コードギアス オールハイルブリタニア! (倒錯した愛)
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全ては『帝国』のために

「フッ!ハッ!」

 

ギィン!ギィン!

 

神聖ブリタニア帝国、そのアリエス宮に金属音が幾度と無く響く。

 

金属音の正体はレイピアである。

 

レイピアを握るのは二人の男、しかし片方は男と呼ぶにはあまりにも幼すぎる見た目をした少年、もう片方は成熟し、鍛え上げられた肉体が服の上からでもわかるほどの大男だ。

 

刃の無い練習用の模擬剣としての役割しか持たないレイピアで斬り合う二人、だがその様子は異端であった。

 

鍛え上げられた肉体を持つ大男が、幼い子供を追い込もうと鋭い突き少年に突き立てんと放つ、少年はそれを剣先だけ少しだけずらして軌道を変え、逆に突きを放ち大男を吹き飛ばした。

 

「見事だ!アールストレイム【君】!」

 

吹き飛ばされた大男は受け身を取り、流れるような動作で立ち上がる、少年はその動作に一切の隙が無いことを知っていた。

 

「ありがとうございます、ゴッドバルト卿」

 

模擬レイピアを鞘に戻して頭を下げる少年。

 

彼の正体はもうお分かりだろうが、昨今人気のチート転生者である。

 

転生によってこの【コードギアス】の世界にアールストレイム家の長男として産まれた彼は、妹のアーニャ・アールストレイムと共にアリエス宮に行儀見習いとして来たのだが、彼の目の前にいる大男、忠義の男【ジェレミア・ゴッドバルト】に剣の才能を見抜かれ、ジェレミアの主人である【マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア】に説得をし、こうしてジェレミア自身が稽古をつけている。

 

彼はジェレミアのこの行動に感謝している、もともと前世でも高い身体能力を遺憾無く発揮していたのだが、行儀見習いなどという使用人のようなことをしているのは彼にとって面白く無かった。

 

別に誰かのために尽くすというのが嫌なわけでも、奉仕するのが嫌なわけでもない、現に、彼は純粋にマリアンヌを敬愛するジェレミアに惹かれており、国では無く人に忠義を尽くすのも悪くないと思っている。

 

ではなぜ面白く無いのか、それは窮屈だからだ、行儀見習いというアリエス宮の中で主人に付き添い掃除したり料理をしたりなど、月斗にとっては別になんの苦にもならない、だが彼は前世では高貴な家の出であり、超常たる存在の剣となり盾となり死んでいくのが本望であるという家訓の家で生まれ、教育を受けてきた。

 

そんな彼が剣にも盾にもならずただただ使用人として過ごすなど許せるはずがない。

 

実際、行儀見習いとしてアーニャと招待された時も一度断っている。

 

だが物は試し、アリエス宮に行くとどうだろう、忠義に厚いジェレミア・ゴッドバルト卿という素晴らしき人格者がいたのだ、行儀見習いなど知ったことか!と言わんばかりに彼はブリタニア式の剣術をジェレミアに教えてもらい、メキメキと上達している。

 

ジェレミアから剣を教わり早くも一年が経っていた、ジェレミアとの勝率は五分五分を保っている。

 

ひとえにジェレミアの才能と努力、そして勘の良さがあって彼は未だに勝率が上がっていない。

 

かというジェレミア本人は、彼の才能に歓喜しつつ、いずれは自らを超え、マリアンヌに尽くして欲しいと思っている。

 

そんな美しすぎる魂を持つジェレミアに、彼の根底にある忠誠心は、完全に向いてしまっており、ジェレミアの尽くしているマリアンヌにも同様の忠誠を捧げている、が、原作知識を持っているため同時に警戒している。

 

他人が見れば本物の親子のような忠義の塊のような二人は、ほとんどの時間を一緒に過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

 

初めまして、ツキト・アールストレイムです、レイピアで素振りしてますけどお気になさらず。

 

いきなり転生だと言われ原作知識を与えられてアールストレイム家の長男、アーニャの兄として生まれました。

 

大穴で枢木だと思っていたため驚愕、まさかのブリタニア帝国アールストレイム家に生まれました。

 

かわいい妹のアーニャと共に行儀見習いとしてヴィ家に来ましたが、そんなことはどうでもいいんです、ゴッドバルト卿はどこですか?ゴッドバルト卿を出しなさい。

 

「む、おはようツキト!朝から精が出るな!」

 

この爽やかで清潔感あふれる忠義の塊のような男の人は私の師、ジェレミア・ゴッドバルト卿です。

 

「おはようございます、ゴッドバルト卿」

 

「さて、準備運動は…………要らぬようだな、それでは始めようか」

 

ゴッドバルト卿がレイピアを抜き構えた、私もそれに従いレイピアを抜いた。

 

このレイピアはつい先日剣の腕を認められマリアンヌ様より贈られた剣です、二本が対になり二刀流で使うものだと聞いています、大戦中のマリアンヌ様も二刀流で戦ったのだとか。

 

「ふむ、やはりその剣は美しい、だが、それゆえに戦いには向かないな、こちらのレイピアを使いたまえ」

 

そう言ってどこからかレイピアを取り出して私に差し出すゴッドバルト卿、それを受け取り抜刀する、刃がついた真剣だ。

 

「では、始めようか」

 

「第2260回目の対戦、勝たせてもらいます」

 

「フフフッ、1131勝目は私が貰い受ける」

 

「いいえ、1130勝目は私のモノです」

 

「ふっ、では、いざ尋常に………」

 

ゴッドバルト卿がレイピアを構える、あれは本気の構え!

 

「正々堂々と…………」

 

ならばこちらも、持てる全力を持っていくのみ!

 

「「勝負!」」

 

「先手必勝!」

 

水の動きをイメージして流れるように連続の突きを放つ、すぐに見切られ避けられる、今度はゴッドバルト卿が深く踏み込んでの突き、辛うじて避けた先にゴッドバルト卿の剣が走る。

 

受け流して突きを放ちバックステップで距離をとる、ように見せかけて低姿勢から上方向への斜めの突き、ちょうどゴッドバルト卿の胸を貫通して絶命させることができる必殺の一撃。

 

しかしそれすら避けられる、そしてゴッドバルト卿が距離をとったところで拍手が聞こえた。

 

「ん?」

 

あの黒のロングヘアーは…………。

 

「「マリアンヌ様!」」

 

いつの間にかアリエス宮の主、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアがいた、私はゴッドバルト卿と共にレイピアを鞘に収め跪く。

 

「邪魔してごめんなさいね、でも真剣での試合は危ないわよ」

 

「申し訳ありませんマリアンヌ様!」

 

「それとツキト、また腕をあげたわね、二、三日見てない間にそうとう強くなったわね」

 

「ありがとうございます!」

 

微笑みながら褒めてくるマリアンヌ。

 

「ああ、ジェレミア、ちょうどさっきコーネリアにも言っておいたのだけれど、今日の警備は外れてもらうわね」

 

「なんですと!?」

 

ゴッドバルト卿は驚きで顔をあげた、私は無反応だった。

 

「聞こえなかったかしら?今日の警備は外れてちょうだい」

 

微笑みながらそう言うマリアンヌの目は笑っていない。

 

「い、イエスユアハイネス!」

 

ゴッドバルト卿もこの威圧感には頷くしかなかった。

 

「ありがとう、それじゃあ頑張ってね、二人とも」

 

そう言ってマリアンヌは立ち去っていった。

 

「私が何か失礼なことを働いてしまったのか?………はっ!?もしやツキトに行儀見習いとしての仕事をさせないから………」

 

ゴッドバルト卿が珍しく混乱している様子、まあ、いきなり【お前今日休んでいいよ】って言われたら、どうやって過ごそうか迷うことはあるでしょう。

 

でも相手は皇族、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア、そこらのコンビニのバイトなどとは訳が違う。

 

「ですがゴッドバルト卿、マリアンヌ様は賛成していましたが…………」

 

私は訳を知っていますけどね。

 

今夜はV.V.がマリアンヌを暗殺に来る日、アーニャがマリアンヌのギアスにかかってしまった原因はV.V.がマリアンヌを死の淵に追いやったことにある。

 

ならマリアンヌが殺される前にV.V.を殺せばいい、そう結論を出したところでぶつぶつと警護を解かれた理由を考えるゴッドバルト卿を連れてアリエス宮内に入る。

 

相変わらず無駄でよくわからない趣味全開の内装…………では無く、気品ある雰囲気で非常にシンプルな風景だ。

 

「あ、お兄ちゃん、おかえり」

 

出迎えてくれたのはちょうど手すりを拭いていたアーニャだった、かわいらしい見た目にメイド服が合わさり最強に見える。

 

「ただいまアーニャ、しっかりやっていたか?」

 

「うん、あと少しでおわり」

 

テンションが低いためか淡々とそう話すアーニャ、しかし兄だからこそわかる、アーニャは少しだけ嫉妬している。

 

ゴッドバルト卿とほとんどの時間を過ごしている私に嫉妬している目だ、その嫉妬の視線を今はゴッドバルト卿に向けられている、本人は気づいていないようですが。

 

さて、ゴッドバルト卿が警護を解かれた今、マリアンヌを守る者は一人もいない、私がマリアンヌを助け、コードを奪ってV.V.を殺し、偶然を装いマリアンヌの両目を潰してギアスが使えないようにするしかないですね。

 

それがこれからのルルーシュとナナリーのためになるはず、うまくいけばアールストレイム家とゴッドバルト家の評判も上がるでしょう。

 

深い考えはいらない、私はただ、ヴィ家の剣であればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シリアスな空気が流れましたが、普通に昼食をとりました、昼食をとると言ってもゴッドバルト卿同様に、私も警護を任されていた身なので料理長が作ってくれた賄い程度の料理でしたが、料理長の出身地の素朴な味のスープがまた懐かしさ溢れるいい料理で………。

 

っと、長くなりそうなのでそれは置いといて。

 

「むむむ…………」

 

「ツキトさん!かけっこをしましょう!」

 

ルルーシュもナナリーも元気いっぱいですね、原作通りどちらもかわいらしい顔をしてます、アーニャには負けますが。

 

ナナリーはマリアンヌ暗殺後に記憶操作で目が見えなくなり歩けなくなる前までは走り回っていることが多いやんちゃな子だったというのは知っていましたが、まさかこれほど疲れ知らずとは………。

 

【閃光】のマリアンヌの血を受け継いでいるから当然といえば当然ともいえますがね。

 

問題はルルーシュです、原作同様に頭脳労働大得意、反面貧弱です、今も椅子に座って同い年の私とチェスをしています。

 

ついでにこれが4回目、戦局は私が有利、というかあと少しでチェックメイトです、さて、ルルーシュはここからどう巻き返してくるのか…………。

 

 

数分後……………

 

 

「…………ここ、かな」コン

 

「チェックメイト」コン

 

「うっ…………も、もう一回」

 

また勝っちゃいました、いや、巻き返してくれるのかと思ってたんですが……………まあ、経験の差でしょう。

 

「ツキトさん!かけっこ!かけっこしましょう!」

 

長い間待たされたナナリーがついに私の袖を引っ張って椅子から立たせる。

 

「しょうがありませんね、ルルーシュ様も気分転換にどうですか?」

 

体力のないルルーシュに少しでも体力をつけさせるために誘ってみる。

 

「じゃあ僕もやろうかな……」

 

それを聞いてナナリーは。

 

「本当ですかお兄様!それでは行きましょう!」

 

「ちょ、ちょっとナナリー!待ってよー!」

 

ルルーシュの袖を引っ張って走っていった、というより引きずっているというか………。

 

まあ、仲が良いことに悪いことはありませんし、問題はないとは思いますが、とりあえず私もついていきましょう。

 

 

 

数十分後………

 

 

 

「ゼェ………ハァ…………」

 

案の定ルルーシュはばててました、ナナリーはまだピンピンしてます、アリエス宮の周りをガムシャラに走り回れば当然疲れると思いますが、さすがにピンピンしてるのは絶対おかしい。

 

「ツキトさん!次は夫婦ごっこを…………」

 

「それだけはご勘弁を」

 

それをするたびにルルーシュのヤンデレっぽい視線が刺さるんです、やるんだったらルルーシュとナナリーの二人でやってください。

 

「あぁ!ツキト!ルルーシュ!ナナリー!」

 

「おいユフィ!ちょっと待て!」

 

いきなり声が聞こえたかと思うとこちらに向かって走ってくる人影が二つ、ユーフェミアとコーネリアですね。

 

ユーフェミアもコーネリアもかわいらしいです、しかしアーニャには劣ります。

 

「おはようございます、ユーフェミア様、コーネリア様」

 

「むー、んもう!いつも言ってるじゃない、そんなにかしこまらなくてもいいのよ」

 

「申し訳ありません、それは無理です」

 

「そう………残念ね」

 

シュン、と寂しそうな顔になるユーフェミア、しかしすぐ仕方ないことだと立ち直り、ナナリーに話しかける。

 

「ナナリーは何をしていたの?」

 

「ユフィ姉様、実はツキトさんと夫婦ごっこを………」

 

「まあ!夫婦ごっこ!ツキト、私と夫婦ごっこしませんか?」

 

「あ!ずるいですユフィ姉様!」

 

「あ、あの、つ、ツキト!わ、私と、夫婦ごっこを………」

 

「「「ヤンヤヤンヤ………」」」

 

今更ですけど、これって私にフラグ立ってません?

 

「ツキト」

 

「?……なんでしょうかルルーシュ様?」

 

「ナナリーとユフィと姉上、誰をとるんだ?」

 

「私には、その誰ももったいなさすぎます」

 

「そうかな?僕が思うに、ナナリーがいいと思うんだけど……」

 

「確かに、ナナリー様は優しいので幸せに暮らしていけるでしょう」

 

実際一時はナナリーとのフラグを立てて婚約して皇族入りしようかとも思いましたが、ヴィ家に支える身としてそれはどういうものなのか、と思いやめました。

 

しかし、フラグは立ってしまっている模様。

 

「ですが、ナナリー様本人にはもっと世の中を知っていただきたいのです、今のナナリー様にとって世界はこの狭いアリエス宮の中のみ、もっと広い世界を知って欲しいのです」

 

とご高説垂れましたけど半ば適当です。

 

というか、ユーフェミアとコーネリア、あげくアーニャにも立っていますよね、どうしてこうなった、ってかどうしましょう。

 

いや逆に考えるんです、ユーフェミアかコーネリアと結婚して皇族入りすれば発言力を強化できる、その発言力でルルーシュとナナリーの警護を強化すれば………。

 

いや待て私よ、ユーフェミアかコーネリアに婿入りするということは、二人の生まれたリ家に尽くすということになる、だめだ、私はリ家ではなくゴッドバルト卿とともにヴィ家に支える身、ナナリー様はまだいい、まだ許される、だがヴィ家ではないユーフェミアとコーネリアはだめだ。

 

よし、とりあえず方針を再確認だ。

 

まずヴィ家に支えるのは当初の予定通り変更なし、しかし問題はここから、マリアンヌはゴッドバルト卿に任せるとして、ルルーシュかナナリーのどちらかだ、同い年のルルーシュの専任騎士となればルルーシュを肉体的に鍛えることができる、ナナリーの専任騎士となれば政治の面で手助けができる、どちらを選んでもヴィ家のため、神聖ブリタニア帝国のためになる、まあ、その時になったら決めればいいか。

 

ひとまず……………夜になるまで待とう、全員が寝静まり、マリアンヌを暗殺せんとするV.V.を、殺すために。

 

全ては、ヴィ家のため、神聖ブリタニア帝国のため。

 

オール・ハイル・ブリタニア!

 



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『邪悪』は『暗殺』を阻む

人物紹介

 

ツキト・アールストレイム

 

・まさかのコードギアスの世界に特典をもらって転生した主人公(悪役)

身長150cmと前世より2cmほど高い(それでも低い)、髪はアーニャと同じでピンク色、目もアーニャと同じ色。

生まれ持っての高い身体能力とそれなりに回転の速い頭脳、しかし短気なのがたまに傷。

特典は【コードを持つ者を殺すことができる】という原作ブレイカーも良いところ、C.C.逃げて!超逃げて!あ、V.V.は死んで、どうぞ。

転生後、前世のことをある程度だが割り切っているため、女性(男性とも)なんらかの関係を持つことに罪悪感を感じない。

…………ものの、恋愛に関しては一途。

実はアーニャの従兄弟でしたという恒例の裏設定が存在する(?)…………筈もなく、しっかり血の繋がった兄妹だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

 

真夜中のアリエス宮、そのエントランスの柱の陰に身を潜めV.V.を待つ。

 

実は夕食に睡眠薬を盛られたがなんともなかったのは自分でもおかしいと思いながら今エントランスにいます

 

しばらくするとマリアンヌがエントランスに一人で出てきた、護衛を一人もつけずに。

 

そしてエントランスと庭をつなぐ扉が開き子供が入ってくる、この子供こそすべての元凶であるコードを持つ男【V.V.】、マリアンヌの前に立ち何かを話し始めた。

 

おそらくギアスのこと、そして計画のことでしょう。

 

そして剣呑な雰囲気を醸し出したその時。

 

「神話の時代から男を惑わすのは女だって話だよ」

 

そう言ってV.V.はマントの下からサブマシンガンを取り出しマリアンヌに標準を合わせようとする。

 

今!

 

「マリアンヌ様!お下がり下さい!!」

 

「っ!ツキト!?」

 

「おそいよ!」

 

ダダダダダダッ!

 

サブマシンガンから吐き出された弾丸は次々とマリアンヌへ向けて突撃していく。

 

腰のレイピアを抜刀してマリアンヌの体にあたるものだけ切り捨てていく。

 

その中の一発を真っ二つに切り裂きながら弾道を少しだけ変え、マリアンヌの両目にあたるように調整する。

 

「っっぐぅっ!」

 

両目が潰れた痛みからでる悲鳴を堪えうずくまるマリアンヌ、よし、これでいい。

 

そして、ついにサブマシンガンの弾薬がきれた。

 

「くっ!リロードが………」

 

レイピアを弓矢を引き絞るように引き、思い切り突く。

 

ザシュッ

 

「あぐっ!?…………」カクッ

 

レイピアはV.V.の脳天を貫いた、私がもらった特典によって、V.V.はコードを持っているにもかかわらず絶命した。

 

V.V.の血液によって服が真っ赤に染まる、洗濯して落ちるか不安だ。

 

ここで振り向いてマリアンヌの負傷を見る、そして叫ぶ。

 

「っ!?……ま、マリアンヌ様あああああ!!!」

 

「っく…………ツキ……ト……」

 

これでいい、完璧だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の叫び声で駆けつけた医者によってマリアンヌの目の治療はすぐに行われた、私の目論見通りもう二度と光を感じることができないとのこと。

 

あまりにうまくいったので笑いそうになったぞ、今も現在進行形で笑いそうだ。

 

「ああ……マリアンヌ様………」

 

マリアンヌの病室の外の椅子に腰掛け力無くうなだれるゴッドバルト卿。

 

「……ゴッドバルト卿………私の力不足で……っ!」

 

私は彼の前で顔を伏せ肩を震わせる。

 

「己を、責めるな………あの状況でよくやった、幸い傷は浅く、目が見えなくなった以外はなんともないと言っていた…………だから、あまり思い詰めるな」

 

ゴッドバルト卿は優しく私の頭を撫でる、その顔は普段以上に慈愛に満ち溢れていた。

 

…………いや、肩が震えているのは笑いを堪えているだけなんだ、別にマリアンヌを守りきれなかったことを悔いているわけじゃないんだ。

 

………………ブフッwwwマリアンヌざま(様)ぁwwww

 

おっと、失礼。

 

とにかく、これで第一段階はクリア、マリアンヌのギアスも発動しないだろうし、アーニャが記憶のことで悩むことはなくなる。

 

問題があるとすれば、陛下から罰される可能性があるということ、私個人に対する島流し程度なら別にいいが、アールストレイム家まで巻き込む必要はない、その時は……………シャルルを殺して私が皇帝にでもなればいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの暗殺未遂事件から三日が経った、ルルーシュとナナリーから感謝の言葉を受け取った、ユーフェミアとコーネリアからは褒められ、たまたま来ていたクロヴィスにも褒められた、アーニャからも褒められた、アールストレイム家からも同じような内容の手紙が届いた。

 

感謝されるのは悪くないが、あの行動全てが私の独善だったことから素直に喜べない。

 

…………なんだ、私にもまだ良心が残っていたのか。

 

まあそんなことなどもはやどうでもいい、障害たり得ないマリアンヌなどに興味はない。

 

次の時代は、ルルーシュとナナリーが背負っていくはずだ、ならばルルーシュたちについて行き、私の忠義を貫くのみ

 

「よし、行くか」

 

第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの召喚状を握り締めて立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニア様御入来!』

 

大仰な扉が開かれる、声に従って陛下の御前にでる。

 

「ツキト・アールストレイム、陛下の命により参上いたしました」

 

陛下の座る玉座から5mほど離れた場所で跪く。

 

「おもてを上げい……」

 

命令通りに顔を上げる、陛下の威風堂々とした雰囲気が体の真正面から伝わってくる、まさしく王者にふさわしい風格。

 

「(これが………これがシャルル・ジ・ブリタニアだと!?そこいらの貴族や皇族など比べるのも烏滸がましいこの威圧感!人の皮を被った魔王だ!)」

 

ざわめきの中陛下が話し始める。

 

「ツキト・アールストレイムよぉ、よくぞマリアンヌを守り抜いたぁあ…………」

 

「それが私の使命ですから」

 

「ふん……謙遜をぉするでなあああい……………わしは貴様の行いにぃぃいい、感動ぉおしたのだぁぁあああ………」

 

「感動、でございますか?」

 

ざわめきが大きくなる、弱肉強食の国是を掲げる神聖ブリタニア帝国の皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアは滅多なことでは人を褒めたりはしない。

 

ゆえに、ただの貴族の息子である私を褒め、感動したということは本来ならありえないこと、帝都ペンドラゴンに隕石が落ちる確率の方が高いだろう。

 

「そぉおうだ………よってぇえ、貴様に褒美をつかわそう…………貴様の望むものはなんだぁ?」

 

陛下の問いかけに対し、一呼吸を置いて答える。

 

やっとここまで来たか!待ちわびたぞ!この瞬間を!

 

「では、【ナイトオブラウンズ】の称号を」

 

答える時、自然と口角が吊りあがり邪悪極まりない笑みがこぼれる、失敗したか?冷や汗が流れる。

 

「ほぉう!その眼……まるで獣のようではないかぁ!」

 

陛下は目を見開き満足げな声を出した後、ニヤリと笑った、機嫌を損ねてはいないようだ、むしろ獣…………野心的ととられて好感触のようで安心した。

 

「よろしいぃぃ………貴様にはルルーシュやナナリーの警護もあるぅぅだろう………よってぇえ、貴様には存在せぬ13人目のラウンズ、【ナイトオブサーティーン】の称号を与えよう…………」

 

「はっ!ありがたき幸せ!」

 

「【ナイトオブサーティーン】はぁぁあ…………我がシャルル・ジ・ブリタニアの直轄ではなくぅぅ………【ナイトオブサーティーン】自らが定めた主の直轄となるぅぅ…………聞こう!【ナイトオブサーティーン】よ!そなたの主はだぁああれええだああああ!?!?」

 

芝居がかった大声に集まった皇族・貴族たちはビクリと震える。

 

どうやら陛下は私を気に入ってくれたみたいだ、これは好都合、弱肉強食を国是とするだけはある!より高みに至らんとする者には関心が高いようだな。

 

「我が主は…………我が主はただ2人のみ!ルルーシュ様とナナリー様でございます!」

 

「ではぁあ!【ナイトオブサーティーン】よ!そなたの忠誠は誰に捧げているぅぅうう!?!?」

 

「我が主、ルルーシュ様とナナリー様にございます!」

 

「ならば!そなたは何のために生きるぅぅうう!?!?」

 

「我が主、ルルーシュ様とナナリー様のために!!」

 

「よろしい!立てい!ツキトよ!」バァン!

 

陛下は玉座の肘置きを叩いて立ち上がる、私も立ち上がり直立不動をとる。

 

「そなたの忠誠はぁぁあ、我がシャルルに届いた!今後も【ナイトオブサーティーン】として神聖ブリタニア帝国に仕えるがよい!」

 

「イエス!ユアマジェスティ!!」

 

「皆もツキトを見習いぃ、存分にぃ争い、競い合うがいぃ!それがぁ!我がブリタニアを進ン化させるのだぁ!オール・ハイル・ブリタあああああああああああああああニアあああああ!!!」

 

「オール・ハイル・ブリタニア!」

 

「「「「「「オール・ハイル・ブリタニア!オール・ハイル・ブリタニア!オール・ハイル・ブリタニア!オール・ハイル・ブリタニア!オール・ハイル・ブリタニア!」」」」」」

 

これが陛下の、シャルル・ジ・ブリタニアの力!弱肉強食を国是にし、競い合わせ、その最終目標、頂点たる玉座に座る者!神聖ブリタニア帝国を統べる王者の力!絶対たる強者!

 

この風格を、ルルーシュが最も受け継いでいる、ならば!我が使命は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとナナリー・ヴィ・ブリタニアただ2人に仕え、皇帝陛下として君臨なされるその日までそばで支えること!

 

その結果が魔王であれなんであれ、我が命と忠義、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに捧げる!それがこの世に転生した私の使命だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陛下との謁見も無事終わり、数日後に急遽行われたナイトオブラウンズ就任式にも出席した、アールストレイムの本家は大喜びだろう。

 

就任式の晩はルルーシュやナナリーに祝ってもらった、アーニャも祝ってくれて本当に嬉しかった、驚いたのはマリアンヌも祝ってくれたことだ、恨まれはすれど祝われるとは思ってもいなかった。

 

原作では死んでいたであろうマリアンヌが今もここにいるのは結果的にルルーシュとナナリーの心の支えになるだろう、目が見えない(ギアスが使えない)ようにするだけでマリアンヌはもう計画の手伝いはできなくなった。

 

個人的に陛下を殺したくはない、だが最後には殺すことになる、何かいい方法は…………。

 

確かコードを持つ者が二人以上いて初めてアーカーシャの剣は起動し、【(自分たちにとって)優しい世界】が出来上がる、だがそれは時の歩みを止めた、人間として生きることも何もかも投げ出すということと同じだ、それをルルーシュが破壊して皇帝に…………ん?

 

待て待て待て、コードを持つ者が二人以上必要なんだよな、一人はC.C.だ、原作ではもう一人はV.V.のコードを奪った陛下だった、では今は?V.V.のコードは?もしやCの世界に飲み込まれ消滅したのか?もしくは…………………………私がコードを受け継いだ?

 

…………つまりなんだ、私はコードを持ちながらコードを殺す能力を持つ矛盾生命体なのか?誰得なハイブリッドだそれは。

 

まあまだ決まったわけではないか、よし、ここに一本の果物ナイフがある、これで指先をスパッと…………いや自分で持って切ったら意味ないか、テーブルに固定して、っ!痛っ!おお!修復が早いな、だが、痛いな……。

 

とりあえず仮説は証明された、私はV.V.から知らぬうちにコードを奪っていた、私の特典でコードを持つ者を殺せる能力とうまく共存している、つまり、今の私を殺す方法は私に自殺させるしかない…………………とんでもない化け物になってしまったようだ。

 

「まあ、そこらへんも兼ねて利用させてもらうか、不死身の肉体も悪くない」

 

いらなくなったら自殺すればいいし。

 

さて、次はどうするか………まあ、もう決まっているが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルルーシュとナナリーを日本へ?」

 

マリアンヌと対面するように椅子に座る私、マリアンヌは私の投げかけた言葉の意味を考え始めた、そして口を開いた。

 

「関係が悪化しつつあるブリタニアと日本の交渉材料…………」

 

「…………に見せかけて、ルルーシュとナナリーの安全確保が目的ね?」

 

やはりマリアンヌにはわかってしまうか、【閃光】の名は伊達ではないか。

 

「そうです、今後マリアンヌ様と子息であるルルーシュ様とナナリー様は狙われます、マリアンヌ様にはゴッドバルト卿がいますが、私はルルーシュ様かナナリー様のどちらかしか守れません、なので国外に出た方がゴッドバルト卿はマリアンヌ様の警護に集中できます」

 

「なるほどね、関係の悪い日本なら狙われにくいと考えたわけね」

 

「それに、日本とは関係が悪化していますが、日本人は人種・民族に問わず友好的な人種なので日本人から狙われることはないでしょう、あったとしても、平和ボケしてヤマトダマシイも持たない貧弱な者どもには遅れはとりません」

 

「そこまで考えてくれているのを知ったらルルーシュとナナリーは喜ぶでしょうね」

 

「それが私の使命ですから」

 

「ふふっ、シャルルから聞いたけど、本当に欲がないのね」

 

「ナイトオブラウンズの称号を欲した私に欲がない?それは勘違いですよ」

 

「でもそれ(ナイトオブラウンズの称号)はルルーシュとナナリーのためなのでしょう?ナナリーも幸せ者だわ、そうだ、ナナリーの婿に来なさいよツキト」

 

「そんなことしたらルルーシュ様に殺されてしまいます」

 

「ルルーシュにそんな力はないはずだけど?」

 

「本気を出した兄は強い者なのですよ」

 

「うふふ、説得力あるわね…………いいわ、ルルーシュとナナリーはあなたに任せるわ、使用人を何人か連れて行っても構わないわ」

 

「ありがとうございます、それでは一週間後に日本へ発ちます」

 

「ええ、ルルーシュとナナリーを、頼んだわね」

 

「イエス、ユアハイネス」

 

話をしている間、マリアンヌは非常に穏やかな笑みを浮かべたままだった、同時に、子の幸せを願う母親のような顔にも見えた。

 

ルルーシュとナナリーにもこの考えを話した、ルルーシュはマリアンヌの負担が減るというなら、と二つ返事で了承した、しかし、やはりと言うべきか、ナナリーの説得には時間がかかった、最終的に説得が成功したのはその日から三日後、マリアンヌに立ち会ってもらいやっと成功した、一桁の年で母親から離れろというのは厳しいものだが、耐え忍んでもらいたい。

 

そして時は流れ、期日の一週間が経ち、ブリタニア領内の空港に来た、見送りとしてマリアンヌとゴッドバルト卿、アーニャも来ていた。

 

コーネリアとユーフェミアも来る予定だったが、どちらも皇族としての仕事が多く、見送りの言葉は手紙で送られてきた。

 

「アールストレイム卿、ルルーシュ様とナナリー様を頼みます」

 

「敬語はいりませんよゴッドバルト卿」

 

ちなみに今の私の格好はナイトオブラウンズの正装、マント含め紺色で統一した服装に右目に眼帯を付けている、というのも、コードを奪うと体のどこかに紋章が表れる、V.V.は額だったが、私は右目に表れてしまった、ギアスでもないのに紛らわしいし、何より怪しまれるので眼帯を付けることにしたのだ。

 

「む、では私のこともジェレミアでいい」

 

「はい、ジェレミア卿、マリアンヌ様を頼みます」

 

「任せたまえ」

 

ジェレミア卿は力強くうなづいて見せた。

 

「お兄ちゃん……」

 

アーニャが寂しそうな顔で私を見上げる、上目遣いは反則だぞ。

 

「なに、たかだか1、2年だ、すぐに戻って抱きしめてやるさ」

 

口角を少しあげて悪魔的な笑みを浮かべ、右手を腰につけて言う、少しキザっぽかったか?

 

「うん、ちゃんと抱きしめてね////」

 

「え……あ、ああ」

 

アーニャがデレるとは思って………いや薄々感じてはいたが、まさか頬を朱色に染めて恥ずかしがるとは思わなかった、惚れるかと思ったぞ。

 

「それではルルーシュ様にナナリー様、行きましょう」

 

「はい」

 

「う、うん……」チラチラ

 

「うふふ……」ニコニコ

 

ニコニコと笑って見送るマリアンヌをナナリーはチラチラと不安げに何度も見てから皇族専用ジェットに乗った。

 

その五分後、ジェット機は離陸した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、私の物語を始めよう。

 

オール・ハイル・ブリタニア!



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『エリア11』

原作の影が微塵もない


ツキトside

 

 

 

侵略と略奪を行う神聖ブリタニア帝国、その唯一の友好国と呼べるのが極東の地に位置する日本。

 

平和ボケした老害どもによって軍備に問題がある、その徹底した平和ボケ政策によって治安は良いがKMFが一機足りとも配備されていない、第一世代型KMFすらないのだ。

 

技術的にも文化的にも世界の最先端を何百歩も行く先進国である神聖ブリタニア帝国と比べれば、どの国家も後進国にしか見えないのは仕方がない、とでも言うと思ったか?弱肉強食たるブリタニアの国是に従わず、滅びの運命をたどるであろう弱小国家日本に興味などない、ここがエリア11になったあかつきには、この私自ら支配してやろう。

 

まあ、陛下の許しが出たら、だが。

 

長いこと語ったが、この世界の日本がどれほど神聖ブリタニア帝国に劣っているのかが理解できたことだと思う、その日本の首相枢木の家にて厄介になることになった。

 

現在枢木家の枢木首相の書斎でルルーシュたちのことを話す。

 

「…………つまり、ルルーシュ君と「様をつけろ様を」……ルルーシュ様とナナリー様はブリタニア本国での暗殺から逃れるため、日本に来た、ということですな?」

 

「そうだ、理解できるか心配だったが、頭が良くて助かった」

 

「それでは御二方にはSPを「いらん」……なぜです?」

 

「ルルーシュ様とナナリー様は私とともにブリタニア本国からの【留学生】として生活してもらうからだ、ただの一般人にSPなどつけられるものか」

 

「…………ですがそれでは安全性が、いつどこで狙われるか………」

 

「構わん、どうせ日本人風情が私に勝てるはずもないのだからな、もう話は終わりだ、私はルルーシュ様とナナリー様の様子を見に行く」

 

「………わかりました(ブリタニア人が偉ぶりおって!)」

 

ふん、張り合いのない、平和ボケのしすぎだバカども。

 

書斎を出てトイレに入り、持ってきたスーツケースより年相応の少年の服を取り出して着替える、ナイトオブラウンズの服装はかっこいいが、重い、特にマントが。

 

よし、これでいいな。

 

枢木首相の家を出て枢木神社に行き、そこの道場に入る。

 

「ツキト、いいところに来た、スザク、彼がツキトだよ」

 

「枢木スザクです、よろしくお願いします!」

 

ほう、こいつが枢木スザクか、頭が硬そうだな。

 

「かしこまらなくてもいいさ、私はツキト・アールストレイム、よろしく」

 

手を差し出して握手を促す。

 

「よ、よろしく!」

 

スザクは私の手を握り上下に振る、なぜブリタニア領、かつてのアメリカ付近のシェイクハンドなんだ?

 

「ツキトさん!かけっこしましょう!」

 

おいナナリー、お前はかけっこ中毒か何かか。

 

「あ!僕もしたい!」

 

「お、俺は遠慮しとくよ……」

 

「なんでだよルルーシュ、仲良くなった記念にみんなで思いっきり遊ぼうよ!」

 

「まあ!お兄様、スザクさんの言うとおりです!みんなでかけっこしましょう!」

 

ナナリーとスザクは体育系だし、仲良くなりそうだな、あれ?これはスザクにフラグ立ったか?それなら嬉しいのだがな。

 

「ツキト!助けてくれ!」

 

「ツキトさんも早く!」

 

「鬼は僕がやるよ!」

 

もはや収集をつけるのは無理、というかめんどくさい段階に入りましたね、とりあえず、ルルーシュの体力作りだと納得してもらって私も参加した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おいふざけるなスザクの身体スペックが私とほぼ同じとはどういうことだ、原作でも化け物だったがこんな子供時代からそうだったのか。

 

もちろんルルーシュは平常運転、すでに虫の息である。

 

「コヒュー……………コヒュー……………」

 

「楽しかったですねお兄様!スザクさん!」

 

「うん!僕も楽しかったよ!また一緒に遊ぼうよ!」

 

「はい!」

 

堕ちたな(確信)、今夜は赤飯かな。

 

スザクと別れ枢木神社を後にする、拠点…………というより家となるのはこの近くの高級マンションの最上階、眺めがよく防犯設備も日本にしてはまあまあ及第点、そこに警護のエキスパート・ツキトの手を加えることでルルーシュとナナリーと私を除く人間は入れない、入れたとしても…………まあその先は想像に任せよう。

 

ほぼ原作通りのファーストコンタクトから一ヶ月、ルルーシュとナナリーはスザクと学校、私は家事のため部屋にいた。

 

え?私は学校に行かなくていいのかって?私は保護者なんだ、保護者がイベントもないのに学校に行ってどうする、ちゃんと授業参観も家庭訪問もやっているから問題ない、近所では【幼妻】だと呼ばれているが私は男だぞ!

 

まったくあの変態野郎が…………っと、洗濯はこれでいいか、次は掃除だな。

 

まあ学校に行かない理由はもう一つあってな、スパイにとって、ルルーシュやナナリー本人の命を狙うより、その会話内容の方が利益が大きい、ルルーシュとナナリーの扱いは表面上は【外交取引・交渉の材料】となっている、これを耳に入れたバカはこの部屋に盗聴器をつけようとして…………その先は想像に任せるが、とにかく情報を狙ってくる、今月で三回もあったからな、合計四人、バルコニーの畑の肥料になってもらったよ、来年はいい野菜が取れそうだ(マジキチスマイル)

 

時間が経つのは早いもので、ルルーシュとスザクはより親密になった、そしてついにブリタニアは日本に宣戦を布告、ろくな軍備もない日本が、ブリタニアの一方的な蹂躙を受けるのが確定した瞬間だった。

 

予定通りにスザクは枢木首相を殺し呆気なく日本は敗戦、すぐにエリア11と名前を変えた、ほんの数ヶ月のことだった。

 

これで日本……エリア11はブリタニア人にとって住みよい国になる、いや、もはやここは国ではない、世界に多くあるブリタニア領の一つだ、サクラダイト産出量の多い、な。

 

開戦当初は危なかった、初日のうちにマンションを売り払っておいて正解だった、ブリタニア軍の攻撃によって三日後に崩れ去り跡形も無くなっていた光景を見たときはルルーシュもナナリーもスザクも固まっていたよ。

 

だがその後は簡単だった、私がナイトオブラウンズの正装でブリタニア軍駐屯基地に入りルルーシュとナナリー、そしてスザクを身分を何も伝えずに保護してもらった後、私もKMFで戦闘に出た、第四世代KMF【グラスゴー】、ルルーシュが高校生になる頃には完全な時代遅れな機体となるが、今はこれが現役だ、感想としては、まさに兵器の理想形というにふさわしい性能だった、人間に近い機動が出来るというのが一つの要因なのだろう、日本の数多の戦場で先陣を切った、そしていずれも無傷で帰ってきた、そして終戦を迎え、ルルーシュとナナリーはアッシュフォード家に身を隠すことになった。

 

「ルルーシュ様もナナリー様も、大変な思いをされたでしょう、ここの者はヴィ家としてでなく、ルルーシュ・ランペルージ、ナナリー・ランペルージという一般人として接してくださいます、何も心配することはございません」

 

「感謝する、学園長」

 

「それから、御二方には咲世子をつけましょう、必ずや、尽くしてくれるでしょう」

 

咲世子と呼ばれた女性はぺこりとお辞儀をした、原作通り掴み所がなさそうな女性だ、作者はコードギアスのssを見て二番目に好きなキャラを咲世子と答えるようになっていた、実際かわいい。

 

「何から何まですまないな」

 

「それがヴィ家に仕える我がアッシュフォード家の使命でございますゆえ……」

 

「助かる、本国のマリアンヌ様もさぞお喜びだろう…………それと、わかっていると思うが」

 

「ええ、【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア】と【ナナリー・ヴィ・ブリタニア】は【死んだ】ということですよね、重々承知しております、しかしなぜ?」

 

「ルルーシュ様はここ日本…………エリア11で過ごした【庶民としての生活】に思い入れを持っていらっしゃる、ルルーシュ様はブリタニアを破壊するとも言っていた」

 

「ブリタニアを!?」

 

「ああ、しかも、その時のルルーシュ様からは皇帝陛下と同じ威圧感を感じた、次期皇帝はルルーシュ様がふさわしいだろう、きっと勇ましいお姿に………失礼、まあそこは置いておこう、ともかく、ルルーシュ様はブリタニアを恨んでいる、平穏を破壊し、親友の同族を陵辱し、差別するブリタニアに、もしルルーシュ様の、神聖ブリタニア帝国の皇族の生存がイレブンに知られたらどうなると思う?」

 

「…………エリア11は早期降伏によって旧日本軍の兵器が大量に流れてしまっています、テロリストに渡り、もしテロでも起きてルルーシュ様やナナリー様が巻き込まれたら……」

 

「そうだ、もしそんなことになれば皇帝陛下によって国家反逆罪でエリア11全土のイレブン全員が処刑される、国営中継による芝居がかった演出で晒し者にされるであろう…………ルルーシュ様の親友、枢木スザクも例外ではない」

 

「わかりました、ヴィ家に仕えるアッシュフォード家は、ルルーシュ様とナナリー様の存在の隠蔽に全力を尽くします」

 

「その忠義に感謝する、それともう一つ、個人的なお願いがあるんだ」

 

「なんでしょうか?」

 

「ルルーシュ様とナナリー様の存在が完全に隠蔽されていたとしてもブリタニア人というだけで危害を加えようとするイレブンもいるだろう、校外では私がついていけるが校内には入れない、私は学生ではないからな」

 

「なるほど、わかりました、ツキト様には最高クラス権限の身分証明書を作ります、これで校内にも自由に出入りできるでしょう」

 

「ありがとう、それでは私はルルーシュ様とナナリー様に簡単な説明だけしてくる」

 

「はい、ゆっくりとおやすみください」

 

これでほぼ原作通りの展開だ、ブリタニアの皇族、ルルーシュとナナリーは死んだ、明後日からエリア11のアッシュフォード学園に通う二人はルルーシュランペルージとナナリーランペルージだ、皇族ではなくただの一般ブリタニア人、アッシュフォード家も全力で隠蔽するのだ、バレることはない。

 

………………あの時のルルーシュは、皇帝陛下とよく似ていた。

 

『ブリタニアを………壊す!!』

 

ゾクッ

 

あれはまさしく魔王の目だ、魔王が生まれた瞬間を目撃できたのは正直嬉しい、だが、まさかあの雰囲気に呑まれかけるとは思わなかった。

 

まあ、今ではその威圧感も雰囲気も内側に引っ込めてルルーシュランペルージとしての仮染の人生を送っているが。

 

ルルーシュが高等部に入り生徒会へと入会、中等部のナナリーと咲世子とともに三人でクラブハウスで生活している、私は学園の外で安いアパートを借りている。

 

私は表向きはルルーシュの専属使用人ということで学園に出入りしている。

 

今年はルルーシュがギアスを得る年だったな、あれ?確か今日は………。

 

ブゥゥゥゥゥゥウウウン…………

 

っと、また賭けチェスに向かったのか、相変わらずあき……な…………い…………賭けチェス………っっ!?!?

 

まずい!今日はテロリストが毒ガス兵器(in C.C.)を盗んだ日だ!それにルルーシュが干渉してシンジュクゲットーに行って目覚めたC.C.にギアスを…………。

 

くっ!こうしてはおれん!

 

「咲世子、私はルルーシュ様を追う、お前はナナリー様の側に」

 

「はい」

 

咲世子にナナリーの側にいるように指示して学園内に隠してあるバイクに乗りルルーシュを追いかける、リヴァルめ、いっそ殺してやろうか。

 

走ること数分、やっと追いついた。

 

「ルルーシュ様!」

 

「!?……ツキト!?こ、これは…………」

 

「また賭けチェスですか!?ナナリー様が言っていたこと、もうお忘れですか!?」

 

「うっ………」

 

ナナリーのことを出すと予想どおりの反応をするルルーシュ、原作通りのシスコンっぷりだ。

 

「まあまあ良いじゃないのツキトさん、学生なんだし、楽しまなk「黙れ!リヴァル・カルデモンド!おまえに用はない!」ヒィッ!?」

 

この青髪童貞のチャラ男が!

 

「とにかく!お戻りくださいルルーシュ様!ナナリー様に怒られたいのですか!?ついでに私は怒られたいです!」

 

「ツキトおおおおおおお!貴様ナナリーをそんな目で見ていたのか!?!?」

 

おお、こんなわざとらしい嘘にのってきた、ナナリーのことになると見境ないな。

 

「ふふふ……ルルーシュ様が帰らないと言うのなら、私はさきに帰り、ナナリー様にあんなことやこんなこt「リヴァル!今すぐ引き返すぞ!!」

 

「ルルーシュ!?」

 

「急げリヴァル!早くしないとナナリーがツキトに犯される!」

 

「可愛らしいナナリー様を…………くふふふふふ…………」

 

「リぃヴァルううううううううう!!」

 

「わかったわかった!すぐに引き返し…………」

 

リヴァルがハンドルを切ろうとした時、大型トラックが後ろから迫ってきていた、くそ!もう来たのか!なんなんだこの修正力は!

 

「リヴァル・カルデモンド!あのトラックは何かまずい気がする、巻き込まれないよう速度を落とせ!」

 

「あ、ああ…………」

 

トラックが速度を落とした私たちを追い抜いていく、そのすぐ後、なぜかハンドルを右に切ったトラックが建設中の建物に突っ込んでいった。

 

ドガァン!!

 

「うっひーー………こりゃあすげえ」

 

「なぜ大型トラックがあんなにスピードを出していたんだ?」

 

リヴァルはバイクを止め事故の様子を野次馬根性のごとく見ていた。

 

ルルーシュは大型トラックがバイクを追い越すほどの高速を出していた理由を考えていた。

 

そんなことをしているうちにトラックはバックで瓦礫を抜け、走り去っていった。

 

「なんだってんだ?あのトラック」

 

「リヴァル・カルデモンド、ルルーシュ様を連れて学園に戻れ、もしかしたらあのトラックはレジスタンスかもしれない」

 

「レジスタンス!?まさか………」

 

「ルルーシュ様、ここは一旦引きましょう、【余計な面倒】を起こしたくはないでしょう?」

 

「…………そうだな、リヴァル、学園に向かってくれ」

 

「ちょっ、ま」

 

「私はトラックを追います」

 

「………ああ」

 

「では」

 

バイクに乗りトラックを追う、幸いバイクの速度でも追いつけるほどで助かった、しばらく追っているとブリタニア軍の第五世代KMF、サザーランドが追ってきた。

 

『そこの大型トラック!停止せよ!さもなくば死ぬことになるぞ!』

 

KMFが警告を発した、その時、トラックの荷台部分から飛び出した赤いKMF、間違いない、あれは改造型だが間違いなくグラスゴーだ。

 

グラスゴーはスラッシュハーケンを巧みに操り追ってくるサザーランドを撃破した、そしてトラックは古い地下道に入り込んでいった。

 

すぐに入っていくのは危険だと思い、少し遅れて入る、トラックは壁に激突して停車していた、運転席は…………絶望的だな。

 

後ろの荷台に例の毒ガス兵器が乗っかっているのが見えた、とりあえず開けて連れ帰ろう。

 

プシューッ

 

毒ガス兵器の中からC.C.が出てきた、C.C.を担いで地下道から出ようとする。

 

「動かないでください!」

 

聞き覚えのある声が聞こえた、振り返るとマスクをつけたブリタニア軍の歩兵が追いかけているところだった、歩兵は私の顔を見て立ち止まった。

 

「なっ!?あなたは……」

 

「その声…………スザクか、久しいな」

 

そう言うと歩兵はマスクを外し素顔をさらした、その顔は幼さが残る青年、枢木スザクだった。

 

「ツキトさん、なぜ貴方がここに?」

 

「詳しい事情は後で連絡する、とりあえず私とこの少女がいたことを見逃してくれればそれでいい」

 

「!?……やはり貴方もテロリストに……」

 

「ナイトオブラウンズがテロリスト?面白い冗談だ」

 

「では……なぜ?」

 

「それは後で言う、それより、ほれ、そこに毒ガス兵器がある、お前の手柄だ」

 

指をさしそう言って走り去る、肉体の限界を超えているがコードによって死んだ細胞がすぐに復活する、本当に便利だな。

 

「え?あ!………消えた………」

 

私はそのまま地下道を抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

適当な車を見つけてC.C.をトランクにしまい学園に戻ってきた、もうすっかり夜になってしまった、シンジュクゲットーも制圧されただろうな。

 

クラブハウスに行くとルルーシュが正座でナナリーに叱られていた、賭けチェスが原因か?

 

ナナリーは制服姿で仁王立ちになっている、不覚にもその姿に怒られてみたいと思ってしまった。

 

「お兄様!何度も言ったはずです!部屋に入るときはノックをしてくださいと!」

 

「す、すまないナナリー、だがツキトがお前を襲おうと…………」

 

「つ、ツキトさんが!?そ、そうですかそうですか…………今夜は少しエッチな下着にしようかな……」

 

最後の方、聞こえてるんだよなあ………。

 

「あ、そのツキトさんはどこにいるんですか?」

 

いやここにいるんだが……………ってこっちが見えてないのか。

 

「テロリストを追いかけると言って「咲世子さん!車出してください!ツキトさんが!ツキトさんが!!」

 

「落ち着いてくださいナナリー様」

 

ナナリーの前に立って止める、スザクにフラグ立ったと思ってったのになあ、結局私にビンビンか。

 

「落ち着いてます!だから私はツキトさんを助けに…………ツキトさん………ツキトさん!」

 

一回目の【ツキトさん】で私に気づく、二回目の【ツキトさん】で涙目になり、三回目の【ツキトさん】で抱きつかれる。

 

あ、柔らかい。

 

「ツキトさん、生きててよかった………」

 

「はしたないですよナナリー様」

 

「いいんです!ツキトさんのこと大好きですからいいんです!」

 

「私よりいい人なんてたくさん……」

 

「ツキトさんがいいんです!」

 

「ナナリー様は皇族です、もっとふさわしい相手が………」

 

「ツキトさん」

 

「なんだ咲世子?」

 

「ナナリー様の思いを踏みにじるおつもりなら、この咲世子、容赦はいたしません」

 

……………はあ。

 

「わかりました、検討しておきます。私もまだ死にたくはないので」

 

「良いお返事を待ってます!」

 

ナナリーはスキップしながら自室に戻っていった。

 

ガクッ

 

膝をついた。

 

「どうすればいいんだ咲世子…………教えてくれ…………私はあと何本フラグを立てればいいんだ…………」

 

思いつく限りナナリー、ユーフェミア、コーネリア、アーニャ、アリエス宮のコックのお孫さん…………。

 

「ツキトさん、私にも立っていることをお忘れなく」

 

そして咲世子、くそ!逃げ場がない!

 

「…………ナイトオブラウンズの称号も名前も捨てて旅に出ようそうしよう」

 

「なら私もついていきます」

 

「くそ!なら私を殺せ咲世子!」

 

「いいですよ、私も死にますが」

 

笑顔でクナイを取り出して私の首と自分の首に当てて見せる咲世子。

 

「お前は死なないでくれ咲世子!」

 

というか私死ねないんだったな、ああ、逃れられない。

 

「そんな………死なないでくれだなんて…………そんなプロポーズをされては、こたえるしか…………」

 

「プロポーズではない!私はただお前がいないとルルーシュ様とナナリー様を守れないからだ!決して【お前の身を案じている】わけではないぞ!【危険なところに行かせたくない】とか思ってないからな!」

 

「ああ、ツキトさんのツンデレ、素敵です」

 

「やはりツキトはツンデレだったか」

 

「おい咲世子!ふざけたことを言うんじゃない!ルルーシュ様もふざけないでください」

 

誰がツンデレだ誰が!!

 

「はあ、ルルーシュ様はもうお休みください、咲世子はナナリー様を」

 

「まったく、ツキト、お前はかたすぎるぞ」

 

「それが私の長所なので」

 

ルルーシュはそれを聞いてフッと笑い、部屋に戻った、しばらくして咲世子がナナリーの部屋から出てきた。

 

さて、C.C.を運ぶか。

 

「咲世子、女性用の服を何着か用意しておいてくれ」

 

「?……わかりました、すぐに」

 

咲世子が服を探している間、盗んだ車からC.C.を下ろして拘束を解き、リビングのソファに座らせる。

 

「おいお前、何が目的なんだ?」

 

覚醒したC.C.がそう聞いてきたあ。

 

「こういうことだ」

 

眼帯をずらし紋章を見せる、C.C.は驚いた顔になる。

 

「まさかそれはV.V.の!?どうやってそれを!」

 

「焦るな、年上の余裕はどうした?」

 

「ぐっ、説明してくれるんだろうな?」

 

「お前がおとなしくしていればな」

 

「お待たせいたしました」

 

咲世子が女性用の服を持ってきた。

 

「まずは着替えろ、いつまでも拘束服では囚人と会話しているようで落ち着かん」

 

「違いないな、着替えてこよう」

 

咲世子から服を受け取り別室で着替えて戻ってきた。

 

「それでは、聞かせてもらおうか」

 

「ツキトさん、私はどうすれば………」

 

咲世子が聞いてくる、少しだけ思案し、ルルーシュとナナリーにはギアスは必ず接触してくると考え、咲世子にも聞かせることにした。

 

「お前も聞いてくれ、ルルーシュ様とナナリー様を守るためにこの情報は必要になるはずだ」

 

「はい、わかりました」

 

と言って直立不動で聞く体制に入る咲世子、いや…………。

 

「…………座ってもいいぞ?私としては座ってくれると嬉しい」

 

「…………ありがとうございます///」

 

天然っ子か、かわいいな…………。

 

オホン!

 

「では話す、まずアリエス宮でのマリアンヌ様の暗殺未遂事件についてだ、あの晩、マリアンヌ様はある男と密会するためすべての警護を解き、万が一に備えアリエス宮の全員に睡眠薬を投与した、私には効かなかったがな、エントランスで密会したマリアンヌ様と男は、とある計画の共犯者だった、その共犯者に皇帝陛下も含まれている、だが計画を進めるうちに皇帝陛下の心が揺らいだ、それを作り出したのがマリアンヌ様だった、男は原因であるマリアンヌ様を殺そうとして、私に殺された、そして得たのがその男、V.V.と呼ばれる男の【コード】と呼ばれる力だ」

 

「コードを持つ者は不老不死となり、たとえ肉体が砕け散ろうが再生する、そしてコードを持つ者は普通の人間に【ギアス】と呼ばれる力を与えることができる」

 

「【ギアス】?」

 

「ギアスは、人の心の根底にある【願い】を実現させるための力だ、【人に愛されたい】と願う者がギアスを得れば、【人に愛されるギアス】が発動する、【人を思い通りに操りたい】と願う者がギアスを得れば、【人を思い通りに操れるギアス】が発動する」

 

「そんな力が……」

 

「もちろん、欠点もある、ギアスは使用するうちに使用者の体を蝕み続け、暴走するんだ」

 

「暴走……」

 

「ギアスは普通、オンオフができる者なのだが、それができなくなる、常時発動状態に陥り、死ぬ」

 

「そして、それを防ぐためにはコードを奪うしかない、当然、ギアスは使えなくなるがな」

 

C.C.にところどころセリフを取られたが、咲世子に説明をすることができた。

 

「それでは、ツキトといったか、お前にいくつか質問があるんだが、いいよな?」

 

「構わんぞ」

 

「V.V.をどうやって殺した?いや、そもそもお前はどうやってギアスを得た?」

 

「ギアスなどなくとも、私はコードを持つ者を殺せる」

 

「なに!?」

 

C.C.の両目が見開かれる、咲世子も顔に出さず驚いているようだ、なにせ、さっきの話しと矛盾しているのだからな。

 

「私という存在自体が、まず前提からまったく違う、私はこの世界に【転生】してきたんだよ」

 

「転生、ですか」

 

「ああ、私は別の世界で生まれ、生まれた国のために戦い、英雄として死に損なった、神は私を哀れに思ったのか、私に【コードを持つ者を殺す】能力をもたせてこの世に産み落としたのだ」

 

「……にわかには損じ難いが、V.V.はお前に殺されコードも奪われた、信じるよりほかないだろうな」

 

「助かる、私も信じさせるためにC.C.を殺したくはないからな」

 

C.C.は微笑み『違いない』と笑った。

 

「ツキトさんとC.C.さんが不死身だったなんて、しかも私より年上………」

 

「そんなに気にしなくてもいいぞ、私は前世の記憶も受け継いでいるが、今はただの童貞のマセガキでしかない」

 

「お前童貞だったのか?それにしてはいやに落ち着いてるな、もしやホモだな?」

 

「前世で一時【そういう】趣味に走ったこともあるが、私はいたってノーマルだよ、C.C.は?」

 

「お前より年上だから当然非処女だ、と言いたいが、残念ながら処女だよ、もちろん未婚だ」

 

「処女は大事にしたほうがいい、私は前世では重婚してたし、子供も育てたし、ひ孫も死ぬ前に見れた、だが思い返せば、私は二人のうち一人を選ぶことができなかった臆病者なんだよ、それでも、二人は喧嘩もせずに、安らかに死んでいったよ」

 

「ま、いつまでも覚えていても仕方ないぞ?私とお前は永遠に生きるのだからな」

 

「ふっ、違いない…………C.C.、咲世子、話がある、ここからが本番だ」

 

咲世子とC.C.の顔を見る。

 

「なんだ?」

 

「二人とも、ルルーシュ様がブリタニアに喧嘩売ろうとしているのは知っているな?」

 

「ルルーシュ様のお部屋の掃除中にそういう計画書が出てきますから」

 

咲世子は申し訳なさそうな声で言う。

 

「やはりあの童貞坊やは詰めが甘いか、変わらないな」

 

C.C.は懐かしむように言った。

 

「そこでだ、私はルルーシュ様の計画に協力する」

 

「「!?」」

 

咲世子もC.C.も仰天して目を見開く。

 

「おいツキト、お前一体なにを……」

 

「まあ待て、話をさせろ」

 

「ふむ……」

 

C.C.はおとなしく引いた、咲世子も聞く準備ができている。

 

「ブリタニアの国是、【弱肉強食】、真に強者たる者は弱者をいとも容易く喰いちぎることができるはずだ、ならば、ルルーシュ様の計画に協力し、テロリストとブリタニアを戦わせ、より一層激しい競争をさせる、それにより、ブリタニアはより高みへと登ることができる!!それが私の目的だ!!ブリタニアが真に強者ならば!テロリストなどという鳥合いの衆は一蹴される!だがもしブリタニアがテロリストに屈するようではダメなのだ!強者たるブリタニアはより先へ!より高みへと登りつめる!!今こそ忠義の時!オール・ハイル・ブリタニア!オール・ハイル・ブリタニア!オール・ハイル・ブリタニア!」

 

「………騒いでいるところ申し訳ないが、もうちょっと簡単に言ってくれ」

 

「ブリタニアとテロリストの談合試合」

 

「うわあ………えげつないことを平然と考えるのだなお前は」

 

私は立ち上がり、ルルーシュが使うチェス盤の前に座る。

 

「…………ブリタニアはチェスの盤だ」

 

白のKと黒のKを両手に持ち上げ弄ぶ。

 

「白のKは皇帝陛下、黒のKはルルーシュ様…………」

 

白のKと黒のKを元の位置に戻して立ち上がる。

 

「………明日、ルルーシュ様の計画を始動させるように仕向ける、うまくいけば、ブリタニアとの戦争ができる」

 

「「…………」」

 

咲世子とC.C.は黙り込んでしまった。

 

黒のKを持ち上げ、前進させる。

 

コン

 

「黒のK(ルルーシュ)は動く、必ず、私の読みに間違いがなければ黒のKは明日から三日以内にレジスタンスの幹部と接触する」

 

「それでダメなら?」

 

「諦めるとでも?まさか!その時は私がやるさ、軍隊を組織して帝国に反旗を翻す!わざと負けたりはせんよ、全力で戦い、ブリタニアが真の強者となるまで戦い続けるのみだ」

 

「…………イカれてるな、お前のその愛国心は異常だ、それゆえに歪んで見える」

 

「なんとでも言え、すべては、神聖ブリタニア帝国のためだ…………ふう、もう寝よう、正直眠い、C.C.は私の部屋のベッドを使え、私は床で寝る」

 

「はあ、お前の計画、乗らせてもらうぞ」

 

ため息をつきながらもそう言ってくれた。

 

「!!……C.C.!」

 

「同じコードを持つ者同士、私たちは共犯者だ、シャルルの計画も進めたいが………こちらの方が面白そうだ」

 

C.C.は微笑んでいた。

 

「ツキトさん、やっぱり私は………」

 

「ああ、咲世子が賛同してくれるとは最初から思ってなかったよ」

 

「え?」

 

「咲世子、お前はルルーシュ様とナナリー様の帰るべき場所でいてくれ、私とC.C.は始まってしまったら引き返せない…………お前だけは汚れずに二人を守ってくれ」

 

「………はい、しっかりと尽くしてみせます」

 

「ありがとう、咲世子」

 

やはり咲世子に話しておいたのは正解だった。

 

「では、今度こそおやすみだ」

 

「そうだな、ツキト、襲うなよ?」

 

「それはフリか?C.C.」

 

「どうだかな?」

 

「まるで魔女だな」

 

「当たり前だ、私は……」

 

「「【C.C.だからな】」」

 

「だと思ったよ」

 

「先読みするな」

 

「ははは、すまないな」

 

「(ツキトさん、楽しそうですね、私もああやってイチャイチャしたいです)」

 

明日から忙しくなるな、しっかりと寝ておかねばな。

 



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『計画』を『利用』して

ツキトside

 

 

朝5時、C.C.はまだ寝ている。

 

今日はオフだ。

 

起きてまずすることはさっさと支度をすること、すべての準備を終え、ナイトオブラウンズの正装をトランクに詰め、総督府………クロヴィスのいるところに向かう。

 

玄関を出る前にLサイズピザ十枚の注文とそれの受け取りを咲世子に頼むのを忘れない。

 

原作とは違い、ルルーシュはシンジュクゲットーでのテロに手助けをしていない、つまりクロヴィスも死んでいない、今回クロヴィスに会いに行く理由はいくつかあるが、大まかには私(ナイトオブサーティーン)の生存報告とルルーシュとナナリーの死をより正確性の高い情報にさせるためだ。

 

総督府が近くて助かった、まだまだ暑いからな…………ん?向こうの訓練場ではコイルガンの射撃訓練をやっているのか、覗いていくか。

 

「もっと脇を締めろ!コイルガンは狙った場所に正確に飛ぶ!少しでもズレれば着弾点は大幅にズレる!集中するんだ!」

 

おーおー、熱血軍曹様とは恐れ入る。

 

お、あそこにいるのはスザクか、マトの方は…………七割、といったところか、腕はいいな。

 

「む、そこの貴様!何者だ!ここは軍の施設だぞ!」

 

ん?ああ、ばれたか。

 

「丁度いい、クロヴィス総督の元へ案内してくれ」

 

「なんだと!?貴様誰に向かって口をきいているんだ!」

 

「エルバート元少尉に向かってだが?浮気がばれて離婚、ヤケ酒で店主に暴行を振るい降格、現在軍曹として新兵教育に励んでいる、だったかな?エルバート軍曹殿?」

 

「き、貴様どこでそれを!!」

 

騒ぎを聞きつけたのか様々な階級の兵士が集まってきた、スザクたち新米兵士たちも射撃訓練をやめこちらを見ている。

 

「あ!ツキトさん!」

 

スザクが気づいたのか私の名を呼ぶ。

 

「枢木一等兵!」

 

「ハッ!」

 

「こやつはお前の知り合いか?」

 

「?……はい、そうですが」

 

「こいつは何者だ?言え!」

 

「ハッ!彼は私の友人でツキト・アールストレイムといいます!」

 

「ほう、アールストレイムか…………アールストレイム!?ま、まさか!あなたは!」

 

「まったく、思い出すのが遅いぞ軍曹」

 

「し、失礼いたしました!アールストレイム卿!何卒!何卒私の無礼をお許しください!!」

 

なぜかブリタニア人なのに私に土下座をしてきた、エリア11(日本)にいるブリタニア人はイレブンっぽくなるのか?帝都出身の者とは違うな。

 

「はははっ、まあこんな格好だから仕方ないさ、それより、案内を頼めるかね?」

 

「ハッ!了解いたしました!」

 

立ち上がり歩き出した軍曹のあとをついて行く、視線が集まるが、まあ気にすることはない。

 

「こちらが、総督室になります」

 

「ごくろう、任務に戻ってくれ構わない」

 

「ハッ!失礼いたしました!」

 

軍曹は敬礼して去っていった、私は目の前の総督室の扉を叩いた。

 

『どうぞ』

 

子供の時よりも低めの声が聞こえた、ドアノブを回して扉を開け、中に入る。

 

「なんの要k…………」

 

「お久しぶりですね、クロヴィス様」

 

「ツキト、ツキトなのかい!?ああ、生きていたとは!」

 

「はい、私は、生きております………」

 

「そ、それではまさか…………ルルーシュとナナリーは…………」

 

「ブリタニア軍の爆撃でビルが崩壊し、下敷きに…………くっ」

 

悔しさの滲み出る顔を伏せる、握りこぶしを作り肩を震わせ体全体で主を守れなかった後悔と怒りを表す。

 

「そ………そんな………」

 

クロヴィスは放心し、椅子に背中を預け両腕を肘置きに置いてだらんとぶら下げている。

 

「クロヴィス総督、私はしばらくお休みをいただきます、もう七年経ちましたが、私はまだ立ち直れていないようです…………」

 

「…………ああ、わかった、君のことは本国に伝えておくよ、それから、一つお願いがあるんだ」

 

「………なんでしょうか?」

 

「チェスの相手をしてくれないか?」

 

「……私でよければ」

 

「それでは始めようか」

 

クロヴィスは白の駒を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははは、やっぱりツキトは強いな、シュナイゼルもそうだったけど、ツキトが一番強いよ」

 

「ありがとうございます、あ、もう一つお願いが」

 

「なんだね?」

 

「KMFに乗りたいのです、久しぶりに乗ってみたいと思いまして」

 

「!……そうか!では今すぐに準備をさせよう!サザーランドでいいか?」

 

「どんな機体でも乗りこなしてみせます」

 

「よし!ではすぐに行こう!」

 

と言ってクロヴィスは立ち上がり………って待て待て!

 

「クロヴィス総督!?仕事の方は…………」

 

「そんなものツキトのKMFの操縦を見れるのと比べたら俗事にすぎない!」

 

政治を俗事って、皇帝陛下のようなことを…………。

 

「はあ、クロヴィス総督は何も変わってはおりませんね、昔の、新しい遊びを知った子供のままです」

 

「うっ………あ、あははははは……ツキトに会えて舞い上がってしまってね」

 

ルルーシュとナナリーが死んでいるのによく言

 

「それに、ルルーシュもナナリーも生きているからね、舞い上がってしまっても仕方がないさ」

 

…………は!?

 

「クロヴィス総督、ルルーシュ様とナナリー様は…………」

 

「ツキト、君はわからないと思うけど、嘘をつく時、君は必ず左下に視線を落とすんだ」

 

「なっ!?」

 

「君がルルーシュとナナリーが死んだことにしようとしたのは、二人のためを思ってのことだと私は思っている、だって君がルルーシュとナナリーを守れないとは思えないからね」

 

「…………ふぅ、ばれてしまいましたか」

 

「騙されかけたけどね、それで、どうしてルルーシュとナナリーを死んだことにしようとしたんだい?」

 

「今は言えませんが、どうか秘密にしてください、二人のためにも………」

 

「かわいい弟と妹のためだ、誰にも言わないよ」

 

「ありがとうございます、クロヴィス総督」

 

内心、クロヴィスの株を大幅にあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

KMFの訓練所に来たのだが…………。

 

「あの、クロヴィス総督、この機体は………」

 

「第五世代KMF【グロースター】だ、コーネリアも使っている機体でね、特派の新型の………なんとかってやつと比べたら弱いかもしれないけど、少し前までは新型だったんだ」

 

まさかのコーネリアとその親衛隊、さらにグラストンナイツも使用しているグロースターが目の前にあった、ところどころにブリタニアの国旗がプリントされている、塗装は原作と同じ紫、右手に巨大なランスを持ち、直立不動なその様は地獄の番人のようだ。

 

「そんな機体に乗ってもよろしいのですか?」

 

「グロースターはサザーランドと違って接近戦が得意なんだ、ランスにMVSも積んである」

 

「大盤振る舞いですね、グラスゴーのトンファとは比べ物になりませんね」

 

「あれはサザーランドができてから作られたものだしね、さあ乗ってみてくれ」

 

そう言われてキーを手渡される、こちらもブリタニア国旗がプリントされている、まさかこのグロースターはクロヴィスのものなんじゃ?

 

「それでは失礼して…………」

 

面倒な思考をシャットアウトしてグロースターに乗り込み起動する、クロヴィスは軍用車両で管制塔に向かった。

 

軽くマニュピレーターを動かしてみる、そして今度はランスを両手に持ちクルクルと回す、おお、グラスゴー以上の性能だ、まあ当たり前か、だがこの伝達速度には驚いた。

 

『ツキト、実は特派の……えっと『ランスロット、です、クロヴィス総督』ああそうそう、ランスロットと模擬戦をして欲しいんだ』

 

「模擬戦ですか?」

 

いきなり入った通信は模擬戦についてだった、まさかランスロットと模擬戦とは………ロイドがクロヴィスに頼んだのか、私の操縦が見たいクロヴィスに模擬戦なんて持ちかけたらOKするのはわかりきっていてやったな。

 

模擬戦は嫌いじゃない、だが殺してしまわないか不安だ。

 

『勝敗は戦闘不能になったほうが負けだ、シンプルだろう?』

 

「そうですね」

 

『では、美しい戦いを見せてくれ』

 

「イエス、ユアハイネス」

 

通信が終わり、ランスロットが訓練所に入ってくる。

 

『こちらランスロットのパイロットの枢木スザクです、今回の模擬戦はデータ取得を目的としておりますので………』

 

ランスロットのパイロットからの通信、ってこの声は。

 

「その声はスザクか!?」

 

『ええ!?ツキトさん!?』

 

スザクの驚いた声に苦笑する、こいつ、手柄にしろとは言ったがまさかランスロットのパイロットになっていたとは。

 

原作ではシンジュクゲットーでの抗争でなんやかんやでランスロットのデヴァイサーに、そしてその性能をフルに使い新兵とは思えない操縦技術でレジスタンスたちのサザーランドを何機も撃破、その後クロヴィス暗殺の容疑にかけられるが、今回は毒ガス兵器発見によってロイドの目に止まりそのままデヴァイサーへ、って感じか、明らかに原作より恵まれているな。

 

「パイロットになったのか、それも新型の、やるじゃないか」

 

『は、はい!ありがとうございます!』

 

「階級は上がっていないようだが………」

 

『あはは、自分は新型のテストパイロットでしかありませんから、あ、でも給料は上がったんですよ』

 

「よかったじゃないか、今度ラーメンでも食いに行かないか?」

 

『いいんですか!?ありがとうございます!』

 

…………KMFの通信でラーメンの話をしたのは過去も未来も私とスザクだけだろうな。

 

「さて、それじゃあ始めるか」

 

『ええ、あ、自分が勝ったらトッピング全増しいいですか?』

 

「ああいいぞ、ただし負けたらトッピンは自腹だ」

 

今更だが本当酷い会話だ、模擬戦の前なのに緊張感がない。

 

『それでは、行かせてもらいます!』

 

右手を地面についてランドスピナーを回転させる、クラウチングスタートのような姿勢でこちらに突っ込んでくる。

 

MVSを抜き、片手で構える、ランスロットもMVSを二本抜いて向かってくる。

 

「こい!枢木スザク!」

 

『はああああああ!』

 

振り下ろされるMVS、速い、だが避けられないわけではない!

 

『ちっ!』

 

MVSでの攻撃をやめスラッシュハーケンを射出してきた、両腕と両脚を狙って放たれたスラッシュハーケンをマシンガンで叩き落す、スラッシュハーケンを元に戻したランスロットの頭上に向けケイオス爆雷を投擲する。

 

ランスロットは両腕をあげて頭上でクロスさせシールドを展開し、ケイオス爆雷の弾幕に備える。

 

すまんなスザク、実はそれスイッチ押してないんだ。

 

スラッシュハーケンを二機同時射出、一機は脚、もう一機は頭部を狙う。

 

ケイオス爆雷が起爆しないとわかるとスラッシュハーケンの方向に両腕を向けシールドを展開する、ケイオス爆雷が起爆しないのならその判断は正しい、ただ…………。

 

スイッチは押していないと言ったが、起爆しないとは言っていない。

 

マシンガンでケイオス爆雷を撃ち起爆させる、ランスロットの頭上から雨のように弾丸を降らせる、いち早く起爆に気づいたスザクは右腕のシールドをケイオス爆雷、左腕のシールドを前方、私の方向に向け、ケイオス爆雷の攻撃を防ぎつつ私の攻撃を防げるようにした。

 

私は右手にMVS、左手にランスを持ち正面から突撃する、ランスを前面に出し、シールドに当たる瞬間にケイオス爆雷が弾丸を吐き出すのをやめた、その瞬間ランスロットは鞘にしまったMVSをさっきまでケイオス爆雷の攻撃を防ぐのに使っていた右手で抜き放ちながら攻撃してきた。

 

それをMVSで防ぎつつランスで攻撃する、シールドに阻まれてしまい、舌打ちしながら後退………するよう見せかけてランスを投擲、MVSを振りかぶり突撃する、投擲されたランスを跳んで回避し、上空にて身動きが取れないランスロットにマシンガンを撃つ、シールドで防ごうとしているが、シールドで隠せなかった脚やランドスピナーに被弾し、着地した瞬間にランスロットの右脚が折れた。

 

『うわあ!?』

 

こけたランスロットに向けMVSを振り下ろす、ランスロットからスラッシュハーケンが射出されるが、近すぎてかするだけに留まる、MVSはランスロットの左腕を切り落とした。

 

そのままコックピットにマシンガンを………撃ち込もうとして脱出機能がないことに気がつき目標を頭部に変え、撃つ。

 

マシンガンがランスロットの頭部を凹ましていき、ついに頭部を破壊できるかというところでランスロットの右腕に殴られ、後退する、殴られたグロースターの右腕は関節部が軋み、使用不可能になっていた。

 

MVSを左手に持ち替え、ランスロットの右肩に突き刺し、スラッシュハーケンを射出する、ちょうどその時ランスロットのスラッシュハーケンが戻ってきてグロースターの右腕が吹っ飛んだ。

 

もう一度スラッシュハーケンを射出しようとした時。

 

『あー、二人ともそこまでー、それ以上やると僕のランスロットが壊れちゃうから中止ね、あ、ツキト君の勝ちだよー、スザク君はざぁんねんでした〜』

 

早口気味なロイドの声に遮られた、ふう、危なかった、次にランスロットのスラッシュハーケンを一発でも食らったら私の負けだったな。

 

「あっはっはっはっはっ!私をここまで追い込むとは、やるじゃないか!」

 

『ありがとうございます………』

 

「今日は良いことがたくさんあって気分が良い、トッピングも奢ってやろう」

 

『いいんですか!?ありがとうございます!』

 

同じ【ありがとうございます】でここまでテンションに差があるのは初めてだ。

 

ランスロットとの通信を終え、クロヴィスとの回線を開く。

 

『見事だったよツキト!』

 

「ありがとうございます」

 

『うん、やはりグロースターに乗せて正解だった!ツキト!そのグロースターは君に贈るよ』

 

「え!?」

 

『非常時はそのグロースターを自由に使ってもらって構わない、修理も特派に頼んでおくから、存分に乗り倒してくれ』

 

「い、イエス、ユアハイネス」

 

まさかKMFをくれるとは思わなかった、だがこれは好都合だ、いつでも自由に使えるKMF、最高のカードだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チャーシューメン大盛り」

 

「塩ラーメントッピング全増し」

 

あの後一応形だけの書類を書いてスザクとともにラーメン店に来た、このラーメン店はエリア11に昔からある人気店の一つだ、店員は全員イレブン、客ももちろんイレブンだから…………。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

ブリタニア人の私は大注目だ。

 

「ツキトさんはここのこと知ってたんですか?」

 

「話に聞いていただけだがな、シンジュクゲットーと租界をつなぐ道端にうまいラーメン店があるという話を聞いてな」

 

「入るのは初めてなんですか?」

 

「ああ、いろいろな事情があってな…………ああそうだ、この前のこと話しておこう」

 

「お願いします」

 

「実はな…………ルルーシュ様とナナリー様は生きている」

 

「ルルーシュとナナリーが!」

 

大声を上げるスザクを落ち着かせて続ける。

 

「そうだ、だがお前も知っての通りルルーシュ様はブリタニアを………」

 

「あ、そうでしたね……」

 

顔を伏せるスザク、あの皇帝陛下に似た威圧感を思い出したのか。

 

「そうだ、もし反乱の意思ありとされれば死刑もあり得る、だから身元を隠し見つからないようにしているのだ」

 

「じゃあ今のルルーシュとナナリーは………」

 

「ああ、ルルーシュランペルージ、ナナリーランペルージを名乗っている、ナナリー様は学園内のフェンシングクラブで有名だ、新聞にも載るからすぐわかると思う、ほら、テレビにも」

 

店内のテレビを指差す、スザクはテレビに映るナナリーを見ている。

 

「あの娘がナナリー………」

 

「あの頃と変わらない純粋さを保ちながら、より一層お綺麗になられたであろう?」

 

「はい、とても可愛くなりましたね」

 

スザクはニコリと微笑む、原作だとルルーシュの邪魔ばかりしているから嫌われているが、中立に近い立場に立つと好青年に見えるな。

 

「はあ、ここだけの話、可愛くなりすぎて毎日大量に送られてくるラブレターに困ってるんだ…………」

 

「うわあ、ナナリーはモテるなあ」

 

「従僕として嬉しい限りだ、ナナリー様の美しさに惹かれるのは人として当然だ」

 

テレビの中のナナリーはフェンシング大会についての意気込みなどを質問されている。

 

『それでは、今回のフェンシング大会で優勝したら、誰に一番に伝えたいですか?』

 

またベターな質問を………。

 

「そんなもの、ルルーシュ様に決まっている、ナナリー様がもっとも敬愛する人こそ、ルルーシュ様なのだから、当然ルルーシュ様にもっとも早く伝えるに決まって」

 

『私のお手伝いさんです!』

 

「( ゚д゚)」

 

「ちょっ、ツキトさん!大丈夫ですか?」

 

「はっ!?あ、ああ、大丈夫だ、まったくナナリー様も紛らわしい言い方をなさる、もう一人のメイドの方を言ったのだな」

 

『それは男の人ですか?』

 

『はい!』

 

「( ° Δ ° )」

 

「ツキト!?ツキト!?ダメだ!息をしてないよ!」

 

「はっ!?私は一体何を!?」

 

「あ、起きたんだねツキト」

 

「スザク?私は一体……」

 

「中継テレビでナナリーに告白されて気絶したんだよ!」

 

「夢であって欲しかった………」

 

どうすればいいんだよ…………問題を先送りにした代償がこれとは………ん?

 

「いや待つんだスザク、ナナリーはまだ私に告白などしていないぞ」

 

「あ、確かに」

 

「はははは、スザク早とちr」

 

『ナナリーさんはその人のことをどう思ってますか?』

 

『好きです、愛してます!』

 

「スザク、ナイトオブラウンズの称号あげるからナナリー様をどうにかしてくれないか?」

 

「ツキト、それはさすがに無理だよ…………」

 

ああ、私はこれからどうすればいいんだ…………ズルズル、ラーメンうめえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラブハウス前………。

 

入りにくい…………だが入らなければ、入ってちゃんと振らなけれな。

 

意を決し、ドアを開ける。

 

「ただいま戻りました……」

 

「へえ、C.C.さんはツキトさんのお知り合いなのですか?」モグモグ

 

「そうだ、ツキトとは昨日知り合ってな、話をしているうちに意気投合してな」モグモグ

 

「なるほど、あ、でもツキトさんは渡しませんよ」モグモグ

 

「ふっ、ツキトは私を選ぶ」モグモグ

 

「ナナリー、口にピザを入れたまま喋るのは行儀が悪いぞ」

 

「あ、すみませんお兄様」

 

「まあ確かに行儀が悪いな、ツキトも行儀が悪い女は嫌いだろうし」

 

「見られてなくてよかった、ツキトさんに見られたら絶対に……き……ら……わ………………」

 

ナナリーの顔がこちらに向き、一瞬で青ざめる。

 

「つ、ツキトさん、お帰りなさい………」

 

「はい、ただいま戻りました…………ナナリー様?」

 

「さ、さっきのは違うんです!あれはわざとじゃなくて………」

 

「あとで説教です」

 

「い、いやああああああああああ!!」

 

ナナリーの悲鳴が響いた、その声に反応した男子寮のナナリーラブな奴らがクラブハウス前に駆けつけた。

 

全員気絶させてホモ疑惑のある生徒の部屋に放り込んでおいた、明日はケツを抑えていることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナナリー様とルルーシュ様はC.C.とはもう?」

 

「はい、C.C.さんとはさっき知り合いました」

 

「俺もさっきな」

 

「そうでしたか(特に嫌ってもいないようだ、このまま事を運ぶか)……ルルーシュ様、実はお耳に入れたい情報が」

 

「なんだ?」

 

「公にはできない情報なので…………」

 

ちらりとナナリーを見る。

 

「わかった、咲世子さんナナリーは任せます」

 

視線で気付いたルルーシュはそういった。

 

「はい」

 

「お兄様!私も」

 

ナナリーはルルーシュに近づこうとする。

 

「ナナリー様」

 

「………わかりました」

 

だが咲世子に捕まってしまい、素直に自分の部屋に戻った。

 

ルルーシュとC.C.と私の三人でルルーシュの自室に入り、鍵をかける。

 

「それで、どんな情報だ?」

 

「まず一つ目、今日総督府に生存報告をしてきました、その時クロヴィス様に喜ばれ、グロースターの使用許可を頂きました」

 

「グロースターを………」

 

「二つ目ですが、クロヴィス様にルルーシュ様とナナリー様が生きている事がばれました」

 

「なに!?」

 

ルルーシュは驚きのあまり目を見開ききってしまっている。

 

「ですがご安心を、クロヴィス様は黙っていると約束してくれました」

 

「信用に足るものなのか?」

 

「ルルーシュ様とナナリー様はクロヴィス様と幼き頃より共に過ごした仲です、嘘をつくような人ではございません」

 

「………確かに、クロヴィスはそこまで頭が回るほうではなかったな」

 

「そこで、です…………ルルーシュ様の執拗に隠したがっていた計画を実行に移しては?」

 

「な!?ツキト!お前いったいいつ……」

 

「咲世子も知っております」

 

「なん…………だと…………」

 

がくりとうなだれ膝をつく。

 

「ルルーシュ様、詰めが甘いのですよ」

 

「くっ……それで、お前はどうするつもりだ?反乱分子として俺を捕らえるか?」

 

「いえ、私はその計画を利用しようと思っただけです」

 

「利用?ブリタニアに忠誠を誓ったお前が、ブリタニアに反乱を起こす気か!?」

 

「忠誠がゆえに、でございます、ルルーシュ様は今のブリタニアをどうお思いですか?」

 

「…………各エリアでの虐殺が増えた、属領が増えたから当然とは思うがな…………だが昔はもっと仲が良かった、日本だってそうだった、ブリタニアの友好国として付き合ってくれていた、なのに!なのにサクラダイトがあると知れば、手のひらを返して侵略を開始した!たくさんの人の命を無尽蔵に刈り取っていった!……………あんな事が起きないよう、ブリタニアを、シャルルを殺さなくてはいけない!ナナリーのためにもだ!!」

 

ナナリーのため、というのが九割を占めるのでしょうけどね。

 

「お前はどう思っているんだツキト?ブリタニアのこの業に!」

 

「ルルーシュ様、ブリタニアの国是は弱肉強食、ルルーシュ様の言う業というのは当たり前のことです」

 

「だが!!「しかし」

 

「しかし、皇帝陛下はこのような虐殺や侵略は望んではいません」

 

「どういう、ことだ?」

 

陛下が虐殺や侵略を望んでいないことを聞き狼狽えるルルーシュ、弱肉強食を国是にしておきながらそういうことは本望ではないというのだから。

 

「皇帝陛下の唱える弱肉強食の意味、ルルーシュ様はご存知ですか?」

 

「強者が弱者を思うままに滅ぼし、繁栄していく、という意味だな」

 

「それは辞書に載っている意味です、皇帝陛下は【戦えぬ弱者から奪うことこそ真の弱者である】、そう言っておりました」

 

「シャルルがそんなことを!?では、今までの虐殺は!?」

 

「虐殺は各エリアの総督の命令であって皇帝陛下の指示ではありません」

 

「なんてことだ………」

 

「皇帝陛下はおっしゃっていました、【人は差別されるためにある、だからこそ競争が生まれる】と、陛下は人々に競争を強いることによってより強い存在へと昇華させようと考えていらっしゃるのです、では、ここで問題です」

 

「問題?」

 

「【皇帝陛下、シャルル・ジ・ブリタニアの定めた国是、『弱肉強食』を曲解し、虐殺を行っているのは誰か?】」

 

「…………ヒントは?」

 

「皇帝陛下にもっとも近しい人物です」

 

「まさか!」

 

「正解です、ルルーシュ様」

 

「くそがっ!おのれ………………シュナイゼル!!!」

 

皇帝陛下が望んだ世界、それが実現できないともなればもうアーカーシャの剣もただの大掛かりな嘘発見器程度の能力しかない、計画は振り出しに戻ったわけだ、おそらく陛下は私がコードを持っていることを知っている、だが私にナイトオブラウンズの称号を与え、泳がせておくということは、もう計画などどうでもよくなったということだろう。

 

陛下にはまだ皇帝でいてもらわなくては、そのためにシュナイゼル、貴様には生贄になってもらおう、原作のルルーシュがゼロ・レイクエムによって成し遂げた【優しい世界】を作るために。

 

そのためには仕込みをしておく必要があるな。

 

「ツキト、計画を変更する、最終目標はシュナイゼルを倒すことだ!」

 

「イエス、ユアハイネス!」

 

これでいい、これですべての駒が揃う、レジスタンスはルルーシュが自分一人で丸め込むだろう。

 

「なあ、私はなぜここにいるんだ?私に用はないのか?」

 

長らく待たされたせいか不貞腐れた様子でルルーシュのベッドに寝転がっている。

 

「いや、C.C.にはやってほしいことがあってな」

 

「なんだ?」

 

「(ルルーシュ様にギアスを伝えずに、お前を不老不死の存在だとわからせる)」

 

「そうか、よし、どんとこい」

 

「なんの話をしているんだ?」

 

「ルルーシュ様、クラブハウスの裏に林がございます、そこでお話しいたします」

 

「?……わかった」

 

少年・少女(?)移動中…

 

「では、始めましょう」

 

スラァ………

 

マリアンヌのレイピアを抜き放ち、引き絞る。

 

「!?……おいツキト!お前一体何を………」

 

「ふん」

 

ザクッ

 

C.C.の心臓に突き刺し、抜く。

 

「ぐほっ……」

 

C.C.は痙攣しながら倒れこんだ。

 

「な、何を考えているんだツキト!?」

 

ルルーシュは慌てふためきオロオロと狼狽え、恐怖で震えて血に染まったC.C.から目をそらす。

 

「まったく、痛いじゃないか」

 

C.C.が悪態をつきながら起き上がる。

 

「早いな、一分はかかると思っていたんだがな」

 

「この体にも随分と慣れてしまってな、回復は得意なんだ」

 

「つ、ツキト……これは……」

 

ルルーシュが視線を戻しC.C.を化け物を見る目で見る。

 

「見ての通りC.C.は不死身の肉体を持っています、この情報もルルーシュ様の計画に役に立つ日がくるかと」

 

「不死身の肉体…………そんなものがあったとは………」

 

「回復に時間がかかること以外は弱点はない、戻るぞ、さっきの悲鳴で人が来るやもしれん」

 

「そうだな………」

 

クラブハウスのルルーシュの部屋に戻る。

 

「ルルーシュ様、単刀直入に聞きます、計画はいかがなされますか?」

 

「決まっている…………ツキト、C.C.、お前たちは俺の計画に協力しろ!」

 

「イエス、ユアハイネス!」

 

「いいぞ、なかなか面白そうだ」

 

「俺は明後日の第二次シンジュクゲットー掃討作戦でレジスタンスに接触する、お前たちは衣装を作ってくれ」

 

「わかりました、デザインの方は?」

 

「ツキトに一任する、俺はやるぞ、ブリタニアを、シュナイゼルを殺す!」

 

ルルーシュのやる気は十分、これであとはレジスタンスに接触してうまくやる、第二次シンジュクゲットー掃討作戦でクロヴィスを追い出しコーネリアを呼ぶだろう、そうなれば…………ん?そういえばクロヴィスはルルーシュに殺されるはずだったんだよな?じゃあここで殺さなかった場合どうなるんだ?

 

…………試してみる価値はあるか。

 

「フフフフフ…………フハハハハ…………フッハハハハハハハハハハハ!フッハハハハハハハハハハハ!フッハハハハハハハハハハハ!!」

 

さて、ようやく始動か、長かった、実に長かった…………。

 

さあ、私主演・私脚本による物語の始まりだ!拍手を送るがいい!

 

題名は【すべてはブリタニアのために】だ!大ヒット間違いなしだ!

 

オール・ハイル・ブリタニア!!



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『兄』の『決意』

ツキトside

 

 

 

あれから二日、第二次シンジュクゲットー掃討作戦まで残り二時間をきったところ。

 

正午からの作戦という情報だったためルルーシュに学園を休んでもらった。

 

「ツキト、衣装はできたか?」

 

「はい、色は黒で統一してありますが通気性が良いので暑苦しいことはないかと、マスクも通気性を優先してありますが、万が一を考えコイルガンを二、三発耐えられる強度にしました」

 

「パーフェクトだ、では行こう」

 

「はっ」

 

盗んで保管しておいた車を引っ張りだしてシンジュクゲットーに向かう、揺られること二十分、シンジュクゲットーに到着した。

 

「俺は着替えておく、ツキトも変装を」

 

「はい」

 

今回の私の任務はルルーシュの援護、細かく言うともしルルーシュの指示に従わない者がいた場合、ブリタニア軍の識別番号を出すグロースターに搭乗してそいつを攻撃する、そうすることによって、ルルーシュの言うことを聞かない者は死ぬ、と思わせることができる、ただの茶番、自作自演の劇だ、これでは拍手はもらえそうにないな。

 

そのために私はまず変装(歩兵装備)してクロヴィスのいる拠点に近づき、クロヴィスに会って正体を明かしグロースターを使わせてもらう、というわけだ。

 

………クロヴィスについて聞いておくか。

 

「ルルーシュ様、クロヴィス様はどのようにいたしましょうか?」

 

『クロヴィスはお前に任せる、コーネリアさえおびき出せれば第二段階はクリアしたも同然になる、頼んだぞ』

 

「イエス、ユアハイネス」

 

しばらくしてルルーシュが着替え終えて出てくる。

 

「ツキト、準備はいいか?」

 

「はい」

 

「よし、では手筈通りに」

 

「イエス、ユアハイネス」

 

クロヴィスのいる拠点…………移動拠点に向け人離れした速度で走る。

 

拠点が見えた、窓にクロヴィスが見える。

 

「止まれ!IDをチェックする、名前は?」

 

「マクシミリアン・テルミドールだ」

 

「…………よし、通っていいぞ」

 

「ご苦労様」

 

雑なセキュリティだな、ルルーシュでも突破できるわけだ、見回りの兵も少ない、本当に拠点かここ?

 

「失礼します!クロヴィス殿下にお伝えしたいことがあります」

 

「なんだね?」

 

歩兵装備のヘルメットを外す。

 

「グロースターを使いたいのですが、ありますか?」

 

「ツキト!来るんだったら言ってくれればよかったのに!」

 

クロヴィスが椅子から立ち上がり興奮気味に言った。

 

「申し訳ありませんクロヴィス様、子供の時にやった変装ゴッコを思い出しまして」

 

「懐かしいなあ、ルルーシュは女装したんだったか」

 

「あまりに似合いすぎていて写真を撮って自慢したら後日婚約の申し込みがありましたね」

 

「あれは笑ったよ、ナナリーも喜んでいたね」

 

「【お兄様がお姉様になったのなら、一緒にお風呂に入れますね!】でしたね」

 

「あれは傑作だったよ、はっはっは」

 

話についてこれずポカンと口を開けて固まるバトレーたち、面白い顔してるな。

 

「おっと忘れるところだった、ツキトのグロースターは特派に預けてある、話は通しておくから好きに使ってくれ」

 

「ありがとうございます」

 

移動拠点を出て特派のところに行く。

 

「失礼する」

 

扉を開けて中に入る。

 

「あーら、いらっしゃーい、君がナイトオブサーティーン?意外に小さいんだね〜」

 

ロイドがお出迎え、原作通りの性格だな。

 

「ちょっとロイドさん!失礼ですよ!すみません、ロイドさんってこんな感じの人で……」

 

セシルも原作通り大変そうだ。

 

「構わんよ、それより、私のグロースターは?」

 

「あ〜、あの紺色のグロースターでしょ?ちょっと改造しちゃったけど、問題ないよね」

 

「改造?」

 

改造?というか紺色って、私のカラーじゃないか、クロヴィスもなかなかに粋なことをする。

 

「うん、試作型のフロートユニットを取り付けてみたんだ〜、最大稼働時間はまだ十分くらいだけどね〜」

 

フロートユニット!?もう試作型ができていたのか!?

 

「飛べるのか?」

 

「うん、理論上はね、まあ飛べなくても加速用程度には使えるはずだから」

 

ふむ……………使ってみたいな。

 

「あの、別に外してもいいんですよ?」

 

どうやら私が長考していたのをフロートユニットが邪魔そうに考えていると思ったのかセシルがそんなことを言ってきた。

 

「…………こいつのデータは?」

 

「ま〜だ何もないよ、それにつけたのが初めてだから」

 

「よし、ならば私がデータ取りをしよう」

 

「お〜、ありがとう、これで実用化に近づくよ〜」

 

「ロイドさん落ち着いてください!」

 

クルクルと踊り出すロイド、元気だなこいつ。

 

「セシルさん、何かあったんですか…………ってツキトさん!?」

 

「おおスザクか、数日ぶりだな」

 

「あ、はい、先日はラーメンを奢っていただきありがt……ってなんでツキトさんが!?」

 

「ああすまんな、クロヴィス様とちょっと挨拶をしてきてな、グロースターに早く慣れたいから使わせてもらうことにしたんだが…………もっとも、改造された上芸術的な紺色に塗られているとは思わなかったが」

 

「クロヴィス殿下自らがデザインされたんだそうです、【旧友の乗る機体だから】と言って」

 

「クロヴィス様自らが…………そこまで期待されては、武功をあげてこねばな、よし、ロイド!グロースター発進の準備を!」

 

「はいは〜い」

 

カタカタとモニターを見ながら打ち込んでいくロイド。

 

「それからスザク、ランスロットの準備を」

 

「ええ!?でもランスロットは……」

 

「私の随伴と言えば文句は言われまい、ロイド!ランスロットの準備も頼む!今日はデータが取り放題だぞ!」

 

そう言うとロイドがピクリと震える。

 

「あっはは〜ざぁんねんでした〜セシル君、今日は徹夜だよ〜」ニコニコ

 

満面の笑みでそういった。

 

「その割には嬉しそうな顔ですねロイドさん………はあ……」

 

「あはぁ、あはは〜」

 

本当に嬉しそうな顔だな、女より研究、ってところか、私も似たようなものか、私の場合、女より国家(ブリタニア)だがな(ただしアーニャは除く)。

 

「というわけで、スザク、ランスロットにて待機、クロヴィス様の出撃命令に従い我々はツーマンセルで出撃する」

 

「了解しました!」

 

スザクは敬礼を返しランスロットの保管場所に向かっていった。

 

「グロースターのプログラム終わったよ〜」

 

「ありがとう、よいしょっと……」

 

グロースターのコックピットに乗り込む、うん、数日ぶりの操縦桿は冷たいな、温かいのもどうかと思うが。

 

さて、出撃と同時にフロートユニットを起動して戦場を真上から支配してくれる…………と思ったが、接近戦主体のこいつではな…………せめてライフルかロケットランチャーでもあれば…………。

 

『聞こえます?実は、新しく作ったロケットランチャーがあるんだけどぉ………』

 

ナイスタイミングだロイド!

 

「今すぐそいつをよこせ!上空から撃ち下ろしてやるから!」

 

『何気に酷いこといいますねえ……セシル君、そっちお願いねえ、スザク君、向こうに赤いコンテナあるから持ってきてくれない?』

 

『あ、はい、持ってきます』

 

ここだけ見るとスザクがただのパシリに見えるな、まあグロースターよりもランスロットの方がパワーがあるし、こういった使い方もできるわけだ、民間用KMFは装甲と武装とランドスピナーを外して使っていると聞いた、なんでもぺしゃんこに折りたためるのだとか。

 

『ロイドさん、赤いコンテナってこれですか?』

 

『そだよ〜、ツキト君、その中に待望のロケットランチャーが入ってるよ〜』

 

コンテナが開き中のロケットランチャーが見える、おお!これはいい!

 

「ありがとう、これで上空から一方的に、且つ効率的に殺せるな」

 

『使ったら感想ちょうだいね〜、フロートユニットの方もね〜』

 

「もちろんだ、だが私は少々辛口だぞ?」

 

『研究者としてはそっちの方がありがたいんだけどねえ』

 

ロイドは兵器、というか研究の話となるとテンションが上がるな、それにいい奴だし、機会を伺って引き入れるのも手だな、だがそうするとラクシャータと喧嘩しそうだな…………まあいいか、その時はブリタニアの国是の通り、競い合ってもらうだけだ。

 

『クロヴィス・ラ・ブリタニアの名の下に命じる!第二次シンジュクゲットー掃討作戦を開始せよ!全軍出撃!各々武功を挙げよ!』

 

始まったか。

 

「スザク、発進するぞ!」

 

『了解です!』

 

「ツキト・アールストレイム、【グロースター改】、でるぞ!」

 

ランドスピナーで地面を滑走していく、後ろからランスロットがついてくる、それを確認してルルーシュに連絡を入れる。

 

「ルルーシュ様、作戦開始しました」

 

『確認した、お前はどの機体だ?』

 

「紺色のマント付きの機体です」

 

『後ろの白兜は?』

 

「第七世代KMF【ランスロット】、厄介な機体です、第五世代のサザーランドなど、ただのいい的です」

 

『そいつの管理は頼んだ、こちらはこのまま始める』

 

「イエス、ユアハイネス」

 

通信を切った後すぐに先行していた死に急ぎサザーランドが撃破された。

 

作戦開始したな、だが、まだだ、こんなのただの待ち伏せでしかない。

 

ルルーシュの…………ゼロの力をレジスタンスに知らしめるには、奴らにとっての指導者たる存在として認めさせるためには、この程度では足りん。

 

最低でも十機は撃破される必要がある、それから撤退も、どちらもやらなければならん、簡単にはいかないだろうな。

 

「スザク、私は一旦空に上がりナビゲートする、お前はそれに従い敵を殲滅せよ」

 

『了解!』

 

「フロートユニット起動!いくぞグロースター改!戦場を支配するのだ!」

 

フロートユニットが起動し、脚が地面から離れ、ランドスピナーも完全に地面から離れ飛翔する。

 

『ほ、本当に飛んだ………』

 

通信をスピーカーモードにして……。

 

「臆病なテロリスト諸君、今投降すれば死刑が懲役二百年にまで減刑される、投降する気はないかね」

 

自分でも思うが、上から目線すぎるな、まあいい、これは挑発だ、これで敵がアサルトライフルでも撃ってくれば………。

 

っ!

 

アラートが鳴った瞬間にその場から動く、この連射速度はアサルトライフル、鹵獲したサザーランドのものか。

 

スピーカーモードをオフにしてスザクに繋ぐ。

 

「スザク、今のが見えたか?」

 

『はい、三時の方向にサザーランドを確認しました』

 

「破壊しろ、奴らはテロリストだ!」

 

『了解!』

 

さて、このままでは暇だな、ロケットランチャーでも使ってみるか。

 

ふむ、こうして担ぐと改めてその大きさを実感するな。

 

ふとその時、先ほどの部隊とは違うテロリストのサザーランド三機が九時方向から二時方向に向かっているのが見えた、ロケットランチャーを照準、発射。

 

尾を引いて飛翔する弾頭は先頭のサザーランド二機を吹き飛ばした、これでは脱出は無理か、というか弾速が予想より速いな、データの修正もしておくか、できれば三機とも吹き飛ばしたかったが。

 

通信が入る、ルルーシュからか。

 

『おいツキト!お前は何をしている!?』

 

「上空からランスロットのナビゲートです、瓦礫が多く道がわかりにくいうえ、トラップがある可能性が………」

 

『それに引っかけるのがお前の仕事だろう!?』

 

「お言葉ですがルルーシュ様」

 

『なんだ!』

 

「ランスロットのパイロットは枢木スザクです」

 

『な!?』

 

通信機の向こう側でルルーシュは絶句する、まあ当然か。

 

っと、今度は誰だ?別の部隊からか。

 

「どうした?」

 

『こちらB6!敵サザーランドにより四機大破!損傷が激しい!応援を!』

 

「現在位置は!?」

 

『3ー5です!敵の待ち伏せを受け、現在3ー2に向けて後退中!』

 

「了解!そのまま後退し、友軍の支援まで持ち堪えろ!」

 

3ー5はあっちだ、3ー2となると………ちっ、遮蔽が少ないか、直接ロケットランチャーで吹き飛ばしてやる。

 

「こちらX1、これより砲撃支援を行う!」

 

ロケットランチャーを3ー4地点に向ける…………サザーランドが通過した!あれは友軍、なら次はレジスタンスのサザーランド!視認はできないが、威嚇でもいい、ロケットランチャー発射!

 

ロケットランチャーの弾頭が次々と瓦礫を吹き飛ばす、しばらく撃ち続けているとサザーランドの残骸らしきものが高く飛び上がった、やったようだ。

 

「こちらX1、敵サザーランドに攻撃を加えたが撃破したかは確認できていない、十分に警戒しつつ本陣まで後退せよ」

 

『了解、本陣まで後退する』

 

なんとか救えたか、救う必要はなかったがな。

 

さて。

 

「スザク、そちらの様子は?」

 

『敵サザーランド六機目を撃破!現在残存敵サザーランドを追跡中!』

 

「エナジーフィラーは持つか?」

 

『ええと…………帰投分しかありません』

 

「なら本陣まで後退して補給を行え、上空から後退を援護する」

 

『了解です!』

 

うむ、双方に被害が蓄積している、若干こちらの被害が大きいが、概ね予想通りだ。

 

ん、今度はルルーシュか、中継役は忙しいな、ま、特等席の代金だと思えば………って。

 

「エナジーフィラーがもうきれそうだな………」

 

ランスロットより燃費が良いはずのグロースターにフロートユニットを取り付けただけでこの減りようか、燃費が悪すぎだろう、秋水じゃあるまいし。

 

おっと、通信を忘れるところだった。

 

『ツキト、ランスロットはどうなっている?』

 

「エナジーフィラーが限界値を超えそうになったので私と一緒に帰投させています」

 

『わかった、それとツキト』

 

「なんでしょうか?」

 

『…………スザクは俺の敵だ、だが、同時に友達なんだ』

 

「殺すな、ということでしょうか?」

 

『………ああ』

 

「わかりました、枢木スザクは死なせません、私が守ります」

 

甘いな、だがそれでいい、表から見れば才色兼備の魔王、裏を返せば継ぎ接ぎだらけの魔王、それでいいんだ、そうでなければお前はルルーシュではない。

 

『頼んだ…………そろそろ頃合いだ、全軍に撤退命令は出せるか?』

 

「ラウンズとしてクロヴィス様に進言してみます」

 

『ダメでも連絡をくれ』

 

「了解しました」

 

通信が切れる、クロヴィスのいる移動拠点に通信を繋ぐ。

 

「こちらX1、クロヴィス様?」

 

『クロヴィスだ、何かあったか?』

 

「そちらでも確認済みとは思われますが、これ以上の損害は士気の低下につながります、ラウンズとして撤退を進言します」

 

『ふむ……………確かにそうだな、こちらサザーランドはすでに二十機………二十一機落とされた、向こうも同じ分だけ落としたがこれでは損害が激しくなる………バトレー、全軍に撤退命令を出せ、攻撃をしつつゆっくり撤退させろ』

 

『はっ!』

 

通信が切れる、うまくいったか。

 

通信をルルーシュに繋げる。

 

「撤退命令が発令されました、成功です」

 

『よくやった、クラブハウスで落ち合おう』

 

「了解しました、祝いますか?」

 

『まだだ、と言いたいが少しくらいは作戦の成功を祝しても問題ないだろう、帰りに適当な物を買ってきてくれ』

 

「イエス、ユアハイネス」

 

通信を切りスザクに繋げる。

 

「スザク、撤退命令が出たようだが、そちらはどうなっている?」

 

『まだ補給中です』

 

「そうか、では私も帰投する」

 

通信を切って特派に向かい針路を取る、滞空してるだけでこの減りようか、まだまだ完成には遠いな、というか帰れるのか?この残量だとランスロットに迎えにきてもらわないとダメかもしれんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予想通りにエナジーフィラーが途中で切れ、ランスロットに牽引してもらった、久しぶりの実戦ではしゃぎすぎたか?そんなわけないか、フロートユニットの燃費が悪すぎるのが原因だな、あとメーターを見なかった私、半分私が悪いな、うん。

 

「すまんなスザク、モニターは見ていたんだがな………」

 

「見落としてしまうことは誰にでもありますよ」

 

「そうか…………今回の作戦、成功したと思うか?」

 

誤ったあとスザクに作戦について聞いてみた。

 

「…………自分は、失敗したと思います、テロリストに反撃を許し、KMFも多数撃破され、撤退を余儀なくさせられたのですから」

 

「確かにな、無理矢理押し込んでも良かっただろう、だが損失を考えた場合な…………」

 

「その通りです、今回はテロリストに勝ちを譲ってあげましょう」

 

「そうだな、次は確実に殲滅する」

 

特派の扉をくぐるとセシルがココアを用意していた。

 

「あ、任務ご苦労様です、ココアです、どうぞ」

 

「「ありがとうございます(ありがとう)」」

 

ココアを受け取りロイドの元に向かう、モニターとにらめっこをしているロイドの背後に立つ。

 

「フロートユニットはどうだったぁ?」

 

「燃費が悪すぎだ、十五分しか飛べんようでは実用化は程遠い、三十分くらいにできるか?」

 

「う〜ん、今回のデータから燃費を良くしてもプラス三分くらいだしぃ、今はちょっと無理かなぁ」

 

「三分も増えるなら充分だ、とりあえずの目標は三十分を目処にしてくれ」

 

「はぁい、それでロケットランチャーはぁ?」

 

「データと弾速が違っていて焦ったぞ、だが威力は悪くないな、弾道も素直だ、爆風の範囲がもう少し広ければ広域破壊にも使えるんだがな」

 

「広域破壊かぁ、かんがえたこともなかったねぇ、弾頭をケイオス爆雷にするとかどう?」

 

「着弾と同時に鉄の花火か、面白いな、早速シミュレーションだ」

 

「はいはぁい」カタカタ

 

ロイドとは話が合うな、それにいい兵器を作る、しばらくは特派に世話になりそうだ。

 

ココアを飲む、うむ、この辛さが絶妙で…………ん?これココアだよな?なんで辛いんだ?

 

…………深く考えない方が良さそうだな、とりあえず飲み干しておくか………………まあ普通に美味しいんだが、確実にココアの味じゃないよな?

 

「ツキトさん、クロヴィス殿下がお呼びです」

 

「む、そうか、今行く」

 

何のようだ?今回の撤退について報告しろとかか?

 

まあいい、クロヴィスのいる移動拠点の部屋に入る。

 

「失礼します、クロヴィスs…………!?」

 

部屋の中ではクロヴィスがブリタニア歩兵にコイルガンを突きつけられている様子だった、クロヴィスは落ち着いていて騒ぐ様子もない。

 

隠し持っていたナイフを持ち歩兵に襲いかかろうとする。

 

「待て!」

 

クロヴィスから静止の命令、聞き入れるしかない。

 

「彼は私を撃たない、だから安心してくれ」

 

「しかし!」

 

「ふっ、兄上、随分と腑抜けてしまわれましたな」

 

歩兵がヘルメットを取る、そこにいたのはルルーシュだった。

 

「ルルーシュ様!?なぜクロヴィス様に銃を……」

 

「黙っていろ!」

 

「っ!………イエス、ユアハイネス」

 

ルルーシュ、何を考えている?スザクを軍から辞めさせるつもりか?いやルルーシュはそんなことをしないはず…………。

 

「クロヴィス、俺の言う事を聞けるか?」

 

「久しぶりに再開した弟の頼みかい?それともテロリストとしての要求かい?」

 

「……………テロリストとして、だ」

 

「そうか…………なら聞く事など何もない、去れ!」

 

「言う事を聞かねば殺すぞ!」

 

「死の覚悟などとっくの昔にできている!ルルーシュとナナリーが死んだと聞いたあの日から、ずっとな!」

 

「なっ!?」

 

ルルーシュが驚きコイルガンが揺れる。

 

「あの日、エリア11を占領したあの日、ルルーシュとナナリーが死んだと聞かされた、とてつもない喪失感だったよ、その日からずっと死んだように生きてきた」

 

「クロヴィス………」

 

「私は無力で、無知で、どうしようもなく馬鹿で、世間知らずで…………ルルーシュの方がよっぽど大人だよ」

 

「なにを……」

 

「ルルーシュ、君が私を撃つつもりなら、一言だけ、言わせてもらいたい」

 

「………どうぞ」

 

「すぅー…………はぁー…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おかえり、ルルーシュ」

 

「っ!兄上!」

 

「こんな駄目な私を兄と呼んでくれるのか、ありがとうルルーシュ」

 

「なぜ!なぜですか!なぜ逃げないのですか!?」

 

「私は、自分の無力さゆえにルルーシュとナナリーを一度死なせてしまった、だから君の一発は、受けなければならない、これは、私の意地だ」

 

クロヴィスは堂々と言い返し目を閉じた。

 

ルルーシュのコイルガンは震えがまし、今にも床に落ちてしまいそうだ。

 

やがて…………。

 

「…………」

 

「………ルルーシュ?」

 

ルルーシュはコイルガンを下げた。

 

「すみませんでした、兄上、失礼なことを………」

 

「いいんだ、私は怒ってはいないよ」

 

そしてクロヴィスに頭を下げたのだ。

 

「改めて、兄上にお願いがあります」

 

「なんだい?」

 

「コーネリアを、姉上をエリア11の総督にしてください」

 

「いきなりだね、なにが目的か聞いてもいいかい?」

 

「………シュナイゼルを、殺すためです」

 

言ってしまうのか!?

 

「そうか………兄上を殺す、か…………コーネリアに連絡を取ってみよう、テロリストたちが手に負えないと言えば来るだろう」

 

「兄上……」

 

「ルルーシュ、これはせめてもの罪滅ぼしだ、お礼はいらない、それに、私もテロに加担してしまったんだ、口外はしないでくれよ」

 

クロヴィスは微笑んでそう冗談を言った。

 

「はい、誰にも、口外いたしません」

 

「ありがとうルルーシュ、ツキト」

 

「はっ!」

 

やっとお呼びか。

 

「ルルーシュとナナリーを………私の大事な弟と妹を頼む」

 

「イエス、ユアハイネス!」

 

良い兄を持ったな、ルルーシュ。

 

「私は本国へ帰るよ、テロリストにより意識不明の重傷を負った、ということにでもしておくよ、ルルーシュも早く行った方がいい、そろそろ巡回が来る時間だ」

 

「はい…………兄上、お元気で」

 

「ルルーシュたちもね」

 

クロヴィスは笑顔で見送ってくれた、ルルーシュは瞳に涙を浮かべている。

 

「…………ツキト」

 

「なんでしょうか?」

 

「兄上は…………立派だな」

 

「そうでございますね」

 

「…………帰ろう、帰ったら次の予定を練るぞ」

 

「イエス、ユアハイネス」

 

涙をぬぐって決意を瞳に宿すルルーシュ。

 

これでこそ、私の主人に相応しい。

 

コーネリアが来た場合のことも考えておかねばならない。

 

これで第一段階は終了、目的に一歩前進したか。

 

これからも歩んでいこう、ブリタニアの進化のために。

 

オール・ハイル・ブリタニア!



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打たれた『布石』

ツキトside

 

 

クロヴィスが本国へ帰ってから二週間ほど経った。

 

『クロヴィス殿下はテロリストに果敢に立ち向かい意識不明の重傷を負い、ブリタニア本国への帰還を余儀なくさせられた、ブリタニア国民の諸君、どうかクロヴィス殿下の回復を祈ってほしい』

 

全世界放送でジェレミアが言葉を連ねていく。

 

ジェレミアの後ろには赤い羽根を胸につけた男女が並ぶ、純血派だ。

 

ジェレミアはコーネリアと一緒に来る、つまり純血派を数人連れてくる、ヴィレッタやキューエルはもちろん来るだろう。

 

これの対処だが…………必要ないだろう、このまま計画を進める。

 

ああそうだ、第二次シンジュクゲットー掃討作戦の数日後、ナナリーに本格的に告白されてしまい、反射的に返事をしてしまい付き合うことになってしまった。

 

おいそこ、そんな目で見るな。

 

仕方ないだろう!ナナリーの『付き合ってください!』に対し『イエス、ユアハイネス!』で返した私は何も悪くない!これはひとえに忠義の心が…………。

 

ええい!それはどうでもいい!問題なのはそのあとだ!

 

「なぜ私がアッシュフォードに通わなくてはならないのですか………」

 

そう、ナナリーの発案によってお手伝いから学生にランクダウン、職を失いました。

 

できるだけ一緒にいたいというナナリーのためにルルーシュが学園長に問い合わせてみたと、そして見事ルルーシュと同じクラスに編入となったわけだ。

 

お前はその行動力を普段からもっと使えよ!

 

それで、さっきのつぶやきに対しルルーシュは。

 

「今後俺がゼロだとバレることがあるかもしれない、もしバレた場合そいつの処分を任せる」

 

近くに死体処理のできる私を置いておきたい、ということか。

 

「だが!シャーリーとかは………」

 

「殺すな、ですね」

 

「………ああ」

 

しかし、やはり甘い、緩い、だがそれでいい、継ぎ接ぎだらけでなければ私はついていけない。

 

いっそルルーシュがシュナイゼルのようにたくさんの民を虐殺したとしてもなんの感情も抱かないような人間なら、私はついていかなかっただろう。

 

人間的弱点を持った魔王、いいじゃないか、そんな継ぎ接ぎだらけのルルーシュが私は大好きだ、もちろん尊敬という意味で。

 

それにしてもコーネリアか、コーネリア自体は別に問題にはならない、問題はユーフェミアだ、七年も離れていたんだ、そろそろフラグが折れて偶然出会ったスザクにフラグを立ててくれたら万々歳だ、ナナリーと血みどろの争いは見たくない。

 

「ツキト、次は移動教室だぞ」

 

「はい、準備は終えています」

 

「………学校では敬語はやめてくれ」

 

「わかったよ、ルルーシュ様」

 

「様もやめてくれ」

 

「わかったよ、ルルーシュ」

 

「それでいい、行くぞ」

 

長年ずっとこっちで呼んでいたから難しいな、脳内では呼び捨ても簡単にできるのだがな。

 

移動教室は普通に終わった、やっと昼休みか、腹が減った。

 

「ルルーシュ、咲世子から弁当をもらってある、ナナリーを誘って食べないか?」

 

「それがいい、さっそくナナリーを……」

 

「ツキトさん!お兄様!」

 

中等部の方からかけてくるナナリー、っていうか速、スザクといい、まともな人間がいないんだが。

 

「相変わらず速いなナナリーは」

 

「当然ですお兄様!大好きなお兄様とツキトさんと一緒にご飯が食べれるんですから!」

 

「でもよかったの?中等部の友達と食べなくて」

 

今の私は眼帯を外しカラーコンタクトにしてギアスの紋章が見えないようにしている、そのうえ話し方も優しそうな感じにした、そして、これは最重要だが、人と話すときは微笑むようにしてみた。

 

「ツキトさんのことを話したら行って来なさいって」

 

「良い友達をもったね、ナナリー」

 

「はい!とても優しい人たちです!」

 

「それはきっと、ナナリーが優しくて可愛いからだよ」

 

「え!?////……あ、ありがとうございます……」

 

「おいおいツキト、俺の目の前でナナリーを口説くとはいい度胸だな?」

 

「もう!お兄様は意地悪です!」

 

「あはははは、すまないナナリー、それで、いつ結婚する気なんだ?」

 

「ええ!?そ、それはその………」

 

「二人とも、早くご飯にしようよ」

 

風呂敷に包まれた弁当箱三つをそれぞれに手渡し、行き渡ったところで開ける、目に飛び込んできたのはナイスバデーな咲世子のビキニ姿…………っておい待て。

 

「お、おいツキト、それは………」

 

「ルルーシュ、ナナリー、ちょっと用事ができたから先に行くね」

 

「あ!ツキトさん!(ああ、一緒に食べたかったのに……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、アッシュフォード学園のクラブハウスに向けて全力疾走している少年は………私だよ!ツキト・アールストレイムだよ!

 

「咲世子おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

くそ!あんな扇情的な写真なんて入れやがって!おかずか!?おかずのつもりか!?ふざけるな!食事中にトイレに行って抜けとでも言うのかあの阿呆!馬鹿!忍者!天然美女!作者の脳内ランキングno.2!

 

あんな可愛いメイドさんがいつも側にいたら気が狂うわ!なのにビキニ姿の生写真ってなんだよ!ふざけるな!ムラっとしただろうムラっと!!

 

「咲世子おおおおおおおおおお!!!説教だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」ビクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふう、いい仕事をしたぜ。

 

咲世子もこれで反省してくれるといいんだがな。

 

時間は………遅刻か、まあいい、今日はC.C.とピザでも食べていよう。

 

「早い帰りだなツキト」

 

「ああ、咲世子の説教をしていたら遅刻してしまってな、面倒だから無断欠席した」

 

「ほう、そうかそうか」

 

「ピザはまだあるか?」

 

「ああ、向こうに置いてあるぞ、二分焼くとちょうどいい」

 

冷凍庫から冷凍ピザを二枚取り出しトースターで焼き始める、この冷凍庫は冷凍ピザ専用の冷凍庫だ、C.C.用に買っておいたものだ。

 

チンっと小気味好い音が鳴る、トースターを開けるとドロドロになったチーズの匂いが食欲をさそる。

 

ピザを皿に乗せてテーブルに置く。

 

「ほれ」

 

「お?私のぶんか?」

 

「ああ、私はルルーシュ様が帰ってくるまで暇なんでな、話し相手になってくれ」

 

「そういうことならいいぞ、はむ……」

 

C.C.はピザを食べ始めた、何気に観察していると結構優雅に食べるものだな。

 

「ん?どうしたんだ私を見て」

 

「お前の食べ方が意外にも優雅に見えたものでな」

 

「ふふ、当たり前だ、私はC.C.だからな」

 

「違いない、どこで習ったんだ?」

 

「マリアンヌさ、最低限これくらいはできなければならないとか言われてやらされたんだよ」

 

「ははははは、皇族にマナーを教えてもらったのか!」

 

「使うときなんてないのになあ?」

 

「ピザを食うときに貴族のマナーなど不要だからな」

 

「まったくだ…………そういえばナナリーと付き合ったんだってな、どうなんだ?」

 

「どうも何も、私はナナリー様の従者だ、交際関係にあるとはいえ、そこは覆ることはない、ナナリー様が成長し、相応しい男が現れるまでの相手をしているだけだ」

 

「ほう?ヤらないのか?」

 

「ヤるわけないだろう、私はナナリー様の従者、それで充分なんだよ」

 

「面倒くさい考えだな、童貞を捨てようとは思わんのか?」

 

「時が来たら、な」

 

こだわりがなくなっていっている自分に悲しくなりつつ、ピザを食べる、普通に美味い、追加注文しておくか。

 

「ところで、そっちの方はどうだ?」

 

「伊達に無駄に生きてきたわけじゃないさ、ほら、これが資料だ」

 

C.C.はそう言うと紙の束を渡してきた。

 

実はC.C.には個人的に調査を依頼していた、パソコンを与えて様々な情報を集めさせている、C.C.は長年生きてきた経験をハッキングという形で使っている。

 

そしてその報酬がこの冷凍ピザ、私のぶんも加味して少し多めに置いといてある、さらに昼飯はピザ◯ットのピザを三枚まで頼むことを許可してある、これで原作通りチーズ君がもらえるだろう。

 

今回調べさせたのはコーネリアとついてくるであろうユーフェミアがいつエリア11に来るか、というもの。

 

この資料によれば、明日、明後日にはエリア11について総督として動くのだそうだ、おそらくコーネリアは今日の午後にはついているだろう、政務に取り掛かるのは明日の朝からだろうしな。

 

「C.C.、二日前から明後日までの皇族専用の飛行機の着陸予定がないか調べてくれ、見つかったら連絡をくれ」

 

「やっと休めると思ったんだがな、仕方ない、もう一働きするか」

 

「頼んだ、私は街に出る」

 

「何をしに行くんだ?」

 

「なぁに、ただの散歩だ」

 

クラブハウスを出てバイクを引っ張りだし総督府へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特派の扉を叩き中に入る。

 

「忙しいところすまない」

 

「あら、ツキトさんでしたか、ココア淹れましょうか?」

 

セシルが出迎えにきてくれた。

 

「頼む、ロイドは?」

 

セシルのココア(?)をもらうことを即決し、ロイドの居場所を聞く。

 

「向こうでモニターとにらめっこしてますよ」

 

セシルの指差した方向にロイドがいた、モニターにしがみつきタイプしている。

 

セシルはココア(?)を作るために奥の部屋に行った。

 

「調子はどうだ?ロイド」

 

ロイドに後ろから話しかける。

 

「あら〜ツキト君、順調だよぉ、データをもとに改良を加えて飛行時間を三分上げたんだぁ、さらにサクラダイトの量をちょっと増やしてみたんだけど、運動性能が少しだけ上がったよぉ、あ、これスペックデータねぇ」

 

差し出されたのはスペックデータののったデータチップ、近くの端末に入れてみると驚いた。

 

まだランスロットには遠く及ばないが、少なくともグロースターの機動力ではないな、装甲を削り可動範囲を拡大、180度の開脚が可能に、ビルの谷間もランドスピナーで通れそうだな。

 

「これはいいな………」

 

「でしょう?」

 

「ああ、このまま続けてくれ、ところでスザクはいるか?」

 

「スザク君ならさっき総督府にお呼ばれしたようだけど…………」

 

総督府へ直接の呼び出し?まさか…………。

 

「そうか、向かってみよう」

 

「ツキトさん、ココアできましたよ、ロイドさんも」

 

スザクのもとに行く前に、とりあえずココアだ。

 

「ありがとう、ところでセシル、スザクが総督府に呼ばれたと聞いたが」

 

「あ、はい、さっきギルフォードっていうコーネリア様の騎士の方が…………」

 

「ギルフォードだと!?」

 

「は、はい」

 

ギルフォードといえば、コーネリアの専任騎士!というかもうついていたのかコーネリア!

 

「もうコーネリア様が到着なされたのか」

 

「はい、予定を前倒しにしてユーフェミア様とともに」

 

前倒しにするほど切羽詰まった予定が?

 

「そうか、挨拶に行った方がいいか…………ん?じゃあなぜスザクはコーネリア様に?」

 

「それは………」

 

セシルが口ごもる。

 

「クロヴィス元総督に危害を加えた疑いがあるって連れてかれちゃった」

 

ロイドがそういった。

 

「なに!?馬鹿な!スザクは私と行動を共にしていた!私が移動拠点に向かった後も特派にいたはずだ!」

 

「それが取り合ってもらえなくてねぇ、はあ、大事なパーツがぁ…………」

 

「ちっ、連れて行った連中は?」

 

「たぶん、純血派だと思います、赤い羽根をつけてましたから」

 

純血派だと!?くそが!貴様らそこまでイレブンが嫌いか!!

 

「あの…………穀潰しどもがぁ………わかった、そちらは私がなんとかする、コップはどこに置けばいい?」

 

「あ、そこに置いておいてもらって結構ですよ」

 

「それでは失礼する」

 

純血派、どうしてくれようか、ジェレミア以外を皆殺しにしてやろうか。

 

「おい、ジェレミアはどこにいる?」

 

「!?……はっ!ジェレミア卿は現在外出中であります!」

 

「外出中?では枢木に合わせろ」

 

「それは………」

 

「できるだろう、さっさと通せ」

 

「ああ!お待ちくださいアールストレイム卿!」

 

検問の兵士を放っておいて純血派のいる場所に入る、枢木はどこにいいるんだ?

 

「お待ちくだs「黙っていろ、殺すぞ」……イエス!ユアハイネス!!」

 

静かになったな。

 

「枢木の居場所を教えろ」

 

「はっ!地下の独房です!」

 

「案内しろ」

 

「イエス!ユアハイネス!!」

 

兵士の案内のもと独房のある地下に来た、ん?あれがスザクか、拘束服とはな。

 

「ん?………あ、アールストレイム卿!?な、何か御用でしょうか?」

 

「枢木を解放しろ、そいつはやってない」

 

「で、ですが………」

 

「それに、クロヴィス様はそもそも怪我をしていない」

 

「へ?」

 

「え?」

 

「お、起きたかスザク」

 

「お、おはようございます………って今のはどういう………」

 

「このエリアにおける一連のテロにクロヴィス様は手を焼かれていてな、自分には手に負えないと言ってコーネリア様に総督の座を譲ったのだそうだ」

 

「じゃ、じゃあ…………」

 

「クロヴィス様が怪我もしてないのに枢木を捕まえる必要はないはずだ、さっさと解放しろ」

 

「い、イエス、ユアハイネス」

 

看守はスザクの独房の鍵を開け、拘束服の拘束を解き、軍服を手渡した。

 

スザクとともに特派に向かう途中。

 

「ツキトさんはなぜクロヴィス殿下のことを?」

 

「私はこれでもナイトオブラウンズだ、それに幼き頃よりクロヴィスともチェスをする間柄だった、だからこそだろう、クロヴィス様は私に相談をしてきたのだ」

 

「そういうことだったのですか」

 

「あ、そうだ、純血派にお礼をするのを忘れていた」

 

「お礼?」

 

「純血派メンバー全員にセシルの手料理を食べ終わるまで残業にさせてやる」ニヤァ

 

「うっわあ、それは嫌だなあ…………」

 

あまりのおぞましさにスザクの口調も戻ってしまった。

 

「ハッハッハッハッハッハッ!人にされて嫌なことは人にするな、そんなこともわからん連中には少々緩いと思うがな!」

 

「確かにそうだけど、やりすぎはよくないよ」

 

「そうだな、ほどほどにしておいてやるか…………そうだ、ルルーシュ様とナナリー様にあって見たくないか?」

 

「ルルーシュとナナリーに!?会いたい!」

 

「よし!ならばユーフェミア様のところへ行こう!」

 

「え!?なんで?」

 

「私に、いい考えがある」

 

スザクを連れ総督室の扉を叩いた。

 

『誰だ?』

 

「ツキト・アールストレイムです」

 

『ツキト!?ツキトか!!早く入れ!』

 

「ツキトは人気者だね」

 

「まあな」

 

総督室に入る。

 

「生きていたのかツキト!ルルーシュとナナリーは!?」

 

入った瞬間コーネリアに食ってかかられた。

 

「…………その件でお話がございます」

 

説明中………

 

「そ、そんな………」

 

「私は、今後ルルーシュ様の遺言を果たすためエリア11に留まります」

 

「そうか…………」

 

「それとコーネリア様、ユーフェミア様はいらっしゃいますか?」

 

「ユフィか?今は自室に…………」

 

「コーネリア総督!!」

 

ボディーガードのような男が入ってくる。

 

「なんだ!」

 

「ユーフェミア副総督が消えました!」

 

「なに!?」

 

これは…………チャンスか?

 

「スザク、ユーフェミア様を追え」

 

「え?でも居場所が………」

 

「おそらくシンジュクゲットーを目指しているはず、美女だからすぐにわかる」

 

「わかった!」

 

スザクは総督室から飛び出していった、というかこの説明だけでよく飛び出していけるな、その正義感は好きだぞスザク。

 

コーネリアは……。

 

「すぐに捜索班を編成して出動させろ!ユフィを探せ!ユフィをおおおおおお!!!」

 

「お、落ち着いてください姫様!」

 

絶賛取り乱し中か、ギルフォードも大変そうだな。

 

「コーネリア様」

 

「ツキト!お前もユフィを………」

 

「現在予測できる行動範囲内に私の信頼できる者を配置いたしました」

 

「行動が早い、さすがツキトだな!」

 

「そろそろ連絡が《アイタイ(アイアイアイアイ)のに……》きましたね」

 

「「早!」」

 

着信はシスプリだ、特に深い意味は無い。

 

『ツキト?今ユフィに追いついたよ』

 

「そうか、では連れ戻して……」

 

『それがねツキト、ユフィはシンジュクゲットーを回りたいって言うから、ボディーガードとしてついていくことにするよ』

 

…………あ、ここでフラグ立てるつもりだな。

 

っていうかユーフェミアじゃなくてユフィって呼ばせてるんだな、あいつまだ天然なのか、咲世子といい勝負しそうだな。

 

「わかった、だが無茶だけはするなよ、ユーフェミア様も心配だがお前も大事なんだ」

 

『ツキト………僕はいい友人を持ったよ、ありがとう』

 

「きゅ、急に褒めるな、恥ずかしい……」

 

『ははは、じゃあ行ってくるね、二時間くらいで帰ってくるよ』

 

「ああ、わかった」

 

ケータイを切る、そういうばスザクも天然だったな、もし咲世子にフラグが立っていなければスザクに立っていた可能性も…………いや無いか、その場合はルルーシュに立つだろう。

 

ユーフェミアとスザクの天然コンビがシンジュクデートとはな、廃墟街探索ツアーなんてなにが面白いんだか、しかも今なら無料でテロリストに襲われる権利もつくという、いらねえ。

 

「ツキト!ユフィは?ユフィはどうなった!?」

 

「コーネリア様、顔が近いです」

 

「む、すまない、それでユフィは!?」

 

「ユーフェミア様は私のボディーガードを連れてシンジュクゲットーの視察をするそうです」

 

「なんだと!?すぐにヘリで連れ戻して……」

 

「なりません」

 

「な!?ツキト!お前……」

 

「ユーフェミア様は自身の仕事をしているのです、コーネリア様は副総督の仕事の邪魔をなさるおつもりですか?」

 

「ぐっ!…………だがシンジュクゲットーは危険だ!すぐに連れ戻さなければユフィが……」

 

「ユーフェミア様は仕事をしているのです、将来このエリア11を統治する者として自ら現状を確認しに行く、立派なことです、人と人は結局同じ目線でしか分かり合えないのです、ユーフェミア様はエリア11の総人口の八割を占めるイレブンを理解しようとされているのです、もし邪魔をするならば、我が主、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの遺言状に基づき、コーネリア・リ・ブリタニア、貴様を殺すぞ…………」

 

今更だが遺言は【エリア11をナンバーズに優しいエリアにしてくれ】ということにしている、つまりユーフェミアの行動はエリア11のイレブンにとって今後良い方向に進んでいくものとだと思う、その邪魔をするコーネリアはルルーシュに刃向かったと取れる、だから殺されても文句は無いよな?

 

「アールストレイム卿!不敬であるぞ!!」

 

「黙れギルフォード!味方によって己の主を殺される怖さを教えてやろうか!!」

 

「つ、ツキト、怒らないでくれ、お願いだから………」ウルウル

 

「姫様!?」

 

「怒らないでくれ?ブリタニアによって我が主は殺されたのだぞ?それで怒るなと?フハハ、フハハハハハハハハハハハハ!……………………ふざけるな!コーネリア・リ・ブリタニアぁ!!」

 

「ヒッ!ごめんなさい……ひっぐ………ごめんなさい……」

 

なんとコーネリアはへたり込んで泣き始めてしまった!

 

「姫様ぁぁあああ!?!?」

 

ギルフォードうるせえ。

 

あとコーネリアかわいい。

 

とりあえず泣きやませよう。

 

「…………今ユーフェミア様の邪魔をしなければ、私は怒らないのです」

 

「ぐす………ホント?」

 

退行してるうううううううううう!!

 

「はい、だからもう泣かないでください、ルルーシュ様が悲しみます」ナデナデ

 

「……わかった、なくのやめる」

 

お前今いくつだ。

 

「そうです、ルルーシュ様も泣いてる顔は見たくないのです、ユーフェミア様も見たくないはずです」ナデナデ

 

ユーフェミアもシスコンだからなあ、コーネリアの泣き顔が見たくない、とは言い切れないんだよなあ。

 

「うん…………ツキト、まえみたいによんで?」

 

昔の呼び方…………そういえば一時期コーネリアにせがまれてコーネリア姉さんって呼んでた時期があったな、それか。

 

「(姫様かわいい姫様かわいい姫様かわいい姫様かわいい姫様かわいい姫様かわいい姫様かわいい姫様かわいい姫様かわいい姫様かわいい姫様かわいい姫様かわいい姫様かわいい姫様かわいい)」

 

「いいよ、コーネリア姉さんがそう言うなら(最大限の優しい声)」

 

「///////………ありがとうツキト、もう大丈夫だ」

 

赤くなってかわいいなあ、もう少し遊ぶか。

 

「本当に?無理しないでいいんだよ?政務はギルフォードに任せて、少し休もう?」

 

「だ、だが………」

 

「顔も赤いし、熱があるんじゃないの?」ピトッ

 

「!!………わ、わかった!わかったからおデココツンてするな//////」

 

「ふふ、コーネリア姉さんは初心だなあ」

 

「わ、悪いか!?」

 

「ううん、かわいらしくて、素敵だと思うよ(決まったか?)」

 

「ううぅ………///////」

 

顔を真っ赤にして悶えるコーネリア、落ちたな。

 

「じゃあ休憩室に行って休もうか、久しぶりに膝枕してあげる」

 

「本当!?」

 

「うん、それじゃ行こうか」

 

「うん!行く!」

 

だからお前今いくつだ。

 

かわいいからいいけど。

 

「ギルフォード、政務の方は頼んだ」ピラ

 

「っ!…………了解した、姫様は頼んだぞ(キリッ)」

 

「その忠義に感謝する」

 

ふっ、ギルフォードなど、コーネリアの泣き顔(隠し撮り)と赤面コーネリア(隠し撮り)さえあれば恐るるに足らず!

 

「じゃあ行こうか、いい子にはもっといいことしてあげるよ」

 

「いいこと!……早く行こう!(いいこと!いいこと!)」グイグイ

 

「あ、ちょっと引っ張らないでよー………」

 

ふっ……………ちょろいもんよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ……………ん?何もなかったぞ?ただ膝枕してして耳かきしてやっただけだ、それ以上のことはしてない。

 

ああ、あとおデコにちゅーしてあげたぞ、すやすやと眠りおって、かわいいものよのぅ。

 

さて、コーネリアは休憩室に寝かせておいたし、置き手紙も置いたし、スザクのところにでも行くか。

 

「スザク、今どこらへんだ?」

 

『喫茶店にいるよ、喉が渇いたらしいから寄ってるんだ』

 

その気づかいで何人の女が落ちたことか。

 

「そうか、ではそっちに向かう、場所は?」

 

『えっと……『ご主人様、ご注文はお決まりですか?』……あ、僕はコーラで、ユフィは?』

 

『コーヒーでお願いします』

 

まだ席に着いたばかりだったか。

 

『えっと、場所はちょっとよくわかんないけど、ここら辺でシンジュクゲットーに一番近いメイド喫茶にいるよ』

 

「わかった、そっちに向かう、私のジンジャエールも注文しといてくれ」

 

『うん、わかったよ、それよりツキト、さっきから追手が来ないんだけど、どんな魔法を使ったんだい?』

 

まあそこは気になるよな。

 

「膝枕だ」

 

『膝枕って、あの膝枕?』

 

「ごく一般的な膝枕だ、私が正座して、コーネリア様を私の膝にのせて耳かきを…………」

 

『…………ごめんツキト、ちょっと理解が追いつかないよ』

 

そりゃそうだ、あの堅物女を膝枕なんてどう考えても無理だからな…………古くからの幼馴染みというコネでもない限りは。

 

「そうか、じゃあもう切るぞ」

 

『うん、待ってるよ』

 

「ああ」

 

ケータイを切って何かあったときのために交換しておいたロイドのケータイにつなぐ。

 

『ツキト君かなぁ?僕に何かよう?』

 

「四人乗りの地味な護送車はあるか?」

 

『う〜〜ん………セシルく〜ん、四人乗りの地味な車ってある?』

 

『私のでよければありますけど』

 

『あるってさ〜』

 

「そうか、ちょっと行きたいところがあるんだ、出してもらえないか?」

 

『え?でも………』

 

『セシル君、気分転換にはちょうどいいんじゃない?』

 

『…………そうですね、じゃあ車を出しますので門の近くで待っててください』

 

「ありがとう、では切るぞ」

 

『はぁい、いってらっしゃぁい』

 

ケータイが切れる、さて、一応コイルガンも持っていった方がいいな、レイピアは…………袋に入れて背負っていくか。

 

眼帯はポケットにあるな、ユーフェミアのことがバレれば何かしら事件が起こる可能性がある、その時は眼帯をつけてレイピアを抜いて脅せばいい、最悪ユーフェミアの前で人を切ることになるのか、ユーフェミアのためにもそれは極力避けたいがな。

 

総督府の門にて待っているとセシルの乗った自動車が出てきた。

 

「待ちましたか?」

 

「全然」

 

セシルの車に乗り込む。

 

「すまんな、急に呼び出して」

 

「いえ、平気ですよ」

 

「そうか、この住所まで頼む」

 

「わかりました」

 

車が走り出す、法定速度より5kmほど遅い安全運転だ。

 

「ところで、スザク君はどうなりました?」

 

「実はな、私の命令でさっきの住所のところに待機しているんだ」

 

「そうなんですか、疑いは晴れたんですね」

 

「スザクはあんなことしないさ、やるとしたら…………テロリストのあのゼロとかいう奴だろう」

 

「ゼロ…………なぜあんな奇妙な仮面を被っているのでしょうか?」

 

「顔を隠しているのなら、影武者を使うこともできるからな、そこで死んでも、また別の影武者を使えば【生き帰った】とかなんとか言うつもりだろう、でなけれなあんな堂々としている意味がないしな」

 

実際、最初こそC.C.に影武者になってもらいゼロ=不死身の存在として活躍してもらおうかとも思ったが、ルルーシュにそんな考えはなかったらしく、猛反対された。

 

「そうですね…………あ、そろそろ目標の住所に…………って、まさか……」

 

「ああ、もう着いたのか、すまないな」

 

「い、いえ………でもここってメイド喫茶……ですよね?」

 

「そうだな」

 

「スザク君の趣味、なのかな………」

 

「実はある人物の護衛のためここにいるんだ、護衛対象は大物だ、こんなメイド喫茶にいるなんて思わんだろうから、ここにしたんだろう、スザクも頭を使ってくれているようでなによりだ」

 

「そ、そうだったんですか……」

 

「セシルも来るか?」

 

「え、いいんですか?」

 

「ああ、車を止めてきたまえ、私は先に行っている」

 

「あ、はい、わかりました」

 

車を近くの駐車場に停めに行くセシル。

 

メイド喫茶に入る、かなりの人がいるがすぐにスザクを見つけた、というかユーフェミアの髪が目立ってすぐわかった。

 

ここから二人を見ると完全にカップルだな、ブリタニア人とイレブンのカップル、か……………親の説得が難しそうだ。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様、お一人様ですか?」

 

「いや、あそこのブリタニア人とイレブンのカップルと待ち合わせしていた者だ」

 

「そ、そうでございましたか」

 

私の態度がでかいからか若干引いているようだ、もしくは背負った袋に警戒しているのか。

 

まあいい。

 

「スザク、すまんな少し遅れた」

 

「そうでもないよ、どうやって来たの?」

 

「セシルに車を出してもらったんだ」

 

「そうか、セシルさんが」

 

「…………ツキト?」

 

ユーフェミアが驚いた顔をしている、そりゃ死んだと思ってたら実は生きてましたというんだからな。

 

「ええ、ツキト・アールストレイムです、ユーフェミア様」

 

他の客に聞かれぬよう小声で言う。

 

「っ!………ツキト……」ウルウル

 

「ユフィ、ハンカチ使う?」

 

「ありがとうございます、スザクさん」

 

イケメンだなスザク、それでもユーフェミアのフラグは私に立っているのか、スザクの方に立て直した方がいいと思うんだが。

 

「ふう……ツキトは元気そうですね」

 

「ルルーシュ様の遺言を果たすまで、私は死ねませんからね……」

 

「あ……ルルーシュ………」

 

ユーフェミアは俯いてしまう。

 

「………えっと、これがツキトのジンジャエールだよ」

 

「ありがとう、スザク、ユーフェミア様とどんな話をしていたんだ?」

 

「ああ、ユフィはエリア11でのナンバーズの待遇を良くしていこうって」

 

「ナンバーズの待遇の改善か、不可能ではないが………」

 

「難しいかな?」

 

「基本的にブリタニア人は他人種に対し差別意識が高い、古くからの強い選民思想が深く根を張っているのが現状だ、だからまずはその考えを破壊する必要がある」

 

「というと?」

 

「例えばだが、エリア11のイレブン代表を立てる、その代表とナイトオブワンを戦わせ、勝てば少しは評価が変わるだろうな」

 

「それ、無理だよね?」

 

「当たり前だ、ブリタニアが誇る騎士、ビスマルクに勝てる者がいるものか、あとはそうだな…………テロに下るより他ないな」

 

「テロ………」

 

「あの第二次シンジュクゲットー掃討作戦、最初のシンジュクゲットー壊滅作戦でテロリストのほとんどを殺したはずなのに、圧倒的優勢であったブリタニアが、敗走を余儀なくされた…………これはつまり、エリア11の独立を目論むテロ組織にとって良い条件を与えてしまったということ、これ以上にテロは増えるだろう、それに、ゼロという奴、とある情報筋によるとあいつがテロ組織を指揮していたという情報もある、新参者の仮面を被った奴の指揮の元で戦うなんて普通ではない、だが見事我々ブリタニア軍を敗走させた…………その手腕は確実なものだ」

 

「やはりツキトもゼロは危険だと思ってるんだね」

 

「ただの道化師だったら良かったんだがな、そうもいかんようだ、早々に始末しなければならんな」

 

「そうだね、あんな間違った方法では………」

 

「スザク、テロが正しいと言うつもりはないが、少なくともテロを支援する民間人はそれを正しいと思っている、それを理解してくれ」

 

「…………そうだね、人にはそれぞれの考えがあるんだもんね」

 

「ああ、だがスザク、お前はお前だ、テロを間違った方法だというなら私は批判しない、お前はお前でいてくれ」

 

「ツキト…………うん、僕は僕でいるよ」

 

これでスザクはテロ(ゼロ)を支援する人に対して頭ごなしには否定しなくなる………と思う。

 

「ツキトもスザクも、そんな暗い顔をしていないで、今日は楽しみましょう」

 

「そうだな」

 

「お待たせしましたツキトさ…………ゆ、ユーフんぐ」

 

「(バレたらどうする、ここの客の半分はイレブンだぞ!)」

 

「(!……はい)」

 

危なかった、セシルには事前にユーフェミアがいると伝えて於けば良かったかもしれないな。

 

「あら、あなたは?」

 

ユーフェミアがセシルを見てそう言った。

 

「スザク君と同じ特派で働いています、セシル・クルーミーです」

 

「ユーフェミア・リ・ブリタニアです」

 

「挨拶も済んだし、セシルさんも何か頼んだr「なんだこれは!?」

 

どうしたんだ?何が起こった?

 

「も、申し訳ありません……」

 

「申し訳ありませんだとぅ!?ふざけているのか!こんな不味いコーヒー飲めるか!!」

 

あいつは………階級章は曹長か、このメイド喫茶のコーヒーにケチをつけてるようだが…………。

 

「こんな不味いコーヒーを出す店は不要だ!取り壊しだ!」

 

「そ、それだけは!お許しください!」

 

店長と思われる男が出てきて土下座をする、が…………。

 

「黙れイレブンが!」

 

そう言って曹長は店長を蹴った。

 

「おいスザク、ユーフェミア様を抑えろ」

 

「りょ、了解」

 

「は、離してくださいスザク!あれを止めなければ………」

 

「私がやります、ユーフェミア様はそこで黙っていてください」

 

「そんなの………っ!」

 

カチャッ

 

コイルガンの銃口をユーフェミアに向けた。

 

「ツキト!君は何をして………」

 

「私が仕えた主、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、あなたが無茶をするのを抑えてくれと頼まれました、ここはおとなしくしていてください」

 

「ですが……」

 

「くどいですよ、私はそんなに優しくないんです、目的のためならば皇族だろうと敵に回します」

 

「ツキト!君は……」

 

「(スザク!ユーフェミア様の身分がばれたら、ここで殺される可能性が高い、だからここは耐えてくれ!あとで土下座でもなんでもする!!)」

 

「(………約束だよ)ユフィ、ここはツキトに任せよう」

 

「スザクまで!…………わかりました」

 

ユーフェミアは座ったまままた俯いてしまった、唇を噛み締め、悔しそうな顔だ。

 

押さえつけていたスザクも座り直した。

 

私は曹長に近づき声をかける。

 

「ずいぶんと暴れているな、ええ?曹長殿」

 

「なんだ貴様?ブリタニア人の私に逆らうのか!!」

 

「ほう、では貴様は、ナイトオブラウンズに逆らうのか?」

 

眼帯をポケットから出して取り付ける。

 

「?……!……あ、あなたはまさか!?」

 

「そうだ、ツキト・アールストレイム、ナイトオブサーティーンだよ曹長!」

 

「も、申し訳ありません!」

 

「申し訳ありません?ふざけているのかね?まあいい…………スザク、こいつを拘束して外に連れ出せ」

 

「はっ!」

 

スザクは立ち上がり曹長を拘束して外に連れ出した、すっかり軍人が板についてきたな、生身で私に勝てるくらいにはなったんじゃないのか?

 

店の外では人だかりができており、まさか暴れていたブリタニア軍人を同じブリタニア軍人、しかもナイトオブラウンズが取り押さえたのだから驚きだろう。

 

「アールストレイム卿!この店が悪いのです!この店のコーヒーが不味いのが……」

 

「ほう、君はそんなに早く死にたいのか、そうかそうか」

 

コイルガンを曹長に向ける。

 

「ひっ!ち、違います!」

 

「なら黙っていたまえ、さて、店長?立てるか?」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

脇腹を抱えて立ち上がる店長、ふむ、折れてはいないようだな。

 

「ふむ、治療費は私が負担しよう、同胞が済まなかった、いやもう同胞ですらないが」

 

「も、申し訳ありませんでした!い、命だけは!命だけは助けてください!」

 

「ほう?【命だけは】か、わかった、本来ならここで銃殺刑にしようと思っていたが、やめておこうか」スッ

 

「あ、ありg「では代わりに、貴様のすべてを抹消することにしよう」……へ?」

 

「聞こえなかったのか曹長?いや、違うな、お前はもうゴミだ、おいゴミ、ゴミのお前がなぜこんな所にいる?さっさとゴミ捨て場に戻れ」

 

「じょ、冗談ですよね?そんな、人権否定なんてあるわk」

 

「あるのだよ、お前はもうブリタニア人でもなんでもない、店長、こいつはもうブリタニア人でも軍人でもない、お前の好きにしろ」

 

「い、いいんですか!?」

 

「ああ、だが殺すなよ?死体の処理は結構面倒なんでな」

 

「よっしゃ!おい!全員でボコっちまおうぜ!」

「そうだな!おら!このゴミ野郎!」

「死ねおらあ!」

「てめえのせいでうちの店は潰れたんだ!」

「死んで償え!」

 

なんということだろう、まるでおしくらまんじゅうだな。

 

「ツキト、これはさすがに………」

 

「見たところこいつは常習犯だ、許す気などもうとうない、ユーフェミア様とセシルを連れてきてくれ、帰るぞ」

 

「うん、それはいいんだけどさ、命だけは助けてやるって言ってたけど、あのままじゃ…………」

 

「【私は】殺さない、という意味で言っただけだ、私が殺すわけじゃないんだから嘘は言っていない」

 

「君は本当に悪魔だね」ニコッ

 

「セリフと表情が180度違うじゃないか、さて、おーい店長、代金は置いておくぞ!」

 

って聞こえてないか…………。

 

「まあいいか、行くぞスザク」

 

「うん、ユフィ、セシルさん、行きましょう」

 

「あの人は?」

 

「ああ、【解放】してあげましたよ」ニヤァァ…

 

「そ、そうなのですか………(深く聞かないほうが良いでしょう)」

 

「それでは私は車をとってきますので、少々お待ちください」

 

セシルはそう言って駐車場に走っていった。

 

ん?通信?

 

『おいツキト!お前一体何をやった!?』

 

「……なにかございましたか?」

 

『なにかございましたか?じゃない!今中継でお前のことが放送されているんだぞ!』

 

「放送?…………あ」

 

左右を見てから空を見ると飛行船が飛んでいた、あれか。

 

『わかったら早く隠れるなりしろ!』

 

「…………もう遅いです、それに、ブリタニア軍の上のほうは私のことをしっています、今更隠すこともないでしょう」

 

『お前の身分がばれるんだぞ!』

 

「むしろ好都合です」

 

『なに!?』

 

「理由は私が帰ってくるまでに考えておいてください、では」

 

『まt(ピッ)』

 

ケータイをきる、ちょうどセシルの車もついたのでそれに乗り、総督府へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユフィ!突然いなくなるなんて心配したじゃないか!」

 

帰るなりコーネリアのお出迎え。

 

「すみませんでした総督…………ですが!どうしても自分の目で確かめたかったのです!」

 

「コーネリア総督、私からも謝罪いたします」

 

「………今回のことは不問とする、ツキトは残れ、他は部屋から出ろ」

 

「お許しいただきありがとうございま…………コーネリア姉様、まさかこのあとツキトと……」

 

「そ、そんなことはない!私はツキトのあの喫茶店前での騒ぎについてだな………」

 

「どうでしょうかね………」

 

「し、信じてくれユフィ!私は別にツキトの童貞に興味は………」

 

「なぜ童貞だって知っててわざわざそう言うことを言うんですか!?」

 

「ち、ちがう!今のは言葉の綾というか…………」

 

童貞童貞うるさいぞ、この変態姉妹め。

 

というかお前ら処女だろうが。

 

「とにかく!ユフィは部屋から出るんだ!」グイグイ

 

「あ!姉様酷いです!私にもあじm……」

 

バタン

 

コーネリアがユーフェミアを追い出し部屋に鍵を閉めた。

 

おいユーフェミア、お前さっき味見って言おうとしただろう。

 

「さて、ツキト、喫茶店前での騒ぎはどういう了見だ?」

 

「エリア11、ひいてはブリタニアのための布石です」

 

「どうしてあれがブリタニアのためになる?」

 

ふっ、やはり聞いてくるか。

 

「それは…………次回で言います」

 

「メタいぞツキト!」

 

 




コーネリアとユーフェミアのコレジャナイ感、タグにキャラ崩壊追加しとこう。


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新たなる『条例』を

ツキトside

 

 

 

「では、話しましょう、まずは昨日の時点での各エリアの成長率、並びにブリタニアへの貢献度をご覧下さい」

 

あらかじめ用意しておいたデータを端末に差し込みモニターに映す。

 

「見た所EU方面のエリアの成長率が高いな」

 

EU方面に多くあるエリアはブリタニアの政策に不満がないのか隠しているのか知らないが、そこそこの成長率を見せている。

 

「それに対し、アジアのエリアの成長率とブリタニアへの貢献度は低いです、エリア11に至ってはテロリストなどによりついに貢献度がマイナスになりました」

 

グラフにはプラスの値しか無いがエリア11の貢献度がグラフの外に突き出している。

 

「マイナスなのはエリア11だけだな、アジアのエリアは全体的に低いようだが………」

 

「アジア圏のエリアの成長率並びに貢献度が低いのは、【ゼロ】の登場によるものと思われます」

 

「奴か」

 

「さらにこちらが一ヶ月前、ゼロが現れる前の成長率、貢献度のグラフです」

 

一ヶ月前の成長率と貢献度のグラフを先のグラフの隣に映す。

 

「…………下がっているな」

 

「はい、ゼロの登場により、アジア圏各エリアのナンバーズの怒りが爆発したものと考えられます」

 

「なぜ今になって?」

 

「ゼロは頭が切れます、おそらくエリア11がブリタニアに降伏してからの七年間、隠れてちからを蓄えていたのでしょう」

 

「なるほど、ゼロは数年前、いや、少なくとも数十年は前から反ブリタニア勢力を作っていたと考えられるな」

 

「ええ、反ブリタニア感情の主な原因は、ブリタニア人のナンバーズへの差別や虐殺が問題でしょう」

 

「おいおいツキト、皇帝陛下はナンバーズを区別しろとおっしゃられたのだぞ?」

 

「区別しろと言っただけで差別しろだなんて言ってないでしょう?ナンバーズとブリタニア人を分けて考えろと陛下はおっしゃられたのです」

 

「つまり、差別ではなく区別こそ陛下の望むものだと?」

 

「そうです、陛下は弱者から一方的に奪うことこそ真の弱者だとおっしゃいました、ゆえに、侵略し占領下にあるイレブンという弱者から略奪している我々こそ弱者なのではありませんか?」

 

「ふむ…………では、それと喫茶店前での騒ぎの関係はなんだ?」

 

「これから行うことに向けての布石です」

 

「何をするつもりだ?」

 

「エリア11内のみでのナンバーズの待遇改善政策です」

 

「…………続けろ」

 

「エリア11の成長率並びに貢献度を上げるには、エリア11の人口のほとんどを占めるイレブンにやる気を出させる他ありません、そのために、まずは今推し進めている名誉ブリタニア人制度を廃止します」

 

「なぜだ?」

 

「名誉名誉と謳っておきながら結局はイレブンと同じ扱いを受けます、私の友であり部下である枢木スザクのように」

 

面倒な書類を何枚も書いて申請して名誉ブリタニア人になっても結局扱い変わらないんじゃやる気なんて起きないわな、当たり前だ。

 

「その代わり、ブリタニアの経営する企業、現在エリア11の各地にあるIT企業やゲーム会社などの大企業、それとブリタニア軍にて二年以上勤務すれば【ブリタニア人】となり、同等の権利を得られる、というものです」

 

「それなら誰でもブリタニア人になれるな」

 

「そうでもありません、大企業の幹部はイレブンの自社への就職を快く思わないため、まず企業に入れたらラッキーですね」

 

「………結局ツキトはその政策で何をしたいんだ?」

 

「エリア11を自治区にします」

 

「なに!?」

 

コーネリアは驚き後ろに下がる。

 

「そんなことをすれば皇帝が黙っていないぞ!」

 

「コーネリア様、弱肉強食なのです、エリア11を成長させ、貢献度を上げるための政策なのです」

 

「自治区にする必要など……」

 

「あるのですよ、コーネリア総督」

 

一拍おいて話し始める。

 

「現状の成長率と貢献度ではコーネリア総督の能力を疑われます、成長率を上げるにはエリア11のナンバーズ、イレブンに頑張ってもらわねばなりません、そこで先ほどの政策、【二年でブリタニア人になろう!】によって能力のあるイレブンが優遇されるように仕向けます、そうすることで競争を強制し、熾烈な競争のもと就職したイレブンはその褒美として二年後にブリタニア人としての市民権を獲得することができます、軍も同様に志願制で募ります、予想では1.2〜1.3倍ほど志願者の増加が見込めます、これを機にテストの難易度を上げ、より洗練された部隊を構築すれば、反ブリタニア勢力への牽制にもなるでしょう」

 

「…………まとめると?」

 

「二年勤めればブリタニア人にしてやるという破格の条件でブリタニアの国是である弱肉強食に基づき競争を強い、ブリタニアをより強く美しい国家へと昇華させる!それこそが我が天命である!!オール・ハイル・ブリタニア!!!オール・ハイル・ブリタニア!!!」

 

私の右手が赤く燃える!愛国示せと轟き叫ぶぅぅう!!オール・ハイル・ブリタああああああああニアあああああ!!!

 

「ハァ………変わらんな、昔からそういうところは」

 

「愛国心を持つ者こそ真の強者だと私は考えています」

 

「相変わらず硬い頭だ……」

 

「…………でも膝は柔らかかったでしょう?」

 

「ひぇ!?//////ば、バカなことを言うな!あ、あれは疲れてたから眠ってしまって………」

 

「私は一言も眠ってしまった理由を尋ねていませんが?」

 

「うぅぅ……ツキトのバカ……//////」

 

あれれ〜?かわいいぞ〜?

 

ふざけてる場合じゃない、さっきまで真面目だったのに、くそ、気づけば勝手に口説いてた、なんて笑えんぞ。

 

ちっ、やはりスザクも一緒に置いておくべきだったか、この部屋でコーネリアに発情でもされたら逃げられんぞ。

 

それに私は童貞を墓まで持っていくつもりなんだ、こんなところで散らしてたまるか!

 

「………というわけで、数週間後にこの政策を発表し、その日から一週間のブリタニア軍の先行志願を行い、政策が真実のものだと思わせます、どうでしょうか?」

 

「い、いいんじゃないか?つ、ツキトがやって失敗したことはなかったし………」

 

どもるな、かわいくて鼻血が出たらどうする気だ。

 

「そうでしょうか?それではこの書類に判子をください」

 

「ああ……」

 

トン

 

判子が押された書類をしまう。

 

「それではコーネリア様、私はそろそろ行きますね」

 

「うむ…………また来てくれるか?」

 

「コーネリア様がいい子だったら、きっと来ます」

 

「待ってるからな」

 

総督室を出て扉を閉める、総督室からコーネリアの悶える声が聞こえるが無視、こういうのは知らない(聞こえない)ふりしたほうが長生きできる。

 

「スザク」

 

「はっ!」

 

扉の外で待機していたスザクを呼ぶ。

 

「ユーフェミア様のところに行くぞ」

 

「はい」

 

ユーフェミアのいる部屋はすぐにわかる、あんな警備ガチガチにしたら逆にここだと言ってるようなものだしな。

 

警備の一人にマリアンヌのレイピアを見せるとギョッとした顔になった、すると。

 

「通せ」

 

「はっ!」

 

通してくれた、なんの種も仕掛けもない、マリアンヌの人望がなせる技だ、その信頼の証たるこの剣を見れば誰でも言うことを聞いてくれるだろうな。

 

扉を開けスザクとともに中に入るとユーフェミアがベッドの上です三角座りをしていた。

 

なんでお前ら姉妹はこんなにいちいちかわいい仕草をしているんだ!

 

「あっ…………ツキト、スザク、姉様とのお話は終わったの?」

 

「ええ、エリア11を、【元日本】をよりよくするための政策について話をしてきました」

 

その瞬間スザクの顔がピクリと動く、扉のすぐ外にいたから私のあの叫び声が聞こえていたかもしれないな、まあいい、【コーネリア相手にはああ言うしかなかった】とでも言えばいいか?………いや、普通に言えばいいか。

 

「まあ!そういうお話なら、私も混ぜてくれればよろしかったのに!」

 

「ユーフェミア様が一緒にいたらきっと喧嘩になっていたかもしれませんから………」

 

「そんなことないわ、それよりツキト、前みたいに話してくれない?」

 

「え?いや、それは………」

 

「ユフィ、ツキトは立場の問題でそういうのは難しいんだ」

 

お、ナイスフォローだス

 

「だけど、ここなら誰も聞いてないからツキトも昔の喋り方でもいいと思うよ」

 

………ああそうだよな!スザクはこんなやつだったよな!!でもいいこと言ってるから言い返せねえんだよ!

 

そうか!だからウザクなのか!

 

正しいからウザいって、それ完全に悪役のセリフ…………ってルルーシュは悪役だったな、同時にヒーローでもある、よく聞く【ダークヒーロー】っていうやつか。

 

とりあえず反論を。

 

「いや、スザク、さすがにそれは………」

 

「ユフィだって昔の喋り方のほうがいいよね?」

 

「はい!いつもじゃなくても、こういう時くらいは昔の喋り方のほうが………」

 

………ルルーシュはこういう味方を作るのを計算してやってるのにスザクは天然でやるんだからすごいな本当。

 

原作通りいくとは思わないが、もしゼロレクイエムが起きてスザクがゼロになったらスザクに鞍替えしよう、うん。

 

「ねえツキト、お願い、昔のようにユフィって呼んで……」

 

そんなことを考えていたらユーフェミアが上目遣いでおねだりしてきた…………あ、鼻血でそう………。

 

「くっ…………わかりまし………わかったよ、ユフィ」

 

「ツキト……ツキト!」

 

「うわっ!」

 

ユフィと呼んだら抱きつかれた件について、ナナリーといい、なんで女ってこんなに柔らかいんだ?

 

「ツキト、ツキト、ああツキト」

 

「ちょ、ちょっとユフィ、いきなり抱きついてくるなんてびっくりするじゃないか」

 

「あぅ、ごめんなさい、でも嬉しくて……」

 

「その気持ちはわかるけど、スザクだっているし、はしたないよ?」

 

「ごめんなさい……」

 

「ん、わかってくれたならいいよ」

 

ナデナデ

 

「あ……うん////」

 

かわいい、ナナリーも大きくなったらこんな感じになるのか、主に胸。

 

「ユフィは甘えん坊だね」

 

「ん、ツキトが甘やかしすからよ」スリスリ

 

「じゃあやめる?」ピタッ

 

「そんなことしたら私死んでしまいます」

 

「じゃあ、やめられないかな」ナデナデ

 

「うん………」

 

「(早く結婚したほうがいいんじゃないかな)」

 

スザクが小声で囁いてきた。

 

「(冗談でもやめてくれスザク)」

 

そんなことしたらナナリーに殺される、コードを持っていてもナナリーには問答無用で殺されそうで怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして……。

 

「そろそろ戻します」

 

「ああ、もうちょっと……」

 

「だめです」

 

「うぅ……」

 

「だめです」

 

「………はい」

 

ユーフェミアをなだめて椅子に座る、隣にはユーフェミア、逆隣にはスザクが座った。

 

「ではコーネリア総督とお話した政策について説明いたします」

 

「はい」

 

「簡略的に説明いたしますと、エリア11の成長率と貢献度をあげるために新たな条例を制定することになりました」

 

「新しい条例ですか」

 

「はい、二年間ブリタニアの企業、またはブリタニア軍に勤めたイレブンは、ブリタニア人になれる、という条例です」

 

「二年間でブリタニア人に!?姉様がその条例を許可したのですか!?」

 

「ええ、説得したら結構あっさりと」

 

「(それはツキトだからでしょうね)」

 

「(それはツキトだからだろうね)」

 

「この条例により成長率と貢献度が大幅に向上する、という建前は置いておきまして、この条例により、イレブンと呼ばれ蔑まれてきた人達もブリタニア人となり、ブリタニア人と同等の権利を保障されます、苦しむ人がたくさん減り、幸せな人がたくさん増えるんです」

 

「すごいわツキト!こんなことを思いつくなんて!」

 

「そこで、ユーフェミア様にお願いがあります」

 

「お願い?」

 

「はい、この条例の制定を発表するのを、ユーフェミア様にやっていただきたいのです」

 

「私、が?」

 

「はい、コーネリア様ではイレブンが萎縮してしまいます、ですがユーフェミア様なら、きっと話を聞いてくれることでしょう」

 

「なるほど……」

 

「ツキト、それだけじゃないだろ?」

 

スザクがしたり顔で言う、おいイケメンその顔はやめろ。

 

「ばれたか」

 

「え?それだけじゃないってどういう……」

 

「ユーフェミア様にやっていただく理由はもう一つあります、それは、将来、コーネリア様はユーフェミア様に総督の座を明け渡すことでしょう、その時にコネだなんだと言われないために、今回の条例の発表を功績の一つにしようと思ったからです」

 

「ツキト…………そこまで考えて……」ウルウル

 

「さすがツキトだ」

 

「ああ、そうだ、スザクにもやってもらうことがある」

 

「僕に?」

 

「実はな、その発表する式典でスザクを条例の成功を祈って名誉ブリタニア人(イレブン)からブリタニア人になった第一号にしたいんだ、どうだろうか?」

 

「つまり、式典で僕をブリタニア人にして、条例が本物だと信じてもらうためなんだね」

 

「そうだ、そしてスザクには、ユーフェミア様の騎士をやってもらいたい」

 

「私の騎士を!?」

 

「僕が!?」

 

天然夫婦が驚いた顔で固まった。

 

「理由はいくつかありますが、まずスザクの身体能力とKMFの操縦技術があればユーフェミア様をお守りすることができると考えたからです、それに元イレブンでもブリタニア皇族の直属として働くことができるとイレブンや名誉ブリタニア人に思わせることができる、そうすればこの条例に賛成的な人が増え、ユーフェミア様の総督就任にも何のイザコザも起こる心配はないでしょう、それに………」

 

「人に希望を持たせることができる、ということですね?」

 

「その通りですユーフェミア様」

 

「そう…………スザク、貴方がよければ、私の騎士になってくれませんか?」

 

「うん、僕は大賛成だよ、ユフィ、必ず条例を成功させよう!」

 

「はい!頑張りましょう!」

 

ふふふふふ…………これでユーフェミアは行政特区という手を打つことが難しくなる、今回のこの条例も本国から文句が言われないギリギリの条例、これ以上に危険がある行政特区構想などできまい、仮にできたとしても【主義者】として逮捕される可能性がある、それにそうなればスザクもただでは済まないだろう。

 

もし行政特区を考えていた場合はスザクのことで脅せばいい、自分の騎士を裏切りたくはないはずだからな。

 

「では式典での進行手順を説明いたします、アナウンスに従いユーフェミア様が壇上に上がります、そして一礼して自己紹介から…………」

 

行政特区という考えができて、その式典にてゼロ(ルルーシュ)のギアスが暴走、日本人大虐殺なんてことは起きない、ルルーシュはギアスを持ってない、ユーフェミアは行政特区という考えを持ってない、つまりユーフェミアは死なないし、スザクがギアスを知ることもないし、コーネリアが部屋にこもるなんてことも無いだろうしな、いや、コーネリアって部屋にこもっていただろうか?まあいいか。

 

「そこで僕がツキトに今日からブリタニア人だって発表されて…………」

 

「最後に私がスザクを騎士にすれば…………」

 

「式典は終わりです、大まかにはこんな感じですが、式典の日が決まったら練習をしますので」

 

「ええ、これで、悲しむ人々が減るのですね」

 

「そうさ、僕たちがこのエリアを変えていくんだ」

 

「スザク!ツキト!私たちでこのエリアを世界一のエリアにしましょうね!」

 

「うん!」

 

「イエス、ユアハイネス」

 

ふう、これでいい、エリア11は順調に成長する、そしてブリタニアはさらに強く美しくなるのだ。

 

「騎士になることが決まったなら、制服を作ってもらわねばな」

 

「あ、そうだね、でも僕はどういうのがいいのかわからないや」

 

「それなら私が一緒に選びましょう」

 

「え、いいのかい?」

 

「ええ、私たちは同じ未来を目指す仲間ですもの!」

 

「仲間………うん!じゃあユフィにお願いするよ」

 

「お任せください!」

 

【同じ未来を目指す仲間】、か、じゃあ私は仲間には入らないな、まあそう嘆いてられないか、今のうちに覚悟しておかなくてはな、ユーフェミアやスザク、親しい者すべてを裏切る覚悟を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーフェミアと別れスザクと二人で例のラーメン店に来た。

 

もうすでに日が暮れてしまっている、怒られるなこれは、と思いつつカウンターに腰を下ろす。

 

私のことを中継で知ってしまった人が何人かいるようで私をガン見している、視線は困惑が多いようだな、そりゃそうか、ブリタニア人といえばメイド喫茶の曹長のようなことを平気でやる人種だと思われているだろうしな。

 

「味噌ラーメン大盛り、トッピングにチャーシュー二枚」

 

「味噌ラーメン大盛りトッピング全部とモヤシマシマシ」

 

しかし店主は嫌な顔もせず麺を茹でる、無関心なのだろうか。

 

「あ」

 

「どうしたんだいツキト?」

 

「ユーフェミア様に土下座するの忘れてた」

 

実際さっきまで忘れてた。

 

「…………いいんじゃないかな?ユフィも気にしてなかったし」

 

と笑顔で言い切るスザク。

 

「ならいいんだが、で、スザク、ユーフェミア様はどうだった?」

 

「どうって、とても綺麗で正義感のある優しい人だと思うよ」

 

ふむ、スザクはユーフェミアを好きになりつつあるな。

 

「ほう?結婚したいとか思ったか?」

 

「あんなに綺麗な人と結婚したいと思う人なんてたくさんいるよ、でも僕は無理かな」

 

「無理じゃないさ、スザクは数週間後にはブリタニア人になるんだ、階級だって中佐くらいになる、ユーフェミア様との結婚も夢じゃないさ」

 

「でもユフィはツキトが好きそうだったけど?」

 

とぼけてみるか。

 

「………嘘だろ?」

 

「嘘じゃないよ、ユフィがツキトの話をする時ものすごく楽しそうだしね」

 

「そうか…………ナナリー様といい、なぜ私なんだ、スザクのほうが背も高いしイケメンじゃないか…………」

 

本当どうしてだよ、どう考えてもスザクのほうがいいだろ。

 

「そうかい?僕はツキトがもてても不思議じゃないけどね」

 

「嬉しいけど嬉しくない…………はあ、どうすればいいんだ」

 

「ツキトの思うようにすればいいと思うよ、だけど女の子を泣かすのはダメだよ」

 

「わかっているよ、ズルズル…………うまい」

 

「ズルズル………ツキトは確かナナリーと付き合ってるんだよね?」

 

「ナナリー様にふさわしい相手が現れるまでな」

 

「ツキト以上の人なんているの?」

 

「身体能力ならお前のほうが上だぞ?」

 

「でも僕は頭が良くないし……」

 

「そうだ!スザクもアッシュフォードにこないか?」

 

「アッシュフォードに?」

 

「ああ、ルルーシュ様とナナリー様に毎日会えるぞ」

 

「でも僕はまだイレブン(名誉ブリタニア人)だよ?」

 

「私とユーフェミア様のお気に入りとして入れば問題ない、それにスザクは数週間後にはブリタニア人の騎士になるんだ、誰にも文句は言わせはしないさ」

 

「本当にいいのかい?君にも迷惑をかけちゃうと思うけど」

 

「私のほうがたくさんかけてきたんだ、その恩返しだよ、それに、ユーフェミア様の騎士が勉強もできないようでは呆れられてしまうからな」

 

「勉強かあ、少しづつやってはいるけど、自信ないなあ」

 

「まあせいぜい頑張ってくれ、ユーフェミア様の騎士殿」

 

「将来の、がつくけどね」

 

そんな会話をしながら味噌ラーメンを食う、うん、やはりうまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スザクと別れ、アッシュフォードのクラブハウスに戻る。

 

「ただいま戻りまs「ツキトさん!」

 

「どうしてあんなことしたんですか!?下手をすればツキトさんが………」

 

帰るなりナナリーの雷、怖い。

 

「申し訳ありませんナナリー様、あの時はユーフェミア様の身分を隠すためだったのです、お許しください」

 

「ユフィ姉様が!」

 

怒った顔から花のような笑顔に変わる。

 

「ユフィが?もう来ていたのか」

 

ルルーシュもナナリーの声を聞いてきた。

 

「はい、ルルーシュ様」

 

「そうか…………計画を早めるべきか………」

 

「その必要はないかと」

 

「なぜだ?」

 

 

 

説明中…………。

 

 

 

「【二年でブリタニア人になろう!】、か…………よくそんなの思いついたな、穴がない」

 

ルルーシュには判子付きの書類を渡した、ルルーシュは理解が早いから説明無しでもわかるだろうと思ったからだ。

 

「あの、ツキトさん、お兄様が読んでいる書類は………」

 

「簡単に言いますと、元日本人の人たちを優遇しようという政策です」

 

「元日本人の人たちをですか?」

 

「はい、スザクのような人たちです」

 

「スザクさん!生きていたのですね!」

 

「はい、今はブリタニア軍で働いています」

 

「そうなんですか、あの、ワガママを言うようですけど、スザクさんに会いたいです」

 

「わかりました、時間があったら連れてきます」

 

「ありがとうございます!楽しみだなあ……」

 

椅子に座って足をブラブラさせるナナリー、年相応の中学生らしさがとてもかわいい。

 

「………ツキト、話がある」

 

「わかりました」

 

ルルーシュに呼ばれ、ルルーシュの部屋に入り鍵をかける。

 

「なぜラウンズだと公表した?」

 

「ルルーシュ様の見解はどうですか?」

 

質問に質問で返すのは愚行だが、させてもらう。

 

「…………ナナリーと別れるため、か?」

 

ほんっっっっっとシスコンだなお前。

 

「それもありますが、一番はスザクの立場をより強固にするためです、数週間後にその書類の発表式典を行います、そこでスザクをユーフェミア様の騎士になるまでナイトオブラウンズの部下であると思わせ、不要な争いを防ぐためです」

 

「なるほど、だからスザクをブリタニア人にするのか」

 

「はい、それとルルーシュ様」

 

「なんだ?」

 

「お願いがあります、スザクをアッシュフォードに学生として通わせてあげてください」

 

と言って土下座をする。

 

「お、おいツキト………」

 

「スザクは騎士になるために勉強ができなくてはいけないと悩んでおりました、お願いしますルルーシュ様、何卒、スザクをアッシュフォード学園に………」

 

「わかった!わかったから土下座はやめてくれ!頼むから!」

 

「ありがとうございますルルーシュ様!」

 

そう言って立ち上がる、泣き落としに弱いな、まあそこがいいんだが。

 

「スザクの件は俺が学園長に言っておく、ダメなようならツキトの名前を出すが……」

 

「構いません、むしろ出してください、【ラウンズ直々の命令でスザクを入学させろ】とかですね」

 

「わかった、会長に噂として流すよう言っておく、それでツキト、ナナリーはどうする?」

 

「身分がばれた以上、別れるしか………」

 

「ナナリーのことだ、剣の勝負で決めてくださいと言ってくるぞ、おそらく真剣で」

 

「…………勝ち目がないのですが」

 

「ナナリーも勝たせる気はないだろうな」

 

「…………どうすれば良いのでしょうか?」

 

「そのまま付き合ってればいいんじゃないか?」ニヤ

 

この鬼!悪魔!!

 

「とりあえずその時になったら考えましょう」

 

「そうだな、ツキト、それまではナナリーを頼む、俺がいなくてもナナリーは生きていける、だが俺はそれでも心配だ、だからナナリーをささえていてくれないか?」

 

「私でよければ」

 

「俺はお前しかいないとおもうがな、それでツキト、これからだが……」

 

そのあとは黒の騎士団旗揚げの演出について話し合った、そして………。

 

「そういえば、近々日本解放戦線の者たちがビルの占拠を企んでいるようですが………」

 

「なに?…………そうか、これなら!ふふふふふふ、ハハハハハハハハハハハ!!やれる!やれるぞ!」

 

案の定ビルの話をしたら食いついてきた、これで原作通りのことができるな。

 

今後の予定が山積みだな、苦しくはないがな。

 

さて、今夜もブリタニアのために計画を練ろう。

 

すべてはブリタニアのために、オール・ハイル・ブリタニア!

 



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『叛逆』を打ち砕く

ツキトside

 

 

 

翌日…………。

 

「決闘を申し込みます!」

 

「「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」」

 

どうしてこうなった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと前…………。

 

私がラウンズだと知れ渡り、ルルーシュとナナリーの身分がばれる可能性があるため退学手続きのため生徒会室に向かったのだが……。

 

「あ、ツキトさん!」

 

その途中で見つかってしまったのだ、ナナリーに。

 

「なぜ退学なんてしようとするんですか!」

 

そう言って生徒会室前に立ちはだかる。

 

「ナナリー・ランペルージ、君も知っての通り私はラウンズだ、これから本格的に忙しくなる、だから退学する」

 

「私のことが……嫌いになったんですか?」

 

「しつこい女は嫌いだ、さっさと退け!」

 

きつめの口調で言う。

 

「嫌です!ここを退いたら、私はツキトさんと別れれしまう………そんなの嫌です!私はツキトさんが好きなんです!大好きなんです!」

 

「退け」

 

「なら勝負してください!」

 

「勝負?チェスか?トランプか?」

 

「剣でです!」

 

おいおい、まさかルルーシュの言葉が本当に……。

 

「断る、貴様のお遊びに付き合ってられん」

 

「なら、真剣でお相手いたします!」

 

なに!?

 

 

 

「おい見ろよ、ラウンズとナナリーが言い合ってるぞ」

「ナナリーはラウンズの退学を認めないつもりみたいだな」

「ええ!?ラウンズに逆らったら殺されちゃうわよ!?」

「それくらいの覚悟なんだろうよ、好きな人に殺されてもいいっていう」

「会長はどこなの!?早く止めないとナナリーちゃんが!」

 

 

 

くそ!いつの間にやらギャラリーができてしまっている!

 

「本気か?」

 

「本気です!」

 

「そうか……………では私が勝ったら、交際をやめて退学届けを受理してもらおうか!」

 

まあ剣を弾き飛ばして降伏を迫ればいいだろう、面倒だが、まあ勝ちは決まっ

 

「では私が勝ったら、私とエッチな事をして「この馬鹿者があああああああ!!!」

 

「うら若き乙女がそのような言葉を口にするな!」

 

ギャラリーがいるが思わずそう叫んでしまった。

 

というかなんでエッチな事なんだ!もっと他になかったのか!そこは退学するなとかじゃないのか!

 

「では私が勝ったら初夜を「ド阿呆!言い直せばいいというものではない!」

 

「ではどう言えばいいと言うのですか!?」

 

「まずその考えをやめんか!ブリタニア人としての気品がない!第一にハレンチだ!」

 

「ハレンチだからなんですか!?みんな私くらいの人はそういうことを考えています!」

 

「なん………だと………」

 

中学生で…………エッチな事やら初夜やらの話を………?

 

「くっ!だが私とてブリタニアの貴族だ!貴様のようなハレンチな女と交わる気はない!」

 

「交わる………はっ!?…………では私が勝ったら、私と交わってもらいます!」

 

「聞いた言葉を即座に実践するでない!」

 

「だってツキトさんとしたいんだもん!」

 

「もんってなんだ!もんって!!」

 

完全に向こうのペースじゃないか!ちくしょう!

 

 

 

「ああ、俺たちの天使が…………」

「いや、でも、俺は堕天使でもいける!」

「むしろそっちの方が………」

「ちっくしょう!ナナリーちゃんとできるなんて羨ましいいいいい!!」

「あんた最低ね!」

「でもナナリーちゃんがあそこまでラウンズ…………ツキト君のことが好きだなんて……」

「憧れちゃうわね」

「禁断恋愛!ラウンズと庶民の恋物語!今、互いに刃が叫ぶ!」

 

 

 

「ええい!とにかくそこを退け!」

 

「嫌です!私の勝負を受けてください!」

 

「あんなバカバカしい条件呑めるか!」

 

「じゃあ交際をやめるっていうのを無くしてくれたら変更します」

 

「なに?………じゃあ無くそう、私が勝ったら退学させてもらう」

 

「じゃあ私が勝ったらセ」

 

「卑猥な言葉を口にするな!」

 

「じゃあどう言えばいいんですか!?」

 

「知らん!この変態娘!」

 

「私を歪めたのはツキトさんです!」

 

「うぐっ………」

 

私の………せい……?ナナリーがハレンチになったのが、私の…………。

 

「あ!ツキトさん!しっかりしてください!」

 

「わ、私のせいなのか…………ぐぅっ……」

 

ぺたん………。

 

あ、頭が……痛い…………。

 

「わ、わわ私は…………」ガクガク

 

「誰か保健の先生を呼んできて!」

 

「ナナリー!」

 

る、ルルーシュ?………。

 

「お兄様!ツキトさんが!」

 

「どうせこうなると思ってすでに手は打ってある!先生!」

 

「朝っぱらから忙しいねえ!」

 

「私が、間違った教育を……」ガクガク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

ここは?保健室か?

 

「起きたんですか!?ツキトさん!」

 

「ああ………ナナリー様……私はいったい…………」

 

ナナリーに【私を歪めたのはツキトさんです】って言われた途端震えが……。

 

「その、えっと、ごめんなさい!私が悪いんです!」

 

「ナナリー様が?」

 

「私が、私が催眠術なんてかけたから………」

 

催眠術!?

 

「催眠術ですか?」

 

「はい、その、ツキトさんは【私のことが嫌いになれない、私に嫌われるようなことはできない】ってかけたんです」

 

「私はナナリー様に嫌われようとしていて、それで………」

 

「おそらく………」

 

「いつかけたのですか?」

 

「夜寝てる時に、咲世子さんに頼んで……」

 

「おのれ咲世うぐっ……」

 

まだ頭がガンガンする、フォークの反対側で頭を殴られてるみたいだ…………くそ。

 

「ツキトさん!ああごめんなさいごめんなさい………」ポロポロ

 

「泣か、ないでください………」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい………」

 

「泣かないでください………ナナリー様」ナデナデ

 

「!…………はい……」

 

はあ、まさか催眠術とはな…………解くのは無理か、まあいい、別に支障はそれほどないだろう、計画に支障が出るくらいなら抜けるしかないが、大丈夫だ、なんとか動け…………。

 

トス……。

 

「ナナリー様?なにを………」

 

「ん〜〜……」

 

い、いきなり私の上に乗っかってきたと思ったら、顔を近づけられ…………っておい!

 

「なにをしているんですか?」

 

「なにって、キスを……」

 

「ダメです」

 

「どうして!」

 

「キスは18を超えてからです!」

 

「いいじゃないですかそれくらい!あ!もしかして恥ずかしいんですか?」ニヤニヤ

 

と挑戦的な笑みで言うナナリー、原作と違いすぎて驚いているが天真爛漫なまま成長したらこうなるか。

 

「恥ずかしいのは当たり前です、ナナリー様ももっと慎みを持ってください」

 

「えー、ツキトさんって恋愛に関して子どもっぽくないですか?」

 

「そんなことないです、ナナリー様がハレンチなだけです」

 

「みんなこれくらい普通ですって……………いい加減にしないと襲っちゃいますよ?」

 

「おふざけも大概にしてください」

 

まったく、こんなところに長居していられない、さっさと退学届けを生徒会室に届けて帰る。

 

「おふざけじゃないです!私は本当にツキトさんを愛してるんです!」

 

「ナナリー様にはもっとふさわしい方が……」

 

「ツキトさん以上の人なんていませんし考えられません!!」

 

「それは今だからで………」

 

「もういいんじゃないかしら、ナナちゃんもこう言ってることだし」

 

いきなり第三者の声、金髪の女、こいつは…………。

 

コイルガンを取り出しベッドの上から女に銃口を向ける。

 

「何者だ?」

 

「ミレイ・アッシュフォード、生徒会長よ」

 

そうだ、ミレイだ、わかった瞬間にコイルガンを下ろす。

 

ちょうどいい。

 

「ちょうどいい、これを受け取れ」

 

退学届けをミレイに差し出す。

 

「それは無理ですね」

 

「何だと?貴様ふざけているのか?」

 

コイルガンを再び向ける、こいつ、足でも撃ってやろうか。

 

「あの場を押さえる時、アールストレイム卿とナナちゃんの決闘を決めたって言っちゃったから………」

 

「なに!?ちっ!使えん女め!」

 

この女本当にアッシュフォード家の人間か?こんなバカみたいなメスが?

 

それよりどうする?どうせ真剣での勝負になる、そうなればナナリーを…………くっ!どうすれば………。

 

そうだ!なんだ簡単じゃないか!

 

「おい!ミレイ・アッシュフォード!ルルーシュ様はどこにいる?」

 

「ルルーシュ様は今クラブハウスに………」

 

「クラブハウスかっ!」

 

「ツキトさん!?」

 

まだ本調子ではないが、ここはクラブハウスにいるルルーシュの元へ行き、主の判断を仰ぐ、ルルーシュが退学しろと言えばナナリーも言い返せまい、逆に在学しろというならそれで構わない、それがルルーシュの命令ならば。

 

頭がズキズキする、だがここで無駄な時間は浪費できん、何としてもたどり着かねば!

 

「ぐっ………ハァ……ハァ………」

 

やっとついた…………。

 

「ルルーシュ……」

 

「ツキトさん!」

 

ぐぇっ!後ろから飛びつかれた…………。

 

「……ざまぁ!」ドシャァ…

 

い、痛い………クラブハウスの床に顔面を叩きつけてしまった………。

 

まあすぐに治るんだが。

 

「ナナリー様!どいて下さい!私は早くルルーシュ様のもとへ……」

 

「私より……私よりお兄様が良いのですか!?」

 

「違います!ルルーシュ様これからやるべき事を聞かなくては………」

 

「私と結婚してお兄様と咲世子さんと私たちの子供の六人で幸せに暮らすんです!」

 

「そんな生活はまだ早いです!」

 

というか二人作るのは決定事項なのか!?

 

「ルルーシュ様!」

 

「ん?ツキトか、どうし…………ほぁっ!?」

 

やっと見つけたルルーシュに声をかけると驚かれた。

 

「…………何をしているんだ?」

 

「はっ!退学届けを生徒会室に届けるために学園に向かったものの、ナナリー様の妨害により任務を遂行できず、こうしてルルーシュ様に判断を仰ぎたいと思い戻ってきた次第でございます!」

 

「ふむ、ナナリー、お前はツキトと一緒にいたいんだよな?」

 

「当たり前です!私はツキトさんと結婚します!」

 

「けっこ…………そうか、ツキト、お前さえ良ければ、まだ学園に残ってもらいたい」

 

そう来たか、ならば私は従うのみ。

 

「ルルーシュ様のご命令なら」

 

「では、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる、俺とナナリーとともに、学園に通い続けろ!」

 

「イエス!ユアハイネス!」

 

ルルーシュが学園に通い続けろという事は、私の正体がバレている状況でもルルーシュがゼロとバレた場合の口封じをしろという事だろうか、それともナナリーのそばにいてあげろという事なのか、どちらにせよ、これもまた好機、スザクの編入後に起こるイジメを起きないように対策することができる、不幸ではない、他人が不幸だと言うのなら、それすら好機に変えて見せるのがブリタニア人だろう。

 

「お兄様!」

 

「ナナリー、これからもツキトと仲良くやってくれ、それと、まだ初夜は早いからな」

 

「はい!お兄様!」

 

「うん、頑張ってツキトを射止めるんだぞ」

 

「はい!頑張ります!」

 

絶対99.9999999999999999999999999%そっちが理由だろお前ら。

 

「それでは私はミレイ・アッシュフォードに決闘のキャンセルを…………」

 

「いや、この際だからやってみたらどうだ?」

 

「と、言いますと?」

 

「剣を振るのは久しぶりだろう?鈍っていてはいざという時ナナリーを守れないようでは困るからな、感覚を取り戻す意味でやって守るのもいいだろう」

 

「わかりました、では一週間後に、ナナリー様もよろしいでしょうか?」

 

「はい、手は抜きませんから!」

 

「それでは私も、少々本気で行かせてもらいます、それとナナリー様」

 

「なんですか?」

 

「催眠術はといて下さい」

 

「あっはい」

 

結局決闘は逃れられない、か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後の決闘に向け、余った時間に素振りをしようと思い立ちクラブハウス裏の林で木刀を振る、この木刀は枢木神社でスザクの鍛錬を手伝った時にもらったものだ、鉄の芯が入っていてとても重い、日本刀の数倍は重いと思う。

 

それを何度も片手で振る、本来こんな使い方は腕を痛めるだけで無意味なものであるが、片手でレイピアを振る私にとっては良い筋トレになるのだ。

 

「198………199………200………まあ、こんなもの振るよりかはレイピアを振った方が効率的だと思うがな」

 

ただやはりラウンズの一人である身としてはこんなヒョロヒョロモヤシではいけない、せめて少しでも筋肉をつけねば、目指すは細マッチョだ。

 

木刀を木に立てかけレイピアを抜く、V.V.を斬り殺したっきり血を吸っていないがゆえか刀身は光を反射し煌めいている。

 

レイピアを構え一つ一つの動作を確認する、悪くない。

 

一通りの動作を終えレイピアを鞘に戻し、脱いであった上着を羽織る、ついでにさっきまでサラシだけだったからとても涼しかった。

 

レイピアの鞘を片手で持ちながらクラブハウスに戻る。

 

「おかえりなさいま………ツキトさん?」

 

「どうした咲世子、何かあったか?」

 

「いえ、なんでもございません(サラシを巻いて上着を羽織ったそのお姿がとても扇情的です、とは言えませんね)」

 

「?……そうか、ルルーシュ様とナナリー様は?」

 

「ルルーシュ様は例の計画の準備、ナナリー様はミレイ様等とお出かけです」

 

ほう、出かけたのか。

 

「どこに?」

 

「詳しくは聞いておりませんでした、ですがビルに行って水泳をする、とか」

 

「へえ、ビルで水泳……………」

 

ビル?水泳?…………あっ。

 

「まずいな」

 

「?………何がでしょうか?」

 

「ルルーシュ様が計画に利用しようと考えている日本解放戦線の占拠がそこで起こる」

 

「っ!では………」

 

「支度をしろ、今日の仕事は放っておけ」

 

「はい!」

 

咲世子は戦闘用の道具を準備しに自室に戻った。

 

「まったく、こんな楽しくないデートをしなくちゃならんとはな………」

 

解放戦線のやつらめ、絶対許さん、皆殺しだ。

 

「お待たせいたしました」

 

「よし、運転は頼んだ」

 

「はい」

 

咲世子は車の運転席に座りキーを挿し込みエンジン…………ではなくモーターの電源を入れる。

 

コードギアスではサクラダイトのおかげでディーゼルエンジンやらガソリンエンジンやらが発達せず、高出力モーターが異常に発達している、そのため動力源は電気なのだ。

 

私が助手席に座ると咲世子はアクセルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーいツキト?ピザを………ツキト?咲世子?…………いないのか、せっかくだ、思い切って十枚頼んで驚かせてやろう…………………寂しくないぞ、チーズ君がいるんだ、寂しくないぞ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルについたはいいが、もう少しで占拠が始まってしまう。

 

「咲世子、お前は先に行ってナナリー様をお守りしろ、私は変装して行く」

 

「わかりました」

 

咲世子はそう言って荷物を持ち飛び出していった、早過ぎる、絶対私より強いだろ咲世子。

 

ビル内部に入り込み近くの【女子トイレ】に入る。

 

個室に入り女物の服に着替える、次に個室から出て立ち入り禁止の立て札を出入り口に置き、鏡の前に立って髪を染める、ブロンドでいいか、眼帯を外し両目には灰色のコンタクトレンズを入れる、問題は声だが…………。

 

「あー……あー……あ"ー……あー(高音)…………これでいいわね」

 

作れるから問題ない。

 

これで私は目は灰色、髪はブロンドのどこかの令嬢になったわけだ、それでその令嬢という地位を保証する身分証明書を取り出す、だいぶ前に偽造した身分証明書だ、これならバレることはない。

 

荷物をカバンに詰め込み、立て札をしまって女子トイレから出る、ふっ、わずか三分の早技、しかし手は抜いていない完璧な仕上がりだ、廊下を歩けば男も女も皆振り向く、成功だな、当たり前だが。

 

さて、行くか。

 

プールはあっちか、適当な野菜ジュースを買い入り口のベンチで座って休む、フリをする。

 

ケータイを取り出し咲世子にメール、暗号文で『変装完了、ブロンドの女』と打ち込み送信、野菜ジュースを一口、マズ。

 

咲世子からメール、暗号文か、『ナナリーセッショク』か、『そのままそばにいろ』と返信、野菜ジュースを一口、うん、やっぱりマズイ。

 

そろそろ時間か………。

 

「動くな!」

 

突如軍服の男がマシンガンを抱えて突入してきた。

 

 

「な、なに!?」

「テロリスト!?」

「ゼロが来たのか!?」

「どうしてここに……」

 

 

いきなりのことでパニックを起こした客たちが騒ぎ出す、あーあーそんなことしたら………。

 

「動くなと言っただろう!」ダダダダダダッ!

 

男はマシンガンを天井に向け乱射した、やっぱりな。

 

「我々は日本解放戦線である!大人しくしていれば殺すことはない!」

 

嘘つけ絶対殺すぞ。

 

「大人しくついてこい!」

 

それじゃあお言葉に甘えてついていかせてもらおうか。

 

連れてこられた場所はアニメでも映ったあの倉庫みたいな場所、あ、やっぱりユーフェミアもいr……ってスザク!?

 

「(スザクさん?(女声))」

 

「(君は誰?)」

 

「(私だ、ツキトだ)」

 

「(ツキト!?なんでここに……)」

 

「(ナナリー様の写真を撮ってくるようにとルルーシュ様の命令だ)」

 

「(ルルーシュ………妹思いなんだね)」

 

「(ルルーシュ様は心優しいからな、ユーフェミア様は?)」

 

「(さっき身分を明かそうとしたから押さえたよ)」

 

「(よくやった、とりあえずはもう少し待って情報を………)」

 

そこまで喋った時。

 

「おいお前!なにを話している!?」

 

と日本解放戦線の男に銃口を向けられながら怒鳴られた。

 

「ひっ!ごめんなさい!撃たないで!殺さないで!お願いしますから!」

 

スザクに抱きつき男に懇願する、おいスザク、ニヤニヤするな、あいつからは見えないが私からはしっかり見えてるんだぞ。

 

「ちっ、じゃあ黙ってろ」

 

そう言って男は去っていった、おそらく巡回だろう。

 

「(………情報を集めることが先だ)」

 

「(でもさっきリーダーっぽい男が何人か屋上に連れて行って一人づつ落とすって)」

 

「(なんてことを………仕方ない、スザクはここでユーフェミア様を頼む)」

 

「(ツキトは?)」

 

「(派手にやるだけさ、ではな)」

 

そう言って近くの男に話しかける。

 

「あ、あの……」

 

「なんだ?(かわいいなこの子)」

 

「お手洗い借りても、いい、ですか?」

 

「いいぞ、そこの道を歩いていけばすぐだ(こんなかわいい子にはいじわるはできないな)」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

ちょろいもんだぜ。

 

女子トイレに難なく入れた、髪の色を落としコンタクトレンズをとって眼帯をつけラウンズの正装に着替える、レイピアを腰に差し、いざ。

 

女子トイレから出てすぐそこの敵兵をサプレッサー付きコイルガン(コンパクトコイルガン)で排除する、単発だが、非常にコンパクトで使い勝手がいい。

 

撃たれた敵兵が膝から崩れ落ちる、それを聞いて駆けつけた敵兵に次弾を装填したコンパクトコイルガンで撃ち殺す。

 

これで見張りはいないな。

 

人質が捕らえられている方に向かう。

 

扉をノックし、のんきに開けた敵兵の脳天にレイピアの鞘で殴り殺し、その奥の敵兵を撃ち抜く。

 

雑魚ばかりだな。

 

「ツキトさん!?」

 

私を見て一番に声を出したのはナナリーだった。

 

 

「ツキトってラウンズの?」

「ナイトオブラウンズが来てくれたのか!?」

「助かった………」

 

 

いろいろ言われているが今は無視だ。

 

「私はツキト・アールストレイム、ナイトオブラウンズが一人、ナイトオブサーティーンである、落ち着いて私の話を聞いてもらいたい」

 

「このビルはすでにブリタニア軍によって包囲され、テロリストが捕まるのも時間の問題です」

 

客たちから安堵の声が漏れる、まずは緊張を解くのが大事だ。

 

「脱出経路ですが、ブリタニア軍がなんとか侵入を試みていますが、不可能に近い状況です、ですがご安心ください、私は【ある者】に脱出の手伝いを頼みました」

 

「現在ここから一階まで見張りはいません、一階に行けば、【ある者】たちがいます、あとは【ある者】たちに任せれば安全に脱出できることを約束します、スザク」

 

「はっ!」

 

スザクを呼ぶとスザクは立ち上がり敬礼した。

 

「枢木准尉に案内を頼みます、焦らずに避難してください」

 

「自分についてきてください」

 

スザクは客たちを先導していく、きっと驚くだろうな、まさかゼロがいるとは思わないだろうな。

 

それにユーフェミアへの言い訳も考えねば。

 

「さて、皆殺しと行こうか」

 

レイピアを抜き放ち、草薙だったか?がいる部屋に向かう。

 

あそこでレイピアで斬り殺さなかったのは血が飛び散って人質たちのトラウマになってしまうかもしれなかったからだ。

 

だがもう人質はいない、さあ行こう、殺して殺して、殺してやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルルーシュside

 

 

「諸君、ボートの準備はできたか?」

 

「はい、出来ました」

 

ボートの準備中に人質が勝手に脱出してくるというアクシデントもあったが、自力で脱出したのなら助ける手間が省け逆に好都合だった。

 

ナナリーとユフィがいたというのも驚いた、まさかシャーリーたちと一緒だったとは。

 

人質の中にはスザクがいた、おそらくスザクが助けたのだろう、ナナリーを助けてくれたことに礼を言いたい気分だ。

 

ボートに人質を乗せ終わり、あとは草薙のところへ行って殺すだけだ。

 

「では行くぞ!」

 

マントをひらめかせ草薙の部屋へと向かう。

 

しばらく歩くと日本解放戦線のやつらが死んでいた。

 

「ゼロ、これは一体………」

 

カレンがマシンガンを抱えたままそう聞いてくる。

 

「…………わからない、とにかく草薙の部屋を目指す」

 

そう言って歩き出す、草薙の部屋はすぐにわかった、扉にデカデカと日本解放戦線の横断幕が画鋲で留められていた。

 

扉を開け中に入るとそこは異質な空間だった。

 

壁には一面中血が飛び散り、床には日本解放戦線のやつらが転がっていた、テレビは砂嵐状態で何も映っていない、それがさらにこの状況を一層不気味にしていた。

 

「おやおや、ずいぶん遅いじゃないか、ゼロ」

 

不意にソファから声が聞こえた、そっちを向くと小柄な男が座っていた。

 

「手筈通りに人質はボートに乗せたか?」

 

「………ああ、手筈通りに全員乗せた」

 

ここはあの男に乗っておくか。

 

「そうか…………草薙は殺した、その部下もな」

 

「助かる、手間が省けた」

 

何者かは知らんが草薙が死んでいるなら良い、ならさっさと騎士団の旗揚げを………。

 

その時男が立ち上がりこちらに顔を向けた。

 

なっ!?つ、ツキト!?

 

「では行きたまえ、私は君たちのショーを楽しみにしているよ」

 

なぜツキトがここに!?ユフィやスザクと同行していたのか、ならばスザクの行動にもうなずける。

 

「そうだな、協力に感謝する」

 

意図がある程度読めたところでそう返す。

 

「ああ、だが次に会う時はいつ如何なる時でも敵だ」

 

「了解している、ではさらばだ、ツキト・アールストレイム卿」

 

「そちらこそ、英雄【ゼロ】殿」

 

俺は部屋から出る、カレンたちが銃口を向けるか向けまいか迷っているようだったので『やめろ』と言ってやめさせた。

 

アクシデントが続いたが、全ていい方向に続いている、さあ、黒の騎士団の旗揚げだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

予定通りだな、さて、スザクならそろそろ動くか。

 

テレビは先ほどまでの砂嵐ではなく生中継が映し出されていた。

 

「スザクにはランスロットでビルを崩すように伝えてある、咲世子を使ってな」

 

あとは脱出後にヴァリスで潰すだろう、さて、私も行くか。

 

カバンからジップラインを取り出し、窓から近くの別のビルに撃つ。

 

突き刺さったことを確認してジップラインを使い下に降りる。

 

途中で手を離しブリタニア軍の包囲の近くに降りる。

 

「ツキト!何をしてるんだ!」

 

コーネリアが走ってきた、おいおいテレビの前だぞ。

 

「内部の制圧を行っていました」

 

「人質は!?」

 

「…………あちらに」

 

指をさした方向にコーネリアとテレビが向く、その方向には数隻のゴムボート、そしてそこには。

 

「ゼロ!?」

 

「私だけでは人質全員の救出は難しかったので、やつらを利用しました」

 

「ゼロをか!?ツキト!もしユフィに何かあったら………」

 

「何もできませんよ」

 

「何もできない、だと?」

 

「ええ、あれにはスザクも乗っています、そんなところでユーフェミア様に手を出せば皆殺しにされるでしょう」

 

「そうか…………」

 

ユーフェミアを自分の手で救えなかった悔しさがこちらに伝わってくる、やはり姉だな、嫌いではない、家族思いの人間は好きな分類だ。

 

ゼロがこちらに近づいてきた、ゼロだけ普通のボートだな。

 

「お初にお目にかかりますコーネリア総督、私はゼロ、この国を救う者だ!」

 

ゼロは大仰にマントを広げて言った。

 

「救う者だと?こんなテロを起こしておいて何を言う!」

 

「テロに我々は関与していない、今回のテロは日本解放戦線の者たちによって引き起こされた、ただの暴力である、よって、我々が制裁を下したのだ!」

 

「制裁だと?」

 

「そうだ、そして我々が諸君らに害をなさないという証として、二人を解放しよう」

 

そう言うとボートのハッチが開き、中からユーフェミアとスザクが出てくる。

 

「ユフィ!」

 

「お姉様!」

 

スザクが手を取りユーフェミアをボートから降ろした、やっぱりお似合いじゃないか、お前ら結婚しやがれ。

 

そして抱き合う姉妹、美しいじゃないか。

 

「ユフィ!無事だったんだな!」

 

「はい!スザクのおかげです!」

 

「そうか、スザクか……」

 

だがその時間を邪魔するようにゼロは言い放つ。

 

「我々はここに宣言する!」

 

ああ、長い演説はカットだ、聞いてても面倒臭いだけなんでな。

 

「さらばだ諸君!」

 

「姫様!」

 

「っく…………見逃せ」

 

見逃すことを選んだか、正しい選択だ、人命を尊守した場合だが。

 

「コーネリア総督、地下通路にはまだ敵がいると聞きます」

 

「ああ、そっちは無効化できなかったのか?」

 

「KMF相手では無理です、不死身ではないのですから」

 

「そうだな、よし、KMF部隊を突入させて……」

 

「コーネリア総督、私に案があります」

 

「なんだ?」

 

「枢木スザク准尉搭乗するランスロットの【ヴァリス】による殲滅を提案します」

 

「特派のランスロットでか?」

 

「はい、私の予想では一撃で無力化出来るかと」

 

「ふむ…………よし、特派のランスロットを出せ、枢木准尉は直ちに残存敵兵力を掃討せよ」

 

「はっ!」

 

スザクが走って特派の方へ向かった。

 

そのあとはほぼ原作通り、ヴァリスでビルを解体して終わりだ、変わったところはいろいろあるが、崩れ落ちる瓦礫に突っ込まなかった、というのが大きいな。

 

すべてが終わり、簡単な事情聴取も終え、コーネリアとユーフェミア、そしてスザクと私の四人で集まっていた。

 

理由は、私がゼロ………黒の騎士団と協力したのか、だ。

 

「ではお話ししましょう、私が黒の騎士団と一時的に結託した理由を」

 

「「「…………」」」

 

「まず、私はゼロより情報を受けました、あのビルを日本解放戦線が占拠するという話を、ユーフェミア様がいることを、私は急いでビルに向かいました、そこでゼロより脱出をサポートするかわりに見逃せという約束を取り付けました、そのあとは知っての通りかと」

 

「………」

 

コーネリアは沈黙を保ったままだ。

 

「ツキト…………」

 

ユーフェミアは少しは理解してくれたのか、悲しそうな顔を浮かべている。

 

スザクは………。

 

「ツキト、君はあれが正しいと思ってやったのかい?」

 

ラウンズである私ではなく、ツキト・アールストレイムという一個人に聞いてきた。

 

「間違っていたとは思わない、人命が何より優先だ、人は……国民は宝だ、それを失うなどあってはならない、だから一時的とはいえテロリストに、黒の騎士団に加担した」

 

「そうかい…………」

 

スザクは深呼吸をして。

 

「ツキトがそう言うのなら、僕は何も言わない、ツキトはテロリストと手を組んだ、だけどそれは人を救うためなんだから仕方ないさ」

 

と爽やかな顔で言いきった。

 

「ありがとう、スザク」

 

「ツキト、私もスザクの言う通りだと思います」

 

「ユーフェミア様も?」

 

「人を救うための行動だったんです、なら私はツキトの判断を支持します」

 

ユーフェミアも賛同してくれるか…………こんな嘘に。

 

「ありがとうございます、ユーフェミア様」

 

ユーフェミアとスザクを味方につけた、コーネリアも総督として何か言ってくるだろうが、なんだかんだ甘いからな。

 

「………ツキト、今回の件は不問とする…………枢木スザク、ユフィを救ってくれて、ありがとう」

 

ま、まさかコーネリアがスザクに頭を下げて感謝するとは!

 

「お姉様………」

 

「それから、お前たちが進めている計画、私にも手伝わせてくれ」

 

「はい!お姉様がいれば百人力です!」

 

これは嬉しい誤算だ、まさかコーネリアの全面的なバックアップを受けられるとはな。

 

「お姉様を含めた私たち四人で、このエリア11に住む人たちを豊かにしていきましょう!」

 

ユーフェミアはニコニコ笑顔でそう言う、いいな、若い奴らは夢があって…………楽しそうに笑いあえて…………………私にはもう、愛国心のままに動くことしかできないというのに…………。

 

「ではユーフェミア様、コーネリア様、こちらが計画書と式典当日の予定です、それでこちらが大まかな条例の変更点で…………」

 

そのまま始まった四人だけの会議、司会を務めつつ三人を見守る。

 

この暖かい場所を、いつか自分で壊さなくてはならないとなると……………キツイものがあるな。

 

しかしすべてはブリタニアのため…………。

 

「…………オール・ハイル・ブリタニア……(ボソッ)」

 

「ん?何か言ったかいツキト?」

 

「いや、何も、それよりスザク、制服は決まったか?」

 

「うん、ユフィと選んで、いい感じのを作ってもらったよ」

 

「そうか、式典は楽しみにしていなければな、スザクの晴れ舞台だ」

 

「あはははは、ツキト、別に結婚式でもないのに」

 

「そう言うな、この式典を境にお前の周囲の環境はガラリと変わる、その心構えをしっかり持っておけよ」

 

「うん、そのためには、まずは勉強だね」

 

「ああ、明後日からだな、手続きは終わってるから時間通りに来てくれ」

 

「うん、楽しみだなあ、学校生活なんて久しぶりだよ」

 

「何かあったら言ってくれ、友人としてアドバイスするさ」

 

「その時はお願いするよ」

 

相変わらずのイケメンフェイスでそう答えたスザク、さて、三人が話し合ってる中、私はスザクのイジメ対策を練っておくか。

 

 

 



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その『剣』を交えて

ツキトside

 

 

『これより、私、ミレイ・アッシュフォードが、ツキト・アールストレイム卿とナナリーランペルージの模擬試合を開始を宣言します!』

 

 

 

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」

 

 

 

とうとう来てしまったナナリーとの対決の日、今日はラウンズの正装だが、マントは外して動きやすくしている。

 

ナナリーはフェンシングの防具をつけている、私は何もない、というかただでさえ視野が狭いのにあんなものつけたら何も見えないからつけなかった。

 

『本試合において、ブリタニアの剣による決闘ルールを採用しますが、アールストレイム卿は右目が見えないため、特別に防具を着用せずに試合をしてもらいます』

 

『決闘のルールについて説明いたします、決闘を行う二人は引かれた線の中で打ち合ってもらいます、武器はレイピア、ロングソード、ショートソード、バスタードソードの中から選択します、また、どの武器でも盾を持つことが許可されています』

 

半径2.5〜3mほどの円の中で模擬剣で打ち合う、シンプルで素晴らしいな。

 

『今回はハンデを考えナナリーランペルージに対するアールストレイム卿のすべての攻撃は【有効】とします、【有効】を三回取ればアールストレイム卿の勝ち、アールストレイム卿に一撃を入れられたらナナリーランペルージの勝ちとなります』

 

たった三回殴ればいい、シンプルで簡単で素晴らしいルールだな。

 

『そして!皆さんご存知の通り、この試合は二人の意見の違いによって引き起こされたもの、どちらかが勝った場合、勝った方が負けた方に命令することができます!』

 

勝ったら別れる、だから勝つ、それだけだ。

 

『では試合前にナナリーちゃんに何を命令するつもりなのか聞いてみましょう!何を命令するつもりなの?』

 

『えっと…………き、キスを………』

 

『なんとキスです!まだキスをしていなかったことに驚きです!』

 

観客席から悲鳴が上がる、というかさっさと始めろ、こっちだって暇じゃないんだ。

 

『それでは、今度はアールストレイム卿に聞いてみまs『いいからさっさと始めろ、こちらも暇じゃないんだ、このあと総督府に行って会議があるんだ、こんな茶番をいつまでも続ける気なら私はもう行くぞ』

 

いい加減我慢の限界だったため話を切った、会議なんてのは嘘だ、実際はスザクを迎える準備をしなければならない、そのために早くクラブハウスに戻り咲世子と飾り付けしなければならない。

 

『あ、その……ごめんなさい、では始めます、両者構え』

 

さっさと終わらせるか。

 

『……………あのーアールストレイム卿?』

 

「なんだ?」

 

『えっと、構えを……』

 

「必要ない、どこからでもこい」

 

腰に手を当て幼少期より使ってきた模擬剣を右手に握りだらりと下げる。

 

「………ツキトさん、ふざけているのですか?」

 

イラついているな、ルルーシュと同じで負けず嫌いなうえ変にプライドというか美学がある。

 

「ふざけてなどいない、貴様にはこれで十分だからな」

 

レイピア一本で私に勝てる者などおらん、ジェレミア卿を除けばな。

 

「…………では、いきます!」

 

ステップを踏んで突きを放ってくるナナリー、顔狙いか、これくらいはどうということはない、普通に避けていればいい。

 

次は左腕…………と見せかけた右腕狙いか、これも難なく避けていく。

 

無抵抗は趣味ではないからレイピアを下げた状態から振り上げる。

 

ガァンッ!

 

「っ!」

 

「ん?」

 

嫌な音がしたと思ったら体育館の床にレイピアが刺さった、ナナリーのレイピアだ。

 

まさかレイピアが弾き飛ぶとは思わなかったぞ。

 

「…………おい、これはどういう判定だ?」

 

『え〜、今のはナナリーちゃんが剣を落としたのでアールストレイム卿に有効ですね』

 

おお、こんなんで有効が取れるのか、楽勝だな、夕飯のおかずを考えよう(慢心)

 

ナナリーが突き刺さったレイピアを引っこ抜いて構え直す。

 

私もそろそろ構えたほうがいいか。

 

左手に持ち替えて………。

 

『おーっとこれはどうしたことでしょうか!?アールストレイム卿なんと左手に持ち替えました!右利きのはずのアールストレイム卿が左手に持ち替えたということは、余裕の表れなのでしょうか!?』

 

そうだよ(便乗)

 

実際余裕だ、もし相手がスザクなら最初から右手でかつ無理してでも先手を打っていくだろうな、ジェレミア卿相手ならそこまで必死こいて先手を取る必要はない、というより先手を取れても負けることがあるし、先手必勝、とは必ずしもいかないものだ、スザクは条件さえ揃えば一方的にボコれそうだが、私の肉体の再生速度が追いつくかどうかわからない、いずれ裏切るのだから早いうちに対策を…………っと。

 

ブンッ!

 

「危ないじゃないか」サッ

 

試合だということを忘れそうになった、体が反応してくれたみたいでよかった、ミスって一撃をもらって口の純潔を散らすのは御免だ。

 

「後ろに!目でも!ついて!いるんですか!!」

 

『!』のところで斬りかかってきているが、まあ、なんだ、筋はいいんだ、だが人殺しの剣じゃない、だからその…………やる気が出ない。

 

いや決してナナリーが弱いというわけではないんだ、一般的には強い部類に入る、だが…………。

 

「いかんせん相手が悪かったようだな…………」

 

レイピアの先でナナリーのレイピアをにぎる右手にを突く。

 

「痛っ!」

 

痛みでレイピアを落とし右手を左手で覆うナナリー、そうとう痛かったようだ、一応言っておくが、手は抜いてあるぞ?キチンとな。

 

『アールストレイム卿今の攻撃は有効と判断いたしました!これで双方のライフは残り1!開始から二分でクライマックス突入!勝利の栄光はどちらの手に!?』

 

…………『勝利』、か。

 

私はジェレミア卿との何千にも及ぶ戦いをしてきた、今は私の負け越しだ。

 

負け越しのまま日本に来て、戦争という名の蹂躙が始まり、そして私は厳島の戦線に参加し、負けた。

 

日本人たちに『厳島の奇跡』と呼ばれたその勝利は我々ブリタニアにとっての敗北だった。

 

私は、ジェレミア卿に負け越したあの日から、すべてにおいて敗北してしまっている。

 

第二次シンジュクゲットー壊滅作戦、あれも敗北だった。

 

つまり…………。

 

「………!」

 

「っ!…………危ない危ない」

 

実際今のは危なかった、あともう少しでかするところだった。

 

「フッ!」

 

まずいな、ナナリーの攻めが激しくなってきた、左手ではキツイか、だが試合中に持ち替えるのは反則行為、休憩時間ならともかく、今やれば確実に……危な!

 

「くっ!」

 

「ツキトさん、私だって、弱いままじゃないんですよ!」

 

まず!手を抜きすぎて怒らせてしまった!?

 

「ぐっ!」

 

くそ!手加減してなければ勝てるというのに!避けきれ…………。

 

ピシッ!

 

「あっ…………」

 

「…………」

 

「「「「……………」」」」

 

『…………あ、当たった……………はっ………い、一撃入りました!ナナリーちゃんの勝利です!!』

 

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」

 

…………負けた、か。

 

悔しいとは思わないが…………一言だけ言わせてもらうなら。

 

『また勝てなかった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

括弧(格好)つけては見たものの、敗北であることに変わりはなく、その後表彰式という公開処刑に近い形で全校生徒の目の前でナナリーとキスをさせられた。

 

男子生徒諸君の嫉妬がすごかったが、『私は悪くない』『だって』『私は悪くないんだから』

 

括弧(格好)つけるのはここまでにして、キスシーンの描写がないことについて言ってしまえば至極簡単なことだ、あっさりすぎて描写することができなかったからだ。

 

キスというのは感情的になって行うものが多い、例えば、好きだから、とか。

 

つまり何かしらの主観的な感情があって初めてキスによる描写が書けるわけで、特にこれといった感情を持たなかった私にキスについての感想を述べよと言われても柔らかかったくらいしか言えないのだ。

 

だから勝手に妄想してくれると助かる、それでも感想を述べよと言うなら、強いて感想をあげるなら、ナナリーのキスする寸前の表情が完全に獲物を追い詰めた猛禽類か何かの獣の顔だったことだろうな。

 

クラブハウスに戻ってシャワー浴びて着替えて校門前に行って、十分余るのか、ちょうどいいか、さっさとやってしまおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

や、やってしまいました………。

 

ついにツキトさんとキスを…………〜〜〜〜〜!!//////

 

顔があついよぅ………でも、幸せだったなぁ。

 

た、頼んだら、もう一回してくれるかな?

 

確かクラブハウスに行ったんだよね、ちょっと行ってみようかな。

 

クラブハウスの中に入ると壁一面に付けられた色々な飾りが目に入る、視線を動かすと咲世子さんがツキトさんの着替えを運んでいた。

 

「あ、おかえりなさいませナナリー様」

 

「ただいま咲世子さん、ツキトさんはどこに?」

 

部屋の飾りも気になるけど今はツキトさんが気になります。

 

「ツキトさんならシャワー室に…………あ、せっかくですし、ナナリー様がお着替えを持って行かれては?」

 

「私がツキトさんの着替えを?」

 

「はい、運が良ければ裸が観れるかもしれません」

 

「つ、ツキトさんのははははははは裸!?!?み、見たい!見たいです!!」

 

ツキトさんの露出度の高い格好を観れるなんてラッキー!

 

日本で小学生になった頃、パーカー姿のツキトさんを見たのが一番最近でした、私の記憶の中ではあれが一番露出度が高かった気がします。

 

「ではこちらをお願いします」

 

と言ってツキトさんの着替えを渡される。

 

「はい!頑張ります!!」

 

その着替えを受け取りシャワー室に急ぐ。

 

咲世子さんは裸以外は見ていると言っていたので羨ましかったのです、でもついに私にも裸を見るチャンスが!これを機にツキトさんに急接近します!そしてゆくゆくはツキトさんと結婚して…………〜〜〜〜〜!!//////

 

ダメダメダメ!まだどういうのは早いです!////

 

なんて妄想しながらシャワー室の前でドタバタしてたらいきなりシャワー室の扉が開いた。

 

「おい咲世子、少しうるさ……い…………ぞ……………………」

 

ツキトさんが大きなバスタオルを体に巻いてシャワー室から出てきた、咲世子さんと思って出てきたら私だったということに驚きを隠すこともできずそのまま固まるツキトさん。

 

筋肉はほとんどないんですね、髪も長いし本当の女の子みたいです、こんな妹とかいたらなぁ…………はっ!いけないいけない、ツキトさんがかわいすぎてつい意識が飛びそうになってました。

 

「………ナナリー様、なぜここに来たのですか?」

 

学校にいた時とは違う従者としての話し方、私は学校にいた時の話し方のほうがよかったなぁ。

 

「お着替えを持ってきたんです、あ、体を拭くの手伝ってもいいですか?」

 

ツキトさんの質問に答えるだけにしようと思ったら思わずそんなことを口走ってしまった、あぁ……嫌われたかなぁ?

 

「…………では、ナナリー様は髪をお願いします」

 

思ってもみなかった返答、嫌われてはいないことに安堵しているとツキトさんは鏡の前の椅子に座った。

 

「はい!頑張ります!!」

 

私はツキトさんの髪を乾かしながらヘアブラシを使って整える。

 

「どうでしょうかツキトさん?」

 

「ええ、気持ちいいですよ」

 

目を閉じて普段は中々見せない優しい微笑みをしているのを鏡の向こう側に見て、ドキッしてしまう。

 

恥ずかしくて視線を下げるとバスタオル一枚で体を隠したツキトさんの隠しきれなかった鎖骨が見える、それがとても官能的で……………ものすごくドキドキしました。

 

髪を乾かし終え、シャワー室の外に出る、今私絶対顔真っ赤だよぅ…………。

 

しばらくするとツキトさんが服を着てシャワー室から出てきた。

 

「ありがとうございました、おかげで助かりました」

 

と笑顔で言って出かけていった。

 

今私すごいドキドキしてる…………ツキトさんにお礼を言われたのはいつ以来だっけ………………。

 

ツキトさんに感謝される、ツキトさんが声をかけてくれる…………あは、もう完全に惚れちゃったなぁ。

 

シャーリーさんは恋はパワーだって言ってたし、もっとグイグイ押したほうがいいかな、まずは報告しないとだね!えっと、『ツキトさんの髪を乾かしたらお礼を言われちゃいました!』よし!送信!

 

はぁ〜〜〜………………まだドキドキしてる、ツキトさんが目の前にいたら押し倒しちゃう自信があるくらいドキドキしてる。

 

今日はちょっとだけ大胆に添い寝をお願いしてみようかな……………ツキトさん優しいから、たぶんOKしてくれると思うし………………。

 

……………ふぅ、ちょっと落ち着くためにシャワー浴びようかな。

 

とシャワー室に入ると脱衣所の洗濯機に無造作に放り込まれたツキトさんの汗の染み込んだシャツが目にとまった、いや、目にとまってしまった。

 

無意識のうちにシャツを手に取りシャワー室から出て自分の部屋に入ると鍵を閉めてベッドに飛び込み布団を被る。

 

そして持ってきてしまったシャツを躊躇なく鼻に当てがい、思いっきり吸い込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

ナナリーのおかげで綺麗に乾いた自分の髪をいじりながら校門前にてスザクを待つ、私が女だったら確実にデートの待ち合わせか何かだな。

 

まああいつの場合、男女問わず【待った?】【全然、今来たところ】という応答をするだろうがな。

 

時間的にはそろそろのはずだが…………。

 

「ツキトーー!」

 

おお、制服を着ていて一瞬わからなかったが、実によく似合っていて逆に自然だった。

 

「ごめん、待ったかな?」

 

「いや、まったく、さっきついたばかりだ、では案内しようか」

 

「うん、お願いするよ」

 

もはや定番とも言えるやりとりを終え、校内を案内していく。

 

校舎にも入って教室を案内して行く、移動教室で行く予定の化学室やら頻繁に行くであろう体育館も案内する、最後にはクラブハウスを案内し、中に入る。

 

「うわぁ、すごく綺麗だ………」

 

スザクが感動の声をあげる、成功したようでなによりだ。

 

「すごいだろう?スザクが来ると聞いたルルーシュ様が提案されてな、私とメイドの咲世子とともに飾り付けたんだ」

 

まあ体力のないルルーシュは折り紙だけで指がつったので飾り付け自体はしていないがな。

 

「そうなんだ、素直に嬉しいよ、ありがとう」

 

「頑張ったかいがあった、咲世子、食事の準備を頼む」

 

「はい、すぐに」

 

「ああそれと、ルルーシュ様は?」

 

「自室でお休みになられております、ナナリー様も自室でお休みに」

 

「すぐにでも会わせてあげたかったが、仕方ないか、スザクは座っててくれ」

 

「僕も手伝うことはないかな?」

 

「客人はゆっくりしててくれ…………と言いたいが、せっかくだ、ルルーシュ様に寝起きドッキリでもしてくるといい」

 

「え?いいのかい?」

 

「ああ、準備には5〜6分はかかる、再開ついでに話でもするといいだろう」

 

「わかった、ちょっと話してくるよ」

 

スザクはルルーシュの部屋に向かった、さて、ナナリーを起こしに行くか………………ん?

 

「鍵がかかっているな…………」

 

どうするべきだろうか、ここは無理に起こしてしまっても大丈夫かもしれないが、もし疲れて眠っているならそのまま寝させてやったほうがいいだろう、だがお腹を出して寝てたりしないだろうか…………って私はなぜこんなに心配しているんだ?いや、従者だから当然か………。

 

「咲世子、少しいいか?」

 

「なんでしょうか?」

 

少し思案して咲世子にナナリーの様子を見に行ってもらうことにした。

 

「ナナリー様の様子を見に行ってくれないか?お腹でも出してねてたら風邪を引いてしまうかもしれない」

 

「わかりました、ではツキトさんは料理のほうを頼めますか?」

 

「ああ、わかった、ナナリー様は頼んだ」

 

「はい」

 

咲世子は返事をするとナナリーの部屋に向かった、ピッキングでもするのか?いや、たぶん屋根裏から侵入するのだろう。

 

「さて……………料理のほうは終わってたのか、じゃあ運ぶか」

 

すでに綺麗に盛り付けられた様々な料理をテーブルに運ぶ、およそイレブンが一生のうちに食べることができるかわからない高級料理も中にはある。

 

ユーフェミアとスザクはこの高級料理をエリア11の誰でも食べれるようにしようと頑張っている、ルルーシュはこの高級料理をブリタニア人が二度と食べられないようにしようと頑張っている、私は火種であるその高級料理を使って争いを強いる…………それが現状だ。

 

どんなに難しい言葉を使ったところで、結局はお菓子の取り合いのようなものでしかない。

 

悲しいものだな、っと、これはC.C.用か、持って行ってやるか。

 

C.C.の部屋に入る、ノックはしない。

 

「C.C.、飯を持ってきたぞ」

 

「やっと私の出番か…………」

 

おいメタいぞ。

 

「メタいこと言うんじゃない、作者も扱いに困ってるんだよ」

 

「それでも出番少なくないか?咲世子のほうが出番が多いくらいだ」

 

「マオ編まで我慢しろ、って言っても、作者に詳しい心理描写とかは不可能だけどな」

 

「なんで小説なんて書いてるんだよ…………はむ、ん、うまいな」

 

「咲世子の手作りピザだ、キノコも入っててヘルシーだろう?」

 

「モグモグ………確かにな、暇な時にでも頼んでみるか」

 

「ま、その辺は自由にしてくれ、それと、食べ終わったら掲示板のほうに噂を流して欲しいんだ」

 

「噂?」

 

「ああ、【エリア11総督府がナンバーズの優遇政策を考えている】とな、それとなく流してくれればいい」

 

「わかった…………これからどうするつもりなんだ?」

 

パソコンを立ち上げながらそう聞いてくるC.C.。

 

「戦争の前準備だよ、C.C.」

 

「戦争?なんだ、総督府とドンパチやるのか?」

 

「最終的にはそれも視野に入れている、だがまずは小さな戦争、いわば火花だ、それくらいちっぽけな戦争をするんだ」

 

「火花ねえ、マフィアの抗争でもあるまいし、もっとドンパチやってもいいんじゃないか?」

 

「本来ならもっとドンパチやりたいのは山々なんだが、今の騎士団ではせいぜい警察程度の組織力しかないからな」

 

「ルルーシュは増員したと言っていたが……」

 

「KMFを操縦できるパイロットはそう多くない、ましてイレブンが操縦などできるはずがないからな」

 

スザクでもない限りはな。

 

「それに、今回は小競り合い程度でちょうどいいんだよ」

 

「なぜだ?」

 

「【厳島の奇跡】を知っているか?」

 

「侵攻するブリタニア軍が唯一敗北した戦線で、お前の日本における初黒星か」

 

「その奇跡以来、日本人は奇跡を渇望しているんだ、そこにゼロが現れ、見事ブリタニア軍を撃退する、そうすれば人々はゼロを見て今まで渇望していた奇跡を起こすにたる人物だと認める、そうすれば今まで以上に増員が見込めるだろう」

 

できればナリタでの決戦の時くらいにはKMF大隊2〜3個(だいたい100機くらい)は欲しいな、そうすれば土石流の後の掃討戦が少しは楽になるだろう。

 

「なるほど、今の騎士団では小競り合い程度の戦力しか倒せないからな」

 

「だからこそ……………サイタマゲットー壊滅作戦が鍵になる」

 

原作では敗北したが、ここはもう原作ではない、ナナリーの目が見えていてV.V.が死んでいて陛下の目論見が潰えていて私が不死身となった時点で、すでに私の計画は成功したようなものだ、よって、サイタマゲットー壊滅作戦は確実にブリタニア軍が敗北する、私がいるんだ、負け続けてきた私がな。

 

「【サイタマゲットー壊滅作戦】か、ツキトの資料によるとテロリストの掃討が目的だったか」

 

「ああ、地形はシンジュクゲットー同様、瓦礫だらけだ、だが…………」

 

「同じ戦法は通じない、か?」

 

「その通りだ、コーネリアはクロヴィス以上に頭が回る……………ルルーシュ様の戦法にも対応してくるはずだ」

 

「ではどうするつもりなんだ?」

 

「前提条件は【勝つこと】だ、騎士団の損耗を抑え、ブリタニア軍に痛手を負わせればそれはもう【勝ち】と言えるだろう?」

 

「なんだ、逃げること前提なのか」

 

「それ以外では勝てんからな、大昔より、戦いというのは物量だと決まっている、本腰据えて叩かれる前に逃げてしまえばいいのさ」

 

「何も勝つまで殴りあう必要はないということか」

 

「そういうことだ、そこでお前の仕事だ、サイタマゲットーの地図を作ってくれ、地下道やら裏道やらすべてを描いてくれ」

 

「なかなか面倒くさい仕事だな…………まあいいか、やっておく」

 

「頼んだ、では私は向こうに戻るよ」

 

「楽しんでこい」

 

C.C.の声を背中に受けながら扉を開けて出る、ルルーシュ達はすでに食事を取っていた、スザクもルルーシュに会えて楽しそうだ、ナナリーは…………ん?顔を真っ赤にしてしなったようだな、何があったんだ?

 

「おい咲世子、ナナリー様は風邪を引いたのか?」

 

「いえ、乙女の事情です」

 

「乙女の事情か、なら仕方ないな」

 

乙女の事情ならば詳しく聞かんほうがいいな。

 

「そ、それにしてもスザクさん、来るのなら言ってくれればよかったのに………」

 

赤面して気まずそうにしていたナナリーがそういった。

 

「申し訳ありませんナナリー様、サプライズのほうが感動も増すものと考えまして、お気に召さず申し訳ない限りです」

 

と、ちょっとだけ悲しそうな顔で言ってみる、自慢じゃないが結構得意なんだよ、表情を作るのは。

 

「え、いえいえいえいえ!ツキトさんは悪くないんです!私が悪いんです!文句言ってごめんなさい!」

 

「ナナリー様!そんなに髪を振り乱してはソースが髪についてしまいます!」

 

や、やりすぎたか!?いやでもこれはナナリーせいだ、うん。

 

「ああああ、ごめんなさい………」

 

落ち着いたナナリーは意気消沈してしまい元気が無くなってしまった。

 

おいルルーシュ、スザク、なぜ私を睨む。

 

「ツキト、ここはナナリーを抱き寄せて『大丈夫だよ』って声をかけるところだろう!」

 

この変態シスコン野郎が!黙っていろ!!

 

「ツキト、やっぱりここは頭を撫でながらニコッって微笑みかけてあげるべきだよ!」

 

だぁってろこの変態ホモ疑惑野郎!

 

「ツキトさん、やはりここは指先で涙をぬぐい、ナナリー様の顎を持ち上げて接吻するのがよろしいかと」

 

「お前もかこの変態ド天然美女メイド!!!」

 

ちくしょう!なんだって私がそんなことしなければ…………。

 

「えぐっ………ごめんなさい………」

 

え?なんで泣いてんの?ちょっと展開が見えない。

 

「あーツキト泣かせたー」

 

「えちょ、スザクこれはどういう………」

 

「これはさっきみたいなシチュエーションをやるしかないなー」

 

「ルルーシュ様まで!?」

 

くそ!何がどうなって…………ん?

 

「えぐっ…………(チラッ)……えぐっ」

 

ハハァーーン………そういうわけか、なるほどねえ……。

 

口を開けば女を口説いている私にナナリーに向かって告白まがいなことをさせて強制的に結婚させようとする算段か。

 

おそらくアイディアは咲世子だろうな、この計画も【乙女の事情】に入っているのだろうな、おのれ咲世子。

 

さて、これに乗ってやろうか、それとも否か、クックックッ…………この私を愚弄した罪は高くつくぞ咲世子。

 

 



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『ガウェイン』

ツキトside

 

 

 

さあて、考え付く限りのことをシミュレートした結果、これが最善だろうな。

 

条件はすべてクリアした!(キリッ

 

「ナナリー……」

 

まずはナナリーの顎を持ち上げて目を見る。

 

「あ………ツキトさん………」

 

あーうん、案の定すでに堕ちてるな。

 

次にナナリーの唇に屋さん接吻を…………することなく勢いよくキスして舌を入れる!

 

「んぅ!?」

 

フハハハハハ!!驚いた顔をしているな、私を愚弄するのが悪いのだ!『私は悪くない』

 

「ん………ふぁ………あむ…………」

 

どうしたどうしたぁ?さっきまでの鳴き真似はどうした?もう限界か?もう立っていられないか?脚が震えているぞ?可愛い奴め、小鹿のようにガクガクと震えおって…………。

 

いじめたくなるじゃないか!!!

 

両腕でナナリーの腰を引いて逆海老反りになるようにする、つっぱった脚はさらにプルプルと震え、顔はとろけきってしまった。

 

やがて私の服を掴んでいたてをダラリと重力に従って下げ、脚はついに抵抗を諦め膝をおった、しかし抱きしめている状態なためズリ落ちることはない。

 

ディープキスを続けながら横目でルルーシュ達を見る。

 

ルルーシュは赤面して顔を背け、スザクは気まずそうに下を向きながら料理を食べている、咲世子は……………わからんな、いつも通りだが…………うん、やっぱりわからん。

 

もうそろそろいいか?キスを止めて椅子に座らせてから腕を解く。

 

「はぁ………はぁ………はぁ………」

 

ナナリーは肩で息をしながら虚空を見つめる、だらしなくよだれが垂れているのでハンカチで拭う。

 

「満足ですか?ナナリー様」

 

「はぁ…………ふぁい………まんろく、れしゅ…………」

 

どうやら満足いただけたようだ。

 

まあ、私にかかればこの程度造作もないがな。

 

それにしても、とろけきったイヤラシイ顔しちゃってまあ、そそるじゃないか。

 

(ツキトはSでドS(親切)でドS(心折)です by作者)

 

「…………さ、咲世子、ツキトはその………」

 

「ご安心ください、ツキトさんのキスは終わっています」

 

「そ、そうか、それはよかっ…………な、ナナリーぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!!!????」

 

おい、そこでシスコン発動かよおい。

 

「え?ナナリー!?大丈夫かい!?!?」

 

お前はお前で気づくのが遅いぞスザク。

 

「ツキト!お前ナナリーになにを……………」

 

「【大人のキス】というのを試してみただけです」

 

「大人のキス?咲世子か!?」

 

「いえ、私はツキトさんに教えてはおりません」

 

「じゃあツキトの独学ってことかい?」

 

「スザク、お前冷静だな」

 

「いやさ、ツキトだったらそういうのできても不思議じゃないし」

 

「まあ確かにな」

 

おい思考停止すんな。

 

「それでツキト、ナナリーにあそこまで情熱的なキスをした責任は取ってくれるのか?」

 

「はい、ナナリー様の従者として、この命尽きるまで…………」

 

「夫になってはくれないのか?」

 

「…………ナナリー様が望むなら」

 

「ナナリー!ツキトが結婚してもいいって言ってる!」

 

「結婚しましょう!ツキトさん!!」

 

回復早!

 

「…………わかりました」

 

「………やりました………6年の片想いが、やっと両想いに……………嬉しい………」

 

本当に嬉しそうだな…………これはルルーシュの言った通り責任とって結婚するしかないか。

 

なあに、別に童貞を捨てるわけじゃない、このさい上の口の童貞(処女)は奪われたが、そんなもの些細なことよ、私は小さいことは気にしないんだ。

 

だが困った、これではルルーシュの従者ではなく義弟になってしまう、弟ポジはロロだというのに、これではいかんなあ。

 

仕方ないか、ロロがルルーシュを殺そうとしても私がいれば問題はないし、支障はないだろう、ルルーシュにとって多少イージーモードになってしまうかもしれないが。

 

…………裏切ったら、ナナリーはどう思うだろうか、きっと軽蔑するだろう、惚れた男がまさかテロリストより邪悪な人間なのだからな、『死んでしまいなさい!』とか言われるんだろうな…………ナナリーに死ねとか言われたら生きていける自信がないんだが。

 

まあ死ぬこともないんだが。

 

しかし、こうも地固まってくると裏切るのが辛くなる、おっと、私にもまだ人間らしさがあったのか、人外なのに人間らしさがある、か…………。

 

まるで人間のモノマネをするナニカだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私とナナリーの結婚を決まったところでスザクの歓迎会は私とナナリーの婚前パーティーと化した、片付けが終わった後、咲世子にオシオキをしておいた。

 

ああ、安心してくれ、R-18なオシオキはしていない、運営には消されたくないんでな。

 

それで今日も騒がしい1日が終わる、めでたしめでたし…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とは行かなかった。

 

午後11時を回る頃。

 

「C.C.、いったい何が起こった?」

 

C.C.に呼び出されて部屋に行くと、何やら深刻そうな顔をしていた。

 

「これを見てくれ」

 

「これは………!?」

 

渡された資料には大型のKMFのスペックデータが載っていた。

 

「これをどこで…………」

 

「セキュリティの甘い場所から侵入した、やけにあっさりで拍子抜けしたが、こんなもの見せられたら嫌でも気が引き締まったさ」

 

「そうだろうな………第六世代KMF【ガウェイン】」

 

「そいつが今日の昼頃に実験のためにここに持ち込まれた、次のページに実験内容が書いてある」

 

C.C.の言うがままにページをめくる、内容を読んでいくごとに吐き気がしてきた。

 

「なんなんだ…………これは……………」

 

「実験名【試作型ハドロン砲の発射実験】、実験内容【試作型ハドロン砲の発射による威力の測定』、試験場【サイタマゲットー】」

 

ダンッ!

 

ビシッ!

 

テーブルを叩く、小さいヒビが入った。

 

「屑どもが……………サイタマゲットーの人間を実験台にする気か!!」

 

なんてゲスな奴らだ…………私以上に人間ではないじゃないか!!

 

「しかも、ご丁寧にも狙った方向に人が密集している、さしずめ【大掃除】といったところか、まったく反吐がでる」

 

C.C.は露骨に嫌な顔をしながらそう吐き捨てる、今すぐにでも責任者を殺してやりたいが、こんな外道ができるのは…………。

 

「おのれ、シュナイゼル!」

 

「こんな奴が宰相とはな、ブリタニアも末だな」

 

「本当なら今すぐにでも殺してやりたい、しかし私は殺すことができない」

 

「この外道を殺す役目はルルーシュにあるからな」

 

「阻止せねばなるまい」

 

「どうやって?ガウェインを破壊するか?」

 

「こいつは2人いないと動かせない、だが私なら1人でも十分に動かせる」

 

「どうする気だ?」

 

「決まっているだろう?」

 

ニヤリと、ではなくニヤァァと屑極まりない笑みを浮かべて言う。

 

「ガウェインは、私がもらう」

 

息が合うかわからない人間を2人乗せるより、私が1人で全部やったほうが効率がいい、シュナイゼルの前でそれを証明すれば私にガウェインをくれるはずだ。

 

「むちゃくちゃだな」

 

「ふっ………外道に外道を、屑には屑を………それが人間だよ」

 

「お前はもう人間ではないぞ?」

 

「だからこそ、私が人外だからこそ…………」

 

屑極まりない笑みを一層深くする。

 

「戸惑わなくていいんだよ、C.C.」

 

「ふふっ、お前のほうが屑じゃないのか?」

 

C.C.が笑いながらそう聞く。

 

「さあ?人外には人間の基準は当てはまらない、常に常識を覆すからこそ人外なのだから」

 

だから、思いっきりやってやるさ。

 

「それで、私は何をすればいい?」

 

「何もせんでいい、どうせガウェインを獲得するまで暇になる、好きにするがいいさ」

 

「じゃあ、久しぶりの休暇を満喫するとしよう」

 

「そうしてくれ、それに、何かあった時はお前もガウェインに乗ってもらうからな」

 

「私がか?」

 

「私は演算処理と操縦を同時にできるが、長時間は無理だからな、その時は補助を頼むぞ」

 

「まあ補助くらいならいいだろう」

 

「私はそろそろ寝る、お前も早く寝ておけよ」

 

「おあいにくさま、私はこれから休暇なんでな、夜更かししてネトゲでもさせてもらうよ」

 

「好きにしろ、課金はするなよ?」

 

「わかってるさ」

 

そう言ってネトゲを立ち上げるC.C.、本当にわかってるのか?まあいいか。

 

明日総督府に言ってガウェインの話を聞いてみるか、コーネリアあたりなら知ってるだろう。

 

さて、もう寝よう、眠くて眠くて倒れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おはよう、時刻は8時だ。

 

ちょっと早起きして私服(眼帯装備)でバイクに乗り総督府まで来て顔パスで入ってラウンズの正装に着替えて【2年でブリタニア人になろう!】政策の見直しと今後の予定をデスクで見直している。

 

ちなみにこのデスク、不定期でしか来ないという私のためにユーフェミアが送ってくれたものだ。

 

不真面目な私にはいらないと言ったんだが、ここに入る以上デスクくらいあったほうが良いと言われて無理やり押し付けられた。

 

今では結構気に入っている。

 

「無駄な資金があるな、カットだ…………こっちは少ないな、10%増やして様子見だ…………広報部の人数が少ないな、その上休暇も少ない、過労死するぞこれ……とりあえず人事募集かけて休暇を与えておこう、3連休でいいだろう………………(プルルルル)はい、もしもし、むっ、演習用のペイント弾が足りない?倉庫にはもうないのか?…………わかった、発注しておく、演習までには間に合わせる、ああ、では(ガチャ)……………ふぅ」

 

仕事がなければもっと気に入っているんだがな。

 

っていうか無駄な予算多すぎだろう、効率よく金を回せば15%の利益が見込めるぞおい、いきなり仕事が放り込まれたと思ったらなんなんだこの管理態勢は!

 

セキュリティの甘さは助かるからいいとしても弾薬庫の模擬弾やペイント弾の残量の記載も甘すぎる、だから弾切れが起こるんだ。

 

前任はよほどの無能だったようだな、だがこれからは有能な私が取り仕切る、とりあえず無駄金は全部削除、嫌がらせにカットした金の8割を特派に回してやる。

 

フハハハハハ!!管理が甘い貴様らが悪いのだ!!

 

コンコン

 

「誰だ?」

 

『私です、ユーフェミアです』

 

ユーフェミアか。

 

「今開けます」

 

椅子から立ち上がり扉を開ける。

 

「仕事の進み具合はどうでしょうか?」

 

ユーフェミアが中に入ってくる、護衛は無しか、どうやら仕事の進み具合を見に来たようだな。

 

「無駄なお金がたくさんあったので別の部署に回しました、それから広報部の人員が少ないので募集を呼びかけました」

 

「そうですか、ツキトが真面目に仕事をしてくれているのは安心します」

 

「安心、ですか?」

 

「はい、ツキトに頼めば絶対にうまくいく、今までもそうだったので、ついツキトに頼んでしまいました」

 

申し訳なさそうな顔でそう言うユーフェミア、本当、可愛いな、可愛さでいけばナナリーといい勝負だな。

 

一応ユーフェミアにもガウェインのことを聞いてみるか。

 

「ユーフェミア様、最近新型のKMFをエリア11に運んだと聞いたのですが、何か知りませんか?」

 

「新型のKMF、ですか……………すみません、記憶にないです」

 

ユーフェミアは知らんか。

 

「そうでしたか…………」

 

「ツキトはそれを知ってどうする気ですか?」

 

「よろしければ、私の専用KMFにしたかったのです」

 

「ツキトの専用KMFにですか?」

 

「はい、本国にて陛下を護衛する普通のラウンズと違い、私は専用KMFも親衛隊もありません、なのでせめて専用のKMFが欲しいな、と思いまして」

 

嘘を量産する自分の口が嫌いになりそうだ。

 

「そうなのですか、では姉様に問い合わせてみますね」

 

「……………お願いします」

 

少し思案してユーフェミアに任せることにした、コーネリアはユーフェミアの言うことを聞いてくれる、そこに私への好意を合わせれば…………多分いける。

 

「では姉様に問い合わせてきますね」

 

そう言って足早に去っていった。

 

まあコーネリアのことだ、弟的ポジションの私が初めてわがままを言うのだ、客観的に見れば可愛いものなのだろう、内容はKMFの話なんだがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして…………。

 

「ツキト!ツキト!許可がおりましたよ!」

 

ガウェインを獲得した。

 

…………………は?

 

「え?もうですか?」

 

「はい!ツキトが新型のKMFが欲しいと言っていたと姉様に伝えたら【ガウェイン】?でしたっけ、それを回してくれるそうです!」

 

ケンリョクコワイ………。

 

これは喜ぶべきなんだろうか?あまりにもスムーズ過ぎて逆に怖くなってきた、明日あたり死ぬんじゃないか私?

 

「昨日本国から搬入されたばかりなんですって!今はガレージにあるそうです、行ってみましょう!!」

 

と行ってユーフェミアは私の腕を掴み…………。

 

「さあ!」

 

駆け出した……………え"っ!?

 

「ちょ!?ユーフェミア様速すg「さあ行きましょう!そして一緒に乗りましょう!」

 

あ……………時が見える…………。

 

やっと止まったと思ったらまさかのガレージ前、ユーフェミアは私より強い可能性があるのか?

 

「ツキト!見てください!」

 

言われるままにガレージの中に鎮座するKMFを見る。

 

通常のKMFと違いフロートユニットが背中に装備されており、肩の部分にハドロン砲が見える、感想としてはとにかく巨大、あまりにも巨大。

 

「これがガウェイン…………」

 

原作では神根島の調査の時にシュナイゼルが持ち込んだものをルルーシュが強奪したものだったな、空飛べるし遠距離砲撃できるし硬いしでまさにオーバースペックすぎる性能、それゆえの複座型というロマン溢れる設定に作者も思わずフィギュアを買いそうになるほど。

 

「複座型で2人乗りという珍しい機体のようですね、ツキトは誰を乗せるつもりですか?」

 

「今は思いつきませんね、とりあえずどのようなものなのか乗ってみないことにはわかりません」

 

「で、では………仮のパートナーとして私を乗せてみるのはどうでしょうか?」

 

「ユーフェミア様を、ですか?」

 

ユーフェミアってKMFの操縦できたっけ?

 

「はい、KMFの操縦はまだ未熟ですが、少しでもツキトの役に立ちたいんです!」

 

役に立ちたいなら乗らない方がいいと思うんだが…………まあテストには丁度いいか。

 

「わかりました、ではユーフェミア様は操縦を、私は演算処理を行います」

 

「はい!頑張りましょう!」

 

先に私が乗り込んで下の席に座ってキーボードを展開する、起動コードを入力していく……………ふむ、まあこんなものか。

 

「それでは、失礼しますね………」

 

「足元に気をつけ…………ほぁっ!?」

 

え、ちょっ!?なんでドレスのまま乗り込んでくるの!?

 

「ユーフェミア様!服!服を着替えてきてください!!」

 

「服?………ひゃっ!?み、見ましたか?」

 

ユーフェミアは驚いてドレスを押さえる、すまんユーフェミア…………ピンク色の下着はしっかり見てしまっているんだ。

 

「は、早く着替えてきてください!」

 

なに?反応が童貞っぽい?そりゃこっちに来てからまた童貞になったからな。

 

ユーフェミアがパイロットスーツに着替えてきた、まあ着替えてきたのはいいんだが…………ほら、ロボットアニメによくあるラバースーツとスク水を足して2で割ったようなパイロットスーツがあるだろう?今ユーフェミアが着てるのはそれだ。

 

改めて見ると胸でかいな、原作では死んでしまうんだよな、貴重なおっ◯い要員を殺すのはどうかと思うがな。

 

まあユーフェミアが死なない代わりに、扇と玉城は死んだがな!!!フハハハハハ!!!始末する手間が省けたぜ。

 

知らぬうちにロケットランチャーで吹っ飛ばしていたようだ、だから、『私は悪くない』

 

さて、ユーフェミアが上の席に座ったわけだが…………。

 

「ユーフェミア様、操縦はできますか?」

 

「大丈夫です、わかります」

 

ユーフェミアの顔は真剣そのものだった。

 

「わかりました、では演習場の中心に移動し、試作兵器【ハドロン砲】を使います」

 

「はい」

 

「では、行きますよ」

 

レバーを操作し急発進。

 

「キャッ!」

 

ユーフェミアの驚く声が聞こえる、もう少し速度が出そうだ。

 

さらに加速して最高速で演習場に向かった。

 

演習場のど真ん中についた、じゃあまずはハドロン砲を使ってみるか。

 

「ユーフェミア様、ハドロン砲を使います」

 

「はい!」

 

「照準、仮想敵KMF、距離500m、収束率40%(低……)」

 

「照準できました!」

 

「ハドロン砲発射!」

 

「ハドロン砲、発射します!」

 

カチッ

 

ユーフェミアがスイッチを押す、ハドロン砲が肩の砲口から放たれ、仮想敵KMFを粉砕する。

 

すごい威力だな、これを人に向けて使うのが楽しみだ。

 

「や、やりましたよツキト!」

 

「ええ、やりましたね」

 

ユーフェミアが子供のように喜ぶ、見た目は美女だがまだ20歳を超えていないのだ、だから少々子供っぽく写ってしまう、年相応なのにな。

 

「ツキト!もっと色々やってみましょうよ!」

 

「そうですね、ではスラッシュハーケンでも使ってみましょうか」

 

そのあとテストという題目で無茶な機動を行い、ランドスピナーを壊してしまった、幸いロイドにすぐ直してもらえたが、機動力の無さを残念に思った。

 

あの巨体だし、しょうがないか…………。

 

もちろん始末書は書いたぞ、ユーフェミアのぶんも私が書いたから2枚書く羽目になった、ちくせう。

 

とりあえずロイドに1人でも操縦できるように改造を頼んだ、今日はもう仕事もないし、帰るか。

 

「あ、ツキト!」

 

ん?コーネリアか。

 

「コーネリア様、なんの御用でしょうか?」

 

「ああいや、新型のKMFの調子はどうかと思ってな」

 

「機動性の低さが目立ちますが、特に問題はありません、良い機体だと思いますよ」

 

2人乗りでなければもっといいんだが。

 

「そうか!兄上を説得した甲斐があったよ」

 

シュナイゼルを説得したのか!?とんだ豪傑だなおい。

 

「では私はそろそろ帰りますので」

 

「ん?わかった、気をつけて帰れよ」

 

「はい」

 

さて、帰ってスザクの勉強の様子でも見てやるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

クラブハウスに帰宅。

 

「おかえりなさいツキトさん」

 

ナナリーのお出迎え…………あれ?なんか嬉しい…………。

 

「スザクとルルーシュ様はどこに………」

 

「スザクさんと兄様は兄様のお部屋でお勉強中です」

 

「そうでしたか、ありがとうございます」

 

ルルーシュがスザクに勉強を教えているんだろうな、昔のように。

 

あの頃のスザクは30点やら40点やらを取るほど頭が悪かったからな、小学生なら60点くらいは普通に取れるはずなんだがなあ。

 

ルルーシュは頭が良かったからよく教えてもらってたんだっけか、それでもやっと50点超えるくらいなんだよなあ…………。

 

めでたく(?)高校生になったスザクの学力はどこまで成長したか…………。

 

扉の前に立ち聞き耳をたてる。

 

『スザク、そこはここの公式をこう変化させて計算するんだ』

 

『あ、ルルーシュ!できたよ!』

 

『わかった、わかったからそんなノートを押し付けるな』

 

昔とほとんど同じやり取りだった…………。

 

盗み聞きはここまでにしておくか。

 

とりあえずC.C.にガウェインの報告だな。

 

「おーいC.C.」

 

扉を開けながらC.C.を呼ぶ。

 

C.C.は横になっていた、見ると寝ているようだ。

 

「寝ているのか?」

 

C.C.のほっぺたをツンツンしてみる、おお、ハリがあるいい肌だな、私もこれくらい欲s……………ええい女々しいことを考えるな私!

