃と剣が思い切りぶつかりあった。

当然その衝撃を全て銃一つで受け切れるわけもなく、今度は、ヤズーが吹っ飛ばされた。

 

公孫勝「やったの?」

武松「いや、まだだろう。」

 

吹っ飛ばされ、家屋に突っ込んだヤズーは、次の瞬間すぐに起き上がった。

 

ヤズー「やれやれ、さすがに強いな…」

史進「おいおい、今の食らって普通に立ちやがったよ。あいつ!」

大和「……」

ヤズー「まあ、いいか…本来の目的は果たしたし…」

 

ボソッと、ヤズーは誰にも聞こえないくらいの声でつぶやいた。だが、

 

大和(…?本来の目的だと?)

 

大和には聞こえていた。

ヤズー「今日はこれ以上戦っても仕方ないね。オレはもう帰るよ。兄さん」

大和「……」

ヤズー「黙秘か…まあ、いいさ。じゃあね。兄さん」

 

そう言って、ヤズーは消えていった。

しばらく考え込んでいると、足音が二人分聞こえて来て、そちらをむくと、

 

林冲「その…直江大和…ありがとう。おかげで助かった。」

大和「ああ、気にするな。元々、ドイツから日本に帰るための通り道として、中国を通っていた時、偶然、大きな力の衝突を感じたから…!?」

 

とそこで、大和は気付いた。

 

大和(待てよ?偶然…通り道…よく考えてみたら、ちょっと出来すぎじやないか?)

 

考えを整理する。

 

大和(やつらは、俺たちがドイツにバイク一つで行っていたと確認していて、もしも、その通り道のために中国を横切ることを、確認していたとしたら?

っ!!まずい。これは!)

「フェンリール!!!」

 

突然、声を張り上げて、相棒のバイクを呼んだ。それに梁山泊の女戦士達は驚いている間に、フェンリルは来た。

 

フェンリル《どうした?マスター》

大和「今すぐ、全速力で日本まで走る!

問答は後にしてくれ!」

フェンリル《!了解した。》

 

そう言って、フェンリルは自分の主人を乗せて走っていった。

 

史進「なんだったんよ?今の?」

林冲「さあ?」

 

そこで武松があることに気づく。

 

武松「あれ?公孫勝は?」

 

フェンリル《何?囮だと!》

大和「ああ、まんまと嵌められた。」

 

海を走行中に話し始めた。

 

大和「おそらく、ヤツら三人を従えてる上は、こう考えたんだ。ヤツら三人が放つ特有の気が何か大きな力とぶつかったら、俺ならば必ず気付きそこに近づくはずだと。」

フェンリル《その際、通り道となるこの中国にある世界最強の傭兵集団を絶好の火種にしたと?バカな!いくら何でもリスキー過ぎる。》

大和「いや、おそらく、あのヤズーってヤツは、潰すこと自体も本気だったろう!失敗に終わったが、九鬼財閥のあのクーデターは梁山泊の三人の猛者によって確かに成功に近づいたと言っていい。そんなのが、108も集ってるって言うんだ。潰した方がいいと考えるのが自然だろう。」

フェンリル《だが、それにしたって…》

大和「いいか?フェンリル、策なんて言うのはな『そんなバカな』と思わせれば、それで勝ちなんだよ!」

フェンリル《っ!!?》

大和「我ながら、情けない。何が軍師だ。こんな初歩的な作戦読み切れたろうが!クソ!!とにかく急ごう!川神が危ない。」

フェンリル《了解した。マスター!……ところで一つさっきから、聞きたいことがあったんだが…》

大和「うん?なんだよ!?」

フェンリル《いや、その足にひっついている小娘は何なんだ?》

大和「はっ!?」

公孫勝「ぶぺらぱぶるぷるぴぶるぴ…」

大和「ウオッ!」

 

大和は、急いで、フェンリルを止めた。そして、とりあえず足にひっついている女の子を持ち上げると、

 

大和「えっと…おーい大丈夫かー?生きてるかー?」

公孫勝「こ…」

大和「こ?」

公孫勝「殺す気かー!!!!」

大和「グハァ!?」

 

今回初のクリティカルヒットを公孫勝からもらった。

大和であった。



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ありがとう

地の文章であんなこと書いておきながら、まったくそれに触れてないので、文句をいわれました。まあ、気持ちは分かります。実際一番最初の方で触れようか触れまいか迷ってたんです。でも、なんだかまとめてやった方がよくないか?という思考に行き着きまして…ですから、その人に言いたい!(もう、読んでないかもしれないけど…)もう少し、後の方で書きます!過去編として!(期待通りに行くかわかんないけど…)


なぜ、公孫勝が大和の足に必死にしがみついていたのか?気になる方もいるだろう。

時は、少し前に遡る。

覚えているだろうか?ちょうど、戦いが終わった時、足音は二つあったのだ。そう二つ、つまりこの時点で公孫勝も近づいていたことになるのである。そして、その時あった会話をもう一度再生すると、

 

林冲「その…直江大和…ありがとう。おかげで助かった。」

大和「ああ、気にするな。元々、ドイツから日本に帰るための通り道として、中国を通る時、偶然大きな力の衝突を感じたから…!?」

公孫勝「うーん、おかげで助かったからね〜。感謝してやらなくもない。」

 

と敵が居なくなるやいなや、いつもの怠惰な感じに戻り、とても感謝とは言えない感謝の言葉をこの時点で発していたのだ。

だが、前回この時点で大和は思考の整理に入っていった。割と自尊心の高い公孫勝は、無視されたという事実に、当然面白くなく、グイッと大和のズボンの裾を引っ張ってアピールした。だが、それでも、気付いてくれないので、もう諦めて帰ってゲームでもしようか、と考え始めたとき、

 

大和「フェンリール!!!」

 

突然、大和が声を張り上げて叫び出したのだ。これに驚いた公孫勝は、思わず肩が強張ってしまい、そのまま彼の足にしがみつくような形になっていた。

そして、そのまま、大和は足にひっついている女の子になまじ力がありすぎる分まったく気付かず、フェンリルを発進させてしまったのだった…

 

大和「…で?その結果お前がここにいると?」

公孫勝「…うん」

大和「はあ、いや、そりゃオレも悪いと思うけどね…どうすりゃいいんだよ?」

公孫勝「決まってるでしょ!今すぐ、私を梁山泊に帰して!早く、帰ってゲームしたい!アニメ見たい!コーラ飲みたい〜!」

大和「悪いが、それは無理だ。こっちも急いでるんでな…だが、責任を感じないでもないからなー…仕方ない。」

 

そう言うと、フェンリルの収納スペースの一つから、ベルトの様なものを取り出して、

 

大和「ほい、これ巻け!」

公孫勝「は?」

大和「仕方がねーから、日本まで一緒に連れて行く。その後に、梁山泊に帰る手段を一緒に探してやる。言っておくが、拒否権はないぞ。今の俺は、かなり機嫌が悪い。オレやフェンリルに変なことしようものなら、容赦なく叩き落すからな!この海に」

公孫勝「っ!!?」

 

闇の世界に関わってる分、公孫勝は、目が本気か、本気じゃないかということは、理解できた。だから、すぐに大和が本気だということも理解できた。

 

公孫勝「わ、分かった。了解しないであげなくもない…」

大和「よし!後はそうだな…息が出来る様にヘルメットも貸しておいてやる」

公孫勝「ちょ。ふざけんな!そんなの被らなくても息ぐらい出来る!」

大和「本当か?海上は時速300キロ以上は飛ばして行くが…」

公孫勝「…」

 

拒否しても無駄だと分かった公孫勝は実に素直にヘルメットを被った。

 

大和「さあ、急ぐぞ。」

 

そう言って、大和はエンジンを再度かけた。

 

2009年11月11日 川神

 

ユキ「あ、キャップ〜、みんな〜。おっはよー!」

キャップ「ん?ああ、ユキに葵に井上か?」

冬馬「おはようございます。みなさん」

準「おはよーさん」

ガクト「ウィース」

モロ「あ、おはよう!」

クリス「うむ、おはよう」

まゆっち、松風「おはようございます!」『チッス、おはよう』

ワン子「おはよう!」

京「…どもども」

百代「…ああ」

 

と、各々個性的な挨拶の返し方をして学校に向かって行った。

 

準「…やっぱ、どことなく空気重いな」

冬馬「まだ戻ってきてないんですか?大和くんは?」

ガクト「ああ、もう、一週間は経つ。キャップならまだしも、あいつがこうも学校休むなんてなー」

キャップ「もしかしたら、案外あのことと関係してるかもな…」

百代「…あのことだと?」

キャップ「ああ、口止めされてんたんだけど、ま、ここまで俺たちに心配かけてんだから言ってもいいよな。」

 

皆がキャップに注目する。

 

5年前

 

その日、キャップと大和がたまたま二人きりで遊ぶことになった。

釣りなどをしながら楽しんでいると、

 

大和「…キャップ、ありがとう。」

キャップ「うん?なんだよ?いきなり」

大和「お前のおかげで大切なことに気付けた。お前に会わなかったら、多分俺は、一生殻に閉じこもったままだった…そんなことを思ってな。急にお礼がしたくなった。」

キャップ「お、おお…真っ向から言われると照れくさいな!」

大和「キャップ、俺な、昔誘拐されたことがあるんだ。」

キャップ「え?」

 

何を言ってるのか分からなかった。

 

キャップ「ちょ、嘘だろう?」

大和「本当だ。そのせいでちょっと人間不信に陥っちゃってな。一時期、本当に人間が信じられなかった。」

キャップ「…」

大和「けど…キャップ、お前にあの時、風間城2号が建てられたあの場所で会えて、お前と話せたから、今の俺があるんだ。あのままじゃ、人脈を築こうとも思わなかっただろうしな。おっ、引いてる。引いてる。」

 

大和は魚を引き上げながら、こう言った。

 

大和「だから、お前には、本当に感謝してるんだ。ありがとう…」

 

そう言って、優しい笑みを大和は浮かべた。

 

キャップ「って、昔言っててよ。」

百代「大和が誘拐された!?」

 

一同は、驚愕した。

 

キャップ「ああ、このことは、2人だけの秘密だ、って言ってたけどな」

まゆっち、松風「それは、穏やかじゃありませんね…」『ああ、ヤベ〜よ!』

準「ああ、関係あるのかもな…」

百代「大和…」

 

そうつぶやいて、百代は雲行きの怪しい空を眺めた。

 

同時刻川神ハズレ

 

ロッズ「さてと、遊ぶか…」

 

とロッズが呟いた。絶望が川神におとずれる



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百代vsロッズ

なんか、今回は異様に長くなりました。正直ゴチャゴチャになっちゃったかなー、と思うのですが、とりあえず投稿しようと思います。では、どうぞ!


3日前 とある場所

 

ロッズ「あ?川神で暴れてこい?」

「そうだ。」

ロッズ「そりゃ、またなんでだよ?」

 

ロッズは当然の疑問を口にした。なぜなら、今どこかで暴れたなどと知られて、自分たちが動きづらくなるような行動は、直江大和と交戦して以来、制限されていたからである。

 

「確かに、動きが制限される確率があるが、だが彼女をもし倒したなら、話は別だ。」

 

そう言って、ロッズに一枚の写真を投げた。

 

ロッズ「こいつは?」

「川神百代。名前を聞いたことは…まあ、あるわけないか…」

ロッズ「ああ」

「彼女は現世界最強の武闘家だと言われている。彼女をもし、倒したなら君は、世界最強の名と共に確実に世界に恐怖を与えるだろう。」

カダージュ「…随分と不確定要素が多いんだね。社長…」

 

影からカダージュが出てくる。

 

カダージュ「『もし…』『…だろう』そんな不確定要素の塊みたいな任務に僕たちは、つきたくないな…」

社長「ああ、これは申し訳ない。だが、ロッズならば大丈夫だろう。幸い君の能力は川神百代の武器を一つ確実に封じることができる。」

 

そう言って、男は空を見上げながら、いった。

 

「まずは、街に恐怖を与えるために、いきなり川神百代を狙わずに街の武芸者たちを倒してもらおうか?」社長

 

川神

 

ロッズ「ちっ、あの野郎、母さんを手に入れるまでの辛抱だとしても、良いように使いやがって…」

 

ロッズは、心底忌々しそうに呟いた。

 

ロッズ「だが、ヤズーから報告が来た。狙い通り兄さんは、梁山泊に立ち寄ったようだな。つまり…」

 

立ち上がり、ロッズは笑みを浮かべる。

 

ロッズ「今日こそ、川神百代をぶっ倒しに行っても良いってことだな!」

 

そう言って、ロッズは光と共に消えた。

 

川神学園前

 

ワン子「お姉様?どうしたの?」

百代「…ん?ああ、嵐が来そうだなと思ってな。」

ガクト「そういや、今日は随分と雲行きが怪しいな。」

キャップ「ああ、今にも雨が降り出しそうだ。」

まゆっち「…はい。そうですね。」

そう言って、一同は空を眺めた。だが、川神百代と黛由紀恵だけは、違った。

まゆっち(モモ先輩!今のは?)

百代(ああ、やはりまゆまゆも気づいたか?どこの誰だか知らないが、得体の知れない気配がこっちに近づいてきている。)

まゆっち(もしかして、最近暴れているという暴漢なのでしょうか?)

百代(分からない。だが、その暴漢はかなりの使い手だというからな。なんでも、私に挑戦する筈だった武芸者50人を一蹴したという噂だ。)

まゆっち(どうしましょう?)

百代(どうしましょう?そんなの決まっているだろう。そいつが強いというなら、闘うに越したことはない!)

 

そう言って、百代は獰猛な笑みを浮かべながら、学園に入っていった。そんな後ろ姿にゾッとしながら、黛由紀恵は、続いて学園に入っていった。

 

2-S

 

心「おはようなのじゃ。ユキ。」

ユキ「…おはよ〜…こころ〜…」

 

ユキは教室に着くなり、机でダル〜としていた。

 

心「にょわ!一体ユキはどうしたのじゃ?葵くん!」

冬馬「実は、大和くんが未だに帰ってなくて、それで…」

英雄(ひでお)「何?あの小市民が?一体どうしたというのだ?」

準「知らねーよ。俺らどころか風間ファミリーにすら知らされてねーんだ。」

 

3-F

 

燕「モモちゃーん、おっはよーん。」

百代「ああ、おはよう…」

矢場「やはり、今日も元気が無いで候。

まだ、帰ってこないで候?」

百代「まあな、全くあいつめどこにいったんだ!」

燕(あれ?でも、ちょっと元気?なんかあったのかな?そういえば、今日変な気配がしたけど…)

 

1-C

イヨ「おはよう。まゆっち!」

まゆっち「おはようございます…イヨちゃん。」

イヨ「?どうしたの。まゆっち?なんか怖いよ。」

まゆっち「い、いえいえ、大丈夫ですよ。」

イヨ「そう…」

まゆっち(何かあった時は、イヨちゃんは、私が守らなくては!)

 

1ーS

紋白「フハハー。おはよう!皆の衆!」

ムサコっす「おはようございます!紋様」

ヒューム「……」

紋白「どうしたのだ?ヒューム?皆に挨拶せよ。」

ヒューム「紋様…私から離れないようにしてください。」

紋白「?分かった…」

 

2-F

千花「あっれー?なおっちまだ帰ってこないんだ。」

マヨ「そろそろ、心配になってきましたね…」

羽黒「ねえねえ、風間!本当に何も知らない系?」

キャップ「ああ、知らねー。なあ、ゲンさん?」

源「…ああ、知らねー。おれは隣の部屋だが、あいつが帰って来た気配すらしねー。」

ヨンパチ「はっ!まさか、あいつこの隙に誰か風俗の姉ちゃんたらしこんでよろしくやってんじゃ…」

スグル「こんな時にそんな思考ができる貴様が心底羨ましいよ。」

くまちゃん「本当に、どこにいっちゃったんだろーね?心配してたらお腹空いて来ちゃった。もぐもぐ」

京「大和…」

ワン子「京…」

 

こんな、鬱な気分が蔓延している学園を更に暗くさせようとしているかのように、雨が降り始めて来た。

 

そして、その学園にピチャ、ピチャと足音を立てながら近づき遂に学園に入ると同時に

 

ロッズ「川神百代ー!いるかー!!」

 

『!!!』

 

突然の雄叫びに学園の生徒全員が驚いた。

 

「何だ?何だ?」「何?今の声?」

 

と同時に皆が口々に言い合いながら、校庭の方へ目を向けた。

だが、何人かのいわゆる「壁を越えた者」は、驚きもせずただ、来たか…というような反応を見せた。

 

燕「あの人が今朝から感じた妙な気配ってことかなー?」

百代「ああ、そうだろうな。ご指名は、私のようだ。」

燕「気を付けて、正直言って気味が悪いから。」

百代「ああ…」

そう言って、百代は校庭に飛び降りた。

 

百代「私が川神百代だが?」

ロッズ「うん?ああ…そうだな。写真と顔が同じだ。うん、それじゃ、遊ぼう。」

 

そう言って、ロッズは構えをとった。

百代もそれを見て構えで応じようとすると、

 

ルー「待つんダ!百代!彼と闘ってはいけなイ!」

 

イ・ルー師範代が割り込んできた。

 

百代「なぜですか?ルー先生もわかっているでしょ?こいつの気配は只者じゃない!」

ルー「だからダ!彼からはとても邪悪な感じがするヨ!非常に危険ダ!だから、「ゴチャゴチャ、うるせーな」!」

ロッズ「フン!」

 

ロッズは、思いっきり突きを放った。

 

ルー「ぐおっ!」

百代「!!!(こいつ!ルー師範代の懐を容易に…)」

ルー「くっ!」

 

そうつぶやいて、ルーはなんとか立ち上がった。

 

ロッズ「ん?おお!何だ?今のを腕で防いだのか?」

ルー(このパワー…もしかすると、百代以上カ!)

ロッズ「はは、こいつは良い。今のを防げるやつがいるとは。そんな奴らの中でも、川神百代!お前は最強なんだってな?こいつは楽しめそうだ!」

 

ロッズは実に愉快そうに笑って言った。

 

百代「ああ、私も同感だ。」

 

百代も同様に笑みを浮かべていた。

 

ルー「待ちなさイ!「まあまあ、ルー」総代…」

鉄心「あの銀髪の男は、どうやら百代と闘うまで、引き下がってくれそうにない。それにおそらく、ここ最近の傷害事件は、彼奴と関係がある。ならば、この際、百代と闘わせた方が自体解決の糸口にならぬかの?」

ルー「それはそうかもしれませんガ」

鉄心「いざとなれば、わしらが間に入り、手助けすれば良い。じゃから、見守ろう、のう?」

ルー「…分かりましタ。」

 

百代「行くぞ。川神流無双正拳突き!」

 

百代が突進し、そのまま正拳を食らわせた。それだけで、降る雨が彼女を避けていき、一つのトンネルのようになっていた。当然、避けるだろうと思っていたが、

 

ロッズ「ぬおっ!」

 

あろうことか、ロッズは、わざと受けたのだ。そして、

 

ロッズ「捕まえた。」

百代「っ!?」

 

そう言って、拳を掴むと一回転させた後、校舎に向けて百代を投げた。

 

百代「くっ!」

 

百代は、回転して勢いを殺し学校の壁に着地すると、そのまま、またロッズの方に向けて突進していった。

 

百代「はあ!」

ロッズ「おら!」

 

拳がぶつかり合う。その瞬間、そこを中心に巨大な爆発が起こる。校舎のガラス戸や壁が軋み、そして、

 

百代「うわ!」

ロッズ「ぐっ!」

 

両者がともに引き下がった。

百代(こいつ!)

 

ワン子「嘘でしょう!あのお姉様の拳を受けて倒れず、なおかつお姉様と拮抗するパワーを持ってるなんて!」

京「信じられないけど、今実際に起こってることだよ。ワン子…」

クリス「一体、ヤツは何者だ?」

 

まゆっち、松風「なんという力…」『半端ねー…』

 

 

ガクト「おいおい、こりゃもしかするかもしれねーぞ!」

モロ「ちょっと、ガクト景気の悪いこと言わないでよ!」

キャップ「でも、俺もなんか嫌な予感がすんだよなー。」

モロ「一気に信憑性上がっちゃったよ…」モロ

キャップは豪運の持ち主であるため、勘が良く当たるのだ。

 

ユキ「準ー、冬馬ーこれってどっちが勝つのかな?」

冬馬「さあ、正直分かりません。」

準「ま、モモ先輩が勝つことを願おうぜ!あいつやばそうだし…」

 

そんなことを、周りが話している間も闘いは進んで行く。

戦況は、

 

百代「ふっ!」

ロッズ「ぐは!」

 

若干百代が優勢、百代はロッズを蹴り飛ばすと、天高く飛んだロッズの腹部をかかえ、

 

百代「川神流 飯綱落とし!」

 

そのまま、校門の方へとロッズを叩き込んだ。

しばらくして、百代が出てくるとスカッとした顔で出てきた。

 

百代「ふう、久しぶりに楽しかったー」百代

鉄心「じゃないわ。アホ!」鉄心

百代「痛っ‼︎」

 

鉄心に手刀をかまされた。

 

鉄心「お前は校門をなんだと思っとるんじゃ。スクラップに変えおって!」

百代「仕方ないだろ!ジジイ、私だって、勝つのに必死だったんだ。」

鉄心「そんな理由で、校門をぶっ壊すヤツがいるか!」

 

と孫と祖父の微笑ましい?会話が流されていると、携帯の着信音のようなものがどこからともなく、流れてきた。

それが校門の方からだと、気づき振り向くと

 

バコーン

 

ロッズが瓦礫を蹴破って起き上がってきたのである。

 

百代「なっ!?」

 

これには、さすがの百代やその他の壁を越えたものも驚愕を隠せず、ロッズの方に視線を向けた。

当のロッズは、

 

ロッズ「もしもし…あん?遊ぶなって。とっととしないと兄さんがくるから?

ちっ!分かったよ!」

 

そう言って、携帯をしまうと、ドンと瓦礫のうちの一つを蹴り飛ばした。それを見た百代は、その瓦礫を気合いで吹き飛ばし、前を見据えた。だが、すでに、前方にはロッズがいなかった。

 

ロッズ「じゃあな。」

 

そう聞こえたと、同時にバリバリバリーと落雷でも落ちたかのような衝撃が身体中を駆け巡った。

 

何が起こった?早く瞬間回復を!

 

そう考えたが、瞬間回復がうまく発動しない。

 

まさか、これは、ヒュームさんの時と同じような…

 

電撃による一時的な麻痺、それこそが瞬間回復の唯一の弱点

 

そして、百代は成すすべなく、倒れた。



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ロッズvs大和

ふう、書き終わりました…ではどうぞ!


百代「ああっ!!」

 

百代は吹き飛ばされていた。雷のような衝撃を受けたということは分かるが、それでも正確には何が起こったのかわからなかった。

 

百代「くっ!!」

 

必死に立とうとするが、体が痺れて、言うことを聞かない。そうこうしている内に、

 

ロッズ「オラッ!!」

 

ロッズが持っている。インパクトと同時にブレードを突き出すスタンナックルが文字通り牙を剥く。当然、鉄心やルーなどが止めようとしたが、

 

鉄心「ぬぐっ!」

ルー「くあっ!」

 

今日が、雨だということがそれを中々出来ないようにしていた。

つまり、スタンナックルによって流れる電流が水溜りを通して伝わっているのだ。もちろん、本来なら気でバリアを張ることにより、そんなものは容易に防げたのだが、先ほどの攻撃は完全に予想外だった。

ロッズがとてつもないスピードで、百代の背後をとったのだ。そうあれは、まさしく

 

ヒューム(光速だな…)

 

それを見ていたヒュームは、思う。

 

ヒューム(ヤツの本来の武器は百代並みのパワーなどではなく、あのとてつもないスピードだったわけだ…これは、まずいな。このままでは…)

 

百代は敗北してしまう。自分を負かし、最強の頂に立ったものが…

そして、それはつまり…

 

ヒューム(ここにいる学園の生徒何人が生き残れるか…)

 

百代「はあ、はあ、」

 

百代は立ち上がれないまでも、意識をなんとか保ち続けている百代。なんとかして、立ち上がろうとするが、やはり立てない。それもそのはず、もうさっきから落雷以上の衝撃を繰り出すあのスタンナックルの一撃を5発以上食らっているのだ。

 

ロッズ「おいおい、まだ気を失わねーのか?」

 

ロッズは正直呆れていた。倒れていれば、自分はそれ以上何もしようとは、思わなかった。

既に敗北した相手など気にも留めないから。

だから、なぜ、立ち上がろうとするのか、ロッズには理解できなかった。

 

百代「だ…まれ!」

ロッズ「?」

百代「世界最強っていうのは…ハア、ハア、そんなに軽々しく名乗っていいもんじゃない!…私が最強で…ある以上!私は必ず勝たなきゃならないんだ!!」

 

そう、以前のように誰かに負けたいなどと思うのではなく、ヒュームという最強を倒し、最強を名乗っている以上、勝たなきゃならない!自分には、その使命がある。

 

百代「だから、お前をここで死んでも倒す。」

ロッズ「へー?じゃー、お望みどおり

 

死ねよ。」

 

ブレード付きスタンナックルを百代に向かって、思いっきり振りかぶった。

その瞬間、燕、ヒューム、黛は、即座に動いた。だが、間に合わない。確実に殺される。それは、百代本人も思ったことだ。

 

百代「く…そ…!」

 

最後に悪態をついて、終わりだと思った。

 

だが、その途中でロッズは止まった。

 

誰も、なぜ止まったのか理解できなかった。そう思い、ロッズの方を向くと、

 

ロッズ「ちっ!ヤズーのヤツ、もうちょっと足止めしとけよ!」

 

と意味のわからないことを口にした。だが、すぐに理解できた。

次の瞬間、百代を始め壁越えの実力者たちは、ゾワッと鳥肌が立った。

何者かが、こちらに来ている。それも途轍もない殺気を放ちながら、だが、百代たちは、この気をどこかで感じたことがある気がした。

その気はドンドンと近づいて来ている。そして、見慣れないバイクが突然学園に突進してきた。

 

ブーン、キキキキキ、

 

と、ロッズの目の前でブレーキをかけると、席から立ち上がった。

真っ黒だった。黒いベストに 黒いズボン、腰と左手には黒い布を巻き、左肩には黒い肩当て、ベストのうえには、狼のバックルのようなものをつけ、そのバックルの先には、剣を担ぐためのベルト、しまいには黒い手袋を着用していた。

そして、そんな奇妙な格好をした男は、誰かというと、

 

百代「や…まと?」

大和「……」

 

直江大和はただ無言だった。しばらく、沈黙が続いていると

 

ロッズ「よう、兄さん!」

 

ロッズが沈黙を破った。

 

ロッズ「随分とおそかったじゃねーか。あんたが遅いせいで、ホラ、あんたの大事な姉さんはこの通り負けちまってるぜ?」

大和「ああ、そうだな…」

 

直江大和が口を開いた。そして、

 

大和「いつも、そうだ。あの時だって、俺がもっと早くに覚醒していれば、生き残りだっていたはずなのに…」

ロッズ「あ?」

大和「また、同じことを繰り返すなんて…ほんと、俺は学習しねーな…」

 

そう言って、雨空を見上げた。

 

ロッズ「なにを…」

 

次の言葉が続くことはなかった。大和がいつの間にか背中から抜いていた大剣でロッズを吹き飛ばしていたからだ。

 

学生『!!!』

 

学園にいる皆が驚いた。

 

大和「引き金を引いたのは、てめえらだ。覚悟しろ。10年ぶりだ…俺が

 

本気でキレるのは…」

 

見たこともないほど、青い眼をした男・直江大和は告げる。そして、同じように青いをした男が、校舎の瓦礫から、顔を出す。

 

ロッズ「てめえ…」

 

青い眼をした化け物同士の闘いが始まる。

 

次の瞬間、ロッズが光と共に消えた。次に顔を出したのは、大和の背後だった。ロッズは、迷いなくスタンナックルで殴ろうとした。が、大和はいつも剣をしまうような体勢でその一撃を難なく止めた。

バチンと、両者ともに距離をとると、ロッズが一気に攻勢を仕掛ける。

 

ロッズ「オラオラオラオラオラオラ」

 

とても、眼だけでは追えない連撃、だがそれを大和は大剣で全て捌ききる。

 

ロッズ「ちっ!だったら」

 

距離をとったロッズは地面に向かって思いっきり突きを放つ。すると、地面が津波のように襲いかかってきた。

まずい!と誰もが思った。

だが、大和はそれを恐れもせず、背中に大剣を構え、気をためる。そして、

 

大和「破晄撃」

 

放った。それが土砂の津波とぶつかると爆発が起き、土煙があたりを覆った。

ロッズ「ちっ!やっぱ、川神百代と対戦した後の兄さんとの連戦はきついな。一旦引く…「逃がすかよ…」!」

大和「凶斬り」

 

「凶」と描くように切る必殺剣その一撃が

 

ガキーン

 

もう一人の青い眼の男、カダージュによって止められた。

カダージュ「撤退だよ。ロッズ…あまりにも分が悪すぎる。」

ロッズ「あ、ああ!」

大和「逃がすかと言っている。」

 

もう一度、剣を振りかぶり叩きつけるように振ると、その次の瞬間スタングレネードをカダージュたちは放り投げた。

カッという光と共に起きる爆発

 

大和「ぐっ!?」

 

そのスタングレネードの光を大和はモロに受け、目を潰されてしまった。気配を探知しようとしたが、気配を消されている。次に眼が見れるようになった時、そこには何もいなかった。

 

大和「ちっ!逃がしたか…」

 

そう言って、大和は大剣を背中に戻し、校舎の方に向かうと、そこには、

 

百代「大和…」

 

困惑して、言葉が出せないと言った表情の自分の姉が出迎えた。その顔にほんの少し罪悪感を覚えたが、すぐに切り替えて、

 

大和「まずは体を休めよう?ボロボロだろう?ねえさん…」

 

そう笑顔で言った。



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決闘を挑む

騒動があった後、大和は急いで島津寮に戻ると制服に着替え、すぐに学校に戻って行った。雨の中、正直うんざりするような気持ちもあったが、学校に着くと、更に居心地が悪くなった。

 

大和(まあ、当然っちゃ、当然か…)

 

今まで、弱いとは思わずとも普通の少年だと思っていたのが、実は強く、しかもそれが世界最強クラスだというんだから、皆が驚き、敬遠したがるのも分かる気がした。

 

学校が終わると、久しぶりに一人で帰ろうと大和は考え、いつの間にか一人で川原まで来ていた。

 

大和(そういえば、一人で帰るのって結構久しぶりだな…)

 

時々、一人で帰ることがなくも無いがこんな気分で帰路につくのは、本当に久しぶりだった。

 

その昔、風間翔一という男と出会ってから、一緒に風間ファミリーというものをつくって、いつも、誰かしら付いていた気がした。

 

大和(こんな風に一人で帰路についても、大抵その途中で誰かに声をかけられてたよな…「大和!!」そうそう、こんな風に…ん?)

 

呼ばれて後ろを振り向くと、川神百代とお馴染みの風間ファミリーと葵ファミリーの皆がいた。所々、濡れているところを見ると、かなり必死に走ってきたようだ。

 

大和「…どうした?みんな?」

百代「どうしたじゃない!!お前説明しろ!今朝の男共がなんだったのか?お前とどう関係してくるのか?全部だ!」

大和「…やっぱ、そうなるよな…」

 

はあ、とため息をつきながら大和は言う。

 

大和「他のみんなもそれが聞きたいということでいいのか?」

 

みんなが無言で頷く。

 

大和「そっか…」

 

そう言って、空を見上げた。相変わらず、雨が降り続いている。

 

大和「これに関しては、本当に自分の墓穴まで持って行こうと思っていたことなんだがな…」

冬馬「…それは、『10年前の誘拐』に関係があるのですか?」

 

その言葉に少し衝撃を覚えたが、

 

大和「そっか、キャップから聞いたのか…

10年前については、まあ、あれだけ言ってりゃ気付くよな。」

 

今度は、川原の方を向く。

 

大和「思い出すな。よくここで野球してたのを…」

一同『…』

大和「オレな、いつもみんなと遊ぶ度にこの過去だけは、絶対に言わないでおこうって決めてたんだ…だから、今も言うつもりは、毛頭無い。」

クリス「なっ!?」

大和「だけど、今回大きく巻き込んじまっちまったのもまた事実、だから、ここらしい方法で解決しようって思ったんだ。」

ガクト「?ここらしい方法だと?」

大和「ああ。」

 

そう言って、制服のポケットから川神マークのワッペンを取り出す。

 

ワン子「っ!まさか!」

大和「ああ!そのまさかだ!」

 

そして、思いっきり地面に叩きつけた。それは、川神学園の生徒なら誰でも知っている。

 

大和「決闘だ!オレとお前ら全員でな!もしも、俺の過去を聞きたいというなら、その覚悟を知りたい。それで見極めさせてもらう。」

一同『!!!』

大和「もしも、覚悟ありだと俺が判断できたなら、そのときは過去だろうと何だろうと洗いざらい吐いてやる!覚悟なしだと判断したら…そうだな。どうせ、隠しても意味が無いから言うが、俺がこれから出る戦いについて行くことを禁じる。」

準「はあっ!?」

 

あまりにも一方的な物言い、そんなの口から自分で判断できないと言ってしまえば、決闘もクソもあったものでは無い。

 

冬馬(ですが、他に方法もない。これ以外の方法を言おうとすれば、問答無用で彼は断るでしょう…)

 

だったら、

 

百代「…いいだろう受けてやる!その決闘!絶対にお前に認めさせてやろう!私たちの覚悟を嫌と言うほどにな!」

 

大和「時間はそうだな…3日後ということでどうだろう。場所はそっちが決めてもいい。」

百代「ああ!分かった!3日後だな!」

大和「ああ、それじゃあな。三日後…」

 

いい終わった後、空色の瞳を見せ、大和の姿が消えた。

 

秘密基地内部

 

珍しく、葵ファミリーを迎えて作戦会議に移っていた。

ガクト「で、どうすんだよ?実際。」

ワン子「正直なところどうなの?お姉様、大和の実力は?」

百代「正直に言うと、あいつの実力は私よりも上だ。まゆっちと私が組めば、勝てないわけではない程度の実力差というのが先程の戦いを見た私の感想だが、まだ底を見せてないような気がしさえした。」

キャップ「それほどかよ!?」

準「おいおい、勘弁してくれよー。そんなやつからの決闘を俺たち受けちまったのか?」

百代「安心しろ!お前たちの手は、全く考えてない。」

モロ「ですよねー…」

京「そう考えると、私、ワン子、クリス、まゆっち、ユキの6人で立ち向かうことになるけど…それでも、果たして勝てるかどうか…」

ガクト「異議あり!せめて俺様もくわえろ!」

ユキ「そうだねー。あんな真剣(マジ)なやまとそうそう見かけないもん。決闘の時は、手加減なしだと思うよー。多分…」

ガクト「無視か!おい」

クリス「しかも、自分のレイピア以上のスピードであんな大剣振るってるんだ。一回当たったら、モモ先輩ならともかく確実にダウンだな…」

ガクト「おーい…」

百代「まあ、でもさすがにあの大きさのことを鑑みても、どう考えたってまゆまゆよりかは遅かった。なあ、まゆまゆ?」

まゆっち、松風「はい…」『あんな大剣をまゆっちの神速以上で振ってたら、それこそ悪夢だからねー。』

ガクト「おーい!!!【グキッ】ギャアー!」

百代「うるさい。で、さっきからだんまり決め込んでる。お前はどうなんだ?」

冬馬「私ですか?そうですね。いくらか、策を考えましたが、果たして通じるかどうか。ただ、

 

最低最悪の作戦だけは皮肉にもすぐに思いついてしまいましたがね。」

 

百代「最低最悪の作戦?」

 

一斉に眼が葵冬馬の方へと向かって行く。

 

冬馬「ええ、説明すると…」

 

葵冬馬の口からとんでもない作戦が口走られた。それを聞いた皆は、

 

百代「何だ?その作戦は…」

ワン子「ふざけないでよ!」

京「全く、同感…」

クリス「そんなのは、作戦とは言わん。友情をダシにしているだけだ!」

まゆっち、松風「……」『やべーよ。それは…』

モロ「さすがにそれは…」

ガクト「俺様も断固反対だ!」

キャップ「ああ、そいつは大和を精神的に傷つけかねねー。」

準「若…さすがにそれは俺も…」

ユキ「トーマー…」

 

冬馬「ええ、分かっています。ですから、言ったでしょう?最低最悪の作戦だと、私も使いたくありません。こんな作戦…ですが、もしも本当にどうしようもなくなった時、誇りよりも彼の過去を聞くことを優先したいというのなら、使わざるをえない作戦でしょう。」

 

百代「…なんで、その作戦を先に話した?」

冬馬「決まっています。考える時間を皆さんに与えるためです。さっきも言った通り、これは最低最悪の作戦だ。あなた方武士娘の誇りを捨てさせる程の…十分に考えた後に答えを出すのが得策だと思っただけです。」

 

『…』

 

それ以降、黙りこくってしまった。そして、百代は決断する。

 

百代「考えた方がいいかもな…」

ワン子「お姉様!!」

百代「確かに武闘家にとって、誇りは命と同じくらい大切な物…だがな、お前たちも見ただろう、さっきの去り際の大和のとても哀しそうな目を…私は誇りよりもあいつをあんな目にした敵の正体を知りたい!誇りならば後でいくらでも取り返す!」

『!!!』

 

その言葉に、皆は驚愕が隠せないでいた。あの百代が誇りを捨てると言いだしたのだ。それは、誰もが驚く言葉であった。

その言葉をうけ、皆も最低最悪の作戦について考えようと想い出したのだ。

 

 

そんな時、大和は寮で星空を眺めながら座り込んでいた。

 

公孫勝「おーい、大和!このゲーム飽きたぞ。他のゲームやらせろー」

 

と呑気に公孫勝はゲームなどをやっており、本当にこいつ帰る気あるのか?と少し疑問に思うことがある。

そんな中、大和は星空を眺めながら、昔を思い出していた。

 

10年前

 

「あー、またここにいた。」

「ほんとここ好きだね。お前!」

大和「エアリス、ザックス…」

 

大和は、研究所を抜け出して来てはいつも敷地のギリギリまで外に行き、星を眺めていた。

 

エアリス「わあ、いつもながらここから見る星空は綺麗だねー!」

大和「うん…」

ザックス「?どうした?大和?」

大和「いや、アレから3カ月は経つけど、外はどうなってるのかなーって、母さんたち心配してないかなーって思ってさ…」

エアリス「……外のことはわからないけど、少なくとも、この3カ月で憧れと目標が出来たってあなた言ってたじゃない。いくら考えても分からないなら、とりあえず、それを追いかけようよ!」

ザックス「そうだぜ!目標があるっていうのは何事でもいいことだと思うぜ。俺は!」

大和「ザックス、エアリス…うん…ありがとう!」

そんなことを話してると、前から銀色の髪をした男が近づいてきた。

ザックス「お!帰ってきたみたいだぜ!お前の目標!」

大和「ああ!」

 

大和「おかえり!セフィロス!」

 

大和は目を輝かせながら、銀髪の男に向かってそう言った。

 

アレから10年、自分はおそらくかつて目標だと慕っていた男よりも強くなったんだと思う。だが、実際はどうなんだろう?自分は望みの物になれたのだろうか?と大和は自問自答していた。




セフィロスは、今回最初仲が良かったという設定にしました。微妙だと思う人は遠慮なく意見を!


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大和vs風間&葵ファミリー

次の日には、もう既に決闘の噂は、学校に木霊していた。

直江大和が自分の仲間である風間ファミリーと葵ファミリーに決闘を挑んだ。と、

当然、この間の闘いを見ていた教師陣はそんなことに賛成はできず、猛反対した。下手すれば、町一つが消えるような闘いになりかねないのだ。だが、川神百代は譲らず、更には葵冬馬の持ち前の弁舌力を持って、結局九鬼の監視のもと決闘は行われることになった。

その二日後、ついに決闘の時が迫った。

 

2009年11月14日

 

舞台は、川神決戦などが行われる場合使う山の中

 

ワン子「さて、それじゃあ、行きましょうか!」

京「うん!」

ユキ「わいわーい!」

クリス「うむ!」

まゆっち「はい!」

百代「ああ…行くぞ!お前たち!」

 

大和(…そういえば、命かけない闘いっていうのも、久しぶりだな…戦歴は…そういえば、命かけない闘いでは一度も勝てた試しないな…はあ、我ながら情けない。だが…)

「負ける気はない!」

 

そして、山の中、川が集中する広場の中央、そこで両者は対峙した。

 

大和「一応、聞くけど…やるんだな?姉さん」

百代「ああ、愚問だな」

大和「そうか。そんじゃ、

 

本気で行くからな」

 

鉄心「西方 直江大和」

大和「はい!」

鉄心「東方 風間ファミリー&葵ファミリー」

『はい!』

鉄心「いざ、尋常に

 

はじめい!!」

 

闘いが始まる。

 

まず、最初に百代が大和に突進していった。

 

百代「川神流無双正拳突き!」

大和「ふん!!」

 

力の衝突による爆発、その後、両者距離をとった。

力勝負は、拮抗…したかに見えたが、

 

百代(わずかに私の方が押し負けている…)

 

突進して、勢いをつけてなお自分の拳が押し負けている事実に驚愕を隠せないでいたが、想定内と気持ちを切り替えた。

 

ヒューム「始まったか…」

鉄心「ヒューム、わざわざすまんのう。」

ヒューム「いや、個人的にも興味のある闘いだったからな。このくらい安いものだ。」

 

そう言いながら決闘が行われている山の方を見る。なぜ、ヒュームたちが山を見れる位置にいるかというと、戦闘の余波が、もしも山を越えてきたらそれに対処するためである。

 

鉄心「それで、お主はどう思う?この闘い。」

ヒューム「…そうだな」

 

少し考え込むと、

 

ヒューム「正直…わからない、というのが感想だな。直江大和…ヤツの隠業は完璧だった。貴様も、全く気づかなかったのだろう?」

鉄心「うむ…普通、忍びのものでもどれほど隠業に身を傾けていても、やはり普段の行動にわずかながら、自分の身体能力は出てしまうものじゃが、あやつは動き、姿勢そういった類のものが完璧にど素人のままじゃった…」

ヒューム「ああ、そんなことをすればいつか闘う時も、とっさの時に動けない上に、下手をしたら変な癖が身体に染み付く可能性だってある。」

鉄心「じゃが、あの子を見る限りそのような点が見受けられん。おそらく、陰ながらとてつもない努力をしてきたのじゃろう…」

 

百代「はあ!」

 

百代の連撃が飛ぶ。だが、あくまで冷静にその全てを時には大剣、時には腕などを使って受け流していく大和、そんな中、

 

まゆっち「せや!」

 

まゆっちこと黛由紀江の神速の斬撃が後ろから飛んでくる。

それを見た大和は、大剣に手をかけ、ばしゅ、と音がしたかと思うと大剣から、別のノコ型の剣を手に取り、

ガカカカキキン!

と神速の斬撃に見事に対応してみせた。その後、大和が強引に剣を振り抜くことにより、百代とまゆっちに距離を取らせた。

 

まゆっち「なっ!」

百代「なんだ?その剣?」

 

と百代が疑問を口にすると、

 

大和「この剣か?まあ、命名するなら合体剣って言ったところだな…大剣一本、刀型の剣一本、ノコ型の剣2本、ナイフ型の剣2本で一本の大剣になっているんだ。まあ、おもちゃみたいな剣だと思うかもしれないが、慣れるとかなり便利なんだぜ。コレ」

ユキ「ほい」

 

そんな説明をしている最中に、ユキがかかと落としをかましてきた。地面にヒビが割れているが、大和はそれを片腕で受け止めていた。

 

大和「いつつ、相変わらずマイペースだな。ユキ!」

ユキ「うん!僕、冬馬にすきあらばいつでも攻撃しろって言われてるから!」

大和「そうかい!」

 

そう言って、腕で押すような形でユキの体勢を崩すと、それを追って一気に攻勢を仕掛けた。だが…

 

大和「うお!」

 

突然、横合いから矢が襲って来た。驚いたが、なんとか剣で弾く。

 

大和(今のは、京の弓か!?この感覚からするに、もうかなり距離を取られてるな。)

 

だが、大和の攻撃は終わらない。すかさず、大和は剣の峰の部分でユキを攻撃しようとするが、今のタイムラグで近づいてきていた二つの影があった。

 

ワン子「たあ!」

クリス「はあ!」

 

1人目のワン子は、ユキと剣の間に割り込み、薙刀で防御を取り、もう1人のクリスはレイピアで大和に突きを放っていた。

 

大和「ぜあ!」

 

大和は大剣を振った勢いで、そのままワン子とユキとクリスをまとめて吹き飛ばした。

 

ワン子「きゃ!」

クリス「グッ!」

ユキ「うわー!

 

なんとか、三人は体勢を整えたが、それでもわずかにダメージはある。だが、それを見て大和は

 

大和(こりゃ、結構苦戦しそうだな…)

 

そんな感想を頭によぎらせた。

 

川神学園 大型スクリーン(九鬼 製作)

 

英雄「バカな!姉上ですら敵わなかった武神・川神百代が徒党を組んで戦っているというのに、ソレと互角以上に戦っているとは!」

紋白「これはどうなるのだ?クラウ爺!」紋白

クラウディオ「わかりません…あそこまで行くと、レベルが違いすぎて」クラウディオ

 

千花「うわ!今、ワン子ガードの上から吹っ飛ばされてたわよ!」

マヨ「ワン子ちゃん、大丈夫でしょうか?」

羽黒「つーか、それ以前に直江、あの三人まとめて吹っ飛ばしてたし、クリスたちも大丈夫か系」

源「…一子」源

ヨンパチ「おいおい、予想はしてたけどこれほどかよ!」

スグル「そう、驚いてるフリをしながら、女子のスカートに向けてカメラを向けるところは流石だな。俺には三次元の何がいいのかわからないが…」

くまちゃん「直江くん強いねー」

 

弁慶「うわ、とんでもないね。」

義経「うん…義経もそう思う。」

与一「直江…一体どれほどの力を奥に溜め込んでやがったんだ…」

マルギッテ「なんという闘いだ。お嬢様…」

心「そういえば、葵、風間ファミリーということは葵くんたちと山猿どももあそこにいるということか?」

シーン

心「うぬぬ、此方が質問しているのだから、誰か答えよ!此方は名門不死川の令嬢じゃぞ!」

 

燕「あの武器、中々面白そうだねん。後で、大和くんに見せてもらおっと」

矢場「相変わらず、マイペースで候」

清楚「うう…」

京極「どうした?大丈夫か?葉桜くん」

清楚「うん…なんていうか、身体が熱くてなっちゃって、どうしてだろう?」

項羽(んはっ、たぎるな!王である。このオレをここまでたぎらせる闘いをするとは!)

 

梅子「完璧に観戦モードになっているな…今日も授業があるというのに」

巨人「まあ、仕方ないでしょうな。事実上の頂上決戦、これは見ずにはいられないでしょう!なあ、ルー」

ルー「ええ、私としてもかなり興味深いでス。(む、この気は…)」

 

学園屋上

 

釈迦堂「はは、やりやがる!あの小僧!ってルーのやつ気づきやがった。」

辰子「大和くん、すごーい!」

亜巳「ま、実際すごいなんてものじゃないんだけどね。」

天使(エンジェル)「うわー…竜、お前よくあんなの掘ろうとしたよな…」

竜平「ハッ、強けりゃ、強いほど掘りがいがあるってもんだ!」

釈迦堂「やめろ!暑苦しい…」

 

決闘場 とある場所

 

キャップ《おい、なんだか、外が騒がしいんだが?》

 

無線機の向こうから、キャップが話しかけてくる。

 

冬馬「ええ、今ちょうど闘いが始まりましたから。」

ガクト《まじかよ!戦況は?》

冬馬「まだ、始まったばかりですから、なんとも言えませんが、とりあえず最初に1人やられるという最悪の事態は回避できたようです。」

モロ《そっか!よかったー…》

冬馬「ええ、まあ…」

準《若?どうかしたのか?》

冬馬「いえ、とりあえずこれ以上話しかけないでください。彼がいつこちらに気づくかわかりませんので…」

一同《了解》

 

決闘場

 

ワン子「ハア、ハア、ウグッ!」

クリス「犬、大丈夫か?」

ワン子「大丈夫よ!そんなことより自分の心配をしなさい!」

クリス「無理をするな。薙刀越しとはいえ、あの一撃をモロに食らったんだぞ!」

ユキ「うんうん、大丈夫〜?」

ワン子「平気だって!」

 

その時、百代と黛が前に出た。

 

百代「ワン子、クリス、ユキ少し休んでいろ。まゆまゆ、二人で行くぞ!行けるか?」

まゆっち「はい!」

 

壁越えの実力者である二人が気を放ち、まっすぐに大和の方へ向かっていく。

それに対し、大和はノコと大剣の二つの剣を構える。

 

ズバーン

 

衝突した瞬間、とても目では追えない連撃が繰り出される。

ずしゃ、ガキン、ズバンと、音がするたびに、周りの岩が両断されたり、木々が勝手に吹っ飛んだりと、とても剣と拳と刀が衝突している様子とは思えなかった。

 

百代「川神流 致死蛍!」

 

わずかな隙の中で、百代が気弾を放つ。

 

大和「ぐっ!」

 

見事に命中させ、大和を下がらせるが、

 

百代(こんなものなのか?いや、これでも十分脅威と言える戦闘力だが…)

 

という疑問を百代に抱かせた。

そんな百代をよそに、大和は、

 

大和(まずいなー…やっぱ、俺の異能も使わなきゃいけないのか?嫌だなー…けど、負けたくないし、)

 

仕方がない、と大和は考え、上に思いっきり跳ぶ。

 

百代「ぐっ!」

まゆっち「きゃっ!?」

 

百代「なんだ?なにをする気だ。」

 

上空にいる大和は考える。

 

大和(予想以上にみんなのチームワークが完璧だな。だとすると、分断して1人ずつやった方が手っ取り早いか…

分断するには、うん…あの技がいいな。)

 

不意に、大和は大剣を上に掲げた。そして、

 

大和「星よ…」

 

気弾が切っ先に集中する。それは見る見るうちに炎を纏った隕石のように、いや、隕石自身になり

 

大和「降り注げ!メテオレイン!!」

 

ドンと複数の隕石が切っ先から、降り注いで行った。




なんで、大和に異能を付け加えたかって?簡単です。バハムートや、隕石をただ気だけで出来上がってるだけじや、後々説明つかないと思ったからです!
違和感ある人意見どうぞ!即座に修正します。


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策の出し合い

地上

 

百代「…なんだ?アレは…っ!?まさか」

 

百代は、自分の祖父が似たような技を使うのですぐに気づいた。だが、川神鉄心は隕石を宇宙から呼び出したのと違い、まるでいきなり複数の隕石が出来上がったかのように、それは降ってきた。

 

百代「なんだ?この数!くっ!川神流奥義…」

冬馬《待ってください!》

百代「!?」

隕石を出した瞬間、大和は地上に向かって勢いよく突撃していった。狙いは百代以外の全員、百代が奥義を出した一瞬を使えば、黛由紀江はさすがに一撃では無理でもそれ以外なら倒せる自身があった。

だが、突撃している途中で、違和感に気づいた。

 

大和(なんだ?なぜ攻撃してこない?姉さんの性格なら、よく知ってる。『来るなら来い、来ないなら行くぞ!』っていうタイプの人だ。だから、半ば挑発に近いあんな技を出されたら、攻撃してくるかと思った。)

 

だが、攻撃は全くこなかった。ついには隕石が墜落している地面に到着しているというのにも関わらずである。それどころか、人っ子一人いやしない。

 

大和(まさか、読まれたのか?いや、姉さんなら、読んだとしても攻撃してくる…だとすると、ちっ!やっぱり、あいつこの闘いをすぐそこで見てるのか?葵冬馬!)

 

隕石が落ちる直前

 

冬馬《待ってください!》

百代「!?」

冬馬《その隕石を迎撃しないでください!そして、ユキたちと共に逃げてください!》

百代「なんだと!?そんなこと…」

冬馬《勝ちたいでしょう?ですから、お願いします。》

百代「ぐっ!分かった。後で理由説明しろよ!」

 

そして、現在

 

冬馬《…ということで、わざと技を迎撃させ、百代先輩をチームから分断することが彼の策だった訳です。》

百代「なるほどな…まんまと、あいつの罠に引っかかるところだった訳か…」

冬馬《それにしても、少し意外でした。》

百代「何がだ?」

冬馬《いえ、彼との実力差があるとはいえ、あんなに簡単に私の要望を聞いてくれるとは…》

百代「私もピエロではない。勝つためには、お前たちの力が必要だということぐらい理解できている。」

冬馬《そうですか。》

ワン子「お姉様…」

一同『モモ先輩』

冬馬《冷静な判断が出来てて、何よりです。それと、おそらく私が助言したことにより向こうに私がここらにいるということもばれてるでしょう。そして、おそらくあなたが今していることも》

百代「問題ないだろう。どの道、一度気づかれる予定だったんだ。」

 

大和(これは、オーラジャミングとでも言うべきか?)

 

と大和は、考える。

 

大和(どおりで、葵冬馬や京の存在に気づかないはずだ。姉さんめ、自分の桁外れの気を垂れ流してこの山自体に巨大な膜を張ってやがる!

だが、この膜には一つ大きな欠点がある。それは…)

 

周りの山々の中の一つを睨みつける。

 

(大和気の発生源である人間の位置は、素人でも分かっちまうってことだ!)

 

剣を横一文字に振り抜く。

ザンと音がした。斬撃が山を突き抜けていった。

 

次の瞬間…

 

クリス「なんだ?今の音は?」

ワン子「風切り音?あ、京から電話だわ。」

京《ワン子!今私の向かい側の山にいるの?》

ワン子「え?まあ、まだ京が移動してないなら、そうだけど…」

京《今すぐ、そこから離れて!大和の攻撃が…グフっ!》

ワン子「え?攻撃って、一体どこから?京!?」

百代「まずい…逃げるぞ!」

ワン子「え?」

 

百代「土砂崩れだ!」

 

京の気絶を確認しながら、大和は思う。

 

大和(優しいな。京。もしも、あそこで電話しなければ俺に存在を気づかれなかったかもしれないのに…まあ、当然こんなの姉さんやまゆっち、それに脚力だけなら壁越えのユキなら難なくかわせるだろう。クリスもまあ、なんとかかわせるだろう。だが…ワン子はどうかな?)