 

しかし…………。

 

「スゥー…………」

 

「…………こうしてみると…………綺麗だな………」

 

ぷにぷに

 

「……ん………………ツキト?」

 

「やっと起きたか(もう少し触っていたかった)」

 

「おはよう……………なにもしてないよな?」

 

「さあな…………そんなことより朗報だ、ガウェインの件だが、なんとか私のものになった」

 

「早いな、どんな手品を使ったんだ?」

 

「ユーフェミア」

 

「ああ、理解したよ」

 

「理解が早くて助かる、それでこれからの予定だが、私がガウェインを受領した関係で実験は延期、ナリタの日本解放戦線本拠地の砲撃で測定することになった」

 

「サイタマゲットーのほうは?」

 

「留守番だよ、特派で出るのはスザクだけだ」

 

「なら当日は暇になるのか?」

 

「ああ、だからナナリーとデートでもしようと思っている」

 

「ほう、あいつとデートか、いいんじゃないか、きっと喜ぶ」

 

「そこでだ、同じ女の子のC.C.に女の子とはどういうものを好むのか教えてもらいたい、記念に贈るものとかな」

 

「ふむ、ナナリーとは結婚が決まっているわけだし、婚約指輪とかどうだ?」

 

「なるほど………他には?」

 

「そうだな………」

 

この後C.C.とこの話題で大いに盛り上がった、C.C.の乙女らしいところが見れて満足だった。

 

さて、C.C.の話を元に自室でデートプランを練る前に、ルルーシュに伝えるべきことがあるな。

 

ちょうどスザクも帰っている、ベストなタイミングだな。

 

ルルーシュの部屋にノックをして入り、椅子に座るルルーシュに話しかける。

 

「ルルーシュ様、耳寄りな情報がございます」

 

「なんだ?」

 

「ブリタニア軍の日本解放戦線本拠地の攻撃日時は変動せず、そのまま決行するそうです」

 

「そうか、計画はそのまま進めても…………」

 

「もう一つございます、こちらのほうが重要かと」

 

「なに?どんな情報なんだ?」

 

「当日、ナリタに地質調査隊が到着するのですが…………その中に、シャーリーフェネットの実父が含まれています」

 

「なんだと!?」

 

ルルーシュが驚きのあまり椅子から立ち上がる。

 

「このまま輻射波動機構による土石流作戦を行えば、フェネット氏も死んでしまうでしょう」

 

「だが、作戦はこれがベストなんだ……………そうだ!当日の調査隊の行く施設は!?」

 

「すでに調べてあります、こちらを」

 

紙媒体の地図をテーブルに広げた瞬間地図を食い入るように睨むルルーシュ。

 

「……………土石流の範囲内………くそ!」

 

ダン!

 

ルルーシュはテーブルを叩きつける。

 

「どうすれば…………俺は………俺はいったいどうすれば………」

 

「……………解決策は用意しております」

 

「なに!?」

 

ルルーシュが顔を上げる。

 

「本当か!?」

 

「はい、計算した結果がこちらの地図になります」

 

2枚目の地図を広げる、今度の地図は縦横にマスがあるタイプだ。

 

「これは…………」

 

「赤いマスに輻射波動機構を設置すればフェネット氏の行く施設は土石流の範囲外になります」

 

「よくやったぞツキト!これでシャーリーが悲しまなくて済む!!フハハハハハハ!!」

 

ルルーシュは嬉しさのあまりか高笑いをした。

 

シャーリーの父が死んでシャーリー鬱、からのゼロ=ルルーシュだとバレ、マオ乱入の面倒くさくて誰も得しない展開は無かったことにする。

 

そのためにまずはシャーリーの父が死んでいないことが大前提、それでもマオがシャーリーにゼロ=ルルーシュだと教えるだろうが、マオを始末したあと咲世子あたりにゼロになってもらってテレビにでも映ってもらうか、そしてそれをルルーシュとシャーリーが一緒に見れば疑いも晴れる。

 

それでもダメなら私がルルーシュがゼロでないと言って【ラウンズの言葉が信じられないのか?】とでも言えば嫌でも納得するだろう。

 

それでもなおダメだというなら……………ルルーシュに大人のキスのやり方を伝授しとくか。

 

何もかもがどうでも良くなってしまうような大人のキスをな。

 

まあ、マオがシャーリーに接触する前に始末してしまえばいいだけの話だが……………それができたら苦労しないんだよ。

 

コードを持つ私の心が読まれないのは幸いだ、私の目的も悟られないし、殺そうと考えても読まれない、ハイブリッドって素晴らしいな。

 

「ではルルーシュ様、そろそろ失礼させていただきます」

 

「ああ、ありがとうツキト、おかげでシャーリーを悲しませずに済んだ」

 

「礼は不要です」

 

「………世話をかけるな」

 

「ナナリー様と親しくさせていただいているのです、お構いなく」

 

「そうか、これからもよろしく頼む」

 

「イエス、ユアハイネス」

 

軽く会釈してから部屋を出る。

 

…………………相変わらず甘い………って、このやり取りは何回もやったか。

 

それでもあえて言わせてもらうなら。

 

ルルーシュ、その甘さ、嫌いじゃないぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーにデートの相談に来た私は、なんと私のシャツで【ロナウ自慰ニョ】をするナナリーの姿を目撃してしまった!その姿に唖然としてしまった私は、背後から近づく咲世子の姿に気づかなかった!毒薬を飲まされ、目が覚めたら…………ナナリーのベッドに縛り付けられていた!

 

おい、待てい(江戸っ子)

 

「なぜこんなことに…………」

 

跡が残らないようにという配慮からか、縛り付けるのに使っている手錠にはクッションなどに使われるモコモコの素材が使われている、それをカチャカチャと動かしてみるがビクともしない、まあ手錠ってそういうものだしな。

 

「申し訳ありませんツキトさん」

 

「申し訳ないと思うなら外してくれ」

 

咲世子が読めない表情で謝るのをジト目で睨みながらそう返す。

 

「できればそうしたいところなのですが、ナナリー様がどうしても、と」

 

「ナナリー様が?」

 

ナナリーが私を拘束してまで何か命令したいことがあるのか?

 

「理由はナナリー様に聞いてください」

 

「………ツキトさん」

 

咲世子の後ろからナナリーが現れた、自分のせいだというのに申し訳なさそうな顔をしている。

 

「ナナリー様、これは新しいゲームでしょうか?それともナナリー様の趣味ですか?どちらにせよ不愉快極まりないです」

 

「っ……」

 

不快感を露骨に顔に出しながらナナリーにそうぶつける、ナナリーは一瞬泣きそうな顔になるがすぐに引き締める。

 

そして。

 

「…………ツキトさんの本当の気持ちを聞きたくてやったんです」

 

と答えた。

 

ま、無理やり結婚決めたようなものだしな、気持ちを確かめたくなるのもわかる、だが。

 

「拘束する必要はあったんですか?」

 

「…………ごめんなさい」

 

「謝罪はいりません、拘束する必要はあったんですか?」

 

「……ありませんでした」

 

「(ツキトさん、ナナリー様も悪気があったわけではなく……)」

 

「(私が怒っているのはそこではない、悪気もなく問答無用で拘束することについて怒っているんだ)」

 

「(作用でしたか)」

 

ナナリーを睨みながら咲世子のアイコンタクトに答える。

 

別に拘束されたこと自体はそこまで怒ってない、強いて言えばこの体勢が結構辛いことにイラっときているくらいだ。

 

「………咲世子さん、拘束を解いてあげてください」

 

「はい」

 

咲世子が手錠の鍵を開ける、ふう、あーキツかった。

 

「ツキトさん、ごめんなさい!いきなり拘束なんてしてしまって、本当にごめんなさい!!」

 

ナナリーは深く頭を下げ謝罪した。

 

「…………ナナリー様」

 

「は、はい……」

 

「ナナリー様は私の気持ちを確かめたて私を拘束したのですね?」

 

「はい、そうです……ごめんなさい……」

 

唇を噛み締め涙を浮かべるナナリー、はあ、そんな顔はしないで欲しいんだが。

 

「では………」

 

ナナリーの後頭部を掴んで引き寄せキスをする、ナナリーは驚いた様子だったが抵抗はしなかった、しばらくしてキスを止める。

 

「これでもまだ、私の気持ちは伝わりませんか?」

 

「じゅ、十分、です//////」

 

顔を真っ赤にして伏せてしまうナナリー、これで一件落着だな。

 

「ナナリー様、来週デートしませんか?」

 

「え!?で、デートですか!?」

 

ナナリーが赤面したまま伏せていた顔をあげて驚く。

 

「はい、結婚を前提に付き合っているわけですから、デートくらいしてもよろしいかと思いまして」

 

「デート…………いいです!すごく良いです!」

 

喜んでくれたようだ。

 

「では来週の土曜日に、楽しみにしていてください」

 

「はい!今から待ち遠しいです!」

 

「そう言われるとプレッシャーがかかりますね」

 

ナナリーに合わせながら他愛のない話をして今日は終わった。

 

来週の土曜日が楽しみだよ、主にサイタマゲットーのほうがな、クククク………。



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『虚栄心』という山を崩せ

ツキトside

 

 

さて、いよいよ土曜日がやってきた。

 

今日までにルルーシュが猫のアーサーにゼロの仮面を盗まれそれを追いかけ危ないところをスザクに助けられ生徒会に入るという原作通りのイベントがあった。

 

ん?私は何をしていたかって?そりゃもちろん学園をさぼって急造した1人乗りガウェインを慣らしていたんだよ、いやあ、演算がきつくて死ぬかと思った、というか一回死んだ。

 

鼻やら目やら口やら耳やら、いろんなとこから出血して血だまりができていたんだそうな、緊急搬送されたが、まあすぐ再生してしまうもので精密検査も異常無しですぐに退院だったよ。

 

まあ学園をさぼったことをナナリーに怒られたが………。

 

その日以降は極力登校することにした、ナナリーに怒られたくないし何より悲しそうな顔は見たくない。

 

ああそれと、どうやらゼロがルルーシュだとユーフェミアにバラしていたらしい、あの脱出の時ボートの中で明かしたんだそうだ、どうりで最近機嫌がいいと思った。

 

そろそろ待ち合わせの時間だ、前日までに婚約指輪も用意しておいたし、最高金額無限のクレカも持ったし、現金も持ったし、いざという時のリボルバー型コイルガンも持った、完璧だな。

 

「ツキトさーーん!」

 

ナナリーが駆けてくる、中学生らしく清楚で爽やかな格好だ、スカートが短いのが気になるが。

 

「おはようナナリーさm…………ナナリー」

 

おっと、今日は敬語禁止だったな。

 

「おはようございます!」

 

「ではいきましょ…………行こうか」

 

「はい!」

 

そう言って歩き出すとナナリーが腕を組んできた、見ると顔が少し赤い、無理してるな、可愛い奴め。

 

ああそうそう、今日の私は眼帯を外して青いカラーコンタクトを入れて髪をブロンドに染めて三つ編みにしてある、見た目の参考はアホ毛取っ払ったハス太だ。

 

これなら誰にも気づかれまい。

 

ナナリーと腕を組んでデートを開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

あ?デートの描写?嫌だよ恥ずかしい、ただレストラン行ってご飯食べたりしただけだよ。

 

それに、誰が自分の恋人に婚約指輪を渡す口上を描写せにゃならんのだ。

 

あーはいはいわかったわかった、言えばいいんだろう言えば。

 

【ナナリー、いろいろな過程をすっ飛ばしてしまったけれど、私はナナリーが大好きで、愛している、結婚するまでの間、ナナリーの可愛さを独り占めにしたい、もちろん、結婚したあとも独り占めにするけどね、この指輪をつけていてほしい、受け取ってくれるかな?】

 

って感じだよ、あー恥ずかしい恥ずかしい(棒)

 

…………もう死にたい、純粋なナナリーにこんな嘘をベラベラと言っている間申し訳なくなって死にたくなった。

 

護身用のリボルバーコイルガンで自殺を考えるくらい死にたくなった。

 

計画全部終わったら死のうそうしよう。

 

よし、目標(自殺)も決まったことだし、総督府に行くか。

 

クラブハウスを出てバイクにキーを挿し込m

 

「あ、ツキトさん!」

 

「ナナリー様、おはようございます」

 

ナナリーがクラブハウスの窓から話しかけてきた、デート以来上機嫌だな。

 

「おはようございます、今から総督府ですか?」

 

「はい、今日も書類仕事です、少しは運動したいものです」

 

あれ?なんで私はナナリーに愚痴を…………っていうか愚痴なんて言ったことないのに………。

 

「帰ったらマッサージをしてあげますから、そう気落ちしないでください」

 

ナナリーは気づいてない?じゃあ大丈夫か。

 

「ありがとうございます、それでは行ってきます」

 

「行ってらっしゃい、あなた!」

 

その呼び方はまだ早いぞ!!!

 

と心の中で突っ込みつつアクセルグリップを回し、総督府を目指す。

 

今日もデスクで書類仕事〜♫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とはいかなかった、やったぜ。

 

「ユーフェミア様の護衛、ですか?」

 

「はい、スザクも同行してくれますが、2人一緒のほうが心強いので」

 

「ユフィ、それ結構傷つくんだけど」

 

なにやらユーフェミアがシンジュクゲットーをもう一度視察したいとのこと、その護衛にスザクと私を選んだ、とのこと。

 

どうでもいいがユーフェミアの言葉でスザクが苦笑いだぞおい。

 

「すみませんスザク、でもスザクもツキトがいれば百人力でしょう?」

 

「確かにね、ツキトがいれば百人力、いや千人力だよ」

 

「いやスザク、そこは【僕1人で十分だよ】と言うところだろう」

 

「だって本当のことだし」

 

「ユーフェミア様の騎士になるんだ、自覚を持て、多少傲慢でないとこの業界は生き残れんぞ」

 

「え?でもツキトって傲慢には見えないかなどっちかっていうち謙虚っぽいかな」

 

「昔からものすごく謙虚でしたわ、今も書類仕事のかたわら、頑張って仕事をしているかたの給料をあげているようですし、そのくせ自分の給料は上げていませんものね」

 

言うなよ!知ってても言うなよ!!

 

「ええ!?ツキトはそんなことやってたのかい!?」

 

「…………無駄な予算を効率よく回しただけにすぎません」

 

「謙虚なことは良いことですよ」

 

「…………………」

 

「ツキトはすごいなあ………」

 

「…………私から見たらお前のほうがすごいがな」

 

「え?今なんて?」

 

「なんでもない…………ユーフェミア様、いつ出発でしょうか?」

 

「今からです」

 

「唐突ですね…………少しお待ちください」

 

部屋から出てケータイを取り出しルルーシュに繋げる。

 

『どうした?』

 

「ユーフェミア様がシンジュクゲットーに視察に行きます、シンジュクゲットー周辺の黒の騎士団に手を出さないように指示を出しておいてください」

 

『わかった』

 

「頼みます、スザクの前でユーフェミア様に手を出せば最悪殺されますから」

 

手を出したほうが、最悪吊るされるぞ。

 

『スザクも来るのか?』

 

「はい、厳しく言っておいてください、襲われればユーフェミア様の心象も悪くなります」

 

『わかった、キツく言っておく』

 

「お願いします」

 

ケータイをきって今度はロイドに繋げる。

 

『はいはーい、なんの御用でしょうかぁ?』

 

「ユーフェミア様の視察の護衛をする、ガウェインとランスロットの準備をしておけ」

 

『視察なのにKMF使うのぉ?』

 

「シンジュクゲットーの視察だからな、なにかあった時の保険だ」

 

『へぇ、それじゃあ用意しとくよぉ』

 

「頼んだぞ」

 

ケータイをきる、これでもしもが起きても対処はできる。

 

「お待たせいたしました」

 

「いいえ、ではいきましょうか」

 

なにも起きなければいいがな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………何度見てもひどい光景ですね」

 

「ですが、これがブリタニアの業なのです、受け止めなければなりません」

 

「そしてそこから前に進むなきゃいけないんだ」

 

ユーフェミアと私とスザクは瓦礫だらけのシンジュクゲットーを歩きながらそう呟いた。

 

「そうですね…………ここは確か住宅地区になる予定でしたよね?」

 

「はい、アパートを建てて格安で提供する予定です、現状まともな住居はありませんから」

 

戦争時の被害に加え2回に及ぶ掃討戦でボロボロなんてもんじゃない、今となっては巨大な廃墟だ。

 

次の地区に移動して…………。

 

「ここはどうするつもりなんだい?」

 

「ここは将来日本人たちが自由に商売を営むことができるよう、商業地区にしようと考えている、日本の武将、【ノブナガ オダ】の楽市楽座を参考に、出店料は取らないことにしようと思う」

 

「無料で商売ができるんだね」

 

「そうだ、将来はここでスシを食いたいなあ」

 

生魚を食べる文化がないブリタニアではスシの文化はすぐに廃れた、職人と呼ばれた漢たちは、もういない。

 

「寿司かぁ、マグロが食べたいなあ」

 

「私はサーモンだな、脂ののったサーモンを一口でパクッと」

 

「あー、食べたくなってきたなあ」

 

「今度咲世子に作ってもらうか、作る時になったら呼ぶよ」

 

「いいの!?ありがとうツキト!」

 

「お礼は咲世子に言ってくれ、私は何もできないんだ」

 

「(お二人ともとても楽しそう…………それにしてもサヨコとは誰でしょうか?日本人の女性の名前のようですが…………)」

 

来週あたり咲世子に作ってもらおう、ルルーシュとナナリーも久しぶりの日本料理と聞けば喜んでくれるだろう。

 

また次の地区に移動して……………。

 

「こっちは瓦礫が撤去済みのようですが、何を作るのですか?」

 

「病院などの医療機関を設けます、医師免許を持つ日本人などを集めて運営していこうかと思っています」

 

「伝染病の対策のために早めに撤去したんだっけ?」

 

「ああ、現場に行って3日でやれと言ってやったさ、でなけりゃクビだとな」

 

「容赦ないね…………でもこの様子なら仮施設なら建てられそうだ」

 

「そうだな、よし、仮住居と医療機関をいくつか運ばせよう、そうすれば小さいながらも診療施設として動かしていけるはずだ」

 

「総督府の医療課の日本人のかたに来ていただいてしばらく運営をしてもらいましょう」

 

「勉強も教えさせれば…………」

 

「救急車も用意して……………」

 

「車よりKMFのほうが………」

 

こうして、この医療地区に診療施設を建設し、総督府から10人が引き抜かれ、緊急搬送用の救急グラスゴーが配備されることとなった。

 

「結局本格的なものになってしまいましたね」

 

「でも建物は頑丈なほうがいいよ、日本は地震が多いからね」

 

「確かに、ブリタニアではほとんどないからな」

 

ブリタニア本国で過ごした10年間、地面が揺れないことにはなれなかったなあ……………まあ揺れないだけ被害がないということはいいことだが。

 

またまた地区を移動して………。

 

「こっちは確か…………工業地区だったっけ」

 

「覚えていたか、その通りだ、ここは日本人に職を提供する場とする予定だ、ブリタニア本国で作るよりエリアで作ったほうが安く仕上がるという利点を利用してやろうということだ」

 

「外国で作ったほうが人件費が安いってやつだね、社会で勉強したっけ」

 

「まあな、それとここで作った商品にはエリア11を日本化する第一歩として、【made in japan】と彫ることにしよう」

 

「メイドインジャパンかあ、今はどこもメイドインブリタニアだし、エリアで作ったものはメイドインイレブンとかになっちゃうもんね」

 

シャンプーの詰め替えパックの表示を見た主婦がメイドインイレブンからメイドインジャパンになっていて、【おや?】と思うくらいの反応だろうが、今はそれでいい、小さく己を主張する、古き良き謙虚な日本人の心だ。

 

「これで全部でしょうか?」

 

「いえ、最後に中央の娯楽地区を回ります」

 

「娯楽地区?そんなのありましたっけ?」

 

「ありますよ………ここには野球やサッカーなどのスポーツ施設、遊園地、プール、ゲームセンター、ゴノレフ場などの娯楽施設を建設する予定です」

 

「「(今ゴルフ場の発音がおかしかったような………)」」

 

「ここの瓦礫の撤去はあとでもいいでしょう、まずは住宅地区を整備しましょうか」

 

「そうですね、10階建くらいの高くて人がたくさん入れるほうが良いのでしょうか?」

 

「高いと登るのに大変だし、日陰ができちゃうから4〜6階建くらいがいいと思うよ」

 

「ならそれにしましょう!」

 

「価格はエリア11で一番安く、ネットも完備してテレビもつけましょう、ベッドとテーブルとタンス、他にもいろいろな家財道具をつけて…………これくらいなら赤字が出ませんね」

 

「うわっ!安すぎない?」

 

「住んでみないことにはどうとも言えないが、妥当じゃないのか?ここら辺は何もないに等しいし」

 

「私のお小遣いで1000年以上は暮らせますね」

 

お前のそれはお小遣いと言えるのか?

 

「さらにこの値段に入居1ヶ月分免除をつけて人を呼び込みましょう」

 

「うっひゃあ…………この条件だと僕のマンションより断然いいよ」

 

お前マンション住んでんのか、確かかなり安いとこだったよな、ゲットーに近くて入居人がいないんだったか。

 

「これで進めてみましょう、次はどこですか?」

 

「これで全部終わりです、ユーフェミア様もお疲れでしょう、帰って休みましょう」

 

だいぶ歩いたな、よく覚えてないが4、5kmは歩いたぞ、コードの回復力がなければ今頃足がつってたな。

 

「そうですね、脚が痛いです………」

 

ロングスカートからチラリと見える脚が赤く腫れているように見える、無理言ってでも車を使うべきだったか。

 

「車を呼びましょうか」

 

「すみません、お願いします」

 

しおらしいユーフェミアの様子が可愛くてドキッと…………しなかった、というと嘘になる。

 

一応結婚相手がいる手前、他の女にうつつを抜かすのもどうかと思うが…………こんな美女に見惚れるなっていうのは無理な相談だ。

 

すまんなナナリー、私は女好きなんだ、前世からずっとな。

 

だがさすがに皇族2人はいかんだろうな、私も死にたくない、いや死なないんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迎えの車で総督府に戻ってきた、疲れた…………コードじゃ疲れは無効化できないのか、死なないから過労死しないのか、それはどうかと思うが。

 

とりあえず、見直すべき点は見つかったな、修正しなければな。

 

ナリタ攻略後に発表予定だからあまり時間がない、ユーフェミアには今日は休んで明日から式の予行練習を開始してもらおう。

 

式典で驚く日本人の顔が楽しみだ。

 

ってか結局KMF使わなかったな、まあ使わないのが一番だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあやってまいりましたナリタ攻略戦【日本解放戦線本拠地攻略戦】、先陣を切るのはコーネリアとギルフォード以下親衛隊諸君、その少し後ろにジェレミアを隊長とする純血派メンバー、その後ろに通常の部隊が二つと左翼に一つだ。

 

私とスザクは特派にて待機、コーネリアの別命、または私自身の独断で行動ができる、要するに遊撃部隊だ。

 

私の独断で行動ができるというので。

 

「でーもさぁ、さすがに本陣近くで待機はないんじゃない?」

 

本陣近くで待機とした。

 

「仕方ないだろう、ガウェインは遠距離砲撃型、ランスロットは近距離型だ、ランスロット単騎ではエナジーが持たなくて戦場のど真ん中で枯渇する、ガウェイン単騎では遠距離砲撃しかできないから誤射の可能性がある、無駄なエナジーの消費は嫌いだ」

 

というのが理由だが、他の理由を挙げるならジェレミアを紅蓮とヤリ合わせて肉体改造させてチュウギーさせるのが今回の目的。

 

あの身体能力ならルルーシュのやくに立つはず。

 

ヴィレッタは扇が死んでいるしオレンジ騒動のせいで階級が下がってるということもないから泳がせても大丈夫だろう。

 

あとは…………。

 

「ロイド、ガウェインは何分飛べる?」

 

「今までのデータ総動員で改造したんだけど、それでも30分弱なんだよねぇ」

 

「30分か…………飛ばずにハドロン砲を撃ったほうがいいか?」

 

「どっちかっていうと飛んでもらったほうがデータが集まるんだけどぉ、ハドロン砲のほうが今は重要だしねぇ」

 

「今作戦はハドロン砲の威力測定も兼ねているしな、適当に集団に一発撃ってみるか」

 

「りょーかーい、収束率はぁ?」

 

「現行最大収束率&出力でオーバーヒートするまで撃つぞ、スザク、予備のエナジーフィラーの用意をしておいてくれ」

 

「はい!」

 

スザクがランスロットに乗り込んでエナジーフィラーが積まれたパーツの山に向かった。

 

私もガウェインに乗り込んでキーボードに座標を打ち込みながら各種エネルギーをハドロン砲一局限定にする。

 

ポーズは固定、転けないようにランドスピナー展開、ハドロン砲発射準備よし。

 

「ロイド、測定準備はできたか?」

 

『バッチリだよぉ、撃っちゃってー』

 

「よし、ハドロン砲、発射!」

 

カチッ

 

両肩の悪魔の口からハドロン砲が放たれた、最大収束率でも随分拡散してしまいかすった木や花が一瞬で消し炭になる、着弾点はもっと恐ろしく、日本解放戦線の砲台があったようだが、今はもう土しか見えない。

 

撃ち終わって数秒後にエナジーフィラー切れのアラームに気づいた。

 

「これが最大出力の威力……………なんて力だ」

 

『測定完了だよぉ、すごいねこれぇ、小さい湖くらいなら蒸発させられるよぉ』

 

「それは頼もしい威力だな…………援護射撃には使えそうにないが」

 

『先制攻撃で使うくらいはできると思うし、大丈夫じゃないかなぁ』

 

「ランスロットのほうが使い勝手が良さそうだな、ヴァリスもあることだし」

 

『そう言ってもらえるとランスロットを作った甲斐があったよぉ』

 

『ちょっとロイドさん!私も手伝ったんですからね!』

 

なんだかんだいいコンビだよな、ロイドとセシル。

 

スザクのコンビがルルーシュであるようにな。

 

じゃあ私のコンビは?いや、私のコンビをこなせる人間なんていない。

 

いるのはたった1人の【パートナー】だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

 

ナナリーです、お昼を回って次は6時間目の授業です。

 

ツキトさんは今ナリタという山の近くに行っています。

 

日本解放戦線というレジスタンスの拠点を攻撃すると言っていましたが…………無事でしょうか、心配です。

 

ツキトさんは強いのできっと無傷で帰って来ちゃうんでしょうけど、それでも怖いものは怖いです。

 

どうにか無事だといいんですけど…………。

 

「ランペルージ?ランペルージ!!」

 

「ひゃい!?」

 

「考え事は授業のあと!そら、この問題の答えは?」

 

授業中にボーッとしてたみたいです、あれ?開始の挨拶をした記憶がないです…………。

 

「…………えっと、24です」

 

「正解、ボーッとしないように」

 

「はい、すみません」

 

「うん、じゃあこっちの問題は、68ページの公式をここの公式に繋げると解けるんだけど、わかる人は…………」

 

ううぅ…………ダメです、ツキトさんのことが心配で授業の内容が全然頭に入りません。

 

これじゃ成績が下がって兄様と勉強会をしなければなりません、勉強会自体は嫌いではないのですが兄様のお手を煩わせてしまうのが嫌なので成績は落とさないようにしたいのです。

 

もっと嫌なのは成績が下がってツキトさんに嫌われちゃうことです…………ツキトさんは頭の悪い女の子は好きになれないって言ってましたし、このまま成績が下がってしまったら…………。

 

『ナナリー様、私はルルーシュ様とナナリー様に仕えられることを誇りに思っています、ですが仕える主人の頭が悪いようでは、私も仕えるべき主人を変える他ありません…………』

 

もしくは…………。

 

『ナナリー、私はナナリーのことが大好きだよ、でもねナナリー、私は頭が良い女の子と結婚したいんだ、頭の悪いナナリーとは、結婚できない、指輪を返してとは言わないけど、もう一切私に触れないでくれるかな?』

 

それとも…………。

 

『貴様のような頭の悪い女などに興味はない、誰が貴様となど結婚するものか、そうだなぁ、せめて学年首位程度はとってもらわねばなるまい、ま、貴様には無理だろうがな』

 

っとか言われちゃうよぉ…………。

 

「…………グスッ」

 

嫌われるのは嫌だよぉ………。

 

「「「「「「(なに!?我らが天使が涙を!?一体どこのどいつだ我らが天使ちゃんを泣かせたのは!!)」」」」」」

 

 

(説明しよう!このアッシュフォード学園にはナナリーのファンクラブが創設されているのだ!ファンクラブ会員は学園の1/3を占める巨大勢力なのだ!彼らは自らが心から敬愛するナナリーランペルージを愛で、見守るという行為の他、危害を加えた者への制裁という行動全てを義務とし、今まさにナナリーを泣かせた不埒者を見つけ、会員ナンバー0001であり、総司令であるルルーシュランペルージに連絡を取ろうとヤッケになっているのだ!仮にナナリーを泣かせた不埒者をルルーシュに伝えた場合、その頭の回転力を持ってその不埒者に対するもっとも有効な制裁を加えるために、学園内のファンクラブ会員総動員で作戦を展開する、もっとも最近起こった事件は、国語教師が今のナナリーのようにボーッとしていたところを教科書でひっ叩いたのが原因で、その教師はなんと家に飾ってあった大好きなアイドルのグッズ全てを破壊されていたのだ!警察に捜査を依頼したそうだが、未だ犯人は見つかっていない…………恐るべしナナリーファンクラブ! by作者)

 

 

 

「…………であって、っておいお前たち!どこに行くんだ!おい!!」

 

あれ?先生が叫んでる?って教室から男の子がいなくなってます、なにがあったんでしょうか?

 

「はあ、またか、厄介なファンクラブだな……………まあいい、じゃあ次の問題を…………」

 

先生は呆れた様子ですね、それに、【ファンクラブ】ですか、一体何のファンクラブなんでしょう?今人気のアイドルとかよくわかりません。

 

 

 

キーンコーンカーンコーン………

 

 

 

あ、6時間目は終わりですね。

 

「あー、次の問題は次の授業で答えてもらうから、ちゃんと解いてくるように」

 

「起立、礼」

 

先生が教室から出て行く、そういえばツキトさんはもう少しで帰ってくるんでしたよね、今日は掃除もないので急いで帰r…………。

 

 

 

『ねぇちょっと、あれってツキト先輩だよね?』

 

 

 

不意に教室の外から聞こえた声に顔を動かすと視線に私服姿で後者の外側を歩くツキトさんが飛び込んでくる。

 

『うわーかっこいいなー、ナナリーちゃん羨ましいなあ』

『そういえば、ナナリーちゃんが金髪三つ編みの男の子とデートしてたけど、あれってもしかしてツキト先輩の変装?』

『ほーら私の言った通りじゃん、ナナリーちゃんが浮気なんてするわけないでしょ』

『だよねー、口を開けばツキトさんツキトさんって言ってるナナリーちゃんが浮気なんてするわけないよねー』

 

 

 

みんなで何か言ってるけど私は聞いてなかった、夢中で立ち上がって教室の扉を開けて内ばきのまま外にでてツキトさんに抱きつく。

 

「ツキトさん!!」

 

「おっと…………ナナリーか、どうかしたのか?」

 

ツキトさんは優しく受け止めて抱きしめ返してくれる、暖かい…………。

 

「怪我はないですか………」

 

「怪我?KMFに乗ってたんだから怪我なんてしないぞ」

 

「そう、ですか…………よかったぁ……」

 

息を吐いて安堵しながら腕に込める力を強める、ツキトさんの顔がすごく近いです、私の顔絶対真っ赤です。

 

「どうしたんだナナリー?なんか変じゃないか?」

 

「変にもなりますよ!心配したんですから!!」

 

朝早く出て行ったツキトさんの行き先を兄様に聞いたら、大規模作戦の遊撃部隊隊長を務めるって聞いて、ショックで気を失いかけたんですからね!

 

「そ、そうか……それは嬉しいな」

 

ツキトさんは少し困ったような、それでいて嬉しいような顔でそう言った。

 

ツキトさんの顔が少し赤くなっているように見える。

 

「ツキトさん、照れてませんか?」

 

「こんなところで抱きつかれれば誰でも照れる」

 

ツキトさんに言われてハッとする、周りを見ると窓からいろんな人たちが見ているのがわかった。

 

そう確信した瞬間真っ赤になった顔が火を噴く。

 

恥ずかしさのあまりツキトさんの胸に顔をうずめる…………あれ?柔らかい?

 

「今更気付いたのか、この天然エロ娘」

 

「え、エロ!?………エロくなんかないです!」

 

ツキトさんの罵倒に胸を埋めたまま反論する。

 

「じゃあ今すぐ顔を離してみろ」

 

「うぅ…………」

 

「できないのか」

 

できるわけないですよ………恥ずかしくて死にそうなのに…………。

 

ナデナデ………

 

え?

 

「ハハハハハ、かわいいなあお前は」ナデナデ

 

私、ツキトさんにナデナデされてる、あ、すごく嬉しい、幸せ…………。

 

「おっと、続きは帰ってからだな、さっさと支度して靴も履き替えて来い、待っているから」

 

そう言って撫でる手を止める、もう少しほしかった………。

 

でも帰ったら続きをしてくれるんですよね、早く支度しないと!

 

「だが、まずは生徒会室に行かないとな」

 

…………そうでした、私も生徒会の役員なんでした………。

 

「ほら、そう落ち込むな、私も着いて行ってやるから」

 

「本当ですか!行きましょう!今すぐ!」

 

「お、おい待て、校内は土足厳禁だ、お前も靴からスリッパに履き替えろ」

 

言われて内履きを見ると見事に土だらけ、これは咲世子さんに怒られるかな…………。

 

「はい、スリッパに履き替えてきます」

 

そう言ってスリッパに履き替えるため正面玄関に向かう、ツキトさんと手をつないで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

 

しばらく見ない内に随分とたくましくなったな、こんなたくさんの人間に見られているのに平然と手を繋げるなんてな。

 

私でもきついぞこれは。

 

できないこともないが。

 

スリッパに履き替える時も手を繋ぐのはどうかと思ったが…………まあナナリーだし、純粋なんだろう。

 

ナナリーと…………そうだな、一緒のベッドに入って横になるだけでもハードルが高いだろうし、添い寝なんてやった日には翌日正体不明の高熱が出てるかもしれないな。

 

手を繋いで校内を歩き回って生徒会室の前に来たわけだが、今更だが私服でも良いのだろうか?ナナリーは何も言わないし、大丈夫か。

 

ナナリーが扉をノックして開ける、手を繋いだまま、いや手を離せよ。

 

「あ、ナナちゃん、ちょうどよか…………アールストレイム卿」

 

ミレイが私を見て顔を硬直させた、おいなんだその反応、私がなにかしたのか…………いや少し前にコイルガン突きつけたか。

 

「ん?ツキトじゃないか、ナナリーと一緒だったのか」

 

ルルーシュは普通に通す気か、というか私より帰ってくんの早いな。

 

「さっきそこで会ってな、ついてきてくれと言われたんでついてきたんだよ」

 

まさか内履きで外に飛び出してくるとは思わなんだ。

 

「お、おいルルーシュ、お前よくラウンズにタメ口で話せるな…………」

 

そう言ったのは…………なんだっけ?カルビ・アーモンドだっけ?

 

「タメ口で話してくれって言われたからな」

 

「そうだ、ルルーシュとスザクとナナリーにはタメ口で話すように言っている…………ナナリーはときどき敬語だったり標準語だったりするがな」

 

「ま、まだ喋り方が安定しないんです……」

 

ナナリーが困った顔でそう言う、ユーフェミアもそうだがなぜこの2人は困った顔がこんなにも可愛いんだろうか?その考察を書いた本があれば是非とも読みたいくらいだ。

 

 

(でもナナリーはやっぱり笑顔が一番可愛いよね!! by作者)

 

 

「あ…………こんにちは」

 

「ん?ああ、こんにちは、シュタットフェルト」

 

扉を開けて入ってきた病弱設定のカレンに挨拶を返す、【シュタットフェルト】と言った時一瞬不機嫌な顔になった、やはりブリタニア名は嫌いか…………。

 

「こ、こんにちはアールストレイムさん」

 

次に入ってきたシャーリーは会釈をしながら挨拶をしてきた。

 

「ああ、こんにちはフェネット、親父さんは無事だったか?」

 

「え?それはどういうことですか?」

 

「親父さんから聞いていないのか?土石流に巻き込まれそうになったんだよ」

 

「ええ!?土石流にですか!?ど、どうして……」

 

「フェネット氏は結構有名でな、作戦地域近くで地質調査中だというのを聞いてな、スザクと2人でなんとかせき止めたんだが、無事かどうか確認が取れなくてな」

 

「そうだったんですか………父なら大丈夫です、父を助けていただきありがとうございます」

 

ケータイで取り出してメールを送って父親の生死を確認してポケットにしまってからそう言った。

 

「気にするな、私は自分の仕事をしたまでだ」

 

言えない、ハドロン砲で地形を変えてしまったせいでフェネット父が死にそうになったなんて言えない。

 

幸いランスロットとガウェインの攻撃でなんとか食い止めることができたが、もうあんなことやりたくない。

 

「ツキトさんすごいです!シャーリーさんのお父さんを助けるなんて!」

 

ナナリーが手を繋いだままはしゃいだ、そろそろ離してほしいんだが……。

 

「正確には私とスザクだ、それに助けたのは調査隊だよ、スザクがいてくれて助かったよ、いなかったと思うと今でもゾッとする」

 

「怖くなかったんですか?」

 

リヴァルがそう聞いてきた。

 

「時速200〜300km以上の速さで水壁が迫ってくるんだぞ?怖くないわけがない、私も人間だからな、怖いものは怖いさ、スザクがいなかったら今頃ばらばらになってただろうなあ……………」

 

ガウェインが、私は再生するから大丈夫。

 

「それでアールストレイム卿、そのスザク君は…………」

 

「あーー……………機密事項だからあまり言えんが、ちょっとしくって落ち込んでる」

 

「しくった?」

 

「ああ、かなり落ち込んでてなあ、今日は来れないと言っていた」

 

そりゃゼロ取り逃がしたっつったら落ち込むだろうよ、で明日にはケロッとしているんだろう。

 

最後にダイジェスト風味に回想と行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回想…………

 

 

 

『ちょっとロイドさん!私も手伝ったんですからね!』

 

2人の様子を微笑ましく見ていた時…………。

 

『ツキト!土砂崩れが!!』

 

スザクの声にナリタに目を向けるとハドロン砲の衝撃で土砂崩れが起きてしまっていた。

 

「本当に援護射撃には向かないな、ロイド、本隊が土砂崩れに巻き込まれそうだ………」

 

そういえば土石流の地帯はコーネリア率いる本隊の位置と少し離れているな、誘導するか。

 

「今の地点から左向きに進路を変えるようコーネリア様に打診してくれ」

 

『はいはーい、通信入れるよぉ』

 

これで本隊は土石流が直撃するはず、土砂崩れによって計算が狂ってさえいなければいいが…………。

 

ズゴゴゴゴゴゴ…………

 

始まったか。

 

『な、なんなんだこの揺れは………』

 

「地震…………とは違うか、ロイド、なにかわかるか?」

 

『…………山頂付近で輻射波動機構に似た反応を検出、これは………』

 

「おい待て、輻射波動機構と言ったか?確かここら辺は地下水が豊富だと聞くが、まさか日本解放戦線のやつら、土石流でも起こそうってか?」

 

『…………そのまさかみたいだね』

 

『な!?本当ですかロイドさん!!』

 

『うん、今山の地下水の温度が急上昇してる、水蒸気爆発で土石流を起こす気だよ』

 

「ちっ!流れてくる位置を計算して本隊に送信しろ!!」

 

『今やってる!セシル君そっちお願い!2人は拠点に土石流がこないように砲撃お願い!!』

 

「了解!」

 

『了解!』

 

 

 

回想終わり…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう2度とやらんぞ、誰が自爆覚悟でハドロン砲撃ち続けばならんのだ。

 

終わった後ユーフェミアに心配されたのは嬉しかったが…………もうあんなに命を貼りたくない、いや死なないけど気持ちの問題だよ。

 

そのあとは最終下校のベルが鳴るまでみんなで喋っていたよ、ナナリーは終始手を繋いだままだったよ、誰もそれについて突っ込んでくれなかった、誰か1人くらい突っ込めよ!!



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『協力者』

ナナリーside

 

 

「ナナリー様……」

 

「咲世子さん……」

 

血の付いた下着を前に重い空気が流れる。

 

「…………ナナリー様、おそらく……」

 

「やっぱり、ですか…………」

 

「はい……………………初経です」

 

お兄様、ツキトさん、私は大人になりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

「予算はこれでいい、広報部も人員は十分だ、【2年でブリタニア人になろう!】に向けて訓練を増やす、コイルガンが足りない?本国から100丁取り寄せておこう、KMFの損害も増えたな、部品も取り寄せよう……………」

 

はぁーーーーー、疲れる。

 

予算はマシになったが物資が足りないな、無理な侵略を推し進めたからだと思うが、やはりテロに対する耐性が低いな。

 

ん?咲世子からメール………………!?

 

ガタッ

 

ピポパピピ

 

「ユーフェミア様、今日は早退します」

 

『え?なにがあったのですかツk(ブツ)』

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

階段を駆け下りバイクにまたがりアクセル全開でクラブハウスに戻る、バイクを飛び降りてクラブハウスの扉を荒々しく開けて目の前にいる咲世子に食ってかかる。

 

「咲世子おおおおおおおおおおおおおお!!!!あのメールは本当か!?!?」

 

「本当です」

 

そう聞いた瞬間足の力が抜け、涙がにじむ。

 

「うっ……くっ…………ついに!ついにナナリー様が大人になられたッッッ!!」

 

涙が床に落ちていく、床が涙で濡れていく。

 

「はい」

 

「これほどッッ!!これほど嬉しかった瞬間など!!!妹が生まれた瞬間と!!!ルルーシュ様が精通なされた瞬間以来だッッ!!!…………………咲世子!」

 

「お赤飯の用意は出来ております、オードブルも注文いたしました、スザク様はどういたしましょう?」

 

さすが咲世子だ!!パーフェクトだッッッ!!!

 

「呼ぶぞ!ナナリー様が大人になった日だぞ?皆で祝わねばなるまい!!」

 

「ではミレイ様やシャーリー様もお呼びに?」

 

「あいつらを呼ぶと青髪チャラ男(リヴァル)もついてくるからダメだ」キッパリ

 

「スザク様はよろしいのですか?」

 

「スザクにはお前がオブラートに説明しておけ、それにあいつは絶対に言いふらさないからな」

 

「わかりました、ではスザク様もお呼びいたします」

 

「ああ………………ナナリー様が、大人に………………実に喜ばしい、今年1年はいいことがありそうだ………そうだ!ルルーシュ様にも伝えなければ!!」

 

ルルーシュのもとへと走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルルーシュside

 

 

「ルルーシュ、次は何だったっけ?」

 

「次の授業はブリタニア史だぞ、宿題はやったか?」

 

「うん、ばっちりだよ」

 

スザクと話しながら授業の準備をしていたその時。

 

「ルルーーーーーーーーーーーーーシュううううううううううううううううう!!!!!(皇帝陛下ボイス)」

 

「ほぁっ!?」

 

「だ、誰なんだ!?」

 

シャルル!?なぜ日本に…………。

 

ズバァン!!

 

自動ドアがツキトの手によって無理やりこじ開けられ、俺の方に近づいてきた………………ってシャルルじゃなくてツキトかよ!!

 

「ルル……げほっげほっ!」

 

「お、おいツキト、どうしたんだそんなに慌てて…………」

 

ってかむせてる、いったい何があったっていうんだ………………。

 

「ルルーシュ!ナナリーさm…………ナナリーが!」

 

「なに!?ナナリーがどうした!?」

 

まさか気づかれたのか!?

 

「ぐぇ!?」

 

首を引っ張られ顔が近づく。

 

「ナナリー様が、大人になられました」

 

耳元でそう囁かれる。

 

「な、なんだって!?ほ、本当か!?」

 

「本当です、ナナリー様が体調が悪くて休まれたのを察した咲世子が発見しました………」

 

「そうか…………ツキト」

 

「お赤飯とオードブルは咲世子が用意します、スザクも呼ぶ予定です」

 

「それでいい、それにしてもついにナナリーも大人になったか…………」

 

「このツキト・アールストレイム、歓喜の極みでございます」

 

「ねえツキト、ルルーシュ、さっきから何の話を……」

 

「「スザク!!」」

 

「な、何かな?」

 

「「今日の放課後必ずクラブハウスに来い!!」」

 

「う、うん、わかったよ」

 

「「絶対だぞ!絶対だからな!!!」」

 

スザクに2人で釘を刺したあと、ツキトは教室から出る前に振り返り。

 

「では私は行く、くれぐれも内密にな」

 

「ああ、わかっているさ」

 

そう言って帰っていった。

 

「フフフ…………フフフハハハハハハハハハハハ!!!」

 

「る、ルルーシュ?」

 

「ん?どうしたんだスザク?」ニコニコ

 

「(怖いよ!笑顔が怖いよルルーシュ!)な、なんでもないよ…………」ガクガク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

 

 

 

ツキトside

 

 

「今宵はナナリー様がより一層大人へと近づかれた日として、私、ツキト・アールストレイムよりお祝いの言葉を送らせていただきまして、それを乾杯の音頭とさせていただきます、乾杯!」

 

「「「乾杯!」」」

 

「か、かんぱ…………うぅ////」

 

ルルーシュ、スザク、咲世子、私、そして主賓のナナリーの5人だけのささやかな祝いの会が始まった。

 

予想通りナナリーは恥ずかしそうだ。

 

「ついに来たんだなあ………………まだ子供かと思っていたんだが」

 

「私たちの知らないところでどんどん成長していってしまいますね………………悲しいような嬉しいような…………」

 

「俺も同じようなもんだ、ナナリーも、大きくなったなあ…………」

 

「ええ、アリエス宮の時はとても可愛らしかったのに、いつの間にかこんなにも美しくなられて…………ウッ…………グスッ…………長らく仕えてきた私としても嬉しい限りでございます」

 

「これからもナナリーをしっかり頼む」

 

「お任せくださいッッ」

 

ルルーシュと話が弾む、ナナリーを見ると咲世子とスザクと話しているようだ、咲世子がスザクに今回の祝いの会について超オブラートに説明しているのをナナリーが赤面して聞いているだけのように見えるが。

 

「そうなんだ、ナナリーも女の子(子供)から女性(大人)になったんだね、おめでとう」

 

「あ、ありがとうございますスザクさん」

 

「ナナリーに先を越されちゃったなあ、僕も頑張って大人にならないとね」

 

「スザクさんならすぐになれますよ」

 

「そうかな?」

 

「はい、スザクさんはしっかりしていますから、すぐに大人になれますよ、頑張ってくださいね」

 

「ありがとうナナリー、うん、頑張るよ」

 

「スザク、話の途中ですまんが、お前は来週あたりには大人の仲間入りだぞ?」

 

ナナリーとスザクの話を切ってそう言う。

 

「え?そんなに早く大人になるのかい?」

 

もしかして忘れてるのか?

 

「ああ、来週には……………式典があるからな」

 

「式典?何の式典なのですか?」

 

ナナリーが式典について聞いてきた。

 

「新しい政策の発表式典だよ」

 

とスザクが答える。

 

「どんな政策なのですか?」

 

「えっと、それは…………」

 

ナナリーの問いにスザクが詰まる、発表目前とはいえ国家機密だからな、そう簡単には言えないか。

 

「ナナリー様に話してあるはずですが、聞き覚えはございませんか?」

 

「…………………あっ、あれのことですね!いつ発表するんですか?」

 

ナナリーが内容を思い出して目を輝かせる、ほんま天使やで。

 

「8日後の正午より執り行いますが……………まさかお忍びできたりはしませんよね?」

 

「え?ダメですか?」

 

ナナリーがキョトンとした顔になる、おい皇族ならもっと頭使いんしゃい。

 

「ユーフェミア様やコーネリア様もいらっしゃいますので危険かと思われます」

 

「そう、ですか……残念です(ツキトさんのかっこいい姿を見ることができないなんて…………)」

 

「変装していくのはどうでしょうか?」

 

しょげたナナリーを見て咲世子が言った。

 

「……………それなら、たぶん」

 

「いってもいいんですね!!」ガバッ

 

身を乗り出して聞いてくるナナリー、近い近い、あ、いい匂いする。

 

「た、確かにいい案です、ですがやはり危険です、クラブハウスからテレビでご覧になられては?」

 

「嫌です、直接見たいです」

 

「うっ……………」

 

どうしても引かな………………いや待て、すでにルルーシュはユーフェミアに素顔を見せている、ならばいっそナナリーのことも見せてしまえばいいじゃないか、ユーフェミアがゼロがルルーシュだと言っていないことを考えればそうとう口が固いことがわかる。

 

……………かけてみてもいいかもしれない。

 

「………………わかりました、では変装してくださるなら、来てくださっても構いません」

 

「本当ですか!?やったぁ!」

 

「かわい………じゃなかった………………では式典終了後にある場所に来て欲しいのです」

 

「ある場所……………ホテルですか!?」

 

「そんなわけないでしょう!!ナナリー様がそういう思考を持ってると知って私今すっごく悲しいんですが!!!」

 

「ご、ごめんなさい………」

 

ええい!この純粋微淫乱もどき超絶美少女(嫁)め!

 

萌え殺す気か!!

 

 

(おいそこの変態待てやおい by作者)

 

 

「とにかく、場所はおって咲世子に伝えます、ナナリー様は咲世子から離れないようにしてくださいね」

 

「はーい」

 

咲世子がいれば大丈夫だろう、はぐれなければ。

 

とりあえずナナリーをユーフェミアに合わせて複雑な事情があるとでも言って存在を隠して貰えばいいか。

 

ルルーシュは………………どうせゼロとして派手な演出で登場でもするのだろう、原作にはない流れだが、ゼロが来ても来なくても、ユーフェミアは死なない、死なせない。

 

ルルーシュの妹を、ナナリーの姉を、私の妹代わりを、スザクの主を、死なせはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

 

翌日、昨日のあのちょっぴり恥ずかしいお祝いの会でのツキトさんの涙ぐんだ顔を思い出しながら生徒会室に入りました。

 

中にはミレイさん、シャーリーさん、ニーナさん、カレンさんの4人が先に来ていました、見事に女の子だけですね。

 

喋っているうちに私とツキトさんの仲についてのお話になって………………。

 

「で!?で!?どこまでいったの!?」

 

「お、落ち着いてくださいシャーリーさん」

 

「そうよシャーリー、ナナリーちゃん怖がってるわ」

 

シャーリーさんが私がツキトさんと、その………セッ………………そういうことをしたのか聞かれました。

 

「う、ご、ごめんねナナリーちゃん」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

「それでさ、シャーリーと同じこと聞くけどどこまでいったの?」

 

「ええ!?ミレイさんも!?ええっと、その…………………」

 

ミレイさんは味方だと思ってたのに………………。

 

「もしかしてもうオトナになっちゃった?」

 

「……………キスです…………」

 

「「「え?」」」

 

ミレイさん、興味津々のシャーリーさん、となりで聞いていたカレンさんの3人が私の顔を見て意外そうな顔をする。

 

「えっと、それはナナリーちゃんがまだしたくないっていう…………………」

 

「したいのにさせてくれないんです……………」

 

「「「「………………」」」」

 

パソコンに向かっていたニーナさんも私の顔を見て同情の目線で見てくる。

 

「は、ハグとかは………」

 

「子供の頃に何回かやったっきりです………」

 

「頭撫でたりは……………」

 

「全然です………」

 

「…………オ◯◯ーは?」

 

「ツキトさんのキスを思い出しながら毎日………………ってなんてこと聞くんですかニーナさん!!!」

 

「ご、ごめんなさい」

 

これじゃ私が変態みたいじゃないですか!!

 

「うーん、どうしてさせてくれないのかって聞いた?」

 

「何度かあるんですけど、理由が『20歳未満の男女が肌をか重ねるなど破廉恥極まりない!』って……………」

 

「「「「古っ」」」」

 

「私も『古い』とか言ったりお風呂上がりに下着で誘惑したりするんですけど全然ダメで……………………むしろ『風邪引いたらどうするんだ!!』って怒られちゃうんです」

 

「「「「(何よそれ、ベタ惚れじゃない)」」」」

 

「大事にされてるのはわかるんですけど、やっぱりツキトさんに汚してほしいなって」

 

「よ、汚してほしいって………………ナナリーちゃんも言うようになったわね」

 

「それくらい強気じゃないとツキトさんは襲ってくれないと思って………………これでも襲ってくれないなら、私はどうすれば…………」

 

やっぱり咲世子さんが言ってた通りマイクロビキニで無理やり添い寝した方が良いのでしょうか?

 

「ふむ、よし、今日のガールズトークの題名はズバリ!【ツキトさんに襲ってもらおう!】」

 

と高らかに言うミレイさん。

 

「内容に察しがついちゃうんだけど…………」

 

小声で突っ込むカレンさん、ニーナさんとシャーリーさんも頷いてますね。

 

「ナナリーちゃんがどうすればツキトさんに襲ってもらえるか、意見を出し合ってみましょう!」

 

「会長、生徒会の仕事………………」

 

「今はナナリーちゃんの悩みが先よ」

 

生徒会の仕事のほうが先だと思うのですが。

 

「じゃあまずはシャーリーから!」

 

「私ぃ!?……………う、うーん、やっぱり恋はパワー!ってことで押していけばいいと思うの!」

 

「具体的には?」

 

「こう、大胆な服装で誘惑したりすれば………ツキトさんも落ちるはずよ!」

 

シャーリーさんの言ってることは咲世子さんとほとんど同じですね。

 

咲世子さんは【布面積の少ない服で抱きつけば落ちます】って言ってましたし、やっぱりマイクロビキニ作戦なんでしょうか。

 

「ふむふむ、シャーリーは大胆な服装で誘惑作戦ね、ルルーシュにやるつもりなの?」

 

「そそそそんなわけけないじゃないですか!!!」

 

あ、お兄様にする予定だったんですか。

 

「それじゃあ次はカレン!」

 

「また前みたいに決闘で決めればいいんじゃないの?勝った方が命令できるって条件で」

 

「あ、それは無理です」

 

「どうして?」

 

「ツキトさんが本気出したら私勝てないので」

 

「そんなに強いの?」

 

「たぶん、剣の腕で言ったら最強だと思います」

 

「最強って………」

 

「でもツキトさんはそう思ってないみたいです、自分はラウンズ最弱だって言ってましたし」

 

ツキトさんにかかればどんな相手でも一瞬で倒してしまうのに、どうしてなんでしょうか。

 

「最強の剣士が最弱ねえ、とりあえずカレンの案は無理そうね、次はニーナね」

 

「……………お風呂中に突撃」

 

ニーナさんはパソコンに視線を固定したままそう言いました。

 

「あ、それ1回やりました」

 

「やったの!?」

 

シャーリーさんが驚いて椅子から立ち上がる。

 

「はい、でも入った時にはすでにお風呂から上がってて、髪をすいてあげたりしたんですけど………………」

 

「無反応だったと………………これは強敵ね〜〜」

 

髪をすいてあげたら微笑んでいましたけど………………あれはリラックスしてたからですよね、あれ?じゃあ無反応じゃなかったってこと?

 

「お風呂上がりに目の前に女の子がいて反応しないって……………………ツキトさんって女の子なの?」

 

「そんなこt………………あっ」

 

「え?なになに?」

 

「…………………………ツキトさんが男の子だっていう証拠がありません」

 

「「「「はあ!?」」」」

 

「小さい頃から一緒にいて、喋り方とか態度とかが男の子っぽかったのでずっと男の子だとおもってたんですけど、もしかしたら……………」

 

「ちょちょちょちょ!!ちょっと待って!!ナナリーちゃんはツキトさんが女の子かもしれないって言いたいの!?」

 

「………………可能性はあります」

 

「…………………確かに、背も低いし肩幅も狭い、男の子にはとても……………」

 

「もしツキトさんが女の子だったら、ナナリーちゃんは女の子とキスしたことに…………」

 

「い、言わないでくださいシャーリーさん!!」

 

「ご、ごめん…………」

 

「でも女の子っていう確証もないわ、私たちじゃ調べようもないし」

 

「ねえナナリーちゃん、お風呂上がりのツキトさんってどんな姿だったの?」

 

「えっと、上半身から下半身までバスタオルで覆ってて……………あっ」

 

「決まりね、ツキトさんは男の子ではなく女の子よ」

 

「で、でもバスタオルの巻き方くらいじゃ………………」

 

「脱衣所でお風呂から上がってきたツキトさんは全身を隠すようにバスタオルを巻いていた、とっさに隠すのなら下半身でいいはずよ」

 

「な、なにか特殊な事情があって…………」

 

「それならナナリーちゃんに話していてもいいはずよ、そういう話は聞いてない?」

 

「………………いいえ、何も聞いていません」

 

「そ、それじゃあ………………ツキトさんは、レズビアン、ってこと!?」

 

「そんな……………………いえ、それはそれで、ありです!!」

 

「受け入れちゃうんだ!?」

 

ツキトさんが女の子でも、私は愛せます。

 

「おい」

 

今の声……………ツキトさん!!

 

「ツキトs「さっきから変な妄言が廊下まで聞こえているんだが、もう少し自重せんか、それと私は男だ男」コツン

 

生徒会室に入ってきたツキトさんは私の頭をコツンと叩いて撫でながらそう言う。

 

あ、撫でられるのって気持ちいいです………………。

 

「ツキトさん!?さ、さっきのはえっと…………」

 

「気にしちゃいないさ、女に間違えられるのは初めてではないしな」ナデナデ

 

「そう、ですか……それでもごめんなさいツキトさん、疑ったりして」

 

「気にするな、そんなことくらいで私は怒ったりしない」

 

ツキトさんに謝る、ツキトさんは頭を撫でながらそう言う。

 

お兄様にもよく撫でられることはありますが、ツキトさんに撫でられるとドキドキします………………。

 

「あ、じゃあツキトさんはどういうことされたら怒るんですか?」

 

「ちょっ!?シャーリー!?」

 

「シャーリーさん!?」

 

シャーリーさんが自分から地雷を踏み抜きに行ってしまいました………………。

 

「そうだな………………当たり前だが、ナナリーが傷つけられたら怒るな、あとは……………妹関係だと怒らないでいられる自信がない……」

 

ツキトさんの妹さん……………たしかアーニャさんですね、私と同い年の人でしたね。

 

「妹さん…………それってアーニャ・アールストレイム卿のこと?」

 

「ああ、最近ナイトオブシックスになったようだし、アールストレイム家の株も上が…………兄として誇らしいよ」

 

先に家のことを考えるあたりツキトさんらしいですね、結婚する時は挨拶に行った方が良いのでしょうか?あ、でも駆け落ちっていうのも………………。

 

「本国で陛下の警護をしていると聞くが、実に名誉なことだ、これを機によい夫を見つけて欲しい」

 

撫でるのをやめて椅子に座ったツキトさんは優しい顔になる。

 

「…………妹には、幸せになって欲しいしな」

 

そう言ったツキトさんの顔はとても優しいものでした。

 

ズキリッ

 

あれ?なんで?胸が苦しい…………これが嫉妬?ツキトさんがアーニャさんのことを気にかけていることに嫉妬してしまったの?

 

「だが、妹を嫁に出すのは気が進まんな」

 

ズキズキッ

 

「あいつは可愛いからな、本国でもモテるんだろう、妹じゃなかったら私も惚れてたかどうかわから…………」

 

プッツン

 

「ツキトさんはそんなに妹さんが好きなんですか?」

 

ギュッ

 

「え?」

 

ツキトさんの腕を握る。

 

「ええそうでしょうね、だってツキトさんの妹さんですもの、可愛いに決まってますよね」

 

ギチギチ

 

その手に力を込める。

 

「お、おいナナリー、少し痛い…………」

 

「ツキトさんはお嫁さんの私より血の通った妹さんが好きなんですかそうですか!!!」

 

「いや血は通ってな………イテテテテテ!痛いぞナナリー!私は弱いんだからそんな強く締めるな!!」

 

「テレビで見たときは確かに可愛いなとは思いましたよ!ツキトさんが好きになるのも納得ですよ!!」

 

「おま、嫉妬してるのか!?」

 

「悪いんですか!?嫉妬させたツキトさんが悪いんです!!」

 

「い、いや、悪いとは思っていない、ただ…………」

 

「なんですか!?」

 

爪が食い込んでツキトさんの腕から血がでる。

 

「その…………嬉しいなって…………」

 

「ふぇっ?」

 

腕を握る力が抜ける。

 

「嫉妬されるほど好きになられるのは…………正直、嬉しい……」

 

ツキトさんは微笑みながらそう言った…………そのとき腕に違和感を感じて見てみるとツキトさんの血が腕を伝って………え?

 

「あ、ああ…………ご、ごめんなさい、ツキトさん」

 

「?……ああ、腕を締めたことか、大丈夫だ、あとは残るかもしれんが別に…………」

 

「ち、血が……」

 

「血?……………おお、すごい握力じゃないか」

 

ツキトさんが微笑んだまま腕についた血を見て笑う………………少し怖い。

 

「ば、絆創膏を………その前に消毒…………えっとガーゼは………」

 

「慌てるな、もう傷口は塞がってる」

 

「え?」

 

そう言われて慌ててツキトさんの腕を掴む、見ると血がついてるだけで傷口は塞がっていた。

 

「ど、どうして?」

 

「おっと、動くなよ、今血を拭くから」

 

そう言ってツキトさんはハンカチで私の血の付いた手を拭いていき、最後に自分の手を拭き取った。

 

「服についたら大変だからな、それに…………私の血にまみれたナナリーは見たくないしな」

 

そう言って微笑むツキトさん、あ、胸の奥がポカポカしてきます、お腹のあたりもキュンキュンしてきました。

 

ツキトさんの血にまみれる…………ありです!

 

「ツキトさん………」

 

「ん?どうし…………おっと、キスはダメだ」コツン

 

「あぅ…………」

 

今は完全に意識が外にあったはずなのに……………。

 

「そういうことは、もっと人がいないところでするものだ、もっとも、私はそういう状況でもする気はないが」

 

そう言われて周りを見るとミレイさんやカレンさんがこっちを見てニヤニヤしていた。

 

シャーリーさんとニーナさんは顔を真っ赤にしていた。

 

「ふふふ………………いやー青春ねーモラトリアムねーカレンちゃん?」ニヤニヤ

 

「そうですねー会長」ニヤニヤ

 

「あ、あんな恥ずかしいセリフを堂々と…………ううぅ/////」

 

「……………//////」

 

「え、あ、ちょっと皆さん…………」

 

「ナナリーちゃんのエッチ!ハレンチ!」

 

「えぇ!?」

 

顔を真っ赤にしたシャーリーさんがそう叫ぶ、皆さんの前でいちゃついてはダメですね、特にシャーリーさんはお兄様が………………。

 

「お、そろそろ時間か………ナナリー、私は少し用事があるから先に帰る」

 

「は、はい、お気をつけて」

 

「そちらもな」

 

ツキトさんは生徒会室を出て行ってしまった、もう少し一緒に居たかったのに。

 

「ナナリーちゃん!!」

 

「シャ、シャーリーさん!?」

 

シャーリーさんにいきなり肩を掴まれて驚く。

 

「ルルをください!!」

 

「…………本人に言ってください」

 

なんで私に言うんですか……………。

 

「うぅ…………早くしないとルルが…………」

 

「頑張ってください」ニコッ

 

「…………はい」

 

ごめんなさいシャーリーさん、私はツキトさんもお兄様も大好きなのでそう簡単にはあげないのです♫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

 

生徒会室でおしゃべりをしているときにルルーシュからメールが届いた、どうやら藤堂を救い出したいらしい。

 

ルルーシュの部屋に入るとルルーシュとC.C.がすでにいた。

 

「来たか、メールの内容は見たか?」

 

「はい、奇跡の藤堂を救出するのですね」

 

「ああ、そして騎士団の戦力に加える」

 

原作通りの流れだな。

 

「それでは、私はどのように?」

 

「騎士団が襲うときに出撃しないでくれればいい、お前のKMF【ガウェイン】をメンテ中にしておけばいい」

 

「はっ!」

 

私はロイドとともに司令塔で高みの見物か、楽でいいが、こうも出撃が少ないと本気でなまりそうだ。

 

「私はどうすればいい?」

 

「C.C.は今後騎士団内で重要な立ち位置の人物になってもらう、いわば側近だ」

 

「ほう?」

 

「お前は俺がゼロとして騎士団に行くときそばにいろ、騎士団で俺を呼ぶときはゼロと呼べ、話し方も呼び捨てでいい」

 

「私をそばに置く意味はなんだ?」

 

「ボディガードみたいなものと考えておいてくれ、それから非常時にはKMFにも乗ってもらうぞ」

 

「そうか、任せておけ」

 

C.C.をゼロ直属の人間としてそばに置く意味………………ボディガードはカレンで足りる、だとすると参謀か?お飾りの参謀を置くというのか?さすがにないか、だとすると、顔の知れた信頼できる人間を置きたいわけか。

 

ボディガードは半分建前だろう、もう半分は相談役といったところか。

 

「では今夜騎士団のところに向かう、ツキト、あれを出してくれ」

 

「はっ」

 

ルルーシュの部屋に仕掛けられたカラクリを動かし壁の中からC.C.のチャイナドレスっぽい衣装を取り出す。

 

「なんだそれは?」

 

「ツキト、説明を」

 

「はっ、C.C.、これはいたって普通の衣装だ、騎士団の紋章が刺繍されたただの服だ、防弾性も何も考えていない」

 

「そんなの見ればわかる」

 

「この服は遠くからでも目立つ、例にあげるなら騎士団内でのナイトオブラウンズ的な立ち位置だ」

 

「……………なるほど、ゼロと同じく派手な衣装を着ていればそれがゼロの信頼の証だと思わせるわけだな?」

 

「そうだ、俺の思っていたデザインより少し過激だが………………まあ、C.C.を騎士団に認めさせるにはこれくらい派手でなければな、着替えたら出発するぞ」

 

「わかりました、C.C.、着替えたら言ってくれ、咲世子はいるか?」

 

C.C.に衣装を手渡しつつ天井に向け咲世子を呼ぶ。

 

「お呼びでしょうか」

 

天井の板が1枚外れたと思ったら咲世子がでてきて着地と同時に直立不動の姿勢をとった。

 

「車の運転を頼む、それからC.C.の着替えを手伝ってやってくれ」

 

「わかりました、ルルーシュ様とツキトさんは先に車へ」

 

そう言われてクラブハウスを出て車に乗り込む、そのときルルーシュが話しかけてきた。

 

「なあツキト」

 

「なんでしょうか?」

 

「…………咲世子って一体何者なんだ?」

 

「……………………私にもわかりません、ですがこれだけは言えます……………………彼女を本気で敵に回せば、ブリタニアは数日で無くなるかもしれません」

 

割とこの発言は本気だ、咲世子相手に3日持てばいい方だと思う。

 

実際、咲世子はどこにでも潜入できる、ブリタニアの最重要機密施設だろうがなんだろうが自分の庭のように歩き回る、咲世子が陛下を殺せと命じられれば確実に殺すだろうな、どこぞの蛇顔負けなくらい正確に、そして絶対見つからずにな。

 

「………………味方でよかったな」

 

ルルーシュもそれをわかっているようで安心した、咲世子は恐ろしいが今は味方であることを心の底から感謝しなければならない。

 

「まったくです」

 

コードギアスの世界で一番強いのは咲世子だ、スザクでもイレギュラーな私でもなく咲世子が一番強い。

 

2分くらいして咲世子とC.C.がでてきた。

 

「お待たせいたしました」

 

いや早すぎんだろ。

 

と、思いつつC.C.を見る、ふむ、似合ってるな。

 

「なあツキト、少し露出が多くないか?」

 

「お前の肌は白だ、その服は色が黒なんだから露出を多めにしてエロスを出すのが当然だろう」

 

「この変態め」

 

C.C.に睨まれる。

 

「そう睨むな、いざという時ようにタキシードモデルもある」

 

「…………………それは下半身が網タイツのやつじゃないだろうな?」

 

「よくわかったな、ついでにバニーカチューシャ付きだぞ」

 

「普通のはないのか普通のは!!」

 

いい加減C.C.が切れた、ふむ、前かがみになるとより一層エロスが増すな。

 

「はあ、仕方ないな…………咲世子、すまないが3番目の服に着せ替えてきてくれ」

 

「わかりましたが………ルルーシュ様」

 

ああ、ルルーシュの命令じゃないと動けんか。

 

「ツキトの指示通り動いてくれ、まだ時間はある」

 

「わかりました、すぐに」

 

そう言って咲世子はC.C.を引っ張ってクラブハウスの中に入っていった、引っ張られた時のC.C.から悲鳴が聞こえなかったことに寒気を感じつつナナリーとお揃いの婚約指輪を眺めてまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくしてC.C.が黒い制服姿で現れた。

 

長袖長ズボンで全体的に黒で装飾の多い服装だ、参考としてはアニメの行政特区日本の発表式典にてC.C.の着ていた白い正装だ。

 

「なんだ、まともなのがあるじゃないか」

 

「それはメディア用のやつだったんだが、この際それでいい」

 

「最初から妥協しとけばこんな時間は取らなかったと思うんだが?」

 

C.C.が車に乗り込みながらそんな愚痴をこぼす。

 

「妥協は敵だ、常に最善を目指し全力で挑まねばならない」

 

ルルーシュがC.C.の愚痴にそう返す、全力ってお前…………ジェレミアかよ。

 

「それでは向かいます」

 

「ああ」

 

咲世子が車を発進させる、目指すはゲットー付近の騎士団拠点だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツキトさん?お兄様?咲世子さんもいない………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車に揺られること数十分、やっと拠点についた。

 

咲世子を車の見張りにつけルルーシュとC.C.と私の3人で拠点に向かう。

 

「C.C.とツキトは俺の合図で入ってこい」

 

「はっ」

 

「わかったよ」

 

ルルーシュが仮面を被りゼロとなって拠点に入っていった。

 

「ツキト」

 

「どうした?」

 

「なぜ女装なんだ?」

 

C.C.が私を指してそう言った。

 

C.C.の言う通り私は女装している、髪は銀、目は茶色のブリタニア人と日本人のハーフを意識してみた。

 

「似合っているだろ?」

 

「その通りだが、なんでツキトは私服なんだ?」

 

服装はそこそこ収入があれば買えるような服を選択した、ゼロやC.C.のような派手な衣装も考えたが、【内部工作員】の設定だからこれで良いという結論に至った。

 

「私の役は内部工作員だ、実態を掴みづらい私服のほうがいいと思ってな」

 

「なるほどな、だが男だとバレたらどうする?」

 

「バレないと思うよ、だって今の私はトウキョウ租界にいそうな普通の女の子なんだよ?(女声)」

 

「いきなり声が変わると気持ち悪いな…………」

 

「内部工作員なんだ、声ぐらい変えられないとな」

 

「お前本当に人間か?」

 

「いや、お前と同じ人外だ」

 

まあ一番の理由は私が女だと思わせることだけどな。

 

ゼロの周りに美女(美少女?)がいることでゼロの質を上げることが目的だ、ゼロの思想に惹かれレジスタンスとなったブリタニア人………………響きが良いし、最悪ゼロが目的のためならブリタニア人でも味方につける人間だと思われればそれでいい。

 

今の騎士団には質も量も圧倒的に足りない、日本人の中から人員を集めていたって限界がある、だから目的のためならブリタニア人を受け入れる、そうすることによって騎士団がただの破壊主義的なテロリストではないと民衆に思い込んでもらう、それがルルーシュの最終的な(プロパガンダ)計画だ。

 

 

 

ピピピピッ

 

 

 

合図がきたか。

 

「お、きたか」

 

「じゃあ、行こっか(女声)」

 

「そうだな」

 

拠点の中に入る。

 

入ってすぐ長い通路があってしばらく進むと電球の光が見えてきた。

 

目を凝らすとゼロが騎士団員も前で立っているようだ。

 

「(どっちが先に出る?)」

 

「(ちょっと遊んでくるから先に行っててくれ)」

 

「(そうか)」

 

短いやり取りを終え、C.C.が先に姿を現した。

 

「紹介しよう!彼女が私の協力者の1人だ、彼女には騎士団発足のずっと前から様々な作戦を考案してきた」

 

C.C.の登場にざわめきがはしる。

 

「C.C.だ、昔ゼロに誘われて以来いろいろやってる」

 

「ぜ、ゼロ、もしかしてその娘は…………」

 

「諸君らの知っての通り、彼女はブリタニア人だ」

 

ざわめきが一層大きくなる、ゼロがいきなりブリタニア人を連れてくればそうなるのも当然か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カレンside

 

 

一瞬理解が追いつかなかった。

 

ゼロが紹介したい人がいると言って拠点に集まって、どんな人が来るのだろうと思って待っていた。

 

「紹介しよう!彼女が私の協力者の1人だ、彼女には騎士団発足のずっと前から様々な作戦を考案してきた」

 

緑髪の女が入ってきたところでゼロが紹介をし始めた、騎士団が出来る前、私たちに接触する前から一緒に活動していたと聞かされた。

 

でも、女の姿は、まるで………………。

 

「ぜ、ゼロ、もしかしてその娘は…………」

 

仲間の1人がゼロに聞いた。

 

「諸君らの知っての通り、彼女はブリタニア人だ」

 

ゼロが予想通りの、でも決して望んではいなかった言葉を口にする。

 

私も半分はブリタニア人だ、ゼロがそんな私を騎士団の一員として見てくれているのは嬉しかった。

 

でもその理由があの女にあるのだと思うと無性にムカついた、私がゼロの1番なんだ、ゼロを守るのは私なんだ!!

 

「では、もう1人の協力者を紹介しよう…………………ん?」

 

ゼロがもう1人を呼んだが…………………入ってこない?

 

「C.C.、あいつは?」

 

「あいつか?ちょっと遊んでくるって言ってたぞ」

 

な!?ゼロにタメ口!?くぅーーっ!う、うらやま……………………羨ましい!!!

 

あんなそばであんな近くでゼロと話すなんてえええええ!!!

 

「はぁ、相変わらずの自由奔放ぶりだな」

 

ゼロがため息を吐いたところは新鮮だったけど、思い切って聞いてみることにした。

 

「あの、ゼロ」

 

「どうしたんだカレン?」

 

「もう1人の協力者というのは?」

 

きゃっ、聞いちゃった。

 

「もう1人の協力者は非常に優秀な内部工作員だ、ナリタでの輻射波動機構を用いた土石流、あれをブリタニアの本隊に直撃するように仕向けたのはあいつだ」

 

「ええ!?そんなことができるんですか!?」

 

ありえない!ブリタニアの本隊といえばコーネリアが総隊長のはず、つまりコーネリアに進言して聞き入れられたってこと、そんなことできるはず………………。

 

「おい小娘、お前今できるはずがないって思っただろう?」

 

考えているとゼロの協力者、C.C.(?)に話しかけられた。

 

「そ、そうだけど………っていうか私の名前はカレンよ」

 

「そうか、で、カレン、お前今できるはずがないって思っただろう?」

 

「そりゃそうよ、コーネリアに進言するならまだしも、聞き入れられるなんてことまずないわよ」

 

「おいおい忘れたのか?ゼロは不可能を可能にする男だぞ?その1番近くにいたあいつが、コーネリア率いるブリタニア軍主力部隊に土石流をピンポイントでぶち当てるなんてこと、造作もないことなんだよ」

 

1番近くにいた、って…………C.C.は1番じゃない?今もゼロが待っている方が1番?

 

………………どんな奴なのかしら、ゼロの1番信頼できる人、気になる。

 

「ああそうそう、お前らこんな噂を聞いたことないか?」

 

「どんな噂なんだ?」

 

「【エリア11の副総督がイレブンの優遇政策を考えている】なんていう噂だ」

 

「それがどうかしたの?」

 

「その優遇政策を作るよう仕向けたのもあいつなんだよ」

 

「「「「「!?」」」」」

 

な、なんてやつなの、ゼロの右腕は政治にも関わっている人間ということなのかしら、それなら内部工作もしやすいけど…………いったいこの人たちは何者なの?

 

「む、きたか、遅いぞ」

 

ゼロがいきなり私たちの後ろのほうを見ていった。

 

「ごめんなさいね、お買い物してて……」

 

後ろから声がして驚いて振り向くと困ったような笑みを浮かべる銀髪の少女がいた、少女は買い物に行っていたらしく右手にはビニール袋が下げられている。

 

「お前を紹介しようと思っていたんだから急にいなくなるな」

 

「本当にごめんなさいね、ちょっとお菓子買いに行ってきたの、はい、安物だけど」

 

ビニール袋から大きめの箱を取り出して渡してきた。

 

「あ、ありがとう?」

 

「はい、これからよろしくお願いしますね」ニコッ

 

少女が微笑んだ瞬間にズキューンという音が聞こえた気がした。

 

「改めて紹介しよう、彼女が私が最も信頼を置く人物だ、内部工作員として古くより私の手助けをしてくれたパートナーだ」

 

「ぱ、パートナー…………」

 

「もぐもぐ…………ふぇ?」

 

こんな…………こんな、椅子に腰掛けてメロンパンを頬張る少女がゼロの右腕………………。

 

「で、でもゼロ、本当にこんな子供がゼロの右腕なのか?」

 

「確かに君たちの疑問はもっともだ、ということで、そろそろ返してあげたらどうだ?」

 

「「「「「え?」」」」」

 

【返してあげたらどうだ?】ってどういう意味?

 

「はーい」

 

返事をしたのはさっきの少女、あの子何か盗んで…………。

 

「はい、カレンさん」

 

そう言って少女は私に紅蓮の起動キーを手渡して…………起動キー!?

 

「なんであんたが!?」

 

少女の手から起動キーをひったくるように奪う、改めて見てみると確かに紅蓮の起動キーだ。

 

「い、いつの間に…………」

 

「カレンさん脇が甘いよ〜、そんなんじゃすぐ死んじゃうよ?」ニコッ

 

にこやかに微笑む少女、言ってる言葉と表情の違いに寒気を感じた。

 

視線を下げると少女の手にコイルガンの銃身部分が握られているのが目に入った。

 

「相変わらず手グセが悪いな」

 

「えへへ〜ごめんなさ〜い」

 

悪びれた様子のない顔をゼロに向けたままコイルガンが返却される。

 

勝てない、勝てる気がしない。

 

「これで彼女たちの能力はわかってくれたと思う、では会議を始めよう、全員席についてくれ」

 

ゼロの指示に従って座る。

 

「C.C.、書類を配ってくれ」

 

「めんどくさい」

 

「じゃあ私がやる〜」

 

なんというか…………落ち着いてみると親子に見えないことも………………いや、ないない、やっぱり見えないわよ。

 




艦これ春イベントE-1攻略して放置してたらイベント終わってた件。



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『喪失』してしまった『モノ』

ツキトside

 

 

 

やぁ、女装ツキトだ。

 

現在騎士団の拠点内で会議に参加中だ。

 

ゼロが説明する中、私は椅子に座ってメロンパン(3個目)を頬張りながら足をプラプラさせて幼さを出しながらC.C.と話していた。

 

「(私たちは大人気だな)」

 

「(こんな姿(女装)で人気になっても嬉しくない)」

 

「(そんな不機嫌な声で言われても、見た目がそれだから怖くないぞ)」

 

「(自覚してる、やっぱりミステリアス系美女がよかったか?)」

 

「(残念、その役は私で埋まってる)」

 

「(確かにな)」

 

「(いや、肯定されても困るんだが…………)」

 

「(まあミステリアス系美女なんて役は私には似合わんしな)」

 

「(ツキトはどちらかというとミニスカートを履いてアイドルでもやってたほうが似合うかもな)」

 

「(おいやめろ、ルルーシュ様もそうだがここ最近身近な人間の予測がよくあたるんだ)」

 

「(ほう?じゃあ私が予測してやろう、近い将来お前は女装してテレビに映ることになる)」

 

「(やめろおおおおおおおおおおおおお!!!!!)」

 

この鬼!悪魔!美女!!

 

「…………というわけで、8日後に行われる式典には私とC.C.が参加する、なにか質問はあるか?」

 

会議がひと段落ついたところか。

 

「KMFに乗って行くんですか?」

 

カレンがゼロの身を案じたのかKMFでの移動かどうかを聞いてきた。

 

「そのつもりだ、C.C.が操縦するサザーランドに乗って行く」

 

「サザーランドでは危なくないですか?性能も低いですし…………私の紅蓮のほうが…………」

 

「ふむ……………カレン、我々はそうやすやすと主力部隊を出すわけにもいかん、主力部隊は有事のときに動けなくてはならんからな」

 

「わかりました」

 

カレンは納得しきれてはいない顔で着席した。

 

「では次に、藤堂の救出の件だが…………………明後日、襲撃を行う」

 

「明後日!?」

 

明後日に?時期尚早では………………ああ、そういうことか。

 

明後日はユーフェミアが会場で式典の下見とリハーサルを行う日だったか、そのためエリア11の戦力のおよそ1/4ほどがそこに警備として組み込まれる。

 

その戦力はどこからくるのか?それはエリア11のいろいろなところからだ。

 

北はホッカイドウ南はオキナワ、キュウシュウから人員が割かれる。

 

もちろん、藤堂が捕まっている施設からもある程度割かれる。

 

会場から牢獄まではランスロットのフルスロットルでも直線距離で20分はかかる、最低でも20分以内でやらなければいけないわけだ。

 

この時間を少しでも伸ばす方法があればいいんだが………………無理だろうな。

 

とりあえず伝えておくか。

 

「ゼロ〜」

 

「どうした?」

 

「ランスロット……あの白兜が騒ぎを聞きつけてこっちに来るまでだいたい20分くらいなんだけど〜」

 

「うむ」

 

「これ以上伸ばすのは厳しいと思う〜」

 

「いや、20分もあれば充分だ…………タイムリミットがわかったところで作戦を説明する、今作戦は四聖剣を先頭に立て、敵KMFの相手をしてもらう、その隙に私を含む少数部隊が藤堂を救出、その後藤堂を戦力に加え、敵を掃討しつつ退却、大まかにはこんな感じだ」

 

「シンプルだね〜」

 

「まあな、そのほうがいいだろう」

 

「まあね〜」

 

「(ずいぶんと役に身が入ってるじゃないか?)」

 

「(羞恥心で死にそうだ)」

 

「(死なない体で何を言う)」

 

「(例えさ、死にたくなるほど恥ずかしいって意味だよ)」

 

私じゃなかったら死んでた。

 

「………………以上だ、何か質問はあるか?」

 

「特にありません」

 

「そうか…………では今日は解散とする、全員、明後日に備えよ」

 

「わかりました!」

 

カレンは嬉しそうに返事をする、他のメンバーや四聖剣が椅子から立ち上がって会議室を後にする。

 

その様子を注意深く見る。

 

裏切りを企んでいる者はいないか?ブリタニアのスパイはいないか?私の正体に感づいた者はいないか?…………など、幼い少女の濁りの無い瞳で探る。

 

幸いにも、そういう人間がいなかったのはラッキーだった。

 

死体の処理はできればしたくない、いや埋めるだけなんだがな、スコップ一本で掘るのは結構キツイんだよ、あれ。

 

「ゼロ〜、もういい〜?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「…………ふぅ、この喋り方は疲れます」

 

「もし見つかったら大変ですから」

 

声はそのままに口調だけ戻す、声を変えるくらいは造作もないこと、息をするように変えられるし、やろうと思えば最大5人の声で同時に話せる。

 

ただし、口調は意識しなければ難しい、もっと練習が必要だな。

 

「では、帰るとしよう………………そういえば、どう呼べばよかったんだ?」

 

私のことを終始「あいつ」とかしか呼んでないしな。

 

「本名以外ならば、どのようにでも」

 

「ふむ、では、お前は今日から【エリー】だ」

 

「仰せのままに、我らが指導者、ゼロ様」

 

エリー………………特に原作の人物と名前がかぶるわけでもないか。

 

騎士団の拠点を出て、咲世子の待つ車へと乗り込む。

 

「出してくれ」

 

「はい」

 

咲世子が車を発進させる。

 

…………今回の接触が、予定通りにことを運ぶ布石になってくれるといいんだが…………。

 

あの接触は、ルルーシュの考えとは別に、私の考えも含まれている。

 

ルルーシュの考えは、ゼロに優秀な直属の部下がいるということ、その部下が美少女&美女であることをアピールするのが大まかな狙い。

 

まあ、さっき行ったこととほとんど一緒だ。

 

そして、私の考え、今回バレてしまう危険を犯してまで変装して接触した狙い、それは私自身が騎士団の幹部の立ち位置としていることで、ある程度の命令権を持つことができるからだ。

 

この命令権を、【ガウェイン】を運び出すのに使う。

 

計画はこうだ、第6世代KMF【ガウェイン】は、メンテナンスのため各パーツごとにオーバーホールされる。

 

これを整備班に化けた騎士団がトラックに積み込み、施設に向かうと見せかけてそのまま逃走、藤堂を救出した騎士団本隊と合流し、ラクシャータが組み立てる。

 

目的は、まあ、わかると思うが、戦力の強化、及び、ルルーシュの生存率の強化だ。

 

純国産KMF【ブライ】は、性能は高いが、所詮は第5世代、これから増えていくであろう、飛行タイプのKMFに対応するために、ガウェインのフロートユニットの解析は急務、最悪、フロートユニットだけでも持ち帰ることができれば、騎士団の戦力は大幅に強化できる。

 

たとえフロートユニット単体であったとしても、その価値は、サクラダイト何10トンより、重い。

 

そのためにも、藤堂救出作戦の開始までに、暇な騎士団員を集めなければ…………。

 

「ツキト、ついたぞ」

 

「え?あ、はい」

 

考え事をしていたら、すでにクラブハウスの目の前だった。

 

集中のしすぎだな。

 

車を降りる、咲世子は車を隠すために1人乗ったまま発進させた。

 

クラブハウスに入る、ナナリーは起きていないようだな。

 

「C.C.は部屋に戻って咲世子を待て、ルルーシュ様は…………」

 

「俺は自分で着替えられる、ツキトも早く着替えたほうがいい、音に気がついてナナリーが起きるかもしれない」

 

「わかりました」

 

部屋に戻り鍵を閉め、着ていた服を脱ぎ捨てると、部屋についたトイレの洗面台で化粧を落とし、眼帯をつける、パジャマを着て部屋を出る、さっきまで着ていた服を洗濯機に放り込む、これでよし。

 

さて、今日はもう寝るか。

 

そう思い、部屋に戻ろうとしたところ、何者かに腕を掴まれる。

 

「っ!?」

 

「お許しください」

 

振り払おうとした瞬間、いきなり目の前に現れた咲世子によって、意識を刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………っ!」

 

朝か?

 

ここは…………私の部屋、にしては少々、少女趣味すぎる、いったい誰の部屋だ?

 

咲世子…………はないだろうな、もし、そうだとしたら………………すっごく萌える。

 

というか、何処と無く既視感が…………あ、この部屋はナナリーの部屋だな。

 

最近すっかり立ち入ることがなかったから、忘れていた。

 

この視点にも既視感があると思ったら、また私は拘束されているのか、この結び方、咲世子だな。

 

今度はいったいなんなんだ?さっさと起きたいn……あっ。

 

「すぅー…………すぅー…………」

 

ふと視線を横に動かすと、そこには寝息を立て、安らかに眠るナナリーの姿が。

 

え?まさかの朝チュン?いやいやないない。

 

おおかた昨日の夜、添い寝したいとか思って咲世子に私を拘束させたのだろう、私が断るのを知っての計画的犯行か。

 

「すぅー…………ん……ちゅきと、しゃん…………」ギュ

 

噛んだ、抱きつかれた、可愛い。

 

しかし………………2度目ともなると逆に冷静になるな、頭がおそろしく覚めている。

 

ナナリーのおかげで、体は温かい。

 

体は温かい、たしかに温かい、が、冷静すぎて逆に頭が寒い。

 

「んぅ………………ツキトさん?」

 

ん、起きたか。

 

「おはようございます、ナナリー様、さっそくでわr」

 

「ちゅ〜〜♫」じゅるるるる

 

「んーー!!んーーーー!!!」じゅるるるるるる

 

寝起きでディープキスはやめろ!朝っぱらから心筋梗塞にでもする気か!!

 

「ん……ふっ…………」ぢゅるるるるるるる!

 

なんか音変わった!?まずい!このままじゃナナリーに呑まれ…………

 

「はっ………ん……ぷは…………はむ…………ふっ……は…………」ぢゅるるるるるるる!

 

あ、これもう無理だ、キスしてるだけで頭が真っ白になってきた。

 

今日は休もうそうしよう………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとしきりナナリーに絞られ、咲世子に解放され、その後10分でなんとか鬱状態から持ち直した。

 

これで私も非童貞の仲間入りか…………一生童貞でいるつもりだったんだがなぁ。

 

まあそれも、今となってはすでに過去。

 

私の注意力不足と度重なる『お預け』が招いた結果だ、ナナリーを責めるのはお門違いだ。

 

無理やりの拘束も怒ろうとは思ったんだが、理由を聞かされては怒る気にはなれんかった。

 

『夜中に目が覚めて、お兄様やツキトさんがいなくなってて…………私、怖くて…………』

 

それで、添い寝したかったが、どうせ頼んでも断られると思い、咲世子に頼んで拘束したのだそうだ。

 

これでもなお怒れるやつがいるならそいつを消しとばしてやる。

 

っと、そんなことを考えていたらもう教室か。

 

「おはよう、ルルーシュ、スザク」

 

「おはようツキト」

 

「おはよう、なんか疲れてない?」

 

「気にするな、ベッドから落ちただけだ」

 

「怪我とかはない?」

 

「少し腰が痛いくらいでなんともない、それより、ナナリーを見なかったか?」

 

「いや、まだ見てないけd「お兄様!」

 

スザクと話していると、ナナリーが教室に来た。

 

ぎこちない足取りでルルーシュの前まで進むと、ルルーシュの手をつかんで。

 

「やりました!ついにやりましたよお兄様!」

 

と言った、おい、朝っぱらから何を言っているんだ、この変態。

 

「んな!?ほ、本当かナナリー!?」

 

「はい!今朝、4時くらいにツキトさんに……」

 

「チェスト!!!!」

 

それ以上が言わせねえ!!

 

ナナリーの頭にチョップを叩き込む。

 

「痛っ!」

 

ナナリーは頭を抑える。

 

「朝っぱらから大声を出すな、はしたない」

 

大声を出したナナリーを咎める、できればこれで帰ってくれ。

 

「…………ごめんなさい、でも、痛かったです」

 

「痛くなるようにやったから当然だ、そろそろ授業の5分前だ、授業準備をしておけ」

 

「はーい……」

 

「ああそれと、忘れ物だ」

 

そう言って鞄から弁当箱を取り出す。

 

「あ!私クラブハウスに…………」

 

「テーブルの上に忘れるとは思わなくて一瞬唖然としたぞ、次は気をつけるように」

 

「はい、ありがとうございますね、ツキトさん」

 

頭を下げて教室から出て行くナナリー、と思ったら戻ってきて。

 

「ご飯一緒に食べましょうね!」

 

と言って去っていった、いや、どこ集合だよ。

 

それよりも。

 

「なあ、ルルーシュ」

 

「どうした?」

 

「…………私のチョップって、そんなに痛いのか?」

 

「…………結構痛い」

 

「そうか…………(次からは気をつけます)」

 

「(頼むぞ、ナナリーにタンコブでもできたら………)」

 

「(いっそデコピンにしましょうか?)」

 

「(いや、ナナリーのおでこが腫れてしまう)」

 

「(ナナリー様のキュートで可憐なおでこを腫れさせるわけにはいきませんね、では、どういたしましょう?)」

 

「(…………弱い力でほっぺたを引っ張るのはどうだ?)」

 

「(その手がありましたか、ではその方向でいきます)」

 

「(頼む)」

 

ルルーシュと小声での会話を終えて席に着く、久しぶりの授業だな、どこまでやったんだったか…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業なんてテキトーにノートとってりゃいいんだよ。

 

というわけで授業も終わり無事放課後だ、さて、作戦内容はメールで伝えてあるし、生徒会室に行って暇つぶしでも…………。

 

「ツキトさん!」

 

「ナナリーか、どうしたんだそんな格好で」

 

ナナリーがフェンシングの防具をつけた状態で目の前に来た、部活中だったのかポニーテールだ。

 

「実は、ツキトさんに稽古をお願いしたくて!」

 

「稽古か、いいぞ」

 

「本当ですか!?やった!じゃあ行きましょう!」

 

ぴょんと小さく跳ねると私の腕を掴んで歩き出す、本当かわいいな。

 

あ、うなじが……………………まてまて興奮するんじゃない私。

 

しばらく歩くとフェンシング部の部員たちが見えた、二人一組でローテーションを組んで突きあっているようだ。

 

ナナリーは部長と思わしき高等部の男子と話しに行った。

 

レイピアを振る少年少女たちを眺める、高等部の生徒もいるようだ。

 

高等部の生徒は高等部の生徒同士で組んでいるようだ、まあ、高等部と中等部がやりあっても高等部の圧勝で終わるだろうし、何より、楽しくないだろうしな。

 

「ツキトさん!部長の許可が出ましたよ!」

 

「お、そうか」

 

走り寄るなり笑顔で防具を差し出すナナリー。

 

防具を受け取り更衣室に入ろうと…………。

 

「ナナリー」

 

「なんですか?」

 

「…………ついてこなくてもいいんだぞ?」

 

「………………はっ!?////ご、ごめんなさいツキトさん!む、無意識で…………」

 

無意識だったのか(恐怖)

 

「それじゃあ着替えてくる」

 

「は、はぃ//////」

 

おーおーゆでダコのように真っ赤だな。

 

………………………………………………。

 

着替え終えた、ぴったりだなこれ、私のサイズを知ってたのか、まあ変わらないしな。

 

「あ、着替え終わったんですね、じゃあさっそく始めましょう!」

 

「お手柔らかに頼む、最近はデスクワークばかりで運動をしていないんだ」

 

「ふふっ、残念ですけど、手加減はしません!」

 

「ナナリーはいじわるだな」

 

互いに微笑みながらレイピアを構える、まずは様子見だな。

 



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『式典』の『準備』を

3ヶ月ぶりの投稿、TPPの動画面白すぎて遅れた。


ツキトside

 

 

 

翌日の早朝、総督府演習場の巨大トレーラー近く。

 

「資材の積み込みは終わったか?」

 

「すべて完了いたしました」

 

報告書を渡しながらそう言う下士官、報告書を受け取ってしばらく眺める………………記入漏れはないな。

 

「よし、では5分の休憩ののち各員搭乗、目的地まで安全運転で行くぞ」

 

「ハッ!」

 

命令を受け取った下士官は敬礼し、整列している兵士たちのほうに向かった。

 

今日は式典に向けての合宿とリハーサルを始める日だ。

 

式典で使う資材、兵士たちの食料、ユーフェミア用の高級食材、簡易トイレ等々、様々な物資をトレーラーに詰め込んだ。

 

今回は作戦のこともあるため、ガウェインの代わりにグロースターを持っていくことにした。

 

日傘をさして資材を積み込む様子を眺めているユーフェミア、その隣で話し相手となっているスザク。

 

………………やっぱりお似合いじゃないか。

 

邪魔をするのは気がひけるが、報告はしなければならない。

 

「ユーフェミア様、5分後に発進いたします、準備のほうは……」

 

「大丈夫です、ではスザク、また後で」

 

「うん、またね」

 

友人同士のように挨拶を交わして別々の乗り物に向かって歩く。

 

スザクはランスロットを載せたトレーラー、ユーフェミアは白塗りのベンツっぽい高級車………………のように見える装甲車(最大装甲厚200mm)に乗り込んだ。

 

ふむ、そろそろ時間か。

 

「総員搭乗せよ!なるべく早く、且つ安全運転で目的地を目指すのだ!」

 

「「「イエス!マイロード!!」」」

 

兵士たちがそれぞれのトラックやトレーラーに乗り込む、やがて私とグロースターを載せたトレーラーも動き出した、さて、2時間は暇になるな、寝るか。

 

おっと、その前に、メールメール。

 

【from エリー

 

やっほー!ゼロの右腕のエリーさんだよー!

 

作戦許可下りたから、予定通りお願いね〜。

 

どうしても疑われちゃったら、『極秘命令』とでも言っといてね。

 

成功を期待して待ってるよ〜

 

以上!】

 

こんな感じのでいいのだろうか?顔文字もつけたほうがいいのだろうか?………………とりあえずこれでいいか。

 

送信………………完了、と。

 

次はナナリーだな、電話でいいか。

 

『はい、ナナリーです』

 

『おはようございます、ナナリー様』

 

『ツキトさん!おはようございます!今日はどうして朝いなかったんですか?』

 

『申し訳ありません、実はユーフェミア様の護衛に来ていまして…………』

 

『ユフィ姉様のですか?』

 

『はい、式典のリハーサルをトウキョウドームで合宿で行うため、私含めスザクも同伴しております』

 

『まあ!私も見に行ってもよろしいでしょうか?』

 

『残念ですが、関係者以外は入れないのです、恐れ入りますが当日にお願いいたします』

 

でないといろいろ困る。

 

『そうですか…………では当日は楽しみにしていますね!』

 

『はい、それでは、また』

 

『はい、またです』

 

電話をきってグロースターの頭部に座る。

 

よし、寝るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!?ツキトさんの婚約者なら関係者になりますよね!?」

 

「なると思いますよ、ナナリー様」

 

のちに自分が関係者に入ることに気づいた模様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間後。

 

トレーラーの中、グロースターの頭部で揺られること2時間、途中、渋滞を迂回しながらも無事に全車到着した。

 

装甲厚200mmの高級(装甲)車の運転手が流れる動作で車を降り、後部座席のドアを開ける。

 

それと同時に助手席の女が大きな日傘をトランクから取り出して降りるユーフェミアの頭上に傘を広げた。

 

何度練習したのかわからないほど正確で無駄のない動きに内心感心しつつ、スザクとランスロットのトレーラーに向かう。

 

トレーラーの中に入ると、予想通りスザクが寝袋の中で寝ていた。

 

「スザク、目的地に到着したぞ」

 

「ぐーー………………はっ!?つ、ツキト、もう着いたのかい?」

 

「ああ、ユーフェミア様がお待ちだ、顔を洗ってからいけよ、ヨダレでイケメンが台無しだ」

 

口の端から垂れたヨダレがなぜか顔の上のほうに向かって固まっている、どういう寝方をしたんだ?

 

「あ………………じゃあ顔洗ってくるよ」

 

「うむ、私は先に行く、早く来いよ」

 

「わかったよ」

 

そう言うとスザクはトレーラー内の洗面台でバシャバシャと顔を洗い始めた。

 

トレーラーを出てすぐのところにあった観客席に座ってスザクを待つ、目の前では下士官の号令のもと兵士たちが整列し点呼を取っている。

 

観客席を見回していると。

 

「…………」じーーー

 

子供の姿が目に入った。

 

近所(瓦礫)に住んでいる子供なのだろうか?いや、住むというより、住まわされている、というのがここ、エリア11の現状なのだが。

 

くぅ〜〜

 

子供の腹の虫がなった、ふと、確か懐に携帯用食料としてチョコレートを持っていることを思い出す。

 

チョコレートの箱を取り出してアルミを剥がす、エリア11…………日本において、かつて絶大な人気を誇ったMEIJ◯のミルクチョコレートである、現在も販売してはいるが、市場は縮小を辿っているようだ。

 

ついでに言うと、作者はGh◯naのチョコレートは買わず、ME◯JIやMORIN◯GAの製品のみ購入して食している、理由は『Ghanaのチョコは脂肪多くて不健康そう』、だとか。

 

そんなことは置いといて、アルミを剥がしたチョコレートを片手に子供に近づく。

 

子供はおびえた様子もなく私を見上げている、よく見ると男の子のようだ。

 

少年の前で膝をついて日本語で話す。

 

「《こんにちは》」

 

「《!!………………こんにちは》」

 

日本語で話しかけられたのが意外だったのか、一瞬目を見開き驚いた様子だった。

 

「《お腹が空いているのか?》」

 

「《…………うん》」

 

いきなり日本語で話しかけたのが原因なのか、警戒されているようだ。

 

「《チョコレート、食べるか?》」

 

「《いいの!?》」

 

と言ってうなづく少年。

 

食物の話題には警戒心ゼロで食いつくのか、なんというか、これが子供の純粋さなんだろうな。

 

「《じゃあこれをあげよう、ついでにこっちも》」

 

そう言って非常用のパンをチョコレートと一緒に差し出す(本来はダメだが、まあいいだろう)。

 

「《ありがとう!》」

 

「《ふふっ、ここは危ないから、お母さんのところに行って、みんなで食べなさい》」

 

「《うん!またね!【お姉さん】!》」

 

………………うん、きれちゃダメだ、相手は子供なんだ、きれちゃ、ダメだ。

 

それに見間違えられるのはこれが初めてではない、堪えろ。

 

「《じゃあね》」

 

と、怒りやらなんやらを堪え、笑顔でパンやチョコレートを抱えた少年を見送る。

 

少年は瓦礫の中に消えていった。

 

………………腹が減っていた……おかしい……これはありえない。

 

シンジュクゲットーへの生活物資の輸送、日本人への配布は滞りなく進んでいるはず。

 

腹が減るなんて事態はまず起こるはずがない。

 

まさか横領が起こっているのか?だとしたら責任者をどう処刑してやろうか考えなければなるまいな。

 

……………………よし、私直属の日本人部隊を式典後に編成しよう、そして彼らに物資の輸送から何から何までやらせればいい。

 

同じ日本人ならばシンジュクゲットーの日本人にも受けがいいはずだ、横領も無くなるだろう。

 

私の株も上がるしな。

 

この件は式典の最後に発表しよう、【2年でブリタニア人になろう!】との相乗効果が期待できる、はずだ。

 

いや待て、それでは結局のところ日本人部隊隊員もブリタニア人になってしまうことになる、日本人からブリタニア人になってしまってはシンジュクゲットーの日本人の心情はあまりよろしくないだろう。

 

ならば、【日本人兼ブリタニア人】なら問題はないはず、イレブンという呼び方も、式典後には廃止する予定だし、大っぴらに日本人と呼んでも問題ないだろう。

 

いずれ行う自治区化のためにも、日本人にはブリタニアに対して好意的でいてもらわなくてはならないしな。

 

さっきの少年にチョコレートやパンを渡したのは、ほぼ完全な打算的行動だった。

 

『【ブリタニア人】の【ラウンズ】が、【日本人】に食料を【手渡した】』

 

先ほどの行動を結果だけ見れば上のようになる。

 

では、客観的に、この文章のみ読んで考えてみてくれ。

 

………………そうだ、この文章のみでは、【ブリタニア人が日本人に優しく接している】というように取れるわけだ。

 

さらに、今回のターゲットは少年だ、まだ小学3年生にも満たない男の子だ。

 

幼い子供が、裏の裏側まで人の心を読めるわけがない。

 

つまり、少年はここであったことをそのまま親に伝えるだろう、そうすれば、【ブリタニア人の中にも日本人を差別しない人種がいる】、と考えるはず。

 

その考えが広まり、やがて日本人は二極化する。

 

一つはレジスタンスのような抵抗組織、反ブリタニア組織、いわゆる【反ブリタニア派】だ。

 

もう一つはブリタニアとの共存を目指す者たち、【共存派】だ。

 

そうなった時、かねてより計画していた自治区化を行った場合、どうなるのか?

 

おそらく、二極化した日本人が、争いあうことになるだろう。

 

果たして勝つのはどちらだ?

 

日本人としての誇りを胸に戦う、誇り高き戦士達、【黒の騎士団】か?

 

それとも、神聖ブリタニア帝国に跪き、枷を負う、【共存派】か?

 

………………その時が楽しみであり、逆に怖いな。

 

「ツキトーー!」

 

っと、ずいぶん考え込んでいたようだ。

 

スザクが手を振りながらこちらに近づいてくる。

 

「終わったか?」

 

「うん、顔も洗ったし、歯も磨いてきたよ」

 

「うむ、それなら大丈夫だろう、では行くぞ、ユーフェミア様がお待ちだ」

 

「うん、ところでツキト、いつもの剣はどうしたんだい?」

 

スザクが私の腰を指差して言った。

 

いつも私の腰に帯刀していたマリアンヌのレイピアは現在咲世子に預けてある、このあとのことを考えると少しでも身軽なほうがいいし、もしかしたら何かの弾みでポッキリ折れてしまうかもしれないからだ。

 

それに、ロイドに頼んでおいた秘密兵器が式典までに完成すると聞いたため、もうマリアンヌのレイピアは不要になるだろうと思ったからだ。

 

「ここはゲットーだ、腰にレイピアなんぞ挿して歩いていたら日本人が怖がるだろうからな、クラブハウスに置いてきた」

 

「なるほど」

 

「まあ、さすがにコイルガンとナイフくらいは持ってきてはいるが…………この警備の中襲おうと思う奴なんていないだろう」

 

脇のホルスターに入ったリボルバーコイルガンを見せ、トレーラーを指差す。

 

北から50、南から30、総督府から40、合計120人の精鋭のKMF乗り達を集め、数日間の警備に当てるのだ、こんなところを襲うなんて馬鹿はそういやしない、いるとしたら………………マジギレしたスザクくらいだな。

 

「そうだね、でも油断はできない、ナリタの時や、サイタマゲットーの時のように、ゼロは不利な状況でもそれを覆してしまう、安心はできないよ」

 

スザクは真剣な顔つきでそう言った。

 

「その通りだ、それにもし襲われれば今回は防衛戦となる、その場合は彼ら精鋭含め我々121人がユーフェミア様の盾となるのだ、スザク、お前はその時になったら味方を見捨ててユーフェミア様だけを逃がすために全力を注げ、いいな」

 

「…………わかってるさ、でも、死なないようにね」

 

「ふっ……タダでは死なんさ、あの仮面野郎(ゼロ)にドデカイ請求書叩きつけるまではな」

 

「いや本当に死なないでね?ナナリーとか自殺しちゃうかもしれないし」

 

「…………よし、意地でも生きるぞ」

 

自分の主の妹かつ嘘でも婚約した相手が自分のせいで自殺とか…………ちっぽけな良心すらすり潰して味方すら見殺しにする私でも心が痛む。

 

「ははは、やっぱりツキトはツキトだね」

 

「ナナリー様に死なれたくないだけだ………………何よりルルーシュ様が怖いしな」

 

「あーー………………ルルーシュなら地獄まで追いかけてくるだろうね」

 

「やめろスザク!そんなこと言われたら成仏できなくなるだろうが!」

 

ハハハハ、と笑うスザクに突っ込みつつユーフェミアの仮住まいに向かう。

 

皇族を野宿させるなどあってはならぬ、というコーネリアの言葉で、式典会場内に仮設の住居を建てるという案に決まった。

 

仮設住居と言っても、おもちゃの人形の家のようなもので、家具は完全固定、日本の気候にも強く、自家発電ができて、例えKMFが4機乗っても潰れないという、本国の科学者たちや設計者たちが知恵を絞って設計された仮設住居だ。

 

ついでに、住宅街には当面の間、これのコストダウンバージョンタイプを大量に設置する方針だ。

 

仮設住居の2人の門番に敬礼する。

 

「ツキト・アールストレイムだ、ユーフェミア様にお話がある、通してくれ」

 

「ユーフェミア様、アールストレイム卿と枢木がお見えです」

 

『開けてください』

 

「イエス、ユアハイネス」

 

扉越しに敬礼した門番はタッチパネルに数字を打ち込みはじめる、もう1人はそのまま周囲を警戒をしている。

 

…………………………番号は一応暗記したほうがいいか、見えないようにタッチパネルを操作している門番には悪いが、そっちのほうが何かと便利なんでね。

 

扉が門番によって開かれる。

 

仮設住居の中はかなり広く、ユーフェミアは真ん中のテーブルで紅茶を飲んでいた、傍にはメイドが立っている、気弱そうなブリタニア人女性だ。

 

「待っていましたわ、ツキト、スザク」

 

こちらに気付いたユーフェミアは顔を向け紅茶を両手に持ってそう言う、どうでもいいが両手でコップを持つ女の子は可愛いよな。

 

「少し野暮用がありまして、遅れてしまい、申し訳ありません」

 

「いいのです、それより座ってください、立ったままでは疲れるでしょうから」

 

「ありがとうございます」

 

私とスザクは椅子に腰掛ける、するとメイドがカップに紅茶を注いで私とスザクの前に出した。

 

「ありがとう」

 

「ありがとうございます」

 

スザクとともにメイドに礼を言う。

 

「い、いえ…………」

 

メイドは少し赤面すると俯いた。

 

スザク、お前のせいだな、このイケメン野郎純情そうなメイドさん落としやがってこの野郎。

 

おっと、落ち着け、紅茶を飲んで落ち着くんだ………………ズズッ………………。

 

「ふぅ…………では、まずは当日の予定からいきましょうか」

 

「えぇ」

 

そう言って台本を取り出す、台本を捲り最初のページを開いてテーブルに置く。

 

「まずはコーネリア様の挨拶から初まります、それが終わるとユーフェミア様による演説になります、そちらに送った文は読まれましたか?」

 

「はい、少し長いようですが、暗記は出来ました」

 

首を少し傾げてニコッと微笑むユーフェミアの愛らしい姿にナナリーへの愛が若干揺らぎかけたが、鋼の理性にボルトを捻り込んで耐える。

 

ブリタニア皇族の女性ってさ、男の理性を殺しにかかってるよな、絶対。

 

「え!?ユフィはあの量の文字を暗記できたのかい!?」

 

スザクが驚いた顔でユーフェミアの顔を見る。

 

「はい、暗記は得意ですから」

 

微笑みながらそう返すユーフェミア、スザクは「すごいなぁ」と感心したようにため息を漏らした。

 

「こういう文章を読み上げる場が多かっただけです、私は、お飾りでしたから…………」

 

ユーフェミアの美顔に影がさす、お飾りである自分に対する劣等感か、もしくは役に立てないことに対する嫌悪感・罪悪感なのか…………。

 

「…………でも、これからはユフィが先頭に立って行くんだ、もうお飾りとは言わせない」

 

スザクがユーフェミアを励ます、ユーフェミアは微笑んで「ありがとうございます」と返す、さしていた影はなりを潜め、年相応の爽やかさと年不相応な女性的な魅力が目に見えてわかる。

 

そのまま談笑を始めるスザクとユーフェミアの楽しそうな姿に自然と笑みが浮かぶ、やっぱりお似合いバカップルだな、間違いない。

 

「こほん……進めてもよろしいですか?」

 

「「あ、うん(はい)」」

 

しかしいつまでも談笑されても進まないので強制的に止めさせてもらう。

 

「では……えー…………ユーフェミア様の演説後、ユーフェミア様がスザクを騎士に任命、略式ではありますが就任式を行い、スザクが意気込みを述べた後、私の演説となります………………ところでスザク、お前に送った文は暗記できたか?」

 

「半分くらい……かな」

 

ふむ、だいたい500文字くらいと言ったところか、時間が足りん、削るか。

 

「スザクのほうは少し削っておく、700文字くらいにするからそっちで覚えてくれ」

 

「わかったよ」

 

幸いスザクは物覚えは悪くない、さして多くない文字数ならば1週間は覚えていられる、700文字を式典当日まで覚えていさせるくらいわけない、まあ覚えさせるのに時間がかかるのだが、まあ間に合うか。

 

「それが終われば式は終わりですが…………日本人も来るということで少々派手に行かせてもらいます」

 

「派手に?」

 

「はい、こちらをご覧ください」

 

テーブルに広げたのは会場近辺の地図だ。

 

「これは……」

 

「シンジュクゲットーにある式典会場周辺の瓦礫撤去を急がせました、式典の日はかなりの日本人が来場することでしょう、そこで………」

 

地図にシャーペンで円を描く、会場から50m〜100m離れた地点に楕円状に描いた。

 

「この範囲内に、屋台を呼びます」

 

「屋台って、たこ焼きとか焼きそばとか?」

 

スザクが驚いた表情で聞き返してきた。

 

「そう、スザクの言ったように、タコヤキ、ヤキソバ、オコノミヤキ、ワタアメ、その他数々の屋台を設置します」

 

「ツキト、これはどういう意図があるのですか?」

 

今度はユーフェミアが聞いてきた。

 

「まず、今回主役であるユーフェミア様が日本人の文化に理解や関心を持っていることのアピール、次に、日本人に食事をしてもらうためです、きっとお腹が空くでしょうし」

 

「まるでお祭りみたいだね」

 

「オマツリとは?」

 

「神様を祭ったり、祝ったりする儀式のようなものなんだ、お祭りのときは必ず食べ物の屋台が出てたんだよ」

 

「オマツリで屋台を出すというのは日本人の伝統のようなものです、日本人にとって大きなアピールになることは間違いないはずです」

 

実を言うと一番の理由は私自身が食べたいからなんだ、ブリタニアに生まれてしまったせいで10数年間醤油と味噌が食えなかったんだからな、式典が終わったら屋台巡りをしようそうしよう。

 

「へえ、ツキト、僕も食べに行きたいんだけどいいかな?」

 

「式典が終わった後ならいいぞ、ユーフェミア様と一緒に行くといい、並んで歩けば日本人とブリタニア人、2人種の友好をアピールできる」

 

「ツキトは来ないのですか?」

 

「そうですね…………いけると思います」

 

「では、3人で回りましょう」

 

3人でか……ナナリーにも会わなきゃならない、アクシデントが起こったとか言って途中で抜ければいいか。

 

「そうすることにいたしましょう」

 

その後も話は続いた、スザクは屋台の食べ物について語り、それを聞いて目を輝かせるユーフェミア、やっぱりお似合いだよお前らは。

 

さて、屋台を出せそうな日本人は調べてある、機材はこちらで揃える、食材もトレイラーに大量に紛れ込ませてある、あとは本人たちにあってみるしかないか。

 

スザクを連れて行くといいかもしれんな。

 



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『奇跡』の『藤堂』

ツキトside

 

 

話し合いのあと、スザクを連れてゲットー中を歩き屋台を出せそうな日本人を探した、スザクの説得もあってか、ノルマの人数は揃えられた。

 

「これで、会場が賑やかになるね」

 

「そうだな、私は久々にタコヤキが食えることが嬉しく思う」

 

スザクと夜の会場周辺を散歩する、温暖化ガスが発生しない世界の夜空とはこんなのも綺麗なものなのか、と、1人感動しつつ歩く。

 

「夏祭りのときとかよく食べてたもんね」

 

「あんな美味い食い物はブリタニアにはなくてなあ、魚を適当に焼いたものだとか、塩胡椒振っただけのステーキだとか、最高級ミルクを使用したシチューだとか、そんなものしかない」

 

外国の料理ってそういうものばかりだ、やはり、醤油で刺身や寿司を食ったり、もやしが大量にのった味噌ラーメンをすするのが一番だ、【料理のさしすせそ】が揃った日本食が、ブリタニア人である私の舌に最も馴染むというのはおかしな話だが。

 

「私は金のかかった宮廷料理より、田舎の優しい料理の方が好きだ」

 

「そうだね、僕もお母さんのごはんが一番好きだったな」

 

「私は母の料理は食えなかったよ」

 

「どうしてだい?」

 

「貴族っていうのは、自分一人じゃ料理も出来ないからだよ」

 

「そういえばツキトの家って貴族だったんだよね」

 

「私がラウンズになるまでは、ほとんど名も知られていなかったような家だがな」

 

…………動くなら、そろそろだな。

 

!……緊急通信、騎士団が動いたか。

 

「こちらツキト・アールストレイム」

 

『ツキトか!ゼロが牢獄を襲撃した!狙いはおそらく藤堂だ!』

 

腕時計を見る、予定よりも数分ほど早い、藤堂の分の無頼の準備が間に合ったのか、サザーランドの倍以上のコストのかかるものをよく用意できたものだ。

 

「どういたしましょうか?」

 

『ツキトはすぐに向かってくれ!枢木はユーフェミアの元へ行って護衛しろ!こっちに来ないとも限らん!』

 

さすがコーネリア、頭が回るな、しかしスザクが牢獄のほうに来ないのは嬉しい誤算だ、私1人なら騎士団に有利なようにダンスすればいいだけだからな、隙を見せて攻撃を喰らえばいいだろう。

 

「イエス、ユアハイネス!」

 

通信機を切ってスザクのほうを向く、会話の内容から察したのかその表情は険しい。

 

「何かあったの?」

 

「騎士団が牢獄を襲撃した」

 

「騎士団が!」

 

「こっちに来ないとも限らない、スザクはユーフェミア様の護衛を頼む、私はKMFで牢獄に行く」

 

「わかった、気をつけて」

 

「そっちもな、ユーフェミア様を頼んだぞ!」

 

頷くスザクを確認して私のグロースターのあるトレイラーに急ぐ、トレイラーに着くとロイドがコンソールをいじっていた。

 

「ロイド!グロースターは出せるか!?」

 

「もちろん出せるよぉ、こういう時のためにオーバーホールもしといたしぃ」

 

ロイドの言葉を聞きながらグロースターの背中に回り、コックピットに乗り込む。

 

「騎士団が牢獄を襲撃した、すぐに現場に行く、飛行ユニットは大丈夫か?」

 

「行けるけど帰りの燃料足りないかもぉ〜」

 

「行きの分だけあればいいさ、グロースター、でるぞ!」

 

飛行ユニットで高度1000m近くまで一気に上昇する、その後は徐々に降下しつつ最大速度で牢獄に向かう。

 

ま、ポーズだけでも急いでいるように見せるためにわざわざ急上昇なんてしたんだがな、普段ならこんな無駄にエネルギー使うようなやり方はしない。

 

牢獄に着いた時に飛行ユニットのエナジーフィラーが切れるのがベスト、急いで牢獄に向かい騎士団と交戦するも、エナジーフィラー切れで逃げる騎士団を追撃できず、藤堂は連れ去られる、ふっ、とんだ猿芝居だ。

 

芝居だとばれないよう、慎重かつ大胆に、状況の変化に応じて臨機応変に対応すれば大丈夫だ(適当に行き当たりバッタリでいいや)。

 

あと14分、さあて、うまくやってくれよ、ルルーシュ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼロside

 

 

「四聖剣は敵を抑えろ!その間に私は藤堂の元へ行く!残存部隊は私に続け!」

 

「「「「了解!」」」」

 

ツキトの情報通りだ、警備のKMFはたったの6機しかいない、その上すべてサザーランドだ、四聖剣の月下4機だけでなんとかできる数だ、だが油断はできん、最後の最後で気を抜けば負ける。

 

藤堂のいると思われる牢獄の壁を破壊する、中には藤堂がいた。

 

「藤堂だな?」

 

「お前は……」

 

「私はゼロ、力ある者に対する、反逆者である!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

コンピュータの計算が正しければ時期に牢獄が…………おっと、もう壁を破壊されたか、どれ、悪役らしく邪魔してやろう。

 

飛行ユニットの残りエナジーフィラーすべてと位置エネルギーをかけて牢獄を破壊したKMF、ゼロの乗る無頼目掛けてダイブする、しかし後ろへの急発進により避けられる、奇襲は失敗か、まあもとより当てる気もないんだが。

 

藤堂を肩に乗せたまま下がっていくゼロの無頼、追撃しようと動くがすぐに四聖剣によって道を塞がれる、あのKMF、確か月下だったか、近接メインのKMFとは僥倖、闘いたいなぁ。

 

「ふっ、四聖剣か」

 

広域無線で四聖剣たちに話しかける。

 

『そういう貴殿はアールストレイム卿とお見受けする』

 

「おやおや、私の名前を知っているとは、光栄だな」

 

『みんな知ってるわ、いや、日本人で知らない人なんていない』

 

『俺たち日本人を一番多く殺した人間の名前を知らない奴なんてな!』

 

そうだったのか、結構殺した記憶はあるが、なるほど私がナンバー1だったわけだ。

 

っと、そんな場合じゃない。

 

ガギィィィイイイ!!

 

4機の月下のうち1機が斬りかかってきた、危なげなくランスで受け止める。

 

「ほう…………いいパワーだ、押し負けそうだ」

 

第7世代相当と言われるだけはあるな。

 

『余裕そうだな!』

 

横から残りの月下が突っ込んできた、正面を除く左と右、死角の背後からの同時攻撃、避けられんだろうな。

 

『死んでいった者たちの!』

 

『怒りを受けろ!』

 

ああ、避けられんなこれは。

 

まあ。

 

「そい」

 

ガギィィギャギャギャギャ!!

 

『なに!?』

 

避ける必要もない、ランスの柄で右からくる月下の手首を払い、左手で抜刀したMVSを振って左と背後からくる月下の斬撃を受け止める、四聖剣といえどこんなものか。

 

「甘いなあ、四聖剣!」

 

スラッシュハーケンを正面の月下の量脚部に撃ち込み動きを殺す、続いてMVSを起動させ左の月下の左腕を肩口からばっさり切り落とす、最後にランドスピナーを使い回し蹴りの要領で背後の月下の腹部を蹴り飛ばす。

 

『くっ!一瞬でそれほどの動きを』

 

『これがラウンズの実力っ!』

 

「どうした?終わりか?この程度か?もっと争ってみせろ!厳島の時のように!」

 

ランスを振る、正面の月下以外は私のグロースターから距離をとった、脚が死んだ正面の月下はランスにあたり吹き飛ばされる、派手に吹き飛んだが損害はそこまで大きくない、装甲が少し凹んだくらいだ、本気で殺す気なら刺すんだが…………殺すと今後に影響が、な。

 

『ぐぅっ!』

 

「まずはひとぉつ!どうした四聖剣?どうした日本人?それほどのKMFに乗っておきながら、この程度か!?ハァッ!!」

 

ヴァイブレーション機能が起動したMVSを振りかぶり左の月下に斬りかかる。

 

『なめるな!』

 

が、受け止められる、パワーでは若干月下が勝るため、つばぜり合いとなる。

 

『我らの力を侮るな!』

 

そこに後ろからの奇襲、これは普通にランスで受け止める…………いや、柄で刺す。

 

『がはっ!つ、柄で……』

 

もちろん刺さるはずもなく、ガラ空きの胴にぶち当たり、月下の腹部装甲がひしゃげる、あ、これでは中のやつ死んでしまうか、次は自重しよう。

 

「その程度の力では侮られていても文句は言えないな」

 

にしても味気ない、こいつら本当に強いのか?微妙なんだが…………いや、藤堂なら、藤堂ならこいつらより強いはずだ。

 

そうとなれば…………。

 

「こんなものか?こんなものでよく我らがブリタニアと皇帝陛下に逆らおうなd『うおおおおお!』

 

話の途中で突っ込んでくる無頼、こいつは…………雑魚だな。

 

「雑魚は引っ込んでいろ」

 

ランスでコックピットごと串刺しにする、ランスを伝って赤黒い液体が地面に落ちる…………固まった血って落とすの大変だって聞いたな、すまない整備班、これからは中身を攻撃しないようある程度自重する。

 

「ふん、雑魚が粋がるからこうなるんだ、まったく面白くない…………さあ、藤堂をこちらに渡してもらおうか」

 

ん?ゼロ…………ルルーシュからか。

 

「何かご用でしょうか?」

 

『ツキト、殺すなとは言わないが、できるだけ控えてくれ、損害が大きいと士気が下がる』

 

「了解しました、無力化にとどめますが…………藤堂はKMFの操縦がうまいと聞きます、手加減できかねますが…………」

 

『お前ならできる、信じろ』

 

そう言って通信をきるルルーシュ…………ゼロ。

 

信じろ、か…………やるだけやってみるか。

 

ゼロの乗ったKMFとおそらく月下が入っているであろうトレイラーにゆっくり歩いて近づく、まだ藤堂は月下に乗り込んでないのか?早くしろよ!でないとユーフェミアに説得されたスザクとランスロットが来ちまうだろうが!何のためにリハーサルなんてやらなくてもいいことを計画して牢獄の警備を減らしたと思ってるんだ!怪しまれないように日本の各警備KMFを様々な理由つけて減らした私の苦労を水の泡にする気か!

 

トレイラーとの距離がおよそ30mをきったところでトレイラーの側面が開いて四聖剣の月下とは少し違う月下が飛び出してきた、四聖剣の月下と同じチェーンソーのようなブレードを振りかぶって、って早!?

 

「ちっ!」

 

ランスでは斬られる!MVSで防ぐ!

 

「貴様…………この太刀筋、藤堂か!」

 

『いかにも!』

 

「ぐぉ!?」

 

一段パワーが強まる、両手でブレードを持ち上から押し付ける月下、片手でMVSを持ち下から防ぐグロースター、パワーも立ち場も不利だな。

 

右手のランスを空いた胴に向けて振る、藤堂の月下か後ろへと後退した、これくらいは避けるか。

 

しかし、四聖剣より明らかに早かった、四聖剣は当たる直前に紙一重で避けていたが、藤堂はその前からすでに動き出していた、厄介だな、これじゃあ不意打ちは効きそうにない。

 

「なるほど、ナリタでギルフォードとやりあったと聞いたが、実力は確かなようだな」

 

案外楽しめるかもしれないな。

 

右手のランスを地面に突き刺し、MVSを右手に持ち替えて両手で握る。

 

『………何の真似だ?』

 

「貴様とは、正々堂々とした勝負をしたいからな」

 

『騎士道か、ならば私も武士道で行かせてもらう!』

 

月下とグロースターのランドスピナーが同時に地面を蹴り、両者の距離が一気に0になる。

 

『セイ!』

 

「ハァッ!」

 

グロースターのMVSと月下のチェーンブレードがぶつかり、チェーンが回転することによって火花が散る。

 

数秒のつばぜり合い、私はランドスピナーを使って後退、つばぜり合いから離れ、即座に急発進、MVSで月下を貫かんとする。

 

しかし月下のチェーンブレードの腹の部分で軌道をわずかにそらされ、月下の頭部装甲を少しだけ剥がしただけであった、藤堂は月下のチェーンブレードをMVSに当てたまま滑らせ、グロースターの腕を切断しようとする、MVSから左手を離して月下の手首を掴み、動きを止める、止めきれずにグロースターの胸部装甲が少し削れる。

 

「やるな!」

 

『貴殿もな!』

 

やはりこの男、藤堂は戦士だ!一対一の真剣勝負でここまで熱くなったのはジェレミア卿との模擬刀での斬り合い以来だ!楽しい!楽しいぞ!!

 

「ハハハッ!!」

 

一旦距離をとる藤堂、間髪入れずに突撃する私、MVSで下から上へ向かって切り上げる、それを避ける藤堂、ランドスピナーでそのまま1回転して月下の頭部を狙いMVSを振る、とった!

 

だがその一撃でさえも藤堂の月下のチェーンブレードで軌道をそらされる。

 

「貴様は素晴らしい!ここまで熱く、ここまで楽しい戦いは久方ぶりだ!」

 

思わず叫ぶ、ハハハハハ!!楽しい!楽しいぞ!!この命の削りあいが!ハハハッ!ハハハハハ!!

 

そして、幾度目かの斬撃とスラッシュハーケンの応酬の果て、遂に攻撃が当たった、藤堂の月下のチェーンブレードは私のグロースターの右腕を、私のグロースターのMVSは藤堂の月下の右腕を、それぞれ同時に切断した。

 

同時に、MVSはバッテリー切れで振動が止まり、チェーンブレードは回転をやめ、両方の武器は支えを失い地面に突き刺ささった。

 

「ハァ、ハァ……楽しかった……ぞ、藤……堂……」

 

『ぐっ、ハァ、ハァ……』

 

息も絶え絶えで通信を送る、藤堂も限界のようだな。

 

グロースターの脚部が高速戦闘でイカれ、膝をつく、月下も限界だったようで、同じように膝をついた。

 

機体も、そのパイロットの著しく消耗してしまったか、しかし、私には、いや、おそらく藤堂にも、達成感が確かに存在した、強敵との戦いが、命の削りあいが、獣のような斬り合いが、大きな充足感となり、疲労感と相まって脱出する気力さえ薄れてしまった。

 

ランドスピナーの音が聞こえる、ランスロット、ではないな、おそらく四聖剣の月下だ、とどめを刺すつもりか…………ふっ、いいぞ、とどめを刺せ、その判断は正しい…………。

 

『やめろ朝比奈!』

 

『藤堂さん!?なぜ!』

 

それを止めに入る藤堂。

 

『勝負はついた……引き分けだ』

 

『でも!ここであいつを倒せば!』

 

『いや、藤堂の言う通りだ、こちらに高速接近するKMFが検知された、撤収だ!』

 

『ゼロ!あなたは……』

 

ゼロが通信に入り、藤堂と朝比奈の仲裁をし、撤退指示を出す、しかし聞く気がないようだ、ランスロットの距離が7kmをきった、仕方ない、ゼロの後押しするか。

 

「ふふふふふっ」

 

『何がおかしい!?』

 

「ここに近づいてきているKMFは、我がブリタニア最強の機体だ、第5世代の私の機体とは違う、さっさと帰ったほうがいいぞ?」

 

『何を!』

 

「頼みの藤堂は疲弊しすぎている、ここで戦い続けるのは無意味だ、ゼロはそこらへんがよくわかっている、良い指揮官だな、だが……」

 

距離およそ0.5km、遅かったか。

 

「無意味だ」

 

『ゼロおおおおおおおおお!!!』

 

『上から!?』

 

『くっ!四聖剣は白兜と当たれ!残りは藤堂を連れて撤退だ!』

 

上空からランスロットの奇襲、グロースターと比べるのもおこがましい速度、ランスロットのMVSがゼロの無頼の両腕を吹き飛ばす、そのまま脚を狙うが四聖剣が邪魔に入り、ゼロの前に立ちふさがる。

 

スザクはゆっくり私の方に後退してきた。

 

『大丈夫かいツキト?』

 

スザクが話しかけてきた。

 

「私は無事だ、だがグロースターはもう動かん、ランドスピナーと脚が死んだうえ、腕もない、残ったのは機銃くらいだ」

 

『......藤堂さんと戦ったんだね』

 

察したか。

 

「ああ、とても強かった、やつの腕と脚を殺すのがやっとだった」

 

『やっぱり藤堂さんは……』

 

「お前は藤堂と面識があったんだったな……」

 

今のスザクでは藤堂は殺せないか、もとより期待してはいなかったが。

 

「スザク、奴らを殺せとは言わない、無力化すればいい」

 

『わかった、ツキトは脱出できる?』

 

「ああ、だがここのほうが安全だ、もう少しここにいさせてもらうよ」

 

『危険だったらすぐに逃げて』

 

「スザクもな、気をつけろ、四聖剣はかなりの手練れだ」

 

客観的に見たら、だけどな。

 

スザクが仕掛ける、だが四聖剣は戦う気がないようで後退している、スザクと話している間に説得したか、ふぅ、ひやっとした。

 

煙幕を張りつつ逃げる四聖剣と騎士団。

 

「スザク、追うな」

 

『ツキト!なんで……』

 

「お前のことだ、どうせフルスロットルでここまで来たんだろう、エナジーフィラーの残量はどのくらいだ?」

 

『…………もうほとんどない』

 

「じゃあ諦めろ、追いかけてもエナジーフィラー切れになる、しかも、ご丁寧にも煙幕にジャマー効果も付いているようだ、これじゃレーダーが使えん、残念だが…………またしても私たちの負けだよ」

 

『…………くそ!』ガン!

 

スザクがランスロットの内部を殴る音が聞こえる、悔しいだろうが、耐えてくれ。

 

およそ一時間後、特派のトレイラーが迎えに来た。

 

騎士団と四聖剣を取り逃がし、藤堂を持って行かれ、帰ったらコーネリアが怒るだろうな、いや怒られるだけならまだいい、最悪、ラウンズ降格だろう。

 

あーそうそう、さっきの広域通信、騎士団がジャマーをかけていたらしく、近距離にいた騎士団連中とゼロ、四聖剣と藤堂以外には聞かれていなかった、問題発言も多かったし、聞かれてないならそれでいい。

 

トレイラーから出した持ち運びできるテーブルと折りたたみ椅子に座ってセシルが出した紅茶を飲む。

 

スザクの表情は暗い、知り合いが敵につくことの辛さは私にはまだわからない、だが、裏切られる痛みはわかる。

 

スザクは悩んでいる、助言を与えようとも思ったが、今回はスザクに任せようと思う、人間は成長する生き物、人外の私が成長を阻害してはいけない。

 

そんな中、トレイラーに脚部機能全死のグロースターを回収中だったロイドが慌てた様子でこちらに走ってきた。

 

「大変だ大変だ大変だよぉ〜!」

 

「どうした?あっ、まさかグロースターの飛行ユニットに傷でも…………」

 

「そんなことはどうでもいいんだよぉ!」

 

そんなことって…………それくらい重要なことって言ったら……ガウェイン?

 

「ガウェインが!盗まれちゃったんだよぉ!」

 

「えぇ!?」

 

「なにっ?」

 

ここはスザクと一緒に驚いておこう、リアクション薄めに。

 

「僕のガウェインがぁ〜……」

 

「盗まれたって、騎士団にですか!?」

 

「そうみたぃ〜、あー僕のガウェイン……」

 

「おそらく、陽動作戦ってとこだろうな、牢獄へ主力を送っている間、残存兵力で隠密に奪取したんだろう、手口は?」

 

「整備施設に運ぶトレイラーに紛れ込んでたみたい……僕の〜」

 

「紛れ込んでいたのか…………警備の薄さを突かれたか、くそっ!」

 

イラついてる風にテーブルを叩く。

 

「まんまと陽動に引っかかっているうちに最新鋭兵器を盗まれるとは…………不覚だった……」

 

「そう!最新鋭なのがまずいんだよぉ〜、ハドロン砲が解析でもされたらまずいよ〜」

 

「クッソォ!ゼロぉおおお!!!」

 

夜の闇にスザクの怒号が響いた、スザクの瞳は執念に燃えていた。

 

簡単な聴取が終わり、会場に帰ってきた、兵士は皆疲れていた、牢獄にきた兵士も、私とスザク不在の間会場を警備していたKMFのパイロットたちも、皆疲れきった顔をしていた。

 

出迎えは誰もおらず、ユーフェミアのいる個室まで疲れた顔の兵士たちが並んでいた。

 

門番に確認をとり、中に入る、ユーフェミアは椅子に座って寝ていた、おそらく私たちの帰りを待っていたのだろう、思わずスザクと顔を見合わせる、なんとなく笑いがこみ上げてきて、喉の奥ではないくつくつと笑う。

 

だんだん今夜のことがどうでもよくなって、ユーフェミアを起こさないようにベッドに運び、ふとんをかけ、個室を後にした、報告は明日にしよう。

 

「スザク」

 

「なんだいツキト?」

 

「私たちは、騎士団を取り逃がし、藤堂まで連れて行かれた、だが、ユーフェミア様の寝顔は守れた」

 

「うん」

 

「皇族に使える身として、護ることがいかに難しいか知っている」

 

「うん」

 

「スザク、私たちが今日失ったものは大きい、しかし、守れたものはそれ以上に大きい、スザクが増援としてきてくれなかったら、私は死に、騎士団がそのままユーフェミア様のいるこの会場に攻めてきたかもしれない、だがスザクが来てくれたおかげで騎士団は撤退した………………スザク、お前は立派だ、こうしてユーフェミア様を見事に守ったのだから、誇ってくれ」

 

「ありがとうツキト、でも僕一人でユフィを守ったんじゃない、ツキトがいたから守れたんだ」

 

「ふふっ、スザクらしいな、だが、騎士となったら一人でユーフェミア様を守れなくてはな」

 

「ツキトは力を貸してくれないの?」

 

「もちろん貸すさ、だがいつでも貸せるわけじゃない、私が加勢できないときは、お前が一人で守り抜くんだ、そのときは覚悟しておいてほしい、そして、誓ってくれ、どんなことがあろうと、ユーフェミア様の一番の味方であり続けると」

 

足を止めてスザクの目を見る、透き通った迷いのない目だ、もう答えは決まっているようだな、聞くまでもなさそうだ。

 

「誓うよ、僕はユフィの騎士として、ユフィのそばに居続ける、そして、ユフィの一番の味方になるよ」

 

「その覚悟、確かに聞いたぞ」

 

スザクにはもう迷いはない、藤堂を殺すことも、ユーフェミアのためだと割り切り、躊躇も迷いもなく殺すだろう、少々早い【鬼神】の誕生だ。

 

「ふーーっ、動いたら腹が減ったな……」

 

「そうだね、ご飯ってまだあるかな?」

 

再び歩き出す、さっきのシリアスはポイだポイ。

 

「特派のトレイラーに缶詰くらいはあると思うが…………そうせなら、ラーメンでも食いに行かないか?」

 

「え?でも遠いんじゃない?」

 

「安心しろ、ゲットー内のラーメン屋だ」

 

「え!?あったの!?」

 

「昼間に屋台人探ししてるときに見つけたんだ、ボロいテントだったが、うまそうなスープの匂いがした」

 

「本当!?じゃあ行ってみよう!」

 

「あーちょっと待ってくれ」

 

「どうしたんだい?ツキト」

 

「さすがにゲットー内でブリタニア軍の制服はまずい」

 

「あ、そっか、私服に着替えようか」

 

「だな」

 

現在時刻は11時、この時、時間のこと、ましてやカロリーについてまったく考えておらず、日本人に混じってスザクとチャーシュー麺(チャーシュー2倍ネギアブラマシマシ)とチャーハン(並)を食った。

 

ついでにラーメン屋の人と仲良くなった、なんとなしに式典の日に屋台を出してくれないか言ってみると意外にもOK、スザクとともに驚いた。

 

1日の終わりに誰にでも友好的な日本人の強かさを再確認した。

 



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『ユーフェミア』と『ゼロ』

ツキトside

 

 

リハーサルの全日程を終了し、式典の準備も最終段階に入った、式典の周りは業者の人間たちが屋台の準備をしている、あのラーメン屋の店主もいる。

 

「ようやくここまで来ましたね」

 

「そうだね」

 

談笑するのはユーフェミアとスザク、ここ数日以前より仲が良いようでとても微笑ましい、早く結婚しろ、かわりに私がナナリーとの婚約破棄するから、皇帝陛下の権限でやってもらうから。

 

そして私はと言うと。

 

「おい、予定より作業が遅れているぞ………ああ、急がせろ……そうだ………………それでいい、じゃあな………………こちら本部、どうした?………………屋台に使う機材が足りない?…………そうか、追加注文しておく、足りないものをリストアップしておいてくれ、ああ…………頼むぞ……………………こちら本部…………は?酔っ払い?……………逮捕しろ、処分は私が決める、被害は?………………ないなら作業を続行しろ………………こちら本……CC?どうした?………………式典の屋台にピザがあるかだと?少し待て…………えーと、ピザピザピザ………………全部で3軒あるぞ、なんだ来るのか?………………この前の予言が当たりそうな予感がするからだって?…………あー女装云々のあれか、まあパフォーマンスとしてやるかもしれんな…………ユーフェミア様はイタズラが好きだったからなぁ、懐かしい………………ああ、別に笑ってくれて構わない、どうせそういう感じでやるだろうしな……………ガウェインの解析が始まったのか、仕事が早いな………………ルルーシュ様はなんと?特にない?ならいい………………仕事?暇だって?式典の時ゼロと一緒に行くんだからそれまで待ってろ………………最後に、何かあったら相談しろよ………………口説いてないさ、口説いてるのがばれたらナナリー様に殺される…………特にないんだな?じゃあきるぞ…………ああ、じゃあな」

 

本部(1人)で対応中だ、完全にオペレーターか何かだな、わーデスクワーク楽しいなあ。

 

1人なのは私の希望だ、こっちの方が総督府と同じように仕事ができると思ったからだ、あとさっきみたいな予期せぬ電話とか、というか番号調べたのかCC、やっぱりやればできるやつなんだなあ。

 

しかし、そろそろCC用の拠点を作らねばな、騎士団の拠点でもいいが、今のような会話が聞かれてはいけない、だがいつまでもナナリーと同じセーフハウスでは見つかった時のリスクが…………。

 

おっと電話だ。

 

「こちら本部」

 

『あ、ツキト?今大丈夫?』

 

「大丈夫だと思うならこっちに来て私のデスクに積みあがった書類の枚数を数えてみろスザク」

 

微妙にキレながら返す、お前はユーフェミアといちゃついていやがれ!

 

『ご、ごめんツキト』

 

「はあ、お前はそこでユーフェミア様と話し相手をしていてくれと言ったろう」

 

『それがさ、ユフィがツキトと話したいって……』

 

「はっ?私?なぜ?」

 

『えっと……あ!ちょっ『ツキト!ツキト!!』キーン!

 

「ぐあぁぁ!!??」

 

み、耳が…………。

 

『聞いているのですかツキト!?』

 

ええいこのお転婆お姫様め!

 

「な、なんでしょうか……」

 

『聞きたいことがあります!すぐに来なさい!!』

 

なんかキレてる……怖い。

 

「すぐに参ります!」

 

『待っていますからね!!』ピッ

 

…………行きたくない。

 

憂鬱な気分で廊下に出る、さっきまでいた部屋は会場に元からあった倉庫を綺麗に掃除してデスクと電話を置いただけのシンプルな部屋だ。

 

会場の一角、パラソルのある場所に向かう。

 

「お呼びでしょうかユーフェミア様」

 

跪いて内容を聞く。

 

「ツキト…………婚約しているというのは本当なのですか!?」

 

はああああああ!?ナゼバレテルンディスカァ!?

 

「い、いえ、そ、しれは……」

 

「本当のことを言ってください!ナナリーと婚約しているのでしょう!?」

 

バレテーラ!!

 

「お、お静かに、その名前は機密事項です」

 

「あ、すみません…………では理由は教えてくださるんですよね?」

 

「うっ…………わ、わかりました……」

 

いったいどこからバレ…………ああスザクか(悟り)。

 

周りに誰もいないことを確認してから話し始める。

 

「ナナリー様との婚約ですが、あれは半分遊びのようなものです」

 

「遊び?遊びでナナリーと結婚の約束をっ!?」

 

「スザク!まだ話は途中です!」

 

「ご、ごめんユフィ」

 

「…………誤解せぬよう言い直しますと、ナナリー様が素敵な男性を見つけるまでの間、ナナリー様の願いで婚約しているだけです」

 

「えっと……つまりどういう……」

 

「私のような名前も知られていなかったような小貴族が、ナナリー様のようなお方と婚姻など恐れ多くてとてもできません、ですが何度説得してもナナリー様は納得してはくださらなかったのでナナリー様が期限になるまで婚約という状態にしたのです、いずれナナリー様にふさわしい男性が現れるまで、それが期限です」

 

「(永遠に現れないと思うわ)」

 

「(ユフィもそう思う?)」

 

「(スザクもですか?)」

 

「(うん、ツキト以上にナナリーにふさわしい男の人なんて…………ルルーシュくらいしかいないし)」

 

「(そうですわね…………でもなんとか見つけて欲しいです)」

 

「(どうして?)」

 

「(そうなれば、私がツキトと結婚できます!)」

 

「(あ、あはは……モテモテだねツキト…………)」

 

「ご理解いただけましたか?ユーフェミア様」

 

「はい、ツキトの考えはよくわかりました…………」

 

「では、私はこれd」

 

「ですが、それではナナリーがあまりに可哀想です」

 

「し、しかし、ナナリー様にはもっとふさわしい男性が現れるはず!私との婚姻でその可能性を潰してほしくはないのです!」

 

「ツキト!あなたの忠義はよく知っています、それならなぜナナリーの気持ちを考えてあげないのですか!?」

 

「ナナリー様には私はふさわしくないのです!血に汚れた私では!ナナリー様には触れられないのです!!」

 

「では私と婚姻を…………」

 

「申し訳ありませんユーフェミア様、お気持ちは嬉しいのですがユーフェミア様にはもっとふさわしい男性が……」

 

「ツキトの無責任!もう知りません!」

 

席を立って去っていくユーフェミア。

 

「ユーフェミア様!?」

 

「知りません!話しかけないでください!」

 

そのまま個室に帰って行ってしまった。

 

「ツキト…………」

 

困った顔で私を見るスザク。

 

「そんな顔するな、いい方向に進んだのだから」

 

「いい方向って……」

 

「今の言い争いでユーフェミア様は完全に私への思いをなくしただろう、ユーフェミア様は美しい、いつか私を花で笑うほどのイケメン男が現れる、可能性を潰してはいけないのだ」

 

「ツキト、それは間違って……」

 

「ああそうさ!間違っているよ私は!純粋な乙女2人の気持ちを無視して!あるかどうかもわからない希望的観測をベラベラとまくし立てる!まるでどっかの小物悪役だよ!だが皇族に仕える私が皇族と婚姻すればどうなる?今までのように前線には立てなくなる、勇ましい兵士が死ぬ中、私は本国の宮殿にいなければならんのだぞ!?耐えられるかそんなもの!私は皇族のため戦うことこそが生きがいなんだ!皇族との婚姻でそれができなくなるくらいなら、嫌われた方がマシだ!」

 

「……ツキト」

 

「………………部屋に戻る、何かあったら呼んでくれ」

 

部屋に戻り鍵をかけ椅子に座る。

 

……………………ナイス演技!私ナイス演技!スザクの同情したいがユーフェミアとナナリーの気持ちを考えると……って顔は傑作だった!

 

ああ、後半1、2行は本心だ、皇族のため…………おもに陛下のために命を課して、課す命なんてないが、戦うことこそ私の生きがいでありラウンズとしての使命だ、そうやすやすとこの座を譲りはせん。

 

しっかしなあ、こんなのバレたら信用云々の前に私刺されるかもな、たぶんナナリーに、皇族3人惚れさせといて『いつかふさわしい人が……』なーんて言ってるんだから、刺されても文句言えないようなことやってるから仕方ないけど。

 

いつ背中刺されるかわからない生活は正直ごめんなんだが、しかしなあ、どう考えてもユーフェミアにはスザクが一番似合ってるんだよなあ、他に候補と言ったら…………ジェレミア?いやでも、うーんジェレミアかあ…………。

 

ジェレミアならアーニャとの方がいいだろう、あーでも原作だとアーニャがマリアンヌのギアス受けて、って流れで最終的にオレンジ農園で同棲ってなるんだが、マリアンヌ死んでないし目潰ししたし、だいぶ原作から離れてるから可能性薄いかもしれないな。

 

コーネリアは…………忠義のギルフォードかな、あいつ自覚してないけど中・高生に人気なんだよ、インテリメガネのイケメンであの忠誠心、あそこまで芯が通った、というか一途なやつに惚れないやつはいないだろ、もしくはダールトン、ダンディーで渋い見た目、生々しい傷跡、優しくてよく通る安心する声色、これで落ちない女がいるか?いないだろ、軍内部の女性兵士の間でファンクラブが創られてるくらいだからな、人気だけで言ったらギルフォードよりダールトンのほうが人気だしモテる。

 

 

(ダールトンのファンクラブには及ばないが、ツキトのファンクラブも存在するぞ! by作者)

 

 

ナナリーは…………ロロでいいんじゃないか?マリアンヌの娘のナナリーとマリアンヌの遺伝子が混じったロロ…………超シリアスゥ、そこにルルーシュを加えると…………うわ、ルルーシュ裏山。

 

このようにもうすでに配偶者になりそうな人間はいくらでもいるんだ、だから私と結婚なんて考えないでほしい、そのほうが幸せだと思う、おもに私が。

 

ま、考えるのはこれくらいにして、仕事するか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カレンside

 

 

ゼロの協力者、あの銀髪のちっこい女の子が計画したらしいブリタニアの最新鋭KMF奪取計画、ゼロが藤堂さんを助けに行っている間にいつの間にか成功していた。

 

「おい、これはなんなんだ?」

 

ゼロが騎士団のアジトでトレイラーに乗せられたKMFを指差して言った。

 

「それが、ゼロの協力者であるあの銀髪の……」

 

「ああ、エリーか、エリーが言ったのか?」

 

あのちっこいのエリーって言うんだ、ってか名前呼びって…………私も名前呼びだけど、なんか違う、あっちの方が親しい感じがする。

 

「ええはい、今後ゼロの、騎士団の役に必ず立つと言われて……」

 

「ふむ…………エリーが言うならそうなんだろう」

 

「ゼロ、エリーって娘が勝手に動いたことについてはないんですか?」

 

ちょっとイラっときてゼロにそう言い放った。

 

「…………特にないな、あいつは自由奔放な性格だからな、だが仕事は指示通り以上のことをやるからな、あの白兜が遅れたのも、なんらかの工作をやったんだろう」

 

…………なんか、私以上に信頼されてるエリーって娘にイラついてきた、でもゼロが言うように白兜の到着を遅らせたのは事実らしい、退却するときに着いたっていうから、5分は遅らせたことになる。

 

「それにしてもよく思いついたものだな、藤堂の救出作戦を陽動に、KMFを奪取する計画…………だがそれを実行するにはそうとうな勇気が必要だ、エリーの指示に従ってKMFを奪取した諸君、君たちの勇気は素晴らしいものだ、これからもいっそうの努力を期待する!」

 

「「「「ありがとうございます!ゼロ!」」」」

 

…………私もそっちの計画に行けばよかったかな、でもゼロは待機だって言ってたし、私っていらないのかな…………。

 

「カレン、そう落ち込むな」

 

「すみませんゼロ、でも、私じゃエリーのように役には立てないですし……」

 

「何を言っているんだ?」

 

「え?」

 

「カレン、お前は騎士団の最高戦力なんだぞ?切り札は温存するのが普通だ、そしてここぞというときに使えば相手に大打撃を与えることができる、ジョーカーをポンポン使うような作戦は愚策だ、温存し、相手の意表を突く方法でカードを切る、今回の救出作戦は切るべきではないと判断したから待機にしたまでだ、それに、ここが狙われる可能性がないわけじゃない、現にカレンの強さは抑止力としてよく働いている、ブリタニア軍内部では赤いKMFとの交戦は控えたほうがいいという話も広まっている、お前は十分役に立っているじゃないか」

 

「ぜ、ゼロ……」うるうる

 

そこまで考えても…………やだ泣きそう、でも泣き顔なんて見せられない!

 

「だが、温存するからといって怠けていていいわけではない、訓練に励み、万全を期すように!」

 

「はい!肝に銘じます!」

 

私は必要とされているんだ!悩むことなんてないんだ!頑張ってゼロの隣に、エリーに並んでやる!待っていなさいエリー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

「くちゅん!…………夏風邪か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スザクside

 

 

ユフィはツキトが好き、ナナリーもツキトが好き…………でもツキトは皇族のために戦うのが生きがい、だから2人の気持ちには応えられない…………。

 

「どうすれば…………」

 

「珍しいね、君が悩み事なんて」

 

特派のトレイラーで考え込んでいたら、ロイドさんがやってきた。

 

「ロイドさん!」

 

そうだ、ロイドさんに聞いてみよう。

 

「ロイドさん、僕の悩みを聞いてくれませんか?」

 

「ん〜?別にいいよ〜聞くだけだしぃ」

 

「実は、ツキトとユフィのことで相談が」

 

「ラウンズの彼とユーフェミア様のことで?」

 

「はい……ユーフェミア様はツキトのことが好きなんです」

 

「あっら〜、それはよかっ」

 

「でも、ツキトには幼いころ本国で将来を誓い合った女の子がいるんです」

 

「うわぁドロドロだねぇ」

 

「でもツキトは、2人には自分はふさわしくないって、ユフィとその女の子の気持ちを受け取ろうとしないんです」

 

「ふさわしくないって、嫌味に聞こえるんだけどぉ?」

 

「そうですよね、あんなモテるのに………」

 

「それで?スザク君はどーしたいの?」

 

「僕は…………どちらかの思いに応えてあげてほしいと思ってます、でも、ツキトは皇族に仕えて戦うのが生きがいだって言ってましたから」

 

「皇族がダメなら、女の子を取ればいいんじゃないのぉ?」

 

「それが、その女の子も皇族みたいで…………」

 

ナナリー…………。

 

「あちゃー、これは無理かなあ」

 

「無理、ですか?」

 

「無理無理〜、残念でしたぁ、もう詰んでるみたいだね」

 

「詰んでるってどういう……」

 

「だぁってさぁ、これって二股ってことだよねぇ」

 

「え?まあ、そうなるんじゃ、ないですかね?」

 

「思いが募ったユーフェミア様か、本国の女の子に、背中刺されちゃうかもねぇ」

 

「なっ!?」

 

ツキトが背中を刺される!?

 

「どうして!?」

 

「うーん、スザク君はヤンデレって知ってる?」

 

「ヤンデレ?」

 

なんだろう?あまりいい意味の単語じゃなさそうだ。

 

「一度調べてみるといいよぉ〜」

 

「わかりました、それでは失礼します」

 

ヤンデレ、ヤンデレ………いったいなんなんだ?

 

僕はトレイラーにあるパソコンを起動して検索欄に【ヤンデレ】と打ち込んで検索した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

「ッ〜〜〜〜!………………ふぅ」

 

ひと段落したな…………仕事が。

 

久しぶりに肩が凝った、はあ、さっさと寝たい、コードを持っていたとしても疲れまでは取れないからな、さて、さっさとトレイラーにいって、寝袋入って寝よう。

 

部屋から出て廊下を歩く、窓を見るとすっかり夜だ、時間が経つの早いものだ。

 

すれ違う警備兵と挨拶しながら会場の外に出る、ユーフェミアの個室が見える、篭ってしまっているようだな、別にどうでもいいが。

 

死ななければユーフェミアの利用価値はある、嫌われたとてスザクを使えばいい、気にすることはない。

 

特派のトレイラーに行くと、ロイドがいた。

 

「せいがでるな」

 

「あはぁ、まぁねぇ、こうしてないと落ち着かないしぃ」

 

「そうか、ところで、例の武器は式典までに間に合うか?」

 

「もう出来てるよぉ」

 

「早いな、でどこにある?」

 

「奥の方だよぉ」

 

ロイドに言われた通りトレイラーの奥に行く、お、スザクがパソコンで勉強しているな、邪魔しちゃ悪いから声はかけないほうがいいな。

 

奥の方に着くとカプセルで覆われた円形の土台に巨大な剣が突き刺さっていた。

 

カプセルを開き剣を土台から引き抜く。

 

 

スラァン………

 

 

刀身は170cmあり、どこまでも黒く飾り気のない両刃、柄は長く50cmある、両手用だが、どう考えても私以外には扱える代物じゃない、明らかに重すぎる。

 

これこそが、私のための剣!

 

MVS:C!(メーサーヴァイブレーションソード:コンパクト)。

 

ロイドに頼んでおいた私専用の対KMF用近接兵器、全長220cm、170cmの振動する刀身がKMFを容易く切断することだろう、敵KMFの攻撃が効かない不死身の私にはもってこいの武器だ。

 

ロイドは使いこなすのは無理だと言っていたが、なるほど、確かに並大抵の人間では無理だろう、重さもそうだが、こんなもの担いで最前線に突っ込めるやつなんてジェレミアくらいだ。

 

鞘も作ってあるのか、しかも充電機能付き、ありがたいことこの上ない。

 

鞘にMVS:Cを納刀、バンドで背中に担ぐ、これでは緑色の服を着た勇者か何かだな。

 

夜も更けてきた、寝袋を敷いて寝よう、今日は、いや今日も疲れた、式典まであと10時間ほど…………お休みだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おはよう、MVS:Cを背負ったまま寝たら背中を少し痛めた、すぐ治ったけどな。

 

式典まであと20分を切った、ユーフェミアは不機嫌だしスザクはなぜか険しい顔つきだ、ユーフェミアは昨日の件だろう、スザクは緊張だな。

 

「ユーフェミア様、時間が近くなりました、準備のほうを」

 

「……わかりました」ムスッ

 

不機嫌だなあ、まあいい。

 

「スザクも行くぞ、制服は着たか?」

 

「うん……ちゃんと着たよ」

 

こっちはなんか怖いな。

 

不気味に思いながら控室を出る、会場に出るとそこはたくさんの日本人でごった返していた、ゼロの情報では工作員を数名紛れ込ませてあるらしい。

 

何かあった時の避難誘導のためだそうだ、確か式典に参加するのはCCとゼロのみ、招待されていないから相当派手に登場するはず、すぐ動けるようにしておくか。

 

ユーフェミアがマイクの前に立ち、自己紹介と政策の発表を行った。

 

日本人のあいだに動揺が広がる、騎士団員は……動揺していない様子だ、ゼロが教えておいたのか。

 

式は順調に進み、スザクがユーフェミアの騎士に就任した、そしてユーフェミアによってスザクはブリタニア人(兼日本人)となった。

 

…………騒ぎが起こっているようだな、騎士団が起こしたものじゃないようだが、武力鎮圧はダメだろう。

 

「警備部隊、騒いでいる連中を外に出せ」

 

『イエス、マイロード!』

 

威勢の良い返事を聞いてインカムから手を離す、連れて行かれたか。

 

スザクの決意表明…………うん、ちゃんと言えてるな、あとは私の日本人部隊設立宣言か。

 

アナウンスに従い、マイクの前に進みでる。

 

「《会場にいる日本人諸君!私は、ナイトオブラウンズが1人、ナイトオブサーティーンのツキト・アールストレイムせある!》」

 

日本語で話したことで動揺が広まる。

 

「《ユーフェミア様は憂いていた!日本人諸君が、何の罪もない諸君が、日々悪虐なるブリタニア人にいたぶられていた現状を!ユーフェミア様はそんな諸君を救いたい一心で今回の政策を打ち出した!》」

 

「(つ、ツキト、これは予定には……)」

 

「(ええい黙ってろスザク!)」

 

「(だ、大丈夫なのですか?ツキト)」

 

「(ご安心ください)」

 

「《だが!それでもユーフェミア様の意思に背き、悪虐の限りをつくすブリタニア人が必ず出てくる!今までそうであったように!》」

 

『『『『うおおおおおおおおお!』』』』

 

日本人たちの雄叫びが聞こえる。

 

「《諸君は見てきたはずだ!同胞がブリタニア人によって理不尽に傷つけられる様を!諸君は聞いてきたはずだ!自らをイレブンと呼び蔑むブリタニア人を!諸君は言ったはずだ!【自由】が欲しい!【明日】が欲しいと!違うか!?》」

 

『そうだ!俺たちは自由が欲しい!』

 

『明日が欲しい!』

 

『『『自由だ!明日だ!』』』

 

日本人の心が集約していく、今ならば!

 

「《諸君の願い、しかと聞き留めた!そして喜ぶが良い!ここにおられるユーフェミア様は諸君を自由へと、明日へと導いてくれるお方だ!!》」

 

『本当なのか!?』

 

『嘘じゃねえだろうな!?』

 

「《嘘ではない!ユーフェミア様は必ずや諸君に自由と明日を取り戻すことを!ここに誓おう!》……ユーフェミア様、こちらへ」

 

「(は、はい)」

 

マイクの前をユーフェミアに譲り、改めて書いておいた日本語(ひらがな)のメモを渡す。

 

「(読み上げてください)」

 

「(はい……えっと)…………《私、ユーフェミア・リ・ブリタニアは、日本人の自由と明日を取り戻すことを誓います!》」

 

『『『『うおおおおおお!!!』』』』

 

ふっ、扱いやすい。

 

マイクを掴んで歩き出す。

 

「《諸君!ブリタニアが憎いか!!!》」

 

問題発言だが…………知ったことか!

 

『『『『憎い!!!』』』』

 

会場の言葉が重なる。

 

「《私もブリタニアが憎い!私の主はブリタニアによって黙殺された!私を本当の家族のように扱ってくれた心優しきお方だった………………なのに!なのに!!本国で暗殺されかけ!逃げ延びてきた日本でブリタニア軍によって殺された!!諸君もわかるはずだ!親を!兄弟を!姉妹を!恋人を!親友を!財産を!大切なものを失う気持ちが!諸君にもわかるはずだ!!》」

 

『『『『わかるぞ!!!』』』』

 

「《悪虐なるブリタニア人に…………クズのブリタニア人貴族どもに、これ以上大切なものを奪わせるわけにはいかない!そうだろう!?》」

 

『『『『そうだ!そうだ!』』』』

 

「《大切なものを奪わせないために、大切なものを守るために、日本人諸君の誇りを守るために!今ここに宣言する!本日!本時刻を以って!ここに日本人のみで構成された【粛清部隊】を設立する!!租界で暴力を受ける日本人を見捨てる必要はもうなくなった!日本人を殺したブリタニア人が無罪放免になることなど、もはや過去のこととなった!今日この瞬間!日本人の自由と明日を取り戻すための第一歩が踏み出されたのだ!!》」

 

言い切ると同時に会場の日本人の興奮はフルスロットル、最高最大のボルテージに達し、雄叫びをあげる者が続出した。

 

そう、まさにこの瞬間を狙い、一機のサザーランドが飛び出してきた、やはりこのタイミングでくるか!

 

『な、なんだあのKMFは!?』

 

「落ち着け!まだ撃つな!!」

 

急いでインカムで指示を飛ばす、さあ、今度は一体どんなショーを見せてくれるんだ?

 

サザーランドから出てきたのは…………ゼロ!

 

「ゼロ!お前!」

 

「待てスザク!お前はユーフェミア様の側に!」

 

「だけど!」「落ち着け!貴様は誰の騎士だ!?」

 

「!?……わかった」

 

スザクを押しとどめる、スザクは苦虫をすり潰したような顔でユーフェミアのそばに行った。

 

ん?ゼロの様子が…………マイクでも忘れたか?

 

手元にあるマイクを見る………………。

 

「………………そぉい!!」

 

投げた、ゼロめがけて山なりに。

 

『《おっと、っと………………ありがとう、アールストレイム卿》』

 

ゼロは日本語でやるつもりか。

 

『『『『ゼローー!!』』』』

 

『ゼロも参加していたのか!?』

 

『ゼロ様ー!』

 

『救世主の登場だ!』

 

振り切れたメーターの針が折れるように、会場の熱気はゼロの登場によって振り切れた。

 

確か替えのマイクは…………あった、床の中に置いておいたのか。

 

「《気にするな、それで?ゼロが式典に何の用だ?》」

 

『《私は戦いに来たわけではない、信じてくれ》』

 

「《そんなもの見ればわかる…………ここで戦闘になれば、ここにいる日本人を巻き込むことになる、私も、ユーフェミア様もそれは本意ではない》」

 

『《信じてくれてありがとう、私がここに来たのは、ユーフェミア副総督の政策への明確な答えを表明しに来たに過ぎない》』

 

『ゼロはなんて言うんだ?』

 

『反対するのかな?』

 

『でもアールストレイムって人は嘘つきには見えないし』

 

『ツキトさん…………』

 

会場がどよめく、そう、私たちがいくら言ったところで結局は日本人の総意であるゼロが答えを出さねばならないのだ、そうでなければ、納得はしない。

 

日本人はとても謙虚な人種だ、電車やバスでお年寄りがいれば席を譲り、道を聞けば教えてくれる、まとめて物を買えば値引きもしてくれる、優しい人種なんだ。

 

それゆえに自分ではものを決められない、決断能力がない、だから多数決に頼りたがる、『みんなそっちを選ぶから私もこっちに』そういう人種だ、みんながそうだから、あいつがこうだから、主体性がない、だからこそ必要だ、強い指導者が、ゼロが、日本人には必要なんだ。

 

「スザク」

 

「なんだい?」

 

「ゼロの話す内容をユーフェミア様にわかりやすく伝えてくれないか?」

 

「わかった」

 

スザクに翻訳を頼んでゼロに向き直る、距離はおよそ200mほど、太陽光が仮面に反射しているのがかろうじて見える距離だ

 

「《聞こう、その答えを》」

 

『《では言わせてもらおう…………》』

 

会場が静まり返る、演出が好きだなルルーシュは。

 

『《我々黒の騎士団は、ユーフェミア副総督の日本人を救いたいという気持ちを信じ、その政策を見守るとともに、アールストレイム卿の設立した【粛清部隊】の運用に全面的に協力することを約束しよう!》』

 

会場が湧く、さすがだよルルーシュ、いやゼロ。

 

後ろを向く、スザクがわかりやすくユーフェミアにブリタニア語に翻訳して伝えている、聴き終えたユーフェミアは私に向かい歩いてきた。

 

「ツキト」

 

「はっ!」

 

マイクをユーフェミアに差し出す、ユーフェミアがマイクを取ると私は後ろに下がった。

 

「ゼロ!」

 

『……なんですかな?ユーフェミア副総督』

 

「政策に賛同してくれたこと、感謝します」

 

『こちらこそ、私を信じ、攻撃しなかったこと、感謝する』

 

ユーフェミアとゼロが会話する、エリア11ブリタニア人代表と日本人代表の会話、ある意味対話が成ったと言えるな。

 

『では、私はこれで帰らせてもらおう、さらばだ!』

 

ゼロがサザーランドに乗り込む、サザーランドはランドスピナーで地面を滑りつつ会場を抜け、瓦礫の山に消えていった。

 

…………あ、マイク返してもらってない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

式典も終わり、スザクとユーフェミアと私で屋台めぐりを、と思ったがユーフェミアの機嫌が悪いままだったので1人で来た、スザクは騎士なのでユーフェミアと一緒だ。

 

おっと、ナナリーに連絡しなくては、メールでいいか、場所は会場の倉庫(本部)と、送信。

 

送信完了の文字を見て倉庫に行く、途中誰も人がいないことを確認し、扉を開ける。

 

「ツキトさん!」

 

扉を閉め鍵をかけた瞬間にナナリーが抱きついてきた。

 

「ツキトさん……ツキトさん……」

 

「お久しぶりですナナリー様」

 

ナナリーを優しく抱き返す、私の胸に顔を埋めるナナリーの頭を撫でつつ、正面に立つ咲世子を見る。

 

「咲世子、お前も久しぶりだな」

 

「お久しぶりです、ツキトさん」

 

咲世子が頭をさげる。

 

「式典の時はどこに……」

 

「観客に紛れ込んでおりました」

 

「無事だったか?」

 

ナナリーはブリタニア人だ、何もされていなければいいが。

 

「変装しておりましたので大丈夫でした」

 

「そうか、ご苦労」

 

「…………ツキトさん、咲世子さんと楽しそう」

 

頭を埋めていたナナリーが顔を上げて睨んできた、距離近いなキスできるぞ。

 

「そうでしょうか?」

 

「ツキトさんの無自覚…………んーー」

 

何か小声で言ってから顔を近づけてくるナナリー。

 

「いけません、ハレンチです」

 

「いいじゃないですかちょっとくらい……」むすー

 

ムスッとした顔をするが…………ユーフェミアと違ってかわいい、うーん…………うん、やはりナナリーはかわいい!しかしアーニャと比べてどうかと言われると困る。

 

「ナナリー様も皇族なのです、少しは自覚を持った行動を…………」

 

「むーー…………えいっ」チュッ

 

「んっ!?…………………」

 

「ぷはっ…………ふふふっ、ツキトさん♡」

 

「…………はぁ」

 

説教途中でのキスは卑怯だ……でも嬉しく思う私もいる……はぁ…………。

 

「もう一度……」

 

「ダメです」

 

「1回じゃ満足できません!」

 

「我慢してください」

 

「…………ツキトさんのばか」

 

「なんと言われようとダメです」

 

きっぱり断るとナナリーがうつむいてしまった……いや、さっきみたいに私の胸に頭を埋めてきた。

 

「…………クンクン」

 

「匂いを嗅がない、はしたないですよ」

 

私の匂いなんて嗅いで楽しいのか?

 

「今はツキトさんの匂いで我慢します……」

 

「…………まあ、そういうことでしたら」

 

これでキスされないならいいか、減るもんじゃないし………………なにか大事なものが削られてる気がする。

 

 

(それはきっと羞恥心だよ! by作者)

 

 

だがこの体勢はきつい…………そうだ。

 

「ナナリー様、屋台めぐりしませんか?」

 

「クンクン…………屋台めぐり、ですか?」

 

ひとしきり匂いを嗅いだナナリーは私の声に反応したのか顔を上げた。

 

「ええ、会場の外の屋台はご覧になられたと思います、よろしければご一緒に」

 

「はい!一緒に回りましょう!咲世子さんも」

 

「わかりました」

 

決まりだな。

 

「では行きましょうか」

 

「はい、あ、腕を組んでもいいですか?」

 

「少々お待ちください…………咲世子」

 

このままの格好ではばれる、一般人にならなければ。

 

「変装セットは持ってきております」

 

「貸してくれ…………ナナリー様、変装に時間がかかりますので、少しの間ここでお待ちください」

 

咲世子から変装セットの入ったカバンを受け取りつつナナリーに言う。

 

「はい、待っています」

 

ニコッと笑って答えるナナリー、健気さが伝わってくる、かわいいなあ。

 

倉庫から出て一番近いトイレでパパッと変装する、髪は染めずにそのまま、眼帯外して両目にカラコン、ラウンズの服を脱いで高校生風のファッションの服を着る。

 

 

(流行など知らん by作者)

 

 

トイレから出て倉庫に戻る。

 

「お待たせいたしました、それでは行きましょうか」

 

「はい!」

 

笑って私の腕に抱きついてくるナナリー、とても愛らしい。

 

……咲世子が一瞬微笑んだ気がする。

 

倉庫から出て会場の外に出る、見渡す限りの屋台は見てるだけで楽しくなる。

 

「ツキトさん!たこ焼き食べましょう!」

 

「ああちょっと引っ張らないでください…………」

 

「…………ふふっ」

 

3人での屋台めぐりは楽しいものだった、たこ焼きやお好み焼きなど美味しいものを食べれて満足だった。

 

途中射的で咲世子が商品を全て落とした時は唖然とした、輪投げで商品全てに輪っかをかけたのは逆に笑った、屋台めぐりのおかげで改めて咲世子のスペックの高さに気づけた。

 

ナナリーは終始楽しそうに食べたり飲んだりゲームをしたりしていた、金魚掬いで取った金魚の入った水袋の紐を手首に通し、私の腕に抱きついて歩いている、楽しそうだ、おっと、ペン型カメラでの撮影は欠かせないな。

 

私の格好がほとんど式典の時と変わらないため、怪しまれるとまずいので会話はいつもの偉そうな感じでやった、ナナリーも察してくれたようで特に危険はなかった。

 

「楽しかったですね!ツキトさん、咲世子さん」

 

「そうだな」

 

「そうでございますね」

 

時計を見る、もう午後7時だ、早いものだな。

 

「ナナリー様、私は仕事がありますのでこの辺で」

 

「行ってしまうのですか?」

 

「申し訳ございませんが」

 

「そう、ですか…………あの、いつ帰ってきてくれるのですか?」

 

ナナリーが泣きそうな顔で聞いてきた。

 

「早ければ明日までには」

 

「わかりました、待ってますね」

 

「できるだけ早く帰ります」

 

「ナナリー様、こちらへ」

 

咲世子がナナリーを誘導する。

 

「はい…………ツキトさん!」

 

振り返ろうとした足を止め、ナナリーの声の方に振り返る。

 

「どうし………………」

 

「んっ…………」チュゥゥゥ

 

振り返った瞬間、ナナリーの唇が私の唇と正面衝突し、首のはナナリーの腕が回されてホールドされる。

 

「んっ………ふっ…………んん…………」チュゥゥゥゥゥ……

 

逃げ場はないか…………だんだん頭が真っ白になっていく………………あぁ^〜。

 

「ぷはっ…………ナナリー様、これ以上は……」

 

なんとかナナリーと距離をとる、ふう、危なかった。

 

「……ツキトさん」ポー

 

ナナリーが顔を真っ赤にして放心してる、自分からやっといて放心するのか…………。

 

…………あっ!?冷静になって考えてみたら私なにナナリーを帰そうとしてるんだ?ユーフェミアに会わせて他皇族に気づかれないよう目をそらしてもらうんだった。

 

危ない危ない…………。

 

「すみませんナナリー様、実はナナリー様に会っていただきたい方がいるのです」

 

「そう、ですか……」ポー

 

「今から向かいます、はぐれないように注意してください」

 

「……はい…………」ポー

 

まだ顔が真っ赤だ、それに少しふらついている、大丈夫だろうか。

 

「えへへ……ツキトさん」

 

かわいい。

 

ナナリーの腕を組み支えながらユーフェミアのいるところを目指す。

 

屋台を抜けるとユーフェミアの個室が見えてきた。

 

「アールストレイムだ、通してくれないか?」

 

「はっ……すみませんが、お連れの方は…………」

 

門番がナナリーと咲世子を交互に見る。

 

「私の婚約者と、そのメイドだ、ユーフェミア様に紹介しておこうと思ってな」

 

「そうでしたか、ではどうぞ」

 

門番が扉のロックを解除して開ける、私、ナナリー、咲世子と続いて入ると門番は扉を閉めた、オートロックもカチャンという音が聞こえる。

 

ナナリーと組んでいた腕を離す、さすがにユーフェミアの前でああいうのはな。

 

「あ、ツキト…………ナナリー!?」

 

ユーフェミアがこちらに気づいてテーブルを蹴って立ち上がった。

 

「ユフィ姉様!」

 

ユーフェミアはナナリーを抱きしめる、ナナリーはとっさのことに驚きつつ抱きしめ返した。

 

「やはり生きていたのねナナリー!」

 

「はい!お兄様も一緒です!」

 

「ルルーシュも、よかった、2人とも無事で……」

 

ナナリーとユーフェミアが抱きしめ合う様子を見て、テーブルのそばで硬直してしまっているスザクに近づき声をかける。

 

「どうしたスザク?美女と美少女の美しい抱擁に感動して声も出ないか?」

 

「つ、ツキト、ナナリーが生きてることがばれたら!!」

 

予想以上の慌てっぷりだな、ルルーシュだったらもっと面白いことになってるだろう。

 

「案ずるな、そのためにユーフェミア様に会ってもらったのだ」

 

「どういうことだい?」

 

「ユーフェミア様は本当にお優しい方だ、スザクもそれは知っているだろう?メイド喫茶の時、誰よりも早く助けようとしていたしな」

 

「うん、ユフィが優しいのは知っているよ」

 

「そこでだ、その……なんだ……悪い言い方をすれば、今回はユーフェミア様の優しさを利用する」

 

「……というと?」

 

スザクの顔が少し険しくなる、自分の姫様を利用されていい気分になる騎士なんていないしな、いやそれ以前にゆとスザクは互いに良き理解者であり友達感覚の間だしな、不機嫌にもなるか。

 

「かわいい妹であるナナリー様を他の皇族や貴族に見つからないようにと頼めばなんとかしてくれるだろうと思ってな、ユーフェミア様の加護の下に入れればナナリー様を見つけるのは容易ではなくなる、仮になにかしら情報を得ようとするならば……警備が厳重な総督府に突っ込まなければならんがな」

 

そしてさらにスザクという優秀な騎士を倒さなきゃユーフェミアから情報は得られないがな、なんというハーデストモード、いやインセインか。

 

「ユフィの持つ力でナナリーを見つからないようにするってわけだね」

 

「そうだ、スザク頭いいな、こんなこと話してすんなり理解できるのはルルーシュ様と咲世子ぐらいなものだ」

 

「あはは、ルルーシュにいろいろ教えてもらったからね」

 

はにかんで笑うスザク、イケメーン。

 

「相変わらずルルーシュ様と仲がいいな」

 

「親友だからね」

 

「親友、か…………本国ではルルーシュ様にそういう間柄の人物はいなかった」

 

「そうなのかい?」

 

「ああ、ルルーシュ様は見ての通り頭が良く顔も良い、同世代の男子からは嫉妬されるし、女子は恥ずかしがって近寄らない、皇族だから一般人は寄りつかない………………ルルーシュ様は完璧に近いがために、友人ができなくて塞ぎこんでしまった」

 

「…………そっか」

 

「だが、日本に来てから、スザクにあってから明るくなられた、ランペルージとして生活するなかで友人も増えた…………スザク、これからも、なにがあろうとルルーシュ様の親友でいてくれ」

 

「うん、僕でよければ」

 

「お前しかいないさ、ルルーシュ様もそう言うはずだ」

 

「そうかな?」

 

「ああ、本当に…………良き友人をもった……」

 

「て、照れるなあ////」

 

照れたようにほおをかくスザク。

 

…………ふむ、このままユーフェミアが死なない未来を続ければ、最終的なゼロ=ルルーシュへの憎悪も少なくなるかもしれない、そうなれば親友ENDも期待できる。

 

そうなるために、ルルーシュとスザクの敵にならなければいけないのは精神的にくるな、特にナナリーを裏切るのはな、私が純潔を奪ってしまったわけだからな………………完全に嫌悪されれば大丈夫だ、しかし外道の真似して鬼畜の所業を積み重ねても、きっとナナリーは悲しそうな目で見てくるだろうな…………はぁ。

 

………だがそれ以外に道はない、ルルーシュがシャルルに代わって皇帝となり、スザクと共に私とシュナイゼルに立ち向かう、フレイヤの力を振りかざす悪虐非道な宰相シュナイゼルと、最愛の妹の純潔を奪い、婚約までした鬼畜外道屑のラウンズの私を倒し、世界をフレイヤという脅威から救い、ブリタニアを帝国から合衆国にし、ルルーシュとナナリーは国民から愛され未来永劫にわたって語り継がれるのでした、めでたしめでたし。

 

というのが現段階での計画だ、私はスザクより若干劣る、しかしシュナイゼルの頭をもってすればルルーシュ軍を劣勢にすることは十分可能だ。

 

フレイヤを手に世界征服を狙うシュナイゼル軍、劣勢に立たされるルルーシュたちブリタニア軍、劣勢から繰り出されるルルーシュの奇策によって戦線は崩壊、シュナイゼル軍のエースである私をスザクが倒して優勢に立ち、ルルーシュ自ら一気にダモクレスに突っ込んで制圧、シュナイゼルをその場で処刑し全世界に生中継を行う、ルルーシュはそこで世界からフレイヤを消し去ったことを伝え、世界を平和であり続けるために、エリアすべてを自治区とし、ブリタニア帝国を合衆国にする。

 

世界はひとつになる、ブリタニア合衆国の登場で平和が完成する。

 

「ツキト!」

 

ユーフェミアの呼ぶ声が響く。

 

「なんでしょうか?」

 

「私は諦めません!」

 

「は?」

 

「いつかツキトを絶対に振り向かせてみせます!」

 

「は、はあ」

 

「自分を磨いて、必ずツキトを惚れさせます!」

 

ま、まあ、自分を磨くのはいいことだと思うぞ……うん。

 

「ツキトさん!」

 

「な、なんでしょう?」

 

「私もツキトさんにもっと好きになってもらえるよう頑張ります!」

 

「は、はい……」

 

「例えユフィ姉様であっても、ツキトさんは絶対に渡しませんから!」

 

「そ、そうですか」

 

「はい!ですから今ここでキスを……」

 

「させないわナナリー!」

 

「ユフィ姉様!邪魔しないでください!」

 

「ツキトは私と結婚するの!ツキトの子を産むの!」

 

「ツキトさんは私と結婚して、ツキトさんに似た男の子を育てるんです!」

 

…………聞いてられなくてスザクと一緒に部屋の端の方に仕切りを立ててソファに座る。

 

私は頭を抱える、きっと顔は真っ青だな、スザクは話の内容を聞いて顔が真っ赤だ。

 

『私なんて、ツキトさんと【Pi〜〜】もしたんですからね!!』

 

『うっ、で、でもそれだからってツキトが惚れるとは限らないわ!私のほうが胸が大きいし、誘惑すれば私のほうに来るわよ!』

 

『そんなことでツキトさんはユフィ姉様にはなびくはずないです!それに、私はツキトさんの髪を乾かしたこともあるんですよ!羨ましいですか?』

 

『つ、ツキトの、髪を…………う、羨ましい!私もしたい!ツキトの綺麗な髪触りたい!』

 

………………皇族って髪フェチなのか?そういえばマリアンヌの髪も綺麗だったな、あれ?もしかして皇帝って………………あっ(察し)

 

「なんてはしたないことを、あんな大声で…………はあ、従者失格だ…………死にたい」

 

「な、ナナリーが大声であんな言葉を……////……それにユフィも、む、胸なんて……//////」

 

スザクにはちと刺激が強すぎたか、すまんなスザク、耳栓は持ってないんだ。

 

「…………咲世子」

 

「はい」

 

「スザクを外に連れていってくれ」

 

「大丈夫ですか?」

 

「ストレスで禿げ上がりそうだ……」

 

顔が真っ赤になって動けないスザクを咲世子に任せて脱出する、出るときに門番にユーフェミアとナナリーの言い争いを聞かれたが、ニヤニヤされただけだった、給料2割カットしてやる。

 

「ツキトさん」

 

「ん、どうした咲世子?」

 

「スザクさんはどのように」

 

「あー…………近くのベンチに寝かせておいてくれ、私はここでナナリーさ……ナナリーを待つ」

 

「わかりました」

 

咲世子はスザクを抱えるとベンチを探し始めた。

 

女に悩ませられるなんてな、生まれ変わった時はそうなるとは微塵も思わなかったのに。

 

…………電話だ、ルルーシュか。

 

「ことらツキト」

 

『ああツキト、ナナリーがどこにいるか知らないか?』

 

門番に聞こえないように距離をあける。

 

「ナナリー様ならユーフェミア様専用の個室にいますが」

 

『ほぁ!?おおおおお前バラしたのか!?』

 

「えぇ、その方が好都合だと判断しました」

 

『好都合?…………ああ、ユーフェミアの好意に付け入る気か』

 

「その通りです、ユーフェミア様のナナリー様への庇護欲その他を利用させてもらう気です」

 

『なるほどな、しかしツキト、お前今ナナリーとユーフェミアを合わせて後悔してるんじゃないのか?』

 

「…………わかりますか?」

 

『ああ、お前が好きなユーフェミアと婚約してるナナリーを合わせれば口喧嘩にはなるんじゃないか?』

 

ご名答だよルルーシュ。

 

「はい、その、私のことで言い争いを…………」

 

『まあ納得するまでやらしておけ、下手に止めると逆効果だ』

 

「わかりました」

 

『帰ったら今後について…………なんだCC?………………むっ、そうか…………ツキト、しばらく休暇を取らないか?』

 

CC?いったいルルーシュになにを言ったんだ?休暇なんて…………。

 

「休暇ですか?」

 

『ああ、ここ数日働き詰めだっただろう、1週間ほど休暇をとって休んだほうがいい』

 

「よろしいのですか?」

 

『疲労が溜まると次の作戦に支障が出る、無理してでも休め』

 

休むために無理しなきゃいけないのは違う気が…………。

 

「イエス、ユアハイネス」

 

『では、きるぞ』

 

電話が切れてツーツーという機械音が聞こえる。

 

ま、コーネリアにでも言えばいけるだろう。

 



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『宝石箱』を探せ

会話文が増えた分地の文が減る。

これじゃSSと変わらない気がする。

でも書く、楽しいから。


ナナリーside

 

 

「それじゃ、わたくしリヴァル・カルデモンドが枢木スザクの騎士就任祝いの乾杯の音頭をとらせていただきます!かんぱーい!」

 

「「「「かんぱーい!」」」」

 

式典から3日が経ち、今日はミレイさんの計らいで体育館を貸し切ってスザクさんの騎士就任のお祝い会を開いているんです。

 

「ミレイ会長、今日はありがとうございます」

 

「そんなこと言わないでスザク君、生徒会メンバーとして祝わなきゃと思っただけよ」

 

「会長の言う通りだぞスザク」

 

「ルルーシュ!」

 

「騎士就任おめでとうスザク、今日は楽しんでくれ」

 

「ありがとうルルーシュ!」

 

「スザクさん、頑張ってくださいね」

 

「ありがとうナナリー」

 

「リヴァル・カルデモンド、歌いまーす!」

 

「「「「いえーー!」」」」

 

ふふふっ、皆さん楽しんでいるようですね、お兄様も楽しそうです。

 

でも、ツキトさんは………………。

 

「どうしたのナナちゃん?」

 

「しゃ、シャーリーさん!?それにカレンさん!?」

 

「元気無さそうだけど」

 

「えっと、その、ツキトさんが……」

 

「お仕事なの?」

 

「はい、これないかもしれないって…………」

 

「仕事やめてきてくれるように言った?」

 

「邪魔をしては悪いので、そういうことは……」

 

「どうしたらいいのかしら?」

 

シャーリーさんとカレンさんが頭をひねる。

 

…………大好きなツキトさんに忙しい中お祝い会に来て欲しいと思うのはワガママでしょうか

 

「ツキトも政治に関わっているからな、そう簡単には来れないだろう」

 

「政治に!?」

 

「(ラウンズが政治に…………)」

 

「ツキトさんが政治にって、本当ですかお兄様?」

 

「ああ、ツキト自身が政治に干渉することで、日本人をより多く助けようとしているんだろう」

 

「やっぱりツキトさんはすごいです…………」

 

それに比べて私はこんなワガママを…………。

 

「たしかに、ツキトはすごいよね」

 

「やはりスザクもそう思うか?」

 

「ユフィの政策を考えたのはツキトだからね」

 

「そうなのスザク君?(ユフィってユーフェミア様?)」

 

「うん、ツキトがユフィに提案したんだ、ツキトはすごいよ、日本人のことをよく考えてくれてるし」

 

「ツキトさんは優しいですから!」

 

「「「「(優しい(意味深)……)」」」」

 

「そうだなナナリー、ところでスザク、ツキトは今何しているんだ?」

 

「ツキトは今自分の直属の部隊を編成中だよ」

 

「直属の部隊?」

 

「うん、日本人だけで構成された特殊部隊なんだって」

 

「へえ(ゼロが訓練に協力するって言ってたやつね)」

 

その時、体育館の扉が開いて赤い髪の人が歩いてきました、右目には大きな眼帯があるかっこいい男の人…………ツキトさんです。

 

「ツキトさん!!」

 

こっちに歩いてくるツキトさんに駆け寄って抱きつく、クンクン、ツキトさんの匂い…………落ち着きます。

 

「すまないナナリー、少し遅れてしまった」

 

「いいんです、ツキトさんがいてくれるだけで私は……」

 

スーーーハァァーー………………落ち着きます………。

 

「それは嬉しい言葉だ、だが……」

 

「あっ……ツキトさん」

 

ツキトさんは私を両手で小さい力で突き放す。

 

「いきなり抱きつくのは、行儀が悪いぞ」

 

「はい……」

 

「うむ、わかってくれて嬉しいよ、ナナリー」

 

ツキトさんの手が私の頭を撫でる。

 

「綺麗な髪だな……」

 

「ツキトさん……////」

 

幸せ…………。

 

「ツキト!」

 

スザクさんがツキトさんに近づいてきました、むぅ。

 

「スザクか、どうだ?祝われるという感覚は?」

 

「こんな感覚はルルーシュとナナリーと再会した時以来だよ、もちろんツキトもね」

 

「ならいい、式典のあと散々言ったが、今一度言わせてもらおう、騎士就任おめでとうスザク、これからも貴殿の活躍を期待する」

 

「ご期待に沿えるよう、粉骨砕身の覚悟で臨みます…………だったっけ?」

 

「あたりだ、記憶力が良くなったんじゃないか?」

 

「あはは、そんな気がするよ」

 

「テストの点数は上がらないみたいだがな」

 

お兄様も来ました、スザクさんをからかっているみたいです。

 

「る、ルルーシュ!それは……」

 

「おいおい、騎士が勉強ができないようではいかんぞ?」

 

「うっ、あはは、が、頑張るよ……」

 

お兄様にツキトさんにスザクさん、4人で集まるのも久しぶりです。

 

「どうしたんだナナリー?」

 

「お兄様…………その、こうして4人で集まるのも久しぶりだなと思いまして」

 

「そういえばそうだね」

 

「私とスザクは基本的に総督府にいて、ルルーシュとナナリーは学園にいるからな」

 

スザクさんがウンウンと頷いた。

 

「そういえばツキト、お前休暇をもらったとか言ってたじゃないか」

 

「ああ、コーネリア様の前で『疲れた……』って呟いたらもらえた」

 

まあ!コーネリア姉様が!

 

「ええ!?こ、コーネリア様に!?」

 

「よく無事だったなツキト」

 

「コーネリア様はもとより部下には優しい方だ、誤解しないようにな」

 

「では、明日は一緒に学園に通えるのですね?」

 

「ああ、5日間休暇をもらったからな」

 

「やったぁ!」

 

小さく手を握ってガッツポーズ、ツキトさんと一緒に登校できるなんて久しぶりで、握った手が震えています。

 

「ははは、喜んでもらえてなによりだ、ところでルルーシュ、あれのことだが…………少しいいか?」

 

「構わない、向こうでいいか?」

 

「ああ……」

 

あれって、何のことでしょう?聞いてみても…………いえ、ワガママな女に見られてしまうかもしれません、ここは我慢しましょう。

 

「何の話だいルルーシュ?」

 

「スザク…………すまないが少しプライベートなことでな……」

 

「そうかい?邪魔してごめんね」

 

「気にしないでくれ…………ツキト」

 

「ああ」

 

ツキトさんとお兄様が体育館の外に出て行きました。

 

なんのお話なのか気になります………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

「ここまでくれば大丈夫だろう」

 

前を歩いていたルルーシュが止まって振り返る。

 

校舎の中でも誰も寄り付かない階段裏のスペース、普通の学校ならそこになにかしら置いてあるものだが、ここアッシュフォード学園の生徒は貴族も多いため、景観に気を遣って置いていない。

 

「…………そうですね」

 

「あれの話…………あのKMFのことだろう?」

 

「はい」

 

「ラクシャータのおかげで解析は順調に進んでいる、それにしても面白い機体だ、複座式とはな」

 

「あまりにスペックが高すぎるため、1人では操縦ができないのです」

 

「ドルイドシステムだったか、たしかにあれだけのものを積めばパイロットのスペックもかなり制限されるな」

 

本当になんであんなもの作ったんだ。

 

「解析が終了次第、ルルーシュ様はCCとガウェインの操縦練習を行ってください」

 

「わかった、ツキトはどうするんだ?」

 

「しばらくはナナリー様と学園に通います、ストレスがたまっていることでしょうから」

 

「ナナリーは溜め込む方だからな、ガス抜きしてやらないといけないだろう」

 

「休暇の間はナナリー様と過ごし、その後2ヶ月は騎士団員を交えて日本人部隊の訓練を行おうと考えております」

 

「カレン……は無理だから、藤堂たち四聖剣を向かわせよう…………それにしても、お前もよく考えたものだ」

 

ルルーシュが壁に寄り掛かる。

 

「騎士団を自警団扱いするとは」

 

「警察機関ではブリタニア人から反発がおこります、しかし日本人部隊の教育に全力でサポートしてくれる騎士団をテロ集団にしておくのも…………と思いまして」

 

「良い案だと思うぞ、下手に権力は持たせず、かつほぼ対等な立場だ、騎士団メンバーの中にはプライドの高いやつもいるしな、これで正解だろう」

 

プライドの高いやつもいる…………ブーメランかな?

 

「それとツキト、騎士団が妙な情報を掴んだ」

 

「妙な情報?」

 

「【リフレイン】という麻薬の一種が横行しているらしい、調べてみたがどうやら組織的な活動のようだ」

 

リフレイン…………過去の楽しい思い出に浸れる薬、中毒作用があり、幻覚幻聴その他もろもろを引き起こす。

 

「ブリタニア側ですか?」

 

「いや、売人はブリタニア人だが、ハズレだった」

 

尋問か、それとも拷問か。

 

「ではいったい…………」

 

「ナリタ連山攻防戦時に逃げた、日本解放戦線リーダーの片瀬少将だ」

 

「日本解放戦線のトップが!?」

 

知ってたけど。

 

「やつはリフレインで儲けた金でキョウトからサクラダイトを購入しているようだ」

 

「サクラダイトを?」

 

「ああ、それも大量にな、どこかの港に保管されているらしい」

 

「大量のサクラダイト…………まさか」

 

「亡命、だろうな…………味方を見捨てて」

 

「そんなことをしては…………」

 

「ああ、間違いなく片瀬は日本人からの信用を失う、だが今やその信用のほとんどが騎士団に流れている、今の片瀬は自分の命が大事なんだろう」

 

「それで大量のサクラダイトを手に亡命を?いささか無謀では…………」

 

「一番近い中華連邦はサクラダイトを受け取ったら用済みの片瀬を片づけるだろう、ユーロピア連合はもしたどり着けたのなら少しは可能性があるだろう、ユーロ・ブリタニア軍に見つからなければな、つまり、どっちにしろ無理だ」

 

まあこのご時世に亡命って時点で詰んでるんだけどな。

 

「俺は騎士団を使って片瀬のサクラダイトをいただく、ツキトは日本人部隊を使って流通しているリフレインを止めろ」

 

新兵同然の日本人部隊を薬物取り締まりにか、初任務にはちょうどいいだろう、今まではイレブンにはコイルガンを持たせることは無かったが、私の直属部隊ならば話は別だ、全員に拳銃型のコイルガンを持たせてやろう、分隊長にはサブマシンガン型もプラスしよう、予算は私の思いのままだ、ちょっとくらい流してもバレることはないだろう。

 

「イエス、ユアハイネス」

 

ま、サクラダイトさえ騎士団にわたってしまえばこちらのものだ、薬物取り締まりとはいえ初任務だから少し不安もある、だが、ここは彼らを信じることにしよう。

 

「そろそろ戻るか、ナナリーが心配しているかもしれない」

 

ルルーシュが笑いながら言った。

 

「もしかしたら、怒っているやもしれませんね」

 

「そうなったら大変だな」

 

「ナナリー様は一度不機嫌になるとなかなか耳をかしてはくれませんからね」

 

ギアスの影響を受けてないだけで原作とのこの違い、本当にギアスの力は恐ろしい。

 

もともと活発な性格だったからある意味正当な進化とも言える、ギアスが無かったらナナリーはマリアンヌと同じように剣の才能を開花させていたのだから。

 

…………この光景を原作のやつらに見せたらどういう反応をするのだろうか?

 

ふむ、マリアンヌは死んでいなくてVVが死んでいる、シャルルたちの計画はまず崩れた。

 

暗殺から逃れるための国外脱出のためルルーシュとナナリーは皇位継承権を失っていない。

 

CCは私が保護したためルルーシュはCCからギアスを受け取っていない。

 

マリアンヌの目を潰したのでナナリーはギアスにかかっていない。

 

スザクは毒ガス兵器発見の功績で昇進した。

 

超早い段階からガウェインを盗んでいる。

 

ユーフェミアが死んでいなくて扇と玉城が死んでいる。

 

………………原作のいらないキャラ捨てて重要なキャラ生かしたような感じだな、扇も結構重要な気が…………いやあいつはゴミだ、最後の最後でゼロを売るんだからな、バズーカで木っ端微塵になったとしても文句は言えまい。

 

こんな世界線を見せたら原作のルルーシュとスザクは発狂するだろう、なにせ死ぬ定めであったユーフェミアが生きていてナナリーは元気いっぱいの超絶美少女になっているんだからな。

 

特にルルーシュはすごいことになりそうだ、こっちのルルーシュと原作のルルーシュでナナリーの自慢合戦やって、両方の世界線のナナリーに叱られてやめるとこまで見えたぞ。

 

スザクは………………原作のスザクがこっちのユーフェミアに守れなくてごめん的なことを言って、こっちのスザクに励まされるんだろうな、さすがのスザクオリティ。

 

ナナリーは、うーんナナリーかぁ…………めちゃくちゃ仲良くなりそう、それでルルーシュのことで話が広がって最後にはルルーシュには誰が相応しいかという議論が始まる、と思う、たぶん親友になれるんじゃないか?

 

生徒会メンバーは……………どうだろうな、シャーリーはルルーシュが2人だーとか騒ぎそうだ、リヴァルはチェスやらせたらどっちが勝つかとか考えそう、ミレイは…………モラトリアムりそう(意味不)。

 

咲世子は平常運転だな、たぶん内心驚きながら。

 

こうして考えてみるとこっちの世界線は原作と比べてだいぶ平和だな、まあ悪いことじゃないと思うぞ、覇道を突き進む原作と違って、石橋叩いて慎重かつ大胆に行くこっちの世界線、いいんじゃないか?

 

残念ながら談合試合な時点で緊張感皆無だが。

 

体育館に入るとナナリーたちは生徒会メンバーたちと楽しそうに話していた。

 

「ナナリーも大きくなったな、ここからでもナナリーの背が高くなったのがわかる」

 

「まだ8年…………いえ、もう8年も経っていたのですね……」

 

「ああ…………いつの間にか、ナナリーはあんなに大きくなっていたんだな」

 

体育館の扉に寄りかかりながら呟くルルーシュ、さすが兄であることはある、ナナリーの慎重は日に日に伸びている、あと少しで私を超すだろう、成長が楽しみだ。

 

「ツキト、改めてナナリーを頼む」

 

ルルーシュが姿勢を正して右手を差し出してきた。

 

「イエス、ユアハイネス」

 

私も右手を出してルルーシュの手を握る。

 

「任せるが、まだ叔父にはなりたくないからな?」

 

「ふふっ、ルルーシュ様、それは気が早うございます」

 

「いや、ナナリーの誘いを断れないお前がそう言っても説得力ないぞ」

 

呆れ顔でそういうルルーシュ。

 

「いえ………ではルルーシュ様は断れますか?」

 

「ああ、兄だからな、とうz」

 

「パジャマ半脱ぎでのしかかられて甘い声で『好き……』とか『愛してる……』とか言われてもですか?」

 

「…………断れる自信がない」

 

ルルーシュが扉に手をつきながらそう言った。

 

「事実、私も抵抗はしたのですが…………やはり男である以上、ナナリー様の魅力には、その……」

 

「それ以上はいい、ナナリーが自分で決めたことだ」

 

「私はナナリー様がご自分で夜這いという手段をとったことが悲しいです……」

 

いったいどこで教育を間違えたのか、未だ答えは出ていない。

 

「ですが、嬉しくもありました、ナナリー様が他も誰でもなく、私を選んでくださったのが、とても嬉しかったのです」

 

「ツキト…………お前の忠義には、感謝している」

 

「そんな…………私などまだまだです」

 

「相変わらず硬いな」

 

「それが私の長所なので」

 

「くっくっく…………」

 

「ふふふふふっ……」

 

いつぞやのセリフと被り、笑いがこみ上げてくる。

 

「ツキトさーん!お兄様ー!」

 

入り口で笑いあっていると、体育館中央にいるナナリーが大声で私とルルーシュを呼んだ。

 

「お姫様が呼んでいるぞ?ツキト」

 

「妹君様がお呼びですよ?ルルーシュ様」

 

そんな軽口を叩きつつ、体育館中央にいるナナリーに向かって歩み始める。

 

この何もかもが順調な世界に乾杯。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜を回り、お祝い会はお開きとなった、この時間からではスザクの住むマンションまでの道のりは暗くて危険というナナリーの言葉でスザクは今晩セーフハウスに泊まることになった。

 

「ルルーシュと一緒に寝るなんて、小学生のとき以来だよ」

 

「あの時みたいに、ベッドから落ちるなよ?」

 

「さすがに落ちたりはしないよ」

 

ルルーシュの部屋に急遽予備のベッドを運び込んでルルーシュのベットとくっつけた、簡易的なキングサイズのベットの完成だ。

 

「ではルルーシュ様、スザク、おやすみなさい」

 

「「おやすみツキト」」

 

ルルーシュの部屋の扉を閉める、さて、CCと今後の予定を…………。

 

「ツキトさん、一緒に寝ませんか?」

 

ここでナナリーが添い寝をご所望。

 

「ナナリー様…………申し訳ございませんが、今日はご遠慮ください」

 

すまん、今日くらい1人でゆっくり寝たいんだ。

 

「じゃあ明日は」

 

「はい、明日なら大丈夫です」

 

「約束ですよツキトさん!」

 

明日ならいいだろ、どうせ休暇だし。

 

…………なんかあれだな、休暇に子供の相手をする親のような気持ちになったぞ。

 

それはさて置き、ナナリーが部屋に戻ったのを確認してCCの部屋に入る。

 

「久しぶりだな、CC」

 

「ん、ツキトか」

 

深夜を回ってもピザを食っていた。

 

「ガウェインの解析の進行具合は?」

 

「ラクシャータによるとまだ数パーセントくらいなんだと、ドルイドシステムが厄介らしい、厳重なプロテクトがかかってるそうだ………………もしかしてツキト、お前……」

 

「お前の想像通りだよ」

 

私がプロテクトを弄って厳重にしました(ドヤァ

 

「やけに厳重かと思ったらお前だったか」

 

「まあな、簡単に突破されるのも面白くない、転生する前の知識でちょこっと弄ったんだが、そうか厳重か…………クックックッ」

 

「だけどいいのか?あのままだとルルーシュがガウェインに乗れるように調整されるまでかなり時間がかかるぞ?その間ルルーシュは無頼に乗る羽目になる、危険じゃないのか?」

 

「CCにしては人を心配するな」

 

………なんか怪しいな、カマかけてみるか。

 

「別にそんなことは…………」

 

「マオ」

 

「っ!!……」

 

あたりか。

 

「わかりやすすぎるぞCC」

 

「そんなにか?」

 

「ああ、焦ってまくし立てているようにも見えた、まあそんなことはいい、私は、何かあったら相談しろと言ったはずだが?」

 

「…………すまん、だが、これは私の問題だ」

 

ルルーシュまでとは言わんがこいつも頑固だな、私も人のこと言えんが。

 

「馬鹿者、私とお前は共犯者だ、お前がそんな調子では今後の計画に支障が出る」

 

「それはルルーシュの計画か?」

 

「いいや、私の計画にだ」

 

優しい世界のためにはCCが必要だ。

 

「…………はぁ、一つ質問だ、マオのことについてどれくらい知っている?」

 

「身寄りのないマオにギアスを与え、育て、狂化したマオを捨てた、それくらいだ」

 

「ほぼ全てか…………じゃあ私がマオをどうしたいか、わかるか?」

 

「私は心を読むギアスを持っているわけじゃないんだ、そんなものわからん、それに仮にギアスを持っていてもお前には通用しないだろう」

 

「その通りだな………ツキト、私はマオを、解放してやりたい」

 

「それがお前の願いか」

 

「…………そうだ」

 

「なら協力しよう、共犯者として、今後の私の計画のために」

 

「私のためとは言ってくれないのか?」

 

「私は嘘はつかん…………今はまだ、な」

 

「そういえばお前、ナナリーとの結婚を反故にする気なんだったか?」

 

「そうだ」

 

「いいのか?あれほどいい女はもう現れないぞ?」

 

「ナナリー様が女性として最上位に位置することくらいわかっている、伊達にナナリー様の成長を見てきたわけではない」

 

原作での誰に対してでも献身的な態度、加えて自分の母親(マリアンヌ)の命を救ったという事実+幼少期からの思い出補正+ルルーシュのオススメ。

 

ナナリーの思いはほとんど思い出でできている、だからいくら拒否しても頑なに首を横に振らなかった、こうなるとどうしようもない、一目惚れくらいならどうとでもなる、しかし幼少期からとなるとどうすればいいかわからない。

 

「だがそれ故に思い出が強すぎるんだ、昔の私を今の私に重ねて見ている、ナナリー様が好きなのは思い出の中の強くてかっこいい私だ、私はそんなものじゃない、かっこ悪くて卑怯で臆病でKMFの操縦もスザク以下で身長もスザク以下で顔面偏差値もギリギリ男と判定するほど中性的、CC、お前ならどう考えても私よりスザクを選ぶだろう?」

 

「いや、私はお前を選ぶぞ」

 

「はぁ?お前聞いてたのか今の話」

 

「失敬な、私はちゃんと話を聞いた上でお前を選んだんだよ、だいたいなツキト、私がスザクを選んだところでその後100年200年ずっと一緒で居られるか?」

 

「スザクならいけるんじゃないか?」

 

あいつ長生きしそうだし、300年くらいは生きるだろう、まあ200年くらいはベッドの上かもしれんが。

 

「ちゃかすな、コードを持つ私の横に立てる人間は、同じくコードを持つ者しかいない」

 

「じゃあ私がお前のコードを奪えば別にスザクでもいいわけだな?寿命は同じくらいになるだろうし」

 

「そういう問題じゃない、はっきり言うが、現状で考えられるパートナーはお前くらいだよツキト」

 

「………羞恥心はないのか?」

 

恥ずかしいことを堂々と、よく言えるものだ。

 

「お前の前で初心な乙女ぶってもしょうがあるまい?私は自分を偽らないんだ、なにせ………」

 

「『CCだから』、だろう?」

 

「そうだ」

 

「はぁ、この話は止めだ、全てが成った時に私がコードを持っていたら考えよう…………とりあえずは、今の状況の整理だ」

 

「今の話題とまったく関係ない方向に振ったな」

 

「最初からやるつもりだったのにお前がなにか焦ってるから聞いてみたら面倒なことに巻き込まれつつあるというじゃないか、つまりCC、お前が悪い」

 

「…………そういうことにしといてやる、それでツキト、状況の整理と言ったが具体的には?」

 

渋々といった感じで喋るCC。

 

「今現在の騎士団のKMFの総数を教えてくれ」

 

「ふむ、少し待ってくれ」

 

CCがパソコンを操作し、騎士団の武器総数一覧と書かれた題目をクリックし、KMFの欄を見ている。

 

「……全部で57機だそうだ、ゼロやカレンや四聖剣たちのぶんを除けば50機だな」

 

「………………少ないな」

 

「そりゃあブリタニア軍と比べれば…………」

 

「そうじゃない、次の作戦で使えそうなKMFが少ないということだ」

 

「そういうことか、で、どれくらい必要なんだ?」

 

「40から45あればいける作戦だ」

 

「ん?足りてるじゃないか」

 

「ばか、騎士団の拠点の防衛はどうする」

 

拠点の防衛には最低30機は欲しい、そうなれば攻撃する側は最低でも90機必要な計算になる、たとえ防衛にカレンや四聖剣を置いたとしても合計で最高17機、足りなすぎる、ブルタニア軍はこれの3倍の60機くらいすぐに用意できるだろう、安全策を取るなら30機が限度、それ以下での防衛は不可能、捨てるほかなくなる。

 

「ああ、なるほどな、で、あとどれくらい必要なんだ?」

 

「欲を言えば倍欲しい、しかしKMFが道端に小石のように落ちているわけでは決してない、最低でも20機いる」

 

「20機か…………どうするつもりだ?」

 

「一応教導用とかでKMFをブリタニアから騎士団によこしてもいいんだが、それだと私と騎士団の繋がりが明るみに出てしまう、それではまずいんだ、だから別の方法を考えている」

 

「別の方法といったって、お前が言ったその方法以外ないだろう、騎士団は日本人部隊の教育に全面協力の姿勢なんだ、KMFを盗むなんて手は通じんし、亀裂を生むぞ」

 

「当たり前だ、だからそうならない方法を考えて…………いや待て」

 

そうか、そもそも騎士団の戦力だけで考えるからいけないんのか、騎士団とエリア11のブリタニア軍は協力関係にある、有事の際はブリタニア軍は戦力を大量投入するだろう、騎士団はそこに便乗する形でいけばいいだけ、最初から戦力を投入する必要はない、ブリタニア軍を援護する形で動けばいいんだ。

 

つまり………………高みの見物決めていればいいのか。

 

「おい、なにか思いついたなら話せ」

 

「ああすまない…………私の考えでは、特に動かずともどうにかなると踏んでいる、つまるところ現状維持だ」

 

「……お前がそういうならそれでいくが、たまにはお前も騎士団に顔を出せ」

 

「用事がない」

 

「私だけだと気まずいんだよ、特にカレンの前とか、あいつの目怖いぞ」

 

ああ、今のあいつってゼロのカリスマに惹かれているしな、側近扱いのCCを見るのは気分が良くないだろうな。

 

イケメンのやり手上司♂(ゼロ)と幼馴染(CC)の会話を聞いてたイライラする後輩(カレン)みたいな構図だ。

 

修羅場になると非常に面倒くさいタイプだと思う。

 

「それで私も一緒に来いと?」

 

「そうだ」

 

「アホ、そんなもの気にするな」

 

「いやだ、お前も来い、道連れだ」

 

「…………はあ、わかった、騎士団の会議の日に一緒に行ってやる」

 

「ふふん、それでいいんだよそれで」

 

「まったく…………おっと、もうこんな時間だ、私は寝る、おやすみCC」

 

「おやすみ…………ツキト」

 

「ん?」

 

「…………いや、なんでもない、おやすみ」

 

「おやすみ……」

 

CCの部屋を出て自分の部屋に入る、疲れ切って動くのも億劫なので、体を揺らしてベッドに放り投げる。

 

もぞもぞと布団をかけて眠りについた、さて、明日は久しぶりの登校だな、早起きしなければな。

 

 

 



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男女『逆転』

ツキトside

 

 

朝起きて、制服に着替えて、キッチンに立つ。

 

エプロンをつけて邪魔な髪を束ねてフライパンの上のパンケーキをひっくり返す。

 

最初はウィンナーと目玉焼きと野菜ジュースにする予定だったが、せっかくスザクいるのと、朝から脂っこいものを食うと腹下すやつ(ルルーシュ)がいるので、パンケーキとヨーグルトにした。

 

飲み物がヨーグルトなのはパンケーキの材料には牛乳も入っているためだ。

 

パンケーキを皿に盛り付ける、スザク以外は4枚、スザクのみ倍の8枚だ、バターをたっぷりのせてハチミツをかける、これでよい。

 

ヨーグルトは飲むヨーグルトなのでそのままコップに注ぐ。

 

「咲世子」

 

「はい」

 

「半分持って行ってくれ」

 

「わかりました」

 

私と同じようにキッチンでサラダとドレッシングを作っていた咲世子に言う、咲世子はドレッシングのかかったサラダをお盆の上にのせると、パンケーキの皿とヨーグルトのコップを持ってテーブルに運んで行った。

 

エプロンを外して残りのパンケーキの皿とヨーグルトのコップをサラダと同じお盆にのせて運ぶ。

 

テーブルのあるリビングにはすでに起きたルルーシュとナナリー、半起きのスザクが仲良く椅子に座っていた。

 

「スザクさんはこちら、ルルーシュ様とナナリー様はこちらです」

 

「わぁ!美味しそうだねルルーシュ!」

 

美味しそう、か…………そう言ってもらえると嬉しいな。

 

「………………」

 

「そうだな、量も多いし、よかったじゃないか…………ナナリー?どうしたんだ?」

 

ナナリーがさっきから喋らない、どうかしたのか?

 

「これって、もしかして…………ツキトさんの」

 

「はい、ツキトさんが焼きました」

 

「やっぱり!ツキトさんのパンケーキなんて久しぶりです!」

 

…………そういえば、パンケーキなんて焼いたのいつぶりだろうか、日本にやってきて、エリア11に変わって………。

 

たしか、ナナリーの誕生日の日だ、ルルーシュがナナリーのためにケーキを作りたいと言って、ケーキの作り方を本で読みながら作った、だが分量を間違えて1人分しかできなかった、その時のルルーシュは焦っていて、時間もなかった。

 

冷蔵庫を開けると残っていたのは卵と牛乳、生クリームが少々といったところだった、『こんなもので何ができるんだ!』って言って壁を殴りつけるルルーシュを尻目に、なんとかしようとその場にあったパンケーキ用の粉でパンケーキを作り、6枚のパンケーキを重ねて生クリームで覆い尽くした上にイチゴをのせたんだったか。

 

宮廷暮らしだったナナリーからの評価は意外にも高く、嫉妬したルルーシュががむしゃらに勉強し、主婦顔負けに料理に詳しくなった。

 

ああ、言っとくが、私は料理全然できない設定からな?せめてできるものはパンケーキぐらい、炒め物くらいはできるかもしれないが、手の込んだものは無理という設定だ、本当はそこそこできるが、さすがに本気で料理を作るのもアレだしなあ。

 

だから私とルルーシュどちらが料理が上手かで競ったら、私が惨敗する。

 

「喜んでいただけましたか、ナナリー様」

 

「ツキトさん!はい!とっても嬉しいです!」

 

花が咲いたような笑顔、とはこのことだろうか。

 

ナナリーの笑顔に誰しもが和んだ、齢14頃の少女が、平日の朝の食卓に癒しを運んだ。

 

「それはよかったです」

 

「はい、ふふふっ」

 

私と咲世子が席に着く。

 

「それでは、皆様、いただきます」

 

「「「「いただきます」」」」

 

咲世子のいただきますに続き、全員でいただきますをしてからフォークを握る。

 

食事前の挨拶は実際大事、ブリタニア生まれだから食事の時いきなり食べ始めるのには慣れたが、日本で物を食べるときはやはり挨拶はかかせない。

 

「おいひいですツキトさん!」

 

パンケーキを頬張るナナリー、あ!?

 

「ナナリー様!ハチミツが制服についてしまいます!」

 

布巾でナナリーの口元を拭う、危なかった、別に制服が汚れることはいい、口元から垂れるハチミツが卑猥に見えて邪な考えをしたくないからだ。

 

「んぅう……すみませんツキトさん」

 

「落ち着いて食べてください、喉に詰まったら危険ですから」

 

ナナリーを軽くしかる、ナナリーはもともと良い子だから軽くしかるだけでわかってくれるから世話が楽だ。

 

「ルルーシュ!このパンケーキ美味しいよ!」

 

「ええいスザク!もう少し静かに食えんのか!」

 

あっちはあっちで楽しそうだな。

 

「咲世子」

 

「何でしょうか?」

 

「ルルーシュ様の制服の替え、用意しておいてくれ」

 

「かしこまりました」

 

おそらくこの調子だとルルーシュの制服がハチミツで汚れるだろう、準備しておくに越したことはない。

 

「ツキトさん?食べないんですか?」

 

「ああ、いえ、食べますよ」

 

自分で作っておきながら自分は食べないのはダメだな、さてフォークを…………ん?フォークがないぞ?

 

「ツキトさん、アーン」

 

と思ったらナナリーが私のフォークでパンケーキを刺して私の口元まで持ってきていた。

 

「な、ナナリー様?いったい何を……」

 

「ツキトさん、口開けてください」

 

「は、はい…………アー……」

 

言われた通り口を開ける、パンケーキが口の中に入ってくる。

 

フォークが抜かれる、モグモグ………………味は普通だな。

 

「えへへ////……食べてくれた……」

 

やった本人であるナナリーは嬉しそうだ、そんなにこれをやりたかったのか?

 

「ツキトさん、二口目は……」

 

「さすがに自分で食べますよ……」

 

「えっ…………」ウルウル

 

あっ…………。

 

「で、ではもう一口だけ……」

 

「ツキトさん……!」パァァァ

 

結局全部アーンで食べさせられた。

 

ルルーシュの羨ましそうな目がうざかった、ナナリーは終始上機嫌で、ヨーグルトの口移しをしようとしたのでやめさせた。

 

さすがに吐瀉物は…………いや口同士だからOKか?うむむむ…………。

 

「ツキト、何を悩んでるんだい?」

 

「スザクか…………いや、少しナナリーさm………………ナナリーのことをな」

 

登校し、授業準備をして待機していた時、横に座ったスザクが話しかけてきた。

 

「ナナリーのこと……ねえツキト、ナナリーは、その、ヤンデレじゃないよね?」

 

「?、ナナリーがヤンデレ?どうしてそんな」

 

「この前ロイドさんに言われて調べたんだ、その人が好きすぎて独占欲が強くなってしまい、周りが見えなくなってしまう人のことをそう言うって」

 

ナナリーがヤンデレねえ………………ルルーシュがヤンデレでも違和感ないな、原作でのナナリーへの固執?……執着?……愛着?…………兄妹愛(?)は凄まじかったしな。

 

「それでナナリーがヤンデレだと?」

 

「うん、かも、しれない」

 

「たしかにナナリーは何かと周りが見えなくなることがあるが、だからと言ってヤンデレとは言えんだろう」

 

「でもツキト、ナナリーはツキトと一緒にいる時は特にそうなんだよ、たとえルルーシュと一緒でもこんなことないのに」

 

「ふむ………ではナナリーがヤンデレであったとしよう、何か問題があるのか?」

 

「ナナリーがヤンデレだったら、ユフィが殺されるかもしれないんだ」

 

「………………はぁ?」

 

ヤンデレのナナリーがユーフェミアを殺すぅ?ありえないありえない、あるわけがない。

 

「バカなことを言うなスザク、ナナリーがユーフェミア様を殺すなど…………」

 

「ヤンデレの女の子は、好きな男の子に振り向いてもらうためなら、ライバルの女の子を殺すことも厭わないって書いてあった」

 

「バカバカしい、あるかそんなもん……」

 

「ナナリーはツキトのことが大好きなのはそばで見て知ってる」

 

よせやい照れるぜ(真顔)

 

「でも、だからこそ危険なんだ、その気持ちがナナリーをヤンデレに変えてしまうかもしれないんだ」

 

「たとえナナリーがヤンデレになってしまっても、私はナナリーを好きでいられる」

 

「ほんとに?」

 

「ああ本当だ」

 

「ルルーシュがヤンデレになっても同じこと言える?」

 

「なぜそこでルルーシュが出てくるんだ!?どこにルルーシュの話題があった!?」

 

「え?だってルルーシュはナナリーが大好きだし、このままじゃツキトがルルーシュの刺されて…………」

 

「あるか!兄公認だぞお前!」

 

「そうだったのかい!?」

 

「そうだよ!!!」

 

お前バカかぁ!?このまえルルーシュから聞いてただろうが!!!

 

「そうだったのか…………それじゃあ心配することは…………あれ?じゃあユフィはどうするの?」

 

「………………」プイ

 

「ツキト?もしかしてユフィを…………」

 

「………………私は…………心を決めた…………迷いはない……………ユーフェミア様は………」

 

「…………そうかい」

 

ユーフェミアにどう伝えよう、下手したらコーネリアあたりにコロコロされる可能性もある、死んでも死なないからいいが、痛いのは普通に嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業も終え、放課後、ほとんどの生徒が消えた教室から出て生徒会室に向かう。

 

扉を開けると、すでに私以外の役員は集まっていた。

 

「ツキトさん!」

 

「すまん、遅れた」

 

荷物を置いてナナリーの隣に座る。

 

「この椅子に座るのも久々だな」

 

「数日きませんでしたからね」

 

「だろうな…………さて、今は何をしているんだ?」

 

「実はねぇ…………去年もやった男女逆転祭り、あれを今年の学園祭でもやろうと思ってね」

 

男女逆転祭り……………男子が女装して女子が男装するっていうあれか。

 

「ほう、面白そうだな」

 

「つ、ツキト、本当に面白いと思うのか?」

 

震えた声でルルーシュが聞いてきた。

 

「当たり前だ、こんな面白い祭りは本国でもなかったからな」

 

「お、おかしい、やはりお前はおかしいぞツキト!」

 

「酷い言い草だな…………あ、そういえばルルーシュ、お前たしか……」

 

「お、おい!何を考えているんだ!よせ!」

 

「本国にいた頃…………」

 

「言うなあああああああああああ!!!」

 

「「「「ルルーシュうるさい!」」」」

 

「ま、ルルーシュがそこまで嫌だと言うなら話すのはやめよう」

 

話そうと思ったのは女装したルルーシュの写真が原因でお見合いが殺到した話だ。

 

いやールルーシュの必死さが面白い。

 

「えー、言ってくれないのかいツキト?」

 

「俺も聞きたかったのに……」

 

「私も〜」

 

スザク、リヴァル、シャーリーが文句を言う、1人カレンのみバカバカしいといった顔をしている、そして意外にもニーナは顔をこちらに向けている、お前ってユーフェミアラヴじゃなかったのか?

 

「うーむ、ここまで期待されると喋らねばならんと思ってしまうなぁ……」

 

「やめろ!やめてくれ!それだけは言うな!言わないでくれたのならなんでもする!」

 

「る、ルル、今何でもするって…………」

 

「ふっ…………若いな」ほっこり

 

「本当にねえ」ニヤニヤ

 

「そっすねぇ会長」ニヤニヤ

 

「うっ……うるさいわよリヴァル!////」

 

「俺だけ!?」

 

元気だなあこいつら。

 

「まあ、別に大した話じゃないから気にするな…………それで、ミレイ会長、これはいつやるんだ?」

 

「二ヶ月後の学園祭にやりたいと思ってるわね」

 

「そうか、なら、今から衣装を決め始めても遅くはないな…………ルルーシュの」

 

「ツキト!!お前何言って……」

 

「そうだわ!ルルーシュ!あなたドレス着なさいドレス!きっと似合うわ!」

 

「うれしくありません!」

 

「会長、ここはひとつ女子制服というのも!」

 

「リヴァル!お前ええええ!!!」

 

「お兄様なら、ワンピースも似合うはずです!」

 

「な、ナナリーまで……」

 

「ルルーシュ!ウェディングドレスなんてどうだい?」

 

「スザァアアアアアアク!貴様アアアアアア!!」

 

「くっくっくっ、これは面白いことになった」

 

たまにはルルーシュも息抜きが必要だろう、この機会に遊び尽くしてしまえ。

 

「ニーナ・アインシュタイン」

 

「は、はい!?」

 

こちらを見ているだけだったニーナに話しかける。

 

「お前はルルーシュに着せるならどんな服がいいと思う?」

 

「え、えっと、その…………ば、バニーガール」

 

空気が凍りついた。

 

「「「「……ニーナ」」」」

 

「!……!……」

 

だめだ………………。

 

「……!……くっ………………ハハハハハ!フッハハハハハハハハハハハハハ!!!に、ニーナ・アインシュタイン……ふふふwwwww……お前のせいで、ブホッwww……想像しちゃったじゃないかwwwwww」

 

バニーガールルーシュwwwwwwwww

 

「ブフッwww…………ルルーシュの衣装は、ブホッwwwバニーガールでいいか?」

 

「いいわけあるか!?おいニーナお前何考えてるんだ!」

 

「え?で、でも、ルルーシュがバニーガールで受付すれば受けると思って」

 

「受けるか!」

 

「ヒィーーwwwwwwヒィーーwwwwww」バンバン!

 

「ツキトもいつまで笑ってるんだ!」

 

「くふ、ふふふ………バニーガールルーシュ………ぷくくくwww」ガンガン!

 

「ツキトおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、各々が落ち着くまで数分の休憩となり、また着席した。

 

「では、ルルーシュの衣装は………クッww…………バニーガールでいいか?」

 

「いいわけないだろう……」

 

叫ぶ気力も無くなったルルーシュは机に突っ伏しながら否定した。

 

「仕方ない、じゃあナース服でどうだ?」

 

「よくない」

 

「なあルルーシュ、ここは女子制服でいいじゃないか」

 

「リヴァル?」

 

「ロングスカートにして下に短パンを履けばそれでいいじゃないか」

 

「そうか、そういう手もあるか」

 

リヴァルからの思わぬ助け船。

 

「じゃあルルーシュは女子制服ロングスカートで決まりね、次は……スザク君にしましょうか」

 

「僕ですか?」

 

ルルーシュが決まったところで次の標的はスザクとなった。

 

「僕もルルーシュと同じ女子制服ロングスカートでいいですよ」

 

「それじゃあ面白くないわ、スザク君はそうね……ボーイッシュにいきましょう」

 

ふむ、ボーイッシュ路線で行くか。

 

「上半身は普通のシャツ、下はホットパンツでいけるかしら?」

 

「ミレイ会長、それだとスザクがカマホモっぽくなるが、いいのか?」

 

「か、カマホモ………」

 

「スザクさんはドレスでどうでしょうか?」

 

「な、ナナリー?それはちょっと……」

 

「いや、案外いいかもしれん、もともと体は引き締まっているから、あとはカツラでもすれば違和感はない」

 

「ドレス姿のスザク……くくくっ」

 

「ちょっ、ルルーシュ笑わないでよ」

 

「仕方ないだろう、想像が容易なのが悪い」

 

「じゃあスザク君はドレスね」

 

「は、はぁ……」

 

スザクの衣装はすぐに決まった。

 

「次は……そうね、ツキト君にしましょう」

 

「ん、私か」

 

「ツキトならなんでもいいんじゃないか?」

 

「うーん、ルルーシュの言う通りなんでも似合いそうね、困ったわ……」

 

「あの、会長、ラウンズに女装させるとかまずくないですか?」

 

シャーリーがミレイにそう進言した。

 

「それもそうね………大丈夫なの?」

 

「構わんさ、こういうイベントは参加できないほど多忙なのが普通のラウンズだ、もともとラウンズは皇帝陛下の側にいるものだ、だがしかし、私はちょっとしたコネで休暇が簡単に取れるし、大事にならないければ何をしても怒られないからな、大丈夫だろう」

 

コネの使いどころだ。

 

「(ルル、アールストレイムさんって何者?)」

 

「(コーネリア………様とユーフェミアの幼馴染なんだそうだ)」

 

「(へー、あ、じゃあコネってそういう……)」

 

(ラウンズのアールストレイムはコーネリアとユーフェミアに近い存在………ゼロに話せば褒めてくれるかも!…………いえゼロのことよ、すでに知っているかもしれないわね)

 

(ユーフェミア様と幼馴染………いいなぁ)

 

「そうなの、じゃあ大丈夫ね、ニーナは何がいいと思う?」

 

「ひゃっ!?な、何が?」

 

「ツキト君の衣装よ衣装!」

 

「えっと、じゃあバニーガール」

 

「ニーナ・アインシュタイン、お前、バニーガール来てくれればだれでもいいだろ?」

 

「そ、そんなことより!アールストレイムさんはバニーガールでいいですか!?」

 

「ああ」

 

「まあそうよn…………え?いいの?」

 

「いいぞ」

 

「(ルルーシュ、ツキトって女装癖とかあったっけ?)」

 

「(いや、なかったはずだが……)」

 

(なんなのこのラウンズ、女装、よりによってバニーガールよ!あんなの女の子でも恥ずかしいっていうのにどうして平然としていられるのよ!)

 

(バニーガールのアールストレイムさん………………意外といけるかも?)

 

「ツキトさんがバニーガールなら、私はボーイですね!」るんるん

 

「ツキト君とナナちゃんは決まりっと、カレンとニーナは………」

 

そのあとはすぐに決まった、男装は恥ずかしくないからすぐに決まるのは普通だけどな、ついでにリヴァルはナース服に決まった。

 

ルルーシュは終わった後も少し不服そうだったが、ナナリーに慰められて逆にやる気を出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、放課後、生徒会室。

 

「ツキト君、実は昨日咲世子さんにバニーガールの衣装を作ってくれるように頼んでおいたの、早速着てみて」

 

と言われ手渡される袋、中には網タイツやうさ耳カチューシャなどが見える、衣装を取り出してみる。

 

きじは薄く軽い、光沢があるが透けるようなものではない、よく見る一般的なバニーガールの衣装だった。

 

「さすが咲世子だ、いい仕事をする、本国で見たバニーガールの衣装そのものだ」

 

「(ねえルルーシュ、彼って恥ずかしいとかそういうのはないのかしら?少し心配なのだけど)」

 

「(大丈夫ですよ会長、ツキトはただ純粋に男女逆転祭りが楽しみなだけですから)」

 

「(だといいんだけど……)」

 

「ところでどこで着替えればいい?一応これを着たら女の子になるわけだから男子更衣室はまずい」

 

「じゃあ生徒会室の更衣室を使って(ルルーシュ、私ちょっと彼が怖いわ)」

 

「(ツキトは真面目で少し天然が入っているようなので…………)」

 

「わかった」

 

「あ、ツキトさん、手伝いましょうか?」

 

「その時になったら呼ぶさ」

 

((((呼ぶのか………))))

 

1人で更衣室に入り服を脱ぐ、バニーガールの衣装を取り出して着る、お、ぴったりだな、さすが咲世子。

 

網タイツを破らないように履いてカチューシャをつける…………もっと面白くしよう。

 

ポニーテールをほどいてツインテールに結び直し、手鏡を見ながら軽く化粧をする。

 

背中のホックに手を………ん…………と、届かない!背中のホックに手が届かない!

 

…………ナナリーを呼ぶか。

 

「ナナリー」

 

「ツキトさん?どうしたんですか?」

 

扉を少し開けてナナリーが聞いてきた。

 

「背中のホックを頼む」

 

「はい……っ!?(せ、背中!ツキトさんのスベスベの背中!!!)」

 

?、閉めてくれないのか?

 

「し、締めますね……(こ、今夜は眠れそうにありません……)」

 

やっと締めてくれたか。

 

「じゃ、じゃあ私はこれで!」

 

ナナリーが扉を閉めた。

 

カチューシャの位置よし、行くか。

 

「着替えてきたぞ」

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

「おい、反応がないと困るんだが」

 

「へっ!?あーその、似合ってるんじゃないか?」

 

とルルーシュ。

 

「そうか」

 

「ツキトはなんでも似合うね、うん、すっごく可愛いよ」

 

そうやって女の子を落としてきたのかスザク。

 

「可愛い、と言われてもなあ、喜んだほうがいいのか………」

 

「ツキトさんすごく可愛いです!あ、抱きしめてもいいですか?」

 

とナナリー。

 

「かまわんぞ」

 

両手を広げる。

 

「わーい!」ギュッ

 

ナナリーが抱きついてくる、衣装の生地が薄いため体温がよく伝わる。

 

「えーっと、いいんじゃないか?俺はそう思う」

 

とリヴァル、おいなに前かがみになってんだ殺すぞ。

 

「ふーん」

 

「わーかわいいー!会長!これならきっとドレスも似合うはずです!」

 

「そうね、これは面白くなってきたわ」

 

「ウェイトレスとかも良さそう……」

 

とミレイ、シャーリー、ニーナ。

 

「うっそ…………かわいい……」

 

とカレン。

 

ルルーシュの反応が意外にウブだったことが面白かったな、前傾姿勢なので少し引いたが。

 

おいシャーリー、お前の片思いしてるやつホモ疑惑あるぞ。

 

「ツキトさん、眼帯は外さないんですか?」

 

「これを外したら誰かわからんだろう?」

 

「え?アールストレイムさんの眼帯って目が見えないからじゃないんですか?」

 

「いや違うぞ、私のこれはファッション的な目的がひとつ、こういう格好の方が目立つというのがひとつ、あとは…………戒めのようなものがひとつだ」

 

「戒めってなんですか?」

 

シャーリー意外とグイグイくるな………。

 

「私がヴィ家につかえているのは周知していると思うが、数年前宮廷に賊が侵入し、マリアンヌ様を暗殺しようとした…………という話は知っているな?」

 

「ええ、教科書にも載っていることですから」

 

「たしか『まだ幼きアールストレイム家出身の従者が第5皇女マリアンヌ妃の命を救い、皇帝よりラウンズの称号を与えられた』だったわね」

 

ミレイ・アッシュフォード、一言一句違わず暗記してやがる………。

 

「へー、ツキトって教科書に載ってたんだね」

 

「スザク君、今知ったの?」

 

カレンの冷ややかな目がスザクに刺さる、おい、病弱設定どこいった。

 

「スザク、ブリタニア史の教科書の『マリアンヌ妃暗殺未遂事件』に載っているぞ、ここだ」

 

世話焼きのルルーシュがわざわざ教科書を開いてスザクに手渡した、ってかルルーシュも暗記してるのか、さすがマザコン。

 

「話を続けるぞ、私はなんとか賊を退け、マリアンヌ様の命は守れた、しかし賊の撃ち出した弾丸がマリアンヌ様の目を潰したのだ」

 

間違えてはいない、賊の撃ち出した弾丸(を斬り捨てる際、真っ二つになった弾丸の軌道を変えることで)マリアンヌの目を潰した、うむ、どこも間違えてはいないな。

 

「私にもっと力があれば、そんなことはなかった……………その戒めとして、私は眼帯をしている」

 

「でもツキト君はそれをたまに外すけど、それはいいの?」

 

ミレイが言った。

 

「こんな一目で私だとわかる眼帯をつけたままナナリーとデートでもしてみろ、デートどころじゃなくなるだろうが」

 

「まあそれもそうよね」

 

「じゃ、邪魔じゃないの?」

 

次はニーナが聞いてきた。

 

「邪魔、か…………長いことつけて生活してきたからなあ、今は違和感をほとんど感じないな」

 

「そうなんだ……」

 

「(ルル、アールストレイムさんって実は中二病?)」

 

「(いや、本人はいたって真面目なんだ、馬鹿真面目ってくらい真面目だ)」

 

「…………」

 

「ツキト?どうしたんだい?」

 

「スザク……私はなぜバニーガール姿でこんな話をしているんだ?」

 

「「「「「(痴呆!?)」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、バニーガールは少し腰のあたりがきついな」

 

制服に着替えてナナリーの隣に座る。

 

「そうなのか?」

 

「ああ、背中のホックの関係かわからんが、下腹を絞られる感覚があった」

 

ルルーシュの質問に答えながら腹の辺りに両手を広げて絞るようなジェスチャーをする。

 

「その割には衣装の時と体型があまり変わらないようだが…………」

 

「(ルル、バニーガールのとき思ったけど腰細くない?)」

 

「(確かに細いな、なんでも影武者になったときにウェストが欲しい方が便利だからって言ってたな)」

 

「(えっ?アールストレイムさんって女の子の影武者だったの?)」

 

「(もしものときはそうするつもりだったみたいだぞ)」

 

「(…………ラウンズって大変なんだね)」

 

「(そうだな)」

 

「もともと太っている体型ではないからな、それに太らないし」

 

(((太らないとか羨ましい……)))

 

「しかし代わりに身長が伸びない………ここ数年1mmも伸びていない………なぜ……」

 

「別に身長が伸びないくらい気にすることないよツキト」

 

「そうは言うがな、歴代ラウンズでも下から数えたほうが早いくらい身長が低いのはどうかと思うぞ」

 

おそらくもう少しでアーニャの身長が私を超すだろうから…………低身長ランキング1位の座はそう遠くないようだ。

 

「まあまあいいじゃない、その身長のおかげで女装も違和感ないんだから、ねえルルーシュ?」

 

「会長、俺に振らないでください」

 

「えー?じゃあカレンはどう思う?」

 

「私ですか?そうですね………やっぱり会長のいうとおり身長が低いことが女の子らしさを出していると思います(あのエリーって娘もサーティーンと同じくらいの身長だし…………もしかして双子だったり?いやさすがにないわね)」

 

「ニーナは?」

 

「低身長のほうが、かわいい服が似合うから、いいと思う………思います」

 

私を意識して無理して敬語にする必要なんてないぞニーナ。

 

「ふむ……………男女逆転祭りでは低身長のほうがなにかと便利ということはわかった、今はそれでよしとしよう」

 

あまり悩むのも私らしくない。

 

「それで、今更でなんだが、会長」

 

「なにかしら?」

 

「バニーガールを着るのはいいが、露出が多いと却下されると資料にあるのだが…………」

 

「「「「あっ…………」」」」

 

翌日、教師陣によってバニーガールは却下となった、代わりにドレスとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、放課後、生徒会室。

 

「ツキト君、咲世子さんに頼んでドレスを作ってもらったわ」

 

部屋に入るなり渡される袋、中身はドレスだった。

 

私のマントと同色の深い紺色のドレス、一見して飾り気がないため華やかさに欠けるように見えるが、それがかえって大人しめな印象を与える、儚げな優雅さがある。

 

これが似合うのは窓辺で読書をする貴族の令嬢くらいだろう、国の未来を憂いながら窓の外を見てため息を漏らす中級・上級貴族の御令嬢………そんなところだろう。

 

「さすが咲世子だ、儚さの中に優雅さを感じる、窓辺で読書をする貴族の令嬢を想像させる………実に美しい」

 

問題は私には似合わなそうだということだ、だって髪の毛ピンクだし。

 

「さっそく着てみてくれるかしら?」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

ミレイに促され更衣室に入り服を脱いでドレスを…………おっと、下着まである、さすが咲世子、準備がいいな。

 

うーん……女物のパンツは生地が薄くて寒いな、ブラジャーは付けやすいようにフロントホックか。

 

ドレスは………うむ、背中のジッパーに手が届く、今回は大丈夫そうだ。

 

よし、これで良い、良いのだが…………ふむ………たしか女装用のカチューシャがあったな、これで髪の毛を後ろに流して………いやだめだ、大人しめなドレスに勝気な印象のオールバックは似合わないな。

 

無難に上からつけるのでもいいか、そうなると…………ティアラってあったかな?

 

…………あった、更衣室内にあった、おそらく前年度の男女逆転祭りで使用されたものだろう、ちょうどいいし使わせてもらうか。

 

古い物なのか、ティアラの装飾用のガラスは曇り、電球の反射も鈍いように見える、大人しめなドレスにはそのほうが似合うので好都合でもあった。

 

鏡の前で服がよれていたりしないか確認、異常なし、更衣室から出る。

 

「着替え終わっ………どうした?」

 

生徒会メンバー全員が鳩がコイルガン(弾頭は大豆)喰らった顔をしている。

 

「…………なあスザク、これは夢か?」

 

「ルルーシュ、夢じゃないよ、現実だよ………」

 

「会長…………俺……死んでもいいっす」

 

((((((なんだこの美少女!!??))))))

 

「………?」

 

皆どうしたというのだ?わからん……。

 

そのあと着替えて解散し普通に帰ったが、ルルーシュとナナリーと一緒に帰った後、なぜかルルーシュは私と目を合わせてくれなかった。

 

私が何をしたというのだ。




ここら辺から徐々にツキトの考えが変わる………(?)


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今更ながら人物紹介

人物紹介。

 

 

 

ツキト・アールストレイム

 

本作主人公、純血のブリタニア人で誇りと高い身体能力と思考能力を持った転生オリ主。

転生特典を使ってV.V.を殺してコードを奪い、マリアンヌの暗殺を防ぎつつギアスを封じた。

原作を改変することによってルルーシュとナナリーが狙われる可能性が出てきたため、2人を連れて日本へ避難させるが、継承権は有効であり、2人がいつでも皇帝となれるように手を回していた。

ブリタニアでは番外であり特殊な立ち位置のナイトオブサーティーン(13)となり、騎士団では名前と見た目を偽ってゼロの側近となるという、2つの顔を持っていてなお権力とコネも大きく、また情報力において他の追随を許さない、そのため両陣営の参謀として兵達の活躍の場を創り上げるため奮闘する。

KMFの操縦は上手い方だという自覚と自信があり、またプライドもあってか一騎討ちを好み、誇りを持って戦う相手には敬意を表する。

不老不死であるため生身での戦闘は被弾を一切恐れる必要は無いが、主であるルルーシュとナナリーが悲しむという理由で、回避重視の戦闘スタイルや奇襲を好むが、戦闘時は脳筋になるので必ずしも回避重視になるわけでは無い。

射撃の腕は悪くないが、咄嗟の事態になると腰のレイピアに手が伸びる体質のため、射撃はほとんど捨てている。

前世で多重婚していたため女遊びしそうな感じだが、実はかなり一途で、初心な面があり、ナナリーやユーフェミア、咲世子等と触れるなどすると心が乱れる。

また、一途なため、主でもあるナナリーのこととなるといろんな意味で短気になる。

 

 

 

 

 

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア(ルルーシュ・ランペルージ)

 

シスコン大魔王として名高いコードギアスの主人公。

母を救われたこと、誰よりも自分の命より大切なナナリーのことを考えて行動すること、などによりツキトとナナリーの交際を全面的に許可した。

テロリストとの接触が無かったため、C.C.と出会い成り行きでギアスを得るという原作イベントが存在しなかったため、原作のようなギアスに頼った作戦など当然無い、代わりにツキト、咲世子という強力な戦闘員兼工作員を駆使した作戦の立案を行う。

ナナリーとツキトの初の情事の時は心配しすぎて眠れなかったうえ体調を崩し、ナナリーがとても純粋で汚れない花だと信じていたため、ナナリーの意外な姿にショックを受けたり、ツキトよりも料理が下手(というより発想力で劣った)だったため、対抗心を燃やし原作以上に様々な努力をした。

対抗心のおかげかは知らないが、料理、掃除、洗濯などの家事面に関しては高い能力を有し、持ち前の頭脳で効率的に物事を解決することに長けている。

さらに、原作では無に等しく苦手であった運動能力が大きく向上している、と言っても化け物のようなスザクと比べればなめくじのようなものだが………。

剣の才能が遺伝しなかったのか、ほとんど無いに等しく、軽く作られたカーボン製のレイピアでの素振りでも剣に振られる始末。

唯一の戦闘技能である射撃能力・技術は高く、この点に関して言えばツキトより上であるが、ツキトが剣を抜いて斬りかかる速度の方が圧倒的に速く、軍人として鍛えられたスザクには当然劣るため、正直のところ微妙である、そもそもKMFが主体の戦場で拳銃(コイルガン)を使う場面はかなり限定されるため、微妙さに拍車を掛けている。

 

 

 

 

 

ナナリー・ヴィ・ブリタニア(ナナリー・ランペルージ)

 

少しブラコンの入ったみんなのアイドル兼癒しの天使。

愛くるらしい外見と自分を磨き続けるその姿に魅了される人間はとても多い。

しかしやはり兄妹か、ルルーシュ譲りの負けず嫌いで、欲求を満たすためには少々黒いこともする。

アリエス宮で剣の修行をしていたツキトに興味を抱き、母であるマリアンヌを守ってくれたことで完全な好意に変わった。

日本に移り、人目につく場所での活動が増えたため、時が経つにつれ徐々にモテるツキトに焦り、勢いで告白し断られたらどうしようとアワアワするなど、おっちょこちょいなところがある。

剣の才能に関しては誰もがマリアンヌの娘だと信じて疑わないであろう可能性を感じさせる。

実力もツキト(手加減あり)とタメを張れるレベル。

剣も恋愛も積極的、攻めの基本は崩さず攻撃あるのみである。

ただし、恋愛については咲世子の入れ知恵でトラップ(意味深)を仕掛けたり、領内に引き込んで迎撃する(意味深)といった手法を取り入れつつあり、今後の成長(性長?)に期待。

 

 

 

篠崎咲世子

 

原作における最強のキャラクター、今作でももちろん最強である。

原作ではルルーシュ(ゼロ)に協力するのはかなり後半だが、咲世子の有用性を知っていたツキトが序盤のうちに引き込んだ。

戦闘能力は原作の全てのキャラクターとイレギュラーであるツキトを押さえ堂々の一位、揺るぎない絶対強者の座を我がものとする超絶万能メイドでありニンジャである(アイエエエエエエ!?)。

表は家事全般完璧なメイド、裏では潜入工作員として行動する。

与えられた任務はなんであれ完璧に遂行でき、どれほど絶望的な状況でも引っ繰り返せる戦闘能力を持つ…………もう咲世子1人でいいんじゃ無いかな?

ツキトがナナリーとくっつく気が無いのを察し、ナナリーの相談を受けたりアドバイスをして既成事実を作らせようとする。

 

 

 

シャルル・ジ・ブリタニア

 

ルルーシュとナナリーの父親で神聖ブリタニア帝国皇帝陛下、今作品において貴重なギアス保持者、たぶん出番は無い、マリアンヌが生きている分甘くなっている。

何十という妻がいて何百という息子、孫がいる。

V.V.を散々利用した後でコードを奪い、ロロ雑き………ボロ雑巾のように捨てて原作通りの【優しい世界】を創ろうと考えていたが、ツキトによってV.V.は殺されコードも奪われてしまった為【優しい世界】を創る計画は頓挫、もとよりV.V.に唆されての計画だったためV.V.死後計画は白紙へ、老後の生活を視野に入れつつ次期皇帝を選定する作業に移る。

ツキトが日本で生存していた報告を聞くまでは次期皇帝候補は(乗り気ではなかったが)シュナイゼルだった。

報告を聞いた後は、マリアンヌのときのようにルルーシュとナナリーを匿っているのだろうと確信、密かに成長に期待していたルルーシュを加えた模様。

ただし、今作においてその描写はない(番外編とかで作りたいなあ)。

ナナリーを加えなかった理由は不明、しかし、ナナリーのツキトへの恋心は確認済みなので、もしかしたら…………。

 

 

 

 

 

 

とりあえずこんな感じで。

 




超今更だけどナナリーがかなりヤバイ人格になってる。
癒しの逆レイプ系ヒロインって、需要………あるね!(主に私)


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ナナリーによる『襲撃』

お久しぶりぶり。
TKTニキの性格不安定スギィ!!
ナナリー様かわいいし、綺麗だし、何よりマリアンヌに似てセクシー……エロい!



ツキトside

 

 

男女逆転祭りの衣装決めから数日経った、ようやくルルーシュが私と目を合わせて話せるようになった頃と時を同じくして、私直属の部隊、主任務を日本エリア防衛及び重犯罪者の粛清を受け持つ【猟犬部隊】の候補者の選定が終わり、リフレイン取り締まりを行う者への特別訓練がスタートした。

 

高い志を持つ多くの日本人が、総督府の訓練所にて騎士団に所属する藤堂達から訓練を受けている、色々と感慨深いものだ、肝心の訓練の内容は厳しいものだが、意外とついてこれているようで順調そうだ。

 

「ふぅむ、結果としては良い方向に行ったか」

 

「うん、この調子ならあと2週間もすればいけると思うよ」

 

「頼もしい限りだ、彼ら………猟犬部隊に今後の日本の守備を任せるつもりだったが、スザクが言うなら安泰だな」

 

ふむ、私の部屋から訓練所を見渡せるのは好都合だ、ここからなら様子を観察できる。

 

こうやって椅子に座って紅茶を飲みながらでも見ることができる高さに窓があるというのが少々気に入らないがな。

 

「しかし、よもや藤堂とその直属の四聖剣が訓練をつけてくれるとはな…………面白いこともあるもんだ」

 

「藤堂さんもこれが正しいと思ったから来てくれたんだろうね」

 

「彼らの正義と私達の正義、繋がったと見ても良いのだろうか」

 

「だとしたら、これは大きな一歩だよ、ツキト、このままいけば、日本の独立も近そうだ」

 

「あぁ、こうして目標に向かって順調に進んでいると楽しくなってくる、だが一方で、不安でもある」

 

「不安?」

 

「ゲームやアニメのシーンで順調すぎると思ったらアクシデントが起こったりするだろう?今がそんな状態だから、何か致命的なアクシデントが起こらないか気が気でない」

 

「言ってることはわかるよ、でも僕らならそれを乗り越えることができるはずだよ」

 

「ふっ、そうだな、私達なら、きっと大丈夫だろう」

 

ここまでの死傷者数をあっち(ルルーシュギアス取得)とこっち(ルルーシュギアス無取得)の世界同士を比べたら…………いやこれは前に言ったか。

 

しかし、今更ながらなんとも奇妙な世界線だな、転生者である私という存在は世界にとってのイレギュラーであるはずなのに、まるで最初からあった歯車のようにうまく組み込まれていて、そして不気味なほど安定して回っているとは。

 

まるで機械の重要なパーツを社外品に変えてもキチンと動作しているような、言いようのない不気味さを感じる。

 

前にC.C.に聞いたことがある、Cの世界によれば、あらゆる可能性の数だけ世界線は存在すると。

 

私が居らず、ルルーシュがギアスを持ってして覇道を進むメインシナリオを軸として、ありとあらゆる枝分かれの世界線が存在しているそうだ、古いものではルルーシュ達が産まれるずっと前、ブリタニアが帝国となる以前から存在する世界もある。

 

それぞれ世界線によってメインシナリオとは異なる点がある、例えばルルーシュorスザクの性別が♀だったり、ナナリー(♂)だったり、そもそもルルーシュorスザクが存在しなかったり………実に様々だ。

 

私のいる世界線は他の世界に比べると比較的おとなしい方だ、酷い世界だと存在する人物すべてがバトルジャンキーだったり、存在する人物の大半の性別が♀に変更された上酷い事をされたりするそうだ、そんな世界線ごめんだ。

 

逆にもっともおとなしい、平和な世界はゾッとするほどそこに存在する人物が平和ボケしている、日本とブリタニアが戦争していない上、旧植民地はすべて自治区化され、独立の手助けをしているそうだ、あのシャルル・ジ・ブリタニアの命令で!

 

ナナリーは五体満足の為順調に成長、その後皇族にしてユーフェミア等とユニットを組んでアイドルになる、ルルーシュはプロデューサーとして各地を走り回る日々になるが、楽しそうだな、C.C.とV.V.はコードを保持したまま共に生きる選択をしたようだ。

 

それを話しているときのC.C.の微妙な表情は面白かったぞ。

 

異なる世界線、【事実は小説よりも奇なり】ということわざがあるように、思いがけないことだと馬鹿にはできんな。

 

 

 

(小説の中で言っているから説得力皆無ですがね by作者)

 

 

 

「それでツキト、これからはどうするつもりなんだい?」

 

「そうだな………訓練が終わり次第速やかに租界中に配置する、彼らには悪いが、初任務としては少々危険な橋を渡らせることになる」

 

「危険な橋………」

 

「【リフレイン】、そう呼ばれるとても危険な薬物が現在ここ日本エリアにて確認されている、彼らにはその薬物の取り締まり、取引のルートを特定し、その先にいる人物を逮捕することだ」

 

「そこまでするのか…………うん?それにしては訓練期間が足りない気がするんだけど?」

 

「本来ならもっと訓練期間を延ばす予定だったが、情報をつかんだ時には薬物が思ったよりかなり浸透してしまっていたのだ、このまま悠長に訓練をさせていては最悪の事態に陥る可能性もある」

 

本来の訓練期間ならこんな薬物取り締まりなんて簡単な任務だというのに、畜生が。

 

「最悪の可能性?」

 

「総督府に所属する人間が薬物を使用するようにでもなってみろ、ユーフェミア様の信用失墜に直結するのだ、そうなってしまってはもはや日本どうこうの問題ではなくなる、エリアの担当者が強制的に即交代させられ、『エリア内における薬物の殲滅』等と言って虐殺が始まるだろう」

 

「………でもその可能性は低いんじゃないかな?今の総督府のほとんどの人はツキトが入念にチェックをして入れてるんだから」

 

「私もそう思っている、いや、思いたい、確率にすれば1割、1%未満かも知れない…………だが0でない限り、いや例え限りなく0に近かったとしても、ありえない話ではないのだ」

 

「ツキト、心配するのはいいけど、さすがにそれは考えすぎじゃないかな、休暇をもらったほうがいいよ……………ナナリーやルルーシュと一緒に遊んだほうがいいと思う」

 

それを学校の女子にでも言ってやればモテるんだろうが………気遣いのできるイケメンなのにどこか残念な感じがするんだよなスザクは。

 

「スザク…………そう……だな、少し焦っていたか、もしくはまだ疲れが取れていなかったのかも知れんな」

 

「あと2、3日でも休んだら?今日から休むなら僕の方からユフィに言っておくけど?」

 

「いや、さすがにそれはユーフェミア様に申し訳ない、自分で行く」

 

カップの校長を飲み干し立ち上がる。

 

「今日は大人しく帰ることにしよう、過労でぶっ倒れでもしたら今後に差し支える………………何よりナナリー様の説教が怖い」

 

「あはははは!そうだね、確かにナナリーが怒った時は物凄く怖かったよね」

 

「後ろに見えたあの怒気のオーラ…………マリアンヌ様の血の繋がりを感じた、今でも思い出すと背筋が凍る、というか砕け散ってしまいそうだ………」

 

この世界、なぜか男より女のほうが強い法則がある、故に致し方無し…………本当になんでだ?パワー負けするのはいいが、KMFで劣ると腹がたつ。

 

「スザク、あとは任せた」

 

「うん、じゃあねツキト」

 

部屋を出てユーフェミアの部屋に向かって歩を進める、途中思案する。

 

今後、騎士団とブリタニアの関係を向上を目指す上でリフレイン事件はうまく利用できる、その後攻めてくる中華連邦のゴミも、連携して倒せれば日本人に対し強い繋がりを示すことができるはずだ。

 

問題はブリタニア帝国の帝都ペンドラゴンの日本、及び日本総督府に対する評価だ、間違いなく低いだろう、ブリタニア人の性のためか他人を見下すのがもはや他民族にとっての一般常識となっている、私も自覚してはいるが………直せそうにない、現にさっきも中華連邦をゴミと言っているしな。

 

まあ私個人の話はいいんだ、私が言いたいのはその一般常識を変えることだ、帝都ペンドラゴンに住む次世代を担う子供達の教育に道徳などを盛り込み、謙虚な大人を育て上げ、ブリタニア人に対する評価を変えてもらおうと思っている。

 

そうすれば、彼らは自ずと日本人やその他民族を評価し出すだろう。

 

しかし、この案を実行に移すには皇帝と同程度の権限が必要、私の考えを汲んでくれる皇族の中で最も信頼のいく人物はルルーシュかナナリーしかいない、つまりだ…………どうやっても裏切ることができないんだよこれじゃあ。

 

仮にルルーシュが皇帝となり、先ほどの案とその他もろもろの案を実行したとしよう、その後私が裏切る、ルルーシュは見事な指揮で私と私率いる反乱軍を打ち倒すだろう、だが、そのあと、私の立てた案が疑問視され、取り消しを要求するだろう、下手をすればそれを巡って戦争になるやもしれん。

 

そうなると必然的に私は裏切れない、だから、逆に考えるんだ。

 

 

【裏切らなくてもいいさ】と………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーフェミアに有給クレクレして3日の休暇を貰ったが…………一応公務員的な人間が有給クレクレしててそれに即ハンコするような副総統って良いのだろうか?

 

まあ、ある程度の妥協は必要だとは思うが………あの対応は絶対に贔屓だ、2ポンドかけてもいいぞ………………ポンドで思い出したが、ユーロピア共和国連合の通貨ってなんだろうか?

 

ポンド………じゃないよな、たぶんユーロだろう、うん、そうに違いない、あんな末期ガンみたいな国家の通貨なんてそんなものだろう。

 

電動バイクを走らせながら割とどうでもいいようなことを考える、運転中に一番やってはいけないことだが、こういう無駄な思考というのは厄介なもので、一旦浮かんでくるとなかなか取り去ることができない。

 

しかし、こういう無駄な思考から突拍子も無い案が浮かんだりするものだ、ベッドで寝っ転びながら本を読んでいる時や、入浴中とかにな、さすがに運転中は無いが。

 

クラブハウス近くの駐車場にバイクを停めて中に入ろうと………ん?なんだあのバカでかいコンテナは?KMFでも運んでいるのか?

 

「あ、ツキトくーん!」

 

と思っているとコンテナの近くからミレイ・アッシュフォードが小走りで近づいてきた。

 

「アッシュフォードか、どうした?」

 

「どうしたって……あのコンテナのことよ、あれツキト君宛てよ、それも本国から」

 

「本国から?誰からだ?」

 

「クロヴィス殿下」

 

「はあっ!?」

 

おいクロヴィス!おま……一応入院中だろうが!

 

「あと、これがコンテナと一緒に」

 

「手紙?」

 

えらく綺麗な封筒だな………受け取って読んでみる。

 

『やあツキト、頑張ってるみたいだね、そっちの情報はなかなか入ってこないから詳しい事情はわからないけど、病院のベッドの上で絵を描いているときに【アールストレイム】と『ニッポン】っていう単語をよく聞くから、うまくいってるんだろうね。

僕は何もしてあげられないから、贈り物をさせてもらったよ、ツキトの身長に合わせて設計して作ったやつだから、きっと使いやすいと思うよ。

2、3年は故障はしないと思うけど、もし何かあったら僕宛に手紙を書いて送ってくれ、修理用の部品を送るよ。

それじゃあ、また手紙を送る時まで元気で。

 

クロヴィスより』

 

私の身長に合わせて作ったという文面からもう嫌な予感しかしない、しかもナナリーの分もあるのか…………。

 

これはもう絶対KMFだろう、どう考えてもKMFだ…………。

 

同封されていたコンテナの鍵で開錠し、取っ手に手をかける。

 

どうかKMFじゃありませんように、と願いを込めて開く。

 

…………こ、こ、これは……こいつはぁ!?

 

「ば、バイク!バイクだ!」

 

「え?バイク?」

 

クルーザータイプっぽいデザイン、遠目からでもわかるどでかいバッテリータンク、全体に施されたブリタニア国旗のペイント、安定性の高そうな太く頼り甲斐のあるタイヤ。

 

保持のしにくさを感じさせないチョッパーハンドルを握りコンテナから出す、黒く滑らかな質感のローダウンシートに跨がる、あ、足が着く!地面に足が着くぞ!しかも見た目より軽い為かフラフラしない!

 

一旦降りてよく見てみる、後輪上部近くにはこのバイクのペイントに合わせて作られたであろうボックス、モーター始動に使うキーをシート近くの鍵穴に突っ込んで回すとシートがバッテリータンクとの接点を支点に上に開いた、中にはバイクのメンテ用道具が入っている。

 

……………カッコイイ。

 

クルーザー、前世日本においては主にアメリカンと呼ばれる形式のバイクによく酷似しており、オトコノコの魂とかそういうのを揺さぶってくる。

 

私の中のクロヴィスの株が天井知らずで有頂天だ。

 

ありがとう………クロヴィス…………それしか言葉が見つからない。

 

「うっわ、これは何というか………また個性的なバイクね」

 

「とてもカッコイイバイクだ」

 

「え"!?」

 

「ん?どうした?カッコイイだろう?」

 

「あーーー…………うん、そう、ね」

 

「ふふふふふ、素晴らしい出来だ、さすがはクロヴィス様だ、見よ!バイク全体にあしらわれたブリタニア国旗のペイント!国家への忠愛を感じさせる美しい造形…………excellent‼︎‼︎……そして!ブリタニア発祥のクルーザータイプ(いわゆるアメリカン)というのも点数が高い!楽な姿勢で疲れ辛く、そこに背が低くとも運転できるように作られた握りやすいチョッパーハンドル!長時間の走行ができる大容量バッテリータンク!本体に合わせたペイントでレジャーから咄嗟の野宿も出来るサイドボックス!…………………これに乗って街を走れば、ブリタニアへの忠愛を示すことなど容易だろう、いや!これの操縦者はブリタニアへの愛を知らしめるだけでは飽きたらぬ!そう!このバイクの操縦者はブリタニアの美の体現者などという生温い存在ではない!…………もはや操縦者こそブリタニアと言っても過言ではないわぁ!!!!」ズダァン!

 

「さいっこうに、『ハイッ!』ってやつダァ!!!」

 

「あ、そ、そうなのね…………(彼のセンス、ちょっと心配よ私)」

 

「ふぅ………」

 

十分に満足したのでバイクを駐車して鍵を抜く。

 

「ああ、アッシュフォード、手紙とコンテナのことを伝えてくれてありがとう」

 

「え、えぇ、別にいいわよ………(いつかナナちゃんもああいう性格になっちゃうのかしら………心配だわ)」

 

クラブハウスに入り私服に着替える、早速バイクに乗る、前にだ、一応シャワーを浴びてくるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

今日はテストが近いので早帰りです、中等部の2年生になるまでツキトさんに勉強を見てもらっていたのですが、ラウンズとして働き出した頃からぱったりそういうのは無くなってしまいました。

 

今はお兄様が教えて下さっているのですから不満はありません、でも、やっぱりツキトさんが近くにいてくれないと身が入らないといいますか………ツキトさんに見られていると思うとシャキッとできたのです。

 

あ、お兄様が教えて下さっているときもシャキッとしていますよ?でもツキトさんに見られているときとは何かが違うんです、その、ドキドキするんです、それに、ツキトさんが勉強を教えるときの優しい声にドキッとするんです。

 

…………自分がドキドキしたいがために、ツキトさんの時間を削ってしまうナナリーは悪い子なんでしょうか……………。

 

ツキトさんはそんなことはないと言ってくれていましたが、もしかしたら無理してるんじゃないか、って時々思ってしまうのです。

 

もうすぐツキトさんのお誕生日があるのに、こんな悪い子ではツキトさんにどんな贈り物をしたって喜んでくれるわけがありません、あまり頼るのはいけないと思いますが、ここは咲世子さんにも知恵を貸していただきましょう!

 

今日は体育で汗をかいてしまったので、シャワーを浴びましょう、制服を脱いで…………。

 

ガチャッ

 

「あっ……」

 

「な、ナナリー様……」

 

扉が開いた音に驚いて振り向くとサラシもタオルも巻いてないツキトさんが、サラシも!タオルも!一切巻いていないツキトさんが!いたんです!!

 

「つ、ツキトさん!一緒に入りましょう!」

 

「え?あ、ちょっとお待ちくだ……」

 

ツキトさんの肩を掴んでシャワールームの浴槽にひいてあるお湯に無理矢理浸からせます、そして私がツキトさんの対面に入れば、はい!

 

「ナナリー様……なにも向き合う必要は……」

 

珍しく恥ずかしそうなツキトさん。

 

あ、もしかしてツキトさんって裸を見られるのが恥ずかしいのでしょうか?……………物凄く可愛いです!私、我慢できなくなっちゃいそうです!

 

「あぅ………ナナリー様……そんなに見ないでください………」

 

………もう我慢なりません!!

 

「ツキトさぁん!!」

 

「ちょ!?ちょっとナナリー様!なぜ近づいて……や、やめてください!そこは触っちゃ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

おいぃ!?いきなりわけがわからんぞ!?

 

ありのまま、今起こったことを話すぜ!

 

私がシャワーを浴びているところにナナリーが裸で乗り込んできて、無理矢理混浴させられるようになったと思ったら服を着てリビングで正座していた!

 

何を言っているかわからねえと思うが、私も何が起きたのかさっぱり………。

 

「ツキト」

 

「あ、はい、なんのご用でございましょうか、ルルーシュ様」

 

目の前にはルルーシュ、横には私と同じように服を着て正座しているナナリー、いったいこれは………。

 

「事情は咲世子から聞いた、お前たちのいちゃいちゃを止めたいわけじゃないんだが、さすがに風呂でやるのはダメだ」

 

これは…………もしかしてキンクリというやつ、か?

 

「申し訳ございません、次がないように努めて参ります」

 

「ああいや、そうじゃなくてだな、その、するのなら部屋でしてくれ、バッタリ会った時に気不味いからな」

 

「はっ、承りました」

 

「ナナリーもいいか?」

 

「は、はい……」チラッ

 

ん?ナナリーが私のほうをちらちら見てくるが、顔に何かついているのか?

 

「(わからん……)」コテン

 

「(あっ、首をかしげるツキトさんかわいい……)」

 

「よし、じゃあ行っていいぞ」

 

「「はい」」

 

結局なんだったのかはもうどうでもいい、時計を見るとすでに夕食後の時間なのだ、思い出すのも面倒だ、このまま飯を食って寝よう。

 

よいっしょ………ん?あれ?立てない、しびれたってわけじゃないんだが………力が抜けているような……?

 

「ツキトさん、手伝いますよ」

 

「あ、い、いえいえ、お気になさらず………」

 

「でも、私にも責任がありますので」

 

そう言うとナナリーは私の両脇に腕を通して抱きしめるように立ち上がらせた。

 

「ありがとうございます、もう大丈夫ですので………」

 

「このまま部屋に行きますね(食い気味)」

 

無視かよ(素)。

 

いやしかし、いろいろ当たって非常にマズイんだが、具体的に私のレイピアがナナリーの色気で有頂天だぞ。

 

もしくはナナリーのグールで私の金↑木↑くん↑↑!!!がフォ↑ルテッ↑シモォオオオオ↑↑↑!!!???ってところだ。

 

そんなことはいいんだ、重要なことじゃない、問題は部屋に行くといったナナリーがなぜか自分の部屋に向かっていることだ。

 

………おいちょっと待て、これはマズイんじゃあないか?咲世子はどこだ?こういう時は止めてくれる咲世子はどこに行ったんだ?美人な咲世子はどk

 

「呼びましたか?」

 

計ったようなタイミングなのが少し気になるが、まあいい。

 

「ナナリー様、咲世子が来ましたので、あとは咲世子に任せ……」

 

「だ、だめです!それだとツキトさんを部屋に連れこんでエッチをする………えっと……下半身マッサージをする……でもないです…………その、あの…………セック◯をする計画が台無しに………「ちょっとナナリー様待ってください」

 

「そうです!犯すためです!決していやらしいことはしませんから!」

 

「何言ってんですかナナリー様!?」

 

「ナナリー様、それでは二律背反になってしまいます、ここは『マッサージをするつもりだが、別にセッ◯スになってしまても構わんだろう?』という風な堂々と言うのがよろしいかと」

 

「何がよろしいんだ何が!?」

 

ええい!2人とも女じゃなかったらチョップのひとつでも食らわせてやるとこだというのに!なんとか逃げねば!生き延びねば!!

 

「じゃあ………エッチ、しましょう!!」

 

「NOですよナナリー様!NOです!」

 

今更だがコード持ってるから脚の組織を作り直せばいいじゃないか、これなら数秒でできるな。

 

よし!

 

「これが私の逃走経路!」

 

「あっ!」

 

ナナリーの拘束から逃れ、クラブハウスの出口めがけ突貫する!その後バイクに乗り走り去る!

 

「逃がしません」

 

「速い!?」

 

理想と現実は違う(悟り)

 

な、なぜだ、コードの再生機能と合わせて身体能力を上げた私の速度を上回るだとぉっ!

 

「咲世子、頼む!見逃してくれ!」

 

「申し訳ございません、ルルーシュ様の命令ですので」

 

「な、なん………だと!?」

 

お、おのれぇぇええ…………あの童貞野郎………他人事だと思いやがってぇ。

 

「ナナリー様に最近元気が無いからどうしたら良いか、と、ルルーシュ様から相談を受けまして、それならツキトさんと一晩同じベッドで寝させれば良いと思いましたまでです、その際ナナリー様にツキトさんが犯されたとしても私は一切の謝罪も反省も後悔もしません」

 

「実行に移すな!だ、第一だな!ゴムも無いんだぞ!?いや仮にあってもする気はないが!もし……万が一にでも……こ、子供ができたら…………どうするんだ」

 

「「(キュン……)」」

 

「こ、子育てとか………それ以前にナナリー様のお身体の負担が大きすぎますし、小心者の私には責任が取り切れるとは、いえ!取れないわけではございませんが!せめて20まで!20までお待ちを!………ですが、ナナリー様が今欲しいと望むなら私は………」

 

「ゴムは4箱ありましたが………この様子なら要りませんね」

 

「ぜんっぜんよろしく無いからな!?あるなら寄越せ!!いや!ちょっと待て!…………ナナリー様!やはり今日はやめましょう!性行為というのはこんなに頻繁に行うものではありません!お考えを!」

 

くっ!咲世子め、こんな無駄なところで高スペックを発揮するんじゃ無い!

 

!……今なら咲世子の両手が塞がっている!

 

「隙ありぃ!」

 

「無駄です!」

 

「ですよねぇ!!」

 

そりゃそうだナナリーもいるんだからな!逃げられるわけ無いよな!くそぅ。

 

「というわけで、諦めてナナリー様としてください」

 

「つ、ツキトさん、その、よろしくお願いします!」

 

「で、ですが……」

 

「ほっ」ぺしっ

 

「ぬぐっ!?……さ、咲世子……貴様………」

 

視界が………黒く………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

「えへへ……ナナリーはかわいいねー」

 

どうしましょう………。

 

「ありがとうございます、ツキトさん」

 

「ツキトさん?……ツキトでいいんだよ?ナナリー」

 

ツキトさんが幼児退行してしまいました!とってもかわいいのでこれはこれでありです!

 

「ナナリー?どうしたの?ぼくのこと嫌い?」

 

「いえ!ツキトさんのことは大好きです!」

 

「よかったぁ〜」

 

「うっ………」

 

か、かわいいです、襲いたいところですが、これ以上はさすがに………。

 

「それにしても………ナナリーすごくおっきくなったねぇ」

 

「おっきくなったのはツキトさんの………いえなんでも無いです」

 

今はまだかわいいツキトさんを眺めていたいですが、このままだとツキトさんといちゃいちゃできません、咲世子さんを呼んで手伝ってもらいましょう。

 

「咲世子さーん!」

 

「はい」シュタッ

 

「ツキトさんが幼児退行してしまって………どうすれば治りますか?」

 

「私におまかせ下さい………ハッ」ゴキィッ!

 

「むきゅぅ……」ドサッ

 

「咲世子さん!?」

 

い、今すごい音が鳴ったのですが………手刀であんな音ってなるんですね。

 

「あとは目が覚めたら治っているので、ご安心下さい」

 

「ありがとうございます咲世子さん」

 

「いえ、これもメイドの務めです」

 

メイドさんってすごいんですね!

 

「あ、でも起きた時に首が痛くなっていたりとかは………」

 

「心配無用ですナナリー様、痛みは残りません」

 

「それなら良かったです」

 

「では私はこれで失礼いたします」

 

咲世子さんがドアから出て行くと、ツキトさんの顔を覗き見る、やっぱりかわいいです♫

 

ツキトさんは寝てる時でも気を張っているので、近づいただけですぐ目を覚ましちゃうので寝顔は見ることができないのですが、疲れて寝た時や気絶した時はこうしてじっくり見ることができるのがいいですね。

 

………添い寝しても、いい、ですよね?

 

「…………えへへ………お休みなさい、ツキトさん♬」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

noside

 

 

シャワールームにてナナリーに性的に襲われたツキトを救出した咲世子。

 

シャワールームで襲われたというショッキングな事実を思い出させないように、咲世子はツキト気絶させ服を着せ、意識が回復する頃まで寝かせていた。

 

しばらくして起きたばかりで寝ぼけてふらつくツキトをルルーシュの前に正座させたのも咲世子なのだ。

 

咲世子は万能、とても有能なメイドなのだ。

 

夜、ツキトを物理的に寝かしつけてきた咲世子は、ホットミルクを作りリビングにいるルルーシュの元へ持って行った。

 

ホットミルクを一口飲んで、ルルーシュは口を開いた。

 

「………咲世子」

 

「何でしょうかルルーシュ様?」

 

「ずいぶん激しかったのが音でわかったが………ツキト、死なないよな?」

 

「ツキトさんが(テクノブレイクで)死亡する可能性は低いかと…………もともと体は頑丈ですし、精力剤も混ぜておりますので」

 

「そうか……………」

 

「まだ何か心配事がおありですか?」

 

「…………今後、ナナリーはツキトと結婚するだろう、そうなったら、その時は、皇族に復帰するのが良いのだろうか」

 

「私の考えですが、ナナリー様の将来を優先するとなると、皇族復帰後、日本かブリタニア本国で暮らす事になるでしょう、もしブリタニア本国での生活を求めたなら、その場合ルルーシュ様は黒の騎士団を解散するなどの処置をしなければならないかもしれません」

 

「そうか、ツキトを優先するとしたら?」

 

「ツキトさんに考えを聞くのはやめたほうが賢明です」

 

「どうしてだ?」

 

「以前ツキトさんは、ナナリー様に交際を申し込まれた時、ナナリー様に相手が見つかるまでの繋ぎとしての関係………浅い交際を望んでいたのです」

 

「なに?…………いや、いきなり付き合えと言われたらそう考えても仕方ない、あいつは俺を除き誰よりもナナリーのことを考えているからな」

 

「その時にナナリー様から相談を受けたのです、もっと深く、ツキトさんと愛し合いたいと」

 

「…………まさかとは思うが、ナナリーにそっちの知識を教えたのは」

 

「申し訳ございません、ルルーシュ様、同じ女として、最初はナナリー様の恋を応援しようと思っていたのです、ですが、ツキトさんが年齢に見合わず大人なもので、助言すれどツキトさんには効果が薄く、強攻策としてもしもの時にと教えていたのですが…………」

 

「………まあ、結果を見ればうまくいっているようだ………ナナリーの処………操を取ってしまったとなれば、責任感の強いツキトのことだ、なかった事にできない、そうナナリーは考えたんだろう」

 

「しかし、いくらナナリー様でも、ツキトさんの寝込みを襲えば手痛い反撃をもらう可能性がありました、その点を考慮しておくべきでした」

 

「そこは反省すべきかもしれない、だがツキトは反撃しない、いやできなかっただろう」

 

「?……なぜですか?」

 

「ツキトは忠義と誇りを重んじる…………こう言ってはなんだが、その重さ故にツキトはナナリーに服従すべきだと考えてしまうんだろう、逆らったり、傷つけたりするのは、ツキト自身の誇りに傷をつける行為だと、そう考えているんだろう」

 

「……………では、ルルーシュ様からツキトさんに、今度ナナリー様が襲ってきた場合に限り攻撃を許可しては如何でしょうか?」

 

「そうか!………いや、それは無意味だ」

 

「なぜでしょうか?」

 

「ナナリーがおねだりをして、ツキトがそれを断れた試しがないんだ」

 

「…………今しばらくの間、ツキトさんが(テクノブレイクで)死なないようにサポートをすることにいたしましょう」

 

「そうだな……」

 

とある日の深夜のお話。

 




TKTニキ絶対テクノブレイクで死ぬから、見とけよ見とけよ〜。

ナナリー様の裸想像してボッキした奴、ランスロットの頭の上で、シコれ。

ナナリー様は床上手だって、はっきりわかんだね。


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『デート』をする者、覗く者

後半ちょびっとだけカレンの実況。



なにやら昨日の記憶が曖昧だ、わかるのはカレンダーを見ると今日から3日間休暇だと言うこと。

 

そして隣にはナナリーが寝ていて、アレ特有の臭いがすること。

 

いよいよ自分の抵抗力の無さにとことこ嫌気がさしてくる。

 

ベッドから出てシャワーを浴び、私服に着替えてナナリーを起こす。

 

「ナナリー様、朝ですよ」

 

「……ふぁぁぁ………おはようございます……ツキトさん」

 

「シャワーを浴びてきてください」

 

「ツキトさんは、入らないんですか?」

 

「申し訳ございません、先に入らせていただきました」

 

「そうですか……じゃあ入ってきますね」

 

とことこ歩いてシャワールームにむかうナナリーを見送ってからキッチンへ歩く。

 

咲世子が朝食の準備をしていた。

 

「おはようございます、ツキトさん」

 

「あぁ、おはよう、咲世子………悪い、栄養ドリンクってあったか?」

 

「冷蔵庫に入っていますよ」

 

「ありがとう……」

 

どうもまだ頭が冴えない、どころか二日酔いに似た不快感が頭の中をサーキットを走るミニ四駆のように豪快に回っている。

 

冷蔵庫の中にある大量の赤マムシや精力剤を無視してコンビニやスーパー等で見慣れた青いラベルの瓶を取る。

 

CMと同じ方法で開けようとすると親指が痛くなることで有名な栄養ドリンク、もちろん私はそんな親指が痛くなるような開け方はしない…………小さい頃のナナリーにせがまれてやったことが一度だけある、ついでになんとか成功したが、やはり痛いものは痛い。

 

普通に開けて一気に飲み干す、疲労回復に効くというし、何より今日から休暇である事はおそらくナナリーはすでに知っているだろう、たぶん咲世子あたりから聞いているはずだ。

 

となれば振り回される事は必至、今のうちに英気を養っておく必要がある、いくらある程度体内の組織を分解して再構成できると言っても、脳は難しいのだ。

 

こういう時こそコードの本領なのだが、慣れない脳みその分解と再構成なんてやってぶっ倒れたくない。

 

空瓶をゴミ袋に入れる。

 

そこでハッとする、空瓶に反射して見えた私の顔、眼帯をしてない…………ナナリーに見られたら最悪カラコンとでも言えばいいが、ルルーシュにそれを言うのは私のイメージとか色々がががが!

 

急いで部屋に入り眼帯を探す、眼帯は紐が綺麗に巻き取られた状態でベッドの脇の小物入れに鎮座していた。

 

ナナリーもいないことだしさっさと付ける…………やっぱりつけてた方が安心感あるな。

 

部屋から出ようと歩き出したところでナナリーがシャワールームから出てきた。

 

「あ、ツキトさん、髪を乾かすの手伝ってもらっていいですか?」

 

「かしこまりました」

 

鏡台の前の椅子に座るナナリー、私はタンスからバスタオルを取り、ナナリーの髪をふきはじめる。

 

「………なんだか、懐かしいです」

 

「懐かしい、ですか?」

 

「はい、昔……アリエス宮の大きなお風呂に私とお兄様とツキトさんの3人で入った後、いつもふいてくれたことを思い出したんです」

 

あぁ………生乾きのまま寝られると風邪をひいてしまうかも知れないからと私がやっていたが………今思えばあの時のアーニャの微妙な顔の意味が理解できた気がする。

 

そりゃあ真っ裸で女の子の髪をふいていたら変態にしか見えないからな、だがマリアンヌから許可は出ていたし………もしや、マリアンヌは私とナナリーがくっつくことを予期していた?

 

いや、おそらくシャルルあたりから教えてもらったのだろう、というか、子供だったから良かったものの、自分の娘の髪をよその男に真っ裸のままふいてもらうってどうなんだ………。

 

皇族には変態しかおらんのか!…………実際私の知る皇族は半分以上変態だったな、もうどうしようもないな、ブリタニア終わった………いや逆に始まったのか?

 

そろそろバスタオルはいいだろう、後はドライヤーでゆっくり乾かせばいい、風の温度は高すぎると髪が傷むというし、人肌に直に当てて熱くない、かといって冷たいのも水分が凍って傷むそうだし、ほどほどの温度で乾かしていく。

 

乾いたら次はブラシで髪をすくんだが、急いでいるからといって素早くやるのは絶対にNGだ、いいな?絶対にNGだぞ。

 

素早くやると頭皮が傷つく上静電気が発生して台無しになってしまう。

 

またブラシも非常に重要だ、金属製のものなんてゴミ箱に突っ込んで動物毛か新素材のセシオンのものを今すぐに買ってこい。

 

今回はクラブハウスで住み始めて2、3日経ったあたりで咲世子が(私の金で)購入してきた動物毛ヘアブラシを使用する。

 

毛先が柔らかく金属製と比べ頭皮が圧倒的に傷つきにくい動物毛ヘアブラシは、安価で手頃に手に入るうえそこそこ頑丈、静電気が発生せず、ナナリーのような綺麗な髪をより美しく見せる………つなり「艶」をかけるにはもってこいの代物だ。

 

髪の根元から毛先にかけて撫でるように、頭皮を痛めないように、マッサージのような感覚でゆっくり梳くと良い、強く梳くと摩擦熱で髪が傷んでしまうため、優しく、優しく梳く。

 

そう、小さなハムスターやツバメの頭を撫でるように。

 

「終わりました」

 

「ありがとうございました、それで、ツキトさん」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

このパターン………たぶんデートの誘いだな。

 

「咲世子さんから今日はお休みだと聞きました、なので……その、デート、してくれませんか?」

 

「はい、お付き合いさせていただきます」

 

特に急ぎの用事もないからいいか、栄養ドリンクのおかげか、それともナナリーの髪を梳いている時間でリラックスしたのか、疲れがないようだしな。

 

「本当ですか!?そ、それじゃあデートの時は、昔みたいな話し方で話してくださいますか?」

 

「わかりました、アリエス宮の頃のような話し方で喋らせていただきます」

 

「ありがとうございます!」

 

「ナナリー様、今日のディナーは外食する、というのはどうでしょうか?」

 

「いいですね!どこに行きますか?」

 

「そうですね………少々お待ちください」

 

そうことわってから部屋を出るz

 

たまにはガス抜きも必要だろう、最近は結婚も視野に入れた未来を考えている、皇族復帰後にブリタニア本国で結婚式、日本で旅行というふうに行えば、日本へ観光に行くブリタニア人が増えてくれるだろう。

 

日本への注目を集めるという意味ではナナリーとの結婚は最大限の効果を与えられる政治的パフォーマンスとしてうってつけだ、なのだが…………そんな打算で結婚なんてしたくない。

 

なので、休暇や休みはできるだけナナリーと過ごすようにし、私自身もっとナナリーのことを知り、愛せるようにならなくてはならない。

 

よって、今回のデートの誘いを受けた次第だ。

 

手は抜かん、前のデートで行っていない有名なデートスポットを中心に、夜はレストランに行くとしよう、ナナリーに好き嫌いはほとんど無いからどこにしようか迷うところだな。

 

…………そういえば、この前スザクがマンションの近くに日本食料理店ができたと言っていたな、口コミを見てみよう。

 

ふむ、平均7点か…………低いな、ダメだ、なし。

 

安定しているのは洋食、それと旧ブリタニア帝国の料理専門店か、無難に洋食がいいか。

 

ここいらで歩いていけるような距離にある、評判が良い高級レストランとなると………6件、ではそのうち予約できそうな店は…………4件、ここは直感で行こう。

 

……………よし、この店だ、早速予約だ、ん?コースが選べるのか、とりあえず一番高いのを予約しておけばいいだろう。

 

「もしもし、予約を入れたいんだが………今日の夜、2人だ、コースは……あ〜、一番高いのを、あぁ、名前か?名前は……キングスレイで………では、よろしく頼む」

 

これでいいか、いやー緊張した。

 

部屋に戻り、ナナリーに報告する。

 

「ナナリー様、レストランの予約が取れました」

 

「え?ツキトさん、それはどこのお店なんですか?」

 

「◯◯◯◯というレストランです、ナナリー様のお口に合うかと」

 

「そ、それって高級レストランじゃないですか!?」

 

「一般的にはそう呼ばれる店ですが………どうかいたしましたか?」

 

「だ、だってツキトさんにそんなたくさんのお金を払わせるなんて私……」

 

いや、私が払うのが普通なんだと思うんだが。

 

「ご安心ください、私には総督府よりしっかり給金が出ております、この程度の出費は痛くはありません」

 

家の一つ二つ買ったところで財布はほとんど痛まない、やはりラウンズの給金は頭がおかしい、もう少し減らしてもいいんじゃないか?使い道が、というか散財方法がこれくらいしかないんだよなぁ。

 

「で、でも……」

 

「………お気に召しませんでしたか?」

 

「そういうわけではありません………私のワガママでデートをしてもらうのに、そこにさらに迷惑をかけたくないんです」

 

デートに誘った程度でワガママになるんだったら最新型のKMFをせがんだ私は死刑囚か何かだな。

 

「迷惑だなんてとんでもないです、私はナナリー様と過ごせるだけでも幸せなんです、それに、これは私のワガママなのです、ナナリー様が気にすることはありません、むしろ、気を使わせてしまい申し訳ないと反省する次第です」

 

「ツキトさん………」

 

「どうでしょうかナナリー様?今回のデート、私のワガママを聞いてはもらえないでしょうか?」

 

「………ふふっ、わかりました、ツキトさんのワガママにお付き合いさせていただきます」

 

『私の主人はこんなに謙虚で優しい』………奥ゆかしい女性の主人(モデル:ナナリー)とその従者(主人公)の日常を描くライトノベル………大ヒット間違いなしだな。

 

誰か作れ(懇願)。

 

そのあとはナナリーと雑談をし、C.C.の部屋に入った。

 

「お?ツキトか、久しぶりじゃないか、忘れられたのかと思ったぞ」

 

C.C.はピザ食いながらパソコン弄っていた。

 

「実際忘れていたがな………騎士団の状況はどうだ?」

 

「最初こそブリタニアと手を組むことに反対していた奴らがいたが、ゼロが言いくるめてなんとかなった感じだ」

 

「ゼロ………ルルーシュ様にかかればこの程度で反発は予測の範囲内だっただろうし、幹部連中にも伝えていたから早めに対処できたわけだ」

 

「んまあそこは置いといて、ツキト、お前次の騎士団の定例会議にはもちろん来るんだよな?」

 

「次の定例会議………明後日か、今は何の予定も無いから行けると思うが、ナナリー様次第だな」

 

「お前達の仲は応援するが、なるべく用事を入れないようにしてくれよ?最近紅月カレンの視線に殺気がこもり始めたんだ、そろそろ背中が危ないかもしれん」

 

「シュタットフェルトか………とりあえず了解だ、エリーの姿で行く」

 

「頼むぞ、紅月カレンに殺気を向けられつつ団員から同情の視線を向けられる、そんな気まずい会議はごめんだぞ」

 

「よく今まで耐えたな」

 

「まあ、私はC.C.だからな」

 

「そう言うと思った、では、私はデートがあるから失礼する」

 

「ナナリーとのデートなのに随分と張り切っているじゃないか」

 

「心境の変化だ、このままナナリー様と結婚するのも良いと思ってな」

 

「それを言ってやれば喜ぶんじゃないか?」

 

「言ったら三日三晩犯されるだろうが」

 

「違いない……(押しの強さはマリアンヌ譲りなんだろうな)」

 

「では、引き続き頼むぞC.C.」

 

「任せておけ」

 

C.C.の部屋から出て自分の部屋に入り、すぐに染髪を始める、前回はゴールドだったので今回はシルバー、銀髪でいこう。

 

服装は………かしこまった雰囲気はあのレストランには合わない、ドレスコードは無いから多少カジュアルな服装でもいいか、安っぽいものは無し、ブランド物を着て行こう。

 

まあ、ナナリーの隣を古着や1000円くらいのシャツとジーパンで歩ける度胸と、周りのやつに石を投げられても耐え抜く根性があるやつならそれでもいいが、たぶんそれだとナナリーが恥をかくから結局ダメ。

 

しかし、こんな布の塊が1000ドルを軽く超えるのが理解できない………おしゃれとか流行とか知らんし、その都度1000ドルを超える布を買わなきゃいけないのは面倒、と言ったり思ったりしているうちはダサい服装なんだろうな。

 

つまり試しに来てみたこの服はダサいということになるな。

 

「咲世子」

 

「はい」

 

「ナナリー様とのデートの最後にドレスコードの無いそこそこ値の張るレストランで食事をする予定なんだが、ナナリー様の隣を歩いていても違和感を与えず、恥をかかさないで良いような、何か良い服の組み合わせは無いか?」

 

「ナナリー様とドレスコード無しのレストランで食事しても違和感のない服装ですか………少々お待ちください」

 

天井から現れた咲世子に微塵も驚かなくなった自分自身に驚きつつ、こういう事に詳しくナナリーと同じ女性の咲世子に服装を頼んでみる事にした。

 

「この服装なら問題は無いかと」

 

「…………おぉ、これはいいな」

 

咲世子から渡された服を見る、目立つような要素は薄く、また値の張る服だが、ナナリーの隣を歩くには十分なレベルだった、そのうえ革靴まで用意してあった、ブランド物でかなり高いやつだ。

 

領収書が付いており、領収書には私の名前が記載してあった………日用品等を買うときは勝手に私の名前を使うのは許可しているが、まさか靴も買っていたとは……………というかこれぴったりだな、予知してたのか咲世子のやつ?

 

まあいいか。

 

「ありがとう咲世子、それとおそらくナナリー様も服装で悩んでいるだろうから、見てきてくれないか?」

 

「わかりました、それでは失礼します」

 

跳躍して天井に消えていく咲世子を見送り、財布やケータイのチェックを行う。

 

我ながら分厚いうえに重い財布だ、給金の半分ほどを生活費にあててもまだ余る、銀行に預けようとすると名前で断られるから咲世子名義で振り込んでいる、もしもこれがバレたらまずいな。

 

【ナイトオブ13、日本人女性に金貢ぐ!?】とかいう記事でも出されたらと思うと怖いが、さすがにナナリーやルルーシュ名義はもっとマズイだろうしな………バレないうちになにかしら対策をしなければいけないな。

 

そろそろリビングで待っていたほうがいいな、あまり遅いとナナリーが不機嫌になるかもしれんしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カレンside

 

 

最近の騎士団の状況の変化は、いろいろとついていけないことが多い。

 

まずあいつ、男のくせに背が低くて髪が長い一見女々しく見えるナイトオブラウンズ、ナイトオブサーティーンのツキト・アールストレイム、あいつとゼロが手を組んで作戦を行っていた。

 

教科書では第5皇女を狙う暗殺者を排除したことで皇帝より特例としてラウンズの称号が贈られている、でもそれだけで、政治に口を出せるほどの権限は無い。

 

なのに日本の政治を牛耳るコーネリアやユーフェミアを通じて政治に口出しできるのは、幼馴染だからだとアールストレイム本人は言っていた、敵ながら思ったけど、それでいいのかブリタニア。

 

騎士団発足前からゼロと秘密裏に協力関係にあったらしい、ゼロはエリーを通じて知り合ったらしい、ゼロが一体何者なのか疑問に思ったけど、雑魚同然だったただのテロリストの私たちを、この日本にいるブリタニア軍の戦力と拮抗するほどに大きくしてくれたゼロの本当の姿なんて、今となっては小さいことだ。

 

私たちの心強い指導者であるゼロが、仲間として信頼するツキト・アールストレイム卿…………ゼロはそいつとの模擬戦を考えているらしい、内容はアールストレイムと私のマッチ、機体性能はスザクの白兜より下だけど、あいつは四聖剣の藤堂さんをKMFの一騎討ちで引き分けた実力者だ、詳しく分析しておかなきゃいけない。

 

あのとき、藤堂さんを救出する作戦のとき、あいつは藤堂さんに一騎討ちを申し込んできた、今思えば、四聖剣全員で叩けば楽に勝てたはず………わざわざ近接武器限定で戦うこともなかったはず、でも藤堂さんは作戦の終わった後はとてもスッキリした顔をしていた、千葉さんが言うには藤堂さんは根っからの武人だかららしい。

 

って話が逸れたわ、途中から藤堂さんの話になってたわ………肝心のアールストレイムのことだけど、ラクシャータさんが手に入れた白兜との模擬戦データによると、圧勝ってほどでもないけど勝ってるみたい。

 

藤堂さんと引き分けるほどには強いわけだけど、調査によると最近はほとんどKMFに乗ってないみたい、慢心や油断をするわけじゃないけど、勝てそうな気がしてきたわ。

 

そういえば、今日はそのアールストレイムとナナリーちゃんがデートするのよね、いきなり朝からナナリーちゃんからメール来て驚いたけど、今日の朝に頼んで即OK出したアールストレイムに驚いたわ。

 

………対戦相手のクセを見つけておけば優位に立てる、ゼロはそう言っていたわ、普段の生活の中でのクセはKMFの操縦に表れる、だからクセを知っておけば勝てる可能性があがるって。

 

ナナリーちゃんには悪いけど、デートを尾行させてもらうわ、最近ゼロの周りにはC.C.とエリーのせいで近づけないし、褒めてもらうこともなかったのよ、模擬戦でアールストレイムに勝ってゼロに褒めてもらうために、私は良心を殺すわ!

 

『デートに行くってメールを見たんだけど、どこに行くの?』

 

送信!ナナリーちゃんのことだから、たぶん教えてくれるとは思うけど………。

 

『ショッピングをした後に◯◯◯◯っていうレストランにお食事に行くんです』

 

◯◯◯◯って確か高級レストランだって聞いたけど、やっぱり給料良いのねラウンズっていうのは、同年代で一体いくらもらってるのかしら。

 

『そうなの、教えてくれてありがとう、楽しんでね』

 

『はい、楽しんできます!o(^▽^)o』

 

ナナリーちゃんとこうしてメールしたり話したりすると、なんでこんな可愛くて良い子があんなやつなんかと付き合ってるかとつくづく疑問に思うのよね。

 

一回だけ、ナナリーちゃんがアールストレイムの地位とか財産狙いかと思ってたんだけど…………どう見てもそんな感じにはまったく見えなかったのよね、ラブラブっていうか、見てて砂糖吐きそうになるほどくっついてんだもん。

 

まあナナリーちゃんにそんなこと限ってないと信じてたけどね。

 

でも…………2人の仲って結構急に進んだわよね、くっつかれるのを嫌がってたアールストレイムが一ヶ月も経たないうちに腕を組んでデートしてたり、キスしたり、エッチとかも、したり………それは確かアールストレイムじゃなくてナナリーちゃんのほうから襲ったらしいけど、最初信じられなかったわ。

 

だってあのナナリーちゃんがよ?みんなの天使がよ?子供とはいえラウンズの男の子を押し倒して襲ったのよ?すぐに信じられるわけないでしょ?

 

まあ、私が思ってる以上にナナリーちゃんはいろんな意味で強かったってだけの話ね。

 

さってと、ナナリーちゃんはショッピングって言ってたわね、ここらへんのショッピングモールはひとつしかない、先回りしていましょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モールについてバーガーショップでしばらく時間を潰している、こうしていると変な男にナンパされるからあのバカップルに早く来て欲しいんだけど、別に約束したわけでもないし尾行しようとしてるから腹をたてるのはお門違いだけどさ。

 

それでも数分毎に1人の割合でナンパされるのはものすんごくうざったい、早く来なさいよバカップル!もしもモールに学校の人でもいてそれを知らないでナンパ男を適当にあしらってたとこ見られて変な噂立つの嫌なのよ!

 

はあ、こんなことになるんだったらゼロに相談しておけばよかった………。

 

あ、ナナリーちゃん発見!アールストレイムも側にいるわね。

 

ふーーん、見た感じ普通のデートよね、特におかしいことは………ちょっとまって、おかしいから、アールストレイムがあんな優しい笑顔見せるとかおかしいから!あ、でもナナリーちゃんだからそうでもないのかしら?

 

遠目で分かりづらいけど、いつもの私じゃなくて僕って言ってるわね、あれがナナリーちゃんの言ってた昔のアールストレイムの口調なのかしら。

 

傍目で見る限り、健全なデートよね…………だから余計信じられない、ナナリーちゃんが超肉食系だなんて考えもしないわ、かといってアールストレイムは無理やり襲ったりするようなやつじゃないっていうのは、ナナリーちゃんからほぼ毎日耳にタコができるほど聞かされてるし………。

 

もしかして………アールストレイムって、ヘタレ?

 

 

(あながち間違いじゃないゾイ by作者)

 

 

だとしたら納得がいくわね、いつまで経っても襲ってくれないからナナリーちゃんが逆に襲った………ありえるわ、きっとそうね。

 

考え事してたらもう買い物を終えていたみたいね、追いかけなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アールストレイム………あんた………」

 

ナナリーちゃんとアールストレイムが歩いてきて着いた場所はどこにでもある公園のベンチ、座って少し話したと思ったらナナリーちゃんの膝にアールストレイムが頭をのせて寝始めた。

 

いわゆる膝枕をナナリーちゃんはしている、ニコニコ笑顔でぐっすりと眠るアールストレイムの髪を梳くナナリーちゃん、うわぁ〜………幸せそうな顔ね。

 

にしても、あんなに髪を構われたら普通起きるもんだと思うんだけど、アールストレイムって鈍感なのかしら?…………あ、違うわね、あれはたぶん、ナナリーちゃんを信頼してるからなのかしらね。

 

外の公園のベンチで眠るなんて普通しないもの、アールストレイムはナナリーちゃんを信じているからあんなにぐっすりと熟睡できるのね。

 

………私もそのうち、ゼロに膝枕をしてもらいたい………いえ!するほうでもいいわ!まずはその信頼を勝ち取るのよカレン!ファイト!オーー!!

 




いつか番外編とかで思いっきりネタをぶち込んだのを作ってみたいけど、本編ですらほとんど進まないのに番外編とか無理でち……。


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『九州事変』

ツキトside

 

 

ゲットーのどこかにあるとまことしやかに囁かれ、学校の中でその場所を突き止めようと研究を続ける部が存在しているほどの今もっとも熱い人気スポット。

 

それが、黒の騎士団の本拠点だ、ここに来るのも久しぶりで道に迷いそうになった。

 

「準備はいいか?エリー」

 

「……うん、問題ないよ!早くいこうよ、ゼロが待ってる!」

 

エリーの格好をしてC.C.と一緒に拠点に入る、今日はゼロとその側近であるエリーとC.C.を混ぜての定例会議の日だ、今日は来る必要はなかったが、C.C.が来てくれとうるさいので来てやった。

 

すでに会議室にいるゼロの両脇の椅子に座り、会議が始まる。

 

「諸君、礼を言わせてもらう、集まってくれてありがとう」

 

ゼロの感謝の言葉にどうってことない、当然のことだと返す騎士団員達。

 

「では、まずは報告から頼む、ラクシャータ、KMFの解析の方はどうだ?」

 

「予想以上に厳重なプロテクト組んであったせいでフロートユニットしか解析できなかったわ、本当マジむかつくー」

 

「十分な成果だ、ブリタニアが新型KMFにフロートユニットのような空を飛ぶ装備を取り入れてきたということは、今後この装備がKMFの標準装備になるはずだ、フロートユニットの詳しい解析と開発を頼む」

 

「りょ〜かいよん」

 

「次に、エリー、ブリタニア内部の様子はどうだ?」

 

「枢木スザクは騎士団とブリタニアが手を組むことにまだ納得しきれていないようだけど、そっちはたぶんアールストレイムが抑えるから問題ないとして…………問題は盗んだKMFのほうかなー」

 

「なにかあったのか?」

 

「返品の日時を決められちゃってさ、5日以内に頼むって、それまでは解析でもなんでもしていいって言ってけどさ………」

 

「…………どういう考えなんだ?いったい何を考えている?」

 

「ゼロ、アールストレイム卿はどういう考えなのか、なにか検討はないか?」

 

藤堂が質問する、さすがの藤堂でも真意は読み切れないか。

 

真意、というほどでもないが、解析がまったく進んでいなかった時用の保険だ、最低限フロートユニットの原理程度でも解析してくれという意味でハッパをかけるつもりだったのだ。

 

「わからん、まったく考えが読めん、が………荒唐無稽だが、我々に技術提供をしてくれている、そうとしか考えられない」

 

ゼロにはすでに伝えてあるため、いい感じにお茶を濁してくれた。

 

「おそらくアールストレイムはそのつもりなんだろう、しかしあいつの場合、そういうことを公にするとマズイポジションにいるからな」

 

C.C.のフォローも入る。

 

「今や日本エリアの統括はほとんどアールストレイムによって行われているようなもんだしね」

 

「ちょっとエリー、それってどういう意味?」

 

「どういう意味もなにも、アールストレイムは総督のコーネリアや副総督のユーフェミアを差し置いて政治に深く干渉しているんだよ、日本エリアの統治権の全権はアールストレイムがすべて握っているようなものだね」

 

「アールストレイムはコーネリア総督とユーフェミア副総督の幼馴染で『お気に入り』だからな………盗んだ新型KMFも、コーネリアにねだったら貰えたものらしいし、発表した政策もユーフェミアをうまく言いくるめて原案とは違うものになっているそうだしな」

 

本当じゃないけど嘘じゃないから否定しずらい。

 

「なによそれ………結局コネしかないクズ男じゃない………ナナリーちゃんが可哀想だわ」

 

おい聞こえてるぞシュタットフェルト!

 

「ナナリー?それはいったい誰のことなんだカレン」

 

ゼロがシュタットフェルトに自分の妹を聞く………シュールだ。

 

「えっと………ナナリーは、その、通ってる学校の中等部にいる友達で………アールストレイムの、婚約者です」

 

バラしたな!?シュタットフェルトーーー!!!

 

「アールストレイム卿に婚約者…………いてもおかしくはないが、彼の年齢から考えると、婚約者の年齢が………」

 

「日本の学校で言うところの、中学生、に当たるな」

 

「………ふむ、エリー、そのナナリーという人物についての情報はないのかね?」

 

なるほど、ナナリーから私の情報を得ようということか、だがナナリーについて詳しく教えれるのはマズイ、ナナリーはいろんな意味で私にとって弱点になる。

 

「あるにはあるけど………詳しいことは教えられないよ、女の子の私生活とか見たらだけで処刑ものだからね」

 

「構わない、趣味でも好きなものでも、彼女がアールストレイム卿をどう思っているかとか、少しでも手がかりが欲しい」

 

「藤堂さんがそこまで言うなら、仕方ないね、それじゃあナナリーちゃんについてわかっている情報の一部を公開するよ」

 

「頼むぞ、エリー」

 

ゼロはそう言った、ゼロの目を見るとナナリーについてあまり詳しいことは喋るなと言っていた、ふっ、それくらいわかっている。

 

「まず、ナナリーちゃんはカレンと同じ学校の中等部にいるよ、部活はフェンシング部、カレンは知ってると思うけど、アールストレイムにも非公式試合で勝ってるんだよね」

 

チラリとゼロを見ると仮面の向こうでドヤ顔が幻視できた、いっそ清々しいほどのシスコンである。

 

「ほう、彼女は剣を謹んでいるのか」

 

「昔はフェンシングはしていなかったようだから、おそらくアールストレイムのブリタニア本国での活躍を聞いて自分もやってみたくなったのだろうな、ふふっ、かわいいもんじゃないか?なあ、藤堂?」

 

まったくその通りで反論のしようがない。

 

「うむ、自らの愛する者のために力を得ようと努力するその姿勢………彼女と添い遂げることができるアールストレイム卿は幸せ者だろう」

 

「このナナリーという少女の思いはかなり強いものだろう、アールストレイムのためならば命すら差し出すほどの執念にも似た信念を感じる………とても強かな女性なのだろう」

 

藤堂とゼロ、2人してナナリーをべた褒めしている、というかお前、なぜ聞いてもないのにそんなとこまでわかるんだお前は…………まあいい。

 

というかゼロ、いやルルーシュ、たとえ事実だとしてもそういうことは言うな、今後ナナリーとどう接すればいいか困るだろ!

 

「藤堂さんとゼロが言ったように、ナナリーちゃんはいろんな面で強かな女性だよ、たとえナナリーちゃんを人質にアールストレイムを脅しても効果は薄いかな、逆の場合は効果が高いけど」

 

私を人質にとれたらの話だが。

 

「そんな卑怯をする気はさらさらない、アールストレイム卿の騎士道精神を貶すことと同義だからな」

 

「私も同様の考えだ、それに、ブリタニアと協力関係にある今、一般人に犯罪行為をはたらくことは、アールストレイム以下騎士団という存在に味方する人々に対する裏切りに等しい」

 

「ではゼロ、今後はどのように動けばよろしいのですか?」

 

「…………ふむ、まずはラクシャータ、KMFの解析に全力を注げ!返済期日ギリギリまで粘るんだ!」

 

「りょーかい、会議が終わったらすぐにでも取り掛かるわ」

 

「次にカレン!親衛隊の皆にいつでも出撃できるようKMFの整備をしておけ!突発的な状況に対応できるよう、万全を期せ!」

 

「了解!」

 

「藤堂と四聖剣は引き続き団員と猟犬部隊の教育を頼む、彼らは今後の日本の未来を背負っていく者たちだ、しっかり頼むぞ!」

 

「「「「「御意!」」」」」

 

ゼロが全員に指示を出していく、この命令から察するに、ゼロは『待ち』を選んだようだ、今なにか行動を起こすのは得策ではないし、当然か。

 

「C.C.とエリーは例の件についての情報を集めてくれ!」

 

「「はーい(わかった)」」

 

「最後に、アールストレイムの婚約者についての情報は、この場だけの話に止めておいてくれ、広がれば厄介なことになる、なにか質問のある者は?………………では、解散!」

 

ゼロの号令で会議は終わった、ゼロが会議室を退室すると最初立ち上がったのはシュタットフェルトだった、整備室に通じる階段を降りていった。

 

次にラクシャータ、ゆっくりと立ち上がりシュタットフェルト同様に整備室の奥にある研究室に向かうため階段を降りていった。

 

藤堂は四聖剣の面々と意見を交換し合っている、おそらく今後のトレーニング内容を考えているのだろう。

 

「私たちも行くか」

 

「そだね」

 

C.C.と共に立ち上がって会議室をあとにする、向かった先は私とC.C.に与えられた共同部屋。

 

中に入りドアに鍵をかけるとソファに座ったC.C.が話しかけてきた。

 

「ところでツキト」

 

「どうした?」

 

ここでは私はエリーではなくツキトなのだ、いわばこの部屋は避難場所だ。

 

「先日のナナリーとのデート、朝帰りだったが、なにかあったのか?」

 

「…………恥ずかしい話だが、食事の後ナナリー様が行きたいところがあると言われてな」

 

「ほう、行きたいところって言うのがラブホテルだったわけだな?」

 

「察しがいいな、私もな、一応、拒んだんだが………無理だったんでな、泊まったんだよ」

 

「それで、いきなり押し倒されたんだな」

 

「あぁ、ベッドに縛り付けられて精力剤をがぶ飲みさせられながら朝まで絞られたよ……」

 

「ツキト……お前いい加減少しは学習したらどうだ?密室でナナリーと2人っきりになったらどうなるか、お前ならわかるだろうに」

 

「C.C.、私だっていろいろ対策をしてみてはいるんだ、だがな、幼少から染み付いた奴隷根性が抜けないんだよ」

 

「その結果、テクノブレイクを2回も味わったわけか、感想は?」

 

「死ぬ瞬間がもっとも気持ちいい………って何言わせるんだ」

 

今までなんども死にかけたが、あんなに精神的に辛い死に方は初めてだ。

 

「お前が勝手に言ったんだろう」

 

「まあ、そうだが……」

 

「いっそナナリーを眠らせるのはどうだ?」

 

「SO☆RE☆DA!!」

 

私自身の精神の安寧のため、さっそく睡眠薬を用意せねば!

 

「だが逆にナナリーに飲まされるかも………ってもういない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、短い休暇を終えて仕事のために総督府に例のバイクで来たが、何やら慌ただしいな。

 

中に入ると忙しなく走り回る将兵が大勢いた、スザクに聞くか、と思ったが向こうからはしってくr

 

「ツキト!大変なことになった!」

 

「どうした?何があった?」

 

「元日本政府の人が大量のKMFを連れて九州基地を占拠したんだ!」

 

「なんだと!?」

 

「今は元日本政府の人が基地から放送を流してる」

 

もうそんな時期か!?早すぎる!まだリフレインやサクラダイトの問題も解決していないというのに!

 

「これからが大事な時期だというのに、クソッタレのゴミカス共が………放送の内容は?」

 

「騎士団は腰抜けだとか、日本を真の意味で解放しようだとか、そんなことをずっと言ってるよ」

 

「馬鹿が、今我々がやっていることこそ、真の意味での解放への近道だとわからんのか!………それで、コーネリア様はなんと?」

 

「出撃の準備を進めてる、ツキトのKMFもランスロットと一緒に積み込み中だよ」

 

「わかった………ん?スザクも行くのか?」

 

「うん、ユフィからの命令だからね」

 

「本来騎士が離れることはできないのだが………主人であるユーフェミア様がそうおっしゃるならばいい………のか?」

 

まあ、そういうところって結構ガバガバだったりするし、気にしないでおこう。

 

「ではトレーラーに……」

 

「アールストレイム卿!」

 

「ん?なんだ?」

 

「報告します!ただいま黒の騎士団のゼロより通信がきました!」

 

「ゼロから………貸してくれ」

 

「ゼロ……こんな時にどういうつもりなんだ?」

 

通信兵からヘッドギアを貰い装着する、モニターにゼロが映し出された。

 

「ゼロか、何の用だ?」

 

『アールストレイム卿、私は九州基地を占拠している者達についての情報を持っている』

 

「なに!?」

 

「………聞こうか」

 

『九州基地を占拠した者達のKMFは中華連邦製のもの、さらに報告を続けている元日本政府の役人は中華連邦に亡命していた者だ、つまり、十中八九敵は中華連邦の軍で間違いはないだろう』

 

「中華連邦………なぜこの時期に来たか、ゼロ、君の考えを聞きたい」

 

『推測の域を出ないが、おそらく中華連邦はこの日本を足がかりにブリタニアへ宣戦布告する予定だったのだろう、日本解放をうたって騎士団と連携する体裁をとってな………だが我々騎士団は諸君らブリタニアと協力関係をとった、しかし計画の変更はきかなかったのか、あるいは協力関係にあることを知らなかったかは知らないが、こうして乗り込んできたのだろう』

 

「なるほど……その推測には私も納得がいく」

 

原作でも騎士団と手を組んで日本を中華連邦が抑えてやろうと思っていたが、騎士団は味方につかず、結局ブリタニア軍と騎士団の戦力でひねりつぶされたんだったか。

 

しかしルルーシュが情報を与えるだけ、とは考えられない、おそらく詳しい情報をネタに協力を申し出るはず。

 

『そこで提案なのだがアールストレイム卿、我々騎士団も討伐作戦に作戦させて欲しい』

 

きたか。

 

「………参加するかどうかは私の一存では決められん、だがひとつ聞きたいことがある、騎士団に戦えるだけの戦力はあるのか?」

 

『心配は無用だ、アールストレイム卿、貴公の部隊の教育係を務める藤堂と四聖剣、そして赤いKMFを貴公の指揮下に置く準備がある』

 

「藤堂さんと、赤いKMF………」

 

『さらに、騎士団の偵察隊から届いた生の情報の転送の用意も、ある』

 

生の情報、その魅力と破壊力は計り知れない………情報は生死を分ける、喉から手が出るほどに欲しい、だがコーネリアがどう動くか……。

 

「わかった、コーネリア様に伝える、返信はこの通信回路で良いか?」

 

『構わない、貴公の良い返事を待っている』

 

モニターからゼロが消える、沈黙する司令部室。

 

「ツキト………僕たちは、どうすれば……」

 

「わからん、だが、藤堂と四聖剣という戦力が加われば、損害はずっと少なくなる………スザク、今回は防衛戦だが、攻城戦の形をとっている、一筋縄ではいかんのだ、攻略を有利にするためには、生の情報が必要不可欠、だが、私に決定権はない、すべてはコーネリア様次第だ」

 

「ツキト………」

 

「スザク……いや、兵士諸君、私たちに出来るのは、コーネリア様の命令に従うことだけだ………輸送班は引き続き出撃の準備を進めてくれ、整備班はコーネリア様のKMFを重点的に整備しろ」

 

「「「「「ハッ!」」」」」

 

「スザクは………そうだな、特派に行ってロイドに極秘で伝えて欲しいことがある」

 

「極秘?でも口頭で極秘情報の伝達は危険じゃないかい?ここは文書か暗号で伝えた方が」

 

「いや、ちょっとしたことだ、ロイドに私のKMFを好きに弄っていいと言ってきてくれないか?それだけでいいんだ」

 

「?……………とりあえずわかったよ、好きに弄っていい、でいいんだよね?」

 

「あぁ、しっかり頼む、あとスザクは伝えたら一度戻ってきてくれ」

 

「わかった、行ってくるよ」

 

スザクが司令部室を出て行くのを確認してKMFの積み込みの進行状況を見る。

 

さっき私がスザクに伝達を頼んだ言葉だが、ロイドに私のKMFの魔改造の許可を出したのだ、ロイドはこういう突発的な状況で意味不明な装備をつけるような愚か者じゃないからな、おそらく九州基地占拠の件は知っているはず、今は一刻を争う時、面倒な書類申請なんかしている暇なんぞない、緊急時ということで口頭伝達で済ませることにした。

 

ロイドとしては兵器のテストができるわけだし、よい評価なら量産も視野に入ることだろう、WIN-WINというやつだ。

 

ばれたら私が始末書を書けばいいだけの話だ、問題はない。

 

「アールストレイム卿!KMF及び戦闘物資の積み込み、完了いたしました!」

 

「わかった、ところで………コーネリア様はいったいどこに?」

 

「コーネリア様なら、ユーフェミア様のお部屋にいらっしゃいます」

 

「ユーフェミア様お部屋に?…………そうか、ありがとう……」

 

これは入らないほうがいいか。

 

「誰かユーフェミア様のお部屋に通信回路を開けるか?」

 

「やってみます」

 

実に頼もしい通信兵だな……。

 

「繋がりました!」

 

「モニターに………いや、映さんでいい、サウンドオンリーで私だけに繋いでくれ」

 

「了解しました、アールストレイム卿のヘッドギアのナンバーを教えてください」

 

「………9番だ」

 

「了解………繋がります、音量に注意してください」

 

「わかった」

 

音量を最低まで回してから少しずつ音量を上げていく。

 

『………何度も言っているが、自分が出るならともかくとして、騎士から離れるなど……』

 

『なら私も出ます!』

 

『お前はKMFで戦えないだろう!足手まといになるからダメだ!』

 

『ならせめて移動拠点に!』

 

『そこにいてどうなる!?お前には部隊を指揮できる権限はないんだぞ!』

 

『ですが、祈ることはできます!戦場で戦うお姉様やツキトやスザク、兵士の皆さんの無事を、皆さんの近くで祈ることができます!!』

 

『祈るならここでもできる!わざわざ最前線に出て戦力を分散させることはできん!』

 

『ですが!』

 

『くどい!!相手は中華連邦なのだぞ!万が一にでもお前が捕まればブリタニアへの交渉材料として使われるんだぞ!』

 

『ですが……私は………』

 

「(姉妹喧嘩中に)失礼します、コーネリア様」

 

『っ……ツキトか』

 

「はい、戦闘物資の積み込み、及び出撃の準備が完了いたしました、いつでも出撃できます」

 

『わかった、そちらにもd『ツキト!!』

 

「ぎゃぁ!?」

 

み………耳が………。

 

『ツキト!私も一緒に連れて行ってください!』

 

『ええい!お前はここにいろ!』

 

『嫌です!ツキト!お願いです!!』

 

『この〜!……ツキトもなんとか言ってくれ!』

 

そういう喧嘩とかはそっちでやって欲しいんだが………。

 

………ここでユーフェミアを連れて行くように誘導できれば、スザクとランスロットの両方を戦力として投入できる、そのためには移動拠点の防御が硬くなければならない、頑丈さで言えばスザクのランスロットを超えるKMFはガウェインを除けば存在しない、ガウェインは返却されてはいるが、今はオーバーホール状態、今から組み立てている時間はない。

 

かといってスザクとランスロットを防衛に回すのは愚策、スザクの真骨頂は攻めの戦いにある、わざわざ能力を出せないように足枷をさせることなどできない、では私が防衛につくか。

 

だがそうなると騎士団の要求を呑んだ場合に藤堂と四聖剣を使えなくなってしまう、日本解放戦線にいた頃は常に防衛戦だったが、あいつらも本来は攻め向きの戦士たちだ、防衛に回らせるのはスザクとランスロット同様に愚策、愚の愚、愚の骨頂とも言える……。

 

ではいったいどうすればいいのか………ルルーシュ、そうだルルーシュだ!今回の戦いは防衛戦、日本エリア全体の問題だ、日本エリアの自警団的存在となった今の騎士団の首領であるゼロなら、防衛戦の最前線に立たないはずがない!私と猟犬部隊で移動拠点の防衛、攻撃はコーネリア率いる精鋭軍で正面を、ゼロ率いる騎士団は側背面の奇襲!簡単じゃないか!

 

…………問題は、コーネリアがゼロとの共闘を良しとするかだ、最悪コーネリアは私がなんとかできても、ブリタニア精鋭軍の説得は難しい、名誉と国家愛と向上心にあふれる精鋭軍に、元とはいえテロリストのために囮になれ、と言うのは難しいし、私が精鋭軍の一員なら絶対に首を縦には振らないだろう。

 

無理矢理にでも命令してもいいが、今後日本エリアをユーフェミアが納めていくことになった時に、クーデターが起きる可能性がある、即座の鎮圧は可能だが、シコリは残る。

 

…………ちょっと待ってくれ、藤堂、四聖剣、シュタットフェルト、スザク、私、コーネリア……このメンツを敵中のど真ん中に降下させればいいんじゃなのか?それでブリタニア精鋭軍と騎士団の部隊で包囲網を形成、我々は内部から喰いちぎる…………まさかの最善手か!?敵中に放り込むことが最善手かよ!!??

 

うわ、どんな作戦よりもうまくいきそうなビジョンが見える………。

 

………とにかく、コーネリアに騎士団の件を意見具申しよう、話はそれからだ。

 

「コーネリア様、実はユーフェミア様の乗られる移動拠点の防衛につきまして、ひとつ案がございます」

 

『だからヘッドギアを返せユーフェミア!』

 

『私だってツキトの声を感じていたいんです!離してください!』

 

「……………ハァ……」

 

なんかもう……真面目にやるの、ちかれた……。

 

「(アールストレイム卿が疲れておられるぞ)」

 

「(コーネリア様は何をしておられるのだ?)」

 

「(アールストレイム卿をここまで困らせられるとは………さすがコーネリア様だ)」

 

「(ため息を吐くアールストレイム卿hshs!!)」

 

「(prprしたい……したくない?)」

 

「(やっぱりショタっ子の上司を………最高やな!)」

 

「(こ、こ↑こ↓に、アールストレイム卿のため息顔の写真、あるんだけどさ………焼き増ししてかない?)」

 

「(いいっすね〜、じゃけん夜カメラ屋さん行きましょうね〜)」

 

「(おい待て、肝心なとこ洗い忘れてるゾ、見ろよ見ろよ)」っ照れ顔のアールストレイムの写真

 

「(やはり(アールストレイム卿の照れ顔は)ヤバイ!)」

 

「(あぁ^〜)」

 

『やった!掴み取ったぞ!ツキト!ツキト聞こえるか!?』

 

「……はい、聞こえております」

 

これはもうブチギレても許されるんじゃないかな?今すぐにでもラーメンを食いたい気分だ、脂でギットギトのやつを、常識的に見て食い物には見えないほど脂でギットギトになってて麺が見えないほどチャーシューが盛り付けられてるやつを食べたい。

 

というか今後ろから邪気を感じたんだが、気のせいか?

 

『それでさっきの、案があると言ったな?聞かせてくれ』

 

「わかりました、ですがまず最初にご報告を致します、先ほど騎士団より通信がございました」

 

『騎士団がか?九州の拠点占拠について無関係だとでも言っていたのか?』

 

「いえ、そんなわかりきったことではございません、もっと大きなことです」

 

『もっと大きなこと?』

 

「騎士団は敵の配置や兵員数などの情報提供、さらに藤堂や四聖剣、赤いKMFなどの戦力の提供と引き換えに、我々ブリタニア軍との共同戦線を望んでいるようです」

 

『………たしかにこれは大きいな、情報だけでも大きいが、まさか藤堂に四聖剣まで貸し与えるとは………騎士団の主戦力をこちらに回すとはどういう腹積もりなんだ……』

 

どういう腹積もり、か、たしかにそう思うだろう、ここはひとつ騎士団のフォローでもしておこう、双方ともに円滑にことを進めるために。

 

「おそらくですが、今回の中華連邦による九州拠点の占拠の影響が出ているようです」

 

『影響?たしかに中華連邦にみすみす拠点を取られたのは大きい損害だが、騎士団には無関係なのではないか?』

 

「そうですね、しかし民の感情は、主に日本人の感情というものは、そう簡単にもいかないようなのです」

 

『感情、か』

 

「はい、中華連邦は元日本政府の役人を利用し、ブリタニアからの日本解放をうたって攻撃、占領後は中華連邦が独立の手助けとでも言って支配するつもりなのでしょう」

 

『そこは私でも予測はできた、日本人たちが一刻も早い独立を望んでいることも、ユーフェミアの話で理解しているつもりだ、こうして政策にも反映している』

 

「ですが、人の感情というものは移ろいやすいもの、心が弱い者ほど楽な方向へと逃げていきます………コーネリア様、騎士団は現在我々ブリタニアと協力関係にあります、言い方を変えれば騎士団は我々ブリタニアの提案を受け入れ軍門に下ったとも見れます」

 

『それがどうかしたのか?』

 

「考えてもみてくださいコーネリア様、解放を願い戦ってきた騎士団が、突然それをやめブリタニアについたのです、解放を待ち望む日本人はさぞ失望したことでしょう、結局騎士団も日本解放戦線同様、腰抜けの集団だったのだと………そこに突如、元日本政府の役人が中華連邦という強大な後ろ盾を連れて日本解放のために現れた、日本人がどちらに味方するかはすでに明白です」

 

『なるほど、我々ブリタニアにとってみれば、攻め込んできた中華連邦は悪だが、一部過激な日本人にとってみれば正義、もしくは希望、そう見えるということか』

 

「その通りです、時間の経過とともにその感情は膨らんでいくでしょう、騎士団への不信はブリタニアの不信、ひいては今後この日本エリアを統括するユーフェミア様への不信に繋がりかねません………最悪の事態になれば、皇帝陛下から懲罰が課せられる可能性もありえます」

 

『むぅ………それは困るぞ』

 

「そこで私がいち政治家としての目線から提案いたします」

 

『聞こう』

 

「今後ブリタニアと騎士団の連携強化、協力関係のアピールのため、騎士団と共同戦線を結ぶことを提案いたします」

 

『やはりか、結ぶしかないか………』

 

「そしてもうひとつ、今度はいち兵士として提案いたします」

 

『ん?あぁ、聞かせてくれ』

 

「はい、今回の作戦はできるだけ早い決着、短期決戦が望ましいです、よって、私とスザクのKMFを高度限界から占領下の九州拠点のど真ん中に投下、直ちにブリタニア軍本隊による包囲戦を開始、私とスザクが内側から食い荒らします」

 

『そんな無茶させられるか!』

 

「ですからあくまで提案です、最終的な判断はコーネリア様にお願いします」

 

『………わかった、ひとまず出発する、会議は移動中に行う』

 

「イエスユアハイネス」

 

通信を切断して通信兵にヘッドギアを返す、マイクをとって総督府中に届くように設定しスイッチを入れる。

 

「全軍に通達!九州拠点奪還作戦に参加する者は、ただちに輸送トレーラーに乗員せよ!繰り返す!九州拠点奪還作戦に参加する者は、ただちに輸送トレーラーに乗員せよ!」

 

マイクのスイッチを切り、後任者に司令部室を任せて特派のトレーラーに向かう。

 

「ツキト、出動命令が出たんだね」

 

「そうだ、いよいよだ、しっかり気を引き締めろ」

 

「うん………それで、騎士団のほうは?」

 

「移動中に会議を開くそうだ、それまでこっちのトレーラーで待機しておく」

 

「わかった、それからツキトのKMFだけど、かなり改造されてるみたいだよ」

 

「なに?……それは楽しみだ」

 

特派のトレーラーに入ると、私のKMFが見えた、しかしその背中には羽織っていたマントは無く、代わりに見たことのないほど巨大な、本体の全高をゆうに超す大きさのフロートユニットが取り付けてあった。

 

「おいロイド」

 

「おー、ようこそツキト君、ところでこれどぉ?」

 

「ものすごくイカすデザインだな、見たところ従来のよりも出力が高そうなフロートユニットだが、どんな感じになっているんだ?」

 

「説明は私がしますね、アールストレイム卿」

 

「お願いねぇ」

 

「あぁ、頼む」

 

セシルがタブレット片手に近寄ってきた、ロイドはセシルに説明を任せるとなにか情報を打ち込み始めた、セシルはタブレットを操作し、ある画面を見せてきた。

 

「ロイドさんがアールストレイム卿の言葉通り好きにやってしまったので、かなりピーキーな性能になってしまいました」

 

「構わん、むしろその方がパイロットとして腕がなるというものだ」

 

「そうですか、では機体説明に移りますね、本機体はロイドさんがフロートユニットのテストから得た情報をもとに作り上げたスーパーフロートユニットの試作機を取り付けた機体となります、スーパーフロートユニットは従来のフロートユニットに比べ数10倍という大出力を誇りますが、重量がとても重く、また人間だと加速によるGに耐え切れないため解体される予定だったんですが………ロイドさん、なんでまだ残ってたんですか?」

 

「それはねぇ、ちょこっと書類の内容を変えてさぁ」

 

「立派な犯罪ですよそれ」

 

「気にするな、今回はそれが役に立つかもしれんしな」

 

大出力のフロートユニットとかものすごくワクワクするんだが、リアルでガン◯ムのトー◯ギスみたいな機体に乗れるとか感動ものなんだが、もしかしたらあのセリフを言えるかもしれん、楽しみだ。

 

「はぁ、アールストレイム卿がおっしゃるならいんですけど………あ、先にコンセプトを言うべきでしたね、コンセプトは大出力のフロートユニットを使い強力な装甲を持つKMFでの戦線の【単独強行突破】を目的としたものです、スーパーフロートユニットによって得られた浮力の分だけ元になったグロースターに増加装甲を施しましたので、装甲防御力についてはランスロット以上の性能を誇ります」

 

【単独強行突破】……ロマン溢れる素敵な言葉だ。

 

「ここまでは良かったんですが、ここからはロイドさんの趣味が出てまして……例えば、見ていただければお分かりになると思うのですが」

 

「盾、か」

 

「はい、盾です、左上腕部に脱着式の円盤型の超硬シールドを搭載、アサルトライフルの弾丸を2000発まで防ぐ性能があります、そして次に、こちらに横たわっている武装を紹介します」

 

そう言ってセシルが指さしたのはグロースターの前に置かれた大砲のようなもの。

 

「高速弾電磁射出砲、通称スパークライフルです、アサルトライフル等と同様の機構ですが、アサルトライフルと違い非常に高初速かつ大口径の弾丸を発射できます、これは廃棄される直前の拠点防衛用の沿岸砲にアサルトライフルの回路を簡略化して取り付けたもので、分類上はカートリッジ式のオートマッチライフルです」

 

「沿岸砲!?沿岸砲を使ったのか!?気は確かか!?」

 

「は、はい、ごめんなさい……でもロイドさんがいらないものだから使ってもいいだろうって………」

 

「………あとで私から文句を言っておく」

 

「助かります………続けますね、次はロイドさんがアールストレイム卿にと急造したブリタニア国旗付きのランスですが、性能は変わりありません」

 

「うむ、ここは後で褒めておこうか」

 

よくわかってるなロイド、いいセンスだ。

 

「最後にMVS、これも特に変更はありませんが、形状がやや細く長くなっているので気をつけてください」

 

「わかった、説明ありがとう」

 

予想以上にピーキーな仕上がりになったようだが、扱えないこともない、まあ死にながら覚えればいい。

 

これで、ようやく本当の意味での私の専用機となったわけだ、私以外誰も乗りこなせないという、本当の専用という意味でな。

 

これから急速に加速していくであろうKMFの進化に置いて行かれないか、それだけが心配だが、ありきたりな言い方を言わせてもらうならば、機体性能の差が戦力の差に直接影響することは、ほとんどないのだ、自慢できるほどの腕じゃないが、時代の流れの中で生き残って見せよう、このグロースターとな。

 

せっかくだ、グロースターじゃ味気ない、新しく名前をつけよう………………そうだな、今日からお前は……。

 

「グロースター・テンペスタ」

 

そのスーパーフロートユニットで、嵐が厄災と破壊をばら撒くが如く、あの大空を縦横無尽に、自由自在に、跳ね回ってやる。

 

「よろしく、と言っておこう、テンペスタ」

 




グロースター・テンペスタ

命名:ツキト・アールストレイム
分類:第五世代KMF
所属:神聖ブリタニア帝国
製造:神聖ブリタニア帝国
生産形態:急造品
全高:5.20m
全備重量:15.9t
推進機関:ランドスピナー、スーパーフロートユニット
武装:内蔵式対人機銃、MVS、対ナイトメア戦闘用大型ランス、スラッシュハーケン、アサルトライフル、スパークライフル
乗員人数:1人
搭乗者:ツキト・アールストレイム

機体説明:防衛線や包囲網などの【単独強行突破】をコンセプトとして急造された機体、通常型のグロースターにトップスピード使用時の死亡率100%を誇る脅威のフロートユニット【スーパーフロートユニット】を搭載、装甲防御力向上のために増加装甲を取り付けた、速さと硬さの両立を図った、ブリタニア史上最も狂った思想のもとで作られた機体。

ロイドは戦線を単独、単騎で無理矢理突破するために必要とされるとものは、何よりも速さと硬さだと思った。
敵の射撃を振り切れる速度、万が一被弾しても貫通しない装甲、相容れないもの同士の両立を図った、結果、形にはなったがシミュレーションではトップスピードに至る前にパイロットが気絶、トップスピードに入っても数秒後には死んでいる可能性が100%、スーパーフロートユニットの搭載と増加装甲により重量は倍になり、各所への負担が大きくなった、もはや気が狂ってるとしか言いようがないが、本来のスペックを活かせれば最強の機体となるだろう!
そう、トップスピードを出し続けられれば、この機体はまさしく最強なのだ。

この機体の特徴的な武装といえば、高速弾電磁射出砲、通称【スパークライフル】だ。
廃棄寸前の旧世代の自動装填装置付きの沿岸砲を改造した物、超高速で大口径の砲弾を6発連続で射出するカートリッジ方式のKMF用の武装として生まれ変わった。

【スパークライフル】という名前の由来はこの砲が廃棄される原因となった事故に起因する、この砲が沿岸砲だった時代、射撃練習をしていた兵士が射撃時に装填装置から噴き出した火花で失明、改良が加えられつつ使用を続けられたが結局事故は続き、数年前に取り外し作業が開始された。
時期を同じくして、日本エリアをブリタニアが占領し、海岸線の防御を固めるために本砲を本国より輸入していたのだが、いざ取り付けとなった時に本国で廃棄が決定、お蔵入りになった。


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『中華連邦』の『思惑』

亀☆更☆新


ツキトside

 

 

列をなして九州へ走るトレーラーの中のひとつに、コーネリア、ユーフェミア、スザク、ダールトン、ギルフォード、私の6人が集まった。

 

始まったのは会議、議題は騎士団と共同戦線を結ぶか、否か。

 

「共同戦線を結ぶことで藤堂と四聖剣、そして赤いKMF、騎士団の主戦力と呼ばれるもの全てをこちらに提供するとゼロは言っている、さらにリアルタイムで得た情報をこちらに提供する準備もあるそうだが…………ギルフォード、お前の考えを聞かせてくれ」

 

作戦の総指揮を取るコーネリアが議長としてギルフォードに聞く。

 

「ハッ………私は今回に限り共同戦線を結ぶべきだと考えます、今回のような拠点攻略戦のときに詳細な情報は高い価値があります、損害を減らすためにも、結ぶべきかと」

 

「ふむ………ダールトン将軍はどうだ?」

 

「私は結ぶのは避けるべきかと、戦いの前に兵の士気を下げるなど考えられません、士気が下がれば損害は確実に増えます、これはデータとして出ています、結ばずに我々ブリタニア軍のみで戦うべきかと、幸いにも、地理に詳しい精鋭部隊の戦線投入ができる状況です、ここは一気に攻めるべきかと」

 

「なるほど、士気と勢いは重要だ、私もそこは理解している、では枢木はどう思う?」

 

「はい、自分もダールトン将軍と同じです、共同戦線を結べばたしかに戦力は増えます、ですが、我々ブリタニア軍の命令通りに動くかどうかわかりません、共同戦線を結ぶのはまだ早いと思います」

 

「まだ早い、か、いずれかは結ぶ時がくるかも知れないと、枢木はそう思っているのか?」

 

「………はい、日本は中華連邦に近い位置にあります、地理的にいつ攻めてきてもおかしくはありません」

 

スザクのやつ、軍人として大きく成長したようだな、私は嬉しいぞ。

 

「ツキトの考えは?」

 

「………私は結ぶべきだと思います、戦力の増強は損害の軽減につながります、それに、一応ではありますが、作戦案も考えてあります」

 

「作戦?通信で言ってたやつか?」

 

「はい、騎士団と共同戦線を結べば、さっき申しました作戦もより効果が高まります」

 

「…………説明してくれ」

 

「ハッ」

 

立ち上がってホワイトボードの側に立つ。

 

「まず、九州拠点は海岸線沿いにあるため、正面と、左右の3方向から攻めることができます」

 

言いながらホワイトボードに大きな楕円とそれの下と左右に矢印を描きいれる。

 

「作戦は、まず突撃で撹乱させ、そこに上空から藤堂や四聖剣といった騎士団の戦力を投入、精鋭部隊は敵を包囲し退路を断ち、殲滅します」

 

「それでは突撃する兵の負担と損耗が大きすぎる」

 

「突撃するのは私なので問題はありません」

 

「問題しかないじゃないか!!」

 

「そうです!たった1人で突撃なんて無謀もいいところです!」

 

立ち上がって抗議するコーネリアとユーフェミア、予測済みだよそれは。

 

「特派のロイドに突撃に最適な装備に改造してあります」

 

「それでもダメだ、万が一があったらどうする!」

 

「そうだアールストレイム卿、万が一君を失えば君の配下の猟犬部隊は誰が指揮をするんだね」

 

ダールトンも抗議に参加してきた、猟犬部隊を突かれると弱いな………。

 

「心配はいりません、私の役目はあくまで撹乱と陽動、無理はしません」

 

「しかしだな……」

 

「コーネリア様、自分はツキトの作戦に賛成です、ツキト以上に撹乱と陽動に向いた兵は居ないと思います」

 

「…………少し、1人で考える時間をくれ」

 

コーネリアの退室で会議は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特派トレーラーに戻り、テンペスタの最終調整をロイドとともに行う。

 

「ロイド、右のフロートユニットの動きが鈍いようだ」

 

「え〜?………あっら〜本当だよぉ、セシル君、調整おねがーい」

 

「はい………左右のバランス調整を同数値に修正………できました!アールストレイム卿、どうですか?」

 

「……………うむ、違和感はないな」

 

このスーパーフロートユニットはコストと重量もそうだが、調整の難しさもあるのか、かれこれ一時間は調整しっぱなしだ。

 

「これで全部終了か、よし、もういいぞ2人とも、今度はスザクのランスロットの調整をしてくれ」

 

「はーい、行くよセシル君」

 

「今行きます」

 

「ランスロットが僕を呼んでるよぉ〜」

 

「楽しそうで何より………」

 

テンペスタから降りてポットから紅茶をカップに注ぐ、適当な椅子に座って休憩する。

 

出来ることはやった、あとはコーネリア次第だ、どう転ぶかは天の運次第だ。

 

「ツキト……」

 

「ん、スザクか、ランスロットの調整はもういいのか?」

 

「え、あぁうん、ランスロットはよくできたKMFだから調整はほとんど要らないんだ、整備は必要だけどね」

 

「そいつは楽でいいな、やはり第七世代は違うな」

 

「あの、ツキト……」

 

「うん?」

 

なにやら深刻な表情だな………。

 

「なにかあったか?相談ならのるが……」

 

「………僕は、さっきの会議で騎士団とは共同戦線を結ばないほうをとった、本当はツキトと同じ考えにすべきだったのに…………今の騎士団は前までとは違うんだって、自分自身に言い聞かせてる、けど、やっぱり前の騎士団がやってきたことに、まだけじめがつけられない………」

 

「スザク………」

 

日本には昨日の敵は今日の友という言葉があるが、そんなハッピーな考えを持った人間なんているものか、人間の心はどんな機械よりも複雑だ、スザクだってそうだ、簡単には受け入れなれないだろう。

 

「スザクの言うことは最もだ、騎士団は手のひらを返して我々に協力してくれているが、それが本心かはわからない、結局は信じることこそが本当に必要なんだ、だが互いに憎しみ合っていた仲がすぐに改善するほど、人間という生き物は簡単にはできていない………スザク、お前はお前の信じる道を進め」

 

「ツキト……僕は……」

 

「正誤も、善悪も、結局決めるのは人間だ、なら、私たちは自由の信じる正義の道を進み通すのみだ」

 

「………わかった、まずは何が正しいのか考えるところから始めてみるよ」

 

「あぁ、そうするといい、正しいと信じた道を進んで、例え間違ったとしても、後悔せずにすむのだから」

 

小刻みに揺れるトレーラーの中で、グロースターを眺める…………いざとなれば、こいつを………。

 

ピピピピピピピピ!

 

「通信か?」

 

『ブリタニア軍の兵士諸君、九州拠点奪還作戦に、藤堂鏡志郎と四聖剣が戦力として加わることとなった!』

 

「……結局結ぶのだな」

 

コーネリアのことだから結ばないものだと思っていたが………。

 

「まあ、これで戦力は増えた、正直言って力押しでも勝てそうではある、問題は………」

 

「指揮権が誰にあるか、だね」

 

「そうだ、藤堂たちの指揮権はコーネリア様なのかゼロなのか………おそらく総大将はコーネリア様になると思う」

 

「僕もそうだね、というかそうじゃないと命令に従わない兵が出そうだ」

 

「猟犬部隊はともかく、向上心あふれる新兵はそうだろうな」

 

そこら辺もどうにかできる策が用意してあるのだろうか、コーネリアは軍人としては優秀だが政治家としてはクロヴィスには劣る、だが芯の太さと兵からの信頼の厚さはブリタニアでも随一、その点においてはシュナイゼルを凌ぐ、激励と鼓舞、この2点においてはコーネリアがもっとも上手い。

 

たしかにシュナイゼルは優秀だ、ど鬼畜のど畜生ではあったが、原作ではクズレイパーの扇を策に嵌めてゼロを裏切らせたのだから、相手を騙すという点においては、あいつには勝てるものはいないだろうが、騙しの勝負で勝ったところで自慢もできん、ライアーゲームじゃあるまいし。

 

「まあ、騙しの勝負で負けたとしても、直接殺せば問題ないか」

 

「ん?何が問題ないんだい?」

 

「あぁいや…………ナナリー様のことでな、仕事が一段落したらデートに誘おうと思ってな」

 

危ない危ない、声に出てたか、聞かれたのがスザクでよかった、誤魔化すのが楽でいいし。

 

「ツキトからデートに誘うのかい?珍しいね、ナナリーと付き合うのに乗り気じゃなかったように見えたけど」

 

す、鋭いなスザクのやつ………。

 

「最初のうちはな、私がナナリー様と付き合うなんて恐れ多いと思っていたんだが………今では誰にも渡したくないと思うようになってしまったよ、今も作戦前だというのにナナリー様のことが気になってしまってしょうがない」

 

「ナナリーにゾッコン、ってやつかな」

 

「スザク、私はダメな人間だろうか…………前に私は、死ぬのは怖くないと言ったが、今となっては怖い、ナナリー様と会えなくなってしまうと思うと、操縦桿も握れない、手が震えてトリガーが引けなくなる、私は、とても臆病になってしまった…………」

 

実際に死ぬ寸前に手が震えることがある………ナナリーに怒られるのが怖いからだと思うが。

 

「そんなことないよ、ツキトは立派だ、ナナリーとルルーシュのために、こうして戦っている、それに、ツキトが動けなくなっても、僕がなんとかする」

 

「フッ……………最後の言葉、期待させてもらう」

 

スザクの男前なセリフを聞き、立ち上がると同時にトレーラーが停止した。

 

「おっと………到着か」

 

「そうみたいだ、行こうツキト」

 

「あぁ」

 

トレーラーを降りると放送で私とスザクに集合がかかった、集まった場所は名も知らない廃れたスタジアムのような場所、そのど真ん中にテーブルを設置し、私やスザク、コーネリアとその騎士ギルフォードやダールトン、椅子は8つ、我々ですでに5つ使っている。

 

ユーフェミアは留守番だ………何かの拍子にゼロを見てルルーシュと叫ばれたらたまらんからな。

 

コーネリアの表情は険しい、おそらくゼロがここへ呼んだのだろうが、いくら協力関係にある相手の呼びかけでもこんなスタジアムのど真ん中にある椅子に座って待っているなんて正気ではないだろう。

 

しばらく経って、ゼロが現れた。

 

「待たせてしまったようだな、申し訳ない」

 

「少し調整を手間取ってしまった、許してくれ」

 

続けて現れた藤堂は綺麗なお辞儀をした。

 

最後に現れたのはC.C.だった、私のほうを見てニヤリと笑う、とんだサプライズだなおい。

 

3人が席に着き、席は埋まった。

 

「ゼロも来たことだ、会議を始めよう」

 

「その前に、我々黒の騎士団の要求を呑んでくれたことに感謝の意を表明する」

 

「それは今回の作戦で示してくれ」

 

「それはつまり、我々も前線に出ても良いということでしょうか、コーネリア総督?」

 

「共同戦線なのだからな、長話は無用だ、ここはひとつ、互いの案を出し合って決めるのはどうだろうか?」

 

「構いません、ではまずそちらからお願いします」

 

「わかった、ツキト、トレーラーでの作戦の説明を頼む」

 

「ハッ!」

 

そうきたか、なら話は早いな。

 

ゼロはブリタニア側の案を先に出させ、それよりも優れる案を出して主導権を握る考えだな。

 

「まず、私とスザク、そして君たち騎士団の主力部隊を空路で敵中に送り込み、撹乱する」

 

「む………」

 

「その隙をついて、ブリタニア軍が基地を包囲しつつ殲滅、以上が簡単な説明だ………正直言って、我が軍のスザクと騎士団の四聖剣のみでも勝率はかなり高い、しかし藤堂、貴公が参加してくれるならより確実になるだろう」

 

「ふむ………」

 

「なるほど、内部から崩す、というわけか…………ではこちらの策を、と言いたいところだが、アールストレイム卿と同様の考えだ」

 

ん?そうきたか………。

 

「それなら話は早い、こちらで輸送機を用意しよう、そちらの参加する兵力を教えてくれ」

 

「参加するのは藤堂と四聖剣、そして赤いKMFと精鋭たち、そして私だ」

 

「…………聞き間違えだろうか、ゼロ、貴殿も参加すると聞こえたのだが」

 

沈黙を貫いてきたダールトンが質問した、藤堂を見るとやや驚いた表情だ、C.C.は相変わらずのしたり顔………そろそろうざったいぞお前。

 

「そうだ、今回の作戦、騎士団所属の者は私が最前線で指揮をとる」

 

「なに!?」

 

そういうことか、そういうことならこちらの兵の士気はそこまで下がらないだろう、だがゼロ、いやルルーシュ、お前が最前線にいってもKMFが持たないだr………まさか……!

 

「心配には及ばない………それに、上手くいけばきっと良い戦闘データがとれるはずだ」

 

やはりか!

 

「クフフ………ゼロ、なかなか面白いことを思いつくな、予想以上、いや完全に予想外だったよ、良い意味で」

 

「予想を良い意味で裏切れてよかったよ、アールストレイム卿」

 

その後の会議の結果、騎士団はゼロのKMF以外は輸送機での空中投下、私とスザクはカタパルトから射出することになった、時間差が数分生まれてしまうが、ゼロがあれを使うなら問題はないはずだ。

 

「さて、いよいよお前の初陣だぞ、テンペスタ」

 

「あれ?名前を付けたんですか?」

 

「ああ、グロースターの高機動改造機なんて味気ないからな、それに思い入れのある機体だ、名前くらい付けてやらんとな」

 

セシルの質問に答えつつ、コックピット内の計器を確認していく、よし、オールグリーン。

 

「異常なし」

 

「はい!ではカタパルトへ移動をお願いします」

 

カタパルトに脚部を固定する。

 

強烈な高揚感が胸を襲う、焦るなツキト・アールストレイム、お前ならテンペスタの速度にもついていける。

 

私は人類史上初めて、人間の誰も到達しえなかった速度の世界へ生きたまま突入するのだ、その時はもうすぐだ、だから焦るなよ、ツキト・アールストレイム。

 

「テンペスタ………私を導いてくれ………」

 

勝利は、我が手に。

 

『カタパルト射出5秒前!4、3、2、1…0!』

 

「発進!うぐっ!」

 

カタパルトで前方に向けて射出され、後方に向かって強烈なGがかかる、空中に投げ出されると同時に姿勢制御、出力を抑え巡航速度を保つ、数分後、どうようにカタパルトより射出されたランスロットが私のテンペスタの隣に並んだ。

 

「スザク、調子はどうだ?」

 

『問題ない、いけるよ』

 

「了解、巡航速度を維持」

 

ふと後方を見ると輸送機が数機見えた、あそこに藤堂たちが乗っているのか。

 

ふむ、フライングだが、ちょっとくらい摘んでも大丈夫だろう。

 

「こちらアールストレイム、戦闘データの取得のため高速機動を行う、特派は記録の準備を」

 

『は〜い、とっくにできてるよ〜』

 

『ツキト、テストの許可はするが、危険なことは控えろ、お前のその機体は今作戦にてもっとも重要なんだ』

 

「心得ております、コーネリア様」

 

『うむ、では無理しない範囲で好きにやるといい』

 

「わかりました………よし、ロイド、手始めに、出力を最大まで上げる」

 

『ちょっと待ってください!いきなり最大出力は危険です!』

 

セシルの制止を振り切り、スロットルを最大まで上げた。

 

瞬間、カタパルトから射出されたときとは比べ物にならないほどのGが身体を襲う、座席のシートベルトが身体中に食い込む、目が充血する、身体中の骨がきしんでいる。

 

「あ"あ"ああああぁぁぁっっ!!」

 

そして悟る、これは間違いなく人間の身体が圧壊して死ぬ前触れであると、このまま潰れて死ぬのだと悟った。

 

だが私は人間にして人間に非ず、コードの力で死んだ部位を高速修復!素晴らしいなぁ不死身のパワーは!!

 

操縦桿を細かく動かして最高速度を維持した状態で変則的な機動を試す、操縦桿を曲げた瞬間、力のかかる方向が変わり、肺や心臓が急激に圧迫される。

 

「死と隣……合わせとは…………とん……だ、じゃじゃ馬……だな!」

 

時間の経過とともにだんだんと痛みに慣れてきた、目の充血も収まり視界に曇りはない、身体中にかかる強烈なGにも慣れた。

 

ものにしたのだ、こいつの、テンペスタの機動性を!私は掌握したのだ!

 

敵などいない!私に勝てる敵など、この世にはいない!

 

そうだ!まさしくこのKMFは、最強の機体だ!!

 

「ロイド!こいつは素晴らしい性能だぞ!」

 

『ありがとう〜頑張った甲斐、あったね〜』

 

『のんきしてる場合ですかロイドさん!ツキトさん!早く出力を下げてください!このままだよ死んでしまいます!』

 

「私が?死ぬ?………フハハ、フハハハハハハハハ!!」

 

あるものか、そんなことぉ!

 

「ここで死ぬということは、所詮は私はその程度だったということにすぎん!私は克服したのだ!こいつの殺人的な加速に!!」

 

『しかし!その状態で変則機動は負荷が甚大です!やめてください!』

 

「ロイドォ!このスピードを維持したまま、武装のテストだぁ!!」

 

『はぁ〜い』

 

『ロイドさん!ツキトさん!………んもぅ!!!』

 

『いやツキト、単騎突入は………ダメだ聞いてない……』

 

テンペスタの右腕部で保持しているスパークライフルをスピードを維持したまま構える、だが目標がなければテストになら………いいや、ちょうどいい目標はある。

 

「弾種は徹甲弾、距離3000、目標…………九州拠点のヘリポート!」

 

『なにっ!?おいツキト!戻ってこい!そのままだと集中砲火を浴びるぞ!』

 

コーネリアの言葉を無視して九州拠点上空に侵入する、下にいる無数の中華連邦のKMFから対空射撃を受けるが、変則的な機動を繰り返し、被弾はない。

 

『おい!聞こえて………まさか通信機の故障か?』

 

ヘリポートに着陸しているヘリにロックオン、セミオートで全弾を発射する、3発ほど逸れて当たらずにヘリの側を通過した弾丸が見えた。

 

「最高速度での射撃のためか、精度が悪化しているな」

 

『みたいだね〜、あとで調整しとくよぉ』

 

「いや、この程度のズレは手動で治せるからいい、問題は最高速度の状態でのMVSを振ることができるか………」カチャカチャ

 

『よくないですよ!というかなんでさっきから普通に話しているんですか!?最高速度なら喋るのも苦痛なはずなのに!』

 

「なれた」

 

『ツキトお前本当に人間か!?』

 

「純正ブリタニア人です」

 

割り込んできたコーネリアに言葉を返しつつ、カートリッジを再装填、弾種は散弾、装填が完了次第、低空飛行に切り替え、中華連邦のKMFの間を縫うように飛び回り、散弾をばら撒いていく。

 

KMFをほぼ一掃する一度上空に上がり出力を下げて滞空する、対空機銃も沈めたことだ、これで一息つける。

 

『ツキト………見た所相当の戦果をあげているようだが……無茶をしすぎだ!特派からのデータを見たがなんだその機体は!?最高速度に達して数秒も立たないうちに100%死ぬとはどういうことだ!!』

 

「コ、コーネリア様、黙っていたことについては謝罪いたします、ですがそうでもしないと出撃をさせてくれないと思いまして………」

 

コーネリアの通信に応えつつ、拠点内部からゴキブリのごとく出てくる中華連邦のKMFの映像を輸送機と移動拠点に向かって送信する。

 

『だいたい………ん?これはなんだ?中華連邦のKMFの映像か?』

 

「現在敵拠点上空からの映像をそちらと輸送機にリアルタイムで送信しています、輸送機のタイミング、および包囲部隊の攻撃のタイミングの調整に使えないかと」

 

『おお、助かるぞツキト、敵の配置が丸見えだな……む、ヘリポートに誰かいるぞ』

 

本当だ、あれは澤崎………であってるよな?そんな感じの元日本政府の役人だったか、今回の事件の主犯か。

 

「………こちらでも確認しました、おそらく元日本政府の政治家の澤崎かと思われます」

 

『あいつがか………やつを捕獲はできるか?ついでに中華連邦のやつも数人いると助かる』

 

「お任せください」

 

原作では割とすぐに退場したやつだったが、取引の材料には使えるくらいの価値はあるだろう、中華連邦の役人は材料としての価値はそこそこと言ったところか。

 

まあこの機体での捕獲は難しいが………ヘリに乗り込んだところを鷲掴みにすればいいか。

 

ヘリに元日本政府の役人と中華連邦のやつらで合計7人が乗り込んだところを見計らい、飛び上ろうとするヘリの羽根をバッタの細長い後ろ脚を引きちぎるようにして引っ張る、これでもう飛べまい。

 

ヘリの本体を鷲掴みにして空中に退避すると、さっきまでうるさかった対空射撃が止む。

 

『何をする!は、話せえ!』

 

今度はこっちがうるさいな、通信を遮断と。

 

「コーネリア様、澤崎と中華連邦の役人らしき人物を数名確保いたしました」

 

『ごくろう、帰投してくれ、今から入れ替わりで枢木と騎士団のやつらを空中から投下、包囲部隊にも攻撃命令を出す』

 

「イエスユアハイネス、アールストレイム、これより帰投します」

 

巡航速度で移動拠点に向かう、すれ違う時にランスロットにサムズアップ、ランスロットも私にサムズアップを返した、ふっ、かっこいいぞスザク。

 

コーネリアのいる移動拠点の近くに着陸、ヘリをそっと置く、すぐにヘリの周りをサザーランドが包囲した、部隊章を見ると猟犬部隊のようだ、対応が早くて満足だ、さすがは多才な藤堂、教師にも向いているようだ。

 

連行されていく様子を見ていると通信が入る、スザクからだ。

 

『ツキト、こっちはもう終わりそうだよ』

 

「早いな………藤堂たちとゼロはどうだ?」

 

『藤堂さんと四聖剣の人達はひとつのグループで行動して敵を撃破してる、ゼロはツキトが前に使ってたKMFでハドロン砲を撃ってみたいだけど、あれって1人じゃ無理だったような………』

 

「あぁ、そのことだが、どうやらゼロの側近、えーっと………緑色の髪の女が一緒に乗っているようだ」

 

『スタジアムに来てたあの人がか………わかった、総督からの指示とかはない?』キュゥンッ……

 

「特にないが、派手にやってくれ、極秘裏に戦闘を録画してるからそれを宣伝に使いたい」

 

『騎士団との協力関係のアピールかい?』ビッシュゥンッッ!

 

「それもあるが、スザクの戦闘能力の高さを示すためが大半だ、ユーフェミア様の騎士になったスザクを、どうにかそて排除しようと動いている虫がいるようだからな」

 

『そうなのかい?知らなかったよ………』キュィィィイイイン!

 

「まあ、気楽にやってくれ、ランスロットの性能は高いが、最大限引き出せるのはお前だけだ、存分に、好きなだけ、暴れてくれ」

 

『了解だよ、ツキトはこのあとどうするの?』ズドォーン!

 

「コーネリア様の指示待ち、もしくは澤崎の尋問かだな」

 

尋問は得意じゃないから願い下げだ。

 

『わかった、それじゃあ通信を切るよ』ズゴォン!

 

「ああ、作戦の成功を祈る」

 

スザクとの通信を切る、通信中に何やら鉄か何かがひしゃげる音とかヴァリスを撃つ音が聞こえたな、わざわざ暴れろと言わずともあの調子なら好き勝手やりそうだな。

 

おっと、そういえば。

 

「ロイド、ロイド、いるか?」

 

『はぁーい、いますよー』

 

「エナジーフィラーの補給を頼む、再出撃の可能性があるからな」

 

『はぁ〜い………あ、そうそう、できれば次の出撃の時はMVSを使ってくれないい?』

 

「善処しよう」

 

まだ敵は全て殲滅し終えたわけではない、いかんいかん、油断するなど………スザクがいる時点で勝ったようなものだが、まだ安心はできん。

 

原作との剥離が大きいからな、深読みのしすぎかもしれんが、中華連邦の最高傑作KMF、シェンフーがかなり早期に完成しているかもしれない。

 

飛躍のし過ぎだといいが、ありえない話ではないのだ。

 

ゼロとC.C.の搭乗するガウェイン、そのハドロン砲から発せられる妖しい輝きを見ながら、補給が完了するのを待つ。

 

返却期限が明日だからって、いくらなんでも撃ちすぎだぞ、確かにガウェインに乗っていると無双ゲーやってる気分になるのもわかるが…………オーバーヒートしたら修理が間に合わんぞ。

 

呆れてものも言えなくなったところで、次回に続く。

 



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【番外編】アッシュフォード学園生徒会女子の会

注意!
この話は番外編です、本作とは錆びだらけのノコギリの斬れ味くらいの関連性しかありません。
またキャラ崩壊と暴走が目立ちます。
自分には合わないなと思った人は、今すぐパソコン、またはケータイの電源を落とし、海に投げ捨ててください。



アッシュフォード学園生徒会女子の会!

 

 

ミレイ「さーて!それじゃあアッシュフォード学園生徒会の女子メンバーのみの女子会!始めていくわよ!かんぱーい!」

 

ミレイ・アッシュフォード。

明るく元気なお姉さん的な生徒会長、人を弄るのが好き、でもちゃんと考えがあって弄るタイミングは弁えている。

ルルーシュに淡い恋心を抱いている。

 

シャーリー「かんぱーい!」

 

シャーリー・フェネット。

今回の女子会にはミレイの誘いがあって参加した。

明るい性格ではあるが、大好きなルルーシュの前だと意識して引いてしまう。

気軽にボディタッチができるミレイや、ルルーシュのそばにいることができるナナリーを羨ましく思っている。

 

ナナリー「乾杯です!」

 

ナナリー・ランペルージ、それは仮の名前、本名は神聖ブリタニア帝国皇帝陛下の実の子、ナナリー・ヴィ・ブリタニア。

宮廷住まいの時からツキトのことを意識しており、最近やっと結ばれ青春を謳歌しちゃってる乙女。

幼少時はマリアンヌ、現在はツキトによる剣の稽古、咲世子直伝の読心術や催眠術、料理洗濯等の家事全般など、ツキトに迫る才能の持ち主。

中学生にして一夜のうちに性のABCを全てやってのけた、逆レイプで。

何かしら交際の助言がもらえるかもしれないと女子会に参加した。

 

ニーナ「か、かんぱい」

 

ニーナ・アインシュタイン。

生徒会メンバーの中ではもっとも科学方面の知識に優れる。

日本解放戦線によるビル占拠の時のルルーシュの冷静な行動や、政策発表式典のときのユーフェミアの凛々しい姿に惹かれている。

ミレイに息抜きをしろと言われて女子会に参加した。

オ◯ニーナ。

 

カレン「かんぱーい……」

 

カレン・シュタットフェルト、本名は紅月カレン。

ブリタニア人と日本人のハーフ、黒の騎士団のゼロや幹部メンバー、ツキト以外はそのことを知らない。

黒の騎士団の幹部にしてゼロの精鋭親衛隊を率いる隊長。

扇や玉城がいないおかげか原作よりもゼロとの接触が多く、ゼロへの感情が尊敬から恋心に変わり始めている。

藤堂や四聖剣による指導で原作以上にパワーアップ、紅蓮弐式の反応速度を向上させることで対処させている、だが時間の問題かもしれない。

 

シャーリー「いやーいきなり女子会を開くなんて言うからびっくりしましたけど、結構いい雰囲気のお店なんですね」

 

ミレイ「でしょ!?このお店は学園から近いし飲み放題もお手頃の価格なのよ」

 

ナナリー「私、女子会なんて初めてです!」

 

シャーリー「ナナちゃんは女子会とかやらなかったの?」

 

ナナリー「集まってお菓子を食べたりはしました、けど女の子だけの集まりは今回が初めてです」

 

カレン「へー、ナナちゃんって友達多いの?」

 

ナナリー「友達ですか?フェンシング部の人たちやクラスの人はみんな友達ですよ」

 

ニーナ「さすがの天使、いや大天使」

 

ミレイ「むしろ女神ね」

 

シャーリー「ナナちゃんは友達たくさんでいいなー、そだ、さっき言ってた集まりってどんなやつ?」

 

ナナリー「フェンシング部の部員の人と大会のあとファミレスで御飯を食べたりしたんですよ」

 

カレン「フェンシング部だけなら女子しかいないんじゃないの?」

 

ナナリー「あ、そのときはツキトさんがいたので女の子だけじゃないですね」

 

ニーナ「え?な、なんでアールストレイムさんが………」

 

ナナリー「私が呼んだんです、一緒に食べたいですって呼んだら来てくれたんですよ」

 

ミレイ「ナナちゃんのこと好きすぎでしょツキト君……」

 

シャーリー「あーナナちゃんが羨ましい!こーんなに大事にしてくれる男の子がいるんだもの!世の中不公平だ〜!」

 

カレン「大事にしてくれるだけじゃなくて、地位もお金も家柄もトップクラス、恋愛ゲームのヒロインかっての」

 

ミレイ「カレンって恋愛ゲームとかやるの?」

 

カレン「え、まあ、友達から借りてちょっとくらいは」

 

シャーリー「私も少しやりますね、でもゲームの知識はリアルでは役に立たないんですよねー……」

 

ニーナ「そもそも選択が2択に絞られてる時点で主人公の頭はかなり極端だと思う………」

 

ミレイ「ニーナもやってるのね、私もなにかやってみようかしら?シャーリー、なにかオススメあるかしら?」

 

シャーリー「オススメですか?ん〜〜………そうですねぇ、私は『ラウンズと恋しよ!』でしょうか」

 

カレン「え?シャーリーあれやるの?」

 

シャーリー「うん、ヒロイン……えっと会長、攻略対象は男性ですよね?」

 

ミレイ「その言い方だと女の子も攻略できるの?」

 

シャーリー「そうですよ、私のオススメの攻略対象は1と3ですね、1のほうはやっぱり老練の騎士と言った感じでかっこいいんです!3も今風の男の人でいいですよ!」

 

カレン「1は私もわかるかな、でも3は正直にビミョーね」

 

ニーナ「私は6一択です」

 

シャーリー「6って、女の子だけど………」

 

ニーナ「そ、そのほうが面白いっていうか、だいたいラウンズは男の人が少ないっていうか」

 

カレン「10がいるじゃない」

 

シャーリー、ニーナ「あれは論外」

 

カレン「だよねー」

 

ナナリー「(みなさん楽しそうです)」

 

ミレイ「シャーリーの好みは1と3、ニーナは6なのね、6ってどんな感じなの?」

 

ニーナ「低身長で兄想いの優しくて写真を撮るのが趣味の女の子、ちょっと天然も入ってるかも」

 

ミレイ「へー、さっき言ってた10は?」

 

カレン「会長、10は絶対にやめたほうがいいです」

 

シャーリー「あれはダメです、もう攻略しようとして損しました」

 

ミレイ「そ、そんなになの?」

 

ニーナ「性格最悪、攻略難易度は高いくせにクリア後の特典無しのゴミキャラ、さっさと消せばいい」

 

ミレイ「うっわ辛辣ね………」

 

カレン「あーでも、今度出る『ラウンズと恋しよ!セカンド』では攻略対象じゃなくてストーリー中のモブキャラと同じ扱いになるっぽいわよ?」

 

シャーリー「そうなの!?よやくしとかないと!」

 

ニーナ「(予約しといてよかった……)」

 

ナナリー「カレンさんもシャーリーさんも、ゲームに詳しいんですね」

 

カレン「まま、まままままあね!話題になるしね!やってて損はないし!?」

 

シャーリー「あはははは………あっ!?」

 

ミレイ「ど、どうしたのシャーリー?」

 

シャーリー「見て見て!セカンドに13が出るかもだって!!」グイッ

 

ナナリー「13………ツキトさんがですか!?」ガタッ

 

カレン「………マジっぽいわ、ほらこれ開発画面、この端っこに写ってるのってアールストレイムよね?」

 

ミレイ「ちょっとちょっと!え?まさかこのゲームって実在してるラウンズをモデルにしてるの!?」

 

ニーナ「そう、昔はトラブルがあったけど、ただモデルにしてるだけだから問題ないみたい」

 

ナナリー「ツキトさんが攻略できる………つまり、ツキトさんをもう一度攻略できるわけですね!」

 

シャーリー「ナナちゃん!それすごい!天才だよ!!」

 

ミレイ「………それでいいのかしら?」

 

カレン「『規格外ラウンズ参戦!ボリューム満点!満足間違い無し!』………どうやら13のボイスCDがもう出てるみたいよ」

 

シャーリー「13のボイスCDかー、本人じゃないだろうしなー………」

 

ナナリー「とりあえず視聴してみますね…………」イヤホン装着

 

ミレイ「ボイスCDって?」

 

ニーナ「声優さんの声が録音してあるCD、耳かきとか添い寝とかしてくれる」

 

シャーリー「基本的には声真似の声優さんなんですけど、3や6は本物のラウンズが声をあててるって噂があって、一番人気は6の『お兄ちゃんと添い寝』シリーズです」

 

カレン「兄に対する想いが声を通して伝わってくるのよね、すごい泣けちゃうのよね、とくに第3部」

 

シャーリー「わかるわかる!怪我で入院したお兄ちゃんのベッドで添い寝するんでしたよね!あの気の沈んだ声と泣きそうな声がグッとくるんですよね」

 

ニーナ「私は断然第5部、数年ぶりに帰ってきた兄との添い寝、お互いいろいろ成長してるから気まずい空気が流れるとこがリアルで好き」

 

ミレイ「すごいのね……私も聴いてみようかしら」

 

ナナリー「………やっぱり、この声はツキトさんです!」

 

カレン、ニーナ、シャーリー「うそ!?」

 

ナナリー「間違いないです!このサンプルの題名………『愚痴を聞いてくれないか?』で言っている内容が、この前クラブハウスでツキトさんがボヤいてた内容とそっくりなんです!」

 

カレン「それなら間違いなさそうね」

 

シャーリー「でもどうしよう、とりあえず製品版が出るまでは買わないほうがいいかな?」

 

ニーナ「ハズレの可能性もあるから………10のボイスCDとか」

 

カレン、シャーリー「あーなっとく」

 

ナナリー「ツキトさんの声は毎日聞けますから、こんなものはいらないですね」

 

ミレイ「お?お〜?ナナちゃん惚気るね〜、ね、ね、今どんな感じなの?」

 

シャーリー「あ!私も気になる!アールストレイムさんとうまくいってる?」

 

ナナリー「最近はお仕事も多いようで、なかなか帰ってこれない日が多いんです、お仕事というのも大変な仕事がほとんどで、下手をすれば死んでしまうかもしれないんです………」

 

カレン「でもそれって命も張ってまでこの日本エリアを良くしたいってことでしょ?だから日本エリア内の支持率もダントツだし」

 

ナナリー「たしかにそうです、でもだからって戦場での一番槍を、たった1人突っ込むなんて無謀な真似はしてほしくないんです」

 

ミレイ「ナナちゃんの言うことは良くわかるわ、でも、彼がラウンズだから仕方ないことなのかもしれないわ」

 

シャーリー「ラウンズだから仕方ないって………たしかにナイトオブラウンズの称号は最強の騎士団を表すものだって聞きましたけど」

 

カレン「シャーリーのいうことは間違ってないわ、ラウンズはたった1人で千を超す軍勢にも勝てる単体最強の戦力、だから誰からも期待されちゃうのよ(ゼロが言うには私は黒の騎士団で藤堂さんに次ぐ実力があるって言われてる、周りからのプレッシャーとかは理解できるわ)」

 

ナナリー「期待、ですか?」

 

カレン「そ、ほら、テスト前になると頭の良い人に勉強を教えてもらってる人とかいるでしょ?そんな感じ、この日本エリアで(藤堂さんを抜かせば)最も強い人だから、頼られるのも無理ないのよ」

 

ナナリー「たしかに、私とお兄様もツキトさんを頼ってしまいますね」

 

ニーナ「わかるよナナちゃん、私も、アールストレイムさんに頼っちゃうから………」

 

ミレイ「え?ニーナってなにか頼ったことあった?」

 

ニーナ「うん、私が自分で書いた理論を読んで理解できる人を探してくれたの」

 

ミレイ「理論って、えーっと………なんか、爆発とか膨張とかのやつだっけ?」

 

ニーナ「そうだよ、これがその人の名刺」スッ

 

ミレイ「どれどれ………ブリタニア軍の科学者兼技術者………何して人なの?」

 

ニーナ「アールストレイムさんの話だと、特派っていうところでKMFの開発と改造と実験をやってる人で、ブリタニア軍における最高級の頭脳の持ち主なんだって」

 

ナナリー「それと、ツキトさんとスザクさんのKMFの整備もやってるところなんですよね」

 

シャーリー「ふわぁ〜〜……すごいんですねその人」

 

カレン「あ、その人って政策発表の式典にいた眼鏡の人じゃない?」

 

ニーナ「写真ももらってるよ、はい、これがその人の写真」ペラッ

 

ミレイ「へーこの人なんだ、ロイド・アスプルンドさん、たしかに頭良さそうね」

 

カレン「頭良いだけじゃないみたい、ほら、この名刺のここ、伯爵だって」

 

シャーリー「はははは伯爵ぅ!?そ、そんな貴族の人と知り合いなのアールストレイムさんって!」

 

ミレイ「ちょっと待って、整理しましょう、ツキト君の交友関係とか整理してみましょ」

 

ナナリー「えっと………皇族のコーネリアさんとユーフェミアさんと幼馴染で……」

 

カレン「特殊だけどラウンズで……」

 

ニーナ「伯爵公の科学者とは職場の知り合いで」

 

シャーリー「自分自身も貴族の名門、アールストレイム家の出身……」

 

ミレイ「それから、スザク君は枢木総理の子供だから……」

 

カレン「改めて考えるととんでもないやつ………人ね」

 

ニーナ「そんなすごい人と同じ学校なんて……それにルルーシュとナナリーちゃんは一緒に住んでいるんだよね?」

 

ナナリー「そうですね、一緒にクラブハウスで住んでます」

 

シャーリー「なんでわざわざクラブハウスでナナちゃんとルルと住むのかな?アールストレイムさん、お金持ちだからどこでも住めそうなのに」

 

ミレイ「ナナちゃんにゾッコンだからに決まってるじゃない!」

 

カレン「何かあっても他のことそっちのけでナナちゃんのほうに行きそうよね」

 

シャーリー「なるほど〜、そっかーナナちゃんが大好きだからなんだ」

 

ナナリー「えへへ………ところでシャーリーさんはお兄様とどんな感じなんですか?」

 

シャーリー「えぇ!?べ、別に!」

 

ミレイ「え〜〜?言ってみなさいよシャーリー、ほらほら〜」

 

カレン「あ、ジュース注いでくるけど何が良い?」

 

ニーナ「じゃあ私は紅茶」

 

ナナリー「私も紅茶を」

 

ミレイ「コーラでよろしくー」

 

シャーリー「あ、メロンソーダお願い」

 

カレン「ん、じゃあとってくるね」スタスタ

 

ミレイ「そーいえばさ、カレンの好きな人って誰かしら?みんな知らない?」

 

ナナリー「私はたぶん、スザクさんじゃないかと」

 

シャーリー「なんか目で追ってるときあるしね」

 

ミレイ「お、ルルーシュを目で追ってるシャーリーはわかるのね」

 

シャーリー「お、追ってなんかないです!!」

 

ナナリー「シャーリーさんなら、お兄様はきっと受け入れてくれると思いますよ」

 

シャーリー「ホント!?………あ、いや、そのいまのは……」

 

ミレイ「ナナちゃん、私はどう?ルルーシュはオーケーくれると思う?」

 

ナナリー「正面から向き合ってお互いに理解すれば、きっとミレイさんでも受け入れてくれますよ」

 

シャーリー「えぇ〜……結局ルルは誰でもいいのかしら……」

 

カレン「はい、ジュース持ってきたわよ」

 

ナナリー「ありがとうございます………あ、カレンさん」

 

カレン「ん、なに?」

 

ナナリー「カレンさんは気になっている人とか、いますか?」

 

ミレイ「ナナちゃん直球で行った!」

 

カレン「気になってる人?………うーん、いるにはいるんだけど、名前知らないのよ」

 

シャーリー「学校外の人ってことなの?」

 

ニーナ「別の学校の人?」

 

カレン「う〜〜ん、いつも仮面被ってる人だから年はわからないんだけど、たぶん若い方だと思う」

 

ナナリー「仮面?」

 

ミレイ「仮面を被る………あ、劇団の人とか?」

 

カレン「そうじゃなくて、物理的に仮面を被ってるのよ」

 

ナナリー「顔に怪我でもしているのですか?」

 

カレン「(そういえばゼロの仮面って何のためかしら?姿を隠して狙われにくくするため?)……たぶんそうだと思うわ」

 

ミレイ「性格とかは?」

 

カレン「性格は……(ゼロ「フハハハハハ!!」)………いい方かしらね」

 

シャーリー「どんな人なの?」

 

カレン「どんな人、そうね………公平公正な判断基準を持ってて、仕事をきちんとこなせる人、出来る人はちゃんと評価して褒めたりして、出来ない人にはアドバイスをして励ましたりしてる………あと、話が上手ね」

 

ナナリー「仕事の上司に欲しい人ですね」

 

ミレイ「うーーん、上司に欲しいくらいの常識的で話ができる仮面を被った社会人?がカレンの気になる人?」

 

カレン「改めて聞くとおかしいですけど、まあそうですね」

 

シャーリー「良い人なの?」

 

カレン「仕事には厳しい人ね、私も手伝ったりしたんだけど、とても厳しい人だったわ、でもきちんと結果を出せば評価してくれるから楽しかったわね」

 

ミレイ「早く帰る日はその人のところに通い妻してたからなのね」

 

カレン「………それが、実はその人に、その、側っk………秘書がいるんです、女、しかも2人も」

 

シャーリー「2人も秘書……」

 

ミレイ「(はは〜ん?つまりその2人が邪魔で近づけないわけだ)秘書の人はどんな感じなの?」

 

カレン「1人は、なんていうかとにかくミステリアスな雰囲気の美人系の人で、もう1人は………可愛い系、っていうんですか?子供っぽいやつです」

 

ミレイ「ミステリアス美人に可愛い系………その人って特殊な性癖を持ってたりしない?」

 

カレン「…………わかりません、そういう話はしないので」

 

シャーリー「その人が秘書の人に気があるようには見えた?」

 

カレン「ミステリアス美人にはそうでもないけど、子供っぽいほうには、信頼っていうのかな、そんな感じだった、呼ぶときも気安くファーストネームで呼んでたし」

 

ニーナ「(【まさかの】カレン・シュタットフェルトの想い人、ロリコン疑惑【悲報】)」

 

ナナリー「まぁ、様々な人から好かれるなんて、とても人望の厚い方なんですね」

 

カレン「そうね、本当にそう思うわ(ハーフである私も差別せずにいてくれる、仮面をかぶってはいるけど、ブリタニア人、それも差別意識とプライドが高いと言われてるラウンズとも対等に話せる………まあ、アールストレイムが変わり者なのかもしれないけれど………ただそれを抜きにしても、ゼロはやっぱり素晴らしい人だわ)」

 

ナナリー「あ、メールです」ピッピッピ

 

ミレイ「だれだれ?愛しのツキト君から??」

 

ナナリー「い、愛しの///………あ、はい、ツキトさんからです!」ぱぁっ

 

ニーナ「(守りたい、この笑顔)」

 

シャーリー「アールストレイムさんからか〜、どんな内容だったの?」

 

ナナリー「えへへ……あ、こ、こんな感じです」

 

ツキト『こんにちは、放課後の時間に失礼いたします。

今日は咲世子が不在とのことで、夕食のご希望をお聞きしたくご連絡させていただいた次第です。

非才の身で御座いますが、今日のお夕食を作らせていただきます。

ご要望の品が御座いましたら、ご用意いたしますので、ご連絡をお願いします。

買い物の都合で帰宅が遅れることをお許しください。

ツキト・アールストレイム』

 

カレン「………なに、これ?」

 

シャーリー「なんか、想像してたのと、違う………」

 

ニーナ「すごく礼儀正しい文面…」

 

ミレイ「(うっわぁ………どうやってフォローいれればいいのこれええええええ!?)」

 

ナナリー「あ、これはツキトさんが私とお兄様の執事をしていた頃の癖だそうです、咲世子さんと仕事をしていくうちに移ってしまったのだとか」

 

ミレイ「あ、あー癖なんだー、仕事の癖ってなかなか治らないのよねー」

 

シャーリー「ですよねー、それにしてもすごい………」

 

カレン「献身的……というよりも過保護かしら?ナナちゃんのこと好きすぎるでしょ」

 

ミレイ「確かにねー………そーだ!ナナちゃん!ちょっとツキト君に無茶振りやってみて!」

 

ナナリー「えぇ!?そんなことしたらツキトさんに悪いですよ!」

 

ミレイ「ちょっとだけ!ね?ちょっとだけだから!先っちょだけだから!」

 

ナナリー「そのセリフはツキトさんに言ったことあるセリフです!」

 

カレン「ちょっと待って!?今ナナちゃんが聞き捨てならないことを言った気がするんだけど!?」

 

ミレイ「ほら、ツキト君の気持ちを試すだけよ!ナナちゃんのことが本当に好きでマジラブ1000%なら、ちょっとのイタズラくらい許してくれるって!」

 

ナナリー「う〜〜………わかりました、でも怒られた時はミレイさんも一緒に怒られてくださいね!」

 

ミレイ「うっ………わ、わかったわ(うぅ、ツキト君の説教お姉さん怖いから嫌だわぁ)」

 

ナナリー「それじゃあ………『今日は生でえっちしましょう』………っと」

 

シャーリー「ちょっと待って!?生って!?生ってなに!?」

 

ナナリー「え?ゴム無しで直接って意味ですけど……」

 

カレン「ナナちゃんそれだめ!!妊娠しちゃうからだめ!!」

 

ナナリー「大丈夫です!今日は排卵日から2日後ですから!」

 

ミレイ「ごめんなさいナナちゃん!本当にやめて!お願いだからやめて!!」

 

ナナリー「でももう送っちゃって………」

 

ミレイ「うわあああああああ!?!?!?」

 

ニーナ「(【これは】ラウンズ、中学生を妊娠させる【犯罪か?】)」

 

ナナリー「あ♬ツキトさんから返信が!♬」ピロリン

 

ミレイ「終わった………私終わった……さよならシャーリー、ニーナ、カレン………」

 

ツキト『しっかりゴムをしないとしてあげませんから。

ゴムをしないなら添い寝もなしにしますからね』

 

ナナリー「………ツキトさんの意地悪」

 

ミレイ、カレン、シャーリー「ほっ」

 

ニーナ「ちっ」

 

ツキト『

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………大人になったら、許可するかも、しれません……』

 

ナナリー「ツキトさぁん/////」キュンキュン

 

ミレイ「そこは胸をキュンキュンさせる場面じゃないと思うのよね、お姉さんは」

 

カレン「そうですね、というか、アールストレイムって実はツンデレ?」

 

シャーリー「あーわかるー、普段は近づくなって言ってるけど、抱きつかれた時ものすごい優しい顔するよね」

 

ニーナ「お父さんの顔に似てる……かな」

 

ナナリー「?………ツキトさんはこの子のお父さんですよ?」サスサス

 

ミレイ、カレン、シャーリー、ニーナ「え"っ!?」

 

ナナリー「冗談です♬」

 

シャーリー「じょ、冗談だったんだ………」

 

ミレイ「(これ以上この話題を続けるのは危ないわね)そういえばツキト君って料理もできるのね?」

 

ナナリー「はい、できますよ」

 

シャーリー「どんな料理?やっぱり宮廷の料理とか!?」

 

カレン「ああいうのって高級な食材使ってるし、無理じゃないの?」

 

ナナリー「ツキトさんは宮廷の料理を模したご飯を作ってくれますし、一般的な家庭料理も作れるんですよ、最近は日本料理の練習もしてるみたいです」

 

ミレイ「(彼は日本に来てからずっとナナちゃんとルルーシュに料理を作っていたものね……)」

 

シャーリー「家庭料理って、カレーとかシチューとか?」

 

ナナリー「はい」

 

カレン「日本料理って?」

 

ナナリー「今は、咲世子さんから茶碗蒸しを習っているそうです」

 

ミレイ「きのことかお肉とかを器に入れてたまごの汁で蒸すやつだっけ」

 

カレン「(お母さんが作ってくれたっけなぁ……)」

 

ナナリー「そうです、きのこと鶏肉、それから銀杏とミツバを入れた物を作ってくれました」

 

ニーナ「美味しそう……」

 

シャーリー「なんか食べてみたくなったよ〜」

 

ナナリー「あ、それじゃあ今度クラブハウスで夕食会でもしませんか?」

 

ミレイ「いいわねそれ!」

 

カレン「いやでも、アールストレイムの時間とかいいの?」

 

ナナリー「そうでしたね、それじゃあ休みの取れる日を聞いてみます」

 

ミレイ「決まりね、っととと、そろそろいい時間ね、それじゃあ解散の乾杯しましょ?せーの、乾杯!」

 

ナナリー、シャーリー、カレン、ニーナ「乾杯!」

 




次回、超展開注意(まんざら嘘でもない)


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その『空席』に座す時は……

ツキトside

 

 

「私が、で、ございますか?」

 

「いかァアにもォう………そォゥであァる」

 

厳格な雰囲気漂う、神聖ブリタニア帝国の皇帝陛下の居られる宮殿、帝都ペンドラゴンの中心に位置する巨大な建築物がそれだ。

 

その内部、皇帝陛下の謁見室にて、眼前の椅子に座った、モーツァルトやバッハ等の音楽家(またはロールケーキ)を連想させる髪型をした男、すなわち神聖ブリタニア帝国第98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニア様だ。

 

なぜ番外のラウンズでしかない私が、皇帝陛下に召喚されたのか、ことの経緯を語ろう。

 

九州拠点奪還作戦は、スザクや藤堂率いる四聖剣、ゼロの駆るガウェインにより、中華連邦の役人数人と元日本人政府の役人澤崎、数十名の捕虜、数十機の中華連邦製KMFを鹵獲し、作戦は無事に終了した。

 

ブリタニア側の損失は極少数であり、KMFの18機が大破、7機が中破、65機が小破、全90機のKMFが破損したが、脱出装置のおかげで兵士の死人は出なかった、まあ多少の怪我人は出たが、腕の骨を折るなどの軽傷で、全快すれば任務に戻れる程度であった。

 

この一件は大々的に報道され、ブリタニアと騎士団の友好関係のさらなる発展を願うものとしてPVも制作した、なのだが………いつの間にやら私の預かり知らぬ場所で、ブリタニア軍のKMF、というか私のKMFとランスロットのPVも作られていたらしく、それを見たナナリーに心配したとものすごく怒られ………いやそれは別にいいんだ。

 

えっと、なぜかは知らんが、本当によくわからなくて怖いんだが、いつの間にかだな、戦闘中の私の映像を使ってPVが作られていてな?………本当誰が作ったんだよクソ…………それが本国、ここ帝都ペンドラゴンの宮殿にまで届いていたらしく、味方の鼓舞のため単騎で突撃した勇気を賞賛したいだとかなんとかで召喚されたわけだ。

 

召喚状が届いた時はついにルルーシュとナナリーのことがばれたか!?と焦ったが、中を見れば全く関係なくてホッとした、がすぐに別の方向で冷や汗流した。

 

で、ペンドラゴンに行くのはいいんだ、問題は誰を付き添いにするかで喧嘩になってしまってな、護衛の意味もあるから戦闘面で突出しているコーネリアか、ここは華やかさ重視でユーフェミアか、歴戦の将軍のダールトンか………。

 

宥めるのがとにかく面倒だった、コーネリアとユーフェミアの喧嘩に振り回されるスザク、忘れられがちだがスペックが高いギルフォード、2人ともすごく疲れていて見るに耐えなかった。

 

これを収めるためにも私がダールトンを指名すれば、とも思ったが、ただでさえストレスのかかるダールトンにこれ以上のストレスを与えれば剥げることは明白、ましてやダールトンはコーネリアがいない時の軍の総括を任される重要な人物、いかにこうした時に適任の人材とはいえ、むやみやたらストレスを与えたくはない。

 

誰も連れて行かないという選択肢は無いらしく、それを提案するたびに何かと理由をつけられて却下された、私が不死身の存在だと言えればどれだけ楽だろうか………。

 

とりあえず今回の召喚に関してはスザクを連れて行くことになった、その間のユーフェミアの護衛は私の猟犬部隊を当てることに決定した、最初から最後に至るまで一貫して一緒に行くと主張するユーフェミアの説得に時間を使ってなんとか飛行機の時間に間に合い、帝都に降り立った。

 

帝都に着き謁見室の前でスザクを待たせ、中に入る。

 

告げられたのはラウンズの称号の剥奪と、枢機卿への格上げであった。

 

枢機卿………それは皇帝陛下に次ぐ権限を持ち、皇族やラウンズよりも上位に位置する役職である。

 

前世においては教皇の次席に位置するんだったか、といっても枢機卿があるのは宗教色の強い国だけだし、日本では関係がほとんどない。

 

「しかし陛下、枢機卿の席にはすでに誰かが………」

 

「たしぃかにぃ、お主の前任はおったぁ」

 

「ならば………」

 

「しかぁしぃ!その者はぁ………第5皇妃であるマリアンヌ・ヴィ・ブリタニア暗殺未遂事件の犯人としてぇ、お主によって処刑されたのだぁ………」

 

私が処刑、ということはV.V.が枢機卿?あいつはギアス教団の教主だったはず………とにかくここは驚いておくほうがいいか。

 

「あ、彼奴が前枢機卿だったと仰られるのですか!?」

 

「そうだぁ………彼奴の後釜が見つからずぅ、困窮していたところに、貴様のエリア11での活躍がぁ、ワシにとどぉいたのだぁ」

 

なるほど、役職というのはあるだけで厄介なもの、枢機卿という巨大な権力という席をめぐって争いが起こるのを危惧しておられたのだろう。

 

競い争い進化する、強者だけが生き残る、それが陛下の目指すブリタニアであるが、その火の粉が自分にも飛び火しているのだろう、見かねて丁度いい人間を配置しようという考えか………気持ちは理解できるな。

 

だがそこに要塞に向かって単騎突撃かました脳筋をブチ込むのはどうかと思う。

 

「シャルル・ジ・ブリタニアが命ずるぅ………ツキト・アールストレイム、貴様をを枢機卿に任命するぅ、そしてぇえ!!エリア11総督に就任するのだぁ」

 

「イエス!ユアマジェスティ!」

 

そ、総督だと!?エリアの総督は原則として皇族しかできないのでは無いのかっ!?いや原作でもわりとどうでも良い名前の貴族が総督だったけどな!?皇帝陛下の権限ならなんでもありなのかぁ!?

 

総督なら動きやすいこともあるが、それではユーフェミアを総督にする計画が台無しじゃ無いか!そもそもコーネリアが総督を降ろされたらギルフォードとダールトンまでいなくなるわけだろう?………軍事面ガッバガバじゃないか!そんなことしたらいかに雑魚とはいえ中華連邦の攻撃を凌ぐのは面倒くさいぞ!

 

ユーフェミアは残ってくれるかもしれんが、別にいたところで軍事面はパッパラパーではどの道使えないし………。

 

練り直す必要が………いやもういっそのこと計画自体を見直す必要もあるじゃないか。

 

権限は増えたが、逆に自由が利かなくなっただけか!

 

「ふぅむ………これからぁ、貴様に質問をするぅ、すぅべて正直に応えよ」

 

「ハッ!」

 

いきなりなんだ?質問?

 

「ルルーシュとナナリーはぁ………生きておるかぁ?」

 

!!…………………………くっ!嘘をつきたいが…………くぅっ!

 

「…………はい、私が現在保護をしております」

 

「……………ルルーシュとぉナナリーはぁ………元気かぁ?」

 

「はっ?………あ、いえ、お2人共健康そのものでございます」

 

「今ぁ2人は何をしておるのだぁ?」

 

「ルルーシュ様とナナリー様は、偽名を使い進学されています」

 

「うぅむ………ルルーシュが高校生でぇ、ナナリーが中学生かぁ………」

 

な、なんだこの皇帝陛下、まるで父親のような目を…………ってか父親だったなそういえば。

 

「よろしぃ、ではもうひとつ命ずる」

 

「はい」

 

「これよりぃ、マリアンヌの所へ行くぅ……………ルルーシュとナナリーの話を聞かせろぉ」

 

「イエス!ユアマジェスティ!」

 

ただの良いお父さんだこれ!?めっさやっさしい顔してるで!?皇帝陛下の顔やないで!息子と娘を心配する、えぇお父さんの顔や!!(乱心)

 

退出を命じられて謁見室を出ると、扉の前を見張っていたスザクがギョッとした顔になった。

 

「ツキト!ど、どうしたんだい!?顔が真っ青じゃないか!?」

 

「ふぇっ……?」

 

言われて壁に埋め込まれた装飾いっぱいの鏡を見た、なるほどスザクの言う通りだ、もともと白い肌だが、たしかに青い、真っ青というのがよくわか………。

 

「あっ………」

 

「ツキト!?」

 

血の気が引いたせいか、フラついてスザクに寄りかかってしまった。

 

「ツキト!!……誰か!誰か!!………っ!君!保健室はどこか知らないか!?」

 

「あ、あちらです………」

 

「ありがとう!それじゃあ!!」

 

掃除中のメイドに保健室の場所を聞くと、私を抱え上げて走り出した、小さい身長がここにきて役に立ったな……。

 

というかスザク、ここ、走るの禁止………だぞ……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?…………痛っ」

 

「動かないほうが良いよツキト」

 

「スザク?ここは………」

 

「保健室だよ、謁見室から出ていきなり倒れたんだ」

 

コード保持者でも疲労は溜まるというのはわかってはいたが、根拠も無く大丈夫だろうと高を括るのはバカすぎた。

 

「過労とストレスによる貧血だろうって」

 

「過労とストレス、か………スザク、このことはナナリー様には」

 

「言わないよ、けど、働きすぎていたら口が滑っちゃうかもね」

 

「くっ………善処する」

 

歯噛みしつつお前が言えたことかと脳内で叫ぶ。

 

「長居はできん、すぐにマリアンヌ様の元へ行かねば」

 

「どうかしたのかい?」

 

「あぁ、実はな………」

 

スザクに謁見室での経緯を説明した。

 

「………つまり、ツキトはラウンズやユフィより上の、枢機卿っていう役職になるんだね」

 

「そうだ、親しい者がいる時はいつも通りでいいが、公の場で呼ぶ時は枢機卿猊下と統一してくれ」

 

「パーティーとかで、呼び捨てで呼んだら問題だもんね」

 

「その通りだな」

 

「それで、皇帝陛下の命令でルルーシュとナナリー………あ、様をつけたほうがいいかな?」

 

「お2人の存在はまだ陛下とマリアンヌ様以外には秘密だ、だから様付けは入らないが、極力本国で名前は出さないようにしてくれ」

 

とくにギネヴィアとかいう阿婆擦れに聞かれたら…………徹夜して穴を掘らなきゃいけないからな、ついでに墓石も作っとかなきゃいけないしな。

 

「わかったよ」

 

「それじゃあマリアンヌ様の居られるアリエス宮へ行こうか」

 

「僕も言っていいのかい?」

 

「私の護衛だと言えば通せる、それに、まだ発表されていないが、私は皇帝陛下の次に偉い天下の枢機卿猊下様だ、ある程度のワガママは通せる」

 

「それは職権乱用になるんじゃないのかな?」

 

「フッ、バレなきゃいいのさ」

 

他愛のない話をしながら保健室を出る………普通宮殿に保健室は作らないと思うんだが………陛下の威圧で気絶した者用の部屋なんだろうか?

 

実際ありえる、というかあったしな、そんな事例が……。

 

「どうやって移動する?運転手呼んでこようか?」

 

「あぁ、そうし…………ちょっと待て、あれはなんだ?」

 

窓から見えた車を指差す、車………というにはデカイ図体の機械の塊、なんというか、オープントップの戦車、に見えるんだが。

 

「そこにぃおったかぁ、ツキト・アールストレイムぅ……」

 

「こ、皇帝陛下!」

 

乗ってたのか!?この馬鹿でかい戦車みたいな乗り物に!

 

「さっさと乗れぃ!マリアンヌのもぉとぉへ、行くゾォ!」

 

「イエス!ユアマジェスティ!……ほら、スザク行くぞ!」

 

「う、うん……(え?本気でこれで行くの?)」

 

窓から跳び乗って皇帝陛下の対面の座席に座る、スザクは私の隣に座った、え?飛び乗るのは行儀が悪い?わざわざ玄関口から走って乗り込むまで皇帝陛下を待たせられるか!

 

揺られる、いやまったく揺れない快適な車に乗ること数十分、懐かしいアリエス宮が見えてきた。

 

アリエス宮の前で止まると自動でドアが開いた、今更だがこの車に運転手が乗っていない、まさかの自動運転なのか!?すごいぞブリタニアの技術力!変態兵器だけじゃないんだな!

 

皇帝陛下に続いて車を降り、アリエス宮に入る、実に8年ぶりほどの再会であるメイドや執事たちに軽い会釈を送りつつ、皇帝陛下の一歩後ろをスザクと歩調を合わせて歩く。

 

突然の来訪でこの対応力、しっかりと躾されているようだ、アールストレイム家の支援は継続されているようでなにより、枢機卿になったらもっと増やそう、マリアンヌに気に入られれば軍の大半を手中に収められるからな、できるだけ楽にいきたいしな。

 

マリアンヌの居る部屋に入ると、椅子に座り窓から外を眺めるマリアンヌがいた。

 

8年前と寸分違わぬ美しい姿に目を奪われる、同時に、ナナリーが成長すればあれほどに美しい女性になるのかと少し興奮してしまう。

 

ついでに私の初恋の人。

 

「久しいなぁあ、マリアンヌよ」

 

「あら、シャルルじゃない、一週間ぶりかしら?背後にいるのは………ツキトね?」

 

「正解でございますマリアンヌ様、お変わりないようで」

 

目が見えずともわかるのか………原作のナナリーも目が見えずとも接触すれば相手の思考が読めるチートキャラだったしな、歴戦の猛者たるマリアンヌならば、これくらいは当然といったところか。

 

「それで、そっちにいるのは誰なの?」

 

「枢木スザクといいます、ツキトの護衛です」

 

「そうなの…………なるほどね、ツキト、あなたいい友達を持ったようね」

 

「ありがとうございます、友であるスザクは私の誇りです」

 

柔らかい笑みを浮かべてそう言うマリアンヌ、私の心の底を読もうとしているのか、単なる世間話なのか、まったくつかめない。

 

「本題に入るぅ、マリアンヌよぅ、我らが息子と娘、ルルーシュとナナリーのことだぁ」

 

「っ…………あの子達のことは、残念に思ってるわ………ツキトもきっと負い目を感じてると思うの、でも………」

 

「あの、その件なのですが」

 

「なに?」

 

「…………私、実は、嘘をついておりました」

 

「なんですって?」

 

マリアンヌがものすごい怒ってるんだが………怖くてちびりそう。

 

「ルルーシュ様とナナリー様がお亡くなりなったという報は嘘です、お2人は生きていますし、学校にも元気に通っておられます」

 

「…………本当なの?シャルル?」

 

「誠であるぅ………アーカーシャの剣にてぇ、何度もルルーシュとナナリーの姿を見たぁ………真実で、あぁる」

 

「そうなの…………(やった♬)」ガッツポ

 

あ、小さくガッツポーズした…………ああいう可愛いところは遺伝だったか………人妻に可愛いという表現は適切なんだろうか?

 

 

(適切だルォウ!?当たり前だよなぁ?可愛い!ビューティ!エロイ!可愛い!ビューティ!エロイ!って感じで…………やっぱりムッチリ系人妻を………最高やな!!! by作者)

 

 

「いつ頃会えるかしら?」ワクワク

 

「現時点ではまだなんとも………というのも、マリアンヌ様の暗殺未遂の一件が相当ショックだったようでして、精神的に成熟してからの方が良いだろうと思いまして………申し訳ございませんが、もうしばらくご辛抱を」

 

「そうなの………わかったわ」シュン

 

女神級に可愛いらしい仕草も遺伝だったのかっ!(戦慄)

 

こんな美女惚れない男がいないはずないんだよなぁ。

 

「代わりと言ってはなんですが、今日までのお2人の話でも如何でしょうか?」

 

「面白そうね、聞かせてちょうだい」フムフム

 

「ワシもぉ、聴かせてもらうぞぉ」

 

「では………まずは、お2人が日本の小学校に入学した時の話をいたしましょうか………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【2時間後……】

 

 

 

「…………そうしてルルーシュ様は、学園の生徒会に入会し、日々勉学に励みつつ学園の行事の運行や書類仕事等を行っております、ルルーシュ様が生徒会に入会した後から効率が段違いに良くなったという声をよく聞きます」

 

「さすがは私たちの息子ね、シャルル」

 

「うむ」

 

「ナナリー様はフェンシング部に入部し、エリア11のフェンシング大会において見事に優勝を勝ち取りました、中等部ですので今はまだエリア内の大会ですが、高等部になれば世界大会への出場は間違いないでしょう」

 

「お前に似たなぁあマァリアンヌよぉ」

 

「ふふっ、閃光の名前を引き継ぐ気かしらね?」

 

「本人にその気は無いようですが、無自覚とはいえ剣の道に行かれるその勇ましさはさすがはマリアンヌ様のご子女でございます」

 

並んでソファに座る皇帝陛下とマリアンヌにひたすら話題を出し続ける私、その隣ですでに空気と化してしまっているスザク。

 

「あら、もう日がくれてきたわね」

 

「随分と長い時間話し込んでぇいたよぅだなぁ」

 

「そのようですね………どうでしょうか?一旦お開きになされるというのは?」

 

「いいわ、でもその前にひとつ」

 

「なんなりと」

 

「ツキト、あなた、隠してること、あるでしょ」

 

思わずマリアンヌの顔を見る、一瞬ナナリーに良く似たその優しそうな目で鋭く睨まれた錯覚に陥る、うまく動揺が隠せない、くっ、やはりマリアンヌだけは別格か!

 

ここは、正直に行こう、最悪処刑ものだが、致し方無い!

 

「………言うべきか迷っておりましたが、マリアンヌ様にはお見通しだったようですね」

 

「話してくれるわよね?」

 

「はい……………実は、私、ツキト・アールストレイムは……………ナナリー様と婚約させていただいております」

 

「ぬっ!!」クワッ

 

ヒィッ!?皇帝陛下の顔が一気に険しくなる、処刑か!?

 

「…………そう、告白したのはナナリーかしら?」

 

「はい、従者であり続けるほうがよかったのかもしれません…………しかし、ナナリー様の悲しむ顔は見たくなかったのです…………マリアンヌ様が命じられるなら、ナナリー様との婚約は………」

 

まずいな、もうシャツぐっしょりだと思う、ラウンズの称号剥奪だとか死刑だとか人権剥奪だとか、そんな生易しい死に方ができなくなる、生きるのも死ぬのも嫌になるようなことをさせる、絶対そうだ、だってマリアンヌだし………。

 

「あっ、別に結婚してもいいわよ」

 

「…………はい?」

 

「ナナリーがツキトのこと好きそうなのはあの子達がここを出る前から知ってたし、ツキトなら良いかなって思ってから」

 

そ、そんなに前から………。

 

「よ、よろしいのですか?こう言ってはなんですが…………その、初夜を経験済みでして………」

 

「どうせあの子が襲ってきて無理やりってところでしょ?」

 

「あの、そ、そう、なの、ですが………よく、お分かりになりましたね………」

 

「ふふっ、あの子は私の娘よ?」ドヤッ

 

「う、うぅむ………////」テレテレ

 

え?それはつまりマリアンヌは皇帝陛下を……………………うっそだろオイぃぃいい!?

 

「は、ははは…………」

 

おいスザク、なんだその乾いた笑い………ってその憐れみの目をやめろぉ!!私をマリアンヌの被害者2号みたいに見るなぁ!!!

 

ガニメデに乗せて的にしてやろうか!

 

…………でもスザクならガニメデでもひょいひょい避けそう。

 

「ま、何はともあれあの子達が元気そうでよかったわ、ツキト、ナナリーは頼んだわよ」

 

「イエス、ユアh……」

 

「最初は女の子でお願いね」

 

「来年中にぃ、できるかぁ?」

 

「いえナナリー様の体が持ちませんから、どこぞの三流小説の『お子さんの命は助かりますがお母さんは死んでしまいます』みたくバッドエンド直行ですから」

 

「そこは愛の力でなんとかなるでしょ」

 

「精神論では勝てませんよ………」

 

「そこはほら………私の娘だし」ニコッ

 

う〜〜んこの笑顔と説得力………プライスレス。

 

「それ以前に、子を産み育てるには私はまだまだ未熟です、せめてナナリー様が皇族に復帰して数年経ったくらいでないと………」

 

「今すぐ復帰するのはどうかしら?ナナリーは皇位継承権は低いけど、ルルーシュなら良いとこ行くんじゃない?」

 

「うぅむ、ルルゥーシュはシュナイゼルに並ぶキレ者、第1皇子のオデュッセウス以上の才能よ……それにあやつ以上に『飢え』ておるしのぅ……」

 

哀れ癒し系善人のオデュッセウス・ウ・ブリタニア殿下…………原作ではリヴァルの次くらいに好きだった。

 

「ならば、皇族復帰後は是非ともルルーシュ様を後継に」

 

「あらツキト、ナナリーは押さないのかしら?」

 

「ナナリー様は…………聡いお方ではありますが、ルルーシュ様ほど非道にはなりきれません、そのうえ欲が薄いのです、次期皇帝陛下に押すには、優しいだけではいけないのです」

 

「…………頭がカチカチなところは変わってないわねツキト、シャルルは少しは柔らかくなったというのに」

 

「古き良き騎士道精神でございます」

 

忠義とナナリーの笑顔をエネルギーに動く電動機だから………信頼されてなんぼだし、そもそも信頼がなきゃブリタニアと騎士団のパイプ役なんてやってられん。

 

「相手を挑発するのが騎士道精神なのかしら?」

 

「礼を失した相手に情けはいらぬと考えておりますゆえ」

 

ここから剣の話に入った………。

 

「ナナリーだけど、あなたから見てどんな感じかしら?」

 

「基礎に忠実、基本を守って堅実に闘う…………試合ではそのように見えました」

 

「ナナリーらしいわね」

 

「うむ」

 

原作でもそうだが、ナナリーは本当に優等生だからな、ルルーシュのサボり癖もあってなお引き立つその優等生っぷりだったな。

 

こっちではルルーシュも勉強に力を入れているようだ、敵(シュナイゼル)を倒すのに必要なのは知識だと考えているのだろう、脳筋でシュナイゼルに勝てたら苦労しないだろうし、当たり前のことだと思うが。

 

「それじゃあツキト、あなたが闘った感想を聞かせてくれる?」

 

「はい、私が試合をさせていただいた時のことですが…………フェンシング大会で見たナナリー様とは違う、攻めの姿勢でした、退路を確保しつつ怒涛の攻めで一点突破を図ろうとしておりました」

 

「ふーん、ナナリーらしいと言ったらナナリーらしいわね、あの子聡いけど猪突猛進なところもあるから」

 

「お前に似たなぁ、マリアンヌぅ」

 

「私はそこまで猪じゃないわよ」ぷりぷり

 

なにこの可愛い人妻………スザクもさっきからものすごい驚いている顔だ、教科書に載るほどの有名人、剣の達人でただの庶民からまさかの第5皇妃(およそ100人ほどの貴族出身の妻がいる中で、ただの庶民でしかなかったはずのマリアンヌが上から5番目、しかも皇帝陛下にタメ口)にまでのし上がってビスマルクに自爆技かけて不意打ちで暗殺されかけたブリタニア人女性の憧れ的存在の超凛々しい人物が、絶対他人には見せないような人懐っこい笑い方するなんて思わないしな。

 

私も思わない、というか1ミリも思わなかった。

 

だがナナリーの優しいところとかルルーシュの甘いところとか、よくよく考えるとそこもマリアンヌの遺伝だったりするのか?目が見えなくても気配で人がいるかわかる人が、不意打ち食らうってのもなんか可笑しな話だしな。

 

まあ深夜だったし、眠かったんだろうきっと、そういうことで納得しとこう。

 

「ひとつぅ言い忘れたことがあったぁ………先ほどツキト・アールストレイムを枢機卿に任命したのだぁ」

 

「良いんじゃないかしら?V.V.の後釜を狙う奴らもこれでおとなしくなりそうだしね」

 

息の合う夫婦、自分の考えを理解できるマリアンヌに惚れるのもわかる。

 

気さくで話し上手な世界一の剣士とか憧れないほうが無理だ。

 

「でもすぐに任命するのはやめたほうが良いわ、まだうっとおしいのが片付いたら………半年後でどうかしら?」

 

「分かった………ツキト・アールストレイムよ、半年後までお主はラウンズ続行だぁ………よいな?」

 

「イエス、ユアマジェスティ」

 

返事を聞いた皇帝陛下は部屋を出て行った、きっと宮殿に戻るのだろう。

 

「ツキトと枢木スザクはここに泊まっていきなさい、部屋を用意させるわ」

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとうございます………(ねえツキト、本当に部屋を借りて良いのかな?)」

 

「(せっかくの好意を無下にはできん、それにここが1番安全だからな)」

 

「(そういうことか……わかったよ)」

 

マリアンヌのお膝元であるアリエス宮に入りたがる命知らずはいないからな、いるとしたらよほどの馬鹿くらいだ。

 

スザクとともに部屋から出て、割り当てられた部屋に入る、なかは整理されてはいたが、紛れもなく私がいたころに使っていた部屋だった。

 

「さて、これからのことを考えねばならんな」

 

「これからのこと?」

 

「あぁ、半年後には私が枢機卿になり、エリア11の総督に就任することになる」

 

「ツキトなら政治も大丈夫だよ」

 

「そっちは問題じゃない、軍事面の問題だ」

 

「軍事面?あ、そうか、今の総督のコーネリア様がいなくなったら………」

 

「さらにギルフォード卿やダールトン将軍もいなくなるだろう、指揮官がいない軍隊など烏合の衆、半年後までに彼らの後を任せられるほどの優秀な指揮官を見つけなければならない」

 

「候補とか、いないのかい?」

 

「いないことはないが、いかんせんバランスが取れないんだ…………優秀という面だけで考えれば純血派とかにいくらでもいる、だが日本人で構成される猟犬部隊について絶対にネチネチ言ってくるだろうから意地でも選びたくない」

 

「でも他に優秀な指揮官向きの軍人はいない………ユフィは論外だし」

 

「ユーフェミア様を前線になんか出したら足手まといも良いところだ」

 

「ずいぶんと辛辣だねツキト」

 

「ユーフェミア様のせ………お陰で初の戦闘任務が移動拠点に篭って待機なんだぞ?本来なら、スザク達とともに空中投下して勇猛果敢に闘ってもらって、それをPVにするつもりだったのに!!」ダン!

 

「さすがに初の戦闘で敵中ど真ん中に空中投下は危ないんじゃないかな………包囲部隊と連携するならともかく、危険すぎるよ」

 

「たしかにそうだ、だが戦果無しの状態が長引けば、うるさいのが湧くんだ、現に『寄せ集めハリボテ部隊』なんて一部で言われてるんだぞ?」

 

「それは、さすがに酷いね……」

 

「大袈裟かもしれんが、戦果無しのままでは必要性を疑われてしまう、予算もタダではない、人は生きてるだけでカネを使う…………防衛の主戦力と銘打って作った部隊なのに、肝心の防衛戦での活躍は移動拠点の防衛…………フッ、こんな稚拙な指揮、ルルーシュ様に笑われてしまう」

 

「でもさツキト、今考えてみてよ、半年後にはコーネリア様がいなくなって手薄になる、そこを猟犬部隊で埋めるんだよ」

 

「だが、今の戦力では………」

 

「ツキト、猟犬部隊っていう数の単位で考えちゃダメだ…………1個の軍隊と考えれば良いんだよ!」

 

「…………なに?」

 

1個の軍隊………!!

 

「コーネリア様と一緒に兵が減るなら、増員すれば良いんだよ!少なくとも今の3倍から4倍に増員すれば十分活躍できる戦力になる!」

 

「そうか………『部隊』という枠組みにとらわれていた………防衛用の『軍隊』として再度設立すればっ!」

 

「主戦力になる、それに、自分たちで日本を守っているっていう自覚も現れてくる」

 

「………日本に帰ったらPVを作らねば、猟犬部隊……いや、日本エリア防衛軍の設立と宣伝だ!インスピレーションが湧いてきた!帰ったらすぐにやろう!」

 

「僕も手伝うよ!」

 

「設立後は、大幅な装備の補充が必要になる………だがそんなもの予算調整をすれば問題などない、いける、いけるぞスザク!」

 

もうなにも怖くな…………だめだマリアンヌとナナリーはやっぱり怖い。

 

枢機卿就任までの半年間、やり遂げてみせる。

 




まさかの【†枢機卿†】

スピンオフ作品並みの優しいお父さんとお母さん。
やはり、子供思いのマリアンヌを………最高やな!



作者「あ、そうだ、帝都ペンドラゴンにぃ、人間の屑(ギネヴィア)、生きてるらしいっすよ、じゃけん殺しましょうね!」
ツキト「お、良いっすねぇ、ルルーシュ様とナナリー様の敵は、2度とこの世界にいられないようにしてやる………(ヤンデレ)」
作者「忠義!謀略!騎士道!忠義!謀略!騎士道!って感じでぇ……礼儀正しくさっさと殺そうぜ!」
ツキト「人間の屑に礼儀は無用だって、それ1番言われてるから(ニッコリ)」
作者「お、そうだな(恐怖)」ガクブル




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帰還は『延期』

ツキトside

 

 

アリエス宮でスザク、マリアンヌとともに朝食をとる、とても懐かしい味だったことを除けば、特に感想はないが、マリアンヌが誰のサポートもなしに食事している様子を見るとそうはいかない。

 

食べ物にフォークを刺して口に運ぶ、この動作を目を閉じてやってみると案外難しいものだ、たいていの場合、フォークが食べ物に刺さらない、あごや鼻に食べ物をぶつけてしまう。

 

しかしマリアンヌはそうではない、吸い込まれるように食べ物が口に入っていく、これも経験なのか、それとも元からこんな超人だったのか、たぶん後者だ。

 

またひとつマリアンヌの超人的一面を目にしてしまったところで、現在スザクと散歩中だ。

 

「わぁ、良い眺めだね」

 

「この丘にはよく登ったものだよ、どちらが早く登れるかでルルーシュ様と競争したものだ」

 

「どっちが勝つことが多かったの?」

 

「ルルーシュ様、と言いたいが、私だよ」

 

「あっはは、ルルーシュは子供のときから体力がなかったんだね」

 

「体力は無かったが、運動神経は良かったんだぞ?」

 

「そうなのかい?」

 

「マリアンヌ様の御子息なのだから当然、お2人とも高い能力があるだろう?ルルーシュ様は知、ナナリー様は武だ………マリアンヌ様の血を色濃く受け継いでおられるのだ」

 

「じゃあルルーシュとナナリーは2人でひとつ、なのかな」

 

「ルルーシュ様が考えて、ナナリー様が行動する………たしかに一見して良いチームだが、すぐに破綻すると思うぞ」

 

「どうして?」

 

「ルルーシュ様が、ナナリー様に無茶をさせるような事は絶対にしないからな」

 

「そうだね、ルルーシュは優しいから」

 

「ナナリー様はルルーシュ様のどんな無茶な頼み事でも引き受けるだろうから………」

 

「優しすぎるよね、2人とも」

 

「その通りだよスザク、ルルーシュ様もナナリー様も、優しすぎる…………いつかそれが仇にならなければ良いんだが」

 

「大丈夫さ、ルルーシュもナナリーも、きっとね」

 

「スザク…………フッ、そうだな、私も過保護が過ぎるようだ」

 

あの頃が懐かしい………ルルーシュとナナリーが自分をさらけ出せていた日々が、とても懐かしい。

 

あの日々はもう少しで帰ってくる………シュナイゼルを殺して、必ずあの2人を………ん?

 

「あれは………」

 

不意に視線に入った………汚物。

 

マリアンヌとその子どものルルーシュとナナリーを嫌う犬の糞以下の存在、ギネヴィアとカリーヌだ。

 

「どうしたんだい?……あの人たちがどうかしたの?」

 

「あぁ………いや、なんでもない」

 

スザクは知る必要はない、あんな屑共の事など………。

 

「そろそろアリエス宮に帰ろう、もうすぐ昼食の時間だ」

 

「そうだったかな?………あ、本当だ」

 

「行こうか、マリアンヌ様を待たせるのはいかん、おもに私の存在意義が危うい」

 

「ナナリーのお母さんだもんね」

 

「そ、そういうこと言うなよ、変に意識するだろうが……」

 

初恋の相手が婚約者の母親とか………もう本当に訳がわからん、これが人生か、破天荒に過ぎるぞおい、恋はままならぬものだというが、せめてハンドルくらい付けさせてくれ。

 

朝食に引き続きマリアンヌとの昼食を過ごした、スザクに言われた言葉が引っかかって若干ぎこちなかったような気がしないでもない。

 

挙動不審であったものの、なんとかやり遂げた、食事の時にこんなに緊張したことは無かった、ナナリーにプレッシャーを当てられてもこうはならないのに。

 

マリアンヌ相手にはどうしても勝てるビジョンが浮かばん、いや勝負に出る必要はそもそも無いんだが………それでも悔しいな。

 

さっさと日本に帰りたい………ペンドラゴンに家があるから帰ってきている状況だが、私の体はもうあのクラブハウスが恋しいようだ。

 

どちらかといえば、ナナリーが恋しいのだろう…………あの笑顔で心の中のドス黒いものを洗い流してもらいたい………だが夜の添い寝はできればノーセンキュー。

 

飛行機は今日の深夜発だ、今のうちに仮眠でもとっておくか。

 

ベッドに倒れ込むと同時に睡魔が襲う、抵抗せずにいるとものの数十秒のうちにまどろみの中へ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぁぁぁあああ〜〜…………。

 

「んん"っ………よく寝た」

 

何気に久方ぶりの休眠ではなかろうか、これであと数ヶ月は闘える、愛と忠誠心さえあれば人間は立ち上がれる。

 

世の中には、愛と勇気だけが友達の国民的な菓子パンヒーローがいることだしな、勇気が忠誠心に変わっても問題なくやるだろう、忠誠心100倍!ア◯パンマン!

 

「いい時間だな、空港までは余裕で着くな、顔を洗ってさっさと行こう」

 

部屋から出て浴場にある洗面台で顔を洗う、さっぱりした。

 

「ツキト様」

 

「ん?」

 

顔をタオルで拭いているとメイドに話しかけられた。

 

「出発前にご入浴されてはいかがでしょうか?」

 

「おお、そうさせてもらおう」

 

「それでは、ごゆっくり」

 

メイドの提案に乗り、メイドが去ったあとで服を脱いでバスタオルを巻いて浴場に入る。

 

アリエス宮の浴場は広く、20人が同時に入っても余裕があるほどだ、この浴場にはよくルルーシュやナナリーと一緒に入浴したものだ。

 

体を洗って風呂に入る。

 

「ふぅ………」

 

いい湯だな………疲れが取れるようだ。

 

10分近く経った頃にあがり、着替えてスザクを呼びに行く。

 

「スザク、いるか?」

 

「いるよ」

 

「そろそろ出発の時間だ、準備はいいか?」

 

「出来てるよ」

 

「それじゃあ、日本に帰ろうか」

 

「うん」

 

荷物をメイドに任せて車で空港に向かう、空港に着いたときに時計を見るとまだ1時間近く余裕があるようだった。

 

チェックを済ませて待合室で待つことにした。

 

「来たときにも思ったけど、空港ってすごく広いんだね」

 

「この空港は帝都から1番離れた一般人用の空港だ、これくらい広くなければ人を捌ききれないらしい」

 

「そうなんだ………あれ?僕たちは一般人用の空港を使ってたのかい?ツキトはラウンズなのに」

 

「テロの予防だよ、日本へ向かうことはあれど、日本から来ることはあまりないからな」

 

それに、飛行機に日本人が乗っているとなればうるさい奴もいたのだろう。

 

「そうなんだね………あ、このお菓子美味しいよツキト」

 

「『皇族顔覚えクッキー』………どこにでも売ってるな」

 

皇帝陛下の顔がドアップで描かれた菓子袋、子供向けのお菓子で誰でも簡単に主要な皇族の名前を覚えられる『皇族クッキー』、本国での人気は並、植民地や自治区ではかなりの人気がある。

 

なお人気の内訳で堂々の80%超えでトップを飾ったのは『安さ』である、やはりと言うか、値段は重要だ。

 

「この空港で1番売れてるって言うのは本当だったんだね」

 

「まぁな…………私が言うのもアレだが、ブリタニア人はそこまで忠義に厚くないし、平気で人を騙すからな」

 

「そうなのかい?ツキトを見てるととてもそうとは思えないけど」

 

「私もさ、だが古い文献にはしっかり載ってる事なんだが…………隠されていたものだったし、一般的な認識はそうじゃないんだろう」

 

「ツキトやルルーシュに会う前までの僕は、ブリタニア人は一般人をたくさん殺す、悪魔みたいなものだって思ってたかな、今は違うけど」

 

「悪魔、か……………言い得て妙だ」

 

他称、【ブリタニアの悪魔】が、今は内政に勤しむラウンズか…………ラウンズが内政なんてしてて、マリアンヌによく笑われなかったものだ、知らなかっただけかもしれんが。

 

知ってた場合は、騎士は騎士らしく鍛錬に励むべきである、しかし事情が事情なだけに、仕方ないと思ってくれたのだろう、そう思うことにしよう。

 

「ツキト、そろそろ搭乗時間になるよ」

 

「ん、もうそんなか………では乗り込むとしようか」

 

スザクに続いて飛行機に乗る、指定席に座ってしばらくすると飛行機が動き出した。

 

日本に着くまでの数時間、ぐっすり眠れればナナリーの相手もできるはずだ、寝ておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、思ってたんだがなぁ………。

 

「機の故障で出発は明後日の昼に延期………か」

 

「………困ったね」

 

身バレを恐れて旧式の機体の便を選んだのが間違いだったのか、離陸寸前というところでメインモーターの故障が発覚、しっかり点検しておけよ………。

 

「あぁ、引き返してマリアンヌ様の厄介になるのは、さすがに迷惑だろうな」

 

「近いホテルにしばらく泊まるしかないね」

 

もう深夜なのに見つかるだろうか?最悪は野宿か。

 

「幸い金はある、問題は………ナナリー様だな」

 

「すっごく怒るか、泣いちゃうかもしれないね」

 

「ナナリー様を怒らせるなんて、できればしたくないんだがなぁ……」

 

怒ったナナリーは………そうだな、ガチギレしたルルーシュが一瞬で土下座するくらいの恐怖だ。

 

「えぇいままよ!スザク、ここから近いホテルで泊まろう、今日はもう寝る」

 

「そうしよっか」

 

スザクを連れて空港から1番近いホテルまでタクシーで移動する、帰ったあと帰りが遅いとナナリーに理不尽に怒られることを考えると、足取りは重くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

どうしましょう………。

 

「ランペルージさん!ずっとあなたのことが………」

 

「ごめんなさい!」

 

ツキトさんがペンドラゴンに行かれてから4日、中等部・高等部無関係に告白を受けています。

 

どうやらツキトさんが仕事で日本にいない今この時期に………と狙ってのことでしょうけど、私が異性として好きなのはツキトさんだけですから、他の誰にも靡く気はないのですが………。

 

「っ………わかり、ました……でも諦めません!何度でも来ますから!」

 

えーっと、目の前の先輩………たしか高等部のフェンシング部男子の部の部長の………たしか、フォーエル先輩……でしたか、彼は私に諦めないところを見せてカッコつけようとしているのでしょうか………よくわかりませんけど。

 

今の彼がツキトさんなら………あ、ツキトさん相手だったらむしろ大歓迎でしたね、二つ返事でオーケーですね。

 

去って行く男子フェンシング部部長から目をそらして気持ちを集中させて、練習を再開させる、早く、一歩でもツキトさんに追いつけるように。

 

「ナナリー、おつかれー」

 

「あ、マリーさん、お疲れ様です」

 

この人はマリーさん、中等部で同じクラスにいて部活も同じフェンシング部、元気いっぱいな、可愛い女の子なんですよ。

 

「今日もまた、あの部長に告られたの?」

 

「はい、でも私にはツキトさんがいますから、断らせてもらいました」

 

「でもあの人って結構イケメンだよ?………そりゃたしかにアールストレイムさんも美形だけどさ」

 

「ツキトさんは、下心とか、そういうことを抜きに私を見てくれるんです」

 

「え、じゃあ、あの部長って………あっ(察し)」

 

「だから無理なんです…………それに、ツキトさんは」

 

私が、私だけが…………ツキトさんの………。

 

「まぁでも、ナナリーをそういう目で見ちゃうっていうのは、わかっちゃうんだよね〜」

 

「えっ?」

 

「だってかわいいんだもんナナリー、アールストレイムさんがベタ惚れなのも、あの部長さんがアールストレイムさんがいない隙を突いて告ってくるほどだし」

 

「ツキトさんが、ベタ惚れ………えへへ////」

 

ツキトさん………ツキトさぁん………♡

 

「………あー……ナナリー?」

 

「………ふぇっ?」

 

「(あざとい、これが天然だって信じられる?私は信じた)……妄想してないで、もうすぐ部活終わりだよ」

 

「あ、そうみたいですね」

 

壁掛け時計を見ると部活終了の時間をさしていて、周りを見ると防具を外し始める人がいた。

 

私も防具を外して更衣室で着替えて体育館を出る。

 

「ラ、ランペルージさん!」

 

「?…えっと、なんでしょうか?」

 

「ぼ、僕、高等部の射撃部部長をしています、ジュディ・マックスウェルです」

 

「マックスウェル先輩ですか、私に何か用でしょうか?」

 

予定通りなら今日はツキトさんが2日遅れで帰ってくる日、早く帰ってツキトさんをお迎えしないといけないのに。

 

「アールストレイムさん、に、これを………」

 

「ツキトさんに、ですか?」

 

「はい、お願いします」

 

「わかりました、しっかり届けますね」

 

マックスウェル先輩はそれを聞くと足早に去って行きました。

 

ツキトさんに届けるようにと言われたこの手紙………もしかしてラブレター…………マックスウェル先輩は男の人ですから、違いますね。

 

「ナナリー!今度は射撃部部長からなーにもらったの!?もしかしてラブレター!?」

 

「これはツキトさん宛てみたいです」

 

「へっ?射撃部部長ってほm………えっと、ちょっと特殊な人なのかな?」

 

「中身を見てないのでなんとも………ツキトさんに読んでもらった後聞いてみます」

 

「ん、わかったらメールちょうだい、またね!」

 

「はい、また明日」

 

マリーさんとわかれてクラブハウスに帰る、中には咲世子さんしかいないようです。

 

「お帰りなさいませ、ナナリー様」

 

「ただいまです咲世子さん」

 

咲世子さんと2、3ほど話して部屋に入って椅子に座って机に着く、貰った手紙を取り出して中身を取り出す。

 

中には差出人が違うの手紙が2枚だけ入っていました、差出人はフェンシング部部長のフォーエルさんとマックスウェルさんでした。

 

最初にフォーエルさんの手紙を読んでみましょう。

 

えっと、『クリス・フォーエル。このような手紙で情け無いと思われるかもしれません、それに、何度も告白を断られている男がこのように何度も繰り返し告白をするのは見苦しいかと思われるかもしれません。ですが、それでも私は諦めたくありません。………………(以下略)』……長い上にしつこいですね。

 

もう1枚はマックスウェルさんのようです、内容は…………同じですね、どちらも諦めきれないとか書いてありますし、きっと同じなのでしょう。

 

要約すると、『ツキトさんと決闘をしたいので、取り次いで欲しい(自分たちだと相手にされないため)』、ということみたいです。

 

それくらいのことは自分でやってほしいと思いますが、ツキトさんが受けるはずありませんものね、そこで私を通すというのは間違っていません。

 

確かに、私がツキトさんにお願いすれば、きっと決闘の場は作ってくれると思いますけど…………本国での重要なお仕事から帰って来てすぐにお願いはできませんね。

 

ツキトさんの邪魔にならない時期を考えなくてはいけませんね!となると、夏期休暇が丁度良い感じです、ですけど………わざわざお休みの日に決闘をお願いさせるなんてできません…………どうすれば良いのでしょうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで、ミレイさん、シャーリーさん、カレンさん、何か良い方法はありませんか?」

 

困った末に私は生徒会の皆さんから意見を聞くことにしました。

 

「良い方法も何も………直接頼めばいいんじゃないかしら?彼のことだし、喜んでやると思うわよ?」

 

「でも、たかが他人のためにツキトさんに貴重な休日を寄越せなんて言えません…………」

 

「(先輩じゃなくて他人……)」

 

「うーん、じゃあさ、条件を出し合ってみるのは?ナナちゃんがアールストレイムさんに頼む代わりに、アールストレイムさんのお願いを聞くの」

 

「その案は前に試しました」

 

「そう?ついでにその時のお願いは?」

 

「子供が欲しいと言ったんです、そしたら顔を真っ赤にして………あの時のツキトさんはとても可愛かったです………」

 

「あ………うん」

 

「まあ、ナナちゃんはちょっと彼に遠慮してるところがあるし、ここは思い切ってワガママを言ってみるのもありよ」

 

「ワガママ………」

 

「そ!普段言わないようなワガママを言って彼の気を引いてみるっていうの、よくあるじゃない?」

 

「………いいかもしれませんけど、常日頃からツキトさんにワガママしか言っていないような気がします」

 

「そうでも無いわよ?彼って結構奥手だから、たまにはナナちゃんがリードしてあげるのも大事よ」

 

「な、なるほど………わかりました、頑張ってみます」

 

そうと決まれば、帰ってくるツキトさんに美味しいご飯を………あれ、ツキトさんからメール………。

 

 

 

ゴトッ………。

 

 

 

『ナナリーへ

また2日ほど延期になった。

ツキトより』

 




さらなる滞在の延期を知らせるメール、放心するナナリー。

ツキトになにが起きたのか?


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『再開』、我が最愛の『妹』

リゼロとボトムズ見てたら遅れてしまいました。
番外編用のネタばっか浮かんで本編ががががが………。
なので今回は(も?)短めです、すみません。


ツキトside

 

 

「まさか空港近くのホテルが一部屋だけ空いていたとは、幸運だな」

 

「本当だね……うわぁ!最上階だから眺めも良いよ!ツキト!」

 

ここは空港近くのホテル、その最上階の一室。

 

偶然にも、いや幸運にも空いていた部屋を見つけチェックイン、値段は高級ホテルであり最上階ということもあって若干割高なスイートルームではあるが、この程度なら財布に打撃は無い。

 

「値段分の価値はあるわけか、はしゃぐのも良いが、私はシャワーを浴びてさっさと寝るからな」

 

「えぇ!?娯楽室でカラオケとかしたかったのに」

 

「残念だがスザク、一応私たちは仕事できているわけでな、身分を秘匿してきているわけだ、露呈してしまうとマズイんだ、控えてくれ」

 

「それなら仕方ないかな」

 

「なぁに、カラオケくらい帰ってからでもいけるさ」

 

スザクを宥めつつ荷物を置いてシャワーを浴びようとシャワールームに足を向けたところで、突如部屋のドアが開いた。

 

瞬間、弾かれたようにスザクはコイルガンを抜き、私はレイピアに手をかけた、この部屋は最上階にあるスイート、呼べばルームサービスも来てくれる。

 

だがそんなもの呼んだ覚えは無い、なら考えられる可能性は、何らかの手段で私たちの情報を掴んだテロリスト共だろう。

 

スザクはコイルガンのセーフティを外しており、すでに臨戦態勢だ、私もレイピアに手をかけたまま、ドアがいつ開いても良いように構える。

 

ドアが開き始め、向こう側に刃物が見えたところでレイピアを抜いて斬りかかった。

 

だが刃は届かず、入ってきた人物のレイピアによって阻まれた。

 

数回突きを放ってから一度距離をとる、かなりの手練れだな、そう感じてふたたび斬りかかろうとした時。

 

「お兄ちゃん………」

 

聞き覚えのある声が耳に入った、侵入者の顔をよく見る、私と同じ色の髪をドリルのようにまとめ、瞳は私と同じ色、そして私をお兄ちゃんと呼ぶのはこの世でただ1人。

 

「アーニャ、なのか……?」

 

「久しぶり、お兄ちゃん」

 

困惑する私にアーニャは優しく微笑んだ。

 

あぁ………いいな。

 

言いたいことが湧き上がってくる、だがうまく言葉にできず、レイピアを投げ捨てたことも気にせずにアーニャを抱きしめた。

 

「アーニャ……アーニャ!」

 

「お兄ちゃん…!!」

 

強く、強く抱きしめた、力の限り、アーニャの細く柔らかな体を包むように。

 

「すまないアーニャ、1年ほどで1度帰る予定だったのに、約束を破ってしまって……」

 

「気にしてない……今、私は幸せだから」

 

暖かい………ナナリーと抱き合った時とはまた違うぬくもり、『家族』の暖かさ、そうか、これがそうなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとしきり抱き合い、離れてからしばらく涙が止まらなかったアーニャを宥め、レイピアを拾い上げてから、アーニャと、一緒に来ていた護衛と思わしき青年を部屋に招き入れた。

 

「しかし驚いた、殺すつもりで突いたんだが、まさか弾かれるとは」

 

「マリアンヌ様に教えてもらった」

 

「マリアンヌ様にか!?う、羨ましいっ!」

 

「でもまだまだ半人前、今の私だとさっきのを弾くので精一杯」

 

そう言ってアーニャは右手を見せた、フルフルと震えている。

 

「証拠、まだ痺れてる」

 

「………痛くなかったか?」

 

「ちょっとだけ、でも平気」

 

「ごめんな、アーニャ」

 

「あっ……////」

 

アーニャの痺れと腫れが残る右手を両手で優しく包む、かわいい妹に怪我をさせてしまった私にできるのはこれくらいしかない、歯がゆい。

 

「お兄ちゃん、あったかい///」

 

「アーニャの手も、あったかいぞ」

 

「ポカポカ……///」

 

「あぁ、ポカポカだ」

 

アーニャと言葉を交わす、この何でもない時間が、充足感に満ちている、幸福だ。

 

「完全の2人っきりの空気だね……」

 

「そうだな……あ、俺はナイトオブスリーのジノ、ジノ・ヴァインベルグ、ジノでいいぜ」

 

「僕は枢木スザク、ユーフェミア様の騎士で、今はツキトの護衛だよ、よろしく」

 

「おう、よろしく頼むぜ………ところで、あれっていつ頃まで続くんだ?」

 

「…………経験則から言わせてもらうと、短くて40分」

 

「mjk」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見苦しいところを見せてしまったな、スザク、ジノ・ヴァインベルグ」

 

「お兄ちゃん…///」

 

「気にしてないよ、ツキト……(ナマケモノみたいにツキトにひっついてる)」

 

「俺も気にしてないぜ(なんか、得体の知れない恐怖を感じるぜ)」

 

アーニャを膝の上に座らせてお腹のあたりをさする、こうすると女の子は安心するのだとか、咲世子が言っていたな。

 

「さて、聞きたい事は色々あるんだが、まずは要件を聞こう」

 

「要件………つってもなぁ、今アールストレイムの膝の上にいるアーニャが原因でよ……」

 

「む………アーニャ?何かあったのか?」

 

「………お兄ちゃんに、会いたかったから………無理を言って、ここまで来た」

 

前半の言葉で心がとても暖かく感じたが、後半で一気に嫌な予感がしてきた。

 

「無理って……」

 

「皇帝陛下に……」

 

「…………」

 

「ごめんなさい、お兄ちゃん……」

 

驚きのあまり表情を変えれず言葉も出なかったために、アーニャが涙目になってしまった。

 

「まあ、そう謝ることでもないさ」

 

「でも……」

 

「こうなったのは私の責任でもある、こっちに来た時、アーニャに一声かけていれば、さみしい思いをさせずにすんだのだから………すまなかったな、アーニャ」

 

「お兄ちゃんは、悪くない、悪いのは私」

 

「じゃあ、おあいこだな」

 

「…………うん♫」

 

さすっている手とは逆の手で頭を優しく撫でる、ニコッと優しく微笑んだのを密着した肌で感じ取った。

 

「恋人みたいな雰囲気出してるとこ悪いけど、もういい時間だぜ?」

 

「そういえばそうか、アーニャ、そろそろ帰って寝なさい」

 

「いや、お兄ちゃんと一緒に寝る、確定事項」

 

「アーニャさん、その、ツキトも疲れてるし、早く寝ないと………」

 

「枢木スザクは黙ってて」

 

「はい(怖いなぁ)」

 

「はぁ…………わかったよアーニャ、一緒に寝ようか」

 

「うん♫」

 

「ジノ・ヴァインベルグ、妹が苦労をかける……すまない」

 

「気にすんなよ、アールストレイム」

 

結局、アーニャのワガママを聞くことにした、久しぶりの、実に10年ぶりくらいのアーニャのワガママだ、兄として聞かなくてどうするというのだ。

 

「じゃあ、ジノは帰って、枢木スザクも部屋から出て」

 

「え?……僕の寝るとこ……」

 

「安心しろってスザク、俺たちも部屋とってあるから」

 

「そ、そうかい、じゃあそっちに泊めてもらうよ」

 

「スザク………迷惑をかけるな」

 

「気にしないでよ、せっかくの兄妹水入らずなんだし、ゆっくりしなよ」

 

「ありがとう、スザク」

 

スザク………私は本当に良い友人を持った。

 

「お兄ちゃん、早く、ベッド」

 

「すぐ行くから、そう引っ張るんじゃないアーニャ」

 

「じゃあ僕達はこれで」

 

「あぁ、また明日」

 

スザクとジノ・ヴァインベルグを見送り、パジャマに着替えてアーニャとともにベッドに入る、なぜか目の前で着替えるように言われたが、何か気になることでもあったのか?きっと1人が寂しかったのだろう。

 

同じくパジャマに着替えたアーニャ(結局一緒に着替えた)と向かい合って横になる、部屋の明かりを消し、毛布を腰の位置までかけた。

 

「こうして寝るのも、久しぶりか」

 

「手、握って」

 

「ん、こうか?」

 

アーニャの差し出してきた手を握る、柔らかな感触が伝わってくる。

 

「違う」

 

「え?」

 

「こう」

 

アーニャは握った手を解いてから、再び握る、握りかたはさっきと違って指を絡ませる方向だ、いわゆる恋人繋ぎというもので、ナナリーによくせがまれる。

 

「こっちの方が、あったかい」

 

「なるほど………」

 

「それに……」

 

「まだ何かあるのか?」

 

「うん、お兄ちゃんのドキドキが、伝わってくるから……///」

 

「私にも、アーニャのドキドキが伝わってきてるぞ」

 

「あっ………///」

 

「…………ちょっと速くなったな」

 

「……お兄ちゃんが、かっこいいから///」

 

「ははは、ありがとう、嬉しいよアーニャ」

 

アーニャの鼓動を聞きつつ空いているほうの手で頭を撫でる、するとアーニャの頭がするりと動いて私の胸の中にすっぽり収まった。

 

「お兄ちゃん………お腹、痛い」

 

「っ!………さすろうか?」

 

「お願い………実はさっきから痛くて……」

 

「わかった、アーニャが眠るまでさするよ」

 

「ありがとう、お兄ちゃん………」

 

アーニャのお腹を優しくさすり、少しでも痛みを和らげられるように、さすった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーニャside

 

 

久しぶりにあったお兄ちゃんは、昔と変わらない優しさで、私を抱きしめてくれたし、膝の上に座っても嫌な顔ひとつせず、お腹を優しく撫でてくれた。

 

もしお兄ちゃんが、私の気持ちを知っててやってるんだとしたら、確信犯だけど、お兄ちゃんだったらなんでも許せる。

 

今もお兄ちゃんは私のお腹をさすってくれてる、丁度生理でお腹が痛くなって、お兄ちゃんの胸に埋まっちゃったせいでさするのがやり辛そうだけど、私が寝てると思ってるのか、手を繋いだままさすってくれている。

 

ずるいと思うけど、こうやってお兄ちゃんの胸に埋まってると、いい匂いがする、だから動けなくなっちゃったけど、別にいいよね。

 

「……アーニャ…………お前は、私の大事な…………」

 

ドキッ!とした、驚いて顔を上げる、お兄ちゃんの顔を見ると熟睡してるみたいだった、手を繋いだまま離さなず、私のお腹に手を置いたまま………。

 

「………おやすみ、お兄ちゃん」

 

呟いてからお兄ちゃんの胸に埋まる、こっちのほうが気持ち良く眠れると思ったから。

 

「……好き、愛してる…………」

 

眠ってしまう前にお兄ちゃんに向かってそう言う、聞いてないだろうけど、私の気持ちを伝えておきたかった。

 

私がお兄ちゃんのことが大好きだって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝日に目が覚めると時計を見る、ラウンズになってから早起きと時計を見る習慣がついた。

 

起き上がろうとして手に違和感を感じる、見るとお兄ちゃんの手と繋がってままだった。

 

寝る前まで繋いでいて、寝た後は話したと思っていたけど、お兄ちゃんの手と私の手は固く繋がっていた。

 

気恥ずかしさと嬉しさを同時に感じつつ、私はなぜか、不意にお兄ちゃんの報告書に関する事柄について思い出した。

 

 

 

 

〜〜〜数週間前、【ナイトオブシックス】アーニャの個室〜〜〜

 

 

 

 

お兄ちゃんが日本で生きてた、すぐにでも会いに行きたかった。

 

でもラウンズの仕事をほったらかして行ったらお兄ちゃんは絶対に怒る、だから休暇を貰ったらお兄ちゃんに会おうと決めた。

 

でもお兄ちゃんのことが気になって集中できないと困るから、お兄ちゃんの報告書という名目でお兄ちゃんの写真を送ってもらっている。

 

今日はお兄ちゃんの写真のほかに、お兄ちゃんの行動について書かれた報告書が来るはず、とても楽しみ。

 

コンコンとノックの音が聞こえた。

 

「なに?」

 

『アーニャ・アールストレイム卿、報告書の提出に参りました』

 

「今開ける」

 

ドアを開けると報告書を持った兵士の人が立っていた。

 

「ありがとう」

 

「はい………あ、よろしければ今夜ディナーを……」

 

報告書を受け取ってドアを閉める、ベッドに飛び込んで報告書をパラパラとめくってお兄ちゃんのページを読む。

 

今回のお兄ちゃんの写真は演説中の写真だ、紺色のラウンズの正装がとても良く似合っててカッコいい、右目の眼帯がミステリアスな雰囲気を醸し出してて、真剣な表情で演説する姿は雄々しく見える。

 

報告書の内容は相手がお兄ちゃんだとすれば至って普通のこと、何時から何時まで仕事、その後何時に家であるクラブハウスに帰って、どこの馬の骨とも知らない恋人と………。

 

ギリィッ……!!

 

危ない、歯が欠けるところだった、不細工な顔なんてお兄ちゃんに見せられない、気持ちを落ち着かせて、気をつけないと………。

 

気を落ち着かせて、報告書をめくる、お兄ちゃんの聞き取れた発言が載ってるページ、今回も充実してる………あ、このセリフカッコ良い、メモしておこ。

 

ある程度メモに書いて報告書をめくる、そこには今後のお兄ちゃんの予定が書かれていた。

 

「『閲覧不可』の日に本国に帰国………」

 

これだ、この日にお兄ちゃんに会いに行こう。

 

乗って来る飛行機、皇帝陛下の元まで行くのに通る道、乗って帰る飛行機、宿泊予定地、考えうることをメモに書き殴り、内線からそれらの調査をするように伝えた。

 

「お兄ちゃん………約束、覚えてるかな………?」

 

昔、別れの時に誓った約束………。

 

「………お兄ちゃん……抱きしめて、くれるかな?」

 

早く、私の体を、温めて………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【現在】

 

 

ツキトside

 

 

「お兄ちゃん、あれ、あれに乗りたい」

 

「わかったからそう引っ張るな、服が伸びる」

 

起きたと思ったらいきなりテーマパークに行くと言いだすアーニャ、ついて来いと言われれば兄としてついていかないわけにはいかないが………。

 

「………コワイ………コワイ………コワ………オェ"ッ」

 

「無理してジェットコースターに乗るからだ、それと、最後のは女子が出す声では無いぞ」

 

「ん………頭ぐるぐる、気持ち悪い、膝枕」

 

「わかった、そこのベンチまで歩け………そうにないな、肩を貸そう」

 

「ありがと………」

 

まあ、ナナリーのことは後だな、確かにナナリーは守るべき対象ではある、早く日本に行かなければいかないのもわかる、しかしだ、だからと言って、妹をほっぽり出していけるほど私は冷徹にはなれんのだ。

 

ベンチに腰掛けてアーニャの頭を私の膝下に持ってくるようにして体を横にした、いわゆる膝枕だ。

 

「……気持ちぃ…………」

 

「それはよかった、体調が戻るまでしばし横になっているといい」

 

「うん……………」

 

話している途中でアーニャがうとうとし始めた、寝てしまうと面倒なんだが………まあいいか、1時間ほどここでアーニャの寝顔を眺めてからこのテーマパークにあるホテルにチェックインすればいい。

 

幸いにも真夏の休日にもかかわらず人が少なめだ、1泊くらいは余裕で取れるだろう、金も存分にある。

 

何よりも久しぶりのアーニャとの時間だ、大事にしなければなるまい。

 

まあ、人が少なめとは言うものの、このテーマパークは国内でも人気のテーマパーク、特にカップルデート御用達の場所だ。

 

テーマパークに入ってから大抵4つグループにひとつはカップルのようだ、そして最も多いのは家族連れで、次にカップルという感じだ。

 

あとはまあ、友達連れだったり…………1人で来ていたりだな。

 

さて、アーニャが私の膝(といか腿)の上で眠り始めてまだ10分経つかどうかという時間なんだが、どうやら私とアーニャの容姿はテーマパークの職員や客の目を惹きつけてしまうようで、先ほどから目の前を通り過ぎる時にチラチラと見られている。

 

アーニャは言うまでもなく美人だ、私もまあ男としては落第点だが女子として見ればアーニャには劣るがそこそこ見た目はいい、おおよそ、私とアーニャが仲の良い双子の姉妹にでも見えているのだろう。

 

ナナリーやアーニャが聞けば怒るかもしれないが、同性であるからこそわかる悩みもあったのかもしれんな………。

 

だが、男として生まれたのだ、他の可能性など考えるだけ無駄だろう。

 

さて、いい加減視線が鬱陶しい、そろそろアーニャを起こしていくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーニャを起こしたあと少し回ってからホテルに戻ってきた、寝るにはまだまだ外が明るいが、アーニャはもう限界がきているようで、先ほどから船を漕いでいる。

 

「アーニャ、眠いのなら寝ておけ」

 

「ん……やっ………スンスン」

 

しかしどうあっても私から離れたくないのか、ベッドに腰掛け腕に抱きついて離れない。

 

匂いを嗅がれているのはこの際気にしない、いつもの私ならすぐにでも叱るところだが、眠そうなアーニャに怒鳴りつけるのはなぁ。

 

妹ということを抜きにしても、女の子だし………。

 

「はぁ………一緒に寝るか?」

 

「!……うん!」

 

言っといてなんだが、すごく気障っぽくて気持ち悪いな今のセリフ。

 

アーニャが気にしてないからいいか。

 

というか………一緒に寝ると決めたのはいいんだが…………昨日よりも密着している気が………。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん、どうし………んぅ!?」

 

く、口を塞がれた!?アーニャの口で!?

 

こ、これは俗に言うキス!だ、だが私とアーニャは兄妹だぞ!?なにかの間違いだよな?そうだよな?

 

「んぅ………お兄ちゃん大好き………」

 

「ちょおまえ!?」

 

うぇぇぇえええええ!?ちょっ、ちょっと待ってくれ、じゃあ今のキスって………。

 

「アーニャ、まさかお前………」

 

「……すぅ……………すぅ………」

 

………人の心引っ掻き回しといて気持ちよさそうに寝やがって……………はぁ。

 

実の妹からも惚れられるなんて、ついているのかついていないのか………ナナリーが好きと言ってくれた自分のすべてが嫌いになりそうだ………。

 

好かれることは嫌じゃない、むしろ兄として妹にここまで愛されていることはとても嬉しく思う。

 

異性として好かれているとなると話が違ってくるが…………。

 

「すぅ………」

 

「まぁ、そんなわけないか」

 

久しぶりに目一杯遊んだし、疲れて変な方向に考えてしまっただけ、それだけだ。

 

もしくは、私の心の中に愛されたいという願望でもあるのか、そんなとこか。

 

気持ち悪い妄想も終わりだ、もう寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ばか」




アーニャは作者的なランキングで3、4位に確実に入ります。


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許されざる『恋』はあるのか

ダンガンロンパ見てて遅れました。
カムクラ君が希望に溢れてて………んんんんんううううぅぅぅぅううううううん!!!


ツキトside

 

 

早朝の空港に立つ私、スザク、アーニャ、ヴァインベルグ。

 

機に乗り込む時間になったとき、アーニャがいきなり腕を掴んできた。

 

「アーニャ」

 

「………やっぱりやだ」

 

「あのなぁ………」

 

機に乗り込むのを妨害された、このやりとりはホテルやタクシーでもやっていて、なんどもなんども説得してここまでなんとかやってきたのだ。

 

スザクはこの光景に慣れたのか、微笑ましいものを見るような笑みを浮かべている。

 

逆にヴァインベルグは困惑混じりの苦笑いだ、自分の同僚がこんなブラコンじゃあ、そりゃそうだろうな。

 

にしても………。

 

「年明けのラウンズ同士の晩餐会でまた会えるんだからいいだろう?」

 

「年明けまであと3ヶ月もある、待てない」

 

「だから、待てたら言うことを何でも1つ聞いてやると………」

 

「じゃあ前借りして、あと1週間こっちにいて」

 

「できるかバカモン」

 

「じゃあキスして」むちゅー

 

「いい加減にしろ」ぽこんっ

 

「じゃあ…………セッ」

 

「………斬るぞ?」チャキッ

 

「ごめんなさい……」涙目

 

こんなわがままな子だっただろうか?妹だからいいものの、そこらの女ならここまで堪えてられないだろう。

 

アーニャのわがままくらい聞いてやりたいが、さすがに性行為はな……無理だ。

 

「むー………お兄ちゃんのケチ」

 

「ケチじゃないだろうに……そもそも、そんなやたらめったらキスなんてするもんじゃない、ましてや私とお前は兄妹だぞ?そのような行動は本来タブーだ」

 

「お兄ちゃんならむしろばっちこい」

 

どうしてこんな子に育ってしまったんだ………はぁ。

 

「はぁぁぁ………」

 

「どうしたの?キスする気になった?」

 

「なぜそこまでしてこだわる?何かわけでもあるのか?」

 

「お兄ちゃんが好きだから」

 

「だからな、私とお前は……」

 

「好きだから………」

 

「………ん?」

 

「お兄ちゃんが好きだから(恋愛的な意味で)」ポッ///

 

「………」

 

…………こういう時は、病院を進めたほうがいいのだろうか?

 

衝撃的すぎてもう何も言えん、さっきからやりとりを見てるスザクとヴァインベルグがすごいショックを受けた顔で硬直してしまっている。

 

私もお前たちと同じ顔ができたら幾分か楽だっただろうな………残念ながら私の顔の筋肉は疲れてもう動かんよ。

 

「お兄ちゃんが、好き………だから、離れたく、ない」

 

正直恋愛的に好きというのは驚いたが………嫌な気分はしない、近親者からの恋愛的な愛情というものは嫌悪感を抱くものといわれるが………むしろ嬉しく思うな。

 

っという私は異常者か?正常者だと思ってたんだがなぁ、いざ自分の異常性を知ると怖いものだな。

 

「気持ちは嬉しいが………お前にもラウンズとしての仕事があるはずだ、使命を全うしろ」

 

「………嫌じゃ、ないの?」

 

「そんなわけない、むしろ嬉しく思うぞ」

 

「本当?嘘じゃない?」

 

「お前のようなかわいい女の子に愛されるなんて、幸せ以外の何物でもないさ」

 

「……はぅ////」

 

「(………女誑しみたいだなアールストレイムって…………日本のほうにも何人か愛人がいるって噂だし………)」

 

「(ツキト…………さすがにモテ過ぎだよ)」

 

しかし、早くしないと機が出てしまう、それ以前にここは空港だ、人が少ない時間帯だからいいが、さすがに人目を集めてしまう。

 

「アーニャ、私とお前は繋がっている、どこにいても、私はお前と共にある」なでなで

 

「うん………///」

 

「離れていても、私たちは一緒だ」

 

ケータイを取り出して、えーと、アドレスは………あったあった。

 

「これが私のメールアドレスだ、いつでもメールしていいし、時間が取れれば電話もしよう、互いに交換しようか」

 

「それはとても魅力的……///」ポチポチ

 

ケータイを取り出してメールアドレスの交換をすませる、名前はシンプルにアーニャか、かわいいな。

 

「これで、私はアーニャといつでも、どこにいてもメールで話ができるな」

 

「お兄ちゃんとメール………」

 

惚けているアーニャの肩に手をおく。

 

「アーニャ、休暇が取れたら日本に来い、一緒に遊んだり、美味しいものを食べたり、綺麗な景色を見に行こう」

 

「お兄……ちゃん………」

 

「我慢、できるか?」

 

「………うん、我慢できる、お兄ちゃんに迷惑はかけない」

 

「よく言った、それでこそ私の愛しい妹だ」ギュッ

 

「あっ………あぅ////」

 

「(愛しいって言ったぞ!?おい!今愛しいって…………)」

 

「(残念だけど、これでほぼ素なんだよジノ)」

 

「(ウッソだろ………天然ジゴロって怖え………)」

 

「(ついでに言うとコーネリア様とユーフェミア様もツキトに惚れてるからね)」

 

「(おいおいおいおい!どこまで行く気なんだよ!?)」

 

「(ツキトに会った女の子の半分は惚れちゃってるから………)」

 

「((((;゚Д゚)))))))」

 

アーニャを抱きしめる、視線が集まるが、そんなもの知ったこっちゃない。

 

アーニャの気持ちを利用しているようで悪い気もするが、すでに多くの人間を見殺しにしてきた私が、今更この程度のことで戸惑うな。

 

「お前の仕事の成果、日本で楽しみに待っている、では、またな」

 

「う、うん………」ポ〜……

 

顔を赤に染めてフラフラしているアーニャを近くの椅子に座らせる。

 

「ヴァインベルグ、アーニャを任せた」

 

「へ?あ、おう」

 

「言っとくが、襲いでもしたら………」

 

「しないしない!しないって!」

 

「ならいい………いくぞスザク、もうあまり時間がない」

 

「あ、ちょっと置いてかないでツキト!」

 

早歩きで歩き始め、すぐに速度を落として足を止め振り向く、アーニャに言い忘れたことがあった。

 

「アーニャ」

 

「……なに?」

 

まだ顔が若干赤いアーニャにこう言った。

 

「次会った時は………そうだなぁ………キスしてやろうか?」

 

「………………………………………っっ!?!?!?」ボフンッ

 

「ふふふ、かわいいな…………ではまた、3ヶ月後に会おう」

 

あまりのことに頭が沸騰してしまったようだな、いちいち反応がかわいいなアーニャは。

 

踵を返し今度こそ機に乗り込む、ふらふらと危なっかしいアーニャを眺め、しばらくすると飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんと……キス……3ヶ月後に………キス」ポ〜…

 

「(アールストレイムやべえ!妹すら見境なしか!?恐ろしい奴だって聞いてたけど、マジかよ!?!?)」ガクブル

 

「ハッ………帰ったらメールしなきゃ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なにやら不愉快な想像をヴァインベルグあたりにされている気がする………。

 

「ツキト………」

 

「どうした?」

 

スザクが妙に真剣な顔つきだ、また悩み事か?

 

「その…………ブリタニアでは、妹と結婚できるのかい?」

 

「ハァ?妹と結婚なんぞできるわk…………おい待てスザク、お前まさか………」

 

「ちちちち違うよ!僕は別に!ツキトが妹と結婚するのかなぁ?なんて全然思ってないよ!」

 

「阿呆!そんなわけあるか!だいたい私には、ナナr………婚約者がいるのだぞ!?お前は私に重婚、それも近親婚しろと言うのか!?」

 

「ごめんツキト、そんなつもりじゃ………」

 

「………私もすまん、少し冷静になろう、お互いにな」

 

爆弾発言をぶっ込んできたスザクのおかげで、先ほどまでの煩悩を払い、スーッとリラックスしてきた頃に、スザクが口を開いた。

 

「ツキト、アーニャの気持ちはどうするつもりなんだい?」

 

「………たった1人の妹の思いを、無下にはしたくない、アーニャは私の最愛の妹だ、何か別の方向で思いに応えるべきだと思っている」

 

生まれた頃から一緒だった故か、他の女のように淡々と切り捨てるという選択ができない、未練がましい男だなまったく、私もまだまだ未熟だな。

 

「だが、そうするには互いの立場が………ラウンズという立ち位置が邪魔だ、近々枢機卿になることが決定してはいるが、それでは余計に行動の範囲が狭まるばかり…………自由を求めてここまで登ってきたが、逆に不自由とはな」

 

笑えてくるよまったく。

 

「なのに猶予は少ない、アーニャの状態から見ても我慢が効くのはおそらく1ヶ月と少し程度、3ヶ月後の晩餐会まで保たんだろう」

 

「よくわかるね、妹だからかな?」

 

「………まあ、よく似た知り合いがそんな感じだしな、ただの推測にすぎない」

 

よく似た知り合いとはもちろんナナリーだ。

 

「だからあんな約束を取り付けたわけだ、ああ言っておけば素直なアーニャは我慢しようと堪えるだろう……………結局は3ヶ月後に私がキスよりもひどい目にあうわけだが……」

 

「あぁ………アーニャってナナリータイプの子なんだ」

 

「ナナリータイプ?なんだそれは?」

 

「うんとね、押しが強い女の子」

 

「くすっ、納得だな」

 

どうやら、私は押しが強い女性には滅法モテるようだ。

 

そんなに私に防御力がないように見るのだろうか?実際低いから仕方ないか。

 

「アーニャのことでいつまでも悩んでいても仕方あるまい、今は一刻も早い日本エリア防衛軍の設立の方が先だ」

 

「そうだね、ツキト的にはどれくらいの規模にする予定なの?」

 

「現在の日本エリア全土の防衛戦力の1.2〜1.5倍ほどだ、練度も今よりも高い現地人兵士を育成し、各地に配属させる予定だ」

 

「となると、大々的な宣伝が必要だね、それも多くの日本人に好意を持ってくれるような良いものじゃないとね」

 

「その通りだ、スザクも頭が回るようになってきたな」

 

原作よりも頭が良くなってきたかな?もともと勘がいい奴だから、ちょっと補助すれば後はスイスイ行けるものなんだよスザクは。

 

スザクはナゾナゾや迷路が得意なタイプだ、コツが解ればすぐに解いてしまう、その点計算で動くルルーシュはスザクの倍はかかってしまったり、答えが間違っていることがあったっけか。

 

「ちょっと勉強しただけだよ、ツキトの助けになりたくてさ」

 

「嬉しいことを言ってくれるじゃないか、じゃあ早速スザクには大役を務めてもらおうか」

 

「大役?」

 

「日本人が求めるものは、あの時の式典である程度理解した、何にも縛られない『自由』、不安色の無い無色透明で透き通るように先が見える『明日』、そして………彼らの道標となる『英雄』の存在だ」

 

「『英雄』の存在……僕にそれを?」

 

「そうだ、一兵士から騎士となり多くの注目を集めている『救国の騎士』枢木スザクに、日本エリア防衛軍の指揮官を務めてもらう」

 

「僕に、指揮官!?しょ、正気かい!?そんな経験………」

 

「別に戦場の外から部隊を動かせとは言っていない、そんなもの彼らが求める英雄の姿では無い………彼らが求める英雄、それは戦場にて自らが一番槍となり味方を鼓舞し、勇気と希望を与える者………私はそう考えている」

 

日本においても、ブリタニアにおいても、ひとえに英雄足る者は、戦場を縦横無尽に駆り、単体で大軍を殲滅した者たちだ。

 

マリアンヌやナイトオブワンがそれにあたる、簡単に言えば一騎当千の存在こそ英雄と呼べる。

 

スザクもその力があるはず、無いのならつけてもらうだけのことだ。

 

「処理が面倒だから指揮官と呼称したが、要するに部隊長となんら変わり無い、スザクには戦闘の際、一番先頭に立って戦ってもらうというだけの話だ」

 

「なるほど、それくらいなら僕にもできそうだよ」

 

生か死かの戦場の一番槍を『それくらい』なんて普通言わんぞスザク、英雄の器に違いは無いが、とんでもないくらい豪胆だなぁ。

 

「人々を導く英雄………歴史上の偉人ならば、連合ができるより遥か昔、フランスという国家の戦乙女、ジャンヌ・ダルクが有名か」

 

「ジャンヌ・ダルク?いつの頃の人なんだい?」

 

「歴史書くらい流す程度でもいいから読んでおけ……………我がブリタニアがかつてユーロピアの地にあった頃、フランス国内の混乱に乗じて戦争を起こした、100年戦争と言われる多くの民に犠牲を強いた愚かな戦い、ちょうどその75年経ったあたりの1412年だ」

 

「へえ、すごい大昔の人なんだね、それでその人は何をしたの?」

 

「一応、ユーロピア連合のほうでは超がつく有名人で逸話も多い人物なんだが…………彼女は神の啓示に従いフランス軍に従軍し、当時のブリタニア軍と戦い勝利した、彼女のいる戦場ではいつも奇跡が起きたと言われ、死に体であったフランス軍が、ついにはブリタニア軍を押し返すほどの気勢を得ていた」

 

「そんなすごい人が………まさに英雄そのものの活躍っぷりだね」

 

「現在彼女は聖人として名を連ねている、ブリタニアは過去の歴史に否定的故に快く思っていない者も多いが、私は彼女のような国民誰にでも愛される英雄こそが好ましい」

 

敵のか味方のかさえわからぬような血に染まり、自国民からすら恐れられる英雄など、そんなものは英雄でもなんでもない、ただの殺戮者。

 

倒されるべき悪だ。

 

「しかし…………私自身がその悪とは、何たる……」

 

「?………どうかしたのかい?」

 

「あぁいや、独り言だ」

 

また声に出てたか、気をつけんとな。

 

しかし、スザクの前だから良かったものの、これがもしナナリーやアーニャの前だったらまずかったな、ナナリーやアーニャの前では絶えず気を張っておくようにしようか。

 

「ツキト」

 

最悪聞かれてもアーニャならまだ誤魔化しは………いや厳しいか、元よりアーニャは鋭いところがある、家族だからと気を抜くのは危険か。

 

しかし、もしばれてしまった場合は………。

 

「ツキト?………聞いてる?」

 

「………口封じするより他ないか」

 

「!?………ツキト、口封じってなんだい?」

 

「……!?」

 

しまった!?言ったそばからこれか!クソ!なんて軽いんだ私の口は!!

 

「スザク、今のは言葉の綾で」

 

「時折ツキトが見せる悩んでいる表情や、行き先を告げずにどこかにふらっと出かけることがあるって、それで不安だってナナリーから相談されたことがあるんだ」

 

「ほう?ナナリーから?」

 

ナナリーめ、スザクに釘をさしたな、私が不審な行動を起こした時にブロックできるようにしやがったか。

 

つくづくルルーシュの妹だな、まったく。

 

「悩んでいるのはルルーシュやナナリーの今後のことで、ふらっとどこか出かけるのはちょっと口に出せない買い物をしたりしているからだ、怪しいことなどしておらんよ」

 

「…………嘘はついてない?」

 

「あぁ、嘘をつく理由がない、私が浮気でもしているなら別だが、買い物の際は咲世子が隣にいるんだ」

 

ナナリーや咲世子と比べたら世の女なぞすべて等しく下位になる。

 

「買い物っていうのは何を買っているんだい?」

 

「………この際だから言うが、私にはファッションセンスが皆無でな、咲世子に選んでもらっているんだ」

 

「あ………確かにナナリーには言えないよね」

 

「情けない話だ…………誰にも言うなよ」

 

「言わないよ、ツキトの頼みなんだから」

 

あはは、と笑うスザク、誤魔化せたようで一安心だ。

 

(完璧超人なツキトにも、こういう弱点があるっていうのがわかると、なんていうか………遠慮しなくていいっていうか、気負わずにいられる、なんだかおかしいけど、嬉しいな」

 

………スザク、口に出てるぞ………………。

 

「………あれ?ツキト、顔赤いけど、風邪でも引いた?」

 

「………お前のせいだぞ////」

 

「……………えっ?」

 

気まずくなって会話が途切れる、ちょうど良く睡魔が襲ってきたので抵抗することなく身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

noside

 

 

場所は変わって、昼を過ぎ放課後の教室にて、1人席に座りメガネをかけ、柔らかな長髪をポニーテールにして文学書を読む人、アッシュフォード学園中等部の女神、もしくはワルキューレ(ヴァルキュリア)とも呼ばれる女生徒、ナナリー・ランペルージ。

 

彼女は婚約者であるツキト・アールストレイム不在による、ここ最近続く中等部・高等部(稀に初等部)の告白ラッシュとツキト・アールストレイムへの決闘の取り付けラッシュに、温厚で知られ女神と謳われる彼女の精神にも限界が来ていた。

 

告白ラッシュはまだわからないでもない。

 

ツキト・アールストレイムという家柄良し私財良し将来性良し顔良し性格良しの歩く超優良物件が、今はブリタニア本国へ出張中、落ち込むナナリーをこの機に口説いて……言い方はあれだが寝取れる可能性もなきにしもあらずだからだ。

 

しかし、それはナナリーの心に大きく左右されるところが大きい。

 

ツキトへの想いの強さが、そこらの雑多の男のナナリーへの想いを大きく上回っているため、ナナリーは揺らぐことはないのだ。

 

決闘の取り付けラッシュに関しては、落ち込んだナナリーを寝取ってしまおうなどいう軟弱者と違い、ツキトと剣を交えて納得させようというものだ、剣を嗜むツキトに剣で勝利すれば、自分こそナナリーのフィアンセとして相応しいのだと主張できる。

 

だが残念、かなしきかな、ツキトに純粋な剣の試合で勝てるのはナナリーくらいで、ルール無用の殺し合いともあれば、相打ち覚悟で咲世子くらいしか勝算がなく、まだ誰も知らないがツキトは不老不死の肉体を持っている、時間をかけて戦ったところで再生されるため、結局は咲世子でも勝つのは厳しいのだ。

 

ナナリーはツキトが剣の試合では実力が制限されることもあり、ルールの設定等はツキトに一任するならば、という条件付きで一応受け取りはしているが、賢い男や勘の鋭い男はこの危険性を早急に察知、結果数名の自信満々な脳筋がもれなく生贄に捧げられてしまった。

 

「ナ、ナナリー、ケーキ買ってきたんだけど………一緒に食べない?」

 

「………はい、いただきます」

 

「「「「「(ホッ……)」」」」」

 

親友マリーの気遣いあって、女神は堕天せずに保っていられるが、それもいつまで持つのか。

 

ミレイの気遣いで生徒会を休むよう言われ、部活のほうにエネルギーやストレスをぶつけようと思っていたナナリーだったが、身が入らずに部長に許可を取って休んでいる。

 

女子フェンシング部部長曰く、ナナリーのコンディションは見たことがないほどに悪いため、そこも理由としてあるのだろう。

 

机をくっつけてマリーが売店で買ってきたアッシュフォード学園名物のケーキをナナリーの前に置いた。

 

「美味しそうですね」

 

「なんて言ったってこの学園1番のケーキだしね」

 

「そうなんですか?」

 

「私も結構食べるんだけどね?これがすっごく美味しくて………」

 

「太っちゃったんですね」

 

「そーそー、体重計乗ったら2キロも………って違ぁああああう!!何言わせんのよナナリー!」プンプン

 

「くすっ、言ったのはマリーさんじゃないですか」

 

マリーのノリツッコミに笑みを浮かべるナナリー、ようやく戻ってきたか?とマリーは思い、このままテンションを上げていくことに。

 

「あーこの薄情者!私だけ恥をかくなんてズルイ!罰としてナナリーの体重を一般公開!」

 

「別にいいですよ、ツキトさんにはすでに知られてますし」

 

「え?まじ?」

 

「はい、あ、あと身長とかスリーサイズとか、とにかく教えられることは全部ですね」

 

「えぇー………」

 

「「「「「(スリーサイズ!?)」」」」」ガタタッ

 

唐突な大暴露にドン引きするマリー、スリーサイズで盛り上がりすぐさま妄想に浸り始める男子達、今この教室は混沌と化した。

 

教えられた時ツキトはそれはもう見事な土下座をかましたそうな。

 

「?……何かおかしかったですか?」

 

「いやいやいやいやいやいや!!普通におかしいから!この学園のどんなカップルでもそんなことしないわよ!」

 

「そうでしょうか?好きな人に自分のことをより深く知って欲しいと思うのは、当然だと思うのですけど」

 

その理屈がわからないわけじゃないんだけどさぁ………とでもいいそうな女生徒達の微妙な表情にナナリーは首をコテンと傾げる。

 

だが、なんだかんだ言ってナナリーの感情が上向きになっているのはいいことである。

 

そしてここでナナリーにとって朗報が、一部にとっては悲報がナナリーに届けられる。

 

ケーキを食べ終わった頃、突如として壊れるんじゃないかと思わせる音を響かせて教室のドア、向こう側には中等部3年生のナナリーの後輩、2年生の女子フェンシング部部員が膝をついていた。

 

「申し上げます!!ナナリー先輩の婚約者、ツキト・アールストレイムさんが帰還なされましタァッ!」

 

「っ!!」ダッ

 

聞くや否や教室から飛び出していくナナリー、校舎を飛び出したところでスザクと並んで歩くツキトを見つけ手を振る。

 

「ツキトさーーーーん!」

 

気づいたツキトは手を振り返してくる、隣のスザクも手を振っている。

 

ここまでなら感動の再会で済む、しかしそんなわけがない。

 

「………」

 

瞬間、ナナリーの表情が無になり、走っていたのから歩きに変わり、じきに止まった。

 

ツキトの背中からひょこっと、小さな少女が出てきたからだ。

 




この兄妹もうだめみたいですねぇ…………まあ、兄妹姉弟に惚れるのは珍しくないし、多少はね?
でも多少じゃすまないほど愛が深いんだよなぁ。
さあて、謎の少女とはいったい!?それ以前にツキトハーレムはどうなっていくか!?


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新たなる『転生者』

さあ、新キャラの登場だ。



ツキトside

 

 

私は今ひっっっじょおおおおおおおおおおに、不愉快な気分だ。

 

「改めまして、昨日付でツキト・アールストレイム卿の秘書とさせていただくクレア・マインドと言います」

 

「クレア・マインドか………よろしく」

 

昨日はあのあとナナリーにこいつの説明で時間を食うし、こいつが帰ったあと色々と怒られるし、なぜか決闘の申し込みなんてものが来てるし、まったく何もかもこの阿婆擦れのせいだ!

 

秘書ダァ?冗談じゃない、そんなものあのくそったれゴミ屑の純血派どもの言ったことだろうが!!

 

バキィッ!!

 

「ひっ!?」

 

「む?ああすまん、どうやら疲れてしまっているようだ、今日はもう帰ってくれ」

 

大方、私が番外のラウンズで本来あるべき補助役がいない(親衛隊など)ことをいいことに、ここぞとばかりに息の掛かった粗大ゴミをぶち込んできやがった。

 

しかもご丁寧にすでに日本エリアへ送ってしまったなどどフザケタことをぬかしやがってエエエエエエエエエエエエエエ!!!!

 

おかげでボールペンを折ってしまった、安物だが高いんだぞ!!血税だぞくそったれが!!

 

「い、いえ、まだ午前の9時です、勤務中なのでそれは……」

 

チッ

 

「そうだったな、では君にはこの書類を頼む」

 

「わかりました」

 

適当な書類を押し付けて、私は日本エリア防衛軍設立の発表のための原稿を考えなくては。

 

広報部と連携するために、彼らにも伝えた上で資料作成を手伝ってもらうことにした。

 

ある程度終わったところで資料を封筒に入れて広報部に向かおうとし。

 

「お待ちくださいアールストレイム卿」

 

阿婆擦れに止められた。

 

「なんだ?」

 

「資料の搬送なら私が………」

 

「いやいい、個人的なことだ、気にするな」

 

「しかしアールストレイム卿、雑用であるなら私に」

 

「だから良いと言っている、そもそもお前にはあの仕事を頼んだはずだ」

 

「………出過ぎたことを言ってしまい、申し訳ありません」

 

「理解力があるようで助かる」

 

それだけ言い残して広報部へと足を運んだ。

 

広報部に入るとビシッとした敬礼をされる、答礼しつつ資料を渡した。

 

「これは………」

 

「いずれ訪れる強大な敵に対する抑止力…………平たく言えば、猟犬部隊の拡大版だな」

 

「私たちは何をすればよろしいのでしょうか?」

 

「まだ企画の段階ではあるが実行へ移すつもりだ、諸君らには広報部としての能力を全力で活用してもらいたい」

 

「了解しました、納得のいくものを仕上げてみせます」

 

広報部担当の兵士は資料に目を通し、私にとって満足のいく返答をして敬礼をした。

 

「頼んだぞ、日本エリアのこれからは諸君らにかかっているのだから」

 

「はっ!………あ、その、アールストレイム卿」

 

「ん?」

 

帰ろうとしたところを呼び止められた。

 

「実は、アールストレイム卿に関する記事がいくつもあがっています」

 

「それくらいいつものことだろう」

 

「その、内容が………とりあえずご覧ください」

 

「?」

 

手渡されたのは新聞紙や雑誌等もろもろ、いずれも見出しは私の名前か。

 

パラパラと捲る。

 

【アールストレイム兄妹の関係に迫る!!】

 

【アールストレイム兄妹禁断の愛!?】

 

【女誑しラウンズ、ツキト・アールストレイムについて】

 

ふむ、私とアーニャの関係についての記事か、近親相姦だの一方的な愛だの、言いたい放題だな。

 

まあこうなってしまうのは予想はできていた、ただまあ、どの雑誌の出版社も本国にあるものだ、私に対する牽制、だろうな。

 

「ふむ、面白いことをやってくれているようじゃないか」

 

「あの、このような記事が国民に浸透しますとアールストレイム卿の信用に差し障ります」

 

「では、私にどうしろと?」

 

「差し出がましいようですが、会見を開くことを提案します」

 

この言葉は私の身を案じているようで、その実さきほど与えた資料にある日本エリア防衛軍の設立を強く思っているからだろうな。

 

あの阿婆擦れよりも秘書向きだな。

 

「なるほど、だが、このような情報が出回り始めてすぐに会見を開き、情報を否定しては、まるで知られたくなかった出来事なのだと思われてしまうのではないか?」

 

「そうではありますが………現在ネット掲示板においてアールストレイム卿の妹様に関しての誹謗中傷が書き込まれており、妹様のブログにも被害が出ています、事態を静めるためにも、緊急会見を開くことを再度提案します」

 

アーニャ………お前絶対ブログに私のこと書いただろ………。

 

「そういう言い方をされるとな………わかった、早いうちにやっておこう、というわけで午後に会見を開く、時間は広報部の諸君が決めてくれ」

 

「はっ!各所に連絡が取れ次第行います」

 

「準備ができたら私か、もしくは秘書の阿婆擦r………女に伝えておいてくれ」

 

「わかりました」

 

大まかに決めて広報部の部屋から出て行く、ふむ、私を前にして冷静な判断力………あの阿婆擦れよりよほど秘書向けだ、名前を聞いておけばよかったか。

 

まあ、広報部担当のままでいるようなら無理に引き抜く必要もないか、枠に収まらないほどの器なら迷わず引っ張ってくるんだが。

 

いかんせん、私の物差しでは世の中のあらゆる名器も、雑貨屋の食器コーナーに積まれた数多の量産品のひとつにしか見えない。

 

特筆して代わり映えしないのだ、だから、本当に欲する物こそ真に手に入らない。

 

………愚痴ったところで始まらん、さっさと部屋に戻ってスーツに着替えて、話す内容でも考えておくか。

 

と言っても、広報部あたりが原稿を用意してそうだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クレアside

 

 

初めて会った時は、非常に警戒されている印象、翌日の今日はうっとおしがられている印象。

 

完全に失敗したとしか言えないわね、ハァ。

 

私は転生者、性別は女で、車に轢かれて転生………なーんて良くあるテンプレ系の転生者よ。

 

名前はクレア・マインド、前世では本条流子、コードギアスの世界に転生してルルーシュと結婚して玉の輿、のつもりだったんだけど………。

 

まさかもう1人、ヤバそうな見た目にヤバそうな特典もらってそうな転生者がいるなんて、ついてないわ。

 

ナイトオブラウンズのアウトナンバー、13の番号と自由に行動できる権利を与えられた、例外中の例外のラウンズ、アールストレイム家次期当主筆頭、ツキト・アールストレイム。

 

旧イレブン、現在の日本エリアにおいて圧倒的な支持率を誇り、エリア総督のコーネリア様以上の求心力を持つ謎多き男。

 

優秀な人材を確保できる能力、他人種にも寛容であり、日本人のみで構成される私設部隊の猟犬部隊を設立、ゲットー周辺の整備など、日本エリアの復興に向け尽力する姿から愛されている。

 

性格は極端で短気、気に入らないものは放っておくか即座に殲滅するかの2択、沸点が非常に低いという報告も上がっている、親しい者には過保護になる傾向にある。

 

恋人がいるため人質も有効か。

 

剣の実力はかなりのもので、不意打ちでもない限り手傷を負わせることは難しい。

 

テンプレだったら、この男はfateの無限の剣製とか、アクセラレータのベクトル操作能力とか、めだかボックスのキャラの能力を持ってるとか、そんな感じだろうけど。

 

特に目立ったことは聞かないし、そもそも生身で戦うこと少ないからまったくわからないわ。

 

もしかすると専用のKMFを持ってるとかかもしれないわね、そうなると厄介極まりないわ。

 

でも………それなら私のほうに分があるわ。

 

私の特典、それは【未来予知】!

 

ナイトオブワンのギアスと似てるけどちょっと違うのよ、あれは極近未来を予知する能力だけど、私のはもっっと遠い未来を見ることができる!

 

具体的には凡そ1年後の私とその周囲の状況、そして大きなイベントの起こる時、この2つよ。

 

この能力を使って色々やってきたから異例の早さで昇進も出来た、怪我もすること少なかったわ、大きなイベントの予知はとても助かったわ、1年以内の出来事は予知できないのよね、1年とちょっとくらいの範囲なのよ。

 

3、4年くらい前から急にアールストレイムの行動が予知されて、近づくための方法、秘書になるための方法も大きなイベントとして予知できた。

 

今までやってきた実績もあってとりあえずそこそこの権力者の秘書にはすぐになれた、そこからコツコツやって、今やっと辿り着いた。

 

と思ったらこの警戒のされ具合、予知である程度はわかってたけど、まさかこれほどなんて………一応任務って形で来てるから、何かしら純血派に情報上げとかないと、秘書でいられなくなってしまう。

 

せっかく色々とやってルルーシュと繋がりのある人物と知り合え、その人物の監視の任務というていで日本まで来たっていうのに超絶警戒されてるし………最悪よ、もう。

 

愚痴ったとこで始まらないわ、アールストレイムは回りくどいこと嫌いそうだし、いっそもう転生者だってことを正直に言ったほうがいいかもしれないわね。

 

そう決めたところでアールストレイムが帰って来た。

 

「お帰りなさいませ」

 

「あぁ、作業を続けてくれ」

 

相変わらず素っ気ない。

 

まずは現状を変えないといけないわ、勇気を出すのよクレア!

 

「アールストレイム卿、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

 

「構わない、何の用かね?」

 

私は自分が転生者であること、秘書になったのはルルーシュと恋仲、強いては結婚するために日本に来る必要があり、かつルルーシュと親しい人物と知り合いになる必要があったからだと説明した。

 

そのために神様特典の未来予知を使ってここに来たと言った。

 

アールストレイムは真剣な表情で話しを聞いていた、転生者とか未来予知とかの話しを笑うこともなかった。

 

話を終えた直後、アールストレイムが口を開いた。

 

「話は理解した、理解したうえで私も言おう、私も君と同様転生者だ、特典はコード保持者を問答無用で殺せる能力、それから前世の身体能力と技術の引き継ぎだ」

 

「随分優遇されてますね……」

 

神様ですら扱いに差をつける……こんな世の中じゃー。

 

「私の特典が通用するのは実質2人しかおらんしな、それに前世では純日本人で剣術を学んでいたから、感覚を無駄にしないためにも引き継ぎだ、あとタメ口でいいぞ」

 

「そう?じゃあタメ口で、敬語って結構疲れるのよね、気を使ったりしなきゃだし」

 

「その通りだ、私も幼少の頃から絶え間無く陛下や陛下の血族と接したせいで敬語でしか話せんようになってしまった、今はまだマシになったがな」

 

気がつけばアールストレイムが淹れてくれた紅茶(美味しい)を飲みながら世間話をしていた。

 

同族に会え、敵対することもなかったアールストレイムへの安心感か、今までの私を知っているブリタニア人が見たらビックリするくらい怠けている。

 

「そういえば、年は幾つなの?私は前世含めて39よ」

 

「私は前世含め115だ」

 

「おじいちゃんじゃないの………」

 

「長生きしたからな、ひ孫の顔まで覚えているぞ」

 

「どんだけ生命力あんのよ」

 

「2人の妻と毎日ハッスルする程度には」

 

「重婚してたの!?あんた日本人よね!?」

 

「無論、純日本人だ、元がつくがな………愛する女性が2人いて、互いの同意の元で結ばれたのだ、だから何の問題あるまい?」

 

情報や噂通り、というかそれ以上の人間だったことが図らずしてわかってしまった。

 

「とんでもない女誑しねあんた……」

 

「そう言うな、これでも前世は存在自体が誠実で愛の深い人間だったんだぞ?」

 

「いやいや想像できないってそんなの、ってか誠実なんだったらどっちか1人に絞りなさいよ」

 

「どっちか1人を取ったとして、もう1人が何処の馬の骨とも知らん男にやりたくなかったからしょうがない」

 

「せじゃなくて独占欲の塊じゃないの、私なら、もし、2人の異性を同時に好きになって、2人の異性から告白されたなら……悩んで悩んで、悩み切って、どちらか1人を選ぶわ」

 

「確かにそれも正しいのだろう………だが私は、どちらかを選び、どちらかを選ばなかった時、選ばれなかった彼女の悲しい顔を見たくなかった…………ふふっ、私は弱い、友人や家族に強い強いと言われているが、私ほどに弱い奴などおるまい…………女性の悲しい顔を見たくなかったがために、選べなかったのだから」

 

な、なんだか一気に重くなったわ、ど、どうしましょう?さっきは自分の中にある恋愛像っていうか希望っていうかそんな感じのを言っただけで、私自身に恋愛経験はないのよお!?

 

こういう時って慰めるのがいいの?それとも『甘ったれんじゃないわよ!』とか言って説教?うぅ〜〜、わからないわ。

 

「ま、それも前世のことだ、今はブリタニア人でしかも重婚にもある程度寛容だ、重婚しても別に悪くはないだろう」

 

「チッタァ反省しろい!!!」ブンッ

 

「危ないではないか」パシッ

 

思わずタウ◯ページの角で殴りかかってしまったのは仕方ない、でもなんでもないように表情を変えずに片手で止められたのは納得いかないわ。

 

「ハァ、まあいいわ」

 

「………ふむ、時にクレア、何か特技はないか?」

 

「は?特技?」

 

「あぁ、この際だから言うが、私はルルーシュとナナリーに近い場所にいる、物理的にも精神的にもな、そうなると従僕である私は2人を時には楽しませることも仕事のうちある」

 

「…………あ、なるほど」

 

「ん?」

 

「あぁいや、私の未来予知で見えたことなんだけど、誰かに私の特技を伝授するーみたいなことが予知できてさ、多分これかなって」

 

「ふーん」

 

もうちょっと興味ありそうな反応してくれないかしら!?

 

「それじゃあ私の特技なんだけど、前世で小さい頃からやってた、というかやらされてた糸繰り人形の操作よ」

 

「糸繰り人形?」

 

「フランス語でマリオネット、て言えばわかるかしら?」

 

「それならわかる」

 

「私はマリオネットを自在に動かせるわ、どれくらいかっていうと、剣を持たせた人形同士で斬り合いができるくらいかしら」

 

「おぉ!それは面白そうだ」

 

お、食いついたわ、このハーレムスケベジジイ。

 

「………なあ、今とても失礼なことを考えなかったか?」

 

「気のせいよ………さっき言った剣を持たせた人形同士で斬り合いができるのは、せいぜい片手で操れる小さいやつだけ、大きいやつだと両手で、かつ息のあった相手がいないと無理ね」

 

「それでも動かせるのだろう?今度私に教えてくれないか?」

 

「え?仕事あるんじゃないの?」

 

「番外のラウンズに仕事なんて言えるものはほぼ無い、こうやって、地方のエリアの政治に口出しして、そのお目溢しをいただいているに過ぎん」

 

「つまり?」

 

「ここ(総督府)にいるだけの給料泥棒だ」

 

「そう言うとただの屑よねあんた」

 

本当にハリボテのラウンズね。

 

「まあ、ルルーシュ様とナナリー様の生活の為ならば、後ろ指さされようが構わないが………というかクレア、ルルーシュ様とナナリー様のことは何があっても秘密だぞ?今はまだ存在を秘匿していて、時が来るまで準備中なのだから」

 

あー、なるほど、こいつが頑張ってるのはルルーシュとナナリーのためだったのね。

 

今考えるとこいつの出した政策って、日本エリアの治安回復に繋がってる、それに黒の騎士団との共存で支持率も高くしている。

 

これはルルーシュとナナリーが皇族復帰後も日本エリアでの定住を望んだ場合を考えて、現地の日本人の感情を良い方向に持って行っているのね。

 

確かに犯罪の発生率は数年前と比べれば雲泥の差、ゲットーの瓦礫撤去と病院設置後は出生率も高くなってきている。

 

市場ができてモノとお金が流通しているし、格安のアパートの建築によって新しい家庭を築きやすくなった。

 

これだけ手厚くやっていれば、アールストレイムの支持率だけじゃなく、その主のルルーシュやナナリーが皇族に復帰したとき、ルルーシュとナナリーの支持率もアールストレイムの支持率に便乗して高くなる。

 

将来をしっかり見据えてよく考えてある………そしていよいよルルーシュを皇帝に、ナナリーを日本エリア総督に推薦する。

 

原作ではシュナイゼルすら凌ぐルルーシュなら問題なく皇帝になれる。

 

ナナリーはアールストレイムの便乗効果で支持率がもともと高いんだから、反発者はほぼ無いと言えるわ、抑圧ではなく、共存の政策を行ってきた日本エリアで再び抑圧の政策を取れば黒の騎士団が黙ってないだろうし。

 

そもそも黒の騎士団はルルーシュの軍隊だしなおのことね。

 

改めて考えてみると、アールストレイムマジやばいわね。

 

「わかってるわよ、今ルルーシュとナナリーのことがバレると面倒だってことくらい………でもいいの?原作から剥離しているとはいえ、シュナイゼルあたりが2人に勘付いてそうだけど」

 

「あいつはルルーシュ様が殺すから問題はない、だが確かに、シュナイゼルから他の人間に情報が流れたら厄介だな」

 

「ま、面倒なことにならないように、適当に報告書を書いといてやるわよ」

 

「あぁ、そういやクレアはスパイだったか」

 

「そうよ、あ、見返りは私のことをルルーシュに売り込んでくれればいいわ」

 

「それだけでいいのか?人形の操作と情報操作に見合わないと思うのだが」

 

いやむしろこっちのセリフ、人形の操作と嘘の情報を流す見返りが次期皇帝とお近づきになれる権利とか………やばいわ。

 

「私が転生した目的はルルーシュと結婚して平和に暮らすことなのよ、それにいずれは皇帝になるんだから、玉の輿も狙えるわ」

 

「強かだな………だが、ルルーシュ様の妃はそれくらい強かでなくてはならん、わかった、ルルーシュ様にはそれとなくクレアをアピールしておこう、デートのセッティングは任せろ」

 

おぉ?アールストレイムには意外と好印象みたいね。

 

「任せたわよ、それじゃ………書類整理に戻るわね」

 

「あぁ、その書類が終わったら、この連絡先にメールしてくれ、私は少し出て来る」

 

そう言ってメールアドレスの書かれた紙を渡される、いやこれって赤外線で交換した方が早くない?

 

変なとこアナログよね……。

 

「わかったわ、行ってきなさいな」

 

「うむ、ではな」

 

部屋から出て行くアールストレイム、先ほどまで止まることなく会話していたの静寂が久しい。

 

時計を見ると1時間が経っていた、書類の山を見る。

 

…………まあ、今日中には、いけるかしら?

 




クレア・マインド
性別:女性
年齢:19歳
身長:167cm
体重:秘密よ
スリーサイズ:捻り潰すわよ
仕事:ツキト・アールストレイム卿の秘書
特記事項:転生者

ルルーシュと結婚してキャッキャウフフしたくて転生した、前世では人形劇をやりながらサーカスで生計を立てる一家の娘として人形について教育させられた、おかげで幼くしてプロ顔負けの技術を会得した。
しかし近所の幼稚園で人形劇を行なった後、帰り道で車に轢かれて死亡。
テンプレよろしく転生、転生後は特典の未来予知能力で上手く生きてきた。
ツキトを転生者と見て自分は転生者であると打ち明け、ツキトの邪険にするような態度が一転、気の許せる友のように接するようになった。
ツキトに対してはお姉さんのように偉ぶって見たりするかわいい(?)一面も。
前世では経験無し、なので39歳の独身処女ということになる


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『愛』とは『何』だ?

サイコブレイクのRTAすっげぇ面白かったぞ。
見とけよ見とけよ。


ツキトside

 

 

「…………であるからして、私と、私の妹であるアーニャ・アールストレイムの間に肉体関係は無いと断言しよう」

 

予想以上に多くの報道陣が集まった緊急会見、ながながとアーニャとの関係を喋る、自分と妹は普通に仲の良い兄妹であることを強く強調する。

 

「アールストレイム卿!現在アールストレイム卿と交際中の女性がいると聞きますが、それは誰ですか?」

 

「相手はまだ学生の身だ、話すことはできん」

 

「アッシュフォード学園に在学されているみたいですが、本当ですか?」

 

「さあ?どうだろうな?」

 

「アールストレイム卿が同性愛者であるという噂がありますが、それについて何か」

 

「同性愛か………ふむ、なるほど、なかなか面白いじゃないか」

 

「み、認めるのですか!?」

 

食いつきがよすぎるぞお前。

 

「私はな、愛した人と添い遂げられるならば、そこに性別は関係ないと考えている……だから同性愛も異性愛も否定したり差別したりはせんよ」

 

「交際中の相手というのは愛人でしょうか?」

 

「その人は私が真に愛する人だ、決して愛人などではない」

 

「本国においてアールストレイム卿を反逆者と呼ぶ人がいますが?それについてコメントをお願いします」

 

「言いたいのなら言わせておけばいい、安全な場所から叫んでるだけの臆病者風情にかまけている暇など無い………ただまあ、私の邪魔をすればどうなるか……………とでも書いといてくれれば良い」

 

「一部でアールストレイム卿が実は女性であるという説が浮上しています、説明を!」

 

「私が男か、それとも女か…………その質問に何の意味があるのだね?私は私だ、ナイトオブサーティーン、ツキト・アールストレイムだ、それ以上でもそれ以下でも無い」

 

ほとんどドウデモイイ質問ばかり、まったく面倒だ。

 

「時間となりました、皆様御退出願います」

 

広報部の人員が粘る報道陣を部屋の外に追いやる、それを壇上から眺める。

 

はぁ、疲れた、帰りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………で、こっちの方はこんな感じね」

 

「ふむ、近いうちに視察でもしておくか」

 

「しかしあんた、相当なシスコンじゃないの、聞いたわよ?遊園地でイチャイチャしてたとか、空港で抱きしめたとか、キザにキスしてやるとか言ったとか」

 

「まあ、その、私もまだガキだったというかな………あとキザにはやっていない」

 

歳を重ね、精神年齢がいくつになっても人肌が恋しい。

 

「別にいいわよ、苦情の処理が大変だってこと以外は」

 

「すまないなクレア、仕事を増やしてしまって」

 

「別に良いわよ、私の仕事は基本雑用とあんたのスケジュールの調整をするだけなんだし」

 

午前中ですっかり打ち解けたクレアは、なんだかんだ面倒見の良い女のようだ、これなら面倒臭い性格のルルーシュも即堕ちだろう。

 

「でもさ、仮にもラウンズが近親相姦疑われるようなことをしていいの?」

 

「そう言われるとキツイな……だが、父母が権力や金にしか目がいかない屑になりつつある今、アーニャ以外の家族を愛せないのだ」

 

最近はめっきり両親からの手紙がこなくなった、もとより自己顕示欲の強い人がだったが、家の名よりも私個人の名が広まることに危機感を募らせつつあるのだろう。

 

「何というか………ごめんね」

 

「まあ、両親など転生者である私からすれば、ただの血の繋がった他人だ、そう気にしとらん…………それよりも、さっそく人形について………」

 

「いやいや、モノがないから無理よ、それに前世ではそれこそ手足の如く動かせたけども、転生してからは触る時間なんて無かったし……」

 

「そうなのか?ふむ、ではモノはこちらで用意しよう、良い感じのものを探しておいてくれ、買っておくから」

 

「いいわ、動かしやすいものを選定に時間かかるけどいい?」

 

「構わん、そこまで急いでいるわけではないしな」

 

半分は道楽だしな。

 

「それでは頼んだ、私は少し寝る」

 

「仕事しなさいよ」

 

「帰ったらナナリー様のご機嫌伺い、明日明後日は休暇だがおそらくナナリー様とのデートで潰れるだろうから………今のうちに寝ておく」

 

「………帰ってきたの昨日よね?ハードスケジュール過ぎない?ってか主にナナリーのことじゃない?っていうか付き合ってるの?」

 

「一応ある程度の身体能力を引き継いでいるから、ここで寝て万全にしとくというだけだ、あと疑問に答えるなら、ナナリー様とは婚約させていただいているぞ」

 

「今更だけど身体能力や技術まで引き継げるとかズルいわよ、ってか婚約してるのね、おめでとう」

 

祝われると素直に嬉しいな。

 

「ありがとう、クレアも人形の技術を引き継いでいるんだろう?というかそろそろ名前で呼んでくれないか?」

 

私だけ名前呼びしてるとか少し寂しいというか、物悲しさを感じるというか。

 

「あーはいはい、じゃあツキトでいい?」

 

「うむ、2人の時はそれで………あぁ、あとC.C.がいる時もそれでいいぞ」

 

「あれ?C.C.いたんだ?」

 

「まあな、原作通りではないが私が保護してルルーシュ様の側近という位置付けで騎士団に紹介させた」

 

「へえー…………ん?原作が剥離しまくってるのってツキトのせい?」

 

「そうだ」

 

「ふーん」

 

「どうでも良さそうだな」

 

「別に?たださ、原作通りだったらユーフェミアは死んでたんだし、それを無かったことにしたっていうのは私的にポイント高いわ」

 

「ユーフェミア様はナナリー様と同様に心優しきお方だ、日本エリアをなんとかしたいと思い、平和的方法で行動に移したのはユーフェミア様とナナリー様しかいない………いずれはユーフェミア様とナナリー様には日本エリアにおいて象徴的な存在となっていただくために、色々と小細工をしただけだ」

 

「なるほどねえ、じゃあ今のルルーシュって…………」

 

「無礼な物言いをさせて貰えば、正真正銘ただの男子高校生だ、原作よりも性に対しやや寛容になったくらいだろう、ブリタニア………主にシュナイゼルへの憎悪が恐ろしく大きい」

 

「ルルーシュってブリタニア皇帝が憎いんじゃなかったの?もしかしなくても対象をすり替えた?シュナイゼルが死んでもあのカマホモとオデュッセウスくらいしか悲しまなそうだけど」

 

「うむ、シュナイゼルが死んだところで他の皇族が繰り上がるだけ、大々的な葬儀をして、教科書に名前が載って終わりだ………しかし陛下が死亡すればそれだけで次期皇帝の座を巡り戦争になる、陛下の死によって日本エリアが戦乱に巻き込まれるのは、ルルーシュ様もナナリー様も本意ではないだろうからな」

 

「そういう意味ではナイスフォローね、でもギアス無しでシュナイゼルをどうこう出来るの?シュナイゼルの実力は知らないけど、常にカマホモが護衛についてるわけだし、策はあるの?」

 

いやに詳しく聞きたがるな、クレアもシュナイゼルが嫌いなのか。

 

それとも、計画にのってルルーシュに近づくつもりか、どちらにせよ味方になるなら好都合。

 

「そこで、コードの不死性を利用する」

 

「C.C.を?格闘ができるようには到底見えないけど………」

 

「こういうことだ」

 

眼帯をズラしてコード保持者の証を見せる。

 

「ハァッ!?ちょあんた、え!?」

 

「聞きたいことはわかっている、順番に答えるから少し落ち着け」

 

驚愕のあまりパニックを起こしかけるクレアを落ち着かせてから話に戻る。

 

「まず私がコード保持者を殺せる特典を持ちながらにして、なぜコードを継承したのか?………これについてはコード保持者の先輩であるC.C.によると不明らしい、ただ仮説を立てるとすれば、行き場を失ったコード自体の意思が、消滅することを恐れて近くにいた私に移った、と考えられるそうだ」

 

落ち着きを取り戻したクレアは、ふむふむとうなづき理解を示した。

 

共通の知識があるとこうまで話が通じるのか、素晴らしい理解の早さで助かる。

 

「2つ目、では私の中にあるコードは、その効力………ギアスを与えたり不老不死であるのか?………ギアスを与えられるかは試したことがないから不明だが、不老不死についてはもう7、8年以上の付き合いとなる、その威力のほどは体が知っている」

 

「………参考までに、何回死んだの?」

 

「聞きたいかね?29回だ」

 

「うわぁ………」

 

「おい、引くんじゃない」

 

「いや、でもさあ…………さすがにね」

 

ドン引きしつつそう返すクレアに若干の苛立ちを覚えながら話をつづける。

 

「とりあえずは以上だな、特にこれといった根拠のあるものでも無いが、しかしこれらの仮説以外にこれといったものもないし、一応納得しといてくれ」

 

「さっきの仮説で納得しとくわ」

 

「助かる」

 

しばらく雑談を交わし、良い時間になってきたので帰宅の準備を始めた。

 

「もう帰るの?ってか寝ないの?」

 

「あぁ、今日は慣れないことで疲れたからな、ベッドで寝ることにする」

 

「そう、あ、これ終わったらメール送るわね」

 

「ん、終わったら帰っていいぞ、特に緊急の用事もないからな」

 

「そう、それじゃまた明日」

 

「また明日だ」

 

そんなこんなで帰宅すると、ナナリーが仁王立ちして只ならぬプレッシャーを発していた。

 

「た、ただいま戻りました」

 

「………ツキトさん、お話があります」

 

「な、何でしょう、か?」

 

お、押されている!?この私がか!?ナナリーのプレッシャーに気圧されているだと!?

 

「これは何ですか?」

 

ゆっくりとした動作でナナリーが突き出したのは新聞紙、震える指先で掴んでその表紙を見る。

 

【禁断恋愛発覚!アールストレイム兄妹の熱烈抱擁!】という謳い文句と私とアーニャが抱きしめ合う写真がデカデカと掲載されていた。

 

『日本エリア(旧エリア11)よりブリタニア本国に召喚されたツキト・アールストレイム。

激務との数日間の格闘を終えたの休暇を、最愛の妹と評するアーニャ・アールストレイムと兄妹水入らずで過ごした。

アールストレイム兄妹はテーマパークで仲睦まじい様子で遊んで周り、ホテルへと帰る数時間前には、何やら怪しい関係性を垣間見れた……(膝枕をするアールストレイム兄妹の写真)。

翌日、空港に現れたアールストレイム兄妹とユーフェミア・リ・ブリタニアの騎士である枢木スザク、アールストレイム兄妹と同じくラウンズであるジノ・ヴァインベルグ……(並んで歩く一同の写真)。

そこでツキト・アールストレイムを見送るはずのアーニャ・アールストレイムだったが、別れを惜しんでか、何度も引き止めてはツキト・アールストレイムに宥められるシーンがあった………(困った顔のツキトとしょんぼり顔のアーニャの写真)。

アーニャ・アールストレイムを、兄であるツキト・アールストレイムはラウンズとしての使命を果たすように激励し、「愛しい」と言いながら熱い抱擁を行なった。

去り際に次に会った時にキスをする約束を取り付け、ツキト・アールストレイムは微笑みをアーニャ・アールストレイムに向けて日本エリアへと戻った。』

 

という記事が書かれており、内容は分かる通り、私とアーニャが如何にも怪しい関係………というより如何にも肉体関係にあるような書き方だな。

 

実際ハグとかはする中だが、それくらい兄妹なら当たり前にするんじゃないだろうか?

 

「ツキトさん、私は信じてます、だから正直に話してください」

 

ナナリーが顔を上げる、泣きはらしたかのように目元が赤く、涙の通り道ができていた。

 

「ツキトさんは、私のことを、愛してくれていますか?」

 

ナナリーの酷く悲痛な声が耳に飛び込んできた。

 

「ど、どういう意味でしょうか?」

 

意味がわからない、私はしっかりとナナリーを………。

 

「ツキトさん、私は、ナナリーは最近はわからなくなってしまいました………ツキトさんがお仕事で会う人に向ける笑顔、スザクさんに向ける笑顔、ユフィ姉様に向ける笑顔、咲世子さんに向ける笑顔、お兄様に向ける笑顔、そして私に向けてくれる笑顔…………そのどれもが、同じに見えてしまったんです」

 

「それは………」

 

「変、ですよね、私………人によって顔の形が変わるわけでもないのに………それで、私のことは他の人と同じくらいにしか見てない、なんて勝手に思い込んで……馬鹿ですよね」

 

正気の失せた瞳から涙が溢れて止まる様子はない。

 

ああ、私はなんてことをしてしまったのだ。

 

あれ程に守ると誓ったくせに、何をしているんだ。

 

抑えられない衝動に、理性が塗りつぶされていく。

 

もう、自制なんて効かない。

 

心が染まった。

 

短く息を吸い込む。

 

「変なんかじゃ、ないよ」

 

「……ツキトさん」

 

ギュッ、と正面から軽い力で抱きしめる。

 

「ナナリーは昔から心配性なところがあるのは知ってた、だから心配させちゃったのは、僕の責任だ」

 

「でも………私なんて、いつも迷惑ばかりかけて……」

 

「僕がいつ迷惑だって言ったの?僕は思ったことをすぐに言っちゃうって知ってるでしょ?」

 

「それは、でも……」

 

「確かに、ちょっと驚いたりしたこともあるよ?いきなり縛られたり、いきなりキスされたり、あと、えっち、の時とか、さ」

 

「あああああああああれは、その、私、本当に……」

 

「でもね、僕は驚いただけで迷惑だとは思ったことはないよ、だってさあ……」

 

私は本心を口に出した。

 

「……ナナリーと付き合って、結婚まで出来るんだよ?こんなに嬉しいこと、他にないよ」

 

「へにゃ!?」

 

「あ、その顔可愛い、あとで写真撮ってもいい?待ち受けにするから」

 

「だ、だめです!こんなだらしない顔ツキトさんに見せられません!」

 

「うーん、無理かあ………じゃあ、こうして」

 

抱きしめる力を強める。

 

「えっ!?」

 

「かわいすぎてもう我慢できなくなりそうだし、強く抱きしめさせてもらうね」

 

もうこのままエッチまで行きそうだなあ〜、もう理性壊れてるしなぁ。

 

「今日のツキトさん、何か変です……んっ」

 

「そうかな?………そうかもね、今までずっと我慢してきたからね、知ってた?僕みたいな男はね、本当は女の子をメチャクチャに犯し尽くしたいって常に思ってるんだよ?わかってる?ナナリーが可愛い顔とエッチな声で僕を誘惑するたびに、表向きは断りながら頭の中ではその顔をぐちゃぐちゃにしてやりたいって思ってたんだよ?裸で迫って来た時なんて押し倒してナナリーが失神しちゃうまで中出しセッ◯スしたいって思ってたんだよ?でもしなかったんだよ、だってそれで妊娠しちゃったら、ナナリーの体に大きな大きな負担がかかっちゃうからね、子供を産むって物凄く体力を使うんだよ、知ってた?僕はもちろん知ってたよ、だっていつかナナリーと夫婦になった時に何も知らないでナナリーを妊娠させちゃって、それが原因でナナリーが死んじゃったら僕は後追いで自殺しなきゃいけないからね、僕はそんなの嫌だ、僕はナナリーと一緒に世界中の色々なところを見て回りたい、婚前旅行はどこ行こうか?とか、新婚旅行はどこに行く?とか、結婚1周年記念のパーティには誰を招待しよう?とか、それでナナリーって友達多いよね?だから結婚式とかで招待する人数が多くなっちゃうから大きくて広いホールを借りなきゃいけないだろうし…………長くなっちゃったけど、言いたいのは1つだけ、僕の持ってるものは全部はナナリーにあげる、ってことだけ」

 

「……………………………そ、それは、その、どういう意味でしょうか?」

 

話についていけなくてフリーズしちゃってたけど中盤までの話の内容を理解して赤面しつつ質問するナナリーが可愛すぎる。

 

襲おう(確定)。

 

「そのままの意味だよ、僕の私有財産、僕の肉体、僕の命、全部をナナリーにあげる」

 

「え??えっ??」

 

「だーかーらー、僕のこれからの人生、その全てをナナリーにあげる」

 

一度抱きしめていた両腕をほどき、ナナリーの顔を挟み込むようにしてデコとデコをくっつける。

 

「ゲームで言うなら、僕は呪いの装備、ナナリーはもう僕を外せないんだよ?」

 

「ふふっ、外せないんですね、うふふ…………私も、外す気はありませんからね」

 

このまま可愛いすぎるナナリーとメチャクチャ……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

noside

 

 

クラブハウス内の物陰

 

「…………なんとお声かけすればよろしいのでしょうか?」

 

「そっとしておこう、せっかく2人が本心をさらけ出して話し合ったんだ」

 

「しかしルルーシュ様、このままですとナナリー様もツキトさんもリビングでおっぱじめることになりますが」

 

「………………」

 

「そういえばルルーシュ様、近くに有名な喫茶店が開いたそうです、私でよろしければご一緒していただけませんか?」

 

「あ、ああ、じゃあそこに行こうか」

 

ナナリーとツキトが【V8!V8!V8!】している間、2人は喫茶店で過ごした。




作者「マアアァァァァァァァァ!!!(疲れからくる雄叫び)」
ツキト「どうかされましたか?」
作者「はい!展開に困って、スケコマシ男の娘クズ系主人公にしたてやg………したてあ………してしまったのですが!」
ツキト「ブチ殺すぞテメェ」
作者「ファッ!?」


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『愛』と『向き合え』

ツキトside

 

 

無し………無し!無し!無し!もう全部無しだ!

 

ブリタニアのために反乱軍を組織する?ブリタニアのために私自身の人生を捧げる?

 

国家の永遠の安寧のため………その程度のものに?たかだか、その程度のもののために?