 

五人は、山を自分のトップスピードで駆け抜けていた。だが…だからこそ、いざという時に、先に負わされた小さなダメージが足を引っ張る。

 

ワン子「あぐっ!」

百代「ワン子!」

 

そう、薙刀で防いだとはいえ世界最強クラスの攻撃をワン子だけは、もろに食らっていたのだ。

思わず、足がほんの僅かな間硬直するワン子、その一瞬のうちに土砂が押し寄せてくる。

 

大和「当然、そんなの姉さんが無視できる訳ないよね。」

 

百代「くっ!川神流無双正拳突き!」

 

拳を突き出す。ただ愛する妹を守るために。それだけで、土砂の波が割れていった。だが、その一瞬仲間たちから目をそらしてしまった。

その一瞬のうちに、

 

ワン子「きゃあっ!」

クリス「ぐっ!」

ユキ「うっ!」

まゆっち「っ!?」

 

ガキーン

 

と刀と大剣がぶつかる音がした。

 

大和「…これであと2人、葵、読んだのはさすがだが、俺がなんで川原全体に隕石を落としたのか、も理解しておくべきだったな…」

 

そうつぶやいた瞬間、大和の背後でワン子、クリス、ユキの三人は倒れていった。

 

百代「大和…」

 

苦虫を噛み潰したような顔で、睨みつける百代。当然である。今さっき、妹に人質のような役割を目の前の男は押し付けてきたのだ。

 

大和(キツイな…)

 

百代を見ながら、大和は思う。

だが、そう思いながら大和は言った。

 

大和「…分からないな…なんで、そこまで俺の過去を聞きたがる?別に聞かなければ、おれはあんなこと言わなかったかもしれないのに…」

 

大和『ついてくることを禁じる。』

 

百代「…そんなの決まってるだろう。」

 

拳を握りながら宣言する。

 

百代「お前が私の

 

弟だからだ!!」

 

突進していく百代、と同時に大和は大剣でまゆっちを弾き百代へと構える。

 

百代「川神流 虹色の波紋(ルビーオーバードライブ)!!」

大和「ブレイバー!!」

 

刃先と拳が衝突する。山の中の土砂崩れにより崩れていた周りの木も含め吹っ飛んで行った。

今度は、2人共距離をとらない。そのまま、高速戦闘に入る。だが、明らかに不利なのは百代だった。

一撃一撃が重い分、もしも百代にその一撃が入れば、百代は瞬間回復を使わざるを得なかった。そんな一撃を彼此10発ほど食らってる。

だがちょっとずつだが、そのおかげもあり拳がクリーンヒットとまではいかずとも、かする程度にはなった。

 

大和「(っ!さすがだな。だんだんとだが、俺に攻撃を当てるようになってきている。だが、これでもロッズの方がまだ強いな)仕方ない。」

 

大和は自ら距離をとった。

剣先に気を貯める。

 

大和「画龍点睛!」

 

剣を横薙ぎに振る大和、その切っ先から巨大な竜巻が生み出されていた。

 

百代「なっ!?ぐああ!!!」

 

その竜巻の中に巻き込まれていった百代

 

大和「さてと、これで少しの間だが時間が出来た。

 

来いよ。まゆっち」

 

まゆっち「っ!?」

 

呆気にとられていた黛由紀江はその言葉を聞いて、構えなおした。

 

大和「来ないなら、こっちから行くぞ!」

 

大和が突進していった。




今更ながら、自分の作品のタグの少なさが目立つことに気づきました。何か他にタグ候補ないですかね?


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『見ていた』

直江大和が突進していく。

それに対して、黛由紀江は構えて待っていた。神速の斬撃をカウンターとして放つために、だが、

 

まゆっち「(っ!やはり、どこにも隙はない。)黛流 十二斬!!」

 

神速の十二連の斬撃が飛ぶ。その十二撃を

 

大和「確かに速いが、一番最初の斬撃を見切れれば、どんなに速くても意味がない。」

 

そう言って、大剣一本で刀を止めてしまう。

 

大和「お返しだ!」

まゆっち「っ!?」

大和「凶斬り!!」

 

今度はまゆっちがその一撃を見極めようとした。だが、

 

まゆっち「きゃあっ!」

 

ありえないことに、「凶」と書くように斬られた斬撃は、同時に飛んできた。

 

まゆっち「あ…ぐっ!?」

大和「意味がわからないといった顔だな。だったら、教えてやるよ。まゆっち。姉さんに瞬間回復があるように俺にも実は一つだけ異能がある。」

まゆっち「!?」

大和「異能の名前は『顕現』、こいつは自分の闘気に実体を与えたり、闘気そのものを顕現させて置いたり、自分の攻撃にイメージを顕現させて攻撃力を倍増したりすることができる。

まあ、実体化ともなるとさすがに制限が出てくるが…」

まゆっち「なっ!?」

大和「今のは闘気を載せた斬撃を空中に置いたんだ。そしてそれを一気に放った。だから、同時に飛んできたんだよ。」

まゆっち「そん…な…」

 

そう言って、黛由紀江は倒れた。その瞬間、後ろの竜巻が散っていった。

 

大和「これで…あと一人だ。姉さん」

百代「ああ…見たところそうなるな…だが、勝つのは私たちだ。」

大和「似合わないよ…いつからそんなキャラになったんだ?」

 

そう言いながら、剣を百代の方へと構える。

 

百代「ふっ、ついさっきだ!」

 

百代も構える。互いに隙を見つけようと模索し、そして…

 

ドン

 

大和が突然視界から消えた。

ゾワっとうしろからとてつもない気配を感じた百代は、とっさに背後に裏拳をかます。それをかわす大和は今度は、横薙ぎに一撃加えようとした。百代が跳んでそれをかわし、

 

百代「ふん!」

 

距離を置くように飛び蹴りを加えた。これを剣の側面で防御する。

 

ボコッ

 

とそれだけで地面がめり込んでしまった。

 

大和「えあ!」

 

そのお返しとばかりに、大剣をまた横薙ぎに振る大和、上体をそらしてそれをかわした百代はゾッとするものを見た。

 

ズバン

とその正面にある山が横に割れていたのだ。

 

だが、これで臆するわけにはいかない。くやしいが、自分よりも目の前の弟が強いことは分かっていたことである。

 

百代「川神流無双正拳突き!!」

 

そのまま大和に突進しながら、突きを放った。

 

そんな百代たちの音速を超える闘いをかつて、最強と呼ばれたものたちは小型のスクリーンで見ていた。

 

鉄心「まずいの…」

ヒューム「ああ、まったくだ。今回に関しては、百代の未熟ではなく単純に相手がうますぎる。」

鉄心「うむ。特に先ほどの分断、あんなものをされてはさすがのモモも皆を守りきれまいて…」

 

燕「これは…まずいねん…」

矢場「やっぱり…そうなのかな?」

燕「うん…このままじゃ、モモちゃん負けるね。」(キャラが作られてないって言わなきゃいけないかなー?)

京極「矢場…やはり、キャラ作りは…」

矢場「キャ、キャラ作りではないで候!」

燕(あ、なおした)

 

ルー「百代は、元々の実力差を自分の仲間たちと共に戦うことにより埋めていタ。最低でも黛由紀江が残っていれば、なんとかなったかもしれないガ…」

 

釈迦堂「だが、敵さんがそいつを理解していないわけがねー。敵さんの狙い通りあの嬢ちゃんがやられちまった以上…」

 

大和(ゲームオーバーだ。)

 

ガキーン

 

気がつけば、隕石が墜落していない別の河原にいた。

百代の拳と大和の大剣がその空中で衝突する。当然、力の押し合いになると思った百代が力をかけると、そこで突然大和が力を抜いた。

いきなりのことで驚き、思わず体勢を崩してしまった百代のすぐ上で、大剣が振りかぶられる。

 

大和「終わりだ!姉さん!」

百代「いや、まだだ!川神流

 

人間爆弾!」

 

大和「っ!?」

 

直後に爆発が起きた。まず、この距離なら完璧には避けられないと思ったが、

 

大和「危ないところだったな…あとちょっとで一撃もらうところだった。」

 

なんと、避けられていた。

 

百代「なっ!?」

大和「驚いてるな…まあ、俺が相手じゃなけりゃ確実に入ってたぜ?だが、俺の異能『顕現』は気の流れをコントロールすることによりそれを実体に変えている。だから、とりわけ気の流れには敏感なんだ。まあ、オーラジャミングに関しては、完璧に姉さんと山の気が同調していたから気づくの遅れたけど

 

さっきから姉さんがずっと右手に貯め続けている闘気にも最初から気づいてる。」

 

百代「ぐっ!!」

 

大和「さて…じゃあ、

 

終わりだな…」

百代「ああ、終わりだ

 

私たちの勝ちで!」

 

その瞬間、大和の足元の土の中からモロ、ガクト、キャップ、準の四人が飛び込んできた。

 

3日前

 

冬馬「作戦はこうです。あなた方武士娘がなるべく長い間闘った後私が指定する位置まで大和くんを移動させてください。

そして、そこで私を除く男子勢四人が一斉に飛びかかるのです。」

ガクト「はあ?そんなものすぐほどかれるだろう。」

冬馬「ええ、普通はそうでしょう…ですが、大和くんの力は強すぎる。人は全力を出してる最中にいきなり力を抜けない…そんな力にもしも、この中でもっとも非力な師岡くんが晒されたらどうなるてしょうか?」

キャップ「そりゃ…っておい、まさか!」

冬馬「そういうことです。この作戦は、『師岡くんがもしも、後遺症を残す程の大怪我になったら』という未来を大和くんに連想させて動きを止めるという『大和くんの優しさ』を利用した作戦です。成功確率が非常に低い上にとても、作戦とは言えませんが…」

準「あれ?ちょっと待て!それ思いっきり、師岡だけがいればできる作戦だよな?なんで俺たちが?」

冬馬「より本気を誘発するには、ある程度実力がある人も飛びつかないといけないと思うので…まあ、要は爆弾をもっと爆発しやすいように周りに火薬を敷き詰めるような役ですね。」

男子三人『おい!!』

 

現在

 

四人は一斉に飛びかかった!

 

だが…

 

四人が飛びかかろうとした場所にはすでに誰もいなかった。

 

一同『なっ!?』

 

あたりを見回してみると大和は後方に高速移動していた。

 

大和「危ないな。さっき、オーラジャミングに気づかなかったら、やられてたかもしれないけど…残念」

 

冬馬「いえ、残念ながら、やられますよ」

 

「涅槃寂静!!」

大和「ごふっ!?」

 

いきなり何が起こったのか分からなかった。ただ、異常な速度の何かがいきなり自分に衝撃を与えてきた。

見てみるとその姿には見覚えがあった。

 

大和「まゆ…っち!?」

 

3日前

 

冬馬「が、この作戦おそらく成功しないでしょう。もしも、私の存在に気づいたら彼ならば、どこかにあなた方四人が隠れてることも見通すはずです。

だから、これ自体を囮にします。

私たちの存在に気づいたら、しばらくの間、彼は『私たちの存在に気づかせないためにオーラジャミングを張った』と思い込むでしょう。」

百代「それは、そうだろうな。それが狙いだと言っていただろう?」

冬馬「ええ、ですから影で百代先輩以外の五人は死んだふりをしてください。」

ワン子「ちょ、ちょっとまってよ!それってまさか!?」

冬馬「はい、彼の一撃を最初モロにくらい、それを気で防御してください。」

クリス「バカな!そんなことの方が不可能だ!自分がさっき言ったがモモ先輩以外あんな一撃食らったらただではすまない!!」

冬馬「果たして、本当にそうでしょうか?」

キャップ「何?」

冬馬「彼は言いましたよね。我々を認めなかった時の条件として、『ついてくることを禁じる』とあれは、恐らく私たちをこれからくる戦いに巻き込みたくなかったからでしょう。

ならば、彼はこう考えるでしょう?

『自分がこの川神にいない時、私たちがまともに動けなかったらどうなるだろう?』とね、そうなった場合どうしても、彼は一番最初のトドメの一撃だけは我々一人一人を倒せる最低限の一撃にするはずです。」

京「そんなに簡単にいくものなの?」

冬馬「私と彼の思考回路は似通っている。彼と私は大事を成し遂げたい時、風間くんのように、大博打を張るのではなく、リスクを減らし確実性を増やしてから行うはずです。」

キャップ「いやあ…(テレテレ)」

モロ「褒めてないよ…キャップ…」

準「だとしても、そんなに簡単にいくもんなのか?」

冬馬「椎名さんと同じことを聞きますね。準、先ほども言った通り私達には百代先輩のオーラジャミングがあるんです。気を極限まで弱めてしまえば、気絶しているかどうか気づくこともないでしょう?」

ユキ「おお〜」

ガクト「どっちにしろ、『大和の優しさ』に頼るってことかよ…」

 

現在

 

大和(まさか…オーラジャミングはオレにまゆっちたちが気絶してないと気づかせないために?だとしたら、まずい!)

 

大和は急いでその場から離れようとした。だが、遅い。

ヒュッ

と音がしたかと思うと、足に分銅が刃先にある矢が突き刺さる。

 

大和「グッ!?」

ワン子「川神流 顎!!」

クリス「零距離 刺突!!」

ユキ「えーと、キーック」

大和「ぐあああ!?」

 

次々と攻撃が飛んでくる。

だが、先ほどの神速の斬撃と矢のダメージが相まって完全に身体が止まってしまい、攻撃を受けるしかない。

そして、目の前には

 

百代「川神流…」

 

冬馬「確かにあなたにはこの後大事な戦いがあるからというのもあるのでしょうが、それよりもあなたの敗因に直結してるのは『あなたが私達を見ていなかった』ことでしょう。」

 

葵冬馬はらしくなく、センチメンタルになりながら淡々と呟く。

 

冬馬「私達はあなたの過去を知りたい、あなたをちゃんと『見たい』という思いであなたと戦いました。

ですがあなたはどうでしょう?

私達を戦いに巻き込みたくない…確かにご立派な意見だと思います。ですが、それは結局敵の強大さ、存在を『見て』あなたが決めたこと、あなたは結局最後まで私達を『見なかった』。

 

だから、負けるんですよ。」

 

百代「星殺しー!!」

大和「うわああああ!!」

 

大和は至近距離で星をも砕く一撃を食らい、吹っ飛ばされる。

長く吹っ飛ばされた後、ズザザザザザと地面にすられ、やがて止まった。

 

大和「ちっ!…負け…たか…」

 

そうつぶやいて、大和は意識を落とした。




はい、今回はブーイング上等カモーンという調子で書きました。
自分で書いといてなんだけど、結局大和の心情を組み込むしか、勝ち目が無いと思いまして、だってなんというかこのころの大和くん少し怖い感じなんですもん…
だからなんとしても、百代側を勝たせてあげたいなという思っていたのです!!
作戦についてはどんなのが最低最悪かなーって考えたらやっぱ囮作戦が一番かな、と…
うん…見苦しいですね。
そういうわけで、ご意見(ブーイング)お待ちしております!


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過去へ

百代「勝っ…たのか?」

 

動かない自分の弟を見ながら、呟く。

 

ワン子「そうよ…勝ったのよ!お姉さま!!」

鉄心『勝者・風間&葵ファミリー!!』

 

聞きなれた老人の声を聞いた後、彼らは顔を見合わせ

 

一同『よっしゃー!!』

 

同時に喜んでいた。

 

ユキ「やったー!やったー!」

まゆっち、松風「やりましたね!」『オラ達すげえ!』

キャップ「おうよ!なんたって、俺たち風間&葵ファミリーだしな!」

モロ「まあ、僕たちほとんど何もしなかったわけだけど…」

ガクト「モロ!てめえ、余計なこというんじゃねーよ!」

準「いやあ、疲れたぜ。まったく、若も人使いが荒い…」

冬馬「はは、すみません。ですが、おかげで勝てたでしょう?」

京「ふふ、立てなくなった大和の救護は任せて!!」

クリス「相変わらずだな…みや…こ?」

 

突如として、自分の力が抜けていくのをクリスは感じた。

 

ワン子「クリ!!あ…」

 

その次はワン子、京、ユキ、まゆっちと倒れていった。

 

百代「うぐっ!?」

 

そして、ついに百代まで倒れてしまった。

 

キャップ「ちょ、大丈夫かよ!モモ先輩まで!!」

大和「大丈夫だろう。今頃になって、すべてのダメージが全身に回っただけだよ。姉さん達は…」

一同『!!!』

 

男性陣が驚いて後ろを向くと、そこには立ち上がろうとする大和の姿があった。

 

大和「いつつ、まったくとんでもないのをくれたな。姉さんは」

モロ「ちょ、大丈夫なの!大和!!」

大和「ああ、まあさっきまで気を失ってたけどなんとかな…」

準「おいおい、さっきの食らってその程度かよ。まったく…」

大和「まだ、身体の節々が痛いからその程度というわけでもないが、いつまでも寝てるわけにもいかないからな」

百代「大和…」

 

なんとか意識を保ちながら大和に対し、言葉を投げかけた。

 

大和「まったく、敗者が見下ろして、勝者が倒れているとは、どっちが勝ったのかこれじゃわかんねえな…」

百代「!…ってことは、大和!」

 

大和「これで、覚悟なしだと判断したらブーイングの嵐だろうが!認めるよ…みんなには、覚悟があるみたいだ。」

 

百代「ふ…ふふふふ。ふははははは!」

 

百代はいきなり笑い出した。

 

大和「うお!なんだ?いきなり!」

百代「いや、三日前生意気なことを言ってた弟を屈服させることができたと思うと、楽しくてな!ふふ」

大和「…言っておくけど、総合的な能力はまだまだ俺の方が上だからね。姉さん…」

百代「負け惜しみにしか聞こえないなー♪」

大和「やかましい!ええい、なんか我慢ならん!」

 

そう言って、大和は百代を抱き上げた。

 

百代「うわ!こら!何するんだ!?」

大和「ふっ!なに、ずっと勝った気でいられるのもなんか気に入らないから、こうやって抱き上げて、お灸を据えてやろうかな、と」

百代「意味がわからないぞ!!なんで、お灸を据えること=抱き上げることなんだ!?」

大和「ほーら、恥ずかしいだろう?」

 

わーぎゃーとやっている後ろで男子勢は困惑していた。

 

ガクト「おい…これって言った方がいいのか?」

モロ「うーん…でも、あんなモモ先輩初めて見るから、もっと見ていたい気が…」

キャップ「決まりだな!黙っていようぜ!」

準「いやあ、恥ずかしいなあ!あの人たち…」

冬馬「そうですね…」

 

微笑ましい目で楽しそうな百代と大和を見ながら彼らは思った。

 

これ、他の人にも見られてるのに…と

 

2009年11月18日

 

大和は気が沈んでいた。今日は仲間たちに自分の過去を打ち明けるというのもあるが、もっとも強い原因はあの『お姫様だっこ』の映像が全校に流されてたことである。

おかげで彼らには非情なる冷やかしの雨が降り注いだ。だから、気が沈んでいるのだ。

 

大和(俺としたことがすっかり忘れていた…)

 

そんなことを考えながら、昨日の葵冬馬の提案を頭の中で反芻する。

 

冬馬(あなたの過去を聞くにあたり、私達だけではそれは不十分なのではないでしょうか?なぜ、そう思うかって?決闘まで持ち込むほど拒否していたんだ。もしかして、あなたの相手は社会的にも大きな力を持っているんじゃないですか?)

 

そう言われた時、渋い顔をしていたことが自分でも明確に分かったが、見せる相手を絞ることで仕方なく了承した。

 

大和(まあ、実際そうなんだしな。最低でも九鬼が味方についてくれなきゃ、あいつらはとれねえ。だがな…)

 

それでも、やはり自分一人でやりたかった。そういう思いが大和の中で渦巻いていた。

だが、それでも約束は約束。こうなった以上全部話して、皆の意見を聞いた方がまだスッキリする。

そう考え直して、フェンリルに乗り込む。

 

フェンリル《行き先はどこだ?マスター》

大和「ああ、行き先は…」

公孫勝「ちょっと待て〜!」

 

そう言って、公孫勝がいきなり大和に突進した。

 

大和「うおっ!何だ公孫勝、ついてくんのかよ?ゲームは?」

公孫勝「そんなのもう、全部やり尽くした!!おまえ、この天才たる私との約束を蔑ろにして、今度はどこ行く気だ!?」

大和「約束って…あ!」

 

決闘などですっかり忘れていたが、梁山泊に帰れる手段を探してやる約束をしていたのだ。

 

大和「と言ったってな、これから大事な用だし…ん?あ、そうか!」

公孫勝「?」

大和「公孫勝!これから九鬼のビルに行くから、そこに一緒に行くぞ!」

公孫勝「はあ、なんでそうなるの?」

大和「九鬼はお前らの以前の雇い主だろう?なら、お前が帰る手段もうまく手配してくれるんじゃねーか?」

公孫勝「ん?あ、そっか!」

大和「よし!んじゃ、行くぞ!頼む。フェンリル」

フェンリル《了解した。》

 

九鬼ビル

 

大和「着いたぞ。ここが九鬼ビルだ!」

公孫勝「おお、さすが、世界の九鬼だね。こんなに立派なビルそうそう見ないよ。」

 

H形のビルを見ながら、公孫勝は呟く。その瞬間、とてつもない速さで何かが近づいてきたかと思うと、大和の前で停止した。そして、

 

準「あなたのお名前は何ですか?マドモアゼル。」

大和「お前…一体なにをしてんだよ?」

 

ロリコンこと井上準がいきなり、公孫勝に向かって名前を尋ね出した。

 

冬馬「いやー、いきなり準が飛び出して行ったので何かと思ったのですが…大和くん一体、彼女とはどういった関係で?」

 

言っている間に準を追いかけて冬馬がそして、おそらく自分の気を感じて来た百代が近づいてきた。

 

大和「イヤな聴き方をするな!俺がバイクを発進させたら、なぜか足にひっついていたただのガキだ!」

百代「ただのガキ…か。それにしては妙な力を感じるが…」

公孫勝「さすが武神、このバカとは違い私の天才ぶりがわかるようだ。」

大和「ただ、ちょっと人に乗り移って少し操れるだけだろうが。調子乗んな!」

公孫勝「なんだと〜!そんなに言うなら見せてやる!私の天才ぶりを!」

大和「いらん!お前の能力を見せるためにここに来たわけじゃねーんだよ!」

 

首根っこを掴まれる公孫勝、そしてそのまま九鬼ビルに大和は入っていくのだった。

 

九鬼ビル とある一室

 

大和「なんだ?これは?」

 

電気椅子のような仕様の近未来型の装置を見ながら大和は疑問に思う。

 

揚羽「フハハハ、これこそ九鬼の叡智を結集させて作った。人の記憶をを他の人間に共有させる機械『人憶経験装置オッケー』だ!!」

 

言いながら、揚羽は後ろから颯爽と登場した。

 

大和「(オッケーって、クッキーに続いて名前が安直だな…)また、随分と都合のいいものだな。もしかして、この7日で作り上げたんですか?」

揚羽「フハハハ、いくら九鬼といえども、さすがにそんなに都合よく作れるわけがなかろう!直江大和!これは元々犯罪摘発のために、記憶の奥を覗きこむことを目的とした機械だ!まあ、まだ試作段階だということもあり、世には出回ってないが…」

大和「また危なかっしいものを…悪用されたらとんでもないですよ!」

揚羽「ああ、だから今現在そのことも含めて、再調整しているところだ。だが、今回は他の者にもこれと同様の装置に座ってもらい、お前の身に起こったことを追体験してもらう。」

大和「!そんなこともできるんですか?ますます、とんでもねーな…そういえば、ここに寄越したメンバーっていうのは葵・風間ファミリーを除くとどんな人たちなんですか?」

揚羽「学生ならば、最低でも壁越えかそれに近しい実力者ということだったので随分なハードルだったが、松永燕、那須与一、武蔵坊弁慶、源義経、葉桜清楚あとは我、その他は従者部隊の精鋭、川神院の総代、師範代と言った顔ぶれだ。」

大和「随分な顔ぶれだ。」

揚羽「それほど、お前の過去に注目する人間が多かったということだ。直江大和」

大和「そんなに見せられた過去でもないと思うんだがな…まあ、いいか。ここまで来たなら仕方ない。

 

そんじゃ、座るか…」

 

そう言って、大和は装置に座っていった。



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憧れの男

1999年 6月 2日

 

直江大和 当時 6歳

誘拐されてから、実に3週間経った頃である。すこし片言ではあるが、英語がしゃべれるようになってきた。

彼は何処とも知れない研究所の片隅にいた。そこでは、彼は明らかに異端扱いされていた。

なぜなら、ここには子供しかいないが彼らに共通する一つの事柄が直江大和には、当てはまらないからである。黒人、白人、自分と同じ東洋人、様々な人種がいるにもかかわらず共通する事柄とは、

 

その全員が見たこともないほど澄んだ空色の瞳をしていることである。

 

だが、彼らと同じような環境に居ながら、直江大和にはそのような症状がなかった。

 

端的にいえば、彼の瞳だけは日本人的な焦げ茶色の瞳をしていたのである。

 

本来なら彼らの瞳の方が異端扱いされるのかもしれないが、このような環境にいる以上、皆とは違う直江大和が完璧にハブられていた。

今日も今日とて、研究所の食堂で一人で食事を進めていると、

 

「あのさ、ここいいかな?」

 

突然声をかけられたことに驚きつつも、上を向くとそこには栗色の髪を後ろで束ねている空色の瞳の同年代の少女がいた。

このときから、少し閉鎖的だった大和は

 

大和「なんでここなんだ?別の場所あるだろ?そこ行けよ」

 

と言った。そういうと

 

「空いてるけど、今日はここで食べたい気分だったの!」

 

そう言って、栗色の髪の少女は強引に座ってきた。

 

エアリス「私、エアリス!あなたは?」

 

聞いてもいないのに、名前を言って尋ねてきた。

 

大和(ふっ、くだらん!無視すれば諦めるだろう。)

 

と考え大和は無視を決め込んだが

 

エアリス「お・な・ま・え・は?」

 

ものすごい笑顔で聴いてきたので仕方なく

 

大和「…直江大和…」

 

と答えた。

 

エアリス「そう、じゃ、ヤマトね!よろしく!」

 

差し伸べてくる手を一度は払おうと思ったが、またさっきの笑顔を食らうのもたまったもんじゃないと考え直し、

 

大和「よろしく…」

 

と手を握り返した。

これが、大和とエアリスとの初めての出会いである。

 

食事が終わると、大和はエアリスに強引に連れられ外の訓練場に来ていた。ここに来てから、基本的な勉学の他に自分たちは自分たちに合う武器での訓練を義務づけられていた。

 

「よう!エアリスそいつなんだ?」

 

黒い髪が後ろになびいている同じく空色の瞳の同年代の少年が尋ねだした。

 

エアリス「ザックス!この子よ!例のいつも一人でいる…」

ザックス「ああ、みんなが言ってた目の色が変わらないやつか…」

 

そう言われたとき、大和はビクッとした。父親の教えで人脈は力だ、と教えられたこともあり、彼もそれなりにコミュニケーションをとるのに頑張ってきた。だが、誰も彼もが自分たちとは違う瞳というだけで誰もつながりを持とうとしてくれなかった。

だから、彼もきっとそうなんだろうと思った大和は半分諦めていたが、

 

ザックス「オレはザックス!よろしくな!」

 

と言ってきてくれた。そのことに驚愕した大和は思わず

 

大和「…俺が嫌じゃないのか?」

 

と尋ねた。だが、

 

ザックス「別に?だって、ただ目の色が違うだけだろう?そんなのオレの地元じゃしょっちゅうだしさ!」

 

その言葉に大和は救われた気がした。なぜなら、それは彼も最初思っていたことでありながら誰もそれを理解してくれなかったからである。

少しして、

 

大和「…ああ、俺は直江大和よろしく!」

 

笑顔でそう答えた。

 

6月20日

それからしばらくして、大和はザックスとエアリスと共にいることが多くなった。

そうしていく内に、研究所の色々なことがわかってきた。

まず、研究所にいる子供たちは別に誰も彼もが誘拐されているというわけではないということ。ある者は孤児、ある者は売られ、という風にそれぞれに闇がないわけではないが、様々な人間がいた。

 

そして、この研究所はある実験に協力しており、自分たちはその中に選ばれた有志であるということ。だが、誘拐された大和にとってそんな子供を騙すための商売文句のような言葉を信じることはできなかった。

 

最後に、ここの者なら誰もが憧れる者がいるということ。そして、今日その者が帰ってくる。ザックスにそれはどんな人なんだ?と聴くと、

 

ザックス「とにかく強いんだ!俺らよりも歳はかなり離れてるけど、それを置いてもあいつの強さは別次元だって分かるぜ!」

 

と力説していたので、期待していた。研究所の中央広場に子供たちが集まる。もうすぐで目的の人物が帰ってくるということで子供たちははしゃいでいた。

 

大和「フッ、子供だな。」

エアリス「そう言いながら、大和も結構楽しみにしてるでしょう?もう!素直じゃないんだから!」

大和「う、うるさい!」

ザックス「お、来たぜ!」

 

ザックスが指挿す方向から足音が聞こえてきた。大和が食い入るように見ると、

 

銀髪を腰の辺りまで伸ばしレザースーツを着た男がこちらに近づいて来ているのが見えた。

 

別次元だ…

 

大和は素直にそう思った。見るだけで分かる。あの男が自分たちとは別次元に位置する男だと…纏うオーラが、空間が何もかもが違った。

それは恐怖を与える物だと思ったが、違った。多分、歴史上の英雄などはこのような存在のことを言うんだろう。大和は、彼を見た瞬間、瞬時にこう思った。

 

こんな男になりたい…と

 

男はやがて子供たちの目の前で立ち止まると、空色の瞳を子供達に向けて

 

「ただいま、お前たち…」

と言った。その瞬間子供たちがわーっと沸き立った。

 

「おかえり!セフィロス!」「セフィロス!お話を聞かせてー!」

 

口々に男に質問押しをする子供たち、それを片手で制し

 

セフィロス「悪いが、今回は私も用事があってやってきた。

 

直江大和という子供はどこかな?」

 

大和「はっ?」

 

思わず、大和自身も間抜けな声を出してしまった。




はい、とうとう過去編に来ました。おそらく、かなり長くなると思うのでそのことをご容赦願います。


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稽古

セフィロス「一体何の用だ?宝条…」

宝条「相変わらず、私を嫌ってるようだねえ?セフィロス。」

 

いかにも不健康そうな身体をしてる猫背と白衣が妙に似合う研究者・宝条は不気味に笑った。

 

宝条「まあ、そんなことは気にせず、今日はお願いがあって呼んだんだ。」

セフィロス「お願いだと?」

宝条「うむ…」

 

白衣の下にあった写真を一枚取り出し、それをセフィロスに見せる。

そこには、中性的な顔立ちをした東洋人の少年が写っていた。

 

宝条「彼の名前は直江大和。つい最近、この研究所に来て、すでに私たちの計画のための手術も受けてもらっている。」

セフィロス「ほう、それでこの子供に何か問題でもあるのか?」

宝条「この写真はね、手術を受けてもらった後に撮った写真なんだが…何か気づくことはないかね?」

セフィロス「?……!これは!?」

宝条「そう、この少年は他の子供たちとは違い、目の変色がない。普通なら、あの手術を受ければ誰でも、空色の目をもつはずだというのにだ。」

セフィロス「手術が失敗したのでは?」

宝条「いや、彼は完璧に細胞が馴染んでいる。不合格者とは違うよ。」

 

宝条が気持ちの悪い笑顔を浮かべながらそう言い放った横で、セフィロスは

 

セフィロス(不合格者…か)

 

苦虫を噛み潰したかのような顔で立っていた。

 

宝条「もっと、他のサンプルもいれば、研究が進んだかもしれないが…」

セフィロス「ぶさけるな!あれだけでも、異常な犠牲者の数を出したんだ。今度、あのようなことが起きれば、

 

俺がこの組織を潰す。大恩があるなし関わらずにな。」

 

宝条「そんな怖い顔をするな。私としても君のような人材を失うのは惜しいことだ。これ以上何もしないよ。君を怒らせないためにもね。」

セフィロス「ふん、で、この子供をどうしろというんだ?」

宝条「話が早くて助かる。彼の稽古相手をしてほしいんだよ。」

セフィロス「何?」

宝条「細胞は完璧に馴染んでいるのに、彼の外見は普通の人間のままだ。だから経過観察をじっくりするためにも、彼の稽古相手を頼みたいんだ。」

 

正直、セフィロスはこの提案に対して初めNOを出そうと思っていた。このような文字通りの児戯をして、得があるようにも思えなかったからである。

だが、宝条ならこの少年を調べるためにはどんな手も使うにちがいない。そう思いなおし、

 

セフィロス「…分かった。その案受けよう。」

 

そう告げた。

 

時は流れ、1999年6月20日 訓練場

 

直江大和は困惑していた。ここに誘拐されてから、多分ろくな目に合わないだろうということは予想していた。だが、さすがに今日初めて出会ったみんなの憧れの的に呼び出される、なんていうよくあるラブコメ的展開(同性だが)が繰り広げられるなどということは予想するというのが無理な話である。

 

セフィロス「準備はできたか?」

大和「え?あ、ああ!」

 

大和は自らの武器である双剣をセフィロスに構える。対して、セフィロスは

 

3メートルはある太刀を構えていた。

 

大和「な!?そんな刀扱いきれるのかよ!」

セフィロス「フッ、人の心配か?随分と余裕なんだな!」

 

セフィロスが突進してくる。慌てて、双剣を構えなおした時には、すでにセフィロスは目の前にいた。

 

大和「な!?」

 

次の瞬間セフィロスの容赦ない一撃が繰り出され、大和の体は綺麗に吹っ飛ぶ。

それを見たセフィロスは感心していた。なぜなら、

 

セフィロス(ほう、かなり手加減していたとはいえ今の一撃をなんとか防いだか。まあ、飛ばされていたが。)

大和「ぐ、あ」

 

見ると、倒れている大和は一撃を食らっていたものの直接的な刀によるダメージが一切なかった。

 

セフィロス「(だが、こうも飛ばされていては、稽古にならないな。)おい、そこの二人!」

『!!』

セフィロス「いい加減、出てきたらどうだ?今ちょうど、二人ほど人手が必要なんだ。」

 

その声の少し後に、草陰からザックスとエアリスがでてきた。

 

大和「ざ、ザックス!エアリス!どうしてここに?」

ザックス「いやあ、そりゃあやっぱり、なあ?」

エアリス「うん、みんなの憧れの的でもあるセフィロスが友達のヤマトを連れ出して何かしようとしてるって分かれば、気になるじゃない!」

セフィロス「ほう、お前たちは友なのか?」

ザックス「そうそう!だから、いつも一緒だよな!ヤマト!」

 

ザックスは言いながら肩を組み始めた。

 

大和「ちょ、いきなり肩を組むな!馴れ馴れしいぞ!」

ザックス「ええー?いいじゃねえかよ?」

エアリス「わたしも入れてー!」

 

そんな光景を眩しいように見ながら、セフィロスは微笑んでいた。

 

ザックス「?どうしたんだ?セフィロス?」

セフィロス「いや、私には友というのがいないからな…一体どんな感じがするのか、少し興味があるというだけだ…」

ザックス「え、セフィロスって友達いないのか?」

 

セフィロスは頷く。

 

ザックス「ふーん、じゃあさ、

 

俺らが友達になってやるよ!」

 

ザックスがそんなことを言い出した瞬間、大和は驚いてザックスを一旦こちら側にぐいっと引っ張り出した。

 

ザックス「いたた、なんだよ?」

大和「なんだよ?じゃねえ!一体何を考えてんだ!」

ザックス「何って…だって、セフィロス友達いないっていうし、友達になろうかなー、って思っただけだぜ?」

大和「それが何を考えてんのか、って聞いてんだ!お前、相手あのセフィロスだぞ!俺は今日初めて会うけど、みんなの憧れみたいなもんだし、何より歳が全然違うし!」

ザックス「それが?そんなこと言うなら、エアリスと大和と俺、その中で一番の年下ってお前だろ?確か」

大和「うっ!確かにそうだが。」

ザックス「歳の差なんて考えてたら、友達なんて出来ないって!異論はねーよな!エアリス。」

エアリス「うん、ザックスがそれでいいのなら。」

ザックス「というわけで、後はお前一人だ。」

大和「うっ、わ、分かったよ!」

ザックス「よし!でさ、セフィロスは俺たちと友達になるの嫌か?」

 

本題であるセフィロスに尋ねる。セフィロスは少し考えた後、微笑を浮かべ、

 

セフィロス「フッ、随分と小さいお友達だ…」

ザックス「じゃあ!」

セフィロス「ああ、これからよろしく頼む。」

ザックス「よっしゃー」

 

大手を振って喜ぶザックス、それを微笑ましそうに見つめるセフィロスとエアリス、そして信じられないといった表情の大和、その時の気持ちを未だに大和は忘れていない。

 

あの、喜びと戸惑いが見事に混ざり合ったような気持ちを…

 

ザックス「さて、じゃあ何して遊ぶか?」

セフィロス「いや、その前に本来ここに大和を呼び出した目的の方を達成しないとな」

ザックス「あ、そうだった。やべ、忘れてた」

 

ハハ、と笑うザックス

 

エアリス「で、一体何が目的で大和を呼び出したの?」

セフィロス「簡単なことだ。稽古をするため、だ。だが、さっき見た通り俺の一撃を食らっただけであいつは吹っ飛んでいた。だから、お前たちも加えて稽古をしようと思う。その方がちょうどいい。」

ザックス「あ、なるほど了解、じゃあ俺も武器持ってくるな!」

エアリス「私も!」

 

そう言って二人が去った後、セフィロスは口を開け、

 

セフィロス「嫌だったか?」

大和「え?何が?」

セフィロス「私がお前たちと友になると言い出したことだ。」

大和「いや、別に…ただ、なんていうか意外で。てっきり断るものかと…」

セフィロス「ああ、まあ、俺も最初は驚いたし断ろうとも思ったが、ザックスといったか?あの子の目はなんというか、まっすぐな気がしてな。断れなかったんだ…俺に断らせないとはあの歳で大した子供だ。」

大和「…!?」

セフィロス「まあ、俺は時々しか顔を出せないし、出せたとしても会えるとは限らないが、よろしく頼む。」

大和「ああ、よろしく…」

 

そんなことを話している間に遠くから、ザックスとエアリスが駆け寄ってくるのが見えた。駆け寄ってきたザックスはバスターソードと呼ばれる大剣をエアリスは杖を持っていた。

 

セフィロス「よし、じゃあ稽古を始めるか?」

大和「うん!よろしくお願いします!」

 

そう言って、大和も自分の武器である双剣を構えた。




今回、大和は最初双剣を使っていたことにしました。とりあえず、二刀流の伏線のつもりです。


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今回はかなり長くなりました。いや、正直分けようと思ったんですけど、これ分けない方がいいかなと思い、分けませんでした。では、どうぞ!


1999年10月5日 訓練場

 

セフィロスに出会ってから、三ヶ月が経とうとしていた。まだ、10月だというのに冬のように寒くなってるのを感じた大和は、

 

大和(今更ながら思うけど、この研究所結構北の方にあるのかもな…)

 

とそんなことを考えていた。

こういう場合、訓練は室内で行われる手筈だったが相手がセフィロスということで、逆に室内でやらせたら危険だという判断になった。

そんな訳で大和とザックスとエアリスはセフィロスと初めて稽古した場所に今日もいるのだった。

しばらくすると、

 

セフィロス「待たせたな…」

 

と後ろから声がし、振り向くとセフィロスがそこにいた。

 

セフィロス「さあ、稽古を始めよう!」

 

そう聞いた瞬間、嬉々として三人は笑顔で

 

三人『はい!』

 

と答えて立ち向かった。

 

二時間後

 

セフィロス「今日の稽古はこれまでだな…」

 

ボロ雑巾のように横になった三人がいた。

 

ザックス「いててて、相変わらずデタラメな強さだな。」

エアリス「まったくとんでもないわ。ね、ヤマト!…ヤマト?」

 

見ると、大和は横になったまま、動かなくなっていた。

 

セフィロス「……これは気絶してるな。さっき俺が『稽古をこれまで』といった瞬間気が緩んだか…仕方ない。持って行ってやるか。」

 

直江大和は夢の中にいた。そこには昔なら、いつもどおりの日常だった空間があった。

いつもどおり父さんはドSで、

 

いつもどおり家は暖かくて、

 

そしていつもどおり母さんが乱暴だけど頭を撫でてくれた。

 

そんな日常を見た瞬間に、ああ、これは夢なんだとすぐに理解できてしまうあたり、もはや重症なのかもと大和は考えていた。

けど、夢であっても目の前の母親に思わずつぶやいてしまった。

 

大和「母さん…」

 

エアリス「こーら、私はあなたのお母さんじゃありません。」

大和「!」

 

聞いた瞬間、大和は目を開いた。見ると、目の前にエアリスの顔があった。どういう状況なのかわからずにいて、しばらく考えているとようやく理解できた。

つまり、大和がエアリスに膝枕されている状況だということだ。

 

大和「うお!」

エアリス「きゃっ!」

 

驚いて飛び起きてしまった。

 

エアリス「も〜危ないでしょ!」

大和「わ、悪い。ちょっと驚いて…なんで俺はエアリスにその…なんていうか…えーと」

ザックス「膝枕されてたかってか?」

大和「!」

 

すぐ横にザックスもいた。

すると、見る見るうちに自分の顔が赤くなっていくのが分かった。

 

エアリス「な〜に赤くなってるのかな?ヤマト〜?」

大和「う、うるせえ!あんな恥ずかしいことされて、平常心でいられるかってんだよ!」

ザックス「なんだ?少し前まで自閉症の気があったのに、意外と純情なのな?」

エアリス「ヤマト、かーわいい」

大和「だ、黙れ!」

セフィロス「なんだ?起きたのか?大和」

エアリス「あ、セフィロス!聞いてよ!ヤマトさっき私のこと母さんって「わー、わー!」」

セフィロス「はは、楽しそうだな。」

大和「そ、そういえば、セフィロスの親ってどんな人なんだ?」

 

苦し紛れに話題を変えようと思い、必死に出した言葉だった、だがいった瞬間、シンとなってしまった。少しして、セフィロスが

 

セフィロス「母の名は

 

ジェノバ

 

父の名は…ははは、何を話してるんだ。俺は」

 

セフィロスは背を向けた。

 

大和「あ…セフィロス」

セフィロス「さっきも言った通り、今日の稽古はこれまで!次はかなり早いが、二日後ほどにまた来る。」

 

そういって、スタスタと立ち去って行った。

 

三人で一緒に帰路に着くと、

 

エアリス「ねえ、ヤマト…」

大和「うん?」

エアリス「ヤマトはやっぱり家に帰りたいと思う?」

大和「え?えーと、それはまあやっぱりそうかな?」

エアリス「そう…」

 

少し悲しそうな顔した後、エアリスは自分の部屋がある女子寮に戻って行った。

 

大和「?なんだったんだ?」

ザックス「大和…さっきお前がセフィロスに親のことを聞いた瞬間、シンってなったよな?」

大和「え、あ、ああ。」

ザックス「忘れたのか?ここは身売りされたり、誘拐されたりと、みんなどこかしら親に対して闇を抱えた人間が集まっているってことを?」

大和「あ!!」

 

そこまで来て、ようやくさっきの自分の失言に気づいた。

 

大和「…そうか。だから…」

ザックス「ああ、別に謝らなくていいと思うし、さっきのは俺たちにも原因があると思うけど、気をつけろよ!」

大和「ああ…ごめん…ん?」

 

ふと気づくと足元にロケット入りのネックレスがあった。

 

大和「これは…」

 

ロケットの中を覗くと、エアリスによく似た女性がその中には写っていた。

 

1時間後

 

大和は黒髪ロングのカツラを被った女装姿で女子寮の中に入っていた。

なんで、こんなことになっているかというと、

 

30分前

 

大和「やっぱり、このロケットってエアリスのだよな。」

ザックス「たぶんな、明日返せばいいって。」

大和「…」

ザックス「…どうしたんだ?」

大和「いや、さっきのこともあるし、きっと探してるんじゃないかなって。」

ザックス「…おい、やめとけよ。お前が今なにを考えてるのか、わかってるつもりだけどそんなことしても叩き出されたら、その後何されるか分かったもんじゃないぞ!」

大和「…」

ザックス「…仕方ないな。よし!ではこのザックス兄さんが君に妙技を授けよう!」

大和「妙技?」

 

そういって、どこから出したのか長髪の黒髪のカツラを取り出した。

 

大和「おい、なんだそれ?」

ザックス「いやー、研究所をうろついてたらさ、なんか道端にあったんだよ」

大和「道端にあるもんなのか?そんなものが…」

ザックス「知らね。どっかの研究者がパーティでもやったんじゃね?というわけで、これ被って行ってこい!」

大和「は!?なんでそうなる?」

ザックス「だって、女子寮に入りたいんだろうお前?だったら、最低限これぐらいの変装はしないと!」

大和「ニヤニヤしながら、そんなこと言っても説得力皆無なんだよ!ふざけんな!だったら、明日行くよ!」

ザックス「おいおい、さっきエアリスに負い目を感じてたのはどこの誰だったかな?」

大和「ぐっ!」

ザックス「さあさあ、いってこい!」

大和「ちくしょう!覚えてろよ!」

 

というわけで、現在黒髪ロングのカツラをつけた少年、直江大和はエアリスの部屋を探しに女子寮の中をうろついていた。

そして、うろついている途中に早速難題が降りかかってきた。

 

「あら、あなた何をしてるの?」

 

ギクッとして、後ろを振り向くと女研究員がそこには立っていた。

 

大和(まずい!これは非常にまずい!他の奴ならどうか知らないけど、俺は決定的に他と違うところが一つある!)

 

そう、それは自分の目が他の人とは違い、青くないということ。だが、ばれたくないという一心の思いが奇跡を引き起こす。

そう、自らの目が澄んだ空のように青くなったのである。

 

大和(え、嘘だろ!でも、これなら行ける!!)

大和「こ、こんにちは〜」←全力の女声

女研究員「あら、あなた見ない顔ね?」

大和「はい、最近来たもので…あの、エアリスさんがどこにいらっしゃるかご存知ですか?」

女研究員「?あなた知らないの?あとちょっとで時間切れよ!ほら早く!」

 

ガシッと掴まれて、そのまま抱えて持っていかれる大和

 

大和「え?」

 

この後、直江大和は思うのであった。人は誰かを騙すときそれ相応の覚悟が必要なのだと。

 

女子寮 シャワールーム

 

女研究員「ほら、早く入っちゃいなさい!」

大和「え?いや!あの!!」

 

バタンとシャワールームの唯一の出入り口が閉じられてしまう。

 

大和「(しまったー。そういえばこの時間帯俺たちも男子寮でシャワーを浴びてたんだった。)いえ、いいんで!私そういうシャワーとか気にしないんで!出してください!お願いいたします!!」

女研究員【そんなこと言わないの!あなただって立派な女の子なんだからシャワーを浴びてちゃんと汗流してきなさい!!】

大和(いやいやいやいや、無理だって!もし今入ったら、シャワーどころか自らの血の雨を浴びかねないんだって!

お願い!出して!このままじゃオレ、何もやってないのに…白(しろ)なのに死路(しろ)に行ってしまうのです!いや、厳密には全く白という訳ではないけど!結構なグレーゾーンだけども!!つーか、なんで気づかないんだ!そりゃあ騙すためにやった変装だもの、気づかないことは本来喜ばしいことなんだろうけども!!さっき、奇跡的に目が青くなったことを鑑みたって、気付くだろう!普通!!…ってあれ?そうだ!目!!)

 

大和は即座に近くの洗面所にある鏡を見た。だが、

 

大和「あれ?もう青くない?」

 

すでに目はいつも通りの焦げ茶色に戻っていた。少し落胆したが、同時に安心もした。なぜなら、

 

大和(女装がバレないために青い目に覚醒したなんて恥ずかしすぎる!)

 

気を取り直してどうやってここから出るか考えることにした。

今の大和に残された選択肢は

1、諦めて、自白する。

 

2、限界まで隠れてみる。

 

そして、3、目の前にどこにつながっているか分からないダストシュートがある。そこに一か八か突入して脱出を試みる。

である。もちろん、1は確実に処刑が待っているし、2にしたって見つかれば同じこと、3はもしも行き着く先がいきなり焼却枦なんてことになったら、一貫の終わりだ。

 

大和(どうする?どれ選んだって、地獄行きな気がするが…)

 

そうこう考えていると、シャワールームの方から女子たちの声が聞こえてくる。

 

「わー、エアリスの肌きれいだねー!」「うん、本当だよね!なんであんなに特訓してるのに傷の跡もないのかな?」「くう、羨ましい!触らせてー!」「きゃ!」

 

一応言っておくと、ここでの最高年齢の女子は12歳ほどである。そして、エアリスは7歳だが…

 

エアリス「ちょ、ラテさん、ルーイさんどこ触ってるの?」

ラテ「くう、若いって羨ましい!」

ルーイ「はあはあ、本当よね!」

大和(おっさんか!!)

 

大和は心の中でそう叫んだ。幾ら何でも、会話が年相応じゃ無さすぎる。ませているというより、もはや、おっさんだ。

 

だが、そんなことに思考を移していると、

 

エアリス「も、もう、私先に出る!!」

大和(!!!)

 

なんと、エアリスがシャワールームから出ようとしている。

 

大和(やべえ!迷っている暇はねー!今すぐに脱出しなければ!)

 

と考え、ダストシュートに目掛けて突進した。途中で、

 

大和(おっとっと、これを忘れるところだった。)

 

と、本来の目的であるロケットを床に置き、

 

ガコン

 

と今度こそダストシュートに突入していった。

その後、エアリスは風呂から出てきた。

 

エアリス「あれ?今人がいた気がしたんだけど…ん?あれって、もしかして?」

 

エアリスは急いで、床に落ちているものに向かっていった。

 

エアリス「やっぱりそうだ!私のロケット!でも、なんでこんなところに?」

一方、大和は

 

大和「ウワアアアア!!」

 

絶賛、ダストシュートを滑り台よろしく滑っていた。ずいぶんと、奥深くまで突きすすんでいるそして、たどり着いたさきは、

 

大和「ぐ!ゲホゲホ!よかった…いきなり焼却枦なんていうことはなかったみたいだ。ウッ!」

 

だが、それでも一面ゴミだらけひどい悪臭が立ち込めている。

 

大和「早くここから出ないと…ん?」

 

見ると、一つだけ入り口らしきものが目の前にあった。大和はその扉に迷いなく手をかけた。

中に入ると、

 

大和「なんだここ?」

 

中は青白い光に包まれていた。何本もの何に使うか分からない管がそこにはあり、そしてその先には、

 

銀色の女姿の彫像が巨大な試験管の中によくわからない液体の中に浸されて保管されていた。

 

試験管に近づき、大和はその試験管に刻まれている名前を順々に読み上げた。

 

大和「J…E…N…O…V…A」

 

繋げて読むと、

 

大和「ジェノバ?」

 

大和は呟いた。途端に思い出す。

ー母の名前は、ジェノバー

 

時が狂い始める。




いやー、やっぱりff7とまじこいって言ったら女装は捨てがたいものだと思いますね!


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変化

人憶経験装置オッケー内部その中では皆が電脳の擬似の体を作り、会話をし合えるようにもなっている。

 

クリス「なんだ?楽しそうじゃないか?最後のが気になるが…」

京「うん。本当にね。あのエアリスって娘に嫉妬しちゃうぐらい(ゴゴゴ)」

ワン子「あわわわ、京が怖いわ〜…」

まゆっち、松風「最初、研究所って聞いた時は少し怖いくらいでしたけど。」『うん、大和坊めっちゃ幸せそうだよ!』

モロ「にしても、このザックスっていう人、キャップになんか似てるね…」

ガクト「ああ、それ俺様も思った。」

キャップ「うん?そうか?」

百代「これで全てということはないだろうが、少なくとも私には大和がホームシックを起こして帰ったという展開しか思い浮かばないな…」

 

ユキ「準〜準〜?なんで血の涙流してんの〜?」

準「ううう、あぁんまぁりだあー!」

冬馬「どうしたのですか?準?」

準「大和の野郎!なんで処刑覚悟でシャワールームに留まらなかったんだ!?オレ正直むっちゃシャワールームの中見たかったのに〜!」

 

『………』

 

大和「よう!みんな!」

 

と、電脳の中に突然大和が出てきた。

 

準「あ、大和てめえー!」

 

ズンズンと大和の元に突き進んでいく準、それを

 

冬馬「…ユキ…」

ユキ「アイアイサー!ホイ!!」

準「ハゴス!!」

 

ユキが側頭蹴りで叩き落とした。

 

大和「え、えーと、大丈夫なのか?これ?」

百代「大丈夫だ。ただ、馬鹿が馬鹿やらかして、処刑されたってだけだから。それにしても…」

 

百代は急にニヤニヤし始めた。

 

大和「…何?」

百代「いやー、中々似合っていたぞ!女装!」

大和「ぶっ!?」

京「うんうん、これからは時々女装しようねー!大和!ハアハア」

大和「息を荒げるな!ふざけんな!俺は絶対にしねーぞ!」

 

ハハハハと笑いが起きる。

 

モロ「それで一体何の用?大和?」

大和「ああ…これからクライマックスに入るからその前にもう一度皆それぞれから、意見を聞きたくてな。まあ、そしたら、思いもよらないのが一団体あったんだけど…」

一同『?』

大和「九鬼組、学生組そんでもう一団体と来て、ここが最後なんだ。一応聞くと、

 

いいんだな?このまま見て本当に!」

 

真剣な顔持ちで皆に尋ねる大和。皆が頷く。

 

大和「そっか…みんな今のを見てて、なんで見せたくなかったのか?って分からなかったろ?ここからだ。俺が見せたくなかったのは…」

一同『‼︎』

大和「どうか、この後のことを見たとして、みんなには変わらないでいてほしい…」

 

そう言って、大和は電脳の中で消えていった。

 

1999年10月6日

 

エアリス「♪〜」

ザックス「嬉しそうだな?エアリス。」

エアリス「うん!昨日失くしたと思ってたロケットが、偶然シャワールームの床に落ちてたんだ!本当に良かった!」

ザックス「へー…」

 

それを聞いた瞬間、ザックスは隣にいる大和に視線を向けて、小声で

 

ザックス(おい、やるじゃねーか!大和!)

 

なんて、言い始めた。

その言葉にブゴウっと大和は勢いよく咳き込み、しばらく息を整えた後、

 

大和(お前…絶対誤解してるぞ!俺は覗きなんていうことはしてないからな!)

ザックス(なに?やってないの?)

大和(当たり前だわ!そんなことおいそれとできるわけないだろ!)

ザックスじゃあ、何?大和は男の裸の方が好きなのか?ヤダ、これからシャワー浴びる時、俺とは違う時間帯な…)

大和(それも違うわ!言っとくけど、俺は女体に興味がないわけじゃな…)

エアリス「男の子二人で何ブツブツ言い合ってるのかなー?」

 

エアリスが突然会話に割り込んできた。

 

大和「い、いやあ、なんでもないさ!な、ザックス!」

ザックス「おう、ただちょっと大和がムッツリだったっていう話だから。」

 

ザックスは笑顔でそういった後、エアリスは?を頭の上に浮かべ、大和は頭を抱えていた。

 

1999年10月20日

 

「あ、セフィロスだ」「お帰りなさーい!」

 

子供達が口々にセフィロスに声をかける。その後のセフィロスの答えは、

 

セフィロス「ああ…」

 

という素っ気ないもの。

最近よくセフィロスが帰ってくることが多くなっていった。多くのものはそれを嬉しがっていた。

だが、直江大和だけは違った。言い知れぬ不安感があった。具体的にそれが何とは言えないが、原因はわかっている。

 

1999年10月7日 訓練場

 

セフィロス「何?それは本当か?」

大和「うん…」

 

いつもの稽古後に、銀色の女姿の彫像のことを直江大和は全て話した。正直話すべきか迷っていたが、

 

大和(もしも、本当にセフィロスの母親に関係してくることだとしたら、言うのがセフィロスのためであり、友達のすべきことなんだろう…)

 

大和はそう考えた。

 

セフィロス「そうか…偶然にしては…出来すぎているな。俺がここにいることそれらを含めたとして…」

 

とブツブツ言いながら考えるセフィロスに向けて

 

大和「…セフィロス?」

 

大和は声をかけてみた。だが、まったくと言っていいほど反応がなかった。

 

そして今に至る。月に4回程度帰ってくるのが普通だったはずなのに、まだ一ヶ月も経たない内に、もう、今日を合わせて12回ほど帰ってきている。

それでも稽古はしてくれていた。そのことだけが唯一の救いだった。だが、その稽古ですら、ダンダンと短くなってきている気がしてならなかった。

 

一体何がセフィロスを変えたのか?原因はわかっていても、それだけが気がかりで仕方なかった。

 

だが、そんな大和の思いとは裏腹に事態は急展開していく。

 

1999年10月29日

 

宝条「何?あの部屋に侵入者だと?」

 

宝条は怪訝そうに尋ねた。

 

男研究員「はい。どうやら、ごみ収集所から直接行けてしまった者がいるそうなんです。」

宝条「ごみ収集場から?ということは、ダストシュートから入ってきたと、そういうことかね?」

男研究員「はい。ここにその映像があるとですが…」

 

見ると、その映像には黒髪の少女らしき人影が写っていた。

 

宝条「なぜこれを今まで報せなかったんだ!?」

 

宝条は怒鳴った。

 

男研究員「申し訳ありません!わかってはいたので、この研究所全ての黒髪の女子について聞いたのですが、全員がアリバイあり、しかもそれぞれ研究員の証言だったので…」

宝条「…打つ手無しということかね?」

男研究員「はい…」

宝条「はあ…まあ、いい。その映像をよく見せたまえ。」

 

そして、その映像をよく観察している研究員を観察する一つの人影があった。それは…

 

ザックス(おいおい、どういうことだ?黒髪の、しかもアリバイ無しの女の子…別にこれが大和と決まったわけじゃないのに、なんでこんなに俺は焦っている?)