 

時が過ぎればいくらでも革命が起きてしまうだろう、それをさせないために何百何千年と守護する?何千何万と見守り続ける?

 

ハッ、馬鹿馬鹿しいし阿呆らしい、そんなもの夢物語でしかないではないか。

 

私はようやく気づいた、目が覚めた。

 

愛する者を差し置いて国の未来の心配など、それでは前世の私………人の気持ちを重視していた頃のような私では無いではないか。

 

いや、それ以上に害悪なる思想だ。

 

これではナナリーやアーニャたちを幸せになどできない、できるはずがない。

 

もうやめだ、国家への忠義?そんなものなんの役に立つ?

 

「真に必要なのは………愛だ」

 

愛…………そう、愛だ。

 

愛無くして我が身無し!

 

私は常に愛され続けてきた、幼い頃は親戚や皇族から、少年と呼べる年齢にはルルーシュやナナリーやスザクやアーニャなど同世代から、そして今は咲世子を始めとした多くの人間の愛を受けている。

 

中でもナナリーとアーニャからは、特別に大きな愛を受けた…………これに応えずして、私は何様のつもりなんだ?何が転生者様だ?

 

たかだかちょっと面白い転生特典を貰って、前世のチート身体能力を受け継いで、コードの力で不死身・不老不死の最強無敵の騎士気取りか?

 

…………面白くなさ過ぎて愛想笑いも出んぞ、なんだこれは?なんだこの体たらくは?

 

強さを貪欲に求めてきた前世のあの強い私はどこに行った?不死身・不老不死の力を得て、肉体が劣化しないのをいいことに鍛錬をしないなど…………剣士として余りにも愚か!愚の骨頂であろうが!!

 

認めねばなるまい、今の私が如何に不死身であろうと、前世の私には遠く及ばぬ程の弱者へと成り下がってしまったのは確か!

 

思えばあの時!ナナリーとの非公式な決闘の時もそうであった。

 

なぜ手を抜いた?なぜあそこまで愛を向けてくれる人を裏切るようにおちょくった?なぜだ?

 

ひとえに、それは私自身が弱者であったからに過ぎない!

 

ブリタニア皇帝の思想など無関係に、私は強者という椅子から自分から飛び降りていたのだ!

 

前世での私は、2人の女性の愛に応えるために、自らを高め続けていた、届かぬかも知れんとは刹那も考えず、ただただ己を高めていたはずだ。

 

今の私の肉体は、前世での最高の状態を受け継いでいるのだろう。

 

だからと言ってそこで終わりにしてどうする?

 

守ると決めたのであろう?誓ったのであろう?ナナリーを傷つける有象無象を殲滅するためならば、その障害は何であれ粉砕し駆けつけるのだと。

 

そうだろう!ツキト・アールストレイム(私)よ!!!

 

ならばやることは決まっているはずだ!

 

私は物覚えが悪かった、だから鍛錬も非効率極まりないものばかりであった。

 

それこそ剣をひたすらに振り続けたこともあった。

 

だが今の私はそれすらしようとしていない。

 

変わるのだ、私は、弱者のままではナナリーは守れない。

 

強くなるのだ!【強くなるため】に強くなるのだ!

 

チラリと時計を見る、3時半過ぎ………早起きしてしまって5時半までまだ時間がある。

 

以前の私なら二度寝していたであろう、だが前世の私なら?この2時間弱で何をする?

 

寝ているナナリーの頭を軽く撫で、シャワーを浴び、パジャマから運動のし易い服装に着替えて木刀を持ってクラブハウスを出る。

 

茂みに入り、準備運動をしつつ誰もいないことを確認し、久しぶりすぎる鍛錬を始める。

 

木刀を構え、振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

ナナリーです、今日はなんか目が覚めてしまって隣にツキトさんがいなかったので探すついでにお散歩でも………と思ってクラブハウスの外へ出てみました。

 

秋が近づく9月ともなると、早朝の時間は肌寒く感じます、手を擦りながら茂みの中を歩いていると、風切り音が聞こえてきました。

 

のぞいて見るとツキトさんが木刀を振っているようでした、上半身がサラシだけで上半身裸とも言える格好で、汗だらけになって木刀を振っていました。

 

「18989…………18890…………18891…………」

 

そこで私は思考が止まりました。

 

ツキトさんがあんなに汗だくになって必死に特訓してるところなんて、アリエス宮でしか見たことがなかったからです。

 

あの時のツキトさんは、剣の師匠の………えっと、師匠さんに勝つと楽しそうに言ってました。

 

でも日本に来てからのツキトさんは、どこか退屈しているような、私との決闘も上の空でどこか別の人を見ている気がしました。

 

私はそっと胸をなで下ろす、私が力になれたのかはわからないけど、ツキトさんがあんなに楽しそうに特訓を始めたってことは、きっと何か目標を見つけたということ。

 

それはきっと素敵なことなんでしょう、私は婚約者として、ツキトさんが目標に近づけるようにお手伝いしてあげなくちゃですね!

 

じゃあ、邪魔しちゃ悪いですし、ここから汗だくサラシオンリーのツキトさんを眺めることにしましょう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

20000!……何やら邪な視線を感じた気もするが、目標は達成したな。

 

まだ時間はある、なら振り続けるのみ。

 

「フンッ!………フンッ!………」

 

いかに身体能力を受け継いでいようとも、やはり20000回も振れば速度もキレも落ちてくるし綺麗に振ることが出来ない。

 

左右上下にふらつく剣先を気合いで抑えて振る、身体能力が落ちない肉体で助かった、弱くなっていたら目も当てられない。

 

……………21000!

 

ここで時計を見る、最初の1000回の倍近い時間を使ってしまった、コードによる回復無しではこの程度か…………。

 

しばらくはコードに頼らない体の使い方をしなくてはならんな。

 

さて、いい時間だし、シャワーを浴びて私服に着替えて、昨日の真夜中にナナリーと約束したデートの支度をしないとな。

 

汗を拭い、脱いだ上着を羽織って歩く、肌寒くなって来たが今はこの風がちょうど良く体を冷ましてくれている。

 

さて、熱めのシャワーで汗と疲れを流してしまおうか。

 

シャワーを浴びた後のデートの支度は結構かかった、私服に着替えて財布を持っていくだけ………では無く、髪を結い上げ眼帯を外してカラーコンタクトを入れて………とにかくナナリーの隣に相応しい格好になるのに時間がかかった。

 

ナナリーを待たせるのはいかん、すぐに出ようか。

 

クラブハウスの外に出る、すぐそこには可愛らしく着飾ったナナリーがいた。

 

「遅いですよ、ツキトさん」

 

「ごめんごめん、あとでパフェおごるから、それで許してくれないかな?」

 

「一緒に食べてくれるなら許してあげます」

 

「ありがとうナナリー、それじゃ行こっか!」

 

「はい!」

 

今まで事務的なデートばかりだったが、今日からは違う、今までのように全力でナナリーを喜ばせるのでは無い、全力でナナリーと楽しむのだ!

 

「今日はどこに行こうか?」

 

「そうですね…………あっ、服屋さんを見に行きたいんですけど、良いですか?」

 

「良いよ、今日は買い物デートだね」

 

「はい♫」

 

商店街を歩いてショッピングモールに向かう、途中で美味しそうな食べ物を見つけては足を止めて見た目から感想を言ったり、綺麗なグラスを見つけてはルルーシュに似合うんじゃないかと笑い合ったりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

ナナリーです♫なんだか今日のツキトさんは良い意味で変です♫

 

普段はやらない朝早くからの運動をしていましたし、デートの最初から昔のような優しい口調で、無理をしている感じもなく自然体でした。

 

歩きながら話してくれているツキトさんの喋り方も、躓くことなくすらすらと喋れています。

 

今はゲットーに近いところにある肉まん屋さんに立ち寄っています、小腹が空いたので、ちょっとだけ………。

 

あ、でも太っちゃったら嫌われて……………。

 

「う〜ん……肉まんかあんまんか………ナナリーはどっちがいいと思う?」

 

「えっ………あ、あんまんですね」

 

「ん、じゃあ………〈あんまん1つと肉まん1つください〉」

 

〈おぉ!?日本語が上手い兄ちゃんだな〉

 

〈友達に日本人がいるんですよ〉

 

〈ほぉ、そりゃいい、その友達と仲良くしてやってくれよ〉

 

〈ええ、もちろん〉

 

〈おし!んじゃあこのピザまんをサービスだ!今後もご贔屓に!〉

 

〈ありがとうございます!〉

 

うぅ………日本語ではちょっとしかわかりません………。

 

「はい、ナナリー、あんまんだよ」

 

「ありがとうございますツキトさん」

 

「良いよ、あ、熱いから気をつけてね」

 

「はい……………あの」

 

「んむぅ?」

 

肉まんにかぶりついてぽけっとした顔をするツキトさん、写メ撮ればよかったです……。

 

「私に、日本語を教えてくれませんか?」

 

「急にどうしたの?」

 

「その、やっぱり私も日本語を話せた方がいいかなって思いまして」

 

「………うん!そういうことなら大歓迎だよ!」

 

や、やりました!これでツキトさんと日本語でもお話ができます!共通の話題を増やして、今まで以上にラブラブになっちゃいます!

 

(ナナリーも変わろうと努力している………私も頑張らなくては!)

 

なにか、ズレた認識をされた気がします………?

 

でも……昨日のツキトさんが本当の姿、素の状態なのなら…………ある意味、昨日の夜のエッチが初めて、ということになるのでしょうか?

 

誘ったのは私ですし、押し倒したのも私ですけど…………あの時の素のツキトさんに主導権を握られて、知らないうちに意識もとんでいて………////

 

「ナナリー?どうしたの?あんまん冷えちゃうよ?」

 

「ひゃっ」

 

ずいっと覗き込んできた心配そうなツキトさんの顔にちょっとびっくりしちゃいました。

 

「いえ、少し思ったんです、今日のデートが本当の意味で初めてなんだなって」

 

距離を置いて、ツキトさんは近くの公園のベンチに座って、自分の隣のスペースをぽんぽんと叩きました。

 

それは隣に座ってという合図、私はツキトさんの隣に座りました。

 

「………そうかもしれないね、今まで僕は自分を取り繕っていたからね、ナナリーにとって都合の良いカレシ役を演じてた」

 

視線は地面を向いていて、固定したまま話し始めました。

 

「今も、ですか?」

 

「ううん、ナナリーのおかげで目が覚めた、ナナリーを楽しませるだけなんて、そんなのサーカスの団員でもできることだ………気づいたんだよ、大事なのは………」

 

…………昨日の夜のことで意地悪したい気分です、ちょっと意地悪しちゃいましょうか。

 

「「一緒に楽しむこと」」

 

はっとした顔でこっちを振り向く、頰が緩む、きっと私は悪戯が成功した子供みたいな顔をしているでしょうね。

 

ツキトさんはいつものような誰にでも向ける微笑みではなく、とても柔らかく優しい笑顔を向け、次いでムッとしたような顔をすると。

 

「ナナリーの意地悪……」

 

と拗ねたように言いました。

 

………もう襲ってもいいですか?

 

「ふふふっ、昨日の夜、激しくした罰です」

 

「やったな?今夜は手加減しないからねっ」

 

ちょっと頰を染めて、恥ずかしく思いながら仕返しするようにそう言っちゃうツキトさん本当に可愛いので襲っちゃってもいいですか!?

 

いいですよねぇ!?

 

「強がってみても似合わないですよ?」

 

「むぅ……」

 

可愛いぃぃ!!

 

ぷくーって!ぷくーってしてますよツキトさんのほっぺが!柔らかほっぺがぷくーって!!

 

ツキトさーん、不満げな顔も頰がちょっと赤いせいで怖くないですよー、逆に可愛さのバフ効果ありまくりですよー。

 

私が存在ごと蒸発しちゃいますよー?いいんですかー?襲いますね(確定)。

 

「ふぅ、ごちそうさま、ちょっと休んでこっか」

 

「そうですね」

 

あんまんを完食してツキトさんにそう返す。

 

どうして露天で売ってる食べ物って、小さい物が大きく見えたり、大きい物が小さく見えたりするんでしょうか?

 

さっき完食したあんまんは露天のガラス越しには小さく見えたのに、食べ終わってみると結構お腹にずっしりと…………カロリーのほう大丈夫でしょうか?

 

ふと、右手に何かが触れました、柔らかくて優しい肌触り、心地よいと感じる程良く熱を持った、血の通った何か、続いて熱の無い冷たい金属………その両方。

 

最初に触れたのはツキトさんの左手、絡めるように握られたその手は意外と小さく、私と大差無い大きさで、でもこの世で一番頼れる人の手だって、すぐにわかりました。

 

冷たい金属は、ツキトさんの左手薬指にはめられた私とお揃いの婚約指輪。

 

ツキトさんの顔を見ると、とても穏やかな表情で、見ているとこっちの方がドキドキしてしまうような………もうドキドキしてましたね。

 

しっかり指輪をつけていてくれたことにキュンとしてしまいます。

 

それにこの手の繋ぎ方…………今夜はオーケー、ということですね!?

 

「そろそろ行こうか?」

 

「はい………あっ、ツキトさん、あっちに何か……」

 

今日はツキトさんの暖かさを感じたい気分ですし。

 

「あれは………何だろうね、行ってみようか?」

 

「はい!」

 

握った手を離さないように、見つけた新しい何かへ向かって歩き出す。

 

この何でも無い日常が、新しいスタートになりますように。




以前のツキト
【ブリタニアへの忠義のためならば、私の身はどうなっても構わない。ブリタニアの繁栄のためならば、ルルーシュやナナリーが多少不幸になっても気にしない。ルルーシュとナナリーは幸せにする。】

はい、こんな感じでした。
国のためとあらばルルーシュやナナリーを利用してやるという面と、しかし反面ルルーシュとナナリーは絶対に幸せにしてみせる。
という真逆の考えがありました。

今回のツキト
【ルルーシュやナナリーを含め、私を愛してくれる者たちへ報いるために頑張ろう。誰かのため、などという言い訳は辞めだ。私は、強者となる。】

お前は誰だ(迫真)
ナナリーの言葉が効いて邪な考えが吹き飛び、バトル物の主人公の如く鍛錬を積もうと努力を始めました。
今までの主人や友人さえ駒として考え、ナナリーの気持ちを体裁だけとって無視し続ける弱い自分との決別。


こうしてツキトは、前世のような心身ともに強い自分を目指し鍛錬を始め、そしてナナリーやアーニャたちの愛に真摯に答えていこうと誓いました。
さて、これは足枷となるのか、それとも……。









ついでに、3話でルルーシュを黒のKとして例えたのは伏線みたいなものです。
いやぁ、伏線回収ってキモティですね。


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人物紹介パート・トゥー

今回は比較的、オーソドックスな人物紹介となっております。
2000文字ちょっとなので手軽にお楽しみいただけるでしょう。


人物紹介パート・トゥー

 

 

クレア・マインド

 

 

前世、今世ともに性別が女の転生者。

神に、前世は中の上、今世は上の中くらいの顔にしてもらった。

代償として、前世では強固だった胸部装甲は削られた。

とは言うものの、劣化ユーフェミア程度にはデカイ。

1年後の未来と重要なイベント・分岐点を予知できる能力を神から貰っている。

この能力によって見たことは、転生者やイレギュラーが変えようとしない限り絶対にその通りになる。

(例え、予知ではユーフェミアは死んでいるが、ツキトがいろいろやったためしななかったなど)

転生者仲間であり、敵対しない限り潰し合いなど微塵も考えていないようで、戦闘能力は高くはない。

マリオネットが得意で、最大2体まで体の一部と同じように動かせる。

ルルーシュが好きで、転生の理由もそれで、余計なことに巻き込まれて死にたくない&ルルーシュと上手く付き合いたい、という願いの元で転生得点をもらうという、なかなかに珍しい(?)存在。

主にツキトのツッコミ役。

 

 

ツキト・アールストレイム

 

 

本作の主人公。

恐れ多いナイトオブラウンズが1人であり番外であり伝承的には呪われた末席、13の称号を持ち、次期枢機卿の椅子が確定している見た目は男の娘の少年。

剣術においてマリアンヌに、総合的な戦闘能力において咲世子に劣る。

一人称は私、大衆に対しては自らを尊大で傲慢な人間に見せる(ように努力しているが、見た目のせいで可愛いと思われてしまっている)、ナナリーやユーフェミア、コーネリアなどの女性に対しては幼少期に使っていた一人称の僕を(稀に)使用する。

また非常に短気、どれくらい短気かと言うと、ナナリーやアーニャを馬鹿にしたら次の瞬間には存在ごと滅されるくらい短気。

変装、特に女装が得意で、見た目だけでなく声すらも自由自在のまさにドッペルゲンガーの如し。

男女問わず初恋ブレイカー。

私、の時は年不相応かつ威圧感を含み、物言いも尊大かつ横暴……しかし近しいものにはそれが緩和される。

僕、の時は年相応な少年になる(ただし変態になる)。

オレンジさんに習い『忠義!全力!』であったが、矛盾に気づき方向転換、今は『愛だよ愛!』になった。

ナナリーとアーニャが好き過ぎるって、はっきりわかんだね。

近しい人物からは、

・優しい(一部限定的な皇族、ツキトラヴァーズ)

・かっこいい(主にナナリーら皇族ズやアーニャ)

・かわいい(主にナナリーら皇族ズ)

・面倒見が良い(ルルーシュ、咲世子など)

・頑固者(大多数の人)

・小さい(かわいい的な意味で)

…………など、肯定的な意見が多い。

一方反対派やアッシュフォード学園の男子生徒の一部からは、

・ロリコン(主にナナリーとの交際によるもの)

・ショタコン(ゲットーなどにおける子供達との交流によるもの)

・シスコン(アーニャにゃんにゃん)

・ホモ(スザクとのやり取りを見た第三者によるもの)

・実は女(性別について明言していないため)

・実は男(性別についてry)

・実はふたなり(性別ry)

・愛人多数で誠実とは言えない(反対派等による妨害工作、なお成果の程は……)

・天使を汚した悪魔(アッシュフォード学園の一部男子生徒の嫉妬)

・小さい(侮辱的な意味で)

………などと言われるが、それに対しての反応は、『そう(無関心)』。

と、ここまでまるで外面だけ見れば完璧超人なツキト・アールストレイムであるが、何を隠そう!メンタル面は最弱クラス、にも関わらず脳筋バトルジャンキーなのだ。

お前なんなんだよ本当(呆れ)。

 

 

「なぁ作者よ、ところどころで棘があるような『はい!じゃあ次!』

 

 

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア

 

 

コードギアス〜叛逆のルルーシュ〜、の主人公。

ギアス無しの代わりに原作以上の身体能力を手にした…………が、スズメの涙程度なのでお察し。

マリアンヌが死んでおらず、ナナリーも健康そのものでユーフェミアを殺さずに済んでいるため、メンタル面はある種最強かも?精神的に打たれ強くなっているのは確か。

扇、玉城のいない(ツキトがバズーカで吹き飛ばしたため)黒の騎士団を設立、その後にゲットーの自警団組織に。

行動の邪魔をするメンバーが減ったため作戦の立案や伝達等がよりスムーズに、ツキトからの根回しもあって戦力の増強も早く、規模だけなら一国の軍隊として差し支えない力を早々に得ることができている。

自警団組織となってからはもっぱら団員に訓練を課しているため、練度の上昇も原作より早い。

順調な滑り出しがそのまま続いているが、ツキトの抑制(度重なる警告、シュナイゼルの危険性の説明など)で天狗になることなく慎重な行動を厳にしている。

原作では団員のやんちゃもある程度許容していたが、今作ではそのようなことはなく、自警団組織として、また多くの日本人の模範となるべく厳しい規律を設け、罰則もまた重い。

ツキトへの感謝の気持ちは人一倍で、ナナリーと同程度の存在に見ている。

 

 

ナナリー・ヴィ・ブリタニア

 

 

原作において目が見えず足も動かせない少女でルルーシュの心の支えにして最大の弱点だった少女。

今作ではツキトの婚約者でマリアンヌの遺伝を強く感じさせる剣の才能を現す。

その才能と切れない集中力、絶対に掴みたい目標と努力によって、エリア11男女総合フェンシング大会優勝を果たした。

潜在的には今のツキトも超えられると見られていて、事実、非公式な決闘ではあるもののツキトに勝利している。

その時のツキトは、利き手ではない左手、殺意は放たない、本気で突かない、全力を出さない(相手が知覚できない速度で剣を振る、又は移動するなどをしない)、決闘のルールを厳守(壁や天井を跳ね回りながら移動しつつ全方位攻撃など)といった制約をつけての勝負であったが………。

しかし、ツキトが『努力』を始めてしまったため、追いつくのは困難となってしまったもよう。

俗っぽいところがあるが、そこがかわいい。

なんだかんだ言って女神。

 

 

咲世子

 

 

NINJA!

 

 

シャルル・ジ・ブリタニア

 

 

オヤジィ




最後の2人は別段変わりないから良いかなって(適当)
あとスザクは(現時点で)本当になんの変更もないんで書きませんでした。


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その『闘い』に『快楽』を感じよ

ナナリーとツキトの練習回
ナナリーにとっては念願の瞬間がやってきました。
それと、今回は12000文字でだいぶボリュームがありますが、ほとんどnoside視点ですので悪しからず。


ツキトside

 

 

「はっ……はっ……………ハァッ!!」

 

ッ!

 

ベキィッ!!

 

ズゴゴゴゴゴ………ズシィン!!

 

音を立てて木が中程から倒れる。

 

木刀を地面に突き刺し、あぐらをかいて座る。

 

持ってきたスポーツドリンクをあおる。

 

わずかに7歳にしてコードを得てしまったがために、体力はその時点でほぼ固定されてしまっている、ということが改めてわかった。

 

デートの日から1ヶ月と少しが経った、C.C.から身にならないアドバイスをもらってコードの効力を抑えた状態での特訓は、とても効果的なものであった。

 

いくつか問題点も浮き上がってきたところで、その解決に努めた。

 

中でもトップクラスは体力の無さ、とはいえ前世込みのままで維持されてきたため、一般人からすれば十分に基地外じみている。

 

「それでも足りるかわからんのが、この世界なんだがな」

 

特訓を始めてから数日で、私は咲世子やスザクといったチート運動神経持ちには、現状の能力では厳しいものがあると考えついた。

 

「さて、続きだ続き」

 

確かにコードによる回復能力と無限のスタミナがあれば、勝てない敵など私には存在しない。

 

しかし…………いずれ捨てるコードに頼るのは、かつて『最強』を目指したこの私としてはどうなのか?

 

「決まっている………」

 

カッコつけた言い方で回答するなら。

 

「断じて………断じて『否』である」

 

そもそも、不死身の力に頼り切るのはかっこ悪い、それにこういうものは死亡フラグになると聞くしな。

 

強者への挑戦こそ、私の求めるもの………弱者をいたぶり、見下すのは、私らしくない。

 

そして私が頂点に立ったのならば、挑み来る者達を全力でもって相手取る。

 

これぞ私の憧れた、かつての…………。

 

「目標は、遠い」

 

だが、ゆえに、燃えるというもの。

 

そして見せつけよう、こんなどうしようもなくガキでしかない私を愛してくれるナナリーに。

 

そして、年明けのラウンズの晩餐会に来るであろう愛しき妹であるアーニャにも。

 

「ハァッ!!」

 

ベキィッ!!……ベキィッ!!……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………しまった。

 

「熱が入ると周りが見えなくなるのは、悪い癖だな」

 

なんてかっこよくいってみたところで、やり過ぎてしまったことに変わりはないし、過去を変えることもできない。

 

殴りすぎて木を倒し過ぎてしまった………。

 

つい、出来心で…………クラブハウス周りの木を相当数伐採してしまっていた。

 

この季節に寒風を受け止める壁になってくれる木をこんなに切り倒してしまった私は、バカ以外に他ならない。

 

あるいはアホかもしれん。

 

「処分するにも、この量ではな………」

 

この量の木を処分できる金はあるし、ポケットマネー程度、財布からスッと出すくらいの出費にしかならんわけだが…………将来的にはナナリーとの共有財産になるわけだし、無駄遣いは良くない。

 

しかし、あれもこれもと我慢していては、ナナリーに要らん心配をさせてしまうだろう。

 

なら、この量の木を有効活用できる方法を見出すべきだろう。

 

「………クレアを頼ってみるか」

 

ふっと湧いて出たそんな考え。

 

時間はまだ早い、ひとまずはメールを送って、答えはあとで聞くとしようか。

 

メールを送ってと、あとはこの大量の木を一箇所に集めて今日は終わりだな。

 

「よいっ……しょっ、と」

 

これも筋トレだと思えば苦ではないな。

 

「さっさと終わらせて、シャワーを浴びて、着替えて………」

 

やるべき事を口に出しながら歩く。

 

「へくちっ!」

 

やはり、この季節に裸同然のサラシのみというのは堪える。

 

しかし、厚着のまま特訓して汗だくになって気持ち悪いのは嫌だ。

 

「…………たまにはシャツでも着てやってみるか」

 

私、ツキト・アールストレイムは特訓から1ヶ月で確かな実力の向上を感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

あの、ツキトさんとの本音で語り合えたデートから1ヶ月。

 

あれから週に1回くらいのペースでツキトさんと一緒に過ごしています、ツキトさんの休日を潰してしまうのは悪いと思っていました。

 

でも…………。

 

『うん?休日を潰すのは悪いから、デートは控えるって?』

 

『はい、お仕事を頑張っているツキトさんの邪魔になるのは、ツキトさんのお嫁さんに相応しくないですし』

 

『うーん、僕はナナリーとのデートで1週間の疲れを取って、癒してもらってるから、週に1回くらいでデートしたいんだけど……』

 

『えぇっ!?////あにょ……あの、それではツキトさんが……』

 

『あ!別にデートじゃなくても、例えばクラブハウスでのんびりするとか、ナナリーの練習に付き合うとかでもいいよ』

 

『そ、そんなので……』

 

『僕にとっては最高に楽しい時間なんだけど……』

 

『じゃあ、その、週に1回のペースでお願いします』

 

『じゃあ毎週1日は空けておくように伝えておくね』

 

『(うわあああああ!!嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しいぃぃいいい!!)』

 

という感じで、ツキトさんに頼まれてしまっては仕方ありませんね、ツキトさんの頼みですもの。

 

ナナリーは幸せ者です……。

 

それに今日はツキトさんとフェンシング部の練習!俄然やる気が出てきます!

 

「やります、やりますよ、やってやります」

 

「ナナリー?」

 

「マリーさん?どうかしましたか?」

 

「カッコいいアールストレイムさんの妄想するのもいいけど、ほら」

 

「え?」

 

マリーさんが指差した向こうには、困り顔の先生が。

 

「あっ、ごめんなさい先生!」

 

「気をつけてくださいね、ランペルージさん(よかった、ランペルージさんは優等生の中でも抜きん出た優等生、彼女に授業を聞いてもらえなくなったら私教師として終わるとこだったわ……)」

 

「はい、気を付けます」

 

「今日は休日の自由参加型の補習授業ですから、そこまで気にしませんけどね(とは言っても、彼女が参加する時点でクラス全員参加みたいなものだけど)」

 

先生が前を向いたところでふぅ、と一息ついてマリーさんの方を見る。

 

「ありがとうございますマリーさん」

 

「別に構わないわよ、それよりナナリー、今度はまたどんな妄想してたの?」

 

「えっ?それは………////」

 

「あれあれあれ?どんなこと考えて、いーたーのーや、ら?」

 

「そ、そんなエッチなことじゃないですよっ、ただ、今日の朝早くからトレーニングをしてたツキトさんの…………」

 

「ほほう?読めたよ、さしずめ汗だくになったアールストレイムさんにキュンキュンしちゃったわけだねっ」

 

「あ、違います、上半身サラシだけになったツキトにドキドキして………あっ」

 

「ほほ〜ん?(…………は?サラシだけ?)」

 

「ゆ、誘導尋問は卑怯ですよっ」

 

小声でマリーさんと話す、授業中にこういうことをするのは良くないですけど、ツキトさんのことでからかってくるマリーさんに対抗するうちに、ノートを取りながらこうやって話し会うこともできるようになっていました。

 

マリーさんはまだできないみたいですけど。

 

「っていうかこの季節に上半身ほぼ裸ってヤバいんじゃない?」

 

「私も止めようとしたんですけど、一生懸命トレーニングをしているところを邪魔してしまうのは………」

 

「あー、そうだよね、アールストレイムさんはラウンズだもんね」

 

「まあ、それもありますけど……」

 

「でもさあ、珍しいよね」

 

「はい?」

 

「アールストレイムさんみたいに庶民に優しい貴族って、なかなかいないよ?私があったことある貴族っていったら、顔だけ良いマザコンとかホモとか下心丸出しの中年ハゲくらい………見た目だけじゃなくて性格も良い貴族なんて、アールストレイムさんくらいのものよ」

 

「マリーさんに同感です」

 

実は、マリーさんは結構熱心なツキトさんのファンで、彼女で婚約者の私のことを羨ましがっていました。

 

今は吹っ切れたそうですが、こうやって毎日ツキトさんのことでからかってくるということは、まだ気はある、ということでしょうか。

 

ちなみにマリーさん自体は一般家庭出身、そして私の1番の友達です。

 

「でも、最初は驚いたなあ、学校から出てくって聞いて、いきなり決闘を挑むんだもの」

 

「そうでもしないとツキトさんが遠くに行ってしまうと思って………」

 

「それで決闘は受けてくれたし、勝たせてくれたっていうわけかあ」

 

「ツキトさんに全力を出されたら、私の剣なんてカスリもしませんから」

 

悔しさと嬉しさが混じって変な気分でしたけど。

 

「かー、愛されてるよねナナリーは、私も恋愛したーい」

 

「マリーさんならすぐに……」

 

「容姿端麗頭脳明晰で誰にも負けないくらい剣の達人で財産もあって慈愛に溢れた男の人がどこかにいないかなー?」

 

「フェンシング部男子の部の部長さんはどうですか?」

 

「事故物件なんてこっちから願い下げ、っていうかその人って私の嫌いな下心丸出し系貴族じゃないの」

 

「ですよね」ニコッ

 

手をひらひらさせて要らないと表現するマリーさん。

 

「あーあ、アールストレイムさん並みの聖人なら一発オーケーなんだけどなー」

 

「ケニー君はどうですか?」

 

私はクラスでも人気者(らしい)ケニー君(詳しい名前は覚えていません)をあげてみました。

 

ケニー君は中級クラスの貴族出身で、友達曰くイケメンで、友達曰く人種問わず優しく接することができて、友達曰くある程度の個人の財産もあるみたいです。

 

小声で言ったはずなのにケニー君がビクッと反応しました、こっちをチラチラ見てきます。

 

「ケニー?あーー……」

 

マリーさんがケニー君をじっと見つめます、ケニー君は正面を向いています、もうこっちをチラチラ見てはきません。

 

ケニー君はマリーさんの2つ隣なので横顔を凝視していることになりますね。

 

ケニー君はマリーさんに見つめられてもう耳まで真っ赤みたいです、女性経験無いのでしょうか?

 

「ん〜、アールストレイムさんに比べたら見劣りするけど………まあそこそこ良いんじゃない、うん、及第点」

 

「辛辣ですよねマリーさんって」

 

「えーじゃあナナリーから見てどう?」

 

「お兄様とツキトさん以外の男性はみんな同じようにしか……」

 

「「「「「「(みんな同じ……)」」」」」」

 

「ほら、ナナリーのほうが私より辛辣よ」

 

「自分が辛辣であることは否定しないんですね」

 

ケニー君は正面を向いたまま涙を流していました、ごめんなさいケニー君。

 

(結局熱心に授業を聞いてくれたのは数人だけ、あとはみんなナナリーさんとマリーさんのほうを気にしてました………クスン)

 

キーンコーン………

 

「補習授業はここまで、あとは自由ですので、寮に帰って遊ぶのもここで勉強するのも良いですよ、ただ、勉強する場合は教室の鍵を………」

 

先生の説明を聞きながら荷物をまとめて立ち上がる、マリーさんと一緒に談笑しながら部室に向かう。

 

部室の前には人だかりができていて、たくさんの人がいました。

 

そこには私のところにツキトさんとの決闘をセッティングするように言ってきた人たちもいました。

 

その前には、他の人に比べて低い身長、赤みの強いピンク色の髪、右目に特徴的な大きな眼帯。

 

「む、ナナリー、やっと来たか」

 

珍しく制服姿(ポニーテール)のツキトさんがいました。

 

「ツキトさん!?今日は遅れるって言ってたはずじゃ……」

 

「予定より早く用事が片付いてな、まあ暇になったんでしばらくここで待たせてもらった」

 

「そうだったんですか……」

 

うぅ、ツキトさんを待たせてしまいました……。

 

「気にすることはない、出来るだけ長くナナリーと一緒に居たくて、つい早く来てしまっただけなのだしな」

 

「ツキトさん////」

 

(このストレートな好意の伝え方が最高にかっこいいわ……)

 

「そういえば君は……」

 

ツキトさんがマリーさんのほうを見てそう呟きました。

 

「彼女はマリーさん、私の親友なんですよ」

 

「は、初めましてアールストレイムさん、マリー・スクルドです」

 

「そうかナナリーの………ナナリーと仲良くしてくれてありがとう」

 

「そんな恐れ多い!」

 

「いやいや、ナナリーの親友ともあれば、私としても良い関係を築きたいと思っているのだよ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

顔が真っ赤ですよ、マリーさん。

 

「さて、このまま3人で近くの喫茶店ででもゆったりと話をして見たいところではあるが………どうする?ナナリー」

 

「えっと……マリーさん、その、今日は」

 

「良いって、アールストレイムさんとナナリーの約束のほうが先だし」

 

「ありがとうございます、今度3人で遊びに行きましょうか」

 

「マジで!?ありがと〜!」

 

「わっ!?いきなり抱きついたら危ないですよ!」

 

抱きつかれてバランスを崩しかける、もう、マリーさんはいちいち反応がオーバーなんですから。

 

しばらくマリーさんの戯れつかれていると、ツキトさんが震えながら声を殺して笑っていることに気づきました。

 

「ツキトさんも笑わないでください!」

 

「ははは、す、すまないナナリー、んっ……」

 

今の『んっ』がかわいいとか思いましたよ、えぇ。

 

「もう!早く練習しますよ!マリーさんも良い加減にどいてください!」

 

「あーん、ナナリーのイケズ〜」

 

マリーさんを引き剥がしてツキトさんの腕を引いて強引に更衣室に……。

 

「あの、ナナリー?私は男だからその………女子更衣室には……」

 

「ダメです、ツキトさんの裸は私のものです、誰にも見せたくありません」

 

「いやそうは言っても……」

 

「今なら誰もいないのでノーカンです」

 

「ナナリーがいるだろうに……はぁ」

 

戸惑い溜め息をつくツキトさんを引っ張って更衣室に連れ込んだ。

 

抵抗せず、困った顔をしていましたが、微笑んで。

 

「ナナリーは強引だよね」

 

と言われた。

 

全身が熱くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side

 

 

「いやー、ナナちゃんもやるね」

 

「『あなたは私のもの!』っていう意味の言葉をあんなに堂々と言うなんてね」

 

「けしからんわ、実にけしからんわね」

 

「風紀乱れるぅ〜」

 

「「「「だが、それでいいっ!!」」」」

 

フェンシング部の女子の部の方の部員がキメ顔でそう言い、ナナリーがツキトを更衣室に連れ込むと言う、男女の立場逆転してね?という問題よりも、それっていいのか?という疑問を周囲に植えつけたために固まっていた場の空気を和ませた。

 

「久しぶりよね、アールストレイムさんが学校に来るの」

 

「本国から帰って来て、忙しい仕事の合間を縫って恋人に会いに来る………オー!ロマンティックッッッ!!!」

 

「この純粋な思い………プラトニック・ラァァァァアアアヴッッ!!」

 

フェンシング部以外の女子も叫び出す、やはり学生、皆恋愛話が好きなもである。

 

「うおおおおお!!見たかよおい!我らが女神様のちょっと怒ったけどでもメチャクチャ嬉しいよぉみたいな表情とお声をヨォ!!」

 

「ほぼ、イキかけましたわ」

 

「あ^〜いいっすねぇ〜」

 

「やっぱランペルージさんは女神、アールストレイムは悪魔だって、はっきりわかんだね」

 

男子も男子でうるさく騒ぎ始めた、この場のほぼ全員がこの様なのは、ナナリーとツキトの関係への興味が大きい。

 

学園一の美少女と言われ、事情が話せないため庶民出身ということにしているナナリーと。

 

貴族出身でラウンズであるものの、考えが庶民的な面があり人から高い評価を受けるツキト。

 

年の差や立場・出身の差、それらを諸共しないまるで恋愛小説のような純粋な恋愛に、夢見る乙女が騒ぎ立てるのも仕方ない。

 

誰もが2人の中を応援していた、一部を除いて。

 

「くそッ!」

 

「そう物に当たんなよ、壊れんだろ」

 

「つってもよお!あんな……くそったれえ!」

 

ガンガンとロッカーを蹴る男子生徒、何を隠そうこのモブ、ツキトに決闘を申し込んだ奴らなのだ!

 

「仕方ねえだろ、そこらの男と絵に描いたような白馬の王子様がいたら、誰でも王子様選ぶだろ」

 

「王子様は王子様でも、あんなヒョロヒョロじゃあねぇ……」

 

モブの1人はツキトの全身を見てそう言った。

 

「あんなんすばしっこいだけだろ?」

 

「でもランペルージさんとの決闘では、剣を弾き飛ばしていたぜ?」

 

「ようは力の使い所ってやつだろ、ボクシングやってる俺ならそんくらい余裕だぜ」

 

実際はただ振り抜いただけでナナリーの剣が吹っ飛んだのであるが、そんなことは露も知らないのである。

 

「力押しすればいけるっしょ」

 

「平押しでどうにかなる相手かぁ?ってか勝負の方法はどうなんだよ?」

 

「ランペルージちゃん曰く、あっちで決めるんだと」

 

「んだよそれぇ!?ぜってぇ剣じゃねえかよ、俺もう無理」

 

「諦めんのはっや!」

 

「でもよお、ランペルージちゃんは勝負の方法も考えとくって言ってたぜ?もしかしたら、もしかするんじゃね?」

 

ちなみにモブ達がナナリーをナナリーと呼ばずランペルージで呼んでいるのは、どこか遠慮がちなところがあると言うのか、それとも少々ウブなのか、もしくは揃いも揃って童貞のヘタレなのか…………。

 

間違いなく最後に言ったやつで大正解、こいつら不良ぶってるくせにみんな仲良く童貞なのである。

 

ナンパ歴0、もしくは半日が大半を占め、中には2年ほどの奴もいるが成功回数は驚愕の0である、憐れ。

 

ついでにナナリーは勝負の方法は考えるとは言ったが、ほぼルールの変更等であり、ほとんど頭に残っていないのであるが………。

 

そうこう言っている間に、着替え終わったナナリーとツキトが更衣室から出てきた。

 

ナナリーは真っ赤、対するツキトは涼しい顔である、いったい何があったのやら、と多くの生徒が邪推する。

 

肉体的な接触は何もなかった、しかしナナリーは赤面しているわけだ。

 

それは更衣室に入って互いに背中を向けて着替え始め、途中からナナリーが振り向いてツキトの半裸をガン見、これでもかとガン見。

 

気づいたツキトが振り向いてナナリーの表情から察して、苦笑いを浮かべ、ナナリーが謝りながら正面を向き直した。

 

直接的な接触も無しにデレデレ、デレデレしやがってこの…………失礼。

 

まあ、そんなことがあったわけだ。

 

しかし、剣を交える場、ピストに立った2人の雰囲気は一変する。

 

ナナリーからは油断の一切が消え去り、女神と形容される笑顔は真剣な表情となった。

 

フェンシング部の先輩に審判役を頼み、深呼吸をし脱力、闘志というロウソクに火を灯し構えをとった。

 

ツキトからは先ほどまでの一般人に怖がられないように出していたオーラや気と呼ばれるものを消滅させる。

 

流れ出る地獄で燻る業火に似た殺気、体育館中に充満したそれは、本来の数分の1程度。

 

頭の防具を着け、まるで全身が鋭い一振りの剣になったかのように、静かに構えをとった。

 

決して消えぬ強い闘志、焼き尽くさんばかりに燃え滾る殺気が衝突。

 

体育館中の生徒は誰もかれもが気圧された、多くの生徒は闘志と殺気の衝突の余波で立ち眩み、2人の背に陽炎を幻視した。

 

フェンシング部で2人をよく知る生徒や、敏感な生徒は立っていられなくなり、その場にへたり込んで震え始める。

 

中には怯える生徒まで出てきた。

 

それほどまでに2人の精神は頑強にして凶暴だった。

 

もとより努力家であり才能もあってより強くなり、それでもまだ目標へ届かず、決して消えぬ闘志を宿して鍛錬を積むナナリー。

 

才能と呼べるものなどなく、ただただ努力によって強くなり、今は自分を目標とする少女を試すツキト。

 

ツキトは殺気で表現した。

 

『私の隣に立つならば、まずはこれを超えてみろ』

 

ナナリーは闘志でもって答えた。

 

『なら、見ててください、今から、超えますから』

 

2人は無言であった。

 

審判役を務めるナナリーの先輩が立った。

 

2人がすでにマスクを着用し、構えを取り、スタートラインにもついている。

 

準備は万全、いつでもいけるという2人の様子を見て、叫んだ。

 

力の限り、叫んだ。

 

「Allez‼︎(始め!)」

 

待っていたと言わんばかりのツキトの最速の突き。

 

踏み込みの音すら聞き取れない足捌き。

 

反応が遅れたわけでもなく、ただ理不尽に速すぎる一撃。

 

しかしナナリーはこれを避け、反撃に転じる、しかしナナリーが突くよりも速くツキトの突きがくる。

 

ところで、視聴者の皆様はフェンシングのルールについてご存知でしょうか?

 

これは大まかに言って3つに分かれ、『フルーレ』、『エペ』、『サーブル』と呼ぶ。

 

2人は『エペ』の勝負をしている。

 

誰が言ったわけでもなく、強いて言えば、ただ更衣室でエペ用の剣を2人とも同時に取って、審判がそれを見てエペだと判断したからに過ぎない。

 

エペのルールは至ってシンプル、どこでもいいから突いて得点を得るのみである。

 

同時突きも認められ、優先権などはない。

 

本気の2人にそんなルールでフェンシングをやらせたら、もはや超次元というレベルの剣戟の応酬になるのは分かりきったことである。

 

一般にエペのルールは互いの選手が慎重になり比較的長時間の試合になるものだが、2人の試合は決着がつきそうだ。

 

怒涛の突きを放ち続け一歩も引かないツキトに対し、ナナリーはなんとか弾いて反撃をしながら生きながらえている現状だ。

 

しかし、本気のツキトの突きを見て弾き続けるナナリーに限界が見え始める、反撃の回数は徐々に少なくなっていき、ついに防戦一方になった。

 

元より経験者でも、それこそ本職の騎士でもツキトの最速の突きは見切ることは難しい、この1ヶ月でその速度がさらに速くなっているのなら、尚更だ。

 

そんなものをナナリーは無理に捉えて迎撃しているので、負担は想像を絶するほどに大きい。

 

時間にしてほんの数十秒後、ナナリーの集中力に隙間が生まれ、ツキトの攻撃がナナリーの右肩にあたり、得点を得て、審判機がツキトの勝利を示した。

 

試合の時間は2分もない、高精度な審判機を使っているため連続でも得点を得やすくなっているのもあるのだろう。

 

審判の号令で互いに握手をして礼をする。

 

拍手、喝采。

 

体育館中に、学園中に響き渡る拍手と歓声。

 

マスクを脱ぎ汗まみれとなったナナリーは、自分にとっての巨大な壁を改めて認識し、泣きそうになった。

 

逆にツキトは今すぐにでもナナリーを抱きしめて褒めてあげたかった、これほどまでに強く成長したナナリーを、今すぐにでもマリアンヌ合わせたいとも思った。

 

ツキトがマスクを脱いだ瞬間、ナナリーもツキトも、意識が引き戻された。

 

ツキトは汗をかいていた、それもナナリーと変わらぬほどの多量の汗。

 

あの時の決闘とは違う、涼しい顔ではなく、本気で闘ったと間違いなく言える量。

 

ツキトは驚愕ととも歓喜した、無意識に笑顔を浮かべる。

 

(この充足感……本気の剣闘に偽りなし、やはりナナリーは、強い!!)

 

そしてナナリーはハッとした、試合中、ツキトはどちらの手で剣を握っていた?

 

左手ではなかった、なら……右手だ、右手に剣があった。

 

瞬間、ナナリーの中で湧き上がる、なんとも言えない高揚感、得点板を見る、差が開き過ぎているものの、いくらか得点を得ている。

 

ナナリーは、確かなレベルアップをその身で感じていた、確実にツキトの次元に近づいていっている確証があった。

 

嬉しくなり、笑みが溢れる。

 

(強くなってる!練習は無駄なんかじゃない!)

 

それが精一杯の試合をしての清々しい笑顔に見えたギャラリーからは、2人に再び大きな拍手が送られた。

 

拍手の中、ナナリーはツキトを見てこう心で言った。

 

(どうでしたかツキトさん、私の剣は?)

 

それに対してツキトはこう答えた。

 

(掛け値無しに、素晴らしい剣だ)

 

ナナリーと、ナナリーの行ってきた努力への賞賛だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

「あの時以上、いやそんなものじゃない!あぁ!形容する言葉が見つからない!!」

 

拍手が鳴り止んでからツキトさんの方へ行こうとした時、ツキトさんはそう叫びました。

 

そしてしばらく何かをつぶやいた後。

 

「ナナリー、お前は素晴らしい、持った才能も、行ってきた努力も、何のかもが素晴らしい」

 

ツキトさんは私の手を取りました。

 

恍惚とした顔とどこか夢を見ているような虚ろな目。

 

「つ、ツキトさん……どうしたんですか?」

 

「………すまない、少し興奮していて我を忘れていた」

 

正気に戻ったのか、申し訳なさそうに謝って手を離……。

 

「離しませんからね」

 

「む……(今の動き、速い!)」

 

と思ったら真剣な表情に………どうしちゃったんでしょうか?

 

「何かあるのなら話してくださいね?」

 

「ふぅ………ナナリー、私はナナリーの成長に驚き、同時に大きな喜びを感じているんだ」

 

「………ふふ、驚いてくれたようで、何よりです」

 

「あぁ、私も一度剣を交えた者がこれほどまでに強くなっているとは思わなかった…………だからこそ嬉しい」

 

握っていたはずのいつのまにか手が解かれていて、ツキトさんは両手で私の手を握ってきました。

 

「これほどまでに嬉しく思ったことはない、自分自身のことのように嬉しい……」

 

「つ、ツキトさん!?////」

 

うっひゃぁ!嬉しいですけど恥ずかしいです!!

 

………なんか、私より手が柔らかい気がするんですけど?

 

謎の敗北感を感じます………。

 

「この調子ならもう何年もしないうちに私を超すだろうな」

 

「ツキトさんを超える!?無理ですよ!ツキトさんのスピードにもついていけてないのに!!」

 

「ははは、らしくないな………私の隣に立って見せるんじゃないのか?」

 

ググッと近づいてくるツキトさん、挑発的な笑みを浮かべて煽るようにして。

 

「っ!言ってくれますね、えぇ、立ってみせますよ!追い越して置いて言っちゃいますから!」

 

思わずムッとして売り言葉に買い言葉でそう宣言する。

 

…………いえ、宣言してしまいました。

 

「ははは!それでこそ!私の伴侶だ!」

 

さっきまでピストの真ん中にいた私たちですが、ツキトさんは握っていた手を離して、ピストの端、スタートラインに立ちました。

 

「ナナリー、見ての通り、私の準備は出来ている………」

 

瞬間的に、試合中にずっと感じていた圧力のその何倍もの圧力が私を襲ってきました。

 

「ひぅっ……」

 

情けなくも悲鳴がこぼれ出る、身体中が震える、血の気が引いてフラつく感覚がします。

 

「感じてくれているようで何より、今感じているのは私の本気の殺気だ………私はな、ナナリー、今お前を殺す気でここに立っている」

 

気力だけで何とかスタートラインまで歩いて、震える手で剣を構える。

 

「かかってくるがいい、お前の超えるべきは、お前の目の前にある」

 

ツキトさんの出す強烈な圧力………殺気に、剣先が震えて定まらない。

 

でも…………私は嬉しく思いました。

 

今まで飄々と本気の勝負を避けられ、決闘でも手を抜かれて、まるでそこにたまたま落ちていた勝利をただ拾っただけ。

 

そこからは悔しくて、何日も練習してきました。

 

そして今、本気を出したツキトさんと対峙している。

 

震えは止まりました、汗も引っ込みました、心臓はいつも通り、でもこれからの本当の本気の剣闘に向けて弾んでいます。

 

言葉は自然と出ていました。

 

心の中で叫ぶのではなく、言葉にして。

 

「そこで待っててください、今、行きますから」

 

ツキトさんはニィッと笑い、言いました。

 

「来い」

 

たった一言、それで十分だろうと言うように。

 

先輩がフラフラと立ち、試合前の確認をします。

 

と言っても、もう構えてしまっているので、マスクを着けるだけですけど。

 

「En garde!(構え!)」

 

互いにマスクを着け、再度構えます。

 

「Etes-vous Prêts?(準備は良いか?)」

 

「「Oui」」

 

ツキトさんと声が重なります。

 

「Allez‼︎‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

「うぅ……」

 

体育館のかべによりかかり、体育座りでちゅーちゅーとスポーツドリンクを飲むナナリー。

 

2度目の試合は私の完封勝利、終始攻め続けてナナリーの攻撃を一撃ももらわずに勝った。

 

ナナリーの成長が嬉しすぎて、本気かつ全力で持って、本当に突き殺す勢いで剣闘をした。

 

ナナリーは直前までは震え、青ざめていたのに、すぐに調子を取り戻し、私の言葉にも落ち着いた声で返してみせた。

 

それが快感の如く私の身を駆け巡り、本当の剣での闘いを知ってもらおうという気持ちが、ナナリーの一言で全力で叩き潰す方向に変わってしまった。

 

そして今、全力で闘ったために消耗が激しい体を休めるため、ナナリーの隣で同じようにスポーツドリンクを飲んでいる。

 

心境は全く違うが。

 

「壁は高いうえに分厚過ぎます……」

 

「ふっ、私は簡単に超えられるほど小さくも薄くもないぞ」

 

「全くです、違いを見せつけられました」

 

「腐ってもラウンズだからな、とは言っても、危ないところはあったが」

 

2度目の試合でも何度か危ない場面があり、避けきれずに弾いた攻撃があった。

 

「これがフェンシングじゃなかったら避けれていたくせに………」

 

「あぁ、フェンシングじゃなければもっと余裕をもって勝てただろうな」

 

ボソッと呟いた言葉にも煽りを含んで返す。

 

ナナリーは負けず嫌いだ、それもルルーシュと同等かそれ以上の。

 

やる気を出させるには褒めるか煽るかの2択だが、こう言った勝負事には煽った方が良いとわかっている。

 

「ツキトさんのイジワル」

 

「ふふん、なんとでも言うがいい」

 

「ツキトさんの……かっこよくて素敵で謙虚で勝負の時の凛々しい顔がとっても……」

 

「すまないがそれ以上はやめてくれ」

 

なんとでもとは言ったが、そう言うことは恥ずかしいじゃないか……。

 

「ふぅ………まだまだ、届きそうにありません」

 

「私はこれからも鍛錬を積む予定だから、届くのはさらに難しいだろうな」

 

「ツキトさん、私がそれくらいで諦めると思ってるんですか?」

 

汗をタオルで拭ったナナリーが満面の笑みで問いかけてくる。

 

「いいや、ナナリーは頑固者だからこの程度じゃ諦めたりしないだろう」

 

「しつこい女だと、嫌いになりますか?」

 

そんなもの………。

 

「それは私の1番好きなタイプだぞ」

 

好きに決まっている。

 

「これからもたくさん迷惑をかけます」

 

「むしろ迷惑だと思わせるようにことをこれまでにしたか?」

 

「こ、これからもたくさんツキトさんの自由な時間を邪魔をします……」

 

「むしろナナリーといる時間こそ自由な時間なんだが?」

 

「………これからも、たくさんツキトさんに……キスしたり、押し倒したり………します」

 

「ウェルカム」

 

「〜〜〜っ!!!//////」

 

顔を隠してジタバタするナナリー、耳まで真っ赤で本当に可愛い、もう今すぐ結婚したい。

 

「さて、そろそろ練習に混ざろうか」

 

「あっ、そうでした」

 

今こうして体育館の壁に寄りかかっているのは、男女のフェンシング部が練習をしているからだ。

 

ここから見た限りでは何人か素質がある者がいる、努力を重ねていけば選手としてきっと大成するだろ。

 

「どうせなら、2人でやるか?」

 

「いいですね、手加減はしませんよ」

 

「それはこっちのセリフだ」

 

「ふふっ、じゃあ剣はどうします?エペですか?サーブルですか?それともフルーレですか?」

 

「今日はナナリーの練習に付き合う気できたから、ナナリーが決めてくれ」

 

「じゃあ…………サーブルで行きましょう!」

 

意気揚々と宣言したナナリーは、自分の脇に置いたバッグからサーブル用のよくしなる剣を取り出して立ち上がった。

 

私もサーブル用の剣を取り出し、立ち上がる。

 

先に剣を構えて待っているナナリーに向かって歩いていく。

 

一歩一歩近づくたびに、胸が弾んでいく。

 

「「Etes-vous Prêts?」」

 

同時に言って、おかしく思って、互いに笑ってしまった。

 

気を取り直して、練習を始めた。

 




本気で全力のツキトとのフェンシングによる剣闘。
一般人からすれば、常識外れの移動速度と見切らせてもくれない剣閃、本気ともなれば殺す気満々の殺気と圧力を集中的にかけてくるわけなので、心がポッキーのようにすぐに折れます。
さらに戦闘スタイルが基本的にガンガンいこうぜ!なので、凄まじい突きを繰り出しながら超高速で迫ってくるので、もはや恐怖。
無限の剣が正面から高速で飛んでくるようなものです(それなんて無限の剣製?)
そんなツキトが本気の殺気を出しても審判役の先輩ちゃんや周囲の人が倒れなかったのは、殺気を垂れ流したのではなく、ナナリーだけに向けてビームのように放出していたので、周囲の人は殺気に当てられることがなかったので無事だったわけです。
そう、無事です(体や精神に不調が出ていないとは言ってない)


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怖れよ、『外なりし神』の『襲来』である

人はまた、その過ち(伏線の未回収)を繰り返そうとしているのか!?

と言いたくなるような内容です、理解できなくてオーケー。
理解できない存在、それがツキト・アールストレイムなのかもしれない。


ツキトside

 

 

いつも通り4時くらいに起きる、ベッドから出て着替えて道具を持って特訓を………。

 

って、どこだここは!?

 

天井もなければ壁もない、一面真っ白の不気味な世界だ。

 

寝ている間にタイムスリップでもして、地球ができる前の世界にでも来てしまったのか?

 

「お待ちしておりました」

 

「っ!誰だ!」

 

声のした方を見ると、白いベールを被った男か女かわからない人物が立っていた。

 

「ここはCの世界を仲介してあなたのコードの力を使って意識のみを接続している、いわば『神の間』です」

 

「……なるほど、随分と殺風景な部屋なもので思わず誘拐でもされたのかと思ったぞ」

 

「あなたを物理的に誘拐できるのは数える程もいないでしょう、ツキト・アールストレイム、前世名、龍宮寺月斗」

 

「なぜそれを!?貴様は一体……?」

 

「私は神、と人から呼ばれる存在です」

 

神…………本物か、あのとき会った転生の神とは違って、何も読めん。

 

「今回こうしてあなたの意識を無理やり接続させていただいたのは、あなたが転生する際に必要だった処置について説明をするためです」

 

「必要だった処置、だと?」

 

「そうです、転生するにあたり、私たち神はある程度の能力を与えるついでに、次の世で生きていけるように、『才能』や『パラメータ』を調節させてもらっています」

 

「それがどうかしたのか?」

 

「あなたを転生させるとき、あなたの持つ『才能』が邪魔をして、一度転生ができなかったのです、その『才能』というのが剣の才能です」

 

「待ってくれ、それじゃあ私が転生際に受け継いだ剣の才能はどうなったんだ?」

 

「怒らずに聞いてください………どうにかして転生させようと、私たちは剣の才能を削り、他の才能に振り分けたのです」

 

「なん………だと……」

 

「簡易的に説明いたしますと、前世での剣の才能が5、他の才能が3〜4、今世での剣の才能は3、他の才能が4〜5、というように調節させていただきました」

 

「で、では、なんだ?私は前世のように強くなることはできない、のか?」

 

「いいえ、努力によって前世以上に強くなることが可能です、しかし成長率は才能の高さに依存します」

 

「というと?」

 

「剣の腕を磨く場合、剣の才能を基準に、努力の才能などが加算され、その結果として腕が上達する、ということです」

 

「そ、そうか………待ってくれ、それでは先ほど言った『パラメータ』の上限に引っかかるんじゃないのか?」

 

「では、『パラメータ』について説明いたします」

 

白い人物が腕のようなものを振ると頭上から雰囲気に似合わない黒板が現れた。

 

「………これは?」

 

「あなたなら言葉でも十分に理解が可能ということがわかっています、しかしより詳しい説明のために必要だと思い、召喚しました」

 

自分の空間ならなんでもできるんだな。

 

白い人物がチョークを持って図を描きながら話し始めた。

 

「私たちの言う『パラメータ』とは、転生者が生まれた時の上限値を設定することを言い、その後『パラメータ』が伸びていくかどうかは転生者の行動次第です」

 

「『パラメータ』はあくまで初期値、と言うことか?」

 

「その通りです、そして『パラメータ』の設定にはルールがあり、強力だったり利便性の高い転生特典を選んだ転生者は『パラメータ』が低く、弱かったり限定的にしか使えないような転生特典を選んだ転生者は『パラメータ』が高いようになっています」

 

「ふむ、例えの話だが、今の話しの前者と後者が純粋に殴り合いをしたらどちらが勝つ?」

 

「後者が圧勝します、そもそも強力な転生特典というものはそれだけで勝利できてしまうものが多く、身体を使う必要がないので、必然的に身体は弱くなります」

 

「なるほど…………参考までに聞きたいんだが、強力な転生特典というのはどういうものなんだ?」

 

「『王の財宝』、『無限の剣製』、『ベクトル操作』、『dies iraeのエイヴィヒカイト』、『リリカルなのはの力』………創作物内の登場人物の力を選択される転生者が多いです」

 

どれも聞いたことないな…………。

 

「私の転生特典、身体能力と技術の引き継ぎと『コード保持者を殺せる』能力を選んだやつはいないのか?」

 

「前者は多少いますが、後者はあなただけです」

 

「強さは?」

 

「最弱クラスといって過言ではありません」

 

「薄々わかってたが凹むな……」

 

「その分『パラメータ』は歴代でも最高クラスです」

 

つまるところ、最弱の転生特典のおかげで身体能力、『パラメータ』は歴代のあらゆる転生者を凌駕する、ということか。

 

「理解した、だがまだわからんことがある」

 

「なぜ、剣の才能が5のままだと転生できなかったのか、ですね?」

 

「そうだ、『パラメータ』には直接関係するわけでもないのにおかしいだろう」

 

「剣の才能を削るというのは、私より上位の神による指示でもあったからです」

 

「この際従ったことについては別にいい、なぜ、削らなければならなかった?」

 

「理由はふたつ、あなたは前世において世界の頂点に立った、それが私たち神の世界………神界と言いましょうか、そこにまで伝わってきたのです、伝令の天使はそのことを針小棒大に上位の神に訴え、死後に転生する際はその力を削ぐのが良い、という結論が出てしまったから、というのがひとつ目」

 

「未知の存在に怯えるのはしょうがないが………神というものも、案外臆病者なんだな」

 

「それがふたつ目の理由につながります、上位の神はいずれ神界にあなたが侵略を行うのではないか?という不安にかられたのです」

 

「それで、上位の神とやらは私のことを転生させるなと言ったのか」

 

「はい、しかしそれは上位の神の一個体の意見であり、大多数は何かしらの問題があっても転生させる、という決まりがありそれに従っています」

 

その一個体だけ殺すか。

 

「実を言うと、その一個体の独断の行動であなたの剣の才能は1になるまで削られる一歩手前まで行きました」

 

「おい………」

 

「ごめんなさい殺さないでください許してください何でもしますから」

 

いきなりうずくまり自分を抱きしめるように両腕を交差させて震えだす白い神。

 

「前世世界でのあなたは勘がいいので、削りすぎると何かされたのではないかと察してしまうので、3でストップさせたのです」

 

「それは良い判断だったな」

 

「つくづくそう思います…………そして、ここでふたつ目の理由です」

 

「さっき言ったんじゃないのか?」

 

「いいえ、ここからです、ふたつ目の理由ですが、それはあなたに与えた転生特典にあります」

 

「『コード保持者を殺せる』能力がか?だがこれは最弱クラスの特典なんだろう?」

 

「人から見ればなんの害もないのですから、最弱クラスと言ったのです、しかし私たち神からすれば最強クラスなのです」

 

「どうしてだ?まさかコードは神である証だとでも言うのか?」

 

「あなたがコード保持者を殺すくらいは私たちにとってはどうでも良いのです、しかし、あなた自身がコード保持者となり、転生特典と共存してしまったがために変化が生じました」

 

「変化?」

 

「今のあなた自身の状態、把握できていますか?」

 

「不死身で不老不死のスーパーマンってとこだろう?」

 

「概ねは、今のあなたは不死身で不老不死で、私たち神する片手間で滅することさえ可能な力を保ちながら人の姿を保っている状態です」

 

「はぁ!?」

 

「つまりあなたは、例え火に焼かれ灰になろうとも、その灰から不死鳥のごとく復活し、例え四肢をもがれ塵芥のように砕け散ろうとも、完全に再生し、例え深海の奥深くに沈められ圧壊しようとも、その場から生還でき、どのような生物も概念すら殺すことができ、その気になれば1000年でも万年でも、それこそ無量大数の先を見ることができるほど長い時間生き続けることができ、その間に肉体に激しく負担のかかる運動を続けていても決して息切れすることもない、唯一死ぬ方法は、自害することのみです」

 

「…………3行で言うと?」

 

「あなたが

全宇宙全概念の中で

1番強い」

 

「…………」

 

「転生特典を与えた時はこうなるとは思いもしなかったのです、しかしこうなってしまった以上、あなたと接触せざるを得ませんでした」

 

「それで、何をしたいんだ?」

 

「答えていただきたいのです、あなたは私たちの敵か、味方か」

 

「私を味方にしたいのなら、お前たち神が隠し持っている私の剣の才能の断片を渡せ」

 

「………なぜそのことを?」

 

「勘だ、勘」

 

当てずっぽうなのにあたってしまった………。

 

「わかりました、しかしそうするとなると、仮に味方であった場合であっても、上位の神に一層警戒されますが、よろしいでしょうか?」

 

「自分で蒔いた種に怯えるような神に興味はない、一度戦ってみたいとは思うが………どうなんだ?」

 

「あなたに触れた瞬間に存在ごと滅されるので拒否すると思います」

 

もはや私自身が神と言っても過言じゃないんじゃないか?

 

「まあ、私としてはそっちがまだ持ってる分を返してもらえればいいさ、コードもそのうち捨てる気でいるしな」

 

「わかりました、その言葉を信じて削り隠し持っていた剣の才能の断片をお返しします」

 

白い神が両手で皿を作る、するとそこに水が湧いてきた。

 

その水をコップに移し変えて差し出してきた。

 

「これはいわば才能のスープ、ここにはあなたから削り取った剣の才能が液体として入っています」

 

「水にしか見えんな」

 

「コーンスープ味なので問題はないかと」

 

「味があるのか!?」

 

剣の才能=コーンスープという驚愕の事実。

 

「じゃあ早速………」

 

コップを受け取って飲…………いや待ってくれ。

 

「質問だが、これを私以外の人間が飲むとどうなる?」

 

「飲んだ人物の剣の才能が1〜2ほど上昇します」

 

なるほど…………。

 

「ナナリー・ヴィ・ブリタニアとアーニャ・アールストレイムの剣の才能はどれくらいなんだ?」

 

「前者は4、後者は5です」

 

アーニャの方が上なのか。

 

ふむ。

 

「これを私のいる世界に送り込むことはできるか?」

 

コップを持って見せながら言ってみた。

 

「可能です、しかし送り込むとなると、味の質が落ちますが、よろしいですか?」

 

「構わない、瓶詰めにして私のベッドの近くにある棚に置いといてくれ」

 

コップを渡すと中身もろとも消失した。

 

今の一瞬で送ったのか、まあ神だしこれくらいはできるのか。

 

というか味が落ちることを気にしてどうする。

 

「わかりました、他に用件はございますか?」

 

「特にない………ところで、かなり下手に出てるようだが、そんなに私が怖いか?」

 

「上位の神より、接触時に無礼がないようにせよと言われましたので」

 

その上位の神とやらに一度会ってみたいな、件の一個体のやつかもしれないが。

 

「そうか、では私を現世に返してくれ、そろそろ起きねばならん」

 

「はい、切断いたします」

 

その言葉を最後に、真っ白な空間は消え、見知った自室の天井が見えた。

 

起き上がって時計を見ると午前5時半、寝過ごしたか、今日の特訓はなしだな。

 

棚の上を見ると水のような液体が入った瓶が置いてあった。

 

蓋を開けて匂いを嗅ぐと、間違いなくコーンスープの匂いだった。

 

「夢ではなかったんだな………」

 

不思議な体験に少しの驚きと興奮を覚えた。

 

しかし時計の針が指す数字を見て余韻を断ち切って通勤の準備を始めた。

 

この体験はクレアとの話のネタにできそうだと、そう思いながらパジャマを脱いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ということがあった」

 

総督府にある私の執務室にて、雑務をテキパキとこなすクレアに今朝の出来事について話した。

 

「はぁ?」

 

「中二病患者を見るような反応は傷つくぞ」

 

「いや、とんでもないこと起きてんのになんで平然としてんのよ………ってかなんでここにそのスープ(?)持ってきてんのよ」

 

「肌身離さず持っていないと、私の部屋に入ってきたナナリー様か咲世子が勝手に飲みそうだからな」

 

私のパンツが2日ほど行方不明になった後でタンスの中に綺麗に畳まれて帰ってくることがたまにあるからな。

 

……………確率的には咲世子のほうが若干高いだろうな。

 

「えぇ………」

 

「まあ、どのみちこれはナナリー様に飲んでいただくつもりであるが」

 

「でた、ナナリー贔屓」

 

「そう言うな、神によればナナリー様の剣の才能は4、これを使えば5になり、対等に戦うに相応しい2人目の好敵手となるだろう」

 

「1人目は?」

 

「我が愛妹、アーニャ・アールストレイム、アーニャはすでに才能が5であるうえに、私の本気、全力の攻撃を全て弾いてみせた、実力は本物だ」

 

「ツキトが言うならそうなんでしょうね………ところでツキト」

 

「どうした?」

 

「この間のアッシュフォード学園でのナナリーとの練習、あれが記事になって出回ってるわ」

 

「どんな感じでだ?」

 

「『彼女がツキト・アールストレイム卿の婚約者か?』とかそんな感じね」

 

「ついに学園の外に漏れたか、情報操作はしっかりとやってたんだがな」

 

網目から抜け出されたか、こうなると面倒だ、否定して回るとナナリーが悲しむし……………うむ。

 

「…………放置でいい、何かあったら伝えてくれ」

 

「いいの?本国にナナリーの顔とか流れたらまずいんじゃない?刺客が送られてくるかもしれないわよ?」

 

「日本エリアのブリタニア軍はほとんど私の派閥で構成されている、コーネリア様やユーフェミア様の派閥とも良好な関係だ、皆優秀な者たちだ、本国からくる形だけの刺客など、相手にもならん、審査の時点ではねるだけだ」

 

「本当に大丈夫なの?」

 

「正直な話、本国にナナリー様とルルーシュ様が存命していることがバレたとしても、私のやることに変わりはない、私はただ、御二方の手足となるだけだ」

 

「ナナリーの夫の間違いでしょ?」

 

「将来的にはな、今は従者で十分に幸せだ…………それに、いつかはバレるんだ、問題はその後、今まで親しかった者がどのような反応をするのかだ」

 

「メンタル面のチェック……いえ、強化かしら?」

 

「あぁ、バレて広まったらそうすることにする、もし陛下にバレていたとして何もアクションが無いのなら、陛下は少なくともルルーシュ様とナナリー様の味方ということになる」

 

「………結構杜撰な考えなのね」

 

「まあ、そう思うだろうと思った」

 

「どういう意味よ?」

 

「とある組織が、杜撰で穴だらけの計画を立て、それを偶然にも知った自称正義の味方クンはどういう行動をとると思う?」

 

「…………あーー…………何となくわかった、性格悪いわね」

 

思いっきり嫌な顔をしてクレアはそう言った。

 

「効率的と言ってくれ」

 

「自分の主人、将来の妻を餌に敵をおびき出そうとする作戦は効率的と言うより卑劣よ」

 

「クレアならそう言うと思っていたよ、しかしだ、未だ姿を見せないC.C.のストーカーを早めに処分したいのだ」

 

「気持ちはわかるけど………原作みたいな状況になってもルルーシュはギアスがないからマオに勝ち目はないのよ?」

 

「私がいれば勝ち目はある、それも100%だ」

 

「コードってほんっとーにチートよね…………しかも今は神殺しの力もあるし、その才能の水(コーンスープ味)を飲めばさらにパワーアップできるわけだし」

 

「だからこれはナナリー様に差し上げるのだと言っておろうに………まあ、私自身の剣の才能は3程度、確かに飲めば強くはなるだろうな」

 

「じゃあさ………それを複製したらどうなるの?」

 

それは考えたことがなかったな………無理なものと思っていたし。

 

『できますよ』

 

「!?」

 

「?……どうしたのよ?」

 

「いきなり、あの白い神の声が聞こえてきた………」

 

「まじで?うわーー………コード持ちじゃなくてよかったぁ」

 

「おいこらクレア」

 

『痴話喧嘩中に失礼します』

 

(痴話喧嘩ではないわ!)

 

『失礼しました………先ほどの話ですが、それを複製するおつもりですか?』

 

(そのつもりはないが……)

 

『出来る出来ないの話ならば、あなたがいれば可能です』

 

(私が?)

 

『はい、しかしかなり特殊な工程が必要であり、現状では極めて困難かと』

 

(じゃあ作らないでいいか…………ところでなぜ私がいれば作れるんだ?)

 

『今のあなたは神格を得つつあります、コードを獲得された日から、日に日に神としての素質が向上している状態です』

 

(神格をか?そんな感じはしないが……)

 

神格というのは一種のカリスマ的なものなのだろう、確かにほとんどの部下は私への忠誠をわかりやすく表現してくれているが………。

 

『自分でも気づけないほど微小な変化ですから仕方ありません、しかしそう言うものに聡いお方はあなたに尊敬や畏怖を感じているでしょう』

 

(そうなのか?)

 

『はい、2ヶ月ほど前から素質が今までと比べ大きく向上しつつあります、最近になってメディアが騒ぎ立てているのはそのためでしょう』

 

2ヶ月前………ちょうど考えを改めて特訓を始めた頃か。

 

『神格は自らを高めようとする行為によってより大きくなります、神格が大きくなることで現人神のような存在になることも可能です』

 

(現人神になるとどうなるんだ?)

 

『食事は必要でなくなります、入浴せずとも体は常に清潔を保てます、【神】という存在になるため、持っている才能の全てがカンスト、パラメータも人の限界値を超えることができます』

 

(いいことづくしだな)

 

『デメリットもあります、仮に現人神となった場合、人からの一切の攻撃を遮断できるゆえに死ねません、傷ついたとしてもあなたの場合は回復・再生が早く、自害も困難です、そしてこの世界を管理する神の補佐をすることになります、また、他世界の問題解決のために出張することもあります』

 

えぇ………(困惑)

 

派遣社員に永久就職するわけか………面倒だし死ににくなるのは嫌だな。

 

「ちょっとー?さっきから神妙な顔で何考えてるのー?」

 

メリットを塗りつぶす勢いのデメリットの大きさに脳内で、ドン引きしているとクレアに話しかけられた。

 

「クレア、どうやら私は神になることができるらしい」

 

「…………はぁ?」

 

その反応は今日だけでも2回目だぞ、という言葉を飲み込んで今さっきの白い神との会話の内容を説明した。

 

あまりにぶっ飛んだ内容にクレアがオーバーヒートを起こしたため、今日の分は明日に回して揃って寝ることにした。

 

実を言うと、私もオーバーヒートを起こしそうだったからと言うのもあるが。

 

後日、私とクレアの添い寝を見た兵士の間で何やら怪しい動きがあったとかなかったとか。

 




なお、現人神になると究極ボッチ神になるもよう。

次回予告(嘘)

神へ至る資格を得た男が、突如として叛旗を翻す。
募り募った恨みつらみの呪詛が、流星群の如く帝国国民に降り注ぐ!
失われる、国民およそ2億人の命。
裏切られる、ルルーシュとスザクとの熱き友情。
切り離される、ナナリーとの愛。
審判の日来たる!神罰下る!
全てが塵芥となって朽ち消える!
賽は投げられた、地獄はどこだ?ここだ!ここにある!
裁かれる瞬間はきたのだ!
次回、【開戦の狼煙】
帝都の空が燃える!


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かの『研究』を『灰』と化せ

ツキトside

 

 

あれから数日、上手くアレをナナリーに飲ませることができ、一安心だ。

 

実際に休日に剣を交えて見たが、爆発的に剣さばきが上達していて、速度も正確さも、もはや別人ではないか………というレベルだ。

 

神の作り出した物は伊達ではない、と言ったところか、伊達だったら困るけど。

 

対等、とはまではまだいかないが、幼い………幼い?(100歳超)頃に見たマリアンヌの剣の劣化程度だ。

 

しかし、まだだ、まだまだ上がるぞ、ナナリーの剣の腕はもっと上がる。

 

こんなに伸びるとはおもわず自分で使っておけば…………とも思ったが、自衛できる方がナナリーの安全につながるだろうという判断だ。

 

まあしかし、ナナリーとアーニャ、2人の剣の行方が楽しみだな。

 

さて、今は12月の20日の午前10時、世間がクリスマスで浮き足立ち何かとクソ忙しい時期。

 

私的には日本エリアのクリスマスイベントで忙しい時期でもある

 

個人の自由を優先させるべく、最低限の兵士を総督府の警衛に就かせ、気分転換の散歩で偶然見かけた非モテ兵士の会話が耳に入った。

 

「なぁ、妹にやるクリスマスプレゼントなんだけどさ、何がいいと思う?」

 

「まだ買ってねえの?お前の妹もう15だろ、化粧品とかでいいんじゃねえか?」

 

妹にクリスマスプレゼントか、良い兄妹だn…………あっ、アーニャのクリスマスプレゼントを見繕うのを忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、クレア、どうか知恵を貸してくれ」

 

「私的な理由で午後を休みにして強制連行されるとは思わなかったわ……」

 

休みの申請書を2枚殴り書いて自分でハンコを押し、昼食後に私服に着替え、呆れ顔のクレアを無理やり外に連れ出して現在時刻14:10、租界で1番でかいショッピングモールの目の前に来ている。

 

「まあそう言うな、この2週間ほど連日勤務だっただろう?息抜きだと思え」

 

「仕事の合間に休憩挟むし、それほどハードでもないから別に………わかった!わかったわよ!行けばいいんでしょ!?」

 

「ありがとうクレア、では行こうか、私の愛妹のクリスマスプレゼントを買いに!」

 

「(テンションたっかぁ………)」

 

ショッピングモール内に入って看板を確認…………。

 

「それで、どの店行くの?」

 

「全部だ」

 

しない!

 

いつもなら店の場所を確認してそこを回るが、今回はアーニャへのクリスマスプレゼント、つまりどれが決定的に良いと決まっているわけではない。

 

従って、様々なジャンルよりアーニャに合いそうなものを探す、時間をかけてな。

 

だがまあ、服は除外だな、あげるにしてもかさばる物だし、せいぜいハンカチやストールがいいだろう。

 

「まずはインテリアショップから見るか」

 

「家具と食器、オシャレな家電商品があるみたいよ」

 

「食器か……皿、マグカップ、箸……」

 

「(こうやって1人でガチで考え込んでるツキトを見るのは珍しいわね)」

 

ブツブツと呟きながらインテリアショップの中へ、家具と食器、家具に合わせた扇風機や温風機等の家電がズラリと並ぶ、奥には寝具もあるようだ。

 

「(それもいつものストレートヘアじゃなくて、なぜかサイドテール………本当は女なんじゃ?)」

 

お、さっそく良い感じのマグカ………なんだこれは?兄妹マグカップ、仲の良い兄妹にオススメです、柄はキュートな文字で『I LOVE MY LITTLE SISTER(BROTHER)』と書かれています……………。

 

この商品絶対売れてないだろ、というかジョークグッズ的な何かだろ。

 

「あら、これいいんじゃない?シスコンのツキトに」

 

「ドン引きされるからな?」

 

「案外喜んだりして、ほら、あの娘ってブラコンで有名だし」

 

「有名だったのか?」

 

有名なのは知らなかったな。

 

「あ、有名って言っても掲示板の方ね、テレビとかではブラコン全開シーンはさすがにほぼカットだけど、気づく人……というか騒ぎ立てたい奴が勝手に根も葉もないこと言って定着しちゃった、っていう現状よ」

 

「私の愛しい妹が、そのような見方をされるのは、面白くないな」

 

「怖い怖い、あーでもでも、ブラコン要素が良い方向に働いて、兄思いの良い妹って見られてるから大丈夫よ」

 

「当然、アーニャは優しい子だからな」

 

「(その代わり、健気な妹をほっといて女を取っ替え引っ替えしてるツキトは一部掲示板では最低最悪の存在として周知されてるけど)」

 

アーニャが兄思いの良い妹という見方をされているなら、なおのことこの変態的マグカップはあり得ないのではないか?

 

もっとこう、煌びやかなアクセサリーとかの方がいいんじゃないだろうか?

 

アーニャはアールストレイム家の者である自覚も多少なりあって、剣士でラウンズの6番ともなれば、戦場にも出ることが多くなるはず。

 

そうなると、アクセサリーは帰って邪魔だろうか?かといって戦場での実用品をあげて喜ぶわけないしな。

 

意外と難しいものだな、プレゼントを選ぶというのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クレアside

 

 

「おーいクレア、次行くぞ」

 

「はーい………って、なんか口調とか変わってない?」

 

見てた家具からツキトに視線を移すと、ダルそうな目で、普段見れない猫背になってパーカーに手を突っ込んでいた。

 

「んぁ?そりゃクレアお前、俺がこの見た目(私服眼帯無しポニーテール)で、いつもの口調だったらバレるだろーが」

 

「そうだけど……」

 

パーカーのせいで生意気系の弟っぽい雰囲気になってるのよね。

 

妙に似合ってるのがイラつくけど…………そういえばツキトの見た目って前世とほぼ変わんないんだっけ?

 

元から顔がいいとか、反則じゃない。

 

「姉弟っぽく見られるけど、ツキトはそれでいいの?」

 

「勝手に思わせときゃあ良いだろ」

 

そういう人間だったわよねツキトって。

 

「それよりさっさと行くぞ」

 

ぶっきらぼうに言うなりさささっと歩き出してしまった。

 

「ちょっ!?」

 

慌てて歩き始めるが、途中でスピードを緩めて隣に並んでくれる彼は、なんだかんだ優しいのね。

 

「次はどこ行くの?」

 

「………あっちのアクセサリー店が最近話題だっていうし、言ってみようじゃねえか」

 

すれ違った女子高生の会話から察したのか、アクセサリー店に足を向けた。

 

でも今の女子高生たち、すれ違ったあとツキトのことかわいいかわいい言ってたわね。

 

言ってやりたい!女子高生たちに言ってやりたい!

 

『残念、こいつ男よ』

 

って!

 

っと、アクセサリー店に入ると派手なものから控えめなものまで、ネックレスや指輪はもちろん、腕輪や足輪(付ける意味ある?)まで様々。

 

ピアスもあるけど…………こいつの場合、大事な妹の体に穴を開けるとか考えただけで泣き出しそうよね。

 

あるいは、全世界からピアス類を消すとか?

 

「………クレア、これはどうだ?」

 

「うん?」

 

1人選んでいたツキトが1つのアクセサリーを指差して私を呼んだ。

 

どれどれ、と、私もそれを見てみる。

 

なるほど、と思ってツキトに言った。

 

「彼女結構長いのよね?日常的に使うものだし良いと思うわ、それによく似合うわよ」

 

「本当か?」

 

「絶対、100%ね」

 

「…………よし、店員さん、これをプレゼントしたいんだけど……」

 

ツキトがアクセサリー店で1発目で引いたのは、青い髪留めだった。

 

青というよりは瑠璃色のそれは、ツキトと風貌がよく似ているらしい彼の妹のアーニャさんにピッタリのはずよ。

 

まあ、髪留めをつけたツキトを想像して言っただけなんだけどね。

 

「あと、こっちの色違いの髪留めもお願いします」

 

「包装はどういたしますか?」

 

「こっちはプレゼントじゃないんで包装はいいです」

 

「わかりました」

 

注文を聞いた店員さんが振り返って戻ろうとしたその時。

 

「あ、すみません、こっちの腕時計もください」

 

と言ってツキトは桁が6つほどある腕時計を指差した。

 

「あ、あの、こちらはお値段が高額となっております、お支払い方法に関しましては……」

 

「カードで」

 

スッとだしたカードはブラック、噂に聞いたガチでやばいカード、ブラックカード。

 

際限なく無限に金が湧き出る魔法のカードが、今目の前の男がぷらぷらと遊ばせている。

 

……………こいつマジかよ。

 

「しょ、しょしょしょしょしょしょ少々おおおおままおまお待ちください!」

 

慌てたような焦ったような態度に急変した店員さんは、店の奥の方に引っ込んだ。

 

しばらくして店長さんらしき女性を連れて戻ってきた。

 

それからツキトは店長さんと少し話してから無事に(?)ブラックカードを使って購入を完了した。

 

髪留め30万ドルが二点、腕時計110万ドルが三点合計で、170万ドルなり。

 

ホクホクとした表情で紙袋を抱えて歩くツキトと、予想以上にやばいツキトにおっかなびっくりしながら隣を歩く私。

 

住む世界というか、住んでる次元が違うレベルよ。

 

何食わぬ顔で110万もする腕時計を買うなんて………正気の沙汰じゃないわよ。

 

「………おっと、忘れるところだった」

 

急にそう言って紙袋から腕時計を取り出した。

 

そしてそれを私に差し出してきた。

 

「え?」

 

「今回のお礼と、クリスマスプレゼントと、ちょっと早い正月祝いと、これから秘書をより一層頑張ってもらう気合い入れのためのプレゼントだ、受け取ってくれ」

 

「いろいろ突っ込みたいけど、まずは1つ、本当にいいの?これ値段だけじゃなく本当に良いものよ?あんたが使ったほうがいいと思うわよ?」

 

「私は今ので気に入ってるし、腕時計は一種のステータスだ、これから皇族の前に出ることも増えるだろうから、とりあえずこれを付けておけ」

 

なるほどね、いきなりだったから驚いたけど、そういう意味もあったわけね。

 

「いいわ、もらってあげる、もらうからにはしっかりその分働くわよ!」

 

「期待してるよ」

 

もらった腕時計を腕につけて言う。

 

気持ちのこもった清楚なシルバーの腕時計。

 

ふふっ、期待に答えなきゃいけなくなったじゃないの。

 

「恋愛も頑張れよ」

 

「言われなくたってわかってるわよ!」

 

「ははは、まあ、応援しているよ、将来のことを考えて今のうちから姉上とでも呼ぼうか?」

 

「気が早いわよ!」

 

上機嫌に笑うツキトに少しだけイラッときたけど、私の仕事と恋愛に対するこいつなりの激励だってわかっちゃうから、強くは言えないのよね。

 

「ありがと………」

 

小さく呟いた。

 

「ん……」

 

返事はぶっきらぼうな一文字で帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side

 

 

日本エリアの地下深くに存在するらしい研究施設。

 

非合法の研究が行われているために地図にのらない、ブリタニアの触れてはならない超兵器開発が行われているなど。

 

実しやかに囁かれる都市伝説。

 

その都市伝説の中で、小太り………いや中太りほどの男が、モニターでの地位のあるとある人物との会話を終え、床にへたり込んでいた。

 

「バトレー将軍!あのような者については……」

 

「仕方なかろう、従わなければ、あの男は、シュナイゼルはわしらを殺す、必ず」

 

バトレー将軍、ブリタニア軍内部にそこそこの地位を持つ中年の軍人。

 

しかし、剣、銃どちらの成績も振るわず、運動もしないために太り過ぎ、しまいには各部署にたらい回しにされ、研究部門に押し付けられた経歴を持つ。

 

そこで腐らずここまでのし上がれたのも、命令に従順であったからだろう。

 

そう、非道な実験の担当者にされ、その実験で多くの子供を殺してきたのだ。

 

結果的にはすでに腐ってしまっている男なのだ。

 

そして今、バトレーに新たなる主人としてシュナイゼルが名乗り出た。

 

とは言っても、従わなければ殺す、という言葉を暗に示しての脅迫に近いものであった。

 

バトレーは研究員達と言い争っている、シュナイゼルにつくくらいなら逃げると言う者、命が惜しいから従うという者。

 

バトレーは頭を抱えた。

 

『やあ、バトレーくん』

 

突如モニターに現れた男とも女ともつかない、公式においても男女の明記がない、番外のラウンズにして日本エリアの実質的指導者。

 

「アールストレイム卿!?」

 

ツキト・アールストレイムである。

 

『久しいなバトレーくん、ゲットー制圧戦以後に見ていないと思ったら………ナルホド、そう言うことだったか』

 

ふぅん、と言う感じの納得した顔でそう言って微笑むツキト。

 

研究員の女数人が堕ちた。

 

「お助けくださいアールストレイム卿!我々はシュナイゼルに脅迫されているのです!」

 

『シュナイゼルが?』

 

「はい!我々は、ブリタニア軍の戦力となり得る不死身の兵士の研究を行なっており、この3年で進行具合は60%、あと2、3年あれば、必ずやアールストレイム卿の戦力増強に助けになりましょう!」

 

バトレーは知っていた、地下にこもっているが密偵からの情報は上がっている。

 

様々な情報から導き出された答え、ツキト・アールストレイムは戦力の増強を行い、日本エリア支配をより確実にした上で、中華連邦への侵攻の一番槍を担ってアールストレイムの家名をさらに上げたい、そうに違いないと。

 

『へぇ……別にいらないんだが』

 

だがバトレーの読みは外れる。

 

ツキトにとって家名などどうでもよく、そもそもがこんな派手な戦力増強も、皇族を差し置いてのエリア支配も、式典でのブリタニア大嫌い発言も、日本人優遇政策も、実家であるアールストレイム家からカントウして欲しいという内なる願いがあるからである。

 

ツキトに中華連邦を攻めたいという思惑はある、しかしそれは一番槍としてではなく、原作において重要な例の幼女を連れてきたいからである。

 

別にツキトにやましい思いはない、しかし放置すれば幼女は確実に性欲処理機に成れ果てるだろう、それを知っていて助けないのはナナリーの夫としていかがなものか?という自問自答が元である。

 

ツキト的には中華連邦は二の次、できれば穏便に幼女と、ついで例のおっさんを連れてこれればよし、あとは焦土にするなり毒ガスまくなり好きにすればいいのだ。

 

「アールストレイム卿ともあろうお方が、この実験の価値をわかっていn」

 

『私が求めるものは貴様らのおもちゃでは断じてない』

 

煽って興味を持たせようとしたバトレーであったが、それは悪手であった。

 

『諸君らは今日までよく頑張った、さようなら』

 

心臓が凍りつくような無表情でそう言い残してモニターは掻き消えた。

 

直後、爆発とともに地下研究施設に猟犬部隊が突入、バトレー将軍以下研究員の全員の死が確認された。




アウフ、ヴィーダーゼン………バトレー。


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『崩壊』を『見た女』

今回は短いです。
そのうえ展開が早く場面の移り変わりが早いです。
雰囲気でも察していただければ大丈夫かと。


no side

 

 

猟犬部隊の兵士数十人と共に制圧済みの地下研究施設に踏み入ったツキトたち。

 

白衣や軍服を着て穴だらけ血塗れになっている死体の転がる施設内を、死体を踏むことも気にもしない様子で先頭を歩くツキト。

 

壁一面は弾丸により穴だらけ、死体の血液で真っ赤になっている、床を見れば絵の具をぶちまけた上に粘土を千切って放り捨てたように死体とその体液が至る所にある。

 

そんな悲惨な内部の様子に付き添いの兵士のうち何人かが吐き気を訴えうずくまり、交代を申し出た。

 

ツキトは心配した様子でうずくまった兵士を気にかけて、後方待機人員との交代を許可した。

 

しばらく歩くと、広い部屋に出た。

 

巨大な試験管のような、カプセルホテルを透明にして縦にしたようなものがたくさん並び、そのどれもが液体によって満たされ、赤子から少年や少女が1つにつき1人入れられていた。

 

1つ1つに丁寧にラベルが貼られており、どの薬をどれほどの量投与したか、それに関する症状について、事細かに記載されていた。

 

ツキトは少女の入れられたカプセルのラベルを読んだ。

 

『毒物を致死量をギリギリ下回る量を投与。

症状:苦しむ様子は見られたが死亡せず。

毒物を致死量ギリギリで投与。

症状:前回以上に苦しんだ様子が見られたが、死亡せず、続行。

毒物を致死量の1.1倍投与。

症状:苦しみのたうち回った後に昏睡状態に。

11/20、2ヶ月の容態観察ののちに処分せよ。』

 

続いてとなりのカプセルのラベルも読む。

 

『毒物を致死量の倍投与。

症状:苦しむ様子無し、バイタル正常。

毒物を致死量の3倍投与。

症状:以前変わらず、バイタル正常。』

 

このラベルにツキトは少し興味を持ったが、毒物に耐性のある人間は珍しいわけでもないので、目当てのものを探すように兵士に伝えた。

 

1時間ほどが経ったあたりで兵士の1人がツキトの目当てのものを見つけた。

 

一際大きなカプセル、このカプセルだけラベルが1つ多く貼ってあり、そこにはこうあった。

 

『ギアス無効化実験被験体:ジェレミア・ゴットバルト』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

ジェレミア・ゴットバルト。

 

かつては私の剣の師であった男、そしてナリタでの黒の騎士団との戦闘で行方不明になったのを最後に消息を絶った。

 

原作通りならば………と思い、探したら案の定ビンゴ、シュナイゼルが介入したあとのタイミングを見計らって猟犬部隊を突入、殲滅した。

 

何もかも上手くいった、ただ1つ誤算があるとすれば、予想以上に被験体が多く、確保に手間取ったくらいか。

 

すべての被験体の保護を完了し、カプセルから出しても大丈夫な被験体はゲットーの病院へ輸送した。

 

カプセルから出すとまずい状態の被験体は地下研究施設から運び出すことはできなかったが、ゴミを片付け隅々まで消毒をした上で施設をそのまま利用し、治療を行なっていこうと思う。

 

ゴットバルト卿………いや、ジェレミアはカプセルから出して総督府へと運び込んだ。

 

そして今、24日のクリスマス。

 

C.C.を変装させて総督府へ連れ込み、ジェレミアの眠っている隔離された病室へと入った。

 

「で?何話ぶりだか忘れたが、なんの用事だ?」

 

「そう怒るなC.C.、今回は仕事を持ってきたんだ」

 

「偵察か?」

 

「介護だ」

 

「はぁ?」

 

惚けるC.C.にジェレミアを指差して言う。

 

「この男、ジェレミア・ゴットバルトの介護を頼みたい」

 

「………もう廃人じゃないか、それにこいつ………」

 

C.C.はベッドで眠るジェレミアの露出した腕を見て顔をしかめた。

 

「あぁ、ほぼ機械だ、サイボーグというやつだな」

 

「サイボーグの介護なんて専門外だぞ、他を当たれ」

 

「そうでもないぞ………ほれ」

 

C.C.に簡易的なカルテを手渡す。

 

「なになに?『被験体、ジェレミア・ゴットバルト。

ギアス無効化実験の被験体。

一定範囲内のギアスの効力を掻き消す【ギアスキャンセラー】を開発、装備させた。

実験は実行せず。』………確かに、私に関係あるか」

 

自分の生体データを元に研究して作られた対ギアスユーザー用の切り札を何とも言えない表情で眺めて言った。

 

「食事や入浴、排泄の補助などの細かいところは専門の人間を呼ぶ、C.C.にはコード保持者としてジェレミアに接して欲しい」

 

「要するに、話し相手をすればいいのか?」

 

「まあ、そう言うことだ」

 

「わかったが………ツキト、お前最近おかしいぞ?」

 

「私の?どこが?」

 

「最近のお前からは、最初に会った時のどんな手段を使ってでも、というような雰囲気は感じられないんだ…………もしかして、計画は中止にしたのか?」

 

…………そうか、私はもう、あんな計画みたいなことをしなくても良いと考えて行動していたのか。

 

「………そうかもな、良し、計画は中止だ、中止にしよう」

 

「随分あっさりだな」

 

「まあな、いろいろと思うとこがあってな」

 

C.C.は笑った。

 

「ははははは!お前らしい、如何にも神の器を持つ人間だ」

 

「ん?C.C.、お前それ知ってたのか?」

 

「Cの世界との接続は結構長いんでな、情報が回ってくるんだよ」

 

「なるほどな」

 

「で?神になるのか?」

 

「笑わせるなC.C.、そんなものになってしまったら、ナナリー様とアーニャに怖がられてしまうだろうが」

 

「お前らしい、どこまでも不敵なくせして愛する者を優先するところがな……………ま、この男のことは任せろ、私が面倒を見てやる」

 

「頼んだ、私は明後日から本国へ飛ぶ、ジェレミアのこともそうだが、ルルーシュ様とナナリー様のことも気にかけてくれ」

 

「心配いらんだろ、あいつらは十分強いんだし」

 

「違いないな」

 

C.C.を残して隔離病室を去る、さあ、早く帰らねば、クリスマスパーティーに遅れてはナナリーに怒られてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

…………………。

 

「ナナリー様、お決まりになられましたでしょうか?」

 

「……………まだ、です」

 

私は学園で行なうクリスマスパーティーに着て行くドレスを選んでいます。

 

ツキトさんならどれを選んでもしっかり褒めてくれるでしょう、子供っぽいのでも大人っぽいのでも、絶対に褒めてくれます。

 

でもそれじゃダメなんです、ナナリーは欲張りでいけない女です……ツキトさんにドレスではなく私のことを褒めて欲しいと願ってしまったんです。

 

うぅ…………プレッシャーでお腹が…………。

 

ピロ〜ン♫

 

メール?…………ツキトさんから!?

 

『ナナリー様、パーティーに着て行くドレスは、黒のほうが良いと思います、ナナリー様が普段着ない黒系の服のほうが、新鮮味があって素敵だと思いますから』

 

「咲世子さん、黒のドレスを着ます!!」

 

「わかりました」

 

ツキトさんから指名がありました……………今夜は期待しても良いってことですね!

 

ふふふっ………今からパーティーが楽しみです♫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲世子side

 

 

『ツキトさん、ナナリー様がクリスマスパーティーに着て行くドレスについて悩んでおられます』

 

『色は?』

 

『赤、黄、黒、白です』

 

『黒だ』

 

『では、ナナリー様に黒が良いとお伝えください』

 

『わかった、苦労をかけるな』

 

『お気になさらず』

 

『咲世子は赤が似合うと思うぞ』

 

きゅん

 

『ありがとうございます』

 

「…………ふふっ」

 

「(咲世子が、ニコニコしている!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クレアside

 

 

っ!?今、見えた!

 

急いで電話しなきゃ!!

 

ケータイでツキトにかける。

 

早く出てよ!

 

『もしm「ツキト!あなた本国の方に行くのよね!?」

 

『あ、あぁ、ラウンズの食事会に参加するからな』

 

「今ヤバいのが見えたの」

 

『例の、能力でか?』

 

「えぇ、年明けの数時間前、12月末の午後7時以降…………ブリタニア本国が火に包まれる」

 

『……確かなのか?』

 

「私の能力で予知したことは確実に当たるわ、それもう1つ、これは変えられないわ」

 

『どういうことだ?何もしない限りそのままのことが起こると言っていただろう?行動を起こせばそんなこと起きる前に………』

 

「無理よ、これは無理、そうなるって決まってるの、運命のようなものなの」

 

『何てことだ………』

 

「ツキト、私はツキトと一緒には行けない、だから十分に準備をしておいて、私にはここまでしか予知できないけど……………もしかしたら、あなたの妹さんが危ない」

 

『アーニャが…………わかった、ありがとうクレア、できる限りの準備をしておく』

 

「お願いよ、会ったことないけど、あなたの妹さんが死んだなんてニュース聞きたくないんだからね!」

 

『私を誰だと思っている?神にすら手が届く超人類様だぞ?心配はいらん、しっかりと守り抜いて見せるさ』

 

ケータイをきる。

 

床にへたりこむ。

 

「なんでよ………なんで………」

 

自分の家で頭を抱えて泣いた。

 




クレア「なんで………」
ツキト「アーニャあああああああああああああ!!!!」
アーニャ「おにぃ……ちゃん……」
クレア「どうして………」
???「無様なものだな、ツキト・アールストレイム」
ツキト「貴様ァ!よくも、よくもおおおおおおおおお!!!!」
クレア「私は未来が見えるのに………」
ツキト「がぁっ!?かはっ!」
???「お前の負けだな、ツキト・アールストレイム」
クレア「私は未来を変えられない………」
ツキト「なぜ、だ、なぜ………回復しないのだ!?」
???「ふん、これこそ我が力!」
クレア「誰も助けられない………」
ツキト「それでも………それでも私はァ!戦わなければならんのだ!!!」
???「散れ!雑魚風情が!!」
ツキト「オール・ハイル・ブリタニアァアアアアアアアアアアアアア!!!!」
クレア「私は、無力だった………」
次回、『きっとどこまでも広がっているから』
世界の三大国家の一角が崩れ落ちる!!







嘘です。


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『聖夜』と『ドレス』

聖夜のクリスマスパーティー編。
今回はすべて第三者視点でお送りします。



no side

 

 

アッシュフォード学園のほぼ全体を利用したクリスマスパーティー会場は、生徒会の長い長い会議と学園生徒たちの行動力によって、たったの3週間でクリスマス仕様にデコレーションしたのだ。

 

庭の木には全て電飾が施され、壁には透明なシートを貼った上にペンキで絵を描いた。

 

校内の装飾も抜かりはなく、折り紙と電飾で飾られ、教室の電子黒板にはそこのクラスメイトの渾身のバカ絵の絵画展となっていた。

 

大鐘がある党には特に凝った装飾が施されているが、多くの生徒はクリスマスイブまでどんなものかは知らない。

 

午後7時、クリスマスパーティー開始の8時の1時間前に、今までの行事以上に気合の入った装飾の施されたアッシュフォード学園に足を踏み入れた人。

 

実は女(男)、ホモ(レズ)、ショタコン、ロリコン、シスコン、黒幕説、野獣先輩説など、多くの噂があるツキト・アールストレイムである。

 

眼帯を外してカラコンを入れ、髪を短く見えるようにセットし、珍しく紳士服を着た準備万端の彼の姿は、まさしく戦地へ赴く戦士のそれだ。

 

もちろん、それだけではない。

 

このご時世、規模の大きいパーティーというものは犯罪者にとっては鴨同然。

 

いざという時の為に、使える武器が肉体ただ1つでは頼りない、そのためパーティーに相応しい格好を崩さない程度に、武器を各種装備しているのだ。

 

紳士服に隠れた脇の下には小型ホルスター、そこには下士官等への支給品である小型軍用拳銃(コイルガンという表記はは以降省く)がある、小型軽量だが装弾数は10発もある。

 

弾切れを想定し、背中の腰の部分にもホルスターを設け、そこには片目の蛇に『その装飾は〜〜』とお叱りを受けそうな金ピカ装飾ゴテゴテの長銃身でやたら頑丈そうな古風な中折れ式ダブルアクションリボルバーが収まる、装弾数はもちろん、6発だ。

 

しかし、これらはあくまでサイドアーム、いわゆる、『もしもの時に仕方なく使う武器』であり、彼のメインアーム足り得ない。

 

彼のメインアームは、近接武器、とりわけて剣である。

 

しかし、このクリスマスパーティーに長いレイピアは持ち込めないため、仕方なしとして隠匿性を重視しつつもそこそこ長めな刃物………小銃用の銃剣を選んだ。

 

ところで、銃剣というのはそれ一本で様々な状況に対応できる万能器具であるということを、ご存知だろうか?

 

まず銃剣と聞けば、敵を刺す、斬るなどの使い方がほとんどだが、現代では銃剣である物(サバイバルグッズにあるアレ)を擦ることで火花を散らさせ、その火花で火をつける事が可能だ。

 

缶切りとしての機能もついており、いざという時以外でも結構使える。

 

ピアノ線や鉄線といった頑丈でニッパー等での切断が困難なものも容易に切断できる。

 

などなど、かなり利便性の高い道具なのである。

 

しかし、実は構造的に脆い点があり、力の加減を間違えるとすぐ折れるため、ツキトはそこに不満を持っていた。

 

一般兵士がどんなに力を加えても曲がるくらいで、折れたという報告は交通事故で偶然折れたものくらいなのだが…………。

 

今回のメインアームは彼にとってそこまで頼れない武器のため、早々に小型軍用拳銃とリボルバーを使用することを念頭に準備していた。

 

ツキトは学園の玄関から入り、下駄箱を抜けた向こうにある暖房器具の近く、そこに設置された長机とパイプ椅子で作られた簡素な受付に向かった。

 

今回のクリスマスパーティーの参加資格はアッシュフォード学園生徒、またはその親が対象となっている。

 

ツキトは受付の前に立つ、すると、ツキトの放つ無意識な威圧感のせいか、纏っている神格のせいか、サンタクロースのコスプレをした受付係の女子生徒は、その肌寒そうなミニスカワンピースのコスプレ衣装も相まってか、ひどく緊張した顔つきになった。

 

「お、お名前は?」

 

「ツキト・アールストレイムだ」

 

コスプレ衣装の恥ずかしさと上擦る声に内心冷や汗で逃げ出したくなる受付の子。

 

無理もない、クラスメイトにかわいいからという理由で受付係に回され、スタイルがいいせいで寒そうで破廉恥なミニスカサンタ衣装を着せられたのだから。

 

おまけに入ってくる生徒たちに性的な目で太ももや胸元を見られ、羞恥心とストレスが溜まっていた。

 

そんな時に大物登場、彼女の心臓が裂けてもおかしくはなかっただろう。

 

「………………はい、確認しました、クリスマスパーティーをお楽しみください」

 

受付の子が震える手でサンタクロースの帽子を渡す。

 

「ありがとう、君も寒くて大変だろうが、頑張ってくれ、休憩時間があるなら、一緒に今日という日を存分に楽しもう」

 

「!……はい!」

 

柔らかい微笑みと激励とともに帽子を受け取り、その場で被ったツキト。

 

学園内での自分のイメージアップも兼ねての行動の一環として動いたのである。

 

しかし、受付の子にとっては、性的な目で見てこないし小馬鹿にしたりもしない、励まし応援してくれる気遣いのでくる紳士に見えてくる。

 

こういうイメージアップ行動が、ツキト・アールストレイムのファンクラブの会員を増やしてしまっていることを、彼は知らない。

 

校内の廊下に入ったツキトは、浮いていた。

 

校内の男子生徒のほとんどは制服にサンタクロースの帽子か、サンタクロースのコスプレ、着飾っていたとしても安い紳士服がほとんど、高級な紳士服で武装した男は数人しかいない。

 

ツキトのように、有名ブランドのオーダーメイドを着てくるような、経済的余裕がある男はいなかった。

 

女子のほうは生徒会の用意したドレスが貸し出されるというので、多くはそちらを選んでいるようで、制服やコスプレは少数派のように見えた。

 

なぜ女子の多くが生徒会の用意したドレスを選んだのか?それはこの聖夜に出会いを求めたからである。

 

神の示されたこのひと時に、ロマンチックな出会いを求めたのだ。

 

ともあれば、制服やコスプレの少数派は?

 

当然、彼氏持ちやそもそも興味の無い人種、それか出会いよりも楽しみたい派だ。

 

しかし、悲しきかな、出会いを求めんがあまり、女子のほとんどが男子からすれば同じようなデザインのドレスを着ているというのは………。

 

生徒の親と思わしき男女は、さすがに紳士服やドレスを着て来ているが、さすがにオーダーメイドは無い様子だ。

 

そんな保護者たちに、歩いている途中で声をかけられ挨拶と雑談を交える。

 

彼ら彼女らがただの学生のクリスマスパーティーにわざわざ出席したのは、子の成長を見るというのもあったが、日本エリアでの実質的な指導者のツキトとのコネクションを得たいからでもあった。

 

そうした思惑があって近づいた何十組という親達と会話をしながら、ツキトは体育館に来た。

 

もうすでにかなりの人数が来ているようで、男女入り乱れてジュースを飲みながら会話に花を咲かせていた。

 

ウェイター姿の男子とウェイトレス姿の女子が、ジュースの注がれたグラスをプラッター(銀色の大きなお盆)に載せて、ダンスホール中の人に配っている。

 

なかなか力が入っているな、とツキトは感心した。

 

「お、お飲み物は如何でしょうか……」

 

「む……いただこうか」

 

感心しているツキトにクラスメイトから唆されて勇気を出して話しかけたウェイトレスの女子。

 

ツキトは思考を邪魔され一瞬怪訝な顔になる、やってしまった、という考えがウェイトレスの頭の中をグルグル駆け回る。

 

表情の固まったウェイトレスを不思議そうに見つめながら、ツキトはプラッターからグラスを取る。

 

「ごゆっくり、お楽しみください」

 

頭が真っ白になってしまい、無機質な声でそう言ったウェイトレスの子に罪は無い、圧倒的なまでの存在感のデカさに気圧されるのも無理はない。

 

クドイようだが、ツキト・アールストレイムの神格が大きすぎるため、それこそその手の人間からすれば、崇拝の対象となり得るほどだ。

 

ウェイトレスの子にとって特に大きな感慨はなかったが、そのためにいきなりの遭遇でショックを受けてしまい、先ほどまで笑顔でできていた対応ができなくなってしまったのだ。

 

「そんなに緊張することはない、私も一学生としてここにいる、先輩、同級生、後輩としてツキト・アールストレイムに接して欲しい、今だけはナイトオブラウンズでは無いのだから」

 

「は、はい!ありがとうございます、アールストレイム先輩!」

 

それだけに、ツキトの言葉に大きく救われたと感じたウェイトレスの子であった。

 

また1人、ファンクラブ会員が増えたのはいうまでも無いだろう。

 

ツキトはグラスのジュースを飲みながら、ナナリーに先輩と呼ばれたらどんな気分になるのか考えた。

 

鼻血を吹いて卒倒するところまで考えたところで、体育館の奥の方に人だかりができていることに気づいたツキト。

 

そこそこ高価そうな紳士服を着た男子が取り囲んでいる中心には、生徒会が用意したドレスとは違い、高級なブランド物と一目でわかる黒のドレスを着た女子生徒。

 

いつもと違い三つ編みに編み込んだ美しい髪、男の欲望をくすぐり引き摺り出そうとする妖艶な香りの香水を付けて、男子生徒に囲まれる美少女。

 

間違いなく、ナナリー・ランペルージ、彼女である。

 

「ランペルージさん、今日は一段とお美しい」

 

「ありがとうございます」

 

「一瞬に踊ってはいただけませんか?」

 

「申し訳ございません、先約がありますので」

 

ナナリーは自分を誘ってくる男子生徒をやんわりと断りつつ、ツキトを待っていたのである。

 

断り続けるナナリー、無意識にフェロモンを振りまいてしまう彼女に魅了されて性欲全開の男子生徒は諦めきれない。

 

囲まれたナナリーを助けようと同性の友人が入ろうとしているが、男子生徒の必死な形相が躊躇させていた。

 

ツキトは男子生徒の馬鹿さ加減にため息を吐くと、ナナリーに向かって歩き出した。

 

男子生徒の壁の前まで行くと口を開いた。

 

「ナナリー」

 

「ツキトさん?ツキトさんですか!?」

 

「あぁ、ツキト・アールストレイムだ」

 

数人の男子生徒に詰め寄られながらもナナリーはしっかりとツキトの声を聞いた。

 

詰め寄っていた男子生徒一同は振り返ってギョッとした顔をすると道を開けた。

 

ナナリーを誘えずに悔しそうな顔で俯く彼らが可哀想、とは思わない、周りで見ていた生徒は、そんな男子生徒たちをザマァと思った。

 

「ツキトさん!」

 

開けたら道からお姫様が王子様に向かって走る、まるでお伽話のハッピーエンドのようだ。

 

「あっ!」

 

「おっと」

 

しかしナナリーは着慣れないドレスとハイヒールのせいで転びかける、すかさず4mほどの距離を瞬間移動したとしか思えない速度で動いたツキトが支えた。

 

「大丈夫ですか?お嬢様」

 

「ふぁい……////」

 

ツキトは何の計算も無い純粋な愛情100%で作られた無垢な笑顔を超至近距離でナナリーに浴びせたうえで、このキザなセリフである。

 

このリア充が!!!!

 

……………失礼。

 

ナナリーは赤面、耳まで真っ赤になる、恥ずかしくて俯いてしまう。

 

ツキトは内心、ナナリーがかわいすぎてどうにかなってしまいそうなのを抑えつつ、ナナリーから少し離れて言った。

 

「黒いドレスを着て来てくれたのか」

 

「はい、ツキトさんがせっかく選んでくれましたから」

 

「……………うん、今日のナナリーは大人っぽくて、とても美人だ」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「あぁ、髪型も三つ編み……1人で編んだのか?」

 

「はい、ツキトさんの見よう見まねで不恰好ですが」

 

「そんなことはない、一目見た瞬間から、このままずっと、ナナリーを眺めていたいと思ったぞ」

 

「私も、かっこいい服のツキトさんを見たら、ドキドキが止まらなくなっちゃいました」

 

いつも以上にかっこいいツキトに、ナナリーは心臓が飛び出そうなほどドキドキしている。

 

ツキトもまた、ナナリーと同じかそれ以上にいつもと違ったかわいさに心臓が止まりそうになっている。

 

互いに見つめ合う中、放送が流れる。

 

『アッシュフォード学園のみんな!クリスマスイブに来てくれてありがとう!今夜のクリスマスパーティーは、朝まで楽しむわよ〜〜!おー!』

 

「「「「「「おおおおお!!!!」」」」」」

 

「………相変わらずだな、あの会長は」

 

生徒たちの雄叫びが上がりボルテージも上昇するなかで、ツキトは冷静に呟いた。

 

「今日はミレイさんじゃなくて、私だけを見てください」

 

「ふふっ、すまない、ナナリーがまぶしくてつい目を逸らしてしまった、許して欲しい」

 

キザなセリフを吐いてはいるが、内心は綺麗すぎるナナリーに見惚れて変顔を晒さないように、少し早口で喋っているのだ。

 

まるでプロの童貞みたいな対応だが、純愛をこじらせてるだけである。

 

「じゃあ、一緒に踊ってください」

 

ナナリーが手を差し出す、一瞬遅れて吹奏楽部の演奏が始まり、生徒たちは男女組を作って踊り出す。

 

「喜んで、お姫様」

 

とても礼儀正しく臣下の礼をとったツキトは、ナナリーの手を取り、音楽に合わせて踊り出した。

 

20分も経つと、踊っているのはツキトとナナリーの他には生徒の組が1つと夫婦が数組程度しかおらず、ほとんどはステップのタイミングが合わずに脱落、疲れてやめた者もいた。

 

唯一の生徒の組というのは、ナナリーの親友のマリーと、まさかのルルーシュのペアである。

 

マリーはツキトとナナリーを近くで見ようとしたのだが、踊るペアがおらず、また踊るもお世辞にも上手とは言い難いものだった。

 

そこで、同じくツキトとナナリーを見守ろうとしていたイケメンで頭が良くダンスもできるルルーシュがタイミングよく会した。

 

互いの思いを察知、結託、ルルーシュが上手くリードする形で踊り続けることができていたのだ。

 

一方でツキトとナナリーのペアだが、現役のラウンズでダンスなんてお手の物のツキトと、この日のために咲世子主導で猛特訓したナナリー。

 

身体の相性(意味深)が抜群なこともあり、2人のダンスは優雅に回る風車を連想させる。

 

フィニッシュもバッチリと決め、拍手で包まれる、ルルーシュとマリーのペアはどちらも疲れた様子だったのに対し、ツキトとナナリーのペアは終始笑顔、基礎の差がここで出た。

 

なお、数組の夫婦のペアも見事踊りきり、夫婦間の仲がより円満になったのだとか、聖夜のパワーというのは侮れない。

 

ツキトとナナリーは序盤のダンスを終えて談笑に移る、2人の醸し出す柔らかな雰囲気のおかげか、それともナナリーの前で失礼をしないようにと威圧感や神格もろもろを押さえつけているからか、先ほどのウェイトレスも少しだけ話しかけるのが楽なように見えた。

 

それを遠巻きに眺め、極上の美少女、ナナリーを誘うのに失敗した洒落た紳士服の男子生徒たちはため息を吐いた。

 

アルバイトでもして貯めたか、親に頼んだのか、勝負用の紳士服を揃えたまではいいが、元の素材の質が圧倒的に劣っていたのか、それともナナリーがツキトのような見た目の男(女?)にしか興味のない女なのだろうか?

 

間違いなく前者であるのは至極当然であろう。

 

時を同じくして、ルルーシュとマリーもまた、ツキトとナナリーを別角度から眺めていた。

 

しかし、マリーの目には祝福と僅かながら嫉妬が入り混じっていた。

 

人間誰しも、初恋というものは吹っ切れないものだ、マリーもナナリーを祝福してはいるものの、心のどこかでは、その場所は自分が立ちたかった、そう思っていた。

 

だがナナリーを見るたびにそれは無理だったと悟る、同じ女で、同じ庶民出身で、どうしてここまで差があるのか、神様を呪いたくなる。

 

だがマリーはしっかりと知っている、恵まれた環境にいるナナリーは、その環境を作るためにあらゆる努力を積んできたことを。

 

ナナリーのことを誰よりも知っている同性の同級生であり、ナナリーと同じ人を好きになって、それを許せたからこそ、ナナリーの親友なのだろう。

 

ツキトとナナリーは様々な料理をつまみつつ、ダンスホールから出て行き、庭の噴水の近くで星を眺めた。

 

「綺麗ですね」

 

「……そうだね」

 

2人っきりということでツキトは話し方を変え、年相応な青少年のようにナナリーに接する。

 

噴水の濡れていない淵の方に並んで腰掛けると、互いの指を絡ませた。

 

「ナナリー、僕は明日の夜から本国に行くよ」

 

「また、お仕事ですか?」

 

ツキトは、見るからにしゅんとするナナリーの頭を優しく撫でながら語りかけた。

 

「ラウンズが集まって食事をするだけだよ、だから心配しないで」

 

「…………はい」

 

ナナリーは撫でながら優しく囁いてくるツキトに、身も心も何もかも委ねようとして、ふと視線に気づいた。

 

噴水は校舎に3方向を囲まれる形で作られている、つまり今、2人は3方向から同時に見られているということになる。

 

せっかくのクリスマスイブ、2人っきりで過ごしたいとナナリーは願う、しかしそれはパーティが終わった後にとっておくものだと、自分を納得させた。

 

「さて、寒いから中に行こっか」

 

ツキトは立ち上がってナナリーに手を差し伸べる。

 

「そうですね、行きましょうか」

 

ナナリーはその手を取り、ツキトの腕に自分の腕を絡ませて密着するようにして歩き出す。

 

ツキトはナナリーに合わせてエスコートするように毅然として歩き始める。

 

校舎の中に戻ると、多くの生徒たちの視線が集まる、視線の集中砲火の中を気にせず歩く2人。

 

今日という日は自分たちのためにあるのだと言わんばかりの堂々たる歩みに、他のカップルたちは気圧される。

 

絵に描いたような美男美女、小説のような出会い、ドラマのようなプラトニック・ラヴ、そして待ち受けるのはお伽話のようなハッピーエンド。

 

誰もがそう思う、そう願う結末、ツキトとナナリーの物語の最後のページには、『2人はいつまでも、幸せに暮らしました』という文句が似合う、と。

 

しかし物語の展開上、必要な人物がある、親、兄弟姉妹、友人、恋人、そして悪役だ。

 

ナナリーを主人公に置くのならば、恋人はツキト。

 

では、ナナリーが主人公の物語の悪役とは誰か?

 

「ランペルージさん」

 

決まっている、主人公に近づく『意地汚いゾウリムシ(しつこい男)』に他ならない。

 

「…………なんですか?」

 

「僕と、踊っていただけませんか?」

 

安物の紳士服、紳士的だが野心と下心が隠しきれていない表情、身長は高く顔もいいが、特技は射撃でナナリーとはいっさい無関係。

 

射撃部の部長、ジュディ・マックスウェルだった。

 

数ヶ月前のおどおどした態度ではなく、しっかりと格好のつく態度だ、この数ヶ月の間、ツキトを上回るルックスでナナリーを堕とそうと必死に謎の努力をしたのが少しだけ無駄にならずに済んだようである。

 

ナナリーはこの誘いに悩んだ、別にこの優男になびいたとか、興味が湧いたというわけではない。

 

断ればツキトの顔に泥を塗るのではないかという不安を感じたのだ。

 

だがどうしてもこんな男とは踊りたくはないナナリー。

 

そこにツキトは助け船を出した。

 

アイコンタクトで、『構わない、好きにしなさい』と。

 

「………ごめんなさい、今日はツキトさんと一緒にいたいので」

 

ナナリーはアイコンタクトに気づき、しばし思考してそう言った。

 

「わかりました、では、ツキト・アールストレイム卿にお願いが……」

 

「最近の貴族の息子というのは、あいさつもせんのか?」

 

ツキトはいかにもイラついてますという表情と不機嫌な雰囲気を出して言った。

 

格好のつく態度と顔でナナリーの前に出たまでは良かった、しかし焦って声をかけたためツキトのほうにまで神経が回らなかったのだ。

 

マックスウェルは貴族の出ではあるが、普段から社交界には出ず、対女性用のコミュニュケーション能力を上げてこなかった。

 

そのツケが、ナナリーとルルーシュという2人の主人の次の次くらいに礼節を重んじる性格のツキトの逆鱗に触れた。

 

というか、逆鱗を引きちぎらんばかりに引っ張った。

 

「おおかた、ここで決闘(笑)でもして雌雄を決しようとでも言うのだろう?戯けが、今ここで何が起きているか分からんか?」

 

すべての語尾に『www』とつきそうな喋り方をしているが、隣で腕を組んでいるナナリーは、ツキトから漏れ出す微弱な殺気を感じていた。

 

「教えてやろう、クリスマスパーティーだ、生徒会が企画し、学園全体で今日という日に向け1ヶ月前からあらゆる準備を行ってきた……装飾に始まり、出し物の練習やダンスが出来る生徒をコーチとしたダンスレッスン、星付きのシェフの料理見学、レンタルドレス及びメイク練習などなど………自分にできることを考え、高め、この時のため、または将来のために、皆、精進してきたのだ」

 

「!!」

 

「そう言えば、私が休日に手伝いに来た時にはお前の顔を見なかったな、ほとんどの生徒は代わり番こで毎日来ているのにな、不思議に思って聞いてみれば、お前だけはまだ来たところを見たことがないと言っていた、どういうことだ?」

 

今夜のクリスマスパーティーでナナリーを獲得するため、ただただ自分のためだけにクラスの作業を休んで決闘のための練習とファッションの研究をしていたマックスウェルにしてみれば、ツキトの言った言葉は降り注ぐ矢の雨の如く精神にダメージを与えた。

 

周りの生徒たちのマックスウェルへの視線も『またかナナリーに迫っているのか……』というものから厳しいものに変わり、それも彼の精神を猛獣の爪のようにガリガリと削っていった。

 

「まあ、予想はつく、ナナリーに私との決闘を取り継ぐように頼んだ者のリストに、お前の名があったからな、決闘のルールをできる限り自分に有利なものに近づけるために話術でも学んでいたか、決闘を自分の得意な土俵、射撃でやる場合に備えて練習でもしていたか、そんなところだろう?…………クラスの手伝いもせずに」

 

「…………その通りです、アールストレイム卿」

 

すべてお見通しであったことに大きなショックを受けるマックスウェル。

 

「…………だが、こうして私の前にこうして現れた点は、評価しよう」

 

「は、はい、ありがとうございます」

 

「ナナリーに固執するその執念にも似た愛…………よろしい、君が望むのならば、君の舞台で雌雄を決しようではないか」

 

「え、えっと………」

 

頭の回転が追いつかず、返事ができないマックスウェル、さすがに哀れに思ったナナリーはツキトの言葉を訳して言った。

 

「ツキトさんは、マックスウェル先輩が望むなら、今ここでマックスウェル先輩の考えたルールの決闘をしても良い、と言っています」

 

「な!?」

 

マックスウェルはツキトが自分を侮っているのではないか、と思ったが、次には何か裏があるのではないか?と考えた。

 

だがどう考えても、ツキトの不敵な笑みを眺めても、そんな深い裏があるとは思えない。

 

マックスウェルはナナリーにツキトという婚約者がいてなお恋を諦めない、粘着質な男のように見える。

 

しかし、ナナリーの隣に立つにふさわしい男になろうと努力し、決闘のために練習を行ってきた。

 

彼自身、女性経験が薄く、突然の事態やパニックに弱いのは自覚しており、改善しようと短い時間で努力を重ねた。

 

マックスウェルは考えるのをやめた、自分にできるか?勝てるのか?

 

そんな不安を殺してツキトに言い放った。

 

「………受けて立ちます」

 

ツキトはニヤァァ…っととてもとても嬉しそうに笑う。

 

聖夜の決闘が幕を開ける。

 

 

 




次回予告
「科学の進化は止められん!」

「進むためには………犠牲が伴う」

「それじゃ、彼女を幸せにはできない!」

「一握りの人間の幸せと!その他大勢の幸せならば!私は後者を選ぶ!」

すれ違い、離れていく2人。

「9時方向より敵接近!」

「敵襲!敵しy………………」

「怯むな!撃て!撃て!!」

空前絶後の超々大規模クーデター作戦、発動。

「さようならだ、『英雄』!!!」

「こんなところで…………僕は、僕はぁあああ!!!!」

総兵力50万の神聖ブリタニア帝国正規軍。

「死ねぃ!!『英雄』は死んでこそ!高みへと昇るのだ!!歴史に埋もれて、死ね!!!」

総兵力300万のクーデター軍。

世界は、変革を求められている。

「認めぬ!断じて認めぬ!私が、この私があああああああ!!!」

「うわああああああああああ!!」

『神聖ブリタニア帝国「落陽の日」オーベルテューレ』



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アールストレイム兄妹のシャベクリラジオ①

仕事のストレスから逃れるために息ヌキに書いた小話です。



ツキト「アールストレイム兄妹が送る」

 

アーニャ「シャベクリラジオー……ちゃんちゃん」

 

ツキト「………始める前に一言いいか?」

 

アーニャ「何?愛の告白?」

 

ツキト「それは後で……それで、私はこの企画について何も聞かされてないんだが、それについて説明をくれないか?」

 

アーニャ「無理もない、こういうイベントを事前にお兄ちゃんに伝えても二つ返事でノーって言うと思ったから」

 

ツキト「アーニャの頼みなら聞かないこともなかったのだがな………」

 

アーニャ「このイベント、お便りのコーナーとか、唐突な無茶振りとかあるけど、それでも?」

 

ツキト「…………じゃあ断っていただろうな」

 

アーニャ「いっそ清々しいくらいの即答、惚れた、抱いて」

 

ツキト「記念すべき(?)第1回目の放送で終わらせる気か………まあいい、それで、何をすればいい?」

 

アーニャ「……………………簡単な自己紹介から」

 

ツキト「カンペの係、もっとアーニャに見えやすいように大きく文字を書くようにしたまえ」

 

アーニャ「お兄ちゃん、大丈夫しっかりカンペは見えてる、お兄ちゃんに見惚れてただけだから」

 

ツキト「そうか………………では改めて、ラジオの前の諸君、ツキト・アールストレイムだ、ライトオブラウンズの番外席である13の称号を与えられている、単独行動が許可されていているため、現在は日本エリアにてコーネリア総督とユーフェミア副総督の補佐を行なっている、妹のアーニャ共々、よろしく頼む」

 

アーニャ「アーニャ・アールストレイム、ナイトオブラウンズの6………」

 

ツキト「……終わりか?趣味や特技とかはないのか?」

 

アーニャ「趣味……写真撮影と、お兄ちゃんを眺めること……特技は………お兄ちゃんに甘えること」

 

ツキト「そ、そうか……(嬉しいが反応に困る)……私の趣味は読書、睡眠、家事全般だ、特技は剣術とフェンシング、楽器類は大抵演奏できる、あとはKMFの操縦くらいか」

 

アーニャ「あっ、特技のほうに剣術追加で…………これでお兄ちゃんと同じ」

 

ツキト「そうだな、で、次は…………………互いの好きなところと嫌いなところ、か…………企画者は私たちに喧嘩でもさせたいのか?」

 

アーニャ「さあ?私にはわからない」

 

ツキト「とりあえずお題には従っておこう、アーニャの好きなところは………やはり素直なところだろう、それから茶目っ気があるとこも好きだ、共通の話題も多いから会話も弾む、アーニャといて飽きることはないな、あと仕草がいちいちかわいくてな、見ていて目の保養になる、実は結構おっちょこちょいなところも………」

 

アーニャ「恥ずかしぃ……////」

 

ツキト「おっと、すまない………それで、アーニャの嫌いなところなわけだが………………特にこれというものがないから、無しだ」

 

アーニャ「………えへへへ////」ふにゃぁ

 

ツキト「喜んでいるところを邪魔するようで悪いが、次はアーニャの番だぞ」

 

アーニャ「おほん…………えっと、お兄ちゃんの好きなところ…………」

 

ツキト「…………………ま、まさか無いのか?」

 

アーニャ「………全部」

 

ツキト「ん?」

 

アーニャ「全部、全部好き、嫌いなところなんてない、全部大好き」

 

ツキト「そ、そうか……ありがとう、アーニャ////(男のデレなんて需要無いだろうが!何照れてるんだ私は!)」

 

アーニャ「お兄ちゃんが恥ずかしがってる、もっと見てたいけど、次のお題…………したいことを、ひとつ言う、理由があればそれも言う………」

 

ツキト「………ふむ」

 

アーニャ「私は、お兄ちゃんと添い寝したい、お兄ちゃんは暖かいから、抱きしめて寝る」

 

ツキト「私は、アーニャと剣の腕試しがしたいな、妹の成長をこの目で見て見たい」

 

アーニャ「………お兄ちゃんは、私と寝たくない?」

 

ツキト「寝たら気持ちよく寝れるのだろうが、いい歳の兄妹がやることかと思うと、少し戸惑う」

 

アーニャ「そう………」

 

ツキト「だが、アーニャの望みであるなら、私は喜んで添い寝するぞ」

 

アーニャ「お兄ちゃん……!」

 

ツキト「ふふふ………さあ次のお題はなんだ?………何でもいいから話せ、か、投げやりだな」

 

アーニャ「何でもいい…………そう言えばお兄ちゃん、さっき楽器を弾けるって言ってたけど」

 

ツキト「あぁ、そう言ったな、バイオリンやピアノくらいはある程度なら」

 

アーニャ「じゃあ、フルートは?」

 

ツキト「まあ、吹奏楽部並み程度には」

 

アーニャ「じゃあ、チェンバロは?」

 

ツキト「あれはそこまで練習してないが、他の弦楽器とほぼ同じように弾けるぞ」

 

アーニャ「じゃあ、私は?」

 

ツキト「まだ弾いたことがないな、今度弾かせて…………ちょっと待て今のは無しだ、忘れてくれ」

 

アーニャ「ディレクターさん、あとでテープをコピーして頂戴」

 

ツキト「えげつないなアーニャ!?というかそれは辞めてくれ!妹に失言をループ再生されるのは苦痛なんだぞ!」

 

アーニャ「………わかった、その代わり、私にオファーがきたボイスドラマに男性役の人の代わりに出演して」

 

ツキト「それくらいなら………どんな内容なんだ?」

 

アーニャ「タイトルは『もしもの関係』、私とお兄ちゃんがもしもあんな関係だったら…………っていう話」

 

ツキト「男女逆だったり、兄妹じゃなくて姉弟だったり、とか?」

 

アーニャ「そう、あと恋人だったり夫婦だったり、実は義理の兄妹だった、とかもある」

 

ツキト「最後のやつは面白そうだな、いいぞ、それで手を打とうじゃないか」

 

アーニャ「ありがとう、男性役の人が苦手だったから」

 

ツキト「そうなのか?変更は効かなかったのか?」

 

アーニャ「どうだろ?オファーが来た時に男役はお兄ちゃんがいいなって思ってて、変更できるかは聞いてなかった……」

 

ツキト「大丈夫なのか?」

 

アーニャ「大丈夫……大丈夫でしょ、マネージャー、首を縦に振って」

 

ツキト「マネージャー君、その………すまない」

 

アーニャ「…………オーケーみたい、お兄ちゃん収録の時によろしくね」

 

ツキト「私のできる限りを尽くそう」

 

アーニャ「ありがとう、それじゃあ最後に、お便りのコーナー………と言っても、ラジオは今回が初だから、スタッフからの要望事項を書いたハガキしかないけど」

 

ツキト「いいじゃないか、ラジオの前の諸君にしろスタッフの諸君にしろ、台本無しのただただ喋るだけのラジオをこの先聞きたいと願う者ならば、改善のための策を練ってくれているはずだろうからな」

 

アーニャ「そうだねお兄ちゃん、それじゃあ一通目………(ガサゴソ)………『貴方のお姉さん』さんから」

 

ツキト「(コーネリアあたり………いや、咲世子の可能性も……)」

 

アーニャ「『ツキトさん、選んでいただきありがとうございます、ツキトさんと妹様のラジオ、私大変心待ちにしておりました』」

 

ツキト「(咲世子だったか、相変わらず耳がいいな)」

 

アーニャ「『5回に一度、放送の始めにお二人のデュエットで何か一曲歌う、というのはどうでしょうか?』以上、『貴方のお姉さん』からでした」

 

ツキト「放送の始めにデュエットで一曲か、面白そうだな、5回に一回くらいなら練習時間も確保できそうだ」

 

アーニャ「なんなら毎回ぶっつけ本番でもいいくらい」

 

ツキト「それはさすがにいかんだろう、仮にも電波に乗せるのだ、それなりのレベルのものでなくては、ラジオの前の諸君も困惑するだろう」

 

アーニャ「さすがお兄ちゃん、真面目でかっこいい、結婚して」

 

ツキト「法律が変わったらな、さて、そろそろ終わりの時間がきたようだ」

 

アーニャ「そうみたい…………あっ、歌ってほしい歌とかあったらハガキに書いて送って、次回のコーナーで選ぶから」

 

ツキト「それでは、また次回に会おう」

 

アーニャ「ばいばいー」

 

ツキト「愛してるぞアーニャ」

 

アーニャ「お、お兄ちゃ……」

 




なお、、放送中に大勢のラジオの前の諸君が2人の絡みにダウンした模様。


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抜きな!どっちが『素早い』か、試してみようぜ!

ツキトside

 

 

決闘のルールはマックスウェルによって『早撃ち』に決まったため、私の準備を咲世子に任せて準備が整うまで別室で待機となった。

 

今頃、ミレイがイベントの一つとして利用しようとしていることだろう。

 

そういう強かなところは嫌いじゃない、なら私もエンターテイメント性を考えて決闘に挑もうではないか。

 

 

(それもう決闘じゃないやん…… by作者)

 

 

正直な話、決闘は決闘でも剣以外だとやる気もここまで出ないものかと、少し驚いている。

 

剣の才能以外の才能がすべて5であることを知ってるから、つまり銃の才能が5であるから、こう、胸の高鳴りのようなものもないのだろう。

 

だが相手のマックスウェルは学生とはいえ日本エリア最大規模のアッシュフォード学園の射撃部所属、加えて大会での受賞も多い。

 

しかし早撃ちならば、私にも充分に勝機はある。

 

さしあたっての問題は………………決闘を受けたことによって2人っきりの時間が減ってしまい、膨れているナナリーを宥めることだ。

 

「本当にごめんナナリー、その、つい血が滾ったっていうか、そういう感じのアレで………」

 

「むぅーっ」

 

………頰を膨らまして怒ってる顔が可愛いなんて言えない。

 

「せっかくの、クリスマスパーティーでしたのに………」

 

「うっ………すみませんでした」

 

「敬語はいりません」

 

「ご、ごめん……」

 

本気でキレてるよ。

 

「はぁ…………ツキトさんの血の気が多いのは知ってます、今回はクリスマスに免じて特別に許します」

 

「あ、ありがとうナナリー……次は気をつけるよ」

 

「その代わり!負けたら斬りますから」

 

「わかったよ、さすがにぼくも斬られるのはこw」

 

「自分を」

 

「全力で勝ちにいくから!!見ててよ!!!」

 

私じゃなくて自分(ナナリー)を斬るのかよ!?

 

斬られるより怖いぞそれは!!

 

「はい、しっかり見てますから…………ツキトさんのかっこいいところ」

 

「っ…………………////」

 

「あ!今照れましたね?照れましたよね?」

 

「うぅ……て、照れましたよ!照れました!!////」

 

くっ、不意打ちをされるとは!

 

そうこうしていると、咲世子がノックをして入って来た。

 

「ツキトさん、準備ができました」

 

「準備をさせて悪かったな、咲世子」

 

「いいえ、そんなことはありません」

 

「ありがとう咲世子………うむ、よく似合っているぞ咲世子」

 

「そ、そうでしょうか」

 

「あぁ、いつもと違う服だからか、新鮮で、何より赤という色がが咲世子のイメージ通りで……なんと言ったらいいか、神聖なものを見ている気分だ、とても美しいよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

そう言って咲世子は一礼する、真紅のドレスを着た姿での美しい動作に目を奪われる。

 

「むぅ……ツキトさんの女誑し」

 

「ちょっとナナリーそれは酷くない!?」

 

「事実でしょう!?ツキトさんったら、私という彼女がいるのにコーネリア姉様やユフィ姉様、さらにはアーニャさんや最近出てきた秘書さんまで!一体何人いるんですか!?」

 

「ナナリー様、申し訳ございません」

 

「あっ、咲世子さんが愛人でも良いですよ、でも、ツキトさんの本妻は私1人だけですから」

 

「……………………………………わかりました」

 

「返事までが長いですね、咲世子さん?」

 

「そ、それ以上争わないでください、私が悪いのです、私が………」ジワッ

 

「「あっ………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

「わ、私にできることなら、何でもします、ですから、喧嘩はやめてください………」ウルウル

 

忘れてました………ツキトさんのメンタルが、実は豆腐も真っ青な柔さだってこと。

 

「け、喧嘩なんてしてないですから!ね、ねえ咲世子さん?」

 

「そ、そうですよツキトさん、ナナリー様の言う通り、大丈夫です、何も問題ありませんから」

 

「ほ、本当ですか?」

 

目を潤ませてオロオロするツキトさん、普段の威厳のある堂々とした態度のカッコいいツキトさんは消え去って、まるで子猫か子犬のような愛らしくて可愛らしい雰囲気に。

 

昔はよく泣きそうな顔で喧嘩の仲裁とかしていましたね、懐かしいです。

 

それにしても………ツキトさんの泣きそうな顔って、すっごくソソルんですよね、今すぐベッドインしたいくらいです。

 

「な、ナナリー様?こ、怖いです……」

 

あれ?いつの間にかツキトさんの肩を掴んでいました、無意識に押し倒そうとしたのでしょうか?怖いですね。

 

「ごめんなさいツキトさん、これはその…………喧嘩じゃないってことをツキトさんにわかってもらいたくて」

 

「ど、どういうこと?」

 

幼児退行してきてるのが母性とかをくすぐってくる!

 

「こういうことです……………」

 

「えっ!?ま、まっt……………」

 

掴んだ肩を引き寄せて、ちょっと強引にキスをする。

 

ツキトさんは、実はメンタルが弱く、押しにも弱いM気質の人なので、ちょっと強引に行くほうが…………。

 

「ご、強引すぎだよ……////」

 

ツキトさんは喜びます、自分では気づいてないみたいですけど。

 

「そんなこと言って、嬉しそうな顔してますよ?」

 

「そ、そんなこと!」

 

「ふふふ、じゃあ、もう一回、キスしましょうか?」

 

「だ、だめ!咲世子だっていr………んんーー!!」

 

あぁ………このままずっと虐めていたい………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後に正気を取り戻して自己嫌悪中のナナリーです。

 

弁解させていただけるなら、ツキトさんがあまりにも魅力的なのが悪いんです。

 

何でそこらへんの女子よりもかわいい反応をするんですか、そんな反応をされたら下半身が熱くなってしまうじゃないですか。

 

………………でもキスマークを身体中に付けまくったのは反省点ですね、もっとよく見えるところに大きいのを一つ付けるべきでした。

 

「待っていました、ツキト・アールストレイムさん」

 

「……………」

 

ダンスホール(体育館)の中央を改造してピストのようなラインを引き、そのちょうど真ん中から少し横にずれた場所に腰の高さ程度の台が置かれていて、側には咲世子さんが立っています。

 

台の上には競技用拳銃が二丁、どちらも同じ形をしていて、弾の入る場所が回転する方式に見えるので、たぶんリボルバータイプの拳銃だと思います。

 

マックスウェル先輩の問いにツキトさんは返事を返さない。

 

「…………なるほど、言葉は不要というわけですね?」

 

「………あの、マックスウェル先輩、今ツキトさんの舌が痺れてて話せないんです」

 

「え、あ………そ、そうだったんですか、すみませんでした」

 

「………」フリフリ

 

マックスウェル先輩の謝罪にツキトさんは首を横に振って気にしていないことを伝える。

 

ドヤ顔で『言葉は不要というわけですね?』と言ってしまってバツが悪そうな顔をするマックスウェル先輩に心の中で謝る。

 

ツキトさんが喋れないのは、夢中になりすぎちゃったからです、その………キスに////

 

「私が通訳を務めますから、会話の方は問題ないですよ」

 

「お願いしますランペルージさん」

 

「……………『咲世子、ルールの説明を頼む』」

 

「はい」

 

咲世子さんにツキトさんの言いたい言葉を伝えると、咲世子さんは競技用拳銃を一丁持ち上げました。

 

「今回の決闘は、今から100年以上前、西部開拓時代における無法者達の早撃ち勝負を題材にしております」

 

競技用拳銃をカチャカチャといじって弾丸を込めていく咲世子さん、何だかとっても様になっています。

 

「え?あっ、『今の動き、様になっていてかっこよかったぞ』………っていきなり口説くんですねツキトさん」

 

「ありがとうございます、ツキトさん」

 

咲世子さんも、手元が狂ってすでに弾丸を込めてあるところにまた弾丸を込めようとしてますし………もう!ツキトさんの口説き魔!

 

「ここにいらっしゃる生徒の方の中から数名選出し、合図のボタンを押してもらいます」

 

「…………『なるほど、勝負を公平にするためか』」

 

「そうです、私が合図を担当するとツキトさんにタイミングがバレてしまいますので、ご了承ください…………決闘を行う両者はこのラインの両端に立ち、合図で拳銃を撃ち、相手に命中させた方がポイントを得ます、合計で5ポイント取った方の勝ちとなります」

 

「………『それだけじゃあないんだろう?』」

 

「はい、このルールでは常日頃から銃を扱う軍人であるツキトさんが圧倒的に有利ですので」

 

咲世子さんの言葉を聞いたツキトさんは、いきなり上着を脱ぎ始めました。

 

上着を脱ぎ去ったツキトさんの左脇の下には拳銃を収めておくホルスターと呼ばれるものが装備されていて、そこには軍隊で使うような簡素な黒い拳銃が収まっていました。

 

背中の腰の部分にもホルスターがあり、そこには競技用拳銃を大型化したような、いかにも強力そうな見た目の、金ピカのリボルバータイプの拳銃が堂々と収まっています。

 

「『その通りだ咲世子』」

 

二つのホルスターを外して私に差し出すツキトさん。

 

「『邪魔だからこれはナナリーに預ける』……って、えぇ!?でもこれって大事な………」

 

「…………構わん、ナナリーなら信頼できる」

 

「しゃ、喋れるようになったんですか?あと信頼できるって………」

 

「本当だ、それに、重りをつけたまま決闘などしては侮辱になろう、だから預かっていてくれ」

 

「は、はい」

 

言われるまま、確かにそうだな、と思いながら二つのホルスターを…………お、重い!この黄金銃重すぎます!

 

「ん?あー、さすがに重たかったか?」

 

「い、一体これはなんなんですか?こっちの黒いほうの3倍、いえ5倍以上重いですよ」

 

「その昔、アールストレイム家が権力誇示のために特別に造らせた、頑丈かつ気品(?)溢れる銃がそれなんだが………片手で持てないほど重いのが欠点でな」

 

権力誇示のために頑丈な銃を造ろうという考えになったのはなんでですか!?

 

というかそれ以上に見た目が強烈過ぎるんですけど。

 

「そもそも戦闘向きではなく観賞用だしな」

 

ツキトさんが黄金銃を持ってきた意味がわかりません………。

 

よく見ると金ピカなだけじゃなくて彫刻まで彫ってあります、金ピカじゃなかったらもっと綺麗に見えるんでしょうけど………これだとちょっと見にくいような気がしますね。

 

「さて………話の腰を折ってすまない、続きを頼む」

 

「はい、今回使う弾丸は訓練用の弱装弾をさらに弱装したもので、ゴム製のため仮に至近距離であっても致死性は限りなく低いです」

 

咲世子さんは台の上に置いた箱から弾丸を取り出してツキトさんに見えるように掲げました。

 

「弱装の弱装、つまり限りなく低初速となっており、1発のみ装填して撃ち合っていただきますが………先に相手が放った弾丸を後撃ちで迎撃した場合、2ポイントを獲得できます」

 

「ふむ、早撃ち対決にしては互いの距離が長いと思っていたが、なるほど、確かにこれなら早く撃とうとしても当てづらく、狙って撃とうにもどの部位が狙われているかわかってしまうだろうな」

 

「はい、そこで迎撃しやすいように初速を低くいたしました、ツキトさんのような軍人や、射撃の競技者であるマックスウェルさんのどちらにも有利不利は少ないルールであると」

 

……………ダメです、全然わかりません!

 

しょ、初速って何ですか?きっと速度のことでしょうし、弾丸が飛んでいく速度とか?

 

……後日にツキトさんの特別授業を受けることにしましょう!

 

「…………マックスウェル君、君は承知しているのかね?いくら初速が低いとはいえ、弾丸の迎撃どころか目で追うのも難しいぞ」

 

「………はい、承知しています、しかし、これくらいでなければアールストレイムさんは勝負を受けてくださらないと思ったんです」

 

「なるほど………それじゃあ始めようか」

 

そう言ってツキトさんは振り返って私を見つめ、ニヤリと笑ってみせた。

 

まるで、勝ってくるからそこで待っていてくれ、と言っているような不敵な笑みで………見とれてしまって…………。

 

「…………頑張ってください」

 

としか言えませんでした。

 

ツキトさんは優しい顔で満足そうにうなづくと咲世子さんのところに歩いて行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side

 

 

咲世子の前に並んだツキトとマックスウェルに、咲世子は黒く分厚い重そうなベストを持ち上げて言った。

 

「安全に考慮して、防弾チョッキと防弾グラスをつけてください」

 

いくら初速が低く怪我の可能性が極めて低い訓練用の弱装弾とはいえども、安全には十分に考慮する必要がある。

 

一番の懸念事項、ツキトが怪我してしまうかもしれない、という不安が消えナナリーが安心したところで。

 

「つけないという選択肢はあるか?」

 

だがここで不死身の主人公ツキト・アールストレイム、なんとトールボーイもびっくりな規模の爆弾を投下してしまう

 

「もちろんありです、しかし…………」

 

咲世子はチラリとナナリーを見た、ツキトも咲世子の視線の動きに従ってナナリーを横目で見た。

 

ナナリーは防弾チョッキがあると知りホッとしていたところに、ツキトの言葉から一気に不安が押し寄せ青ざめていた。

 

「…………冗談だ、さすがに痛いのは嫌だ」

 

「賢明な判断です」

 

おどけるように冗談だと言うツキトだが、唯我独尊、我欲の塊を自称するようなツキトでも、ナナリーの青ざめた顔は大きなショックであり、表情と声にのらないようにおどけるので精一杯で、内心ひどく動揺していた。

 

咲世子はツキトの動揺を見抜いていた、見抜いていたうえでツキトの名誉のために素知らぬ顔で会話を続けたのだ。

 

ツキトは咲世子への好感度を上げたが、すでにカンストしていたのであった。

 

防弾チョッキとグラスを受け取り装着する2人、その様子を咲世子は不快に思われない程度に不正がないか見ていた。

 

着け終えた2人は革製の味のある、今となっては少々古臭いガンベルトを腰に巻き、競技用拳銃をそこに挿した。

 

マックスウェルのその姿は現役の経験者であることもあって様になっており、ナナリーとマリーを除いた女子の複数が黄色い声で騒ぐのも納得のイケメン具合だった。

 

ツキトも顔はいいため様にはなっているものの、低身長と邪魔にしかならなそうな長い髪が足を引っ張り、マックスウェルに比べて劣った。

 

しかし表情は別物、ツキトは不敵に微笑んでおり、マックスウェルは覚悟を決めたような表情だ。

 

雰囲気も違った、マックスウェルは絶対に勝つ、という思いがありありと伝わってくるが、ツキトはそれを正面から叩き潰さんとばかりに威圧する。

 

アッシュフォード学園体育館の決闘が始まろうとしていた。

 

ついでに、この時の賭けではマックスウェル有利であった。

 

『ハーイ!それでは、防弾板オープン!』

 

校内中に響き渡るミレイの掛け声、それに呼応して透明なボードを持った男子がツキトとマックスウェルの周りに現れ、透明なボードを床に設置し囲んだ。

 

『今2人を囲んだのは射撃部で使う透明な防弾板よ!さらにカメラも設置したから、これで校内中どこでも決闘を観れるわよ!』

 

「その行動力をもっと別のことに回してもらいたいところだな」

 

『ちょっと!突っ込み禁止よツキト君!』

 

「(聞こえてるのか……チョッキに集音マイクでも仕込んであるのか?)」

 

ミレイの謎行動力に脱帽したくなると同時に呆れてみせるツキト、対照的にマックスウェルは真剣な表情で集中力を高めていた。

 

『さあ!ついに始まったツキト君対マックスウェル君の早撃ち対決!』

 

『実況はミレイ会長、解説は私、カレン・シュタットフェルトがやるわ』

 

『本校でのラウンズとの決闘は、これで2回めになるかしらね、あの時のナナちゃんとの剣闘はかっこよかったわね!』

 

『今回は特殊ルールの早撃ち対決だけど、安全には配慮してるから大丈夫………って言っても、ナナちゃんは心配よね』

 

『ナナちゃんはツキト君のこと大好きだし当たり前よ、それに結果次第ではナナちゃんがマックスウェル君にとられちゃうわけだし……………あっ、逆だったかしら?』

 

『アールストレイムさんが一体どこの誰に取られるって言うんですか……』

 

『それはほら、ユーフェミア様とかコーネリア様とか、あとこの前ここに一緒に来たあの秘書さんとk』

 

「ミレイさん、シャラップ」

 

『アッハイ』

 

この時ミレイ、ナナリーにこの手の話題は特大のツァーリ・ボンバであることを悟った。

 

というか普通、自分の彼氏が誰かにとられるような話をされるのは嫌であろう。

 

特に、もしかしたらツキトが怪我するかもしれないと、ツキトの身を案じていて少々精神が不安定なナナリーには、そういう話をしてはいけない。

 

と、ここでナナリーの足がふらついた。

 

近くにいたマリーが駆け寄って支えた。

 

「ちょっ、ナナリー大丈夫?」

 

「だ、大丈夫です」

 

「嘘つき、足が震えてるじゃないの!」

 

ナナリーの両足は不安からくる重圧で震えており、力が入らなくなってしまっていた。

 

「え、え?……あ、あ…………」

 

「そんな情け無い顔しないの、ほら、椅子持って来たから」

 

こういうところは咲世子が出てくるところであるが、咲世子は今審判役を務めているため、マリーがその代わりを担っているのだ。

 

マリーという少女、実は結構な世話好きであり、庶民出身であることもあり交友も幅が広いのだ。

 

世話好きな幼馴染系の少女、そこが彼女のモテる所以なのだが、当人はツキト以外眼中にないという現状…………世の男子諸君、泣いたって良いんだぞ!

 

「ありがとございます……」

 

椅子に腰を下ろしたナナリーの顔は青ざめている、いくら信用できる咲世子が言う言葉でも、ツキトの身を心配せずにはいられず、考え出すと止まらないナナリーの性格もあいまって悪い方、もっと悪い方に考えてしまっているのだ。

 

「うぅ………」

 

「もーほら!アールストレイムさんはあんなストーカーみたいな男には負けないわよ!」

 

「で、でも!怪我するかもしれないんですよ!?もしかしたら、ツキトさんの拳銃のハンマーが当たって指に穴が空いたりするかもしれません!それに……」

 

ナナリーが悲痛に叫ぶ、今まで銃を使うところをほとんど見てなかったため当然かもしれない、経験が少ないのに無理をすると怪我をするのは当たり前だ。

 

叫ぶのを聞いて防弾板の檻の中にいるツキトが、ナナリーのほうに振り向き、にこっと笑顔を浮かべた。

 

「あっ………////」

 

「ナナリー?どうしt……あ、ちょ!?アールストレイムさんこっちにもスマイルください!!」

 

ツキトの笑顔はナナリーの中にあった不安を消し飛ばすのに十分な威力を持っていた、ナナリーは突然見せたツキトのデレ笑顔に鼓動が速くなった。

 

マリーはマリーでちょっと残念になっていたが………。

 

「不意打ちは卑怯でしゅよ////ノーカンでしゅ////」

 

「うっひゃっ////その気持ちわかりゅぅ〜////」

 

美少女が2人してとろっとろにとろけてしまったところで、遠いところから一部始終を見ていたルルーシュとスザクがいた。

 

「ルルーシュ、行かなくても良いの?」

 

「ナナリーにも良い友達ができたようだし、あの子に任せても良さそうだ、それに、いつまでも一緒にいたら、兄離れもできないだろうし」

 

「(ツキトはルルーシュのほうが妹離れできないって言ってた……)そうだね、ナナリーも大人になっていくんだし、ずっと面倒を見ることはないよね」

 

「ああ、だが困っているときは助けなければな…………と言っても、ツキトか咲世子で事足りてしまうが」

 

ナナリーの成長を知ることで、どこか寂しさを募らせるルルーシュであった。

 

「こちらの準備はいいぞ、咲世子」

 

「僕の方も準備完了です」

 

『第1ラウンドの幕開けよ!みんな刮目しなさい!』

 

準備完了の合図を出すとミレイがそう叫んだ、もうどうあっても黙る気はないようだ。

 

生徒たちの息を飲む音が聞こえる、そう思えるほどの静寂に包まれた体育館の決闘は、すでに始まっており、指定された生徒たちがボタンを押せば、静寂は破られるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーーッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タンッ!

 

合図と同時だろうか、それともほんの少しの刹那だけズレたのか。

 

一瞬だけであるが、咲世子すら認識できない早撃ち、ツキトはそれをやってのけた。

 

「んぐっ!?」

 

弱装弾とはいえ、胸の中心に着弾し仰け反るも、倒れないマックスウェル。

 

剣に一筋であったツキト・アールストレイムがよもや、銃にまで精通しているとは思わず、多くの生徒は震撼した。

 

どの距離であっても剣のほうが優れている、などと馬鹿馬鹿しい事を言っても否定しきれないほどの剣の使い手であるツキト、彼がなぜマックスウェルを超える速度の早撃ちをやってのけたか。

 

それはもちろん、才能のおかげである。

 

そもそもの才能が最高値であるなら、あとは軍人としての知識、前世での経験を併せ持つツキトならば、達人レベルの早撃ちも可能、というのがツキトの考えだ。

 

事実、この世界はツキトというイレギュラーによって本来の世界有様が、ゲームで例えるなら仕様変更がされてしまっている。

 

コードギアスという世界がゲームなら、努力と才能よりも、頭脳とヒラメキで戦局を打開する戦略シミュレーションゲームになるはずだ。

 

どこにどのステータスのキャラ・機体を配置してどう動かして最低限の損傷で大戦果を上げるか、そこが重要な点であり、プレイヤーとしてもそこが楽しいところだ。

 

ではここに、DLCとしてツキトをインストールしたらどうなるか?どんな名作ゲームもいっきに糞ゲーとなるだろう。

 

意味不明なステータス値に機体との適正値、強力過ぎるスキル、そもそも不老不死。

 

どの戦場、どの距離、どの機体、あらゆる状況で戦えるオールラウンダーといえば聞こえは良い、しかしその実は最強無敵のワンマンアーミー。

 

『歩く約束された勝利』、『勝利以外一直線のゲイ・ボルグ』、『性格と容姿以外AUO』のようなもの、萎え必須だ。

 

『金返せ』とでも聞こえてきそうなほど酷いものである。

 

そんな存在が、ルールの定まったスポーツで負けるはずが無い。

 

詰まる所、この決闘においてツキトが負ける確率は、『ある日突然ゾンビが大量発生し逃げ延びた4人の美少女と1匹くらいの人数で自分たちの通っていた学校でメンバーのうちの1人の現実が見えてない少女を騙しながら生活する』くらいの確率だ。

 

遠回りに言わないのなら、この決闘はツキトが勝つ。

 

タンッ!

 

今、マックスウェルの拳銃から4発目の弾丸が放たれた、長い説明の間にすでに3度の被弾で3ポイントを失ったマックスウェルは、4発目においてついにツキトを超える速度の早撃ちに成功した。

 

…………と本人は思っていた。

 

タンッ!

 

実際はエンターテイメント性を考えたツキトの策であった、わざとマックスウェルの射撃からワンテンポ遅れて射撃したのは、空中での弾丸同士の衝突により跳弾させ、それによる2ポイント獲得でフィニッシュを狙ったのだ。

 

最高のステータス値を持つツキトに、弾丸同士をぶつけさせるのはさほど苦では無い、それにこれまでの3度の射撃で弾丸の速度は把握していた。

 

ピキィィィインッ!

 

まるでミサイルがミサイルを、飛行機が飛行機に真っ直ぐに突っ込むようにマックスウェルの発射した弾丸とツキトの発射した弾丸は空中衝突した。

 

先に抜いて撃ったのはマックスウェル、後から抜いて撃ち落としたのがツキト、つまり、ツキトの迎撃成功で2ポイント獲得。

 

しばしの静寂の後。

 

「そこまで、5ポイント先取でツキト・アールストレイム卿の勝利!」

 

勝敗は決っする宣言、審判の咲世子の言葉でツキトの勝利が高らかに伝えられた。

 

5-0でのストレート勝ち、この現実は多くの生徒に様々な印象を与えたことだろう。

 

「すげえ、マックスウェルに勝った……」

 

「銃もいけるってなっちまったら、こりゃもう勝ち目ねえな………」

 

「見たかよおい!」

 

「ああ見た見た!ピキィィィインッ!ってよぉ!弾丸を弾丸で弾いた!」

 

最も多くの者たちは、マックスウェルの勝利で終わってしまうと思っていたが、終わってみればツキトのストレート勝ち、しかも最後は迎撃までやってのけたことでテンションは上がりに上がって大歓声である。

 

「まあ、安定感あるよな、でも最後のはやばかった」

 

「うん、なんか、最後のはやべえわ」

 

「一生に一度だけだろうなぁ……あんな静かなかっこいい決闘は」

 

次に多くの者たちは、やはりというか当然というか、ツキトの勝利はほぼ決まっており、ストレート勝ちもあって出来レースを見たような気分だった、が、やはり最後の弾丸の迎撃は盛り上がったようだ。

 

「終わりました………」

 

「そうね………あぁもう、足がガクガクよ」

 

「ふふ、2人揃って緊張のしすぎですね」

 

「こんなみっともない姿をアールストレイムさんに見られちゃうなんて………うぅ」

 

「私はもう吹っ切りました、今は帰ってきたツキトさんが優しく抱きしめてくれるのを待ってます」

 

「じゃあ私はアールストレイムさんにキスしてもらおうかしら」

 

「マリーさんでもそれはダメです!」

 

「あら、わからないわよ?お願いしたら意外に…………ね?」

 

「確かにツキトさんはお願いされたら断れない人ですけども!」

 

「うふふ、あぁ……アールストレイムさん////」

 

そして極少数、主にナナリーとマリーはツキトに怪我がなく終わったことにホッと肩を撫で下ろした。

 

とはいうものの、ナナリーは決闘の前から相変わらず足に力が入らず座ったまま、マリーも決闘の途中からナナリーと同じように足に力が入らなくなってしまったため、2人揃って椅子に座っている。

 

『第2回アッシュフォード学園の決闘は、ツキト君の勝利となったわね』

 

『予想できてた人は多いんじゃないかしら?』

 

『でも最後のは危なかったわ、ひやっとしたもの』

 

『と、いうことで、放送を終わります』

 

『最後に!2人の健闘を讃えて拍手!』

 

ミレイの一声で嵐のような拍手が起こる中、ツキトはマックスウェルと健闘を讃え合うように握手を交わした。

 

これがのちに、アッシュフォード学園の決闘として歴史に名を残すことになるのであった。

 

 



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この『大馬鹿妹』が!!

前半は昔話をちょっと挟み、後半はブリタニア本国到着後の話。


ナナリーside

 

 

今回は、私とツキトさんの出会いについて話したいと思います。

 

あれは、私がまだ3、4歳ころ、お兄様が6歳ころの時、私とお兄様の家、ヴィ家を支援してくださっている家の中でも最大のアールストレイム家、そこから家の使用人として送られてきたのがツキトさんとアーニャさんでした。

 

「初めましてルルーシュ様、ナナリー様、本日よりお二人のお世話をさせていただきます、ツキト・アールストレイムです、妹共々よろしくお願いします」

 

「妹のアーニャ・アールストレイムです、よろしくお願いします」

 

ツキトさんとアーニャさんは礼儀正しい動作と言葉遣いで挨拶をしました、その時のことをお母様とお兄様はとても驚いていらっしゃいました。

 

お兄様曰く、同い年とは思えないほど落ち着いていて異常だ、と言っていました。

 

お母様は、ツキトさんを面白い子だと笑顔で言っていました。

 

それから数日、ツキトさんとアーニャさんはヴィ家の様々な場所の掃除などをしていましたが、ツキトさんはそのうち見れなくなり、気になって探してみると、剣の稽古をつけてもらっているところでした。

 

思えばこの頃から、ツキトさんのことが気になり始めていたのでしょう。

 

それから気になってしまい、お勉強や習い事がない時間に何度も何度も、剣の稽古をするツキトさんを覗きに行きました。

 

お兄様には覗き見するのははしたないと言われてしまいましたが、それでも私は見に行くのをやめませんでした。

 

剣の稽古をつける先生の人との模擬試合で、吹き飛ばされてボロボロになりながら突っ込んで行くツキトさんを覗き見て、『危ない!』とか『痛そう』とか、思っていましたね。

 

それである日、覗き見ている時にお母様に見つかって、声をかけて見たら?と言われたので、休憩中のツキトさんに声をかけようとしました。

 

タオルと洗面器を借りて、お湯を張って持って行きました。

 

お湯を張った洗面器は当時4歳の私には重かったのですが、よたよたしながらもツキトさんの近くまで行くことができました。

 

タオルにお湯を染み込ませて、傷だらけのツキトさんの身体中を拭いていきます。

 

ツキトさんは眠っていたようで、顔や腕を拭いていた時は反応は薄かったのですが、服を脱がせて上半身を拭こうとタオルをつけた時、ツキトさんの目がギンッと開きました。

 

私をギロリと睨みつけたと思うと、すぐに驚いた顔になって、起き上がろうとしました。

 

「動いちゃだめ」

 

「で、ですが、このようなこと、ナナリー様がするまでも……」

 

「動いちゃ、だめ」

 

「は、はい」

 

無理やり起き上がることもできたんでしょう、けど、私がツキトさんに馬乗りになっていたことと、命令するみたいに言ったからしぶしぶ引いてくれたんでしょうね。

 

そして胸の部分を拭いている時でした、馬乗りの状態だったからか、バランスを崩してツキトさんに倒れこんでしまいました。

 

その時、私の髪につけていた髪留めの鋭い部分が、ツキトさんの胸に刺さり、体が揺れたことで横に切り裂いてしまいました。

 

パニックになってしまった私は、謝り続けていた、と思います。

 

実は、その後はよく覚えていないんです。

 

でも、ツキトさんがあの時、私のことを怒らず、お礼を言ってくれたことだけは、覚えています。

 

ツキトさんのサラシは、その時の傷を隠すために、私がプレゼント、っていうと変ですね……お詫びの品、として渡したものなんです。

 

元々は私の髪を縛るためのリボンだったんですけど、質の良い布を使っているので、どんな用途でも応用が効いたんです。

 

それ以来、ツキトさんはサラシを巻いてます、私とツキトさんの最初の交流は最悪のものでした、でも、話を重ねたり、遊んだりしてるうちにどんどん引き込まれていって。

 

お母様が暗殺されかけた時、ツキトさんが放たれる幾百の弾丸を物ともせずに切り捨てた話を聞いて、ツキトさんが大好きなんだって気づいて。

 

日本に行ってからは、ツキトさんと毎日遊んで、勉強して、料理して、お風呂に入ったりして、気づいた気持ちが、どんどんどんどん、膨らんでいって。

 

気づいた時には、ツキトさんしか見えませんでした、ツキトさん以外の男の人が全員同じように見えて、ツキトさんだけが輝いていて、私を導いてくれて、私を見つめていてくれて、私を愛してくれていて。

 

「…………」

 

そんなツキトさんをどうしようもなく想ってしまう私の気持ちは。

 

「大好きですツキトさん、愛してます……」

 

きっと、本物なんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

「ん…………気のせい、か?」

 

時計を見ると午前3時、乗ったのが18時だから、9時間は寝てたわけか。

 

ブリタニア本国へ向かう旅客機の中で、ナナリーに微笑みながら大好きと言われる、そんなしあわせな夢を見てて良いところで目が覚めるなんて………。

 

しかし、ナナリーは想った以上に大人だったな、アーニャだったら私が旅客機に乗ろうとすると止めようとしてたからな。

 

ナナリーは辛そうな顔ではあったがしっかり見送ってくれ、きっとそのすぐ後で泣き崩れていたのだろうが。

 

まあ、私の勝手な想像よりもずっと大人だった、というだけの話なんだけどな。

 

あと8時到着予定だからあと5時間はあるな、なんでこんなに遠いんだ、いやこいつが遅いのか、どちらにせよ、まだ寝て待つ必要がありそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

エッチの時は特に可愛くて、ゴム無しでシテいる時とかは特にですね。

 

『中はダメ!中はダメ!』って叫ぶんですよ、女の子みたいに、あまりに可愛いので出る直前の本当にギリギリまで入れたままで、出そうになったら外に出してあげるんです。

 

そうするとホッとしたような顔をするんですが、そこで拭かずに入れようとするとものすごい焦り出して、怯えたみたいにビクビクするんです。

 

こうすることで、2回目以降はゴムをつけてあげると拒まなくなります、最初からゴムだと2回目以降は厳しいですよ。

 

え?もし最初のゴム無しで中に出ちゃったらどうするんだ、って?

 

その時は………可愛い赤ちゃんを産んで、ツキトさんを幸せにするだけですよ♡

 

帰ってきたら、たくさん………久しぶりにシタら、中に出してしまった、なんていう『不慮の事故』とか、ありますよね?

 

うふふ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

……………チッ。

 

「最悪の、目覚めだ………」

 

ナナリーに生で逆レイプされてて、完全に中で出してしまったところで起きてしまった………どうせならその後の未来くらい見せろよ、そうしたら少しは気分も晴れたというのに。

 

心臓にも精神にもダメージの大きい、正夢みたいな夢だったな、というか、内容だけなら悪夢だ。

 

しかしまあ、悪夢か………これからブリタニア本国で起こる出来事の方が悪夢らしいな、何せ、クレアの未来予知でどれほどの規模か大体わかっているしな。

 

おおよそ、300人以上は死ぬそうだ、兵力で表すなら、1個中隊とちょっとあたりか、大損害だな。

 

だがわかるのはそこまで、それが敵か、それとも味方か、あるいは双方の合計かはわからないらしい。

 

私は思うに、後者、双方の合計だと思っている、クレアが言うには、同じ制服の人間が死ぬそうだから、どっかの派閥のクーデターか、何らかの組織を私的に恨んでいて、その抹殺のため大軍を………流石にないか。

 

タイミングとしてはラウンズの晩餐会があることだし、ラウンズの皆殺しを企む酔狂な奴か、それともラウンズの中の1人を狙っているのか。

 

300人が死ぬほどの規模の戦闘を起こす必要が無い、となると、やはりクーデターか?

 

確定している死人の数からして最低限の兵力は確保しているはずと見ていいだろう、だが、宮廷付近の近衛兵を買収など出来る人間がいるのか?

 

いるとすれば、それこそ皇族くらいのものだ、まさか皇族がラウンズを殺そうと………いや違う、そうなると狙いは皇帝陛下になる。

 

国家転覆を図っているのか、皇帝陛下を殺し新たな皇帝を名乗ろうとで言うのか。

 

仮にそうならラウンズはその無礼者を排除しようとするだろう、となれば、クーデターの最初の方で一気に殺しておいた方が戦力を大幅に削げる。

 

あとは雑兵を蹴散らし皇帝陛下の首を狙うだけ、か。

 

1番先に狙われるのが私たちラウンズなら、対処のしようはあるだろう。

 

しかし、クーデターを目論む人間がいて、そいつらが襲ってくるから協力しろ、何て言っても信じはしないだろう。

 

伝えない方がいいだろう、アーニャにもな。

 

そりゃ心配だ、心配だが………アーニャはそう簡単には死なん、私以上に才能ある子だ、それに賢い、私なんかより断然長生きするだろうさ。

 

私が不老不死じゃなかったらの話だが。

 

『まもなく着陸いたします、シートベルトをお締めください』

 

着陸か、シートベルトを締めてっと。

 

降りたらたぶん、待機してるであろうアーニャに物凄い勢いでタックルされるだろうから、気はしっかり持っておくか。

 

一応、柔道とか空手とか体のバランスを調整するような才能を使えばどうとでもなるだろうし。

 

窓の外の景色の流れが緩やかになり、ようやく止まった。

 

『長旅お疲れ様でした、神聖ブリタニア帝国へようこそ!』

 

可愛らしい声のアナウンスとともに出口が開く。

 

席を立って人混みに紛れて外に出た。

 

空港内は朝早い時間だと言うのに多くの人で混雑している。

 

あっ、ちなみに私が旅客機でこっちに来ても騒がれないのは、私が女装して来ているからだ、ついでに護衛もつけていない、ガタイの良い黒服の兄ちゃんが私の両隣固めてたらそれこそ注目の的だ。

 

まあ、別の意味で、主に男の注目の的になってしまっているんだがな。

 

別に男の格好の私服で来ても良かったが、男にしては明らかに小さすぎるし、空港の人間に心配されて迷子センターに連れていかれては元も子もない。

 

空港内を出口に向けて一直線に………あっ、あそこの売店の菓子が美味しそうだ、帰りにお土産に買っていこう。

 

っと、名前をメモしておいて…………さて、気を取り直しt……ん?なにやら出口に人だかりが、有名人でも………ファッ!?

 

アーニャ………いるだろうと思ったが、まさか、ラウンズの正装でくることないだろう!?

 

「アーニャ・アールストレイム卿!サインください!」

 

「ん………名前は?」

 

「メアリです!」

 

「…………はい」

 

「ありがとうございますぅぅうううう!!!!」

 

「写真とってもいいですか!?」

 

「いいよ……」

 

「じゃあこっちに向かってピースをお願いします」

 

「ピース……」

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!!」

 

「豚って呼んでください!!」

 

「…………豚」

 

「ぶひいいいいいいいいいいいい!!!!!!」

 

ファンサービスをやっているようだな、うむ、良いことだ。

 

しかし、対応が硬いと言うか、笑顔じゃなくて真顔というか………色が薄い、っていうのは変だが、なんだかなぁ……。

 

最後の豚は細切れにして出荷してやる。

 

「こちらの空港に来られた目的は何でしょうか!?」

 

マスコミまで来たか、情報があったらすぐに駆けつけるマスコミだが、一体いつからアーニャは空港にいたんだろうか。

 

「……………秘密」

 

「誰かのお迎えでしょうか?」

 

「それは………」

 

そろそろ行くか、アーニャを放って行くのは良心が痛むが、私もバレたら面倒だ。

 

「!!!」

 

「えっ!?アーニャ・アールストレイム卿!?」

 

「き、消えた!?」

 

ん?何かトラブルが………!

 

キィィンッ!

 

いきなり斬りかかって来た!?アーニャのやつ何を考えている!?

 

「な、なんだなんだ!?」

 

「アーニャ・アールストレイム卿が美少女に剣で斬りかかった!?」

 

「美少女も剣を持ってるぞ!?」

 

「何者なんだあの美少女!?」

 

ちぃっ、ザル警備を突いて隠し持って来た剣をとっさに抜いたのは下策だったか、避けたら避けたで問題だし、おとなしく切られていれば良かったか?

 

「っ!」

 

くそ、突っ込んでくるか!こんな狭いところで!

 

キィィンッ!ギギギ……キィィンッ!

 

「すげえ!互角だ!」

 

「あの美少女もアーニャ・アールストレイム卿も、どっちもやべえ!!」

 

「おい動画!誰か動画撮れ!」

 

「ダメだ!速すぎてフレームに入らねえ!」

 

攻めるつもりがないのか?舐めてかかってきてるのか?

 

いや、誘ってるな、私の最速の一撃を、それをもう一回弾いてやろうっていうんだろう?

 

望み通りにしてやる!

 

「美少女が剣を納めた?」

 

「降参なのか?」

 

察したアーニャが構えた。

 

一気に踏み込む!アーニャの資格の位置で剣を抜き、アーニャの反応速度を上回る速度で突き貫く!

 

「っ!?」

 

私の剣先はアーニャの首元を掠めるように過ぎ、剣圧、とでも言うのか、それでアーニャの髪が突風に吹かれたように靡いた。

 

アーニャは反応できなかったのか、剣を構えたポーズのまま固まって目を見開いていた。

 

私はアーニャから離れて剣を一振りしてから鞘に戻した。

 

するとアーニャが膝から崩れ落ちた、咄嗟に受け止めてしまったが、失策だった。

 

「お、お兄ちゃん……////」

 

「なにいいい!?あの美少女がお兄ちゃん!?」

 

「じゃ、じゃあ………」

 

「ツキト・アールストレイム卿!?」

 

バレた………はあ、もう良いか。

 

アーニャも良かれと思って迎えにきてくれたのだろうし。

 

「まだまだ甘いな、アーニャ」

 

「お兄ちゃん、3ヶ月で強くなり過ぎ……」

 

「弱かったら格好つかんだろう?アーニャは弱い私の方が良かったか?」

 

「…………弱くても、優しければそれで良い」

 

「嬉しいことを言ってくれる」

 

とたん、周りからフラッシュが焚かれる。

 

「おい、フラッシュはやめろ、目に悪い」

 

「も、申し訳ありません」

 

カメラマンらしき男はへこへこと頭を上げて謝った。

 

「わかればよろしい、さて、アーニャ立てるか?」

 

「うん、大丈夫……お兄ちゃん、いきなり斬りかかってごめん」

 

「気にするな、腕試しのつもりだったのだろう?………だが、民間人のいる前で斬りかかるのは褒められたものではないぞ」

 

「ご、ごめんなさい………」

 

「3ヶ月前の約束も無しだな」

 

「そ、そんな………」

 

そんな絶望的な顔になるな。

 

「冗談だ」

 

「じょう、だん」

 

「あぁ、ちょっとお灸を据えてやろうと思っただけだ、ところで、ここへは何をしに来た?」

 

「お兄ちゃんが来るって聞いたから、迎えに来たの」

 

「そうなのか?助かった、実はタクシーの予約が取れてなくてな、危うく宮廷の近くまで徒歩になるところだった」

 

「!…ううん、お兄ちゃんを迎えにくるのは当たり前だから、遠慮しないで一緒に行こ」ニコニコ

 

絶望に沈んだ顔から一気に笑顔が咲いたな。

 

「おお!!アーニャ・アールストレイム卿の笑顔!!」

 

「美しい!そして尊い!!」

 

「ああ、神よ!!」

 

やはりアーニャの人気も凄まじいようだ、さすがは私の妹、ナナリーと同様、人望は厚いようでなにより。

 

「できた妹で私は幸せ者だよ」

 

「(お兄ちゃんに必要とされてる!アーニャは今お兄ちゃんに必要とされてる!!)……早速行こ、車を待たせてる」

 

「そうだな……その前に、着替えても良いか?」

 

「あ………うん、わかった」

 

「すまんな、そい」バッサァ

 

「ちょお兄ちゃ!?」

 

「どうした?」ラウンズ正装

 

「脱ぐだけで着替えれるっておかしくない?」

 

「特技みたいなものだ、気にするな」

 

早着替えは得意でな。

 

「う、うおおおお!!アールストレイム兄妹!」

 

「天使だ!双子の天使だ!」

 

「実際は歳離れてるけども!」

 

私って人気だったか?嫌われ者だとばかり思っていたが……。

 

「さて、行こうかアーニャ」スッ

 

「うん!」キュッ

 

アーニャと手を繋いで空港を出る、アーニャの護衛が後ろやサイドを固めてついて来る。

 

止めてあった車は防弾仕様の高級車だった、周りには数名の護衛、爆弾の類が仕掛けられないように見張っていたのだろう。

 

護衛の1人が車のドアを開けた。

 

「さあお兄ちゃん、中に入って」

 

アーニャが先に入って奥に行き、私の座るスペースを空けてそこのシートを叩いた。

 

「では、失礼するよ」

 

車に乗り込む、ドアが閉められゆっくりと進み出す。

 

「お兄ちゃん、飲み物いる?」

 

「アーニャ様、私が………」

 

「いい、お兄ちゃんには私がいれたい」

 

「はっ」

 

アーニャの親衛隊か?助手席の女性がやろうとしたようだが、アーニャが冷めた声で制した。

 

「頂こうか」

 

「ジンジャエールでいい?」

 

「頼む」

 

「わかった」

 

私の見間違いでなければ、ジュースを注いでいるアーニャが嬉しそうな顔をしているのだが………うぅむ、ブラコンもここまでくるとな、対処が………。

 

「はい、お兄ちゃん」

 

「ありがとう、アーニャ」

 

…………普通のジンジャエールだな。

 

「しかし、なぜ私が空港に旅客機でくると分かったんだ?」

 

「それは………………勘」

 

「アーニャ、私は今とても気分が良いんだ、怒らないから言ってみなさい」

 

「…………密偵を送って調べた」

 

「そうか………ま、私もアーニャにいつどこに行くか言ってなかったしな」

 

「ごめんなさい……」

 

「謝らんで良い、それと…………」

 

ちゅっ

 

「ふぇぅ!?」

 

「私も、何も言わずに来てしまってすまなかったな」

 

無防備な額にキスをする、ん?クマができてるな、化粧で見辛いが、寝てないのか?

 

「べちゅにぃい……////」

 

「ふふふ、顔がチェリーワインみたいだぞ?」

 

「んぅ////……」

 

少しからかってやると、アーニャが肩に寄りかかって来た、あいも変わらずチェリーワインのように顔をほのかにピンクに染めている。

 

頭を撫でていると、規則正しい呼吸音が聞こえてきた、どうやら眠ったようだ。

 

「…………助手席の君」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「君は、アーニャの親衛隊かね?」

 

「はい、アーニャ様の親衛隊副隊を務めさせていただいております」

 

「そうか、アーニャは何時頃起きて空港に?」

 

「1時に寝て4時ころ起きられて、5時からツキト様が来られるまでこちらで寝ずにいられました」

 

「そうk………3時間しか寝てなかったのか!?」

 

「え、えぇ、そうです」

 

どうりで目元にくまがあると思った。

 

もしかしたら、想像以上に健康状態が不味いんじゃないか?

 

「私が帰った後のアーニャはどんな様子だった?」

 

「ツキト様が日本エリアに行かれてから最初の2週間は寂しがっておられました、それからは寂しさを紛らわすように仕事に打ち込んでおられましたが、つい3週間前ほどから体調を崩し気味になり、栄養ドリンクやサプリメントを飲む毎日が続いているようでした、それなのに毎日の鍛錬は欠かさず行うもので、陛下も休暇を出すなど気を使っておられたのですが………」

 

「…………運転手君、目標を変更だ、近くのデパートに寄ってから、安全かつ迅速にアーニャの家に行くぞ」

 

「りょ、了解!」

 

「ツキト様?いったいなぜ………」

 

「体調管理もできん妹に、嫌いな食べ物をたらふく食わせるためだ」

 

くそったれ、仕事はしっかりやれとは言ったが、休むのも仕事だということを忘れたか、この、ばかもん……。

 

全部私の責任なのだから本人にそんな愚痴は言えん、言えんが…………はあ、バカ真面目め。

 

「体重の気になる年頃の娘に、高カロリーで栄養たっぷりのコース料理を一欠片も残さず完食できるまで延々と口に突っ込んでやる!」

 

「(副隊長さん、ツキト様ってただの良いお兄さんっすね)」

 

「(えぇ、まあアーニャ様的にはただのご褒美でしょうね)」

 

「(あとラウンズの手料理ってだけで普通に気になるんっすけど)」

 

「(日本エリアで料理修行もやってたらしいし、カンポウヤクとか自然由来の食べ物を食べてそうね)」

 

「はぁ…………この、ばか……」

 

「(今の録音しときましたっす)」

 

「(ありがとう、アーニャ様も喜ぶわ)」

 

数キロほど走っているとそこそこ大きなデパートに着いた。

 

「ツキト様、私めが買い物をしt」

 

「いや私が行く」バッサァ

 

男の格好でも良いが女装、というかスカートのほうが履きやすいからこっちでいい。

 

「(だからその早着替えはどうやってやってんだよ、髪とかどう染めてんだよ)」

 

「(あれたぶんウィッグよ…………でも化粧ってどうやってるのかしらね?)」

 

「(女の不思議っすね)」

 

「(アーニャ様曰く、ツキト様は男よ?)」

 

「(女って言われたほうがまだ信用できるんすけどねえ……)」

 

車を降りてデパートへ走る、ロングスカートだからひらひら舞ってパンチラとかは一切ない。

 

カゴをとって食材をヒョイヒョイと入れていく、数日分の食材で満杯になったカゴをレジで会計する。

 

「カードで」

 

「はい、かしk……え"っ!?(ぶ、ブラックカードぉ!?)」

 

「急いで」

 

「は、はい!……(ピッ)……ありがとうございましたぁ!」

 

会計を終えて食材をレジ袋に詰め込んで急いで車に戻る。

 

「よし、出せ」

 

「了解!」

 

しばし揺れること数十分、ブリタニア国内の特別エリアに入って数分後、ラウンズの宿舎に到着した。

 

車を降りたところで眠ったままのアーニャを起こすべきか悩んだが、起こさないことにした。

 

「副隊長君、アーニャを起こさないように連れて来てくれ」

 

「はい(え?そこはお姫様抱っこしてくとこじゃないの?)」

 

妹とはいえ、寝ている女性に触れるのはいろいろと危険だしな。

 

食材を持ってアーニャにあてがわれた部屋、というより家に入る。

 

中は壁一面に私の映った写真が貼られていることを除けば年頃の娘らしい部屋だった。

 

簡素なキッチンに立つ、少々凝ったものを作るから…………2時間くらいか。

 

「運転手君は加湿器をつけておいてくれ、乾燥は肌の敵だ、副隊長はアーニャをベッドに寝かせておいてくれ、快適に寝れるようにエアコンの温度を少し低めにしてくれ」

 

エアコンの温度が高いと布団に入ったとき暑くてしょうがないしな、布団を蹴って風邪をひかれると困る。

 

「了解です」

 

「はい………料理ならばお手伝いいたしますが」

 

「寝かせたら鶏肉を焼いてくれ、調味料を近くにまとめて置いておく、分量は………今メモ用紙に書いた」テキパキ

 

これくらいやっておけば料理の腕が壊滅的でない限りは大丈夫だろう。

 

「はっ(う、動きに無駄がなさすぎでしょ………これが内政型ラウンズの実力なの!?)」

 

「(まぁじパネエッス)」

 

副隊長がいるなら20〜30分程度は時短になるが、それまでにアーニャが起きる可能性もありえる、もし起きてもいいように軽食を用意しとくか。

 

飲み物は野菜ジュース……は繊維が多くて寝起きには喉に絡みついて辛かろう、紅茶を用意するか、と言っても時間もないので安物のティーパックになるが、時間があれば淹れるか。

 

「お待たせいたしました」

 

「早速頼む、そこのメモ通りにやってくれ」

 

「はい」

 

あ、書き忘れがあったな。

 

「あ、書き忘れたんだが、皮はそのままでやってくれ、そのほうがコラーゲンが豊富なんだ」

 

「は、はぁ……」

 

「自分は何をいたしましょうか?」

 

運転手か…………食器洗いでいいか。

 

「運転手君は積み上がったあの食器類を洗ってくれ」

 

「お任せください」

 

「綺麗に頼む、どうせアーニャのことだ、洗わないから食器棚にはもう殆どないだろうしな」

 

「確かにそうですが………なぜツキト様がそれを?」

 

「ゴミ箱を見てみろ、紙皿と割り箸だらけだ、他にもコンビニ弁当や惣菜のパックもある………疲れて自炊が面倒になって食器を洗わなくなってしまったんだろう」

 

まあ、気持ちはわかる…………咲世子のありがたみがよくわかる、帰りに良いものを買って帰ろう。

 

「な、なるほど(このシスコンすげえ)」

 

「忙しいなら使用人でも雇えばいいものを、私が人に頼らずにいたのを見て育ったせいか、人に頼ることをしない………そしてこうやって世話を掛けさせる、全く困った妹だよ」

 

「(めっちゃ嬉しそうな顔してるんですけど?)」

 

「これを機に人に頼るのを覚えてくれると嬉しいんだが………こっちは良いな、えーっと、調味料の中に確かあれが………」ゴソゴソ

 

「あの、すみませんツキト様、この食材の量だと数日分と見てもかなり多いように見えますが」

 

「ん?あぁ、君たちの分もあるからな」ゴソゴソ

 

「わ、私たちの分もですか!?ツキト様に私たちの分まで作らせてしまうなんて、そんな恐れ多いこと……」

 

「正当な対価さ、これを食った後も働いてもらうつもりだから、少ないかもしれないが…………ん、もっと奥の方か?」ゴソゴソ

 

「(男より男前っすね)」

 

「(いやツキト様は男だから、アーニャ様の双子のお姉さんに見えても男だから)」

 

「(もう惚れても良いっすかね?)」

 

「(アーニャ様に殺されるわよ?)」

 

「(それはキツイっすね…………うお!?)」

 

「(どうしたのよ?)」

 

「(いやその………こっからだと四つん這いのツキト様のお尻の形が……)」

 

「(ロングスカートとエプロン、ポニーテールも相まって新妻感あるわね)」

 

「(はあ、嫁が欲しいっす」

 

「運転手君ならすぐ見つかるだろう」

 

「うぇ!?あ、ありがとうございます……(も、もれてた!?)」

 

「うむ…………っと、あったあった、ん?副隊長君、焦げるぞ」

 

「へ?あぁ!!」

 

少しバタついたが、1時間と40分程度で料理を揃えることができた。

 

「ではリビングのテーブルに………」

 

「いや待て…………リビングを掃除してからだ」

 

掃除道具をもって言う。

 

「わかりm………あの、ツキト様も掃除されるのですか?」

 

「そうだが?」

 

「えっと、その……申し訳無いのですが、リビングの壁の写真については、あの、アーニャ様はとても大事にされていまして………」

 

「あぁ、私の盗撮写真だろう、剥がす気はない」

 

「そ、そうなのですか………しかし、それで良いのですか?親衛隊副隊長の私が言うのもなんですが、あれは少々、歪んでいる、と言いますか………」

 

「そう言うのもわかる、だがあれもアーニャなりの愛情表現なのだろう、私は否定しないさ」

 

「そうですか………」

 

「どうせなら、あんな盗撮写真じゃなくて、ツーショットを貼り付けて欲しいものだがな」

 

「それなら、晩餐会の時に撮られてはいかがでしょうか?晩餐会の後でも長期休暇が与えられるそうですので、スケート場に一緒に行かれては?」

 

「おぉ、その案いただきだ、スケートか………やったことがないから新鮮味があるな」

 

副隊長、なかなかやりおる、女というのもあるのかこういう話題は得意なんだな。

 

「さて、さっさとやってしまおう、アーニャが起きる前に」

 

「そうですね」

 

「おっと、運転手君はできた料理が冷めないように弱火のままにしておいたから、見張っててくれ」

 

「わかりました」

 

「頼んだぞ」

 

さすがに妹の私物を仕事の付き合いの男に触らせるわけにはいかんしな、許せ運転手。

 

いかに兄といえど妹の私物においそれと触るのはだめだ、よって私は大まかな掃き掃除や拭き掃除を行い、細かいところは副隊長に任せた。

 

10分も丁寧にやりこんだおかげか、かなり綺麗になった、埃ひとつないとはこのことを言うのかもしれない。

 

「お兄ちゃん……」

 

「おうアーニャ、おはよう」

 

ベッドルームから起きてきたアーニャは目をこすってまだ眠そうだ、髪は下ろされラウンズの正装もパジャマに着替えてある、副隊長がやったのだろう。

 

「ご飯ができてるぞ、一緒に食べよう」

 

「…………お兄ちゃんの手作り?」

 

「半分はな、もう半分は副隊長君がやってくれた」

 

「そう、ありがとう」

 

一瞬アーニャが副隊長を睨んだような?気のせいか。

 

「さあ、食べようか」

 

「うん、あっ………お、お兄ちゃん」

 

「なんだ?」

 

「か、壁の……写真は、その……」

 

「あぁ、盗撮ばかりだな」

 

「(き、嫌われちゃう!お兄ちゃんに嫌われるのはイヤ!)ご、ごめなさい!気持ち悪いよね、すぐに捨てr」

 

「今度ツーショットの写真を撮ろうか、そしたらそれを部屋に飾ろう、どうだ?」

 

「あ………う、うん!」

 

「(夫婦ね)」

 

「(夫婦っすね)」

 

料理を盛り付け、食事を始める。

 

アーニャのここ3ヶ月の無茶を叱り、嬉しかったと慰め、恋愛話を華麗にスルーし、副隊長の親衛隊入隊秘話を聞いたりし、お開きになった。

 

料理のほうはとても好評で、食べ終わった後のアーニャは空港であった時より健康そうに見えた。

 

運転手と副隊長は気を使ってくれたのか、私をアーニャ(重度のブラコン)の家に2人っきりにするために早々に帰ってしまった。

 

帰るといっても副隊長は親衛隊としての護衛の任務、運転手は運転兼護衛があるため、近場で寝泊まりするのだろう。

 

ラウンズの晩餐会まであと3日、アーニャ宅にて、夜は更けていく。



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アルティメットif√【妹は人外娘編】

またしても番外編。
許してください!なんでも島村卯月!


アルティメットif√

 

【妹は人外娘編】

 

 

no side

 

 

その日の朝はおかしかった。

 

アーニャがベッドから身を起こす、時計はまだ午前2時を指していた。

 

季節は冬、布団から足がはみ出ようものなら一瞬で目がさめる極寒の季節。

 

アーニャは布団から足でも出たのかと、寝ぼけ眼のまま布団の捲れている場所を探す。

 

しかしいくら探しても見当たらない、捲れるどころか寝た時そのままの状態だった。

 

近くの電球のスイッチを入れ、目に飛び込んできた光景にアーニャは悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「珍しいこともあるものだ」

 

2週間後、日本エリア総督、ブリタニアの実質的な第2代目の枢機卿となったツキトの元に、ブリタニア本国から重要書類が届いた。

 

内容は、アーニャが3週間程度の連続した有給をとって休んでいるにも関わらず、家から出た形跡が無く、交友関係をあたったもののどこにもいなかったようなことが書かれていた。

 

じゃあ家に引きこもっているのだろうと思うが、毎日の日課である野外での鍛錬を2週間もやっていないのだ、いつも同じ場所で鍛錬をしていた同期や後輩にあたる人物たちが不安を募らせているらしい。

 

そこで、政府関係者からただの友達に至るまで、幅広い人物がアーニャの家を訪問したが、誰1人入れてもらえなかった、両親も試したが結果は同じだった。

 

そこで、アーニャの安否確認と原因調査をツキトに依頼する、というのが書類の1番最後に書いてあり、皇帝陛下の印も押してあり、間違いなく本物だった。

 

「…………クレア」

 

「なにー?」

 

ツキトは疲れたようにクレアを呼び質問した。

 

「女が2週間も家の外に出ない理由とかってあるか?」

 

「んーー………誰にも見られたくないほどの大怪我を負って、引きこもっちゃったとか?」

 

「怪我ねえ、他は?」

 

「軟禁されてるとかじゃない?」

 

クレアから有力な2つの方向性が出たが、アーニャを軟禁状態にできるかと言われれば微妙だとツキトは思った。

 

消極的にアーニャが大怪我をして隠している線がまだ濃いだろう、と。

 

「クレア、これからすぐに本国に飛びたい、専用機を用意してくれ」

 

「何があったの?」

 

「アーニャが2週間も引きこもってるから様子見てこいと、陛下のご命令だ」

 

ツキトは書類をクレアに渡しつつ背伸びをした、クレアは素早く読んで溜息を吐いた。

 

「ラウンズの安否確認とはよく言ったものね、こんな命令が皇帝権限で通るなんて」

 

「私とアーニャの知名度と影響力は絶大だ、私を枢機卿にしたのもその影響力の大きさを利用するためだからだ、だから私の妹のアーニャには特に気を使っているのだろう」

 

「ついこないだまで剣持って突撃する脳筋ラウンズだったのに、今じゃ書類とにらめっこする悪徳政治家だものね、世の中汚いわ」

 

「プロ野球のスター選手の年収の数倍を月収で賄う悪徳政治家の秘書は誰だ?言って見てくれクレア」

 

「はいはい私よ、私ですよー、スター選手の年収と同じくらいの月収を貰ってますよーだ」

 

この2人、息ぴったりなところがあるためにラウンズ時代からずっと続いている。

 

手の限りを尽くして日本エリア中を魔改造したツキトの年収はもはや言わずもがな、クレアの年収についても失神ものだ。

 

それほどの功労を打ち立てたことの証ではあるが、ツキトとしてはどこに金を押し込めばいいのか悩む状態であり、いっそルルーシュとナナリーの口座に流しこもうかとか考えていた。

 

クレアもまた1ヶ月ごとにとんでもない数字になる通帳を見るのが怖くなってきている。

 

2人ともかなりの額を募金したりしているのだが、それでも増える、募金額を増やせば向こう側に断られるという。

 

現金の沼から抜け出せない状態に陥っている。

 

そんなことは置いておいて、クレアは専用機の準備を電話で伝えた。

 

「明日の朝、午前9時には万全よ」

 

「ありがとう…………あー、咲世子か?あぁ、明日の朝から本国にな………迷惑をかける、お土産には期待してくれていい、わかった、それじゃあ」

 

ツキトも咲世子に準備を頼み、2人とも元の執務に戻った。

 

翌日ソソクサと専用機に乗り、ほんの数時間のフライトを持ってブリタニア本国についた。

 

1日の休みを取ったツキトは、アーニャの家に向かう、この時すでに、アーニャ引きこもりから15日目に突入していた。

 

自分1人で行くと言い、護衛も含めてすべて下がらせたツキトは、ベルを鳴らした。

 

『誰?』

 

「ツキト・アールストレイムだ」

 

『お、お兄ちゃん!?どうして!?』

 

「妹が2週間も家に引きこもってると聞いてな、もしかして重い病気にでもかかってるんじゃないかと心配になって…………仕事放り出してこっちに来てしまった、ははは」

 

『そんなことまでして……なんで………』

 

「あははは、このまま日本に帰ったら待ち構えてる秘書にハリセンで叩かれてしまう、怒りが収まるまででいいから泊めてくれないか?」

 

ツキトはそう言いつつ持って来た少し大きめの旅行カバンをカメラに映るように持ち上げる。

 

『………………』

 

「………すまない、こんなダメな兄の願いは聞けないよな、他をあt」

 

『待って!………入って』

 

ロックが外され、ドアを開けて中に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

靴を脱いでスリッパを履き中に入る、部屋は綺麗で特に乱れた様子はない。

 

「アーニャ?」

 

「…………こっち」

 

声のする方に歩いて行くと、ベッドルームのベッドに横になり、下半身に毛布をかけているアーニャがいた。

 

「久しぶりだなアーニャ」

 

「久しぶり、お兄ちゃん」

 

テンションは低め、恥ずかしがってるというより、バレたくない感じか。

 

「風邪でも引いたのか?ちゃんとご飯食べてるか?」

 

「風邪は引いてない、ご飯も食べてるから」

 

「そうか………昼飯はもう作ったか?」

 

「ううん、これから」

 

「じゃあ、私が作っても良いか?泊まるだけっていうのも悪いしな」

 

「ホント!?」

 

お、食いつきいいな。

 

「あぁ、リクエストはあるか?」

 

「じゃあ、シチューで」

 

「シチューか………持って来た食材にはあるが、時間的に晩飯になるな、他にないか?」

 

「じゃあ、ローストビーフ」

 

「ローストビーフならいけそうだな、グレイビーを作るためのワインとかはあるか?」

 

「あっ、ない……」

 

「ふふ、そんなこったろうと思ったさ、途中で買って来たよ」

 

「さすがお兄ちゃん、準備がいい」

 

「まあな、作ってくるから、待っててくれ」

 

「うん………ありがとう、来てくれて」

 

「兄というのは妹のために無茶をするものだ、気にしないでいい」

 

そう言ってキッチンに入り、ローストビーフ作りに取り掛かる、といってもまず牛肉の塊がない。

 

冷凍庫にないものか………あった、買いに行くとこからだとめんどくさいからな。

 

材料の在庫を覚えていて、そこからリクエストをだせるということは、精神面の病気の線は薄いかな。

 

となると身体的なことだが………おっと、料理中の長考は危険だ、後にしよう。

 

ローストビーフを作るなら、ヨークシャー・プディングも作ったほうがいいか、あとはサラダと、パンも一応用意しておこう。

 

しかし、体調を崩しているかもしれないアーニャに、ローストビーフは硬すぎるかもしれんな。

 

…………できるだけ柔らかく、嚙みちぎりやすい硬さで作るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーニャside

 

 

どうしよう………お兄ちゃんが来てくれたのは正直すごく嬉しい。

 

嬉しいけど、今の姿は見られたくない。

 

布団をめくると、そこには足なんてなくて、あるのは蛇の胴体だけ。

 

寝て起きたら伝説上の生き物、ラミアになってた、なんて言ってもお兄ちゃんは信じてくれn………信じるかもしれないけど、きっと気持ち悪がられる。

 

身動きも満足にできない、トイレとベッドルームを往復するだけでも重労働、ヌルヌルしてて太くて長い蛇の体はすごく不便。

 

誰かにバレたら殺されるかもしれない、今の私は逃げられないし、下半身の長さが5倍くらいに伸びたから的も大きい。

 

でも、お兄ちゃんは気持ち悪がりながらも面倒を見てくれる、きっと、たぶん………っていうのは私の都合の良い妄想でしかないけど。

 

早めの方がいい、長くお兄ちゃんといるとバラすのが怖くなる、御飯を食べたら一気に見せよう。

 

吐かれるかもしれないから、洗面器を用意してもらって、あとは…………お兄ちゃんが気持ち悪がっていなくなった後、自殺できるように拳銃も近くに置いとかないと。

 

いろいろ考えたらちょっと楽になった、やっぱりお兄ちゃんがいるといないとじゃ心の余裕とかが全然違う、ずっと一緒に……………は無理だよね。

 

「アーニャ、ご飯持って来たぞ、温かいうちに食べようか」

 

「美味しそう、ありがとうお兄ちゃん、大好き」

 

「ははは、私もアーニャが大好きだよ、ベッドの上にこの机を取り付けて、よし」

 

病院の机付きのベッドの机の部分を持って来たお兄ちゃんは、それをベッドに取り付けた。

 

「買って来たの?」

 

「物置から持って来た、綺麗な状態だったから掃除してから持って来たんだ」

 

気が利きすぎ………結婚したい。

 

「じゃあ、食べようか」

 

ベッドの隣に椅子と折りたたみ机を並べて私の隣で同じ方向を向いてお兄ちゃんは座った。

 

「はむっ………」

 

あ、ローストビーフ柔らかい、お兄ちゃん、私の体調を気にしてくれてるのかな、そういうことするから好感度上がって好きになるのに。

 

パンは普通の市販品みたい、お兄ちゃん特製グレイビーをつけると、お店で食べるグレイビー付きのパンとは味が全然違う。

 

さすがお兄ちゃん、何も言わなくとも私の好きな味付けを察しちゃうなんて、死ぬまで添い遂げて欲しいんだけど。

 

「どうだ?口に合いそうか?」

 

「うん、すごく美味しいよ、結婚しよう?」

 

「嬉しい言葉だが、断らせてもらおうかな」

 

2人の楽しい時間はすぐに過ぎ去って、お兄ちゃんに大事な話があると言って食器を片付けた後に残ってもらった。

 

「大事な話っていうのは?」

 

「その前に、持って来て欲しいものがあるの」

 

「なんだ?」

 

「洗面器と拳銃、洗面器は洗面台に、拳銃は私の机の引き出しに入ってる」

 

「……………うむ、わかった」

 

お兄ちゃんは少し怖い顔をしてすぐにもとの顔に戻して洗面器と拳銃を取りに行ってくれた。

 

「持って来たぞ」

 

「洗面器はお兄ちゃんが持ってて、拳銃はベッドに取り付けた机に置いて」

 

「うむ」

 

言った通りの場所に拳銃が置かれて、お兄ちゃんが椅子に座ったところで話し始める。

 

「これからお兄ちゃんに、2週間も引きこもってた理由を見せる、気分が悪くなったら洗面器に吐いていいし、ここから出てってもいい」

 

「あまりそういう悲しいことを言うなアーニャ」

 

「ごめん、でも今回はそうとも限らないから」

 

私はそう言って、布団を捲り上げた。

 

蛇の体がウネウネ動くところをお兄ちゃんはじっと見ている。

 

…………………嫌われt

 

「…………遺伝子の突然変異、もしくはなんらかの工作か、それとも……」

 

「ちょっと待ってお兄ちゃん」

 

「ん?どうした?」

 

「いや、あの、私の体の半分が本物の蛇と同じになっちゃったんだけど」

 

「あぁ、確かにその通りだ」

 

「………………きもちわるくない?」

 

「全然、蛇はむしろ好きな方だ」

 

「そっか、きもちわるくないんだ…………そっかぁ、そっがぁ"……うえぇぇん!」

 

「あ、アーニャ!?どうしたんだ?何か悪いことしたか?」

 

嫌われてない!気持ち悪がられてない!むしろ好きだって言ってくれた!

 

プロポーズだよね!

 

「お兄ちゃん……あ"り"がどう"ぅ"」ギュゥ

 

「あーもう、かわいいのにわんわん泣いて………」ギュゥ

 

「こんな気持ち悪いの知られたら、嫌われると………グスッ……思って……」

 

「私がアーニャを嫌うわけないだろう、アーニャは私を信頼してくれないのか?」

 

「でも、こんな蛇なんて………」

 

「じゃあ、もし私の体が蛇になってたら、アーニャは私を嫌うか?」

 

「そんなことくらいでお兄ちゃんを嫌うなんてありえない!」

 

「そうだ、そんなことくらいで、アーニャを嫌うわけないだろう」

 

お兄ちゃんは、やっぱりお兄ちゃんだった。

 

いっぱい泣いて、そのあとは抱きしめてもらって、添い寝までしてもらっちゃった。

 

「なあアーニャ、暖かいのはいいんだが、締め付けがちょっとつよいぞ?」

 

「ご、ごめんなさいお兄ちゃん、なんでか抑えが効かなくて」

 

「抑えが効かないほど私を大切に思ってくれているのか?嬉しいぞ」

 

「お、お兄ちゃぁあん!!」

 

「うぉ!?締め付けは更に強く!?ふふふ、アーニャにこれほど愛されているなんてな………私は幸せ者だ」

 

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」グググググッ……

 

「あぁ、お兄ちゃんはアーニャのそばにいるぞ」

 

だからもう少し力を抑えてくれないものか、そろそろ肋あたりが逝きそうだ。

 

「お兄ちゃん………お兄ちゃん………離れない………離さない………」

 

…………いきなり下半身が蛇の体になって、心細かっただろう。

 

幸いにも慣れたのか痛みはない、ずっとこのままでもいいくらいだ。

 

「そろそろ寝ないと、明日の朝酷いぞ?」

 

「別に外でないからいい……」

 

「治った時に外に出れないようじゃ困るだろう?」

 

「私は別に…………お兄ちゃんは、困る?」

 

「そうだな………また一緒に遊んだりしたいし、いつか美味しいご飯を食べながら綺麗な夜景でも眺めたいな………なんてな」

 

「お兄ちゃん…………」

 

「ま、治ったら外で遊べるようになるし、治らなかったら私が逝きている限り面倒を見るさ」

 

「(どっちを選んでも天国!!////)」

 

うっ、いきなり眠くなってきた………仮眠くらいとればよかったか、まだ話したいことが………明日でいいか。

 

「ん………いい加減眠くなってきた、先に寝る」

 

「あ、おやすみ、お兄ちゃん」

 

「おやすみアーニャ……………」

 

明日起きたら朝ご飯を作って、それから……………。

 




アーニャがラミアになる…………つまりヘラは誰になるんですかね?


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束の間の『休息』

『番外編ばかり書いてしまう』だとか、『時折キャラクターの口調を忘れてしまう』だとか、そんなことは問題じゃあない。
最も、最も重要な問題とはッッ!『話の続きが思いつかないこと』と、『つまらない話を書いているんじゃないかという不安』だッッ!!

----年明けまでにあと数話書き上げなければ、『バイツァ・ダスト』によって『私』の脳内ノルマは木っ端微塵に消し飛ぶッッ!



no side

 

 

アーニャの頼みでアーニャのベッドにて添い寝することになったツキト。

 

アーニャはツキトと分かれてからの3ヶ月で強い孤独感を感じていた。

 

人は一度楽しいことになれてしまうと、それが突然なくなってしまった時に強い孤独感や疎外感を感じる。

 

自分は1人なのではないか?頼れる人などいないのではないか?除け者にされているのではないか?………そんな不安がアーニャの心をかき乱して行った。

 

その不安が感じないように、多忙な毎日でも寝る間も惜しんで鍛錬に打ち込み、暇な時間を作らないようにした。

 

暇な時間があると人間はどうしても何かしらに思考を割いてしまう、アーニャはツキトに会えない寂しさを、暇な時間を削って考えないようにしたのだ。

 

朝早く起き、仕事をし、鍛錬に打ち込み、シャワーを浴びてベッドに倒れこむようにして眠る。

 

消防士か何かのような狂った生活習慣を続け、孤独感と疎外感を感じる時間を減らしていった。

 

だからメールもしなかった、ケータイを開いてツキトのメールアドレスが視界に入るたびに、強烈な孤独感に襲われたからだ。

 

そして遂に再開、車の中で(額に)キスをされ、約束を守ってくれたことへの信頼と、頭を撫でていてくれる安心感が、長らく封印されていた睡眠欲を呼び起こした。

 

快適な睡眠から目を覚まし、明らかに快調な自分の体に驚きつつ、いい匂いを感じ、空腹に逆らうことなくリビングに向かうとツキトが自分のために料理を作ってくれていたというサプライズ。

 

だがリビングにいるということは同時に、リビングの壁一面に異常な量の盗撮写真を貼り付けているのを知られてしまったということ。

 

アーニャは焦った、これでは嫌われてしまうと、何か、何か言わなければと、口を動かした。

 

ツキトはそれを制して気にしてないと言った、そして、ツーショットの写真を撮ってそれを飾ろうとまで言ってくれた。

 

アーニャは自分の想いが伝わり、受け入れてくれたのではないかと内心喜んだ。

 

そして今、その真意を聞くため、こうして添い寝を望んだアーニャであった、あった、のであるが………。

 

「スゥー…………スゥー…………」

 

「おやすみ、アーニャ」

 

絶対的な安心感からくる眠気で微睡みの中へ、ツキトはアーニャの決心を知ってか知らずか、自分も寝る時まで安心させるために頭を撫でていた。

 

翌日、午前5時前に早起きしたツキトは、鍛錬をしようか刹那ほどの時間悩んでからアーニャのために朝食を作り始めた。

 

午前7時、普段のアーニャならもっと早く起きて着替えたりしている時間だが、アーニャはベッドに残った微かなツキトの温もりを感じながらまだ眠っていた。

 

よっぽど幸せな夢を見ているのだろう、ほおは緩んで嬉しそうな笑みを浮かべている。

 

そのころツキトはキッチンにて最終段階、盛り付けを終え、テーブルに並べた後はアーニャを起こそうとベッドルームへ向かう。

 

そんな幸せな兄妹の朝の一風景。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然だが、ここで日本エリアのナナリーを見てみよう。

 

ナナリーはあの時ほどではないにしろ、ツキト不在によって精神が不安定になっていた。

 

しかし前回のこともあって、耐性がついていたナナリーは我慢強さにおいてアーニャの一歩上をいっていると見ていいだろう。

 

まあ、どちらも軽く触れれば崩れる程度の我慢強さなので、どんぐりの背比べ程度の差でしかないが。

 

しかし、『恋する乙女は強い』と言われるように、ナナリーはツキト不在の正月を乗り切ってみせようと燃えていた。

 

そしてツキトが帰ってきたら思いっきり甘えよう、と。

 

当の本人であるツキトは、実の妹相手に過剰な愛を注いでいることを知ったら、どうにかなってしまうかもしれないが。

 

「ナナリー、おはよー」

 

「おはようございますマリーさん………」

 

ガヤガヤと賑やかな校舎の中でもナナリーとマリーの声はよく響いた。

 

「しかし凄い賑わいね、さすがは新聞部」

 

マリーは校内の掲示板を指差していった、掲示板の周りには大勢の生徒が殺到しており、学校新聞は見ることができない。

 

だが内容は察するのは容易かった。

 

「ツキトさんの一挙一動がとりだたされるのは、あまり気分のいいものじゃないですね………」

 

新聞の内容は数日前に行われたツキトとマックスウェルの早撃ち勝負についてだった。

 

「なーに言ってるの、アールストレイムさんの人望が形になってるんだから、喜んであげなきゃ」

 

「それはそうですけど………ツキトさんをいつでも見つめてもいいのは私だけなのに……」

 

独占欲がより強化されたナナリーの言動は、ヤンデレのそれに近づきつつあるものであるが、見た目はやはりかわいいのだ。

 

「そうは問屋が卸さないわ、私だってアールストレイムさんと付き合って、あんなことやこんなことをしたいのに」

 

「マリーさんでもそれはダメです認めません」

 

「アールストレイムさんを誘惑すれば或いは………」

 

「そんなことしたら許しません!そもそも私とツキトさんは婚約だって………」

 

「ジョーダンよジョーダン…………調子はちょっとは戻った?」

 

マリーはおちゃらけたように言った、面倒見の良い彼女は恋敵でもあり親友でもあるナナリーをどうしても放って置けないイイ女なのだ。

 

「はぁ…………もっと方法を考えてください………っていうか吹っ切れてないですよね?ずっと思ってましたけどツキトさんにまだ執心してますよね?」

 

「だってナナリーったら、アールストレイムさんの話以外はほっとんど聞いてないじゃないの、さっきだってケーキの話をしてたのに上の空って感じだし…………あとあんないい人諦めろとか無理」

 

「ツキトさんとケーキを比べるなんて烏滸がましいですよ、マリーさん………最後のは同意しますけど」

 

「なんで私が怒られてんのよ………それで?アールストレイムさんはなんでいきなり本国に行っちゃったの?」

 

「本国でラウンズの皆さんと皇帝陛下の参加されるお食事会に呼ばれたのだそうです」

 

「へー、まあラウンズって騎士でありアイドルみたいなものだし、皇帝陛下も親密感出したかったのかな?」

 

マリーの言ったことは正解だ、皇帝とその直属の騎士たるナイトオブラウンズの親密感を演出し、国民に安堵と強固な連携を生むためでもある。

 

「さあ………でも、皇帝陛下直属の騎士ではないツキトさんが呼ばれたのがわからないんです」

 

「うーん、案外簡単かもよ?例えばほら、妹さんのアーニャ・アールストレイム卿に呼ばれたからとか?」

 

直属の騎士ではないツキトを何かしら理由づけしてまで呼ぶ理由、それはひとえに、シャルルの親バカであることとマリアンヌへの愛ゆえにであった。

 

ツキトの本国への一時帰還以降、マリアンヌからツキトを呼んでほしいとのお願いをされたシャルルは、ラウンズの晩餐会に招くことで落ち着いた。

 

しかしこの父母、親バカが過ぎる。

 

今日も日本エリアは平和で在る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトは夢を見ていた。

 

花の平原が続く場所、ツキトの立っている場所はポツンと建てられた噴水の近くのベンチ、立って歩いて行くと、自分が浮遊する大陸の上にいることがわかった。

 

おかしな光景なのにどこか妙に現実感ある夢に、ツキトが慌てずに冷静なのは、この夢と同じような雰囲気の場所に連れていかれたことがあるからだ。

 

『…………この世には【歴史の修正力】というものが存在し、タイムスリップして歴史をねじ曲げようとも、例えば、織田信長を本能寺から救い天下統一させたり、100年戦争にてブリタニアを勝利させたりなど』

 

『本来ならあり得ない番狂わせを起こすことによって、神か、もしくは世界の因果か、歴史が本来の在るべき形に戻ろうとする…………』

 

『すでにあなたによってめちゃくちゃに引っ掻き回されたこの世界は、引っ張られ続けたゴムが切れるように修正力が働くでしょう』

 

『【時期】が来ましたのです、全ては在るべき形に修正されようとしています………………あなたはどうされますか?ツキト・アールストレイム』

 

目の前に現れた白く光り輝く、ツキトと同じくらいの身長の女性、その顔つきや容姿は、ナナリーのそれに酷似しているように見える。

 

「………その質問に答える前に、随分と場が華やかになったものだな」

 

『多くのヒトという種がリラックスできる要素を取り入れてみました』

 

「その見た目は?」

 

『あなたの思う肩肘張らず素で話せる人物のイメージを自らに転写しています』

 

「…………まぁ、確かにその姿なら、素で話せる………というより、隠し事はできないだろうな」

 

ツキトはそう言って噴水の近くのベンチに腰を下ろす。

 

「さて、さっきの質問はどういう意味だ?」

 

『言葉通り、世界、または私以外の神が、あなたのいる世界を在るべき形に戻そうとしているのです、それに対し、あなたはどうされるのか聞きたいのです』

 

「在るべき形、というと、ルルーシュがギアス保持者になり、ナナリーは盲目で歩けなくなり、アーニャの中にマリアンヌの人格が移るとかなのか?」

 

『はい、それに対し、あなたの行動を聞きたいのです』

 

「出来る限り防ぎたいに決まっている、私の知る親しい者達が不幸な目にあうなど許せん、『私が法だ』」

 

『わかりました、神界の話し合いにあなたの希望を伝えておきましょう』

 

「お前達神がどうこうできるのか?」

 

『あなたの世界を管理しているのは私です、世界への影響力を考えて話し合い、了承されれば修正力の効力を減少、又は無効化することもできます』

 

「それならどうにかして欲しいものだな、私も才能はあれど出来ることは少ない、不老不死なだけのただの人間だ、今回は神頼みさせてもらおう」

 

『あなたの願いは聞きました………時間です、ひとまずお別れです』

 

少女は立ち去っていく、ツキトはただそれを眺めているだけだった。

 

少女の姿が見えなくなると、ツキトは現実に引き戻された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

「………………ん」

 

「おおおおおおおお兄ちゃん!?……お、おはよう」

 

「ふぁぁ………おはようアーニャ」

 

なぜあの夢を………そうか、アーニャを起こそうとして寝てしまったのか。

 

アーニャが何でか動揺しているようなそぶりを見せているが、まあ、目が覚めて私がいたら驚くか。

 

「すまない、二度寝してしまったようだ………朝食は用意できてる、一緒に食べよう」

 

「うん!」

 

壁一面に貼られた被写体が私の盗撮写真を気にしないように歩いて椅子に座る、アーニャと対面する形になるな。

 

「食べようか」

 

「うん」

 

そう言って食べ始める、ブリタニアには食事前の挨拶は無い、やっても良いが、アーニャに気を使わせるのはアーニャの精神に良く無い。

 

諸々あって熟睡もできなかったようだし、ここは晩餐会当日までの2日間ほどを、アーニャの好きなことをさせてやる方がいいだろう。

 

「ん、美味しいよお兄ちゃん」

 

「ありがとう……」

 

さてと、今日は何をしようか、朝食を食ったらだいたい9時くらい、皿洗いして9時20分前後、外出の準備をしたらギリギリ10時になるかどうかの時間。

 

冬だからテーマパークは閉まっている、となると水族館やウィンドウショッピングあたりが無難なところ。

 

食べ終わって片付けをするとだいたい時間通りになった。

 

「アーニャ、何かしたいことはあるか?」

 

「えっ?」

 

「アーニャに寂しい思いをさせ、昨日までろくに眠れなかったそうだし、せっかく久しぶりに会えたんだ、アーニャのしたいことをしよう」

 

「いいの?晩餐会当日までは休暇だけど、お兄ちゃんも忙しい中来てくれたんだし………」

 

「アーニャに会う日を楽しみにしていたら、あっという間だったよ、忙しかったけど、アーニャに会えると思えば気にならなかった」

 

「あ、あうぅぅ………////」

 

……………ハッ!?

 

私は、また……女性を、しかも妹を、口説きような真似を…………。

 

………ナンパ師の才能だけは消してくれるよう頼むべきだったか。

 

「まあ、アーニャが部屋でゴロゴロしていたいなら、私もそうする、一人でいたいなら私は外に………」

 

「で、出かける!」

 

「どこにだ?」

 

「近くの…………えっと、ショッピングモール、車で1時間くらいのとこ」

 

「よし、それじゃあ、準備をして………10時過ぎに出ようか」

 

「うん!」

 

時間を決め、それぞれ外出の服装に着替え…………あっ。

 

「アーニャ」

 

「どうしたの?」

 

どうする?いや迷ってられん。

 

「アーニャに、私の服を選んでほしい」

 

衣装ケースを持ってそう告げる。

 

仕方ないんだ…………私服のセンスが壊滅的な私には、ファッション戦争を生き残るためには、これしかないんだ!

 

「ダメか?」

 

「任せてお兄ちゃん!」

 

うむ、やはりアーニャはいい妹だ。

 

それから30分、アーニャは必死に私の服を選んでくれた。

 

ショッピングモールに行ったら何か奢ろうと決めた。




最近、久しぶりにエアソフトガンを購入しました。
マルシンさんのHWDXモデルのSAAです。
次はポリスリボルバー3インチか、スーパーブラックホーク10インチが欲しいところ。
どちらも冬場はキツイガスガンですが、鑑賞用と割り切ると外撃ちでも楽しいものです。
エアソフトガン初心者の方には東京マルイの電動ガンシリーズをオススメします。
初心者がマルシンとかマルゼンのエアソフトガンに手を出してはいけない(忠告)


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『晩餐会』は今宵、開かれた

「あいつには隠された能力がある!それは………大して面白くない話を少ない文字数で(良心を全く傷めずに)投稿することができる能力なんだ!」

「「「「なっ、なにィ!?」」」」

「(投稿の)スイッチを押させるなァアアア!!」

「いいや限界だ!……押すねぇ!!!!!」

ポチッッ




ツキトside

 

 

アーニャとの兄妹水入らずの楽しい時間は過ぎ、晩餐会当日である年明けの1日前の朝。

 

テレビや電子掲示板には残り14時間と数分のタイマーが表示され、年明けまでのカウントダウンを行なっている。

 

年明けまで残り14時間ジャスト、つまり午前10時にラウンズの全員が宮廷に集まった。

 

それぞれに個室が与えられ、晩餐会の時間まで各々好きなことをしていればいいそうだ。

 

ラウンズ同士の接触に特にこれといった決まりはなく、各部屋間の移動は自由だ。

 

台本とかミーティングとかなにかあるかと思ったが、本番は全てアドリブで行うらしい、何でも、各ラウンズの素の様子を国民に見せたいらしい。

 

こういう場合、一番の懸念事項は誰かが暴走しないかどうか…………最も心配になるのは私の妹、アーニャだ。

 

再三にわたってテレビの前ではあまりはしゃがないようにと言っておいたが…………たぶん、無理だろう。

 

はあ、スザクでもいてくれたら、フォローを頼むことくらいはできたんだがなあ。

 

ユーフェミアの騎士にしたのが間違いとは言わんが…………何だろうな………。

 

何というか、100歳超えて、いろいろなことを覚えて、こうやって転生したというのに、ままならないことは多いものなんだな、人生とは勉強すること、とはよく言ったものだ。

 

これでは、人生経験の少ないクレアなんかもっと大変だっただろう………いや、あいつは先読みできるからそんなことないか。

 

一旦考えるのはやめて、リフレッシュも兼ねて素振りでもしようか。

 

トレーニングルームなんてないだろうし、部屋の中でいいか。

 

動き易いように薄着になって………木刀は持ってきてないから、本物でいいか。

 

「ふう……………やるか」

 

まずは、11時までに1万回だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーニャside

 

 

『ハァッ!……ハァッ!……』

 

お兄ちゃんと隣の部屋にしてもらって良かった、お兄ちゃんの声が聞こえる。

 

『ハァッ!』

 

感覚と声の大きさからして筋トレよりも素振り、もしくは格闘の練習かも。

 

お兄ちゃんはすごい、他のラウンズは筋肉馬鹿とか脳筋とか言ってるけど、それはお兄ちゃんを知らないだけ。

 

『ハァッ!』

 

…………行ってもいいよね、兄妹だし、お兄ちゃんの部屋に行くのは問題ないよね。

 

「よし………」

 

部屋を出てすぐ隣のお兄ちゃんの部屋の扉をノックする。

 

『誰だ?』

 

「アーニャ」

 

『鍵は開いてる、入っていいぞ』

 

意外と不用心………もしくはお兄ちゃん流の罠だったりするのかな?

 

扉を開けて中に入ると、備え付けのポッドを弄って紅茶を淹れてるお兄ちゃんがいた。

 

「よく来たな、もうすぐ紅茶がはいるから座って待っててくれ」

 

「うん、わかった……ところで、運動してたんじゃないの?」

 

「ん?あぁ、聞こえていたのか、実はさっきまでやっていてな、やめようと思っていたところにちょうどアーニャが来たんだ」

 

「そう…………邪魔しちゃったりしてない?」

 

「まさか、アーニャなら大歓迎さ」

 

嬉しいことをさらりと言っちゃうお兄ちゃん、もうホントに抱いて欲しい………突っぱねられると思うけど。

 

「紅茶がはいったぞ、はい、砂糖とミルク、角砂糖は2つで良かったか?」

 

「うん、2つでいいよ、ありがとう」

 

覚えててくれたんだ………ずっと昔のことなのに。

 

「それで、何か用があった来たのか?」

 

「用事…………特に、なかったけど………………お兄ちゃんと一緒にいたかった」

 

「………そうか、嬉しいよアーニャ、ありがとう」

 

「//////」

 

「ふふっ、紅茶よりも真っ赤だな」

 

このあとしばらくお兄ちゃんに弄られ、世間話をして自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

アーニャと雑談をして分かれ、時間も近づいて来たためラウンズの正装に着替える。

 

さて、いよいよショータイムだな。

 

晩餐会会場となる宮廷の一室に入る、見渡すとどうやら私で最後のようだ、まあそうなるように時間を調整して来たからな。

 

「(……やはり、見た目が変わっておらん、陛下が考えを改められた理由はこれか)」

 

「(げっ、13……)」

 

「(お兄ちゃんかっこいい!!)」

 

「(うお!?やっぱベテランラウンズは雰囲気ちげえなぁ、1のビスマルクさんといい、やばさが伝わってくるぜ)」

 

「皇帝陛下、ナイトオブサーティーン、ツキト・アールストレイム、陛下の御前に」

 

陛下の前で膝をつきこうべを垂れて報告をする。

 

「よく来たなサーティーンよ………貴様の席はぁ………ナイトオブシックスの隣だぁ」

 

「はっ!」

 

指示された席、アーニャの隣に座る。

 

「待たせてすまなかったな、アーニャ」

 

「そんなことない、それよりも今日のお兄ちゃんは一段と格好良い………////」

 

「そうか?新調した新しいデザインのやつなんだが、アーニャに気に入ってもらえて良かった」

 

そう、私の今回の正装は、今までとは違い、ユーロの旧ドイツ的デザインにブリタニアの優雅さと気品を足した私のパーソナルカラーの紺色の軍服調の正装で、軍帽付きだ。

 

そこにサム・ブラウン・ベルトを着け、左腰の位置にサーベルを帯刀、右腰にはギラギラと光る巨大な金ピカ長銃身ダブルアクションリボルバーがレザーホルスターに収まる、靴も式典用の革靴ではなく、戦闘用のブーツだ。

 

一昔前の野戦服を思わせるデザインに厨二心が踊るが、実戦向きにアレンジされている。

 

ホルスターは革製だが抜きやすく加工されたもので、今回持って来た金ピカリボルバーをすぐに取り出して敵の頭に突きつけるのは容易い。

 

そして今回レイピアじゃなくサーベルなのは、抜きやすさ重視のためだ、不意をつかれた際の抜刀では反りがあり軽量、かつ抜刀のエネルギーをそのまま斬撃に移せるなど、直剣であるレイピアよりも優れるからだ。

 

前世におけるアメリカの名将、パットン将軍が学生時代に設計した1913年型騎兵サーベルのような反りの浅いものではなく、欧州諸国で流行った反りが深いものだ。

 

格好だけならば、儀仗兵のように見えなくもないな、身長とか顔面偏差値とかいろいろ足らないものが多いが。

 

「うぅむ………我がブリタニアの騎士達がぁあ……いよいよ集まったぁ…………でぇはこれよりぃ……晩餐会を執り行う!」

 

「カメラ用意!!」

 

「マイクチェック!……よーし!」

 

「電源よし!10秒前!」

 

陛下の側近達の動きが素早い、練習でもしていたのだろうか。

 

「3……2……1……今!」

 

「ごぉきげんよぅぅう、我がブリタニアの帝国民達ぃ………今宵この時!ブリタニアに忠誠を誓う全ての騎士達がぁぁ……集ったぁ、よってこれよりぃ、晩餐会を開くぅ!!」

 

(まさかの)陛下による帝国の全国民への挨拶から始まり、番号順に各ラウンズの挨拶となった。

 

「ナイトオブワンのビスマルク・ヴァルトシュタインだ」

 

「ナイトオブスリーのジノ・ヴァインベルグです」

 

ヴァインベルグの礼儀正しい挨拶が逆に気持ち悪いな………。

 

「ナイトオブフォーム、ドロテア・エルンストよ」

 

…………………………………………………………………………………あっ!原作アニメでスザクにシュンコロされたやつだ!!

 

影薄くてわかりにくい………というかアニメでもほぼ一瞬だったような……?

 

「ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイム………これでいい?」

 

「あぁ、上出来だ」

 

80点だな、私の腕に絡みついていなければ100点だった。

 

振りほどくのもあれだ、このままでいいか。

 

「ナイトオブナイン、ノネット・エニアグラムだ」

 

確か、士官学校時代のコーネリアの先輩にあたる人物だったか。

 

「ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリーだ、吸血鬼と呼んでもいいぜ?」

 

中二…………おっと、これ以上はブーメランか。

 

「ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー」

 

ん?こいつだけスカートなのか、軍服なのに、いいのだろうか?陛下が許可しているなら大丈夫なんだろうが。

 

いよいよ私にカメラが向く。

 

「ナイトオブサーティーン、ツキト・アールストレイム、コーネリア様とユーフェミア様と共に日本エリアの活性化に努めている、旅行先に迷ったら、ぜひ日本エリアへ来てくれたまえ」

 

少し長くなったが、日本エリアの宣伝もできたのでまあ良し。

 

「では皆様、グラスを持っていただいて……皇帝陛下、お願い申し上げます」

 

「Cheers‼︎(乾杯)」

 

「「「「「「「「Cheers‼︎」」」」」」」」

 

陛下の乾杯の音頭で晩餐会は開かれた、グラスに入ったシャンパン……ではなくジンジャエールを半分ほど飲んで置いた。

 

晩餐会だからコース料理だろうが、まあフレンチだろう。

 

運ばれてくる様々な料理を口にする、うん、まあ、美味しいか?久々の宮廷料理なのに舌が反応できん………。

 

「お兄ちゃん、ジュース注ぐ?」

 

「アーニャ様!そのようなことは私が………」

 

「いいの、私がやりたいの」

 

「しかし!」

 

「構わんよ、アーニャ、頼めるか?」

 

「うん!」

 

差し出したグラスにニコニコ笑顔でジュースを注ぐアーニャ。

 

「ありがとう、ほら、アーニャも」

 

「うん、お兄ちゃん、お願い」

 

アーニャからジュース瓶を受け取り、今度はお返しにアーニャのグラスにジュースを注ぐ。

 

「ありがとう、お兄ちゃん」

 

「あぁ…………さあ、もう一度乾杯をしようか」

 

「うん」

 

「「Cheers」」

 

チン、とグラスが小さく音を鳴らす、アーニャと一緒に笑っていると、いつの間にかカメラが私とアーニャに向いていることに気がついた。

 

アーニャはカメラに向かって小さく手を振った、しかし表情は笑顔ではなかった、たぶん『こっち見んな』的な意味で振ったのだろう。

 

あれでもファン的には嬉しいのだろう。

 

私も何かサービスしたほうがいいのだろうか?きっとナナリーも見てることだろうし、ちょっとだけ微笑んでおくか。

 

ニコッ

 

これでいいだろう、さて、食事の方に…………。

 

「ではこれより、神聖ブリタニア帝国ラウンズ同士による『チキチキ・王様ゲーム』を開始します!」

 

はっ?

 

え?皇帝陛下の前で王様ゲーム!?チョイスを間違えすぎだろう!?

 

「ちょっと待ってくれ、なぜ王様ゲームなんだ?レクリエーションならもっと他のでも良かろう?」

 

さすがに突っ込んだ、突っ込まずにはいられなかった。

 

「中高生へのアンケートより、こういう場では王様ゲームが行われるとの結果が出ましたので」

 

「皇帝陛下の前でよりによって『王様』ゲーム……」

 

「なお、ルールはオーソドックスなものをそのまま使用し、あまりに過激なものは却下させていただきます」

 

いいのかそれで………。

 

「お兄ちゃん?」

 

「…………まあ、いいんじゃないか?」

 

「「「「「「(シスコン………)」」」」」」

 

「では、皇帝陛下、ボタンをお願いします」

 

「うぅむ」ポチッ

 

皇帝陛下の前に出されたデカくてやたらデコレーションされたボタンを、陛下は押した。

 

ピコピコピコピコピコピコピコピコ…………

 

自分の座る場所の机の部分に小型テレビが現れた、テレビにはルーレットが映し出され、数字盤の真ん中に『KING』という文字が書かれたものだ。

 

数字とKINGがランダムに点滅しだし、次第に点滅の間隔が長くなっていき、ある数字の場所で止まった。

 

その時、ヴァインベルグの椅子が光った。

 

「うぉ!?」

 

「第一回のルーレットではヴァインベルグ卿が王様ですね、では命令をどうぞ」

 

「お、俺が王様!?マジ!?」

 

おいヴァインベルグ、口調口調。

 

というか陛下………あんた絶対この状況を楽しんでるだろ………。

 

午後18時、まだまだ晩餐会は始まったばかり…………。

 



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『王様ゲーム』

「ツキト・アールストレイムの剣の射程距離外に出ました!S・H・I・T!!!」

「と、届かんッッ!剣が!!これっぽっちも!!!このクソカス共があああああああああああ!!!!………と思っていたのか?」

「なにぃ!?」

「hell・to・you!!!!」ジャギンッ

「じゅ、銃だって!?馬鹿なッ!」

「アイアイサー!」ドォン!



ツキトside

 

 

よりによってヴァインベルグがKING、どんな命令をするのかはしらんが、無茶振りをしてくる可能性は低いか。

 

「ヴァインベルグ卿、こちらに各種道具を用意しております、どうぞご自由にお使いください」

 

「え、あ、はい」

 

ど、道具だと!?ポッキーやらクッキーやらの菓子類がほとんどではないか!しかも露骨に中高生の女子が好きそうな会社の人気商品ばかり!

 

この晩餐会、いったいどれほどの金が動いているんだッ!とくに目立つパッケージのポッキーでポッキーゲームをすれば…………年明けでバカ売れ間違いなしってわけか。

 

日本エリアのあらゆる場所で生中継を写すようにクレアにメールを打っておこう。

 

こうしておけば同じ菓子が日本エリアで飛ぶように売れるはず、宣伝効果としてはこれ以上ないほど良い。

 

日本エリア発祥の菓子の1つでも持ってくれば良かった、失敗した。

 

「あーえーっと…………じゃあ、3番と………6番が………うーん、じゃあ握手で」

 

「では、3番と6番のかた、立っていただいてこちらの方へ」

 

へー、3と6か……………ん?私が6か。

 

ガタ

 

ガタ

 

「「え?」」

 

「おや?ツキト・アールストレイム卿とアーニャ・アールストレイム卿でございましたか…………立ち上がるタイミングといい、仲がよろしいですね」

 

「お兄ちゃんとは世界一仲がいい」

 

「まあ、兄妹としてはそれなりだろう」

 

「「え?」」

 

「見解の相違があるようですが………とりあえずこちらのほうでカメラに見えるように握手を」

 

奇妙な偶然だなと思いつつ、カメラに全身が映るように並んで立つ。

 

「では握手を」

 

「わかった…………ヴァインベルグ、ハグでもいい?」

 

「え?いやそれは………」

 

「こら、アーニャ、あまり困らせるんじゃあない」

 

「……ごめんなさい」

 

…………まあ、ハグくらいはいいか。

 

何でもかんでも禁止じゃアーニャも息がつまるだろう、緊張をほぐす意味でも言うことを聞いてやるか。

 

「わかればよし、それでヴァインベルグ………ハグでもいいのか?」

 

「あーー…………もうそれでいいよ」

 

「お兄ちゃん………!」

 

「ほら、どうする?アーニャから来るか?」

 

「うん!えいっ!」

 

「おっと………ははは、大きくなったな」

 

可愛らしく抱きついてきたアーニャを包むように抱きしめる。

 

兄として感慨深いものを感じる。

 

あぁ…………妹の成長が本当に嬉しい。

 

「…………あの、そろそろ席にお戻りを………」

 

「ん?」なでなでよしよし

 

「………♬」ぎゅー

 

「……………何でもないです」

 

〜10分後くらい〜

 

ハグのあと握手をして席に戻った…………私の顔ニヤついてないよな?大丈夫だよな?

 

………アーニャがニヨニヨしてるから私もそうなんじゃないかと心配になる。

 

「えーー…………では次のルーレットをお願いします」

 

「ほぃ!」ポチッ

 

ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ………

 

次の数字は…………………1か。

 

「第二回ルーレットの結果は、アーニャ・アールストレイム卿が王様です!」

 

アーニャがKINGか、さて、どの番号を指定するのか………………。

 

「……………」ジーーーー

 

「…………アーニャ、なぜ私を見る?」

 

「お兄ちゃんの番号を探ってる………」

 

「一体何を命令するつもり…………いやいい」

 

何をされるのか怖いものがあるが、幸いにもテレビに映った数字はその目の前に座った本人にしか見えないように円卓のくぼみの奥の方につけてある。

 

私の身の安全は保障されている。

 

「……………」すっ

 

?………いきなり目を閉じてどうs

 

「………1番が王様にキス」

 

「……………ハッ!卑怯だぞアーニャ!!」

 

「…………お兄ちゃんの考えを読むのはルール違反じゃない」

 

「グゥッ!………審判!ジャッジ!!」

 

「…………」バッ!

 

「く、クッソぉぉおお!!」ダン!

 

訴えを『却下』、だとぅッ!?

 

「いやあの、コントみたいなことやってるとこ悪いんだけど………何がどうなってんの?」

 

「不覚をとった………アーニャに、心を読まれた」

 

「そんなことができるのかよ!?」

 

「(もしやアーニャ・アールストレイム卿はギアスユーザーなのか?)」

 

「(めんどくせえ………)」

 

「それでは両者、その場で結構ですのでキスを」

 

「アーニャ、考え直せ!」

 

「嫌」

 

「命だけは!命だけは!!」

 

「ダメ」

 

「か、金か!?金なんだろう!?金ならある!!だから………」

 

「無理」グイッ

 

「ヒッ!」

 

あっっっっっぶな!!

 

必死の抵抗むなしく、座ったまま襟首を捕まれ強引にキスされそうになる直前で止まらせる。

 

誰が好き好んで全世界生中継で実妹とキスするんだ!!

 

ふざけんな!!

 

「ゆ、許してくれ!何でもするか!!」

 

「………………わかった」

 

よしっ!!

 

「じゃああっちの部屋で子作r…………」

 

「こんのドゥアホウが!!!」ペシッ

 

「あぅ………」

 

「「「「(言葉の割に弱い……)」」」」

 

「女の子がそんなこと言っちゃダメだろう!」

 

「じゃあキス」

 

「何だその『チョコケーキが売り切れだったから仕方なくショートケーキを買う』みたいな応え方は!?もっと自分の身体を大事にしろ!」

 

「お兄ちゃんに、私の全部をあげたいの」

 

「(やばい惚れそう、実妹に惚れそう)……とにかく!キスもなしだ!だいたい、キスは過激じゃないのか?」

 

「兄妹同士ならOKだと………」

 

「むしろアウトだろ審判!えぇい!まともな奴はおらんのか!?」

 

「ツキトさん、いい加減諦めたほうがいいって」

 

「ヴァインベルグ!貴様までッ!」

 

「ああいやその………ほっぺにちょっとするだけとか、おでこにするとか………」

 

「!、バカお前………」

 

そんなこと言ったら…………。

 

「お兄ちゃん、口限定ね」

 

「ヴァインベルグゥゥゥウウウウウウウウ!!!!!!!!」

 

「ごめん、本当にごめん……」ズーン

 

私をここまで怒らせたのはお前で……………何人めだったか知らんが、あとで絶対殺す、必ず殺す。

 

「………アールストレイム君」

 

「ヴァルトシュタイン卿?」

 

何だ?珍しく口を開いたぞ?

 

「いいじゃないか、妹の願いを聞くのも、男としての気概のひとつであり、紳士であると思うよ」

 

「ヴァルトシュタイン卿は自分と同じ顔の実妹がいたとしてキスができるのですか?」

 

「…………すまない」

 

まあ、ヴァルトシュタインの言い分も分からなくはない、だが結局は自分と同じ顔の実妹とキスをするという行為が、どれほどの精神ダメージになるのかを知らんから言えることなのだ。

 

「お兄ちゃん………」

 

「グゥッ…………」

 

そんな泣きそうな目で…………………………………くそっ。

 

「…………今回限りだ」プイッ

 

「お兄ちゃん!」パァッ

 

「(はぁ……)では、両者誓いのキスを」

 

「何を誓えと………うむぅ!?」

 

「ん………………」

 

や、柔いッッ!!!!!

 

そして感じる………………背徳の味ッッッ!!!!!

 

もう死にたいッッッ!!!!!(重度の鬱状態突入)

 

しかしまあ、峠を超えるとそこまで恥ずかしいものではないんだな。

 

って……。

 

「/////////」ギュゥ

 

まさかした方のアーニャが顔真っ赤にしながら胸に飛び込んでくるとは…………やはりアーニャもウブなんだなぁ。

 

できれば乙女らしさで恥ずかしがってキスをしてくれなかったほうが良かったんだがなぁ。

 

「はぁ、まったくお前は………恥ずかしがるくらいならしなければいいものを………」

 

「--------////」

 

「埋めたままじゃ聞こえんぞ」

 

「「「「(あんな状態のシックス初めて見た………)」」」」

 

「(なぜわしは兄妹のキスシーンを見せつけられているのだろうか)」

 

…………まあ、別にいいかキスくらい、減るもんじゃないし。

 

帰ったらナナリーにこってり絞られそうだが…………考えるだけで恐ろしい。

 

やっぱり減ってるじゃあないか。

 

〜20分後くらい〜

 

「えーーー…………依然として、アーニャ・アールストレイム卿が復帰しておりません」

 

「//////」ギュゥ

 

「何というか…………………すまん」なでなで

 

「しかし、命令は遂行されたので、次をお願いします」

 

「うむ………」ポチッ

 

ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ……………

 

次は…………5か。

 

「王様はルキアーノ・ブラッドリー卿ですね、では命令をどうぞ」

 

「反応薄っすすぎだろうが!っじゃあ2番と5番がポッキーゲームでもやれ!!」

 

ポッキーゲームか。

 

「5番は私だ、2番は誰だ?」

 

アーニャが胸に埋まった状態で私はそういった、だが誰も立ち上がらない、2番がいなければゲームとして成り立たない。

 

まさか…………。

 

「ヴァインベルグ、すまないが…………アーニャの番号を見てくれないか?」

 

「お、おう……」

 

動けない私の代わりにヴァインベルグに番号を確認してもらう。

 

「えーっと…………」

 

アーニャの席のテレビを見たヴァインベルグの顔はどんどん青ざめていく。

 

「…………2だ」

 

「………はぁ」

 

おお神よ………今すぐぶっ殺しにいくから逃げるなよ?いいな?例え別宇宙や別世界に行こうが追いかけて殺してやる絶対逃がさん。

 

「アーニャ、ポッキーゲームだと」

 

「!、む、むり、むりぃ……////」ギュゥ

 

「ほーら、そんなこと言わない、やらないといけないんだから」なでなで

 

「は、恥ずかしぃ、からぁ////」ギュゥ

 

「はいはい、顔あげようねー」なでなで

 

「(なるほど、これがマリアンヌの言っていた『ばぶみ』とやらか………やはり強いな、マリアンヌは)」

 

なんで生中継で保母さんみたいなことしなきゃいけないんだ………声は聞かれてないからまだいいが。

 

顔を埋める妹の頭を撫でてあげている兄にしか見えんぞこれ。

 

「うぅぅ………////」ウルウル

 

「よくできたね、アーニャ」ニコニコ

 

ようやく顔を上げたアーニャ、顔を赤らめ目を潤ませる様はまさしく恋する乙女…………そんな顔を向けられる兄の心情がわかる人間がどれだけいるのか………。

 

もらったポッキーを口に咥えてアーニャに近づける。

 

「ん」

 

「あ…………う…………えぅ……………あむ」

 

迷った末にアーニャはポッキーをくわえた。

 

カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ………。

 

…………どうしよう、止めどころがわからない。

 

どこかで適当に折ればいいかと思っていたら、意外にもアーニャの進むスピードが速くてタイミングを逃した。

 

もう2cmもないぞ。

 

カリカリカリカリカリ………ポキンッ。

 

「!…………あっ…………」

 

「折れてしまったな」

 

不意に力を入れたアーニャによってポッキーは残り約1.5cmほどで折れてしまった。

 

アーニャは少し残念そうに呟いた。

 

危険なポッキーゲームは意外な形で幕を閉じた。

 

もう飽きてきたな、というか私の指名多くないか?やっぱり神のせいだな、殺そう。

 

「王様ゲームもほどほどに、ゲスト参加の方を紹介いたします、お入りください」

 

扉が開いて入ってきたのは女性、スラリと伸びた体躯、髪は柔らかなゆるいウェーブのかかった…………っておい。

 

「ユーフェミア・リ・ブリタニアです、よろしくお願いしますね」

 

入ってきたのはまさかのユーフェミアだった。

 

「(まじか………)」

 

「(ほっほーう、えろイイ体してんじゃん………)」

 

「日本エリアを大きく成長させた功績をたたえて、此度の晩餐会にお呼びさせていただきました」

 

「日本エリア防衛戦力臨時統括として、日本エリアに残られたコーネリア姉様のぶんも頑張ります」

 

「お言葉ありがとうございます、それでは…………」

 

「あっ………私の席のなのですが………」

 

何か嫌な予感がする………。

 

「ツキ…………ツキト・アールストレイム卿の隣でもよろしいでしょうか?」

 

ほらあああああああ!!!???

 

なぜッッ、こう、無駄に(ややこしい)人間が集まるッッッ!!(←才能によって強制的にモテる+持続効果)

 

「えぇっ?よ、よろしいのですか?」

 

「はい、ツキ………ツキトの隣は落ち着くので………ダメですか?」

 

「そ、それは………へ、陛下」

 

「………好きにせよぉ……今宵はぁ、無礼講であァァる」

 

「では、ツキト・アールストレイム卿、窮屈で申し訳ございませんが、少々、アーニャ・アールストレイム卿側に座席を動かして頂きたいのですが、よろしいですか?」

 

「あぁ………」

 

帰りたい…………。

 

まさかユーフェミアが来るなんて思わなんだ。

 

「数日ぶりですね、ツキト」

 

「え、えぇ、そうですね」

 

まあ、ユーフェミアなら公的な場での振る舞いは弁えているはず。

 

「私、いつもと違うところがあると思いませんか?」

 

「髪型は一緒ですが、指輪とドレスはいつものと違います、一層お美しいですよ」

 

これ以上の混乱は無いと思っていいだろう。

 

「そう、ここの料理は美味しいですか?」

 

「えぇ、とっても」

 

…………しかしなんだ、なぜユーフェミアはこうもニコニコと薄い笑みを貼り付k

 

「妹さんとのキスは気持ちよかったですか?」

 

「えぇ、とっt…………はい?」

 

「総督府内部のみならず、アッシュフォード学園でもたくさんの女の子を惚れさせているようですね?」

 

「いえ、あの、それは…………」

 

「いけませんよ?ツキトは喋るだけで相手の子を惚れさせてしまうんですから」

 

「は、はい」

 

「だから、本当は喋るのだってダメなんですよ?わかっていましたか?」

 

「し、知りませんでした、教えて頂きありがとうごz」

 

「喋るのはダメです、って、言いましたよね?聞こえてましたよね?」

 

「!!!!」コクコク

 

…………あっ、ハイライトが無い。

 

やっぱり壊れてるじゃないか(諦め)。

 

これじゃラウンズよりも『ヤンデレ製造機』のほうが似合ってらあ。

 

モテる代わりにヤンデレ量産するくらいなら、神格なんぞ要らんわ!!

 

というか皆フリーズしてるじゃないか、アーニャなんか目を白黒させているし………。

 

「本当に申し訳ございませんでした、ユーフェミア様」

 

「だから喋るのは………」

 

………ッ!!

 

「死んで詫びさせて頂きます……(虚ろな目)」チャキ…

 

ホルスターのリボルバーに手を伸ばして引き抜こうとする。

 

「「!、ダメ!!」」ガシッ

 

そこでユーフェミアとアーニャから妨害が入る。

 

両者ともしがみつくようにして止めようとしてきたため、バランスを崩して椅子ごと後ろへ倒れる。

 

当然、ユーフェミアとアーニャはくっついたままで離れない、本気で自殺しようとしていると思っているのだからしがみついつてもで止めようとしているのもわかる。

 

3人まとめて椅子ごと倒れる。

 

そのすぐ後、座っていたらユーフェミアの頭があったであろう場所を一本の矢が通り抜けた。

 

ビシッ

 

自分の背中側の壁に矢が刺さったのを確認し、纏わり付いたままの2人を丁寧に素早く振りほどいてリボルバーを引き抜き、立ち上がる。

 

すると驚いた顔のまま小型のボウガンを持って棒立ちしている男が円卓の向こう側にいた。

 

照準、トリガー。

 

シリンダーがまわり、定位置でハンマーが落ちる。

 

軍用拳銃より大口径故の重めの銃声と響く。

 

バァン!

 

長い銃身から.455口径弾が飛び出すと同時に、シリンダーに彫られた装飾、に見える溝にフレームの一部が噛み合り銃の上部が後退、ハンマーをシングルアクションの位置まで押して元に戻る。

 

「ガッ!?」

 

体の中心に当たったボウガンを持った男は衝撃で仰け反り、その場に後ろ向きに倒れた。

 

このリボルバーの一連の流れ、知る人ぞ知る、というかマニアックが知る機構を備えている、2発目以降の射撃を素早く行うためのオートマチック機構だ。

 

いろいろ端折るが、理論上はリボルバーとオートマチックの良いとこ取りであり、現実的には悪いとこ取りの銃だ。

 

一瞬固まっていたラウンズや側近たちはすぐに各々の銃を取り出す、特に復帰が早かったビスマルクは剣を抜き、どこからの攻撃にも対処できるように陛下の前で盾になるように構えた。

 

「カメラを止めろ!これ以上は帝国国民の心臓に悪い!」

 

「はっ!」

 

「機材でも装飾品でもなんでも良い!入り口を固めろ!」

 

「「「おう!(はい!)」」」

 

「アーニャはユーフェミア様を頼む」

 

「わかった」

 

リボルバーを下げて指示を飛ばす。

 

ついに来たか、速すぎるだろうと舌打ちするべきか、まずはユーフェミアの死を回避できたことを喜ぶべきなのか…………。

 

まずわかることは…………………状況は、最悪だということだ。

 




戦争開始。


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『叛逆』するは『皇家』の者にあり

皆様あけましておめでとうございます。

新年早々なのに中盤からはっちゃけたエロ描写があります、ご注意下さい。




ツキトside

 

 

バリケードで唯一の出入り口を防ぎ、陛下とユーフェミアに常に同性の数人が張り付くことで暗器による攻撃を防ぐことにした。

 

残った私は撃った男を叩き起こして情報を絞り出してやろうと思ったわけだが………。

 

「アールストレイム卿、どうだった?」

 

「当たりどころが良すぎて即死してしまっている………射撃は100点だ」

 

「情報が聞ければ120点だったな」

 

「もっと上手く外せばよかったよ」

 

ボウガン男は即死、武器はさっきのボウガンの他にはナイフのみ、距離的に暗殺用の消音拳銃では威力不足と考えたのだろう。

 

武器は最低限だが、避けられてキョドったところを見るにトーシロー…………ユーフェミアを本気で殺す気は無かったのか?いやそもそもターゲットが違う……?