 

その人影とはザックスのことだった。ザックスは最近になって、大和と同じようにセフィロスの様子がおかしいと思い始め、そのことを研究員に相談しようとしに来ていた。

だが、いざ来てみれば黒髪の女子について、随分と殺気立ちながら話し合っている研究員の姿が見えたので、驚愕したのだ。

 

ザックス(もしも、これが本当に大和のことだったとしたら…何やらされるか分かったもんじゃない!ちょっと早すぎるけど、近い内に作戦を実行に移すか?)

 

そんなことを考えながら、ザックスは来た道を慎重に引き返した。

 

そして、1999年11月3日

 

皮肉にも、日本では平和のための祝日であった文化の日が大和にとって、もっとも残酷な日となってしまう…




ちょっと今回は微妙だった気がします…次回はとうとうクライマックスに入ります。この次回の後、大和がどうして今まで力を隠し続けていたのかも書くつもりなので、どうしても長くなりますが、お付き合いのほど宜しくお願いいたします。


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残酷

1999年11月3日

 

その日はいつもと同じように肌寒い朝だった。大和はいつもの稽古の場所でザックス、エアリスの到着を待っていた。

ここ数日ザックスとエアリスは二人きりになることが多くなっていた。別にそれが悪いことではないのだが、

 

大和(なんだろ?なんで俺こんなにイライラしてるんだ?)

 

大和は虫の居所が悪かった。

そうこう考えている内にエアリスがやってきた。

 

エアリス「…大和。」

大和「あ、エアリス来たのか?ってザックス一緒じゃねーのかよ!いつも一緒の癖に…」

 

我ながら、変に刺々しい言い方だと思った。これじゃエアリスを逆に怒らせてしまう、だが…

 

エアリス「…うん、ちょっと用があってね…」

 

なんとスルーされた。驚いて大和はエアリスの顔をよく見てみた。

すると、エアリスは何か重い決断をしたような顔をしていた。

 

大和「どうしたんだ?」

エアリス「ううん、なんでもないよ…」

 

と明らか嘘だと分かる笑いをしたエアリス。それをますます怪しんだが、

 

エアリス「ねえ、大和こっちに来てくれない?」

 

 

大分奥に進んだところで、さすがに何をする気なのか分からなかった大和は

 

大和「おい、エアリス!一体どこまで連れて行く気なんだ!もう少しすると敷地外に出ようっていう場所だぜ!?」

エアリス「…ねえ、大和。私ねあなたが好きだった。」

大和「はっ!?」

 

ドクンと胸が高鳴る。

 

エアリス「あなたと初めて会った時、最初なんだか正直暗そうだなっていう印象しか受けなかったけど、その後ザックスと会って、セフィロスと会って、ドンドン変わっていって今じゃ、軽口にだって付き合ってくれるまでになった。だから、あなたも好きだった…」

大和「あ、ああ、好きってそっちの方か…」

 

なぜかションボリしてしまった自分に苛立ちながら、話を聞く大和

 

エアリス「私はね、パパもママも紛争に巻き込まれて死んじゃって、ザックスも同じくなんだけど、私たちそれからの付き合いで…そういう経路でこの研究所に来たんだ。だから、私とザックスにはもう帰る場所はないけど…」

 

そう言いながら、エアリスは大和の服を掴む。もう、目の前には見てわかる程の大量の監視カメラと有刺鉄線が広がっている。つまり、敷地外寸前ということである。

 

エアリス「あなたには帰る場所がある!だから、ここを脱出して!大和!」

大和「え?」

 

そう言ってエアリスはとても女の子の膂力とは思えない力で大和をぶん投げた。

 

大和「う、うわあああ」

 

有刺鉄線の壁を越え、

ドサッと土の上に思い切りぶつかる音がした。

何が起こったのかしばらく分からずにいると、

 

エアリス「ヤマトー!ポケットの中を見てー!」

 

探ってみると、狼の形を象られているピアスが中には入っていた。

 

エアリス「ザックスからの餞別だってー!本当は自分が大人になってからつける予定だったけど、ヤマトにあげるって言ってたよー!」

 

そのピアスをしばらく見た後、ようやく思考が戻ってきて、

 

大和「ば、馬鹿野郎!こんなことしたって無駄だ!見えるだろう?さっきからこっちを覗いている大量の監視カメラ!こんな風にその場仕込みの脱出をして、今まで何人も痛い目にあっているだろうが!」

 

そう、こんな研究所、当然脱出しようと思うものはいた。家族に会いたい、こんな場所からは離れたい、それぞれいろんな思いを抱えて…だが、結局は子供が考えた作戦、監視カメラなどで発見されたり、事前に察知されたりと成功した試しがまるでなかった。だが、エアリスは

 

エアリス「ううん、大丈夫よ!だってその監視カメラが今は作動してないと思うから…」

大和「はっ!?それってどういう…」

 

 

30分前 研究所 監視室

そこに、ザックスは監視システムを壊しにやってきていた。そうすることにより、ヤマトが逃げやすいようにするために

だが、そこには監視する者などどこにもいなかった。いや、正確には監視していた者はいた…

どういうことかというと、

 

監視者は皆、太刀で切られたような切り口で一撃で殺されていた。

 

ザックス「な、なんだよ?これ?」

 

誰も彼もが無残な姿であった。一番ひどいのだと完璧に胴と脚がおさらばしているような死体もあった。

 

ザックス「うぷ!おええええ…」

 

思わず吐いてしまう。収まった後、なんでこんなことにと思う前に体は動いていた。

本能が自分によびかけているのだ。あいつらの身が危ない。と

 

現在 敷地境界線

 

エアリス「うん!やっぱり作動してないみたい!今の内に行って!ヤマト!」

大和「ふざけんな!逃げんなら、オレら全員一緒にだろうが!」

エアリス「そうしたかったけど、そういうわけにもいかないの…ヤマト…」

大和「?」

エアリス「ロケットありがと!」

 

そう言って走り去ろうとした。だが、

 

ドスッとエアリスの背中から胸にかけて一本の太刀が刺さっていた。

 

エアリス「え?」

 

大和もそして、刺されている本人であるエアリスも何が起きているのか分からなかった。

 

エアリスは後ろを向いて呟いた。

 

エアリス「セフィ…ロス?」

 

セフィロス「……」

 

セフィロスはただ黙ったままだった。黙って、刺さっている太刀を抜いた。

 

エアリスはそのまま力なく倒れていった。

 

大和「エアリス!!」

 

大和は叫んだ。だが、エアリスに反応はない。

 

大和「セフィロス!お前!何のつもりだ!?」

セフィロス「…ああ、そこにもいたのか?悪いが、母さんの意志を告げる息子は一人でいいんだ。だから、オレ以外は

 

死ね」

 

そう言いながら、セフィロスは突進してきた。そこへ、

 

ガキーン

 

バスタソードを持った黒髪の少年が割って入る。

 

大和「ザックス!!」

ザックス「大和!ここはオレに任せて今すぐ逃げろ!!」

大和「な!?そんなこと…」

ザックス「いいから行け!お前、エアリスの死を無駄にしたいのか!?」

大和「うっ!!」

 

瞬間、エアリスを見てしまったが、

 

大和「…まだ、死んでるかなんて分かんねえだろ!勝手に決めんなよ!」

ザックス「だとしても!エアリスはお前のために時間も稼ぐ覚悟だったんだ!」

大和「…なんでだよ!?なんでオレにそこまで…」

ザックス「それは…友達だから

 

生きて欲しいからに決まってんだろ!」

 

大和「意味が分からねーよ!!だったら、一緒に逃げればいいだろうが!」

ザックス「そうしたかったけどよ、今のままじゃ、お前の身が危ないと思ったんだ…どの道この作戦は誰か一人が犠牲にならなきゃならなかった。だから、ちょうどいいんだよ…これで…」

大和「何がちょうどいいんだ!今すぐこの鉄線を切れ!オレも一緒に…」

ザックス「オレたちの覚悟を無駄にする気か!いいから行け!!

 

それが今、オレたちのためにお前がすべきことだ!」

 

大和「っ!?」

 

不覚にも気圧されてしまった。こんなこと言われても、圧倒されちゃいけないのに

 

ザックス「お願いだ…行ってくれ…大丈夫だ!いつか言ったろ?俺の夢は…」

 

その言葉を皮切りに大和は背を向けた。そして、一気に走り抜けた。

それを確認したザックスは改めて、セフィロスに視線を向ける。

 

ザックス「セフィロス…待っててくれたんだな?随分と長話だったような気がするが…」

セフィロス「…… 」

ザックス「無視かよ…なぜみんなを殺した!

研究員だけならまだしも、お前に憧れ、目標にしていた子供たちまで…」

セフィロス「……」

ザックス「答えろ!!セフィロス!!」

セフィロス「……」

 

セフィロスは終始黙ったままだった。黙って、ザックスに向かって刃渡り3mはある太刀を構えた。

 

ザックス「そうかよ、セフィロス…いや、もうお前は俺の知ってるセフィロスじゃない!ちょっと早すぎるけど、オレの夢…叶えさせてもらうぞ!」

 

ザックスはそう言って、セフィロスに向かって行った。

 

大和「はっ!はっ!」

 

大和はとにかく走った。少しでも早く研究所の影が見えないようにするために、ザックスたちの覚悟を無にしないために!

 

大和「っ!?くそおおおーーー!」

 

大和は全身全霊で叫んだ。あまりにも自分が情けなさすぎて、

 

大和「くそ!くそ!」

 

悪態をつきながら、ずっと走っていると意識が走りに集中しなくなってきた。なので、大和は

 

目の前の木の根に思いっきり脚がつまずいて転んだ。

 

大和「う、うわああ!!!」

 

走っていた勢いもあり、随分と遠くの別の木にぶつかってようやく止まった。

 

コロリ

 

と自分のポケットから何かが転がり落ちた。それはザックスから餞別だという狼型のピアスだった。

その瞬間思い出す。ザックスの夢を…

 

ザックス[俺の夢はな、大和!いつかセフィロスを超えて、歴史に名を遺せるような英雄になることなんだ!]

 

大和「っ!?」

 

その馬鹿らしくも真っ直ぐな夢に大和は憧れを抱いた。

 

自分もあいつと同じくらい真っ直ぐでいたい。

 

大和は心からそう思った。だからいつしかザックスを憧れに、セフィロスを目標に見据えていた。

その憧れが自分の目標に戦いを挑んでいる。

 

大和「ちくしょう!!やっぱりできねえよ!見捨てるなんて!」

 

大和は落ちていたピアスを拾いながら、研究所の方に戻って行った。

 

走った。もう息が止まっていいと思うほどに強く、速く、すると行きも帰りも同じく平坦だったのに帰りの方が断然足が速くなっているのを感じた。

 

大和(なんだ?この感じ?)

 

大和が不思議に思っていると、目の前にはもう、鉄線が広がっていた。近くにザックスとセフィロスはいない。

高さ2.5mはあるだろう鉄線、それに対し大和は

 

思いきり跳んだ。

 

すると、自分の身体は悠に3mは宙に浮いた。

 

そのことに自分自身驚愕を隠せなかったが、今はそんなこと本当にどうでもよかった。すぐそばにいるエアリスのことが気になって仕方がなかった。

 

大和「エアリス!!」

 

エアリスの元に駆け寄り、声をかける。だが、

 

エアリス「……」

 

口から血をながし、腹部から大量の出血をしているエアリスはただ眠るように目を閉じていた。

 

大和「…ちくしょう…!」

 

大和は口の中で苦々しく呟いた。だが、これで終わりではない。まだ、一人自分にとってかけがえのない存在が闘っている。

 

大和「ザックス…!」

 

エアリスの体を木に横たわらせると、大和は研究所の元に再び走っていった。




なんだか、今更なんですけど、この作品の題名って地雷臭が半端ないんでしょうか?ちょっと気になります…


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旅立ち

研究所

 

大和「っ!?こ、これは!?」

研究所に着いた大和は驚愕した。

どこを向いても赤、赤、赤の血だらけだった。もはや首しか無いもの、逆に体しかないもの、研究員と子供たちを含めてそんな死体しかなかった。

大和(ザックス!!)

心の中で叫ぶ大和、いつも予想だにしないことを言ってのけ、その度に自分の頭を悩ませた、だがこんな研究所 の中でも明るかった少年。

だからこそ大和は心の中でザックスなら無事なんだとそう心に言い聞かせることができた。そうすることで決壊しそうな心をなんとか保てた。

 

だが、そんな祈りに近い思いは脆くも崩れ去る。

 

セフィロスとザックスの顔が浮かんだ瞬間、自然いつもの訓練場に足が行った。

そして、その中央には

 

血だらけのザックスがいた。

 

大和「ザックス!!」

 

急いで駆け寄り、ザックスの上体を起 こした。

 

ザックス「うっ…うう…」

大和「よかった!まだ生きてた!」

ザックス「大和…か?馬鹿野郎…なん…で、こんな…ところ、来たんだよ…?」

大和「お前を見捨てることなんてできるわけねーだろ!」

ザックス「はあ、ったく、でも悪い…もうオレも長くない…」

大和「そんな…やめてくれ!エアリスはもう泣かない、怒らない、笑わない!お前までそうなっちまったら…俺は…どうすれば…」

 

泣きそうな顔で必死に懇願した。そんな大和を辛そうに見つめながら、ザックスは

 

ザックス「大丈夫…だ。大和…」

大和「はあ?」

 

そう言って、ザックスは微笑みながら大和の方を見つめた。

 

ザックス「俺の…分まで…」

大和「お前の…分まで?」

ザックス「お前が…

 

生きる。」

 

大和「!!」

 

そのまま大和の顔に手を進めて、胸に埋めさせると、

 

ザックス「お前が…俺の生きた証。」

 

大和「……」

 

大和は最早言葉が出なかった。もう、聞くしかなかった。

ザックスは自分の大剣を大和に持たせるような形で

 

ザックス「俺の誇りや夢…

 

全部やる…」

 

大和はそれを無言で受け取る。それを確認した後、ザックスは言いたいことが言えて安心したように微笑むと、ゆっくりと目を閉じた。

 

死んだとわかるのに偉く時間がかかったように感じた。

そして、理解した瞬間、大和の中で何かがバキンと壊れるような音がした。

 

大和「あ…あ…ああ

 

…あああああ!!」

 

ただ、泣き叫ぶしかなかった。

それはまるで、仲間との別れを惜しむ一匹の獣の鳴き声に近かった。

 

 

それから少し経ち、叫びが収まると大和は立ち上がった。

そして、大和はザックスの方に顔を向けると、

 

大和「ありがとう…忘れない。絶対に…」

 

今までのことを思い出しながら、

 

背を向け、

 

大和「ザックス…」

 

最後に名前を呟いた。そして、ザックスの大剣を引きずりながら持って行き、

 

大和「行ってくる」

 

大和が目指す先、それは

 

現在、大和とセフィロスしか知らない場所である。

 

研究所 地下奥深くの部屋

 

セフィロス「やっと会えたね…母さん」

 

狂気じみた笑いを浮かべながら、セフィロスは試験管の中にある女性型の銀像につぶやく。

 

セフィロス「ごめんね。こんな汚いところに母さんをずっと待たせちゃって…でも、もう大丈夫だよ。オレやりたいことがあるんだ。母さんがこの星にやってくるまでずっと昔からやってきたことだよ…」

 

セフィロス「ああ、でもそんな汚い物に身を包まれてたらオレが今からすることを満足に見れないよね…ちょっと待ってて。」

 

巨大試験管を壊し、セフィロスが銀像に手をかける。そして、

 

一気に引き抜いた。

 

すると、銀像の中から液体が吹き出す。その後ろから出てきた物は…

 

肌が青く、目は赤い、さらには背中には赤い翼のようなものがくっついている女性型の異質な生物だった。とても人間とは思えない…そう、それはまさしく

 

宇宙人

 

そう表現するのにぴったりな生物だった。

 

セフィロス「何の取り柄もないあいつらにこんなところに入れられて、かわいそうに…さあ、一緒に行こう!

 

母さん、一緒に人間どもに復讐しよう…」

 

愛する母を抱き上げようとセフィロスは手を掲げた。だが、次の瞬間、

ドッとセフィロスは何かが後ろから来たのを感じた。後ろを見ると、

 

大和が大剣で自分の体を突き刺していた。

 

大和「セフィロス!!なぜ研究所のみんなを殺した。目標だったのに…憧れていたのに!」

セフィロス「う、うう!」

 

ドサッと試験管の方にもたれかかるように倒れていったセフィロス、それを見た大和は止めを刺すために上で剣を振り被る。そして

 

大和「終わりだ!セフィロス!!」

 

振り下ろす。だが…

 

ガキーン

 

なんと、太刀で大和の一撃を受け止められた。

 

大和「なっ!?まだ、動けたのか?っぐあ!」

 

そのまま押し返される大和。吹き飛ばされると、3m上の管ばかりある壁に激突した。

 

大和「ゲホッ!」(そんな…腹に風穴空いてんだぞ?どうして…こんな…)

 

そのまま、落ちると大和はすぐに立ち上がろうとする。

 

セフィロス「くっ!お前ごときに!」

 

一方セフィロスもかなりのダメージを負っているためにだめ押しを大和にしようとしても、身体が動かなかった。だが、少しずつ少しずつ大和に近づいていった。

 

大和(そういえば、バスターソードは?…!あそこか!)

 

先ほど吹き飛ばされたとき、バスターソードを手から離してしまったので、どこにあるか探していると、ちょうど、自分の後方5mの位置にあった。

 

大和(でも、今こいつに背を向けるわけにはいかない。…慣れない武器は扱うもんじゃないな…仕方ない。)

 

そう考え、大和は腰の双剣に手を添え、それをセフィロスに構えた。

そして、一気に突進する。

 

双剣と太刀が衝突する。その後、大和はセフィロスに向かって、連撃を繰り出していく。

 

大和「うおおおおおお!!」

 

だが、その全てを完璧に防御するセフィロス。それでも疑問に思うことがあった。

 

セフィロス(なんだ?これほどのパワー、スピード明らかに今までとは段違いだ。なぜここまで?)

 

そして、ついにはセフィロスが風穴が空いている状態だとは言え、かするようになってきた。

 

大和(いける!!)

 

大和がそう思った瞬間、

 

セフィロス「っ!調子に…

 

乗るな!」

 

大和に太刀の突きが迫る。

 

その一撃を

 

大和はもろに食らう。

 

大和「ぐあ!」

 

そのまま、太刀で持ち上げられる。

 

まずい。このままじゃ…

 

そう頭によぎった瞬間、ザックスとエアリスの顔が走馬灯に浮かんだ。そして、

 

お前が俺の生きた証。

 

その言葉を思い出した瞬間、意図せず自分の手を太刀にかけて、

 

大和「ぬぐ…ああああ!!」

 

思いっきり力をかけた。自分の身体の中で力が何倍にもなっていくような感覚がした。

そして、ついには

 

セフィロスの身体の方が持ち上がっていた。

 

セフィロス「そんな…バカな…!!お前…その目は!!」

 

見ると、大和の目は青く怪しく光っていた。

 

大和「うらあ!」

 

大和はセフィロスを自分の後方に投げ飛ばした。

 

セフィロス「ぬぐあ…」

 

セフィロスは思い切り壁に叩きつけられ、ずり落ちて行く。その次にセフィロスが見た物は、

 

バスターソードを今度こそとばかりに横に振り被る大和の姿だった。

 

セフィロス「ま…!!」

 

待て、という前にそれは終わっていた。

 

ザン

 

横一文字にセフィロスを斬る大和。

そして、その傷口から勢い良く血を吹き出すセフィロス。

 

セフィロス「が、あ…」

 

最期に何かを言おうとしながらセフィロスはゆっくりと目を閉じていった。

 

大和「はあ、はあ、はあ、はあ…」

 

セフィロスを一瞥する大和、今度こそ完璧に止めを刺した。

 

大和「やった…ぞ。う…!」

 

倒れそうになる体をなんとか武器を使って立ち上がらせた。

ここで倒れるわけにはいかない。異変を感じたこの組織の仲間がいつやってくるかわからないのだ。

そして、後ろを振り向くとそこには青い肌と赤い目そして背中には赤い翼のような異形のものがくっついている女性型の生物がいた。

 

大和(…こいつが全てを…)

 

そう考えた瞬間、大和は剣を振りかぶり、

 

その生物の首に向かって、思い切り振り降ろした。

 

ザン

 

という音がしたと同時にその生物の首がボトッと床に落ちた。

 

大和(これで…いいんだ。)

 

心の中で大和はそう呟いた。

 

急いで研究所を出ようとする大和、すると気になるものが目に入った。

 

大和「なんだ?これは…」

 

床を見ると数枚のレポートらしき紙があった。研究所にいるのが長かった分、普通はただの紙だと思うようなものだが、大和はどうしてもそれから目が離せなかった。

 

状況からして、セフィロスが持ってきたものなのだろう。

 

だとすると、セフィロスがおかしくなった理由もここにあるのかもしれない。大和は本能的にそう考えた。

大和はそのレポートを手に持つと急いで地上に出た。

 

その時、ピクッとわずかに動いたセフィロスのことには全く気づかずに…

 

大和「うっ!!」

 

外に出て見ると、やはりひどいものだった。

 

どこを見ても、死体、死体、死体…一刻も早くこんな場所から出たいと、大和はそう考えた。

 

だが、できなかった。

 

別にここにいるやつらには仲良くしてもらったわけではない。俺の親友はザックスとエアリスだけだ。そう考えているにも関わらずである。

 

大和「……」

 

ふと、考えるそぶりをわずかにした後、大和は大剣を持ち上げながら別の場所に向かった。

 

大和「ここがいいな…」

 

呟いた後、大和は思い切り大剣を地面叩きつけた。

 

1999年11月6日

 

あの事件からすでに3日が経っている。

直江大和は自分の身体などお構いなしに3日間ぶっ続けで死体を土の中に入れては入れては土を盛り続けていた。

我ながら、よく動けていると思う。なにせ、出血は収まってきたとは言え胴には太刀による風穴がまだ空いたままなのである。いつの間にかそんなことも忘れて、土をいじり続けていた自分に若干の恐怖を抱きながら、

 

大和「よし!できた!!」

 

最後にザックスのバスターソードを突き刺した。

 

大和(これで完成間近だな…)

 

間近というのはまだ埋めてない、というか埋めるのが嫌だった死体が2人だけいたのだ。

 

それはもちろん、ザックスとエアリスの死体である。

 

大和「やっぱり…無理だな…オレにこいつらを埋めるのは…」

 

まるで今にも動き出しそう…いやそんなことあるわけないのだが、大和はどうしても、そう考えてしまう自分を否定できなかった。

だから、大和は2人の死体をバスターソードに寄りかからせるような形で、置いた。いつでも、起き上がれるように…

 

そうすると、エアリスの顔が自然とザックスの肩に寄り添う。

その姿に少し愛おしさを感じた大和、思わずエアリスの頬を撫でていた。

 

大和「エアリス…ありがとう。こんなオレを好きだと言ってくれて…友達としての言葉だっていうのは分かっているけど、嬉しかった…本当に。」

 

そう言うと、大和は今度はザックスの方を向き、

 

大和「ザックス…やっぱり、そのバスタソードはお前の背中にある方が似合ってる。お前の分まで生きる…お前の誇りや夢をもらったのは確かだけど…やっぱり、その大剣はお前が持っておくべきだ。…でも、安心してくれ!研究所の中に試作段階ではあったが、お前の大剣に似た武器が見つかったんだ。」

 

手に持った新しい武器を大和はザックスに見せるような形で掲げた。

 

大和「すごいぞ!この剣は6本の剣から成り立っている武器でな、俺は双剣扱うのが慣れているから、この武器、使いこなせると思うんだ!」

 

大和は本当に楽しそうに語った。そうでもしないと、心が決壊しそうで怖かったから…

 

少しして、大和は立ち上がる。

 

大和「そろそろ行くよ…ザックス、エアリス。正直いつここの関係者が来るかヒヤヒヤものだったけど…運が良くて良かった。」

 

そう言って、微笑むと

 

大和「それじゃ、ザックス、エアリス、

 

おやすみ…」

 

大和は新しい武器を持ちながら研究所の外の方へと歩き始めた。自分の帰るべき場所に帰るために。




本当はセフィロスと戦った後、一旦切ろうと思ったのですが、もうここまで行ったのなら書いてしまえ!という気持ちで書きました。では、感想お待ちしております。


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ただいま

今回でタークスが出てきます。ちょっとだけ、ツォンを柔らかめに書いたことは自覚しています。



1999年11月8日

 

すでに、大和が研究所を脱出して2日経った。

セフィロスはジェノバの首を抱えて足を引きずりながら外に出た。

 

セフィロス「ぐっ!はぁ、はぁ、まさか大和にこれほどの深手を負わされるとは…お陰で動けるようになるのに、5日もかかった…だが、この傷ではもはや、母のなしてきたことをすぐには行えない…ならば…」

「な〜にぶつくさ言ってんだぞ、と」

セフィロス「!」

 

驚いて振り向くと、そこにはまだ16歳ほどの赤髪とゴーグル、そして目元にあるマークが目立つ少年が立っていた。そして、それに合わせるように

 

「セフィロス…この血の景色を作り上げたのはお前だな?とぼけても無駄だ。すでに証拠は上がっている…」

 

サングラスをかけた強面の黒人男性がその少年と一緒になってセフィロスを挟むような形で現れた。

 

セフィロス「…タークスか…」

赤髪「そ、来た理由は分かってんだろ、と?」

サングラス「セフィロス。お前を神羅の名において処刑する。」

セフィロス「…ふっ…」

赤髪「あん、なに笑ってんだぞ、と?」

セフィロス「…いや、これではさすがに今さっき出た賭けに乗るしかないと思ってな…我ながら情けなさすぎて笑えてしまったというだけだ。」

サングラス「?何を言っている?」

セフィロス「ふん!」

 

セフィロスはそう言うと、

 

なんと自らの太刀で自分の身体を貫いた。

 

二人『な!?』

セフィロス「この賭けが成功するとして星の力を手にしていない今の私では…そうだな。10年といったところか?口惜しいが、母は貴様らにしばらく預けるとしよう…」

 

そう言いながら、セフィロスは光の粒のようになって消えていった。

 

赤髪「なんだったんだよ、と!?」

サングラス「さあ、あまり知りたくないな。」

 

研究所 バスターソードの墓近く

 

「なに?そうか、そうか…わかった。とりあえず、こちらにもいろいろと収穫があったので、合流するからそこで待っていてくれ!レノ、ルード」

 

そう言って、アジア系の整った顔立ちとデコのほくろが特徴的な男性・ツォンは通信を切った。

 

ツォン(さて、どうしたものか?)

 

ツォンは悩んでいた。この目の前にある墓によりかからせている綺麗に残っている死体2人は持ち帰るしかないだろう…だが、問題はこの墓を誰が作ったのかということである。

状況からして、2人の死体が生きているときに作ったとは考えにくい。

 

つまり、第三者の存在、この研究所には最低1人は生き残りがいるということ…

 

ツォン(普通ならば、このことを報せた方が我らが神羅カンパニーに大きく貢献ができるということになるが…だが、このような惨事をまた引き起こしかねないとしたら…)

 

そして、ツォンの出した決断、それは…

 

同時刻 ドイツ リューベック近くの道路

 

彼、直江大和は大剣を抱えながら道路の隅を進み続けていた。

 

大和「はあ、はあ、」

 

今更であるが、彼の服装は研究所内ではほぼ布一枚というシンプルな格好で、今も研究所内からありったけの防寒具を持って来たとはいえ、元々の格好もあるせいか大和は透き通る寒風にみるみるうちに体力を奪われていた。

おまけにこの2日まともな食事を取ってない。大和の限界は着々と近づいていた。

 

そして、とうとう

 

ドサッ

 

大和は一面緑に覆われている道路に倒れてしまった。

 

大和(まずい…このままだと…)

 

なんとか意識を保とうとするが、全くと言っていいほどに力が入らず、遂に…

 

大和は意識を手放した。

 

だが、人の縁とは得てして奇妙な物である。しばらくすると、道路に一つの高級車が通りかかった。

 

「君、ちょっと止まってくれるかな?」

運転手「え?あ、はい!」

 

高級車は大和の前で立ち止まり、その中から1人軍服姿の三十路を越えようかという男が出てきた。

 

「この子は…」

運転手「どうかしたのですか?中将」

中将「…君は運転手だというのにこの子供の存在に気づかなかったというのかね?」

運転手「え?あ!」

 

見ると、道路の隅の方にあった布の塊は寒さを凌ごうとくるまっている子供だった。

 

中将「まだ、幼いというのに…かわいそうに…この子を連れて行く。ドアを開けてくれるかな?」

運転手「は、はい!あの…手に持っている大剣はいかがいたしますか?」

中将「この子にとって大事な物なのかもしれない…持っていってあげよう…」

運転手「かしこまりました!」

 

さっきのこともあったために慌てて、車のドアを開けに行く運転手。

 

こうして、運もあるが当時既に中将の位置にいたクリスの父フランク・フリードリヒにより大和は保護された。

 

1999年11月11日 病院内

 

病院内でフランク中将とその部下が話しあっていた。

フランク「どうかね?あの子の様子は?」

ドイツ兵「それが日本人ということなので、日本語で色々と質問してみたのですが…

やはり日本人、名前・直江大和ということ以外は特には…なぜあんなところで倒れていたのか?なぜ傷だらけだったのか?ということは口を完璧に閉ざしているような状態です。」

フランク「そうかね…」

ドイツ兵「あ、後一つ、少しだけ気持ちが落ち着いたのか、このようなことを言いだしていました。」

フランク「?」

ドイツ兵「『帰りたい』と」

フランク「……そうかね。ならば仕方ないかもしれんな。」

ドイツ兵「!?ちゅ、中将本気ですか?まだ、彼がどんな素性なのかわかっていないのですよ!」

フランク「それが…そうでもないのだよ。実は彼の名前が直江大和だとわかったとき、昨日、日本の方でそのことについて調べたら、彼には確かに親が存在し、それがあの直江景清だったのだ。」

ドイツ兵「直江景清ですって!」

 

この頃からわずかではあるが、軍内にも事業において未来を見通す目を持つということで密かに注目されていた大和の父景清。

そのことを聞かされれば驚くのも分かる。

 

フランク「しかも、どこで聞き出したのか、景清は既にここに自分の息子がいるということで、仕事をほっぽり出してこちらに自家用機で向かっているとのことだ。

まあ、気持ちは分かる。私だったら今まで見つからなかった娘が突如見つかったとなれば、ジェット機を飛ばし、ついでにその原因を塵芥に変えていただろうからな…」

ドイツ兵(中将のはやり過ぎだと思いますが…)

フランク「そんな親の心情を考えるとな、私でも強気に出たくなくなるのだよ。」

ドイツ兵「では、せめてあの大剣だけでもこちらに押収しましょうか?」

フランク「それは…ある意味で最もダメだろう!」

ドイツ兵「え?なぜですか?」

フランク「聞けば、日本人にとって刀は武士の魂だというではないか!刀ではないにしろ、剣は剣!あの歳の子供から魂を取り上げるなど酷だとは思わないかね?」

ドイツ兵「……はぁ。」

 

ついでに言うとこの部下、日本語がある程度しゃべれるだけあって日本に行ったことがある。だから、そんな日本人そうそういねー、と切実に思ったのだが、なんだか話がまどろっこしくなるだろうと予想したので黙っていた。

 

1999年11月13日

 

「大和!!」

 

突然病室内で震えんばかりの大声で自分の名前を呼ばれたとき、大和は驚いて呼ばれた方向を振り向くとそこには

 

大和母「馬鹿野郎が!!」

 

泣き顔で自分に抱きついてきた母がいた。

 

大和「母さん…」

 

大和父「おかえりなさい、大和…」

 

大和「父さん…」

 

このときほどホッとしたときは大和は生涯を探してもないだろうと、大和は今でも思っている。

 

親に出会った瞬間、自然と顔がほころび、笑顔が出来上がり

 

大和「…ただいま!!」

 

そう言った。

 

だが、このときの自分の異常性にまだ大和自身気づいてなかった。

 

悲しくなかったわけではない。嬉しくなかったわけではない。だが、このとき大和は涙を一筋も流さなかった。



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出会い

1999年11月15日

大和母「大和朝メシだぞ〜!」

大和「うん!」

 

親と再会した後、トントン拍子で事態は上手くすすんでいき、すぐに帰国の予定をつけ帰ることができ、今現在、直江大和は学校に行きながら、川神市で平和に暮らしていた。

 

だが、大和は平和に暮らしていればいるほど、目を逸らそうと思っていた物が気になって仕方なかった。

 

一つは目のこと、実はセフィロスと闘って以降、目は元の焦げ茶色に戻っていたことを確認できたんだが、それでもいつ変色するか分かった物ではないので、気になって仕方なかった。

そして、もう一つはあの部屋に落ちてたレポートのことである。おそらく、自分があのレポートを見れば、今悩んでいる大抵のことは解決できるはずだ。

 

だが大和はそれをしたら、もう戻ってこれないような気がした。

 

こんな風に平和に暮らすことがもうできないようなそんな感覚が…

 

だが、結局…

 

1999年11月18日

 

遂に、見る決断に至った大和。

 

ずっと合体剣の間にしまっていたレポートを取り出し、自分の部屋にある机の席に礼儀正しくついた。

ちなみに、この大剣を楽々運び出せたことに正直大和は驚いた。

父にどうやってここまで運び出せたのか聞いても、企業秘密だと言って教えてくれなかったことは非常に気になるが…

 

大和(まあ、そんなことはいいか…)

 

大和は改めてレポートを見ることにした。

中身は英語で書かれた研究レポートであったが研究所での英才教育もあり、なんとか読めることができた。

 

1970年4月8日

 

神羅カンパニー独自で、巨大隕石を発見する。

その隕石を極秘裏に研究することにより、1970年5月8日、一ヶ月のときを経て隕石から生命体が存在することを確認。非常に衰弱している状態でこれを捕獲。この生命体を以降ジェノバと名付けてこれを指すこととする。

 

1972年6月9日

 

胎児期の赤ん坊にこのジェノバの細胞(以降ジェノバ細胞と呼ぶ)を埋め込む。

結果は成功。セフィロスと名付けられた個体は完璧にジェノバ細胞に馴染んだ。

 

ドクンとその名を見た瞬間に胸が高鳴った。

続きを読む。

 

1990年7月5日

 

セフィロス、ジェノバを観察、研究していく内にジェノバ細胞の驚くべき能力が次々と明らかになっていった。

まず、飛躍的な身体能力の向上、こと身体能力に関して言えば人間のそれをはるかに超える数値となりうる。

 

さらには、これはジェノバ細胞自体を観察していたときに分かったことであるが、不老効果もあると、推測される。

 

そして、ジェノバ自身を研究することによりジェノバには二つの能力があることが明らかとなる。

 

一つは…

 

とここで、大和は文を読むことができなくなってしまった。なぜか?

簡単なことである。これ以降は単語が難しすぎて大和が読める範疇を超えていた。

仕方なく、大和はこの文面を飛ばすこととした。

 

そして、目にとまった…いや、目にとまってしまった文題があった。

 

1999年1月9日

 

ジェノバプロジェクト始動。

ジェノバプロジェクトとは上記にあるジェノバ細胞を世界各国から取り寄せた子供達に取り込ませることによって、ジェノバの能力を持った個体を生み出す計画のことである。

 

1324人の子供たちにジェノバ細胞を取り込ませることに成功。本来ならば、2000人欲しかったところであるが、セフィロスに感づかれ断念。

 

結果、1324人中拒否反応を示さなかった個体はわずか126人という結果になった。

 

いやな予感が猛烈にしてきた。今までのレポートを見て、また、自分の目が変色するという異常事態を見て、全てが繋がってきたような感覚がした。

 

でも、違う。自分はそことは違う研究所にいて、違う研究をやらされていただけだ。こんなレポートとは全く関係ない!そう考え続けていた。

 

だが、事実とは残酷な物である。

 

止せばいいのに、続きを読んだ。

 

この126人のうち125人は目が青く変色し、超人的な身体能力を得るに至る。だが、わずか1人だけ…

 

いやだ、やめろ…

 

ジェノバ細胞を取り込んでいながら、目が青く変色せず、また超人的な身体能力をそこまで得てない個体が存在した。

 

ちがう、ちがう、ちが…

 

個体名は直江大和

 

今後はこの個体を観察、研究することをレポートの主題としようと考える。

 

ガタン

 

気づけば、大和は走っていた。

 

時刻は午前9時、ランニングを始める人も居始める時間帯である。

そのため、子供達が全力で必死に走っていても、そこまで珍しがる人もいなかった。

 

走って、走って、走り続けて

 

いつの間にか、山の最奥地にたどり着いていた。そして、ここなら誰もいないと分かった瞬間…

 

大和「…は、はははは、あははは…」

 

おかしくなって、笑い出していた。

 

詰まる所、自分はすでにあの研究所にいたときから

 

この世ならざる化け物にされていたということ。

 

自分と同じような人間はもういない。一人と残らずあのセフィロスに殺されている。つまり、

 

自分はこの世界でたった一人の

 

化け物にされていた。

 

自分と同じものは

 

イナイ。

 

そのことを理解した瞬間…

 

大和「…ああああアアァァァ!!!」

 

怒り、悲しみ、憎悪そういったものが入り混じった感情が丸ごと大和の精神を支配し、涙一つない叫びに変えていた。

 

しばらく叫んだ後、

 

大和「もう…いやだ。」

 

大和はひとりでに呟いた。

 

大和「もう…こんな力、いやだ…」

 

大和が自分の力を否定した瞬間だった。

 

昼になり、だいぶ経った後、大和はフラフラと彷徨っていた。

 

これからどうする?

 

自分には確かに帰る場所がある。けど、オレはもう父と母とも違う人種になっている。こんな気持ちを抱えて帰れるのか?

 

そんな思いを抱えながら

 

気づけば、随分と気持ち良さそうな野原に来ていた。

 

ここで悩んでいれば少しは悩みが解決するか?そんなことを考えながら、その野原に入っていった。

 

すると、

 

「お前こっちはおれのばしょだぞ〜。くんなよ!」

 

そんなことを言われて、何だと思い、声がした方向に振り返ると、

 

バンダナをつけた少年がそこには立っていた。




はい、ということでキャップが登場です。今更ながら考えたんですけど、このままだと大和のニヒルって現実味がありすぎて笑えませんね。
まあ、仕方ないんですけど…


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不安の前兆

「おまえ、こっちはおれのばしょだぞ〜!くんなよー!」

 

 そう言われた時、大和はなぜだか不思議に思ってしまった。

 

 こんな言葉研究所にいる頃は、ザックスやエアリス以外に多々かけられていた。

 だから、前の通りに無視(・・)する予定だった。

だが、できなかった。前に仲間以外にかけられた言葉と同じはずなのに…

大和は思わずそちらを向く。

すると、バンダナの少年の後ろにはダンボールでできているであろう巨大な城が建てられていた。

少しそのことに驚きながら、大和は言葉を紡ぎ出す。

 

大和「別におまえの土地って訳ではないだろ?」

次に何を言おうかと思うと、

大和「オレは今理由なき反抗をしている。(本当に理由がないから困ったもんだが…)」

バンダナ「おお、なんだソレかっこいいな!」

 

なんか食いついてきた…

話を続けていく。

 

大和「母親がうるさくてムカつくから家出してきたんだ。(嘘だけどな…)」

だが、そう言う以外他にないと大和は思った。

バンダナ「いえで?やるじゃねーか!」

 

大和「とは言え、オレは冷静な子供だ。」

大和「あまり遠くに行って、アホにさらわれても経歴に傷がつく。(まあ、すでにさらわれた後だが…)」

大和「かといって、すぐに帰ってもなめられる。ほどよく家出するんだ。(こんな感じか?) 」

 

と本人的には子供らしく理由をつけたと考えた言葉であるが、正直言ってどんな子供だ、と思う。

するとバンダナを被った少年は

 

バンダナ「ん?あんまりかっこよくないのか?」

 

と首を傾げていた。

 

これが風間翔一との出会いだった。

 

しばらく経つと…

 

風間「おまえあたまいいな!」

大和「お前は話が面白いな」

 

夜まで言い争いはしたものの風間と楽しく話せた大和。

 

話している間に自分が悩んでいることを一瞬忘れられたような感覚になるほど…

 

そして、話している間に大和はなぜこの男の言葉を無視できなかったのか理解できた。

 

似ているのだ…登場のタイミングといい、性格といい、あの()に…

 

かつての自分の親友ザックスに…

 

けど…あいつはもういない。

 

そんな風に勝手に考えて、勝手に落ち込む大和。

 

帰り道、考え込んでいると、風間に

 

風間「それじゃあ、また明日な!」

 

と声をかけられた。突然そんな風に言われて、驚いた大和だが、

 

大和「あ、ああ。またな…」

 

そう大和が返して、満足そうな顔をした後、暗い夜道を風間はかけて行った。

 

大和(って、何やってんだ!?なんで普通にまた会う約束をしている!?)

 

ここで別れるべきだ。オレは他のみんなと違うから、一緒にいたら、ろくなことなんてない!

だから、こんな約束なかったことに…

 

そこまで考えて、大和は思考を停止する。その瞬間に思い出した顔は

 

あのセフィロスである。

 

もし、この場で風間を裏切ればあのセフィロスと同じことをしていることになるのではないのか?

 

好意を向けた相手のことを徹底的に裏切ったあの男と、同じ…

 

無論、話のデカさがまったく違いすぎる上に、子供と子供の約束である。軽はずみで出てきた言葉の可能性の方が高い。だが、それでも…

 

大和「……」

 

しばらく考え込んだ後、大和は家に帰ろうと思い帰路に着いた。

家に帰ると…

 

大和母「大和!!!!」

 

いきなり、母親に怒鳴られた。

そういえば、もうとっくに夜の8時を回ろうとしている。

子供は家にいる時間帯である。

1999年12月2日

 

2週間経った…

 

結局、大和は風間と別れることができなかった。たった一度約束を破れば、別れることなんて簡単なことなのに…

 

それどころか、最近では小学校が同じなだけあり、風間に会うことが最近の日課にまでなっていた。

 

今日は大和と風間が初めて出会った場所で遊ぶことにした。すると、

 

風間「どうした?大和?」

大和「いや、何だか誰かに見られてる気がする…」

風間「…?あ!」

 

すると、風間が声をかけた先でビクッと反応したものがあった。

風間が一人でそこに行ってみると、

ビクついた子犬のような女の子が出てきた。

 

風間「お前何やってんだ?こんなところで?」

女の子「あ、あの、その楽しそうだなーって思って。」

風間「俺たちの仲間になりたいのか?だったらこいよ!」

 

しばらくして、大和の元に風間は戻ってきた。

 

風間「こいつ、今日からオレたちの仲間だ!」

 

女の子はペコッとお辞儀して

 

一子「はじめまして!あたし岡本一子!」

 

と言ってきた。

そんな、懐かしくも微笑ましい光景を見た瞬間、大和は自然と顔が綻び

 

大和「ああ、よろしく」

 

笑顔でそう答えた。

ここに風間ファミリー最古メンバー誕生である。

 

2002年7月4日

 

大和は小学4年生になった。

すでにモロやガクトが仲間になっている。

少しずつ大和の心は回復の兆しを見せていった。

自分の力を封印していればその他は別に他の人間と変わらない。そんな風に考えるようにもなってきた。

 

そして、それはあくまで自分の姿を偽ったからこそだということにも気づいていた。

 

だが、人生には良くも悪くも転機というのが訪れる。

 

そう、良くも悪くも…

それは自分たちの縄張りが六年生にねらわれ、襲撃された時であった。

 

途中までは自分たちが優勢だったのだが、ワン子がみんながどうなってるか心配になり襲撃場所に近づいた瞬間、人質にされてしまったのである。

 

この影響により、キャップ、ガクト、大和、モロは一気に動けなくなり…

 

ガクト「ぐっ!すみませんでした〜。」

大和「もうしません!もうしません!」

 

このような状況になってしまったのである。

縄で縛られ、あっちこっちが傷だらけ、大和とガクトは自分たちが不利だという自覚があったので、わざと下手に出ることにした。

だが、キャップだけは…

 

六年生「おい、風間おまえも降参だよな?」

 

ニヤニヤしながら六年生が聞いてきた後にキャップは

 

キャップ「ああ、今回は勝ちを譲ってやるよ!先輩!」

仲間『!!?』

 

なんと、この状況で六年生を挑発するようなことを言い出したのである。

当然、六年生がそんなことを言われて黙ってるわけもなく、

 

六年生「ああ!気にいらねーな」

 

そう言うと、コンパスを取り出しその針で

 

耳に穴を開けたのである。

 

キャップ「っ!いってーな!まじかちくしょう!」

仲間『キャップ』

 

思わず叫びキャップの方を振り向くと

耳たぶから血がドバドバと流れていたのである。

 

それが引き金だった。

 

大和「っっ!!!?」

 

大和は自分の顔が見る見るうちに、赤くなっていると自覚できた。

対照的に自分の目が青くなっていることも…

 

その瞬間、バサバサと音がしたかと思うと森中の鳥や獣たちが一斉にそこから離れていくのを感じた。

 

六年生「ひっ!!な、なんだ?」

 

六年生たちはその突然の出来事に驚き、キャップたちも当然驚いていた。

 

大和(こいつら!!)

 

自分の体を縛っている縄を引きちぎらんばかりの膂力を自らの腕で生み出し、ついに引きちぎろうとした時、

 

レポートの内容を瞬間的に思い出した。そして、その時自分がなんで叫んだかも…

 

自分は化け物だ。

 

そう考えた時、大和から力がスルスルと抜けていった。

 

しばらくして、六年生は動きを取り戻し、大和たちを袋叩きにしたのであった。

 

 

その後、大和たちはいそいそと縄張りから出てきて、自分たちの怪我を心配しながら、次にどうやって縄張りを取り戻そうかということになり、用心棒として、うちの学校にいるむちゃくちゃ強い五年生の女の子を迎えようということになった。

 

そう、川神百代である。

 

キャップ「というわけでそこんところよろしく頼む!軍師!」

大和「……」

キャップ「…大和?」

大和「ん?あ、ああ、って結局、人任せかよ!」

キャップ「ああ、川神百代を雇う方法を考えといてくれ!」

 

そう言うと、キャップたちは帰路に着こうとした。が…

 

ワン子「どうしたの?大和?」

大和「…悪い。先に帰っててくれ。」

モロ「え?」

 

そういった後、大和は走り出していた。

 

走って走って走った後、大和はいつだったか来た山奥に来ていた。

 

大和「……」

 

今度は叫ばずに、木を背もたれにただ黙り込んでジッと空を見上げていた。

 

大和(…オレは今日なにをしようとした?)

 

大和はふと考え出した。

 

もう、使わないと決めたはずなのに、激情に身を任せて後ちょっとで力が暴走しあの六年生たちを文字通りの血祭りにあげるところだった。

 

そんなことをすれば、今まで作って来たもの全てドブに捨てるような行為だということを途中で理解できたから良かったものの、本当に後少しのところだった。

 

大和(後少しでオレは…)

 

この頃から大和は自分の力に恐怖し、不安を持った。そして、こう考え出したのである。

 

この力を制御しなくては…と

 

誘拐されてから実に2年

 

遅いようで早い決断であった




すみません。ちょっとこの期間中は忌々しい、あるものがあり、投稿が進みませんでした。中学生以上の方なら分かるはず!この期間にあるクソ忌々しいアレです。ちなみに自分は大学生ですが…あ、先に言っておきますと7月末にもこのようなことがあるので夜露死苦!


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今回で過去編終了です。まあ、正直ちょっと詰め込みすぎたかなって思うんですけど…ちょっとグダグダかもしれないですが、では、どうぞ!


2002年7月5日

 

夜になり、両親にきづかれないように、大和は窓から外に出て山奥へと向かった。

 

さて、早速大和は力の制御のための修行を行おうとしたのだが、実際のところどうやれば、あの異常な力を制御が行えるのか大和は分からなかった。だから、研究所にいた時のように素振りから始めることにした。

 

1時間後

大和「ふっ、ふっ、!」

 

大和は未だに素振りを切り上げようとしなかった。疲れていないわけではない。実際息がかなり上がってきている。だが、やめられなかった。

 

やめた瞬間にどこかから悲鳴が聞こえてくるような気がしてならなかったのだ。

 

〜ぎゃあー!!〜

〜や、やめてくれー〜

〜いやあああ〜

 

自分が行った時には既に手遅れだったので、大和にはこんな悲鳴聞いたことがないはずだった。

 

だが、いざ剣を振ると思い出すのだ。あの血塗られた光景を…

 

大和「っ!!ぜあー!!」

 

大和は悲鳴をかき消すために振って振って振り続けた。いつの間にか自分で型らしき動きをして、更に激しく動き続けた。

最早、鍛錬というより拷問に近かった。心がすり減り、苦しみがつづくその鍛錬(ごうもん)を延々と続けていく。

 

もうやめたい、とも確かに考えた。けど、このままじゃいけない。やめたい…いけない…やめたい…いけない…

 

そんな風に考えながら、大和は鍛錬を続けていった。

 

2002年7月12日

鍛錬を始めてから、既に一週間経った。今日は六年生たちに仕返しをするための日である。

 

大和は件の五年生・川神百代を説得し連れて行くことに成功した。

条件付きで用心棒になってもいいということなので条件を飲んだのだが、その条件が色々アレなので少々不安ではある…

 

条件は舎弟になること、まあ、これはまだギリギリ理解できるのだが、この約束を破った場合、腕の中でなぐりこ〜ろすなどと言われたのである。

しかも、目が本気だった。小学四年生でそんなことが分かるのか?と言われれば確かにそうなのだが…

 

まあ、そんな訳で色々な不安が残っているがとりあえず、この用心棒を六年生を連れて行くことにした。

 

結果は圧勝だった。ただの蹂躙に近かった。主犯格に至っては最後の止めに建物の3階から突き落とすなんていうことをやっていたが、とりあえず生きている。

 

六年生「オレは本当のワルなんだ!猫も平気で殺せるんだ!お前も殺すぞこのアマ!」

 

などとふざけたことを言ってたので、危うく力が暴走するところだった。

…薄々感づいていたが、どうもこの力は自分の激しい感情に呼応して覚醒を果たすらしい。

つまり、激しい感情を思い返せばこの力のコントロールの近道になるのでは?

 

百代が高笑いしながら一緒に帰る帰り道そんなことを考えた。

 

この百代はこの後もうおさらばになるかと思ったのだが、予想以上にこの風間ファミリーが気に入ってしまい、結果風間ファミリーに入ることになったのは、また別の話である。

 

2002年7月15日

 

今夜も今夜とて、修行を続ける。激しい感情を思い返し、半ば無理矢理覚醒することもできるようになってきた。

 

わずか10日でここまでの成長ができた自分に内心驚いたが、それでもまだ自分の力に振り回されてるような感覚があった。

 

大和「まだだな…まだオレは力をコントロールしきれてない…」

 

そう言って大和は修行を続けるのだった。

 

2002年9月12日

 

修行を続けて、3ヶ月が経つ。両親にも仲間にも自分がこんな修行をしているなどということは知られなかった。それもこれもこの目のおかげであると言えよう。

 

この目を自分で封印、解除できるまでに至った大和。既に、本来の目的である目のコントロールは行えるようになっていた。

 

話を戻すと、この目、ある一定以上の筋力を目を封印すると同時に封印することができるようなのだ。だからどれだけ修行して、自分の力が上がったり、体型がわずかに変化しても、風船のように元の体型に縮む。

このおかげで大和はうまく雲隠れができるようになった。

 

自分の成長、そして本来の目的である目のコントロールも行えるようになった大和。だが、その心中は焦りに満ちていた。

なぜか?

 

一つは自分の修行の停滞感覚。

実は目のコントロールについては二ヶ月ほど前に既にできるようになっていた。だが、その二ヶ月前から目に見えるほど鍛錬が身に付かなくなっていたのである。

 

目のコントロールもできたのだし、もーいーだろ…とも考えた。

 

だが、二つ目の…これが主な理由だが、最近、妙な視線を大和は感じるようになってきた。

 

誰かが見ている気がする…普通に聞けばイタい話ではあるのだが、この視線について嫌な予感が猛烈にしてきた大和は、鍛錬を続けて行くことにきめたのだ。

 

だが、その結果はこのザマ。とても鍛錬をしているような感覚にはなれなかった。

 

そうこうしてる内に今日も夜が明けようかという時間になっていた。大和は納得がいってないものの帰ることにしたのだった。

 

2002年9月26日

 

キャップを除くファミリー全員で遊んでいた日、大和は休憩ということで少し遠くから眺めることにした。

 

大和「ふ、みんなこどもだな…いや、単純に俺が枯れすぎてるのか?もう少し子供っぽくならなきゃーな…」

 

そんなことを言いながら、大和は自分の後方をずっと気にかけていた。

 

今日こそは自分を見ている視線の主を探し出そうと意気込みを入れているのだ。

 

しばらく待っていると、

 

ザワッ

 

と視線を感じた。視線の元にすぐに駆け出す大和。

 

大和「確かこの辺りから…」

 

だが、既にそこには誰もいなかった。そこら一帯をしばらく散策していると、鋭く踏み込んだと思われる靴の跡がそこにはあった。

見ると、相当強く踏み込んだらしく乾いた地面には軽くヒビまでできている。

そして、大和は直感した。野生の勘とでも言うべきか…

 

誰だか知らないが、この足跡の主は少なくとも今の自分が手も足も出ないほどの力を持っている。と

 

大和「っ!!まさか、もう手が伸びたのか?」

 

一気に嫌な汗が流れ始める。これからどうすべきなのか、それについて考えるだけでも大和の頭は十分に混乱していた。

 

だが、そんなとき

 

大和「ん?だれかに見られている気がする!?」

 

そう言って、今度は向いている先の逆方向を見つめる。すると、

 

「ねーねー」

 

白い髪と白い綺麗な肌が特徴の女の子が出てきた。

 

女の子「遊ぶの見てたんだ。」

 

女の子「ぼくも仲間に入れて欲しいなー」

 

女の子「いーれーて。」

 

大和(なんだこいつ…なんだか変な奴だな。)

 

そう、後の榊原小雪が声をかけてきたのだった。だが、このとき小雪は圧倒的に間が悪かった。

 

だれかが一人になるのを待っており、ようやく一人になる人影を見かけたので、小雪は声をかけた。だが、その相手は今現在、大いに悩んでいる大和だった。

 

大和(いまは、キャップいないし、何よりそれどころじゃない!断ってしまえ!)

 

そう考え、断ろうと言葉を紡ごうとした。だが、その瞬間、大和は見た。小雪の震えている手を、怯えた目を。

 

だから…

 

大和「しょうがねーな。人数いっぱいでお前入るところねーかもだぞ!」

 

女の子「!ううん、いい!全然いいよ!」

 

大和「?おかしなやつだな?そんなに俺たちと遊びたかったのか?」

 

女の子「ありがとう!」

 

小雪は満面の笑顔でそう答えた。

その笑顔を見た大和は

 

大和(あぁ、そうだよな。そうだった…かつて、オレも強がってはいたものの遊んで欲しいときがあった。そんなところをザックスとエアリスに救われたんだ。)

 

大和(そんなおれが、間違ってもあんな(・・・)目をした女の子を断っていいわけないよな…)

 

その日、小雪と混じった遊びをした後振った大和の剣はほんの少しだが成長を感じさせるような素振りだった。

 

2003年7月16日

 

直江大和小学五年生。京をいじめから救いファミリーと一緒に遊んでいる夏、大和はまた悩んでいた。小雪や京を救った後、大和の剣は我流であるとは言え、メキメキと上達していると実感できた。

 

小雪と出会ってからというもの、嫌な視線を感じなくなり、とりあえず、自分の精神状態も安定してきた。

 

だが、悩んでいた。

 

何に?