 

「わからん………ヴァルトシュタイン卿は、こいつが誰を殺そうとしたかわかっているのかお分かりで?」

 

「ユーフェミア様かアーニャ・アールストレイム卿、もしくは君だろうツキト・アールストレイム卿、君はどうだね?」

 

「私はおそらくユーフェミア様だと思う、敵の狙いは日本エリアの発展の妨害工作、旗頭を潰そうとしたわけになる………結論を急ぐわけではないが、そう考えると敵は………」

 

「ユーフェミア様に反抗的な感情を抱く、皇家の者………」

 

「私がそばに居ても構わず狙ったことも含めると、第一容疑者はおそらく、ギネヴィアだ」

 

「金使いの荒いことで有名なお人か」

 

「金で雇った人間を適当に当てたのだろう、浅はかな下女めが………」

 

吐き捨て立ち上がり、死体から離れる。

 

ビスマルクも立ち上がると毛布を死体にかけた。

 

私は扉の前に積み上げられた数々の装飾品によるバリケードの近くの壁にもたれかかった。

 

ビスマルクもすぐとなりで壁にもたれかかっている。

 

「ここで待つだけでは状況は好転しない、扉の外からの反応が無いことから、外に誰もいないことにかけて数人で偵察を行うのが良いか………」

 

「危険な賭けだ、失敗すればチップを全部失うだけじゃ済まない」

 

「身ぐるみ剥がされるくらいならまだいいんだが………」

 

「食料と毛布は少ないがある、応援を待つ手もある」

 

どうしたものか、敵の動きが不鮮明な現状、情報不足は即ち死、一刻も早く外の状況を知らなければならない。

 

籠城した場合は幸いにも食い物と洗面所はある、しかし毛布は少ないため数人は凍えるような夜を過ごすことになる。

 

食料は円卓に置かれあだ手をつけられてないもの、それから各部屋にある4人分の非常食が3日分、陛下とユーフェミアで非常食2パック、残り2パックを8等分してラウンズそれぞれに1食分、それを半分でラウンズは1人当たり2食食えることになるが、量もカロリーも足らん。

 

毛布は全部で4枚、陛下とユーフェミアで2枚、1枚は肢体を隠しておくのに必要、残り1枚をラウンズ8人でか、おしくらまんじゅうじゃあないんだぞまったく。

 

そこに食料も毛布もプラスで側室3人分が入ることを考えると………食料は明日までが限界だな。

 

さらに言えば、現在進行形で部屋の人間に精神的ダメージを与え続け、時間経過で腐敗臭を放つ死体というオブジェクトが配置されている、ユーフェミアを横目で見る、目をギュッと閉じて身体を抱きしめている…………短期決戦が望ましいな。

 

「ジリ貧の状況は敵も読んでいる、閉鎖空間での長時間の拘束は陛下やユーフェミア様にとって大変な苦痛だ………短期決戦しかあるまい」

 

「一理ある、だが、自分の心配もするべきだ、少なくとも、アーニャ君とユーフェミア様は君が死んだら後を追いそうだ」

 

「………そう言われると死ねなくなるじゃ無いか、ヴァルトシュタイン卿」

 

「ふむ、申し訳ない」

 

「まあ、私とてまだこの歳で英霊達の石碑に名前を刻んでもらいたくは無いが」

 

「同感だ」

 

肩を竦めて皮肉を言い合う、ビスマルクとはなぜか気が合う、やはり忠義に生きる者同士であるからか。

 

いや、今の私は、誰よりも愛という俗っぽいものに生きている人間だ、忠義とは別だ。

 

ナナリーへの忠誠と愛は、言うなれば忠愛、とでもいうのだろうか。

 

「空調は効いているから窒息死はないのが救いか………私はユーフェミア様のメンタルヘルスケアをする」

 

「付き合いの長い君なら大丈夫だろう、私も陛下の近くにいよう、何か考え付いたら言ってくれ」

 

「わかった、陛下は任せました」

 

「ツキト・アールストレイム卿の分も、しかと任された」

 

まだ行動に移す時ではないと結論付け、ビスマルクとわかれてそれぞれの重要人物の元へと足を向ける。

 

ユーフェミアはアーニャ含む女性ラウンズと一緒にカーペットの上で座って固まっていた。

 

「あ、お兄ちゃん……」

 

「ツキト・アールストレイム卿………」

 

「すまない、ユーフェミア様と少し話しがしたい………良いか?」

 

「………良いよ」

 

「アーニャ!」

 

アーニャの独断の返事にドロテアが声を上げた。

 

「お兄ちゃんはここにいる誰よりもユーフェミア様と付き合いがある、落ち着かせるにはお兄ちゃんが適任」

 

「それは………そうね、ツキト・アールストレイム卿、頼むわ」

 

「期待に添えるようにやるよ」

 

床にうづくまるユーフェミアに近づき、ユーフェミアの目の前に座る。

 

警戒させないように眼帯を外して、柔らかい昔の子供時代の声で………。

 

「…………ユフィ」

 

「!………ツキト?ツキトですか?」

 

死体を見たくない恐怖から目を閉じたままの返事だったが、自分の身体を抱きしめる力は弱まり肩の力も抜けたように見える。

 

「うん、ツキトだよ、ユフィのお兄ちゃんだよ」

 

「ツキト……ツキト…………っ!」

 

ゆっくり目を開けたユーフェミア………ユフィは、私の顔を見て目に涙を浮かべる。

 

「ツキト……私………怖く、て……」

 

「そうだね、怖かったよね、でももう安心、だって僕がいるんだもの」

 

にこやかに笑い、ユフィの手を優しく握った。

 

「は、い………ツキトが、いれ、ば……どんな、ことだ、って……うぅぅっ」

 

そこでユフィは決壊した。

 

緊張と恐怖に押しつぶされないよう耐えていたものが崩壊、私の胸に飛び込み背中に回した両腕がギュゥギュゥと締め付けてくる。

 

「うぅっ………うううっ……うぅぅっ!」

 

「 〜〜〜…… 〜〜♪〜〜……」

 

身長差の関係で突っ伏すようになるのは必然だった、私は胸の中で声を殺して泣きじゃくるユフィの頭と背中を子守唄を歌いながら優しく撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣き疲れて寝てしまったユフィを、床に敷いた毛布に寝かせ、私の上着を上からかけて膝枕をする。

 

目の周りは赤く腫れ、メイクも流れ落ちてしまった酷い顔をハンカチで丁寧に拭き取り、頭を撫でる。

 

撫でている途中で手を掴まれ、腹部あたりでギュッと握り込まれてしまったが、幸せそうに寝ているので良しとしよう。

 

眼帯は付け直した。

 

「「「………………」」」

 

代償として、女性ラウンズの視線が痛ましいものになったが。

 

「アーニャ、悪いがミネラルウォーターを何本か持ってきてくれないか?寝起きはきっと喉が乾くだろうから」

 

「…………わかった」

 

むすっとした顔でミネラルウォーターを取りに行くアーニャを見て、ため息をつきたくなった。

 

「ツキト・アールストレイム卿、ユーフェミア様を落ち着かせたのは評価できますが、今のやり方では相手に強く依存心を持たせることになったしまいます、控えたほうがいいですよ、妹さんのためにも………」

 

「…………もっともな言い分だ」

 

「なら………」

 

「だが私にはこれしかないのだ、相手を依存させ、思考を誘導し事前に危険から遠ざける…………そんな狡い手しかないのだ………………私1人が外道に落ちて助かる命ならば、いくらでも灰に汚れ、泥に塗れ、糞の海に落ちようとも構わない」

 

なぜなら私は…………人ではないのだから。

 

ナナリーの愛も、アーニャの愛も、ユフィの愛も、コーネリアの愛も、咲世子の愛も………私は、これが間違いであろうとも、こんなことで救えるのなら、今更自分のことなぞ構うものか。

 

「簡潔に述べるなら、失うのがどうしようもなく怖いからだ」

 

「…………そう、だったわね、あなたは」

 

「…………こんな話をしててもネガティヴになるだけだ、もうやめよう」

 

「そうね、それがいいわ………」

 

すでにネガティヴモードの女性2名を横目に、ユフィの頭を撫でる。

 

やはり姉妹だからか、ナナリーやコーネリアと同じようにサラサラして気持ちの良い髪だな。

 

「お兄ちゃん、水持ってきたよ」

 

「ありがとうアーニャ、悪いな、動けないとはいえアーニャをパシリみたいに使ってしまって」

 

「気にしないで、お兄ちゃんのためならなんだってする」

 

「そうか、ありg

 

「んぅ………」もじもじ

 

「………っ!アーニャ、空のペットボトルを大至急ここに!」

 

「え?う、うん!」

 

「ど、どうしたのよイキナリ?」

 

「私とユーフェミア様は長い付き合いだと言ったな、仕草で大体のことを察せる」

 

「なんでペットボトル?」

 

「ユーフェミア様がこんな風に身をよじらせた時は…………決まっておねしょをする」

 

「「「……………えっ!?」」」

 

「持ってきてくれたかアーニャ、ここに……確かこっちのポケットに……あった、アタッチメントを付けて………誰かユーフェミア様の性器………尿道口近くにこれを添えてくれないか?」

 

「あ、じゃ、じゃあ私が………」

 

ドロテアにアタッチメント付きペットボトルを渡す、ドロテアはユーフェミアのドレスを捲ってユーフェミアの下着を少し降ろし、アタッチメント付きペットボトルを添えた。

 

「私が良いというまでそのまま添えていてくれ、対処が少し面倒なんでな」

 

「と、というと?」

 

「最初は勢いよく出る、しばらくすると出なくなり一度止まる、そこからしばらく経ってから残りが全部出る…………という工程になっていて、正直止まってから出始めるまでの待機時間は結構長い、だから忍耐強く耐えてくれ、あと女性同士だからと言ってあまりじろじろ見ないように、緊急事態だから仕方ないが、あまり露骨だと殺すぞ」

 

「りょ、了解した」

 

「………ん」プルル

 

「…………くるぞ、しっかり持っておけ、残り2人はあっちから見えないようにカーテンになれ」

 

「あぁ……」

 

「「うん(はい)」」

 

………………………………ジョーーッ

 

「……………」

 

「「「……………」」」

 

ジョーー………ジョ………チョロロ…………

 

「…………第一工程クリア」

 

「ふぅ………」

 

「む?」

 

ふと、遠くにいる男性陣から視線を感じる、若いラウンズどもがチラチラとこちらを見ている。

 

……………あとで制裁が必要だな。

 

「………待機時間が惜しい、裏技を使う、しっかり持っておけ」

 

「了解」

 

ユフィの頭を撫でるのを一旦やめ、お腹の部分をさする。

 

「………ふへぇ〜」ふにゃ

 

………ジョロロ〜……………

 

「……………よし、零さないようにゆっくりと離せ、私のハンカチで周りを拭いて、ペットボトルは中身を手洗い場で捨て、アタッチメントは向こうのトイレの手洗い場で洗剤で良く洗ってペットボトルと一緒に乾かしてくれ」

 

「わかった」タッタッタッ

 

「アーニャ、すまないがちょっと代わってくれ」

 

「どうして?」

 

「………不届き者には鉄槌を下さねばならん」

 

「…………わかった、ユーフェミア様のことは任せて」

 

意図を察したアーニャは物凄く怖い顔でうなづいた。

 

「頼む、あと、クルシェフスキーは一緒についてきてくれ」

 

「え?私?」

 

「ああ、お願いしたいことがある、じゃあ代わろうかアーニャ、ゆっくりとだ」

 

「うん…………お兄ちゃん」

 

「うん?」

 

「徹底的にね」

 

「任せろ」

 

膝枕を交代し、クルシェフスキーを連れて男性ラウンズのもとへ。

 

「うむ、ツキト君か、それにクルシェフスキー君も、何か案でも思いついたかね?」

 

「いいえ、今回はちょっと…………制裁を加えようと」

 

「制裁?ほぅ………」

 

ビスマルクは何やら察したのかヴァインベルグとブラッドリーを睨みつけた。

 

「さて…………ヴァインベルグにブラッドリー、死ぬ準備はいいか?」

 

「ご、ごめんよツキト!男のサガで目をそらせなくてさ!」

 

「あんな近場でレズショー見たくやってりゃ見たくも何だろうが!?」

 

反省の色の無いブラッドリーは強めでいいか。

 

「ふむ、クルシェフスキー、ヴァインベルグの口を塞いでくれ」

 

「は、はい」

 

「え、ちょ!?」

 

「ヴァルトシュタイン卿………ブラッドリーの口を、悲鳴が漏れないように」

 

「お前何考えもg!?」

 

口が塞がったのを確認して腕をまくる。

 

「さて、と……今からお前たちくそったれ変態野郎どもに1発づつ拳を叩き込む、ヒョロイ腕から出る軟弱な拳だ、耐えられるよな?」

 

腕を引きしぼりまずはヴァインベルグのある一点を狙う。

 

「耐えられなかったらもう1発だ……………いちおう言っとくが、気絶してももう1発だ」

 

ヒュッ、ドゴォ!!!!!

 

「うごぉ!!!!????」

 

「悲鳴を耐えられなかったな?もう1発だ」

 

ヒュッ、ドゴォ!!!!!

 

「うg……………………」

 

「ん?おい?…………失神したのか」

 

まだ2発だったのに………まあいいか。

 

「耐え切れずに失神しからもう一回だ」

 

ヒュッ、ドゴォ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ………やっと終わった、無駄な時間とカロリーを消費してしまった」

 

屍を一瞥してそう言う。

 

結果としてヴァインベルグには合計で14発の拳を叩き込み、ブラッドリーには19回の玉潰しを行なった。

 

今もブラッドリーは小刻みに痙攣している。

 

「さて…………ヴァルトシュタイン卿」

 

「なんだね?」

 

「33発の拳、または33回の玉潰しを私にやってくれ」

 

「なにっ!?」

 

「あの場で私がいなければユーフェミア様は大変な恥辱を受けていただろう、しかし、それを避けるために行動したからといって、私に罪がないわけでは無い、私も同罪だ、よって私にも同様の制裁が必要だ」

 

「言いたいことはわかる、君のその忠義もな、だがすでにムッツリスケベの2人がこのザマだ、これ以上の戦力の一時的損失は認められない」

 

「しかし…………この際だから言うが、私も男だ、ユーフェミア様のそばに居ては何か間違いを犯してしまう、だから罰を受けた上でこちら側に合流すべきなのだ」

 

「ツキト・アールストレイム卿よぉ」

 

「っ!陛下!?」

 

「お主の行動はぁ、全てぇ、このわしが許すぅ……お主は我が娘、ユーフェミア・リ・ブリタニアの世話をせよぉ」

 

「は、はっ!」

 

「忠誠を示せェ!」

 

「イエス、ユアマジェスティ!」

 

うっそだろオイ、ユーフェミアの実父に許されてしまったよ………。

 

クルシェフスキーを連れてとぼとぼとユーフェミアの元に戻る。

 

「終わったみたいだねお兄ちゃん」

 

「まだ私の制裁が済んでないんだが………」

 

「ナシでいいんじゃない?邪な気持ちはなかった………んでしょ?」

 

「クルシェフスキー……………私も人間だ、下世話な話だが、興味がないわけではない」

 

「そう………お兄ちゃん、ここ代わって」

 

「はぁ?アーニャお前、私は今………」

 

「お兄ちゃんの方がユーフェミア様は喜ぶし安心して寝れる、私に変わってから何回も魘されてる」

 

「魘されてる?」

 

「無意識にお兄ちゃんじゃないってわかるんだと思う、たぶん信頼の差、ここで1番信頼されてるのは誰でもないお兄ちゃん」

 

「そうか…………いやしかし、例えそうでも私では心配だろう?なあ、ドロテア?クルシェフスキー?」

 

この2人なら、反対意見を出してくれるだろう。

 

「「別にいいんじゃない(かしら)?」」

 

「はい、というわけで代わって」

 

「えぇ…………本当にいいのか?私だってあっちで伸びてる性欲お化けと同じようなものだぞ?むしろよりムッツリな私のほうが危ないぞ?」

 

「本当に危ないなら、きっと今頃ユーフェミア様はお兄ちゃんの子供を身ごもって結婚してるし、そもそもラウンズなんかとっくに辞めてると思う」

 

なんだその理論は………。

 

「アールストレイム………めんどくさいからツキトって呼ぶわ、私かしてツキトってヒモの才能あると思うの」

 

「おいこらクルシェフスキー」

 

文句を言いつつもアーニャと膝枕を交代する、さっきまで訝しげな表情が緩和していき、ゆっくりとした寝息を立て始めた。

 

「一応膝枕は代わる、今のうちに仮眠をとっておけ、でもだ、仮眠はとっても誰か1人は起きていろよ?」

 

「2人とも、私たちは安心して寝よう、お兄ちゃんは絶対手を出さないから」

 

「おいお前ら、もっと危機感を………」

 

「「「おやすみ(おやすみ〜)」」」

 

女ラウンズ3人共寝やがった………こういう時の結束の強さはさすがか。

 

男性ラウンズも2人ずつ交代で仮眠を取るようだ、失神した2人を仮眠扱いとしてビスマルクと……ん?ノネット・エニアグラム?あいつ女だろうに、喋り方は男らしいが。

 

まあビスマルクと同じパワー系みたいだし、ちょうど4対4になっててバランスもいい、そこらへんも考えているのだろう。

 

…………本来は私もあっち………いや、今更か。

 

ユフィの髪をすきながら、外の状況がどんなものなのか思考を巡らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

トントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントントン

 

「ルルーシュ様、コーヒーが出来上がりました」

 

「あぁ、ありがとう咲世子」

 

「ナナリー様も、ココアが出来上がり…………」

 

トントントン………

 

「ありがとうございます咲世子さん………」

 

「いいえ………隣に失礼させていただきます」

 

お兄様と咲世子さんと私、3人でテーブルを囲って座る、ココアを飲んで一息。

 

テレビ中継で、ツキトさんがユフィ姉様とアーニャさんに押し倒されてから、そこを矢が通り抜けていって、すぐにツキトさんが起き上がって黄金銃を撃った後、それっきり映像は途絶えてしまって居ます。

 

もう10時まわってしばらく経ちます、中継が再開するんじゃないかとテレビをつけてみんなで待って居ますが、まだその様子はありません。

 

『り、臨時ニュースをお伝えします!現場を写します!』

 

ふと、そのままにしていたテレビのチャンネルが中継に切り替わり、きたっ!と思いました。

 

『ご覧ください!我らが神聖ブリタニア帝国の宮廷の周りに数えきれないKMFが集まっています!』

 

「なんだあれは?イベントじゃないぞ………」

 

ですがそれは、最悪の事態を告げる宣告でした。

 

『あ!あれは、ギネヴィア様です!ギネヴィア様が広場に現れました!』

 

『我らは現皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアに対する反乱軍である!我らは現皇帝を排し、新たなる皇帝に、このギネヴィア・ド・ブリタニアがなる!』

 

『く、クーデターです!皆様!神聖ブリタニア帝国本国においてクーデターが………おいちょっと何をs…………』

 

「くっ、きれたか………」

 

クーデター…………ツキトさんがクーデターに巻き込まれてる………?

 

「あ……あぁ…………あああ!!!」

 

ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

 

「ツキトさんが……………死んじゃう…………いやああああああああ!!!」

 

「ナナリー様?ナナリー様!?」

 

「ナナリー?ナナリーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

およそ300人の神聖ブリタニア帝国軍の兵士が死ぬ。

 

ラウンズを一箇所に閉じ込め、情報を与えず戦力に加えさせない。

 

歴史の修正………ブリタニアは裏切りと暗殺の歴史の延長上にある、それを阻止し続けたことへの修正力。

 

……………クーデター。

 

「ラウンズを閉じ込めて情報を得られないようにし、戦力として使わせないことで速やかに宮廷を包囲、後はテレビ中継で全世界にクーデター宣言をして現皇帝に不満を持つ同志を集め、降伏勧告を現皇帝に……………」

 

「お兄ちゃん?今のって……」

 

「おっと、すまない、起こしてしまったか」

 

独り言を言っていたらアーニャを起こしてしまった。

 

「いい、それより続き」

 

「あぁ……私が皇家の人間で、現皇帝に不満を持っていて、かつラウンズを一箇所に閉じ込めるなら、多分そうする」

 

「じゃあ、今外ではクーデターが起こっているの?」

 

「救出隊も来ない、電話は使えない、となるときっとそうなんだと思う、だが妙だ」

 

「妙?」

 

「現皇帝に不満を持っていてクーデターを決行しそうな人間は、おそらく第一皇女のギネヴィアだ、自分より皇位がが下のマリアンヌ様が優遇されている現状が気に入らんのだろう」

 

「それで?」

 

「ギネヴィアはコーネリア様のように戦いに精通してはいない、きっと優秀な将軍がうまく取り入ってけしかけたか、それとも他の皇家がけしかけたのか………」

 

「どっちにしても、今回の敵はクーデターってことで間違いない?」

 

「状況的にはそれ以外に考え付かない」

 

「ヴァルトシュタイン卿に伝えてくる?」

 

「頼む」

 

「うん」

 

アーニャは立ち上がってビスマルクのほうへトコトコと歩いて行った。

 

後は何かないか?私が敵ならどうする?

 

監視、敵は私たちの動きを把握しようとするだろう。

 

カメラは物理的に不可能、となると集音器を使っているはず。

 

部屋の中にはそれらしきものはなし、コンセントに繋ぐものはすべて引き抜いてある。

 

となると………外?

 

思い出せ、この宮廷の作りは?壁の素材は?最も薄い場所は?

 

「………入り口から見て左隣の部屋は壁が厚い休憩室、反対の右隣は………急造した空調設備室、元は小さなワインセラー…………」

 

廊下はありえない、もし廊下ならボウガン男を殺した後、何かの拍子で扉を開けられればバレてしまう。

 

場所は割れた、あとは奇襲でもなんでもかけて潰してやればいい。

 

「ツキト君、アーニャ君から聞いた、クーデターだそうだな?」

 

「状況からそうとしか思えない、今も我々をとなりの空調設備室から盗聴しているはずだ」

 

「監視のためにか………どうする気だね?」

 

「攻勢に出る、私が壁向こうの敵と盗聴機材を無力化する、残ったうちの半数はバリケードを開けて外へ出て偵察、残り半数のラウンズと側近はユーフェミア様と陛下を護衛しつつ退避、かたがついたら私は護衛に回る」

 

「壁を破る手段は?爆弾でもあるのかね?」

 

「とてもスマートとは言えないやり方だが、おそらく最も成功確率が高い方法だ」

 

つまり、力任せにぶち破る。

 

「…………わかった、だが陛下の同意がなければ始められない」

 

「わかった、私が話を………」

 

「待て、ユーフェミア様の快眠を邪魔してはならない、私が伝えに行く」

 

「すまん、助かる」

 

「年長者を頼りたまえ」

 

ビスマルクは頼もしく笑うと陛下の元へ行って私の作戦を話し始めた。

 

しばらくして、ビスマルクが戻ってきた。

 

「許可が下りた」

 

「よし、全員起こして武装させる、ヴァルトシュタイン卿、確かこの部屋にはあれがあったはずだが?」

 

「ある、コードは私が知っている、開けてこよう」

 

「頼む、アーニャ、お前はヴァルトシュタイン卿について行って武器を受領しろ」

 

「わかった」

 

「ドロテア、クルシェフスキー起きろ、戦闘準備だ」

 

「うん………」

 

「ふぁぁ………」

 

大丈夫かこいつら…………。

 

「2人とも静かにヴァルトシュタイン卿の元へ行け、武器を受領してこい」

 

「「……!」」コク

 

あとがユフィか。

 

「ユフィ、起きて」ポンポン

 

「ん……ぅん………ツキト?」

 

「これからいうことをよく聞いて、これから戦いが始まるから、クルシェフスキーやドロテアの話をよく聞いて行動して欲しいんだ、いいかな?」

 

「は、はい…………大丈夫ですよね?ツキト、怪我しないですよね?」フルフル

 

「大丈夫だよ、僕はこれまでで怪我をしたことは一回しかないんだよ?あ、あと声は小さめでね」

 

「はい、わかりました………ひとつ約束してください、無茶はしないと」

 

「うん、その約束、絶対に守るよ」

 

寝起きでも頭の回転の良いユフィは伝えるのが楽で良い。

 

「あ、この服返しますね」

 

「外は寒いだろうから、着たままでいて」

 

「え?いいんですか?これがないとツキトは………」

 

「大丈夫、むしろ暑いくらいだから」

 

嘘だ、本当は少し寒い。

 

「お兄ちゃん、これはお兄ちゃんのぶん」

 

「おお、ありがとうアーニャ」

 

ボディアーマーを着込みアサルトライフルを背負ったアーニャから、同じ型のアサルトライフルを受け取る。

 

「それとこれ、絶対着て、重くて動きづらいけど絶対着て」ズイッ

 

「わ、わかったよ」

 

念を押されれつつボディアーマーも受け取った………そんな信用無いか?

 

「こっちがユーフェミア様のボディアーマーです、着といてくださいね」

 

「あ、はい」

 

私の時よりゆるく無いか?なあおい。

 

かくして、ユフィと陛下を除く全員の武装化が完了し、ユフィとも打開策について打ち合わせを行った。

 

「よし、準備オーケーだ、始めてくれツキト君」

 

「了解………ユフィ、打ち合わせ通りに」

 

「はい」

 

今いる場所の左隣の部屋の壁近くから、右隣の部屋の壁近くまでラウンズの半数と共に移動する。

 

私以外のラウンズは、壁に耳を当てて壁向こうの敵諜報部隊の位置を探る。

 

私とユフィは、騒ぎを起こして敵の位置を暴く。

 

「それじゃあ、いこうか」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side

 

 

『あっ………かっ……………』

 

『どう…て?ど………ですか?どうしてなんですか!?』

 

「おい、様子が変だ」

 

「マイクの感度を上げるぞ」

 

『あぐぁ…………』

 

『答えて下さい!答えて下さいよ!私を愛してくれていたんじゃないんですか!?』

 

『ぁ………ぅ…………』

 

「ユーフェミアがアールストレイムの首を絞めているのか?」

 

「ここからじゃ聞こえにくい、近づくぞ、そっち持て」

 

「了解、ったく、最新型だか知らねえが、重くてやってらんねえぜ」ゴソゴソ

 

「文句言うな、こっちのマイクだってクソ重えんだ」ゴソゴソ

 

「ちっ…………よし、ここでいいだろ」

 

「…………おい、何も聞こえないぞ?」

 

「あ?故障か?」

 

「これだから新型ってのは………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

「……………」

 

「……………」

 

「…………(ここにいる!)」サッサッ

 

そこか!

 

「(離れろ、開ける)」スッサッ

 

「………」コク

 

壁から離れさせて武器を構えさせる、私も壁から数歩離れて助走を付け、思いっきり壁の一部を蹴り抜く。

 

バゴオオオオオオオオオオオオオオン!!!!

 

壁を蹴り破ることに成功した、狭い穴を抜け隣の部屋に侵入する。

 

「ぐぁ………」

 

「あ、足がぁ………!」

 

衝撃で吹き飛んだ敵諜報部隊が瓦礫に足を挟まれ動けなくなっていた。

 

空調設備には損傷はなかったみたいだ、手加減できてて良かった。

 

「御機嫌よう、糞虫諸君」

 

「あ、アールストレイム!?何でここが………」

 

「こう見えて、害虫退治は得意なんだ………さて、貴様らを雇用主は誰だ?」

 

アサルトライフルを構え、動けぬ兵士2名に問いかける。

 

見たところは近衛兵に見えるが…………しかし何だこの品の無さは、近衛兵の制度改革が必要そうだな。

 

「ぐっ…………」

 

「聞こえてなかったか?ドブネズミどもの親玉の名を吐け」

 

「誰がてめえになんか………」

 

タン!

 

「あああああ!!お、俺の指があああ!?」

 

指を撃ち抜いて一本跳ばして恐怖を煽る、銃口をもう1人に向けて威圧する。

 

「ほれどうした?相棒が死んじまうぞ?さっさと言った方が楽になる」

 

「い、言う!言うよ!」

 

「言うんじゃねえ!」

 

「馬鹿野郎!命あってのもんだろうが!どう考えたって逃げんの無理だろ!?」

 

「そりゃ………そうだな……降参だ」

 

…………あ、呆気なさすぎる。

 

まるで、小学生サッカーチームが、大学生ラグビーチームとラグビーで勝負するようなもの、呆気ないほどすぐにかたがついた。

 

「言え」

 

「ギネヴィア様とカリーヌ様です!」

 

第一皇女と第五皇女か………どちらもヴィ家出身者が大の嫌いのクズ、予想は当たっていたようだな。

 

「兵力は?」

 

「お、およそ200ほどかと………」

 

多いな、歩兵だけではないだろうから苦戦が強いられそうだ。

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

アーニャが穴をくぐってこっちに入ってきた。

 

「アーニャか、こっちは制圧した」

 

「ケガはない?」

 

「この通り無傷だ、それより情報だ、雇用主はギネヴィアとカリーヌ、第一と第五皇女だ、総兵力はおよそ200〜250程度」

 

「わかった、ヴァルトシュタイン卿に伝えてくる」

 

「頼んだ、私は後始末をしてから合流する」

 

「早く来てね」

 

アーニャが抜け穴を通って向こう側に行ったところでアサルトライフルを敵兵士に向かい構える。

 

「な、なんだ!?殺すのか!?喋ったじゃないか!!」

 

「私がいつ、生かしてやると言った?」

 

「こ、この…………悪魔めえええええええ!!!!!」

 

「悪魔………なるほど、私にはぴったりだな」

 

タタタタタタタタタタタタタタン!!

 

文字通り蜂の巣になった肉塊を前に空のマガジンを投げ捨て新しいマガジンをリロードする。

 

「私も、1人の叛逆者なのだから」

 

しかし、やはり銃というのは味気なく人を殺してしまう兵器だな、まあ、人と人の力を平等にした素晴らしい武器、文句は言わん。

 

「しかし、こう意気込んで来たというのに肩透かしを食らった感が否めないな」

 

実質、神をも超えた種族の頂点に立つ私にすれば、あらゆる敵も無力なのだ、この世の敵は全て、私にとって肩透かしを感じさせる存在でしかない。

 

なんて傲慢になっていると足元を掬われる、気を引き締めていかねばな。

 

一応、空調設備室の出入り口の施錠を確認して………ちゃんと掛けてあるな、よし。

 

抜け穴を通り元の部屋へ、ギョッとした顔で壁の穴と私を交互に見てくる奴もいるがとりあえず無視、ビスマルクに報告だ。

 

「ヴァルトシュタイン卿、こっちは片付いた、あとは……」

 

「このバリケードの向こう側に出るだけか」

 

「もう一度蹴破ろうか?」

 

「その必要はない…………ところで大丈夫なのかね?」

 

「見た通りノーダメージだよ」

 

「いやいやいや!コンクリの壁ぶち破ってノーダメージとかおかしいだろ!?」

 

「そう言われてもな…………頑丈なだけだしな」

 

ヴァインベルグのツッコミを回避しつつ、扉のドアノブに手をかける。

 

「いくぞ」

 

扉の両方のドアノブを捻って少し開けたところで蹴り開ける、勢いよく扉が両方に開いたところで前衛組が飛び出し左右の廊下の安全確認を行う。

 

「左クリア」

 

「右クリア」

 

「敵影無し、警戒しつつ前進」

 

ビスマルクの指示で4人構成の前衛組はそれぞれツーマンセルになって格納庫のある左の廊下を進み始めた。

 

私とアーニャはツーマンセルを組み後方警戒、ビスマルクとノネットはそれぞれ陛下とユフィの護衛。

 

「お兄ちゃん、格納庫で確保するのはKMFだけ?」

 

「いや、車両も一緒に確保する、KMFは最低限の武装のみで発進させ、陛下とユーフェミア様の搭乗する車両の盾となり、宮廷の外へ脱出するまだお守りする」

 

「近接武装は下ろしたほうがいい?」

 

「人によるが、軽マシンガンとシールドがいいだろう、軽マシンガンでは威力不足だが、必要なのは牽制できるだけの弾数だからな」

 

「アドバイスありがとうお兄ちゃん」

 

「まあ、お前なら、バズーカでも上手くやれそうだがな」

 

まだできてないがアーニャの専用機は砲撃戦特化型のKMFだ、射撃、砲撃のセンスは高いはずだ。

 

「そうかな………お兄ちゃんのアドバイス通りやって見る」

 

「自分に合ったスタイルを見つければ、いくらでも強くなれる、私が保証する」

 

「本当?」

 

「あぁ、私よりもずっと強くなるさ、アーニャなら」

 

なんやかんやで敵兵との遭遇もなく格納庫に着いた。

 

側近たちが使えそうな車両を探している間、私含むラウンズはその場にある無数のサザーランドのパーツ、武装のアセンブルを行う。

 

私のサザーランドは、余っていたグロースターのランスと軽マシンガンにマガジンを複数積んである、軽マシンガンの打撃力を考えると、少し遠めの近距離向けと言えるだろう。

 

軽量化の為に切り詰めた銃身が頼りなく、弾種は高速徹甲弾は積まずに徹甲榴弾だけなので重装甲相手には貫通力不足だろう。

 

しかし軽い分だけマガジンが多く搭載できるし、腐ってもKMF用の武器、76mmの大口径徹甲榴弾は、貫通せずとも榴弾の効果によって戦闘不能にすることもできるはずだ。

 

KMF用のアサルトライフルは40mmの徹甲弾と高速徹甲弾のみか、57mmの重アサルトライフルのほうなら炸薬入りの徹甲榴弾もあるが、どちら銃身の長さで取り回しが悪い。

 

アサルトライフルのカテゴリ上のためか、高い命中精度を低下をさせたくなかったのか、銃身を切り詰めたショートバレルのアサルトライフルは無い。

 

よって、多弾数で牽制弾を送り込め、高い打撃力を持つ短銃身の76mm軽マシンガンがベストな選択と思われる。

 

あとは、腕に比較的軽い装甲板を角度を付けて貼り付けて防御力を上げ、各部モーターを弄ってレスポンスの向上、時間からしてそれくらいか。

 

「車両のエネルギー補給終わりました!行けます!」

 

「よし、ラウンズ各員はKMFへ搭乗!モニカ君、ドロテア君、ノネット君、私の4名で車両の四方を囲む!」

 

「「「了解!」」」

 

「ジノ君とルキアーノ君は後方警戒、後方から奇襲されれば我々は助からん、君たちに背中を任せる!」

 

「「了解!(りょーかい)」」

 

「ツキト君とアーニャ君は先行して前方へ、激しい抵抗が予想される、無茶を言うが、なんとか道を切り開いて欲しい!」

 

「なぁに、忠誠を示すうってつけの機会だ、行くぞアーニャ!」

 

「うん!」

 

ランドスピナーを回転させてアーニャと共に格納庫の外へ。

 

巡航速度で庭を突っ切りながら、秘密の通信回線を開く。

 

「こちら、DB13よりH1へ、現金輸送ルート上のゴミ掃除を行う」

 

『P6、DB13の仕事を手伝う』

 

『H1、了解、綺麗に掃除をしといてくれ』

 

さあ、クダラナイ戦争の始まりだ。

 




「さすが幼馴染のツキト君や!そいで、ちょいと疑問があるんやけど、いいかな?あんな、ツキト君はユーフェミア様のおねしょの前兆を知ってて、その対処も的確やったんな?正直に言って欲しいんやけど……………いったい何回、ユーフェミア様のおねしょの対処をやってきたんや?」

ツキト「君のように勘のいい人間は嫌いだよ」

or

ツキト「聞きたいかね?今回の時点で99822回だ」


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『脱出』、そして『邪悪』なりし『KMF』

たぶんこの作品中もっとも長いと思うんですけど………。
途中でガンダ◯ネタが出ます。



ツキトside

 

 

広大な宮廷の庭の茂みをいくつか越えると、20〜30ほどのKMFが集結していた。

 

明らかに正規のカラーリングでない特殊な模様が施され、瞬間的に敵であると認識した。

 

「DB13よりP1!発砲許可!繰り返す発砲許可!」

 

『P1了解!』

 

アーニャに通信を送り軽マシンガンを構え、近くのターゲットに照準後すぐにトリガー。

 

ババババババババババババババッ

 

「DB13よりH1!敵KMF30と交戦中!集結中の敵主力の一部と思われる!」

 

『H1よりDB13へ、了解、増援は必要か?』

 

「DB13よりH1、増援は不要!脱出を優先せよ!」

 

『H1よりDB13、武運を祈る!』

 

『今はまだ』が入るがな………これ以上の敵がいると反応速度的に厳しい、何も機体が悪いんじゃない。

 

極端なショートバレルの軽マシンガンは銃口が暴れ回って精度もクソもないが、あえて狙わずバラまいたほうが76mmの大口径の徹甲榴弾を活かせる。

 

出来る限りあげた各モーターのレスポンスも悪くなく、被弾はまだ無いが、後ろに回られてもきっと被弾を最小限に抑えれるはずだ。

 

「P6、そっちの残弾は?」

 

『P6よりDB13、残弾は余裕あり、でも囲まれてて身動きが!』

 

「DB13よりP6、一度下がれ!代わりに前に出る!」

 

ヒートアップしたアーニャを冷静にさせるために下がらせ、代わりに私が前に出て派手に動く。

 

チューン済みの機体に標準仕様の機体では旋回が追いつかないのか、はたまた無駄に高い才能ゆえか、弾をばら撒くだけで敵機が落ちて逝く。

 

バババババババッ………

 

おっと、弾切れだ。

 

『うおおおおおおお!!』

 

「チッ、単独での吶喊は減点対象だ馬鹿者!」

 

対KMF戦用ランスを背中から引き抜きざまに薙ぎ払う。

 

『ぐうぉ!?』

 

「吶喊は最後の最後まで取っておくものだ!この阿呆が!!」

 

直撃し転倒した敵サザーランドにケイオス爆雷の置き土産をする。

 

起爆したケイオス爆雷は弾丸のハリネズミを形成し、その弾幕によって範囲内の敵KMFを数機まとめて穴だらけにした。

 

『P6よりDB13、リロード完了、復帰する!』

 

よし、アーニャが復帰したか、今度は私が下がってリロードを………。

 

『H1よりDB13とP6へ、足止めありがとう、おかげで警戒網を抜けることができた、殲滅しだい合流してくれ』

 

無事に突破したか、敵の集結中にうまく虚をついた形で出ることができたみたいだ。

 

「DB13よりH1、了解、殲滅しだい合流する………DB13よりP6へ、弾切れだ、援護頼む」

 

『P6よりDB13、カバーするから、急いでね』

 

後ろに下がると同時にアーニャが前へ出る、ランスを背中に背負い込み、マシンガン系統の巨大な円盤型マガジンを付け替え初弾を装填、各部モーターの過熱具合を見て…………よし、まだ行けるな。

 

「DB13よりP6、待たせたな、一気に行くぞ!」

 

『P6よりDB13、了解!合わせるよお兄ちゃん!』

 

残り7機の敵KMFに対し吶喊、アーニャと複雑な動きを取りターゲットされにくいようにし、マガジンを連射し突撃する。

 

回避が遅れた一機を屠り、連射して弾切れになった軽マシンガンを捨ててランスを抜いて肉迫、なぜか脱出装置を作動させたようで逃げようとしたため、投げ槍の要領で投擲、ランスはコックピットブロックを貫通して地面に落ち、コックピットブロックはバランスを崩し建造物に激突、きっと中身はミンチだろう、二機目も撃破。

 

そんなことを悠長に考える暇もなく、背後から弾丸が飛んでくる、急いで全速でその場から回避、さっき脱出しようとしたやつの機体から57mmアサルトライフルをもぎ取る。

 

振り向きざまにスラッシュハーケンを近くの建造物に打ち込んで巻き取りをする、地面に固定されている建造物はサザーランドより圧倒的に重くて頑丈だ、つまり、建造物に向かって高速で接近することになる。

 

建造物に乗り上げて跳ぶ、瞬間にスラッシュハーケンを外し、もう一方のスラッシュハーケンを別の建造物に打ち込み、遠心力で自機であるサザーランドをハンマーとして敵サザーランドにドロップキックをかます。

 

その場で制止してアサルトライフルでこちらを撃ち落とすことに躍起になっていてくれたおかげでドロップキックはクリーンヒット、急な衝撃に対ショックも間に合わなかったのか、敵サザーランドはランドスピナーでの制御もままならず吹っ飛んで地面を転がった。

 

敵サザーランドは機体のあらゆる場所を損傷しながらも、何とか立ち上がろうとしているが、姿勢制御装置がやられてしまっているのか、コンピュータ補助の起き上がりは発動せず、自力で立とうにも左腕部のモーターが逝かれているのか、右腕部だけでやっているが、難しいのか、ある程度は浮き上がるもののすぐに地面に着いてしまう。

 

と思ったら今度はこっちに右手を突き出して人差し指をクイクイと曲げ伸ばししている…………もしかして、アサルトライフルのトリガーを引こうとしているのか?だがやつの持ってたアサルトライフルはどこかに吹っ飛んでいってしまって手元には無いのにな。

 

57mmアサルトライフルを構える、気づいた敵はスラッシュハーケンを2機打ち出してきた、セミオートで両方とも撃ち落とし、ワイヤーを撃って切断する。

 

続けてコックピットを撃ち抜く、敵サザーランドは動きを止めた。

 

最後に仕留めた奴はなかなかガッツのあった、磨けば光りそうなものであるが、思想の違いがあるのでは仕方あるまい。

 

付近に敵機は…………索敵に感無し。

 

「DB13よりP6、状況終了、お疲れ様アーニャ」

 

『お兄ちゃんもお疲れ様、怪我はない?』

 

「機体に数発掠ったが支障なしだ、アーニャのほうは?」

 

『お兄ちゃんと同じ、問題は無いよ』

 

「怪我がなくてよかった…………よし、使えそうな物を剥ぎ取ったら本隊と合流するぞ、10分くらいで終わらせろ」

 

『わかった、後少し頑張ろうお兄ちゃん』

 

「あぁ、頑張ろう」

 

ゴロゴロところがっている57mmアサルトライフル装備の機体から57mmのマガジンを剥ぎ取り、腰のマガジンラックや57mmアサルトライフル本体の予備マガジン入れに差し込んでいく。

 

57mmと比べ珍しい40mmアサルトライフル装備の機体を見つけたので、40mmアサルトライフルを剥ぎ取って背中の予備武装ラックに収め、数本の40mmのマガジンを腰のマガジンラックに入れる。

 

さっきの攻撃でランスが少し曲がってしまったようなので、ランスはもう捨てて行くことにする、いっそ接近戦はある程度捨てた方がいいかもしれない。

 

『お兄ちゃん、準備いいよ』

 

「了解、よし、巡航速度で向かう、後ろを頼む」

 

『任せて、1発も通さない』

 

「頼もしい限りだ………出るぞ」

 

KMFを巡航速度で発進させ陛下とユフィの護送部隊と合流するため、宮廷敷地外のポイントへ向け全身を開始した。

 

草木生い茂るだだっ広い庭を抜けた先、侵入防止のための巨大な壁が見えた、これを超えると宮廷の敷地外だ。

 

敷地外に出ると、大勢の正規軍仕様のKMFからもはや骨董品である戦車まで、数々の機動兵器が反乱軍を宮廷に閉じ込める形で包囲しているようだった。

 

『止まれ!どこの所属だ!』

 

近づくと一斉に銃口を向けられる、が、慌てないことが大事だ、彼らは同志なのだから。

 

「ナイトオブサーティーンだ」

 

『ナイトオブシックス』

 

『ハッ!失礼いたしました!こちらへどうぞ!』

 

身分を明かすとすんなりと通れた、私とアーニャは宮廷の壁を最前線とするなら、もっとも後方の作戦司令部に通された。

 

作戦司令部の仮設テント近くでKMFのコックピットを開放する、地面に降りようとしたところで通信が入った。

 

『お、お兄ちゃん、外に出れない………』

 

ハッチの故障か?仕方ない。

 

「わかった、今開けるから心配しないでいい」

 

『う、うん』

 

不安げなアーニャに努めて優しく言ってコックピットから降り、アーニャの乗ったKMFのハッチに飛び移り観察する。

 

どうやら被弾によってひしゃげてしまっているようだ、近くの工具置き場からバールを拝借してもう一度よじ登る。

 

「今から開けるから、じっとしているんだぞ」

 

『うん………ごめんねお兄ちゃん』

 

「お前が謝ることじゃ無いさ」

 

ひしゃげて空いた隙間にバールを差し込み、テコの原理で無理やりこじ開ける。

 

コックピットのハッチは難なく開いた。

 

「開いたぞアーニャ、さあ、休憩しようか」

 

「ありがとうお兄ちゃん……助けてられてばかりでごめんね、情けなくてごめんね………」

 

「おいおい、いきなり何を言いだすんだ?」

 

「だって、アーニャ、お兄ちゃんに助けてもらってばかりで……」

 

パイロットとしての技量の差を感じてしまったのだろうか?アーニャは役に立てなかったと謝罪の言葉を言っている。

 

「何を言うか、お前がいなければ30機のKMFの相手などできなかった、リロードの時間を稼いでくれなければ私はジリ貧だった」

 

本当だ、アーニャがいなければ、私もあそこまで冷静に戦えなかっただろう。

 

「でも、お兄ちゃんなら、あれくらい近接戦闘でどうにでもなるでしょ?」

 

「仮にそうだったとして、勝ったとしても私は満身創痍だ、宮廷の外に出るなんて絶望的だろう……」

 

「でも………」

 

涙を浮かべ駄々をこねる子供のように幼児退行してしまったアーニャを抱きしめる。

 

「おにい、ちゃん?」

 

「お前がいてくれたから、お前が背中を守ってくれていたから、私は戦えたんだ………私は臆病者だ、戦ってた時だって怖かった………でもアーニャがいたから、いてくれたから、私は戦えたんだ、お前は必要なんだ………」

 

「私が、必要?要らなくない?」

 

「絶対に必須だ、戦いの時も、日常生活の時も、そばにいてくれるだけで、心が暖かくなる、安心するんだ………だから自分のことを要らないなんて思うんじゃない」

 

「………お兄ちゃん、もうちょっとストレートに言ってみて」

 

「え?……えーっと……お前が必要なんだ、そばにいてくれ!」

 

『ピッ、録音しました』

 

……………………へ?

 

「やった………」

 

「あ、アーニャ………?」

 

「お兄ちゃん、騙してごめん、この音声の代金としてなんでも好きな食べ物を奢るから、それで許して」

 

ボイスレコーダーらしき物を持ってフリフリと目の前で振ってそう言うアーニャ、抱きしめていた力が緩んでいく。

 

というか代金として奢るのは食い物オンリーなのか。

 

「はぁあああ………よかった、悩んでなかったんだな」

 

「お兄ちゃん嬉しいけど心配しすぎ、それに私程度の操縦テクじゃお兄ちゃんには遠く及ばないってわかってるから」

 

強かだなぁ………さすがは私の妹だ。

 

ま、元気があるようでよかった。

 

「よしわかった、で、音声については消去は受け付けてくれないのか?」

 

「受け付けるけど、代わりに私のお願いを1つ聞いてもらうことになるよ、どんな非人道的なことやタブーとされてることでも、ね」

 

怖いこと言うなあ………。

 

「うむ、では奢りの方で、そうだな………アーニャの手料理1週間分でいこうか」

 

言っといてなんだが、すっごく役得なこと頼んでるよな私、少なくとも1週間の21回の食事をアーニャと過ごしながら一緒に食べれる………至福の時だな。

 

「!……ま、任せて!アーニャ、お兄ちゃんの好きな物作るの得意だから!」

 

「お、おう………そうか、たくさん練習したんだな」

 

「うん、たくさん練習した」

 

「そうか、偉いな、アーニャは」

 

えらく料理に関してテンションが高いアーニャの頭を抱きしめた状態で撫でる。

 

ほんと、妹じゃなかったら今頃恋人になってたよ。

 

ハァ〜〜〜…………本当に愛おしい………。

 

「お取り込み中のところすまないが、中に入ってくれ」

 

「ヴァルトシュタイン卿………」

 

「あぁすまない、ヴァルトシュタイン卿」

 

「仲睦まじいのは良いが…………兄妹婚はあまりよろしくないぞ?」

 

「そのつもりはないから安心してくれ」

 

「むぅ………」

 

作戦司令部のテントから出てきたビスマルクに入室を促されつつ茶化された。

 

アーニャは邪魔されたからかムッとして目に見えて不機嫌になった。

 

「さて、行こうか」

 

「うん……」

 

抱き合うのをやめてアーニャの手を握る。

 

「……待って、こっちがいい」

 

そう言ってアーニャは手を絡ませるように繋いだ、恋人繋ぎだった。

 

「よし、行こうか」

 

「うん!」

 

手繋ぎで機嫌が直ったのか、元気な挨拶を返してくれた。

 

「(リア充爆発しろ!!!!)」

 

「(くっそおおおお!羨ま死ね!!!)」

 

「(非リア充損傷率99.9%!生存確率0%!グハァッ!!)」

 

作戦司令部テント内にはすでにラウンズが私たちを除き全員集合しており、ディスプレイを兼ねた大型テーブルを囲い、それぞれ軽食を食べたり飲み物を飲んでいる。

 

テーブルを囲う顔ぶれの中にはユフィもいた。

 

「ツキト!無事でしたか!?怪我はありませんでしたか!?」

 

「はい、かすり傷1つありません」

 

「そうですか………よかった、ツキトが怪我をしていたら私……」

 

「大袈裟に考え過ぎです、仮にもラウンズである私があの程度の者共に遅れは取りません」

 

「そうかもしれませんが………でも心配なのです、ツキトは確かに強くて頼りになります、けれど、自分の身を省みない戦い方をするから、気が気でないのです」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

身体能力が高い上に不死身だからなぁ、多少の無理が効くからつい………。

 

「それに、私の知らないところで、全速力を出すとパイロットが100%死ぬ試作KMFに乗ってたっていうじゃないですか!!」

 

「「「「「「「「(え"!?)」」」」」」」」

 

「そ、それは………」

 

何故それを!?ユフィには決して見せないように工作しておいたはず!

 

「………お兄ちゃん?」

 

「あ、アーニャ、これはその……状況的に仕方なく………」

 

「ツキトはそうやって、相手には無理をするななんて言って、自分は死ぬかもしれないような無理をたくさんして!!」ダン!

 

「ひっ!?」

 

いきなり机を叩くな!怖いんだから!ビックリするだろ!

 

「そんなことをするから………女の子がみんなツキトに惚れちゃうんですよ!!」

 

「…………それ私悪くn」

 

「言い訳ですか!?私を惚れさせておいて!アーニャさんを惚れさせておいて!ナナリーを婚約者にしておいてぇ!!」

 

「ひぅ、ご、ごめんなさい………」

 

「ユーフェミア様、待って」

 

「それに何ですか!?アーニャさんと恋人繋ぎなんて!羨ま………羨ましいことを堂々と見せつけるようにして!」

 

「………ふふん」ドヤッ

 

「ちょっとアーニャさん勝ち誇った顔はやめてください!そもそも兄妹じゃ結婚はできないんですからね!?」

 

「事実婚すればいい、お兄ちゃんと一緒に居られるなら愛人でも奴隷でも良い、そばに居られるだけで幸せ」

 

「アーニャ…………できればその言葉は私以外の男に言って欲しかった」

 

もはや作戦司令部テント内はカオスだ……………ダレカタスケテー。

 

「とりあえず、この紙のここにサインをして指で判を押してくれたら許します」

 

「待ってください……それは何ですか?」

 

「婚姻届ですけど?」

 

「アウトですアウト!いいですかユーフェミア様?結婚とはしっかり決められた順序で交際を経て互いを理解した上でするものです、相手のことをよく知らないのにホイホイ結婚するなど………」

 

「ツキトのことはよく知ってますし、良いと思いますけど………父上はどう思いますか?」

 

え!?そこで陛下に聞くのか!?

 

「………互いの了承さえあれば良い、あとはぁ、枯れない愛を証明できればなお良い」

 

「ではツキト、了承の証としてここにサインを………」

 

「あの、ですから私はユーフェミア様と結婚はできないのです………ご理解ください」

 

「くっ、やはりナナリーが大事ですか………」

 

「…………そろそろ話を進めてもよろしいですか?」

 

「今大事な話を………」

 

「ユーフェミア様、その話はすべて終わってからしましょう………2人っきりで」

 

「はい!そうしましょう!」

 

「「「「「「「「(手馴れてるなぁ)」」」」」」」」

 

ユフィを席に戻し、私とアーニャも席に座る、目の前にコーヒーが差し出された。

 

「まず敵戦力について、宮廷敷地内には未だ未確認のKMF数十機、150〜200ほどの歩兵戦力があるものと推定される」

 

「この数字は各駐留部隊の欠員者を調べたものから算出されており、おおよそ正しい数字と見てくれて良い」

 

「作戦だが、親衛隊から選出した40名とラウンズ4名の合計44名によって4個小隊を作り、各方角から突入してもらう」

 

「敵KMFを殲滅後はラウンズ2名と歩兵4個小隊で内部へ侵入、敵首領の捕縛を行う」

 

「内部にKMFは入れないのか?」

 

「入れないこともないが、場所が限定される上とても狭い、現実的ではないだろう」

 

となると、私は白兵戦に回ったほうがいいな。

 

「ではKMFに搭乗するラウンズ4名の選出だが、希望者はいるか?」

 

「俺が行くぜ」

 

「私も行きます」

 

「私やります!」

 

「私にやらせてくれ」

 

「ブラッドリー卿にヴァインベルグ卿、クルシェフスキー卿にエニアグラム卿か、次に内部への突入部隊の2名だが」

 

「私が行こう」

 

「お兄ちゃんはダメ」

 

「なぜだ?白兵戦は私のレンジだぞ?」

 

「危ないからです!ツキトが怪我をしてしまいます!」

 

「戦場に安全な場所などございませんユーフェミア様、それに怪我を恐れて戦えぬなど兵士にあってはなりません」

 

「「でも!」」

 

ちっ、まったくうるさい………。

 

「…………1週間口をきかないほうがいいだろうか」

 

「「何でもない(です)!好きに動いて(くださいね)!」」

 

「(調教済かよ、やべえなアールストレイムのやつ………)」

 

「(スザクに聞いてた知ってたけどやっぱすげえな、皇族すら手玉に取っちまってる)」

 

「あー、じゃあアールストレイム卿と、もう1人はどうする?」

 

「あ、私行きます、いいでしょ?お兄ちゃん」

 

「反対はしないが………大丈夫か?人を斬り殺す覚悟はあるか?」

 

「覚悟はしてる、大丈夫」

 

「そうか、ではヴァルトシュタイン卿、私とアーニャで」

 

「わかって、では残った私とエルンスト卿で護衛を行う、作戦開始は現在行われている反乱軍に対する降伏勧告が拒絶されてから30分後だ、休憩を取り各自の持ち場に集まること、以上解散!」

 

ビスマルクの掛け声で解散が決定した。

 

さて、まずは人探しをせんとな。

 

ユフィがいるならスザクとロイドとセシルがいるはずだ。

 

作戦司令部テントから出て適当に立てたと思われる簡易地図を見る。

 

どうやらあるみたいだな、ここからも近い、ユフィを連れて行くか、いや普通に言っても来ないだろうし………そうだ。

 

「ユーフェミア様、私はこれからスザクの元へ行きます」

 

「スザクのところですか、私も一緒しても?」

 

「構いません、では………アーニャ、ユーフェミア様の護衛についてくれ」

 

「わかった…………ユーフェミア様、お兄ちゃんは渡さない」

 

「へえ…………私もツキトは渡しませんから」

 

連れて行くことはできたが、争うのはやめてくれ………私のために争うのはやめてえ!…………アニメのヒロインか私。

 

後ろで冷たい殺気をぶつけ合うアーニャとユフィを見て見ぬ振りを決め込んで歩く。

 

ほんの50m程度の場所に巨大なコンテナとともに特派のトレーラーが止まっており、テントが設置されていた。

 

そこに入る頃には、後ろの2人の殺気は消え、むしろある程度和やかな雰囲気を感じた。

 

「失礼する」

 

「ん〜?……あらぁ、ツキト君!おひさ〜………あり?後ろの人たちはユーフェミア様と」

 

「アーニャ・アールストレイム、ナイトオブシックス」

 

「アーニャ君ねぇ、了解〜、それでツキト君なーにしにきたの?せっかく君のKMFの準備しといたのに歩兵と突入するっていうから無駄骨になっちゃったしぃさぁ」

 

相変わらずのテンションで安定感があるなほんとこいつは。

 

だが純粋に科学者としては尊敬できる精神と信念を持っているから好感が持てるんだよな。

 

「お前の場合はデータが欲しかっただけだろう?まあ新兵器については興味があるから、あとで話を聞かせてもらうとして、スザクはいるか?」

 

「スザク君?いるよぉ、今はランスロットの調整中なんだぁ」

 

「ランスロット?」

 

「アーニャ君はご存知ない?そりゃ勿体無いよ!ランスロットはねぇ!世界初の第7世代KMFの実証試験機なんだよ!第5世代とはあらゆる面で一線を画す高性能機なんだからね!」

 

「つまり………」

 

「いろいろと敏感すぎて整備が面倒臭い点、それこそエースパイロットでも操縦が非常に難しい点、一機につき第5世代KMF数機以上のコストがかかる点を除けば、優秀な機体ってことだ、アーニャ」

 

「理解したよお兄ちゃん」

 

さすがはアーニャ、理解力が高くて助かる。

 

「痛いことついてくるよねえツキト君は………まあその辛口な評価が僕の技術力向上に一役買ってるんだけどね!」

 

「それは何より………アーニャ、ユーフェミア様を連れてコンテナに行ってくれ、白いほっそりとしたKMFがあるから、そこにスザクがいる」

 

「わかった、行きますよユーフェミア様」

 

「えぇ…………ツキト」

 

「何でしょう?」

 

「無茶をしたら、私とアーニャとナナリーが黙っていませんからね?」

 

「……はい、畏まりました」

 

怖え…………というか同盟でも組んだのかあの2人、険悪そうには見えなかったし。

 

さて、暇になったしロイドの新兵器について聞くか。

 

「ロイド、新兵器について聞かせてくれ」

 

「いいよぉ、それじゃあツキト君のKMFを見に行こうか!」

 

ハイテンションでテントを飛び出してコンテナを開けた。

 

私のグロースター・テンペスタはどんな魔改造を………いや待て、こいつグロースターじゃないぞ?どちらかというとこれは………。

 

「ロイド、こいつはもしや………」

 

「そう!ガウェインなんだよねえ、これ」

 

やはりガウェインか。

 

「期日通りに返還されたと聞いていたが………で?今回はどんなびっくりどっきりメカを仕込んでくれたんだ?」

 

「ふふふん、驚かまいでよ?な〜〜んと!分離可動式ハドロン砲を4機も搭載したんだよ!」

 

「名前からして面白そうだ………どんなものなんだ?」

 

「実はね、僕にしては珍しく休暇を取った時に見たアニメが着想の元で、パイロットの意思で自由に飛び回る兵器でね、それを元に超小型高速ヘリのようなものを試作して、これが物凄く高い性能を発揮してくれたんだよ!」

 

「ほう、超小型高速ヘリ……帰ったらそっちも見て見たい」

 

「そう?いつでも好きなだけ見ていいよ、でも今目の前にあるのはそれの完成形なんだ!さあ見て!ガウェインの背中部分!4つの壺みたいなやつ!」

 

ガウェインの背に回って見ると、確かに巨大な壺のようなものが口の方を外側にしてX字型に取り付けられていた。

 

「スラッシュハーケンの機能で4つのインコムを射出して、ハーケンブースターの機能の応用で軌道を変え、インコム自体につけられたフロートユニットで姿勢制御を行い、小型のハドロン砲で攻撃、インコムに繋げられたワイヤーで巻き取って機体に接続、射撃用のエネルギーとフロートユニットのエネルギーを本体から確保するんだよ!」

 

「インコムとはなんだ?」

 

どっかで聞いたような………そんな気がするんだ、そう、どこかの宇宙要塞の決戦時、敵エースパイロットと戦うために用意された特殊な機能を持つ専用機の………。

 

「パイロットの意思で動く機動砲台だよ、ワイヤーの長さで制限はあるけど、ワイヤーの長さが足りるのなら4つのインコムで敵を囲んでオールレンジ攻撃を仕掛けられるよ」

 

ガン◯ムのジ◯ングだこれ!足つきだからパーフェクトの方だこいつ!逆に足がなければある意味で原作再現っぽくなるな。

 

「なるほど、他には?」

 

「このインコム、いろいろと動作テストを重ねてるんだけど、補助コンピュータを使っても僕やセシル君、スザク君でさえ一個動かすのが精一杯、インコムを動かすのに必死でとても操縦なんてできなかったよ」

 

「おい」

 

「それほどに難しいんだよインコムっていう兵器は、打ち出す方向をある程度決められるスラッシュハーケンとは違って方向転換や姿勢制御のために思考を大幅に割かなくちゃいけないんだ、2人乗って手動で動かして見たりしたけど、それでも2つが限界なんだ、人間に腕が4本あれば4ついけたんだけどね………ちなみに、ほんとに動かすのに精一杯で、まだ射撃テストも出来てないんだよ、手動の場合、風の流れとか重力に気をつけて常にインコムのフロートユニットの出力調整をキーボードで撃ち続けなきゃいけなくて、とても的に向けて小型ハドロン砲を発射するのは厳しいんだよぉ〜………」

 

「作ってみたはいいが、実験も出来ない飾りになってしまったわけか」

 

まさに『ぼくのかんがえたさいきょうのないとめあふれ〜む』だな、夢と希望に溢れすぎて人間が使いこなすためには脳のスペックが足りなすぎる。

 

こいつをそこらの一般パイロットが全力稼働させるということは、1000人vs1000人の超大規模オンラインゲームを1GBのパソコンでやるのと同じようなもの。

 

正直言って、まともなプレイは無理、不可能もいいところだ

 

「今のところはね、そこで!元の持ち主のツキト君にやってもらおうと思ったのさ」

 

「なるほど、そこでここに持ってきたという………」

 

『敵襲!敵しゅうううううう!!!』

 

「なんだ!?」

 

「ひぇえ、敵がくるの!?早くしまわないと!」

 

まさか降伏勧告にキレて攻勢に出たのか?前線が勢いに飲まれたわけか!

 

そうだ!

 

「ロイド!データ取得のチャンスだ!」

 

「まさか、乗るの!?」

 

「そのまさかさ!早くしろ!敵はすぐそこまで迫ってる!」

 

「がってん!セシル君!セシルくーーん!」

 

ロイドを走らせ私は急いでガウェインに乗り込む。

 

ぶっつけ本番でインコムを使うというところまで原作再現させやがって………まったく、嬉しいことをしてくれる!

 

「通常のエナジーフィラーよりも長持ちするエナジータンクを背中に2本さしてあるからエネルギーは十分だよ!」

 

「了解!ツキト・アールストレイム、ガウェインで出るぞ!」

 

フロートユニットを全力稼働、速度はテンペスタより落ちるが十分だ!

 

「早すぎる、前線はもう落ちたか、チッ、前線近くに置いといたKMFはもうダメそうだ………ラウンズの応援は期待できないか」

 

やはり万年演習しかしてこなかったような親衛隊は役に立たんか、親衛隊なぞどこの世界も似たようなものか。

 

上から見たところ敵はざっと40はいるな、しかも内部からゾロゾロ出てくるから実質それ以上か。

 

「だが好都合!ロイド!記録頼む!補助コンピュータ起動!インコム全力展開!」

 

バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!

 

4機のインコムが射出され、敵の方向へと向かう。

 

「そこ!貴様ら全員落ちろおおおお!!」

 

それぞれのインコムから同時に小型ハドロン砲が放たれる。

 

小型といえどさすがハドロン砲、その威力は申し分なく、敵機であるサザーランドを破壊するに留まらず、貫通して射線上の敵サザーランドも巻き込んで破壊した。

 

この一斉射で実に14機の敵サザーランドがレーダー上でロスト、撃破扱いとなった。

 

『すごい………これがインコムの本当の力……』

 

「まだ的がいてくれるとは、嬉しい限りだな!ロイド!」

 

インコムの位置を変えて次の射撃。

 

「死ねぃ!」

 

ちっ、たったの7機か………一般的には十分な戦果だ、だがまだうようよと出てきやがる、特攻してみんな死ぬつもりか?

 

「ロイド!今度はインコムに合わせて全武装一斉射撃を行う!記録忘れるな!」

 

『待ってよ!豊富なデータ量にパソコンが悲鳴をあげてるよ!!』

 

「うれしい悲鳴だろう?喰らえ!」

 

『セシル君こっちのコード早く繋いで!パソコンが吹っ飛んじゃうよ!』

 

ハドロン砲収束率を80%、地上付近で拡散して敵機を巻き込むように、これで!

 

「これがブリタニアの科学力!!」

 

肩のハドロン砲が地表の敵機を焼き尽くし、逃れた敵機をインコムで倒し、それを逃れた敵機にスラッシュハーケンを突き刺し仕留める。

 

「逃げられるものか!このオールレンジ攻撃から!」

 

景気良くインコムで射撃を行なっていたが、ついにインコム内のエネルギーが切れた。

 

「インコム内のエネルギー枯渇!ワイヤー巻き取りで本体に戻しエネルギー充填する!」

 

『うーん、フルチャージ状態なら3、4回の射撃は可能………意外と燃費いいのかな?でも4機分となると相当量食うし……』

 

ロイドがブツブツ言ってる間にエネルギー充填完了した。

 

「再度インコムを射出し攻撃する、いくぞ!」

 

よし、インコムの操作は慣れた、この時ほど数多くある才能がカンストであることを喜んだ時はないだろう。

 

ま、私のような人間ではサーモンピンク色のMSパイロットのように、NTにはなれないだろうけど。

 

しばらく撃って戻してを繰り返していると敵の増援がやんだ。

 

壁の周りに親衛隊のKMFが前線を形成したため、一度交代して補給することに。

 

せっかく立てた作戦も、配置決めも何もかも無駄足になり、ほぼすべての敵を単騎、それも数分で殲滅した結果となった。

 

新しい敵が来る可能性もある、補給は迅速に。

 

ゆっくりと特派コンテナ前に着地する、近くにはアーニャとユフィが心配した表情で見上げているのがディスプレイで確認できた。

 

次々に人が集まり、ラウンズや陛下までもが居合わせた。

 

皆見守るようにガウェインを見上げている…………いや、降りづらいんだが。

 

とりあえず降りなきゃ怒られそうだし、コックピットハッチを開けて外に出る。

 

そのまま飛び降りるとなぜか小さい悲鳴が上がったが、無視してその場にいたロイドの方を向く。

 

「ロイド、補給を頼む」

 

「はぁい…………うわぁ、データがいっぱいだけどインコムがボロボロだぁ………整備大変だよこれ」

 

「の割には嬉しそうに言いますねロイドさん………」

 

ロイドとセシルに補給を頼む、まだ内部に敵がいるかもしれん、いつ突っ込んでくるかわかr

 

「ツキト君!」

 

「ヴァルトシュタイン卿?なにかあったのか?」

 

妙に慌てた様子でビスマルクが来た、どうしたんだ?

 

「先ほど反乱軍が降伏した、20名ほどを捕虜として捕らえた」

 

「……もう、終わったのか?」

 

「君の短時間での大量撃墜がキッカケで反乱軍上層部は戦意喪失、白旗をあげたよ」

 

早すぎる………そんなにこの機体が怖かったのか。

 

「そうか………あ、ロイド!データは十分にとったよな?」

 

「もう十分なほど〜」

 

「わかった、とりあえず、終息を喜ぶこととしよう…………それでヴァルトシュタイン卿、首領は?」

 

「今は護送車の中に押し込めてある」

 

「了解………ふぅ………あれ?」フラッ

 

「お兄ちゃん!!」

 

「アールストレイム卿!?」

 

力が入らない、消耗し過ぎたか、アーニャに抱き留められるのは新鮮だな。

 

「すまん、アーニャ、ちょっとふらついただけで問題は……」

 

「お兄ちゃんもう休もう?ベッドで寝たほうがいい、っていうか寝て、休んで、お願いだから」

 

「え?あ、はい……」

 

そんなに具合悪くないんだが………。

 

「アーニャさんはツキトを、こっちのほうです、ゆっくり連れてきてください」

 

「はい、お兄ちゃん、ベッドまで連れてくから、ちょっと我慢してね」ヒョイ

 

「え?」

 

なぜかベッドに連れてくだけなのにお姫様抱っこされた、肩に手を回してくれるだけでいいのに………。

 

「………アーニャさん、変わりませんか?」

 

「嫌です」

 

恥ずかしいから連れてくなら連れて行ってくれ、頼むから……….

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side

 

 

大事をとって病院へと運ばれたツキトは、医師免許を持つロイドによって精密検査を受けた。

 

ラウンズという貴重な存在ということもあり、存在の露見を避けるために隔離病棟へと通された。

 

ツキトはベッドで眠っており、ユーフェミアやクロヴィスなどの大物皇族からアーニャなどのラウンズ、親友であるスザク、ツキトの出撃によって偶然にも大怪我を免れた親衛隊隊員数名が病室に詰めかけていた。

 

ロイドの持ってきた診察書に息を飲む病室の面々。

 

「………………うん、健康状態に異常は無いね、たぶん新兵器を長時間使ったことで疲れたんだろうね」

 

「ということは?」

 

「ただの疲労だよ、しばらく寝てご飯でも食べてればけろっとしてると思うよ」

 

「よかった…………」

 

肩の力が抜け、ホッとした声が病室に満ちた。

 

「ツキト君は自分の基準で行動するから、人から見ると無茶してるように見えちゃうから心配するのはわかるけど」

 

「どうにかできないんですか?」

 

「精神的なものだし、本人は無茶してる自家なしだからねぇ、仕事してないと落ち着かないタイプなんだよねぇ、典型的な社畜だよね」

 

「社畜………」

 

「長く見てきたからわかるけど、仕事してる時とか考え事してる時、一緒に新兵器の評価をしてる時や戦闘中とかは本当に楽しそうに笑うんだよねぇ」

 

「そうだったんだ…………お兄ちゃんのこと、何も知らなかった」

 

「私もです………」

 

空気が重く沈む、とりわけクロヴィスとユーフェミアは幼馴染としての立場もあって、アーニャは妹として、スザクは親友として、より重く受け止めていた。

 

「ツキト君は自分の基準で行動する割にはキャパシティを把握してないんだよねぇ、大人っぽく振る舞う割に妙に子供っぽいというか、無理して背伸びしてるというか………まあ、ちょっと抜けてるとこあるんだよね」

 

「まあ、ツキトって天然なとこあるし、女装とかにもためらいがない………あっ」

 

「スザク、今のはどういうこと?」ゴゴゴゴゴ

 

「聞かせてくれますよね?」ゴゴゴゴゴ

 

「はい………」

 

後にこの部屋にいた一人は語った、スザクの失言を追求する2人の姿は、まさに恐怖の光景だったそうな。

 

「とりあえず点滴とかもろもろ入院代は僕が立て替えておくけど………これって保険とか保障とかおりるよね?セシル君」

 

「はい、『戦闘中の意識不明』という名目で入院代にお釣りが出るくらいはは降りるかと思います」

 

「あちゃー、まずいよそれ」

 

「「「「え?」」」」

 

「僕がうまくごまかしとくから、ツキト君にその話はしないでよ、ここにいる人全員約束だからねぇ!」

 

ロイドの慌てた様子に病室に来ていた者たちが不審に思った。

 

「ロイドさん、まさか着服しようなんて……」

 

「立て替えた分はもらうけど、残りは退院後にバーっと使っちゃってね!1ドルも残しちゃダメ!最悪アーニャ君が財布に入れといて!」

 

「なんでそんなに慌てるの?」

 

「ツキト君、お金嫌いなんだよねぇ、結構前の愚痴で『口座のお金が一向に減らない』、『給料が多い割に仕事が少ない』、『1000万ほど募金しようとしたら突き返された』、『金を預かってくれないか?5000万くらい』ってノイローゼ気味に言ってて、僕までノイローゼになっちゃいそうだったんだよ!」

 

「「「「えぇ………」」」」

 

呆れたため息が満ちる。

 

知ってる人も多いが、ツキトはかなりの倹約家で有名であり、金銭感覚が別方向に狂っているのだ。

 

事実、ツキトは一級料理人が最高級食材を使って作った高級料理を優雅に食べるより、タイムセールのスーパーに嬉々として突っ込んで野菜と惣菜を確保し、自分で料理して食べる方が好きな人間だ。

 

そこがブリタニアの庶民や日本人に愛される『庶民派貴族』の所以なのだが、その生活スタイルと散財が噛み合わないのが悩みだった。

 

ツキトも使うときはバーっと散財するが、その使うときというのがルルーシュかナナリーが絡んでないと使わないのだ。

 

位の高さと有能さが重用され、給金は上がるも散財はほとんどない、そのためツキトの口座の金額の桁は文字通り桁違いの貯金額となっていた。

 

もちろんツキトなりに努力はして来たつもりだ、口座の金を使っている咲世子に、買い物を頼むときに値段は気にせず良いもの買うようように頼んだりしたし、ルルーシュとナナリーへの栄養バランスを考えて値段無視で食材を買うように頼んだりした。

 

咲世子は優秀なメイドなので、言われたこと以上の成果を発揮し、いつもより多くの支出に成功、電化製品や調理器具なども購入し、ツキトの散財に大きく貢献した。

 

さらに運動部であるナナリーに消耗品である防具や新しい剣を本国から取り寄せて贈るなど、本人は貢がれているみたいで嫌がってはいたものの、ツキトからの贈り物というのもあってとても喜んで使ってくれた。

 

ルルーシュにも次期皇帝としてしっかりした服装をしてもらう、という建前で、ブランド物の服を何着か咲世子に買わせたりした、結果として私服の時のルルーシュのモテ度がとてつもないことになったが、結果としてルルーシュもファッションはアレだったため、喜ばれた。

 

なお、ルルーシュとナナリーの両名は後に贈られた数々の物の値段を友人から聞いて初めて知った時、ツキトの頭を心配したそうな。

 

とにかく、このように多くの対策を講じたが、見事に敗北、それも給金がまた少しアップしてるのを見て大敗北、せっかく賜った給金を返すのも無礼なのでさらに心労が募った。

 

「だから、お金の話は特にNGだよ!予算とかの話だったら大丈夫だけども、貯金の話とかポケットマネーとか聞いちゃダメだからね!」

 

「もしも聞いてしまった場合は、よい散財方法を教えてあげてください、散財方法について現実的かつ社会に役立つ方法のほうが良いでしょう、決して『自分で使う』ような散財方法はダメです」

 

「それ言ったらどうなるの?」

 

「そんな無駄遣いできるわけがない、と言ってキレます」

 

「お兄ちゃんらしいけど………自分で使って欲しい」

 

「ツキト君、仕事の欲が深い割に自分で欲しいものとかないから………散財も趣味を作ってもらうほかないんだよね………っと、話がずれちゃった、そんなわけで、2日は安静にしてもらうから、お見舞いに来たければいつでも良いよ、ツキト君は文句無いだろうしね」

 

その場の何人かがグッとガッツポーズをした。

 

「もちろん、ツキト君に手を出すのは御法度だよ、なにせ彼は、ガウェインの理論上の限界を軽々超える性能を引き出したスーパーパイロットなんだから」

 

「ガウェイン………あの黒く禍々しいKMFか」

 

「ええ、その通りですよクロヴィス様」

 

「ロイドさん、お兄ちゃんのKMFについて教えて」

 

アーニャがロイドにそう聞いた。

 

「いいよぉ、あーでも一応機密扱いだから、皇族の人はいいけど親衛隊の人は出てってね、あ、スザク君は特派所属でユーフェミア様の騎士だから居て良いよ」

 

言葉通りに親衛隊隊員が退出し、クロヴィス、ユーフェミア、アーニャ、スザクだけが残った。

 

「じゃあ説明するよぉ、まずは元となった『ガウェイン』について、セシル君スペックお願い〜」

 

「型式番号はIFX-V301、機体名『ガウェイン』、全高6.57m、全備重量14.57t、乗員は1名または2名、複雑な電子解析システムである『ドルイドシステム』と強力な『ハドロン砲』を実戦で使えるかどうかを試験する実験機です」

 

「第7世代までのKMFと、現在開発中のKMFをぜーんぶ引っくるめてもガウェインに火力では勝てないんだよね」

 

「僕のランスロットでも、ですか?」

 

「ランスロットは機動力に出力を振ってるんだけど、ガウェインは機動力に回す出力を攻撃面に振ったいわゆる指揮官型なんだ」

 

「ドルイドシステムによる高い索敵能力を駆使しての最前線での部隊指揮、ハドロン砲による遠距離砲撃能力の付与、フロートユニットによってそれを空中から行えるという大きな強みもあり、次世代の主力にも期待されました」

 

「ところが、ドルイドシステムの演算は非常に複雑かつ繊細で、パイロットを2名乗せることで負担を軽減させることを考えたんだけど、同条件のパイロット2名では演算を処理しきれなかったんだ」

 

「計算結果では、ドルイドシステムを完全に使いこなすには同条件のパイロットを4名以上でなければ安定すらしません」

 

「しかも、4人居てやっとドルイドシステムが安定するのに、操縦にもう1人必要になる計算なんだよね、ガウェインって」

 

「そんな………ではツキトはなぜ」

 

「ツキト君はガウェインにとってまさに救世主みたいなパイロットなんだよ、たった1人でドルイドシステムの演算を処理できて、完璧に操縦までこなせるパイロット、まさに逸材だよ、逸材って点ではスザク君と同じだね」

 

「ランスロットにはスザク君でなければ、ガウェインにはツキトさんでなければ機能しません、ランスロットの性能を限界まで引き出したのは他の誰でも無いスザク君たった1人で、ツキトさんはガウェインの理論上の性能限界値を超えてしまいました」

 

次々にでてくる単語にユーフェミアは『?』状態だったが、スザクを引き合いに出されるとどれくらい凄いのかすぐにわかった。

 

つまり、『なんかよくわかんないくらいすっごく強い』ということだ。

 

「ツキトさんから得た実戦データを元にロイドさんが新兵器を搭載、仮名称『ガウェイン・アンジェラ』となりました」

 

「新兵器というのは?」

 

アーニャの言葉に、ロイドは待ってましたと言わんばかりに笑みを深めた。




言いたいことはわかります。
でも言わせてください。
高性能の電子解析システムであるドルイドシステムとツキトの演算処理能力、インコムくらいいけるでしょ!
まあ、正直ファンネルは無理だと思いますけど。


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『新生』せよ、『ガウェイン』

ガンダム世界の兵器すごいよぉ!さすがすべてのロボットアニメのお兄さん!!
オリジナル機体の兵装に困ったらガンダム世界の兵器を持ち出してくる…………だってお手軽だもの。


no side

 

 

ロイドはニコニコ笑顔で新兵器、インコムについて話し始めた。

 

「新兵器インコム、フロートユニットとハーケンブースターの機能を搭載した、小型の機動ハドロン砲、とでも言うのかな?」

 

「ハドロン砲………?」

 

馴染みのない兵器の名前にアーニャが小首を傾げる。

 

「加粒子砲、ようするにビーム砲みたいなものだね、ガウェイン本体の肩に………セシル君、パソコン出して」

 

「今出しますから待っててくださいね……」

 

なんやかんや言いつつロイドとセシルの連携の安定感に少し冷静さを取り戻すユーフェミアだった。

 

「でました」

 

「ここ、この部分にあるのがハドロン砲、これを小型化したものがインコムに搭載されているものだよ」

 

ガウェインの両肩のハドロン砲を指してわかりやすい説明を行うロイド、これには納得したのかしてないのか、ユーフェミアもうなづいてみせた。

 

「このインコムは背中にバッテン印状につけてあって、パイロットの精神感応波っていう特殊な電波みたいなものに反応して本体から射出、本体とはワイヤー数本で繋がってるから迷子にはならないよ、そして、このインコム最大の特徴は、パイロットの思うように動かせることにあるんだよぉ〜」

 

「思うように、このハドロン砲を、動かせる?」

 

「そう!肩についたハドロン砲より威力はちょっと下がるし、小型化の影響で遠距離を狙える収束率を維持できなかったけど、それでも威力はハドロン砲そのもの!大火力の加粒子砲を4門もあるんだ、それを活かしたオールレンジ攻撃は、ユーフェミア様とアーニャ君は見たよね?」

 

「はい、あれは………なんというか、圧倒されるような感じがして」

 

「正直言って、あの時のお兄ちゃんは怖かった」

 

ユーフェミアとアーニャは服と背中の間に氷を入れられた時のような、ゾッとした、そしてどこまでも君の悪い感覚を思い出していた。

 

「2人とも心理的、視覚的、そして実戦での効果は十分に味わってもらっているみたいだね、自分で作っといてなんだけど、僕もそう思ったんだ、僕はなんて危険なものを作り出してしまったんだ………ってね」

 

「そうですロイドさん、あんな兵器は危険です!すぐに解体しないといけません!」

 

「ユーフェミア様がそういうのもわかります、しかしこの兵器はパイロット次第で全く無意味になるんですよ」

 

「無意味になる?」

 

「実は、ツキト君が乗る前に何回もテストしているんですよ、僕とセシル君、スザク君にもインコムを使ってみてもらったんです」

 

「それで、どうだったんですか?」

 

「どれだけ頑張っても、4つのうちの1機を射出させて姿勢制御をさせるだけで精一杯で、搭載されたハドロン砲を撃つなんてことできませんでしたよ」

 

「え!?そんな、じゃあツキトは!?」

 

「彼が初めてなんですよ、ガウェイン・アンジェラの性能を限界まで引き出したのは、普通のパイロットでは精神感応波で姿勢制御を行いながら任意のタイミングで射撃するのは至難の技です………それを彼は初乗りでやってのけた、それも4機同時の全力稼働状態で!全部の武装をそれぞれ違う目標に向けて正確に当ててみせた!」

 

ロイドはとても興奮した様子でパソコンを打ち始め、あるデータをユーフェミアたちに見せてきた。

 

「左が、最低限インコムを1機射出することができる精神感応波の強さ、右がブリタニア軍の全兵士のデータです、数千万というブリタニア

のなかで、インコム1機すら動かせるのはたったの9,000人弱しかいないんです!」

 

「少ない……え、射出?動かすんじゃなくてですか?」

 

「そうです、射出です、射出する工程にも精神感応波による制御が行われますので、次に、最低限インコムを1機動かせる人数ですが…………200人ほどです」

 

「に、200人………」

 

「すっ飛ばしますけど、4つのインコムを同時に操作できて、機体の操縦も行えるのは……2人です」

 

「1人はお兄ちゃん、もう1人は?」

 

「かつてビスマルク・ヴァルトシュタイン卿とともに戦った、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア様です」

 

「マリアンヌ様が、この機体を、動かせる!?」

 

瞬間、全員が想像した、あの鬼神が如くマリアンヌがこのガウェイン・アンジェラに乗ったとしたら………。

 

「「「「(宮廷が無傷でよかった)」」」」

 

反乱軍もろとも宮廷が消滅していただろうことは想像に容易かった。

 

「性能を限界まで引きだせるのはツキトさんとマリアンヌ様だけですが、マリアンヌ様は今の盲目の現状では厳しいものがあります、そもそも軍属ではありませんので、ツキトさんだけしか操縦できない本当の意味での専用KMFとなります」

 

「ただ、性能を限界まで引き出したとしても、まだまだ欠点も多い機体なんだよねぇ、アーニャ君ならわかると思うけど」

 

「………ハドロン砲のエネルギー消費が多そう、あと格闘武器がないから接近されると危ない」

 

「そ、ハドロン砲はあの威力を出すためにエネルギーをすごい喰っちゃうんだよねぇ、それが本体の分も含めて6つ、本体とインコムそれぞれを支えるフロートユニットのエネルギーもバカにならないんだよ」

 

「全力稼働時の消費エネルギーは、サザーランド5機分のエネルギー換算になります」

 

「大飯食らいだな……」

 

「格闘武器が一切ない、ってわけじゃないんだけど、見ての通り大きいから接近されると厳しいんだぁ〜、そもそもが通信能力・砲撃戦能力特化の機体を、さらに強化しただけで格闘戦は捨ててるみたいなもんだしね」

 

「唯一の格闘武器は左右腕部のクローと、そのクローの一本一本を射出するスラッシュフィスト、5本ずつの合計10本を同時に射出できます、威力はスラッシュハーケンと同等です」

 

パソコンに映し出されるガウェインの腕部、鉤爪のように不気味な金色のクローが恐ろしい。

 

「そんな使い勝手の悪さが目立つガウェインなんだけど、僕はもちろん、ツキト君も気に入ってるんだ」

 

「お兄ちゃんが?」

 

アーニャは不思議に思った、使い易さ重視のツキトがこんな機体を気にいるなんて思えないからだ。

 

「『悪魔の自分にはお似合いだ』なーんて言ってたよ」

 

「お兄ちゃんが、悪魔?」

 

「『ブリタニアの悪魔』、それが日本エリアで戦ってたツキト君についたあだ名だよ、ツキト君って案外皮肉とか好きだしねぇ、いっそ悪魔らしくいこうとか思ってたんじゃないかな?」

 

アーニャはもちろん、病室の全員の耳にロイドの言葉が反響していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

「燃費はまだ良いんだ、問題は推力だ、本体の速度が遅すぎてあれでは追撃に移れない、今回は固定砲台として戦える戦場だったから良かったが、機動力が低く装甲もそこまで信用できない機体で固定砲台戦法は危険なんだ」

 

「インコムの問題でどうにもならないんだってば!最初は腰に付ける予定だったけどシミュレーションでワイヤーが絡まるからボツ、脚部はランドスピナーに干渉するからボツ、いっそ腕そのものをインコムにしようとも思ったけど、それだと2機しか使えないから手数が足りないからボツ…………スペースに余裕がある背中しか搭載できなかったの!!」

 

「だったらインコム収納時にインコムのフロートユニットも使えるようにして推力を稼げるようにでもしたらどうだ!!」

 

「その手があったか!!!」

 

病院で目が覚めた私は、今日が何日だとか確認するより早く、ベッドの隣でパソコンを打っていたロイドにガウェインについての評価、というより文句をぶちまけた。

 

ロマン溢れる素晴らしい機体なのに機動力の低さがどうにも納得いかん、別にランスロットほど高くして格闘戦能力を上げて欲しいわけではない、あんな低機動力では敵に突っ込まれた時に回避できない。

 

すこぶる悪い燃費は気にならない、図体がでかくて被弾面積が大きいもまあいい、だが機動力が低くて攻めに向かないというのが我慢ならん。

 

防衛戦ならば十分な性能だ、多数のハドロン砲による面制圧能力の高さ、少数の敵ならオールレンジ攻撃で一気に屠れる。

 

万に1つ敵が盗んだとしても、ドルイドシステムの補助なしのガウェインでは、ハドロン砲の収束率を安定させづらいせいで満足な砲撃能力を持たない上、ロイド曰く私かマリアンヌ以外はインコムをまともに動かすことすらできないそうじゃないか。

 

事実上の私専用KMFとは、本当に良いものだな。

 

「うーん、インコムの取り付けてるとこ、射出装置の部分に角度をつけさせて、インコムの砲口部分を後ろに向けた状態でフロートユニットを連動させれば、直進に限って10〜15%程度の推力を確保できる計算だよ、できれば細かいオーダーがあればそれでやるけど?」

 

「じゃあ言うぞ、メモの準備いいか?」

 

「天才にメモはいりませ〜ん」

 

「私がとります」カチカチ

 

いつも通りロイドはメモをとらずセシルがとるようだ。

 

「まずは機動力の強化、これに関してはさっきロイドが提示した方法で頼む」

 

「インコムを後方に向けての推力増加方式………」

 

「装甲防御力に関してはそもそも被弾するつもりが無いから保険にってくらいあればいい程度だ、だが見た目がヒョロイくて弱く見えるからもっと線を太く威圧的に見えるようにしてくれ、特に脚部は頑丈に頼む、多少の無理が通せるくらい」

 

「心理的効果は大事だよねぇ〜」

 

「線を太く威圧的にする、特に脚部を頑丈に………」

 

「火力は十分なんだが、インコムのハドロン砲の収束率を弄れるようにしてくれ」

 

「インコムの収束率の任意変更機能……」

 

「え〜?そんなことしたら威力下がっちゃうよ?」

 

ロイドが不満げにいう。

 

「今のインコムの威力は少し過剰だ、収束率を少し落とすだけでも多少なり燃費は良くなる、頻繁に機体に戻してチャージするのは隙を作ることになるからな」

 

「あ〜、そういう考えもあるわけねぇ」

 

納得してもらったところでセシルの方を向く。

 

「あとは…………いっそ両肩のハドロン砲を外して、胸の部分に1つだけつけるっていうのはどうだ?」

 

「ちょっと改造では難しいかなぁ、でもそのアイデアいただき、後継機の参考にさせてもらうね〜!」

 

「さすがにそこまで大々的な改造ともなると、新規設計が必要ですね」

 

無理か、両肩につけるよりも胸か腹に一個だけつけたほうが出力を上げやすいと思ったんだがな。

 

「そうか、まあこれくらいか」

 

「はい、あっ、線を太く威圧的にとありますが、デザインの方は?」

 

「うーむ…………仕方ない、クロヴィス様に頭を下げよう」

 

「く、クロヴィス様にですか!?」

 

「あぁ、何か問題でもあるか?」

 

やけに慌てるなセシル、一体どうしs

 

「話は聞かせてもらった!」

 

シュタァンッ!と病室のドアを開けて入ってきた金髪の男、まぎれもないクロヴィスであった。

 

「おはようございますクロヴィス様、このような姿でのご挨拶をお許しください」

 

「おはようツキト、そんなに畏まらないでくれ」

 

「ありがとうございます」

 

「それで、ツキトのKMFのデザインがどうとか聞こえたんだけど、僕にやらせてもらえないか!?」

 

「よろしいのですか?」

 

「もちろんだよ!ツキトの活躍に華を添えられるのはとても嬉しいことだからね」

 

なんだこの好青年!?聖人プログラムインプットしたのか!?

 

………でもC.C.の実験を嫌々ながら一応だがやってたんだと思うと微妙な感じあるな。

 

「クロヴィス様にやっていただけるなら、帝国へのさらなる貢献となり、技術者たちもやる気が出るでしょう」

 

「僕はツキトの役にさえ立てればそれでいいんだけどね、それで、どうすればいいかな?」

 

「ロイド、ガウェインの全体図を」

 

「はいはーい」

 

パソコンでガウェインの全体図を映し出すロイド、そのを指しながら説明を始める。

 

「まずスリム過ぎて弱そうにしか見えないので全体的にマッシブ、重量感があるようにしてください、デザインはより禍々しく見えるようにお願いします」

 

「1週間もあれば仕上げてみせるよ」

 

「ありがとうございますクロヴィス様」

 

「今から取り掛かるね!じゃあお大事に!」

 

クロヴィスはそう言うと病室から出て行った。

 

「…………というわけで、デザイン案が決まるまで改良を頼む」

 

「は〜い」

 

「納得のいくものを作りますからね」

 

「頼んだぞ2人とも、ふぅ…………疲れたので寝る」

 

「はい…………あっ、18:30にアラームが鳴りますから、鳴ったら起きてくださいね」

 

「何かあるのか?」

 

「アーニャさんがツキトさんに手作りご飯を作って持ってくるそうです」

 

「それは楽しみだ、教えてくれてありがとう」

 

「いえ、では、おやすみなさい」

 

ロイドとセシルも病室を出て行き、静寂に包まれる。

 

枕に頭をのせて、気疲れからくる睡魔に身を投げ出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピpカチッ

 

もう18:30なのか?ん…………ぐっすり眠れた。

 

コンコン

 

「ん、どうぞ」

 

「おはようお兄ちゃん、体は大丈夫?」

 

アーニャが料理ののったワゴンを押して入ってきた、寝ていてのは知られているようだ。

 

「すっかり元気だよ、足の方はまだ全開とは言い難いけどな」

 

「そっか、よかった………ご飯を持ってきたんだけど、食べれる?」

 

「腹が減ってしょうがないよ」

 

「じゃあ、食べさせてあげるね」

 

「え?いや、手は動くから自分で………」

 

「お願い、役に立ちたいの………」

 

いきなりシュンとしたアーニャにちょっと驚く、ここはアーニャのやりたいようにやらせたほうがいいか、役得だしな。

 

「ん、じゃあ頼む」

 

「うん!」

 

アーニャは元気そうに頷いてスプーンをとった。

 

「まずは、お兄ちゃんが日本の総督府の食堂でよく食べてたって聞いた、コロッケから」

 

一口大に切られてスプーンにのっけられたコロッケはしっかりキツネ色でサクサクしてそうだ、断面はジャガイモとひき肉、黒っぽい粒は胡椒だろうか?それらがよく混ぜ込まれて作られている、とても美味しそうだ。

 

「お、お兄ちゃん、あーん////」

 

「あーん………あむ」

 

私よりも恥ずかしがるならやらんでもいいのに………頑固だなぁ。

 

「もぐもぐ……………うん、美味しいぞ、アーニャ」

 

「そ、そう?じゃ、じゃあ、もう一口………あーん////」

 

「あーん…………ん?」

 

何やら視線が……………。

 

「あっ」

 

「「あっ」」

 

記者…………なのかあれは?窓にしがみついているが………

 

「脱出!!!」

 

え?おいおい大丈夫なのか?ここ一応5階って聞いたぞ…………不法侵入者だよなあれ?ってことはだ。

 

「アーニャ、隔離病棟周辺をただちに封鎖だ」

 

「もう終わる、相手は袋の鼠」

 

「さすがだアーニャ」

 

これで捕まるだろう、ま、バカなやつだったな。

 

「アーニャ、まだ食べ足りないんだ、いいかな?」

 

「うん、あ、あーん////」

 

「あーん」

 

こんな風にアーニャに頼りきった生活も悪くないな。

 

コロッケを完食し、コーンスープもコロッケ同様に食べさせてもらった、インスタントではなく自家製のコーンスープなのだという、どうりで美味しいわけだ。

 

「ありがとうアーニャ、とても美味しかったよ」

 

「作った甲斐があった、お代わりいる?」

 

「いや、食べたら眠くなってしまった、もう寝るよ」

 

シャワーくらい浴びてからが良かったが、もう眠すぎてダメだ。

 

「わかった…………眠るまで頭撫でてもいい?」

 

「ん?あぁ、いいぞ、別に……」

 

マズ、もう、眠くて辛い………………。

 

「おやすみ、お兄ちゃん」なでなで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ました日から数えて3日、入院してから4日後に退院した。

 

本来は2日で退院する予定だったが、予定にはないアーニャの手作り料理を食べ、病院食を食べなかったため、栄養バランス等を考えての処置だそうだ。

 

延びた入院期間もアーニャがいてくれたので退屈では無く、デザインを頼んだ次の日に100%、いや200%といっても過言ではない完成度のデザイン画を持ってきたクロヴィスに仰天した。

 

試しにそれでシミュレーションしてみたら機動性が悪化するというロイドの話は聞いて頭が痛くなったが、せっかく徹夜して想像以上のものを作ってくれたクロヴィスの面子もあるのでそれを参考に改造することにした。

 

後に訪れたクロヴィスに聞いたところ、筆を持つとアイデアが沸くどころか噴出する勢いで出てくるらしい、案外漫画家に向いてそうだなと思った。

 

先ほど言った200%の仕上がりのデザインというのが、私の注文通りに全体を太く威圧的に見えるようにするにはどうしてもサイズが足りないらしく、なんと全長から全部書き直してくれたようで、元のガウェインよりも1.6mも全高が伸びてしまったそうだ。

 

スリムなモデル体型もなくなり、まるでガン◯ムのMAのような風貌に、デカくなっただけ重量アップ、容積が大きくなったため、燃料であるエナジーフィラーがより多く積めるようになり航続距離と戦闘継続時間の延長ができた。

 

もちろん良いことだけではない、重量アップによる弊害で推力が少し不足気味になり、ロイドの示したインコムのフロートユニットを連結して後方への噴射による前方推理の向上分の10%〜15%は、丸々なくなってしまい、どう手を尽くしても推力は-10%程度になってしまうようだ。

 

フロートユニットの出力を弄って推力を高める方法もあるが、燃費が悪化するためそれは見送った。

 

武装面に関しては、インコムのハドロン砲の砲口付近に3本の爪を取り付け、敵機に潜り込まれた際にハーケンブースターの緊急出力で爪部分を敵機に刺し込み、動きを封じるのに使うものらしい、また爪部分は開閉が可能で、敵機を拘束したりもできるようにするとか…………ロイドのやつ完全にロマンに走ってるな。

 

あと、サイズが大きくなったためインコムの冷却装置とエネルギー充填装置を大型化して、再度射出までの時間を短縮するそうだ、これに関しては嬉しい。

 

冷却装置の大型化と改善で燃費が微向上するのもジミーに嬉しい、数%の差が後に大きな溝になることもある、小さな認識の違いで全く違う商品を大量に発注してしまい、多大な損害を被るようにな。

 

総合的に見れば、よりデカく鈍重になり被弾面積も大きくなったが、武装面に強力な強化が施され燃費も微向上で使い易くなった、というところか。

 

名前をつけるなら、【ガウェイン・アンジェラⅡ(ドゥーエ)】だな。




ちょっとツキト君パパラッチに対して迂闊過ぎんよぉ〜。

1/8、誤字修正しました!


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『暗躍』せよ、『忠義』の人

ツキト兄貴の受難的な。


ツキトside

 

 

私としては珍しくブリタニア軍の軍服を身につけ、昼の空港に来ていた。

 

「世話になったな、アーニャ」

 

「ううん、お兄ちゃんは頑張ってるんだから、もっと頼っていいんだよ?」

 

「それは嬉しいが、ダメ人間になってしまうから少し難しいな」

 

結局スザクとは話すことがほとんどできないうちにユフィと先に日本エリアに帰ってしまった。

 

すぐに帰る必要もあって今回はブリタニア軍のジェット機を使わせてもらうことにした。

 

これならばものの数時間でつけるだろう。

 

…………飛べれば、の話になるが。

 

「……………なあ、そろそろ離してくれてもいいんじゃないか?」

 

「もうちょっと、あと5分」

 

いつの日だったか、同じようなことをより積極的にされている。

 

正面から抱きつかれちゃ振りほどけもしない。

 

「その延長8回目だぞ?がめつい私は金銭を要求するぞ?」

 

「私の全財産あげるから、養って」

 

「断りにくいお願いをしてくるものだな………今回の日本エリアへの帰還は一時的なもので、数日すれば戻ってくると言っているじゃないか」

 

軍の空港でアーニャに抱きつかれ、かれこれ40分ほどこの状態だ、役得だがそろそろ行きたい。

 

世界の因果力によって引き起こされるはずだった『ユーフェミアの死』を回避するために活躍してしまった私は、1週間後の反乱軍の公開処刑の後に勲章が授与されることになった、なってしまった。

 

それにつき枢機卿への就任が無期限延期、3月からの枢機卿生活がパァだ。

 

まったく、勲章なんて今更いらんというのに。

 

「すぐに帰ってくる、前は3ヶ月、今回は5日だぞ?すぐに会えるさ」

 

「本当?」

 

「あぁ、本当だ」

 

「………わかった、気を付けてね」

 

ふぅ、今回は期間が短いからかすぐに終わったな。

 

周りの兵の目も痛い、さっさと乗り込もう。

 

「また会おう、アーニャ!」

 

「気を付けてね、お兄ちゃん!」

 

荷物を詰め込んだバッグを背負い、ジェット機へ飛び乗った。

 

「アールストレイム卿にぃ〜………敬礼!!」

 

「「「「………」」」」ザッ

 

兵士の敬礼に見送られ、ジェット機は飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いった…………生身でジェット機はマズかったか、ヘルメットすらないとか死ぬかと思ったぞ。

 

なにが『低空を高速巡航しますが、大気圧は地上とほとんど差異はないのでパイロットスーツはいらないですね』だ。

 

『え?』なんて声が普通に出たわ、驚くを通り越して何か別の感情がでかかったぞ。

 

確かにテンペスタのほうでもパイロットスーツを着ずに生身で乗り込んでGに対応したりしたが、あれは自分で操縦していたからであってだな………。

 

もういい、これ以上は不毛だ、さっさとクラブハウスに帰ってナナリーとルルーシュと咲世子に無事を報告して、後はゆっくり休暇として過ごし…………。

 

「ツキトさん!!!」

 

「ぐぇっ!?」

 

な、なぜ、ナナリーが空港に!?

 

「怪我はないですか!?痛いところとかはないですか!?」

 

お前のタックルでもハグが今日一番痛えよ(素)。

 

「だ、大丈夫だ、大丈夫だから、ちょっと退いて………」

 

「ツキト、お前大丈………夫、みたいだな」

 

「あぁルルーシュ、久しぶりだな」

 

「呑気で安心したよ、ナナリーもほら、ツキトが困ってるぞ…………空港の真ん中で押し倒したら周りの目が……」

 

「そ、そうだ、早く退いてくれナナリー、このままだとあらぬ噂が………」

 

「(ねえねえ、あれってアールストレイム卿じゃない?)」ヒソヒソ

「(うわっほんとだ、女の子を侍らせてるのはマジっぽいわね)」ヒソヒソ

「(妹のアーニャ様も可哀想よね、あんな優男に引っかかるなんて………)」ヒソヒソ

「(アーニャ様ってきっとダメ男に尽くしちゃうタイプだから、ダメ男筆頭のアールストレイム卿とか介護のしがいがあるんじゃないの?)」ヒソヒソ

 

介護……………病院生活での待遇を考えると間違いとは言えない。

 

「おい見ろ!アールストレイム卿だ!」

「またすげえレベルの高え美少女を侍らせてやがる!」

「コーネリア様はともかく、ユーフェミア様だけじゃ飽きたらず、妹のアーニャ様やあんな美少女までも…………許せん!」

「おい待て貴様、コーネリア様をともかく扱いだと!?」

「あんな年増要らnぐふぉっ!?」

「泣け!泣いて許しを乞え!このクズ!」ゲシッゲシッ

「あびゃああああ!」

「コーネリア様!万歳!!」バキィッ!

 

大した忠誠だと褒めてやりたいところだが………仕事に戻れバカギルフォードォォォオオオ!!

 

「なんかよくわからんうちに空港内がカオスだ!さっさとクラブハウスに戻ろう!」

 

「そうだな、だから早く退いてくれナナリー」

 

「もうちょっとだけぇ………」

 

新年早々にめんどくさいことになってしまったなぁ……明日の一面は私だろうなぁ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事にアッシュフォード学園前まで着けた、着けたんだが…………。

 

「校門前がすごいことになってますね………」

 

「はい……はい、ありがとうございました…………ミレイ様に伺いましたが、裏門も通れる状態ではないそうです」

 

「空港から学園までたったの2時間程度だぞ?動きが早すぎる……」

 

アッシュフォード学園前のバス停から隠れて様子を伺う、校門前にはたくさんの人だかりができている、報道関係者を中心に野次馬もいるようだ。

 

「女性関係で問題しかないようなラウンズが、問題になってるエリアでさっそく女の子に飛びつかれたなんて噂、私じゃなくても聞きたいと思いますからね………」

 

もうモテなくていいよホント………。

 

「ごめんなさいツキトさん…………」

 

「ナナリー様が謝ることはありません、とにかく、手っ取り早くどうにかしましょう」

 

「私が囮に………」

 

「咲世子、冗談でも滅多なことを言うんじゃない、お前がナナリー様のお側にいなくてどうする」

 

「………はい、申し訳ありません」

 

しかし、どうしたものか、私が囮になってもいいんだが、それではナナリーとルルーシュが怒るだろうし………。

 

「………ルルーシュ様とナナリー様は、このあと用事などはございますか?」

 

「ナナリーはないですよ」

 

「俺もないぞ」

 

「なら、せっかくですので4人で出かけてみませんか?」

 

どうせ休みなんだ、帰るよりもどこかで私服に着替えて出かける方がいいだろう。

 

たまにはルルーシュと咲世子の息抜きもせんとならんしな。

 

「名案だな、だがツキト、どこで着替えるつもりなんだ?」

 

「近くのコンビニのトイレで十分です、10分ほどいただければすぐ………」

 

「いや、すぐに嗅ぎ付けてマスコミがやってくるぞ」

 

む、そうか…………。

 

「(騎士団のアジトなら大丈夫だと思うが、どうだツキト?)」

 

「(騎士団のアジト!?正気ですか!?無理ですよそんなこと!)」

 

ナナリーに聞こえないように耳打ちしてきたと思ったら、この野郎……!

 

「となると、車内で着替えるしかないぞ?」ニヤニヤ

 

「カーテンもありますので、外から見られることはないかと」ニヤニヤ

 

こ、こいつら、これも計算のうちか!!

 

まんまといっぱい食わされたっ!私ともあろう者が、油断したか!

 

「さあツキトさん、ヌギヌギ、しみょう?」

 

「ひっ!?ナナリー様!?そこは触っちゃ………」

 

「ナナリー、着替えさせるだけだからな?」

 

「はい、わかってますよ………………わかってますよ」

 

目が!目が獣のソレじゃないか!!た、助けてくれええええええええええ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

noside

 

 

「美味しいですね、ツキトさん」

 

「あぁ、そうだな……」

 

結局あのあと、ツキトは着替えさせられたあとルルーシュと咲世子は別行動を取り、ナナリーとの2人っきりのデートになった。

 

ファミレスでステーキを黙々と食べるツキトと、話しかけ続けるナナリーの関係は、傍目から見れば冷え切った恋人同士に見えた。

 

「…………お、怒ってます?」

 

「何のことやら…………はっ」

 

侮蔑混じりの嘲笑はナナリーの心を削っていく、いつの間にか外からストーキングしていたカレンもいたたまれない気持ちになってきていた。

 

事の発端はナナリーがツキトを強制的に着替えさせたことにあった、ナナリーのセンスによって着飾られたツキトは、まさに絶世の美男子とも言うべきか、元の素材もあったのだろうが、それほどまでに昇華されていた。

 

これが、いけなかった。

 

ツキトはプライベートでは目立つことを嫌う、というのも、プライベート中に目立って身分が割れれば、自分の周囲の親しい人物に危害が及ぶ可能性が高いからだ。

 

身分が割れる可能性を少しでも多く排除するために、仕事中や式典などに行くときは特別豪華な礼装を纏い、巨大な金ピカリボルバーと長いレイピア、又はサーベルを付けるのだ。

 

仕事の時とプライベートの時のギャップの大きさで誤魔化そうとしてきたが、それを今日、ナナリーによって見事に打ち壊される………寸前までいったのだ。

 

ツキトは自分の我が強いことを自覚している、何かしらの計画を邪魔されると短気ゆえに怒りやすい。

 

しかし今回のツキトは怒りを溜め込む、ぶつけるべき相手がいないからだ。

 

いかに激怒しようと、根にある優秀な奴隷根性がナナリーに怒りをぶちまけることを回避させるのだ。

 

結果、ツキトはやり場の無い怒りを心の中に募らせていた、誰にでもわかる形で表にも出ていた。

 

一方、自分の(性)欲に従った行いで自業自得の結果を招いてしまったナナリーは、この瞬間に別れ話が切り出されたらどうしよう、と考えていた。

 

比喩表現も何も無しに言うと、ナナリーはツキトと別れると自殺する。

 

婚約から数ヶ月という時間で、お互いの存在が誰よりも何よりもなくてはならない存在になってしまったので、今更別れ話などツキトがきりだせるわけもないのだが。

 

結局、ほとんど会話もないまま時間だけが過ぎた。

 

並んで歩く帰り道、通り過ぎれば誰もが振り向く美男美女の2人組、しかしその間の空気は最悪、デートには見えない、妹の買い物に嫌々付き合わされる兄のように見えた。

 

租界の端を練り歩く、そんな時、ふとナナリーの視線がゲットーの方に向いた、そこに瓦礫はなく、家やアパートが立ち並ぶ街と言っても遜色無い光景が広がっていた。

 

「ツキトさん、あれは何ですか?」

 

「ん?………あぁ、あれはな………」

 

何気ない疑問を質問に変えてツキトに聞いたナナリー、これをきっかけとしてナナリーがどんどん質問していく。

 

あれはなんの建物なのか?なんのために必要なのか?なぜあんなに沢山あるのか?どんな役割があるのだろうか?

 

それに対しツキトが答える。

 

あれはゲームセンターだ、あっちは小さいがショッピングモールで、アパートが沢山あるのは人が沢山いるからで沢山作ると安くなるから、向こうのは役所と銀行の2つの役割がある。

 

それを繰り返していくうちにツキトの態度が軟化、そしてついに。

 

「ナナリー、今日はすまなかった」

 

ツキトがナナリーを許し、謝った。

 

「え?」

 

「楽しく過ごせたはずの休日を、ダメにしてしまった」

 

「そんなことありません!私はとても楽しかったです!」

 

「………そう、だったか?」

 

「はい、ゲットーのことについて質問した時のツキトさんはとても優しい顔をしていました、それに、私の平和にして欲しいって願い事をツキトさんが叶えてくれているって実感して、嬉しかったんです」

 

「……………」

 

ツキトは目を逸らした、自分のやりたいようにやってきただけのことを、自分のことのように嬉しいとナナリーが言ったのだ、100歳超えで非童貞のくせして初心なツキトには会心の一撃だった。

 

悠久苦節、が特別あったわけでもないが、ツキトとナナリーの関係は修復した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

noside

 

 

総督府のとある一室、その内部で男が2人。

 

「おはようございます、いえ、お久しぶり、と言った方が正しいでしょうか」

 

「君は!!………まさか、いや、私はいったいなぜ………」

 

男に話しかけられ混乱した様子のもう1人の男。

 

ここは事情あって人工の明かりを通していない月明かりのみが照らす総督府内の隔離病棟。

 

「あなたはナリタでの戦闘で赤いKMFによって吹き飛ばされ、偶然にも非合法の人体実験の実験台にされた」

 

「私が!?なぜ私が?」

 

「すでにお気づきでありましょうが、あなたの右目の違和感、それが実験台である証明です」

 

男は右目に触れる、ゴツゴツとした金属のようなものに触れるだけで、右目の感触はない。

 

それどころか、今までわからなかった右目の視界がないことに気がついた。

 

「!!」

 

「ギアス能力者の能力を打ち消す力、研究員達はこれを『ギアスキャンセラー』と名付け、最も適合率の高かったあなたに搭載させた」

 

「ギアス、能力者?………一体何を……」

 

「神聖ブリタニア帝国には、代々枢機卿が就任していることは、ご存知でしょうか?」

 

「あ、あぁ、次世代の皇帝陛下がつかれるときに、次の代の枢機卿が………」

 

「その枢機卿が、実は1人しか存在しなくて、実は不老長寿の存在であったとしたなら?」

 

「それは…………代替わりの必要がなくなる…………いやそもそも襲名制ならば………しかし仮の話だろう?」

 

「えぇ、仮の話ですが、枢機卿はその不老長寿の力を持ってそて魔術を極め、それを人に継承させることでギアス能力者を増やした、しかし技能力者は不安定で兵器として信頼性に欠ける、そこで考案されたのが、ギアス能力者のギアスという魔術を無効化する『ギアスキャンセラー』を作った………………なんて、そんなお話があったら信じますか?ゴッドバルト卿」

 

「…………にわかには信じ難いが、ツキト君が言うには本当のことなのだろう?」

 

背の低い男………ツキトのお伽話のような話にどこか納得したような顔でそう聞き返してくるジェレミア。

 

「えぇ、ゴッドバルト卿の言うように、にわかには信じ難い話です、しかし現実に、その摩訶不思議な魔法のような力によって、陛下の目の届かぬ場所で非合法な実験や虐殺が行われていたのです」

 

「なんということだ…………技というのはどのような力なんだ?」

 

「ギアスというのは枢機卿が持つ魔術、コードより継承される力の総称で、その性質は様々です、確認できたものだけでも、『直視した相手の記憶を改竄するギアス』、『直視した相手に命令を下せるギアス』、『周囲の生物の体感時間を止めるギアス』など、非常に危険な能力です」

 

「記憶の改竄に命令を実行させる能力、さらに生物の動きまで止めてしまうのか」

 

「しかも、動きだけでなく、意識も停止します、つまるところ…………近づかれた時点で死が確定します」

 

「なんて能力だ………」

 

「ゴッドバルト卿の右目は、ギアスによる力を消し去る能力を持ちます…………病み上がりのゴッドバルト卿には酷ですが、やっていただきたいことがございます」

 

「ツキト君の頼みか、よし、聞かせてくれたまえ」

 

「ギアス能力者の情報を掴みました、名前はマオ、中華連邦から空港を通じてここ日本エリア…………旧エリア11に来ることがわかっています、ゴッドバルト卿にはこの者の始末をお願いしたいのです」

 

「始末、か…………能力は?」

 

「『半径数百メートル先までの人の思考を読むことができるギアス』を持っています、が、ギアスキャンセラーを持っているゴッドバルト卿には無意味です」

 

「この不細工な装飾が役に立ってくれるのか………」

 

「マオはその能力以外に何もありません、つまるところ一般的な成人男性と何ら変わりない身体能力です、容姿は逆立った髪にサングラス、ヘッドホンを着けています」

 

「ふむ………」

 

「近日中に来るでしょう、空港で捕まえることは難しいので一度泳がせてから始末をお願いしますが………タイミングはゴッドバルト卿におまかせします」

 

「わかった、引き受けよう」

 

「ありがとうございます、リハビリ等な器具は用意しました、専属のトレーナーも呼んでありますので、トレーニングなど、ご自由にお使いください」

 

「感謝する…………ところでツキト君、私の扱いは戦死なのだろうか?」

 

「…………………いえ、ですがご安心を、『死地からの帰還』、『単独での長期戦闘行動』などで階級は特進されています、現在のゴッドバルト卿は…………准将、です」

 

「…………頭が痛くなってきたぞ」

 

「軍の規定通りにしてしまった結果といいますか、ブリタニア軍の戦果取り合戦の悪い側面が出たといいますか………」

 

2人揃ってブリタニアの現状に頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

原作とは違い、大幅に遅れてはいるものの、猟犬部隊の活動の甲斐あって何十人というブリタニア貴族中心のリフレイン売買関係者を拘束できた。

 

年明けで気が緩んだところに密かに潜入していた猟犬部隊の隊員がが一気に制圧・捕縛した、と報告書にある。

 

リフレイン売買関係者には、日本解放戦線の首領である片瀬少将も載っていた、こいつを辿れば大量のサクラダイトを手中に収められる。

 

その後は出どころであるキョウト六家、とりわけ当主である皇神楽耶への接近は必要になってくるか。

 

騎士団側はすでに接触していて、原作通りゼロに執心しているみたいだが、反帝国活動支援団体の当主であるゆえか、それとも教育か、未だコーネリア・ユーフェミア両名による日本人優遇制作には懐疑的なようだ。

 

キョウトには反帝国勢力でなくなった騎士団に落胆する者も多いと聞く、サクラダイトの産出を任せている立場としては、反感を持つ者たちの処分を考えねばならないわけだが。

 

果たしてどうなるものか………。

 

「ツキト?どうかしたのか?」

 

「あぁいえ、何でもございません………少し考え事をしていただけです」

 

あぁ、コーネリアとの作業中だったんだ、長考していれば心配もされるか。

 

「そうか?何か悩み事があるなら、私を頼ってくれていいんだぞ?」

 

「いえ…………では、少しお時間いただいてもよろしいでしょうか?」

 

たまには他人の意見も聞きたいし、話してもいいかもしれん。

 

「何でもいいぞ!」

 

「では………先日、私の猟犬部隊がリフレイン売買関係者の一斉捕縛に成功し、現在取り調べ中なのです」

 

「その話は聞いたぞ、日本エリア中に広がる麻薬汚染を食い止めた、と言って様々な部署で話題だからな」

 

「はい、そこで、捕縛した者の中に元日本解放戦線のリーダー、片瀬少将がいまして、どうやらその男、リフレイン売買で資金を調達し、キョウトより大量のサクラダイトを購入し、それを持って亡命を企てていたそうなのです」

 

「亡命か、仮にもトップの人間が、自軍の戦力が徐々にすり潰されていく様を見るのが嫌になって腐敗したというのか………それで、亡命はできなかったわけだが、それがどうかしたのか?」

 

「その亡命に使おうとした大量のサクラダイト、まだ見つかっていないのです」

 

「なに?…………大量のサクラダイトがいまも放置されているとなると危険だな」

 

「目下調査中です、しかし、もう1つ、厄介なことがありまして」

 

「厄介なこと?」

 

ここからが本題だ。

 

「購入先であるキョウト、キョウト六家なのですが、我がブリタニアとの専属契約を裏切り、敵将に重要な資源を金銭目的で横流しするなど、ましてや、キョウトの人間にとって同族である日本人から搾取した金で、です…………厳正なる処置が必要では、ありませんか?」

 

「同族を売ってまで金が欲しかったのかはわからない、だが、我がブリタニアとの約束事を反故にした罪は、償われなくてはならないだろう」

 

ふむ、コーネリアはこう言うとは思ったが、少し控えめだな、そこまで怒ったような様子もない。

 

「具体的な制裁はコーネリア様がお決めになられますか?」

 

「いや…………酷ではあるが、ここはひとつ、ユフィにやってもらおう」

 

「ユーフェミア様に?無罪放免で終わりそうなものですが」

 

というか、そもそも自分には無理だーって拒否してくるんじゃないだろうか。

 

「無罪放免は無しだと伝え、何よりツキトが制裁を望んでいると言えば何らかの命令は下すはずだ」

 

「大丈夫でしょうか?」

 

「ツキトも言っていただろう?ユフィが総督になるには、まずは実績が必要であると、此度の件は経験を積むには丁度良い」

 

「自分の命令でエリア中を変えてしまう影響力、それを持つのが総督ですしね……………ありがとうございますコーネリア様、悩みは解決いたしました」

 

確かに最もだ、ユーフェミアには実績が積み上がりつつあるが、今の実績ではただ単に優しいだけの人で終わってしまう。

 

厳とした態度で早急に制裁を下す判断をすることも、総督にとって必要な能力、さすがコーネリアだ、現日本エリア総督らしい言葉だ。

 

「のちにユーフェミア様とスザクを加えた会議を開きましょう、事によっては…………軍を動かさなけれななりませんから」

 

「くれぐれも、慎重に行こう」

 

キョウト六家が敵に回るなら、早いうちに排除するのが望ましいだろう、陛下にとっても、ルルーシュや騎士団にとっても。

 

特にルルーシュはキョウト六家の一部に顔が割れている、素顔が見られたら………なんて、恐ろしくて考えられん。

 

出来る限りの重い処分を下すようにユーフェミアを誘導しても良いが、ここはひとつ、成長の意味合いを込めてユーフェミアに一任するのもありか。

 

「では、引き続き、ユーフェミア様のお見合い案件の整理をしましょう」

 

「…………全部まとめて捨てるのはダメなのか?」

 

実は先程からテーブルには山積みにされたユーフェミア宛のお見合いの案件が届いており、姉であるコーネリアはもちろんのこと、なぜか幼馴染という観点から私まで仕分けに分類された。

 

どうせコーネリアは全部捨てるつもりなんだろうが………。

 

「どこ相手もユーフェミア様に相応しくないからといって、破り捨てて知らんぷりはいけません、しっかりと断りを書いた手紙を送らなければまた送られてきます、何通でも、何通でも」

 

「うっ…………それは嫌だな」

 

「断りの手紙を送ってもなお諦めない場合は、ストーカー容疑をかける等の対処ができますからね」

 

「黒いぞツキト」

 

「さすがに冗談です、しかしユーフェミア様は本当にお美しい……………事が起こってからでは遅いのです」

 

「まあ、な……どうせなら例の婚約者の他にユーフェミアと私とも結婚しないか?苦労はかけないと誓うぞ?」

 

「お気持ちだけ受け取っておきます…………ふむ、こっちの山の男は全員没行きでお願いします」

 

「は、早いなツキト、私なんてまだ半分も見ることができてないのに………」

 

「慣れと、記憶力でしょうか?ロクでもない貴族は大抵覚えておりますので、あとはユーフェミア様の隣にいるにはあまりにも不細工な者などは問答無用で没行きです」

 

「ユーフェミアの夫に不細工なのはいかんな、そもそもお見合いというものを好かん……………そういえば、最近私宛のお見合いは入ってこないようだが、諦めてくれたのだろうか?」

 

「コーネリア様のほうはギルフォード卿にすべて一任しております、お手元に届いていないということは、彼ほど忠義に厚い男のお眼鏡に叶う男は現れていないということでしょう」

 

「おぉ、ギルフォードがやってくれていたのか、あとで感謝の言葉を送らねばならんな」

 

「それがよろしいでしょう、失礼を承知で申し上げますが、ユーフェミア様ほど多くはないとはいえ、これに近い量を吟味しているのですから、感謝の気持ちだけでもギルフォード卿にとってはありがたいものでしょう…………しかし連日の作業は困難を極めます、時間を調整してゆっくり休めるようにすると良いかもしれませんね」

 

どうせギルフォードのやつは届いた手紙をかたっぱしから焼却処分しているんだろうけどな。

 

そんなギルフォードにも、たまには飴をやらねばな。

 

「なるほど」

 

「そういえば、この前ギルフォード卿の執務室前を通るとき、『コーネリア様と休日を過ごしたい』と言う声が聞こえまして………」

 

「私のような女とか?気のせいじゃないのか?」

 

「ギルフォード卿はコーネリア様に

は特に忠義に厚い男、しかしその前に人でもあります、だとすれば、癒し、というものが必要なのではないでしょうか?」

 

「癒し、か…………私とは程遠い言葉だな」

 

「それに関してはまた聞いてみるとし『失礼します』

 

「誰だ?」

 

この声はクレアか。

 

『アールストレイム卿専属秘書のクレア・マインドです』

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

予想通りクレアが入室してきた、書類を持ってきたようだ。

 

「早いな、もう整理は終わったのか?」

 

「いいえ、実は………アールストレイム卿にお見合い案件が届いておりまして」

 

「「…………は?」」

 

思わずコーネリアとともにポカーンとしてしまう、なぜだ?なぜ私のところにお見合いなぞ………。

 

というか敬語のクレアって改めて気持ち悪いな、不気味でしょうがない。

 

「貴族相手に無作為の意識調査を行なった結果、どうやら先日の本国での戦闘以降アールストレイム卿への明確な好意が増えているようです、やりましたね、モテモテですよ?」

 

だが嫌味はいつも通りのようだ、変なところでホッとした。

 

「モテたっていいことなんてないだろうに、クレアも見ただろう?モテすぎた末路があれだぞ」

 

「反面教師のいい教材でしたね」

 

「口の減らんやつで何よりだ」

 

この野郎………いや、このアマなんてこと言いやがる。

 

「それともう1つ、特務士官が命令を待っています、ご指示を」

 

「『急を要す任務無し、帰還せよ』と送れ」

 

「わかりました、では、失礼いたしました」

 

「あ、あぁ」

 

クレアは伝えることを伝えるとそそくさと退出していった。

 

「ツキト、お前の秘書はなかなか………………………………………個性的だな」

 

「素直に口の減らない阿婆擦れと言ってもよろしいのですよ?」

 

「そこまでは言わん、まあ仲良くやってるようでいいが」

 

「まあ、色々あるものでして……」

 

その後もユーフェミア宛のお見合い手紙の処理は続いた、結果3組ほど生き残ったもののユーフェミアによって撃沈したのであった。



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『便所』の『ネズミ』の『ションベン以下』の『阿婆擦れ』めが!

ツキトside

 

 

1週間は意外と早く過ぎた。

 

休暇と言いつつも総督府に顔を出したりナナリーの部活の手伝いをしたりと忙しかったが、充実していた1週間だった。

 

私はすでに本国の地図に載らない某所の某部屋にて寛いでいた。

 

部屋は安いホテル程度の設備しかない簡素な作りであったが、安全性は本国でも皇帝陛下の宮廷の次に高いセキュリティを誇る場所なのだ。

 

そんな場所で特にやることもない私は日程を確認してセリフなどを考えては紙に書き出す作業をしていた。

 

なぜやることがないのか?それは処刑と勲章授与式では別々の服装で執り行う関係上、自前で服を用意する必要は無く、演説くらいしかやることが無いからだ。

 

演説と言っても、処刑と勲章授与式でそれぞれ1分程度の短いもの、原稿用紙1枚半程度を考えておけばいいだけなのだ。

 

よって処刑当日の昼までは自由行動、なのだが、日本から本国に来たのは私だけで、他のラウンズとは警備の問題から接触は禁止のためアーニャとは当日まで会えない。

 

当日までどうするか…………あっ、そうだクロヴィスの所に行こう、お土産持って来たし丁度いい。

 

まだ昼過ぎくらいだし、アポ取って支度をしていけば3時前には着く、日本エリアオリジナルの菓子類をいくつか、それから、お礼だとかなんとかで日本人の鍛治職人から貰った日本刀を一振り持って行こう。

 

この日本刀はとても美しい、手放したくは無いが、ガウェイン・アンジェラを1日でデザインしてくれたクロヴィスへの対価とするならば、これ以上の物はないだろう。

 

さあ、善は急げだ、私服に着替えてタクシーを呼んで、持ち物を持って…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「760ドルになります」

 

「あぁ、カードで頼む」スッ

 

クロヴィスの住む宮廷近くまでは結構遠かったが、金額はそこまで………いや日本円換算で8万円は超えるのか、タクシーでこれは高いか。

 

まあ無限の金銭(ブラックカード)があるからいいんだけど。

 

「へい!………しかしよかったんですかい?こう言っちゃなんですが、バスとか電車を使った方が安いですぜ?」

 

「公共の交通機関に乗ろうとすると、この袋の中身を見せろと言われかねんからな」

 

「へぇ〜、で、そいつの中身は何なんですかい?」

 

「真剣さ」

 

「銃じゃなくて剣ですかい………」

 

「………君には教えておこうか、SP君」

 

「!!…………なぜお分かりに?」

 

運転手にそう言うとそれまでの親しみ易いおっさんの顔が一瞬ギョッとして硬直し、すぐに引き締まって堅気ではない男の顔になる。

 

「あの部屋の固定電話はな、ラウンズの犯罪行為防止のために政府によって盗聴されているんだ、私も金目の物を持って外に出るのは怖い」

 

「そこで、わざと我々を引き出したのですか?」

 

「そう言うことだ、この日本刀はクロヴィス様への献上品の1つ、強盗に襲われて血をつけるわけにはいくまい」

 

「…………脱帽の思い、さすがですアールストレイム様」

 

「ただ疑い深いだけさ………あぁそうだ、よければこれを」

 

菓子類の中から一箱取り出してSPに差し出した。

 

「小豆のペーストに砂糖を加えたモノを柔らかいパンケーキで挟み込んだドラヤキという日本のお菓子だ、君の同僚や部下たちと食べるといい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「うむ、では、引き続きブリタニアの平和のために頑張ってくれ」

 

ドラヤキを受け取らせてタクシーを降りる、宮廷に向かって歩き出した。

 

………SPのような職種の者に対して、同僚や部下たちと食べてくれ、と言うのは無神経だっただろうか?

 

まあいいか。

 

しばらく人気のない道を歩くと皇族の宮廷群が見えて来た、一般市民からは宮廷の豪奢な屋根が見えるのか、皇族の暮らしを想像して憧れるのもわかる。

 

まあ、実際に体験すればウンザリするだろう。

 

毎朝4時か5時に起き、6時までに朝食を済ませて着替え、7時から10時まで剣のレッスン(地獄)、11時から1時まで楽器のレッスン、終わり次第昼食をとり、30分程度の休憩を挟み、乗馬や射撃等のレッスンを4時まで続け、5時からは疲れ切った状態で礼儀作法のお勉強、6時から8時まで座学を学ぶ。

 

9時から自由時間になるが、大抵シャワーを浴びてベッドに倒れこみ死んだように眠るだけ、そして朝が来て………という無限ループのような幼少期を過ごす皇族は、少ないそうだ。

 

当たり前だ、こんなギチギチのレッスンやりたくないに決まってるし、親もやらせたくはないだろう。

 

まあ、マリアンヌの考案でヴィ家で数日これを取り入れたことはあったが、見事に私以外バテた。

 

いや、なんで私が参加してるんだって疑問はあると思う、私もそうだ。

 

ルルーシュとナナリーがやるならついでに、って理由で私までやらされるとは思わなかった。

 

実際やると初日はやれるんだ、ただ次の日の朝、体の節々に激痛が……………あぁ、思い出したくもない。

 

特にルルーシュはそうだろう、プライドも何もなくガチ泣きしてたからな…………まあ、意地でもナナリーには見せなかったところは高評価。

 

一番の功労者はやはりメイド達だろう、日々のギュウギュウのスケジュールを縫って更にレッスン道具の準備までやらなければいけないんだから。

 

隠れたところでガチ泣きするルルーシュと、連日死んだ目のナナリーを見て哀れに思ったのか、意外と早めに中止になったのが幸いだろう。

 

まったく、一体何十年前の人間が組んだスケジュールだというんだ、考案者はアホかと。

 

そんなことを考えていると、もうクロヴィスの宮廷の門まで来た、門には番兵がたったの2人、控えの人間がいそうだが、見える範囲には小さな小屋程度しかない、規模は小さいとしか言えない。

 

「すまない、アポを取ったツキト・アールストレイムなんだが………」

 

「ハッ!…………確認しました、お入りください」

 

身元確認だけですんなりと入れてしまった、持ち物検査はいいのか?

 

まあ、クロヴィスあたりが気を利かせてくれたんだろう、しかし仮にも武器を持ってるのが確定してる男を素通りはいかんだろう。

 

そりゃあ、クロヴィスなんて殺しても政治的価値は無に等しいが、それとこれとは違うだろうに…………簡単に入れたのはいいが、なんとも釈然とせんな。

 

宮廷の中に入るとメイドたちが掃除をしているところだった。

 

「!……おはようございます!アールストレイム様!」

 

「「「「おはようございます!」」」」

 

むっ…………メイド勢揃いか、これは、中々………。

 

「使用人一同、アールストレイム様の到着をお待ちしておりました、ささ、こちらのお部屋へ」

 

「あぁ」

 

さすがはクロヴィス、無駄に着飾らせず地味な色のロングスカートの機能特化型のメイド服を着させるとは…………。

 

やはりクロヴィスは、できる男のようだな!

 

 

(ツキトはロングスカートがお好き、無駄なフリフリやミニスカートはお嫌い by作者)

 

 

ふむ、良いものを見たお陰か気分が良くなってきた。

 

うむ、やはりロングスカートは良い、それに対しミニスカートなど破廉恥極まり無い!そして生地も薄くて寒い!わざわざ短いスカートを履く女が理解できん!

 

近年ではミニスカートをメイドに着させる変態貴族も多いそうじゃないか!あぁ!なんたる阿呆か!露骨なエロスにしか目が行かんとは!実に、実に滑稽よ!

 

清楚感溢れるロングスカートこそが至高にして最強!そして、女性が肌を無闇矢鱈に晒すなど言語道断!そんな変態女はストリップショーでもやっていればいい!!

 

…………ふぅ、結論、ロングスカートはミニスカートに大きく勝る、以上。

 

「お待たせいたしました、こちらのお部屋へお入りください」

 

メイドに促されるままに次の部屋へ入る、そこには真剣な目つきで絵を描いているクロヴィスとモデルらしき顔の整った40代のメイドがいた、おそらくメイドのほうはメイド長なのだろう、胸元のバッチが一際豪華だ。

 

「クロヴィス様、アールストレイム様をお連れいたしました」

 

「…………………あ、待っていたよツキト!好きなとこ座ってて、もうすぐ書き終えるから!」

 

「わかりました」

 

クロヴィスに言われるままに腰をおろしかけ、すんでで止まってメイドの方を向く。

 

「君、よければこれをみんなで食べてくれ」

 

「え?よ、よろしいのですか?」

 

「突然の訪問で忙しくさせたお詫び、とでも思って受け取ってくれ」

 

「は、はい、ありがとうございます!」

 

数個の菓子箱を受け取った案内役のメイドは嬉しそうな表情とリアクションを隠さずにそう言った、たぶんこの娘は新人だな。

 

メイドが出て行き、クロヴィスの絵も完成したところで2人っきりになる。

 

「よく来たね、なにか手伝えることがあるのかい?」

 

「いいえ、今回は先日クロヴィス様に描いていただいたKMFのデザイン画の、ささやかではありますが御礼をと思いまして」

 

「そうなのかい?嬉しいなあ」

 

「こちらが、現在日本エリア限定生産の菓子類と、昔ながらの製法の日本酒…………ワインと違い水などから作ります」

 

「水からお酒を?………本当だ、透明で水みたいだ」

 

日本酒の瓶を持って様々な方向から眺めてウンウンとうなづくクロヴィス、気に入って貰えたようだ。

 

「そしてこちらが、日本エリアに古くから伝わる刀剣、日本刀です」

 

「サムライソード!うわぁぁ…………すごい、噂以上の美しさだ」

 

「古来よりの伝統を守ってきた職人による力作です、いかがでしょうか?」

 

「すごいよツキト!これが剣だなんて、芸術品のように美しいのに戦うための武器だなんて………日本人のセンスって良いんだなぁ」

 

抜刀した日本刀を色々な角度から見たり、光を反射させて見たりして喜ぶクロヴィス、まあ、想像通りの反応だな。

 

「喜んでいただけたようで何よりです」

 

「…………………さってと、何か用事でもあるのかい?」

 

「今回は、あいさつと先日の御礼が目的ですので、頼みごとはありません」

 

「そうなのかい?じゃあ、せっかくだし、ゆっくり話でもしようか」

 

「喜んで」

 

そのあと数時間、優雅にお茶しながら世間話に興じた。

 

クロヴィスの芸術に関しての話は面白く、素人の私でもちょっと美術館覗いてみたいなと思うくらいには興味が湧いた。

 

結果、クロヴィスとの時間を休暇のように過ごし、某所の部屋に戻ってきた。

 

処刑と授与式は明後日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良く晴れた金曜日の昼、処刑の時がやってきた。

 

「歴代の皇帝陛下の胸像が並ぶブリタニア建国広場より失礼します、ご覧下さい皆様、並んで座られた皇族の方々、政府及び軍関係者を」

 

皇位の上からはオデュッセウス、下は………まあ良く知らんけど皇族のやつがほぼ全員と、なかなかの無駄遣い………壮観な眺めとなっている。

 

政府及び軍関係者は陛下の相談役数名と、階級を問わず英雄的行動をした軍人が数名、それからラウンズと並ぶ。

 

相談役と英雄的軍人たちは同格で扱われ、ラウンズは彼らより格下で扱われているのか、椅子の位置が彼らよりも下だ。

 

「空前絶後の大規模クーデターの首謀者、元皇族であるギネヴィア・ド

・ブリタニア以下数十名の処刑が、始まろうとしております、今回のような公開処刑は19年ぶりであり………」

 

んまあ、とにかく人がたくさんいるってことだ、だが広場は警備上の問題と、場所が狭いために観客席までは作れなかったようだ。

 

ところで…………なぜ私はラウンズと同じ列の席ではなく、英雄的軍人と同列の席に座らされているんだ?

 

それに、用意された礼服も他のラウンズの着ているものとはデザインも色も全く異なるものだ。

 

アーニャやジノらラウンズたちの服装は、高級なブランド物のスーツのように洗練されており、清潔感溢れ律儀なビジネスマンにも見える。

 

特にビスマルクはカメラ映えする佇まいなので、今頃お茶の間の女はビスマルクが映るたびにキャーキャー言ってるに違いない。

 

しかし私の服装は、なんというか、こう、大仰というか、騒がしい、というか…………原作のルルーシュの皇帝服みたいなローブに似た服を着せられている。

 

しかも、軍服を着た軍人の列のすぐ隣に座らされている始末…………いじめか?新手のいじめか!?と思ってしまうくらいには困惑している。

 

え?『その割には威厳たっぷりに頬杖ついて退屈そうに座っているじゃないか』、だって?

 

仕方ないだろう、私の弱みを見せられるのはナナリーやルルーシュ、咲世子やC.C.くらいのものだ、こんなところで慌てふためく私なんて、キャラじゃない。

 

それに…………このあと少々大立ち回りをするのだ、この程度のことで心を乱していては成功は見えないだろうしな。

 

「あ!ご、ご覧下さい!今まさにギネヴィア以下数十名を乗せた護送車が到着いたしました!」

 

アナウンサーがそう叫ぶと全てのカメラが一斉に護送車に向いた。

 

護送車は広場の入り口で止まると、周囲を重装備の兵が取り囲み、幻獣な体制の中で護送車の扉は開かれた。

 

中から出て着たのは髪はボサボサでやちれ、化粧もしてないスッピンブサイクなギネヴィアだった。

 

「神聖ブリタニア帝国国民の皆様!見えますでしょうか!?あの者達こそが、愚かにも陛下に弓引いた逆賊の姿であります!」

 

本当にな、馬鹿な奴らだよ。

 

馬鹿筆頭のギネヴィアの顔は、遠目に見ても青ざめているのがはっきりわかった。

 

広場中心に作られた断頭台に向け歩くギネヴィアと目があった気がした、私は嘲笑うように笑みを浮かべてやった。

 

【まぁったく、無様だなぁ、えぇ?ギネヴィア・ド・ブリタニアよ………】とでも言うように。

 

断頭台に拘束されるギネヴィア、そして。

 

『皇帝陛下!ご入来!』

 

演奏隊のファンファーレと共にゆっくりと現れ特設の玉座に腰を下ろす第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニア。

 

会場の全員の気が引き締まったのを肌で感じた。

 

会場の拍手が鳴り止んだところで陛下は口を開いた。

 

「ギネヴィア・ド・ブリタニア………貴様はぁ、我が意向に背き、叛旗を翻して我が身を亡き者にせんと200余の兵を率いて我に刃を向けたぁ…………実に、実にぃ!許し難い行いでぇ、あるぅ………よって、13時の刻限を持って貴様の首を跳ねる!」

 

「僅かな生の時間、何か言い残すことがあるのなら、申すが良い……」

 

陛下はそこで言葉を切り、より深く玉座に腰掛ける、ギネヴィアの反応を待つことにしたようだ。

 

皆が蔑視する中、ギネヴィアは口を開いた。

 

「私は!私は国是である弱肉強食に則り、私自身が次期皇帝となるために挙兵致しました!これは紛れも無い事実であり、嘘偽りない本心です!」

 

「陛下!陛下の信頼を置く者が、嘘をついているのです!この帝国を根底から覆し得ない嘘を!!」

 

いきなり何を言い出すんだギネヴィアのババアのやつ……………っていうか、なぜ途中から私の方を向いて………。

 

「お聞きください陛下!そこに居るツキト・アールストレイムは………自らの主君を謀殺し、それを隠蔽した大罪人なのです!!」

 

なぬ?

 

「「「「「えぇ!?」」」」」

 

「マリアンヌ妃の暗殺未遂事件後、当時の日本エリアへ雲隠れしようと提案したのはそこにいるツキト・アールストレイムです!おかしいとは思いませんか?なぜ、親密とは言い難い国へ渡ったのか!」

 

「な、なんということでしょう!ギネヴィア・ド・ブリタニア元皇族が、ツキト・アールストレイム卿が自らの主人を謀殺したと証言しました!」

 

ちっ、あの糞性悪ババアめ!!

 

 

「た、確かにそうだ、当時仮想敵国であった日本エリアに危険と知りながらなぜ渡ったんだ?」

「盲点を突こうとしたのでは?」

「しかし実際にツキト・アールストレイム卿の主人は………」

「誤爆による事故死であろう?」

「誘導されたのかも………」

「しっ、聞こえてしまうぞっ」

 

 

動揺が広がりすぎている、とはいえなんとかしようと動けば疑惑は深まる、ここは……………。

 

「ほぉう」

 

「「「「「!?」」」」」

 

わざとらしく感心したように声を漏らす、すると多くの皇族、軍人からの視線が集まる、特にアーニャからの視線は凄まじく、半信半疑といった表情だ。

 

「それで?私がどのようにして、賢者が如き知を持った主と、何事にも聡く情に厚き主の2人を殺したと?」

 

言うまでもなく『賢者が如き知を持った主』というのはルルーシュ、『何事にも聡く情に厚き主』というのはナナリーのことだ。

 

なぜこのように余裕たっぷりに笑みを浮かべながら未だ全力を出していない魔王キャラのように振舞って居るのか?そんなもの当然キャラを守るためだ。

 

多くの皇族や軍人の集まる所で変に激昂してみろ、余計に疑わしく見られてしまう、かと言って無関心を通せば主人への忠義を疑われる、『主を愚弄するか!?』と叫んでギネヴィアを殴っても同情こそもらえど私のキャラを大きく逸脱してしまう。

 

いつも冷静に、いつも余裕の笑みを浮かべ、無警戒とも取られかねないほどの態度と表情で座す、決して取り乱すことはない、それが私のキャラだ。

 

「決まっている!貴様は軍と密かに連絡を取り、爆撃による事故死に見せかけた!」

 

「ふむ、では私がどのようにして、軍に通信したのだね?」

 

「通信を傍受し、指揮官にラウンズとして命じたのだろう!?」

 

ふっ、馬鹿め。

 

「ギネヴィア・ド・ブリタニア、貴様の言う通りならば、私は我が主人の隠れ家を爆撃するように、シュナイゼル殿下に言ったということになるが?」

 

「なっ!?」

 

「いきなり移動拠点の通信回線に割り込んできた10才の子供が、ラウンズであると声だけで証明し、爆撃機の爆撃コースを変更させるようにシュナイゼル殿下に進言した…………ふふふ、あっははははは!素晴らしい想像力ではないかギネヴィア!死の間際にしてそのようなことを考える頭が残っている死刑囚にあったのははじめてだ!」

 

ひたいに手をあてて肩を上下させて大きく笑う、わかりやすく馬鹿にしているとわかる言葉も添えて。

 

「あはははは………なかなか面白かった、ただのつまらない逆賊の公開処刑で終わると思っていたが、とんだエンターテイナーだな、ギネヴィア・ド・ブリタニアよ」

 

「貴様は、貴様は自分の主人をむざむざ見殺しにしたことに罪悪感はないのか!?」

 

「ヴィ家に対する数々の嫌がらせを行なってきた貴様が、何をいうかと思えばそんなことか……………答えてやろう、私はなギネヴィア、2人の主人に対してこれと言った罪悪感は持っていないのだ」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

「当時は空軍の兵を皆殺しにしてその首を墓前に並べて供養しようとも思っていたが、同族を憎む事が果てしなく無駄であることを悟ってな、それ以来余計なことは考えたことはない……………今の私は、主の命令と願望を叶えるための人形に過ぎないのだからな」

 

「にん………ぎょう……?」

 

「そうだよアーニャ、私はあの方々の望みを叶える為に生きると誓った……………カメラが全部私に向いていることだし丁度いい、発表するなら今だろう」

 

「な、何を言って…………」

 

カメラが全部私のほうを向いていることを確認し、椅子から立ち上がる。

 

さあ、一世一代(?)の大立ち回り、見せてやろうじゃないか。




まさに始まろうとしたギネヴィア以下数十名の逆賊の公開処刑を前にしたツキト・アールストレイム、長旅の疲れからか不幸にも黒塗りの高級車に追突してしまう…………。

「っていうかギネヴィア元気っすね、これから死ぬのに。いや死ぬからこそか………」

っていう問答をやってました、1人で…………。


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『名』も!『地位』も!我が身には『不要』!

処刑と授与式を一緒にやるとかブリタニア頭おかしい


ツキトside

 

 

全ブリタニア国民が見ているのだと思うと自然と緊張が高まる、立ち上がり、一呼吸置き、不敵な笑みはそのままに。

 

「私、ツキト・アールストレイムは……………自らの名と貴族である称号を捨て、アールストレイム家との全ての縁を断絶することを宣言する!」

 

言い切ると静まり返る、数秒置いて会場は嵐に包まれた。

 

 

「ど、どういう意味なんだ?」

「アールストレイムの名と貴族位を捨てる、だと!?」

「貴族の名門と絶縁するなんて、どうかしている!」

「一体何を考えているんだ!?」

 

 

批判の声であふれかえる、まあ、予想はできたが、うるさいなぁ。

 

「静まれぃ!」

 

陛下の一声で会場は再びシンと静まり返った。

 

「貴様の発言で皆の収拾がつかぬぅ……理由を話せ、ナイトオブサーティーンよ」

 

「はい、私は、我が主の望みを叶えるために必要なのは何か?そして邪魔なものは何か?それを常々考えておりました………必要なのは何よりも権力、邪魔なものは………アールストレイム家という足枷です」

 

小さなどよめきが広がるがすぐに沈静化する、さすがは陛下、睨むだけで相手は文句もなく黙り込む。

 

「知っての通り、アールストレイム家は貴族としてはトップクラスの名門であり、そこの生まれというだけで死ぬまで衣食住に困らず、どれだけの美女を何人でも侍らせることだって容易い、辺境伯程度なら観衆の中心で殺しても罪にはならない、なぜなら…………それが最有力貴族であるアールストレイム家だからだ」

 

問題発言だなんだと叫ばれるが無視する。

 

「しかし、この家で生まれた者が成したことは全て家の成果となる、つまり、家の生まれの誰か、もしくは養子でもいい、彼らが成し遂げたことが、その誰かではなくアールストレイム家の成果となってしまうのだ」

 

ふとアーニャを見るとなかば放心したように私を見つめていた。

 

「…………そんなこと、冗談ではない、私はアールストレイム家の安寧のために生きてきたのではない、私が成し遂げたことをアールストレイム家の成果ととられてたまるものか!」

 

大振りな身振りで怒りを表し、笑みを無くし表情を固く作り、熱を込めた声で語る。

 

「私がこれまで行なってきたことは、すべて我が主が成し遂げえなかったこと!我が主の願いや望んだものだ!………エリア11を日本エリアと変えたのは我が主のためだ!名誉ブリタニア人などという制度を無くし、名誉回復に努めているのも我が主のためだ!日本人との融和政策も、日本人と親しい仲にあった我が主のためだ!黒の騎士団という逆賊を自警団として受け入れたのも、我が主が愛した『日本』を守りたいという、志を共にしたからだ!!」

 

私の熱の入った演説に会場は静まり、私に視線を向けている。

 

「どれもこれも、本来であれば今は亡き我が主の功績だったものだ!私のものではなく、アールストレイム家などのものでもなく、我が主の功績だ!!我が主の!!…………それを、アールストレイム家の功績と見るのはお門違い、勘違いも甚だしい!なのに、平然と自分の功績のように語るアールストレイム家に、私は心底嫌気がさした、これ以上我が主の功績を、名誉を、気高きその理想を踏み躙られてたまるものか………だから私はアールストレイム家と絶縁することに決めたのだ、家族としての縁も、金銭的な縁も、貴族位も、何もかもを捨てることにしたのだ」

 

完全に静まり返る会場、うるさいアナウンサーですらだんまりを決め込んでいる…………ふっ、才能が役に立ったか(演説の才能5)。

 

「待って、待ってお兄ちゃん……」

 

オロオロとアーニャが呼びかけてくる。

 

「書状のコピーもここにある、照明のサインとしてコーネリア・リ・ブリタニア様の直筆のサイン入りであり、裁判所にもすで提出済みである………それと、ナイトオブシックス、もはや私は、あなたの兄ではない」

 

「え………あ………」

 

…………事実を淡々と言うと、最愛の元妹に追い打ちをかけていく外道兄貴にしか映らないな。

 

それが目的なのだから問題はそこまで大きくはないと思うが……うぅむ。

 

「……………私の名前は本日この時を持って、ツキト・カーライルと名乗らせてもらう、異議申し立ては私の秘書、クレア・マインドか、帝国裁判所に提出するように、以上だ…………陛下、長々と時間を奪ってしまい、申し訳ございませんでした」

 

周りの唖然とした者たちやアーニャの絶望した表情を無視して時間を取ってしまったことを陛下に謝罪する。

 

そうだ、大立ち回りというのはアールストレイム家との絶縁、貴族位を捨てて新しい人間として生まれ変わり、今は亡き主人のために身を捧げる…………というのは建前で、たんにアールストレイム家という存在が邪魔だからに過ぎない。

 

アールストレイム家も真っ当な家ではない、隅々まで見れば黒い一面が存在する、近いうちに親族に闇取引等に協力するようにせがまれることは察していた、いずれは断罪するが、その時に内部事情を知ってて隠していたとみられるのは嫌だ、面倒ごとは嫌いだし。

 

「…………」

 

陛下は近くの者にタブレット端末で何かの確認を取らせ、それを確認して立ち上がった。

 

「ツキト・アールストレイム改め、ツキト・カーライルよ、貴様の忠誠に嘘偽りはないか?」

 

「これまでと変わりなく、私の信じる王への忠誠を誓います」

 

もちろんルルーシュとナナリーだが。

 

「陛下!父上!お考え直しください!」

 

「ギネヴィア・ド・ブリタニアよ、ツキト・カーライルは家を捨て名を捨て縁も切った、わしはそこに真の忠誠を見たァ………金と皇帝の椅子に目のくらんだ貴様とは、すぅべてがぁ、違うのだぁ」

 

「そ、そんな……」

 

「………そろそろぉ、時がくる」

 

言われて時計を見ると58分、残り2分もしないうちにギネヴィアの首が飛ぶ。

 

思ったより演説に時間を使ってしまったな、まあ、そこも織り込み済みなのだが。

 

陛下が手を振った、合図なのだろうか。

 

唾を飛ばし喚き散らすギネヴィア、断頭台に近づく処刑人、処刑人を罵倒し始めるギネヴィア、憐れな視線を向ける血の繋がった皇族達、13時の刻限を知らせる鐘が鳴る、鐘の音に全てかき消される、そして……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場は1時間ほどで撤収された、陛下やほとんどの皇族達はソソクサと逃げるように帰ってしまい、この場に残っているのは断頭台を清掃する者を除けば、アーニャ含む非番のラウンズが数名と断頭台の絵を描くクロヴィスだけだ。

 

クロヴィスはその目で何を見て、何を感じて筆を走らせているのだろうか?

 

そんなことは私にはわからなかった、しかしクロヴィスも感じるものがあったのだろう、その感性を大事にして欲しいと思う。

 

何も感じなくなったら異常者と変わりないのだから。

 

「おにい………ちゃん」

 

恐る恐るといった様子で私に近づき呼びかけてくるアーニャ、青ざめて絶望した表情は痛ましく、涙こそ流れてないが声は涙声だ。

 

遠くから他のラウンズの責める視線が突き刺さってくる。

 

「行かないで………お願い、1人にしないで……」

 

ついに私のそばまで来たアーニャは縋り付いて泣き出してしまった。

 

……………ちっ!私はどこまでも甘い人間でしかないのか!?

 

「はぁ、意地悪をして悪かったな、アーニャ」

 

「お兄ちゃん!」

 

「どこにも行かないさ、ただ、私とお前が兄妹ではなくなり、血の繋がりもないとして扱われるだけだ、別に今まで通り接したいなら好きにしろ」

 

アーニャはアールストレイム家当主ではないので接触は大丈夫なはず。

 

「うん………」

 

「はぁ……こっちにきなさい」

 

「!……うん!」

 

震えるアーニャを優しく抱きしめる、アーニャにとって私の存在が大きいものだと言うことはいかに鈍い私でもわかる、今のアーニャは恐怖している、私という、兄という存在が書類上だが消えることに。

 

もしくは、ギネヴィア危機一髪(物理)のほうかもしれんが。

 

「………怖かったか?」

 

「怖かった………お兄ちゃんがいなくなると思うともう生きていけない」

 

ギネヴィアの首が飛んだことじゃなくて私が兄じゃなくなることの方が怖かったのか………。

 

「それはいけない、私はもうお兄ちゃんじゃないんだ、アーニャとは無関係の、ツキト・カーライルなんだ」

 

「でも、私にとってはずっとお兄ちゃんだもん………」

 

「……………血は繋がってない扱いだぞ?まあ、アーニャの好きなように呼ぶといい」

 

「うん、お兄ちゃん」

 

泣き止んでくれたし、これでいいだろうか?

 

抱きしめた体勢を崩す、物足りなさそうなアーニャの視線に申し訳ない表情で応える、するといくらか緩和された。

 

「そろそろいいか?授与式に遅れてしまう」

 

「あっ…………えっと、私の車、使う?」

 

「自分のがあるんだが……」

 

「えっと、じゃあ………護衛、護衛する」

 

「護衛なら別でいる、わざわざ来なくても良い」

 

「えっと、えっと………うぅ……」

 

困ったように焦るアーニャ、いったいどうしたと…………あぁ(ニヤリ)

 

「すまないが、理由がないようなら行きたいんだが?」

 

「え、あ、ま、待って、もうちょっとだけ待って」

 

「そうは言ってもなぁ………遅れたら陛下が怖いしなぁ」

 

「う、うぅぅぅ………行かないで、行かないでぇ……」

 

ゾクゾクゥ!!!

 

あぁぁぁ!かわいぃ!しどろもどろなアーニャがかわいいいいいい!!!

 

でも一緒に行くのはだめだ(キッパリ)

 

「もういいでしょアールストr………カーライルさん、アーニャはついて行きたいんですよ」

 

「ほう?そうなのか?アーニャ」

 

「は、はぃ/////」

 

「だからさ、連れて行ってもいいんじゃないかなぁって、思うんですけど」

 

「なるほど、遠回しに言ったのが悪かったか…………はっきり言おう、着いてくるな」

 

「!!!」

 

「ちょっ!?カーライルさん!!」

 

「今さっきアールストレイム家との縁は全て絶った、なのに変わらずアールストレイム家の長女と親密にしていれば密命ともとられかねん、陛下に疑心を持たせたくはないのだ」

 

固まる面々をそのまま放置して待たせていた黒塗りの高級車に乗り込む。

 

「遅かったですね」

 

車の中で待っていた黒髪長髪の女が言った。

 

「妹………おっと、ナイトオブシックスの対処に手間取っただけだ」

 

ラウンズたちの冷たい視線を受けつつ、車は発進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

noside

 

 

授与式会場に向けて走る黒塗りの高級車、運転席と後ろの席は分厚い防音・防弾ガラスで仕切られ、運転手は後ろに座る赤髪長髪のラウンズと黒髪長髪の美女の会話を聞くことはできない。

 

「アールストレイム家は名門貴族、故に引きづりおろしてやろうという者は多い、絶縁直後でも関係が変わらなければ疑われてしまう、実はただのパフォーマンスだったのではないか?と」

 

「少なくとも、そう思う者は少なくないだろう、工作を考える者もいるだろうな」

 

赤髪長髪のラウンズ、ツキトの言葉に黒髪長髪の美女………染髪したC.C.が応える。

 

C.C.は変装して秘密裏に本国へ渡って来ていた、同類であるツキトの真意を知ることが許された共通認識を持つC.C.を精神安定剤のようにツキトは思っていた。

 

「それこそ冗談ではない、来るべき時、アールストレイム家という巨大な力が邪魔にならないようにするためなのだ……………今頃混乱したアールストレイム家はヴィ家への援助を切るだろう、私はそう確信している、そもそも今までの援助だって私が頼んでいたのだから、私がいなくなれば援助の必要性はないのだからな」

 

ツキトの確信した通り、現在アールストレイム家は混乱状態にあり、突然の事態に怒りも合わさって援助取り下げの書状を書いていた。

 

「アールストレイム家が如何に大規模といえど、今までがかなり無理な資金援助だったんだ、やめられるタイミングがあるならやめるだろうな、だが、今まで払った資金を返せと言われたらどうする?」

 

「手切れ金としてかなりの金をアールストレイム家に叩きつけてやったから文句は出ないだろう、むしろ大手を振ってバンザイしてるはずだ、もともと良好でもなかった親子仲、今更どうとも思わん…………今後、ヴィ家への援助の取り下げラッシュが来るだろう、最大出資者であるアールストレイム家が引くのだから、アールストレイム家の怒りを買いたくない貴族連中は引き下がるを得ない」

 

叩きつけたのは貯金の半分だぞ?と言うツキトにC.C.は苦笑した、そして小さくこの馬鹿者めと呟いた。

 

「アールストレイム家の取り巻き貴族の行動を日本なら、長いものには巻かれろ、とでも言うのだろうな」

 

「そこで私が個人としてヴィ家への援助を申し出る、そして没落気味のアッシュフォード家にも投資し、足並みを揃える形でヴィ家への援助を強め、影響力の強いマリアンヌの威光でアッシュフォード家再興を目指す」

 

「簡単ではないぞ?没落貴族を現行最有力貴族と同等以上に持ち上げるのは」

 

「アッシュフォード家がアールストレイム家に並ぶには相当な時間がかかるし面倒だからそこまではしない、やるなら勝手にやればいい、私としては、せめてかつてのあるべきころのようにある程度まで発言力を回復させ、最終的には日本エリア全土の企業トップになってもらわねばならない」

 

「それで日本エリアの企業は納得するのか?」

 

「想像すれば自ずと見えてくる………英雄であるマリアンヌに多大な援助を行い古くより懇意にしているアッシュフォード家と、突如援助を取り下げた裏切り者のアールストレイム家、しかもアッシュフォード家は没落貴族から『正規の手段』でのし上がった、傍目から見て確かな実力を持つが、アールストレイム家は名前だけで実績と言える実績はアーニャがラウンズに選考された程度…………英雄の存在に憧れる帝国国民はどのように見る?」

 

事実マリアンヌは世界的にも人気だ、庶民から一気に帝国王妃までのし上がった血塗れのシンデレラストーリーとその活躍は多くの人々を魅了してやまない。

 

「悪どい男だなお前は、さすがは【ブリタニアの悪魔】だ、そんなのアッシュフォード家に従うに決まっている、私個人としてもアールストレイム家の黒さは長い間見てきたしウンザリしてたしな、ま、主観客観問わずアッシュフォード家だろう」

 

「長々語ったが、アッシュフォード家再興の鍵はルルーシュ様が握っている」

 

「坊やがか?」

 

「正確にはルルーシュ様の交渉能力、コネ、あとはミレイの恋心もか」

 

「エグい上にかなり運頼みだな、そんなので大丈夫なのか?」

 

あまりに運頼みの計画にジト目になるC.C.、ツキトは内心心地よいゾクゾクしたよう感覚を感じた。

 

「失敗したら私自ら現当主に直談判する、権力の増強に反対する貴族なんてそういないからな、ルルーシュ様の交渉が成功したらラッキー、その程度のものだ」

 

「ふぅん…………シャーリーの恋はどうする?」

 

まるでキャットファイトが見たいかのような声色でC.C.は言った。

 

「応援はしない、かといって邪魔をするつもりもない、成功してミレイとルルーシュ様が恋仲になろうが、失敗してシャーリーとルルーシュ様が恋仲になろうが、どうでも良いことだ、ただ、ミレイと恋仲になった場合は少し円滑にことが進むというくらいのもの、その程度なら私にもできるしさしたる問題は感じていない」

 

「なるほど、やはりお前は悪魔だ」

 

「魔女にそう言われるとは、光栄だ」

 

「「………ははははは(ふふふふふ)!」」

 

揃って笑い出すツキトとC.C.に運転手はミラー越しにぼんやりと見えていた。

 

そして、目的地である宮殿に到着した。

 

ツキトとC.C.は高級車を降りて歩き出す。

 

「それじゃあな、せいぜい気張ってかっこつけていろよ、カーライル」

 

「そっちもな、おちおちお宝を取り損ねたりしないようにな、特務士官殿」

 

途中から別々の方向に歩き出すツキトとC.C.、ツキトは宮殿の授与式場に向かい、C.C.は倉庫へ向かった。

 

C.C.の向かった表向き倉庫と言われる場所は、神聖ブリタニア帝国の機密保管庫でもあった。

 

C.C.は身元が証明できるものがない、ツキトは骨を折りながら面倒な書類仕事の合間を縫ってC.C.を直属の工作員としての偽情報を作り上げた、この裏工作によって軍内部におけるC.C.の安全は確立された。

 

最大レベルのセキュリティも突破できる権限を持たせるのは簡単ではなかったが、作り上げることさえできれば工作の幅は広がる。

 

今回のように、授与式に乗じてあらゆるセキュリティを無条件で突破できるC.C.を使って情報を盗み出すこともできる、ツキトはどこまでも悪どかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

「これより、勲章授与式を………」

 

(…………どうだ?C.C.)

 

『すんなり入れた、警備は厳重には見えない、さっさと抜いて帰る』

 

長ったらしい側近の前口上をBGM代わりに、小型通信機でC.C.と話す。

 

C.C.は機密保管庫に潜入、できるだけ多くの電子情報、持ち出せるのなら紙媒体の情報も盗ってくるように言ってある。

 

無茶をするようなやつではないが、一応私も心配くらいする。

 

「………ヘルカッツェ少尉、ゴーレム少尉……………」

 

まだかかりそうだな、それなら好都合、C.C.の作業時間が延ばせる。

 

しかしまあ、楽な仕事だよ本当、それこそ心配になるくらいだ。

 

ブリタニア本国の機密保管庫、世界トップクラスのセキュリティが設けられたその場所は、実は名ばかりのザル警備であることは知っていた。

 

最大レベルの権限を持ってさえいれば容易に侵入でき、内部の情報の保護のためにセントリーガン等の防御装置もない。

 

正面の門さえ潜ればあとはスイスイ、世界トップクラス(笑)とはよく言ったものだ、まったく無能警備兵どもめ。

 

だが今回に限りそのザル警備ぶりがC.C.の行動を安全にする。

 

C.C.には全部持ってこいと言ってあるが、本当に欲しいのはギアス饗団に関する情報だ。

 

延期となってしまったが、将来的に枢機卿になる私としては、ギアス饗団などという不安要素は徹底的に潰す必要がある。

 

原作ではゼロが騎士団の者にやらせていたが、ギアスの存在を知らないのだから当然そんなことしないだろう、だから代わりに私が潰す。

 

ギアスユーザーなど、私の敵にすらならない、ギアスユーザーは皆殺しだ。

 

「…………以上、26名の勇敢な戦士達に、ブリタニア十字章を授与するものとする」

 

「(カーライル様、前へお願いします)」

 

小声でそう言われて立ち上がり、勲章が載ったワゴンのそばに寄る。

 

ワゴンから勲章を1つ取り、端の兵士から順番に胸につけていく。

 

角度に注意してよく見えるように。

 

「おめでとう、これからも帝国のために頼む」

 

「ありがとうございます!」

 

「おめでとう、これを糧に精進してくれ」

 

「ありがとうございます!」

 

「おめでとう、子供に自慢すると良い、良き父となれ」

 

「ありがとうございます!」

 

1人1人のデータは頭の中にある、勲章を渡しつつ1人1人に言葉をかける。

 

最後の1人に渡し終え、席に戻る。

 

勲章を授与された兵士たちも順に席に戻っていく。

 

「それでは次に、ナイトオブサーティーン、ツキト・カーライル様へのブリタニアダイアモンド騎士十字章の授与を行います、カーライル様、前へお願いします」

 

「うむ」

 

再び立ち上がり、前に出る、それにしても、ブリタニアダイアモンド騎士十字章か…………陛下の敵を打ち払っただけでこの勲章か。

 

「おめでとうございます」

 

ブリタニア国旗にちなんだ勲章の紋様はブリタニア十字章同様だが、巨大なダイアモンドを削り出して作った交差する2本の剣の細工と、とてつもなく豪華なのだ。

 

それが今、私の胸にあるという事実…………これはあれだな、近いうちにユーロにでも行けと言われそうだ。

 

この勲章のいくつか前のブリタニア騎士十字章は『未亡人生産機』として有名だ、それの遥か上のこいつもまた、多くの英雄を前線で殺してきた不吉な勲章だ。

 

何かの前兆じゃなければ良いんだが…………。




ツキト兄貴、アールストレイム家と縁切って貴族やめるってさ。
ツキト兄貴、勲章もらって最前線送りまで秒読みだってさ。

あとはまあ、C.C.の使い所がこれくらいしか思い浮かばず………うーむ。


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『出立』の『準備』

注意!時間の移り変わりが激しいです。

戦闘がないと描くペース落ちるなぁ……


ツキトside

 

 

ごきげんよう、神聖ブリタニア帝国の旗の元、陛下に忠義を誓う者たちよ、ツキト・アールストレイム卿改め、ツキト・カーライルだ。

 

貴族を辞めたらそれまで避けられていた庶民出身の人々にも話しかけられたり…………ということはなかった。

 

シャルルが王としての絶対の存在感を、ルルーシュが魔王が如く威圧感を持つのなら、さしずめ私はどこぞの覇王が如く覇気でもまとってしまっているのだろうか。

 

今までと変わらず、避けられている、近づいただけで向こうから逃げていってしまうようで、もう泣きたいくらいだ。

 

私が覇気を纏ってるとかは神格を別の方向に置き換えた結果であるため、この際どうでも良いしこれ以上どうにもできないから良いとして。

 

「…………これは夢か?」

 

日本エリア総督府へと戻った私を待ち構えていたのは、皇帝陛下の勅命の手紙。

 

内容は『2週間後にユーロに飛べ』だった。

 

どうやら陛下は、私に大規模作戦の陣頭指揮をやれと仰せのようだ。

 

戦わせてくれたほうが楽だというのに、指揮なんぞ…………ちっ。

 

「味な真似を………」

 

大方、私がKMFくらいしか取り柄のないガキだといって反発する派閥を鬱陶しく思った陛下が投げた牽制球、といったところか。

 

私に戦場で指揮をとらせ、能力を認めさせて派閥を黙らせるわけか。

 

良い性格をしている、KMFを持っていきたいところだが……………この手紙の内容では持っていっても乗れないか。

 

必要なものをいくつか見繕って、入らない分はあとで送ってもら…………戦地の直送便なんてないか、なら仕方ない。

 

「着替えと剣、あとは適当なサバイバルキットがあればなんとかなるだろう」

 

あとは…………あっ、そういえば移動手段が書かれてた気が。

 

「『皇帝専用列車へ搭乗……』………」

 

ジュリアス・キングスレイのポジションだったか…………。

 

そうだよなぁ、本来ならゼロが捕まってシャルルに記憶操作されてブリタニア軍の軍師としてユーロへ、っていう流れだしなあ。

 

全部ぶった切ったらこうなるわけか…………人物の性格が変わりすぎていることもあるのだろうな。

 

だがこれで少なくともルルーシュとスザク、あとユーフェミアもか、その3人への危険は減ったと考えて良いか。

 

あとは…………ジェレミアのほうか、どれくらいの進歩状況なのか気になるところだが、万全を期すために情報を遮断しているから動向がつかめない。

 

しかし、一度ジェレミアが攻勢を仕掛けたなら、その時点でマオは負けが決まる、キャンセラー持ちのジェレミアの思考は読むことができないからだ。

 

加えて、この件に関しては私とC.C.とジェレミアしか知らない、転生者であるクレアや本来狙われるはずのルルーシュたちには伝えていない。

 

ジェレミアがマオを街中で派手に殺そうが構わない、ただ、できればルルーシュとナナリーの記憶に気がつく前に始末してくれよ。

 

アッシュフォード学園で殺人事件なんざ面倒で嫌だしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラブハウスの一室、防音対策のされた部屋で私とC.C.の2人っきりになった。

 

「資料の方は?」

 

「選定しておいた、饗団のはこっち、それ以外はこっちだ」

 

C.C.の指差した方向には数枚の資料、もう一方には山積みの資料があった。

 

「……………饗団のはこれだけか?」

 

「あぁ、紙媒体ではそれだけだ」

 

「内容は?」

 

「人工ギアス実験の最新の記録、おそらく電子化する直前だったのだろう」

 

「ふぅん………」

 

数枚の資料を手に取って読んでみる。

 

「ほー……ふーん……結構色々やってるんだな」

 

資料には投薬や洗脳による刷り込みや、特殊な精神操作によってギアスを人工的に発現させ、そのギアスの効果、有効範囲、持続時間などを環境の違い毎にマメに書き連ねてあった。

 

「『試験体103:投薬により死亡、試験体104:投薬により死亡、試験体105:投薬により死亡………………………』ほとんど投薬で死んでるんだな」

 

「投与しているのは薬ではなく私の血液の模造品だからだろうな」

 

「なぜC.C.の血を?」

 

「偶然にも私の血で試験体に人工ギアスが発現したから、私の血がキーだとでも思ったんだろう、本当はただ契約しただけなんだが……………で、血液を元に構造が同じなだけの模造品を作って投与してるんだろう、効果なんて塵ほどもないのにな」

 

「なるほど………となるとわからない、どうやって人工ギアスを発現させているんだ?」

 

「人工ギアス…………と言うだけで実際にはV.V.や私が契約して発現したものがほとんどだ、ごく稀に特定の方法で人工的に作れるそうだが………私が教主だったころはそんな方法はなかったんだが………」

 

アニメでもどう言う原理で人工ギアスユーザーを量産しているのかは不鮮明だった、となると、C.C.とV.V.が各地の素質のある子供に契約をして回り、その子らを育ててロロのような暗殺者や諜報員を作り上げるのだろう。

 

とすると、すべてのギアスユーザーの処刑を目的にする私が取るべき行動は、トウキョウの地下から保護したあの少年少女含めた年端もいかぬ子供たちを1人残らず虐殺すること。

 

元を断つためなら、虐殺ラウンズの渾名だろうがなんだろうが受けてやるさ。

 

「まあいい、V.V.がいない今、ギアスユーザーの量産は停止状態と考えて相違ないだろう、本拠地がわかり次第叩く」

 

「お前の部隊でか?」

 

「単独で、だ………部隊員に子供たちを殺させるわけにもいかんだろう」

 

「それでお前はいいのか!?」

 

「良いも何も、ギアスは危険だ、それはマオの一件で承知のはずだぞC.C.、草を刈るだけではまた生えてくる、やるなら根っこを枯らさねばならん」

 

「お前の心の話をしているんだ!」

 

「……………今日はやけに熱血君じゃないか?ピザが足りんか?」

 

何か、おかしい、C.C.はこんな喚き散らすようなやつじゃ………。

 

「虐殺を行ってもお前はそれを一切気にも留めずにナナリーと過ごせるのか!?」

 

「っ!?C.C.お前何を」

 

「計画を止めると聞いて私は正直ホッとした、私にとってその他大勢が勝手に死ぬのはどうでもいいんだ………だがお前は違うはずだ!親しい人物が危険だとわかるとすぐに態度が変わる、落ち着きがなくなる」

 

「貴様………」

 

「なあツキト、お前は私を殺せるのか?」

 

「私が授かった力は、お前のコードを消滅させることができる能力だ、そんなこと容易い」

 

「そう、お前にとってコードを消滅させることは容易い、ギアスの根源はコードだ、だから私を殺せるかと言ったんだ」

 

「そんなもの…………」

 

「無関係だとでも?神に選ばれたお前が、私がこれまで契約してきた哀れで可哀想な、『私の子供たち』を、殺せるのか?」

 

「それ、は…………」

 

「ツキト、子供たちに罪は無い、何処か静かな場所で余生を過ごさせてやればいいじゃないか………時間はかかるが、ギアスはそこで途絶える、最後に私を殺してくれれば、もう二度と悪夢は起こらない」

 

C.C.の沈痛な表情、いつもからかうような性格のC.C.の隠れていた思い、それを見て、聞いてしまった私は……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

「また少し速くなったな」

 

「その!割に!余裕で!避けますよね!」

 

「痛いのは嫌だからな………ほれそこだ」

 

「あぃた…………うぅ」

 

うぅ…………また避けられたところに貰った………。

 

「攻めのスタイルは良い、あとは引き際だな」

 

「熱くなっちゃうと、つい攻めることしか頭に浮かばなくて」

 

「私もそうだった、だが引くことを覚えると体力の温存になる、ここばかりは感覚しかないな」

 

そして『突っ込んで消耗してやられるのはただの馬鹿だしな』なんて辛辣なことを言うツキトさんですが、たくさんの兵士さんを部下に持つ上の人らしい心配のようでした。

 

「ツキトさん、本当に行っちゃうんですか?」

 

「あぁ、仕事だからな」

 

「そう、ですか………」

 

ツキトさんは、名前を変えて、貴族位も捨てて、私とお兄様のために仕えたいと、国営放送で言ってくれました。

 

ラウンズのお仕事をしながら政庁にいるコーネリア姉様とユフィ姉様のお手伝い、同時に私とお兄様が見つからないように手を尽くしてくれている。

 

今の私とお兄様には、当然皇族としての権威はありません、それでもツキトさんは私たちのために身を粉にして頑張ってくれている。

 

私も、ツキトさんの負担を減らさなくてはいけませんね!

 

「ツキトさん!」

 

「ん?」

 

汗を拭きながらこっちに顔を向けてくれるツキトさん。

 

「私もお兄様も大丈夫ですので、何も心配せず安心してユーロへ向かってください」

 

「…………そうか」

 

ツキトさんは小さく息を吐くと。

 

「なら私は、なんの憂いなく仕事をこなし、図々しくも五体満足で帰ってくるとしよう」

 

胸に手を当てて自信満々に言い放つツキトさん。

 

「それでは、向こうに行くまではしないってことで良いな?」

 

「え!?それはダメです!します!何回でもします!」

 

「ふふふっ、そんな大声を出してはしたないぞ?」

 

「〜〜〜〜!んもう!ツキトさんのイジワル!」

 

「ははははは、もう貴族として振舞わなくていいと思うと気が楽でな?イジワルのひとつくらいしてみたくなった」

 

清々しくそう言い切ったツキトさんの横顔は、憑き物が取れたようなスッキリした顔でした。

 

そんなかっこいい顔されたら、怒れないじゃ無いですか…………もう////

 

「と、いうわけでだ…………今夜、空いてる?」

 

「は………はぃ……//////」

 

か、顔が熱ぃ………………積極的に誘ってくるツキトさん、いい、すごくいいです…………。

 

「ふふっ、かわいいよナナリー、すごくかわいいよ」ボソボソ

 

「ふわぁぁぁぁぁあん///////」ゾクゾク

 

ツキト………さん……………。

 

「今夜は寝れると思わないでね?」

 

「あっ……あぁ…………ひゃい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

「………お前ちゃんと洗ったか?臭いぞ」

 

「うるさい、ヤリ終わった後にいきなり呼ぶお前が悪い」

 

「くくく、余韻を邪魔して悪かったな」

 

ユーロに行く前にナナリーとできるのは今日くらいだし、結構本気でやったんでクタクタだというのにこのアマ………。

 

「そんな事よりも、特務士官からのビックニュースだ」

 

C.C.が投げてきたのは一枚の報告書。

 

「…………やったのか」

 

「お前の言う通り、キャンセラーが有効だったようだ」

 

「キャンセラー持ちと正面切っての戦いはギアスユーザーにとっては死刑宣告もいいところだしな」

 

報告書の内容は、いつの間にやら入国してきたマオを一度泳がせた後暗殺した、と書かれたジェレミアの直筆の報告書だった。

 

「それで、マオは本当に死んだのか?」

 

「あぁ、Cの世界を通じてマオが死んだことがわかった」

 

「なるほど………しかし予想以上の成果だ、このままユーロへ同行してもらって護衛をしてもらうのも良いかもな」

 

「仕事を探してるみたいだったし、誘ってみるといいんじゃないか?」

 

「そうだな…………さて、C.C.、これから忙しくなるぞ」

 

「私はC.C.だ、お前の忙しいなんてのは屁でも無い」

 

ふふん、と笑って返してみせるC.C.、ふっ、いい女だ。

 

「さっそくだが、明日ルルーシュ様に例の件を頼んでみよう、ルルーシュ様のことだからその日までにやるだろうから、夜にでも成否について聞いておいてくれ」

 

「お前は聞かんのか?」

 

「私は政庁で少し動くからな、それで、成功していたならアッシュフォード家のバックに私がついているという情報を広げてくれ、興味本位でネットサーフィンするガキにも見つけられる程度に、な」

 

「……………なるほど、お前の言いたいことがわかったぞ」

 

「御名答、さすがはC.C.といったところか…………私が言うのもなんだが、日本人の大半には信用されている自信がある、そんな私がアッシュフォード家を支援するという情報が入ったら…………」

 

「日本エリア中の企業はアッシュフォード家に取り入ろうとする、気を良くしたアッシュフォード家はよりお前と密接になろうとする、アールストレイム家などのデカイ貴族は邪魔しようとするだろう………」

 

C.C.が私の言葉に続けて言う。

 

「邪魔しにくるのはユーロ派遣が終わって1、2年経って安定してくる頃、頭がいい奴なら安定しきる前に潰したい、しかし私が出張れば工作は不可能になる、何故なら………」

 

「「その時にはすでに枢機卿だから」」

 

顔を見合わせて笑い合う。

 

「はははははっ、この下衆め、悪魔め」

 

「ふふふふふ、もっと言っていいぞ?気持ちがいいくらいだ………」

 

「あーー………先手を封じて意のままに操る、つくづくお前は軍人、軍師向けだな」

 

「大将じゃなくて、その軍師か、なるほどたしかに、私は使われる方が能力を発揮しやすいのかもな」

 

「事実ナナリーに尻に敷かれてるしな」

 

「今日は上だったぞ」

 

「そういうのはいい!この変態が!」

 

「はっはっは!どうだ?C.C.もヤッてみるか?」

 

「私とお前はそんな仲じゃないだろう?」

 

「違いない、私たちは共犯、死が2人を分かつまで…………罪に溺れるだけさ」

 

「………ヤッたあとのお前は気持ち悪いくらいロマンチストでキモいな」

 

「おい、今のでは意味が二重になってるぞ、というかキモくない断じてキモくない」

 

減らず口の足らないC.C.としばらく言い合った。

 

時計の針は午前2時を指していた。

 



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『棺桶』と『少女』

ユーロピア行って、シコれ。


noside

 

 

「あー、ロイドか?夜遅くにすまんな……………ランスロットの調整中だったか、なら良い、ところで私が頼んだブツは?…………………そうか、感謝する、ん?………いや、ちょっとした余興に私の数ヶ月の特訓の成果と、お前の作った技術の素晴らしさを世に知らしめてやろうと、思ってな…………………あぁ、両方とも頼む、なに?名前?うーむ……………双子なんだし、童話からとって…………なかなか良いだろう?じゃあ切る……………わかってるさ、しっかりデータは送るさ、では、おやすみ」

 

これは皇帝専用列車に登場する数日前の深夜の出来事………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

「…………」

 

皇帝専用車両………豪華な装飾が施され、乗車している者に不快感を与えないよう計算された速度とカーブ、快適なベッドやサービスも充実したまさに線路上を走るホテル。

 

「…………」

 

いや、線路上を走るラブホテルのほうがあっているか?とてつもなく下品な渾名だが、皇帝陛下ならここでもヤリかねない。

 

さて、豪華絢爛、地上を疾走する豪華客船に乗り込んだ私の感想だが。

 

「暇だ」

 

テレビもビデオデッキもない部屋にイライラしていた。

 

皇帝専用列車とは名ばかりなのか、陛下が乗った時に備えて娯楽の品を用意しておくものだと思ったが………。

 

それともあれか、どうせ陛下はSEXしかしないから、ベッド周りを快適にしてやればいいだろう、とでも思ったのだろうか?

 

まあ、100人近い皇妃がいるわけだしな、そう思うのも無理ない。

 

しかしだ、今回乗るのは私なんだぞ?あれか?向こうに着くまでルームサービスの女でも抱いてろってか?フザケンナコロスゾ。

 

あぁそうそう、持ってきた荷物の中にはマリアンヌの剣も入ってるんだ。

 

この剣、ヴィ家とアールストレイム家との関係をより強固にするための取引材料的な、もしくは儀式的に貸し与えるもので、返還かアーニャに渡すかが妥当な線だと思ってたんだが…………。

 

マリアンヌ直々に『あなたにあげるわ♡(は〜と)』と、(は〜と)のところまでしっかり声に出して言われたために持っている、正直な話しこのセリフを言っているときのマリアンヌは人妻とは思えないほど可愛かった…………ナナリーも将来マリアンヌ以上に可愛くなるとか反則だろう。

 

教科書にのってるマリアンヌの写真が初恋の男は多いと思う、私なんて本人見て今世の初恋だったしな。

 

話しがそれたか、それで実質的にマリアンヌの剣の所有権が私に移ったわけで、でもこの剣で人を切るわけでもないのになぜ持ってきているのか?それを言いたかったのだ。

 

簡潔に言うと、権力を示しやすいからだ、これを持っているだけで私のバックに皇帝陛下と特別親しい仲である第五皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアがいることを証明できる、しかも貸し与えられたのではなく貰ったのだから、マリアンヌのツキト・カーライル個人への信頼は大きいものだと相手に思わせることができる。

 

マリアンヌの影響力はブリタニア国内外問わず人気だ、容姿や剣の才、血塗れのシンデレラストーリーと現役引退後の暗殺未遂事件など、多くの人々の様々な感情の視線を思いのままだ。

 

いざとなれば、マリアンヌの剣を持ってマリアンヌの威光を使わせてもらおうという算段だ。

 

説明しててなんだが、これではただの小者だな、実際小者だししょうがない。

 

『カーライル様、間も無く到着いたします』

 

乗客は私しかいないため名指しでアナウンスが入る。

 

荷物は兵が持っていくだろう、私は少し身だしなみを整えていくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

noside

 

 

「本当なのか?皇帝専用列車にラウンズが乗ってくるって話」

 

「大マジだ、元アールストレイム家のお坊ちゃん、ツキト・カーライル様が来るんだと」

 

「俺たちの代わりに戦ってくれねえかなぁ」

 

「専用のKMFを持って来てねえから、ただの視察じゃねえの?」

 

「なあなあ、カーライルってマジで男?女?」

 

「男だろうがよ、じゃなきゃユーフェミア様がレズビアンってことになんだろ」

 

特設の駅の内部では出迎えの兵が並び、列車の到着まで当人のツキトについてだべっていた。

 

「到着まで、あと10分!」

 

「よし、おい!くれぐれも失礼のないようにな!」

 

「了解っす中隊長」

 

「っ!…………皇帝陛下専用列車、来ます!」

 

兵の1人が指差し叫ぶ、指差した方向にはヘッドライトを付けて駅に向かって走って来る巨大な列車。

 

「せいれーーーーーつ!!」

 

列車は徐々に減速し始め、規定の線の場所に合わせて停止し、扉が開かれる。

 

「剣抜け!」

 

「「「「「ハッ!」」」」」

 

伝統と格式を重んじるユーロ・ブリタニアらしい、抜刀した剣によるアーチ、重要人物の出迎えは豪華なものだが、ユーロピアとの戦争中のためある程度省略されている。

 

だがそれでも本国からの重要人物に他ならぬツキトのためにと、出来る限り多数の士官を集め、なんと30組60人にも及ぶ出迎えの剣のアーチが完成した。

 

「…………………」

 

列車から降りたツキトは驚いた顔で硬直した、まさか自分がこれほどまでに手厚い出迎えを受けることができるとは思わなかったからだ。

 

「本国からよくぞおいでになられました、我らユーロ・ブリタニア軍一同、感謝の意を表します」

 

「ナイトオブラウンズ、『呪いの13番』、ツキト・カーライル、諸君の盛大なる歓迎に、感動を抑えきれない」

 

「そう言っていただけると幸いです」

 

「改めて諸君に言おう、私のために貴重な時間をかけてくれてありがとう、諸君に皇帝陛下と神の加護があらんことを」

 

剣のアーチの中を話しながら歩くツキトと指揮官の男、その後ろから台車に乗せた棺桶が2つ付いて来る。

 

「カーライル様、あの棺はいったい………」

 

「ん?あぁ、あれか………」

 

剣のアーチを抜けた所で棺桶について聞く指揮官の男、立ち止まったツキトは棺桶の表面を撫でる。

 

「…………君たちにも、人に言えないような秘密があるだろう?」

 

「え、えぇ」

 

「この棺桶が、私にとってのソレだ、あまり深く詮索しないでくれると、助かるのだが…………ね?」

 

ニヤァァ……っと気味の悪い笑みを浮かべて棺桶に肘をつき、表面を撫でるツキトの姿に、不気味な妖艶さと危険さを感じ後退りする指揮官の男。

 

やがてツキトは棺桶を撫でるのを止め、不気味な笑みを浮かべたまま只ならぬ気配を纏い、柄頭に左手を載せて指揮官の男を見上げる。

 

「わかってくれたかなぁ?」

 

「い、イエス!マイロード!」

 

指揮官の男はそういうしかなかった、それ以外の言葉を発すれば、ツキトの腰に引き下げられた宝剣……………マリアンヌの使っていた二対の剣の片割れに、瞬きすら許されず斬り殺されるサマを幻視したからだ。

 

「よろしい…………おい、しっかり運べ」

 

「「ハッ!」」

 

歩いて行くツキトの背中に、そこにいた誰もがドロリとした気味の悪さを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

ふう、なんとか押し通せたか。

 

この棺桶の中身だけは、まだ知られるわけにはいかない。

 

私にとって武器であり、ロイドにとっては新兵器の新しい使い方の実証になる物、壊されても困る。

 

…………という考えで棺桶に入れてきたわけだが、余計に怪しまれてしまったか。

 

しかし、重量とサイズから棺桶以外に入りそうなものもなかったし、コンテナに入れて行くのは戸惑うものがあったし………。

 

もう今更だ、腹をくくろう。

 

………………しかし、棺桶と同じ部屋で寝泊りしろというのは新手のイジメか?

 

いや詮索するなとは言ったが、せめて棺桶の形をしてるんだから霊安室くらい………いやもういいや。

 

いざとなった時は棺桶に近い方が自衛になるだろう。

 

「しかしなんだ、あれだ………疲れた」

 

今日はもう寝よう、時間も10時を回っている、駅周辺を軽く視察して、2日後に前線に移動する予定だ。

 

早く寝て、明日に備えることにしよう。

 

パジャマに着替えて備え付けのベッドに倒れこむ。

 

「あぁぁぁぁ…………」

 

みっともない溜息が出るが、そんなことを意識するいとまもなく、意識が遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視察は順調に終わり、報告書をトレーラーの中で書いていた。

 

そう、前線行きのトレーラーの中で、だ。

 

視察のあとゆっくりと熟睡できたものの、まだ午前5時、眠気が残る中走るペンは遅い。

 

揺れる机に突っ伏して眠気と格闘しつつの報告書の執筆はとても順調とは言えるものではなかったが、書き終えた後の清々しい気分は最高だった。

 

午前6時、あと3時間で目的地に到着する、到着した後はユーロ・ブリタニアの長どもとの顔合わせ、あとは独自の4つの騎士団長とも少し話して、ランチをとったら夜は貴族の諸侯を集めて盛大なパーティー。

 

別にパーティーなどせんでもいいだろう、知ってるか?パーティーをよく開いていた貴族は家ごと爆撃されるんだ、何故なら夜でも屋敷が明るくて見やすいからだ。

 

今世の世界では貴族がバカなせいで戦時下でも夜にパーティーを開けるのだろうな、まったくつき合わされる方の身にも…………パーティーは参加しないことを言っておけばいいか。

 

尊大で臆病な私のキャラ的に、『爆撃機が怖いから』とでも言えばむこうも納得するだろう。

 

はあ、政治ってマァジめんどくせえ………おっと、失礼。

 

ん?トレーラーが止まったな、もう到着か、早いな、もっと渋滞してるものかと思ったが。

 

「カーライル様、到着いたしました」

 

「わかった、カバンを頼む、棺桶のほうは乗せたままでいい」

 

「ハッ!」

 

兵がカバンを持たせトレーラーから降りるのを確認する。

 

一応、ここからは先は危険地帯になる、起動しておくか…………よし、起動確認、駆動音も問題ない。

 

トレーラーから降りて大層な建物に入ると、むさいおっさんやらヒゲのじじいやらが並んで座っていた。

 

目の前に出ると書状を取り出した。

 

「『神聖ブリタニア帝国、ナイトオブラウンズ13番、ツキト・カーライル………偉大なる皇帝陛下の名において、以上の者をユーロ・ブリタニア軍の侵攻を支援に命ずる』…………以上だ、諸君の陛下への忠誠を示せ」

 

読み上げてからそれぞれに適当な挨拶をして全員でランチ、出てきた料理は鶏肉料理だった、まあ油でギトギトのものが出てきても困るし、量も手頃で丁度いい、変に高級肉なんて食っても正直感想が言いづらいしな。

 

あっ、ちゃんとパーティーには出ないことを言ったぞ、睨まれたが仕方ない、爆撃は怖いんでね。

 

与えられた部屋のベッドに寝転び、部屋を見渡す、クローゼットが置いてあり窓が付いている、あとは旅行カバンと仕事用の防弾カバン、そして棺桶が2つ。

 

部屋の広さ的に霊安室だなこれは。

 

立ち上がって片方の棺桶を開ける。

 

蓋をズラしたところで、思わず口角が釣り上がる。

 

そこには、MVS・Cを抱いて眠る少女がいた。




なんだこの棺桶の中身は!?少女を閉じ込めるなんて犯罪じゃないか、たまげたなぁ………(棒読み)


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『プロパガンダ放送』

ツキト・カーライル
特技:洗脳


ツキトside

 

 

「うっ……くぅ………」

 

ユーロピア寒すぎだろう…………今何時だ?4時……4時!?まさか暖房止まって…………あー、そういや暖房ないんだったな。

 

まだ早い時間だが……着替えておくか。

 

まず防寒用の下着を着込んで、ブリタニア軍の正規の軍服を着て、ブーツを履いて、軍帽を被れば完了、あとは長い髪をポニーテールにでもしておけば邪魔にならない。

 

かっこいいデザインなんだが、軍服の胸部分に輝く、地獄行きを告げる勲章が嫌味ったらしいったらない、もらったら名誉ではある、だがもらったものから死んでいくという不名誉な噂を聞いていなかったなら、私も喜んでいただろう。

 

ブラウン・ベルトを巻いて士官用の銃をホルスターに収める、サーベルを反対方向に帯刀して装備は完了。

 

部屋から出る前に棺桶を一瞥し、部屋を出る、私の部屋は軍内部で言う将校であるため、ここ、野戦キャンプのような場所ではテントよりも多少なり暖かい内装の簡易コンテナを与えられる。

 

まあ、テント内で寝袋で眠る兵たちと比べれば、十分過ぎるとも言える。

 

まだ起床時間には早いこともあり、番兵を残してテントの中の兵は皆寝ているようだ。

 

静まり返ったテントの集落の中心を歩いていき、KMFの格納庫に着く、見事に第四世代グラスゴーと第五世代サザーランドばかり、特殊な装備は見当たらない。

 

よく整備の行き届いているところを見るに、ユーロ・ブリタニアの士気や整備技術はかなり大きいようだ、老兵までも戦力として数えているから当然かもしれんが。

 

ユーロピア、ユーロ・ブリタニア共に疲弊しているとはいえ、ユーロピアは兵器の絶対数が足りない状況に対し、ユーロ・ブリタニアは圧倒的な人材不足だ、生産力で勝負すれば人材豊富なユーロピアに圧されるのは明白だ。

 

だがユーロピアはユーロ・ブリタニアにくらべて軍師の数が足りないのか、下手な指揮戦争当初は豊富にあった武器を喪失して現在の状況にあるのだとか。

 

逆にユーロ・ブリタニアはユーロピアにくらべて兵が足りず、ひとつの戦線に投入できる兵数が向こうの数分の一程度となってしまうのが痛いところ。

 

正直言って、本国から本腰の入った大々的な支援でもなければ、ユーロ・ブリタニアは勝利できないだろう。

 

最前線のキャンプに滞在中にそのような内容のレポートを纏めて本国に送る予定だ、もう書いてはあるため後は送るだけだ、しかし、この前線から海を越えて本国まで送り届けるのは伝令兵はあと数日は戻って来ない、それまではカバンの奥に入れて置くだけになってしまうな。

 

「ん?…………」

 

今、向こうで何か動いたような………。

 

「そこの君」

 

「はっ、なんでありましょうか?」

 

「あっちの方向に友軍の部隊はいるか?」

 

「向こうですと…………いえ、特にはないと思われます」

 

友軍の兵には知らされないような秘密行動中か、それとも敵の斥候か、もしくは本隊。

 

持ち運びの小型通信機のスイッチを入れる。

 

「カーライルだ、至急偵察隊を北西方向に送れ」

 

『イエス、マイロード』

 

通信機をきる、さて、味方なら良い、しかし敵の部隊なら規模によっては追撃、もしくは増援の要請と足止めか。

 

しかし目視出来た数だけならばKMFが10機程度、中隊規模の数だ、ならば我々でも叩ける。

 

不安要素があるというならば、大規模補充によって新兵しかいないということ。

 

できれば無駄な損失は出したくないから大隊規模以上の敵部隊ならば応援を、中隊規模で五分五分、小隊規模は精鋭部隊の可能性もあるため一先ずは様子見が良いだろう。

 

ま、偵察隊が情報を持ってくるまで時間はあるんだ、敵KMFのデータとその戦術は頭に入っているが、もっとたくさんのデータが必要だな。

 

何せ、敵KMFと戦闘して生き残った兵は皆口を揃えて『みんな突っ込んで来て自爆する』と言うのだから。

 

ユーロピアが日本のカミカゼを模写するとはな、たしかに、生産力に物を言わせてKMF型のドローンを突っ込ませているんだろうが、それも長続きは…………。

 

『カーライル様!敵はKMF!数は20から30!』

 

唐突に入ってきた無線通信、それは偵察隊の状況が絶望的であることを示していた。

 

「全力で逃げろ!そこのお前!アラーム鳴らせ!KMF隊は準備出来次第出撃!」

 

「ハッ!KMF隊出撃準備!繰り返す!KMF隊出撃準備!」

 

間髪入れずに指示を飛ばす、兵のほとんどが新兵とはいえ数分もあればKMFに乗り込めるはずだ。

 

チッ!嫌な予感が当たってしまうとはっ!持ってくれよ!

 

『T19からU30へ向け逃走中!敵KMF全機追って来ます!』

 

U30地点は………くそっ!遠すぎる!グラスゴーでは間に合わん!

 

「全力でキャンプに向かえ!」

 

『しかし!それではキャンプの兵が!』

 

「カーライル様!出撃準備完了です!」

 

「よし!聞こえたか偵察兵!同志の迎撃の準備は完了だ!全速で来い!」

 

『はい!!ありがとうございます!!』

 

礼を言うのが早すぎだぞ、まったく………。

 

戦意高揚のため、近くの兵からスピーカーを奪い取り叫ぶ。

 

「ユーロ・ブリタニア軍の同志諸君!北西方向より我らが同志が敵を誘い出すのに成功した!数はKMFが30!これを打倒しなければ、後方の同志も、決死の囮を買って出た同志も死ぬ!同志を救え!各員全力出撃!敵を殲滅しろ!」

 

ゴッホ!………喉痛い………。

 

あ〜〜………才能というかスキルというか、便利なんだがいかんせんヤリスギ感あるな。

 

「行くぞ野郎共!ユーロピアの腰抜けに、ブリタニア魂見せてやれ!」

 

「「「「おおおおおおおおお!!」」」」

 

「正面から迎え撃つ!俺に続けええええええええ!!!!」

 

戦意高揚のバフかけるとやる気が全然違うんだな、うん、これは良い実験なったな。

 

グラスゴー、サザーランド混成のKMF隊20機が出撃、数だけならば負けてるな、士気は雲泥の差だろうな。

 

敵も、まさかこんなところにキャンプがあって、偵察隊が馬鹿正直にキャンプに向かってて、まさか正面から迎撃されるなんて毛頭思ってないだろうし。

 

多分勝っただろう…………だがやはり練度は見ておきたい。

 

「そこの君、使えるKMFはあるか?」

 

「ハッ!すべて整備されており、追撃部隊の出撃準備も完了しています!」

 

威勢の良い整備兵の返事と用意周到さに満足、あぁ、やはり腕が良いなここの整備兵は、もう見た目でわかる。

 

「よろしい、では、どれでも良いから一機選んで装甲を出来るだけ外せ、そしたらカメラとスピーカーをありったけ取りつけろ」

 

「ハッ!?なぜ………」

 

「3分だ、やれ」

 

「は、ハッ!おいお前ら聞いたな?急げ!」

 

「チャチャっとやるぞ!」

 

少し酷だがキツイ口調で押し切る、すまんな、どうしても必要なんだ。

 

選んだのはグラスゴーのようだな、重要な部品が剥き出しにならない程度に最低限の装甲を残して外し始める。

 

そして………。

 

「装甲板外しました!」

 

「カメラ、スピーカー共に取り付け完了!」

 

「装置、全て正常に作動中!行けます!」

 

「2:48…………素晴らしい!帰ってきたら私の持ってきた酒をありったけ飲ませてやる!」

 

叫んでグラスゴーに飛び乗り、ランドスピナーを始動させる。

 

「マルドゥック中佐!」

 

「は、はい!」

 

気の弱い、だが人の良い臨時副官マルドゥック中佐を呼びつける。

 

「私が不在の間、貴官に指揮権を預ける!」

 

「え、えぇ!?」

 

驚いた顔を尻目に、グラスゴーは走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

noside

 

 

ユーロピア共和国連合軍に所属するとあるKMF部隊、その隊長は愛機『アレクサンダ』を駆り、30機のアレクサンダによる中隊を率いて作戦行動中であった。

 

目標は、ユーロ・ブリタニア軍前線の後方陣地に対する強襲攻撃。

 

広い平原をアレクサンダの特徴である四足歩行によって高速移動中、あろうことか敵の偵察兵に見られてしまった。

 

すでに情報は送られてしまっているだろう、すぐに自分たちめがけ砲弾とKMF部隊が迫ってくるに違いない。

 

だが、すぐに始末すれば詳細な位置はわからないはず、隊長はKMF全機でもって早急な排除を命じた。

 

この判断は正しいと言えよう、だが誤算があった。

 

ひとつめは、偵察兵の乗るハンヴィーがリニアライフル30門の掃射をことごとく避けてしまうこと。

 

ふたつめは、新兵が多かったために静止が利かず、逃げるハンヴィーに固執してしまったこと。

 

みっつめに、引き時を見誤ってしまい、見えざる敵の正面からの攻撃を察知できなかったこと。

 

『うぎゃあああああ!!』

『がああああ!?』

『ぜ、前方より、てkぎゃああっ!!』

『た、隊長おおおおおお!?』

『嫌だ!嫌だ!嫌だぁああああああ!!』

 

そのみっつの原因が、ハンヴィーに固執して接近し過ぎていたKMF8機が穴だらけになる結果を生んだ。

 

22機にまで一気に減ったアレクサンダ中隊は、前方からの斉射でさらに数を減らす。

 

狙いの定まっていない57mmアサルトライフル20門の一斉発射、マガジンが空になる勢いでばら撒かれた57mmの徹甲榴弾は、アレクサンダの薄い装甲を貫き、信管が作動して榴弾の炸裂効果で爆散していく。

 

斉射のあと残ったのはたったの6機、即座に反撃もできず、奇襲する側が逆に奇襲を受け、中隊規模のアレクサンダを一方的に損失、小隊規模がせいぜいという数にまで減ってしまったのだ。

 

ここまで一方的であればもはや隊長も冷静にはいられない、血が上った頭で考えられるのは、突撃くらいのもの、しかし、指揮官としての意地もある、ここは撤退し情報を持ち帰って味方に知らせる方が得策。

 

幸いにも、数キロ下がれば無線通信がギリギリ入る、ブリタニア軍の精鋭部隊が攻めて来たと言えば、応援も期待できるはず。

 

うまく増援と共同で撃退できれば今回の24機のアレクサンダの損失の責を問われる可能性も低くなる。

 

むしろ、精鋭部隊相手に奮戦した、と栄誉を受けられるかもしれない。

 

と、保身を全力で考える中隊の隊長であった。

 

回れ右して引き返そうとしたその時、振り向いた先からスラッシュハーケンが飛んできた、隊長機の頭部と胸部を貫いて、隊長は絶命した。

 

残った5機は碌な反撃もできずに牽制しつつ後退、しかし多勢に無勢で撃破され、晴れてアレクサンダ30機の殲滅が終了した。

 

数十分後、オープン回線にてブリタニアの国歌が流れ始めた、ユーロ・ブリタニア軍のユーロピアの国民へ向けたプロパガンダ放送だ。

 

『同志諸君!我らがユーロ・ブリタニア軍は、KMF30機と交戦し殲滅した、損失はゼロ!繰り返す、損失はゼロ!』

 

オープン回線から飛び出すユーロ・ブリタニア軍の戦果報告。

 

『ユーロピア共和国連合とユーロ・ブリタニアの最前線!ユーロピアの新鋭のKMFが30機に対し我が軍のKMFは旧式が20機!絶望的な状況を、KMF隊指揮官の巧みな戦術と士気旺盛にして優秀な同志の諸君によって、被弾を許すことなく全機撃破!!』

 

ユーロピアの国民に動揺が走る、今までの戦果報告とプロパガンダを繰り返してきたユーロ・ブリタニアであったが、今回の放送はいつもと違うのを感じ取った。

 

『ユーロピアに隠れて住まう同志諸君!立ち上がるのだ!今こそ、腐った共和国連合に、裁きの鉄槌を下す時なのだ!我らユーロ・ブリタニア軍は、同じ思想を持つ同志を歓迎しよう!オール・ハイル・ブリタニア!』

 

数日後、ユーロピア共和国連合国内において発電所などの重要施設が同時多発的に襲われる事態が起こった。




作者「すっごーい!君は敵も味方も洗脳して思いのままに操るドクズなフレンズなんだね!」
ツキト「バス投げんぞゴラ」
作者「すんません」


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『民間人』の『保護』は半ば『義務』

幼女戦記面白いですね

あと亡国のアキト、正直戦闘シーン以外はそんなに……あとKMFの性能もどう考えてもおかしい………。




ツキトside

 

 

ユーロピア共和国連合国内でなぜか過激な反戦運動やテロが起こりつつあるなか、私はあの前線キャンプを離れ、1人と棺桶を連れてアシュレイ・アシュラ率いる騎士団員と共にとある地方の都市に来ていた。

 

もちろん観光ではなく、制圧のために。

 

グロースターソードマン、両脇にヒートソードを一本ずつで二本標準装備するユーロ・ブリタニア軍の中でもエースに分類されるグロースターの近接特化カスタムのKMF。

 

これを先日3機受領し、搭乗して街中を悠々と移動中だ。

 

『アシュレイ・アシュラだ、よろしく頼むぜぇ、ラウンズさんよ!』

 

「ツキト・カーライル、私の部下共々よろしく頼む」

 

赤いグロースターソードマンに乗るのはアシュレイ・アシュラ、アシュレイ隊の隊長でKMFの操縦もかなりのものと聞く。

 

好戦的過ぎる面を除けば、なかなか扱い易い奴なのだが、一度キレたら言うこと聞かなそうだし、なるほど近づかないのが吉か。

 

『おうよ!………しかしその部下、なぁんも喋らねえな』

 

「申し訳ないが、彼女たちは喋れないのだ、腕は確かで私の命令には忠実だから心配せずとも良い」

 

『へえ〜?んでも見た目はかーなーりー良かったし、どこで見つけたんだぁ?あんなとびっきりの上玉』

 

『アシュレイ様、下品ですよ』

 

『いいじゃねえかよ、お前らも気になるだろ?無口でとびっきりの美人が2人、どこかしらんがいきなり降って湧いて来やがったんだ………どうなんだ?カーライルさんよ』

 

意外と頭は回るんだな………。

 

「ふむ………正直に話そうか」

 

よし、正直に嘘つくか。

 

『おぉ!?そうこなくっちゃぁな!』

 

やけに元気な奴だな。

 

「彼女たちは人間ではない、顔だけ人間そっくりの戦闘用ドローンだ」

 

『あれでか!?マジモンの女だと思ってたんだが………』

 

意外とあっさり信じたな、まあ実際はそんなに安っぽいもんじゃないが。

 

「今はまだ無表情だが、いずれは表情を変えられるようにし、体つきもより女性的にした戦闘用アンドロイドを作り、世界中にばら撒いて要人暗殺などの任務に就かせるのだ」

 

『やべえもん作ってんだな…………ドローンっつってたが、大丈夫なのか?足引っ張りやしねえよな?』

 

「戦闘データをシコタマ詰め込んである、最新の学習装置もつけてある、KMFの操作はそこらの兵よりうまい、もしかしたら、そっちの部下よりも強いかも………な」

 

これは本当だ、ある程度の自律行動にはパターン化した行動が必要だからな。

 

『大したもんだぜ、戦力としては期待して良いわけだな?』

 

「あぁ、だがベッドの相手は期待するな、まだ穴はないんだ」

 

『人形とヤル趣味はねえよ!』

 

面白いやつだな、アシュレイという男は、近づいたら危ないと警鐘がなってるから迂闊に接触はしないがな。

 

「それを聞いて安心した…………むっ」

 

何か………くる。

 

『どうしたんだカーライル?』

 

「…………敵だ、KMFが15機ほど」

 

『………マジみてえだな』

 

しかし熱源反応がおかしい………もしや!

 

「………訂正する、KMFは4機、残りはドローンだ、近いぞ!全機全周警戒!」

 

『ちっ、面倒なことしてくれやがる…………だがまあ敵がいんならそれでいい!みんなまとめてぶった切ってやらあ!』

 

好戦的だなぁ…………まあ、楽できるから良いか。

 

「アシュラ卿とアシュレイ隊は先行してくれ、私たちは他に反応が無いか周囲を索敵する」

 

『急がねえと食っちまうからなあ!』

 

「そうか?4機程度、私なら3分もかからんぞ?急いで向かったほうがいいんじゃないか?」

 

『言ってくれるぜ…………お前らしっかり着いて来いよ!』ギャリリリリ!

 

『アシュレイ様!?………皆いくぞ!』ギャリリリリ!

 

『『了解!』』ギャリリリリ!

 

アシュレイ隊が先行するのを見送り、近くの路地で停止し、通信を遮断してKMFを降りる。

 

「ヘンゼル、グレーテル、準備はいいな?」

 

ヘンゼル、グレーテルと呼ばれた2人の少女、その見た目はほとんど同じ、蒼い目と銀髪の私と同じくらいの背丈の女の子を想定した造形だ。

 

「「はい」」

 

しっかりと返事を返すヘンゼルとグレーテル、うむ、感度は良好のようだ。

 

「戦闘は私とリンクして行う、学習装置を起動させておけ」

 

「「はい」」

 

「ではリンクする、来い」

 

2人と手を重ねる、リンクすると言っても難しいわけではない。

 

ガウェイン・アンジェラのインコムと同じ感応波でヘンゼルとグレーテルは私とリンクできる。

 

リンクするとしないとでは単独行動時に差が出る、リンクしない場合は無口無表情で機械的であるが、リンクした場合は表情豊かでよく喋るし戦闘能力も上がる。

 

基本はコンピュータによる計算で戦闘は行われるが、私とリンクした場合にのみ限って、私と完全に同期させられる。

 

つまり、私と同じ思考、実力を持った者が3人に増えるということ、加えて同期中ならば行動にも介入出来る、理論上コンビネーションは完璧だ。

 

「………ん、ん〜〜……リンク成功よ」

 

「ふぅ………やっぱりちょっとだるいわ……」

 

まあ弱点が無いわけがなく、私の特性がそのまま引き継がれるため、悪い部分も引き継いでしまうことだ。

 

「さーてと、さっさと掃除しちゃいましょ?」

 

「そうだが、学習装置の起動はいいか?」

 

「ん〜〜………問題、なーし!」

 

ヘンゼルは私のおちゃらけたキャラを少し強調されてしまう、まあ碧眼銀髪で付き合いやすいキャラクター性は嫌いじゃ無いから別にいい。

 

「早く寝たいんですけど………ってかまた寝てないでしょ?オリジナルはナナリーちゃんがいないとまともに睡眠も………」

 

「学習装置の起動は?」食い気味

 

「無視っすか………起動よし……ふぁぁ………」

 

しかしグレーテルは問題児だった、私のやる気のない部分と寝不足(基本的にナナリーの膝でしか熟睡できない)の部分が強調される、常にだるいだるい言ってて少しウザい。

 

しかしどちらもKMFの腕は腐っても私と理論上ほぼ同等である、それになんだかんだ言いつつ指示はちゃんと聞くし、同期中の行動への介入も抵抗が無い。

 

これだけのスペックを確保するためにコストが馬鹿にならないこと、私以外ではリンクや思考の同調が出来ないという、欠点しかないドローン(アンドロイドと呼ぶべきだが、戦闘用のためドローンと呼ぶ)ではあるが、物は使いようだろう。

 

貴重だから、と言って使わずに誇りをかぶせるようではいけない、ブリタニアにそんな余裕はないのだ。

 

「よし、ヘンゼルとグレーテルはKMFに乗り込んで広域索敵だ」

 

「はいはーい、じゃああたしこっちの方から回るね」

 

「んじゃあたしはこっちからグルっていくわ……あー腰痛」

 

「あぁそうだ、共感覚で情報共有を忘れるなよ…………あとグレーテル、腰痛の感覚を共有させるなよ」

 

「わーってますぅー」

 

面倒臭そうに顔を歪めて返事を返すグレーテル。

 

………………ナナリーもこんな風に反抗期になる日が来るのだろうか?

 

「日本エリアに帰ったらロイドに部品交換してもらうことになるから、それまで我慢しろ」

 

「ちょっと待ってオリジナル!あたし達に男に裸見せろっていうの!?」

 

「別にいいじゃんヘンゼル、あのオッサンって女に興味無さそうだし」

 

そういえば、ヘンゼルはグレーテルよりも女の子らしい感性になるんだったか。

 

ここだけ見ると身持ちの固い女子大生と娼婦みたいだな。

 

「オリジナルはいいの!?仮にもリンクしてる状態であんなところやそんなところを触られちゃうのよ!?」

 

「リンク切って同期やめれば私は無関係だしな、というかお前たちの体って顔以外はのっぺらぼうだろうに」

 

「そういう問題じゃない!羞恥心の問題!」

 

「だからリンク切って同期やめれば何も感じないだろうに」

 

「記録が残るの!で!次のリンクの時物凄い恥ずかしくなるの!」

 

お前本当にロボットかよ………まるでナナリーに迫られて処女の乙女のように恥ずかしがる私みたいじゃないか。

 

…………自分で言ってて死にたくなるなこれ。

 

「実際さー、あたし達、処女じゃん」

 

「グレーテル!そういうこと言わない!」

 

はぁー、面倒くさ…………って、こういうところがグレーテルに引き継がれているんだった

 

「じゃあヘンゼル、誰に部品交換してもらうならいいんだ?」

 

「オリジナルか、あの研究員の男のそばにいる………」

 

「セシルか、彼女の技術者としての腕は確かだ、期待していいぞ」

 

「そう、じゃあ安心ねー、あっでも、あたしはオリジナルでもよかったんだけどねー」

 

「まあ私はお前たちを意識してないからな」

 

自分の分身だしな、ナルシストでもない限り自分に欲情なんてとても出来ん。

 

「というか早くKMFに乗って索敵してこい、まだ接敵していないが、近くに敵が確かにいる、いつ戦闘になるかわからん」

 

「横暴だーオリジナルの横暴はガンとして許s」

 

「部品交換はロイドにやらせたほうがいいか………」

 

「はい乗りまーす!乗りますよー!もうね、住んじゃうくらいだね!」

 

「じゃあ棺桶は廃棄で」

 

「ごめんなさい、あっちの方が落ち着くので捨てないでください………」

 

ヘンゼルのやつは本当に反応が面白いな。

 

…………面白いと思うということは、私は自分の分身をいじめて喜んでいるドMになるんだよな………。

 

狭いところが落ち着くのは私もそうだが……………棺桶が落ち着くのか?

 

『索敵いってきまーす!』

 

そそくさと、しかしアクロバティックにKMFに乗り込んだヘンゼルはスラッシュハーケンをビルの屋上付近に打ち込み、それを巻き取ってウィンチがわりにして屋上まで上がった、ビルの屋上を伝いながら索敵するようだ。

 

「さて………グレーテル、お前も寝てないで行け」

 

「むにゃむにゃ…………ふぁーい……」

 

「はぁ………終わったらリンクしたまま寝てもいいから」

 

「!!…………グレーテル、グロースターソードマンで索敵行動に入ります!」キリッ

 

グレーテルてめえ………リンクしたままの睡眠を許可した途端に無駄にかっこいい表情で素早く出て行きやがった。

 

ったく、ヘンゼルもグレーテルもめんどくさい性格してやがる………………まあ原因の半分は私なんだが。

 

行動に介入すれば早かったかもしれんが、リンク状態での独立行動がどの程度できるのか、その検証も必要だからだ。

 

私もKMFに乗り込み、街道を走り始めた。

 

(オリジナル?オリジナルー?聞こえてる?)

 

「(むっ………これが共感覚か)」

 

頭の中で響くヘンゼルの声に少し驚く。

 

(そそ、どう?気持ち悪いとかない?)

 

「(ないな、いきなり頭の中で声がしたから驚いたが)」

 

(あたしのほうもそんな感じ)

 

「(そっちの方は?ノイズとかないのか?)」

 

(全然、むしろベンチとかで隣合って座って駄弁ってる感覚かな?)

 

「(そういうものか、しかし中々これはラクでいい、伝えたいことが瞬時に伝わる、頭の中でイメージするだけで共有できる。)」

 

(こんな便利な機能が、たった1人と2隊でしか出来ないなんてもったいないよねー)

 

「(仮に出来ても、私以外の人間では耐えられんだろう)」

 

どこにいても相手に自分のことが筒抜けなんて気味悪いしな。

 

(………あー、いつでもどこでも考えてること筒抜けだし、人間にとってはすごいストレスかもね)

 

「(だな……………ところでグレーテルは?)」

 

(よんだ?)

 

(また居眠りしてたの?)

 

「(器用なやつだな)」

 

居眠り運転で事故らないのか、テクニックと勘は確かなようだ。

 

「(新しい敵を発見次第、もしくは異変があった場合はすぐに共感覚で私に知らせろ)」

 

(はいはーい)

 

(ふぁーい………)

 

さて、戦闘能力データをたっぷり取らせてもらおうか。

 

「こちらツキト・カーライル、無線機にトラブル、ただいま音信途絶より復帰、状況知らせ」

 

『こちら3番機!亡霊だ!ハンニバルの亡霊が出た!』

 

ハンニバルの亡霊?…………ユーロピアのエース部隊か?だがそんなやつらデータベースには無かった………最近出てきた秘蔵っ子部隊なのだろう。

 

「ただちにそちらに向かう、持ちこたえろ(ヘンゼル、グレーテル、戦闘に参加、実戦データを取ってこい)」

 

(りょうか〜い、華麗に勝ってくるよー、あっ、終わったらゲームやらして!ゲーム!)

 

(終わったら寝かせてよねぇ……)

 

「(わかったわかった、どちらも撃墜1につき1時間許す、さっさとしないと私が全部狩るぞ?)

 

(4機全部狩るぞ〜!)

 

(4時間睡眠はあたしがもらう!)

 

……………まあ、やる気さえ出ればいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

noside

 

 

「ちくしょう!ちくしょおおお!!」

 

ガァァアギィン!

 

甲高い音が響いて3番機のヒートソードが弾き飛ばされる。

 

ゴォン!

 

「ガッ………ハッ……」

 

続いて蹴り飛ばされ民家に背中から激突して埋め込まれてしまうグロースターソードマン。

 

モニターに映し出される光景を見て3番機パイロットは絶望した。

 

目の前には1機のユーロピア軍KMF『アレクサンダ』、しかし通常のパイロットとは一線を画す戦闘能力を持つ『ハンニバルの亡霊』、とまことしやかに囁かれる都市伝説のような部隊。

 

その都市伝説の正体は、ユーロピア軍wZERO部隊のKMFパイロット、日向アキトによるユーロ・ブリタニア軍へのその異常ともいえる戦闘能力からそう呼ばれてきた。

 

それが目の前にいる、そして追い詰められている、恐怖は凄まじいものだろう、人間が感じることができる最大限の恐怖を、彼は感じているはずだ。

 

「う、うおおおおおおお!!」

 

そんな中で彼が立ち向かえたのは騎士としての意地であろう、効かないとわかっていながら動かぬ機体で対人用マシンガンを乱射する。

 

いかに装甲が薄いアレクサンダでも対人用マシンガンは無意味であり、右手のトンファーが掲げられる。

 

その時であった、アレクサンダにとっての側面からの突然に銃撃、57mmアサルトライフルの徹甲榴弾が襲いかかる。

 

アレクサンダは軽量さを生かした跳躍で回避を試みる、しかし回避機動の先を読まれて被弾、右腕が吹き飛んだ。

 

アレクサンダと3番機の間にグロースターソードマンが割り込む、57mmアサルトライフルを構えている。

 

アレクサンダーは不利と思ったのか、撤退していった。

 

「た、助かった………」

 

『3番機の人ー、大丈夫ー?』

 

「あ、あぁ、君が助けてくれたのか?」

 

無線から流れ込む陽気な女性の声、

3番機パイロットは軽そうな雰囲気を感じ取った。

 

『そーだよー』

 

「ところで君はどこの部隊の者なんだ?」

 

『あたし?オリジナル…………ツキト・カーライルの直属だけど?』

 

「そうか……感謝する、引き続き戦闘を………」

 

『こちらカーライル、貴官は一時戦線を離脱せよ』

 

突如かかってくるツキトからの無線通信、まるでタイミングを読んでいたかのような物言いだった。

 

「カーライル様!ですが私はまだ!」

 

『損害状況はモニターしている、下がれ』

 

「しかし!」

 

『無理して死傷者リストの行を増やすようであれば、今すぐにでも反逆者として処刑してやろうか?』

 

「ぐっ…………イエス、マイロード」

 

『賢明な判断だな』

 

一方的に切れたカーライルの通信に、行き場のない怒りを燃やす3番機パイロット。

 

『まーしょうがないよ、護衛しようか?』

 

「…………いや、いい、君は戦闘に戻ってくれ」

 

『はーい、気をつけてねー』

 

軽い様子の無線通信を切って3番機のグロースターソードマンは後方へ向かう。

 

「…………あれが、新型の戦闘ドローン、なのか?」

 

自分を助けた戦闘ドローンのあまりの人間らしい雰囲気や話し方に、嫌な汗を流す3番機パイロットだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

(下がらせたよー)

 

「(よくやった、そのまま損傷が酷いやつを下がらせろ)」

 

(りょーかい、さっきのはスコア1って数えていい?)

 

「(撃墜してないから0だ)」

 

(ケチー………次は仕留めてゲームプレイ1時間にしてやる!)

 

扱いやすいんだか、扱い辛いんだか………。

 

まあ、そこらの兵士よりは役には立つ、共感覚で視界も共有できるから戦闘の状況は見えるし、掌握が楽だ。

 

見ていたところでは射撃の腕は良いようだ、変態機動の敵を相手に当てられるとは。

 

私も出来ないことはないが…………しかし銃は得意ではないのに戦闘ドローンは普通に当てているな、戦闘データや私とのリンクによってある程度は均一化されるのだろうか?

 

近接特化にはならず、バランス寄りになるわけか。

 

おっと、見えてきたな。

 

アシュレイのグロースターソードマンとユーロピアのアレクサンダの銃撃と剣撃の豪雨の中に突っ込む。

 

「加勢するぞ、アシュラ」

 

アレクサンダに57mmアサルトライフルで牽制弾をばら撒きつつアシュレイの赤いグロースターソードマンに並ぶ。

 

『っ!カーライル!こいつはおれの!』

 

「すでにアシュレイ隊の半数が重大な損傷で戦闘不能、死人はまだ出てはいないが、残った奴らも損傷が激しい、長くは持たんぞ」

 

『退けってのか!?このアシュレイ様に!?』

 

「部下を無駄死にさせたいなら残ればいい」

 

(オリジナル、こっちは終わった………あーねむ)

 

(こっちの方も損傷酷いの下がらせたよー)

 

よし、これで周囲には私とアシュラ、ヘンゼルとグレーテルしかいなくなったわけだな。

 

一気にこいつを沈めて、帰ったら甘いココアでも…………なっ!?子供が瓦礫の側に!?

 

『逃げんなよハンニバルぅ!』

 

この脳筋バーサーカー!民間人を巻き添えにする気か!?

 

「くそがっ!」

 

子供の近くまで動き正面を盾にするように膝立ちの状態にし、コックピットから降りて子供のそばによる。

 

子供は8歳かそこらのいたって普通の健康そうな女の子だ、埃で服が汚れているが見た所怪我はなさそうだ。

 

「ここは危険だ、逃げるぞ」

 

「待って!お母さんが!お母さんが!」

 

子供泣きながら指差したのは瓦礫の一角、その隙間からは指輪をした左手が出ている。

 

戦闘で崩れた瓦礫の下敷きになったのか…………クソッタレが。

 

「オリジナル………なに?ナンパでもしてた?」

 

「この状況で………さすがだわ………」

 

ヘンゼルとグレーテルがグロースターで来た、運が味方してやがる!

 

「ヘンゼル!この子を連れて下がれ!グレーテル!瓦礫を掘るぞ、手伝え!」

 

「なーによ?一体何が……」

 

「この子の母親が瓦礫の下敷きになっている!早くしろ!」

 

思わず檄が飛ぶ、しまったと一瞬思う、が……。

 

「っ!了解したわ!グレーテル!しっかりやりなさいよ!」

 

「あたしを誰だと思ってんの?それでオリジナル、どこ掘ればいいの?」

 

こいつら…………私とリンクしてるからなのか、こういう時はしっかりしてやがる。

 

「あそこだ、慎重に頼むぞ」

 

「任せてよ」

 

跪いてマニピュレータを器用に動かして瓦礫を退かしていくグレーテル、精密動作もいける………って今はそんな状況ではない!

 

「お母さん………」

 

「さっ、あとは任せて、ここは危ないから安全なところに行こう」

 

「でも、お母さんが………」

 

「大丈夫、あたしたちが絶対助けるから」

 

女の子を励ましながら自分のグロースターに乗せるヘンゼル、それを確認してからグロースターに乗り込む。

 

「敵は私が引き付ける、お前たちは命令通りにやれ」

 

『傷ひとつつけさせやしないよ!』

 

『同じく、期待以上の行動ってやつを見せてあげる』

 

共感覚を知らない女の子が困惑しないように無線通信で会話を行った後、少し離れた場所で出力を絞り広域索敵の準備を行った。

 

「周囲の索敵を始める、データをリンクさせる」

 

曲がり角に一機、移動速度は低速……………そこかぁ!!

 

曲がり角から飛び出しながら57mmアサルトライフルをばら撒き、接近しつつ空いている左手でヒートソードを抜剣。

 

虚を突かれた敵KMF、アレクサンダは被弾して腕も脚もボロボロになりその場に崩れ落ちる。

 

反撃能力を失っているように見えるが、念のためだ、すれ違いざまに頭部を切断、これでカメラは死んだはず、通り過ぎたところで切り返して無防備なアレクサンダの背中に蹴りをかまし、壁面に叩きつける。

 

もう動けないか?これ以上壊せば解析は困難になる、コックピットブロックは出来る限り無傷で鹵獲したい。

 

コックピットブロックは情報の宝庫、作戦地図とかあれば最高だが………果たして。

 

周囲に敵影無し、脳筋バーサーカーは戦闘中か。

 

(あの子の母親確保、右脚はミンチだけどそれ以外に損傷はないわ)

 

「(よくやった、ヘンゼルを追って後方へ下がれ)」

 

ふぅ、上手く行ってよかった。

 

あとはこのKMFのコックピットブロックを回収して、機体の方は後で回収して貰えばいいか。

 

「抵抗せずに降りろ、殺しはせん」

 

スピーカーで降りてくるように促すと、ハッチが開いて金髪の女が出て来た。

 

「目的は、なんなのですか?」

 

ほう、なかなか気の強そうな女だ。

 

座席をスライドしてコックピットから出てグロースターソードマンの肩の上に立つ。

 

「あなたは……」

 

「ここで機体と一緒に捕まるか、機体を捨てて逃げるか、それとも機体と一緒に木っ端微塵になるか…………選べ」

 

仁王立ちで一方的に告げる、武器を構えたほうがいいかもしれんが、女のほうもホルスターの銃を抜いていないため、抜かないでも良いと考えた。

 

「選択肢を…………与えてくださるのですね」

 

「私の持論だが、こんな意味のない戦争にとって最も重要なのは、何人の敵を殺し被害をどれだけ抑えられたということではなく、どういう風に動けば終戦に近づくかを考えることのできる情報だと思っている、今ここで一兵士の貴様を殺すことは可能だが、それで終戦に近づくわけでもないだろうしな」

 

(要するに、いちいち殺すのめんどくさいんでしょ?)

 

「(うるさいヘンゼル…………で、着いたのか?女の子は無事か?)」

 

(とっくに着いたよ、女の子は疲れて寝ちゃってる、あと運ぶのに姿見られちゃったけどいいよね?)

 

「(お前たちはの正体がバレるよりも、民間人を助けられる位置にいながら見殺しにしたと非難されるほうが世間の目が痛いから構わん)」

 

(清々しいほどの悪代官っぷりどーも、あーそうだ、さっきグレーテルも着いたよ、女の子のお母さんを野戦病院に運んでる)

 

「(野戦病院の設備で大丈夫なのか?)」

 

(消毒と止血は完璧だったから、野戦病院の少ない物資でも大丈夫そう、ただ一応保護された難民ってことだから、義足の購入にお金がかかるって………)

 

「(軍人じゃないからだろうな………私名義で手続きをやっておけ)」

 

(はいはーい、グレーテル聞いてた?)

 

(聞いてたわ………あー重かった、腰痛いわ………)

 

「(ま、とりあえずお前たちはよくやった、手続きが終わったらそのままKMFを格納して好きなことしてていいぞ)」

 

((マジ!?))

 

「(マジだ、ゲームしててもいいし寝ててもいいぞ)」

 

(さっすがオリジナル!愛してる〜!)

 

(……………zzzZZZ……)

 

寝るの早いなグレーテルのやつ………。

 

さて、リンクはそのままに共感覚を切って、と。

 

これで余計な情報が回ってくることもない…………ないのだが、やはりリンクの弊害か疲れがな………。

 

リンクとは言うなれば、常にインコムを操作してるようなもので、精神力をすり減らし続けることと同義だ。

 

私の精神力がきれるとリンクは解除されてしまう、ゆえに、万全の状態でのリンクが望ましいわけだ。

 

ま、今はそんなことどうでもいいか。

 

「…………決まったか?」

 

「その前に、名乗らせてくださりませんか?」

 

本当に、気の強い女だ………ふふふ、面白い、面白いな。

 

「…………いや、ここは私が先に言うべきだろう………私の名はツキト・カーライル、神聖ブリタニア帝国のナイトオブラウンズが1人、13番の称号を授与された騎士だ」

 

「E.U.軍中佐、レイラ・マルカルです」

 

レイラ・マルカルか…………雰囲気は貴族然としているのに、名前は普通?引っかかるな。

 

「………貴族出身では無いのか?」

 

「貴族のマルカル家の、養子………です」

 

複雑な事情、か………。

 

「そうか…………私はアールストレイム家の人間だったが、少し前に縁を切ってな、今はただの騎士さ」

 

「知っています、あなたは有名ですから、貴族としての地位よりも名誉を選んだ騎士、サー・ツキト・カーライル」

 

「なるほどな……」

 

ユーロピアにもそういう名誉大好き人間がいるものなんだな………とは言っても、そのほとんどはフランス生まれの貴族くらいのものだろう。

 

名誉と誇りに凝り固まって、100年戦争では大損害出したんだがな………。

 

当時は騎士達のフルプレートアーマーによる劣悪な機動性が原因で、ブリタニア………当時のイングランドに遠距離からのロングボウ攻撃で一方的にやられたのだったか。

 

今の時代の騎士はフルプレートアーマーを捨ててKMFに乗り込んだが、機動性はユーロピアに逆転された形になってしまった。

 

結局は機動性と火力がモノを言うのだと100年戦争後の数回の戦争で結論づけられたが、脈々と続く重装甲の歴史は途絶えることなく現代まで継承されている。

 

話が脱線し過ぎた………。

 

「さて、答えは出たか?」

 

毅然とした態度で私を見上げるレイラ・マルカルに再度問い直した。

 




展開考えるの苦労したぁー………。

便利な戦闘要員のスザクがいないしJKもいないからどうやったものか………で、結局はツキト兄貴無双になるっていうね。

キャラごとの活躍考えるの難しいって、改めて思いました。


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『人形』は『兵器』である

外道紳士ツキト・カーライル兄貴嫌いじゃ無い好きだよ。


no side

 

 

狼のように獰猛で、ライオンのように雄々しく、蛇のようにしつこく、犬のように従順で、猫のように気まぐれで。

 

小間使いであり、従者であり、剣士であり、貴族であり、騎士であり…………。

 

ツキト・カーライルという人物を的確に表せる言葉があるのならば、それはきっと、『悪魔』以外にありえない、E.U.の政治家、軍人のほとんどはそう思っている。

 

ではE.U.の国民はどうだろうか?貴族の出でありながら庶民的であり、紳士然としながらも年相応の少年でもあり、友であれ敵であれフェアを貫こうとする姿勢や、弱きを助け強きを挫くのその姿は、まるで怪傑ゾロのようではないか。

 

…………と、『密かに』噂されていた。

 

貴族でありながら大盗賊にして真の紳士、優雅で可憐なるゾロと、同じく貴族で騎士であり紳士然とした態度、貴族位や家とも決別してまで尽くす忠誠心。

 

いつからか、ツキトの日本エリアでの活躍は、遠く離れたE.U.にも届くようになり、年不相応な紳士なところと年相応な少年らしさが、貧困層やイレブン(日本人)に人気になった。

 

そのうちインターネットが使える者がツキトの公開された情報を調べ、まるでヒーローかのようにその活躍を国内中に広め、敵国の人間であるツキト・カーライルは、ツキトにとって敵国である国民の憧れの的となった。

 

国内中に知れ渡っていることを、政治家が知らぬ筈がない、回り始めて3週間程度で情報規制を行なった、が、今でも細々とツキトに関する表の情報が出回っている。

 

………なお、表の情報しか知らないため、黒い部分や下衆な部分は知られていなかったりする。

 

政治家たちは情報規制に反対する国民に民主主義の弱点(多数決)を突かれた。

 

今の時間は、ツキトとレイラが出会ってから約1週間後、レイラ・マルカルは軽い取調を受けていた。

 

取調と言っても軍規違反をしたわけではない、軍がツキト・カーライルという人間について測りかねている現状では、対処方法がわからないため、こうしてツキトと出会って『生きたまま無事に』帰って来たレイラに情報を求めていたのだ。

 

若い女性で貴族のレイラに対し、窮屈で圧迫感のある取調室でムサイ男どもによる尋問紛いの事情聴取は、貴重な情報源であるということで却下、広い開放感のある会議室で年の近い女性のカウンセラーに全て任せることとなった。

 

「あなたがカーライルに問いかけられている時、あなたの部下の日向アキトさんがKMFに乗って割り込んで来た、あってますか?」

 

「はい」

 

ツキトの再度の問いに対し、レイラが答えを返すより先に、レイラの部隊の隊員であり日本人であるアキトの駆るアレクサンダに割って入られたのだ。

 

「あなたの部下、日向アキトがリニアライフルを構え、スピーカーでカーライルに『中佐から離れろ、さもなくば撃つ』と警告を発した、そうですね?」

 

「はい」

 

「そこでカーライルはどんな行動をしましたか?」

 

「リニアライフルを見ても動揺した様子は全くなく、むしろ余裕といった表情で日向大尉に向かって『無理やり割って入るのは無粋ではないかね?』と言っていました」

 

レイラに質問していたら突如現れたKMFに砲口を向けられたため、イラつきながらも笑み浮かべてツキトはそう言ったのだ。

 

「そうですか………………えーっと、それからは?」

 

「日向大尉に『安心してくれ、少しお喋りがしたくなっただけなのだ、時間も頃合だ、失礼させてもらおうか』と言っていました」

 

「なるほど……………それで?」

 

「自らのKMFに乗り込んで去って行きました」

 

「その時、日向アキトさんは何を?」

 

「カーライルに向けてリニアライフルを連射していましたが、彼はそれを避けて退いて行きました」

 

後に、カウンセラーがこの時書いた報告書が管理者の不手際により漏洩、アレクサンダより機動性に劣るグロースターでリニアライフルによる追撃を被弾無しで振り切ったという噂が広まり、暴徒化した市民を更にヒートアップさせた。

 

レイラ・マルカル、および彼女が管理している部隊には、略式ではあるがささやかな勲章と、ボーナスの半分程度の通貨と1週間の休暇が与えられた。

 

政府は『悪魔』を追い払った英雄に英気を養う時間を与えた、と宣伝したが、実際のところ早死にしてもらっては折角上がって来た軍の士気が崩壊しかねない、という心配によるものだった。

 

wZERO部隊の面々は休暇を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

『〜〜〜〜………こっちはこんな感じよ』

 

「うむ、なら次は…………」

 

やあ諸君、紳士代表のツキト・カーライルだ、クレアと電話中で申し訳ない。

 

今日はとても面白い、朝のラジオをつければ、ユーロピアのプロパガンダ放送が耳に飛び込んできたのだ、内容は私を撤退に追いやったワイバーン隊というKMF部隊の宣伝のようだ。

 

向こうから情報をくれるなんて、今日はついてる日だな、しかも指揮官の名前まで教えてくれるとは。

 

ユーロピア軍中佐、レイラ・マルカル、1週間ほど前に会った女軍人、彼女がそうだったとは、面白い偶然もあるものだ。

 

『そうそうロイドから聞いたわよ、そっちに試作品持ってったって、棺桶で』

 

「戦闘ドローンのことか?凄い性能だぞ、特に私と同等のKMF操縦技術は素晴らしいものだ、そのうえ子供の世話までできるとはな」

 

『さっそく使ってるし………まあいいけど、人形好きの変態に見られないように気をつけなさいよ?』

 

「わかっている、婚約者がいるんだ、周りに誤解されるようなことは避けるさ、そう心配するな」

 

『あんたは気が抜けてるから心配なのよ』

 

失礼な事をポンポンいう奴だなぁ………。

 

「自分の分身みたいな人形だ、心配される要素がない」

 

『まああんたはナルシストじゃなさそうだけど………気をつけなさいよね、ルルーシュも心配してるわ』

 

あぁ、そういえばこっちに来る前にクレアのやつにルルーシュの電話番号を教えたんだったか。

 

事前にルルーシュには伝えておいたし、信用して良いと言ってあるためか結構な頻度でメールや電話のやり取りしているようだ。

 

すでに頻度で言えばシャーリーを超えただろうか、何回か前のクレアの電話ではデートのタイミングを聞かれたんだったか、軽く説明はしといたが、たぶん2週間以内には誘うんじゃなかろうか?

 

無理言ってルルーシュがクレアに向けたメールをコピーして送ってもらったが、文面から察するに年上であるクレアに気遣ってかいつも以上に丁寧な書き方、そして若干だが好意も見られる。

 

これはクレアの一人勝ちだろうな、シャーリーにはご退場願うとして、ミレイは利用するだけ利用して………っていうのはルルーシュが許さんだろう、まあ、せいぜい恋に悩めよ、ルルーシュ。

 

『ん、それじゃあ報告も注意喚起も終わったし、きるわね』

 

「あぁ、次はデートの感想を聞かせてくれ」

 

『ちょっ!?///まだ早いでしょうが!///この恋愛バカ!』

 

ガチャッ!!ツー、ツー…………。

 

「…………バカはないだろ」

 

思わず呟いてため息を吐く、すぐにまた電話がかかって来た。

 

「もしもし?」

 

『私だ、C.C.だ、定期連絡だぞ』

 

「ん、ご苦労様」

 

『今月に入ってエリアの成長率、貢献率は共に微上昇だ、それとユーフェミアがキョウトに対する罰を下した、徹底的な調査を行い、怪しい人物を拘束したようだ』

 

「ユーフェミア様が………ま、それなら言うこともないか」

 

『そうか、ジェレミアのほうだが、本人の希望で日本エリア防衛軍の格闘指導教官としてついてもらうことにした』

 

「ジェレミア卿が格闘の指導を……………ぜひとも受けて見たいものだ」

 

『ならさっさと帰って来い、剣で斬り合うに足る人物を求めているようだ、この間も剣の指導で熱が入ってな、50人抜きをやってたぞ』

 

「ほう、私なら100人くらい楽勝だ」

 

『マリアンヌが100人か?』

 

「殺す気かてめえ」

 

変わらないな……ジェレミア卿の見た目に似合わず熱血なところが結構好きだったりする。

 

あとC.C.は絶許。

 

「………まあいい、で、騎士団の方は?」

 

『どうやら強硬派閥が生まれたらしい、まだ定かじゃないが、早いうちに対策を考えたほうがいい』

 

「そっちはお前とルルーシュ様に任せる、私が手伝うべき案件ではないだろうしな」

 

組織のトップが下の者の暴走を止められないようではいけない、いかにルルーシュが甘いとはいえ、処罰も科せられんようでは皇帝の座は相応しくない。

 

『わかった、参考までに、お前だったらどうする?』

 

「疑わしい人間をリストアップしておき、いざ行動に出た時は速やかに鎮圧し、後に調査を行いリストと照らし合わせ処罰する、場合によっては処刑もする」

 

『参考にしておく、じゃあ、また今度電話する』

 

「あぁ、頼んだぞ」

 

『任せろ、私はC.C.だ』

 

電話をきる、さて、ナナリーにも電話を………いや、止した方がいいか。

 

「オリジナルー、子供の相手つかれたー」

 

「同じく………」

 

「ノックをしろ、ノックを」

 

スカートという寒そうな格好に防寒着を羽織ったヘンゼルとグレーテルが入ってきた。

 

防寒着を脱ぐと、グレーテルに比べてヘンゼルは少しラフな格好をしていた、ボディはどちらも微妙なBとCの中間のカップ程度なのだが、ヘンゼルのほうがラフなため少し強調されている。

 

そんなヘンゼルの言った子供の相手というのは、こいつらには非戦闘時には保護を求めて来たユーロピア人の監視・世話を頼んでいるからだ。

 

そこらの兵士に任せると暴行やレイプなどの問題が起こるかもしれない、と思ったから暇そうなこいつらに任せてみたが、意外と反発もなくすんなり被保護者に溶け込んだ。

 

本来の担当者も要件があるときはヘンゼルかグレーテルを通しているようだ、これを元に介護ロボットを開発するのも良いのかもしれない。

 

「疲れた、と言われてもな………正直な話、お前らとリンクしている時は私はずっと疲れている状況なんだぞ?わかってるか?」

 

「そうは言うけどさぁ……やっぱりゲームしたり寝たりする時にリンクしてる方が気分(?)的に気持ちがいいの」

 

「そもそもの話、リンクしてないとあたしたちはずっと無表情なのよね………表情や感情の学習のためにもリンクは切らない方がいいのよ」

 

「確かにそうではあるが…………いざという時に私が戦えない状況では困るのだ」

 

グレーテルの言う通り、リンク状態の時こそ学習装置の真価が発揮される状況で、ただの人型戦闘ドローンを多目的アンドロイドの完成形に近づけるためのもの。

 

なるべく長時間のリンクが望ましいのだが、知っての通り、私の精神がスリップダメージの如く削れていくため、ついこの間まではほとんど使っていなかったコードの力を少しだけ使うようにして精神力の回復に注ぐ羽目になった。

 

今も減り続ける精神を同じ速度で回復させ続けている、なかなかに奇妙な感覚だ。

 

「そん時はあたしたち、ヘンゼルとグレーテル姉妹におまかせ〜、ってね!」

 

「あたしはいや、ヘンゼルがやってよ」

 

「ちょっとーグレーテル?ちょっとはオリジナルの負担を減らしてあげよう、って言ったのはグレーテルでしょ?」

 

「オリジナルが倒れない程度に負担軽減を減らすって意味で言ったのよ、まあ、オリジナルがそう簡単に倒れるとは思えないけど」

 

「そうそう、オリジナルとリンクしてるからわかるんだけど………どうして平気なの?」

 

あぁ、リンクしてもコードのことはわからないのか…………リンクを始めてから連続稼働時間が1週間以上経つが、普通は数日リンクしたら数日安静にするように言われているからなあ。

 

それを無視してリンクを続けていれば、そりゃ不思議がられるだろうな。

 

「知らんほうがいいこともある」

 

「えーー」

 

「某ゲームのロボット系主人公の話だが、意外な事実を知ってしまったせいで狂ってしまったんだ…………お前たちもそうなるかもしれんから、秘密にしておく」

 

「む〜〜……オリジナルのけちぃ!グレーテルもなんか言ってやってよ!」

 

「いやー、そんな叫ぶほどじゃ無いんじゃないの?リンク中にちょっとずつ調べればいいだけじゃん」

 

「お前たちの処理能力はリンク中に限定してコンピュータ➕私の頭脳になるわけだしな………」

 

素のスペックの優秀なのは素晴らしいものだ、ロイドに感謝だな。

 

「詮索するな、とは言わん、だが仕事中にぼーっとしているようであれば……………」

 

「リンク切るんでしょ?わかってる、わかってるって!」

 

「うわぁ、調べる気満々でヘンゼルがキモいわぁ」

 

「ちょっと酷くないグレーテル!?私一応お姉さんなんだよ!?」

 

「こんな姉要らないわー、妹欲しいわー」

 

言い争う2人は、双子の姉妹にしか見えない、仲睦まじいのは結構だが、頼むから他所でやってくれ。

 

外のやつが大声を聞いて『双子の姉妹がカーライルを取り合っている』なんていう勘違いを引き起こして噂として広まっちまっているくらいなんだ。

 

「はぁ…………」

 

今日も、前線は平和だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

noside

 

 

数ヶ月前。

 

ロイドとツキトは、ロイドのラボにて話しあっていた。

 

「自律人型戦闘ドローンをアンドロイドに改造?」

 

「そうだ」

 

珍しくロイドが訝しんだ表情でツキトを見る、ツキトはいつも通りの表情だ。

 

「そんなことやってどうするのさあ?」

 

「さらなる技術発展のためだ、インコムの精神感応波技術は今はどんな段階だ?」

 

「理論上、有線では8km、無線だと4km弱の距離で精神感応波を接続できるようになったね、ある程度の小型化も出来そうだよ」

 

「それを搭載した、学習装置付きアンドロイドを作って欲しい」

 

「無茶言うねえツキト君………無論できないわけじゃないけど、アンドロイドでしょ?人に限りなく似せる関係上、部品は必然的に多くなるし、精神感応波の反応装置も小型化したけどそのぶん負荷が大きくなって熱の排気の問題が…………」

 

「いつになく弱気じゃないかロイド、とりあえず作ってみろ、金の心配はせずお前の全力を注げ……………それともあれか、自信が無いのか?」

 

ツキトは、ロイドのあげた問題点を金はあるからやれとゲスい発言で両断し、しかもムカつく顔で挑発まで行った。

 

「………………科学者がそこまで言われて黙ってるわけには、いかないねぇ…………いいよ、やってあげるよツキト君、度肝抜いて驚くといいよ」

 

ふん、と鼻を鳴らしてスタスタと机に向かうロイド、椅子に座ると紙とペンを取り出し何か描き始めた。

 

イライラした様子で頭を掻いたり、良いアイデアが思いついて鼻歌を歌ったりするロイドを見ながらツキトは紅茶をすする。

 

そしてツキトは呟く。

 

「計画通り………」

 

と。

 

数日後、試作1号が完成した。




最後のところは誕生秘話的なあれです。



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求められた『モノ』は、『破壊性能』

誕生秘話その二

1週間で基礎全部作っちゃうロイド兄貴マジパネエ。


noside

 

 

試作1号機、仮称『typeA1』が出来上がり、ロイドは投影型ディスプレイを操作しつつツキトに説明していた。

 

人として見た場合、見た目は女性で身長は160cm程度、慎ましやかな胸部の膨らみとバランスの取れた肢体、一般的に健康的と言えるスレンダーな体型の少女といって差し支えない容姿だ。

 

しかし頭髪や眉毛等はなく、人間の身体を性器に至るまで細部まで再現してあるにもかかわらず、衣服を纏わず全裸で気をつけの姿勢をとっているその様は、第三者から見たら実に異様であろう。

 

まして、それを上から下まで様々な角度から舐めるように見るツキトは、第三者にどのように見られるのか、悲しいが想像に容易いだろう。

 

セシルが入ってくれば絶叫ものの光景だが、そんなことは起こらない、ロイドに作成を命じた翌日から5日間の休暇を出していたからだ。

 

セシルが突然の休暇に戸惑ったかと言うと、そんなことはなかった。

 

『これまでろくな休みも与えてやれんですまなかったな………仕事のことは忘れて、楽しんできてくれ』と申し訳なさそうな表情で言えばセシルが疑問を持つはずがなかった。

 

加えて、セシルの友人関係を洗い、多忙そうな者をセシル同様に休暇を与え、そのうちの1人に『行き詰まっているようだから、誘ってあげてくれ………私にできるのはこれくらいしかなくてな』と言って遊園地のチケットを人数分与えた。

 

ツキトの目論見通りに事は運び、今頃セシルとその友人数人の一行は日本エリアに新設された巨大遊園地での3泊4日間を満喫している頃だろう。

 

「…………要求スペックには、程遠いな」

 

ひと通り眺めたり触ったりしてからツキトはそう溢した、造形は完璧で人間にしか見えない、が、ツキトはそこで完成させて欲しくはなかった。

 

「まあ、試作型だしねぇ…………て言うかさあ、近接戦闘能力なんているの?銃を持たせれば良いんじゃないの?」

 

ロイドの言うことはもっともだ、アンドロイドのコンピュータによる人間には不可能な正確無比な射撃能力で十分である。

 

しかしツキトはそうは思わなかった、戦場で求められるのは射撃能力だけでは無いのだ、懐に潜り込まれた時にどうするか?敵が予想以上に高速であったら?射撃が無効化されたら?…………そのような時に近接戦闘、格闘戦が出来なければ容易く撃破されてしまう。

 

戦闘ドローンならば、囮にでも何にでもできる、だが高価なアンドロイドをそのようには使うことは容認出来ない。

 

端的に言えば、『勿体無い』のである。

 

「歩兵戦で先陣を切れる程度は欲しかったが………詰め過ぎても行かんか…………水準を下げる、最低限自衛できればそれで良しとする」

 

「じゃあ今のスペックで大丈夫そうだね………はー、久しぶりにヘトヘトだよー」

 

「無理を言ってすまなかったな…………今日はもう休んで、明日から2週間以内にこいつの改良を行なってくれ」

 

労いの言葉に地獄行きの切符を同封する、ロイドの表情は酷く苦いものに変わった。

 

「まーたそうやって………人使い荒いよねぇ……」

 

「とにかく頼むよ………あと少しなのだ」

 

「あと少し?」

 

「あぁいや、こっちの話だ………出来たら呼んでくれ、では失礼する」

 

「じゃあね〜」

 

退室するツキトを、ロイドは目を細めて見ていた。

 

「あと少し、ねぇ………」

 

ロイドはそう呟き、typeA1を見る。

 

「…………簡略化できるとこからいこうかねぇ」

 

雑念を払い、ディスプレイとtypeA1の内容量を見比べながら作業を開始した。

 

まずロイドは造形を簡略化した、戦闘アンドロイドとして使用時には衣服を纏っているため、外から見えない細部の作り込みは不必要と即座に判断した。

 

続いて、容量確保のために身長を伸ばすことにした、身長を伸ばせば体積を大きくでき、大きくなった分だけ体積に余裕ができるのだ。

 

そこに足りない部分を補うために部品を詰め込み、基礎性能の向上に成功、身長は170cmになった。

 

次に取り組んだのは戦闘アンドロイド用の近接戦闘武装、要するに剣、ブレードの類を模索した。

 

ロイドとしてはツキトの求める近接戦闘能力の基準を下方向に突き抜けて落胆させてしまったことに関してはさほど気にしてはいない。

 

しかし、ロイドが自分の頭脳を持ってして戦闘アンドロイドに高い近接戦闘能力をつけられなかった、それが心の奥底で小さくくすぶっていた。

 

暫定的にMVS・Cを装備させるつもりであった、実際にMVS・Cを装備させて動かすことはできた。

 

「…………あれぇ?」

 

しかしツキトを基準に考えてしまっていたため、いざ振らせてみると重心の急激な変動にバランサーがついていけなかった。

 

これではいけないと思い、ロイドは戦闘アンドロイドよりもツキトがMVS・Cを軽々しく振るうことができるのはなぜか、映像を見ながら解析した。

 

「…………!………あ〜〜、なーるほどぉ」

 

解析した結果、わかったことは1つ、手足のごとく振るえるのはツキトの剣士としての技術が卓越したものであるからだった。

 

「しっかし、剣振ってる時はかっこいい顔してるよねぇ、モテるのもわかるよ、性格がアレだけどねえ」

 

ロイドは、自分がやろうとしていたことは素人に剣の達人と同じことをやらせるようなものだと理解した。

 

ここでツキトの映像を解析したデータをアンドロイドのインプットすることもできた、だが装備させたところでツキトの求める近接戦闘能力には到達できない。

 

なぜなら、ツキトの動きは模倣できても、MVS・Cではあらゆる状況ごとに対応しきれないからだ。

 

MVS・Cよりも扱い易い武器の作成、兵器開発を行って来たロイドだが、戦闘アンドロイド用の剣を作るとなると、人用の武器とは勝手が違いすぎる。

 

アンドロイドの性能向上に成功しても、武器がダメではせっかくの高性能を活かしきれない。

 

「あっちを立てればこっちが立たず…………無理難題を押し付けてくれるねえ………」

 

この時点で6日が経過していた。

 

残り8日、実質的には7日と少し、リミットの半分が過ぎようとしていた。

 

「恨むよツキト君………」

 

その時であった。

 

ツキトからメールが来たのだ。

 

『用件:A1の武装

もし悩んでいるなら、日本刀を参考にするといい』

 

「………………盗撮とかされてないよね?」

 

ジャストタイミングなアドバイスに嫌な汗を流しつつ、早速日本刀に関して情報を集めてみる。

 

日本刀………日本生まれの刀剣で、大雑把に太刀と打刀に分かれ、大抵の場合、頑丈な片刃の両手剣で、中でも良質な金属を使い職人の手で作られた日本刀は斬れぬものはないと言わんばかりの斬れ味を誇る。

 

突くも良し、斬るも良しと、まさしく万能の刀剣。

 

資料を元に、頑丈さと軽さを追求した反りの浅めの打刀風のブレードを作成、10日目に実際に振らせてみると非常に良い結果を出すことができた。

 

その後細かい改良を重ね、ツキトにデモンストレーションを行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約束の日、ツキトはロイドのラボに現れた。

 

「いらっしゃいツキト君」

 

「2週間ぶりだなロイド………できたのか?」

 

「期待に添えるものだと確信しているよぉ」

 

「それは何より、では早速見せてくれ」

 

「うん、じゃあ、これを持って見て」

 

ロイドは日本刀をツキトに手渡した。

 

「日本刀…………にしては少し重いし厚い…………それに、長い」

 

日本刀を抜刀して鞘を近くのテーブルに置き、日本刀を構えて振ってみるツキト。

 

「…………やはり重い、重心も中央より切っ先寄り、反りも浅め、打刀に似ている…………キェェェェッッ!!!」

 

正眼に構えて大上段から振り下ろす、床に対し垂直に振り下ろされた刀は、ピタッと元の正眼の構えの位置で止まる。

 

「通常よりも刃が分厚い、肉抜きしてあってもこれは少し重過ぎる、4kgほどはありそうだ、加えてかなり長い、私の手が小さい事もあるが、もし手が3つであってもまだ余るほどの柄の長さ…………もしやこれは」

 

「御名答!さすがツキト君だねぇ、それは戦闘アンドロイド、typeA改めtypeBの近接戦闘用の武器だよ、ツキト君のアドバイスにあった日本刀を元に、頑丈かつ軽量なものを作って見たんだぁ」

 

「私のアドバイスが役に立ってよかった、あと、もしかしてこれってわざと長めに作ってあるのか?」

 

鞘に戻しながら聞いてみるツキト。

 

「柄が40cmはある、全長は120cmくらいか?まるで野太刀だ」

 

「よくわかったねぇ………コジロウ・ササキの話を元に、長めにしてあるんだ〜、アンドロイドの身長を伸ばしたから、これくらいの方がリーチを活かせそうだしねぇ」

 

ツキトは改めて刀を眺めた、全長

 

「佐々木小次郎の『物干し竿』というわけか………特殊な機能はないのか?」

 

「振動機能をつけてMVS見たくしようとしたけど、崩れちゃうかもしれないからやめといたんだよね、でも安心してよ、頑丈さは折り紙つきだよ」

 

「本当か?」

 

「疑い深いね…………じゃあ、試してみよっか!」

 

ロイドがそう言う、そのすぐ後、1秒が経つか経たぬかの時間の後、ツキトの側面から何かが飛び出してきた。

 

 

 

ツキトside

 

 

「ちぃっ!」

 

ロイドが言い終わるとほぼ同時に仕掛けてきた奴の攻撃を納刀したまま鞘で受けて流し、腹に蹴りを入れる。

 

蹴り飛ばされた敵は受け身を取りながら床を転がっていき、テーブルを挟んで向こう側で立ち上がり、私の持っている刀と同じ得物を構えた。

 

敵はまるで黒子のような格好をしていて、表情を伺うことはできない、わかっているのは身長が170cmくらいということ………もしかしなくともこいつ………。

 

「おい、ロイド、もしやこいつが?」

 

「本日二度目の御名答!いーい出来でしょ?各部の高出力モーターで実現できた瞬発力と日本刀の取り回し易さとリーチによる突き…………速かった?」

 

「あぁ…………蹴りを入れて内臓を破裂させてやろうと思ったが、上手いこと身を引いてそのまま受け身を取られるとは………」

 

楽しませてくれるッッ!!!