 

実はそれは自分にもわからなかった。ただ言い知れぬ不安感があり、その不安感が連鎖的に悩みを引き起こしているのだ。

 

百代「…まと、大和!」

大和「ん、あ、あぁ、何?姉さん?」

百代「聞いてなかったのか?大事な話だったんだぞ〜!」

大和「いたたた、ヘッドロックはやめて姉さん!」

百代「じゃあそれ以外ならいいんだな?」

大和「それ以外もよくないよ!」

 

邪悪な笑顔で邪悪なことを聞いてくる自分の姉に対して大和は全力の抗議をした。

 

大和「それで?何?」

百代「ふふ、大和!お前が気に入ったぞ!

 

一生、私について来い!」

 

手を自分に突き出しながら、百代は声高らかに叫んだ。

その言葉を聞いた瞬間、大和は自分に手を伸ばすエアリスの姿を思い浮かべた。

 

大和「……」

 

しばらく黙った後、大和は百代の手を握ろうとした。性格はまるで真逆な上に正直言っていつも振り回されてばかりだった。だが、大和はそんな百代にかつてのエアリスを見た。

 

だからこそ、

 

伸ばしかけた手を大和は途中で止めた。そして、

 

大和「嫌だね。」

 

百代「何?」

 

予想外の答えに百代は眉を潜める。

 

大和「一生ついて行くってことはそれはつまり、ずっと姉さんの後ろにいるってことだ。そんなの嫌だね。姉さんに並び立てる存在になる!(そうだ。そうして、かつて失敗したんだ。ザックスとエアリスを守れなかったんだ…)」

 

百代「だが、お前武術で私にかなわないだろう?」

 

大和「…わかんないぞ!」

 

百代「何?」

 

大和「確かにまだブラブラしてるけど…今のではっきりわかった。オレがどうして不安だったのか!」

 

百代「?何の話だ?」

 

大和「こっちの話だよ…とにかくオレは武でも、知でもいい!どちらか一方で必ず姉さんに並び立てる存在になってやる!」

 

百代「例えば?」

 

大和「そうだな…内閣総理大臣とか、

 

英雄とか!」

 

百代「内閣総理大臣に英雄か…また、大きく出たな。大和!」

 

大和「それぐらい頑張らないと姉さんに並び立てないだろう?」

 

百代「ああ、むしろ私が頑張らないとな!」

 

百代は本気で楽しみにしてるかのように笑った。

 

そんな脇で微笑みながら大和は考えた。

 

大和(そっか…さっきの自分の言葉…『英雄』でさらに明らかになったな。オレがなんで不安だったのか。

 

オレには何もなかったんだ。憧れ(・・)目標(・・)もあの時消えて、オレには本当に何もなかったんだ…だから、焦った…何もない自分に。何か付け足そうとしても何もなくて…それが気づかないうちに自分の不安感になっちまってたんだ。

ふ、姉さんには感謝しねーとな…お陰で忘れかけてた夢を思い出すことができた。)

 

天に手を掲げる。

 

大和(ザックス…言ったよな?オレに夢と誇りをやるって?正直、もう忘れかけたことだったんだが…

 

オレは…英雄になる!

 

馬鹿馬鹿しい夢だと笑われるのかもしれない。子供の約束だから、姉さんだってすぐに忘れるのかもしれない。

けど、それがオレのやるべき道だってわかったんだ。)

 

1年前に見かけた足跡、アレがどんな人物と足跡なのかわからなかったが、その人が襲ってきたとしても守れるくらい強くなる!何者がきてもはね返せるくらい強く!

 

大和(でも…)

 

一つだけ懸念点があった。それは自分のこの力をどう説明するかということである。

 

大和(今のままじゃ、英雄なんて名乗るのは遠い未来だ。けど…)

 

せっかく築いた絆が綻んでしまうかもしれない。そんな確率が0.0001%でもあると大和は説明をしようとは思えなかった。

 

大和(じゃあ、条件をつけよう。力と知はつける。いつだって英雄を名乗れるくらいに…だけど…)

 

大和が考え出した結論。それは…



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よろしくお願いしまーす!!!!!
はい…ではどうぞ…


2009年11月18日

 

大和は現在九鬼ビルの屋上にいた。

 

大和「ふう…」

 

後悔はしていない。これは自分も薄々望んでいた展開ではあったから…だが、あの電気椅子にずっと座り続けて仲間を待ち続けることは自分にはできなかった。

別に仲間を信用していないわけではない。それでも、不安なモノは不安で、待って感想を聞く、なんていう器用なことが大和にはできなかった。

 

大和「でも、まあ、もう言っちまったし…どの道、みんなの感想を聞かないと始まらないんだがな…」

星空を見る。すると、今日が晴天だったこともあり、満天には星が色とりどりな光で飾られていた。

 

大和「…俺の気分とは真逆で随分と綺麗な星空だな。今日はまったく…」

 

そんなことを言いながら、屋上の手すりに身を預けてじっと空を見続けていた。しばらくして、()が来た。

 

「ここにいたのか?大和…」

 

来たか、という思いで声を下の方を向いてみると、そこには川神百代が立っていた。

 

百代「…よう。」

大和「…ああ。」

 

それだけ言った後に、百代は大和と同じように手すりに身を預けた。

 

『……』

 

沈黙が続く。どちらが先に声をかけるべきか迷っているような、そんな永劫にも感じられる時を感じた後、

 

大和「…わからないんだ。」

 

何の脈絡もなく、大和が口を開き始めた。その言葉を百代はちっともおかしいとは思わずに、

 

百代「何がだ?」

 

と聞き返した。

 

大和「俺があの時(・・・)、セフィロスにジェノバのことを伝えたこと、俺が今まで歩んできた道、それらが本当に正しいことだったのか?ってことだよ。」

百代「……」

大和「確かに皮肉にも、そのジェノバのことを伝えたからこそ、研究所でセフィロスが暴走して、俺が逃げる隙が出来上がった。でも、確かに逃げること(それ)もオレが望んだことだけど、伝えさえしなければ逃げることは叶わなくとも、オレはもう一つの望みが叶えられたんじゃないかってそう思うんだ。」

百代「……」

大和「言ってても仕方ないんだけどな。これがオレの望んだ未来(さき)であり、事実だ。誰にも変えることなんてできはしない。けど…やっぱりオレは時々、思うんだよ。形は間違ってたのかもしれない。でも、オレは

 

あの世界を本当に美しいと思っていたから…」

 

百代「……」

大和「ごめん。姉さん、勝手にバンバン話を進めちゃって…」

百代「…いや、構わないぞ。むしろ、何も言ってこないなら、私が殴りかかってでも話をさせようと思ってたところだ。」

大和「…はは。」

 

ひどいな。と言いながらも、大和は顔が引きつらなかった。百代の言葉が続く。

 

百代「…それだけか?」百代

大和「…?」

百代「お前、私たちになんで今まで、このことについて話さなかったのかを言ってないままだろう?」

大和「…ああ。そのことか…」

百代「ここまで来たんだ。ちゃんと最後まで話せ。」

大和「…そうだな。話したらどんな反応するのかということもこわかったけど、何よりも怖かったのは…」

空を見上げる。

 

大和「何も守れない気がしたんだ。どんなに力をつけてもな。」

百代「何?」

大和「だって、見殺しにしたんだぞ?オレなんかに気をかけなければ、あいつらはもしかしたら、生き延びてたのかもしれないの…」

 

バキ

 

に、と言う前にぶん殴られた。

 

百代「ズルズル…ズルズルとめんどくさい…お前、そんな意味もないことでずっと悩んでいたのか?」

大和「な…に?」

 

なぐられて、地面に突っ伏している大和は百代を思わず睨んでしまう。

 

百代「だってそうだろ?お前、一体どの面下げて『守る』なんていう勘違いをしてるんだ?この前のクーデターの時だって、そして今までだって、ずっとみんなと一緒に戦って来たろう?」

大和「…!」

百代「みんなだって、もちろん私だってずっと大和と一緒に戦って来たろう?たとえ、おまえがとてつもなく強くて、最強の名を冠せるようになってたとしても、それだけは変わらない。いい機会だ。はっきり言っておいてやる。」

 

まっすぐに向き合って

 

百代「お前がたとえ、宇宙人だろうが、なんだろうが、関係ない!お前はこの私、川神百代の舎弟であり、風間ファミリーの軍師だ!」

 

バンという効果音が出てきそうな調子で胸を張りながら告げる。大和はそれにしばらく面を食らった後、

 

大和「本当にいいのか?」

百代「ああ」

大和「化け物じみてるどころか、もう普通の人間とは違くてもか?」

百代「そんなことを言ってたら、この川神ではやってられないだろう?私なんて大気圏で決闘をしたしな。なあ、お前ら!」

 

そう言って、屋上の出入り口の方を見る百代。釣られてそちらを見ると、どうやら意識が散漫だったらしい。すでにそこにはおなじみの風間&葵ファミリーがずらりと並んでいた。皆、迷いなく頷いてくれた。

 

百代「だからな…大和。」

 

百代はそう言うと微笑みながら、大和の首の方に手を回し、優しく抱いた。

 

百代「もう、いいんだ。我慢しなくて、頑張らなくて…」

 

優しくささやかれて、大和はホッとしたような気がした。そして、今まで溜めてきた感情が一気に大和に流れ出し、

 

大和「ううう、うわあああ!」

 

実に10年振り、大和は百代の胸の中で、泣き叫んだ。



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反応

書き終えました。今回はリユニオンについてなるべく離さずに自己解釈を盛り込みました。意見がありましたら、遠慮なくどうぞ


たっぷり1時間経った後、大和はようやく泣き終わった。その後、わずかにファミリーたち以外のメンバーの反応を も気になったが…

従者部隊メンバー

忍足 あずみ

ゾズマ ベルフェゴール

ステイシー コナー

李 静初

ヒューム ヘルシング

クラウディオ ネエロ

マープル

あずみ「別に眼の色が変わる以外、あの記憶にあったセフィロスとは違って、他の人間と大差ねーんだろ?」

ステイシー「ウチには眼の色どころか体型が丸ごと変わる妖怪ババアがいやがるんだ。そんなんじゃ驚きはしねーよ。」

李「ですね。」

クラウディオ「ええ、ヒュームが一番驚くほどの大変身ですよ。」

ゾズマ「はは、違いない。」

ヒューム「クラウディオ!!」

マープル「なんなら今変わってやろうかい?BOY!」

 

九鬼揚羽

 

揚羽「ふはは!宇宙人の細胞を埋め込んでいるとは中々面白いではないか?だが、我はその程度では驚きはせぬ!」

 

クローン&松永燕

 

与一「大丈夫か?まさかとは思っていたが、最近感じる視線はお前側の組織の人間なんじゃ…いててて、姐御引っ張るな!」

弁慶「あんたの中二とこいつのを一緒にすんな!こっちは本物!」

義経「うん。でも大丈夫か?義経は心配だ。え、眼のこと?それだったら…葉桜先輩!」

清楚「うん!義経ちゃん!…はああああ!」

 

葉桜清楚の気が高まっていき、覚醒し終える。

 

項羽(清楚)「んは、久々だな!」

燕「と、このように眼の色どころか性格が変わってる人がいるから。もう耐性がついたというかんじなんだよねん♪」

 

川神院

 

鉄心「ほほ、別にそこまで気にせんでいいぞい。ウチも結構なんでもありだしの。」

ルー「ウンウン、だから気にしなくて大丈夫だヨ!」

 

はっちゃけた鉄心の一言にも今回はルーは突っ込まなかった。

 

そして、思わぬ客人まで自分の過去を見ていた。それは…

 

梁山泊

 

楊志「どうも〜ウチのニートがお世話になりました〜。」

史進「ああ、マサルがいなくなった時はどうしようかと思ったけど、九鬼から連絡が入ってさっき日本についたんだ。あん?おまえのこと?別にわっちは強ければ勝負してほしいってだけだし…そんなに反応することもないかなー」

武松「ああ、何よりも梁山泊では守ってもらった身だ。そんな男を煙たがるほど私たちは礼儀知らずではない。」

林冲「うん。本来なら私が守るべきだったのに…ぐすん」

公孫勝「あー、大丈夫だよ。私たちはちゃんと林冲に守ってもらったから、そう落ち込むなよ〜」

 

とのことだった。…なんというか、環境に救われたとはこのことなのだろう。心の底で大和は川神市に感謝した。

まあ、でも、すごくハチャメチャで正直迷惑な出来事しか起こらないので、心労の絶えない市街ではあるというのは変わらないのだが…

そんなわけで、大和はこのまま、カダージュたちに対抗するための会議を開きたいという進言をした。

要求は簡単に通り…

 

1時間後 九鬼ビル会議室

 

大型のスクリーンの前に映画館ばりの席の数があり、そこに大和を除くメンバーがそれぞれ座っていった。

 

そして、大型のスクリーンの真ん前に大和は直立していた。

 

大和「まずはありがとうございます。自分で言うのもなんですが、かなりヘビーな過去が展開された後だというのに、集まってくださいまして…」

マープル「建前はいいよ。直江のBOY、さっさと本題に入りな。」

大和「…え、あ、でも…」

マープル「いいって言ったんだよ。あたしの予想じゃ、もしも、あんたが見たレポートの内容が真実なら

 

こいつは日本どころか世界を巻き込んだ問題になりかねないんだ。」

 

その言葉に席に着いていた全員が息を飲んだ。

 

義経「そ、それってどういうことなんだ?マープル!」

マープル「そいつを今から、そこのBOYが説明してくれる…そうだろう?」

大和「驚いたな…オレはすぐに読み飛ばした(・・・・・・)はずだが、あれだけでそこまで分かったのか?オレは最後まで読んで、やっとどれだけヤバいのか分かったってのに…」

マープル「ふん、星の図書館、なめんじゃないよ。」

 

大和が否定もせずに話を進めたことからほとんどのものの顔から血の気が引き、一気に緊張の糸が引き締まった。

 

大和「まずこいつを見てくれ…」

 

そう言って、大和がスクリーンに映し出したのは先ほどの過去にも出てきたレポートだった。

 

キャップ「これがなんだって言うんだ?」

大和「今から、訳すよ。昔のオレは訳せなかったけど、今の俺なら…行くぞ…心して聞いてくれ。

 

…そして、ジェノバ自身を研究することによりジェノバには二つの能力があることが明らかとなる。

 

一つは分離、彼女は勝てないと予測される戦いは分離することにより、自分の細胞分身を作り、その分身は勝てなかった相手の能力をコピーすることによりさらに強力になるようになっている。

だが、今の彼女は外界に出ればいずれ腐食するだろうと言えるまでに衰弱しているため、人間個体と同じレベルまでに行かせるためには、その時々にあった同じレベルの相手との数万回のシュミレーターにより、ようやく到達できると計算されるほどである。よって、この能力を実用化するにはかなりの歳月が必要と推定。

 

二つ目はリユニオン、この能力は分離の延長線上にある能力であり、ジェノバ本体は分離した後、必ず分離してしまったところにある同個体の分身を取り込むことができる。この能力を応用すると、空間、生物、個体のどのような能力も取り込み吸収することができる。

更にセフィロスはこのリユニオンの能力を有していることが実験で確定付けられた。(ただし、分離は有していないので、完全とは言い難い。)

 

って書かれてるんだ。ここには…」

『…?』

大和「まあ、ここまでじゃ、わからねーよな。ちなみにオレら…つまり、次世代のジェノバ計画被験者たちはこの能力を2つとも持てなかった。おそらく胎児期からジェノバ細胞を宿していたセフィロスだけ特別なんだ。」

 

そして、レポートを次のレポートへと移し、

 

大和「ここを説明したら、頭の回転が速いやつだと気づくかもな。

 

1992年 11月5日

 

ジェノバが付着していた隕石について調べる。

すると、驚くべき事実が明らかになった。

 

なんと、隕石に付着している微生物の死骸、土、石は元々の物資が地球のそれと非常に酷似していることが理解できた。

 

ここにはそう書かれてる。…おっと、やっぱり頭の回転が速いやつは気付いたか?」

 

見ると、何人かがその内容を聞いて苦い顔をしていたのが理解できた。

 

百代「回りくどいぞ。大和!つまり何が言いたいんだ。」

大和「ああ、そうだな。つまり、結論から言うと、

 

今、地球はこの隕石と同じ轍を踏もうとしている。

 

ってことだ。」

 

百代「はっ?」

 

百代どころかほとんどのものがポカンという顔になっていた。



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はっ?

今回は前回よりも、自己解釈のオンパレードです。
あと、大和のオリジナルの異能についてなのですが、【大和vs風間ファミリー】〜【『見ていた』】の方で説明があるので、納得がいかない方、途中から見ている方はそちらを見ていただければ、納得できると思います。

なんで、大和に異能をつけたかって?何度もいうようですが、それがないと、バハムートやら色々説明つかないからです!


百代「はっ?」

 

百代どころかほとんどのものがポカンという顔になっていた。だが、マープル含め、苦い顔をしていた者たちは、やはり、という顔でその内容を聞いていた。

 

モロ「ま、待ってよ!大和!いきなり地球なんて言われても話がでかすぎて理解が追いつかないよ」

大和「ああ、だろうな。だから、ここからはもっと詳細に説明していく。」

 

そう言って、大和は前に出る。

大和「ジェノバっていう生物はな、端的に言うと、

 

星を食らう生物なんだ。」

 

ステイシー「星を食らう…だと?」

大和「ジェノバの能力…その中でもリユニオンはその気になれば、空間の力も吸収し、自分のものにできる…とは言ったよな?」

弁慶「ああ、そうだね…」

大和「この力はな、時間を長いことかけてしまえば、どんな力も吸収できるってことなんだ。たとえば、さっき言った通り…人間とか、鉄とか、そして…

 

星とか…」

 

全員『っ!!?』

大和「今度は、みんな、気づき始めたか?そうやって、ジェノバは星の主導権を

握り、星の力を完璧に制御する。火山活動、地震、自転、公転もろもろをな。」

クリス「自転、公転もだと!」

大和「そうだ。その結果が…

 

さっき言ったあの隕石だ。

 

自転、公転のエネルギーを星を動かすことだけに使い、星をノアの方舟よろしく、隕石に変わる新たな宇宙の方舟にする…これが、ジェノバが活動すべき、本来の目的。だが…ジェノバは長い時間星を食らってない分、完璧に弱ってしまい本当なら死ぬはずだった。だから、こんなことは起こらないはずだった。」

冬馬「ですが、起きてしまった。人間の好奇心という悪意にも善意にも取って代わる感情が…ジェノバとはちがくとも、方舟を作り出すための能力を元の強力なものとして…」

ヒューム「それが、セフィロス…ということか…」

大和「ああ。」

 

皆、それで押し黙ってしまったが、すぐに反論が来た。

 

李「ですが、それでは納得がいきません。確かにそれを言うなら、地球はとんでもない危機に直面していることになりますが…」

揚羽「うむ、それはあくまでセフィロスが生きていたらの話…現状死者が蘇りでもしない限り…」

 

大和「ああ、オレもついこの間まではそうだと思ってた。だが…」

 

楊志「可能性が出てきた…と」

百代「それが、あの銀髪どもか?」

大和「そうだ。だが、あいつらはセフィロスの何か(・・)であって、セフィロスとは違う。リユニオンを持っていてもそれは微弱なものだろう。おそらく、地球の力を取り込むなんてしたら、確実にパンクする。」

ガクト「な、なんだよ?驚かすようなこと言うんじゃねえよ。いや、別に俺様ビビってねーけど…」

 

ガクトなどの一部の者たちはそれを聞いて、安心したが…

 

大和「このままならな…ここからはジェノバの二つの能力以外のもう一つの力、異能が関わってくる。最初、これについては元々セフィロスが持っていた素質のように研究員たちは考えていた。だが、俺たちが同じ異能(・・・・)を宿すところを観測して、ジェノバが宿していた能力だと分かった。」

まゆっち「それが…《顕現》…」

大和「そう、この《顕現》により、おそらく作られたのが、この前の…

 

名前は確かカダージュ、ヤズー、ロッズだ。」

 

百代「私も大概だが、なんでもありだなその異能。」

大和「まあな、ただこの生物の顕現がおそらく、神羅に恐ろしい力を与えてるかもしれねーんだが…」

『…?』

大和「まあ、そこは後でいいや。とにかく、この《顕現》はさっき揚羽さんが言ってた。

 

【死者の蘇生】につながってくる。」

 

その瞬間、一気に周囲がざわめき始める。

 

あずみ「なんだと?」

マープル「リユニオンと顕現…確かにこいつがありゃ、簡単に蘇生ができるかもね」

 

誰もが、?を頭の上に浮かべている中、マープルだけは一人頷いていた。

 

大和「ああ、先ほども言った通り奴らのリユニオンはおそらくセフィロスに遠く及ばない。せいぜい、近くの物体から力を吸収する程度だ。

 

だが、力ならある。

 

死んでるような身でありながらオレたちにこれだけの力を送り渡せた。最高の素体がな。」

ワン子「え、あ!」

大和「ワン子も気付いたか?そう、ジェノバだ。やつならば、死んでなお、力を送り渡せるはずだ。そして、そうなった場合、力の送り渡しにより《顕現》の力を瞬間的に高めることもできるはず…そう…

 

死者の魂をこの世に顕現させるほどに…

 

もちろん、普通の人間がこの二つの力を持っているからと言って、死者の魂を顕現させるほどの力が現れてくるわけじゃないが、奴ら…そうだな。思念体とでもいうべきか?おそらく、セフィロスの思いを形にして、顕現させたあいつらなら…

 

セフィロスの復活

 

ていう厄災を起こせるかもしれない。まあ、かもしれないってだけで、正直、推測の域を出ないんだが…」

『……』

 

だが、誰一人として、その推測をたかが推測などということはできなかった。なぜなら、実際に並外れた力をこの目の前の男は自分たちの目の前で見せてきたから…

 

大和「…まあ、ショックなのはわかる。オレも正直、この事実を受け止められるのに、1週間はかかった。けど、そんなに時間を取れない。

 

最高で3日…その間に戦うか、否かの覚悟を決めておいてくれ。」

 

大和はそう言って、締めようとした。だが…

 

百代「おいおい、なめるなよ。弟。どのみちやらなきゃ地球が壊される、そんな脅迫じみたこと言われて私たちが、黙っているとでも?

 

ここは武士の街・川神だ。各々、誇りを持ってこの場に座っている。決闘を生業にしているほどの街だぞ?

 

そこを土足で荒らしておきながら、自分たちの計画は邪魔するな。なんていうような態度示されて、黙っていられるわけないだろうが!なあ、みんな!!」

 

百代のそんな掛け声に押されて、席に着いたものが一様に頷く。

 

史進「まあ、わっちらは川神とは無関係だけど…」

楊志「うちも傭兵稼業…なめられたままじゃ、示しがつかない上に納得いかない。」

林冲「ああ、この戦い我ら梁山泊も参加しよう!」

 

「つーことは、早速戦力供給の準備だな。」

 

『!!?』

 

全員が後ろを振り向く。

 

「あん?なんだ?気づいてなかったのかよ。お前ら…こりゃ、ちょっと心配だな。」

 

そこにいたのは九鬼 帝・現九鬼家当主だった。

 

揚羽「父上、気配が増えたのは気づいておりましたが、今は確か、宇宙エレベーター計画の途中で日本にいないはずでしょう?」

帝「ん、ああ、そのはずだったんだがな。なんか、今、川神が騒がしい、つーからよ。ちょっと、興味がそそられちまって…」

クラウディオ「それで、仕事すっぽかしてこちらに来たということでごさいますか?まったく、相変わらずでございますね。」

帝「そう言うな。クラウディオ!見た所、結構いいタイミングでオレ口をはさんだんじゃねえか?」

ゾズマ「ええ、その豪運には素直に感心しますよ。」

 

皮肉交じりの笑顔でゾズマが答えた。下手したら、こんな重い会話の中で爆弾になりかねない一言だった。ということは当人は理解できていたそうである。

 

帝「はは、そうだろう?ま、とにかくだ。直江大和。」

大和「はい?」

帝「聞くところによると、あと3日で文字通り人類存亡の戦いに臨むってことらしいな?」

大和「はい、それが最高日数だとオレも思ってます。」

 

あちら側が攻めて来る以上、どうしても自分たちは後手に回ってしまう。そのことを計算にいれた上での、計算なので、大和は言い切った。

 

帝「ま、オレも正直そう思うよ。そうなると、今から従者部隊全員に声をかけたとして、集まるのは最高で500人程度だろうな。

さっき、ちょっと過去を見せてもらったが、敵は神羅ということで間違いないとすると、これだと、ちょっと心許ないな。国会の方で自衛隊の協力を仰ぎたいもんだが…そんなことを相手がさせるわけねえ。参ったな。準備段階じゃこっちが不利ってことが決定してやがる。」

 

ワン子「え?自衛隊の協力って仰げないの?」

 

総理が元川神院の弟子だということもあり、人柄を熟知してるワン子は不意にそんな疑問が口から出た。

 

大和「ああ、自衛隊を動かすとなると総理といえど、それなりに理由が必要になる。けど、こっちの理由は端的に要約すると、【宇宙人に地球が侵略されようとしてるんです。】だ。そんなふざけた理由、総理が理解できても他が納得するわけない。だが、嘘をつきなんとか理由を取り付けたとしても、絶対に国会側は呑気に会議を始めて、出動するか否か、決めようとするだろうな。

そうなると、どう考えたって、3日以上はかかる。最悪、会議が終わるまでこちらの動きを監視させられかねない。

総理に事情を話すところまではいいとして、自衛隊に協力を仰いだら、こっちの動きが制限される確率があるっていうことだ。だったら、協力はいっそ仰がないほうがいいだろう?ワン子」

 

スラスラと説明されて、一部の者たちはなるほど、と納得した。

 

帝「よく、スラスラと説明できるもんだ。素直に感心するぜ。」

大和「ええ、まあ、慣れてますから…ところで一つ純粋な質問なんですが、実際、神羅はどれほどの企業なんですか?」

ガクト「っていうか、神羅が敵って何だよ?そもそも!」

大和「あれ?言ってなかったか?」

 

そのとき、ほとんどの者が顔を頷いたので、本当に言ってなかったのだと分かると、

 

大和「まあ、そのままの意味だ。あの実験を行ったのは、

 

神羅カンパニー…

 

確か、軍事という一点のみでは九鬼を凌駕しているんでしたよね?」

 

九鬼ビル内部で大和がそんなことを口走ると、だれもそれに反論せず、

 

帝「ああ、正直いうと、ヤツらは確かに軍事において、俺たちを凌駕してるぜ。だからこそ、オレはあんな実験ができるとしたら神羅しかいねー。と見切りがつけることがてきたんだが…」

揚羽「軍事顧問である我としては歯がゆい物がありますが…」

 

と、苦々しい表情をしながら、答えてくれた。

 

帝「まあ、今そんな話をしても仕方がねー。とにかく、戦力供給の準備を早めにしねーとな!とりあえず、これで会議はお開き、時間がねーのは確かだが、コンを詰めすぎるといけねー。わりーが、また後日、直江大和にはここに来てもらうってことでいいか?」

大和「ええ、俺も正直限界だと思います。さっき、実は締めようとしてたので。」

 

会議室の真上にある時計を見ると、すでに午前0時を回ろうとしていた。

 

帝「つーわけで、今回はこれで解散!また、後日よろしくな!」

 

帝がそう言うと、全員が席を離れ帰路に着く。ここら辺はさすがのカリスマということだろう。

 

九鬼ビル前

 

直江大和も帰路に着こうと、相棒のフェンリルに乗り込もうとする。すると、

 

百代「ほっ!」

大和「のわ!」

 

百代がいきなり、後ろから抱きついてきた。

 

百代「ふっふっふっ、修行が足りないようだな弟よ。私の存在に気づかないとは!」

大和「意地悪なことをいうなー。気づいてるの分かってて、タックルしてきたのそっちだろう?」

百代「ふ、まあな。私がタックルしたら避けないかなーと思って、試してみたんだが…」

大和(そりゃ、避けないよ…)

 

大和の目の前には愛車のフェンリルがあり、車がぶつかってきたら、その車を弁償しなければならなくなったなどという特異な現象が起きた彼女のタックルなどかわせば、フェンリルがどうなるかなど、一目瞭然である。

 

大和「で、なんだ?まだなんかあるのか?」大和

百代「ああ、まあ、そうだな。ジジイからの言伝だ。大和」

大和「学長からの?」

百代「ああ、戦いが始まるまでの三日間川神院の方で寝泊まりしないかって」

 

大和「はっ?」

 

今度は大和が呆然としてしまった。




まさかのお泊まりイベント発動!では、感想よろしくお願いします。


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稽古2

なんだか、小雪には一度でいいから大和以外の風間ファミリーの名前を呼んでもらいたいなーという非常に勝手な願望が飛び出しました。今回は。
いいじゃないか!だって、ゲーム本編だと小雪、全くもって風間ファミリーの方々の名前いってないんだもの!(というか、京を除くと絡み自体がない…)
言わせたっていいじゃないか!


2009年 11月19日

 

川神院

 

大和「ん、(ふにゅん)んん?」大和

 

若干のデジャブを感じながら、大和が目を開けると、そこにいたのは…

 

百代「スー、スー…」

大和「ね、姉さん?」

 

なんと、百代だった…

ここは武術の聖地・川神院、昨日この目の前の自分の姉に誘われて、自分はこの川神院に外泊する形となった。

理由としては、三日間百代の組手の相手ができるのが大和ぐらいしかいないだろうという至極単純な理由である。

特に断る理由もなかったので、了承し川神院に来た大和…

だから、まあ、自分の目の前に百代がいるという状況、別におかしくもなんともないんだが…

 

大和(なぜにガッチリホールド?)

 

どういうわけか、ものっすごい力でガッチリと自分の体をホールドしながら、寝息を立てているのである。しかも、自分が強いと分かったからなのか、普通の人間なら圧死し兼ねないような怪力で、である。

 

大和「あ、あのぅ、姉さん?」

百代「ん、んん…。起きたか大和?」

大和「一体、これはどういうわけなんでしょうか?」

百代「ん?見て、分からないか?

 

お前が逃げ出さないようにガッチリとホールドしながら寝ているだけだが?ふぁーあ、もうちょっと寝かせろ〜。ムニャムニャ」

 

大和「…ああ。」

 

どうやら、随分と姉さんには心配させたようである。いや、百代だけでない。他のみんなにも…まあ、だからと言って、

 

大和「京、姉さんにガッチリホールドされているのをいいことに、タックルかまそうとしてんじゃねーだろーな?」

 

ガタゴト、と障子の向こう側からずっこけたような音が響いてくる。

 

京「く、まさかばれてしまうなんて!」

 

大和にべた惚れしている京は朝駆け、夜這い…スキあらばなんでもしてくる女の子なのである。

 

大和「…今の内に言っておくぞ…これからどんな強行な手段を取ろうとしても、力がばれてしまった以上、今まで以上に、お前のアタックを回避するからな!オレは!」

京「そんな、今まで以上なんて…!」

大和「…なぜそこで顔を赤くするのか分からないが、とりあえず落ち着け!」

京「落ち着け?ふ、無茶なことを、大和が他の女に寝取られている!それだけで私の襲う理由は十分!」

 

そう言って、京はライオンが獲物に襲いかかろうとするかのような体勢になると…

 

京「大和ー!」

全身のバネを生かして文字通り襲い掛かってきた。避けようと大和は動こうとしたが、何分百代がホールドしているので簡単に抜け出せない!

 

大和(やば、これまじで襲われる!)

京「勝った!」

 

あと数センチ京が大和の顔に迫ろうとしたところで、

 

百代「ふん!」

京「ぐふっ!」

 

ホールドしていた百代が鞭のようにしならせた蹴りを京の左脇腹に叩き込んだ!悶絶する京はそのまま、障子を破って庭に投げ出されていった。

 

大和「ね、姉さん!」

百代「ふーむ、むにゃ、うん、なんだ?弟…あ、もうこんな時間か?朝の稽古を始めるから一緒に行くぞ!弟よ!」

大和「あ、ああ。」

さっき起きたときからそんな時間経ってないはずだが、と少し疑問に思った大和だったが、とりあえず、飛んで行った京を回収しに、大和は起き上がった。

 

そのあと、死んでいると思った京がまた襲おうと蘇って、ビックリした大和が思いっきり今度は右脇腹にボディブローをしようとしたのを、寸止めしたのだが、拳圧で結局京は吹っ飛ばされることになった…まあ、ご愛嬌である。

 

京「いたた、朝からハードだったなー。これは誰かに責任持って、介抱してもらわないとな〜(チラッ)」

大和「自業自得だ。諦めろ!」

 

走り込みをしながら軽い会話をしている大和たち。ちなみにメンバーは、百代、ワン子、まゆっち、クリス、京、ユキ、ガクト、キャップである。

 

大和「ていうか、何当然のように、普通に川神院にいたの?お前ら?」

ユキ「だって、戦いが始まる前に少しでも強くならなきゃ〜ってことだから。モモ先輩が川神院に僕たち誘ってくれたんだよー」

ワン子「いいじゃない!大和!こういう機会もそうそうないと思うし、アタシは大賛成だわ!」

大和「いや、別に悪くはないが…」

クリス「うん?」

チラッと後ろを見る。

 

ガクト「ゼーゼー、ちくしょう、何が真の力は隠してました、だよ!俺様たち男子勢は女の子より弱い設定じゃなかったのかよ!大和の裏切り者ー…」

キャップ「走れ!ガクト!風よりも速く!そうすれば、苦しさなんてなくなるぞ!」

 

実はすでに、大和たちは15キロほど走っている。普通、こんだけ走らされればガクトのように息が乱れるのが普通なのだが、前にいる女子勢&大和は息が乱れてないどころか壁越えの実力者であるまゆっち、百代、大和の三人は汗すらかいていなかった。

 

大和「…なんというか、あれを見てるともつのか不安になってくるんだが…あいつらに関してだけだが…」

まゆっち、松風「だ、大丈夫ですよ!きっと!」『風間ファミリーパワー担当さんはこの程度じゃ屈さないはずだぜ!』

大和「そういや、あいつらがいるっていうのに、モロと井上たちは?勧めはしないし、正直来てほしくないというのが本音だが…」

百代「ああ、モロロはパソコンの方で神羅についての情報やそういった類のものを集めるためにも、九鬼ビルの方に昨日留まることを決めた。」

大和「!そうなのか?よく、九鬼がOKしてくれたな?パソコンへの知識量の深さは知っているけど、それにしたって高校生だ。素人のモロを受け入れるとはな…」

百代「ああ、最初は正直、迷惑がられたそうだが…」

 

九鬼ビル 昨日

 

モロ「お願いします!僕はモモ先輩たちみたいに戦闘には向いてないけど、パソコンには自信があるんです!どうか、情報を取得するチームに僕を入れてください!」

揚羽「……」

 

百代「心意気を買われて、今現在、奔走中なんだそうだ。」

大和「そっか…あ、それと井上たちは?」

ユキ「冬馬たちは、葵紋病院のほうで医療品の確保とかで動いてるよ〜。なんか大変みたい。」

大和「そっちも大変だな…まあ、そりゃそうか。…そういや、よく昔、テレビ番組とかでやってたよな。地球最後の日は何をしたいって、まさか本当に地球最後の日を見ようする直前のところまで来るとはなー…」

クリス「けど、最後にはしない!そうだろう?」

大和「ああ…ところで、姉さん?」

百代「ん?」

大和「後ろのガクトの息がそろそろやばそうなんだが…まだ走り込み終わらないのか?」

ガクト「おぉぉ、ヒュー、ヒュー…」

百代「ああ、まだだぞ!今日はガクトであろうがなんであろうが、練習メニュー全部こなしてもらうからな!」

ワン子「アタシも最初の頃は何度か吐いたけど今は大丈夫だから、今のガクトならダメージが体に残ることもないはずよ!」

 

…ガクト南無三…

 

とまあ、なんやかんやあって、走り込みが終わり川神院に戻り、一通りの基礎練などを終えた後、大和除く男子勢はガクト、キャップの順に墜落していった。そして…

 

百代「いよいよ!待ちに待った組手の時間だ!わー、パチパチ〜」

大和「随分と機嫌がいいね?姉さん」

百代「そりゃそうだ。前まで100人組手なんかをして、気を紛らわせていたが…今回は私と同レベル…いや、格上の相手と組手ができるんだぞ!こんなに嬉しいことはない!」

大和「そこまで買ってくれるのは嬉しいけど、はしゃぎすぎないでよ?あんまりはしゃぎすぎて、本番の戦いにでれないほどの大怪我なんて笑えないから…」

百代「ほほう、それは私に大怪我負わせる自信があるということか?」

大和「あ、いや、そういうことでは…って、もう、構え始めてる!?」

百代「行くぞ!大和!」

大和「ったく、血気盛んだなー。相変わらず…」

 

大和も大剣を構え、突進してくる百代に応戦する。

二つの大きすぎる力が激突する。

 

クリス「二人が組手をするときは危ないから下がっていなさい、と言われて、下がったが…」

ガクト「あれって戦ってるんだよな。俺様にはただ、竜巻と竜巻が衝突し合ってるようにしか見えねーんだけど…」

ユキ「そんなこともわからないなんて〜。ガクトのバーカ。」

ガクト「なんだと、こらあ!」

ユキ「わー、ゴリラが怒ったのだ〜」

ワン子「まゆっち、京見える?」

京「弓兵は目が命なのに、私はうっすらと…けど、まゆっちならはっきり見えてるんじゃない?」

まゆっち「いえいえ、私なんか…あ、今大和さんとモモ先輩が飛びましたね。」

キャップ「見えてんじゃねーか!すげえな!」

 

周りの修行僧たちも、大和と百代の組手を見て感嘆の声を漏らしていた。

 

しばらくして…

 

ルー「そこまで!両者やめ!」

 

ルー師範代の止めの声が入り、両者は同時に動きを止める。

動きを止めたあと、どちらかともなく大きく息を吐き、

百代「はー、疲れたー。こんなに疲れる組手は久しぶりだー」

大和「ああ、全くだよ。まあ、オレは組手自体久しぶりだけどね…」

 

ぐったりと百代の方は倒れて、大和はそれを眺めていた。すこしして、大和がそこを離れて川神院に戻ろうとすると…

 

百代「弟〜」

大和「ん?」

百代「抱っこして、私も連れてけー。」

大和「ワガママ言うんじゃありません。まだピンピンだろう?姉さん?」

百代「うるさーい。抱っこしろー」

 

これじゃ、いつまで経ってもキリがないと思った大和は、仕方なく、やれやれといった感じで百代を抱き寄せ(お姫様抱っこ)、そのまま川神院に連れて行くことにした。

 

百代「〜♪」

大和「?」

 

その途中、百代がヤケにベッタリとくっついて来て大和はビックリしたが、まあいいと思った。

 

京「むむ、なんだか危険な予感!」京

 

そんな中、京は一人の女の気持ちの変化を敏感に感じ取った。

こんな感じで、初日の稽古は終わった。




みなさんなんだか、百代がヒロインなんですか?という質問が多いのでちょっと、百代だけをヒロインにするか迷いましたが、最終的にそっちの方が話がまとまりやすいし、何より個人的に百代が好きなキャラなので、結果的には百代をヒロインにしようということで落ち着きました。
もう1本川神院での話をやった後、いよいよ三日目に入ります。そう、ようやく戦いに入るのです。すみません。長いことお待たせしまして、自分としましてもどれくらい続くのかな〜と他人事のように感じてしまった時期があったほどに長かったです。
では、ご意見よろしくお願いします。


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決戦前夜

すごい長くなりました。切ろう、切ろうと思っても切れなかったので、なんというかすみませんでしたー!


2009年 11月20日

 

川神院

 

大和「ヘクシッ!」

 

大和は川神院の屋根の上で寝ていた。なぜ、寝ていたのか?ほとんどの者はお気づきかもしれんが、それは昨日の夜の出来事に遡る。

 

11月19日

ことがことだけに学長は川神学園の方をしばし休学にした。そのために、大和たちは稽古が終わった後、自主鍛錬をするか、遊ぶか、などそれぞれ自由な時間を楽しんでいた。

大和は当然というかなんというか、姉である百代に付き合い、自主鍛錬を行うことにした。…そして、京も…

 

大和「ふー、こんなところか?」

百代「ああ、今日はこんなところだろう。じゃあ、また明日よろしくな!大和!」

大和「はいはい。」

京「……」

 

その時、京は敵意に似た視線を百代に向けていた。

 

百代(あの感じ、気づかれたかな?さすがは京…宣戦布告と言ったところか?だが、私に喧嘩を売るとはどういうことかわかるな?)

 

そう考えながら、百代は挑発的な笑みを浮かべた。

 

京「あの表情…やっぱり!」

大和「?どうした?京?」

京「ううん、なんでもないよ!大和」

大和「?」

 

大和は気付くべきだった。大抵こういうことを言う時の京はなんでもなくない(・・・・・・・・)時だということを…

 

その後は地獄だった。

 

九鬼ビルの方で今日の作戦会議を終えた大和はそのまま川神院の方に帰っていった。

まず、風呂に入り上がった後、用意されていた部屋に敷いていた布団に入り、寝ようとした。

 

そして、ゴングが鳴った。

 

大和「…ふー。ったく…」

 

やれやれといった感じで、妙に盛り上がった布団の方に視線を向けた。そして、次の瞬間…

 

京が襲いかかってきた。

大和は後ろに避けた。

天井がひとりでに一部分だけぬけた。

なんと、百代が中から飛び出して来た。

百代〔やはり、来たか!京!〕百代

京〔モモ先輩こそ!〕

百代〔いい度胸だ!これはやはり宣戦布告ということでいいんだな!〕

京〔私にも譲れない者がある!そのために私は戦う!〕

百代の攻撃

【かわかみ波】

京は横に飛んでなんとか躱した。

流れ弾が大和にも飛ぶ!

大和は顔を横に向けて、それを躱そうした。しかし、気付いた。

 

ここは屋内だということに。

 

ということで、わざと受けることに…

 

ドカーン

京に当てるということもあり、最初から手加減はしてあったみたいである。大和に10のダメージ

 

自分の部屋を見る。

今度は2人が襲いかかって来た!

大和〔うお!〕

大和は横に避けた。

百代〔むー、なんで避けるんだよ?弟〜?〕

京〔そうだよ!私は(・・)別に大和を傷付けるつもりはないのに!〕

大和〔今さっき、襲いかかって来た人のセリフじゃないね!それは!〕

百代〔やはり、大和は2人でなんて嫌だよな〜。ということで、京どけ!〕

京〔冗談!大和の童貞は私の物!大和は私を選ぶよね!〕

大和〔え、えーと…〕

 

1.姉さん

2.京

3.姉さんと京

4.今のオレにどっちかなんて選べるか!逃げる!

 

そして、大和が選んだのは…

 

大和「うおおおおお!」

 

ただひたすら川神院中を走り回っていた。

そう。選んだのは4。そんなこんなで、この甲斐性なしは夜中ずっと走り続けていた。

 

しばらくして何事か思いついた大和は気を消して、あえて、隠れることもできるが目立ってしまう屋根の上に陣取っていた。

 

ここにいれば隠れることもできるし、何よりこんな下手したらどこよりも目立つ場所に人がいるとは思わないだろうと思った結果である。

 

しばらくして、川神院の方で何の物音もしなくなった。どうやら学長たちが何事かと起き上がってきたようだ。少々、遅すぎる気もするが…

安心した大和は、そのまま屋根の上で寝てしまったとさ…

 

というわけで、今につながる。

なんというか、本当に疲れる夜だった。

 

大和「はー…」

 

ため息をつき、とりあえず屋根から降り、川神院の正門前に立った大和が見たものは…

 

百代「大和ー、お前も手伝えよ〜」

京「…(せっせっ。)」

 

当然ではあるが、川神院を荒らした主犯として川神院の荒らしたところを掃除している百代と京の姿があった。

百代は飽きてきたのか、大和の姿を見ると、責任を一緒に押し付けようとしていた。一方、京は何も言わずにただせっせと掃除をしていた。

 

京(ふふ、モモ先輩がダラけているのに対して私はちゃんと働いている!この光景を見たら、大和も私の方がいいと考えるに違いない!)

大和(…とか考えてそうだな。いや、まあ、正しいことには正しいんだけど、何故だろう?下心が透けて見えると、この光景が悲しく見えてしまうのは…)

 

そんなことを考えながら、京を見ていると百代はそれが面白くないと感じたらしく…

 

百代「大和ー!これが終わった後、2人で組手やろう!私の組手相手なんてお前しかいないように、お前も私しか(・・・)組手相手がいないもんな〜!」

 

などと、言ってきた。京はその言葉に対してムッときたが…

 

鉄心「これ!明日大事な戦いがあるじゃろう!その前にヘトヘトになってどうする!今日はゆっくり休むためにも稽古はなしじゃとさっき決めたと言っとろうが!」

 

と京と百代のことを横で監視していた鉄心は厳しく忠告した。

 

百代「うぐっ!だが、明日大事な戦いがあるからこそ今日は…」

鉄心「文句を言うな!大体モモ、お前今日は川神院を掃除するので手いっぱいで稽古などしとる暇ないじゃろう!」

百代「ぐぐっ!」

 

もう選べる言葉を失ったのか。百代はそのまま黙りこくってしまった。

そして、その横で京は小さくガッツポーズをとっていた。

 

大和「はは、まあ、でも今日はオレも個人的に稽古をする気が少なかったから、ちょうどよかったです。」

ルー「おや、どこか行くのかイ?」

 

鉄心と同じく百代たちを監視していたルーが質問してきた。

百代たちにも意外な答えだったのか一斉にそこにいる人たちの視線が大和に行く。

 

大和「ええ、まあ。今日の九鬼ビルでの作戦会議が終わった後、ちょっと寄りたいところがあるんで…」

百代「ふーん。どこに行くんだ?」

 

百代が尋ねると、

 

大和「うーん、そうだな…

 

内緒。」

 

一旦、百代の後ろの方に目をやった後、唇の上に人差し指を置いて大和はそう言って、川神院を出て外に向かった。

 

京「怪しい…」

百代「ああ、今更一人で行くということはないんだろうが、ちょっと変だったな。今の大和。お前たちもそう思うだろう?」

 

百代が後ろを振り向きながら言うと、少しして観念したのか、モロ除く風間ファミリーと小雪が陰から顔を覗かせた。

ちなみにこのメンバーも昨日は川神院で寝泊まりしている。

 

ワン子「い、いつからばれてたの?」

百代「最初からだ。ついでに言うと、大和も気づいていたぞ。」

キャップ「まじか?半端ねーな…大和のやつ。」

クリス「それはそれとして、大和は一体どこに?」

ワン子「うん、なんというかついて行きづらい空気放ってたわよね。」

ユキ「僕もそう思った。なんていうかただ、出かけるっていうにしては何か覚悟しているような…」

ガクト「さっき、モモ先輩は否定したけどよ!本当に一人で行く気なんじゃ…」

まゆっち、松風「そんな…」『まさかなんだぜ…』

 

もう後ろ姿も見えない大和のことを考えて、みんなが顔を曇らせる。やがて、

 

百代「そうだな。こんなところで悩むより行動すべし!」

 

百代が突然口を開いた。

 

ワン子「お姉さま?」

百代「今日、大和の後をつけてみよう。」

 

九鬼ビル前

 

今日の会議が終わり、もうすっかり夜になっていた。

大和は気分が浮かなかった…

薄々予感していたことをある人物(・・・・)に相談してみたところ、どうやら自分の勘が当たってしまうかもしれない、ということに大和自身、自分の運命を呪った。そのため、大和は明日が大事な…自分にとってどれだけ大事な戦いかということを理解していながら、明日が来るな!と心の一部分だけ叫んでいることに気づいていた。

 

大和「…そんなこと思ってても仕方ないのにな…」

 

予想外…いや、予想はしていてもできることなら当たって欲しくないことがあった。でも明日は外せない…どんなことがあっても…

 

大和「…ああ、そうだな。行くか!」

 

そう言って、フェンリルの元に向かい跨がろうとする。

 

大和「……」

 

だが、途中で大和は跨がろうとする足を止めた。

 

大和(この気…キャップたちか?姉さんの方はうまく気配を消せているが…さて…)

 

どうしようか悩む大和。…別に聞かれて恥ずかしいことは…なくはないか。

 

大和「ったく、仕方ない。フェンリル」

フェンリル《なんだ?マスター?》

 

フェンリルから自分愛用の剣を取り出すと…

 

大和「悪いけど、先に川神院に帰ってくれ。ちょい行きたいところあるから。」

フェンリル《?そこまでオレが送ればいいんじゃ…いや、なんでもない。了解した。》

 

何事か察したフェンリルは大和の言う通りに川神院に向け走っていった。

 

大和「さてと…

 

撒くか!」

 

言った瞬間大和は虚空へと姿を消した。

 

ガクト「!?大和のやつどこ行きやがった?急にいなくなったぞ!」

百代「落ち着け!ただ、普通よりちょっと速く動いた分、消えたように見えただけだ!」

モロ「さらっと言ってるけど、普通に人智を超えてるよね?それ」

 

後をつけるということで、百代たちはモロと冬馬、準たちと合流することにした。

現在、百代たちがいるのは九鬼ビルのちょうど死角部分…より正確には九鬼ビル右手側の横部分だった。

 

冬馬「完璧に死角でしたが、やはりというかなんというか気付かれてしまいましたか。」

準「んで、どうすんだ?見失っちまったけど…」

ワン子「うーん、どうしようかしら?」

 

うーんと皆が考え込む。

 

百代「実際のところ、何も考えてなかったんだよなー。さて、どうしたものか?」

ユキ「どこか思い出の場所にでも行ったのかな?」

クリス「思い出の場所…キャップ、一番付き合いが古いだろう?何か知らないか?」

キャップ「いやー、わかんねーな。何せ、思い出って言っても多すぎるし…」

百代「思い出…!そうか。分かったかもしれない。まゆまゆ!」

まゆっち「は、はい!」

百代「確か3キロまで索敵範囲広げられたよな?ちょっと、どっち方面行ってるかおしえてくれ!」

まゆっち「わ、わかりました!」

 

単純な索敵能力なら、百代を凌駕するまゆっちが索敵をしてみる。

 

まゆっち「現在、大和さんは…あちらに向かっています!」

 

まゆっちが指を向けた方向を見て、百代はやはり、という顔になり、

 

百代「行き先は分かった。後でお前たちもついてこい!」

ガクト「は?」

 

そう言って、今度は百代が虚空に消えていった。

 

大和が向かった先、それはいつも稽古し、汗を流したあの鍛錬場であり、悩みを打ち明けた山奥でもある。

周りの岩や木は斬られ、とても人がここで何かしていたとは思えないような惨状と化していた。

 

大和「久しぶり…ってわけでもないのに、

なんだか来たのが随分昔のように思えるな…ま、色々あったし、当然なのかな?」

 

そう言った後、大和は稽古場の真ん中に大剣を突き刺し、その前に座り込む。

 

大和「…ほんと、色々あったよな。誓いをしてから…あれは確か五年生の頃だったからもう6年になるのか…なあ、ザックスあれは一応お前に向かっても誓ったと思うんだが、覚えてるかな?あの日の俺の誓い…」

 

大和(じゃあ、条件をつけよう!オレは…

 

まだ、あいつらに過去を語る気はない。けど、いつかあいつらに危険が降りかかる時が来たら、オレは迷いなく力を使う!そして、その後過去を語ってあいつらがもしもオレを受け入れてくれたのなら…オレはもう一度…お前の夢とともに歩むことを誓うよ!)

 

大和「我ながら、言いたいのか言いたくないのか、分からないよな。なんだってあんな矛盾に満ちた誓いをしたのか分からない。結局、言う気もないまま言っちまったのにさ。」

 

星空を見上げながら大和は言った。

 

大和「なあ、そう思うだろう?姉さん。」

 

そう言うと後ろの方の木々がガサガサと揺れて奥から百代が出てきた。

 

百代「ちぇっ、気づいてたのか。面白くないな。」

大和「いくら何でも5メートルも近づかれれば気付くよ。にしても、よくここが分かったな?」

百代「私が戦う前もそうだが、そういう時は稽古場を見ると思考がクリアになっていたからな。だからここじゃないかと思ったんだ。」

大和「ああ、なるほど。」

 

百代は辺りを見回した後、大和の横に座った。

 

百代「ここがお前の稽古場か?」

大和「ああ。」

百代「すごい有様だな。川神院でもこんな様を見たことないぞ!」

大和「そうなのか?じゃあ、我ながらよく気づかれなかったと、自分を褒めるべきなのかな?」

 

はは、と冗談めかした笑いを大和はする。

 

大和「…なあ、姉さん。」

百代「ん?」

大和「直球で聞くんだけどさ、なんでオレなの?」

 

百代はその言葉に対してしばらく絶句したあと、

 

百代「…また、とんでもなく直球だな。大和」

大和「こういうのはごまかしても仕方がないと思うしさ。」

百代「そうだな!…まあ、嬉しかったからというのが理由だな。」

大和「嬉しかった?」

百代「お前が未だに夢を追っていたこと、にだ。」

 

大和は6年前に言ったことを思い出す。

 

大和(総理大臣とか、英雄とか!)

 

大和「それだけ?」

百代「ああ、それだけだ。」

 

なんだか、頭を抱えてきたくなってきた。色々理由を自分で考えていながら、ものすごく単純で斜め上の理由が出てきたのだから当然といえば当然だが。

 

大和「…それってそんなに大事なことだったのか?」

百代「ああ、正直、内心失望していたからな。ずっとお前を見てきて、いつから努力するんだろう…いつから見せてくれるんだろうと、思わせるだけ思わせておいて、結局努力する姿一つ私は見れなかったから…ああ、お前は諦めてしまったんだなぁと」

大和「子供が言った言葉だぜ?そんな真剣じゃないかもしれねーじゃねーか?」

百代「それでも、私は結構期待していたんだぞ?だから、本当に嬉しかったんだ。お前が夢を追うためにずっと力をつけ続けていたことに…」

大和「…まあ、あの時は本当にアレしかなかったからな。それ以外何も、何もなかった。だからオレは内心バカバカしいとは思ったけど…ザックスがくれたたった一つの夢を追いかけようって決めたんだ。」

百代「…そうか。」

 

百代はその言葉を笑顔で受け止めた。

そんなことを言いながら、大和はその時のことを鮮明に思い出していた。それだけでなく、今までずっと歩んできた百代との過去を…

 

大和(ああ、そうか。やっぱ、オレも…ったく、昨日の今日で心変わりとは…オレ、浮気性の気でもあるのかな?いや、でも、この気持ちはあの時、エアリスに抱いた気持ちと同じ…いや、それ以上だ!)

 

でも、と大和は思いながら、横の百代を見つめる。

 

大和(今は言う時じゃないな。全てに決着をつけて、全てを終わらせたら、ようやく言える…ああ、ようやく踏ん切りがついた。)

 

今度は大剣を見つめる。

 

大和(ザックス、あとエアリス。今回の戦い、もしかしたら、お前らに会うこと(・・・・)になるかもしれない…そんなことを考えていたから、ずっと踏ん切りがつかなかった。けど、ようやく…ようやく!オレは過去を乗り越えられるかもしれない。そう思うことができた!

だから、明日は戦うよ。たとえ、どんなことが起こり、どんなものが待ち受けていても…)

 

大和「…ありがとうな。姉さん」

百代「ん?何がだ?」

大和「いや、こっちの話。さてと、キャップたちも近づいてきてるし、帰るか!」

百代「…ああ、そうだな」

 

笑顔でお互いに言い合った。

 

この世のものとは思えない戦が始まる。



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発進

2009年11月20日 川神院

 

直江大和は部屋で着替えをしていた。

以前、学園へ入った時と同じように黒いベスト、黒いズボンを着て、黒い布を巻きつけ、そして、狼のバングルがあてがわれている肩当てを中心に剣をしまうベルトを左肩に装着し、左腕には異様に幅のある黒い布を着けた。

 

そして、

 

大和「……」

 

掌にある狼が型どられたピアスを見つめる大和。

 

エアリス(ザックスから餞別だって!)

 

大和(一緒に行こう。ザックス…)

 

狼のピアスを耳に着けた。わずかに痛みを感じたが、痛みなどこの数年間ずっと鍛錬で慣れきっていたため、すぐに慣れた。

最後に、黒い手袋をはめて

 

大和「よし、行くか!」

 

準備は終わった。直江大和は外に向かう。

 

川神院 正門前

 

大和「フェンリル!!」

声を張り上げて、相棒のバイクを呼ぶ。

しばらくして、ブオンとエンジンを鳴らしながら大型の黒いバイクが大和の前に到着した。

 

フェンリル《行くのか?マスター?》

大和「ああ、っていうか、俺が一番最後なのな。いつの間にか、玄関の方の履物がチラホラなくなってるから、みんなあっちに行ってるみたいだし…起こしてくれればいいのに。」

 

今日が大事な戦いだというのに踏ん切りがついたおかげなのか予想以上に快眠でき、仲間たちに置いてかれてしまった事実にちょっと凹む大和。

 

フェンリル《まあ、今回はマスターの決戦といっても違いないからな。皆、マスターを起こすのは体力上の問題から気が引けたんだろう。》

大和「別にそんな少し早く起きたくらいで体力が何か変わるわけでもない気がするが…まあ、いいや!じゃあ、頼むよ。フェンリル。」

フェンリル《了解した。場所は…九鬼ビルだったな?》

 

九鬼ビル

 

大和「ついたか…」

フェンリル《マスター。動体反応の位置からして彼らは既に九鬼自前の飛行場にいると思われるぞ。》

大和「そっか。んじゃ、直行するか!」

 

九鬼ビル 飛行場

 

この飛行場は普段から世界に進出し、ほとんどの場合家にいない九鬼家のために作られた飛行場であり、飛行場にはジャンボジェット以外にもヘリコプター、軍用ジェット機など様々な飛行機が存在する。

 

そんな九鬼専用の自家用機が立ち並ぶ中で一際異彩を放つ、特殊な形の飛行機が目に入った。

 

大和「…すごいな。これは…」

モロ「あ、大和〜!」

 

こちらに気がついたモロが大和に声をかけてきた。

外で荷物の整備の途中だったようだ。

 

モロ「すごいよね!この大型軍用機。定員が130名にも関わらずスピードを全くこじらせずに、さらにはミサイルなどの兵器も搭載しているんだって。ここまで来ると、もう、なんか九鬼にはタイムマシンがあるんですって言われても、なんだか驚かないよ!」

大和「さすがにそれについては驚くと思うが…」

 

なんだか、モロが妙に熱い。珍しく変なボケを言っているし…

もう一度、先の飛行機を見る。

その姿は全体的にボディは曲線を描いており、一言で表すと、ジェット機というより、戦艦と言った方が正しい見た目をしている印象を受けた。

 

大和「…で、もしかしてみんなこれに乗ってんのか?」

モロ「あ、うん!この

 

シエラ号にね!」

 

シエラ号内部

 

内部は軍用機というだけはあり、武骨な内装をしていたが、前に進み、最前部に到着すると、一気に開けた空間になった。

 

大和「おぉ、一気に内装が変わったな…」

揚羽「む、直江大和か?」

 

こちらに気づいた九鬼揚羽が飛行機のハンドル部分と思われる場所から、離れて近づいてくる。

 

大和「おはようございます。揚羽さん!っていうか、今のやつってこの飛行機というか、飛空挺?…のハンドルなんですか?」

揚羽「うむ。そうだ。なにか問題があるか?」

大和「いえ、特には…」

 

大和が飛行機を飛空挺と言い換えた訳がそこにあった。普通、ハンドルなんて現代の車のようなシンプルな柄で構わないのに、わざととしか思えないが、船のハンドルをそれは模しているのである。

 

大和(あれ、必要あったのかな?)

揚羽「…もちろん!デザインは凝ってこそだからな。」

大和(!読まれた!…ってあんなこと聞けばそりゃ予想できるよな)

 

ちょっと、凹んだが、すぐに立ち直るかのようにそう思いなおした。

 

大和「…なんか、前も似たようなこと揚羽さんに聞いてたような気がするんですが、今回これに乗っているメンバーって誰なんですか?」

揚羽「ふむ。まあ、今回の作戦。少数精鋭による殴り込みのようなものだからな。量より質という分配のメンバーだ。

まず、ゾズマ、クラウディオ、あずみ、李、ステイシーなどによる九鬼家従者部隊精鋭100名、ただし、ヒュームやマープルなどの一部の者たちは残る。

次に義経、弁慶、与一、葉桜、松永燕などの学生、九鬼家代表としては我、九鬼揚羽。

さらに林冲率いる梁山泊。

そして、最後に…」

 

『大和!!』

 

突然後ろから、声を掛けられ振り向いてみると

 

キャップ「遅いじゃねーか!大和!」

ワン子「まったくだわー!この寝坊助!」

京「寝顔をすごく可愛かったよ!大和!ククク」

クリス「ふふ、おそかったなあ〜!大和」←いつも起きれないことでいじられてるから嬉しい。

まゆっち、松風「おはようございます。大和さん!」『寝坊助さんやな〜、大和坊!』

ユキ「やーまと!おっはよーん!」

冬馬「大和くん。おはようございます。」

準「ブツブツ…」

 

大和「あ、ああ、おはよう。」

 

圧倒され、遅い遅い言われた大和。ちょっと凹む。…なんだか、今日こんなことが多いような気がする。

だが、そんなことより気になることがあった。

 

大和「なにしてんの?あいつ?」

 

なぜだか、挨拶をしてくれず、最後までブツブツと何事かつぶやいている準を見て、質問する。

 

冬馬「ああ、アレは…」

 

準「キョウ、アウノハロリノテキ、ゼッタイ二ユルサン!ゼッタイニダ!!」

 

不覚にもその迫力に気圧されそうになったが、驚く程度で済んだ。

 

大和「えっと、何あれホントに?」

冬馬「実は10年前の大和くんの過去を今更になって思い出して、そこで幼女たちが蹂躙されている様への怒りがこみ上げてきており、今現在、準は普段の3倍の戦闘能力を発揮できるようになっているんです。」

大和「何その無駄に高性能な能力。つーか、何?まさか、このまま連れてく気?」

冬馬「はい。これから戦いに行くんですし、こちらの方が何かと都合が良いかと」

大和「いや、怖いんだけど、少なくとも半径3メートル以内には入りたくなくなるんだけど。」

 

なんとかしてくれ。という視線を送ってみる。

すると…

 

冬馬「私たちもおなじ理由で近づきたくないので説得するのは諦めました」

 

と言われた。

 

揚羽「…そして、最後にお前たち風間&葵ファミリー。これで全員だ。」

大和「あ、すみません。話の途中だったのに。」

揚羽「なに、気にするな!友と会えた時の喜びとは何物にも変えがたい物だからな!」

 

話の腰を折ってしまったことに遅ればせながら気付き、謝る大和。揚羽本人は気にしていないが…なんというか周りの従者の目が痛い。

 

大和「そういえば、姉さんは…って、もう来てるのかよ。」

 

と言いながら後ろを振り向く。すると、手を怪しく掲げた百代が立っていた。

 

百代「ちっ、またばれたか!」

大和「…あのさ、いい加減後ろから近づくのやめてくんない?姉さん。その内、攻撃しかねないから。」

百代「いいや、私は後ろを狙い続けるぞ!なんか、負けた気がするし!」

大和「どんな理由だよ…」

 

言った後、百代は後ろに回り、一回転すると、

 

百代「…ふーん。なんだか、昨日あの場所に行った時最初に見た顔とは大違いだな。なにがあったか知らないけど。」

大和「ああ…(お陰さんでな)」

 

百代「準備…できてるみたいだな。」

大和「ああ!!」

 

「揚羽様ー!!!」

 

結構張り上げたはずの大和の声をかき消すほどの大声が聞こえた。

 

揚羽「なんだ?小十郎?」

小十郎「はっ!シエラ号発進準備滞りなく完了した次第でございます!」

揚羽「うむ!直江大和!!」

大和「はい?」

揚羽「今回の戦い、お前の戦いと言っても過言ではない!何か激励の言葉を言え!」

大和「え?」

 

突然の振りに大和は驚いたが…周りの者たちはまあ、そうだろう。という感じの反応を抱いていた。

 

大和「えーと。じゃあ、何だ?そうだな。今回の戦い、正直最初は俺一人の問題だから。俺一人で片付けようと思っていた。」

『……』

 

周りの者たちは黙ってその言葉を聞いていく。

 

大和「けど、みんなに事情を話した後、皆だれも俺のことを奇異の目で見ることはなかった。更には一緒に戦ってくれるとも言ってくれた。まあ、川神だからという理由もあるんだろうけど。それでも俺は、より強くここを守りたい、とそう思うようになった。」

 

大和「もちろん、皆が皆俺と同じような理由でここに来てるわけではないだろう。けど、あいつらから、世界を守りたいという共通意識は持っているはずだ。だから…」

 

手を掲げ、宣言する。

 

大和「行くぞ!俺たちの世界は俺たちで守るんだ!」

 

『おおお!!!』

 

揚羽「シエラ号発進!!!」

 

揚羽の号令と共に船が浮上する。目指すは神羅カンパニー本拠地・北海道方館(はこだて)!!




次でようやく、戦闘です。いや、今回戦闘入れようと思ってたんですけど、予想いじょ長くなってしまいました。

あ、ちなみに函館の字が違うのは、方舟から文字をとったためです。


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開戦

前回の宣言通り、今回で戦闘に入る予定だったんですが…ちょっと長くなりそうなので切りました。

あ、でも、同時に二話投稿しているはずなので、二話目はキッチリ戦闘に入ってるのでよろしくお願いします!


九鬼ビル 社長室

 

発進するシエラ号を見つめる二つの影がそこにはあった。

 

帝「行ったか?」

ヒューム「はい…」

 

帝の側に立っていたヒュームはどこか不安が宿るような目でシエラ号の発進を見送っていた。

九鬼帝はその視線に気付いたのか。

 

帝「何だ?まだ若者のことを頼りないと思ってんのか?大丈夫だって!現にこの前のマープルとで起こした真の武士道プランだっけか?それも失敗に終わらせることが出来たじゃねーか!」

ヒューム「それは別にいいのです。まあ、不安かどうかと言われればそれについても多少は不安ですが。もう、解決したことですしね。…が、あの赤子、直江大和が言っていたことは本当に起こるのか。それが不安でして…」

帝「さあ?だが、起こると思うぜ!」

ヒューム「その根拠は?」

帝「俺の勘だ!!」

ヒューム「はあ…」

 

聞き流すことにしたヒュームだが、決して今の言葉を蔑ろにしたりはしなかった。何せ、今まで予想もつかないことを言っては次々と事業で成功を修めたのが、九鬼帝という男である。そのほとんどが自分の感覚に任せているというのだから、あのヒュームが無視できないのはむしろ当然である。

 

シエラ号内部 操縦室 40分後

 

ユキ「わあー、スゴイスゴーイ!」

ワン子「ホント!速いわーー」

クリス「うわー!マルさんにも見せてやりたかったなー!」

 

我らがマスコットsは子供らしくはしゃいでおり実に微笑ましい限りである。いや、本当に。

 

大和「…なんという緊張感のなさ。」

 

周りの皆を見て、そんなことを口にした。

 

揚羽「うむ、やはりお前が淹れる紅茶はいいな!小十郎」

小十郎「ありがとうございます!!揚羽様ー!」

揚羽「耳元で叫ぶな!やかましいわ!」

 

揚羽が小十郎のアゴに向かってアッパーカットを食らわせた。

 

小十郎「ぐは!!揚羽様ー!」

 

いつもの他愛ない出来事の横で他の従者たちも揚羽に勧められ、小十郎の紅茶を飲んでいた。

 

クラウディオ「ふむ。相変わらず、紅茶の味だけはいいですね。この紅茶のように他の仕事もちゃんとできてくれると助かるのですが…」

ゾズマ「ふっ、それが簡単にできていたら周りの我々は苦労しないさ」

あずみ「相変わらず辛辣だな!ま、同意見だけどよ。」

ステイシー「うーん、どうも紅茶ってのは合わねーな。コーラねーの。コーラ。」

李「コーラはそこの甲羅の上に置いてありますよ。ステイシー」

ステイシー「…おい、まさか、そのギャグのためだけにその邪魔くせー亀の甲羅持ってきたのか?」

 

見ると、絶妙なバランスで甲羅の上に置かれているコーラ瓶があった。

 

李「笑っていいんですよ」

『……』

 

梁山泊&学生組はババ抜きをしていた。こちらは戦いの前にシコリは無くしておく必要があるだろうという考えでやったので、まあ、別に問題ないだろう…むしろ、団結力をつけることができるだろうと思えるし…と大和も考えていた。

実はこの前にもいくつかトランプでゲームしてたのだが…一位は必ず決まっていた。

 

燕「わーい!また、一ばーん!!」

義経「あー、また、負けてしまった。」

公孫勝「ぐぬぬ、こんなのおかしい!なんでずっと同じヤツが一位なんだよ!」

燕「ふふん、それはね実力だよん♪」

楊志「うーん…ちょっと、動きを真似してみたけど全然ダメだね。動きは関係ないみたい。っていうか、パンツ補給してないのにコピーしたから、補給が必要かも。林冲〜」

林冲「うぇえ!そんな!せめて、場所を移してからにしてくれ!」

葉桜「…アレって何やってるのかな?」

武松「ああ…楊志は女の子のパンツが大好きでな。いつも、ああやって、女の子のパンツを抜き取っては顔にはめたりするんだ。」

弁慶「ああ、なるほど、変態ってわけか。」

史進「っていうか、那須与一はどこ行ったんだよ?」

義経「なんか、馴れ合うのは好きじゃないとかで、風を感じてたいから上に行くって言って上の方に…」

史進「なんだそりゃ?」

弁慶「気にしないで。あいつはいつもこうだから。」

 

川神水を飲みながら、シュンとしている義経を見て、弁慶は与一(あいつ)後で締めようと思ったのであった。

 

大和の感想的には、まあ、別に行き過ぎてないしいいかというのが感想だった。ここまでは(・・・・・)

 

キャップ「うひょー!!すげえな!」

モロ「うん!雲が割れていくのを窓越しのこんな近くで見ることができるなんて!僕は今!猛烈に感動している!」

ガクト「お、今の雲の形、なんか尻に似てなかったか」

準「イヤ、アレハヨウジョノカオダロウ」

冬馬「(受け答えができるようになっている。ということはわずかに戻ってきてますね。)っというか、なぜ同じ雲がそのように見えるのですか?あれはどちらかというと中性的な男の方のモノに似ているでしょう。」

 

一体何を見たらそんな答えが飛び交うのか疑問だが…

 

更に百代と京は…

 

京「はい、大和アーン。」

百代「あ、こら、こっちの生クリームがいいよな〜弟!」

 

従者部隊に頼んで作ってきてもらったパフェとケーキを自分に食べさせてくれていた。

なんというかもう…

 

大和「カオスだ…」

 

なんで、自分が一番親しくなっている相手に限ってこんなことになってるんだろうか?そんなことを考えていた大和であった。

 

そして、最後にまゆっちが何をしていたかというと

 

まゆっち、松風「従者部隊が100人、更には他にも様々な方が乗っている!これはお友達を作るチャンス!!」『goだぜ!!まゆっち!まゆっちなら行ける!必ず目的を達成できるはずだぜ!!』「はい!黛由紀江参ります!!」

 

…やっぱり、カオスだった…

 

そんな時間が到着まで続くのかと思っていたが…

 

《随分と楽しそうだね…諸君。》

 

『…!!!?』

 

突如、しわがれた老人の声が聞こえてきて、大和は顔を渋り、それ以外の者たちは驚きで顔を染めていた。

 

大和「この声は…てめえか。宝条?」

 

神羅ビル 会議室

 

宝条「その通り!よく私だと分かったね。」

大和《あの時、皆の分の墓を作ったつもりだけど。てめえの死体だけなかったからな。それに…間違えるわけねー!その胸糞悪い声を!》

 

最後の方に怒気を込めて大和は言い放つ。

 

宝条「ああ、君のジェノバ細胞の覚醒の仕方は少しかわってたからね。接触することは多かったね。…いや、お陰で素晴らしい結果を見ることができた。」

 

くっくっと笑いをこらえながら、宝条は言い放った。

どうやら、それが沸点になったらしく…

 

百代「…で、一体何のようだ?」

 

百代が静かに宝条に聞いた。

だが、臆することなく今度は別の男の声が聞こえてきた。

 

《やあ、私の名前はルーファウス神羅。神羅カンパニーの社長の立場の者だ。なに。せっかくきてくれる、ということだ。こちらとしても、最大限のおもてなしをしなければいけないだろう?》

 

そういった瞬間、雲から数機のシエラ号によく似た外見の軍用機が上がってきた。

 

従者部隊A「報告します!地上から大量の軍用機が発進されてるのを確認!まだまだ来ます!」

ルーファウス《歓迎しよう!九鬼とそして川神、梁山泊の者たちよ!ようこそ!神羅へ!》

 

ブツっとジャミングされていただろう通信が切れた。



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空での闘い

すみません。今回、30話から更新してますから、最後の方を読んでる方。30話から読んでくれると助かります。


揚羽「状況は!?」

従者部隊A「未だ、下からの攻撃が止みません!第二撃来ます!」

揚羽「なんだと!?」

 

揚羽は驚いていた。今自分たちは戦争中ではあるが、下の住民たちは何も問題なく暮らしているものだと自分は考えていたためである。なので、下からの攻撃と言っても、目立たない程度にミサイルをある程度牽制の意味で放てば、それで終わりだと考えていた。だが、未だ下からの攻撃が止まない!なぜか?

その疑問はすぐに解けた。

 

従者部隊B「報告します!どうやら神羅カンパニーは今回のためにここら一体、特に高速道路を中心に買い占めたようです!」

揚羽「なっ!?」

 

つまり、騒ぎを起こさないように暴れてるのではなく、騒ぎを起こしても問題ないように事前に策を打っていたということ。だが…

 

揚羽(まだ、青森上空のはず。方館(はこだて)までそう遠くないとは言え、ここら一体を買い占めるなど、九鬼でも容易にできることではない。)

大和「敵がそれだけ本気ってことですよ。揚羽さん。」

揚羽「っ!!?」

 

いつの間にか自分の横に立っていた大和が話しかけてきた。

 

揚羽「…さっきのお返しというわけか?全く、さすがに驚いたぞ。」

大和「すみません。ただ揚羽さん、この攻撃、多分下で抑えでもしない限り、増えていくだけです。」

揚羽「ああ、だから対策を…直江大和、まさか!」

 

さすがの頭の回転の速さからすぐに大和が何を考えているのか分かった。

 

大和「ええ、そうしないとこの船本当にヤバそうなんでね。」

揚羽「…気をつけろよ!」

大和「はい!」

 

そう言って、揚羽の元から離れていく大和、そして、相棒のバイクに合図をして、出入り口の、方へと近づく。

 

大和「行くぞ!フェンリル!!」

フェンリル《了解した!!マスター!!》

百代「どこ行く気だ?大和。まあ、言わなくても大体分かるが…」

 

大和が百代の声のした方向を見ると、百代の後ろで風間、葵ファミリーや同じ学び舎の仲間が心配そうに見つめていた。

 

大和「…ああ。どの道こうしなきゃ、危なくて仕方ないと思うしな。」

百代「そうか。分かった。揚羽さんも言ってたが、気をつけてな…」

大和「…ああ。後でな!」

 

大和はそう言うと、シエラ号の出入り口を思いっきり開ける。そして…

 

思いっきり飛び降りた。

 

大和「よし!んじゃ、改めて…行くぞーー!!!フェンリル」

フェンリル《ああ、マスター!!》

 

落ちていく大和と相棒のバイクのフェンリル、敵は近代兵器の大群。もしも、一瞬でも気を抜けば大和とてただでは済まない。

 

青森上空

 

最初に来たのはミサイルの大群だった。どれもこれも最新の兵器ばかり、

 

大和「ふっ、確かにこれは本当に軍事部門だけ言うなら九鬼を超えてるな!」

 

言いながら、フェンリルから大剣を一本引き抜く。

そして…

 

大和「はっ!」

 

まず、最初のミサイルを両断する。次に隣のミサイルを横から切り、その次に隣のミサイルを…だがいくらやっても治まる気配がない。

 

大和「ちっ、メンドクセーな!!」

 

すると、ミサイルの一つを足蹴にして、軽く飛び上がる。

身をクルンと翻し、ミサイルの方に頭を向けると体を中心に剣で体を回し始めた。

 

大和「行くぞ!画龍点睛」

 

この技には二つの型がある。一つは、大剣の切先から竜巻を作り出し、相手にダメージ与えるとともに動きを止める型。

 

もう一つは自らを中心に大剣を回転させて連撃を放つ型。それらを応用すれば、

 

自分を中心に竜巻の流星を作り出すこともできる。

 

大和「うおらあぁぁー!!」

 

竜巻とミサイルの大群がぶつかる。直後に

 

とてつもない爆発が起こる。

 

シエラ号

 

ワン子「きゃー!」

クリス「うわわ、なんだ!?」

 

下からとてつもない爆風が来た影響でシエラ号が大きく揺れる。

 

従者部隊A「ミサイル反応が同時に大量消失しました。これは…」

揚羽「うむ!この隙に進め!九鬼の力を神羅に思う存分見せつけてやれ!!」

従者部隊全員「はっ!!」

 

従者たちが全員同時に動き出す。

 

公孫勝「なあ、大丈夫なの?大和のヤツ。」

 

そんな中、意外というべきなのか公孫勝が大和の心配をしてきた。

 

百代「大和は約束は必ず守る。そういうやつだ。」

公孫勝「…ふーん。」

 

興味なさげにしながらも、少しだけ心配そうな瞳を公孫勝はしていた。

 

史進「おっ、珍しいな。マサルが人の心配をしているなんて。」

武松「それほど、直江大和と仲よくなれたということだろう。公孫勝は可愛いからな!」

楊志「…あれを可愛いと思える武松にはちょっと尊敬しちゃうな〜」

林冲「それよりも皆行くぞ!どうやら、相手の軍用機はこちらに攻撃を仕掛けてくるつもりらしいしな。この船は私が守る!」

燕「ああ、大丈夫だよ。林冲。」

林冲「えっ?」

 

ババ抜きの甲斐あってか、もうすっかりお互いの確執は無くなり、川神学園の学生と梁山泊は気軽に話せるようになるまでなった。

 

燕「だって、モモちゃんが今さっきもう外に出たし」

 

シエラ号 屋外エリア

 

百代「この船と同じようなのが…1.2…まずは5艇か…では…」

 

パキパキと手を握るような形で指を鳴らした後、

 

百代「一掃するか!」

 

勢いよく飛び出していく百代、それと同時に向こうからもミサイルが発射される。

 

百代はまず、一番最初に着弾するであろうミサイルに狙いを定めると、

 

百代「うおおおお!!」

 

なんと、そのミサイルを足蹴にして、誘爆させた。

 

次から次にミサイルを足蹴にしながら、一気に飛空挺へと近づいていく。

ドカン、バコンと足蹴にされたミサイルたちは音を立てて爆発していく。

 

神羅 飛空挺

 

神羅兵「ほ、報告します!敵、川神百代は現在ミサイルを足蹴にしながら、こちらに向かって前進中!!」

神羅兵長官「そんなものは言われずとも分かっている!!」

 

神羅兵長官である彼は長官という立場の通り、神羅に長く在籍しており、そのため色々な敵と戦ってきた経験があると自分の中で自負してきた。

だが、幾ら何でも、半ばハードルのような感覚でミサイルの嵐を突っ切ってくる敵になど会ったことがあるはずなかった。

なんとかしてあの怪物を止める手段を思いつかなければ、こちらは終わる。そのため色々と模索していると…

 

神羅兵「長官!!」

神羅兵長官「なんだ!?今、私は忙しいんだ!邪魔するな!」

神羅兵「ですが…もうすでに来ています!川神百代が!」

 

神羅兵長官「は?」

 

それが、最後だった。その飛空挺はガコンと大きく揺れたかと思えば、一気に爆発音を立てながらそこら中を火の海にしていき、墜落していった。

 

百代「まず、1艇」

 

飛空挺から離れると百代はそんなことをつぶやいた。




なんで、ディシディアと普通の本編とで、技の形が違うんでしょう?(画竜点睛のこと)
まあ、完全にアレだと表現しづらいからかもしれないですけど…


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急展開

青森

 

観光客A「おい、聞いたか?なんか、青森の高速道路から一帯今日いっぱいは立ち入り禁止なんだとよ。」

観光客B「え?なんでぇ?」

観光客A「神羅って知ってるだろ?あの大会社が大規模な兵器の試運転があるからって、一帯の住民に金わたして、強制退去させたんだとよ。納得しないヤツは無理矢理にでも連れ出したとかいう噂が…」

観光客B「はあ?何それ?なんで試運転なんて高速道路でしなきゃなんないのよ!」

観光客A「知るかよ!金持ちのやることはわからん…」

 

そんなことを高速道路から30キロは離れた場所で話している観光客たち。

まさか、世界をかけた戦いが今行われているなど知りもせず彼らは旅行の続きをしようとした。その時…

 

ドッカーン

 

急に来た轟音にびっくりして、空を見上げた。

だが、空には何もなかった。爆発による煙も、爆発物の破片が落ちてくる気配も何も…

 

観光客B「な、なに?今の…」

観光客A「わからん。花火をしたにしてはあまりに空が綺麗すぎる…けど、何か爆発したのは確かだ。」

 

それが、30キロも離れた場所の高速道路上空で起こった爆発だとは露知らない観光客たちだった。

 

青森 高速道路

 

神羅兵 上官A「撃方ー!やめい!」

 

そう、号令すると同時に神羅で訓練された私設兵団・神羅兵はランチャーを装備したトラックや戦車などからミサイルを撃つのを止めた。

対象がどこに位置しているのか?それを確認するためにはミサイルによる爆煙は邪魔でしかないため、撃方を止めるほかなかった。

だが、がむしゃらでもなんでも撃ったほうがよかったと、後悔することに、この上官はなることになる。

 

神羅兵A「上官!動体反応を確認しました。」

神羅兵 上官A「そうか!ならば、撃方…」

神羅兵A「あ、ですが、気になることが…」

神羅兵 上官A「なんだ!?」

 

出鼻をくじかれたので、怒鳴り気味に上官は聞いてきた。

 

神羅兵「そ、その…船とは別の小さな動体反応が…」

 

ヒュー、ドオォォン

 

と音がするや否や、何事かと神羅兵はそちらの方を振り向く。見ると、高速道路が半ば両断されようかというほどの亀裂の中央で土煙を上げて何やら黒い影をした物が落ちてきた。

 

この黒いものがが何かというと…

 

大和「ふう、着地成功。」

 

当然、直江大和だった。

 

周りの神羅兵たちは落ちてきたのが兵器などではなく、人間だということに軽くショックを受け、少しの間動けずにいた。だが、いち早く今の状態について理解はしていないもののなんとかしようとした上官は…

 

神羅兵 上官A「う、撃てー!!」

 

神羅兵に号令をかけた。神羅兵は反応が遅れたもののなんとか一斉射撃の準備にかかろうとした。だが…

 

大和「遅い…」

 

その一瞬の反応の遅れが命取りになった。

その黒い影はシュッと音を立てて消えたかと思えば、その次には兵士たちは次々に倒れていった。

 

神羅兵 上官A「なっ!?」

 

あまりの事態に上官は絶句した。そして、

 

大和「お前で最後だな。」

神羅兵 上官A「ひっ!」

 

背後から首元に合体剣の一部の刀型のブレードを当てがいながら大和は耳元で囁いた。

 

大和「安心しろ。殺しはしない。ただ、少しの間動けなくなる程度に薄皮一枚切っとくだけだ。」

 

そう言った後、大和は神羅兵上官の背中を軽く蹴ると…

 

ザン

 

背中を斬った。

 

神羅兵上官は叫び声すら上げることなく、そのまま、ドサッと倒れ伏した。

 

フェンリル《…ほかの者たちも生かしているのか?マスター?》

大和「ああ、着いたのか?」

 

フェンリルは遅ればせながら、道路に着地した。ちなみにどうしたかというと、下向きに方向転換したエンジンパイプを噴射機と同様に使って減速してである。

 

当然のことながら、大和のようにそのまま(・・・・)着地などしていない。そんなことしたら機体がバラバラである。

 

フェンリル《ああ、今さっきな。そんなことより質問に答えてくれ。》

大和「ん、ああ。だって、こいつらは上の指示を聞いてこっちに来ただけ、ほとんど、この事態について掴めているやつはいないだろう。大体のやつらは九鬼が急襲してきたから、迎撃してこい。そんなことを言われてこっちに来てんだろう。」

フェンリル《それはそうだと思うが…》

 

正直、甘い。とフェンリルは思った。この倒れている男たちがいつ、起き上がってこちらに攻撃を仕掛けてくるかわからないというのにそんなことは言ってられないだろう。と

 

そんなフェンリルの心情を察したのか大和は…

 

大和「…まあ、さすがに戦場の全ての命を助けよう、なんていう偽善的なことは言わねえよ。オレは結構リアリストだからね。そこらへん…ただ、あいつらのところに帰る時、できる限りこの手を血で濡らしたくないってだけだから。まあ、心配するな。

 

覚悟はできてるから。」

 

大和はそう言うとフェンリルにそっぽを向く形で北へと視線を向けた。その姿を見てフェンリルは…

 

フェンリル《わかった…》

 

と言った。

 

大和「さてと、んじゃ、行くか!そろそろ、あっちもしびれを切らす頃だろう。」

 

大和が向いた方向には、戦車やランチャートラック、軍用ヘリコプターなど様々な軍用機があった。

それを確認した後、フェンリルにまたがり、

 

大和「よろしくな!フェンリル!」

フェンリル《ああ、了解した。マスター!》

 

勢いよくエンジンをかけると、そのまま大和は突進していった。

 

そこから20分後 青森 上空

 

神羅兵B「ぎゃああああ!」

神羅兵C「ヒィイイイ!!」

 

敵飛空挺の中ではただ、ひたすら神羅兵の悲鳴が木霊していた。

その悲鳴を起こしている主は、

 

百代「はああああ!!!」

 

次なる攻撃が来るのに備えて、シエラ号の屋外スペースで拳を構えて気を充実させていた。

その様子をモニターから覗いていた風間たちは…

 

ガクト「なんか、珍しくねえか?モモ先輩ってこういう時、どっちかというと笑っているタイプだろう?」

ワン子「うん。こう言うのはちょっとひどいけど、お姉さま本当に戦いが大好きだから。」

 

だが、今現在の百代の顔は笑っているなどとんでもない。鬼気迫るの文字通り、鬼のような形相をしていた。

 

キャップ「怖!付き合い長えけど。あんな顔、今までオレたち一回も見たことねえぞ!」

ユキ「それだけ、さっき大和に対して言ってた言葉が頭にきたってことなのかな?まあ、それ以外考えられないけど…」

 

その鬼のような形相をしながら、先ほどから百代はもうすでに15機程の飛空挺を落としている。

次には何が来るのかと考えたが、

 

意外にも何も来なかった。

 

百代(どういうことだ?…っ!!まさか!!)

 

百代はそこまで考えて、急いでシエラ号から飛び降りようとした。

 

揚羽《待て!百代!!》

 

その瞬間スピーカーから、揚羽の声を聞こえてきた。

 

百代「なぜだ?揚羽さん!あなたならわかっているはずだ!今の事態が一体なにを意味しているのかぐらい!」

揚羽《ああ、だが、ここでお前が行ってしまったら、それこそあいつの想いを無駄にする!》

百代「あいつが!大和が危ないってのに、想いもクソもあったものか!私は行くぞ!揚羽さん!」

揚羽《落ち着け!!百代!もしも、お前が飛空挺を相手にしていなかった状態ならば、止めはしないが、今はダメだ!》

百代「なんだと!?それは私があのような奴らに後れをとるといいたいのか!?」

 

敬語を使うことも忘れ、まくしたてる百代。

だが、そんな百代を相手に揚羽は究めて冷静に

 

揚羽《いや、あの程度の奴らに後れを取るとは思わんさ。だが、お前、相性が悪かったとは言え、お前が負けたロッズという男にこの後、軍と戦った後で確実に勝てると言えるのか?》

百代「…勝てる!私ならば…」

揚羽《だが、確実とは言えないのだろう!少なくともお前が万全の状態でなければ、その男に勝てる確率は確実に減る。そういう相手だということぐらい、話を聞いただけの我でも分かるぞ!》

百代「そ、それは…」

 

一気に口籠ってしまう百代

 

揚羽《今は休め。何、我とてこのままにしておくつもりは毛頭ない。お前の代わりに地上に送る戦士はもう決まっている。》

百代「?誰だ?それは…」

 

シエラ号 搬出口

 

シエラ号の搬出口は現在開かれようとしていた。一人の戦士を地上に送るために…

 

そこには、二輪ではあるのだが、バイクなどと形容するのもバカらしいほどのスケールの乗り物があった。

その乗り物はハンドル部分にある装備だけで人の平均身長など優に超え、先端部は針を強制的に丸まらせたフォルムを描き、後ろはジェット機さながらの装備で、ジェット噴射機が複数装備されていた。

正直言って、バイクとは言えない。

 

項羽「んは!さて、出陣だぞ!(すい)!!」

葉桜(大和君を助けるために!)

スイスイ号《はい!分かりました。清楚》

 

西楚の覇王と呼ばれた武人が今、戦場を駆る。




スイスイ号のバイク形態って、仮面ライダーファイズのジェットスライガーに酷似している気がするんですよね。まあ、別になんでもいいか…


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二騎の英雄

更新しました。では、どうぞ!


青森 高速道路

 

軍用ヘリコプター、戦車…その他様々な軍用機から一斉にミサイルが大和に向かっていく。

 

それを大和は巧みなハンドル捌きでかわしていく。

時にはスピン、時にはドリフト、などと言ったバイクの妙技の数々を披露している様は走っているというより、道路という氷を滑るスケーターを想起させた。

 

神羅兵 上官B「っ!ならば、これならどうだ!?」

 

神羅兵 上官は辺りを見渡せる軍用ヘリコプターから、一斉に通信機で指示を行き渡らせる。

 

軍用ヘリコプター、戦車から一斉にミサイルが発射される。それこそ、高速道路が寸断され、途切れる程の火力のミサイルをコンピューターでしかできないほど正確に列を描き、大和の方に向かっていく。

 

ドゴーン

 

直撃、今のは避けられない。現に着弾するまで自分たちは確かに敵の姿を確認できていた。

 

神羅兵 上官B「は、ははは!どうだ!神羅になめた真似をする奴はそうなるんだよ!」

 

勝利を確信し、ホッとしたと同時に神羅兵は顔を引きつらせながら笑顔を浮かべた。だが…

 

大和「ああ、今のはちょっと危なかったな。」

神羅兵 上官B「っ!?」

 

後ろから少年の声が聞こえてきた。恐る恐る後ろの方に顔を向ける。そこには後部座席にいた部下などいなく、確かに真っ黒な服とバイクで埋め尽くされている少年がいた。

 

神羅兵 上官B「な、なんで?」

大和「ん?ああ、一つ忠告だ。今度からミサイル撃つ時は敵の目の前の道路が瓦割りみたいに、反り上がらないぐらいの火力にした方がいいぜ。超加速ができる俺の相棒にとっては、加速して前に出るだけでミサイルは簡単に避けられるからな!」

 

言った瞬間、大和は後部座席の方で大剣型のブレードを取り出し、文字通り軍用ヘリコプターを一刀両断した。

そのまま、大和は軍用ヘリコプターから降りると、大和は思わずバイクのエンジンを止めてしまっていた。なぜか?

 

景色が一変していたのである。

 

大和「…参ったな。予想はしていたが、やっぱり飛空挺の方もこっちに回してきたか。」

 

見ると、雲の合間から続々と飛空挺が顔を出してきた。所々火の手が上がっているものが存在するが、おそらくそれは自分の姉の餌食になったものだろう。それを差し引いてもザッと見て、8隻はある。

 

大和(多分、ロッズが姉さんに勝ったことが強く影響しているんだろうな。ロッズが姉さんにこの前勝ってしまった以上、人類最強と呼べる姉さんをそこまで脅威と見なくて済む上に、始末はカダージュ、ロッズ、ヤズーがいるところの方がつけやすい、と…姉さんたちを先に神羅に行かせるっていうことは、カダージュたちは神羅の方に待機させているってこと。少なくとも、カダージュたちがこっちに合流することは全くないと言えないまでも、可能性は減った。だが…)

 

さて、どうする?そんなことを頭の中で考えていた瞬間、

 

飛空挺からレーザー兵器らしきものをこちらに撃ち込んできた。

 

慌てて、ハンドル操作してそれを避ける大和。

 

大和「うおっ、あぶね!」

フェンリル《しっかりしてくれ!マスター!狙われてるのはミサイルなど効かないマスターなどではなく、オレだろうから…》

大和「ああ、悪い。ちっ!仕方がねー!今はとりあえず、走り込んで、避けていくしかねーってか!」

 

そう言った後、大和は再度エンジンをかけ突進していく。

意地の悪いことに、飛空挺は高速道路を合計3隻で囲むような状態で攻撃を仕掛けてきた。

 

大和(上にも、右にも、左にも逃がしはしないってか?一人相手によくもまあここまで…)

 

絶えずミサイルや、レーザーなどの近代兵器で攻撃を仕掛けてくる飛空挺。なんとか避けていく大和。

 

大和(ちっ!迎撃したいもんだが、それにはどうしたってここで止まるしかない。ここで止まったらこの軍勢だとさすがにある程度時間が削られる。そんな時間はない!)

 

今止まったらまずい。止まるわけにはいかない。そんな思いがわずかな焦りを生み、隙を生む。

飛空挺だけがこの戦場の脅威ではない。直江大和は一瞬だけ飛空挺だけに気をとられすぎたせいでそこを失念していた。

 

そして、その一瞬を不幸にも相手は気取ったわけではなく、偶然とらえた。

後ろから、軍用ヘリコプターが大和に照準を定める。

 

大和は殺気の嵐とも呼べる兵器の豪雨と先ほどの焦りのせいで、後ろの殺気に気づくのが遅れた。

気付いた瞬間には、既にミサイルが発射されようという状態にまで至っていた。

 

大和(やば!!)

 

ミサイルがこちらに向かってくる。だが、気づくのが遅れたせいで避けるのが間に合わない。

 

大和(このままだと、フェンリルが…!!)

 

ドゴーン

 

ミサイルが着弾した音、確実に着弾した。その事実に今度こそ(・・・・)乗り手である神羅兵は歓喜した。自分があの化け物を倒した。先ほど、まるで無人の野を征くがごとく突き進んでいたあの黒い男を…

 

だが、着弾した場所をよく見て、彼の顔は見る見るうちに青くなっていった。一瞬あり得ないだろうと思った。だが、目をこすっても、頰をつねっても目の前の景色は変わらない。

 

高速道路の上空を陣取り、飛んでいた飛空挺が何かに突き落とされ、高速道路の上に身を乗り出し、その後尾部分にミサイルが着弾している。

 

こんな光景を見れば夢だろうと疑うのが普通だが…

 

大和「ゲホ、ゲホ!」

 

いきなりの出来事に驚き、高速道路から出てくる土煙に咳き込む大和。

 

大和「なんだ?一体誰がこんなこと…ん?こいつは…」

 

この戦いに役立ちそうだと考え、目の前にあるものを取った後、ゾクッと後ろの方からとてつもない気配がいることに気づき振り向く。

 

項羽「覇王見参!んは!無事か?大和!」

大和「は、葉桜先輩!?」

 

そこには馬鹿げたサイズのバイクを乗り回す西楚の覇王を名乗る女性がいた。この女性、覇王バージョンと文学少女バージョンの2つが存在し文学少女バージョンだと、男子人気が凄まじいのだが、この覇王バージョンだと丸っきり男っぽい口調になり、男子たちから恐れられる存在にたちまち早変わりする。

そして、現在は覇王バージョンである。

 

大和「ってことは、さっきあの飛空挺を突き落としたのは…」

項羽「ああ。オレの方天画戟だ!着陸しようという瞬間に思い切り振り回したら、勝手に吹っ飛んで行ったぞ!」

 

わはは、と豪快に笑い飛ばしながらそう告げてきた。

いや、まあ、正直助かったのだが…

 

大和「下手したら、俺たちも巻き込まれる確率があったってわかってんのかな?この先輩は…(ボソッ)」

フェンリル《多分、気づいてないだろう。確実にノリで飛空挺を突き落とした方がカッコいいとかそんなことを思った結果だと思うぞ。》

 

そう、高速道路に飛空挺を突き落とすという行為、これによって大和は確かに助かったのだが、下手したらその行為によって大和にも巻き添えが来る可能性は充分にあったのである。現に、避けてはいるが周りは瓦礫だらけになっている。

 

項羽「ん?何か言ったか?」

大和「いえ、別に何も…」

 

だが、助かってしまった以上、何か文句を言っても不毛だと判断し、大和は話をそこで打ち切った。

 

大和「ここにきたってことは、援軍ってことでいいんですか?」

項羽「ああ!こっちの方がオレとしてはトランプよりも面白いと思ったからな!特別に俺の力、貸してやる!」

 

尊大な口の利き方に大和は苦笑しながらも、心の中で感謝した。

 

大和「それじゃ、行きましょうか!覇王様!」

項羽「応!って、オレの前を走るな!騅行け!」

スイスイ号《はい!清楚》

 

飛空挺の瓦礫 外

 

神羅兵D《おい、一体どうなっている?》

神羅兵E「分からん!ただ、少なくとも飛空挺の上から何か落ちて来たということはたしかだ!」

 

左右の飛空挺の一角で神羅兵たちは通信機を介して言い合っていた。

 

神羅兵D《おいおい!まさか、それも人だとかいうんじゃないんだろうな!?》

神羅兵E「だから、分からないって言ってるだろう!けど、そんなホイホイ、人が落ちてくるなんていう非常識あるわけな…」

 

その瞬間、ズバンと何かが斬れた音がしたと共に、さっきまで飛空挺の形をなしていたものが音を立てて、瓦礫と化して、崩れていった。

 

そして、その後、

 

ブーン

 

バイクに乗った影が2つに増えて勢いよく出てきた。

 

そんな後ろ姿を飛空挺の一角で見ていた先ほどの神羅兵たちは、

 

神羅兵D《非常識があるわけ…なんだって?》

神羅兵E「…あったみたいだな。」

 

と呆然と見つめながら呟いた。

 

大和「まずは、周りの飛空挺を潰しましょう!そうすれば、後は消化するだけで良いですから。」

項羽「うむ!策は任せたぞ!軍師!!」

大和「はい!」

 

そんなことを言ってるうちに目前に飛空挺が一隻、陣取り、こちらに前頭部分を向け、そのまま、装着されたマシンガンなどの兵器をこちらに向け、打ち始めた。

 

それを、大和たちは左右にハンドルを捌くことにより巧みに避けていく。

 

項羽「んはっ!やはり、こちらの方が退屈しなさそうだ!」

大和「覇王様!アレは自分にやらせてもらえませんか?」

項羽「ああ。俺は今気分がいい!…だがいつまでも前を陣取られるのは不愉快だ!早々に退場させよ!」

大和「了解!」

 

大和は王様発言に苦笑しながらも、勢いよく頷いたと同時に、バイクの元を離れて、跳び飛空挺の真ん前・操縦室の目前にまで一気に至った。

 

そして…

 

ズバン

 

自分の身長並みの大剣で全長30メートルはあるだろう飛空挺を真っ二つにした。

 

その後、大和はフェンリルの上に着地し、またバイクの操縦に戻った。真っ二つになった飛空挺は高速道路を境にそれぞれ、反対側に墜落していった。

 

項羽「ほお!見事だな!あれほど巨大な飛空挺を真っ二つとは!」

大和「ありがとうございます。さて、残りは…6隻か?」

 

周りを見てそう言う大和は、何事か考え、

 

大和「覇王様!!」

項羽「ん?」

大和「時間もない!次で一気に決めましょう!」

項羽「おお!それは気持ちよさそうだな。で?何か策はあるのか?」

大和「ええ。多少強引ですけど、これを使って一気に決めます。」

 

そう言うと、先ほど瓦礫のなかで見つけた物…

 

舟をそのまま陸に留められるほどの大型の鎖を後ろから取り出した。

 

項羽「ほう。さっきから不恰好にずっと後ろで引きずられていた鎖か。よく見るとかなりの大きさ。引きずるにも相当の馬力が必要だろう。よく、お前のバイクが持てたな?」

大和「ええ。こう見えて、そちらのバイク並みのパワーがあるんですよ。うちのフェンリルは…」

項羽「ほお…」

 

項羽は感心したように呟いた。

 

項羽「で?これで一体何をするんだ?」

大和「ええ。これでですね。」

 

二人はバイクを進めながら、会話を進めていく。

 

神羅 飛空挺 内部

 

神羅兵D「上官!目標二人!捕捉しました!」

神羅兵 上官C「うむ!では、攻撃じゅ〔ガコン!!〕

…っ!?なんだ!?」

 

いきなり飛空挺内部が大きく揺れ、神羅兵たちは辺りを見回した。

 

神羅兵F「ほ、報告します!ただいま、何か刺突物が飛空挺に突き刺さった模様です。」

神羅兵 上官C「む!一体何が刺さったというのだ!?」

神羅兵F「…それがちょっと大きめ剣だという報告があります。」

神羅兵 上官C「…はぁ?」

 

思わず、そんな間抜けな声を出してしまった。

状況からして、まず間違いなく敵からの攻撃、だが、いくら敵が化け物と言えるくらいの戦闘能力を持っているからといって、そんなこと一つでは飛空挺は破れない。少なくとも、化け物級の一撃を食らわせなければこの舟はビクともしない。そう考えたからである。

 

敵が一体何を狙っているのか知らないが、このまま、敵の思い通りになるわけにはいかないという考えから…

 

神羅兵 上官C「急いで、その剣をてっ…」

 

撤去せよと言おうとした瞬間、ガコンと舟がまた大きく揺れ始めた。しかも今度はその衝撃がゴゴゴとエンジン音と混じり響きながら持続していた。

 

神羅兵 上官C「今度はなんだ!?」

神羅兵F「ほ、報告します。今現在この舟は引っ張られています!」

神羅兵 上官C「なっ!?」

 

あまりの事態に上官や他の神羅兵たちはいきを詰まらせる。この舟は軍事専門の飛空挺ということで、並みの飛行機の数倍の馬力はある。

そんな舟が引っ張られているというのだ。驚かない方が無理である。誰によってかというと…

 

神羅兵F「直江大和によって!」

 

青森 高速道路

 

大和「おっと、こちらに銃口を向けてきた。引っ張られる前にぶっ殺すッていう算段か?まあ、間違ってないけど。」

 

と直江大和は6隻もの舟たち(・・)を引っ張りながら、呟いた。

ちなみにどうやって、引っ張っているかというと、先程見つけた飛空挺を地上に留めておくための鎖を剣で均等にぶつ切りにして、6本の鎖にした後、そこに自分の持っている合計6本の剣をくくりつけ、舟に向かって投げて突き刺し、そこから引っ張っているのである。

 

先程、大和は多少(・・)強引などと言ってたが、どう考えても、無茶苦茶強引である。

 

大和(…まあ、オレらしくもないが今はそんなこと言ってられないからな。)

 

そんなことを考えているうちに、足元などから銃弾が命中し、弾けていくコンクリートの音がしてきた。

どうも、早く敵を倒さなければということはわかっていても、6隻とも焦ってしまったり、舟が引っ張りの影響で揺れていることもあり、狙いが中々定まらないようである。

 

だが、銃弾はかすめていく。それでも、大和は余裕だった。

 

大和「間違ってるとは言わないけど、

 

忘れてないか?こっちにはもう一人いるということに?」

 

神羅 飛空挺

 

まるで舟同士が引っ張られてるかのように、ドンドンと舟同士が近づいて行っていき、あと5メートルというところまで来てしまった。

 

神羅兵 上官C「ぐっ!舟を近づけさせて相打ちを狙うつもりか!?そう思い通りに行くか!全エンジンを逆展開!敵の攻撃とは逆方向にエンジンを展開させていけ!」

?《おい…》

神羅兵 全員『っ!?』

 

とてつもない威圧感とともに繰り出される言葉に一瞬体を硬直させたのち、そちらを振り返ってみると、

 

項羽《覇王たるオレを無視して、先程から話を進めおって…それがどれほどの無礼か分かっているのか?》

 

操縦室には各エリアのモニターが写し出されている。その中で屋外エリアに位置するモニターに方天画戟を構えてる女性が立っていた。

 

項羽《もう、十分近い。よって、貴様ら全員に刑を執行する。》

 

自分たちがどうなるのか分かってはいても、誰一人逃げ出せずにいた。逃げたくなかったわけではない。ただ、体が動かなかった。

この覇王の意思に背くことができないという恐怖で…

 

項羽《判決!》

 

そう言うと、勢いよく飛空挺から飛び退き、

 

項羽「貴様らは当分、瓦礫の生き埋めの刑に処す!」

 

直後、方天画戟を乱暴に振り回し始めたかと思うと、その途端に飛空挺6隻全てが物言わぬスクラップと化していった。




大和が怪力すぎるんじゃないかって?いや、でも、百代より強いっていう設定だとこういう派手さも必要かな?ッて思ったんですよ。
決して、これしか思いつかなかったからだというお間抜けな理由ではありません。
他にも、ありえないぐらい多彩な感じで飛空挺落とそうという展開も想像したんですが、それだとどうあがいても二話目投稿すること目に見えてたんで、そろそろ生身の人間戦いを提供しないと、いい加減飽きてくるんじゃないかと…
まあ、次の戦いは人間vsドラゴンという予定ですけど…


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召喚 Summon

青森 高速道路

 

項羽「ふん!」

 

飛空挺をスクラップにした後、不機嫌気味に覇王は自分の愛車に飛び乗った。

それに疑問に思い、剣を回収しながら

 

大和「…あの…どうかしましたか?」

 

そう大和が尋ねると、勢いよくこちらをギロッと睨みつけ、

 

項羽「どうもこうもあるか!お前のおかげで、奴らめ今の今までこのおれに気がつかなかったのだぞ!この覇王たるオレにだ!」

大和「いや、元々そういう作戦だったじゃないですか?覇王様もそれについては納得されて…」

項羽「それでも、覇王たるこのオレのオーラに気がつかないというのは万死に値する!」

大和(面倒くさっ!覇王!ひどく面倒くさっ!)

 

王とは傲慢なものだと誰かが言ってた気がするが、ここまで理不尽だとなんというかいっそ清々しい。

 

大和「ま、まあ、いいじゃないですか?それにどうせ、こんな程度では終わらないですしね。」

 

そう言って大和が前方を見ると、飛空挺は全て沈めたもののまだいくつもの軍用機が道を阻んでいた。

 

大和「まったく、こっちは二人だっていうのに飛んだおもてなしだな…」

項羽「…ああ、だが今の胸糞悪い気分を晴らすにはちょうどいい憂さ晴らしになる。」

 

そんなことを言ってる間にミサイルが二つ大和たちそれぞれに向けて向かってくる。

 

大和たちはそれを避けもせずに

 

打ち払った。

 

大和「さて、それじゃ、改めて行きますか!覇王様!」

項羽「ふん!遅れるなよ!」

 

爆煙の中、二人揃って競うようにエンジンをかけた後、大和たちは軍用機に向かって突っ込んでいった。

 

北海道 方館(はこだて)上空 曇り

 

神羅の敷地上空、シエラ号はその地帯一帯を旋回していた。

 

ガクト「す、すげえ!」

モロ「うん。これ全部が神羅の敷地だなんて…軍事においてだけ言うなら、九鬼を勝っているっていうのはどうやら本当らしいね。」

 

敷地面積は少なく見積もっても、東京ドーム30個以上は余裕で収まる程度の敷地を展開していた。

もちろん、これが全て工場などではなく、時折、リラックススペースとして公園や、子供たちのためのテーマパーク、または住居などが点在していた。

 

李「九鬼も日本支部に必要最低限のものとして、工場などを展開していますし、従者部隊の住居スペースなども九鬼ビルの中に展開していますが…ここまでの規模ではありません。

あくまで必要最低限の物を置いておき、後は世界に手を回していますので…まあ、それでも、十分広いのですが。」

義経「え、じゃあ、もしかしてここって…」

ゾズマ「ああ、日本という狭いくくりの中での話にはなるが、間違いなく、九鬼極東本部を超えた広さと言えるだろう。」

キャップ「マジかよ!?」

 

九鬼の従者たちからの言葉に皆唖然として、もう一度、方館に広がる神羅の全貌を見つめた。

 

揚羽「が、ある意味で幸運だと言えるだろうな。これだけ広ければ、被害をある程度考えずに済む。着陸は…当然無理か。よし、全員屋外スペースへ、パラシュートとロープの用意を!」

 

そう揚羽が言った後、続々とメンバーは屋外スペースへと歩を進めていった。

 

神羅 社長室

 

ルーファウス「…来たか…」

 

ルーファウス・神羅は上空に浮かんでいる飛空挺を睨みつけながら言った。

 

宝条「では、カダージュたちに命令いたしますか?」

ルーファウス「…ああ。飛びっきり派手に頼むと伝えておいてくれ。」

宝条「承知ました。では…」

 

宝条は持っている通信機器を顔に近づけ、

 

宝条「聞こえるかな?カダージュ。」

カダージュ《ああ。よく聞こえるよ。そろそろ僕たちの出番なのかな?》

宝条「ああ。作戦名“コードS”開始だ!」

カダージュ《…了解。》

 

カダージュは会話を終えると通信機器をそこらの地面に投げ捨て、自分が現在いる宿泊スペースから外が見える位置に移動すると

 

カダージュ「さて、それじゃぁそろそろ、

 

始めようか。」

 

いきなりカダージュの腕が光りだしたかと思うと、その手を空にかざす。すると、そこから気弾に似た何かが複数空に向かい、勢いよく飛び出した。

 

カダージュ「さて、こいつら相手にどこまでできるか…見ものだね。」

 

シエラ号 屋外スペース

 

揚羽「皆、パラシュートの準備はできたか?」

 

揚羽がそう言いながら、後ろを振り向く。

 

あずみ「はい!壁を越えたものなどの一部のものを除き全員に行き渡らせることができました。」

揚羽「うむ!そうか!では…「…おい。なんだありゃ?」む?」

 

声がした方向を向くと、そこに揚羽がいる方向とはまったく違う方向に目を向けていた那須与一がいた。

 

弁慶「…何言ってんの?まさか、この後に及んで行きたくないなんて言い出すんじゃないんだろうね?そんなこと言い出したら…」

与一「ち、違う。ただ、ほら、あそこなんか一部分だけ光ってないか?」

 

与一が指を指した方向を見ると、確かに雲が覆われていて、普通は少し影が指しているような状態だというのに、そこだけはなぜか光っていた。いや、あれは光っているというより…

 

公孫勝「ねえ…なんかあれ雲が形変えていってない?」

モロ「ああ、やっぱりそう見える?僕ちょっと目がおかしくなったんじゃないかって、本気で心配しちゃったよ。」

ガクト「いゃ、そうじゃなくってよ…」

 

雲が見る見るうちに形を変えていき、角を、翼を、牙を次々と生やしていく。

そして、それはシエラ号と張れるくらいほどの巨体になっていくと、

 

【ギャアオオオオオオ!!】

 

とてつもない咆哮を上げながら、顕現していた。怪物の首筋にはこう書かれていた。『バハムート』と

 

ユキ「ねえ…僕の見間違いじゃなきゃ、アレ、ドラゴンに見えるんだけど。」

冬馬「大丈夫ですよ。ユキ。私にもそう見えます。ねえ?準」

ユキ「そっか〜良かった〜!」

準「いや、そうじゃねーだろ!若!どう考えてもアレってヤバいやつだよな!」

冬馬「おや、自己暗示は溶けてしまいましたか?これから戦いだというのに…」

ユキ「準…使えなーい。」

準「だから、そうじゃねーだろ!あれ、明らかにモノホンだぜ!どう考えてもこっちに来られちゃ…」

 

そんなことを言ってる間にバハムートはこちらに向けて突進してきた。

 

ワン子「き、来たー!!」

与一「ちっ!おい、椎名京!!」

京「うん!」

ステイシー「はっ!随分とロックじゃねえか!」

 

狙撃をするためにステイシー、京、与一が前に出る。

 

ステイシー「オラオラオラぁー!!」

与一「食らいやがれ!7大地獄の誘い(ワールドツアー)

京「行くよ!椎名流 爆矢雨(ばくさめ)!!」

 

マシンガンが火を噴き、気を纏った矢が弧を描き、火薬を取り付けた矢がまっすぐにバハムートへと向かっていく。

その矢をバハムートは

 

避けもせず受けた。

 

命中した矢と弾丸。だが…バハムートは何事もなかったかのように突進を続けていた。

 

ステイシー「おいおい、まじかよ!効くとは思ってなかったけど、ここまで固えなんて!」

李「まさに、ロック【岩】ですね。」

ステイシー「…今、そのギャグはマジでムカつくから、やめろ!」

与一「やベー!こっちにくるぞ!」

 

突進してきたバハムートはシエラ号の目の前で、勢いよく翼を広げるとそのまま、飛翔した。

 

林冲「!あああああ!」

ゾズマ「くっ!」

 

その時の翼による風圧でシエラ号が大きく揺れ、一部のものを除いて皆が屋外スペースにしがみついていった。

 

楊志「今度は何する気?」

 

皆が今度は空へと目を向ける。すると、そこで何かの攻撃準備をするかのようにバハムートは口元を開け、構えていた。

 

クリス「…なあ?アレってもしかして…」

キャップ「もしかして!龍の息吹きか!」

モロ「なんで、嬉しそうなの!?」

 

はしゃぎながら、嬉々として叫んだキャップに対してモロは突っ込んだ。

 

百代「どけ!お前たち!」

 

さっきからずっと黙っていた百代が叫び、空を見上げながら、両手を後ろへと構えた。そして…

 

百代「か〜わ〜か〜み〜…」

 

バハムートの口からとてつもないエネルギー弾が下にあるシエラ号に向かっていく。

 

百代「破ァァ!!」

 

それに応戦するように百代は気弾を放つ。

 

二つのエネルギーはまっすぐにお互いの目標に向かっていき、中空で、とてつもない爆発とともに衝突した。

 

百代「うおおお!」

バハムート【グルオオオオオオ!!】

 

雄叫びと共に拮抗する双方の気弾。

 

そして、遂に二つの気弾は行き場はなくすかのように四散していった。

 

ワン子「…そんな、まさか、お姉さまの攻撃と拮抗するなんて…」

百代「…なるほど。こいつは一筋縄じゃいかなそうだ。」

 

バハムートが息吹きをやめると、今度はシエラ号に向けて直下降していった。それを見て、百代は獰猛な笑みを浮かべ、

 

百代「ふっ!上等だ!揚羽さん今度は止めないでくださいよ!」

揚羽「ああ、止めたとしても、聞かぬだろう?今のお前は…」

 

百代はそれだけ聞くと満足そうに笑いながら、バハムートへ向けて飛んで行った。そして、バハムートの角を掴むと、

 

百代「ここは、色々と戦いづらいんでな!とりあえず、下まで落とすぞ!」

 

空でもみくちゃにするかのようにスピンしていき、勢いよく、飯綱落としの構えへと転じた。バハムートはスピンの勢いの所為もあり、たまらず体勢を崩すと

 

バハムート【ギャアアァァァ!】

 

バハムートは咆哮を上げながら地上へと落ちていった。

その様子を側から見ていたキャップは、

 

キャップ「よし!オレたちも行くぞ!」

 

などと言い出した。びっくりして、風間、葵ファミリー共にキャップの方へと目を向けた。

 

冬馬「一応、聞くとどこにですか?」

キャップ「決まってんだろ!モモ先輩のところにだよ!」

モロ「やっぱり!まずいって、今回は!相手、本物のドラゴンだよ!」

キャップ「だからこそだろ!オレたち風間ファミリーはいつ、何時だってファミリーのために戦う。それがオレたちのはずだろう!」

 

キャップの言葉にギクリときてしまった一同。ちなみに、冬馬と準に関してはいつから風間ファミリーだったのか?というそもそもの疑問があったわけだが…この際、そんな小さなことは置いておこう。

 

ガクト「…へっ!そうだな!それがオレたち風間ファミリーだ!」

京「うん!」

モロ「そうだね!」

まゆっち、松風「はい!」『やったるぜー!オラの本気、世界に宣伝しまくってやんよ〜!』

クリス「よし!行くぞ!殿は自分に任せてくれ!」

ワン子「あ、ずるーい。クリ、一番手は私よ!」

ユキ「ゴー、ゴ〜!!」

準「ユキもはしゃいじまってるし…ったく、しょうがねえ。行きますか!」

冬馬「そうですね。」

 

そう言った後、皆で一斉に屋外スペースの端まで移動し、

 

キャップ「そんじゃ、お先失礼しまーす!」

揚羽「あ、おい!」

 

一斉に飛び降りていった。

 

人智などとうに超えている。だが、まさに今、神羅との本格的な全面戦争が幕を開けたのであった。




実は、今回複数召喚したとは書きましたが、具体的に何体かまでは書きませんでした。なぜかというと、ちょっと、今の所、どの辺りを出していくか迷っているからです。
ですから、どれを召喚してほしいか、希望がございましたら、感想の方へとよろしくお願いします。
(ちなみに、名前忘れてしまいましたけど、なんか騎士がめちゃくちゃ出てくる召喚以外という条件でお願いします。さすがにあれは無理なんで…)


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風間ファミリーvsバハムート

今回は最初、バハムートショボ目です。理由は後の方に書いてありますので、では、どうぞ!