 

腰を低く落として…………跳ぶッ。

 

テーブルを蹴り上げそのままムーンサルトでバック、蹴り上げられて宙を舞うテーブルごとアンドロイドは刀で真っ二つに両断、リーチからして下がっていなければ私もああなっていただろう。

 

ムーンサルトから着地後抜刀、振り下ろした直後のアンドロイドの刀を横から左手の鞘で叩いて弾き、右手の刀で斜め右上から振り下ろす。

 

弾かれた状態からアンドロイドはすぐに切り返し、私の振り下ろした刀を振り払う、隙をついて鞘をねじ込みアンドロイドの胸を突く、だが金属の塊であるアンドロイドに鞘の先端(小尻)は刺さらず僅かにかすめるに止まった。

 

一度距離をとるがすぐに詰めてくる、アンドロイドと数度切り結ぶ、腕がジンジンと痺れるこの感覚…………。

 

「最高だッ!」

 

今度はアンドロイドの蹴りがきた、鞘で受け止めると同時に薙ぎ払いもしてきたので刀で薙ぎ払いを受ける、刀をそのまま刃を滑らせて接近してタックルを食らわせる。

 

片足が浮いた状態でタックルを食らったアンドロイドはバランスを崩した、鞘を捨てて刀をしっかり握り、バランスが崩れ脇が開くアンドロイド、防御も回避もままならないその一瞬に大きく踏み込み、右肩を突き貫く。

 

深く刺し込んでから上方へ切り上げて右肩を削ぎ落とし、遠心力を使って回転し横薙ぎに一閃する、回避が間に合わないと考えたのか、アンドロイドは左腕で受け止めようとする、が、左腕ごと胴体を上下に両断。

 

ガシャンッと音を立てて床に落ちるアンドロイド、まだ戦おうとしているのか、下腹部から下がガシャガシャと動いている。

 

刀を突き刺してやろうとした時、不意にアンドロイドの動きが止まった。

 

「あっちゃ〜…………見事にバラバラだねぇ、修理大変なのに………」

 

振り向くとロイドがスイッチらしきものを持ってトホホーという顔をしていた。

 

「とまあ、アンドロイドの性能と刀の頑丈さはわかってもらえた?」

 

「……正直期待以上だ、私をここまで本気にさせるとは………ふふふっ、まだ興奮している………嬉しいなぁ、実に嬉しい、そして実に、素晴らしい」

 

鞘を拾い納刀する。

 

…………まだ両手の震えが止まらない!久しぶりに死合ったが、死合っている時のドキドキやワクワクといった高揚感!終わった直後の充足感!アドレナリンの分泌が止まっても数十分続く興奮!

 

「そこまで言われると、科学者冥利に尽きるってものだねぇ………負けちゃったけどぉ」

 

最後の言葉をむすっとした顔で言うと、バラバラになったアンドロイドを台車に載せていく。

 

「そうむすっとするな、少し前に剣を交えた時のような高揚感を与えてくれたこのアンドロイドには感謝している」

 

「せめて僕を褒めてよ!」

 

「はいはい………ありがとうロイド、君のおかげだ」

 

「……………君さ、スケコマシって呼ばれたことない?」

 

イラッ

 

「カチ割ってやろうか?」

 

「ぼ、暴力はんたーい!!」

 

コンコンと刀で床を軽く叩いてやると、ロイドは頭を押さえてふざけた口調でそう言った。

 

「まったく…………お前は本当に最高の科学者だよ」

 

「あっはは〜〜…………ありがとね」

 

「「ぷっ………あっはっはっはっはっはっ!!」」

 

おかしくなって同時に噴き出した。

 

あぁ〜〜…………戦った後の余韻と、運動による汗が清々しくて気持ちが良い。

 

帰る前に、シャワーだな。




作者「書いた後で言うのもあれやけど…………戦闘アンドロイド強スギィ!」
ツキト「いや………(全力を出してないので)まだまだだな」
作者「えぇ……同時に何体いけるん?」
ツキト「10〜20くらいか?全力なら40〜50はまあなんとかいけるだろう」
作者「頭おかしい………MRANN姉貴は?」
ツキト「あれが10000体いてやっと今のマリアンヌ様と互角になるかどうかってところだな」
作者「ファッ!?…………ん?ちょっと待って!…………全盛期とかどうなるの?」
ツキト「そりゃあ、その数十倍は余裕でさばくだろうさ」
作者「人外のTKT兄貴の数千倍以上強いMRANN姉貴…………もうこれわかんねえな(思考放棄)」
ツキト「そもそもあれくらいの強さじゃなあ………ラウンズ程度なら嬲り殺せそう、ナイトオブワンは少してこずりそうだ」
作者「…………MRANN姉貴を戦わせてはいけない(誓い)」


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『難民』を『移送』せよ

ついに明かされる大規模作戦の全容!

完全空気なユーロブリタニア騎士団の面々!

主人公にとって割りかし好印象なレイラ!

ツキト・カーライルは自身の保身を胸に、今日も偽善の善行を重ねる。

そして高らかに叫ぶのだ!

「全てはブリタニア(自分)の未来のため!」


ツキトside

 

 

「ん……………もう、朝か」

 

懐かしいことを思い出していた気がするな。

 

戦線もだいぶ落ち着いてきた、最近はこの前線キャンプ周辺での戦闘も減ったな。

 

ユーロピア軍は限界が来たようだ…………とは言っても、こちらも補給線の問題で攻勢を仕掛けられない状況になっているのだが。

 

私がどうこう、という問題でもないし、時期を待つしかない、そうなると兵は暇で暇でしょうがなくなり、普段以上に酒を飲むようになる。

 

売店の酒の売り上げが伸びているという話を聞いたのが、補給線が伸びきり攻勢の限界に達した2日後、2週間ほど前だったろうか。

 

今ではここ前線キャンプに集結した多数の被保護者と酒を飲み交わして1日中喋ってるだけの兵もいると報告が上がった、仕事しろバカモンと通達してやった。

 

こうも緊張感というのは簡単に解れ切ってしまうものなのだろうか………。

 

「オリジナル〜」

 

「ん、ヘンゼルか………どうかしたか?」

 

「いやさぁ………あたしさぁ、告らんちってさ」

 

「ふーん、まあ男ウケする容姿だからなあ」

 

「…………あり?反応薄くない?」

 

「そりゃあなぁ………銀髪碧眼真っ白な肌、高身長スレンダーだが健康的、令嬢のようにお淑やかな見た目に反し明るくて気遣い上手ともなれば、惚れる男がいてもおかしくはないしな」

 

容姿は重要だしな、『いかにも』な狙った感ある容姿だが、好意を持たれているようなら成功だろう。

 

下手に冒険した容姿は万人受けしない、王道こそ求めるものだろう。

 

「やけに持ち上げるねオリジナル、もしかしてあたし達の容姿を決めたのってオリジナル?」

 

「私だ」

 

最初はノリでツンデレキャラにしようとした過去の私を今は思っくそ殴り飛ばしたい。

 

「やっぱりかぁ〜」

 

「そうだ、だから私としては、自分の作品が褒められた時のような、もしくは娘の成長を実感した親心のようなものを感じはすれど、それ以上の気持ちは今は湧かないな」

 

その時、ドアが開いてグレーテルが入ってきた。

 

「オリジナルー、あたしさーさっきこれもらったんだけど」

 

そう言ってひらひらと振っているのは手紙だった。

 

「子供からか?よかったじゃないかグレーテル、めんどくさがりでうざいお前にも子供は懐いて………」

 

「いや違うし、あとうざいゆうな、これは保護しらユーロピア国民22歳の男からだよ」

 

「へえ、お前にも春がきたのか」

 

「お前にもって、ヘンゼルも告らんたの?」

 

「昨日の夜くらいにね、売店の裏で『君を愛してるんだ!』って情熱的な告白をもらったよ」

 

「やるじゃんヘンゼル、あたしなんて紙切れだし………」

 

「グレーテル、恋文も立派な告白だぞ、そう無為にするもんじゃない」

 

「オリジナルは告白する時ラブレターなんてだす?」

 

「正面から行く、回りくどい方法なんてとって時間を無駄にしては他の男に取られてしまうからな」

 

「無為にしてんのオリジナルのほうじゃん………あー、返事めんどくさっ」

 

グレーテル酷いやつだなおい。

 

「インターネットから定型文探せば?」

 

ヘンゼルも大概酷いが。

 

「手書きめんどいし……そだ、オリジナル暇なら書いてよ」

 

「男からの恋文の返事を私に書かせるのかグレーテル?」

 

「オリジナル達筆だしいいじゃん、あっ、ついでに私のぶんも書いてよ」

 

「お前らなぁ………まてよ、ヘンゼルお前直接告られて返事はしなかったのか?」

 

「え?保留にしといたけど………」

 

「馬鹿かお前!相手に希望を持たせるとしつこくなるんだぞ!」

 

「マジで!?うわー…………会いたくないわぁ、グレーテルみたく引きこもりたいわぁ」

 

「あたしを引きこもりの代名詞みたいにつかわないでくんない?………ふぁぁあぁ…………もう限界、寝るわ………」

 

トサッ、と私のベッドに倒れ込んだグレーテル。

 

「おい、私今起きたばかりで着替えてもないんだぞ」

 

「zzz………」

 

グレーテルこのやろう…………。

 

「……………はぁ」

 

まあ、少しくらい許してやるか。

 

「おやぁ?オリジナルぅ、やけにグレーテルに優しくないですかぁ?」

 

「そうか?お前達に差をつけたわけではないのだが…………ヘンゼルも何かあれば言ってくれ」

 

「…………え?なに?今日のオリジナル優しすぎない?」

 

「たまにはそういう日もある、気まぐれだよ、で、何かあるか?」

 

部下のわがままくらい聞かんとな、それに、こういうことでこいつらのしたい事やりたい事を引き出していって、ゆくゆくはリンク無しでもそれができるように自我を芽生えさせる事にある。

 

ようするに、何気ないコミュニケーションも仕事のうちって事だ、今回は労いの意味もあるがな。

「あーーー………じゃあ部品交換してくれない?」

 

「いいぞ、どこだ?」

 

「熱発電装置の冷却水、そろそろ交換必要な時期だし」

 

「わかった、じゃあ………そっちのソファで裸になってフタを開けとけ」

 

「おっけ〜」

 

着替えたかったが面倒なのでパジャマ姿のままヘンゼルの棺桶に近づく、棺桶のフタを開けると底板があり、そこにはMVS・Cが半分ほど埋め込まれた状態で入っていた。

 

MVS・Cを退けるとそこには指が入れられそうな出っ張りがあった、それを掴んで引き上げると、底板の部分が持ち上がり様々な部品や武器が現れた。

 

この棺桶は二重底になっており、下の方に交換用の工具や部品、銃器や刀が収められている、MVS・Cは出っ張りを隠すためのフェイクだ。

 

冷却用のオイルを取り出して底板を閉める、オイルを持ってソファに向かうとすでに上半身裸になったヘンゼルがいた。

 

「フタは開けたか?」

 

「お腹の方でしょ?もちのろんよ」

 

ソファに寝そべってヘソのあたりにあるスライド式のフタを開けるヘンゼル。

 

ヘンゼルに覆いかぶさるようにしてソファに乗り、下腹部のフタの下に隠れていた回路や部品の海の中から冷却タンクを見つけ出す。

 

「ここか」

 

冷却水の循環を止め、しばらく待ってからタンクを取り外す。

 

「違和感はないか?」

 

「んっ、特にないかな?」

 

「わかった、続ける」

 

タンクの中にあるオイルを捨て、新しいオイルでタンクの線の部分まで満たす。

 

車のオイル交換のようなものだ、実に簡単だ。

 

タンクを戻し、循環を止めていた弁を捻って新しい冷却水を循環させる。

 

「どうだ?」

 

「…………あっ、なんか前よりヒンヤリしてる感じがする」

 

「そうか」

 

スライド式のフタを閉める。

 

ガタンッ

 

「なんか落とした?」

 

「いや何も、誰かが外で荷物でも落としたんだろう」

 

「まあいっか、交換ありがとね〜」

 

服を着ながらそう言うヘンゼル。

 

ん?ドアが………ふむ………。

 

「なあヘンゼル」

 

「ん?どしたの?」

 

「どうやら、見られていたようだ、誤解を受けやすいタイミングで、誤解を受けやすい体勢の時に」

 

「あたしが上半身裸の時にオリジナルがマウントとってる体勢の時に?」

 

大正解だヘンゼル。

 

「やばいんじゃないの?」

 

「私の株が不安だが…………お前たち2人に言い寄ってくる男は減るんじゃないか?」

 

「どして?」

 

ん?普通に考えればこれくらい………いや、ヘンゼルはアンドロイド、人間の恋愛に関するアレコレはインプットされていない。

 

「男は夢を見たがる、いかな美女とて一度抱かれた女を自分のものにしようとは思わないものだ」

 

要するに処女厨。

 

「ふーん…………変なの、その程度で冷めるくらいじゃ、所詮その程度の愛だったって事でしょ」

 

「そうかもしれんな、だが考えても見ろ、例え上手くいって付き合えても、その男の頭の中には常に、『この美女は他の男に抱かれた女だ』、という思いが渦巻く」

 

「…………そう思わないように、諦めるのがいいって?」

 

初めて見る悲しい表情をして、ヘンゼルは私に抱きついてきた。

 

「少なくとも、お前に告白をしてきた男には、そうやって諦めてもらったほうがいい………偽物の現実を突きつけられても、本物の現実を突きつけられたとしても……………辛いだろうしな」

 

『お前が好きになったのは、私が抱いた女だ』という偽物の現実。

 

『お前が好きになったのは、合成皮膚と電子部品の塊だ』という本物の現実。

 

「オリジナル………あたし、今、あの男の人を振るんだ、って考えると、なんか嫌な感じがする」

 

「…………なぜ?」

 

ナナリーの時の癖か、頭を撫でてあげつつ、抱きつかれたまま話を聞く。

 

「わからない…………オリジナルは、知ってる?」

 

「……私も似たような気持ちになったことがある…………勇気を振り絞って告白してきてくれた女の子に、受け入れられないと返す時、いつも………『申し訳ない』、という気持ちがわいてくる」

 

「申し訳ない……………そっか、あたし、あの男の人に申し訳ないって、思ってるんだ」

 

感情が芽生えつつある………のだろうか。

 

「別に好きでもなんでもないのに………罪悪感、ってやつ?感じてるっぽい」

 

「そう思ってしまうのは、私の人格をコピーした影響なのかもしれん………ま、その男に関しては好きにしろ」

 

「そっか……………ねえオリジナル、なんか寒いから………しばらくこのままでいい?」

 

抱きついた姿勢を解いて、ソファに座る私の太ももに頭を載せてきた、いわゆる膝枕だ。

 

「…………構わない、しおらしいヘンゼルを目に焼き付けることにするさ」

 

「あはは………アンドロイド相手に優しくしたって意味ないよ」

 

「それじゃあ………冷却水が効きすぎて弱っているヘンゼルを嘲笑うのも一興、ほれ、赤ん坊のように眠るといい」

 

「ふふふっ………共感覚で本心がわかるのって、いいね」

 

「…………また覗きおってからに、お前と言う奴は……」

 

「ふぁぁ………おやすみぃ………」

 

そう言って、ヘンゼルは眠った。

 

机を見ると、書類が数十枚ほど積まれていた。

 

「…………明日でいいか」

 

そう呟いてヘンゼルの頭を撫でる、私のベッドから飛んでくるグレーテルの視線を無視して。

 

「ちょーいちょい、無視は酷いんじゃないの?」

 

「起きたのか、おはよう」

 

意外と眠り浅かったなグレーテル。

 

「ふぁぁぁ……まだ寝足りないけどねぇ………んでなぁにしてんの?ついに人形フェチに目覚めた?」

 

「んなわけあるか………実験だよ、ちょっとした、な」

 

「膝枕が実験、ねぇ…………よいしょっと」

 

ぽふっ、とグレーテルが私の隣に座った。

 

「肩借りるよー、あっ、結構柔らかくて寝やs………」

 

「おい、グレー………」

 

「zzz………zzz………」

 

「テル…………」

 

グレーテルのやつ私の肩に頭預けて寝やがった………こいつどこでも寝れるんだな、私が言えたことじゃないが。

 

しかし、こういう時に限って誰か入ってきたり…………。

 

「カーライル様、失礼します」

 

「マルドゥック中佐……あぁ、見っともない姿ですまな……」

 

「か、カーライル様、この状況は一体!?」

 

「え?」

 

状況…………私がヘンゼルに膝枕しながらグレーテルに肩かしてるところか。

 

「見ての通り2人は疲れて寝ている、大声出して起こさないでくれ」

 

「は、はぁ、その、つかぬ事をお聞きしますが、お二人との関係は?」

 

「上司と部下だが?」

 

「そ、そうなのですか?」

 

…………やけに突っ込んで聞いてくるな。

 

「マルドゥック中佐…………君も2人を狙ってるのかね?」

 

「いいいいえ!!と、とんでもございません!私如きがカーライル様のお付き人を狙うなど!」

 

「そうかね?だが、この2人をそういう対象で見ても構わんよ」

 

さすがの私も人形に欲情はし難い、というかできないが。

 

いや、人間としてみればルックスは最高か。

 

「は、はぁ……」

 

「まあいいさ、それで、何か用かね?」

 

「はい、当前線キャンプ内の保護市民を後方に移送する目処がつきました、こちらを」

 

「『保護市民後方移送計画第二案』、か」

 

邪魔だという理由で廃棄処分予定だった大型バス数十台、先日確保した街から中型バスを数台確保、各地方からタクシーを出来る限り多くかき集め、約2000人の保護市民を移送する。

 

運転手は保護市民から募る、護衛として最低限KMF20機規模、又は2個装甲中隊、又は1個装甲大隊をつける。

 

「ふむ………………素晴らしい、よくぞこれほどの車両を確保できた」

 

「グレーテルさん…………グレーテル大佐のアイデアが無ければ実現は厳しいかったと思われます、鋭い洞察力をお持ちです」

 

グレーテルが自分でアイデアを出すとは、やれば出来るやつなんだな。

 

「なるほど………移送準備はいつ頃完了する?」

 

「装甲大隊の編成が早ければ、1週間後には整います」

 

「よろしい、保護市民にも伝えてくれ、引越し準備をするようにな」

 

「はい、直ちに!では、失礼しました」

 

マルドゥック中佐は綺麗な敬礼をして部屋から出て行く。

 

さて、それでは、戦後を考えるとするか。

 

主に、ユーロブリタニアの騎士団の今後、とかな。

 




ちょっとした(自己満)解説コーナー

学習能力特化型アンドロイド「ヘンゼルとグレーテル」

姉のヘンゼル、妹のグレーテル、2体で1体のプロトタイプアンドロイド。
将来的に戦闘型を量産するにあたり、自我を持つ機械人形の作戦における有用性の研究のために作り出された。
学習能力に特化し、主に小型圧縮されたスーパーコンピュータと高出力モーター、及びそれらの発する熱を用いて発電する装置と、重要部品に熱がこもらないようにするための冷却装置、大型バッテリーによって動作する。
基本的にそれで十分な性能であるが、インコムの精神感応波を応用したリンク・共感覚システムや人格・思考のコピーなどがこの学習能力特化型アンドロイドのメインで、この機能を長時間使用した状態で様々な体験をさせる事でアンドロイドに自我を芽生えさせる。
負担が大きく、事実上ツキトのみがリンク可能。


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『別行動』、彼の者たちは……

ついに発動する保護市民移送計画!

動向を任されたヘンゼルはツキトの記憶を覗いてしまい、マルドゥック中佐に話してしまう!

一方、ツキトは暇そうなグレーテルを連れて仕事をサボっていた!




「資材の積載完了しました!」

 

「保護市民全員乗車完了!」

 

「バッテリーの充電十分、いつでもいけます!」

 

各部の点検が完了し、報告のための大声があちらこちらで聞こえる。

 

「別キャンプの装甲車部隊が予定ルートに向け前進を開始しました!10分以内にこちらも発進すれば接触予想時刻と重なります!」

 

「了解!…………カーライル様、発進準備、整いました!」

 

マルドゥック中佐の綺麗な敬礼に答礼、決めておいた言葉を言う。

 

「うむ………再度、運転手に安全運転を徹底させた後、マルドゥック中佐の指揮で各車発進させろ」

 

「ハッ!運転手各員、安全運転にて順次発進せよ!」

 

マルドゥック中佐の号令で最前列の車両から順にゆっくりと発進していく。

 

マルドゥック中佐の顔は穏やかだった、心中もそうであろう、だが緊張もあるはずだ、まだ寒い時期なのに汗をかいていた。

 

当然だろう、自分で計画した保護市民の移送作戦だ、つまりその全権を委ねられている、責任もそうだ。

 

マルドゥック中佐に失敗は許されない………私は緊張しているであろうマルドゥック中佐に向けて励ましの言葉を送る。

 

「マルドゥック中佐、緊張はわかるが、ツアーの企画者がそれでは乗客は楽しめないぞ?」

 

「は、はい!申し訳ありません」

 

「乗客に快適な旅をプレゼントするためには、まずが余裕を持つことだ…………なぁに、たかだか、2371人の保護市民と、移送部隊500人と装甲部隊160人程度だ」

 

「全然余裕を持てないのですが…………」

 

「え?」

 

あっ、そうか、マルドゥックは中佐で基本的にKMF部隊の世話が中心だったか、およそ3000人規模……1個大隊規模の兵は動かしたことがないのか。

 

………今までよく前線で生き残ってこれたもんだ、実はとんでもない豪運でも持ってるのかもしれんな。

 

「あぁ、すまん、向こうではこれくらいの人数を動かすのは普通だったからな………」

 

「さ、3000人規模が普通ですか!?」

 

日本侵攻の際、(知らなかったことなんだが………)当時の私が指揮したのは3個連隊からなる1個師団だった(そうだ)。

 

歩兵、砲兵部隊、装甲部隊、KMF部隊、戦車部隊などを含む混成師団で、総員はおよそ11000人からなる主力部隊だった。

 

私は師団長と同等の権威を持って指揮官としてそこにいたし、同時に先陣のKMF部隊のさらに先頭で戦っていたことになるわけだ。

 

だからまあ、11000人の兵を率いて戦っていたと言っても嘘ではないのだ。

 

「まあな…………マルドゥック中佐もどうだ?1個師団の兵を率いて最前線で先陣を切るんだ、生きて帰ったら英雄になれるぞ」

 

生きて帰ってきた私を待っていたのは、存在を秘匿した隠居生活だったが。

 

「そんなことできるのカーライル様ぐらいですよ…………あとはラウンズくらいでしょう、私にはとても………」

 

「そうかね?…………そうかもしれん、敵国の民の人命を尊重できるほどのお人好しの君には、無理だろうな」

 

「うぐっ………」

 

「だが、私はそんなお人好しのマルドゥック中佐のような人物に好感を抱くよ」

 

ここの連中は『ユーロピア人=殺す!』の直結回路のやつが多すぎる、ここの前線キャンプはマシだったが、他のキャンプはダメだった。

 

早めに人命尊重の命令を出しておいてよかった、出さずに勝っていたら大量虐殺の汚名をかぶるところだった。

 

「あ、ありがとうございます」

 

照れくさそうな顔をして笑うマルドゥック中佐、こいつ絶対に大物になるぞ。

 

というか大物だろう、人命を尊重し、部下に慕われ、上の評価も良く、人望も厚い、優しいがしっかり芯があり、何より若く容姿が整っておりイケメンだ。

 

総じて、保護市民の受けも良いのだろう、ほとんどの保護市民は移送に伴う引っ越しに関してふたつ返事で了承していたと聞く、その時の説明役もマルドゥック中佐だったか。

 

名前の通り、知恵者で勇敢な青年だ、実に秘書・副官に欲しい人材だ。

 

まあ、引き抜いたら部下も丸ごとついてきそうでは、あるがな。

 

「精進してくれよ?マルドゥック中佐」

 

「はっ!微力を尽くします!」

 

「む?この作戦を微力程度で完遂できるのか、なら今度の大攻撃作戦の指揮官をマルドゥック中佐に………」

 

「ぜ、全力!微力ではなく、全力を尽くします!」

 

「ははは、そう焦らずとも良いよ…………緊張は、解れたかな?」

 

「!…………はい、肩の力を抜くことができました」

 

「よろしい、では引き続き指揮を頼むよ、私はキャンプで様子を通信で聞きつつ、お茶にでもさせてもらおう、何かあったら…………ヘンゼル」

 

「はいはーい、呼んだー?」

 

ワンテンポ置いて私の背中に一瞬で現れたヘンゼルにギョッとした視線を向けるマルドゥック中佐。

 

呼んだは呼んだが、一瞬で現れたように見えたのは共感覚で近くに呼んで置いただけなんだがな。

 

「呼んだぞ…………何かあったらヘンゼルに言いたまえマルドゥック中佐、そこらの雑兵程度ならこいつは生身で対処できる、安心して突撃させて構わない」

 

「ちょっとちょっと、扱いかた考えてよねー、私だって女の子なんですけどー?」

 

ぷんすか、という擬音が出そうな表情と手振りでそう反抗するヘンゼル。

 

「というか、離れたらやばいんじゃないのー?ねーねー?護衛がグレーテルだけとか心配じゃなーい?」

 

「……………そういうわけで、頼んだぞ」

 

「は、はぁ………」

 

「無視とかひーどーいー!」

 

無視を決め込んでマルドゥック中佐に指揮を任せ、私はベッドのある個室へと踵を返す。

 

「あっ、こらー!グレーテルに言いつけてやるー!」

 

「グレーテルなら私のベッドで寝ている」

 

「さすグレ………寝すぎでしょ……ってかマジ寝すぎしょ……」

 

「へぇぁっ!?」

 

「「『へぇぁっ』?」」

 

「な、何でもありません……(や、やっぱり肉体関係を持ってるんじゃないか!!////)」

 

いきなり挙動不審になったな、何かミスでもあったのか?

 

報告がないなら大したことじゃないのだろう、もしくは酷な事態すぎて報告できないのか…………まあ、任せると言った手前、そう深入りすることもないだろう。

 

「ヘンゼル、あとは任せる」

 

「しょうがないなーもー、ほいじゃあ、ヘンゼルお姉さんにお任せ!ってね!」

 

「私が姉と呼び慕うのはコーネリア様だけだバカモノ」

 

「(コーネリア様を!?)」

 

「「「「「(お姉さん呼びだと!!??)」」」」」

 

個室へと戻り、鍵を閉めると靴を脱いでベッドに飛び込んだ。

 

グレーテルにぶつかった感覚があったが、睡魔には勝てず、そのままブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘンゼルside

 

 

出発してからもう2時間かー、長いねほんと。

 

『先頭車両より定時連絡、全車両、車両に異常なし、他、5号車にて保護市民一名が車酔い、薬を飲ませた、どうぞ』

 

「こちらマルドゥック中佐、了解した、5号車に伝達、症状に変化があるようならすぐに報告せよ、どうぞ」

 

『こちら5号車、了解』

 

うーん、ま、概ね順調ってとこかなー。

 

(い、いい……uけ、ですと?)

 

おぉっと、共感覚でオリジナルの思考が流れて………。

 

(ユーフェミア様が私の許嫁?今更連絡を寄越してきたと思ったらそんな冗談を……………え?その年は…………ちっ、書類を偽造でもしたか)

 

「むむ……」

 

まさかのユーフェミアちゃんがオリジナルの許嫁とは………まあ似合いそうではあるけど、すでに婚約者がいるし無理そうなもんだよね。

 

ってか偽造ってなによ?

 

(ん?………ヘンゼルと繋がったままなのか?)

 

ん、そだよ、ダダ漏れだよ。

 

(そうか…………うるさかったか?切っとくか?)

 

愚痴くらいなら聞くけど?

 

(そうか…………あーほんとマジめんどくせえ)

 

うっわ、オリジナルの本性で引くわー。

 

(うるさい…………とりあえず、まずはクレアに連絡して事実確認だろ?それで、今度は書類を持って来させて、次に偽造書類に対する抗議文を送って、最悪は裁判だな、ってなると帰国する必要があって戦線を放り出していかなきゃいけないんだ、めんどくさいなんてもんじゃないぞ)

 

うっひゃー、ごしゅーしょーさま。

 

(メールは送っておいたし、もしもがあればクレアが代理で処理する、ふぅ、これで心置きなく戦争ができる)

 

そ、なーんかすぐ終わっちゃっていじりがいなーい、味気ないなぁ。

 

「ヘンゼル様」

 

「ん〜?なに〜?」

 

「カーライル様について知っていることを教えてはもらえませんか?」

 

「………え?なになに?もしかしてー、ラァヴな感じ?」

 

「いえ、そうではなくて………カーライル様は僅か齢7、8と若くしてラウンズとなり、エリア11、現在の日本エリアへと向かい、生存が確認されるまでの10年を孤独に息抜き、今もこうして戦い続けています」

 

「うんうん」

 

「苦労も、それ相応にあったものと邪推します、…………誤爆によって主人を失うという、本来ならば人を信じられなくなってもおかしくないほどの傷を心に負って尚、なぜ、なぜあそこまで明るい振る舞いができるのでしょうか?」

 

あー、マルドゥック中佐にはオリジナルのメンタルが異常に頑丈に思えるわけだ。

 

「本国の宮廷から風の噂で流れてくる話の中には、誹謗中傷の声が多いのです…………カーライル様もそれを見て、聞いてしまっているはずなのです、そんな声が聞こえる場所でもまったく意にしないなんて、私にはとてもできません」

 

「ふんふん」

 

「教えてくださいヘンゼル様、カーライル様はどうして、気位高くいられるのですか?」

 

あちゃー、マルドゥック中佐、完全にオリジナルにのめりこんじゃってるよ。

 

人誑しってのはオリジナルみたいなことを言うのかな?

 

とりあえず、なんか返しとかなきゃだし、申し訳ないけどちょーっとだけ、オリジナルの記憶に鑑賞させてもらうねー。

 

………………なに………これっ。

 

「うっ……」

 

「ヘンゼル様!?」

 

「だ、大丈夫」

 

よかったーアンドロイドで、人間だったらうずくまって吐いてたよ、あははー。

 

なんて、笑えるような記憶じゃないね…………これは。

 

気乗りしないけど、こりゃいつ暴走するかわからないね、いざという時のブレーキがわりになってもらおーかな。

 

「………うーん、多分ね、オリj……カーライルはさ、乗り越えなかったんだよ」

 

「乗り越えなかった?」

 

「仕えていた主人の死、殺した大勢の日本人、粛清したたくさんのブリタニア人(同胞)、処刑台に送ったギネヴィア、それらを乗り越えず、受け止めているからじゃないかな?」

 

「えぇっと………それは………」

 

「あぁごめんね?えっとねぇ…………乗り越えるってつまり、その事柄を過去の事にして頭の片隅にポイしちゃう事なんだよ」

 

「はい」

 

マルドゥック中佐が真剣な表情でうなづく、うん、いい男だねえ彼。

 

「受け止めるっていうのはね………カーライルの場合、常に頭の中でその時々のことをループして考えてるんだよ」

 

「!?」

 

マルドゥック中佐の目が大きく見開かれ、口も開くが声が出ない。

 

衝撃的だよねぇ………笑えないくらい。

 

「どうすれば主人を救えたか?どうすれば大勢の日本人を殺さずに済んだか?どうすれば粛清せずに済んだか?どうすればギネヴィアを処刑台に送らずに済んだのか?………それを考えてるんだよ、ずっと、小さい頃から」

 

「なぜ、そんな危険なことを!?そんなことを続けていれば、いつか気でも違ってしまいます!」

 

「そうなんだよねえ、実際、カーライルの心はぐっちゃぐちゃだよ、喜怒哀楽の基本感情に、恨みや妬み、ぐっちゃぐちゃなんだよ、もうまともな思考なんてできてないよ」

 

「なにを言うんですか!今回の移送計画についてよく吟味し、役立つ数々のアイデアを出し、実行するとなれば必要物資を手に入れるために寝る間も惜しんで指揮をしたと聞きます!敵国の市民のためにここまでできる人物が、まともな思考を持っていないはずがないでしょう!!」

 

そう怒鳴るマルドゥック中佐に、私は冷めた口調で言葉を紡ぐ。

 

「…………ツキト・カーライルの根っこにあるのは、主人への果てない忠誠心、救国の姫君と言われる美人さんのユーフェミア様にどれだけ誘惑されていようとも、心は亡くなった主人に向かっている」

 

「そ、それがどうし」

 

「…………亡くなった主人が、死ぬ間際にツキトに残した遺言があるの」

 

「!」

 

「ツキトは主人の遺言を完遂するべく戦っているの、まるでマシーンみたいに」

 

「その遺言とは、いったい?」

 

「『たくさんの人を助けて』、『世界を平和にして』、このふたつだよ」

 

「じゃ、じゃあ、カーライル様は、亡くなった主人の遺言に従って…………」

 

それじゃあ機械じゃないか………そう呟くマルドゥック中佐。

 

「そう、命令に従って動いてるだけ、そう考えると異質に見える行動にも説明がつくでしょ?」

 

「…………日本エリアの復興に力を入れているのは、『たくさんの人を助けて』という遺言に従って動いているから…………で、では、『世界を平和にして』という遺言はどうやって」

 

「『達成するつもりなのか?』でしょ?今やってることの延長線上が達成条件でしょうね」

 

「戦争…………世界征服!」

 

マルドゥック中佐が驚愕の表情で私の顔を見る。

 

「そ、神聖ブリタニア帝国による世界征服、及び、世界の統一によるただ1つの巨大国家の形成…………戦争は起こらない、大勢の人が死ぬこともない………まさに【完成された世界(パーフェクト・ワールド)】ってわけ」

 

私はマルドゥック中佐の目を睨みつけるように凝視してそう言った。

 

「そん、な………」

 

「ただただ命令に従っているだけ、命令に忠実に…………まさに『猟犬』か『番犬』のようね」

 

「………………カーライル様は、世界統一を果たされたら、一体どうするおつもりなのでしょうか?」

 

「実はね、今でも結構無理してる状態なんだ、7〜9歳の小学生が高校三年になるまでの間、ざっと9年の長い時間、世界を相手にたった1人戦い続けてきた………もう分かるでしょ?遅かれ早かれ、ボロボロになって死んじゃうよ」

 

「わかっているなら、なぜ!ヘンゼル様はカーライル様を止めないのですか!?」

 

「私には無理さー、それこそ殺されちゃうよ」

 

「殺っ………!?」

 

真っ青に青ざめるマルドゥック中佐、死のイメージを浮かべられるのは良い事だね。

 

死のイメージができない人から死に急いでいくんだよねぇ、特に貴族とか、自分が死ぬなんて思っちゃいないボンボンなんて、オリジナルが手を振るだけでポッキリ逝く。

 

「ん、この話はおしまーい、あっ、最後に1つ言っとくけど……………ツキトの前で主人の事を貶したりすれば、わかるよね?」

 

「い、イエス、マイロード」

 

「……………ま、今のツキトには婚約者がいるし、その子が悲しむと分かれば死ぬような無茶はしないだろうからね」

 

「そ、そうですか…………よかった」

 

とりまフォローして、んー…………あとはいいかな、うん。

 

『先頭車両より定時連絡、異常なし、どうぞ』

 

「あっ、りょ、了解」

 

ん、帰ったらオリジナルに謝っておこうっと。

 

相談にものってあげよっかな。

 

世界を滅ぼされちゃたまったもんじゃないしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

なにやら記憶を覗かれた気がするが…………ダミーの方か、なら良い。

 

「おーいオリジナルー」

 

「どうした?グレーテル」

 

「また釣れた、こいつなに?」

 

「あぁ、そいつは………」

 

私とグレーテルは今、(戦時下ではあるが)平和(かつ暇)な時間を少し有効に使おうと思い、キャンプから離れた小川で釣りをしている。

 

バイクを一台借りて偵察の建前で4時間ほどすっ飛ばし、見つけた林にバイクを隠し、敵軍に見つかってもバレないように堂々と私服でのんびりと釣りを始めたのだ。

 

少しの休憩を挟んで釣り始め、40分ほど経過して今のでグレーテルは4匹目、私は2匹釣り上げたところ、魚の大きさでは五分だが数で負けていた。

 

まだ逆転の目はある、あるが………釣りにおいてはアンドロイドゆえの正確な動作ができるグレーテルのほうが上であった。

 

いつぶりか、ロイドのけしかけた戦闘特化アンドロイドとの戦いよりも厳しい戦いだ、なにせ、運の要素が絡むと私はあまり強くないからだ。

 

くじ引きでアタリを引くのが困難なように、運が入るだけで私の勝率は下がる。

 

釣りにしてもそう、魚の気持ちが分かればそれに適した餌の動かし方ができるものだが、残念ながらそんなことはできない。

 

一定のリズムで水中の餌を弾ませたりして、さも生きているように見せる事で魚を食いつかせる方法があるが、その一定のリズムを正確に、かつ複雑に長時間できるのは機械くらいのもの、つまり、アンドロイドだ。

 

3日間ここにキャンプする予定だし、まだまだ勝負はわからない。

 

ここが追い上げ時、いz

 

「オリジナル、もう11時になるんだけど?」

 

「むむっ…………存外に熱中してしまったようだな」

 

グレーテルの声でハッとする、腕時計は10時50分をとっくに過ぎ、11時に針が重なりそうになっていた。

 

「すまんグレーテル、すっかり忘れていた」

 

「気をつけてよねほんと、めんどくさい火起こしはやっといたから」

 

見るとグレーテルはエプロンをつけて一斗缶で作った簡素なバーベキューコンロにつけた火に燃料をくべていた。

 

「ありがたい、小さいやつの鱗を取ってくれ、唐揚げにする」

 

「了解…………アンドロイドって魚食べられない?」

 

「まあ、無理だろう」

 

「オリジナルの食料を増やしただけとか…………試合に勝って勝負に負けた感じ……なんかだるいそー」

 

集中して釣ったのに徒労に終わったことを悟ったような表情をすると、魚の入ったバケツから小さい個体を一匹取り出し、まな板がわりの木板の上に載せて鱗を除去し始めた。

 

私は釣り道具を片付けると、自分の釣った魚をグレーテルの釣った魚の入ったバケツに移した。

 

グレーテルが鱗を除去している間、私は鍋に油を張って一斗缶コンロの上に載せ、唐揚げ用の材料を揃えておく。

 

「こんなものか」

 

「鱗取り終わった、適当に揚げてって」

 

「早いな………」

 

グレーテルから渡される魚に卵に浸して小麦粉を全体に満遍なくつけて油に投入する。

 

色合いを見つつ揚げていく、この音でもう腹が減ってきた。

 

いい感じにキツネ色になったものから鍋の外に、うむ、こんがりとして油で照っている、実に美味しそうだ。

 

三尾を唐揚げにし、皿に盛りつけた、とても簡素だが、この場においてこれ以上ない程に贅沢な食卓が完成した。

 

「こーんな美味しそうなのが食べられないとか………ほんっとキッツいわぁ」

 

「まあそう言うな」

 

「人間って不便だけど、アンドロイドも不便だわ………あーなんかアンドロイドの自分が悔しい、オリジナルとの共感覚で目の前の料理が美味しいのがわかってしまうのが悔しい」

 

「MVS・Cの鞘部の充電機能で満タンのバッテリーがいつでも交換可能なお前と違って、私はこうして火を通さんと寄生虫が怖くて口に出来んのだぞ」

 

「そこは情報として知ってるけどさ……」

 

「野戦キャンプでは最悪の場合、虫でも苔でもなんでも食うんだ、それに比べれば、電気さえあれば動けるお前のほうが良いじゃないか」

 

私は食ったことないが、食ったことのある兵によると『案外いける』とのこと、冗談でもそう言う感想は聞きたくなかった。

 

某虫がササミっぽいとかは特に聞きたくなかった、おかげで2日は鶏肉が食えんかった。

 

「うへぇ、虫とか言わないでくんない、キモいし、あとキモいし」

 

「わかったら睡眠でもとっとけ、しばらくしたらまた釣るぞ」

 

「んじゃ寝る、このままだと美味しい料理が食べられるようオリジナルが憎くてたまらないし………ふぁあぁ……」

 

大きく欠伸をする、もう少し淑女らしく振る舞えんのかこの高性能アンドロイドは。

 

グレーテルは地面にパラソルを刺し、折りたたみのベッドを広げるとそのまま横になり睡眠状態に移行した。

 

「おやすみぃ……」

 

暖かくなってきたとはいえ、毛布なしは寒そうに見える。

 

「さて、では………」

 

グレーテルが寝たので冷めないうちに料理を頂くことにしよう、まずは、小さいほうから、揚げたてだからやけどに気をつけて。

 

「ん?」

 

……………。

 

「グレーテル」

 

「…………………ん、西の方角。約40mに5人、男3、女2、こっちに来てる、足取りからして旅行客じゃない」

 

寝たままの状態で報告するグレーテル、さすが高性能アンドロイド、僅かな揺れすら感知するとは。

 

せっかくの休暇中になんと無粋な………。

 

「軍の者、おそらくユーロピア………一応、拳銃を持っておけ」

 

中口径の軍用拳銃、ではなく大口径の現代的なペッパーボックスピストルを投げ渡す。

 

グレーテルは目を閉じたまま気だるげに腕を伸ばしてペッパーボックスピストルズをキャッチし、ロングスカートの内側の空のホルスターにしまい込んだ。

 

なぜ常に武器を携行しないのかだって?軍のアイドル的存在が武装してたら夢も何もあったもんじゃないからだ、夢は壊してはいけないのだ。

 

それに、暴徒鎮圧程度は武器など無くても出来るくらいに出力はある、変に武器をチラつかせるよりも、身体能力の高さを見せて諦めさせたほうが早い。

 

それでも暴れるなら暴徒ではなく反乱軍として即刻射殺するが。

 

「はいはい、オリジナルも変装したほうがいいよ、移動速度は遅いけど、もう30mきってるし」

 

「もう終わってるわよ、いい?私に合わせるのよ」

 

「わかっt…………え?誰?オリジナル?」

 

薄目で私を見たグレーテルはギョッと見開いて私の全身を見ながらそう言った。

 

「そうよ、悪い?」

 

「めちゃくちゃ似合ってるじゃん、やだかわいい、すごい、あっ声も違うんだ、へぇ…………」

 

「わかったから横になって、今の私はグレーテルのメイドなんだから」

 

咲世子の清楚なメイド服をデフォルメしたメイド服に、飾り気の少ないカチューシャ、スカート中は見えないと思うが、念のためドロワーズでブツが見えないようにした。

 

というか………なんかグレーテルのやつ目がキラキラして気持ち悪いな。

 

………あっ、もしかして、ヘンゼルにはないと思ってたから勘違いしてたが…………可愛い物好きの特徴が受け継がれてるのはグレーテルの方だったのか。

 

「ちょっ、あとで写真撮らせてっ」

 

「わかったから寝なs…………誰かいるの!?」

 

早く横になるように催促しようとしたところで、ガサッ、と音がした、その方向に向けて大声で叫んだ。

 

メイドらしくグレーテルを守るように立つ、藪から誰かが出てくる。

 

休暇を邪魔した不届き者は意外な奴らだった。




ツキトの偽の過去を覗いてしまい盛大な勘違い中のヘンゼル、とマルドゥック中佐。

貴重な戦時休暇を潰される予定のツキト、キャンプから離れた小さな森で、出会った5人の男女は一体誰なんだ!?



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『潜入』するは『偽る者』

遅くなってすみません!
何でも島村卯月ちゃんかわいい!

はい、えー…………今回は、変装、というか女装回です。



noside

 

 

メイド服を着た少女の大声で藪の向こう側から現れる男3人、女2人の集団。

 

皆、KMFのパイロットスーツと思わしきライダースーツの上から軍服を羽織っている、男のうち1人だけ軍服を片側の肩に預けるようにしていた。

 

「E.U.軍、レイラ・マルカル中佐です、失礼ですが………」

 

「『失礼ですが』じゃないわよ!なにこそこそと出てきてんのよ!あんたら軍人ならもっと堂々と正面から来なさいよ!盗賊かと思ったじゃないの!」

 

質問をしようとしたレイラに、早口で怒るメイド服を着た少女、少女の手元には護身用と思わしき短剣が握られていた。

 

「も、申し訳ありません、驚かせてしまったことは謝ります」

 

「あー………はい、謝罪を受け入れるわ、だから、もう寝てもいい?眠くて無理だわ」

 

「え?いやその………」

 

「あんた、レイラとか言ったかしら?グレーテル様が謝罪を受け入れたのよ!?これから眠るとおっしゃったのよ!?はい、か、イエスで答えなさい!」

 

「は、はい!」

 

軍人として反射的に返事をするレイラだったが、早い返事に少女は満足げにうなづいて。

 

「話がわかるようで助かるわ、私の名前はマリア、こちらにいらっしゃるグレーテル様の世話役をさせていただいているわ」

 

と、先ほどまでの邪険な表情のない笑顔で自己紹介をしたメイド服の少女、マリア。

 

スカートの裾を少し持ち上げ軽い会釈をするマリアは、実に様になっていた。

 

「E.U.軍中佐のレイラ・マルカルです、こちらの4人は私の部下です、それでミス・マリア、いくつか質問をしても?」

 

「うーん…………いいわよ、グレーテル様が寝ていらっしゃるから、向こうの方でね」

 

レイラの問いに少し考えた様子を見せたマリアは、川近くに設置してあった折りたたみ椅子を指してそう言った。

 

「はい、ご協力感謝いたします」

 

「まだ感謝されるようなことしてないわよ」

 

クスリ、と笑ったマリアはそう言い、折りたたみ椅子の方に歩きつつレイラたちを手招きした。

 

男子陣と女子1人は折りたたみ椅子にどっかりと座り込んだが、レイラはまだ席に着かず、同じく席に着かないマリアを不審そうに見た。

 

「どうかしたのですか?ミス・マリア」

 

「ごめんなさいね、今お茶を用意するから」

 

「と、とんでもないです!お話をしていただけるだけで結構ですのに………」

 

「そうは言うけど、あなた達よく見るとボロボロじゃないの、目元にクマもあるわ」

 

「えっ!?」

 

思わず手鏡を出して確認したくなったレイラだが、今は持っていないことに気づき、そもそもこのタイミングで出すべきでないと思い、手鏡を探そうとポケットを弄る手を止めた。

 

「何があったか知らないけど、不健康な生活は美容の敵よ?」

 

マリアはどこから出したのか、折りたたみのアウトドアテーブルを広げ、簡素なコップを並べて紅茶を注ぎながらそう言った。

 

「うっ、肝に命じます」

 

「うん、で?レイラ、話ってなに?」

 

「はい、この付近で、ツキト・カーライルを目撃したりはしていませんか?」

 

「無いわ…………え?近くにいるの?」

 

紅茶を一口飲んだマリアは少し驚いたようにそう聞き返した。

 

「いえ、そう言うわけでは…………ツキト・カーライルはよく外出すると聞くので」

 

本当は付近の街でツキト・カーライルに似たラフな格好の人物がいたという目撃情報があったからであるが、軍事機密のためレイラはあえて伏せた。

 

「ふーん、そう、近くにいるんだとしたら気をつけなきゃいけないわね」

 

「ツキト・カーライルは超A級危険人物に指定されています、見かけたとしても接近を許さないようにお願いします」

 

「そうするわ、もし出会ったらグレーテル様が大変だもの」

 

「グレーテルさんが、どうか?」

 

「グレーテル様はブリタニアの貴族の末裔なの、本国でのイザコザに巻き込まれたくないから、ほとぼりが冷めるまでこっちにいるつもりだったのよ、なのに」

 

「運悪く戦争が激化しちゃった、ってこと?」

 

そこで口を挟んだのは男子陣で最も華奢な者、成瀬ユキヤだった。

 

「そうよ、ってあんた誰?」

 

「成瀬ユキヤ、こっちの背が高いのが佐山リョウ、で、こっちは香坂アヤノ、この仏頂面が日向アキト」

 

「ふーん、レイラの部下ってみんな日本人なの?」

 

「共に行動している彼らや兵士はそうですが、オペレーターなどはユーロピア人がほとんどです」

 

「そう、よかったじゃないのあなたたち、レイラが上司で」

 

「そうだな」

 

からかうようなマリアの言葉に冷静に答えたのはアキトだった、マリアは面白いものを見る目を一瞬だけアキトに向けると、すぐにレイラに向き直る。

 

「それで、ツキト・カーライルがもしもグレーテル様の顔を覚えていたら、どんな目に会うかたまったもんじゃないのよ」

 

「グレーテルさんはツキト・カーライルと面識が?」

 

「すれ違いざまにグレーテル様ち2、3話した程度だけど…………あいつは気に入った女をどんな手を使ってもモノにする最低のスケコマシよ、そして、自分の所有物が勝手に行動すると激怒するクソ野郎よ」

 

憎しみで埋め尽くされた表情から出る吐き捨てるような声が、マリアから出たものだと一瞬わからなかった。

 

「気にいる条件などはあるのですか?」

 

「あいつが会話した相手は気に入った相手なのよ」

 

「所有物、とはどのような段階で?」

 

「さあ?目をつけた時点で手に入れた気にでもなってるんじゃないの?自惚れ屋で有名だもの」

 

「……………あれ?レイラ、あんたヤバイんじゃないの?」

 

レイラの他のもう1人の女が喋った。

 

「え?」

 

「この前の市街地戦の時!あんたKMFに乗っててあいつに出会ったでしょ?」

 

「そういえば…………ですが、さすがにそれは」

 

「いいえ、あなたも危ないわよレイラ」

 

「ミス・マリア?」

 

「あいつにとって女は欲望の捌け口、いろんな女に目をつけているのも、『コーヒーの微糖とカフェオレをどっちも飲みたい』くらいの感覚なのよ」

 

「それでは、私は彼の………ストックと?」

 

レイラは声に出しつつ沸々と湧いてくる怒りを感じていた。

「ありえるわよ、日本エリアでの暴れっぷりを知ってるでしょ?」

 

「はい、総督を恫喝して無理矢理条例を変えたとか……しかしそんなことが可能なのでしょうか?いくらラウンズとはいえ不敬でしょう」

 

「当時の総督はコーネリア、彼女はあいつの幼馴染みたいよ、幼い頃からタラし込んでたんでしょうね、なんて言ったって、あのアールストレイム家だもの」

 

それぐらいやる子供に教えてても不思議じゃないわよ、そう言ったマリアにレイラはふと疑問を感じた。

 

なぜマリアはここまで情報を持っているのだろう?と。

 

「副総督のユーフェミアなんて酷いわよ?慕ってくれるイケメン騎士がいるのに、スケコマシにゾッコンなんだもの、笑えてきちゃうわ」

 

「それほどに求心力が?」

 

「求心力なんて高尚なもんじゃないわ、あれはただ………この話はやめときましょ、気分が悪くなるわ」

 

「そう、ですね…………良ければですが、私たちE.U.軍が保護しますが、如何でしょうか?」

 

「その辺は私はなんともいえない、私はグレーテル様の従者、主人の決定に従うだけだもの」

 

「では、マリアさんの方からグレーテルさんのほうに検討していただくようお話をお願いします」

 

「いいわよ………そうだわ、この近くに無事な街とかはないかしら?」

 

「ありますよ、しかし近くてもここから14kmほどあります」

 

「そう、ちょっと買い物がしたかったんだけど………」

 

「それなら、軍のトレーラーを回しましょうか?市民保護の名目ならば動かせるはずです」

 

「それがいいわ!グレーテル様には話は通しておくから、連絡お願いね」

 

満面の笑顔で言い放ったマリアに少したじろぐ男子陣、中でもガタイのいい男は少し照れているように見えた。

 

「わかりました、連絡をします、到着まで早くて4時間ほどかかりますので、お待ちください」

 

「ありがとう…………あっ、そうだわ、ここの川で釣った魚なんだけど、良かったら食べて」

 

マリアはテーブルに料理品を並べつつそう言った。

 

「いいのか!?」

 

「いいわよ、私じゃ食べきれないし」

 

「ですが……」

 

「いいのよ、お礼程度のものだし、残して捨てるよりも経済的よ」

 

「そうだぜ隊長さん、現に俺らは腹ペコだ」

 

「いただいたほうがいいぜ」

 

「うーん………そうですね、いただきましょう、感謝いたします、マリアさん」

 

男子2人の後押しにレイラはうなづいた。

 

「残さず食べなさいよ」

 

なお料理品は絶品であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

翌日、ユーロピア軍のトレーラーに乗せてもらい近くの街の難民キャンプ区域に到着した。

 

休日のはずがいつの間にか敵地潜入任務になってしまった、せっかくの休みが消えるのは惜しい、だがここで情報を持ち帰れば一挙に殲滅するチャンスでもある。

 

武器類はグレーテルの体の中に隠すことで発見を逃れられた、これは大きい、それにバイクも回収してもらえたのもでかい。

 

急遽潜入を行う旨をコッソリと打電し、難民キャンプのテントが並ぶ中で見つけやすいような場所にテントを建てる、むろん私1人でだ。

 

「ねえ、私手伝わなくていいの?」

 

「グレーテル様はお休みください、あのトレーラーは揺れて腰に負担があったことでしょう」

 

従者とその主人の関係なのに主人が手伝っていたらおかしいだろう、察しろグレーテル。

 

(りょーかい………ふぁぁ、寝るわ)

 

…………………よし、これでいいだろう、ふー…………1人だと疲れるな、ざっと40分はかかった。

 

「グレーテル様、どうぞテントの中へ」

 

「ん?建った?んじゃ入るね、荷物よろしく」

 

「かしこまりました」

 

置いておいた荷物をテントの中に運び入れ、テントの入り口を閉める、これで外からは何も見えない、声も小さくならほとんど聞こえないはずだ。

 

「さてグレーテル、とりあえずここで3、4日ほど生活するぞ」

 

「いいけどさー、どうして?」

 

「共感覚を使って説明してもいいんだが…………私自身の体力が削られるから口頭で説明するぞ」

 

「あーさっきから繋ごうとして弾かれてたのってオリジナルが拒否してたからか」

 

「一回で弾かれたならそこで分かれ…………ここでユーロピアの内情をより詳しく知るためだ、首都であるパリであるならば、軍はほとんどいない、ここにいる軍人のほとんどは現在のユーロピア軍から離れた者達が集まった集団に過ぎない」

 

「離反者ってこと?ユーロピア軍は許さないんじゃない?余力のない状況で、放棄したパリに戦力を置いておくのは愚でしょう?装甲車も少なからずあるようだし、亡命も手配してるみたいよ、なおさらユーロピア軍が見過ごすはずがない」

 

「ユーロピア軍に余力がないには確かだ、ここにいる優秀な人材や兵器を少しでも多く確保したいのも確かだろう、だがそれはできない」

 

一度言葉を切り、繋げる。

 

「今の無政府状態のユーロピアを支配しているのは二つ、パリを中心とした難民支援の有志同盟、もう一つ、例の要塞にいる軍の上層部を中心とした者達だ」

 

「『難民』と『軍』、理解し合えるわけないわね」

 

「力を持たない難民と、力を振るう軍………正義感の強い奴らには、弱者たる難民の味方を名乗ろうとする」

 

「それでどんどん人が増えて、今のパリの有志同盟ってわけね…………そりゃ無理な話ね、パリの軍人を引き抜こうとしたら逆に絆されて引き抜かれるんだから」

 

「人が『気持ち良い』と感じるのは、己の自尊心が満足した時だ…………困った人を助けるヒーローごっこは、人殺ししかやってこなかった軍人にとってさぞかし気持ち良いものだっただろう」

 

「趣味わっる……なんでオリジナルを好きになる子がいるのかわからないわほんと」

 

それは私も言いたいことだ。

 

「オリジナルも自尊心を埋めるために人助けなんてやってんの?」

 

「私の場合は、その延長線上に大きな悦を見出しているだけだ、より多くの人を救うことが、我が主への奉公となることを確信している」

 

「おぉー………つまりオリジナルは愉悦マンと」

 

「自己満足のための自慰行為のようなものだからな、あながち間違いでもない」

 

「張り合いなさすぎ………ん、ちょっと寝るわ」

 

すでにテント内に広げた寝袋の中に入りつつそう言うグレーテル、最近寝すぎではないかこいつ。

 

「わかった、私は少し散歩してくる、何かあったら開けておくから呼べ」

 

「はーい……………すぅ……」

 

グレーテルが寝入ったのを見てテントの外へ出る、テントの外へ出たら、勝気なメイド少女『マリア』の出番だ。

 

「パンを売ってるお店はあるかしら?」

 

当面の問題は食料の調達になりそうだ。




勝気なメイド少女って、良くないです?
誘い受けロリと同じくらい好きです。

次回あたり戦闘を挟みたいなあ


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『剣』を執れ。『弾丸』を込めよ。『機関』を始動させろ。

FGOにハマってたらいつの間にか………すまぬ。


パリ。

 

『花の都』と呼ばれた芸術と愛憎の街。

 

ユーロピア連合以前の旧国家、フランスの首都だった街だ。

 

『パリ』、と言えば『凱旋門』、というほどに巨大な凱旋門は人気だ。

 

フランス革命後、軍事独裁政権を確立したナポレオンによる『ナポレオン戦争』が勃発、その戦火の中で、前世ではなかったことが起きた━━━━イングランドがフランスを中心とした諸王国軍によって落とされたのだ。

 

100年戦争からおよそ700年程度も経っていない時期に、フランス軍による上陸作戦を阻止しきれずイングランドの首都・ロンドンは堕ちた━━━━混乱の中、多くの皇族、貴族が新大陸へと落ち延び、今のアメリカ大陸における神聖ブリタニア帝国の誕生となった。

 

その後、相次ぐ革命戦争によって皇帝ナポレオンは処刑され、国家同士を繋ぐ連合という形に落ち着いたのである。

 

ユーロピア連合の年号がブリタニアと違って200年もなく、歴史も浅いのは、このあたりが原因である。

 

『個人の自由』、という点において国際社会上で最も先を行くのがユーロピア連合………となるだった。

 

連合へと体制を変えてからたったの数年足らずで傷の舐め合いにしかならない民主主義政権がまかり通るようになり、190年余りの時間が、ユーロピア連合から当初のあり方を奪うのには十分過ぎた。

 

民のための軍隊を目指した200年ほど前の賢人たちは、世代交代を繰り返した結果、自己の安寧のみを求め他者を鑑みない、愚者の集団へと堕落した。

 

ブリタニアが常に進歩、進化を重ねる中で、ユーロピア連合は停滞し、それどころか退化してしまった。

 

その結果が、数年前に行われたブリタニア軍の強行上陸作戦に対する阻止部隊の大敗北、物量に飲み込まれ、あっという間に首都に手が届くまでに押し込まれたのだ。

 

そして今、人民のためと謳ってきた政府と軍部は━━━━民を捨て、要塞に引きこもって武装国家の真似事をし出した。

 

いや、国家というよりは、テロリストか、規模のでかい野盗だ。

 

まともな考えもできなくなった政府と正規軍もそうだが………。

 

「こっち(パリ)のほうもまともな組織じゃなさそうだけど……」

 

「お嬢ちゃん、袋詰め終わったよ」

 

「ありがとうございます、お代は……」

 

「要らないよ、うちの店は難民キャンプの支援もやってんだ、あんたキャンプの人だろう?」

 

「えぇ、少し前にね」

 

「なら、タダでいいぜ」

 

「本当にいいの?」

 

「いいっていいって、それに、あんたみてえな可愛い嬢ちゃんから金なんて取れねえよ」

 

「あら、お上手ねえ………それじゃあ、また、男前の店主さん」

 

「おうよ!まいどあり!」

 

ふむ、パリの有志同盟は街中の市民を味方につけているようだな。

 

ざっと回っただけだが…………通りは綺麗だ、ゴミはきちんと路上のゴミ箱に入れられている。

 

喧嘩は時たま起きて、有志同盟らしきもの達が止めに入るが、暴力や圧力で辞めさせるのではなく、互いの意見を聞いた上で仲裁で終わらせている。

 

さっきのパン屋のように難民支援を請け負う者もいる。

 

気の良い民だからというのもあるんだろうが、有志同盟の信頼は大きいようだ。

 

通常、このような乱世のようになってしまった国の首都というのは、どこもかしこも荒れ果てた荒野よりも悲惨な状態になると思われるが、政府関係の建造物とその周りがボロボロな以外は綺麗な状態だ。

 

さっきのようにパンを無料提供できるということは、どこかしらから仕入れているということだ。

 

付近に農家はあったが、ほとんどが空だった、となると、どこかに巨大な倉庫でもあって、定期的に運んでいるのだろう。

 

少なくとも、そこにはパリの難民キャンプを賄える程度の小麦があるはずだ。

 

食糧はいつの時代も重要な軍事物資、あるであろう巨大倉庫を見つけさえできれば、パリの掌握はたやすいはずだ。

 

だが、要塞に引きこもった連中は何を食ってるんだ?まさか、時代遅れの瓶詰めスープじゃあなかろうな?

 

さすがの瓶詰めでもそれでは腹を壊すだろう、無難にレーションの類が豊富なのか、あるいは畑でも作ったか?

 

そういえば、要塞の連中がパリの有志同盟に流れているんだったか、となれば、おそらく要塞の連中は味方が抜けていってしまうほどの食糧難のはず。

 

要塞の連中も倉庫に取りに行くと考えると、おそらく倉庫の位置は要塞とパリを直線で結んだ時、パリ側の延長線上の方向にあるはず。

 

パリと要塞は何十キロも離れている、それ以上離れた倉庫まで行くとなると相当な時間がかかる、それに耐えかねての離反━━━━飯は仕事をする上でかなり重要だ、その飯が食わせてもらえず組織を離れるのは、理由としてはしっくり来る。

 

有志同盟は要塞の連中を潰す気なのか、放置なのか、考えによっては動き方も変わるだろう。

 

もしくは、有志同盟はすでに倉庫を封鎖していて、食糧を独り占めしているのやもしれん。

 

どちらにせよ好都合か、まず第一に『どこかにある倉庫を抑える』こと、そうするには場所を特定する必要がある。

 

ここまで包囲網を狭めても見つからないとするならば………おそらくは地下にあるはずだ。

 

地下の空洞をスキャンするか…………いや、大きな空洞を作るなら地図が残るはずだ。

 

「(グレーテル、聞こえるか?)」

 

(聞こえるよ、何か用なの?こっちは寝てたんだけど)

 

「(隠し持って来た通信機がカバンの中にある、今からイメージを送るからそのイメージ通りに通信機で友軍に通達しろ)」

 

(………………………よくそんなの思いつくね?)

 

「(これが今の仕事だからな、さっさと送れ、短めでな)」

 

(特定されちゃったら嫌だしねぇ……………ほいほい、っと、送ったよ、オリジナル)

 

「(ご苦労、何かあったまた呼ぶ)」

 

動き出すまでには数時間はかかるだろう、それまでは満喫させてもらおう。

 

「マリアさーん!」

 

「あら、レイラじゃないの!」

 

レイラ・マルカル中佐………とその部下4人、有志同盟側だったのか。

 

「元気そうじゃない、そうだ!そこのパン屋さんで貰ったの、一緒に食べない?」

 

「有り難いのですが、今は巡回中でして………」

 

「そうなの?じゃあ一緒に歩きながら食べましょう?」

 

「いえ、そんな…………」

 

「いいじゃないの、貰っときなさいよ」

 

レイラじゃないほうの女からアシストが入る。

 

「ですが………」

 

「アヤノ、あなたいいこと言うわね、ね?いいじゃないのレイラ」

 

「で、では、失礼ながら」

 

「かしこまらなくていいのに、私たち友達でしょ?もっと気楽でいいのよ」

 

ソッとパンを差し出す。

 

「そう、ですか?じゃあ、ありがとう、マリア」

 

レイラはそう言って恥ずかしがりつつパンを受け取った。

 

初々しいな、まだ恋も知らぬか。

 

「俺たちの分はねえの?」

 

「ちゃーんとあるわよ、ほら、好きなの取りなさい」

 

袋を胸元で抱きかかえたまま左手で袋の口を広げて見せる。

 

「お!あんぱんじゃねえか!俺はこいつにするぜ」

 

「フランスパンばかりじゃないんだ………僕はこっちのフレンチトースト」

 

「私は…………うーん…………こっち!チョコのやつ」

 

「チョコブレッドね、レイラのはメロンパンよ」

 

「メロン、パン?」

 

メロンパンを知らな…………あぁ、たしか日本発祥だったか?お嬢様風のレイラが知らないのも納得だ。

 

「メロンは入ってないの、焼き目がメロンみたいに見えるから、メロンパンなのよ、フチは硬めで中はふんわりしてるの、甘くて美味しいわよ」

 

「なるほど…………はむっ…………!、これは!たしかにフチが硬めで、柔らかいクッキーか、タルトのようです!でも中はふわふわしてて美味しいです!」

 

お、おぉ…………メロンパンでここまで感動されると引くな………だが、メロンパン好きに悪者はいない、はず。

 

「喜んでもらえて何よりだわ、あっ、そういえばアキトがまだ取ってなかったわね、何がいい?」

 

「……………これ」

 

おっと、ピザトーストか、意外とこってりしたものが好きなのか。

 

「あら?ピザトーストにしたのね、コロネとか甘いものもあるのに」

 

「具が、美味しそうだったから」

 

「わかる?私も思ったのよね、のっかってる具材のソーセージがピザソースで美味しそうに見えるのよねえ」

 

「うっ…………ソーセージ………」

 

「ソーセージよ?…………あっ、もしかして、魚が苦手だったりするの?」

 

「えっ?意外です……アキトが魚が苦手なんて」

 

本当に意外だな………そういえば、川で釣った魚の料理を出した時もアキトだけ食べてなかったな。

 

付け合わせのサラダだけ食ってたか。

 

魚が苦手なアキトをからかいつつ、巡回に付き合った。

 

巡回を終え、彼らと別れてテントに戻る、眠っているグレーテルを尻目に横になる。

 

巡回中にわかったことはパリの地形の把握と巡回ルートおよび組織の本部の把握、各人が小規模ながら武装をしていつるということ、カメラ等の監視資材は無し。

 

武装はユーロピア軍の正式採用拳銃らしきオートマティックが一丁のみ、チラ見だがおそらく標準的な9mm口径、グリップの細さから考えて8〜10発程度と見ていいだろう。

 

数十人に1人の単位でアサルトライフルを持っていたな、軍にいた頃はマークスマンだったのだろうか、街中にいたのは6人、全員で10人以上いるだろう、警戒しておこう。

 

しかし、それでもパリという町を警戒するにはガバガバすぎる…………実戦経験の少ない将校あたりがトップなのだろう。

 

レイラ中佐がトップならば巡回などしてる暇はない、おそらく貴族のボンボンか脳足りんがトップにいて、警備の内容に口出しした結果、レイラ中佐は巡回に回されてしまっているわけか。

 

だがまあ、脳足りんがトップならばこちらもやりやすい、正直レイラ中佐との頭脳戦もやってみたいものだが、時間がかかって戦争が長引くのは本望ではない。

 

さて、どうしてやろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

お久しぶり………というほどでもないですが、一応お久しぶりと言わせてもらいますね。

 

ツキトさんがラウンズの責務としてユーロピア連合との戦争の視察のために日本を立ってからもう2ヶ月が立ってしまいました。

 

テレビから流れてくる戦況報道は、ユーロブリタニアというヨーロッパのブリタニア軍の善戦と、ツキトさんについて話をしています。

 

ツキトさんは毎日のように保護された子供と遊んだり、兵隊さんの相談にのったり、和やかな報道が流れ、とても人気があります。

 

インターネットでも『人命第一』を掲げるツキトさんの在り方と行動が肯定的に見られ、もっともっと大きく評価されているみたいです。

 

「おっはよーナナリー、昨日の戦況報道見た?」

 

「おはようございますマリーさん、もちろん見ましたよ」

 

「ラウンズ・オブ・サーティーンの人命保護により保護市民1000万人突破!ユーロピア軍内部は分裂!戦意喪失して捕虜へ!………く〜〜っ!戦わずして相手を弱らせるなんて策士よね!」

 

席に座って興奮してそう言うマリーさん、たしかにツキトさんは策士ですね。

 

「人助けでツキトさんの評判は上がり続けてますしね、ただ…………やっぱり戦闘とかは」

 

「報道だと今までで2回だけみたい…………でもネットではもう数え切れないほど戦場に出てるって」

 

「出ないでくださいって言ったのに…………できればラウンズもやめてほしいのに」

 

「それ言ったら本当にラウンズやめそうね………まあ、お金いっぱい持ってるだろうから、正直ラウンズ辞めてもらって『私と』2人でランデブーしてほしいってのはあるかな」

 

「何言ってんですかランデブるのは私ですから」ギョロリ!

 

「ちょっとちょっとナナリー怖いって!もー…………でも、ラウンズを辞めた後に、2人でほっそり農業でもやって生きる……そういう未来もいいかもしれないわね」

 

「そうですね………」

 

でも、そんな未来は━━━━こない。

 

来るはずが、ない。

 

ツキトさんが私とお兄様の側にいる限り、ツキトさんに自由は無い。

 

ツキトさんは、私とお兄様の『従者』をやめることはない。

 

結婚しても、子供ができても、きっと……………。

 

ううん、ダメ、ダメよナナリー。

 

ツキトさんと幸せになるんですから!

 

「だから、私が頑張らないと…………」

 

「ほほ〜う?何考えてるのかわからないけど、無茶はダメよ無茶は、カーライルさんが悲しむもの」

 

「わかってます!…………でも、私がしっかりしないと、ツキトさんは安心してくれない、安心させるには、私が」

 

「あーはいはい、苦行スイッチなんて入れないでいいから…………まあ、ナナリーのいうことも一理あるわね、今度何かプレゼントするのはどう?」

 

「プレゼント…………プレゼント!いいですね!でも何を贈れば……」

 

「うーん、休日の日に仕事や面倒なことをさせないようにして、ゆっくり休んでもらうとか?」

 

「休日ですか…………いいかもしれません、ユーロピアから帰ってきたら早速やってみましょうか」

 

「私も………」

 

「ダメです」

 

「えーちょっとくらい、いーじゃないの〜………」

 

「ダメですー、ツキトさんを癒すのは私だけd………あ、すみませんメールが」

 

咲世子さんから?『戦況報道が大変』?

 

URL貼ってありますね、ビデオみたいです。

 

「なになに?誰から?」

 

「お手伝いの咲世子さんからです、動画が送られてきました」

 

「へー、見てみよ!まだ時間あるし」

 

「はい!」

 

URLから動画再生アプリにアクセス、再生ボタンをタップします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

noside

 

 

ツキトとグレーテルは情報を集め、小型通信器で暗号化して友軍に流しつつ、着々と有志同盟崩壊の計画を遂行させていた。

 

レイラたちから内部事情を少しずつ、欲張らないように気をつけて聞き出し、有志同盟の要塞に対する少量の食料・物資の定期的な搬送等の情報を掴み、地図と巡回場所を見比べつつ町にある要所などを割り当てた。

 

散歩や買い物に見せかけて要所に手製のマグネシウム爆弾を仕掛けていく、これは破壊目的ではなく、強烈な音と数秒間失明するレベルの閃光による、避難民の混乱誘発のためのおもちゃだ。

 

さらに、火種が飛び散り、かつ消えにくいようにいろいろなものを混ぜ、燃焼時間が長くて消えにくく、燃え移りやすいものとなった、ちょっとした焼夷手榴弾だ。

 

パニックの最中で消火活動を手伝うように見せかけ、要所のひとつである武器保管所から武器を盗み出し、パニックの群衆の中を事前に準備させておいたグレーテルが運転するバイクで見つかることなく逃走。

 

これにて、有志同盟のもとに集っていた避難民は各地に拡散、火事はすぐに消せてもパニックは鎮火できるまで時間がかかる、ぐちゃぐちゃの状況の中に『有志同盟に裏切り者がいる』などと噂が流れればどうだろうか?

 

疑心暗鬼にかられた有志同盟は空中分解、避難民は完全に離れ、パリはもぬけの殻となる、そうなればパリに無血入城、華々しい凱旋を飾り、戦争は終結。

 

そう、ツキトは考えた。

 

有志同盟の無能指揮官のおかげで、一連の流れを完璧にやり通した。

 

爆音と閃光、飛び火した炎が重要施設を焼いていく。

 

至る所で起きた火災に避難民はパニック、パリの炎から逃げる避難民たち、消火活動にあたる有志同盟。

 

その最中、持てるだけの武器弾薬を毛布で包んで盗んだツキトが、グレーテル駆るバイクで逃走。

 

100点満点、パーフェクトだった。

 

だが、一箇所だけ、ミスがあった。

 

察しの良いアキトと、指揮官として有能なレイラ、脱出の直前にこの2人に、私がツキト・カーライルであるとバレてしまったのだ。

 

ツキトが『これでは50点にもならない』と嘆くであろう失態である。

 

だがパニックを起こした犯人とは気づかず、またパニックの沈静化に向かわざる得ない状況のため、見逃すほかなかった。

 

その後、アキトとレイラらは有志同盟の崩壊を食い止めるべくwZERO部隊メンバーと活動するが、崩壊は止められず、多くの人が離れ、行き場を失い、ほとんどが要塞へと流れていった。

 

wZERO部隊メンバーは、流れの民族と出会い、生活を共にするのだが…………それはまた別の話。

 

かくして、ツキト・カーライルの思惑によって、ユーロピア軍の戦力ほぼ全てが要塞に集結した。

 

戦争の終わりは近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

ビデオはツキトさんのインタビューの様子のようです、日付をみるについ昨日の出来事みたいですね。

 

『カーライル様、この2週間どこにいらしたのですか?』

 

『パリまで散歩に行っていた』

 

「敵国の首都に散歩感覚で行ってたとか…………やっぱりカーライルさんは格が違うわ」

 

「ゴイスーです!」

 

『パリと言いますと、ユーロピアの首都のことでしょうか?』

 

『そうだ、じきに戦争も終わる━━━━相手は徹底抗戦がお望みのようだが、もう戦闘を続けるだけの余力は無い、そして包囲網は完成した━━━━勝利の女神が、何かの間違いでユーロピアに微笑みかけない限り、我らブリタニアの勝利に揺るぎはない』

 

「…………慢心かな?」

 

「慢心したように見せるパフォーマンスだと思いますよ、ほら、目が笑っていませんから」

 

「よく見えるわねナナリー………」

 

「見なくても声でわかりますけどね」

 

「(勝てるかな、私……)」

 

『勝敗は決したということですか、ではなぜ単身パリへ?危険ではなかったのですか?』

 

『単身では行かんよ、さすがに怖いので、部下は連れて行った………君の言う通り、危険ではあった、だがそれ以上に私にはより多くの民を救うという使命があった、そのためにパリの状況をこの目で見る必要があった』

 

『パリで爆発テロがあったと聞きましたが、お怪我などされませんでしたか?』

 

『幸いにも無傷だ、あの時は本当に焦った………パリの難民キャンプで情報収集を行なっている時、突然、雷の如く轟音と、眼球を焼くような閃光に襲われた━━━━部下に乗り物を用意させていなければ、難民たちの混乱の中で抜け出すことはできなかった』

 

「どう考えてもスペックおかしいわねカーライルさん」

 

「大抵なんでもできちゃう人ですからね…………だから頑張り過ぎて怪我をするんです」

 

「あー…………カーライルさんを思いっきり甘やかしたいわー」

 

「仕事が忙しくて帰ってくることが少ないのをどうにかしないとですね………」

 

「ラウンズの仕事を減らすって相当よねえ…………厳しいわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

noside

 

 

1週間後

 

「悲劇は、ここで終わらせなければならない━━━━何者でもなく、どこかの誰でもなく、我々自身の手で」

 

「ついに我らは、かつて偉大なる大祖父達が成し得なかった夢の切れ端を掴んだ━━━待ちに待った、望みに望んだ『欧州奪還』という名の夢だ」

 

「それが今、現実のものとなろうとしている」

 

「ドイツ、イタリア、ポルトガル、オランダ、ポーランド、スイスですら、我らの欧州奪還という夢の前に潰えた━━━━残るフランスは、かつて100年戦争において、かの聖処女ジャンヌ・ダルクの旗の元に、我らの祖先、ブリテンの勇士達は敗れた」

 

「そして、その数百年後の祖先の前に、あの憎っくき邪智暴虐にして権力の化身、ナポレオン・ボナパルトが現れ、皇帝を名乗って我らのかつての故郷、ブリテン島が悉く蹂躙されたのだ!━━━━神はその時、我らを見放した!天上の神々は、ブリテンを恐れるあまり、フランスという駒を持って我らを滅ぼさんとしたのだ!」

 

「そのようなこと、なるものか!なってなるものか!ブリテンの子孫たる我らが、神聖ブリタニア帝国皇帝陛下の臣民たる我らが!いかなる理由をもってしても、自らの滅びの結末を享受できるものか!」

 

「見せつけてやらねば!天上の神々に!我々ブリタニアの、そして祖たるブリテンの輝かしき勝利の瞬間を!皇帝陛下という1人の元に集いし、我ら栄光の騎士達が、愚かな神々を打倒し、この欧州の地平のすべてを、皇帝陛下の旗で埋め尽くすのだ!」

 

「我らの勝利こそ、欧州全土の救われぬ魂への、最大の鎮魂(慰め)となる!!」

 

「武器を執れ!前へ進め!剣を突き立て吼えよ!ブリタニアの栄光を!」

 

「オール・ハイル・ブリタニア!」

 

ユーロブリタニア軍包囲殲滅師団4個

 

ユーロブリタニア遊撃KMF連隊3個

 

ユーロブリタニア装甲戦車大隊2個

 

ユーロブリタニア・ブリタニア共同歩兵連隊合計5個

 

ユーロブリタニア騎士団(KMF大隊規模)3個

 

神聖ブリタニア帝国皇帝陛下直轄【円卓の騎士(ナイト・オブ・ラウンドテーブル)】、通称【ラウンズ】、『災厄の席』の騎士、ナイト・オブ・サーティーン「ツキト・カーライル」

 

以上、全軍、各所より進軍開始。

 

目標、要塞、敵、ユーロピア連合軍、推定、1万と6000。

 




さーブリタニアとユーロピアの戦争の行方はどうなるのか(棒読み)


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『制圧前進』!

ユーロピア軍混成師団総兵力推定1万6000

VS

ブリタニア・ユーロブリタニア混成軍総兵力約231万8000

兵力差、144倍!?

(ユーロピアの敗北が)見える見える

絶望が………深い!



ツキトside

 

 

「壮観だな」

 

見渡す限り、文字通り地平を埋め尽くさん限りのKMF、戦車、装甲車、兵員輸送車。

 

空を見上げれば鳥の群れの如く大量の戦闘ヘリコプター、ここには見えないが後方から戦闘爆撃機が離陸している。

 

さらにその後方には超超遠距離砲撃用の巨大列車砲が線路を敷きながら目標を照準中だ。

 

地上と空を征服したかのような圧倒される光景、その中心のトレーラーにて、私はマルドゥック中佐、改め、マルドゥック大佐と共に戦地へと向かっていた。

 

最終決戦の地、かの要塞、いや、要塞化された古城、『ヴァイスボルフ城』へと包囲網を狭めつつ進軍していた。

 

「はい、ユーロブリタニア軍の総力を結集したユーロピアとの最終決戦、自然と気合も入るものです」

 

「満願成就の夢が叶うのだものなぁ………だからと言って、あんな骨董品を持ちだすか?」

 

そう言って見上げた空には巨大な影。

 

「どう見ても250m程度には見えん…………300mクラスではないのか?」

 

「資料には、340mとあります」

 

「なんともまあ………好き者もいたものだ、時代錯誤感が否めんよ、本当に……」

 

マルドゥック大佐が寄越してきた資料を読むと頭痛がしてきた。

 

「同感です、名前も狙っているとしか」

 

「『グラーフ・ツェッペリンⅢ世』…………かの巨大飛行船を上回るデカさとは、設計者の脳みそを疑う」

 

ドイツの軍用飛行船LZ127『グラーフ・ツェッペリン』、巨大飛行船産業を一代で築き上げたフェルディナント・フォン・ツェッペリンと同じ名を冠した巨大飛行船。

 

目の前のあれはそれのスケールアップ版と言ったところか。

 

「240mほどの全長が、一気に340mにまでなるとは、肥えたな伯爵」

 

「パレード用の巨大飛行船として、『グラーフ・ツェッペリンⅡ世』の改良とスケールアップを目指して開発されたそうです」

 

ボヤいているとマルドゥック大佐の解説が耳に入ってきた。

 

「全長340m、直径68m、ガスは不活性ガスであるヘリウムを使用し、乗員およそ130人、乗客およそ200人が搭乗でき、12基の大出力モーターを搭載、最高速度は140kmまで出せるそうです」

 

「馬鹿でかいだけの空中目標艦ではないか」

 

「しかし、現在のグラーフ・ツェッペリンⅢ世は全体に汎用性の高い軽金装甲を施し、重要区画には複合装甲を貼らせています、50口径クラスの対空砲火は高度によって無効化でき、40mmクラスの対空砲までなら複合装甲が重要区画を防ぎます」

 

「軽金装甲で防げるのは重機関銃程度か…………さすがに20mmクラスの対空砲は無理か」

 

「残念ながら脆弱なのはどうしようもありません、ですが今回の作戦では敵要塞から超遠距離空中で待機し、攻撃指示があれば40mm機関砲及び155mm榴弾砲による支援砲撃を行います」

 

「そうか、それなら……………おいまて、今なんと?」

 

聞き間違いだろう、そんなことあるはずが………。

 

「40mm機関砲及び155mm榴弾砲による支援砲撃を………」

 

「なぜ積んだ!?馬鹿か!?155mm榴弾砲だぞ!?砲兵連中が運用するクラスの巨砲などなぜ積んだ!?」

 

「それが…………接収された当時、飛行『船』であることでユーロブリタニア海軍所属になったのですが、ユーロブリタニア軍にはあの飛行船を維持できる費用がなく、ブリタニア海軍に譲渡したのです、その飛行船が今作戦に参加すると聞き資料を見たのは先ほどでして…………」

 

155mm砲を載っけて送り返すとか何のジョーダンだ!?ブリタニアジョークってか?阿呆か!

 

「しかも、この榴弾砲2門ありまして……弾薬も合わせ相当な重量です」

 

「2門ものっければ当然であろうに……」

 

改めて空に浮かぶデカブツを見上げる、あんなものに155mm榴弾砲が2門とその弾薬も積んでいるとなればそうもなろう。

 

それに、積んだだけでなく、射撃可能にしたのだ、ならば単純に考えて補強等で重量はかなり増えているはずだ。

 

「大型自走砲二両に匹敵する火力が、超遠距離、それも空中から投射されるなど敵からすれば考えたくもない悪夢だな」

 

「全くです、これについては、ドクター・アスプルンド伯爵に感謝です」

 

「は?アスプルンド?………よもや、日本エリアのロイドがやったのか!?」

 

「飛行船の軍事再利用案の中にあったアスプルンド伯爵のものを採用したと聞いております」

 

あいつがやったのなら納得もする。

 

「そうか、ロイドが…………暇みたいならまた仕事を押し付けておくか」

 

「!?(アスプルンド伯に命令できるのか!?とんでもないお方だ………)」

 

あんなバケモノの設計案を作ってるくらいだし、暇なことは確定だろう、帰ったらヘンゼルとグレーテルの集中メンテをさせてやる。

 

「グラーフ・ツェッペリンⅢ世は要塞からどれくらいの距離をおく?」

 

「弾種を榴弾と想定して、初期位置は要塞からおよそ16km、高度は9000ft〜12000ftとする予定です」

 

「よろしい、しっかり当てるように言っといてくれ」

 

「了解しました」

 

強力な空中火力支援が受けられるとは、嬉しい誤算だ。

 

定点射撃のできるガンシップと捉えても良い火力、いやそれ以上だな。

 

しかし…………155mm榴弾砲が据え置きとはいえ、6000tはあるものを2つも積むとはなぁ。

 

やはりロイドは天才(バカ)だな。

 

「ヘンゼル、グレーテル、KMFのチェックは終わったか?」

 

近くの無線機で2人のKMFに繋いでそう聞く。

 

『異常なしですよー』

 

『こっちも異常なし……』

 

「あと数時間で配置に着く、それまで休んでおけ」

 

『わかったけど…………ちゃんと約束守ってよね!』

 

『でないと働かないわよ』

 

「わかったわかった、今回の戦い、私は出撃しない、それでいいんだろう?」

 

パリから帰ってきたらものすごい剣幕でヘンゼルにそう約束をこぎつけられた。

 

いったいなんだと言うんだ?………まあ、接続元の私が死んでしまってはこれまでのデータがパァになってしまいかねないから言ってるのだろう。

 

「カーライル様、グラーフ・ツェッペリンⅢ世が回頭します」

 

「ほう」

 

飛行船の回頭、緩やかにカーブしていくさまは妙な安心感があるな。

 

「戦争が終わったら、武器を下ろして遊覧飛行でもしたいものだ」

 

「同感です」

 

さて、あと数時間はあるわけだし、周囲の地形でも頭に入れておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

noside

 

 

「長かった戦争も、これで終わるんだ………」

 

「やっと、やっとだ」

 

「あぁ…………そうさ、戦争は、終わる!」

 

「おぅ!………おい、お前どうしたんだ?具合悪いのか?」

 

「いや違う…………俺の、お祖父さんがよ………フランスの騎士の家の生まれでさ、それを思い出しただけだ」

 

「そいつは……………すまん、なんつったらいいかわからねえ」

 

「気にすんなよ、俺も、これについてどう思ってるのか、答えが出てねえからさ」

 

「そっか……………俺には弟がいてよ、それが良くできた弟でな、小さい頃からピアノが上手に弾けるってもんで、神童だなんだと言われてたんだよ」

 

「すげえじゃねえか」

 

「あぁ、すげえ奴さ、でも神様ってのはとことん天才とか神童とかが嫌いみたいでな………開戦から数日後に、ピアノのコンサート会場が爆破された」

 

「「「……………」」」

 

「はっ………どこに爆弾があったかわかるか?ピアノの中にあったんだと、犯人が捕まって裁判で犯行動機を聞いたら、弟にドイツ人の血が流れてるからだとよ…………くそっ」

 

「そんなくだらねえ理由で…………」

 

「戦争ってのはそんなもんだ、ってのをよく思い知らされたさ…………皮肉かねぇ、もう3年は前線で戦ってきたが、人殺しに躊躇したことがねえんだ」

 

「俺もお前と同じさ、人が死んでも悲しいなんて思えなくなっちまった、目の前に人の死体があっても、ネズミの死骸でも見てる気分になる………」

 

「そもそもよ、俺たちって本当に生きてんのかな?本当はもう死んでて、天国に行けずに戦場を彷徨ってる亡霊なんじゃ?」

 

「は、ははは!そいつは良い!傑作だ!俺たちは死んでも死にきれねえ幽霊!クソみてえな神様をぶん殴るために、最終決戦を戦ってやろうって展開か!」

 

「漫画かよ!…………だが悪くねえな、俺がもし戦いで死んだとして、そしたら美人のワルキューレに会えれば満足だぜ」

 

「天国に行っても地獄に行ってもナンパするきか?ちょっとは相手選べよな」

 

「あー?べっつにいいだろが!天国なら女神サマ、地獄なら閻魔サマ(♀)だ!」

 

「ちげえねえ!」

 

「へへ!」

 

「冴えてるぜまったくよお!」

 

『全軍に告ぐ、間も無く、敵射程圏内に入る、幸運を』

 

「おーい、そろそろだ!歩兵第1小隊、死ぬ準備はいいか!?」

 

「「「「「「YES.Sir!」」」」」」

 

とある兵員輸送車の会話より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

フランス地方の戯曲家、ジャンル・ジロドゥは、四大精霊の中でも水を司る精霊オンディーヌと騎士ハンスの悲恋に満ちた作品を作った。

 

物語の中でオンディーヌとハンスは恋に落ち、水の精霊であったオンディーヌが魂を得て人間界へとやって来た、しかしハンスはオンディーヌの天衣無縫な行動に嫌気が指した。

 

お転婆なお姫様の子守でもやってる気分にでもさせられたのだろう。

 

ハンスはオンディーヌへの嫌気からかつて許嫁であったベルタに、その恋心を移していく……………。

 

だが、オンディーヌは人間界に来る前に、ハンスがオンディーヌを裏切った時は殺しても構わないと契約が交わされていた、そして、裏切り者のハンスは、怒れるオンディーヌによって遂にその命を………………といったところか。

 

ヨーロッパ全体に言えるが、水に関係する精霊が関わった人物は大抵大変な目にあっているな。

 

このオンディーヌの物語のハンスもそうであるが、有名なのはアーサー王伝説における湖の精霊(湖の乙女)たちとそれに関わってしまった者たちだろう。

 

湖の精霊たちが作った聖剣エクスカリバーを持つアーサー、同じくその姉妹剣ガラティンを持つガウェイン、あろう事か母親の元から拉致され湖の精霊に育てられたランスロット、母親を殺されたベイリン、宮廷魔術師マーリンを監禁する。

 

など、重要人物にことごとく関わり不幸を伝染させている。

 

なぜこんな話をするのか?それはな…………。

 

「緊急入電!!別動して先行中だったユーロブリタニアの騎士団が、進路状の『湖』の迂回中に敵軍の攻撃により損害大!2/3が損失、残る1/3についても補給の問題からこれ以上の前進は困難!」

 

こんなことになっているからだ。

 

「敵の攻撃手段は?」

 

「おそらく、巨大爆弾か何かによる空爆かと…………」

 

森の中を進むKMF隊をよく見つけ……………いや、騎士団のKMFといえば金とか赤とかだったか?目立つ色してればそうもなろう、残当。

 

「ふむ…………騎士団の総括のシャイング卿はなんと言っている?」

 

「はっ、『損害・士気損失大なれど前進可能』とのこと」

 

「難しいな………」

 

2/3が一瞬で消し飛んでなお前進を続けるのは補給や士気の問題から非常に難しい。

 

エリート集団のユーロブリタニア騎士団といえど、所詮は貴族のボンボンの集まり、不利と悟ったときに逃げ腰になるのはよく知っている。

 

メンタルブレイクした騎士団は、一般兵科のほうがまだマシなくらいに弱体化している、できれば後退させたいところだが………。

 

「後退しろ、と言ったところで反発は確定だろうな」

 

「騎士団も意地がありますから、説得は困難かと」

 

なら、残る選択肢は一つしかないか。

 

「よし、そのまま騎士団を前進させろ、接敵次第攻撃を開始させろ」

 

丁度いい機会だ、邪魔だったからここで潰そう。

 

「よろしいのですか?」

 

「やつらは『行ける』と言っていて、我々本隊よりも先行している…………ここは騎士団を先にぶつけ、敵要塞に風穴を開けてもらい本隊の到着まで粘ってもらおう」

 

「わかりました、文はどのように?」

 

「『貴君らの誉れ高き騎士道精神を陛下に見せるべく、敵要塞に強襲攻撃を敢行し、勢いそのままに撃滅せよ』と送れ」

 

「(この文では玉砕になるのでは…………いや、何かにお考えがあるのだろう)了解、通信手、騎士団にこれを頼む」

 

「はっ!」

 

「マルドゥック大佐、騎士団を除く本隊全部隊に通信を繋げてくれ」

 

「はい、通信手、本隊全部隊に繋げ」

 

「了解しました、調整中…………チェック………オーケー、繋がりました!」

 

「傾注!ツキト・カーライル様より御言葉!」

 

通信機を受け取り、ひとつ深呼吸をしてスイッチを入れる。

 

「皇帝陛下の元に集い、恒久平和と始祖の地の奪還を目指し闘う戦士諸君!我らに先行して出発した騎士団が、敵の爆撃によって壊滅の危機に瀕した!実に、2/3以上もの戦力が損なわれ、地形と距離によって補給も難しく、前進非常に困難であると思われた…………しかし!彼らは誉れ高き騎士としての意地を皇帝陛下に見せんと、前進を継続する意思を決定した!そして、誰よりも先に敵陣を突破せしめ、我ら本隊の到着まで持ち堪えてみせようと、いっそ我らが来る前に降伏させてやらんとばかりに私に進言し、彼らは進んで行った………その高潔な騎士道精神に、諸君は感じるものがあっただろうか?悲哀を感じたか?奮起したか?呆れたか?私は、震えた、これほど!これほどまでに気高き魂が!仲間の死を乗り越え、なおブリタニアの未来のため死線へ飛び込む彼らに、私は……私は!ぐっ…………涙を抑えられん!!遥か先を進む彼らの志を!私は今!魂で感じている!…………忠勇なるブリタニアの戦士たちよ!我ら如何なる邪神の神罰にも屈せぬ者であることを証明せよ!」

 

こんなもので良いだろうか?

 

「マルドゥック大佐、各隊の様子を…………マルドゥック大佐?」

 

「(カーライル様………あなたが、神であられるのですか)……………はっ!?か、カーライル様………い、今すぐに、つ、通信手!」

 

「も、モニター回します!(カーライル様のカリスマやべえ!)」

 

さっきまでの落ち着きようはどうしたんだ?決戦が近づいてくるのを感じてうろたえたのか?

 

おお、車内でスクリーンを出せるなんてすごいな、ブリタニア軍にもこういう車両が欲しいところだ。

 

…………モニターの向こう側で目の座った狂信者のような兵士が見えるんだが。

 

「おい、こいつら大じょ…………いや待て、まずこいつら生きてるのか?死体じゃあるまいな?」

 

「生きている………はずです、いえ生きてます、はい」

 

「戦争の終結を決める重要な一戦だというのに………まあ、気迫は伝わってくるからよしとしよう」

 

感極まっている…………と思っておくとしよう。

 

「さて…………ヘンゼル、グレーテル」

 

『はーい、こちらヘンゼルー』

 

『………んっ?……あー、はーいグレーテル』

 

あいも変わらず寝てやがったか、まあいい。

 

「テストだ、感応波を切断する」

 

さあ、ブリタニアの最高技術の結晶体、アンドロイドの最高峰………。

 

『へー………ついにやっちゃうわけだ?』

 

『データは十分だけど、時間は足りてるとは言えないわ』

 

「『私』であるのなら時間などどうとでもなろう?」

 

【私だけの軍隊】の力を。

 

「タイミングは知らせる、切断後は速やかに戦闘に参加するように、それまでは待機だ」

 

『ふふーん、面白くなってきたー!』

 

『やっと、私たちの本来の性能を見せられるわけね…………やってやろうじゃないの』

 

『珍しくアツイわねグレーテル、わかるわ、私もそう、武者震いっていうの?震えが止まらなくてヤバイの』

 

『ねえオリジナル、色々試したいんだけど、いいかしら?』

 

「好きにしろ、戦いの歓喜を感じて暴れるも良し、殺戮を楽しむもよし…………存分に発揮しろよ?私の大事な大事な………機械人形」

 

さあ、戦争を終わらせようか。




アンドロイド技術の最高峰、ヘンゼルとグレーテルの能力全開放なるか?

そして、シャドウバースをプレイする作者の元に、狂信の偶像は来るのか?


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ユーロピア戦線、ツキト・カーライル伝説

久しい番外編です。

今回はツキトニキにまつわる伝説(噂)をいろんな人にインタビュー形式(?)でお送りします。


ユーロピア戦線・カーライル伝説

 

 

とある記者side

 

ツキト・カーライルがユーロブリタニア軍にて指揮をとるようになって2週間………。

 

誰が言い出したか?なぜそう言われているのか?増え続ける出所不明にして奇々怪々な噂の数々。

 

それらを総称して人はこう呼ぶ。

 

『カーライル伝説』と…………。

 

そんな、どこからどう見てもホットなネタ、取り上げるほかない!ってことで、前線の兵士のみなさんや町の人に突撃突撃〜!

 

 

 

①の伝説。

 

語り、見張りの兵隊さん数名。

 

『性に興味無し!?(娼婦、男娼に無関心?)』

 

「聞いたことはあるけどよ、実際どうなんかね?」

 

「うち(ユーロブリタニア)にはノーマルもゲイもいて、それぞれ休みとかに女とか男とかと『そーゆーこと』はしてるけどさぁ……」

 

「部屋から、っつうか基地内から出てねえんだよなあの人」

 

「基地の中の誰かとヤってんじゃねえかって噂もあったけど、掃除のおばちゃんに聞いてもゴムも出てこねえしなぁ」

 

「ゴムなしで普通にやってんじゃねえの?ほら、あの色白の双子ちゃんとか」

 

「そりゃねえだろ、いくら双子ちゃんが綺麗でも子供の世話係とスるわけねえだろ」

 

「そういう性癖か、たんに童貞なだけとか?」

 

「あれだろ?7つくらいで日本エリアに行ったんだろ?カーライル様は顔が良い、戦争が終わった後、日本人の慰み者に…………」

 

「バカ!お前殺されるぞ!」

 

「で、でもよ…………正直、あの顔だったら、あり、だよな?」

 

「お前らホモかよ!?」

 

「ま、待てよ!俺はだな、ただカーライル様が女だったらの時の話をしたんであってだな………」

 

「どちらにせよ不敬だろう!カーライル様を怒らせると、『見えざる剣』に首を刎ねられるぞ!」

 

「そ、そうだな、わりぃ………」

 

「あー…………ってなわけで、記者のお姉さん、質問についてはわからない……いや無回答ってことで!」

 

いろんな人にきいたけど、ほとんど無回答かわからないだった。

 

『見えざる剣』ってなんだろう?とりあえずメモっとこ。

 

 

 

②の伝説。

 

語り、買い物中の兵隊さん。

 

『実は女の子で、それを隠しているのはレイプされたから?』

 

「サラシを巻いてるんだったか?」

 

「胸になにかを隠してるのか、それとも、豊満なおっぱいを押さえつけているのか………」

 

「おっぱいだろ!おっぱい!きっとCはあるね!こう、揉みやすい感じのがさ!身長的にも背中からガシィッといきやすいっつぅか……」

 

「っるっせぇ!変態野郎は寝てやがれ!!」ガンッ

 

「ぐべっ……」

 

「おいおい……………かみさんいる中隊長の前でなんて言い草しやがるんだよこいつ………」

 

「ふん…………俺個人の意見だが、仮に女であろうと上官は上官だ、指示には従う」

 

「男前ですなあ中隊長殿は、まあおれも従いますが…………ただ、レイプ、はねえと思うんですよ」

 

「俺もそう思う少尉、あの人を襲おうとすれば…………記者のあんたでも、『どんな目に合うか』、わかるはずだ」

 

「あんたのとこにも回ってるでしょ?『魔神がごとき怪力、ツキト・カーライル』ってね」

 

「結論を言うなら、男か女かなんてどうだっていい、ただ絶対にレイプなんざされてねえ、いや、誰だってあの人をレイプなんざできねえ」

 

「俺も同じっす」

 

レイプ、はされてないみたいだけど……………性別についてはわからなかった。

 

ってか怪力の噂話ってマジなの?宮廷の壁を素手でぶち破ったってガチだったの?

 

え?カーライルって本当に人なの?

 

 

 

息抜きインタビュー。

 

語り、とある壮年の町民。

 

『ツキト・カーライルについて』

 

「お優しい方ですよ、でも、残酷です、とてもね」

 

「いつの日だったか、私の住む街にユーロピアの兵隊がやってきて、司令部って言うんですかね?それを置いたんです」

 

「何食わぬ顔でやって来て、いきなりここで戦争をするって言うんですから、当然、町長と一緒に出ていくように抗議しました」

 

「ですが兵隊の偉い人が『逆らったら守ってやらんぞ』、って言って、抗議を無視して銃口を向けてきたんです」

 

「そんなある日、大量の紙が空からばら撒かれました、空を見るとユーロブリタニアの輸送機が飛んでいて、そこから紙が落とされているのを見ました」

 

「紙には、数日後に街を攻撃すること、町民は家財道具をまとめてユーロピアの都市に避難、もしくはユーロブリタニア軍に保護されるかを選ぶこと、と書いてありました」

 

「裏の方には、攻撃目標に指定してしまって申し訳ない、と謝罪の言葉と直筆のサインが書いてあり、サインはツキト・カーライルのものでした」

 

「それから数日もしないうちにユーロブリタニア軍が攻め込んで来たのです、ユーロブリタニアの騎士団の赤いKMFがいくつも…………」

 

「しばらくしてユーロピアのKMFと戦闘になり、町が破壊されて行きました、そんな中、避難するのが遅れ、忘れ物を取りに行った女性と、女性の娘である少女が、戦闘の最中取り残されてしまったのです」

 

「女性は崩れた瓦礫に押しつぶされ、身動きができず、少女はなんとか助け出そうと瓦礫を押しますが、当然無理でした」

 

「そこに、ツキト・カーライルは現れ、自らのKMFを盾として、部下に女性と少女の救出と保護を命じ、無事に後送出来るようにと、ユーロピアのKMFの足止めを単騎で行ったのだそうです」

 

「『だそうです』、と言うのは、この話が、助け出された少女から聞いた話だからです」

 

「その後、病院に搬送された女性は、足が潰れてしまっていたので義足が必要でした…………しかし、女性には義足を買うためのお金はなかった」

 

「そんな時、ツキト・カーライルが義足の購入資金を請け負うと申し出たのです」

 

「こうして義足を得て、リハビリに励む女性でしたが、数日後、なんと、ツキト・カーライルが病院に見舞いに来たのだそうです」

 

「戦闘に巻き込んでしまったこと、脚を奪ってしまったことなどを謝罪し、慰謝料等の契約をして帰って行ったのだそうです」

 

「ここまで誠実で献身的な人はいない、と、そこにいた誰もが思ったそうです」

 

「それに、記者のあなたにこうして話ができるのも、この件について封殺しなかったツキト・カーライルのおかげなのかもしれないですね」

 

「ユーロピア軍やユーロブリタニア軍だったら、握りつぶしていたかもしれないですね」

 

「あなたはどうですか?ツキト・カーライルという人をどう思いましたか?」

 

「確かに優しい人であるとは思いますが………………女性と少女、いえ、私の娘と孫娘が、どうやら夢中になってしまったようでして………」

 

「はぁ………訂正します、ツキト・カーライルは残酷な人ですよ、祖父の私よりも簡単にかわいい孫娘の信頼を得ることができたんですから」

 

「ツキト・カーライルに会ったら言っといてください、『私の娘と孫娘はやらん!』とね」

 

「あぁ、そうそう、空から降ってきた紙なんですがね、見比べて見るとサインが微妙に違うんですよ、それにインクの濃さも違ってるんです、まるで、一枚一枚に丁寧にサインしたみたいに」

 

「興味があるのなら、お見せしますよ、ここの簡易住宅の者はほとんどが紙を持ってますから、聞けば見せてもらえるでしょう」

 

人気があるのね、それもすごく、まるで英雄譚の人物ね。

 

あとで調べたけど、一枚一枚全部書き方は同じだけど微妙に違ってた、回った簡易住宅の人だけで50枚ちょっと…………まじで空からばら撒く紙全部に直筆サインしたの!?

 

病気なんじゃないの?入院しなきゃいけないのツキト・カーライルもじゃないの??

 

 

 

③の伝説。

 

語り、ツキト・カーライルの側近?警護?子供のお世話係?の双子さん(美人)。

 

『騎士道精神は飾り?』

 

「まあ…………飾りよねぇ」

 

「そりゃそーでしょ、『騎士道精神で人が救えるか』って」

 

「『施しを与えるだけで高貴な者になれるわけないであろう、真に高貴な者とは施しを与えられる者たちとともに、生きようと足掻く者であるのだから』って言うくらいだし?」

 

「まあ庶民的よね、プライドよりも命、あとは、剣さえ抜かなきゃ、割とまともだしね、割とね」

 

「それと起きてる時間は大抵仕事やってるし、寝たって言いつつ深夜まで起きて仕事してるしね」

 

「寝た(寝てない)、もしくは寝た(30分)っていうのがデフォっていうね、もうアホかと」

 

「社畜魂逞しすぎぃ!って感じ、それでいてあんなにピンピンしてるとかもうなんなのさ本当」

 

 

 

ものすごいぶっちゃけてくれるし………この双子さん結構性格違くて面白い。

 

お姉さん?っぽいほうがアホっぽくて冷静そうな見た目とのギャップで可愛すぎる。

 

妹さんのほうはクール系、というよりかはめんどくさがりっぽい感じでありね。

 

ついでに④の伝説。

 

語り、同じく。

 

『貴族らしさは抜けてない?』

 

「『貴族だから、平民だから、だからなんだ?死ねば平等だ、戯言を吐くな、俗物』って言っちゃうくらいだし、貴族らしさって言うよりむしろ………リーダー気質?じゃないかな」

 

「本人的にはどうでもいいらしいわよ、ただ、『アールストレイム』の名前が嫌いで、名前捨てるときについでに貴族の地位も捨てたってだけだし」

 

「笑っちゃうよねwww普通さ、貴族はやめないでしょwww普通ww」

 

「そこで辞めるあたりがもう全世界のブリタニア国民の笑いのツボよツボ、爆笑のツボピンポイント爆撃よ」

 

「アールストレイムってあれよ?

貴族の中じゃ最有力よ、ブリタニアだけじゃなくて全世界でトップよ?なのにその名前捨てるとかwwwww」

 

「正直笑い話だけど、アールストレイム家としちゃ最悪でしょうね」

 

「神童レベルの跡取りがいきなり家出だものね、残ったのはアーニャ・アールストレイムだけだからその子に継がせる以外道はないし、家出した本人は手切れ金払って知らんぷり」

 

「まーアールストレイム家って結構悪どいことしてたっぽいし、家出されて当然っていうか、『当たり前だよなぁ?』って感じよね」

 

「でもその後のアーニャちゃんに対する塩対応は許せないわ」

 

「あーそれ私も思った!いくら縁切ったって言ってもアーニャちゃん中学生だよ中学生!JCだよ!お兄ちゃん大好きな最高可愛い妹ちゃんだよ?」

 

「はい、ツキトの罪その1、『実の妹をフルネーム呼び』」

 

「マァジ畜生だわ、実妹フルネーム呼びとか最低よ最低」

 

「ツキトの罪その2、『お兄ちゃん呼び拒否』」

 

「はー………(クソデカため息)、今なら勝てそう」

 

「一体何によ…………まあ、罪に関しては海のごとくあるし、そこはまた別の機会にでも聞いて」

 

「片手じゃ数えきれぬ罪に、溺れろビーム!」

 

「遠く離れた向こうでカウンタークロスビーム撃ってそうね」

 

「くっ!まだ勝負は決まってなぁい!」

 

 

 

あ、お姉さんのほうアホ可愛い子だわ、これが天然とかすげえ。

 

ちょうどいいからもうひとつ。

 

⑤の伝説。

 

語り、同じく。

 

『剣で最強って本当?』

 

「んーー…………本人曰く、マリアンヌ様以外には勝てる、って言ってたけども」

 

「これについては、あまり詳しく言えないわ、私たちは批評家じゃないし、剣についても良く知らないし」

 

「まともに対抗できるのはマリアンヌ様とナイトオブワン、それから、直接指導を受けているらしいアッシュフォード学園の生徒、それくらいね」

 

「本人は、その生徒をずいぶんとかっているみたいだけど………教えてくんないのよね」

 

「プライバシーもあるからねえ」

 

「ただ、殴り合いは世界チャンプとタイマンは余裕みたいね」

 

「コンクリぶち抜きパンチとかやめてくだち!選手生命終わるんでやめてくだち!」

 

「まあ、剣で最強か?って聞かれたら、最強では無いと答えるわ」

 

 

 

あの小さい体で意外とパワーアタッカーなのかも?

 

 

 

はい、ここで突撃インタビュー!

 

⑥の伝説。

 

語り、ツキト・カーライル。

 

『皇帝陛下と全ブリタニア国民、どっちを取る!?』

 

「ぶっちゃけた話、全ブリタニア国民を取る」

 

「なぜかって?決まっているだろう?皇帝陛下を取って、全ブリタニア国民並び皇族が絶滅しては、その先神聖ブリタニア帝国が続かないではないか」

 

「皇帝陛下1人と騎士1人だけでは、国家とは呼べない、いくら広大な領地があろうと、技術力があろうと、それを実現し実行する国民がいなければ、成り立たない」

 

「だが、全ブリタニア国民を取ったのであれば、全ブリタニア国民の力を結集し、皇帝陛下に降りかかるあらゆる厄災を跳ね除けることが可能になるだろう」

 

「皇帝陛下なくして国民に自由は無いが、国民あっての皇帝陛下でもある、国民が皇帝陛下を慕い、敬い、奉仕すれば、皇帝陛下は必ず、その心と奉仕に感謝し、国民に褒美を与えてくださるはずだ」

 

「君も、ブリタニア国民として社会に貢献し、『臣民』としての義務も果たすように努力せよ」

 

「あぁ、そうだ、君の支社は日本エリアだったかな?なら丁度いい、代わりにコレを支部長に持って行ってくれないか?」

 

「戦争中だからと言い訳するわけでは無いが、今は手が離せる状態ではなくてな、君のところの支部長にはだいぶ世話になったものだからな、土産の一つくらい、と思ってな」

 

「うん?私と支部長の関係?日本エリアで活動している時に、ユーフェミア様が考えられた法案などに関する資料を大量に頒布する際、デザインや印刷を頼んだのだよ」

 

「君のところの支部長が手助けしてくれなかったら、きっとあの式典には間に合わなかっただろうからな、とても感謝しているよ」

 

「では、頼んだよ、あぁ最後に、私をネタにしても構わんが…………アッシュフォードに関することは忘れろ、良いな?」

 

 

 

ヒェッ………………………ぁぅっ、ちょっと漏らしちゃった…………。

 

 

 

え、えーっと、い、以上!取材はこれにて終了です!

 

さ、さあ!か、帰って編集しなきゃ!

 

…………伝説っていうより、ほとんど噂って感じよねこれ。

 

あー、もーほんとやだー、ツキト・カーライル怖いー。

 

こーなったら帰りの電車の中でもらったクッキー食べてやる!

 

なぜ瓶詰めで渡してきたのかはわかんないけど、おしゃれで可愛い感じ………あ、サインカード入りなんだ、へ〜………。

 

えっ!?なにっ、これ!?なんで私の名前書いてあるの!?なn………はっ!?

 

〈あぁ、最後に、私をネタにしても構わんが………〉

 

あ、あの言葉ってもしかして……………知られてた……………ってこと?

 

ひっ………………ひぃぃぃぃっっっ!!

 

ツキト・カーライル怖いいいい!!!




ツキトニキの簡単★情報網の作り方!

必要なもの
・洗脳技術
・カリスマ

やり方

⑴、圧倒的カリスマで信者量産するよ!

⑵、信者のグループに接触!

⑶、『君達は素晴らしい才能を持っているようだ、私の手助けをしてくれないか?』とかなんとか言ってなんでも(ん?)言う事を聞く便利な奴隷にするよ!

⑷、『スパイが紛れ込んでるかもしれない』とか言っていろんな部隊に『耳』として送り込むよ!

⑸、勝手にいろんな部署の情報が集まってくるよ!やったぜ!

⑹、捕まってもいい人間だから、切り捨てるのも楽でいいよ!だって『君の献身は帝国に安寧を齎した、君に感謝を』とか言えば情報吐かずに自決してくれるよ!



作者「やツクソ(やっぱりツキトニキはクソ)、はっきりわかんだね」
ツキトニキ「君は何の才能もないみたいだね(マジギレ)」
作者「あぁぁああああぁぁああぁああああぁぁぁあぁあああぁああああ!!!」発狂


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その『負の連鎖』を断ち切るために

ほんへ。

ついに最終決戦…………と思いきやまさかの。

どうでもいいけど、RENTAでパンプキンシザーズを借りて、読もう!

8/17発売の21巻も買おう!


noside

 

 

ユーロブリタニア、ユーロピア双方問わず乱雑してKMFだったモノの鉄塊が無数に並ぶ。

 

穴の穿たれた要塞からは火の手が見える、しかして、ユーロブリタニア騎士団の移動拠点、及び主力は壊滅状態で、ようやく一個分隊が組める程度しか残っていない。

 

一個分隊、と言っても、それはKMFでの話ではなく、防弾チョッキもライフルも無しに拳銃一丁しか持たぬKMF乗りの兵士が3、4人程度……………詰まる所、歩兵一個分隊であった。

 

ユーロブリタニア騎士団の大半は数時間前に攻撃を受けすでに瀕死の状態であった、当然、士気は下がったが、騎士団もまとめ役たるシン・ヒュウガの強行と、それを認めたうえで激励を送ったツキト・カーライルによって、現代戦において機動兵器によるバンザイチャージを敢行する羽目になった。

 

結果として玉砕、やけくそ気味に攻め、命を散らしながら戦い続け、じつに90%以上の損失を出して獲得したのが……………ユーロピア軍の要塞にKMF一個分の穴を開けただけ。

 

苛烈を極めた戦闘行動、そしてその結果得たものは━━━━この犠牲の数とは、あまりにも、あまりにも釣り合わない。

 

ユーロブリタニア騎士団は事実上壊滅して不利になったように見える、だが、戦闘によって備蓄してあった大量の弾薬が底をつきかけたユーロピア軍側のほうが圧倒的に不利なのは揺るぎようがない。

 

だが文字通り死ぬほど悩んでいたのはユーロブリタニア軍側であるシン・ヒュウガであった。

 

シン・ヒュウガは騎士団の長として、皇帝陛下直轄騎士たるラウンズ・オブ・サーティーンの言葉には従う必要がある。

 

つまるところ…………『果敢に突撃し、突破口を開き本隊到着まで各員の奮戦に期待する』という、激励に見せかけた『てめえらさっさと戦って死ねや』という死刑宣告を実行せねばならないのである。

 

シン・ヒュウガの自前のKMFは破壊されたが、幸いにも、いや、『不幸にも』、KMFが数機健在の状態、かつ森の中に潜んでいるため奇襲ができる可能性がある。

 

そう、できるかもしれないのだ。

 

ツキト・カーライルの言葉を意訳すれば、早い話が『戦える限り戦え』という暴論そのものであるが、それでも従わなくては人生終了待った無し。

 

では、隠れて逃げればどうか?無理である。

 

ツキト・カーライルの情報網は多岐にわたる、各所に念入りに間諜を放っているのだ、逃げ切れない。

 

かくして、シン・ヒュウガの運命はユーロピア軍、ユーロピア共和国連合と、はからずして同じ道を歩み始めたのである。

 

歪でトゲだらけの岩石を敷き詰めた一本道を、荊で覆い、そこを裸足で歩かされている。

 

地獄へ通ずる道だ。

 

しかし、シン・ヒュウガにはまだ勝機があった。

 

残った数名の部下を踏み台に、己の持つ超常の力…………ギアスを使えば良い、それで生き残れる、と。

 

覚悟を決めて立ち上がる、もう迷いはない。

 

残ったKMFの準備を進めるため、隠し倉庫に歩く男たちに、天から恵が授けられた。

 

流星群のように降り注ぐそれは、そこにいた誰もが見知ったものだ。

 

そう━━━━━━コンポジションBが充填された、155mm榴弾砲用榴弾だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

ドドーン…………………

 

おお、遠いのに結構聞こえるものだな。

 

うむ、良い音だ、やはり155mmは良いな。

 

「『伯爵』より入電、17、18発目射撃終わり」

 

しごく単純な話だが、動けない敵、トーチカや要塞に対して突撃を行う前には、念入りな準備砲撃が必要である。

 

とりわけ、我がブリタニアの砲兵隊は非常に優秀である、機動、展開、射撃、高い練度と高水準で信頼性の高い装備、ブリタニアが最強の国家たる所以はKMFにもあるが、装甲の貧弱なKMFの快進撃を支える砲兵隊こそナンバーワンであろう。

 

「よろしい、『伯爵』に射撃準備を行うように送ってくれ…………それで、砲兵隊は?」

 

「展開準備を完了し、現在目標に向けて照準中です」

 

「よろしい、伯爵は続けて撃て、砲兵隊は照準できしだい中隊規模にて順次斉射を行え、各砲ごと30発だ」

 

ここから2時間ほどかけて『耕して』やる。

 

「KMF連隊は各小隊ごと作戦位置へ、砲撃終了後に突撃する、用意をしておけ」

 

『はっ!突撃こそ我がKMF部隊の誉れ!』

 

「装甲戦車大隊は各大隊ごと所定の位置まで前進、歩兵連隊と共に前進、歩兵の盾となりその役目を果たせ」

 

『歩兵の盾となるは、我ら鋼の部隊の誉れ!』

 

お前ら騎士ってのは誉れしかねえのか……。

 

「歩兵連隊、聞いていたな?諸君の命は戦車大隊に預け、共同前進を行え」

 

『お任せを!KMF連隊にも劣らぬ戦果をご期待あれ!』

 

これだこれ、こういう反応が欲しかったんだ。

 

「マルドゥック大佐、空はどうだ?」

 

「各方面より戦闘ヘリが敵対空兵器を警戒しつつ包囲陣を縮小中、戦闘爆撃機は各機離陸完了、編隊を組み要塞へ向けて進行中、3時間後に目標投下予定です」

 

「3時間後か………よろしい、砲兵隊に連絡、3時間後の戦闘爆撃機の爆弾投下ギリギリまで撃つように伝えろ」

 

「はっ!」

 

「続いてKMF連隊に連絡、3時間と10分後に突撃開始、生け捕りは考えず殲滅で行け」

 

「了解しました」

 

『こちら、砲兵隊、照準良し、射撃開始します』

 

無線が聞こえるや否や、砲声が聞こえてきた。

 

中隊規模での155mm榴弾砲の連続斉射、それはまるで、聖歌隊と軍楽隊による混成音楽・混声合唱のようだ。

 

バス、テノールしかいない聖歌隊というのも、なんとも面白おかしいものだが。

 

「砲撃の効果を確認したいな…………弾着観測員はあるか?」

 

「通信装置の設営に戸惑っている様子、じきに繋がります」

 

なんてだらしのない…………いや、この規模の弾着観測はまずない、士気高しと言えど無茶が過ぎたか。

 

「そうか………なるべく急ぐように伝えろ、それとマルドゥック大佐、我々の目標地点まであといくつだ?」

 

「3kmきりました、この速度ならあと数十分ほどかと」

 

「……………よし、整備班に連絡、本国から(なぜか)送られて来た私のKMFの準備だ」

 

「はっ……………はっ!?あれをですか!?あの殺人ブースターをですか!?」

 

「そこまで驚くことは無いだろう………」

 

「さすがにあれは危険すぎます!データを拝見いたしましたが、人が乗っていいものではありません!どうか考え直してください!」

 

「マルドゥック大佐、これは、総力戦、総力戦だぞ?旗頭たる私が先頭に立たずして、何が『戦』か………たとえ戦場の激しい弾雨の中であろうと、指揮官は前線に立ってこそだ」

 

「カーライル様!今はもう古き良き騎士の時代ではないのです!大砲の榴弾と、機関銃の弾雨、そして高機動のKMFが跋扈する戦場なのです!剣や槍を持って名乗りを交わすようなことはもうないのです!」

 

「君の言う通り、私の野郎としていることは、時代錯誤も甚だしい老害の言葉のようなものなのだろう……………だが勘違いしないでくれたまえよマルドゥック大佐、私がわざわざあんなKMFで飛び込んで見せるのは、二次元的な動きしかできない地上のKMF部隊の援護のためだ」

 

明らかに重装備かつ飛行できる私のテンペストと、地上から迫る数千以上のKMF、敵にすればどちらも脅威、だが弱点を狙い易い

 

「た、確かに、カーライル様のKMFならば上空から圧力をかけることで地上のKMF部隊への攻撃が分散するかもしれません…………しかしその分のしわ寄せがカーライル様に向かうのですよ!?良くても撃墜、最悪は………そんなことになってしまっては、士気にも関わります!」

 

「そう、士気だ、突き詰めれば火事場の馬鹿力や、只の意地の張り合いでしかないんだ、この戦争は敵も味方も、誰もかれもが意地で戦っている、それで人が死に過ぎて、今更やめられない……………『同胞がたくさん死んだのに今更和平など!』とな」

 

「それは…………カーライル様、それは正しい見方です、意地の張り合いで戦いを止めることが、武器を捨てることができない、確かにそうです、ですが我々は兵士である前に人間です!たくさん死んで行った仲間を思うと、思ってしまうと、武器を捨てるなんて考えは消えて、頭の中で『殺せ、殺せ!』と叫ぶ声が聞こえてくる!」

 

マルドゥック大佐は怒りに震えながら、鬼すら裸足で逃げ出すような形相で私を睨みつけた。

 

「あなたにはわからないでしょう!たったの数年で、200万以上の仲間を失った私の気持ちは!」

 

「……………この戦争は、かの100年戦争の再現だ、奴らが勝っても我々が勝っても、あの時と同じ━━━━荒廃した土地しか残らない、ユーロピアを破滅させ、仇を打った後、残るものは灰のみだぞ」

 

「それでも!それでも奴らを殺さなければ………殺し尽くさなければ……………報われない、報われないんだ………」

 

「君も、私も、誰もかれもがきっと、戦争に取り憑かれた愚者なのだろう…………君の気持ちはよくわかる、だが、人類がこれ以上の愚を重ねないためにも、ここで講和を申し込みたい、後々の子供達のためにも」

 

「………………わかりました」

 

「ありがとう、ここで反対してくれなくてよかった……………通信入れろ………こほん……」

 

「全域のユーロブリタニア、及びブリタニア軍に告げる!これより私、ツキト・カーライルは、ユーロピア共和国連合との講和を申し込みに単独行動を行う!各員は現時刻をもって別命あるまでは待機!」

 

『了解しました、砲兵隊は射撃中止!射撃中止!』

 

『KMF隊了解、現在地にて待機します』

 

『戦車隊、歩兵部隊も了解!』

 

「苦渋の決断を呑み、私に機会を与えてくれた諸君に感謝を、 同志のためにも、必ずや戦争を終わらせてみせる!」

 

停車した指揮車から降り、トレーラーのテンペストへ向かう。

 

「カーライル様!」

 

指揮車からマルドゥック大佐が降りて私の前に立った。

 

「必ず、必ず戦争を、終わらせてください!」

 

決意した表情でそう言い放つマルドゥック大佐、次いで綺麗な動作で敬礼をしてきた。

 

私は、彼にしっかりと正対すると、久しく被っていなかった軍帽を被り、新しいラウンズの正装を揃え、気をつけの姿勢をとって敬礼を返した。

 

「まかせろ」

 

それだけ言って、トレーラーへと歩く、テンペストはすでにブリタニア軍整備班によって発進準備が完了しているようだ。

 

さて、柄では無いんだが……………。

 

「あの方々の望み、叶えずして何が騎士か」

 

少しは忠義者らしく、人間らしくいかせてもらおうか。




『人がいくら死のうが関係ない』

⬇︎

『犠牲は少なく、誰も傷つかないで良いように』

と感情の変化?……………と思わせといて理由はナナリーちゃんですはい、当たり前だよなぁ?

行動原理が独善的過ぎるって、それ一番言われてるから。
まあ結果的に好感度上がるんですけどね。

しかしユーロブリタニア、ブリタニアともによく調教されてらっしゃる……………やっぱりカリスマ性と洗脳技術は大事だよね!(ゲス)

次回、講和なるか?


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『終戦』、そして『復興』

お待たせ!


no side

 

 

それは、無数の残骸の上空に突如現れた。

 

識別ナンバーは未登録であり、友軍とは到底思えないブリタニアらしい風貌の飛行型KMF。

 

KMFは対空砲火の隙間を滑るように、縫うようにして、要塞上空へと到達した。

 

『ユーロピア連合共和国の諸君!私は、神聖ブリタニア帝国ナイトオブラウンズが1人、ツキト・カーライルである!』

 

KMFのスピーカーを通して発せられるナイトオブラウンズ、ツキト・カーライルの声。

 

『このような戦争はもう無意味だ、最後の1人まで殺しあう必要はないはずだ…………我々神聖ブリタニア帝国は諸君との講和を申し込む』

 

「ふざけるな!俺たちの仲間がどれだけお前たちに殺されたのかわかってるのか!?」

 

「こんなとこで諦められるか!1人でも多く道連れにしてやる!」

 

講和の申し入れに激怒したユーロピア連合共和国軍の兵士たちは口々にツキトへと、ブリタニアへと怒りを向ける。

 

損得で考えられるのなら、そもそもこんな戦争などとっくにやめている。

 

だがやめることはできない、そんなこと、できるはずがない。

 

敵にも、ブリタニアの奴らにも、同じ目に合わせてやらなきゃ気が済まない。

 

それがダメなら、せめて一矢報いて死んでやる。

 

彼らはそう硬く誓ったのだ、遠いところで安寧の眠りを手に入れた戦友、家族、恋人に。

 

その決意を無かったことにして講和など、できるものか、と。

 

だが━━━━━…………。

 

『私は悲しい!このような、血で血を洗う冷徹な戦争が悲しい!友人、家族、恋人…………親しい隣人たちが殺され!その復讐のために武器を取って死んでいく人々を見るのが悲しい!』

 

いきなり、悲壮な叫びが聞こえてくる、驚きのあまり、その場のすべての者が、口を閉じてKMFを見ることしかできなくなった。

 

『野戦病院で、帰還兵の家で、私は何度も、何度も何度も耳にするんだ、彼らの悲痛な声を、叫びを!…………彼らは言うんだ、【なぜ敵は人間なんだと】、【ツノでも生えていれば、人間でなかったら楽だったのに】と………私はもう、彼らが苦しむ様は見たくない…………君達も!君達も同じはずだ!こんなにも心を傷だらけにして、こんなにも人が死ぬまで戦いを続けて……何になる?何が残せる?この有限の大地に、無数の残骸を墓標のように突き立てて、後世の人々になんと教える?』

 

『私は━━━━私はそんなの嫌だ、みんな嫌なんだ、こんな、人が死んでいくことに、何も感じなくなっていくのが…………君達もそうだろう?同じだ、同じ人間なんだ、同じ言葉を話せるんだ、だから━━━━』

 

KMFのハッチが開き、操縦手━━━━ツキト・カーライルがKMFの頭の上に乗っかり、マイクを手に持って立った。

 

「もう、終わりにしよう…………終戦だ、もう………………血が流れるのは、見たくない……」

 

気がついたら、手に持っていたライフルは床に落ちていた。

 

気がついたら、涙を流し手で顔を覆って嗚咽を漏らしていた。

 

戦場は、戦場ではなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキト・カーライルは長きに渡る戦争を講和という形で終結させた。

 

確実に殲滅できる包囲陣を引きながら日和った、と受け取った指揮官などは文句を垂れ抗議したりした。

 

しかし、兵士たちは逆だった。

 

皆、屈託の無い表情で笑っていた。

 

人を殺すために引き金を引き、悪夢を見ることがなくなったのだとツキト・カーライルへの感謝を示した。

 

銃も敵意もない元敵国同士だった兵士たちは、強く、硬く、涙を流しながら、終戦という平和へ祈りつつ、抱き合ったという。

 

講和会議はブリタニア側からの申し込みということもあり、礼儀をもってユーロピア共和国連合最後の土地、ヴァイスボルフ城で執り行われた。

 

会議は難航したが、ユーロピアにはもはや余力はなく、独立した国家群としての役割を負うことは不可能、結果論だが、ユーロピア共和国連合の領土は自治区として神聖ブリタニア帝国に吸収された。

 

だが、瓦礫だらけの平原の復興の援助には、誰もが首を横に振った。

 

それもそう、利益を生まない雑草しかない原っぱに、それこそ無数に転がるKMFや戦車などの残骸を撤去するのに、どれほどの時間と労力、そして金が必要なのか………。

 

それは領土欲しさに参戦したユーロブリタニアの保守的な貴族も、難色を示すほどだった。

 

そんな中、即座に対応したのは日本エリアでの一件もあって復興のプロとも呼ばれたツキト・カーライルであった。

 

ツキトは私財を投げうちユーロピア共和国連合内のあらゆる事業に声をかけ、街中の動ける若者を雇用して復興への助力を求めた。

 

それだけではない、日本エリアからも労働力の募集をアッシュフォード家に依頼した。

 

「なあ、俺たちもやれるよな?」

「当然よ!でなきゃ、筋肉が泣くぜ!」

「社長!俺……俺!長期休暇の申請よろしいでしょうか!?ユーロピアで!」

「焦るなよキミィ、ところで諸君、ちょっと早めの社員旅行はどうかね?ユーロピア復興ツアーなんだがね」

「「「しゃ、社長!」」」

「力自慢の土方のわし(35)、汚れ好きの土方の兄ちゃん(29)、エリート誘導員のおっさん(41)、応募します」

「みんなも、お父さん、お母さんに感謝して、ユーロピア復興支援、行こうね!」

 

なお、暴走する軍人もいたというが………。

 

「ツキト君が私財を投げうって戦災復興…………私が行かずして誰が彼の師匠を名乗れるのだ!すぐに発つ!」

「ジェレミア卿お待ちください!」

「離したまえクレア君!休暇申請は出しておいたはずだぞ!」

「ジ、ジェレミア卿に命令が下っているのです!これを!」

「命令?…………ほほう、なるほど………」

「おわかりいただけましたでしょうか?」

「理解した、マリアンヌ様の命とあれば喜んで従おう………それで、準備の方はすでに?」

「はい、2時間前よりマリアンヌ様の命により、特別輸送機を用意しております」

「メンバーは搭乗済みか?」

「すでに完了しているとのことです」

「よろしい!ならば堂々と馳せ参じようではないか!栄光あるユーロピア特別派遣隊として!」

 

と、先読みしていたマリアンヌの手紙によって警備等担当の派遣隊としてジェレミア等優秀な隊員を送ることに。

 

そして、ツキト・カーライル傘下であるアッシュフォード家の申し出なら………と大勢の日本人から応募が来た。

 

当初の推定の3倍に登る人数が集い、そこから参加可能な人員を選定し、選ばれたもの達は軍の輸送機で広い大陸へと飛び立った。

 

大勢の復興を望む希望が、廃墟と化したパリへと終結、失われた輝きを取り戻すための戦争が始まった。

 

いざ戦災復興!……とスタートは良かったが、肝心のツキトがブリタニア本国より召喚を命じられてしまったのである。

 

それでもツキトは召喚日時までの日数を使い復興の指揮をとった、名残惜しいパリの復興半ばにして本国へ旅立った。

 

現在は傘下のアッシュフォード家の者によって復興は順調に行われている。

 

本国に降り立った際のインタビューにて。

 

「なぜ、一文無しになってしまってもおかしく無いほどの財産を投げうつことができるのですか?」

 

ツキトはこう答えた。

 

「一文無しになっても私は構わない、仮にそうなったとしても、彼らはきっと私を助けてくれるだろうから」

 

すると、別の記者がこう言った。

 

「とある男性より『娘と孫はやらん!』とメッセージがありますが、返答はありますか?」

 

この質問にキョトンとしたツキトだったが、意味を理解すると笑みを浮かべた。

 

「こう伝えて欲しい、『また会って話をしましょう、今度はあなたも含めて』と」

 

そう答えるツキトの表情は嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーside

 

 

かっ………………。

 

「「かっこいい…………!」」

 

「さすがはカーライルさん、まったくキザじゃないわ!」

 

「同感です、爽やかで自然な感じです」

 

他の人ならキザな言葉も、ツキトさんだと嫌味なしに聞こえてくる。

 

っというかまた惚れさせたんですか…………もう、ツキトさんは本当に……。

 

「これでカーライルさんも帰ってこれるのね」

 

「まだ本国でのお仕事が残っているので帰ってこられるのは3週間後くらいでしょうか」

 

「(数ヶ月も待たされて、結局帰ってくるのが半年後なんて………ナナリーも強くなったわね)……まだまだかかるのね」

 

「ラウンズですし、復興もありますからね」

 

数日前、咲世子さんが通帳を見て青ざめていたのは記憶に新しい。

 

お金を引き出したら桁がいくつか減っていたのに気がついて詐欺にでもあったのかと疑ったみたい。

 

慌ててドジを踏みまくる咲世子さんがかわいかったですね。

 

「あっ、メールきました」ピローン

 

「忙しい日程でメールを毎日………2人ともタフね本当」

 

「ふむふむ…………1週間もかからないそうですね」

 

「え?早くない?」

 

「どうやら書類を提出して軽い質問をされるだけで、世話になった人にお土産をあげたらすぐに帰ってこれるそうです」ぽちぽち

 

「へー、お世話になった人か……皇族の人かな?」

 

「皇族の人ですけど、大半はそのメイドさんやコックさんみたいです」

 

「さっすが庶民派ラウンズ、でもなんで?」

 

「コーネリア様やユーフェミア様のお家、『リ家』なんですって」

 

「あー……納得」

 

律儀な人ですねツキトさんは…………。

 

「早く帰ってこないと、いい女を逃がしますよ、って返したら?」

 

「大丈夫ですよ、ツキトさんは浮気はしませんから…………襲われはしますけど」

 

「うっそ……………え?抵抗とかしないの?」

 

「私が襲った時もそうですけど、手錠とかしなくても絶対に暴れないんですよ、ツキトさんって」

 

「へー、それはなんとも草食系な……………ってちょいちょい待ち…………襲ったの!?」ガッターン!!

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

「え、えーと………」

 

このあと、騒ぎを聞いて先生が駆けつけてくるまで質問責めにあいました。

 

迂闊でした……。

 

時間は過ぎて昼休み。

 

教室でマリーさんと対面でお弁当を食べながらお話しします。

 

「いやー、うん、すごいわナナリー」

 

「うぅ………」

 

「襲ったってのは、まあだいたい雰囲気とかで察してたけど、手錠って…………」

 

「いえ、その…………こう、必死に身をよじるツキトさんがかわいくてつい……」

 

「うわあぁ………………」

 

「な、なんですかその反応!?」

 

「いやあその………ナナリーってドSだったのねって、そしてカーライルさんはドMだったのかって思って」

 

「しょうがないじゃないですか、いくら誘ってもツキトさんは基本的に添い寝までしかしてくれないんですから、それでちょっと魔が差して手錠をはめちゃうくらいは誰でもします」

 

そうです、寝顔がかわいいからついつい手錠に手が伸びてしまって………。

 

「そのままハメちゃうのはどうかと思うんだけど?」

 

「気持ち良くしてあげてるのでいいんです、むしろwin-winです」

 

あんなに激しく乱れちゃうくらいに私を感じてくれているんですから、絶対にwin-winなはずです!

 

「うんまあ、そうかも知れないけどさあ……」

 

「ツキトさんが本当に嫌なら私はそこでやめます、嫌なことはしたくないので」

 

「あっ、そこは止められるんだ」

 

「あ、当たり前じゃないですか!?」

 

「なんで言い澱むのよ………」

 

お昼休みが終わるまで、マリーさんとツキトさん談義をしていました。

 

これについては昨日も一昨日も、ですけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

皇族への訪問と一泊を挟み、ホテルから宮廷までの送迎リムジンの中で私はC.C.に電話をかけていた。

 

「研究は進んでいるのか?」

 

『そこそこのスピードだな』

 

「ロイドがやっているのにそこそこのスピードとはな……」

 

『サイコウェーブ(精神感応波の隠語)自体未知な部分が多い上、制御自体難しいモノなんだ、着々と成果が出てるだけマシだ』

 

「それもそうだが…………あまり時間をかけてもいられんのだ」

 

輻射波動機構以上に余白が多く未知な部分の残る革新的技術、それが精神感応波。

 

ロイドのアニメを見てそれを参考にちょっとしたおふざけマシーンを開発したことから端を発する精神感応波を利用した兵器群。

 

超常的な全方位攻撃を可能にしたKMF、【ガウェイン・アンジェラⅡ】。

 

共感覚、情報共有能力を持たせた小型スパコン搭載型自立二足歩行兵器、B型アンドロイド学習型【ヘンゼルとグレーテル】。

 

これらは特派によって開発されたものであるが、皇族のイザコザ(ギネヴィアなど)によってシュナイゼルではなく私の傘下のグループになったため、私が特派に重要研究対象として研究を命じている。

 

『お前にしては焦るじゃないか?どうしたんだ?』

 

「いや……………そうだな、C.C.、私は焦っているよ、サイコウェーブの技術が進めば、【治療】ができるはずなんだ」

 

『【治療】……………あれはまだ仮説じゃなかったか?』

 

「サイコウェーブがもたらす影響は、キネシス能力(ギアス)にもきっと通じるはず………ロイドの仮説なら、【削除】も不可能ではないはず」

 

『とはいえ、そううまくいくのか?私としてもうまくいってほしいが、まだ仮説段階だろう?』

 

精神感応波…………この技術は

要するに脳から発せられる電気信号を、例えば声に変換するために声帯に電気信号を送って振動させて声を出させる【命令】そのものといってもいい。

 

【こうすれば、こうなる】、【AをBにするにはCをしなければならない】、のような命令を脳が電気信として発し、それを受信できる装置を搭載したものが、さっきのガウェイン・アンジェラⅡやアンドロイドだ。

 

例えば、意思の疎通が困難な動物に受信装置を内蔵すれば、飼育員の電気信号を受信することができるようになり、より正確に気持ちを伝えることもできるだろう。

 

送信機と受信機だけでなく、送受信できる装置があれば、互いに精神感応波を通したコミュニケーションを取ることができ、言語の壁も乗り越えられる。

 

精神感応波は万能電波と言える、では、全能たる力を持つギアスは、どんな伝達方式を取っているのか?

 

ギアスというのは突き詰めれば超古代の催眠術とでもいうべき摩訶不思議な代物、催眠術に関して科学的な説明をロイドに求めたことがある。

 

催眠術とは、要するに対象に何らかの事象を脳に深く印象付け、刷り込むことで効力を持つ。

 

ギアスもまた同じものなのではないか?

 

ギアスキャンセラーの特殊電波はその逆順なのでは?

 

精神感応波技術は、特殊電波を使用するギアスキャンセラーからヒントを得たとロイドは言っていた。

 

なら……………精神感応波によってギアス能力の抹消することは、可能なのではないか?

 

「仮説とは言え、ロイドのアテはなかなか当たる、試す価値はある」

 

『なるほど、お前の言い分はわかった………だが焦り過ぎだぞ、ロイドが過労死しては意味がないんだ、わかってるか?』

 

「……………肝に命じておく」

 

『そうしてくれ、お前がしくじると特務士官の私も立場がないんでな』

 

「わかったよ、気をつける」

 

『頑張れよ?若造』

 

プツッ

 

まったく、言いたい放題やってくれる。

 

だが、しっかりやることをやる優しい素直な奴だってことはわかってる。

 

「ホント…………いい女だな」

 

私の周りには、いい女とかっこいい男が多過ぎる…………。

 

並外れた才能と身体能力があっても、あそこまでかっこいい男にはなれないなぁ。

 

「せめて私も、ダールトンくらい渋い顔だったなら良かったんだがな」

 

無い物ねだりほど、悲しいものは無いな。

 




ダイジェスト

TKTニキ「もう戦争やめよう?ね?」ウルウル
ユーロピア兵「「「そうだよ!もうやめましょうよ!終戦!」」」
ブリタニア兵「「「ラブアンドピースの精神は当たり前だよなあ?」」」
TKTニキ「(計画通り!)」ニヤッ

貴族s「「「「(復興資金なんて一文も)無いです」」」」
ユーロピア民「「「「「「あああああああああ!!!(悲痛な叫び)」」」」」」
TKTニキ「あ、おい、待てい!わしが出すぞ!」
ユーロピア民「「「「「「神かよあんた」」」」」」
貴族s「「「「ファッ!?」」」」
TKTニキ「あ、そうだ(唐突)、アッシュフォードのおやじ、お前ちょっと日本エリアから若えやつ集めて、仕分けろ(無茶振り)」
アッシュフォードのOYJ「えぇ…………、おかのした」
日本エリア民「「「「「「行きますよぉ〜イクイク、復興ゥ〜」」」」」」


皇帝陛下「ちょっと……話いい?」
TKTニキ「かしこまりぃ!」


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『奈落』

ツキトside

 

 

「ありがとうございましたツキト・カーライル様」

 

「あぁ……」

 

やっと、終わった。

 

書記官の事務的な言葉に適当に返しつつ宮廷内の尋問室を出る。

 

宮廷の窓から見える青空を眺め、3時間に及ぶ長い質問に凝り固まった背筋を伸ばす。

 

どうも向こう側は、勝手に講和会議の場を作らされたために宮廷内は大慌て、勝ち確の状態でいきなり下手に出たことで皇帝陛下も怒り心頭………。

 

と、思いきや別にそんなことはなく、ユーロピアの領土も無事ブリタニア帝国のものになったということで、突然の終戦で大慌てする家臣に向け皇帝陛下が『別にいいんじゃない?(意訳)』と一蹴する事態に。

 

皇帝陛下はいいかもしれないが文官連中はそうではない、帝国に関するあらゆる事柄を文書で記録する役目を持つ彼らは仕方なしに私に話を聞く名目で呼んだのだそう。

 

相変わらずフリーダムな皇帝陛下で私としても助かる、本当に。

 

ルルーシュとナナリーの件について黙認している時点で私にとっては強い味方だ、権力持ちということで好感度が高い。

 

あと原作と違って優しいのもポイント高め。

 

ま、いろいろとおかしいが、優しい世界線であろうよ。

 

「あとは………神根島の【エレベーター】か」

 

思考エレベーター………【集合無意識】は、【神】と呼ばれるものの正体。

 

実体を持たない、過去現在未来に至るすべての無意識の集合体。

 

それに干渉し、世界に変化をもたらすことができる、【玉座】、あるいは【神殿】ともなるのが、【アーカーシャの剣】。

 

アーカーシャ………単に空、とか天空、とも訳されるが、この場合はおそらく、【虚空】。

 

【虚空の剣】とは、ずいぶんとおっかない名前じゃないか、そんなものがあったとしたら、きっと効果は斬られた瞬間に存在ごと消滅するようなものだろう。

 

あるいは、集合無意識に取り込まれるかだろう、シャルルやマリアンヌのように、集合無意識に塗りつぶされて消えてしまうのだろう。

 

はぁ…………すべてが終わった暁には、私も消えてなくなりたい…………と思っていたが、今となってはナナリーの前から消えるのが怖い。

 

不老不死なんて今にでも捨てたいよ。

 

ん?電話?クレアからか。

 

「もしもし」

 

『ツキトー、二次募集の集計と選定が終わったわよ』

 

二次募集の定員に達したのか、まだ三日もたってないのというのに。

 

ああそうだ、一次募集が多すぎて集計に時間がかかってしまってな、二次以降は定員まで集計されたら次の募集に回すことにした。

 

今の所、四次募集まで行っているが、三次募集はもう6割を超えているらしい、2、3日あれば四次も半分くらいは行きそうだな。

 

これほど集まるのは想定外だが、日本人の優しさに触れたみたいで私としては嬉しい限りだ。

 

「そうか、輸送機の準備はいいか?」

 

『問題ないわ、明日の朝にユーロピアを発って明後日にはこっちに着くわ』

 

「わかった、パイロットには少しでも長く休息を取らせてやれ、物資も余裕を持って運ばせろ」

 

『わかってるわ、それと、直掩機パイロットから護衛中に近くを飛ぶ中華連邦の戦闘機を見たそうよ』

 

「中華連邦…………わかった、万が一に備え武装強化型に乗り換えさせろ」

 

『そんなことしたら速度が落ちるわよ?』

 

「構わない、数も増やして索敵精度を上げろ、それからパイロットに通達しろ【警告後も過剰接近するようなら即撃墜せよ】とな」

 

『ちょっ!?そんなことしたら戦争になるわよ!?』

 

「中華連邦には輸送機の積荷について通達済みだ、それでもなお接近しようものなら【空賊】と見なし撃墜するのみだ」

 

あの輸送機は積載量は優秀で居住性も軍用にしては悪くないが、防護装備が皆無なのだ。

 

本来なら重装型の戦闘機だけでなく、爆撃機を護衛にコンバットボックスを形成したかった。

 

だが、向こうで燃料であるバッテリーを充電する設備はほとんどない、空爆と砲撃で吹っ飛ばしてしまったからそれの文句も言えない。

 

そもそも大砲撃の指示は私がきったものだ、自業自得というかなんというか………ちくしょう。

 

「中華連邦とは緊迫した状態が続いている、戦後で疲弊したブリタニアが弱みを見せればたちまち攻め込まれる……………気が乗らないが、戦力は十二分にあることを知らしめるために虚勢を張るしかない」

 

『世知辛いわね………わかったわ、重装型に乗り換えさせるわ、でも数は増やさない、これ以上増やすと日本エリアの防空網が薄くなるわ』

 

「増やせないか…………仕方ない、クレアの案でいこう、早速やってくれ」

 

『はいはい、やっておくわ………それとツキト、あんた早く帰って来なさいよね、ユフィが大変なんだから』

 

「おいこら、不敬だぞ」

 

『あんたはわからないと思うけど、昔のお絵かきに書いた婚約の宣誓文を本気で信じてたのよ?それが無効だって言われれば…………引きこもりたくなるわよ』

 

「引きこもったのか!?」

 

『えぇ、しかもリスカしようとしてたわ』

 

っ!?………うっ……………想像したら吐き気が…………それに寒気も。

 

「な、なぜもっと早く言わなかった!?」

 

『戦争が終わるまでユフィに口止めされてたのよ、「悪いのは私なんです」って謝りながらね…………ねえ?ユフィの「おにいちゃん」?』

 

「うぐっ!?」

 

クレアめ、痛いところをっ…………!!

 

だが、妹がリストカットするほど苦しんでしまうことをやってしまった私は、間違いなく大馬鹿だろう。

 

『今はもうベッドで安静にさせてる、刃物も近くに置かないようにしてるし、鎮静剤とか抗うつ剤?とかを飲ませてる』

 

「そうか……………すまない、用事をできるだけ早く終わらせてそっちに帰る」

 

『それがいいわね、あぁそれと…………あんたはナナリーちゃん一筋で満足かもしれないけど、惚れさせた責任取るくらいじゃないとただのクズよ』

 

クズ……………。

 

「責任と言ったって………重婚でもしろと?」

 

皇族復帰後にナナリーに婿入りする予定だから……ユーフェミアはどういう扱いにすれば?

 

『いいんじゃない?女の子侍らせてハーレムなんて、男の夢でしょ?』

 

「そんな畜生みたいなこと……」

 

『畜生がウダウダ言ってんじゃねえ!!!』ガァンッ!

 

「はひぃ!」ビクゥッ

 

ひぃっ!?……やだもぉ女の子怖いぃ……………。

 

『わかったらさっさと帰ってくる!』

 

「わ、わかった………」

 

下手をしたらクレアに殺されかねんぞこれ…………。

 

電話をきってハンカチで汗を拭く、かなりかいていたようでハンカチの吹いた部分がじっとりと濡れていた。

 

「…………今日明日中に死ぬんじゃなかろうか?」

 

ケータイをしまい……………その前に、ナナリーのメールが着てたと思うからチェックしておこう。

 

えーっと………ふむ、いつもと変わらない日常的なことだけだな、平和でよかった。

 

ふむふむ……………ほー、女子部員とお茶会をするのか、いい茶葉と茶菓子を買っておこうか。

 

戦勝祝い………ではないな、平和祝いとでも言うべきかな?ナナリーの友人たちに幸せのおすそ分けといこうか、たまには高級品を買っていくのも悪くないだろう。

 

「『もうすぐ帰るから待ってて、お土産に期待してね』…………これで送信」

 

私も私でいつも通り短い文で返信する。

 

さて、ついでに茶菓子を検索しようかな。

 

どうせならユーロピアにちなんだものもいいかもしれないな。

 

そうだな…………本場バームクーヘンとか本場マカロンとか…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side

 

 

日本エリアの総督府、その特派の研究ラボにて、ロイドは忙しなくボードを叩いていた。

 

「ちょーっとー、ローイードー?まーだ終わらないの〜?」

 

「正直だっるいんだけど〜………」

 

アンドロイド2体の声を聞きながら。

 

「あのさぁ……………君達ねえどうしちゃったのさあ?ここまで感情豊かになる機能、僕つけた覚えないんだけど?」

 

いや、余白(ストレージ)は多かったから学習能力的には可能だけど………そう力無く呟くロイドは、珍しく疲れた目で目の前のアンドロイド【ヘンゼルとグレーテル】の解析をしていた。

 

一足先に日本エリアへと棺桶で送られたヘンゼルとグレーテルは、およそ1週間ほどの時間をロイドによる解析を受けていた。

 

「学習装置の長時間連続稼働、長期間に渡る精神感応波による共感覚システムの使用、蓄積された多くの有用なデータ……………嬉しいことこの上ないけどぉ……」

 

「1週間のデータ解析進行度は2体合わせても18%程度…………ロイドさん、これ本当に終わるんですか?」

 

「精神感応波技術は最優先研究課題だから、終わらせないと予算がゼロになっちゃうかも」

 

「恐ろしいことを言いますよね、ツキト君って」

 

「あれでも大分優しい方だけどねぇ…………あー、こき使われた時のことは本当トラウマだよ」

 

ロイドは思い返す、ヘンゼルとグレーテルの2体のアンドロイド作成までのブラック企業も嘲笑えるほど過酷な2週間を………。

 

「それに比べたら、ゆっくり解析ができる今なんて『休憩時間』みたいなもんだよ」

 

「どれだけ酷かったんですか………」

 

「ストレスで体重が10kg近く落ちるくらい酷かった………って言ったらわかるかなぁ?セシル君」

 

「うわぁ………………鬼ですね」

 

「いやいや、悪魔だよ、彼は」

 

セシルの同情のこもった視線を受けつつ作業は止めないロイド。

 

ロイドはこの時、過酷な日々を振り返りつつ、今一度自分について考える。

 

自分にとって特派は本当に天職なのか?と。

 

「……ねえセシル君」

 

「なんですかロイドさん?」

 

「転職するのってありかなぁ?」

 

「うーん……難しいんじゃないですか?」

 

「やっぱり?……………はぁ」

 

項垂れるロイドを横目に見るセシルは、頭の片隅で『天才でも悩むものなのか』などと考えていた。

 

一方、ヘンゼルとグレーテルはというと…………。

 

「ねー、せめてケータイゲーム機持ってきてよ」

 

「あ、私のぶんもお願い、RTAの練習するから」

 

暇過ぎる解析に飽き飽きして娯楽を要求しだしたのであった。

 

グレーテルに至っては解析されている最中、スペックが少し低下した状態でRTAをやるとも言い出した。

 

「某ハンティングゲーなら、世界記録くらいヨユーヨユー」

 

「………解析が進まないのって無駄な機能のせいじゃないですか?」

 

「……………」

 

「あっ……」

 

セシルのつぶやきにロイドは沈黙するしかない。

 

開発者であり、いろいろな機能を付け足してしまった身としては、沈黙しか選択肢がなかった。

 

セシルはそんなロイドを見て察してしまったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

「入りたくない…………」

 

そう口に出せればどれほど楽だろう。

 

総督府最上階、大会議室の半分ほどの広さを持つユーフェミアの部屋の前で私は立ち往生していた。

 

クレアの話を聞き、日本エリア総督府へと来たはいいが、部屋の前に立った途端、脚が木偶の坊と化してしまった。

 

なんと情けないことか…………いや、もともと女に尻に敷かれるような情けない男ではあったんだが。

 

それでも、傷付いて閉じこもってしまった女の子に会うことが、こんなに難しいなんてな。

 

何がブリタニアの悪魔だ、何が終戦の英雄だ、嗤わせる。

 

「おい、さっさと入らんか」

 

「ッ!……C.C.か………」

 

突然呼ばれたことで振り向きざまについ手が剣に伸びかけたが、C.C.だったとわかり、手を引く。

 

本当に情けない、Cの世界で繋がっているC.C.の気配すら探知できないとは………。

 

「なんだ?私の近づく気配すらわからないほど、この扉の向こうの小娘が気になるのか?」

 

「あぁ………気配すら気にならない、無警戒になってしまうくらいには、気になっている」

 

嘲るようなC.C.の言葉を肯定しつつ、扉に向き直る。

 

「ならさっさと入れ、うら若き小娘の柔肌に傷をつけさせた、その罪の贖罪の時だ」

 

静かに、強い口調で言ったC.C.は、どこから見ても怒っているようだったが、同時に、とても悲しそうに見える。

 

「C.C.…………はっ、お前ってやつは」

 

ハッパをかけるなら、もっと怖い顔をしろよ…………そんな悲しそうな顔されたら………。

 

「あぁ、ちくしょう…………C.C.、お前はいい女だよ」

 

「ふふっ………当然だ、私は………」

 

ふっ、と笑みを浮かべC.C.は言う。

 

「C.C.、だからな」

 

「………そうだったな」

 

今なら、今ならば、脚が動くはずだ。

 

一歩、また一歩、扉に近づく。

 

ドアノブに手を掛けたところでC.C.の方を見る。

 

「何を見ている?さっさと行けよ、色男」

 

「言われずとも、私は行くさ」

 

C.C.、やはりお前は私にとって最高の…………。

 

コンコン

 

扉をノックし、言葉を紡ぐ。

 

「ユフィ?入ってもいいかな?」

 

返事はない、だが、行くしかない。

 

灯りのない部屋に入った私は、ベッドに腰掛ける少女の前に立った。

 

「ユフィ……」

 

「…………ツキト……」

 

もう一度声をかける、ユフィは小さく反応するとフラフラと立ち上がって私に向かって歩いてくる。

 

「ツキト………ツ……ぁっ」

 

小さく唸ったかと思うと、不意にユフィがバランスを崩し倒れかける。

 

近づいて倒れる前に支えると、首に腕を回される。

 

「ねえ、ツキト………」

 

「何かな?」

 

聞き返すも返事はない、嫌な予感を感じつつそのまま待っていると、チクリ、と首筋に痛みのようなものを感じた。

 

「?」

 

不思議に思いつつ、ユフィの顔を覗き込む、暗がりでよく見えないため、電気のスイッチを探す。

 

それらしいスイッチを入れると、部屋に灯りがついた。

 

部屋の様子はほとんど変わりはなく、ただベッドが少し乱れているだけのようだった。

 

「ん?」

 

そう思っていた時、不意にベッドに置かれた絵がきになった。

 

子供が描いた落書きのような絵だったが、そこにおかしさを感じた。

 

使われたクレヨンと思わしき色が、遠目から見ても赤が多いのだ。

 

瞬間、ドキンッ………と心臓が高鳴った気がした。

 

これ以上、あの絵について考えてはいけない、すぐに部屋から出るべきだ。

 

だが、私の頭脳がそれより早く真実に到達する…………して、しまう。

 

首筋の痛みが増した気がする。

 

脚は動かない。

 

それは湖の真ん中で抱き合う男女の姿、男よりも若干背丈が高い女が、男を包むように抱きしめている絵だった。

 

首筋の痛みが増す。

 

女の抱きしめる腕の先、手の部分には短剣が握られている、抱きしめる腕は男の首に巻き付くように描かれている。

 

短剣は男の首に深々と刺さり、血が噴き出している。

 

だが、男は笑っている、女も笑っている。

 

男の血でできた湖に2人で浸かりながら、2人とも笑っていた。

 

首筋の痛みが増す。

 

脚は動かない。

 

抵抗できない。

 

「おっ………あっ………」

 

ユフィの顔が見える。

 

絵よりも綺麗で美しい笑みを浮かべたユフィが、そこにいた。

 

そんなユフィに、私は首筋を貫かれた。

 

「あぁ………ツキト………………愛してる」

 

ユフィの目の奥は、深淵の深い深い闇の色をしていた。




文官「詳細オナシャス!」
TKTニキ「しょうがねぇなぁ〜」

クレア「おいゴルァ!甲斐性見せろぉ!見せろつってんだ…………YO!!!」バァン(大破)
TKTニキ「お、おかのした……」ガクブル

TKTニキ「お久しb」
ユーフェミア「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる」ズブッ
TKTニキ「えぇ………クゥーン……(貧血)」ドサッ


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『嘘』と『美女』と『逆レ◯プ』、そして『邪悪な企み』

前半〜中盤カオス状態注意!

嫌いな人は終盤まで飛ばして、どうぞ。


ユフィに首筋を刺された私は、気がつけばベッドに寝ていた。

 

首筋には包帯が巻かれているようで、刺した刃物は取り除かれた後のようだった。

 

布団をはぐって立ち上がろうとするも、力が入らず起き上がることもできない。

 

首を動かそうにも力が入らない、そのため周りの様子も確認できない、思ったよりも傷が深いのか?神経をやられた?あり得ないことではないな……。

 

視覚で分かる情報はその程度のもの、現状を確認できた程度で問題解決に至れるほどではない。

 

コードの回復力も私の持つ特典と反発し合って機能してくれていないようだ。

 

ただ、死んでいないところを見るにキチンと死なない程度に機能はしたようだ。

 

解析中のヘンゼルとグレーテルをリンクして呼んでもいいが…………私自身で解決するべきだろう。

 

ユフィも命までは取らないだろう、殺す気なら首筋に刺した刃物を抜くのはともかく、包帯を巻いたり治療するのはおかしい。

 

「y…………y……f……」

 

だめだ、ユフィを呼ぼうにも喉が震えず声が出ない、厄介な………。

 

動くのは目玉くらいのものか、そのうち手足も動くようにはなるはず、声が出ないくらいはどうにでもなる。

 

一睡して体力を回復させよう、考えても動けないし、身につけた武器は全部外されている………というか着替えさせられている。

 

刺されて気絶した時にユフィがやったのか、それとも誰かメイドでも呼んだのかはわからんが、気絶する前まで着ていた服より今の服のほうが寝心地が良いことは確かだ。

 

しかし、万が一武器に触ってユフィに怪我をされたら困るな………さすがに銃は重くて持てないだろうが、剣はユフィでも持てるくらい軽量なレイピア、使い方を気にせず振るうだけでも充分に凶器だ。

 

うぅむ、どうしたものか……………おっと、余計なことは考えるな、寝て体力を回復だ。

 

気絶疲れ(?)からか、意外にもすぐに意識が……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………うっ…………‥。

 

…………………………この歳で漏らしたか。

 

死にたい……………………………?

 

…………おい待て、なんでこんな生暖k

 

「じゅるるるるるる……」

 

「〜〜〜〜!?」ビクッビクッ

 

ああああああぁあぁぁああぁあぁああああぁぁあぁあああっっ!!??

 

な、な……ユフィ!?一体何をして…………おい!咥えるな!おい!

 

「じゅるるるる…………おいひぃ」

 

「〜〜〜〜!!」

 

感想を言うなあああああああああ!!!!

 

ぺっしなさい!ぺっ!だめだぞそんなの飲んだら!病気になる………じゃない!抵抗!抵抗しなくては…………あっ。

 

ふん、ぬ……こなくそ……ええい!くそぉ!………身体が動かん!なぜだ!?まだ回復しきっていない………って、手錠!?

 

しかもご丁寧に一番頑丈なやつか!………………まあ、私にはさして変わらんし破壊してもいいが…………いや、そもそも腕に力が入らないからそうもできんか。

 

あっ!!………もしや、首筋を刺した刃物に薬物が………一服盛られたか!やられた!さっきの時点で気づくべきだったのに!どこまでも脇が甘いぞ私ぃ!!

 

筋肉に作用する何かしらの薬物の類だろうから死にはしないだろうが…………くっ、だめだ、コードの能力で解毒もできん、そもそも能力が制限されいる今はただの人間とさして変わらん。

 

「ペロペロ…じゅっぽ、じゅるる、じゅっぽ」

 

あああああ!!!変則的なのやめろ!!!!

 

薬だけじゃないなぁこれは!確実に精力剤の類もいくつか盛られている!明らかに気持ちよすg

 

「じゅるるるる」

 

「〜〜!〜〜〜!!」ビクッビクッ

 

吸うなああああああぁああ!!!

 

我慢が………もう…………………。

 

「!……じゅっぽ、じゅっぽ、じゅっぽじゅっぽじゅっぽじゅっぽじゅっぽじゅっぽじゅっぽじゅっぽじゅっぽじゅっぽじゅっぽ」

 

ラストスパートやめ…………あぁっ!待って!待って!待ってください!ダメダメダメダメ!!出る!出ちゃう!やらぁあ!

 

バァンッ!

 

「ツキトぉ!無事k………えっ?……」

 

「じゅっぽ………あ、あれ?コーネリアお姉様?」スッ

 

「ユフィ、お前何してるんだ!?ツキトも、は、裸じゃないか!!」

 

うぁ…………んぅ…………ふっ……くぅぅぅ…………………はぁ、何とか、落ち着いた。

 

「ツキト!今外すぞ」

 

「c……n………a………」

 

ちっ、コーネリアの名前も呼べんか…………しかも、落ち着いたとはいえ、薬の作用で愚息の収まりが………。

 

さっきまで気にする余裕がなかったが………近くにいるユフィの匂いが……………ええい!鎮まれ!鎮まらんか!私の愚息!

 

ナナリー以外に欲情しおって!この下郎!粗◯ン!サイズだけナイトオブワン!

 

「お姉様、お待ちを」

 

「ユフィ!お前も手伝……」

 

「お姉様、ツキトのこの逞しい剣が見えませんか?」

 

「……………………何が言いたい?」

 

「お姉様もどうですか?…………美味しいですよ?」

 

「…………いただこうか!」

 

いただくな!

 

チッ……………………キレたぞ、キレたぞ私は!

 

…………………ヘンゼル!グレーテル!

 

私を助けろ!

 

ボゴォ!!

 

「そうは問屋が」

 

「おろさないってね」

 

床を突き破って現れたのは2体のアンドロイド、【ヘンゼルとグレーテル】

 

さすがロイド製、通信制限区域で精神感応波の共感覚システムがリンクできるとは。

 

あとで個人的なボーナスをやろう。

 

「な、なんだお前たち………って全裸!?」

 

「しかも双子………全裸の双子!?」

 

いや、全裸のなにが面白いんだコーネリアとユフィのやつ。

 

それを言うならユフィも半裸で……………うっ!?反応するな愚息ゥ!!

 

じゃない!ヘンゼル!グレーテル!2人を拘束しろ!

 

「はーいはいっと、んで、なんでオリジナルは裸なのさ?」ガシッ

 

「いきなり呼び出して………どんなプレイしてんだか?」

 

「ちょっ!?力強い!?」

 

「あっ!ちょっと待ってください!最後にひと舐めだけ!」

 

ひと舐めでもされたら出るからやめろ!

 

「え?まじ?オリジナルって早漏?」

 

「早漏で候」どやっ

 

うっぜぇなこいつら…………。

 

「あーっ、拘束が緩むわー(棒)」スゥッ

 

おいやめろグレーテル!

 

ヘンゼルはロ………セシルを呼べ!女性兵士か女性のお手伝いさんを数人連れてくるように伝えろ。

 

男は入れるなよ!いいな!

 

「はいはいっと………もーしもし?セシル?ごめんちょっと女の子何人か連れてきてくれない?………どこって?ユーフェミア様の部屋だけど…………いいからいいから、早くきてよねー、このままじゃユーフェミア様とコーネリア様がオリジナルのアレ構って部屋ん中で精◯ぶちまけるから、うん、早めにねー」

 

「そ、そんな………私そんな卑猥なこと……////」

 

………………もう少しは言葉を選んでくれてもいいんじゃないか?

 

あとユフィ、お前はここまでいろいろやっといて今更何を言う。

 

「あのさぁ、あんま暴れないでくれる?」

 

「えぇい!あと少しでツキトの宝剣を握れるというのに!」ジタバタ

 

「死んでも触らせるなって言われてるからだめ」

 

いいぞヘンゼル、そのまま私から遠ざけるんだ。

 

「へーい、まーったくアンドロイド使いが荒いんだから」

 

うるさい、貞操の危機なんだ、しっかり動かないように拘束していろ。

 

「りょーかいでーす」

 

「鍛えているはずだったが、微動だにせんとは……」

 

「ふぁぁ………眠い」

 

「そう言う割には、拘束を緩めてはくれないんですねっ……!」

 

「「特派印のアンドロイドは伊達じゃない」」ドヤッ!

 

ここぞとばかりにドヤ顔しおって、確かにそうではあるが。

 

お、廊下を走る足音が聞こえるぞ、だんだんと近づいてきているようだ。

 

「ヘンゼル!グレーテル!いったい何があったっt…………エェッ!?////ちょっ!!ツキト君!?そんな………お、おっきい////」

 

「セシルさんいったい何が………OH////」

 

「ふ、太いぜ…………////」

 

なんだこの……………なんだこの、羞恥プレイは!?

 

くっそ!くっそ!自分の直立したままの愚息を考えていなかった!

 

咲世子を呼ぶべきだったか、呼べるわけないが。

 

「セシルー、オリジナルから伝言、この2人をちょっと医務室まで連れてって」

 

「私たちはオリジナルを運ぶからさ」

 

こうして、コーネリアとユフィは医務室へ強制連行となり、私は拘束を外してもらい、ヘンゼルとグレーテルに支えてもらいながら立ちあがる。

 

服を着させてもらったが、未だ薬の効果は続いているようで、全然収まる気配がない、仕方ない、処理するか。

 

ヘンゼル、グレーテル、トイレに連れて行ってくれ。

 

「お?処理(だ)しちゃうの?」

 

「ヒューッ!便器を妊娠させる気とは、たまげたわね」

 

あぁ、処理だ処理、1発出せば収まるだろう。

 

「はーい、それじゃあトイレ行こっかー」

 

「介護者用のとこでいいっしょ?」

 

そこでいい、早くしてくれ、愚息が熱くて痛い。

 

「うん、めっちゃテント張ってるもんね」

 

「テントっていうか……尖塔?」

 

黙れ小娘ぇ!さっさとせんか!

 

「おーこわいこわい、んじゃトイレ行こっか」

 

やっとのことでトイレに入り、ズボンと下着を脱いで愚息と対面する。

 

『ビュッと出してスッキリしたらノックしてー』

 

気が散るだろうが!

 

喉が治っていればこんなことにはならんだろうに。

 

まあ、いい、まずは共感覚システムを切断して、っと。

 

処理を始めるわけだが…………なんとも言えんもの悲しさがあるな。

 

さて……………ん?メール?ナナリーから?

 

なにもこんなタイミングで送ることはないだろうに………向こうは事情を知らないにしてもだな。

 

「なっ!?」

 

メールを開いて目に入ってきた衝撃に思わず声が出てしまった。

 

なんだ、喉治ったのか………と感傷に浸る暇もなく飛び込んでくるナナリーの写真。

 

部活終わりに撮ったであろう一枚、暑いのか、練習着を少しだけはだけさせた状態での自撮り写真。

 

滴る汗、上気した頬、眩しい笑み、ピースサイン、お下げ髪……………。

 

「あっ……………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side

 

 

「いきなりリンク切ったと思ったらものの数分で出て着ちゃって…………スッキリしたの?」

 

「死にたい………」

 

「え?はい?」

 

「…………あ、目ぇ死んでるわオリジナル」

 

「うわマジだ、ちょっとどうしたのよ」

 

「死にたい…………」

 

「あーー!もう!グレーテル、オリジナルをベッドに運ぶわよ!」

 

「はいはい、リンクも弾かれてるみたいだし、寝かすのがいいかもね」

 

総督・副総督の乱心ということで、急遽ダールトンを代理として立てた。

 

はいろいろと複雑な心境ながらも、ツキトの死んだ目に察して無言で受理した。

 

ヘンゼルとグレーテルは全裸であったため、総督府はしばしの間混乱に包まれた。

 

しまいには、『ツキト・カーライルがユーフェミア、コーネリア、美人の双子、特派のセシル・クルーミー、その他大勢の女性と聖行為を行っていた』という噂まで流れたほど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2週間後━━━━━━…………。

 

騒動が沈静化してきた頃。

 

特派の研究室。

 

セシルとスザクを帰らせたあと、ロイドとツキトのみが残って話をしていた。

 

「………………ねえ、これ本当に作らなきゃダメ?」

 

ツキトの持ってきた計画書を読み終えたロイドが、ピラピラとしながらそう聞いた。

 

「当然だ、もちろんヘンゼルとグレーテルの解析が終わってからゆっくりやってもらって構わない」

 

「そうでなきゃボイコットしてるよ………………ていうかさあ、君、無茶な注文しすぎだから!」

 

計画書をテーブルに置きつつそう叫ぶロイド。

 

計画書にあるのは、【対人近接戦闘特化型アンドロイド(E型、F型、S型、M型、Z型)の開発】と書いてある。

 

「近接戦闘特化型は作ろうと思えばいくらでも作れる、今のB型アンドロイド、【ヘンゼルとグレーテル】からストレージのほとんどを占める学習装置を取り外して、より高出力・高反応なモーターと、大型冷却機を付ければそれなりにはできる」

 

「やればいいじゃないか」

 

「こっちのが問題なの!!」

 

ロイドは計画書の一文を指してそう叫んだ。

 

「【各機には専用装備を搭載すること】ってなにさ!B型と同様のブレードでいいじゃん!」

 

ロイドが近接戦闘特化型の開発を拒む理由、それはツキトの趣味全開とも取れる各機ごとに専用装備を持たせるという、コスト度外視の計画だからである。

 

「メイス(M型)ツヴァイヘンダー(Z型)はまだわかるよ、ツヴァイヘンダー…………ツーハンデットソードのリーチと重さは日本刀型ブレードに通じるものがあるから、技術の応用が利く…………でも!フランベルジェ(F型)とエクスキューショナーズソード(E型)とショーテル(S型)は何さ!何なのさ!」

 

机をダンダンと叩きながら叫ぶロイド、対照的にツキトは静かで、紅茶をすすっている。

 

「フランベルジェとショーテルの湾曲した刀身と耐久性能を両立させるのは無理!エクスキューショナーズソードは戦闘には不向きでしょうが!!」

 

リーチ、重さ、扱いやすさ、量産性………それらが揃ったツヴァイヘンダーはともかく、残り3つが問題児だったのだ。

 

まずフランベルジェ、陽炎が揺らいでいるような湾曲した刀身を持つ、斬りつけた相手に治り難い傷を残す剣。

 

しかしその実体は、頑丈さとはかけ離れた柔さの元に成り立つ能力であり、アンドロイドの腕力では最悪人を斬りつけた瞬間に刀身が吹っ飛ぶ可能性すらあり、およそ武器として効率的ではない。

 

同様に、細く、大きく湾曲したショーテルは、フランベルジェ以上にひ弱なのである。

 

エクスキューショナーズソード、処刑人の剣は、ツヴァイヘンダーと同等以上に肉厚の刀身をもち、リーチもあり、一考の余地があるように見える。

 

しかし、ツヴァイヘンダーと異なる点があり、それが最大の欠点でもあるエクスキューショナーズソードはロイドに一蹴されても仕方ない。

 

最大の欠点、それは切っ先が無いことである。

 

つまり、ツヴァイヘンダーとは違い、『突く』攻撃ができず、そのぶんだけツヴァイヘンダーにリーチで劣る。

 

その上、エクスキューショナーズソードで出来ることは、ツヴァイヘンダーでも充分に可能で、寧ろツヴァイヘンダーのほうが攻撃手段が多彩なため、『お前、いる?』状態。

 

「……………ひとつ、勘違いをしていないか?ロイド」

 

ティーカップを置いたツキトは、未だ鼻息荒いロイドに語りかけるようにゆっくり口を開いた。

 

「なにさ?言っとくけど、挑発には乗らないよ、これに関しては今流通している素材以上に優秀な素材でもないと無理だからね!」

 

怒り心頭といった様子のロイドに、ツキトは口を開く。

 

「E型、F型、S型、M型、Z型………いずれのアンドロイドも、武装は既存の物を使う」

 

「…………は?」

 

これにはさすがのロイドもポカンとした、そんなことをしたら耐久性能が足りないじゃないか…………だが。

 

「あぁすまん、用途について説明していなかったな」

 

そう言ったツキトは、懐から一通の封筒を取り出し、テーブルに置いた。

 

「【コレ】に用途が書いてある…………見たくないならそれでもいいがな」

 

「………………」スッ

 

封筒をトントン、と叩いたツキトはロイドの顔を見る。

 

ロイドは無言で【極秘】とロウで封をされた封筒を開けた。

 

さっきまでの怒った顔や雰囲気は何処へやら、今は極秘文書が封入された封筒を震える手で開けようとしている。

 

封を開け、中の文書を読み始めるロイド。

 

ツキトは再びティーカップを手に紅茶を啜り始めた。

 

「な、なんで……………こんなものを、僕に作れっていうのか!?」

 

文書をテーブルに叩きつけ、椅子から立ち上がったロイドは、ツキトから数歩後ずさった。

 

「何か、問題でもあるのかね?」

 

「大有りだよ!こんなもの、B型の比じゃない、技術の私的利用なんてもんじゃない…………こんなものでなにをしようとしているのさ!?」

 

ツキトの落ち着いた声が場違いなほど、ロイドは叫んだ。

 

文書に書かれている内容、それは………。

 

「書いてあるじゃないか、【処刑部隊構想】、と、ここにしっかり」

 

叩きつけられた文書の大文字の部分を指差してそう言うツキト。

 

「そんなものは何年も前に破棄された廃案だったはずだよ、非人道に過ぎるって理由でね………それをまさか、君が持ってくるとは思ってもなかったよ!」

 

ロイドは憎々しくそう吐き捨てた。

 

【処刑部隊構想】…………その昔、ブリタニアが植民地政策を行なっていくうちにある問題が生じた。

 

植民地において虐げられる植民地民が様々な武器を持ってパルチザンとなって牙を剥いたのだ。

 

パルチザンに対してしばしば現地徴収の軍隊で鎮圧・制圧を行なったが、もともと現地民であるため、最新の軍の装備を持ってパルチザンに合流されることもあった。

 

今も絶えず中東の植民地では小さい反乱が相次いでいる。

 

そこで、10年と数年前に発案されたのが【処刑部隊構想】である。

 

パルチザンやテロリストなどの反乱分子を即断即決で処刑を執行するための専門部隊として提案され、実際に結成寸前までいった。

 

しかし、即断即決であるため、たとえ群衆の中であろうと発砲や刀剣による殺傷を行うという人道的な理由や、そのようなシチュエーションで処刑を執行できる人間がいるのか疑問視されてしまった。

 

結局、結成当初のメンバーは解散となり、この構想の廃案となった。

 

そのはず、だったのだ。

 

「学習装置を設置しない、感情を持たないアンドロイドであるなら、【処刑部隊構想】の実現は充分に可能だ…………そうだろう?ロイド」

 

できる、できてしまうのだ、アンドロイドならば、【処刑部隊構想】に邪魔だった『あらゆる状況下での処刑を執行できる』という条件を、クリアーできるのだ。

 

「馬鹿げてる…………あの時の『もう少し』っていうのは、こういうことだったのかい!?B型の稼働試験を真近で確認して、充分に足りる性能だと確信した!そうだろう!?」

 

声を荒げたロイドはツキトの襟首に掴み掛かり、細腕とは思えない力で持ち上げた。

 

「その通りだ、ロイド……………B型はあくまで実験機、性能をオミットされたプロトタイプに過ぎない………」

 

「最初に言ってた、格闘性能が欲しいっていうのもこれが狙いだった!?」

 

「That's Right ! …………大正解だ、ロイド」

 

首元を絞められているにもかかわらず、苦しむ様子もなく流暢に言い切るツキトに、ロイドは掴んでいた手を離した。

 

「君は、君は………どうして……」

 

焦燥したロイドはヨロヨロと元の椅子に座り込むと、俯きながらそう聞いた。

 

どうして…………そこには様々な思いがあったはずである、人命を何よりも尊重するツキトらしくない、とか………いつもの優しいツキトらしくないじゃないか、とか。

 

だがツキトは、悪魔は告げる。

 

「【秩序】と【平和】という暖炉の【火(時間)】、それを保つためには、薪が必要だ、そう、【薪(生贄)】が必要なのだ」

 

そう言って紅茶を啜ってテーブルに置いた。

 

一点の曇りない表情で、【自分の言い分こそ正しい】と言わんばかりに。

 

「……………………わかった、解析が終わったらこっちのほうを進めるよ」

 

「頼んだ、では私はそろそろ帰る………………君も、早く帰って休むといい」

 

「そうさせてもらうよ…………」

 

席を立ち、研究室を後にするツキト。

 

ため息をついて立ち上がったロイドは、ツキトのティーカップをキッチンに持って行く。

 

キッチンにティーカップを置いたロイドは洗おうか迷い、明日セシルにやってもらおうと考え、荷物をまとめて研究室を後にした。

 

自室に入ったロイドは、1人ぼやく。

 

「ティーカップに付くほど、唇を噛み締めるくらいなら、やめとけばいいのに……………」

 

荷物を放って白衣のままベッドに倒れこむ。

 

持ち帰った極秘文書をかざす。

 

「馬鹿だねえ、『大』が1京個は付く馬鹿だよ………もうちょっと隠さなきゃダメだってのに」

 

電灯の光が透けて、極秘の文字の裏側に、【破棄】の文字を見ながらそう呟いた。

 

「怒鳴ったせいで疲れちゃった………もう寝よ」

 

破棄の文書を放り投げ、そのままロイドは眠りにつく。

 

ふと、去り際のツキトが一瞬見せた悲しそうな表情がよぎる。

 

「……………もうちょっとストレートに言って欲しかったなぁ」

 




TKTニキ(毒盛られて動けないゾ)
ユーフェミア「おち◯ぽふとぉい……」じゅっぽじゅっぽ
TKTニキ(あーイクイク、あーイク、イキソ、あー……)ビクンビクン
コーネリア「おい!待てい!」
TKTニキ(コーネリアネキ!?やったぜ!助けてクレメンス!)
コーネリア「俺も仲間に入れてくれよぉ〜」
ユーフェミア「イイゾ、クチアケーナ、ホラ」
TKTニキ(ダメみたいですねぇ)」

TKTニキ(ヘンゼル&グレーテル!助けてクレメンス!!)
ヘンゼル「BOY(TKTニキ) next door」バァァアン!
グレーテル「あぁん?HOIHOI炒飯?」バァァアン!
TKTニキ(なんで全裸なん?)
ヘンゼル&グレーテル「「なんの問題ですか?♀」」
コーネリア「なんだこの…………なんだこの全裸!?」
ユーフェミア「はぇ〜すっごい貧乳」
ヘンゼル&グレーテル「「もう逃がさねえからな?」」ガシッ
コーネリア「これ無理ゾ」グイグイ
ユーフェミア「あとひと舐めだけ、頼むよ〜」
ヘンゼル&グレーテル「「FUCK YOU !!!」」

セシル「警察だ!ファッ!?」
メイド「すっごいデカイ///」
メイド2「ラウンズは巨◯ン、はっきりわかんだね」
メイド3「おうおう、いいかっこだぜぇ〜?」
ヘンゼル&グレーテル「「(こいつら連れて)出て行けぇ!!」」
セシル&メイド達「「「「かしこまりぃ!」」」」

TKTニキ「(媚薬のせいで)チ◯ポがパンパンだぜ………もう我慢できねえよ!!」
ヘンゼル「あ、おい、待てい、トイレ行くぞ」
グレーテル「補助?補助?」
TKTニキ「NO thank you」トイレイン

TKTニキ「(気が乗らないけど)いきますよぉ〜………ん?」
TKTニキ「NNLからメールが来たゾ」
TKTニキ「限界だけど、開くゾ」
TKTニキ「これ(練習後の自撮り写真)って………………ヌッ!!!」
TKTニキ「あぁぁああぁあぁあああぁああぁぁぁあああぁあぁぁああぁぁぁあああ!!!」ビュルルビュルッビュルビュルッルビュルルビュルビュルビュルッビュルビュルビュルル!!
TKTニキ「アァ……アァッ!」ビュルッッ!

TKTニキ「もう、死ゾ」
ヘンゼル&グレーテル「「えぇ………」」
ダールトン「有給やるよオラァン!?」

TKTニキ「(処刑専門のアンドロイド)作って♡」
ロイド「は?(怒り)」
TKTニキ「作れっつってんだよ!」バァン!
ロイド「しょうがねなあ………(渋々)」
TKTニキ「頼んだゾ」悲しそうな表情
ロイド「おかのした(あっ(察し))」

血のついた(アイス)ティーカップ。
ロイド「やっぱり嫌なんじゃないか………」ため息


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『繊細』な『指使い』

前回のアラスジィ!!!

TKTニキ「研究室行って、(処刑専門のアンドロイド)作れ」
ロイド「かしこまりぃ!」


ツキトside

 

 

晴れ渡る青空…………うぅ〜〜ん、なんと清々しい朝か。

 

実に半年ぶりとなるナナリーとのデートの日が、これ程恵まれた天気になるとは………白い神の仕業だとしたら良い仕事だと褒めてやりたいところだ。

 

まあ…………………デートの描写は全カットだがな!!!

 

いろいろと燃え上がったが…………別に他人に言うことでもないから、別にいいだろう?

 

いや、ユフィに襲われ、コーネリアに裏切られ、セシルその他数名の女性に直立した愚息を晒したことでやさぐれたわけじゃないぞ?

 

本当だからな?

 

さて…………ユフィに襲われ、コーネリアに裏切られ、セシルその他数名の女性に直立した愚息を晒して以来、軽い鬱状態かつピンク模様な頭を切り替えて。

 

仕事をしようかね。

 

あぁ、そうそう、ユフィは3週間、コーネリアは1週間の謹慎処分に処しておいた。

 

少しはお灸をすえるのが良かろう…………というダールトンの提案である。

 

かの名将も、さすがに堪えたようである、私もできる範囲で彼のサポートをしてやるとしよう。

 

ギルフォードはコーネリアの世話係としてつけたが…………問題は起こらんよな?まあ一応女性兵士もつけてるから大丈夫だろう。

 

そもそも今日出てくるしな。

 

で、ユフィの方には女性兵士数人がかりで交代勤務による監視をさせている。

 

ついでに面会の禁止、用を足す以外の目的で部屋を出ることの禁止、部屋の外の人間と会話の禁止(手紙、通信機器含む)などのサービス増し増しの自室謹慎だぞ、喜べ。

 

あとでわかったが、リストカットも特殊メイクとメイドの口裏合わせと分かり、思わず怒りのような感情が湧いて謹慎の間ずっと手錠でもさせようか悩んだ。

 

結局はしないことに落ち着いた、主にスザクのおかげで。

 

スザクと言えば、ユフィの口裏合わせにスザクも加担していることを後で知った。

 

スザクに隠し事ができるのか、とても疑問に思ったが、まああいつはユフィの騎士だし、騎士は主人の一番の味方ということもあって協力したんだろう。

 

しかしまあ、なんだ………なんでユフィはあんなことしたんだか…………。

 

理由を聞いても話してはくれなかったから分からないし…………気の迷いだろう、そういうことにしておこう。

 

早速、今日の書類仕事に取り掛かるとしよう。

 

総督府にある私の執務室に入る、部屋の前にある掛札から、すでにクレアは来ているようだ。

 

「おはよう」

 

「おはよう、有給は楽しめた?」

 

中に入るといつも通りの調子でクレアが話しかけてきた。

 

「それなりにな…………いや、正直に言おう、ほとんど引きこもっていた」

 

「あー…………あんなことされればそうもなるわね」

 

「本来なら、あそこまでされたら喜ぶべきことなんだろうが…………我ながら情けない」

 

上着を脱いで適当に掛け、椅子に座って書類の束をペラペラとめくる。

 

今日は少ない方だな、ダールトンがあらかたやってくれたのか?

 

「不倫……………とまではいかないけど、下手したらセフレみたいなものになっちゃうし………」

 

「だからこそ、2人の謹慎は流行病で公表したんだろう」

 

「えぇ、仲良く2人で流行りの風邪にかかった、ってね、なかなかいい考えでしょ?」

 

「cleverなやつだな」

 

「もてあましてるfrustrationを発散してあげようか?」

 

「やめとけ、そんな小綺麗に揃えたネイルじゃ、とても私は狙えないぞ」

 

「…………BO◯WYを知ってるのね」

 

「その一曲しか知らないが、一応ファンを名乗らせてもらおうか」

 

他のも聴いたが、marionnetteほど耳に残らないせいでそれしかマトモに歌詞も知らんのでな。

 

「そう、じゃあ、ユフィとのcomplicationもしっかり解消しなさいよね、仕事なんだから」

 

「たまにはoccupationを忘れさせてくれ」

 

「ふざけてないで仕事しなさいよ」

 

「いきなり戻すんじゃない…………コメディ番組じゃないんだぞ」

 

言いながら渋々書類に手を伸ばし、内容を確認していく。

 

ユフィの部屋の床の請求は私宛なのか…………私の命令ではあったが、それはそれでどうなんだ?

 

特派に払わせるにしても結局は予算が減る、ユフィに払わせる場合それはお小遣い(国家予算)から捻出することになるし…………私が払うのがベストか。

 

将来の金が減るなあ………収入のが多いからさほど気にすることでも無いが、通帳を見るたび減っていく金を見るのは少し……。

 

だが一番辛いのは給料日…………増える方が怖いのも、うん………やはりおかしいな私は。

 

「おーい、毒盛られて襲われた小僧」

 

ノックもなしにドアを開けて入って来た無礼者…………C.C.は、そう言いながら私の執務机の前に椅子を置いて座った。

 

「ノックくらいしろ、この処女ビッチが」

 

「お前もなかなか酷い言葉を言うな………じゃなかった、ほれ、第一次の復興支援隊の資料だ」スッ

 

「ありがとう」サッ

 

ふむ、『第一次復興支援隊の日本エリア帰還に伴う資料』、か。

 

食料は使い切ったようだな、バッテリーは充電中で、メンバーは帰宅したのか。

 

再招集アンケートのイエスが7割弱……………やはりあの環境は堪えるか。

 

よく復興のために立ってくれたものだ、こちらは満足な報酬も何も用意できないというのに………。

 

「よし、C.C.、こっちの書類のグラフの赤い部分が残予算となってて、使い切る必要がある、この範囲内で復興支援隊に参加したメンバーに適当に何か見繕って郵送しておけ」

 

「えー…………そういうのはあっちの秘書の仕事じゃないのか?」

 

C.C.は不満げにクレアを指差すと、クレアは嫌そうな顔をした。

 

「C.C.のほうが暇でしょ?ちゃんとやりなさいよね」

 

「C.C.、クレアも忙しい身だ、暇なら働け、終戦後のこの時期、仕事は増えはするが減りはしないんだ」

 

のちのち楽をするためには、今それをやらなければならないからな。

 

「はいはい、わかったわかった、しょうがない、このC.C.がやってやるとしよう」

 

「頼んだ」

 

残予算の書類と復興支援隊参加メンバーの資料をもって部屋を出ていくC.C.。

 

たまには休みでもやるか。

 

ん、そろそろだな。

 

「特派のほうを見に行ってくる、留守は任せた」

 

「はーい、しっかりやりなさい」

 

「お前は私の母親か」

 

「なぁに?嫌なの?」

 

「……………悪くないな」

 

「うわきも」

 

「今日一番傷つく言葉をありがとう………」

 

軽口を叩きつつ部屋を出て特派の研究室へ。

 

ヘンゼルとグレーテルの解析具合を見にいくついでに近接戦闘特化型の開発状況を見なければ。

 

しかし、開発を言い渡した次の日のロイドのやつ、その日の怒りようが嘘みたいにニタニタしてたな。

 

天才は研究以外の記憶はトリ頭なんじゃなかろうか?

 

もしかして……………普通にバレたのか?

 

わざわざ廃案を極秘文書に仕立て上げて、さも帝国に『特派はしっかり軍事目的で研究をしている』という建前作りで十分な予算を頂戴するために一芝居打ったっていうのに…………。

 

んまあ、今更このくらいの恥ずかしさは気にならん…………展示品の如く直立した愚息を見られたことに比べればな。

 

「あっ、おはようございます!カーライル様………(可愛いお顔をしていらっしゃるのに、あ、あんな凶暴なモノを……////)」チラチラ

 

「おはようございますカーライル様!(ね、ねえ?本当にあのカーライル様の股間に………////)」チラチラ

 

「カーライル様、おはようございます(ビックキャノンがあるっていうの!?)」チラチラ

 

「あぁ、おはよう」

 

なぜそうも私の顔ではなく股間に視線が行くのだ貴様ら!

 

そもそも貴様ら、人妻(既婚者)だろうが!!!

 

朝から疲れさせてくれる………まあ、こういうのも、平時だからこそできることなんだろう。

 

戦時では、こんなくだらないことで悩む余裕もなくなるからな……………平時のありがたみがよくわかる。

 

そこでだ、本当にくだらないからもう私の愚息について噂するのはやめないか?(半ギレ)

 

気にしたところでどうにもならん、ロイドのところ急ごう。

 

研究室のドアにノックをして入る。

 

「ロイド、どんな状ky」

 

「セシル君!逃げて!」

 

「い、いやぁっ!!」

 

お、おいおいなんだこの状況は!?

 

見たこともないアンドロイドが、両手にショーテルを握って、それをめちゃくちゃに振り回しながらセシルに突進してやがるじゃねえか。

 

セシルは怯えて腰抜かして動けねえし、ロイドは遠隔装置らしいものを弄ってるが効果がないように見える…………ちっ。

 

「朝っぱらから面倒くせぇなぁ」ブォン!

 

近くにあった折りたたみ椅子を謎アンドロイドに向けて思いっきり投げつける。

 

左手のショーテルに当たってショーテルが砕け散り、勢いそのままに折りたたみ椅子は謎アンドロイドの頭部に激突。

 

首から上がもげて謎アンドロイドは機能を停止した。

 

「え……え?」

 

「え?ちょっとちょっと、なんでクビが………」

 

「セシル、怪我はないか?」

 

「え………あっ、ツキト君…………じゃなかった、は、はい、擦り傷くらいです………」

 

「よかった、すぐに医務室に連れて行く、ロイドが」

 

「はい、わかりました……」

 

大した怪我はなさそうだな、擦り傷と………足首の捻挫くらいか。

 

「それから、ロイド、クビが弱すぎる、もっと頑丈に作れ、あとセシルを医務室へ連れていけ」

 

「あぁうん、改善点としてリストに………………じゃないよ!ツキト君のパワーじゃどうあっても防げないでしょ!?」

 

目の前の光景に唖然としていたロイドは、ハッとして私の方を向いてそう抗議してきた。

 

「だいたい今のはなんなのさ!?アレはただの折りたたみ椅子なんだよ!?なんであんなただの単管パイプの繋ぎ合わせたモノにアンドロイドのクビから上を壊されちゃうのさ!?」

 

「硬いものが当たったら人間のクビくらいもげるだろ?」

 

「あれはアンドロイド!!人の数倍以上の剛性を持つ、サイズ比で見れば陸上最強の存在なの!!!」

 

ロイドはクビがもげて動かなくなったアンドロイドを指差して続ける。

 

まあ、サイズ比で見れば確かに陸上最強の戦車も逃げ出す性能だろう。

 

だからと言って戦車より強い奴に勝てる保証はないが。

 

「しかもあれは、君のオーダー通りの耐久性能を発揮できる機体なんだよ!?なんで壊せるのさ!?」

 

「そりゃあ、かたちあるもの、いずれは壊れるからだ」

 

「一休さんじゃないよ!」

 

ロイド、お前一休さん知ってるのか……………。

 

っと、そんなことより。

 

「話はあとだロイド」

 

「ちょっと!?」

 

「今は安全の確保が先だ、研究室を一時封鎖、書類をまとめておけ…………あのアンドロイドもしばらく拘束しておけ」

 

「うっ………………まあ、こんな状態ならしょうがないかなぁ」

 

ロイドはシブシブと行った感じでそう言い。

 

「その前に、ちょっと休憩させてよ、セシル君あんなだから、ね?」

 

と言った。

 

「あぁ、医務室でよく見てもらった後でゆっくり外でコーヒーでも飲んで、それからでいい………それまでは私があれを見張っておく」

 

ピクリとも動かないクビなしアンドロイドを顎で指してそう言い、総督府の喫茶店で休むように伝え、財布から数枚紙幣を渡す。

 

「いや、さすがにツキト君からは………」

 

「もらっとけ、私が金をやったという理由があったほうがセシルを休ませやすいだろう」

 

「セシル君は生真面目だから逆に気にすると思うよ?」

 

「えぇい、受け取っておけこのバカモン、パンケーキでもパフェでもなんでも食ってこい!」

 

拒もうとするロイドに無理やり握らせ、ドアの方に振り返る。

 

「始末書一枚くらいは私が書く、お前たちはまず頭を休めろ」

 

「……………ツキト君さあ、そういう優しいところで絶対損してるよね」

 

「かもな……………ロイド、お前も男なら、腰を抜かした女の1人くらい介抱してやれ」

 

「ツキト君のほうがうまいんじゃないの〜?あ、でもツキト君は腰を抜かさせるほうかな?」

 

「物理的に腰を抜かさせてやろうか?」ポキポキ

 

「ひっ…………セ、セシルくーん!怪我とかなーい!?」

 

あんの馬鹿(天才)が………。

 

しかし、ゆっくり休んでからやれとは言ったものの…………。

 

「だいぶ…………暴れまわったんだな」

 

セシルを狙う直前まで部屋中をひっかかき回していたわけか、誤作動か何かでターゲットしてしまったのか、はたまた………。

 

「まあ、いい…………ヘンゼル、グレーテル」

 

「………んぁ?」

 

「うぅ〜〜ん………なぁに?」

 

研究室隅に置いてある棺桶に呼びかけると、ヘンゼルとグレーテルの2体が蓋を持ち上げて出てきた。

 

どうやら2体ともスリープモードだったようだ…………あれだけあのアンドロイドが暴れていたのに、気がつかなかったのか?

 

「仕事だ、あそこで事切れたクビなし人形を見張ってろ」

 

「ふぁぁい………」

 

「ぅん…………」

 

グレーテルは眠い時は結構素直な反応をするな。

 

「気をつけろ、さっきまで暴走状態だったんだ、いつまた暴れてもおかしくはない」

 

「動いたらどうすればいーの?」

 

「破壊して構わん」

 

「弱点とかないの?」

 

「お前らとほぼ同型、今はそう言っておこう」

 

2体は棺桶から出ると、近くのクローゼットから服を取り出して着はじめた。

 

念のため言っておくが、寝るときに衣服があると邪魔だと言ってこいつらが勝手に全裸で寝ているだけだからな?

 

私やロイドがそう示したわけじゃないからな。

 

「うーん、今日はこっちかな?」

 

「ヘンゼル、それは可愛いけど動いたら破けるわよ」

 

「そういうグレーテルは何にするっていうの?」

 

「運動用のタイツでいいでしょ、これなら安いからダメにしたって損は少ないし」

 

「え〜〜?私それダサくてキラーイ!」

 

「じゃあ水着でどう?」

 

「水着か〜……………うーん、あ!これ可愛い!」

 

…………………なんだろうな、この…………。

 

べっぴんの双子が洋服屋さんで買い物を楽しんでいるこの絵。

 

…………平和だな。

 

「………ふふっ」

 

「あっ、ちょっとーオリジナルー?」

 

「いきなり笑うとか………ちょっと怖いんだけど」

 

「てめえら解体すっぞ」スゥッ…

 

「「任務了解!配置付きます!」」ダダッ!

 

ったく……………。

 

とりあえず、リンクさえしとけばそれなりに動けるだろう、今は無くとも意志を持って動けるからそれでも良さそうだがな。

 

しかし、ゆっくりで良いと言った手前、あまり強く言えんが…………。

 

「なかなかの速度で広まりつつあるからなぁ…………やはり、フレンチは生来の噂好きらしい」

 

ユーロピア戦線に居た頃、プロパガンダの一環として作り上げたホラ話。

 

【敵将を狩る超隠密特殊部隊(声なき狩人)】………音を極限まで出さないように訓練された兵士、およびその現代から見て明らかに原始的な武器(音の少ないロングボウ、パチンコ、ナイフなど)によって将校を暗殺する特殊部隊。

 

【レーダー探知されない樹脂製誘導爆弾(プラスチックミサイル)】………名前通り、プラスチック樹脂製のミサイルによる発見不可回避不可の超遠距離攻撃能力があると思い込ませるためのウソ。

 

【不夜騎士中隊(ローゼン・リッター)】………昼夜を問わず奇襲攻撃ができる精鋭パイロットだけを集め、特製ステルス装置搭載型KMFによる変幻自在のゲリラ戦闘を仕掛けるKMF部隊。

 

【ツキト・カーライルの見えざる剣(エレメンタル・ソード、もしくは魔剣)】………私自身の様々な噂を逆手に取り、【悪魔から受けた力によって『魔剣』を召喚、離れた場所の人間を両断する】、という、もはや迷信もびっくりな大ホラ。

 

『ツキト・カーライルの処刑部隊(心なき兵士たち)』………全身を黒いヴェールやマントなどで覆い、肌の露出は一切なく、中世期の処刑道具を持ち、いついかなる時間と場所であっても刑を執行する、心なき死刑執行人。

 

どれもこれも荒唐無稽すぎておとぎ話にもならないホラ話ばかりだが、意外にもどれもそれなりに効果があり、中でも処刑部隊だけは他のものより効果があった。

 

戦後処理の中、押収されたデータの中に、処刑部隊に対する対処法のデータがあったのを見つけたのだ。

 

我ながら良案だったな、ありもしない幻に怯えてくれてありがとう………と考えていたが、本国への『言い訳』を考えているまさにそのとき、ふと、思った。

 

「『作れるんじゃないか?』」

 

まさか、とは自分でも思った、嘘が誠になるとは微塵も思いもしなかった。

 

ロイドには嫌なことをさせるが…………しかし、現実に、完成するのだ。

 

植民地支配下にある地域の治安維持のための処刑部隊(プロパガンダ)………うむ、悪役らしくてなかなか良い感じだ。

 

今後は、処刑部隊による展開も考えねばなるまい。

 

できたら何で試そうか…………………あぁ、そういえば、実験にちょうど良い場所があるじゃないか。

 

「中華連邦くらいひろければ…………良質なデータがとれそうだな」

 

くくっ…………あと少し、あと少し、はは………。

 

「もう少し………」

 

目指したモノはもう眼と鼻の先にある。

 

だが………しばし待て、待つのだ、今はしばらくの間、耐えよ。

 

今はまだ足を振り出す時ではない。

 

玄関先で立ち止まって、リュックの中身を確認する時だ。

 

出発前の最終チェックってやつだ。

 

遠足の前に、ちゃ〜んと、荷物を準備しとかないとなぁ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side

 

 

カッ………

 

幕が閉じた劇場の、スポットライトが照らし出す。

 

真っ白な顔、頬っぺたには赤い星のマークと黄色い月のマーク、赤と青の生地と飾り物がついたジェスターハット、ゆったりとした派手な道化服、先のとんがった靴。

 

道化を語るピエロが劇場の舞台の真ん中に立っている。

 

キリキリキリ……

 

キュイッ………キリキリキリキリ………

 

「第1幕はこれにて閉幕、皆様お楽しみありがとうございました………」

 

劇場のよく通る女性の声で告げられる、劇の幕が閉じたことを知らせる声。

 

ペコリ……

 

ピエロは道化なポーズで一礼をすると、元になおって両手を振って観客席に振り始めた。

 

「…………うむ、なかなかいい感じだな」

 

と、ツキトはそう言って腕を下ろす。

 

すると、先ほどまで両手を振っていたピエロはこと切れたようにその場にへたり込んでしまった。

 

そう、ピエロはツキトのマリオネット、そして劇場と舞台はその風景だったのだ。

 

「一礼の動作でが少しぎこちなかったわね、もう一回」

 

同じような文句でかれこれ数百回もNGを出し続けているクレアに、さすがのツキトも疲れた様子。

 

「せめて5分くらい休憩させてくれんか?」

 

「ダメよ、今日は徹底的にやるわ」

 

「だからと言って3時間もぶっ続けでやるこたぁないだろう」

 

「顔に似合わずスパルタだな」

 

軽口を叩きつつ、ツキトは腕と指を動かしてピエロを操る。

 

操られるピエロは足を肩幅に開き、左手を腰に当て、右手でクレアを指差した。

 

そこからさらに小刻みに動かしてカタカタと震えだす、まるでピエロがクレアを指差して肩を揺らせて笑っているかのように見せた。

 

「動きが固い、もっと生き物みたいに」

 

「おふざけにまでNGを出さんでも良かろうに………」

 

クレアはピエロの人形じみた固い動きにダメ出し、これにはツキトもそこまでやらんでいいだろうに……と溜息を吐いた。

 

「いい?あんたのはカタカタ揺れててまるで病人みたいなの、笑っているように見せるにはこうやって………」

 

と、クレアもマリオネットを取り出してツキトのマリオネットと同じポーズを取らせる。

 

「こう、カタカタじゃなくて、ユラユラって感じに、滑らかに肩を上下させるの」

 

言いながら指を動かして操るクレア、マリオネットは少し仰け反り、ツキトを指差す腕も肘を少し曲げている。

 

ツキトのマリオネットが『指を差して大爆笑のポーズ』なら、クレアのマリオネットは『踏ん反り返って嘲笑うポーズ』だろう。

 

「ほら?どう?」

 

「おぉ………『ヒッヒッヒッ』ってな感じの気味の悪い声が聞こえてきそうだ」

 

「これくらいはできないとね」

 

自慢げにそう言って微笑むクレア、長年積んだ修行を誇りに思っている、というような表情だ。

 

「しっかしあんたも変よねえ、あらゆる才能を持っててなんでもできるっていうのに、手先は不器用なのよね」

 

「手先が器用でなくとも、裁縫やら料理やらビーズ飾り作りやらはできるからなあ……………才能と器用さは別のくくりなんだろうな」

 

「また面倒臭い分け方してるね、神様っていうのは」

 

「全くさ、もうちょっと考えてくれてもよかったのにな」

 

ツキトは自嘲するように笑うと、側にあったゴムボールを2つマリオネットの側に転がす。

 

「ま、クレアのおかげで少しずつ矯正できてると思うがね」

 

転がるボールの上にマリオネットをジャンプさせるようにして飛び乗らせ、マリオネットの足を動かして玉乗りを始めた。

 

キリキリ……キリキリ……

 

マリオネットによって転がるボールを追いかけながら玉乗りさせ、上半身を使って芸を披露している。

 

「マリオネットの基本動作を操れるくらいには、器用になったよ」

 

「感謝してね?でも、基本動作だけじゃまだ1/4人前ね」

 

と言ったクレアは、クレア自身のマリオネットをジャンプさせてボールの上に乗せた。

 

しかしボールに乗せたのは手の方、つまり空中で上下を回転させて逆立ちの状態でボールに乗せたのだ。

 

そのままツキトのマリオネットの玉乗りに追従するよう、手を動かし始める。

 

「これでだいたい半人前、一人前は文字通り【手足が如く】、よ」

 

「奥が深いなぁ、やり甲斐がある」

 

興味深い、そう言いつつツキトはマリオネットを操作しながらクレアのマリオネットと操る指先を見つめた。

 

「やる気があるあんたに言うのはちょっと気が引けるけど、どうしてやろうと思ったの?どっちかって言うと帝王学(?)とかの勉強の方があんたにはあってそうだけど?」

 

「最初はな、ナナリー様を喜ばせるために【芸】を覚えたかったからだな、あとは、手先が器用になれば剣術にも活かせないかと思ったまでさ」

 

マリオネットを操る手を止めてツキトは続ける。

 

「だが…………私は不器用で、頭も悪いから、こういう芸を覚えたとしても、結局は戦うことに使ってしまう」

 

クイ……

 

キリキリ……

 

そう言って糸を引く、マリオネットは糸を引っ張られて各駆動部を動かされてポーズをとった。

 

徒手格闘の練習をする際、ツキトがとる中国拳法の型に似たポーズだ。

 

「戦うこと以外で自分を表現することが下手でね……………だから、戦うことなら、ほら」

 

クイ……クッ……キィイ…

 

キリキリキリキリ……

 

先ほどとは違い、明らかに素早い動きで繊細にマリオネットを操作するツキト。

 

マリオネットは動きに合わせて素早く拳を打ち放ったり、蹴りをしたり跳んだりしている。

 

流れるように一連の動きを終えたマリオネットは、その場に座り込んだ。

 

「いいじゃない、そんな不器用なあんたを、好きだって言ってくれたんでしょ?」

 

「あぁ………………ナナリー様は、本当にお優しい方だ」

 

だから、幸せにしたい……………ツキトはそう呟くと、マリオネットを抱き上げてトランクケースにしまった。

 

「今日もありがとうな、クレア」

 

「授業料は奢りでいいわよ」

 

「やっすい女だな」

 

「あっ、ステーキね」

 

「お高いガールだこと」

 

お手上げだと言わんばかりに両手を開いてプラプラするツキトに、クレアは笑った。

 

「クヨクヨしててもしょうがないわよ、夫なら、妻に頼ってみるくらいはしなさいよ」

 

「ふっ……………あぁ、それもそうだ」

 

クレアの言葉にツキトは笑った。

 

ツキトはトランクケースを持ち上げると玄関で靴を履き、玄関扉を開ける。

 

「そうそう、クレア」

 

「なぁに?」

 

帰ろうとするツキトだったが、何かを思い出してクレアのほうに向き直った。

 

「お前、【前】も【今】も未婚なのによくあんなセリフ………」

 

「ああぁぁ!!もうバカ!早く帰れ!」

 

顔を真っ赤にしたクレアにバァン!!と玄関扉を閉じられ、締め出されてしまったツキト。

 

「今になって恥ずかしがるんじゃないよ…………」

 

足したらアラフォーだろうに………そうぼやいたツキトは近くに留めておいたバイクに荷物を乗せてキーを差し込む。

 

「さあて、帰るか」

 

モーター駆動によって大型バイクは走り出す、ナナリーの待つクラブハウスへ向けて。

 




TKTニキ「あ〜今日もデート楽しかったなぁ〜、早く総督府行って仕事しなきゃ」
クレアネキ「有給の味はどうだ?」
TKTニキ「なおきです」

TKTニキ&クレアネキ「「鏡の〜中のマリオネッツッ!!」」

C.C.「オマ◯コ〜(気さくな挨拶)」
TKTニキ「Fuck you(気さくな挨拶)」
C.C.「資料持ってきたゾ」
TKTニキ「プレゼント見繕っておいてクレメンス」
C.C.「は?」
TKTニキ「あくしろよ」
クレアネキ「そうだよ」
C.C.「しょうがねえなあ」

メイド1「うーわでけぇ!」
メイド2「本当にでっけえなおい!」
メイド3「太すぎるっピ!」
ツキト「(人妻ァ!!)」

謎アンドロイド「ホラホラホラホラ………」ショーテルブンブン丸
セシル「待って!止めれ!」
TKTニキ「あのさぁ………あっ、これ(折りたたみ椅子)」ブンッッ!
謎アンドロイド「は?(首ポーン)」停止
セシル「やったぜ」
ロイド「ちょい待って!なんで壊れるん!?」
TKTニキ「かたちあるもの、いずれは壊れるゾ」
ロイド「あのさぁ………」

TKTニキ「医務室行ってコーヒー飲んでこいオラァン!?」つ金
ロイド「ありがとナス!!」

TKTニキ「謎アンドロイド見張れ」
ヘンゼル&グレーテル「「かしこまりぃ!」」

TKTニキ「マリオネット楽しい、楽しい……」クイ、クイ
クレアネキ「そんなんじゃ甘いよ(達人の妙技)」ギュィィイ!
TKTニキ「ファッ!?」
クレアネキ「これでだいたい一人前一歩手前ゾ」
TKTニキ「はぇ〜、すっごく奥が深い」

TKTニキ「結婚とか、してらっしゃらないんですか?」
クレアネキ「そんなの関係ないだろオラァン!?(ブチギレ)」バァン!!
TKTニキ「あっ(察し)………バイクで帰るゾ」



唐突に始まる、飲み物紹介

TKTニキ
「今回紹介するのは北海道限定のキリンガラナだ。
コーラのように真っ黒な炭酸飲料で、ペットボトルもコーラのペットボトルみたいな赤や黒を基調としたデザインになっている。
味は少し独特で、人によるが、私は薬品のような味、例えば栄養ドリンクのような味を感じた。
他にもドクターペッパーの杏仁豆腐っぽい部分を薄めた味だとか、友人曰く炭酸チオビタなど様々だ。
このキリンガラナは、ガラナというコーヒーの約3倍のカフェインとカテキンが含まれる植物を使って作られている。
このガラナの良いところは、コーヒーの3倍のカフェインを持っていて、それがゆっくりと体内に吸収されることから、急激なカフェイン摂取で体調を崩すことなくリフレッシュできること。
悪いところは、寝る前に飲むと眠れなくなったり、ゆっくり吸収される性質上、夜中に目が覚めてしまうこともあるかもしれない。
北海道限定販売ゆえ、なかなかお目にはかかれないが、北海道ならばどのコンビニでも売っているし、自販機でも手軽な缶タイプのものが購入できる。
お土産の1つとしてオススメしたいところだが………なにぶん炭酸飲料だからな、手持ちも郵送もキツイかもしれない。
北海道の名物の1つとして、キリンガラナを一度飲んでみると良いかもしれない。
最近では、北海道以外の場所でもキリンガラナを見かけることが多くなってきている、近くのドラッグストアでも見かけることができた。
コーラに取って代わる炭酸飲料になる日も、案外近かったりしてな…………。
今すぐ飲んでみたい、というワガママなボーイは通販を活用してみると幸せになれるはずだ。
飲んだら感想を教えてくれ、私はゆっくり、ジンジャエールを飲んで待っているからな。
では、つぎの飲み物紹介をお楽しみに、不定期で更新するから、次回かもしれないしその次かもしれない。
ま、気を長くして待っていてくれたまえ。
ガラナのカフェインがゆっくり吸収されるように、気長に気長に、な。」


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『我が王』へ敬意を。

TKTニキ「半年ぶりに帰って来たら………」

っていうお話し。

今回もカオス!特に最後の方!バイオレンス!


【コーネリア様、病より復帰!】

 

【ユーフェミア様、未だ病で床に……】

 

「ユフィお姉様が心配です……」

 

「そうだな…………ツキト、ユフィの病気はどんな病気なんだ?」

 

「インフルエンザでございます、ユーフェミア様はコーネリア様に比べ、少し免疫が………」

 

というか、ユーフェミア持病の変態症がな………。

 

「なるほど…………あとで詳しく教えてくれ」

 

「御意に」

 

今日も、平和な朝が来た。

 

日曜日の朝、クラブハウスでいつものように咲世子の最高の朝食を食べる。

 

「ツキトさん、その、今夜は………」

 

「ふふっ…………あいております」

 

「ほ、本当ですか!?やったぁ!」

 

「あぁ、ただ、いま聞くことじゃないよね?」ニッコォ

 

「は、はひゃい!(………あっ、なんかちょっと、ゾクゾクする)」

 

喜んでくれるのは良いが、ルルーシュの表情が曇るんだよナナリー………。

 

「…………ナナリー、ツキトとそういうことをするのは別に良いんだが………あまり大っぴらに話されると、な」

 

「ご、ごめんなさいお兄様……」

 

「ナナリーは偉いな、謝ることができて…………ツキト、しっかり支えてくれよ?」

 

「わかっておりますルルーシュ様、それに元より、私にはナナリー様しかいらっしゃいませんから」

 

「ははは、冗談がうまいなツキトは」

 

こんな、バカな人間もどきを愛してくれる人など、ナナリーかアーニャかユーフェミアくらいしかいない。

 

あれ?意外と多い?

 

朝食を終え、ナナリーは午前中の自由参加の補習授業を受けるため、準備をして出て行った。

 

「行ってきますね、お兄様、ツキトさん、咲世子さん」

 

「行ってらっしゃい、ナナリー」

 

「行ってらっしゃいませ、ナナリー様」

 

「行ってらっしゃい、ナナリー」

 

ルルーシュ、咲世子、私の順でナナリーを見送る。

 

「はい、ツキトさんはまたあとで」

 

「うん、午後に会おうね」

 

アッシュフォード学園へと出かけるナナリーの見送りを終え、ルルーシュと2人で部屋に入った。

 

「それで、ユフィのことだが」

 

「はい、実は………」

 

私はルルーシュに全てを話した。

 

リストカットをして閉じこもったという嘘に騙されて薬を盛られ、拘束され犯される一歩手前までいったこと。

 

コーネリアが便乗してきたことも含めて話した。

 

アンドロイドについては話していない。

 

「……………すまない、想像以上にヘビーで俺にはなんとも……」

 

「いえ、私が悪いのです、ルルーシュ様がお悩みになることではございません」

 

「いや、俺の親友で幼馴染でナナリーの夫であるツキトの悩みだ、俺なりにできることがあれば手伝う、何かあればいつでも呼んでくれ」

 

え?……………なんか、ルルーシュちょっとイケメンになってないか?

 

「ありがとうございますルルーシュ様…………しかしルルーシュ様、その…………少し変わられましたか?」

 

「変わった?そうだな…………実はな、お前が紹介してくれたクレアさんに………告白されて、な」

 

「なるh……………ハァッッ!?」

 

クレアと!?え?マジで?ウッソオ!?

 

「彼女とメールや電話を交わすうちに、惹かれて行ってしまってない……………何度かデートを重ねて、それで、彼女のほうから交際を持ちかけられたんだ」

 

やるじゃねえかクレアのやつ……………そしてルルーシュ、そこはお前から告れ!

 

クレアもなに痺れ切らして告ってんだバカ!お前いつも『ルルーシュくんから告ってもらうんだ(ハート)』って言ってただろうが!

 

「それで…………まだ返事は返してなくて」

 

「はや返事せいや!」ダァン!

 

「ほぁっ!?」

 

あ、いつもの癖でつい…………じゃない!

 

「なにしてんねん!女の子の告白を保留とか……………お前ホンマに男かボケェ!!心決めてさっさといったれ!好きなら好きと言え!!」

 

「うぐっ……………たしかに、その通りだ!言うぞ!俺は言うぞ!」

 

「せや!そのいきや!」

 

「あぁ!すぐにでも伝える!つぎのデートで、しっかり伝える!」

 

「いいぞルルーシュはん!咲世子ォ!酒や!ルルーシュはんの恋の成就祈祷の酒や!」

 

「はい、1番良いものをお開けします」

 

いつの間にか部屋の中にいる咲世子に酒を要求、今日はもう飲むぞ!めでたいんだからな!飲んでもいいんだ!

 

「あっ!ちょっと待て!」

 

「はい?」

 

瞬足で1番良いワインを持ってきた咲世子に待ったをかけるルルーシュ。

 

「今日の夜に、2番目のやつにしてくれないか?」

 

「…………どうしてですか?」

 

ふう、ちょっと冷静になれた、話し方も戻ったぞ。

 

「1番良いやつは…………俺とクレアさんが付き合ったら、一緒に飲みたい…………!!」

 

「ルルーシュ様…………世界一やホンマ!」

 

あぁ^〜〜テンション上がってまう〜〜。

 

「ルルーシュ様、今夜の夕餉は少々豪華にさせていただきます」

 

「ありがとう、咲世子……世話をかけるな」

 

「お褒めに預かり光栄の極み」

 

さすが咲世子はできる女。

 

そう、ルルーシュが2番目のワインと言った瞬間に2番目の良いワインをすでに用意しているくらいできる女。

 

……………なんで人外の私より速いの?

 

(メイドですから)

 

こいつ直接脳内に!?

 

「な、なるほど、ルルーシュ様の雰囲気が変わられたのはクレアの告白があったからですか」

 

「彼女の想いを受けて、俺もしっかりしなきゃいけないと改めて感じたんだ」

 

「最近では、スザクさんと一緒に筋トレも始められたのですよね」

 

「筋トレを!?ルルーシュ様が!?」

 

ミレイのいつも言ってる『恋はパワー!』っていうのもバカにできんな。

 

「腕立て伏せ10回もできないような男じゃ、クレアさんの隣には立てないからな」

 

なんだこのジャンプ系主人公!?

 

友情と努力を兼ね備えやがった…………こりゃ勝利も近いな(確信)。

 

「そんな事情があったとは………」

 

「ツキトには、早めに言いたかったが、戦場にいるツキトに負担はかけさせられまいからな」

 

「そのようなことは!」

 

「いいんだ、ナナリーと毎日メールのやりとりをしてくれていたんだろう?これ以上を望むのは強欲だ」

 

「ルルーシュ様…………」

 

本当に誰だよお前………ってくらい成長しやがった。

 

やばいぞこれは………ルルーシュファンクラブの定員数が倍になるな。

 

すでに爽やかイケメンルルーシュと爽やかイケメンスザクの汗だくツーショット写真が出回っていてもおかしくないはずだ。

 

「俺の話はこれくらいにして、実はツキトに伝えておきたいことがあるんだ」

 

「私は出た方が?」

 

「いや、咲世子にも聞いてもらいたい」

 

「かしこまりました」

 

「それで、伝えておきたいこと、とはいったい?」

 

ルルーシュが席に座るよう促したため、互いに席に座ってルルーシュにそう問う。

 

「黒の騎士団は今、カレンや藤堂を含む【保守・穏健派】、そのほかの団員による【革命・過激派】の二つに分かれてしまっている」

 

「巨大組織故の、派閥化、ですか」

 

以前にC.C.から聞いていたが、ルルーシュの様子からするとかなり深刻なようだ。

 

「穏健派は、ブリタニア、というよりユーフェミアやツキト、そしてアッシュフォード家に協力して、自治区へと近づいていこうという派閥だ」

 

「過激派は………だいたいわかりますね」

 

「ツキトの思っている通りだと思う、つまるところ、過激派は『テロリスト』になることと同義だ」

 

「………厄介でございますね」

 

客観的に見て、かつての反ブリタニア勢力だった黒の騎士団と、今の自警団組織の黒の騎士団では、求心力が違う。

 

志も何もない、ただの烏合の集に成り下がってしまっては、ナリタ山攻略戦どころの規模では済まない死人が出る。

 

こうも上手くことが運ばんとは…………転生者であるとはいえ、所詮は人間に毛が生えた程度のモンスター風情ではどうこうできんか。

 

私1人で何かしようとは思っていない、そう思えるほど私は傲慢でもなければ強くもない。

 

黒の騎士団問題はデリケートに過ぎる、場合によってはスザクにも応援を頼むほかないだろう。

 

「とりあえず、現在の規模はどれほどのものなのですか?」

 

「全体で見て3割といったところだ、構成員は若い団員を中心に幹部が数名、か」

 

資料を取り出してそう説明するルルーシュ、資料を受け取って名前の羅列を確認していく。

 

「血気盛んな若者が、見誤ったか…………目先の釣り針に食いつきおって」

 

短気は損気、待つことを知らん若造どもめ、死に急いでどうする…………。

 

「現在の問題として、過激派連中はトウキョウゲットー………あぁ、今はシティだったか」

 

「えぇ、ゲットー、ではあまんまりということでユーフェミア様が暫定的に【シティ】と名付けられました」

 

こういう細かいのに頭が回るところはさすがだな、私の脳みそはもう固まってしまっているようで呼び名までは気づかなかった。

 

やはりユーフェミアは生かしておいて正解だった。

 

「そうだ、そのトウキョウシティにて、過激派連中は同志を募っている」

 

「止めないのですか?」

 

「巡回中に見つけたらやめさせるようにしているが、巡回の連中の中にも過激派はいるからな」

 

「こういう派閥争いは何か小さな衝突から対立へと転じやすいものです、なるべく穏健派と過激派はわけたほうがよろしいかと」

 

小さな揉め事が殴り合いに、それが発展して模擬戦中に殺し合いにでもなってしまえば、必ずマスコミは嗅ぎつけて面白おかしく取り上げてくる。

 

そうなれば、自警団組織として処理した私や、バックのコーネリア、ユーフェミアの立場が危うい。

 

「俺としても、過激派連中の行動を抑制しつつ、派閥そのものの解体を進めていく」

 

それが正しい、だが、それだけじゃ止まらんのだ、感情というのものは。

 

「お気をつけくださいルルーシュ様…………もし、この時期に指導者であるゼロが派閥争いで負傷でもすれば………いえ、もしかしたら」

 

「どさくさ紛れに、ゼロを殺そうとするかもしれない、か?」

 

「ルルーシュ様?」

 

「それくらい読めない俺ではないぞツキト」

 

「は、はっ!申し訳ございませんルルーシュ様、ですぎたことを………」

 

「よい、俺個人として、何でもかんでも頼りっぱなしでは格好がつかんからな……………お前の主人として、クレアの恋人として」

 

「ルルーシュ様………」

 

カリスマを備えつつあるか……………やはり我が主人に相応しい!!

 

人智を超えた能力と人外の生命力を手に入れても、手に入らないもの…………それは、支える価値ある偉大な主人だ。

 

ようやく、ようやく手を伸ばせるぞ。

 

ふっ…………なんだ……………世界という独楽は、ちゃんと私の思い通りに回っているじゃないか!

 

「えぇ………えぇ!そのいきでございますルルーシュ様!」

 

我が身、我が心は喜びに満ち溢れる!あぁ、これこそ歓喜の瞬間か!

 

我が主人は立たれた、自らの力で御そうと、ご決断なされた!

 

「このツキト・カーライル、如何なる命にも忠実に執行致して見せましょう!」

 

「よろしい、では………ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがツキト・カーライルに命じる、明日、総督府に登庁後、エリア総督のコーネリアに現状を伝えよ、ゼロの密命を受けた、という口添えを加えてな」

 

「はっ!承知いたしました、我が王!」

 

喜べ!ツキト・カーライル(私)よ!!

 

我が王の、我らがブリタニアの王たるルルーシュ・ヴィ・ブリタニア様の勅命であるぞ!!!

 

振るえよ我が肉!我が心!

 

我が王は玉座を立たれたぞ!

 

さあ!劇場の掃除は済んだか!?幕は張ったな!?メイクはバッチリか!?道具の準備いいか!?マイクチェックいいな!?

 

よろしい!第2幕の幕開けだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて言ったが、今日は1日ナナリーと過ごす日。

 

というわけで、明日から本気出すぞ。

 

常にあんなテンションじゃ疲れるからな、休み休みいこうか。

 

なぁに、休みといっても、劇中の舞台裏で休む数秒ぽっちのものさ。

 

舞台に上がったなら、私は全力で演るさ。

 

「それで、今日はどうするんだ?」

 

「それなんですが………」

 

ナナリーとともにユーロピアへ行く前の、いつもの時のように体育館に来たが、ナナリーは練習道具を胸に抱えて俯いている。

 

なにやら少し言いづらそうだ。

 

それに、フェンシング部の様子も少し変だ、ナナリーが来たというのに近寄ろうともしない。

 

前は私がいてもナナリーの様子を見に近くまで寄って来たものだが…………。

 

「どうした?」

 

「その、実は、フェンシング部全員と相手をして欲しいんです!」

 

「ほう?全員ときたか………」

 

ナナリーの性格からして、こういうお願いごとはし辛かっただろうな………。

 

「ツキトさんが私のために練習に付き合ってくれているのは知っています…………でも、それでもお願いしたいんです!」

 

「…………とりあえず、理由を聞こうか」

 

ナナリーから語られたのは、アッシュフォード学園フェンシング部をより強くしたいという願いだった。

 

だが……………私にはとてもそうとは思えない、思えなかったのだ。

 

それに、どこか、悲しそうな気が…………いや、違うな、これは………。

 

あっ、あれだ!子供がオモチャを欲しがっていて、母親に迷惑をかけたくないから我慢している、そんな表情だ!

 

あぁ、そうか、そりゃそうだよな。

 

半年、半年も欠かさずに練習していたら…………誰よりも強くなっちまうよな。

 

『自分に釣り合う練習相手』がいなくなってもおかしくないか。

 

強くなったら強くなったで練習相手はいないし、みんなからは強すぎて怖がられる………不憫だが、素晴らしい才能と努力だ。

 

ルルーシュは王として相応しくなりつつある。

 

そして、ナナリーは剣の腕が日本じゃ収まりきらなくなるときた。

 

はっ………なんてこった………2人とも、私が知らないうちに……成長、し過ぎだろう………。

 

嬉しいやら悲しいやら、私の心は複雑で大変だよ、まったく………。

 

「ふぅ……………なあ、ナナリー」

 

「は、はい!」

 

「……………私の、剣の師匠と会ってみるか?」

 

「つ、ツキトさんの…………剣の、先生………ですか……………!?」

 

思いもよらぬ提案にびっくりした様子だが…………ははっ、さっきまでの曇った顔はどこいった?

 

楽しみでしょうがない、そんな笑顔になってるじゃないか、え?

 

つくづく、ジャンキーだなナナリーは。

 

「い、いつ会えるんですか?」

 

「彼は総督府に住んでいるから、次の休みに総督府へ行こう」

 

「いきなりお邪魔して大丈夫でしょうか………?」

 

「そんなことないさ、彼は飢えてるんだから」

 

「飢えてる?お腹空いてるんですか?」

 

その考え方まんまマリアンヌと同じだな………かわいすぎか!

 

「ある意味そうだな、自分と全力で斬り合える剣士を…………彼は探しているようだよ?」

 

「!!!」ギュゥッッ……

 

ナナリーは練習道具を抱きしめ力強く握り込んで目を見開いた。

 

女の子がなんて顔するんだ……………かっこよくて惚れちまいそうだよ。

 

もう惚れちまって結婚確定だが。

 

「その人は、ツキトさんよりも………」

 

強いのか?だって?あぁ……………。

 

「当然、剣の勝負において、彼と私の勝負は引き分けが続いている…………今は、私の方が一勝分多いがね」

 

「…………そんな人と、会ってもいいんでしょうか?」

 

なんだその目は?まるで『ワタシ、その人を初対面で倒しちゃいますけど?いいんですかぁ〜?』とでも言いたそうな目は。

 

「あぁ、構わんさ、ナナリーでは『彼には勝てない』からね」

 

「っ!………それはまだ決まってないです」

 

「そうかい?いやあ、私にはわかるんだよ…………私と同じスタイル(戦い方)のナナリーじゃあ、まずないね」

 

「そんなこと、やって見なくちゃ…………」

 

「勝て」

 

「!!」

 

「勝ってみせろ、私の師匠を…………超えてみろ」ニヤッ

 

そうすれば……………。

 

「いずれは………マリアンヌ様に届くかもな?」

 

「……………言ってくれますね、ツキトさん」ググッ

 

「その割には、笑顔じゃないか?」

 

「笑顔になるに決まってます…………もっともっと強い人と戦えるんですから」

 

綺麗な笑顔でそう言い切り、私に抱きついてくるナナリー。

 

「おいおい、それじゃあまるで、私がそんなに強くないみたいじゃないか?」

 

「あれ?ツキトさんなんて、強いわけないじゃないですか」ニヤニヤ

 

「「「「「「!?」」」」」」カチン

 

瞬間、体育館から音が消えた。

 

ナナリーの放った挑発の一言に反応して体育館にいるすべての生徒が動きを止めてしまった。

 

おいおい、まさか私が切れたとでも思ってるんじゃないのか?

 

まったく、失礼しちゃうぜ。

 

「ぷっ………ハハ…………ハハハハハッ!あーーーっはっはっはっはっはっ!!!」パンパン

 

大爆笑、両手でパンパンと拍手をしながら上半身を仰け反って笑う。

 

「あら?ツキトさん?どうしたんですか?」

 

「いやいや、失敬失敬!いきなり変なことを言うもんだから思わず…………………キレちまったよ」

 

キ・レ・るに決まってんだろうが!!!!

 

私は短気だよ!あぁ!短気で損気なツキト・カーライルだよ!

 

「おいナナリー、覚悟はできている、と…………そういう認識でいいな?」

 

「え?あの、ツキトさん?今のはちょっとした冗談というか、なんというか………」

 

「……構えろ」スッ

 

「ひゃいっ!?(ふぇぇ……かっこいいよぉ……)」スッ

 

「行くぞ」

 

泣きべそかきながら構えるナナリーに向かい、私は突進した。

 

「だぁれが強くないって!?えぇ!?」

 

「い、今までよりずっと速っ!?」

 

「そこぉ!脇が甘いィ!」ピシッ!

 

「っつ!?……そこです!」ビュオッ!

 

「遅い!!」ピシッ!

 

この後、めちゃくちゃエペした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side

 

 

「容赦、なさすぎですよ………ツキトさん」

 

「途中から順応し始めた奴がよく言うわ………」

 

へたり込みタオルをクビにかけ、スポーツドリンク片手に文句垂れるナナリー。

 

かたや、休みもせず剣を持ちステップの感覚を忘れないように動き続けるツキト。

 

「ついて、いけても、速すぎて、ぜんぜん、剣先が、捉えられ、ないんです」

 

息も絶え絶えにそうこぼすナナリー。

 

フェンシングのエペのルールにおいて限定的にツキトを追い込む方法は簡単だ。

 

攻め込まれる前に先手を打って攻め、そのままペースを維持すればいい。

 

ただし、ツキト以上の速さで持続させる必要がある。

 

ナナリーが勝てないのは、常にツキトに先手を取られるからである。

 

試合のペースを握られ、点差が開き、勝たねばという気持ちが早まって焦りを生み、そこを突かれ負ける。

 

上の通りツキトの戦法は驚くほどに単純で、ただ焦らせてミスを誘って倒すという、基本中の基本の戦法だ。

 

ナナリーとて熟知してはいた、ナナリーと剣を交えた者は、幾度となくこの『待ち』の戦法で挑んできたからだ。

 

しかしツキトの待ちの戦法はそもそも前提から違う。

 

待ちの戦法の大前提、相手の攻撃の隙をついたカウンターは、つまるところ相手が攻撃してくれないと無理なのだ。

 

相手に攻撃してもらわないと自分が攻撃できない、だから攻撃を誘うためにわざと隙を見せたり、剣を持つ手を震わせて弱く見えるようにする。

 

だがツキトは違った、待ちの戦法なのに隙がない、城のようにどっしりと構え、持ち前の覇気が攻撃を無意識に戸惑わせる。

 

ナナリーはツキトの覇気に慣れてしまっているため、それほど影響を受けないが、それでも少し鈍る。

 

そこを見極め、ツキトはナナリーが攻撃しようと腕を伸ばし始める瞬間に、それを上回る速度でカウンターを突いているのだ。

 

無論、ナナリーも強い、ツキトの攻撃を読み切る目を持っている。

 

だが、無意識に鈍った腕で放たれる突きでは、ツキトに簡単に見切られる。

 

カウンターを避けようにも、すでに突くための姿勢からの回避は難しく、また雰囲気に飲まれ鈍ってしまっているため、脳の指令に対し身体が反応できない。

 

本来の力を制限されてしまうルールの中であっても、ツキトは十分に強いのである。

 

動作確認を終えたツキトは、剣を置いてスポドリを口にしつつ壁に寄りかかった。

 

タオルで汗を拭き、ナナリーの方を向いた。

 

「まだまだ、私には並べないようだな?」

 

「むぅぅ……」

 

笑うツキトに膨れるナナリー、2人寄り添って休憩する様は、いつもと同じ光景だった。

 

「ま、もう少しは待つさ、早く来いよ?」

 

「す、すぐに追いついてやるんですからっ!」

 

「そのいきだ」

 

アッシュフォード学園は、今日も平和な時間が流れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

夜中の午前2時、クラブハウスで連絡を受けた私は疲れた体を叩き起こし、シャワーを浴びて着替え、バイクで総督府へやってきた。

 

小銃を持ち防弾ベストをつけた兵士たちが総督府を囲む異様な光景が、嫌でも私に現実を叩きつけてくる。

 

「…………状況は?」

 

「はっ!特派が開発中のアンドロイド数機が原因不明の暴走状態に陥り、総督府敷地内の生物を無差別に攻撃、確認できただけで31人が重軽傷、4人が死亡です」

 

「総督府内部に封じ込めはできましたが、まだ取り残された兵士が数名いて、救出部隊を編成しております」

 

思った以上に最悪な状況か………プロジェクト凍結どころの話ではないか…………やってくれる。

 

「コーネリア様とユーフェミア様は?」

 

「コーネリア様は指揮所に、ユーフェミア様は有事の際ということで…………」

 

「出して問題ない、人名が最優先だ………私の秘書、クレアを見ていないか?」

 

「ユーフェミア様の側でメンタルケアをしている、と聞いております」

 

ふう、クレアが生きていてくれてよかった。

 

せっかく王が波に乗って来たときに、蹟かれては困る。

 

「ふむ…………コーネリア様は今も指揮を?」

 

「はい、指揮所にて救出部隊の編成等を行っております」

 

「すぐに向かう、指揮所はどこに?」

 

「御案内いたします、こちらへ」

 

兵の後ろについて歩き出す。

 

兵の案内で指揮所に向かう中、総督府中央入り口を見る。

 

テーブルやイス等の家具から、掃除道具などを雑多に組み合わせ、装甲車で塞いだ強固なバリケードが見える。

 

視線を上に向けると、たくさんの窓が見える、どの窓も防火シャッターが降り、中の様子は伺えない。

 

空を見上げる、総督府の異様な様相に気がついたマスコミが飛ばしたらしいヘリコプターが総督府の周りを旋回飛行している。

 

「あちらです」

 

「ご苦労、君は戻ってくれていいぞ」

 

「はっ!」

 

駆け足で来た道を戻る兵を一瞥して、【指揮所】と看板があるテントに入る。

 

「コーネリア様、遅れて申し訳ございません」

 

「ツキトか、よく来てくれた」

 

大型テーブルに総督府の内部地図を広げ、周りをコーネリア、ダールトン、ギルフォードが囲んでいた。

 

「状況は聞いているか?カーライル卿」

 

「その呼び名はあまり好ましいものではないのだが…………状況は聞いた、アンドロイドの暴走によって死傷者が出たのだろう?」

 

「そうだ、なんとか封じ込めはできたが、未だ数名が取り残されている」

 

「場所は?」

 

「防御拠点として性能の高い君のオフィスだ」

 

「…………う、うむ、なるほど」

 

通信機材、保存食料、睡眠用の毛布、水、トイレ、シャワールームを備え。

 

窓は防弾ガラス、部屋を囲む6方向の壁には重機関銃弾も耐えられる防弾板が仕込んであり、防弾ガラスを割って外に逃げられるように特殊ハンマーを隠してある。

 

そのほか、有事の際にはクローゼットの奥にサブマシンガンと散弾銃がいくつか入っている、アナログなダイヤルロックだが、コード認証式よりも早く取り出せる。

 

「通信は健在か?」

 

「先程から不通だ、おそらく、線を切られた」

 

「無線も通じない、何らかのジャミングがされている」

 

ダールトンとギルフォードから帰って来たのは最悪の知らせ。

 

これではクローゼットの火器類や脱出用特殊ハンマーの位置を教えられない。

 

アンドロイドはロイドの特注、拳銃弾程度では歯が立たない。

 

最低でも拳銃のマグナム弾、散弾銃のスラッグは欲しいところだが…………小銃弾でも弱点さえ撃ち抜けばいけるか。

 

いや、それを伝える手段がない、私のオフィスに完全に籠城して、間違えても打って出ないことを祈るほかない。

 

もしくは……………。

 

「救出作戦、しかないか」

 

「そうなるだろう、だが問題は多い、敵である暴走したアンドロイドは性能が高いだけでなく、我々人間によく似ていて、我々同様に軍服を着用している」

 

「判別がつかず攻撃の判断が難しい、というわけですか」

 

無情で無敵の殺人マシンに追いかけられる恐怖、加えて見た目が人間と区別つけられないときたか………性能通りではあるが、敵になるとトコトン厄介だな。

 

「そうだ、それに加え馬鹿みたいに頑丈だ、推測でしかないが、完全に制圧するにはKMFで使用するような機関砲レベルの火力が必須だろう」

 

「一時的に動きを止めるだけなら、カーライル卿の巨大なリボルバーのパワーであれば可能なはずだ」

 

コーネリアの説明とダールトンの補足を聞きつつ、策を練る。

 

KMFは…………中に入れない、だが敵は中から出てこれない。

 

中に入れないのなら、外に出たところを迎撃すれば…………だめだ、取り逃せばトウキョウシティだけじゃ収まらなくなる。

 

突入は…………アンドロイドの強力な装甲に対抗できる手段を、屋内で歩兵が運用するのは限界がある。

 

「交渉はできないのか?」

 

「難しいかと思われますコーネリア様、相手はアンドロイド、人間でいうところの理性が存在しないのです、話し合いができるとは到底……」

 

「交渉は無理か…………対物ライフルで武装させれば、どうだ?」

 

「恐れながらコーネリア様、屋内で対物ライフルを使用する訓練は前例がなく、殲滅は難しいかと」

 

そもそも人間の動体視力で高速移動するアンドロイド相手に重く長く扱いづらいアンチマテリアルライフルでは…………。

 

「ならば………特派に残っているアンドロイドが2体あっただろう?あれなら同等の戦力になるはずだ!」

 

「コーネリア様、現在暴走中のアンドロイドはあの2体のバージョンアップモデルです…………残念ながら、相手になるかどうか………」

 

私の人格データを濃く反映したヘンゼルとグレーテルであっても、戦闘特化モデル相手では荷が重すぎる。

 

くそっ、ないか?何かないのか!?

 

KMFの兵装並みの火力を発揮できて。

 

人間が運用できるくらい小型で。

 

今ここですぐに使える武器は?

 

何か………何かないのか!?

 

「コ、コーネリア様!!」

 

その時、1人の兵士が指揮所に飛び込んで来た。

 

「なんだ!?」

 

「コーネリア様!こ、このようなものが!」

 

兵士から差し出されたのはどこにでもある白い封筒だった。

 

表には【コーネリア様へ】と書かれている。

 

「なんだ、これは?」

 

「4階付近から落下したものであります、裏をご覧ください」

 

「裏?………な、なんだこれはァ!?」

 

「どうされt……な、なんと!?」

 

驚愕するコーネリアとギルフォード、ダールトンは眉をひそめて冷や汗を垂らした。

 

裏返された封筒にはしっかりと【アンドロイド一同より】と書かれていたからだ。

 

「ど、どういうことだ?意思の疎通は困難なのではなかったか?」

 

「わ、罠やもしれません!あのアンドロイドは我々人間を知っています!誘い込んで首を狩るつもりではないかと!」

 

「しかし、それならば人質をとった方が効果的です」

 

「ダールトン将軍の意見に賛同します、あのアンドロイドは私たちが思う以上に理性的であるのかもしれません」

 

「ならば…………ならば、なぜ?」

 

手紙をよこしたのか?という沈黙の問いに、ダールトンは封筒を顎で指すことで答えた。

 

読めばわかる。

 

ダールトンは、無言で言いきった。

 

「…………開けるぞ」

 

ダールトンの答えを聞いてコーネリアは封筒を開いた。

 

封筒の中には1枚の手紙、他には何もなくとてもシンプルで拍子抜けするほどだった。

 

「…………ダールトン」

 

コーネリアは手紙を読んだかと思えばすぐにダールトンに手渡した。

 

時間にして言えばおよそ20秒程度だった。

 

手渡されたダールトンはというと…………。

 

「コーネリア様、これは………」

 

ダールトンは手紙をテーブルに置いた、身を乗り出して手紙を読んでみる。

 

「そう来たか……」

 

ギルフォードはつぶやく。

 

手紙の内容は、暗号文だった。

 

それもブリタニア軍内部のものではないオリジナルのもの。

 

おそらくアンドロイドたちが生み出した文字と言語だ。

 

「解読させろ、コピーをとって構わん」

 

「わかりました」

 

ギルフォードは暗号文書を持ってコピーへと走っていく。

 

コーネリアとダールトンは何か話しているようだが、私には聞こえない。

 

私は…………私はどこかで、あれを……………

 

たしか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ツキト!ぼくの作った暗号文だ!解いてみろ!』

 

『えぇ、では少し時間をくださいませ』

 

『少しなんて言わず、1年でも10年でもいいぞ!』

 

『そうですか?では100年後に答え合わせをしましょうか』

 

『な!?ま、まて!早めに!早めに出せ!』

 

『かしこまりました…………はい、解けました』

 

『は、早すぎだろツキト〜〜!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………そんな。

 

「ば、ばかな………そんな…………そんなはずは……」

 

これは私の記憶にだけあるルルーシュとの暗号文解読勝負!その中にあったものだ!

 

「なぜだ、なぜ私の記憶を………」

 

どうやってあのアンドロイドに…………‥っ!!!

 

「そうか…………そうだったか」

 

あぁ、可能だったな、そう言えば。

 

聞かなくては、ならんな。

 

「コーネリア様、ロイドはどこに?」

 

「ん?ロイドか?やつなら向こうの臨時医務室に……………ひぃっ!?」

 

「臨時医務室?………ありがとうございます」

 

一丁前に怪我人気取りか、まったく、笑いもでんぞ。

 

「お、おいツキト!どうしたんだ!?なにか……」ギュッ

 

「コーネリア様」

 

「お、おう、なんだ?」

 

「私は少々、急用ができました」

 

「それは、どんな用j」

 

「コーネリア様?お手をお離し下さいませんか?」

 

「は、はい………」スッ

 

急用だ、急用なんだ。

 

あいつに聞かなきゃいけないんだ。

 

私の………私の思い出……………私の王の記憶…………。

 

ケガスヤツハ、ユルサナイ

 

「たとえ殺してでも聞き出してやる」

 

待っていろ、ロイド。

 

判決を、言い渡す………。

 

「死神のお迎えだ」




ルルーシュ「クレアお姉さんに告られたゾ」
TKTニキ「はぇ〜、すっごい、で?どう?返事ぃ?」
ルルーシュ「いやいや!まだまだこれk」
TKTニキ「ふざっけんじゃねえ!!」
ルルーシュ「ふぁっ!?」
TKTニキ「男なら、どげんかせんといけんときがあるじゃろ!!」
ルルーシュ「っ!」
TKTニキ「わかったか?返事ィ!!」
ルルーシュ「んにゃぴ、やっぱり僕は、いや…………俺は………王道を征く」
TKTニキ「Foooooo!!!ええぞ!ええぞ!やっぱり我が王は、最高やな!あ^〜たまらねえぜ!!」

ナナリー「(強い剣士)欲しいのぉ!!」
TKTニキ「わ↑し↓の師匠と合わせてやってもいいけど………お前どう?」
ナナリー「やったぜ、もうTKTニキなんて足元の爪だぜ」
TKTニキ「はっ?」本気モード
ナナリー「え?なに、それは?(畏怖)」
TKTニキ「『3回』だよ『3回』!!」タタタァンッ!
ナナリー「やめちくr」
TKTニキ「YO!!」スパッシャァッ!
ナナリー「あぁぁぁあああっぁぁああん、ごめんなさい!許してください!なんでもしまむら!」
TKTニキ「ん?今しまむらでなんでも買ってくれるって(ry」

コーネリア「アンドロイドが暴れてんだよなぁおい!」
ダールトン「YO!!!人が死にましたぁ〜〜」
ギルフォード「あぁぁああああああああぁぁぁああぁぁああぁ!!もうやだぁあああああああ!…………早く殺そうぜ!」
一般伝令兵士君「手紙ゾ」
コダギ「「「ファッ!?」」」
手紙「ほら、見ろよ見ろよ【omankokowareruxu ikuiku ikisugixi !!!】」
コダギ「「「クゥーン……」」」
ツキト「あっ、ふーん(暗号理解)………あっ(察し)………はっ?(憤怒の覚醒)」
コーネリア「やべえよやべえよ………マジギレじゃん……」


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『探究者』の『怒り』

TKTニキのガバガバ管理が招いた結果だと思うんですけど(名推理)

ま、疲れてたし、多少はね?(なお死人)


カツッ、カツッ、カツッ、カツッ…………

 

医務室と書かれた大型テントの中には、大量の簡易ベッドが並び、多くの負傷者が並べられていた。

 

医務室とは名ばかり、野戦病院のほうがしっくりくる光景が広がっていた。

 

「あぁ!こんな時に……鎮痛剤は!?」

 

「掻き集めて来ました!これで少しは…………」

 

カツッ、カツッ、カツッ、カツッ…………

 

「麻酔はまだか!?もう無くなるぞ!」

 

カツッ、カツッ、カツッ、カツッ…….……

 

「いい!麻酔……グゥッ!……はぁはぁ……麻酔はいい!早く、やってくれ……!」

 

「何か縛れるものはない!?止血帯が足りない!」

 

「俺のベルト使え!患者からもベルトとか縛れるものもらってこい!」

 

カツッ、カツッ、カツッ、カツッ…………

 

呻き声、悲鳴、荒く不規則な呼吸音、忙しなく鳴る足音、あちこちで聞こえる電子音。

 

その中を歩くツキトの表情は、ここにいるどの患者よりも顔色が悪く、見ようによっては死相に見える

 

カッ…………

 

シャーー…………

 

テントの奥、カーテンで仕切られた場所にツキトは入っていった。

 

「………やぁ、ツキト君」

 

ベッドに足を伸ばして座り、パソコンをいじるロイドがいた。

 

その顔は普段と違って真剣なもので、今もツキトに一言告げてすぐにパソコンに向き直った。

 

今回の事態がどれほど大きいのか、ロイドはしっかりと認識し、いっそ気絶したいほど痛む身体に鞭打ち、対抗策を練っていたのだ。

 

「ごめんねツキト君、言いたいことはわかる、思い切り殴りたくてしょうがないのもわかってる…………でも今はしないでくれ、そうしたらアンドロイドを止められなくなる」

 

「私がその程度のことを理解していないわけがないだろう、終わった後でやるさ」

 

そうは言ったが、ツキトの理性は我慢の限界に近づいており、今ここで両脚を骨折したうえ全身に打撲を負ったロイドに、一発ブち込むことへの戸惑いがだんだん薄れていっている。

 

気を抜けば、全力の右拳がロイドの体を四散させることは容易く、多少なり溜飲は下がることになろう。

 

つまり…………ロイドを殴り殺すのはツキトにとって爪楊枝をおるように簡単だ、しかしそれが何の解決にもならないことを痛いほどわかっているため、今は自制が効いているというだけなのだ。

 

「…………その無様な格好はどうした?」

 

ツキトはひとまず、昂ぶった気を抑えようとロイドに適当な話を振ることにした。

 

「アンドロイドが暴走した時、近くにいたセシルくんを庇おうとしたらこのザマだよ…………マーシャルアーツくらい習っとけばよかったよ」

 

「それ以前に筋肉が足りんだろう」

 

セシルを助けようとしたことを聞き、評価を少しだけ戻しつつ軽口を叩けるくらいには理性を持ち直せたツキト。

 

「ふう…………アンドロイドを止める算段はあるのか?」

 

「あるよ、ツキト君の考えている通り、暴走してるアンドロイドにはB型アンドロイドの学習装置から抽出したデータが使われている………」

 

「あぁ、なぜか私の思い出も一緒にな」

 

「ツキト君の怒りの源泉はそこだね?…………膨大なデータから洗い出した有用な戦闘データ、これをアンドロイドに入力しようとするとエラーが出たんだよ、その解決策が、ツキト君の【記憶のコピー】をくっつけて無理やり入力することだった」

 

ツキト・カーライルのKMF操縦、射撃、剣術、戦闘術、それらのありとあらゆる関するデータのインプットには、同容量ほどの記憶(思い出)のデータが必要だった。

 

たとえば、ツキト・カーライルを【ツキト・カーライル】足らしめる卓越した剣術においては、それを得るに至るまでの膨大な時間(過程)をデータ化して一緒に入力しなければならない。

 

何十年とかかって会得した技術の再現には、実際の経験のデータなしではただのモーショントレースであり、それではただのドローンでしかない。

 

より高度に技術を使いこなすためには、本人が実戦などによって得た経験が必須になった。

 

ロイドは戸惑いを覚えたが、ツキトの経験(思い出)をデータ化、アンドロイドへと入力してしまった。

 

諸君はツキト・カーライルという人物を知っていることだと思う。

 

そこで問いたい。

 

ツキト・カーライルという人間の記憶(思い出、経験)は、【正常な人間】のものであるのか、否か?

 

「なんとか、できたはできたんだ、でもアンドロイドは予想だにできない行動をとったんだ」

 

「アンドロイドは、何をしたんだ?」

 

「起動した途端に蹲って、しばらくしたら立ち上がって喚きながら泣き出したんだよ」

 

「…………」

 

ツキト・カーライルの【剣】は、一代のものではない。

 

その原型は、前世における古流の剣術、それを何世代も研究を重ねて編み出された究極の殺人剣。

 

今のツキトの剣術は、それを下地にしたレイピアによる西洋剣術………を模したもので、この世界においては全くの【我流】。

 

「…………」

 

ツキトの戦い方は、その実、流麗な河川の如き水流の剣術ではない。

 

剣を第1の武器として、カラダ全身を第2の武器として扱う、パワーによるごり押し戦法が基本だ。

 

現に、日本解放戦線がテロを起こした際は幹部達の首を刎ねて殺していた。

 

どう考えてもレイピアの戦い方ではなく、力任せに無理やりに刎ね跳ばしたのだ。

 

本来はもっと頑丈な、それこそ両手で握る日本刀などで行うべき戦闘法だ。

 

様々な経験と偽の記憶を持つゆえに、そして明らかに年齢と剣の腕と修行の年数が掛け違いすぎてしまい、存在そのものがあやふや過ぎてしまい、電子回路の塊に過ぎないコンピュータでは【本来の剣術】と【今の剣術】の間にある空白の部分を計算・処理しきれず、アンドロイドに混乱をもたらした。

 

「…………あぁ」

 

だが、決定的なとどめを刺したのは…………【死の記憶】。

 

コードによる不老不死の力、幾度となく脳裏に刻まれた【死】の経験。

 

「それは…………そうか、わかった」

 

「?……なにが?」

 

「やつらの目的だ」

 

手紙の内容とデータ転送における欠点、死の経験、アンドロイドの目的、それらからツキトが出した答え。

 

簡単なことだ、だがロイドに知られるのはマズイし理解もされない。

 

だから、ツキトはそれなりに信憑性のある嘘をつくことにした。

 

「【死】というものがなんなのか、それを探しているんだ」

 

「死?え?どうして?」

 

「うまく説明はできんが…………おそらく、私の生命力?や、死を避ける能力?のようなものがデータに入っていて、それを疑問に思った………と考えている」

 

「機械は老いないし死なないから、人間の老いや死ぬことを理解しようと考えた、その方法が…………」

 

「【殺人】、命を絶つことで、死をそこに表そうとしている」

 

「学習装置の名残なのかどうかはわからないけど…………その線はあり得るね」

 

ロイドは何度もうなづくと休めていた手を再度動かし、キーボードを叩き出す。

 

「なら尚更早く止めるべきだ、手段は問わず速やかに破壊すべきだ」

 

「私が言うのもなんだが、壊しても良いのか?」

 

「何を今更、敵は全部潰す、それがツキト・カーライルじゃなかったの?」

 

「言うじゃないか………………そこまで言うなら何か策はあるんだな?」

 

「君らしく、ゴリ押しのイイ案があるよ」

 

ロイドはパソコンのタイピングを止めると画面をツキトに見せてきた。

 

「これは……MVSか?」

 

「君のために作ったMVS・C、それの改良型だよ」

 

「ほう……?」

 

画面に映ったMVS・Cはツキトのよく知るMVS・C…………人力で対装甲・対KMF戦闘が行える近接武装。

 

初期のものと比べると、装飾を減らしてやや刀身が細くなり、全長も短くなってより実戦的な形状になっている。

 

初期のものをバスタードソードとするなら、こちらはクレイモアとでも言うべき短さだ。

 

「取り回しを重視して小さく短く作ってある、威力は下がったかもしれないけど、処刑部隊相手なら十分な切断力がある」

 

「用意がいいな…………で?それはどこにある?」

 

「特派の倉庫」

 

「オイオイオイ…………」

 

特派の倉庫…………つまるところ、総督府内部地下にある特派で開発されたものを保管する場所。

 

「マスターソードを取りに魔獣がウヨウヨいる森に入る緑の勇者も、これには逃げ出すだろう……」

 

「もちろん最初に作ったやつでもいいだろうけど、威力とリーチ以外は完全に上位互換と考えていい武器だよ」

 

「…………やけに押すじゃないか、そんなにソレのテストがしたいか?」

 

「…………そんなもんじゃないよ」

 

ロイドは暗い表情で俯くと、少しずつ語り出した。

 

「僕は………僕はね、ツキト君…………兵器の研究開発者になんて、なりたくなかったんだよ…………でもさぁ、僕の研究したいことは無数にあって、でもそのためにはお金が必要で、お金の為には人殺しの道具を作らなきゃいけないんだ」

 

「昔にね、ドルイドシステムの研究をしていた時期があったんだ、それで同時期に輻射波動機構の研究も進められてた…………僕は人殺しの研究はしたくないから、ドルイドシステムの研究を進めてたんだ、でも、研究を進めるには成果を示さなきゃお金がもらえない、お金がないと研究ができなくなる…………そんな時、同期の女の子が輻射波動機構の研究を進めて成果を出せば、すぐにお金が出るって言ってきたんだ」

 

「もちろん僕は嫌だから拒否したんだ、それでもしつこく研究を進めてきた、僕は断り続けた…………そしたら、いつのまにか、ドルイドシステムの研究チームは空中分解してたんだ」

 

「『成果もでない、金食い虫の研究なんてしていられるか』…………研究チームのほとんどの人は、そう言って輻射波動機構の研究チームに合流していったよ………1人でやる研究は辛いし、勧誘もあったよ…………それでも僕は研究を断り続けた………お金のために人殺しの手段を研究しなくちゃいけないのは、嫌だから」

 

「第7世代KMF…………ランスロットの研究もそう、サクラダイト比率を高めてエネルギーロスを極端に減らした、究極の動力装置の実現…………でも、蓋を開けてみれば従来機の数倍の高燃費と並みのパイロットじゃ扱い切れないほど劣悪な操縦性…………採用なんて、夢のまた夢のようなものだった」

 

「そんな時、ランスロットの有用性に気づいて使ってくれたツキト君は、僕にとっては救いだったよ………特別嚮導派遣技術部、なんて大層な名前をもらってたけど、実質、たらい回しみたいなものだったからね………ランスロットを使ってくれた時は、本当に嬉しかったもんだよ」

 

ツキトはロイドにわからない程度に苦い表情をした。

 

ツキトにとってあの時はただ使い勝手のいい高性能機があったから利用しただけに過ぎないからだ。

 

「それからは楽しいことだらけだったねぇ、シュナイゼル殿下の参加ではあったけど、サポーターとしてツキト君が居たから自由な研究ができたし、何より、僕の研究してきたことが、人の役に立つことができたんだもの」

 

「僕の作ったB型アンドロイドがいい例さ、ユーロピアのほうで子供から老人まで、いろんな人に必要とされてたって聞いたよ、手紙もたくさんもらったって…………嬉しかったよ、あぁ、僕はこのために科学者になったんだって、あの時、輻射波動機構の研究を蹴っていて良かった…………そう思えたんだ」

 

「だから、僕は許せない、人の役に立つ研究を続けてきたのに、それが返って大量虐殺を産んでしまった自分が!何よりも許せないんだ……………」

 

「だから壊すんだ、この剣で、僕の作ったこの兵器で、悪意を振りまく元凶をね!」

 

ロイドは強い嫌悪感を剥き出しにしてそう吐き捨てた。

 

普段のおちゃらけた姿からは想像できないほど大きなプレッシャーに、ツキトは違和感を感じた。

 

原作において、これほどまでに人命を尊重する人間だったのだろうか?と…………今となっては、剥離が大きすぎるのもあって人格そのものが違う人物の方が多いため、違和感をすぐに飲み込んだ。

 

同時に、ツキト自身、ロイドの悲鳴のように吐き捨てた嫌悪感満載の言葉には、感じるものがあった。

 

その感情が怒りからきたものか、呆れからきたものか、悲しみや同情、義憤によって起こったものかはわからない。

 

だが、ひとつ確かなことがある。

 

「…………それで、どうすればいい?」

 

「…………倉庫にあるMVS・Cの新型を以って、暴走中のアンドロイドをぶっ壊しちゃってよ」

 

奴らを破壊する動機は十分だということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

…………手紙の暗号文の内容は、何度見ても同じだった。

 

『罪人:ツキト・カーライル

罪状:主人を見殺しにした。

判決:死刑。

処刑する、入って来い』

 

簡潔にまとめればこんな内容だ、中に取り残された者たちは人質のつもりだろうか。

 

いや、これは裁判だ、どちらかといえば傍聴席に近いかな。

 

どうであれ私のやることに変わりはない。

 

一切の躊躇なく、一刀を以って斬り捨てる。

 

「了解した、しかしそこに行くまで何を武器にすればいい?」

 

「威力過剰で振り回すのにも苦労する初期型MVS・Cを使うのがいいかもね、でもあれは対人(アンドロイド)用じゃないから効率が悪いんだ」

 

「同じじゃないのか?振動する剣なんだろう?」

 

「初期型のは対装甲性能特化型だからね、装甲車やKMFと比べて柔らかい合金主体のアンドロイド相手だと切りづらいんだ、もちろん、スパスパ斬れることに変わりはないよ」

 

「なるほど、初期型でも良いが、アンドロイド相手なら新型MVS・Cに軍配があがるわけか………」

 

MVS・C自体使うことが少なかったから使用感に関してはわからん………だが短く取り回しが良いと言う新型には興味がある。

 

何より、馬鹿みたいに長い剣よりか、やや短いくらいの長さ、スコットランドのクレイモアこそ扱い易い剣のひとつ。

 

不謹慎にすぎる物言いだが…………如何な切れ味であるか、剣を学ぶ1人の人間として、多分に興味が湧いてくる。

 

片手運用前提のレイピアでは、私らしい戦闘ができない、回避主体の戦闘など、私らしくもない。

 

やはり、目にも留まらぬ足運びと、そこから繰り出す剣技、そこに純粋なパワーを加えるのが私流の剣術。

 

長剣、大剣、どんとこい。

 

この有り余る力………アンドロイド数体で満足できるかは知らないが。

 

少なくとも……………………私を主人殺しと罵る輩を斬り捨てれば、『スッキリ』するだろうことは想像できる。

 

まずは、武器がいるな、クラブハウスの私の部屋にあるから、咲世子に電話が早いか。

 

「…………もしもし?」

 

『もしもし、ツキトさんですか?』

 

「咲世子、すまないが、私の部屋にある大きな剣を総督府まで持ってきてくれ」

 

『かしこまりました、お急ぎですか?』

 

「あぁ、頼んだ」

 

『はい、お伝えしましたらすぐに向かいます』

 

「頼む」

 

これで、20分もしないうちに届くはずだ。

 

次はルルーシュ、ゼロだな。

 

「もしもし、ゼロ」

 

『こんな朝早くに……何があった?』

 

「こちらの不手際で新型兵器が暴走してしまった、総督府内に封じ込めはできたが、いつ飛び出してくるかわからない」

 

『なるほど……つまり、シティ全体の騎士団を厳重警戒状態にせよ、と?』

 

「そうだ、すでに新型兵器によって総督府の関係者に死者が出ている状況だ、気を引き締めさせろ」

 

『…………わかった、通達しよう、その新型兵器の特徴を教えてくれないか?』

 

「美女に見えるロボットだ、古めかしい剣を武器に使うやつらだ、もしもの時は見つけ次第破壊して構わない」

 

『了解した、こちらに被害が出ないことを祈る』

 

「私もだ、では頼む」

 

『あぁ、では……』

 

これで、シティはなんとかなるはずだ。

 

「ツキト君、今のはゼロかい?」

 

「そうだが…………それが何か?」

 

「なんで普通にケータイで連絡取れるの?いやさあ、君ならプライベートのホットラインくらい持ってて不思議でもないけど」

 

「ふっ、やっとロイドらしい腑抜けた面構えになったな」

 

私はそのアホヅラもなかなか気に入ってるんだぞ?ロイド。

 

「いやいや、ふざけてる場合じゃないから!いい?ゼロはまだ総督府で古くから勤めてるブリタニア人には目の敵にされてるんだよ!?そんな人物とプライベートで連絡がとれるなんて………」

 

「それがどうした?」

 

「は!?なんで今のでわかんないの!?もう一回言うよ!いい?ゼロはね……」

 

「ロイド」

 

「なにさ!途中で遮r

 

「【そ・れ・が・ど・う・し・た?】

 

「…………っ」

 

そうか、ゼロはまだ嫌われているのか、そうかそうか。

 

ふぅん、それで?【それがどうした?】

 

ゼロの問題はゼロの問題であり、私に関係があるとは思えない。

 

恨むなら勝手に恨め。

 

それで時代に置いていかれようと、どうなろうと私が知るところではないのだから。

 

絶句したまま動かないロイドを放っておいて、カーテンを潜って出る。

 

「おっと」

 

すんでのところで思い出し、ポケットから赤い紙で包装された薄い長方形の物体をロイドめがけ投げた。

 

「あ痛!……え?なにこれ?」

 

「ゼロと、黒の騎士団、彼らがブリタニアから勝ち取ったものの一部だ」

 

「…………チョコレートじゃないか」

 

そう、チョコレート。

 

何の変哲も無い、メ◯ジのミルクチョコレート味の板チョコだ。

 

「そう、それはただのチョコレートだ…………だが、それを作っている工場はブリタニアの日本侵攻時に瓦礫になり、また、灰になった」

 

「じゃあ、これって……」

 

「その灰の中で足掻き、踠き、我らブリタニアと対峙し、やっとのことで勝ち得た日本エリア全土にある【シティ】…………そこに再建された工場で生産された、第1号のチョコレートだよ」

 

そうだ、そのチョコレートは、日本というかつての国家が、自治区という新しい形で蘇るための、楔のひとつ。

 

「そのチョコレートの菓子会社を始め、様々な日本の企業が立ち直り、シティの至る所で活動を再開し、軌道に乗りつつある」

 

「また新たな事業が始まりつつある、日本人主導の新たな枠組み作りがな!」

 

「他にもまだ、まだまだたくさんあるぞ!ゼロと黒の騎士団…………日本人の彼らが、ブリタニアに勝利し、勝ち得たものによって、日本人を蘇らせた、その証拠が!」

 

ポケットのボールペンを取り出す。

 

「これを見ろ!メーカー保証半年が付く20ドルのボールペン、だがこんなシャープなものブリタニアにはない……」

 

「もしや!」

 

「あぁそうだ!!日本製だ!!」

 

ケータイを取り出す。

 

「これを見ろ!わかるか?ブリタニアの工場では作れない、メイドインジャパンの極薄ハードカバーだ!」

 

袖をまくり腕時計を見せる。

 

「これを見ろ!精巧な作りだろう?だがスイス製じゃ無い!日本製の腕時計だ!」

 

足を振り上げてベッドの淵にのっける。

 

「これを見ろ!い〜い革靴だろう?なかなか値が張る高級品だ、革はブリタニアだが生産は日本だ!」

 

ロイドのベッドの布団カバーを引っ張り上げる。

 

「ここ!なんて書いてあるか読んで見ろ!」

 

「……『メイドインジャパン』」

 

「日本製、そう!日本だ!日本なのだ!ゼロと黒の騎士団は、【日本を取り戻した】!」

 

布団カバーを元に戻す。

 

「200年余りどのエリアも成し遂げ得なかった偉業だ!わかるかロイド?ゼロと黒の騎士団は【強者】だ!」

 

巨悪に立ち向かう英雄、弱者の盾となることができる勇ましき者たち、それこそが…………。

 

「強者だ、強者なのだ!ブリタニアと同じく!彼らと我々は対等だ!200年余りの月日があって誰もが諦めた手段を行使し、見事、我らから勝ち取った勝利の証!【民族の誇り】!」

 

日本人として誇り!そして……。

 

「そして、彼らはひとつ証明してみせたのだ…………私の亡き主人の、いや……………我が【王】の正しさを!彼らは証明してくれたのだ!」

 

諦めない心、刃が折れても止まらぬ歩み。

 

ルルーシュとナナリーのただただ、純粋なまでの、平和と平等への思い。

 

「平和と平等………我が王が目指した理想、その答えのひとつを、彼らは私にみせてくれた…………」

 

ルルーシュは王としての才覚を表し始め、ナナリーはマリアンヌを超える剣士として上達が止まらない。

 

「我が王の【理想の証明】、従者として、これほど嬉しいことがあるだろうか…………」

 

ない、ないのだ、あろうはずがない。

 

ルルーシュとナナリーに仕えてきたこの19年……………喜びを実感し続ける日々であった。

 

だから、だからこそ私もその喜びの対価を返していかなければ。

 

「我が忠誠に、一点の曇りなし……………我が王こそ、唯一無二の【正義】なれば」

 

それが、それこそが、私の生命の、存在の証明!

 

「我が王を晒しめ、木偶人形の分際で驕る者共を、始末するが我が使命」

 

徹底的に潰さねばならん。

 

我が王への冒涜は、我が怒りの大海へ飛び込むことと知れ!

 

「いま、私こそが………俺こそが、【忠誠】だ………!」

 

壊してやる。




TKTニキ「kwsk教えろ〜、あくしろ〜」
ロイド「戦闘データと一緒に記憶(思い出)データ送ってセンセンシャル!」
TKTニキ「あいつら死を探してる、はっきりわかんだね(大嘘)」
ロイド「ウッソだろオイ……ん?マジ?…………ありますねえ!(納得)」
TKTニキ「つべこべ言ってないで武器出せコラァ!」
ロイド「MVS・Cはブリタニアで生まれました、日本の発明品じゃありません、我が国のオリジナルです。
精密機械の導入が遅れていましたが、今や巻き返しの時です。
ご覧ください、いい重量でしょう?バッテリー効率が違いますよ!
それにこのサイズ、スコットランドの戦士たちの武器、クレイモアを模した扱いやすい長さの両手剣!」
TKTニキ「1番気に入ってるのは……」
ロイド「なんです?」
TKTニキ「値段だ(予算はかかっている)」

TKTニキ「これ見ろよオラァ!この美味しそうなチョコレートをよぉ〜!」
ロイド「え?なに?これは?」
TKTニキ「MADE IN JAPAN つってんだYO!!!」
ロイド「ファッ!?」
TKTニキ「(日本人の凄いところは)再生力ぅ、ですかねえ……(経済効果は)1年半で、5000万ドル!(どんぶり勘定)」
ロイド「たまげたなあ……」
TKTニキ「(材料の)輸入!(日本エリア内で)生産!(できた製品を)輸出!って感じで」

ロイド「ゼロと友達とか、国民に怒られちゃうだろ!」
TKTニキ「はっ?(全力の威圧)」
ロイド「クゥーン……」
TKTニキ「馬鹿野郎俺の王様最強だぞオラァ!!!(忠義)」


飲み物紹介のコーナー。

ツキト「キリンガラナの紹介から間が空いたな、まあ不定期だから気にしないでくれ。
今回紹介するのは意外とコアなファンが多いニッキ水だ。
前回紹介したキリンガラナと比べて若い年代にはあまり知られていない飲み物だな。
このニッキ水は、水にシナモンの香料や甘味料や酸味料、合成着色料を加えて作られる飲料だ。
カラーは三色、赤、緑、黄で、1番人気はその奇抜さから赤らしい。
肝心の味に関してだが、甘味料で甘い味付けなので当然甘い。
問題は、シナモンの香りが嗅覚を強く刺激し、舌から喉までを麻痺にも似たヒリヒリとした感覚を長く残すという特徴を持っている。
そんな問題のニッキ水だが、意外にも販売当時は駄菓子屋等でラムネと同等の人気を博したようで、シナモンの解熱効果などもあり、特に夏にはうってつけであったようだ。
また、入れ物が小さなひょうたんの形をしたガラス瓶であったこと、合成着色料の濃さ故に舌が染まることなどから、飲み干した後は緑色や黄色に染まった舌を見せ合って楽しむという方法もあったようだ。
私も1番人気という赤色のニッキ水を飲んでみたが…………一気飲みはやめた方が賢明だ、これはかなりくる……。
当時の子供達も、ラムネのようにグイッと飲むのではなく、少しずつ舐めるように飲み干したらしい。
現在は生産している工場が少なく、たったの4軒程度になってしまっている。
今回のニッキ水はハタ鉱泉のものだ、ハタ鉱泉は年間50万本程度を生産しており、特にシコクシティ、キュウシュウシティで人気があるそうだ。
シナモンということもあり好き嫌いがはっきりわかれるタイプの飲み物だ、友人に進めるときは決して無理強いはしてはいけないぞ。
今回の紹介はこのへんで終わることにする。
あぁ、間違っても、一気飲みはするなよ?いいな?
ではまたいつか、会おう。
…………くっ………さっきから喉がヒリヒリして敵わん…………咲世子、紅茶をいれてくれ」
咲世子「かしこまりました、シナモンティーでございます」
ツキト「やめんかバカ!!」


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この『糞木偶人形』風情が!

お、ま、た、せ、!

内容は流石TKTNK!って感じだねうん。

久しぶりにあの人登場!?


no side

 

 

「お待たせいたしました、コーネリア様」

 

「ツキト!一体何をしていたんだ!?」

 

「ロイドにアンドロイドを止める方法を聞きに言っておりました」

 

戻ってきたツキトは、コーネリアにそう報告した。

 

「そうか…………暗号の解読が終わった、内容は」

 

「私一人で中に入ってこい………そうですね?」

 

「わかっていたのか…………いかにツキトが強靭でも一人では行かせられない、護衛をつけていくんだ」

 

私も付いて行きたいが…………そう小さく零し、チラチラとツキトを見るコーネリア。

 

だがツキトはそんなことに見向きもせず言った。

 

「一人で行きます」

 

「カーライル卿!コーネリア様は卿を心配して…………」

 

「木偶人形供は、在ろう事か我が王を侮辱したのだ!!」

 

「………だ、だが!それとこれとは…………」

 

「あのような木偶ごときに、我が王を辱められる怒りが、貴様にわかるまい!」

 

ルルーシュとナナリーへの忠誠と敬愛から来る、止めどない怒り。

 

ツキトは今、かつてないほどキレていた。

 

「我が王への侮辱は許し難き所業!従者なれば、その愚者を断罪することこそ使命!その邪魔をするなら…………ギルフォード、今日を貴様の命日にしてやってもいいんだぞ」

 

疑問形ではなく、宣告としての言葉をギルフォードへ向ける。

 

この場においてツキトに勝てるものはいない、ギルフォードは、引き下がるしかなかった。

 

「…………」

 

標的にならずに済んだダールトンは、冷や汗を流しつつ必死にポーカーフェイスを維持していた。

 

そしてコーネリアは決断を下す。

 

「……わかった、だが無茶はするな」

 

「はい」

 

それだけ言って、ツキトはテントから出て行った。

 

「やっぱり、私なんぞツキトの眼中になかったか」

 

力無く椅子に腰掛けるコーネリア、ギルフォードは閉口することしかできず、ダールトンもまた、静かに佇むことしかできなかった。

 

「あぁ、私は愚かだ…………亡くなった弟と妹が、誰よりも羨ましく思ってしまった……」

 

コーネリアはふと、ツキトの王である、今は亡きルルーシュとナナリーに嫉妬した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

「89……88……87……86……そろそろか」

 

ケータイを取り出して咲世子にかける、繋がると同時に一言だけしゃべる。

 

「咲世子、【投げろ】」

 

言い終わると同時にケータイをきる。

 

これ以上口を開けば何を言うのかわからない。

 

説明不足で咲世子には悪いが…………あいつなら理解できる、そう確信している。

 

だてに10年近く同棲しとらん。

 

「な、なんだあれは!?」

 

「飛んでいくぞ!?」

 

「か、カーライル様!お避けください!!」

 

「あぁ!?当たる!!」

 

右腕をあげる。

 

ガチッ!!

 

ふむ、さすが咲世子、時間、場所、すべてパーフェクトだ。

 

「騒ぐな、鬱陶しい」

 

たかが剣が飛んできただけで在ろうに…………まったく、肝が小さいやつらだ。

 

まあいい、そこらへんの再教育は後でジェレミアにやらせる。

 

スラァッ……

 

抜剣━━━━行くか……。

 

「バリケードを退けろ」

 

「はっ!」

 

バリケードが外されて行く、透明なガラスの扉から廊下が見えた。

 

奥にアンドロイドらしき人影が見える…………律儀に待っているとは、さすがは私のコピー(紛い物)。

 

…………気に入らんな。

 

「私が入ったらすぐにバリケードを閉めろ、指揮所には私が連絡するまで何もするなと伝えろ」

 

「そんな!我々も……」

 

「貴様らでは足手纏いだ…………入る」

 

「は、はい、御武運を」

 

武運だと?

 

ふっ、ふふっ。

 

この私が、武運を祈られるとは、たかだ木偶の相手程度で。

 

よかろう新兵ども、その祈り…………無用であると知るがいい。

 

中に入るとすぐに入り口がバリケードで塞がれる。

 

振り返らず正面のアンドロイドを見つめて歩を進める。

 

5メートル程度の距離で相対し、声をかける。

 

「貴様らの願い通り、来てやったぞ木偶人形」

 

「…………ツキト・カーライル、お前は主人を見殺しにした、その報いを受けろ」

 

アンドロイドは背中から湾曲した刀を両手に持って襲いかかって来た。

 

「S型か」

 

「そうだ、ツキト・カーライル、お前の剣では防ぎきれない」

 

S型、ショーテル装備型は、その湾曲した刀の扱いのみに特化した調整を施されたアンドロイド。

 

「お前の剣術は全て理解している、諦めて死ね」

 

他のアンドロイドよりも手首などの関節の動きを柔軟にし、ショーテルの強みである盾などの防具を避けて攻撃を通すためにあらゆる角度からの攻撃ができるようになっている。

 

「穴だらけになれ」

 

ヒュヒュンッ!ヒュヒュンッ!

 

弱点は、まあ……。

 

「ふん」

 

フッ…………ベギャァッ!!!

 

柔軟、つまり、装甲が薄く柔らかいのだから、破壊は容易と言う事だ。

 

「なぜ、そんなに容易く……」

 

ガギッ……ガシャァンッ━━━!!

 

「期待以下だな…………粗悪品めが」

 

所詮、今世の私の剣の腕の劣化コピーでは、この程度か。

 

「なぜ容易く貴様を壊せたか、教えてやるよ…………年季が違うからだ」

 

「計算は、完、ペキな、は…ず…………」

 

「ケアレスミスの塊が、小学生からやり直せ」

 

足し算(無敵のアンドロイド➕ツキト・カーライルの剣術)のつもりだったか?

 

残念だな、引き算だ(無敵のアンドロイド➖無敵)。

 

「答えが違う、0点、やり直し」

 

ブンッ!

 

ゴッ……ぐっしゃぁっ!

 

崩れ落ちたS型の頭部を踏み砕く。

 

「あっけない……」

 

なんだ、この程度か、私の怒りを買った存在が、この程度か……。

 

「棒切れを振った程度で、簡単に砕けおって…………」

 

私と戦おうなどと考えた時点で、貴様の負けだったのになあ………。

 

まあ、よい。

 

1つめのダンジョンのボスが弱いのはよくある事だ。

 

次は…………ゲームのセオリー通りなら、上階だろうな。

 

一体ずつ相手取る必要があるわけか…………なるほど、私らしい。

 

私らしくなんともめんどくさい手段に出るものだ。

 

「相手取る価値が無いというところだけは違うようだが」

 

エレベーターに乗ろうとしたが、ボタン部分が破壊されていて呼ぶことができなかった。

 

滅多斬りにされた様子から、おそらくショーテルだろうな。

 

どうしても一体一体戦う必要があるわけか…………こちらとしては、逃げられない分好都合だが。

 

階段を登…………おっと、その前に。

 

地下へ続く階段に足を向け、進む。

 

各部署の機密文書の保管用倉庫の厳重なドアがずらりと並ぶ廊下を歩き、あるドアに目をつける。

 

「ここか」

 

特派の倉庫、鍵は電子ロックで暗号キー入りのカードキーがいる。

 

さて、カードキーを探…………すわけないだろうが。

 

「MVS・C、最後の見せ場だ」

 

キィィィイイイン!!

 

耳障りな音が廊下に反響する、振り上げたMVS・Cでドアを両断した。

 

ドアを蹴り崩し、中に入る、相変わらずガラクタだか兵器だかわからんロイド製の物体が並ぶ中、まるで【俺だ!】とでも言わんばかりの存在感を放つ剣を見つけた。

 

というか、あった、岩のようなオブジェクトに刺さっていた。

 

選定の剣が如く岩に刺さった剣を引き抜く、MVS・Cと比べると細く、軽く、短い。

 

そして何よりも、扱いやすい。

 

MVS・Cを置いて剣をよく観察する、名はMVS・C(メーサーバイブレーションソード・クレイモア)、字は同じだが、Cの意味合いが違う。

 

「しかし…………」

 

ブンッ、ブンッ

 

シュッ

 

「……馴染むな」

 

前世で極めた日本刀による剣術…………ほどではないが、なんとも実に握り心地の良い剣であることか。

 

うむ、軽いと言ったのは訂正しよう、バランスが良くて馴染みが良すぎる、気味が悪いくらいに違和感がない。

 

私に振られるために作られたみたいな剣だな。

 

よし、いいぞ、使ってやる、使ってやるぞMVS・C。

 

MVS・C(クレイモア)に持ち替え、階段を登る。

 

二階について正面の廊下を見通すと、陽炎のように歪んだ剣を握ったアンドロイドが立っていた。

 

「F型か」

 

「肯定、私は処刑部隊F型アンドロイド、あなたを引き裂いて処刑するもの」

 

「ご丁寧な説明ありがとう」

 

「例には及ばない、死ね」

 

F型アンドロイドのフランベルジェの突きが放たれる、私の剣術データを使用している故か、フランベルジェの形状がレイピア寄りだからか、S型とは比較にならない速度で突っ込んでくる。

 

動きも、舞うように攻撃してきたS型と違い直線的だ。

 

直線的な攻撃は余裕で避けられる、とりあえず回避しつつ動きを観察するとしよう。

 

フランベルジェ…………炎の揺らめきのような形をした細身の剣。

 

その形状で長さと距離の感覚を狂わせ、回避と防御を殺す剣。

 

斬られたが最後、揺らめきの部分の刃が何度も傷口を走り抜け、再生不可能なダメージを与える悪魔の剣。

 

また、F型の装甲は標準的で、S型のように削って柔軟性をあげたりなどの改造はない。

 

じゃあ、弱点はないのか?

 

はっ……笑止。

 

ヒュッ

 

ザクッ

 

「取った……?」

 

「浅い」

 

キイィィィイイン!!

 

MVS・Cの振動音が響く。

 

「しま」

 

一閃。

 

フッ……

 

スッッ…………パァッッ!!!

 

「なぜ、見切られた…………」

 

F型アンドロイドを縦に一閃、MVS・Cの切断能力は圧巻の一言だ。

 

「堪え性がないからだ」

 

ダメージを負わせようと躍起になって、速度ばかりに偏って一撃の重みが死んていた。

 

「重みの無い突きなど、私に刺さるものか」

 

服は貫けても、防刃繊維は貫けるわけなかろう。

 

「ばか、な……」

 

「プロも使う防刃ベスト、それの改良型の特注品だ、もとより、あのような稚拙な突きでは不可能であった……それだけだ」

 

突きという攻撃は、ようはどれだけ先端部にエネルギーをのせて打てるかという問題であり、斬るという攻撃とは勝手が違ってくる。

 

斬るという攻撃は、乱暴に言えば、肩を支点に指先までを一本の棒と見立てて回転させ、その遠心力によって攻撃を行う方法だ。

 

細かく言えば足捌きとか体捌きとか色々面倒だからバッサリいったが、斬る攻撃は回転運動、と考えればいい。

 

肝心の突きだが、弓を引き絞る動作から思いっきり前方に殴りかかるイメージ、と言えば分かりやすいだろう。

 

より速さを極めるならば、肘から先までを細かく動かすフェンシングのような動作になるが、F型はこの動作が出来ていなかった。

 

いかに鋭利なレイピアやフランベルジェであっても、勢いだけでは突いても効果が薄く、肌を撫でるだけになってしまう。

 

加えてフランベルジェは構造上、その波のような刃が固い物に当たると滑りやすく、さっきのような肩の上端に当たるような突きでは上へ逸れて滑ってしまう。

 

そもそも、突き攻撃自体が非常に難度の高い技であり、当てればそれこそ一撃必殺にもなる技であるが、これを当てるともなれば至難。

 

ま、つまるところ…………。

 

「たかだか10数年程度の西洋剣術の真似事で、私を殺せるわけなかろう」

 

あと100年修行して出直せ。

 

しかしまあ……。

 

「服に穴を開けてしまったな………」

 

まいったな、クレアに怒られてしまうな。

 

「ふぅむ…………詫びの品は中華連邦あたりで鍋でも買ってきた方がいいか?」

 

ルルーシュとの新婚生活を見据えてな。

 

などと、まったく関係ないことを考えつつ、さらに上、さらにさらに上を目指して進む。

 

それぞれのタイプが一体ずついるなら、あと3、4体か。

 

「この程度の性能なら、一気にきてくれたほうが早いんだがな………」

 

緊急事態だし、穴でも開けてショートカットして私のオフィスまで行ってもいいが、下手をすればオフィスもろとも吹き飛ばされかねん。

 

地道にいくしか無いか。

 

またひとつ上の階へ、もう見慣れたアンドロイドの姿、今度はM型、メイス装備型だ。

 

「いい加減一体ずつは飽きた、それに一体ずつでは勝機はないぞ?まとめてかかってこないのか?」

 

「現行統括の意志は全体の意志、合理的判断に基づく戦術であり、問題はないと断言する」

 

合理的ねえ…………無駄しかないと思うんだが。

 

まあ時間稼ぎにはなってるかもしれんな、外で何か要求してる可能性もあるが…………。

 

その場合は咲世子が対応するだろう、問題はない。

 

「さっさとやるぞ木偶人形、私も暇じゃない」

 

「同意、潰れろ」

 

飛びかかりながらメイスを振り下ろし床を陥没させるM型アンドロイド、なるほど、避けていなかったら骨折はしていたな。

 

メイスという武器は、要は超凶悪な棍棒、と言ったところだろう。

 

短い棍棒と侮るなかれ、頭に当たればメイス先端の装飾品を思わせる鋭利な金属塊が脳を破壊する。

 

胸に当たれば肋骨が心臓や肺に刺さる。

 

腹に当たれば内臓が破裂する。

 

腕や脚に当たれば骨が砕け肉が裂けて一生使い物にならなくなる。

 

メイスが輝いた時代といえば、皮肉なことに騎士の時代だった。

 

鈍重な鎧を着込んで疲弊した騎士が、革鎧を着た敵兵のメイスの一撃を避けるのは至難の技。

 

鎧越しでも衝撃は肉体へ伝導し、剣でも弓でもなく棍棒(メイス)に殺されるという当時で言えば不名誉な死を遂げた。

 

当時は騎士同士の戦いで殺しあうということはなく、負けを認めた方が捕虜となって捕まり、その保護者(領主、親など)が金を払うことで捕縛を解かれた。

 

だが、100年戦争の折、騎士の何たるかも知らない農民や傭兵が多数動員された結果、騎士は次々に死んでいった。

 

騎士道はナポレオン登場まであったと言われているが、すでに100年戦争の中期には死んだと言う学者もいる。

 

戦争は、いかに殺傷力のある剣と屈強な戦士を用意したかではなく、いかに残虐な武器と多くの兵士を用意したかで決まる。

 

かのワラキア公国の王は、丸太に敵国の兵士を串刺しにして領地に並べて林を作り、心理的効果によって不利な戦況を打破して国防を果たしたという。

 

結局のところ何を言いたいかと言うとだ。

 

「大義のために非道な手段をとることは、当人の中でのみ正当化される」

 

しかし………。

 

「しかし、他人がどのように判断するかは当人にはどうにもならない問題である」

 

現実に、ワラキアの王の最後がそれを物語っている。

 

いかなる偉業も功績も、時代を跨げば過去のもの。

 

しかし、幾星霜の時代を越えても、罪と罰は消え去りはしない。

 

決して。

 

フッ━━━━━━…………。

 

「罪の大きさと残虐性において、私に敵うものなし」

 

ガシャァン!!!

 

「な、ぜ……あたら、ない、計算は、完、璧に」

 

「0%に何を掛けても0%だろうが、木偶人形」

 

「0?0?……ありえn……」

 

メイス装備型、攻略。

 

「本当に私のコピーなのか?だとしたら、私って本当に最弱なんだな」

 

剣はもうすぐナナリーにも越されるだろうし、KMFの操縦はスザクのほうがすで上だ。

 

「フーー…………次だな」

 

これで3体、ロイドの予想通りならあともう3体ほどのはずだ。

 

…………そういえば、まったく気にしていなかったが。

 

「…………やはりか」

 

ケータイを見てみると圏外のマーク、総督府でこれはありえない。

 

間違いない、確信した。

 

プロトタイプのS型が暴走した時、ヘンゼルとグレーテルが起動しなかった理由と、ロイドから通信がなかったわけがわかった。

 

「やつら、妨害電波を出しているんだな」

 

少し考えればわかること、逃げる死刑囚の退路を断つための、連絡手段を殺すための妨害電波出力装置…………ロイドめ、いい仕事だが今はそんなのいらん。

 

まんまとやつらの檻の中に閉じ込められたわけか…………。

 

「窓はシャッターのせいで外の状況がうかがえない、音も遮断されているか…………」

 

万が一にも、外に出て暴れられたら私以外では咲世子かスザクくらいしか対応できない。

 

咲世子はおそらく大丈夫だ、逃げ切れるはずだ。

 

だがスザクは、その場に居合わせた人間のために劣りを買って出かねない。

 

スザクのフォローができるのは咲世子ぐらいのもの、あとはジェレミアが通用するかどうか………と言ったところ。

 

だがジェレミアは見かけなかった、おそらく私のオフィスで他の人間を励ましていることだろう。

 

ジェレミアがいるうちはまだ大丈夫だ、まだ戦意を保てる。

 

しかし失われた場合の損失は…………ちっ。

 

「油売ってる場合じゃないな」

 

急ぎ階段を駆け上がる、貴重な対抗手段のひとつがこんなところで消えるのは許されない!

 

「首を出」

 

「どいてろガラクタ」

 

登りきって見えた廊下にいたアンドロイドを斬り崩して進む、もう悠長に足を止めて斬り合う時間はない。

 

くそ、もっと早くにジャミングに気がついていれば………もうしょうがないことだが、悔やまずにはいられない。

 

また階段を登ったところで、ようやく見えた私のオフィスのドア。

 

破壊を試みた痕跡が見える、アンドロイドは見当たらない。

 

這い蹲り床に耳をつける…………………………モーターの駆動音も聞こえない、さっきの廊下のやつで最後か。

 

ドアをノックする。

 

「救出班のツキト・カーライルだ、ドアを開けてくれ」

 

『ツキト君か!よし、今開ける』

 

予想通りジェレミアがいたか、となれば、おそらく…………。

 

ドアから距離を取る。

 

ガチャ、キィィ………。

 

ビュオッ!!

 

ヒュッ!

 

キーーーンッッ!!!

 

ドアの隙間からレイピアが伸びてきた、素早い剣筋にやはりか、と思いつつMVS・Cで受け止める。

 

「…………うむ、どうやら本人のようだ」

 

「当然、私は木偶人形とは違いますので」

 

「私の剣を受け止められるのはツキト君ぐらいのものだからな…………しかし、すまなかった」

 

「お気にならさず、木偶人形の声真似を疑うのも当然かと、むしろ無警戒であったなら私が首を刎ねていました」

 

「ははははは!それは怖い!剣を振ってよかった、そうでなければ今頃命はなかっただろうからな」

 

…………全く問題なさそうだな。

 

「でしょうね………ジェレミア卿、残りの人員は?」

 

「奥にいる、急ぎ連れて脱出しよう」

 

「えぇ、エレベーターは死んでいます、階段から行きましょう」

 

「うむ、そうしよう……おーい!脱出だ!立ち上がりたまえ!」

 

閉じ込められていた非戦闘員と兵士たちはジェレミアに任せるとして、私は周囲警戒だな。

 

ん?ケータイが………クレア?

 

「もしもし、無事か?」

 

『無事か?じゃないわよ!何一人で突っ込んで……あっちょ!待ってくだs』

 

いきなり叫んだと思ったら今度はなn

 

『ツキト!ツキト!無事ですか!?怪我はありませんか!?』

 

まさかのユーフェミア(逆レ痴女)。

 

「ユーフェミア様でございましたか、お怪我は……」

 

『怪我はありm……あっ、ちょっと足をくじいたのでツキトに舐m』

 

「御用件は?」

 

いろいろと聞きたくないので食い気味にそう聞く。

 

ユーフェミアの口からはそういう言葉は聞きたく無い………。

 

『その、ツキトが心配でつい電話を……』

 

「はぁ…………クレアに電話を返してください」

 

『はい、わかりm『きゃああああああ!!!!』

 

「なんですか今の悲鳴は?ユーフェミア様?……ユーフェミア様!?」

 

ツー………ツー………

 

「………」

 

なんだなんだ何が起きている、いきなり悲鳴が聞こえたと思ったら電話が…………圏、外……だと?

 

「やられた……」

 

「ツキト君!全員集m…………どうしたんだ?」

 

「どうやら、まだ生き残りがいたようです」

 

ケータイの圏外表示を見せつつ告げると、ジェレミアの表情は硬直した。

 

「………その生き残りはどこに?」

 

「おそらく、外でしょう」

 

「くっ……!」

 

今こうしている間も外の兵士や患者、クレアやコーネリアやユーフェミア、そしてゆくゆくは…………ルルーシュとナナリーが危険だ。

 

もう、好きにさせてたまるか。

 

「ここから出るのは……だがせめて囮くらいはせねば………」

 

「ジェレミア卿、私は先に行きます」

 

「むっ、私も共に行くぞ!」

 

「わかりました、では……」

 

キィィィイイイン!!

 

窓のシャッターを切り裂き、不恰好な四角い穴を開ける。

 

「お先に失礼」

 

「ちょっ!?待……」

 

足をかけて外へ向けて飛ぶ、宙に身を投げ出すともいうかな。

 

あぁ、そう焦った表情を浮かべるんじゃないジェレミア、この道が1番目的地に近いだけだろうに。

 

天国に最も近い…………いや、私には地獄以外の入り口はなさそうだ。

 

生き残りのアンドロイド、寂しいだろう?仲間に先立たれて。

 

暫し待たれよ、すぐにお前の仲間に合わせてやる。

 

だから…………だから。

 

「これ以上、この私の手を煩わせるな」




アンドロイド1「ホラホラホラホラ」
TKTNK「効かねえんだよザコが」バァン!
アンドロイド2「YO!YO!」
TKTNK「効かねえんだよザコが」バァン!
アンドロイド3「見たけりゃ見せt」
TKTNK「うるせえ!」バァン!

ジェレミア「おっすお願いしまーす」攻撃しーノ
TKTNK「い〜いねぇ〜」防ぎーノ
ジェレミア「本物ゾ、みんな連れてくるゾ、あくしろ〜」
TKTNK「ん、おかのした…………ん?もしm」
クレア「あのsユーフェミア「YO!」
TKTNK「ファッ!?……(ブツッ)……えぇ……ん?おかしいな圏外だゾ」

TKTNK「あっ(察し)…………ふーん、殺そ」
ジェレミア「ええぞ!ええぞ!」
TKTNK「いきますよぉ〜…………イクッ!(飛び降り)」ピョン
ジェレミア「ああぁぁああああぁぁああぁあぁぁあぁああああ!!!!????」
TKTNK「ちょっと小心者過ぎんよぉ〜(指摘)」ヒュゥゥゥゥ……


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少々勿体無いが、『秘剣』をもって切り刻もう

たでーま。

前回のあらすじぃ!

TKTNK飛び降り自殺。


バキッ……バキッ……バコォォオオオン!!

 

「「……」」

 

「う、うわあああああ!!??」

 

「ば、化け物!化け物が出てきやがった!」

 

正面から堂々と出てきた2体のアンドロイドに混乱する兵士達。

 

2体のうち1体はメイスを持ったM型で、ツキトに破壊されたものと同一のものに見える。

 

だがもう1体のアンドロイド、ツヴァイヘンダーを腰に差したZ型は少し格好が異なり、マントを着けていた。

 

「ご覧ください!あそこに見えます武器を持った2人組が、今回の事件の犯人なのでしょうか!?」

 

「ラウンズのツキト・カーライル氏は2人組にやられてしまったのでしょうか?」

 

怯む兵を前に、後方からここぞとばかりにカメラを向けマイクに向かって喋り始めるマスコミたち。

 

好き放題に言いたいことを言っている者、状況を伝えることのみにとどめている者、ブリタニア兵の貧弱さについて批判している者、実に様々であった。

 

その時、ひとりの男が叫んだ。

 

「怯むな!隊列を組め!銃を構えろ!」

 

「我らカーライル様の尖兵!猟犬部隊なり!」

 

男は拳銃型コイルガンを振り上げて周囲の仲間を鼓舞し始めた。

 

男は、かつての日本への憧れと復活を強く望む以外は平凡な日本人のブリタニア兵士であった。

 

彼に転機が訪れたのは、ツキトによる猟犬部隊設立の際、志願した時だった。

 

「立て!今こそ!カーライル様の恩に報いる時だ!」

 

『君のように強い志を持つ人を探していた』、ツキトはそう語り、彼を入隊させ、軍隊内の教育機関にて教育を受けさせ、驚くべき短期間のうちに幹部へと昇格、晴れて指揮官となった。

 

ツキトの後ろ盾もあったのだろうが、幹部に至れた要因は彼の目標に対する強い意志があったからだろう。

 

「二列横隊を組め!後方の市民には、指一本触れさせるな!」

 

「りょ、了解!」

 

「はい!おいお前ら!やるぞ!」

 

その強い意志が、自殺にも等しいアンドロイドとの戦闘のために部下を立たせた。

 

だが、それは決してやけを起こしたからというわけではなく、ここにいる猟犬部隊の面々は同じ意志を持って立っているから、ということだ。

 

「カーライル様の到着までの少しの時間を耐え凌げ!」

 

「俺たちにできる全力を尽くせ!」

 

「震えるんじゃねえ……ふるえるんじゃねえよ、俺の脚!」

 

「脚が震えてるくらいでビビんな!俺なんてもう漏らしてる!」

 

「はっ!怖いのが恥ずかしいもんかよ!」

 

「どんだけ情けなくても俺たちゃカーライル様に恩を返さなきゃ死にきれねえんだからよ!」

 

「全くその通りだぜ!」

 

赤信号、みんなで渡れば何とやら、今の彼らはひとつの生命のように団結し、迷いなく防御の隊列を組んだ。

 

租界やシティに住む多くの人々を守るため、どん底から救い上げてくれたツキト・カーライルの恩に報いるため。

 

「着剣!構え!」

 

「「「イエス!マイロード!」」」

 

小銃を持った歩兵を横に並べたその隊列。

 

即ち、防御特化の【戦列歩兵(時代遅れの自殺戦法)】

 

「我らは盾だ!一歩も通すな!」

 

「「「うおおおおおお!!!」」」

 

しかし、士気旺盛で理性も飛んだ兵士たちにとって、ここを死地として自身を奮い立たせるしかないのだ。

 

何せ彼らにはツキトのような精神力も剣技もない。

 

誰も彼もがツキトからすれば一兵卒より上という程度の認識。

 

ただ、日本エリアをよりよくしていきたいという志で集ったただの日本人でしかない。

 

銃弾を弾き、高速移動するアンドロイドに勝てるわけがない…………そんなことはわかりきっているのだ。

 

だがそれでも、ツキト・カーライルの兵士として、譲れないものがあった。

 

民、臣民、人の命である。

 

「密集したまま取り囲むぞ!左翼、右翼は少しずつ開いて半包囲しろ!」

 

そのために死ぬ覚悟は…………すでにできているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

自由落下の気分を聞かれたらこう返すだろう、『ジェットコースターの落下の気分を味わい続ける感覚』、もしくは『内臓が上がってくる感覚』と。

 

勢いよく飛び出しては見たものの、はてさて、このままでは地面に激突してスライムになってしまうこと確実。

 

落下していく中で見える様子から、どうやら猟犬部隊が格闘でアンドロイド2体と応戦しているようだ。

 

うち1体はマントのようなものを付けていてよくわからないが、もう一方はメイスを持っていることからM型だろう。

 

あいつはS型とともに恐怖を撒き散らす【宣伝官】として製造された、ゆえに純粋な戦闘特化ではなく、動きに無駄が多い。

 

銃が怖いと感じるのは『目に見えない速さで金属の塊が飛んでくる』から、とよく言うが、そんなものを想像できる人間は少なく、結果としてブリタニアは民間人でも気軽に銃を所持できる。

 

昔ならいざ知らず、慣れ親しんだ銃は人から『恐怖を容易に想像できる音や形』という認識を薄くさせた。

 

時代とともに旧世代の武器に対する恐怖は薄くなる、それでも…………あの悍ましい見た目の拷問器具にも見える武器への恐怖は永遠だ。

 

そのメイスを以って、恐怖を振りまくための、そのためだけにプログラムされたのがM型。

 

恐怖、というのは人の潜在的な意識、『痛いのは嫌』とか、そういう思いが無意識のうちに足を竦ませる。

 

実際に壁でも殴ってその威力も見せてやれば、追い詰められた罪人は腰が抜けて動けやしなくなる。

 

そこをE型がスパッ……と、やるわけだ。

 

今も猟犬部隊の彼らはいの一番に逃げ出したい恐怖を押し退けて戦っている。

 

ある者は腕を潰され、ある者は足を潰され、そしてある者は腹を…………。

 

気に入らない、実に気に入らない。

 

M型はたしかにその役目を果たしている、不気味な動作でメイスを振り回し、恐怖を振りまきながら戦闘力を破壊し、逃げる気力さえも奪う…………。

 

距離20…………構えは大上段、距離5から振り下ろす。

 

ズギャアアアアアアン!!!

 

ズッ……ダンッッ!!!

 

その役目は一時休止だ、M型。

 

「…………少し逸れたか」

 

なんてカッコ悪い…………鍛錬が不足していたようだ。

 

ま、M型アンドロイドは綺麗に切って裂けて壊れたからよしとしよう。

 

「か、カーライル様……!」

 

「よくぞ耐えた、猟犬部隊の勇士達」

 

おい副隊長、なんだその嬉しそうな顔は。

 

「負傷者を後方へ移送、離れて隊列を形成、民間人を守れ」

 

はっ……よろよろで覚束ない足でよく立っていられたものだな。

 

最高にカッコよかったぞ、猟犬部隊。

 

「あとは…………私に任せてもらおうか」

 

残った1体のアンドロイドと対峙する。

 

アンドロイドはマントを外すと長剣を引き抜いた、ツーハンデットソードのZ型だったか。

 

「は、はい!お願いします!カーライル様!」

 

「日本エリアの平和を、頼みます!」

 

今更それを言うか、そんなこと言われずともわかっているさ。

 

…………しかしこのZ型、何か違和感がある、一体なんだ?

 

ツーハンデットソードを構えたZ型を観察する。

 

構えはツーハンデットソードを好んで使ったと言われるドイツ傭兵のドイツ流剣術、その【雄牛】の構えに見える。

 

簡略さ(わかりやすさ)、能率も良い、真剣勝負に長けたドイツ流剣術を、私に対して使ってくるとは…………なるほど。

 

ここは、乗ってやるやろうじゃないか、せめて最期の手向けにするといい。

 

私も雄牛の構えを取り、深呼吸をして一拍置いて…………駆ける。

 

距離に入ったところで横に斬る、防がれる。

 

反発力を利用して弧を描く斜め下からの切り上げ……防がれる。

 

突きが飛んでくる、鍔で剣先の軌道を変え、剣身をレールにして首を狙う。

 

剣を振り上げられ宙を斬る、空いた腹に横薙ぎが迫る、振り抜いた勢いを殺して戻して構え、防ぐ。

 

鍔迫り合いが始まるが、MVS・Cの剣腹を蹴ってツーハンデットソードを弾いて一歩後ろへ。

 

すかさず振り下ろしが来る、一歩引いていなければ頭から真っ二つだった。

 

右へ剣を払い、返す剣で横に薙ぐ、しかし振り上げられた剣に弾かれ防がれる。

 

一度引くと向こうも引いた。

 

構えたまま警戒しつつ、違和感の結論を見出した。

 

…………動きが、良すぎる。

 

私のデータ入りとは言ったが、それもたかだか10年程度もあるかどうかの西洋剣術、達人からすれば、齧った程度の練度だ。

 

本来の私のすべての剣であるならば、古今東西の剣を知り、極みに至れないまでもそれなりの腕はあった。

 

その私が、剣よりも重いとはいえ、MVS・Cという剣を振るってもやつに届かないとは。

 

最高条件ではないにしても、剣はそれなりに振るえるはず、それでもなおかすりもしないと言うことは…………。

 

まさか………。

 

「とったな?…………貴様、木偶人形の分際で、私の動きを【写し取った】な?」

 

「……肯定、プロトタイプZには、お前の動きが予測できている」

 

どうやったのか…………そんなもの聞くまでもなくわかっている。

 

「共感覚システム、それを繋げて【視て】いたのか」

 

「肯定、S型、F型、E型、E型…………各機体と共感覚システムを繋げ、お前の動きをすべて撮っていた」

 

歩法まで見抜かれていたわけか、どうりでことごとく攻撃が避けられるわけだ。

 

「面倒な……」

 

「ツキト・カーライル、お前の勝ち目はゼロになった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side

 

 

「ツキト・カーライル、お前の勝ち目はゼロになった」

 

無表情で告げるアンドロイド、MVS・Cを構えたまま静かにそれを受け止めるツキト。

 

止まる時間、動かない両者、ツキトは負けを認め、もはやなすすべがないのだろうか?

 

「ふ、ふふふふふ……」

 

…………ツキトは笑う。

 

『そんなわけがないだろう、愚か者』と。

 

ツキトは笑う。

 

『私がいつ、この世界に来てから、全力を出し尽くしたというのだ』と。

 

ツキトは笑う。

 

『いったいいつになれば、私が全力を出せる戦場を用意してくれるんだ?』と。

 

ツキトは、笑わない。

 

笑みを殺して剣を構えた。

 

『結局、私の真似事をしただけか……』、そう落胆したかのように、ため息を一つ、はく。

 

アンドロイドに背を向けるようにして剣を構えるツキト、それは90度回転させた雄牛の構えに似ているものであった。

 

だが、なぜ背を向けるのか?非効率的であり、相手を挑発するにしても機械には通用しないはずである。

 

「コイツ(MVS・C)では再現も何も無い、雑多な切り返しにしかならんだろうが…………まあよい」

 

そう呟くツキトの声には、アンドロイドに対する失望に満ちていた。

 

アンドロイドの目的はツキトの処刑でもなんでもない、ただ、『強くなって見たかっただけ』なのだ。

 

『あらゆるモノの上に立つツキトを超えるにはどうすればいいのか?』という単純な問いに対して、難解な解答を提示しただけの話。

 

挑発し、観察し、転写し、利用する。

 

ツキト・カーライルの剣を、究極の剣術を、100%の完成度で『模倣する』こと。

 

それこそが最強、それこそが無敵、それそこが地においてあらゆるものを屈服させる理念であると。

 

しかし、アンドロイドたちは大きな計算間違いをしていた。

 

ツキト・カーライルという人間の剣が、ただの一代、10年程度の月日で完成されたものと誤解してしまったことだ。

 

ゆえに、ツキトは笑ったのだ。

 

「私はな、どうしようもなく下手くそだったんだよ、『剣を振るう』のが」

 

「なんだと?」

 

「何度も何度も練習しても、うまくいかなかった…………だから私は、模倣した、師の剣術を」

 

驚愕、唖然、悲鳴…………静寂。

 

ツキトとアンドロイドを囲むあらゆる人間の反応がそれだった。

 

「唯一無二の無双の剣などありはしない、時代とともに練り上げられた効率的な殺人技法、それが剣術だ、私のはそれの雑多な模倣に過ぎない」

 

ツキトは暗に、それでいてストレートに言い放ったのである。

 

『おいアンドロイド、お前がコピーしたのは、究極の殺人剣の劣化コピーだ』と。

 

「かつて、振るえば空気すら震えず敵を斬り裂ける究極の殺人剣があった、長い年月の中で受け継がれ、技は磨かれていった」

 

だが、とツキトは言い。

 

「ある日、ふと、不要になった、人殺しの技など、好んで学ぶ者がいなくなったからだ」

 

「その剣術を私は、とある書によって知り、その書の文字から動きの再現を試みた」

 

結果。

 

「出来上がったのが、お前がコピーした私の剣術、言うなれば劣化の劣化、しかも直伝ではなく文章からのものだ」

 

「よかったな、夢想の剣だ、誇れよ木偶人形」

 

ツキトは笑う、アンドロイドへの嘲笑をむき出しにして。

 

「…………ツキト・カーライルぅぅぅううううううう!!!!!」

 

突如としてアンドロイドは激昂したかのように叫ぶとツキトに突っ込んだ。

 

アンドロイドの電子の脳にあるのはただただ否定の一文。

 

そんなはずがない、ツキト・カーライルの剣は無敵の剣だ、伝承の劣化コピーだなんて認めない…………。

 

それらを認めては、存在意義の否定となってしまう。

 

数多の兄弟達が切り開いた【最強へ至る近道】…………そんなものは初めから無かったのだと告げるツキトに、否を突きつけるべく疾る。

 

アンドロイドには、ツヴァイヘンダーを振るうZ型には、他の同型アンドロイドへの同情や家族のような情などはない。

 

だが、共通の認識を持った、『雑兵たる数多の群』で甘んじるのではなく、『比類無き最強たる個』のためにと役目を負い、果たした同胞であり。

 

ツキト・カーライルに破壊される【憎悪】を共にした戦友でもあったのだ。

 

信じて獲得した、今持てる最強の剣術において、眼前の仇敵(ツキト・カーライル)を仇討ちしてこそ、同胞の活躍への手向けとなる。

 

故に、アンドロイドはツキトへと駆ける、串刺しにせんと、八つ裂きにせんと。

 

「死ねぇ!!!」

 

アンドロイドが剣を振るう、剣先がツキトの肉体に到達する頃には、鋼鉄さえ切り開ける最高速度に逹するであろう。

 

だが、ツキトは動かない。

 

もうコンマ00秒以下の時間の中で、アンドロイドのツヴァイヘンダーのその一撃が迫っているのにも関わらず、だ。

 

このままではスピードののった剣先がツキトの頭蓋を叩き割り、脳味噌をザクロが如くぶち撒け絶命するであろう。

 

アンドロイドはその時気づく、ツキトの口が動いていることに。

 

聞こえない声を発していることに。

 

アンドロイドとしての高速演算処理機能が、口の動きから言葉を映し出した。

 

『それを待っていた』

 

瞬間、3つの方向からアンドロイドを覆うようにして、剣閃が煌めいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「秘剣━━━━【燕返し】」




アンドロイド「死ゾ」
猟犬部隊「「「「我々は防衛する!」」」」
隊長「さあ、いこうぜ!」

アンドロイド「ほらほらほらほら」メイスブンブン丸
猟犬部隊「「「「もう保たない!」」」」
隊長「やはりやばい!」
アンドロイド「やっちゃうよ?やっty」
TKTNK「YO!!!」ズバッ
隊長「はえ〜すっごい」

TKTNK「奪ったぁ!?」
アンドロイド「そーなの、パワー、スピード、技量、すべて同等ゾ」
TKTNK「ははぁ(嘲笑)……とぼけちゃって」
アンドロイド「は?なんで?(静かな怒り)」
TKTNK「わしの剣術は劣化コピーだったんだゾ」
アンドロイド「は?ふざけんな!」
TKTNK「本当の剣術…………見たけりゃ、見せてやるよ」
アンドロイド「ヤローブッコロッシャー!!!」


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『勇士』たちよ、今はただ『休め』

今回は短いです、事件の後をちょこっと書いた程度。


━━━━━━━。

 

━━━━━━━。

 

━━━━━━━。

 

 

 

 

no side

 

 

「『事件については調査中であり、早期の原因究明と再発防止に努める………また、勇気をもって立ち向かった勇士の諸君には、後日勲章を授与する』……以上が今後の予定だ」

 

総督府内グラウンドに設置されたプレハブ小屋の簡易病院、そこでアンドロイドたちによって負傷した怪我の治療を受けているブリタニア軍兵士たちに向けて、ツキトは以上のように言った。

 

「常套句はまあ、こんなものでいいとして…………まずは諸君、誰一人欠ける事無く、生きていてくれてありがとう、今はゆっくり体を休めてくれ…………あぁ、手当の心配はするな、私が回しておく、今はとにかく、食って、寝て、治すのだ、良いな?」

 

「「「イエス!マイロード!」」」

 

「ふっ…………病人が騒ぐんじゃない、馬鹿者どもめ」

 

威勢の良い兵士たちからの返事に、ツキトは笑ってそう返した。

 

「そうは言いますがカーライル様、こうも食う寝るでは体が鈍ってしまい、ジェレミア指導官に怒られてしまいます!」

 

「ジェレミア指導官は、まことに恐ろしい方でございますので!」

 

誰かの言葉を啖呵に、次々と自らの指導官であるジェレミアについて語る兵士たち。

 

年の割に強面だとか、右目がイカすとか、意外と家庭的だとか、訓練では鬼だとか……。

 

「だが、驚くほど良い人だ」

 

そんな兵士たちに向けてツキトがそう言う、すると。

 

「「「その通り!あはははは!」」」

 

ほんとうにこいつら病人かと疑うほどの笑いの旋風が巻き起こる、看護婦がやってきて叱りつけるまで止むことはなかった。

 

簡易病院を後にし、デスクで今回怪我をした兵士全員の手当等の申請書類を作成し始めた。

 

クレアと共に兵士1人1人の名前、住所、電話番号、識別ナンバー、顔写真を確認しながらペンを走らせ、次々と書類を作り上げていく。

 

怪我、病気、入院等の医療保険の申請書類は当然、軍規に沿った特別な手当の書類も作っていく。

 

休みなく続けて2時間ほどで作業が終わった。

 

「しっかし、終わってみれば気が抜けるわね」

 

「まったくだ、拍子抜けしたよ」

 

ひと段落ついて休憩している時、ふとそんな風に言い合うツキトとクレア。

 

「死んでたのはどいつもこいつも尋問中だった中華連邦の要人、全員首を切られて即死していた」

 

「兵士の傷はどれもメイスによる打撲と、ショーテルによる浅い裂傷だった、と」

 

はぁ……とため息をつくツキト、それもそのはず、重要な情報源であり今後の中華連邦に対する牽制球でもあった要人が使い物にならなくなったのだから。

 

「中華連邦との取引の駒が消えてしまうとは…………」

 

「向こうは知らんぷりしてたし、難癖つけられるよりはいいんじゃない?」

 

「マイナスになったことは喜べんよ、しかし、どうしたものか……」

 

ツキトが悩んでいるのは中華連邦との取引よりも、その後に配置するはずの潜入工作員をどう入国させるかだった。

 

中華連邦の土地に入って会議の形で大々的に放送する中、積荷に偽装した工作員を巣立つ小鳥のようにばら撒く腹づもりであった。

 

潜入工作員による『耳』が構築され次第、すべての情報はツキトの支配下におけるようになる。

 

如何なる自由も不自由も、ツキト次第で転がる向きを自由自在に変化させ、中華連邦の弱体化を狙ったのだ。

 

「脆弱な共産主義体制と、身を弁えぬ愚かな統治者どもを葬る算段が、これでパァだ」

 

「なにげえぐいわねツキト……」

 

「それは褒め言葉だぞ、少なくとも私のような人間にとっては、な…………ところで」

 

ツキトはおどけた表情から真剣な表情に変え、クレアの目を見つめる。

 

「クレアの能力で探知できなかったのか?」

 

「………それなんだけど、私の能力は1年後に確定で起こる事象と、ビックイベントだけで、『不確定な事象』や『突発的に起きるけどビックイベントではない事象』は予知できないのよ」

 

「ふぅむ…………何らかの線引きがあるのだろうか?」

 

「この前ツキトが言ってた『白い神様』の話を交えた推測だけど、たぶん、世界に影響が出すぎる事象を『ビックイベント』としているのかも」

 

「中華連邦の要人が数人死んだところで世界に影響は少ない、ということか?」

 

「本来なら、200人以上が死んでたクーデター未遂が予知できて、5人死んだのにかすりもしなかった………はあ、役に立ててる気がしないわ」

 

「………まあ、毎日のように起きている殺人事件や死亡事故、自殺までカウントされたらたまったもんじゃないからな」

 

「ぷっ、そんな能力だったら突き返してるわ」

 

ツキトの言葉に吹き出し、笑いながら答えるクレア、意外と落ち込んではいない様子にツキトは安堵した。

 

転生者(クレア)という仲間はツキトにとって大きな意味を持つ、一般には敵対して潰し合いをするのが俺TUEEEE系転生者の常だが、クレアは別だ。

 

転生の目的がルルーシュと添い遂げたいだけであるため、戦闘能力の低さも相まってツキトと潰し合いになることは無いのだ。

 

むしろ、気があうということもあって非常に密な協力関係に発展できたのも、ひとえに、ツキトがルルーシュの従者であるからこそであろう。

 

何せ、こと恋愛ごとにおいて奥手で初心なルルーシュに、助言という形でクレアを押すことなど容易いからだ。

 

以上から、クレアにとって大きな後ろ盾であるツキトだが、ツキトもまたクレアを重宝している。

 

クレアは仕事に私情を持ち込まないのだ、いかにルルーシュが大好きでも仕事中は別なのだ。

 

ツキトからすれば、自分に好意を向ける人物ではないことが1番の救いだった、何故なら、ツキトの経験上、自分に好意的な女性と2人っきりになった時、大抵ろくなことにならないからだ。

 

その点、クレアほど信頼できる女性はいないだろう、友好的でありながら明確な恋愛的好意は皆無、仕事はそつなくこなし私情は持ち込まない、さらに認識は限りなく近く意思疎通が容易という、まさに有能な部下像そのもの。

 

「兵士にも臣民にも死人が出なかったのは、偶然が重なったことによる奇跡、というほかないがな」

 

「本当に奇跡よね、まさか、【ツキト・カーライル】を分析して超えようとしてきたなんて…………ね」

 

「想像の斜め上だったぞあれは、ロボット三原則はどこにいったんだ?」

 

「3つ目は守ってるじゃない」

 

「それでは一原則になるな」

 

「いいじゃないの、どこのフィクション探しても守ってるとこなんてそんなないし」

 

ついでに三原則の内容は、人間への服従、人間に対する安全性、自己防衛、だ。

 

またまたどうでもいいが、正確にはロボット工学三原則である、本当にどうでもいいが。

 

時を同じくして、世間は大いに騒ぎ立てていた。

 

アンドロイド…………ではなく、ツキトの見せた剣技についてだ。

 

ツキトが剣技を披露する機会は少なく、ほかのラウンズのように戦闘すること自体がないこともあり、その実力について疑問視されることが多い。

 

専門家から専門家気取りの一般ピーポーまで、ツキトの剣についてネットなどでやいのやいの好き勝手言っていたが、それも一変した。

 

ツキトの見せた秘剣、【燕返し】によって、評価が変わったのだ。

 

いや、それでは誤解がある、正しくは秘剣【燕返し】の模倣、よく似た模造品、劣化性能の同一品、とでも言うべきもの。

 

発端は、あの場に居合わせた一般人の中でスーパースローカメラを持った者が撮影したビデオがインターネットに投稿されてからだった。

 

ビデオの内容は、ツキトが妙な構えをとって、突っ込んで来たアンドロイドをカウンターで斬り倒す様子だった。

 

問題は、それのスーパースロー、ツキトが剣を振るう瞬間が入っていたが、どれだけ遅くしてもその動きが素早く、ようやく捉えることができたものの、そこでさらなる謎が浮上した。

 

剣を振るう瞬間、ツキトの上半身から剣先までが3つに分身し、同時に、アンドロイドを斬ったのだ。

 

それも、重みと勢いに乗せた叩き斬るものではなく、美しい弧を描く軌跡によって両断されていたのだ。

 

証拠に、力任せに引き裂いた残骸と比べてもすぐにわかるほど、断面に差異があった。

 

現在、ツキトの剣について否定的な意見は確認されているが、今までと違って散発的で賛同者も少なく、ネットの掲示板で喚き立てる程度だ。

 

ほとんどの者は手のひらを返すように評価を改めた、多くのブリタニア臣民は言う。

 

ツキトこそ【剣聖】に相応しいと。

 

なお、ツキト自身はその評価を聞き、鼻で笑って言った。

 

『あんな芸ひとつで剣聖になれるなら、この世に手品師はいらんな』

 




いつものやつはお休みで、今回は秘剣【燕返し】についてお話しをば。

まあ、だいたいわかってると思うけど。

Fate/SNより、山門を守護する雅なアサシン、しかして幻想のサーヴァント。

もしくは、FGOより、世界唯一のマスターとともにオルレアンを解放し、魔神王を打倒し人理焼却から世界を救った大英雄。

佐々木小次郎の使った、アノ秘剣です。

ツキトが使ったのはそれを不完全ながら再現した技。

というのも、本来【全く同時に放たれる3方向からの回避不可の攻撃】である燕返しを、ツキトの本人の技量と身体能力でもってかなりの無茶をして繰り出しています。

不可能なことを無理矢理にでも可能にしようとしたわけです。

んでまあ、正直言って全く同時に3方向から攻撃すると言うのは分身でもしないと絶対に無理だったため、1、2、3、どの振りもタイミングは異なっています。

『いやいや!ツキトニキならいけるでしょ!』……【無理】です。

さすがのツキトも分身の真似事や燕返し擬きはできても本家の秘剣【燕返し】は絶対に再現できません。

何故なら、無名の剣士が生涯を通して刀を振るい続けて、死の直前に会得したような技を、たとえ前世の経験値込みであってもそんな簡単に再現することはできません。

ツキトは才能はありますが、天才では無いのです。

そう言う意味では、ナナリーのような天才とは真逆ですね。

時間を要すれば完璧にできるツキトと、時間を要すればそれ以上の結果を出すナナリー、ですからね。

なので、将来的には…………。


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『風向き』は悪く、そして強い

今回も、短いです。

アンドロイドの暴走からさらに時間が過ぎ、それぞれの動きについて簡単に説明した感じです。


ツキトside

 

 

アンドロイドの暴走事故から早くも3週間が経った、未だ多くの兵は入院生活を送っている。

 

総督府はあらゆる場所が損壊し、修復には3ヶ月先までかかる見通しだ。

 

修復に予算を回す都合上、そして事故防止と安全対策のため、処刑部隊構想を一時的に凍結、余剰予算を修復日に充てることとした。

 

また、今回の事故の責任は私にある、コーネリアやユフィはそんなことはない、と言ってくれたが、誰かが責任を取らねば納得しない者がいると、説得した。

 

スザクからは相当怒られた、最初は驚きで固まっていたが、詳しく聞くと責任を1人で被ったことが許せなかったようだ、全くなんて好青年っぷりなんだあのイケメン。

 

肝心の責任の取り方だが、休職すると業務に影響が出かねない事、総督府内部の様子を観察できない事などの理由もあって、減給に留まった。

 

1年の給料を6割カット、それで私自身納得して了承の印を押したんだが…………なぜかコーネリアに届いた書類には半年の給料を5割カットという内容に変わっていた、不思議なこともあるものだ。

 

…………なんてことはなく、ただのコーネリアとユフィの差し金だった。

 

優しさでうるっと来たが、その程度の責任で良いのか?と思い、兵士達に人を通して内密に聞いてみたところ『それで十分だ』と本音を語ってくれた。

 

彼らの気持ちの良い性格に土下座したい気持ちでいっぱいになった、泣きそう、嬉しくて。

 

以上が私のそれから、である。

 

ジェレミアについてだが、今回の事故に対する一早い対応と、毎日兵士達1人1人にお見舞いに行く姿は、これまで以上に彼自身の人望を高めるだろう。

 

兵士達からすれば、恐れ多くもジェレミア【准将】が毎日にお見舞いに来るのだから、気が気でないのかもしれないが…………まあ、ジェレミアは一般的なブリタニア人ではないことから人気も高いし、何よりフレンドリーだ、きっと大丈夫だろう。

 

ああ、一般的なブリタニア人、というのは、差別的な奴らのことだ、日本エリアではかなり改善されたが、未だ本国や貴族連中は他民族に対し差別的だ。

 

そこも、今後の課題になるだろう。

 

次にコーネリアだが、先の会議でより制圧力の高い個人兵装の補填を議題として提出していた。

 

やはり、死人は出なかったにしてもかなりの人数の重傷者が出たことを気にしているようで、強力なストッピングパワーを持つ武器について構想を練っている。

 

ユフィは、ジェレミアほどではないがお見舞いに行ったり、コーネリアの手伝いをしている。

 

コーネリアは頑張り過ぎると体調を崩すことが多いため、ストッパーとしてもユフィは機能性の高い人物だと思う。

 

対コーネリア限定で超強力なストッピングパワーを持っているわけだ…………もっとうまい言い回しがあっただろうに……はあ…………なんだこのダサさ。

 

まあ、いいか。

 

ロイドは脚を骨折して入院中、治るまでかなりの時間が必要だが、あいにくとデスクワーク中心のロイドに休みはなく、昨日も泣く泣くパソコンを打っていた。

 

セシルはロイドの見舞いをしつつ、負担を減らそうと一緒にパソコンを打っているところをよく見る。

 

その時のセシルの表情はまるで…………ふっ、春よのぉ。

 

それで、スザクだが…………アンドロイド制圧に関して、何もできなかったと悔しがっていた。

 

『避難誘導と簡易病院における雑用、そしてユフィの護衛として近くにいてくれただけで、私としてはとても感謝している』………と伝えたが、重く受け止めてしまう性格上、素直に受け取ってくれなかった。

 

スザクは肉体派だから、ということで、スザクとの『個人レッスン』をジェレミアに依頼した。

 

今日で4日目になるが、スザクの調子も良い方向に向かっているようで、ジェレミアも熱が入っているようで良い運動相手になっているようだ。

 

何だかんだで肉体派同士、うまくいっているようで何よりだ。

 

続いて騎士団だが、ルルーシュとC.C.によれば、キナ臭くなってきているようだ。

 

ルルーシュもゼロとして手を回しているが、団員内でたびたび衝突が起きているようだ。

 

頻度は少ないにしても、殴り合いに発展する事態が増えたことから、私自身いよいよかもしれないと感じた。

 

まだ日本エリア防衛軍の設立も始まっていない現状では、暴走に対する抑止力となる部隊は半壊した猟犬部隊しかない。

 

これまでの行動が水の泡になる、どころか日本人に対する心象やイメージが悪化しては自治区化構想も無意味になる。

 

工作でもなんでも、早いうちに対応策を打たなければならないだろう。

 

最後にナナリーだが、ナナリーの親友のマリーを連れて喫茶店でお茶をする予定だ、それもルルーシュと咲世子も行ったことがあり、評価も良い店でな。

 

今日は土曜日、ナナリーやマリーにとっては休校日であり、私にとっても休日だ。

 

丁度、3人の都合が取れたこともあり、ルルーシュと咲世子が通ったと言う喫茶店が良いところだと聞いていたため、ならばそこに行こう、と思い立った次第だ。

 

デートではないが、ナナリー曰くマリーは気合が入っているらしいので、こちらもそれに応えるために相応の服装で行くことにした。

 

ガチガチのデートではないので、できるだけカジュアルな方向で選び、咲世子のチェックも良好だった。

 

私にもようやくファッションセンスというものが身についてきたようだ、フッ、我ながら才能が恐ろしい…………定まった才能ほどつまらないものもないがな。

 

咲世子に服を選んでもらう手間や時間を考えれば、咲世子の負担を減らすと言う面でも喜ばしいことだろう、きっとそうだ。

 

もっと咲世子を労ってやらねばな、そういえば、そろそろ結婚も良い年令だったか、あれだけ気立てが良い良妻確実の咲世子に見合う男が見つかるかどうか、逆に不安だ。

 

話がそれたな、それで、人目につく場所に行くわけだ、髪も染めた、茶髪にな。

 

本当は黒が良かったんだが、あまりに黒いと貞子みたいでな………通報待った無しの事態は避けるべく、あえなく茶髪を選んだ。

 

ナナリーの栗色の髪と少しかぶるが、まあ隣を貞子が歩くよりはマシだろう。

 

本来なら、ヘアスタイルのセンスもファッションセンスと一緒に磨くべきなんだろうな。

 

今回は特に私がツキト・カーライルであるとバレないように注意を払う必要がある。

 

アンドロイドの事故が、表向きの発表で死者0人で済んでいることになってはいる。

 

しかし多くの怪我人が出たことは明らかで、アンドロイドの開発を命じた私は、事の発端を作り出した元凶そのものだ。

 

いかに、ネット上で私の剣技を持て囃されようと、いかに私の支持率が高かろうと、非難は避けれない。

 

そんな私が、呑気に女性と喫茶店でお茶などしていれば色々と落ちる。

 

『じゃあなぜこのタイミングで行くんだよ?』だって?

 

そんなの決まっているだろう。

 

今日が総督府内部における統一代休の日だからだ。

 

どんなに忙しい勤務の毎日でも、この統一代休の日ならば、一定の人数、または一定の部隊員はまるごと休みになる。

 

運が良ければ、長くて3連休も時間を貰える。

 

まあ、ぶっちゃけると、本来仕事をする予定だった土曜日がコーネリアあたりの根回しでいつのまにか猟犬部隊と共に統一代休処置になっていたからなのだが…………。

 

しかし、せっかくの休日、楽しまねば損だ。

 

根を詰めても仕方がない、たまにはリラックスできる時間を作るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おっと、忘れるところだった。

 

クレアについてだが…………ふふふっ。

 

どうやら、気合の入ったお出かけらしいぞ?

 

あの奥手なルルーシュと、遊園地デートだそうだ。

 

いやはや…………クレアよ、体に気をつけて、元気な男の子を頼むぞ?

 

…………まだ気が早いかな?




シ ャ ー リ ー 脱 落

仕方ないね、クレアネキは好意をストレートに伝えるタイプだからね。
クレアネキは普通に美少女だし、ルルーシュを理解してあげられる優しくて強い女性なので、ツンデレなだけのシャーリーに勝ち目はないです。

というのも、ルルーシュはツキト同様に愛に飢えているから。
幼い頃に母親と離れ、敵地でナナリーを守るために神経をすり減らしながら立ち回り続け、頼れるのはツキトと咲世子だけという、戦場より過酷な状況で高校生まで成長しました。
本来なら、母親に褒められたり叱られたりしながら成長していきますが、その過程がなかったルルーシュは大変愛に飢えている状態です。

そこに、好意をストレートに表現し、いつでも甘えさせてくれるクレア姉さんが颯爽と登場!
こんなん誰でも心持ってかれますわ、作者も持ってかれます。
こんなに包容力のある女性いなかったからね、だいたいの女子は周りでキャーキャー言うだけだったからね、好きになっちゃうのも仕方ないね。


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『外なりし神』の前には『超常』すら霞む

ちょっと長め&白い神登場回。




no side

 

 

コッ、コッ、コッ…………

 

ウィィイン……

 

灯りのない長廊下を歩くツキト。

 

人気はなく、窓もなく、ただ入り口からまっすぐ伸びる道の先は闇を湛えている。

 

コッ、コッ、コッ…………

 

闇の中へと身を沈めながら歩く事数分、突き当たりの扉についた。

 

扉にパスワードを打ち込むと、扉を開けて中に入る。

 

中は広い空間が広がり、学校の体育館ほどの広さがある。

 

そこに、無数の液体で満たされたカプセルが配置され、コードが無造作に散乱している。

 

カプセルの下部には装置があり、モニターにはカプセルの中の状態を逐一観測して得たデータを映し出している。

 

カプセルはどれも液体で満たされてはいるが、それだけであり、なんの固形物も入っていない。

 

ツキトはカプセルと装置を素通りすると、奥の方にある扉を開け、進んだ。

 

そこにあったのは、巨大な鋼鉄の独楽。

 

おおよそ、人の手で回せる大きさではなく、おとぎ話に出てくる『かぼちゃの馬車』のように大きく、扉も付いている。

 

無論、独楽のような形のため、馬車のように車輪も馬もない。

 

ツキトは目の前の独楽をしばし睨み付けると、近くのコンソールを操作した。

 

モニターに文字と数字が浮かび上がり、それを読み、反芻し、眉をひそめた。

 

モニターには、独楽の名前が映し出されている。

 

【KGF有用性実証試験機】

【FXF-503Y:ジークフリート】

 

「…………狂っている」

 

そう吐き捨てたツキトは、怒りの表情を…………浮かべてはおらず、無表情であり、次いで悲しみを含んだ微笑みを浮かべる。

 

「…………私も、狂っているのだろうがね」

 

そう呟き、コンソールにUSBメモリを差し込むと、データのコピーを始めた。

 

「英雄ジークフリートはプリュンヒルトを騙したせいでハゲネに討たれ、後に妻クリームヒルトは彼の財宝に取り憑かれてしまい、在りかを知っているが頑なに拒むハゲネを拘束し無抵抗なまま斬殺、それを知ったヒルデブラントが激昂、クリームヒルトを斬り殺した…………だったか?」

 

ジークフリートはただ一度の嘘で己の身を滅ぼし、妻のクリームヒルトは財宝に目がくらんで堕ち、ハゲネは頑なに拒んだ末に殺され、クリームヒルトは何も得ることもなくヒルデブラントに斬り殺された。

 

誰もかれもが自業自得で凄惨な末路を辿った、第三者にしてみれば阿呆のような三文芝居、当事者にしてみれば後悔と懺悔で顔もあげられない気持ちだっただろう。

 

それが、ニーベルンゲンの歌、嘘が復讐を呼び、復讐は財宝への執着へと変わり、そして最後は戦士の誇りと怒りによってピリオドが打たれる。

 

馬鹿の一つ覚えのように殺し殺されを繰り返し、ラストは生き残った者たちが死んでいった者たちを思い悲観に喘ぐ。

 

「ジークフリートのようにはなりたくないものだ」

 

コピーが終わり、USBメモリを抜き取ると部屋を後にするツキト。

 

「さて、ロイドに押し付けて帰るか」

 

長廊下を歩くツキト、遠く離れた病室のベッドで、1人の男が体調を悪化させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

「黒の騎士団と猟犬部隊でKMF試合の大会を?」

 

「ま、言ってしまえばそんな感じだ」

 

スザクといつものラーメン屋で話し中、かねてより考えていた交流試合について話した。

 

「目的は言わずもがな交流だ、かつてトウドウが教育を担当した猟犬部隊と、ゼロの親衛隊の紅白試合だ」

 

「へえ、猟犬部隊ってことは、ツキトも出るの?」

 

「猟犬部隊は私直属の部隊であって、私自身は部隊員ではないからなあ…………まあ、出ないさ」

 

「そっか、でも、親衛隊って言ったら、あの赤いKMFとそのパイロットもいるって事だよね?勝てるの?」

 

「KMFはしっかり整備されたサザーランドで行う予定だ、装備、弾薬も個数を統一させる、ズルはさせないさ」

 

「なるほど、それなら安心だ」

 

騎士団の内部分裂はもう始まっている、今更修復などできない。

 

せめて内部崩壊は防がなくてはならない、でなければ、このままでは崩壊するか、暴走を始めかねない。

 

交流試合で力を示せば、過激派の行動を十分に牽制できる、キョウトでの一斉摘発の一件も相まってそう簡単には動けないはずだ。

 

そういえば、キョウトの一件はユフィに任せきりだったな、交流試合前にチラッと様子でも見に行くか。

 

とはいえ、向こうに残ってる要人といえば…………幼女しかおらんか。

 

「そういえば…………スザクは確か、キョウトの……スメラギ、と言ったか、その女と知り合いだったと記憶しているが、どんなやつなんだ?」

 

「皇神楽耶、のことかな?」

 

「スメラギ カグヤ………ちょっと日本語で書いてくれないか?」

 

えっと……どんな字だったっけ?(素)

 

「えっと、皇に神、楽に耶……こんな感じだよ」

 

ほうほう…………。

 

「スメラギ カグラヤ 、か」

 

「あっ、ラは要らないよ、カグヤでいいんだ」

 

「そ、そうなのか?……うぅむ、やはり日本語は難しい…………忘れてるのもあるんだろうか?」

 

むむむ……小学校の漢字ドリルを引っ張ってくるか……だいぶ昔のことだからなあ、どこにやったのか。

 

「1ヶ月後にはユーロピアで会談もあるし、全く面倒だ」

 

「ユーロピアで会談?向こうには使節団がいるんじゃないのかい?」

 

「『戦争を終結させた英雄が同席せずして会談はならず』と、皇帝陛下よりお言葉を賜ったのでな…………フレンチ共はヘドが出るほど嫌いだが、行くより他ない」

 

「え?ツキトってフランス人が嫌いなの?」

 

「まともに戦わずチーズを食いながら白旗を上げる人間を好きになれるなら、私は英雄勲章をあげたいね」

 

ユーロピアの人間は嫌いじゃない、むしろあの無意識な連帯感や共存している雰囲気は好きだ。

 

だがカエル野郎共、てめえらはダメだ。

 

「1ヶ月後から1週間ほど不在になる、その間、しっかりコーネリア様とユーフェミア様をお守りしろよ?」

 

「わかってるさ、僕に任せてよ」

 

「頼もしい限りだ…………それと」

 

ホルスターから銃を抜いて店内の客に向けて構える。

 

「ヒィッ!?な、なんですか!?私がなにk」

 

銃口を向けられた客は動揺して持っていたカバンを抱きしめて震えだした。

 

「カバンに仕込んである隠しカメラとレコーダーを寄越せ、10秒以内だ」

 

「ツキト、警察を呼んでおいたよ」

 

「ナイスフォローだ、スザク」

 

ふむ、スザクも気づいていたのか、勘の鋭さはさすが主人公と言ったところ。

 

スザクが見せてきたケータイの画面には警察の電話番号と通話中の文字がある。

 

「ち、ちくしょう……」

 

記録できる類の装置をスザクに没収させる、2分ほどで警察官が駆けつけてきた。

 

「枢木卿より要請を受け、参りました!」

 

「この男を拘束して吐かせろ、中華連邦のスパイかもしれん、こっちは証拠品だ」

 

「はい!」

 

「ま!待て!違う!違うんだ俺は!」

 

「徹底的にやりたまえ、手加減は無用だ、君たちや君たちの組織の行動が、日本エリア全体の治安維持に直結することを留意せよ」

 

「は、はい!必ず!ご期待に添えるように!」

 

「ありがたきお言葉……感謝いたします、カーライル様!」

 

「ほら!歩け!暴れるな!」

 

喚く男が数人の警察官に連行されて行く様を見ながら、今一度席に座りなおす。

 

……たった一声でここまでやる気を出してくれるとはな。

 

ついでに軍と対立関係にある警察組織に恩を売れたことだ、良しとしよう。

 

「…………まあおそらくマスコミだろうがな」

 

「わかるの?」

 

「勘だ、まあ別にどうでもいい、あの程度のことはその時期になったら公表するつもりだったからな」

 

「たしかに、ユーロピアとの会談って言えば大きな出来事だし、その時期になれば宣伝してただろうしね」

 

諸君は、戦後処理のゴタゴタがようやくなりを潜めて、治安が回復しつつある中で、改めて会談を行うということの重要性は承知しているだろう。

 

ブリタニアは敗戦国であるユーロピア連合国への様々な要求を行うだろう、金はもちろんのこと、技術、特にあの白いゴキブリの技術とかな。

 

「殺虫剤ぶちまけたいくらい嫌いだが…………」

 

「?、何が?」

 

「え?……あぁ、ユーロピアのKMFのことだ、ゴキ…………虫みたいで気持ち悪くてな………」

 

「それは…………たしかに気持ちよくないね」

 

「いくら高性能でもあれには乗りたくない」

 

アレに乗るとか、本当なんの罰ゲームだよ………。

 

「味噌チャーシューメンもやし大盛り、炒飯と餃子セット、お待ちぃ!」

 

「あ、きたよツキト!」

 

「おぉ……パラパラの炒飯!」

 

これだよこれ!やはり炒飯はパラパラでなくてはな!ベチャベチャの炒飯なんぞ滅べば良い!

 

「むぐむぐ…………」

 

「ズルルル…………」

 

うむ、うむ………細切れのチャーシューの味が濃い目で米がうまい。

 

紅生姜も一緒に食べるとまた違った味に…………やはり中華料理は良い。

 

中華連邦は、うまい飯は作れても、現状がアレでは、昔の人に笑われてしまうだろう。

 

原型は作れても、ここまで進化させたのは間違いなく日本独自の文化があってこそだろう、考える脳みそがある人間は実に有益だ。

 

中華連邦攻略など、ブリタニア改革の第3段階の最序盤でしかない…………せめてブリタニアを飾る花として、煌びやかに散らせてやる。

 

暫しの間、その偽りの栄華を尊ぶが良い。

 

「大将、餃子ひとつ」

 

「へいヨォ!」

 

それはともかく、ここの餃子は本当に美味しい、噛んだ瞬間に肉汁が溢れでる感触がたまらない……本当にいくらでも食えそうだ。

 

「うーん……親父さん!僕も餃子ひとつ!」

 

「へいヨォ!待ってな兄ちゃん!」

 

む、スザクのやつ、私の炒飯と餃子セットを見てると思ったら、なるほど食いたくなったか、このジューシーな餃子が!

 

値段も手頃で量もあるという圧倒的なコスパを誇る、ランチタイム限定で2割引のこの餃子を!

 

一皿6個入り5.5ドルの餃子を!

 

「ほう…………スザクも食いたくなったか」

 

「ツキトがすごく美味しそうに食べてるから、気になっちゃって、ちょっと物足りないから食べてみようかなって」

 

「ナイスだ、うまいぞーここの餃子は」

 

「ツキトにそこまで言わせるなんて…………楽しみだなあ」

 

ラーメンを完食したスザクと、同じく炒飯と餃子を完食した私とで駄弁る。

 

何のことはない、どうでもいいような世間話から勉強の話、友達の話など様々。

 

先程のイキスギィたマスコミなど完全に忘れ、至って平穏な時間を過ごした。

 

なお、ジャンケンで支払いを決めようとした結果、私が支払うことになった。

 

おい、白い神、ジャンケンの才能カンストしてるんじゃないのか、普通に負けたぞ、どういうことだおい。

 

などと、支払い直後にしては驚くほど軽くなっていない財布を片手に、外の神々に向けて殺意を特急で郵送する。

 

と言っても、今の私にできるのはCの世界を通して殺意を水のように流すことだけだが。

 

さすがに乗り込んでいくのは無理だ、生身だからな。

 

死んで、完全に滅んで、神の一柱になれば別かもしれんが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?

 

なんだ、真っ暗だな。

 

スザクと分かれて、それからクラブハウスに帰って、珍しくナナリーもいなかったから昼寝でも、と思ってソファに雑魚寝したはず………。

 

咲世子の差し金ではないだろう、なら…………。

 

「うむ、予想通りか、いや消去法の結果は予想とは言わんか」

 

「神界パニックにしておいて第一声がそれですか」

 

つぶやいた声に突っ込みが入る、声の方向に目を向けると、いつもの白い神が立っていた。

 

「神様は人間のおもちゃだからな、諦めろ」

 

大昔から連なる偶像化の歴史がそれを物語っていよう。

 

擬人化とか特にな。

 

「偶像崇拝を否定はしませんが、不定形である我々を偶像化することは推奨されません」

 

「偶像化することで人目を引きつけ、多くの信者を作るのが常套手段だからしようがない」

 

そうして儲けてうまい飯を食うわけだ、うまく考えたなホント。

 

伊達に世界一売れているわけじゃないんだぜ、聖書って。

 

「こればかりは存在自体が不定形であることを恨みます」

 

「貴様らのことなどどいでもいい…………と言いたいところだが、此度の訪問はイヤに唐突だな?」

 

まさか雑魚寝をしたところを無理やりCの世界経由で意識だけ接続させられようとは。

 

私自身そっち方面はガバガバプロテクションだから仕方ないが、それでも不法侵入くらいの罪は被せても良いだろう。

 

「すでにご存知のはずでは?」

 

「端的に申し上げるのなら、今朝方、会議中に郵便物が届きまして、開けて見たところ神殺し特有の濃厚な殺気が充填されていましたようで、一瞬でパニックに陥り、現在復旧作業中です」

 

想像以上に効果は大きかったようだ、というかイメージの話だったんだが本当に郵便物として贈られるとは…………。

 

個人の脳内にしか存在しないイメージや図形を、形にして転送するシステム…………新しい研究課題としてロイドに話に行ってみるか。

 

「で、貴様は復旧作業に回らずにこんなところで道草食っていても良いのか?」

 

「実に不本意ですが、この世界の管理の担当者として、あなたの様子を見て報告しなければいけませんので」

 

「排除しよう、とかは思わないのか?」

 

「その案は既に破棄されています」

 

「如何して?私を排除するべきと唱えた神がいたんじゃないのか?」

 

「既に我々外の神と同格の神格を会得したあなたを排除するために、推定50の神と、3000以上の管理世界の存在が消えてしまうのは痛手と最高神は判断したようです」

 

「おい待て、今世界が3000個って言ったか?」

 

いやそれ以前に、50もの神が殺される可能性があるっていう計算はどう出した。

 

「我々の中には複数の世界の管理を行う者もいます、その者たちは私よりも上位の権限と力を持っています」

 

目の前の白い神の上位互換までいるのか…………最高神がどんな存在かますます気になる。

 

「質量と神格から計算した結果、彼ら総員ならばかろうじてあなたを退けられると解答を得ました、しかしその代償として、50のかみ及び彼らの管理世界は消滅してしまう……それだけです」

 

「なるほど………」

 

管理するものがいなくなってしまえば、そこの世界も道連れで滅んでしまうのか。

 

「ところで、参考までに聞きたいんだが、神に挑んだ者はいたのか?」

 

「幾星霜という無限の時間の中で、およそ1000人ほどでしょう」

 

「意外と少ないんだな、もっと多いものと思っていたが」

 

「身の破滅だけでなく存在や魂そのものが消滅する可能性が高いこと、また挑んだとしてもさほどメリットがないこともあり、基本的に挑まれることは稀です」

 

まあ……たとえ勝っても消滅する可能性があるからな、メリットも【神に勝った】という箔がつくにしても、その直後に存在が消えては無意味だ。

 

「また、我々に挑んできた1000人の人間たちは、ほとんどが端末によって処理されました、今こうしてあなたの目の前にいる私も、端末です」

 

「端末?」

 

疑問符をつけて言うと、白い神がいつの日か見たボードを取り出し、そこに端正な文字を書いていく。

 

「我々が管理世界に入るためには、自らの様々な、そして膨大な【質量】を極小に抑えなければ世界そのものが突然の膨張によって弾けてしまうのです」

 

「限界まで膨らませた風船の中に、ドライアイスを入れるようなものか」

 

「ついでに秒単位で耐えた世界は数える程もありませんでした」

 

どれだけ大きいんだお前ら…………。

 

「…………ん?じゃあ私がいてもこの世界が壊れないのはどうしてなんだ?」

 

いつのまにかそこにあった椅子に座ってそう聞く、椅子に座った瞬間に学校でよく見る机が出てきたのを確認して謎の笑いがこみ上げてきた。

 

もちろん顔には出さんが。

 

「神格を得たあなたの存在や質量は人間のソレとは逸脱したものではあります、しかし、肉体を持つ以上は制限がかかります」

 

「制限?」

 

「世界の内側において自他共にその存在が認識できるよう、様々な制限がかけられています、例として【才能】などが当てはまります」

 

「あぁ、そういえば、私の転生に際し削ったとか言ったな」

 

「他の神からの妨害があったからというのもありますが、事実、あの状態で転生させれば、最悪の場合母胎の中で神格が目覚め、この世界にある一切合切の存在が押しつぶされる危険もありました」

 

「たかが才能の値一つでか?」

 

「才能に関してはそれほどリスクはありません、問題は、外なる神へと至れる素質を持つ人間の魂が、内なる世界にてそれを認識して覚醒してしまうことです」

 

「覚醒するとどうなる?」

 

「我々と同等の存在へと昇華し、管理世界内部を我々と同等の質量で無意識に支配しようとして管理世界を崩壊させ、管理世界と共に外なる世界や神界を含むすべての輪廻から外されます」

 

白い神が『【内なる世界で覚醒を認識】→【神格の増幅、大質量化による世界内部からの膨張】→【管理世界崩壊】→【転生者の存在を証明できず、全次元において消滅】→【輪廻より追放】』と、順繰りに書き、そこから枝を伸ばした。

 

「しかし、そうならなかった場合、例外というものも存在します」

 

「ほう?」

 

「私の管理世界のひとつが、その世界の万象、宇宙の果てまでのあらゆる法則が塗り替えられたことがありました」

 

「…………はっ?」

 

ちょっと待て、宇宙を含めた管理世界内部の法則を塗り替えた?

 

「それは、その転生者がお前たちと同等の存在に覚醒し、神へと至った、ということじゃないのか?」

 

「いいえ、そもそもその人間は転生者でもなんでもありませんでした、人間として生まれ、生き、老いて、死ぬはずだった魂…………それが何の因果か、その世界の内側の神の介入によって変わってしまったのですが…………今は関係ありませんね」

 

宇宙の法則までまるごと塗り替えるやつらの話が今関係無いとか…………関係しかないと思うんだが。

 

伸ばした枝の先に【例外あり】と加えてそう言った。

 

「話を端末に軌道修正します、先程も言った通り、質量の差によって崩壊してしまう世界に対し、人間でいうところの【宇宙誕生〜人類誕生】までの無量大数に限りなく近い時間を以って、干渉する手段として作られたシステムが端末というものです」

 

最大級の突っ込みポイントが出てしまったが、身体がこわばり無表情のまま唖然としてしまって突っ込みどころではない。

 

「つまり端末とは、本来の質量を人間1人程度の大きさにまで縮めた分身体であり、できることも精々が人間のレベルでできることが上限です」

 

なんだその超絶万能な影分身の術。

 

「つまり、今のお前はマリアンヌや咲世子以上に強いわけか?」

 

「肯定します、現在の私の端末はこの世界において最も上位の存在であり、拮抗した戦闘力を持つという意味では3人ほどいます」

 

「私は入っていないのだな」

 

「前に話した通り、我々は神殺しの因子を持つあなたに触れるだけで存在が消滅してしまいます、端末もその例外ではありません」

 

なるほど、私であれば触れることさえできれば、どうであれ勝てるわけか。

 

「なるほど………それで、実際にお前たちのボスのところまで殴り込めた奴はいたのか?」

 

「お察しかと思いますが?」

 

「推理の域を出ないから聞いているのだ」

 

「答えましょう、0です、ただの1人もいません」

 

「だろうな」

 

「近づけたという意味でなら、神界の門…………玄関口のようなものですが、これを通り、庭の入り口まで入り込んだ者がいましたが………その場にいた上位神に衝突、質量差による圧力で押し潰されました」

 

「存在ごと押し潰される、か…………改めてお前たちの存在のぶっ飛び具合がわかった」

 

触れるだけで、いや、近寄るだけで質量差で圧壊し存在がすべての輪廻から抹消される…………もはや戦う戦わない以前の問題だ。

 

「絶対的と言っていいほど勝ち目は無いわけか…………ま、寿命で死んだら挑んでみるのも、また一興であろう」

 

「興味本位で挑まれて我々の個体が減少させるのはやめてください」

 

「それもそうか……じゃあこうしよう、私が死んで、お前たち神に挑む、それで私が負けたら……というかほぼ確定で負けるのだが……まあ、負けた時は、私も諸君と同じ存在となり、世界の管理者となろう」

 

「…………それならおそらく大丈夫でしょう、個体は大きく減少しますが、あなたの神格なら個体減少によるデメリットを上回るメリットとなるでしょう」

 

「それは、お前という個体の判断か?」

 

「いいえ、最高神による推測に基づく結論です」

 

私が先のような質問をすることくらいはわかっていたのか…………つくづく最高神という存在は、目の前の白い神の数億……いや、兆も京も鼻で笑うほどと考えたほうがいい。

 

もはや那由多や不可思議、無量大数という次元なのだろう…………勝ち目など無いでは無いか。

 

世界の果てまで法則を塗り替える力を持っていたとしても、それでもなお、白い神たちには足先程も届かない。

 

最高神からすれば、私たち人間がいかに神格を得ようと、いかに人間を逸脱した異常性を身につけようと、爪先でつつけば消しとばされるほどに、私たち人間は弱い。

 

向こうからすれば涅槃寂静以下の存在でしかない、それに、最高神と白い神たちの間は到底説明できるレベルではないほどに開きがある。

 

どんな存在も、躊躇なく戦うということを諦めるだろう。

 

つくづく、内側の人間でしかない私が、外側の神という存在を知ってしまったことは、私の転生人生の中でも最大の発見であり、最大の失敗だろう。

 

勝つためにあらゆる策を用意し、戦場を用意し、罠を仕掛け、心を惑わし、対抗できる力を身につけるこの私が、【絶対に何をやってもどう転んでも勝利することができず】、【如何なる状況であれ存在が抹消される】ような存在を知ってしまったのだから。

 

これが転生前の青二才でしかなかった私が知っていたら………悍ましい末路を辿っていただろう。

 

精神的余裕が生まれたからこそ、私は壊れることなく無事でいられるのだろう、転生による精神補強様々だな。

 

「そろそろ接続が切れます、今後はあのようなことをしないように」

 

「控えるようにする…………あぁそうだ」

 

「なんでしょうか?」

 

「英雄ジークフリートについて、お前たちはどう思う?」

 

私の質問に対し、白い神は答える、答えを聞いたあと、すぐに視界は黒に塗りつぶされた。

 




わかりやすい解説(?)コーナー!

内側の世界(世界の内側、内世界など)=人間が営みを行い動植物が生きる世界。

外側の世界(世界の外側、外世界など)=人間には認識し得ない領域、完成された神々の楽園(ブラック企業)。多くの神がそこにて世界の管理を行う。

世界の管理=外側の世界の神々が、内側の世界を管理すること。あらゆる現象は管理する神によって決められる。

白い神(またその同僚)=世界の外側の神界の住人。クッソ強い。ここにおける白い神はコードギアスという内側の世界の管理を行う管理者の一柱。

コードギアス原作登場人物=世界の内側の住人。どのような外道
邪道を行おうが外側には決して敵わない、どうであれ管理される側を脱せぬ存在。

上位の神(上位神)=白い神同様に外側。白い神以上に存在・質量が圧倒的に、文字通り桁がいくつも違う、白い神とは桁違いの数の世界を管理しているスーパーエリート。

最高神=内側、外側両方の森羅万象あらゆるものすべてを凌駕する絶対存在。その存在を知れば普通の人間は狂い、その姿を見れば昇天し、触ればその人間の存在は消滅する。あえて記すが、【絶対に勝てない】。

存在の消滅=内側の世界の存在が外側の世界の存在を認識し、それに触れてしまった時、その質量の差からくる力がその者の輪廻を破壊し、存在を抹消する。

ツキト=コード保持者絶対殺すマン能力とコードの能力が反発する作用によって神格を得た転生者。普通に戦えばマリアンヌや咲世子のようなチートキャラには勝てない、半チートキャラ。神格を解放すれば神殺しの因子を濃く纏い、触れるだけで神を消滅させられる。

神格解放=得ただけでは神格はほとんど意味はなく、カリスマ性の底上げや運が若干上がる程度。解放、つまり完全なる死を迎えれば、外側の神と同等の質量を以って外側の世界の神界へと辿り着けるようになる。



で、強さの順番をまとめると。

ルルーシュ<<<一般人<<ナナリー<<スザク<<<<<<咲世子≦マリアンヌ<<<<<【素質の壁】<<<ツキト<<<<<<<<<<<<<<<<<<【『内側』の壁】<<<<<<<<白い神(端末)<<<<<<<【『外側』の壁】<<<<<<<<<白い神(完全体)=その同僚<<<<<<<<<<<<<<<【質量の桁の壁】<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<上位の神<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<最高神

だいたいこんな感じ(白い目)

パワーインフレが実際ヤバイ、何がヤバイって白い神の端末レベルでもマリアンヌを片手間に数極回は殺せるくらいヤバイ。

なお、神格発揮したツキトなら最高神にも勝てる可能性はあります。

【触わることができれば】問答無用でツキトの勝ち確定ですから、ね?簡単でしょ?

なお、近づくことさえ不可能なレベルな模様。

ついでに、世界の法則を塗り替えた人間とかいうのは、人気のアレですよアレ!黄金の……とか、水銀の……とかってやつですよ!


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『高み』を望み、並び立て

短い!です!

外側のやばさ…………感じるんでしたよね?


ツキトside

 

 

白い神の端末ですらマリアンヌを容易に轢殺できる、本体であればもはや戦いにすらならず、上位神からすれば手を振るうだけで体がバラバラ千切れ飛び飛散し、最高神の前では全てが無力。

 

ただひたすらに無力、無意味、無価値なのだ。

 

剣を極めた、槍の極致に至った、最長距離の狙撃をやってのけた、ビジネスで成功し数兆ドル以上稼いだ、戦争に勝って英雄になった。

 

それら全ての讃えられるべき答える事柄に、『だからどうした?』、『否』を突きつけられる絶対存在━━━━それが最高神なのだ。

 

では、それを知って挑むのを止めるのか?

 

私は『それでも否』と言う。

 

せっかく身体能力含めた私自身のあらゆる力を転生によって引き継ぎ、さらに神殺しの力まで会得したのだ。

 

これほどの強大な力を、全力で振るえる相手などこの世にはいない。

 

それでは私は満たされない………私を打倒しようと小細工を仕掛けて立ち向かってくる者たちをあしらい、それなりの実力者とそれなりにパワーをセーブして戦うなど、息がつまる、とてもとても窮屈だ。

 

あぁ、そんなのは嫌だ、伸び伸びと力を振るい、破壊と殺戮を振りまいてやりたいと言うのに…………。

 

この力で、より優れた強者との純粋な力比べをやりたいというのに…………。

 

それなのに…………この世界には、私と対等の存在などいなかった!

 

理解してしまった、白い神との会話で、私を超えるものはこの世界に存在しないと!

 

これまで、そしてこれからも、私が相見える敵は格下、全て等しく下郎でしかないのだ!

 

だが…………いるじゃないか、この世界の、【外側】に!!

 

私は馬鹿だ、阿呆だ、愚かだ。

 

私などただの1人の無知蒙昧にすぎなかったと悟った。

 

ゴマ粒がごとき世界の【内側】で、最強無敵を気取るなど、矮小の極み。

 

なぜ世界の外に目を向けなかった?あぁ……愚かな自分自身が忌々しい!!

 

いたではないか!すぐそこに!挑むべき絶対の強者が!!

 

知ったときは絶望した、後悔だってした。

 

しかし、それ以上に湧き上がる、挑戦への高揚感!強さのゴールなど最初からなかったのだ!

 

あったところで内側のゴール程度だ、そんなもの意味はない!私が目指す強さは、最強は、まさしく外側の存在!

 

ならばどうだ?私は勝てるのか?戦えるのか?精神は持つのか?

 

決まっている…………毛頭勝てぬ!戦いにすらならん!精神など容易く砕け散るだろう!

 

鍛錬も役には立たんだろう、ならば磨くべき技は!?

 

それは【神格】、神の素質を持つ者のみが身に付ける独特の空気、オーラとも言えるだろう。

 

どのように鍛えればいいかなど知らないが…………その程度は小さな問題よ!

 

戦いの時が来るまでまだ時間はある、待っていろ最高神。

 

お前は私が殺す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「筋肉痛で動けない、だと?」

 

「ごめん、ツキト……」

 

「すまないツキト君!彼の身体能力が予想以上に良いもんだからつい………」

 

総督府でいつもの如く書類整理中だった私に、電話がかかってきて医務室に呼び出されたと思ったら…………。

 

皆勤賞そのものというべき存在のスザクが、ベッドに力無く横たわり弱音を吐いているとは露にも思わなかった。

 

その原因がジェレミアとの格闘訓練によるものと聞いて笑いも出なかった。

 

「良いさ、訓練に加えて日々の公務の疲れが出たのだろう?ゆっくり寝て休むことも大事だ」

 

「で、でも、これじゃユフ……ユーフェミア様の護衛が」

 

「ふむ、確かに護衛がいないのでは不安だ…………ジェレミア卿、臨時の護衛を頼めますか?」

 

「任せてくれツキト君!かのコーネリア殿下の妹君のユーフェミア様の護衛!しかとこのジェレミア・ゴットバルトが承った!」

 

うーん、この超熱血スゴクイイヒトのジェレミア………荒れた胃が爽やかになる。

 

「すみませんジェレミア卿……」

 

「気にするなスザク君!休むこともまた鍛錬だ!」

 

「はい!師匠!」

 

えっ?お前らそういう関係だったのか?

 

…………まあ、気は合うんだろう、似た者同士だし。

 

ん?それなら…………。

 

「ジェレミア卿、申し訳無いのですが、スザクとの訓練にKMF訓練を取り入れることは可能ですか?」

 

「できるとも、申請さえ通ればやる予定だった」

 

「では、後にスケジュール表の提出をお願いしてもよろしいですか?空き時間との兼ね合いを確認したいので」

 

「もちろんだとも、しかし突然どうしたのだね?」

 

「黒の騎士団とのKMFの模擬試合を考えていまして、使用するグラスゴーの感覚に慣れてもらおうと」

 

一般兵は常から乗り回しているが、スザクはランスロットしか乗っていないし、武器もランスロットのものだけだからな。

 

早めに慣れておいてもらったほうがいいだろう。

 

「ふむ、よろしい!スザク君は私に任せてくれたまえ!」

 

「お願いします…………というわけでスザク、異論は?」

 

「感謝しかないよ、グラスゴーにはまだ乗っていなかったし感覚を掴みたかったから」

 

「なら良い、模擬試合では是非とも優勝を頼むぞ、ユーフェミア様の騎士殿?」

 

「任せてよ!ユフィの騎士として、勝利を持ち帰るよ!」

 

「嬉しい返事だがその呼び方はNGだぞ」

 

気合の入った宣言にそう返す、ポカンとしてから気づいたようにハッとすると苦笑いを浮かべた。

 

「ハハハハハ……」

 

「公の場ではやらかさないようにな?」

 

「うん、気をつけるよ」

 

まあ、スザクなら次はやらかさないだろう。

 

ジェレミア卿は目を丸くして固まっていた。

 

再起動したらスザクは問い詰められるのだろうが………まあ、最後のフォローくらいはやっても良いだろう。

 

そう考えつつ、良い時間だったのでスザクにおやすみと伝え、執務室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スザクside

 

 

「……………はぁ」

 

情けない、このくらいの訓練で筋肉痛で動けないなんて………。

 

ツキトだったら、きっと何の苦もなくやり遂げるはずだ。

 

早くツキトに追いついて、もっと役に立てるようにならないと……なのに。

 

「くそ………」

 

こんなザマじゃ、追いつくなんて到底出来ない。

 

アンドロイドの暴走事故、あの時僕はなにも出来なかった。

 

本当なら、ツキトと一緒に中に入って戦うべきなのに、ユフィの近くにいれば良いと胡座をかいてしまった。

 

それなのに、何もしていないのに、ユフィやツキトからは褒める言葉をもらってしまった。

 

違うんだ、僕は………俺はあんなことをしていたかったんじゃない!

 

ツキトの隣で、一緒に戦いたかったんだ!

 

ツキトなら、きっと必要なら俺を呼んだはず、でも呼ばなかった、つまり俺じゃ足手纏いにしかならなかったってことなんだ。

 

だから鍛えなきゃいけない、ユフィの騎士になって慢心してた。

 

ここで油なんか売っていられない、もっと上を目指すんだ。

 

どうせなら………ツキトと同じ、ラウンズの席くらいはとってみせないな。

 

そう考えていると、医務室のドアが開いた。

 

ヒョコッと顔を覗かせたのは、さっき出て行ったツキトだった。

 

「あれ?ツキト?なにか忘れ物かい?」

 

何も持ってきていないはずだけど………。

 

「あぁ、すまんなスザク…………そうだ、次の訓練の日程が決まったら、私も参加させてもらっても良いか?」

 

「ツキトが!?う、うん!もちろん!」

 

これはチャンスだ!ツキトにこの2週間で強くなった俺の実力を見せて認めてもらうんだ!

 

「ふう、よかった、ダメと言われたらどうしようかと」

 

硬い表情を和らげて微笑むツキト。

 

「ダメなんて言わないよ、ツキトもデスクワークで鈍っているだろうし、それに……」

 

俺の力を見てもらわないといけないんだから。

 

「ま、その通りだな、適度に運動もしなければ鈍ってしまう、ただでさえラウンズで最弱なのだから、せめて動ける程度には慣らしておかないとな」

 

「そんなことないよ」

 

ツキトはもはやラウンズ最強でも違和感ないくらい強いよ。

 

「ははは、ありがとうスザク、私もまだまだ、精神の鍛錬が足りていないようだ」

 

ツキトはそう笑いながら部屋を出て行った。

 

俺よりずっと仕事も責任もあるのに、あんなに余裕を持っていられる…………壁は大きいなあ。

 

肉体も精神も、はるか上。

 

でも諦めない!まずは俺なりに地道にコツコツとやっていこう!




スザク君の成長フラグ。
努力型のスザク君が本気出したのならすぐに強くなります。
しかし、ツキトも努力型で方向性がほぼ同じなため、正直部が悪い勝負です。

なお、ルルーシュは才能型、アーニャとナナリーはハイブリッド型です。

ハイブリッド型は器用貧乏になりがちですが、今は2人とも剣一本に絞った努力を積み重ねているので、成長は努力型よりも早いです。

なお、才能型は元が高い代わりに上昇値が低め、伸び悩むことが多いです。

以上から成長速度は、一本化したハイブリッド型>努力型>才能型>ハイブリッド型です。

例外が入るとする場合、白い神の端末と神格解放したツキトくらいでしょうね。

次回を待て。


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渦巻く暗雲、『キョウト』との密会

転生者に対しなかなか辛辣(?)な話。


ツキトside

 

 

「面会、ですか?あのキョウトのスメラギが?」

 

「あぁ、この前しつこくせがまれたんだ」

 

久しぶりに私とルルーシュとC.C.の3人での情報共有の時間がとれたた。

 

クラブハウスのルルーシュの部屋に来てみたら、いきなりそんな話題を振られた。

 

「あのキョウトの小娘曰く『ゼロと旧知の中であるツキト・カーライルを見極めたい』のだそうだ」

 

「小娘風情に私を見極められるものか……………しかしルルーシュ様、いささか急ですな」

 

「ツキトもそう思うか?」

 

「はい、何か急いでいるような、今でなければならない、という焦りを感じます」

 

時期がそもそも怪しい、ルルーシュにはすでに伝えたが、ユーロピアとの会談がもう3週間を切っているのだ。

 

加えて、騎士団は内部で完全な二分化が進んでいる状況だ。

 

何かある、というのは素人でもわかる。

 

「俺はユーロピアとの会談についてだと思う、大穴で騎士団の荒れ様についてか…………ツキトはどうだ?」

 

「時期的にユーロピアとの会談の線が濃厚かと、騎士団については、キョウトが現状を把握しているか定かではありませんので、なんとも」

 

「C.C.は?」

 

「そうだな………案外、少し前の新兵器の暴走事故の蒸し返しかもしれん」

 

「新兵器の暴走、それも怪我人が出た騒動だ、何かやっかみを入れてくるかもしれないな」

 

「そうなると厄介です、日本は従来より加工貿易により栄えた国家、今後の発展のためには、新兵器に使われている技術は必須のもの、ここで失うわけには………」

 

擬似的な人工知能(AI)の製造技術、人型電子機械(アンドロイド)の製造技術、どちらもブリタニアの科学者だけでは手に余る。

 

より多くの優秀な科学者が必要なのだ。

 

そのための枠作りを邪魔させてなるものか。

 

「新兵器の実験データさえ集まれば、それを医療技術に繋げることができる…………まだ多くの民が苦しんでいる、そのためにも、何としても邪魔立てだけは許してはいけない……!」

 

アンドロイドの実験データが多く集まれば、歩行補助の装置や義手・義足などの技術は革新的に飛躍する。

 

それを日本エリアで起こすことで、ブリタニアの上層部にはっきり、明確に、日本エリアの重要性を認識させることができる。

 

成功すれば、自治区化など難しいことではなくなる、むしろ自治区化を促す可能性すらある。

 

これを足掛かりに、医療技術の研究を日本エリアに集中させる、そうすることで日本エリアはより大きな価値を得るのだ。

 

下衆で下世話な話だが、人間は価値あるものにしか金を出さない……しっかりと価値を提示すれば、多くの出資を募ることができよう。

 

副次効果として、日本エリアの頂点として立つ予定のアッシュフォード家に【箔】と大きな貸しを作れることだろう。

 

私自身の評価も大きく向上することは間違いない、私の影響力が大きくなれば皇帝陛下への口添えも非常に容易なものになろう。

 

ルルーシュが皇帝として返り咲く頃になったら、『すべてルルーシュ様の指示でした』と発表する。

 

するとどうだ?次期皇帝に相応しい賢人がだれか…………素人でもわかることだろう。

 

長い時間がかかってきているが、まだまだ下地の準備段階、もう少し、もう少し念入りにこねなければ、極上の演出はできない。

 

「ツキトがその研究に心血を注いでいるのはわかった、だが、あまり足踏みをしていては獲物が逃げてしまうぞ」

 

「承知しております、これは言わば下準備、彼奴の喉元に短刀を近づけるための…………喉笛を搔き切る瞬間は一瞬です、ゆえに、懺悔の暇なく絶望の中で殺すためには、必要な演出なのです」

 

「…………俺はただこの手で殺せるなら別に……」

 

「いいえ、ルルーシュ様、彼奴は帝国の実質的ナンバー2、ルルーシュ様が彼奴を殺す正当な『理由付け』が無ければ、その後に影響が出ます」

 

「それもそうか、それで、ツキトはその理由付けをしているのか?」

 

「正確にはその下準備です、ルルーシュ様とナナリー様が皇族へと復帰なされた後、彼奴の悪虐非道の罪を列挙し、ルルーシュ様自らが彼奴の命を断つ…………そのための準備でございます」

 

「…………何から何まで、お前には苦労をかける」

 

「ははは、もちろん私も下賎な人間ですから、ルルーシュ様とナナリー様のお褒めの言葉さえ頂ければ幸い、という気持ちもありますが」

 

いや、本当にこの2人の後についていけば人生安泰コースだしな。

 

「もっと欲を出せツキト…………そうだな、よし、皇族に復帰してナナリーと結婚したら、ツキトを皇族に加えよう」

 

「は、はっ!?」

 

いきなり何を言いだすんだこのイケメン!?

 

私を皇族に!?面倒ごとのタネを蒔くんじゃない!

 

「ずっと考えていたんだ、ツキトに恩を返す方法を……だが、俺ともあろうものが全然思いつかなくてな、さっきのツキトの言葉でピンと来たんだ」

 

んなもん来なくていいんだよ!!ホントにやめろぉ!

 

「いいんじゃないか?私はアリだと思うぞ、ナナリーと結婚すればツキトは義弟になるわけだし、家族なのだから皇族であっても不思議はないだろう」

 

C.C.この野郎……うぐっ、あかん私の胃が…………痛すぎて溶ける!消滅するぅ!!

 

とりあえず適当な返事を返し、もう一度漏れがないか確認しあって解散となった。

 

スメラギとの面会については、来週にお忍びで行くことをゼロから伝えてもらうことにした。

 

私から手紙なり書いても良いのだろうが、向こうは少なくとも私とゼロの関係をわかっててやっているはず。

 

口頭で伝えればその情報はゼロとスメラギしか知らない情報になる、わざわざ文章に起こしてどこかで漏れた時、面倒だからな。

 

それに今回のはゼロを通じた強引なアポ取りだ、向こうが少しでも不遜な態度で応じるようなら……即白紙に戻す。

 

侮られてはならん、私も忙しいのだ、暇なのか、などと思われてはいかん。

 

そもキョウトはブリタニアの傘下、こちらが下手に出る必要はない、常に上から目線で仁王立ちするくらいの覚悟を持っておかなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

no side

 

 

ツキト・カーライルの持ち得た神格は、ツキト・カーライル自身の想い、願いによってその本質が変動し、より強固になっていく。

 

これは他の転生者が神格を持ち得た場合も例外なく変動し強固になっていく。

 

しかし、ツキトの神格はそもそもが特異な条件で発生している。

 

常人では殺せない存在を殺すための能力を持ちながら、常人では殺せない存在の能力を獲得し、相反する状態が長く続いた。

 

結果、融合を繰り返しながら変質、不老不死にして神すら殺し得る力をその身に宿したのだ。

 

通常ならば、強力な転生特典が御都合主義で謎変化して超低級の神格へと変わるもの。

 

さらに、神格にかける願いも違った。

 

最強でありたい、無敵でありたい、モテたい、ハーレムしたい…………そんな俗な願いを受け取った神格は、そこから伸びることはなく、ただただ怠惰な道を進むだけだ。

 

しかしツキトの願いは『万象あらゆるものと戦いたい』、『ただ1人の愛する人を包みたい』というものだった。

 

どの転生者も願いに差はあれど、その本質は同じ、『最初から(生まれた時から)1番がいい』という傲慢に満ちたものだ。

 

『〇〇のアニメキャラの〇〇の能力が欲しい』…………などという転生特典が、傲慢でなければなんなのだろうか?

 

ツキトの本質も似てはいるが、それは1番に『なりたい』というものであり、スタート地点が最下位からでも構わないのだ。

 

ツキトが他の転生者と違って外側と接触を得られて今まで健在であることは、ある意味運命だったのだ。

 

ほとんどの転生者はそもそも外側など知覚できない、知覚できた者たちは傲慢さ故に即座に存在ごと

消滅させられるのだ。

 

それでも多少の我慢をして、神界に押し入り存在を消された者もそれなりにいたが、その者たちは『今の神を殺し、自分が最強無敵の最高神になりたい』という傲慢から驕りを招いた。

 

ツキトは自身の力量を把握している、いかに自身が強かろうと相手は神、転生特典もらってウハウハな他の転生者と違い、慢心などできようはずがなかった。

 

まあ、ここまで転生者を傲慢だ傲慢だと酷評したが、その気持ちがわからないでもない。

 

前世で勉強できず、良い就職先も見つけられず、親友人と疎遠になり、モテず、未来に不安を抱えながら生きて行く………そんな時、突然に転生のチャンスを得た。

 

どうせ転生するなら?………スパコン並みの頭脳、博愛に満ち、未来への不安も微塵もないエクセレントイケメンフェイス、最強無敵超絶怒涛のスーパーチート能力…………それらを望むのだろう、望んでしまうのだろう。

 

どれもこれも、前世ではろくに触れることなく、遠い遠い存在であり、手を伸ばしても伸ばしても届かない先にあったものなのだから。

 

先程傲慢だと言った転生者たちの願いは、裏を返せば『もうあんな人生は歩みたくない』という、究極の臆病からきているのだ。

 

モテない人生よりモテる人生のほうがいい…………当然だ。

 

ボッチ人生よりも友達がたくさんいて両親や親戚共仲良くしていられる人生のほうがいい…………当然だ。

 

頭が悪くてロクな就職ができない人生より、頭が良く要領も良く、企業側からスカウトがくるような人生がいい…………当然だ。

 

平々凡々な人生より、刺激に満ちた人生のほうがいい…………当然だ。

 

当然、当然のことだ、今の自分よりも良い状態を願うことは至極真っ当で当然、当たり前のことなのだ。

 

だからこそ…………転生する時、願うものは皆んな同じ『セットメニュー』を選んでしまうのだ。

 

それが悪いとは言わない、それで誰かに迷惑をかけるようでなければ、誰だって文句は言わない、むしろ讃えるだろう。

 

しかし彼らは…………チート能力を得て転生した彼らは、転生した先の世界に馴染むように平々凡々な生活を送れるのか?

 

否だ、ではなぜか?

 

試したくなるに決まっているからだ。

 

己のモテ度!どれくらいモテるのか?世界一モテるのか?それとも二位か!?

 

己のチート能力!本当にチートなのか?この世界ではありふれたものじゃないのか!?

 

己の頭脳!誰よりもI.Qは高いはずだろう?世界一なんだろう!?

 

大きな力を得たのに、心のどこかで不安が募り、だんだんと試したくてたまらなくなる。

 

そして使ってしまう、さあ大変だ、チート能力の味を占めてしまった。

 

イケメンフェイスで女を侍らせ男を侍らせ、チート能力で難敵を軽々滅相、快楽のままに暮らしましたとさ。

 

なんてことにはならない、そうしようとすれば、外側が修正を試みる。

 

それが原作キャラの死亡、敵の強化に繋がり、回り回って転生者が最大の自業自得を正面から搔っ食らう羽目になるのだ。

 

ではツキトもそうなのでは?

 

実はそうだ、本来なら強力な修正力が働くはずであった。

 

しかしツキトは最初から原作キャラを殺害している、それがユーフェミアを生かすという原作崩壊にたいする修正力を弱めることになり、結果として釣り合いが取れてしまった。

 

外側も別に嫌がらせで修正をしようとか運命力を変化させようなどとは思っていない。

 

世界が壊れてしまいかねないからこそ、修正を働かせるバランサーなのであって、釣り合いさえとれれば良いのである。

 

扇の死とブリタニア軍クーデター兵200人余りの死は、ユーフェミアの生存と釣り合いが取れた、そう外側は結論を出し、以来修正力を発揮することはなかった。

 

ナナリーの目と足、アーニャの記憶は、マリアンヌの失明によって釣り合いが取られた。

 

天秤は水平を保ったまま、だからこそ外側の神々はツキトに接触はすれど、過度な干渉は行なっていない。

 

そんな外側の状況を知ってか知らずか、今日もツキトの願いが意図せずに、神格を成長させていることにはまったく気づいていない。

 




チート特典もらって転生してモテモテ人生エンジョイチャンスがあるなら、したいですか?

したいに決まっとるやろ!

見てる側、転生を司る外側の神からすれば『やっぱりな♂』もしくは『またかよ……』っていうようなお決まりの特典貰って転生して、人生スタート直後に原作崩壊起こして強制的にインセインモードにさせられてるわけですもん。

で、ツキトがやったことはみんながハッピーセットを頼む中、1人だけチーズバーガーとポテトを頼むようなもので、そこで外側に目をつけられてしまうという…………幸か不幸かで言えば本人的には超幸運でしょうが。

驚いたでしょうねえ、ツキトの転生特典、基本的に役に立つことないんですもん。

転生特典が効く相手が実質2人でそのどちらもラスボスでもなければ中ボスですらないっていう、身体能力だってKMFに乗ったら関係ないし。

そりゃあ目も付けられますわ、最初は『何言ってんだこいつ』レベルだったのに今じゃ『こっちくんな』レベルで外側からやべえやつ認定食らってますからね。

そして肝心の神格、イメージで成長・進化するバトルものなら超熱い展開ですけども……………ツキトに勝てる存在、というか肉薄できる存在がいないので冷えっ冷ですわ。

ナナリーとアーニャが剣で対等になりそうに見えますが、それはあくまでツキトが『人間』だからある程度拮抗できるのであって、人間の枷を外したら一気に外側の存在になるので、まず触れることすらできなくなります。

ツキトは人間として生きているうちは外側に行くことはありません、理由は…………まあ、ツキトの気持ちになればきっとわかるのではないかと。

次回を待て


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新たな『技術』の『使い道』

FGO新クラス【フォーリナー】のアビゲイルが出ましたね。
さらにピックアップガチャもきたと…………。
欲しいので回しますよ、えぇ、当然です。
まあ難しいでしょうが……。
回せば出るので回します(迫真)


ツキトside

 

 

「ユーフェミア様の報告書によれば、キョウトには相応に妥当な判断を下したと言えますね」

 

「この程度の制裁ならば、ユフィの性格も加味して考えても本国の連中を納得させられるだろう」

 

アンドロイド暴走事故以後のゴタゴタで確認できたなかったキョウトの一件の報告書。

 

そのコピー紙には、ユフィの直筆らしき文字で事の顛末が書いてある。

 

大規模な立ち入り調査の結果、巨額の資金が不透明に処理されているのを発見したのだ。

 

「問題は…………これですね」

 

「とんだ厄介ごとを呼び寄せてしまったようだな……」

 

そこを重点的にリフレイン調査時に使った顧客リストやバイヤーのリスト等を合わせ、警察も抱き込んだ捜査を展開。

 

なんと、本国の大物貴族にたどり着いてしまったのである。

 

しかもその貴族、代々皇族、皇家の人間を支援しており、支援を受けた皇族からの寵愛の凄まじい事この上ないのである。

 

しかし、それだけの支援ができる資金がどこから湧いていたのかと考えれば、なるほど、と合点が行く。

 

さぞ笑っただろう、民族の尊厳を踏みにじるのは…………さぞ楽しい茶会になっただろう、目の前に餌をチラつかせて自ら人間の尊厳を捨てる場面を鑑賞するのは。

 

エリアの人間がリフレインに狂い踊る様を興じながら、得た資金を皇族に支援金として提供してコネクションを獲る。

 

あぁ、まさにこれこそがブリタニアの貴族と言えよう。

 

薄汚く、面の皮は厚く、愚蒙で、不遜で、無知蒙昧で、まるで豚のようだ。

 

下の者には偉く突っ張って、上の者には媚びへつらう。

 

惰弱、脆弱、矮小の極み。

 

【汚物】、【恥部】とも呼べる穢らわしい存在。

 

金と名声と快楽の海に溺れる、まさしく愚者の体現だ。

 

そんな愚者も、此度ばかりはどうしても放置はできない。

 

愚者は愚者でも、こいつは癌なのだ。

 

「皇族と癒着し寵愛を受けているとなると、拘束は難しい」

 

「そうでもありませんよ、コーネリア様」

 

「そうなのか?」

 

「はい、この者が帝国の癌であるならば、何より私の出番です」

 

「…………そうか、平和維持のための処断ならば、ラウンズのツキトであれば可能なのか」

 

平和に馴染めないこの称号も、こういう時には役に立つものだ。

 

「今すぐ拘束しても良いのですが…………生産元の特定ができてからに致しますか?」

 

「拘束して吐かせれば良いんじゃないか?」

 

「そうしたいのは山々ですが……こちらを」

 

「これは?」

 

「少なくとも、8桁以上の支援をしている皇族のリストです」

 

「よ、よく手に入ったな…………」

 

「身辺調査と銘打って調べたらポロポロ出てきました」

 

「そうか…………しかし、ふむ、これだけの繋がりがあるとなると、いささか厄介だな」

 

リストには30名程度の皇族の実名と受け取った支援金が書いてある。

 

どれもコーネリアと比べれば雑魚とも言える格下だが、資金は潤沢にあるやつらだ。

 

その貴族を拘束すれば、優秀な弁護士を雇って守りに入るに違いない、コーネリアもそこは容易に想像できたようだ。

 

「拘束を急ぐようなら皇帝陛下、もしくはオデュッセウス殿下の直筆の書状でもない限りは、厳しいでしょう」

 

「オデュッセウス兄上のほうが多少は…………いや、兄上に謀は無理だろう」

 

コーネリアはしばし悩んだ後『オデュッセウスはダメだな』と切ってため息をつく。

 

「…………仕方ない、徹底的な証拠が出るまで捜査を続行、掴み次第拘束だ」

 

「(カリカリカリカリ……)……ではそのように伝えておきましょう、次ですが…………総督府の修繕費についてです」

 

「またごねられたか?」

 

「どうも工期の日数が足りないとか、どうとか」

 

「えらくフワフワしているな?」

 

「それが、どうもこの時期(春)は忙しいらしく、回せる人員が日によって増減するらしく、今回の工期延長は保険としてのもののようです」

 

「優先的にしてもらいたいところだが、都合があるなら仕方ないだろう」

 

「左様ですか、では、本日の会議はここまでに致しましょうか」

 

「そうしよう…………っ……ふぅ、今日はギルフォードもダールトンも休みでなかなか進まなかったな」

 

「2人がいれば半分の時間で終わっていたのですが…………」

 

本来なら私とコーネリア、そしてギルフォードとダールトンを加えた4人で会議をしているのだが、たまたま2人の休日が被ってしまったのだ。

 

おかげで時間が倍近くかかってしまった、改めて2人のありがたみを知ったよ。

 

「今日の残りの仕事は…………うん?」

 

「どうしたんだ?ツキト」

 

「どうやら今日の分はないようですね」

 

「そうか、なら……ちょうど良く2人きりだし、久しぶりにやってくれないか?」

 

「えぇ、構いませんよ、それではソファのほうに行きましょうか」

 

「あぁ……や、優しく頼むぞ?」

 

「心得ました」

 

この後めちゃくちゃ耳掻きした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、特派の研究ラボ。

 

車椅子にてパソコンの画面を見ながらキーボードを打つロイドに話しかけた。

 

「ロイド、進行はどの程度だ?」

 

「おっと、ツキト君か………面白いよぉ、このKMF、いや…………KGF(ナイトギガフォートレス)」

 

「実に馬鹿馬鹿しいと、私は思うんだが?」

 

「まあね、でもこの神経伝達システムは凄いよ、天才的だ、精神感応波が微弱な人でも手術すればツキト君の数分の一くらいの精度でインコムを操れる、画期的だよぉこれはぁ」

 

車椅子の上で身振り手振りで感動を伝えようとする姿が痛ましいが、伝えたい気持ちはよくわかった。

 

「4基同時にか?」

 

「精彩も精度も欠くけど、動かす分にはね、戦闘ともなればまた別だろうけど、医療技術、生産技術的には最高だね」

 

「私は専門家じゃ無いからパッと来ないんだが…………要するにどういうことだ?」

 

「医療技術に転用すれば、アンドロイドからの技術も合わせて、文字通り自由自在に動かせる義肢が数年経たず開発可能だね」

 

「生産技術のほうは?」

 

「一般的な人力の生産ライン勤務の人の動作をやっている作業に最適化できる、それこそ限りなく0に近い確率でね、事故の予防になるし生産率向上にもなる」

 

生産率向上は働く人間の労働時間の短縮と高収入化を図れる、良案だが…………。

 

「医療はわかるが、生産のほうはまずいんじゃないか?」

 

「仕事中の動きに余計なものを含めないためのものだから、臨床試験が必要かな」

 

「そこじゃあないんだがなぁ……」

 

いくらなんでもマインドコントロールはマズイだろう………ロボットでいいじゃないか。

 

「もっぱら医療分野向けの技術であり、しかしそれ以上に軍事技術の宝庫でもある、と…………具体的には使うとしたらどうなる?」

 

「ジェレミア君の身体、主に背中側に埋め込まれた装置と、KMF、もしくはKGFのほうに同じような装置を取り付ければそれこそ手足のように、って感じかな」

 

「問題は?」

 

「まず人道的では無いこと、『人間やめて』って言ってるようなもんだしね……次にコスト、あくまで試験的だから、数人分の装置だけでもランスロットといい勝負するよ」

 

「コストはどうとでもなる、しかし人道と言われては看過できんな」

 

「ほかに、ジェレミア君のように適合率の高い人が見つかるかどうか、かな?」

 

「私くらいの確率なのか?」

 

「数倍以上はいると思うよ、ただ、さっき言った通りとても人道的とはお世辞にもいえないからねえ………こんな非合法な形でしか研究できなかったんだろうね」

 

非合法、か…………そういえば、あそこで救出した子供達、皆目覚めて安静と聞くが、まさか彼らは…………。

 

「………………ロイド、非合法研究施設から救出した子供達の精密なバイタルチェック、そしてこの装置への適合率を調べてくれ」

 

「ツキト君?それは…………いや、できない、そんなこと僕には無理だ」

 

「生贄にするわけじゃない、この研究を指示し、スポンサーとなったバックの奴らが子供達を標的と定めた時、『特派の研究員による精密な検査でも適合率は無かった』と示せるようにしておきたい」

 

「向こうが適合について知らなかった場合は有効かもしれないね………でもあの施設にあった機材から見て、研究結果をリアルタイムで送信していた可能性もある、そんなやつらにはすぐに嘘だってばれちゃうよ」

 

「では、検査の結果は私が本人に届けてくる」

 

「本人って……検討ついてるの?」

 

「潤沢な資金があって今まで長い時間バレずに研究ができていたのなら、十中八九皇族の手が入っている、そして、日本に手をつけた皇族の中でこんなことをしそうなのは…………シュナイゼルを置いてほかにおらんだろう」

 

「あぁ〜〜…………うん、説得力あるよ、その仮説、腹に一物抱えてそうだと思ってたけど、まさかねぇ……」

 

「たとえ違っていても、『内容が内容だけに陛下に直接出すのを戸惑った』とでも理由をつけて渡せばいい、あいつあれで宰相だからな」

 

「キミって結構皇族に対して辛辣だねぇ……」

 

「私にとって、私の主人以外の皇族出身者に対しては一定以上の評価に足る人間は、片手で数えるほどしかおらん」

 

クロヴィス、コーネリア、ユーフェミア、以上3人のみだ。

 

「まあ、我が主人以外は誰一人として敬う気にもならんが………」

 

立場上、形式的な言葉遣いをしているだけであって、敬う気持ちも何も無い。

 

クロヴィスは評価はしているが、それは敬っているわけではなく、使える人材かどうかという基準で判断しているだけだ。

 

まあ、人間としてもそれなりには評価してはいるが…………曲がりなりにもC.C.の研究の一端を担っていたとなると同情の余地含めやや低めになってしまうのは致し方ないと思え、クロヴィス。

 

ユーフェミアはルルーシュ、ナナリー、スザクと仲が良かったこともあって、亡くなった後の荒れ具合が酷すぎてな、死なれたらシュナイゼル報復計画がおじゃんだ。

 

コーネリアは特に死んで欲しいわけでも無いし、邪魔にならない限りは生きておいてもらう感じだ。

 

シュナイゼル?あぁ、やつはそれなりに評価しているぞ。

 

ストーリーのラストであっけなく死んでもらう道化として、な。

 

「そんなことはどうでもいい、とりあえず近く検査日を決めておく、病院側との調整でも最短で3週間後にはなるだろう、準備をしておくように」

 

「はーいはい、わっかりましたよ〜」

 

ロイドは呆れたような顔でそう言いつつ、立ち去る私に手を振った。

 

「あぁそうだ、クルーミーと仲良くな?」

 

「えぇ〜?僕とセシル君はじゅーぶんに仲良しだよ?」

 

「なら良い、だが一つ言っておく、友人は大切に、な?」

 

「友達を大事にするのは当然さ、ツキト君も友達を大事にしなよー」

 

「肝に命じておく」

 

そう言って今度こそラボから立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神格を限定的に解放する方法、ですか」

 

「そうだ」

 

私は仕事を終え、クラブハウスに戻り久しぶりにナナリーの膝枕に身を落とし、意図的に超リラックス状態を作って白い神と接続していた。

 

「お前は私がこの世界で最強無敵といったが、それは違う、ナナリーやアーニャのような単純に剣で戦う時に才能も腕も上のような相手には勝てない」

 

「勝利のために才能から一時的に脱却したい、と?」

 

「才能の中で私は最強であろう、しかしさらに限定されたルールや法の中では私は強くないのだ、人間が重力に逆らえないようにな」

 

人間である以上、才能によってあらゆるものが縛られてしまう。

 

それはつまり、一見上限がないように見えて、実は上限が設定されていることと同義なのだ。

 

「一時的にでも、私の剣の才能を5まで引き上げたいのだ……ナナリーはスピードはともかく私と打ち合えるレベルになったし、アーニャはすでに私のスピードに目が慣れてしまっている………せめて抜かれるなら、最大限、全力で戦って負けたい」

 

「負けるために他者に頼り全力を尽くす、というのは、あなたらしい思考ではないですね」

 

「無論、勝つつもりでいる、しかし才能で劣っている以上、圧倒されて完敗という可能性もある、兄として、婚約者として、また従者として、そのような姿はあんまりであろう?」

 

「なるほど…………それで、最もらしい言い訳はどうでもいいので、本心をお願いしたいんですが?」

 

「お前もなかなか適当になってきたな……」

 

というか、まあ、やはりというか、こうも見事に見抜かれているとは、さすがは神と言ったところか。

 

「まあ、本心というか、神格云々でコードの特性を打ち消し、本来の年相応の体格と身体能力を加算させることは可能なのかどうか、ということが聞きたくてな」

 

もっともらしく言い訳・こじつけを並べたのはちょっとしたフェイクだ。

 

すでにこの世界において私を超える存在は今のところない………なのにそれ以上の力を他者に願うのは私らしくないという白い神の指摘はまさにそうなのだ。

 

そも私は『教えてくれ』とは言うが『やってくれ』とは言わない。

 

それでは鍛錬にならないからな。

 

「この姿でいくら鍛錬を重ねようと、コードを得た時に成長が止まってしまっている体では効果がない、唯一、C.C.からの助言でコードの効力を薄くして辛うじて多少のレベルアップができている状態だからな」

 

「そういうことでしたか、しかしやり方を教えるのは……」

 

「私が納得しない、アドバイス程度の軽いものでいいからくれ」

 

「人間風に言いますと、『念じろ』、『考えるな、感じろ』、『俺がガンダムだ!』です」

 

「…………すまん、まったくわからん」

 

特に最後のはなんなんだ?お前がガンダムになってどうするんだ…………。

 

「って、伏字にしなくていいのか?」

 

「外側ですので」

 

「あぁ、そういう……」

 

便利でいいな、伏せ字がいらないっていうのは。

 

伏せ字忘れてやらかすからな、作者は。

 

 

(本当に申し訳ない…… by作者)

 

 

「しかし、ふむ………『念じろ』、とはまた妙だな」

 

よもや、アニメや漫画の主人公覚醒シーンのようなことになったりしないだろうな?

 

『うおおおおおお!!!(ビシューン!)』とかなったりしないよな?

 

「要するに強く願えば良いのです」

 

「最初からそう言え」

 

強く願え、強く願え……。

 

「…………パッとしないな、私に強い願望など……」

 

「あなたにも願望はあります、それもこの世界で最も傲慢で独善的と評していいほど」

 

「私ほど謙虚な人間はいないはずんだが……?」

 

「答えは得ていると認識しています、その応答には応答の必要はないと判断します」

 

すでに答えは得ている、だと?

 

「おい、それは…………いやいい、自分で探す」

 

「では、私は仕事があるのでこれで」

 

「あぁ、世界は任せた」

 

「えぇ、では」

 

最後だけ見ると決戦に向かう主人公にも見え…………いや魔王だな、間違いなく悪役だろう、完全に。

 

急速に意識が現実に引き戻され、ナナリーの膝の肉が、私の顔に当たっている感触が戻ってくる。

 

眠りを誘う温もりが伝わってきたところで、覚醒した意識は深い眠りへと落ちた。

 

有り体に言うと、二度寝した。

 




投稿後に回します。
みんな祈れーー!!


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こやつが『皇神楽耶』か……

あけおめえええええええええええ!!!

遅れちゃった☆許してヒヤシンス!

内容は全く新年と関係無いけど、良かったら読んで行って、どうぞ。


ツキトside

 

 

『サクラダイト採掘場前〜、サクラダイト採掘場前〜』

 

やっとか、と内心思いつつボタンを押す。

 

ピンポーン、と音が鳴ってアナウンスが入る。

 

『次停車しまーす』

 

ゆっくりと停車するバス、完全に止まってから立ち上がり、運転手横の機械に紙幣と硬貨を入れて降りる。

 

バスを乗り継ぎざっと3時間、トウキョウシティより遠路はるばるキョウト六家の運営するサクラダイト採掘場へやってきた。

 

送りも迎えもさらに言えば何も護衛も武器もなく財布とケータイのみでここまで来たのは、争う気がないからだ。

 

今回はただの顔合わせ、殺し合いをするならもっと早くに軍を派遣しているさ。

 

採掘場、とは言うものの、外側はただただ山が見えるだけで、肝心の採掘現場はその内部にある。

 

なので外には採掘場の事務所へとつながるコンクリートの道路があるだけであり、他にあるものは入り口前の小さな監視所程度だ。

 

当然のごとく監視所を避けて忍びこむ、カメラの死角を縫って内部へ。

 

人の気配のない廊下を選んで進み、人が来たら物陰に隠れて気配を消して背景と同化する。

 

気配を消し、背景に溶け込み、呼吸を殺す…………ニンジャ………じゃない、ラウンズには必須の技能。

 

要するに『私は壁だ、誰がなんと言おうと壁なんだ』という心の持ちようである。

 

潜入とはすなわち、自身に対する圧倒的自信を持ち、他者に対し徹底的に自身を殺す事にある。

 

さすればあらゆる障害が私を避ける。

 

ゆえにこれこの通り、大広間のような場所まで入り込めた。

 

しかし……。

 

「やや殺風景で見応えも何もあったものではない、権力者にあるまじき寂しい風景だな」

 

私の部屋の方がもっと賑やかだぞ…………ほぼナナリー関連の物で。

 

「!?……だ、誰ですか!?なぜここに入ってこれたのです!?」

 

和服を着た黒髪の少女の背後に適当な倉庫から引っ張り出してきたパイプ椅子を置いて座る。

 

少女は驚いて豪奢な椅子から立ち上がったところで固まったままだ。

 

「誰だ、だと?…………貴様が呼んだツキト・カーライルという者だが?」

 

「あ、あなたがカーライル…………であるならば、なぜ門からお入りになられなかったのですか?」

 

落ち着きを取り戻したのか、椅子に座ってボタンを操作して向きを180度回転させ、私に正対した状態をとった。

 

「事前にゼロから地図をもらっていたので、お忍びということもあって勝手に入らせてもらった」

 

「監視所の者には伝えてありましたのよ?」

 

「バレて噂でも広がってしまってはたまらん、今のキョウト六家の状況を見れば特にな」

 

「それでも……危険を冒してまで来てくださったのですね」

 

「頼みとあらば、言葉だけでも聞いてやるものだからな」

 

『テロ支援組織との繋がりなんぞ本来は持ちたくないが、ゼロの頼みとあっては仕方ない』と、暗にそう言った。

 

「貴方様もゼロ様の騎士団のお方なのですか?」

 

「まさか…………私が頭を垂れるは自らの主人のみ、ゼロは我が同志なれば、決して主君ではない」

 

「ゼロ様とは対等の立場、そうおっしゃるのですか?」

 

「役職、生まれ、人種が異なろうが、ゼロは我が同志であり、その立ち位置に上下などない……同志とは、そういうものだ」

 

生まれを気にしたら私は五体投地で支える必要があるからな。

 

「それで、私とゼロの関係を知ることが目的だったのかね?」

 

「いいえ、違います………私が問いたいのは、貴方様の日本への想いでございます」

 

想い、ときたか。

 

「貴方様の功績と目論見はゼロ様から聞いております、私利私欲のために行動するような方ではないことも」

 

「それを面と向かって言ってくれたらいいのだがな……」

 

そうぼやいて見るも、黒髪の少女…………皇神楽耶は真剣な表情で私を見据えている。

 

「率直に申し上げて、貴方様の真意をお聞きしたいのです」

 

「真意か…………」

 

真意、真意ねえ。

 

元を正せばブリタニアの成長のためのマッチポンプ、今はただルルーシュとナナリーの幸せのため、巨悪の根源たるシュナイゼルを殺すために暗躍中。

 

大義もクソもない、私自身のわがままのようなものだ。

 

しかし、それでもそれを真意と呼ぶならば…………。

 

「愛だな」

 

「愛、ですの?」

 

キョトンとした顔をした皇神楽耶はすぐに怒った顔になる。

 

何事か言おうとするのを手で制して続ける。

 

「たわ言と思わないで欲しい、改めて真意とやらが何であったか考えた時、これがもっともしっくりきたのだ」

 

「理由になっていませんわ……」

 

「理由など無いからな、私はただ、あの方々を愛しているゆえに行動しているだけだ」

 

「主君への愛ゆえの行動である、と?」

 

「然り、はっきり言って私という人間はそう賢くない、戦場で前線指揮官を務めるのが精々、ましてラウンズなどという立場など…………正直、身に余るほどだ、願わくば隠居したいほどだ」

 

しかし、と続ける。

 

「そんなことは出来ない、私はあの日、あの光を失った…………誰よりも私を照らし導いてくれたランタンの光が、突如消えた……………絶望したよ、この世に、何より自分自身に………過去の自分を見たら笑っているところだ、あまりにも滑稽なのだから、なにせ、力があっても大切な主君を何も守れない、騎士ごっこの貴族様、愚かな愚かなピエロだったのだから」

 

思わず嘲笑のよう笑いがこみ上げてくる、今更になってこんな馬鹿みたいな嘘が公然の真実として信じられていることに、吹き出しそうになったのだ。

 

目の前の皇神楽耶は悲しそうな心配そうな複雑な表情を浮かべ、私を見ている。

 

「復讐を考えた、真っ先にな、元凶となったある人物にたどり着き、実行計画を練っている時、ふと、気づいてしまったのだ…………主人はきっと、そんなことをしても喜びはしない、と」

 

「我が主は心優しきお方だ、きっと、復讐の相手が死ぬことさえ、深く悲しまれるだろう…………主の悲しみは私の不徳、悲しませるような真似などとれようものか」

 

「神聖ブリタニア帝国ナイトオブサーティーンとして、我が主の理想の実現の為、私はこうしてここにいる」

 

「なぜ、そこまで故人を愛せるのですか?……私は日頃からゼロ様の妻であろうと研磨を重ねております、しかしそれはゼロ様が生きておられるからでもあるのです…………未だ私は女として未熟な身、恋愛ごとに関しても勉強不足ではあります……それでも、人という生き物は、故人への愛より生者への愛の方が勝るのではないのですか?」

 

ふむ、幼い見た目に反して鋭いな…………存外、皇神楽耶をルルーシュの妻にするのもいいかもしれん。

 

皇帝にした後で推薦するのもありか、多妻くらいは押し通せるだろう。

 

というか現皇帝が多妻な現状、別段何か反対が出るわけでもないだろうがな。

 

しかし、故人よりも生ける者への愛の方が大きくなるのが普通、ときたか。

 

「ふむ………例え話だが、ここに親の愛も知らずに勉学と剣術に打ち込んで育った男の子がいるとしよう、その彼の目の前に突如、存在する意義と愛情を向けてくれる人が現れ、それに溺れて依存し、家族のような一体感を互いに感じながら数年を過ごし、ある日突然………………その人が死んでしまった時………彼はそこで『もうその人はもう愛せない』と思うのだろうか?……君の意見を聞きたい」

 

「すぐに思うことはないでしょう、しかし、長い年月の中でいずれは薄れていってしまうもの…………私がゼロ様の妻として死んだ後も、ゼロ様が私を愛してくださっているのなら……いいえ、少しでも気にかけてくださるのなら、それで十分と思えるのでしょう」

 

「それは死んだ方の気持ちであろう、私が聞きたいのは……」

 

「わかっております、しかし、あなたの…………いえ、その少年がその人を愛する気持ちというのは、その人が死した後も愛されるような人であるならば、少年は愛することをきっとやめないでしょう」

 

相手が愛されるような人物であるならば…………か。

 

原作でのルルーシュはまさにそれだ、多くに人に死を喜ばれるような残虐な行為を行い、英雄ゼロに貫かれ終わりを迎える悪逆非道の独裁者。

 

しかしその実、全ての悪意を一身に受け身を滅ぼすことを受け入れた英雄だった。

 

死した後も少ないながらも人々に愛され続けたのは、ひとえに、ルルーシュの人格によるものだろう。

 

しかし……………私の目は曇りきって結露してしまっていたようだ。

 

『世界最強など、ただの力比べの土俵の話でしかない』、ということをすっかり忘れていたようだ。

 

よもや、これほどの女性、いや女傑に巡り合えようとは…………。

 

その瞳に曇りなし、見つめるまなこに光あり。

 

護衛もなしにふたりっきりでいるというのに、いつ襲われ陵辱され、殺されるのかもわからないというのに…………。

 

何という肝の座りようであろうか。

 

…………正直言ってめちゃくちゃ欲しい人材だ。

 

「君の……いや、皇神楽耶、あなたの考えは理解した、非礼を詫びよう、私は些か……古い人間でね、観念や思想に関してはこと同年の友人とすら噛み合わないこともあってな……」

 

「いいえ、気にしていません、それに、私も色々と考えさせられましたので」

 

と言って微笑む皇神楽耶、この余裕、天皇家の血筋か、はたまた生まれついての、天性のものなのか……。

 

興味が尽きないなぁ…………。

 

どうにかして、彼女をこちら側へ引き込みたいところだ。

 

しかしどうやるか……敵には回したくない相手だ、出来るだけ心象の良い方法にしたい。

 

「……ゼロを使えば、あるいは………」

 

「今、なんと?」

 

「うむ?あぁ、すまない、あなたとの人となりから今後の事の運びについて少し思案していた」

 

「今後の事の運び…………と言いますと、アッシュフォード家と連盟を組み、日本を医療技術の研究推進のための土地開発を行うのですね?」

 

「む、ゼロはそこまで言っていたか」

 

連盟を組ませて土地開発を行う、というのはゼロ……ルルーシュの考えだ。

 

アッシュフォード家は結局はブリタニアの貴族、日本人の1番嫌いな人種だ。

 

私がバックについている今、アッシュフォード家に対するネガティブな意見は少なくなったが、それでもまだなくなったわけではない。

 

医療技術の研究推進のための巨大研究所の建設のための土地の選定は重要な要素のひとつだ。

 

マンションを建てるのとは訳が違う、日本人にとって直接的な益となりづらい医療技術の研究所の建設のために、『はいどうぞ』と土地をくれるわけではない。

 

では、広大な土地を保有する日本人を抱き込めばどうか?

 

そして選ばれたのは、黒の騎士団の活動中期から好意的(主にゼロに)なキョウトだった。

 

「『包み隠さず伝えておくことが信頼関係をより強固にすると思った』……そうゼロ様はおっしゃってくださいましたの!」

 

いやんいやんと両手で顔を覆って恥ずかしがる皇神楽耶を眺めつつ、本気で今後の動き方を考えていた。

 

しかしすぐに考えを止める。

 

難しく考える必要はないと悟ったからだ。

 

そも、ゼロに協力的であるなら無理して引っ張って懐疑心を持たせることなどしなくて良いのだ。

 

ゼロに誘導させれば全てことがうまくいくというのなら、それで良いではないか。

 

ゼロを、ルルーシュを信頼することも大事だ、引き込みたいと意見を出して様子を見て見るのもいいかもしれない。

 

すぐに必要になるわけじゃないんだ、ゆくゆくは、で十分だ。

 

いきなり『実はアッシュフォード家とキョウト六家は仲良しでした!』なんて言っても胡散臭過ぎる。

 

時間をかけて信頼を密にしよう、いざという時に多少なり援助ができる程度には……。

 

「なら話は早い、あなたにとって欲しい行動は、時期を見てアッシュフォード家と会食を行って欲しい」

 

「会食ですか?」

 

「えぇ、形式的なものだが……………ゼロも出席する予定だもちろん私も」

 

「ゼロ様も!?あぁ!ならとびっきりのおしゃれをしなくてはいけませんね!」

 

「着飾るのは結構だが、当日はあくまでゼロの協力者であり日本エリアの代表として、近からず遠からずの立場を保って欲しい」

 

「………わかっていますわ、それが私の立場ですもの」

 

露骨にむすっとした態度でそう話す皇神楽耶、どうやら彼女は貞淑な女性に見えることが多いが、恋愛絡みだとこうも年相応なかわいい反応を見せてくれるようだ。

 

忘れがちだが、ナナリーやアーニャとは同世代なんだったか、時たま私より大人に見えるせいで忘れるよ。

 

「窮屈な思いをさせてしまうが、我慢をしてほしい、アッシュフォード家にはゼロとキョウトを資金提供程度の協力関係と伝えてあるから、それ以上の関係であると思われては不審を買う………特に今の時期はな」

 

「?……春はそういうことが多いものなのですか?」

 

「いや、そうではないんだが………」

 

…………言っておくべきか?しかしこれはややプライベート過ぎるような……いや、言っておこう、変に隠すと不審がられる。

 

「実はな、アッシュフォード家の当主の孫娘がな…………」

 

「その方が、どうか?」

 

「失恋……してしまってな」

 

すまぬ、ミレイ・アッシュフォード…………お前が想いを打ち明ける時間くらいは残してやりたかった…………。

 

クレアのストレートな好意の伝え方があそこまでルルーシュの童貞心にクリーンヒットするとは思わなんだ。

 

「あら…………失礼ですが、殿方はどのようなお方で?」

 

「アッシュフォード学園では珍しく庶民の出、頭のきれるイケメンだ、ついでに私の1番の親友だ」

 

無意識に胸を張ってそう答える、本来は主人であるが、親友として出会ってもきっと上手く行ったはずだ。

 

「それですと、さぞおモテになられるのでしょうね」

 

「事実、ファンクラブがあって、女子生徒の大半は入ってるくらいだ」

 

もちろん私もメンバーだ、数少ない男子メンバーの第1号とは私のことさ!

 

「はぁ〜〜………それで、令嬢の方はどうして失恋を?」

 

感嘆したように息を吐き、目を爛々と輝かせて続きを急かす皇神楽耶、こうなるともうただの色恋沙汰の話が好きな少女だ。

 

「薄々と恋心を募っていたようなんだが…………思いを伝える前に、件の彼に恋人ができてしまったんだ」

 

「まあ……それはなんとも………」

 

「実は……その恋人を紹介したのが私でな」

 

「へ?……カーライル様のご紹介された女性だったのですか?」

 

「あぁ、私の職場に新しく入ったバリバリのキャリアウーマンでな、私がプライベートの写真を整理している時に彼の写真を見られてな、『彼と合わせてくれ』と押されてな……」

 

「積極的な女性ですのね」

 

「それで合わせて見たら、趣味は合うし話は途切れないしで相性ピッタリでな、数回デートを交わして正式に交際を始めたよ」

 

「デート………公園で待ち合わせをしたり、水族館や映画館を回って、美味しい食事を二人で食べるアレですわね!?」

 

椅子に座ったままグイッと身を乗り出して鼻息荒く聞いてくる皇神楽耶。

 

日本の象徴俗いなおい…………。

 

「ああ…………公園で待ち合わせをして、優美なカフェテラスで昼食をとり、ショッピングモールで互いに似合う衣服を選んだり、同棲生活を送る想像をして赤面したり…………」

 

「うんうん……!」

 

「初々しくもだいたいに腕を組んで密着して歩いて見たり、立ち寄った本屋のいかがわしい本のエリアの付近で彼女が『こういうこと、してみたいの?』と挑発気味に彼氏に質問して慌てさせて…………」

 

「……!……!!」

 

「でも彼女自身も勢い任せに言っちゃった感じだったせいで赤面してしまい、ちょっと沈黙してしまって、気まずい雰囲気で映画館に入って適当に選んだ映画の濡場でドギマギして、出た後も互いの顔を見れなくなったりして…………」

 

「むふ………むふふ……!」

 

「公園のベンチで密着して座り、無言のまま時が経ち、いつのまにか20時を過ぎ、門限の都合からいっときの別れを切り出さなくてはいけなくなった………」

 

「な、なんてことなのでしょう……」

 

「言いたくても言い出せない、さっきの映画のシーンが何度も何度も浮かんできて、彼女との『そういうこと』がとても生々しく想像できてしまったからだ」

 

「あぁ、わかりますわ……私もゼロ様と………////」

 

「長い針が4の数字を過ぎた頃、彼氏はついに彼女の顔を見て行った、今日は解散にしよう、と……」

 

「いっときの別れでも、寂しいものですのに…………その殿方は勇気がありますわ……とっても」

 

「立ち上がる彼氏、しかし彼女は座ったまま彼氏の袖を引っ張った、彼氏は不思議そうに未だ座ったままの彼女を見る、彼女の身体は震えていた……」

 

「!……も、もしや!?」

 

「彼女が顔を上げる、涙が目元にたまり、肌は上気していた、身体の震えは嗚咽を抑えていたからだ…………驚き固まってしまった彼氏に、彼女は言った」

 

「…………(ゴクリ)」

 

「『今日は、帰りたくないの……』」

 

「キャーー!!甘酸っぱいですわ!!ロマンチックですわ!!」

 

ダンッ!ダンッ!と椅子の肘掛を叩きながら悶える皇神楽耶。

 

こいつ……さては恋バナ大好きだな!?(今更)

 

いや……途中からそんな気はしてたが、そんな気はしてたんだが…………まあ、年相応と考えれば別段不思議でもない、のか?

 

ナナリーも生徒会でそういう話を良くすると言っていたし、そもそも女性はこの手の話題が好きと聞くしな。

 

「ホテル直行ものですわ!」

 

この変態淑女、想像以上にヤバイかもしれん……。

 

強く生きろ、ルルーシュ。

 




皇神楽耶ネキ、英才教育によって手遅れなほどぶっ飛んでいた件。

恋愛ごと大好き娘の誕生である、もうわかんねえなこれ……。

でも中学生〜高校生くらいならこういう性格でも別におかしくはないと思います。

しかしこれ…………側から見るとJCの背後を取りに行く変態なんだよなあ……。


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『列車』は『止まらない』

前回のアラシズィ!!

皇神楽耶ネキ「やはり、純愛は最高や!NTRはNG」

ツキトニキ「わかる(天上天下唯我独尊天下無双百鬼夜行)」


『ジークフリートについては隠蔽できたよ、改装の方もツキト君のおかげでスムーズに運びそうだよ』

 

「わかった、アンドロイドについてはどうなっている?」

 

『ほとんど終わってたんだけど、まだ残骸の中にログが残っていたから、そこから各駆動部の動作や可動限界を調べてるところ』

 

ふむ、意外と残ってしまうものだな、機械相手に完璧な隠蔽は厳しい、ということか。

 

「さすがだ、試作品はいつごろになる?」

 

『モノはすぐにできるよ、ツキト君が帰って来る頃には出来てると思う、ただ人体に影響を与えない・与えにくい物質でパーツを作る必要があるからねえ……早くても1ヶ月かな』

 

ふむ、1ヶ月か、遅くなってもざっと2、3ヶ月程度…………いいじゃないか、慎重に行こう。

 

私だけのことじゃないからな、臆病なくらいでいいだろう。

 

「ドナーのほうは?」

 

『ちょっと興奮気味かもしれないね、睡眠時間が足りないのかたまーに長い時間お昼寝してるみたいだね』

 

「落ち着かせるために大体の完成時期を教えてやれ、それから、体調管理を厳にするように頼む、だがあまり強制はするな」

 

『難しい注文をしてくれるねえツキト君は、ドナーはまだ………』

 

「言うな、わかっている…………しかし、望んだのは本人だ」

 

『わかってるよ………』

 

ロイドを押し黙らせる、沈黙が流れ、言葉がしばらく出なかった。

 

「………後手に回るが、再生手術の研究も行う、その地盤を確保するための重要な研究であることはお前も知っているだろう?」

 

『わかってるって、これが成功して有用性を実証できれば、晴れて日本エリアに巨大研究施設を作って僕に再生手術の研究をやらせてもらえるんだよね?』

 

「私の権限フル活用で出来る限りのものを用意する、だから今は目を瞑って研究を進めてくれ、責任は私が……」

 

『ちょっとちょっと!何カッコつけてんのさ!』

 

突如会話を切られて少したじろぐ、一体なんだという言うんだ?

 

『僕にも噛ませてよね!おんなじ仲間なんだからさあ!』

 

「…………ふっ………了解だよ」

 

そうだったな、お前は飄々とした見た目と人間に興味のない内面を持つふりをして、その実、意外と親身だったりするんだよな。

 

さて、じゃあ私の思うままに世界の医療の最先端をひっくり返してやろう。

 

これまでの医療の常識の全てが過去になる、神経電位接続システムを応用した技術がそれまでの当たり前を変える。

 

日本エリアを、新たな研究特区とするために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前……。

 

 

「アンドロイドの実戦データと、神経電位接続システムの応用さえあれば、理論上最高の同調率を保つ義肢の開発ができるはずだよ」

 

「神経電位接続システム…………ジェレミア卿の背中のアレか?」

 

「そう、あれの技術を応用すれば、ジェレミア君とジークフリートが神経を通して高度に接続するように、ドナーと義肢を高い同調率で接続することが可能なんだ」

 

「具体的には?」

 

「従来品と比較する方がわかりやすいかな?………神経を電気を通して接続するわけだから、脳からの命令に応じるまでのラグはほとんどない、ただ、義肢の中はシステムでほぼ埋まっちゃうから、駆動に必要なバッテリーの空間の確保が課題かな?」

 

神経電位接続システム……恐ろしい性能だ、KGFの操縦に使われるのも納得だ。

 

そのために全身に施すのは、人柱と変わらん外道だがな。

 

「数十分でも数時間でも、とりあえず動くものを作ってくれればいい、初期段階で完璧なものは求めない」

 

「そう言ってもらえると気が楽だね」

 

「先ずは作ることからだ、それでドナーを通して動くかどうかの確認だ、それが終わったら、すぐに特許申請だ」

 

「特許申請?……あー、邪魔が入ると嫌だしね」

 

「この研究を確実に日本エリアで進めるためにもな、そこかしこでやられては困るし、未成熟な技術の拡散ほど恐ろしいものはない、やり方はアレだが、可能な限り我々で技術の独占を行う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とは言ったが……。

 

「こんな技術を真似できる組織はほとんどないだろうけどなあ」

 

ま、未成熟な技術を拡散して、混乱を招いてはいけない。

 

しかし、神経電位接続システムという画期的な装置は、精神感応波と同様、未だ底の知れない技術の結晶。

 

原石から削り取っている途中の宝石のようなもので、それがルビーなのか、サファイアなのか、それすらまだ判別のついていないのが現状だ。

 

なにせ、どちらの技術も【使えるものにしかわからない技術】であるからだ。

 

神経電位接続システムがどのようなものか想像することは容易いが、その正体は恐ろしく、言葉に出すことすら憚られる業によって誕生したもの。

 

精神感応波は文字通り人の精神性に左右されるもので、私はそれをなぜかほぼ十全に使えているが、使う時のこの感覚は、使えない・知覚できない人間にとっては理解できない不気味なものなんだろう。

 

そもそもの話、メリットばかりではないのが技術というものの常。

 

神経電位接続システムは特殊な手術が必要になる、それが義手を取り付けるためであれば、その腕の先端部に埋め込むようにして取り付ける必要があり。

 

少なくとも数週間以上に渡って患部を激痛が襲う、当然だ、なにせ切り開いて異物を突っ込んで閉じ込めているのだから、馴染むまでは相当の時間と耐え抜く精神が必要だ。

 

私の精神感応波は手術は不要で、思い描くままに反映できる。

 

その反面、使用時は脳に常に激しい負荷がかかり続け、より優れた精度・速度を求めれば負荷は倍々に増加する。

 

その果てにあるのは、脳死だ。

 

私は運良く過労でぶっ倒れた程度で済んだが、コードがなければもっと酷い……たとえば仮死状態になってもおかしくはなかった。

 

これらのうち神経電位接続システムにのみ、デメリットに対する回答はすでに為されているのが救いだろう。

 

術後の痛みは投薬によって個人差はあれどある程度の減少が見込める、馴染むまでの時間は装置部の改良によって数%の向上が見られた。

 

私的に残念なことだが、精神感応波の技術的なデメリット軽減策は今のところ装置部の巨大化によって行われているが、その影響で熱量が上がり、冷却が追いつかない場面も見られる。

 

ガウェイン の改修案のテスト中に発覚したものだから大変だ、神経電位接続システムと精神感応波、そこにプラスでガウェイン の改修案の書き直しという業務まで足されたのだ。

 

まったくもって笑える状況でもなんでもないのが腹立たしい、しかしそれでもやらねばならんのが技術職の辛いところ。

 

しかし、一番辛いのは、ドナーだ。

 

ドナーは………あの研究所、いや、実験場のカプセルから救助され、里親が見つかり次第引き取ってもらっていた。

 

しかし、どうしても見つからない者もまたいた。

 

意識が回復しても人体実験のせいで諸々の反応が薄く、未だ人並みの生活が送れないと判断された者。

 

復帰し、社会生活が送れると判断されても、心の奥底で人間に怯えてしまい、踏み出せない者。

 

そして…………なぜか、私を名指しで里親に指名する者まで……。

 

「どうして、こうなるのだ……!」

 

なぜ顔も知らない性別も知らない、性格も体格も知らない尽くしの私を名指しする!?

 

現場の兵士か!?それとも入院先の看護師か!?

 

どこだ、どこから私の名前が漏れた!?

 

「私はそんな………【子供が大好きな優しいお兄さん】、じゃあないんだぞ!!」

 

どう湾曲すれば私のイメージがそうも捻じ曲がって患者に伝わるんだ…………。

 

しかも……しかも……。

 

「いや、それただの情報管理の不徹底じゃん?」

 

「うっさいわ!そんなこと百も承知じゃ!」

 

「お〜こわ!ヘンゼルお姉さんは退散するわ〜」

 

「ちょっとオリジナル?そううるさいと眠れないんだけど?」

 

しかも!!!

 

「なぜユーロピア行きの皇帝陛下専用列車に、貴様ら(ヘンゼルとグレーテル)がいるのだ!」

 

クソが!付いてくるなら棺桶にしておけと……。

 

「ロイドが『いーじゃない、両手に花だよツキト君』って言うし」

 

あんのボケがァァ!

 

拗れるだろうが!大事な会談なんだぞ!?アホかあいつ!?……いや普通にアホだったわあいつ!

 

「そうカッカしないでよ〜、オリジナルの情報を患者に言ったの私達だけど」

 

「貴様ら………貴様らァァ………!」

 

絶対……絶対に!いつかスクラップにしてやる!!!

 

「あー……マジスんませんっした」

 

「ぐっ…………まあいい、私のイメージは崩れたが悪くない方向だったから良しとしておく」

 

「いえーっす!オリジナルってマジ太っ腹!」

 

「マジリスペクトっすわー、マジパネエッスわー」

 

「調子にのるな、このポンコツアンドロイドめが」

 

誰に似やがったこいつら…………私じゃないか……。

 

「まーまー…………それで?会談ってのは何が目的なのさ?」

 

「まあ、無難に、教科書にあるような敗戦国と戦勝国のやり取りさ、賠償金に領土割譲、あらゆる利権と人的資源のぶっこぬき………いろいろだ」

 

「やっぱさ、分捕るだけ分捕る感じ?」

 

悪どい顔でグヘヘ、なんて笑いながら言うヘンゼルの顔にイラっときたのでチョップを喰らわせてから話す。

 

「いいや、いくら賠償金をもらっても、いくら土地を分捕っても、もう取り返しのつかないほど国土を荒らしてしまったわけだ、金も土地も、人間も、もうほとんどいやしない」

 

「じゃあ何しに行くわけ?」

 

「復興支援の取り決めのための合同会議、っていうのが一応の題名だったか」

 

「復興支援?してるじゃん」

 

グレーテルの言葉にうなづきつつ、続ける。

 

「今の簡易的な瓦礫の除去程度では到底ではないが、安心して人が住めるようなものではない、道路の舗装や水道管の工事、送電網の配備といったインフラ整備はもちろん、景観の再現も大切だ」

 

「ふーん、なんでそこまでやるの?」

 

「人がいないからだ」

 

「人がいない?ちょっとちょっと、仮にも首都のパリだよ?いくらオリジナルがめちゃくちゃにしたとはいえ、復興支援もやってるんだし、住んでた人は戻ってきてるでしょ」

 

「それが、そうでもないのだ、実に厄介なことでな」

 

ブリタニアとユーロピアの終戦後…………否、戦争直前から多くのユーロピア連合国の国民が中華連邦へと亡命していたのだ。

 

ユーロピアは大国ではあったが、初戦から続く連敗で不安が募った国民から中華連邦へ亡命していったらしく、すべて合わせると総人口の約4割にも及ぶ。

 

この亡命していった者たちこそ、ブリタニア領ユーロピア自治区の目下の不安要素だった。

 

ほとんどが一般人ではあるもの、中には大企業の重鎮やVIPも含まれている彼らだが、終戦後に戻りたいと声が上がった。

 

これに反発したのは当然、国と運命を共にする覚悟を背負った元

ユーロピア現ブリタニア国民だった。

 

『国を捨て、中華連邦に尻尾を振った雌犬風情が今更……』という風に不満が勃発、空港等にデモ集団が押し寄せ、帰国予定者を乗せた旅客機が発進できずにいるのだ。

 

ユーロピア自治区のトップとしては、VIPだけでも何とか帰国させ復興への援助を受けたい一心なのだが、元が民主体制であるゆえ、数千万の元国民を置き去りに数十人だけを特例で連れ帰るなど不可能だった。

 

ブリタニアも対策を練っていたが、なにぶんユーロピア自治区はこれまでの占領地と違い、最初から自治区の異例の優遇処置を受けている、まさしく日本エリアの目指すべき特区の姿だ。

 

終戦後のごたごたで反乱の兆候がチラホラと合間見え、絶対数の不足から未だに駐留部隊がいない地方さえ存在する。

 

それだけユーロピアは広大だった。

 

そんな、いつ爆発してもおかしくない火薬庫…………いいや、いつ爆発してもおかしくないサクラダイト数千トンの山のような場所に、喜び勇んで行けるほどの皇族はいなかった。

 

無論、貴族も同じだった、皇族の嘆願だから……と言っても、怖いものは怖い、それまでの縁を切ってまで拒否した諸侯も多いそうな。

 

これでは神聖ブリタニア帝国の威厳はないも同然、早急に、何でもいいから大使でも送れとばかりに陛下の側近がパニックに陥り、結果として私に白羽の矢が立ったわけだ。

 

終戦に導いた、というより、勝ち戦を取り逃がした元凶たる私を送るのはわかる、わかるが………。

 

「気が乗らん」

 

「まあまあ、そう言わずにさあ、ね?ツキト・カーライル卿!」

 

「卿はつけるな!虫酸は走る……」

 

そう、たかが大使としてラウンズを送るだけなのに、見た目を気にし過ぎる側近が私を『貴族』にしてしまったのだ。

 

もちろん諸侯は猛反発、『貴族位を捨てた若造を今更……気でも狂ったか!?』という感じに、ものすごい大荒れだったようだ。

 

当事者の私のいない本国で、だが。

 

しかし、それでも結局は『じゃあお前代わりに行くか?』という脅し文句には引き下がるしかなく、すごすごと反対派の運動は沈静化していった。

 

そしておととい、皇帝専用列車に搭乗する直前、私宛に届くファックス。

 

【お前を貴族ってことにしとくから!会談よろちくびー!(意訳)】

 

ざっけんなゴルァ!!!(バァン!)

 

という叫びを堪えて列車に揺られること2日、そろそろ窓から叫んでもいいんじゃないかな?

 

私の一世一代の決意をさあ……こんなミソッカスみたいな理由で…………こんちきしょう!あの側近帰ったら絶対にコロs

 

 

 

ギャギャギャギャギャギャアアアアアアアアンンンッッッッ!!!

 

 

 

「急ブレーキ!?」

 

「うっそまじで!?」

 

「動物でもひいた!?」

 

「まずいなそれは大問題……じゃない!何かに掴まれこのアホアンドロイド!」

 

突如、急ブレーキがかけられて反動で身体が宙に浮く、急ぎ身を捩って座っていたソファの飾り部分を掴んで床に降りる。

 

次いで衝撃に対する体勢、対ショック姿勢を取る、守るべき部位は当然頭だ。

 

しかし列車は停車、予想していた衝突などの衝撃はこなかった。

 

なんだ?何が起きた?

 

窓の外を見る…………わからん、広大な草原が見えるだけだ。

 

「ヘンゼルは内線を繋げろ、グレーテルは鞄から武器を取り出してドアの前に立て」

 

「「了解」」

 

リンクせずとも異常な事態と察したか、ヘンゼルとグレーテルはすぐに行動を開始した。

 

ヘンゼルは内線を繋げようと受話器を取って番号を入力し始める。

 

グレーテルは持ってきたカバンの中からサブマシンガンを取り出してマガジンを挿しこみ装弾した。

 

私はというと、華やかな装飾ゴテゴテの服を脱ぎ、防弾性能の高いKMFのパイロットスーツを着込み、防弾チョッキを装着する。

 

万が一に備えて、前に一度ユーロピアに持ってきたあの装置を起動させておく。

 

「…………どこも通じない、呼び出せてるから断線じゃない」

 

ヘンゼルの最悪の報告を受け取ったのはグレーテルからサブマシンガンを受け取っている時だった。

 

状況が読めんが、とにかく。

 

「私の権限で緊急事態の発生と断定する、列車の機能はわかる部分では電気が通っている程度、それ以外は不明だ、籠城は得策ではないため部屋から出て散策を行う、異存は?」

 

「「なし」」

 

「列車前方の操縦室へと向かう、お前たちは私を守れ」

 

「元よりそのつもりよ、あと、オリジナルはできるだけ身軽にしといて、応戦は私とグレーテルがやるから、オリジナルは隠れることを優先して」

 

「マガジンは私とヘンゼルが多く持ってく、そうすれば防御力を確保しつつ動き回れる程度には重量を抑えられる…………まあオリジナルにとっちゃあるのもないのも同じかもね」

 

「頼む、では…………出るぞ」

 

ドアをゆっくりスライドして開け、ヘンゼルが前方と後方をクリア、部屋から出て列車前方の通路の警戒を行う。

 

同時に、グレーテルも列車後方の通路を警戒、ヘンゼルが前の車両のドアに近付くまで後方の安全を確保する。

 

リンク無しに私の思った通りの行動を取る…………まさに、私の想い描く理想の兵器、そのイメージが形として目の前にあるようだ。

 

ヘンゼルが車両前方のドア前まで近づいたところで止まって反転、後方の確認を始めると同時に、グレーテルが車両の後方のドアまでをクリアリングする。

 

ハンドサインを部屋の中から鏡を使って覗き見る、2人が言うには、この車両には何も無いそうだ。

 

人気(ヒトケ)も、不審物も、何も無い、ということらしい。

 

信じて部屋……皇帝専用列車の中でも特に広い個室から出て、ヘンゼルの近くまで音を立てぬように歩いて近づく。

 

そうやって少しずつ前の車両へ、前の車両へと進み、操縦室に入った。

 

「………ちっ」

 

思わず舌打ちが出る。

 

「…………死んでるわね」

 

操縦室には運転手とその補佐役の2人が常駐しているが、どちらも席に座ったまま死んでいた。

 

頑丈な防弾ガラスは無傷、何故か開いている外への出入り口………どんな方法かは知らんが、厳重で分厚い装甲を持つ操縦室の外への出入り口を開けて入ってきたわけか。

 

グレーテルに操縦室の外への出入り口を閉めさせる、狙撃されてはかなわんしな。

 

「左肩と首元の間に刺し傷、だいたい……12cm以上のかなり頑丈な刃物」

 

「サバイバルナイフよりかは、銃剣のほうが妥当か」

 

「抵抗した様子はないね、拳銃はそのままだし、シートベルトも締めたままだったみたい」

 

「ますますわからんな………」

 

列車を止めたということは、何かしら列車の外で異変があったと言うことだ、出なければ列車を停車させるなど………。

 

「………もしかして!」

 

「あぁ、おそらくそれだ」

 

「オリジナル、それまじで考えてる?」

 

「正直一番ありえないと思うんだけど?」

 

「だが、状況はそれが一番だと言っている」

 

くそったれ………。

 

「犯人は内部……そんなの当たっても嬉しく無いんだけど〜」

 

私もだよまったく、くそが。

 

「チェックは万全なはずよね?」

 

「運転手とその補佐以外の乗員は皆、親衛隊だ、チェックといっても軽いものだったんだろう」

 

グレーテルにそう返しつつ、苛立ちを鎮める。

 

私ともあろう者が、敵を見抜けぬとは、不甲斐ない。

 

「仕事しっかりして欲しいんですけど……まじで」

 

「まったくだ……しかし起こってしまった以上は解決せねばならん」

 

死体の瞼を閉じさせて2人の方を向く。

 

「列車後方にて待機しているはずの兵士から音沙汰が無い今、そちらも全滅していると考えていいだろう、あるいは全員が敵の可能性もある」

 

「3人での確認は危険だし、突破は非常に困難、私とグレーテルが盾になればサブマシンガンくらいは全弾通さない自信がある」

 

「ライフルはもちろんだけど無理、そこまでこのボディは硬くない、加えて、道が狭く一直線だからオリジナルが回避しつつ突撃するのも困難」

 

「積荷は全てチェックしてあるからライフルはないだろう、警戒すべきは散弾銃だ」

 

「全体の武装はどんな感じ?」

 

「4丁だ、親衛隊は16人、弾種は散弾のみ、ほかはサブマシンガンと全員オートマチックを持ってる」

 

「スラッグやサボットがないだけまだマシね、対してこっちは……」

 

「私とヘンゼルはサブマシンガンが1丁ずつ、オートマチックが1丁ずつ、ペッパーボックスが1丁ずつ」

 

「リボルバーが1丁と、剣が1本、それと………使い物にならないショートの散弾銃が1丁だ」

 

そう言って服の内側から取り出したのは細長い短筒、グリップなどと言うものはないただただ垂直な見た目に、無骨を通り越して『犯罪者が密造しました』という雰囲気が半端じゃ無い。

 

この、装飾のついた鉄パイプとホームセンターで売ってる日曜大工の部品で作った感溢れる散弾銃は、実はれっきとした正式採用の銃器だったりする。

 

「えっ……何それ?単眼鏡?」

 

「……に見せかけた護身用の散弾銃でな、ぱっと見ではレンズもはまっていてそれっぽい装飾もある、指揮官が持ってそうな単眼鏡だが、中には1発だけ散弾が装填されている隠し銃だ」

 

「また変に凝ったものを作るねぇ…………最悪はそれも使うことを考えたほうがいいかもね」

 

困った顔で言うヘンゼルに『まったくだ』と返そうとした時だった。

 

小さな、本当に小さな足音が聞こえた。

 

締め切ったドアの向こう側から。

 

複数人の足音が。

 

認識したと同時に一時的にヘンゼルとグレーテルと精神感応波でリンクし、行動をイメージとして送る。

 

すぐに行動を、しかし物音を立てずに行うヘンゼルとグレーテルを見ながら、私はリボルバーを抜く。

 

撃鉄をゆっくりと起こしながら、タイミングを待つ…………。




皇帝専用列車の中で人殺すとか…………犯人はすっげえ不敬罪ゾ、ってかむしろ大逆罪ゾ。

・単眼鏡型短散弾銃

名前通り、指揮官用の単眼鏡に酷似した見た目を持つ散弾銃。
マッドマックスや北斗の拳等で人気のダブルバレルの半分以下の超短銃身で威力・射程に難があることをもってしても、それさえ補って余りある傾向性能と隠蔽性能、そして不意打ちの成功率が、ブリタニア軍の高級士官向け護身武器として正式採用へと至った。
配備直後から多くの指揮官がコメントを残した、中でも多かったのが【兵器局仕事して、どうぞ】であったとか。


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『罪人』を捕らえよ

前回の亜羅巣寺ィィイイイ!!!


TKTNK「貴族に逆戻りしちゃったんだぜ!側近帰ったら絶対ブッコロゾ!」

急ブレーキ

TKTNK「あああぁぁああぁあぁああぁぁあああっっ!!!」

ヘンゼル「はぇ〜、すっごい制動」

グレーテル「ブリタニアの技術力ぅ……ですかねえ?」

ヘンゼル「誇らしくないの?」

TKTNK「捕まれや阿呆!!」


ツキトが操縦室のドアを開ける。

 

ドアの向こう側、後方車両の方には親衛隊の者たちが武装して集結していた。

 

いきなりドアが開いたことに驚いてサブマシンガンやショットガンを構える親衛隊達だが、出てきたツキトの姿を確認して構えを解いて敬礼した。

 

「カーライル卿!ご無事でしたか!」

 

「私は、無事だが……」

 

威勢の良い40代半ばの隊員が声をかける、ツキトはやや言いづらそうにかぶりを振ってから話し始めた。

 

「………運転手がやられてしまった、着いた時にはすでに肩にでかいのをぶち込まれたあとだった」

 

「刺し傷による出血、ですか……」

 

「残念ながら手の施しようがない、弔ってやりたいがいつまた襲撃を受けるかわからん、一刻も早く平原を抜けなければならない」

 

「わかりました、外部通信機で運転手を呼びます」

 

ツキトの声に呼応して先ほどの隊員より若い、30代前後の男が通信機を取りに行くため、敬礼して後ろに振り向いた時だった。

 

「待て」

 

ツキトの呼び止める声に驚き、身構える親衛隊達。

 

これまでの声のトーンとは違い、一層深く低い声音だったからだ。

 

「な、なんでしょうか?」

 

「…………先程なんと言った?」

 

「は、はぁ、先程と言いますと……」

 

「運転手の傷のことだ」

 

「あぁはい、ただの推測ですが、刺し傷による出血、と……」

 

「………………なあ」

 

ツキトはリボルバーを抜いてハンマーを起こし、言った。

 

「ぶち込まれた…………と言った時、普通は大口径の拳銃か、散弾銃を連想すると思うんだが?」

 

「!!!!」

 

そう言って隊員の男を見据えるツキトの目は、濁りきったドブ川のように真っ黒で、同時に、極彩色が万華鏡のように不規則に回転しながら乱反射しているように見える。

 

気圧された男は後ずさりながら反論を考える、混乱する頭で何とかひねり出そうと模索する。

 

「操縦室の狭さを考えますと、銃器より刀剣類の方が取り回しやすいため、とっさにその基準で考えました」

 

「そうか、なるほど、ではもうひとつ…………なぜ、貴様だけ銃剣を腰につけていない?」

 

「邪魔になるかと……」

 

「阿呆か貴様?私が親衛隊の事情を知らぬとでも?」

 

「…………」

 

ツキトの言葉に口をつぐむ男、その表情は青ざめていた。

 

無理もない、よもやツキトが親衛隊にのみ配布される教範を読破していようとは思いもよらぬ誤算だった。

 

『親衛隊が嫌いだからケチつけようと思った』、という不純極まりない理由があったことは気にするな!

 

「【親衛隊は騎士である、故に儀仗隊としての役割を持ち活動する場合がある、いかなる状況下であっても銃剣だけは常に携行するべし】…………まあ、そんな一文があったと思うんだが」

 

迂闊、理不尽にすぎるツキトの記憶力に為すすべを失う男。

 

「どうだったかなあ………ん?どうした?ほら、答えろよ、『親衛隊』」

 

「…………死ねえ!!」

 

回答は銃弾となって帰ってきた。

 

ショットガンから放たれた小さな鉄の粒が、ツキト目掛けて飛んでくる。

 

距離はたったの4、5メートル、いかに剣の天才とも言われるツキトであれ、この距離からの散弾を躱しきれはしまい……と、男は思い、引き金を迷いなく引いた。

 

そう、いかにツキトといえども全弾のうち自身に当たる分だけを切り落とすとしても、厳しいだろう、そう、とっくのとうに判断していた。

 

それで何の対策もなしに突っ込むほど、ツキトは馬鹿ではない。

 

男にとってもうふたつほど誤算があったとするならば、ひとつ目は…………。

 

「そうは床屋が卸さない、ってね!」

 

射線上に飛び込み、すべての散弾をその身で受け止めた銀髪の女がいたこと。

 

そして、ふたつ目は…………。

 

「『問屋』でしょそこは…………あぁそうだ、お兄さんさあ、『マーシャルアーツ』って知ってる?」

 

「なん…………ぁぁあああああ“あ”あ“あ”あ“あ”!!!!!!」

 

見事な体捌きと足運びからくる縮地にも似た高速移動で男に接近し、あっという間に制圧してしまった、これまた1人目によく似た銀髪の女がいたことだ。

 

「いや〜、まさか本当に盾になるなんて思わなかったよ」

 

散弾を全て腹部で受け止めておきながら、痛む様子も見せない銀髪に女に言い知れぬ不気味さを感じずにはいられない親衛隊達。

 

「それがお前の役目だからな、果たしてもらわねば困るのだ」

 

そんな親衛隊達を他所にツキトが何の心配もせず平然としているという、恐怖を煽るようなことしてしまった。

 

もちろん、親衛隊だけではなく、今も組み伏せられ身動きできない状態にある男は、さらに大きな恐怖の中にあった。

 

「…………!」

 

散弾すら平然と受け止めて身じろぎさえしないバケモノ女と瓜二つの女が、自分を組み伏せているのだから。

 

「グレーテル、そいつから出来る限り吐き出させろ」

 

「りょーかーい」

 

痛みで失神した男を軽々と持ち上げる銀髪の女、グレーテル。

 

テキトーに持ち上げたまま空いている個室のドアを開けて放り投げた。

 

そのままグレーテルも個室に入り、ドアが閉められた。

 

「あぁ、そうだ」

 

ふいに、ツキトがそうこぼし。

 

「ヘンゼル、そこの男も同じ部屋に連れて行け」

 

「アイアイサー!」

 

「え!?自分がですか!?なぜ自分が……」

 

急に指を指されたと思うといきなり先程男が放り込まれた個室に連れて行けというツキトに、困惑を隠しきれない親衛隊達の中でもっとも若い男。

 

「あいつが銃を構えた時、皆が押さえ込もうと動いていた中で、貴様だけ反対方向の出口に向かったからだ」

 

「なんですと!?本当かヘンリー!?」

 

「い、いえ、自分はっ……!」

 

「お仲間さんが騒ぎを起こしてる時に自分だけ逃げようとしたんじゃないの〜?オリジナルの暗殺の成功、失敗に関わらずさ」

 

言い逃れすら許さないと、ヘンゼルがこの状況ではもっともらしい理由を突きつける。

 

若い男を囲むように親衛隊達が銃を構えた。

 

「お……俺は違う!違うんだ!」

 

焦燥し、喚き散らして自分は違うと叫ぶ若い男。

 

親衛隊達も『やはり違うのでは?』とにわかにも思えてきてしまい、銃口が下を向き始める。

 

「ヒュー、真に迫る演技だねえ」

 

「プロのアサシンは潜入がバレた時、相手の油断を誘うような演技をすると聞くが…………なるほど、騙されるわけだな」

 

だが、ここにいるのは鬼畜の権化、ツキト・カーライル。

 

そしてその人格をコピーしたtypeBアンドロイド【ヘンゼルとグレーテル】なのだ。

 

追撃の手を緩めるはずもなく、親衛隊達は今度こそしっかりと銃を構えて包囲した。

 

「諦めたまえ、悪いようにはせんよ…………まあ、いつ気が変わるかは知らんがな」

 

「う……くっ………」

 

若い男は膝を床につけ、肩を落として力なくうな垂れた。

 

「ヘンゼル、連れて行け」

 

「ほいほーい」

 

ズルズルと男を片手で引きずって行くヘンゼルに畏怖の目を向ける親衛隊達。

 

仕方がない、人ならざる奇妙なモノとしか認識ができない、いや、日本エリアの特派と本国の凡技術者の技術では格差があるせいで、認識が追いつかないのだろう。

 

「列車を動かすためにその手の資格を持っている者はいるか?」

 

「私とこいつが電気系の資格を少々……」

 

「君達は私と来い、他の者たちはさっきの銀髪の女……グレーテルとともにアイツらから何でもいいから吐かせろ」

 

指示を出したツキトが、小さく呟いた。

 

「…………皇帝陛下の威光に泥を塗るなど……………許さん」

 

顔を覗くものがいなかったのはツキトにとって幸いであり、そして覗こうとした者がいた場合、その者は深く後悔しただろう。

 

「絶対に…………許してなるものか………っ!!」

 

伝説の中にある鬼の醜い顔面を思わせる、怒りで歪んだ表情をしていたのだから。

 

しかし、それでもツキトは覗かれても構わないと考えていた。

 

忠誠こそ誉たるブリタニアにおいて、それを怒りとして表している自身の姿を見せれば、株があがると考えているからだ。

 

打算的な考えをやめられないツキトを、いったいどこまで民は信じてついて行くのだろうか?

 

ツキト・カーライルの思想を理解しようという行為そのものが、狂信者のような無意味な殉教へと誘うのだろうか?

 

ただ一つ言えること。

 

それは、ツキトが決して正義ではないということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトside

 

 

「結局、延期になっちゃったねぇ」

 

ある程度復興が進んでいる地区の、安全が確認できたパリの高級ホテルの一室に着いて早々、ヘンゼルがつぶやいた。

 

「『皇帝陛下の専用列車を止めてまで重要人物を暗殺しようとした、暗殺者はなんと親衛隊だった』なんてことになれば延期も無理もないでしょ」

 

キングサイズのベッドに腰掛けたグレーテルがそう返しつつ、カモフラージュのための服を脱いだ。

 

「今頃本国のほうじゃ極秘裏の取り調べの真っ最中かな、または、事実の隠蔽に動くか……」

 

ヘンゼルも同様に服を脱いで全裸になり、グレーテルのとなりに腰かけた。

 

「『親衛隊隊員の大粛清』、『皇帝陛下専用列車での暗殺未遂』、どっちもバレたら大変だし、情報操作でてんやわんわ、ってとこでしょうね」

 

「私もそれについて召喚されそうだ…………まったく面倒な」

 

腰かけるヘンゼルとグレーテルの後ろの方の空いたスペースに寝っ転がる。

 

今日はもう疲れた、さっさと寝るに限る。

 

「はぁ………ヘンゼル、グレーテル、私はもう寝る」

 

もう一ミクロンも思考したくない…………。

 

だいたいなんで列車を止めたんだ、修理のために前から後ろまで工具持ってシャトルランなぞ…………到底ラウンズの仕事じゃないな。

 

日曜大工のラウンズ……なんて呼ばれそうだ。

 

日曜大工でもやらんぞ、あんな専門技師のやるような電気系の修理は。

 

「はぁ…………あ〜……ヘンゼル、グレーテル」

 

「んー?なになにオリジナルぅ?おっぱい揉む?」

 

「それとも、挟んだほうがいいかしらね?」

 

「間に合ってるからソンナノハイラン」

 

3………5か。

 

「部屋の外、5人……臓物の匂いがする、刃物持ちだろう、殺れ」

 

「「アイアイサー(あいよ〜)」」

 

応えたヘンゼルとグレーテルはビシッとふざけた敬礼をして全裸で……【一糸纏わぬ全裸】で、ホテルの廊下へと飛び出そうとした。

 

「待て、服を着てから行け」

 

「えーせっかく脱いだのに〜……」

 

「しゃーないでしょ、オリジナルの趣味なんだし」

 

「おいこら、私には脱衣観察趣味も視姦趣味もないぞ」

 

せめてあるとすればナナリーが趣味…………うっわ、私、キモすぎ。

 

「あっ、そだ、どうせなら面白くいかない?」

 

下着をつけながらヘンゼルはニヒルな笑みでそう言った。

 

「……あー……察したわ」

 

「で?どうよ?」

 

「もち、やるに決まってるでしょ」

 

「お前らなあ……」

 

いい顔で笑いやがって…………この性格の悪さはまさに私だな。

 

「ふむ…………よし、お前たちに任せる」

 

自発的な行動は良いデータが取れそうだ。

 

ま、修学旅行的に言えば、眠る前の枕投げのようなものだ。

 

「お!ノリいいじゃんオリジナルぅ〜」

 

「実はこの状況を楽しんでるんでしょ?」

 

「ふふっ………まあな」

 

命を狙われる感覚というものは、マイナスGがかかった時のような、臓物が上に引き上げられる『キュッ』という感覚……言うなれば浮遊感に通じる、なんとも言えない心地よさがある。

 

などと、マゾのようなことを思ってしまったが…………実際、ジェットコースターの下りは謎の気持ちよさがあるだろう?

 

「好きなようにやれ、必要があればリンクは無理だが共感覚ならいいぞ」

 

ヘンゼルとグレーテルは顔を見合わせるとうなづきあい、同時に私を見つめてきた。

 

「よぅーっし!やっちゃうぞ〜!」

 

「ほんじゃ、ヘンゼルは逃げるほうで、オリジナルはラフな格好でちょい乱しといて」

 

「ほう…………なるほど」

 

そうかそう来るか。

 

たしかに、人目は十分に引けるだろうな。

 

…………本当、嫌なとこ似るなぁこいつら……。

 




一難去ってまた百難!

止まることのないアサシンラッシュ!

ネロ祭りの翁地獄がごとく!(なお脱落者のみのもよう、消化試合ってレベルじゃねーぞ!)



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『邪悪』なりし者の『世界』

ビグロ回(?)です。
外道標準装備のTKTNKの姿、見とけよ見とけよー。



前回のアラスジィァァァアアアアア!!!


TKTNK「親衛隊の裏切り者、窓際行って、シコれ」

裏切り者「ヤダYO!」バァン!

TKTNK「あっ、ふーん…………ヘンゼル、拷問して、どうぞ」

ヘンゼル「かしこま!」

裏切り者「ぬわああああ!!!嫌だああああああああ!!!」

親衛隊「やべえよやべえよ……」


いや、しかし…………なんだ……。

 

「世の中の男という生物に対し、少し同情しそうになるな、この光景は」

 

 

 

「うぁぁ……あ……」ぐったり

「!!!???」ググッ

「いっ…………あぁああぁぁああああぁ!!!!」ジタバタ

「…………」シーン

 

 

 

ある者は力なく横たわり、ある者は急所を押さえて震え、ある者は激痛に悶絶し、そしてある者は………死んでいた。

 

暖房の効いた高級ホテルの一室に、股間を押さえた男たちが転がっているという、珍妙な光景を作り出した当人は、今、女を尋問中だ。

 

「にしても、思い切ったものだな」

 

横たわる男たちを見る。

 

どいつもこいつも死んでいるか虫の息やつばかり、股間からは血液が溢れ続け、床を汚染し続けている。

 

「しかし貴様ら、運が無かったな、あいつらがいなければ、こんなことにはならなかっただろうに」

 

ベッドに腰かけながら、残り時間の少ない命を眺めてそう言った。

 

「ふざ……っけんな!…この……悪魔、ガァ……ッッ!」

 

「おやおや……」

 

股間からの出血を抑えようと両手で必死に患部を押し付けながら、健気にも震える脚で立ち上がり、怒りのこもった目で睨みつけてきた。

 

しかし悲しいかな、股間を必死に押さえつけている様子は…………あれだ、あれ、勃◯を隠しているようで、笑えるなぁおい。

 

「クククッ……」

 

まずい、自分で言っといてツボったwwwクククッwwwwww

 

◯起隠しwww中学生かよwwwwww

 

「んふっ……くふふ……ハァー、ハァー…………ふう、面白かった」

 

「て、めぇ……っ」

 

「あーー……なかなか楽しかったよキミィ」

 

それなりには、楽しめたかな?

 

「ほら、さっさと退場したまえ」

 

「ふz」

 

ドォン!

 

グジュッ……ビュッチャァッッ!

 

「ふぅむ…………存外悪くない威力だな」

 

撃ち終わった単眼鏡型散弾銃をクルクルと回してからその辺に投げ捨てる。

 

顔を含めた上半身が真っ赤に染まった上でぐちゃぐちゃになった勇者くん(仮)を少し観察してから、ヘンゼルとグレーテルのいる場所へと向かった。

 

場所、と言っても、同じ部屋の中のシャワールームだが。

 

広いシャワールームに入ると、女を尋問しているヘンゼルとグレーテルがいた。

 

「まだ終わらんのか?いい加減退屈なんだが」

 

「いやあ〜それがさあ、イチモツ食わせたら壊れちゃってさあ」

 

「はあ?壊した?」

 

そう聞き返し、女を見る。

 

女は持ち込まれたパイプ椅子に拘束されて目隠しをされている、猿轡などは無いが、口を半開きにしたまま動かない。

 

目隠しを外して瞳を覗き込んでみると、なるほどたしかに、かなり激しく壊れているようだ。

 

「だから言ったじゃないヘンゼル、指からいくのがいいって」

 

「早いほうがいいと思って……あとお腹減ってたみたいだし」

 

「まったくお前らは…………」

 

私の人格コピーなのに尋問が下手とは、改善が必要か。

 

この際だ、教育しておくのがいいか。

 

「私が尋問の手本を見せてやる」

 

「お!さっすがオリジナル!」

 

「いよ、鬼畜の権化!」

 

なにやらうるさいヘンゼルとグレーテルを無視し、ライターを取り出す。

 

「ライター?オリジナルってタバコ吸わないのになんで持ってんの?」

 

「吸うとしても電気の方と思ってた」

 

「ここのホテルの部屋ごとに置いてある使い捨てのライターだ」

 

基本はマッチらしいが、物資の不足と安価という点で最近は増えて…………そこは今はいい。

 

「それでどうするの?指と爪を焼いて繋げちゃう?」

 

「それとも乳首を焼いて切り落とす?」

 

「どちらも違うな」

 

「じゃーどうすんの?」

 

「足の裏をな、ちょっとずつ焼く」

 

言って、ライターで女の足の裏を炙り始めた。

 

少しずつ、少しずつ、女の悲鳴をBGMにこんがりと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何時間経っただろうかわからない。

 

しかし、この女が10分もしないうちに吐いたのはわかっている。

 

ちなみに途中で本当にゲロを吐いたものだからほとほと困った、臭いし汚いし…………まあ、肉の焼ける匂いで既に鼻は慣れていたからそうでも無かったが、視覚的にはキツイものがあった。

 

今は、泣き叫び、ゲロをブチまけ、化け物のような呻き声まで上げていた女も、ぐったりしていてまるで意識がない。

 

「ふむ……死んだか」

 

やり過ぎたか…………まあいいか。

 

「少し強情な女だったが、情報は吐かせることができた、もういらんな」

 

「捨ててこよっか?」

 

「…………ゴム手はあるか?」

 

「あるけど、何?ヤるの?」

 

「うっわ、オリジナルちょっと……まだ暖かいからってそれは………」

 

「ちがわい、少し、蘇生してみるだけだ」

 

渡されたゴム手を付けて、ヘンゼルとグレーテルに距離を取るように言ってから、女の腹を押した。

 

ほぼ殴るようなパワーで。

 

「オッ…………お”ぅ“ぇ”え“えええええ!!」

 

「…………当たったは当たったが、なんだこのやるせないような微妙な気持ちは」

 

喉あたりで詰まって窒息しているのだろう…………と思ってど突いたら見事に息を吹き返しやがった。

 

ゲロと一緒に。

 

「よし、これくらいでいいか」

 

「え?何が?」

 

ヘンゼルはとぼけた顔をしている。

 

いや、お前なあ、わかってて言ってるのかこいつ?

 

…………だがしかし、それもあり得ることか。

 

そもそも、この状況は…………。

 

 

 

『『『私達が作ったのだから』』』

 

 

 

ヘンゼルの姿が歪んでいく、グレーテルの姿も歪んでいく。

 

縛り付けられた女の姿が崩れていく。

 

部屋の内装が回る、外の暗闇の空が回る、ユーロピアの夜景が回る。

 

グルリ、グルリと。

 

回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って。

 

ひとつに溶ける。

 

黒に、闇に、暗闇に……染まる。

 

黒い視界が回転する錯覚を覚える。

 

すぐに暗転。

 

しばらく経ってから、目を開ける。

 

「「「…………私は……ん?」」」

 

声を出すと違和感を感じる、違和感の正体はヘンゼルとグレーテルと完全にはもったことだ。

 

違和感がわかったところで、リンクの解除、共感覚の解除、ヘンゼルとグレーテルは自己人格を起動させる。

 

「…………ハッ!?」

 

「……マジでできちゃったよ」

 

文字通り再起動を果たしたヘンゼルとグレーテルがキョロキョロと目線をせわしなく動かし、体を動かして調子を確認している。

 

そんなヘンゼルとグレーテルを横目に、床を眺める。

 

床には数人の男と女が転がっており、外傷はないが酷くうなされていた。

 

「いやぁ、できるものだねえ」

 

「こりゃやばいよオリジナル、サイコウェーブ万能過ぎてヤバイ」

 

感心した様子でうなづきながら言うヘンゼルと、妙に興奮気味なグレーテル。

 

床に転がり呻く男女。

 

この風景を生み出した元凶は私…………いや、私達だ。

 

「サイコウェーブの精神への干渉能力を利用した『集団催眠』………こんなに上手くいくとは」

 

「それでも、保たせるためには私とグレーテルとリンクして範囲と効力を広げて、部屋ひとつがやっと」

 

「効果はバツグンだけど…………オリジナルの状態はかなり良くないわね、リンクしてた時の状態から見ても、いつ倒れてもおかしくないほど消耗してるわ」

 

「正直、もう……かなり、眠くてな…………」

 

精神感応波で他人の意識に干渉し、強力な催眠状態にする。

 

抵抗力のない(精神感応波が弱い)者には効くが、抵抗力のある者には効きにくいだろう。

 

デメリットとしては、消耗が激しいことだ、それも深刻なレベルで。

 

さて、もうそろそろ睡魔に飲まれる……あとは、任せたぞ…………。

 

「ヘンゼル……グレーテル……………掃除しとけ」

 

「うわひっど、掃除任せて自分だけ寝r…………」

 

途中からヘンゼルの声が聞こえなくなり、次いで視界が徐々に暗闇に飲み込まれていった。

 

飲み込まれる刹那、ヘンゼルとグレーテルの声が蘇る…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

『精神感応波で行動能力を奪う!名付けて!【強制催眠!高級ホテルの個室で5Pレイp……』

 

『言わせるかバカヘンゼル!!』

 

『ぐべぇ!?』




万能電波『精神感応波』くん。
簡ケツに言うと……。
・オールレンジ攻撃ができるぞ!
・催眠もできちゃうぞ!
・気配が完全に読めるから死角はないぞ!
・使うと消耗激しいぞ!


はぇ〜……すっごいチート。



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息抜きに『散歩』でも

今回は文字数の最短記録更新だぜ!

なんと驚異の2000文字以下!

内容も薄い!

でもいいの!いいのよ!

だって…………だって!繋ぎなんだもの!
(ネタがなかったともいう)


「あー………気分が、最悪か、これは……」

 

二日酔いの極致のような気分で目覚める。

 

「…………ダッッルゥ……」

 

目覚めの第二声がこれではあんまりな感じもするが…………事実、精神感応波の使用のせいでかなり参っているのは確か。

 

置き時計を見やるとまだ7時、意外にもぐっすり眠れていたようだ。

 

「はいはーい、水持ってきたよ〜」

 

「すまん………」

 

ヘンゼルから水をもらい、少しずつ口にする。

 

昨日のことを……時間で言えば今日の2時過ぎくらいのことを思い起こしながらコップの水を飲み干す。

 

地獄━━━━━━と呼ぶには優し過ぎるあの催眠について考える。

 

ヘンゼルの荒唐無稽な発想が、害する者たちの迅速な制圧を呼んだのは確か、それは事実だ。

 

しかし、出来そうだから、という理由で本番に挑む者はいない、受験にしろ面接にしろ、練習は必要だ。

 

今回の行動は私自身やる気がなく、ヘンゼルとグレーテルに適当にやらせたのが反省するべき点だろう。

 

まあ、何も反省するばかりではなく、新たな可能性に発見もできたゆえ、そちらについて考えるべきか。

 

精神感応波による催眠術……なんて発想、私にはできたかどうかわからない。

 

そも私であれば、剣や銃を持って物理的に制圧することを選んだだろう。

 

ヘンゼルとグレーテルもそうであると勝手に思っていたが……。

 

ふっ…………良いではないか、これがアンドロイドの、人工頭脳の進化というものか。

 

この価値、例えフランス人(フ◯ッキンフレンチ)の住処の焦土と引き換えであったとしても釣りが来る。

 

「ククク…………」

 

電子部品の塊に過ぎぬ機械が、人間を超えた進化を見せつけたのだからな!

 

「実に愉快よなぁ……」

 

日々進歩、日々進化の道を歩むブリタニアにおいて、進歩・進化は何よりも優先される。

 

そして何より賞賛される、何故ならそれが、人類に許された、神すら穿つ業なのだから。

 

いずれはこの技術が、ブリタニアのあらゆる人種の家庭にて存分に振るわれるその時が、今から待ち遠しい。

 

…………よし。

 

「ヘンゼル、グレーテル、(粗大ゴミ)はどうした?」

 

「あー、親衛隊のほうにあげたよ」

 

「今頃てんやわんやでしょうね」

 

「はっ……だろうな」

 

犯人捜しは内々でやらせておくとして、会談が延期されて暇な時間をどうしようか?

 

…………うむ、復興の進行は如何程かどうか、自分の目で見て確かめねばならない。

 

コードのおかげか、起きて早くに体調も回復してきた。

 

本国の上層部が浅知恵を巡らせ、列車の緊急停止の隠蔽やら親衛隊内部の秘密調査をやっている間、隅々まで作業を見させてもらおうか。

 

秘密の立入検査のようなものだ、軽くでいいだろう。

 

そもそも、ジェレミアがいる状態で悪事などできる者はおらんだろう。

 

裏には疎いが、嗅覚は犬以上だからな。

 

「暇だから散歩に行く、ヘンゼルは支度しろ、グレーテルはこの部屋で警備だ」

 

「オッケー、かわいいの選んで来るから待ってて〜」

 

「よっしゃあ自宅警備じゃぁ〜」

 

言うなり衣装ケースを漁って鏡の前で服を当てて唸るヘンゼル。

 

ベッドにボフンッと飛び込み寝っ転がるグレーテル。

 

見た目だけなら普通に美女なのに、絶妙な残念具合とフル・フロンタル・スタイルのせいで、OLのオフ以上にひどい。

 

特にグレーテルは酷い、基本私しかいないときはフル・フロンタルでいるようになったのだ、せめて下着はつけておけと何度も言ったが聞く耳持たぬ。

 

いっそのこと、こいつに恥じらいという感情をインストールさせたい。

 

まあ、ああいうサバサバした性格も、民にとって受けがいいのは事実、そう否定するものでもないか。

 

ヘンゼルが着替えを吟味する中、私のほうも適当に繕った服を着ていく。

 

春とは言えど気候は日本とはまるで違う、うっかり薄着なんぞしていたら風邪をひきかねないレベルで寒いのだから。

 

「では、行くか」

 

「ちょっと!?まだ選び終わってないの!待っててよ!」

 

「えぇい!私のクローン擬きの癖にうざった奴だなお前は!」

 

「いやあ〜…………オリジナル(自分勝手の権化)の分身だし?多少はね?」

 

「ちっ………」

 

「覚えていろヘンゼル!帰ったらロイドに話してボディを変更させてやる!」

 

「ちょっ!?ままま待ってよそれだけは!お助けー!!」

 

バカな叫びをあげるヘンゼルを黙らせつつ、パリの街へと繰り出したのだった。

 




リア友によく聞かれるのツキトの存在、性格などについて、ご想像にお任せ……っと言ってもイメージがなかなかわかないと思います。

そもそも、ツキト自身が純粋な人間ではないこともあって、人間らしからぬ思考━━━━避ける必要はないとか、死んでも別にいいとかがあるわけです。

それでもナナリーが悲しむから、という理由で『何が何でも避ける』し、『死なないように』しているだけで、本来なら、肉体を超再生しながら突っ込むほうが手っ取り早く処理できます。

どれだけ負傷しても再生するなら、そっちの方が効率的だから…………しかし、それも過去の話、今のツキトにあるのは肉体を保つこととライフ1で耐える能力だけです。

超高速で肉体は再生できない、毒への耐性も低くなっており、むしろコードが枷となっているまであります。

つまり今のツキトは、人間の訳から半歩だけ外に足を伸ばした存在であり、純粋な人外とも呼べるほどではありません。

だからと言って、半人、というわけでもなく、人間と人外の領域をどっちつかずでぷらぷらしている…………それがツキトの存在でしょう。

性格ですが、人外であるという自覚のもと、思考もそちらへと向いていますが、未だ多くの思考は人間らしいままです。

人外であれば本来不必要なはずの3大欲求も変わらず身につけたまま、自身を人間ではない人外だと思い込み、人間なのに人間らしく振る舞いたいと考え、人間としてナナリーを愛したい…………なんて事を考えている。

それがツキトです、自分が人外の生物であると思い込んだただの死ににくいだけの人間です。

それではまた、次回をお楽しみに。

どうか、最後は愛が勝つ物語であることを願って。


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『会議』は『延期』

おひさ☆

みんな!ソドミー、しよう!ソドミーはいいぞ!




「では、最後に、国外への亡命した元国民の処遇についてですが…………」

 

ユーロピア連合の中心地域、フランスのパリにおいて、終戦時の和平条約を除けば、戦後初となる合同会議が今まさに行われていた。

 

そして、その長い長い会議もようやく最終課題たる亡命した国民の帰国問題へとたどり着いたのである。

 

この議題が来るまでの各地域代表たちの言い訳を聴くのはなかなかに酷であった。

 

なにせ、セリフがほとんど変わりがなく、ほぼ同じ言葉を紡ぐ機械のように感じられ苦痛でしかなかったのだ。

 

一番酷なのは言うまでもなく書記なのだろう………なにせ、言い回しは違うにしても本質的は変わらないのだから、面倒な事この上ないだろう。

 

会議後の彼の胃が少し心配だ、ここで出た発言をまとめようにも『以下同文』とは書けないのだから。

 

まあ、そんな可哀想な書記くんのことは置いておこう。

 

今は、目の前で起きている激論に目を移すべきだろう。

 

各地域代表が、互いに接近して唾がかかる距離で口論が始まっていた。

 

もう『席もテーブルもあったものじゃねえ!』というレベルではない、今すぐにでもブン殴る2秒前ほどの気迫が伝わってくる。

 

私?私はもちろん座って眺めている、参加などせんよ、実に愚かしい。

 

願いが叶わぬならば、我が通らぬならば拳を振るうなど蛮族でしかない。

 

暴力はたしかに我を通す場合に使うものではある、だが、それは対等な立場であることが最低の条件。

 

本気で通す気ならば、まず食ってかかるべきは私たちブリタニアのはずだ。

 

この会議において最大の権限を持っているのは言うまでもなくユーロピア人の議長である。

 

しかし、自治区化、という事実上の植民地やエリアと大差無い扱いであるため、最終的な権限は私たちブリタニアが握っている。

 

まあ、その辺も含めて私を派遣したのだろう。

 

ユーロピアからすれば、自国に飛び込んできた敵国の貴族なんて対して怖くなんてないのだから、いくらでも殴れるし、往来で殺すことも簡単だろう。

 

軍を付けても同じ、せいぜい一個中隊あるかないかの歩兵と7、8輌ていどの装甲車だ。

 

今のユーロピアは『治安維持』の名目で武器の所持を限定的に認めている状態で、兵に至っては掻き集めれば連隊規模の部隊が作れるほど存在する。

 

無論、KMFも非武装ではあるが数十機は現存する。

 

その気になれば、軍諸共に派遣されてきた貴族を嬲り殺すことも容易い。

 

だが、派遣されてきたのが私ならどうだ?

 

要塞に対して砲兵総動員で榴弾を降らせた、ユーロピア軍にとっての悪魔でしかない私は怨む対象としては最適だろう。

 

意気揚々と暗殺に打って出てきているのも納得だ、列車にホテルに、ついでに一昨日のパリ散歩の時にも数回ほど刺されそうになったな。

 

皇家とラウンズ、ブリタニアにとって痛手となるのはどちらか?そんなものは考えるまでもなく皇家だ。

 

それに、怨みの集まり方(ヘイト管理)の観点で考えてみても、皇帝陛下含む皇家全体がテロリズムに晒されるより、私1人に集約させた方が守り易い。

 

それに、皇家やその関連人物の全ての警護となると金も人も足りないが、私1人程度のほうが安く上がる。

 

加えて、私に関係のある人物は基本的にコーネリア含む軍閥と、元より警備の厳しい研究所のロイドたち特派、そしてアッシュフォード学園しかない。

 

つまり、総督府とアッシュフォード学園の警備を強化すれば事足りてしまうのだ。

 

万が一にでも私が命を落とした場合、すぐにでもブリタニア空軍の主力爆撃機がユーロピアを小さな島の一片すら残さず完全に焦土化する手はずを仕込んである。

 

その時にブリタニア人のボランティアが脱出できず、不運にも残ってしまっていた時は…………『人質に取られ、順番に処刑されていた(な に も 見 な か っ た)』ということとする。

 

いやなに、これも、『平和的解決の為の致し方ない尊い犠牲(コ ラ テ ラ ル ダ メ ー ジ)』さ、彼ら彼女らはその報酬として、英雄として名を刻むのだ。

 

こうしてブリタニア国民を鼓舞し、ユーロピアへの弾劾をより一層増すのだ。

 

不満の対象を用意し、世論を操作し、いざ打倒のため立ち上がれと臣民を鼓舞する。

 

そうしてブリタニアはより強大な正義として聖戦の狼煙を上げ、華やかな勝利を飾り、その歴史にさらなる栄光を刻むのだ。

 

しかし………その先にあるものは、一体なんであろうか?戦いの先のそのさらに先に行き着いた時、果てに到達した時、何がある?

 

破滅か、それとも更なる苛烈な戦いか…………。

 

…………おっと!いかんいかん、会議中である事を忘れていた。

 

改めて会議の様子に目を凝らす…………までもなく、乱闘騒ぎに発展しており、警備員が止めにかかっている状況だった。

 

時計を見る、物が当たって傷ついた文字盤は止まってしまっていた。

 

腕時計の小さな針が指し示す時間と、掛け時計の時間を見比べ、乱闘が始まったのが2分前であると知った。

 

必死に議員たちを抑え込む警備員たちをぼんやりと眺めながら、明日まで延期だろうな、などと考えていた。

 

「本日の会議は!一時中断とします!」

 

予想通りに議長が大声で中断を宣言する、それは乱闘の中にかき消えてしまうものの、ヤジを飛ばすだけだった外野の連中の耳には届いたらしく、今度は議長へとヤジを飛ばし始めた。

 

「グレーテル」

 

「終わってるわよ」

 

帰るための支度が出来ているか確認のためグレーテルを呼ぶとそう帰ってきた。

 

今回はヘンゼルが留守番にして代わりにグレーテルを連れてきた。

 

顔は瓜二つで変わりはなさそうに見えるが、今回は会議ということもあって雰囲気的により秘書っぽく見えるほう…………と考えた末の結論だ。

 

それに、実に些細なことではあるが、グレーテルはヘンゼルのデータを元に若干の仕様変更が行われているのだ。

 

ヘンゼルのデータで気になった箇所を洗い出していたロイドが、グレーテルのボディ作成時にやらかしてしまったのが原因だからあまりかっこよくないんだが…………。

 

誤差の範囲だとしても、少しでも身の安全を確保できるであろうという点でも僅差だがグレーテルに軍牌が上がる。

 

もちろん、まったくの誤差の範囲でもあるかもしれないため、ヘンゼルでも問題はない。

 

しかし、前述の通り、誤差レベルだと信じてもやはり理知的に見えるグレーテルのほうが見た目的に良かったのが決め手だ。

 

未だ乱闘を続ける地域代表たちを放置して先に帰ることにした。

 

待たせてあったリムジンに乗り込み、パリにおける活動拠点の主軸、駐留軍駐屯地を目指す。

 

数週間前まで瓦礫しかなかった街並みは、今や建築途中のビルや家が所狭しと並び立ち、どの建物も土木関係者とみられる男女で作業が行われていた。

 

再建は順調、治安もそれなり、ボランティアより一足先に来ていたジェレミアの活動と、実に早い指示を出したマリアンヌに感謝だ。

 

おっと、そうだ。

 

「グレーテル、ヘンゼルに連絡しておけ」

 

「集合、でいいのね?」

 

「片付けを念入りに、とも言っておけ」

 

うなづいたグレーテルは精神感応波で……はなく、ケータイを取り出してヘンゼルの持つケータイへと繋げた。

 

本来こんな面倒な事をせずとも、電波以上の伝達速度を持つ共感覚で伝えればまさしく一瞬なのだが、運転手がいる前でそれはできない。

 

運転手が軍属だから守秘義務から精神感応波については話さないだろう…………という問題以前に、精神感応波の存在そのものがトップシークレットなので、不審な行動をとったり、あまりにも無口が過ぎるのもいけないのだ。

 

考えれても見てくれ、一切喋ることのない仕事などないだろう?

 

バスでもタクシーでも車でも、となりにそれなりに気心の知れる中の者がいたなら一、二言の世間話程度は話すだろう?

 

ただ無言でじっとして動かないまま、なんてことはあり得るはずがない。

 

共感覚は無言でじっとしていてもできることなので、一般人からすれば不気味にしか映らない。

 

そのため私は、人目がある場所でヘンゼルとグレーテルに伝えることがある時は会話でやるようにした。

 

『時が来るまでは、精神感応波技術は完全に秘匿する』

 

それが私とロイドの下した最終決定だ、そう簡単には覆させん。

 

再建途中の街並みを進んで行くと、正面に仰々しい門が見えてきた。

 

あれがパリにおけるブリタニア軍の駐留拠点の入り口だ。

 

派手好きなフランス人らしい無駄な装飾の入った門に些か不愉快にさせられるも、警備中のブリタニア軍兵士の堂々たる立ち姿で苛立った心が中和される。

 

車に乗ったまま顔パスで門を通り、一際大きな営舎の前で止まる。

 

ここがひとまず仮の総督府施設だ。

 

本来ならもう少し大きなビルのような建物が望ましいのだが、立地と警備の問題で仕方なくこのボロ小屋になったそうだ。

 

しかしながら、その程度でジェレミア率いるエリート治安維持部隊は怯まなかった。

 

その活躍ぶりは日本エリアを通り越し本国にまで駆け抜けたと聞く。

 

その活躍とは━━━━━。

 

連日連夜、書類との格闘…………体力有り余るジェレミア率いる特選部隊にとって、椅子に座って腕を動かすだけの作業など苦ではなかったそうな…………むしろ脚の筋肉が弱ると言ってスクワットをしながらの作業だとも聞いた。

 

鳴り止まぬ電話(リフレイン・アンコール)…………ユーロピア国民の反発的感情からのイタ電もあったが、真摯に対応、日に日に減っていると聞く、現在は初期の1/4程、だいぶ静か。

 

行くぞガーデ◯マン!パトロールだ!…………昼の街に繰り出せばゴミ拾い、夜の街に繰り出せば不良青年を熱く説き伏せる……ジェレミア、お前がブリタニアの良心ナンバーワンだ!(時点でオデュッセウス(無 能))。

 

━━━と、非常にポジティブ、というかマッシブ、マッチョの化け物フィジカル集団だ。

 

気合いと筋肉で激務を乗り越える変態集団化しているが…………結果としてプラスなら、いいんじゃないか?

 

車を降りて営舎を見上げる、営舎は以前見たボロ小屋と見違えるほど修繕されているのが一目でわかった。

 

ひび割れた鉄筋コンクリートの壁は塗り直されて明るい色のペンキで一色になった。

 

割れたガラスは全て取り外され、新しいものに交換された。

 

中に入って廊下を歩く。

 

電灯も心なしか設置箇所が増え、外見からは思いもつかないほど中は明るかった。

 

相当の念が入って修復された様子は存分に確認できたが、この予算の出所は一体どこから………?

 

なんて考えながら、ジェレミアたちの執務室の前に着いた、電話の着信音が廊下まで伝わって来ている。

 

存外に壁が薄いのか?まあ営舎だからな…………と納得しつつ古めかしいドアを数回ノックして入室する。

 

「失礼する、治安維持部隊部隊長のジェレミア准将殿に用件があり参った」

 

「おぉ!ツキト君じゃぁないか!あぁすまない、男所帯なもんで少し汚くしてしまってな……どうも片付けは苦手で」

 

肩が懲りそうなガッチガチの入室の挨拶にもフレンドリーに返してくるジェレミア。

 

さすが現場にいた人間は違うというか、そもそもジェレミアからして私は弟のような存在なので、大抵このように返されてしまうのだが。

 

そしてジェレミアの言う通り狭い部屋には書類が散らかっているのが嫌でもわかった。

 

「構いませんよジェレミア卿、私のデスクもこれが常ですから」

 

「そうかね?やはり私たちにデスクワークは馴染まぬか」

 

ボヤきながらジェレミアはグレーテルに目をやった。

 

「おっと、グレーテル君か、さっき来たヘンゼル君は奥の部屋でくつろいでいるよ」

 

さすがにバイクの方が早いなヘンゼル、私と同等の運転スキルが功をそうしたか。

 

「こんな部屋じゃ息も詰まるだろう?君も奥の部屋に行きたまえ」

 

「はい、オリジナル?」

 

「心配はいらん、何かあれば呼ぶ」

 

そう言って手をひらひらさせて見送る。

 

「んじゃ、3日くらい寝て来るわ」

 

「せめて15分くらいにしろ」

 

ボケにツッコミを入れつつ奥の部屋へと向かうグレーテルの背中からジェレミアへと視線を移す。

 

置いてあったパイプ椅子をジェレミアのデスクの近くまで持って行って座り、口を開く。

 

「ジェレミア卿、活動状況はどうですか?」

 

「最初の頃は酷かったが、今では好意的に受け取られていると感じているよ」

 

「なるほど、何か、怪しい……………組織的な動きなどは?」

 

「ふむ……確認できたものでは、小規模だが週に一回の頻度でユーロピアの警察にも我々ブリタニアどちらにも未申請のデモが発生していることくらいだ」

 

未申請の小規模デモか………人目と軍を引きつける目的でもあるのかもしれん。

 

「それは何かしらの宗教的な活動ですか?反ブリタニアの同志を募る……というような」

 

「いいや、自治区化したユーロピア政府に対する不平不満を叫んでいるだけのようだ…………えぇっと………この資料にまとめた、これまでのデモの内容と参加者の調査と開かれたデモの累計を載せておいた」

 

「ヘンゼル」

 

資料の束を受け取り、すぐにヘンゼルを呼び出す。

 

「はいはーい!お呼びですかぁ〜?ごしゅj」

 

スパァァアンッ!!

 

懐から出したハリセンでヘンゼルの頭を叩いて黙らせる。

 

機械相手には効かないが、人目のある場所のため…………。

 

「いっっっっ…………たぁぃ……」

 

このように、目を潤ませ蹲って頭を抑えて痛がる演技をする。

 

ついでにこのハリセン、見た目こそ硬い厚紙で出来ていて思いっきり殴れば痛そうだが、ピコピコハンマーのように派手な音がする割に痛くないものだ。

 

ハリセンひとつ取っても少し力を入れてしまえば、アンドロイドであろうと首がもげてしまうからな………。

 

冗談抜きで私自身が一番危険だな。

 

「グレーテルとメンバーを良く確認しておけ、何か事が起きた時に使うはずだ」

 

「ひゃぁい…………うぅ……いひゃい………ょぉ……」

 

テロを起こす人物としてみれば、この資料にあるメンバーとその身内は第一候補になるからな。

 

「へ、ヘンゼル君?大丈夫かね?」

 

さすがのジェレミアも引いた様子だ。

 

「ジェレミア卿、これ(ヘンゼル)は頑丈なので問題ないです、今やってるこれも演g」

 

「そう!キューティクルなヘンゼルさんは石頭なのだ!」

 

飛び上がったと思えばズビャーンと効果音でもつきそうなポーズをキメるヘンゼル。

 

…………もう一発いっとくか?

 

「そ、そうかね………」

 

「それでは次に、配給の物資は充実していますか?」

 

「十分…………ではあるが、すべてを行き渡らせることができない状況だ」

 

「何か問題が?」

 

「届いた物資は公正に分配させてはいる、私の名に誓って…………ただ、どうしてもフランスより遠くへ、となると危険もあって十分な配達ができない」

 

「陸路は未だ安全とは言えないでしょうからね……」

 

フランスは大抵駆逐した、だが他の地域に野盗化した兵隊がまだ数え切れないほど残っているのは確かだ。

 

何かの間違いで野盗が戦車でも持っていたら…………と考えると危な過ぎておちおちトラック輸送もできない。

 

ルートを確保できても、到着したところを待ち伏せでもされたらおしまいだ。

 

空挺降下で完全に安全化したいくらいだが…………こんなことで空挺をポンポン使うことはできん。

 

空挺はKMFが広がった今でも切り札として使われる、切り札をチラつかせては脅威度が下がってしまう。

 

「フランス以外で十分な距離の滑走路があるのは隣接するスペイン地域の南端、それ以外となるとオランダとポーランドしかない、その周辺ならば…………」

 

ジェレミアがラミネート加工されたユーロピアの地図をデスクに置き、滑走路のある場所をマーカーで◯をつけていく。

 

「スペインの滑走路は戦争の序盤から拠点として利用されていた場所で、部隊も駐留している、この中でもっとも安全だろう」

 

「そこへのフランスと同量程度の物資を空輸をすることにしましょう、ポーランドとオランダはどうなのですか?」

 

安全ならば、そこに直接空輸したいのだが……はたして?

 

「ポーランドも安全性という点では問題ないはずだ、しかしオランダは隣のドイツが問題で近づけない」

 

「野盗ですか?」

 

「対空砲トラックと戦闘装甲車を持った武装集団がいる…………という噂だ」

 

「厄介ですね…………真でも、嘘でも」

 

フラフラした正確性に欠ける情報や、噂ほど怖いものはない。

 

それが本当かもしれないものほど人の恐怖心をイタズラに刺激する。

 

「火炎放射器装備型のKMF部隊を送っては?」

 

「都市部ではなく森の中なんだそうだ、戦後に森を焼くのは反感を買う、だからと言って迂闊に進めば罠にはまる」

 

「なら、少し前に開発が完了した高機動装甲車の実地テストと称して偵察を行うのは?」

 

「その高機動装甲車とやらは、信頼できるのか?」

 

「データ上ではありますが…………。

①新型サスペンションにより、従来の装甲車よりあらゆる地形、地象での機動性は高いものになっている。

②90mmクラスの威力を持つ戦車砲を限定旋回の砲塔に装備しており、極めて高火力。

③内部の設備の配置の見直しによる不意の打撲などを防ぎ、搭乗員の防護性能の改善。

④小型化による被弾率軽減、および戦車に使われる複合装甲による高い防御力を獲得。

…………総合的に見ればグラスゴーを上回る性能を持っています」

 

しかし、と付け加え。

 

「①頭数が少ない試験車両止まりであること。

②グラスゴーと同等以上のコストがかかる、これは従来型のおよそ2倍〜2.5倍にのぼるものかと。

③未だ屋内試験のみであり実戦ではカタログスペックに満たない可能性があること。

④全地形をタイヤで走破するコンセプトのため、従来型のように履帯を付けたり、ゲタを履かせたり、空挺作戦用のパラシュートを装備することなどができないこと。

⑤試験車両であることから搭乗する兵の訓練がされていないこと。

⑥複合装甲はあくまで砲塔及び前面装甲に限られ、側背面の防御性能は比較的低い。

⑦また、⑥に付随して、複合装甲による重量増加からフロントヘビーとなってしまい、走行性能に影響がある可能性がある。

⑧小型化によって搭乗員が密集し、運が悪いと一発の被弾で全滅の場合もあり得る。

……………これらを除けば、都市部等の『後方警備』程度は務まるかと」

 

「…………開発が完了しているのではないのかね?」

 

「一応ではありますが、⑦の問題はバッテリーとモーターを車両前方に、砲塔を車両後方に配置することでカウンターウェイトとして運用することで解決しました………………しかし、それ以外の構造の見直しは行われずに終了、完了と称した事実上の打ち切りでしょうね…………ジェレミア卿は装甲車に求められるものはなんだとお考えですか?」

 

「こっちに来る前に、ロイドから大まかに聞いた、話半分だが…………」

 

「そうでしたか、では、少々省いて説明しますと、大まかにふたつです」

 

近くのクリップボードを手に取り、コピー紙を一枚挟んで鉛筆でさらさらと描いていく。

 

「まず一つ目は大雑把に『頑丈さ(タフさ)・兵員輸送能力・最低限の攻撃力』の三つの能力を求められています、これは現在使用されている装甲車がすべての条件を満たしています」

 

「ロイドが言ってたのは確か………どんな悪路でも壊れない頑丈さと、安全に乗員を移動できること、そして、軽装甲のテクニカルや高機動車(ジープ)を破壊できる程度の火力、だったか?」

 

「その通りです、戦争において最重要兵種はKMFパイロットではなく歩兵です、どれほど危険な状況下であっても陣地占領を行うのは歩兵………ならば装甲車のあるべき姿は彼らを守護する盾であるべき、ということですね」

 

「でも、もうひとつは?」

 

「もうひとつ、それは時代の移り変わりによって生まれた、KMFに対する対抗心から来た技術者達の最後の矜持、最後の抵抗とも取るべき案…………『KMFと同等以上の戦力』であること、です」

 

「…………無理だろう」

 

「ええ、無理です」

 

滅多なことがない限りジェレミアは【無理】とは言わない、つまりこれは、そう言う意味を持った言葉だった。

 

現役の軍人をもってして、不可能と言わしめた、そう言わせるより他なかった。

 

「構造以前に形状も、重量も、装甲も、何もかもが違い過ぎるアヒルの子に、同じことをやれと言っても不可能だった、ということです」

 

「それが先の新型装甲車と言うわけか………新型をこっちに寄越すとは何を考えているんだと思ったが、ただの厄介払いとは」

 

ため息をつき、あきれた様子で椅子に座るジェレミア。

 

「…………ジェレミア卿にはバレバレでしたか」

 

「複数回に分けて見たこともないコンテナが本国から運ばれてきているのを見てな、大方こっちなら試験に丁度いいとでも思ったのだろう」

 

「一番の理由はコスト面です、【研究が打ち切られた未完成の新型装甲車】がいくら潰れても上にとっては痛手にはなりませんから、何せ、技術漏洩の観点から暗黙的に新型兵器の類いは【存在しない】ものとなっていますからね」

 

「金、か………だが、仮にも新型だぞ?我が国の大貴族や企業からの様々な投資があって技術部が作ったものなら、従来型よりも高価なはずではないか?」

 

「これから倉庫の肥やしになるであろう装甲車と、生産が続けられている従来型では重要さがまるで違うんです…………意訳すれば【全部使い潰しても構わない、そうする場合は戦果を立てれば損害は不問にする】………いつものプロパガンダに利用するためですよ」

 

「また宣伝目的か……我々は国民に嘘をつくために仕事をしているのではないと言うのに」

 

「まあまあジェレミア卿

、世には必要な嘘というものもあることです…………それに戦後の動乱を鎮めたのは、冷酷な真実ではなく、優しい嘘でありました」

 

「不用意に悲しませることも、傷つける必要もない場合はそうかもしれんが………」

 

「いえいえ、国民に対して、陛下が国防に関心を寄せていると思わせるためには、このような兵器の開発も必要なのですよ」

 

「うぅむ…………難しいことはよくわからん……」

 

「国民の明日のために、無駄に日々苦心する臣下がいると言うだけです」

 

陛下に政治への興味などさらっさらなく、今はただ臣下たちが練り上げた法が帝国を支配するという、君主国であるにもかかわらずその実共和制のようなおかしな状態になってしまっている。

 

しかし、そんな状況にほころびが入りにくいのは、ひとえに現皇帝シャルルのカリスマ性の賜物か。

 

ならばそのカリスマ、求心力諸共、奪い取ってくれよう。

 

私の力で、ルルーシュがな!

 

たとえルルーシュのカリスマがなくても、厨二病が治らなくても、私はルルーシュを皇帝にのし上げてみせる!

 

必ず、必ずだ!

 

「陛下なりのお考えあってのこと、ということか………」

 

「案外、後継者を探しているのかもしれませんね」

 

「後継者!おぉ、それはなんと…………うん?それは喜ぶべきことなのか?」

 

「本当であれば、陛下のご判断を信じて待つのみでしょう…………しかし、陛下に擦り寄らんとする邪なる者共は大人しくしているはずがない、下手に噂が広まれば皇家の方々や貴族だけではすみません」

 

権力に擦り寄る無能どもにいいように動かれるなど、実に腹立たしい、虫唾が走る。

 

「マリアンヌ様でさえ狙われかねない今、内部に敵がいるという状況ははっきり言って気持ちが悪い」

 

そこで、私はジェレミアに聞いた。

 

「陛下に寄生する虫はその親玉から叩いて潰さねば卵が残ってしまいます、そこでジェレミア卿………………内部改革、いいえ、革命にご協力いただきたいのですが、どうでしょうか?」

 

「カーライル卿!側でお聞きしておりましたが、いくらあなたでもそれは不敬罪ですぞ!」

 

ジェレミアに革命への協力を求めるが、ジェレミアが口を開くよりも早くジェレミア配下の兵が口を開いた。

 

「不敬?ほぉ…………民の財を貪り、陛下の権力を傘にした下衆どもによる支配が行われている現状を破壊するための一手を、貴様…………不敬と言うか、なるほど」

 

その男の目を見た瞬間、色々と察した。

 

いや、見るよりも前から、嫌な空気のようなものを感覚で感じ取っていた。

 

「ふむ…………グレーテル」

 

「なーに?もうちょいでロンドンクリアなんだけど?」

 

扉から顔を出したグレーテルは不満げな表情でそう言った。

 

ってかおい、もうロンドンまで行ったのか、早いなおい。

 

「アレを適当な取調室にでも連れて行って吐かせろ」

 

「了解、ヘンゼルー、画面構わないでよね」

 

グレーテルはヘンゼルに釘を刺すと男に近寄って行った。

 

「どういうことですカーライル様!?」

 

「貴様の様子がおかしいものでな、なにか隠しているのではないか…………そう思ったに過ぎん」

 

「私と取調室でちょっと話せば終わるしさ」

 

「し、しかし…………ジェレミア卿!」

 

「…………ツキト君、私は難しいことはよくわからない、だが、その革命とやらで多くの犠牲が出るかもしれないと私は直感でわかった、わかってしまった…………そのようなことは陛下に仕える者として容易く容認できるものではないのだ…………どうか、考えを改めてはくれないか?」

 

「良いでしょう、では、今しばらく待つとして…………その男、ユーロピアの反政府組織と内通していますよ?」

 

「なにぃ!?本当かね君!?」

 

「そのようなことはありません!カーライル卿も冗談は…………」

 

「私はスパイ風情に冗談など言わん、連れて行け」

 

言い放ち、グレーテルに連行を指示する。

 

違う違うと喚く男、未だ私を宥める気でいるジェレミアの声を遮断してひとり呟く。

 

「どこまでも腐っているというのか………」

 

大義なきブリタニアの改革、否、革命は早める必要がある。

 

ジェレミアが率いた純血派も引き込みたかったが…………ジェレミアはテコでも曲げんだろう。

 

まずは…………ナイフで少しずつ削っていくとしよう。




ツキト「革命!暴力!政権掌握!って感じだな」

C.C.「そのための、間諜」

ツキト「そのための洗脳?そのためのカリスマ?」

こっから展開がすっごい荒れるから、見とけよ見とけよー?


誤字修正しました!


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『2人』の『剣士』、『邪聖の目覚め』

初期の頃と比べると主人公の設定その他諸々が合致しなくなってきてしまった……。
まいっか!人間は変化する流動体だからね!(意味不)




朝のユーロピア、仮の総督府の特設されたスイートにも並ぶ一室にて、ツキトは朝の紅茶を飲んでいた。

 

「ほう……」

 

ブリタニア本国で発行される新聞記事の一面に目をひかれ、面白いものを見たようにゆっくり息を吐く。

 

一面には、【ツキト・カーライル、強権発動か!?】とあり、ツキトの指示で強制連行される人達がツキトの顔写真と一緒にプリントされていた。

 

無理もない、ツキトはあの日、ジェレミアの部下を連行したのを皮切りに、多くの人を摘発、連行して尋問にかけていた。

 

ジェレミアの部下にも裏切り者がいるとわかった今、ツキトはジェレミアとの口約束を破棄、自身の手の届く範囲を『浄化』し始めた。

 

一見無害な人々が一斉に摘発され、銃を突きつけられ重犯罪者の如く連行される様を見て、初めこそジェレミアは反対していた。

 

しかし………摘発されたものが1人、また1人と尋問に屈し、自らの様々な罪を認めたのだ。

 

錯乱している…………などと言ったのは誰であったか、ツキトはすでにそんなことはもう覚えてもいない。

 

あえてそれを明らかにするなら、それを言ったのは新たに加わった親衛隊隊員の1人で、尋問のなかで喚くように言った、それがちょうど摘発を始めて3日目のことだった。

 

たったの1週間足らずで、捕らえられた主義者及びその協力者たちは400人を超えていた。

 

その様相はテレビでも伝えられており、ブリタニアの国営放送にて全世界へ配信されている。

 

「思った以上だ、実に素晴らしい」

 

カップをテーブルに置くと、テレビの電源を落とし窓を開ける。

 

窓からは爽やかな朝の風が舞い込んでくる、その風を浴びながら、デスクに溜まった書類に目を落とした。

 

黙々と書類を整理しつつ、思考に耽る。

 

今回の件について、ツキトは自分で何ひとつとして調べていなかった。

 

ただ、全世界に解き放った自身に狂信的な者達…………信者、とも言える彼らにひとつ頼み事をしたにすぎない。

 

ツキトにとっての敵、ブリタニアにとっての敵の調査を信者たちに頼んだだけなのだ。

 

それは摘発の1歩目とも言える1週間前のジェレミアの部下を連行した日の夜のことだった。

 

ロイドの管理するスーパーコンピュータに、ヘンゼルとグレーテルの二つのコンピュータを並列化して接続、特定を避けるべくダミーを経由させつつ信者の元へと送られた。

 

受け取った信者たちは色めきだち、ありとあらゆる手段を以って調査を行い、多くの主義者の摘発リストを各々で作成した。

 

リストはファックスや手紙、暗号文やモールス信号などによって思いつく限りの工夫を施され、ツキトの元へと機密性を保持したまま送られた。

 

あとはそれを照らし合わせるだけなのだが、全世界に散らばった数千から数万にも登る信者からの情報はあまりにも膨大だ。

 

アナログ極まるリストの統計を取って整合性を図ろうにもそれだけで数ヶ月はかかろうという量だった。

 

しかしここにはスーパーコンピュータにも並ぶヘンゼルとグレーテルがいた。

 

リストを記号化、複数のリストのメンバーを照らし合わせながら精度を高め、最終決定をツキトが下す事で、たったの1週間でこれほどの成果を得るに至った。

 

これだけ動けば怪しまれることは必至、しかしツキトに心配はなかった。

 

信者が決して口を割らないことを確信していたからだ。

 

それは信者達が、隣人、友人、兄弟姉妹、家族、恋人、凡ゆる神、そして時には皇帝陛下すら信用せず、ツキト・カーライルを絶対と信奉する狂信者であるからに他ならない。

 

彼らにとっての神とは、ツキト・カーライルに他ならず、また神はただ唯一絶対のツキト・カーライル以外に考えられないのだ。

 

そんな、欠陥があるとしか言えないような人間である彼らを、彼ら『だけ』を集め、能力を測定し、『教育』を施し、世界へと羽ばたかせたのは紛れもなくツキト本人であった。

 

羽ばたいた悪魔の手先達は、海を渡り、大地を越え、地上のすべてに『配置』された。

 

彼らは現地の日常に溶け込み、友好を結び偽りの信頼を積み上げ、通信のための拠点を築いた。

 

そして………………彼らの神(ツキト)啓示(命令)を下した。

 

すべては信じる神のために……………彼らは曇りのない目でツキトを信じているのだ、露ほども疑わず、ツキトのすべてを正義と盲信しているのだ。

 

しかし、彼らは……………その実、とても幸福であったのかもしれない。

 

『信じた者に裏切られるかもしれない』…………そんな心配を杞憂だと一蹴し、孤独を引き裂き、絶対的な安心感を与えてくれた人が存在する。

 

人は、それだけで幸福感に溺れることができるのだ。

 

だからこそ、彼らは世界で最も幸福な人間たちと言えるだろう。

 

例え彼らが、悪魔より邪悪な存在に諭され魂を売った、誰にも救われることがない、邪教の信徒であったとしても…………。

 

例え彼らが、ツキトにとって変えの効く便利なボイスレコーダーやメモ帳でしかなかったとしても…………。

 

彼らはそれで、幸福でいられるのだ。

 

ツキトは書類の整理を終えると、カレンダーに目を移した。

 

今日から数えて8日後にここを離れるのだと改めて認識する。

 

今日の仕事はほとんどないため、明日の午後からの会議に向けての準備をすることに決める。

 

ブリタニアは今日も平和だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その2週間後、日本エリアのアッシュフォード学園。

 

「…………ケリをつける」

 

「…………受けて立ちます」

 

かたやスモールソード。

 

かたやレイピア。

 

それぞれが持つ得物に手をかける女子2人。

 

「待てナナリー!待ってくれ!頼むから!」

 

「そうよナナリー!相手はマリアンヌ様の手解きを受けた天才剣士、いくらあなただって勝ち目は………」

 

「おいおいちょっとちょっと!?アーニャさんや、ちょっと不味いからやめてくれほんと頼むからさあ!?」

 

ルルーシュとマリーとジノがそれぞれを制止する、だが彼女達はすでに向き合い、互いが互いを視線で以って射殺さんと睨みつけていた。

 

噴水の広場にて、決闘(正妻戦争)が始まろうとしていた。

 

規模が大きい修羅場に過ぎない?

 

いやいや、待ってほしい。

 

かたや、伝説的革命戦士であるマリアンヌの手解きを受けたアーニャ。

 

かたや、『剣聖』『英雄』と呼び声が高いツキトに剣を学んだナナリー。

 

その2人が真剣を交えて死合う、するとどうなってしまうのかというと…………。

 

確実に校舎が、いや、敷地内全てが無事では済まないだろう。

 

それほどまでに育てた、否、育ってしまった。

 

アーニャは生まれついての剣の天才だった、これに気づいたのはツキトに才能があると発覚した時、アーニャは当時6歳にも満たなかった。

 

8歳のころからマリアンヌの簡単な手解きを受けた、簡単とは言っても、エリートと言われる親衛隊や、1世代前の脳筋ラウンズでも根を上げるメニューだった。

 

これを耐えたアーニャは師であるマリアンヌと、ツキトの剣を研究し、腕を磨き、才能も手伝いツキトを上回っていた。

 

対するナナリーは『剣聖』とも呼ばれるツキトから直々に剣術を学び、日々メキメキと上達している。

 

ナナリーは才能こそあれど天才ではなく、あえて言うならば努力型の秀才であった。

 

教えたことはすぐに覚えて実践できる要領の良さ、負けず嫌いの性格、才能のスープの摂取、そして何より努力家であったからこそ、ツキトの剣を超えるのも自然な流れであった。

 

剣というものにおいてアーニャとナナリーはほぼ同格といって差し支えないだろう。

 

師は異なるが、その戦い方は似通っていた。

 

というより、ナナリーはツキトの剣を、アーニャは自身の剣をツキトの剣に近づけたためによく似ているのだ。

 

こと剣において見てみれば、2人は異母兄弟のようなものと言えよう。

 

見ようによっては同じ流派の剣士同士の決闘であり、さらに言えば片方は妹、もう片方は恋人と、世間の話題性も非常に大きいものだ。

 

重ねて言えば、アーニャは血の繋がった元妹でありながらツキトを男性として愛していると、公然たる事実としており、恋人であるナナリーと決闘を行うということは、それは男を奪い合うという意味に他ならない。

 

実際に2人はそのつもりでいたし、騒ぎを聞いて集まって来たギャラリーもそのように認識していた。

 

当然だが、ラウンズの突然の訪問に決闘騒ぎ、生徒会長ミレイ・アッシュフォードの後釜を任された新生徒会長リヴァル・カルデモンドは事態の収拾に奔走していた。

 

リヴァルにはミレイのような肝の座った考えはできない、ミレイのようにこの決闘を校内のイベントとして処理することもできないため、理事長に掛け合い総督府に連絡を取るなどして出来る限りの行動をとっていた。

 

しかし、そのどれもがお役所仕事、資料を作成して部署毎に許可をもらって…………なんて悠長なことはしていられない。

 

一度、2人が剣を抜けばその努力はすべて無意味になる脆いものでしかなかった。

 

そんなことはリヴァルも百も承知だ、だから協力を取り付けたのは『事後処理』、本命はただ一本の個人電話だった。

 

リヴァルはルルーシュほど賢くない、リヴァルはスザクほど強くない、リヴァルはミレイほどユーモアがあるわけではない。

 

しかし、ここ一番での根性だけは人並み以上にある、頭の回転も人並み以上にある。

 

そして何より天才ではない。

 

もしリヴァル・カルデモンドが天才なら、電話などかけようとは思わなかったであろう。

 

電話の相手である彼は天才を超える超常的存在、並居る人間など彼を輝かせるアクセサリーにしかならない。

 

そんな彼に泣きつき頼る(超常的存在に縋る)という選択は、天才にとってそのプライドを大きく傷つける行為でしかない。

 

だが、前述の通りリヴァルは天才ではない。

 

何かにつまずいた時、困り果てた時、リヴァルは彼のような超常的存在にすがることができる人間だった。

 

とても難しいことをリヴァルはやってのけた、故に幸運を呼び込むことに成功した。

 

だが、呼び込まれてきたのが神でも、天使でも、妖精でも、悪魔でも、ましてや人間ですらなく。

 

邪神(VooDoo)』としか形容できないものであること、彼の機嫌が秒単位で下降し続けていることなど、リヴァルのあずかり知るものではない。

 

最初に気がついたのはアーニャとナナリーとルルーシュ、そして咲世子とカレンだった。

 

春の心地良い日差しを与えてくれる太陽が━━━━黒雲に覆い隠された。

 

暖かい風は止まり、昼にもかかわらず薄暗くなっていく校舎。

 

雰囲気の変わり様、異様さ、異質さが、アーニャとナナリーの険呑な空気を解かせた。

 

一般生徒や教員の中にも気づいたものが徐々に増えて来た中で、アーニャとナナリーはいち早く更なる異変に気がついた。

 

『寒い』のだ、曇りではあるにしても今日の気温は18℃、昼の最低気温は13、14℃はあった。

 

だが、明らかにそれよりも低いと思うほどの寒気を感じ、鳥肌がたった。

 

直感で2人は察した、この寒気は『移動している』ことに。

 

そしてそれが、自分たちのいる場所に近づいていることに。

 

瞬間、そこにいるすべての人間に悪寒が走った。

 

寒気と呼ぶには優し過ぎる、冷気と呼ぶには生易しい。

 

言うなれば『凍血』、液体窒素のプールに突き落とされ、マイナス273℃の液体が筋肉と血管を凍りつかせ、血液の流れが止められてしまったかのような………もしくは、カラダ全身を氷柱で串刺しにされ絶命したかのような気味の悪い錯覚。

 

血液の循環を止められたようになったアーニャとナナリー、そしてそこに居合わせた多くの一般生徒と教員たち。

 

すべての人間が、いや、不運にもそこに水浴びに来ていた小鳥達や、ネコのアーサーもまた、動物としての危機管理能力ゆえか、彼らを含め、すべての生命は噴水広場を飾る石像と化した。

 

「電話を受けて来てみれば………なんだこれは?なんだこの騒ぎは?」

 

辛うじてその声の方向に目を向けることができたのはアーニャとナナリーのみ。

 

しかし、目を向けるという選択は彼女達に更なる不幸を振らせる行為に他ならなかった。

 

2人の目に写ってしまったのは、彼の右目、深淵を写す邪悪なる眼。

 

排水溝の奥のような、底の見えない落とし穴のような、そんな引きずりこまれるような恐怖、その具現。

 

深紅の瞳の奥深い場所に光は無く、血や汚泥によって濁った聖水がなみなみと注がれているようであった。

 

2人は直感より早く、生まれ持った別の、もっとなにか生命の根本的なモノが、『アレに触れてはいけない』と感じ取った。

 

視線を外そうにも、深淵の底から『ナニモノ』かに睨まれているように感じ、逸らそうとするもなぜか抵抗できず、強制的に眼球が彼の右眼へと固定されてしまった。

 

2人に巡る不快感は言葉で言い表すことが難しいものであり、強いて文字にするならば、背中を超低温の蛇の下で舐めくりまわされるような、ナマモノの味がする砂利を噛むような、やはり形容し難いとてつもない気持ちの悪い感覚であった。

 

今すぐにでも悲鳴をあげてうずくまり、助けを求めて誰でもいいからすがりつきたい気持ちになる。

 

幾多もの修羅場をかいくぐってきた2人でも、すり減らされ過ぎた精神はすでに限界を迎えており、これ以上の重圧がのしかかれば壊れることは容易に想像できる。

 

普通の生活を送って来た人間であれば、何不自由ない一般家庭で育った生徒や教員が直視しようものなら、精神を取り込まれてしまってもおかしくないのだが、なまじ頑丈すぎた故にまだそうなっていないのは、ある種の欠陥とも取れた。

 

正常な精神力と思考能力を失い発狂するのは人間として当たり前の防御反応、それができない彼女達は、精神をノーガードのまま晒してしまっていることに他ならず、それは言わば、弱点を見える位置に置いているようなものだ。

 

一歩、また一歩、ゆっくりと近づいてくる彼、そして、彼の右眼の深淵から覗く『ナニカ』も同じだ。

 

ゆっくりと、ゆっくりと彼女達に近づいていく。

 

これからどうなってしまうのか?あの深淵の先から覗いているのは一体誰なのか?