神羅カンパニー 工場周辺

 

百代「はあああああ!!」

 

地面が近づいてきて、後少しで墜落というところで百代は下に投げつけるようにバハムートの角から手を離した。

 

バハムート【グギャァアアア】

 

それは悔しさからくるものなのか、はたまた自分の巨体を投げ飛ばした驚きからくるものなのかわからないが、バハムートは工場の土管や、柱を折り、砕きながら、叫び落ちていった。

 

地面に着いたあと、バハムートはすぐに体勢を立て直し、まっすぐに百代がいる方へと目を向ける。

百代もバハムートのそんな姿を見下ろしながら、下ろしていた腕を再び構えなおした。

 

百代(さてと、こいつの硬さはさっきの京たちの攻撃で分かっている。生半可な攻撃じゃ、傷一つつかないどころか、下手したら反撃の隙を与えることになる。

…分かっていたことだが、このドラゴン、一対一で相手をするとかなり消耗するな。)

 

先ほどの自分の投げ、本気を出していなかったわけではない。むしろ逆だ。戦いを楽しむため、意図的にスロースタートする百代にしては珍しく全身全霊の一撃と思い、叩きつけたのである。

結果、翼などが邪魔をしてかなり減速してしまい、本来の威力とは程遠い仕上がりになってしまったと自分自身分かっているが、あんなにすぐに立てるとは思いもしなかった。

 

百代「…これは、本当にまずいかもな。」

 

勝てないわけではない。恐らく、一人でもかなり時間をかければ、倒せるのだろう。

だが、ここは戦場、しかも自分が本当に戦うべき(・・・・)敵を百代は見定めている。

そうなると、どうしても今ここで消耗するわけにはいかなかった。だから、正直助かった。自分の真上(・・・・・)からくる感じ慣れた気の気配には…

 

キャップ「ほっ!」

百代「やはり、キャップか?ということは…」

キャップ「ああ、あとからみんな来るぜ!」

 

とキャップは百代のすぐ隣に着陸しながらそう言った。

言った後、数秒したのち続々とワン子たちが百代とキャップのとなりに着地した。

 

冬馬「…しかし、近くで見ると、ますます凄まじいですね。まさか、人生の中で喧嘩はからっきしの私がドラゴンと対することになるとは…」

百代「安心しろ。私も初めてだ。」

モロ「…なんでだろう?当たり前のことのはずなのに、モモ先輩が『初めて』っていうと、違和感を感じるんだけど…」

ガクト「ああ、俺様も」

百代「…何か言ったか?」

モロ、ガクト『いえ、なんでもありません!!』

ワン子「さて、どう攻めましょうか!」

クリス「そうだな。これほどの巨体だと小回りが利かないはず…ここは人数を活かし散開して、それぞれで攻めていく方式でやってみてはどうだろう?」

京「うん。いいと思うよ。実際、これだけの巨体に対して固まって動いてたら、一気に全滅なんていうことになりかねないし…」

まゆっち「はい。私もそれに賛成です。」

ユキ「じゃあ、そのやり方で…あ、冬馬とモロはどうするの?」

準「大丈夫だ。若には俺が、師岡には島津がつくことになってる。だから、安心して暴れてこい!」

ユキ「うん!分かった!」

キャップ「よし!んじゃ、行くぜ!」

 

そう言って、全員が散開していった。

 

ガクト「そんじゃ、最初の派手な一発くらいやがれ!」

 

そう言うと、ガクトは肩に担いでいたバズーカをバハムートの顔に向けてぶっ放した。

近いこともあり、見事に命中。

 

だが、

 

バハムート【グルルルルル】

 

バハムートはまるで軽く頭を打ったかのように、頭を振ると、

ガクトの方に顔を向ける。

 

ガクト「げっ!!」

 

そのまま、口を開け、ガクトの方に飛んでいく。

だが、その瞬間バハムートの横から跳んでくる一つの影があった。

 

ユキ「残念ながら、ガクトだけじゃないんだよーん!バッコーン!」

 

そう言って、ユキはバハムートの目の前まで一気に飛ぶと、自分の体と同じくらいある顔に側頭蹴りを食らわせた。

 

バハムート【グルオ!!】

 

そうすると、バハムートは悶絶するかのような声を上げるとわずかに頭が横へと弾き飛んだ。その時、口元にためていたエネルギー弾は近くのビルらしき建物にぶつかり、瓦礫と化させていた。

 

ガクト「悪い。助かった。ユキ!」

ユキ「うん!っていうか、そのバズーカ一体どこから持ってきたの?」

ガクト「ああ、これか!」

 

待ってました。と言わんばかりにその質問に対して答えようと前に出て、

 

ガクト「これは、九鬼の従者部隊のお姉さんが俺様が心配だって言って、くれたんだ。やっと来たぜ!俺様のモテ期!」

ユキ「…ふーん。」

 

ユキは特に興味がないかのようにその言葉を受け流していると、ガクトと一緒にいたモロが捕捉説明するかのように、

 

モロ「…本当は、ガクトがみんなの足手纏いになって、他のみんなが大変なんじゃないかってことで渡されたバズーカなんだ。アレ…〔ボソッ〕」

ユキ「ああ…やっぱり。」

 

本人が楽しそうなので、この事実は隠そうと話を聞いたユキは誓った。

 

クリス「おい!よそ見をするな!!」

ユキ「へっ?」

 

見ると、自分の足元が陰っていた。それが何を意味するのか瞬時に理解したユキは

 

ユキ「跳んで!ガクト、モロ!!」

ガクト「はっ?ぬお!」

モロ「うわぁあ!?」

 

ガクトはなんとか間に合ったが、モロはユキが抱きかかえる形で跳んだ。

直後、バハムートのギロチンのような爪が足場にしていた土管を切り崩していった。バハムートは感触を感じなかったので、辺りを見回したが、

 

クリス「こっちだ!ドラゴン!!」

ワン子「私たちが相手よ!!」

まゆっち「行きます!!」

 

正々堂々を重んずる武士娘3人が自分に向かってきたので、捜索を一旦諦め目の前の相手に集中することに

 

ガクトはその近くの鉄骨に手を吊るし、その上にユキは乗っかっていた。

 

ガクト「あっぶねー!なんつー威力だよ!」

ユキ「予想以上に大振りだったから助かったけど、危なかった〜。」

モロ「…ごめん。ユキ…」

 

自分が文字通りのお荷物であることを理解しているモロは助けてくれたユキに申し訳なく思い、謝った。だが、ユキは…

 

ユキ「ううん。大丈夫だよ。行きの時、モロがパラシュートの展開方法を教えてくれなかったら、僕たちペシャンコだったかもしれなかったんだもん。モロが足手纏いな訳ないよ。」

モロ「あはは…スグルの軍オタがこんなところで役に立つとは思わなかったよ。」

 

大串スグル、2-Fきってのオタクであり、モロの親友だ。そのため、彼は何度かジェット機からの脱出方法としてパラシュートの知識を頭に入れられたことがあるのだ。

 

ユキ「うん。だから、モロが足手纏いな訳ないよ!大事なことだから二回言うね!」

モロ「…ありがとう。ユキ」

ガクト「…あのよう、なんでもいいから俺様を上げて欲しいんだけど。」

 

こんなところでも扱いが雑なガクトであった。

 

 

まゆっち「はああああ!!!」

 

神速の斬撃がバハムートに襲いかかってくる。キン、キキンという甲高い音はするものの斬れる様子が一向にない。

だが、それでいい。元々斬ることが目的ではない。

もしも、身体全体を鎧で鉄だけで覆ったのなら、それは硬いが体を動かせなくなる。

ならば、必ず()がある。そこを捜し出す目的もあり、黛由紀江は刃こぼれしないために気を濃く纏った刀を振り続けていった。

そして、一区切りした後、

 

バハムート【グガアアア!!】

まゆっち「きゃっ!!」

 

バハムートが目障りな虫を払うかのように、顔を横に振る形で黛に攻撃した。それを防いだ黛は弾かれるようにとんでいった。

 

まゆっち「はあ、はあ…」

 

息を切らした目の前の相手を見て、バハムートはそれを蹴散らすために口を開け、気を一気に貯めていった。

 

だが、

 

ワン子「そこ!!」

クリス「はあ!!」

 

今まで、黛に相手を任せていたクリスとワン子が見つけた顔と頭にある節に向かって、持っている薙刀とレイピアの刃を突き出す。

 

バハムート【ギ、グギャアアア!!】

 

効果はてき面!バハムートは苦しそうに頭を揺らしながら、その刃物を抜こうとした。それに対し、クリスやワン子は離すまいと必死にしがみついた。

 

すると、バハムートは一つの鉄柱に向かって突進し始めた。

 

ワン子「まず!」

クリス「くっ!」

 

突然、方向転換したせいもありクリスとワン子は反応が遅れた。

 

ズガーンという強烈な衝撃音とともにバハムートの頭突きで鉄柱は盛大に折れた。

その鉄柱に支えられていた土管や鉄骨などがガラガラと崩れていく。

 

キャップ「ヒュー、あっぶねー!」

準「まったくだ。お前ら後ちょっとで、あの瓦礫の二の舞だったぞ。」

クリス「すまない。井上、キャップ。」

ワン子「おかげで助かったわ。」

 

クリスはキャップに、ワン子は準にそれぞれ片手で抱きかかえられながら助けられる形となった。

 

ちなみにどうやって助けたかというと、バハムートが突進して来る途中の頭上の土管にそれぞれ身を伏せそこからダイブする形でクリスとワン子を助けたのである。

 

高低差のある工場だからこそできる戦法である。

 

バハムートは刃物が取れたのを確認すると、自分に刃を向けた愚か者を確実に潰そうとまた、クリスとワン子の方へと向き直ろうとした。…かに見えた。

 

百代「川神流 星殺しー!!」

 

次の瞬間、横合いから百代の凄まじい気弾が放たれた。

その攻撃をバハムートはまるで事前に予知してたかのようにそちらに顔を向け、ブレスを放った。

 

それに対し、驚愕する百代。だが、驚いている暇はなかった。

 

二つの大きな力の衝突、当然、近くにあった工場だった瓦礫たちがその影響を受けないはずもなく、次の瞬間、

 

莫大な閃光と共に巨大な爆発が起こった。

 

女子勢『きゃあああ!』

男子勢『うわあああああ!』

 

風間ファミリーたちはその巨大な爆風に対して、瓦礫がこちらに飛んでくるのかと思わず目を瞑る。

だが、瓦礫は来なかった。気になって目を開けてみると、

 

百代「川神流 畳返し!」

 

一体いつの間に全員が集まったのか、辺りを見回すと風間ファミリー全員がそこにはおり、それをかばうかのように拳で瓦礫を畳返しの要領で反り返らせ、それを壁に自分たちを守っている百代がいた。

 

ワン子「お姉様!!」

百代「黙っていろ!ワン子!この爆発まだ続くぞ!」

 

瓦礫の壁を境に爆炎が辺りを満たしていた。

それからしばらくして、爆炎が鎮まると瓦礫の壁は音を立てて崩れていく。

 

辺りは先ほどまではわずかにあった工場の面影はなく、瓦礫一色になっていた。

 

冬馬「凄まじいですね。…というか、モモ先輩、なぜ私たちが近くにいると知っていながらあんな威力の攻撃をしたんですか?」

 

まず最初に葵冬馬が百代を責め立てるように、問い詰めていく。それに対し、百代はウッと言葉は詰まらせながらも…

 

百代「悪かったよ。…ただ、言い訳させてもらうと避けられるとは思わなかったんだ。」

 

百代は目の前のドラゴンを睨みつけながら、つぶやく。

見ると、バハムートは攻撃を仕切った余韻に浸っているのか…

 

バハムート【グオオオオオ!!】

 

と雄叫びを上げていた。

 

冬馬「というと?」

 

葵が質問を続ける。

 

百代「私はさっきからお前たちが戦っているのを見て、どのタイミングなら攻撃が確実に当たるか計算していたんだ。そして、先ほどのタイミング…確実に当たるはずのタイミングだった。」

モロ「だけど、避けられた…」

百代「ああ、考えられるのは二つ、そもそも本気を出していなかったか…それとも、

 

この短い間に戦いを学び、吸収したか」

 

一同『なっ!?』

 

百代「それほど驚くことじゃあないだろう?まゆまゆも気づいているだろう。さっき戦っていた時、わずかだが動きに無駄がなくなっていくように感じられたんじゃないのか?」

まゆっち「…確かにわずかに感じました。」

ガクト「って、じゃあ、まさか時間かけるともっと強くなるっていうことか!?」

百代「言いにくいことだが、後者ならそういうことだろうな…」

 

その耳を覆いたくなるような事実に誰もが絶句してしまった。

 

冬馬「…ですが、解せませんね。」

ユキ「え?何が?」

冬馬「相手の動きに慣れるというのならばともかく、戦いを学び吸収しているということは、言い換えれば、あのドラゴンには実戦経験というものが少なかったから、吸収しているということ…そんな、悪く言えば不完全な存在を神羅はなぜ使おうと思ったのでしょうか?」

京「あ…」

準「そういや、そうだな。一体どうしてなんだ?」

 

神羅ビル内部

 

ルーファウス「Summoned Monster Materia 通称S.M.M…それがこの生物兵器の名前…この透明の玉・マテリアにジェノバの有する異能《顕現》をフルに活用することで、人ならざる生物を兵器として扱う…それがこのプロジェクトだ。プロジェクトは成功。その結果が今目の前にいるバハムート。」

 

透明な中に何か力らしきものが漂っている玉・マテリアを空に掲げながら、ルーファウスはつぶやく。その後ろには2人の男女(・・)が控えていた。

 

ルーファウス「バハムート以外にも我々はモンスター…いや、召喚獣…とでも言うか?召喚獣を複数を生産することができた。だが、軍事面で技術力が高すぎるというのも問題だな。《顕現》の力は彼らに魂を持たせることにも成功してしまった。ゆえに、彼らはさながら卵から出てきたひな鳥のように最初は右も左もわからなかった…だから、バハムート以外の彼らには戦いの経験を積ませることにより、完璧な生物兵器とすることを決定した。

 

なぜ、バハムートだけは経験が積ませられなかったか…それは簡単だ。バハムートはスペック上、スピード以外をいうのならば、他の召喚獣を圧倒していた。他の召喚獣をバズーカとするならば、ヤツはロケット砲並みだった。だが、この二つには違いがあった。

 

例えば、バズーカならば、試し撃ちもできるだろう。だが、ロケット砲を試し撃ちなどしてみろ。一瞬で街を焦土と化させるほどの大火力、そんなもの世間の目に映らないわけがない。もみ消して映らなかったとしても、確実に九鬼には勘付かれる。

 

だから、バハムートだけは経験を積ませることができなかった。積ませた瞬間に我らが破滅することなど目に見えているからな。

 

だが…その類稀なるスペックは瞬時に戦いを吸収することにも活用できる。

 

だから、我らはバハムートを使うことー決定した。

 

さて、川神百代…いや、風間ファミリーと言ったか?その最高傑作でありながら、失敗作(・・・)でもある。我らの生物兵器を果たして倒せるかな?」

 

神羅 工場付近

 

バハムート【グルルルル…】

 

雄叫びを終えた後、バハムートはゆっくりとこちらに首を向けた。

 

百代「 …ふぅ…別に言葉にはしてなかったが、前言撤回しよう。これは、

 

私一人では倒せなかったかもしれない…」

 

静かに百代は頰に汗したらせながらつぶやいた。



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川神の人外

かなり長くなりました。では、どうぞ!
最初の方は話していることが多く、うんざりするでしょうから、部分を読めば、内容は頭に入るので、よろしくお願いします。


シエラ号 屋外スペース

 

百代たちがバハムートの戦いに赴いた直後のことである。

 

あずみ「揚羽様!あのドラゴン以外にも、人ならざる気配を漂わせたものたちを確認いたしました。その中の一部はこちらに留まっていますが…」

揚羽「他は、川神に向かった…と言ったところか?」

あずみ「はい…」

 

あずみはそう言われた瞬間、一瞬影をかざしたかのようなくらい表情になった。

揚羽はその表情に気づくと、

揚羽「英雄が心配か?あずみよ…」

あずみ「っ!?も、申し訳ありません。これから、戦いに集中しなきゃならないという時に…」

揚羽「よい。お前は忠義者だからな。あのような者にあちらに行かれたとあっては、不安になるのも仕方ないだろう。」

 

揚羽はあずみに慰めるように言葉をかけた。

その後、下の方を見つめると、

 

揚羽「だが…まさか、ここまで大和の悪い予感が当たってしまうとはな…正直言ってここまで来ると我でも魔法か何かだと思えてしまうな。」

 

2日前 神羅ビル

 

帝「川神(ここ)に、せっかく集めた従者部隊の精鋭たちの半分を置いておく?そりゃまた、なんでだよ?」

 

最初の会議を行った場所で、大和は帝に相対しながらこう進言したのである。

 

大和「言う必要はなかったので言わなかったのですが、元々、このジェノバプロジェクトというのは、九鬼の従者部隊に対抗するために神羅が出した…言わば対抗処置のような物だったと言う風にも、このレポートには書かれていたんです。」

 

そう言いながら、大和は会議の時に出したレポートを帝に見せながら進言し続ける。

 

大和「こう言ってはなんですが、九鬼の従者部隊は自分から見ても、万能だ。だからこそ、対抗するために神羅はその従者部隊と同等の力を発揮できる者たちが欲しかった。

 

そのため、ジェノバ細胞の能力はまさに棚から牡丹餅と言った感じだったのです。そうしてジェノバプロジェクトを進行するに至った。

 

九鬼に対抗する…ただ、そのためだけに!」

 

若干の怒りを匂わせるような口調で大和は言葉を紡いだ。

その後、ハアと息を整えるかのように深呼吸すると、

 

大和「だから、自分は今回の戦い、九鬼に対抗するため、という、若干子供じみた理由で、神羅が九鬼(・・・・・)に兵をよこす確率もあると踏んでいるんです。」

 

帝「ふーん、だけど、それだけじゃないだろう?従者部隊をここに留めておきたい理由は?」

 

大和「っ!?」

 

思わず、ギクリときた大和は帝のそんな言葉に対して、驚愕の表情を示した。

 

大和「…別に隠す気はなかったし、今から言うつもりでしたけど、なんで分かったんですか?」

帝「ん?勘だ。」

大和「……」

 

この瞬間、大和は直感した。ああ、この人キャップ(風間翔一)と同じタイプの人間なんだ…と

 

大和「…まあ、いいや。それでもう一つの理由なんですが、正直これは臆測にすぎない上に、自分も自身がないのですが…この戦い、多分、生物兵器に近い強大な何かが使われることがあるような気がしてならないんです。」

 

帝「何かっていうのは?」

 

大和「…実はオレ、少し前にドイツに行きまして、そこでカダージュたちに襲われたんです。1対3という正直キツイ状況でしたが、とりあえずなんとかなりました。

 

…けど、その時、あいつらの攻撃の中に気でできた黒い獣のような者による攻撃があったんです。しかも、まるでカダージュたちが気により顕現させたかのようにアレは現れました。」

 

帝「…何だ?そりゃ?」

 

大和「わかりません。ただ、分からないからこそ、アレには異様な可能性を感じざるをえませんでした。」

 

帝「なるほど。だから、ここに従者部隊の者を半分ほど残らせよ。というわけか…確かに、もしも、川神が襲われた時、実力者がいない、じゃあ川神は火の海だろうな。」

 

そこで、両者、息をつくように用意された紅茶を飲むと、

 

大和「ええ。ですから、半分はここに残り、しばらくして、何の異常もなければそちらも進軍してください。

 

これと同じような内容は学長たちにも話します。

学長たちにもここに残っていただき、ココを守ってくれと進言するつもりです。」

 

帝「しかし、そうなると、そちらに行く者たちが手薄とは行かずとも、かなり戦力が削られるだろう。そこを、神羅全軍で狙われはしないか?」

 

大和「いえ、それはないでしょう。タークス、カダージュ、さらに生物兵器に近い何か、これだけの者たちを100%の状態で戦わせるとなると、あちらも戦力を削らざるを得ない。

 

なぜなら、カダージュたちに関しては協力関係であっても、味方ではないと言った感じだし、生物兵器に近い何かに関しても、アレは顕現させた者のみの命令を聞くといった感じだった。

 

そんな物を自分たちの近くで戦わせるとなると、リスクが大きすぎる。削るくらいなら、こちらに戦力を回した方がいいと思うのは自然でしょう。」

 

帝「なるほどな。確かに言えてる。…しかし、随分と頭が回るな。元々頭が回るヤツだとは、紋や英雄から聞いてたが…」

 

大和「…この戦いは…自分の未来を決める戦いといっても過言じゃありませんから、だから、最悪の事態をずっと考え続けて、それに対処しようと思ってるだけです。」

 

そんなことを大和はどこか遠くを見つめながら呟いた。

 

現在 九鬼ビル

 

帝「…なんていうこと言ってたよ。最悪の事態を考えるっつーのが、こういう場面では一番役に立つんだがね。」

ヒューム「謙遜を通り越して、お前たちには思いつかないだろうという嫌味を言われた気すらしますな。それは…全く、あの赤子は…」

帝「にしても、赤子扱いなんだな?俺から見てもあいつの強さは川神百代やお前と同等かそれ以上に見えるがな…」

ヒューム「いくら強くても、この間の決闘のように優しさを利用されて勝ちをもぎ取られる者など赤子同然です。」

帝「はは、手厳しいな。…さて、もうそろそろ来る頃か。揚羽の方から連絡があったからな。」

 

そう言って、帝は九鬼ビルの社長室から空を見上げる。

 

ヒューム「すでに紋様、英雄様、局様を九鬼特製のシェルターに避難させました。帝様も、お早く。」

帝「あー、俺は〜…いや、いいや。」

ヒューム「!しかし、それでは…」

 

帝「揚羽が戦ってるつーのに、親であり、九鬼最高責任者でもある俺がこの戦いの行く末を見ないわけにもいかないだろう。大丈夫だ。お前らには迷惑はー…悪い、ちっとかけるかもな。」

 

ヒューム「…いえ、わかりました。それでは、私は敵が近づいてきているので…」

 

そう言って、ヒュームは社長室を後にした。そして、すぐ近くの従者たちに声をかけると、

 

ヒューム「おい、お前ら!帝様は予定変更でここで御守りする。帝様に何かあってみろ…俺の蹴りで串刺しだ。」

 

そう言われた従者たちはガクガク震えながらも、了解の意を出すように、首を縦に振った。

立場では上でも、やっぱりヒュームには敵わないと本能が叫んでいるのである。

 

その反応に満足したのか、フッと鼻で笑ったヒュームは会議室のすぐ近くの窓から飛び降りた。

 

高さ100m以上の高さから落ちたヒュームだが、何事もなかったかのように地面にふわりと着地した。

 

そして、空を見上げ、

 

ヒューム「来たか…」

 

パカラ、パカラと馬蹄の足音のような音が空中(・・)から響く。そのことに対して、訝しんだヒュームだったが、すぐにそんな疑問は消えた。

別に納得したわけではない。

ただ、ここからは戦闘以外に気をとられてはダメだと、本能が察知したのだ。

そして、雲の中から、一騎の角の生えた鎧を被った巨大な騎士が巨馬に跨りながらこちらに向かってくるのが見えた。

 

パカラ、パカラと相変わらずどうやって鳴らしているのか疑問の残る物だが、その鎧騎士は馬を着地させた。

 

ヒューム「…なるほど。確かにこの気配、人間じゃないな。お前がこの九鬼に侵攻しようとした愚かな神羅の手先だと考えていいんだな?…と、言葉が通じる訳…」

オーディン【いかにも、我が名はオーディン。我ら召喚獣の中でバハムートに次ぐ強さを持つ者なり。】

ヒューム「!?…ほお、驚いたな。言葉が通じるのか?」

オーディン【そういう貴様は何者だ?】

ヒューム「…ふむ、確かにそこまで律儀に名乗られてはこちらも名乗らざるを得ないな。

 

九鬼従者部隊 997位 ヒューム・ヘルシングだ。」

 

オーディン【?997位だと?何だ?お前ほどの者が997位だというのか?どうやら、九鬼というのは、随分と鈍った目を持っているようだな。】

 

その瞬間、カッターのような蹴りがオーディンの顔前に迫り、オーディンは驚きながらも、その蹴りを持ち前の盾でなんとか防ぐが、馬ごと後ずさりするのを余儀なくされる。

 

オーディン【ぬ…ぐ!?】

 

ヒューム「おい…」

 

その瞬間、オーディンが見たのは仁王にも似た幻像、だが、それが闘気によるものだと分かり、改めて見ると、そこには明確な怒りを宿し立っている金髪の老執事が立っていた。

 

ヒューム「…貴様に事情を分かれとは言わん。言ったところで主の名に傷をつけるだけだしな。…だが」

 

自分たちが起こしたクーデターに近いあの騒動に対して、責任を取らされ、ヒュームは0番から一気に997番まで落とされてしまった。

そのことについては自分に非があることを認めているヒュームは気になどしていなかった。

だが…

 

ヒューム「我が主を侮辱するような発言はここではやめておけ…でなければ、貴様は…

 

俺の蹴りで串刺しだ!」

 

刺すような殺気を放ちながら、ヒュームは目の前の鎧騎士を睨みつける。

 

オーディン【ふ、面白い。やってみろ!】

 

そういった瞬間、オーディンはどこからか飾り気のない真っ直ぐな大剣を出し、一気に馬を走らせ、ヒュームの方に駆けて行った。ヒュームもそれに呼応するかのようにオーディンと元へと駆けていく。

 

オーディン、ヒューム『むん!』

 

ちょうど、中央でヒュームの回し蹴りとオーディンの大剣がぶつかり合う。

ガキーンという甲高い音の後の一瞬の静寂、そして、その後、遅れて巨大な力の爆発が起きた。

 

整備された道路、周りのコンクリなどが、発泡スチロールのように砕け、舞っていく。その爆発が終わった後、両者は距離を取った。

そして、また、跳ね返るかのように激突していった。

 

ヒュームvsオーディン

 

釈迦堂「おおっと、何だ?今のありえねーくれーの気の爆発は?」

 

釈迦堂は今日も梅屋で元気にバイトをしている。

ちなみに梅屋というのは飽きやすい釈迦堂に唯一適合した職種の牛丼屋で、そのため彼は自らの仕事に満足感を持っている。

そんな中で楽しく仕事をしていると、いきなりとんでもない気の衝突を感じたのだ。

 

釈迦堂(今のは…ヒュームの野郎か?これほど、気を撒き散らしてるってことは、相手はそれほどのものっつーことかよ?…何だ?なんか騒がしいとは思ってたが、なんか知らないうちに、随分と楽しいことになってんじゃねーか!ん?)

 

ふと、気づいた。自分がいる方向の近くにえらく大きな力が来ているのを…

 

釈迦堂「…店長。」

店長「ん?何かな?」

釈迦堂「悪いんですけどね。今日ちょっと早く上がらせてもらっていいですかね?」

店長「?何だ?珍しいね。釈迦堂君。まあ、いいよ。君にはいつも来てもらってるからね。今日1日くらいなら…」

釈迦堂「そうですか。そんじゃ、スンマセンけど、お暇させてもらいますわ。」

 

そう言って、釈迦堂はさっさと身支度を済ませ、そそくさと店を出て行くと、

 

えらく大きな力を感じた方へと、ダッシュで急いだ。

5分かそこら経った頃、釈迦堂は山の中へと入っていき、大分進んだところで立ち止まった。

この辺りが、今、空から落ちてきている何かが落ちるはずの場所だと、釈迦堂は推測している。

 

釈迦堂「さぁーてと、鬼が出るか蛇が出るか…一体、なにがこっちに近づいて来やがってんだ?」

 

そんなことを言っている間に、釈迦堂の眼前に火の玉と言うには巨大すぎる何かがこちらに飛んできた。

釈迦堂はソレを落ち着きながら、跳んで躱した。

地上に落下したソレは勢いよく爆発し、

そして、その後、釈迦堂が見たものソレは…

 

釈迦堂「…何だ?こいつは?」

緑色の筋骨隆々とした肉体、そしてソレに合い過ぎている二本の巨大な角。

 

はっきり言って、悪魔だ。と言われれば、10人が10人頷くであろうというほどに異様な姿だった。

その右の巨腕にはこう刻まれていた、イフリートと…

 

イフリート【バオオオオオオオ!!】

 

咆哮を発した瞬間、あたり一面の森が文字通り一瞬で火の海と化した。釈迦堂はソレを気で防御するが、

 

釈迦堂「あちちち、こりゃ、とんでもねー。本体が本気を出した場合どうなっちまうんだ?」

 

直後、緑色の巨腕が目の前に迫る。

 

釈迦堂「うお!」

 

釈迦堂はギリギリで避けるが、頰にその一撃が掠めただけで釈迦堂の肌は軽い火傷を負った。

 

釈迦堂「あぶねーな。おい!襲って来るなら襲ってくるでそう言いやがれ!…って、そうだった。お前のほうは、もうとっくに戦闘態勢だったよな。なのに、俺の方がおめえの登場の仕方に圧倒されちまって反応が遅れちまったんだ。我ながら情けねー。相手が誰であろうと俺にとっちゃ、

 

闘えりゃ、それでいいっていうのによ!!」

 

瞬間、獰猛な笑みを浮かべた釈迦堂は自身の巨大な気を解放する。

 

イフリート【ブオオオオオ!!】

 

イフリートはそれに呼応するかのように、雄叫びを上げる。

 

釈迦堂「はっはぁ!そんじゃあ、来いよ!」

 

緑色の巨腕と黒い気を帯びた腕が交差する。

 

釈迦堂vsイフリート

 

川神院

 

一方こちらでは、ルーと川神鉄心が三体の召喚獣と顔を合わせていた。

一体は老爺のような様相に長い髭が特徴の召喚獣、

もう一体はシマウマのような模様を体に施し、1本の巨大な角と鬣にはやたらジャラジャラと着飾っているのが特徴的なユニコーン型の召喚獣、

そして、最後に青白すぎる肌と氷の結晶をそのまま糸にしたかのような髪の毛とそれを束ねる光輝く髪留めが特徴的な女性型の召喚獣だった。

 

上からラムウ、イクシオン、シヴァと額、胴体、左腕に刻まれていた。

 

鉄心「…ルー、やっぱり、ワシそっちの姉ちゃんと戦いたいんじゃがのー…」

ルー「…そんな下心にまみれた目で言われてOKを出すわけないでしょウ。ダメでス!」

鉄心「ちぇっ、ケチじゃのー。ルーは…しかし、なんじゃの?ワシらは孫子の代まで雷に呪われでもしとるのかの?

どれに当たるのかが分からなかったとは言え、まさか二体も雷を宿す者が来るとはの…」

 

そう言って、ラムウとイクシオンの二体を見る。二体はまるで、外敵を一切近寄らせないかのような様相で、雷を結界のように撒き散らしている。

 

すると、そんな視線に気づいたのか、

 

ラムウ【貴様が、川神鉄心か?】

 

と重苦しい威圧感を放つような声を言いながら、鉄心の方をラムウは見下ろす。

それに対し、鉄心は何の気なしに…

 

鉄心「なんじゃ、お主、喋れるのか?如何にもそうじゃが?」

 

と答えた。

 

ラムウ【そうか。我が名はラムウ、そして、この傍らにいるのが、イクシオン…2対1で卑怯だとは思うが、貴様の相手は我ら2体がやらせてもらう。】

鉄心「…なんじゃい?そんなことかい?

 

心配せんでも、お主らのような小童、ワシ一人で相手する気だったから、安心せい。」

 

と不遜にも鉄心は堂々と強大な力を持つ2体の召喚獣に向かってそう言いのけた。

ラムウとイクシオンはそんな対応の仕方に苛立ちを感じ、殺気とともに鉄心を睨みつけたが…やはり、鉄心はそんなものどこふく風といった調子で…

 

鉄心「それじゃ、ルー。川神院のこと、頼んだぞい!」

 

そう言った瞬間、鉄心は空高くへと飛んだ。

ラムウとイクシオンもそれを追うように飛んで行った。

 

鉄心は地上から十分距離が離れた瞬間を見極め、

 

「顕現の参・毘沙門天!」

 

闘気で出来上がった巨像の踏み蹴りを食らわせる。

0.001秒の一瞬で食らわせる闘気の攻撃。

その攻撃をラムウたちは、電撃を放電する形で爆発させ、威力を削ぐ。普通なら、ラムウたちも食らっていただろうが、さきほどから、自分の周囲に電気を張り巡らせていたラムウたちはなんとか、その一瞬に出てくる攻撃に対し、反応できていた。

とは言っても、ダメージを食らってないわけではないので、一瞬落とされたところで、なんとか立て直す形で再度鉄心に睨みを利かせた。

 

それでも、鉄心にとっては驚きであったため、

 

鉄心「こいつは…ちょっと苦戦しそうだぞい。」

 

と呟いた。

 

鉄心vsラムウ&イクシオン

 

ルー「了解でス!総代!…さて…」

 

ルーは改めて目の前にいる女性型の召喚獣に目を向ける。

 

シヴァ【クスクスクス】

 

一方のシヴァは、何がそんなにおかしいのかわからないが、ずっと笑い続けていた。

 

ルー「ふぅ…笑っているぐらいなラ、早々に退いて欲しいものだネ。私としては無駄な戦いは極力避けたいんダ。」

シヴァ【すぅぅううぅ】

 

だが、そんなルーの言葉には一切耳を傾けずシヴァは息を吸い込む。そして、

 

シヴァ【ビュウウゥゥウ】

 

一気にそれをとてつもない冷気として吐いていった。

シヴァの足元から順に地面が凍え、氷の柱を立てていく。

しかも、その大きさが半端じゃない。あっという間に2メートルほどになると、ソレはまるで津波のようにルーの方へと襲いかかっていく。

 

ルー「退く気はなしか…仕方がないネ。」

 

そう言った瞬間、ルーは構えを取り、

 

ルー「ファイヤーストリーム!!」

 

炎を纏いながら勢いよく、氷の柱へと突進していった。

ルーが纏った炎と氷の柱が激突した瞬間、勢いよくその氷が水蒸気となって、周りを覆っていく。

だが、あまりにも、そのスピードが速すぎる。もはや、水蒸気の暴威と言っても過言ではない。

その水蒸気に半ば押されるようにルーとシヴァは後ずさりをする形となる。

 

ルー「…これは修行僧たちを川神院から出しておいて、正解だったネ。私の攻撃で大火傷なんていうことになったら、川神院師範代として、恥晒しダ。」

 

わずかに汗を垂らしながら、ルーはそんなことをつぶやく。

 

ルーvsシヴァ

 

これより、川神にて文字通りの人外と人外の人間が相対する。




今回はオーディンの馬つながりで鉄心の相手にイクシオンを追加しました。正直言って、ちょっと無茶したかなーと思ってるのですが…
それと、聞きたいのですが、この召喚獣戦、別に経緯を書かなくても話を進めることができます。
これから何度かそういうことがあるので、その度に聞いていこうと思うのですが、この召喚獣戦、詳しくやって欲しい人手を挙げてー!はーい!

ということで、感想とともにそのあたりよろしくお願いします。


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それぞれの戦い

辰子「あれ〜?師匠いないの〜?」

店長「ああ、今さっき帰っていったぞ?なんか、忙しない様子だったな?」

天使「ちぇーっ!なんだよ!?師匠がいないんじゃ、梅屋で奢ってもらえねーじゃん!」

 

板垣家はキツキツの家計のこともあって、この梅屋にたまに来ては牛丼をたかりに来てる。

何度もいうようだが、キツキツの家計にはタンパク源が非常に重要になってくる。なので、梅屋に牛丼をたかれないとなると、結構な痛手となる。

 

竜平「ちっ!こうなりゃ、食い逃げでもするか?」

亜巳「やめな。最悪、師匠に殺されかねないよ。」

 

亜巳がそう言った後、板垣家は揃って梅屋を出ていった。

 

亜巳「さて、どうしたもんかね?」

辰子「ねえねえ、亜巳姉?」

亜巳「なんだい?辰子?」

辰子「なんだかさ…人通りが段々と少なくなってきてるような気がするんだけど…」

天使「あん、そうか?タツ姉」

竜平「ああ、それオレも思ったわ。なんか、まだ昼だっていうのに、閉まってるレストランもあるしよ。」

 

言われて、周りを見てみると、確かに昼になろうとしているというのに、ガラガラとシャッターを閉めているところや、そそくさとどこかへと逃げていくかのように、去っていく人の姿を確認できた。

 

そんな、全く以って奇妙な街の成り行きを見て、頭に?マークを浮かべる板垣家。遂には、梅屋の店長なども、ガラガラとシャッターを閉め始め、辺りは板垣家以外誰もいない商店街になった。

 

竜平「なんだ?こりゃ?」

【ググラアアア】

 

竜平がそう呟いた瞬間、背後から何かの唸り声が聞こえてきた。その唸り声に慌てて後ろを振り向く。

 

そこには

 

犬とも何とも取れない。ただ、獣に何枚もの刃を装着させたかのような、そんな獣が出てきた。しかも、一体や二体などではなく、ゾロゾロと出てくる。

 

天使「…なあ、亜巳姉?最近の犬は服を着せるのが流行ってるっていうけどよ?あれも、流行りの一種なのか?」

亜巳「さあねえ、あたしは犬飼ったことないから分かんないけど…」

 

もう一度、獣を見る。すると、獣は口元からダラダラとはしたなくヨダレを垂らしながら、板垣家を見ている。

 

亜巳「…あの犬ども。どうやら、あたしたちを食いたいようだよ。躾がなってないねぇ。こうなりゃ、あたし直々に躾けてやるよ。」

天使「ああん!なんだと?上等だ。あたしら今、腹減って気が立ってるんだ。逆にてめえら食ってやるよ。このボキャー!」

辰子「食べても美味しくなさそうだよ〜」

竜平「オレが突っ込むのもおかしいと思うが、天使も本気で言ってるわけじゃないと思うぞ。タツ姉。」

 

そんなことを言ってる間に、獣は板垣家へと襲いかかってきた。突進してきて、まず、竜平の方へと歯を向け、バクンと噛み付いてきた。

 

だが、竜平は屈むことで噛み付きから逃れ、そのまま、獣の土手っ腹に一発強烈なパンチをカウンターの要領で放った。

 

強力な一発に獣は一瞬、宙を浮かし、一瞬悶絶するかのように息を詰まらせるが

 

【グワアアア!】

竜平「っ!?かってーな!おい!」

 

すぐに体勢を整え、竜平に噛み付き攻撃を再開する。

竜平は驚きながらも、一歩引くことでその攻撃をかわし、天使たちの元に戻っていく。

 

竜平「おい!こいつら半端じゃねーぞ。俺ほどじゃないにせよ。相当タフだ。」

亜巳「ああ。みたいだね。仕方ない。タツ。本気出していいよ(・・・・・・・・)。」

辰子「ん…」

 

亜巳がそう言った瞬間、辰子から猛烈な殺気が振りまかれる。その殺気の量に思わず先ほど竜平を攻撃をした獣はたじろぐが…

 

その先のことはその獣は覚えてない。なにせ、その後、獣はいつの間にか他の獣たちがいるところまで吹っ飛んでいたんだから。

 

【グ…ガ…アア…】

 

最期にそう呟いたかと思うと、ゆっくりとその姿は虚空へと消えていく。消えていった後に見えるのはこんな商店街に一体どこにそんなものがあったのか。バス停の看板を思い切り振り抜いていた辰子の姿だった。

 

亜巳「へえ、死体が残らないのかい。これはやり易くていいね。」

辰子「アアァァァ!!!」

天使「ヒャッハー!!そんじゃ、ま、暴れさせてもらうぜ!!」

竜平「へっ!うるさく言う奴がいないところで、暴れられるっていうのもいいもんだぜ!」

 

板垣家と獣同士が争おうとしたちょうど同時刻、川神市周辺では…

 

マルギッテ「不死川心。いつものように、ヘマをやらかしてお笑いキャラにならないことです。もし、そうなった場合、私が狩ると知りなさい!」

心「お笑いキャラとはなんじゃ!?お前、此方のことをそんな風に思っておったのか!?」

武蔵小杉「あ、あのー、絶賛、敵が目の前にいるんですけど、先輩方…」

マルギッテ「あなたにも同じことが言えます。直接話したことはありませんが…不死川心と同じような雰囲気を漂わせているので。」

武蔵小杉「雰囲気だけで!?」

心「だから、お前は此方のことをなんだと思っとるのじゃ〜!?」

 

そんなことを話している心のたちの目の前には、板垣家の前に現れた獣と全く同じ獣たちがのしのしと前進してきた。

現在、マルギッテたち…というより、マルギッテは猟犬部隊のリーダーを務めていたところから、九鬼の従者部隊の一部隊を指揮するのに的確ではないかということで、九鬼従者部隊を率いながら、川神の一角にて待機していた。

 

ちなみに、心たちがなぜここにいるかというと、心の方はS組の中で自分だけが戦闘に出ないというのは、屈辱だったと言うのもあるが、それ以上に友達の黛由紀江に「お願いします!川神を守ってください」と言われた方が強い。

 

で、武蔵小杉は単純に家名を上げるためにという本当に至極単純な理由である。

 

マルギッテ「…本来なら、中将もこちらに来られるはずでしたが…なぜか九鬼がそれを全力で阻止したらしく、中将はこちらに来られないと言っていました。」

心「当たり前じゃ!!あんな親バカ、こんな戦場に来てみよ。あの獣の騒ぎどころではない!確実にこの戦場が混沌と化すわ!」

 

事実、クリスの父親であるフランクはただの娘の喧嘩にジェット機などを応援によこすほどの親バカぶりを見せている。

街中でそんなものを使われてはどうなるかなど、文字通り、火を見るよりも明らかである。

 

【グワアアア】

 

獣の一匹が咆哮を上げたと同時に、獣たちは突進してきた。

それを確認すると

 

マルギッテ「まあ、いい。では、九鬼従者のものたちよ!私に続きなさい!」

九鬼従者部隊『おおおお!!』

 

マルギッテのトンファーを掲げながらの号令と共に従者部隊たちが一斉に獣の大群へと向かって行った。

 

そして…

 

武蔵小杉「まずはこのプッレーミアムな私、武蔵小杉が…

【グオオオ!】えっ?ちょっ、待っ、まだ私何も…ヒデブ!」

 

武蔵小杉が一瞬の内にやられた…

 

マルギッテ「…今のように、単独では攻めず、なるべく2対1を心がけるようにしなさい!」

心「…あやつ、一体何がしたかったんじゃ?」

 

幸いにも不死川の方は武蔵小杉の犠牲のおかげでお笑いキャラにならずに済んだ。

 

心「どういう意味じゃ!?」

マルギッテ「何を一人で喋っているのですか?不死川心?」

 

神羅 住宅街

 

神羅は本部である神羅ビルを中心に、組織展開を行っている。

以前も言ったように、それは社員の住宅街であったり、工場であったり、または派生会社であったり、児童遊戯施設などなど、そこから離れられないような者のために、そこで暮らせるだけの最低限の物資があるようにしてある。

そのため、神羅は会社というより、その実、街といった方が正しいと思えるような風貌をしており、神羅の中にはトンネルがあったり、道路があったりなどもしている。

 

更に、神羅ビルからどんなに遠くてもその建造物が同距離に位置させるために、神羅は神羅ビルを中心に円を描くようになっている。

 

現在、九鬼揚羽一行はその円でちょうど北に位置する場所、そして、神羅ビルに最も近い位置に位置付いている。

住宅街の中心に立っている。(百代たちが闘っている工場エリアは東方面)

 

ちなみに、ここまで色々と障害物があったが、それについてはまあ、なんというか一蹴という言葉が似合いすぎるほどの揚羽たちの蹴りの連打でボコボコにされていた。

 

 

で、今現在、九鬼揚羽たちがなぜ止まっているかというと…

 

揚羽「さて、ここで三手に別れるぞ。我とゾズマ、クラウディオ、あずみ、ステイシー、李、燕と従者部隊100名は全員で神羅に乗り込み。義経、弁慶、与一、その他従者部隊150名は周辺や百代たちの方角における戦闘の補助。そして…梁山泊、お前たちは本当に梁山泊メンバーだけでいいのか?」

林冲「ああ。私たちは曲がりなりにも、傭兵部隊。こういう乱戦の中をどうすれば、生き残れるかぐらいは心得ている。」

楊志「それにあくまで私たちは、私たちの顔に泥を塗ったあの長銀髪男に落とし前を付けさせるっていうことで、あの飛空挺に乗させてもらったからね。」

史進「ここらが別れどきってわけなんよ。」

公孫勝「え〜?面倒だよ。このまま、九鬼についてけばいいじゃん。」

武松「公孫勝、後でゲーム買ってやるから、な?」

公孫勝「ブー…」

 

そんなわけで、それぞれ、三チームに分けた後…

 

揚羽「それでは…散!!」

 

各々違う方向へと走って行った。

 

神羅ビル 玄関

 

ここには、二人の男が待ち構えていた。

一人は二十代半ばであろう赤髪とゴーグル、目元の傷が特徴的な青年、名はレノ。

二人目は三十代はいってそうな顔のスキンヘッドの黒人男性、名はルード。

 

レノ「…なぁ、相棒?前からやけに強え気配がすんだけどよ?これって…」

ルード「残念ながら、本物だな。」

レノ「だよなぁ。めんどくせーけど。仕事の時間ですか、と…」

 

そう言うと、レノはダルそうに屈めていた腰を上げた。

すると、腰から愛用の警棒を取り出し、

 

レノ「ルード、他のタークスに連絡は?」

ルード「既に済ませてある。残りの神羅兵にもな。後は到着を待つだけだ。」

レノ「おっと、さすが〜、そんじゃ、ま、お仕事開始としますかね!相棒!!」

ルード「ああ。相棒。」

 

神羅と九鬼。

神と鬼の激突が始まる。




すみません。前長すぎたせいで、皆さん、読みづらかったでしょう?
本当に申し訳ありません!

で、もしかしたら、目にしていてなお、いいや、と思った人がいるかもですけど…
前回の人外の戦闘、という回…詳しくやってくれた方が嬉しいという方。感想くれるとありがたいです。つまりは続きを書いて欲しいという方。
いえ、めんどくさいというわけではないんですが、ただ、これをやってしまうとクライマックスまで行くのにすんごく長くなってしまうのです。

それが嫌だという方もいるでしょうから、感想を聞かせて欲しい次第なのでございます。はい…

あ、ちなみに、タークス戦も詳しくやらずに飛び飛びでできるのですが、そちらはどうでしょうか?

すみません。読書様に采配を任せきりで…ただ、やっぱり、クライマックスを早く出せ!という方もいるでしょうから、どうか、感想をお願いします。


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鬼vs神

すみません。随分と遅れました。ちょっと、半端なところで終わらせてしまいました。




神羅 玄関フロア

 

バタンと扉を開き、入っていく揚羽たち。

 

そこには…

レノ「ようこそ。九鬼の皆さん…こちら神羅カンパニー本社玄関フロアでございまーす、と」

 

ふざけた雰囲気の赤髪の青年がふざけた調子で出迎えた。

 

ステイシー「あ?なんだ?てめえ?ここの門番か何かか?」

レノ「門番って言えば、確かにそうだけど…その前に自己紹介しねーとな。俺の名前はレノ。こっちのでけえのがルード。よろしくよ、と。」

 

そう言って、自分の隣にいる大男を紹介した。

そんなすっとぼけた返しにあずみはイラつき

 

あずみ「おい、てめえ。いい加減にしねえと…「よしなさい。あずみ。」…は?」

 

自分が喋ってる途中に横から割り込むような形でクラウディオがあずみをなだめた。

 

クラウディオ「これ以上話し続けていたら、それこそ彼の思う壺になります。何より、彼ら二人の相手は私たちが務めますので、あなたは神羅の社長室に行くことに専念しなさい。」

あずみ「っ!分かりました。…は?今なんて?」

クラウディオ「ですから、彼ら二人の相手は私とゾズマがやります。その間にあなた方は行きなさい。」

 

クラウディオとゾズマが前に出る形でレノとルードの前に立つ。

 

あずみ(なっ!?九鬼従者部隊の3位と4位であるこの二人は、本来最後まで、揚羽様にお供するはずたったはず…その予定を、完璧執事であるクラウディオ自らが破棄するとは…あいつらはそれほどの相手だということか?)

 

あずみはそう考え、困惑した。、

 

ルード「完璧執事のクラウディオ・ネエロと火薬使いのゾズマ・ベルフェゴール…」

クラウディオ「おや、私たちを知っているのですか?」

レノ「当然だぞ、と。敵さんの情報を掴むのも戦う前の常套手段だし、何よりあんたら二人って裏でも表でも、結構有名だからな。」

ゾズマ「ほう、それは光栄だね。私たちのようなたかが執事ごときをマフィア気取りのボディーガードに知って頂けているとは。」

ルード「褒められてる気がしないな。」

 

そんなことを話している間に、彼らの間にある空気は段々と変わっていく。その感覚に後方にいる従者たちは息を飲む。

 

チリっという音がしたと誰かが思った

 

瞬間…

 

一番最初に動いたのは、レノだった。レノは真っ直ぐにクラウディオに目掛けて突進していく。

 

レノ「まずは挨拶代わりだ。受けとれよ、と」

 

そして、側頭蹴りをかます。左腕でクラウディオはそれを難なく受け止め、開いていた右手を握りこぶしに変える。

すると、レノの方へと引き寄せられるかのように、糸が集まっていく。

 

レノ「おっと」

 

レノもこれをバク転して距離を取るように避ける。

 

クラウディオ「ほう。いい動きをしますね。これを読むとは…」

レノ「…の割には、全然驚いてるように見えねーけどな!」

ルード「全くだ。」

 

と、クラウディオと後方を陣取り、拳を握ったルードは呟いた。そして、強烈なストレートを叩き込もうとした瞬間、

 

ゾズマ「オレを忘れられては困るな。」

 

ゾズマがバチンと指を鳴らす。すると、クラウディオの後方でありながら、小さな爆発が起きた。

 

ルード「む!?」

 

腕を交差することでその攻撃を防御するルード。

後方に自分で飛びながら、その爆風から逃れる。

 

クラウディオ「ゴホゴホ、全く、危ないことをしますね。私のすぐ後ろを爆発させるなど…」

ゾズマ「すまないな。だが、助かっただろう?」

クラウディオ「ええ。まあ…」

レノ「ったく…もう、老害だっていうのに無茶するなよ、と。」

ルード「ああ。そんなことをしなければ、オレの拳一発で済んだものを…」

クラウディオ「いえいえ、まだまだ私たちも若い方々に負けて入られませんからね。」

 

そんな戦いを後ろで一瞬呆然と眺める九鬼従者たちに対して、

 

ゾズマ「何をしている?早く行け!ここは俺たちに任せてな。」

揚羽「うむ、頼んだぞ。ゾズマ。その間に私たちは上に行く。皆、行くぞ!」

 

揚羽の号令により、クラウディオとゾズマの間をすり抜けるように従者たちは通り越し、そのまま、階段の方へと走っていき、その後、なにごとかの指示を揚羽が飛ばした後分散していった。

 

レノ「…いやはや、大したもんだよ、と。俺たちの横を通り過ぎさせておいて、仲間に手を出させないためにあそこまで俺たちに動かせないなんてな(・・・・・・・・・・・・・)。」

 

そう。レノとルードはすきあらば、九鬼の部隊の戦力を減らすために動こうとしていた。だが、できなかった。

 

なぜなら、目の前にいる男二人がことごとく自分たちの動く先を阻んでくるビジョンを彼ら二人は見たからである。

 

クラウディオ「…いえ、こちらこそ驚かされました。(隙あらば、彼らを仕留める気でもいたんですが…こちらも彼らの動きを読めるように、彼らもこちらの動きが読めるというわけですか…)」

 

なんだか、同じことを考えて同じように止められているという事実は苦笑物だな、とクラウディオは心の中で笑った。

 

ゾズマ「これは…凄まじいな。九鬼に欲しいくらいの人材だ。俺たちが苦戦させられるビジョンをやすやすと見せてくれるとは…」

 

お互い、達人同士だからこそ、彼らはほとんど動かずとも、どのような結末を迎えるかということを頭の中で想定することができた。

そして、そこからどうやって勝利につなげていくのかも…

 

クラウディオ「…さて、では行きますか。ゾズマ」

ゾズマ「了解した。」

レノ「来るぜ〜。ルード」

ルード「ああ。分かってる。」

 

また、空気が緊張する。そして、今度もそのすぐ後に…

 

クラウディオ「はっ!」

ゾズマ「ふん。」

レノ「おらよ、と。」

ルード「むん!」

 

彼ら四人は激突した。

 

バゴーン

 

ステイシー「うお!なんだ?今の音!?」

李「クラウ爺たちが激突した音でしょう。しかし、ここまでの衝撃音…どうやら、彼らは本当に強敵だったようですね。」

 

神羅の廊下をかけながら、ステイシーと李は言い合っている。現在、揚羽、燕と別れることにより、こちらの班にはあずみ、ステイシー、李そして従者部隊約70名がいた。

 

彼らは歴戦の猛者であり、当然幾たびの戦場をかけてきた経験がある。だが…

 

九鬼従者「ぎゃあ!?」

あずみ「っ!?止まれ!」

 

ズザッと全員が同時に止まり、そして、後ろを振り向く。

 

ステイシー「おい…なんか少なくなってないか?私ら…」

李「はい、少なくとも70人いました。ですが…今は…」

 

ザッと見渡してみると、50人そこらしかそこにはいなく、どう考えても、数が減っていることがわかる。

 

あずみ「無音殺人(サイレントキリング)忍ら(あたいら)の分野なんだけどな…ここまで、あたいに気付かれずにやってくれるとは…だけど、ここまで派手にやったらさすがに気配がバレるけどな!!」

 

言いながら、クナイを柱の陰や壁に向かって投げつけた。

 

あずみ「出てこいよ!居場所がバレている以上、もう無音殺人(サイレントキリング)が効かねえのは分かってるだろう?」

 

すると、長身の赤毛の女性と金髪の平均身長並みの女性がそれぞれ姿を現した。

 

あずみ「やってくれたな。あたいらに気付かせずにここまで…」

赤毛「そこまで難しくなかったわ。ここまで来る間にレノとルードから敵がどうやって分散したのか分かったから、後はココで待ち伏せていれば、あなたのようにどれだけ気配探知に優れていようと、この多人数のおかげであなたたちの気配探知能力は私たちの気を文字通り気取られることなく、最後までやるはずだったんだけどね…」

 

言いながら、ジト目で横にいる金髪の女性を見つめた。

 

金髪「うっ!だ、だから言ったじゃない!私は姉さんほどサイレントキリングはうまくないから姉さんが全部やってくれた方が確実だって!」

赤毛「だからと言って、もう少しやりようというのもあるでしょう?イリーナ…まったく…おかげでこんな廊下で乱戦をしなきゃならないんだから。」

 

そう言いながら赤毛の女性がバチンと指を鳴らすと女性2人の後方とあずみたちの後方から囲むような形でゾロゾロと神羅兵が出てきた。

 

あずみ「……」

赤毛「改めまして、私の名前はシスネ。こちらは妹のイリーナ。状況は分かってるわよね。できるなら、無条件降伏が望ましいんだけど…」

あずみ「…へっ!一つ聞いておくけどよ。敵地に乗り込む時、わざわざあたいたちがあんたらに地の利がある場所を何の対策もせずに近寄ると思うか?」

シスネ「…何?」

 

今度はあずみがバチンと指を鳴らす。すると、あずみたちの後方にいる神羅兵たちが悲鳴をあげて、次々に倒れていった。

 

シスネ「あれは…馬鹿な。片割れの従者部隊!?

ということはまさか、上に行ったのは…」

あずみ「ああ。こちらとしても、賭けだけどな…」

 

九鬼ビル 上層部

 

ツォン「なるほど。随分無茶をする。まさか、こちらに来たのがあなた方2人だけとは…」

 

言いながら、ツォンは目の前にいる2人の女性に対し、警戒の意味も込めた睨みを利かせる。一人は九鬼揚羽もう一人は松永燕。

 

揚羽「ふっ。こちらとしても、お前たちの陣地に押し入るわけだからな。それ相応の覚悟を持って、努めさせてもらうさ。」

ツォン「だが…もしも、彼らがあちらで全滅した場合や、私がこちらに応援をよこすように指示を出せば、一気にあなたたちは窮地に立たされる訳だが…」

燕「それは困るねん。何より、今この間にも指示を出されるようじゃ…ね!」

 

言いながら燕はツォンに正拳突きを繰り出し、そして、それを左手で受け流したツォンだが、後手に持っていた通信機を落としてしまう。

 

ツォン「鋭いな。…中々の腕だ。」

燕「それはどうも。揚羽さん私がこの人の相手してますから、お先にどうぞ!」

揚羽「!?」

 

揚羽は驚いた。実はこのツォンという敵に関してはヒュームに並ぶと聞かされていたので、2人で相手をすることになるだろうと予想を立てていたからである。

何よりも…

 

揚羽(こいつは負ける戦は絶対にしない。だからこそ、松永燕という武士娘は無敗を貫き続けることができた。

この男は正直な話、我らが2人でかかって勝てるかどうかという敵だ。

それでも、勝てると踏んだのか?燕は?)

 

疑問に満ちた表情を燕に向ける揚羽。それに対し、燕は貼り付けたような強気の笑みで返した。

明らかに強がりだと分かるが、そこにはわずかながらでも確信があることも揚羽には理解できた。

なので、揚羽は、

 

揚羽「…分かった。先に行くぞ!燕」

燕「おまかせあれ!!」

 

揚羽が背を向け、最上層へと上っていく。すると、燕とツォンがお互い弾かれるように距離をとる。

 

ツォン「…随分と、無茶をするんだな。君は利口な生き方をするタイプだと聞いていたんだが…」

燕「うん。でも、たまには無茶をしないと…スポンサーの方々もガッカリさせちゃうと思うから。(まあ、もちろん、嘘だけど…)」

 

両者は腰を屈めた。次の瞬間、上段蹴りの衝突による爆音が放たれる。



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風間ファミリーvsババムート 2

神羅 東方面 工場地帯

 

クリス「はあ、はあ、…なんてヤツだ。」

 

クリスは今現在の戦況を見て、それを分析した結果、目の前にいる敵は間違いなく化け物だと結論付けた。

 

クリス(本当に…モモ先輩の言った通り、こいつ…段々と強くなっていってる…私たちがローテーションで回し回しに戦っているというのに、息切れを起こしてしまうとは…)

 

現在、バハムートは百代と戦っている。

百代の気弾による攻撃をバハムートは時に避け、時に口から出す気弾によって弾き落としている。明らかにバハムートからは動きの無駄がなくなっていってる。

 

なんとか、互角の状況を作り出している。

 

それが、現在の状況というところである。

 

そんな様子を冬馬と準は陰ながら観察していた。

 

冬馬「マズイですね…素人目でも分かるほど、バハムート(かれ)の動きは良くなっていってる…これではいずれ、私たちが負けてしまうかもしれません。

せめて…後一手…後一手あれば、こちらの戦況も動くかもしれませんが…」

準「後一手って言ったって、それつまり、大和を待つってことだろう?時間稼ぎをするにしたって、今の状況で時間稼ぎなんていう悠長なこと言ってたら、どんどんあいつに強くなられちまうぞ。ローテーションはいい手かしれなかったけど、その実、あのドラゴンにどんどん学習させる隙を作っちまってるみたいだし…」

冬馬「ええ。そうですね。ですから…超攻撃(・・・)的に時間を潰します。」

 

そう言って、冬馬は手に持っている通信機を耳に当て、

 

冬馬《聞こえますか?皆さん。》

まゆっち「この声は葵先輩ですか?はい、聞こえてます。」

キャップ「こっちも聞こえてるぞ〜!」

ワン子「聞こえてるわ!」

ユキ「なに〜?冬馬〜」

準「ま、俺は言わずもがなだな。」

クリス「聞こえてるぞ!」

京「聞こえてる。」

モロ「うん。僕も聞こえてるよ。」

ガクト「おう、聞こえてるぜ!」

百代「何だ?手短に話せ!」

 

冬馬《これから、彼に対する相手をローテーションではなく、団体によるチームワークによって相手しようと考えてます。》

 

まゆっち「え?それって、つまり…」

冬馬《はい。一塊となり、彼に一斉攻撃を仕掛ける形で彼の動きを止めていこう、と考えています。》

クリス「なっ!?危険すぎる!さっき、自分が言った通り、そんなことをして一気に全滅、なんていうことになったら、笑い話にもならないんだぞ!」

冬馬《はい…ですが、気づいているんではないんですか?そうやって、ローテーション方式でやっているからこそ、彼に段々と動きを読まれやすくなっていってることに…》

皆『!?』

冬馬《武術の素人である私でも気づくということは相当です。ならば、彼に動きに慣れさせない意味合いも含めて、彼に対する攻撃を一斉砲火のような形にした方がいいと考えたんです。》

百代「なるほど…確かに一理ある。だが…賭けもいいところだ。」

 

百代はそう言いながらも、バハムートに対する攻め手を緩めなかった。

 

冬馬《賭けでもしない限り、彼の動きを大和君が来るまで…もしくは彼を倒すにはとてもじゃないが、成立しないと考えたんです。》

皆『……』

冬馬《ですが…飽くまで彼の相手をするのはあなた方です。これはあなた方で決断して欲しい。》

 

百代はバハムートの顔面を蹴る形で距離を取り、工場地帯にある一つの土管に足を止めると、

 

百代「…いいだろう。その賭け乗ってやる。文句ある奴はいるか?」

まゆっち「いえ、ありません。」

キャップ「オレもいいぜ!」

ワン子「文句なんて無いわ!お姉さま!!」

ユキ「異議無〜し」

準「同じく。」

クリス「了解した。」

モロ「分かったよ。と言ったって、僕もやること特にないかもだけど…」

ガクト「おう、分かったぜ!」

 

冬馬《…では、次に彼が動き始めた瞬間、私たちも動き始め、各々の力を最大限に活かした一斉攻撃を開始しましょう。》

皆『了解!!』

 

一方、バハムートはそんな彼らの様子を見て観察するでもなく、ただ、宙に浮きながらそっぽを向くかのようにどこか遠くを見つめながら、

 

バハムート【グルルルル…】

 

と唸っていた。だが、本能の所為だとでも言うべきか…彼はすぐに今、自分がすべきことを思い出したかのように下へと向き直り、

 

バハムート【ギャオオオオオ!!】

 

宙から大地へと一気に降下していった。

 

百代「…それじゃあ、まあ、行くぞ!!」

 

百代もそれと同時に土管から跳び、その下の方々でもそれぞれが動き出していった。

そして、バハムートの顔面目掛けて一気に拳を振り抜く。

ガキーンと、とても拳と顔面同士がぶつかったとは思えない鈍い音が鳴り響く。

 

百代「ふぅ…はあああ!!!」

 

気合いのこもった雄叫びと共に拳と蹴りによる連撃を飛ばす。それをバハムートは顔だけで受けるだけでなく、なんと巨腕を百代と同じ様に動かすことによりさばいていった。

 

百代「…ちっ!さっきの私との戦闘でもう十分に吸収できたというわけか。これは確かに賭けに移行してよかったかもな。」

ユキ「モモ先輩!!」

 

後ろからユキの声が聞こえてきた百代はそれに応えるかのように、バハムートの腕を振り払うように拳で弾き飛ばした。

すると、ちょうど後ろからユキが百代と同じ地点まで飛んできたところだった。

 

百代「行くぞ!!合わせろ!ユキ!」

ユキ「うん!!」

 

そう言うと、百代とユキはそれぞれ左足と右足をクロスさせるような形でバハムートの顔面に蹴りを入れた。

 

バハムート【グルオ!】

 

たまらず悶絶し、顔をかち上げられバハムートは腹を空に向けるような形で仰け反ってしまった。

さらにそれでは終わらず、百代とユキはバハムートの前両足を伝って走って行き、

 

百代、ユキ『はあああああ!!!』

 

顔面に向かって、思い切り2人合わせてカカト落としを繰り出した。

 

バハムートはそのミサイルの砲弾のような蹴りを受けた影響により、宙ににいられなくなり、フラフラと下へと落ちていく。

 

ガクト「オラァァァ!!ここでいっぱぁぁあつ!!」

京「当てる!爆矢雨(ばくさめ)!!」

 

そう言ってガクトと京は空へバズーカと弓を向け、勢い良く放った。

京のフォローもあり、二つとも同箇所に命中。火薬の爆音が響く。

だが…バハムートは効いているかどうか微妙な感じである。

それでも、一瞬でも彼はガクトと京の方へと注意を向けてしまった。その一瞬の内に…

 

まゆっち「行きます!!やあああぁぁあ!!」

 

黛由紀江が跳び、バハムートの上を陣取り、神速の斬撃を放つ。

 

まゆっち「阿頼耶!!」

バハムート【グギギャアアア!!】

 

集中させた気による神速の斬撃が容赦なく、バハムートの背中を抉る…かに見えた、が…

 

まゆっち「くっ!やはり硬い!」

 

奇しくもと言うべきか、やはりと言うべきか彼女の斬撃はバハムートの表面を削るような形で終わってしまった。

…まあそれでも、血を出せただけ大金星だとは思うのだが…

 

そして、己に血を出させた相手を龍の王は決して許さない。

射殺さんばかりの殺気を放ちながら、黛の方へと睨みを利かせその巨腕で引き裂こうと黛の方へと爪を立てようとした時、

 

クリス「どこを見ている!」

ワン子「あなたの相手は私たち(・・・)よ!」

 

今度はクリスとワン子が横合いから飛んで突進してきた。

攻撃の所為もあり、いつの間にかバハムートは工場のすぐそこまで落ちてしまっていた。

 

そして、ここでようやくバハムートは気付いた。彼らが戦闘法を変えてきていることに、だが、遅い。

 

容赦なくクリスとワン子の突きが鎧が削られたところへと突き刺さっていく。

そして、その間に黛は早々とその場を離れていった。

 

バハムート【グ…オオオオオ!!】

 

削られた部分に容赦なく突き刺さる刃物。それはいくら巨体を誇っているバハムートとは言え、深々と突き刺さられてしまっては致命傷とは行かずとも重傷である。

 

だが、そんなことを気にしている余裕はバハムートには無かった。次の攻撃に警戒しての行動ではない。

 

目覚め始めた王のプライドとでも言うべきか、彼はこのような者たちに総出で落とされるなどという恥ずべき姿を彼自身我慢ならなかった。

 

だから、彼はまず飛ぼうとした。

 

ここで問題である。意地になって周りも見えず、焦っている瞬間に蜘蛛の巣や、羽虫などが自分の前に出てきたら我々人間はどう思うか?答えは簡単…苛立つ。

 

ババムートが飛ぼうとした瞬間、2人の影がババムートの後頭部へと飛び移り、

 

準「おいおい、空もいいが、偶には大地もいいもんだぜ?ドラゴンさん!」

キャップ「そうそう、地面じゃ、空では感じれない風もある。ってことで…」

準、キャップ『オラァァァ!!』

 

ババムートの後頭部に両方の拳が叩き込まれる。

準の方は強いことには強く、実際、ユキと肩が張れるくらいには強い。彼のスタイルはボクシングな訳で…突き技は特に強い…のだが、彼自身気付いているとは思うが、比較的なんでもこなせるオールマイティ、だからと言うべきなのか取り立てて、彼の拳が強い…というわけでは無かった。精々、突きに関してはそこらのプロボクサーより上、程度である。

そして、風間の方は強いと言うより速いと言った方が正しく、彼の拳は確かに速いのだが…重さが足りない。

 

よって、こんな2人の出した拳が効くかといえば、答えはノーである。だが、今に限って言えばその限りでは無かった。

 

ババムート【グルルル…!!】

 

彼は飛ぼうとしていた…そんな時に彼の後ろからスーパーボールが頭に打ち込まれた、と、人間が感じる感覚としてはババムートの感じた衝撃などこんなものである。

そんなことをされて、面白いと思うはずがない。特に彼は前述したように意地になり、焦りもしていた。だから、余計にこの2人が許せなかった。

 

羽虫の分際で王の進撃を邪魔したこの2人を…

 

そして、そんなことを考えてしまっているから、つい先ほど確認した事実を忘れるなどという愚行を犯した。

 

そう、彼らの戦闘法が変わっているという事実を…

 

百代「川神流…虹色の波紋(ルビーオーバードライブ)ー!」

 

流星のように落ちて来た百代の一撃がワン子たちがいるところとは違う翼と翼の間部分に叩き込まれる。

 

そして、今度こそ、ババムートは落ちていき、バッコーンと嵐のような土煙を上げながら、工場を叩きのめしていった。

 

百代「はあ、はあ、はあ、…ふう…」

 

百代は息を整えながらその土煙を睨みつける。

 

ワン子「だ、大丈夫?お姉さま?」

百代「ああ。大丈夫だ。ワン子。」

ガクト「やったか?」

準「おい、やめろ。大体そういう振りをする時は…」

 

という準の言葉の途中で土煙は晴れていった。そして、あちらこちらが傷だらけになりながらも、ババムートはそこにどっしりと立っていた。

 

準「ほら、見ろ!そういう振りをする時は大体、敵が全然大丈夫な時なんだよ!」

ユキ「ガクトのせいで、あのドラゴン起き上がっちゃったじゃーん!!」

ガクト「いや、俺様の所為じゃねえだろ!」

百代「おい、そんなこと言ってる場合か!?あいつが今すぐにでも来ー」

 

そう言おうとして、百代は止めた。

ババムートの口が光っている。そして、それが何を意味するのか彼女が一番分かっていた。

 

百代(まずい。さっきの土煙の間に貯めたのか!しかもあの大きさ、私が気弾で相殺しようにも、確実に後ろの奴らが巻き添えになる大きさだ。)

 

だから、百代は飛び、

 

百代「こっちだ!ドラゴン!!」

 

すると、ババムートは驚くほど単純にそちらを向き気弾を発射する。

 

百代は飛び上がる間に気を貯めることもできず、その攻撃をモロに食らってしまう。

 

百代「ぐ、ぐううう」

 

腕をクロスさせ、その攻撃をガードするがそれだけで勢いは止まらない。百代はその気弾に乗せられるような形でそのまま飛ばされていってしまっていた。

 

まゆっち「モモ先輩!!」

クリス「嘘だろ!飛ばされてしまったぞ!」

京「あのモモ先輩が…」

 

皆が絶望に伏せてしまっている中、

 

ババムート【……】

 

ババムート自身、彼女の実力は文字通り肌に染みて分かっている。だから、彼女がこんな程度で倒れるわけがない。

彼自身も分かっていた。

だが、時間稼ぎにはなるはず、そう…

 

ババムートは視線をまた大地へと向ける。

 

残りの者たちを倒す時間稼ぎには…

 

だが、一つ彼には誤算があった。それは仕方ないと言える誤算ではあるが、彼が攻撃で百代を飛ばした方向、それはつい先ほど向いていたある方角と同じ方角だった。

 

ババムート『【グルルル】』

 

そう、彼が警戒(・・)して唸り声をあげていた。あの方角と…

 

 

百代「く…こんのおおお!」

 

百代は焦っていた。今こうしている間にも、仲間たちが殺されているかもしれない。

特に自分の妹のことを考えると、胸が締め付けられる思いだった。

 

だが、この気弾よほど気が練りこまれていたのか、そう簡単に自分が気を貯める時をくれない。

 

百代(まずい!このままでは!!)

 

百代は急ぎ、気を貯めようと試みた。だが、次の瞬間そんな必要はなくなった。

 

なぜか?

 

その気弾と同じくらい気が練りこまれた大剣が後ろからブーメランのように飛んで百代の前の気弾を打ち消したのである。

 

一体何が、と一瞬百代は思ったが、すぐに心当たりが浮かんだ。こんな扱いづらい大剣を使い、なおかつこんな芸当ができるのは最近実力が知れたあいつ(・・・)しかいない。

 

そう、

 

黒い腕が百代の体を包み込む。

そして、

 

大和「遅くなってすまない。姉さん。」

 

笑顔で大和はそういった。それに対し、百代は

 

百代「…ああ。全くだ。大和」

 

皮肉げに、だが、満面の笑みで答えた。




いやあ、ようやく大和登場です。本当に長らくお待たせしました。
いや、ね、こんな他の人のことばっか書いていたせいなのか、なんか評価の方でもキツイコメントいただき、いや、本当、マジすみませんでしたー!という気持ちでいっぱいになりました。
あ、今更になりますけど、どうぞ、評価よろしくお願いします。
あ、キツイコメントなるべく勘弁の方向で…


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風間ファミリーvsバハムート 3

いやー、スンマセン。今回、長くなった所為かいつもより遅くなって…って、そんな言い訳はいいか。
まず、申し訳ありませんでした!
いや、本当に今回は遅くなってしまい、どういう風に話を進めようか迷ったのもありますが、自分大学3年なので実質これが人生最後の夏休みと言っても過言ではないので思いっきり遊びたいなー。と思ってしまったのが主たる原因です。

はい。
本当にすみませんでした!!


大和「よっと」

空中で百代をキャッチした大和はその後、綺麗にフェンリルの元へと着地した。

 

フェンリル《全く…いきなり、『悪い、フェンリル。ちょっとの間ここ離れるわ。』と言われた時は何事かと思ったぞ。》

大和「はは、ごめんごめん。かなり、急いでたモンだから事情説明する時間なくってさ。ところで、姉さん?さっき、気弾が飛んできた方向を考えるとあっちにみんながいるってことでいいんだよな?」

百代「…ああ。だが、それにしても本当に遅かったな。もう少し、早く来る者だと思ってたぞ。私は。」

大和「いや…オレもそうしたかったんだけど。さすが、軍事において九鬼を勝ってるなんて言うだけはある。

かなり、時間を削られちゃったよ。って、んなこと話してる場合じゃない!捕まって姉さん!あいつらのところにすぐ行かないと!」

 

実際は、神羅兵の命を考えなければ、もっと早くに到着していたはずだったが、彼はこれ以上自分の手を血で汚したくなかったため、なるべく、最小限の攻撃でことを済ませたのである。

 

まあ、飛空戦艦に関しては、若干微妙ではあると思うが…

 

百代「あ、ああ。そうだな。」

 

百代が大和の背中にギューッと捕まると、すぐに大和はフェンリルにエンジンをかけ、その場を離れるように走り出した。

 

百代「……」

大和「あの、なんか背中にギスギス刺さってる感覚があるんだけど、ひょっとして姉さん機嫌悪い?」

百代「いーや、べっつにぃー?」

大和「……」

 

明らかに機嫌が悪そうだが今はそんなことを考えている時間も惜しいので、大和は気にしないことにし、先ほどから時折爆発音が聞こえ、何かが羽ばたくような音がここまで届いていることに若干焦りを感じアクセルを更に強く押すのであった。

 

そして、そんな大和の様子を見た百代は、

 

百代(むぅー…まあ、別に今が大変だということは分かっているが、あまりにも淡白じゃないか?)

 

更に胸を押し付けるように(・・・・・・・・・・)してしがみつくのであった。

 

神羅 工場地帯

 

まゆっち「はあ、はあ、うぐ…く」

ユキ「まゆまゆ!!」

 

黛に次ぎ、機動力があるユキは黛が工場にあった土管だった物の上で崩れる姿を見てすぐに擦り寄ってきた。

近くもなく遠くもない距離にいたワン子とクリスもそちらを目で確認し、心配そうな表情を浮かべていた。

 

まゆっち「だ、大丈夫です。ユキさん。」

ユキ「無理しちゃダメだよ!モモ先輩がいなくなってからずっと、まゆまゆが主にあのドラゴンの相手してたんだから!」

 

風間ファミリー間では百代に次ぐか、彼女並みの戦闘能力を持つ黛は、百代が気弾で飛ばされて以降、バハムートの相手を実質ほとんど任されたような状態になってしまった。

 

もちろん他の皆も援護をする形で戦闘に参加はしているのだが、その援護後にピンチになる瞬間が少なからずあった。

 

そのため、黛は彼らを救うためにそこへ飛び込んでは、バハムートに応戦し、彼らから距離を作り出していた。

 

バハムート【……】

 

一方、バハムートも百代が抜けてからの要が黛だということを確認したこともあり、まっすぐに黛の方へと視線を向けた。

 

そして、黛を自信の最優先目標にした。

 

そのことについていち早く気づいたモロ。

なぜ、気づいたか?それは彼自信が役に立っていなかったからだと言える。

 

今まで、師岡卓也はずっとそばにいるガクトに守ってもらった。

だから、彼はそんな自分にできることはないものかと探し続け、バハムートを見続けていた。

故に、彼はバハムートの微細な変化にもいち早く気づいた。

 

モロ《まずい!逃げて!まゆっち!あのドラゴン、まず一番最初にまゆっちを倒すことを最優先にしたみたい。》

まゆっち「っ!?」

 

連絡を受けた黛は息を整えるのをやめ、目の前の龍の王へと睨みを利かせる。それを合図と取ったのか、はたまた、その時に不意打ちをしようと思ったのか。定かではないが、バハムートは黛の方へと勢いよく突進してきた。

 

まゆっち「…すぅうううう!」

 

更に黛は、バハムートが突進してくると同時に目を閉じ息を勢いよく吸い込む。

気が充実し、側にいる味方のユキすら身震いを起こすほどの威圧感を放つ。

 

だが、バハムートは構わず突っ込み、グワッと爪を振り上げ、黛の方へと振り下ろす。

黛はそれを跳んで躱した。が、バハムートはそれを予期していたかのように今度はバク転する形で、尻尾による振り上げ攻撃を行う。

 

まゆっち「っ!(まさか、私の動きを読んで!?)すでにここまでの形になってるとは…はあ!」

 

黛はそれに対し、刀を横にし、防御体制をとることで凌ごうとした。

キイィイイイィイと、鋼のような尻尾と刀の摩擦によっておこる火花によって、あたりは一瞬フラッシュする。

だが、それにだけ目をとらわれている場合ではない。

バハムートの体重の違いすぎる一撃。そんな物を黛のサイズで受け切れる訳がなかった。

 

まゆっち「ぐっ…!」

 

重すぎる一撃に対し、遂に重心が崩れ

 

まゆっち「キャアアア!!」

 

黛は吹っ飛ばされて行った。

好機と見たバハムートは一気に攻勢を仕掛ける。

その瞬間、バハムートに対し、右に待機していたガクトは当たらなくてもいいからと言う思いでバズーカの最後の一発を撃つ。

ガクトとは反対側に待機していた弓兵である京も同じような心境故か、今日何度目か分からぬ自分の中で最も高威力を持つ爆矢雨(ばくさめ)を放つ。

 

ガクト「俺様の最後の一発!受けやがれ!!」

京「行って!!」

 

左右から爆発を主とする技が襲い掛かってくる。

だが、バハムートはそれに対し、歯牙は黛へと向け、左右からの攻撃に対しては、文字通りに歯牙にもかけていなかった。

いくら自分を怯ませた攻撃であるからといって、ここまで見せられれば、バカでもそのパターン、スピードが分かる。

 

だから、この攻撃に対し、バハムートは怒りをも露わにしていた。

京の爆矢雨(ばくさめ)に対しては、角で受けることにより、その攻撃を軽減し、ガクトのバズーカ砲に関しては、弾丸の先端を刺激しないように尻尾で器用に叩くことによって、

 

バズーカの弾丸はまっすぐにガクトの方へと跳ね返って行った。

 

ガクト「げっ!!」

モロ「やば!」

一同『ガクト、モロ!!』

まゆっち「ガクトさん!くっ!」

 

黛の方へと向かっていたバハムートに対し、援護の手を緩める訳にも行かなかったため、ユキ、クリス、ワン子、京の四方は黛の方へと急ぎ、走って自分では間に合わないと判断した冬馬はその作戦指示へ、よって、ガクトとモロの救助には準とキャップが急いで向かった。

 

急いで、避けようと考え、その場から移動しようとした。だが、場所が悪かった。元々狙撃能力は皆無のガクト。

それ故に無駄弾がないように、見晴らしのいい高い場所へと、そして、バハムートの死角に位置しているであろう場所へと移動し続けていた。

だから、自然彼は狙撃する時、立てることには立てて安定もしているが、いざ進もうとすると、隙間がその気を起こさせなくする鉄骨と鉄骨の間をクロスした鉄筋によって構成されている鉄骨や、比較的大きな土管の上などにいた。

そして、守ってもらっている立場である師岡もその例にもれずにそこにいた。

 

急ぎ走ろうにも、慌てるとすぐに落ちてしまう。

そんな不安感の中にいたガクトたちは出来るだけ、速く早歩きをすることによってその場を離れるしか無かった。だが、時すでに遅し、ガクトの放った弾丸はまっすぐに跳ね返りはせずとも、目の前の鉄骨柱に命中。

その鉄骨柱はゆっくりと軌道をガクトとモロのいる方向へと向け、落ちるようにして折れていく。

 

準「ヤベェぞ!アレ!間に合わねー!」

キャップ「諦めんな!きっとなんとかなる!」

 

いつも、この根拠のない理屈が通るため、今回もそうなのではないかと一瞬考えてしまった準だが、すぐにそんな甘い考えは打ち消される。

目算で、後三秒で、あの炎を纏った鉄骨はガクトたちに向けて、鉄槌を下す。

 

後二秒。

 

 

 

 

ボカーンという凄まじい音ともにガクトたちがいた鉄骨は、同じようなデザインをした鉄骨柱によって、虚しくも崩れ去って行った。

 

その光景にショックを受け、膝をついてしまう両名。

 

キャップ「嘘だろ…おい!ガクト、モロー!!」

準「チックショウが!」

 

風間は嘆き、準は拳を地面に振り下ろす。

 

大和「…?何やってんだ?お前ら」

 

そして、悲嘆にくれていた両名の背中に素っ頓狂な声が響く。

声の主は言うまでもなく、直江大和である。

 

キャップ「や…大和!お前…ってアレ?何を…その腕に持ってんだ?」

 

思わず、遅えよ。と、らしくもなく風間ファミリーのキャプテンとしての器量など忘れて叫ぼうと思ってしまったキャップだったが、そこは豪運を持つ男、間違っても彼はその場において、正しくない台詞など吐かないのであった。

 

大和「何って…ガクトだけど…さっき、危ないところをギリギリ助けたんだ。あ、ちなみにモロは姉さんが助けてくれたよ。」

 

ほら、あっちにいる。と大和が指した方向には呑気にこちらに向かって手を振っている川神百代がいた。そして、その腕にはお姫様抱っこされている師岡の姿が…

なんというか、妙にマッチしている。

 

それが、大衆から見た今の二人に対する意見である。

 

対照的にガクトの方は、大和も多少雑に扱っても大丈夫と判断したのか、まるで抱えきれないほどの大きさのゴミ袋を移動させるかのような仕草でシャツの襟を引っ張って引きずっていた。

 

恐らく…襟を引っ張られたまま、救出されたのだろう。

そんな風に引っ張られれば、「ぐえっ!」とアヒルが鳴くような結末になるのは目に見えている。

何が言いたいかと言うと、ガクトは空中で呼吸困難に陥り、現在白目を剥いている。

 

準「…なあ、大和。島津のヤツ大丈夫なのか?」

大和「え?大丈夫だろ。だって、風間ファミリー(ウチ)のパワー担当だぜ。こいつ? …とは言え、今は闘いの最中だ。悪いが、このままゆっくりというわけにもいかないんだよな。というわけで…」

 

ガクトの方へと顔を寄せた大和は、手を頬に添える。

多分、京がここにいたら、まさかここでキスを!と勝手に盛り上がっていただろうが 、そんなロマンチックな物では断じてなく、(BLを果たしてロマンチックというのかどうか知らないが…)

 

大和「おーい、ガクトー!おーきーろー!!」

ガクト「へぶぶぶぶぶ…!!」

 

ばしん、ばしん、ばしん、ばしん、と馬に鞭を打つような感覚でガクトに往復ビンタを浴びせまくる大和。

その姿は、若干嗜虐心を感じないでもなかったからか、準も風間も止めに入ることはできなかった。

 

場面変わって、

 

バハムートvs女子チーム(百代抜き)

 

まずは女子チーム、こちらはもう、正直立っているのがやっとの状態の者しかいなかった。

 

まゆっち「はあ、はあ、ぐ、ごほ…ごほ!」

 

こみ上げてくる吐き気から黛は思わず咳き込む。そこには少なからず、血が混ざっており、確実に内臓を痛めていることが伺えた。

 

クリス「はあ、はあ…」

ユキ「うぐ…く、きゅー…」

ワン子「き、キッツー…」

京「…うう。」

 

ほか4名に関しても同様であり、彼女らはそれぞれ離れた位置にいたが、うずくまるような形でそこから動けないでいた。

対するバハムートは、余裕綽々とは行かなかった。

 

バハムート【…グルルルル…】

 

ただ、警戒するように唸っていた。

彼らがバハムートを苦戦させたのは事実であり、彼らに対する敬意の念も抱いていたバハムートは油断なく躊躇いなく、彼らを始末しようと前に出る。

 

そんな時だった。

 

バハムート【…!?】

 

今まで、何者の威圧感であろうとひるまなかった竜王は突如として、降りかかってくる異常な威圧感にひるむどころか、

大きく後ろに下がった。

 

その竜王の姿に一同呆気にとられていたが、次の瞬間、

 

大和「よ!みんな!!」

 

絶望に閉ざされようとした一同に光を射すかのような明るい声がその瞬間響いた。

 

一同『大和!!』

 

その姿を見た瞬間、仲間たちは歓喜し、すぐに寄り添って来ようとしたが…

 

大和「すまないけど、話は後だ。今はあのドラゴンを先に片付けないと…あと、お願いがあるんだけど…」

 

作戦の支持を出し、これからどのように動くか支持した大和は、その後、その蒼天のように蒼く変化させた双眸をドラゴンへと向ける。

 

バハムート【グルルルル…】

 

バハムートはその男が今までで一番厄介だと直感で気づき、一層警戒を強める。

 

大和「…まずは、この場所から移動してもらわないとな…」

 

背中にあった大剣と腰にあるノコギリ状の片手剣に手を伸ばし、腰を低くする。

 

一瞬の静寂

 

周りにいる仲間たちはその光景にゴクリと唾を飲む。

 

大和「おおおおおお!!!」

バハムート【ギャオオオオオ!!】

 

天を貫くような雄叫びが大地を震わせた瞬間、

 

彼らは激突した。

 

最初は大和から仕掛ける。

ノコギリ状の片手剣による横薙ぎの一撃。

普通なら、見切ることすら不可能な速度で放たれたその斬撃を

バハムートは歯で受け止める。

至近距離で互いの視線が交錯する。

 

大和はすぐ様、バハムートの口から剣を引き抜くと、

 

大和「ふっ、はっ、ぜあ!」

 

バハムートの顔に向けて、二刀の連撃を放つ。

それを角と歯で受け切ってみせるバハムート。

 

大和はそうしながら、徐々に空中で方向転換と移動を繰り返し、バハムートを動かしていく。

 

そして、ようやく自分の狙った位置に着いたことを確認すると大和はすぐ様後退し、無事だった土管に足を着ける。

 

大和「さて…」

 

そこで、大和は考えるような素振りをしながら、バハムートを睨みつける。

 

大和(ここまでは、なんとか計算通り…ただちょっと、離れ過ぎちまったな…こうなると、あのドラゴンの使う手は…)

 

すると予想通り、バハムートは大和に向かって気弾を放とうとしていた。

この攻撃を大和は避けるわけにはいかなかった。大和が移動した場所とは、この工場地帯の中で最も高い施設を持つ場所。

よって、もし避けて、ここを破壊されると空中を飛ぶバハムートとの戦闘を有利に運べなくなる。

 

なので…

 

ノコギリ状の剣を大剣に収納させるかのように合体させると、大和は背中に大剣を回す形で構え、バハムートを睨む。

 

バハムート【グワオ!!】

 

咆哮と共に気弾を放つバハムート。それを待ち構えていた大和は

 

大和「破晄撃!!」

 

気を纏わせた大剣を振り抜くことで斬撃を飛ばす。

通常の気弾同士だと、先ほどの百代の一撃との衝突のように普通は爆発を起こすが、

大和の気弾は斬撃を飛ばした一点集中型の気弾。

 

故に…

 

二つの気弾が衝突するとバハムートの方の気弾はぱかっと、桃が割れるかのように、両断され、工場を破壊せず、素通りし、宇宙空間へと飛んで行った。

そして、大和の気弾は威力こそ落ちたが、バハムートの顔に直撃する。

 

バハムート【ギャオオオオオ!!】

 

威力を失ったとは言え、最強クラスの斬撃を食らったのだ。バハムートの半顔には無惨な切り傷が残る。

 

バハムート【グルルル…オオオオオオ!!】

 

遠くからでは駄目だと判断したバハムートは先ほどの戦闘で、自分が苦戦する状況に陥らせた地形を罠だと、薄々感づいていても突進せざるを得なかった。

それを確認した大和は跳び、空中で激突する。

 

先ほどと同じような下りで、彼らは互いに重い連撃を繰り出し、拮抗していた。

だが、大和の一撃は大剣一本に集中していた分、確実に重くなっており徐々に大和が優勢になり、そのことを見極めた大和は剣の一撃による反動で上へと跳んだ。

 

それを目で追うバハムート。そこには、青白い気を剣に纏わせ、それを後光のように自分に向かって照らしていた直江大和がいた。

 

そして、直後、バハムートの頭部に今までとは、格段に違う一撃が放たれる。

これまで、百代の一撃にも耐え切ってみせた竜王だが、耐えきれず、突き落とされる。

バハムート【グギャオオオオオ!!】

 

絶叫を上げながら、地に落ちていく龍の王。

それを追い、大和は剣をバハムートへと向け、突進する。

 

バハムート【グ…オオオ!!】

 

だが、なんとか体勢を立て直したバハムートは逃げるようにして、上空にいる大和を避け空へと浮かび上がる。

 

大和「くっ!?」

 

予想外とまでは行かずとも、わずかに驚きを示した大和はその後、舌打ちをする。

 

大和(ちっ!予定が狂ったな。本来なら、地上に落とした瞬間、オレの攻撃と共に皆の総攻撃を仕掛けて倒すはずだったんだが…)

 

だが、大和がそんなことに一考している間に事態は急変していく。

バハムートの口元から後光のような光と共に異常な勢いで気を溜められていることを感じた時にはもう遅かった。

 

大和「やばい…あいつ!神羅ごと消す気か!?」

 

どう考えても、今までとは破格の破壊力を生み出すであろう気弾が出来上がっている真っ最中だった。

 

百代《おい!大和!どうするんだ!?あれは!?》

大和「どうするっつったって…」

まゆっち《アレはまずいです。あんなものが放たれればここら一帯が焼け野原になることは間違いありません!》

大和「分かってる!ちょっと黙っててくれ!」

 

らしくもなく、八つ当たり気味に返す大和。

その間にも彼の頭の中では凄まじい速度で現状打破に対する作戦を考えるために次々と案が練られていく。

 

大和(どうする?どう考えたって、あの気弾を地上に届かせたら、ここどころかこの戦い自体が最早、収拾がつかない事態になることは明白だ。

だが、だからと言って、あの気弾を打ち消すためにはそれなりに気を溜める時間が必要だ。その間に、次弾装填でもされたら、キリがないし、何よりこの後の戦いに差し支える。

 

つまり、オレたちが今達成すべきノルマは砲弾を打ち消しつつ、ヤツに一撃を加え、確実に倒し切る。

 

どんな、無理ゲーだよ。どう考えたって、実現可能とは思えねー…

 

突っ込みでもしない限り…突っ込む?

 

…いや、俺一人の脚力じゃ、あの気弾に押し返されるのがオチだ。

 

ん?俺一人…)

 

そう考えた後、大和は周囲を見渡す。

先ほど、仲間たちに出した指示とはあのドラゴンを強襲するため、なるべく上を陣取るように動いてくれ、というものだった。

 

だが、バハムートの学習能力が予想よりずっと早く、すでに大和以外の風間ファミリーの動きを見切れていたバハムートは彼らの間合いを見極め、空に向かいながらも動きを阻んだのである。

 

だが、補足するならば百代に限っては違い、バハムートはそのことについてはどうするか検討していたが、バトルマニアの百代も大和が何よりも大切な存在になったせいか、

一瞬だけ、バハムートから大和へ意識が行ってしまい、そこを突かれてしまった、というわけである。

 

なので、彼女は今現在、そんな自分に対して忌々しげに舌打ちをしている最中であった。

 

大和《みんな!聞いてくれ!》

 

そんな折に、大和から連絡が入り次の作戦に対する指示が耳へと流れてきた。

それに対する百代たちの反応は…

 

一同『はあっ!?』

 

 

 

大和「そんじゃ、行くぞ!」

 

わずかもしない内に、作戦を開始する合図を皆に送る大和。

そんな大和を一番近くで見ている人物はというと、

 

冬馬「本気でやる気ですか?あんなことを…」

準「正気とは思えねえぞ。大和。」

大和「正気も正気だよ。こうでもしないと、あいつには届きそうにないんでね。じゃ、行くぞ!」

キャップ「へ、ずいぶんと面白そうだな!大和!

 

言った瞬間、大和は準、冬馬、キャップのいる方向へと走っていく。

そこで準もやれやれと覚悟を決めたような素振りを見せ、風間はこれからアトラクションでも待ち構えてるかの様な表情で彼の前でバレーボールのリベロのような構えを取る。

その手に足をつける様に、わずかにジャンプし、足の上に乗った大和。

 

大和「思いっきり頼む!」

 

準「つーか、オレたちがお前の脚力でオレの腕が折れないか心配なんだけど…」

大和「そこは…なんとかしてくれ!」

準「オイ!」

キャップ「ま、なんとかなるだろ!」

冬馬「では、お願いします。大和くん」

大和「了解!!」

 

言った瞬間、大和は勢いよく飛び、準もそれに合わせる様に思いっきり撃ち放つ。

 

ガクト「ホントに来やがった!」

モロ「ちゃんと、キャッチしてよ!ガクト」

ガクト「おうよ!」

 

すぐ上にいたガクトたち大和の左手に向けて、手を伸ばす。

その手を大和はがっしりと掴む。

 

ガクト「行け!大和!」

モロ「お願いだよ!」

大和「おう!」

 

更に加速して、跳躍していく。

その上にはワン子が薙刀を足場にする様に構えていた。

 

ワン子「行くわよ!大和!」

大和「ああ!」

ワン子「ていやー!」

 

飛び加速する。

その上にいるクリスはあいわかった、という風に空中に身を乗り出す。

 

クリス「まだまだ…飛べー!」

 

クリスは空中であるにもかかわらず、器用に体を丸め足の裏を大和の足裏に合わせると蹴り出す様に空中に飛ばす。

 

ユキ「いっくよー!僕の本気、見せちゃうね!大和!」

 

次のユキは、脛に大和を乗っけるとそのまま、空中に蹴り飛ばす。

 

次に出てきたのは

 

大和「お友達で!」

京「大和!これが成功したら、結婚…はっ!読まれていた!」

 

京は結婚を迫りながらも、両手で大和の手を包み込む様に握った。

京は「ちぇっ」などと言いながらも、仕事はちゃんとする方なので、両手でそのまま飛ばして行った。

 

まゆっち「行きます!ご武運を!大和さん!」

 

ぼろぼろになりながらも、最後の力を振り絞り、刀の峰に大和を乗せ、弾き飛ばす!

 

加速する!

 

そして、いよいよ、最後そこで待ち構えていたのは

 

百代「フルパワーで行くぞ!バランス崩すなよ!大和」

大和「大丈夫だよ!姉さんこそね!」

 

百代は特別サービスとばかりに、両手両足をつける様な形で大和の足に合わせる。

そして、それを全て同時に上へと放り出す!

 

超加速!!

 

最早、彼の加速に何者もついてこれないと言えるほどに、大和は加速していく。

青白い光を伴い、それは天に向かっていく流星となって、まっすぐに、まっすぐにバハムートの方へと向かっていく!

 

バハムートの方も、ようやく気が溜まり終わったのか。

その巨大な気弾を放つ!

 

大和はそれにも臆せず突っ込んでいく。

ズポン、と気弾に突っ込み、入っていく大和。

 

大和「ぐっ、くうぅうぅ!!!」

 

体が焼けていきそうだ。皮膚がジリジリと音を立て、徐々に大和の肉体を削っていく。

それはそうである。いくら大和が強いとは言え、それがイコール気弾が効かないということにはならない。

 

まるで、オーブントースターの中にある食材の様にぷすぷすと音を立て、こんがりしていく様な感覚を味わう大和。

 

大和(まずっ!…予想以上に気弾が強力すぎた。このままじゃ…)

 

迎撃されてしまう。そう感じた大和は今からでも退くべきかと、一瞬考えようとした瞬間、

 

[はい。]

 

聞き覚えがある声と共に大和へと手が差し伸べられる。

幻かと思ったが、そんなことはどうでもいいと瞬時に考え直し、大和はその手を握る。

それだけで、言いようのない安心感に包まれ、力が溢れてくるのが分かる。

 

そして、空中でさらに加速する!

 

 

 

気弾を抜け出た。

 

その瞬間大和が見たのは、目を見開き驚いた様子のバハムート。

バハムートは迎撃しようと手を前にだすが、遅い…

 

それよりも早く、大和はバハムートの肩へと剣を降ろし、そこで握る手を強める。

 

大和「クライムハザード!」

 

技名を叫び、一気に背中を登り駆ける。バハムートはその斬撃に対して、なす術もなくそしてついに…

 

ズバン

 

バハムートは真っ二つに裂かれた。

そのことに遅れて気づいたバハムートは力なく落ちていくのだった。

 

風間ファミリーvsバハムート

 

勝者 風間ファミリー



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躍動

今回からオリジナル?といえばオリジナルのキャラクターが出てきます。
どういう人物なのかは想像してみてください。
後、今回短いです。


神羅 本社 社長室

 

ルーファウス神羅は現在、豪奢なシーツが敷き詰められたふかふかのクッション付きの椅子に横たわりながら、現在の状況について聞いていた。

 

ルーファウス「なるほど…バハムートがやられた…か」

 

苦悶の表情を浮かべながら、報告を聞いたルーファウスはつぶやいた。

 

ルーファウス(流石に唯一の生き残りといったところか…最近になってようやく知れた事実だったが…それにしても、やはりこれは今まで内部で情報操作をしていた者がいたと考えて間違いなさそうだな…)

 

直江大和が如何にあの力を嫌い、遠ざけていたからといって、ここまで10年経っているのである。

10年以上もたかが小僧だった少年の脱走を今まで知らなかったなど、一組織として問題である。

 

ルーファウス「だが…今、この様に戦争になっている以上、そこを今追求しても徒労か…」

 

そう思い直し、彼は先ほどから自分の背後にいる二人の人間に向かうと、

 

ルーファウス「そういうわけだ。バハムートがやられたらしい。なので、君たち二人にあの男を倒してもらおう。データ上、君たちと彼をぶつけるのは実に効果的(・・・)だからね…」

 

そう言われた二人は一度ルーファウスに礼をする。

 

一人は黒い髪を後ろに流した青年で格好はベスト、ブーツ、肩当、更には工事現場で履くようなダボダボの黒いパンツ、もう一人は栗色の髪の毛を三つ編みにして束ねた少女であり、格好はピンク色の長いスカートに長袖の薄い上着という極めてシンプルで、村娘という言葉がピンとくる女性である。

 

彼ら二人は礼をした後、その姿を虚空へと消し、既に気配もなくなっていた。

 

そのことを確認したルーファウス神羅は満足げに口を歪め、

 

ルーファウス「さて、それではこちらも来客をもてなすとしようかな…」

 

椅子から体を離し、正面の門へと向ける。

騒々しい足音が聞こえてきたと思った次の瞬間、ドゴウと扉が勢いよく吹っ飛び、ルーファウス神羅の左右にそれはそれぞれ吹き飛んで行った。

 

ルーファウス「…やれやれ、常識がない。あなたは客室に来るときは、いつもこのように扉を壊して入って来ているのかな?」

揚羽「…ふっ、我とて常識はある。こういう時はまず、ノック(・・・)から先にするものだろう?」

ルーファウス「…なるほど、だが、このように扉が吹き飛ぶようなノックは他人の迷惑になるとは考えなかったのかね?」

揚羽「だから、ちゃんと貴様の横に行くようにしただろう?」

 

両者、口を歪めつつの皮肉の応酬、それに対し最初に話題を切り上げたのは、

 

ルーファウス「さて、では、貴女がきた目的は…ふっ、聞くまでもないか?」

揚羽「ああ。貴様に我が拳を食らわせ、性根を叩き直しに来た。ついでに何が目的なのかも聞き出しにな。」

ルーファウス「なるほど、ではこちらも相応の対応をさせてもらおう。」

 

そう言った後、ルーファウスは足元にずっと置いていた鞭とショットガンに手を伸ばし、その鷹のように鋭い瞳を揚羽に向ける。

 

揚羽(此奴、隙がない。なるほど、流石はあのタークスを纏め上げているというだけはある。恐らく、我流ではあろうが、我らと同じレベルまで行っている。)

 

流石に先ほど出会ったツォン程ではないにしろ、彼からは明らかに壁は超えているであろう程の闘気と殺気を感じた揚羽はより一層警戒を強める。

 

次の瞬間、ノータイムでショットガンの銃口が揚羽へと突きつけられる。引き金を引かれ、散弾が飛び散る。

それに対し、驚愕はせず、淡々とした様子で揚羽は横へと身を避ける。

そして、すぐさま距離を縮めようと迫るが、そこへ鞭が横合いから放たれる。

 

揚羽「ちっ!」

 

片手でそれを受け止め、鞭がその腕へと巻きつかれる。

 

ルーファウス「ふん!」

 

ルーファウスはそれを待っていたとでも言うかのように、思い切り引っ張る。

 

揚羽「なっ!?」

 

この時は流石に揚羽も驚いた。百代や項羽程の火力はないにせよ彼女とて壁を超えた者である。

それをルーファウスが鞭で引っ張った瞬間体が確かに浮き、投げ飛ばそうとまでしているのである。

 

揚羽「っ!?」

 

投げ飛ばされそうになった彼女だったが、そこは流石に敵の思う通りにさせなかった。すぐさま、鞭を腕から解き、荒々しく壁へと着地する。そのせいで壁には亀裂が走る。

 

揚羽「驚いたな。我とてパワーに自信がないというわけではないというのに、まさか、我と腕力比べで勝ってくるとはな…」

 

そう言いながら、彼女は床に着地する。

それを実に愉快げに見つめていたルーファウスは、

 

ルーファウス「私とてここを纏め、更にはタークスも纏め上げているのだ。一定以上の強さは必要だろう?」

 

それに対し、確かにな、と笑みを浮かべながらうなずき返す揚羽。そして、自信を落ち着かせるように一度深呼吸をし、また向かえ打つようにその双眸をルーファウスへと向ける。

静かではあるが、お互い腹黒い世界を生きてきた者同士である。心の駆け引きなどお手の物。それ故に、彼らは同時に同じような感想を抱いた。

 

『これは想像以上に時間がかかるな』

 

と…



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人外大戦1

なんていうか、泣きっ面に蜂というか…本当にこの10月は疲れました。いや、マジで…11月に回そうかなーって思ってたくらいですもん…

まあ、なんていうか本当に申し訳ありませんでした。


ここは、川神市内にある緑が生い茂る森…だった(・・・)

 

だったというのは、もうここは森と呼べるものではなくなったからである。そこにあるのは一面の…

 

火の海である。

 

釈迦堂「オラァ!!」

 

釈迦堂の拳が緑色の体壁をした怪物の腹へと行く。

 

大蠍撃ち…この技はどんな武術家であろうと、一生武術が出来ないほどの後遺症を残すほどの凄まじい一撃である。

それは、蠍の毒のように全身に回っていく。

 

イフリートはその拳の危険度がわかったのか。後ろへ跳ぶようにして避ける。

釈迦堂「ちっ!チョコマカと…デケエくせに良く動きやがる。」

 

若干の皮肉を込めながら、相手を賞賛する釈迦堂。

 

勝負はほぼ互角と言って差し支えないほどに接戦していた。

だが、圧倒的に釈迦堂の方が不利である状況となっている。

イフリートが攻撃する時、彼は腕に炎を纏わせ肘まで覆っている。そのため、腕力や攻撃力において釈迦堂が拮抗していても攻撃範囲という点で圧倒的に不利である。

加えて、彼の腕は自分の足に届こうかというほどに長い。釈迦堂が試しに蹴りを試してみて距離を測ろうとしたが、それでも、届きそうになったほどである。

 

そして、そういうアドバンテージはいざという時に決定的な一瞬を与えることになってしまう。

 

イフリート【ブアアアア…】

 

深く、深く息を吐く。イフリートは本来その炎を使った中距離からの攻撃を戦闘の主とする。故に、彼は釈迦堂から距離を離した状態の方が戦いやすいのである。

今まで、それをしなかったのは、単純に彼の手を知りたかったため、もちろん今まで距離を置くことも出来たが、本能が知らせたとでもいうべきか。どうしても彼は最初、自分の土俵で戦うのを拒否した。

それは、恐怖から来るものなのか、それとも単なる迷いから来るものなのか…イフリートにはどちらなのか分からなかったが、一つだけはっきりしたことがあった。

 

それは、この目の前の男は間違いなく強敵だということ。

ならば、迷いを打ち捨て、ここは自分のアドバンテージを最大限に活かした闘い方をすべきだ。とイフリートは考えた。

 

距離を離し、まっすぐに釈迦堂を見つめるイフリート。次の瞬間、イフリートは手で作り出した火炎玉を相手に向けて発射する。

 

釈迦堂はそれに対し、落ち着いた様子で横に行きながらかわして行く。すると、炎のロープのような攻撃がしなりながら前方から迫る。

 

釈迦堂はそれも難なく避けるが…

 

釈迦堂「けっ!なんだぁ!?ビビってこっちに近づかねえってか?デケエくせに随分と肝が小せえんだな!!」

 

距離を置かれ、中距離からの攻撃に専念しようとしているイフリートをみて、効くかどうかも分からない挑発をする釈迦堂。

たとえ、意味が分からなかったとしても、その態度から大体の見当は相手にだって着くだろうと考えた上での言動だった。だが、イフリートはピクリとも反応しない。

 

釈迦堂(ちっ!やっぱ、来ねえか!)