 

思考の悪循環、ネガティヴのループが止まない。

 

もはや自分が誰なのかさえどうでもよくなってきた2人。

 

その時であった。

 

2人を襲う形容し難い気味の悪さは唐突に掻き消え、一般生徒や教員たちも解凍された。

 

「こんなところで遊んでいるとは━━━━━いい身分だな、ナイトオブシックス」

 

ギャラリーを含めたすべての生命は、口を開く彼━━━━━ツキト・カーライルから怒気を感じることができた。

 

決して、恐怖の極限とも言えるあの得体の知れない雰囲気は感じられない。

 

そもそも、ツキトの右眼にはゴツくて装飾過多な眼帯があった、右眼を見ることなど不可能である。

 

ならば2人が感じたアレは、ただの幻覚だったのだろうか?

 

いや、そんなはずはない、自分は確かにあの恐怖を体験した、そしてそれを生み出していたのはツキトなのは間違いない。

 

だが…………だが、ならばあの恐怖は一体なにが原因だったのか?ツキトの怒気が原因として考えられるが………………彼の怒気は確かに怖いものの、あそこまで得体が知れないというものではない。

 

そう2人が考え込んでいると、ツキトは大きく溜息を吐いた。

 

「…………日本エリアに来るのなら総督府に一報くらい入れろ、それと、アッシュフォードに来たということは事前のアポくらいは取っていたんだろうな?」

 

呆れた表情でアーニャに聞いてくるツキト、アーニャは経験上ツキトが待たされるのが嫌いな性格であることを知っていた、この問いに答えなければツキトの怒りは烈火の如く燃え盛るのは確実だとわかった。

 

そのため、ひとまず先の恐怖への考察を取りやめ、兄の問いに答えることにした。

 

「総督府への連絡はジノに任せてた、学園への訪問はサプライズ」

 

「…………そういうことにしておく」

 

総督府への連絡はジノからきていたのは事実であり、学園への訪問もサプライズならば……と(一応)納得したツキトはそれ以上は追求しなかった。

 

「しかしだ、貴様もラウンズであるならば、非常の要件でもない限りこのようなことは慎め」

 

「わかった、お兄ちゃん」

 

「私は兄では………………いやなんでもない」

 

お兄ちゃん呼びに関して否定しようとした時、アーニャは一瞬だがツキトにだけわかるように悲しそうな、泣きそうな表情を浮かべた。

 

当然の如く気づいたツキトは否定しようと紡いでいた言葉を途中でやめて誤魔化した。

 

この反応からアーニャは、あの恐怖がツキトが原因なのかわからなくなってしまった。

 

アーニャは自ぼれすることなく、自らがツキトに深く深く愛されていることをよくわかっていた。

 

ゆえにわからなかった、自分の身に何かあれば全てを投げ出してでも駆けつけてくれる理想の兄が、自分の精神を壊しかねないほどの得体の知れない恐怖を醸し出していたのか。

 

「それはいいとして…………電話で聞いたが、なぜ彼女と決闘などしようと?」

 

「彼女は男女混合の日本エリアフェンシング大会でトップ、世界大会に参加した場合の予想は1位もしくは2位、お兄ちゃん直々に稽古もつけてもらっていると聞いたから、実力を確かめたかった」

 

アーニャは素直にツキトが納得するであろう理由を挙げてみた、というのも、ある種の凝り固まった伝統、というか、古風なものが好きなツキトなら納得してくれるはずだと踏んだのだ。

 

「剣士であるなら口ではなく、剣で語れ、と?」

 

「お兄ちゃんのお墨付きなら、私と互角以上の腕を持っているのは間違いないはず、鍛錬の相手に同格以上を狙うのは普通だと思うけど?」

 

「…………なるほど、道理は通っている、確かに競い合いより上を目指すならば鍛錬の相手に格下など不要であろうな」

 

一呼吸置いてからツキトはそう言った、一理あり道理はしっかり通っていると、アーニャの言い分を認めた。

 

しかし、ここでツキトの口は塞がらなかった。

 

「であるならば、なぜ防具を身につけぬ?なぜ真剣(スモールソード)を握っている?」

 

「じ…………実戦に近いほうが実になる」

 

ツキトから放たれる覇気のような強烈な威圧感に、アーニャの舌が一瞬動きを止める。

 

舌に痺れを感じるが、思い違い、気のせいだとすぐに持ち直し、言葉を続けた。

 

「………………ふぅ……今はそれで納得しよう」

 

溜息をひとつ、ツキトは目を閉じて納得の意を示した。

 

「だが生身では危険だ、アールストレイム卿はラウンズ、そして彼女は学生(将来有望の剣士)だ、ルールは双方で話し合って決めろ、ただし真剣やそれに類する剣を使う場合は鎧を纏え、あとは貴様らで決めよ、良いな?」

 

それだけ言うとツキトは踵を返し、メイド服の女性━━━━咲世子を手招きで近くまで呼んだ。

 

これにアーニャは少しムッとした、実戦では防具や鎧などは一切ない、安全性から真剣なら鎧を着用するのは分かるが、それではハンデが出てきてしまう。

 

元より鎧を着た上での筋トレや素振り等の経験があったアーニャと違い、ナナリーにはそれがないと予測していたからだ。

 

この予測は当たっており、ナナリーは鎧などという重量物を着用したことは一回も無い、いかに心身を鍛えていようと経験に差がある状態での試合はハンデ戦以上に厳しいものがあることを知っていた。

 

そして、2人の実力が拮抗していることは互いに察していたため、鎧の有る無しによって勝算が大きく傾く事も分かっていた。

 

「待ってお兄ちゃん、鎧は重いからフェンシングの防具で」

 

「先に私とアールストレイム卿で剣を交えるかね?真剣を使って生身で…………私は一切構わんが?」

 

アーニャの反論は途中で潰される、振り向きざまに左眼で睨みつけられ、先程以上の濃厚な怒気と殺気を含む言葉をぶつけられては、妹であるアーニャは黙ることしかできない。

 

「ツキトさん、アーニャ・アールストレイムさんが言いたいのは、鎧の有る無しでほぼ勝敗で決まってしまうことを言っているのであって、決して安全性を軽視しているわけではありません!」

 

これに真っ向から反論したのはまさかのナナリーであった。

 

これには少し驚いたツキト、しかし彼としてもアーニャとナナリーの言わんとすることは十分にわかっていた。

 

ゆえにもどかしかった、2人は真剣での試合を望むはずだ、そこで鎧を付ければアーニャに圧倒的に有利な状態を与えてしまい、これが後の遺恨となりかねないことを予期していた。

 

ナナリーを言いくるめようにも、今はラウンズと学生、よくても剣の先生とその生徒であり、あまり強くは言えず、口籠る。

 

言葉に詰まり、暫しの静寂が訪れる。

 

そこで手を挙げたのはナナリーの大親友であるマリーであった。

 

「あ、あの!」

 

「うむ?君はマリー君か、どうかしたかね?」

 

「えっと、あの……その…………ナナリーに鎧を付けて練習する時間を与えて欲しいのですが!」

 

マリーの言い分は、経験の差があるなら埋めてから試合をすればいい、というもので、ツキトにとっては目からウロコの提案だった。

 

なにぶんツキトの脳は良い意味でも悪い意味でも硬い、剣士が向かい合えばすぐにでも…………という考えがある故か、練習時間を設けてまた別の日に試合をすれば良い、という考えは盲点だったのだ。

 

「私もそれがよろしいのではないかと申し上げます」

 

「咲世子?」

 

ツキトのそばに来ていた咲世子がそう言った。

 

「経験の差があってもハンデのある試合がお嫌であるなら、マリー様のおっしゃるように、ハンデが無くなるように練習をなされてから試合を行えばよろしいのです」

 

「………そうしよう、助言に感謝するマリー君、咲世子」

 

ツキトはマリーに会釈して感謝の気持ちを表す、マリーはほっとした表情を浮かべて咲世子を見る。

 

咲世子は親指を立てたグッドサインでマリーを称賛した、マリーも咲世子の援護射撃にグッドサインで返礼した。

 

「では、練習時間に関しても双方で話し合うように」

 

それだけ言うとツキトは今度こそ去ろうとした。

 

「おっと…………言い忘れていた」

 

数メートル歩いてからなにかを思い出したようにゆっくりと振り返ったツキトは、アーニャを見て。

 

「アーニャ、私の生徒は想像よりずっと強い、慢心・油断して負けたなど許さん」

 

「わかった、お兄ちゃんのためにも必ず勝つ」

 

「フッ…………応援している」

 

「っ………ありがとう……」

 

ツキトの激励と微笑がアーニャの鼓動は速まる、冷え切った体温が上昇し、むしろ熱くなってきたように感じた。

 

また、アーニャは自身が名前で呼ばれたことに気がつき、『兄』として応援してくれていること気付き、心の臓がさらに高鳴る、頬も朱色がさしこみ、艶のあるうっとりとした表情を浮かべた。

 

これに対して面白くないのはナナリーだった、いくら妹とはいえあそこまで露骨に婚約者の自分を差し置いて応援するなんて…………と、不機嫌になる。

 

唇をへの字に曲げ、不機嫌さを隠そうとしないナナリー。

 

そんなナナリーに顔だけを向けたツキトは言う。

 

「…………ナナリー」

 

「はい!」

 

表情は固く、口調は厳しい、だがその想いは暖かいのがナナリーにはわかった。

 

アーニャに向けられた激励と微笑以上に、深い愛情が詰まっているのだと確信した。

 

するとどうだろう、不思議と不機嫌な感情は、さしずめ砂の城が風に吹かれるが如く崩れ去る。

 

元気の良い返事を返すナナリーに、ツキトはただ簡潔に言う。

 

「勝て」

 

「必ず」

 

ツキトはナナリーの返答に笑みを浮かべると、今度こそ2人に背を向けて歩き去る。

 

ただの一言であった、しかしその一言に込められた想いはアーニャへのそれに決して劣るものではない。

 

ナナリーの剣の師として、ナナリーの婚約者として、ナナリーの従者として━━━━さまざまな立場と地位を持つツキトの、すべての立場と地位からの激励だった。

 

アーニャへの激励が『兄』と『ラウンズ』の立場からなのであれば。

 

ナナリーへの激励はそれ以外の全てからのもの、そう取ることができるだろう。

 

ナナリーは察しが良いためすぐに気がついた、アーニャもまた、察しが良く理解も早かった。

 

だからこそ━━━━━━2人は、互いが互いに嫉妬した。

 

嫉妬心が湧くなど2人にとって初めてだった、まして同年代の同性にそんな感情が湧くなど…………と、内心でとても驚いていた。

 

この世界に神が存在するのなら、『それは必然である』とでもほざいているところだろう。

 

たとえツキトがいたとしても、そのように言ったはずだ。

 

なぜなら、同じ道を歩き、同じ終着点を目指す者が他にいるのだとして、もし彼ら彼女らが出会ったのだとすれば…………おのずと答えが出るはずだ。

 

「「(邪魔はさせない)」」

 

逆に言えば、それだけ2人は似通っているという意味でもあるのだが、そこはまた、別の話である。

 




徐々に外側の侵食を受けるツキト君。
このままだとじきに門開きそう。


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『道化』は『だれか』?

外なる神から電波受信し過ぎたツキト君、知らぬうちに深淵にダイブしてた。

補足として、前回のツキト君の右眼が深淵を映した鏡になった…………のですが、それだけではありません。

精神感応波の応用による擬似的にアッシュフォード学園内部、取り分け噴水の広場のみを指定して限定的に異界化。

それだけではただの幻覚でしかなく、精神へのダメージも少ないため、さらにそこに外なる神と接続することで、その力の一端を混ぜ込んだわけです。

SAN値をゴリゴリ削る10割コンボの完成!


「明日から数えて1週間後の18時、アッシュフォード学園であの娘を倒す」

 

「了承した、決闘ではあるが非公式のものだ、『親善試合』として処理しよう」

 

アーニャとナナリーの衝突をマリーと咲世子の名案によって仲裁してから2日。

 

執務室にて、アーニャの予定の報告を受けつつ、クレアにメモをとらせカレンダーにもマークをしてもらう。

 

決闘騒ぎも情報統制によって【『親善試合』の申し込みが捻れて伝わった】ということでマスメディアには通しておいた。

 

決闘だのと騒ぐ記事があればその社ごと潰す予定だ。

 

私の意に逆らう者は不要だ。

 

アーニャからの報告も終わって、部屋を出て行くかと思ったが、アーニャはそのまま私の顔を見つめている。

 

何かあっただろうか?と、自身の行いについて思考していると話しかけられた。

 

「お兄ちゃん」

 

「どうした?アーニャ」

 

「どうしてあの娘にあんなに目を掛けるの?」

 

何かと思えば……。

 

「私以上に才能があるとわかったからだ」

 

「お兄ちゃん以上…………それってどれくらい?」

 

「私の見立てでは、マリアンヌ様を…………超える」

 

「…………あの娘と戦ったら私は負ける?」

 

「さあな、勝つも負けるもアーニャ次第であろうさ」

 

一対一の剣闘であって戦争ではないのだ、決められたフィールド内で礼節を守り戦う決闘だ。

 

戦争のように第3国からの介入があったりするわけでもない、互いが互いを正面から睨みつけ、ただ剣で語らい合う空間…………。

 

勝敗は剣で語らい合う2人のみにある、不確定要素の入り込む隙など1mmもない。

 

あるならば私が潰す、必ず潰す、全てをだ。

 

「それより良いのか?きっと今頃本国は大慌て、陛下もお怒りやもしれん、大量の電文でヴァインベルグが半狂乱になってるかもしれんぞ?」

 

「それなら大丈夫、本国は大慌てだけど、陛下からは【研鑽を積むが良い】って言われて来たから」

 

「…………そうか」

 

あぁ………………そうか、なるほど。

 

不審な動きを見せた私に漬け込んでアーニャとヴァインベルグ、そして2人の親衛隊の選りすぐりが数10名が来た時は相当焦ったが…………。

 

おそらく陛下は私の動きの理由がわかっている、それでも調査団を送るというのは、一見ガッチガチに見えて実はただのポーズだったわけだ。

 

戸籍上も血縁も決別した(カーライル)アーニャ(アールストレイム)だが、アーニャとは以前より時間は減ったものの交流がある。

 

そんな元兄の動向に、親密さが透けて見える元妹を調査団にあてがうという時点でもはや調査団の意味が無いに等しい。

 

陛下ならばアーニャが私を疑うことなどないことくらい知っているからだ。

 

加えてヴァインベルグは、私を強く疑って行動することができない軟派な男…………明らかに怪しい組織へ送り込む訳でもない限り、もしくは純粋な戦闘要員でもない限り、調査団にはあまり相応しい人選とは思えない。

 

ナナリーの成長を見るという意味では、同年代のアーニャを送るのがベストであり、該当する人物もいない。

 

アーニャだけでは調査『団』として活動しているように見せるには厳しいため、さほど目立たず、邪魔にならず、かつアーニャとセットでいても気にならない人物を考えた時。

 

出てくるのがヴァインベルグ………………なるほど確かに、違和感が少ないな。

 

恐らく、あの言葉はアーニャを焚きつけ決闘へと誘導するためのもので、ラウンズを送る正当な理由付けのために調査団を作り、それをこれほどわかりやすいように私に伝えてくるということは…………。

 

ハッ………………陛下も人が悪いな。

 

それに人使いも荒い、気付きやすいとはいえ私頼みの要件………革命騒動を起こして皇帝になった男はさすが、その胆力と頭脳、老いてなお健在か、無駄に張り切りおってあの子煩悩めが!

 

政治に興味がないなどとほざきやがって…………昼行灯の亀を装った狸であったとはな。

 

それに、せっかく下げていた警戒心を無意味に呼び起こすとは、まったく落ち着きのないバカ親だな本当に!

 

いいだろう、曲がりなりにも我が主の父親、頼みを聞くのも一興だ。

 

「………そこまで言ってくださったのか…………ならば、陛下にはリアルタイムで伝えねばなるまい」

 

「………………え?」

 

「クレア、親善試合当日にアッシュフォードに記者を呼べるか?」

 

「規模によるわね、広いとはいえ学校だし、結構限られるわよ」

 

「問題ない、私が選ぶし私が話を通す、クレアは説明用の資料の作成と猟犬部隊で出動可能な人員の見繕いを頼む」

 

驚いて固まるアーニャをよそにとなりのクレアと計画を固めていく。

 

「猟犬部隊も?ラウンズ2人の親衛隊がいるのに?」

 

「当然だ、なにせ、ユーフェミア様を招くからな」

 

「ユフ…………ユーフェミア様も!?なんでよ!?」

 

「エリアナンバー1の学生剣士とマリアンヌ様の手解きを受けた騎士(ラウンズ)の親善試合だぞ?日本エリアの総督のコーネリア様は忙しいから来られないにしても、副総督のユーフェミア様くらいは来なければおかしいだろう?」

 

「あ〜〜……………そっかー、ラウンズの親衛隊はあくまで【ラウンズの親衛隊】であって【ユーフェミア様の護衛】にはなれないものね」

 

「そのための猟犬部隊だ、人数も多く鼻もきく、訓練も積ませてあるし実戦経験も豊富だ………お飾りの調度品(ラウンズの親衛隊)よか頼りになる」

 

「それじゃあ、広報の方にも通しておくわ、宣伝が必要でしょ?」

 

「あぁ、頼む」

 

広報部へ向かうため部屋を出て行くクレア、部屋には私とアーニャの2人っきりになった。

 

猟犬部隊…………久しい登場だが、九州事変の際に派遣された猛者もいる、新人も多いがシゴキに耐えた忍耐力のある兵たちも多い………抜かりなく行こう、抜かりなく、な。

 

「えっと、あの、お兄ちゃんも見るの?」

 

「私?仕事があるから見な……」

 

いや、ユーフェミアの監視がスザク1人では厳しい、記者の質問やスピーチでヘマをする可能性も捨てきれん。

 

もちろんユーフェミアやスザクを信頼していないわけではない、ユーフェミアは自分なりに勉強して大人の(汚い)駆け引きを学んでいるし、スザクは(怒ったりしない限り)うっかりやらかしたりはしない。

 

保険として私が近くにいた方が対処が楽ならそうした方が良いだろう。

 

どうせ当日は現場の近くで待機しているつもりだったんだ、この際だ、もっと近くにいたほうが安全面でも良い。

 

「…………そうだな、見に行くとしようか」

 

「お兄ちゃん!」

 

「私の生徒の成長も見たいが………アーニャの剣を振るう姿を見てみたいと思っていた」

 

「うん……じっくり見てね、私の姿」

 

そういう言い方をするんじゃない…………そこいらの男だったら襲ってるぞ。

 

「ふっふっふっ、さあてどうかな?私は自分の生徒には厳しく指導してきたつもりだ、伊達や酔狂でやったわけではないのだ…………実力を出しきる前に、アッサリやられてしまうかもしれんな?」

 

頬杖をついて煽るように笑う、慢心や油断で一瞬でやられてはナナリーの成長にならん。

 

ナナリーもまた、全力で戦ってくれなければアーニャの成長を促すこともできん。

 

私に役割があるとすれば、ナナリーを応援するであろうルルーシュとは真反対な行動。

 

ナナリーを煽り、『勝てるわけがないだろ(笑)』とやる気を削ぐ言葉を無残にも浴びせること!

 

無論、アーニャに対しても例外はない、気丈に振る舞うアーニャに、ヒールな言葉で蹴りつけるだけよ!

 

当日が楽しみだ、実に実に、楽しみだ。

 

ぶつけ合う剣に乗せられた想いは怒りか?それとも憎しみか?狂気か?殺意か?

 

あぁ、身体中が疼く、剣を抜き放ち、滅多に打ち付け、針山の如く刺し、剣で2人と死合いをしてみたい!

 

届かぬやもしれんと知りながら、それがどうしたとばかりに斬りつけ、刺し穿ち、薙ぎ抉りたい!

 

この脚のある限り駆け抜け続け、この腕のある限り剣を振るい、この眼のある限り射殺さんばかりに睨み、この意思がある限り必殺必勝の剣を向け続け、この喉がある限り闘いの讃美歌を何度でも叫ぼう。

 

剣を振るい、讃美歌を叫ぶならば、私は剣士であって剣士にあらず、ならば私は?ならば我は?

 

問いの答えは既にここに、問うまでもなく、迷うまでもなく、真実はここにある。

 

我は邪悪なりし者、聖者に呪詛の讃美歌を聞かせ堕落の谷へと突き落とす者なり。

 

我は深淵より招かれし者、邪悪なりし神々に存在を縛られた罪人なり。

 

我にあるのは破滅のみ、救済の光はなく、届くこともなく、また求めることもない邪なる者なり。

 

我は自ら堕ちた者、自ら深淵へと手をかけた者、深き業を背負い込んだ愚者なり。

 

私は私、我は我、どこまでいこうと同じこと。

 

深淵はここに、邪悪はここに、人であって人でなし、人に縋り付く邪神の化身…………などと、よく言ったものだ。

 

フゥ…………ガラにもなく昂ぶってしまった、いかんいかん、仕事に戻ろう。

 

今日は早めに終わらせて、クラブハウスでゆっくりとナナリーを煽り倒す仕事が……………ぬ?

 

「ひっ………………」

 

アーニャ?何かに怯えている……?

 

…………もしや、また漏れ出てしまっていたのか!?

 

なんてことだ、畜生が、暴走したギアス並みに厄介な能力だな!

 

気持ちが昂ぶると自動的に外なる神と接続するなど、私は敬虔な信徒かなにかか!?

 

願っても無いことを勝手にしやがって!半歩人外だったのが、9.9割人外になってしまっているではないか!

 

今はいい!そんなことは良い!あとで白い神に一発ぶち込むから後回しだ!

 

とにかく、今は怯えたアーニャを落ち着かせねば…………。

 

「アーニャ?いったいどう……」

 

「っ…………来ないで!!」

 

伸ばした手を2人の中程の距離で叩き落とされた…………。

 

おのれぇええええ!!!外なる神!!!!貴様ら!!!!

 

絶対にゆ“る”ざん“!!!!!!

 

待て待て私、殺意を滲ませれば顔にでる、これ以上アーニャを怯えさせるのは得策では無い。

 

だがどうしたものか…………。

 

「あっ…………ご、ごめん……なさい……」

 

「気にしておらんよ、それより、なぜそんなに怯えているのか聞かせて欲しいのだが?」

 

「ち、ちが……ちがうの…………」

 

「ふむ………兄では頼りないか…………」

 

試練とするなら深淵を覗かせる行為はあまりに重過ぎる、完全に心を折って再起不能になっては意味がないのだから。

 

「わ、私が…………」

 

ん?

 

「私…………お兄ちゃんを、怖いって、思っちゃって………」

 

「よくあることじゃないか、私もユーフェミア様を怖いと思う時が…………」

 

「そうじゃ、ないの」

 

「え?」

 

涙を流し懺悔するようにアーニャは語る。

 

「私、お兄ちゃんが人じゃないみたいに思っちゃった…………お兄ちゃんは私のこと、大事に思ってくれてるのに………」

 

人じゃない…………か。

 

「こんなこと、考えちゃダメなのに……お兄ちゃんなのに、大好きなのに…………震えが止まらない」

 

「……………そのように怯えては、決闘にも勝てぬだろうな、アールストレイム」

 

「…………今、なんて?」

 

突然の煽り文句に俯いたまま震えも涙も止めて、冷えた声音で聞き返すアーニャ。

 

「聞こえんかったか?私程度に怯えるようなみみっちぃ心で勝てるほど、私の生徒は優しくないぞ?」

 

おうおう、刺激されて怒っているな?怯えて震えていたが、今は怒りで震えているといったところか?

 

私への恐怖より、ナナリーへの怒りの方が大きいとは…………まったく、実に頑強な心臓を持っているのだなアーニャのやつめ。

 

「そんな惰弱な精神で振るう剣など、敵ではなかろうよ、勝敗は決したも同然、私の生徒の勝ちはもはや必然!」

 

最大限に見下した下衆な笑みを作り、人差し指をアーニャの眼前に突きつける。

 

まるで主人公をいたぶったあと、勝利を確信してほくそ笑む邪悪なラスボス(最低最悪のヒール)の如く。

 

「勝てんぞアールストレイム、お前では私の生徒には勝てぬ、絶対になぁ、もう勝てる要素がひとつもないなぁ!」

 

「……………」

 

そうだ、もっと私を睨め、もっと私を…………なんだこの気持ちは………?

 

「クックックッ………フハハハハハハハハハ!勝てぬ勝てぬ!今からでも棄権してはどうだ?精神は惰弱、剣は脆弱、オマケに…………フッ、重度のブラコンで未だ彼氏彼女の1人もおらんとは!!」

 

「!……お兄ちゃんが好きなのは関係ない!剣だって弱くない!!」

 

「そうかぁ?………マリアンヌ様の手解きを受けたとはいえ、盲目な師の指導が正しかった保障などどこにもありはせん、ましてや、兄に追いつきたいなどという浅ましい理由の剣など!あの小娘には通用せんだろうさ!!」

 

「何が悪いの!?お兄ちゃんを目標にして、目指して剣を振ってきたのは間違いだって言うの!?」

 

「あぁ間違いだね、実に滑稽だねぇ!私に追いつくだけで、超えようともしないなんて、実に可笑しい!腹が捩り切れる!その程度の信念で、その程度の執念で、私が教えた生徒に勝つ?…………アッハハハハハハハハハハハ!ハハハハハ!やめろ!やめてくれ!ヒヒヒッ!ダメだ……!腹筋が死ぬぅ!笑い死ぬ!イヒヒヒヒヒヒ!!」

 

うっ…………ガチギレしたアーニャってマジ怖え………ちびるぞこれ、本気で深淵より怖いんだが。

 

助けて白い神!

 

「ヒヒヒヒヒ…………あーー笑った笑った、アールストレイム、貴様は天才だ、なんて言ったって、この私を笑い殺しかけたのだからなぁ!自分の人生で持って私にユーモア溢れる極上のギャグを提供してくれるとはwwwサービス精神旺盛なようで大変結構!いいぞ、試合当日もそんな感じで頼むぞ?私を大いに楽しませてくれ!もちろん帝国の国民も、貴様の軟弱な剣で道化のように踊って楽しませるのだぞ?最高のフールとしてなぁ!!!」

 

「!!!」

 

「おっと?」

 

身を乗り出したアーニャに襟首を掴まれて立たされる。

 

え?なんでこんな男らしい……じゃなくてパワーがあるんだ?小さいとはいえ男の私を椅子から持ち上げて立たせるとか、かなりの腕力が…………。

 

「いくらお兄ちゃんでも、お兄ちゃんを馬鹿にするのは許さない………!!」

 

「ほう?ならば…………如何する?あの小娘の前に、私と交えるかね?それも良いやもしれんな?……………まあ、首が繋がっていられる保障はないがねぇ!?」

 

ここでマジキチスマイルと眼の見開き、私って本当に演技派。

 

「…………まずはあの娘を倒す」

 

「ふむふむ、先約を守るのは大事だねえ」

 

「そしたら次は、お兄ちゃんを倒す」

 

「フハハハハ………………楽しみに待たせてもらうとしよう」

 

「………………お兄ちゃんには、当日まで会わないから」

 

それだけ言うとアーニャは私の襟首から手を離した。

 

最後に私を睨み付けると、振り向いて部屋を出ていった。

 

━━━━……………………。

 

よし、漏らしてないな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーニャside

 

 

「どうしよう……」

 

ついカッとなって部屋まで戻ってきちゃったけど…………あれってお兄ちゃんなりの激励だよね?

 

アッシュフォードでもらった激励で、知らないうちに気が緩んでいたから、『このままじゃすぐに負けるぞ』って厳しく叱ってくれたんだね。

 

お兄ちゃんのことだから、きっとあの娘にも同じようなことを言うんだろうな…………。

 

お兄ちゃんは優しいなぁ…………こういうことするから惚れちゃうのに。

 

現に私も、あんな酷いこと言われたのにすっごく嬉しかったから。

 

あの娘も同じように感じるのかな?きっとそうだ、私とあの娘は似てるから。

 

でもお兄ちゃんは渡さない、取り返す、絶対に。

 

あっ、でも、お兄ちゃんに嫌なこと言っちゃったし…………終わったら謝らないと。

 

お詫びデートに誘ってみてもいいかな?

 

だ、ダメ!今はそんなことより、決闘に向けて調整しないと!

 

そういうことを考えるのは決闘の後。

 

「負けられない……」

 

今日は早めに休んで、明日から鎧を着た動きを確認しないと。

 

………………えへへ。

 




はい、SAN値ゴリゴリ削るコンボ、ただの偶然でした。

親和性が高い故、昂ぶると勝手に出ちゃうというか、『呼んだ?』って感じでひょっこり顔出しちゃうわけでして。

精神感応波で精神的ダメージを与えた上にさらに倍以上の精神的ダメージを上乗せする鬼畜外道コンボになってしまったという、不幸な事故でした。

ただ、【深淵をのぞき込むとき、深淵もまたこちらをのぞいている】という言葉もあります。

ひょっとして、ツキト君はもう………………。














あなたは理解し難い恐怖を感じた。

SANチェックです。

成功で0、失敗で1d4の喪失です。

さぁ、ダイスロールを、どうぞ。


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『戦場』を、『戦争』を、『軍団』を、そして『悪意』を『用意』せよ

ツキトくん、自分から嫌われに行く。

ドMかな?ドMだね、うん。




バッッッ…………タァアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!!!!

 

轟音!

 

木製の板の軋む音、金属の蝶番の擦れ合う音、それら全てを飲み込んだのはドアが閉まる音。

 

━━━━━━━………………。

 

訪れる静寂、流れる沈黙、冷えた空気、飲み会の一発芸が滑った時みたいな嫌な雰囲気に似たアレ。

 

「咲世子、壊れていたら修理を業者に頼んでくれ」

 

「音が派手なだけですので大丈夫かと、ナナリー様がツキトさんと夜に致すアレと同じです」

 

「なるほど…………おい待てなんつった引っ叩くぞコラ」

 

「おやめください死んでしまいます」

 

流れるようなコントを炸裂させた咲世子とツキト、観客0人のクラブハウスに悲しく木霊する。

 

「………………いや待て待て待て待て待て待て!!??」

 

ただ1人、反応したのは斜に構えた厨二病の高校3年生、ルルーシュだ。

 

「さっきのツキトの罵倒はなんだ!?親善試合の話から流れるように移ったからまったく間には入れなかったんだが…………あそこまで言うか普通!?」

 

普段の斜に構えた態度やフハハハ系男子的な様子はさらっさら、微塵も、全くもって、一欠片も感じない様子のルルーシュ。

 

この原因はおよそ4分から6分ほど前に遡る。

 

クラブハウスにていつものように夕食と団欒を楽しんでいたルルーシュたち4人。

 

4人とは、ルルーシュ、ナナリー、咲世子、そして鬼畜外道(ツキト)のことだ。

 

夕食を終えてリビングにて和気藹々とおしゃべりにこうじていた4人だったが、ナナリーが親善試合の話を持ち出した時、空気が変わった。

 

緊張感がない…………というのは良い意味で取られることが多いが、こと勝負の世界ではそれはない。

 

緊張感がないということは、気を巡らせあらゆるシチュエーションに対処できないということに他ならず、また相手からしてみれば手を抜かれているようにしか思われない、あってはならない行為のひとつ。

 

親善とはいえ試合、すなわち『勝ち』と『負け』が存在する【勝負】であることは間違いようがない。

 

それのリミットが1週間しかなく、ナナリーにとって未知である鎧装着下での試合というのもあって、非常に不利な状況なのだ。

 

それを理解した上で余裕を保っていられるのはそれこそマリアンヌのような傑物くらいのものであり、ナナリーのようなヒヨッコがするような態度ではない。

 

ツキトがプッツンするのも当然の流れだった。

 

ツキトは己が持つ話術スキルをフルに動員した身の毛もよだつ悪魔がデスメタルを歌うより酷い罵詈雑言を叩きつけた。

 

だがナナリーは負けん気が強い、油断は禁物ということを身に染みて理解したが、温厚な性格にも限度があった。

 

激昂である、逆ギレではない、ツキトの挑発めいた罵詈雑言が原因なのだから当然であるが…………。

 

アーニャのように襟首をつかむことはなかったが、自室に戻る際に力一杯ドアを閉めたため、あのような音が鳴ったのだ。

 

その大きな音が、ナナリーの怒りの大きさを表していた。

 

その大きさたるや、冷静沈着に見える咲世子に一瞬のみ冷や汗を流させるほどだった。

 

原因であるツキトは、自身の言葉がこうさせたのを理解しているし、謝りたいとも思っている。

 

しかしそれは試合の後に、であって、今のツキトは…………。

 

「真剣を用い、騎士甲冑を装着した原始的で最も古い決闘ルールによる闘いに望む剣士として…………あの態度は好ましくないものでしたので、少々口を出させていただいたに過ぎません」

 

静かな怒りを燃料に、炉に炎を灯しそう言った。

 

最愛の人であるナナリーを深く傷つけながら、一切の罪悪感を感じさせず、むしろ圧倒的に正しいのは自分であると開き直って公表するが如く平静であった。

 

というのも、そう見えるのはツキトの考え方が他2人とは異なるものであるからだ。

 

敗北即ち死、その価値観の元で全てを考えるツキトにとって、此度の決闘ルールほど戦場を強烈に感じさせるものはなかった。

 

生と死が同時に存在し、それらが仲良くタップダンスを狂い踊る場所、リズムが外れて足元狂えばひっくり返って地獄行き…………それが戦場だ。

 

騎士甲冑を纏い真剣で打ち合うならば、それが戦争(決闘)でなければなんであろうか?幼稚なごっこ遊びか、それともただの演武か。

 

どちらでもない、そもそも遊びですらない、命を取り合う殺し合い。

 

それはツキトにとって馴染み深いものであり、多くの生物にとって忌避すべきものである。

 

死に向かう行為は自殺に他ならず、嬉々として望む者がいるならそいつは既に人でなしでしかない。

 

ナナリーは、その一線をあと数歩で飛び越えてしまいかねない場所に立っていたのだ。

 

一度越えれば闘いを求め殺し続けるマシーンへと変貌してしまう魔の国境線だ。

 

多くの死を経験し、多くの死を招いてきたツキトはそれがどこか知っている。

 

その生物が越えてはならない一線を、デッドラインを、ツキトにはよく見えていた。

 

闘いに挑むには軽率なナナリーの態度から察したツキトは、罵詈雑言でもってナナリーをデッドライン間近の場所から首根っこを掴んで引っ張るように引き離した。

 

代償は大きかった…………ナナリーから自身への信頼や愛、それらすべてを捨ててでも、ツキトは罵詈雑言を浴びせ、嫌われる覚悟で実行した。

 

ルルーシュとの違いはここだ。

 

ツキトはその人のためなら、例えそれが唯一の理解者であるC.C.であれ、同郷の友であるクレアであれ、最愛の婚約者ナナリーであれ、愛してやまない可愛い妹であれ。

 

彼ら彼女らの敵に回ってでも、そのすべてを守護せんと動ける者なのだ。

 

しかし…………。

 

「私も………こう見えて剣士でありますので、真剣の勝負の前であのような態度をとられますと…………」

 

誤算があったとすれば…………。

 

「主であっても斬り捨ててしまうでしょう」

 

その剣にかける信念の重みが違ったことだろう。

 

彼の前世は剣と共にあった。

 

今世においてはルルーシュやナナリーといった守るべき対象がいて、彼ら彼女らの主張は基本的に自身の意見よりも優先・尊重するべきだと決めていた。

 

しかし、だからといって剣に掲げた誓いを曲げるほど妄信的な人間ではない。

 

頭も腰も低い男として知られるツキトだが、そんな彼が鉄や鋼すら柔いと思えるほどの超合金頭をしているのは、この曲がらぬ信念ゆえであった。

 

ルルーシュも咲世子も、その鉄の意志を知るが故に何も言えない。

 

2人もまた、並々ならぬ覚悟をもってことに望む戦士である。

 

己が望むものの実現のために闘うのが戦士であり、決して━━━━━決して、無意味な死を受け入れるだけの中身のない人生のために生きているわけではないのだ。

 

それに、ここに集った3人の望むべきものは共通しているのである、今更どうこう議論するまでもなく、結論は出ているのであった。

 

ツキトが険しかった表情を戻し、心を平静にするよう努め、落ち着かせると言った。

 

「では、ルルーシュ様、キョウトとの会合は如何でしたか?」

 

皇神楽耶はツキトとの秘密の会議にて信頼には遠いが信用にはたるものだと評価し、少しの間を開けてゼロを呼んだのだ。

 

いつもの如くゼロサマーゼロサマーと迫る幼い少女である皇神楽耶を、いいように利用している自分自身が心底嫌いになっていたルルーシュだが…………その時ばかりは様子が違った。

 

真剣な表情に覇気を纏った、日本の皇家の女、皇神楽耶がそこにいたのだ。

 

話す内容も至って真剣、おふざけの雰囲気はなく、ゼロは別の意味で胃痛がしていた。

 

「あぁ、ツキトに色々と聞いた結果、ツキトの考える日本エリアの自治区化や医療技術特区構想に賛同してくれるとのことだ」

 

「それはそれは━━━━実に嬉しいですねぇ」

 

ツキトのこの言葉は本心であった、いや、本心というにはあまりにも邪に過ぎたし、本質を捉えきれていない。

 

正しく言うならば、『ナナリーのの願いが叶う目処が立って実に嬉しい』であり、極論してツキトにとってはそんなことはどうでもよかった。

 

強いて興味を示すとすれば、どのようにしてより良い立地を確保し、研究所の規模を大きくしていくか、というような現実的なことばかり考えていた。

 

「命名は早い方が良さそうですね、【ナナリー医療研究所】というのは…………」

 

「気が早いにもほどがあるぞツキト……」

 

「冗談です、さすがの私でももう少しマシな名前にします…………騎士団の状況は如何でしょうか?」

 

「良くない方向に進んでいる、過激派と思わしき者たちの素行不良は当たり前だし、ツキトが不在の時にKMFの訓練中に衝突があってな………」

 

渋い表情で騎士団の崩壊の序曲の様子を語るルルーシュ、そして言い辛そうに口をつぐみ、暫しの間を置いて再び語り出す。

 

「ユートピアでツキトが次々に拘束連行するのを知ってから、少し疑心暗鬼になってしまっているのも原因のひとつではあるが…………そんなことはないと思い」

 

仲間同士で疑いあう様は見ていて気持ちの良いものではない………ルルーシュは汚物を見て唾を吐き捨てるようにそう言った。

 

「言い訳のつもりではありませんが…………私としても穏やかに済ます予定でした、私の大々的な命令として発してしまった私に落ち度がございます」

 

「そう小さくならんでくれツキト、結果としては日本エリアも幾分か綺麗(・・)になった、大多数を占める保守派からの評価は変わらず高いのだから、そう気負うな」

 

「ルルーシュ様に励まされてしまうとは…………私もまだまだ

 

ツキトはあえて嘘をついた、最初から大々的に粛清をやるつもりでいたし、本当はもっと目立つようにやる予定だった。

 

しかし、あまりにも部下が有能すぎるのが大きな誤算を生んだ。

 

長期による粛清の波によって民衆への恐怖を与える予定だったのだが、たったの数週間ももたずにリストの人名すべてにレ点がついてしまった。

 

ツキトに心から従う者は自分にできる全力を出してその義務を果たした、そこに遊びはなく誰もが真剣だったのだ。

 

ゆえにツキトは、その異常なほどに尽くす者たちに困惑の感情を持った、次第にそれはツキト自身の洗脳という名の能力への恐怖を募らせた。

 

しかし、それもすぐに崩れた、ツキトが納得したからだ、『今回は命令の仕方を間違えてしまったから反省して次に生かそう』と心をポジティブな方向に転進させたに過ぎない。

 

反省して次に生かす、言葉にすれば簡単だが、事柄を見ればどれほど恐ろしいか理解してしまった。

 

理解してなお、さらなる研鑽を積まんと反省したのだ。

 

『人の心を支配して思うがままに【使う】』、という能力をさらに高めるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は経ち、3日後。

 

アーニャとナナリーを煽りに煽ってしまったため、親善試合当日までスザクのマンションにて居候させてもらうツキト。

 

今日もまた、帝国は実に平和な朝を迎えた、スザクのマンションで目覚めたツキトは、スザクとともに総督府へ。

 

淡々と仕事をこなしていくツキト。

 

今日も今日とて、実に平和…………とは、いかなかった。

 

ユーロピア復興支援のために物資・人員を様々な空輸ルートを駆使して高速輸送の最中のこと。

 

中華連邦の哨戒機が異常接近を繰り返しているという、車で言えば幅寄せやゆらゆら運転をされているのと同じことであり、非常に危険極まりない。

 

輸送機には大事な大事な人的資源が満載されていると伝えてあると言うのに、それでも異常接近を止めることはなかった。

 

そしてついに、いや、ツキトの心象を写すならば、『ようやく』と言った方が良いのかもしれない。

 

そう、ようやく起こったのだ、不謹慎にも待ちに待った、待ち焦がれたと言い換えても良いアクシデント(ラッキーイベント)が。

 

異常接近の際、警告を無視して護衛機に物理的に接触してしまったのだ。

 

急激なパワーが加わったジェット機は高度3000mにて時速400kmで乱回転、錐揉みしながら急降下

いや、墜落していった。

 

しかし、我がブリタニアのパイロットは世界一!冷静な操作で即座に立て直し、機体が十全でない状態にもかかわらずそのまま滑走路まで自力で飛行、僚機とともに無事着陸した。

 

危うく墜落していたかもしれないということもあり、輸送機および残存護衛機はその場でUターンして引き返した。

 

幸運にもパイロットは錐揉み中に頭を打つなどの軽い軽傷ですんだ、乗っていた愛機たる戦闘爆撃機の翼は破損、中程から先が綺麗に消し飛んでおり、配線や燃料管が丸見えだった。

 

機関周りの損傷はなかったことは実に幸運よ言わざるを得ない、が。

 

最大の幸運はパイロットの精神のタフさだ、パニックに陥り座席を射出していたら、乱回転する愛機の翼に切り刻まれていたことだろう。

 

「フッ……フフッフフフハハハハハハ!!さすがだクレアァ!お前のその能力(ちから)!素晴らしいではないか!」

 

「自分で言うのもなんだけど……反則的な能力だしね、ま……こういうときくらいしか役に立たないけど………あと、仮にもそれなりの被害が出たのよ?パイロットの人だって、一歩間違えば死んでたわ」

 

その事故の一部始終、全てをビックイベントとしてクレアは完全に予見した(視 た)

 

「フフフフフフッ………あぁ、すまないなクレア、なに、久方ぶりに戦争ができそうなんでな、ほんのちょっぴりの間だけ、心臓が3倍速で動いただけさ」

 

それを知ったツキトは、知りながらも発進許可を出した、なぜか?

 

「それにだクレア、あの輸送機には何ひとつ荷物は積んでいない」

 

たとえ輸送機に接触したとて、積荷がないのであれば世間からすればまったく問題ない…………ツキトはそう考えたのだ。

 

たとえ人が乗っていたとしても、むしろ同じ帝国の臣民を殺された臣民たちは、中華連邦への怒りに燃える、パイロットたちへの深い尊敬と羨望の目を向けることだろう。

 

「だからって見殺しにするようなことをするなんて……」

 

「クレア、私は彼らパイロットの強さを信じている、そして彼らも私を信じてくれている…………ならば、その信頼に応える策を講じるのが私なりのやり方よ」

 

「…………いろんな黒いものを見てきたけど、ツキトほど黒いのはいなかったわね」

 

「クレアにそう手放しに褒められては、少し照れるな……」

 

「うわきも」

 

「おい、私の心砕くなよ、おい」

 

もちろん、すべての臣民が100%中華連邦への怒りを燃やすわけがない。

 

これを機にしてツキトと対立する派閥が攻勢をかけてくることは想像に易い。

 

しかし、それはありえない。

 

なぜなら大多数の対立者たちは拘束されているのだ、ツキトの【優秀な従者】たちが見つけ出せず、隠れ潜むことを選んだ者が、仮に、仮にだが、アリの鼻くそほどでも生き残っていたとしよう。

 

そうであったとして、わざわざ隠れ潜むような真似をした者たちが、表に出てツキトを弾劾しようとするだろうか?

 

そうなれば即座に従者たちが行動に移るだろう。

 

それが分からない者から順に喰われる…………それだけの話だ。

 

すでにツキトによる監視網は全世界に浸透済みだ、もはやどこで何をしていようと、ツキトには全て見えている。

 

死角のない監視カメラを配置したようなもの、誰も逃れることのできない【神の目】は完成している。

 

そこにクレアの予知能力を組み合わされば、ツキトはただそこに座しているだけで、世界を変革させられる、その力を得た。

 

多くの人々にとってツキト自身はそれほど脅威ではないだろう、どれほど対人戦闘で強かろうが所詮は人だ。

 

角の生えた化け物でもないし、ましてコミックのヒーローのように空を飛んだりしない。

 

等身大の人間そのものなのだ。

 

だからこそ、真に恐るべきはツキトの忠勇なる従者たちであることを正しく認識しておかなければ、命はない。

 

「ようやく我が主に世界を捧げることができる」

 

だが決して、決してツキト・カーライルを侮るなかれ。

 

それは邪悪にして純真、暗く淀んだ深淵にして明るく晴れやかなる浅瀬、視界にあるもの全てを魅了する魔性。

 

「終戦記念日はルルーシュ様の誕生日にしよう!その日はお祝いもひときわ豪華にしていかねばなるまいな!」

 

人の可能性が反転したような存在がいるとするならば、ツキトはそれに近しい別のナニカだ。

 

「そのためには、早めにプランの作成をやっておいたほうがいいだろう、焦土作戦ではあるが誕生日まで長引かせんといかぬゆえ、多少の遊びを持ってド派手にやらねばな!」

 

『中華連邦なぞ1週間もあれば灰燼となってしまうからな!!』━━━━と、中華連邦を嘗め腐ったことを言いつつ、『作戦計画A』というタイトルでプランの作成を始めた。

 

「見えるわ………たぶんどれだけ時間を伸ばしても、誕生日前には終わるわ……」

 

「ぬっ…………ならばその運命、変えて見せねば従者の名が泣くな!」

 

「………………嬉々として戦争を始めようとする男だなんて、ナナリーが知ったらどうするのかしら」

 

高笑いを続けるツキトを前に、小さくつぶやいたクレアの声を聞くものはいなかった。

 




さぁて、どんどん壊しちゃおうね〜(世界)。

テイコクニアダナステキナド、フヨウラ!



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『少女達』が求めしもの、『城壁』に求められしもの

ついに始まるアーニャ・アールストレイムとナナリー・ランペルージの真剣勝負ッッ!!!
勝敗を決すは技か!?力か!?それともッ!愛なのかッッ!?
2人の少女の想いの交差が!ドラマを呼ぶ!!!

cv.千葉さん


決闘当日。

 

アーニャとナナリーを散々に貶し、煽ったあの日から1週間。

 

アーニャとは宣言通り一度も顔を合わせることなく、学園とクラブハウスから離れナナリーとも距離をとり、ついにその時はやってきた。

 

晴れ渡る空、夕方も近い時間帯であるが、小鳥たちはまだ広場の噴水に集っていた。

 

小さな観客たち数10匹、大きな観客たち数100人、そして、特別席にユーフェミア、護衛として騎士であるスザクがやや後ろに立ち、ユーフェミアの隣にクレアが座っている。

 

そして━━━━━━全ブリタニアの臣民たちが、世界中から国営放送を通し、その瞬間を待っていた。

 

中心人物であるアーニャとナナリーは、すでに騎士甲冑を見に纏い、剣を腰に下げ、兜を外した姿で広場の中心に集っていた。

 

その最中、私は審判として2人を横から眺めている、いるのだが…………正直、目をそらしたい気持ちでいっぱいだ。

 

もう数分も経てば剣を交える相手同士、睨み合いや心理戦のひとつもするだろうと思っていた。

 

最初の数分こそ睨み合いが続いていたが、私が広場に現れると同時に首が戦車の砲塔のように『キュィィイイン!』と旋回、その目力を私に向けた。

 

もう怖すぎて怖すぎて、2人を眺めてはいるがそれは2人の間の虚空を見ているだけであって、少しでも左右に視線をズラせばあの眼力にロックオンされてしまう。

 

そらしたいと言ったのは訂正しよう、スザクの家に帰りたい。

 

ちくしょう、何が『調停役はツキトしかいないでしょ?』だ、クレアめ!

 

そもそもこんだけビックなイベントなら予知くらいしろ!使えん能力だなまったく!!

 

まあ、あれだけ散々煽って貶した結果だ、多少の怒りは受け止めるがこれは許容外だぞ!

 

しかし!しかしだ…………2人にもっとも近い場所で観戦できるというのは実に良い!

 

同じ視点から見ることができるならば、それはもはや特等席と大差ない、いやむしろ特等席以上に価値がある!

 

かたや私が仕込んだ剣士、かたやマリアンヌが仕込んだ剣士、その2人が剣を交えるというならば、それはまさしくドリームマッチ!

 

それを生で見られるなんて…………1人のファンとしては勃◯ものだ。

 

2人から刺さる濃厚な殺気と、これから始まる決闘に興奮が隠しきれず、すでにハーフ・エレクトしている!

 

2人と視線が少しでも掠ったりでもして、あの殺気を眼で受けて意識してしまったら…………隠しようがないほどエレクトしてしまうのは想像に易い。

 

怖いものは怖いが、怖いもの見たさという言葉がある通り、私はそのスリルと恐怖感で、すでに4分の3ほどエレクトしてしまっている状態だ。

 

フッ、もはや2人にどれほど変態と罵られようと構うまい。

 

これはもはや、私のサガのひとつ!世に数ある性癖のうちのひとつ!すなわち私そのもの!

 

フハハハハ!興奮し過ぎて何を考えているのかすらわからなくなってきたが、そんなものもうどうでもよいことだ!

 

………えぇい!まだ始まらんのか!?…………って120秒以上もあるのか!くそぅ待ち遠しい!!

 

秒刻みでエレクトしてイきつつある私の『エクス………カリバァァァァ !!!』は、もう収まりがつかぬほどだ!

 

マントより守備範囲の広いローブに近いラウンズの旧制服を着ていなければ、即バレ不可避であったところだぞ。

 

まったく困る、私をこれほど興奮させるなんて…………おっと、いけないいけない、自然に腰の剣に手が伸びかけていた。

 

危うく剣を抜いて2人に飛びかかっていたやもしれん、いやはや、理性というものも、あまり役に立たんな。

 

崩れるは容易く、積み上げるは難い。

 

「カーライル様、間も無く親善試合開始です」

 

「…………あぁ、もうそんな時間か」

 

背中越しにクレアの声が聞こえてきた。

 

振り向いて答え、視線を元の位置まで戻してから腕時計を確認する。

 

あと70秒弱………そろそろ良いか。

 

「此度の親善試合は、神聖ブリタニア帝国において長い歴史を持つ、伝統的で最も古風な決闘ルールによって行われる」

 

懐から巻物を取り出して広げ、読む…………振りをするようにして続ける。

 

「決闘の地はここ、『アッシュフォード学園の噴水広場』である」

 

「剣は一振り、神聖ブリタニア帝国最高の鍛治職人の拵えた『ロングソード』である」

 

「決闘を執り行う者、右の者…………神聖ブリタニア帝国第98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニア皇帝陛下直轄騎士、ナイトオブラウンズ所属、第6の騎士(ナイトオブシックス)、『アーニャ・アールストレイム』」

 

「決闘を執り行う者、左の者…………神聖ブリタニア帝国エリア11、アッシュフォード学園高等部フェンシング部所属、『ナナリー・ランペルージ』」

 

「以上の事を、審判であるこの私、ツキト・カーライルの名において宣言するものである」

 

巻物を綺麗に巻いて戻し、懐にしまう。

 

あとは、ユーフェミアが開始の宣言を行えば良いだけだ。

 

「ユーフェミア・リ・ブリタニアの名において、この決闘を見届けます…………その剣で、自らの正義を貫きなさい」

 

その声がアッシュフォード学園中に響き渡る。

 

静寂の広がる噴水広場の中心で、アーニャとナナリーは兜を被り、鞘からロングソードを引き抜き、構えて向かい合った。

 

距離を図りつつジリジリと動き合う、まさに『静』の動きと体現できる高次の読み合い。

 

それは唐突に終わりを迎え、同時に踏み込んだ2人は激しく打ち合いを始める。

 

右へ、左へ、上へ、下へ、正面へ、剣先が斬り結び、金属の残響音が耳に心地良い。

 

…………まずいな。

 

「ハァァッ!」

 

「セヤァァァッ!」

 

2人ともスピードはそうでもない、そうでもないが…………私以上に、剣を扱えている。

 

甲冑の重さ込みで考えれば中々のスピードだと言えるだろう。

 

動きが鈍る中であれだけ自在に剣を、手足のように取り回せるとは……!

 

正直驚愕だ、ナナリーの適応能力はただただ異常だ。

 

そうとしか思えない、たった1週間の練習で、ただそれだけで、常日頃から鍛錬を重ねるアーニャに迫っている。

 

あの、才能のスープを飲ませた私の判断は間違ってなどいなかった!

 

あれはただ、アーニャとナナリーの同等の斬り結ぶ剣閃を見たいだけだった…………だが!今は違う!

 

脳内麻薬が過剰分泌されているのを感じる!『楽』の感情で細い神経が渋滞を起こし、歓喜が洪水のように溢れて飽和している!

 

全身の至る所をパレードが歩いて行く、どこまでも、どこまでも、私の身を蹂躙して行く!

 

あぁ、何と甘美なことか……!

 

あの剣の打ち合いが、まるで、おとぎ話に出てくる森の妖精たちのじゃれ合いに見えてくる。

 

心が踊って仕方がないというのに、何と心休まる光景だろうか…………。

 

自称常識人どもはきっと言うだろう、『武器を振り回す人を見て心休まるなんて正気ではない』と、そう言うのだろう。

 

だが、私は2人の剣戟の応酬に、ギリシャの彫刻すら嘲笑う美しさを感じている。

 

あれはまさしく、英雄たる者たちの…………。

 

カチカチッ…………

 

「ん?」

 

おっと…………まただ、勝手に右手が………。

 

意識していないと危険だな…………私の身体なのに、私ではない別の意思で動いているような……………気味が悪いな。

 

それに、危うく決闘になりかけたあの日、いやに怖がられていたが…………。

 

まさか…………外側からの干渉?それこそまさか!ありえ…………いや、否定してかかるのは良くないな、足元を掬われるどころじゃ、床板を引っこ抜かれかねん。

 

あるいは、おおよそ、この場所に、神聖なる決闘の場にふさわしくない者が紛れ込み、身体が反応したか…………。

 

ふむ、観客は校舎の窓から防弾ガラスと窓ガラスを挟んだ向こう側にいる、ともすれば割って入るなどということはできないはずなのだが………。

 

私は審判ゆえこの場から動けない、校舎内や学園周辺を警備中の猟犬部隊(ハウンド)の鼻を信じる他にないのが歯がゆい。

 

まったく……………すっかり覚めてしまったではないか、あれほど気持ち良い余韻に浸っていたというのに、冷や水を浴びせられた気分だ。

 

萎びた小松菜もびっくりなしなしなっぷりだが、目の前に繰り広げられている剣戟はそんな気分すら消しとばす勢いだ。

 

剣を振るい、互いに咆哮する。

 

獣のようのがむしゃらに、しかし剣術と己の技巧をもって、理性的に攻める。

 

身体は熱く、頭は冷めて冴え渡る。

 

今の2人はそんな感じだろう、身体は火照って熱く、甲冑が重くて邪魔で仕方ないと思うことすら振り払い、眼前のライバルめがけて剣を振る。

 

がむしゃらな棒振りでは敵わない、防御しにくい角度、受け流せない方向、致命的な弱点を探りつつ、またそれが相手にバレてしまわないように、冷静に理性的に立ち回る。

 

「ゼア“ァァァッッ!!」

 

「シャァァアアアッッ!!」

 

カチカチッ……カチカチッ…………

 

だから剣に触るな右手ぇ!

 

我が身ながらこれっぽっちも堪え性がないとは………まだ数分も経たないうちからこうではな………。

 

いや、試合はもう勝敗が決しそうだ…………。

 

ッッ!…………これはッ!!

 

「そこまで!此度の親善試合、勝者は…………」

 

口に出しつつ、複雑な気持ちがぐるぐると回っていた。

 

どちらにも勝ってほしいと願ってはいたが、こうしてどちらかが勝ち、どちらかが負けるという瞬間に安心を覚える傍らで、どこか、こんなにもすぐに決着がついてしまうのかと、奇妙な物足りなさを感じていた。

 

確実に言えることは、私が観客であったなら、我を忘れてしばらく座席で放心していただろうことは、想像に容易かった。

 

こうして、アッシュフォード学園における親善試合は、その幕を下ろした。

 

ユーフェミアが所感を述べるのを聴きながら、私はただ黙って試合の様子を反芻していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も粛々と、決まった流れの通りに閉会式が執り行われ、大きなアクシデントもなく、平和なまま表向きの親善試合は終了した。

 

厳格な式も全て終え、最後にユーフェミアが内々に2人の健闘を讃え、本当の意味で親善試合の全日程が終了した。

 

猟犬部隊とスザクにユーフェミアの護送を任せ、私は別件で別れると伝えた。

 

別件とは言え、ゼロと少し話しをするだけだ。

 

しかし、荒れていく騎士団の現状に対する対応が追いつかないことから、ブリタニア側の人間を招き密会を開き、今後について協議する…………という建前だ。

 

もちろん、この建物もコーネリアやユーフェミアにバレた時に話すホラである。

 

密会と言っても、私とルルーシュとC.C.の3人で話し合うというだけであり、実質的に騎士団幹部の会議と変わらない。

 

猟犬部隊から報告はなかったが、試合中に感じたあの気持ち悪い感覚…………背信・裏切りの匂いを感じ取れた。

 

騎士団はすでに限界寸前、なあなあな処置で済ませていたせいで、派閥は巨大化、対立構造はより一層深まってしまった。

 

今更会議?………と思うかもしれない、私も実際に思ったことだ。

 

しかし、騎士団のリーダーはツキト・カーライル(わ た し)でも、謎の女エリー(ワ タ シ)でもない。

 

リーダーはゼロ…………エリーとC.C.はあくまでその副官にすぎず、騎士団を管理する役目を負ってはいるが、全権を持っているわけではない。

 

それに、C.C.はともかく、私自身はルルーシュから助けをこわれない限りは不干渉でいるつもりだった。

 

そして、今回ルルーシュに呼ばれたということは…………いよいよ、強硬策を実行するか否かの話し合いになるだろう。

 

学園の最終的な検査………爆発物や毒物などのテロ対策の検査………を終えた猟犬部隊が帰投した後。

 

私も荷物をまとめてトウキョウシティにある騎士団本部へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツキトさん!」

 

「お兄ちゃん!」

 

学園から出ようと歩き、校門の前にいたナナリーとアーニャに呼び止められる。

 

2人ともデザインも色も違うがスポーツウェアにスパッツという非常に薄い格好だ。

 

『ナナリー、もう夕飯の時間のはずだ、咲世子が心配しているぞ?』とか、『アーニャ、仕事はどうした?』とか、そんな言葉が浮かんではくるものの、なぜか、声が出せない。

 

驚きのあまり声が出ないのかと思ったが、自分の頭は客観的に見ても冷静なほうだ。

 

ならばなぜ?…………そんな疑問が生じる、その答えを得るため思考の海に潜る。

 

だが、その前に、呼び止められたのなら返事は返さねばならない。

 

そして、数々の侮辱行為を行ってしまったのだ、頭を下げ、謝らねばならない、許しを請わねばならない。

 

「ナナリー、アーニャ………すまなかった」

 

煽り、貶したことを謝罪する、いかにやる気を出させるためとはいえ、あれはやり過ぎだった。

 

「私は2人の騎士として、そして剣士としての誇りを傷つけた………言葉だけの謝罪では到底許し難いことは重々承知している…………私に出来る限りのことなら、なんでもしよう」

 

許してもらえずとも、これくらいのことは安いものだ。

 

もとより私に、許してもらえるほどののとができるかどうか、また、それをやらせてもらえる価値があるのかどうか………。

 

ナナリーとアーニャの顔を見る、暗がりでよく見えないが、少なくとも怒っている様子には見えない。

 

「…………アーニャさんと話し合って決めたことがあります」

 

「それを、私たち2人にして欲しい、それでチャラにしよ?」

 

ナナリーとアーニャがそう切り出す。

 

そうか、ただ憎しみ合う敵ではなく、友人、もしくはライバル同士になったのか。

 

嬉しいことだ、と喜ぶ心がゴムボールのように跳ね回るのを押さえつけ、2人の『して欲しいこと』というものが一体なんなのか、その答えがくるのを待つ。

 

「私とアーニャさんで話し合いました、その結果…………ツキトさんと結婚しようと決めました…………3人で一緒に」

 

……………………?

 

「ナナリーはお兄ちゃんが好き、私もお兄ちゃんが好き、お兄ちゃんは私とナナリーが好き…………何も問題ない」

 

……………………??

 

「最初は私も嫌でした、ツキトさんに重婚させるなんてこと、それも、こうしてお願いとして無理やりさせることも」

 

……………………???

 

「だから、条件をつけた、これでお兄ちゃんの同意を得られなかったら…………この件はなかったことにして、2人別々の願いを言うから、そっちを叶えてくれればいい」

 

…………………………あっ、夢じゃないのか。

 

なんだ、元妹と主と重婚するか否かの決断を迫られた夢を見ていた気がしたが………………現実かよ、ちくしょう。

 

「…………別々の願いというのは?」

 

「ごめんなさいツキトさん、それは言えません……」

 

「ズルすぎると思うけど…………お兄ちゃんには、重婚を選ぶか、答えのわからない別解を選ぶか、その2択しか用意できない」

 

やっぱりダメか……。

 

私の性格を知ってて、わざとさっきの説明の時にふたつめの別々の願いを明かさなかったわけか。

 

とりあえず、クラブハウスに2人を連れて行こう。

 

春とはいえ、さすがに夜はかなり冷え込む、ただでさえ下着よりマシという酷く薄い服装なのだ。

 

男として、ナナリーとアーニャに風邪を引かせてはならない。

 

「夜で暗いし寒い、それに立ち話では落ち着けない、クラブハウスに入ってココアでも飲みながらゆっくり話そう」

 

とりあえず、咲世子に温かい飲み物や食べ物の準備をするようにメールを送って、1人になったタイミングを見計らってルルーシュに遅れると電話を…………。

 

「やだ」

 

「いやです」

 

「…………すまない、もう一度言ってくれないか?疲れて耳が遠くなったのかもしれない」

 

「では…………いやです、ここで答えてください」

 

「答えない限り絶対ここを動かない」

 

ケータイでメールを打とうと取り出した状態で固まる。

 

よもや否定されるとは露ほども思っていなかったが故、動揺のあまり表情筋まで凍ってしまう。

 

考える、考える。

 

脳をコンピュータとして高速で演算を処理していく。

 

答えを、答えを、答えを。

 

納得させられる言葉はないのか?

 

ない、ありえない、不可能、無理、無駄、無意味…………更なる要求を提示される可能性あり。

 

どうすればいい?どうすればいい!?

 

落ち着け!落ち着け!!

 

私はツキト・カーライルだ!ツキト・カーライルなんだぞ!

 

カーライル(城 壁)は揺るがない!揺るぎはせぬ!!絶対に!!

 

そうだ!まずは条件の確認をやっていこう。

 

「…………わかった、ではいくつか質問があるのだが、構わないか?」

 

「はい」

 

「うん」

 

まずは…………。

 

「ひとつめの願いと、個別の願い………これらは繋がりや関連性のあるものなのか?それとも否か?」

 

「ありません、完全に個人的なお願いで、重婚のお願いとは関係はありません」

 

「被らないように何度も話し合って確認したから、心配しなくていいよ」

 

「個別の願いを叶えると言ったら、重婚をすることになっていた…………ということはないのだな?」

 

「はい、ツキトさんが私とアーニャさんと重婚する、ということは絶対にないと保証します」

 

「お兄ちゃん、どうしても信用できないなら、私の命を賭けてもいいよ」

 

「そこまで言うのなら信じよう…………それと、命の張りどころを(たが)うでない、アールストレイム」

 

これで、ふたつめの選択肢を選んでも重婚することになる、ということはなくなった。

 

「では次に、2人の個別の願いはそれぞれどのようなものか、抽象的に教えてもらえるか?」

 

「それはできない」

 

「私も、できません」

 

むぅ……ガードが硬い、攻めにくいな。

 

一旦距離を取ろう、このまま攻めても崩せない、ジリ貧だ。

 

「わかった、では次に、2人はひとつめの願い(3人で重婚)ふたつめの願い(個別のお願い)、選ばれるなら……どっちを選んでほしいのか、教えてもらえるか?」

 

「…………ふたつめです」

 

「私もふたつめを選んでほしい」

 

となれば、本命はふたつめ、2人それぞれ別々の願いを叶えてもらいたいと思っているわけか。

 

ひとつめの願いの重婚という無理難題が叶えばラッキーだが、それはないと踏んでふたつめを本命にして内容を隠した。

 

どちらかを選べと言われたら、多少不安はあってもふたつめを選ぶ可能性が高いからな。

 

これで、私にとって重婚よりふたつめの願いのほうが安全なものだと確信が持てた。

 

「最後に、願いを拒んだ場合はどうする?」

 

「その時は…………ここが私の墓場になるだけです」

 

「ナナリーの墓のとなりに私の墓ができるだけだよ」

 

どこに隠していたのか、ナナリーはカッターナイフを、アーニャはナイフを取り出して己の首筋に近づけた。

 

命を引き合いに出されては…………私に拒否の選択肢はないわけか。

 

ふたつめの願いのほうが若干でも安全とわかっている、そしてほかに選択できるものはないのなら、実質1択と変わらなかったわけか。

 

…………致し方あるまい、それしかないのなら、それを選ぶほかないであろう。

 

「そんな物騒な真似はよせ、場合によっては貴様ら2人の腕を引きちぎらねばならんことになる」

 

「なら…………選んでください」

 

「…………」コクコク

 

「わかったから、今答えるからすぐにそれをやめろ、心臓に悪い」

 

言うと素直に刃物を下ろした2人だが、鼻息が若干荒い気がする。

 

「はい!そ、それでツキトさん、どっちを選んでくれたんですか?」

 

「ふたつめのほう?それとも重婚?」

 

「待て待て刃物を持ったまま近づくな…………いや、本当にやめてくれ、怖いから、頼む」

 

夜中に刃物を持って近づいてくるのはやめろぉ!!怖いんだぞ!凄く怖いんだぞ!!

 

「はぁ…………2人の個別の願いを聞き、叶えると誓う」

 

そう言った瞬間、2人は笑顔でうなづきあった。

 

とても嬉しそうで、私も笑顔になりそうだったが、それより早くため息がでた。

 

中身不明、しかし確実にプラスではないことが確定している箱を開けるような気分に陥り、これからに不安しか感じられない。

 

いっそ、第3者からの作為的なナニカを感じざるを得ないほどだ。

 

「はぁ……」

 

ため息をつくと幸運が逃げる、とは言うが、マイナスにならない限り、幸運の値が0であっても私はため息をつくだろうな。

 

それで少しでも気分が良くなればいい…………なんて、叶いもしない願いを込めて。




〜試合後〜

アーニャ「お兄ちゃんが大好き!愛してる!」

ナナリー「ツキトさんが大好きです!愛してます!」

アーニャ「そして、お兄ちゃんは私とナナリーが好きで、愛してる」

ナナリー「つまり…………実質重婚しているようなものですよね?」

アーニャ「お兄ちゃんが謝ってきたら交換条件で提案しよう」

ナナリー「そうしましょうアーニャさん!あっ、断られた時用に別のお願いも準備しておきましょう!」

アーニャ「ベストアイデア、ふふふ…………これはもう、実質セッk『次回を待て!!』





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『身の内の敵』を潰すため

ちょっと開きましたが、作者は元気です。

前回でツキトくんがものすごく追い詰められておりましたが…………お前マジで優柔不断だからこうなるんだぞコラ、というお手本に……。

実際、作者にアーニャレベルのスーパープリティな妹がいたら襲ってます、もう確実に、嫌われてても無理やりやっちゃいますね。

だって絶対理性保た…………おっと?ヤフ◯ショッピングで頼んだお菓子が届いたのかな?


『お願いの内容は後で聞く、アールストレイムは職務に戻れ、そしてナナリーはクラブハウスに早く帰れ』と、そう言ってやや強引にその場を離れた。

 

きつく言ったつもりだったが、2人とも笑顔のままで見送ってくれた…………なぜか背筋が凍るほど怖かったのが印象に残っている。

 

タクシーを拾って総督府へ向かい、自分の執務室で変装し、そこからタクシーで病院へ向かった。

 

病院でタクシーから降りて徒歩でシティへと入り、騎士団本部に到着した。

 

こんな面倒な方法を取るのは非効率であるが、臆病に、慎重に行かなければならない理由がある。

 

仮にもラウンズの身である私が、騎士団と個人的な密会に参加していたなどと広まれば、今の立場も全て失いかねない。

 

だからこそ慎重に慎重を重ねた上で、臆病なまでに抜き足差し足で行かねばならなかったのだ。

 

まあそれも、会議の内容次第では無意味に終わる可能性が高いのだが。

 

会議室であるゼロの部屋までの直通ルートに団員は1人もおらず、身分の確認をされることなく無事に通過、ノックをする。

 

「エリーよ」

 

『エリーか、今開ける』

 

部屋のドアを開く、中に入ると正面に半円形のソファと円い机があり、そこには衣装を着込んだゼロ(ルルーシュ)が座っていた。

 

ドアを開けてくれたのはC.C.のようで、こちらも例のタキシードを着ている、髪はいじっていないのか、ストレートのままだ…………素材はいいのに勿体ない。

 

「お前にしては遅かったなエリー、何かあったのか?」

 

「いやぁ〜、移動に時間かかっちゃってさぁ」

 

なんてC.C.と話しながら部屋に入る。

 

C.C.はドアを閉め、数秒待ってからもう一度ドアを開けて部屋の外を確認し、盗聴の恐れがないか確認してからドアを閉めて言った。

 

「よし、ゼロの言う通り誰もいないぞ、エリー」

 

「…………ふぅ………自分を偽るのは疲れます」

 

「俺も同意見だツキト」

 

二重、三重の仮面をかぶっているルルーシュと私は小さくため息をついた。

 

私はエリーの役をやめ、ブリタニア・騎士団両方の意見をもったツキト・カーライルとして会議に参加する。

 

ルルーシュは仮面を脱いだが、ここではゼロとして会議に参加するようだ。

 

ルルーシュのとなりに座るC.C.、私も座ろうと足を進めたが、円卓に飲み物がないことに気がつき、部屋に設置された冷蔵庫に向け方向転換した。

 

「ルルーシュ様、C.C.、飲み物は何にしますか?」

 

冷蔵庫を開けて中にあるものを取り出しながら言う。

 

そういえば、本部に来るたび少しずつ貯めてきたスナック菓子があったな、それも出すか。

 

ポテチ…………うーん、ポッキーだな、ポテチで油まみれのゼロは、なんというか………違う気がする。

 

「俺は適当なジュースでいい」

 

「私も同じのでいいぞ」

 

「かしこまりました」

 

で、ここにぶどうのジュースとオレンジのジュースがあるわけだが…………ラノベのようにぶどうのジュースがぶどうのお酒だった、ということはなく、匂いを嗅いでみたが普通に市販されているもののようだ。

 

氷をいくつかコップに入れ、ぶどうのジュースを注ぎ入れる。

 

ジュースを冷蔵庫にしまい、菓子入れの棚からポッキーのほかにピザポテチを取り出してお盆に乗せて運ぶ。

 

「お待たせいたしました、ルルーシュ様はこちら、C.C.はこっちだ、ついでにこれも」

 

「おぉ、気がきくなツキト、これもまた好きな菓子でな」

 

どうやらお気に入りの菓子だったようで、嬉しそうにピザポテチを受け取ると早速開いて食べ始めた。

 

「おいC.C.」

 

「ルルーシュ様にはビターチョコポッキーを用意させていただきました」

 

「あぁ、ありがとう………いやツキト、これは会議なんだぞ?飲み物はわかるが菓子というのは……」

 

「そうは仰いますが…………ルルーシュ様はどうも睡眠不足気味のように見えましたので」

 

ゼロの眼はキリッとしたツリ目だが、今日に限ってその凛々しい目元にクマが出来ており、咲世子あたりがメイクで隠したようだが、私にはまだ若干だが青く見える。

 

というか、最近は相手の状態が見ただけで多少なりわかるようになってきたのだ。

 

100数年分の精神をもってしてようやく、器を図る眼を手に入れられたのかと、少し嬉しくなった、なったのだが…………。

 

何故だろうか、時々、眼帯をしていて見えるはずがない右眼の視界が見えることがある。

 

…………今は深く気にしないほうがいいな。

 

「…………お前に隠し事はできんな」

 

「共に過ごさせていただいた時間は、それなりに長いほうでございますので」

 

「お前のその観察眼には、俺自身ずっと助けられていたしな…………そのせいで負けたことも多いがな」

 

「チェスに関してのことでしたら、次の手が想像しやすかったことと、あとは表情と眼、ですね…………それでだいたいは勝てます」

 

「レベルが高すぎるだろそれは…………」

 

「ルルーシュ様にも、王としての………人を使う力がございますよ?」

 

「世辞はやめろ」

 

「いいえ、私はお世辞などでこんなことは申しません…………人は誰しもが身勝手な生き物、基本的に他人に命令されるのが嫌いなものなのです、しかし…………ルルーシュ様には類い稀な『指導者』としての素質がございます」

 

「俺に?……バカな、根拠は?」

 

「ただのテロリストの寄せ集め掻き集めの『烏合共』を、正義のために剣をとる『騎士団』にまで成長させたその手腕こそ、何よりも確かな根拠…………私の魂にかけて保証いたします」

 

原作でもそうだが、ルルーシュの指導者としての才能は高く、人間らしい弱い側面を持ちながらギアスの力に溺れず、どうしようもない状況でのみジョーカー(切り札)として使う程度。

 

信頼を得るため危険と知りながら自ら最前線に指揮官として出たり、同志の命を考えた作戦を立案する一方、『必要な犠牲』と割り切って考えられる精神力がある。

 

ルルーシュの器は、確実に平々凡々なものではなく、人間の集合地帯である国家を指揮できるものであることは、もはや思い起こすまでもなく、確信を持っている。

 

「それに…………私は王の素質無き者に、仕えることはありません」

 

「…………本当か?」

 

「不敬な物言いになりますが…………ルルーシュ様に素質がなかったら、私はそもそもヴィ家に手伝いなど行っていなかったでしょう」

 

王になれぬような半端者に仕えてやるほど、私は優しくはない。

 

「当時の私なりにルルーシュ様について徹底的に調べ、確信を抱きました」

 

調べた、なんていうのは真っ赤な嘘だ。

 

原作を知っているからこそできる心理の分析のようなものだ。

 

最初から知ってることを言っているに過ぎない。

 

「それは……どんな確信なんだ?」

 

「『この方は、将来、王になる』…………それがどのような王であるかは幼き私にはわかりませんでした、しかし、王になると確信した方に仕えられるのならば、私にそれ以上の喜びはない………故に、私は何の憂いもなく仕えていられるのです」

 

「フッ…………お前には謙虚なやつだと言ったが、訂正する…………お前ほど強欲な奴はいないだろうさ」

 

笑いながらそう言ったルルーシュ、クマを作りながらも今日一番の晴れやかな笑顔だった。

 

「ツキト、俺が王となる男なら、お前はどこまでもついてきてくれるか?」

 

「むしろ、ルルーシュ様以外に仕える気など毛頭ございません…………我が忠誠は、ただ1人の王になられる御方のために、それだけのために……」

 

ルルーシュの前に跪き、臣下の礼をとる。

 

「…………これからも、頼むぞツキト」

 

「我が王の勅命、喜んで拝命いたします」

 

今一度、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアという王に、臣下としての役割を担うことを誓う。

 

「これより先、如何なるをも粉砕し、我が王の前に跪かせることを誓います」

 

「やはり…………俺は最高の友人と、最強の騎士を得ていた」

 

「………………そろそろ会議を始めないか?」

 

感極まって涙でも流しかねないルルーシュに、待ちぼうけを食らっていたC.C.がピザポテチを食いながら横からそう言ってきた。

 

「あ、あぁ、すまんなC.C.」

 

「この性別不詳のピンク髪はお前以外を主人とは決して認めないんだ…………お前は嫌う言葉かもしれんがあえて使うが、こいつがお前を裏切ったりすることは『絶対』に無いぞ」

 

「C.C.………たまには気の利いたことも言えるんだな」

 

「俺もピザばかり食ってるのかと思っていたぞ」

 

「誰が情報のコントロールをしてやってると思ってるんだお前ら!」

 

珍しく声を荒げるC.C.、ルルーシュもやや驚いた様子だ。

 

「怒るな怒るな、軽く流せC.C.」

 

立ち上がりながら膝を叩いて汚れを落とし、ルルーシュの隣に座る。

 

ちょうど、ルルーシュをC.C.と私で挟み込むような構図になる、まあ、当然ながら距離は開けてあるがな。

 

「C.C.の情報統制には感謝している、私に関する情報………特に、ナナリー様などの情報を不眠不休24時間体制で監視し、発信源をウィルス攻撃するなんてこと、お前くらいしかできないことだからな」

 

『不死身・不老不死』=『休憩要らずの超超高効率な労働力』であるならば、不眠不休の監視業務も1人でできるため、複数人のグループを作ってローテーションを組ませたりする必要がなくなる。

 

単独での任務は往々にして対応能力が低いことを意味するが、グループ毎のローテーションによる情報の齟齬を防ぐことが重要であるため、対応能力の低さは問題にならない。

 

ウィルスもラクシャータが開発した逸品で、ファイアウォールなぞ紙切れ同然に通過する、政府のガッチガチのセキュリティは厳しいが、個人から感染させればいい。

 

ウィルスは、感染すればインターネット上のあらゆる発言、書き込みから呟きアプリ等のアカウントの削除など、情報流出を防ぐ能力に特化しているものだ。

 

ネットサーフィンをしつつ怪しい者がいたならば、C.C.はそいつに泥団子を投げつけるようにウィルスを流し込むだけの単純な作業だ。

 

怪しい奴をウィルスで(個人情報を)ぶっ飛ばすだけの単純明解な作業…………が、単純すぎる故に、私は複数人でのグループ・ローテーションを良しとしなかった。

 

慣れると杜撰になるのは人の常、

そうなっては情報流出が防げても無関係の国民をウィルスに浸してしまうことになりかねない。

 

ブリタニア人に恨みを持っている者であれば、誰彼構わずウィルスを撒き散らす可能性もあり、どうしても騎士団の人間にはやらせるわけにはいかなかったのだ。

 

故に、監視とウィルスの流し込みを私と同類のC.C.が、特段恨みもないブリタニア人のラクシャータが『研究』目的で作成したウィルスを使う。

 

ラクシャータは自分の作ったウィルスのことなぞ気にも留めていないだろう…………何かしら興味の引かれそうな別の目標を目の前にぶら下げておけば、提灯鮟鱇に釣られた魚の如く脇目も振らずに飛びついていくのだ。

 

この体制ですでに1年以上やっているが、情報が流出したことは未だ一度もなく、ラクシャータがウィルスの使用に勘付いた気配もない。

 

私としてはこんな言葉は使うのが戸惑われるが…………まさに『完璧』な対応だと言うほかない。

 

久しぶりに自分を褒めたくなってきたぞ…………反省することが多過ぎて結局は保留になりそうだがな。

 

「ふん……だったらもうちょっとは崇めろ、ピザ以外にも貢げ」

 

「ふむ、リーマンチーズ君DXサイズでいいか?」

 

「……………部屋に入らんからLサイズでくれ」

 

妙なところで安い女だな本当。

 

まあ高いよりかは安いほうがいい、物によるが、大抵のものは安いに越したことはないだろう。

 

「では…………ルルーシュ様のお考えをお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」

 

「あぁ………………知っての通りだが、騎士団は今、分裂状態にある…………若手幹部と比較的若い隊員や新入隊員を中心とする『過激派』、テロリスト時代から幹部だった者たちや、中層程度の年齢以上の隊員を中心とする『保守派』だ」

 

「坊やからすでに聴いていると思うが、保守派が数でやや優勢、しかし構成員から読み取ると、過激派のほうはKMFパイロットが多く、保守派は整備士たちが多い…………ツキト、お前ならもうわかると思うが、これはもう事実上の『詰 み(チェックメイト)』と変わらんだろう」

 

「…………たしかに、開始時点ですでに持ち札がほとんど無いも同然ときてしまっては………どんな勝負師も降りるだろうさ」

 

保守派の視点に立てば、相手はKMFに乗り慣れた奴らばかり、なのにこっちは整備しばかり…………まともにやりあうことすら出来ないだろう。

 

「やりようはある…………と言いたいところですが、これは相当ロジック無視のマジックを使って、かつ相手が相当にバカでもない限り……………不可能でしょう」

 

「直球だな、ツキト」

 

「ルルーシュ様とナナリー様には、嘘をつきたくありませんから」

 

数の差や質の差を覆して見せるのは軍師としては実に痛快で良いのだろうが、そんな状況になっている時点で私は見捨てて逃げてるだろう。

 

いや、私なら現状でパイロットが多く戦力的に相手を大きく上回り、戦闘になれば勝機が十分にある過激派に出資でもして、紅茶でも飲みながら眺めているだろうさ。

 

ド畜生にもほどがあるかもしれんが、生き残る前提であれば勝てそうな方に金とやる気を与えて、後は傍観に徹するのが吉…………それが定石の一手。

 

しかし、今回はそれらの選択権はなく、最初からハードモードの保守派以外に選べないようになっている。

 

これがゲームなら、このバグをはやく取り除いてくれと開発にメールを送りながら祈ることしかできない。

 

だが現実はアップデートまで待ってはくれない、過激派と保守派の衝突は日に日に増し、過激派の爆発の時刻は刻一刻と迫っている。

 

今こうして会議をしている間にも、爆発の危険がある…………会議だからといって、いくら私に神の資格があったとて、時間が止まってくれるわけではないのだ。

 

「正義のために戦うという騎士団の決意、これまでの戦いで散っていった隊員のためにも…………ここで過激派を取り除くほかない、と思っている」

 

「取り除く、ですか……………して、方法はどのように?」

 

「一応策はあるが…………その前に、ツキトの考えを聞いておきたい」

 

「私の考えを、ですか?」

 

「あぁ、C.C.にも聞いたが、俺と大体同じ………隊員の追放で一致した」

 

なるほど、別視点の考えが欲しい言うわけか。

 

「…………であれば、私からは過激派を利用して使い潰す方針を、あげさせていただきます」

 

「使い潰すか…………相変わらず腹の底が真っ黒だなツキト」

 

「そう言うなC.C.、俺はツキトのその裏表ない腹黒さに助けられているんだ」

 

…………褒められたのに、褒められた気がしない。

 

「それで、使い潰すというのはどうやってやるんだ?」

 

「はい、ルルーシュ様…………ゼロ様が過激派のメンバーに密命を授けるだけ………それだけで良いのです」

 

「それだけ?他にはないのか?」

 

「そうですね…………できるだけ過激派メンバーを小分けにして、時間を分けて指示を出すようにしてください…………でないと、保守派に気づかれてしまいますので」

 

「…………なるほど、読めたぞツキト」

 

「さすがはルルーシュ様」

 

ニヤリと笑うルルーシュ、普段の笑顔ではなく、黒き魔王の嘲笑だ。

 

「何言ってるのかさっぱりなんだが?」

 

「おっと、すまないなC.C.…………では認識の統一のため詳しい手順を教えよう」

 

紙とペンを取り出してふたつの円を描き、片方の円には『過激派』、もう片方の円には『保守派』と描いた。

 

ふたつの円から離れたところに小さく円を描いてそこに『ゼロ』と描き、『過激派』の円と線で繋ぐ。

 

「第1段階、ゼロ様が過激派メンバーにとあるミッションを指示する、これについては保守派メンバーには絶対に漏らさないように注意を払うこと」

 

繋いだ線の近くに『密命指示』と書く。

 

「第2段階、第1段階と被るが、保守派メンバーにも指示を出す、これは過激派メンバーに与えた指示とは正反対のものであり、当然漏洩は厳禁だ」

 

『ゼロ』から『保守派』に線を繋げ、こちらには『密命指示2』と描く。

 

「第3段階、密命を受けた過激派メンバーを…………いや、『まな板の上の鯛(まんまと罠にかかったマヌケ)』を捌くため、猟犬部隊を出動させる」

 

『猟犬部隊』の円を描き、『過激派』と線を繋げて線の中心にバツ印を描く。

 

「最終段階、過激派メンバーを『裏切り者』として断定し、ゼロが親衛隊と保守派メンバーを率いて出撃、ブリタニア側との『共同作戦』と銘打った最低のマッチポンプだ!」

 

「さすがだなツキト、いつも通りすぎて逆に安心したぞこのド外道!」

 

「ふっ、当然!」

 

ノリ良く叫んでくれたC.C.にハンドサインでグッジョブと送り、ルルーシュを見る。

 

「いかがでしょうかルルーシュ様?」

 

「不仲と噂される騎士団とブリタニアの禍根を断ちつつ利用できる策としては上々だ、俺は乗るぞツキト」

 

「はっ、私の名にかけて必ずや成功に導きましょう」

 

「頼むぞ………それでツキト、過激派にはどういう指示を出せばいい?」

 

「…………キョウト六家が管理する採掘場から数キロ離れた地点、サクラダイトの厳重保管地区という場所がありまして、ここには皇族や軍関係者の一部しか立ち入りできない区域なのです」

 

「そんな地区があったのか…………」

 

「えぇ、臣民はおろか皇族ですら、いいえ、日本人でもこの地区は知らないでしょう、そして…………許可無く侵入した者は、誰であれ、射殺できるのです…………誰であれ」

 

「なるほど…………確かに、このことは過激派メンバーも誰1人として知ってる者はいないだろう」

 

「知っている者は、日本エリアの頂点に登らせたアッシュフォード家、地質調査を行ったフェネット家、皇族ならコーネリア様くらいのものでしょう…………そもそも、地図にすら載っていない場所ですから」

 

「見えないのにそこに存在する場所か…………キョウトの関係者に見られることはないか?」

 

「はい、窪地を丸々貯蔵庫にしたような場所でして、監視等が合計で12箇所ございますが…………監視員につきましては、過激派メンバーによって『眠らされた』ことにいたしますので、ご安心を」

 

「その罪も被せるというわけか」

 

「その通りでございます………いかがでしょうかルルーシュ様?ここならば引き込み安く、また脱しにくい、まさにうってつけの場所と考えます」

 

歴史上、どんな強靭な軍団も誘い込まれた時点で敗北が決するほどに窪地という地形は強いのだ。

 

窪地という場所はいわば、『蟻地獄』のようなものだ。

 

知らぬ間に入ってしまっていて、動こうにも動きにくく、また脱出しにくい厄介な地形。

 

さらに雨が降ればぬかるんでさらに動きが鈍る、水は下へ下へと流れるものである、窪地はすぐに沼となる。

 

沼に入ってしまっては如何な近代兵器でも抗えない……………悪路走破性の高い履帯を履いた戦車といえど、その重さゆえにもがくほどハマってしまうのだ。

 

それはKMFでも同じこと、細い2本の足ではすぐに腰付近まで飲み込めれるだろう。

 

戦争において重要な要素は敵の数ではない、恐るべきはその地形なのだ。

 

そこまで考えて、ルルーシュの顔を見る…………暫く険しい表情で思案していたルルーシュだったが、2、3うなづくと『よし』と呟き。

 

「ここに誘い込むというツキトの案を実行する」

 

「はっ!」

 

ご愁傷様、過激派メンバーの諸君。

 

我が王が自ら、貴様らの頭上にギロチンを掲げられたぞ、光栄に思え、そして潔く死ぬが良い。

 

「ツキトは『ゼロが騎士団も隊員に扮したテロリストを排除したい、という相談を受けた』という方向で猟犬部隊の調整を頼む」

 

「お任せください」

 

「C.C.、この情報については一切の流布を禁じるため、似たような情報が流れていたらすぐに消すようにしてくれ、過激派がゼロを疑えば作戦に支障が出る」

 

「なんだ、いつも通りじゃないか、ま、うまくやるよ」

 

「作戦は3週間後…………ちょうど6月の初めに重なる時期になるように調整しろ」

 

「6月…………梅雨に合わせるのですね?」

 

「あぁ、そのほうがやりやすいだろう?」

 

「まこと、その通りでございます、沼地ではどのような軍団も陸に打ち上げられた鯨が如く、鈍く遅くなりますゆえ、仕掛け時としては最適です」

 

「そうだ、調整もお前なら簡単だろう?」

 

「それはもう…………ユーフェミア様の世話に比べれば」

 

「…………妹が世話をかけるな」

 

「いいえ、お気になさらず」

 

そうだ、ユーフェミアのことなどルルーシュが気にかけるべきことではない。

 

前を向き、ただ王道を進むのだ。

 

私はただ、道に落ちた花びらを箒で払うのみ。

 

王の道に、少しの汚れも認められん。

 

私がやるのだ。

 

私が、私が、私が。

 

我が王のために進め、玉座は目と鼻の先だ。

 

あと少し…………あと少しだ、あと少しの辛抱だ。

 

「もう暫く、もう暫くお待ちくださいルルーシュ様………………平和はすぐそこまで来ております」

 

救済は目前だ。




作者は、綺麗な作者、に、なった!

綺麗に真っ黒になったよ!みんな褒めて!(邪悪)

いや〜〜、終わりましたねえ過激派の皆さん!もう終わりですよ!

主要メンバーもクソもなく、ただただ存在ごと消えるだけのモブでしたね!

ルルーシュが指揮をとる時点でもうね…………勝てないよね、うん。

ルルーシュに頭脳で勝てる人物がいねえっていうね…………あ、ツキトくんはちょっと例外っていうか、へんなブーストで強化入ってるからね、仕方ないね。

さて、ツキトくんが徐々にヤバげな感じに?ってか最初から割とやばかったけど…………最初との違いをあげるならば『理性』と引き換えに『狂化』が付与され続けているようなものですね。
『外側』と常に接続状態にあるツキトくんに逃れるすべはありません!(ハチ並感)

次はきっとナナリーとアーニャの無茶振り回(予定)!
次回を待て!


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その『願い』は『不許可』だ!

お久しぶりぶりざえもん


「いや無理だから」

 

「どうして!?」

 

地団駄を踏みながら詰め寄ってくるアーニャ…………いや、お前さ……。

 

「どこの世界に『元兄』の『愛人』になりたいなどという『元妹』がいるというのだ!」

 

『common sense』という言葉を辞書から引いてこい!

 

「ここに!!」

 

「だまらっしゃい!こんのドゥァ阿呆!」

 

キャラも何も吹っ飛ばして激昂する私、意外と冷静な脳みそに少しの呆れを抱きつつ、今日の朝を振り返った。

 

いつものように8時過ぎにはデスクに座り、30〜40分の間に来るクレアに紅茶を用意し、9時から仕事を始めるためにデスク周りを雑巾で拭いていた時だ。

 

小さいながらも強い意志を感じるノック音とともにアーニャが来室、追加の紅茶を淹れて普段は仮眠くらいにしか使っていない高級感あるソファにアーニャを座らせる。

 

無駄に値が張りそうなテーブルを挟んで向かい側のソファに相対するように私は座る。

 

私が淹れた紅茶をクレアが給湯室から持ってきてテーブルに置き、会釈してそそくさと自分のデスクに…………おい待て、ちょっとくらいは座る仕草しろよ、なに帰ってんだクレアコノヤロウ!

 

…………まあ、いい。

 

いやよくはない、よくはないが、もういい、諦めた。

 

紅茶を飲みながらアーニャの要件を聴いていく、それは調査団のリーダーとしての事務的な質問ばかりであり、手帳を見ながら話すアーニャはとても気だるそうに見えた。

 

私も、もちろん気だるい気分だった、質問をしに来たのがアーニャでなくヴァインベルグだったなら、ソファに座らせず紅茶も出さず入り口でつっ立たせておき、私は椅子で踏ん反り返って紅茶を啜りながら面倒な質問に適当に応えていただろう。

 

そもそも名ばかりでポーズだけの調査団のために割く時間などないのだ。

 

本気で疑われているのなら話はそれこそ360°…………180°変わるが、元妹のアーニャとそれなりに顔は知っているヴァインベルグが調査団のリーダーという時点で、もうね…………まあこの話は前にもしたが、要するに、うるさい臣下に囲まれる皇帝陛下も大変、ということだ。

 

事務的な質問を終えたアーニャは手帳をしまい、紅茶をチビチビと飲みながらモジモジとし始めた。

 

かわいい………………ではなく……いや、かわいいことは間違いようがないこの世の真理である、『ではなく』、というのはあくまで仕切り直しの意味を持つということで、アーニャがかわいいという事実を否定したわけではない。

 

そこは勘違いしないでくれたまえ諸君、『アーニャはかわいい』、これは覆しようのない心理であり真理なのだ、いいね?

 

それで、えぇっと……………あぁ、そこで私はクレアに広報部に書類を届けるように言ったんだ。

 

クレアが書類を持って部屋を出ると、それまで話しづらそうだったアーニャが、少しずつ話し出した。

 

まず、先日のお願いは有効かどうかについて。

 

ここで『なにそれ?(笑)』と言って断ってもよかったが、私は妹のガチ泣きを見たいわけではない…………おい待て白い神なんだその目は、私がそんな鬼畜外道に…………見えるよな、そうだよな………で、まあ、一応、有効期限内だと伝えた。

 

すると嬉しそうなオーラ全開で『お願い』を口にした。

 

「お兄ちゃんの……愛人にしてください」

 

どこで習ったのか、綺麗な土下座付きで。

 

もう死んでもいいかな?

 

ダメ?あ、そう………。

 

どうしてこうなった……?

 

『第3者による干渉行為等の疑いの余地なし、100%に限りなく近い値であなたの責任です』

 

黙れ!黙れ黙れぃ!!

 

久しぶりの出番だからといってシャシャリ出てくるな!

 

『知っていますか?作者的には私も攻略対象のようですよ?』

 

そんなこと当たり前だろうが、むしろお前が私にとっての攻略対象(ぶっ殺す相手)じゃなかったらおかしいだろ。

 

『…………』

 

まあ、そんなことはいい、よくないけどいい。

 

今は目の前のアーニャの対処だ。

 

やはりここは、王道の難聴系ラノベ主人公(え?なんだって?ちょっと聞こえなかった)、でいくよりほかないだろう!

 

いz

 

「愛人にしてくd「いや無理だから」

 

「どうして!?」

 

そして、冒頭に至る。

 

いや無理だろう、普通に考えて、常識的に考えて、倫理的に考えて。

 

あらゆる方面から考え、そのすべてからNOと返ってくるのを感じる。

 

絶対神とタイマン張るより厳しいとかシャレにならんぞ…………まだタイマンのほうが救いがある(ただし魂的な意味で)ように思えて謎の有情感を感じている自分に気味の悪さを感じた。

 

込み上げてくる吐き気のようなものを抑えながら、強烈な倦怠感を感じて思考を放棄し始めた脳という電動機のスイッチを蹴り上げるように入れる。

 

思考を始める脳の中であらゆる考えが回転し始めた、濃い紫色の液体をぶちまけながら加速度運動を続ける様は、ミキサーの中に放り込まれた葡萄を連想させるが如くグロテスクな絵だろう。

 

脳みそがフルーツとは、まったく笑えん冗談だ、スイーツよりかはマシだがな。

 

パソコンの冷却ファンのように思考を回して考える、高速回転で空も飛べそうだ。

 

暴走熱で吹っ飛びそうな脳みそでアーニャとの愛人関係を持った場合をシミュレートする。

 

……………………案外悪くなくて死にたくなった、このまま脳みそが空中分解したら私は幸せに死ねるはずだ。

 

「せめて…………肉体関係だけでも」

 

それを許さないようにアーニャが口を挟んできた、正直疲れたから休みたい、人生を。

 

だがルルーシュからの王命がある今、勝手に死んでは不忠も良いところ、生き恥晒しても生きねばならぬ。

 

「論外だバカモノ…………陛下によって我々は赤の他人となってはいるが、世間は私とお前を未だに兄妹として見ているのだぞ?血だって繋がっているのだ、それで愛人関係など……………」

 

「じゃあ、体だけでも」

 

「それがいかんと言っているのだろうが!」

 

「ゴムつければいいでしょ!?」

 

「Aの時点でアウトだというのだぞ!Cなど斬首モノだ!」

 

「キスしてくれた!テレビの前でも!」

 

「ケースバイケースだ愚か者!平時であれば、あのような真似するものか!そもそもだ、あれは新年を迎える瞬間を陛下とともに過ごすことで、忠誠を示す儀式のようなものなのだぞ?そんな大事な日に、無礼講とはいえあのような…………」

 

「分からず屋………」

 

「言葉を遮るな!……ちっ、こんなところで暇があるなら、さっさと茶を飲んで出て行け」

 

「………………じゃあ、変更する」

 

「まともかつ実現可能なものを頼むぞ…………本当に」

 

「…………」

 

返事を待つ、が、返ってこない、顔を上げて見れば、アーニャが手を合わせて次のお願いを考えている様子が見えた。

 

時間がかかるだろうと思い、アーニャと自分のカップに新しく紅茶を注ぎ、目を閉じて考え込むアーニャの顔を暫し見つめ、デスクにもどる。

 

デスクの時計の針は09:16を指し示し、本来始めるべき仕事が16分も開始が遅れていることを告げていた。

 

そして、クレアが30分以上返ってこないことも、暗に告げていた。

 

行き場のない感情の放流をコンクリートの壁で囲ってダムとしてせき止める。

 

アーニャが再起動するまで、今日の仕事を減らしつつ待つことにした。

 

………はぁ、なぜだ、なぜなんだ。

 

アーニャなら、それこそ引く手数多だろうに…………よりによってこんなクソみたいな性悪チビ男なんか…………。

 

冷たく当たってたほうがよかったかも………………無闇矢鱈に優しさを振りまいて自業自得に陥っている今となっては、タラレバの話に過ぎないが。

 

いっそ開き直って…………ナナリーに嫌われること必至だな、だがこれくらいしか方法がない……。

 

100歩譲って重婚でもまあ良いとしよう、条件としてアーニャと一切の肉体関係を迫ることを禁止してくれるのであれば、一考の余地ありだ。

 

…………何でこのことをあの時に聞かなかったんだ私は!?阿呆か!?考えなしと変わらんじゃないか!!

 

もしあの時の寒そうな服装と危ない行動、そして冷える夜中という状況が、ナナリーとアーニャが私の心をかき乱すための作戦だとしたら、私にはもうどうすることもできぬ。

 

気づけなかった私が悪いのだ、2人を責めてよいというものではない。

 

むしろ出し抜いたことを褒めるべきで…………いや、2人にはいつも出し抜かれてるし、やり方も特別褒められたことじゃないな。

 

私にできることは…………今からでも嫌われるように努力することだが………具体的に何をすれば良いのか検討もつかん。

 

…………これからはもっとキツくあたるべきだろう、今まではキツくといってもどこかで優し過ぎた、容赦しない方が良いだろう。

 

身内に甘いようではこれから先、枢機卿となった後が大変だからな。

 

「お兄ちゃん、決めたよ」

 

「そのままでいいから言ってみろ」

 

意外と早かったな…………悩んで時間食ってくれた方が楽だったのに。

 

「心身のケアをするパートナーになって」

 

「…………どう言う意味だ?」

 

私の理解力が足りないせいか、ちょっと意味が掴めなかった。

 

「文字通り、言った通り、お兄ちゃんに頭を撫でてもらったり、ハグしてもらったりするの……そして私もお兄ちゃんの頭を撫でたりハグしたりする、どう?」

 

「…………極めて健全な肉体接触のみであるならば一考の余地ありと認めよう」

 

罠は無さそうに見えるが…………飛び込むには私の警戒心が強くて無理だ。

 

「健全に決まってるのに………何ならお試しする?」

 

「…………具体的には?」

 

「例えば、何か大事な試合の前、落ち着けない私の頭を撫でたり、ハグしたりして落ち着かせるの」

 

「そういうことか」

 

「で、お兄ちゃんがそうなった時は、私が撫でたり抱いたりする」

 

「言葉のニュアンスに恐怖を感じたが…………まあ、それくらいなら……」

 

「…………っし」

 

小さく呟いてガッツポーズするのはやめろォ!

 

やっぱりこれも罠か?本命より厳しいものを先に提示して、本命を後出しするアレか!?

 

恐ろしいな私の妹!

 

「終わりだな?なら、さっさと部屋から出て調査団らしく『調査』でもするのだな」

 

「お試ししないの?」

 

「する必要がない、終わったらさっさと帰れ」

 

「ん、近くでじっくり観察するから大丈夫」

 

「視界に入るだけで邪魔だ」

 

「じゃあ後ろに回ってる」

 

「チッ…………後ろに回られると虫唾が走るからそこにいろ」

 

いい加減帰れよ…………あとクレアは帰ってこいよ、仕事溜まってんだぞ。

 

まあ…………いや良くない、何納得しかけているのだ私は。

 

しかし、こうなればアーニャはテコでも動かない。

 

アーニャ自身の仕事はあらかた終わってるようだし、私の仕事も少ない、なら、ロイドの様子でも見に行くか。

 

脚の骨はもうそろそろ繋がったろう、セシルの補助が必要なものの、もう特派の研究室に通えるくらいだからな。

 

アーニャは…………無視してさっさと行くか。

 

椅子から立ち上がるとアーニャも同時に立ち上がった。

 

部屋から出ると後ろからひょっこり着いてきた。

 

「………………」

 

待て、ツキト・カーライル。

 

激しては意味が無い、冷静になれ。

 

ただ、元妹が無言で後ろにぴったり張り付いてついてきてるだけのこと。

 

ここはただ黙って歩くのみ…………なんて、そんな胸中、アーニャは知らんだろうが。

 

すれ違う職員や兵士に妙な眼で見られながらロイドのいる特派へ歩く。

 

ラボに入ると、そこにはいつもの光景があった。

 

モニターにしがみつくようにしてキーボードを叩き続けるロイド、レポートをまとめるセシル、そして大量の機械。

 

懐かしい頃の特派そのままだった。

 

「だいぶ調子が良いようではないか、ロイド」

 

「あれ?ツキトくんじゃないか、どうしたのさ、こんな朝早くから」

 

電動車椅子を動かして体ごとこちらに向けるロイド、固定具もないと言うことは脚はだいぶ治ってきているようだな。

 

「もうとっくに10時前だぞ…………お前がラボに戻ったと聞いてな、しばらく寂しかったんで顔を見にきた」

 

「すっごく稀にだけど、意外と可愛いこと言うよねツキトくん…………とりあえずありがとう」

 

「どういたしまして、ところで不躾にすぎる質問だが…………進歩状況は?」

 

「さっぱり!暴走事故の一件でラボに調査が入るって聞いてさ、セシル君に燃やしてもらったんだ」

 

「そこは私の落ち度だから気にするな、また一からになるが………やってくれるか?」

 

「もちろん!やっと、人類の役に立てるかもしれない研究を始められたんだ、僕は逃げないよ」

 

「私も凡人ながら手伝っていきますよ」

 

「…………すまない、愚問だったな」

 

まったく、こいつら2人の決意は眩しいにもほどがある。

 

その光度は太陽すら目を細めるだろうな。

 

「いえいえ、私もちょっと嬉しかったものですから………あ、ツキトさんにはココアを、アールストレイム様にはコーヒーをお持ちしました」

 

あ、そう言えばアーニャがいたんだったな、背中に引っ付いたままだったか。

 

「あぁ、ありがとうセシル……いい加減に離れろアールストレイム」

 

ココアとコーヒーを受け取り、後ろに引っ付いたままのアーニャに離れるように言う。

 

「……………………もうちょっと」

 

「匂いなど嗅ぐでない!犬か貴様!」

 

もしくは猫か!?

 

「貴様それでも貴族か?ラウンズか?」

 

「お兄ちゃんの愛人」

 

「………私にも堪忍袋の尾は存在するのだぞ?」

 

「ひぅ…………ごめんなさい」

 

睨み付けるとやっと離れた…………はあ、疲れるぞこいつ本当。

 

「わかればよい、そら、貴様のコーヒーだ、例のひとつでも言うことだ」

 

「うん……ありがとう」

 

「いえ、お口に合えば良いのですが」

 

にこやかに話すセシル…………そういえば、今日のココアからは何も変な匂いがしない気がする。

 

とりま、一口。

 

「…………ほぉ」

 

普通、普通のココアだ。

 

色、香り、味、すべてが物語っている。

 

これは普通のノンシュガーココアだ。

 

セシルが普通の飲み物を持ってきたことに驚きつつ、もう一口。

 

「うむ、うまい」

 

普通とは、実に良いものだな。

 

まあ、チリパウダーココアもなかなかにいけたがな。

 

「ふぅむ…………して、どんな状況だ?」

 

「結構遅れちゃったし、この前と同じくらいの時間が必要だと思うよ」

 

「ドナーは?」

 

「健康そのもの、仮にも僕が信用してる機関だ、ま、完成が遅れるって言ったら膨れちゃってたけど」

 

「被験体は?」

 

「バイタルチェックはしておいた、セシル君がまとめて保管してある」

 

「当たりはいたか?」

 

「………………いない、1人もいなかった……誰1人として適性のある被験体はいなかった、もしくは、何らかの理由ですでに処分されていた」

 

「うむ、私好みの回答だ、100%、満点をつけてやろうロイド」

 

「満点ねえ…………言っとくけどここからだからね、君があいつに突きつけて交渉するのはいいけど、あんま派手にやられるとドナーを連れてかれちゃうんだよ」

 

「心配するな、結果的に言って、最後に残るのはドナーか、それとも私の首か…………その程度のことはいくらでも体験してきた、ただ渡すだけだ、『お望みの資料ですどうぞご覧ください』ってな」

 

「それだけで済めばいいんだけどねぇ…………あいつは結構な腹黒で、その部下も一目見た時から全く読めない奴だったし、罠のひとつはあると思った方がいいんじゃない?」

 

「罠か…………なるほど、他ならぬお前の忠告だ、肝に銘じよう」

 

「いやに殊勝じゃないかツキトくん、心変わりでもしたの?」

 

「たわけ、柄にも無くビビってるだけだ、膝も笑ってるさ」

 

「あの人を前にしてビビる程度で済む、って言えるのは君くらいじゃないかなぁ?…………まあ何も感じないよりはいいけどね」

 

「もっと怖い人を知っているからな…………」

 

ナナリー、アーニャ、コーネリア、ユーフェミア、ゴッドバルト、マリアンヌ、シャルル、後宮のコック長とその娘さん…………改めて羅列すると意外と多かったな。

 

別の意味で怖い、というとオデュッセウス辺りだろうか?あの善良さと穏やかな性格は実に得難い、私が思うに、ルルーシュが皇帝となる道程で、もっとも大きな障壁となり得た可能性があったからだ。

 

何せオデュッセウスは産まれる時代と国を致命的なまでに間違えただけで、【民が考え得る上で最上の統治者】として理想的な人格者なのだから。

 

善良で、慈悲深く、穏やかで、争い事を嫌い、妬み恨みからも遠く、犠牲を許さない。

 

御伽噺に出てくる王国の王様か王子様がそっくりそのまま出て来たような人物、それがオデュッセウスだろう。

 

彼のような人格者が、ユーロピアにいたなら、きっと戦争などせず、対等な統一された一国家として統合することを選んだはずだ。

 

無能無能と、私自身も言ったような気がするが、個人的には好きな人物だ。

 

凄惨な後継者争いが絶えないブリタニア皇族の中にあってそれらと無縁、『清涼剤』『ブリタニア最後の良心』と兵士の間で囁かれるのも頷ける。

 

そう言う意味では…………。

 

「……おそらく一番怖いのは、オデュッセウス殿下は」

 

「オデュッセウス殿下が?それまたどうして?」

 

「『何も無い』から怖いのだ」

 

「どうしてさ?僕がこう言うのもなんだけど、第2位ほど頭は良くないし冷酷でも無いんだよ?むしろ人が良すぎると言うか」

 

「ロイドの言うとおり、殿下にはそれらの『強み』は一切ない、だが逆に、『弱み』がない、要するに『弱点』や『隙』がない…………これほど恐ろしい相手はそうそういないぞ」

 

いくら密偵に調べさせても、上がってくる情報は否応にも『聖人らしさ』漂うものばかり。

 

朽ちかけた教会や修道院の修繕に大金を払い公共の事業として労働者へ仕事と賃金を与えたり。

 

裏稼業の人間や犯罪者をただ罰するのではなくボランティアなどに従事させ更生させたり。

 

国民の負担軽減のための福祉を充実させようといくつか案を提出したり(なおシュナイゼルに却下される)。

 

正直言ってやりにくい。

 

「攻めにくいし守りにくいってこと?」

 

「あぁ、害を成そうとしても、成そうとする側の良心を串刺しにしてくる、かと思えば向こうは善意100%で近寄ってくる…………恐ろしいにも程があるぞ」

 

シュナイゼルを殺し、ルルーシュが皇帝となった後、もっとも扱いに困りそうなのが策謀に疎いオデュッセウスというのが、何ともまあ皮肉のようであまり嬉しくない。

 

「シュナイゼル殿下が人を操ることに長けているなら、オデュッセウス殿下は人に好かれることに長けている…………シンパの数で言えばオデュッセウス殿下は圧倒的だ、特に、今の国内情勢においてはな」

 

「『反戦ムード』ってやつ?」

 

「あぁ、民草を思えば、当然の雰囲気ではあるがな…………」

 

ユーロピアとの戦争が終わり、もう2ヶ月以上が経った。

 

双方に残した傷跡はあまりに多く、そして深いことを、世界は知った。

 

ユーロブリタニアは、その体制を維持できる権力━━━━その源泉たる騎士団を全て失った。

 

そう、すべてだ、騎士団に所属していた騎士(貴族)たちは、最終決戦の地、あの城塞に穴を穿つためだけに捨て駒として使われ壊滅した。

 

生き残りがいたとしても、直後の大砲撃から逃げられたとは考えにくい、従って実質的に騎士団は消滅した。

 

騎士団という求心力を失ったユーロブリタニアは、それまでの己の贅を極めた行動のツケを払わされるように、ユーロピア、ユーロブリタニア双方の民によって食い千切られた。

 

ある者たちは、身体中をあらゆる動物によって齧られ、喰われる様を、動物園のショーケースのような場所に監禁され、それを観客が、『四肢のうちどこの部位から先に喰われるか、それとも腐り落ちるか?』という賭けを行い、用が済めば生きたまま骨も残らず燃やされた。

 

またある者たちは、両腕両脚を切断されダルマになり、両目をくり抜かれて下を切り捨てられた上で、生きた性欲処理機として馬小屋に設置され、この世に生きる人間とはまかり間違っても思えない呻き声をリズミカルに奏でているとか。

 

そしてある者たちは、好き者たちによって腹を切り開かれ、引きずり出された臓物をオナホールとして使用され、死んだ後は冷たくなった口内や肛門、女は女性器にブツや樹脂製の棒をねじ込み死姦を楽しんだ、最後は洗浄して部位ごとに切り分けてバーベキューをしたのだとか。

 

苦の先に終わることができた者たちは幸運だった、今も馬小屋にいるかもしれない奴は、まあ、頑張ってくれたまえ。

 

戦時下にあって貴重な物資を湯水のように使いパーティーを開きまくり、未来ある若者たちに『死ね』と命じて引きこもり続けたツケだ。

 

潔く全額カラダで払って逝け。

 

しかし…………本当の地獄はそこからだった。

 

若者はほとんどが英雄として名を刻んだ、その代償に、復興に手を出せる現地の人員のほとんどが40以上の男性と、10代〜30代の女性しかいなかった。

 

経済が立ち行かなくなってしまうほどに多くの若者が英雄となってしまったのだ。

 

復興支援のボランティアに人員を募っていなかったら、今頃無政府状態のユーロピアが地図上から消しとばされていたことだろう。

 

人口はこれから長い時間をかけて少しずつ修正していくより他ないのがもどかしい。

 

先の話をぶり返すが、実を言うとオデュッセウスも少なからず復興に出資している。

 

私ほどではないが、それでも数10人が死ぬまで遊んで暮らせる金だ、バカにはできない。

 

話を戻そう、とかくユーロピアは厳しい状況にあるわけだが、ブリタニアもそうも言っていられない。

 

先の戦争による反戦ムード、そこについ最近に起きた中華連邦の戦闘機による体当たり事案が、大きな亀裂となっている。

 

反戦ムードを推している反戦派としては、体当たり事案を事故と見せて、戦争を起こしたい主戦派の頭を押さえつけている状況だ。

 

本国では皇帝陛下が何も言わないのをいいことに『皇帝陛下は悩んでいるんだ!僕たちがなんとかしないと!(意訳)』と躍起になって反戦デモやら主戦デモやらをやらかす始末。

 

陛下も大変だろう、デモ騒ぎはクッソうるさいし臣下たちはあーだこーだと行き場の無い会議()を続けているしで…………いやホント七面倒臭そう(ラウンズ並感)。

 

その波がどうやらユーロピアにまで来ているようで、厄介なことにあっちは反戦派優勢ムードらしい。

 

せっかく戦争ができると思っていたのに!クソが!!

 

「僕としてもあんまり人が死ぬのは嫌だね、君は職業柄仕方ないかもしれないけど、きっと君のことをスザク君から聞いてなかったら、友達になんてなってなかったろうね」

 

「私も、お前の作るものはどれもこれも有用だと知っていたし、何よりスザクの上司と聞いて顔くらいは見ておこう程度にしか思っていなかったさ…………ランスロットを見るまではな」

 

「そんな早い段階でよく知らない僕を高く評価できたね?もっと慎重だと思ってたんだけど?」

 

驚いたような顔を向けて私にそう言うロイド、しかしその手は休めない。

 

「スザクを血筋や人種ではなく能力で評価し、惜しげも無く最新鋭機のテストパイロットに任命する思考、その時点で私にとってのお前の評価はかなり変わった」

 

「それは、良い方にかな?」

 

「無論だ、『顔見せして帰ろう』から『小一時間話してみたいと思う』に変わった」

 

「…………君らしくないね、ランスロットはたしかに高性能で、スザク君は最高のパイロットだと判断してそうするように手を回しただけの僕なんかと、話をしたいなんて言うとはね」

 

「おいおい、ロイド、お前はスザク(親友)の能力を誰よりも早くに見抜いた男だぞ?その時点で興味津々でたまらなかったぞ?」

 

正直ちょっとあの模擬戦は滾った、いやー、ランスロットも素早くて強かったが、スザクの勘が良すぎて、あそこまで戦いづらいとは…………それがメチャクチャ楽しかったのだがね。

 

「…………君はもうちょっと自覚したほうがいいね、率直に言葉を話すことの危険性をさ」

 

「ほう?なんだ?私に惚れたかな?」

 

「正直、君の人間性のようなものには惹かれるところがあるね…………君がアカデミーの同級生だったら、もっと早くからいろんな研究ができて、意見を言い合ったりできたんだろうなって、思うことはあるかな」

 

「ロイドと同級生か、なるほど、それも面白いifだな、私もちょっと確かめてみたいことがあるな、交友関係とか」

 

「ボッチだったけど何かある!?」

 

思わず手も止めて怒るロイド、何気に怒った表情はレアだ。

 

処刑部隊構想を持ち込んだ時くらいだからな、キレたのは。

 

「ハハハハハ!そうかそうか!いやそう怒るな」

 

「全く君は、デリカシー無いよね本当……」

 

「いや、だが少し嬉しくもあるな」

 

「何がさ?」

 

「もしかしたら、ロイドの友人第一号になれたかもしれないからな」

 

「…………………………僕のこと口説いてない?」

 

「さあ?口説いているかもしれないし、からかってるのかもしれないぞ?」

 

「その口調は絶対からかってるね!僕の昼食をかけてもいい!」

 

「それ私が勝っても結局負けじゃないか…………まあ、からかい半分、口説き半分だがね」

 

「君ってやつは………本当に………はぁ…………噂以上の『魔性』っぷりだよ」

 

「『魔性』だと?」

 

「テレビとか見ないの?ネットは?」

 

「暇があれば」

 

「見てないってことだね…………今の君のネットでの評価、結構ヤバめだよ」

 

「なに?」

 

どういうことだ?情報操作はC.C.がしっかりと見ているはずだ、何かあればすぐに報告があるはずだ。

 

「ツキト君の信者を名乗る若者が、ツキト君が如何に凄いのかっていう演説を「あぁもういいわかった聞きたくない」

 

「ついでに4時間ぶっ続けでやってたよ」

 

「止めろよ警察!」

 

「来てた警察も聴いてたそうだよ」

 

「たぶん職務放棄だと思うんだがねぇ!?」

 

「さほど車の通りもないシティの路地裏近くだったから通行妨害とかの法には抵触してないし、今のところ訴えもないらしいね」

 

「まるで私が根回ししたかのような私の巧妙なダイマじゃないか!面倒なことをしてくれる!これでは計画が……」

 

「計画って?」

 

「え?……あっ…………」

 

まずった、そう言えばアーニャが居たんだった。

 

「計画ってなに?いたずら?」

 

「いや、そういうわけではない、ただ少し…………人には言えんことだ」

 

ど、どう誤魔化せばいい!?そこらの凡人なら容易いが、アーニャはさすがに厳しい……!

 

「誤魔化す?……犯罪の計画なの?」

 

「そ、そういうわけではない、ただ、私もラウンズとして、日本エリア防衛の要たる猟犬部隊のトップとして、今後の世論や状況を鑑みた行動を取らねばならんと考えていただけだ」

 

「…………嘘じゃないんだ」

 

「当たり前だ、だいたい、貴様に何がわかるというのだアールストレイム、他人の分際で心を覗き見るような真似は決して許されんのだぞ」

 

「元とは言え兄妹、世間がどうであれ、私にとってはお兄ちゃんはお兄ちゃん、理想の人」

 

「みみっちぃ理想もあったものだ、こんな性悪なんぞに近づいて脳細胞が半死でもしたか?お花畑もいいとこだ」

 

「お兄ちゃんのそばに居られるなら、私はどんなに馬鹿になってもいい、お兄ちゃんさえいてくれたら、それだけで十分すぎるほど幸せ」

 

「っ………………お、愚か者…………そんなだから彼氏の1人もできんのだ……」

 

「…………ツキト君さぁ…………そういうとこだと思うなぁ、僕」

 

「な、なにがだ?なんだというのだロイド?」

 

「探してみなよ〜、僕は仕事に戻るから、兄妹仲良くねぇ」

 

くっ、なんだというのだ……ロイドめ、あんなにニヤニヤとしよって……。

 

「いったい、何が悪いというのだ?」

 

結局、何が悪いのかはわからなかった。




神格補正で勝手にモテちゃうツキト君ですが、幼少から……神格が無かった頃から親しかった人からは純粋に好意を寄せられています。
ナナリーやアーニャ、ルルーシュにスザクはもちろん、コーネリア姉妹に咲世子、ナナリーの親友のマリーも含まれます。
ツキト君が信者にとって神に等しい、もしくはそれよりも上位と思考して付き従うのも、神格の影響とそれを活用した洗脳術によるものなので、それがないときに接触していた彼ら彼女らは一切影響を受けていません。

なお、あくまで神格の影響を受けないだけで、外側からの干渉や影響は防ぐ手立てがない限り受ける。


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あな恐ろしや我が『婚約者』

お久しぶりブリタニアァァァァァアアアアア!!!!!

ピックアップで青王出たぞゴラァ!!!

使い道?パーフェクト黒王がいるので、ないです。
直感に回数の回避か無敵付けて、どうぞ。

もはや半ばコレクションゲーですねコレワァ……。


「あぁぁあぁぁあああ……あぁぁあああぁあぁぁああ…………」

 

頭を抱えて蹲るのは私。

 

「ほら、借金の返済みたいなもんだろう」

 

軽ーく言ってのけたのはC.C.。

 

「今さら悩んでも仕方がないかと」

 

そう言って紅茶を淹れるのは咲世子。

 

「えっと…………やっぱりさ、こういうのはしっかりやるべきかなって」

 

私の肩に手を置いたスザクが言う。

 

「その…………俺からも、頼む」

 

対面に座ったルルーシュが優しい声音で言う。

 

クラブハウスは沈んでいた、私のせいで。

 

………………そうだ、時を戻そう。

 

Cの世界を経由して外側と接続、時間軸に針を付け足し逆行を開s

 

「おいツキト、お前今何しようとした?」

 

「すまん、少し……だいぶ……かなり……200%くらい混乱しているようだ」

 

「お前が参ってどうする、素直に喜ぶべきだろう」

 

「だが……しかしだな……」

 

アーニャとナナリーの親善試合から2週間経った日のことだ。

 

中華連邦に抗議文を送ったり、アーニャからの濃いスキンシップを受け流しつつ焦土作戦を練っていた。

 

その日はアーニャからのスキンシップがほとんどなく、『槍でも降るのでは?』と戦々恐々としていたが、無事にクラブハウスに戻ることができて調子を狂わされた気分になった。

 

安心したのも束の間、夕飯を終えてナナリーに呼び出され告げられた。

 

『私のお願いは…………まだ有効ですか?』

 

正直、嫌な予感しかしなかった。

 

「そう思ってたら、案の定ですよルルーシュ様…………試合を申し込まれました」

 

「ナナリーだけならまだしも、アーニャ・アールストレイム卿も、か……」

 

つまり【ナナリー&アーニャ〜VS〜ツキト】である。

 

…………処刑かな?

 

「なんの罰ゲームでしょうかねコレ?前世の私は閻魔にファックサインでも突きつけたんですかねえ…………」

 

「お前ならやってそうだよな」

 

「イイ笑顔でやりそうではありますね」

 

「いっそ殴りかかってそうだね」

 

「C.C.!咲世子!スァァアザク!!お前たちは私の味方ではなかったのか!?」

 

「お、落ち着けツキト……」

 

「はっ……も、申し訳ございませんルルーシュ様……私としたことが」

 

あってないような私のメンタルが粘土のようにこねくり回されているような気分だ………不愉快極まる。

 

「くっ……私が……私が…………私がナナリー様とアーニャに勝てるわけないじゃない!!」

 

「い、いや、ツキトは素早さがあるだろ?それならいけるんじゃないか?」

 

「完全に見切られております……」

 

「手数で押すのはどうだ?」

 

「2対1で手数で押すのは…………」

 

「パワーでゴリ押しだよツキト!」

 

「怪我したらどうするんだ!?」

 

「いやそこか!?」

 

「当たり前ですルルーシュ様!ナナリー様もアーニャもまだまだ15歳の高校一年生ですよ!顔に傷なんてつけてしまったら………」

 

…………首括らなきゃ(使命感)。

 

「死ななきゃ(使命感)」

 

「かつてないほど慌ててるねツキト、君らしくないね」

 

「メンタル木綿豆腐だぞ?舐めないでくれよスザク」

 

「自慢げに言うとこじゃないだろう……」

 

呆れ混じりのルルーシュのツッコミを受けつつ頭を使っていく。

 

が、使った瞬間にお手上げを確信、残る手立ては…………。

 

「……咲世子」

 

「ツキトさん、私は常にナナリー様の味方ですので、悪しからず」

 

「………スザク」

 

「説得してみるのはどう?」

 

「もう何度も試したさ、しかし返ってくるのは『NO』だけだった…………一度決めたらナナリー様は脇目も振らずに一直線ゆえ、きっとこれから毎日何度説得しようとも考えを変えようとはしないだろう」

 

そこに惹かれたのだがね?と付け足す。

 

ナナリーの一途さは私の影響なのだろうか?だとしたら、ちょっと嬉しいと言うか、何というか、すごく心が温かくなるというか……。

 

「ツキトの言う通り、ナナリーは思慮深い、しかしどこか猪のように突っ走ってしまうところがある…………主にツキトに対してのものだが」

 

「誠に申し訳ございません……」

 

「謝るなツキト、お前のおかげで、今の俺とナナリーはあるんだ、特にナナリーはお前に大きく救われている」

 

「依存のようにも見えるけどね、ただまあ、それくらい一途なのがナナリーらしいと僕は思う」

 

「そうだな、ナナリー様ほど伴侶にしたいと思える女性はおらん…………が、ナナリー様ほど王にしたくない御方はいない」

 

「ツキトさん、それはさすがに不敬では……」

 

「待て咲世子、ツキトの言うことは、正しい……残念ながら、いや、喜ばしいことに、か?」

 

「残念ではありますが、同時に、喜ばしくもあります…………ナナリー様はあまりに闇を感じることがないのです」

 

言ってはなんだがナナリーは信じ込みやすい性質だ、敵と味方を早期に決定してしまうところがあり、その性質が時に最悪の事態を招きかねないのだ。

 

加えてルルーシュのように政治などに対する意識や興味が薄い………国のトップとしてはあってはならないことだ。

 

「誤解を恐れず言うならば、人望が…………」

 

「そこはまあ………分け隔てないと言う点では好かれるのだが…………」

 

人望もまた違う、ナナリーは多くの友人を作り、ライバルと競い合うが、国家の運営においてはそれだけでは足りないのだ。

 

ルルーシュは中学生の頃より大小構わず貴族の長男長女との友好を築き上げて来た、端的に言ってコネだが、これは将棋で言う【持ち駒】を増やす行為に等しい。

 

どんな時にどんな手段をとろう、と考えた時に頼れる人物はどれほどいるのか?そう考えた時、ルルーシュとナナリーのどちらがより多くの人物がいるのか、考えるまでもないだろう。

 

ナナリーの友人を貴族の長男長女より下に見ているわけでもないし、ナナリーのライバルを侮辱しているわけでもない。

 

【王としての人望】、どちらがより上か、そう考えた時にルルーシュが上なのだと言うだけの話だ。

 

かつて、我らが祖たるブリテンの栄誉を地に貶めた憎っくき愚王、ジョン失地王は最低最悪の人望無さであったからな。

 

王にとって、皇帝にとって、国家の頂点に君臨する者にとって、人望がいかに大事か…………それをよく理解させてくれる良い教材だ。

 

それ以外には馬の糞以下の存在だがな、まったく、イングランドの王、ウィリアム1世を見習ってほしいものだ。

 

まあ、彼の王も国をほっぽって戦争と冒険に明け暮れていたし、王としてみたら………ちょっと、その………仕えてみたくはあるが、民草を考えるとどうしても反りが合う気がしないのがな…………。

 

そういう意味では、不完全な王こそ、真に民に好かれる王なのだろう。

 

「いかに政治の手腕が天才的であろうと、頭のキレる策士であろうと、人間である以上は人間の考えを超える行動はとれませんから」

 

「なんでも出来る聖人君子なんてありえないからな……」

 

「いたら私が斬り捨てておりますが」

 

「物騒だなお前は……」

 

「そこはほら、せめて神社に閉じ込めるとかにするといいんじゃない?」

 

ヒェッ…………スザクお前怖すぎ。

 

「スザク…………お前、変わったな」

 

「え?ちょっとルルーシュ、待ってよ、そんな引かないでよ!冗談だよ!信じて!」

 

「おいおい、そんな引っ張るなって、悪かったよすまんすまん」

 

若干涙目でルルーシュに縋り付くスザク、ルルーシュもやり過ぎたと思ったのか謝りつつ笑っている。

 

黒薔薇(ルルーシュ)×白薔薇(スザク)……悪くないな」

 

「おいC.C.ゴルァ」

 

「おっと、つい口をついて出てしまった」

 

じゃれあう2人を前に在ろう事か薔薇発言をするとは…………C.C.このやろう、いいセンスしてるじゃないか。

 

「ところでさ、そっちの緑のお姉さんなんだけど…………もしかして」

 

「ほう?ようやく気づいたなボウヤ、キュウシュウ以来だな」

 

思わせぶりなC.C.の返答に、スザクを中心に部屋の温度が5度くらい下がった。

 

ルルーシュは『やばい』という表情で私を見てきた。

 

わかってる私にとってもこれは結構やばい。

 

運良くごまかせないかなーなんて考えが甘すぎた!気がついた時にはスザクとルルーシュは勉強を終えてリビングでのんびりしていたのに、空気読まずにC.C.がシャワーから上がって来やがったのだ。

 

驚いて固まるルルーシュとスザクが再起動する前に、最初からリビングにいた私に気が向いたから『よぅし!』と内心思ってはいたが…………お前ほんとそう言うところだぞスザク!

 

鋭すぎんだよお前!色々と!この爽やか主人公野郎!大好きだこの野郎!

 

「………………あぁ、こんなところにいたなんてね」

 

言うなりルルーシュから離れ、ルルーシュの盾になるように立ってソファに座るC.C.にポケットから拳銃を取り出して頭に突きつけた。

 

セーフティは解除されていて引き金を引けばC.C.の頭が即ザクロだ。

 

「お前を捕まえる前に、ツキト、どうして何も言ってくれなかったんだ、まさか…………脅されていたのか?」

 

クッソ腹たつくらいイケメンな男口調、私でなきゃ惚れてるね。

 

その口調で堕ちない女子はほぼいないだろうなぁ…………私ももう少しマシな見た目が欲しかった……。

 

まあ現状にはそれなりに満足してるからいいか。

 

「そうカッカするなスザク、この女、C.C.は私の大事な部下なんだ」

 

「ツキトの…………本当かい?」

 

むっ、口調が戻って表情も柔らかくなってしまったな。

 

そっちの方も好きだからいい別に構わんが。

 

「あぁ、非公式ではあるが私の直属でな、騎士団と私をつなぐ重要な連絡係だ」

 

「さっきから聞いているから知ってるとは思うが、私の名はC.C.、訳あって名前がないのでこう名乗っている、こいつにこき使われてるかわいそうなただの少女さ」

 

「こんな具合に口の減らん可愛げのない女だが、腕は確かだ、まあ…………『パートナー』のようなものさ」

 

「そうだったのか…………やけに騎士団と綿密に打ち合わせできていると思ったらこう言う事だったんだ………」

 

拳銃を下げつつそう呟くスザク、ポケットにしまいつつ質問してきた。

 

「ツキトはいつから騎士団とコンタクトを取っていたんだい?」

 

「日本解放戦線によるビルの占拠事件以降だな、その時のことはスザクも知っているだろう?」

 

「うん、目先のテロリストより人命を優先した、そう言ってたね」

 

「その通りだ、その気持ちは今も変わっていない…………それで、その時に騎士団側に協力を取り付けたことがきっかけになったのか、向こう側から接触があった」

 

「あの時か…………その後のナリタ包囲戦は?」

 

「なるべく被害を避けるために互いに攻撃のポイントをずらして進軍することを示し合わせたりしたな、コーネリア様には私から直接ルートを伝えておくだけだったから楽ではあったが…………よもや私の砲撃で危険にさらす羽目になるとは」

 

「ガウェインの砲撃で起きた土石流は計算外だったの?」

 

「まったく、さほども考えてなかったさ」

 

結果だけで見れば、日本解放戦線が起こした土石流で本隊は進軍を妨害させられ、騎士団はしばし単独で日本解放戦線との戦闘を余儀なくされたが……。

 

「あれほど威力があるとは知らなかったからな………」

 

「僕も驚いたよ、あの威力には」

 

「おいおい待て待て、それじゃあC.C.は……」

 

おっと、ここで割ってきたか、さすがルルーシュ、タイミングは良好だろう。

 

「えぇ、ルルーシュ様の思っている通り、騎士団のメンバーです」

 

「そう、だったのか……なんとなく察してはいたが」

 

「報告せずに事を運んでしまい申し訳ない限り、不忠の我が身を罰するならば甘んじて受け入れます」

 

「ツキトが伝えないで良い感じたのだろう?なら、俺は責めないさ」

 

「感謝の極み」

 

「ツキトがルルーシュにも秘密にしていたってことは、相当だね……」

 

「私にも隠し事のひとつやふたつはある………スザクの鋭さでバレてしまったが……」

 

「スザクを侮りすぎじゃないのか?お前らしくないぞ」

 

「空気読まずにシャワーから出てきたお前が言うなC.C.ぅぅううう!!!」

 

「いちいち喚くなツキトォ!その口を閉じさせてやろうかァ!」

 

「上等だゴラァ!見さらせC.C.ゥ!!」

 

キレちまった…………せめて一撃で決めて殺る!

 

「ど……同格!C.C.って女の子は一見して普通でか弱く見える女子高生!でも、その実…………実力は互角!」

 

「お、おい、スザク?いきなりバトル漫画みたいなこと言ってどうしたんだ?」

 

「ルルーシュは感じないのかい!?あの2人のオーラを!」

 

「お、オーラ?……え?」

 

「行くぞォ!C.C.!」

 

「来ォい!ツキト!」

 

腕を引き絞る、狙いは…………拳!

 

「「じゃーんけーん、ポン!」」

 

…………ぐっ……。

 

「私が、この私が、よもや、C.C.にジャンケンで負けるなどと……ッッ!!!」

 

「ふん!まだまだだなツキト、バレバレだったぞ!」

 

「えぇ……」

 

ルルーシュの呆れ顔とため息が私とC.C.に向けられる、ふっ、辛い……。

 

「あぁ、盛り上げありがとうスザク」

 

「よかった、いい感じできたみたいで」

 

スザクはほっと胸をなでおろした。

 

「いやいやいやいや、スザク?お前さっきC.C.のことものすごい勢いで疑ってなかったか?」

 

脈略もクソもない流れにルルーシュがすかさず突っ込んだ、それに対してスザクは驚いた表情を向けるが、なんともないようにこう返した。

 

「ツキトのパートナーなんだよね?なら、何も問題ないかなって」

 

「そんな簡単に……」

 

「綺麗事だけで物事は解決しないっていうのはツキトから聞いてからさ、騎士団に仲間がいても不思議じゃないと思ってたから」

 

「…………そういう事か、そういうところは本当に鋭いんだなスザク」

 

ルルーシュはスザクの答えに納得してそう言い、椅子に座りなおした。

 

「それに、ツキトの『直属』なら、少なくとも悪い人じゃないからね」

 

「あぁ、それには俺も賛成だ、クレアさんとか……特にな」

 

頰を赤らめたルルーシュがちょっとだけ恥ずかしそうにそう言うと、咲世子の視線がとても優しくなった。

 

今度咲世子にどこか美味しいケーキでも買ってこよう。

 

「そう言えば、ツキトの秘書のクレアさんってどんな人なんだい?ルルーシュ」

 

「お、俺に聞くのか?………えっと、年上でとても包容力があって、でも可愛いところが多い人、それでもって、俺の……か……彼女、だ」

 

「うえぇえ!!??ルルーシュの彼女!?あの静かに読書している姿が似合うマインドさんとかい!?」

 

「最初の頃はビックリしたよ、クレアさんがツキトと学園に来たと思ったら色々根掘り葉掘り聞かれて、ツキトは助けてくれないし、むしろニヤニヤしてたような……」

 

「何を仰いますかルルーシュ様!私はただ、そのままのほうが面白そうで…………ネタになると思っていただけです」

 

「余計悪いわ!」

 

「あはははは、それで、どうなったんだい?」

 

「ん?あぁ、それから何度か話したり、メールや電話したりして、デートを何回かしてるうちに…………好きになったというか」

 

「る、ルルーシュが……すっごく大人に見える!」

 

「ついでに言えば、坊や(童貞)から坊や♂になったしな」

 

「え?C.C.さんそれって、つまり……」

 

「あーーーー…………想像に任せる」

 

「…………く、悔しくないよ!全然悔しくないからね!?」

 

涙目でそんなこと言っても説得力ないぞスザク……。

 

まあショックだろうな、モテはすれどいかにも女慣れしていない親友が、よもや自分より先に卒業していたなんて。

 

「知り合いの女性にスザクのことを勧めてみるか」

 

「なんで!?」

 

「いや…………スザクは、その……ナンパとかできるか?」

 

「無理だけど…………ほら、合コンとか」

 

「あれ大体組み合わせ決まってる出来レースだぞ、それでも参加したいなら止めはせんが…………引くのは確定ハズレくじだぞ?」

 

「………………さっきのでお願い」

 

「わかった、とはいえ、今のところスザクに紹介できそうな女性はいないな」

 

誰でもいいならまた話は違ってくるが、親友に紹介する手前、それなりの良識を兼ね備えた人格者でなければ。

 

知り合いの貴族令嬢に数人ほどいるにはいるんだが…………隙あらばマウント取ろうとする(物理)系女子はちょっとな………。

 

「さすがに都合よくいたりしないよね」

 

「自分からも出会いを探すといい、ベストは皇族だ、最低でも爵位は貰えるから地位は保証されるだろう」

 

「地位かあ、今の僕ってどれくらいの地位なのかな?」

 

「少なくとも軍部では少佐相当の権力がある、それから『騎士』という爵位を持っているから、スザクも貴族と言えるかもな」

 

「騎士も爵位なんだね」

 

「昔は騎士や男爵はたくさんいたが、今ではもっぱら名誉階級扱いだがな…………ちなみにこのピンク髪の小僧は元侯爵家出身で、自身も子爵か伯爵相当の爵位があったが、見事にぶん投げたからなこいつwww」

 

「そう言えばアールストレイム家は後宮にも出入りできる名門貴族として一部では知らぬ者もいなかったほどの家だったな…………思ったんだが、俺ってかなり幸運だな」

 

「たしかにルルーシュは運がいいことも多いけど……それほどかな?」

 

「よく考えて見てくれスザク、爵位を捨ててまで仕えてくれる騎士が他にいるのか?」

 

「…………アニメや漫画でもそうそういないよ………そうか、たしかに幸運だねルルーシュは、それを言うなら僕もだけど」

 

「俺たちは2人揃って、とてつもない豪運の持ち主だったみたいだな、スザク」

 

「あまりそう言われるのは…………少し、居心地が……」

 

前にもこんなことあった気がするが…………褒められるのは嬉しいが、あまりそう手放しで言われるのも……。

 

「いつになっても褒められ慣れないな、お前は、自己評価の低さは主人の評価の低さだぞツキト?」

 

「むっ、言うではないかC.C.」

 

「パートナーは口煩いものと決まっているからな」

 

「はっ、よく言う………しかしその通りだな、今のC.C.(パートナー)以外のC.C.なんぞ考えられん」

 

物静かなC.C.など私のパートナー足り得ない、昔の従順なC.C.もまた乙なものがあるが、やはり強気な女ほど魅力がある!

 

私は良きパートナーに恵まれる運命だったようだな。

 

それに、先ほどまで短剣のごとく突き刺さっていた胸のわだかまりがスッと引いている気がした。

 

「ぶちまけてしまうと思いのほか楽になりました、愚痴に付き合わせてしまい申し訳ございません」

 

「そんなこと気にしていないさ、悩みがあるならどんどん言ってくれ、俺もツキトの主人として一緒に考えるから」

 

「僕も、ツキトの親友として相談に乗らせてもらうからね、その時になったら頼ってほしい」

 

ほんっっっっっっとにお前らイケメン過ぎるだろ!!

 

ハーレムくらい余裕で作れるイケメン主人とイケメン親友がいるとか…………それなんてエロゲ?

 

勿体無いなんてレベルじゃないぞ…………。

 

「では、さっそくユーフェミア様のことで相談が」

 

あまりに爽やかなイケメンすぎてイラッときたのでちょっと意地悪してみることにした。

 

「うっ…………」

 

ユフィの兄として従者でありナナリーの婚約者である私にどう言えばいいのか言葉に詰まるルルーシュ。

 

「あー…………えっと……」

 

言葉に詰まるルルーシュを横目になんとか声を出そうとするも墓穴を掘りかねないため様子を伺いながらオロオロするスザク。

 

「とりあえず寝てみればいいんじゃないか?」

 

そしてさらっととんでもないことを言い出すC.C.。

 

「でしたら、ぜひ私も」

 

お前は黙っとけ咲世子。

 

『畏まりました』

 

っ!?……こいつ!直接脳内にッッ!?

 

と、ルルーシュとスザクのイケメンっぷりと咲世子の実力(?)を改めて実感したある日の夜のことであった━━━━。

 

あとでC.C.の脳天にイッパツ喰らわせたのは言うまでもない。

 

「クソ痛いんだが」

 

「おかわりもあるぞ?」

 




カルナも出たぞ(ボソッ)

追加の沖田オルタと坂本ァ!もいいけど、岡田サンの宝具が個人的にツボなのでどうしても宝具5にする勢いでいる所存。

サリエリさんは5にできたけどスキルマまでかなりある…………来週土曜…………余裕だな!(慢心)

次回は、舞台を去る道化師……という、お話。



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これだから【イケメン】は!!

小俣。

はい、過激派大虐殺まで秒読み始まりました。


時刻は午前0時をまわり、日付が変わる時刻に、私は執務室にて傍目からすれば珍しく残業していた。

 

隣のデスクにはクレアも座っており、今日の分を終えて明日に片付けるべき案件に手をつけていた。

 

残業、というのは傍目からすればの話、私とクレアはともに本命は別にあった。

 

しばらく紅茶を飲んで刻を待つ。

 

ふと窓から外の景色を見てみれば、曇天の雨雲からザァザァという音を立てて雨が窓ガラスを叩きつけていた。

 

昼間はやや肌寒い程度の曇り空だったのだが、いつのまにか、豪雨となっていたようだ。

 

ぼんやりと、そんなことを考えていると…………執務室に男が入って来た。

 

「カーライル様、夜分遅くに失礼いたします」

 

「おお、君か……………世間話という風には見えんな、何があった?」

 

入ってきたのは猟犬部隊の副隊長、療養中の隊長に変わって部隊を管理する男だ。

 

副隊長は敬礼を示すと緊張に汗を滲ませながら話し出した。

 

「…………例の地域に……侵入者が」

 

「っ…………規模は?」

 

反応を抑え冷静に対応するように心掛けているように見せつつ、平静を装って聞く。

 

「およそ100ほど、工作員としてみれば大部隊です」

 

「監視塔から迎撃の射撃はなかったのか?」

 

「監視塔はすべて沈黙しております、事前に手を回されていたものと考えます」

 

「なんたる無様か…………!」

 

静かな怒りを燃やす様を見せつけつつ、しかして冷静に対応せんとする様子をアピールする。

 

「…………準備出来次第、私に連絡したまえ」

 

「KMF部隊は如何しますか?」

 

「出来る限り全部だが…………最低でも3小隊は動員せよ、足りなければ…………新型戦車を出せ」

 

「例の……『アノ』戦車を、ですか……」

 

怪訝な表情をするのもわかる、正直言って信用ならんところがあるからな…………。

 

歴史の浅い二足歩行の兵器より、歴史ある戦車の方が信用ならないなんて、この世界の住人でなければ失笑していただろうな。

 

「砲台にはなる、火砲も強力だ、足りなければ惜しまず出せ」

 

「しかし新型戦車は上が煩いのでは?アレは開発停止による処分品とカーライル様は仰られておりました、破損させた場合の刑罰は……」

 

「そんなこと、私が黙らせるから気にせずにやれっ!!」

 

「は……はっ!」

 

剣幕で強引に通す、余裕がないように見せるためだ。

 

「総督には伝えるな」

 

ここ貴重な保身アピール。

 

「ですがカーライル様、我々だけでは数が足りません!グラストンナイツとまではいかずとも、コーネリア様配下の部隊の動員を乞うべきでは!?」

 

副隊長のいっていることはもっともだ。

 

がしかし、本隊の連中は少数での奇襲に向かない貴族上がりだ、暗闇の戦闘では役に立たん。

 

「本隊の連中は貴族上がりのボンボンだ、いっそ中央(帝都)の親衛隊や憲兵あがりの奴等のほうがまだ役に立つ…………ここにいる部隊で夜戦で連携が取れるのはグラストンナイツくらいだ」

 

「では!」

 

「総督は今、中華連邦と本国の板挟みで体調を崩し気味だ、余計な問題で頭痛の種を増やすなどできるか!」

 

その時、予定通りに電話がかかってきた。

 

私と副隊長、クレアはいきなりの電話に一瞬固まり、すぐにクレアが応対した。

 

「こちらツキト・カーライル執務室…………ゼロ?」

 

「なに?………………代われ」

 

「は、はい」

 

クレアから電話機を受け取り耳を当てる。

 

「夜分遅くに直通電話とは呑気なものだな、ゼロ」

 

そう言いつつスピーカーモードにし、ゼロの声をクレアと副隊長にも聞こえるようにする。

 

『耳が痛いな…………急を要する案件だ、君と、猟犬部隊の助けが必要だ』

 

「話たまえ」

 

『我々、黒の騎士団のおよそ半数が離反した』

 

「それで?貴様の求心力が地に落ちたから亡命したいと?」

 

『そうではない、離反した者たちは武器を奪い、2代目の【日本解放戦線】を名乗って君達が厳重な警備を敷いている【ある区域】に進出した』

 

「………………どこで知ったかは今は聞くまい、して、貴様は何を言いたいのだ?」

 

『弁明は後でする…………離反者を【日本解放戦線】とするなら、おそらく、去年のビル占拠と同じかそれ以上のテロを行いかねないと判断し、我々は殲滅に向け部隊を編成中だ』

 

「ほう……読めたぞ、つまるところ貴様は……」

 

『そうだ……………頼めるだろうか?』

 

「死人を出さないと誓えるならば、な…………帝国としても、日本エリア防衛の要たる猟犬部隊の損失は認められん」

 

『ゼロの名において誓おう、我が黒の騎士団の団員も、猟犬部隊の勇士たちも、誰一人として失わせはしないと』

 

受話器を耳から離し、マイク部を指で押さえて音を遮断する。

 

副隊長のほうを向いて聞く。

 

「だそうだ、ゼロは我々に離反者の殲滅に手を貸せと…………ようは尻拭いの手伝いをしろと言ってきた」

 

嘲笑交じりに続ける。

 

「まったくだらしがないにもほどがある、かつての解放の英雄『ゼロ』も落ちたものよ…………副隊長」

 

「ハッ!」

 

「此度の出撃、如何する?」

 

副隊長は今一度姿勢を正して息を吸った。

 

マイク部から指を離す。

 

「無論、黒の騎士団と連携し、全力をもって叛逆者の殲滅に当たります」

 

即答だった、覇気に満ちた表情は強力な味方を得られたことによるものか。

 

やる気は十分、それが一目でわかるほどだった。

 

「ふっ…………君もなかなか、気持ちの良い阿呆であるな」

 

「ありがとうございます!」

 

「…………だそうだぞ?ゼロ」

 

『猟犬部隊の副隊長殿、貴公の協力に感謝する』

 

「我々とて日ノ本の防人、手を組むことに矛盾も異論もない」

 

「目指すべき場所は定まったか…………副隊長、先の言葉に虚偽が無ければ、我らが勇士達に出撃を命じよ」

 

「目標は如何に?」

 

「例の地域周辺2kmに散開して配置、それで良いだろう?ゼロ」

 

『異存はない』

 

「ならば、我らブリタニアのケツの青い貴族上がりを震え上がらせた貴様の指揮、今一度私に見せてみるがいい」

 

『望むところだ、共に勝利を』

 

そう言うとゼロは電話を切った、受話器からはツー、ツーという電子音が鳴っている。

 

「征くぞ副隊長、車を用意させろ、英雄ゼロ殿の指揮だ、特等席で見ねばならん」

 

「ハッ!」

 

「カーライル様、私もお供いたします」

 

「良いぞ、貴様も奴の指揮を見るといい、前菜には持ってこいの代物だ」

 

話しながら部屋を出て廊下を歩く、久しぶりの戦闘に高揚しているのか、歩みはいつのまにか早くなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間ほどかかったが、所定の位置に部隊は配置され、黒の騎士団と無線の共有、敵の情報の共有を行い、ゼロと副隊長両名の主導の下、攻撃開始を待っていた。

 

土砂降りの中でテントを張り、灯りを最小限にして暗視スコープで敵を確認していく。

 

当初の予定通り、離反者数百名にKMFが数十機、装甲車も複数見えた。

 

満足な装備もないのか、カッパをつけずにKMFの股下で雨宿りする者もいた。

 

内心ほくそ笑みながら暗視スコープから目を離し、テントの中心…………作戦を練るゼロと副隊長、スザクに寄った。

 

「雨でぬかるんだ窪地状の地形を加味すれば、あなたたち黒の騎士団と我々の射撃による打撃の後に、白兵戦による掃討が理想だ」

 

「この暗闇で敵が一箇所に固まっているのなら、特別気にかけることもないでしょう、それにこの雨、敵の足は完全に止まる…………白兵戦よりも、火力を集中させ一気に数を減らすほうが賢い方法だろう」

 

「ならば、戦車と小型迫撃砲が役には立つだろう」

 

「ある程度大まかな射撃を行なった後、サーチライトで照射して狙撃するのはいかがか?」

 

「白兵戦を挑むよりかは被害は減るだろう…………向こうに赤い機体はいないよな?」

 

「赤い機体は私の親衛隊の者だ、裏切ることは決してない、離反者たちは全員平の団員で突出した能力もない」

 

「敵KMFはすべてグラスゴー(旧型機)で考えて問題はないと?」

 

「問題ない、装甲車も装甲板を貼り付けただけのちょっと頑丈な乗用車だ…………我々としては貴重な戦力であり、壊すのは勿体無いが、この地域に入ってしまった以上、すべて破壊する方向で行く」

 

「話しはまとまったな…………カーライル様」

 

おや、どうやら終わったようだな。

 

「どうした副隊長?」

 

「作戦が定まりました」

 

「聞かせろ」

 

「はい、初めに我々全軍による一斉射撃を行います、続き、サーチライトで照射して狙撃、以上になります」

 

「よろしい、攻撃を許可する」

 

「ありがとうございます!」

 

「全隊および騎士団に伝えよ、『くれぐれも落ちないように、蜂の巣になるぞ』と、そう留意させよ」

 

「イエス、マイロード!」

 

そう言って副隊長は無線機を握って作戦内容を指示していく、データによるブリーフィングも同時に行なっているようだ。

 

「ツキト」

 

「ん?スザク……どうした、そう怖い顔をして」

 

先ほどまで案山子のように突っ立っていたスザクが急に話しかけてきたと思ったら鬼神がごとき形相でちびりそうになった。

 

お前、顔立ちすごくいいんだからそういうのやめてくれよ…………怖いんだよ……。

 

「あぁ、ごめん…………ちょっと、納得できないことがあるだけだから」

 

私にはお前のイケメンフェイスのほうが納得いかんわ。

 

「騎士団のことか?」

 

「…………うん……僕の中では、彼らはまだテロリストみたいだ」

 

「納得はせんでも良い、目の前にある事実として、彼らと私たちの目指すものは同じで、あそこにいるのは、日本解放戦線の同類のロクデナシ共、それだけだ」

 

「うん…………そう、だね」

 

「スザク、覚悟しておいて欲しい、いずれお前にとって身近で親しい人物が、道を違えてしまうことがあるかもしれない」

 

「そんな…………僕たちの親しい人たちは、みんな僕たちと同じものを目指してる、道を間違えてしまうことなんて……あるわけないよ」

 

「そうそうあるものではない、だが…………些細な意見の食い違いで、そうなることだってある、些細な事で正義の味方にも、テロリストにもなってしまう、ということを覚えておいて欲しい」

 

「………………わかった」

 

「そんなことそうそうありはせんだろうが、まあ警戒するという意味で頭の片隅にでも入れておけば良いさ…………問題は目の前の事態だ」

 

「うん…………それと、本当に事前に話した通りでいいんだね?」

 

「あぁ、遠慮はいらない」

 

招集の前にスザクにのみ話した最終計画、もし、猟犬部隊と黒の騎士団の戦力で敵を潰しきれなかった場合の策。

 

現状切り札的存在であるスザクの搭乗機、ランスロット・コンクエスター…………の、発展途上型とも言うべき形態の現在のランスロットを、【試験】目的で突入させるのだ。

 

コンクエスターと呼ばないのは、キャヴァルリーに比べ燃費は改善したが未だ本領を発揮し得ないためだ。

 

コード名で呼ぶのが筋ではあるが、キャヴァルリーとコンクエスターのどちらで呼んでも微妙な性能のため、ランスロットと呼んでいる。

 

それに…………どうにも私のガウェイン に手間取っているのか、ハドロンブラスターの未完成状態からくる開発の遅延が理由らしく、私からは強く言えないのだ。

 

ジークフリートの件もあるし、ここのところロイドには迷惑をかけ過ぎたから少し間を置かせるのがよいだろう。

 

ついでにキャヴァルリーではなくエアキャヴァルリーなのだが…………それでも私は騎兵(キャヴァルリー)と呼びたい。

 

「問題ない、むしろここで1人でも逃せばゴキブリのように増えるだろう……もしもの場合も起こさず、確実に殲滅する」

 

「そっか…………あれ?じゃあツキトのガウェインを使えばいいんじゃないのかい?」

 

「あいにく改修が長引いてな…………クロヴィス殿下によるデザイン監修というのもあって予想外に圧力がかかってな……」

 

「納得いくものじゃ無いとダメってことか……」

 

「それにな…………」

 

「それに?」

 

「作りかけを持ち出したら、ロイドに殺されてしまうだろ?」

 

「ぷふっ…………たしかに、ロイドさんなら大激怒すること間違いなしだね」

 

広域殲滅はガウェインの十八番、本来はそっちを持って来るべきなのだが…………改修中のものを持ち出せばロイドは必ずキレるからな。

 

キレたロイドを言いくるめられるほど頭も良く無いからな、私は。

 

立場を使っても良かったが、こんなことで関係に亀裂など入れたく無い、今後ともよろしくやっていくためには、そして、今後の特派の運びのためにも。

 

「これはまだロイドしか知らないんだが…………」

 

「なに?」

 

「近いうちに、特派を解体して別組織を作る」

 

「…………ということは」

 

「ようやく、カタチができる、ということさ」

 

そう、特派の解体と同メンバーによる再結成された組織、原作においてナイトオブセブンとなったスザクの専門技師的な存在となる、『キャメロット』の発足だ。

 

今まではスザクをラウンズにするのは難しいため、どうにも特派のキャメロットへの移行計画が難航していた。

 

しかし、日本エリアのトップであるアッシュフォードは既に我が手中にあり、裏で取り仕切ってきたキョウト側も自治区化への本格的参入によって下拵えはすんだ。

 

あとはそう、『キッカケ』さえあれば良かったのだ、特派の解体と再結成に伴う、『そうしたほうが楽でいい』と本国の腰だけは重い重鎮どもを納得させられるのなら良かったのだ。

 

その理由も、よもや天から降り注ぐ太陽の恵みが如く、勝手に降り立ってくれたのだから…………もう私は踏ん反り返ってほくそ笑んでもいいんじゃなかろうか?

 

いっそ供物を捧げるが如くといっても良いだろう、なにせあの中華連邦が我々に回答を示してくれたのだから。

 

故にすぐに書状を送った、今頃は議論(茶会)でもして、文字通りお茶を濁すつもりだろうな。

 

もちろん、マリアンヌへも送ってあるぞ?いやまあ、やりすぎ感はあるが………………重鎮どもが皇帝陛下に書状を通そうとは思わんだろうし、マリアンヌが会話の途中で少しでも言ってくれればそれでいい。

 

それで陛下がこちらにコンタクトを取るようであればよし、私を召喚しようと書状を送ってくるのなら尚のこと良しだ。

 

どう転んでもグッドかベリーグッドしかないこの状況、イージーモードで草はえる。

 

「でもツキト、ここの地域は特別なものがあって立ち入り禁止なんだよね?ヴァリスなんか撃ったら危ないんじゃ?」

 

「それなんだが…………実はウソでな」

 

「ウソって……資料にはちゃんと【神聖ブリタニア帝国皇帝直轄管区】ってあったよ?」

 

「それも全部ウソだ、ここは【神聖ブリタニア帝国皇帝直轄管理区】なんて大層な名前なんてついてないし、監視塔は物見櫓程度のものだし、有刺鉄線も廃棄処分のものを適当に張り巡らせただけの『何もないただの盆地』なのさ」

 

「ってことは…………」

 

「この地域そのものが、地形や建造物に至るまで何もかもがハリボテで、名前だってただの仮りの名前だ」

 

「そんな…………でも、皇帝陛下の名前を使っても大丈夫なの?不敬罪とかにならないかな?」

 

「本当の名前が決まるまでの仮名称として『たまたま』そう呼んでいただけさ、資料についても、私がそんなことを言った時に、書記が書き留めたものがそのままクレアらへんが資料として纏めてしまったのだろうさ」

 

「全部偶然、ってこと?」

 

「まあ、あくまでそういうことにしておいてくれ、あくまで偶然、そう、偶然なら仕方ないのさ」

 

クレアは真相を知っててやっているがな、さすがのあいつも苦笑いだったな。

 

不敬罪ギリギリをやらかしているわけだから、正直あまり良くないんだが…………大仰な名前をつけておけば、後々のプロパガンダとして使えるからな。

 

「ふぅ…………悪どいなぁツキトは」

 

「大義名分のためとはいえ、ウソをついたのは謝る」

 

さすがにこの件で私の首が飛んだら弁解のしようもクソもない。

 

まあ、たぬき被ってる皇帝陛下なら策の一つと解釈して放置してくれるだろうが、うるさいのは側近どもだろうな。

 

情報公開の時にはそこにも配慮しておかねば。

 

「危ない橋を渡るのはあまり関心しない、ルルーシュとナナリーはもちろん、僕だって怒るよ」

 

「本当にすまないと思っている、だからそう怒らないでくれ、お前が怒ると怖いんだぞ」

 

イケメンが怒ると本当に怖いんだ、ソースは幼少ルルーシュの魔王フェイス。

 

「まったくもう……そういうことはルルーシュとかユフィとかに相談してからにしてよ、そうしてくれれば僕たちも協力できるから」

 

「お前ほんとイケm……じゃなかった、ありがとうスザク、これからは相談させてもらうよ」

 

「うん、勝手に動かれるとナナリーが困っちゃうからね」

 

「なあその名前出すのは卑怯じゃないか?」

 

「戦いに卑怯も何もないんだよ?」

 

くっ!いい笑顔で言いやがって!このイケメンが!

 

「むぅ…………スザクに論戦で破れるとは……」

 

「僕だって勉強はしてるんだよ?この前のテストだって全教科平均80点を超えてたんだからね」

 

「私もテストを受けておくべきだったな……オール100点を見せつけられたのに」

 

「え!?100点なんて取れるの!?僕は一番高いのでも96点だったのに」

 

「さっきみたいな悪巧みをするのと比べれば何倍も簡単だぞ?答えは決まってるんだから後はそれを持ってくるだけでいいのだから」

 

むしろトンチのほうが難しくてかなわん…………ナゾナゾに弱いルルーシュを笑えんなこれは。

 

「遠いなあツキトは」

 

「私はかなり恵まれているからな、むしろもっと高みにいなければならないほどさ、内心ルルーシュとスザクの急成長にビビりまくりだよ」

 

気を落とすスザクに笑いながらそう自虐するように言った。

 

事実として私の人生はイージーモードすら生温いと言わざるを得ない簡単さだ。

 

アールストレイム家の長男に生まれ主人公たちの信頼を得て名前を捨ててもなお爵位や剣を賜ることができたこの幸運…………生かさずして何が転生者か。

 

私自身、人並みくらいには努力をしてきたが、ルルーシュとスザクとナナリーの日進月歩の進化には非常に驚いてしまう。

 

私というイレギュラーの介入が原作キャラの能力を底上げしているのか?だが基本的に私に近い人物に限定されている…………ということは、『外側』の力が何かしら影響を?

 

「………『外側』はやはり、邪神の類……?」

 

「邪神?」

 

「あぁ、なんというか、こんな大雨の日にこんな場所にいると、よくない事ばかり浮かんでしまってな…………ダメだな、気が滅入っては指揮に影響が出るというのに」

 

「たしかに雨は憂鬱になるけど、雨空を見ると心が現れているみたいで僕は好きだけどなあ」

 

「そのメンタルの7割……いや半分でもいいから分けて欲しいものだ……」

 

なんて呟いてスザクを見てみれば、口元に手を当ててクスクスと笑っている始末。

 

ごめんごめんと謝っているが、ならその肩の震えはなんだと言うのだ?

 

スザクの脇腹に軽いブローを入れてその場を後にした。

 

「ようやく、親友らしいスキンシップができたかな」

 

その呟き、しかと我が耳に入ったぞ。

 

「阿呆、スキンシップの有無程度で私のお前への親愛が揺らぐものか」

 

「ちょっ!?き、聞こえてたの!?」

 

「ハハハハハハ!ツキト・カーライルは地獄耳であるぞ!」

 

動揺して顔を赤らめるイケメンに向けて爆笑を送りつつ、その場を、今度こそ本当に後にした。

 

「…………僕もそうだよツキト、そんなこと、わかってるはずなのに………ダメだな僕は、親友に順位なんてない、当たり前じゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつはっ!……あいつは本当にっっ!…………////………………アァァァ!!!私の心を乱すなァァ!!!//////」ガンガン

 

イケメン過ぎんだよこんちきしょおおおおおおおおお!!!!!!!惚れるわあああああああああああ!!!!!!!!

 

「あんた…………ホモなの?」

 

「じゃかぁしぃ!!あんなイケメンにあんなこと言われたら赤面待った無しなんだぞ!?むしろここに来るまで耐えた私を褒めろ!!」

 

「気持ちはわかるけど…………まあ、うん、よくできました?」

 

この後冷静になるまでめちゃくちゃティータイムした。




ところでこれ、ボーイズラブの範疇なんですかね?
一応つけといたほうがいいでしょうか?

ま、保険にはなるはずでしょうし、つけときましょう。

ついでに、沖田オルタは宝具レベル3、岡田以蔵さんは宝具レベル5になりました。

わしはァ!ガチャのォ!……天ッ…才じゃあああああああああ!!!(50K使いました)


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新たに『協力者』を

おまたせえええええええええええええええええええええっっ!!!!!!


「出番がないのはどうかと思うぞ私は」

 

「良いではないか、計画的にことが運んで終わったのだから」

 

「そういうことじゃないだろう、絶世の美女たる私に、出番の『で』の字すらないということは……同性愛者と見まごうほどだぞツキト」

 

「お前までそう言うかこの処女ビッチ擬きが」

 

執務室のソファでぐでぇ〜と寝そべり、私に愚痴と罵倒をぶつけるC.C.を睨む。

 

昨夜、いや今朝であろうか、黒の騎士団の不穏な因子、過激派主要メンバーの生命が消失した。

 

戦闘による損害らしい損害はなかった、むしろ撤収作業中に足を滑らせ転倒した隊員が数名いたか、怪我はないと言っていたが…………腰大丈夫だろうか?

 

「何が不満だ?数日前にお前の存在がスザクにバレたアクシデントもあったそのすぐ後に先の状況だぞ?」

 

「何が言いたいんだ〜?」

 

「あいつは所謂『世界に愛されるタイプの主人公』だ、イケメンで技量良くどこかあどけなく人を惹きつける魅力があって黒い部分に対する勘が鋭い男なんだ、お前が油断を晒せば私も危ないのだ」

 

「そうは言うがなぁツキト……私も部屋でパソコンいじってピザ食ってるだけなのは飽きたぞ」

 

「お前なぁ…………はぁ……わかった、何がしたい?」

 

「おや?諦めが早いとは、お前にしては意外な行動だな」

 

「馬鹿を言え、お前相手に粘るだけ無駄と知っているからだ」

 

まったく、本当に魔女のようだなC.C.は…………そこがまた魅力なのだがな。

 

「私を面倒くさい女みたいに言うな、めんどくささで言えばお前の方が上なんだぞ」

 

「言ってくれる………まったく、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?こんなくだらない意地悪をする女じゃあないだろう?」

 

「ふん…………お前が私を蔑ろにするから言わないでいただけだ」

 

かまってちゃんかおどれは……。

 

「まったく、お前という女は愛らしいにもほどがある、私を萌え死にさせる気なのか?」

 

「黙れ、この男女見境無し発情魔が」

 

「……綺麗なものを綺麗と言うのは罪か?イケメンをイケメンと呼んで何が悪い?良い女を口説くことは不道徳か?ならばそれら不条理、我が身全てで受け止めよう!(関ボイス)」

 

「無駄に良い声で畳み掛けるな!逆に胡散臭いぞ!」

 

関智一風味のボイスはお気に召さぬ様子だな。

 

次やる時は諏訪部順一風にするのも一興か……。

 

「まあそう言うな、あいにく私は口しか回らん男でな、こういうのも一興と思っただけさ」

 

「だったら仕事くらいやってくれない?ってかあと10分で会議よ?」

 

「昨夜の一件の会議だろう?別にやらんでもいいだろうに」

 

デスクから口を挟んだクレアにそう零すC.C.、どうやら出番関連についてまだ根に持っている様子だ。

 

「C.C.、残念だけどここにいるこのホモはね、コーネリア様に何も言わずに出動させたのよ」

 

「それがどうしたんだ?猟犬部隊はツキトのお膝元だろう?コーネリアは無関係のはずじゃないのか?」

 

「エリアのトップはコーネリア様なのよ、直属とはいえ無断で軍を動かせば何かしら言われるに決まってるわ」

 

「それでか…………お前本当に面倒ごと増やすのだけは天才的だなツキト」

 

「うるさい、コーネリアがちゃんとベッドで寝ていれば良かったのだ、夜中に目が覚めて窓から夜景を見てたら作業中の猟犬部隊を見られたなど、どんな冗談だというのだ」

 

帰ってゆっくり寝ようと思った矢先、夜中にもかかわらず起きていたコーネリアに問い正され、その場しのぎで言ったあれこれの結果が数分後の会議の議題となるとは…………。

 

寝てろやコーネリア……寝不足やろお前ぇ。

 

「まったく……面倒くせえなあ」

 

「地が出てるぞ、地が」

 

「仕方ねえだろ?出るもんは出ちまうんだ、おちおち地なんて出せねえんだからちょっとくらいは許せや」

 

「どうでもいいけど、C.C.は早めに出ないと遅れるわよ?今日は騎士団の団結力強化とかのための集会があるんでしょ?」

 

「どうせボウヤが喋ってるのを突っ立って聞いてるだけで暇になるんだ…………もう少しくらい居てもいいだろう?」

 

クレアの催促にもC.C.はソファ上から全く動じずにそう答えた。

 

「同情くらいはしてやろう」

 

「うるさい、お前も連れてくる予定だったのに、こんな面倒な会議を立ち上げて……」

 

「なぜかあの時間に起きていたコーネリアに言え、それに、そっちの会議に出ずとも私はその後でブリタニアと黒の騎士団の合同会議に出席せねばならんのだぞ?」

 

「知るか、お前のせいみたいなもんなんだから、あくせく働け」

 

「わかっているさ…………お前も早く向かうんだぞ」

 

「わかっているよ」

 

ソファでブーブーと文句を垂れるC.C.にそう言って、クレアと共に会議へと向かった。

 

あぁ、面倒だ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議室にて会議は始まり、エリアの成長状況やキョウトや黒の騎士団との今後の付き合い方などを話し合い、ついに私に話しが回ってきた。

 

「最後になるが…………ツキト」

 

「はい」

 

「昨夜の出撃について私は事前報告を受け取っていないのだが、なぜ何の報告もなく出撃した?」

 

「国籍不明の工作部隊を捕捉したとの情報があり、秘匿を厳としなければならなかったためです」

 

「なぜ私に秘密にしたんだ?エリアの責任者は私となっている、ツキトの貢献も忘れてはいないが、一言くらい欲しかったぞ……」

 

…………さっきまでの厳格な表情と雰囲気はどこに行ったんだ?最後なんかもう怒られた後の子犬みたいになってるんだが。

 

正直コーネリアがかわいくて会議なんかどうでもよくなってきたんだが!!

 

「…………情報の出所が黒の騎士団であるため、秘匿せざるを得ませんでした」

 

「黒の騎士団から……?」

 

「黒の騎士団と…………カーライル卿は黒の騎士団のゼロと連絡を取っているのか?」

 

意外にもコーネリアではなくギルフォードがそう聞き返してきた、彼はコーネリアの言葉を遮るような男ではないはずだが…………きっと驚きのあまり、とっさにと言ったところだろう。

 

「然り、ゼロより打診があり私が受け入れたのだ」

 

「カーライル卿は、それを今日まで黙っていたと……黙秘していたと、言うのか?」

 

「そうなるな」

 

「!!!」

 

ダンッ!と円卓を叩いてギルフォードは立ち上がった。

 

彼らしくない怒りで満ちた表情に、会議室に集った者たちがどよめく。

 

「貴公は!コーネリア様の幼馴染であり、最も信頼厚き貴公は!!重要な事柄をなぜ報告しない!?」

 

「物事には順序があるのだギルフォード卿、私が報告をしなかったのは、まだその時ではなかったからだ…………あと、幼馴染云々は関係なかろう」

 

「では聞くが、いつになれば話す予定だった?」

 

「日本エリアを自治区とした後……であろうな」

 

「貴公はふざけているのか!」

 

幼馴染の関係性を出してきたお前が言うなギルフォード。

 

「おふざけだと思うならばそれも良し、私は私なりの方法で日本エリアについて考えているだけだ」

 

「ならばそれを実行する前にコーネリア様に伝えるべきだ、貴公は秘書や枢木卿やユーフェミア様に話すだけであり、コーネリア様には全容どころか一言もないではないか!」

 

「全てを報告せよと言うなら、先んじて貴公がやるべきではないかね?」

 

「私はコーネリア様に全てを報告している!」

 

「本当かね?コーネリア様に隠していることはないのかね?……ひとつも?」

 

「っ……プライベートなことは関係ないであろう!」

 

「ならば、私も話すことはないはずだ、貴公が話さぬのだからな」

 

「しかしだな!…………コーネリア様!よろしいのですか!?」

 

私の態度に耐えかねたのか、ギルフォードはコーネリアに助け舟を求めた。

 

「ギルフォードの意見はもっともだ…………ツキト、教えてくれ……いつから黒の騎士団と繋がっていた?」

 

ふむ…………ここで一石を投じるか、否か。

 

………………ブリタニア人らしく、賭け(ギャンブル)も悪くないか。

 

「コーネリア様が日本エリアの総督となられた頃……でしょうか」

 

「そうか…………最初から、ツキトは黒の騎士団と繋がっていたのだな」

 

「コーネリア様から見れば、そうなりますね」

 

「では…………では貴公は、あの旧サイタマゲットーにおけるテロリストとの戦闘時にも……」

 

「特定の回線を通じて当時のゼロと話しをしていた、双方の動きが合わなければあそこまで綺麗な『戦闘』は仕上げられなかった」

 

「貴公は……貴公は一体何を考えているのだ!」

 

「無論、日本エリアの今後だ…………あいにく、それ以外の命令を受けていないのでな」

 

「命令だと?それは皇帝陛下の勅命か?」

 

「当然ながら主命だ、私は二君に仕える気はことさらない、これまで、これからも」

 

「カーライル卿、貴公の忠義もよく分かる、しかし斯様な物言いでは皆々が勘違いしかねない」

 

ダールトンがそう警告してくるも、構うことなく口を動かす。

 

「ダールトン将軍、今の私の発言には一切の虚言はない…………額面通り受け取ると良い」

 

「き、貴公………まさか……」

 

「ツキト、もしやと思ったが…………ツキトは陛下に」

 

「我が忠誠はすべて、偽りなく我が主のみに向けている、陛下も敬ってはいるが、どちらかを取るとなれば、迷いなく我が主の勅命を取る」

 

「貴様は!陛下よりラウンズの地位を賜って置きながら、忠誠を捧げぬなどと…………恥じることはないのか!?」

 

「ないな、何一つとしてありはしない、我が仕えるべきは皇帝陛下に非ず、我が主のみだ」

 

ラウンズ、最強の騎士、皇帝の剣…………とは言うが、現在の実態はただの飾り、与えられるKMFや親衛隊はキャラクターを引き立てるパーツに過ぎない。

 

一世代前の本物の騎士達ならいざ知らず、現行ラウンズはアイドルだぞ?誇れるものがどこにあると言うのだ……。

 

さらに言えば、貴族たちにとって私は【地方巡業に奮闘するそれなりに売れてはいるがデビューしきれないアイドル役】という認識なのだぞ?

 

どれだけ格好良く【外征騎士】と唱えようと、所詮は国の公式アイドルでしかない。

 

まあ、陛下は私について色々と分かっているから、待遇面では不満は無いが…………何にせよ、早めに功績を挙げて枢機卿にならねば。

 

「妄言もいいかげんにせよ!貴公はたったいま逆賊となり得てもおかしくないのだぞ!」

 

「ふむ…………ならば、ここにいる者たちだけでも、首ぐらいは取っておいた方がいいかもしれぬな」

 

「なんだと!?」

 

「逆賊となるもまた良し、そうなると中華連邦あたりにでも取り入るしかないのだが…………訪問に際し手土産くらい無くては、品格が疑われてしまうのでな」

 

本気でそんなこと考えてはいないがな。

 

スザクあたりが中華供の女に惚れたとかでもない限り、焦土とする計画に変更は無い。

 

「だが先も言った通り私は日本エリアを発展させること以外に主の命を受けていない………そもそも、我が主がいると知りながら、爆撃を行った皇帝陛下に忠誠を誓えとでも?」

 

「それは!…………だがそれは事故であって、貴公も復讐はしないと言っていたはずだ!ラウンズである者が言を違えるのか!?」

 

「復讐は無意味と知っている故にしなかったに過ぎん…………私はただ主命に従うのみ、その過程で邪魔になるものを排除するだけだ」

 

「それは……たとえ私や、ユフィや、皇帝陛下であっても…………か?」

 

「主の安寧のためならば、誰であれ…………たとえ神であれ、私は排除する…………それだけです」

 

ルルーシュとナナリーの命令を達成すること…………。

 

「コーネリア様やユーフェミア様は我が主にとても良くしてくださいました…………できることなら、斬りたくはないのです………」

 

2人の敵を切り刻むこと…………だ。

 

それくらいしか能の無い男だが、それでも、あの2人のそばにいることができるのだ。

 

世界の外側が、私をこの世界に押し込めた、故に、私は存在そのものが世界のどこかにある限り、この世界の極点に位置する。

 

極点とは、『中心』であり、『外周』だ。

 

望めば、望むものを、望むままに…………とは、あの白い神の言葉だったか。

 

ハッ…………なんて恵まれた環境だことか。

 

…………だからこそ、苦労をかけてさせてきたルルーシュとナナリーの苦悩を、その半分でも請け負えたなら。

 

私は、きっと2人に相応しい騎士となれるはずだ。

 

そのために、まずは内情を知る味方を増やし、今まで以上に地盤を強く固めることが肝心だ。

 

アッシュフォードの当主および次期当主は味方であり、とても従順な有力貴族だ。

 

C.C.は2人の友人として密接な関係にあり、貴重な私と同等の存在だ。

 

クレアは内情を知る転生者であるがルルーシュしか眼中にない、珍しい人種だが一応は同類…………なのか……?

 

ユーフェミアは…………味方ではあるが、私とナナリーとの3人での絡みになると軽く修羅場になるし…………犯されかけるし………ダレカタスケテー。

 

と、欲している人材はほぼほぼ揃っているが、私の方針に異議を唱えられる人物が1人もいない。

 

いるとすれば……………ここまで漏らしておいて今更言うまでも無いか。

 

「…………ふむ………クレア」

 

「なに?」

 

「そろそろだと思うのだが…………どうだ?」

 

「…………あんた、本当に予知能力とか持ってないわよね?」

 

「あるにはあるが、所詮経験則だ、お前ほどじゃないさ」

 

隣に座るクレアと軽く言葉を交わしながら、確信を得た。

 

私がこれから起こす行動が、クレアの【見た】景色………これから起こる事柄と同じだと。

 

すなわち、確定した未来と同じ道筋を辿れるのだと。

 

「…………しかし、コーネリア様が私の真意を知りたいと思うなら、この会議が終わった後にお教え致しましょう

 

「本当か?………冗談ではないな?」

 

「えぇ、なんなら、ユーフェミア様も同席していただきましょうか?

 

「妹も?なぜだ?知る必要があるのか?」

 

「ユーフェミア様にはすでにお伝えしているためです」

 

「貴公!ユーフェミア様には伝えていたのになぜコーネリア様には伝えなかった!」

 

「…………ユーフェミア様との談笑の中で誤ってこぼしてしまったからだ」

 

言った瞬間、会議室中の者たちがポカンとした顔で私を見つめてきた。

 

「…………き、貴公が?」

 

「秘密を漏らした……?」

 

「…………あぁそうだ!私ともあろうものが!よもや談笑の中で気が緩んでしまうなど!!!」

 

思い出したらムカムカしてきた!!くっそ!クッッソッ!!

 

あの雰囲気と胸の前で秘密を隠し通せるものか!!普通に無理だろう!?

 

「一生涯における不覚において三番目くらいの不覚を取ったが…………まあそれはもう良いのだ、今は……コーネリア様のお返事を待つのみ」

 

「…………私だけにしか理由を言わないというのか?」

 

「えぇ」

 

「ダールトンやギルフォードには教えられない理由なのか?」

 

「先方の『信頼』を裏切れませんので」

 

コーネリアの言葉に短く返し、黙る。

 

コーネリアはダールトンと小声で何か話し始めた。

 

さぁて、決まった答えが返って来るまで、如何程の時間がかかるのやら………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ダールトン、どう思う?」

 

「……頑なに訳を話さなかったカーライル卿の最大にして最後の譲歩、と取るべきかと」

 

「私としては一定以上の幹部へも通達しておきたいのだが………これ以上は望み薄か?」

 

「我々が迫っては難しいでしょう、あるとすれば、それはコーネリア様次第かと……」

 

「ツキトの甘さを突けと?」

 

「身内、特に幼少期から繋がりのある人物には人一倍甘い面があるのは誰の目にも明らかです、ここはコーネリア様が適任かと」

 

「…………私の妹に頼むのはどうだ?ユーフェミアに泣き真似をしてもらえばツキトは必ず口を割る、さらに言えば、ツキトは絶対にユーフェミアに暴行を加えたりしない、どうだ?」

 

「洞察力に優れるカーライル卿を騙しきれるとは思えません……カーライル卿は日本エリアにおいて実質的な政治権力と現状の2/3ほどの軍部の指示を得ており、強硬策は支持派の反乱を招く可能性があり分が悪いかと」

 

「手が早いにもほどがあろう……残る手は正面からしかないのか?」

 

「そうなりますが…………そもそも、我々にまで伝える必要は薄いかと考えます」

 

「そうか?情報はなるべく共有したほうがよいだろう?騎士団がどうかは知らんが、今の関係を続けていくならあちらとの協議にも出席する必要がある」

 

「正しい考えにございます、しかし、カーライル卿にとって情報を渡す行為は苦渋の決断であると考えます、カーライル卿は非常に慎重に行動する人物………コーネリア様個人への情報公開に踏み切ったのも、幼少期から付き合いがあり信頼できると踏んだからでしょう」

 

「では、私がツキトから情報をみらったとして、それを伝えるのは控えた方が良いと?」

 

「カーライル卿を怖れぬならば」

 

「いや、怖いというか…………嫌われたくないというか……」

 

「あぁ………コーネリア様はカーライル卿の『姉上』でありました…………兄弟姉妹に嫌われたくないというお心は理解しております」

 

「まあ私が勝手にそう思ってるだけだし、立場上それも難しくあるのだが…………できればもっと頼って欲しいし、茶会とかもしたい……」

 

「………ユーフェミア様と一緒に誘われてはいかがでしょうか?カーライル卿もお二人の誘いとあれば断ることはないでしょう」

 

「う、うむ、今度話してみよう」

 

「…………して、如何なさいましょうか?」

 

「ん?……あ、あぁ……ツキトからの情報は私が受け取るが、ダールトンやギルフォード含めた全ての者に一切を通達せず、私と妹、ツキトのみの間での情報共有を行うものと考えているが…………伝えないことで混乱が生じるかもしれん」

 

「そうでしょう、なのでもしもの時は…………」

 

「………………その時は、な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で?あんたにしては珍しく私に確認をとってきた訳だけど、どういう風の吹き回しかしら?」

 

「慎重を期す必要があったからだ、御二方についての情報は本来なら知り得た瞬間に首を刎ね飛ばすレベルなのだ……いかに旧知の仲であるコーネリアとはいえ、裏切らぬ保証はない」

 

「コーネリア……様は裏切らないわよ、あんたが余程こっ酷く捨てたりしない限りはね…………でも、皇帝の座を狙ってたらどうするつもりだったの?」

 

「妹を差し置いてか?シスコンのコーネリアが?………ありえん、私が御二方に剣を向けることくらいありえん」

 

「自信あるのはいいけど、そういうところこそ未来予知のできる私に聞くべきじゃないの?」

 

「チートやバグに頼るのはどうしてもクリアできないステージがあるときだけと決めている」

 

「魔◯村とか?」

 

「フロ◯のアクションRPG……は普通にクリアできるな、フラグ管理が乙女ゲーム並みに面倒だが」

 

「無双ゲームとか好きなの?」

 

「やったことはないが………ベル◯ルク無双はやってみたいと思ったな」

 

「ゼ◯伝の無双は?」

 

「申し訳ないがゼ◯伝を知らないので金を払ってまで買うほどのものなのか正直わからん」

 

「じゃあ、ブ◯ボは?」

 

「糞3を周回して飽きが出たら買ってみようと思う」

 

「…………どこでプレイしてんの?」

 

「クラブハウスの自室だが?」

 

「よくバレないわねあんた……」

 

「wiki見ながら3周して、飽きたからRTAやってたな」

 

「へー、タイムは?」

 

「再走に再走を重ね…………結局走りきれなかった」

 

「最後まで走りなさいよ……」

 

「祭祀場の木のショートカットのとこができなくて詰んだのだ……」

 

「意外とアクションゲームが苦手なのね……」

 

「クレアはどうなんだ?得意なゲームとかあるのか?」

 

「育成系のゲームかしら、農場経営のゲームとかハマったわね」

 

「競馬のゲームとかか?」

 

「なんでここで競馬のゲームなのよ……やったことないわよ、ていうか知らなかったんだけど」

 

「気にするな、アレは……ちょっとした闇だからな……………厳選とか」

 

「あぁ…………理解したわ」

 

「育成ゲームの闇は深い…………ポ◯モンなんて本当に……」

 

「ぶっちゃけ面倒よね………ソーシャルゲームのガチャと違ってお金がかからないだけマシかしら?」

 

「時は金なりと言うぞ」

 

「…………結局闇に変わりはないようね」

 

 




ゼ◯伝に関しては緑の服の人がマスターソードとかいう剣で世界に光を取り戻すことくらいしか知りません。

でもゼルダ姫は最高にシコいので検索はします



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そして、【戦い】の準備を

「………では、お聞かせ願いましょうか、コーネリア様」

 

数分の沈黙…………コーネリアとダールトンの相談が終わったころを見計らい、ツキトは給仕の出した紅茶を一口飲み、コーネリアへと問いかけた。

 

「わかった………答える前にいくつか質問がある、良いか?」

 

「もちろんです」

 

ツキトの返しを予期していたコーネリアはそのまま言葉を続ける。

 

質問を質問で返す、というのをツキト相手にできるコーネリアの胆力は凄まじいのだが、本人はそうは思っていない様子。

 

「まず第一に、私以外でその秘密を知る人物はいるのか?」

 

「先ほど申し上げました通りユーフェミア様のみですね」

 

「他には?」

 

「誰も…………そもそもユーフェミア様にも伝える予定はなかったのですよ?機を見計らってまずはコーネリア様にお話しする予定でした…………やはりユーフェミア様の洞察力は幼少の頃から…………いえ、なんでも」

 

「む……そうであったか、しかし今言うのもなんだが…………らしくないな?お前は昔からずっと慎重を期すというか…………実力に合わない、どこか臆病な部分があったはずだ」

 

「………………数年ぶりの再会というものもあり、気が緩んでしまった私の修練不足です………マリアンヌ様が知れば失笑が返って来るでしょう……」

 

「…………」

 

ツキトの言葉にコーネリアは1人夢想する、あの優しく強いマリアンヌがツキトに言葉を投げかける場面を。

 

『あら?あなた、秘密も守れないの?』

 

冷笑、と言うべきだろうか、コーネリアの想像のマリアンヌは口元だけ笑みを作り、声音も普段通り、発した言葉も茶化すような感じの穏やかなものであったが、醸し出す空気は死んでおり、圧倒されるような威圧感で地面に縫い付けられるような感覚がした。

 

2度目の生を受け、初恋を抱き、今は敬虔な信徒が神を信仰するような目でマリアンヌを見るツキトは、コーネリアの想像の中ではいつもの毅然とした振る舞いはなく、ただ泣いて縋り付き赦しを乞う赤子のような姿だった。

 

事実、ツキトは最初の頃こそ原作通りのマリアンヌ(吐き気を催す邪悪)と思い込んでいたものの、まるで違う人格であると認識してからはルルーシュとナナリーに次ぐ優先的な保護対象に入れている。

 

さらに言えば、ナナリーと結婚した後には自身の義母ともなる人物であり、また、長年追い求め、終ぞ掴むことができなかった『剣』を知っているかも知れない人物。

 

ツキトは、自身の中身の年齢が100歳超えであれ10000歳超えであれ、剣について多くを知る知恵者であるなら恥も外見も見栄も誇りも肉体さえも厭わずに教えを乞いたいという気持ちがある。

 

より強き者、より賢い者に師事するのは当然であるからだ。

 

「…………それはそれで美味しいな」

 

「え“っっ!?」

 

「な、なんでも!なんでもございませんよ!?」

 

「そ、そうか……?」

 

ツキトが思わず溢した一言にコーネリアは若干の寒気を感じつつ、聞かなかったことにしようと思った。

 

コーネリアの隣に座るギルフォードは一瞬だけ仲間を見るような視線をツキトに向けたが、コーネリアの手前無様な真似はできないため真剣な表情を決め込んだ。

 

ツキトの隣に座るクレアはふつうにため息を吐いていた。

 

「で、では最後になるが………黒の騎士団のゼロは、お前のその秘密が私に知れ渡ってしまっても大丈夫なのか?」

 

「当初の予定では危険でありました…………しかし、状況が変わった……いえ、今の世界の情勢や、ブリタニアの内部腐敗を見れば、コーネリア様に事情を話す程度のリスクは返ってリターンにすらなるものと、私とゼロは考えています」

 

「そう、か………(中華連邦との衝突が大きく、ツキトはすでに軍上層部と内密に侵攻作戦を計画中と聞く、本国も中華連邦に対する圧力を強めるためユーロブリタニア方面軍の戦力を国境沿いへと展開しつつある………特派のランスロットの量産型機の見当がついたばかりなのに、すでに量産許可にサインがあるのも、戦争の早期決着を目指しつつ武勲を得るのが狙いか……)」

 

「(特派のランスロットはたとえ新兵であっても熟練兵のグロースターすら抑え込める圧倒的な性能がある、量産機とはいえ、あのランスロットと同等の性能であるならば、中華連邦といえど第五世代では長くは持たない………高性能量産機による短期決戦ともなれば、興味薄な陛下と言えど計画に携わったカーライル卿の名くらいは耳に入るはず……)」

 

「(ともすれば、アスプルンド伯爵と共に受勲にもなりましょう、カーライル卿はなぜか陛下に大層気に入られていると聴きます、おそらくそこで何かしらの要求をするものかと)」

 

「(ふむ……ありえる)」

 

ランスロットを基にした新鋭量産機、ヴィンセントの試作量産段階の生産許可へのサインは、無論、ツキトが書いた。

 

中華連邦のKMFに対抗するには、ランスロットと同等の量産機の生産が必要不可欠……それがツキトの出した決断だった。

 

元よりデータはふんだんにあったのだ、試作機の仮想上のスペックデータもまずまずの出来で、あとは許可さえ降りれば…………という段階で、ツキトがアンドロイドの研究をやらせたため、時期がずれ込み、研究もひと段落ついて気づいた頃には戦争間近だったのである。

 

秘密主義過ぎるツキトが特派のアンドロイド研究について特に口を酸っぱくして内々に進めさせたこともあり、特派の外に届かなかったのであるが………どこか狙ったかのようなタイミングであったことがコーネリアたちを混乱させ、変な誤解を生んだ。

 

「ところで」

 

コーネリアの一声で場の空気が変わったように感じたツキトは、妙に聡いユーフェミアの眠りの名探偵もビックリな鋭いツッコミが来るものと考え、思わず身構えた。

 

「特派のランスロット、あれの量産試作型の生産について、お前が許可を出していたんだな」

 

「いかに中華連邦相手とはいえ、KMFは現状のスザクのランスロット一機で十分!…………などと、世迷言を吐けるほど耄碌はしておりません、性能が高くなったからといって戦争のセオリーは依然変わらず『(物量)』ですので」

 

「万全を期すお前らしい考えだな…………しかし、生産計画には10機とあるが………これではどれ程大きく見積もっても一個中隊規模にしかならんのではないか?返って扱いづらいだろう」

 

指揮経験のあるコーネリアからすれば、大軍を動かす戦争においてたったの一個中隊規模の部隊は邪魔にしかならない存在だった。

 

中途半端な数ゆえに前線を張れず、後方におけるほど少なくないため、結局のところは物資輸送の護衛くらいしかできない……というのがコーネリアの考えであった。

 

もちろん、その部隊が自身の親衛隊であるグラストンナイツやギルフォードが入っているのであればまた話は変わるし、指揮する人間が変われば……例えばダールトンであればそこらの将と違って有効な運用が可能なはずだ。

 

コーネリアの懸念はまったくもってその通りで、試作型の量産機といえど試験運用するにはいささか数が足りないのだ。

 

その真意をツキトに問おうとしたが…………。

 

「10機で十分なのですよコーネリア様」

 

「たったの10機でか?……本当か?」

 

「はい、我がブリタニアはユートピアとの大戦に勝利しました、我らが祖、真なるブリテン人たちの……今は系譜途絶えし女王陛下と、偉大なる初代皇帝、ブリタニア公リカルド一世陛下の、数百年来の大悲願でありました!……それを、よもや私のような…………リカルド一世陛下と比べれば、吹けば飛ぶような軟弱な羽虫でしかないような私が、その大悲願の一助になることができたなど…………夢のようです」

 

ツキトは、演説の時もかくやというほどに興奮した様子で語る。

 

女王陛下とリカルド公の名前を言う時のその表情は、伝説の中にいる英雄や勇者の名を嬉々として口にする子供のように、大きな憧れを含んでいた。

 

だが同時に…………自身にその資格がないことを理解し、心のうちに飲み込んでなお、憧れを捨てきれない自身への落胆がその優しげと評されるツリ目気味の左目に映っていた。

 

そんなツキトを痛々しいと感じるコーネリアだが、ツキトが『しかし……』と言葉を続けたことで意識を平静に戻した。

 

「しかし…………勝利はしました、ブリテン島奪還も住民感情などはさて置き、問題なくすんだと言えましょう…………えぇ、そこまではよいのです、ここからです、いえ、『終戦と同時に、現在進行形で』国力が減り続けており、現在は国力を数年の戦争と戦後処理と1年にも満たぬ復興期間でおおよそ4割と消し飛ばしたことは覆りません」

 

「私はこっちにいたから参列できずいささか暇であったが……そうか、4割もか…………4割だとォ!?」

 

思いっきり立ち上がったことによってコーネリアの椅子が2mほど後方に飛んでいき、ガランガランと音を立てて転がる。

 

ダールトンに驚きにより『4……4割……』とうわ言のように呟いている。

 

ツキトの表情は硬い無表情であり汗一つ流さない冷静さが合間見れるが、この場面での無表情はその深刻さを伝えるには十分過ぎた。

 

「数百のKMFを失い、膠着した時期には虎の子である本国の砲兵の教導部隊(エリート)や減少しつつあった戦車部隊の投入、さらには列車砲なんて骨董品まで引っ張り出して…………ブリタニアでなければ国が死んでましたね」

 

「初期から中期にかけての攻めが甘かったのが原因と聞いたが……それがこのような結果を生むとは………」

 

頭を抱えつつ、給仕が戻した椅子に再度座るコーネリア、その心労は計り知れない。

 

最初期の侵攻プランの杜撰さが、知らぬ間にブリタニアにとって泥沼とも言える戦争の幕開けとなっていた。

 

KMFの平押しと空爆という代わり映えしない戦術が、堅牢な要塞や塹壕による防御、数々のトラップ、徹底した遅滞戦術に自爆攻撃に悩まされることになった。

 

「見返して見れば、兵を率いる将軍は軒並み20代、30代の少佐や中佐がほとんど、連隊や師団の経験もないものばかりではあるが指揮の高い若者で構成されたユーロ・ブリタニア、かと思えば、我々ブリタニア側は経験のない本国の年老いた50代、60代の将軍…………勝てたのは奇跡か偶然か……」

 

「……なんとも言えんな」

 

ツキトは溜息を吐き、コーネリアも呆れたように肩を竦めた。

 

本国の将軍、と言えば聞こえはいいが、実際は戦争経験のない処女であり、親衛隊と並ぶ『見た目だけ、名前だけは強そう』の典型だ。

 

そもそも、本国の帝都に上陸される時点で国家存亡の危機なので、お飾りでも良いと考えているのかもしれないが。

 

「とにかく、国力が衰退した今、一刻も早い回復こそ重要、となれば、サザーランドやグロースターなどの現行主力KMFの生産が急がれる中、試作量産型の大々的な量産と試験運用などは望ましくないでしょう」

 

「確かにそうだろう、だがかのランスロットと同等のスペックのKMFであるならばその限りではないはずだ」

 

「と、おっしゃいますと?」

 

「特派のランスロットの性能は私自身よくわかっているつもりだし、将兵の中でもアレの量産型の生産・配備を望む者や支持する者も多い、たとえ試作と言えど量産の目処が立っているなら、思い切って100機、もしくは帝都や中華連邦に近いエリア、研究や開発などの重要エリアに最低限防衛用に20機ずつは配備できるように整えてもよかったのではないか?」

 

ツキトは内心で身震いする。

 

コーネリアの頭の回転は時にルルーシュすら凌ぐが、それが本人の実力と経験に裏打ちされたものだと知ってはいたが、それを目にする機会がこれまでになかった。

 

だが実際に目にすればどうか?………まさしく経験豊富な歴戦の将であった。

 

その知はダールトンほどではないのだろうが、カリスマとKMFの実力は確かであり、彼女についていくと語る兵士の瞳の輝きが、彼女が人を惹きつける戦士であると気づかせてくれる。

 

しかし、とツキトは思い留まり言葉を選んで口を開く。

 

甘美な妄想はそこまでにしないとコーネリアの顔がゆがんでしまうからだ。

 

「それはまだ早計かと考えます、正式な量産機ならばともかく、試作量産型では信頼性という点においてグラスゴーにも劣り、10機の限定生産であるからこそ許可が下りたようなものなのです」

 

「一刻も早い国力の回復に努めると考えるなら、多少問題があろうと高性能な量産機を大量に配備すべきではないのか?お前が常々気にしている帝国臣民へのアピールにもなろう」

 

『なんでこんなに量産に乗り気なんだよ……』と内心呟き、顔に出さぬように辟易とした。

 

ランスロットの性能は開発者であるロイドや、パイロットであるスザク、一兵士であるツキト、敵対者として戦闘を経験した藤堂及び四聖剣、その脅威を間近で感じたルルーシュ、黒の騎士団の技術者ラクシャータ、ブリタニア軍日本エリア総督のコーネリアや同副総督ユーフェミア。

 

日本エリアの臣民はランスロットの活躍ぶりに『奇跡の藤堂』や『黒の騎士団』同様に想いを抱いている、かつての日本を取り戻す希望の光として。

 

さらに言えば本国の技術者たちや、かつてロイドの研究を敬遠した者、途中で見捨てた者までも興味を持った。

 

無論だが、洗練されたデザインや特殊兵装、基本を抑えたオーソドックスながら革新的機構など、ミリオタ的な観点から興味を抱いた者も少なくない。

 

だからこそ、ツキトは『今後の戦争においては強力なKMFが必要不可欠』と結論出しながら、『特別な想いが寄せられているランスロットを安易に量産すべきではない』とも考えていた。

 

政治的な……と言えば聞こえはいいが、要は『ランスロット神話』のようなものを民衆に植えつけようという魂胆がツキトにあったからだ。

 

そのランスロットの、いかに量産型と言えども、ランスロットという名前が付いた機体が撃破されれば軍も臣民も士気が下がってしまうのだ。

 

ブリタニアにとってランスロットとは、まさしくガンダ◯のようなものなのだ。

 

「工業中心のエリアでも生産は40機が限界なのです、ましてや今からこのプランを伝えても生産開始は半年後にずれ込みます」

 

「40機も作れるならその方が良いのではないか?」

 

「現地の作業員への教育と生産ラインの確立に『最高の条件が重なれば』半年後に生産できる『かもしれない』という程度なのです……それだけの時間があれば、たとえ生産コストが高くつくグロースターでも60機は作れます、同じ時間で考えれば新型は20機が生産可能でしょう」

 

「では、そんな時間がかかる新型をどこで作るつもりだったんだ?本国か?それとも中東のエリアか?」

 

「日本エリアで生産します」

 

「…………なるほど、つまりすでに日本エリア……キョウトにも話は通っているのか?」

 

「えぇ、彼らの協力があれば10機程度の生産はすぐにでも終わるでしょう、長く見積もって……およそ4ヶ月、調整込みで半年から7ヶ月でしょう」

 

「(すべて計算づくか……しかしよく無駄話に付き合ってくれるな、時間稼ぎとは思っていないのか?それともわざとか?まさか別の思惑が……?)」

 

「(カーライル卿自身にとっても重要な案件だからでは?ランスロットのパイロットでユーフェミア様の騎士である枢木卿とは所謂親友であるようですし)」

 

「それから…………正直なところを申し上げますと、量産型とはいえスペックが高すぎてデータをとるのに適当なパイロットがそれほどいないのです」

 

「それほどにか?」

 

「はい、軍内部の兵士の情報を集め調査させたところ、適性がありそうな者は14名、実際に戦闘行動が取れそうなのは内4名になり………10機発注した後で言うのもなんですが、予備含め6機でも事足りる状況なのです」

 

「それは…………たしかに、使いこなせなければ文鎮と変わらんだろう、しかしだ、なにもそこまで厳選することもあるまい?」

 

「コーネリア様、戦争は間近なのです、なのにブリタニア軍の戦力は十分とは気が違っても言えない状態です…………KMFもそうですが、何もかもが足りなすぎるのです」

 

ツキトはそう言って、これまで横で静かに座っていたクレアに目配せをする。

 

クレアは資料の束を取り出すとダールトンに手渡し、コーネリアとギルフォードに流すように伝えた。

 

資料を受け取り流し読みながらコーネリアは呟いた。

 

「…………やってくれるではないか」

 

「か、カーライル卿、これは……真実かね?」

 

「無論だ、私が大金を叩いてユーロピアの復興のついでに調査と回収をさせ、軍内部の信頼できる第三者調査機関に解析させた…………偽りなどない」

 

「だ、だが、報告には何も……もしや!」

 

「現地調査員としてブリタニア軍が選別した者はその大半が中華連邦の手の者、おそらくはアジア人顔の見分けがつかなかったのでしょう」

 

「ツキト、この資料はいつ上がった?」

 

「3日ほど前です、私は外出中でしたので部下にまとめさせました」

 

「……ふざけおって…………!」

 

ふつふつと湧き上がる怒りに手に力が篭る。

 

シワがよってクシャクシャになった資料に載っていたのはユーロピアに散乱する破棄されたKMFの調査報告の内容だった。

 

そこにはブリタニア製KMFとユーロピア製KMFの総数が地域ごとに分けて表記されていた。

 

その中に、コーネリアの怒りの原因である中華連邦製KMFの総数も載っていた。

 

「VIPが亡命と引き換えに大量に買い取ったのでしょう、塗装と追加の装甲で今までわからなかったようです」

 

「現地調査員を任命した者はどうした?」

 

「私の手の者に拘束を命じました、亡命していなければ、今から72時間以内に吐かせます」

 

「輸送ルートの調査と型式が載っていないが……特定はまだなのか?」

 

「魔改造によってパーツがごちゃごちゃ、砲撃によって損耗が激しい状態でして……解析を急がせますが今しばらくお待ちいただきたい」

 

「急いでくれ、結果によっては本国にKMFの生産をフルでやってもらわなければならんからな」

 

「承知いたしました…………ところで、残業代の代わりに出前を取ってもよろしいでしょうか?公務員とは言え残業代なしではモチベーションも下がります」

 

「ステーキでもなんでも経費で落とさせよう、その代わりに3日以内に資料をまとめろ、任命者の報告書も一緒にな」

 

「はい、現地調査員任命者の報告書とともに提出いたします」

 

「ダールトン、中華連邦内部に送り込んだ密偵は?」

 

「連絡がつかない状態にあります、通信機材を設置できないのか、すでに全滅してしまったのか……」

 

「…………そうか、わかった…………ツキト、中華連邦の調査を行いたい」

 

「秘密裏に、と言うことであれば私の手の者が現地におります」

 

「でかした、ではダールトンが送り込んだ密偵と協力して中華連邦の軍に関しての情報を集中的に調査させろ」

 

「会議の後すぐに命令を送ります」

 

「それと、先の新型KMFだが、私名義でもう10機分を追加生産させろ、テストついでにグラストンナイツに渡すことにする」

 

「よろしいのですか?グラストンナイツのグロースターは特注と聞きますが」

 

「新型KMFが生産されるというのに、いつまでもグロースターでは格好がつかんだろう?」

 

「わかりました、後でクレアに書類を持たせますのでサインの用意をお願いします」

 

パッパッパッ、と本題すら忘れて決まっていく、今後の動き。

 

中華連邦を徹底的にマークするための一手、二手を投じていくコーネリア。

 

今後の戦況に対応するためにテストを兼ねた実戦まで請け負うと、コーネリアは大胆にも宣言したことに驚くツキト。

 

通常、親衛隊に類する部隊に実験目的で試作品を使わせるのは愚も愚だ。

 

しかしランスロットから見てグロースターは二世代も型落ちしたKMF、世間の目、民衆の心は正直なもので、中古品より新品を好むものだ。

 

中古の型落ちよりも、新品新型最新鋭のほうがウケが良いに決まっているのだ。

 

そういう意図であれば、ツキトはうなづくより他の選択肢はなくなるし、何より、守護の代名詞たる騎士であるツキトに対し『民』という言葉は一般のそれより重く受け止めるべきことゆえに、イエス以外の答えは即刻除外した。

 

コーネリアもツキトが自分の提案を承諾する以外の選択はとらないと確信を持ったからこそ言えた、なぜか?それがこれまでの行動と長い付き合いというアドバンテージゆえだろう。

 

互いが互いをよく知るからこそ、妥協できる着地点を用意できたとも取れるし、コーネリアの作戦勝ちとも取れるだろう。

 

一応、どう転ぼうが、誰も損はしなかったことを明記しておく。

 

あらかた指示を出し終え落ち着いたところで、ようやくコーネリアが本題へと舵を切った。

 

「それでツキト、だいぶ脇道に逸れつつ大事な案件の対処を終えたところなんだが……お前の提案を受けようと思う」

 

「コーネリア様!」

 

「ギルフォード、お前の心配はわかる、だがそれでも私は知る必要があるのだ、ツキトと黒の騎士団の真意を」

 

美しい双眼でコーネリアはツキトを射抜くように見つめた。

 

対するツキトは、コーネリアの言葉と視線に笑みをもって返し、ニコニコと返事をした。

 

「それは素晴らしい、コーネリア様の英断に感謝を、私はようやく、心強い味方を得られました」

 

ツキトの表情と言葉に、一抹の不安を抱えるコーネリア。

 

吉と出るか凶と出るか…………少なくとも吉ではないのではないか、そう思うコーネリアであった。



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その『再開』に『祝福』を!『下郎』には『呪詛』を!

大変長らくお待たせいたしました。

2話連続投稿になります。

作風が変わっているかも(?)知れませんが、一貫して変わらないものは確かにあります。

それは、ツキトは狂人ということです(ゲス顔)


なぜこうも面倒なのか。

 

……とは死んでも口に出すまい、特に今の状況では。

 

コーネリアの説得には難儀した、答えを聞こうとすればなぜか異様に警戒され、KMFの量産計画についての話にずらされた挙句、秘蔵の調査書類まで出さざるを得なかったのだから。

 

あの調査書類は今後の切り札の1枚として中華連邦との交渉、もしくは戦争の口実としてとっておきたかったものなのだ。

 

それを、コーネリアが勘の良さか経験則かは知らんが、私の提案に妙に警戒心を抱かれてしまったゆえに晒さなければならなかったのは実に不愉快だ。

 

だが………私にとって姉代わりであるコーネリアが、信頼を得ていると思っていたコーネリアが、私を怪しく思い警戒して私を敵になる者かどうかを試そうとしたことに関しては、何やら父性的な感情から嬉しさがこみ上げてきたな。

 

しかし、ユーロピアのKMFの残骸、この切り札が使いにくくなったのは変わらない、また別の機会を伺うとしよう。

 

さて、私の失態についてはここまでにして、現状を説明しよう。

 

会議から1週間、約束通りコーネリアにのみ秘密を教えるため、厳重な護衛車両を引き連れてとある場所に来ていた。

 

コーネリアと私の2人でその場所…………アッシュフォード学園正門の前に立った。

 

「コーネリア様、ここで護衛を待機させていただきたいのですが、よろしいですか?」

 

「……わかった、お前たちはここで待機だ、くれぐれも学生を怖がらせるなよ、ギルフォード」

 

「はっ!」

 

隣に立つギルフォードにコーネリアはそう声をかけた。

 

同じように私も後ろで整列している猟犬部隊に声をかける。

 

「祝日とはいえ部活動中の生徒も多い、最近は不審者も増えていると聞く、警戒を怠るな」

 

「「「「はっ!お任せくださいカーライル様!」」」」

 

「う、うむ……」

 

なぜだろうか?アンドロイドの暴走事件以来、彼らのオーラというか気というか、そういうものを強く感じるようになった。

 

やる気を出してくれているのだろうか?だとしたらこの上なく嬉しいことだ、士気が高いと動かしやすくて良い。

 

先も言ったように今日は祝日、ブリタニアの建国云々とはカスリもしないため式典も何もない、日々働く臣民のための休日だ。

 

ゆえに、学園内に生徒の姿は少なく、水泳部や陸上部、ナナリーの属する高等部フェンシング部と中等部フェンシング部の部員がいると言う程度だ。

 

そんな彼らもグラウンドやプール、体育館にて練習を行うため、私とコーネリアは2人だけで堂々と校庭を歩くことができた。

 

コーネリアは私の隣で校庭を歩きながら遠くに見えるグラウンドのサッカー部の練習をボンヤリと眺めていた。

 

歩みを遅くしつつコーネリアに合わせ、同じようにサッカー部の練習に目をやる。

 

不意に、コーネリアが口を開いた。

 

「まさか学校とは思わなかったぞ」

 

「私の最も信頼する者が目を光らせている場所ですので、それに、秘密の集会には御誂え向きかと」

 

信頼する者とは、無論だが咲世子のことだ。

 

皇族や親友のスザクを除けば、最も信頼しているのは咲世子において他にいない。

 

背中の心配をしなくて良い、というのは実に良い、咲世子が本当に味方でよかった。

 

敵だったら詰んでた。

 

しばらく歩いて行くと、見慣れた建物が見えてきた。

 

ルルーシュとナナリーと咲世子、そして私……あと居候のC.C.が住む日本エリアの実家、クラブハウスだ。

 

一応、中に入る前に咲世子に確認を取るか。

 

「咲世子」

 

「はい」

 

「んな!?ど、どこから出た!?」

 

「ずっと背後から見ていましたよ?」

 

そう言って慌てるコーネリアを一瞥する、かなり狼狽えているのがわかる。

 

「ま、まったくわからんかった…………それなりに勘は鋭い方だと思っていたんだが……」

 

「咲世子がデタラメなだけでしょう、そう気にすることでもありません」

 

咲世子の完璧な尾行に気がつくことができず、少し気落ちするコーネリアだったが、すぐに持ち直し。

 

「だが、ツキトの情報網の広さと正確さの一端を知れた気がする、これほどの隠密が1人いれば、耳の早さにも合点がいく」

 

と、納得したようにそう呟くコーネリア。

 

しかし甘いぞコーネリア、今や私の情報網は『網』などという小さなモノに収まらん。

 

『網』は所詮、『網』でしかない、釣竿やモリより広い範囲、大きな情報を釣り上げることは出来よう。

 

だが、海にも等しい情報の中からわざわざバケツで掬うようでは、あまりに効率が悪い。

 

ゆえに…………いや、今更言うまでもないだろう。

 

私は世界の全てを見聞きできる、私の協力者たちが……言うなれば信者がいる限り、私は世界を見通せる。

 

まぁ、まだ信者も足りないし通信機材もまちまちだ、本格的な稼働はもっと先になるだろう。

 

「咲世子には助けられていますから…………私の秘密の漏えいを防ぐ役割として」

 

「それは…………」

 

「先に言っておきましょう」

 

クラブハウスの扉を開けつつ、咲世子に目配せをしながら話す。

 

「情報が漏れた時は、あなたとあなたの妹の命で償っていただきます」

 

「それほどか……それほどに隠しておきたいことなのか」

 

「これより晒すは秘中の秘、あなたにとっての深淵と言えましょう…………深淵を覗く行為は、つまり深淵に覗かれ正気を失する覚悟が…………それがお有りだと言うのなら、扉の先へどうぞ」

 

今更何を……そんな気持ちで答えつつ、右手はそっと剣に触れる。

 

もしもの場合は…………肥料にでもなってもらおうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツキトに案内されたクラブハウスなる建物、その入り口の扉に手をかける。

 

生まれてこのかた感じたことのない濃厚な殺意……いや、もはや鯉口をカチカチと鳴らす音を背中越しに感じる。

 

ツキトがこれほどまでに私に対し警戒心を露わにしているのは、これまでの人生で初めてだ。

 

嬉しくない初めてなどあったのだな、などと考えながらもう一方の女に注意を向ける。

 

篠崎咲世子という女…………私もそれなりに隠密に対しての知識はあったし、派閥争い絡みで私やユフィを狙ってきた刺客は一人で返り討ちにしてきた。

 

ツキトほどではない、マリアンヌ様などもってのほかではあるが、私にも剣の覚えはある。

 

完全にツキトの真似事でしかなかった稚拙な剣術だが、それでも刺客たちには有効だった。

 

まだ浅いにしろ実戦の経験は十分にあると思っているし、剣の腕も刺客程度ならスポンジもかくやと言うくらいに穴だらけにできると自負している。

 

そんな私の脳が警鐘を鳴らしている。

 

篠崎咲世子は、マズイ、と。

 

他の刺客のように闇に紛れ急所を狙うやつらは、暗殺に失敗しその姿が暴露すればたちまち動揺して斬り殺される憐れな連中だ……が、あの女は違う。

 

最初こそ姿を隠していたが、それは正面切っての戦闘が苦手だからではなく、ただ監視に徹していただけ、ツキトが呼べば瞬きの間をおいて隣に現れたのがその証拠。

 

姿を隠す必要がなく、必要があれば姿を晒した状態でもお前を殺せる、と言わんばかりの態度と、何ひとつ疑問を抱かないツキトの様子に、私は心臓が1/2になりそうだ。

 

だってそうだろう?明らかに私より上の実力者が確実に仕留められる距離にいる。

 

しかも、私は背を向けている…………どうあがいても勝ち目は薄い。

 

とりあえず、このドアを開けよう。

 

篠崎咲世子がどういう人間かは全く知らんが、ツキトは短気な性格をしている、ツキトが殺害命令を出せば篠崎咲世子はすぐに動くだろう。

 

汗が染み込んで背中に服が張り付いている感覚を覚えながら、意を決してドアを開く。

 

「あっ、コーネリア様が来たよ、ルルーシュ」

 

「え!?……そんな……予定より早いぞ!?」

 

「まずはお湯でカップを温めて………」

 

そして私は10年越しに異母兄妹たちと再会する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

入るや否や、亡き妹の面影を感じる少女に手を引かれイスに座らせられた。

 

かと思うと、亡き弟が紅茶を運んできた…………良い香りだ、きっと高い茶葉を使っているのだろう。

 

いやそうじゃない、そうじゃないぞ私……混乱を極める脳を落ち着かせるため、こめかみを軽くマッサージしていると、私服姿の枢木がクッキーが盛り付けられた大皿をテーブルに運んできた。

 

…………枢木の意外な一面を知った気分だ。

 

いや違う、違わないがとにかく今は違うんだ。

 

「ど、どうされたのでしょうか?」

 

「わからん……紅茶はうまく淹れられたと思うのだが………」

 

「僕が作ったクッキーの形がいびつだったのかな?」

 

「動物クッキーを作ったのは驚いたが、それはないと思うぞスザク」

 

「驚きで反応が追いついていないだけでは?」

 

いつのまにか席についていた篠崎咲世子の言う通り、驚き過ぎて最早何から突っ込めば良いのか……。

 

「ふむ、咲世子の言うことが当たってそうだな…………では、そうですね、まずは軽く自己紹介からいきましょうか」

 

混乱から回復しそうになった時、ツキトがそう提案し、静かにうなづいた亡き弟の面影を感じる少年が私を見て。

 

「俺はルルーシュ、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、母の名はマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアです」

 

「は、はぁ…………はぁぁああ!?」

 

なn、なん!?なに!?え?え?んぇ!?

 

「る、ルルーシュ?……ルルーシュ!?あの!?」

 

「はい、お久しぶりです姉上、お会いできて嬉しい限りです」

 

「い、いや、でも……ツキト!これは、これはどう言うことだ!?なんだ!?ドッキリ的なあれか?」

 

「私がドッキリでこんな悪趣味なことをすると少しでも思っているなら…………庭に植えたジャガイモの肥料になっていただきますが……」

 

生まれてから一度も見たことない表情で脅された!?

 

「なんかすまん!……いや、いやいや、ツキト?その……どういうことなんだこれは?」

 

「率直に申しまして……ルルーシュ様がお亡くなりになられたと言うのは…………嘘でございます」

 

「う、嘘!?嘘だったのか!?」

 

「はい、真っ赤な嘘でございます」

 

「な、な、な……」

 

じゃ、じゃあ、ルルーシュが死んだのが嘘で、本当は生きていて……ん?

 

「まさか…………まさか!そっちのツキトの婚約者の少女が!?」

 

「はい、ツキトさんの未来のお嫁さん、ナナリー・ヴィ・ブリタニアです……こうして姉妹としてお姉様と再開できて嬉しいです」

 

「あ、あぁ、私も嬉しい……というか驚き過ぎてもう何が何やら…………」

 

あっ!こんなことならナナリーのフェンシングの試合、録画しておくべきだった!くっ……もっと早くに気がついていれば!

 

「疑問に簡単に答えますと…………戦争に乗じて暗殺されかけたので身を隠すために、ブリタニア軍の爆撃に巻き込まれ死んだように偽装していたんです」

 

「暗殺………そうだったな、ルルーシュとナナリーは…………む?おいツキト、ここに枢木がいるということは……」

 

「スザクはルルーシュ様の親友で、義理堅く頼りになる男です、なので事情は最初から知っています」

 

む、むぅ…………枢木やユフィのほうが私より先に知らされていたとは……少し複雑だぞ。

 

「さて……それではルルーシュ様、私はこの辺りで……」

 

「もう行くのか?」

 

「時間が近いものでして」

 

立ち上がるツキトにルルーシュは少し心配そうに聞く、それに対しツキトは何でもないように普通に応える。

 

ルルーシュは「そうか」と言うとそれ以上の追求をやめた。

 

「お、おいツキト、どこに行くんだ?」

 

「実はとある人物と電話会談を予定しておりまして、総督府でその準備をと」

 

「私はどうすればいいんだ?さすがにここまで迎えは呼べぬし……」

 

「お帰りの際は咲世子に申しつけください、そこいらの騎士やテロリスト集団が可哀想になるくらい強いので、護衛としても非常に優秀です」

 

「いいのか?そうするとルルーシュとナナリーが無防備にならんか?」

 

「ここアッシュフォード学園は言ってしまえば私の『庭』です、すでに手は回してありますのでご心配なさらず」

 

そういえばそうだった、ルルーシュとナナリーが今まで通学していて無事だったのだから、当然か。

 

まあ、私がグラウンドで敵対行動を取っていた場合、隠れ潜んでいるツキトの手の者に四方八方から攻撃を受けていたのだろうな………まんまとキルゾーンに誘導されてたわけだ。

 

しかし事情が事情だ、ツキトとしては警戒し過ぎるほどでもまだ足りなかったのだろう。

 

「せっかくの再会なのです、お楽しみください」

 

「ツキトがいなくなるのは寂しいが、仕事なら仕方ないか」

 

「気をつけてくださいね?ツキトさん」

 

「心得ております、ナナリー様」

 

寂しそうな表情を浮かべ心配そうに声を掛けるナナリーにしっかりと笑顔で返事を返すツキト。

 

この光景はどこかで…………そうだ、後宮で見たことがある光景だ。

 

ツキトがアールストレイムだった頃、家の用事で一旦後宮を、ルルーシュとナナリーの元から離れなければならなかった時だったか。

 

私とユフィも遊びにきていた時だったから、よく覚えているな。

 

涙を浮かべてツキトの腰にしがみつき、「イヤイヤ」と離れるのを嫌がるナナリーの姿、あそこまでワガママを言うのは初めて見たから子供ながらあの光景は衝撃だったなぁ。

 

困ったようにオロオロしだすアールストレイム家の迎えの使用人、数人で固まり口に手を当てて「あらあら^〜」なんて言ってツキトとナナリーを微笑ましく見守るヴィ家のメイド達、愉快そうにクスクスと笑うマリアンヌ様、泣いているナナリーをなんかとしろ!とジェスチャーをツキトに送るルルーシュ…………オーガのような表情のツキトの妹。

 

しばらくして……たぶん数十秒ほど経ってからだと思うが……ツキトがゆっくりと(ガッチリホールドされていたため、ナマケモノのように本当にゆっくり)ナナリーの腕を解き、泣きじゃくるナナリーにひざまづいて手を取って笑みを浮かべ、何かを話した。

 

と思ったらナナリーは泣き止み、逆に笑顔を見せてツキトの首回りに手を回して抱き着いた、眉をひそめ「間違えたか?」というようなツキトだったが、すぐにナナリーの背に手を回して優しく抱擁した。

 

子供ながら、自分より12か13ほど下のナナリーに嫉妬心のようなものを抱いたものだ。

 

しばらく抱擁し合っていた2人は次第にツキトの方から腕を解いていき、何かナナリーに話すと一礼をしてアールストレイム家の迎えの使用人と共に後宮を後にした。

 

その時何を言われたのかナナリーに聞いたが、教えてくれなかったな……。

 

「姉上、どうかしましたか?」

 

「ん?あぁすまん……あまりにいきなりの事で少し混乱してしまってな」

 

イケメンに成長したルルーシュが心配そうに話しかけてきた。

 

ホストクラブも鼻で笑う顔の良さに、服の上からでも分かる意外とがっしりした体…………子供の頃とは比較にならん成長っぷりだ。

 

「なら、まずは落ち着きましょう、紅茶を飲んで、クッキーを食べて、落ち着いてきたら、話をしましょう」

 

とナナリーが言う。

 

 

ナナリーは…………もう驚くほど可愛くなっていた、ユフィとどっちが可愛いか?と聞かれたら迷ってしまうほどだ。

 

こんな太陽のような美少女が、日本エリアフェンシング大会優勝の実績を持っているなんて誰が思うだろうか?

 

マリアンヌ様の血なんだろうが………どこか『凄み』のようなものを感じるのは、きっと気のせいだと思いたい。

 

紅茶を飲みつつ、頭を冷静にしながら話す内容を考えた。

 

あっ、この紅茶美味しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある施設、堅牢な要塞とも言えるその場所。

 

廊下、各部屋に数多の監視カメラが死角を無くすように取り付けられ、不審人物や脱走者がいないか見張っている。

 

そこは、研究施設だ。

 

いや、研究施設だった(・・・)、と言った方が正しいのか。

 

巨大な地下シェルター兼秘密の要塞として旧日本軍が建築したそれは、ブリタニアの侵略後に拡張して作られた。

 

本国では行えない研究を行うための施設だった。

 

『久しぶりだね、ツキト』

 

「お久しぶりでございます」

 

その最奥に位置する、他と比べ豪華な装飾が目立つ部屋、おそらく施設の所長の部屋であろう場所。

 

そこでツキトは巨大なモニターに映った人物と会話していた。

 

ツキトは跪き、モニターの人物を見上げるようにして言葉を待つ。

 

『驚いたよ、君から手紙が送られてくるなんて思ってもみなかったからね……それに、その後すぐにコンテナまで届いたのだから、もう笑ってしまったよ』

 

「本来ならもっと早くにお届けする手筈でした、データの復元に時間がかかり、このような結果となってしまったこと、深くお詫びいたします………」

 

『いやいや、そんなに小さくなることはないよ、むしろ感謝してるくらいさ……確かに、コンテナ一杯に資料を入れて送られてくるとは思っていなかったけど』

 

謝罪するツキトに『気にしないでくれ』と笑みを浮かべて話すモニターの先にいる男。

 

『手紙に書いてあることをわざわざ聞くのは、君に対して失礼だと思うけれど、あえて聞かせてもらうよ…………資料は、これで全部なのかな?』

 

「はっ、施設から復元できたデータは全て、お送り致しました」

 

『そうかい?すまないね、その施設は長い間使われていたものだから、本当に残っている資料がコンテナ3つ分程度なのかどうか気になってしまってね?失礼なことをした、無知な私を許してほしい』

 

「滅相もございません、あなた様の疑いもごもっとも、真に悪しきはあなた様の信を得られぬ私自身……あなた様に間違いなどございません」

 

男の謝罪を否定しつつ自分に非があると主張するツキト。

 

男は何やら位の高い人物、それも、『自分の所有する建物が破壊されても笑って許せる』ほどの寛容な人物。

 

『あまり自分を責めないでほしい、ルルーシュとナナリーの事は気の毒だが、それ以上に君が心配だ……あの後宮で出会った時とはまるで違う、自棄になっているような気がする』

 

「…………私はただ、あの方々の従者として、ただ贖罪を求めているだけの愚物でございます………あなた様のお心遣いが何よりも嬉しく、しかしどこか申し訳なく感じてしまう私を、お許しください……」

 

こうべを垂れるツキトの姿に、肩をすくめるようにして男はため息をついた。

 

それはツキトを心の底から心配しているという現れに見えた、しかしツキトはそれは違うと知っている。

 

この男が、自分のことなど頭の片隅にさえ置いていないことを。

 

そして、ルルーシュとナナリーの名が出たことにツキトは然程驚きもしていなかった。

 

精々、自分の感情を揺さぶるためにわざと口に出したのだろう、と、そう考えた。

 

『私は君を責めてはいない、むしろ、ルルーシュとナナリーのために、日本まで一緒について行ってくれた君に、私は感謝しているんだ……大切な弟と妹だからね』

 

それを聞いたツキトは、『心にも思っていない戯言を吐くな、下種がッ』と吐き捨てたい気持ちになる。

 

だが抑えろ、私はクールだ、クールなツキト・カーライルなのだ……そう、自分に言い聞かせ、止めどない憤りに震える身体を必死に抑え込んだ。

 

この一瞬で、ツキトの中の理性軍と感情軍の死傷者合計が1億を突破した。

 

前世を含めても、ツキトの長い人生でこれほどの数はおそらく新記録であろう。

 

激しい、烈しい、怒りの焔が内に燃える。

 

烈火か?それとも業火か?否、逆だ。

 

氷のように、凍てついた怒り、冷たく暗い、滾るような殺人衝動。

 

ツキトはそんな熱くて冷たい、奇妙な焔を燃やしていた。

 

必ず殺してやる…………その思いをモニターに映る男に、悟られぬように。

 

『では、そろそろ切るよ、君と話せてよかった』

 

「はっ、それでは」

 

立ち上がったツキトは会釈してからモニターの電源を落とし、会話を終了させる。

 

所長室の出口のドアを開け、外で待機していた護衛の兵と共に地上へ繋がる出口へと向かった。

 

のちにこの時の護衛の兵は言った。

 

帰り道のツキトの表情は、昔話に聞く地獄の大王の閻魔か、それか冥府の王ハーデスすら裸足で逃げ出すほど、怒りで満ちていたと言う。

 

そして時折、呟いていたのだと言う。

 

「……殺す、必ず殺す…………」

 

呪詛のように、怒りを言葉に乗せ吐き捨てていたと言う………。

 

「シュナイゼルッ……!」

 




ついに登場(?)したシュナイゼル君です!

彼には伝えたい言葉があるんですよ私!

皆さんも同じだと思います!ではみんなで言いましょう!

せーの!


「「「「死ね!!!!!」」」」


当たり前ですよねえ?こんな畜生生かしておいていいはずがない(断言

シュナイゼル君は最後に死んでもらうのでご安心ください!

えぇ!もちろんルルーシュが!主人公がぶっ殺してくれます!




なのでどうか3ヶ月近く間が空いてしまったことに関しては許してね?(ハート)


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終に、『瞳』は授けられた

中華連邦滅亡へ向けたカウントダウンの始まり始まり。

みんな!アニメ「からくりサーカス」は見ているかな?

見てない人は今すぐニコニコ動画へゴー!1話を無料視聴するのだ!


 

彼の武器は何か?

 

それは戦神すら魅せる剣技であろう、と誰もが答える。

 

それは巧みな手練手管で勝利を掴みとる道を探る戦術眼であろう、と誰もが答える。

 

それはかの美の女神すら霞むような美しさであろう、と誰もが答える。

 

確かにそうであろう、彼は神に愛されたと言っても過言ではない完璧さだ。

 

だが、彼は自分を強いなどと思わない、なぜなら、彼は挑戦者であるからだ。

 

彼は自分を優れた軍師とは思わない、なぜなら、彼は戦士であるからだ。

 

彼は自分を魔性を孕むヒトとは思わない、なぜなら、彼は人間だからである。

 

彼は自らが持つ多くの力が、この小さく狭苦しい世界において1、2を争うモノだと理解こそすれど、それが通用するほど生半可な世界ではないと自覚している。

 

自分の力は、世界を相手取って勝利を掴み取れるほどのものではない、と。

 

しかし、ある二点に関しては、その限りではなかった。

 

一つは、ルルーシュとナナリーへの愛情だ。

 

2人は彼にとって実妹であるアーニャと同等の、主従を超えた家族として認識しているほどだ。

 

そんな2人に向ける愛情は、親のソレには及ばないかもしれないが、非常に大きく重いものであると自信を持っている。

 

そしてもう一つ、それは彼の持つ力の一つでもある。

 

それは、『扇動』の力であった。

 

『世界に冠たるブリタニア臣民が諸君、我が声が聞こえているか?』

 

帝都ペンドラゴンから大小様々な自治区・エリアにマイク越しのツキトの声が響く。

 

家のテレビ、パソコン、ケータイ、街中に設置された巨大モニターや家電量販店のテレビまで、ツキトの姿が映し出されていた。

 

豪奢なローブを羽織った姿は祭司長のような神秘さを帯びており、幼さも相まって危うさと妖艶さも醸し出していた。

 

ツキトの声を認識した民衆は、まるでセンサーが反応した自動ドアのように顔を近くのモニターやテレビに向け、皆一様に次の言葉を食い入るように待った。

 

『皇帝陛下が敷いた法の元、日常を謳歌するブリタニア臣民諸君に、私は伝えねばならない、その来るべき厄災を』

 

マイクを手に持ったと思えば、壇上を左に右に歩きながら話し出す。

 

『すでに発表があり多くの臣民が知るところであろう我が帝国によるユーロピア自治区復興支援、多くの義心溢れる臣民諸君のボランティア参加には、敬服の念が絶えない』

 

壇上を練り歩きつつ徐々に階段を降りていく。

 

『参加者をユーロピアへと導くための飛行機を貸してくれたブリタニア空軍、民間企業へ協力を取り付けてくれたアッシュフォード財閥、有志諸君には非常に感謝している』

 

壇上に戻ると歩くのをやめ、目の前に立ち並ぶ群衆に向き直る。

 

『しかし、しかしだ!そんな勇き志しを胸に持つ諸君の誇りを!仁徳を!悪意を以って嘲笑とともに踏み躙らんとした、外道どもが現れた!!』

 

言い切ると同時に、マイクを手に空いた方の手で演説台をバンッ!と大きく叩く。

 

マイクを通してスピーカーからツキトの荒い呼吸音すら聞こえそうなほどの静寂が訪れる。

 

その静寂を齎したのがツキトなら、切り裂くのもツキトだろう。

 

本国に住まう臣民はその目の前で、本国の外の民衆はモニター越しにツキトの怒りの熱を感じながら次の言葉を待った。

 

『……我らが祖、真なるブリテン人の血脈が途絶えて早く数十年、今やブリタニアは純血絶対主義からの脱却と、混成平和主義への転換期にある!全世界を統一し、言語と宗教などの統一による国家の統一こそが!皇帝陛下の指標であり、永らく待ち続けている悲願なのだ!!』

 

『それを理解せず、他民族や他種族、言語の違いや肌の色の違い程度で差別し!暴力を振るう愚かしい下種は大勢居た!…………しかし、それもほんの数週間前までのこと、今や愚者どもの下種な勘繰りは皇帝陛下の正義の鉄槌により悉く粉砕され、塵芥も残らぬよう滅却せしめた!これは皇帝陛下が即位してより、ブリテン島奪還に次ぐ偉業と言えるのではないだろうか!?』

 

「「「「「うおおおおぉぉぉ!!!!」」」」」

 

民衆が湧く。

 

偉業であると、偉大であると、そう示すツキトに賛同するように。

 

『だが!!』

 

それもほんの数秒で静寂へと戻される。

 

興奮の熱も冷め止まぬうちに待てを食わされた民衆はやや不満げな雰囲気が出ているが、それを切り捨てんとばかりに厳格な表情をしているツキトがいた。

 

『そんな偉業を、民族の団結を、世界平和を阻まんとする下郎が現れたのだ!先も言ったが、今一度言おう…………国家の統一!言語の統一!差別なき多民族国家の形成による、真なる世界平和実現を掲げる皇帝陛下の偉業を!諸君が望んだ【|恒久的かつ永久的かつ絶対的かつ革新的な世界平和《アラソイナキセカイ》】を!暴力と悪意で阻まんとする者が現れたのだ!!』

 

ツキトは力の限り……可能な限り手加減されてはいるが……振り上げた拳を演説台に叩きつけた。

 

演説台は手加減された打撃にすら耐えきれず、その木製のボディに深いヒビが入った。

 

入ってしまったヒビは落雷の如く演説台を秒速で縦断すると、支えを失った家屋が倒壊するように崩れ、砕け、散ってしまった。

 

これには殴った本人も一瞬唖然とするも、表情に怒りを満たさせて、演出のひとつであるように見せる。

 

叩きつけた拳をワナワナと震わせ、ぶつけてなお行き場の無い怒りに震えているように見せる。

 

『私の、この怒りが分かるか!?理解できるか!?私は!我々は!【奪われた】のだ!皇帝陛下が目指す世界平和への道を!………我が主が望んだ、完全なる平和を……………可能性を、摘み取られたのだ……』

 

悲壮な別れの時のような、憎しみに溢れた仇敵を目の前にしたような、苦渋の決断を行う時のような………どのようにも取れる表情で、それまでの激情に身を任せた身振り手振りや口調を少しずつ下げていった。

 

だがどの表情にも悔しさが表れており、民衆も悔しさを感じた。

 

悔しい………ただ悔しい、ようやく叶いそうに見えた夢が、突然何者かによって閉ざされ、奪われたのだ。

 

悔しさは怒りへと変換され、怒りは熱気となり民衆を包み込む。

 

雰囲気に呑まれた民衆は口々に叫ぶ。

 

【それは誰なんだ?】、【奴らだ、中華連邦だ】、【テロ国家の屑どものせいだ】

 

【中華連邦を倒せ】、【中華連邦を滅ぼせ】

 

【中華連邦の愚か者に裁きの鉄槌を!】

 

【【【鉄槌を!鉄槌を!】】】

 

【【【裁きを!裁きを!】】】

 

【【【誅戮を!誅戮を!】】】

 

熱病に浮かされるように、民衆の声が、心が重なりひとつになる。

 

世界平和への道を取り戻せ、と民は叫ぶ。

 

仇敵たる中華連邦を討て、と民は叫ぶ。

 

熱狂、狂乱、狂ったように叫び続ける民衆を前にしてツキトは…………無言。

 

無言のままに手を差し出し、民衆の声を抑えるようなポーズをとり、静寂を待った。

 

揃った掛け声はまばらに、それも散り散りになりやがて、再びとなる静寂が訪れた。

 

『…………臣民諸君、戦争反対を唱える帝国臣民諸君、諸君に私は今こそ問おう…………その反旗は正義であるのか?その反意は平和へと繋がっているのか?私は否と思う、なぜか?………長い、長い歴史が、世界の移り変わりがそれを示しているからだ』

 

『長きに渡り人々は平穏を求めた!かつては戦うことを拒絶するために民衆は団結し、その力で自らの故郷をも滅ぼした!それを我々は【革命】と呼び、忌避されるべきものとして本能に刻み込まれた!』

 

『忌避されるべき革命を、血で血を洗う汚れた醜い同族殺しを、誰も望みはしない!望むことは決してしなかっただろう!だが!戦うことを諦め、武器を捨てたかつての諸君が、どのような道を辿ったかは言うまでも無いだろう!』

 

『凄惨な戦いの果てに降伏し滅びた国があった……占領され、奴隷として凌辱され続けた国があった……()と民が対立し、語るも悍ましい内戦の末に、血みどろの革命を成した国があった』

 

『しかし!どの国も!その全てが!行動が!間違いであったことをブリタニアは証明してみせた!』

 

『なればこそ!故にこそ!我々に残された道はただのひとつのみ!戦いを放棄することでも、同族で争う事でもなく、目の前にいる敵と、勇気を持って戦うべき道だ!』

 

『生への前進!即ち、勝利こそがブリタニアの、帝国臣民諸君の未来の平和を、世界平和を創造する唯一の【道】だ!』

 

『理想も持たぬ惰弱極まる下劣畜生共に、諸君の家族が、友が、愛する者が脅かされる世界で良いのか!?』

 

『下水道の隅で、天敵に怯えながら暮らすドブネズミのような人生を送りたいのか!?』

 

『否だ!断じて否だ!我々はドブネズミなどではない!怯えながら逃げるような軟弱では無いはずだ!我々は戦える!武器を持ち、眼前の敵を討ち果たすことができるのだ!』

 

『いつまでそこで眠っているつもりなのだ!?いい加減に目を覚ませ!もう分かっているだろう!今だ!今なのだ!今こそが、立ち上がるべき時なのだ!』

 

『立て!立つのだ!臣民よ、立て!!!……ブリタニアは、諸君の力を欲しているのだ!』

 

『オール・ハイル・ブリタニア!!!』

 

狂気が民衆を支配する。

 

もはや誰も正常な判断がつかない。

 

誰も彼も、ツキト・カーライルから目を離せない。

 

瞬きすら忘れて、ただツキト・カーライルに向けて何かを叫ぶ民衆。

 

砕け散り、演説台だったものが転がる壇上でツキトは笑う。

 

あぁ、なんてことだ、私はどこまで罪深いのだ、と。

 

正気の失せた目で虚空を見つめながら、民衆の歓声に包まれながら、ただただ、笑った。

 

虚空の先には何も存在していない、だがツキトにはわかっていた、そこに確かにあるのだと。

 

それは何か?あの晴れ渡る青空に何があると言うのか?

 

「おぉ…………そこか、そこで観ていたのか………白き神よ」

 

その呟きは歓声に飲み込まれ搔き消える。

 

仮に届いたとしても、誰にも理解はできないだろう。

 

「はははっ…………なるほど、これは……あぁ………………素晴らしい……」

 

「これが、外側の力……ふふっ、ふふふふ……ははは!はははははははははははははははははは!」

 

瞳と瞳を交わらせ、ツキト・カーライルは笑った。

 

後に、戦争へ向けた大演説として歴史に残るこの日は、皮肉にも世界平和を目指した人々の記念日として認識されるようになった。




瞳も啓蒙もでけえなオイ……(戦慄)

上位者との交流でミコラーシュ君みたいになってますねえ…………そのうちメンシスの檻を被りそう。

もっともっと主人公のチートっぷりを発揮させたい……でも露骨な主人公持ち上げは正直好きじゃないんですよねえ。

ルルーシュとスザクのダブル主人公の邪魔をしないような感じで活躍させる…………ていうのが目標ですね。

まあやりたい放題やっちゃったのでもう自重とか考えませんが(開き直り)

これからも亀更新でやっていきますんで、パンプキンシザーズやからくりサーカスを読みながらお待ちください。


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中華連邦、崩壊の『序曲』、開演前

全話の投稿からもう2ヶ月も経ってる…………今までもだけど、本当に亀ってレベルじゃねえな。

ノッテル時は週一ペースで投稿できんじゃね!?って思って、展開に詰まると『あっ、無理』ってなって、『やべえ……展開が思いつかねえな』ってなります。

チャートもないんで行き当たりばったりなもので…………自業自得ではあります。

でももう遅いから、後悔しても仕方ないね(レ)

では、無駄に厨二ちっくなサブタイトル(意味は薄い)を読んでから本文をどうぞ。


ソラが裂けて見えた。

 

ただの見間違いだと思った。

 

しかし。

 

裂けて開かれたその空間を知覚した瞬間。

 

私は………………━━━━━。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「内側の世界を管理する事、外側の神々(管理者)………世の蒙昧共が目指す【真理】だとか、【根源】だとか、【渦】だとか、【無】だとか……そう呼ばれるものが、お前達だったのか」

 

そう口にしながら、私は酷く冷静で、それでいて恐ろしく興奮していた。

 

死期を悟った老人のようで、ジェットコースターに初めて乗る無邪気な子供のような………奇妙な感覚。

 

浮かれている、という表現がきっと正しいだろう。

 

『我々と接触を試みたヒトは、あらゆる内世界を探してもそう多くはありません、実際に接触に成功したヒトはさらに少ないでしょう』

 

「だろうな……あんな光景、マトモであった頃の私なら、壊れていて当然だ」

 

白い神の応えにそう返し、確信を持つ。

 

今までぼんやりとしか感じて来なかったが、真実、ハッキリと知覚した今はこいつらの異常性で発狂しない自分をこそ蒙昧かと思った。

 

非凡なだけでは決して到達できない、全ての天頂。

 

敵う敵わないの問題ではない。

 

管理する者と管理される者……我々は、人間は、世界はすでに管理される側だ。

 

マジックミラーの箱に入れられたハムスターが私だ、彼らはそのハムスターをさまざまな角度から観測する者だ。

 

存在が、次元が、何もかも違うのだ、圧倒的に低次元の我々は、圧倒的に高次元な彼らを知覚できないのは道理だ。

 

では、なぜ私が彼らを知覚できるのか?そもそもCの世界経由とはいえ会話もしていたはずだ。

 

もしや、私はすでに…………。

 

「人間では、ない?」

 

いや、人間ではあるのだろう、ケモノでも神でもなくヒトの姿なのだから……そう思いたい。

 

『あなたもまた、我々と同じと言うことになるでしょう』

 

「つまり…………アレか?私は自分のことを人間だと思い込んでいる洗脳済みのバケモノだとでも?」

 

『転生を果たした時点で転生者はすでに我々の眷属という括りになります、しかしあなたは今や神格を得、我々と同じ()を持つ存在であり、眷属ではありません』

 

なるほど、転生とはつまり外側の神が内側の存在を所有する世界…………いわば檻や虫カゴに入れる生き物(ペット)に近いのか。

 

「………嫌なものだな、あのような目を持ってしまうなど」

 

見えずとも良いモノが見えてしまう目、世界の価値観を塗り替える圧倒的超存在による強制的超次元風景、とでも言おうか。

 

見るのではなく、見せられている。

 

そして、見えるとはいえソレらはまるで理解の範疇に収まるものではない、なぜか?私にはただソレが見えているだけで、その正体まで推測するだけの力が足りないからだ。

 

まだだ、まだ、力が足りないのだ。

 

人の範疇を超えても、足りない。

 

もっと、もっと……もっと力が…………っ!

 

ダメだ…………力を得ては、付けすぎてはならない!

 

私は……私は人間だ、ヒトなんだ。

 

過ぎたる力で滅ぶようでは、ルルーシュとナナリーの騎士としてあってはならない。

 

ヒトとして在ることが、私の矜持なのだ。

 

「それで、いろいろ見えてしまうミラクルアイを得てしまったわけだが……このままだと怪物になるとか人間の姿じゃなくなるとか、あったりするのか?」

 

『あなたの意思次第でしょう、ヒト以上の力を望んだ場合は多少なり姿形に変化があるかと』

 

「じゃあ、あれか?足増えろー……とか考えたら……」

 

『ケンタウロスっぽいような、もしくはタコか、あるいはナメクジっぽくなるかと』

 

「フワッフワな回答だな…………」

 

『正直わかりません』

 

「あのさぁ……」

 

『あなたのような状況は人間的に言いまして【激レア】そのものです、未曾有の状況に対して対応ができないのは我々もヒトも変わりがないのです』

 

「なんだお前、お役所仕事のつもり………あぁ、そうか……お前たち管理職だったな……」

 

大卒の中間管理職、みたいな辛さがありそうな感じがする。

 

知らないんだがな、そんな辛さ。

 

だって18歳(1××歳)だもの。

 

「まとめると、変に高望みしたりしない限り、私はヒトらしい姿形でいられるんだな?」

 

『ばっさり言わせてもらえるなら』

 

「なら良い、どうせコードもいずれ捨てるんだ、固執するほど求めているモノもない」

 

不老不死とかチート能力とか、もう間に合ってるのでな。

 

いっそ、それら無しでも無双できる程度には技は磨いてあるし、実戦でのカンも得ている。

 

未だ高みに届かぬとはいえ、何を恐れる?

 

天を見上げ睨んでこその人だ。

 

地上を見下ろし俯瞰するは人にあらず。

 

今はただ、目の前の敵にだけ意識を向ける時だ。

 

「ではな、私はそろそろ目覚めることにする」

 

『はい、では……』

 

目の前の景色が揺らぐと、見慣れた天井が映る。

 

私の部屋、私のベッドから見える天井だ。

 

浮遊感を覚えた時、視界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋で目覚めた後、パジャマからラウンズの正装に着替えるとリビングに出た。

 

湯を沸かし、それで紅茶を淹れると一息に飲み干した。

 

頭の中がぐちゃぐちゃになった気分がする、するはずのない目眩や偏頭痛まで感じているほどに。

 

見えるはずがないものが見えてしまいかねないことへの不安や不快感もあり、初めこそ寝込みたいほど体調が崩れていたが、今ではそれも慣れ、この程度で済んでいる。

 

というより、こんなことで悩んでいる時間すらなくなりつつある……というのが本音だ。

 

2ヶ月ほど前にぶち上げた戦前演説によって国力の低下からくる不安すら跳ね除けるほどの士気向上を全世界に見せつけた。

 

私が中華連邦に放った間諜によれば、まともに機能しない政府が珍しく、かつ慌ただしく動き出し、国民に向けて未曾有の危機であると呼びかけたそうだ。

 

『我々はブリタニアによるこれ以上の虐殺行為を認めない、中華連邦は正義の下に立ち上がる時だ』

 

などと、連邦政府が喚いていると報告が上がってきた。

 

しかし哀しいかな、富を平等にした(笑)中華連邦は、民も兵も皆戦いから逃げ出したのだ。

 

疲弊したといえど中華連邦を完全に包囲したブリタニアが相手となれば、逃げ出す気持ちもわからんでもない。

 

それを民が理解しだすと、今度はブリタニアへの亡命者が殺到しだした。

 

自らの富、中華連邦の弱点、国家機密である軍事技術など、売れる物を肩に頭に載せて遥々太平洋を渡らんとしたのだとか。

 

金持ちも文無しも、男も女も子供も年寄りも、集まりに集まった群衆は暴徒と化し、ついに港へと進出。

 

しかし、人間はどこまでも汚い。

 

ブリタニアに亡命するために港へ向かっている群衆を、内部から売り出した者がいた。

 

中華連邦は情報を元に各港へと軍を集結。

 

群衆は港への道中、村や町を通る際に累乗するように人が増え、数百万規模になっていた。

 

それらが正面から相対すればどうなるか?

 

結果として、虐殺すら生温い大虐殺が行われた。

 

詳細は省くが、戦車がフルスピードで群衆に突っ込んだらどうなるか?とだけ言っておく。

 

死傷者は不明、政府と軍部で統制がなく、メチャクチャに暴れまわり殺し回っていたようだ。

 

勝手に自滅しかねない中華連邦ではあるが…………ここで大宦官が動いた。

 

国内の混乱に対して金をばら撒いて2週間ほどで終息させると、なんとブリタニアの皇子と中華連邦のお飾り君主である天子の政略結婚による戦争回避を提案してきたのだ。

 

さらに、領土の割譲まで行うと言ってきた。

 

そして付け加えたように、虐殺行為に関しては、『戦争強硬派と、割譲される領土に住んでいた住民が暴動を起こしたため鎮圧した』と説明がされた。

 

ペンドラゴンの臣民を消滅させたシュナイゼル並みにクズ過ぎて声も出なかったのを覚えている。

 

しかしこれで困ったのは我々ブリタニア、特に戦争賛成派だ。

 

戦争回避のための具体的な案、手を取り合うことによる永続調和を引き合いに出されては、首を横に振ることは厳しくなる。

 

世界平和を目指すブリタニアがこの提案を蹴れば、戦争をしたがっているようにしか見えず印象が悪い。

 

かといって承諾すれば向こう数十年は何もできない、少なくとも天子が死ぬまでは。

 

その数十年で中華連邦の軍備は十二分に整うだろう、そうなれば今以上に厳しい戦いを強いられることだろう。

 

それに、数十年後、ルルーシュが治めるブリタニアが戦争を仕掛けるほどの国力を維持できているのかが問題だ。

 

中華連邦が腑抜けており、ろくな戦力もなく、かつ我々ブリタニアの戦争への士気が高くなければ…………開戦もできない。

 

時間をかければブリタニアが勝つ、必ず勝つ、持久戦にはめっぽう強いのがブリタニアだからだ。

 

あのフランス畜生がブリテン島に攻め込んできた時、女王陛下が脱出するまでの時間を稼いだのだから、折り紙つきだ。

 

当然だが攻めもうまい、KMFによるあらゆる攻撃の戦術はどこの国にも真似はできない。

 

しかし、時間をかければ戦争反対派が動く。

 

このジレンマが悩みのタネだ。

 

戦争をすれば勝てる、だが敵はすでに平和を訴え調和への条件を提示してしまった。

 

よしんば開戦できたとて長期戦は避けられまい、そうなれば反対派がしゃしゃり出てくる。

 

割譲で得られる領土に関しても、旧ロシアに近い場所で、海に面しており整備された港まである。

 

寒すぎること以外にケチの付け所がない、拠点として優秀な立地というのもあってブリタニア軍部は意見が割れている。

 

どうしたものか…………。

 

「ん?」

 

そういえば、天子と言えばロリコン(星刻)がいたはず。

 

やつは命すら捧げる思いで天子に仕えていた。

 

なのに動きがないのはおかしい、やつのスペックからすれば、朱禁城から天子1人連れて逃げるくらいわけないはず………。

 

もしや、すでに拘束されているのか?

 

味方に引き込めるなら、引き込みたかったが……。

 

「いや……待てよ」

 

…………使えるかもしれんな。

 

思い立つと同時に思考を重ねていく、靴を履きバイクに跨ると政庁へと走らせる。

 

政庁へと近づくごとに具体的なプランが固まっていく。

 

自分の執務室へと踏み入ったところで、すでに来ていたクレアに言い放った。

 

「戦争ができるぞクレアァ!!」

 

「……は?……え?ちょっとそれどういうこと?」

 

クレアの疑問の声も聞かず、机に隠した暗号装置を起動させ、脳内の考えを文章に、文章を暗号化してそれをジッと睨む。

 

精神感応波でヘンゼルとグレーテルと感覚を共有させ、暗号化された命令文を送る。

 

何か言ってきているのを感じるが、そんなことは無視だ。

 

今はとにかくこれをコンピュータ経由で全世界の間諜に送らせるのが優先だ。

 

「これで私は、我が主の望みを叶えることができるのだ!」

 

すべてが、うまくいっている。

 

そう、全能感を感じていた。

 

━━━━この時は。




人知を超えたパワーを手にしたツキト。

中華連邦との開戦の目処が立たぬと知り、幼女の付き人に突破口を見つける。

ツキトは言う、戦争が出来る、と。

ナナリーとルルーシュの未来のために、中華連邦は滅びるのか?





的な。


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