 

内心でそんな舌打ちをする釈迦堂。それもそうである。ここは森の中、一番燃えやすい木がある場所である。そのため、彼がその気になれば、中距離からこの付近に結界のように炎を巡らせることも可能。

 

だからこそ、釈迦堂は何としても中距離からの攻撃をさせない意味合いも含めて気を放出し、相手を威嚇させることによって接近戦に持ち込もうとした。

 

釈迦堂(オレだって、壁は超えてる。そりゃ、普通の炎ごときにやられるようなヤワな鍛え方はしちゃいねえ。)

 

だが、このイフリートに関しては別だった。先ほど後ろに引いて避けようとした釈迦堂だったが、そこにはイフリートが燃やした木があり、そこからは何も出ないだろうと思っていた。

だが、その次に、釈迦堂が見たものはなんとそこからの炎が手の形になって襲いかかってくる瞬間だった。

驚いた釈迦堂だったが、それをなんとか避け、体勢を整えた。

その一瞬のことを思いながら、釈迦堂は考えた。

 

釈迦堂(野郎は炎が体から出てる。というより、体が炎で出来上がっていて(・・・・・・・・・・・・)そこから火が滲み出してるって感じだな。)

 

らしくもなく、面倒な考え方をする釈迦堂。だが、目の前の怪物はそう考えざるを得なくなるほど、炎そのものであった。

 

釈迦堂「はは、やべえな〜!悪い癖だ。結構、ピンチだっつーのに…

 

楽しくて仕方ねえじゃねえか!」

 

そんな獰猛な笑みを浮かべながらの叫びと共に2人の闘いは文字通り加熱する。

 

釈迦堂「おら!喰らいやがれ!リング!!」

 

輪っか状の気弾が相手に向かっていく。それをイフリートは紙一重で避け、自分も炎気弾を投げつける。釈迦堂もそれを避け、また、リングを放つ。

気弾同士のぶつかり合い、それは白熱を極めた。

 

だが、それでも徐々に追い詰められるものは居た。それは…

 

釈迦堂「はぁ、はあ、はあ、」

 

やはりというべきなのか釈迦堂であった。

四方を炎に囲まれ、身動きが取れなくなった釈迦堂。上へ飛ぼうにも、炎が手に形を変え、襲いかかって来る。

 

それに対し、イフリートがすべきことは簡単だった。

自分のとっておきの一撃を釈迦堂に対してぶっ放す。

 

イフリート【バオオオオオオオ!】

 

祈るように手を掲げながら炎をそこへと集め出す。

その技の名前は「地獄の業火」。一瞬にして全てを炭に変える文字通り地獄を体現した火炎である。

 

その炎弾が最大になり、イフリートの身の丈を優に超えた瞬間、さすがの釈迦堂も息を飲んだ。

 

釈迦堂「ありゃ、やべーな。あんなの喰らったらさすがに、気の壁だけじゃ対応仕切れねえ…」

 

だが、諦めてはいない釈迦堂。こんな時に限って自分の思い出したくない顔を思い出す。闘いながらでも気づいたあちらこちらで起きている気のぶつかり合い。

その中には、当然自分は気に食わないが、認めてもいるルーがいた。

 

釈迦堂(別に、対抗意識からってわけじゃねえけどよ。ここで、もしもこの怪物に負けて、ルーがあっちの闘いで勝っちまったら、やっぱ、なんか気に食わねえんだよな!)

 

だから、釈迦堂は渾身の気を片拳に込め、イフリートを睨みつける。

 

イフリートの上の気弾はもはや、辺り一帯覆い尽くさん限りに巨大になっていた。そして…放たれる。

 

もはや、一個の星と言っても過言ではないだろう。その星は釈迦堂に向けて、ゆっくりとだが、着実に迫って行く。

着弾しようとした次の瞬間…

轟音に近い墜落音と共に莫大な破壊が放たれる。辺り一帯は炭になり、その範囲外にある木々まで焼き焦げていく。

 

破壊が終わり、文字通り全てが炭になった平野に着陸するイフリート。全て終わった。もう、ここに用はない。ここから立ち去り、早々に次の仕事へ行こうと、踵を返すイフリート。

 

釈迦堂「よう…」

イフリート【!?】

 

驚愕したイフリートは、そちらの方へと顔を向ける。すると、そこから拳が飛んで来て勢いよくイフリートの顔面へと突き刺さる。

 

ズザザ、と仰け反りながらも体勢を整え、再度距離を取ろうとしたが…

 

釈迦堂「ここまで来て…にがすかよ!」

 

そう言って、釈迦堂はイフリートの足を踏み抜くように足で固定する。

 

イフリート【バグ!!】

 

苦悶の表情を浮かべながら、イフリートはなんとか抜け出そうとし、試行錯誤を重ねながら、口から炎弾を放とうとするが…

 

釈迦堂「こんな近くで、んなもんが効くわけねえだろうが!!」

 

頬を抉るようなフックがイフリートの顔を弾き飛ばす。

そこに、立て続けという風に釈迦堂は…

 

釈迦堂「オラ、オラ、オラ、オラ、オラ!」

 

好機と判断し、足を離し、連続でイフリートに蹴りや拳の連打を浴びせまくる。

そして、締めに回し蹴りを頬に目掛けて放ち、そこで強制的に距離を離れさせる。

 

そこが唯一許される限りの後退の機会だと考えたイフリート。さっと身を退くようにドンドンと後ろへ下がっていく。

 

だが、この時イフリートは気づいていなかった。自分のしていることは距離を取っているのではなく、逃げている(・・・・・)のだということに。

 

逃げた獲物を狩ることほど、狩人に取って腕の見せ所はない。

 

その逃げていくイフリート(ウサギ)を仕留めに行く釈迦堂(狩人)は疾風の如くイフリートの前に出て…

 

釈迦堂「川神流…無双正拳突きィー!!」

 

イフリートの巨体が突き飛ばされ、木々をなぎ倒しながら山の大地に大地衝突した。

イフリートには最後まで彼がなんで生きていたのか分からなかった。イフリートは彼の実力を正確に測りその上で彼が弾き飛ばさないほどの炎玉を放ったはず…だが、結果は今自分がこうしてるように、自分が地べたを舐めるような真似をする羽目にまで陥っている。

 

何故?

 

最後までそう考え、結局分からずにイフリートは星屑のように体を散らしながら消えていった。

 

釈迦堂「イテテ…やっぱ、ありゃ無茶だったなー。全身が火達磨にならなかったのは良しとして、やっぱあちこち火傷だらけだしよ…」

 

釈迦堂はそんな自分の状態を見回しながら呟いた。

無茶とは一体なにをしたのか?

 

あの時、彼は結局、逃げられなかった。

炎玉は彼に迫り、彼に当たろうとしていた。その時、彼は地面に向かって拳を叩き下ろしたのである。

 

川神流 畳返し

 

この技を応用することにより、彼は未だ燃え続けている地面を炎玉にぶつけることができた。

山火事において、どのような方法が最も効率よく山火事を抑えられるか?それは古い炎に対し、新しい炎をぶつけることである。

そうすることで、お互いが酸素を食い合い、それらは自然消滅するのである。無論、炎玉ともなれば規模が違う上にその程度では本来、炎が弱まったとしても大した違いはない。

 

だが…イフリートは最後まで、釈迦堂が逃げないために自らが出した炎に気を張り巡らせ、操り、威力を強化していた。

 

このような様々な事象が起こった末に釈迦堂はイフリートに勝利した。

偶然のように言っているが、ある意味最も攻撃的な彼でなければ成しえない偶然であり、勝利であった。

 

イフリートvs釈迦堂 勝者 釈迦堂

 

川神院

 

ルー「うー、寒いネ。ここまで身体が冷えるとさすがに戦闘に支障が出るかもしれないネ。」

 

最早、川神院の至る所は氷漬けにされ、絶海の孤島ならぬ絶氷の孤院になりつつあった。そんなことになった発端の主に対し、睨みを利かせるルー。

 

シヴァ【うふふふ…】

 

相変わらずなにが楽しいのか。彼女は変わらず笑っていた。

 

その姿は人間にイタズラをした後見せる妖精の素顔のように感じられるが…相手をしているルーはどちらかというと死神だと感じていた。

 

静々とした華やかさという、正反対の特性を併せ持った彼女の外見とは裏腹に彼女の攻撃は自分の体力を確実に削っていく、正直言ってエグいものであった。

ルーは気による防壁によりなるべく体力を削られないようになんとかしていたが、それでも確実に削られていった。

 

かといって、彼女を攻撃しようにも彼女が吹き付けてくる氷の息吹が体を締め付け、前進をさせてくれない。

 

釈迦堂のような短期決戦とは真逆の長期戦を余儀なくされた状況というわけである。

 

ルー「ふー…」

 

この場において、防御は自分の勝利を逃す要因となりうる。

だから、ルーは覚悟を決めたように小さく息を吐き、再度氷の妖精へと双眸を向ける。そして、息を止めると同時に突進する。

シヴァはその姿にあっけにとられたが、すぐに気をとり直して、空中に氷の鏃の軍勢を作り出す。

 

一つ一つが確実に肉を裂き、骨を断つほどの鋭さを持っている。それに対し、ルーは一瞬を息を呑むが、それでもなお、前進を止めない。

 

ルー「おおおおお!!!」

 

己を奮い立たせるように怒号を発した瞬間、氷の鏃たちがルーへと襲いかかる。

 

ルー「フィストファイヤー!!」

 

ルーはその氷を手から繰り出す気弾の弾幕によって防ぐ。だが、数が多すぎる。氷を苦としない彼女にとって現状況は彼女が優勢だと言って過言ではない。だから、彼女がくりだせる攻撃の数がルーの手数を超えるのはある意味当然と言える。

 

次第に弾幕を避けてきた鏃が当たるようになってきた。

だが、それを避けようともせず、ルーは進む。自分でもなんでこんな攻撃をしてるのか分からなかった。

 

確かに現状が好ましくなくとも、もっと時間をおいて考えればこれ以外の方法を考えられたかもしれない。

そんな考えが頭に過ぎっては消え、過ぎっては消えを繰り返していく内に何も考えられなくなり、ただ無心に走り続けた。

 

そんなルーの姿にシヴァは驚愕を露にする。致命傷を避けているのは見て取れるがそれでも走り続けられるようなぬるい弾幕を作り出したつもりはなかったからである。

 

シヴァ【っ!?】

 

遂には、後5メートルというところまで詰められシヴァは、そこから詰められることを初めて恐れ(・・)、彼女は即座に気を貯める。完全にためきれないまでも自分の体の内に秘めた全ての気を放たんばかりの剣幕とともに手を前に出す。

 

ルー「させないヨ!ストリウム光弾!!」

 

手から速攻性の気弾を放つ。それにより、手を弾かれ氷を発動することができなくなる。そして、それはわずか5メートルの間でされていた攻防である。

シヴァは手元を気にし、一瞬、目を逸らした。だが、今はそんなことをしてる場合ではない。と思い立ちすぐに視線を上げる。そこには突進するかのような構えをしたルーがゼロ距離にまで迫っていた。

 

慌てて距離をとろうとするが、

 

ルー「遅い!!ファイヤーストリーム!!」

 

怒号のような声とともにシヴァに炎の突進を仕掛けた。

 

シヴァ【ギ…アァアアア!!】

 

とても先ほどまで君の悪い笑顔を浮かべながら攻撃を仕掛けていたものから発せられるような声だとは思えない叫びが出た。

だが、その一度だけである。ルーの一撃はよほどまずい位置に当たったのだろう。彼女はそれっきり立ちながら白銀の霧になるように消えていった。

ルーはその姿をひどく申し訳なさそうな顔をして見つめた後、バタっと機械仕掛けのように倒れていった。

 

ルー「いや…全く、慣れない戦法は取るものじゃないネ。どこもかしこも傷だらけ…これじゃ、門下生に合わせる顔がなイ…」

 

師範代としてこの場を任せると鉄心に言われたため、ずっとこの場所になるべく損害を与えないように戦っていたルーはある意味釈迦堂よりも不利な状況に立たされながら戦い続けたようなものである。

 

そんな中、どうやったらこれ以上川神院に傷をつけずにいられるかと考え出した結果、突撃と言う手に至ったのである。

 

なんとか止められたからよかったものの、正直危ないところだった。

 

そんなことを考えながらルーは体力を回復する意味合いも含めて眠りについた。

 

ルーvsシヴァ 勝者ルー

 



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人外大戦2

川神市 上空

 

鉄心「やれやれ、まいったのう…」

 

鉄心は空中を全身に覆った気で浮かせながら、頬をかき、困ったような表情を浮かべた。

この男の目の前には現在、シマウマに装飾を施した一本角のユニコーンに似た獣と長い髭を垂らしている老爺が二者同様に雷を纏わせながらそこにいた。

 

鉄心(火力じゃわしが上じゃが、あの者たち、纏わせた雷で超加速をしてきよる。『毘沙門天』の攻撃にも反応してみせたところを見ると、反応の方も上がっとるのう、ありゃあ…)

 

0.001秒の内にその攻撃を叩き込む『毘沙門天』は今まで初見であろうが、無かろうが見切るまでその攻撃に反応されることはなかった。

そのため、彼が『毘沙門天』を使えばほとんどの使い手たちは何が起きたのか分かることなく、文字通り潰れていくのである。

だが、二度目にこの技を二体の怪物に使った後、彼らはそれを見切って躱すのではなく、見てから(・・・・)躱したのである。

そんなことは孫娘であり最強の名を継いだ百代ですらできた試しがない。

正直な話、ショックがないといえば嘘になるが、それならば簡単な話である。

 

鉄心(この戦い、活路はある。じゃが、そうなるとどうしても場所が問題になるの)

 

0.001秒よりもさらに鋭く短い反応時間を算出する必要がある。それはあまりにも速すぎる一撃である。自分で制御できる速度域を超えた攻撃、そんな物を今から放とうとしているとしたら彼の攻撃は確実に大地にすら癒えない傷を与えることになるだろう。

 

鉄心「そんじゃ、行くかの。」

 

重い腰を上げるような仕草をして二体に向かい合う鉄心。それを見たイクシオンとラムウもその双眸を鋭くする。

 

ラムウ【来るな…気を引き締めろよ。イクシオン。我らとて気を抜けば即座に全てを持って行かれ兼ねん相手だ。】

 

その言葉に対して、イクシオンはブルルと鼻息を荒げる形で応答した。

三者は互いに睨み合った後、雷鳴と共に激突した。

 

鉄心「顕現の七・神須佐能袁命からのー…」

 

気によって出来上がった巨神が剣を構える。

 

鉄心「八岐斬り!!」

 

そこから8連続の高速連続斬りが繰り出される。

毘沙門天ほどの速度ではないにしろ、これは初見の技である。少しはかするかと思っていたが、やはりというべきか彼らはスルスルとまるでそこに何もなかったかのように避けていく。

それを見て、鉄心は内心で舌打ちしながら、次の技を出す。

 

鉄心「顕現の壱・摩利支天!!」

 

鉄心の姿がユラユラと陽炎のように揺れた瞬間、彼の姿は消えた。

 

ラムウ【ぬ!?】

 

ラムウとイクシオンはそこに僅かな動揺を滲ませた後、逡巡し、杖を持っている右手と一本角を空に掲げる。

 

そして、電磁フィールドを辺り一帯に広げる要領で一気に、雷を爆発させる。

 

鉄心「ぬ…ぐ!?」

 

姿が見えなくなってもその姿がそこからいなくなったわけではないので、その雷を諸にとは行かずとも食らってしまう鉄心。だが、それでも構わない。彼は必要な仕事を終えた。後は、この二体にどうやって攻撃をぶち込むかによる。

 

ラムウ【…何か狙っているようだが、妙なことは起こさせんぞ。イクシオン!!】

 

杖と角の先端に雷を貯めていく双方。彼らはまっすぐに目の前の鉄心を見つめた。

先端を中心に雨雲が集まっていく。それにより、激しい気流が鉄心たちを文字通り巻き込む。

 

鉄心「あいたたた…ったく、小石が舞い上がってくるもんじゃから、そこかしこが痛くて仕方ないわい。」

 

そんな呑気なことを言っている鉄心だったが、内心はそれほど穏やかではなかった。雨雲の中のの激しい気流が自分の動きを阻害していることもあるが、何よりも今現在、彼の眼の前で気とともに雷を溜めに溜めている者たちがいることがその原因と言えるだろう。

 

鉄心「一々そんなことを素直に待ってやれるほど、わしは素直じゃないぞい!」

 

激しい気流の中を抗うように進むのではなく、気で受け流すことによって鉄心は大きく前進していくが…

 

ラムウ【言葉を借りるようで癪だが、そんなことをさせてやるほど我らも未熟ではない!】

 

ラムウは一体で攻撃を溜めているイクシオンに自分が溜めていた気を与えた後、鉄心を止めようと前に出た。

 

鉄心「毘沙門天!!」

 

闘神がその足裏による超速の攻撃を放つ。それはもう効かないはずの攻撃であり、実際また、避けられてしまった。

 

だが…

 

鉄心「自分を過大評価しすぎじゃのー。ほれ、こんなに簡単に近づけてしまったぞ?」

 

言った瞬間にラムウの目の前へと移動した鉄心。

 

鉄心はスピードではかなわないものの、技量や火力で上をいっている。彼らは確かに鉄心を圧倒的に超す超速の持ち主、

 

であっても…

 

走ってしまう以上、空中であろうが何であろうが必ず停止する。これだけ超速を見せつけられたのだ。馬鹿でも、どうやって動いているのか、その軌跡はどうなっているのかぐらいわかってしまう。

 

というのが、見ていた鉄心の感想である。

 

まあ、もっとも、彼らの超速はどう考えてもそれらを度外視した速度だから、まず見るという段階に至るのにもとてつもない苦労が強いられるのだが…

 

ラムウ【っ!?】

 

一方ソレを見ていたラムウは急いで防御の体勢を取るために杖を前に出そうとしたが…

 

鉄心「遅いわ!川神流 無双正拳突きー!!」

ラムウ【ご…ふ…!!】

 

深々とその拳をラムウのヒゲで隠れた胴へと撃ち込む。

悶絶し、荒々しく雷を溜め込んでいる雷雲に覆われた空を見上げる。

そして、その瞬間、ラムウはその老爺の姿には似合わぬほど、口がにったりと裂け始めていた。

そのことに遅ればせながら気づいた鉄心は急ぎ、上を見上げる。

 

すると、シマウマに似たユニコーンの姿をした獣が太陽と見紛うほどの神々しい光をその角に溜めた雷で発し、こちらに構えていた。

 

「トールハンマー」と呼ばれるその一撃は確かに、その瞬間鉄心に降り注がれようとしていた。だが…

 

鉄心「…やれやれ、似たようなことを考えていたわけかの…全く、真似していたみたいで気が引けるのー…」

 

そんなことを言われたラムウは一体何を言っているのか分からなかった。だが、それを一瞬で分からされることが起きていた。

今もラムウは空を向いている。ふと、ラムウは違和感に気がついた。

後光のように我らを照らしている雷光、この光と雷雲による視界の悪さが相まって、彼らは上空に絶賛迫っている危機に気づくのに遅れたのだが、とてつもない何か(・・・・・・・・)がイクシオンの後ろから迫っている。

 

ラムウ【なんだ?あれ…は…?】

 

それの正体に気づいた瞬間、ラムウは固まってしまった。

あり得ないと思った。だが、目の前の怪物はそれを可能にする怪物。

すぐにその考えを改め、イクシオンに対し、怒号を送る。

 

ラムウ【上だ!!イクシオン!!上を向け!】

 

金切声に近い大声は、しかし雷音が響いている雷雲の中でも正確にイクシオンの耳に届いた。

 

上を向き、その光景に目を見開くイクシオン。

 

それは、自分の雷など生易しい光に見えるほどの業火の光だ。

そう、彼らの上空には随分前に鉄心が仕掛けた…

 

隕石があったのだ。

 

鉄心「九の顕現 天津甕星(アマツミカボシ)!!」

 

驚いた両名であるが、スピードは毘沙門天ほどではないことに気づいた後、すぐに撤退を始めようとする。だが…

 

鉄心「そうはさせぬ!」

 

手を挙げ、叫ぶ。

 

鉄心「顕現の参 毘沙門天!!」

 

一体、何を言っているのか分からなかった。その技はすでに見切っている。自分たちよりも遅いと確認している。

 

ラムウは困惑をしながらも、技を避けるために加速の準備をする。

きっと、相手も困惑してどうにか捉えようした結果間違いを起こしたのだろうとその時は思った。

 

だが、すぐに異常性に気づいた。技名が言われているにもかかわらず、いつまで経っても闘神が姿を現さないのである。

おかしい、なぜだ?とラムウは思う。

と次の瞬間。

 

イクシオン【バ…ヒヒーーン!!】

 

悲鳴に似た叫びが響き渡る。見ると、イクシオンが異常な加速を経た礫によって身体中を貫かれていた。だが、それを見ても、それがイクシオンの物だと分かるのにわずかに時間がかかってしまった。なぜなら、イクシオンも自分と同等の反応速度を有し、間違ってもあんな隕石に当たるようなヘマをやらかすものではないと思っていたためである。

だから、急いで離れなければと思うのにも時間がかかってしまった。だが、もう、遅い。

 

次の瞬間、隕石の破片という破片が文字通りラムウの体を貫いた。

そんな事態になった後、彼はようやく理解した。なぜ隕石が急に加速し、その破片が身体を貫いたのかを…

 

闘神が隕石のさらに上のところに召喚されてるのである。

そう、鉄心は技を出したあの時その闘神を隕石の上に召喚し、その攻撃により、隕石は踏み砕かれると同時に毘沙門天以上のスピードを帯び、礫の雨となって降り注いだのである。

 

ラムウ【く…そ…】

 

悪態を付きながらイクシオンとともに落ちていくラムウ。その姿が塵になる様はまるで落つる星屑のように儚くも美しいものであった。。

 




次でようやく、人外大戦は終了します。
いや、正直な話退屈だと思ってる人がいないか心配です…


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人外大戦3

川神 上空

 

鉄心「フゥ…なんとかなったの…」

 

その言葉は敵を撃破できたことに対するものでもあり、また、一つの懸念が解消されたことに対する安堵のため息でもあった。

何に安心したのかというと、お気づきの方がいるかもしれないが、あの隕石攻撃は先に言った通り、地面に癒えぬ傷を与えかねない攻撃であった。さて、そんな攻撃を市街地に向けるような形になってしまえば、住民が避難しているとはいえ、大惨事になってしまう。そんな訳で彼はその場所探しをあの激しい戦闘中に行う必要があった。

本来、彼は自然を傷つけることもよしとしないこともあり、それは想像以上の難題になる…

 

かと思われた。

 

なんと、あったのである。生物がいなさそうでなおかつ最早荒地となっている土地が…

 

鉄心「しかし…」

 

彼は思う。あんなところに荒地などあっただろうか?彼は長く川神に在住していたこともあり、この辺りの地形にはかなり詳しいはずだった。

だからこそ、不可解だった。あんな何かの爆発の影響(・・・・・)で出来上がったような変な荒地が一体あっただろうか?と…

 

鉄心「まあ、ここは川神じゃしの。多少、変なことが起きてもおかしくないの。」

 

そんな無茶苦茶なようで納得もできてしまう理由を自分の中に言い聞かせてそのまま彼は川神院に帰っていくのであった。

 

ところ変わって、ここは釈迦堂とイフリートの戦闘によって出来上がってしまった荒地(・・)である。

 

釈迦堂「ふー…」

 

激闘を制した釈迦堂爆発その場に寝そべり空を見上げている真っ最中であった。そんな時、まだ空は青いのになぜだかキランと何かが光ったのである。

 

釈迦堂「…?なんだ?ありゃ?」

 

奇妙に思い、その赤く光っている何かを見つめ続ける釈迦堂。だが、それが段々と近づくにつれて大きくなっていく様を見て、さーと対照的に釈迦堂の顔は青くなる。

 

その赤い何かとは何か?

 

釈迦堂「えっ?マジで…?」

 

そう。隕石である。しかも一つや二つではない。

その無数の破壊の塊は焔の尾を引いて一筋の矢となり、釈迦堂が今いる荒地へと真っ直ぐに真っ直ぐに突き進んできているのである。

 

釈迦堂「っ!?やべ!!」

 

気づいた時には走り、その破壊の矢を避けようとしていた。

 

だが、遅かった。それらは容赦なく彼の上へと降り注ぐ。

 

釈迦堂「ぬぐっ…おおおおお!!」

 

 

 

 

しばらくして、破壊の雨が終わった時煙が上がり、最早平地など無くなっていた大地はそれらの脅威をありありと示していた。

 

そんな中、釈迦堂は…

 

釈迦堂「ぶはっ!?」

 

なんとか生きていた。いや本当に自分でもなんで生きているのか不思議なくらいである。

 

辺りを見回した。どうやら、本当にただ、偶然助かっただけのようである。安堵のため息を放つとともに、彼は同時に疲労の色を隠そうともせずに今度こそ限界がきたようで、その場に倒れこんでしまった。

 

釈迦堂「ちっ!あの師匠(ジジイ)…」

 

わざとということではないだろうが、こんな技ができるのは世界であの妖怪ジジイだけだろう。

帰ったら飯を奢ってもらうか、何かしてもらおうと心の中で誓いながら、彼はイビキをかきながら眠りについた。

 

九鬼財閥 工場エリア

 

屋根上

 

オーディン【ぬん!!】

ヒューム「ふん!!」

 

カッターのような鋭い蹴りと、文字通りの鋭い大剣が衝突しあい屋根上であろうと工場内の装置や、器具がミシミシと鈍い音を立てたり、大地へと落ちていたりする。

 

バチバチと火花を散らした後、彼らはそのまま弾かれるようにズザザザザザと後ずさった。

 

ヒューム「…ほう。俺も昔は獣と戦い己を鍛えていた時期があったが、これほどの手応えある獲物は久しぶりだ。」

オーディン【私を獣と同列に置くな。人間。我ら召喚獣は[獣]と読むことができても、その存在は人間などよりも高次な存在だと自負している。】

ヒューム「ふん。その腕は認めてやらないでもないが、人の手によって作られておきながら、人よりも上などとよくも思い上がれたものだ。」

オーディン【それはこちらのセリフだ。人間など単に貴様が特別強いというだけで、他は弱い個体が大半だ。特に今の世の中はあまりにも脆弱なもの達が世の中を回そうとしているというではないか。】

ヒューム「いや、全くその通りで今の若者は嘆かわしいにもほどがあるが…だが、それは敗者である俺が口にしても無駄だろうよ。

こうして負けて、認めてしまっている以上、俺もこれからの社会を守っていく必要がある。」

 

話があっているのか、あっていないのかよく分からない傲岸不遜なもの同士の言葉の応酬を、そこで「だから」と切り上げてヒュームはオーディンを睨みつける。

 

ヒューム「そのためには貴様を排除する必要がある。

 

というわけで、遊びはここまでだ。お互い(・・・)本気で潰し合おうか?オーディン?」

オーディン【……】

 

オーディンはわずかに面食らったように、目を開いたが、すぐに気を取り直して目を尖らせながら、ヒュームを見る。

 

ヒュームはわずかに腰を落とした後、左足を力の起点とすることでそこからジェット噴射するかのように、オーディンの方へと飛んで行った。そして、えぐりこむような掌底を兜で覆い隠された顔へと突き込む。それを大剣で防御した瞬間、今までの衝撃音など比べ物にならないほどの爆音が鳴り響いた。

 

オーディン(こ、これは!?)

 

オーディンはいきなりの敵の膂力上昇に驚きながらも、その掌底を大剣の横面で滑らせるようにしていなした。

そして、馬を軽く足で蹴って命令を下し、距離を取らせた。

 

オーディン【驚いたな。まさか、貴公も本気を出さずに来ていたということか。】

ヒューム「人間相手ならまだしも、お前は一体どういう生物なのかわからない以上、観察する必要があったからな。そのために少し時間を取らせてもらった。お前も似たようなものだろう?」

オーディン【ふっ、いいだろう!我が剣戟の極地を貴様に見せてやる!】

 

言った後、場は急に静まり返った。周りに一般人がいれば押しつぶされそうなほどの圧倒的な気迫による静寂。それは誰1人として侵すことはできない神域の技と言えるだろう。

これで何度目かになるにらみ合いをした後、どちらからともなく衝突した。

 

オーディン、ヒューム『おおおおおおおお!!!』

 

互いの慟哭は木霊し、先ほどまで下にあったはずの屋根は嵐にでも巻き込まれたかのように渦巻き吹き飛ばされていった。

その次にあったのは、異常な剣戟と拳の連打の応酬である。時に攻め、時に守り、一進一退の攻防は両者の鋼の肉体を裂き、傷つけていく。

 

オーディン【フン!!】

 

オーディンが上段から剣を振り抜く。ヒュームはそれを手の甲で受け流しながら、真っ直ぐにその拳をオーディンの顔面へと突き進ませる。

首をひねることでその攻撃を躱し、今度はヒュームの横にある大剣を構え直し薙ぎ払うように横へと振る。

ヒュームはその攻撃を敢えて腕を受ける。このままでは流れが変わらないと考えた彼は流れを変えるためにわざと、腕で受けたのである。

 

ヒュームの体のすぐ横にあった大剣を無理矢理振ったオーディンは、ヒュームの一見無茶苦茶な対処方法を見て、自分の手が悪手だったと気付かされる。

 

前述した通り、彼は反撃のために真横にある(・・・・・)大剣を無理矢理振るった。だが、そんなためも何もない攻撃が果たして、ヒュームを両断するに足る一撃になるだろうか?答えは断じて否である。たとえ、傷が骨まで到達したとして、絶対に両断されることはない。

 

そのことをヒュームも直感で理解したのだろう。大剣は深々と突き刺さるように刃を肉にめり込ませるが、それでもヒュームの前進を止めるには至らなかった。

 

まずい、と思った時には何もかもが遅かった。ヒュームの容赦ない拳が鎧を貫きオーディンの体をくの字に折れ曲がらせた。

 

オーディン【ぐふっ!?】

 

悶絶し、馬から強制的に弾き落とされる。馬も事態を瞬時に理解したのだろう。すぐにオーディンの元へと駆け寄った。

 

オーディン(やって…くれるな!)

 

賞賛混じりの悪態を心の中で吐きながら、彼は馬に飛び乗り、またヒュームの方へと向きなおる。一方のヒュームも無傷とはいかなかった。

 

オーディンの剣は防御を鎧に任せていた分、剣にその圧倒的な気を収縮することができた。だから、彼の一撃は文字通り乾坤一擲の一撃とかしていたのである。無理矢理の一撃であろうとそれを腕で受けたのだ。

当然、浅い傷ではない。

 

ヒューム「ふー…」

 

嫌な脂汗が頬を伝う。

ヒュームは理解した。次の一撃が最後になるであろうことを。

そして、それを理解しているのは多分相手もだろう。だから、全身の気を今度はこちらも脚の方へと乾坤一擲とするために、気を溜めていく。

 

オーディンも剣の方へと気を溜める。

両者が立っている部分はもはや、荒野と化したかのように工場の備品などが木っ端微塵となって、散乱している。だからなのだろうか。

ヒューと風が異様に通り抜けて行く感覚がありありと両者には感じられた。その感覚は両者に僅かながらの安らぎを与え、そして

 

二人は風が吹き終わると同時に激突した。

 

ヒューム「ジェノサイドチェーンソー!!」

オーディン【斬鉄剣!!】

 

あまりにも強烈な力のぶつかり合い、火花となり、嵐となった。

その嵐が幾分か過ぎた頃に、収まった後、両者は全く反対の立ち位置で立ち尽くしていた。

 

ぶしゅっと、何かが破裂したような音がすると共に、胴と脚から血を噴き出しヒュームは膝をつきそうになる。だが、直前で思い留まる。

ここで倒れるわけにはいかない。なぜなら自分は…

 

キンと、何か金属片のような物が落ちた音がして、そちらを振り向く。

それはある男の剣だったものだった。

その金属片から視線を上に上げる。

戦神の名を冠する男は馬に乗りながら振り向きもせずに、折れた剣を握りしめていた。

 

オーディン【負けた…か…】

 

やがて、数分が経ち、彼はようやく口を開いた。自分が負けてしまったことが信じられなかったのかそれとも、相手の技の重さに驚いたのか、あるいはその両方か。どれともとれぬような口調でつぶやく。

だが、少なくともどこか満ち足りているような、そんな口調だった。

 

オーディン【どうやら…私は貴公には及ばなかったらしいな。だが、貴公という強敵と闘えたこと…感謝する…】

 

そう言って、彼は鎧を身につけた馬と共に体を星屑と化して消えていった。その姿をしばらく止まりながら見つめたヒュームは…

 

ヒューム「ああ。俺も感謝しよう。オーディンよ…」

 

と呟いた。

 




ふー、終わった…いや、まあ、まだまだ続くんだけど、人外と人の戦いって予想以上に難しいですね。正直、根を上げそうになりました。


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クローンvsクローン

ずいぶん遅くなりました。では、どうぞ!


神羅カンパニー

 

工場の上空には現在、二つの影が一点を目指して走っていた。

一人は黒い髪の毛をツヤかせながら、もう一人は三つ編みにした茶髪を風にはためかせながら、その自分たちでも理解できない妙な懐かしさを感じながら…

 

ドクン

 

と大和の心臓が嫌な高鳴りを見せる。その高鳴りと共に彼は空を見る。それは自分にとって馴染みすぎている気の感触である。それに対し、彼はありえないとは思わなかった。ただ、やはり、とそう思っただけであった。

 

1日前 九鬼財閥 研究所内部

 

マープル「おや、何だい?何か用かい?」

 

そんなマープルの前に現れた大和。その表情は非常に重苦しいものだった。

 

大和「単刀直入に聞きたいことがあるんですが…いいですか?」

マープル「ああ、あたしは特にすることはないからね。なんでも聞いておくれ。」

 

一度、大きく息を吸う。そして、はあ、と吐く。

 

大和「じゃあ、聞きますけど…

 

あなたなら、10年という間に急速成長させたクローンを生ませることができますか?」

 

マープル「……」

 

ある程度その質問に関しては予想していたのだろう。マープルはしばらく黙ったあと、その重い唇を開いた。

 

マープル「正直、環境によるけどね…もしも、九鬼並みかそれ以上の技術があるっていうんなら、

 

できるだろうね。あたしなら。」

 

大和「……」

 

その言葉に対し、驚きもせず、ただ沈黙を貫き続ける大和。

そのことを気にしないような素振りをしながら、マープルは続ける。

 

マープル「神羅のことはよく知らないというわけではないけど、そんな詳細は覗き込めないことが多かった。当然だろうね。技術を他に奪われたらたまらないだろうしね。だが、あんたの過去を見させてもらったけど、あれだけの研究を行えてた組織がクローン技術で遅れをとるなんていうことは、

 

ない、とあたしは断言できるね。」

 

大和「……」

 

なおも沈黙を続ける大和に対し、呆れたかのように息を吐き、そして更に言葉を紡ぐ。

 

マープル「言いづらいけど、言わせてもらうよ。

 

あんたの友達のクローンはほぼ間違いなくできてると考えていいだろう。」

 

そして、マープルは改めて向き直るように大和の方へと真剣な眼差しを送る。

 

マープル「で、どうする気だい?」

大和「…どうする、っていうのは?」

マープル「そこで惚けても意味がないことくらいあんたが一番良くわかってるだろう?いざ、友達と全く同じ顔の別人を相手にして、あんた、倒せるだけの覚悟があるのかい?」

大和「そんなの!あるに決まって…」

マープル「あたしゃ、これでも星の図書館と呼ばれる知識の巣窟で名を売ってるんでね。あんたみたいな青二才が感情を隠しているのか、いないのかなんてすぐにわかるんだよ!強がりを言ってそのあと、被害を被るのは、あんただけじゃないかもしれないんだ!正直にいいな!」

 

一際ドスの効いた声がマープルのいる研究所に響き渡る。

それに対し、完全に後手に出てしまった大和は後ずさりしそうになった足を懸命に止めながら、黙り込み、やがてしばらくして、彼は口を開いた。

 

大和「正直、難しいと思う。」

 

それが大和の答えだった。

 

マープル「だろうね。さっきから顔に出まくってたからね。あんた」

 

やれやれと言った調子で彼女もその言葉に対応する。

 

マープル「で、改めて聞くけど、どうする気だい?」

大和「正直、何もない…どうやって、それに対応すればいいのか、って考えてもどうしても分からない…」

マープル「…そうかい。」

 

そんな情け無い答えを聞いたというのに、マープルの方は案外冷静な上に素っ頓狂な答えを返してきた。

そして、この老人にしては珍しく意地が悪くない、優しい笑みを返して.

 

マープル「じゃあ、あたしの方から策がある。まあ、こっちとしても、あの暴れん坊をなんとかするためとか、色々理由があるから好都合な状況だからね。」

 

神羅

 

大和(正直な話。最初は反対しようと思っていた。でも、オレが迷った末にだれかが犠牲になって大怪我をしたらそれこそ一大事だ。)

 

だから、と心の中で付け足しながら空を見上げて言葉を紡ぐ。

 

大和「あとは…頼む。」

百代「ん?何だ?何を頼むんだ?」

大和「いや、何でもない。こっちの話だ。気にしないでくれ。姉さん。」

 

それよりも、と話を切り替える大和。

 

大和「オレたちはあの三人組の気を気にしよう。どうせ、あのロッズとかいうやつには落とし前つけさせる気でいるんだろう?」

百代「当たり前だ!負けたまんまでは、格好つかない上に、嫌だしな。」

 

大和はそんな相変わらずの百代の言葉を聞いた後、それに対し笑みを浮かべながらわずかに感じた懐かしい気に関して、完璧に気を逸らし、百代以外の自分の仲間たちに告げる。

 

大和「それじゃ、オレたちはカダージュたちを探すから、みんなは傷を癒す意味合いも含めて、どこか安全な場所に避難していてくれ。」

ワン子「な!?ちょ、ちょっと待ってよ!大和!」

クリス「そうだ!自分たちはまだ戦える。」

大和「お前たちが大丈夫でも、少なくとも、まゆっちはもうだめだろう。実質あのドラゴンの攻撃に対して、もっとも被害を受けていたのはまゆっちだ。そうだろう?」

 

その言葉を受け、反論をした。クリスとワン子は黙り込む。

それを見た大和は仕方がないと言った調子で肩をすくめワン子の頭に手を載せ、撫でながら言葉を続ける。

 

大和「何も、攻めることだけが戦いじゃない。守ることも立派な戦いだ。だから、お願いだ。みんな。」

 

大和の必死な表情を見た皆は、その瞬間考えを改めて一様に頷いていった。

 

大和「じゃあ、行ってくる。姉さん。後ろに乗ってくれ。」

百代「いや、二手に分かれた方がいいだろう。その方が手っ取り早い。何、大丈夫だ。奴らの強さは知っている。もう、油断はしない。」

 

そんな百代の言葉に対して若干の不安が頭によぎるが、だが、すぐに大丈夫だ、と判断した。自分よりまだ(・・)弱いからといって彼女は自分の姉である。それだけで大和にとっては十分に信じる価値があった。

 

フェンリルにまたがり、エンジンをかけた後、大和は一瞬悲しげな表情を右の空に見せて、すぐに思い直したかのように前と向き直ると、

 

大和「じゃあ、後でな。」

 

と、百代に対して手を振りながら、大和はアクセルを踏み、ゆっくりと加速していった。

そんな表情をしている大和に対して、終始、百代は気づかないふりをしていた。

 

神羅 上空

 

?「ん?何だ?こっちに気づいてねえのかな?離れていくぞ?」

 

黒い髪をたなびかせながら、ザックスのクローンであるザックス(・・・・)は相方である、同じくエアリスのクローンであるエアリス(・・・・)に声をかけた。

 

元の人物と同じ名前であることから、神羅の凶悪性は非情なものであると理解できる。

エアリス「さあ?分からないけれど、これなら何とか近づけるんじゃないかな?」

ザックス「そうだな。そんじゃ、近づかせてもらいますかね!」

 

そう言ってザックスが足に力を込めさらに加速しようとした瞬間…

強烈な殺気が二人を襲う。それは覆い尽くさんばかりの気の塊がぶつかったものだと理解した瞬間に、ザックスは横合いへと吹っ飛ばされる。

 

ザックス「ぐっ!?」

 

突然の事ながら、ザックスはバスターソードを横に置くような形でなんとか対応仕切った。

 

吹っ飛ばされた先は、神羅社員の住民が利用するマンションであった。

 

ザックス「なんだ?お前…」

 

ザックスが睨んだ先には、長い黒髪を嵐のように吹き流しながら、立ち、方天画戟を地につけ、仁王のように睨みを利かせた女性が立っていた。

 

項羽「なるほど、マープルの言う通りこれは胸糞悪いな。同じクローンだということがなお一層、それを引き立ててくれる!」

 

珍しいというほどではないにしろ、今の項羽は特別機嫌が悪かった。

それも当然だろう。自分の眼の前に、仲間の友であるクローンが敵として配置されているのだから

 

ザックス「聞こえなかったのか?オレは誰なのか?って聞いたんだけどな。」

項羽「ああ、そうだったな。貴様には罪はない。だから、その膨大な気をオレに放つことを許してやる。だが、少々ムカついたのでな。その憂さ晴らしと暇つぶしに付き合ってもらうぞ!

 

我が名は項羽。貴様を倒すものの名だ。覚えておけ!」

 

傲岸不遜な口調と共に突進する項羽。一時困惑していたザックスだったが、すぐに気を取り直して項羽に向き直り、彼も突進する。

 

項羽「はああああああ!!!」

ザックス「おおおおおおお!!!」

 

大剣と戟かぶつかり合う。瞬間、マンションの窓が全て粉塵と化したように割れ、柱が砕け、折れる。二人は衝突した後、わずかに静止し直後、嵐のような打突と共にお互いがぶつかり合い、戦いが始まった。

 

エアリス「ザックス!!っ!?」

 

名前を叫んだすぐ後に、エアリスは杖を前に構える。

何者かが、こちらを狙っていると感じ、防御の構えを取ったのだ。

そして、その予想は当たっていた。ゴオッという風切り音と共に重い矢が彼女の額を襲い、向かう。それを杖を軽く回す形ではたき落とそうとする…だが…

 

エアリス「ぐっ!?」

 

予想以上に重い。かなりの量の気を溜め込んだ矢であることは確かである。だが、また少しエアリスが力を込め、倒しこむように振ると、その矢は呆気なく落ち、地面に小さなクレーターを作り上げた。

 

エアリス「そこ!!ディア!!」

 

言った瞬間、杖の先から赤い光が灯る。そして、その光が爆裂的な輝きを伴ってその向かいにある、なにもいないように思われるスーパーの物陰へとその光を炸裂させる。

そこから人影が出てくる。

 

与一「ほう、さすがは闇の組織の斥候だ。俺の闇属性の気には敏感なよう…バグ!!」

弁慶「この状況でその厨二病はウザイから、止めな!」

義経「弁慶。やっぱり、与一の言うことは時々分からなくなるんだが、これは義経の修行不足の影響なんだろうか?」

 

本人たちにその気はないのだろうが、トリオでコントをするかのような登場の仕方をしながら、源氏三人組は出てきた。

 

エアリス「あなたたちは?」

弁慶「あんたを倒す者って言えば、充分なんじゃない?」

 

弁慶の言葉と同時に三人は構えの姿勢を取る。それを合図と取ったのか、エアリスの方は彼らにその穏やかな表情には似合わないほどの鋭い眼光を殺気と共に三人に向ける。

 

ここにクローン同士の対決という前代未聞の大戦が始まる。



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九鬼従者部隊vsタークス 1

長らくお待たせして本っ当に申し訳ありません。
これから、以前のような長期の間はおかずに連載していこうと思っております。では、どうぞ。


「オラよっと!」

「ぬっ!」

 

レノの曲芸じみた警棒による攻撃を糸の結界で防御するクラウディオ。

防戦一方というほどではないにしろ、徐々に押され始めていることはクラウディオ自身理解できていた。理由は至極単純でクラウディオの現在の肉体で動ける範囲というのが段々と狭まってきているのが理由だ。

こればっかりはどうしようもない。やはり人間である以上老いとは避けて通れないものだ。

 

(さて、どうしたものでしょうか…)

 

クラウディオは攻撃を受けながら現状の打破を目指し、思考する。

どう考えても、このままでは負けるのはクラウディオだ。それは間違いない。ならば、最早、短期決戦しかない。しかし…

 

(私の糸は、罠を掛けたり、小技を仕掛けたりするのは得意ですが、いざ大技に移行しようとすれば、おそらくわずかなタイムラグが発生する…ならば!)

 

クラウディオはもう一方で激しい拳と蹴りの応酬をしているゾズマへと視線を向ける。ゾズマもその視線に気づいたようだ。首肯はせず、何気ない雰囲気を装いながら、徐々にクラウディオの方へと近づき、彼らは背中合わせに自分の相手を見るような形で構える。

 

「何か用か?クラウディオ。」

「やれやれ、歳は取りたくないものですね。先ほどから息が切れて仕方ありません。」

「…そんなことを聞かせるためにわざわざ、私を呼んだのか?」

「ご安心を。ほんの冗談でございます。」

 

まったく分からない冗談にゾズマは嘆息しながら、その言葉に冗談は含まれていないことを正確に理解する。これでも付き合いは長い方なのだ。それくらいはすぐに理解できる。

 

「…で、本題は?」

「…単刀直入に申しますと短期決戦を仕掛けたいのですがよろしいですか?」

「だろうな。私もそれが一番の打開策だろうと踏んでいる。」

 

ゾズマの方はクラウディオと比べるとそこまで息が切れているというわけではない。だが、滅多なことでは流さないはずの汗をゾズマは流していた。

 

「で、具体的にはどうするのかな?」

「はい。策についてですが…」

 

クラウディオは小声で目の前にいる相手に聞こえない程度の声で作戦を説明し始める。そして、その作戦を聞いたゾズマは…

 

「…正気かね?クラウディオ?」

 

作戦としてはあまりにド派手すぎる。確かにそれならば、相手の意識を他にそらし、なおかつ、上手くすれば、相手も捉えることができるだろう。だが、正直な話、こんな(・・・)作戦行う者は中々に倫理が破綻していると言って過言ではない。

少なくとも九鬼従者部隊の中で良心を司っているクラウディオが考える作戦では絶対にない。

 

「…クラウディオ。何をそんなに怒っている?」

 

だから、ゾズマのこの質問はある意味当たり前のものだった。

怒っている。表情にこそ出さないがこの完璧執事はこの上ない激情に晒されている。くる間には絶対にそんな感情はなかったはずだ。なら、この戦闘をしている間にこの激情は起こったことになる。

 

「怒っている…ですか…そうですね。何故なのかは正直分かりません。ただ、彼らを見ていると無性に腹が立ってきまして…」

 

本当にその理由が分からないというわけではない。ただ、この不快感は隠しようがない。原因だけは分かっている。主の命令にただただ従っている(・・・・・)。そんな従者としては当たり前の様子が何故か従者である彼には堪らなく不快だった。

 

「…まあいい。ただ、その作戦ここでやるのは危険すぎる。揚羽様にすら危険が及ぶ確率がある。そうだな…隣の寮を兼任しているマンションにすべきだろう。」

 

ゾズマはわずかに目を動かし、そこに行くようにクラウディオに指示する。クラウディオもその意見に同意したようで首をわずかに下に下げる形で首肯する。

 

ーーーーーーー

 

「お、あっちに動きがあったようだぞっと。」

『ああ、そのようだな。この方角は神羅の社員寮を兼任しているマンションだな。』

 

レノとルードは離れていながらも、小型の通信機で連絡を取り合う。

 

「どう思うよ?ルード。」

『そうだな。地の利は依然としてこちらにある。正直な話、彼らの思い通りに動かれるのは釈だが…』

「そいつは仕方ねえ。年季の違いってヤツだろう。身体能力であちらを上回っていたとしても、戦術ではあっちが上ってことだろうよっと…」

 

あちらよりも歳が若いおかげかレノとルードはわずかに身体能力でこちらが上回っていることを確認できた。だから、彼らには余裕ができている。

だから、その余裕を示す意味合いを含めて、

 

「そんじゃ、どんな作戦があるのか知らねえが…潰しに行きますかね!」

『そうだな。了解した。』

 

そうして、彼らはゾズマたちの後を追う形で、マンションへ向かっていく。

 

ーーーーーーー

 

神羅ビル 会議室

 

「オラオラオラー!!」

「はあ!!」

 

李とステイシーが赤毛の女性シスネに向かって、鏢とマシンガンを叩き込む。シスネは手持ちのクナイでそれらを弾き躱していく。まるで曲芸染みた早業で彼らを翻弄するその姿にステイシーと李はそれぞれ息を呑む。

 

「…おいおい、少なくとも人間にゃ躱せねえくらいの隙間しか与えなかったぞ。」

「単純に…彼女が人間離れしているということでしょう。」

「簡単に言ってくれるな。李。あたしらの任務はアレを止めることだってのに…」

 

李の相変わらずな冷静さに嘆息した表情を浮かべて目の前の敵を睨め付ける。李とステイシーのコンビネーションは九鬼従者部隊の中でも随一である。これを止められるのは壁越えの戦士しかまずいないだろうというほどである。彼女たちのコンビネーションがあれば、忍足あずみすら凌ぐ。それぐらいの自負は当然のようにある。だが、そのコンビネーションをシスネはまるで当然のように躱していく。

まるで、水面を舞う白鳥のように…つまり、これは1つの事実を表すことになる。

 

「どうしたのかしら?お二人とも攻撃してこないのなら…」

 

会議室の横長でなおかつ丸型を象ったテーブルに足を揃えて立ちながら、ステイシーと李の方を眺める。

 

「こちらから行かせてもらうけど?」

 

言い終えた瞬間、シスネはいつの間にかステイシーと李の二人の間にいた。

 

「「なっ!?」」

 

百戦錬磨の戦士である彼女たちが全く反応できなかったところから予感は確信へと変わった。

 

そう。つまり、彼女は番付で言えばかなり下の方なのだろうが、

 

壁を超えている。

 

ーーーーーーー

 

ところ変わって会議室を出てすぐの廊下にて、そこでは無数のクナイが飛び交い、弾き合っていた。

そうして、数々の打ち合いの末に一区切りついたところで、衝突し、あずみとイリーナの二人が持っている刀とクナイが火花を散らす。

 

「ちっ!」

「ふっ!」

 

火花が散った瞬間、すぐに二人は距離を取り、構えをとった。

 

(この女、やりやがる。おそらく、さっきステイシーたちが相手取った奴よりは隠しただろうが、それでも私と互角を張れるほどの戦闘力。…ちっ、年下のくせしやがって…)

 

年のことにやたらと敏感なあずみは、舌打ちをする部分だけはそれこそ本当に忌々しげにした。

どうやら、この金髪の女は自分と同じく忍術の使い手のようだ。

実力的には自分と互角。となると、この戦闘を制するのはどれほど自分たちの戦略の戸棚があるかということになる。

 

「さて、となると、この障害物がねえ廊下じゃやりづらいな。」

 

イリーナの目を見ながらジリジリと下がっていくあずみ。だが、その足を突如飛来してきたクナイが止める。

 

「おっと。」

「行かせないわ。あなたと私じゃ経験が足りないでしょう。そこはどうしても埋めようがないもの…なら、あなたはそこを遠慮なくついてくるはず…それを黙って見ているほど私はお人好しじゃないのよ。」

 

あずみは自分の考えを読まれたことに対して、またも舌打ちをし、イリーナを睨め付ける。

 

「はっ!自覚してるわけか。なら、てめえに教えてやる。その戦略の差ってのがこの廊下でも活かされるってことをな。」

 

 

獰猛な笑みを浮かべながら、彼女は二刀を逆手に構える。そして、イリーナはそれを睥睨しながらクナイをスーツからサッと出し、同じように逆手で構える。

 

そして、今度はクナイを持ったイリーナが待ち構えていたあずみへと向かい突進する。クナイを投げずに敢えて接近戦を選んだのはあずみの搦手を恐れたためである。彼女の先ほどの言から察するに何が何でも自分の戦略へとイリーナを巻き込もうとするだろう。なら、彼女に何もさせないくらいの怒涛の攻撃を浴びせて彼女に何かをする余裕などなくして仕舞えばいい。単純だが、理に適っている戦術と言える。

 

あずみもその戦法しかないだろうと思いながらも同時に感心していた。戦闘時において、まさに一瞬とは勝負の瀬戸際を表すものであり、故に作戦を思考する時間とは限りなく短い。それこそ一瞬で現在の状態を頭に叩き込み、すぐに作戦を試してみるだけの度量と回転の速さが必要なのだ。

だが…とあずみは思いながら、逆手持ちの刀を上から振り下ろした。

それをイリーナは落ち着いた調子でクナイで弾く。だがそんなイリーナの表情はすぐに驚愕に満たされることになる。

なんとあずみは刀の持ち手を刀から離したのだ。

そして、そこから流れるような肘打ちがイリーナの腹部にまっすぐ向かう。

 

「ぐっ!」

 

それにもんどりを打つように後退したイリーナに向かって言葉を吐き捨てる。

 

「思考が速すぎるせいで、頭がガチガチに固められてやがる。それじゃぁ、実戦じゃ勝てねえ…ぜ…?」

 

だがあずみの最後のこの言葉は途切れるようにして、続いてしまう。急激にあずみの身体から力が抜けていくのだ。原因は何だと探るあずみ。すると、彼女の腹部にパチンコ玉くらいの大きさの穴が空いていた。

そして、あずみは前を見る。そこにはポケットに入れられるほどの小さな拳銃を構えているイリーナがいた。

 

「ちっ…銃…かよ。」

 

ドサッと倒れていくあずみ。あずみが倒れたことを確認し、イリーナはその頭の元まで歩いていく。足取りは重い。どうやら先ほどの肘打ちが予想以上に効いていたようだ。

 

「勝負あったわね。私がいつ、銃は使わないなんて言ったのかしら?これはルール無用の殺し合い。頭が固かったのはそちらの様ね」

 

侮蔑するように言葉を吐き捨てながら、イリーナは銃口をあずみの後頭部に向ける。俯せに倒れていたあずみに不敵な笑みを浮かべられてるなど知りもせず…

 

「あぁ、全く、馬鹿なことしやがる。なんでてめえ、近寄ったんだ(・・・・・・・・・・・・・)?そうしなけりゃ、あたいの負けだったのかもしれないのによ。」

「…?」

 

言っている言葉の意味が分からないが、構わず引き金を引こうとする。そして、引き金を引こうとした次の瞬間!

ぐいっと足が引っ張られる感覚を感じるイリーナ。

 

「何…?」

 

そう呟いた後では遅かった。彼女の足は何かに絡め取られ、片足を天井に向けてような格好で吊り下がってしまった。その光景を見た後、あずみはゆっくりと穴の空いた腹を抱えながら立ち上がる。

 

「なっ!?」

「だから言ったろ?頭が固すぎるってよ。あんたも忍びの技を齧ってるんなら、既にここが罠で張り詰め尽くされれてる可能性だって考えておくべきだぜ。少女(ガール)。」

「っ!?」

 

慌てた調子で上を見るイリーナ。するとそこにはクナイの穴から目視が難しいほどの細く、だがイリーナの体重を支えられるほどの頑強さを誇っている糸が他のクナイからも無数に張り巡らされている。

 

「九鬼特別製だ。蜘蛛の糸をベースにした新型の糸。本来はクラウディオさんの十八番だが…あたいも別に使えないってわけじゃない。なにせ、この小道具たちを扱いこなしてこその忍びなわけだしな。」

「…っくそ!」

 

イリーナが悪態をついた次の瞬間、あずみは既にイリーナの背後にいた。

 

「殺しはしねえ。極力殺人避けるのが今回作戦の方針でな。そうしないと後々面倒なことになるらしい。」

 

そう言ってあずみは手元に小さな針を出し、イリーナの首元へとブスッと突き刺す。

うっ、と声を上げたイリーナだが、やがて針の中の毒が効いてきたのか身体がビクビクっとしびれたような反応をした後、ゆっくりと瞼を閉じる。

 

「任務完了。ふー、きつかった。噂には聞いてたがタークス…これほどとは…」

 

おそらく、自分が相手した物はタークスの中でも一番格下だ。そのことはあずみ自身戦っている中でなんとなく分かっていた。だが、その格下でこれなのだ。他のタークスがどんれほどなのかなど考えたくもない。

 

「いつつつ、っと、まずはこの身体の穴をどうにかしないとな。悪いけど、他の奴らは頼んだぜ。」

 

そう言ってあずみはへたり込みながら息を整えるのだった。



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